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耳に残るは・・・
- 1 名前:南風 投稿日:2002年09月16日(月)17時00分25秒
- 初めて書かせていただきます。
ド素人です。
手元にあるのはまだ完結してないんですが、書きたくなってしまいました。
更新とかめちゃ不定期になると思いますが、お願いします。
無駄になげぇ〜とか思ったらツッコミとかもお願いします。
吉澤視点がメインです。
それではスタ〜トです。
- 2 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)17時06分41秒
- いつからだろう、君の隣で笑えるようになったのは・・・
いつからだろう、君のことをこんなにも愛しく想えるようになったのは・・・
唄が聞こえる。
心を全て君色に染めてくれるような唄が・・・
パシュッ
乾いた音・・・その音と同じくらいに乾いたあたしの心。
あたしの手から放たれた鉛は簡単に今まで生きていたモノを只の入れ物へと変えていく。
もう何も見ることのできないその目はただ空を見つめている。
・・・醜い
あいつと同じような目。
こいつも同じような目をしている。
あたしはその両眼を撃ち抜くと、振り返ることなくその部屋を後にした。
- 3 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)17時19分37秒
- 外はいつのまにか雨が降っていた。
あたしはいつものように視線を落とし、フードをかぶると冷たい雨の降る中を帰ろうとした。
・・・み・・・
「ッツ!」
クソ!
早い、今回は来るのが早すぎる。
・・・とみ・・・
・・・止めろよ!お前の声なんか聞きたくない!!
・・・さぁ、こっちにおいで・・・
あたしはこの声が大嫌いだった。
あたしはこいつの目が嫌いだった。
頭の中で靄がかった映像が流れ出した。
待ってましたといわんばかりにスイッチが入る。
・・・ヤバい、これ・・・いつもより・・・
・・・イヤダ・・・ヤメロ・・・
・・・さぁ、パパのところへおいで・・・
・・・イヤダ・・・イヤダ、イヤダ、イヤダ・・・
溢れだした記憶はあたしの頭の中を真っ白にさせた。
そしてあたしは冷たい雨の降る中、不覚にもその場で気を失ってしまった。
- 4 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)17時58分00秒
- 何処からだろう?懐かしい唄・・・
「・・・ん」
「あ、目覚めた?」
パタパタとあたしの方へ走ってくる少女。
といってもそんなに大きくないこの部屋ではあっという間に距離は無くなってしまう。
「まだ顔青いみたいだね。もうちょっと休んでおいた方が良いかもしれない。ちょっと待ってて、今温かい飲み物入れるね」
・・・何だこの声。昔見ていたアニメに似たような声が・・・って今はそんなこと考えてる場合じゃない。
ここは・・・あたしの知らない場所だ・・・。
知らない場所!?
何でここに・・・
クソッ!頭の中の靄が邪魔で記憶が戻ってくるのが遅い。
「まだ寝て無きゃ駄目だよ」
アニメ声の少女は手に湯気の立つマグカップを持ってあたしの横に座った。
「・・・あの」
そうだ、この少女は?
いつから?
どうしてここに?
声をかけてから様々なことに気がつく。
自分自身に悪態をついて騒ぎまくりたい気分だ。
「そうだね、自己紹介してなかったね。私石川梨華って言うの。あ、ひょっとして覚えてない?
あなた道端で気を失って倒れてたんだよ。それで、私の家の近くだったからここまで運んできたの」
この少女があたしのことを運んできた?この細い腕で?
・・・運ばれた
!!
あたしはとっさに自分の体を服の上から触った。
よかった、何もいじられてない。
そういえば気を失ったって言ってたよな・・・
あたしは起きたばかりの頭をふる回転させた。
- 5 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)17時58分39秒
- あたしが仕事を終えたのが大体2時頃だ。今の時間・・・
すばやく自分の腕時計を見る。
4時15分。
今日は何日だ?
あたしはどのくらい意識が無かったんだ?
「今日何日?」
突然の質問に驚きながらも少女は答えた。
「え、10月28日・・・だけど」
28日、よかった。まだ日付けは変わってない。
あたしは勢いよく立ち上がると、玄関だと思われる方に向かって歩き出した。
すぐに、あわてたように後ろから追ってくる足音が聞こえる。
「ちょ、ちょっと待ちなよ!あなた今倒れたばかりなんだよ」
助けてもらっておいて何だが、今はこの少女に付き合っている暇はない。早く現場から離れなければ。
もし、処理が何らかの理由で遅れたりされなかったら、このことは明るみに出る。
そうなれば殺人事件のあった家の目の前で倒れていたあたしのことをこの少女は不信に思うはずだ。
そうなればやっかいなことになる。
あたしはあたしのことを必死で止めようとする少女の方を向いた。
少女はあたしの目を見て止まった。
この反応にも慣れている。あたしの目は人から言わせれば『感情のない冷酷な瞳』なんだそうだ。
そのせいか、同僚以外であたしの目を見つめ返してきたやつはいなかった。
だからこの少女もこれで素直に引き下がってくれるだろうと思っていた。
が、少女は予想に反して、しっかりとあたしの目を見つめ返してきた。
・・・何だ、この娘・・・
少女の目に恐怖の色は見えなかった。
あたしはそれならと、言葉だけの例を言って強引に家を後にした。
- 6 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)19時13分28秒
- 11月の始め、あたしは幼い頃から(といっても同じくらいお互いに幼かったのだが)面倒を見てもらってる矢口さんに呼び出された。
「おぉよっすぃ〜」
「久しぶりだねぇ」
「どうも」
この店はほとんど人目につかなような所にあった。多分地元の人でも知らないだろう。
ビルとビルの間にある為、朝夕関係無く日があまり差し込んでこない。
この暗さが雰囲気があって良いという常連客もいるようだが、おせじにも客足が良いというわけではない。
この店の経営は矢口さんと、その恋人である安倍さんとで行われている。
久々に訪れた今日も、店内は薄暗く、控えめな音楽が流れていた。
「で、何ですか?」
あたしはカウンターに腰かけながら矢口さんに訊ねた。
矢口さんはその小さな体をカウンターの上に乗り出すようにして喋りだした。
「突然ですが、よっすぃには明日から学校に行ってもらいます」
- 7 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)19時37分02秒
- ・・・学校?
「はぁ!?ちょっと待って下さいよ!!」
本当に突然すぎる。別にこれといって用事があるわけでもないが、いきなり学校へ行けなんて言われて
素直にハイそうですかなんて言えるはずない。
あたしは思わず席を立ち上がって声を上げてしまった。
営業前の静かな店内にあたしの声だけが空しく響き渡る。
「まぁまぁ落ち着くのが一番だべ」
あたしをなだめるように安倍さんが紅茶を持ってきた。
「これは矢口からの命令だよ。嫌とは言わせないからね」
「別にあたし・・・」
「よっすぃ〜・・・」
矢口さんの目は真剣だった。
こういう目の時は逆らえない。
昔から矢口さんの言うことは絶対だった。逆らうことなどありえないことだし、逆らわなかったからこそ
今こうしてあたしは生きている。
別にあたしは自分の命なんてどうでも良かったが、仕事で命を落とすということが嫌だった。
あたしのちっぽけだけど自分の中では立派なプライドなのだ。
- 8 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)19時38分28秒
- 確かに今まで一度も矢口さんはあたしに不利になるようなことは言っていないが、今回については
不満がありすぎる。
突然すぎるし、その意図も掴めない。
あたしの顔に今思ったことがおもいっきり出ていたのだろう、矢口さんは不満で一杯のあたしの頬を
小さな手で掴んでひっぱてきた。
「イタッ!ちょっと矢口さん!!痛いッスよ!!!」
「ほら行くって言え〜!言わないともっと色んな所ひっぱちゃうぞ〜。」
「色んなところって何処だべ?」
「な、な、な、な、何言ってるんッスか!安倍さんも変なツッコミよりも止めて下さいよぉ」
「言わないヤツにはこうだ!」
「ちょ、何処触ってるんすか!!わかりました、行きます、行きますから離して下さいよ〜」
「キャハハハハ!見て見てなっち、これすんごい変な顔だよ」
「どれどれ」
どれどれって・・・安倍さん・・・矢口さん止めてくれないんですか
あたしがしばらくこの2人のおもちゃにされたのは言うまでもないだろう・・・
- 9 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)19時48分57秒
- 翌日、ひとみは浮かない顔で教室の前に立っていた。
教室の中ではこのクラスの担任、つまりあたしの担任になる飯田圭織という先生が転校生が来るという
ことを生徒達に伝えている。
昨日はあの後、帰る寸前に矢口さんから学校セット一式を渡された。
さらに全ての手続きも終わっており、明日から行くようにとまで言われた。
もとからあたしの意見なんて聞いちゃないよってことらしい。
・・・早く帰りたい
「じゃぁ吉澤さん、入ってきて」
ひとみは無表情のまま教室の中へと入っていった。
クラス中の視線がひとみに集まる。それと同時に聞こえてくる生徒達の交わす会話。
人に注目されることが苦手なひとみにとってこの洗礼はキツイものだった。
「今日からこのクラスで一緒に勉強することになった吉澤さんよ。皆仲良くしてあげてね」
「・・・どうも」
- 10 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)20時00分48秒
- このそっけないあたしの挨拶はクラスの中で勝手に緊張のせいだと解釈されたらしい。
他の生徒達がニコニコしたり、興味の目を持ってあたしのことを見ていた。
「じゃぁ、吉澤さんは席について。あなたの席はあそこよ」
飯田先生が指を指した席は窓側の一番後ろという、一番人気があるんではないかという席だった。
その隣の席では真面目そうに制服を着た生徒が机に頭をくっつけて眠っていた。
「もう、また寝てる。石川!起きなさい!!って言っても起きるはずないか」
・・・石川?何処かで聞いたような・・・
「あんまり気にしないで、彼女色々と大変なのよ。まぁ授業になったら起きると思うから」
そう言うと飯田先生はあたしのことを席に促した。
「じゃぁ授業始めるよ、皆教科書出して」
ガタガタと机から教科書を出す生徒達。
あたしも初日から目をつけられてくなかったので真新しい教科書は鞄から取り出した。
- 11 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)21時13分13秒
- あたしは、ボーッとしながらもノートをとっていた。
授業が始まって5分くらいたった頃だろうか、隣で眠っていた生徒が起きた。
あたしはその顔を見て動きが止まってしまった。
石川・・・そうだ、あの日・・・仕事が終わった後、不覚にも気を失った日に出会った少女が名乗った名前だ。
その少女が・・・あたしの席の隣に座っている。
嘘・・・
信じられないという気持ちよりも信じたくないという気持ちの方が強かった。
そして何よりもマズイ状態だと思った。
あの時の事件事態表ざたになることはなかったのだが、あの家付近では噂がたってしまっていたのだ。
あくまでも噂として流れているとしても、この少女が住んでいるのもあそこら辺だった。
その噂の元となった家の前で倒れていたあたしを疑わないはずがない。
「・・・あっ」
気付かれた。
瞬時にあたしは何を言われても良いように様々な言い訳を考えだした。
しかし少女、いや彼女は何も言わずにひたすら勉強をしていた。
結局、午前午後通して彼女があたしに声をかけてくることはなかった。
- 12 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)21時27分32秒
- 「あ、吉澤ちょっと残って」
HRも終わり、さっさと帰ろうと思っていたあたしを飯田先生が呼び止めた。
早くも『さん』付け終了ですか。
「何ですか?」
「一応、これ持っておいて」
飯田先生が渡してきたのはこの学校の見取り図だった。
「来てわかったと思うんだけど、この学校大きいでしょ?迷ったりすることもあるかもしれないから。
それでこの斜線部分がもう使われてない校舎で立ち入り禁止だから気をつけてね。あと・・・
あ、石川!ちょっていい?」
は!?
何故こうもタイミング良くっつうか悪く石川さんを呼ぶんだ?
飯田先生に呼ばれた石川さんは掃除していた手を止めてこっちに小走りでやってきた。
「はい」
「悪いんだけど、吉澤に学校案内してくれない?」
・・・まじッスか・・・
- 13 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)21時35分03秒
- あたしはいつも仕事の時には、そのことに関する全てのことを頭に入れておくようにしている。
その癖というわけでもないが、この学校のことについても、情報のある限りのことは
全て頭に入れてきた。今さら学校案内なんて必要ない。
しかし、そんなこと言えるはずもなく、黙って受け入れることにした。
「じゃぁ後頼むね」
飯田先生はあたしと石川さんに後ろ向きで手を振って教室から出て行った。
他の生徒達もすでに教室からいなくなっている。
「それじゃぁ行こうか」
石川さんは今まで何ごともなかったかのように、あたしに学校案内をしていった。
あたしに気を使ってか、色々と話しかけてくれるが、今朝の授業での石川さんの態度が忘れ
られないあたしは、その受け答えどころではなかった。
- 14 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)21時45分42秒
- 「大体こんなところかな」
一通りというか、丁寧に全ての教室の案内をしてくれた石川さんが笑顔であたしの方を向いた。
窓から入ってくる光りはすでにオレンジ色に変わっている。
「最後に良い所教えてあげる」
石川さんはそう言うとスタスタとあたしの前を歩いて行く。
まだあるのか?あたしの頭の中に入っている教室は全部回ったはずなんだけど・・・
石川さんは『立ち入り禁止』と書かれているプレートを乗り越えてどんどんと先に進んで行く。
そんな石川さんの姿をボーッと見ていたら、石川さんは笑顔で手招きをした。
あたしは体中に神経を走らせ、何にでも対応できるようにし、石川さんの後を追った。
- 15 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)22時03分50秒
- 石川さんがあたしをつれてきたのは学校の屋上だった。
夕暮れ時のこの景色にあたしは見いってしまった。
街中に広がるオレンジ色の空。その下に広がる街並は光りと影の生み出す一枚の絵のようだった。
何年ぶりだろう、こんな夕焼けを見たのは・・・。
あたしがさっきまで走らせていた神経は音もなくとけていった。
「良い場所でしょ?私よくここにくるんだ。もちろん皆には内緒でね」
石川さんは金網に手をかけ、遠くの方を見つめながら少し寂しそうに言った。
あたしは今なら聞けるような気がした。
根拠なんて何も無いけど、この空の下でなら聞ける気がした。
「・・・石川さん」
「梨華で良いよ」
「じゃぁ・・・梨華・・・ちゃん」
あたしがそう呼ぶと、梨華ちゃんは本当に嬉しそうな顔であたしの方を向いた。
夕日をバックにした石川さん・・・梨華ちゃんの笑顔は、その時のあたしには眩しすぎた。
そう、直視することができないくらいに・・・。
あたしは真直ぐ見つめ返すことができずに、視線を足下におとした。
「・・・どうして何も聞かないの・・・」
ほんの少し時間があき、下を向いているあたしの視界に梨華ちゃんの上履きが入ってきた。
「何も言いたくなさそうだったから」
そのの声はどこか感情がつかみにくい感じだった。
梨華ちゃんはそう言うと、あたしが立っているすぐ横に寝ッ転がった。
- 16 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)22時17分07秒
- 「こうして見る空ってね、すごく広いんだ。当たり前なんだけどすごく広いんだ。
あまりにも広すぎて私なんか誰にも見つけてもらえないじゃないかって思うくらい。
でもね、それでもあたしはこうして空見るのが好きなんだ」
梨華ちゃんは自分の横をポンポンと叩いてあたしのことを呼んだ。
あたしは梨華ちゃんと少し距離をとって地面に寝転がった。
そして、あまりの空の広さに息を飲んだ。
「吉澤さん・・・」
梨華ちゃんの声が遠くから聞こえる感じがした。
「下の名前、ひとみっていうんだよね。・・・ひとみちゃんって呼んで良い?」
呼び方なんてあたしにとったらどうでもいい問題だ。
「うん」
自分でもわかる程に冷たい言い方。
それでも梨華ちゃんは気にしないといった感じで答えてくれた。
「じゃぁ、よろしくね。ひとみちゃん」
そう言うと梨華ちゃんは目を閉じた。
あたしは隣で目を閉じている梨華ちゃんの横顔を気付かれないようにしばらく眺めていた。
- 17 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)22時22分38秒
- あの日以来、あたしはよく屋上へと足を運ぶようになった。
特に仕事が終わった後などは朝夕関係なくここに忍びこんだ。
心のどこかで安らぎを求めていたのかもしれない。
ここに来てもないのはわかっている。
それでもあたしの足は自然とここへ向かっていたのだ。
- 18 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月16日(月)22時37分07秒
- あたしがこの学校に入学して早くも3週間がたとうとしていた。
相変わらず誰とも関わろうとせずに外を眺めているあたしでも、誰かに話し掛けられた時は
作り笑いを浮かべて対応するということを覚えた。
隣では梨華ちゃんが相変わらず寝ている。
まるで知り合いの誰かさんみたいだ。
転校してすぐの頃、このクラスの娘が梨華ちゃんのことを教えてくれた。
梨華ちゃんは自分で働いて学費の一部を払っているらしかった。
遅生まれの梨華ちゃんは、学年的には本当は一つ上になるのだが、1年間働いて
学費など稼いでいたらしい。それでこの学年にいるのだ。
そして色々な事情があって一人暮らしもしてるようだった。
このことについてはあたしは前から知っていた、というより実際部屋に担ぎこまれた
身なので、特に驚きもしなかった。
授業以外で寝ている理由が分かった気がした。
こういう事情を知っている娘達はなるべく梨華ちゃんの周りで騒がないように気を
使ってるらしく、休み時間でもあまり近くで大声を上げる人はいなかった。
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月17日(火)07時19分41秒
- 文章しっかりしてて読みごたえあるし、力作の予感
頑張って下さい
- 20 名前:南風 投稿日:2002年09月19日(木)19時46分58秒
- >19さん
ありがとうございます。
こう、感想を頂けるとかなり嬉しいです。
頑張らさせていただきます!
- 21 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)20時06分42秒
- この頃、ひどく視線が気になるようになった。
転校したての時は、ただ転校生が珍しいだけかと思っていたが、こうも長く続くと違う気がしてきた。
授業の合間合間の休み時間なら耐えられるものなのだが、昼休みという長い時間ではさすがに
落ち着かない。
あたしは自然と昼休みになると屋上へと足を進めるようになった。
- 22 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)20時33分53秒
- 今日もいつものように授業が終わると屋上へと足を運び
いつものように全身に冷たい風を浴びて地面に横たわった。
空に浮かぶ雲の流れがいつもより早い。
「こんな風の強い日に屋上で寝っ転がるってるとパンツ見えちゃうよ」
屋上の入り口の上の方から、一度聞いたら忘れない声が聞こえた。
気配はここに来た時から感じていたので、あたしは特に驚くわけでもなく、
声のした方へと顔を向けた。
梨華ちゃんは足をぶらぶらさせながらパンを食べていた。
「そんなに恐い顔しないでよ。別に何もしないからさ」
梨華ちゃんの言葉で自分の顔に梨華ちゃんに対する
警戒の色が浮かび出ていることに気がつく。
「それと・・・」
梨華ちゃんは今いるところから飛び下りると、ゆっくりとあたしの方へ歩いてきた。
「私の前で無理に笑顔つくる必要ないよ」
!!
気付かれてた!?
「大丈夫、多分私以外の人は気付いてないと思うから」
そう言ってあたしの横に座ると、再び梨華ちゃんはパンを食べ始めた。
この日、あたしは梨華ちゃんに対して警戒心よりも興味を持った。
- 23 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)20時37分03秒
- 「・・・梨華ちゃんはさ・・・恐くないの?」
「何が?」
「何がって・・・あたしのこと・・・」
「全然」
梨華ちゃんは相変わらずパンを食べ続けている。
「変わってるね・・・」
あたしは起き上がると、梨華ちゃんの横で持ってきたべ−グルを食べた。
- 24 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)20時43分50秒
- あの日を境に、あたしと梨華ちゃんの距離は少しだけ近付いた。
休み時間に話しをするということはなかったが、昼休みに屋上で会うと、少しだが話すようになった。
っといっても大体は梨華ちゃんがあたしに話し、あたしがそれを聞いてるといった
ものだた。
でも、距離が近付いたのは確かだった。
あたしがよく来るようになった屋上。
一度だって安らぎなんて感じたことのなかった屋上。
それでも梨華ちゃんと並んでいる空間は、不思議と嫌な感じがしなかった。
- 25 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)21時02分48秒
- 「あ、ひとみちゃん!」
いつものように昼休みに屋上へ上がると、梨華ちゃんが笑顔であたしに手を振っていた。
梨華ちゃんはあたしが笑顔で手を振り返すなんてことをしないと分かっていても、
毎回会えば同じ様にに手を振っていた。
いつものようにお互い少し距離をあけて座る。
すっと視線を梨華ちゃんの方へ向けると、見なれた袋が目についた。
・・・梨華ちゃんっていつも同じパン食べてるよなぁ。
こんなどうでも良いことを考えながら梨華ちゃんのことを見ていたら、こっちを見た
梨華ちゃんと視線があった。
「ひ、ひとみちゃんて、ここよく来るの?あ、別に深い意味は無いんだけど、
何か最近よく会うなって思ったから・・・」
そんな顔真っ赤にして動揺しなくても大丈夫なのに。
・・・そうだ、梨華ちゃんならあたしが感じてる視線のことわかるかな?
何でこんなこと聞こうと思ったんだろう。
言葉を口に出した後こんなことを思った。
「・・・梨華ちゃん」
「なぁに?」
「何かさ・・・最近っつうかそんな最近でもないんだけど・・・ともかく、すげぇ沢山の視線
感じるんだけどさ・・・この学校ってそんなに転校生が珍しいの?」
梨華ちゃんは本当に驚いた!って顔をしてパンを口から離した。
- 26 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)21時09分29秒
- 「ひとみちゃん気付いてないの!?」
気付いてないって・・・なにが・・・
「ひとみちゃんってすっごぉぉぉぉくモテるんだよ。皆時間あればひとみちゃんのこと見ようとして
頑張ってるんだから」
・・・そうだったんだ。昔から似たような体験はしてきたけど、まさか高校に入ってまで
すると思ってなかった・・・。
・・・皆物好きだなぁ。
「ねぇ、本当に気付いてなかったの?」
「・・・うん」
「はぁ、驚いちゃった。ひとみちゃんって意外に鈍感さんなんだね」
そう言って梨華ちゃんは少し嬉しそうに笑った。
こんなことを言われても、やっぱりあたしは嫌な感じがしなかった。
- 27 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)21時40分04秒
- 11月も終わりに近付き、寒さも本格的になってきた頃あたしは矢口さんに呼び出しを受けた。
開店前の店はいつも以上に静かで、いつも以上に小さく音楽がかかっていた。
あたしがカウンターに腰掛けると矢口さんがやってきた。
珍しく隣に安倍さんがいない。
「オッス!あ、先に言っておくけど別に矢口達喧嘩したわけじゃないからね!
なっち今買い物行ってるだけだからね!!」
・・・そんな早口で言わなくたって別に疑ってないっスよ。
「それより元気してたか?最近ここ全然来てくれないから心配してたんだぞ」
そういえば屋上という新しい場所ができてから、この店には前以上に来なくなった。
代わりというわけではないが、今のあたしにとってここよりも屋上の方が居心地が良かったのだ。
「矢口さんほどじゃないですけど、元気っスよ」
「・・・あれ?」
「何ですか?」
矢口さんがあたしの顔を覗き込むようにカウンターに身を乗り出してきた。
矢口さん・・・顔、近いっス。
「いや、何か変わった感じが・・・まぁ、いっか・・・」
矢口さんはまだ不思議そうな顔であたしの前にレッドアイを置いてきた。
- 28 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)21時49分18秒
- あたしは少しこのカクテルを見つめてから矢口さんの方に顔を上げた。
矢口さんの顔からはさっきまでの笑顔が消えている。
このカクテルは仕事の時の合図だ。
あたしはカクテルを掴むとそのまま矢口さんの方へ差し出した。
これには意味がある。
@飲まずに渡す=仕事を受ける
A全て飲む=仕事放棄
B半分まで飲む=検討
このようになっている。
あたしはまだ@以外はしたことがなかった。
断る理由もないからだ。
矢口さんは黙ってカクテルを受け取ると、あたしの前に封筒を置き開店の準備に戻っていった。
あたしは封筒を開けるとその場で全ての書類に目を通した。
この瞬間から自分の感情が凍りついていくのがわかる。
あたしは黙って書類を封筒に戻すと、カウンターに置き、そのまま店を後にした。
- 29 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)21時52分38秒
- 矢口はひとみの後ろ姿を見送ると、カウンターに置いてあった封筒を掴み、それを火にかけた。
「ただいま〜」
「・・・なっち」
「ん?どうしたんだべ?」
矢口は不思議そうな顔をしたなつみの元へ駆け寄り抱きついた。
なつみは買ってきたものを床に置くと、矢口のことを優しく抱きしめた。
- 30 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)21時54分57秒
- 単調な仕事だった。
いつものように相手に近付き、いつものように打ち殺す。
・・・コロス・・・コロス・・・コロス・・・・・・・・
そしていつものようにあたしは屋上へと向かった。
- 31 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)22時00分44秒
- 11月の風は肌に突き刺さる程寒いはずなのに、感情の凍り付いていたあたしは
それすらわからなくなっていた。
屋上へと向かっていたのもほとんど無意識だ。
自然と足がここに向かっていたのだ。
金網に近付くと真っ暗な街並を見下ろした。
空なんて見上げる気分じゃなかった。
ただ、この場所にいれればよかったのだ。
ガチャッ
突然屋上の入り口が開く音がした。
追って?いや全然殺気が感じられない。
むしろこの感じは・・・
- 32 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月19日(木)22時10分54秒
- そこに立っていたのは梨華ちゃんだった。
星でも見に来たのだろうか、コートを着て缶ジュースを手に持っている。
梨華ちゃんは驚いて固まっていた。
それもそうだ。
初めて会った時と同じ格好をして、こんな夜遅くに屋上につっ立ているのだ。
驚かない方がおかしい。
あたし達の間に沈黙が流れた。
この沈黙を先に破ったのは梨華ちゃんだった。
ゆっくりとあたしに近付き、自分の持っていた缶を無理矢理あたしの手に握らせた。
・・・。
この季節だというのにその缶は冷たかった。
さっきまで何も感じなかったあたしの肌が缶から伝わる冷たさを感じた。
「・・・冷たいじゃん」
突然梨華ちゃんはあたしのことを抱きしめた。
梨華ちゃんから伝わってくる体温があたしの凍りついていた感情を溶かしていくようだった。
緊張の糸が切れてしまったあたしはそのまま梨華ちゃんの腕の中で気を失ってしまった。
- 33 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)13時29分18秒
- ・・・あの唄だ・・・また、あの唄が聞こえる・・・
- 34 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)13時35分55秒
- 夜明けの直前にひとみは目を覚ました。
隣に人の気配を感じて目線だけを移動させると、そこには体育座りで寒そうに肩を
震わせながら空を見上ている梨華ちゃんがいた。
薄着の梨華ちゃんを見て、やっと自分の上にかぶせられたコートに気がついた。
「・・・梨華ちゃん」
あたしの声に気がついた梨華ちゃんは、こっちを向くと
寒くて辛いはずなのに、無理に笑顔であたしのことを見つめ
「2回目だね」
と言った。
理由なんていらなかった。
この瞬間、あたしは梨華ちゃんのことを抱きしめていた。
- 35 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)13時41分24秒
- 眠れないでいた。
数時間前に抱きしめた梨華ちゃんの温もりが忘れられなかった。
一体どれくらいぶりだろうか・・・人を抱きしめたなんて。
自分から誰かを抱きしめるなんて、この仕事について始めてかもしれない。
ひとみは学校に行く時間になるまで梨華にもらったジュースの空き缶をぼんやりと見つめていた。
- 36 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)13時56分15秒
- 結局一睡もできないまま、ひとみは朝を迎えた。
・・・今日梨華ちゃんにどんな顔して会えばいいんだろう。
これはいくら考えてもひとみの中に答えがでなかった。
人付き合いが苦手なひとみにとって人との関わり方は知らない時限の問題なのだ。
- 37 名前:南風 投稿日:2002年09月20日(金)13時58分21秒
- 時限×
次元○
読んで下さる方がいらっしゃるならごめんなさい。
誤字脱字ありすぎました・・・。
- 38 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)14時04分42秒
- あたしは朝のHRぎりぎりに教室に入った。
もし、早く来て梨華ちゃんと会ったらどんな風に声をかかえれば良いかがわからなかった
からだ。
他の生徒達から見ればいつもと同じ吉澤ひとみ。
しかし妙に鋭い梨華ちゃんにとったらこの吉澤ひとみは微妙な迷いのある吉澤ひとみ
として見えているんだろう。
あたしはそれが分かっていても、梨華ちゃんに話しかけることができないでいた。
意外に自分は意気地なしだと思った。
- 39 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)14時11分36秒
- 授業も何時間か過ぎた頃だった。
教科書をしまい、外を眺めていたあたしに梨華ちゃんが話しかけてきた。
あたしに気を使ってか、自分が眠いからかはわからないが、
屋上以外では決して話しかけてくることなんてなかった梨華ちゃんが、あたしに
話しかけてきたのだ。
これにはマジでビビった。
梨華ちゃんは他の娘には聞こえないほどの声であたしに「昨日のこと気にしないで」と言った。
別にやましいことをしたわけではないが、この言葉はあたしを楽にさせてくれた。
梨華ちゃんが席に戻り、いつものように寝る体勢になるのを横目で確認しながら、
あたしもいつものように外を眺めた。
- 40 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)14時20分46秒
- 昼休み。
屋上に上がる間中、あたしは梨華ちゃんに何て話しかけようか考えていた。
しかし、結局朝と同じように何も思い付かないまま屋上の扉の前まで来てしまった。
きっと他の人から言わせれば『何でそんなことで悩んでるの』って言われるんだと思う。
でもあたしには大問題なのだ。
・・・まいったな
どんなに考えてもわかりっこないと思い、あたしは扉の前で大きく生きを吸うと
思いきって扉を開けた。
そこには先客がいた。
- 41 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)15時21分24秒
- 梨華ちゃんを金網まで追い込み、そのまわりを3人の生徒が囲んでいる。
それを見れば誰だって何が行われてるかわかる。
ったく、この年になってまで虐めなんてすんのかよ・・・
普段殺しなんてことをしていると、こんな虐めなんて幼稚なことが酷く不愉快に
思えた。
そして、何よりもこの場所を汚された気がしてならなかった。
あたしはゆっくりと梨華ちゃん達の方へと近付いていった。
段々と聞こえてくる会話。「何あたし達の吉澤さんに馴れ馴れしいことしてんの」
「本当、あんたはただおとなしく寝てれば良いんだよ」「ちょっと、聞いてんの!?」
そんな言葉を受けながら梨華ちゃんは黙ってうつむいていた。
この娘達は、休み時間に梨華ちゃんがあたしに話しかけていたのが気にくわないらしい。
あたしは梨華ちゃんに対して申し訳ない気持ちがこみあげてきた。
あたしの中途半端な態度に気を使ってくれた行動で、こうして虐めにあってる梨華ちゃん。
・・・。
あたしは足音を殺して、梨華ちゃん達の後ろまで来た。
- 42 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)15時34分43秒
- あたしの影に気がついたのか、梨華ちゃんがゆっくりと顔を上げた。
眉毛がすっかりハの字になっている。
そんな梨華ちゃんを見て、あたしの方を振り向く3人の生徒達。
始めは信じられないという顔で見ていた娘達もあたしの目を見た瞬間に驚愕の
表情になった。
当たり前だ。
この時のあたしは笑ってはいなかった。
いつもの作り笑いなんてクソくらえだ。
あたしは茫然と立ちすくむ娘達を押し退け、梨華ちゃんの前へと進んだ。
「大丈夫?」
笑っていないあたしの目をしっかりと見つめ返しながら梨華ちゃんは頷いた。
その顔はかすかに青ざめているようだった。
- 43 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)15時54分36秒
- あたしは自分の中に、数年間忘れていた『怒り』という感情が沸き上がってくるのを感じた。
ここが学校でなければ殴り倒してやりたい衝動にかられた。
あたしは梨華ちゃんの耳もとで『ごめん』と囁くと、梨華ちゃんの肩を抱き、まだ青ざめて
いる娘達の方を向いた。
梨華ちゃんはあたしが肩を抱いた瞬間は体を強ばらせたものの、すぐに体の力を抜いて
控えめにあたしに体を預けてきた。
あたしは梨華ちゃんを抱く自分の腕に少し力を入れる。
「あのさぁ、あたしの周りで好き勝手騒ぐのは全然構わないんだけど、それで誰かに迷惑かけたり
すんのやめてくれないかなぁ。それと・・・」
あたしは梨華ちゃんのことを昨夕のように胸に抱きしめた。
「あたしの大事な人に手、出さないでくれるかなぁ?」
立ちすくむ娘達の顔が青ざめた顔から、驚きの顔へと変化していく。
「何?そこでまだあたし達が何するか見ていたいの?」
あたしはそう言うと、梨華ちゃんの顎を指で少し持ち上げる。
それを見た娘達はあわてて屋上から出ていった。
- 44 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)16時10分17秒
- 扉が閉まる音を聞いてから、あたしは梨華ちゃんの顎から指を離した。
「ったくこの年になってまで虐めなんて幼稚なことやんなよな」
あたしは扉の方に向かって吐き捨てるように言った。
「・・・ひとみちゃん」
少し恥ずかしそうに呟く梨華ちゃんの声で、あたしは自分がまだ梨華ちゃんのことを
抱きしめてることに気がついた。
あたしよりも10cm弱低いくらいだろうか、自然とあたしのことを見つめる形になる梨華ちゃん。
あらためて見るとかなり可愛い。
あたしが会った中でここまで整った顔をした人は数人しか知らない。
いや、その中でも梨華ちゃんは系統が違う気もする。
「あ、あの・・・」
「あぁ、ごめん」
あたしの思考はここで中断させられた。
あたしはそっと梨華ちゃんのことを体から離した。
あたし達の間を風が優しく通り抜けていく。
やはりあたしは梨華ちゃんと同じ時間を共有することが嫌ではない。
- 45 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)16時24分42秒
- 「・・・ひとみちゃん・・・ごめんね」
・・・何で梨華ちゃんが謝るんだろう?
「私が・・・皆の前でひとみちゃんに話しかけなければ良かったんだよね。
・・・ひとみちゃんは誰とも関わりなんて持ちたくなかったはずなのに・・・
私、それ壊しちゃったね・・・本当にごめんね」
あたしはたまらず離したはずの梨華ちゃんの体を引き寄せた。
傷付きやすく、ガラス細工のような心を持っているこの娘のことを放っておけない。
純粋にそう思った。
「・・・謝るのはあたしの方だよ・・・ごめん」
梨華ちゃんはその細い腕をあたしの背中に回すと、あたしの胸に顔を埋めて静かに
涙を流した。
- 46 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月20日(金)16時30分45秒
- 昼休みが終わる直前に、あたしは梨華ちゃんを食事に誘った。
今日の償いがしたかったから。
少し驚いて梨華ちゃんは笑顔で頷いてくれた。
そしてあたしよりも先に教室へと戻っていった。
- 47 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月21日(土)03時18分21秒
- わりと淡々とした雰囲気なのに萌えますねぇ。期待
- 48 名前:南風 投稿日:2002年09月21日(土)10時10分34秒
- >47さま
レスありがとうございます。
まじ嬉しいッス。
期待にそえるように
目指せ文章力アップで頑張らさせていただきます。
(あ、すでに変な日本語・・・)
- 49 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)10時23分24秒
- 「あ、よし子〜」
「悪いね、突然呼び出しちゃって」
あの後、学校から帰ったあたしは数少ない友人と呼べる人物である
後藤真希、通称ごっちんに電話をかけた。
「全然、ちょうどあたしも時間弄んでたんだぁ。
それよりどうしたの?こんな時間によし子が連絡くれるなんて。
珍しいじゃん」
「あぁ・・・ちょっとね」
視線を落とすあたしの横でボーッとしながら次ぎの言葉を待っててくれるごっちん。
焦って色々聞いてこないのはごっちん流の優しさらしい。
ごっちんは同業者だ。
その風貌に似つかわしくないが、凄腕の同業者なんだ。
そんなことをフト思い出した。
「あのさ・・・何・・・もらったら嬉しい?」
・・・自分で言っておきながら何言ってるんだとツッコんだ。
壊れたロボットのようだ。
・・・。
- 50 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)10時30分37秒
- それでもごっちんは瞬時にあたしの言いたいことを理解してくれた。
さすがというか、よく分かったねって感じ。
ごっちんは少し考えてからこう言った。
「そうだなぁ、やっぱし形に残るものがいいよねぇ。
例えば・・・指輪とか。
でも大事なのはよし子の気持ちだと思うよ」
・・・気持ちって。ただ償いしたいだけなんですけど。
「そっかぁ、よし子にもついにそういう人ができたのかぁ」
前言撤回。やっぱし何にも凄くない。
「少し寂しいけど、よし子の為なら応援するよ!」
ごっちんはそう言うと、拳を握りしめて立ち上がり
表情だけであたしに頑張れと言って、人込みの中に消えていった。
- 51 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)10時59分29秒
- 結局あたしは手ぶらのまま梨華ちゃんとの待ち合わせ場所へやってきた。
約束の時間までは後2時間くらいある。
あたしは少し離れた所にある自動販売機でお茶を2本買うと、それをスタジャンの
ポッケに突っ込み、待ち合わせの場所へと戻った。
戻るとすでに梨華ちゃんがいた。
寒そうに手をこすり合わせながら白い息をはいている。
そんな梨華ちゃんを街行く人達が振り返っていた。
多分それは目立っていたからだと思う。
冬の厚着の上からでもわかるスタイルの良さに加えてあの可愛さだ。
ジーパンにスニーカー、そしてスタジャンというあたしとは対照的に
梨華ちゃんはピンクのタートルネックのセーターを着て、脛くらいまでのスカート
そして、それによく合う黒いブーツを履いている。
これで目立たない方がおかしい。
あたしは梨華ちゃんの近くまで行くと、ポッケに入れておいたお茶を梨華ちゃんの
目の前に差し出した。
- 52 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)11時03分38秒
- 「おまたせ」
あたしの存在に気がつき、顔を上げると梨華ちゃんは差し出されたお茶を笑顔で
受け取った。
あたしは梨華ちゃんの横に座ると、もう一本のお茶を取り出した。
「悪いね、こんな寒い日に食事なんかに誘っちゃって」
梨華ちゃんは笑顔のままで首を横に振った。
あたし達はしばらくそこでお茶を飲んでいた。
- 53 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)11時08分21秒
- 空になった缶を片手に持ちながら、あたしは梨華ちゃんにたずねた。
「梨華ちゃんはどんなん食べたい?」
梨華ちゃんは飲みかけのお茶を両手で持ちながら真剣な顔で悩んだ。
それはやがて困った顔になった。
例のハの字眉毛だ。
そこまで考える必要なないと思うんだけどなぁ。
まぁいい、こんな寒い所でいつまでも座ってるのも何だから
喫茶店にでも行こうかと提案してみる。
梨華ちゃんの笑顔が復活して、梨華ちゃんは大きく頷いた。
- 54 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)11時17分39秒
- ・・・変だ。
あたしは梨華ちゃんの隣を歩きながら考えていた。
あたしと待ち合わせてからというもの、一度も梨華ちゃんは喋っていない。
体調でも悪いのかな?
梨華ちゃんのことだ、どんなに都合が悪くたって、どんなに体調が悪くたって
ここに来るだろう。
短い付き合いだがそれくらいは分かる。
- 55 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)11時30分20秒
- 「・・・梨華ちゃんさぁ、ひょっとして体調悪い?」
不思議そうにあたしの顔を見つめる梨華ちゃん。
その目はとても具合が悪いようには見えない。
しばらく黙って歩いていると、隣を歩く梨華ちゃんが口を開いた。
「・・・笑わない?」
まるで何日も聞いていなかったような感覚に陥らせてくる声。
この独特の声は懐かしさすら運んでくる。
あたしが頷くと、梨華ちゃんは小さな声で言った。
「・・・ひとみちゃんの声・・・聞いてたかったんだ・・・」
あたしの声?
「だって、学校にいる時は全然喋ってくれないでしょ?
だけど、今はこんなに私に話しかけてくれるし・・・その・・・
何か私が喋ったらまたひとみちゃん、喋らなくなっちゃう気がして・・・」
確かに今のあたしは自分でも驚く程饒舌だと思う。
学校では誰かに関心を持たれるのが嫌で、たとえ梨華ちゃんの前でも口を開くという
ことをしないようにしていた。
- 56 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)11時44分10秒
- あたしはこの十数年間、極わずかな限られた人としか話さなかった。
それはあたしのことを知っている人達で、まぁ同業者の人達だ。
この人達は決して無理に誰かの過去を引っぱりだそうなんてしない。
自分もされたくないからだろうか。
ともかく楽に付き合うことができるのだ。
梨華ちゃんはこの楽に付き合うというのとは少し違うのだが
何か楽だった。
楽というよりも不思議と『この人なら』って気持ちになった。
そして、学校という枠を飛び越えて梨華ちゃんといるともっと不思議な感覚になった。
忘れていた『あたし』というものが出てくる感じだ。
これは幼い時に家族といた時のような『あたし』なのかもしれない。
- 57 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)11時48分22秒
- 「どうしたの?」
あたしの思考は梨華ちゃんの声によって遮られた。
「あ、いや、ちょっと考え事をね。
それよりさぁ、喫茶店じゃなくて普通に食べれるところ行かない?
あたしお腹すいちゃったよ」
梨華ちゃんはまるで初めてあたしの顔見ましたっていう風な表情になった。
「ん?何かあたし辺なこと言った?」
「うんん、違うの。
何か・・・初めてひとみちゃんの表情が変わったような気がして・・・
少し驚いちゃっただけ」
梨華ちゃんはそういうと、嬉しそうにあたしの前を歩いて行った。
- 58 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)11時56分01秒
- あたし達は食事をしながら沢山のことを話した。
もちろんあたしの仕事のことは伏せておいたが、それでも色々なことを話した。
あたしは話しをすればする程に自分の中で封印されていた表情が出ていった。
梨華ちゃんもその都度驚いては嬉しそうに笑った。
自分がこんなにも短時間で誰かと打ち解けるなんて思ってもみなかった。
今日は自分でも驚きの多い日だと思った。
あたしは純粋にこの時間を楽しんだ。
そして、梨華ちゃんはバイトがあるからと言って帰っていった。
あたしは矢口さんに呼ばれていたので、あの店に足を運ばせた。
- 59 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)12時02分47秒
- 「おぉ!よっすぃ!よく来たねぇ」
「よく来たって、矢口さんが呼んだんじゃないですか」
矢口さんはケタケタと笑うと、この前と同じようにあたしの顔を覗き込んだ。
・・・だから矢口さん、顔近いッスよ
「・・・やっぱあんた変わったよ」
「そうッスか?」
自分自身で変化には気付いていた。
それでも誰かに改めて言われると何か恥ずかしかった。
「で、今日は何ですか?」
「これといった用事じゃないんだけど、たまにはゆっくり話そうかなって思ってさ。
ほら、最近よっすぃとあんまし喋ってなかったから」
矢口さんの隣では安倍さんも笑顔で頷いている。
「じゃぁ、矢口さんいつもの下さい」
「OK!」
店内は相変わらず客が少ないが、あたしはそれでも良いと思った。
控えめな客と控えめな音楽。
目の前でよく笑う2人。
これだけでも十分だと思った。
- 60 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)16時19分56秒
- ・・・頭いてぇ。
昨日はさすがに飲みすぎた。
おごりかと思ったのにばっちり金も取られた。
あたしは酷い頭痛と吐き気に襲われながら学校へと向かった。
「おはよう。ひとみちゃん顔色悪いけど大丈夫?」
あたしが席につくと、すでに来ていた梨華ちゃんの心配そうな声が聞こえた。
あたし達の周りでは他の娘達が悲鳴やらなんやらを上げている。
・・・皆うるさいよ・・・しかし、これはまた何か手をうたないと梨華ちゃんに
迷惑がかかっちゃうよね。
「あぁ、大丈夫。ちょっと昨日飲みすぎただけだから」
喋り終わった後、強烈な吐き気に襲われ、あたしはそれを押さえ付けるように
机に頭を乗せて目を閉じた。
- 61 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)16時25分14秒
- 最悪の午前中だった。
授業はまったく耳に入らないし、こういう時に限って当てられるし、あたしの
周りには心配だとかいう理由で知らない娘達が集まってくるし・・・。
頭痛いからほっといてほしいんですけど。なんて言えるわけでもなく笑顔で
さらりとかわす良い人ぶった吉澤さん。
これ、疲れるよ。
あぁ早く昼休みにならないかなぁ・・・。
4時限目の授業がありえない程に長く感じたのは言うまでもないだろう。
- 62 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)16時30分55秒
- やっと昼休みになった。
少しだけ体調の良くなったあたしは隣にいる梨華ちゃんに声をかけた(また御丁寧に
周りからは悲鳴とかが聞こえてきた。これいつまで続くんだろ・・・)
「梨華ちゃん、一緒に昼食べようよ」
「うん。ちょっと待ってて」
梨華ちゃんは急いで残りのノートをとり、鞄から財布を取り出した。
「あれ?梨華ちゃんっていつも昼買ってたの?」
「そうだよ。購買で買ってるんだよ」
あたし達の通う学校には一応購買がある。
お嬢様学校ってこともあって、ほとんど使ってる生徒はいない。
皆それぞれに立派な弁当を持ってきてるのだ。
「そうなんだ、じゃ購買行こうか」
「うん」
梨華ちゃんはいつもみたく笑顔で頷いた。
- 63 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)16時37分25秒
- 廊下に出ても他の教室や廊下ですれ違う娘達から面白い程叫び声や嫉み声が聞こえてきた。
そんなにあたしが一人でいないことがショックなんですか・・・。
いいかげんウンザリしてくる。
でも、それ以上にキツイのは梨華ちゃんだよね。
・・・こりゃあ本当に手うたなきゃな。
購買にも行き、あたしがいつものように屋上に向かおうとしたら、梨華ちゃんが
袖を引っ張てきた。
どうやらついてこいとのことらしい。
あたしは黙って梨華ちゃんの後をついていった。
梨華ちゃんはもう使われていなくて、封鎖されている校舎へと行き、そこの非常階段
から屋上に登って行った。
こりゃ楽だ。
今まで苦労して人をまいてきた自分の行動がアホに思える程楽だ。
・・・次ぎからここ使わせてもらおうっと。
- 64 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)16時42分48秒
- ・・・しかし寒い。
さすがにこの季節にコートも着ないで屋上に出るのは辛い。
梨華ちゃんも寒そうに肩を震わせている。
あたし達は風から逃げるように壁のある所に行って座り込んだ。
「ちょっと寒いね」
梨華ちゃんの声は少し震えていた。
あたしは自分の体を梨華ちゃんの体にくっつけるように座り直した。
左側だけ梨華ちゃんの体温で温かくなった気がした。
梨華ちゃんはニッコリと笑うと、ついさっき買ったパンを食べ始めた。
あたしはまだ二日酔いのせいで食欲が戻っていなかったので、自分の持っていた
べ−グルを梨華ちゃんに渡した。
- 65 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)16時47分53秒
- 「ひとみちゃん食べないの?」
「何かまだ酒抜けてないみたいで」
梨華ちゃんは少し考えてから、強引に自分の肩にあたしの頭を持っていった。
「り、梨華ちゃん!?」
「こっちの方が楽でしょ?」
梨華ちゃんは自信たっぷりに言うと、またパンを食べだした。
いつも甘えられるだけのあたしだったから、こういった優しさが嬉しかった。
たまにはこんなのも悪くないかななんて思いながら目を閉じた。
何か温かい空気に包まれてる感じがした。
- 66 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)16時57分01秒
・・・ひとみちゃん・・・
あれ?何かあたし揺れてない?そのうえ何か呼ばれてない?
