ひとひらの自由
- 1 名前:New 投稿日:2002年09月16日(月)16時07分24秒
- 初めまして!風板で小説を書いていたNewという者です!
よっすぃー主役です。いろんな人とからめていきます。
もし良かったら読んでみてください。
- 2 名前:New 投稿日:2002年09月16日(月)16時16分09秒
- 夏が過ぎ去ってやっと涼しくなる頃。
秋は少し寂しく感じる。そのあとの冬は冷たい空気とかそんな雰囲気が好きだ。
夏より春よりマシ。季節の中で冬が1番好きかも。
今日も仕事。休みなんかはない。
毎日毎日早いスピードで時間は過ぎていく。
いや、時間なんか感じないのかもしれない。
でもそれは自分が決めた道なんだか、仕方ない。
冷却期間のような日々。
歌う為なら。
それでもいいんだ。大好きな歌う事の為なら。
でもそんな事を思う冷たい私を。
みんな───あなたは変えてくれた。
- 3 名前:New 投稿日:2002年09月16日(月)16時27分25秒
- 「おはよーございます」
朝の挨拶を言いながらドアを開けた。
次々と私に「おはよう」という挨拶が返ってくる。
荷物を置いてイスに座った。するとごっちんが側に寄って来た。
「おはよ、よっすぃー」
「おはよ、ごっちん」
いつもと変わらない挨拶。毎日してる挨拶。
楽屋の中をぐるっと見てみるとみんな思い思いの事をしていた。
飯田さんと圭ちゃんが真剣な顔して話していた。
辻と加護が何やらはしゃぎながら騒いでる。
矢口さんは5期メンと楽しくしゃべってる。梨華ちゃんは雑誌を
読んでいた。隣にごっちんがいて・・・ありゃ。
安倍さんがいないや。どうしたんだろ。
「よっすぃー?聞いてる?」
「ん、あぁ。ごめん」
「ちょっとーちゃんと聞いてよね、もう」
「ホントごめん」
苦笑しながら謝る。
「安倍さんいないね」
さっき気になった疑問をごっちんに言ってみる。
「あぁ、ホントだ」
ごっちんも今気づいたみたいだ。
- 4 名前:New 投稿日:2002年09月16日(月)16時39分28秒
- 「よっすぃーってさ」
「何?」
安倍さんの事が気になりつつもごっちんに返事をする。
「なんつーか、恋愛した事あんの?」
「は?」
思わず間抜けな返事をしてしまった。だって急に聞いてくるから・・・。
「だからぁ、恋愛だよ恋愛」
「あぁ・・・別に、キョーミないし」
正直な気持ちだ。ホント興味ないね。学校だって女子校だし、
部活一筋だったし。今は歌だけど。
「ふぅん、そーなんだぁ」
なんかごっちんの笑いが無気味だ・・・何か企んでるような。
しかも何気に腕絡ませてるし。
「ごっちん・・・あの」
離れてと言おうと思った時に。
「ちょっと、ごっちん離れてよ」
いつの間にか梨華ちゃんが怒りながら言っていた。
「何でよ、いいじゃん」
「良くない、離れて」
「嫌」
「嫌じゃない、離れて」
おいおい・・・・何でもいいから離れてよ。
こっちの気も知らずに2人は言葉の言い合いをしている。
- 5 名前:New 投稿日:2002年09月16日(月)16時46分10秒
- 「いい加減離れてよ」
「嫌っつってんじゃん」
「ひとみちゃんも迷惑がってるよ」
「そんな事ないよ、ねーよっすぃー?」
・・・何も言えません。嫌って言えばごっちんが怒るだろうし
嫌じゃないよと言えば梨華ちゃんが悲しむだろうし。
ちょっとイライラ気味の吉澤さん。
「こらこら、2人共。喧嘩は止めな」
矢口さんが気づいてくれてやっと喧嘩は終了。
感謝します、矢口さん。
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月16日(月)21時12分38秒
- モテモテよっすぃー好きです。
頑張ってください!!
- 7 名前:New 投稿日:2002年09月16日(月)21時38分13秒
- やっと解放された私は今さっき座ってたイスから立ち上がって
隅にあるイスに座った。腕を組んで眼を閉じた。
・・・・はぁ。疲れるなぁ。
「おっはよ〜!」
安倍さんの声が楽屋に響いた。私は眼を開ける。
いつもニコニコ笑顔を絶やさずに頑張る安倍さん。
・・・尊敬しちゃうよ、全く。私はそんな1日中笑顔にはなれない。
「おや、暗いぞよっすぃー」
安倍さんが私に声をかけてきた。
「そーっすかね、そんなことないです」
普通に言ったつもりだが不機嫌なのでキツク聞こえたかもしれない。
「よっすぃー?・・・・」
「あ、すいません。キツクなっちゃいました?」
「・・・大丈夫。あ、そうそうトイレ行ってくんね〜」
安倍さんは苦笑しながら楽屋を出て行った。
- 8 名前:最低限の利用規約ぐらいは読んで下さい。 投稿日:2002年09月16日(月)21時39分03秒
- あまりにも目に余るので書き込みします。
風板に
「雨は冷たく、時には暖かい。」37レス 26676 byte
「いちかばちかのダイブ!!」65レス 50324 byte
の二つ立てましたよね。
このスレはもう使わないつもりですか。
それぞれの板に立てられるスレ数は限られてます。
短編1本のみで使い捨てされると迷惑です。
風板では最高500レス、容量は256KBまで書き込みできます。
短編しか書かないのであれば、最初のスレで十分今までの分収まるのでむやみに新スレ立てないで下さい。
この内容がわからなければ、
http://m-seek.net/faq.html
及び、案内板の全てを読むように。
まあ、そのうちお仕置きされるのは間違いありませんが、目に付くとうざいので。
- 9 名前:New 投稿日:2002年09月16日(月)21時44分51秒
- つくづく冷たいな私。
安倍さんは全然関係ないだろーが。
だけど、ダメ。笑顔になんかなれない。
でもなんだかなぁ・・・・。
人生って素晴らしいほら誰かと出会ったり恋をしてみたり。
Ah素晴らしいAh夢中で笑ったり泣いたり出来る。
夢中で笑えないし、泣けないよ。
歌ってる奴がそんなんでどーすんの?
私は何も出来ない奴だよ。
- 10 名前:New 投稿日:2002年09月16日(月)21時50分00秒
- ごめんなさい。知りませんというかわかりませんでした。
やっとその意味がわかりました、ありがとうございます。
ならばそちらを使ってやります。本当に申し訳ありません。
お仕置きというのは何されるんでしょうか?
当分書くことはありませんので。うざくてすみません。
では、失礼しました。今後気をつけたいと思います。
- 11 名前:New 投稿日:2002年12月24日(火)21時06分23秒
- このスレッドはもったいないので使います。
風板で「いちかばちかダイブ!!」っていうスレッドの続きです。
もうそのスレッドがいっぱいになってしまったので、このスレッドで
続きを書いていきたいと思います。
よろしくお願いします。
- 12 名前:New 投稿日:2002年12月24日(火)21時14分01秒
- 第16章 『さらわれた彼女』の続き。
部屋に戻ると小川と安倍さん、飯田さんが起きていた。
「よっすぃー、ごめん・・・」
いきなり安倍さんが謝ってきた。
「梨華ちゃん、さらわれちゃった・・・」
今にも泣き出しそうな安倍さん。私は安倍さんの顔を覗き込んで
「いいんです、誰も悪くないんです」と言った。
みんな暗い顔をしていた。ふとごっちんを見た。
なんか・・・寝てるように見える・・・・。
ごっちんに近づいてみる。
「・・・くーくー・・・」
ね、寝てる・・・・寝てるよ、ごっちん。
でも、頑張って戦ったんだよね。
ありがと、みんな。
- 13 名前:New 投稿日:2002年12月24日(火)21時21分20秒
- そして、2日間が過ぎた。
みんなの傷も順調に回復。元気になってきた。
窓ガラスも業者さんを呼んで、ガラスをつけてもらった。
そしてついに、本格的に梨華ちゃんを助けに行くという計画が
動き出そうとしていた。
安倍「うーん、声は女の人だったよ」
飯田「関西人なのかなぁ、裕ちゃんみたいな言葉使いだった」
小川「他に特にないですね・・」
後藤「・・・・強かった」
紺野「『光』の属性でした」
ひとつだけ・・・心当たりがあった。
松浦さんのチーム『シャル』のリーダー。
以前から梨華ちゃんを狙っていたやつだ。
- 14 名前:New 投稿日:2002年12月25日(水)21時47分23秒
- 私は携帯を取り出して、松浦さんと連絡を取ろうとした。
『・・・おかけになった電話番号は現在使われておりません・・・』
機械的なアナウンスを聞いて電話を切った。
───松浦さん・・・彼女はどんな行動をとったんだろう?
「ダメでした、松浦さんの携帯は現在使われていませんでした」
やや声のトーンを落として私は言った。
「そっか・・・あのHPは?」
安倍さんが真剣な表情で聞いてきた。
「あ、さっき私が見ようとしたけど、もうなかったよ」
ごっちんが手を上げて言った。
連絡の手段がない・・・・。
「捜すしかないか・・・」
「そうですね・・・」
そして、梨華ちゃん救出作戦は始まった。
- 15 名前:New 投稿日:2002年12月25日(水)21時56分48秒
- 第17章 『捜査開始』
仕事の方は休みにして、全員で梨華ちゃんの捜査にあたった。
中澤さん、石黒さんにも協力してもらい、明日ここへ来てくれるそうだ。
「ダメ〜、何も情報がないよ」
「こっちも、同じく」
安倍さんと飯田さんが北海道出身なので色々調べてたみたいだけど
何も情報は得られなかった。
私も出来る限り調べたが、あまりにも情報が無い為ちょっと途方に
くれてしまった。
「あきらめちゃ、ダメだよ」
ごっちんが隣にいて励ましてくれた。
「ん、ありがと。そうだね」
「ほら!頑張って情報捜そう!」
「うん」
ごっちんは今まで通り私と接してくれた。
いつまでも、良い親友でいられそうだ。
「ごめんな〜、昨日はちょっと忙しくてな」
翌日、中澤さんらが来てくれた。
「いいって、忙しいのにごめんね。裕ちゃん」
「ええって、それよか石川がさらわれたって・・?」
「うん、そうなんだ」
「何か手がかりないの?」
石黒さんが言った。
「何も・・・何も無いんですよ」
私は今にも泣き出しそうな声で答えた。
- 16 名前:New 投稿日:2002年12月26日(木)17時02分40秒
- 「そんな落ち込む事あらへんよ、・・・で、わかってる事は何や?」
私は『シャル』のリーダーについて話した。すると中澤さんの表情が
驚きに変わっていった。
「何やて・・・?平家・・・?平家・・・」
中澤さんは「信じられへん」と言い、倒れそうになった。
石黒さんも悲しそうな表情で、中澤さんを支えた。
「な、何か知ってるんですか!?」
私はたまらなく叫んだ。でも中澤さんの答えはない。
「彩っぺ・・・嘘や、・・・みっちゃんがそんな事するわけが
あらへん・・・」
「うん・・・そうだね」
私らには何が何だかわからなかった。
- 17 名前:New 投稿日:2002年12月26日(木)17時54分08秒
- 「じゃぁ、私が話すね」
石黒さんは中澤さんを優しく支えながら話始めた。
「彼女の名前は平家みちよ。裕ちゃんの小さい頃からの友達。
みっちゃんは小さい頃から不思議な『力』があった。だから
まわりからは気味が悪いと言われ続けてた。でも裕ちゃんは
ずっとみっちゃんのそばに居つづけてきた。研究者になったのも
みっちゃんの助けになりたかったから・・・私もそうだけどね。
データは全て知ってる。属性は『光』で、かなりの強さの持ち主」
「そうなんですか・・・」
「最近、みっちゃんから連絡が来てなかった・・・まぁ、忙しいから
別に気に求めてなかった。でも、・・・・この『マテリア』に梨華ちゃんが
来た時期、みっちゃんから電話があったんだ・・・」
『彩っぺ、ちょっと聞きたいんやけど、『マテリア』っちゅーとこに
新入りが入ったって聞いたんや』
「あー、うん。なんかそうらしいね」
『属性は何や?強いんか?』
「そこまで知らないよ。っていうか知ってても教えないよ」
『冷たいんやなー、まぁええわ。ありがと』
「何かあるの?」
『んー、別に気になっただけやから』
「そっか」
『じゃ、またなー』
- 18 名前:New 投稿日:2002年12月26日(木)18時07分27秒
- 「平家さんの居場所知ってますか?」
「・・・・知らへん・・・。みっちゃんがそんな事するわけない」
中澤さんは目を瞑ってずっとそう答え続けた。
だんだんみんなの口数が減ってきた。
諦めかけたその時───。
プルルルル。
「あ、電話。誰だろう?」
紺野が電話を取りに行った。
「はい、こちら『マテリア』───!!?」
紺野の様子が明らかにおかしかった。混乱している感じだ。
私は紺野に変わって受話器を取った。
『どうや?大切な人がいなくなった気持ちは』
「・・・あなたはどなたですか?」
『あー、えーとな、『シャル』のリーダーや』
「平家さん・・・ですね?」
『おー名前知ってるんや。そうや、平家さんやで』
「一体どーゆーつもりですか、梨華ちゃんを返して下さい」
『・・・私の計画にはこの子が必要や』
「じゃぁ、何で電話してるんですか?」
『・・・あんたらが邪魔なんや。消えてくれるか?』
「はぁ!?」
『この子がな、さっきから大人しくしてくれへんや。
あんたらの事呼んでってうるさくてかなわへん。
だから、あんたらが消えて・・・死んでくれれば、この子のうるさいのが
なおるんちゃうかなぁ思てな』
- 19 名前:New 投稿日:2002年12月29日(日)21時47分00秒
- 「・・・そんな事したって余計うるさくなりますよ」
少しだけ微笑んで言った。
『自信まんまんやなぁ、なんでわかるん?』
「梨華ちゃんにとって私達は大切な人達ですから」
『はー、仲間っちゅーやつか。ええな、青春やね」
「あなたにだって仲間はいるでしょう・・・」
『あー、藤本と松浦かいな。あいつらはただの駒に過ぎへん』
「・・・ただの駒・・・?」
『藤本は死んだし、松浦はもう役にたたん。だから捨てたわ』
「はぁ・・・!?」
『今ごろ何してるかわからへん」
「・・・それでもリーダーかよ」
『怒ってるんか?あんたにとってあいつらは敵、別に何でもええやんか』
「違う!同じ『力』を持つ者同士、悩みだって持ってる、私にはそれが
わかる」
『まぁーええ。また連絡するわ』
ガチャ、ツーツー。
電話は一方的に切られて、事務室に静寂が戻った。
- 20 名前:New 投稿日:2002年12月29日(日)21時58分54秒
- 私は今の電話の事をみんなに伝えた。特に中澤さんは驚いていた。
「完全にリーダーに見捨てられた松浦さんに会えば・・・」
安倍さんが言う。私もそれを考えていた。
でもここは東京、向こうは北海道。連絡の手段も無い。
「みっちゃんの居場所はほんまに知らへん・・・」
中澤さんはそう告げて、石黒さんと共に帰って行った。
それから中々捜査は進まなかった。
仕事の方もいつまでも休むわけにもいかない。かといって梨華ちゃんを
早く助け出したい。
私はもう落ち込まずにはいられなくなっていた。
ある日の夜。
またあの夢を見た。
<・・・・>
梨華ちゃんの妹の亜依ちゃんがいた。
寂しそうな目をしている。
ごめんね、守れなかった・・・。
<・・・いえ、仕方ないんです。自分を責めないで下さい>
ありがと、・・・・。
<私はついに死んでしまいました・・・今はとりあえず姉のそばに
います・・・姉は気付いてませんが。毎日泣いてます。
あなたの名前を呼び続けています。早く迎えに行ってあげて下さい>
迎えに行きたいけど、場所がわかんないんだ。
<もうすぐ、あなたの所に案内人が来るでしょう>
案内人?誰・・・・。
- 21 名前:New 投稿日:2002年12月29日(日)22時14分00秒
- 第18章 『あなたを迎えに行きます』
夢が覚めて起きる。目覚まし時計よりも先に起きてしまった。
1人で寝るのが寂しくなったのはいつからかな?
当り前のようにあなたは隣にいて、一緒に寝てた。
1人のベットは寂しいよ・・・梨華ちゃん。
適当に朝食をとって、事務室へ向かった。
今日は仕事が・・・えーと、2,3件あったな。すぐ片しちゃおう。
それから捜査しないと。
ろくに寝てない、けど体力は自信ある。最近の睡眠時間3時間ぐらい。
でも今日は2時間ぐらいかな。
「おはよーございまーす」
「あ、おはよう。・・・ちゃんと寝てる?」
飯田さんが私の顔をまじまじと見ながら言った。
「今日は、2時間ぐらい・・・」
嘘ついてもすぐにバレるので素直に言った。
「ダメだよ、体力に自信はあってもいつ倒れるかわかんないんだから」
「はい、ありがとうございます」
いつも通り、自分の席につく。コンピューターを起動させると
メールが一通来ていた。
<よっすぃーに会いたい・・・・駅で待ってます。松浦>
勢いよくガタっと席を立った。そして手早く返信をし、コートを持って
事務室を出ようとした。
- 22 名前:New 投稿日:2002年12月29日(日)22時22分34秒
- 「よっすぃー!?何処行くの!?」
「松浦さんからメール来ました!会いに行って来ます!」
私は全力走で駅へ向かった。
「はぁ・・・はぁ・・・何処だ・・?」
駅へ着いたが肝心の松浦さんが見つからない。
どっかの喫茶店にでもいるのかなぁ・・・?
ふらふらと歩いてると階段の隅でうずくまっている少女を発見。
いた!私はすぐにその子の元へ駆け寄った。
「・・・松浦さん?」
肩をポンと叩きながら言った。
ふっとその子は顔を上げる、やっぱり松浦さんだった。
泣き顔になって私に抱きついてきた。
「大丈夫だよ・・・私のとこに来ればいいよ・・・」
私は泣いている松浦さんの髪を優しくなでた。
ねぇ梨華ちゃん、あなたが見たらヤキモチ妬きますか?
そんなあなたを少し見たいと思いました。
「コーヒーとホットココアお願いします」
適当に喫茶店に入って注文した。
- 23 名前:New 投稿日:2002年12月29日(日)22時32分15秒
- どうやら松浦さんはいきなりリーダーに出て行けと言われたらしい。
「・・・でも私行くとこなくて・・・よっすぃーに会いたくなって・・・」
「うん・・・いいよ、来ればいい」
「ごめんなさい・・・敵なのに・・・。よっすぃーから大切な人を
とったのに・・・」
「いいんだよ、気にしないで。あ、おなかすいてない?他に何か
頼もうか?んー、何にしようかな〜」
私は笑顔で言うとやっと松浦さんも笑顔になってくれた。
私はオムライス、松浦さんはスパゲティーを頼んで食べていた。
「あの、亜弥でいいです・・・」
「え?」
「私なんか年下なのによっすぃーって呼んじゃって・・・」
「あ〜、そっか、んじゃ亜弥ちゃんって呼ぶね」
「はい・・・よっすぃー」
亜弥ちゃんの荷物を持って、2人でビルへ向かった。
「ここだよ、来るの初めてだよね?」
「はい、・・・」
「意外と小さいでしょ?」
「い、いえ・・・」
「ははは、でもあんま高いビルも意味ないしね。私らのチームはこれだけで
十分。あ、でも設備はちゃんとしてるよ、部屋もあるし」
とりあえず事務室に亜弥ちゃんを連れて行った。
- 24 名前:New 投稿日:2002年12月29日(日)22時48分49秒
- みんな、亜弥ちゃんを見て驚いていた。そのみんなの顔がちょっと
面白くて、笑いをこらえるのが大変だった。
「ちょっと待って、こないだまで敵だったでしょ?いつ裏切るか
わかんないじゃん」
ごっちんが途端に怒った表情で言い始めた。
「だいたいよっすぃーは優し過ぎるんだよ。だから簡単に騙されたり
しちゃうんだよ」
私の後ろで亜弥ちゃんが震えて隠れていた。
「ごっちん、言い過ぎ。亜弥ちゃんはもう敵じゃない」
「そんなのわかんないじゃん、信じすぎだよ」
沈黙が流れる。
私は後ろにいる亜弥ちゃんの手を背を向けたままそっと握った。
「自分がちゃんと信じなきゃ、相手もちゃんと信じてくれないから」
「バカだね・・・」
ごっちんがため息をつきながら言った。
「・・・人を信じれない頭のいいヤツより、人を信じるバカの方がいい」
「あっそ、・・・もういいよ」
ごっちんはそう言うと奥の方へ行ってしまった。
- 25 名前:New 投稿日:2002年12月29日(日)22時57分35秒
- 「よ、よっすぃー?・・・」
「ん?大丈夫、心配しないで」
飯田さんの許可がおり、みんなも賛成してくれた。ごっちんは
よくわかんないけど。
「私、石川さんの捜査、協力します!」
亜弥ちゃんは頭を下げて言った。せめてもの罪滅ぼしだろう。
「ありがとう」
安倍さんが笑顔で言ってくれた。
「えっと・・・多分石川さんは・・リーダーの経営しているホテルに
いると思います」
「多分?」
「はい、私石川さんとは実際会ってないんです。さらいに行ったのも
リーダーだし、話だけ聞かされて・・・」
「そのホテルはわかる?」
「はい、1度だけ行った事あるんです。・・・・北海道ではなく東京に
あります」
これで居場所がわかった。
私は亜弥ちゃんを信じる。
きっとそこに梨華ちゃんがいると思う。
そんな予感がするんだ。
梨華ちゃん、もうすぐ会えるから。
待っててね。
- 26 名前:New 投稿日:2002年12月31日(火)01時02分53秒
- 亜弥ちゃんから詳しい場所を聞き、作戦を練り翌日行く事になった。
その話し合いの時、ごっちんはいなかった。
「んじゃぁ、亜弥ちゃんは私の部屋使っていいよ」
「え!?じゃ、よっすぃーはどうするの?」
「私は・・・梨華ちゃんの部屋使うから、大丈夫」
「ごめんね」
「ん、おやすみ」
こうしてそれぞれの部屋で、眠りについた。
いろんな感情が入り混じってるみたいだ。
梨華ちゃんの部屋に梨華ちゃんがいない悲しみ。
もうすぐ梨華ちゃんに会える喜び。
梨華ちゃんをさらったやつへの怒り。
また梨華ちゃんと過ごせる楽しみ。
まさに喜怒哀楽。
そんな感じの心。
意味のわからない涙を流しながら。
眠りについた。
- 27 名前:New 投稿日:2002年12月31日(火)01時10分11秒
- 第19章 『ついにこの日が来た』
目覚ましで起きなかった。目覚ましがなる10分前に目覚めた。
いつもならだるい身体も、今日は軽かった。
ジャージに着替えてそこらへんを走って、運動をした。
それからシャワーを浴びて、着替えて、朝食。
そして集中力を高め、出発の支度。
「おはよーございます」
事務室に入ると、誰もいなかった。
・・・あちゃ、早く来すぎたか。
集合時間よりも20分も早く来てしまった。
「おはよ」
「うわぁ!?」
誰もいないと思ったら、ごっちんがソファに寝転んでいた。
「・・・そんな驚かないでよ」
「驚くよ、あ〜びっくりしたぁ」
「・・・私も行くから。石川さん助けに行くよ」
「ごっちん・・・ありがと」
「何言ってんの、大切な仲間だもんね」
ごっちんは起き上がって笑顔で言った。
- 28 名前:New 投稿日:2002年12月31日(火)13時26分27秒
- やっと集合時間になって全員集まった。
「よし!行くか〜!」
飯田さんが気合を入れて、みんなも気合が入る。
紺野と小川に見送られて駅へ向かい、電車に乗る。
「ここ?」
「はい、ここです」
「・・・でかい・・・」
目の前にはものすごく高いビル・・・じゃなくてホテルが建っていた。
ホテルはいつも通り経営されていて客人がたくさん来ている。
「どーするんですか?泊まって、捜しますか?」
「そうだね、とにかく梨華ちゃんの安全確認。松浦さんは帽子かぶって
バレないようにね」
「じゃ、私が行ってくるべさ」
安倍さんがこのホテルに泊まるためフロントへ行く。
数分後、部屋のキーを持って戻って来た。
部屋を3つ、ツインルームをとったらしい。
安倍さん・飯田さん。ごっちん・私。亜弥ちゃんとなった部屋割り。
すぐに梨華ちゃん捜しへ行動し始めた。
- 29 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)21時14分00秒
- とにかく片っ端の人から聞き込み開始。
「あの、すみません。この子見かけませんでしたか?」
梨華ちゃんの超可愛い写真を見せながら聞き込む。
「知りません」
「見かけてないです」
こんな返事ばっか返ってくる。私はこんな聞き込みより片っ端の
部屋から入って確かめればその方が早いような気がした。
でも聞き込みはリーダーの飯田さんの提案なのだ。ここは従って
おかないと。
「あー、そういえば、見かけましたよ。さっき」
・・・・えぇ!!?
ずっと聞き込みしてきたかいがあったぁ。
「ど、何処で!?」
「えーと・・・あ、そうそう。さっき間違ってエレベーターで
最上階行っちゃった時に、この写真の子がいたんだ。なんか泣きそうな
顔してて、男のガードマンみたいなやつに・・・逃げてたのかな?その子。
無理矢理捕まってさ、部屋に入って行ったよ」
梨華ちゃんが・・・無理矢理・・・無理矢理・・・・。
私の顔は真っ青になっていった。
- 30 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)21時23分13秒
- 「さ、最上階のどの部屋!!?」
「え?えーと・・エレベーターおりて一番奥の部屋だと・・・」
「ありがとうございました!失礼します!」
私は走ってエレベーターのとこまで行った。走りながら携帯で飯田さんに
連絡をとった。
『何かあった?』
「ええ!ありましたよ!情報によると最上階の一番奥の部屋だそうです!」
っつーか何処にエレベーターがあるんだよ!
『わかった!じゃぁ、みんなそこに集合かけるね!』
「はい!お願いします!」
ピッと携帯をきってコートのポケットに携帯をしまう。
長い長い廊下をタイムをはかれば最新記録を出せるくらい走った。
行く人のぶつかり、謝りながらついにエレベーターを見つけた。
「ふぅ〜・・・」
上のボタンを押してエレベーターを待った。そしてエレベーターが
到着し、ガーっと扉が開く。中に誰か乗っているようだ。
次の瞬間、中に入っているやつら数人が襲いかかってきた。
「ぐっ!!」
いきなり腹に1発くらった。やつらの顔はぼうしを深くかぶっていて
よくわからない。黒いスーツに黒いズボン、黒のぼうし。黒づくめ。
- 31 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)21時28分35秒
- 私は後ろに一歩さがり、やつらと距離をとった。
かまえて、タイミングを見計る。どうやら梨華ちゃんを助けに来た
という事は敵にばれてるらしい。きっとみんなのとこにもこーゆー
やつらが来てるだろう。
「はっ!!!」
私は小さく風を創り放った。3人、それをくらって倒れた。
残りは2人、そいつらはすぐ私にめがけて殴りかかってきた。
軽くそれをかわし、私は思いっきりそいつらのわき腹を殴った。
「「っぐわぁっ!!」」
「ったく・・・時間が足りないんだよ」
私はすぐにエレベーターに乗った。
- 32 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)21時34分13秒
- <なっち視点>
「なんなのよ〜、この敵の数は!!」
私は追いかけてくる敵から逃げながら走っていた。
エレベーターに乗ろうとしたら中から出てきた黒づくめの人達。
「知らないわよっ!多分ばれてるんだと思う、助けに来た事!」
圭織も必死に走っている。敵はどんどん追いかけてくる。
「もう〜!!」
私は『力』を使った。小さな火の玉を敵にめがけて放つ。
ドン!!!!
数人に命中し、倒れた。
「圭織!さきに行って!」
「わ、わかった!」
ここは私がくい止める。
残るはあと、4人だ。
- 33 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)21時42分27秒
- その4人はものすごい速さで詰め寄って来た。じりじりと迫ってくる。
・・・これじゃぁ『力』が使えないよぉ。
少し涙目になりながらかまえる。だけどもう無理───ッ!!!
目をつぶったその時。
バチッ!!!!!
「・・・ふぇ?」
おそるおそる目を開けてみると。私の前に小さな背の金髪の人───。
「や、矢口!!?」
「おっす!大丈夫か?」
「な、何でここに!?」
「理由は裕ちゃんから聞いた。裕ちゃん言ってた、「あの子達だけじゃ
勝てない、矢口達応援に行って来てくれるか?」って。
圭ちゃんも、紗耶香も辻もみんな来たよ」
裕ちゃん・・・・。
「ぐっ・・・あ・・・」
「!!?」
なんと全員倒したはずなのに、ゾンビのように再び全員立ち上がった。
「なっち!ここは矢口がやるから!早く行って!」
「で・・でも、矢口1人じゃぁ・・・」
「早く!」
- 34 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)21時49分10秒
- 「なっち、こいつらは雑魚なんだよ。早くボスを倒してきなよ!」
矢口・・・・・ごめんね、ありがとう。
「うん!わかった!」
私は矢口にまかせて圭織の後を追った。
<ごっちん視点>
きっとやつにはばれてるから、エレベーターには何かしら『仕掛け』
があるだろうと考えた。だから非常階段を使って最上階へ向かう。
「はぁ・・・高すぎ・・・」
何処までも続く階段は結構きつかった。これならエレベーターに行った
方がましだったかもしれない。
息をきらしながら上っていく。
「!!?」
いきなり目の前に黒づくめのやつらがあらわれた。
・・・敵か。
やつらは殴りかかってきた。私は『力』の重力を上手く使い
やつらを動けさせなくした。そして最後に思いっきり重圧をかけた。
- 35 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)21時57分45秒
- やつらは口から血を吐き出した。
無視して階段を上ろうとしたら、また新たな敵があらわれた。
・・・ちっ、数が多すぎる。
ざっと見て15人はいる。さっき倒れたやつらも立ち上がった。
・・・やるしかないか。
手を大きく振りかざした。
ドゴォン!!!大きな破壊の音が響いた。
だけど、やつらはひるまず殴りかかってくる。まるで機械のようだ。
「・・・くそっ・・・」
焦っていたその時───。
ドガァァン!!!いきなり大きな音が響いた。
「おいっす、元気してた?」
そこには市井紗耶香がいた。
「な、何であんたが・・・」
「いやぁ、理由は聞いた。応援しにきたんだよ、にしてもすっげー数だよな」
「・・・応援なんていらない、私1人で十分」
「何言ってんだよ、お前は上へ行け、仲間が待ってるんだ」
「・・・仲間・・・」
「そっ、雑魚らは私らにまかせて、さっさと助けに行ってこう!」
みんなが待ってる・・・行かなきゃ。
「・・・ありがと」
「おう、頑張れよ」
私はいそいで階段を駆け上がった。
- 36 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)22時11分48秒
- <飯田視点>
「こっちも敵・・・・」
私の目の前には黒づくめが5人いる。
どうしよう・・・・、仕方ない戦おう。
私の属性は『水』、大きい水の玉を創り敵に放つ。
『ぐわぁぁぁ』
その水の玉は敵の顔を覆った。もちろん息なんてできるわけない。
今まで、こうやって相手を降参させて、勝ってきた。だってこのままじゃ
殺しちゃうからね。気絶ぐらいならさせるけど。
でもその作戦は無駄になった。新たに敵がやってきて刀で水の玉を切って
しまった。
「どうしよう・・・」
この作戦もダメ、説得だって無理。・・・もうダメ・・・みんな
ごめんね・・・・。
「何諦めてんのよッ!!」
「え?」
ドン!!!!まばゆい光が敵を攻撃した。
どんどん敵が倒れていく。
「もう・・・あんた本当にリーダー?」
私の後ろにはこの前戦った敵、・・・保田圭?
「飯田さーん」
それと・・・辻希美?が抱きついてきた。
- 37 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)22時15分10秒
- 「ごめんね、この子、飯田さんが気に入っちゃったみたい」
「飯田さん、大丈夫ですかぁ?」
「え、あ・・・うん」
・・・何なの?一体。
「裕ちゃんから全部聞いた、雑魚達は私のチームにまかせて」
「まかせて下さい!」
裕ちゃん・・・。
「さ、早く行って!」
「行って下さい!」
「うん、ありがとう!」
私はいそいでエレベーターに乗り上へ向かった。
- 38 名前:New 投稿日:2003年01月01日(水)22時22分45秒
- <よっすぃー視点>
ガガガガ・・・・。
「ん?」
腕組をしながら最上階を待っていたら、途中でなんとエレベーターが
止まってしまった。
「・・・あちゃ、やられたか」
こんなことだろうと思った、私はエレベーターの天井を無理矢理こじ開けた。
ほいほいと上って、上に出た。
エレベーターを繋いでいるロープに手をかけ、上り始めた。
もうすぐ最上階・・・こんぐらい何てことない。
手が痛い、血が滲む。でも梨華ちゃんが待ってるんだ。
梨華ちゃんが助けを待っているんだ。
やっと最上階の扉を見つけ、無理矢理こじ開け、出た。
「あ、みんな」
そこには仲間がいた。
「遅いよ、よっすぃー」
「全く、私は階段で来たんだからね」
「さぁ、行こうよ。もうそこだよ」
みんな傷だらけで、でもちゃんと私を待ってくれた。
よし、戦おう。
そして全て終わらせるんだ。
- 39 名前:New 投稿日:2003年01月02日(木)18時04分53秒
- <松浦視点>
みんな聞き込みの捜査に行っちゃって、私は1人部屋に残っていた。
私の顔はここのホテルじゃばれてるし・・・っていうかみんなの顔も
ばれてるっていうか思いっきり不審者っぽいからすぐばれると思うけど。
「・・・でもじっとなんてしてらんない」
よっすぃーはこの部屋で待ってろって言うけど、私だって『力』あるし
なんせ敵はかつて私のリーダーだった人、責任はあるんだ。
そろ〜っと部屋を出ると、あちこちでかすかに爆発みたいな音が聞こえた。
・・・始まってるんだ。行かなきゃ。
ここのホテルにはエレベーターがたくさんある。よっすぃー達はそれに乗って
最上階へ行ってると思う。最上階はリーダーの部屋だから。
もうバトルが始まってるという事は最上階へ行く目的ができたから。
実はひとつだけ隠しエレベーターがあると聞いた事がある。確か・・・・
使われいない物置の奥にあるらしい。
「ここかなぁ・・・?」
ギィと思い扉を開けてみる。暗くてよくわからない。
部屋にあったライターで火をつけ、中に入ってみる。
「あったぁ!」
奥にエレベーターがぽつんとあった。
- 40 名前:New 投稿日:2003年01月02日(木)18時17分22秒
- エレベーターに乗って最上階へ向かうんだけど、なんかボロイし
動くかなぁって不安を抱きながらボタンを押した。プシューと扉が閉まって
なんと動いた。
ウィィィンと機械的な音だけが響いていた。
行ってどうしよう?
・・・あの人に会ってもうバカな事は終わらせよう。
もう終わらせよう。
最上階について、エレベーターからおりた。
誰もいなかった、もうよっすぃー達は行っちゃったのかな?
それともまだ来てないのかな?
無駄に長い廊下、下には赤いじゅうたんが敷かれていた。
そして私はリーダーの部屋の前まで来た。
『今日からよろしくなー、何かと大変やけんど、頑張って行こうな』
『はい!頑張ります!』
私と美貴ちゃんは行くところが無くて、困っていた。
2人で呆然と路地裏にうずくまっていたら、リーダーが声をかけてくれた。
『なんや?あんたら行くとこないんか?』
『『・・・・・』』
リーダーは優しく微笑んでしゃがんで私達の目線に合わせて。
『じゃぁ、私んとこ来たらええよ、何も無いけど』
『『・・・!!?』』
『嫌ならええ、けどなこんなとこいてもな、楽しい事あらへんよ?』
- 41 名前:New 投稿日:2003年01月02日(木)18時31分26秒
- 神様みたいだった。嬉しくて美貴ちゃんと私は泣いた。
それから数ヶ月後、私達に『力』が生まれた。こんな『力』があるなんて
今まで気付かなかった。そしてリーダーと仕事ができるって美貴ちゃんと
私は嬉しくてはしゃいだっけ。
リーダーに迷惑かけないように頑張って仕事やった。ミスなんて無かった。
いつも楽しくて幸せだったのに。
『美貴ちゃんが死んだって・・・』
『あぁ、聞いたんか。そうらしいな』
『何で・・・悲しくないんですか?』
『・・・あいつは、頑張ってくれた。ミスをしたんやな、たったひとつの
ミスをな・・・仕方ない』
『・・・・』
『・・・なんやその目は。ったくまだこれから仕事あんのに、死んで』
『死にたくて死んだんじゃないんですよ!?リーダーの為に・・・』
『もうええ、あんたも最近、変やないか?あの吉澤に何か言われたんか?』
『・・・・』
『・・・はぁ、わかったわ。もうええ、出て行け』
『・・・!?』
『役に立たん』
- 42 名前:New 投稿日:2003年01月02日(木)19時52分28秒
- 泣きながら荷物まとめて、出て行ってまた振り出しに戻った。
もう生きる気力もなかった。
いっそこのまま死んで美貴ちゃんのとこにでも行こうって考えた。
このまま道路に飛び出して車にはねられたらどんなに楽だろう?
私は忙しく走っていく車をぼーっと見ていた。
自然に涙がまた溢れ出して、止まらなくて。
通りすがりの人が笑いながら私の後ろを通って行った。
よっすぃー・・・・。
よっすぃーの笑顔が浮かんできた。
・・・よっすぃーに会いたい。
気が付くと私は駅に行ってよっすぃーに会いに向かっていた。
- 43 名前:New 投稿日:2003年01月02日(木)20時06分29秒
- 電車が到着して、でもよっすぃーのチームに対して私は敵だと
思い出してどうしていいかわからずに階段の隅にうずくまった。
まるであの時、路地裏にいた頃のようだった。
私はやっぱり携帯でメールをよっすぃーに送った。
すぐによっすぃーは来てくれて。
「・・・松浦さん?」
と声をかけてくれて。
リーダーと出会った頃に似ていた。
私はよっすぃーに抱きついてたくさん泣いた。
「大丈夫だよ・・・私のとこに来ればいいよ・・・」
よっすぃーは優しく抱きしめてくれた。
よっすぃーのおかげで私はまたスタートする事ができたんだ。
- 44 名前:New 投稿日:2003年01月02日(木)20時21分24秒
- 第20章 『全てが終わる瞬間』
私は決心してリーダーの部屋の扉を開けた。
1度だけこの部屋に来た事がある。初めてリーダーと出会った日。
私が止めなきゃ・・・私が終わらせるんだよ・・・。
「リーダー!!」
大きな声で言いながらリーダーを捜した。
「なんやねん、大きい声出すな」
「リーダー・・・!!」
私は自分の目を疑った。
リーダーは変だ。目つきが完全に変わってる。
いつもの自分のイスに座って、書類を見たいた。
「い、石川さんは・・・?」
「あぁ、そこに」
振り返ると、ベットの上で寝ている(?)石川さんを発見。
だけど、手や足はロープで縛られていた。私はすぐに石川さんのそばに
駆け寄った。
「大丈夫や、ちょっとうるさいし、暴れるし、脱走しようとするんやから。
眠らせただけや」
「・・・もう止めましょう。・・・平家さん」
私はリーダーであったあの人を睨みつけた。そして近づいた。
「なんや?お前は関係あらへんやろ」
「あなたは変わってしまった・・・悪にね」
「・・・変わった、か。まぁ、そうやろうな」
- 45 名前:New 投稿日:2003年01月02日(木)20時30分27秒
- 「もう止めて下さい・・・」
「嫌や、何言ってんや?」
「石川さんを帰してあげて下さい・・・」
「せっかく獲った大切な『力』や、やすやすと返すわけにはいかへんわ」
私は涙を流して、閉まっておいたナイフを取り出した。
ゆっくりナイフをこの人に向けて、近づく。
「殺すんか?はっ、そんなんじゃ死なへんわぁ」
「私の手で止めてあげます・・・」
ナイフで刺そうとしたその時────。
グサッ。
「・・・っつ・・・」
私の背中にナイフが刺さった。
黒づくめの人が私を刺した。
「・・・ほな、さいなら。無駄やったな」
あの人の高笑いを聞きながら私は目を閉じた。
ごめんね・・・石川さん。
よっすぃー、お願い・・・・。
この人を止めて・・・。
- 46 名前:New 投稿日:2003年01月02日(木)20時37分01秒
- <よっすぃー視点>
みんなが集合して、やっともうすぐ梨華ちゃんを助けれる。
「行くよ!」
「「「おう!」」」
走って、奥の部屋へ行った。
バン!!!!
「梨華ちゃん!!」
私はずかずかと入りながら梨華ちゃんを捜した。
「梨華ちゃん!・・・え?・・・」
私の視界に入ってきたのは───血を流して倒れている亜弥ちゃんだった。
「あ、亜弥ちゃん!!!?」
私はすぐ抱き起こして、息を確かめた。まだ息はしている、かすかにだけど。
「・・・よ・・すぃー・・・」
「うん、私だよ」
「・・・ご・・めん・・ね・・・」
亜弥ちゃんはそう言って少しだけ笑って目を閉じた。
- 47 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)11時26分27秒
- 「亜弥ちゃん・・・!!」
ぐったりと私の腕の中にいる亜弥ちゃん。怒りが込み上げてくる。
安倍さんが近くに来てくれて私は亜弥ちゃんを安倍さんに預けた。
立ち上がって、目の前にいるヤツを睨みつけた。
やつは口元だけが笑っていた。目はひどく冷たかった。
「梨華ちゃんをかえせ!」
「まぁ、そう怒るんやない。ちょっとゲームでもせぇへんか?
今、ちょっと退屈でなぁ。どや?」
ヤツは笑いながら、私に近寄ってきた。
「そうやなぁ、あの子を賭けてみよか?うちを倒せたらあんたらに
あの子を返してもええ、だけど、あんたらが負けたらあの子は完全に
うちのもんや。あんたらの負けは───死ぬっちゃー事やな」
完全に勝利を勝ち誇った顔をしてやがる。誰がお前なんかに負けるか。
絶対に勝つ、梨華ちゃんを取りかえす為に。
ここまで戦ってくれた亜弥ちゃんの為に。
全てが終わる瞬間を見届けるんだ。絶対に。
- 48 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)18時48分31秒
- 第21章 『最終決戦』
私は振り返ってみんなを見た。みんなは力強く頷いた。
私も頷いた。
「わかった」
「よっしゃ、んじゃ特別室に行こか、ここじゃぁ動けんからなぁ」
ヤツは変わらない表情で「こっちや」と指をさしながら歩いて行った。
私達も後をついて行った、亜弥ちゃんはそこにあるソファに寝かせた。
部屋のわきの扉を開けるとすごく広い部屋に出た。何も無いがらんとした
部屋だった。上には綺麗なシャンデリアがあり、下にはやっぱり赤いじゅうたん
がしかれていた。窓は、無かった。
「ここでええやろ?広いしなぁー、特別室やで。こうゆう時の為に
作っておいたんや」
「1対1で?」
「嫌ぁー、違うわ。まずはこいつらと戦って」
パチンと指をならすと同時に黒づくめのやつらが出てきた。
20人近くいるだろうか。
「こいつらはなぁ、感情が無いんや。うちが作った・・・まぁロボット
みたいなもんや。人間やけどな、感情をうちが全て奪ったんや。
だから、うちの思うままに動く」
すると、やつは手を上に上げた。
「ゲームスタート」
バトルは始まった。
- 49 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)21時32分14秒
- 黒づくめのやつらは私達に殴りかかってきた。
『うちの思うままに動く』
そうか、だからか。さっき戦った黒いやつらを倒しても再び起き上がってきたのは。
ドガッ!!!
「くっ・・・」
脇腹に一発くらってしまった。なんとか他のはよけれたけど。
みんなも大変そうだ。でもこんなみんなと近くにいちゃ『力』が使えない。
今、『力』を使えば、みんなが攻撃をくらってしまう。
こうなったら殴り合うしかないだろ。
ドガッ!バキッ!
なんとかそれで黒づくめらは倒れてくれるが再び起き上がる。
あいつを何とかしなきゃ・・・。
よくある、RPGのボスだ。自分の部下に戦わせて自分は遠いとこから
楽しげに見ている。
あいつがいる限り、この黒づくめらは死なない。
ならあいつを仕留めるだけだ。
- 50 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)21時42分46秒
- あいつに向かおうとした時、後から引っ張られた。
「なるべく離れて、私がやるから」
安倍さんが早口でそう言って、私から離れた。
ごっちん、飯田さんは倒しながら離れていく。私もそうした。
結構離れたと思った時。
ドガァァァァァァン!!!!
