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TEL ME

1 名前:tsukise 投稿日:2002年09月16日(月)23時25分55秒
皆さんの小説に触発されて、初小説を書かせてもらいますっ。
カップリングは、ごまこん(!?)で行くつもりです。
卒業間近のごっちんですが、そこはまぁ目をつむって…。
学園もので、とりあえずハロプロメンバーは大体出演予定です…。
2 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時28分12秒
PM3:40。
私は、焦っていた。
ううん、正確には『私達』は…。

「もう〜っ!なんで生徒会役員の集会の時間なのに、遅刻して廊下を走ってるのよ〜!」
「しょうがないじゃない〜 あさ美ちゃんが今日、日直で先生に呼ばれてたんだからぁ」
私の前を走っているまこちゃんこと、小川真琴ちゃんが振り返りながら文句を言う。
でも、同じく前を走っている理沙ちゃんこと、新垣理沙ちゃんがフォローしてくれた。
「ご…ごめん…ね…っ、まこちゃん…っ、理沙ちゃん…っ」
とりあえず謝ってみるけれど、まこちゃんはやっぱり怒ってて走るスピードを少しだけ
速めた。
正直…走るのが得意じゃない私は、それでも遅れないように必死になって走る。

「あーもーっ!謝るぐらいなら、誰かに仕事を押し付けちゃえば良かったじゃない〜っ!
あいぼんとか、辻ちゃんとか遊んでたんだし〜!」
「そんな…っ。だって、あれは私の仕事だし…」
人に仕事を押し付けるのはダメだと思うし…。
でも、そんな私の言葉にまこちゃんはまた怒ったみたいに「もうっ」なんて言ってる。
3 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時28分56秒

「もう、そんなことはどうでもいいじゃない。ホラっ!早く行かなきゃ!今日が中高合同
生徒会によばれてからの初日でしょ!あさ美ちゃんも、走って走って!」
「愛ちゃん…、うん…っ」
一番後ろから、背中を押すようにして笑いかけてくれたのは愛ちゃんこと高橋愛ちゃん。
とっても優しくて、いつもドジな私を助けてくれるいい友達だ。

私達が今走っているのは、私立女子高校の廊下。
私達は、この私立女子高にエスカレーター式で繋がっている中等部3年の生徒会役員なのだ。
まこちゃんは副会長を務め、理沙ちゃんは書記としてその補佐をしている。
そして愛ちゃんは生徒会長をしていて、わたしは会計をしていた。
4 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時30分06秒
私が生徒会に入ることになったのは、担任の保田先生に勧められたが始まりだった。
中学3年生にあがって初めての数学のテストで、たまたまトップだった私に「計算が得意なら
生徒会に入ってみない?」と、言われて何気なしに頷いてしまったからだ。

それから生徒会の仕事が始まって、どうしていいのかわからなかった私に声をかけてくれたのが
愛ちゃん。愛ちゃんは中2の頃から生徒会にいたらしく、とっても親切にしてくれる。
そして少し遅れて決まったのがまこちゃんと理沙ちゃん。
二人とも、ちょっとキツイ事を時々言うけど凄く仕事ができるし面倒見もいいから、頼りになる
友達だ。
5 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時31分14秒
そんな私達が何故、高校の廊下を走っているかといえば、今日は中等部と高等部の生徒会
同士であつまって意見交換をする日だからだ。
この学校特有の行事みたいで、ちょっとヘンだと思うけど行かないわけにはいかないし…。

けど、そんな大事な日なのに私の日直の仕事が長引いたせいで予定の時間に遅れてしまって
いるのだ。
本当にみんな、ごめん…。
6 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時32分08秒
「それにしてもさぁ、高校生徒会の人たちってどんな人たちなのかなぁ?」
まこちゃんがふいに口を開く。それにすぐ反応を示したのは理沙ちゃん。

「そうだよねー、あたしもすっごく気になってたんだ。なんか怖い人たちだったらヤだなー」
「うわっ、それ最悪〜…」
「『中等部の書記は使い物にならない!』なんて言われたらどうしよう?あーなんか、自信
なくしちゃうなぁ…」
オーバーに頭をかかえてみせる理沙ちゃんに、まこちゃんはアハハと笑ってみせた。