・・・ひとみちゃん・・・
・・・ふぅ
「うわぁ!」
び、ッビクリしたぁ。
「もう、やっと起きた。ひとみちゃん全然起きてくれないんだもん。
でも、耳に息吹き掛けられて起きる人は初めて会ったよ」
梨華ちゃんは悪戯ッ子のように笑った。
へぇ、こんな顔もするんだ。
ってかあたし寝ちゃったのか。
ん〜それにしてもよく寝た感じだ。
ここ数年間でこんなに気を許して寝たのなんて初めてじゃないか?
「ふぁ・・・。何か随分寝た感じ。
あ、ごめん。肩痛かったでしょ」
あたしは慌てて梨華ちゃんの肩から自分の頭をどかした。
「肩は全然平気なんだけど・・・」
・・・だけど?
「さて、ここで問題です。今は一体何時でしょうか」
- 67 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)17時10分31秒
- へ?何時でしょうかって・・・
「1時15分くらいじゃないの?」
「ひとみちゃん・・・本気で言ってる?」
あれ?何か梨華ちゃん怒ってない?
ってか何であたしこんなオロオロしてんだ?
「とりあえず周りを見渡してみて」
見渡してみてって・・・とりあえず寒い。
んで、空がオレンジ・・・おれんじ?
自分の導き出した答えが梨華ちゃんが怒っている理由につながった。
「・・・ひょっとして・・・もう授業終わったとか・・・?」
大きく力強く頷く梨華ちゃん。
「嘘!ご、ごめん!」
「私生まれて初めて授業さぼっちゃった」
梨華ちゃんはチラッとこっちを見た。
「でもね、私なんかすごいドキドキしちゃった。これ何だか癖になりそう」
そう言って少し照れたように笑う梨華ちゃんの顔が、この時のあたしにはすごくおかしくて、
思わず声を上げて笑ってしまった。
梨華ちゃんは初めて声を上げて笑うあたしに相当驚いていたが、何故自分が笑われているのか
わからなくて、頬をぷくっと膨らませて無言の抗議をしてきた。
その顔がおかしくて、あたしはまた笑い声をあげた。
梨華ちゃんも段々とつられて笑い始めた。
最後には何がおかしいのかすっかりわからなくなっていたが、あたし達は涙を
流しながら笑いあった。
寒空にはあたし達の声が響き渡っていた。
- 68 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月21日(土)17時17分10秒
- 翌日の学校はすごい騒ぎだった。
いつも真面目な2人が同じに授業をサボって午後の授業にまるまる出なかったのだ。
飯田先生もちょっとあきれ顔だった。
そして、この日数多くの生徒達がショックで学校を休んだらしい。
あたし達はそれを聞いた時、顔を見合わせて笑った。
あたしはその時、心の中でまた梨華ちゃんが虐めとかにあうんじゃないかという
不安に襲われてた。
久々にできた友人よ呼べる存在。
それをこんなことで失いたくなかった。
だから全力で守ろうと心に決めた。
初めてできた自分よりもか弱くて大事な守るべき相手。
それがあたしは嬉しかった。
- 69 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)00時23分16秒
- それからというもの、あたし達は学校で一緒にいる時間が多くなった。
守るということもあったが、何よりもあたしが梨華ちゃんと一緒にいることを
望んでいた。
梨華ちゃんのことも色々と知った。
何個もバイトを掛け持ちしていること。基本的には時給の良い夜働いていること。
この間屋上で会った時も、バイトの帰りに空を見上げたらすごく星が綺麗だったので
どうせならと思い、裏道を使って入ってきたそうだ。
梨華ちゃんは知りすぎじゃないかってくらい、この学校のことを知っていた。
一般生徒が知らないような裏道や、使われていない教室のことなど、ともかく
すごい知識の量だった。
一度それについてたずねたことがあったのだが、その時はただ『ある人に』としか
言わなかった。
この時の梨華ちゃんの目がすごく悲しそうで、それ以上は聞くきになれなかった。
- 70 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)00時38分47秒
- 12月の中旬、生徒達のほとんどがすぐそこに迫ってきた冬休みに心踊らせていた。
あたしはというと、もうすぐこの学校生活から解放される喜びと、しばらく梨華ちゃん
に会えなくなるという少し寂しい気持ちとが入り交じってるような感じだった。
「ねぇ、ひとみちゃん」
いつものように屋上で昼を食べていたら、梨華ちゃんが遠慮がちに話しかけてきた。
「ん?」
「ひとみちゃんってさ・・・冬休み何して過ごすの?」
「冬休みかぁ・・・」
きっと仕事をしたり、ダラダラして過ごすんだろうなぁ。
多分この学校に入る前と同じような生活をするんだろう。
仕事についてはまだ梨華ちゃんに告げることができないでいた。
まぁ話すつもりもなかった。隠し続けることは梨華ちゃんのことを騙してる感覚にも
なったが、それでも話すつもりになれなかった。
常識はずれなことをしているのだ。
- 71 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)00時39分17秒
- 「ひとみちゃん・・・」
「あぁ、ごめんね。冬休みは多分何もしないでボーッとしてるんじゃない?」
そうだ、こんなこと言えるはずない。
「あのさ、私今一人暮らししてるでしょ?」
「そんなこと前言ってたね」
「うん。それでさ・・・ひとみちゃんが良ければでいいんだけど・・・」
「ん?」
「・・・泊まりにこない?」
「へ?」
「ご、ごめん。やっぱ忘れて。違うの、って何が違うんだろう・・・じゃなくて、
あの何か最近ずっとひとみちゃんと一緒にいたから、家で独りでいるのが何か寂しくて」
嬉しかった。梨華ちゃんも同じ気持ちでいてくれたことが嬉しかった。
「あ、違うの。何か初めてだから、誰かの家に誘われるのって。
んで少し驚いただけ。全然大丈夫だよ。是非行かせてもらうよ」
梨華ちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。
- 72 名前:南風 投稿日:2002年09月22日(日)00時45分08秒
- だらだらと駄文を書かせていただいております。
相変わらずなかなか先に進まないような文章でごめんなさい。
もし読んで下る方で早く進めろよとかあったらガンガン言っちゃって下さい。
そしてこれを読んで下さってる方。
ありがとうございます。
よろしければもうしばらくこの駄文におつき合い下さい。
ってか飽きたらポいでOKです。
それでは書けるうちに書いてしまいたいので
更新させていただきます。
- 73 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)00時57分11秒
- さて、また日は進みあっという間に冬休みになっていた。
学校がある間は仕事の数は少なかったが、多分これから少しずつ増えていくんだろう
と思いながら部屋で筋肉トレをしていた。
突然携帯から聞き慣れないメールの着信音が鳴り響いた。
メールを通知する無機質な機械音。
全くと言って良い程メールを使ったことの無いあたしの携帯は音も買った時の
ままなのだ。
あたしは筋トレを中断をして携帯を拾い上げた。
梨華ちゃんからだった。
そうだ、冬休みに入るとお互い連絡がとれないからと言って番号を教えあったんだった。
別にもっと早く教えても良かったのだが、自分から聞くのも何か恥ずかしく、そして
この仕事専用と化した携帯の存在を知られることを少しだけ恐れていた。
- 74 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)01時03分39秒
- ごっちんが送ってくれたメール以来、数カ月ぶりに届いたメール。
その内容は梨華ちゃんらしいものだった。早くもホームシックならぬあたしシックに
なってるらしい。
メールを読んで思わず頬がゆるんでしまう。
あたしは慣れない手付きでメールを返した『あたしも梨華ちゃんに会いたいよ』ってね。
本当ここまで自分が変わるなんて思っていなかった。
梨華ちゃんとの出会いはあたしの全てを変えてくれた。
家族がいなくなり、誰も信じられなくなり、ただ死んだように生き続ける毎日。
そんな日常を撃ち破ってくれた。
運命なんて言葉は好きじゃないが、この世にもし運命ってやつがあるなら少し信じても
良いかと思う。
- 75 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)01時30分28秒
矢口さんは一体何を考えているんだろう。
あたしに店番頼むだ?そりゃ今日は世間一般にいうクリスマスというもので、矢口さんも
安倍さんと一緒にいたいというのはわかる・・・。
はぁ、何が悲しくて誰もいない店でこんなことしてるんだろう・・・。
別に何も用事なかったからいいんだけどさ・・・さすがにこれは空しいよ。
あたしがため息をつくと、このタイミングを待っていたといわんばかりにポッケに
突っ込んでおいた携帯が震えた。
梨華ちゃんからだ。
本当にタイミングの良い娘だ。
なになに・・・『今何してる?私はやっとバイトが終わったところなんだ(あんまり
忙しくなかったから用事があるって言って早退してきちゃったの)良かったらこれから
一緒に食事でもしない?』はぁ、梨華ちゃんもう終わったのか。いいなぁ。
あたしも梨華ちゃんと食事でもしたいよ。
あたしはテンションの低いままメールを打ち始めた。
- 76 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)01時40分16秒
- 『お疲れ。食事すごく行きたいんだけど、知り合いの人に店番頼まれちゃって
動けないんだ。でもお客さん誰もいなくてすんごい暇・・・』送信っと。
はぁ、やっぱ引き受けるんじゃなかった。何かドンドンと落ちていくよ。
ブルブルブル
すぐに返事は返ってきた。『そうなんだ、残念(涙)あ、そのお店って私が行っても
邪魔にならないかなぁ?』お!?それは来てくれるってことなのかな?
・・・でもここってあまり良い所じゃないよね・・・仕事のこととか・・・。
あたしはこの空間に梨華ちゃんを近付けるということは、梨華ちゃんのことを
あたしの仕事に近付けてしまう感じがしてしまった。
でも・・・。
あたしの中でそれよりも梨華ちゃんに会いたいという気持ちの方が大きくなった。
どうせ誰もいないし、何よりも暇で暇で退屈でしょうがない。
『全然大丈夫だよ。むしろ歓迎(笑)ここすげぇ分かりにくい場所にあるから、道に
迷ったら連絡してきて。んで場所は・・・』はい送信っと。
やべ、顔がニヤけてきた。ま、いっか。誰が見てるわけでもないし。
すっかりテンションが上がりだしたあたしは意味不明な鼻歌をうたいながらテキパキと
カウンターの仕事を始めた。
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月22日(日)02時53分34秒
- いや、面白いすよ
作者氏の良いように続けてくださいな
- 78 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月22日(日)05時55分13秒
- 今日一気に読みました。楽しみな小説がまた増えましたよ
次回の更新、楽しみに待っています
- 79 名前:南風 投稿日:2002年09月22日(日)10時21分34秒
- >77さま
ありがとうございます(感涙)
そう言っていただけると嬉しいッス。
はい!がっつり頑張らせていただきます!←単純(笑)
>78さま
ありがとうございます。
もう本当嬉しいかぎりでございます。
更新ができるかぎりどしどし行かせていただきます。
皆さんありがとうごぞいます。
ってなわけで寝起き30分で更新スタート☆
- 80 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)10時33分39秒
- 30分くらいたった頃、いいかげん何もやることがなくなってしまったあたしは
ぼんやりとカウンターに肘をついていた。
カランコロン
店の扉が開く音がした。
あたしが扉の方を向くと、入り口で梨華ちゃんが中を恐る恐るうかがっていた。
「いらっしゃませ」
あたしの声で梨華ちゃんの顔がパァッと明るくなった。
今日の梨華ちゃんの格好はピンクのコートに白と赤のマフラー。足下はスカートに
スニーカー。バイトが終わって走ってきてくれたのだろうか、頬がほのかに赤く
なっていた。
「遅くなってごめんね。ちょっと道に迷っちゃった」
舌をぺロッと出す仕種に思わず頬がゆるんでしまう。
「いやいや、来てくれてありがとう。本当暇でさ、もう何時間もこんな状態なの」
と大袈裟にジェスチャーをしてみせる。
梨華ちゃんはそんなあたしを見てクスクスと笑っている。
やっぱり梨華ちゃんに来てもらって良かった。
あたしの思い過ごしかもしれないけど、店に灯が灯ったみたいだ。
「ひとみちゃんその格好カッコイイね」
- 81 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)10時41分22秒
- 梨華ちゃんは着ていたコートとマフラーを取りながら言ってくれた。
そう、今日はバーテンということで白のワイシャツに黒のチョッキに同じく
黒ズボンで腰から足下までのエプロンをつけているのだ。(店に来たら用意されていた)
あたしは梨華ちゃんのコートとマフラーを片手でヒョイッと持ち上げると、カウンターの奥に
あるコート掛けに掛けた。
「あ、ありがとう」
「何か飲む?」
あたしは返事の代わりに聞いた。
そういえば梨華ちゃんてお酒飲めるのかなぁ?飲まなさそうな感じするけど・・・
「私、お酒って飲んだことないんだよねぇ・・・う〜ん・・・ひとみちゃんが
作ってくれるならなんでもいいや」
あたしは少し考えてからアルコールの少ない苺ベースのカクテルをつくった。
- 82 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)10時48分42秒
- 昔、梨華ちゃんは苺が好きだと聞いたことがあったからだ。
「はい。初めて作ったから味の保証はないからね」
「綺麗な色・・・ありがとう」
梨華ちゃんはそれを少し口に含んだ。
飲んだ後の表情からすると、不味くはなかったらしい。よかった。
あたしは自分用にアルコールの強めのカクテルを作った。
あたし達は少しお酒の入った状態で他愛もない話しで盛り上り、笑いあった。
気がつくと時計の針はもうすぐ12時をまわろうとしていた。
「もうすぐクリスマス終わっちゃうね」
「そうだね」
・・・。
「ねぇ、ひとみちゃん」
「ん?」
「私、今年のクリスマスをひとみちゃんと過ごせてよかった」
この言葉はすごく真直ぐあたしの心に響いた。
- 83 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)10時54分34秒
- 「あたしもだよ。それに梨華ちゃん来てくれなかったらこの店で独りボーッと
しながら過ごすところだったし」
あたしが笑うと梨華ちゃんは本当嬉しそうに笑う。
「あ、そうだ」
突然鞄の中をゴソゴソとあさると、「はい」っと言ってあたしに小さな包み紙
を差し出してきた。
「え?これ・・・あたしに?」
「うん。ひとみちゃん意外に誰がいるの?受け取って。
メリークリスマスひとみちゃん」
あたしは梨華ちゃんの差し出してくれた包み紙をそっと受け取った。
開けていいのかわからなくて困った顔をしてると、梨華ちゃんが「開けて」と
言ってくれた。
包みをそっと開けると中には銀色に光り輝くペンダントが入っていた。
シンプルな形で細いチェーンに細長いプレートがついている。
プレートには何か文字が刻まれていた。
- 84 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)11時09分23秒
- 「・・・eternal」
「私こういう時ってどんな言葉彫ってもらえればいいとか全然わからなくてさ、
それ細いから彫れる言葉も限られてきちゃうし。ありきたりでごめんね」
照れ笑いをしながら梨華ちゃんはカクテルを一口飲んだ。
「ありがとう。すげぇ嬉しいよ」
梨華ちゃんは満足そうに笑っていた。
「でもあたし何も用意してないや」
「そんなこと気にしないでよ。私はこうやって一緒にクリスマス過ごしてもらえた
だけで嬉しいんだもん」
・・・そんなこと言われても、もらいっぱなしはなぁ・・・。
時計の針は後20秒程で12時になりそうだった。
・・・あれ?
「梨華ちゃん」
「ん?何?」
「ちょっと耳かして」
内緒話しでもすると思ったのだろうか、梨華ちゃんは何の疑いもなしにあたしに耳を
かたむけた。
12時まで後数秒。
- 85 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)11時17分39秒
- あたしは梨華ちゃんの耳に自分のつけていたピアスをはめた。
そしてその瞬間に12月25日は終わりをつげた。
バイトの後だったせいだろうか、梨華ちゃんのピアスホールには何もついていなかったのだ。
あたしが今ここであげれるものなんてこれくらいしかない。
「気に入らなかったらすぐ取っちゃってね」
梨華ちゃんは自分の指をピアスのついてる耳にそっと近付けた。
そして、形と存在を確かめるように指でなぞっていく。
あたしが梨華ちゃんに渡したピアスは、小さめで耳にフィットするようなシンプルな
輪だ。その中に小さな細工でイルカが彫られている。
昔、母からもらったのだ。
記憶ではそんな鮮明に残っているわけじゃないが、物心ついた時からあたしの耳に
当たり前のようにくっついていた。
両耳についていたモノだから片方無くたって問題ない。
むしろ梨華ちゃんのモノになったということの方が嬉しい。
あたしの家族と同じくらい大切な人だから。
母だって分かってくれるはずだ。
- 86 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)11時19分38秒
- 「そんな、気に入らないだなんて・・・嬉しいよ。私、大事にする」
あたしは十数年ぶりに心の中でクリスマスを祝った。
- 87 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)11時27分29秒
- あたし達がこの時間を穏やかな気持ちで過ごしていると、またカランコロンという
音がした。
・・・お帰りなさい。
この時間を見事にぶっ壊してくれそうな人物が2人。
そう、矢口さんと安倍さんが帰ってきたのだ。
突然の訪問客に少し驚いている梨華ちゃんに、2人の説明を簡単にする。
仲良く腕をくんでいる矢口さんと安倍さんは付き合ってるというよりも、仲良しの
子供達が腕をくんで歩いてるという感じに見える。
今日の矢口さんは何だか上機嫌そうだ。
「よっすぃ〜今日は悪かったねぇ。あ、いらっしゃい。一応この店のオーナー
みたいなことをやってる矢口真里です」
「あ、初めまして。石川梨華っていいます」
「おぉ!可愛い声してんなぁ」
「ほら、矢口おやじみたいなこと言ってからかわないの。ごめんねぇ、あたしは
矢口と一緒にこの店を経営してる安倍なつみだよ。よろしくね」
- 88 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)13時07分55秒
- 始め緊張していた梨華ちゃんんも安倍さんの笑顔に心を許したのか、肩の力
が抜けていたようだった。
矢口さんはそんな梨華ちゃんを見て、ついさっきあたしがあげたピアスに気が
ついた。
何も言わずに目だけで疑問を投げかけてくる。
あたしは無言で頷いた。
矢口さんは少し複雑そうな顔をしたが、すぐに優しい顔になった。
「じゃあ、矢口さん達も帰ってきたので、あたしはこの辺で失礼させてもらいますよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!もう帰っちゃうのぉぉぉぉぉぉぉ!!」
み、耳が・・・
「今日はもう閉めちゃっていいんじゃないッスか?梨華ちゃん意外お客さんこなかたし」
あたしはテキパキとエプロンを外し、カウンターの奥に引っ込んですぐに着替える。
いつものジーパンにスタジャン。そして首にはさっき梨華ちゃんからもらったばかりの
ペンダントをかける。
あたしは梨華ちゃんを待たせまいと、すぐに梨華ちゃんのコートとマフラーを取って渡した。
- 89 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)13時14分30秒
- 「あ、お勘定」
梨華ちゃんが鞄から財布を出そうとすると、それを矢口さんが手で制した。
「今日は特別大サービス。よっしぃが連れてきたお客さんからはお金は取りません」
「え、でも・・・」
「矢口さん・・・」
「矢口・・・」
矢口さんを除く全員といっても梨華ちゃんも除くから、あたしと安倍さんは矢口さんの
言葉で動けなくなってしまった。
あの、ケチケチ矢口さんが・・・あの、絶対にあたしからは金を取っていく矢口さんが・・・
やばい、感動しそうだ。
「あ、もちろん梨華ちゃんからは貰わないけどよっすぃのバイト代から引いておくからね」
前言撤回。
矢口さん・・・酷いッス。
落ち込むあたしを見て笑う矢口さんに安倍さん。
梨華ちゃんはその間でオロオロしている。
こんなわけわかんない図が何故か数十分続いた。
- 90 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)15時03分15秒
- 「はぁ、楽しかった。安倍さんも矢口さんも良い人達だね」
「そうだね。結構助けられることあるし」
二人肩を並べてこうして他愛もない話しをしながら歩くのも悪くないものだ。
あの後、結局今日は店を閉めるということで全員納得して、バラバラ解散になった。
っといっても矢口さんと安倍さんは同じ所に住んでるし、あたしと梨華ちゃんも
帰る方向は一緒だから名前だけだ。
「あの二人ってすごく仲が良いんだね」
「うん。何か高校の時から付き合ってるらしいよ」
「へぇ、すごいね。一緒に住むくらい仲の良い友達なんてさ」
「あ、違う違う。友達じゃなくて恋人同士なんだよ。まぁ、あたしそこらへんの偏見とか
全くないから気にならないんだけどね。
んで、先に言っておくけど、梨華ちゃんがそういうのダメだったら無理に理解する
必要なないよ。やっぱこういうのって受け入れられる人とそうで無い人がいるからさ。
あの二人があんなだから多分人目とか気になってないと思うし」
梨華ちゃんはこの話しに驚きもせずにただ笑顔で「ちょっとコンビニ寄って行こう」と
言ってあたしの腕をつかんだ。
- 91 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)15時10分48秒
- 「ひとみちゃん今日何か用事ある?」
「別に何もないけど。どうしたの?」
「・・・今日泊まって行かない?」
ちょっと緊張した。でも、どもたりすると梨華ちゃんはきっと泣きそうな顔に
なるんだろうなって思ったらすぐ返事がでた。
やっぱしそんな風なのは見たくない。
「梨華ちゃんが平気ならあたしは全然OKだよ」
梨華ちゃんは嬉しそうに「よかった」と言うと、カゴの中にお菓子やらジュースやら
お酒やらをどんどん放りこんでいった。
・・・そりゃちょっと買いすぎではないかい?
あたしがこんな疑問を持ってるなんて知るはずもない梨華ちゃんはさくさくと
会計をすませてきた。
重そうな袋だなぁ・・・
あたしは梨華ちゃんの手から袋を勝手に取り上げた。
「こういうのはあたしの方が似合ってるでしょ」
あたしは余った方の手をポッケに突っ込むと、口笛を吹きながら先を歩いて行った。
少し遠くの方で梨華ちゃんの走ってくる足音が聞こえた。
なんかこういうの良いな。
- 92 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)15時18分25秒
- 「ごめんね。ちょっと散らかってるけど適当に腰かけてて」
初めて訪れた梨華ちゃんの家。
前々から聞いてはいたが本当にピンク一色だ。
部屋は明らかに無理して片付けましたって感じだ。
・・・ひょとして梨華ちゃんって家事とそういうのダメな人?
「ひとみちゃん、ビールで良い?」
梨華ちゃんがさっき買ったお菓子やおにぎりなどを皿に並べ、手には飲み物の
入った袋をぶら下げながら台所から出てきた。
「うん。ありがとう」
梨華ちゃんはテーブルを囲んであたしと向き合うように座った。
「じゃぁ、とりあえず乾杯といきますか」
梨華ちゃんとあたしはビールの缶とチューハイの缶をカツンと鳴らした。
あぁ、こうやって飲むビールも良いもんだね。
おっさんくさく言うなら生き返る気分ってやつ。
梨華ちゃんも楽しそうに飲んでるみたいだし、何か初めて来た部屋なのにまったり
してしまうな。
- 93 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)15時26分33秒
- 飲み始めて1時間くらいがたっただろうか。
慣れない酒で目をとろ〜んとさせ、呂律がまわらなくなった梨華ちゃんが少し
悲しそうにあたしの隣に来ても良いかと聞いてきた。
あたしが無言で隣に空間を作ると、床を四つん這いになって這うように隣まで
やってきた。
こりゃもうそろそろ止めないといけないかな?明日辛くなるのは梨華ちゃんだし。
「・・・ひとみちゃんさぁ、さっき矢口はんと安倍はんのおはなししたれしょ?」
・・・梨華ちゃん・・・言葉使いが変だよ。
「あぁ、したね」
「・・・おろろかないれくれる?」
あぁ、驚かないでくれるか。
「どうしたの?そんな改まっちゃって」
梨華ちゃんは酔いで焦点が合わなくなっている目で遠くの方を見ながら、何かを
思い出すように喋りだした。
その口調は予想以上にしっかりしていた。
- 94 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)15時36分58秒
- 「・・・私ね、去年まで付き合ってた人がいたの。その人は私の幼馴染みで、
小さい頃から何をするのも一緒で・・・って言っても私が後ろからついてまわって
ただけなんだけどね。
ともかく何をするのも一緒だったの。でも、その人とは5歳も年が離れてたから
今思えば・・・かまってもらってただけなのかもしれないね。
それでも、その時はただ本当に一緒に遊べるってことが嬉しくって楽しかったの」
梨華ちゃんは一息つくようにチューハイを飲んだ。
「そんな状態がずっと続いて、私も中学生になって、いよいよ進路決めるぞって
頃になったんだ。
他のクラスの娘達はほとんど近くの高校選んでたよ。
でも、私はどうしても行きたい所があるって言って無理言って遠くの高校選んだんだ。
でも、私の家そんなに余裕あったわけじゃないから私は1年間バイトしてお金
ためて今の高校に入ったんだ。
もちろん私が溜めたお金だけで通えるはずないから、両親が出してくれる部分が
ほとんどだけどね。
ともかく私は大好きだったあの人が通っていた高校に入ることができたの」
- 95 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)15時49分54秒
- いつになく饒舌な梨華ちゃんの話しに耳を傾けていたあたしだが、最後の台詞が
気になってしまった。
梨華ちゃんはお見通しだよって感じで話しを続けた。
「そうだよ。私の好きな人って女の人だったんだ。いつからだろうなぁ、多分
中学3年生くらいかな?進路とかで悩んでる私のこと、いつだって優しく助けて
くれるから・・・多分私・・・恋いしちゃったんだ。
初めてこの気持ちに気付いた時はどうしていいか分からなかった。
だって幼馴染み好きになっちゃったんだもん。
そのうえ女の子同士。
しばらく圭ちゃんの顔見れなかったなぁ。
それでね、しばらく圭ちゃんのこと避けるように過ごしてたんだ。
何日も何日も。
そしたらある日突然圭ちゃんがあたしの部屋に入ってきたんだ。
『石川がいない生活なんてもう無理だよ』なんて言いながらね。
すごく嬉しかった。
でもね、圭ちゃんは絶対に私に手を出してこなかった。
付き合って2年弱ずっとね。手だって握ったことないし、キスだってしたこと
なかった。
それで去年のクリスマスに思いきって聞いてみたんだ。
どうして何もしてこないの?って。
- 96 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)15時59分13秒
- だってさ、その頃になると本当に付き合ってるの?て毎日思ってたから。
・・・そしたらさ・・・圭ちゃんが・・・やっぱ止めようって・・・こんなの
やっぱりおかしいよ・・・って」
梨華ちゃんはあたしの胸に顔を埋めて声を上げて泣いた。
きっと今までこういうことを話せる人がいなかったんだろう。
あたしはどんな言葉をかけていいのかがわからず、ただ梨華ちゃんのことを抱き
しめ、その柔らかい髪を撫で続けた。
この時、落ち着いた自分の態度とは裏腹に、心の中では黒い塊がうごめいていた。
梨華ちゃんを傷つけた人物が許せなかった。
梨華ちゃんの心を一瞬でも奪った相手が許せなかった。
今自分の腕の中にいる梨華ちゃんを誰にも渡したくなかった。
誰にも触らせたくなかった。
そう、あたしはずっと梨華ちゃんのことが好きだったんだ。
気がつかなかったのはあたし。
気がつかないフリをしてたのはあたし。
気づいてはいけなかったのは・・・あたし。
- 97 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)16時02分38秒
- あたしが仕事関係意外でできた親友は・・・あたしが初めて恋をしてしまった人だった。
あたしは腕の中ではまだ梨華ちゃんが華をすすっている。
あたしはさっきよりも力を込めて梨華ちゃんのことを抱きしめた。
想いが伝わるように。
決して言葉に出してはいけない想いが伝わるように・・・。
- 98 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)16時52分16秒
- どれくらい時間がたったのだろうか。
梨華ちゃんは泣き止むと、ゆっくりとあたしから体を離していった。
「・・・ごめんね・・・突然こんな話ししちゃって・・・本当はもう吹っ切れてる
んだけどさ・・・何か思い出しちゃったっていうか・・・こんな話し誰にもできなく
て・・・でも、ひとみちゃんといたら、何か・・・本当ごめんね。
・・・軽蔑、しちゃったよね・・・」
下を向いた梨華ちゃんから表情は伺えなかったが、その震える肩は今話したことを
後悔しているようだった。
あたしは梨華ちゃんの肩を抱いた。
一瞬ビクつく肩を離さずに、あたしは口を開いた。
梨華ちゃんにあたしの過去を少しだけ話す為に。
それがどんな結果を導こうとも・・・。
「さっきも言ったよね。あたしへ別にそういうのに偏見とかないって。
それにはね、ちょっと理由があるんだ」
梨華ちゃんが涙で濡れた顔を上げた。
- 99 名前:南風 投稿日:2002年09月22日(日)17時00分01秒
- 誤字脱字の王。南風です。
パソコン作業だと、どうしても気がつけばこっちを打ってる自分が・・・
さて、大量更新した気分なのでひとまず休憩。
え〜今までだらだらしていた分、ここいらでちょっくら進展させます。
よし子の過去話しです。(暗めのお話です。って前からか)
急坂転げ落ちる程の急展開ですがよろしくお願いいたします。
- 100 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年09月22日(日)17時30分09秒
- ROMってました。あんまりにも素晴らしいのでついカキコ
面白いです。こゆジャンルの作品てみっつよっつ読んできましたが、
作者様の作品が1に輝きますた(w
次の更新楽しみにまってますよほ。
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月22日(日)19時15分05秒
- 大量更新お疲れ様です!いやぁ〜読み応えのある展開になってきましたね。
ほんっと、次回の更新も楽しみ。
- 102 名前:南風 投稿日:2002年09月22日(日)21時30分45秒
- >100 名無しどくしゃさま
う、う、嬉しいッス(;*;)
書いててよかったッス。
こんなレスいただけるなんて自分は幸せもんです。
ありがとうございます。
>101
ありがたいこったです。
マジで感涙しそうなんです。
大量更新+調子のって更新しちゃいます。
急坂転げ落ちる程テンポアップでどうなのよってくらい
今日はいっちゃいます。
皆様のレスで充電完了!!!
ってなわけで発車で〜す☆
- 103 名前:南風 投稿日:2002年09月22日(日)21時32分53秒
- !!
あぁ更新の前に!!
>101さま←これつけ忘れてるぅうぅぅぅぅぅ。
ごめんなさい。
こんどこそ発車でございます。
- 104 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)21時43分40秒
- 「あたしさ・・・昔って言ってもそんな古い話じゃないんだけどね、2年くらい前だったと思う。
梨華ちゃんに会うまでのあたしより、もっと荒れてる時があったんだ。
生きてる実感すらわかなくて、何故生まれてきたのか、何故今こうして生きているのか・・・
何の為に?って自問自答の毎日。
言われたままのことをして、ただ単調に毎日が過ぎていた」
梨華ちゃんは相変わらず顔を涙で濡らしながらあたしの話しを聞いている。
その顔を見てあたしはまた話しの続きをするのをためらってしそうになった。
決して気持ちの良い話じゃない。
梨華ちゃんは急がずにあたしの次ぎに言葉を待っていてくれた。
真直ぐに見つめてくるその瞳に嘘はつけなかった。
下手にごまかしてもいずれはばれるだろう。
あたしは一呼吸置くと、梨華ちゃんの肩から手を離し、鞄の中から煙草を取り出して
火をつけた。
あたしの吐く煙りが部屋に立ち上った。
- 105 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)21時54分19秒
- 「その時ってあたしは15歳くらいのただのガキ。
なのに不思議と周りからひっきりなしに声がかかった。
都合の良い人間だったんだろうね。あたしを自己の欲求のはけ口に使おうと
する女性が必ず誰かしらいたよ。
求められて、利用されて、そのままさようなら。こんな毎日。
その頃は誰かを抱くって行為に何の感情も持ってなかったし、別に傷つきも
しなかった。
あたしを求めて、あたしの腕の中で勝手に尽きていく女達。
それが当たり前だった」
あたしは吸い殻を飲みかけのビールの缶に落とした。
梨華ちゃんは相変わらずあたしの目を見つめ続けている。
あたしは壁に寄り掛かると、もう一度煙草を吸った。
目の前に表れる吐き出された煙りを見つめていると、一番最後に吸ったのは
いつだったかなぁなんてことを考えてみたくなる。
梨華ちゃんと出会ってからは一度も吸ってないか。
仕事の後のあの殺伐とした気持ちの時でもだ。
・・・あたし、やっぱり変わったね。
あたしは煙草の煙りを吐き出しながら、火のついた残りを缶の中に落とした。
- 106 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)22時02分44秒
- 「あたしはさ、梨華ちゃんみたいに純粋な人間じゃないよ。
汚れたことしかしてないから。それはもう直しようのない事実だし、忘れることの
できない事実。
こんなことしてきたから矢口さん達見てても軽蔑なんて言葉出てくることなかった。
むしろカッコイイと思った。
お互いがまっすぐと向き合えてるから。
あたしには・・・できなかったことだから」
あたしは笑いながらため息をついた。
話した後に、やっぱり梨華ちゃんに聞かせるような話しじゃなかったと思った。
あたしは壁に頭をくっつけると天井を見つめた。
まだ煙りがわずかに漂っている。
これで今まで築き上げてきた梨華ちゃんとの関係も崩れてしまうかもしれない。
それでも不思議と後悔はなかった。
少しでも『あたし』を知ってもらえたと思うと後悔はなかった。
- 107 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)22時09分30秒
- 「あんまし気分の良い話じゃなかったでしょ。こんなんばっかなんだ、あたしの
話しってさ。ごめんね、何か無理に聞かせたみたいになっちゃって。
ともかく、言いたいことはあたしはこんなことじゃ軽蔑なんてしないってこと。
そんなことできるはずないよ。
梨華ちゃんの気持ちはすごく純粋で、すごく綺麗なモノだと思った。
逆に軽蔑されちゃうのはあたしの方だよ。
・・・あたしは梨華ちゃんには不釣り合いすぎる・・・よね」
梨華ちゃんの腕があたしの首に突然回された。
せっかく止まったはずの涙がまた流れていた。
「ばか!ひとみちゃんのばか!何でそんなこと言うの!!私はひとみちゃんがいなきゃ
ダメなの!不釣り合いとかそんなの関係ないの!私にはひとみちゃんが必要なの・・・」
- 108 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)22時19分41秒
初めてだった。
誰かから必要とされたのは・・・初めてだった。
あたしの汚れた面を見せても梨華ちゃんはあたしを必要だと言ってくれた。
あたしの首に回された腕に少し力が入って、梨華ちゃんが体をあずけてきた。
「ずっと、ひとみちゃんのこと知りたかった・・・もっともっと知りたいの。
どんなことでも良い。私はひとみちゃんのことが知りたいの・・・。
一人でかかえこまないで欲しい、辛かったら私にぶつけてほしい。
私、ひとみちゃんの全部を受け止めたあげたい・・・」
「・・・梨華ちゃん」
あたしは梨華ちゃんの細い腰に腕をまわした。
そして梨華ちゃんの体を包み込むように大事に抱きしめた。
どうして彼女はここまであたしを受け入れてくれようとするのだろう。
何故あたしなんかを理解してくれようとするんだろう。
でも・・・嬉しかった。
あたしのことを真正面から見つめ、決して逃げようとしないで受け止めようと
してくれるその姿が・・・あたしの中にあった過去という封印を破った。
話すなら今しかない気がした。
- 109 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)22時28分44秒
- あたしがしてきたことは光りに当ってはいけないことだ。
このことを話すということは、梨華ちゃんにもそれなりのリスクがつきまとう
かもしれない・・・でも知っても知らなくても、梨華ちゃんがあたしの側にいる
限り、いずれは危害が及ぶかもしれない。
何も知らないより多少は知っておいた方が身の為にはなるかもね。
あたしがどんなに遠くに行こうが、梨華ちゃんは追い掛けてくるのだろう。
それがどんなに危険でも。
今さら出会う前まで戻ることなんてできないんだ。
全てはこんな仕事に手を染めておいて、誰かに心を開いた自分がいけないのだ。
それならせめて梨華ちゃんのことは、あたしが全力で守る。
それしかできないから。
そして、あたし自身が梨華ちゃんを守りたいから。
- 110 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月22日(日)22時37分04秒
- 「・・・これから話すことは、信じられないかもしれないけど、全部事実だから。
このことを知っても知らなくても、あたしの側にいる限り梨華ちゃんには危険
がつきまとうかもしれない。
・・・下手したら普通の生活に戻ることすら難しくなるかもしれないよ」
梨華ちゃんは返事の代わりに、あたしの髪に指を通して抱きしめた。
「・・・梨華ちゃん」
あたしと向き合うようになるまで体を離す梨華ちゃん。
お互いの息がかかる程近い距離。
梨華ちゃんの目はしっかりとしていた。
全てを受け入れる覚悟ができているのであろう。
「・・・ありがとう」
あたしは梨華ちゃんが楽になるように少し姿勢を直した。
壁に背をつけて、足を伸ばす。
その上をまたぐように梨華ちゃんはあたしの太腿ら変に座った。
そしてそっと手を握ってくれた。
深呼吸をする。
このことを知ってるのはきっと中澤さんと、矢口さんと安倍さんだけだろう。
あたしは覚悟を決めた。
- 111 名前:南風 投稿日:2002年09月22日(日)22時48分46秒
- えっと、一気にここまで書いてしまいました。
自分でも早って思う程に急展開させちゃいました。
次回はよし子の過去辺2でございます。
またまたダークな感じですが・・・。
急坂を転がるような話しはどんどんいっちゃいます。
ここが終われば一度落ち着く感じです。
今日明日にでも更新できればそこまで書いてしまいたいと思います。
- 112 名前:南風 投稿日:2002年09月22日(日)22時50分21秒
- 過去辺×
過去偏○
さっそく・・・やってしまいました。
- 113 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月23日(月)00時20分47秒
- おもしろいです。
更新早くて多いのもうれしい限り。
- 114 名前:吉右衛門 投稿日:2002年09月23日(月)13時46分33秒
- 「よしりか」良いで〜す〜。
痛くても、暗くても、「よしりか」を読むと感情移入してしまいます。
早く続きが読みたい!
* ハッピーエンド(永遠に「よしりか」な状態)がいいな *
- 115 名前:吉右衛門 投稿日:2002年09月23日(月)14時47分05秒
- 済みません、ageてしましました。
sageておきます。
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月23日(月)18時22分27秒
- 非常に丁寧な文章で読んでいて独特の雰囲気に引き込まれてしまいました。
陰のあるヨスコさんかっけぇ〜です。
今後どう続いていくのか、ヨスコにどんな指令が出されているのかドキドキして次回を待っております。
- 117 名前:南風 投稿日:2002年09月23日(月)21時26分25秒
- >113さま
ありがとうございます。
自分はスットクがあるうちはどんどん書いちゃいたい人みたいです(笑)
ので、きりが良い所までがしがし更新していきます!
>吉右衛門さま
ageとかsage気にしてないですよ(笑)
全然OKです!!
御要望に答えられるように続き書いていきます!!!
実は手元にある原稿ってエンディングまでまだ書いてないんです。
自分でもどうなることやら・・・。
作者も結構気になってます(笑)
>116さま
丁寧なんて言っていただけるなんて・・・ありがたいです。
陰のあるヨスコも段々と変わっていきます(予定)
陰が通過すると・・・。
(書いててどうしようかなんて考えてます・・・((反省)))
さて、皆様本当にレスありがとうございます。
南風は皆様のおかげで本日の充電完了でございます。
ってなわけで『ダーク』なよし子過去偏2発車です!!
- 118 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)21時41分00秒
- 「あたしは3人家族だったんだ。お父さんとお母さんとあたし。
多分他の一般家庭って呼ばれる家庭と同じように普通に暮らしてた。
いつも家族を守ってくれるお父さん、いつも笑顔でたまにしかってくれる
優しいお母さん。小さい頃はサックスもお母さんに習ってたんだよ。
全てが幸せに見えてた。うんん。幸せだった。
・・・それがね、5歳の時に全部粉々になった。
夜遅くでさ、あたしはお父さんとお母さんの間でいつものように寝てたんだ。
そしたら玄関の方でガチャガチャって音が鳴ったんだってさ。
お父さんが起きて、お母さんがまだ半眠り状態のあたしを起こして説明してくれた。
お母さんはあたしに上着を着せると、優しく抱きしめてくれたんだ。
よく、覚えてるよ。
その間にお父さんが様子を見に行こうとして寝室の扉を開けた。
その瞬間に何かが入ってきて・・・お父さんを切りつけたんだ。
お父さんはあたし達を守ろうとして相手にかかっていった。
その度にお父さんからはすごい血が流れてた。
- 119 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)21時46分47秒
- ・・・やがてお父さんは動かなくなった。
部屋に入ってきたそいつは顔とか全然わからなかったけど、変に笑った後に
あたしを抱きしめていたお母さんのことを刺した。
何度も何度も。
力の無くなったお母さんの腕からあたしを離すと、そいつは笑いながらあたしのこと
を斬りつけた。
一瞬見えた血は暗い部屋の中を照らす月明かりで光ってた。
綺麗だって思った。
その後のことはほとんど覚えてないんだ。
気がついたらあたしは病院のベッドの上。
周りを見ても知らない顔ばっかりだった。
あたしは恐くて泣いた。
本当ただ泣くことしかできなかったから。
- 120 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)21時50分36秒
- それからしばらくして退院する日がきた。
あたしが入院してる間、お父さんもお母さんも一度も来てくれなかったから、
あたしはいつも世話をしてくれる看護婦さんに理由を訪ねたんだ。
そしたらその看護婦さんはお母さんの代わりにあたしのこと抱きしめてくれた。
それ以来両親のことは聞けなかった。
違う、恐くて聞けなかったんだ。
- 121 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)21時58分50秒
- あたしは親戚の家に引き取られた。
アイツも叔母さんも初めの方は優しかったよ。
そう、思おうとしてるだけかもしれないけどね。
・・・あたしがアイツ・・・叔父さんのことを変だと思ったのは引き取られてから
1週間くらいたった頃。
叔母さんが買い物とかでいなくなると、いやにあたしの体に触ってくるんだよね。
無理矢理風呂に一緒に入らされたり、無理矢理一緒に寝かせられた。
寝る時、アイツは必ずあたしを抱きしめて眠ってた。
生暖かい息が気持ち悪かった。
あたしは本当の親じゃない2人に心を全然開けなかったから、いつもそこから
逃げ出したかった。
でも5歳のガキにそんなに力も思考もなかったから、なすがままに従うしかなかった。
- 122 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時06分20秒
- 2週間目にもなるとアイツの行為はエスカレートしていった。
誰もいない時、あたしを膝の上に乗せると体中を弄られた。
5歳のガキの体に大人のモノが入るはずないのに、アイツは無理矢理あたしの
ケツに突っ込んできたよ。
あまりの激痛に気を失えば水をブッかけられた。
アイツが満足するまで何度もくり返された。
・・・何日もね。
アイツの目が嫌いだった。
あいつの全てが嫌いだった。
あいつはあたしが泣叫ぶ顔を見ながらイクのが好きみたいだった。
だからあたしは絶対に泣くもんかって思ってた。
何をされたって声をあげずに血が出るくらい唇を噛み締めた。
それが唯一できる抵抗だった。
- 123 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時14分04秒
- それでも限界はすぐに来た。
あたしはアイツが疲れて眠ってるスキをみて家を飛び出したんだ。
ともかく遠くに逃げなきゃって思った。
何日間歩いたかなんて全然覚えてないんだ。
小さい子供が一人でボロボロになって歩いているところを誰かに見られたら
必ず警察に連れていかれて、親戚のアイツの所に戻される。
それだけは嫌だった。
あたしは人目につかないようにひたすら歩いたんだ。
眠れないのは問題じゃなかった。
あの事件からまともに眠ったのなんて病院のベッドの上くらい。
むしろ眠る方が恐かった。
眠ることよりも問題だったのは空腹だった。
あたしは路地裏でゴミをあさったよ。
日本にいれば路地裏でもそれなりに食料があったから。
- 124 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時18分07秒
- ある日さ、いつものように路地裏でゴミをあさってたら、知らない金髪の女の人が
あたしに向かって歩いてきたんだ。
誰も信じられなくなってたあたしは、その人に思いっきり噛み付いた。
その女の人は痛がりもせずにあたしのゴミみたいに汚い体をギュウッて抱きしめたんだ。
腕からは血が流れてるのに、そんなこと気にもとめないであたしの手をとって歩いていったんだ。
これが中澤さんとの出会い・・・」
- 125 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時23分10秒
- あたしは顔を伏せたまま一息ついた。
途中から梨華ちゃんの顔を見れなくなってた。
ここからが核になる話しになる。
仕事についての・・・。
あたしの緊張を感じとったのか、あたしの手を握る梨華ちゃんの手に少し力が入った。
手からは梨華ちゃんの温もりが伝わってくる。
あたしは梨華ちゃんの顔は見ずに口を開いた。
きっと梨華ちゃんの顔を見たらこの決意は消えてしまうと思ったから。
- 126 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時33分07秒
- 「中澤さんからは沢山のことを教わったよ。生き抜くための術、そして知識も。
中澤さんはあたしに関することを全部調べていたみたいでさ・・・もちろんアイツの
こともね。
あたしは事件のことを思いきって聞いたことがあったんだ。
そしたら隠さず全て話してくれたよ。
犯人は翌日死体で見つかったってことも、それが自殺だったってこと、そして
あたしの両親が死んでいたことも。
心の何処かでは分かっていたつもりだった。
どんな事を言われようと大丈夫だってさ。
でもやっぱりショックだった。
直ったはずの傷が疼いたよ・・・。
7歳になる頃にはあたしはほぼ仕事の為に必要な技術を身につけてた。
そして初めての仕事として、あたしはアイツのことを・・・殺したんだ。
これが始まり。
それからは学校にもほとんど行かずにひたすら腕を磨くことと、与えられた仕事を
していた。
中澤さんも忙しくなってきたみたいで、あたしのことを矢口さんに預けていったんだ。
3歳しか離れてなかったけど、矢口さんはあたしの面倒をよく見てくれたよ。
毎日のように一人暮らしのあたしの部屋に顔出して、毎日のように世話をしてくれた。
- 127 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時40分33秒
- 13歳になる頃にはあたしは自分で自分のことができるようになっていたから
自然と矢口さんから離れて自分一人で生活をしてたんだ。
仕事も定期的にあったし、金には苦労しなかった。
この後はさっき話したように荒れてた時代に突入。
それからしばらくして落ち着いた頃に矢口さんに呼び出されて今の高校に通う
ようになったわけ。
これがあたしの生活。
仕事だと自分に言い聞かせて依頼のあった人物を殺す。
高校に入ってからも仕事は続けてたんだ・・・。
・・・初めて梨華ちゃんに出会った日も仕事の後だったんだよ。
梨華ちゃん、あたしはこんな人間なんだ。
人の命を奪って、人には何も与えない。
多分、今なら・・・引き返せるよ。
あたしから・・・離れるなら今しかないよ・・・」
- 128 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時45分02秒
- そう、それが一番良いのだ。
あたしなんかは独りでいた方が良い。
陰から梨華ちゃんを守ることだってできるんだ・・・。
納得しようと思った。
あたしが生まれて初めて好きになった人をあたしは守ろうと決めたんだ。
やはりあたしの側で危険な目にあわせるなんてできない。
ハハッ、何かさっきと矛盾してるな・・・。
あたしは俯いたまま唇を噛み締めた。
- 129 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時49分44秒
- 「・・・ひとみちゃん」
梨華ちゃんの声は震えていた。
きっとショックだんだろう。今まで近くにいた人が実は殺人者なんだ。
ショック受けて当たり前だよ。
あたしは呼ばれても梨華ちゃんの方を向くことができなかった。
俯くあたしの顔を梨華ちゃんが上に向かせる。
涙を流しながら梨華ちゃんはあたしのことをきつくきつく抱きしめた。
- 130 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)22時57分23秒
- 「辛かったんだよね・・・苦しかったんだよね・・・寂しかったんだよね・・・。
できることなら代わってあげたい。私にどこまでできるかわからないけど、ひとみちゃんの
こと受け止めるから・・・全部抱きしめてあげるから・・・お願い・・・私を側にいさせて。
・・・ひとみちゃんが好きだから・・・どんなひとみちゃんだって・・・好きなの・・・」
「・・・梨華ちゃん」
「ひとみちゃんが私のこと、ただの友達だって思ってるの知ってる・・・それでもいい。
ただの友達でいいから・・・私、ひとみちゃんを失いたくない・・・」
気持ちが伝わるってこういうことを言うんだろうか。
梨華ちゃんの気持ちがダイレクトに響いた。
あたしのことを好きだと言ってくれてる。こんなあたしのことを・・・全てを知った
はずなのに、この娘はあたしのことを捕まえようとしてくれてる。
気付いてしまった気持ち。
隠そうと思っていた気持ち・・・それはもう無理だった。
こんなにも純粋な娘の前で自分の気持ちに嘘をついて突き放すなんてできない。
あたしも梨華ちゃんを失いたくない。
- 131 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)23時07分00秒
- 「ありがとう。あたしも梨華ちゃんのこと・・・好きだよ」
あたしは梨華ちゃんのことを強く優しく抱きしめた。
抱き返してくれる梨華ちゃんを感じて涙が出た。
12年間、流すことすら忘れてしまった涙を・・・。
しばらく抱きあった後、あたしはゆっくりと梨華ちゃんの体を離した。
相変わらず涙で濡れた顔をしてる梨華ちゃんの背中にまわしてた手を頬の方へ
移動させる。
指でなぞるように優しく撫でた。
その少し濡れてる唇に指を触れさせてみる。
梨華ちゃんはそっと瞳を閉じた。
初めての気持ちのこもった口付け。
それは本当にただ触れるだけだったけど、それで満足だった。
梨華ちゃんがこの腕の中にいるから・・・全てを受け入れてくれたから・・・。
- 132 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)23時08分51秒
- お互いが物足りなさそうに唇を離した。
あたしはもう一度梨華ちゃんのことを抱きしめた。
「・・・ありがとう・・・こんなあたしを受け入れてくれて・・・」
- 133 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月23日(月)23時13分21秒
梨華ちゃんは泣き疲れたのか、あたしの腕の中で規則的な呼吸をくり返しながら
眠っている。
その柔らかな髪に指を通しながらあたしはこれからのことを考えていた。
これからも仕事はつきまとうだろう。
梨華ちゃんを守りながら続けるにはきっと限界がある。
かといってこの世界から足を洗うなんてことがどんなに困難かも知っている。
あたしは自分の腕の中にあるこの愛しい娘をどうやって守っていくのかをずっと考えていた。
- 134 名前:南風 投稿日:2002年09月23日(月)23時20分32秒
- はい。急坂の終点です。←多分
ダッシュでここまで来てしまいました。
本当はもうっちとじっくりいこうかとも考えたんですが、またダラダラと
いってしまいそうだったので、こんな感じにしました。
この時点で手元のストックの3分2がなくなってしまいました。
これからは更新が少し遅れるかもしれません(嘘かも・・・書きたくてしょうがない
自分が抑えられそうもないので)
でも、くぎりが良いっていうか話しの節目まではガンガン書いていきます。
・・・矛盾。
やっぱし区切りが良いところまではストック関係無しに書いてしまいます!