すごい爆発音が響いた。
安倍さんが今までにないほどの『力』を使ったのだ。
黒づくめらは1人残らず消えた。
燃え尽きたのだ。
「ほぉー、すごいなぁ、あんた。『火』の属性か、もう炎って
言ってもええぐらいやな」
あいつは拍手をしながら言った。
「戦わないの?もう終わり?」
安倍さんは怒った表情でそう言った。
「いや、今までのは雑魚にすぎない。これからが本番や。とっておきの
やつをな・・・そろそろ目覚めたはずや」
私達が入ってきた扉が開かれた。
───!!?
「どや?いいロボットができたやろ?」
そこには白いワンピースを着た、無表情な───
梨華ちゃんがいた。
- 51 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)22時03分48秒
- 梨華ちゃんはあいつの方へ歩いて来て、立ち止まった。
「んー、中々いいやんか。さて、石川、あいつらを倒せ」
「了解」
梨華ちゃんの胸の所にネームプレートがあった。
<bP986 Rika>
・・・そんな、梨華ちゃんも黒づくめみたいなやつらと同じ
に・・・?嫌だよ・・・これは何かの間違いだ!夢なんだ!
私は目の前に見えるものに拒否反応を出した。
梨華ちゃんはこっちへ近づいてくる。
「・・・今までの黒づくめとはわけが違う。石川は『力』がある」
「ひどい・・・ひどすぎる」
手を大きく振りかざす梨華ちゃん。
ドガァン!!!
「「「「うわぁぁ!!」」」」
4人共吹っ飛ばされた。後の壁に激突した。
「いってぇー・・・・」
「痛ッ・・・・」
しばらくこの攻撃は続いた。
私達は何もできず、ただ攻撃を受けるしかなかった。
- 52 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)22時11分09秒
- 梨華ちゃん・・・!!お願い、元に戻ってよ・・・。
迎えに来たんだ、あなたを。
助けに来たんだ、あなたを。
私は血を流しながら、梨華ちゃんに近づこうとした。
何回攻撃されても、立ち上がって行った。
「梨・・・華・・・ちゃん。大丈夫、・・・助けるから・・・」
容赦なく攻撃はくる。後ろにいるみんなはもうぐったりしていた。
「・・・梨・・華ちゃん・・・。私だよ・・?わかるかな・・?」
私は大きく手を横に伸ばして、梨華ちゃんに聞く。
そこで気付いた。
泣いてる・・・?
梨華ちゃんは涙を流していた。
「石川!やれ!やるんや!・・・これ使え」
あいつは梨華ちゃんにナイフを握らせた。
するとナイフを持って、私に近づいてきた。
もうあと数センチのとこで、梨華ちゃんが何か言っている言葉が聞こえた。
「よ・・・っすぃー・・・お願い・・・殺して・・」
涙を流して梨華ちゃんは確かにそう言った。
- 53 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)22時18分13秒
- 私は何も言えなかった。
愛する人を殺せるわけない。
梨華ちゃんはあいつに指示された通り私を殺そうとしている。
でもまだ梨華ちゃんには『心』がある。
まだ私の事覚えてる。
じゃぁ、私が目覚めさせてあげる。
自由のきかない身体を元に戻してあげるよ。
私はそっと梨華ちゃんを抱きしめた。
────ッ!!!!
そのまま抱きしめたから、ナイフは私の腹部にぐっさり刺さった。
かまわず、抱きしめた。
そして優しく、キスをした。
「よ・・・すぃー・・・?」
「梨華ちゃん・・・もう大丈夫だから・・・」
梨華ちゃんは元の表情に戻った。
いつもの、梨華ちゃんだ。
「わ、私・・・えぇ?よっすぃー・・・血・・・」
「こんなん、平気。梨華ちゃん、危ないから向こう行っててくれる?」
「でも・・・」
「行って・・・すぐ行くから」
「うん・・・」
私にはまだ戦いが残っている。
- 54 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)22時25分23秒
- 「・・・たいしたもんやな。あんたが欲しくなってきたわぁ」
「誰がお前なんかに・・・もう終わらせてやる!」
私はすぐに風を創り放った。
ドガァン!!!
「こんなん、全然やな」
あいつは軽くかわして、攻撃してきた。小さな光が光線のように
私の腕をかすった。血が流れた。
負けずと攻撃するが、向こうは全然ひるむ気配がない。
こっちがやばくなってきた。
ドガァァン!!
キィン!!!
ドガァン!!
「はぁ・・はぁ・・くそっ・・・」
「はぁ・・よくやるわな、結構疲れたで・・・」
「じゃぁ、これで終わりだ!」
私の最高の『力』────竜巻!!!!
私はありったけの『力』を放った───。
ゴォォォォン!!!!!
「うわぁぁぁ!!?」
あいつはやっと倒れた。
- 55 名前:New 投稿日:2003年01月03日(金)22時31分03秒
- 「くはぁ・・何て『力』や・・・」
あいつは血を吐き、流しながら言った。もう戦えそうにもない。
私は立っていた、普通ならぶっ倒れるけど。
「お前の負けだ」
「そう・・やな・・・負けか・・・今まであらへんやったのに・・・」
「人の『心』を奪った罰だ」
「・・・はは、殺せばいい・・・」
「・・・いや、殺さない」
「・・!?何故や!?」
「・・『依頼』では止めてと頼まれただけだから。こんなバカなリーダーをね」
「藤本と松浦か・・・」
「これからはこんなバカな事しないで下さい。あの2人の為にも」
「・・・そうやな、・・・もぉー、疲れたわ・・・」
私はみんなのとこに戻った。
- 56 名前:New 投稿日:2003年01月04日(土)13時35分47秒
- 第22章 『みんな仲間』
亜弥ちゃんがいる部屋に行くと、みんないた。
そう、みんないたのだ。
何故か、矢口さんや市井さんなどなどもいた。
何で・・・?
呆然と突っ立ってると亜弥ちゃんが私に気付いた。
松浦「よっすぃー!」
安倍「あ、ホントだ。何突っ立ってんのさ?」
後藤「あー、終わったから気が抜けたんでしょ?」
飯田「全く、だらしないわね」
矢口「オイラなんかすっげぇー頑張ったのに」
市井「まぁ、楽勝楽勝〜」
保田「へぇー、この傷で?」
市井「痛い!痛いって!圭ちゃん!傷口叩かないで〜!」
辻 「おなかすいたぁ・・・」
「よっすぃー、ありがと」
その中に梨華ちゃんもいて。
泣き笑いで梨華ちゃんはそう言った。
梨華ちゃん、あなたがいたから頑張れたんだよ。
どんな事も一生懸命やったんだよ。
梨華ちゃんは私の方へ走って来て。
私は梨華ちゃんを受け止めて、抱きしめた。
もう放したくない、この愛しいあなたを。
私は力いっぱい抱きしめた。
- 57 名前:New 投稿日:2003年01月04日(土)13時42分37秒
- 「亜弥ちゃん、大丈夫なの?」
それからみんなホテルを後にした。このホテルの経営者が倒れた事で
大騒ぎになっていたから、さっさと出てきたのだ。
「はい、石川さんが治してくれたんです」
「良かったぁー」
傷だらけのみんな、一緒に戦ってきたみんな。
ホント、最高の仲間だよ。
みんな、みんな仲間だよ。
「じゃ、オイラ達はこれで」
「え〜?まだいいだべさ、お礼もしたいし」
「ライバル同士が何言ってんの、後藤、強くなれよ」
「市井ちゃんこそ、私は負けないから」
「飯田さん、また会いましょうね」
「辻、元気でね」
「全く、世話のかかるチームだわ」
私は大きく息を吸って。
「ありがとうございました!」
と大きな声で言った。
そして、仲間だった矢口さん達は帰って行った。
- 58 名前:New 投稿日:2003年01月04日(土)13時51分41秒
- 梨華ちゃんの『力』のおかげでみんなの傷や怪我は回復し。
亜弥ちゃんもだいぶ元気になった。
中澤さん達にも今回の事を全て話し。
『もうみっちゃんはバカな事せぇへん、きっと』
と安心した様子で言っていた。
とりあえず、仕事は休養の為、お休みで。
休みの間は紺野と小川は電話受け付け大変だろうけど。
『『頑張ります!』』
って言ってたし。うん。
「よっすぃー、そんなじっと見ないでよ」
「だって、しょうがないじゃん。梨華ちゃん可愛いんだもん」
私と梨華ちゃんは私の家にいた。
これから2人暮らしをするのだ。
梨華ちゃんのお父さんからちゃんと了解を得た。
今日は引越しみたいのもんで、梨華ちゃんの必要な物を揃えた。
明日は梨華ちゃんの妹、亜依ちゃんのお墓参りに行く。
「よっすぃー、カーテンはやっぱピンクだよね」
「うん、いいね」
なんだか・・・私の家がピンクになっていく・・・・。
ま、梨華ちゃんが嬉しそうだからいいかー。
あー、これからの生活が楽しみだぁ。
と・・・浮かれつつあります。
- 59 名前:New 投稿日:2003年01月04日(土)14時03分32秒
- 第23章〜最終章〜『いつまでも変わらずに』
今日もいつもと変わらない日常が過ぎていき。
もうあの事件から1年が経った。
だけど私達の心の中にはいつまでもあの事件は残っている。
これからも忘れる事はないだろう。
「よっすぃーこれあの書類ね」
「ありがとうございます」
「よっすぃー、なっちが頼んどいたあれは〜?」
「あ、これですね」
「よっすぃー、これってこっちの方がいいよねぇ」
「うーん、そうだね。ごっちん」
「吉澤さん、これ頼まれてたコピーです」
「あ、ありがと小川。紺野ー、コーヒー頼む〜」
「はい、わかりました」
今日も忙しい。あの事件から今日で1年。
別に祝う事もないけど、きっとみんな思い出してるはず。
亜弥ちゃんもここで働いてる。
梨華ちゃんも。
これからも変わらず一緒にいたい。
ずっっっと一緒にね。
「じゃ、ちょっと行ってきます〜!!」
「行ってらっしゃい、よっすぃー」
「行ってきます、梨華ちゃん」
さて、今日も仕事、頑張ります。
END
- 60 名前:New 投稿日:2003年01月04日(土)14時06分43秒
- はい、やっと終わりました。長かった・・・。
風板の方のスレッドがいっぱいになっちゃったり。
文章が上手くできなかったりと・・・いろいろ大変でしたが。
私なりに頑張りました。
まだレスに全然余裕があるので、書きたいと思ってます。
では、また。
- 61 名前:New 投稿日:2003年01月11日(土)21時54分59秒
- 最近、変だと思ってた。
なんか冷たくなったって言うか。
でも私に向ける笑顔は変わってないし、きっと普段通り。
でも・・・なんか違う。
『テディベア』
「よっすぃー?」
「え?あ、何〜?」
「何かぼーっとしてるよ?」
「あ、そっかなぁ?」
「うん、そうだよ」
「ごめんね、梨華ちゃん」
そう言って軽く私にキスをして。
何か誤魔化そうとしてる感じ。
ねぇ、何考えてたの?
心では問いかけれるけど、声に出しては言えない疑問。
ねぇ、私の事、好き?
楽屋は今日も賑やかで。
あちらこちらから声が聞こえてくる。
「あはは〜!それってマジで〜?」
「マジ、もううけるよねー」
辻ちゃんと加護ちゃんはどたどた走っていて、何回か飯田さんと
保田さんに怒られてる。
私の隣にいる愛しい人はさっきからMD聞いてて。
まるで隣に私がいる事忘れてるみたい。
- 62 名前:New 投稿日:2003年01月11日(土)22時04分05秒
- よっすぃー。
最近、変だよ。
どうしたの?
あの人がここにいなくなってから。
あなたは変わった。
「梨華ちゃん?」
気が付くとよっすぃーは私を見ていた。優しいこの笑顔が大好き。
だから、聞けないんだよね。
きっと聞いたら終わっちゃいそうだもん。
私はメンバーに気付かれないように、よっすぃーの手を握った。
よっすぃーも優しく握り返してくれた。
メンバーに見えないように握ってる手を後に回して。
ずっとぬくもりを感じていた。
「あ、そうそう。さっきさー、ごっちんに会ったよ」
矢口さんの声が聞こえた。何となくよっすぃーを見ると
よっすぃーは矢口さんを見ていた。
「えー、なっちも会いたかったよう」
「んー、でもいそがしそうだったよ」
ねぇ、よっすぃー。会いたいの?
ごっちんに会いたいの?
- 63 名前:New 投稿日:2003年01月11日(土)22時15分19秒
- 「梨華ちゃん、トイレ行ってくるね」
繋いだ手を離してよっすぃーは立ち上がり、楽屋を出て行った。
・・・・ごっちん探しにいくのかなぁ・・・。
不安だけが残って、私の心は悲しみだけが広がっていた。
涙が出そうになったけど無理矢理我慢した。
私は・・・・信じてる。よっすぃーを。
だから、早く帰って来て。お願い。
数分後、よっすぃーは戻って来た。
その表情はいつもと変わらず、穏やかな表情。
今すぐ、抱きつきたいよ。
「よっすぃー、ごっちんに会った?」
矢口さんが雑誌からよっすぃーに視線を変えて言った。
私はごくりと息をのんだ。
「・・・いえ、会ってませんよ。すぐそこのトイレに行っただけですし」
「そっかぁー」
嘘つきね。
よっすぃーは嘘つくのが上手じゃない。ずっと一緒にいればわかっちゃうよ。
よっすぃーの彼女だもん、全部わかるよ。
「ねぇ・・・」
「ん・・?」
そしていつものように私の家にいた。
よっすぃーの首に腕を回して、私はよっすぃーを見た。
「他に好きな人がいれば・・・そっちいっていいんだよ?」
「・・・バカ、梨華ちゃんの他に行くとこなんてないよ」
嘘つきね。
- 64 名前:New 投稿日:2003年01月11日(土)22時27分06秒
- それから数日がたった。
私は不安を胸に抱きながら、よっすぃーと付き合っていた。
たまによっすぃーはいなくなる。何処に行くのかは知らない。
もうなんか結構限界かもしれない。
あなたは私を見てるの?
違う人を見てるの?
今日も、同じベットにいた。
珍しく今日はよっすぃーから誘ってきた。
いつもなら私から誘うのに。
「梨華ちゃん・・・」
「よっすぃー・・・」
何度も何度もよっすぃーは求めてきて。
私も夢中になってよっすぃーを求めた。
「梨華ちゃんっていい匂いするね・・・」
終わって、よっすぃーの腕の中。
優しいぬくもりが伝わってくる。
「知ってる?」
「何?」
「昔にねー、目覚めると枕もとには素敵なプレゼントが置いてある
って聞いたことがあるんだ」
- 65 名前:New 投稿日:2003年01月11日(土)22時34分12秒
- 「それってサンタさんじゃない」
私はクスっと笑ってそう言った。
「違うよー、サンタじゃないんだよ」
「じゃぁ、誰?」
「んー、わかんない。でも目覚めるとね、置いてあるんだって」
「ふーん」
何であなたがその話をしたかわからないけど。
あなたは私の髪をなでながら。
何回かその話をしてくれた。
何度聞いても飽きなかった。サンタじゃない誰かに期待を
膨らませながら私は聞いてた。
あなたは昔言いました。
目覚めれば枕もとには素敵な。
プレゼントが置いてあるよと。
髪をなでながら。
- 66 名前:New 投稿日:2003年01月11日(土)23時29分58秒
「ん・・・?朝・・?」
目覚まし時計よりも早く起きた。
私にしては珍しくて、隣に寝てるよっすぃーを起こして
あげようと思った。
「あれ・・・?」
枕もとに大きなくまのぬいぐるみありました。
隣に寝ているはずのあなたの───、
姿と引き換えに───。
「・・・よっすぃー・・・ありがと」
私は大きな素敵なプレゼントを抱きしめて。
いっぱい泣いた。
もうこれからあなたは隣にはいないと思うと。
とても悲しくて、辛い。
でも、泣くのは今日だけだから。
あなたは今までたくさんぬくもりをくれた。
だから、こう言おう。
「ありがとう」
END
- 67 名前:New 投稿日:2003年01月17日(金)17時43分46秒
『初恋』
私はその日、学校に遅刻しそうで急いでいた。
朝起きたら、なんともう8時。すぐに着替えて支度をして
家を出た。
「もぉ〜!!何で目覚ましならなかったんだろ〜〜!!」
走って学校へ向かう。
時間が時間なので、もう学生は誰もいなくて、私1人だった。
・・・・ん?
前方の方に人が見えた。同じ制服。
あの人も遅刻なのかなぁ?
でもその人はずいぶんゆっくりと歩いていた。もう8時過ぎているのに。
私はその人を追い越そうとした、その時。
「あの、すみません」
その人は私を引きとめて、訪ねて来た。
「え?あ、はい」
ホントは早く学校へ行きたいんだけど、この場合仕方ないと思い
立ち止まった。
「えーと・・・あの・・その・・・」
その人が何を聞きたいのかさっぱりわからなかった。
「同じ・・ガッコですよね?」
私は焦り気味に話した。
「え?あぁ、そうですねぇ」
何とゆっくりしゃべる口調だろうかと思いながら
きっと、学校への道がわからないとかそうゆうのだろう
と確信していた。
「じゃ、早く!」
「えぇ!?」
私は知るはずが無いその人の手を握って走り出した。
- 68 名前:New 投稿日:2003年01月17日(金)17時55分15秒
- とりあえず学校に着いたものの、もうすでに遅刻決定だった。
はぁー・・・やっちゃったよ。最近遅刻なんかしなかったのになぁ・・・。
ちょっと暗い気持ちになりながら下駄箱へ向かう。
「あの、・・・」
あ、忘れてた。
「あー、っで何でしたっけ?」
「学校に着いたのはいいんですけど・・・」
「けど?」
「職員室がわかりません」
1時間目の授業に間に合うのだろうか?と私は不安でいっぱいになった。
職員室へ向かう途中、簡単な自己紹介をした。
「私は中学2年、小川麻琴」
「えっと、私は今日、転入してきた2年の紺野あさ美です」
「あ、じゃぁ同い年か」
「はい」
職員室に連れて行き、そこでちょうど私の2年1組担任の飯田先生に
見つかってしまった。
「小川ぁ、遅いぞ」
「すみません・・・頑張って走ったんですけど・・・」
「まぁいいよ、今度から気をつけなよ。隣のコは、今日転入してくるコ
だよね?」
飯田先生は紺野さんに視線を向けながら言った。
- 69 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)14時24分25秒
- 「あの、私学校へ行く道がわかんなくなっちゃいまして・・小川さんに
助けてもらったんです・・・ごめんなさい」
「そうゆう事ね、わかった。じゃぁ行こうか、紺野は私が受け持ってる
1組だから」
3人で教室へ向かった、ちなみに1時間目は飯田先生が担当の国語だ。
ガラッと扉を開けると一斉にみんながこっちを見た。これは結構
恥ずかしい。飯田先生が入って後から私と紺野さんが入った。
すぐに自分の席へついた。窓側の1番後の席。
「麻琴、遅刻?」
前の席の愛こと高橋愛が笑いながら言ってきた。
「まぁ、そんなとこ」
私は苦笑いで答えて、カバンを横へかけた。
教室内はざわついてて、きっと紺野さんの事だと思うけど。
「えーと、今日この1組転入してきた、紺野あさ美さんです。
みんな仲良くしましょう」
「こ、紺野あさ美です・・・よろしくお願いします!」
紺野さんの顔は真っ赤だった。やっぱ転入って緊張するんだろうな。
「じゃぁ、小川の隣ね。あの窓際の1番後の隣の席」
「はい・・・」
紺野さんの席はちょうど私の隣が空いてるのでそこになった。
- 70 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)14時32分51秒
- 「私、高橋愛。よろしくね」
早速、愛が小さい声で紺野さんに話かけた。
「あ・・・よろしくお願いします」
私はさっき自分の名前言ったから別にいいやと思って国語の教科書と
ノートを出した。
「今日は教科書の56ページの・・・」
飯田先生が授業を始める、国語の授業って眠くなるんだよね。
つまらなくて窓の外を見てたら、なんか視線を感じた。
ふっと横を見ると、紺野さんが私を見ていた。しかもなんか今にも
泣き出しそうな顔で。
「・・・どうしたの?」
「あの・・・教科書見せて欲しくて・・・」
「あぁ、いいよ」
机をちょっとくっつけて、私は教科書を見せた。
するとあんなに泣き出しそうな顔だったのがパァーと笑顔に
なっていった。
なんか・・・面白いなぁ。紺野さんって。
それから私は黒板にかかれた事をノートにうつし始めた。
- 71 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)14時49分43秒
- 「へぇー、あさ美ちゃんって北海道から来たんだぁ」
私がトイレから戻ってくると愛と紺野さんがしゃべっていた。
今は休み時間、次は矢口先生の数学だ。
「私はぁ、1年前に福井から来たんだよ」
・・・1年もたつのにまだ微妙に訛りがとれてない・・・。
私はそう思いつつ、自分の席に座った。
「あ、小川さん・・・」
「麻琴でいいよ、何?」
「さっきはありがとう、あと今朝も」
「あぁ、別にいいよ。朝もどうせ遅刻だったし紺野さんがいたから
先生もあっさり許してくれたし」
「あさ美でいいよ・・・本当に助かったよ」
「何々?何があったの?」
愛が私の腕を揺さぶりながら聞いてきた。私は今朝の出来事を
愛に全部話した。
「そうだったんだ。でも麻琴、最近遅刻なかったじゃん」
「まぁね、今親がどっちもいないんだよね。だからさぁ」
「なるほど、1人じゃ起きられないわけ」
愛は手をポンと叩いて言った。
- 72 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)15時37分57秒
- 「違うよ!今日は目覚ましがならなかったんだよ」
「ふーん」
「信じてないでしょっ!?今の反応!」
「信じてるよぉー、ちゃんと」
「嘘だ、絶対嘘」
そんなやり取りをしてると。
「あははは〜」
とあさ美ちゃんは笑っていた。
何笑ってんだよ!と突っ込みたかったけど、何かあさ美ちゃんの
笑顔見ると、まぁいいやって気持ちになった。
そこでチャイムがなって休み時間は終了。それと同時に矢口先生が
入ってきた。
「えーと、こないだの小テスト。みんな良くなかったぞ、お前らなー
もうすぐ3年になるんだよ?受験生になるんだ、もうちょっと自覚っつー
もんをだな・・・・」
長い長い話が始まる。矢口先生はいい先生だけど話がかなり長い。
だから授業は丁寧に説明しすぎて教科書1ページしか進まない事も
度々ある。
「あ、そーいや今日は転入生がいるんだよね?何処?」
するとあさ美ちゃんは「はい」と手を上げた。
「おー、君かぁ。オイラ矢口真里。数学担当、よろしく!」
先生がそんな自己紹介でいいのか、と思う。
「よし!んじゃ、早速だけど、今から問題出すから呼ばれた人は前でて
やるように!」
『え〜!!』とみんな息がピッタリで答えた。
- 73 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)15時55分32秒
- 「え〜!!じゃないよ!まぁ、大丈夫だからさ。教科書の62ページの
問題だし、じゃぁ呼ぶぞ・・・」
私は数学は嫌いじゃなかった、別に好きでもないけど・・・。
次々と生徒が呼ばれて、教室内はざわめき始めた。
「小川!問4の問題な」
でも、当たるのは嫌いだ。仕方なく席をたって教科書持って黒板へ。
「ラスト!じゃぁ、紺野。やってみよ〜」
おいおい・・・転入初日に当たっちゃったよ・・・。
気の毒に思いながら私はチョークで黒板に式を書いていった。
あさ美ちゃんも隣で書いている。
終わって、席へつく。
「お!すげぇーな、小川と紺野の問題は結構難しいのに、ちゃんと
答え当ってるよ!」
『おお〜!!』と歓声が上がる。
へぇー・・・あさ美ちゃん、すごいなぁ。
その後、私とあさ美ちゃんは何回も当てられた。しかもどんどん
問題が難しくなっていく・・・先生、面白がってるよ・・。
「麻琴、小テストどーやった?」
ほら、また訛りが・・・と言いたいとこだけど、そこは我慢。
「ん」
さきほど返してもらった小テストを愛に見せた。
- 74 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)16時02分07秒
- 「87!?やっぱすごいね」
「愛はどーだった?」
「う・・・聞きたい?」
「だってずるいじゃん、私だけ」
「75・・・」
「大丈夫じゃん、平均62でしょ?」
愛からテストを返してもらい、カバンに閉まった。
あさ美ちゃんは飯田先生に呼ばれて行っちゃって今はいなかった。
今日の時間割を見た。
1時間目 国語
2時間目 数学
3時間目 英語
4時間目 体育
「体育、今日あったんだ」
「ん?あー、そうだよ。朝さー、吉澤先生に会ったよ。
今日は体育でバスケやるって」
「マジ?やったぁー」
愛も私も部活はバスケに入っていた。
とにかくバスケが好きだ、今んとこ。
- 75 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)16時14分17秒
- 〜ちょこっと登場人物紹介〜
小川麻琴 中学2年1組。この物語の主役。部活はバスケ。
高橋愛 中学2年1組。麻琴の親友。部活はバスケ。
紺野あさ美 中学2年1組。転入生。
飯田圭織 国語の先生。美術もやってる。美術部顧問。1組担任。
矢口真里 背はちっちゃいけど数学の先生。陸上部顧問。2組担任。
吉澤ひとみ 体育の先生。かっこよく優しいのが評判で生徒から人気がある。
バレー部顧問。
市井紗耶香 理科の先生。吉澤と同じく生徒に人気はあるが、クールで
素っ気無い。バスケ部顧問。
安倍なつみ 保健室の先生。
石川梨華、後藤真希、柴田あゆみ 近くの大学に通ってる大学生。
こんな感じです。
また増える可能性ありです。
では。
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月18日(土)16時42分14秒
- 楽しみです。
頑張ってくださいw
- 77 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)19時30分22秒
- 76さん<ありがとうございます〜!そう言ってもらえると
嬉しいです(^−^)。頑張ります!
- 78 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)19時47分21秒
- なんとか英語の時間を乗り越え、大好きな体育の授業がやってきた。
ジャージに着替えて、体育館へ向かう。
「あさ美ちゃんは何が得意?運動」
「んーと・・・空手・・・」
「空手!?」
「うん、北海道にいた時にやってたんだ」
あさ美ちゃんの意外な事を発見してしまった。
ピー!と笛の音が響いた。
吉澤先生は集合の時、いつも笛をならすのだ。
「今日は、バスケをやる。4チームに分かれて15分練習したら
試合をやるから。あ、今日は転入生がいるんだよね」
「私です、紺野あさ美です」
「私は吉澤ひとみ、体育担当、バレー部顧問。もし良かったらバレー部
見に来てね」
爽やかな笑顔を見せながら吉澤先生は言った。
この笑顔に何人の生徒が落ちただろう?そして泣いただろう?
吉澤先生はモテるから今まで何にもの生徒から告白されてきた。
でも誰一人、OKしてないらしい。噂によると彼女がいるとかいないとか。
愛も告白したが、見事に振られたらしい。
そりゃ、先生と生徒が・・・ってやばい事だ。それを理由に振られた
らしい。
- 79 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)23時27分53秒
- 『私、諦めない。頑張るもん』
私に振られたと報告しにきた時、愛はそう言っていた。
ダメだと思うけどね・・・口には出さないけど。
「麻琴〜、やろうよ」
「あぁ、うん」
バスケ部の私達が中心となって練習は始まった。
やっぱバスケは楽しい、全て忘れる事ができる。
「麻琴!」
愛からパスがまわりそれを受け取ってシュート。綺麗に
ボールは入った。
「おお〜!!」
「やっぱ麻琴すごいねー」
「さすがバスケ部!」
次々とクラスメイトが言っていく。でもこんなの毎日やってれば
出来るもんだ。バスケ部の先輩はもっと上手くやる。
あさ美ちゃんを見るとぼーっとして立っていた。
「あさ美ちゃん?」
「あ・・・ごめん。麻琴ちゃんすごいね、びっくりしたぁ」
「そう・・?」
なんかあさ美ちゃんに言われる照れてしまう。他のコに言われるのと
違った感覚がした。不思議だなぁー。
- 80 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)23時37分42秒
- 試合は私と愛がいるチームが圧勝した。みんな「ずるいよぉ〜」って
言っていた。
「うわー、汗かいたぁ。冬なのに」
冬の寒さが気持ちいぐらいに体温は上がっていた。
着替える時、私はタオルを忘れた琴に気づいた。体育さえあるのに
気付かなかったから、当然だろう。
「あー・・・どうしようー・・・」
「これ、いいよ」
隣にいたあさ美ちゃんがタオルを差し出してくれた。
「え!?いいよ〜、あさ美ちゃんはどうすんの」
「私、2枚持ってるから」
「そっか・・・ありがとう。ごめんね」
私はあさ美ちゃんからタオルを受け取った。
お昼休みになって待ちに待ったお昼ゴハンだ。
いつもは愛と屋上で食べている。今日もそこへ行くのだ。
「あさ美ちゃん、屋上行こう?」
愛がお弁当持ってあさ美ちゃんを誘っていた。私はお財布を出した。
今日はお弁当がないので購買でパンを買う。
「じゃ、私購買行ってくるからぁー」
「うん、わかったぁ。じゃ、屋上でね」
私は教室を出て購買室へ向かった。
- 81 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)23時45分10秒
- 適当にパンを買って、お茶を買い、屋上へ向かう。
屋上はあんまり人が来ないので、都合が良かった。
「麻琴〜」
屋上に入ると愛が手を振っていた。そこへ向かって歩く。
もうすでに2人はお弁当を開けていた。
「愛って、まだ吉澤先生追いかけてんの?」
「ぶっ!・・・何いきなり〜」
「いや・・どうなのかなって」
愛は急いで水筒のお茶を飲んだ。
「んー、もう何か諦めついたかも」
「へぇー、そうなんだ」
「なんかさ、先生っていうのも大変じゃん?じゃぁやっぱ年上
じゃなくて、同い年がいいかなぁーって」
「ふーん、もういたりして?好きな人」
「な、何言ってんの!あ、あさ美ちゃんはどう?好きな人いる?」
愛は慌てて、あさ美ちゃんに話をふった。
- 82 名前:New 投稿日:2003年01月18日(土)23時56分34秒
- 「ううん、いないよー」
あ・・・いないんだ・・・って何安心してんだよ!
何か変だ・・・今日の私は。
「麻琴はぁ?」
「え?私?・・・いないよ。別に興味ないし、恋愛って」
パンをひとかじりして言った。
「麻琴っていつもそんなだよね。部活バカっていうか・・・」
「バカって言うなよ、しょーがないじゃん興味ないんだから」
もうすでに愛と私はそれぞれゴハンを食べ終わった。
あさ美ちゃんは・・・え?まだ全然じゃん。食べるの遅ッ。
でも・・・時間がゆっくりなんだろうなぁ。あさ美ちゃんは。
「5時間目何だっけ?」
「理科でしょ、市井先生」
「あー、最近あんま部活こないね」
市井先生はバスケ部の顧問。最近全然来てなかった。
ま、その方が気が楽だけど。
お昼休みが終わって5時間目。さすがに眠いよ、この時間は。
「今日はこないだの実験の発表を各班、前に出て・・・・」
あー、そういえばこないだ実験したなぁ。試験管割って大騒ぎ。
先生は怒らなかったけど・・・わざわざ先生が掃除してくれたし。
『触らないで、危ないから』って言って。クールで素っ気ないけど
優しいんだなぁって思った。
- 83 名前:New 投稿日:2003年01月19日(日)00時06分34秒
- 1班から発表していった。私の班は最後だ。
市井先生は後ろの方にたって、発表を見ていた。
「ん・・・?あ、転入生?」
先生はやっとあさ美ちゃんに気付いた。
「はい、紺野あさ美です」
「あー、市井です。理科担当でバスケ部の顧問」
今日のあさ美ちゃんは大忙しだ。
6時間目も終えて、放課後。部活の時間だ。
あさ美ちゃんはどうするんだろう?
横を見るとカバンに教科書を入れていた。
「・・・あの、さバスケ部見る?嫌じゃなかったら・・」
なんか緊張してしまう、いつも愛が誘ってるから自分から
誘うのは苦手だ。
「・・・いいの?」
「もちろんいいよ」
パァーと笑顔になるあさ美ちゃん。私も笑顔になっていく。
- 84 名前:New 投稿日:2003年01月19日(日)00時14分55秒
- ダン、ダンとボールがつく音が体育館に響く。
あさ美ちゃんは隅で様子を見ていた、ちゃんと部長に了解もとった。
「ねー、小川ぁ」
先輩が話しかけてきた。
「何ですか?先輩」
「あのコ、転入生?」
「はい、そうですよ」
「可愛いねー」
・・・・なんかムカッときた。何でだろう?
「そうですね」
私は持っていたボールをシュートした。
そのボールはいつもより力強く、乱暴に入った。
「小川、聞いたんだけどあのコ友達なんでしょ?」
部長がやってきた。
「はい」
「マネージャーやってくんないかな?今いないじゃん?」
そういえば、こないだマネージャーがやめていったんだっけ。
「あぁ・・・聞いてみますよ」
「マジ?ありがとー、頼んだ!」
部長は私の肩を叩いて、その場から離れた。
- 85 名前:New 投稿日:2003年01月19日(日)00時18分24秒
- 更新終了!です。
気付いたら石川さんの誕生日。明日は矢口さんの誕生日。
私は今年で17才・・・想像つかないなぁ。
小川さん自分の気持ちに気付かず。
高橋さんの好きな人とは?
紺野さんはマネージャーをやるのか?
これから色々わかると思います。先生達の方も。
ではまた。
- 86 名前:New 投稿日:2003年01月19日(日)22時07分08秒
- 部活が終わり、部室で着替える。私は急いでいた。
「何、麻琴急いでるん?」
「あさ美ちゃんが待ってるから」
「何か・・・今日の麻琴変」
愛がため息をつきながら言った。横の愛を見てみると下を向いていた。
「変じゃないよ」
着替え終わり、カバンを持って行こうとした。
「変だよ!・・・変だよぉ・・・」
次第に愛の声が震えてるのに気付いた。私はカバンを置いて、愛に
近寄り顔を覗きこんだ。愛の目は涙でいっぱいだった。
「愛・・・?どうした・・?」
髪をなでながら言う。すると愛は私に抱きついてきた。
「あ、愛・・・!?」
部室には私達しかいなかった。先輩はもう帰ったし(受験生だから)
1年はまだ後片付け、他の2年は帰った。
愛は私に離れようとしなかった。
「愛・・・どうしたんだよ?」
「・・・麻琴・・・」
それから何分立ってもそのままの状態、私はあさ美ちゃんが気になって
仕方なかった。だから「ごめん、行かなくちゃ。また明日ね」って
言って出て行った。
- 87 名前:New 投稿日:2003年01月19日(日)22時14分56秒
- 学校の正門にあさ美ちゃんは立って待っていた。
「ごめんね、待たせちゃって」
「ううん、大丈夫だよ。部活お疲れ様」
大丈夫とか言って全然大丈夫そうに見えなかった。寒いし、暗いし。
あさ美ちゃんの顔は赤かった。
「なんか・・・不思議」
ふとあさ美ちゃんは言った。
「何が?」
「だって、朝会ったコとこんなに仲良くなるなんて思わなかったもん。
しかも1日で」
「あぁ・・・そだね」
2人共、帰り道が同じ方向だった。ふいに愛のことが頭をよぎる。
後で・・・電話しとこう・・・。
「あ、あのさ。部長が今日言ってたんだけど、マネージャーやって
くれない?」
私は部長に頼まれたことを思い出した。
「え・・・?わ、私が?」
「うん、あさ美ちゃんが。・・・ダメかな?」
「で、でも出来るかどうかわかんないし・・・」
「大丈夫だって!私も愛もいるから!」
「うん・・・じゃぁ、やろうかな」
「やった!ありがとう」
- 88 名前:New 投稿日:2003年01月19日(日)22時21分35秒
- 「あさ美ちゃん家って何処?」
「あ、あれだよ」
あさ美ちゃんが指差したとこには・・・なんと私の家。
つまり同じマンションっていうことだった。
「嘘・・・私もあそこだよ」
「え!?本当?」
「うん、15階目だけど」
「・・・同じ、15階目」
すげぇー・・・こんなことってあるの?
私の家はエレベーター下りてすぐそこのとこ。あさ美ちゃんは
そこの3つ奥だ。
「あの、麻琴ちゃん」
「ん?何?」
「明日の朝、一緒に行っていいかなぁ・・?また迷っちゃったら・・・」
あさ美ちゃんは顔を真っ赤にして下向いて言った。
私はちょっとそれで笑っちゃった。
「いいよ!じゃぁー、7時45分にこのエレベーター前ね」
「うん、ありがと」
そしてそれぞれの家へ帰った。
- 89 名前:New 投稿日:2003年01月19日(日)22時37分17秒
- 家には誰もいない、お父さんは出張、お母さんは友達と旅行に行った。
自分の部屋に入って制服から私服に着替えた。時刻はもう7時過ぎていた。
携帯をとって愛にかけてみた。
プルルルル・・・。
『・・・はい』
「愛?さっきはごめんね、帰っちゃって」
『あ・・ううん。いいよ・・私の方こそごめん』
「・・・っでどうした?何か悩みでもあるの?」
『ううん・・大丈夫』
「そっか、何かあったら言ってよ?」
『うん、ありがと』
愛の声は普通だった。泣いてる声じゃなくてちょっと安心した。
何で泣いたんだろう?とちょっと疑問に思ったけど、何かあれば
愛は言ってくるだろうと思って、考えるのをやめた。
「ふぁぁぁー、寝ようかな」
ごはん食べて、お風呂入って宿題やってたらもう12時だ。
さすがに部活やってると疲れるし、眠くなる。
私は歯みがきをして寝た。
- 90 名前:New 投稿日:2003年01月20日(月)23時06分06秒
- 翌朝、この日はちゃんと7時に起きた。パン焼いて食べ、紅茶を飲んだ。
「んー・・・眠い・・・」
ぼーっとソファに座ってたら、気付くともう40分。
「だぁー!!!?やばい、あと5分じゃんっ」
待ち合わせの時間は7時45分。急いで制服に着替えて歯みがきして
髪を直し、家を出た。鍵をかけてもうダッシュ。
あさ美ちゃんはもうそこにいた。
「ご、ごめん。ぼーっとしてたら・・・」
「いいよ、おはよう」
「あ、おはよう」
5分遅刻、それでもあさ美ちゃんは私を待っていてくれた。
愛と遊びの時、待ち合わせして私が5分遅れたとき、愛はものすごく
怒ってて、許してもらうのに大変だった。
「今日もいい天気だねー」
「そうだねー」
2人で学校へ向かう。空は昨日と同じく青かった。
何か落ち着く、あさ美ちゃんといると。いつもと違う感覚だ。
「あ、愛ー!!」
学校の正門のとこに愛がいた。私は呼んで、大きく手を振った。
愛も笑顔で手を振ってくれた。
「おはよ、麻琴、あさ美ちゃん」
「おはよー」
「おはよう」
3人で下駄箱に向かった。
- 91 名前:New 投稿日:2003年01月20日(月)23時11分40秒
- 「あー、市井先生だ」
愛が私の袖を引っ張って言った。
前を見ると市井先生が歩いていた。私らは市井先生を驚かそうと企んで
気付かれないように近づいた。
「「市井先生!」」
「うわぁ!?」
驚いてる先生の顔が面白くて、私らは大笑いだ。あさ美ちゃんも笑ってた。
「お前ら〜!!!」
捕まって怒られる前に私らは逃げた。あさ美ちゃんの手を握って一緒に
逃げた。右手には愛の手を握った。
「あー、面白かったわぁ」
「うん、市井先生の顔が面白かったぁー」
「あんな顔するんだね」
3人でまだ笑いがとれないまま教室へ入った。
- 92 名前:New 投稿日:2003年01月20日(月)23時16分40秒
- 「愛ー」
「何?麻琴ぉ?」
「あのね、あさ美ちゃん、バスケ部マネージャーに入るから」
「え・・・?」
休み時間、私は愛に報告した。愛は何が何だかわからないという顔を
していた。
「だーかーらー、マネージャーやんの。あさ美ちゃんが」
さっきよりも少し大きめの声で言った。するとやっと愛は「あーそっか」
と言った。
「ま、ちょうどいないし。いいんじゃない?」
「じゃぁ今日部長に言おうっと」
その時、チャイムがなった。
- 93 名前:New 投稿日:2003年01月20日(月)23時28分39秒
- 今日も大好きな体育の時間。でも今日はバスケじゃなくてサッカーだった。
「ホント、気分で変えるんだから。吉澤先生は」
愛はバスケが出来なくて不満そうだった。私はそんな愛の怒りをおさめるのに
大変だった。
「まぁまぁ、いいじゃん。部活でやれるんだから」
「そうやけどー」
ピーっと笛がなった。今日の集合場所は校庭だ。
「今日は、サッカーをする。とにかく今日の目的は全員ボールを
持つ事。何のスポーツにしてもチームワークは大切だ。試合の時は
まわりをよく見てパスをするように、じゃ、練習始め〜」
私はバスケだけではなくスポーツは好きな方。サッカーもそれなりには
出来た。
試合は私が突っ走っていた。何度もゴールを決めて、勝利を得た。
「麻琴、かっこいいじゃん」
「何でも出来るよね〜」
クラスメイトが私に言ってきた。
- 94 名前:New 投稿日:2003年01月21日(火)18時40分32秒
- その時、後の方でドサッと倒れた音が聞こえた。
「・・ん?」
私は後ろを振り返ると、なんと愛が倒れていた。見つけた途端
私は走って愛のとこまで行った。
「愛!?愛!!」
抱き起こして揺さぶっても愛はぐったりしている。吉澤先生が来て、
愛の額に手を当てる。
「・・・熱がある、保健室へ連れて行こう」
吉澤先生はゆっくり愛を抱きかかえた。
「もうすぐチャイムなるから、片付けして終わっていいよ」
そう言うと保健室へ走り出した。
「愛ちゃん、大丈夫かなぁ・・?」
「うん・・・」
4時間目の体育が終わってお昼休み。教室に愛はいない。
きっと無理してたんだなぁ・・・何で気付いてあげられなかったんだろう?