こんな作者ですがよろしければもうちっとおつき合い下さい。
- 135 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月24日(火)02時42分12秒
- 更新はそりゃ大歓迎なんで、良いように頑張って!
- 136 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月24日(火)15時41分49秒
- すんばらしい。よっすぃーかっけー!!
更新量の多さに感激です。
応援してますのでこれからもどんどん更新しちゃって下さい。
- 137 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年09月24日(火)17時13分19秒
- 大量更新お疲れ様です&ありがとうです。
こっちも楽しませて頂いてます。
よっすぃーの過去に涙です。
毎日チャックしております。次の更新楽しみです。
- 138 名前:吉右衛門 投稿日:2002年09月24日(火)20時38分42秒
- 暗く鉛の様な雲が立ちこめる、乾いた荒れ野の様なひとみの心。
そこへ差し込む、一筋の光。
何も見返りを求めない梨華の愛。
そんな梨華を、どうすれば守れるのか?
いいです〜。
現実の「ひーちゃん」が時たま見せる、陰のある表情。
リアルとバーチャルがオーバーラップして
交信状態になってしまいました。
冷静に最後まで読めるのかしら、不安です。
次が読みたーい。
- 139 名前:南風 投稿日:2002年09月24日(火)22時35分32秒
- >135さま
ありがとうございます。
自分なりペースで頑張ります!
>136さま
ついつい書いてしまい、気付けば大量更新になってるんです(笑)
今日も更新していきますよぉ!
>名無しどくしゃさま
毎日チェックしていただいてるなんて・・・涙
よし子の過去は自分で書いてても痛かったッス。
がんばれよし子!!
>吉右衛門さま
凄いッス!映画の予告見てるみたいです!!
素敵なレスありがとうございます。
『冷静に』最後までおつき合いいただければ幸いです(笑)
こんなにも大量のレス本当にありがとうございます。
もう元気モリモリです!!
前回暗かった分、今回の更新では甘めに進んでいこうと思います。
さて、発車の為の充電もばっちりたまったので発車したいと思います!
甘い電車発車でぇす☆
- 140 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月24日(火)22時43分31秒
- それから数時間たった頃、梨華ちゃんは目を覚ました。
「おはよう」
あたしのことを焦点の合わない目でボーッと見ている。
しばらくそんな状態が続いて、やっと今の自分の状態に気付いたのだろうか、
梨華ちゃんは真っ赤になって照れたように笑った。
「お、おはよう、ひとみちゃん。ごめんね重かったでしょ」
あわててあたしの上から降りようとする梨華ちゃんの体を抱きよせる。
「後10秒・・・」
「・・・うん」
梨華ちゃんの心地よい匂いがあたしの心を落ち着かせてくれる。
結局どうすれば梨華ちゃんのことを守れるかなんて分からなかった。
それでも、あたしの全てを受け入れると言ってくれた梨華ちゃんのこと、
絶対に守るからね。
あたしは梨華ちゃんの体をそっと離した。
- 141 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月24日(火)22時54分05秒
- 「へへっ、何かちょっと恥ずかしいね。あ、ひとみちゃんお腹すいてない?」
「う〜んちょっとだけすいたかな」
「じゃあちょっと待ってて。すぐ作るから」
そう言って梨華ちゃんは台所へと早足で向かっていった。
・・・って帰ってきた?
梨華ちゃんは台所に向かった時と同じように早足であたしの元まで来ると、
あたしの頬に自分の唇をぎこちなくくっつけて、逃げるようにまた台所に戻っていった。
・・・ニヤッ。
ハッ!何あたしにやけてるんだろう。
梨華ちゃんが触れていった頬に残る感触。
これって幸せって読んでいいんだよね・・・。
あたしは頬を緩ませながら壁に寄り掛かって目を閉じた。
願わくば、この幸せな時がいつまでも続きますように・・・。
「ひとみちゃ〜ん、御飯とパンどっちがいい?・・・あれ?ひとみちゃん?」
梨華がひとみの所に戻ると、ひとみは壁に寄り掛かったまま寝息をたてていた。
梨華はベッドから毛布を引っ張ってきて、それをひとみの肩にかける。
そしてその髪にそっと口付けると、台所に戻って朝食の支度の続きを始めた。
- 142 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月24日(火)23時10分19秒
ひとみは夢を見ていた。
遠くの方でお父さんとお母さんが笑顔で手を振っている。
久々に見た両親に嬉しくなって思わずかけよろうとすると、お父さんは
こっに来てはいけないよという風に手を前に出した。
お母さんも複雑そうな顔をしている。
『何でそんな顔をするの?』出そうとした言葉は口から出てこなかった。
言葉の代わりに空気だけが漏れていく。
歩み寄ろうとしても、お父さんの突き出された手のせいで足は動かない。
『どうして?どうして側に行っちゃいけないの?』
言葉にならない言葉を出そうとしてみる。
やっぱり出るのは空気だけだった。
やばい、泣きそうになってきた。
お母さんはあたしの顔をしっかり見ると、さっきの複雑そうな表情から
いつも見せてくれてた優しい笑顔になって、『生きなさい』と言った。
久しぶりに聞くお母さんの声は、昔の記憶に残るままだった。
お父さんは手を下ろすと、お母さんの隣でしっかりと頷いた。
お父さんのいつも見ていた優しくて強い顔を見ると、また泣きそうになった。
お父さんは『耳をすませてごらん』という風に耳に手をあてた。
あたしはその通りに耳に神経を集中させてみる。
遠くからあの唄が聞こえた。
いつも寝ている時に聞こえてたあの唄が・・・。
あたしがその唄に耳をすませている姿をお父さんとお母さんは見守っててくれた。
そしてやがて光りに包まれるように消えていった。
最後に『あいしてるよ』と言って。
- 143 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月24日(火)23時24分06秒
あたしはそっと目を開けた。
寝ているうちに流してしまったんだろう、頬は涙で濡れていた。
台所の方からは夢の中で聞いたあの唄が聞こえている。
あたしは立ち上がると唄の聞こえる台所へと歩いた。
そこでは梨華ちゃんが料理を作りながらあの唄をうたっていた。
「・・・梨華ちゃんだったんだね」
あたしの声に驚いて後ろを振り向く梨華ちゃん。
「・・・びっくりしたぁ。さっき寝たばっかなのに起きるの早いよぉ。
まだ、朝御飯できてないからもうちょっと待っててね」
「・・・あたしが気を失ってたり、眠ってるといつも聞こえてきてたんだ。
すごく優しくて、温かくて・・・あの唄、梨華ちゃんだったんだね」
梨華ちゃんの顔はみるみる赤くなっていった。
「・・・聞こえてたんだ。う〜恥ずかしいよぉ」
真っ赤になって味噌汁をグルグルかきまわしてる。
「あたし、梨華ちゃんが歌ってる唄好きだよ。だから、これからも聞かせてほしいんだ」
「・・・本当?」
「ははっ、こんなところで嘘ついたってしょうがないよ」
梨華ちゃんは相変わらず味噌汁をグルグルかきまわしていたが、その顔は嬉しそうだった。
「あぁ、お腹すいたぁ!向こうの部屋で待ってよぉっと」
あたしは大袈裟に伸びをするとさっきいた部屋に戻っていった。
そしてさっきみたく壁に寄り掛かっていると、台所からはあの唄が聞こえてきた。
- 144 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月24日(火)23時31分02秒
- 朝食も食べ終えたあたし達はしばらく話しをしながらまったりとした時間を過ごしていた。
「今日はバイト?」
「今日はお休みだよ。ひとみちゃんは何か用事あるの?」
「あたしもないんだ・・・よし!今日はこの部屋掃除しよう」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ!!!いいよ、私一人でできるから!!」
「こういうこと結構得意なんだ。っつうかこの部屋もう少し綺麗にしようよ。
これじゃあまったりするにも気になっちゃうよ」
笑いながら梨華ちゃんの顔を見ると、ほっぺをプッと膨らませていた。
そのほっぺに指をぐいっとあてて、空気をブーっとはかせる。
「さ、午前中には終わらせちゃおう」
梨華ちゃんは小さく頷いた。
- 145 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月24日(火)23時40分49秒
しかし・・・こう言っちゃ失礼だが、梨華ちゃんの部屋は相当汚かった。
午前中で終わらせるつもりが、気がついたら日は大分傾いていた。
キッチンと部屋一つでここまで時間がかかるなんて・・・。
ベッドの下までやってしまったあたしがいけなかったのだろうか?いや、気に
なってしまったものは仕方ない。
まぁ、ここまで綺麗になれば問題ないだろう。
梨華ちゃんは相当疲れたのだろう、隣で座りこんでいる。
「・・・ごめんね。まさかこんなに汚れてるなんて」
「しょうがないよ、結構忙しい生活してるんでしょ?掃除する暇なんてないよね」
「・・・言い訳っぽくなるけど、間違いじゃないよ。
だって、あそこの時給安いんだもん。でも、学校も行って夜も働ける場所あそこしか無いし・・・」
「ほら、元気出して。もっと良いバイト探しあたしも手伝うからさ。
とりあえずは何か食べに行こうよ。あたし何かお腹すいてきちゃったよ」
そう言って梨華ちゃんの腕をとって立たせると、その手を引いて玄関へと向かっていった。
- 146 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月24日(火)23時46分12秒
- 「あ、待ってお財布」
「今日はあたしのおごり。昨日の分も今日朝の分も含めてのお返し」
「でも・・・」
「ほら、早く行こう。あたし本当にお腹減っちゃったよ」
「・・・うん。じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうね」
「そうこなくっちゃ。で、何食べたい?ってなかなか決まらないかな?」
「・・・はい」
「よし、じゃあ近くのファミレスにでも行きますか」
「うん!」
外はまだまだ寒かったけど、梨華ちゃんの隣はとても温かかった。
- 147 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月24日(火)23時58分07秒
- 「ごちそうさまでした。デザートまでごちそうしてもらっちゃって、悪いことしちゃったね」
「だから、気にしないでって言ってるじゃんか。あたしがこう言ってるんだから、それでいいの」
「・・・うん」
「よし、わかればよろしい。じゃぁ家まで送っていくよ」
「え?・・・ひとみちゃん帰っちゃうの?」
梨華ちゃんの顔からはみるみるうちに元気がなくなっていく。
「そりゃ、あたしだって一緒にいたいけど、着替えも何もないし」
「じゃあ着替えとってきたらまた泊まっていってくれる?」
・・・そんな潤んだ目で上目遣いされたら断れなくなるじゃん。
「わかった、じゃあ着替え持ってくるから家で待っててよ。とりあえず家まで送るからさ」
「う〜ん・・・ひとみちゃんの家まで一緒に行っちゃダメ?」
はぁ、だからその上目遣いは反則なんだって。
「・・・しょうがないな。どうせダメって言ったってついてくるんでしょ?良いよ、一緒にいこう」
あたしは梨華ちゃんのクシャクシャっと撫でてから歩く向きを変えた。
- 148 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)00時13分52秒
- 「先に言っておくけど、何も無い部屋だからね」
あたしは鍵と針金を使って特製の鍵を開けた(もちろん管理人さんには無許可)
中に入り電気をつける。もちろんカーテンは閉めたままだ。
あたしの部屋はほぼ梨華ちゃんの家と同じつくりだ。ただ梨華ちゃんの所より
古くて床は歩くと音が鳴る。
家具も必要最低限のものしか置いていない。
小さなちゃぶ台に小さなテレビ。あとは随分古くなったベッドに仕事用のパソコンが
一台。そのパソコンを置く為に買った机の引き出しの中にはあたしの愛用の銃が入る
ようになっている。
この引き出しは万が一部屋に誰かが侵入してきても奪われないように、細工してある。
あたしはベッドの下についてる引き出しから服を何枚か取り出すと、無造作に鞄に
つめた。少し考えたが、仕事の時に着る洋服も鞄の底に入れておいた。
そして梨華ちゃんに気付かれないように銃の位置を抜きやすい位置に直した。
- 149 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)00時24分12秒
- 「じゃあ行こうか」
「あ、うん」
ボーッとあたしの部屋を見回していた梨華ちゃんがあわててあたしの後ろについてくる。
「ひとみちゃって支度とかするのすごい早いでしょ」
「うん。服着て寝癖直して歯みがくぐらいだから5分あれば十分すぎるよ」
「それすごいよ。私なんて最低でも30分くらいかかちゃうもん」
「はぁ、女の子って大変だね」
「もう!ひとみちゃんだって女の子でしょ」
「はいはいそうでしたね。ほら、鍵閉めるから出た出た」
あたしは部屋の全体を見回して、全てのセキュリティーが正常かチェックを
して(もちろんお手製無許可)慎重に扉の鍵を閉めた。
「梨華ちゃんって明日バイト?」
「うん。あんまり休んでると生活厳しくなっちゃうから」
「そっか、じゃあ代わりにバイト探ししておいてあげるよ」
「本当!?ありがとう」
梨華ちゃんは本当に嬉しそうに笑ってあたしの手を握ってきた。
寒さのせいか、冷え込んでしまっていた梨華ちゃんの手をあたしは自分の手ごと
ポッケにつっこんだ。
- 150 名前:南風 投稿日:2002年09月25日(水)01時15分16秒
- さて、何だか番外編を書いてる感じになってしまいました。
わざと明るくしているよし子を書こうとしたら、普通な感じに・・・
自分の文章能力の低さにただ涙です。
そして手元にあるストックと違うように話しを持っていこうとしてわけわからなく
なってきて今焦ってます←お馬鹿。
そしてそして突然ですが、急展開にします。自分でもビックリです。
でもその前にちょぴっとお話入れてから急展開にします。
さらにこの急展開&ちょぴっと話し、実はまだ書けてないんです。
今日中にちょぴっと話しはここでぶっつけで書いてみようと思うのですが、
その後は大急ぎで仕上げてからここで書こうと思ってます=目標としていた
毎日更新ができなくなってしまう可能性が大なんです。
きりの良いところまで書けたらすぐにこっちに書こうと思ってるので、よかったら
しばらく待ってて下さい。
とりあえず本日はもう一回更新しまぁす。
自分勝手な更新でごめんなさい。
- 151 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)01時20分21秒
- 年末になる頃、梨華ちゃんはバイトを変えた。
あたしが矢口さんに相談したら、だったらウチで働きなよと言ってくれたのだ。
矢口さんの所ならあたしも安心できるということもあって梨華ちゃんに進めた。
お店の方は梨華ちゃんが入ってからすぐに客足が伸びたそうだ。
矢口さんも安倍さんも梨華ちゃんも忙しそうに働いていた。
あたしもたまに顔を出して手伝ってみたりした。
- 152 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)01時27分33秒
- 年も変わり1月も後半にさしかかった頃、あたしは矢口さんと安倍さんにある提案をした。
それは梨華ちゃんの誕生日にここでパーティーをしようというものだ。
イベント事が大好きな2人はすぐ話しにのってきてくれた。
あたし達は梨華ちゃんおことを驚かそうと、ひっそりと準備を進めていった。
- 153 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)01時44分32秒
- 「梨華ちゃん、明日バイト?」
誕生日の前日、あたしは計画通りにことを進める為にわざと梨華ちゃんに聞いてみた。
「うん。何か安倍さんが体調崩しちゃったみたいでさ」
もちろん安倍さんが体調を崩したなんて嘘だ。
むしろかなり元気だったりする。
「そっか、じゃぁ、あたしも手伝いに行くかな」
「本当!?」
「うん。だって最近忙しいみたいだし、こんなのでもいれば少しは楽になるでしょ?」
梨華ちゃんは嬉しそうに笑って喜んだ。
その後他愛もない話しを少しして、あたしはちょっと用事があるからと言って
梨華ちゃんの家を後にした。
もちろん用事というのは明日の為の準備だ。
帰り際梨華ちゃんは少し寂しそうな顔をしていたが、笑顔でまた明日と言ってくれた。
「すみません、遅くなりました」
あたしが店のドアを開けると、店内はすでに明日の誕生日パーティー一色という感じだった。
今日は準備の為店は休みになっている。
- 154 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)02時03分05秒
- 「あ、よっすぃ〜やっと来たべ」
「お前来んの遅せぇよ!」
矢口さんも安倍さんもすでにソファーに座ってくつろいでいる。
「あの、ひょっとしてもうほとんど終わっちゃいました?」
「ほとんどっていうか全部終わっちゃったよ」
全部って・・・早い。
だってあたしがこの店出てまだ2時間くらいしかたってないのに。
・・・ハッ
そうだ、イベント大好きなこの2人はその準備も手慣れたもんでかなり早いんだった。
前もって準備してあればこのくらいの時間で準備できて当たり前だ。
「すみません、何かまかせっきりみたいになっちゃって」
「別に謝ることなんてないっしょ」
「そうだよ、矢口達だって楽しんでやってたしね」
そう言って2人は顔を見合わせて笑った。
相変わらず仲が良い。
そんな2人を見ていると、さっき見せた梨華ちゃんの寂しそうな顔を思い出す。
「ほら、よっすぃ〜ここはもう終わったんだから早く梨華ちゃんのところに行ってあげなよ」
「ってか早く行け」
あたしは対照的な感じで同じ意味を込めて同じ言葉を言う2人に頭を下げると、
今来たばかりの道を走って戻った。
「さて、続きでもやりますか」
「そだね、なっち頑張っちゃうよぉ」
ひとみが帰った後の店内で矢口となつみは忙しそうに残りの準備をしていた。
- 155 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)02時30分36秒
- トントン・・・トン
付き合った日に決めた簡単な合図を梨華ちゃんの家の扉に向かって叩く。
少し時間を置いて梨華ちゃんが扉を開けた。
「どうしたの?何か忘れ物?」
「うん、ちょっとね。上がっても良い?」
「あ、どうぞどうぞ」
あたしは扉を閉めて玄関を上がると、梨華ちゃんの後を追うように部屋に入っていった。
「何忘れちゃったの?」
ベッドに座りながらあたしを見上げるように梨華ちゃんは言った。
その顔は嬉しそうなんだけど、素直に喜べないといった複雑な表情をしている。
あたしはそんな梨華ちゃんの隣に腰を下ろすと、そっと肩を抱いた。
「ひとみちゃん?」
さっきとは違って不思議そうな顔。
ころころと表情の変わる梨華ちゃんの額に軽く口付けた。
「寂しがりやで気使い屋さんのこと忘れていちゃった」
「えっ?」
「だから、忘れ物は梨華ちゃん。って言ってももう用事終わっちゃったから忘れ物も
何も無いんだけどね」
梨華ちゃんはまだ不思議そうにあたしのことを眺めている。
「だから、今日はもうどこにも行かないってこと。
んでさ、外寒くてもう出たくないんだけど今日泊まって行っても良い?」
やっと理解してくれたのか、梨華ちゃんはすごく嬉しそうな表情になった。
本当によく変わる。
「うん。あ、今何か入れるね」
「ありがとう」
梨華ちゃんは嬉しそうに台所に向かっていった。
- 156 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)02時58分21秒
- 翌日、梨華ちゃんはたっぷり昼まで寝た。
起きた後2人してバイトの時間になるまで家の中で過ごして、いつもの時間より
少し早めに家を出た。
いつものように店の裏側から入ろうとする梨華ちゃんを適当な言い訳を作って
正面の扉の方に誘導する。
「ちょっと待っててくれる?」
「え?あ、うん」
おとなしく立っている梨華ちゃんを扉の前に残して、あたしは店の中に素早く
入った。
すでにスタンバイしている矢口さんと安倍さんに目で合図をする。
「梨華ちゃんいいよぉ」
初めてこの店に来た時のように梨華ちゃんは恐る恐る中に入ってきた。
その瞬間、あたし達はクラッカー(矢口さんのみバズーカーみたいなやつ)を
鳴らした。
「「「お誕生日おめでとう!」」」
ただ驚いて固まっている梨華ちゃんの腕をつかんで店内のまん中の方まで引っ張てくる。
「え〜、これより石川梨華18歳の誕生日会を開きたいと思いまぁす」
矢口さんが選手宣誓をするように右手を高々と上げてこのパーティーの開催を宣言した。
- 157 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月25日(水)02時59分23秒
- そしてまだ驚いて固まってる梨華ちゃんをソファーに座らせる。
そのソファーの前にあるテーブルには安倍さんが作った料理が所狭しと並べられている。
「・・・これって」
梨華ちゃんがあたしの顔をのぞきおんでくる。
「そういうこと。お誕生日おめでとう、梨華ちゃん」
梨華ちゃんは嬉しさのあまり泣いてしまった。
このパーティーは大成功だった。
安倍さんの料理も、矢口さんお手製カクテルも、そして4人だけのダンスパーティーも。
ダンスの歳中、ムードに流されて矢口さんと安倍さんはあたし達の前でキスまでしていた。
あたし達も2人に気付かれないようにそっと付き合って2回目のキスをした。
たった4人しかいなかったけど、明け方まで騒ぎまくった。
梨華ちゃんは本当に嬉しそうだった。
あたしはその笑顔が見れただけで幸せな気持ちになった。
また来年もこうして過ごせたら良いなぁなんて夢を持った。
- 158 名前:南風 投稿日:2002年09月25日(水)03時05分15秒
- 更新終了です。
いつもにまして誤字脱字が多かった・・・ごめんなさい。
そして初のぶっつけ本番文章書き。
多分読みにくくて、見苦しい部分が沢山あったと思います。
本当にごめんなさい。
えーっとここでちょっくら話しをきって、ストックの方をためさせていただきます。
何か当初考えていた話しよりもふくらんできてしまったので、一生懸命まとめさせて
いただきます。
次回の更新がいつとは宣言できないんですが、9月中にできればと思ってます。
それでは一旦失礼しまぁす。
- 159 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年09月25日(水)08時37分15秒
- 了解です。
続きに期待大です。
楽しみにしてます。頑張って下さい。
- 160 名前:吉右衛門 投稿日:2002年09月25日(水)08時53分48秒
- 暖かな風が吹いてくる。
氷河の様な、私の心に吹いてくる。
解けだした心の雫は、やがて奔流となって梨華へと流れて行く。
そして私は梨華を包み込む繭になる。
いいですね〜、よしりかの世界。
「しっとり」と言う言葉がぴったりです。
他のカップルでは、なしえない特別な空間です。
何だか勝手に予告編みたいな事を書き込んでごめんなさい。
妄想しまくりで、交信状態になりつい・・・。
- 161 名前:モン太 投稿日:2002年09月28日(土)02時29分00秒
- 一気に読ませていただきました。
もう、最高です!!!
読み出したら止まらなくなってしまいましたよ。
作者様はすごい文章力ですね。尊敬してしまいますv
続き楽しみにして待ってます。
- 162 名前:南風 投稿日:2002年09月28日(土)22時43分44秒
- お久しぶりでございます。
皆様レスありがとうございます。
南風感激です。
さて、ストックの方をかたかたしていたのですがきりが良いっていつだ?
って感じになってしまい、こりゃこっちで書くしかないだろ!って思いました。
とりあえずは手元にある分をまたちょこちょこ書いていきたいと思ってます。
>名無しどくしゃさま
いつもありがとうございます。
期待に答えられるように日々精進いたします。
ふぁいつお〜!ふぁいつお〜!
>吉右衛門さま
またしても素敵な予告編ありがとうございます!
今のところしっとりと進んでおります。
いつかは荒波が?っていっても最後まで書き上げていないのでどうなることやら
って感じです。
ぬふふっ・・・
>モン太さま
ありがとうございます。
まだまだ文章力不足ッスよ(照)
でも頑張っていきますよぉ!
新展開は結構駆け足です。
視点もひとみ視点だけではなくなります。
慣れない書き方なのでお見苦しい点はあると思いますが、どうぞおつき合い
下さいです。
- 163 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月28日(土)22時56分49秒
- あたし達が出会って早くも4ヶ月ちょいが経過しようとしていた。
学校で付き合ってることは秘密にしていたが、それでも冬前よりも仲良くなって
いるあたし達の姿に学校の娘達は我慢して何も言わないみたいだった。
あたしの方は当たり前のように仕事があった。
それでも3ヶ月で4回というのは全然少ない回数だった。
矢口さんは何も言わなかったが、どうやら裏であたしにあまり仕事をさせないように
手をまわしてくれてるみたいだった。
仕事は今まで通りに進めていった。
心の中で葛藤はあったが、一瞬の迷いは自分の死に繋がる。
そして死は梨華ちゃんの孤独を意味する。
あたしは躊躇う心を捨てるように鉛を放っていった。
仕事の後は梨華ちゃんの温もりが特に恋しくなった。
殺伐とした自分の気持ちが嫌だった。
しかし、こんな時に一緒にいたら自分の欲望の赴くままに抱いてしまいそうで
独り部屋の片隅で膝を抱えて過ごした。
梨華ちゃんはそんなあたしに気付いていたんだろうか、それでもあえて会おうと
してくれた。
それでもあたしは仕事のあった日だけはいつも適当な言い訳を作って梨華ちゃんの
申し出を断っていた。
付き合い出してから3ヶ月以上たっても梨華ちゃんに口付け一つするのにためらって
しまう自分がいるのは、この汚れた手で純粋な梨華ちゃんを汚してしまうのが
恐かったからだ。
- 164 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月28日(土)23時01分49秒
- 「今回の仕事は山場になると思うから、しばらく学校には行けないと思っててね」
あたしが矢口さんに呼ばれたのは新学期が始まって間もない4月の始め頃だった。
この日は珍しく店も休みで、店内には音楽すら流れていない。
いつもと同じ位置にこしかけてるあたしの前には、今まで見たこともない程真剣な
面持ちの矢口さんと、いつも太陽のような笑顔を曇らせて下を俯いている安倍さんがいる。
梨華ちゃんはついてきたいと言い張ったが、あたしがこの仕事にあまり梨華ちゃんを
巻き込みたくなかったから、部屋で待っていてくれるように頼んだ。
- 165 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月28日(土)23時07分15秒
- 「よっすぃには言ったことがなかったんだけど、実は今までウチらはある組織に
集中的に圧力をかけていたんだ。
よっすぃが今までこなしてきた仕事も全てそれに関係してる。
・・・最初の仕事からね」
最後の言葉を濁した以外、矢口さんは事務的に言葉を並べていった。
言われている意味が理解しきれないでいるあたしが、口を開こうとした時、
カウンターの奥から懐かしい声が聞こえた。
「そこから先はアタシが説明するわ」
「裕ちゃん」
「・・・中澤さん」
「よっ、久しぶりやな」
軽い挨拶の後、中澤さんはあたしの隣に腰掛けた。
その姿は昔あたしが拾われた時とほとんど変わってない気がした。
- 166 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月28日(土)23時12分01秒
- 「吉澤には初めからきちんと話さないといかんな。
矢口、悪いけど飲み物用意してくれるか?」
矢口さんはすぐにあたしと中澤さんの前にコーヒーを出した。
「これから話すことは忘れたらいかんよ。しっかり覚えとき。
矢口もなっちも、もう知ってることやと思うけど聞きたかったら聞いとったらええ」
中澤さんはコーヒーを一口飲み、胸のポッケから煙草を取り出して火をつけた。
安倍さんがそっと灰皿を中澤さんに差し出した。
「お、すまんな。吉澤も吸うか?」
本当は吸いたい気分だった。
だがこの時は丁重に断った。
- 167 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月28日(土)23時19分41秒
- 「まずは組織のことから話さないかんな。
アタシらが集中的に圧力をかけていた組織ってのは簡単に説明すると軍隊の
予備軍みたいなところや。
それも国に非公式。個人が勝手に作り上げとる。
今までは組織の拡大をはかっているだけやったが、最近になって組織内の動き
がおかしくなってきたんや。
主にアイツらの行動といったら今までは、何処か子供のおる家庭を狙って襲う
というもんやった。
その家族の親は必ず殺し、子供には命に関わる怪我を負わせるんや。
そして、それでも生き残る生命力を持った子供を養子として組織の人間が引き取る。
・・・吉澤、わかるよな」
あたしの頭の中は真っ白になりかけていた。
直ったはずの胸の傷が疼きだしてくる。
無意識のうちに傷に手をあてる。
「ヤツラ組織の大人どもは何処か狂っとる。
あの異常な目がその証拠や。どいつもこいつも同じ目をしとる」
- 168 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月28日(土)23時29分48秒
- あたしの頭の中にアイツの大嫌いだった目が鮮明に蘇る。
それと共に蘇る記憶。
堪え難い苦痛、体を触られる恐怖感、それに伴う嫌悪感。
体を裂く痛み、自分の足を伝う自らから流れだした赤い液体。
自分の意思とは無関係に体は震えだし、顔からは血の気が引いていく。
「よっすぃ!ちょ、裕ちゃん!!よっすぃが!!」
遠くの方で矢口さんの悲鳴のような声が聞こえる。
無言の中澤さんの視線を感じる。
これだけ外部の情報を認識できるのに、頭の中に流れるビジョンは止まることを
しらない。
呼吸が不規則になり、酸素が足りなくなる。
あぁ、やばい視界がモザイクがかってきた。
『・・・ひとみちゃん』
・・・梨華ちゃんの声?
頭の中の映像に梨華ちゃんとの思いでが入り込んできた。
荒れる映像は何を写し出しているのかすらわからなくなってくる。
やがて過去の映像よりも梨華ちゃんの映像の方があたしの頭を占める割り合いが
多くなる。
脳に直接響く梨華ちゃんの声、そしてあの柔らかい笑顔。
- 169 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月28日(土)23時35分17秒
- そうだ、あたしはいつまでもアイツに負けているわけにはいかない。
あたしにはもう側で笑っていてくれる人がいる。
側で一緒に泣いてくれる人がいる。
あたしを必要としてくれる人がいる。
この記憶を忘れることなんてできないのだろう、それでもこんな過去を受け止めて
くれる人がいる。
あたしはもう、独りじゃない。
大きく深呼吸してみよう。
体中を酸素がまわるイメージ・・・そうだ、その調子だ。新鮮な酸素が入ってきた。
体の震えがおさまってくる。
目をゆっくり開けてみる。
モザイクは消えてる。
そしてゆっくりと視線を上げる。
その先には心配で泣きそうになってる矢口さんと、その体を支える安倍さんがいた。
- 170 名前:南風 投稿日:2002年09月28日(土)23時38分26秒
- 少ないですが更新しました。
やっぱこの板で書かせてもらえるのは何だか気持ちが良いッス!
今日の更新はこれだけなんですけど、今から手元ストックの方かかせて
いただきます。
今後はこんな感じでちょびちょび更新になるかもしれないですけど、
よろしければおつき合い下さいです。
- 171 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月29日(日)00時46分14秒
- はじめまして。
はじめから読ませていただきました。
おもしろいです!
よっすぃには自分の運命に負けずがんばってほしいです。
続き、たのしみにしてます〜。
- 172 名前:吉右衛門 投稿日:2002年09月29日(日)06時46分29秒
- う〜ん、何だか雲行きが・・・。
荒波があっても我慢します。
でも最後だけは「よしりか」に幸せになって欲しい。
- 173 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年09月29日(日)13時11分51秒
- ムム。また楽しみな展開になってきましたね。
PCに保存しますね。ヨイショヨイショ
- 174 名前:南風 投稿日:2002年09月29日(日)19時28分25秒
- > 名無し読者さま
ありがとうございます。自分もよし子には頑張ってもらいたいです!
頑張ります!!
> 吉右衛門 さま
そうですねぇ〜自分結構痛いの好きで、でもその後の・・・ってのも好きなんで
すよぉ。
さて、雲間から一筋の光りはさすのでしょうか・・・?
>名無しどくしゃさま
このへんからは登場人物が増えていきます。
楽しみにしてて下さい(笑)
保存だなんて・・・嬉しいッス!!
さて、本日もちこちこっと更新させていただきます。
皆様毎回レス本当にありがとうございます。
幸せもの南風発車準備完了!!
- 175 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月29日(日)19時42分26秒
- 「・・・すみません」
「あんたが謝る必要なんて何もあらへんよ」
中澤さんは自分の吸っていた煙草を渡してくれた。
あたしは少し口紅のついていた煙草を素直に受け取った。
「悪いけど、時間ないんで話しの続きさせてもらうで。
さっきも言った通り、ヤツラは養子として生き残った子供を引き取る。
そして数年後に自分らの組織に引きずり込んで兵隊として育てるんや・・・
いや、作ると言った方が合ってるかもな。
吉澤、最初はアイツら本当に良い人のように接してくんねん。
引き取られた子はついつい騙されてく。
・・・吉澤の場合は幸か不幸かわからんがな。
アタシは昔から独自で組織の人間を追ってたんや。
そのうちの1人を追っかけているうちに、吉澤、お前の存在も知ったんや。
アタシがこの世界に引っ張てきたモンは皆お前と似た様な境遇に置かれた娘らや。
吉澤以外は養子に出ていく前にアタシが引っこ抜いたけどな。
最初は大人になっても組織から自分を守れる程の強さを持ってくれたらそれで
ええと思ってた。その為に色々な技術を教えたんや。
そのはずがお前達に組織の人間を消すなんていう汚い仕事もさせてもうた。
本当に悪いと思ってる。
この山が終わったら仕事から手を引いてもええ。
それやから今回のこの仕事、命預けてくれんか・・・」
- 176 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月29日(日)19時49分43秒
- 中澤さんの手にはいつのまにか力がこもっていた。
あたしは中澤さんがこんな風に仕事のことで頭を下げる姿を見たことがなかった。
そして、こんなにも瞳に意思の色が灯ってるのも見たことがなかった。
答えなんて決まってる。
「いいですよ」
「・・・悪いな」
この世界からどうやって足を洗うか考えていたんだ、多少のリスクなんて覚悟の
うえだったし、自分を拾ってくれて育ててくれた中澤さんの頼みを断ることなんて
できるはずがない。
中澤さんは顔を上げると、あたしの顔をジッと見てきた。
「・・・吉澤、お前には大事なもんがおるか?」
「へ?」
突然の質問に思わず間抜けな声が漏れる。
それと同時にすぐに頭を切り替えられる中澤さんを凄いとも思ってしまう。
「引き受けてくれたからには、さっそく言っておかなければならんことがある。
ずっと昔、口を酸っぱくして何度も言ったよな、大事なモンは必ず近くに置くか
自分の本当に信頼できる場所に置けって」
- 177 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月29日(日)20時02分56秒
- そういえば中澤さんに拾われてすぐの頃、何度も耳にしてた言葉だ。
それは習慣として今の生活に染み付いている。
何故今になって突然そんなことを言い出すのかがわからなかった。
困惑するひとみを一瞬目で見た後、中澤は指を鳴らした。
そしてカウンターの影が動いたかと思うと、すまなさそうな顔をした後藤が、
ぐったりとした梨華を抱きかかえながら姿をあらわした。
ひとみの表情が一気に変わった。
「安心しい、ただの睡眠薬や」
「・・・何で梨華ちゃんのことを」
自分の手を握る力が強くなってくる。
「お前のこと何も知らんとでも思ったか?何年も会っとらんかて何も知らんわけ
やないねん。今回はアタシが手をまわしたことやから睡眠薬ですんどる。
これがもしヤツラの組織やったらどうなる?
何が何時どう起こるかなんて誰にもわからんのや。
常に最悪のことを想定しとかなあかん」
あたしは自分の考えの甘さを痛感した。
綺麗ごとじゃ梨華ちゃんを守れない。
そんなこと分かっていたはずなのに・・・。
「今失敗することはええねん。次ぎに同じ失敗をしなければええ」
中澤さんがあたしの震える肩にそっと手をあててくれた。
- 178 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月29日(日)20時12分17秒
- 「よっすぃ〜・・・」
後ろからごっちんの弱気な声が聞こえた。
いくら中澤さんの頼みとはいえ、あたしに悪いと思ったのだろう。
あたしを呼ぶ声の中には『ごめんね』というニュアンスがこもっていた。
あたしはごっちんから眠ってる梨華ちゃんを受け取った。
中澤さんはあたしのことを少し見てから「吉澤、明日の午前3時ここの地下に集合な」と
言ってカウンターの奥に消えていった。
「・・・ごっちん、気にしないでね」
あたしの後ろでまだ気まずそうに立ってるごっちんにできるだけ優しい口調で言った。
背中の方でごっちんが笑った感じがした。
「うん。じゃあまたね」
ごっちんはあたしの頬に軽くキスをすると小走りで店を出ていった。
「・・・よっすぃ、大丈夫?」
矢口さん達はまだあたしのことを心配そうに見ていた。
- 179 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月29日(日)20時13分15秒
- 「大丈夫ッスよ。あたしはそんなに弱くないです。
あ、梨華ちゃんが目覚ますまでここのソファーかりちゃっていいッスか?」
「え、あぁいいけど」
「それじゃあおかりします。電気とか全部やっておくんで矢口さんも安倍さんも
もうあがっちゃって下さい」
「でも・・・」
「ほら、早く行って下さいよ。そうしないと梨華ちゃんに悪戯できないじゃないですか」
「・・・よっすぃ・・・分かった、じゃあ頼むね。
なっち行こう」
「ほい!よっすぃ〜、ソファーあんまし汚しちゃダメだべよ〜」
あたしはあの2人の優しさに感謝した。
ああやって無理にでも明るくさせてくれようとしてくれる。
今まではそんなに気にとめたことなかったけど、何気にあの2人にあたしも
支えられてるんだって実感した。
あたしは梨華ちゃんをソファーに寝かせると、カウンターのコーヒーをかたずけ
電気を梨華ちゃんのいるソファーの部分にだけつくように操作すると、灰皿を持って
梨華ちゃんの寝ているソファーの横に座った。
- 180 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月29日(日)20時57分05秒
一体何本の煙草を吸ったんだろう、皆が引き上げてから随分時間がたつ。
灰皿の上の煙草の吸い殻はもう数えきれないんじゃないかというほど山積みに
なっている。
ひとみが新しく煙草に火をつけようとした時、梨華は目を覚ました。
何故ここにいるのかがわからないという梨華に、ひとみは今までのいきさつを
話した。
そしてこれからのことも話した。
「本当にごめん・・・守るって誓ったのに、梨華ちゃんをこんな目にあわせちゃって」
「・・・・私、平気だよ。ひとみちゃんの側にいるって決めた時から覚悟してたから。
だからそんな悲しそうな顔しないで」
梨華ちゃんがあたしの頬にそっと手を当ててくれた。
手の温もりが何故かあたしには切なくて、その手の甲に自分の手を重ねて
梨華ちゃんに気付かれないようにあたしはそっと声を殺して涙を流した。
「ひとみちゃん、何があっても一緒だからね」
- 181 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月29日(日)21時06分08秒
- あたし達は今後のことについて話し合った。
あたしが何を言っても梨華ちゃんはあたしについてくると言い張った。
だから不本意だが、梨華ちゃんに銃の扱い方を教えた。
ないようにするつもりだが、万が一に備えておかなければいけないということを
今回のことで学んだからだ。
「さて、こんなもんかな。それじゃあそろそろ帰りますか」
銃をきちんと装着して立ち上がるあたしの服をギュッと梨華ちゃんが引っ張た。
「どうしたの?」
「・・・ちょっと待ってて」
梨華ちゃんは駆け足で店に備え付けてあるジュークボックスに行くと、ゆったりと
したテンポの音楽をかけた。
「ひとみちゃん、踊らない?」
そう言って梨華ちゃんは自分の腕をスッと前に差し出した。
梨華ちゃんはいつもあたしのことを見ていてくれる。
今あたしがどんな気持ちでいるのかを察してくれる。
あたしは梨華ちゃんに向かって軽くおじぎをすると、その手を取って跪き、
手の甲に優しく唇を落とし、ゆっくりと立ち上がると、梨華ちゃんの腰をもう片方の
手で自分の方へ引き寄せた。
「お姫様の仰せの通りに」
梨華ちゃんの耳元でそっと囁くと、梨華ちゃんは顔を真っ赤にさせて笑ってくれた。
そしてこの曲が終わるまであたし達は体を合わせて踊り続けた。
- 182 名前:南風 投稿日:2002年09月29日(日)21時08分54秒
- 本日も申し訳ない程少ないですが更新しました。
ゆったりペース更新をお許し下さいです。
気合いいれてまた明日にでも更新したいと思います。
ういっ!
- 183 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)00時27分45秒
- おもしろいです!
よしこの葛藤と梨華ちゃんの覚悟、すごくじーんときます。
続きも楽しみにしてますー。
- 184 名前:吉右衛門 投稿日:2002年09月30日(月)09時13分31秒
- ほの暗いフロアの中に、ジュークボックスの照明に浮かび上がる
踊る二人のシルエット。
80年代のアメリカ映画のようなシチュエーション
目に浮かぶようです。
- 185 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年09月30日(月)19時01分49秒
- どうなるんだろう…ドキドキワクワク
ふたりの覚悟が胸にグッときますね。
楽しみにしてますよ〜
- 186 名前:南風 投稿日:2002年09月30日(月)22時19分41秒
- >183さま
ありがとうございます。
期待に答えられるよに頑張ります!
>吉右衛門さま
自分もそういうイメージで書いていたのでそう言っていただけると
嬉しいです☆
>名無しどくしゃさま
そうなんです。ドキドキワクワクは南風もなんです!
楽しみです!!
さてさて、皆様毎度毎度レスありがとうございます。
日々感激って感じです。
今日も更新していきますね!!
ってなわけで発車です☆
- 187 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月30日(月)22時27分43秒
- 店の外に出ると雨が降っていた。
あたし達は体をくっつかせながら急ぎ足で家へと向かって行った。
まず、梨華ちゃんの家に寄りこの後の生活の為の準備をした。
もちろんそんな大荷物にするわけにはいかないので、最低限の衣服と梨華ちゃんが
どうしてもと言って持ってきた箱を持って家を出た。
「ひとみちゃんの家に来るのって久しぶり」
梨華ちゃんは感激したように玄関に入ってきた。
梨華ちゃんがあたしの家に来たのは今回でまだ2回目だ。
1回目はあたしが着替えを取りに来た時。
それ以来梨華ちゃんはここに足を踏み入れていない。
正確にいうとあたしが連れてきたくなかっただけだ。
ここは人が生活をするような空間じゃない。
しかし、ここにいた方が安全だろう。
何が起きるかわからないから。
あたしは部屋に入ると全てのセキュリティーをチェックし、引き出しからタオル
を取り出して梨華ちゃんに投げた。
- 188 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月30日(月)22時30分59秒
- 「すぐに風呂の準備するから、そこに座ってて。
それと、あんまし動かないでね」
梨華ちゃんは『どうして?』という風に首を傾けた。
「この部屋、色々と仕掛けがあるんだ。
風呂準備したら説明するよ。ほら、さっさと拭いた拭いた、風邪ひくよ」
そう言って梨華ちゃんを床に座らせると、あたしは風呂の準備にとりかかった。
- 189 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月30日(月)22時40分38秒
「こんな感じ。とりあえず今言った所さえ気をつければ後は大丈夫だよ」
あたしは部屋に仕掛けたセキュリティーについて梨華ちゃんに説明した。
梨華ちゃんはあたしの言葉を聞き逃さないように真剣な面持ちで説明を受けた。
「すごいねぇ、これ全部ひとみちゃんがやったんでしょ?」
「まあね。備えよ常にってやつだよ。
ほら、もうそろそろ風呂いいと思うから早く行きなよ」
「え、でもひとみちゃんも濡れてるし・・・」
「あたしのことはいいの。さっさと行きなさぁい。
タオルとかパジャマは全部向こうに用意してあるからそれ使ってね」
「・・・うん、じゃあ先に失礼するね」
梨華ちゃんはまだ濡れた髪を後ろの持っていくと、あたしの頬に軽くキスをして行った。
あたしはニヤける顔を必死で押さえながら濡れた服を脱いだ。
そして部屋着に着替えようとした時、昔受けた傷が自然と視界に入ってしまった。
・・・もう見なれたはずなんだけどな。
自分の白い肌に刻まれた傷。
その上には梨華ちゃんがくれたペンダント。
雨はその全てを伝って体の下の方へと流れていく。
ひとみはペンダントを軽く握ると、部屋着に袖を通し食事の準備にとりかかった。
- 190 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月30日(月)22時55分56秒
簡単な夕食の準備が終わった頃、恥ずかしそうに俯いた梨華が風呂場から出てきた。
「あ、ありがとう」
梨華の声に反応して振り返るひとみ。
その顔は一瞬で真っ赤になった。
ひとみが梨華に用意したパジャマはも普段ひとみが着ている部屋着だ。
梨華よりも背の高いひとみの服は陶然梨華が普段着ている服よりもデカイ。
その大きめな着た梨華の姿は思わずひとみが見て赤面してしまう程に可愛いのだ。
濡れた髪も大きめなひとみの服の裾を恥ずかしそうにつかむその手もまるで梨華の為に
あるんじゃないかという程だ。
ひとみは梨華に見とれてた自分に気がつき、無性に恥ずかしくなってしまい、
自分の言葉でそれを隠そうとした。
「は、早かったね。すぐ御飯できるから座っててね」
「う、うん。でもひとみちゃんも早く入らないと風邪ひいちゃうよ」
「あたしは大丈夫だよ。さっき着替えたしさ」
「ダメだよ。いくら着替えたって体冷えちゃってるでしょ。
御飯の続きは私がやっておくから早く入ってきて」
そう言うと梨華ちゃんは強引にあたしの手からフライパンを取ると料理の続きを
始めた。
あたしは素直に梨華ちゃんの言葉に甘えて風呂に向かわせてもらった。
- 191 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月30日(月)23時07分42秒
- その後、風呂を出たあたしは梨華ちゃんと肩を寄せあうように御飯を食べた。
そして片付けをすると言い張る梨華ちゃんをベッドに座らせ、自分は後片付けをしてから
梨華ちゃんが座るベッドの隣に腰を下ろした。
「ひとみちゃんのベッドってひとみちゃんの匂いがするね」
「そりゃあたしのベッドなんだから当たり前だよ」
「へへっ、何かいい気持ち」
そう言うと梨華ちゃんはベッドの上にゴロンと横になった。
「ったく何言ってるんだか」
少し恥ずかしくてわざとぶっきらぼうに言ってしまう。
梨華ちゃんはそんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、体を起こすと
あたしの肩に自分の頭を乗せてきた。
「でも、やっぱりひとみちゃんが一番良い匂いがするね」
「はいはい、ありがとね」
「もう、すぐそうやって流すんだからぁ」
梨華ちゃんはほっぺをプクッと膨らませた。
あたしはそんな梨華ちゃんのまだ少し濡れてる髪を優しく撫でながら天井を見つめた。
- 192 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年09月30日(月)23時16分30秒
- 「・・・ありがとね」
「ん?どうしたの?」
あたしは梨華ちゃんの髪を撫でながら今日自分に起きたことを話した。
「今日さ、中澤さんが話してくれた内容聞いて又気失いそうになっちゃったんだよね。
これってさ、過去のこと思い出し過ぎて呼吸困難になっちゃうんだ。
まぁ、そんな時梨華ちゃんの声が聞こえてきて、梨華ちゃんの色々な顔が流れてきたんだ。
もうさ、こりゃ負けてられないぞ!ってなった。
あの過去は永久に忘れることなんてできないけど、それでも立ち直れたり、乗り越え
られるのは梨華ちゃんのおかげ。
だから、ありがとうって言っておきたかったんだ」
「・・・ひとみちゃん」
梨華ちゃんは肩から頭を上げてあたしの顔の方を見つめてきた。
「何そんな顔してんの、あたしは平気だよ。隣でこうして一緒にいてくれる娘が
いるんだからさ」
梨華ちゃんはあたしの体に抱きつくと、きつく抱きしめてくれた。
「ひとみちゃん、好き。大好き」
「うん、あたしもだよ」
この時、あたしは素直に好きという言葉を出せなかった。
だから代わりに梨華ちゃんの髪に唇を落とした。
- 193 名前:南風 投稿日:2002年09月30日(月)23時20分31秒
- 更新させていただきました。
何か日に日に更新量が減ってる感じになってしまって申し訳ありません。
手元のストックが何か不調なもんでなかなか進まんのです。
ので、ちょっとだけそっちに力入れさせていただいてます。
何だか書いてるうちにだんだんと長くなってきてしまってますが、
よろしければおつき合い下さいです。
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)23時34分35秒
- 初めてレスします。
いやあ、面白いです。今、更新が楽しみな作品のひとつですよ。
いしよしが憂いをこめつつ甘いのがいいです。
ダブダブ服の梨華ちゃん…。ツボが判ってらっしゃる!(w
マイペースで頑張って下さい。
- 195 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月01日(火)17時35分34秒
- 作者様のペースでいいですよ。マッタリ待ってます。
それにしても可愛いなぁこのふたりは(w
- 196 名前:南風 投稿日:2002年10月01日(火)18時42分49秒
- >194さま
ありがとうございます。
本日ちょっこり更新して頑張ります!
自分も梨華ちゃんのだぶだぶ服に・・・ふふっ
>名無しどくしゃさま
すいません&ありがとうございます。
ちょっちキリが悪いので今日少し更新してからストック溜めに入ります。
南風です。
皆様お気づかいありがとうございます。
何やら少しキリが悪いので、ちょっこり更新させてもらいます。
- 197 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月01日(火)18時50分33秒
- この日も飯田先生は休みだった。
春休み明けからずっと休み続けている為、代わりにウチらのクラスの担任は代わって
平家という先生が来ていた。
今日からしばらく会えないものだと思うと、今日くらい飯田先生に会いたかった
と思った。
いつも何気なく受けてる授業。
たまにダルくてボーッとしていたけれど、今日は特別に感じた。
これが最後かもしれないからだろうか。
教科担当の先生が『次ぎはここからだぞ』と言った台詞が頭に響いた。
昼休みはいつものように梨華ちゃんと肩を並べて弁当を食べた。
今日はあたしの手作りだ。
他愛もない話しをしているうちに昼休みは終わり、あっという間に午後の授業も終わった。
- 198 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月01日(火)19時00分08秒
- 「梨華ちゃん、ちょっと寄りたい所あるんだけど付き合ってくれる?」
ひとみが梨華に対してこのようなことを言うのは珍しかった。
不思議に思ったものの、断るはずもなく梨華は自分の鞄を掴むとひとみの横に
ぴったりとくっついて並んで歩いた。
ひとみが向かったのはもう使われていない校舎、旧校舎だった。
そこまでくるとひとみは梨華のことを先に屋上に上がらせ、目の前にある音楽室の
扉にかかってる鍵を針金を使って開け、中に入っていった。
「おまたせ」
ひとみはフェンスに寄り掛かり外を眺めている梨華に少し離れた所から声をかけた。
「あ、その場所でいいから」
自分の側に駆け寄ろうとする梨華のことを手で制して、ひとみは音楽室から持って
きたケースを開け、中から少し錆びたサックスを取り出した。
「久々だから、上手くないと思うけど笑うなよ」
梨華は少しだけひとみに近付き、ひとみが準備するのを黙って見つめていた。
ひとみは昔を思い出すように少し目を細めた。
- 199 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月01日(火)19時39分10秒
- 昔は寂しさを紛らわす為だけに夢中になって吹いていた。
それでも寂しさは増す一方で、やがて吹かなくなった。
それから随分たった。
今は寂しさを紛らわす為でなく、梨華の為に演奏したかった。
夕焼けの広がる屋上でそっと音を出してみる。
懐かしさと共に昔の感覚が蘇ってくる。
ひとみは吹いた。
今の気持ちを音色にのせて。
透き通るようなその音色は空いっぱいに広がり、まわりにあるモノを優しく包みこむ。
優しく、そして力強く。
ひとみの奏でる音色は空だけではなく、梨華の全身にも広がっていた。
ひとみの梨華に対する気持ちが痛い程伝わってくる。
梨華の意識とは無関係に流れる涙。
ひとみの音色に合わせるように、ひとみの周りを鳥達が羽ばたいている光景を
梨華は生涯忘れることはないだろうと思った。
夕日を体いっぱいに受け、燐とした姿のひとみはそれほどに美しかった。
- 200 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月01日(火)19時45分44秒
音の余韻に浸るようにひとみはゆっくりとサックスを下ろした。
梨華は流れる涙を止めることができず、ただそのぼやけた視界でひとみの姿を見つめていた。
ひとみの奏でる音は梨華の心にしっかりと語りかけていた。
『言葉なんてなくても』誰かが言った言葉の意味を実感した。
涙を拭う為に少し下を向いている間に、ひとみは梨華のすぐ近くまで近付いていた。
「へへっ、どうだった?」
少年のように笑うひとみ。
梨華は涙に声がつまって言葉が出せなかった。
だからひとみ抱きついて声を上げて泣いた。
ひとみは梨華を優しく抱きしめ続けた。
空が暗くなり、星が輝きだすまでずっと、ずっと。
梨華の温もりを忘れない為に。
梨華に自分の想いが伝わるように。
- 201 名前:南風 投稿日:2002年10月01日(火)19時49分02秒
- 更新しました。
またしても短いですが更新させていただきました。
これですっきりとした気持ちでストックにうつれます。
次回更新の時は急展開です。
ってか初めからそんな感じです。
ので、よろしくお願いします。
追伸:また絶えきれずここで書き始めたくなるよ病が発病したらすぐに書き込み
させていただきやす!
そいではまた・・・☆
- 202 名前:吉右衛門 投稿日:2002年10月01日(火)20時36分05秒
- 急展開に備えて、多くを語らず待ってます。
と、言いながら、ネット小説はきらいじゃ〜! いらいらする〜!
早く続きが読みたい! と、言う私がいる。
- 203 名前:南風 投稿日:2002年10月03日(木)22時34分25秒
- >吉右衛門 さま
御要望通りさっさか更新にしました(笑)
ので、読んでやって下さいな。
さて、あっという間に戻ってきてしまいました。
ストックが順調にたまってきたので書いていこうと思ってます。
先に言わせていただきますと、めちゃめちゃ早い展開です。
ので、もうちょっとじっくりとかいう要望があれば言って下さい。
できるかぎり頑張ってみますので・・・。
さて、前置きはこんぐらいにして更新させていただきます。
- 204 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月03日(木)22時42分27秒
- 「皆そろってるみたいやな、じゃあ始めるで」
矢口さん達が経営する店の地下に集まったあたし達は中澤さんの声のする方を向いた。
「皆久しぶりやな。こうやって全員が顔合わせる日が来るなんて昔は思いもしなかったわ」
中澤さんは地下に集まった全員の顔を見回した。
ここに集まっているのは全員中澤さんに拾われた人達だ。
後藤真希
ひとみの良き理解者である彼女は常に眠た気な表情をしているが、銃の腕前は
この中でもトップクラスだ。両手に構えた銃からくり出されるその技は見ていて
美しいとでさえ感じてしまう。
市井紗耶香
中澤の代わりに後藤のことを教育してきた。
主にナイフを使うことを得意としているが、ほとんどの武器を使いこなすことが
できる武器のスペシャリストだ。
矢口真里
キレのある頭脳を使い皆のサポートにまわるなくてなならない存在。
ここに集まったモノ達は必ず一度は矢口によって命を救われている。
ひとみの保護者のようなことをしてきた。
吉澤ひとみ
主に銃を使用するが、肉弾戦も得意とする。
最初中澤によって指導されたが、後は我流で腕を上げていった人物。
- 205 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月03日(木)22時50分48秒
- 数こそ少ないにせよ、ここに集まった5人はどれもこの道のプロなのだ。
数えきれない修羅場をくぐり抜け、命を賭けた生活を送ってきた。
それは人数に関係が無い程の実績と経験、そして力だった。
「石川言うたっけ?そんな隅の方で固まっとらんとこっち来いや」
隅の方で小さくなっていた梨華に中澤は優しい口調で話しかけた。
この場の空気は素人の梨華にでさえ分かる程張り詰めたものだった。
中澤の言葉に従い体を動かそうとしても、空気に飲まれ体は器官全てがその活動を
停止してしまったかのように動かない。
そんな梨華の様子をひとみは横目で捕らえると、ひとみ自身が張り巡らせていた
警戒網を一瞬だけ解き、梨華に向かって優しく微笑みかけた。
この誰も気付かない程の一瞬だった微笑みのおかげで梨華の体の器官はまた正常に
動き始めた。
早足でひとみのすぐ近くまで行くと、自分を落ち着かせるように胸の前で両手を
握りしめた。
- 206 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月03日(木)22時51分28秒
- 中澤だけがこの2人のやりとりを静かに見つめていた。
- 207 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月03日(木)23時07分35秒
- 「それじゃあ簡単に説明していくで。ますは組織のことや。名前なんて別についてないし
人数も対して多くないが、前にも説明した通りここは軍隊の予備軍みたいな所や。
そしてこの組織の中心人物まぁボスってやっちゃ。それが『つんく』ってヤツや。
ウチらの最終目標はもちろん組織の壊滅。
こいつらが拠点としている場所はあの有名な『富士の樹海』や。
ベタといっちゃベタやな。
今回、ヤツラが動き出す前にこっちからしかける。
ウチの拠点はここや。動いた方げええと思った人もおるかもしれんが、下手に
動いて時間を食うよりもここにベース張った方がええとアタシは思う。
これは時間との勝負や。組織の拡大を狙っていたヤツラがとたんに活動内容を
代えたってことは多分切り札みたいなモンが手に入ったからやろう。
だからそれが本格的に始動する前にこっちから叩く」
語る中澤さんの口調がだんだんと険しくなっていっていた。
「さっきも言った通りここを拠点にする。
矢口はここに残って皆に情報、作戦を伝える。
後藤、紗耶香、吉澤は好きに組んでええ、すぐに樹海に向かってくれ。
それと全員この通信機持って行け。
連絡手段はこれしかないからな」
- 208 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月03日(木)23時12分16秒
- 中澤さんは一息つくと全員の顔を見渡すように目を動かした。
「必ず生きてここにまた集まろう」
皆が無言で頷く。
「よし!じゃあ行くか」
言葉を切り出したのは市井さんだった。
この空気を打破するかのように明るくふるまっていた。
「うん!よぉし頑張るぞぉ!!」
ごっちんも市井さんの気持ちに答えるように拳を握り突き上げて笑顔で答えた。
「あの、あたしもすぐ行きますから先に行ってて下さい」
市井さんは不思議そうな顔を一瞬したが、あたしの後ろに立つ梨華ちゃんを見ると、
全てを理解したかのように頷いてくれた。
「じゃあ後藤、行くぞ!」
「うん!」
- 209 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月03日(木)23時21分15秒
- 市井さんは出て行く間際に中澤さんの肩を手を当てて何か呟いていった。
中澤さんは2人の方を振り返らずに口元に笑みを浮かべていた。
矢口さんは既に安倍さんを上に送る為に階段を上がっている。
中澤さんも影に消えるようにそっと出て行った。
あたしは自分のすぐ後ろに立つ梨華ちゃんの方に体を向けた。
「・・・ひとみちゃん」
梨華ちゃんはあたしが言おうとしていることが分かったのだろう、涙を溜めた目で
あたしを見つめている。
あたしは梨華ちゃんの肩を抱くとそっと自分の方へ引き寄せた。
「梨華ちゃん、あたし行ってくるよ。多分今のあたしじゃ梨華ちゃんのこと守りきれない
と思うから。だから、だからここで・・・」
「・・・うん。待ってる。ひとみちゃんのこと待ってる。
だから、必ず帰ってきてね」
梨華ちゃんは泣くのを我慢したように声を震わせながらあたしの胸に頭を押し付けた。
きっと一緒にいたいという気持ちは同じなんだろう。
それでも梨華ちゃんはあたしに迷惑がかからないようにと自分の気持ちを押さえ込んで
あたしの言葉に頷いてくれた。
「・・・じゃあ行ってくるよ」
2人が一緒にいれるようにする為に。
あたしは梨華ちゃんの体を強く抱きしめるとその華奢な体を自分から離した。
「・・.行ってらっしゃい」
梨華ちゃんはあたしの頬を両手で包み込むように触れると唇にそっとキスをした。
あたしはそんな梨華ちゃんの髪に優しく口付けをし、足早に地下を後にした。
- 210 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月03日(木)23時23分13秒
階段を駆け上がる自分の足が酷く重く感じた。
あたしは走りながら通信機の奥にいる矢口さん達に話しかけた。
「・・・矢口さん、安倍さん、頼みます」
あたしは前もって停めてあったバイクにまたがると、一気に飛び出していった。
- 211 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月03日(木)23時32分20秒
「ねぇねぇ、いちーちゃんはよし子達のこと知ってたの?」
後藤は助手席に座って流れる景色を眺めていた。
「うん?まぁ知ってるっていうよりもそうかなぁって感じかな。
何か吉澤初めて会った時より全然違ってたし」
「やっぱいちーちゃんもそう思った?よし子雰囲気変わったよねぇ・・・」
後藤は最後の言葉を遠くの方を見つめ小さく呟いた。
「何だ?やっぱ後藤は吉澤のこと好きなのか?」
「何言ってるの?後藤はいちーちゃん一筋だよ」
「ば、ば、馬鹿!お前こそ何言ってるんだよ!!」
「ぶ〜、馬鹿言ってないもぉん。あはっ、いちーちゃん照れてるんでしょ、そうなんでしょ」
「・・・2人も・・・丸聞こえだよ」
「あ、やぐっちゃん!そっか通信機かぁ、だからさっきよし子達のあんな会話聞こえたんだねぇ」
「ごっちん・・・それは聞こえてても言わないでよ」
「あ、よし子だ!」
「後藤・・・うるさい」
「あぁぁぁぁ!!いちーちゃんが怒ったぁ」
「・・・裕ちゃん、これどうやったらOFFにできるの・・・」
皆はそれぞれがリラックスできるように気を使いあっていた。
これから起こることを考えながら・・・
- 212 名前:南風 投稿日:2002年10月03日(木)23時34分50秒
- 本日の更新終了です。
明日は新展開というよりはちょっとある人達の過去を書こうかと思っています。
それが誰かはお楽しみに・・・。
それでは今日はこのへんで失礼いたしまぁす。
- 213 名前:吉右衛門 投稿日:2002年10月04日(金)12時56分44秒
- 今、私は神になりました!
神の言うことはきかなくてはいけません。
作者に命じます! 「よしりか」は幸せにしなさい!
はらはら、どきどきは良いが、幸せにしなくてはいけません!
念のため呪いを掛けておきました
幸せな結末以外は、キー入力出来なくしておきました。
- 214 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月04日(金)21時20分35秒
- オロッ。気になりますね過去。
そんでもって動き出しましたね。ついに。
楽しみです。ワクワク×1000
- 215 名前:南風 投稿日:2002年10月04日(金)23時49分35秒
- どうもどうも。
動き出した物語はとてつもないスピードで進んでおります。
手元のストックではこんなんなりましたぁ状態ですね。
今日は先日宣言した過去辺です。
>吉右衛門さま
キーは絶好調に動きましたよぉ・・・ってことは・・・
まだまだわかりませんよぉ。
残念ながらしばらく「よしりか」は出てこないんです。
でも・・・
気長に待っててやって下さい。
>名無しどくしゃさま。
動きださせていただきました。
今日を過ぎると早すぎる程動いて行きます。
ワクワク裏切らないように頑張ります。
んなもんで夜も遅くなってきましたが更新させていただきまぁす。
- 216 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)00時06分42秒
- ひとみ、市井、後藤、中澤が移動している間、なつみは1人掃除をしていた。
矢口は今しがた地下に戻ったばかりだ。
いつかはと覚悟していたなつみの表情はいつものお日さまのような笑顔ではなく、
どちらかというと曇り空といった感じだ。
「・・・安倍さん」
少し離れた所から梨華の声が聞こえ、なつみが顔を上げると、目を真っ赤に染めた
梨華が安倍と随分距離をとって立っていた。
なつみは掃除していた手を止めるといつものお日さまのような笑顔を浮かべて梨華に
近付いていった。
「どしたぁ?そんな真っ赤な目して。
せっかくの可愛い顔が台なしだべよ」
なつみが自分より背の高い梨華の頭を優しく撫でる。
梨華の髪からは甘いシャンプーの匂いと、薄くひとみの匂いがした。
「・・・安倍さん・・・あたし、あたし・・・」
梨華は溢れ出す涙を止めることができず、なつみの胸に崩れるように飛び込んで行った。
なつみはそんな梨華のことを子供をなだめるように床に膝をついて優しく抱きしめてやった。
「あたし、ひとみちゃんのこと信じるって・・・思いたいはずなのに・・・
思いたいのに・・・何か、不安で・・・ひとみちゃん・・・の、こと・・・」
「・・・梨華ちゃん。不安なのはきっと皆同じだよ。
よっすぃだって、ごっつぁんだって、紗耶香だって、矢口だって、裕ちゃんだって
・・・なっちだって」
- 217 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)00時14分37秒
- 「・・・安倍さんも?」
「そうだよ、なっちだって不安なんだよ。でもね、なっちは矢口が大好きだから
・・・少しでも不安とか取り除いてあげたいから。
なっちは非力で頼り無いから信じて待ってることしかできないの。
だからね、待っててあげる時には矢口のこと安心させてあげたいの。
今矢口は下で必死に頑張ってる。
なっちは頑張ってる矢口に笑顔で『おかえり』って言ってあげたいんだ。
それがなっちのできることだと思ってるから。
なぁんてちょっとキザだったかな?
梨華ちゃんはよっすぃのこと好きなんでしょ?
だったら梨華ちゃんも笑顔で迎えてあげよう。
きっとそれをよっすぃも望んでると思うよ」
「・・・はい」
梨華は目に涙をいっぱい溜めて、無理に笑顔を作って頷いた。
無理につくった笑顔が自分の過去と重なった。
きっとこの娘はまだ苦しんでいるんだ。
なつみは梨華の頭をポンポンと叩くと、梨華の手を取って立ち上がらせた。
- 218 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)00時20分34秒
- 「よし、じゃあ今日はなつみお姉さんがお話を聞かせてあげよう」
きょとんとする梨華をソファーまでつれていく。
「はい、座って座って。今飲み物持ってくるからね。あ、何飲みたい?」
「え・・・何でもいいです」
「はいよ〜、じゃあちょっと行ってくるねぇ」
そういうとなつみはカウンターへと向かっていった。
梨華はソファーにゆっくり座ると、ひとみの温もりを求めるよに自分の耳について
いるピアスに触れた。
冷たいはずのピアスが何故か温かく思えた。
「はい、おまたせぇ。紅茶で良かったかな?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「いいっていいって。なっちの煎れた紅茶はおいしい〜よ〜」
なつみはいつものお日さまのような笑顔を浮かべると、紅茶を一口飲んだ。
梨華も続くように口に紅茶を含む。
「よし、それじゃあお話タイムスタート〜」
間延びした声が店内に響き渡った。
- 219 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)00時27分03秒
- 「昔々っていってもそこまで昔でない昔。小さな小さな高校生の女の子がおりました。
その女の子は北海道からの転校生でした。
両親が他界してしまった為、東京に住んでいる親戚のところへ引っ越してきたのです。
その女の子は鈍りこそ抜けることがなかったものの、東京の暮らしにも大分慣れ、
毎日を楽しく過ごしておりました。
女の子、3年生の冬。
女の子にまたしても不幸が降り注ぎました。
親切にしていてくれた親戚の人達が交通事故で他界してしまったのです。
女の子はショックのあまり泣き崩れました。
もう身寄りのない女の子はこれから住むべき家を探さなければいけません。
今月いっぱいで家を出ていかなければならないからです。
女の子は流れる涙を必死で止めて、家探しを始めました。
何日も何日も歩き続け、何日も何日も学校を休みました。
- 220 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)01時00分02秒
- そんな日が続き、今年も終わろうとしていた日のことです。
1人の小さな娘が女の子の家を訪ねてきました。
その娘は女の子のクラスメイトでした。
いつも明るく、皆に元気を与えるような娘です。
女の子も何度か話したことがありました。
その娘が突然やってきたのです。
女の子は驚いて声も出ませんでした。
しかしずっと玄関にいさせるのも悪いので、家の中へとその娘を連れていきました。
暖房もろくにいれられないので、女の子は台所で火にやかんをかけました。
その娘はいつものように明るい調子で女の子に話しかけてくれました。
女の子が休んでる間のプリントや通知表も持ってきてくれてました。
その娘はずっと学校を休んでいた女の子が気になってしょうがなかったようです。
何度も何度も家に来てみたものの、女の子が毎日朝から晩まで歩き回っていたせいで
行き違いになってしまっていたのです。
女の子はそんなこの娘の気持ちが嬉しくて、思わず泣いてしまいました。
そして今まで抱えこんできた不安とかを思わず話してしまいました。
その娘は女の子のことをしっかりと抱きしめてくれました。
女の子が泣きやむまでずっとずっと。
泣き止んでからもずっとずっと。
眠りにつくまでずっとずっと抱きしめててくれました。
- 221 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)01時05分21秒
- 女の子が目を覚ますと、その娘はにっこりと笑って『おはよう』と言ってくれました。
女の子は『おはよう』という言葉がこんなにも素敵な言葉だとは思っていませんでした。
だから女の子はありったけの気持ちを込めて『おはよう』って言いました」
ここまあで一気に話すと、なつみはすでに冷えきってしまった紅茶を少し飲んだ。
梨華はここで口をはさむのに戸惑ったが、なつみの笑顔に促されて思いきって口を開いた。
「今の話しって・・・安倍さんと矢口さんのことですか?」
「そだよ。なっちと矢口のちょっと昔のお話だよ。まだなっちが自分の気持ちに気付いてなくて、
まだなっちが矢口の気持ちに気付いてない時のお話」
なつみは紅茶をもう一口飲むと話しを再開させた。
- 222 名前:南風 投稿日:2002年10月05日(土)01時07分23秒
- 更新しました。
ここからはちょっと長いので、明日にでも続きかかせていただきます。
中途半端でごめんなさい。
明日はやぐなち過去偏パート2です。
- 223 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月05日(土)15時23分06秒
- ム。なっちも訳ありだったのですね。ホロホロ。
- 224 名前:南風 投稿日:2002年10月05日(土)22時13分26秒
- >名無しどくしゃさま
ちょっとわけあり者ですね。
今日は矢口となっちの過去をもうちょい語らせていただきます。
ってなわけで更新させていただきます。
- 225 名前:南風耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)22時20分45秒
- 「なっちさ、矢口が1人暮らししてるなんて知らなかったのさ。
多分クラスの娘達も知らなかったと思うよ。矢口は絶対にプライベートのこと話さなかったから。
矢口が来てくれてなっちが思いっきり泣いた日に矢口『よかったら家来ない?』って
言ってくれたんだ。
なっち何も知らなかったから『家の人は?』って聞いちゃったの。
そしたら矢口は一人暮らししてるって教えてくれたんだ。
これが初めて聞いた矢口のプライベートネタ。
最初はなっちも断り続けてたんだよ。
ただのクラスメートにそこまでしてもらうなんて悪いじゃん。
でもね、矢口は何時間も何時間もなっちのこと説得してくれたの。
朝だったのが夜になってた。
なっちはついに矢口に甘えさせてもらうことにしたわけさ。
その日のうちに少ない荷物まとめてお引っ越し。
人生で2度目のお引っ越しだねぇ。
- 226 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)22時30分49秒
- 矢口の家はすごく矢口らしい!って感じ。
ギャル一色なのさ。なっち驚いちゃって口ぽか〜んって開けてたら矢口がなっちを
おこたの所に座らせて、少し照れくさそうに笑ってなっちの為にお風呂わかしてくれたんだ。
それからは矢口の家から学校に通ったよ。
もちろんプライベートを喋らない矢口だから、なっちも矢口の家に住ませてもらって
るなんて言えないし、今までのようにクラスではあんまし喋らなかったんだ。
それがなっちのできる限りの矢口に対するお礼だった・・・けど実はちょっと寂しかった。
一緒に暮らし始めてから2ヶ月くらいたった時ね、いよいよ卒業だよぉって時に
なっちはいつものように矢口のこと部屋で待ってたんだ。
矢口は学校が終わると一度家に戻って着替えたらすぐどっか出かけちゃうの。
早く帰ってくる日もあれば遅く帰ってくる日もあった。
なっちもね、一緒に暮らし始めた時にバイトしようって思ってたんだけど、すごい
勢いで止められたんだ。
びっくりしたよぉ。あんな一生懸命な矢口って学校じゃ絶対に見たことなかったからさ。
その時ね、なっちに家で矢口が帰ってくるのを待っててって言ったの。
すごく真剣な顔して、その後すごく良い笑顔浮かべて。
- 227 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)22時37分57秒
- あ、そうそう卒業間近の話しだったよね。
なっちさ、いつものようにずっと矢口の帰り待ってたの・・・」
チックタックチックタック・・・
チックタックチックタック・・・
「ふぅ〜」
チックタックチックタック・・・
ぼ〜んぼ〜ん
「あ・・・」
チックタックチックタック・・・
チックタックチックタック・・・
なつみは部屋の机につっぷしながら矢口の帰りを待っていた。
この部屋には似つかわしくないこの音を一体何回聞いたんだろう?
遅く帰ってくる日だって、ここまで遅くなるなんてなかった。
あったとしても必ず連絡をくれるか何かしてくれる。
「矢口〜どうしたんだべ〜」
なつみは大きな独り言を呟いた。
ガチャ・・・
玄関から鍵を開ける音が聞こえ、なつみは大急ぎで走った。
そしてあまりの驚きで足がすくみ立ち止まった。
「・・・矢口」
- 228 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)22時46分08秒
- 玄関では太腿からの出血で動けずに倒れている矢口の姿があった。
「す、すぐ救急車呼ぶから」
あまりの驚きですぐ行動できなかったなつみだが、矢口の呻き声で我にかえり、
すぐ電話のある所へ駆け寄ろうとした。
「まって・・・病院は・・・ダメ」
力無く言う言葉だったがそこには言い表せぬ何かがあり、なつみは矢口の方に向き直った。
「なっち・・・病院は・・・」
なつみは大急ぎで矢口の所に戻ると、矢口を引きずるようにベッドまで運んだ。
その後のことはあまり覚えてないが、ひたすら夢中で矢口の怪我の手当てをして、
矢口が流してきたであろう血を拭った。
それは部屋の前から道路に至るまでだ。
ともかく薄暗いうちにという気持ちが不思議とあった。
部屋に戻ると寝息が聞こえた。
時折矢口から発せられるうめき声は、なつみにどうしようもない不安感を押し付けていった。
額にのせたタオルを冷たい水に浸して取り替えるという作業を何回もくり返した。
足に巻いた包帯も何回も取り替えた。
本当は汗をかいているシャツも取り替えたかったのだが、矢口がそれを拒否し続けた。
- 229 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)22時53分24秒
- 「・・・」
矢口の熱はなかなか下がらなかった。
ひょっとしたら怪我をした所が膿んでるのかもしれない。
なつみは昔、母に教わった手当ての仕方を必死で思いだしていた。
その間も矢口は相変わらず額に汗を浮かべて呻き声をあげている。
「一回包帯取るからね」
なつみは確認を取らずに矢口の膝を無理矢理曲げさせた。
思わず矢口の口からは声が漏れる。
かまわず包帯を取る。
手当てがよかったのか、出血はほぼ止まっていた。
改めて傷を見ると、それは銃創だった。
昔母が持っていた医療関係の本で見たことがあったので瞬間的にそう思ったのだ。
太腿の反対側も見てみる。
こっちにも同じような傷があった。
銃弾はどうやら貫通したらしい。
よかった、もし貫通しきってなければ自分が弾丸を摘出しなければならなかったのだ。
さすがにそこまで自信はない。
- 230 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)23時03分21秒
- なつみは舌を噛まないように矢口に無理矢理タオルをくわえさせた。
「痛いと思うけど我慢してね」
深呼吸をして改めて傷を見てみる。
今家の中でできることなんて限られているがやるしかない。
救急箱に入っていたオキシドールに手を伸ばす。
ちょっとした傷でも大袈裟な程に染みて痛がっていた自分を思いだした。
傷よりも上の方にタオルを当てる。
矢口がタオルを持っているなつみの手に自分の手をのせ、汗で濡れた首を上下に動かした。
なつみは矢口の額にはりついた前髪をそっとかきあげた。
ともかく消毒をしないことには始まらない。
さっきは止血に夢中で消毒をしていなかったのだ。
なつみはもう一度深呼吸をすると、傷口に一気にオキシドールをかけた。
なつみを掴む手に力がこもり、口からは息が漏れる。
逆海老反りになった上半身が矢口の痛みの凄さを物語っているようだった。
普段はふざけてでしか痛みを表現したことのない矢口が初めて見せる苦痛の表情だった。
変わってあげれるものなら変わってあげたい。
タオルは矢口の血とその血のまじった液体が染み込んでいく。
傷からはオキシドールを使った時に表れるあの独特の泡が浮かんでいた。
- 231 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)23時14分51秒
始めかけたオキシドールが大分傷に染み込んだのだろう、泡は消えかけていた。
なつみはもう一度同じ所を消毒した後、矢口の体位を変えて太腿の裏から同じように
消毒をした。
矢口のことをかかえるように支えていたなつみに思わずしがみつく矢口は気付かぬうちに
なつみの背中に爪をたてる。
なつみは矢口えおなだめるように力強くそして優しく抱きしめ続けた。
耳元では矢口の熱っぽい息づかいが漏れた。
同じことを何度かくり返し、なつみはもう一度傷の手当てを丁寧していった。
オキシドールと血ですっかり染まったズボンを脇からハサミを入れて切っていく。
ここまできて羞恥心も何もあったもんじゃない。
と言っても下着まで取ることができなかったのはなつみらしいと言ったらなつみらしい。
矢口の露になった下半身になつみは綺麗な毛布をかけた。
相変わらず苦しそうな表情を浮かべている矢口だが、なつみが髪を優しく撫でて
あげると、少し笑ってくれた気がした。
それからもずっと額のタオルを取り替えて何度か傷口の包帯も巻き直した。
本当は今すぐにでも病院につれて行きたかったが、あの銃創を見た後だとさすがに
聞くことができなかった。
- 232 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)23時20分59秒
- 矢口の息づかいが少し落ち着いた頃、駄目もとでもう一度シャツを取り替えて良いか聞いてみた。
矢口はしばらく考えてからなつみの手をとる。
そして熱で掠れた声でゆっくりと喋りだした。
「・・・なっち・・・なっちは、矢口の過去・・・受け止められる・・・?」
意味がわからなかった。
今まで一度も自分のことを語ろうとしなかった矢口が突然何を言い出すんだろうと思った。
それでも、こんなに真面目な矢口の表情を見ているとそれが安易に頷いていいことでは
ないということはわかった。
矢口と過ごした数カ月を思い出してみる。
いつも当たり前のように側にいてくれた。
悲しさに明け暮れてた日も、寂しさに涙した日も、いつでも一緒にいてくれた。
なつみにとって矢口という存在は空気のようだった。
なくてはならない存在。
失うことなんて考えられない。
結論なんて決まっていた。
- 233 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)23時26分17秒
- 「後は梨華ちゃんもよっすぃ〜から聞いてると思うけど、矢口は裕ちゃんに拾われたんだって。
矢口は裕ちゃんに拾われた娘第一号だったんだってさ。
その時の話しはなっち1人で詳しく話すことできないけど、ともかくあの事件があって
なっちは矢口に対する気持ちに気付いたわけさ。
矢口が大好きだって言ってくれた笑顔でずっとずっといようって思ったんだ。
好きって理屈じゃないじゃん。
好きだから不安になるのは当たり前なんだよね。
自分の心の中をしめる比率が大きすぎるんだもん。
不安にならない方がおかしいっしょ。
梨華ちゃんさ、なっちでよければいつでも話し聞いてあげられるよ。
なっちは小さいけどお姉さんなんだからさ」
なつみは梨華の頭をぽんぽんとたたいた。
- 234 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月05日(土)23時30分18秒
- 梨華は嬉しくて泣いてしまった。
「ほれほれすぐに泣かないの。そうだ、なっち特製のおいしいお菓子伝授してあげようか」
梨華は素直に頷いた。
不安なのは自分だけじゃなかった。
そんなのわかっていたはずなのに実はわかってなかった。
自分のことでいっぱいいっぱいになって周りが見えてなかった。
安倍さんはそのことに気付かせてくれた。
すごく遠回りだったけど、自分に考える時間を与えてくれた。
ヒントをくれたみたい。
ひとみちゃん。
私、笑顔で『おかえり』って言えるように頑張ってみるね。
何か頑張るって言ったら違う気もするけど、頑張ってみるからね。
それで、帰ってきたら沢山お話しようね。
- 235 名前:南風 投稿日:2002年10月05日(土)23時32分41秒
- 更新終了です。
最初のタイトル間違えてしまってごめんなさいい・・・。
また誤字脱字が多かった・・・。
反省一色の南風でした。
これで矢口&なっちの過去偏は一応終わりです。
いつかはもっと詳しく書くかもしれませんがとりあえず今ンところはここまでです。
ふいふいふい!!
- 236 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月06日(日)00時32分15秒
- 今日全部読ませていただきました。
素晴らしい作品だと思います。。
これからも更新、楽しみにしてます…
市井ちゃんと後藤さんの過去の話も書いて欲しーな…
なんて言ってみたり。あ、でも話的にあんまし重要じゃないっか…
- 237 名前:吉右衛門 投稿日:2002年10月06日(日)10時31分03秒
- しっとりとした物語の流れ、フランス映画の世界ですね。
只、フランス物は痛い結末が多いので、ちょっと心配です。
HN改名しました、今後もよろしく♪
「よしりか」いつまででも待ってま〜す。
- 238 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月06日(日)10時32分24秒
- ↑
HN入れ間違いました。
- 239 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月06日(日)18時53分27秒
- 痛そぉ。リアルですよね。作者様が書くのは。
ホントお疲れ様です。アト、誤字脱字はあまり気になさらずに^^
- 240 名前:南風 投稿日:2002年10月06日(日)23時29分20秒
- >236さま。
ありがとうございます。
そう言っていただけると嬉しいです。
市井&後藤過去話しはこの区切りがついた時か番外偏として書きたいなぁって
思ってます。ので、その時はよければ読んでやって下さい。
>吉右衛門改めひとみんこさま
こちらこそよろしくお願いします。
「よしりか」お待ち下さい。
区切りついたらまたこっちの方も出発します☆
>名無しどくしゃさま
ありがとうございます。
誤字脱字、なるたけ少なく・・・いや、無くす方向で頑張ります。
へへっ
皆様レス本当ありがとうございます。
このレスのおかげで南風は頑張っていけます。
今回からの更新はありえない程に転がっていきます。
宣言しちゃいました。
実は結構戦闘シーン苦手みたいで・・・。
何か『こうして』とかあったらがんがん言って下さい。
そいでは更新させていただきます。
- 241 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月06日(日)23時40分43秒
- 市井達は順調に進んでいた。
夜ということもあり予想以上に早く進めているのだ。
「それにしてもやぐっちゃんのナビは本当さ行こうだねぇ」
後藤はさっきから何度も眠そうに目をこすっていた。
「誰かさんと違って正確で分かりやすくて間違わないからな」
「あぁ〜いちーちゃん酷いよ〜」
自分の方に寄り掛かってくるように体を預けてくる後藤から聞こえてくる
いつもよりも長過ぎるといって良い程間延びした声。
無理してるのがまるわかり。
ったく眠いあら寝ちゃえばいいのに。
「後藤、寝てていいよ。どうせもうちょい車移動続くんだからさ」
「えぇ〜でもぉ、後藤が寝ちゃったらいちーちゃん寂しいでしょ〜」
「寝れる時に寝るってのは常識だろ?それにそんな眠そうな声聞いてるとこっちまで
眠くなってくるんだからさ」
「うぅ〜・・・でもぉ・・・」
「・・・ったく世話のかかるやつだなぁ」
市井は無音だった車内に、自前のMDをかけた。
「これ、とっておきなんだからな」
静かに流れ出した音楽は後藤が聞いたことのない音楽だった。
優しい曲調。
それでもその中に感じられる力強いサウンド。
まるで市井のようだと後藤は思った。
- 242 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月06日(日)23時45分51秒
- 「ほら、ささっと寝た寝た。寝なきゃお前力でないだろ?」
「・・・いちーちゃん」
「何だよ。これかけても寝れないのか?」
「・・・うんん。おやすみぃ」
「はいはい、おやすみ」
後藤は嬉しそうに目を閉じた。
本当は市井がかけてくれた音楽をじっと聞いていようと思ったのだが、目を閉じた
瞬間に眠りに落ちてしまった。
「ふぅ、やれやれって感じだな」
市井の顔には言葉とは裏腹に笑顔が浮かんでいた。
「じゃあ矢口、引き続きナビよろしくな」
通信機の奥では矢口が楽しそうに『ラジャー』と言った。
- 243 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月06日(日)23時49分45秒
- その頃ひとみは梨華のことが気になりながらもバイクを走らせていた。
やはり自分の目の届かない所にいる梨華が気になってしょうがないのだ。
中澤の前例もある。
それでも自分の決断に間違いはないと思った。
ひとみは自分の首にかかっているネックレスを肌で感じようと、服の中にしまいこんだ。
風を受ける体、耳から聞こえる市井の流した音楽。
そして梨華の分身ともいえるネックレス。
ひとみはそれを全て感じながらバイクのスピードを上げた。
- 244 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月06日(日)23時51分06秒
暗かった世界に光りが差し込み、この世界は明るくなった。
- 245 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月06日(日)23時56分25秒
- 市井は車を人目のつかない所に停めると、体中に装備した武器を簡単にチェックした。
それを10秒程で終わらせ肩と腰に鞄をひっつける。
そしてもう一度体を動かして、動きに無理がないかを確かめた。
後藤の方もまだ眠そうな目で自分の使う銃をチェックする。
まだ朦朧としてるせいか、銃を手から落としてします。
それを焦らずにゆっくりと前屈みになって拾う。
こんなことを最低3回はくり返す。
ただ遊んでるようにしか見えない動作を市井は横目で見ていた。
「行くよ」
「うん」
2人は森の中に姿を消していった。
- 246 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)00時01分42秒
- 市井達に遅れること10分。
ひとみもポイントに到着した。
バイクを停めると小さなヒップバッグの位置を少しいじって直す。
銃を調べて体も動かす。
ずっと同じ姿勢でいたせいで固まりかけていた体をほぐすようにストレッチを簡単にし、
胸に手を当ててコンコンコンと拳で叩く。
大きく深呼吸をして気持ちを引き締め直すと森の中へと足を踏み入れた。
- 247 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)00時11分06秒
- 「侵入者探知しました」
無気味な森の中に建つ建物。
外見だけだったら2階建てにしか見えないが、地下には3階程使って研究などを
行う施設が設けられている。
その地下3階で頭に数本のコードをくっつけた少女が機械的な口調で報告をした。
「どうせまた興味本位で入ってきたとか自殺志願者なんじゃないの」
「それにしては熱反応がなさすぎます」
「冷静ってこと?」
「そうです」
「わかった。じゃあ引き続き監視をお願い」
「了解しました」
今監視という役目をしている少女は新垣里沙という。
この施設の最年少だ。
脳に直接コードを繋ぐことにより外部の情報を熱情報として見ることができるのだ。
「ただいまもどりました」
独自の鈍りのある少女が部屋に入ってきた。
「おかえりなさい。そうだった?」
「この建物付近には異常ありませんでした」
「そう、さっき新垣から森に侵入者がいるって報告うけたから、一応情報部隊を
森に飛ばしておいてくれる?それで1時間後にここに集合させて」
「了解しました。じゃあ里沙ちゃん行ってくるねぇ」
「気をつけて」
高橋の言葉に新垣は機械的な口調で答えた。
そんな新垣を見て、高橋は寂しそうに誰にも気付かれないようにため息をついた。
- 248 名前:南風 投稿日:2002年10月07日(月)00時14分10秒
- 短いですが更新しました。
何か始めに吉澤視線とか言っておきながら、今回の話しは市井達の方が
文章多くなってしまってます。
理由は2人なので動かしやすいのです。
めちゃ単純です。
さらにかなり早い展開です。
駆け足ですがよろしければ今後もおつき合い下さい。
- 249 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月07日(月)16時11分24秒
- 駆け足になりそうなので、ランニングウェアに着替えて待ってます。
よしこ視点が無くてもいいですよ。
こちらで勝手によしこ視点で妄想してま〜す。
- 250 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月07日(月)17時18分57秒
- た、大作だぁ。
ニイニイ…。4人とも頑張れー。作者様もガンバー。
- 251 名前:TRUE 投稿日:2002年10月07日(月)19時37分26秒
- 南風さん!どーも銀板のTRUEです。
これおもしろいっスね〜!!お互いファイトっス!
- 252 名前:南風 投稿日:2002年10月07日(月)21時39分33秒
- >ひとみんこさま
ランニングウェア着用で首にはタオルでお願いします(笑)
そしてすみません&ありがとうございます。
ひとみさんにはこれからちょこちょこ頑張ってもらいます。
>名無しどくしゃさま
大作だなんて言っていただけて嬉しいッス☆
皆頑張って南風も頑張らせていただきます!
>TRUEさま
ありがとうございます。
そんでもって頑張ります!!
うわぁい☆
皆様のレスのおかげで元気いっぱいで。
本当にありがとうございます。
今日もがんばります。
いや、頑張らせていただきます!!!