そうすれば、もっと早くよくなったかもしれないのに。
「愛ちゃんとこ行ってみようよ?」
あさ美ちゃんが言った。私達はお昼ごはんを食べずに保健室に行った。
- 95 名前:New 投稿日:2003年01月21日(火)18時52分43秒
- 保健室について、そろ〜っと扉を開け中を覗いた。
「ん?どうした?」
そしたら保健室の安倍先生に見つかってしまった。
「あの、愛は・・・」
「あー、熱でて倒れたコね、ベットで寝てるよ」
保健室の中に入り、扉を閉めた。安倍先生は「どうぞ」と言って
ソファに座らせてくれた。
「きっと無理したんだね。今、冬だから寒いしね〜」
「もう大丈夫なんですか?」
あさ美ちゃんが安倍先生に聞いた。
「うん。まずはゆっくり休んでね。早退するかは起きてから」
「良かった・・・」
私はすごく安心した。
「なっちさぁ、ちょっと用事あるから、ちょっとだけ頼んでいい?」
「あ、いいですよ」
「ありがとー、すぐ戻るから」
安倍先生は保健室を出ていった。
- 96 名前:New 投稿日:2003年01月23日(木)19時49分10秒
- それからしばらくあさ美ちゃんと他愛も無いことをしゃべっていた。
すると愛がもぞもぞと起きてきた。
「んー・・・」
「あ、愛起きた?」
ベットの上で上半身だけ起こした状態の愛の頭はまだ回転してないようだ。
「愛〜?」
私は愛がいるベットの横まで歩み寄った。あさ美ちゃんも後ろからついてきた。
1分後、やっと愛は
「はぅ!?ここ、何処!?」
ととても訛った口調で言った。私は体育の時間起こったことを愛に話した。
「あー、そうなんかぁ。ごめん、2人共」
愛は申し訳なさそうに頭をペコっとお辞儀させた。
安倍先生が戻ってきて、愛の熱をはかるとだいぶ下がっていた。
あー・・もうすぐ5時間目始まる・・・。
「今日だけ特別だべ、3人ともここにいていいよ」
まだお昼を食べていない私らにとってありがたい言葉だった。
持ってきたお弁当(愛の分も持ってきた)を広げて仲良くお昼ごはん
にした。
- 97 名前:New 投稿日:2003年01月23日(木)20時00分02秒
- 放課後になって部活の時間。部長のとこにあさ美ちゃんと共に向かい
マネージャーの件を言った。
「ありがとう!ホント助かったよぉ」
部長は喜んでいた、そしてあさ美ちゃんにマネージャーの仕事のことを
教えていた。私は着替えようと部室に向かった。
今日の体育館はバレー部とバスケ部が使っていた。バレー部を
見ると吉澤先生が熱く指導していた。
・・・市井先生、顧問らしいことしろよなぁー。
私は前に見たことがあった、部活が終わって家に帰宅途中、忘れ物を
思い出して部室に戻った。
そしたら体育館の電気がついていて、ダンダンとボールの音が聞こえた。
扉からこっそり覗いてみると、市井先生が1人バスケをしていた。
それがすごい上手かった。何度もシュートし、どれも外さなかった。
きっと先輩よりも上手いんだろう。
なのに、何故吉澤先生みたく指導しないんだ?まぁ指導が無くても今の
バスケ部はかなり強い、でも顔を出すくらいするだろう。
「・・・はぁー」
私はもう1度見たい。
市井先生のバスケを。
- 98 名前:New 投稿日:2003年01月23日(木)20時06分47秒
- 部活が終わって、私は愛に聞いてみた。
「何で市井先生、部活に来ないんだろう?」
「あー・・・私それ前、市井先生に聞いた事あるよ」
『何で部活来ないんですか?』
職員室に用事があったついでに市井先生に会い、話しかけた。
『・・・私の指導がなくても十分強いよ』
市井先生はつまらなさそうにペンを手でくるくる回していた。
『何か納得出来ませんよ・・・』
『私はさぁ、吉澤みたく熱くなれないわけ。わかる?』
『あー・・・』
『冷静を保たなきゃ、私じゃいられなくなるから』
『・・・・?』
『バスケやるとさぁ・・・思い出すんだよなぁ』
市井先生はなつかしい思い出でも思い出してるような目をしていた。
- 99 名前:New 投稿日:2003年01月24日(金)23時04分19秒
- 『何をですか?』
『・・・え、あ、何でもない。ほら、もう授業始まるよ』
市井先生は机の上の教科書をとって職員室を出て行った。
「あれは何かあるね」
愛は自信満々な表情で言った。
「何かって何?」
「んー、・・・何かあるんだって!」
「ふーん・・・」
市井先生がバスケをやりたくない理由。やりたくないのに何でバスケ部の
顧問なんかやってんだろ?昔の思い出を消したくないとか?
むーっと唸って考えてると。
「麻琴、行くよ?」
愛はすでにもう帰れる状態でいた。私は慌てて着替えて、カバンを持った。
「あさ美ちゃん」
正門のとこであさ美ちゃんと会った。待っててくれたのだ。
「麻琴ちゃん、愛ちゃん。お疲れ様」
それから3人で帰った。愛は途中まで。
私はあさ美ちゃんに市井先生の話をした。
- 100 名前:New 投稿日:2003年01月25日(土)22時26分51秒
- <よっすぃー視点>
部活も終わり職員室へ戻る。現在時刻、午後6時を過ぎた頃。
もうあたりは暗くなっていて、廊下の窓から帰宅する生徒が見える。
「ふぅ・・・」
熱血指導するのは昔からの癖だ。中学・高校でバレー部に入ってた時
から後輩の指導は徹底的にやってきた。それに皆も答えてくれて、
見事優勝したことが何回かあった。
ガラッと職員室の扉を開く。すると笑い声が聞こえた。
「おー、よっすぃーお疲れ〜」
矢口さんが元気よく言った。ソファのとこで安倍先生と飯田先生で
しゃべっていた。
私は自分の机につき、明日の予定やら色々し始めた。
隣の席は市井先生がいた。何やら字を書いていた。
「何やってんすか?」
「あぁ・・・小テスト。最近、成績が落ちてんだよなぁ」
よく見ると理科の小テストを作っているみたいだ。
「あー、こないだの中間の事っすか?確かに平均点ひどかったですねぇー」
「全く、受験生になるっつーのに」
するとその話に矢口先生も入ってきた。
「わかるよー、数学の方もがた落ち。困ったもんだよ」
やれやれと肩をすくめながら矢口先生は言った。
- 101 名前:New 投稿日:2003年01月25日(土)22時38分31秒
- 「でも、受験生になる前にちょっと息抜きも必要じゃないっすか?」
私は机の引出しからペンを取りながら言った。
「そこが甘い!!だからよっすぃーは生徒に甘えられるんだよ!」
矢口先生が怒った表情で言う。隣にいる市井先生もうんうんと頷いている。
安倍先生や飯田先生もこっちへ来た。
「まぁー、そこがよっすぃーの良い所っていうか悪い所っていうか・・・」
「どっちにしろよっすぃーは生徒から信用されてるべさ。じゃ、なっち
帰るねー。お疲れ様でした〜」
安倍先生は私の肩をポンポンと叩きながら言って、帰って行った。
それから飯田先生も矢口先生も帰って行った。他の先生方も帰って
職員室には市井先生と私が残っていた。
もうそろそろ期末試験の時期だ。私は保健体育の担当なので保健のテスト
を作らないといけない。
教科書を見て、あれこれ考えていた。
「なぁ、吉澤」
「何ですかー?」
「これからヒマ?」
「へ?」
滅多に人を誘わない市井先生に驚いて私は間抜けな返事をしてしまった。
「だから、この後ヒマ?」
「あー!はい、ヒマですよ」
「んじゃ、付き合え。これから飲みに行くぞ」
「え〜!!?」
- 102 名前:New 投稿日:2003年01月25日(土)22時47分15秒
- 半ば強制的に連れて行かれる私。
・・・市井先生ってお酒飲むんだ・・・知らなかった。
「ここだ」
着いた所はあんまり目立たない古い店。市井先生はどんどん入って
行く。私は慌てて後を追った。
「バーですか」
「そうだ、結構いいとこだよ」
カウンターに座って適当にお酒を頼んだ。
「市井先生、よくここで飲むんですか?」
「今日はちょっと待ち合わせ」
「は?誰と?」
「学校の近くに大学あるだろ、そこの大学生」
あー・・・あの大学かぁ。1回行った事あるなー。
思い出していたら向こうから3人の女の子達がやってきた。
「市井ちゃん!」
そのうちの1人がこちらへ走って来た。
「おーす」
「会いたかったよぉ〜」
「お前な、毎日毎日しつこいんだよ」
「だって、会いたかったんだもん」
結構親しげなので私はただ驚くしかなかった。
- 103 名前:New 投稿日:2003年01月25日(土)22時57分17秒
- 「後藤真希です〜」
「柴田あゆみです」
「い、石川梨華です」
それぞれ自己紹介をしてもらった。
「えっと、吉澤ひとみです」
カウンターではなくテーブルの席についた。話を聞くと市井先生と
後藤さんの家が近所で知り合い。柴田さんと石川さんは後藤さんの友人。
・・・何で私を連れて行くんだろ・・・。
私じゃなくても矢口先生や安倍先生の方が楽なはずだ。いや・・・気まぐれ
だからなぁ、この人。
「わぁー、吉澤さんって綺麗な顔してますね」
後藤さんが私の顔をまじまじと見ながら言った。やっぱ中学生と大学生は
違って、まじまじと見られると恥ずかしくなる。
「なんかこいつらが吉澤の話したらどうしても会いたいって言うんだよ」
はぁ・・・そうゆうことですか。
なんか、こうゆうの慣れてないんだよなぁ。早く帰りたいなぁ・・。
私は中々会話に入れず、ずっとお酒を飲んでいた。
ん・・・この石川さんってコ、さっきからしゃべんないなぁ。
「・・・市井先生、帰っていいっすか・・?」
小さい声で言ってみた。
- 104 名前:New 投稿日:2003年01月25日(土)23時06分26秒
- 「何言ってんだよ、お前がいなきゃダメなんだよ」
そんなぁー・・・・明日だって朝練あるから早く寝たいのに。
それからどれくらいたっただろう?もう皆結構酔ってきてる。
私は別に平気だった。市井先生も、余裕って感じだ。
「じゃぁ、そろそろ帰りますか」
私は爽やかな笑顔で言った。やっと帰れる嬉しさでいっぱいだった。
「柴ちゃん、彼氏呼びなよー。夜道は危険だよ」
「ご、ごっちんッ」
「へぇ、柴田さん彼氏いるんだ」
私は思っていた事を気づくと声に出していた。
「そうだよ、マサオ君って言うんだよねー」
「ごっちん!」
柴田さんは携帯でそのマサオ君に連絡してるみたいだ。
「すぐ車で来てくれるみたい」
「いいなぁー、羨ましい」
「じゃ、後藤は私が連れて行くから、お前石川な」
いきなり市井先生が言ってきた。
なんですと?
石川さんを見るとすでに寝ていた。市井先生は後藤さん、柴田さんを
連れてさっさと出て行った。どうやらここは奢ってくれるみたいだ。
あー、どうしよ。
- 105 名前:New 投稿日:2003年01月25日(土)23時15分42秒
- 「石川さん、帰りますよ」
さっきから声かけても揺さぶっても起きる気配なしの石川さん。
きっと、お酒飲めないんだろうなぁ・・・。
カクテル2杯でこんな状態とは・・・安倍先生よりひどい。
仕方なく、コートを着させておぶって店を出た。
石川さんの家を知るはずもなく、仕方なく自分の家へ向かう。
学校から比較的近いマンションに私は住んでいる。家へつき、
自分の部屋のベットに寝かせた。
「ふぅー、ったく何だよなぁー。勝手だよ、市井先生」
時計を見るともうすぐ11時だ。お風呂に入ってリビングでテレビを
見ていた。
「きゃぁぁぁぁ!!?」
いきなり叫び声が聞こえて私は慌てて自分の部屋へ駆け込んだ。
「どうしたんですか!?」
見ると、青ざめた石川さんがいた。
「ここ・・・何処ぉ?」
「私の家です」
「何で・・?」
「石川さんがお店で寝てしまったんで・・・仕方なく」
「・・・ごめんなさい」
「いいですよ、どうします?もう12時回ってますけど」
- 106 名前:New 投稿日:2003年01月25日(土)23時23分49秒
- 結局、このまま泊まっていく事になった。とりあえず酔いがさめた
感じなんでお風呂に石川さんを入れて、私のジャージを渡した。
「・・・・あの、覚えてませんか?」
「何が?」
リビングでホットココアを飲んでいたら石川さんが聞いてきた。
「大学、来た事ありますよね?」
「あー、1回ね。サークルのバレー見に」
「私、吉澤さんに会ったんです」
「えぇ!?・・・・」
私は一生懸命、過去の記憶を探ってみた。
えーと、確か土曜日だったな・・・午前中から見に行って
・・・体育館覗いたんだよな・・・でも何処にあるかわかんなくて
・・・・・。
『あの、体育館って何処ですか?』
『え、あ、えっと。ここから真っ直ぐ行けばわかりますよ』
『あぁ、ありがとう』
「あー!!わかった、体育館教えてくれたんですよね」
私はやっと思い出した。石川さんは嬉しそうに笑った。
- 107 名前:New 投稿日:2003年01月26日(日)13時17分19秒
- 「あー、あの時はホントありがとう、助かりました」
「いえ・・・覚えてくれてて嬉しいです」
そして石川さんにベットをかして私はソファで寝ることにした。
翌朝、午前6時。目覚し時計で目覚める。
「ん〜、・・・いてて・・・やっぱソファで寝るのはきついなぁ・・」
石川さんを起こしに部屋に入ってみる。
「あれ?いないや・・・」
洗面所にもお風呂場にも何処にも石川さんはいなかった。玄関に行くと
石川さんの靴はなかった。
テーブルの上に1枚、紙が置いてあった。
<本当にありがとうございました。ジャージ洗って返します。 石川>
「・・・なんだ、帰っちゃったのかぁ」
冷蔵庫から卵を出して、鍋に水をいれて火をつけた。
その中に卵を入れる。
いつもお昼用と朝ご飯用のゆで卵を作るのだ。
・・・ジャージ別にいいのになぁ・・・。
ゆで卵を作りながらそう思っていた。
- 108 名前:New 投稿日:2003年01月26日(日)13時25分01秒
- 朝練は7時からだ。でも今は大会もないから自由参加でやっている。
「ふぁぁぁ〜、眠い・・・」
結局寝たのは1時だ。いつもならもっと早く寝てる。
「あ!吉澤先生おはよーございます!」
「おー、おはよう。小川」
職員玄関まで歩く途中ジャージ姿の小川に会った。
「バスケ部も朝練?」
「いえ、個人的にですよ」
「頑張るね、いいことだ」
「あの、ひとつ聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「何?」
「市井先生って全然部活に顔出さないんですけど、何か過去に
バスケに関係して嫌な事とかあったりします?」
・・・そーいや、バスケしてるとこ見たことないなぁ。
「・・・いや、知らないよ」
「そーですか、ありがとうございました!じゃ行きますね」
小川はお辞儀をして走っていった。
- 109 名前:New 投稿日:2003年01月26日(日)15時42分39秒
- 市井先生・・・かぁ。特に何も知らないなぁ。あの人って自分の事
しゃべらないし。矢口先生はものすごくしゃべるけど。
体育館に入るとすでに部活は始まっていた。冷めた空気が頬に感じる。
私はステージに座ってしばらくそれを眺めていた。
「吉澤先生、どうしたんですか?」
ぼーっとしてたら生徒がバレーボールを持って聞いてきた。
「ん?いや、別に何でもないよ」
「そうですか、やんないんですか?バレー」
「ん〜・・・今日はいいや、頑張って」
ステージから下りて体育館を出た。
- 110 名前:New 投稿日:2003年01月27日(月)18時13分47秒
- 小川さん視点からよっすぃー視点です。小川さんの物語からよっすぃーに
ちょっと変えただけなんですけど・・・とても書きやすい2人で(笑)。
いしよしが一通り終わったら(市井ちゃんのことも含めて)小川さんの
方に戻したいと思います。
では。
- 111 名前:New 投稿日:2003年01月27日(月)18時25分18秒
- 午前の授業も終わってお昼休み。職員室でお昼ご飯。
私は午前中忙しかった為、昨日のことで市井先生に怒る事ができなかった。
職員室に入ると、ちょうどいるではないか。私は自分の席のつくと早速。
「市井先生!昨日大変だったんですからねー」
「ん?あぁ・・・どうなった?何かあった?」
「何もないですよ!石川さん家知らないからしょうがなく私の家に
行ったんですからぁー」
市井先生はパンを食べながら「ほーか、良かったな」と言った。
全然良くないんですけど!
「まぁ、いいじゃんか。お前なら安心だったからさ、私は後藤送らなきゃ
なんねぇーし」
「安心って・・・」
「だって、吉澤って人のこと放って置けないタイプだろ?」
「うっ・・・そうですけど」
私は、はぁーとため息をついて朝作ったゆで卵を出して食べ始めた。
もぐもぐと食べながら昨日の事を思い出す。
・・・ジャージいつ返しにくるんだろ・・・っつーかどーやって?
携帯番号知らないしなぁ・・・。
「あれ?よっすぃー、いつものベーグルは?」
矢口先生がひょこっと覗いて聞いてきた。
- 112 名前:New 投稿日:2003年01月27日(月)18時33分25秒
- 「誰かさんのせいで昨日買いに行く暇がなかったんですよー」
「はぁ?お前だって嬉しそうだったじゃん」
「市井先生が無理矢理連れて行ったんじゃないっすか」
「あーはいはい、2人共仲良くね」
矢口先生が中に入って言い合いは終了した。私は残りのゆで卵を食べきった。
チャイムがなって5時間目が始まった。今は特に私の授業は入っていない。
職員室でぼーっとしていた。入れたコーヒーを飲みながら保健のプリントを
作成していた。
「んー・・・」
一旦休んで伸びをした。時間を見るとまだまだ5時間目は終わらない。
今は確か体育館は使われてないことを思い出して、職員室を出た。
- 113 名前:New 投稿日:2003年01月27日(月)18時39分10秒
- 「ん・・・?」
体育館に近づくにつれて、そこから音が聞こえることに気付いた。
ボールがつく音。
・・・これはバスケ?
一体誰が・・・・・。
扉を開けて覗いてみると。
・・・い、市井先生!!?
そこには市井先生がバスケをしていた。何度もボールをシュートさせて
それは1回も外さなかった。
「あ・・・吉澤」
「あ・・・すみません」
「いいよ、入りなよ」
私は体育館に入って市井先生のもとへ向かった。市井先生は照れたような
感じでボールをついていた。
「初めて見ましたよ、市井先生のバスケ姿」
「そっかぁ?・・・まぁ、あんまやんねーし」
2人でステージに座った。
- 114 名前:New 投稿日:2003年01月27日(月)18時46分47秒
- 「・・・何で部活の方に来ないんですか?」
私は気になっていたことを聞いてみた。しばらく沈黙が流れた。
ま、いいたくなきゃいいけどさ、と半ば諦めかけた時。
「やめろって感じだよね・・・」
「え?」
市井先生はひとつひとつゆっくり話し始めた。自分のことを。
「後藤いんじゃん?」
「え?あ、はい」
「付き合ってんだよ」
「えぇ!!?」
私はつい大声を上げてしまった。綺麗に体育館に響いた。
「んな大声ださなくても・・・。でさ、まぁもーすぐ別れるかな」
「な、何で・・?」
「なんかさ、他に好きなヤツ出来たとか言って、それって別れろって
言ってるようなもんじゃん?でもさ・・・」
『あーそっか、わかったよ・・・別れよう』
『今すぐってわけじゃないんだ・・・』
『は?』
『その人と上手くいくまで・・・付き合ってて欲しい・・・』
「な、何ですか。そんな勝手な・・・」
「勝手だよ・・・あいつは。いつも振り回すだけ振り回してさ・・・」
市井先生の顔はホント悲しそうだった。
- 115 名前:New 投稿日:2003年01月27日(月)18時54分22秒
- 「でもさ・・・好きなんだよね。どーしようもなく」
笑いながら市井先生は言う。
「だから、まだバスケやめらんないんだ。後藤がさ
『市井ちゃんのバスケやってる時ってかっこいーね』って私に
言ったことがあって、バスケやってりゃまた後藤は私を見てくれる
かなぁって・・・そう思ってた・・・。でもさ、だんだん自信なくなって
きて、だから部活の方も来なくなったんだ・・・ホントだめだよね・・」
複雑な気持ちになった。市井先生は後藤さんがホントに好きで。
どうしようもないくらい好きなんだ。
意外な一面を私は見れた気がする。
「・・・市井先生」
「ん?」
「諦めたらそこで終わりですよ・・・好きならちゃんと伝えないと。
相手に分かるまで伝えないと・・・」
私は今まで恋なんてしたことないけど、正直よくわかんないけど。
恋は試合と似てるから。試合は諦めたらそこで終わりだ。恋も同じだと
思った。
「・・・ありがとな、頑張ってみるよ」
市井先生は笑顔でそう言った。
- 116 名前:New 投稿日:2003年01月27日(月)19時00分53秒
- チャイムがなって職員室へ戻ることにした。
「なぁ・・・吉澤」
「何ですかぁー?」
「もしさ、また会いたいって後藤が言ってきたら一緒に会ってくれる?」
あぁ、この人はクールで素っ気無いけど。強そうに見えるけど。
ちゃんと弱いとこもあるんだなぁって思った。
「ええ、いいですよ」
「きっと石川も来るだろうし」
「な、何で石川さんが出てくるんですか!!」
私の怒鳴り声と市井先生の笑い声が廊下に響いた。
- 117 名前:New 投稿日:2003年01月28日(火)15時59分48秒
- それから普通に日々は過ぎていき、今は期末試験のため、部活はなし
の期間に入っていた。期末となるとやる試験も多くなる、先生たちは
忙しそうだ。
放課後、生徒達は勉強のために家に帰り先生たちは職員室でテスト作成。
「んぁ〜、肩凝るよ〜」
矢口先生がさっきからこんな状態だった。
「じゃぁ、なっちが肩をもんでやるべ」
「さんきゅう!なっち」
現在時刻もうすぐ8時。まだご飯食べてない・・・。
・・・おなかすいた。
「市井先生ー・・・おなかすきましたね・・・」
私は隣にいる市井先生に助けを求めた。おなかがすいて死にそうだ、と。
だけど返事なし、まぁそりゃそうかと思って隣を見た。
するとそこには携帯を見て固まってる市井先生。
「・・・どうしたんですか?」
私は聞いて次の瞬間、市井先生は驚いた顔で。
「後藤がくる!これ見ろ!」
携帯を出されて見てみると。
<今から市井ちゃんの学校行くね〜。今いるでしょ?きっと
ご飯まだ食べてないと思うからさ、お弁当持っていくよ。後藤>
- 118 名前:New 投稿日:2003年01月28日(火)16時08分01秒
- 「へぇ・・・良かったじゃないですか」
「・・・いや、何かあるんだ・・・こんなこと今まで1度もなかった・・・
きっと・・・やつと上手くいって・・その報告を・・」
市井先生は携帯をじっと見ながらぶつぶつ呟いていた。
そんな深く考え込まなくても・・・と私は思った。
10分後、後藤さんはやってきた。
それはいいんだ、そこまではいい。
「梨華ちゃんも来たいって言うから一緒に来たんだぁ」
後藤さんは私と市井先生にそう言った。
な、何で石川さんがいるんだぁー!!?
「はい、市井ちゃん。お弁当」
「・・・えっと、お弁当とこの間のジャージです」
私らは渡されたもの持って呆然としていた。そこへ矢口先生が来た。
「何々?お弁当〜?市井先生とよっすぃーにまさかそんな人がいたとは
これまた、すごい事ですなー」
矢口先生はにやにや笑って私らに言った。
「早く食べてよー、後藤頑張ったんだから」
「あ、あぁ・・・そうだな」
市井先生は自分の机にお弁当を広げて食べ始めた。
後藤さんはどっからかイスを持ってきて満足げに見ていた。
- 119 名前:New 投稿日:2003年01月29日(水)17時37分47秒
- 「あの・・・?」
「あ、ごめんごめん。・・・場所変えましょうか?」
私と石川さんは職員室を出て会議室へ入った。寒いので暖房をつけて
部屋を暖め始めた。ぼーっと暖房の音が響いた。
「どうぞ」
「あ・・・ありがとうございます」
適当にイスに2人並んで座った。私は早速渡されたお弁当を広げた。
中を見ると非常にかわいらしいものだった。タコさんのウィンナーや
いろんな味のおにぎりなど、すごく一生懸命作ったんだろうなと伝わってきた。
「ありがとうございます!いやぁー、おなかすいてて、助かりました」
「いえ・・・喜んでくれて嬉しいです」
なんかギクシャクした感じで時間は過ぎていった。
「あの!」
いきなり石川さんは聞いてきた。
「ん?何ですか?」
私は卵焼きを頬張りながら返事をした。石川さんを見ると顔を真っ赤に
させて俯いていた。
「どうしたんですか・・?」
「・・・吉澤さん、好きな人、いますか?」
やっと絞りだせた小さな声だった。急な質問にすぐ返事が出来なかった。
「えーと、いません・・・です。っつーか今まで恋はしたことなくて」
ちょっと照れながら私は言った。
- 120 名前:New 投稿日:2003年01月29日(水)17時48分21秒
- 「え?・・そうなんですか?モテるのに・・・」
キョトンとしてる石川さん。
「えー、全く。生徒から告られることはありましたけど、生徒だし。
恋愛対象には・・・、恋愛に疎いもんでよくわかんないんですよ」
ははっと笑いながら言い、残りのおかずを食べ始めた。
「じゃ、じゃぁ!私は・・・なりますか?」
「はい?」
「その、恋愛対象っていうのに・・・」
石川さんは上目遣いに見てくるので、私は何かすごく緊張した。
心臓がバクバクいってる。
えーと、落ち着け、落ち着くんだ。
声を出すまでの時間がすごく長く感じた。
「えー・・・なると思います」
自分でもわかるぐらいに顔を真っ赤にさせて私は言った。すると石川さんの
表情がみるみる明るくなっていった。
「やったぁー・・・」
「ご、ご馳走様でした。おいしかったです」
それから数分たって石川さんは後藤さんと帰っていった。
「吉澤ぁ〜」
職員室に戻るとなんとも情けない声を出している市井先生がいた。
- 121 名前:New 投稿日:2003年01月30日(木)18時08分42秒
- 「何ですか?別れようとでも言われたんですか?」
「ひっでぇー、・・・んにゃ、何もなかった。別に普通」
「良かったじゃないですか」
「お前、何か嬉しそうだな?石川と何かあった?」
一瞬ドキっとした。
「い、いえ、何も」
何とか爽やか笑顔で返事をしたけど、市井先生はじーっと私を見る。
「さ、テスト早く仕上げないと」
私は残りのテストの作成に入った。
翌日の朝、市井先生に1枚のメモを渡された。
「・・?」
「石川の電話番号とメアド」
「えぇ!?」
「後藤が教えといて欲しいって石川に頼まれたらしいよ」
市井先生は「じゃ、頑張れよ〜」と言って去って行った。
手には1枚のメモがぽつんと残っていた。
- 122 名前:New 投稿日:2003年01月30日(木)18時19分26秒
- ・・・どーすりゃいいんだよ。
メモを渡されたもの、別に用なんて無いし。
石川さんが頼んだのかぁ・・・私の教えた方がいいのかなぁ?
「先生!先生ってば!」
「・・・え?あぁ・・・」
私は考え込んでいて授業という事をすっかり忘れてしまっていたようだ。
今は体育の授業だ。
「もうすぐ授業終わりますよ?」
「ん、そうだね」
笛をピーっと鳴らして集合をかけ、授業は終わり。
帰り際、小川と紺野に話しかけられた。
「先生、今日変ですよ?ね、あさ美ちゃん」
「うん」
「そんな事ないよ・・・それより、期末近いけど大丈夫か?」
テストの話になると小川は紺野を引っ張って逃げた。
私は気づいてなかった。
自分が恋をしていることを。
それが『初恋』だということを。
この時はまだ気付いていなかったんだ。
- 123 名前:New 投稿日:2003年01月30日(木)18時31分09秒
- とりあえず携帯で石川さんにメールを送ってみた。自分の番号を
入れて。すぐに返事はきた。
早ッ!!
<メールありがとうございます、すごく嬉しいです!今度の日曜日
もし暇でしたら遊びに行きませんか?返事待ってます。 石川>
「日曜か・・・月曜から試験だけど、まぁテストも出来上がってるし。
いいか」
私はすぐに返事をした。何かドキドキしてるのが不思議だ。
<いいですよ。家が何処にあるか教えて下さい。日曜にバイクで
迎えに行きますから。 吉澤>
「送信っと・・・」
相変わらず返事は早くきた。石川さん家は私の家から少し遠いとこにあった。
時間を決めて、日曜は石川さんと遊ぶ事になった。
「・・・吉澤、顔が笑ってるぞ」
急に隣から声が聞こえてびっくりした。市井先生がにやにやして私を
見ていた。
「早速デートですか、いいですなぁ」
「い、市井先生ッ!」
「まぁ楽しんで来いよな、上手くいくよう願ってるよ」
いい先生なのか悪い先生なのかよくわからないのが市井先生だ。
この日はさんざん市井先生のいじめにあっていた。
- 124 名前:New 投稿日:2003年01月31日(金)19時30分57秒
- そして日曜日。天気は晴れ。
時間は10時に待ち合わせ。私は銀色のバイクを走らせ石川さん家に
向かった。
「ん?あれか」
石川さん家はマンションで、バイクを止めた。するとちょうど石川さん
も出てきたとこだった。
「おはようございます」
私はバイクから下りて石川さんにピンクのヘルメットを渡した。
昨日買ったばかりの新品だ。色を選ぶのに時間かかったけど。
「わぁ、ピンク・・・ありがとうございます!」
どうやらピンクで正解みたいだ。石川さんに似合う色は何となく
ピンクだと思った。服装に何処かしらピンクが入っていたから。
「乗って下さい」
バイクに乗り、後ろを指さした。石川さんが後ろに乗る。
「・・・あの、それじゃ落ちますよ?腰に手回して下さい」
乗ったはいいが、石川さんは私の腰に手を回していなかった。
これじゃスピード出した途端落ちてしまう。
「え・・?はい」
石川さんの細い腕がしがみついてきた。それだけでドキドキする
自分がいた。
・・・何でこんなドキドキすんのさ?
バイクを走らせた。
- 125 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)00時18分42秒
- バイクをひたすら走らせて着いた所は海辺。
「わぁー、綺麗・・・」
冬の海は誰もいなくて、2人っきりだ。石川さんは海の波打ち際に
向かって走って行った。海はキラキラと太陽を反射してとても綺麗だ。
「寒くないですか?」
私は歩いて波で遊んでいる石川さんに近づいた。
「全然、すごく楽しいです」
「良かった・・・」
しばらく2人で波で遊んでいた。ちょっと水を石川さんにかけたら
数倍に水が返ってきた。
「冷たてー!」
そのせいで私の髪は濡れてしまった。
「吉澤さんが悪いんですー」
「ひどい・・・」
半泣きで髪の毛をいじっていたらハンカチを差し出された。
「顔、濡れてるから」
「あぁ、すみません」
有難く受け取り手早く顔を拭いた。
それから砂浜に座って話をしていた。石川さんは大学の事、
私は学校の事を話していた。敬語も止めようという事になった。
お互いを名前で呼ぶ、なんだか「ひとみちゃん」と言われるのは
恥ずかしく感じた。
- 126 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)00時29分12秒
- お昼を過ぎたので、そろそろお昼ご飯を食べようという事になった。
「梨華ちゃん、何が食べたい?」
「んー、ひとみちゃんは?」
さっきからこんな感じだ。全然前に進まない。
このままいくとホントにおなかがへって死にそうだ。
「じゃ、パスタにしよ」
私は何となく思いついた食べ物を言ってみた。そしてお昼ご飯は
それに決まり。再びバイクを走らせてパスタ屋さんを探した。
しばらくして見つけたパスタ屋さんに入った。小さいが結構こうゆう
所は好きだ。お昼がもうとっくに過ぎたせいか店の中は私達しか
いなかった。
「何か、今日は楽しいな」
ふと梨華ちゃんは嬉しそうに言った。
「ん?そう?」
「うん、ホント楽しい休日だよ」
「良かった、喜んでくれて。私、あんま外出ないから」
私は笑って店から出された水を飲んだ。カランと氷の音がした。
「そうなの?バイク持ってるのに」
「実はバイクもあんま使わないんだ。学校は歩きで行ってる」
「何で?もったいない・・・」
「ほら、歩きでいけば生徒に会うし挨拶とか出来るじゃん?
バイクじゃ出来ないからね・・・そうゆうのは大切にしたいんだ」
「ひとみちゃんはいい先生だね」
- 127 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)00時40分57秒
- 「んー、どうだろう。いい先生なのかはよくわかんないけど」
苦笑いでそう答えた。矢口先生とかにはよく生徒に甘いって
言われる。生徒を信じたい気持ちがあるから、それでいいと
思っていた。でもそれは単に「甘い」という表現に見えてしまう。
別に甘くしてるわけではないのに、ただ信じていたいだけなのに。
その気持ちを梨華ちゃんに言った。
「信じるってすごく大切で、難しいと思う。でも素晴らしい事だよ。
ひとみちゃんが信じたいなら、それでいいと思うよ。信じていれば
きっと生徒さん達もひとみちゃんを・・・吉澤先生を信じてくれる
よ。私は学校にはそれが必要だと思うの。ひとみちゃんみたいな先生が
もっとたくさんいれば、きっといい学校になるよ、安心できる学校に
なる・・・だから頑張って」
「そうかな・・・ありがと」
私は最近落ちてきた自信を再び取り戻す事ができた。
何故、梨華ちゃんが力説していたかはすぐわかった。梨華ちゃんは
過去を懐かしむように話はじめた。
「私ね、いじめにあってた事があったの」
- 128 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)00時52分47秒
- いじめ。それはいつまでたっても学校から消えないモノだ。
強いものは弱いものをいじめる。何とも悲しい行動だ。
私が見てる限り、学校にはいじめは無いと思うが、何処かで
あるかもしれない。
「中学3年生の時かな・・・理由はよくわかんないけど
急に無視されるようになったの、クラスの女の子達から。
最初は無視だけだったんだけど、・・・数日たってから
教科書がズタズタにされたり、水かけられたり。先生知ってるのに
見てみぬふりして───もうどうしようもなかったよ。
自殺しようかと思った」
私は梨華ちゃんの話を聞いてるうちに次第に握っていた拳に力が入って
いった。
「仲良かった友達も私を避けるようになって、毎日悲しかった。
一人で屋上で泣いてた事もあった・・・・でもそれを助けて
くれたのがごっちんだったんだ」
「後藤さん?」
「そ、ごっちんは転入生で、私のクラスに転入したの」
中学3年、秋───。<梨華ちゃん視点>
『私、後藤真希。よろしく〜』
ごっちんは私の後ろの席だった。初対面なのに全然かたくなかった。
『名前何て言うの?』
『・・・い、石川梨華・・・』
私の声は今にも消えそうだった。
- 129 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)01時02分50秒
- 『梨華ちゃんか、可愛い名前だねぇ』
『後藤さん・・・私としゃべんない方がいいよ』
『何で?』
『・・・私と仲良くしたらいじめられちゃうよ・・・』
私は友達を作っちゃいけない。迷惑がかかるから。
だけど、ごっちんは───。
『そんなの別にどうだっていいよ、私は梨華ちゃんと友達になりたいの!』
『・・・え?』
『いじめなんてくだんない。あ、私のこと、ごっちんでいいよ。
そう呼ばれてたから』
それからごっちんと一緒にいた。いじめにはあってたけどその度
ごっちんが助けてくれた。ごっちん強いからごっちんをいじめる人は
いなくて、しばらくたつと私のいじめは無くなっていた。
<よっすぃー視点に戻る>
「へぇ、後藤さんっていい人だね」
「うん、そうなの。人見知りしないし、羨ましいよ」
梨華ちゃんは可愛いからきっとそのせいでいじめにあってたんだろう。
いじめなんてそんな理由だ。
「ひとみちゃん、もしいじめにあってる子がいたら助けてあげてね」
「うん、絶対助けるよ」
私はもう1度いじめについて考えようと思った。
- 130 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)01時13分28秒
- 遅いお昼もすみ、バイクで帰った。梨華ちゃん家の前にバイクを
止めた。
「着いたよ、じゃまた───」
私は後ろを振り返ると梨華ちゃんは下りていなかった。
下を向いて、黙っている。
「梨華ちゃん・・・?」
バイクから下りて梨華ちゃんの顔を覗き込んだ。
「どうした・・・?」
「・・・離れたくないよ・・・」
梨華ちゃんは俯いたままそう言った。
「へ?」
「ひとみちゃんと一緒にいたいよ・・・」
梨華ちゃんは上目遣いで私を見る。ちょっとまて可愛すぎ。
次の瞬間、私は梨華ちゃんを抱きしめた。
「・・・わかった、離れない」
私は今気付いた。
恋をしているのだと。
好きな人ができたのだと。
初めて気付いた。
- 131 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)13時18分25秒
- 梨華ちゃん家に入らせてもらった。ピンクのモノが多い部屋だ。
「適当に座ってね」
そう言われたからソファに座って部屋の中を見回していた。
結構、片付いてんだなぁ。
数分後、梨華ちゃんは紅茶を持ってあらわれた。
「どうぞ、飲んで」
「ありがと」
それから中々、会話が続かなくて沈黙ばかりだった。
沈黙を破ったのは梨華ちゃんだった。
「あのね・・・私、すごくひとみちゃんの事大好きなの・・・」
「うん、・・・」
「だから・・・その・・・」
梨華ちゃんは顔を真っ赤にさせて俯いていた。私はそっと隣にいる梨華
ちゃんの肩を抱き寄せた。
「私も、だよ。梨華ちゃん」
驚いている梨華ちゃん、でもすぐ泣き出した。いわゆる嬉し泣きというやつだ。
すぐに抱きしめた。
「・・・ちゃんと言って・・・言葉で伝えて?」
泣きながら梨華ちゃんは言った。
私は梨華ちゃんの耳元でそっと囁いた。
「・・・好きだよ、梨華ちゃん」
「・・うん、私も」
お互い通じ合えた。
- 132 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)18時05分58秒
- 初めての恋は突然で。
私は鈍いせいなのか、全然わかんなかった。
でも今は言える。
恋をしていると。
石川梨華が大好きだということを。
「ふぁぁぁ〜」
自分の家に帰ったのは午前5時だった。梨華ちゃん家で寝てたけど
着替えがないから帰ってきたのだ。
夜は別に特に何も無かった。ただ一緒に寝ただけだった。
ガチャガチャと鍵で扉を開ける。
「・・・ん?」
携帯を見ると着信が入っていた。
<着信 市井>
「・・・市井先生?珍しい・・・」
まぁどうせもうすぐ学校で会うからいいやと思い電話はしなかった。
シャワーを浴びてギリギリの時間まで寝ることにした。
- 133 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)18時13分58秒
- 起床して歯みがいて、着替える。
そして学校へ向かう。
「おはよーございます」
「おはよう」
生徒達からの挨拶、ちゃんと私も挨拶をする。
職員室に入る、今日から期末テストだ。いつもよりちょっと
忙しい雰囲気だった。
「あ、市井先生。電話───」
「吉澤ぁ!昨日は何処行ってたんだよぉ!!」
キーンと響く市井先生の声。朝から怒鳴るの止めてください・・・。
市井先生は私の胸倉を掴んで睨んでいた。
怖い・・・いつもより怖いよ・・・。
「何処って・・・梨華ちゃ・・石川さんと遊びに」
「石川ぁ?何でそんな進展してんだよ」
「んなこと言われても・・・どうしたんすか?」
やっと掴んでいる手を離してもらった。
- 134 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)18時27分12秒
- 市井先生ははぁ〜っとため息をついて話始めた。
「昨日・・・後藤から電話きて、『会いたい』って言われた」
「別にいいじゃないですか」
「あのなぁ、私は会う度に怖いんだよ。いつ別れを言われるか・・・」
あーそっか、そっか。
私は「進めてください」と言った。
「っで、会ったんだ。したら───」
昨日───。<市井視点>
『市井ちゃん・・・もう会えない』
『えぇ!?・・・上手くいっちゃったの?』
『うん・・・ごめんね』
『・・どうしても、別れなきゃいけない?もう私のこと嫌いか?』
『そんなことないよ!・・・でもこのままでいたら二股かけることに
なるじゃん、そんなの嫌だから』
『・・・嫌だ、別れねぇ』
『市井ちゃん・・・』
『ぜってー別れないからな!!』
「・・・あー、なるほど」
話を聞いて市井先生がピリピリしてるわけが納得できた。
「後藤と会う前にお前に電話したのにでないし」
「すみません、全然気付かなくて」
- 135 名前:New 投稿日:2003年02月02日(日)19時06分28秒
- 「どぉーすりゃいいんだよ〜・・・」
「あの、市井先生。大事な事、言ってないですよ」
「へ?」
そう1番大事な事は。
自分が相手をどう思っているのか。
『好き』なら、好きと伝える事だ。
「後藤さん好きなんでしょ?」
「あぁ」
「ならそれ伝えなきゃ」
「・・・・そっか・・・」
「もう1度、後藤さんに自分の気持ち伝えたらどうですか?」
私は市井先生の肩をポンと叩いて言った。市井先生は苦笑いを
していた。
「わかった、言ってみるよ。このままじゃ後悔するもんな。
どんな結果になってもそれはそれで受け止めるよ」
市井先生は「ありがとな」と言い、職員室を出た。
- 136 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月03日(月)23時43分46秒
- いつも見てます。
いしよし&いちごまの2組がこの先どうなっていくのか楽しみです。
頑張ってください!
- 137 名前:New 投稿日:2003年02月04日(火)18時31分54秒
- 136さん<ありがとうございます!いつも見てくださって嬉しいです!
いしよし、いちごまが終わったら小紺に戻します。もし
良かったらそちらも見てください。では。
- 138 名前:New 投稿日:2003年02月04日(火)18時46分15秒
- <市井視点>
吉澤に言われて頑張ろうって気になった。何か生徒達が吉澤に頼るのが
よくわかった。私はクールで素っ気無いとか言われるけど全然違う。
強くなんかない、弱い人間だ。そりゃ強い人間なんていない。
私は自分の気持ちを伝えるのが怖くて───逃げてたんだ。
後藤に伝えたら何もかも終わってしまう気がした。
・・・でも、もう逃げない。
私は後藤が好きなんだ。
後藤を離したくないんだ。
正直に自分の気持ちを伝えよう。
今日は期末試験の初日。学校は半日で終わる。
私は放課後、理科のテストを自分の机に置いた。今回、さっき少し
テストを見たが、結構出来ていた。受験生という意識が出てきたんだろう。
「ちょっと!聞いてよ〜、数学のテスト。意外とみんな出来てんの!」
矢口が数学のテストを持って嬉しそうにしていた。
「えーと、今日は理科と数学、英語。明日は国語、美術、保健。
明後日は社会、家庭科、音楽ですね」
吉澤が試験予定をチェックしている。しっかりしてるヤツだなぁ。
「よっすぃー、違うよ国語は明後日、社会が明日だよ」
「えぇ!?あ、間違えてました・・・」
・・・・たまに抜けてるけど。
- 139 名前:New 投稿日:2003年02月04日(火)18時57分13秒
- 「市井先生はどうでした?理科は」
吉澤が聞いてきた。
「ん?あぁ、まぁまぁ出来てたよ」
「やっぱりみんな受験生っていう意識が出てきたんだよねー」
圭織がしみじみと言った。他のみんなもうんうんと頷いている。
「ん、メールだー」
吉澤の携帯がなった。様子を見てみると顔がにやけているのできっと
石川からのメールだろう。
・・・ちくしょう、幸せそうな顔しやがってよー・・・。
私は少し(?)悔しく感じながら、コーヒーを入れた。
「あの・・・市井先生」
ためらいがちの吉澤の声が後ろから聞こえた。
「んー?何」
コーヒーを入れたコップに口をつけながら返事をした。
「あのですね・・・今晩、梨華ちゃんがあのバーで飲もうって・・・」
「いいじゃんか。何、自慢か?」
「ち、違いますよ!・・・市井先生も来て欲しいそうです」
もう少しでコーヒーをふくとこだった。
何ぃ!?つまり・・・それって後藤も来るんだよな・・・。
「どうしますか・・?」
チャンスだ。これは。
私は心の中で決心をして。
「もちろん、行くよ」
はっきりそう答えた。
もう逃げるもんか。
- 140 名前:New 投稿日:2003年02月04日(火)19時47分53秒
- 待ち合わせ時間は午後9時。場所はあのバーだ。
場所が近づくにつれて私の心臓は大きくドキドキしていく。
今日が最初で最後のチャンス。自分の気持ちを伝えるチャンス。
ギィと扉を開き、中へ入る。
「・・・あ、いましたよ」
吉澤が指差す方向には後藤と石川がいた。カウンターに座って
何やら楽しげに話している。
私達は2人に近づいた。
「梨華ちゃん、後藤さん。お待たせー」
吉澤が声をかける、すると2人は振り向いた。後藤は何か暗い顔
してる。私は後藤の顔を見るのをやめて違う方を向いた。
・・・うわー、緊張するなぁ。もしかしたら今日、後藤がヤツを連れて
来てるんじゃなかと思っていた。
「・・・市井ちゃん」
「え?」
気が付くと吉澤と石川がいなくなっていて、後藤と私だけだった。
・・・あいつ〜・・・。
「座れば?」
「あぁ、うん」
後藤の隣に座って、カクテルを注文した。
- 141 名前:New 投稿日:2003年02月04日(火)20時01分18秒
- 「・・・どう?最近」
沈黙が嫌で私はありきたりな質問をした。
「んー、課題が多くて嫌になっちゃうよ」
「ちゃんとやんなきゃダメだぞ?」
「わかってるよー」
良かった、意外と普通に話せるじゃん。これなら大丈夫だ。
「市井ちゃんこそ、どう?」
「私?今、ちょうど期末試験でさ。でもみんなちゃんと出来てたから
安心したよ」
注文したカクテルが出てきてそれを飲んだ。先生にとって生徒の成績が
良くなるのは嬉しい。それは当り前のことだ。
「市井ちゃん、嬉しそうだね」
「そりゃぁね、先生ですから」
後藤は「あはっ」と笑って自分のカクテルを飲んだ。
それからいろいろ話して、私はいよいよ本題へ入った。
「あのさ、後藤・・・聞いて欲しいんだ」
「何?」
一回深呼吸して緊張してる自分を落ち着かせた。
「こないだはごめんな。頭ん中真っ白になってさ・・・怒鳴ったり
してごめん」
まずはこないだ後藤が別れ話をしてきた日の事を謝った。
「・・・いいよ、私の方こそ。勝手でごめんね」
「・・・ひとつだけ言いたいんだ」
私は後藤の方を向いて、後藤の目を見た。
- 142 名前:New 投稿日:2003年02月04日(火)20時16分24秒
- 「私は後藤が好きだ。本気でどうしようもないくらい好きなんだ」
後藤は驚いて私を見ていた。
「自分の気持ち・・・中々言えなかった。怖くて・・・弱いよね」
私は前の方に向きなおして苦笑いをした。
「でも・・・言いたくて。迷惑だと思うけど、どうしても言いたかった」
後藤の声は聞こえない。
・・・何も無しってことは、ダメかぁ。やっぱなぁ。
私は一気にカクテルを飲み、イスから立ち上がった。
「じゃぁ、それだけ言いたかったんだ。後藤、ヤツと上手くいけよ」
後藤に背を向け、扉に向かって歩き出した。ここの払いは吉澤にまかせよう。
扉を開けて、外に出た。吐く息は白くて綺麗だった。
「・・・後悔はしてない。ちゃんと言えたんだから・・・」
呟くように言って、止めていた足を再び前へ出した。
早く帰ってテストの点数つけなきゃな。あとは次やる実験のプリントの作成。
あとはー・・・。
「市井ちゃん!!!!」
聞こえるわけがない声が。
後ろから聞こえた。
私は振り返ると───。
「あのね!!違うの!!」
数メートル離れた所で後藤は叫んでいた。
- 143 名前:New 投稿日:2003年02月04日(火)20時27分45秒
- 「後藤の好きな人は市井ちゃんだけだよ!!」
・・・・はい?私が好き?え?