- 253 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)21時44分42秒
- 日が登っているはずなのに森の中はじめじめとしていた。
早足で目的の場所へと向かう市井達に少し汗をかかせ始める。
この樹海に入ってからすでに4時間以上がたとうとしていた。
何歩進んでも見える景色は全て同じ、空にあるはずの太陽の光りは地上にほとんど届かない。
ったくここにいると神経がいかれそうだな。
市井は少し歩くペースを上げた。
後ろからは後藤がそれに合わせるように歩みを進めた。
- 254 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)21時50分21秒
- ひとみは歩きながら、途中途中で見たモノのことを考えていた。
この樹海に入ってすぐの所では、明らかに若者が度胸試しをしたであろうという
酒ビンや煙草のカスが目についた。
奥に行くにしたがってそこに転がるものは度胸試しというものではなく、最後の晩餐を
楽しむ為と感じられるものに変わった。
高級そうな一升瓶に、その側に落ちているネクタイ。
そして片方だけの靴。
野犬がくわえていったのかもしれない。
自分も中澤さんに拾われなければここに来てひっそりと命を断とうと思ったのだろうか。
梨華ちゃんに出会わなければいずれはこうやって命を断とうとしたのだろうか。
・・・命か。
何故だか軽く笑いたくなった。
- 255 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)22時00分28秒
- 「侵入者のうち2人の熱反応が上がりました」
最初の報告を受けてから4時間あまり。
侵入者と呼ばれたモノ達は確実に何か目的を持って動いていることが今の報告で判明した。
高橋達情報部隊からの報告では何も手がかりが得られなかったが、それは3時間も前のことだ。
ここに近付くには十分すぎる程の時間。
・・・。
不本意だがやるしかない。
たてつこうものなら大事な何かを失うことになる。
『敵意のある侵入者は排除せよ』
これがさっき受けた命令だ。
大分成長してからここの訓練を受けた分今いる人よりも素直に受け入れることができなかった。
しかしそれを話せる相手はここにはいない。いや、いなくなったと言った方が適格かもしれない。
自分にとって国なんてどうでも良い存在だ。
忠誠心なんてクソくらえ。
それでも大事なものがここには沢山あるのだ。
小さな小さな宝物達。
その宝物を守れるのは自分しかいない。
ここで下手に動いて失うなんてことはしたくなかった。
「・・・辻と加護を呼んで」
不本意だがやるしかないのだ。
今はこれが最善の策なのだ。
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
- 256 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)22時08分14秒
「ねぇ、いちーちゃん。ちょっと待って」
突然後藤がその足を止めた。
「この土、誰かが踏んでからあまり時間たってない土だよ」
後藤が指指した場所にはほんのわずかな靴の跡があった。
前を歩く市井が気付かない程わずかな跡だが、それは確かにまだ踏まれてわずかな
時間しかたっていないモノだった。
こういったわずかな情報を見つめるのは決まって後藤だ。
本人は偶然と言うが、偶然はそんなに続くものではない。
これは天性のモノだと市井は思っていた。
「近いんだろうな」
「・・・小さい足跡だね」
後藤の言葉でプロの市井紗耶香から、ただの市井紗耶香になりそうになった。
・・・覚悟を決めろ。
これ以上大切なモノを失っちゃいけない。
・・・自分の存在意義はこの娘を守ること。
「行くぞ」
市井と後藤は振り返ることなく進んだ。
そう、迷ってはいけないのだ。
失わない為には止まってはいけないのだ。
・・・自分はもう止まることはできないんだ。
- 257 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)22時12分58秒
- 市井達が足跡を見つけていた頃、ひとみも同じように不思議なモノを見つけていた。
後藤の言葉はひとみにももちろん聞こえている。
少しだけ心を落ち着かせようとした。
その見つけたモノとは彼女の好きな色の花だった。
この薄暗い森の中で不自然な程に咲いた一輪の花。
誰かが故意的に植えたのであろうか。
そこだけ森が輝いているようにみえた。
その花にそっと触れた後、ひとみは自分の思考を停止させるように駆け出した。
- 258 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)22時21分20秒
「侵入者に新たな熱反応を感知しました」
新垣が座っているフロアには戦闘部隊の辻と加護がすでに到着していた。
その小さな体には不釣り合いな迷彩服を来、腰には銃を装着している。
「全員で3人でええんですか?」
加護が誰の答えを求めるわけでもなく口を開いた。
「辻は悪者を退治するのれす」
辻は正義に燃えるヒーローのように拳を握りしめた。
そんな2人を見て心が痛んだ。
歪みそうになる顔を必死でこらえた。
「それじゃあののはどっち行く?ウチはどっちでもええで」
「えぇ〜あいぼんと別れなくちゃいけないんれすかぁ?」
「しゃあないやん。2手に別れててくるんやもん」
加護はさも当然といった感じで辻のことを見た。
辻は眉間にシワを寄せながら難しい算数の問題を出題された小学生のような顔をしている。
「あの、あたしも参加しちゃダメですか?」
情報部所属の小川が部屋に手を上げながら入ってきた。
「やっぱ辻さんと加護さんは一緒の方が良いと思うんです」
- 259 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月07日(月)22時29分16秒
- 情報部所属とはいえ、小川はまめに戦闘訓練を受けている。
高橋には及ばないもののそれなりに力はあるかもしれない。
「侵入者、半径3キロ以内に入りました」
時間が無い。
自分よりも年令の低い子供を送るのにはやはり抵抗があるがやらなければならない。
「辻加護の目標は東。小川の目標は西。双方情報収集もしくは始末が済みしだい
すみやかに戻ってくること」
小川は『了解』と言うとすぐに部屋から出ていった。
加護も同じよに『了解しましたぁ』と言うと扉の方に向かって歩き始めた。
辻は少し黙ってからこっちに向かって歩いてきた。
「辻は頑張ってくるのれす。だからそんな悲しそうな顔しないでくらさい」
そう言って抱きついてくと、すぐにテヘテヘと笑いながら加護の元に走っていった。
そんな辻のことを『遅いわっ!』としかりながら加護は辻の手を握って出ていった。
3人が出ていくと、皆がまた仕事に戻っていった。
「侵入者、半径2キロ以内に入りました」
- 260 名前:南風 投稿日:2002年10月07日(月)22時31分21秒
- またまた少量ですが更新しました。
書いておきながら結構苦手な分野であることに気付く今日この頃・・・。
できるかぎり頑張りますので温かい目で見守ってやってて下さい。
- 261 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月08日(火)16時00分14秒
- こういう場面の情景描写は、ほんとに難しいですよね
画像でも難しいのに、文字となるとなおさらですね。
でも、緊迫感、伝わってます、がんがってくらはい。
- 262 名前:TRUE 投稿日:2002年10月08日(火)16時44分50秒
自分とは比べ物にならないぐらい文筆が上手いですね〜。尊敬します!
是非弟子にしてくださいっ!!w頑張ってください(^O^)
- 263 名前:南風 投稿日:2002年10月08日(火)21時39分54秒
- >ひとみんこさま
そうなんですどうにも難しいのです・・・。
そして、緊迫感が伝わっているなんて言っていただけて嬉しいかぎりでございます。
>TRUEさま
そんな(照)でもありがとうございます。
そしてむしろこちらこそ弟子にして下さいですよ!!
そんでもって頑張ります!!
どうもどうもでありがとうございます。
レスって本当に嬉しいものなんですよねぇ。
さぁて今日も頑張りやすすすすすっ!!
- 264 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)21時46分47秒
- 樹海を早足で歩く市井の胸に何かが起こるという予感がしていた。
落ち着いた鼓動の中に響く低音の心音。
後藤に目で合図し、足にくくりつけているナイフに手をかけ、歩く速度を遅くして
体の全神経を使って周りの情報を集めた。
「・・・来る」
後藤だけではなくひとみ、矢口、中澤に伝えるように市井は口を開いた。
瞬間、市井の立っていた所に銃弾が撃ち込まれた。
市井は横に飛び、後藤は市井とは反対方向に飛んだ。
- 265 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)21時52分38秒
- 時を同じくしてひとみも人の気配を感じていた。
相手はこちらの動きを伺っているようについてきている。
このまま走り続けて目的地まで行っても良いのだが、下手に近付き過ぎて敵の
数が増え過ぎても困る。
ひとみは軸足である右足に力を入れて、右側に思いっきり飛んだ。
「あぁぁぁ!」
「ダメなのれす!声を出したらばれちゃうのれす!!」
「あっ!ってののこそ声出したらダメやんかぁ」
場違いな会話。
一向に近付いてこようとしない気配。
・・・行ってもいいのか?
ひとみは警戒しながらもまた走りだした。
「あ!逃げたのれす!」
「わかってるわ!!」
ひとみは足を止め2人がいると思われる方に視線をくばらせた。
- 266 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)21時55分47秒
- 矢口は机の上にばらまいた資料に目を走らせていた。
さっきの市井からの報告とも言える言葉で敵と遭遇したのはわかった。
ならば今の矢口にできるのはこの少なすぎる資料から導き出さねばならない答えを見つける
ことだけだ。
頭と指をフル回転させ、目の前のモニターに情報を打ち込んでいった。
- 267 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)22時03分44秒
本来は静かな森。
そんな中に響く似つかわしくない音。
そのほとんどが小川の放つ銃声だった。
市井がただ飛んで逃げ、後藤の方に銃弾が行きそうになるとその銃弾めがけて
ナイフを投げる。
後藤の方は市井から撃つなと言われたからただそこに突っ立っているだけだ。
避けなくても銃弾は市井が落としてくれるし、撃つなと言われているからすることもない。
それでもつまらなくはなかった。
市井の放つナイフの軌道は見ていてほれぼれする、それだけで満足なのだ。
市井としてはただ突っ立てるよりも何処かに隠れていてほしいのだが、そんなことを
言ってナイフの精度を落としたくはない。
・・・さて、そろそろ終わりにしますかね。
市井はナイフを同時に数本放った。
1本は後藤に向けられて放たれた銃弾に、1本は小川の銃に、残りの8本は小川の
服を木に張り付けるように刺さっていった。
「もう十分かな?お嬢ちゃん」
- 268 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)22時18分19秒
- つかつかと小川に歩みよる、そんな市井の後ろ姿を眺める後藤。
市井が小川に触れそうな程に近付いた瞬間に小川は口に含んでいた針を飛ばす。
それをしっかりと市井は指ではさみ取る。
圧倒的な力の差。
全ての動きがまるで訓練のようだった。
「教科書通りだね。お嬢ちゃんの動きは本当マニュアルを読んでいるみたいだよ」
指にはさんだ針を指圧で折り曲げ、足下に指を滑らせるように落とすと、不自然に
歪んだ針は音もなく地面に着地をした。
「・・・くらいますよ」
小川が口を開いた瞬間、その口の奥からカチッと乾いた音がした。
市井が動くよりも早く後藤が動き、市井の背中を蹴り飛ばした。
今まで立っていた所には、長さ15センチ程の針が大量に突き刺さっている。
そして飛ばされた市井のいる所にも、着地した後藤のいる所にも同様の針が降り注ぐ。
その半端ではない量に市井は全てを掴み取ることができず、腰から刃渡り30センチの
大型ナイフを抜き出して打ち落とすのがやっとだった。
後藤の方もそれなりの数は打ち落とすことができたのだが、さすがに銃弾で全てを
打ち落とすことなんてできず、数本の針が体に刺さっていった。
体を包む服から滲む血。
急所をさけるように体をねじったので出血は少ないが、そのわずかな血液は位市井の
視界に入ってしまった。
市井の視線に気付いた時には、市井はありえない程の早さで小川に向かって走っていた。
そのスピードに小川は対応しきれない。
森の静寂を撃ち破るように一斉に野鳥が木の枝から飛び立っていった。
- 269 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)22時46分44秒
前方の木に向かって走り、その木を壁が代わりにして三角飛びの容量で大きく下がる。
先刻までひとみのいた所には小さな少女という言葉がぴったりな少女がそこに向かって大穴をあける。
一瞬見ただけだが、拳で地面を殴った少女の方が力はありそうだと感じた。
飛んだ反動を利用して2人の後ろに着地できるように軌道修正、そして着地すると同時に
2人はその場から飛んで離れる。
すぐに駆け込んでくる少女2人。
おだんご頭の怪力少女っぽい娘の方が背後から、もう1人の少女の方が正目から走ってくる。
ひとみは2人をできるだけ近付ける為にあえて構えを取らずに着地したままの無防備な状態でその場に留まる。
・・・3・・・2・・・
左の拳を思いきり後ろに向かって突き出す。
一瞬背後にいた少女の動きが鈍る、ひとみはそのままバックステップでその少女との距離を
つめ、着地と同時に左足に地面にねじ込む程の力を集結させ、すさまじいスピードで体の向き
を変え、突き出した拳とは反対の右手で少女の腕を掴み上げた。
目の前に左拳を突き出された方の少女はひとみの一連の動きの早さに対応しきれなかった為、
急ブレーキをかけるように両足を踏ん張り、自分の出したスピードを押さえ込む。
「・・・遊びのつもり?ふざけんなよ」
冷たく、そして圧力のあるひとみの声に呼吸すら止まりそうになる。
3人を取り巻く空気が固まる。
森さえもその指命を忘れたかのように動きを止めた。
- 270 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)22時53分39秒
- 『遊び』そう言われればあながち外れというワケではない。
確かに2人はひとみのことを軽くみていた。
少し遊んでから一気にケリをつけるつもりでいたのだ。
幼いがゆえに、命のやりとりをしたことがないがゆえに招いた心の油断。
加護の背中に一筋の冷たい汗が流れた。
ひとみはゆっくりと加護の前から手をどかし、辻の腕からも自分の手を退いた。
辻の腕はひとみの握力によって痺れてしまいしばらく使いものになりそうもない。
加護はひとみの威圧感から早く逃げ出したかった。
「・・・早く行きなよ。あたしは君達と戦うつもりないから」
何処を見るわけでもなく呟いた一言で、加護の呪縛ともいえる恐怖心が退いた。
辻の腕を掴むとその場から立ち去る。
子供じゃなければ殺すつもりでいた。
相手を逃がすということがどんなことかはわかっている、あの2人が全力を出していないのも
わかっている。
・・・子供か
- 271 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)23時01分00秒
- 「バカ!バカバカバカバカバカ!!!!!」
「・・・だからさっきから謝ってるじゃん」
「でもバカなの!バカぁ〜!!」
木に突き刺さった大型のナイフ。
その木に寄り掛かるように座る市井の胸をどしどしと叩きまくる後藤。
それを止めるわけでもなく、なすがまま状態になっている市井。
後藤の血を見た瞬間にキレてしまった。
冷静さを失ってしまった。
そして案の定くらった。
そんでもって後藤にもくらってる。
小川の実力はそれなりに測れたが、あの瞬間表れた少女の力は未知数だった。
あの時、市井が小川に向かってナイフを振り上げた瞬間、表れた少女は高橋だった。
高橋が市井に蹴りをくらわせ、そらにそのまま小川を抱えてその場からさったのだ。
あぁ、情けねぇなぁ〜。
後藤には、怪我を負わせるは、冷静さは失うは、攻撃は受けるは、相手には逃げられるは・・・
自分もまだまだだ、あの人のようにはなれないもんだ。
- 272 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)23時04分31秒
- 後藤はまだ胸をどしどしと叩き続けている。
市井も今だなすがままにされている。
緊張感が切れそうになった時、通信機の奥からひとみの冷めきった声が聞こえ、2人のやりとりは終わった。
「・・・もうキレたらダメだからね」
「あぁ」
「もういい」
「・・・頑張ります」
「じゃぁ行こう」
後藤は市井の上から退くと歩きはじめた。
市井は一息つくと両手で頬をパちんと叩いた。
- 273 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)23時10分54秒
- 高橋は小川が心配で、あの後志願して小川を追ってきたのだ。
追い付いたと思った時には小川に向かって凄まじい勢いで走り込んでくる人が見えた。
高橋は全神経を集中させて小川を助けた。
その助けだされた小川は今だ高橋の腕の中で茫然としている。
情報部隊に所属していると、どうしても戦闘部隊よりも劣る点が出てきてしまう。
それはしょうがないことなのだが、小川はそれでも必死に戦闘訓練を受けていた。
小川は大事な仲間だ。できることなら情報部隊にそのまま留まっていてほしい。
が、小川は戦闘部隊への転属を随分前から志願していたらしい。
本人の意思は尊重させてやるべきだとは思うが、高橋はできることならそれを止めたかった。
- 274 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)23時19分34秒
- 高橋は昔戦闘部隊にいた。
そして訓練だけではなく、一度だけ実戦にも連れていかれたのだ。
まだ幼すぎるといっても良い程幼い頃に、養父に連れられて何処かの家族を襲ったのだ。
養父はおびえる高橋に銃を握らせ『殺せ』と命令した。
それを拒絶したが受け入れられるはずもなく、後ろから手を回され強制的に銃を構えさせられた。
高橋の目の前にはすでに生き絶えた父親ろしい男性、そしてその遺体に泣きすがる男の子がいた。
母親は死んだような目で2人を見ていた。
養父は高橋の腕をゆっくちろ母親の方へ向けさせた。
背後に立つ養父からは熱い息使いが聞こえ、自分の背中には興奮してそそり立ったモノが当たっていた。
泣きじゃくる高橋をよそに、養父は引き金を引かせた。
気を失いそうになる高橋を無理矢理起こし、自分よりも幼さそうな男の子に銃口を向けさせる。
その後、精神異常をきたした高橋はしばらくの間隔離された。
養父はその勝手な行動で始末された。
しばらくして高橋は情報部隊へと移されたのだ。
- 275 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)23時23分25秒
- 「只今戻りました」
今だに力のない小川を部屋に送り届けた高橋は新垣達のいる部屋に戻ってきていた。
それに遅れるように戻ってくる辻と加護。
全員の顔には言い表せぬ何かが写っていた。
いくら戦闘訓練をつんでいるからとはいえ、今だに本当の殺人というものに手を染めたことの
ない小川、辻、加護は今回のひとみ達との遭遇で現場の空気を知った。
高橋は思い出したくない記憶を思いだした。
皆を見てやはり早すぎたと思った。
- 276 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)23時31分09秒
- 最近になってつんくは人材集めを止め、やたらと国のメインコンピューターにハッキングしろとか
国の重役達と取り引きをしろなどと言い始めた。
それはまるで何かに取り付かれているようにも思えた。
つんくがこの建物にくるということはほとんど無く、ここの実権はつんく直属の部下である
和田が握っていた。
その和田はつんくの要望の多さに対応しきれないでいた。
突然すぎる要望は部下達を鍛える時間を奪い、実戦経験のないモノ達ばかりが
戦闘部隊に入ることになったり、情報部隊に入ることになってしまった。
始めからここの組織にいた研究者達は何ものかの手によって殺害された。
残っているのは十数人の戦うことすらできない貧弱な大人研究者に、今だほとんど
実戦経験のない子供達だ。
和田とつんくは昔からの悪友だった。
大学生の頃、何処か狂気めいた瞳でつんくは和田に話しをもちかけた。
今の腐ったこの国を変えてみないかと。
まだ若かった和田はつんくのこの話しに同意の意を示した。
実際に見れば見る程見えてくるこの汚らしい国に嫌気がさしていたのだ。
- 277 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月08日(火)23時38分16秒
- この時の決断がそもそもの間違いだったのだ。
それからというもの、つんくはやっきになって組織を作った。
組織がそれなりの規模になると、次は軍を作る為の人材集めをすると言い出した。
和田はこの計画を聞いた時、もちろん反対した。
しかし血走った目で走り続けるつんくを止めることができなかった。
あまりにも強大になりすぎた組織はいずれ収集がつかなくなる。
それを恐れたつんくは少しでも反抗的な意識を持つものを片っ端から処分していった。
自ら集めた人員を自ら処分していく。
こいつは狂ってる。
そう思った。
しかしそれに気付くのは遅すぎたのだ。
つんくから逃げだせなくなった和田はこうしてつんくのもとで働くしかなかった。
ここは軍の予備軍。
そう言われてここをまかされた。
それが今はどうだ、まだ訓練途中の子供達が本当の戦闘にかりだされている。
・・・つんくは何を考えてるんだ。
和田はただっ広い空間にある机に肘をえつけて考え込んだ。
- 278 名前:南風 投稿日:2002年10月08日(火)23時40分39秒
- ちょっち多めに更新しました。
どうにも明日書き込める自信がなかったので今日はいつもより多め更新でした。
しかし、読み返す勇気が無い程に早い展開。
本当にごめんなさいです。
苦手ながらに頑張ってみようと思ってるのですがなかなか・・・
う〜んピンチっても頑張ります。
南風でした。
- 279 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月09日(水)20時55分02秒
- イエ、と て も 面 白 い で す。
マジ期待ですよ。
- 280 名前:南風 投稿日:2002年10月11日(金)00時09分53秒
- >名無しどくしゃさま
そう言ってもらると嬉しいですあ(涙)
何やらここんとこ忙しくて大量更新できず、ストックだめも・・・
ゆっくりですが頑張らせていただきます。
ってなわけでちょっとだけ更新・・・
- 281 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月11日(金)00時18分33秒
- 何で・・・何でいつも守られてばかりなんだろう・・・。
強くなりたいのに・・・。
小川は自室のベッドに座りこんでいた。
その部屋に響く新垣の機械的な口調。
「各持ち場にて2人1組みで待機せよ。ここは3分後に侵入される」
実戦経験のある人と無い人の差。
それを見せつけられたのだ。
さっきのことを思い出すように小川は自分の拳を握りしめる。
その手は自分で見ても力無いもので、弱々しく・・・自分の非力さをつきつけられたようだった。
「真琴ぉ行くよ」
ノックなし侵入者の高橋は独自の鈍りを隠そうともせずに小川の部屋につかつか
と入ってきた。
「・・・ノックぐらいしなよ」
「なぁにかたいこと言ってるんかぁ、ほらそれより行こうよ」
高橋の差し出した手は、小さいけど力強くて・・・
握り返さずにはいれないような存在感を放っている。
小川表情を隠すようにして、高橋の手を握って立ち上がった。
- 282 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月11日(金)00時25分10秒
- その頃、辻加護のコンビも仲良く階段を登っていっていた。
「なぁ、のの」
「なんれすか?」
「何でののは戦闘部隊に入ったん?」
「・・・う〜ん」
加護にしかわからないような一瞬の間。
自分で質問しておきながら、加護は昔聞いた話を思い出した。
「・・・やっぱええわ」
「?そうれすか?」
無邪気な笑顔が痛かった。
そこにたどりつくまで辻はどんな道のりを通ってきたのだろうか?
辻の小さい手。
その手には不自然な程の一文字の傷。
傷は直っても痕はどうしても残ってしまったらしい。
この話しを聞いた時、本当にショックを受けた、自分が体験をしたんではないが、
同じ痛みを味わった気になってしまった。
辻は何も語らないから加護も何も聞けない。
小さな体で守ろうとした大きな存在。
その代償は小さな辻の手に一生残り続けるのだ。
加護は辻と繋いでいた方の手にグッと力を入れた。
- 283 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月11日(金)00時28分21秒
- もうすぐだ。
もうすぐでこの研究は終わる。
紺野は研究室で懸命にペンを走らせていた。
普段の姿から想像もできない集中力と動かす手の早さは、これからの事を考えて出した
結果のものだ。
そう、時間がないのだ。
急げ!急げ!!!!
自分に言いかけるように紺野の腕はスピードを上げていった。
- 284 名前:南風 投稿日:2002年10月11日(金)00時30分22秒
- ありえない程少ない更新でごめんなさい。
明日以降は少し落ち着くと思うので、その時にまとまって更新したいと思っています。
読んで下さってる方々、本当申し訳ないです。
- 285 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月11日(金)22時21分13秒
- 更新お疲れ様です。
少量でも更新してくださるだけでこちとら嬉しいです。
待ってますよ〜
- 286 名前:南風 投稿日:2002年10月12日(土)22時07分02秒
- >名無しどくしゃさま。
いつもいつも本当にありがとうございます!!
まじ嬉しいです。
今日はどれくらい行けるかわかりませんが更新させていただきます。
んなもんでよろしくお願いします。
- 287 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月12日(土)22時20分06秒
- ひとみと市井達はほぼ同じ頃にその建物を確認していた。
湿った森の中には不自然なコンクリートのつくり。
3人はそれを見つめながら、通信機の奥にいる矢口に向かって『確認しました』と伝えた。
矢口は手元の資料を見ながら自分の作戦を見直していた。
この考え方で良いのだろうか?
足に怪我を負ってから一線を退いていた矢口は自分の立てた作戦に自信が持てなかった。
そしてこの作戦を伝えるかどうか悩んでいた時
『やぐっつぁんの考えた通りでいこうよ』
迷ってる自分の耳元に届く少し間の抜けた声。
『今までだってそれで来たんだし』
悩んでる自分の耳元に届くお気楽そうだけど意思の強い声。
『なんとかなりますよ』
自信の無くなっていた自分の耳元に届く今ではすっかり頼もしくなった声。
それぞれの声が矢口の耳を通して心に伝わってきた。
矢口は笑いを噛み締めたような顔をしてもう一度資料に目を通した。
- 288 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月12日(土)22時22分38秒
- 「それじゃあ説明するよ・・・」
皆に矢口の立てた作戦が伝えられた。
『・・・了解した』
『うん、後藤も』
『あたしもです』
簡単な説明だったけど、皆は同じ気持ちでいてくれたみたいだった。
精巧するかどうかは分からなかったけど、これに賭けてみて良かったと思える
ようになる気がした。
「それじゃあ行こう!」
『『『はいっ!』』』
- 289 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月12日(土)22時26分03秒
- 「侵入者、内部に確認しました」
・・・ついに来たか。
和田は机についていた肘をゆっくりと離すと、椅子をきしませながら立ち上がった。
2階から見渡す森は湿った空気に被われて、他者を受け付けないという理由では
ぴったりだったが・・・
「これじゃあ只の隔離施設だよな・・・」
誰に言うわけでもなく呟いた。
そしてしばらく森を眺めた後、もう一度椅子に座るとこの後のことを考えた。
- 290 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月12日(土)22時34分29秒
- 市井達は悩むでもなく正面玄関らしき所から入っていった。
どうせここにもうすぐ来るということはバレているんだ、回りくどいことをしても仕方ない。
中に入ると、そこは無気味な程に静まりかえっていた。
人の気配がしないのだ。
組織として建てた建物ならばここは異常な程に静まりかえっている。
いや、正確にいうと寂れている。
「何か悲しい所だね」
後藤が市井を見ずにただ前を見つめて呟いた。
悲しい・・・確かにその言葉は何も間違っていなかった。
先程出会った少女達はここにいるはずなのだが、その娘の気配するしないのだ。
耳をすませても監視カメラの動くかすかな機械音のジーッという音しか聞こえない。
落ちだ照明がその物暗さを協調していた。
「後藤、行こう」
市井はナイフを投げて監視カメラの線を切断すると、その物悲しさを打ち消すように
後藤の肩を叩いて建物の中に進んでいった。
いくら気配がないとはいえ、ここは敵の本拠地。
2人は慎重に辺りに目を配らせながら進んで行く。
その最中、初めと同じように監視カメラを壊して行く。
そして1階の全てを見てまわった後、まだ建物の外で待機しているひとみを呼んだ。
- 291 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月12日(土)22時45分42秒
市井さんからの連絡を受けて、あたしは建物の中へと入っていった。
入り口では市井さんとごっちんが待機していた。
「どうやらここは2階に続く階段と地下に続く階段があるみたい。
さっき上への階段少し登ってみたけど、頑丈な扉で塞がれてた。
多分あれはあたしの持ってる武器でも壊せないね」
「じゃあとりあえずは地下にいくしかないですね」
3人は顔を見合わせて頷くと、地下へ続く階段の方へと向かっていった。
足音を殺して歩いている為、ここの空間に聞こえるのは誰かがはく息の音だけだ。
コンクリートの壁が肌寒さをより一層際立たせている。
地下1階に近付いているにもかかわらず、相変わらず辺りは静寂に包まれていた。
扉の奥から人の気配を感じた。
市井さんは指で合図をする。
あたしは一番前に出ると心の中でカウントをとる。
一気に開けた扉に向かって中にいた少女達が発砲してきた。
わずかの差でひとみ達が部屋の中に転がり込む。
2人の少女を取り囲むようにひとみ達は散った。
「吉澤、お前先行きな」
- 292 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月12日(土)22時52分17秒
- 敵対する少女を見た瞬間に市井が通信機のマイクに向かって小さく囁く。
その声に反応して、ひとみはすぐにもう1階下へ向かう為の階段に走る。
ひとみの動きを目撃した小川がひとみに向かって発砲するが、例のごとく市井の投げたナイフによって
銃弾はその軌道を強制的に変えさせられた。
「よそ見してる暇なんてあるのかい?」
キッと市井を睨む小川。その間にひとみが階段に滑り込み下えと向かう。
小川の隣にいた高橋も同じようにひとみに銃口を向けようとしたのだが、腰につけた
銃に手をかけようとした瞬間に拒否反応ともいえるような震えが右手を襲ってしまい、
銃を握ることができなかったのだ。
「あなた達をここから先に進ませるつもりはありませんからね」
市井を睨みつけたまま、小川は声を押し殺したように言い放った。
後藤は市井の後ろに立つようにして、その小川の姿を見ていた。
- 293 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月12日(土)22時56分48秒
ひとみはさっきと同じようにコンクリートの壁をつたいながら下へと向かっていた。
おそらく自分が次ぎに会うであろう少女達のことを考えながら・・・。
壁は下に行くにつれて冷たくなっていった。
コンクリート独自の冷たさが、ただでさえ低い体温を奪っていく感じだ。
くっつけた背中が湿ってきた。
そう感じた頃、さっきと同じような扉が視界に入ってきた。
今さら遅いとは思うが、気持ちを入れ直し、梨華からもらったネックレスを服の上からそっと触った。
「ほれ、さっさと入ってきいや!」
扉の奥の方から大声で呼ばれた。
威勢の良い娘だな。
- 294 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月12日(土)23時03分54秒
- ひとみはそんなことに感心しながら扉に向かって持っていた小さなナイフを投げつけた。
カツンと扉に当たった瞬間に粉々に飛び散る扉。
やることが正当ってか無茶しすぎ。
ひとみは爆破のせいで発生した煙幕のような煙りの舞う中を走り、部屋に駆け込んだ。
煙る部屋に入ると、2人の気配を感じようとして神経を集中させる。
自分の右手側に1人、その反対側に1人。
かならずひとみを挟むように動いている。
一応訓練は受けてるんだ。
それでも2人の動きはひとみの目に写る程だった。
実戦と訓練の差。
いくら普通の少女達よりも動けるといってもそれは訓練の中でのことだ。
7歳の頃から仕事の為に実戦という中で生活していたひとみと比べると天と地程の差がある。
「のの、行くで!」
喋りすぎだと。
ひとみは心の中で呟くと、煙りがなくなるまで動こうと思い、また2人の気配を
全身で探る為に神経を集中させた。
- 295 名前:南風 投稿日:2002年10月12日(土)23時05分53秒
- ょっこり更新終了です。
少ない更新で本当申し訳ないです。
今日はこれからストック溜めやらせていただきます。
それでは失礼します。
- 296 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月13日(日)09時11分52秒
- キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
良い!イイ!いいですよぉ〜作者様。
- 297 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月13日(日)09時16分23秒
- 緊張感がありますね。
良く考えられますね〜羨ましい。
- 298 名前:南風 投稿日:2002年10月13日(日)19時17分24秒
- >名無しさん
ありがとうございます(大照)
頑張ってしまってます!
>名無しどくしゃさま
そう言っていただけるとめちゃ嬉しいです。
頭の中で考えだけが散らばってしまってなかなか集められないのです・・・。
でも頑張ってみるので今後もよろしければ駄文に付き合って下さい。
レスって本当嬉しいッス!!
南風今日の更新少し早めですが、いっちゃいます!!!
- 299 名前:南風 投稿日:2002年10月13日(日)19時18分52秒
- 失礼しやした!
>名無しさんさま←つけわすれてる〜(涙)
ごめんなさい。
はい、気を取り直していってみたいと思います。
- 300 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)19時37分29秒
- 高橋は正直なところ、戦いたくなかった。
この2人には絶対勝てない気がするし、何よりも誰かが傷付くのを見たくなかった。
自分は過去の体験から銃が握れなくなってしまった。
だから必死で体を鍛えて武闘を極めようと努力してきた。
自分よりも幼い紺野や新垣を守れるように、そしてこの無鉄砲で負けず嫌いで
放っておけないパートナーである小川のことをサポートできるようにと。
しかし、今火のついた小川はきっと自分の言うことに耳をかしてくれるような
ことはしないだろう。
できることをやるしかない。
下に行かせれば紺野や新垣がいる。
彼女達は戦う術を持たない娘達なのだ。
高橋は身を包んでいた迷彩服の上着を脱ぐと、黒のタンクトップ姿になり、構えをとった。
「君があたしとやるのかい?」
市井は持っていたナイフをしまうと高橋の方を向いた。
その市井に小川が反応したが、すぐに後藤の言葉によって行動を封じられた。
「それじゃあ君が後藤の相手だね」
「後藤・・・」
「大丈夫だよ、後藤だってそこまで弱くないんだから」
「・・・」
市井は不本意ながらも高橋の方へと意識の向きを変えると、だらしなく立った。
1対1の戦いで、武器を使おうとしない相手に武器を使うのは市井の流儀に反する。
相手が素手で戦おうというのなら自分も素手で戦うのが当たり前だ。
しかし、あまり肉弾戦を得意としない市井に決まったカタなんてない。
こうやってだらけている方が動けるってもんなのだ。
高橋と市井、対峙する2人の間に緊迫した空気が流れはじめた。
- 301 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)19時44分32秒
- 小川は2人を見て、もう自分が入り込めないのを確認すると後藤の方を向いた。
右手に持った銃に小川の意思が流れ込む。
後藤の方も仕方なしに銃を左手に持った。
小川は呼吸するスピードを下げていった。
目の前の相手からはやる気すら感じられない、さっきの戦いでも一度も動かなかった。
相手の実力を測れたわけじゃないが、ただ守られてばかりのお姫様ではないと
いうことはわかった。
次第に下がってくる自分の呼吸。
心臓の音が脳に直接響いてくるような感覚。
小川は左に走ると、後藤の方に銃口を向けた・・・と思ったその瞬間に銃口は
全く違う方向を向いていた。
何か自分の手に重たいモノを感じたが、それが何かはわからなかった。
目の前にいる相手は動いた気配なんてしない。
高橋と対峙している市井も今だに動いた気配がしない。
小川は気をとりなおして、もう一度銃口を向けた。
が、やはりさっきと同じように明後日の方向へと向いてしまう。
小川はわけがわからなかったが止まることもできず、ただ動き続けるしかなかった。
- 302 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)19時51分34秒
- 「・・・後藤さんですか」
「御名答。よくわかったね」
高橋と市井は相変わらず変わらぬ距離のまま会話をしていた。
「ってかそこまで見える君はやっぱり結構凄いんだろうな」
「そんなことないですよ」
「そうかい?」
「はい」
2人の間を流れる空気に微妙な変化があった。
すぐに高橋は市井との距離をつめるべく、動き出す。
その早さを目で確認しながら市井は実感していることがあった。
高橋の正拳突きを体をね捻ってよける。
続けざまに回し蹴りが市井の頭部を狙ってくると、その蹴りを左手で受け止め、
その反動を利用して高橋は地面についていた方の足で体を倒しながらもう一度蹴りを
いれようと試みる。
市井は焦らずその蹴りを右手でうけて流すと、高橋は両手で床を押し自分の体を
縦に半回転させて地面に着地する。
すぐに構えをとると、もう一度市井に向かっていった。
- 303 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)19時56分30秒
大分煙りの薄れていく中、ひとみは右へ左へと流れるように動きながら辻加護の
攻撃を避けていた。
2人の動きはどんどんと良くなっていく。
多分こうやって実戦の中で成長していくタイプの娘達なのだろう。
そして関西弁の娘の方が銃の扱いが上手く、舌ったらずの娘の方がパワーがあると
いうのも確信を得た。
さて、どうしたもんだろうか。
このまま逃げ回っててもラチがあかない。
しかしこの小さな娘達を傷つけるなんてことも自分には出来ない気がする。
少し考えた。そしてやっぱりこの部屋に入る前と同じ結論に辿り着いた。
これやったら梨華ちゃん泣いちゃうかもな・・・。
ひとみは心の中で苦笑いをすると、壁を蹴って2人から距離を開けるように飛んだ。
- 304 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時03分00秒
- その頃、東京には台風が近付いていた。
夕方だというのに薄暗い街は散った葉や、捨てられた新聞紙や雑誌が飛び交っている。
中澤はそんな中を傘もささずに歩いていた。
通信機は外してしまってある。
「そろそろ出てきたらどうや」
立ち止まった中澤の周りを風が吹き荒れる。
そしてその影からは真っ黒な服に身を包んだ女性があらわれた。
「ばれてたんだ」
「当たり前や」
中澤は振り返ることなくポッケに手をつっこんで煙草を取り出し口にくわえる。
煙草はすぐにぐしょぐしょになって吸えない代物に変化していく。
その煙草を口から外すと風にのせるように手から離した。
煙草は強風に飛ばされて空へと上がっていった。
「風、強いな」
「・・・そうだね」
「何もないなら行くで」
「・・・裕ちゃん」
「まだそう言ってくれるんや」
中澤はゆっくりと女性の方を向いた。
「圭坊」
- 305 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時04分33秒
- 保田はびっしょり濡れた顔を引きつらせながら笑った。
「キツイわ」
中澤も同じように濡れた顔で口元だけ持ち上げて笑った。
「裕ちゃんもね」
- 306 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時07分57秒
- さっきからずっと動き続けている小川と高橋はさすがに疲れてきていた。
小川に至っては焦りすら感じている。
自分が銃口を向ける度にそれは向きを変える。
とのうえ後藤も市井もこっちに向かって動いている気配はない。
焦る小川をよそに、後藤はゆっくりと左手に持った銃を上に上げていった。
- 307 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時15分04秒
- 向こうもそろそろ終わるな。
市井はだらりと構えていた腕に力を入れる。
そして今だ向かってくる高橋の攻撃をわざと脇腹に受けると、その腕をがっちりと
自分の腕と脇腹で挟んだ。
内臓がグラリと揺れる感じがした。
しかめ面になりそうになる顔を必死で堪え、漏れそうになる息を必死で耐えた。
高橋は腕を捕われても直、生きている方の腕で市井の後頭部を狙って拳を振り上げる。
その拳をもう一方の手でしっかり掴むと自分の方へ引き寄せて蹴りを放たれない距離に入った。
簡単にいうと高橋のことを抱きしめているのと同じくらいの距離のことだ。
「君、名前何?」
高橋は市井の冷たい体温を間近で感じていた。
自分の頭よりも少し上から聞こえてくる声の冷静さに出した肩に鳥肌がたった。
- 308 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時19分32秒
- 「た、高橋愛」
そう言うのがやっとだった。
「そう、高橋ってんだ。じゃあ高橋に質問」
市井は高橋のことを見下すようにして顔をぐいっと近付けた。
「高橋は誰かを守る為に人を殺せる?」
すぐに答えられなかった。
それは誰かを殺すなんてしたくなかったし、考えたくもなかったからだ。
「あたしは殺せるよ。後藤を守れるのなら、たとえ君だって殺せるよ」
市井の言葉で高橋は自分の足に力が無くなっていくのを感じていた。
「甘いこと言ってばかりじゃ本当に守ることなんてできないんだ。
現実から逃げてるようなヤツにあたしは負けないよ」
そう言うと高橋の腕を離し、その首に手刀を下ろした。
- 309 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時31分23秒
後藤の方も終わりを迎えようとしていた。
ゆっくりと上げた銃を小川の持っている銃の方へと向ける。
そして自分の周りを飛び回っている小川の姿を見ずに、銃だけを確実に撃ち落とした。
銃は床を滑るようにして移動して市井の足下でその動きを止める。
小川は今になってやっと今まで自分の銃の向きを変えていたのが後藤だということに気付いた。
そう、あまりに早くて見えなかったのだ。
その場に立ち尽くす小川に銃口を向けたまま後藤はいつもの眠た気な声で喋りだした。
「・・・君はさ、何か大切なモノ守ろうとしてる?違うよね、ただ自分を守りたいだけだよね」
後藤の言葉で小川の動きは完全に止まった。
その通りだ。
誰かを守りたいんじゃない。
自分の弱さが嫌なのだ。
自分の不甲斐なさが嫌なのだ。
もう、誰にも守られたくなかった。
自分、自分、自分・・・全ては自分。
「自分ことしか考えられないような君じゃ絶対に誰にも勝てないと思うよ」
最後に突き付けた言葉は小川からプライドを奪い去った。
後藤は自分の銃をしまうと立ちすくむ小川の腕を後ろにまわして、その腕と足を
自分のベルトで縛りあげた。
少し大きめだった後藤のズボンが銃の重みでずり落ちそうになる。
「いちーちゃ〜ん、ベルトかしてぇ」
後藤はフニャリと笑うと両手で自分のずり落ちそうになるズボンを押さえながら
市井のもとへと駆け寄って行った。
- 310 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時38分33秒
- ほとんど煙りの消えた部屋の中でひとみは2人から一定の距離をとり続けていた。
加護はひとみに標準を合わせるように動き続け、辻はその加護の標準にひとみが
上手い具合に入るように動き続けていた。
通信機から聞こえる会話で、市井達の戦いが計画通り進んだことを確認したひとみは
煙りが消えるのを待っていたのだ。
その間にも辻加護のコンビプレーはどんどんと良くなっていく。
幼いながら、凄まじい学習能力だなと感心すらしてしまったくらいだ。
辻の攻撃を避ける為にひとみが右に飛べば、そこを狙って加護が銃を構える。
するとひとみがすぐに反応して加護の標準から抜ける。
そうすると辻がまたひとみに攻撃を仕掛ける。
さっきからこのくり返しを数十分続けている。
ひとみよりも体力の無い辻と加護はさすがに疲れの色が濃くなってきていた。
そろそろだな。
ひとみは市井達に対してメッセージを送った。
「行きます」
- 311 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時45分16秒
- 「後藤、行くぞ」
「うん」
市井のベルトをしっかりと自分の腰に巻き付けた後藤は市井の横にぴったりと
くっつくように歩き出そうとした。
その動きを市井が手を出して止める。
「・・・だめ・・・い・・・いかせ・・・な・・・い・・・」
市井の目の前では先程の攻撃でほとんど動かなくなった手を必死で動かそうとする
高橋が寝そべりながら、必死の形相で市井達のことを睨みつけていた。
その表情から高橋の思いの強さが伝わってくる。
下の階には愛する娘がいる。
愛する娘達がいる。
通すわけにはいかない。
自分は皆を守る為に存在する。
高橋は気力だけで必死に起き上がろうとしていた。
震える体を動かない腕で支えようとしている。
「・・・君達のことを傷つけるつもりはないよ」
先程とはうって変わって優しい口調で市井は高橋に話しかけた。
愛するものを守ろうとする志しは同じ。
高橋の想いは市井に確実に伝わっていた。
そう言うと市井は再度高橋の首に手刀を下ろした。
- 312 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時53分36秒
- ひとみは今までと同じように距離をとると、その場に立ち止まった。
手には愛用の銃を握りしめている。
ひとみの行動に2人の動きは止まった。
さっきの戦いで下手につっこむことの無謀さをきちんと学習したからだ。
下手に動くのではなく、ひとみの動きをじっくり観察するように間合いをとる。
辻は自分の傷の残る拳をキツク握る。
加護はひとみに標準を合わせたまま銃を構え続けている。
自分には市井や後藤のように喋る能力はない。
かと言って軽く傷つけるような器用な真似もできない。
どうやって2人から戦う気力を奪うかなんて考えたら・・・やっぱり何度でも
同じ答えに辿り着く。
あたしってやっぱり不器用だ。
ゆっくりと顔を上げて2人の顔をよく見てみる。
まだ幼い顔つき。
2人共笑ったら絶対に可愛いと思う。
君達はこんな所にいてはいけないよ。
君達はまだ汚れていない。
汚い思いをするのはあたしだけで十分だ。
- 313 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)20時57分14秒
- ひとみは持っていた銃を手から離して床に落とした。
静まりかえっていた部屋に銃を落とした時に響いた重々しい音が響く。
足を肩幅に開いて両腕を真横に広げる。
そして梨華のことを思い出すように天を仰ぐ。
これは賭けだった。
自分の思ってるような娘達でなけれな、ここであたしの人生は終わりを迎えるだりう。
危険な賭け。
それでも自分にはそれしか考え出せなかった。
梨華ちゃん、きっと大丈夫だと思う。
こんな汚れきった手でも誰かを救えるかもしれないよ。
- 314 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)21時02分14秒
- 目の前にいる人の動きはまるでスローモーションを見ているようだった。
銃が手から離れた時には何が起きたのか分からなかった。
その落ちた時に響いた音は波紋のように脳に広がっていった。
真横に広げられた腕、天を仰いだようなその顔、単純に綺麗だと思った。
自分にこんな綺麗なモンが撃てるのか?
今までは必死で戦ってきたつもりだった。
それでも目の前で両腕を広げている人は全力も出さずに、そのうえウチらに銃すら
向けてこなかった。
何故?
ウチら殺しに来たんちゃうんか?
ウチらの生活奪いに来たんちゃうんか?
ウチにはここしか居場所ないねん。
こんな所やけど失いたくないねん。
- 315 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)21時11分41秒
- 加護の動きが変わった。
辻はずっと一緒にいた加護の微妙な変化に気付いていた。
加護は必死になりすぎていたのだ。
辻も初めはそうだった。
皆の悲しい顔を見なくてすむなら喜んで戦おうと思っていた。
それが、辻達をここにおくり出す時みた顔も、今自分と一緒にいる加護の顔も
何だかとっても悲しそうだった。
これじゃあ自分が戦っている意味がない。
むしろ戦うことで皆を悲しませているみたいだ。
だったら戦わない方が良いに決まっている。
目の前にいるお姉さんだって武器を捨てた。
自分達に危害を加えるような動きもしてこない。
・・・何で戦ってるんだろう?
辻は握る拳の力を抜いた。
そして辻が加護に声をかけようとした瞬間だった。
上の階から駆け降りてきた市井と後藤が部屋に飛び込んでくる。
ひとみに気を取られていた2人は市井達の気配に全く気付くことができなかった。
そう、だから加護は撃つつもりのなかった銃の引き金を引いてしまったのだ。
銃声が響き渡る。
全員の動きが一瞬止まる。
その沈黙を破るようにひとみの白い頬から赤い筋が流れた。
言えば本当にかすり傷程度。
それでも生まれて初めて自分の放った銃弾で人を傷つけてしまったということに
加護はショックを受けてしまった。
それが自分の望んで放った弾でないことぐらい、その場にいた全員がわかっていた。
もちろん撃たれたひとみもだ。
- 316 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)21時19分48秒
- ひとみは両腕を下ろすとその場にしゃがみ込んで震えている加護にゆっくりと
近付いて行った。
茫然とそのひとみの後ろ姿を見ていた辻が思い出したように加護に駆け寄り、
その小さな腕をいっぱいに伸ばして加護の前に立ちふさがる。
ひとみはそれでもゆっくりと近付いて行った。
2人の前2メートルくらいの所で立ち止まる。
「・・・武器を握る人はね、覚悟っていうのが必要なんだよ。自分が武器を構えるんだから
相手も武器を構える。銃を向けるってことは自分も銃を向けられる。もちろん拳だって同じ。
それが命の奪い合い。
・・・くだらないよね。
何で君達と戦わなきゃいけないんだよ。
何で君達なんだよ。
ふざけるなよ。
・・・何であたし達なんだよ」
最後の言葉はほとんど呟きと言っても良いようなものだった。
幼い頃同じ境遇にあったモノ同士が何故今敵として戦わなけれならないのか。
育った環境と引き取られた境遇により敵同士になる。
全部1人の人間によって狂わされた人生。
望んでない生活を押し付けられ、望んでない戦いをするはめになった。
- 317 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月13日(日)21時24分14秒
- 皆それぞれが大事な何かを守る為に戦っているのに。
ひとみはその場で項垂れると自分の拳を強く握りしめた。
辻はすでに腕を下ろして加護を抱えるようにしてひとみのことを見ていた。
そして市井と後藤も遠くからひとみの姿を見つめていた。
沈黙、それだけが部屋の中を支配する。
皆が同じ疑問を持っていた。
もちろん辻も加護もひとみ達が自分達と同じような環境で育ったことなんて知らないが、
お互いに戦う理由がないことは分かっていた。
「・・・鍵は」
辻は小さく呟くように口を開いた。
「鍵はこの下のフロアにあります。それを使えば2階に行けます」
「・・・ありがとう」
- 318 名前:南風 投稿日:2002年10月13日(日)21時26分52秒
- はい、更新終了いたしました。
やっぱり戦闘シーンって難しくてうまいこと書けません・・・。
申し訳ないです。
目指せ文章力アップでまた頑張らせていただきます。
そいでは本日はこのへんで・・・。
- 319 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月14日(月)10時09分19秒
- 大量更新お疲れ様です。
戦闘シーン、楽しませて頂きましたよほ。
次も楽しみにしてます。
- 320 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月14日(月)10時20分31秒
- 両手をひろげた、ひとみに「神」を見たのは私だけでしょうか?
そんな事ありませんよ、すごく伝わってます。
変に細かい描写よりも、イメージで感じる方がいいです。
ちょっと筋肉質なイメージの娘。達に萌え萌えです。
- 321 名前:TRUE 投稿日:2002年10月14日(月)16時14分25秒
- 戦争シーンってホント泣けますよね。
頑張ってください(^O^)☆
- 322 名前:南風 投稿日:2002年10月14日(月)19時02分00秒
- >名無しどくしゃさま
ありがとうございます。
もう続き頑張っていきます!
>ひとみんこさま
自分で書いててもイメージは『神』でした。
だから言ってもらえてマジ嬉しいッス!
>TRUEさま
ありがとうございます。
めちゃ頑張ります!!
皆様毎度毎度のレスありがとうございます。
充電完了目指す先は毎日更新!
ってなわけでやらせていただきます。
- 323 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月14日(月)19時16分54秒
- 「侵入者、1分後にここのフロアに到着します」
新垣の機械的な口調はすでにほとんどの耳に入ってはいなかった。
新垣の隣では、その手を握りしめている紺野がいる。
血の海、そう言っても何ら問題はないといえるフロア。
その中心には飯田が肩で息をしながら立ち尽くしていた。
ことの発端はこうだ。
侵入者がこの建物に入ってきた時、中にいた大人の研究者達は当たり前のように
慌てふためいた。
中には自分の死を予感してパニックに陥るものもいた。
自分よりも幼い子供には戦闘訓練と言って人殺しの技をしこませておいて、自分達が
いざ死に直面しようとするとこの様だ。
飯田はそんな大人達に向かって落ち着かせようと指事を出した。
一時は治まった騒ぎだが、地下1階を破られると、狂ったようにまた騒ぎ始めたのだ。
研究者の1人が紺野を研究室から引っぱりだして、そこらへんに投げた。
そして、違う研究者が淡々と事態を告げる新垣にキレて、その脳に刺さっている
コードを抜こうとしたのだ。
自分達で新垣をこんな体にしておいて・・・
- 324 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月14日(月)19時17分26秒
- 新垣は自分で抵抗することができない。
もちろんコードを抜かれようとしても抵抗できないのだ。
自分の脳に刺さっているモノを抜こうとする研究者の顔をいつもと変わらぬ表情で見つめる新垣。
飯田は迷いもなく、その研究者の頭を撃ち抜いた。
一瞬辺りが静まりかえった後、狂ったように男達が飯田に向かっていった。
飯田はかまわず撃ち続けた。
自分が死ぬのはかまわないが、ここで力のない紺野や自分の意思で体を動かせない
新垣は確実に殺されてしまうだろう。
計画事態は少し早まったが躊躇している暇はなかった。
こうしてこの数分後、3階は無惨な死体とその体から流れた血液によって血の海となったのだ。
ひとみ達がこの部屋の扉を開けた時、新垣の機械的な口調と共に飛び込んできた
情報は理解しがたいものだった。
そしてひとみはその部屋の中心に立つ人の姿を見て思わず口を開いてしまったのだ。
「・・・飯田先生」
飯田はゆっくりと顔を上げるとひとみの方を向いた。
- 325 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月14日(月)19時23分23秒
- その頃、和田のデスクに置いてある電話が静かな部屋に鳴り響いていた。
今まで下で起きていた暴動は音声マイクを伝わって知っている。
その暴動の声が治まった後の電話。
今まで自分が考えていたことが正解だったのかもしれない。
そんなことを思いながら和田は受話器を取り上げた。
「・・・はい・・・はい・・・了解しました」
簡潔に述べられたつんくからの電話は和田が覚悟していた言葉だった。
静かに受話器を置くと、和田は引き出しからしばらく使うことのなかった銃を取り出した。
そして銃を取り出した引き出しを閉めると、手探りで机の上にある継ぎ目を探し、
そこを器用にナイフで開ける。
そこにあるモノを見て和田はため息をついた。
結局自分も使われッぱのただの駒にすぎないのだ。
- 326 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月14日(月)19時27分54秒
「あんたこんな所におってええのか?」
雨風によって濡れた髪をかき分けながら中澤は保田の目をしっかりと向いていた。
「あたしの役目は裕ちゃんの監視だからね」
保田は濡れた髪をどかそうともせずに答えた。
「・・・やっぱりそういうことか」
「多分、裕ちゃんの思ってる通りだと思うよ」
中澤の予想は確信へと変わった。
つまりはつんくの手の上で踊らされていたということになる。
「来てくれるんでしょ?」
「どうせ嫌やとか言ったら何か待ってるんやろ?」
「わかってるじゃん」
「当たり前や」
中澤はゆっくりと保田との距離をつめていった。
- 327 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月14日(月)19時34分44秒
中澤と保田の会話を矢口は中澤から前日にもらった小さなウォークマン型の機械で聞いていた。
これは中澤が矢口だけに渡したものである。
中澤から、会話しか聞くことができないが持っていてくれと言われたのだ。
きっとこうなることを分かっていたのかもしれない。
矢口は中澤と接触した人物に驚きを隠せなかった。
その名前はここ1年間連絡のとれなかった保田だったからだ。
何故という疑問が浮かぶ、そしてもう一つ浮かぶ疑問。
何故ひとみ達を向かわせた?
・・・まさか
矢口は手元にあった資料をあさり、全てにもう一度目を通した。
そうだ、きっとそうに違いない。
だから裕ちゃんはこの資料だけを置いていったんだ。
中澤の真意はそこにあった。
そして矢口が先刻導きだした答えも中澤が用意したシナリオと同じだったのだ。
- 328 名前:南風 投稿日:2002年10月14日(月)19時37分23秒
- 少ないですが更新しました。
昨日頑張りすぎて今日の更新分減ってしまいました・・・←アホ
ペース配分がヘタクソなもんで・・・。
でもちょこちょこ更新は続けていく予定です。
ので、よろしくお願いします。
そんではこのへんで失礼いたします。
- 329 名前:TRUE 投稿日:2002年10月14日(月)19時50分24秒
- キャー少しリアルに読めましたw
こっちの方もレスありがとーございます!!
いやぁ〜なんかしみるねぇ
- 330 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月15日(火)22時02分43秒
- 済みません、しばらくレスしません。
少しためて一気に読みたいので。
交信日付だけはチェックしておきます。
- 331 名前:南風 投稿日:2002年10月15日(火)22時33分49秒
- >TRUEさま
しみますかぁ〜えがったです。
そんでもってありがとうございます。
>ひとみんこさま
いやいや、上手いこと更新できない作者がいけないッス。
レスとか気にせず、読みたい時に読んで下さい。
皆様ありがとうございます。
今日も更新させていただきます。
- 332 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)22時40分06秒
- 「・・・久しぶりだね。まさか吉澤だとは思ってなかったよ」
嘘だ。
先生の口調は全て知っていたという口調だ。
「吉澤もカオリ達のこと殺そうと思ってきたの?」
違う。
先生だってわかってるはずだ。
「・・・分かってるよ。吉澤達の行動は全部新垣から聞いてたから」
飯田が視線を動かした。
その視線を追うようにひとみもそっちに顔を向ける。
!!
そう、そこには頭から何本ものコードを伸ばし、無表情のまま椅子に座りこんだ少女、新垣がいた。
「・・・酷い」
こう呟いたのは後藤だった。
「新垣って言うんだ。ここでは一番最年少なんだよ」
新垣の腕を掴んでる紺野の手に少しだけ力が入る。
飯田は新垣にゆっくりと近付くと、その小さな頭を撫でた。
紺野はじっとひとみ達のことを見つめている。
- 333 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)22時45分48秒
- 「酷いもんだよ。大人達の勝手な理由でこんなにされて、勝手な理由で殺されそうになるなんてさ」
飯田の手が紺野の頭を同時に撫でる。
「・・・飯田先生、鍵は何処ですか」
ひとみはその血の海に足を一歩踏み入れた。
「渡さないって言ったら?」
「言わせません」
「どうやって?」
「どうにかしてです」
「ははっ、言ってることめちゃくちゃだよ」
「それでもです」
ひとみはもう一歩飯田に近付いた。
「お願いします、場所を教えて下さい」
飯田は2人を撫でていた手を止めて顔を上げた。
ひとみよりも高いその背に似合う長い髪がユラリと揺れる。
「紺野」
突然呼ばれた紺野はその大きな目を今以上に大きく見開いた。
「紺野の研究って、後だれくらいかかりそう?」
「え、あ・・・もう数時間もあれば」
「そう」
- 334 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)22時51分30秒
- 飯田は吉澤の目をきつく見据える。
ここの施設はもう終わりだ。
元からそんなに整った設備でもなかったのだから、遅かれ早かれこうなることはわかっていた。
ひとみ達がここに来なければ自分がいつかは今のような状態にするつもりだった。
それが今回早まっただけなのだ。
しかし、今マズイことはこの会話を上で和田が聞いてるかもしれないということだ。
和田か・・・
そう飯田が思った時、建物の全てのフロアに何かスイッチの入ったような音が響いた。
『・・・皆に伝える。さっきここにつんく総司令からの連絡があった』
ひとみ達の中に疑問という波紋が広がった。
ここにいるのはつんくではない?
『この組織を抹消せよとのことだ』
!!
ここのフロアにいた全員に驚きの表情があらわれる。
『よって今から5分後にここは破壊される』
この言葉を最後に放送は途絶えた。
- 335 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)22時58分01秒
- 「・・・どういうこと」
震えた声で言葉を発したのは飯田だった。
ひとみの頭の中で今何をすべきなのかという考えがぐるぐるまわる。
「飯田先生、鍵の場所教えて下さい」
「・・・え?」
「早く!」
普段声を張り上げるなんてことのないひとみが怒鳴った。
そしてその声で飯田はひとみが考えていることがわかった。
「だったらカオリが・・・」
「飯田先生は彼女を助ける方法を早く考えて下さい。
それより早く!時間が無いんですよ!!」
ひとみの言葉に躊躇するように頷くと、飯田は自分の胸元から小さな鍵を取り出し、
ひとみに向かって放り投げる。
それをキャッチするとひとみはダッシュで部屋を抜けて階段を駆け上がったいった。
「いちーちゃん!後藤達も!!」
後藤の叫びにはひとみが答えた。
『ごっちん達はあの娘達を助けて。絶対に助けて』
「・・・後藤、行くぞ」
市井は後藤の腕を掴むと階段を駆け上がった。
そして飯田に向かって叫んだ。
「さっさとしろよ!!!」
- 336 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時01分48秒
- ひとみは加護達のいるフロアを抜け、高橋達がいるフロアを抜け、自分がさっき入ってきた
1階のフロアも駆け抜け、硬い扉の前まできた。
ここまでくるのにさっきの放送からおよそ1分。
扉についている小さな鍵穴に飯田から預かった鍵を差し込むと、扉はもったいぶったように
ゆっくりと開く。
ひとみはわずかに空いた空間に体をねじ込ませると、一気に階段を駆け上がっていった。
近いはずの2階が遠くに感じた。
ひとみは自分の限界以上に筋肉を動かそうと、足に力を込めていった。
- 337 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時03分45秒
- 紺野は研究室に駆け込むと、目の前にあった自分の研究資料をかき集め、飯田と新垣の待つ場所に戻った。
自分がしていた研究で新垣を助ける為に。
- 338 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時08分00秒
- 市井と後藤は2手に分かれてそれぞれが違う階に向かっていた。
後藤は加護達のいる階。
市井は高橋達のいる階だ。
2人はすでに放心状態だった。
まさかこんか形で終わると思ってなかったからだ。
後藤はそんな2人の頬を平手で叩く。
「何ボーッとしてるの!早く下行ってあげなよ!」
いつもの眠た気な言葉はそこにはない。
加護達を覚醒させる為のような力強い口調だ。
加護と辻に叩かれた頬の痛みが広がっていく。
後藤がもう一度叩こうと手を上げて瞬間に2人は下の階に向かって走り出していた。
- 339 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時16分24秒
- 「・・・下に行かなきゃ・・・あさ・・・美が・・・り・・・さちゃんが・・・」
高橋はまだ動かない体で必死で立ち上がろうとしていた。
目の前はグルグルとまわっていて、天井が実際何処にあるのかもよくわからない。
それでも前に進もうと必死で腕を伸ばそうとする。
小川はそんな自分のパートナーを見て、自分のことを恥じんだ。
また自分は何も・・・違う!今度こそ助けるんだ!守るんだ!!
小川は地面を這うように高橋に近付こうとする。
そこに市井が飛び込んできた。
「すぐ動けるようにしてやるからジッとしてろよ」
市井は自分の言葉を放つと同時に、自分の手元からナイフを飛ばし、小川の手足を縛っていた
ベルトを切り、そのまま高橋の元まで走るとその体を抱き起こして背中を軽く叩いた。
高橋の体を縛り付けていた痺れが抜け、まわっていた視界は正常になる。
「大事なヤツら守るんだろ。早く行けよ」
驚いた顔で市井のことを見る高橋を無理矢理立たせると小川の方に突き飛ばす。
「後4分くらいしかないんだぞ、何ぐずぐずしてんだよ!」
市井の怒声はフロア中に広がる。
その声に先に反応したのは小川だった。
まだ完璧に動かない高橋の手を引いて小川は階段を駆け降りていった。
- 340 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時23分36秒
- 「・・・ついた」
目の前に広がる強大な空間。
無数にある扉の一番奥に一際大きな扉があった。
今その扉の前にひとみは立っている。
切れた息を整えるように大きく呼吸すると、ひとみはその扉に手を当てた。
キイィッ
触れただけなのにその扉は開いた。
扉から少し離れた場所にある机と椅子。そしてその上にある電話と銃。
この広い空間にはそれだけのモノしかなかった。
ひとみがその部屋に一歩足を踏み入れる。
自分の靴音だけがいやに部屋に響いた気がした。
「・・・君は・・・侵入者と呼ばれていた人だね」
和田は扉の影に隠れるようにして、壁によりかかっていた。
振り向かないひとみの方にゆっくりと近付く。
「きっとこの建物の破壊時間を延ばせとでも言いにきたんだろ?」
和田はひとみを通り越し自分の机に向かうと、さっきこじ開けた部分にそっと手で撫でる。
「残念だが、それはできない」
椅子が和田が座った衝撃できしんだ音を響かせる。
「俺ができるのは・・・」
和田は自分の撫でていた手の動きを止めた。
- 341 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時28分54秒
- 「ここの爆破時間を早めることくらいだよ」
ひとみは何も言わずに和田のことを見ていた。
「そして君はもう一つ聞きたいことがあってここに来た」
和田は机の上に置いていた銃を握ると、その銃口をひとみに向けた。
「取り引きしないか?君が望む情報を俺が教える代わりに・・・」
乾いた音の後、ひとみの頬についてる傷の上に同じ様な後が走る。
「俺を殺してくれないか?」
和田の目は懇願するようだった。
それを心から望んでいるような目。
何故?
「・・・どうせ今殺さなくたってここの建物の中にれば死ねることじゃん」
「そうつれないこと言うなよ。別に俺は悪い条件だとは思わないがね?」
「・・・」
「ほら、時間は後3分くらいしかないぞ?どうするんだ?」
ひとみは和田の机の方に足を動かし始めた。
- 342 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時39分18秒
- 「よし、じゃあ教えてやるよ。
俺はつんくのただの部下。それ以上でもそれ以下でもない、と思ってる。
言われたままに動く都合のいい駒だ。そして君達もその駒にすぎない。
わかるかな?つんくはこの組織を潰したがっていたんだ。
今まで力を入れていた仲間集めを途中で止めたのは何らかの理由で時間が無くなった
んだろう。俺らに目立った行動をさせて、君達を誘い寄せる。
そして自分は手をくださずに、この組織を壊滅させる。
アイツは簡単に仲間を裏切ることができるよ。
そうやって消された仲間は沢山いたからな。
用の無くなったモノに何の興味も抱かない、むしろ邪魔だから消したがるんだ。
ここも同じことだよ。いずれ自分の驚異になりかねない所だからな。
つんくの考えてることは俺にはわからんが、一つ言えることは・・・アイツがずっと
中澤裕子のことを追っかけていたってことだよ」
・・・中澤さんを?
「何も知らないだろうな。まぁ、それは俺が教えてやってもいいことなんだが・・・」
和田はチラッと腕時計を見た。
「残念ながら時間切れだ」
その言葉に合わせるように自分の体の近くで鈍い爆破音が聞こえた。
「ここの爆破スイッチはつんくが握っているんだ。
だから俺にはどうすることもできない」
体の回りを硝煙の匂いが立ち込めははじめる。
和田は自分の持っていた銃をひとみに向かって投げた。
「さぁ、今度は君が俺の望みを叶える番だ」
- 343 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時43分27秒
- 「・・・裕ちゃん」
矢口は昔中澤から聞いたことを思い出していた。
唯一中澤の過去を知る人物、それは自分。
一度だけ酒に溺れた中澤がこぼした過去の話。
それをその時信じることができなかった。
まだ矢口が幼かったせいかもしれないが、ともかく信じることができなかった。
しかし今それは全て真実だったということが判明した。
だとすれば中澤が連れ去られた今、自分がすることはただ一つ。
中澤の代わりに『ソレ』を阻止することだ。
裕ちゃん、全てわかってたんだね。
- 344 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月15日(火)23時48分27秒
- 「紺野まだ!」
飯田は新垣の脳から繋がるコードの終着点である壁を支えながら叫んだ。
紺野の腕は尋常じゃあり得ない程の早さで動いている。
自分の研究データは頭に詰め込んだ。
完成していなかった部分も勘を信じてやるしかない。
あと少し・・・あと少しなのだ。
紺野と新垣と高橋を除く全員が、主となっている柱を支える為に飯田の命令で
格フロアに散っている。
高橋は紺野と新垣を瓦礫から守る為に2人の周辺を動きまわっていた。
辻と加護は市井と一緒に地下2階に、小川と後藤は地下1階にいる。
もう敵も味方も関係ない。
1人の少女を助ける為に皆が一丸になっていた。
- 345 名前:南風 投稿日:2002年10月15日(火)23時50分09秒
- 更新終了です。
駆け足の内容で本当に申し訳ないッス。
それでも読んで下さっている方、気長に付き合ってやって下さい。
- 346 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月16日(水)08時46分12秒
- めっさ、心引かれましたよ。
感動です。作者様はスゴイ…
- 347 名前:南風 投稿日:2002年10月16日(水)21時09分18秒
- >名無しどくしゃさま
そんな照れるッス!!でも嬉しいッス!!!
本当ありがとうございます。
キリの良い所まで書ければ書いてしまおうと思っています。
それでは更新させていただきます。
- 348 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)21時15分28秒
- ひとみは自分の手元にある銃を見つめていた。
目の前にいる男は両手をポッケに突っ込み、こっちをジッと見ている。
どうせ最後なら・・・
ひとみは自分の思っていた疑問を投げかけることにした。
「何であたしなんかに殺されたいの?」
ひとみの疑問に、和田は片眉を少しだけ持ち上げた。
「簡単なことだよ。この建物というつんくの呪縛に殺されたくないんだ」
「そんな自分勝手なことがッ通るとでも?」
「通すつもりさ。君が今すぐ俺を殺さないんだったら、俺は今すぐにでもこの
ボタンを押させてもらうよ」
そう言うとポッケから手を出し、ボタンに手をかける。
「さぁ時間がないぞ。どうせたかが1分だが君達にとったら多きだろ?」
・・・選択の余地はナシってことかよ。
ひとみは唇を噛み締めると銃口を和田に向けた。
和田はもう一度片眉を持ち上げる。
その仕種は早く殺せと催促しているようだった。
- 349 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)21時28分14秒
- 紺野の腕の神経はそれが千切れんばかりに動いていた。
その先では新垣の脳に刺さっているコードを抜き取る作業が行われている。
紺野の腕の動くスピードは、時間が増すごとに早くなる。
1本、また1本と床に落ちるコードをその先についている金属の小さなジャック。
その形はヘッドホンなどについているモノによく似ていた。
・・・最後の1本。
その時、大規模な爆破が起こった。
爆破場所はひとみ達がいる2階だと思われる。
振動で照明が消え、全フロアが暗闇につつまれた。
それでも紺野の腕のスピードは留まることを知らなかった。
見るというよりは感じるという感覚的な作業。
必要な視覚情報は紺野の頭の中で広がっているのだ。
後1分あれば・・・。
「30秒・・・」
飯田は紺野に残りの時間を告げるように呟いた。
届いたかどうかはわからない。
自分は全力でこの壁を押さえることしかできないからせめて時間だけは伝えておきたかったのだ。
飯田の背後にある壁は、さっきの衝撃でくずれそうになっている。
壁の一部は飯田の脇腹に深々と刺さり、流れる血は飯田の服から染み出して左側の服を
どす黒く変色させている。
力を入れれば入れる程に脇腹には激痛が走るが止めるわけにはいかない。
飯田が抑えている壁、それがこのフロアを崩壊から守る最後の砦なのだ。
- 350 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)21時32分32秒
- 先程の爆発で、この部屋には炎と煙りが立ち篭めていた。
すでにその熱で和田の姿が歪んでいる程だ。
そんな中ひとみは引き金を引いた。
その瞬間、和田は口元に笑みを浮かべて机のボタンを押した。
崩れ落ちる和田と共に建物の揺れは治まった。
和田の笑みに疑問を感じたひとみは、荒れ狂う炎の中、和田に向かって走っていった。
その手には何か紙が握られていた。
ひとみはその紙を和田の手から取ると、その字に目を走らせた。
- 351 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)21時42分41秒
- 「終わった!」
新垣の脳にはもうコードは刺さっていなかった。
今まで刺さっていたはずの頭の穴は、全くといって良い程見えない。
「高橋、2人を早く運び出して」
「飯田さん!?」
「早くしなさい!!!」
飯田の剣幕に押されて高橋は2人を抱えて階段を一気に駆け上がっていった。
そして高橋達が部屋を出ていった頃、またしても建物全体が揺れ始めた。
揺れるごとに飯田の脇腹をえぐるように動く壁に、思わず意識を失いそうになる。
それを寸前で止め、上にいる娘達が逃げる時間を稼ごうともう一度体に力を込めた。
飯田の口から一筋の赤い液体が流れた。
市井は新垣の姿を確認すると辻と加護の手を引いてそのフロアから抜け出して行った。
後藤も同じように小川と共に今いたフロアを飛び出すと一気に外に飛び出る。
「飯田さん・・・飯田さんは!?」
外に出た瞬間に辻が高橋に向かって叫んだ。
言い寄られている高橋は青い顔をして、額に冷たい汗をかき、焦点の定まらない目をしている。
『飯田先生はあたしが助け出します。市井さん達はその娘を助けて下さい』
市井と後藤の通信機の奥からひとみの冷静な声が聞こえた。
『絶対ですよ』
脳からジャックは抜いたものの、新垣は死人のような顔色をしていた。
体の温度はありえない程に冷えている。
高橋の腕から新垣を奪い取ると、市井は紺野の脈を計り、口元に耳を寄せて
その呼吸を確かめた。
「・・・いちーちゃん?」
「黙ってろ。あたし達はあたし達のできることをする」
そう言うと市井は新垣に心臓マッサージと人工呼吸を始めた。
- 352 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)21時57分39秒
- ひとみは崩壊しかけた建物の階段を駆け降りて行った。
その振動の激しさで、何度か足を取られて崩れ落ちそうになる体を歯を食いしばって
持ち直す。
頬は痛いし、喉は煙りのせいでガラガラだった。
触れた扉は熱で焼けるように熱く、自分の手の平の皮が少し向けた。
それでも走り続け、ひとみは飯田の残る地下3階まで辿りついた。
「飯田先生!」
飯田は額に汗を浮かべてまだ壁を抑えていた。
「・・・何してるの。早く吉澤も逃げなさい」
壁は今にも崩れそうで、飯田の声も今にも掠れて出てこなさそうだ。
そんな飯田に問答無用で近寄るひとみ。
- 353 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)21時58分28秒
- 「飯田先生を助けます。そう約束しましたあたしは約束を破るつもりはありません」
「何綺麗事言ってるの!?吉澤なら見ればわかるでしょ!カオリがどいたら壁が崩れちゃうの!!」
「皆はもう外に脱出しました」
「吉澤がいるじゃない!!」
「だからあたしは飯田先生を助けるんです」
さらにひとみは飯田に近付く。
「あたしには大切な人がいます。その人の悲しむ顔を見たくありません。だからあたしは絶対に生きます」
「だったら・・・」
「言いましたよね?悲しむ顔が見たくないんです。だから助けます。
それに飯田先生を必要とする娘がまだ沢山いるんです。その娘達の悲しむ顔も見たくありません。
もう、誰にも悲しい思いをさせたくないんです」
「・・・」
「あたしがカウントをとります。それを合図に力を抜いて下さい」
飯田は観念したように頷いた。
「3・・・2・・・」
その瞬間、建物は崩壊するスピードを上げた。
外でその風景をただ呆然と眺める娘達。
市井は煙る森の中で新垣に自分の上着をかけ、立ち上がった。
後藤がすぐ市井の側にかけよる。
「・・・大丈夫だよ」
後藤はそう言って市井の額の汗を拭った。
- 354 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)22時02分12秒
時計は動き続ける。
止まるとすれば電池が切れたり、壊れたり、何か原因があるということだ。
梨華の目の前にある時計はずっと同じように時間を刻み続けていた。
秒針の針は一瞬止まったように見えるが、実はそれは止まったわけではなく、
正確に時間を刻み続けているのだ。
その時計を見つめ続ける梨華は、その回る時計の針の奥のひとみを見つめていた。
- 355 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)22時11分31秒
- 煙りが大分落ち着き、皆の視界には崩壊した建物が鮮明に写し出された。
地上に出ていたはずの2階部分は地下の方へと完全に沈んだ。
コンクリートと鉄の瓦礫は静かにその役割を終えたのだ。
全員が瓦礫に目をやる。
そしてその視線を感じたのか、沈黙を破るように瓦礫の一部が動いた。
反射的に動き出す後藤と市井。
それに続くように辻と加護も走り出した。
小川と紺野の高橋は、わずかに呼吸する新垣のまわりでその要すを見つめていた。
次々とどかされて行く瓦礫。
どけして行くうちにひとみの服の一部と思われるモノが見えてくる。
皆が無我夢中で作業に没頭していた。
段々と形になるその服がひとみの背中にあたるモノだと気付くのにそう時間はかからなかった。
「よし子!」
「・・・へへっ」
ひとみの力無い笑い声が聞こえた。
「飯田さん!!!」
辻が駆け寄ると、ひとみはゆっくりと震えるように体を持ち上げて転がった。
ひとみの下には顔や髪を煤だらけにした飯田が辻と加護の方を見てニコッと笑った。
転がったひとみが空を仰いだ。
木々の隙間からは星がきらきらと光っているように見えた。
- 356 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月16日(水)22時13分39秒
「そう、じゃあとりあえず全員ここに連れてきて」
矢口はそう言うと、小さな体を大きく伸ばした。
自分の肩や首を揉みほぐすと、安倍や梨華のいる上の階へとゆっくり上がっていった。
「後1日もすれば皆戻ってくるよ。おまけつきでね」
- 357 名前:南風 投稿日:2002年10月16日(水)22時18分11秒
- ここらで本日の更新終了です。
一段落つきました。否、つけました。
次ぎの更新はこの週のいつかになります。
ストックがほぼ空っぽ状態なんです・・・。
でも、少し話しが落ち着いたので和やかムードでしばらく話しは進んでいくと思われます。
それでは失礼いたします・・・。
- 358 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月16日(水)23時05分30秒
- 最大?の山場、お疲れさまでした!
この後、どんな展開か予想も付きませんが、一応ほっとさせていただきました。
某インタビュー記事の、最強のハンサムガール「よっすぃ〜」の面目躍如です。
もう一度写真集を見てみます。
- 359 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月17日(木)16時37分59秒
- 良かった〜ヒヤヒヤしましたよ。
スリル満点ですた。文字だけで感動するとは…
どうなっているのだこの世界は…
では、次の更新までマッタリ待ってます。
- 360 名前:南風 投稿日:2002年10月19日(土)23時41分26秒
- >ひとみんこさま
山場と言えばそうでしたねぇ。
今後はまったり進んでいく予定です。
ので、気長におつき合い願えたら幸いです。
>名無しどくしゃさま
ありがとうございます。
スリル満点なんて言っていただけると嬉し涙ぽろりもんです。
南風は感動を起こせるようにこれからも頑張りますので、よろしければ
もうちょいおつき合い願います。
さて、登場人物増えてしまい、上手いこと話しがまとめられないので更新に時間
かかるかもしれませんが、長い目で見てやって下さい。
本日の更新させていただきます☆
- 361 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月19日(土)23時46分37秒
- 照らす陽射しが眩しく感じてひとみは目を覚ました。
口を動かそうとすると頬が痛んだ。
あたしの隣では梨華ちゃんが眠っている。
その周りでは共に戦ったごっちんや市井さん、そしてついさっきまで敵対していた加護達が眠っていた。
あたしは皆を起こさないようにそっと立ち上がると、いつものカウンターに座った。
- 362 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)00時05分52秒
- あの日、傷付いた人達を乗せて市井さんは車を運転した。
もちろん全員が乗れるはずなんてなくて、無理矢理トランクにつっこんだりした。
あたしのバイクの後ろにはあの戦った少女、『加護』という娘がまたがった。
行き場のなくなった加護達は素直にウチらについてきた。
車の中は終止無言状態。
紺野って娘だけが必死に怪我を負った人の手当てをしていたらしい。
市井さんの隣に座っていたごっちんも珍しく口を一文字に結んで一言も言葉を発しなかった。
矢口さん達の店についた頃には皆疲れきっていて、直ぐそこらへんの床に寝っころがると、眠りに
おちていったみたいだった。
怪我を負った飯田先生と、衰弱しきっていた新垣は矢口さん達のベッドを使って眠った。
考えることは沢山あった。
それでもあの時は何も考えずに眠りたかった。
昨日のことを色々と考えているうちに梨華ちゃんが隣まで来ていた。
まだ眠たそうに目をこすっている。
梨華ちゃんは昨日といっても夜中の3時頃だったが、あたし達がここに到着すると
まっさきに駆け付けてくれた。
安倍さんも矢口さんも出てきて皆を中に連れ込んだ。
まだあたしよりも小さな娘達は始め怯えていたものの、安倍さんのあの笑顔で安心したのか
素直に中に入っていき、飯田先生は2、3矢口さんと言葉を交わして納得したように中に入っていった。
- 363 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)00時16分21秒
- 加護と辻という少女はごっちんと市井さんが中に連れていった。
梨華ちゃんはあたしの顔をじっと見つめて頑張って笑顔を浮かべようと努力している
みたいだったけど、その顔はやっぱり泣き顔だった。
あたしが梨華ちゃんの頭をくしゃくしゃっと撫でて『ただいま』って言ったら梨華ちゃんは
やっぱり泣いて、涙を流しながら『おかえり』と言ってくれた。
あたしの頬はひりひり痛んで、体中傷だらけだったけど、梨華ちゃんの泣き笑い顔は
その全てを癒してくれたと思った。
「おはよう」
梨華ちゃんは寝ぼけた目であたしの声を聞いているみたいだ。
コクリコクリと頷いている。
「まだ眠たいでしょ?横になってなよ」
今度は首を横に振ってイヤイヤっていうアピールをしてくる。
あたしは軽い梨華ちゃんのことを椅子からお姫さまだっこをして持ち上げる。
寝ぼけてる梨華ちゃんは抵抗する力もあまり無いらしく、簡単に持ち上げられた。
あ、顔は赤くなってる。
そのまま自分の太腿に座らせて上半身を自分の方に向けて抱き締めるように抱えて
梨華ちゃんの顎が自分の肩にのっけラれるように調節する。
簡単に言うと赤ちゃんをだっこするのと同じ感じかな。
もちろん足を開かせるわけにもいかないから、足は揃えたままだ。
- 364 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)00時24分29秒
- 「ほら、もう少し寝てな」
あたしの声が届く前に梨華ちゃんはすでに眠りにおちていた。
肩ら辺から安らかな寝息が聞こえて、あたしの胸の当たりから呼吸するたびに膨らむ
肺の振動が伝わってきた。
梨華ちゃんの柔らかな髪は出かける前に香った匂いと同じ匂いがした。
変わらないモノに巡り合えた気がして嬉しかった。
しばらくすると安倍さんがそっと起きてきた。
「おはようございます」
梨華ちゃんを起こさないように声を潜めて挨拶をすると安倍さんも小声で挨拶を返してくれた。
「可愛い顔だねぇ」
安倍さんは母親のように微笑んで梨華ちゃんのほっぺをつっつく。
「・・・ん・・・ひとみちゃん・・・」
梨華ちゃんはあたしの首の方に回した手でぺちぺちとあたしを叩いてくる。
あたしと安倍さんは顔を見合わせて笑った。
「今食事の準備するからね。って言っても人数多いから時間かかっちゃうけど」
「あ、すみません。もうちょっとしたら手伝いますよ」
「いいのいいの。よっすぃ〜は梨華ちゃんのことちゃんと寝かしつけててくれなきゃ」
安倍さんに笑顔はやっぱり素敵だった。
人に安心というものを与えてくれる。
あたしは頭を下げると梨華ちゃんのことを抱きかかえ直した。
- 365 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)00時27分25秒
- 「・・・のの、起きとるか?」
「うん」
加護は声をひそめて自分の横に寝転んでいる辻に向かって声をかけていた。
「あそこに座ってるのってウチらと戦った姉ちゃんだよね?」
「うん」
「・・・何か全然違う感じせえへん?」
「うん」
「・・・うんばっかやないか」
「うん」
「・・・もうちょい寝るか」
「うん」
2人はそのまま目を瞑るとすぐに夢の世界に落ちていった。
- 366 名前:南風 投稿日:2002年10月20日(日)00時29分14秒
- 短いですが更新終了です。
何か日を開けたにしては短い更新でごめんなさい。
今後はしばらくこんな感じで進んでいくと思います。
ので、気長に読んで下されば幸いです。
そいでは本日はこの辺で・・・
- 367 名前:南風 投稿日:2002年10月20日(日)00時30分11秒
- 短いですが更新終了です。
何か日を開けたにしては短い更新でごめんなさい。
今後はしばらくこんな感じで進んでいくと思います。
ので、気長に読んで下されば幸いです。
そいでは本日はこの辺で・・・
- 368 名前:南風 投稿日:2002年10月20日(日)00時31分19秒
- あ、2重投稿になってる・・・。
申し訳ないッス・・・。
- 369 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)19時26分11秒
- 高橋は深く眠りに落ちることができないでいた。
寝てもすぐに目が覚めてしまい、寝ては起きてのくり返しをしていた。
数時間前まで戦っていたはずの人間がここにいるというのが信じられないのだ。
その人間達は新垣を助ける手伝いまでしてくれた。
今までは自分達は戦うことだけを求められてきた。
そいしなければ自分達が生きる所はなかったのだ。
度重なる訓練、心が荒んでいった。
その中で差し伸べられた手。
その手を差し伸べてくれた少女が井今、隣で安らかに眠っていた。
かなりの努力家、結構マイペース、突然地雷を踏むような発言をするその娘は、
ある日突然あたしのことを外に誘ったのだ。
その頃は得に仲が良かったわけじゃなかったが、本当に突然誘われたのだ。
薄暗い森の中を言葉少なめに一緒に歩いた。
じめじめした森の空気は高橋の気持ちを不安定にさせた。
- 370 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)19時33分25秒
- その娘はしばらく歩くと、別に何の変哲も無い所で立ち止まった。
そして柔らかく笑うと『お花なんだよ』と言った。
笑顔の奥が見えなくて、何も言わずに次ぎの言葉を待った。
『気が付くとお花の周りには蝶も虫もお日さまも集まってくるの』
そう言うと着ていた白衣のポケットから慎重にピンクの花を取り出し、湿った地面に
植えた。
『あたしはそのお花が萎れるのを見たくないから、今大地に返してあげました』
そう言うと土のついた手をパンパンと叩いて見えない空を仰いだ。
『愛ちゃん、太陽が必要になったら私に教えてね。太陽にはなれないと思うけど、
雨くらいなら降らせてあげるから。元気になるようにお願いいっぱい込めて
降らせてあげるから、だから1人で萎れないでね』
光りが彼女にだけ降り注いでいるように見えたのは錯角だったのだろうか?
錯角でも良い、忘れたくなかった。
その姿に自分は惹かれたのだから。
「・・・あさ美」
決して面と向かって言えない言葉を口に出してみた。
- 371 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)19時37分35秒
- 色とりどりに並ぶ食材を安倍さんは手際良く調理していく。
少しの時間で店の中には喉を鳴らさせるようないい匂いが充満する。
いつものほかほか笑顔は火の熱さでピンク色になっていて、見ているこっちが
笑いたくなるような優しさを持っていた。
くんくん・・・
くんくん・・・
「いい匂いがするのれす・・・」
ぱちっと目を開ける辻。食欲旺盛色気よりも食い気の子供らしい反応を見せる辻は
起き上がるとその匂いのする方にぽてぽてと歩いて行く。
- 372 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)19時42分43秒
- 匂いの発信源の近くには昨日戦ったお兄ちゃんのようなお姉ちゃんが、知らない
女の人をだっこしてます。
その顔はすごく優しそうれした。
さらにそのお兄ちゃんお姉ちゃんの後ろの方に行くと、ちょっと小さめなお姉ちゃんが
料理を作っていました。
匂いの発信源発見れす。
ぽてぽて歩いて小さなお姉ちゃんに近寄ってみます。
「これ、お姉ちゃんがつくったんれすか?」
小さなお姉ちゃんはちょっと驚いたみたいだったけど。すぐにお日さまのような
笑顔を浮かべていました。
「そだよぉ〜もうすぐできるからね、ちょっと座って待っててねぇ」
とっても落ち着く笑顔らった。
だから辻はお兄ちゃんお姉ちゃんの座ってるすぐ隣に座ったんら。
- 373 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)19時49分22秒
- 「お、おはよう」
梨華ちゃんを抱き、ぼーっとしていたら隣に誰かが座った。
それは昨日戦った辻という少女だった。
「・・・おはようなのれす」
ちょっとはにかみ笑顔というか照れたような笑顔を浮かべて挨拶する辻は、やっぱり
子供といった感じ。
あたしの顔を興味深そうに見てから梨華ちゃんのことを同じように興味深そうに見ている。
「このお姉ちゃんは誰れすか?」
「ん?この娘は梨華ちゃん。石川梨華って言うんだよ」
あたしの言葉に口をポヶ〜ッと開けてこくこく頷くその姿に思わず笑いそうになる。
こういう子供らしい顔をしている方がこの娘にはあっている。
「りかちゃんって言うんれすか」
「そうだよ」
「あのお姉さんは何て言うんれすか?」
辻が指をさした先にはにこにこ顔で料理を作っている安倍さん。
「あの人は安倍さん。安倍なつみさん」
「・・・安倍さんれすか」
辻は安倍さんのことをきらきらした眼差しで見ている。
そんな辻のことを見ていると、後ろから痛い視線を感じた。
「・・・何馴れ馴れしくのののこと見てんねん」
- 374 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)19時57分19秒
- ちょっとクセのある関西弁にあたしと辻は振り返った。
「あいぼ〜ん☆」
「うわっ、何自分きらきらした顔してんねん」
辻は加護の体にぺとっとくっつくと、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
こうやって見てると御主人様とそれにつきまとう犬みたいだ。
「早く座るのれす。おいしい料理を安倍さんが作ってくれてるのれす」
手を無理矢理引いて座らせようとする辻のことを空いてる手でグイッと引っ張て止める加護。
「のの、この男姉ちゃんは昨日まで敵やったヤツやで」
男姉ちゃんって・・・
「でも恐い人じゃないのれす」
「ののは簡単に人を信じすぎなんや!」
「何でそんなに怒ってるんれすか?まだ敵だったらのの達寝てる時に襲われてるのれす」
「・・・そりゃそうやけど」
「それに、それに・・・」
「はぁ、わかったわ。だからそんなに泣きそうな顔せんといてくれる?」
辻の目は涙でいっぱいだった。
つぶらな瞳に浮かぶ液体は今にもこぼれ落ちそうで、その顔はとても悲しそうで、
加護はほぉっとため息をついてから必死で辻のことをなだめた。
そんな2人のやりとりをちょっとお姉さんになった気持ちで見ていたら、料理を
作り終えた安倍さんが入ってきた。
- 375 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)20時04分44秒
- 「おつかれさまです」
「はいよぉ、簡単だけど朝食できたよぉ」
安倍の声でぱっと顔を輝かせる辻、それを諦め顔で見つめる加護。
その姿があまりにも画にはまりすぎて、おもしろすぎて思わず吹き出してしまった。
「あ!何笑ってんねん!!」
「あははははは、ごめんごめん」
「笑いながらなんて説得力ないっちゅーねん!」
「あはははははは」
あたしの笑う振動が響いてしまったのか、梨華ちゃんがもぞもぞと動きだした。
余韻を引きずりながら梨華ちゃんの体に回した手を緩める。
梨華ちゃんはむすっと体を動かすと、あたしの顔を覗き込むように顔を近付けてきた。
「おはよう梨華ちゃん」
「・・・」
「梨華ちゃん?」
「う〜ん・・・」
ちゅっ
「おはようひとみちゃん。って何でそんなに焦った顔してるの?」
まだ眠気眼であたしを見ている。
「・・・ちちゅ、ちゅ〜したぁぁああ!この姉ちゃんがちゅ〜したぁぁぁぁぁ!!!」
加護が真っ赤になって叫び出した。
指を指して顔を真っ赤にして必死で誰かに伝えようとしている。
多分今のあたしも加護に負けないくらい赤い顔をしているはず。
嬉しい反面かなり恥ずかしい・・・。
- 376 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)20時12分26秒
- 安倍さんと辻は話しに夢中で見てなかったみたいだけど、加護の奇声を聞いて
こっちを見ている。ってか安倍さんはニヤって笑ってる・・・。
梨華ちゃんは目がしっかり覚めてきたらしく、周りの状況にやっと気付いて
じょじょに顔を赤らめていっている。
そしてこの加護の奇声が皆の目覚ましがわりになったらしい。
「な、何!?何!?どうしたの!??」
この至って普通なリアクションなのは小川。
「・・・誰の目覚まし?」
目の下にクマをつくって起き上がったのは高橋。
「・・・あ、おはよう愛ちゃん」
目の前にいる高橋に100点満点の笑顔で笑ったのはマイペース丸出しの紺野。
「朝っぱらからなんだよ・・・」
不機嫌さを隠そうともしないて頭をボリボリとかいているのは久々の睡眠を邪魔されてイライラ中の市井さん。
「・・・んぁ・・・」
そして全くもって起きる気配のないごっちん・・・。
全てがバラバラな反応を示していた皆に一斉に声をかけたのは安倍さんだった。
「皆さ〜ん、おはようさん!なっち特製朝御飯スペシャルができたよ〜冷めないうちにさっさと食った食った!」
- 377 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)20時23分50秒
- いつものお日さま笑顔で皆に向かって大声を張り上げている安倍さんは大家族の
肝っ玉母ちゃんって感じ。
その声にいち早く反応した辻はまだあたし達のことを興味津々といった顔で見つめている
加護の手を引き、紺野の笑顔ですっかり御機嫌な高橋と結局何が何だかよくわかってない小川と
起き上がってぼさぼさの頭をぽんぽんと撫で付けている紺野の背中を押して、所狭しと
並んだ『なっち特製朝御飯スペシャル』の前まで誘導していった。
「安倍さ〜んお箸が1本たりないのれす〜」
すっかり安倍に心を許した辻に
「アホ、箸は一膳ゆうんや」
と冷静なつっこみ一発の加護。
さすがにまだ馴染めなくてどうして良いかわからないといった表情の3人に安倍さんは
ほかほかのココアを差し出した。
「はい、これどうぞ。床で寝てたから体冷えちゃっったしょ?」
やっぱり安倍さんの笑顔というのは自然と安心感というものをつれてくるらしい。
ぎこちない笑顔だったが、3人は笑ってそれを受け取ったいた。
その後辻に箸を渡すと、ぱたぱたとこっちに向かって走ってきた。
「ふふふっ、何だか妹が沢山できたみたい」
もちろんその顔はすごい優しさに溢れている。
あたしも同意で頷いた。本当に妹のように思えたからね。
そんなニコニコ雰囲気の所に突然あらわれたのは不機嫌から一遍、ニマニマと笑ってる市井さんだ。
「おはようございます」
「おはよう〜紗耶香も朝御飯食べるっしょ?」
「おう!もちろんよ!・・・へへっ」
- 378 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月20日(日)20時30分57秒
- 今だニマニマ顔の市井さんの視線の先にはあたしと梨華ちゃん・・・。
そう、まだあたしの膝の上には顔を真っ赤にした梨華ちゃんが座っているのだ。
それもお互いにしっかり腰やら背中やらに手を回しあってる。
「朝から仲の良いこったね〜」
そう言って梨華ちゃんの背中をぱし〜んと叩く。
梨華ちゃんはその衝撃であたしの方にずいっと倒れる。
その体をしっかり支えると、もちろんあたしの胸に倒れ来た梨華ちゃんを抱きしめる
図が完成する。
「ひゅ〜ひゅ〜市井姉さん朝一でそんなの恥ずかしい〜」
・・・この人・・・確信犯だ。
あたしの視線に気付いた市井さんは『後藤のことでも起こしてくるかなぁ』なんて
言いながらそそくさとその場を後去っていった。
・・・これからの要注意人物は市井さんか。
あたしは心の中でため息をつくと、梨華ちゃんの体を自分の体からべりっと剥がして
床に着地させてあげた。
「それじゃあぁあたし達もいただきますか」
まだ真っ赤な顔をしている梨華ちゃんの頭をぽんぽん叩いて自分も立ち上がる。
梨華ちゃんはこくりと頷いた。
- 379 名前:南風 投稿日:2002年10月20日(日)20時32分10秒
- 本日の更新終了。
今後もまったりいきます。
- 380 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月21日(月)10時03分49秒
- いくら軽いとは言え、そんなに長く梨華ちゃんを乗せていて
男姉ちゃんの膝はしびれないのか? と考えること小一時間。
また〜りとした朝の情景、いいですね。
- 381 名前:南風 投稿日:2002年10月21日(月)20時25分56秒
- >ひとみんこさま
・・・確かに。
頷くこと小1時間・・・。
うわぁ、やっちまいました・・・。
まだまだ未熟な自分に反省しつつ、更新しやす。
- 382 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)20時39分39秒
- 矢口は飯田達のいる部屋、つまりいつもは自分達が使っている部屋に来ていた。
部屋の中ではベッドの中から上半身だけを起こして矢口を見ている飯田に、その
隣で静かな寝息をたてている新垣がいる。
矢口は自分の持っていた資料を飯田に渡した。
そこには中澤が集めた情報と自分が書き足した答えなどが書き込まれている。
それを無言で見つめる飯田の表情には動揺も何も見られない。
それは飯田自身が導き出した答えと同じだったからだ。
脇腹の傷と同じように心が疼く感覚。
自分が出した答えに間違いがなかったと確信すると同時に怒りが抑えきれずに
爆発しそうになる。
資料を持つ手が震えて字がよく読めなかった。
「とりあえずはあなたの傷が直るのを待とうと思ってる。
そこにも書いておいたけど、そのくらいの時間はあるよ」
矢口は暗い部屋の中で飯田を見据えるように言った。
「今、朝御飯持ってくるからもう少し横になってな」
- 383 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)20時40分22秒
- 飯田は矢口だ出て行ったあと、怒りを吐き出すように口から思い息を吐き出した。
昨日の敵をすぐに信用することなんてできないと思っていたが、それは思い違いだったみたいだ。
あの小さな金髪の矢口という娘は資料を何の躊躇もなく渡してきてくれた。
その中には昨日の作戦のことや、昨日戦った娘達の個人情報、あの場所以外で起きていた
出来事、そして自分達の情報に、自分も知らなかった情報、そしてこの後のことなど
こと細かに書き込まれていたのだ。
多分自分の手の内を全て明かすから信用してくれという意思表示なのだろう。
飯田としても住む家も皆を守る術も無くしてしまった今、この状況は手を上げて
受け入れたいものだった。
資料をきちんと束ねてから天井を見上げる。
暗いに天井に一筋の光りが見えた気がした。
- 384 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)20時45分30秒
- 矢口が下に降りていくと何だかワケのわからないことになっていた。
自分が上に行くまではひとみが1人カウンターに座ってるだけだったのに、今はすっかりお食事タイム。
そのうえ一番気にしていた戦ったもの同士の空気もすでに曖昧になっている。
ひとみと梨華は加護や市井にからかわれ、高橋達と辻と後藤は一緒になって食事にがっついている。
なつみに関してはいそいそと食事を作り続けている。
矢口が階段の所に突っ立ていると、御盆に食事を乗せてなつみがやってきた。
「はい、これ持って行って」
ぐいッと矢口に御盆を押し付け、自分はまたいそいそとカウンターに戻る。
その間も辻が大声でなつみにおかわりを催促している。
矢口はその画をもう一度ゆっくり見渡すと、階段を登っていった。
- 385 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)20時50分13秒
- ガちゃッ
扉のノブが回り、典型的な扉の開く音が響いた。
聞き慣れたはずの音なのに金属音が部屋に響いた時、何故か新鮮な感じがした。
「朝食持ってきたから食べてね」
矢口は朝食のと交換に飯田から資料を受け取る。
「もう読んだと思うけど、一応自己紹介しておくよ。矢口真里です。
呼び方は矢口で良いよ」
そう言って小さな手を飯田に突き出す。
「・・・飯田圭織。あたしはカオリでいい」
そう言って小さな手を飯田が握った。
こうして暗い部屋の中、同じ環境に置かれ、違う環境で育ったモノ同士が仲間となった。
握手をして2人は互いに笑顔を浮かべた。
- 386 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)20時58分37秒
大人数の食事も終わり、皆は後片付けをしていた。
食器洗いは高橋で、それを受け取って拭いているのが紺野、それを棚に戻すのは小川だ。
辻は安倍さんにくっついてまわって一緒にフロアの掃除をしている。
加護は梨華ちゃんと一緒に机や椅子を拭いている。
あたしはバケツの水を取り替えたり、ゴミをまとめたりしていた。
ごっちんと市井さんはしばらく使われていなかった部屋の掃除にあたっている。
これはもちろん飯田さんや他の娘達が使う為だ。
この店の2階には全部で部屋が6つある。
その中の1部屋しか矢口さん達は使っていないので他の部屋は数年間のホコリをためこんでいるのだ。
そうそう、市井さんは自分の住んでいたアパートを随分に出て行っていたらしく、今までフラフラ
していたのだが、矢口さんと安倍さんの説得に折れて、これからはしばらくここに
やっかいになると言っていた。
ごっちんはその話しを聞くと、自分もと言い出し、嫌がる市井さんを無理矢理頷かせて
同じ部屋に住むと言っていた。
大体2人1部屋ということになると、全員は治まりきらないのであたしと梨華ちゃんは
今まで通り、それぞれの家に住むことにした。
最後のゴミを捨て終わって店に戻るとそこは見違える程綺麗になっていた。
皆それぞれが額に汗を浮かべてとても充実した顔をしている。
- 387 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)21時06分31秒
- 「じゃあ、ごっちん達の手伝い行くべか」
安倍さんは腕をぶんぶん振り回してやる気があるぞという意思表示をして皆を促そうとしていた。
「あ、あたし先行ってますから安倍さん達は少し休んでから来て下さい」
階段を登るあたしの後ろから梨華ちゃんが声をかけてきた。
「待って、私も行くよ」
階段を駆け上がる音は急いできたぞっていう梨華ちゃんの気持ちのあらわれみたいで、
何だか笑いたくなってしまう。
ん?