後藤はこっちに向かって走って来た。
「はぁ・・はぁ、ごめんね。あれ、嘘なの」
「嘘・・・?」
「ほら、好きな人が出来たっての」
「・・・・はぁー!?」
「市井ちゃん、本気で私の事好きなのか不安になっちゃって・・・。
それを、柴ちゃんとマサオ君に話したら・・・」
<ごっちん視点>
『んじゃ、試してみようよ』
柴ちゃんはとてもノリノリだった。
『例えば・・・他に好きな人ができた、とか?』
マサオ君が言った。
『そうそう!そう言えば、本気で好きなら引き止めるって』
『・・・っていうかそれってこの前、私にやったやつじゃん』
『あれは、マサオが浮気するから』
「・・・ってわけで」
後藤は私の様子をうかがうように上目遣いで見てくる。
あの・・・バカップルめ。後藤に変な事教えやがって・・・。
今度会ったら、小1時間説教してやる。
- 144 名前:New 投稿日:2003年02月04日(火)20時36分36秒
- <市井視点>
「市井ちゃん、ごめんね。ホントにごめんなさい」
後藤は何回も謝ってきた。私は肩の力がすっと抜けた。
「・・・後藤、市井紗耶香を怒らせるとどーなるか知ってるよね?」
ちょっと怖い感じで言った。後藤は下を向いて、まだ謝っていた。
「ごめん・・・」
後藤の声が震えてるのに気付いた。きっと泣くのを必死に我慢してるんだろう。
しょーがないなぁ、今回は許すか。
私はふぅと息を吐き、後藤を抱き寄せた。
「い、市井ちゃん??」
「今回は許す、今度やったら本気で怒るからな」
「うん!・・・」
「あー、もう良かったぁ」
「市井ちゃん、もっかい言って?」
後藤は甘えてくるように言ってきた。
「好きだよ、後藤」
「私も好き、市井ちゃん」
強く離れないように後藤を抱きしめた。
───その頃。
「市井先生〜!!!自分の分くらい払えよなぁ〜!!」
「まぁ、いいじゃない。きっと今ごろ2人共幸せでしょ」
「梨華ちゃん・・・」
「早く帰ろ?」
「うん」
ここにもバカップルが1組いたりいなかったり。
- 145 名前:New 投稿日:2003年02月05日(水)20時08分57秒
- 放課後の体育館。期末試験は半日で終わるし生徒達は勉強の為に
家に帰るからそれを利用して・・・。
「市井ちゃん、かっこい〜」
後藤がどうしても私のバスケが見たいと言うのでこうして体育館にいるわけ。
ダンダン!!と軽くドリブルしてシュート。シュートは絶対に外さない。
「市井先生、何で私までいるんですかね?」
無理矢理連れてきた吉澤がさっきから同じ事ばっか聞いてくる。
「いいじゃんか、どうせ暇だろー?」
「まぁ、それはいいとして。何故、私がバスケやってんですかね?」
「お前は運動神経いいから、できるだろ?」
「・・・そりゃそうですけど」
私は持ってるボールを吉澤にパスをした。しっかりボール受け取る吉澤。
「ほら、やるぞ」
「はいはい・・・」
2人だけのバスケを後藤はステージに座って見ている。
吉澤がドリブルして向かって来た。私は上手くボールを取った。
そんなやり取りが繰り返されて、私は高くジャンプをしゴールに向かって
シュートした。
「いっけぇー!」
「そーはさせるか!」
吉澤も高くジャンプしてむなしくボールはゴールに入んなかった。
- 146 名前:New 投稿日:2003年02月05日(水)20時17分38秒
- 「ちくしょー、後少し高ければ・・・」
「私を甘く見ないでくださいよ、市井先生」
「市井ちゃーん、今のはかっこ悪いよ〜」
「うるせー!次はきめてやる!!」
「まだやるんですかぁ〜!?」
<よっすぃー視点>
市井先生と後藤さんは上手くいっている。相変わらず市井先生は
素っ気無いけど、部活の方にも出てきていた。気がづくと部員に
バスケを教えたりしてる光景が見られる。
私は、特に何も変わりはない。
そーいえば、初恋は実らないとかいうけど。
私の初恋は実ったなぁ。
最初で最後の恋、だと信じている。
いつまでも変わらず、梨華ちゃんと一緒にいたい。
あ、そうそう。変わったことひとつあった。
これからも一緒にいるということで。
2人暮らし、始めました。
- 147 名前:New 投稿日:2003年02月06日(木)20時25分16秒
- <麻琴視点>
やっと昨日、期末試験が終了。今日から普通授業で次々とテストが
返ってくる。
「1時間目何だっけ?」
私はカバンの中に目を向けたまま聞いた。
「えーと、数学だ」
愛の声が聞こえ、私はカバンから数学の教科書とテスト問題を
出した。
「あー、もう嫌だなー。テスト返ってくんの」
「何言ってんの。思ったより出来たんでしょ?」
「でも、自信ないよぉ・・・」
愛の情けない声が聞こえてくる。見ると愛は机に突っ伏していた。
「結果はどうであれ、間違ったとこを見直すことが大切なんじゃん」
「麻琴ぉー、いいこと言うー」
・・・見直すやる気があればね・・・。
ふと気付くとあさ美ちゃんがいない。まだ教室には来ていなかった。
「ちょっと!大ニュースだよ!!」
クラスの子が大騒ぎしながら入ってきた。教卓の前でみんなに向かって
「市井先生と吉澤先生って付き合ってる人いるんだって!!!」
『えぇ〜!!!?』
これでもかってぐらい教室は騒がしくなった。
「へぇ、愛聞いた?吉澤先生って付き合ってる人いるって」
愛は机に突っ伏したままだった。
- 148 名前:New 投稿日:2003年02月07日(金)18時20分13秒
- 「・・・別に、もぉいいし」
愛は机に突っ伏したまま言った。
「あれ?諦めてなかったんじゃないの?」
「・・・いいの!だいたい先生と生徒なんてありえないでしょ」
机から顔を上げた愛の顔は怒って私を見ていた。
私は愛が強がってるのか、本心なのかわかんなくて、それ以上何も
言わなかった。
・・・にしてもあさ美ちゃん、どーしたんだろー・・・。
窓の外を見ながら私は思っていた。
1時間目、数学の時間。
「中々点数上がってるから、オイラすごく嬉しいよぉー」
・・・それは良かった、前の試験よりも下だったら最悪だもん。
ちなみに、前の試験の平均48点。今回の平均68点。
今日の矢口先生のテンションは異常だ。あんまりそばにいない方がいいと
私は思っていた。
「麻琴、どうやった?」
「82、前より下がった」
「何やー、十分じゃん」
「愛は?」
「80!良かったよ、上がって」
愛は嬉しそうにテストを見ていた。
・・・あさ美ちゃん、どうしたんだろ。
授業が始まっても、あさ美ちゃんはやってこないかった。
- 149 名前:New 投稿日:2003年02月07日(金)18時31分45秒
- そーいや、朝待ち合わせて一緒に行ってたけど今日は待っても
あさ美ちゃん来ないし、時間やばかったから先に来ちゃったんだよね。
「あー・・・迎えにいけば良かったかなぁ」
「何が?」
ただの独り言だったのに愛の声が返ってきた。
「あさ美ちゃんだよ。いつも待ち合わせしてんだけど今日は
待っても来なかったから先に来ちゃって」
「飯田先生なら知ってるんじゃない?」
「ん、後で聞いてみる」
ハイテンションな矢口先生の数学の授業が終わり休み時間になった。
私は職員室にいき、飯田先生を探した。
「失礼しまーす」
職員室に入ると、市井先生と吉澤先生を見つけた。私は今朝聞いた
噂を本当かどうか聞いてみた。
「あの、2人共付き合ってる人がいるって今朝聞いたんですけど」
「あー、もうみんな知っちゃってるの?」
吉澤先生の顔は何かいつもと違ってゆるんでいた。
市井先生にも聞いてみる。
「市井先生もですか?」
「ん?あぁ、そうだよ」
市井先生は別にどうでいいような態度だった。
・・・噂は真実か。
ふと愛の顔が浮かんだ。
- 150 名前:New 投稿日:2003年02月07日(金)19時28分42秒
- 『麻琴、私吉澤先生好きになったぁ』
『えぇ!?マジ?』
『うん、本気だよ』
『でも相手は先生だよ?生徒と先生なんて・・・』
『そんなん関係ないよ、絶対告白するんだ!』
あの時の愛の目は本気だった。毎日休み時間、昼休み、放課後を
使い吉澤先生のそばにいた。
私はある時に聞いてみた。
『何でバレー部に入ろうとしないの?そうすれば指導してもらえるよ?』
愛は苦笑いをしながら私を見た。
『んー・・・でもね、それだけは無理なんよ。私にはバスケしかないから』
きっと本当はバレー部に入りたかったんだろうけど、愛がバスケを
どんだけ好きかは親友の私が誰よりも知っている、バスケが出来ない毎日は
例えどんなに吉澤先生を好きでも愛にとっては辛いことだ。
ある日、暗い顔していた時があった。吉澤先生に告白して振られた日。
諦めないと愛は言っていた、こないだもそんな事を言っていたけど
私はまだ好きだと思っていた。
・・・でも、もうそれは多分ないなぁ。
さっきの愛の顔は真面目な表情だった。前に吉澤先生が好きだと言っていた
時と同じ顔だった。
・・・ホントに諦めたんだ。ま、愛がそう決めたならいいけどさ。
- 151 名前:New 投稿日:2003年02月07日(金)22時01分52秒
- 「あのー、飯田先生は?」
本来の用事を思い出して聞いてみた。早くしないと休み時間が終わってしまう。
「さっきまでいたんだけど、どっか行ったよ」
吉澤先生はそう言って、職員室を出て行った。
なんだぁー・・・しょうがないか。
諦めて職員室を出て行こうとした時。
「小川」
市井先生がこっちを向いていた。
「はい?」
「今日の部活行くから、部長にそう言っとけよ」
意外な言葉が出てきて私は驚いて立ち尽くしていた。
「おい、聞いてるのか?」
「あ、はい!待ってますから!」
嬉しくて私はつい大声で言ってしまった。その後に「お前声でかすぎ」
と市井先生に言われたのは言うまでもなかった。
「麻琴ぉ、さっき聞いたんだけどあさ美ちゃん風邪ひいたんだって」
「うぇ!?ほんと?」
「うん、廊下で飯田先生に会って聞いてみたら、休みだって」
そっかぁー・・・休みかー・・・・。
- 152 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)17時23分26秒
- 何でこんなにも暗い気持ちになるんだろう?
あさ美ちゃんに会えないだけで何で切なくなるんだろう?
今までにない気持ちに動揺する。
友達が休んだくらいの事でこんな気持ちになかった。
何かむしょうに。
あさ美ちゃんの声が聞きたいよ。
「何暗いん?麻琴」
「・・・ううん、別に」
「そっか、次、国語だっけ?」
「そうだね・・・」
別に愛にさっき抱いた気持ちを言っても良かった。
だけど何となく言えなかった。
・・・何となく、ね。
- 153 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)17時32分44秒
- 放課後、久々の部活に行く。部長に市井先生が来る事を伝えると
部長はすごく嬉しがっていた。
いや、部長だけではなくバスケ部の全員が喜んでいる。
今日の部活はいつもより活気が溢れていたように思えた。
「小川!何ぼーっとしてんだ!」
ふとぼーっとしてたら市井先生に怒られた。
「あ、はい。すみません」
私はすぐに練習を再開した。久しぶりに市井先生のバスケを
見れて、嬉しい。だけど何か暗い気持ちになる。
落ち込んだような─────そんな感じ。
「おー、やってるねぇ♪市井先生」
後ろから吉澤先生の声が聞こえて、振り返る。
「吉澤先生・・・あれ?今日、バレー部やってませんよね?」
「んにゃ、ただの見学。市井先生がやってるって聞いたから」
そういえば、見学してる生徒が多いような・・・。
「小川、何落ち込んでんの?せっかく市井先生が来てるのに」
「えぇ!?・・・」
私は少し考えて吉澤先生に気持ちを言ってみた。
- 154 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)17時41分39秒
- 「あー・・・なるほど。小川は紺野が今日休みで、それで
落ち込んでんのか」
「・・・別に、それが理由かよくわかんないけど・・」
「わかるよ、その気持ち。私もそんな感じだった」
吉澤先生は手に持ってるバスケボールをいじりながら言う。
「梨華ちゃんに会えないだけで寂しくて悲しくて。
別にさ、市井先生の知り合いで、こないだ会ったばっかしなのにね。
なのに・・・声が聞きたい、会いたい気持ちになるんだ」
私は黙って吉澤先生の話を聞いていた。
「それはさー・・・・」
吉澤先生は持っているボールを投げた。ボールはゴールに入った。
私の方を向いてにっこり微笑み。
「好きだからなんだよ」
・・・・好き?
私は意味がよくわかんなくて、何も言えなかった。
「好きだから、梨華ちゃんの事が好きだから。会いたいとか
声聞きたいとか思っちゃうんだ。だから小川は───」
さっきと同じ笑顔で吉澤先生は言う。
「紺野に恋をしている、紺野が好きなんだよ」
- 155 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)20時52分24秒
- 私は持っていたボールを落とした。
・・・・私が・・・あさ美ちゃんを・・・?
「えぇ〜〜!!!??」
私の声は体育館の中に響いた。誰もが自分に視線を向けた。
「・・・鈍感だなぁ。小川は」
あははと笑いながら吉澤先生は去って行った。
・・・あなたにだけは言われたくないです・・・。
その後、私の練習はズタボロで市井先生に怒られっぱなしだった。
「麻琴、どうした?変だよ」
一緒に着替えをしていた愛が心配そうに言った。
私は一瞬、吉澤先生のあの爽やかな笑顔を思い出した。
『だから小川は───紺野が好きなんだよ』
そうかなぁ・・?そうなのかなぁ?
だって今まで恋愛なんて抱いた事もなかった。だからこの気持ちが
恋愛なのかなんてわかりはしない。
「愛・・・」
「ん?」
「愛はさ、むしょうに会いたくなったり、声が聞きたいとか思った
事ある?」
「・・・んー、あるよ」
「それってその人に恋してるってこと?」
- 156 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)21時05分51秒
- 「・・・・うん、そうだよ」
愛は少し間をおいて答えた。
・・・やっぱそうか・・・あさ美ちゃんが好きなんだ私。
そう思うと顔がだんだん熱くなってきた。きっと耳まで真っ赤な
状態だろう。
「・・・麻琴、もしかして好きな人できたとか?」
「なっ!・・・」
私は否定しようとしたが愛に嘘をつけるほど器用ではない、すぐに
ばれてしまう。昔からそうだった、愛につく嘘は全部ばれる。
「・・・そーだよ」
私は今までの経験を考えて本当の事を告げた。
愛は何も言ってこない。横にいる愛を見ると下を向いていて顔が
見えなかった。
「愛?」
「・・・・あさ美ちゃん?好きな人って」
かすかに愛の声が震えてる感じがした。
「うん、そうだよ」
私は普通に答えて、コートを羽織った。愛は何も言わないし、顔を上げない。
・・・どうしたのかな・・・。
「愛、帰ろう?」
「ごめ・・・ん。先帰って・・・」
この時、愛はボロボロに泣いていた事がわかった。
- 157 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)21時13分49秒
- 先に帰ってと言われてもそんな愛を放っておけず、立ち尽くした。
「・・・帰って・・・お願い・・・」
愛は私に背を向けて、泣きながらそう言った。
私は何で愛が泣いてるのかも、何でそう言うのかもわからなくて
仕方なく、先に帰った。
帰り道、私は愛のことを考えていた。
・・・何で泣くんだ?・・・・何で・・・。
気が付くと家のマンションに着いていた。エレベーターで上に向かう。
「あさ美ちゃん家、寄って行こうかな」
渡すプリントもあった事に気付いて、私はあさ美ちゃん家の扉へ向かった。
インターホンを押す。
ピンポーン。
数秒後、ガチャガチャと扉が開けれた。
そこにいたのはパジャマ姿のあさ美ちゃんがいた。
「麻琴ちゃん!?」
「おーす、風邪ひいたんだって?」
「うん・・・上がってよ」
「いいよ、プリント渡しに・・・」
私はカバンからプリントを出そうとしたら。
「いいから、ね?」
あさ美ちゃんは私の手を引っ張って中に入れた。
- 158 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)21時23分35秒
- どうやら聞くところによると今はあさ美ちゃんしか家にいないらしい。
両親は仕事で忙しく、今日は夜中まで帰れないとのこと。
・・・おいおい、子供が風邪ひいてるのに・・・。
私はリビングのソファに座っていた。もう自分の気持ちがはっきり
しているため、心臓はドキドキしっぱなしだ。
「紅茶でよかった?」
「あぁ、うん」
紅茶の入ったカップをあさ美ちゃんは持ってきた。それを渡され、
一口飲んだ。
「大丈夫?熱とか・・・」
「大丈夫だよ、明日は学校行くし」
・・・あんま大丈夫そうに見えないんだけどなぁ。
「今まで寝てた?」
「うん」
「そっか、ごめん。いきなり来て」
「いいよぉー、1人だったから寂しくて」
・・・やばい、心臓が破裂しそうだ。
「麻琴ちゃんに会いたかったし・・・」
あさ美ちゃんは顔を赤らめて言うから期待しちゃうよ。
それから今日、学校で授業の進みぐあいや部活の事やら話していた。
- 159 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)21時32分22秒
- 「あ、もう7時だ。帰らないと・・・」
私は立ち上がってカバンを持った。
「・・・帰らないで」
小さく消えてしまいそうな声が聞こえた。
カエラナイデ。
あさ美ちゃんは私に抱きついてきた。
・・・・ねぇ、期待しちゃうよ?
「あさ美ちゃん・・・・」
言ってもいいかな、自分の気持ち。でもただあさ美ちゃんは寂しいだけ
なのかな。
中々離れないあさ美ちゃん、温かい体温が伝わってくる。
「・・・帰らないで・・・」
その言葉を聞いて、私はあさ美ちゃんをすぐに抱きしめた。
「あのさ・・・何か好きになっちゃったんだ・・・」
勢いにまかせてついに告白をした。
駄目でもいい。
あなたが寂しいだけで、私に何の感情もなくても。
寂しいのを紛らわす道具でも。
そばにいたい。
それだけでも、いいんだ。
- 160 名前:New 投稿日:2003年02月08日(土)21時40分30秒
- 「・・・私も同じだよ・・・」
あさ美ちゃんの返事。私は耳を疑った。
「ほんと・・・?」
「うん・・・好きじゃなかったら帰らないでなんて言わないよ」
嬉しくて、抱きしめる力を強くした。
今日はあさ美ちゃん家に泊まる事にした。家に帰り、お母さんに言ったら
『じゃぁ、この肉じゃが持っていきなさい』
とタッパーに肉じゃがをつめて渡してくれた。
私はジャージに着替えて、すぐあさ美ちゃんのとこへ戻った。
「あさ美ちゃん、ただいま〜」
「おかえりー」
「ごはんまだでしょ?お母さんが肉じゃがくれたんだ」
「やったー」
それから2人で夕食にした。
すっかり愛の事を忘れている事に私は気づかなかった。
そして携帯がなっている事にも気付かなかった。
『着信8件 愛』
携帯に気付いたのは寝る時だった。
- 161 名前:New 投稿日:2003年02月09日(日)18時43分18秒
- 「・・・・愛?」
「どうしたの?麻琴ちゃん」
「ごめん、先に寝てて。電話するから」
私はあさ美ちゃんの部屋を出て、すぐに携帯で愛に電話した。
プルルルルル・・・・。
『───はい』
「愛?ごめん、電話気付かなくて」
『・・・麻琴ぉ、会いたいよ・・・』
「あ、愛!?どうした?」
愛が急に泣きそうな声になって私はかなり焦った。
「・・・えっと、あの、私さぁ、愛が何を言いたいか全然
わかんないんだ・・・ごめん」
『・・・とにかくすぐ会いたい。会って言うから』
そう言うと愛はすぐに電話を切ってしまった。私は困って、とりあえず
あさ美ちゃんの部屋に戻った。
「あ・・・起きてた?」
あさ美ちゃんはベットの中で本を読んでいた。
「うん、どうしたの?」
あさ美ちゃんは本を閉じて私に視線を向ける。私は中々言えなくてしばらく
沈黙が続いた。
・・・でも、今の愛は放っておけないよなぁ。
私は心に決めて、言おうとした。
- 162 名前:New 投稿日:2003年02月09日(日)18時54分24秒
- 「ごめん、ちょっと出かける」
私はそう言って部屋を出ようと扉に向かった。
「え!?ちょ、何で?」
あさ美ちゃんはベットから出てきて私の目の前に来た。
目は涙目になっていて、今にも泣き出しそうな顔で見てくる。
「何処行くの?あ、家に用事?」
「違うんだ・・・愛がさ、変なんだ」
「愛ちゃん・・・が?」
「うん、さっきの電話、愛でさ。急に会いたいなんて言うんだ」
私はあさ美ちゃんの横をすり抜けて扉を開けた。それをあさ美ちゃんが
止めようとする。背中に抱きつかれて、私は動けなくなった。
「嫌だよ、帰らないって言ったじゃん」
「あさ美ちゃん・・・」
いつもより強気なあさ美ちゃん、これじゃいつまでたっても愛の所へ
行けない。私はあさ美ちゃんを離して、前から抱きしめた。
「大丈夫、ちゃんと戻るから。ほら、あさ美ちゃん風邪ひいてんだから
ちゃんと寝ないと・・・ね?」
私はあさ美ちゃんをベットの方へ誘導して寝かせた。頭をなでる。
あさ美ちゃんはやっと私の手を離してくれて、目をつぶった。
数分後、私はジャージのまま出た。
- 163 名前:New 投稿日:2003年02月09日(日)19時05分50秒
- エレベーターで下りて、自転車置き場にある自分の自転車を出して
いそいで愛の家へ向かった。
現在時刻、午後11時。もうあたりは真っ暗で、頼りなるのは街灯ぐらいだ。
愛の家は近いからすぐ着いた。愛に電話をかける。
プルルルル・・・・ガチャ。
「愛!?窓の外見て!来たから」
愛の部屋は明かりがついていて、すぐにカーテンが開けられる。
『麻琴・・・・ホントに来てくれたんだ・・・?』
「何言ってんの、当り前じゃんか」
吐く息は白くて、すごく寒かった。それを察した愛がすぐに家へ
入れてくれた。
「ごめんね、麻琴」
「ううん、今日の愛、変だったし。私もちゃんと聞いてあげなかったしね」
愛の部屋まで静かに歩く。普通こんな時間帯に家に来られたら迷惑だ。
なるべく音を立てないように気をつけて歩く。
「寒かったでしょ?入って」
「うん、・・・でもそんなのんびりしてらんないから・・・・」
愛の部屋は久しぶりに来た、でも相変わらずシンプルな部屋だ。
淡い色の物が多くて、そんなごちゃごちゃしてない部屋。前来た時と
同じだ。
「もし良かったら泊まってってもいいよ?」
「いや、待ってる人がいるから、終わったら帰るよ」
- 164 名前:New 投稿日:2003年02月10日(月)16時48分09秒
- 「待ってる人・・・?」
愛は不思議そうに見てきた。
「今日ね、あさ美ちゃん家言ったらあさ美ちゃんしかいなくてさ」
私はそう言って、適当にその場に座った。
「そっか・・・」
愛は短くそう言って、ベットの方に座った。それから愛は黙っていて
私はそばにあったクッションをいじっていた。
「麻琴ぉー・・・」
「んー?」
「隣に座って」
そう言われて、愛の隣に座った。一体愛が何を考えてるのかわからない。
そして愛は頭を私の肩にのせてきた。
「あ、愛・・・?」
「・・・何でそんな優しいの・・・」
顔を私の肩につけて言う。
・・・優しい?誰が?私?
わけがわからなくて黙っていると、突然押し倒された。
「あ、愛!?どうした・・・」
肩を押され起き上がれなくて、私は愛を見上げた。愛は涙を流しながら
私を見ていた。
「麻琴の事が好き」
「え?」
「好きなんよー本当に」
愛の涙が私の頬に落ちる。
- 165 名前:New 投稿日:2003年02月10日(月)16時59分58秒
- ボロボロと泣いて私の肩に愛は顔を押し付ける。私は身動きが取れなかった。
「だ、だって愛は・・・吉澤先生の事・・」
「あれはぁ、・・・麻琴の反応が見たくて・・・」
私は愛の頭をなでた。本当は突然の告白に思いっきり動揺してる。
でも今は愛を落ち着かせる事が大切だ。
「・・・帰さない、麻琴は離さない」
「愛〜、困るよ・・・」
「だって、麻琴が好きなのはあさ美ちゃんやろ!?」
「・・・あーそうだよ」
「否定しないんや・・・」
「・・・言っとくけどもう付き合ってんだ」
そういい終えた瞬間愛の手の力が強くなった。私は愛を見ると
だんだん愛の顔が近づいてくる。
・・・ちょ、何すんだ。
「ま、待って、愛。やめて」
「嫌、キスする」
・・・ピンチです。仕方ない・・・。
私は愛を力強く押した。もちろん愛は後ろに倒れる。
倒れる前にすぐ起き上がって支える。
「愛・・・ごめん。私が好きなのはあさ美ちゃんだから・・・」
そっと愛を抱きしめた。
- 166 名前:New 投稿日:2003年02月11日(火)21時31分19秒
- 「何で!?何で優しくするん!?嫌なら嫌だってはっきり言ってよ!
抱きしめたりしないでよ!!」
愛は泣き叫んで言った。私はかまわず抱きしめていた。
「・・・んな事できるかよ、愛は大切な親友じゃん・・・」
私がそう言うと愛はピタッと叫ぶのを止めた。
「私は、親友を失いたくない」
「親友・・・・?」
「うん、親友」
「これからも・・・ずっと?」
「そう、これからもずっと」
そして愛は黙っていた。私は愛を離して、部屋を出た。静かに
愛の家を出て、自転車に乗ってあさ美ちゃんのもとへ急いだ。
───まさか愛が私を好きだなんて。
自転車をかなりのスピードでこぎながら思った。
何で気付かなかったんだろう?
・・・・でも、私は愛をずっと親友だと思ってる。
確かに好きだ、けどそれは恋愛とは違う意味を持ってる。
「・・・これでいいんだよ、愛の為にも」
自分が中途半端な事を言えば、傷つくのは愛、そしてあさ美ちゃんもだ。
それだけは嫌だ。自分は傷ついたってかまわない、けどあの2人は
傷ついて欲しくない。だからはっきり言う方がいいのだ。
私は自転車を置いて、マンシャンの中に入った。
- 167 名前:New 投稿日:2003年02月12日(水)17時03分54秒
- げっ・・・もう1時かよ。
携帯の時刻を見ると、もう日は変わっていた。私は眠くてしょうがなかった。
ピンポーンとあさ美ちゃん家のインターホンを押す。
「麻琴ちゃん!」
「ごめんねぇ、遅くなって〜・・・」
ふらふらと歩いて中へ入る。
「愛ちゃん、どうだったの?」
「あー、何か大丈夫みたい」
「何だったの?」
「や、ちょっと精神が不安定というか・・・」
もごもごした口調で私は言った。何となく言いにくかったのだ。
あさ美ちゃんはそれ以上何も聞かず、「早く寝よ?」と言ってベットに
入った。私もベットへ入り、横になった。
「もぉ〜・・・びっくりしたよ」
「ごめん、もういるから」
ちょっとご機嫌ななめなあさ美ちゃんの頭をなでる。
するとすぐに笑顔になって「許す!」と言うあさ見ちゃんだった。
- 168 名前:New 投稿日:2003年02月12日(水)23時06分48秒
- 翌朝、あさ美ちゃんの体調も良くなっていた。これなら学校へ行っても
大丈夫そうだ。
「んじゃ、着替えてくるね」
私は一旦着替えやら支度やらで自分の家に戻った。5分後、再びあさ美
ちゃん家に行く。
「おーし、行きますかぁ」
「行ってきま〜す!」
元気よく家を出て、学校へ向かった。
今日の天気は快晴。最近よく晴れの日が多い。
「今度の日曜日、遊び行こうよ」
ふとあさ美ちゃんが言った。
「んー・・・次の日曜かぁ」
「ダメ?」
「部活で練習試合があるんだよねぇ・・・市井先生がはりきってて
こないだいきなり『練習試合入れたからなー、絶対勝てよー』だもん」
全く、ほんとに勝手な先生だとつくづく思う。
横を見るとしゅんと落ち込んだあさ美ちゃん。
「そうだよねぇ、何かそんな事言ってたよね」
「まぁ、あさ美ちゃんも来ないと。マネージャーなんだから」
あさ美ちゃんがマネージャーやってるから毎日一緒にいられる。
別に何処かへ行かなくても一緒にいるんだから私はそれだけで
嬉しいのだ。
- 169 名前:New 投稿日:2003年02月12日(水)23時15分43秒
- 学校について、教室へ向かう。
・・・愛、来てるかな。
私は愛に会ったら何て言おうか考えた。普通に接した方がいいと思うけど
やっぱ失恋したわけだし、相手は私だし。
傷ついてるのは当然で、他に慰めてくれる人は・・・多分いないと思う。
愛はいつも私と一緒だったから、1番仲がいいのは私だから、他の友達には
言わないと思うし。
・・・ぐわぁぁぁ〜、どうすりゃいいんだぁー。
「あ、愛ちゃん!おはよう」
あさ美ちゃんの声が横から聞こえた。おそるおそるそっちを見ると
目が真っ赤で泣きましたと言わんばかりの愛がいた。
「おはよぉ、あさ美ちゃん、麻琴」
声のトーンはいつもよりはるかに落ちていた。
「おはよう、愛」
私は普段と同じく愛に挨拶をした。心臓がバクバクいってる。
「愛ちゃん、目真っ赤だよ?」
「んー、大丈夫やわぁ」
2人はいつもと同じ雰囲気だった。
・・・なんだ・・・普通じゃんか。
私は安心して自分の席についた。
- 170 名前:New 投稿日:2003年02月12日(水)23時25分54秒
甘かった。
私の考えが甘かった。
全然、普通なんかじゃなかった。
あれから2人共何もしゃべらないし。私はその間でオロオロしてるだけだし。
お昼ご飯も、結局3人で食べたんだけど何かしゃべってるの私だけだし。
・・・・疲れた、こんなに疲れたの初めてかも。
私は5時間目の授業を保健室でさぼっていた。具合が悪いと偽って授業を
抜け出して、ベットで寝ている。
「あれー?誰かいるんだべさ?」
安倍先生が保健室に入ってきた。
「はーい、私でーす」
「あぁ、小川か。珍しいじゃん」
「いやー、色々と疲れまして」
「元気そうに見えるけど・・・?」
「心が、です」
「ほぉー?まぁ、これでも飲むべさ」
安倍先生は私に紅茶を出してくれた。私は起き上がって受け取り
一口飲んだ。
「それで?部活の事?勉強の事?」
「へ?」
「疲れたっていう理由」
「あー・・・」
- 171 名前:New 投稿日:2003年02月13日(木)17時22分22秒
- 私はベットから下りて安倍先生の机の隣のソファに座った。
安倍先生は机で何やら書いている。
「部活は楽しいですよ、市井先生が来てくれてるし。
勉強は何とかやってるし」
「あ〜聞いたよ、小川、学年で5番だって?順位」
「あーはい」
「やるじゃん」
「どーも・・・」
何か話がずれてるような・・・。
私は紅茶を見ながら話を続けた。
「何ていうか、友達が・・・ケンカして、2人共しゃべんなくなっちゃった
ていうか・・・」
紺野あさ美ちゃんと付き合ってます、なんて言える訳がない。
「あちゃー、そりゃ大変だねぇ」
安倍先生はあははと笑いながら言う。私もつられて笑う。
「もぉ、どうしたらいいかわかんなくて」
「うーん、それはもう放っておくしかないんじゃない?」
保健室の窓から風が吹き込んだ。カーテンがそのせいで揺れる。
「放っておく・・・?」
「そ、だって小川が間に入ってもどうせすぐに仲良くなんないべさ。
だったら待つしかないよ」
- 172 名前:New 投稿日:2003年02月13日(木)19時22分33秒
- なるほどー・・・。
そりゃそうなんだけど、ケンカの内容が私絡みだからなぁ。
こればかりは安倍先生に言えない。
私は「ん〜」と悩んで、結局。
「まぁ、頑張ります」
と苦笑いしながら言った。安倍先生はいつもの優しい笑顔で
「そっか、でもあんま深く考えちゃダメだべさ」
「はぁーい」
そこでちょうどチャイムがなり、5時間目が終わった事を知らせた。
私はお礼を言って保健室を出て、教室へ向かう。ゆっくりと階段を
上る、他の生徒達がばたばたと階段を下りていく。
ふぅ・・・・。
「麻琴ぉー!!」
「麻琴ちゃん!!!」
ふと上を見ると愛とあさ美ちゃんがいた。私は苦笑いして2人のもとに向かった。
「どうしたん!?さっきの授業いないし・・・」
「具合悪いの!?そういえば、何か顔色よくなかったし・・」
2人はそうとう心配していたようだ。
- 173 名前:New 投稿日:2003年02月13日(木)19時33分51秒
- 「ん、大丈夫。眠たかったから、寝てきた」
私はそう答えて、教室へ歩いた。後ろでは2人が何やら騒いでいる。
かまわずに教室の扉を開けて中に入る。
「麻琴ー、これさっきの授業で使ったプリント」
クラスメイトが気をつかってくれた。私は「ありがとー」と笑顔で言う。
たまには他の子としゃべるのも悪くないなと思い、そのままその子と
しゃべっていた。
「麻琴!ほんとに大丈夫なん?」
「麻琴ちゃん、まだ休んだ方が・・・」
すぐにあの2人が私の後ろで騒ぎ始める。
あぅー・・・・どうすりゃいいんですかぁ〜。
「あさ美ちゃん、麻琴のことは私にまかせてぇ」
「愛ちゃん、麻琴ちゃんは私のです」
さりげなく・・・あさ美ちゃんすごいこと言ってるよ?
どうやら愛は諦める様子はなさそう。
私はそっとその場から立ち去り、ガバンを持って早退する事(サボリ)にした。
「「あ〜!!!」」
すぐに2人に見つかってしまう。私は走って逃げた。
初めての恋に気づいて。
親友の気持ちを知って。
これからどうなるのでしょうか?
とりあえず────────
愛されていることは、幸せです。
END
- 174 名前:New 投稿日:2003年02月13日(木)19時36分53秒
- 『初恋』終了です。小紺よりもいしよしの方が上手くできたような・・・。
次は市井ちゃんでいきます。まだ誰と絡ませるかは決めてませんが。
いしよしも出します。
ではでは。
- 175 名前:New 投稿日:2003年02月14日(金)17時05分28秒
The Vast expanse of pacific Ocean
あなたは海の綺麗な貝殻
The Vast expanse of pacific ocean
わたしはここで海を見ているわ
『Na−Mi』
毎日、幸せで仕方なかった。
好きな人と一緒にいられる事がどんなに幸せか。
紗耶香に会って、正直感じたよ。
「矢口ぃー、行ってくんね」
紗耶香は上着を羽織りながら玄関へ向かっていく。オイラはその後を
とてとてと、ついて行った。
靴を履き終えた紗耶香がオイラを抱きしめる。いつものように軽くキス。
「夕ご飯何がいい?」
「んー、オムライス食いたい」
「オッケー、早く帰ってきてね」
「おう、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい!!」
元気よく紗耶香は家を出た。
- 176 名前:New 投稿日:2003年02月14日(金)17時19分39秒
- オイラは矢口真里、大学生。一緒に住んでるのは市井紗耶香、オイラの
恋人。紗耶香は学生じゃなくてバイトしてる。
紗耶香と出会ったのは、海だった。
去年の夏────。
オイラは失恋して、夕方に浜辺にいた。
『あー、ふられちゃったー・・・』
砂浜に座ってただ海をぼーっと見ていた。海は夕日の光を反射し
キラキラと輝いていた。それからどれくらいたっただろう?
ふと気付くと、もう空は暗くなり始めていた。
『・・・どうしたの?』
いつまでもそこにいるから誰かが話しかけてきた。それが紗耶香だった。
『え?あ・・・ちょっと失恋しちゃって・・・あはは』
オイラは無理に笑ってみせて立ち上がりその場を去ろうとした。
紗耶香の横を通り過ぎようとした時、ぎゅっと腕を左掴まれた。
『涙、出てる』
『え・・・?』
オイラは右手で頬を触って見ると涙で濡れていた。全然気付かなかった。
それに気付いたら急に何かが込み上げてきて次々と涙が溢れ出た。
紗耶香はオイラを抱きしめてくれて。
『泣きなよ・・・』
オイラは紗耶香の腕の中で思いっきり泣いた。
- 177 名前:New 投稿日:2003年02月14日(金)17時33分20秒
- 思いっきり泣いたらすっきりした。もう空は星が輝いていて綺麗だった。
『ありがと、もう大丈夫だから』
オイラは泣き腫らした目で笑って紗耶香にお礼を言った。そして電車に
乗ろうと、駅の方へ歩き始めた。
『・・・あのさ!』
急に紗耶香が呼び止めた。オイラは何事かと思って振り返った。
『私、市井紗耶香!』
『え?あぁ、オイラ、矢口真里』
『また・・・会えるかな?ここらへんに住んでるんだ』
紗耶香は照れくさそうに言った。オイラは嬉しくなって大声で言う。
『うん!またね!』
────それがオイラと紗耶香の出会い。
それからオイラは紗耶香が住んでる所の海へよく行くようになった。
待ち合わせてもないのに、紗耶香はよく海にいた。
『趣味?サーフィン』
『へぇー、だから海によくいるんだね』
紗耶香はサーファーだった。サーフィンをよく見せてくれた。
『オイラにもできるかなぁ?』
『矢口に?無理だって、ちっこいからすぐ落ちちゃうよ』
『うっさいなー小さくない!』
いつの間にかオイラは紗耶香しか見てなかった。今思えば、会った頃から
好きになってたかもしれない。
- 178 名前:New 投稿日:2003年02月14日(金)17時44分52秒
- 『あのね・・・紗耶香、好きです』
オイラは思い切って告白をした。紗耶香は笑顔で
『私も矢口好き』
と言ってくれた。
一緒に住むようになったのは半年後だ。紗耶香の住んでいる所が気に入った
オイラは紗耶香の家に引っ越してきた。もともと一人暮らしをしているから
誰も反対する人はいない。家族とは別々に暮らしているのだ。
そして今に至る。
「そろそろ、行くかなー」
オイラはこの家から大学へ通っている。戸締りを確認して家を出る。
鍵を閉めて、海沿いを歩いた。
「ん〜、いい天気ー」
今日はとてもいい天気だ。秋の季節だが日差しはまだ暑い。
紗耶香はたまにオイラを放っておいてサーフィンしに海へ出かける。
最近、サーフィン繋がりの友達ができたってこないだ言っていた。
名前は確か・・・吉澤ひとみだったかな?
- 179 名前:New 投稿日:2003年02月14日(金)17時59分02秒
- 吉澤さんことよっすぃー(勝手にあだ名をつけた)には可愛い彼女がいる
らしい。紗耶香が『ホント可愛いんだよ、マジで』と騒いでいた。
あんまりにも騒ぐのでクッションを投げつけてやった。見事命中。
よっすぃーと紗耶香はバイトで知り合ったらしい。
駅につくと丁度電車が来た。その電車に乗って大学へ向かう。
携帯を見るとメールが一通きていた。
<今夜、うちに吉澤と吉澤の彼女が来るから。夕飯4人分作って。市井>
「もぉ、勝手なんだから」
とわ言いつつもホントは嬉しいんだけどね。
・・・よっすぃーと彼女が来るのかぁ。どんな人なんだろ〜♪
わくわくした気持ちで浮かれながら紗耶香へメールを送る。
- 180 名前:New 投稿日:2003年02月15日(土)15時52分09秒
<勝手なんだから〜、わかった。作って待ってるよ。矢口>
「送信っと・・・」
ボタンを押して送信した。窓から流れる景色を見る。
電車が到着して、下りるといろんな人が足早に自分の目的地へ向かってく中に
まぎれ込んだ。相変わらず人が多い。
オイラは駅の階段を上がって、大学へ行く。大学は駅からすぐ近くだ。
「帰りにスーパー寄って・・・」
もう夕飯の事を考えながら歩く。
ここに住んでいた頃、毎日が楽しくなかった。いや、別に普通で
何も変わらない毎日が不満だった。
だから、失恋した去年の夏に家を飛び出してあの今住んでるとこの海へ
来たんだ。
そして紗耶香に出会って────全てが変わった。
紗耶香と一緒に住んで、紗耶香の為にご飯作ったり、洗濯したり。
「今日は、レポ提出だったよなぁ〜」
大学へ入りながらカバンの中をあさる。
・・・あー、早く終わんないかなぁ。
- 181 名前:New 投稿日:2003年02月15日(土)16時01分25秒
- 長い大学の授業もやっと終わり駅へ向かう。電車に乗って
携帯をちょっと見た。メールが入っていた。
<やっほぉ〜元気?なっちは元気だよー。今度あそぼーねー。なっち>
なっちは高校時代の友達。大学は別々になっちゃったけど今でも大事な
友達だ。お互い忙しいし、オイラは引越したから全然会えなくなっちゃった
けど。
<元気だよ〜、今度うちにおいでよ!海見れるよー。矢口>
なっちにメールを送信して、数分後電車は到着。
帰り道にスーパーに寄って材料を買った。
「4人分作るなんて久々だなー」
スーパーのビニール袋を持って海沿いを歩くと、もうすぐ夕日が
沈む頃だ。犬の散歩をしている人が何人か浜辺にいた。
家について、鍵であけて中に入る。まだ紗耶香はいなかった。
「さて!作りますか!」
はりきってエプロンを着て、キッチンに立った。
- 182 名前:New 投稿日:2003年02月15日(土)20時50分40秒
- オムライスを作り始めて今の時刻もうすぐ7時30。ガチャと玄関の
扉が開くの音が聞こえた。
「ただいま〜、連れて来たぞ〜」
オイラはすぐにキッチンから玄関へ走っていく。
「おかえり〜!!」
紗耶香の後ろにはよっすぃーと彼女さんが立っていた。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」
「どうぞ〜!もう夕飯出来てるから」
それからオイラの作ったオムライスを食べて、ちょっとお酒も飲んだり
していろいろしゃべった。彼女さんの名前は石川梨華ちゃん。
とても気が利く優しい子だ。
「んじゃ、片付けるねー」
オイラがお皿を持って立ち上がったら。
「あ、私も手伝います」
と梨華ちゃんが言って手伝ってくれた。
いろいと盛り上がっていたら時間は11時過ぎていた。今度みんなで
海で遊ぼうという約束をした。
「じゃ、今日はありがとうございました」
「すみません、ご馳走になっちゃって」
「いいって、また来なよ。ね、矢口」
「うん、もちろん!」
そして2人は帰っていった。
- 183 名前:New 投稿日:2003年02月15日(土)21時08分05秒
- テーブルに置いてある空の缶ビールやらグラスを片付ける。
「よっすぃーってかっこいいね、綺麗な顔してるのに男っぽくて」
オイラは初めて見たよっすぃーについて話していた。紗耶香はソファに
寝転んでぐだぐだしてる。
「紗耶香ぁー、ちょっとは手伝ってよね、もう」
集めた缶ビールとグラスを持ってキッチンへいく。
「あーあ、よっすぃーだったら手伝ってくれるのになぁ」
グラスを洗いながら呟いてみた。すると後ろから抱きしめられた。
「紗耶香ぁ、邪魔」
「・・・・」
黙っている紗耶香。オイラはかまわず洗い物を続けた。
「・・・紗耶香、妬いてんの?」
「んなわけねーだろ、バカ」
洗い物もすんで、もうキッチンに用はないから動きたいけど紗耶香のせいで
動けない。ちょっと力強く押して離れようと試みたけど無駄だった。
「離してよ〜」
「嫌だ」
後ろから抱きしめられた状態。紗耶香はいきなり首にキスをしてきた。
「ひゃあ!?紗耶香ぁ〜、びっくりするじゃん」
「お前がー、よっすぃーよっすぃーって言うから悪いんだぞ」
・・・なんだ、やっぱ妬いてんじゃんか。
- 184 名前:New 投稿日:2003年02月16日(日)14時04分34秒
- ヤキモチを妬きたくはないが妬かれるのは嬉しい。オイラは紗耶香の方を
向いて抱きしめた。
「大丈夫、オイラが好きなのは紗耶香だけだから」
そう言って紗耶香のほっぺに軽くキスをした。そしたら紗耶香が照れまくってて
おかしくて笑ったら怒られた。
日曜日、よっすぃー達と遊ぶ事になった。場所はいつもの海。
よっすぃーと紗耶香はサーフィンをしていて、オイラと梨華ちゃんは
浜辺で紗耶香達を見ていた。
「うわー、よっすぃー上手いねー」
「市井さんの方が上手ですよ、ひとみちゃん始めたばっかだし」
浜辺でお城を作ろうという事になって、梨華ちゃんと大きい山を
作り始めた。今は午前10時ぐらい、だけど人は私達以外いなかった。
夏はもうとっくに過ぎていて今の時期は秋。だから海に来る人はいない。
少し強めの風が私達の髪をなびかせる。
お城作りに夢中になっていたから紗耶香達が海から上がってきた事に全く
気付かなかった。
「何してんの?」
「うわぁ!?もぉ、びっくりさせんなよー」
紗耶香がいきなり横にいたのでびっくりして少し崩してしまった。
「お城?」
「うん、そうだよ。ひとみちゃん」
向こうは相変わらずラブラブだ。
- 185 名前:New 投稿日:2003年02月16日(日)18時56分13秒
- 「紗耶香、よっすぃー着替えてきなよ。昼ご飯にしよー」
オイラがそう言うと『昼ご飯』に反応したのか2人はダッシュで
着替えに行った。今朝、梨華ちゃんとオイラで作ったお弁当。
シートを適当にひいて、お弁当を広げた。
「何か楽しいですよね、こーゆーのって」
梨華ちゃんはカバンから水筒を出しながら言った。
「そうだね、あんまやんないもんねぇ」
オイラがお弁当のふたを開けた頃、紗耶香とよっすぃーは何を
競ってるのか、ダッシュで帰ってきた。
「うわぁー、うまそ〜」
「ホントだ〜」
2人はお弁当にしか目が入っていないようでオイラ達は無視。
ま、それはそれで作ったかいがあったもんだ。
「「いっただきまーす!!」」
早速おにぎりに手をつける2人。オイラと梨華ちゃんも食べ始めた。
お弁当は好評であっという間に無くなった。
「ふぅー、おいしかったぁ」
「よっすぃー、ちゃんと口ふいてよ」
「矢口ぃ、お茶」
「自分で入れろよなぁ」
楽しい時間はあっというまに過ぎていく。
- 186 名前:New 投稿日:2003年02月19日(水)21時09分33秒
- 時刻はすでに夕方、みんなで浜辺に座って夕日を見ていた。
「あー、疲れたぁー」
紗耶香は後ろに身体を倒して寝転んだ。それからしばらくして
帰ろうという事になった。
「じゃ、また」
「おう、またなー」
よっすぃー達を見送ってオイラ達は家に向かって歩き出した。
紗耶香が何気なく手を出していて、オイラは嬉しくてすぐにその手を
握った。
「矢口、腹減った」
「わかった、帰ったら何か作ってあげるから」
こうして家についた。
紗耶香は強い人で一度もオイラは弱みを見た事が無かった。
優しくて不器用な紗耶香が大好きだ。紗耶香の過去なんて知らなくても
オイラは愛していける自信がある。
でもさ・・・・。
昨日の夜の事だった。
プルルルルル・・・・。家の電話が鳴り響いた。
紗耶香がお風呂に入っていたので変わりにオイラが電話に出たんだ。
「はい、もしもし」
『え?・・・あの・・・』
相手は知らない女の声だった。いや、紗耶香にだって友達はいるんだから
オイラが知らないって事もある。
- 187 名前:New 投稿日:2003年02月19日(水)21時18分01秒
- 「あ、紗耶香なら今お風呂に入ってて・・・」
『いちーちゃん、お風呂?じゃ、出たら後藤から電話があったって
伝えて下さい』
「あ、はい・・」
電話は向こうから切られた。オイラは何だか胸騒ぎがしてしばらく
その場に立ち尽くしていた。すぐに動けなくて受話器を手に握り締めたまま。
「矢口?電話?」
紗耶香がタオルで頭をがしがしふきながら出てきた。
「あ・・・後藤さんっていう人から」
オイラは何か紗耶香の目を見れずに言った。
・・・ただの友達、だよね。
自分にそう言い聞かせながら受話器を元に戻した。手がかすかに震えてる。
「後藤・・・?後藤が?」
「う、うん」
紗耶香をおそるおそる見ると妙に落ち着きが無い。驚いた顔をしている。
すぐに自分の部屋に入っていった。オイラは気になって紗耶香の部屋の
扉に耳をつけた。
・・・・例えば、昔の後輩だったとか・・・久しぶりだから、あんな
急いでるんだよね・・・。
無理矢理そう納得させている自分がいた。
- 188 名前:New 投稿日:2003年02月21日(金)17時08分16秒
- 『あ、後藤?何だよ、いきなり』
扉の向こうから紗耶香の声が聞こえた。その声がオイラには嬉しそうな
声に聞こえた。
『あぁ・・・明日?バイト終わったらいいよ、・・・ん、わかった』
どうやら会う約束をしたらしい。オイラは辛くなって紗耶香の部屋の
反対側にある自分の部屋へ駆け込んだ。
バタンと扉を閉めてへにゃへにゃとその場へ座り込んだ。
・・・誰?後藤さんと紗耶香の関係って何・・・?
あの紗耶香の嬉しそうな声。
────前に付き合ってたとか────?
そう思った瞬間、涙が溢れた。何で涙なんか出るんだろう?
流したくないのに、紗耶香が過去に誰かと付き合ってたなんて
気にしないって思ってたのに。
数分後、鏡を見たらひどい顔してる自分が映った。こんな顔、紗耶香に
見せられない、笑顔でいなきゃと思って扉の鍵をかけてベットの中にもぐった。
- 189 名前:New 投稿日:2003年02月21日(金)17時16分13秒
- 目をつぶってうずくまっていると紗耶香の部屋の扉が開けられる音が
聞こえた。多分、電話が終わったんだろう。
「あれ?矢口〜?何処〜?」
リビングにいるはずのオイラがいない事に気付いた紗耶香は家の中を
探し回っているようだ。
「部屋・・・?おい、矢口?入るよ?」
ガチャとドアノブを回す音がしたけど鍵かけてんだから開くわけがない。
「鍵・・?矢口、どうした?」
コンコンとノックしてるみたいだけどオイラは動こうとはしない。
動きたくない、紗耶香の顔を見れない。
「・・・寝てんのかな」
紗耶香はそう呟いて自分の部屋へ戻って行ったみたいだった。
しばらくしてオイラの携帯がなった。
<どうした?寝てる?>
「・・・紗耶香ぁ」
ホントは後藤さんとはどうゆう関係なのか気になってしょうがない。
でも・・・聞くのが怖い。
- 190 名前:New 投稿日:2003年02月21日(金)17時25分02秒
- オイラはそのメールの返信はしないで無理矢理眠った。
そして翌朝。
「ん・・・あ!学校!!!」
ベットから飛び起きて急いで着替えようとした。ふと時計を見ると
AM6:12だった。
「なんだ・・・まだ余裕じゃんか」
はぁ〜とため息をついて、扉の鍵を開けて部屋から出た。
・・・まだ寝てるのかな。
紗耶香の部屋の前を静かに歩き、リビングに行った。テーブルの上に
1枚紙が置いてあった。
<行ってきます。今日はちょっと遅くなる。 市井>
「もう行っちゃったんだ・・・」
今更、鍵なんてかけなきゃ良かったと思った。こんな紙じゃなくて
紗耶香の声で聞きたかった。行ってきますって。
オイラは力が抜けたように歩いて支度をし、ご飯を食べた。それから
学校に行き、授業を受けたけど何だか覚えていなかった。
帰りにスーパーに寄った。そしたら梨華ちゃんも買い物に来ていた。
- 191 名前:New 投稿日:2003年02月21日(金)17時36分25秒
- 野菜コーナーの前で梨華ちゃんは何やら悩んでいるよう。オイラは
後ろから静かに近づいた。
「梨ー華ーちゃん!」
「きゃぁ!?や、矢口さん!?」
想像どおりの反応にオイラはちょっと満足した。
「買い物ですか?」
「うん、梨華ちゃんも?」
「そうなんですよ。ひとみちゃんがどうしてもシチューが食べたいって
言うんです」
梨華ちゃんは困ったように、でも嬉しそうに言った。
いいなぁ〜、幸せそう・・・・。
オイラだって幸せだ、でも『後藤さん』が出てから何か不安があって
幸せって思えなくなった。
「梨華ちゃんはよっすぃーが友達と2人っきりで会うとしたらどうする?」
オイラと梨華ちゃんは小さな公園のベンチに腰かけていた。
「えー・・・嫌ですね」
「友達でも?」
「はい・・・別に信じてないわけじゃないけど嫌ですね」
- 192 名前:New 投稿日:2003年02月21日(金)17時45分10秒
- やっぱそう思うよなー・・・。
「実際、あった?そーゆー事」
「え?・・・ありましたよ」
「その人とはどうゆう関係なのよ!とか聞いた?」
「ええ、もちろんです」
満面の笑みで梨華ちゃんは言った。ちょっとえばってるように見えた。
・・・すげぇ、聞いたんだ。
「だって、もし前に付き合ってた人だったら嫌だし、気になって眠れないし」
そう、昨日は全然寝た気がしなかった。今日のオイラはかなりの寝不足だ。
「矢口さん・・・市井さんと何かあったんですか?」
梨華ちゃんがそう聞いてきたのでオイラは全てを梨華ちゃんに話した。
「それは聞くべきですよ!このままじゃ気になって壊れちゃいますよ」
と梨華ちゃんはそう言った。何だか説得力がある・・・経験の違いか?
オイラの方が年上なのになぁ・・・。
- 193 名前:New 投稿日:2003年02月22日(土)18時31分43秒
- 「頑張ってくださいね!」と言う元気な梨華ちゃんと別れて家路につく。
まぁ・・・聞きたい、今すぐにでも聞きたい。でもねぇ・・・・
怖いんだよね。しつこいヤツだと思われたくないし、かと言ってさらっと
「あー、前に付き合ってたヤツ」と言われるのも嫌だ。
右手にスーパーの袋をしっかり持って歩く。もう辺りは暗くなってきている。
「はぁー・・・」
最近ため息が多くなってきている。何度目だろう?
家について鍵をあけて中に入る、決まって紗耶香の帰りはオイラより
遅いので家の中は真っ暗だ。
パチっと明かりをつけてカバンを置き、キッチンへ向かう。エプロンをつけて
スーパーの袋から材料を出す。今日は梨華ちゃんの真似してシチューだ。
野菜を切っていた時、オイラの携帯がなった。メールじゃなくて電話だ。
ディスプレイには<紗耶香>と出ていた。
「もしもし?」
『矢口?私だけど』
電話越しの向こうは何かザワザワしていて賑やかだった。
- 194 名前:New 投稿日:2003年02月22日(土)18時43分48秒
- 『あのさ、ごめん。今日遅くなるから夕飯、先食べてて』
「え!?何で・・・・」
いつも紗耶香と一緒に夕飯食べるのに、それがすごく嬉しいのに。
後藤さんと夕飯食べるの?オイラ、ひとりぼっちにさせるの?
『昨日、後藤ってヤツ・・・電話したら久しぶりに会おうって事に
なってさ・・・。でも、すぐ帰るから』
紗耶香は優しく言ってくれた。でも後藤さんとどうゆう関係なのかわからない。
オイラは・・・聞けなかった。
「わかった、久しぶりなんでしょ?楽しんできなよ」
泣くのを必死に堪えて、笑顔でそう言った。
『ごめんな、じゃぁ』
電話が切れると同時に涙が溢れた。
・・・嫌だよ。ねぇ、紗耶香・・・・。
束縛とかそうゆうの嫌だから、そうゆう女だって思われたくないから
頑張って言った。ホントはすごく辛かった。
「うっ・・・ひく・・・」
涙が止まらなくて、止めたいんだけど次々と溢れ出してくる。
泣くな!紗耶香を信じてるんだろ!紗耶香はオイラが好きなんだよ!
オイラが好きなのは紗耶香だろ!だったら泣くな!
自分にそう言い聞かせて一生懸命、泣くのを止めた。
- 195 名前:New 投稿日:2003年02月22日(土)18時54分38秒
- シチューを作ってひとりで食べた。やっぱりひとりは寂しいけど
好きな曲をかけて食べていた。ちゃんと紗耶香の分も用意して、ラップを
かけた。
夕飯もすんで、提出するレポートをやってお風呂に入って寝る準備。
ずっと声は出てなくて無言のまま時間を過ごした。こんなのひとり暮らし
以来だった。
時刻はPM12:30だ。まだ紗耶香は帰って来ない。
・・・まさか、朝まで帰って来ないかも・・・。
何かどんどんネガティブになっていく自分がいた。こんな事無かったのに。
例えテストでひどい点とっても、料理に失敗しても『次頑張ろう!』って
前向きだったのに、今回は前向きにはいけない。
自分の部屋のベットに寝転んで、天井を見上げた。右手には携帯を握って。
気付けば、寝ていた。起きた時はまだ夜中の3時だった。
「・・・ん、寝ちゃってたか・・・」
むくっと起き上がって部屋を出た。玄関を見ると紗耶香の靴と知らない靴が
あった。リビングの明かりがついてる事に気が付いた。
オイラはすぐにリビングに入った。
「いちーちゃん、ほらお水」
「んー・・・」
ソファには紗耶香がぐったりしていて後藤さんが水を飲ませていた。
- 196 名前:New 投稿日:2003年02月25日(火)14時47分31秒
- 何かいけない物を見てしまった気がして後ずさりしたら壁にぶつかった。
そしたら後藤さんに気付かれてしまった。
「あ、矢口さん?」
「はい・・・」
「ごめんなさい、勝手に上がって」
「別に、いいよ」
後藤さんは立ち上がって自分のカバンを持ちオイラのとこに
やってきた。
「・・・私、いちーちゃんと前付き合ってたんです」
・・・や、やっぱり・・・そうだったんだ・・・!!
後藤さんは微笑んでいた、でもそれはオイラには悲しそうに見えた。
「今日、もう1度いちーちゃんとやり直したくて会いました。
例え矢口さんがいても、やり直したかったんです」
オイラは心臓が早くなるのを感じていた。
もしかしたら、紗耶香は後藤さんと・・・。
「でも、諦めました」
予想外の言葉にオイラは「へ?」と答えた。
「だって、いちーちゃんホントに矢口さんの事好きなんですもん」
- 197 名前:New 投稿日:2003年02月25日(火)14時56分28秒
───数時間前(後藤視点)。
『最近、矢口がさぁ、変なんだよね』
『そうなの?』
『避けられてるっていうか・・・嫌われてんのかなぁー』
『私がいるじゃん・・・いちーちゃん』
『何言ってんの、・・・私には矢口しかいねーの』
それからいちーちゃんは矢口さんの事ばかりだった。
もういちーちゃんの心には矢口さんしかいなかった。
「────というわけですよ」
後藤さんの話を聞いてオイラの顔は真っ赤になった。
「だから、後頼みましたよ」
そういい残して後藤さんは帰って行った。オイラは紗耶香のそばに
歩み寄った。
「全く・・・飲み過ぎなんだよ。こないだ注意したのに・・」
軽くほっぺをつねってやった。
「・・・矢口ぃ〜・・・」
いきなり呼ばれてびっくりした。どうやら寝言みたいだ。
「ったく、驚かすなよなぁー」
そう苦笑いしつつ、紗耶香に何か掛ける物を持って来ようと立ち上がった
時。
「・・・好きだー・・・」
・・・寝言じゃなくて、ちゃんと起きて言えよな。
- 198 名前:New 投稿日:2003年02月25日(火)15時07分11秒
- もう1度しゃがんで紗耶香の顔を覗き込んだ。
「・・・オイラも好き」
そう言って紗耶香に軽くキスをした。
・・・ごめんね、昨日は。
信じてるよ、これからもずっと。
オイラも紗耶香も素直じゃなくて意地っ張りで恥ずかしがりやだから。
面と向かってあんまり「好き」とか言えないけど。
心の中では「好き」が溢れてるんだね。
朝、オイラは何も知らないような態度をした。
もぉいいんだ、終わったんだから。
「紗耶香ぁー、朝だぞ〜!!!」
「うわぁ!!?」
紗耶香はソファから落っこちた。
「いってぇ〜・・・何でソファで寝てるんだ?」
「さぁ?オイラが起きたらソファで寝てたけど?」
「・・・はっ!!」
紗耶香は何かを思い出してオイラを見た。
「・・・ご、後藤に会ったとか・・・?」
「どーだか」
そう短く言って学校へ行くため、玄関に向かった。
「矢口!!あれは違うんだ!!」
後ろから紗耶香の叫び声が聞こえる。オイラは無視して家を出た。
・・・ちょっとはお仕置きしないとね♪
- 199 名前:New 投稿日:2003年03月04日(火)16時18分54秒
- それからオイラは不安も何も無くただ幸せに日々を過ごしていた。
1日1日が過ぎていくごとに寒さは増していく。それでもかまわずに
紗耶香はバイトが無い日に海へ行ってしまう。
休日にはオイラ達とよっすぃーや梨華ちゃんと海に遊びにいく。
「もうすぐ冬になるねぇ」
オイラはポツリと呟いた。
「そうですね、寒くなってきますし」
「なのに、何であの2人は寒く感じないのかな?」
オイラと梨華ちゃんの視線は海でサーフィンをしてはしゃいでる
2人にそそがれていた。
「趣味ですからねー」
「まぁ・・・趣味なのはいいけど、オイラ達を放っておくのはどうかと
思うけど」
オイラは海の風が冷たくて首をすくめた。
「いいじゃないですか、楽しそうだし」
梨華ちゃんは風になびく髪を押さえながら言った。もう1度あの2人を
見るとやっと浜辺に上がってきた。
- 200 名前:New 投稿日:2003年03月04日(火)16時30分51秒
- びしょびしょに濡れた髪をかきあげて2人はボードを担いでやってきた。
梨華ちゃんは大きめのカバンからタオルを出してよっすぃーに渡した。
「矢口?私は〜?」
紗耶香が不満そうにオイラに言ってきた。
「自分で取れよな・・・」
オイラは足元にある紗耶香のカバンの中からタオルを取り出し紗耶香に投げた。
「さんきゅー」
紗耶香はタオルをキャッチして頭をふいた。空はオレンジ色に染まっていた。
「じゃ、私達帰ります」
「うん、じゃぁね〜」
よっすぃーと梨華ちゃんは帰って行った。
「さて、帰りますかー」
紗耶香は海を見て言った。オイラはその横顔を見ていた。
その目は何処か遠くを見ているような感じだった。
「矢口?帰ろ?」
そう言って笑顔を見せる紗耶香。オイラはその笑顔がたまらなく好きで
愛しくて。オイラは紗耶香に抱きついた。
「や、矢口?濡れるよ」
「いい、いいから・・・ちょっとこのままでいさせて」
夕日がオイラ達を優しく照らし続けていた。
- 201 名前:New 投稿日:2003年03月04日(火)19時09分18秒
- 濡れてもかまわなかった。オイラはギュっと強く紗耶香に
抱きついていた。何でそうするかは自分でもわからない。
ただ・・・・。
紗耶香が遠くに行っちゃいそうだったから。
海を見つめている紗耶香が。
離れていきそうだったから。
ふとそう感じたんだ。
「紗耶香ー・・・」
「んー・・?」
「何処にもいかないでね?」
「何言ってんだよ、何処にもいかないよ」
「絶対だよ・・?」
「ん、絶対ね」
夕日に照らされている中。
オイラと紗耶香は、約束のキスをした。
- 202 名前:New 投稿日:2003年03月04日(火)19時20分36秒
────数日後。
「あ!!!またいない!!!」
土曜日の朝、目覚めてみると紗耶香はいなかった。
どうやらまたサーフィンらしい。
「ったく・・・あのバカ」
せっかくの休みなのに、自分1人だけ楽しみんでずるいじゃん。
オイラは別に出かける用事もなかったので借りてきたDVDを見ていた。
紗耶香から電話がひとつも無かった。
───外はいつのまにか雨が降り始めていた。
オイラはその事に全く気づいていなかった。
「今日は〜ハンバーグにしようかなぁ〜♪」
もうすぐ帰ってくるだろうと思って夕飯の支度。どうせおなかすいて
帰ってきて「矢口ぃー腹減ったー」って騒ぐに決まってる。
玉ねぎをフライバンでいためて、ボールに入れる。冷凍庫からひき肉を出して
ボールに入れて、卵と牛乳も入れた。手でぐちゃぐちゃと混ぜて、適当な
大きさの量で丸く平たくする。
時刻はもう7時になる。
- 203 名前:New 投稿日:2003年03月04日(火)19時28分19秒
- 「あれ・・・・?雨だ」
やっと雨に気付いた。
・・・良かった、洗濯物干してなくて〜。
ハンバーグを作りながらのんきに考えていた。
「・・・あ、紗耶香。遅いなぁ」
いつもなら帰ってる時間なのに。オイラの心に不安が出てきた。
とりあえず、夕飯の支度を済ませようとした。
───PM8:00
遅い・・・遅すぎる。
もしかして誰かと遊んでるんじゃぁ・・・。
いや、着替えに帰ってくるはずだし、それなら電話の1本ぐらい・・・。
心配になって紗耶香の携帯に何度もかけてみるけど留守番。
もう1度かけようとした時。
♪〜。
オイラの携帯がなった。紗耶香だと思ってすぐに電話に出た。
- 204 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)16時26分03秒
- 「もしも〜し?」
『・・・矢口さん』
聞こえてきた声は紗耶香ではなくよっすぃーだった。
「あ、もしかして紗耶香と一緒にいる?あいつ電話1本もなくてさ〜」
『あの・・矢口さん』
よっすぃーの声は何か焦っているようで悲しそうな声だった。
嫌な予感がした。
『落ち着いて聞いてください、矢口さん』
聞きたくない・・・・。
『今日、市井さんが───』
嫌・・・・。
『海で・・・亡くなりました』
「嘘・・・」
『・・・今日は、波が高いのに市井さん・・・』
「ねぇ・・・嘘だよね・・?」
『・・・本当、です・・・』
- 205 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)16時30分32秒
- オイラはただ立ち尽くしていた。よっすぃーの声は遠くから聞こえてくる
感じで、オイラの耳には入ってこない。
紗耶香が死んだ・・・?
海で・・・?
「・・・・嫌だよ・・・・」
これは何かの間違い。
紗耶香はもうすぐおなかをすかして帰ってくるんだから。
オイラの作ったハンバーグを「おいしい」って言ってくれるんだから。
「嫌ぁぁぁぁー!!!!」
オイラは叫んで、携帯を落とした。
それから家を飛び出して。
雨の中、海に向かって走っていた。
- 206 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)16時37分00秒
- 浜辺について、海を見ていた。ずぶ濡れになっていたけどそんなの
かまわない。
「紗耶香・・・・何処・・・?」
荒れ狂う海の中に紗耶香の姿は何処にも無かった。
オイラは何度も紗耶香と叫んだ。
・・・返事は、返ってこない。
「紗耶香ぁー!!!!」
こんなの嘘だよ・・・。
嘘だよ・・・。
誰か嘘って言ってよ・・・お願いだから。
オイラはその場に泣き崩れた。
声が枯れるまで泣き叫んでいた。
- 207 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)16時43分59秒
- どのくらいそうしていただろう?
いつの間にかよっすぃーと梨華ちゃんがいて。
オイラを家に連れていってくれた。
家に帰ると、テーブルの上にはもう冷え切ったハンバーグ置いてあった。
オイラは放心状態でソファに座っていた。
よっすぃーがタオルを持ってきてくれて、梨華ちゃんが温かいお茶を
いれてくれた。
「矢口さん・・・風邪ひきますから」
よっすぃーの声も梨華ちゃんの声も。
今のオイラには聞こえない。
昨日の夜、紗耶香はどうしていただろう?
- 208 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)16時58分01秒
『紗耶香ー、今度さぁ旅行に行こうよー』
『んー?あぁ、いいよ。何処行こうか?』
『北海道なんてどう?』
『ほ、北海道?別にそんな遠くじゃなくてもいーじゃん』
『え〜?星が綺麗だよーきっと』
『寒い』
『もぉーじゃぁ何処がいいの?』
『ここ』
『は?』
『だーかーらー、ここ』
『家って事?』
『そ、ここ』
『旅行じゃないじゃん』
『矢口が隣にいりゃー家でもいいんだよ』
紗耶香はそう言ってオイラを抱き寄せた。ちょっと照れていた。
- 209 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)17時05分28秒
- 紗耶香の最後の言葉と最後の笑顔。
・・・・約束したのに。
何処にもいかないって約束したのに。
・・・紗耶香のバカ。
オイラ、1人になっちゃったじゃんかよぉ。
ひどいよ・・・・寂しいよ・・・。
これから誰の為にご飯作るんだよ。
これから───どう生きればいいんだよ。
「紗耶香ぁ・・・・・」
オイラの目にはまた涙が溢れ出して。
止まらなかった。
「矢口さん・・・」
「よっすぃー・・・あのバカ、何で遠くに行っちゃったんだろ・・?」
オイラは笑い泣きで言った。
- 210 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)17時13分24秒
- 「矢口さん、今日、市井さん言ってました」
「何・・・?」
『吉澤ー』
『何すか?』
『矢口んこと、マジで好きだー』
『ノロケですか』
『冷たいなぁ、お前だって石川の事マジだろ?』
『当り前じゃないですか』
『・・・きっとこれから矢口以上の人なんて出てこないだろーなー』
『・・・市井さん、海と矢口さんどっちを選びますか?』
『お前・・・それずるい。矢口は人間で海は夢だろ』
『どっちですか?』
市井さんはちょっと考えた上。
笑顔で。
『矢口』
って言いました。
- 211 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)20時44分13秒
- 「・・・市井さん、矢口さんのこと本気で愛してるんですよ」
よっすぃーはゆっくり丁寧にそう言った。
「うん・・・」
オイラは涙を手で拭きながら頷いた。
オイラだって、紗耶香に負けないぐらい。
紗耶香のこと愛してるんだよ。
だってオイラには。
紗耶香しかいないから。
- 212 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)20時57分08秒
- それから1週間がたった。やっと気持ちの整理もついた。
オイラの目の前には小さな白い壷がある。
紗耶香の両親は小さい頃に亡くなって、オイラのもとにあるのだ。
オイラは大学は休んで、ここ1週間ずっとこの小さな壷と一緒にいた。
たまによっすぃーと梨華ちゃんが遊びにきてくれたりしていた。
「・・・いい天気だなぁ」
窓から空を見ると雲ひとつない晴天。
・・・たまには外に出てみるか。
小さな壷をリュックサックに入れて、家を出た。もちろん目的地は
紗耶香の大好きな海。
「うわぁー、綺麗〜」
相変わらず綺麗な海。青い空。申し分ない日だ。
オイラはあの家を出て行く気はないし、ずっとこの町にいるだろう。
ずっとこの海を見ているだろう。
紗耶香の大好きなこの海を。
いつまでも見ているよ。
- 213 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)21時01分01秒
The Vast expanse of the pacific Ocean
あなたは海の綺麗な貝殻
The Vast expanse of the pacific Ocean
わたしはいつまでも海を見ているわ
END
- 214 名前:New 投稿日:2003年03月05日(水)21時12分05秒
- Na−Mi終了です。さやまりは初めてだったんで
なんだか難しかった・・・・。
次は短編で、小紺やりたいと思います。
では。
- 215 名前:New 投稿日:2003年03月06日(木)17時45分13秒
『バス停』
最後の収録が終わってこれで今日の仕事は終わり。
楽屋に戻るとメンバーは荷物をまとめて次々と帰っていく。
もちろん、私も早く帰りたい。っていうかおなかすいた。
だけどイスに腰をおろす。
もうほとんどメンバーはいなくて、楽屋にいるのは愛ちゃんと私だけだ。
・・・ったく。一緒に帰ろうって言ったのはそっちだろーが。
彼女の顔を浮かべて心の中で言う。
「おっそいなぁ・・・」
時計を見てひと言、呟いた。
「何がぁ?」
すっかり人がいる事を忘れていた私は返事が返ってきて驚いた。
愛ちゃんはカバンを持って私の横に立っていた。
「あー、あさ美ちゃん?」
察したように愛ちゃんは言った。
「んー、そう」
私はつまらなさそうに答えて、苦笑い。
- 216 名前:New 投稿日:2003年03月06日(木)17時52分57秒
- 「んじゃ、私帰るわぁ」
「ばいばーい」
愛ちゃんは「頑張れよぉ〜」と言いながら楽屋を出て行った。
しばらく時計と睨めっこしていた。
1分たっても2分たっても彼女は一向に来る気配がない。
・・・いー加減にしろよなぁー。
自分から誘っといて遅れてるなんて、許されないことだぞ。
私の視線は窓の外に向けた。もうすぐ辺りは暗くなっていく。
5分経過。
「おっそい!!」
誰もいない楽屋に私の声はよく響いた。待たされてる上におなかが
すいている私は最高に不機嫌だ。
来たら文句を言ってやろうと誓った。
- 217 名前:New 投稿日:2003年03月06日(木)17時59分55秒
- とりあえず目を瞑ってみた。なんとかこの怒りを静めようと努力した。
その時、扉が開く音がした。
・・・やっと来たか〜。
「おっそいよ」
怒ったように強く言った。
「え?」
・・・・ん?
目を瞑っていた私は入ってきたのがてっきり彼女かと思っていた。
しかし、返事は彼女の声ではない。
ゆっくりおそるおそる目を開いてみる。
そこにいたのは目をキョトンとして突っ立ってる安倍さんがいた。
事の重大さにたった今気付いた。
「うわぁ〜ごめんなさい・・・人違いで・・・」
私は慌てて頭を下げて謝った。
- 218 名前:New 投稿日:2003年03月06日(木)18時08分14秒
- 「あはは〜!!いいよ。小川がかなり怒ってるからびっくりしたよ」
安倍さんは笑いながら入ってきた。ほっと安心した。
どうやら忘れ物をしたらしい。
「紺野待ってるの?」
「あー・・・はい」
「もうすぐ来るよ、じゃぁね〜」
「はい・・お疲れ様でした」
安倍さんは帰っていった。パタンと閉じられる扉と同時にため息が出た。
・・・びびったぁ〜・・・。
これからはちゃんと確認してから言おう。
時計を見るともうすぐ10分が過ぎようとしている。
「・・・何でこんな遅いのかな」
まるでバス停にいてバスを待ってるような気分だ。
バスはたまに時間通りに来ない。
約束の時間がきても来ないから。
待っている方はイライラする。
でも───────
- 219 名前:New 投稿日:2003年03月06日(木)18時14分57秒
- ガチャと扉が開く。
「まこっちゃん、ごめんねぇ」
困ったように笑いながら彼女は入ってきた。
バスが来ると、妙に嬉しくなったり安心する。
どうしてなんだろう?
「・・・・のろいバス」
「ん?何?」
「ううん、何でもない。早く帰ろう、おなかすいたよ」
さっきの怒りは消えていて、文句を言う事は頭の中にもうなかった。
自分のカバンを持って、彼女を待つ。一緒に楽屋を出ると廊下のひんやり
した空気を感じた。
「何か食べて行こうよ」
「いいね、何食べようか」
「あさ美ちゃんのおごりでね」
「えぇ〜!?」
私達の手は。
自然に繋がっていました。
END
- 220 名前:New 投稿日:2003年03月06日(木)23時47分55秒
『ドライブ』
あなたがみんなに内緒で免許を取ってもうすぐ2週間がたつ。
私だけが知っている、免許の事。
昨日の夜、あなたから電話があって。
『明日のオフ、ドライブいかない?』
とやっと誘ってくれた。私はもちろん『行く!!』と即答。
・・・そして、待ち合わせの場所であなたを待っている私。
18才になったばかりのあなたは『絶対、免許取るんだ』とばかり
言ってて、まわりの事なんて考えないでいた。
私は一応、引きとめたんだけどダメ。私の言う事は全然耳に入ってないみたい。
結局、まわりには内緒で免許を取ったあなた。
・・・でも、嬉しかった。
あなたが運転する車の助手席に座れるんだから。
- 221 名前:New 投稿日:2003年03月06日(木)23時56分18秒
- プッとクラクションが鳴ってはっと我に返った。
目の前には私の大好きなあなたが運転席にいて、私に手を振っていた。
私はすぐ車のもとへ駆け出した。するとあなたは車から降りた。
「待った?」
「ううん、大丈夫。すごいね」
「まだ慣れないけどね、早く梨華ちゃんを乗せたくて」
あなたは照れてるように私に言った。話を聞くとこの車はお父さんから
借りてきたらしい。
「ちゃんとシートベルトしてね」
助手席に座って言われた通りシートベルトをした。もう心臓はドキドキ
してる。
「じゃ、行きますか〜」
あなたはそう言って、アクセルを踏んだ。車がゆっくりと動き出す。
私は嬉しくてあなたの横顔を見ていた。
「なんか緊張するなぁ」
「運転が?」
「んー、それもあるけど。隣に梨華ちゃんがいるからかな」
「そうなんだ」
「だって、今まで一人だったから」
その言葉が嬉しかった。
- 222 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)00時03分09秒
- 今まで、誰もあなたの隣には座っていないという事。
「これからもずっと隣に座るからね」
「んー、毎回緊張するよぉ、梨華ちゃん」
「ひとみちゃんが慣れればいいでしょ」
私の視線は窓の外に向けた。流れていく景色。
「ねぇ、何処行くの?」
「内緒〜♪」
それから他愛も無い話をして、私はだんだん眠くなってきてしまった。
車の揺れるのが心地よくて、それはあなたが運転してるせいなのかな?
私はいつの間にか眠っていた。
「梨華ちゃん!!梨華ちゃん!」
「ん・・・?」
「着いたよ、到着です」
私は目をこすりながら窓の外を見た。一瞬で目が覚めた。
そこには果てしなく広がる海があったのだ。
- 223 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)16時51分21秒
- 「綺麗・・・・」
「下りようか」
車から下りると潮風が髪をなびかせた。私は髪を押さえながら
海に向かって歩いていった。あなたは私の隣にいる。
「寒くない?」
あなたはそう言って、いつものように私の肩を抱く。
「大丈夫、・・・ひとみちゃん、ありがとう」
「へへ・・・どうしても、2人で来たかったんだ」
私は照れてるあなたを見て、やっぱ好きだなって改めて感じた。
それからずっと手を繋いで、2人で浜辺を歩いた。いろんな事しゃべって
ふざけて、笑いあった。ホント幸せな時間だった。
「梨華ちゃん〜」
あなたはふざけて水をかけてきた。
「きゃぁ!・・ちょっと〜濡れたじゃない」
「あはは〜」
私はあなたに水をかけた。水のかけあいっこになった。
楽しい時間は早く過ぎるものであっという間に夕方になった。
車に乗って、目指すのは私の家。
- 224 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)17時00分55秒
- 「何か食べていこっか?」
私達は遊びまくっておなかがすいた。
「うん」
「何食べたい?」
「んーと・・・パスタかな」
「おっけ〜」
あなたは笑顔でそう言って、ハンドルをきった。数分後、パスタ屋さんへ
到着。そこのお店は私達やメンバーもよく行くお店。
車を駐車場へ止めた。あなたは初心者とは思えないほど上手だった。
「何食べようかな〜♪」
「ひとみちゃん、すごくおなかすいたんだね」
「運転は集中力を使うんだよ」
まわりにばれるといけないから手は繋げない。ちゃんと帽子を深く
かぶってお店の中に入った。
入って、1番奥の席に座った。
「・・・あのさ」
私がメニューを見ているとあなたは小声で言った。なんだろうと顔を
上げるとあなたは違う方向を見ていた。
- 225 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)17時12分16秒
- 「あれって矢口さん達じゃない?」
あなたの視線の方向には確かに矢口さんと安倍さんと保田さんがいた。
ばれる事はおかまいなしで笑い声がお店に響いている。まぁ矢口さんと
安倍さんなんだけど。その度に保田さんが注意している。
「ホントだ・・・声かけてみようか」
「ちょ、梨華ちゃん。車なんだよ?免許取ってんの内緒なんだよー」
「あ・・・そうだった、ごめん」
私は立ち上がるのを止めてイスに座った。
「まぁ・・気付かれないようにしよう」
「そうだね」
それから注文をして、料理が運ばれるまで海の事を話していた。
「また、行きたいね」
私はさっき行った海を思い出しながら言った。
「行こうよ、今日みたいに」
あなたは私を見て微笑んだ。その言葉に大きく頷いた。
パスタも食べ終えてそろそろ出る頃。相変わらずあの3人は
おしゃべりをしている。私達は気付かれないようにお会計の方へ
行こうとした。
- 226 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)17時23分11秒
- あなたは小声で「おごるよ」って言い、私は「いいよ」と反論をした。
結局、あなたがおごってくれる事になった。
お会計もすませて、出ようとした時。急に矢口さんが席を立って
こっちへ向かってきた。
「・・・よっすぃーと梨華ちゃん、だよね?・・・」
あー、もうダメだぁー。
「矢口さん、こんにちは」
あなたは諦めたように苦笑いしながら言った。
「ほらぁーあってた。やっぱそうじゃん」
「なっちもそう思ってたよぅ」
「私は初めからそう思ってたわ」
3人はお会計をすぐにすませて、何か一緒に出ようみたいな雰囲気。
このままじゃ、あなたの免許がばれちゃうよ。
お店から出ると。
「じゃぁー、これからカラオケでも行かない?」
矢口さんが手を上げて提案をした。どうやら私達も含まれてるらしい。
- 227 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)17時31分32秒
- あなたは私にだけしか聞こえない程度で「とりあえず理由をつけて
私は車の方に行くから、梨華ちゃんも何か理由つけて来て」
と言った。私は小さく頷いた。
「あの、私ちょっと用事あるんで。すみません」
「えぇー!!!いいじゃん、久々のオフなのにー」
矢口さんがあなたの腕を掴んで離そうとしない。ちょっとむかついた。
「なっちも嫌だべさ」
「吉澤、付き合いなさいよ」
・・・・どさくさにまぎれて安倍さんもあなたの腕を掴んでる。
あなたは困ったように笑いながらなんとか断って駐車場に向かって行った。
「もぉ、梨華ちゃんは大丈夫だよね?」
「あのぉ・・・私も帰らないといけないんで・・・」
「えー、梨華ちゃんもー?」
「すみません・・・」
3人の攻撃はずっと続いた。
・・・し、しつこい・・・。
- 228 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)22時09分44秒
- 「行こうよぉー、久しぶりにさー」
矢口さんは私の腕を引っ張っていた。
「あの・・・ホントにすみません」
・・・心配してるかな?
ふと車の中で私を待っているあなたの姿が目に浮かんだ。
「ホントにすみません!!」
私は大きな声(というか高い声)を出したらやっと腕を離してくれた。
1回、頭を下げてすぐに駐車場へ走った。
「あれ、梨華ちゃん。あっちだっけ・・・?」
安倍さんの声は私には届いていなかった。
「ひとみちゃん!!」
予想通りあなたは心配した顔をしていた。私はすぐに車に乗り込んだ。
「もぉ、心配したよ」
「だってしつこくて・・・ごめんね」
「ん、わかってるよ」
あなたは微笑んで私に軽くキスをした。私は驚いて目を閉じる暇も無かった。
- 229 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)22時20分17秒
- 「ひとみちゃん・・・誰かに見られたらどうするのよ」
「見せとけばいいじゃん、わかんないよ」
「もぉ・・・」
あなたはいたずらっぽく笑って、私はつい許してしまう。
・・・ずるいよ。
車が動いて駐車場から出る。ウィンカーをつけて右に出ようとする。
『あー!!!!』
右の方から大きな声がした。右を向くと・・・・。
そこにはまだ矢口さん達がいた。すぐさま車に駆け寄ってくる矢口さん達。
あなたはすぐに出ようとするけど車が中々途切れないから出るに出れない。
『よっすぃー!?何運転してんの!?』
『えー?よっすぃーいつの間にさ?』
『まさか無免許じゃないでしょうね!?』
3人は窓越しにこっちに向かって叫んでいる。
「・・・あーもう!」
半ばヤケになってるあなた。そしてやっと車が出れる状態になり3人を
無視して車を出した。
「明日・・・仕事で会うよ?」
「そんときゃ仕方ないよ。でも今は邪魔されたくない」
何であなたはそう嬉しい言葉をいつも言ってくれるの?