梨華ちゃんの後ろ姿を何だか寂しそうに見つめている娘がいる。
「加護も来る?」
あたしは片方の手を梨華ちゃんに、もう片方の手を加護に伸ばした。
片方の手はすぐに梨華ちゃんに塞がれた。もう片方の空っぽの手はまだ伸ばされたまま。
まだ少し困った顔でいる加護の手を梨華ちゃんがぐいっと引っ張て、強制的に
あたしの手につかませる。
「ほら、早く行こうあいぼん」
梨華ちゃんはお姉さんのように加護に笑いかける。
加護は戸惑いながら頷く。
微笑ましい光景を見て、あたしは2人の手を引いて階段を登っていった。
階段を登り終わる頃、下の方から辻や安倍さんや高橋達の階段を登る音が聞こえた。
- 388 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)21時19分46秒
- 2階も結構綺麗になっていた。
まだ乾ききっていない床や壁にごっちんと市井さんの努力を見た感じだ。
壁や床を眺めていると、奥の扉からひょっこり首を出してきたのはごっちん。
手招きをしておいでおいでとやっている。
あたしは梨華ちゃんと加護の手を離すと、ごっちんの方まで歩いて行った。
「ん?何?」
「ちょっと中入ってもらえる?」
頷く前にごっちんに無理矢理部屋に引きずり込まれる。
そのままベッドに放り投げられ、硬い柱に頭をぶつける。
その後ろではバタン&ガちゃという扉閉めて鍵かけましたよって音が聞こえた。
ぶつけた所を手でさすりながら起き上がると、ごっちんは手に持っていたモノをあたしに
渡してきた。
「掃除してたら見つけたんだ。多分よし子のじゃないかって思って」
あたしは手渡された手の中にあるものを見た。
それは昔あたしが使っていたハーモニカだった。
サックスとか持ち歩くと目立つから、何か無いかと探していた時に古ぼけた楽器屋で
見つけたのだ。
店と同じくらいにボロかったのだがあたしにお似合いだと思って買った気がする。
「・・・よし子、あの時吹いてたてしょ?」
少し決まり悪そうに呟いたのはあたしに気を使ってだろう。
暗黙の了解ってわけではないが、この会話はあたし達の中でタブーになっていた。
- 389 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)21時24分59秒
- 「・・・うん。あの時は本当ごめん」
「もういいよって何度も言ってるじゃんかよぉ〜よし子は気にしすぎなの」
ばしばし叩くごっちんの手はその頃よりも少しだけ大きくなっていて、お互いの
成長を感じずにはいられなかった。
手の中の錆び付いたハーモニカは当たり前だけど。その頃よりもボロくって、でも
あの頃よりも温かい気がして、不覚にも泣きそうになる。
「・・・あの頃はお互いに荒れてたからね」
「違うよ、荒れていたのはあたしの方だよ。本当にそう思う」
俯くあたしの顔をぐいっと持ち上げるごっちん。
まだ直り切っていない傷口に向かってバチーんと平手を下ろしてくる。
はっきり言ってかなり痛い。
塞がっていたはずの傷口が開いてまた血が出てくる。
「も〜だから気にしすぎって言ってるでしょ!よし子は人に気を使いすぎるんだよぉ。
ウチら親友でしょ?変に気使いあうのは止めようよぉ」
ふにゃりと笑うごっちん。
あたしの傷口からは血がダラダラと流れてくる。
それと一緒に涙まで流れてくる。
それは傷口に入るとめちゃめちゃ痛い。
だけどそれよりも今は嬉しい。
- 390 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月21日(月)21時29分20秒
- 親友
前までのあたしには絶対縁の無い言葉だと思っていた。
「あ〜もう泣き虫よし子になってるよぉ。そんなに痛かった?」
言葉を出すと上手く喋れない気がしたから首を横に振った。
そして何だかごっちんにあやされるのが悔しくて、着ていた服の袖でぐいッと
涙を拭いてニカッて笑ってやった。
「そんなはずないじゃん。何言ってるの」
打たれたかわりにごっちんの肩をド突いてやる。
ごっちんはやったなぁって顔をしてあたしの肩をド突いてくる。
何度も何度もくり返して声を上げて笑いあう。
新しい幸せを肌で感じた。
- 391 名前:南風 投稿日:2002年10月21日(月)21時31分35秒
- 本日の更新終了です。
この小説って一体どれくらいの人が読んでいてくれるのだろうと考える今日この頃・・・。
こんな駄文をいつまでも書いてて良いのかなぁ?
ま、ともかく本日の更新は終了です。
- 392 名前:名無し 投稿日:2002年10月21日(月)21時44分54秒
- 読んでますよ〜。
これからも頑張ってください!
期待してます。
- 393 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月21日(月)22時00分24秒
- ここまで話の中に引き込ませておいて
それで書くのをやめられたらそれこそ迷惑です(w
なので、これからも頑張って下さい。
いつも楽しみにしております。
- 394 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月21日(月)23時48分45秒
- 読んでますよ〜
友情いいですねぇ・・・
密かに高紺?w好きなんで嬉しかったり♪
今回はほのぼのとしてていいですね♪
続き楽しみにしてます
- 395 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月22日(火)08時46分39秒
- お−−−−−−−−−−−−ぃ!
ここにも約1名読んでるのがいますよ。
駄文なんてとんでもありやせん
話の流れに引き込まれてしまって、皆ROMってるだけですよ。
- 396 名前:南風 投稿日:2002年10月22日(火)22時15分54秒
- >名無しさま
ういッス!!
ありがとうございます!!
頑張りまッス!!!
>393名無し読者さま
そう言っていただけると本当に嬉しいッス!!
もち放棄なんていたしやせん!
ありがとうございます。
>394名無し読者さま
ありがとうございます。
自分も密かに高紺も好きだったりします☆
今後も頑張らせていただきます。
>ひとみんこさま
いつもいつも本当にありがとうございます☆
もう南風はつねに感激&感動&励まされています!
皆様レスありがとうございます。
何やら皆様に気を使わせてしまったみたいで、申し訳なかったッス。
弱きな自分はこの皆様からのレスですっ飛びました!
今後はこんな弱音吐かずに更新どしどしさせていただきます。
ので、(先日こんなこと言っておいて何ですが)皆様前みたくレスとか
関係なしにふらりふらりと読んで下されば幸いッス。
今回のでもうすでにお腹も心もほくほくです☆
皆様今後もよろしくお願いいたします。
まじありがとうございました!!
ってなわけで南風、本日も更新させていただきます!!
- 397 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月22日(火)22時30分03秒
- 「何か笑い声が聞こえてくるで・・・」
「うん」
「何れすかねぇ、気になりますれす」
「さっきはバチーンって音も聞こえたべ」
「その前にはゴチンって音も聞こえますたよねぇ」
「うん、聞こえた。ってか愛ちゃん言葉が波うってるよ」
「あ、足音が近くなってきたみたいですよ」
紺野の言葉とほぼ同時に扉が開いた。
扉に耳をくっつけていた全員は皆床にゴロリと転がる。
「・・・何してんの?」
ひとみの冷静な一言に全員が皆苦笑いをするしかなかった。
「あ!ひとみちゃん!!ち、血が出てるよ!!」
さっきまで苦笑いを浮かべていた梨華が、飛び跳ねるように起き上がると自分の
着ていた服でひとみの頬を抑えた。
「ほっとけば止まるから大丈夫だよ。それより血って落ちにくいから服とかで
拭かない方がいいよ」
まったくもって出血のことなんて気にしてないというそぶりのひとみに、梨華は
ちょっと頬を膨らませる。
「何呑気なこと言ってるの。それよりもじっとしてなさい!もう、本当に怒るよ」
いつもよりもちょっと強きな梨華の言葉に、思わずひとみは大人しく従ってしまう。
そんなひとみと梨華のやりとり・・・というよりもひとみのことをその場にいる全員が
笑いをこらえながら見つめていた。
ひとみも皆の視線を感じてかバツが悪そうだ。
何か言おうとしても梨華の目がそれを許してくれない。
- 398 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月22日(火)22時33分33秒
「・・・ガキやん」
「本当だよな」
加護の言葉に同意したのは市井だった。
肩にデッキブラシを担いでニタニタ笑いながら歩いてくる。
「ほら、いつまでもひっくり返ってないで手伝えよな。
結構大変なんだからさ」
ぐいッとデッキブラシを加護に押し付けると、ひっくり返ったまま笑いをこらえて
いる他の娘にもぽいぽいと掃除道具を渡していく。
後藤もひとみの肩をぽんっと叩くと、ふにゃっと笑って入り口で膨れっ面をしている
加護の手を引いて、まだ掃除の終わっていない部屋に向かっていった。
皆がぞろぞろと掃除に向かう。
その中にまじっていた市井がひとみ達の方をくるっと振り向くと大声で
「お前らもベッド汚す前に掃除手伝えよ〜」
と言っていった。
すぐに反応した後藤が市井の背中をぽかりと叩く。
なつみ辻を除く全員は皆顔を真っ赤にして部屋に入っていく。
よくわかっていない辻はなつみに手をひかれるまま部屋に入っていった。
そして標的となったひとみと梨華は真っ赤になったまま市井がいた方向を向いていた。
「・・・早めに掃除行こうか」
「う、うん」
ひとみの頬の出血が大分治まったので、梨華はさっとひとみから離れると、
ひとみよりも少し前を早足で歩いていった。
- 399 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月22日(火)22時34分48秒
「・・・ガキやん」
「本当だよな」
加護の言葉に同意したのは市井だった。
肩にデッキブラシを担いでニタニタ笑いながら歩いてくる。
「ほら、いつまでもひっくり返ってないで手伝えよな。
結構大変なんだからさ」
ぐいッとデッキブラシを加護に押し付けると、ひっくり返ったまま笑いをこらえて
いる他の娘にもぽいぽいと掃除道具を渡していく。
後藤もひとみの肩をぽんっと叩くと、ふにゃっと笑って入り口で膨れっ面をしている
加護の手を引いて、まだ掃除の終わっていない部屋に向かっていった。
皆がぞろぞろと掃除に向かう。
その中にまじっていた市井がひとみ達の方をくるっと振り向くと大声で
「お前らもベッド汚す前に掃除手伝えよ〜」
と言っていった。
すぐに反応した後藤が市井の背中をぽかりと叩く。
なつみ辻を除く全員は皆顔を真っ赤にして部屋に入っていく。
よくわかっていない辻はなつみに手をひかれるまま部屋に入っていった。
そして標的となったひとみと梨華は真っ赤になったまま市井がいた方向を向いていた。
「・・・早めに掃除行こうか」
「う、うん」
ひとみの頬の出血が大分治まったので、梨華はさっとひとみから離れると、
ひとみよりも少し前を早足で歩いていった。
その背中はちょっと嬉しそうだったりした。
と、見えたのは目の錯角かな?
- 400 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月22日(火)22時42分02秒
矢口と飯田は外の声を聞きながら笑いあっていた。
飯田が一番心配していた、年下の娘達がすぐに心を開いていっていたからだ。
こういうことは案外大人よりも子供の方が上手いのかもしれない。
飯田は見えない扉の先を見て、もう一度微笑んだ。
「じゃあ、オイラもう行くから少し寝てな」
「うん、そうさせてもらうよ」
そう言って飯田はもう一度布団の中にもぐりこんだ。
- 401 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月22日(火)23時11分33秒
矢口は静かに扉を閉めると、その扉の前に座りこんだ。
さすがに疲れた。
ひとみ達が帰ってきてからも、皆が安心して寝れるようにずっと起きていたからだ。
さすがに準備期間を含めた4日間、神経を使って一睡もしていなかったのは辛い。
背中に扉をおしつけるように寄り掛かって頭を下げる。
とてつもない睡魔が襲ってくる。
こんな所で眠るのもどうかと思ったが、瞼と瞼が磁石のように引き合っている。
矢口は抵抗するのもアホらしいと思い、素直に目を閉じることにた。
皆の声が段々と遠ざかっていき、数十秒のうちに矢口は眠りの世界へと落ちていった。
- 402 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月22日(火)23時20分43秒
大人数で掃除をすると、さすがに早く終わるってもんだ。
ひとみと梨華は最後の仕上げに窓を拭き終えると、汚れた水入りバケツをひとみが
持って、梨華がほうきやちり取りを持って並んで廊下に出て行った。
「あれ?あそこで寝てるのって矢口さんじゃない?」
扉に寄り掛かるように寝ている矢口を最初に見つけたのは梨華だった。
その声に反応してひょっこりと顔を出してきたのはもちろんなつみ。
続くように辻も加護も頭を出す。
「本当だ。どうしたんだろう?具合でも悪いのかな?」
ひとみがさくさくと矢口の方へ近付いていく。
バケツを置いて、座って俯いている矢口の顔を除きこむようにしゃがんでみる。
ぱたぱた走ってきたなつみもひとみの横にしゃがみこむ。
「・・・寝てますね」
「寝てるべな」
矢口さんを起こさないようにひそひそ声で会話をする。
どうしたもんだろうと考えてみる。
もちろんこんな所で寝かしておくなんて腰に悪いし、体に悪い。
あたしは安倍さんに頭を下げて『ごめんなさい』と伝えると、矢口さんを起こさないように
抱きかかえた。小さい矢口さんは見た目通りに軽くて細い。
「なっち、ソファー綺麗にしてくるね」
安倍さんは梨華ちゃんに辻と加護の手の平を握らせると、階段をぱたぱたと駆け下りていった。
梨華ちゃんの手を握っている辻は上目使いに梨華ちゃんのことを見つめていた。
- 403 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月22日(火)23時46分47秒
- 「どうしたの?」
「いいらさんに会ってもいいれすか?」
ぎゅっと握る手に力がこもった。
辻の手の平の傷が梨華の手の平に押し付けられるような形になる。
もちろん傷の理由を知っているのは、加護だけだ。
だからその手をじっと加護は見ていた。
「あたし矢口さん下につれていくね・・・それと」
ひとみは梨華に小声で言葉を伝えると、階段をゆっくり下っていった。
辻はひとみの方は見ずに、梨華の方だけをじっと見ている。
加護がぷいっと横を向いて少しだけ梨華と繋がった方の手に力を入れた。
「・・・そうだね。心配だもんね」
梨華は2人の手を引いた。
辻が扉をそーっと慎重に開ける。
部屋の中は暗くて、カーテンの奥から差し込む光だけが部屋に少量の光りを取り入れていた。
辻は飯田のことを見つけると、梨華の手を離して飯田に駆け寄った。
- 404 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月22日(火)23時47分26秒
- 飯田はすでに眠っていて、布団が上下するのだけがここから見える。
その隣で寝ている新垣もわずかな光りに照らされてその呼吸は確認できた。
震える手を伸ばして飯田の髪に触れる辻の手に、外の光りが降り注いでいた。
梨華と加護は入り口の近くでそんな辻の後ろ姿を見ていた。
さっきまで辻が握っていた方の手には、不自然な角度の傷跡の感触が今も梨華の
手に残っている。
そのせいかもしれないが、辻の後ろ姿が梨華には儚気に見えてしまった。
開け放った扉の所では、梨華と加護の後ろに高橋、小川、紺野が心配そうに
新垣の方を見ている。
3人の気配に気付いて、梨華は加護の手を引いて部屋から出ていった。
「静かにしておくんだよ」
梨華はすれ違いざまに3人に優しく微笑みかけ、そのまま廊下を歩いていった。
「・・・私が付いていてあげていいかなぁ」
立ちすくむ3人の中で一番先に口を開いたのは紺野だった。
新垣と一番仲が良く、あんな姿にされてからもずっと新垣の為に研究をしていたのは
紺野なのだ。
もちろん残った2人も新垣の側にいたいのは当たり前なのだが、あまり大人数で部屋の中に
いるのもどうかと考え、この場は紺野に任せることにした。
- 405 名前:南風 投稿日:2002年10月22日(火)23時49分17秒
- 本日の更新終了です。
何だか書きたい話がとっちらかっちゃって、なかなかまとまりません・・・。
読みにくいかもしれないッスね。
しかし、頑張ってこれからもいきますぜい!!
- 406 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月23日(水)08時46分07秒
- 今回のチャミさま、ちょっとお姉さんれす。
甘えてみたい♪ 叱られてみたい♪ うふ♪ (あほや!)
- 407 名前:394 投稿日:2002年10月23日(水)16時07分15秒
- 仲間がいてうれしいですよ♪<高紺好き
お姉さんな石川さん♪
日ごろもしてそうで想像中・・・w
自分も握って欲しい(w
- 408 名前:南風 投稿日:2002年10月23日(水)21時35分47秒
- >ひとみんこさま
ちょっと拗ねぎみの加護ちゃんにはお姉さん梨華ちゃんがぴったりと
くっついてあげてます(笑)
梨華ちゃんの優しさは国境を越えて!!
>394さま←こんな呼び方で良かったのでしょうか(汗)
なんか日頃から加護ちゃんに対して梨華ちゃんはしっかりお姉さんって感じが
するんですよねぇ。
う〜ん実際ってどうなんでしょう?(笑)
レスありがとうございます。
ストック不足で更新スピードが落ちてしまいそうですが、できるかぎり更新して
いこうと思っております。
んなわけで本日の更新スタートッス!!
- 409 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月23日(水)21時50分23秒
- 高橋と小川は1階に来ていた。
矢口の寝ているソファーから離れた所でなつみからもらったジュースを持って静かに
座っている。
終止無言の2人。
高橋は少し複雑そうな顔をしている。
本当に微妙な表情の違いなのだが、永年のパートナーとも言える小川はこの表情を
見のがすはずもなかった。
「やっぱり里沙ちゃんも気になるけど紺ちゃんも気になるでしょ?」
この小川の発言に高橋は大きな目をさらに大きく見開いた。
それは、誰にも言ったことがなかった気持ちなのに、気付かれないようにしてきたつもりなのに
小川にはしっかりとバレていたからだ。
「気付いてないとでも思ったの?何年愛ちゃんのパートナーやってると思ってんのよ」
小川は手に持っていたジュースを笑いながら口に運んだ。
気付かないはずはない。
今までずっど一緒に訓練を受けていた仲間、そして親友なのだから。
自分の気持ちを素直に出せない高橋の正確は昔からだ。
頑張って話しかけたり、交流したりするのだが、自分の気持ちや抱いている感情は
絶対にバレないようにひたすら隠す。
高橋は友達を友達以上に見ないように必死だった。
それは今まで保っていた均衡を壊したくないから。
小川に言わせればただ逃げているだけという風になるのだが、高橋は何よりも
4人仲良く過ごすことを望んでいたのだ。
「愛ちゃんは深く考えすぎなんだよ。ってか私達の関係がそんな簡単に崩れるはず
ないじゃんか。
何が起きたって友達だって言ったでしょ?昔皆で指きりしたじゃんか。
もっと素直になっちゃいなって」
- 410 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月23日(水)21時51分08秒
- 高橋と小川は1階に来ていた。
矢口の寝ているソファーから離れた所でなつみからもらったジュースを持って静かに
座っている。
終止無言の2人。
高橋は少し複雑そうな顔をしている。
本当に微妙な表情の違いなのだが、永年のパートナーとも言える小川はこの表情を
見のがすはずもなかった。
「やっぱり里沙ちゃんも気になるけど紺ちゃんも気になるでしょ?」
この小川の発言に高橋は大きな目をさらに大きく見開いた。
それは、誰にも言ったことがなかった気持ちなのに、気付かれないようにしてきたつもりなのに
小川にはしっかりとバレていたからだ。
「気付いてないとでも思ったの?何年愛ちゃんのパートナーやってると思ってんのよ」
小川は手に持っていたジュースを笑いながら口に運んだ。
気付かないはずはない。
今までずっど一緒に訓練を受けていた仲間、そして親友なのだから。
自分の気持ちを素直に出せない高橋の正確は昔からだ。
頑張って話しかけたり、交流したりするのだが、自分の気持ちや抱いている感情は
絶対にバレないようにひたすら隠す。
高橋は友達を友達以上に見ないように必死だった。
それは今まで保っていた均衡を壊したくないから。
小川に言わせればただ逃げているだけという風になるのだが、高橋は何よりも
4人仲良く過ごすことを望んでいたのだ。
「愛ちゃんは深く考えすぎなんだよ。ってか私達の関係がそんな簡単に崩れるはず
ないじゃんか。
何が起きたって友達だって言ったでしょ?昔皆で指きりしたじゃんか。
もっと素直になっちゃいなって」
- 411 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月23日(水)21時56分12秒
- 小川は持っていたジュースを机に置くと高橋の背中をばシッと叩いた。
高橋の目からは叩かれた衝撃によって涙が出てくる。
それは痛みなんかじゃなくて、理解してくれるものの存在がいたから、それが小川だったからだ。
止めようと思った涙は止められないし、笑おうと思った顔には笑顔なんて作れなかったけど、
小川には今自分がどんな表情でいたいのかというのはきっと伝わったと思った。
だから小川は高橋の涙を拭おうとはせずに背中を叩き続けてくれたんだと思った。
「よし、それじゃあ里沙ちゃんの所にでも行きますか」
「あい。そうしましょう」
2人は立ち上がると手を握りあって階段を上がっていった。
- 412 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月23日(水)22時06分17秒
- ひとみは矢口のことをソファーまで運ぶと、その後のことをなつみにまかせて
いつもの自分の座るカウンター席に座ると煙草に火をつけた。
そんなに気がたっていたわけじゃない。
ただ後藤との過去を思いだし、昨日あったことを思い出し、そしてさっき梨華に
告げた言葉を思い出して、昔を思い出して気持ちが不安定になりそうだったからだ。
嵐のように過ぎていったが、昨日の今頃は小さな娘達と敵対していた。
そして自分は人を1人確実に殺した。
あの時、和田がスイッチを押した瞬間、確か建物の揺れは治まった。
最後に見せた和田の優しさと呼んでもいいのだろうか。
ともかくあのおかげで、建物の崩壊は長引くことになった。
そしてあの手に持っていた紙。
それは今ひとみのポケットの中に入っている。
遺言とも言える内容のメモ。
それはあまりにも簡潔で、あまりにも素直な言葉だった。
ひとみは煙草を加えるとポケットから紙を取り出した。
汚れてくしゃくしゃになった紙には丁寧な字で文字が綴られている。
そう、たった一言。
ひとみはその紙を丁寧に畳むと、もう一度ポケットにしまった。
煙草は煙りを放ちながらどんどんと短くなっていく。
ひとみはそんな些細な様子を眺めながら目を瞑った。
瞼の奥には様々な光景が思い写されている。
扉の開く音が聞こえたのは実際の音だったのだろうか?
それとも幻聴だったのだろうか?
今聞こえた音の判断がひとみには出来なかった。
- 413 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月23日(水)22時15分31秒
- 掃除の終わった部屋は小奇麗に片され、古くなったベッドは座るとギシッという音をたてた。
別に座れれば何処でも良かったのだが、できれば2人でいれる所がいい。
部屋にはベッドが1つだけ。だから必然的に並んで座るようになる。
梨華と加護は同じベッドの上に腰を下ろした。
加護は相変わらず悲しそうな顔をして梨華の手を握っている。
カーテンを引いてるせいで部屋は薄暗いが、掃除したても部屋は心地よかった。
「・・・さっきあの男姉ちゃんと何こしょこしょ話ししとったん?」
加護が梨華の手を握る手に少しだけ力を込めた。
ここに来てから加護は疎外感というものを感じていた。
辻はすぐになつみになついた。高橋達もそれなりに固まって動いている。
自分には辻しかいないのに、辻はなつみにも飯田にもべったりなのだ。
だから悲しくなった。
自分の居場所がなくなった気がして悲しくなった。
さっきのひとみと梨華のやり取りも自分だけのけものにされた気がして悲しくなった。
だから梨華の手をずっと握っていたかったのだ。
梨華は手を握れば握り返してくれる。
自分をしっかりとつなぎ止めてくれる。
「・・・ひとみちゃんが自分のこと話してもいいよって言ったの」
梨華が少し辛そうに呟いた。
静かな部屋にはその小さな呟き大きく響く。
加護は黙ってひとみの顔を思い出していた。
- 414 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月23日(水)22時23分53秒
- あの時、銃を床に落として両手をいっぱいに広げて天を仰いだ顔は忘れられない。
単純に美しいと思い、その姿を忘れることは罪だとすら思えた。
銃を構えた自分を目の前に、銃を手放し、全てを受け入れるように全身を捧げたひとみは
一体どのような体験をしてきたのだろう。
興味といえば興味。
加護は何もひとみのことを知らない。
しかしひとみ達は何か知ってるようだった。
だから戦おうともしなかったのだろう。
加護は自分がつけたひとみの頬の傷を思い出して涙が出そうになった。
綺麗な服に泥をつけてしまった時によく似た感覚。
あの傷は消えるのだろうか?
白い肌に刻まれた傷跡は消えるのだろうか?
心配だった。
この手で握っている手はきっとあの人の大切な人の手なのだろう。
さっきのひとみの顔を見ればどんなバカなやつだって分かる。
だって、すごく優しい顔をしていたから。
だから傷のことを話しておかなければいけないと思っていた。
許してもらおうとは思っていない。
だけど言わなければこの手を握ってる資格も無い気がしたのだ。
「あのな・・・あの男姉ちゃんのほっぺの傷な・・・」
梨華が自分の方を向いた視線を感じて、加護は少し言葉につまった。
「・・・あれ、ウチがつけたん」
- 415 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月23日(水)22時34分01秒
- 梨華の顔は見れない。
だから怒っているのかどうかもわからない。
叩かれる?握っている手をフリ程かれる?
考えるだけで涙がこぼれそうになる。
だから梨華のとった行動は予想外だった。
柔らかな匂いを感じた時には加護は梨華にしっかりと抱きしめられていたのだから。
「泣かないで。ひとみちゃんも私も怒ってなんかないんだからさ」
泣くなと言われた方が泣きたくなるってものだ。
加護からは堪えていた涙がぽろぽろ流れてくる。
「・・・うぐっ・・・何で・・何でっ・・・怒らへんの・・・っ」
加護は梨華の胸に抱きついて泣いた。
そんな加護の背中を梨華はあやすように優しく叩いてあげる。
「怒る理由なんて無いからじゃない。悪いのはあいぼんじゃない、あいぼん達じゃない」
そして手を繋いだまま自分よりも小さな体を抱き締める。
「引き取られた環境の違いで戦うなんてすごく皮肉な運命なんだと思う。
私は直接関わったことじゃないから、偉そうなことなんて言えないけどね・・・
さっきひとみちゃんが自分のこと話していいよって言ったって言ったでしょ?」
加護は涙でべたべたになった顔を上げて梨華のことを見た。
「・・・ひとみちゃんはね、ひとみちゃん達はね、小さい時にあいぼんと同じように
両親を失っているの・・・・・」
それから梨華は自分の知っていることと、ひとみの過去を加護に話した。
相手が加護でなければ梨華自身が泣いてしまいそうだったが、これはひとみから
託されたと思い、涙を堪えて話し続けた。
その扉の奥で高橋と小川がいることを気付かずに・・・.
- 416 名前:南風 投稿日:2002年10月23日(水)22時36分37秒
- 更新終了です。
本文の二重投稿失礼しました。
あれには自分も焦りました・・・。
ふい〜っと。
何だか皆涙流してばかりです。
緊張の糸が連鎖反応みたく切れていってます。
頑張れ皆〜。
以上、本日の更新でした。
- 417 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月24日(木)08時23分29秒
- 笑いは作れる時が有ります。
でも泣くことは、自分に正直になった時しか出来ないような気がします。
涙は心の雫です。
- 418 名前:394 投稿日:2002年10月24日(木)16時59分53秒
- 様なんていいですよ!(w
実はHNあるんだけど全然使ってないやつですw
自分も梨華ちゃんはお姉ちゃんって感じがしますね♪<加護ちゃん
高橋の気持ちバレてたんですね。さすがパートナー!
よっすぃーの過去を涙を堪えて話す梨華ちゃん・・・
えらいぞっ
- 419 名前:南風 投稿日:2002年10月26日(土)00時34分54秒
- >ひとみんこさま
いいこと言ってくれますねぇ。
心にぐっときやした。
南風は今泣きたいまっさかりです。
心の雫が濁ってきやした。
ので、今日の更新分、少なかったら申し訳ないっす。
>394さま
いやいや、様思いっきりつけさせてもらっちゃいます(笑)
気が向いたらHN教えてやって下さいです。
今回は梨華ちゃんではなく、ごっちんが頑張っちゃいます。
え〜っと、かなりショックなことがありまして、筆ならぬキーボードを押す
指がどうにも重たい感じでございます。
が、あまり更新に日を開けたくないので、更新します。
- 420 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月26日(土)00時44分15秒
- 「あれ?どうしたの??そんな所で立ちすくんじゃって」
茫然と話しを聞き入っていた高橋と小川に声をかけたのは後藤だった。
後藤の問いかけに答えられない高橋達を無視して扉をノックしたのは後藤の後ろに立っていた市井だ。
「入るよ」
中から梨華の声の返事が聞こえた市井は扉を開けた。
部屋の中では目を真っ赤にした加護と、その体を優しく包み込んでいる梨華がいる。
市井は扉の横に移動をすると、立ちすくんでいた高橋と小川の腕を掴んで部屋の中に引っ張りこんだ。
「何かコイツら話しあるみたいだよ。だからそこに混ぜてやってくんない?」
後藤に背中を押されるように床に座る2人。
梨華は加護の手を握ったまま視線を合わせるように床に座る。
「・・・さっきの話しは本当ですか?」
独自のイントネーション。
口を開いたのは高橋だった。
- 421 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月26日(土)01時16分35秒
- そしてそれに答えたのは後藤だ。
「後藤とかよし子の話しでしょ?そうだよ。高橋達が聞いたのは本当だよ」
なんて事ないといった感じで後藤は答える。
梨華の視線と高橋達に答えるように後藤は言葉を続ける。
「隠していてもしょうがないことだしさ、むしろちゃんと知っておいた方がいいと思う。
後藤もいちーちゃんもやぐっちゃんもよし子も小さい頃に親を失ってるの。
んで裕ちゃんに拾われたんだよ。
よし子はちょっと遅かったけどね。
まぁ、ともかく本当の話しだよ。
だから後藤達は君達を傷つけるつもりなんてないし、傷つけあいたくないって思ってる」
後藤はそう言うと市井の側にぴとっとくっつく。
「いちーちゃんはぶきっちょだから言葉で上手いこと人に伝えられなかったりするけど、
本心は同じ。
皆を守りたいんだ。
そうだよね?いちーちゃん」
後藤の言葉にちょっと照れた風に顔を背けた市井はそのまま手を振って部屋を出て行った。
- 422 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月26日(土)01時17分17秒
- 「ね、ぶきっちょでしょ。でも本当は優しい人なんだよ。
高橋はさ、いちーちゃんに恐いこと言われたみたいだけど、あれもいちーちゃんなりの
優しさなんだ。すぐにわかってくれとは言わないけど、心の何処かで覚えておいてね」
そう言って後藤は最上級の笑顔を浮かべて部屋から出ていった。
「・・・皆に伝えないけんな」
加護はそう言うと梨華から手を離して大きく伸びをした。
そして今だに座り込んでいる高橋と小川の手をとって立ち上がらせると梨華に向かってニヤッと
笑った。
「姉ちゃんはいい女やな」
市井と同じくらいにぶきっちょかもしれない加護なりの照れ隠しと感謝の印し。
梨華は黙って笑顔でうけとった。
- 423 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月26日(土)01時27分08秒
- 市井はベッドの上に寝転がっていた。
部屋の場所は飯田が今いる部屋、つまり矢口達が本来使っている部屋の隣だ。
すぐここに後藤が来ることは分かっている。
だから部屋には鍵もかけなかった。
目を瞑って尊敬していたあの人の背中を思い出してみる。
矢口と自分とあの人は連れられてきた順番が近いせいもありすぐに仲良くなった。
大切な友であり、尊敬できる背中を持った人。
もう1年近くも連絡がとれていなかったのだが、絶対に生きているという妙な確信があった。
「圭ちゃんのこと思い出してたんでしょ?」
瞑った目を開くことなく、入り口に立っていると思われる後藤の言葉を聞いた。
音もなく扉を閉めると、ベッドの隙間に体を入れて寝転がり、市井の体に手を回して
体のラインをそるように指でなぞっていく。
仰向けに寝ている市井はその手をどけようともせず、後藤の動きに呼吸を合わせている。
後藤の指が市井の心臓の方まで上がってくると、そこに手の平を当てる。
「もっとドキドキしてくれてもいいんじゃないの?」
後藤は少し笑いながら市井に体を寄せた。
手のひらには市井の心臓の鼓動が伝わってくる。
いつもと変わらぬ鼓動に後藤はただ笑うしかない。
「やっぱりいちーちゃんにとって後藤はただの妹みたいなものなのかなぁ」
心臓に当てていた手のひらを滑らせるように動かし、市井の唇に自分の指を当てる。
やはり微動だにしない市井に、後藤は諦めたように手を離して同じように仰向けに寝転がった。
- 424 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月26日(土)01時35分51秒
- 「・・・前にも言っただろう。だから今はもう少し待っててくれって」
ゆっくりと口を開いた市井は瞑った目を開いて天井を見上げた。
自分の中で後藤は妹以上の存在だし、本当に心から守ってやりたいと思っている存在だ。
それでも今はやはり後藤の気持ちに、自分の気持ちに答えるべきではない。
後藤とそうなる時はまっすぐ向き合っていたいのだ。
保田の安否が気になってるまま後藤のことは抱きたくない。
それ程に市井は後藤に対して真剣だった。
きっと後藤も分かってるはずなのだが、たまに今みたく甘えてくることがある。
それは大抵、過去のことが関係している。
自分の前でも他人の前でも、もう気にしてないという感じにサバサバを過去を話す後藤でも、
心の何処かで救いの手を求めているはずなのだ。
本当に吹っ切れる程、浅はかな家族愛のもとで育ったわけではなかっただろう。
それに、今日はひとみとの過去も思い出しているのだ。
市井は後藤の方に体を向けると、自分の肘で頭を差さえながら後藤の柔らかな髪を撫でてやった。
気持ちよさそうに目を閉じる後藤に優しく市井は声をかける。
「吉澤とのこと、思い出してたんだろう?」
後藤は何も言わずに市井の指を受け入れ、市井の言葉を受け入れている。
「さっきはよく頑張ったな」
市井はそう言うと後藤の髪にそっと口付けをした。
- 425 名前:南風 投稿日:2002年10月26日(土)01時37分16秒
- 更新終了です。
また近いうちに更新します。
ってか早ければ明日にでも更新します。
うっす!
- 426 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月26日(土)08時59分47秒
- 从#~∀~#从<南風さん、ウチで良かったら慰めたるから、こっちおいで。
姐さんもこう言ってますんで、がんがってくらはい。
- 427 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月26日(土)22時13分02秒
- お体の具合がよろしくないのでしょうか…心配です。
無理なさらないでくださいね。ホントに。
作者様が倒れてしまったら…我々は…。・゚・(ノД`)・゚・。
でも、続き待ってます(w
- 428 名前:南風 投稿日:2002年10月26日(土)22時53分14秒
- >ひとみんこさま
ありがとうございます。
そっち行きます☆
>名無しどくしゃさま
ありがとうございます。
ちまちまですが頑張らせていただきます。
嬉しいッス!!もう南風頑張ります!!!
- 429 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月26日(土)23時29分44秒
- カウンターの上に置いた灰皿にはもう何本もの吸い殻が積もっていた。
さっき聞こえた店の扉を開ける音は、矢口となつみが出かけて行った音らしかった。
1階にはひとみ1人しかいない。
最後の1本の煙草を取り出して火をつける。
ゆっくりと煙りを吐き出す度に一つの思いが浄化されていく気がした。
ため息を一つつく。
・・・。
ため息はまわりにいる人間を不快にさせるんだよな。
相手に気を使わせてしまい、側にいる相手を嫌な気持ちにさせる。
だから人前ではなるべくため息をつかないようにと気をつけてきた。
下手な気の使いようだ。
ひとみはもう一度出そうになるため息をグッと堪え煙草を灰皿に押し付けた。
ポッケに入った紙を確かめるように触ると、席を立って階段を上がっていった。
- 430 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月26日(土)23時38分14秒
- ひとみが部屋に入ると、そこには加護達全員が集まっていた。
「丁度良かった。今加護から全部聞き終わったところなんだ」
その中心にいる飯田が手招きをした。
ひとみが近付くと、飯田の周りに集まっていた娘達が道を開ける。
飯田の寝ているベッドの横につくと、ひとみは和田が握っていた紙を差し出した。
「これは?」
「死ぬ直前に和田・・・さんが握っていたんです」
飯田はそれを受け取って開いた。
丁寧に書かれた字は確かに和田の字だ。
そしてその字を見て飯田の大きな目からはそれにあった大きな涙がこぼれた。
その字を周りから見つめている娘達は信じられないといった表情をしている。
「多分ですけど、和田さんはいつも皆にそういった気持ちを抱いていたんだと思います」
飯田は手紙を握りしめて何度も頷いた。
- 431 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月26日(土)23時44分07秒
- 考えてみれば、和田は関わることこそ少なかったが、つねに遠くから皆のことを見守って
くれていた気がした。
自分の訓練中に起こった事件のことでも、和田はそれを公表せずに静かに手回しをしてくれたのだ。
辻の手が今動くのもそのおかげだ。
不器用と言えばその通りかもしれない。
だからここに綴られた文字もそんな和田をあらわしている気がした。
「『すまなかったな』か・・・」
飯田は手紙を握りしめたままひとみを見つめた。
「・・・ありがとう」
「・・・いえ」
飯田は笑っていた。
その笑顔と『ありがとう』という言葉は様々な意味が込められていたのだと思う。
ひとみは飯田に向かって頭を下げると部屋を出ようと扉の方に向かっていった。
「吉澤」
立ち止まったひとみに飯田は後ろから声をかけた」
「よろしくね」
ひとみは飯田達の方をくるりと向くと、深く頭を下げた。
- 432 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月27日(日)00時09分31秒
- なつみと梨華は必死になって布団を運んでいた。
この布団はずっと各部屋の押入れに入れてあったものだ。
綺麗に収納というか保管されていたおかげで一応使えるみたいだが、さすがに数年間
手をつけずにいたのでちょっとこのまま出すのに躊躇いを感じたなつみがさっき外で外気にさらしてきたのだ。
なつみがその作業をしている時に、ソファーで寝ていたと思っていた矢口が起きてその作業を手伝ってくれた。
一通り作業が終わって店に戻ってくると、さっきまカウンターに座っていたひとみのはもうおらず、
代わりに吸い殻の積もった灰皿がカウンターに置かれていた。
自分の横で眠たそうに目をこすっている矢口をソファーに寝かせると、なつみは2階の各部屋まで
もう一度布団を運んでいった。
なつみはその途中でベッドに座ってる梨華を見つけたので、今2人して布団を運んでいるのだ。
最後の1セットを持って上がっている途中、部屋から出てきたひとみに会った。
ひとみは2人をちらっと見て、梨華となつみの手から布団を取り上げると、代わりに部屋まで運んでいった。
一つ鍵がかかった部屋があったので、布団はその分だけ廊下に置いておいた。
「お疲れ様ぁ。何かすっかり暗くなっちゃったね」
なつみの言う通り、窓の外は暗くなっており街灯だけが静かに光っていた。
「今日はよっすぃ〜達もここに泊まっていきなよ。今すぐなっちがおいしい料理作ってあげるからさ」
- 433 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月27日(日)00時16分28秒
- そう言うとなつみは店のジュークボックスのスイッチを入れた。
店内にいつもと同じようなゆったりとりた音楽が流れる。
この曲は梨華とひとみが初めて踊った曲だ。
なつみの方をひとみが見つめると、なつみはウインクをしてカウンタ−に入っていった。
ひとには梨華の方へ一歩近付くと、右手を胸に当て背筋を伸ばして梨華のことを見つめた。
「踊っていただけますか?」
ひとみがバカ丁寧に頭を下げると、梨華はおかしそうにクスクスと笑って手をさしだした。
「こちらこそお願いしますわ」
その手を取ると、ひとみは梨華の体を抱きよせた。
なだからかな音楽に合わせて揺れる2つの影。
ひとみがしっかりと梨華のことをリードする。
なつみはその2人の姿をカウンターから楽しそうに眺めていた。
そして階段の所では音楽を聞き付けてやってきた辻加護コンビに高橋、小川、紺野も
なつみと同じようにひとみ達のことを見つめていた。
- 434 名前:南風 投稿日:2002年10月27日(日)00時20分03秒
- 少量ですが更新しました。
これはスランプと呼んで良いのでしょうか?
言葉が上手いこと書けないッス・・・。
申し訳ないです。
今回の更新文とかおかしいと思うんですけど、できれば目瞑っててください。
次ぎの更新の時には復活してきます!!
- 435 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月27日(日)08時32分44秒
- スランプなんて言わないでください。
ダイジョブです、充分です、完璧です(ちょっとこんこん)
南風さんに比べたら、某所で書いてる私なんて恥ずかしくて、やってられません。
自信を持ってください、がんばっていきまっしょい!!