- 230 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)22時33分22秒
- 今日はせっかくのオフ。邪魔は誰にもされたくない。
・・・されたくないんだけど。
2人の携帯はさっきからなりっぱなし、誰だかはちゃんとわかっている。
「切っちゃおうか・・・」
「そうだね」
笑いながら2人で携帯の電源を切った。
これでもう誰にも邪魔されない。
車は信号で止まることなくスムーズに走る。特に会話も無いけど
別に怖くない。心が繋がってるから。
付き合い始めた頃は沈黙が不安だった。私は一生懸命、会話を見つけて
しゃべっていた。でもあなたはいつも頷くだけで。
『無理にしゃべんなくていいよ。私が望んでる事は、会話が無くても
お互い通じ合ってる事なんだ・・・梨華ちゃんはどう思う?』
あなたはそう言って、抱きしめてくれた。私はあなたの腕の中で小さく
頷いた。そしてその後、初めてキスした。
私の家に到着した。もっと一緒にいたいと思った。
「今日、泊まらない?」
「んー、この車返さないと。また今度ね」
「わかったぁ・・・」
「そんな拗ねないの、帰りづらくなるでしょ」
- 231 名前:New 投稿日:2003年03月07日(金)22時42分33秒
- 最後にキスをして私は車から下りた。
「じゃ、明日ね」
「うん、また行こうね」
「もちろん」
車はゆっくりと動き出して私はずっと手を振っていた。
見えなくなるまで・・・・ずっと。
翌日。
今日は覚悟をしなければならない。昨日の夜、携帯のメールの量は
半端じゃなかった。
<よっすぃーとはどんな関係?>
<何で、免許をよっすぃーが持ってるの?>
<いつから?>
こんなメールがたくさんきてた。
ガチャと楽屋の扉を開けると、やっぱりあなたは私より早く来ていた。
「おはよう、梨華ちゃん」
「おはよう、ひとみちゃん」
私達だけしかまだ来てないみたい。私はカバンを置くと、あなたは腕を
広げて『おいで』と心の中で言っているようだった。
私はすぐにその腕の中に収まった。
「今日は、覚悟しなきゃね」
「そうだね、あの3人はしつこいよ〜」
抱き合いながら2人で笑っていた。
- 232 名前:New 投稿日:2003年03月08日(土)20時56分16秒
- 数分後、メンバーが集まってきた。私達はいろいろしゃべりながら
時間になるのを待っていた。
「よっすぃー聞いたよ。車、運転してるんだって?」
飯田さんがあなたの目の前に立って言った。表情が微妙に怖い。
「ええと・・・まぁ・・・できるというか・・」
「免許取ったの?」
「・・はい」
「あのねぇ、そーゆー事はちゃんと言ってから取るんだよ?」
「・・はい」
飯田さんの話はいつも長い。特にお説教は。
楽屋の中を見回すとすでにあの3人も来ていた。こっちを見て何やら
話をしている。内容はここからじゃ聞こえなくて、わかんなかった。
やっと飯田さんのお説教が終わった。あなたは疲れたように肩を
がくっと下げた。
「あー、昨日みつからなきゃなぁ・・・」
「しゃうがないよ」
「ま、いいかぁ・・・」
あなたは立ち直るのが早いと私はいつも思う。
・・立ち直るというか・・開き直るというか。
- 233 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月09日(日)19時11分57秒
- 「よっすぃー、今度どっか連れてって!!」
「海行きたい!海!!」
ののとあいぼんがあなたにまとわりついて騒いでいる。他の
メンバーも何処か連れてけと言いたい放題。
・・・助手席は私の場所なのに。
私はちょっと頬をふくらませながらあなたを見ていた。
「わかりました!わかりましたから!!」
あなたは困った顔で言った。するとののとあいぼんが大人しくなった。
「・・・でも、車に大人数は乗れません」
勝ち取ったりという顔であなたは言う。
「なら、レンタカーで大きい車借りる!!」
ののが言うと、あいぼんが「そうだよ!借りればいいんだ!」と騒ぐ。
がくっと肩を落とすあなたは私を見て「助けて」という目をしていた。
「しょうがないなぁ・・・みんなで行こうよ」
私は苦笑をしながらあなたに言った。
「・・!!私が何の為に免許取ったって」
「でもばれちゃったんだから」
- 234 名前:New 投稿日:2003年03月13日(木)18時30分06秒
- 私がそう言うとみんなはもっと騒いで、何処の海に行こうかなど
話し合っていた。
「梨華ちゃん・・・」
がくっと肩を落として私を見るあなた。
「いいじゃない、1回ぐらいなら」
「でもさぁ・・・免許取るために、梨華ちゃんといっぱいドライブ
する為に、どんなに疲れても、徹夜しても寝ないで頑張ってたんだよ?」
「また行けるよ、2人で」
私はちょっと背伸びしてあなたの頭をよしよしと撫でた。
大丈夫、これから時間はたくさんあるんだから。
だから、たくさんドライブしよう?
あなたが運転する車でね。
END
- 235 名前:New 投稿日:2003年03月14日(金)17時35分57秒
『ヒーローの才能』
「おはよーございまーす!」
大きく元気な声が楽屋に響いた。
「よっすぃー、おはよ〜」
「おはよ〜」
楽屋にいるメンバー達は我先にとよっすぃーに挨拶をする。
そう、吉澤ひとみことよっすぃーはメンバーの中で王子様的存在。
狙っている人もひそかにいるらしい。
私、石川梨華もその1人。
「おはよ、梨華ちゃん」
「おはよ、よっすぃー」
よっすぃーは私が座っている隣のパイプ椅子に腰をおろした。
それだけで私は嬉しくなってしまう。
だけど・・・ライバルは多い。
「よっすぃー、遊んでー!!」
まずはあいぼんがよっすぃーに後ろから抱きついた。
ここ、最近あいぼんがいつもよっすぃーにまとわりついてるのは調査済み。
何気に近づき手を繋いだり、腕を組んだりしている。
まぁ・・・よっすぃーとしてはきっと妹的存在だと、思う。
- 236 名前:New 投稿日:2003年03月14日(金)17時43分19秒
- あいぼんはそれなりに恋愛感情をよっすぃーに見せているんだろうけど
超鈍感なよっすぃーはそれに気付いてない。そこがちょっと問題だけどね。
「よっすぃー、ののもー!!」
今度は辻ちゃんが前から抱きついていた。
辻ちゃんに関しては大丈夫。よっすぃーに恋愛感情は持っていない。
こうやって抱きついているのはただ単にあいぼんの真似。
「2人共ー、よっすぃーが困ってるでしょー。離れなさい」
おっと、ここで矢口さんが出てきた。この人はちょっと厄介。
こないだ冗談半分でよっすぃーが矢口さんにキスしようとした時、
かなり顔が真面目だった。結局、よっすぃーが寸止めして終わり。
矢口さんは危険だから目を離さないでおこう。
- 237 名前:New 投稿日:2003年03月14日(金)17時53分44秒
- 矢口さんがあいぼんと辻ちゃんを引っ張ってよっすぃーから離した。
そこに!何気によっすぃーに思いを寄せている安倍さんが登場。
「よっすぃー、あのさ・・・今度のオフさ・・・」
何やら聞いてみると今度のオフに遊びに行こうと誘いたいらしい。
安倍さんはかなりよっすぃーに惚れ込んでる。よっすぃーが見せる
笑顔だけで安倍さんは顔を真っ赤にさせる。
「あぁ、すみません。今度のオフはちょっと・・・」
「あ、いいんだべ。また他の日でも」
「はい、また他の日に」
よっすぃーが笑顔を向けながらそう言うと安倍さんは顔を真っ赤にさせて
去って行った。
「吉澤さん、これ」
高橋が恥ずかしそうに何かを差し出している。どうやら手作りのクッキー
のようだ。
「え?うちに?」
「はい、たくさん作ったんで・・・」
「さんきゅー」
高橋だけでなく、私の調査によると紺野・新垣も要注意だ。
小川に関してはどうやら紺野が気になるようだ。いつも紺野を見ている。
ある意味怖いけど。
- 238 名前:New 投稿日:2003年03月14日(金)18時03分31秒
- 高橋から貰ったクッキーをおいしそうに食べるよっすぃー。
・・・私も今度、作ってこよう。
ふと、誰かの携帯がなった。よっすぃーの携帯みたいだ。
「へい。あ、ごっちん?うん、うん・・・へぇー。良かったじゃん。
え?うち?んー、ごめん、用事あるからさぁ。ホントごめんね」
ごっちん、この人は安倍さん以上に要注意人物。娘。を卒業した今、
気がつくと何故か楽屋にいてよっすぃーとしゃべっている。しきりに
電話も多い。私の調査では仕事に一緒にいる時の休憩時間に合計して
5回もかかってきている。これは異常だ。
ここで、ちょっと整理してみる。
1番要注意なのはごっちん。2番目は安倍さん。3番目、矢口さん。
4番目はあいぼん、高橋、紺野。
よっすぃーは誰にでも優しいからみんな勘違いしちゃうんだよなぁ。
しかも鈍感ときた。困った王子様である。
・・・でも、好きになっちゃったんだよねぇ。
- 239 名前:New 投稿日:2003年03月14日(金)18時15分20秒
- それから収録をして、休憩。予想通りごっちんから電話がよっすぃーに
きている。ごっちん、何で休憩だとわかるんだろう?
「梨華ちゃん」
急によっすぃーに呼ばれてびっくりした。
「何?」
「ちょっと、いい?」
手を握られ、半ば無理矢理連れて行かれる。楽屋を出て、行く先は屋上だった。
空は快晴、いい天気。こんな日はお弁当持って何処かへ出かけたい気分だ。
「ふぅーいい天気だねー」
よっすぃーは私の手を離して伸びをした。
「そうだね、どうしたの?」
「ん、あのさ・・・こないだね、矢口さんと楽屋にいた時・・・
その時、2人きりでさ。急に矢口さんが抱きついてきたんだよね」
「えぇ!?」
私はつい大声を出してしまった。
「矢口さん、黙ってるし。・・・何すれば良かったのかなぁ?」
この人はホントに究極の鈍感だと改めて感じた。
- 240 名前:New 投稿日:2003年03月14日(金)18時15分58秒
- それから収録をして、休憩。予想通りごっちんから電話がよっすぃーに
きている。ごっちん、何で休憩だとわかるんだろう?
「梨華ちゃん」
急によっすぃーに呼ばれてびっくりした。
「何?」
「ちょっと、いい?」
手を握られ、半ば無理矢理連れて行かれる。楽屋を出て、行く先は屋上だった。
空は快晴、いい天気。こんな日はお弁当持って何処かへ出かけたい気分だ。
「ふぅーいい天気だねー」
よっすぃーは私の手を離して伸びをした。
「そうだね、どうしたの?」
「ん、あのさ・・・こないだね、矢口さんと楽屋にいた時・・・
その時、2人きりでさ。急に矢口さんが抱きついてきたんだよね」
「えぇ!?」
私はつい大声を出してしまった。
「矢口さん、黙ってるし。・・・何すれば良かったのかなぁ?」
この人はホントに究極の鈍感だと改めて感じた。
- 241 名前:New 投稿日:2003年03月14日(金)18時17分34秒
- あ・・・二重投稿してしまったみたいです(泣)。
239は関係ないです、238と同じです。
- 242 名前:チップ 投稿日:2003年03月14日(金)18時55分40秒
- やっと見つけた!こっちで続き&新作書いてらしたんですね。
全然気づかず続きないのかなぁショボーンとしてました。
読めてよかったっす、かっけぇよっすぃーご馳走様でした。
新作もがんがってくらさい。
- 243 名前:New 投稿日:2003年03月16日(日)00時23分50秒
チップさん<ありがとうございます!向こうのスレッドで
まだいける、まだいけると書いてたらいっぱいになっちゃって・・。
この『ヒーローの才能』が終わったらまた新しいスレッドで
よっすぃー主役のものを書きます。かっけぇというよりは
切ないよっすぃーになってしまうかもしれません。
応援ありがとうございます!これからもぜひ読んでください!
- 244 名前:New 投稿日:2003年03月16日(日)01時28分13秒
- 腕を組んで真剣な顔して考えてるよっすぃー。
何に対しても真剣に考えるあなた。
それはヒーローの才能なのかな。
・・・そこが大好きなんだけど。
「わ、私だったら・・・優しく抱きしめて欲しい・・かな?」
私は恥ずかしくてよっすぃーに背を向けた。
「なるほど!さすが、梨華ちゃん。やっぱ梨華ちゃんに聞いて正解だったよ!」
よっすぃーはどうやら納得してくれたらしい。
「・・・んじゃぁ、こんな感じ?」
次の瞬間後ろから抱きしめられた。よっすぃーが私を抱きしめてる。
・・・え?えぇ!?
「どう?こんな感じ?」
「う、うん・・・・」
心臓がドキドキしてる、もう頭の中が真っ白だよ。
でも、よっすぃーの心臓もドキドキしてるような・・・。
- 245 名前:New 投稿日:2003年03月16日(日)01時35分24秒
- 数秒後、よっすぃーは離れた。
「ありがと、梨華ちゃん」
「ううん、・・・」
「じゃぁ、戻ろうか?」
「うん」
もう嬉しいんだけど嬉しくてたまらないんだけど。
緊張してよっすぃーの顔が見れないよぉ。
楽屋に戻るとよっすぃーは辻ちゃんはあいぼんにつかまった。
私は何故かみんなの顔も見れなくて下を向いていた。
「よっすぃー、顔が赤いよ?」
「えぇ?・・・そんな事、無いです」
「耳とか真っ赤だよ?」
「そんな事、無いです」
もちろん、私には会話は全然聞こえてなくて。それどころじゃなかった。
その頃の、楽屋の隅で。
「圭織、思うんだけどさぁ」
「何?圭ちゃん」
「あの2人、絶対両思いだと思うんだけど」
「うん、圭織もそう思うよ」
「ここまで鈍感なんてある意味すごいわ」
「そうだねぇ」
- 246 名前:New 投稿日:2003年03月16日(日)01時43分31秒
- 私はそれからの収録は最悪だった。・・・何故か、よっすぃーも。
2人してマネージャーさんに怒られた。
「これからはちゃんとしてね。新メンも入ってくるんだから」
「「はい・・・」」
廊下で怒られて、反省。マネージャーさんは去って行った。
「あー、怒られちゃったね」
「よっすぃーもなんてびっくりだよ」
楽屋へ戻る途中、よっすぃーの様子は明らかに変。
「あの、梨華ちゃん?」
よっすぃーが立ち止まって言った。
「何?」
私はよっすぃーの方に振り返った。
「・・・んと、えっと、その」
「・・・???」
「今度のオフに、映画行かない?」
よっすぃーの言う事が理解するまで1分はかかった。
「え・・?でも、用事あるんじゃ」
「そ、それは・・・そのぉ、梨華ちゃん誘うつもりだったから・・」
「いいの?」
「も、もちろん!!」
私達は真っ赤な顔させて下を向いていた。中々顔を見れなくて。
- 247 名前:New 投稿日:2003年03月16日(日)01時50分51秒
- 嬉しいな。よっすぃーと遊びいくの久しぶりだし!
よし!その時思い切って告白してみようかな!!
<その頃、よっすぃー>
・・・よっしゃ!ついに誘った!!次がチャンスだ!
その場の勢いで告白しよう!っていうかさっき抱きしめちゃったし〜。
梨華ちゃん、細いなぁ〜。
「・・・だから、両思いなんだよ」
その光景を見ていた保田は呆れながら呟いた。
ヒーロー(王子様)といっても。
才能があるとしても。
やっぱり、緊張はあるようです。
「楽しみだよ〜、よっすぃー」
「うちも!何見ようか?映画」
早く、気付いてよ。私の気持ち。
鈍感な王子様♪
保田:「だから!あんたも鈍感なのよ!」
おしまい。
- 248 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)17時34分21秒
『ココロの歌』
毎日が楽しい。勉強は大変だけど、毎日が充実してる。
部活もそこそこ、いい感じだ。
「矢口さーん」
「おっす!石川ぁー、今から部活?」
「はい、矢口さんは?」
「オイラは今日、無いから」
「そうなんですか」
この子はオイラの後輩、高校2年生の石川梨華。
オイラは高校3年生の矢口真里。
「じゃ、行きますね」
「おう、頑張れよー」
石川はテニスラケットを抱えて小走りでテニスコートへ向かった。
今は放課後、用の無い人は帰る時間だ。
オイラは下駄箱で靴に履き替えて学校を出て行こうとする。
「ん・・・?」
オイラの手前を歩く生徒がいた。別にどうでもいい事だけど。
何か・・・後姿がやけに暗いような。
オイラは少し早歩きでその子に向かって歩き出した。
- 249 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)17時44分13秒
- すぐそこまで近づいてはっと気付いた。その子の肩が震えている事に。
・・・泣いてる?
友達じゃない子にどうやって声をかければいいのかわからなくて、
そのまま付いて行く形になってしまった。
オイラはこうゆうの放っておけないタイプ。
・・・と、とりあえず、声をかけよう。
もうすぐ正門を通り過ぎる。ちょうど学校を出た時。
「あの〜・・・大丈夫?」
オイラはその子の隣までやって来て、声をかけたんだ。
やっぱりその子は泣いていた、オイラはポケットからハンカチを出して
差し出した。でもその子は受け取らず、下を向いて歩いていってしまった。
「ちょ、待って!!待ってよ」
オイラは慌ててその子の正面まで来て引き止めた。
「え〜と、・・・あ!オイラ、矢口真里っていうんだけど」
いきなり自己紹介かよ!っと心の中で自分にツッコむ。その子はオイラの
顔を見ていた。だから何って感じだ。
「っで・・・何で泣いてんのかなぁーって」
「・・・別に、かまわないでよ」
その子は冷たくそう言うと再びオイラを避けて歩き始めた。
- 250 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)17時52分22秒
- オイラはただその子の後ろ姿を見つめていた。
・・・・気になる、どぉしても気になる。
「よし!決めた!絶対友達になる!!」
ここ最近、目標らしい目標が無かったためオイラは燃えていた。
次の日。とりあえず昨日の子が誰なのかを調べる事に。
結構可愛かったなぁー。
確か、胸ポケットのとこに3のバッチがついてたから3年生だな。
オイラは休み時間を利用して1組から8組までクラスを覗こうとした。
「あ、矢口じゃん。何してんの?」
オイラの友達、飯田圭織(ちなみに1組。オイラは4組)がいた。
「んー、人探し」
「気になる奴でもいんの?」
「まぁね〜」
「おっせかいもほどほどにね」
「う・・・わかってるよ」
圭織はオイラの事をいっつもお見通しだ。オイラにとって良き理解者。
1組にはいない事を確認すると、次の2組に向かった。
- 251 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)18時04分20秒
- あっという間に放課後。
「っつーかいねーじゃんか!!」
朝から夕方までの休み時間、お昼休みも使って探したのに昨日の子は
見つからなかった。
もしかしたら休んでたり・・・・?
名前さえ知ってれば簡単なのに。
「部活は何やってんだろ・・・?」
オイラは陸上部。これでも期待の矢口って呼ばれてるんだ。
とりあえずジャージに着替える為、部室へ向かう。
部員は少ない、っていうか今は2人。廃部も危ぶまれている。
こないだバレー部からやって来た吉澤ひとみことよっすぃーとオイラだけ。
まぁ、真面目に来ない奴らに「やる気ないんならやめろ!!」と言って
しまった事が原因だ。せいせいはしてるけど。
それを見たよっすぃーが「かっけぇー、感動したっス!!入部させて下さい!」
と言ってきたのだ。
「よっすぃーは何でバレー部やめたの?」
靴ヒモを閉めながら聞いてみた。
「だって、みんなやる気ないんですよ。先輩も」
よっすぃーは1年生。(結構モテてる)。
「そっか」
「それじゃぁ、やってる意味ないですから」
よっすぃーはそう言うと走り始めた。
- 252 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)18時13分05秒
- オイラも軽くジャンプして靴ヒモがしっかりしてるのを確認して
走り始めた。よっすぃーに向かって走る。
突然、よっすぃーが立ち止まった。
「何?どうした?」
「え?あぁ、ごっちんです」
よっすぃーの視線の先には1年の後藤真希ことごっちんがいた。
ぼーっとしながら歩いている。
「相変わらずだね、ごっちんは」
「ですね」
ごっちんは部活には入らずいつもぼーっとしている。よっすぃー曰く
授業中はほとんど寝てるらしい。休み時間も。
「困ったもんですよ、話しかけても『んぁ?』ですもん」
「・・・・そーだなぁ」
再び走りながらごっちんについて語る。
「授業寝てるから赤点ばっかだし」
「それは、いけない!」
「私が教えてるんですけど、真面目に聞かないんです」
「・・・わかった!オイラがその根性を叩きなおしてやる!」
オイラのおせっかいがまた始まった。
- 253 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)18時23分12秒
- 〜登場人物紹介〜
主人公 矢口真里 クラスではムードメーカー的存在。明るく元気な性格で
おせっかい。陸上部、部長の高校3年生。
吉澤ひとみ かなりの美形でモテまくる。本人は興味無し。
陸上部員の高校1年生。
飯田圭織 矢口の良き理解者。負けず嫌いで泣き虫。
バスケ部、部長の高校3年生。
石川梨華 矢口の後輩で仲がいい。密かに吉澤が気になっている
らしい。テニス部員の高校2年生。
後藤真希 吉澤の友達でいつも寝てる。何をしてもつまんない
といった感じ。帰宅部の高校1年生。
安倍なつみ 矢口が気になっている人物。
こんな感じです。矢口は後藤と安倍を気にかけているわけです。
個人個人、悩みをかかえてる人物です。
では。
- 254 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)18時32分19秒
- オイラは昨日の子の事をはっと思い出した。ごっちんの事は明日にしよう。
「よっすぃー、オイラ人探してるんだけどさ」
「どんな人ですか?」
「えっと・・・目がパッチリしててかなり可愛いの」
「んー、安倍先輩じゃないですか?」
走りながらよっすぃーは答えた。もうすぐ校庭1周だ。
「安倍先輩?」
「はい、3年の安倍なつみ先輩。結構名前はよく聞きますね」
「ほぇー、何か噂とか、あんの?」
「・・・あんまりいい噂ではないですけど」
「教えて!」
「・・・いじめ、にあってるみたいですよ」
それを聞いてオイラは立ち止まった。
・・・いじめ?
よっすぃーも立ち止まりオイラの方に振り返った。
「噂ですから、本当の事は知りませんけど」
「・・・そうなんだ」
昨日の涙のわけ。もし、その子が安倍さんだとして噂が真実なら。
あの涙は・・・・。
オイラは悔しくなった。いじめ、オイラが絶対許さない行為。
昨日、無理にでも引き止めるんだった・・・。
- 255 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)18時41分23秒
- 「矢口先輩?」
「ん?あ、・・・ちょっと気になって」
「・・・私も同じです。噂が事実だとしたら・・・」
「安倍さんって何組?」
「確か・・・3組だったような」
オイラは燃えていた。昨日より燃えていた。
とにかく、絶対友達にならなきゃ。
いじめ。オイラは中学ん時いじめにあっていた。
でも、オイラは友達がいたから頑張れた、強くなれた。
だから、今度は自分が助ける番なんだ。
オイラは次の日の1時間目終わって休み時間。3組に向かった。
「んー、いないっぽいなぁー」
何でいないんだろう・・・?
諦めかけたその時。安倍さんらしき人物が教室に戻ってきた。
いたーーーー!!!!
・・・ここは落ち着け、矢口。もし噂が本当なら、考えるんだ。
オイラはクラスの人たちに目立たないように安倍さんに近づいた。
- 256 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)18時53分42秒
- 安倍さんは窓側の1番後ろの席。オイラは何気なく近づいた。
横を通り過ぎるように歩き、わざと机にぶつかる。
「あ〜ごめんねぇ」
「いえ・・・あ」
向こうも気付いたらしい。
「机がずれちゃったね、ごめんね」
「・・・・」
オイラはふと安倍さんの手を見た。目立たないが、かすり傷が何箇所かある。
・・・本当かも。
「ここで会ったのも何かの縁、良かったらお昼一緒に食べない?」
「・・・いいです」
「いやいや、オイラさぁ、今日一緒に食べる人いないんだよぉ。頼むよ」
半ば無理矢理だけど何とか成功(?)した。
屋上でお昼を食べようという事を約束した。
・・・さて、どう聞こうか・・・。
────お昼休み。
「こっちだよぉ〜!!」
屋上で待っていたら安倍さんがあらわれた。オイラは手を振った。
4時間目のチャイムと同時にオイラはお弁当持ってダッシュした。
「早いね・・・」
「いやぁー、おなか減っちゃって。オイラん事は矢口でいいよ。
名前教えて?」
「安倍なつみ」
「なつみかぁ・・・可愛い名前だね。じゃぁ『なっち』!」
「なっち・・・?」
「うん、オイラあだ名つけるの好きなんだぁ」
「なっち・・・」
- 257 名前:New 投稿日:2003年03月24日(月)19時00分10秒
- なっちは嬉しそうに『なっち』と繰り返し呟いていた。
「早く食べよ?」
「あ、うん」
ちょっとは近づけただろうか・・・。
オイラ達はお弁当を食べ始めた。
「なっちは何部?」
「部活やってないから。どうせ3年だし」
なっちの言うとおり3年は受験生だ。部活は夏が終わると同時に
辞めなければならない。
「そっか、オイラは陸上部だよ。部員、2人しかいないけど」
「2人?」
「そ、こないだまではオイラ1人だったよ。オイラが「やる気ないなら
やめろー!」って言ったらみんな辞めたちゃって。こないだ2年が
入ったんだ」
「矢口って熱血?」
「うん、オイラは熱血の魂で出来てるから」
「何それ〜」
・・・あ、笑った。
なっちの笑った顔見たら嬉しくなってオイラも笑った。
- 258 名前:New 投稿日:2003年03月27日(木)20時26分28秒
- 今、書いている『ココロの歌』はちょっと長編になりそうなので
次の機会に書きたいと思います。読んでいる方がもしいるのなら
ごめんなさい。矢口さん主役『ココロの歌』が終わったら次は
吉澤さん主役のモノを書いていきたいと思います。
まだ余裕があるので短編を書いていきます。では。
- 259 名前:New 投稿日:2003年03月29日(土)13時31分06秒
『笑顔の力』
ふぅ、疲れた〜・・・。
毎日、毎日、充実はしてるんだけどやっぱ疲れるね。
ま、贅沢は言ってらんないよね。
「なっちー、どうした?」
私が楽屋の机に突っ伏してると矢口が心配そうな声をかけてきた。
「んー?何でもないよ」
私はこれはいかんと思って、笑顔で矢口の方を向いた。
だけど、矢口の顔は未だに不安顔。
「矢口・・・?」
「無理してるでしょ?」
「な、んな事ないよ〜」
「だって、笑顔が引きつってる」
「え?・・・なっちは大丈夫だよ!嫌だなー矢口〜」
こんなんじゃダメだ。私の事でメンバーに心配かけちゃ、年上なんだから。
「ちょっと出てくるね」と矢口に言って私は楽屋を出た。
ひんやり感じる廊下。いつもより心細い感じがする。
はぁ〜・・・なんか元気出ないなぁ。
自分でも何でこんな暗いのかよくわかんなかった。
- 260 名前:New 投稿日:2003年03月29日(土)13時41分31秒
- 自販機の近くにあるベンチに腰を降ろした。静寂の中に自販機の
音が聞こえる。私はゆっくり目を閉じた。
・・・・このままじゃいけない。
疲れても頑張らなきゃ。自分の好きな事やってるんだから。
この世の中、自分の夢が叶えられない人がたくさんいる。
私は、自分の夢を叶える事ができた。
だから、頑張らなきゃ。
私はいつの間にか眠ってしまっていた。
どのくらい眠っていただろう?
意識がはっきりする、まだ目は閉じたまま。
隣に誰かいる感じがする。何か、あったかい。
私はゆっくりと目を開き、隣を見た。
「おはようございます、安倍さん」
「よっすぃー・・・・」
隣にいるあったかく感じた存在はよっすぃーだった。
「ははは、なっち寝ちゃってたかぁ」
私は寝顔見られたかなぁと思いながら言った。よっすぃーは何も言わない。
「何か、急に眠たくなってさぁ。ダメだよね、仕事あるのに」
何かを言い訳しているような感じで意味も無く焦ってる自分がいた。
- 261 名前:New 投稿日:2003年03月29日(土)13時55分39秒
- 「どのくらい寝てたんだろうねぇ?」
「・・・多分、5分くらいだと思いますよ」
黙っていたよっすぃーがやっとしゃべってくれてホッとした。
私は楽屋に戻ろうかと立ち上がった。よっすぃーの方を向く。
よっすぃーはさっきの矢口と同じ顔をしていた。心配してる顔だ。
「・・・戻ろう?よっすぃー。圭織に怒られちゃうよ」
言い終わった瞬間、よっすぃーに抱き寄せられた。
「よ、よっすぃー?」
心臓がバクバクしてるのがすごいわかった。よっすぃーは力強く
私を抱きしめていて。
「・・・いいんですよ?」
「何が・・?」
「無理に笑わなくてもいいんですよ」
「・・・」
「疲れたなら、頼ってもいいんですよ。強がらなくてもいい」
「・・・」
「泣いたってかまわない」
私はその言葉を聞いた瞬間、涙が溢れ出した。
「頑張りすぎは良くないです」
よっすぃーの声はすごくあったかくて落ち着くね。
「疲れたなら、私がいますから」
よっすぃーはゆっくり私を離して。
「ね?安倍さん」
笑顔で私にそう言った。
- 262 名前:New 投稿日:2003年03月29日(土)14時06分40秒
- よっすぃーの笑顔見たら、何か元気が出てきたよ。
「よっすぃー・・・ありがと」
「いつでも私はオッケーっすから。言ってくださいね」
少し、走ってるスピードを落として。
ゆっくり歩いてみよう。
綺麗な景色を見ながら、みんなといろんな話をしよう。
そしたらまた走れるから。
また、頑張れるよね。
「戻ろっか?」
「はい。あ、ちょっと待って下さい」
「ん?」
よっすぃーはポケットを探って何かを探してるような素振り。
でも、目的の物は無かったらしい。
次の瞬間、視界が真っ暗になった。
「うわぁ!?」
目の辺りを何がでごしごし拭かれている。
すぐにまたよっすぃーが視界に入る。
「すみません、ハンカチ持ってなくて」
どうやら来ているパーカーの袖で拭いたらしい。
「涙、濡れてから」
「え?あ、・・・ありがと」
- 263 名前:New 投稿日:2003年03月29日(土)14時16分23秒
- 私達は楽屋の方に向かって歩き出した。ゆっくりと歩いた。
「よっすぃーの笑顔見たら、元気出てきたよ」
「そうですか?」
「うん・・・もし、よっすぃーが疲れたら今度はなっちの番だね」
「そうですねー」
あははと笑いながら歩く。
不思議だね。
笑顔の力ってすごいよ。
「あ、なっち!!」
楽屋から矢口が出てきた。
「もぉ、何処行ってたんだよ。心配したじゃんかぁ」
「ごめん、ちょっとね」
「安倍さんは元気を補給してたんですよ、矢口さん」
よっすぃーはそう言い残して楽屋に入っていった。
「・・・?どーゆー事?」
「そーゆー事♪」
私は矢口に笑顔で言うと、心配顔の矢口も笑顔になった。
「わけわかんねぇーよ」
「それでいいんだよ。入ろっ」
ほら、笑顔の力ってすごいっしょ?
END
- 264 名前:New 投稿日:2003年03月29日(土)22時57分44秒
『決心』
昨日の夜、布団の中で一生懸命考えた。それには理由があったのだ。
今まで気付かなかった自分の気持ちに気付いてしまった。
───昨日。
仕事が終わって帰ろうとした時だった。楽屋にはもう私しかいないと
思ってたんだけど、実はもう1人いたんだ。
『さぁて、帰りますかー』
私、大谷雅恵はカバンを持って楽屋を出ようとしていた。
扉を開けようとした時、いきなり扉が開いてものすごい痛い衝撃が
私の顔を襲った。
『痛ぇ〜・・・・』
顔を押さえながらしゃがみこんだ。ちょっと涙目。
『ご、ごめん!!』
『ん・・?』
顔を上げるとそこには柴田あゆみがいた。頭を下げて謝っている。
『大丈夫だよ、これ・・・くらい』
ホントはかなり痛い。痛くて叫びたいほどだ。
だが、ここは根性というもので押さえるのだ。何故かというと。
柴っちゃんが泣いていたからだ。
『どうしたの?』
私は立ち上がり、とりあえず聞いてみた。
- 265 名前:New 投稿日:2003年04月01日(火)00時55分05秒
- 私が聞いても黙って泣くだけの柴っちゃん。私はまだ開いている扉を
閉めて、柴っちゃんをイスに座らせた。
『・・・・』
何も聞かないでおこうと考え柴っちゃんの隣にあるイスに腰をおろす。
楽屋には柴っちゃんの泣き声だけが響いて他には何も聞こえない。
それからどれくらいたっただろう?
ゆっくりと柴っちゃんがしゃべり始めた。
『・・・ごめんね』
少し冷静さを取り戻したのか、柴っちゃんは苦笑いで。
『別にいいよ、何も用事無いし』
私はできるだけ明るい声で言った。そして少し沈黙になった。
・・・・ホント、どうしたんだろ?
こんな柴っちゃんを見たのは久しぶりだったから私は少し動揺していた。
いつも明るい彼女に一体何があったんだろう?
『私さぁ・・・好きな人、いてね』
やっとしゃべったと思えば爆弾発言。
『そ、そうなんだ・・・・』
何とか普通に返事をしようと努める。
『ダメだったんだ。でも本当はわかってた、ダメになる事。
どーせふられるんだって思ってた』
柴っちゃんの表情は暗く、沈んでいる。
- 266 名前:New 投稿日:2003年04月01日(火)01時04分58秒
- 私はただ黙って聞いていた。そんな自分がもどかしく感じる。
『その人には、大切な人がいたんだ。全部知ってたんだけど
当たって砕けろって言うじゃん?ちょっとでもいいから入り
込める隙間あるかなって信じて、告白してみたんだよね』
どうやらまだ残っていたのはその好きな人に告白する為だったらしい。
『はっきり言われた・・・大切な人がいるから、ごめんねって』
『そっか・・・』
柴っちゃんの目にまた涙がたまり始めた。
『何でだろうね?・・・はっきり言われてすっきりしたハズなのにさ・・・。
何で涙が出てくるんだろ?』
天井を見上げるように柴っちゃんは顔を上げた。
・・・なんだろ、この気持ちは。
よくわかんないけど、柴っちゃんに好きな人がいるって聞いて
すごくショックだ。
私は初めて感じる気持ちに気付き始めていた。
『・・・まだ好きなんじゃない?』
『そうかも・・・でも、叶わない恋なのに、ね』
柴っちゃんは泣き笑いで言った。私も笑おうと努力したが無理だった。
- 267 名前:New 投稿日:2003年04月01日(火)17時00分18秒
- 『ん、帰るね』
柴っちゃんは手で涙を拭って、立ち上がった。
『え?大丈夫?送ろうか?っていうか送るし』
慌てて言いながら私も立ち上がった。
『いいよ、大丈夫。マサオ、ありがと』
そして楽屋から出て行く柴っちゃんを私は呆然と見送っていた。
・・・・心配でしょうがないんだけどなぁ・・・。
あの小さな背中を見ただけで、すぐに駆け寄って抱きしめたいと思った。
・・・・え?まさか、私って・・・。
『・・・好き、なのかな・・?』
────そんなわけで、昨日の夜は一睡も出来ずに
こうして朝を迎え、仕事場に向かっている。
「はぁ・・・」
電車に乗って、こうして仕事場に近づくにつれ、ため息も多くなる。
そして、今日はハロプロライブのリハーサル。まぁ、どんな仕事でも
絶対、柴っちゃんと会うわけだが。
・・・だってさ、自分の気持ち気付いちゃったんだよ?
まともに顔なんて見れないよぉ・・・。
- 268 名前:New 投稿日:2003年04月01日(火)17時11分16秒
- ────休憩の時間。
「なんか、元気ないねぇ?」
イスに座ってぐったりしてる私に村っちが声をかけてきた。
ジュースが入ってるコップを私に差し出してくれた。
「ん、ありがと。寝てなくてさぁ・・・」
コップの中のジュースを口に含み喉に流し込んだ。少し頭がすっきりした
感じだ。
「ふーん、また何で?だって、昨日は仕事終わるの早かったじゃん」
「いろいろとね・・・」
なるべく柴っちゃんと接触しないように、朝から大変だった。
まぁ、向こうは私に話しかけてこないし。それはそれで悲しいんだけど。
「ちょっと眠ってくれば?時間あるし。仮眠室空いてたよ?」
「んー、そーしよっかなぁ」
「その方がいいよ、これから大変だよ?倒れたらやばいよ。
時間になったら起こすから」
村っち・・・・・感謝します。
私はよろよろと立ち上がり、控え室を出ようとする。
「んじゃ、ちょっと寝てくる」
「行ってらっしゃーい」
- 269 名前:New 投稿日:2003年04月01日(火)17時21分32秒
- 仮眠室には誰もいなかった。まぁ、みんな忙しいからこんなとこ来る人は
あんまりいないだろう。
「ふ〜、うわぁ・・・眠くなってしまった」
ごろんと寝転がって伸びをした。急に眠気が襲ってきた。
私は数秒で眠りにつく事が出来た。
「やっぱ美形だねぇー」
「しっ!起きちゃうじゃん」
「こっちにもいるけどね、美形さん」
「よっすぃー、いなくなったと思えばここにいたのね」
・・・・何か、騒がしいなぁ。
「ん〜・・・?」
私はゆっくと目を開けると、そこには何人か人がいた。
目をこするながら起き上がる。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
安倍さんが眩しい笑顔で言った。隣には矢口さん、石川さん。
「いえ、結構だるいのとれたし」
「よっすぃー探してたんだぁー」
「全く、何かひと言、言ってからいけばいいのにね」
「梨華ちゃん、起こしてやってよ」
石川さんが寝ているよっすぃーに近づき、起こそうとする。
- 270 名前:New 投稿日:2003年04月01日(火)17時34分15秒
- 「よっすぃー起きてよ、ねぇ」
ガクガクとよっすぃーの肩を揺らしながら起こそうとする石川さん。
「ん・・?梨華ちゃん?」
「もう、探したんだからね」
「眠かったんだよぉ・・・」
よっすぃーはまだ寝ぼけているのか目が完全に開いていない。
私は立ち上がって今の時間を確かめようと携帯を取り出した。
20分くらい寝てたみたいだ。
・・・眠気も覚めたし、戻るか。
その時、仮眠室の扉が開いた。誰かが入ってくる。
柴っちゃんだった。
「あー、あゆみちゃん!久しぶり〜」
安倍さんが近距離なのに柴っちゃんに手を振る。
「お久しぶりです。安倍さん、矢口さん」
「あ、柴ちゃん?」
「梨華ちゃん・・・」
石川さんを見た時の柴っちゃんはどこか悲しそうな表情を
一瞬だけ見せた。一瞬だけ、すぐにいつもの柴っちゃんに戻った。
「柴っちゃん、どうした?」
「あ、村っちからマサオ、ここにいるって聞いて」
ねぇ、何でさ。そんな泣きそうなの?
きっといつもの表情なんだろうけど。
私は、今にも崩れちゃいそうに見えるよ。
- 271 名前:New 投稿日:2003年04月01日(火)17時43分18秒
- 「ん、そっか。もう戻るよ、だいぶ楽になったし」
私は笑顔を浮かべながら柴っちゃんのもとへ近寄る。
その時、よっすぃーが無言のまま仮眠室を出て行った。
・・・・??
その後を慌てて石川さんが追いかけていく。
「何だべ?よっすぃー」
「さぁ・・?」
安倍さん、矢口さんにもわからないらしい。私にもさっぱりだ。
そんな気にせずに私は柴っちゃんを連れて戻ろうとした。
だけど、柴っちゃんは急に走って出て行ってしまった。
「・・・柴っちゃん!!」
私は慌てて、後を追った。
- 272 名前:New 投稿日:2003年04月04日(金)14時00分30秒
- 長い廊下を全速力で走る私。すぐに柴っちゃんの腕を掴んで引き止めた。
「どうしたの!?」
「・・・ひっく・・・」
柴っちゃんは予想通り泣いていた。必死に声を殺して。
「・・・よっすぃーと何かあった?」
私の質問に頷く柴っちゃん。私は携帯を出して時間を確認した。
まだ集合までに時間はある、とりあえず使われてない空屋に入った。
「ごめん・・・」
「何言ってんの、いいって。まだ時間あるし」
柴っちゃんの涙を親指で軽くふき取る。
こんな彼女を私は放ってはおけない。
「ゆっくりでいいから」
「・・・あのね、告白した人ってよっすぃーなの」
「そうなんだ・・・」
「でも、よっすぃーが好きなのは梨華ちゃん。見事にふられちゃったよ」
柴っちゃんは苦笑いで言った。
「柴っちゃんはまだ忘れられないんだね、よっすぃーの事」
あの様子からすると、石川さんは知らないようだ。
「私、知ってたんだ。あの2人が両思いだって事。
梨華ちゃん嬉しそうによっすぃーの事話すし。よっすぃーはいつも
梨華ちゃんを見てる。・・・だから、完全に両思いになる前に。
もしかしたら・・・って思った」
- 273 名前:New 投稿日:2003年04月04日(金)14時14分14秒
- また泣き始める柴っちゃんを私は優しく抱きしめた。
「辛いよぉ・・・。もうよっすぃーと梨華ちゃんに普通に
しゃべれないよ・・・」
柴っちゃんは私に抱きついて、辛い気持ちを打ち明けた。
「・・・こんな事なら、告白なんてしなきゃ良かった・・・」
「それは違うよ、柴っちゃん」
「・・・??」
「告白しないでいたら後悔するよ。告白しなでいたらそっちの
方が諦めきれないよ。大丈夫だよ、時間かかるかもしんないけど
また普通にしゃべれるようになるって。笑いあえるって。
また友達に戻れるって・・・・。私が、そば、に・・いるし」
最後の言葉は何か緊張して上手くいえなかった。
「マサオ・・・」
「だ、から泣きたくなったら・・・私んとこおいで?」
「うん・・・」
私の心臓はバクバクいってて、絶対柴っちゃんに気づかれてると思った。
今までにないほど私は緊張してて、顔が熱かった。
「マサオ・・・耳まで真っ赤」
「う・・・うるさいなぁー」
「あはは〜、可愛いー」
「こらぁ、笑うなよなー」
久しぶりに柴っちゃんの笑顔が見れた。私もつい笑った。
- 274 名前:New 投稿日:2003年04月04日(金)14時24分12秒
- それから数日がたって、柴っちゃんは元気を取り戻した。
そばにいれるだけで私は幸せだった。
「マサオー」
「何ー?」
今日はハロプロライブの公演が終わり、ホテルで宿泊。
私は柴っちゃんの部屋にいて、ベットに寝転がっていた。
「これ、この映画。今度一緒に見に行こう?」
柴っちゃんは寝転がってる私に雑誌を見せて言った。指をさしてる
所には今、話題の映画の記事が載せられていた。
「いいよ、私も見たかったし」
「やった。約束だからねー」
柴っちゃんの笑顔が見られるなら何処までも付いて行く気の渡しだった。
そして、映画の事をしゃべっていた。
コンコンと扉がノックされた音が聞こえた。
「はーい?村っち?瞳ちゃん?」
柴っちゃんが扉を開けた。そこにいた人物は・・・。
「・・・よっすぃー・・・」
「いきなり、ごめん」
「いいよ、は、入る?」
「お邪魔でなければ・・・」
「ど、どうぞ・・・」
よっすぃーは部屋に入ってきた。
- 275 名前:New 投稿日:2003年04月04日(金)14時36分42秒
- 「あ、大谷さん・・・」
「んじゃ、私部屋に戻るわ。明日も早いし」
私は立ち上がって出ようとした・・・が、柴っちゃんに引き止められた。
「マサオ・・・ここにいて、お願いだから」
柴っちゃんは目を潤ませながらそう言った。私はしかたなくベットに
腰かけた。3人の間に沈黙が流れる。
それを破ったのはよっすぃーだった。
「こないだの事なんだけど・・・」
「うん・・・」
「正直、驚いてさ。・・・気持ちは嬉しい、けどあの時言ったと同じように
私は梨華ちゃんが好きだから。応えられない・・・」
私は黙って聞いていた。正直言うと、よっすぃーに怒っていたかもしれない。
一体何を言いに来たんだってね・・・。
「でも、・・・このまま普通にしゃべれないようじゃ・・・気まずい
んだとさ・・・お互い嫌じゃない?・・・もしかしたら私の都合
かもしんないけど・・・友達でいよう・・?」
そっか、よっすぃーも友達でいたかったんだね。
良かったじゃん、柴っちゃん。
「よっすぃー・・・うん、友達でいよう。今までと変わらずにね・・・」
柴っちゃんは穏やかな表情で言った。
- 276 名前:New 投稿日:2003年04月06日(日)20時27分55秒
- 「あ〜良かったぁ・・・」
情けない声を出しながらよっすぃーはずるずるとしゃがみ込んだ。
「もし、もう普通にしゃべれなくなったらどーしようかと思ったよ」
柴っちゃんはよっすぃーの目の高さに合わせてしゃがんだ。
「・・・ありがと、嬉しかったよ。これからもよろしくね」
「・・・ん、よろしく」
そして仲直り(?)したとこでよっすぃーは帰ってしまった。多分
石川さんを待たしているのだろう。
「・・・柴っちゃん?」
柴っちゃんはよっすぃーを見送ってから動こうとはしていない。
私はベットから立ち上がって柴っちゃんのもとへ歩いた。
「・・・よっすぃーって優しいから。そこがまた好きなんだよねぇ・・」
ポツリと呟く柴っちゃん。はっきりした口調からして泣いてはいないようだ。
「柴っちゃん」
「でも!やっとふっきれた」
明るい笑顔で柴っちゃんは私の方振り返った。
「マサオのおかげだよ」
「えぇ!?」
いきなりの言葉に私は驚いてしまった。
「もし、マサオがそばにいなかったら。よっすぃーの言葉、最後まで
聞かないで逃げちゃったかもしれない」
- 277 名前:New 投稿日:2003年04月06日(日)20時43分50秒
- 良かった。そばにいるだけで柴っちゃんがこんなに元気になってくれた。
今まで、私と柴っちゃんはずっと一緒にいた。案外寂しがり屋の柴っちゃん。
オフの日は一緒に買い物に行ったり、家でビデオを見たり過ごしていた。
・・・・ふっきれたなら、もうこの関係もおしまいか。
いくら、友達関係でも仕事仲間でもこんなに毎日一緒にはいないだろう。
「ありがとね、マサオ」
「うん」
寂しかったのは柴っちゃんじゃなくて自分だなと実感した。
そばにいたいな、たとえそれが友達だとしても。柴っちゃんが
寂しいなら一緒にいるし。それはただの言い訳かもしれないけど。
「あーあ、よっすぃーみたいな人どっかにいないかなぁ〜」
柴っちゃんはそう言いながらベットの方に向かった。私はただ
黙って柴っちゃんを見ていた。
・・・私じゃダメかなぁ。
よっすぃーみたくかっけー言葉なんて言えないし、あんな律儀でもないし
いざという時何もできないし(つまりヘタレ)。
・・・ダメじゃん。
- 278 名前:New 投稿日:2003年04月06日(日)20時52分43秒
- 「マサオ?」
何かだんだん凹んできた。あーあ、これじゃぁ告白の答えなんて
目に見えてんじゃん。
「ん・・・いや、別に」
「ほら、雑誌見ようよ」
こんな弱いやつ、柴っちゃんはどう思うのかな?
ふらふらと歩きながら柴っちゃんのもとへ。
「どうしたの?暗いよ?」
「え・・・あ、眠くなってきたのかも・・・」
「あー、もう12時だもんねぇ。寝よっか?」
「うん・・・じゃぁ、おやすみ」
自分の部屋に帰ろうと扉に向かって歩こうとしたら。
そでを引っ張られて前へ進めない。
「柴っちゃん・・・?」
「何処行くの?」
「何処って・・・・自分の部屋だけど」
「いいじゃん、ここで」
「あの、ベット1つしかないんすけど。床で寝ろと?」
「ここだよ、ここ」
自分の隣をポンポンと叩く柴っちゃん。私の顔は一気に熱くなる。
そ、それはぁ・・・・一緒に寝るんですか!?
「嫌?」
「嫌じゃないけど・・・」
期待しちゃうじゃん・・・こんな私、柴っちゃん好きじゃないのに。
- 279 名前:New 投稿日:2003年04月06日(日)21時04分01秒
- 結局、一緒に寝る事になった。こんな事今までなかったから緊張しまくり。
電気を消してベットの脇にあるスタンドだけが明るくなる。
「お邪魔します・・・」
おずおずと柴っちゃんの隣に入る。
「マサオ、せまくない?」
「ん、大丈夫。柴っちゃんは?」
「・・・・もうちょっとそっち行っていい?」
「いいよ、おいで」
まぁ、そんなにせまいベットでもないけど、大きくも無い。
柴っちゃんはこっちの方にちょっと動く。
────え?
何か、何か抱きついてるよ?この人。
「し、柴っちゃん・・・?」
「こーしてたい・・・」
柴っちゃんのシャンプーの匂いがする。
・・・・このままじゃ、やばいかも。
私は無意識に彼女を抱きしめていた。彼女にとって寂しさを紛らわす
道具でもかまわない、ただそばにいたい。それだけなんだ。
- 280 名前:New 投稿日:2003年04月06日(日)21時11分55秒
- 翌朝、ふと目覚める。時刻は午前の6時。
すぐ横には柴っちゃんが、まだ寝てるみたいだ。そろ〜っと
ベットから出て洗面所で顔を洗う。眠気が一気に晴れたようだ。
「あれ〜?マサオ・・・?」
向こうで声が聞こえた。どうやらお目覚めのようだ。
「おはよ、柴っちゃん」
まだ寝ぼけ眼の柴っちゃんの顔を覗き込みながら言った。
すると首に腕を回され、引っ張られた。
「うわ!?」
「ん〜、おはよ」
柴っちゃんの顔の隣に自分の顔を埋める。
案外、寂しがり屋で甘えん坊なのがよくわかった。そんでもっと好きになる。
「ほら!離して、起きて、支度!」
「え〜、嫌だぁー」
「柴っちゃん!!」
「私は一旦戻るから、ね?」
「それもかなり嫌だぁー」
「すぐ戻るから!」
10分後、やっと離してくれた。私はすぐにこの部屋を出た。
- 281 名前:New 投稿日:2003年04月06日(日)21時24分22秒
- 部屋をおそるおそる出ると、廊下が騒がしい事に気付く。
「あー!いた!」
「マサオ〜!!」
村っちと瞳ちゃんが私を指差して言う。一体何事だと私は思った。
他にも矢口さんや、安倍さんらもいた。
「何してるの?廊下で」
「何してるの?じゃない!もうー、部屋にいないから何処に
行ったのかと思ったよ」
村っちが朝から大きな声を出しながら言う。瞳ちゃんも同じく。
「柴っちゃんの部屋にいたんだよ」
私はそう言い放って自分の部屋に戻ろうとした。
・・・が、廊下が急に静かになる。
「えー!?大谷さん、柴っちゃんの部屋に?」
矢口さんがキャーと声を上げて興奮してる。同じく、みんな。
「何っすか。ちょっと急いでるんで失礼!」
もしかすればあの人はまた夢の中へ行ってるかもしれない。
────予想的中。
ベットにうずくまり、気持ちよく夢の中へとびだっていた。
「柴っちゃん・・・・」
急いで着替えて来たのに、そりゃないよ。
肩を揺すって起こす。
「ん・・?朝・・・?」
「朝?じゃないよ!もう!いい加減起きてよー」
この人は今までどうやって起きてきたんだ。不思議でしょうがない。
- 282 名前:New 投稿日:2003年04月07日(月)18時53分53秒
- それから、私はいろんな人にからかわれるはめになった。
くそぉう・・・あの時、もっと慎重にしていれば・・・。
あの時の事が悔しまれる。
「ねぇー、ポップコーン買おうよ」
柴っちゃんは私がからかわれている姿を楽しそうに笑っている。
しかも冗談で『私達、付き合ってんだぁー。ね、マサオ』なんて言うし。
口調がもうそんなの嘘ですみたいな感じだからみんな本気にしないけど。
それはそれでちょっと傷つくわけで。
・・・で、今日はこないだの映画の約束の日。
柴っちゃんはやけにウキウキで、ハイテンション。
「楽しみだねぇー」
「そうだね」
まぁ、この笑顔さえ見れれば私は幸せなのだが。
映画はちょっと前まで話題だった怖い映画。忙しかったため、
中々見に行けず、やっと今日見れたのだ。まぁ、あと2日かそこらで
この映画は終わってしまうのでお客は少ない。
最初はウキウキでハイテンションだった柴っちゃん。
上映開始3分後───そのウキウキが何処へいったのやらめちゃくちゃ
テンションが一気に下がる。
怖い場面になるとキャーだの声を上げるし。他の客の事なんておかまいなし。
- 283 名前:New 投稿日:2003年04月07日(月)19時00分43秒
- まぁ・・・実際のとこ私も怖かった、が何とか頑張った。
上映が終了して映画館を出る。その間沈黙が続いた。
・・・そんな怖かったのかな?
「柴っちゃん?」
「・・・あ〜怖かったぁー」
「うん、わかってたよ」
「マサオもでしょ?」
「柴っちゃんほどじゃないね」
「嘘だぁ〜。今日は眠れないとか言って電話かけてこないでね」
「その言葉、そっくり返すよ」
「何よぉ〜!!」
やっともとの柴っちゃんに戻ったとこでこれからの予定を考える。
お昼の時間帯、なので昼食だ。
「どうする?何食べたい?」
「んー、パスタかな」
「じゃ、行きますか」
今までと変わらない関係。友達以上恋人未満。
きっとこれからも変わらないんだろうな。
2人、仲良く人ごみの中を歩き出した。
- 284 名前:New 投稿日:2003年04月07日(月)19時14分37秒
- ある日、仕事が終わって柴っちゃんの家に遊びに来てた日。
いつものように晩ご飯食べて、ビデオ見ていた。
柴っちゃんの携帯がなった。
「あぁ、もう!せっかくいいとこなのに」
怒りながら携帯を見る柴っちゃん。私はビデオを停止した。
「もしもし───?よっすぃー?」
どうやら相手はよっすぃーのようだ。柴っちゃんとよっすぃーは
あの時からもとに戻って普通にしゃべれるようになっていた。
「・・・・うん・・・うん・・・わかった・・・」
ピッと携帯を切る音がする。嫌な予感がした。
柴っちゃんが立ち上がる、悲しそうな顔をして。
・・・・何て顔してんだよ、よっすぃーからの誘いだろ?
もっと嬉しそうにしなよ・・・。
「行きなよ、私はいいから」
「マサオ・・・・ごめんね」
「いいよ、んじゃ私は帰るね」
優しいコだね、柴っちゃん。
ほら、せっかくのチャンスのがしちゃダメだよ?
私はすぐに柴っちゃんの家を出た。
- 285 名前:New 投稿日:2003年04月07日(月)19時26分41秒
- 外は雨が降っていて、肌寒かった。傘は言うまでもなく持って
いないので当然濡れて帰るわけだ。
私は雨の中、歩き出した。家に帰るわけでもなく、ただ街の中を
歩いていた。
まぁ、こんな事前からわかってたはずだ。
なのにどうしてこんなに悲しいんだろう?
涙が出てるのも雨でわからない。
「・・・・これで、いいんだ」
私は臆病だから、さらっていく事は出来ない。
私は臆病だから、『行くな』なんて言えない。
ただ彼女の幸せを願う。
ずぶ濡れになって家に戻ったのは夜中の2時だった。
明日・・・っていうか今日も仕事はある。
体調は崩してはいけない。お風呂を沸かして、とりあえずタオルで
頭を拭いていた。
携帯を取り出すと着信が一件。ディスプレイには『柴っちゃん』。
・・・・何で???
何で私に電話をかけるの?
あ、報告かな。よっすぃーとの。
私は今、柴っちゃんに電話をかけるほど心が広いわけではないので
携帯の電源を切ってお風呂に入った。
- 286 名前:New 投稿日:2003年04月08日(火)00時27分26秒
- もちろん朝起きたら頭がガンガンする事は予想済み。
「うわぁ・・・いってぇー・・・」
よろよろと起き上がり薬を探す・・・・が、丁度頭痛の薬が切れていた。
マジで・・?最悪。
仕方ないので着替えて、朝食は食べる気が全くしないので食べずに
家を出て仕事へ向かう。
とにかく動く度に頭が痛い。
ダンスレッスンなんかは最悪でまともに踊れない。スタッフさんに
薬を貰い、それのおかげでだいぶ良くなった。
もう、誰ともしゃべる気がしなかった。
「大丈夫・・・?」
柴っちゃんが心配している様子。村っちも瞳ちゃんも同じだ。
「だ、だいじょーぶ・・・」
「熱、あるんじゃない?」
柴っちゃんの手が私のおでこに触れる。
「・・・ねぇ、熱いよ?熱測ろう」
「いいよ、あと少しで帰れるし」
「でも・・・」
「家帰ったらすぐ寝るから」
力なく笑って目を閉じる。自分でもわかってるよ、熱あるって。
立ち上がるとふらふらするして倒れそうになるんだから。
- 287 名前:New 投稿日:2003年04月08日(火)00時39分12秒
- 結局、その後仕事にならず早引きをした。タクシーで家に帰って
すぐに寝た。ホントは医者に行けと言われてたけど寝れば治るって
思ってたし。
───午後6時。
寝てから2時間たったころピンポーンと響いた。
・・・誰だろ?
よたよたと歩きながら玄関へ、相手が誰かも確かめずに扉を開けた。
「マサオ?生きてる?」
・・・生きてます。っていうか第一声がそれですか・・。
柴っちゃんはスーパーのビニール袋を下げてやって来た。
私は柴っちゃんを中に入れた。
「どーせ、病院にも行ってないだろうし何も食べてないと思ったから。
キッチン借りるね〜」
「え?いいよ〜、柴っちゃん疲れてるでしょ?」
「いいって、マサオは寝てなさい!」
まぁ・・・おなかすいてたし。
お言葉に甘えて食事ができるまで寝ようとベットにもぐった。
何か、さっきよりも落ち着いて眠れそうだ。
「どう?おいし?」
30分後、柴っちゃんが作ってくれたおかゆを食べる。
「うん、おいしい・・・けどあんま味覚がない・・・」
「それっておいしいとかわかんないじゃーん」
「うん・・・ごめん」
「あはは、マサオって素直だねー」
- 288 名前:New 投稿日:2003年04月08日(火)00時51分20秒
- 柴っちゃんは仕事が終わってすぐに来てくれたらしい。
「昨日さ・・・」
お茶を飲みながら柴っちゃんは話し始めた。『昨日』という単語に
びくっと反応してしまう。
「大雨だったでしょ?」
「うん・・・そうだね」
「あの中、歩いて帰ったの?何時に帰ったの?」
「えっと・・・夜中の2時くらい」
「馬鹿ッ!!そんなんじゃ風邪ひくってわかってるじゃん」
嘘をつけばいいものの、私は素直に言ってしまう。
まぁ、嘘ついた所ですぐバレちゃうと思うけどね。
「そ、それよりどうだったの?よっすぃーとは」
「え・・・なんかね、梨華ちゃんと喧嘩したみたい」
「うぇ!?まさか・・・別れたとか?」
「そこまではしてないけど」
<柴っちゃん視点>
昨日、よっすぃーから電話があって私ん家に来てもいいかとの事。
あんな弱弱しいよっすぃーの声は初めて聞いた。
私はいいよと言ってしまった。マサオがいるのに。
『よっすぃー、どうしたの?』
『・・・・喧嘩した』
ずぶ濡れのよっすぃーにタオルを渡す。すぐに外は雨が降ってると
わかった。
・・・マサオ、大丈夫かな。
私の頭に笑ってるマサオが浮かんだ。
- 289 名前:New 投稿日:2003年04月08日(火)14時48分38秒
- その時、いきなりよっすぃーに抱きしめられた。
「・・え?ちょ・・・よっすぃー!」
抵抗してよっすぃーから離れようと腕を伸ばした。でもよっすぃーの
力は私の力では勝てなかった。
「柴っちゃん・・・」
低い掠れた声が耳元で囁く。
「よっすぃー・・・」
無理矢理、抱きかかえられて私の部屋のベットに連れて来られた。
「ダメだよ!よっすぃー!」
私は必死で抵抗した。大声で叫んだ。でもそんなのお構いなしのよっすぃー。
上から覆い被さって首にキスをする。
・・・嫌だよぉ。
こんな状況でこんな事されても全然嬉しくない。目から涙が溢れてきた。
「柴っちゃん・・・」
「こんなの・・・嫌だよぉ・・・・」
服を脱がされてる所でよっすぃーは私の涙に気づいた。
「・・・・ごめん」
よっすぃーの心には私は入り込む隙間なんてないんだよ?
その心にはいつも梨華ちゃんがいるんでしょ?
よっすぃーは手を止めて私に何度も謝る。私は涙を止めて、よっすぃーの
手を握った。
- 290 名前:New 投稿日:2003年04月09日(水)22時21分29秒
- 「よっすぃー・・・何で梨華ちゃんと喧嘩したのは知らないけど、
こんな事絶対ダメだよ。好きなのは梨華ちゃんだけでしょ?
だったら・・・ちゃんと仲直りしなよ?」
「柴っちゃん・・・」
よっすぃーの目はとても寂しげで今にも抱きしめてあげたいという
衝動にかられる。
・・・その役は私じゃない。
私は一回、よっすぃーの頭をなでた。
「ほら、行きなよ。今ごろ梨華ちゃん、泣いてるんじゃない?」
肩をポンポンと叩いて、笑顔で言った。
するとよっすぃーは力なく笑って「ごめんね、ありがとう」と
言って出て行った。
私はベットに寝転んで天井を見上げていた。
雨の音が激しく聞こえる。
・・・・マサオ・・・。
浮かんでくるのはやっぱりマサオの笑顔だった。
- 291 名前:New 投稿日:2003年04月09日(水)22時33分14秒
- <マサオ視点>
柴っちゃんは昨日の事を全部しゃべった。
「・・・・柴っちゃん」
「マサオ、ごめんね。熱出たのは私のせいだね」
柴っちゃんは俯いて言った。
「あの時、断れば良かったんだよね。なのに・・・私さ・・・」
「いいって!こんなの1日寝てれば治るから!」
私は明るく言うが柴っちゃんは全然明るくなんない。
「私ダメだよね・・・よっすぃーに未練たらたらで」
「仕方ないよ、人を好きになるのはそーゆーもんだから」
柴っちゃんを抱き寄せて髪をなでる。嫌がる様子もなく柴っちゃんは
そのままでいてくれる。
「・・・何かね、不思議なんだ。昨日の夜、マサオの事ばっか
気になってた。あ、電話かけたんだけど」
「あ、ごめん。気付かなくてさ」
「嫌な女だよね、嫌いになるよね・・・」
「ううん!!全然!!むしろ・・・・」
そこで言葉が詰まった。
言ってもいいの?自分の気持ち言っていいの?
カチコチと時計の音だけが響いてる部屋。柴っちゃんが不思議そうな
目で見てくる。顔が熱くなっていくのがわかる。
- 292 名前:New 投稿日:2003年04月09日(水)22時39分23秒
- 「むしろ?」
「・・・えっと・・・むしろ・・・・」
「マサオ、言ってよ」
今、決心すべき時なのかもしれない。
よし、今言うんだ。
これを逃したら。
きっと次は無い。
「むしろ・・・大好き、だから」
柴っちゃんの目を見て言った。
「・・・よっすぃーみたいにかっこいい言葉なんて言えないし。
いざというとき何も出来ないけど・・・」
そんな奴だけど、あなたが好きなんです。
「だけど、好きなんだ」
目を瞑って返事を待った。例えどんな結果であろうと後悔はしない。
好きな人に好きって言えたんだから。
- 293 名前:New 投稿日:2003年04月09日(水)22時50分20秒
- ふと暖かい何かに包まれた。
それはまぎれもなく柴っちゃんだった。
「・・・そんな事ないよ、今のマサオめちゃくちゃかっこいい」
「柴っちゃん・・」
「私がここまで立ち直れたのは全部マサオのおかげ」
恥ずかしくて私はただ照れるだけだった。
「───もう!気になってしょーがないんだよね」
「・・・?」
「わかんない?好きだよ、マサオの事」
「・・・で、でもよっすぃーみたいな人じゃないよ?
むしろ正反対って言うか・・・」
「いいの!!今のままのマサオに惚れたんだから!!」
最高に嬉しい言葉を好きな人が言ってくれる。
こんなに嬉しい事、ないと思う。
決心して良かった。
───翌日。
熱は下がり、私の体調は完全回復。
「おっしゃ!マサオ復活〜!!」
「・・・全く、私の看病のおかげだよね」
結局柴っちゃんは私の家に泊まって看病してくれた。
「んじゃ、行きますか」
「行こう〜」
2人仲良く家を出て、仕事へ向かう。
- 294 名前:New 投稿日:2003年04月09日(水)22時59分24秒
- ───楽屋。
ハロプロのメンバー大集合の中。
みんなにばれないように、こっそり手を繋ぐ。誘ってきたのは
柴っちゃんだ。
「・・・・柴っちゃん、ばれるよ」
「『柴っちゃん』じゃないでしょ?」
「・・・・あ、あゆみ・・・ばれるよ?」
「大丈夫だよ。こんな大人数だもん」
「なら・・・いいけど」
「そーいえば、昨日寝言言ってたよ?」
「えぇ!?・・・な、何て?」
「名前、言ってた」
「・・・誰の?」
まさか・・・あ、あゆみ以外の誰かの名前を言ってしまったんじゃぁ。
だって、明らかにあゆみのテンションが下がってる。
「ねぇ・・?」
「誰だと思う?」
冷や汗をかく。
「教えな〜い!!」
急に手を離して「トイレ行ってこよ〜」と言い、楽屋を出て行った。
「あゆみ!!」
とつい叫んでしまった。もう後の祭り。
みんなが私を注目。
- 295 名前:New 投稿日:2003年04月09日(水)23時02分14秒
- 「マサオ・・・あゆみって呼んでたっけ?」
村っちが不思議そうに聞く。
「柴っちゃんじゃなかったけ・・・?」
瞳ちゃんが言う。
・・・・ちくしょう、はめやがったな。
「あはは、いや、・・・・あははは・・・」
笑ってごまかし、楽屋を出る。
「あゆみー!!!」
廊下にむなしく私の声が響いた。
END
- 296 名前:New 投稿日:2003年04月10日(木)22時57分14秒
前から気になってたんだ───
いつも友達と楽しそうにしゃべってるあいつ。
『気になるあいつ』
あたしは全力で走っていた。理由は『時間に間に合わない』。
朝、学校に友達と一緒に行っている。
「はぁ・・・はぁ・・・」
いつもこんな感じだけど。
「ごっちーん!!」
やっと待ち合わせの場所に着いた。梨華ちゃんがこっちに
手をふっている。
「ごめ・・・ん。また寝坊で・・・」
息切れの中、必死でしゃべる。そんなあたしを梨華ちゃんは怒る事
無く、聞いてくれる。
学校へ行く手段はバス、バス停までの道のりは徒歩。
「ごっちん、最近寝坊してなかったのに」
「今日は目覚まし時計止めちゃって二度寝しちゃったんだぁ」
いつもなら、起きて間に合わないと思ったら即梨華ちゃんに
メールして『遅れる』と伝える。
でも、間に合わなかったらあいつに会えないから。
- 297 名前:New 投稿日:2003年04月10日(木)23時05分55秒
- いつもの時間にバスに乗り込む。やっぱ朝という事もあるので
学生や、サラリーマンの人達で席は埋まっていた。
「やっぱ空いてないね・・・」
「仕方ないね」
適当な場所で手すりに掴まり立っていた。
・・・・やっぱり、いた。
いつも1番後ろの席に座ってるあいつ。今、あたしの最も気になってる
人物。隣には友達がいる。
遅刻ばっかしてたあたしが毎朝ちゃんと遅刻せず学校に行ってる。
こないだ、偶然、朝早起きしてこの時間帯のバスに乗ったら
あいつを見つけたんだ。いわゆる一目惚れってやつ。
んで、梨華ちゃんが丁度同じバスに乗っているのでこうして
朝、待ち合わせて一緒に学校に行っているのだ。
ガタガタと揺れながら走るバス。自然と眠気が襲ってくる。
「ごっちん、眠そう」
「んぁ〜・・・眠い」
「立ちながら寝ないでよ?」
「ん・・・頑張ってみる」
- 298 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)15時13分08秒
- っていうか寝てられない。何のためにいつも朝、ちゃんと起きて
このバスに乗っているんだ。
たまに1番後ろにいるあいつを除き見しながらバスに揺られる。
あいつとその友達が下りるよりもあたし達がバスに先に下りる。
ちょっと名残惜しいけどまた明日があるからと思いバスを下りる。
ふと隣を歩いてる梨華ちゃんを見る。何かトロンとした目でうっとりしてる。
「梨華ちゃん?どうしたの?」
「え!?あ・・・いや〜、何ていうか・・・今日もかっこよかったなぁって」
・・・・へ?
どーゆー事?
「梨華ちゃん、好きな人がバスに乗ってたの?」
どうやら無言の梨華ちゃんを見ると図星のようだ。しまった!って
顔してるし・・・・。
「どの人?隠さなくたっていいじゃん」
「誰にも・・・いわないでよ?」
「もちろん!!」
あたしは内心焦りがあった。もしかした私が見てる人と同じ人かもしれないと。
学校が見えた頃、梨華ちゃんは小さく言った。
「・・・バスで1番後ろに乗ってる・・・・」
えぇ・・!?マジで・・・?
あたしはかなり焦った、どうしようと心の中で何回も言った。
「金髪の人・・・・」
- 299 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)15時20分58秒
- 「き・・・金髪?」
「うん、かっこいいの」
頬を赤らめて梨華ちゃんは言う。
な、なんだぁ〜。良かった・・・・。
もし、あいつだったらとても困った。でも梨華ちゃんが好きなのは
あいつの友達。
これは好都合。
あたしの中である計画が立てられる。
「乗り込む?」
お昼休みの時間。梨華ちゃんといつものように屋上でお昼ご飯。
「そ、梨華ちゃんの恋にあたしが協力してあげるよ!」
「・・・・ごっちん、何か企んでる」
梨華ちゃんはあたしを疑った目で見つめる。
そう、あたしは企んでる。
だって梨華ちゃんが好きな人はあいつの友達。
制服が同じって事は同じ学校。
梨華ちゃんの恋に協力すると言っても結局自分の恋を勝ち取るため。
- 300 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)15時33分43秒
- 梨華ちゃんに事情聴取をされたあたしは自分の事を言った。
「あぁー、わかった。あの人ね」
「うん、あいつ」
「変だと思った、他人の事でごっちんが協力するなんて」
「梨華ちゃん?あたしはもちろん協力するよ」
「ま、それは助かるよ。私もきっかけが欲しかったし」
やっと解放された時、授業開始5分前のチャイムがなった。
午後の授業はどう乗り込むかについて考えていたので全く聞いてなかった。
乗り込むというのはあいつが行ってる学校に入るという事。
「梨華ちゃん、今から行ってみようよ」
丁度今日は梨華ちゃんは部活が無い日。あたしは元から部活には入ってない。
「今日?今から?急過ぎない?」
「思い立ったら行動開始だよ!行こう!」
全ては自分の為、なのだが。
いつも乗ってるバスの方に乗る。多分、あたし達の学校の近くに
ある学校だ、あの制服は。
「でも、行ってどうするの?例え会ったとしても向こうは私達、
知らないわけだし・・・」
「まずは名前だよ!聞き込みして」
「無茶だよぉ・・・」
泣きそうな梨華ちゃんを放っておいて、あたしは燃えていた。
- 301 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)15時45分03秒
- 放課後なのであちこちで部活をやってる風景が見られた。
「・・・ごっちん、どうするの?」
「んぁー・・・・とりあえず、誰か」
校門の所でうろうろしてるあたし達はかなり怪しい。
他校なので入るわけにもいかない、すぐばれるに決まってる。
「何してるんですか?」
急に声をかけられて、びくっとした。
そこには・・・・何と偶然なのだろうか、あいつの友達。
つまり梨華ちゃんの想い人。
当然、梨華ちゃんは緊張してるのか固まったまんまで。
「えーと・・・」
確かに会えた、けど『会いに来ました』なんて言えない。
「あぁ、市井さんのファンの人?」
・・・イチイ?
「市井さん、今日は走ってるよ。もうすぐ来ると思うけど」
「吉澤ぁー!!!!」
バカでかい声でヨシザワと叫ぶ人はこっちに走って来た。
「お前なぁ・・・早すぎなんだよ」
「市井さん、体力無いですね」
「バカ言うな、これでもバスケ部、部長だぞ」
ラッキーとしか思えない。
- 302 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)15時57分40秒
- 「ほら、市井さんのファンの人がお待ちですよ」
「はぁ?」
「そんな不機嫌そうな顔しないで下さいよ。いいじゃないですか」
「私はお前みたくいろんなコにニコニコ笑えねぇんだよ」
どうやらあたしの想い人は口が悪いようです。
「あの!あたし後藤真希って言います。そんでこっちが友達の
石川梨華ちゃん」
こうなったらもう勢いだ。あたしは早口で言った。
「えっと・・・うちは吉澤ひとみ。こっちが市井紗耶香さんです」
吉澤さんは律儀な人だ、それに比べて市井さんは・・・。
かなり不機嫌そうな顔でこっちを見ている。
「あのさ、ファンとかって言われてもうざったいんだよね。
悪いけど帰って」
そう言いきって市井さんは走り出した。
「市井さん!・・・・ごめんなさい、ちょっと機嫌悪いみたいで」
吉澤さんはすまなそうに言った。
「あの、私は市井さんじゃなくて・・・吉澤さんのファンで・・・」
「え?」
おぉ、梨華ちゃんがやっとしゃべった。
- 303 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)23時00分24秒
- 「えっと・・・だから・・・そのぉ・・・」
何だかもう泣きそうな梨華ちゃん。
「石川梨華ちゃんだっけ?」
「はい!」
「んじゃ、よろしく」
吉澤さんは梨華ちゃんに右手を出した。どうやら握手という事らしい。
梨華ちゃんは嬉しそうに自分の右手を出して握手をした。
・・・・にしても!それはいいとして。
あの市井ってヤツ。何あれ、ファンとかうざいって!
別にあんたのファンなんかじゃないっての!
ただ気になって会いに来たら性格あんなだし。もぉ、いいや。
また別の人見つけよう〜。
「じゃぁ、部活中だから」
「うん、メールするね」
梨華ちゃんはちゃっかり携帯の番号やメアドを交換したらしい。
それが少し羨ましかったりする。
吉澤さんは走って行った。
「梨華ちゃんは当たりだったね」
「当たりって・・・ごっちんはどうなの?」
「どうって言われてもねぇ・・・あんな性格だし口悪いし最悪」
- 304 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)23時09分23秒
- 「まぁまぁ、まだわからないじゃない」
「いーや、あたしは全てを理解したね。さ、帰ろう」
結局、梨華ちゃんの恋に協力したようなもんだ。
「夜、メールしよぉ〜♪」
隣で軽くスキップしてる梨華ちゃん。
もう不機嫌極まりないあたし。
そして特に何も無く次の日。
あー、どうしよっかなぁ。もうあのバスに乗る理由も無いし。
いつもの時間に起きたあたしはベットの上で悩んでいた。
でも、今更『一緒に行くのやめよ』って言ったら梨華ちゃんの
事だから泣きそうになりながら『何で!?』と言われるだろう。
それに・・・あのバスに乗らなきゃ遅刻だしね。
のそのそと起きて着替えにかかった。
「でね!バスの事話したの!」
朝からハイテンションなあたしの友達。
っていうか・・・バスの事したんですか。
「そしたら、思い出してくれたんだぁ」
「ふーん」
あたしはつまらなさそうに来るバスを見ていた。
- 305 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)23時17分48秒
- バスに乗る。やっぱりいつも通り混んでいた。
「梨華ちゃん!」
ふと声をする方を見ると吉澤さんが手を振っていた。
「ひとみちゃん!」
嬉しそうに梨華ちゃんは吉澤さんのもとへ。あたしも仕方ないので
ついて行く。
「おはよう、梨華ちゃん、ごっちん」
ごっちん!?いきなりあだ名ですか?ま、梨華ちゃんが教えたんだろうけど。
市井ってヤツを見ると寝てるみたいだ。
「市井さん、起きて下さいよ!」
「んー?何だよ・・・私あんま寝てないんだから・・・あ?」
「昨日のコ達ですよ」
「あぁ・・・あっそ」
ほら!素っ気無い。昨日の事謝る気なんかないじゃん!
あたしはヤツを睨んでやると、向こうも睨み返してきた。
「市井さん、立って」
「は?」
「早く!」
無理矢理立たされたヤツは不機嫌そうだ。
「梨華ちゃん、ごっちんどーぞ」
さすがは吉澤さん、優しいね。こりゃ梨華ちゃんやばいよ。
あたし達は譲ってくれた席に座った。
- 306 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)23時28分01秒
- 楽しそうにしゃべってる梨華ちゃんと吉澤さん。
ヤツは窓の外をつまんなさそうに見ていた。
・・・・全く、少しは表情変えなよね。
あたしよりも無表情が上手いと思う。
「吉澤、やっぱ今日休む」
「え!?何でですか?」
「行く気失せたぁ・・・」
次のバス停でヤツは下りていった。
気付いたらあたしも下りて追いかけていた。
『ごっちん!?』って梨華ちゃんの声が聞こえたような気がした。
あぁ、やっぱあたし気になってんじゃん。
「はぁ?お前、何やってんの?」
やっと追いついてヤツから出た言葉はそれ。
「ひ・・・ひと言、言いたくて」
「何?」
「あたし、別にあんたのファンなんかじゃないからね!」
「あぁ・・・昨日の事。そうだったんだ」
別にって感じで答えられる。
「それだけの為にわざわざバス下りたの?バッカじゃねーの?」
う・・・負けるもんか。
「何か、よくわかんないけど。来ちゃったんだよ!」
「・・・今からでも間に合うだろ。ガッコ行きなよ」
意外な言葉にあたしは唖然とした。
- 307 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)23時38分36秒
- 「昨日の事は謝る。ほら、私なんかにかまってないでガッコ行きなよ。
友達も困ってるだろ」
「あんたはどうすんの?」
「んー、その辺ぶらついて家、帰る」
「じゃ、あたしも付き合う」
あたしは意地でもついて行く気になった。
「・・・勝手にしろ」
ヤツは笑って言い、歩き出した。
・・・・笑った。
何でこんな事で嬉しくなるんだろう?
あたしはヤツ・・・市井さんの隣に行って一緒に歩いた。
「ここら辺、好きなんだよね。落ち着く」
公園の中に入ってベンチに座る。
ふとメールの着信音がなる。見ると梨華ちゃんだった。
<何してるの!?一応先生には休みって言っておいたよ。梨華>
それを読み終えた頃、隣からメールの着信音が聞こえた。
どうやら吉澤さんらしい。
「・・・・そっちも?」
「ん、そーみたい。ったく、あいつはおせっかいだなぁ」
「こっちも、似た2人だね」
あははと2人で笑った。
- 308 名前:New 投稿日:2003年04月12日(土)23時49分21秒
- まだ午前の9時。なので公園にはあたし達2人しかまだいない。
「・・・・変なヤツ」
市井さんがそう言う、あたしはちょっとむっとした。
「私みたいなヤツよりも吉澤の方がいいんじゃね?
あいつ、優しいし」
「まぁね、市井さんよりも何倍もいいけど。生憎、友達が
吉澤さん好きみたいだし」
「ふーん、まぁ吉澤もあのコはタイプだし。上手くいくと思うよ」
思ったよりも市井さんはそんなに性格は悪くないみたい。
最初で判断しちゃいけないね。
「さて、帰りますか」
「え?もう?」
「だって、暇だし」
そんなー・・・・・っていうか今帰ったらお母さんに怒られる。
あたしは最近、遅刻してない為怒られていない。だけど、さぼった
なんてばれたら怒られるどころか家に入れてもらえないかもしれない。
サーっと顔が青くなっていく。
「・・・わかった、私ん家来る?」
「え・・・いいの?」
「別に、1人暮らしだし」
やったぁーと喜びを感じてあたしは市井さんの家へ行った。
- 309 名前:New 投稿日:2003年04月14日(月)21時16分30秒
- 「適当に座っててー」
ものすごい・・・・広いんですけど。
高級そうなマンションの一室にいるあたしは驚いた。
こんなとこに1人で住んでるの・・?
ゆっくりと大きな白いソファに座っていた。
数分後、私服に着替えて市井さんは戻って来た。
「名前・・・えーと、後藤だっけ?」
「うん」
「毎朝さぁ、お前眠そうにしてるよなぁ」
・・・・え?
「何で知って・・・?」
「あぁ、バス同じだろ?あの友達と」
市井さんは向かい側のソファに足を組んで座った。
どうやらあたし達見られてたみたいですね。
「吉澤がさぁ、見つけたんだよ。あの子達可愛いって」
「よ、吉澤さんが?」
「うん」
「・・・・」
ラッキーなのか、これは。
- 310 名前:New 投稿日:2003年04月14日(月)21時26分59秒
- それからいろいろしゃべって、あたしはいつの間にか
もっと近くにいたいと思った。
「ねぇ・・・『市井ちゃん』って呼んでもいい?」
「は?市井ちゃん?」
「その方が呼びやすい」
「ヤダ」
「えー!?何で?いいじゃん」
「恥ずかしいだろ」
市井ちゃん(もう勝手に呼ぶことにした)は照れてるのか
顔を背けた。あたしは嬉しくて、市井ちゃんのいろんな顔が
見れるのが嬉しくて仕方なかった。
お昼を食べて、市井ちゃんの家でDVDを見たりしていたら
もうすぐ6時だ。外もだんだん薄暗くなってきている。
「送るよ」
市井ちゃんは優しい笑顔で言ってくれた。
出会った頃は考えられない事だ。あたしはカバンを持って玄関の方へ
行った。市井ちゃんは上着を来てすぐこっちに来た。
バス停までやって来て、時刻表を確認するともう来る頃だ。
「また・・・来てもいい?」
「あぁ、いいよ。いつも1人だったからさ、楽しかったし」
薄暗くて市井ちゃんの顔がよく見えなかった。
あ・・・バス来た。
- 311 名前:New 投稿日:2003年04月14日(月)21時36分13秒
- バスはこちらに向かって走ってくる。あたしはもっとここにいたかった。
ライトが眩しくて目を細めた。
「来たね、バス」
「うん」
「んじゃ、また明日」
「うん・・・」
「そんな顔すんなよ」
ふと市井ちゃんはあたしをそっと抱き寄せて。
軽く、キスをした────。
「な・・・市井ちゃん?」
「ほら、乗らないと」
ポンっと背中を押されてあたしはバスに乗り込んだ。
プシューと扉が閉まる、ゆっくり走り出す。
あたしは1番後ろの席の窓から市井ちゃんを見ていた。市井ちゃんは
バスが見えなくなるまでずっとあそこにいてくれた。
キスの事を思い出すと顔が赤くなって1人で騒いでいた。
「あ・・・携帯の番号とメアド聞いておけば良かった・・・」
一緒にいる事が嬉しくてすっかり忘れていた。
部屋の中でかなり凹んでいた。
クッションを抱きしめて今日の事を振り返る。
お母さんにはさぼった事ばれてなかったし。市井ちゃんの家にも行ったし。
いい日だったな───。
- 312 名前:New 投稿日:2003年04月14日(月)21時45分52秒
- 第一印象は最悪だったけど話すと全然違った市井ちゃん。
今日も朝のバスで会える。
「あー、バス来ないかなー」
「まだあと2分あるよ、ごっちん」
ちょっとハイテンションな気分でバスを待つ。梨華ちゃんもそうだけど。
「にしてもごっちん、良かったね。上手く行って」
「梨華ちゃんもじゃん、お互い良き相手を見つけたわけだ」
「そうだね」
あははと笑っていたらバスが来た。そのバスには市井ちゃんが乗ってる。
すぐに乗り込んで視線は1番後ろの席。
「いたいた」
こっちにだけ視線を向けてじっと見てる人とその隣でこっちに
手を振っている人がいた。
「対照的だねー」
「うん」
2人で1番後ろへ。
- 313 名前:New 投稿日:2003年04月14日(月)21時55分08秒
- この日の市井ちゃんは無口だった。まぁいつもそんな感じだけど。
後からよっすぃー(吉澤さんのあだ名)に聞いたんだけど、前の日の
キスの事が気になってたんだって。
それから毎日、朝同じバスで会い。お互いに『好き』を交換して。
気になるあいつはあたしを実は気になっていたらしい。
「市井ちゃん、なら声かけてくれればいいのに」
「アホ、んなことできるか」
「市井さん、だから声かけようって言ってたのに」
「ひとみちゃん、じゃぁ学校の門で会った時ホントは知ってたの?」
「うん、でも・・・市井さんが黙ってろって目してたから・・・」
「市井ちゃん結構照れ屋だよね」
「う、うっさいな!」
───ってなわけで。
今日もバスに揺られて登校中♪
END
- 314 名前:New 投稿日:2003年04月15日(火)21時49分52秒
『ほんとはね。』
楽屋に入るとそこはいつも騒がしいはずなのにやけに
静かだった。どうやらみんなどっか行ってしまったようだ。
ちょっと寂しかったりするが、まぁ仕方ない事だ。
「んーと・・・」
カバンの中をごそごそさせていたら誰かが楽屋へ入って来た。
「あ、愛」
「ん?麻琴。何処行ってたん?」
「コンビニ」
麻琴がコンビニ袋をどさっとテーブルの上に置いた。
私はカバンの中にあった携帯を取り出した。メールが何件か入って
いたのでそれに返信をする。麻琴はコンビニで買ってきたらしい
プリンを食べていた。
静かな空間の中、特に会話することもなく沈黙だけが漂う。
「───ねぇ、愛」
麻琴が話しかけてきた。
「んー?」
メールをしながら私は返事をした。
「愛って好きな人いる?」
「え?」
反射的に麻琴の方を見た。麻琴はさっきと変わらずプリンを食べている。
- 315 名前:New 投稿日:2003年04月15日(火)21時56分28秒
- す、好きな人ぉ?
麻琴、何言ってんの・・・。
聞き違いはない、はっきり私の耳には聞こえた。
『愛って好きな人いる?』
特にふざけてる様子でもない、本気で言ってるかもわからない。
まぁ、麻琴はそんなコだから。
「・・・・何で?」
「ん〜、気になったから」
「ま、麻琴は?どうなん?」
「私?・・・いるよ」
「えぇ!?」
つい携帯を落としてしまった。慌てて拾った、大丈夫壊れてはない。
私は麻琴の近くに座った。
「ふざけてる?」
「んなわけないじゃん」
どうやら、本気で本当のことのようだ。
「ふーん」
私は素っ気無く返事をした。だが、内心動揺していた。
何で自分がこんなにも動揺するのかがわからなくて、でもそれは
麻琴には見せたくなくて冷静さを装った。
- 316 名前:New 投稿日:2003年04月15日(火)22時04分13秒
- 「昨日ね、告白したんだ」
「えぇ!?」
全く、この人には驚かされっぱなしだ。こっちの身が持たない。
まぁ・・・まぁ、落ち着こう。
「麻琴・・・一体誰なん・・・?」
「んー?聞きたい?」
麻琴はいたずらっぽく笑って言う。
「実はねー、あさ美ちゃん。告白したらOKだった」
私はこのことは知らないほうが良かったかもしれないと思った。
ガーンときた、すごくショックだった。
麻琴はきっと誰かに聞いてもらいたくて、1番身近な私に言ったんだろう。
それはそれで嬉しいんだけど。
「そう・・・良かったね」
そう言うのが精一杯で、今にも崩れそうな感じだった。
「いやー、何か嬉しくてさぁ」
幸せそうに笑う麻琴、その笑顔は私にではなくあさ美ちゃんに
向けられている。それが悔しい。
あ・・・私、麻琴のこと、好きなんだ。
今更気付いた、自分の気持ち。
もう、遅い。
- 317 名前:New 投稿日:2003年04月15日(火)22時14分17秒
- 数分後、みんなが帰って来た。その中にはもちろん、あさ美ちゃんもいて。
私はこっそり楽屋を出た。
「はぁ・・・バカやなぁ・・・」
1人になると自然と涙が溢れ出した。楽屋にいる時は必死に我慢してた。
あまりにも自分の鈍さに腹が立つ。
冷たい廊下の空気の中で静かに泣いた。
人が近づいてるのにも気付かずに。
「あ、高橋。ゆで卵買ってきたけど食べる?」
吉澤さんの声だった。私は顔を上げる事が出来なくて俯いていた。
「・・・ん?どうした?な、泣いてるの?」
「・・・うっ・・・ひく・・」
「えーと、えーと。んー」
唸ってる吉澤さん、急に私の頭をなでる。
「泣きたいなら泣いていいよ。おいで」
私はその言葉を聞いた瞬間、吉澤さんに抱きついた。
吉澤さんはあったかくて、すごく落ち着いた。
- 318 名前:New 投稿日:2003年04月15日(火)22時24分03秒
ほんとはね
君に伝えたいことがあったけど
言葉にできなくて
さよなら
ほんとはね
すごく好きだったよ
けど もう君は
他の誰かを・・・
次第と落ち着きを取り戻した私。吉澤さんはずっとそばにいてくれた。
あの人に見つかったらやばいのに、吉澤さんはそばにいてくれた。
「あの・・・すみません」
「ん、いいよ。もぉ大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
遅すぎた気持ちは行くところが無い。
私はそれでいい、だってもう遅いんだから。
もうあの人は違う人を見てるから。
親友の私は、それを見守るんだ。
「ゆで卵食べる?」
「いいんですかぁ?」
「いいよ、今のことは誰にも内緒だかんね」
「口止め料ですか」
「まぁ、そーゆー事」
あははと笑いながら楽屋に入って行く吉澤さん。
私はひとつ深呼吸をして。
前を向いて、歩き出した───
それからね わたしから
「じゃぁね」って歩き出す
END
- 319 名前:New 投稿日:2003年04月16日(水)23時00分27秒
『甘え』
「まこっちゃん」
愛しい人の声がする方に振り返る。笑顔であさ美ちゃんは
私を見ていた。
「何?」
私は一体何だろう?と思いながらあさ美ちゃんに近づいた。
すると突然、抱きつかれた。
「あ、あさ美ちゃん・・・誰かに見られたら・・・」
あさ美ちゃんはたまに大胆な行動に出る。私はその度に慌てるんだけど。
いたって、あさ美ちゃんは冷静で。
「こーしてたい」
他に誰もいない楽屋、2人っきりの空間。
そんな時、あさ美ちゃんは私に甘えてくる。まぁ別に嫌な気はしない。
むしろ嬉しいほどなんだけど、いつ誰が入ってくるかわからない。
「あさ美ちゃぁ〜ん・・・・」
「もぉ、まこっちゃんはこの時間がどれほど貴重なのかわかってないよ」
そんなため息つきながら言わなくても・・・・。
わかってるよ、2人っきりになるチャンスはそんなにない。
でもさぁ・・・。
あさ美ちゃんは諦めたかのように私から離れた。ちょっと寂しそうに
微笑んで。
「ごめんね・・・わがまま、だよね。わかってる」
- 320 名前:New 投稿日:2003年04月18日(金)16時23分55秒
- あさ美ちゃんはそう小さく呟いて扉の方へ向かって歩き出す。
そんなことないよ!って言いたい、だけど口が動かない。
ただ黙って立ち尽くしていた。
そしてメンバーがぞろぞろと戻ってきた。
「うぁ〜、疲れたぁー」
「あー、おなかすいた」
次々と楽屋に入ってくるメンバー。あさ美ちゃんは愛ちゃんと
何かしゃべっていた。
あ〜あ・・・・ダメだなぁ、私。
私は自己嫌悪に陥って、やりきれない思いでいっぱいだった。
適当に近くにあるイスに座って、はぁとため息をついた。
「元気ないなぁ、小川」
「吉澤さん」
- 321 名前:New 投稿日:2003年04月18日(金)23時32分41秒
- 隣にいつの間にか吉澤さんがいた。
「上手く行ってないの?」
「別に・・・・行ってなくないですけど・・・」
次第と声が小さくなっていく。
私は吉澤さんにさっきのことを話した。
「なるほどねぇー、わかる、わかるよ」
「わかるんですか?」
「そーいうことあったからさぁ」
何気に石川さんの方を見る吉澤さん。やっぱいろいろとあったみたいだ。
だからこそ、今すごく仲がいいんだと思うけど。
「そーいう時は、受け止めた方がいい」
「でも、誰かに見られたらどーするんですか?」
「楽屋じゃなくて、どっか人気の無いとこに行くんだよ」
ニヤリと笑って吉澤さんは石川さんの方に行った。
あの2人はほんとお似合いだと感じた。
- 322 名前:New 投稿日:2003年04月18日(金)23時41分44秒
- 人気の無いとこ、ねぇ・・・・。
まぁ楽屋よりは誰かに見られる可能性は低い。
「・・・このままじゃ、ダメだし」
よし!やってみよう!