- 436 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2002年10月27日(日)09時08分10秒
- 更新お疲れ様です。
同じく、充分でございますw
復活の時を待っていますよほ。
- 437 名前:南風 投稿日:2002年10月28日(月)21時34分05秒
- >ひとみんこさま
う、うぅ(涙)
ありがとうございますです。
ちょっと焦ってしまった自分がいたので、今後はまたマイペースで頑張ろうかと
思っております。
>名無しどくしゃさま
復活しちゃいました。
ってか早っ!っていうくらい早い復活です。
焦りすぐは禁物ッスよね。
スランプ南風は、今日からマイペースを心にもう一度文章を打っていこうと思ってもります。
あんまし変わってないかもしれないんすけど、心のなかでは変わってるんで(笑)
今後もよろしくお願いします。
- 438 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月28日(月)21時45分17秒
- あの後は皆で楽しく食事をした。
お互いに似た様な過去を持っているモノ同士、馴れ合うのに時間はあまりいらなかった。
怪我をしている飯田先生や、まだ体力の回復していない新垣は下に下りて騒ぐことは
できなかったから、下にいた全員であまり騒がないようにしながら飯田先生達が
いる部屋で食事の続きをした。
今後の予定としては飯田先生の怪我が直るのを待ち、新垣の体が良くなったら
また新たに動きだそうということになった。
ずっと気になっていた中澤さんのことは、矢口さんがまた今度話すと言ってそれだけで
終わってしまった。
その時の空気があまりにも聞けない空気だったから、あたしは強く出ることもできずに
ただ頷くだけしかできなかった。
次ぎの日には店は営業を始めた。
相変わらず梨華ちゃんも矢口さんも安倍さんも忙しそうに働いている。
あまり従業員が増えても怪しまれるということで、他の娘達は夜は部屋で過ごしたりした。
学校の方はどうするか悩んだが、いきなり2人して消えて変な噂をたてられてもやっかいなので
一応は通うことになった。
飯田先生、いや飯田さんは学校を辞めた。
怪我の方は日に日によくはなっているみたいだが、まだ本調子というワケではなさそうだ。
- 439 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月28日(月)21時52分57秒
- 紺野曰く、壁に一部が刺さった状態で建物が揺れたせいで、体の中を大分損傷したらしかった。
完全に回復するにはもう少し時間が必要みたいだ。
新垣は飯田さんよりも回復が早かった。
衰えていたのは体の機能だけなので、皆がそれぞれ手伝ってリハビリをしている。
ごっちんと市井さんはバイトを始めた。
それはあまり矢口さんや安倍さんに世話になるのが嫌だったからだろう。
2人とも何気に気を使うのだ。
辻や加護、高橋、小川、紺野には飯田が勉強を教えていた。
そして、勉強が終わると皆はそれぞれ開店の準備を手伝った。
あたしもバイトをしよかと考えていたら、矢口さんがここで働きなと言ってくれた。
ちょこちょこ顔を出して働いていたからあまり怪しまれないだろうとのことだ。
あたしと梨華ちゃんを除く全員は矢口さん達に店の2階で寝泊まりをしているが、一応帰る
家のあるあたし達はそれぞれお家に帰っている。
- 440 名前:南風 投稿日:2002年10月28日(月)21時54分55秒
- あまりにも眠くてもう書けないッス・・・。
短いッスよね・・・。
申し訳ないです。
次回からはまた微妙な過去偏に入ります。
まかなか進まない物語なんですが、ともかく過去偏に入ってしまいます。
- 441 名前:394 投稿日:2002年10月28日(月)22時04分34秒
- 更新お疲れ様です
次から過去編ですか
色々と気になります続きがw
眠い日はゆっくり寝て大事にしてくださいね〜
- 442 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月29日(火)22時25分11秒
- 一区切り付いたようなので、最初から読み直してみますた。
詳しく書くと長くなりそうなので省略しますが、全体の構成がとても良いです。
まだまだ終わりそうな感じでは無いので、続きを期待しています。
南風さん、スタミナ勝負になりそうですが、がんがってください。
- 443 名前:南風 投稿日:2002年10月30日(水)23時40分03秒
- >394さま
過去入ります。
書きたいことは沢山あるのですが、どんな順番で書けば良いのかがわからなくて
実は困ってたりしてます(苦笑)
お気づかい本当にありがとうございます。
>ひとみんこさま
ありがとうございます。
ほめられることに慣れていない南風はちょっと恥ずかしいッス(照)
でも嬉しいです。
そうですね、自分でもなかなか終わりが見えてこないので頑張っていきます。
何だか最近やたら忙しくて更新が不定期ですみません。
今日もどれくらい書けるかわからないのですが、更新させていただきます。
- 444 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月30日(水)23時54分13秒
- 皆がそれぞれの生活に慣れようとしている頃だ。
あたしが辻の手の傷の理由を知るきっかけになったのはこんな些細なことからだった。
「うわぁ!」
ガシャンという音がしたので掃除をしていた手を止めてカウンターに駆け付けてみると、
そこにはお湯の入った鍋をひっくり返してしまい、困った顔をしている辻がいた。
今安倍さんと矢口さんは買い出しに行ってる最中、梨華ちゃんは何だかやることがあると
言っていたのでまだ店には来ていない。
つまり2階にいる娘達を除けば1階にいるのはあたしと辻だけなのだ。
「ちょ、辻大丈夫か!?」
服とかにはほとんどかかっていなかったみたいだが、手はぐっしょりと濡れている。
辻の足下には湯気のたった今だに熱そうなお湯が小さな池を作っていた。
あたし達がいくら訓練をうけていようと熱いものは熱いし、もちろん火傷だってする。
本来お湯なんてものを手にぶっかけてしまえば熱くて当たり前なのに、この時の辻は
ただ困った風な顔をしているだけだった。
その表情からは苦痛といったものなど見えてこない。
「辻、大丈夫か?とりあえず冷やさなきゃいけないから水につけときな。
すぐ氷り水用意するからさ」
- 445 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月31日(木)00時02分30秒
- 水道の蛇口を捻り、勢いよく水を出すと濡れている辻の手を引っ張て無理矢理水に
手を当てる。
この時思わず握ってしまった辻の手に細長い傷を感じた。
火傷しているはずなのに、この時の辻は全くといって良い程に苦痛の表情を見せなかった。
あたしの脳裏に辻のリアクションと傷のパズルが生まれてくる。
それが次第に一つの絵のように組み立てられていく。
辻の方を見ようとした時、階段からバタバタという音が聞こえてきた。
その音は下の物音と辻の声に反応した加護が出した音だった。
「のの!どうしたん!!」
加護の呼び掛けに辻は曖昧ににっこりと笑う。
「よっすぃー、一体ののどうしたん?」
そう、加護と辻はあたしのことを『よっすぃー』と呼んでいた。
何でも言い方が気に入ってるそうだ。
「あぁ、辻がお湯の入った鍋ひっくりかえしちゃったんだよ。
そんで両手に思いっきりそのお湯かぶちゃったみたいでさ」
その時一瞬だけ加護の顔色が変わった。
今だに流れる水に言われた通り手を濡らしてる辻の方をチラッと見る。
「・・・よっすぃー、夜梨華ちゃんも一緒でええから家上がってもええか?」
「あ、うん。そりゃ別にいいけど・・・ってか多分梨華ちゃんの家の方が居心地良いと思うよ」
「そんなんどうでもええねん。とりあえず今日約束したで」
そう言うと加護は辻の方へと向かっていった。
加護にぽかりと叩かれた辻はテヘッと笑っていた。
さっきの加護の表情を忘れられないまま、あたしは床のお湯を拭き取り、鍋をもう一度
火にかけた。
- 446 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月31日(木)00時12分34秒
梨華ちゃんが店に来たのは、辻が鍋をひっくり返してしまった後30分くらいたってからだった。
加護はすでに水のはったバケツを持って2階に辻のことをつれて行っている。
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」
梨華ちゃんはそのままカウンターの奥に着替えに入って行った。
あたしは鍋に水を継ぎ足してずっと火の前に立っていた。
ずっと辻のことと、加護の表情が頭から離れなかったからだ。
「おまたせ。早くひとみちゃんも着替えておいでよ。
お鍋は私が見てるからさ」
梨華ちゃんは黒のパンツに体のラインをぴっしりとだすような作りの白いワイシャツを着ていた。
あぁ、そういえば着替えてなかったんだっけ。
そんなことに今頃気付く。
「どうしたの?何だかぼっーっとしてない?」
「あ、あぁ、うん。別に何ともないよ」
「そ?ならいいんだけど」
あたしはとりあえず着替えようと思い、カウンターの奥に入っていった。
前に矢口さんが用意してくれた服をそのまま着る。
ノリの利いたシャツはわざわざ梨華ちゃんがアイロンをかけてくれたものだ。
鏡の前で最近伸びてきた前髪や横の髪を後ろに撫で付けるようにセットする。
鏡に写った自分の頬には大きなガーゼが貼られている。
この大きめなガーゼは結構邪魔で、取ってしまいたかったが、手をかけようと
すると梨華ちゃんがムスッと怒ってしまうのでつけたままにするしかなかった。
- 447 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月31日(木)00時21分02秒
- 「おまたせ」
あたしがカウンターに戻ると、梨華ちゃんはあたしの顔をじっと見てきた。
ガーゼでも気になるのかな?
「やっぱしこれ取った方が良いと思う?」
とガーゼを指して聞いてみると、梨華ちゃんは頭を即横に振った。
「何かひとみちゃんのオールバックってかっこいいなって思って」
梨華ちゃんは頬をちょっと薔薇色に染めながらあたしの顔に見入っている。
こんなに見つめられるのも何だか気恥ずかしくて、あたしはちょっとはにかんだ
笑顔を浮かべた。
「そうだ、梨華ちゃんって今日の夜なんか用事ある?」
「え?夜はないけど、どうしたの?」
「今日加護が家に来たいって言っててさ。あたしの家よりも梨華ちゃんの家の方が居心地良いかと思って。
今日平気なら加護と一緒に梨華ちゃんの家にお邪魔しようかと思っててさ」
「う、家はダメだよ。あ、あのぉ〜・・・ほら、すごく散らかってるしさ」
・・・何でそんなに動揺するの?
梨華ちゃんは顔の前で手をひらひらさせたり変な動きをしている。
何スか?あたしのこと家に上げたくない??あたし何かしたっけ?
梨華ちゃんじゃないけど、あたしの思考はどんどんネガティブへとなっていく。
初めての拒否って感じ。
まぁ自分もさんざん心配かけて振り回している立場だから何も言えないけどさ・・・。
- 448 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月31日(木)00時23分46秒
- 梨華ちゃんはあたしの前にすっと入ってくると、あたしの顔を覗き込んできた。
「・・・何かひとみちゃん拗ねてない?」
あたしがですか?
「眉間にシワよってるよ」
あたしがとっさに手で額を隠そうとすると、梨華ちゃんはあたしの額に素早く
口付けをした。
「今のところはこれで許してね」
梨華ちゃんはぼそっと呟くと開店の準備に戻っていった。
・・・何だかなぁ。
- 449 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月31日(木)00時29分27秒
- あたしが府に落ちないといった表情をしようが、そんなのにはおかまなしに店は開店する。
昔と違って忙しくなったこの店。
とっぷり物思いにふけっている時間なんてない。
梨華ちゃんは忙しそうに動き回ってるし、安倍さんも矢口さんもずっと手を動かし続けている。
頬に大きなガーゼを貼ったあたしはカウンター業務に回された。
毎度のことのように時間はあっという間に過ぎていき、気が付けばもう時間は2時。
閉店の時間だ。
この頃ではあまり遅くまで営業しなくなっていた。
上ではまだ幼い娘達が寝ているし、皆がそれぞれ神経をすり減らせるような生活をしているからだろう。
さっさか片付け、着替えて上の階に上がって行く。
扉を小さくノックすると、加護はすでに着替えていてた。
「ののは飯田さんの所で寝てるから」
そう言うと加護は静かに扉を閉めていった。
- 450 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年10月31日(木)00時34分02秒
- やはり表情は何だか暗い。
加護は早くしろといった感じにあたしを見てから階段を下りていった。
いつもは辻も加護もお互いにくっつきあって寝ているのだが、今日は加護が辻のことを
飯田さんの所へおいやったらしかった。
(辻は飯田さんのことが好きでたまらないといった感じだから追いやられて感覚ではないのだろうが)
とのかく辻が今飯田さんの所に寝ているみたいだ。
この時というか会った時かた思っていたのだが、辻と飯田さんには何だか言葉じゃ
言い切れない何かがあるような気がしていた。
- 451 名前:南風 投稿日:2002年10月31日(木)00時36分04秒
- 短いですが更新しました。
辻の過去偏の核心部分はもうちょっとしたらです。
これ舞え振りが少し長いッス・・・。
- 452 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月31日(木)09時10分04秒
- いえいえ長いだなんて、とんでも無い。
重要なパートなんで、じゅっくり書いてください。
ちょっとねがちぶになってるひーさま可愛い!
- 453 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月31日(木)21時55分20秒
- 初めて読みました。
続きが楽しみです。
長くなるのは全然OKですよ。
マイペースでがんばって下さいね。
- 454 名前:南風 投稿日:2002年11月02日(土)20時51分52秒
- >ひとみんこさま
そう言っていただけると嬉しいです☆
今日もそこに手が届くか分かりませんがかつかついかせていただきます。
>453名無し読者さま
はじめまして。
そしてありがとうございます。
だらだらっといかせていただきます。
何やら忙しいままの南風です。
が、今日は時間できたので書かせていただきます☆
- 455 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)21時02分02秒
- 「さっき説明した所以外に触れなきゃ大丈夫だよ」
あたしは前に梨華ちゃんに説明したのと同じことを加護に言った後、部屋の中へと案内した。
相変わらず生活感の無い部屋だと自分でしみじみ思ってしまう。
あまり使わない台所なんて綺麗なもんだ。
あたしは2人にお茶を入れながらそんなことを思ってた。
お茶を渡した後に風呂の用意をすませる。
「もうすぐ準備できるからさ、とりあえず部屋でも入ってきなよ。
加護もまだ入ってないだろ?」
加護は何か言いたげに頷いた。
「話しは後でゆっくりと聞くからさ、とりあえずはスっきりしておいで」
そう言うと加護はもう一度頷いた。
あたしは引き出しの中からTシャツ2枚と適当なズボンを2本取り出すと、それをれ
加護と梨華ちゃんに渡した。
「え、私はいいよ」
「何言ってんの。あれだけ働いたんだから汗かいてるでしょ?風邪ひくよ」
半ば強引に梨華ちゃんに服を押し付けると、バスタオルやタオルを用意する。
2人はボーッとしたまま机に向かいあって座っている。
梨華ちゃんは何度か加護に話しかけていたのだが、加護がずっと俯いたままで口を開こうと
しないので、梨華ちゃんはそっとしておいてあげようと思ったのか、自分も黙って紅茶をスプーンで
かき回したりしていた。
何だか微妙な空気だ。
- 456 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)21時10分06秒
- 「もうそろそろ良いと思うから加護、行っておいで」
この空気を打破したくて、あたしは少し早いと思っいながら加護のことを立たせた。
立ち上がった加護はもじもじと前で指をいじくりまわしている。
「・・・なぁ梨華ちゃん、一緒に・・・お風呂入ってくれへん?」
加護は消えそうな声で小さく呟いた。
梨華ちゃんもちょっと驚いているみたいだ。
それでもすぐに立ち会がって加護の近くまで行くと、加護の頭に手を乗せて
「いいよ、一緒に入ろう」
と優しい声で言った。
あたしはそんな2人のやりとりをちょっと複雑な気持ちで見てしまっていた。
加護が梨華ちゃんに寄せる信頼というものは、きっと辻が飯田さんに寄せるモノと
似ているのかもしれない。
お姉さんと妹。
そんな言葉がぴったりな感じだ。
本来なら微笑んで見ていたいものなのだが、どうにも自分だけがそこに取り残された
感じがしてしまう。
独りは慣れていたはずなのにな。
自分をあざ笑うかのような笑みが思わずこぼれてしまった。
梨華ちゃんに出会ってからというもの、あまり独りでいることがなくなっていた。
孤独を知り、人を避け、人を拒んでいた自分がいざ取り残されることになると
こうやって複雑な気持ちになるなんて思いもしなかった。
人間とは本当に身勝手な生き物だと痛感する。
そして自分もそんな人間の1人なんだということも同時に感じた。
- 457 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)21時18分49秒
- ひとみは2人が風呂場の方へ行くのを見送ると、自分の着ていた服を脱いで装着していた
銃を取り出して下に着ていたものを脱ぎ捨てた。
素肌に感じる空気と、梨華のくれたネックレスがひとみの体の体温を一気に下げていく。
自分の体に刻まれた傷跡の部分を隠すようにひとみは取り出した部屋着であるトレーナーとジャージを
素肌の上に着た。
銃は引き出しの定位置にしまっておく。
今脱ぎ捨てた服を拾い上げると、まとめて隅に置いておく。
やかんを再び火にかける。
その火を見つめながら今日の辻のことを思い出した。
- 458 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)21時26分03秒
- 加護はぷかぷかとお湯につかっていた。
梨華は今シャンプーの真っ最中だ。
「梨華ちゃんってエエ体してんなぁ」
加護は少なめなお湯を肩にぱしゃぱしゃとかけながら呟いた。
「そんなことないよぉ」
わしゃわしゃと髪を洗っている梨華に加護の姿は見えないが、その視線は感じているので
結構恥ずかしい。
「もうよっすぃ〜には体見せたんか?」
「ブッ!!」
加護の軽〜い一言に思わず梨華は吹き出す。
「なんや、まだなんか。んならよっすぃ〜の傷はまだ見たことないんやな」
またしても加護の軽そうな一言に梨華の手は止まった。
その通りなのだ。
話しは聞いたのだが、実際に見たことはない。
ひとみは肌を見せることを拒んでいる。
そして自分から強く出るというようなことはしない。
その態度はまるで何かを躊躇しているような感じだ。
ひとみは何処かで境界線を引いている。
それがある為にひとみと梨華は同じ部屋に泊まることがあっても、一線を越えるという
ことが今までないのだ。
- 459 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)21時42分16秒
- 梨華としても無理強いは絶対にしたくない。
ひとみも梨華もお互いが強く出れない為に踏み込めない領域。
梨華の手は完全に止まってしまった。
加護は湯舟から出てくると、止まっている梨華の代わりに自分の手を動かし始めた。
「よっすぃ〜の傷は何処にあるのかわからんけど、ウチの傷は背中にあんねん」
加護の手は梨華の髪の中でわしゃわしゃと動き続ける。
梨華はそれを拒むでもなく、加護の話しに耳を傾けた。
「小さい頃にお母さんにお風呂入れてもらって時にな、ウチら襲われたんや」
加護の手は止まらない。
「そこんとこでこうズバッと切られたんや」
加護はシャワーを握ると梨華のシャンプーを洗い流す。
そしてリンスを手に取ると髪になじませていく。
「ウチな、あれ以来1人でお風呂は入るの恐いんや」
梨華の背中から加護の笑い声が聞こえた。
きっと口に出してしおかなければいけない程に不安なんだろう。
加護が自分のことを話すのは始めてな気がした。
自分は今必要とされている。
そう梨華は思った。
「また一緒にお風呂は入ろうね」
梨華は鏡越しに加護に笑いかけた。
- 460 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)21時53分13秒
- ひとみが壁によりかかって煙草を吸っていると、梨華と加護が風呂から仲よさそうに出てきた。
乾ききっていない髪は梨華に妖艶さを、加護には幼さをかもし出させている。
2人の握りあった手に軽い嫉妬を覚え、それを隠すように2人に気付かないフリを
して煙草をふかす。
しかしそれが逆に恥ずかしくなり、2人に視線を向けた。
少しだけ開けた窓から逃げ切れない煙りは部屋の中を支配していく。
風呂上がりにこの煙りは悪いと思いひとみは煙草を灰皿に押し付け、その火と煙りを消した。
それと一緒に自分の中を支配し始めていた嫉妬の火と煙りを消そうと試みる。
つねにマイペースをきめこもうとしているひとみにこれは珍しい動きだった。
「何か飲む?」
自分のいつもと違う行動が梨華にバレないようにひとみは何でもないといった調子で
立ち上がると火からやかんを外した。
「じゃあ紅茶もらえる?」
「ウチはココア」
言葉を受け取り、ひとみは素早く頼まれた飲み物を作った。
ついでに自分ようにも紅茶を入れて床に座る。
「ひとみちゃんはお風呂は入らないの?」
「あたしは別にいいよ。それよりも加護の話しを先に聞きたい」
ひとみは紅茶を一口飲むと、カップを机の上に置き、静かに加護の言葉をまった。
話しを振られた加護はココアに口をつける。
梨華はひとみの方をチラッと見て、加護の方へと視線を向けた。
- 461 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)22時01分27秒
- 「・・・よっすぃー、さっきののが鍋ひっくり返した時おったろ?そん時何かおかしいと思わんかった?」
「・・・思ったよ」
梨華はよくわからないといった表情だが、ずっと加護のことを見つめている。
「多分予想はあってると思う。ののはな、手に刺激を与えられても何も感じないんや」
梨華ちゃんの目が大きく見開かれ、あたしの方へと向けられる。
あたしは梨華ちゃんと視線をあわせると加護の方へと向き直った。
「それって辻の手の傷と何か関係ある?」
加護はコクリと小さく頷く。
「ののと飯田さんってめちゃめちゃ仲ええやろ?ののとウチはほとんど一緒の時にあの施設に入れられたンや。
ののは昔っから泣き虫でな、いっつも訓練に泣いてたわ。
んで施設に入れられてしばらくした時に、ウチとののと2人っきりで訓練したんや。
そん時ウチぶっ倒れた。
訓練の内容はあの広くて磁石も何もきかない迷路みたいな樹海の地図を書けって
いう何やめちゃめちゃなもんやった。
そんでその途中にウチは思いっきり毒蛇に噛まれて、ぶっ倒れたんや。
- 462 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)22時14分58秒
- 意識がボーッとしてる中でのののこと見たら、やっぱし泣きまくってた。
涙も鼻水も出して声を上げて泣いてた。
毒蛇はののにも噛み付こうとしてるみたいやった。
どんどんとののに近付いていくねん。
ウチは何とか体動かそう思ったんやけど、全然動かんのよ。
体はめっちゃ熱いし、でも寒いし、視界はボーッとしてるし、ともかく全部が全部
ピンチってやつやった。
そんでののに毒蛇が飛びつこうとした瞬間にそれは弾けた。
何が何だかわからんかったけど、ともかくののが助かったってのは理解できたから
このまま目瞑ろうとしたんよ。
そしたら頬バチーんって叩かれてな、目開けたら凄い形相の飯田さんが目の前にいてな
ンでウチに向かって言ったんよ『あの娘を独りにするつもりなの』ってな。
ビックリした。
いきなりなんやねんって思った。
飯田さんは驚いているウチをよそに注射打ったり手当てしてくれた。
凄く素早く適格に処置してくれたんや。
ののはその飯田さんの後ろ姿を見て、自分もこんなになりたい思ったんやってさ。
それからは、ののは時間を見つけては飯田さんにべったりくっついて回った。
飯田さんも自分を慕ってくるのののことを妹みたいに可愛がっていたみたいや。
飯田さんはな、ウチらよりも年上やったから訓練の内容も違ってたんや。
その時は戦闘訓練を受けてた。
年令が上になるにしたがって訓練は変わってくるんやって。
どっかの組み潰すとか、よぉわからんけどともかく実戦訓練受けさせられるんやって---------------------
- 463 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)22時28分55秒
- その時、辻はどうしても飯田と共に行きたいと自ら志願して実戦訓練についていっていた。
頭がきれ、実力も結構ある飯田はすばらしい程のスピードで目標を消滅させていった。
辻はただそれを見つめるだけしかできなかったが、それでもその中から一生懸命
何かを吸収しようと頑張っていた。
予定よりも早く作戦は終了した。
飯田は長い髪の毛をほき、額に飛び散った血を拭い終わると、辻と共に帰ろうとした。
その時、飯田達の士官が突然辻を跳ね飛ばし、飯田のことを組み敷こうとしたのだ。
あまりに突然な行動と、あまりに意外な行動に全くといってもいい程反応のできなかった
飯田はなす術もなく、地面に組み敷かれた。
士官は飯田の体を乱暴に触っていく。
辻は飯田の見せた驚愕の表情に異常を感じて必死で士官に抵抗を見せた。
まだ力の無い拳でどしどしと叩きまくる。
餌を目の前にした士官は簡単にキレた。
飯田から体を離すと、辻の小さな体を木に押さえ付け、両手を頭の上に持ってこさせた。
手を片手で押さえつけると、腰にぶら下げていた大型のナイフを突き刺したのだ。
次ぎの瞬間にとても辻の声とは思えない悲鳴があたりに響き渡った。
微振動で走る激痛。
ナイフを抜くにも両手はそのナイフに刺されている。
あまりの激痛に、辻の記憶はそこで途切れた。
飯田の真っ白になっていた頭の中は辻の悲鳴によって現実世界へと強制的に戻された。
そして自分の銃を取り出すと、士官の頭をぶち抜き、緊急の無線を使ってこのことを和田に報告した。
- 464 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)22時37分41秒
- 辻の手の神経や骨や筋肉は数十時間の手術によって何とか繋ぐことができた。
こんなにも時間がかかったのは、あの士官が突き刺したナイフに関係があった。
あのナイフは先から柄に向かうにしたがって、背中の部分が段々とギザギザの
のこぎりのようになっているという形状だったのだ。
辻の手に刺さっていたのは丁度そののこぎりのような部分。
木からナイフを抜く時、つまり辻の手からナイフを引き抜く時に、辻は痛みによって
目を覚まし、声にならにくらいの悲鳴をあげた。
幼い娘に与えられたとてつもなく苦痛を伴う事件。
飯田や加護達の必死な介護とリハビリにより、辻は手こそ動くなったものの、この事件によって
辻の手には一切に刺激というものが伝わらなくなってしまったのだ。
飯田は激しく自分を攻めた。
自分ば犯した罪の代償はあまりに大きすぎた。
木の緩み、そしてそれが招いた小さな娘への大きな試練。
自分が守るべき立場だったのに、逆に守られた。
あの優しい笑顔からは想像もつかない程の悲鳴。
これは何日も飯田につきまとった。
眠りに落ちることもままならに程に耳に残った。
- 465 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)22時47分11秒
- 極度の睡眠不足に陥った飯田はついに訓練中に倒れた。
それも辻や加護の訓練の指導中にだ。
飯田が次ぎに目を覚ましたには、自室のベッドの上だった。
何日眠っていたのかはわからないが、長い時間眠っていたのは確かだと思う。
その証拠といわんばかりに体の節々が痛んだ。
しばらく天井を見つめ、深呼吸をしようとした時に初めて胸の上に重みを感じた。
「・・・辻、加護」
2人は飯田の胸の上に重なるようにして眠っていた。
服は訓練服のまま。
顔には乾燥した泥がついており、頭には葉っぱまでくっついている。
多分訓練からそのままここに来てくれたんだろう。
飯田の目に涙がたまる。
言葉で言い表せないことが世の中にはどれくらいあるのだろ。
表現できないモノの数はどれくらいあるのだろう。
きっとそんなことを考えることは少なくて、そう思うこともあまりない。
飯田の胸には暖かみが溢れている。
涙はその代弁をするかのように暖かな流れとなって飯田の頬を伝っていく。
「・・・ありがとう。カオリは強くなるからね」
2人の頭を優しく撫で、飯田は心に誓い、言葉に出した。
---------------------------
ウチらが目を覚ました時には飯田さんめっちゃエエ顔しとった。
今まで暗い顔しとったはずなのに、めちゃめちゃエエ顔しとった。
その後な、飯田さんがウチらのことぎゅって抱きしめてくれたんや。
めっちゃ温かくて、ウチら思わず声をあげて泣いてしもうたわ。
- 466 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月02日(土)22時55分08秒
- ののはずっと飯田さんが元気がないのは自分のせいやって攻め続けてた。
飯田さんが元気ないとののも元気なくなってな。
だから飯田さんが元気になったらののも元気になったんや。
ののの手にはもう一生感覚が戻ってこんけど、ののは笑ってられるし、飯田さんは
ずっと見守ってくれてる。
でも痛みも何も感じることができんから、さっきみたく火傷とかしてもののは気付くことが
できない時があるんよ。
ウチはできる限りののと一緒にいたいと思っとる。
それはもちろんウチがののと一緒にいたいから。
でも、気付けない時もあるから・・・
よっすぃーにも梨華ちゃんにも・・・・・一緒にいてもらいたいねん」
加護は不器用そうにニヤッと笑うと、すっかり冷めてしまったココアを口にした。
「何当たり前なこと言ってるんだよ」
ひとみは立ち上がると加護の手からカップを取り上げて、もう一度暖かなココアを入れ直した。
梨華の紅茶も同様に入れなおす。
ひとみは自分の嫉妬に怒りを覚えた。
自分の幼稚さに怒りを向けた。
だから次ぎの言葉は本当に心を込めて言った。
「そんなのお願いされるまでもないだろ」
梨華もコクリと頷く。
加護はやはり不器用そうに笑うと、今度は熱いココアを飲んだ。
「っつ、ちょっと熱いな」
- 467 名前:南風 投稿日:2002年11月02日(土)22時56分56秒
- 更新しました。
一気に書いてしまいました。
おかげでストックまたしてもすっからかん状態です。
次ぎに誰のこと書こうとか悩んでいる有り様です←申し訳ないです。
次ぎのはストックが良い感じになったら書いていこうと思ってます。
- 468 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年11月04日(月)08時28分30秒
- 更新、おつです。
淡々と語られる過去、良いです。
長丁場になる様な予感ですが、がんばってください。
加護になってチャミさまと一緒に風呂入りたいです。
- 469 名前:南風 投稿日:2002年11月06日(水)20時44分15秒
- >ひとみんこさま
毎度毎度本当にありがとうございます。
長丁場になってしまいそうッス・・・。
忙しくなってきてしまいなかなか更新できなくなってきましたが、ちょくちょく
更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
なかなか進まない物語りを進めようと悪あがきをしている南風です。
もうちこっとしたら『いしよし』シーンが多くなる予定っす。
- 470 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月06日(水)20時55分03秒
- 高橋は足をベッドに投げ出してグでッとしていた。
そう、退屈なのだ。
生まれてから通ったのは幼稚園と小学校と中学校。
そのうちの中学校にはほとんど通わせてはもらえなかった。
自分にあったのはひたすら重ねられる訓練の日々。
だから訓練のなくなった今、自分は何をすれば良いのか、どうすれば良いのかが
全く分からなかった。
16歳の女の子にしては大人びた感覚を持つ高橋は外に出て誰かとつるむというは
どうにも楽しそうに思えないのだ。
1人ごろごろするのにも飽きた。
外に出ようとは思えない。
同室の小川は随分前に紺野や新垣のいる部屋に遊びに行ってしまった。
小川は高橋のことも誘ったのだが、高橋はそれを丁重に断り小川だけを紺野達の
いる部屋へと送りだしたのだ。
理由は何だかそんな気になれなかった。
それだけだ。
とんとん
つまらなそうに天井を見上げたり足を動かしている高橋の動作が止まる。
ゆっくりとノックされた扉の方を見て、体を起こそうとする。
完全に体が起き上がる前に扉が開いて紺野が遠慮しがちに中に入ってきた。
突然意外の訪問者に驚いて固まる高橋をよそに、紺野は高橋が起きているのを
見ると、嬉しそうに顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「どうしたの?真琴とか里沙ちゃんは?」
「お昼寝しちゃった」
「お、お昼寝?」
「うん、そう」
- 471 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月06日(水)21時02分02秒
- 紺野は高橋が寝ているベッドの上にちょこんと座る。
高橋も固まっている体をゆっくりと動かして、紺野に並ぶようにえっちらおっちら
移動する。
紺野の隣に移動すると、何か不思議な甘い匂いがした。
いつも紺野から香る牧草のような自然の匂いではなく、人工的な甘ったるい匂いだ。
不思議に思って紺野のことをじーっと観察してみる。
「こ、紺ちゃん!?」
「ん〜?」
紺野はあまり眩しくもないのに目を細めながらゆっくりと高橋の方を向く。
何故ゆえに目を細めるのか高橋には理解できなかったが、そのあまりにマイペースを
つらぬく姿には感心してしまった。
「紺ちゃんさぁ、さっき何か食べてた?」
「へ?う〜んとねぇ・・・」
ちっくたっくちっくたっく
部屋にこう鳴る時計があったのならば、この空間は確実にその音だけが響いて
いるであろうと思える程に一瞬?いや数秒は完璧な沈黙が支配した。
- 472 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月06日(水)21時19分33秒
- 「あ、あのぉ紺ちゃんってさっき飴とか舐めてた?」
「ふぇっ?・・・あぁうん。舐めてたよぉ。でもどうして分かったの?」
紺野は細めていた目を大きく見開いた。
深海魚が水面に上がってきた時に似ている。
そんなことをちょっと思わず高橋が思ってしまった程に紺野は目を見開いていた。
何故それに気付いたの??と言わんばかりだ。
それを受けた高橋は何故それに気付かない?と軽いツッコミを一発いれて見たくなる。
「髪・・・」
「紙?」
あくまで天然マイペース。
「ううん、髪の毛。飴くっついてるよ」
「え、ええ!!」
「だ、ダメだよ!無理に引っぱっちゃダメだってば!!」
手探りで髪にくっついた飴を無理矢理取ろうとする紺野の手をあわてて抑える。
「うぅぅぅぅ・・・愛ちゃん取ってくれる?」
ちょっと涙目になりながら高橋にお願いポーズをかます紺野に高橋は見事ノックアウトされそうになった。
「う、う、う、う、うん。ちょ、ちょっとまっとって」
- 473 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月06日(水)21時20分03秒
- 動揺しまくり高橋に紺野はくすりと笑ってから背中を高橋の方へお向けた。
流れる髪が高橋の方へユラリと揺れるその画は本来ならばとても美しいモノなのだろうが
くっついているモノが飴なだけにどうにもしまりがない。
というよりもきまらない。
高橋はさっきの紺野のお願いポーズでドキドキ鳴りまくっていた心臓からプラスで
何やら温かいものが溢れてくる。
紺野の流れるような髪の一部にくっついている飴を丁寧に取っていく。
高橋に髪を触られている紺野はニコニコ。
紺野の髪を触っている高橋もニコニコ。
その微笑みあってい2人はきっと誰か他の人が見たら思わず笑みがこぼれてしまうような画なのだろう。
それ程にゆっくりとした時間が流れていた。
- 474 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月06日(水)21時54分55秒
- 飯田の隣で座っている辻の表情は何処か冴えていなかった。
その理由は昨日、加護が自分を置いて何処かに行ってしまったのが寂しかったからだ。
その上もう夕方になるというのに加護は帰ってこない。
さっきから飯田が必死に辻のことをなだめているのだが、辻の表情はどうにも回復しない。
辻は飯田のことももちろん大好きのなだが、一番は好きなのは加護と一緒にいることだった。
悪戯も一緒にするし、一緒に怒られたりするし、一緒に泣いたり笑ったりする。
もちろん夜は必ずと言っていい程ぎゅっとくっつきあって眠るのだ。
その加護が昨日は自分を飯田の所へと追いやった。
気になって夜中こっそりと部屋の中に戻ってみたら加護はいなかった。
自分が加護に置いていかれた気持ちになってしまった。
涙を流したくなくて必死で耐えているのだが、気を抜くとすごい勢いで流れ出して
しまいそうだ。
辻はしばらくカーテンの引かれた窓から見えない外の風景を見つめると、突然ベッドから
立ち上がった。
そのままぽてぽてと扉の方へ歩いて行く。
「辻?どうした?」
「・・・あいぼん探してくるのれす」
待っているだけは嫌だ。
嫌われていたとしてもその理由だけでも聞いておきたかった。
何もせずにただ加護と離れる自分なんて絶対に嫌だ。
辻が拳を握りしめて涙を堪えた声で呟いた。
ふるふると震える拳が辻の涙を我慢しているぞという意思表示。
飯田はそれを理解してそっと優しい声をかけてあげようとした。
その時、扉をノックする音が部屋に響いた。
「はい?」
- 475 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月06日(水)22時00分04秒
- 飯田がベッドの上から声をかけると、そっと扉を開いて加護とひとみと梨華が部屋の中に入ってきた。
辻を見つけた加護が口を開くよりも早く辻が加護の元へと走って行き、その体全身で加護に向かって
ダイブをする。
辻の勢いに負けて倒れそうになる加護の背中をひとみは優しく支えてあげる。
「な、何や!?どうしたんや??」
「・・・あいぼ〜ん!・・んぐ、う・・・のののこと・・嫌いに・・なった、ら・・・うぐ、嫌なのれす」
ぐっと加護の背中に手を回して涙と鼻水を加護の服にべったりとくっつけながら辻は顔を加護の胸に
うめ続けて顔をイヤイヤという風に振り続ける。
「はぁ?ウチがいつのののこと嫌いなったなんて言うた?」
「らって・・・らってあいぼん・・んぐ、のののこと置いて・・・う、うぅ・・・」
そこまで言うと辻声を上げて泣き出してしまった。
加護は辻の涙の理由をちょっとだけ考えてから、辻の言っていることを理解して
ぎゅっと辻の体を抱き返した。
「ごめんなぁ」
辻は頭をぐいぐいと横に振ってもう少しだけ泣き続けた。
- 476 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月06日(水)22時05分34秒
- 矢口はこの日も仕事が終わった後に地下に来てカタカタとキーボードを叩いていた。
モニターには何処かの家の見取り図や、何人かの顔写真やプロフィールが写しだされている。
指を動かし続ける矢口の背中を見つけた市井がきしむ階段をゆっくりと下りてくる。
「おっす」
カタカタとキーボードを叩き続ける矢口の肩をポんと叩いて市井が矢口の隣に椅子を引きずって座る。
「毎晩お疲れさんって感じだな」
自分用の他に矢口の為に持ってきた煎れたてのコーヒーの入ったかカップを机の上に置く。
矢口はしばらく動かした後、今までのデータを保存してパソコンの電源を切った。
「ありがとう」
「なっちの程おいしくはないと思うけどね」
- 477 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月06日(水)22時11分54秒
- 矢口は市井の煎れてくれたコーヒーをおいしそうに飲む。
市井は背もたれに顎を乗せ、脱力系な後藤のようにぐでっとした格好で椅子に座って自分もコーヒーを
飲んでいる。
「やっぱり気になる?」
「気にならないなんて言ったら大嘘になる」
相変わらずだらしなく座り続ける市井のことを横目で見てから、矢口は今まで調べていたことの
途中経過のようなモノを市井に聞かせた。
「・・・やっぱりそうなんだ」
「矢口も何回も確認してみたけど、本物だったよ」
「・・・そっか」
市井は少し寂しそうにため息をつく。
あの人のことだから考えがあってのことなのだろうけど、やはりショックはショックだ。
尊敬していた背中がまた遠くなってしまった気がした。
「・・・カオリの傷が直るまで、もうしばらく調べてみるよ」
「わかった。あたしにも何かできることあったら言ってね」
「うん。頼りにしてるよ」
この後少し雑談を交わした2人はそれぞれ部屋へと戻って行った。
- 478 名前:南風 投稿日:2002年11月06日(水)22時14分35秒
- 更新しました。
次回はやっとこさ『いしよし』です。
時間できしだい書こうと思っております。
- 479 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年11月07日(木)20時36分16秒
- 更新分が気になりながら、次回からの「いしよし」の方が気になる
あたしは「いしよし」中毒でしょうか?
- 480 名前:南風 投稿日:2002年11月07日(木)21時04分22秒
- >ひとみんこさま
そんなことはございません。
自分もいしよし好きですもん。
久々に甘くいきます!
今日どこまで書けるかわかりませんがとりあえず更新します。
- 481 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月07日(木)21時14分40秒
- 「ひとみちゃん、今日明日って暇してる?」
「うん?別に何もないけど・・・どうしたの?」
「じゃぁちゃんと着替え用意して家来てね。あ、私職員室行かなきゃ。
じゃまた後でね」
こんな一瞬の嵐のような会話が行われたのは、あの辻のことを知った日から1週間程たったころだ。
辻も加護も今まで以上にあたし達に甘えてきたりした。
平凡ま日々だったが、あたしは梨華ちゃんがあたしを家に入れたくないみたいな素振りを見せてから
というもの、何だかあたしは梨華ちゃんの家に行きにくくなってしまっていた。
拒否されている所に無理矢理押し掛けるのも何だか嫌な感じがするし、何よりも梨華ちゃんが理由も告げずに
そんな行動をとっていたことにショックを受けていた。
それがどういう風の吹き回しだろう?
梨華ちゃんはとっくに職員室に向かって駆けて行ってしまっている。
そういえば久々に家で2人で過ごす。
辻の一件があって以来、ずっとバラバラに住んでいるのだ。
あの寂しがりやの梨華ちゃんがって思うとやはり気になる。
何だろうこれ?
嫉妬??
さんざん自分で梨華ちゃんのことを振り回しておいて?
そんなこと言える立場じゃない。
それでも気になるもんはなるってもんだ。
ともかく今日は何だかその理由を聞かせてもらえそうだから教えてもらおう。
あたしはそう思うと、先に学校を出て家路についた。
- 482 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月07日(木)21時23分59秒
- トントン・・・トン
お互いに気持ちの通じ合った日に決めた簡単な合図で梨華ちゃんの家の扉をノックする。
すっかり慣れたこの合図も久々に使った。
ノックしてから少し時間が空いて、梨華ちゃんがちょっとだけ扉を開いた。
その隙間が本当にちょっとだから隙間からは梨華ちゃんの片目だけしか見えない。
「・・・どうしたの?」
「今すぐ目瞑って」
「へ?」
「早くぅ」
「あ、分かった」
言われた通りに目を瞑ると、梨華ちゃんはあたしの手をとって部屋の中に導いてくれた。
「まだ開けちゃダメだからね」
「はいはい、言われるまで開けませんよ」
もう少しだけ進むと梨華ちゃんがあたしの後ろにまわる気配がした。
「目開けていいよ」
梨華ちゃんがあたしに優しく声をかける。
その暖かな言葉を受け取ったあたしはゆっくりと目を開いていった。
梨華ちゃんの部屋は、本当に部屋中という言葉がぴったりな程に飾り付けがしてあった。
1人暮らしという雰囲気にあった小さめのテーブルには所狭しと料理が並んでいる。
「・・・これって」
「お誕生日おめでとう。何だか飾り付けや料理の練習してたらすごく散らかっちゃって、時間
までかかちゃって・・・今でお家呼べなくて・・・」
- 483 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月07日(木)21時38分45秒
- すっかり忘れていた。
今日はあたしの誕生日だったんだ。
皆のことを考てり、別に自分から言い出すことでもないと思っていたのを今さらながら思い出した。
・・・そっか、今までずっとあたしのことを家に呼ばなかったのはこういう理由だったんだね。
「あの時みたく盛大じゃないけど、こういうのでもいいかなって思ってさ」
「・・・うん。すげー嬉しいよ・・・ありがとう、梨華ちゃ・・・!!」
嬉しくてしょうがないこの気持ちを梨華ちゃに分かってもらいたくて、後ろにいる
梨華ちゃんの方を振り返った瞬間に、あたしはその姿を見て固まってしまった。
黒生地で薄いドレスは、肩が大きく出るようなつくりになっていて、足の方は大きく
太腿らへんまでスリットが入っている。
シースルータイプの生地とサテンの組み合わせのこのドレスは梨華ちゃんのお腹と足の
膝の少し上から下までが透けるように見えている。
「ちょっとお洒落してみたんだけど・・・変かな?」
「全然!」
陶然即答。
本当にめちゃめちゃ可愛い。
ドレスにあう少しカールのかかった髪がまた余計に色っぽさを出している。
「すげー綺麗だよ・・・」
「よかった。どういう反応されるかちょっと心配だったんだ。あ、せっかく料理作ったんだから
冷めないうちに食べちゃおうよ」
梨華ちゃんは照れ隠しなのか、真っ赤になりながらあたしのことを無理矢理座らせた。
梨華ちゃんが動くと甘い香水の匂いがした。
「そうだね、よし!じゃあいただきまぁす!」
- 484 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月07日(木)21時50分07秒
- ===================================
「ごちそうさまでした」
「いえいえお粗末様でした。あ、お皿とかそのままでいいよ。私やるからさ」
「こんぐらいやらせてよ。5分くらいで終わるからさ。ちょっと待っててね」
あたしはテキパキと食器を洗って、テーブルの上も拭いた。
「本当ひとみちゃんはやることが早いよねぇ」
「ん?慣れってやつだよ。それにしても良い1日だった。
あたしこんなに素敵な誕生日ってほんと久々だよ」
「・・・よかった喜んでもらえて・・・ひとみちゃん?何か私についてる?」
あたしは無意識のうちに梨華ちゃんい目を奪われてしまっていた。
女の子座りをした梨華ちゃんの姿は意識してそうなのか分からないが、いいようのない
色気というものを出している。
崩した足はドレスのスリットのおかげで太腿まで出ているし、肩にあるものはドレスを吊るす為の
細い紐だけ。
食事中もそうなのだが、あたしはずっと梨華ちゃんを抱きしめたい衝動にかられていた。
あの細い肩を抱きしめたい。
しかし触れてしまえば最後、あたしは欲望のままに抱いてしまいそうだった。
一つになってしまいたいというのは本能だ。
言葉で交わせるモノ以上のモノが欲しかった。
ずっとずっと欲しかった。
それでも臆病な自分は口付けの一つでも緊張してしまっている。
それは恐かったから。
汚れた手で純粋なモノを抱く恐怖。
純白なドレスに真っ赤な血を浴びせるような恐怖があったからだ。
しかし今はその恐怖する何処かへいってしまう程に心臓の鼓動が早鐘のようぬ鳴り響いている。
- 485 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月07日(木)22時08分06秒
- いつもよりも真剣な顔つきで梨華のことを見つめるひとみの目に吸い込まれるように
梨華は胡座をかくひとみの膝に自分の膝がくっつく程近くまで移動した。
「綺麗な瞳」
そう言うと梨華はひとみに顔を近付けた。
ひとみの心臓は今にもはりさけそうな程に早く強く鼓動を刻み、全身に血液を送りだしている。
「今まで理由も言わないで避けてるみたいにしちゃってごめんね。
本当は凄く寂しかった。夜はずっと一緒にいて欲しかった」
梨華はそう言うとひとみの頬に自分の手をあてがった。
「・・・あたしもだよ。ずっと一緒にいたかった。でも強く出れなかった。
梨華ちゃんのこと離したくないって思ってるくせに、触れることに臆病になってた。
聞こうと思えば聞けたことなのにあたしは聞けなかった・・・。知ることにすら臆病に
なっていたんだね」
ひとみは少し自虐的な微笑みを浮かべた。
梨華はすまなさそうに顔をゆがめる。
そんな梨華を励まそうとしてひとみは梨華の肩に手をかけようとするが、ちょっと
躊躇ってその手を下げてしまった。
「・・・ひとみちゃん?」
「あ、ごめん・・・」
「・・・あんまり私に触れたくない?」
梨華の声が一つ下がって悲しそうに沈む。
ひとみの頬を包む手が震えた。
「違うよ!それは絶対にないよ!!」
突然上げた声に梨華ちゃんは少し驚いているみたいだった。
- 486 名前:耳に残るは・・・ 投稿日:2002年11月07日(木)22時24分24秒
- 「・・・違うんだ。何だか今梨華ちゃんに触れたら・・・その、自分の気持ち制御できなく
なっちゃいそうだから・・・」
「ひとみちゃん・・・」
「本当は抱きしめたいよ。梨華ちゃんの温もりを感じていたい。
でも・・・それはできないよ・・・あたしの手はさ、もう汚れすぎてるから」
自分の手を見つめるひとみの目はとても寂しそうだった。
梨華はそんなひとみの手を優しく両手で包む。
そしてそのまま手を自分の心臓の方へと導いていった。
「私、ひとみちゃんの手って好きだよ。いつも私のことを優しく包んでくれて、
いつも私のことを守ってくれる」
梨華ちゃんの心臓の音があたしの手を伝わって響いてくる。
目の前にいる梨華ちゃんの姿が眩しい程輝いて見えた。
あたしは空いている方の手がゆっくりと吸い込まれるように梨華ちゃんの肩に伸びていく。
そっと触れるように抱くと梨華ちゃんの心臓の鼓動が早くなった。
緊張しているのだろう。
初めてなんだ、無理もない。
あたしは肩を抱いた方の腕に少し力を入れて梨華ちゃんのことを抱き締める。
そして導くように立ち上がらせる。
梨華ちゃんの手があたしの腰にゆっくりと回された。
梨華ちゃんの心臓の鼓動はどんどんと早くなっていく。
あたしは心臓に当たられている手を滑らせるように移動させると、もう片方の
肩を優しく抱いた。
- 487 名前:南風 投稿日:2002年11月07日(木)22時29分03秒
- 更新しました。
中途半端な所で更新終了してしまい申し訳ないです。
ここでうまいこと第一部終了って感じだったのでこのスレ内に納めてしまおうと
思っていたのですが、微妙ッスね・・・。
多分ってか確実に治まらない気がしないでもないような・・・。
ともかく更新しました。
次ぎはこの続きに書くか新スレ立てかします。
ともかく日はあけないで更新します(早くて明日)
- 488 名前:394 投稿日:2002年11月08日(金)13時19分09秒
- 南風さんお久しぶりです!
辻にはあんな過去があったんですね…(泣
いしよしもいいです♪
そして高紺も…(w
第一部終了なんですね、最後まで付き合うので頑張ってください!
高紺も早くくっつけ〜って思ってしまう(w
- 489 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年11月09日(土)17時09分45秒
- うぁ〜黒いドレスのチャミさま、ぞくぞくします。
ひもですか? スリットですか? シースルーですか?
たまりません!
大丈夫や、ひーさま! ど〜んと行け!
- 490 名前:南風 投稿日:2002年11月09日(土)23時50分51秒
- >394さま
お久しぶりでござます。
ここに出てくるのは何だか皆重いッスよね・・・(汗)
高紺って何だかまったりまったりイメージがあるんですよねぇ。
今はそっと見守っていてやって下さい(笑)
そんでもって今後もよろしくお願いします。
>ひとみんこさま
新スレではひーさまドンと行きますよ!!
頑張れ〜←自分の為にもエールを送ってみました。
梨華ちゃんのドレスはよし子の為に梨華ちゃんが買いにいった模様ッス(笑)
どうもどうもです。
やっぱしこのスレ内にはおさまりそうもないので
新スレ立てさせていただこうと思っております。
同じ海板にもうちょっとお世話になろうと思ってます。
んでもってタイトルは何のひねりもなく
『耳に残るは・・・2』です。
南風はちょっとネーミングセンスにかけるみたいッス・・・。
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