私は心の中で決心し、小さく拳を上げた。
────翌日。
昨日は一緒に帰ろうとしたらあさ美ちゃんは何かさっさと帰ってしまった。
ショックだったが、めげない。昨日は昨日、今日は今日。
次の収録にはまだ時間がある。
『楽屋じゃなくて、どっか人気のないとこに行くんだよ』
昨日の吉澤さんの言葉が蘇える。
「あさ美ちゃん・・・ちょっと」
私はあさ美ちゃんに声をかけた。一瞬びくっとしたあさ美ちゃん。
「何・・・?」
「ん、いいから」
あさ美ちゃんの手を引っ張って、こっそり楽屋を出た。
人気のないとこって・・・?
肝心の場所がわからない、こんなことなら吉澤さんに聞いておくんだった。
やっぱり、肝心なことは抜けてる自分。
- 323 名前:New 投稿日:2003年04月18日(金)23時48分03秒
- 「まこっちゃん・・・?」
「あ、えーと・・・」
とにかく半ば無理矢理あさ美ちゃんを引っ張りながら人気のないとこを
探す。すると非常階段を見つけた。
重たそうな扉を開けて、出ると階段が見えた。あさ美ちゃんを入れて
丁重に扉を閉めた。
「ふぅ・・・」
まずは一段落ついた。
「ねぇ・・?」
あ、忘れてた。あさ美ちゃんは不思議そうな、何処か怯えたような
表情で私を見ていた。
「ごめんね・・」
繋いでる手を引っ張って抱きしめた。
「え!?」
かなり驚いてるあさ美ちゃん。最初は戸惑ってたみたいだけど
次第に落ち着いて抱きしめ返してくれた。
「やっぱ、2人っきりっていいね」
「・・・・怖かった」
急にあさ美ちゃんが泣きそうな声で言う。
- 324 名前:New 投稿日:2003年04月18日(金)23時57分05秒
- 「昨日、わがまま言ったから。まこっちゃん、私を嫌いに
なっちゃうかもって・・・・ずっと考えてて・・・・」
小さく震える肩、震えてる声。こんなにさせたのは私のせいだ。
受け止めて上げなかった、私のせいだ。
「いいよ。私さ・・・誰かに見られるの恥ずかしくて。
だから、こうゆう誰もいない場所に連れてきたんだけど。
ごめん・・・ずっとこーしてよ」
顔が真っ赤になってるのはわかってる。鼓動が早くなっていく。
ちょっと離してあさ美ちゃんの顔を覗き込む。涙が流れていた。
その涙を親指で拭いて、頭をなでた。
そんで、軽くキス。
「へへ・・・」
「まこっちゃん、いきなり・・・」
「いいじゃん、誰もいないんだからさ」
思いっきり甘えていいよ。
思いっきり甘えるから。
・・・・ね!
「・・・・ひとみちゃん、何か教えたの?」
「ちょこっとアドバイスというか・・・」
「何で隠れなきゃなんないのよ〜・・・先にいたのは私達でしょ」
「まさか、ここに来るとは思わなかったんだよぉー」
階段の下にこそこそ隠れてる先客が。
いたとかいなかったりとか。
END
- 325 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)14時30分23秒
『今日は何の日?』
もうすぐ時計が0時をまわる。今日はホテル泊まりだ。
その時、吉澤は特に何をする事無くぼけーっとしていた。
今日も忙しかったなぁ・・・次のオフはいつだろ〜・・?
うつらうつらしながらそんな事を思う。
「んー・・・寝ようかなー・・・」
ベットにどさっと倒れ込み、眠りの世界に入ろうとしていた。
AM 0:00
トントンと扉がノックされる。
誰だぁ〜?こんな夜中に・・・。
残ってる力を振り絞って、起き上がり扉に向かう。ガチャと開けると
そこには満面の笑みの表情の石川。
「梨華ちゃん・・・?どうしたの?こんな時間に?」
その時、ベットに置いていた吉澤の携帯がなった。メールのようだ。
「・・・お誕生日おめでとう、ひとみちゃん」
石川はとびきりの笑顔を浮かべて吉澤に言った。
- 326 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)14時39分49秒
- 「誕生日・・・・あぁ!そうだ!」
吉澤は我に返り大声で言った。どうやら忘れていたらしい。
その間にも吉澤の携帯はなり続けていた。メールが何通も。
「自分の誕生日、忘れないでよ」
「いやぁー、ホント忘れてた。あ、入って」
石川を部屋の中に入れて、吉澤は扉を閉めた。閉めたらすぐに
携帯のもとへ。メンバーや、友達から『お誕生日おめでとう』メールが
届いていた。
「ありがと、梨華ちゃん」
とりあえずメールを一通り読み終えた吉澤は恥ずかしそうに言った。
石川はベットに腰かけて、幸せそうな顔をしている。
「にしても、18かぁー。梨華ちゃんと同い年になったね」
「それでも私の方が年上だよ?」
「見えないけど」
「ひどーい」
嬉しさのあまり吉澤は石川に抱きついた。
幸せすぎて怖いくらいだ。1番大好きな人が自分の誕生日に1番早く
祝ってくれたんだから。
「あぁー、いいね。誕生日って」
「忘れてたくせに」
「うるさーい」
- 327 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)14時48分57秒
- 「このまま、ずっとこのままでいられたらいいね・・・」
石川は目を閉じながら言う。吉澤の温かいぬくもりを感じるように。
「ずっとこのままだよ。私が離さないもん」
ぎゅっと離れてしまわないように抱きしめる吉澤。
「あ、そうそう。プレゼント持ってきたんだよ」
「梨華ちゃんがいれば何もいらないのに・・・」
石川は持ってきたカバンの中から綺麗にラッピングされた
箱を取り出した。
「何々?」
「開けてみて」
「んー?あ!」
箱の中には銀の腕時計が入っていた。吉澤は早速つけてみる。
「ありがと。もう、世界一幸せもんだよ」
「良かった喜んでもらえて」
腕を高く上げて嬉しそうに腕時計を見ている吉澤を石川は今の
幸せを心から思いながら見ていた。
「次のオフ、どっか行こうか?」
突然、吉澤は石川の方に視線を向けて言った。
「うん!行こう!」
「んー、何処がいい?」
- 328 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)14時58分10秒
- 翌日。あれから何時間もしゃべっていたら寝たのが午前4時
くらいになっていた。当然、寝不足である2人。
「・・・眠い」
吉澤は寝不足と闘っていた。石川も同じく。
「よっすぃ〜誕生日おめでとう!」
楽屋で珍しく静かな吉澤に矢口はプレゼントを差し出した。
「あ、ありがとうございます。矢口さん」
さっきは安倍さんや飯田さん、辻ちゃんや加護ちゃんに祝ってもらった。
「何かさぁ、寝不足?よっすぃー」
「はい・・・そんなとこです」
「んで、見た所石川もそうだよねぇ?」
みんなの視線が石川に集まる。石川はイスに座って寝ていた。
「・・・何か、あったの?」
ニヤニヤしながら矢口は吉澤に言った。
「な、何もありませんよ!しゃべってたら4時すぎてて・・・」
「いいんだよぉ、隠さなくても。言っちゃえ!」
みんな絶対、耳はこっちに傾けてるから丸聞こえだ。
「ホント何もありません」
吉澤はずっとその返事を矢口に返していた。やっと諦めたてくれた
矢口。
・・・全く、おもしろがってさ〜。でも、確かに何もなかったなぁ。
- 329 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)15時11分41秒
- あんなに夢中になってしゃべったのは久々だった。
吉澤は改めて最近、忙しかったと思った。
だから、自分の誕生日も忘れちゃうんだよなぁ・・・。
石川を見ると可愛い寝顔が見れた。吉澤はさりげなく近寄り
もっと近くで寝顔を見る。
次のオフは2人で買い物に行こうという事になった。
・・・2人で暮らしたらもっと楽しいんだろうな。
家族の事とか、アイドルだとか、世間とか。そんなの一切考えないで
石川と共に毎日を過ごして生きたい。同じ時間、同じ空間に一緒にいたい。
・・・わがまま、かな?
吉澤はふぅとため息をついて、隣のイスに座った。
「ま、いつかね・・・。もっとオトナになったら・・・」
18歳になった吉澤。これからは9時以降の仕事も入る。
なので、石川と同じ時間を過ごせるのだ。
今はそれで満足だから。
だから、これからもよろしくね。
梨華ちゃん。
来年の自分の誕生日は、ちゃんと覚えてるから。
梨華ちゃんを待ってるね。
END
- 330 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)15時26分42秒
『香水』
わかってるよ、わかってるんだけど・・・。
どうしても離れられないんだ。
こんな事はいけないってわかってる。
でも、好きなんだ───。
「あゆみ?」
私の大好きな声が耳に聞こえる。
「何?マサオ」
「ぼーっとしてるから、どうしたのかなって」
「何でもないよ」
助手席から見るマサオの横顔。この人に私は完全に惚れた。
でも、マサオには恋人がいる。私はそれを知っている、でも
一生懸命知らないふり。
車の中は私のじゃなくて、マサオのでもない香水の香り。
マサオは元から香水をあまりつないし。
「あゆ・・・」
車をどっか目立たないとこに止めてキスをしようとするマサオ。
嫌・・・ここではしたくないよ。
- 331 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)15時35分37秒
- マサオが見てるのは私?それとも彼女?
怖くてそんな事聞けない、今の関係を壊したくない。
「あゆ・・・」
気付いたら涙がポロポロ出てきて、優しいマサオはそれを
拭いてくれた。
「マサオぉ・・・」
こんなだらしない女、めんどくさい女なのに。
マサオは何でそばにいるの?恋人がいるのに。
私は1番になれるの?
「あゆ・・・好きだ」
それは真実?それとも嘘?
「・・・私も、好き・・・」
嫌いな香水が漂う車の中で。私達はキスをした。
お互いを求め、キスをし続けた。
「あゆ・・・ごめん」
「何で、謝るの?」
私は知らないふり。口に出してはいけない、顔に出してはいけない。
マサオが何で謝るのも知らないんだ。
「実は───」
こんな日が来ると思っていた。
- 332 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)15時42分57秒
- 「嫌!聞きたくない」
「あゆみ・・・」
聞かなきゃいけないんだけど、聞きたくなくて。
これで終わりたくなくて。
「・・・聞いて欲しいんだ。私には・・・恋人がいる」
身を引き裂かれる言葉。ついに私に届いた。
マサオは今まで見た事が無いほど悲しい顔をしていた。
「ごめん・・・」
「・・・嫌だよ!終わりたくないよ!私はマサオが好き!
マサオがいないとダメになっちゃう!」
こんな事言ってもどうにかなんてならない。
「だからぁ・・・お願い、そばにいさせて。離れていかないで。
頑張るから、絶対ばれないように頑張るから」
それを言った瞬間、マサオの目から涙が溢れ出した。
「あゆ・・・頑張らなくていい。こんな私、一緒にいない方がいい」
「何で!?マサオは私の大切な人だよ・・・一緒にいたい」
- 333 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)15時51分28秒
- そして、あれからマサオとは会っていない日々が続いた。
無気力な私は何もせず、学校もろくに行かないでだらだらしていた。
「柴ちゃん、学校行こうよ」
友達の梨華ちゃんは心配して毎日、学校が終わると私の家へ来てくれる。
マサオの事は梨華ちゃんは知らない。
「・・・何かさぁ、疲れた・・・」
「柴ちゃん・・・」
「私ね、恋してたんだ。でもその人には恋人がいて、でも離れたくなくて」
「え・・?」
「ダメになって、もう疲れたよ」
でも何か連絡を待ってる自分がいる。
あの車で迎えに来てくれるんじゃないかと。
待ちつづけてる自分がいる。
携帯を肌身はなさず持ってる自分がいる。
数日後。
そろそろ学校に行かないとやばいと思った私は制服を着て
家を出た。
「・・・あ・・・・」
見慣れた車があった。
運転席には私の大好きなあの人が。
- 334 名前:New 投稿日:2003年04月20日(日)15時54分19秒
- 私はすぐに車に乗った。学校なんてどうでもよかった。
ゆっくり車は走り出す。
「・・・・あゆ」
「ん?・・・・」
「恋人と、別れた」
「え!?」
「・・・もし、よければ、付き合って下さい」
気が付くと、あの香水の香りはしなかった。
「・・・はい」
END
- 335 名前:New 投稿日:2003年04月26日(土)13時26分39秒
『似てる名前』
高橋愛、高校1年生。
ただ今───恋、してます。
教室に入ると友達から次々と朝の挨拶。
私は挨拶の返事をしながら、自分の席にカバンを置いて
急いで教室を出て行く。目指す場所は隣のクラス。
ひょこっと教室の中を覗くと、すぐに発見。
「あ、いたいた」
ゆっくりとこっそり教室の中に入り、ある人物に近づく。
「おはよぉ、麻琴」
その人物はただ今、寝てる模様。声をかけても起きない。
机に突っ伏して寝てるのは、私の好きな人小川麻琴。この人に
片思いしている。
「麻琴!起きてよ」
「んー?・・・あぁなんだ・・・愛ちゃんか」
なんだって何!?ちょっと傷つく。
麻琴とは高校に入っての友達。私は一瞬麻琴を見て見事に惚れて
しまったのだ。それから必死に話かけて友達になった。
- 336 名前:New 投稿日:2003年04月26日(土)13時39分18秒
- 麻琴は学校でよくモテる方だ。麻琴の優しい性格がそうしてる。
「で・・・?何?」
「何って・・・会いにきただけ」
「ふぁ、今日朝練だったんだよね。眠くて」
「よくやるね、バスケ」
「そりゃぁ、好きだから」
ホント、麻琴はバスケが好きで、上手くて。先輩も負けてしまうほどだ。
私はいつも麻琴のバスケを見に体育館へ行く。
「愛ちゃん、もうすぐ始まるよ?授業」
「え?あ、やばい!」
私はダッシュで自分の教室へ戻った。
まぁ、麻琴は恋愛には興味がなさそうだ。
数学の授業を受けながら、ふとそんなことを考える。
もうすぐ麻琴に会って1年が経とうとしてる。もうすぐ私達も2年生。
そんな中、麻琴の恋愛は聞いた事がない。私が聞くと「別に」って
感じで。
・・・・私、告白できるのかなぁ。
麻琴が告白される現場は何度も見ている。それ全部、断ってる麻琴。
- 337 名前:New 投稿日:2003年04月29日(火)21時14分38秒
- それはそれで安心するんだけど、自分が告白した時ふられる確立は
かなり高い。だから告白する勇気がないのだ。
・・・でも、それなりにアピールはしてる。
毎日、会いに行ったり。手作りのクッキーを持っていったり。
メールをしたり、部活見に行ったり。
とりあえずは嫌がられてないみたいだ。
今日の休み時間は全て麻琴に会いに行った。
「麻琴、今日一緒に帰ろ?」
「ん?いいよ、遅くなるかもしんないけど。部活で」
「いいよ、待ってるし」
やっぱ期待しちゃっていいんかな。友達以上になれるんかな。
私は複雑な気持ちを抱え、放課後体育館へ向かった。
もう既に部活は始まっていて、ギャラリーも多かった。
麻琴は試合をやってるようで麻琴がシュートする度歓声がおこる。
私は隅の方で麻琴を眺めていた。
- 338 名前:New 投稿日:2003年04月29日(火)21時25分59秒
- 午後6時半に部活が終わった。
「ごめん、待った?片付けしてたから遅くなっちゃって・・・」
「ううん、大丈夫」
麻琴は急いで来たのか制服のブレザーのボタンを止めていなかった。
急いで来てくれたというのが結構、嬉しかった。
「んじゃ、行こうか」
「うん」
少し薄暗い道を歩いて、今日の出来事を話す。
でも話してるのは一方的に私の方で麻琴は相づちを打ってるだけ。
「麻琴、何か出てるけど?」
ブレザーのポケットから紙みたいなのがはみ出していた。
「あぁ、カバン中入ってた」
麻琴はそれを取り出した、それは手紙だった。
「モテるねぇ・・・相変わらず」
「別に、嬉しくないし」
「好きな人いないの?っていうか今まである?」
「・・・ないって言ったら嘘になる」
麻琴はそっぽを向いて呟くように言った。私は何かそれ以上
聞けなくて、黙って歩いた。
- 339 名前:New 投稿日:2003年04月29日(火)21時37分49秒
- 麻琴の家に着いた。私の家はすぐ近所。
「じゃ・・・またね」
私が手を振って、帰ろうとした時。
「待って!すぐ着替えるからさ、送るよ」
「いいよー、近いんだから」
「ダメ!ちょっと待ってて」
ダッシュで家の中に入って行った麻琴。私は麻琴の優しさを
感じながら玄関のとこで待っていた。
2分くらいで麻琴はジャージ姿で戻って来た。
「最近は、ここら辺物騒だから。もう暗いし」
「ありがと」
確かにかなり辺りは暗くなってる。こんな事になるとは思ってなかった。
時々、一緒に帰る事はあったけど、送ってもらえるのは初めてだ。
「もう7時だもんね、暗いね」
「だから危ないんだよー。部活だとこの時間は当り前だけど」
「麻琴は平気?大丈夫?」
「んにゃ、別に。もし襲われても蹴るし。愛ちゃんは弱そうだから」
- 340 名前:New 投稿日:2003年04月29日(火)21時47分49秒
- すぐ私の家には着いた。麻琴とお別れの時間。
「ありがと、送ってくれて」
「おう、また明日ね」
麻琴は走って帰って行った。
それから数日間、麻琴と毎日一緒に帰った。それが何か当り前
のように思えてきた頃。この日は珍しく麻琴の部活が無くて
でも私は提出するレポートがあって一緒に図書館にいた。
「ごめんね、もうちょっとだから・・・」
「いいよ」
図書館には私達の他に誰もいなかった。窓から夕陽が差し込んでいた。
麻琴は隣で本を読んでいた。
「麻琴」
「何?愛ちゃん」
「何でさ、呼び捨てじゃないの?」
「え・・・?」
「他の同い年の友達は呼び捨てじゃん」
「・・・・いや?」
「嫌じゃないけど、何か『愛』の方がいいなぁって・・・」
私はレポートが書き終えれたので、参考にしてた本を閉じた。
麻琴は何も言わず、黙っていた。
「ごめん!いいんだ、わがまま言っちゃったね・・・ごめん」
私はこの沈黙が嫌で慌てて謝って、本を返しに行った。
- 341 名前:New 投稿日:2003年04月29日(火)21時59分18秒
- 「先生にレポート出すから下駄箱のとこで待ってて」
「ん、わかった」
私は急いでレポートを先生に提出して下駄箱へ急いだ。
・・・あぁーあ、言わなきゃ良かったよ〜。
自分で言った事を今更後悔。ホントに後悔。
下駄箱に着くと麻琴が見えた。
「あー『あい』」
愛・・・?何で呼び捨て・・・?
てっきり呼ばれたのかと思って驚いていたら。
「まこっちゃん!元気してたー?」
あの人は確か、隣のクラスの加護亜依さん。
この時、全てわかったんだ。
何で呼び捨てで呼んでくれないのかも。
名前が似てたから、だ。
私はしばらく隠れて、加護さんがいなくなってから麻琴の
方に行った。
「あー、遅かったね」
「何か先生と話込んじゃってさー」
麻琴の顔が見れない。さっさと靴に履き替えた。
「部活がない日はいいね、疲れないし」
麻琴はちょっと伸びをして言った。私はただ黙っていた。
- 342 名前:New 投稿日:2003年04月29日(火)22時11分28秒
- しばらく歩いて、私は立ち止まった。
「・・・どうした?」
麻琴は振り返って、ぎょっとした。
私が、泣いていたからだ。
「おい?何で?どうした?」
「・・・う〜、麻琴は加護さんが好きなんだ?」
「な、何言って・・・」
「亜依と愛が似てるから。呼び捨てにできないんでしょ・・・」
私は泣きながらそう言った。麻琴は私の手を引っ張って
今日は休みで使われてないバスケの部室へ入った。
「・・・私さ、確かに亜依の事は好きだったよ。でも・・・
亜依にはちゃんと付き合ってる人がいる。諦めたんだよ」
麻琴は明るい声で言った。泣いてる私を慰めながら。
「それは中学の時、きっぱりふられたよ。んで高校入って
愛ちゃんと出会った」
「・・・」
「名前が似てるから気になったっていうのもある。亜依と愛ちゃんを
重ねたことも正直あった・・・・」
麻琴は正直に言った。
「でも、今は・・・・」
そこまで言って麻琴はためらう。私は泣くのを止めた。
「今は?」
- 343 名前:New 投稿日:2003年04月29日(火)22時24分53秒
「今は〜・・・・ものすごく高橋愛を気になってます」
麻琴は真っ赤になってそう答えた。その言葉を聞いただけで
また涙が出てきた。
「わぁ〜!?泣くなよー」
「だって・・・嬉しくて・・・」
麻琴は優しく抱きしめてくれて。
私はしばらく涙が止まらなかった。
───それから。
「麻琴!部活頑張って。私はこれから塾あるから」
「おう!愛・・・・ちゃんも頑張って」
「また『愛ちゃん』になってるー」
「だってさぁ・・・恥ずかしいじゃんか」
「こら、ちゃんと呼ぶ」
「あ・・・愛も頑張って」
「うん!」
まだまだ先は長いと思う。
スタートしたばかりの私達。
焦らずゆっくり歩いて行こう。
END
- 344 名前:New 投稿日:2003年05月27日(火)21時48分42秒
『嫌だよ、ねぇ。行かないで!』
『ごめん、もう行かないと』
『何で?ねぇ。後藤の事嫌いになっちゃった?』
『後藤・・・好きだよ。でも行かなくちゃいけないんだ』
『やだよ・・・置いてかないで・・・・』
後藤を一人にしないで・・・・!!
行っちゃやだよ!いちーちゃん!!
『2人の未来』
何度も見た同じ夢。
「・・・いちーちゃん」
後藤はうっすらと目を開けて呟いた。その目からは涙が溜められていた。
この少女の名前は後藤真希。ただ今、17才の高校生。
そして後藤にはかつて恋人がいた。
名前は市井紗耶香。今現在、19才。
「いちーちゃん・・・いつになったら迎えに来てくれるの・・?」
一筋、涙が頬を伝う。
- 345 名前:New 投稿日:2003年05月27日(火)22時00分11秒
- 後藤と市井が出逢ったのは後藤が15才の頃。市井は17才だ。
あの日、後藤は沈んでいた。
もう全て何でも良くて、学校もまともに行かずにいた。
当ても無くふらふらと夜街を歩いていたら、変な男に腕を掴まれた。
『俺と遊ぼうよ?』
もちろん後藤は素早く腕を振り払った。それでも男は後藤にしつこく
付きまとう。
・・・しつこいな!もう!
一発ぶん殴ってやろうかとキッと後藤は男を睨みつけた。殴ろうと
した時、やっぱり男は強いものでがしっと手を掴まれた。
後藤はそのまま路地裏に引っ張られた。
『ちょ・・・何すんのよ!』
『いいだろ?どーせ暇なんだろ?』
『嫌だ・・・ってば!』
じたばた抵抗も男には何でもないようだ。後藤は必死に逃げようとした。
その時だった。
『おい!何やってんだ!』
路地裏に誰かが入って来た。
- 346 名前:New 投稿日:2003年05月27日(火)22時08分35秒
- その人が市井だった。
市井は男を掴み後藤から引き剥がした。すると男はキレて市井を
殴ろうとした。
『邪魔すんじゃねぇ!』
『嫌がってんだろーが、その子は!』
市井は素早くかわして隙をついて男の腹に一発殴った。
『ぐはっ・・・』
『ったく、くだらねぇー』
男は地面に倒れて、苦しがっていた。やがて怯えたように逃げ出して行った。
『大丈夫?』
市井はしゃがみ込んで涙目になっている後藤に優しく話しかけた。
後藤にしては暗くて市井の顔がよく見えない。
『・・・・』
『立てる?』
差し伸べられた市井の手を後藤はすがるように握り、そして抱きついた。
恐怖感がじわじわと今感じられてきたのだ。
『ん、もう大丈夫だよ』
『・・・んぐ・・・怖かった・・・』
市井は優しく泣きじゃくる後藤を抱きしめていた。
それが───2人の出逢い。
- 347 名前:New 投稿日:2003年05月28日(水)20時26分17秒
- 当時、中学生の後藤と高校生の市井。年が違うから何も接点が
無いわけだが、このきっかけのおかげで知り合う事が出来た。
それから2人は急速に仲良くなっていた。それぞれ学校が終われば
何処かで待ち合わせをして会うというのが日常だった。
『いちーちゃん!遅いよ!』
『悪ぃ、呼び出されてた』
『また告白されたの?』
『あぁ』
市井は高校でかなりモテているらしく、後藤はいつも不安だった。
受験生の後藤はもちろん市井の高校に入ると決めていた。でも後藤が
高校1年生の時は市井は高校3年生。つまり受験生だ。
それにたった1年しか過ごせない、それが後藤にとってもどかしくて
もっと早く生まれていればよかったのにとも思った。
『何、不機嫌なんだよ。後藤』
『だってぇー・・・』
『大丈夫、不安がる事は無いよ。私は後藤だけだから』
不安でも、心配でもそれを取り除いてくれるのはいつも市井だった。
たった1年でも過ごせればいいじゃないか、後藤は前向きにそう思った。
- 348 名前:New 投稿日:2003年05月28日(水)20時40分04秒
- そして後藤は見事、市井の高校に合格した。
『やったぁ!いちーちゃん!憂かったよ』
『良かったな!授業で寝てばっかの後藤が受かるなんて・・・・
勉強教えたかいがあったよ』
最初は友達だったのにいつしかお互いかけがえの無い存在なり恋人となった。
こうして同じ高校で1年間を過ごすのであった。
市井は剣道部に入っていた。かなりの強さで部長であった。
大会で優勝経験もあった。しかし、夏で引退を向かえる。
後藤は高校に入学してすぐ剣道部のマネージャーになった。
少しでも多く市井と一緒にいたかった。2人は隠さずに付き合っていた。
誰もが2人の仲を認めていた。学校の中では有名なカップルだ。
次第に市井に告白する人も減っていった。
『いちーちゃん』
『ん?何だ?』
『んーん、呼んだだけ』
『何だとぉ〜』
幸せな時間、幸せな空間。申し分ない毎日が過ぎていく。
受験生の市井に付き合って後藤も図書館で勉強するようになった。
- 349 名前:New 投稿日:2003年05月28日(水)20時48分43秒
- 市井は近くの大学を受験すると後藤に言った。
『何とも言えねーけど』
『じゃ後藤もそこ行く!』
『勉強頑張れよ?』
『うん!』
あんなに笑顔じゃなかった後藤が市井と出逢い笑顔を取り戻した。
毎日、笑う事がこんなにも幸せなのかと後藤は心底実感していた。
────秋。
夏が終わり、市井は剣道部を引退。後藤もマネージャーを辞めた。
マネージャーを辞めた事に市井はものすごく反対したがやっぱり一緒に
いたいと後藤が泣きながら訴え、仕方なく賛成した。
そして秋。その頃、事件は起きた。
『あのさ・・・後藤。話が、あるんだ』
いつになく真剣な市井。
『何々?』
『学校じゃあれだから・・・家で話す』
学校が終わり、市井の家に市井と共に後藤は来た。市井の家に
行く道では何もしゃべらずただ手だけが繋がれていた。
後藤はこの沈黙が嫌で何か言葉を出そうとしたが、市井の顔を見たら
何も言えなかった。
- 350 名前:New 投稿日:2003年05月28日(水)20時59分01秒
- 市井の家についた。いつも通り市井の部屋に入った。
『何か飲み物とってくる』
市井はそう言って部屋を出た。後藤は不安を抱きながらベットに
座った。
・・・別れ話?
他に何があるの?
こんなにも真剣な市井の顔は今まで見たことが無かった。
『後藤・・・あのさ、実は・・・・』
聞きたくないなと後藤は思った。耳を塞ぎたくて仕方無かった。
『い、いちーちゃん。ご、後藤、用事あるの忘れてた!あはっ。
ごめん、話はまた───』
後藤は慌てて立って、部屋から出ようとした。
『後藤!待って・・・聞いて。頼むから』
がしっと市井に後藤の腕は掴まれていた。
『・・・この街を離れる事になったんだ』
それは別れ話じゃなかった。それでも、残酷な事だった。
『・・・・え?どーゆー事・・・?』
後藤は理解出来ず、市井の方に振り返った。
『高校卒業したら、東京に行くんだ』
市井は辛そうにそう言った。
『嘘でしょ・・・?』
『嘘じゃない。本当だ』
後藤の目から涙が溢れ出た。後藤は市井の家を飛び出した。
市井は後藤を追う事無く部屋の中で涙を流した。
- 351 名前:New 投稿日:2003年05月28日(水)21時09分40秒
- 後藤は走った。ただ全力で走った。
嘘でしょ!?何で!?いちーちゃん!
公園のとこで走るのをやめた。肩で息をして、泣いていた。
『・・・嘘だって言ってよ・・・いちーちゃん』
確かに市井は高校を卒業する。でも近くの大学に行くし家も変わらない。
会う時間は少なくなるけど、ちゃんと毎日会う事は出来る。
中学生だったあの頃のように。
なのに───市井はこの街を離れる。東京に行く。
そうすれば毎日会えないし、会う機会すらかなり減っていく。
後藤にとってそれは絶望だ。
かけがえのない存在の市井。市井がいたから今、後藤はここにいる。
その頃市井は部屋の中で立っていた。涙を拭う事も無かった。
『後藤・・・ごめんな・・・』
何度もそう呟いて、泣いていた。そう市井も辛いのだ。
何故市井がこの街を離れなければいけないのか。
夢、があったから。
市井は音楽がすごく大好きで、趣味でギターもやっていた。
大学へ行かず、専門学校に進む事を選んだのだ。親も了解してくれて
『紗耶香、やりたいように進みなさい。後悔はしてはいけない』
と言ってくれた。
- 352 名前:New 投稿日:2003年05月28日(水)21時20分09秒
- 市井は後藤の事を愛している。だが、夢は諦めたくない。
悩んで悩んだ末、後藤に話したのだ。この街を離れる、と。
もっとも理由は後藤が出て行ってしまったので言えなかった。
それから数日間、2人は会わなかった。学校じゃ別れたとか
喧嘩とか噂が流れていた。どちらも違うが。
まだ喧嘩じゃいい方だ。これはそれ以上に辛いものがある。
ある日、市井は後藤を呼び出した。後藤の下駄箱のとこに手紙を入れて。
<後藤へ。会いたい。放課後、屋上で待ってる。市井>
後藤は迷った。だが、市井はいつまでも待ってると思ったから
きっと夜になっても待ちつづけるだろう。後藤を信じて。
『・・・いちーちゃん』
後藤は屋上に向かった。すると市井はベンチに座っていた。
『後藤・・・・』
ちょっと間があいて市井からしゃべりだした。
夢の事を。
『・・・そうなんだ』
『ごめんな、後藤。嫌いになったわけじゃないよ』
『・・・でも、ひどいよ。後藤と離れ離れになっちゃうんだよ?』
『あぁ・・・でも、私は離れても後藤の事を想い続ける自信がある』
市井ははっきりと言った。
- 353 名前:New 投稿日:2003年05月29日(木)21時21分01秒
- 『そんなの・・・嘘だよ。ずっと離れてたら、いちーちゃん・・・
後藤の事忘れるに決まってるよ・・・』
『んなわけねーだろ!私はずっと後藤を好きでい続ける!』
後藤は涙を目にいっぱい溜めていた。今にも溢れ出しそうだ。
『後藤・・・私達は大丈夫だよ。離れてても心はきっと繋がってる。
電話するし、時間ある時は会えるから』
市井は後藤を抱きしめて言った。
『・・・・後藤、必ず迎えに来るから。帰って来るから。
信じて、待っててよ・・・?』
『・・・・ホントに?』
『あぁ、後藤が高校卒業したらどっかで一緒に暮らそう』
そして──市井は高校卒業し、この街を離れた。
- 354 名前:New 投稿日:2003年05月30日(金)22時22分10秒
- あれから───2年が経過。
たまに電話があったりするけど、市井はこの街へは1度も戻って来てない。
後藤は『いつ会えるの?』としきりに聞いていたが市井は『忙しいんだ、ごめん』
と言っていた。
・・・いちーちゃんの、バカ。
後藤はずっと市井の事を想い続けていた。一瞬も忘れた事なんて無かった。
しかし、市井はどうなのだろう?後藤は不安だった。
後藤は今、17才、高校2年生。来年はあの頃の市井と同い年になる。
『後藤が高校卒業したらどっかで一緒に暮らそう』
あの時市井はそう言った。後藤はその言葉を信じてずっと待っている。
来年は受験生となり、再来年、高校卒業。
きっといちーちゃんは後藤を迎えに来てくれる・・・・。
「んぁー・・・学校行かなきゃ」
- 355 名前:New 投稿日:2003年05月30日(金)22時31分01秒
- もぞもぞと起き上がり着替えをする。それからお母さんが用意してくれた
ご飯を食べて、歯を磨き、洗顔。
「行ってきまーす」
支度ができ、家を出る。
「ごっちーん!おはよ」
後藤が教室の中に入ると、後藤の友達の吉澤ひとみが挨拶をした。
「おはよ・・・」
「元気ないなぁ。・・・またあの夢見たの?」
「うん・・・まぁね」
後藤は自分の席に座った。吉澤が後藤の近くへ来た。
「大丈夫、ごっちんって心配性だよね。必ず迎えに来るよ!」
「・・・うん、ありがと。よっすぃー」
吉澤は高校から後藤の友達だ。市井の事を知った吉澤はずっと後藤を
励ましていた。後藤は随分、吉澤に助けられていた。
「ごっちん、宿題やってきた?」
「んぁ・・・?あったっけ?」
「あったよ、古典のプリント」
「んぁー・・・忘れた」
また今日も1日が始まる。
- 356 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)17時04分17秒
- この日の後藤は暗かった。やはりあの夢を見たせいだろうか。
吉澤が話しかけても上の空、授業も全く聞いてない。お昼ご飯さえも
忘れていてぼーっとしている。
「ごっちん・・・」
「んぁ・・?あ、ごめん。何だっけ?」
またぼーっとしていた後藤。もう放課後の時間だ。
「もう放課後だよ?・・・」
「あ、そうじゃん。帰るかぁー」
後藤は席から立ち上がってカバンを持った。もう教室の中には
吉澤と後藤だけだった。窓から夕陽が差し込む。
「一緒に帰ろう。あ!うちの家寄る?こないだ弟が新しいゲーム
買って来てさー、面白いよ!」
吉澤は後藤を元気付けようとしていた。
「・・・よっすぃー、あたしは大丈夫。梨華ちゃん待ってんじゃないの?
行ってあげなよ」
いつから、自分の事を『後藤』じゃなくて『あたし』と呼ぶように
なったんだろう?
「・・・ごめん、ごっちん」
吉澤は一つ年上の石川梨華と付き合っている。
「いいよ、何謝ってんの!ほら、梨華ちゃん怒らせちゃうよ〜」
「うん・・・また明日ね!」
吉澤は教室を出て行った。
- 357 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)21時54分33秒
- そして───後藤は高校3年生になった。大学は地元の大学を受験
する事になった。
「いちーちゃん、3年生になったよ」
部屋で市井と後藤が写ってる写真に向かって後藤は呟く。
寂しげに後藤はそれを眺めていた。写真の中の2人は幸せそうに笑ってる。
「・・・いちーちゃん、会いたいよ。寂しいよぉ・・・」
写真に涙がポタッと落ちた。
一方───。
「・・・・懐かしいなぁ」
ある人物が電車からおりて来た。懐かしみながら駅を後にする。
───市井紗耶香が戻って来た。
「何も変わってないなぁ・・・この街は」
市井は道に迷う事無く歩いていく。向かう先は愛しのあの人。
「後藤は・・・変わったのかなぁ」
呟きながら歩く。後藤の家が見えてきた。
- 358 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)22時01分54秒
- ピンポーンと呼び鈴がなった。
「誰だろ・・・?」
後藤は机にそっと写真を置いて、部屋を出た。ドタドタと階段を下りて
玄関の扉を開ける。
「よっ!後藤!」
・・・・ふぇ?
後藤の目の前には、大好きな人がいた。
「・・・いちーちゃん?」
「おう、どう?元気?」
市井はポッケに手を突っ込んで言う。後藤は下を向いて
「いちーちゃんのバカー!!!」
と叫びドタドタと階段を駆け上がり、部屋の中へ入った。
扉をバンっと閉めて、しゃがみ込んだ。
「な・・・後藤!?」
市井は驚いて、家の中に入り後藤の部屋へ向かった。
「後藤・・・」
後藤の部屋の前に立った。かすかに後藤の泣いている声が聞こえる。
市井はガチャッと扉を開けた。そしてゆっくり入っていった。
「いちーちゃんのバカ!こっちの気も知らないで!」
後藤は泣きながら叫んだ。
- 359 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)22時10分53秒
- 「後藤・・・・ごめんな」
「後藤は・・・・ずっと寂しかったんだから!1人ぼっちで寂しかった!」
「あぁ、・・・」
市井はゆっくり後藤を後ろからしゃがんで抱きしめた。
「いつ戻って来るかって・・・迎えに来てくれるかってわかんない人を
待つの辛かったんだからぁ!」
「・・・・後藤」
「でも・・・でも、嬉しいよ・・・会えて・・・」
「うん、私も会いたかったよ。後藤を忘れた事なんて一度もないよ。
会いたくてしょーがなかった・・・でも成功するまでは、
私が一人前になるまでは後藤には会えなかった・・・・」
後藤は市井の方に振り向く。市井は微笑みながら言う。
「・・・・『ただいま』後藤」
「・・・『おかえり』いちーちゃん」
2人は固く抱き合った。今までの時間を埋めるように。
未来なんてどうなるかわからない。
でも離れ離れになった時、未来がそうなってしまった時。
必要なのはお互いを想う気持ち。そのココロ。
例え、電話がなくても手紙がなくても。
お互いを信じる事が大切───
- 360 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)22時17分31秒
- 「いちーちゃん、約束覚えてる?」
「・・・後藤が高校卒業したら一緒に暮らそう、だろ?」
「うん」
「お前、受験は?」
「・・・地元の大学受けようかと思ってたけど、まだわかんない。
違うとこにするかも」
「そっか・・・なら東京にしない?なら、私んとこ来ればいい・・・」
「うん・・・嬉しいよ」
「待たせてごめんな」
「ううん、これからずっと一緒だよね」
「おう」
END
- 361 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)22時26分44秒
『月明かりの下で』
窓をそっと開ける。今日は月が綺麗に光っている。
隣にはさっき愛し合った人が寝息をたてて、眠っている。
静寂に支配されてる空間。何も聞こえない。ただ月が光っている。
「・・・・今日は、月が綺麗ですよ・・・」
そっと呟く。何も返事はない。
私には、人は愛せない。
だけど、この人は私を愛している。
駄目な人間だ。愛せないのに愛してるふりをしている。
「知ってるでしょう?・・・・あなたは知っているはずだ」
視線は月。問いかけてるのは隣にいる人。
「なのに・・・何で、私を───」
そこまで言いかけて止めた。
- 362 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)22時38分55秒
- 朝、起きると隣には誰もいなかった。私はぼーっと天井を見上げていた。
ふぅっとため息をつく、そして起き上がった。
のろのろと立ち上がってシャワーを浴びにお風呂へ向かった。
私の名は吉澤ひとみ。
シャワーを浴びてお風呂から出た。テーブルにゆで卵とメモが置いてあった。
<おはよ〜。朝ご飯に食べてね。 圭織>
いつもの事だった。私の家に来た次の朝は大好物のゆで卵を作って置いていって
くれる。私は早速殻をむいて、食べた。
飯田圭織。私の仕事先のお店のお客さん、そこで知り合った。
私はバーテンダーをしている。
知り合ったその日、飯田さんは失恋をしてかなり暗かった。
話を聞くと恋人に他に好きな人が出来たと言われてふられたらしい。
その日、飯田さんは私に迫って来た。
『今日の夜は一緒にいて欲しい』と言われた。
月が綺麗な夜だった。
- 363 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)22時46分06秒
- 私は別に断る事もないので『いいですよ』と返事をした。
私の家に飯田さんを連れて、過ごしていた。
『ひとみ・・・・』
夜、飯田さんは私のベットで寝ていた。私はソファの方に寝ていた。
呼ばれたので飯田さんの方へ来た。
『飯田さん・・?何か・・?』
『来て・・・』
言われるがままに近づくと飯田さんの長い腕が私の方に伸びてきた。
そして抱きつかれ、私は飯田さんの方へ倒れた。
『ちょ・・・飯田さん?』
飯田さんは私の首にキスをしてきた。そしてほっぺ、口に───
私は抵抗した。こんな事しても傷つくだけだ、と飯田さんを思って。
『ひとみ・・・愛してる・・・』
愛してる、って言われて正直戸惑った。
だって、私は人を愛せないから。
- 364 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)22時53分14秒
- 今思えば、あの時言った言葉は偽りの言葉なのかもしれない。
『愛してる』飯田さんはどんな気持ちでそう言ったのだろうか?
私にはわからない。ただ彼女が望むなら私はそれに答える。
私は正直に『人を愛せない』と飯田さんに伝えた。
『それでもいい、愛させて』飯田さんはそう答えた。
それから、私は彼女を抱くようになった。それを彼女が望んでいるのなら。
何の意味がなくても、傷つくってわかっていても。
私は仕事に出かけた。きっと今日も飯田さんは店に来るだろう。
・・・今日も月は綺麗かな?
私は人を愛せない。いや・・・愛したくないのかもしれない。
自分が傷つくのが怖いだけで。
- 365 名前:New 投稿日:2003年05月31日(土)23時01分29秒
- この日の夜、私は聞いてみた。
「人を愛すのってどんな気持ちなんですか?」
「・・・そうね、怖いかな」
「怖い?」
「その人の事が好きすぎて独り占めしたくてたまらない。
そんな自分が怖い」
飯田さんはそう言って私の首にキスを落とす。
「・・・私はひとみを愛してる」
私は、今の言葉が何となく本当の言葉に思えた。
「飯田さん・・・私は人を・・・あなたを愛せるでしょうか?」
今まで1回だけ恋愛というものをした事がある。だけど、裏切られて
それからもう恋愛というものを忘れようとしていた。
「愛せるわ・・・きっと」
月明かりの下で私はもう一度人を愛してみようと思った。
月のように綺麗な彼女を───
END
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