「それにしても、なーんでうちの学校って中等部と高等部の生徒会で意見交換なんて
したりするんだろ?全く環境も違うのにさぁ」
「聞いた話だと、エスカレーター式の学校だし中等部側からどんな生徒が来るのかっていう
調査の一環みたいなものらしいよ?」
「え〜っ!それっていわゆる『内部調査』!? うわ〜ますます最悪…」
「もう…、まこっちゃんも理沙ちゃんも、そんな憶測だけで判断しちゃダメだよ。それに例え
内部調査だったとしても、あたしたちだって高校がどんな所か知ることができるいい機会
じゃない」
二人に向かって愛ちゃんが口を挟む。
7 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時32分44秒
確かに内部調査って言われたら、ちょっとヤだけど高校がどんな所か知ることができるのは
私達生徒会だけかもしれない。
そう考えたら、うん、いい機会かもしれないな…。
「あ〜あ、愛ちゃんはほんとに優等生だよね〜。なんてゆーか『生徒会長』ってカンジ」
でもまこちゃんは両手を挙げるようなリアクションをしてみせた。なんだか呆れたみたい。
愛ちゃんは、それに対して「そうかなぁ」なんていいながらちょっと困ってる。

8 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時33分51秒
「あ、じゃあさ、あさ美ちゃんはどう思う?」
「え…? 私?」
突然理沙ちゃんに話を振られて、私は息を弾ませながらちょっと戸惑った。
こういう話って、結構苦手なんだけどなぁ…。なんだか陰口みたいで…。

「高校の人たちってどんな人がいると思う?」
どうしよう…。
変な事言うと、まこちゃんがまた怒っちゃいそうだし…。
でもヘンに勘ぐった事は言いたくないし…。うーん…。

「えっと…どうだろ…? 優しい人だといいな」
私は気がついたら曖昧に答えて、ははぁと笑ってしまっていた。
「あさ美ちゃん、答えになってないよそれ」
う…、やっぱりというか、まこちゃんに冷たく突っ込まれてしまった。
でも本当に、優しい人だったらいいなぁって思ったんだもん…。
9 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時34分37秒
「あっ、次の角を曲がって一つ目の教室だよ」
そんな私達に、愛ちゃんが突然声をかけてきた。
前を走っているまこちゃんと理沙ちゃんは「うん」と答えて、速度を落とすことなく
まがっていく。
そして、それに続くように角を曲がったその時。

「!?」

ドン…っ!

突然、曲がった先の教室の扉が開いて中から出てきた人と正面からぶつかってしまった。
途端に、その場に尻餅をついて転ぶ。
「痛…っ!」
「あさ美ちゃんっ!?」
私が転んだことに気がついたまこちゃんと理沙ちゃんは、後ろを振り返って声をかけてきた。
でも私は、鼻の頭をぶつけてしまって顔を上げれず返事ができなかった
い、痛い…。
なんだか、こんな時自分の運動神経の鈍さを恨んじゃう…。
10 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時35分20秒
「ごめん、大丈夫?」
そんな私の頭の上から声をかけられた。
そ、そうだっ、私ぶつかったんだっけ…!?謝らないとっ!
「ス、スミマ…っ」
顔を上げて謝ろうとして、私は止まった。
ううん、正確には目の前の人を見て視線を奪われた。
11 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時36分15秒
スラっと伸びた手足。
胸元に届くぐらいのストレートで茶色がかった髪が、どこか印象強い。
目鼻立ちもはっきりして整っていて、それは高校生の可愛さよりも、成熟した女の人の
綺麗さを強調しているみたいだった。

美人…な人だなぁ…。
ぼんやりとそんなことを考えてしまう。
それは、私だけが感じていたわけじゃなかったみたいで、まこちゃんも理沙ちゃんもボーっと
止まっているみたいだった。
12 名前:出会いは突然で 投稿日:2002年09月16日(月)23時37分02秒
「…? あの、大丈夫? 立てる?」
「え…、あ…っ、はいっ、大丈夫ですっ」
ぼんやりしていた私に、もう一度目の前の人は顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
サラサラと流れる綺麗な髪に、私はハッと我に返る。
それから差し出された手をとって慌てて立ち上がった。

「良かった…。ごめんね、少しボーっとしてたみたいで」
「い、いえっ!私の方こそスイマセン、廊下を走ってきたから…」
ぶつかった恥かしさと申し訳なさで、私は一気に言葉をまくし立てた。

な、なんだろう…ドキドキしてる…。それに顔も熱い…。

そんな自分を抑えるみたいに、胸に手を当てて俯く。
すると、まくしたてた私が可笑しかったのか、目の前の女の人はどこか上品に笑った。
その笑顔に、また私の胸は大きく鳴った。
13 名前:tsukise 投稿日:2002年09月16日(月)23時39分37秒
今日はここまでです。
ごまこんのカップリングって、珍しいみたいで探しても
あんまり見つからないんですよね…(^^ゞ

とりあえず、お目汚しになるかもしれないですが
完結できるよう頑張りますっ。
14 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月16日(月)23時57分04秒
かなり面白そうですね。
こういう感じの話が好きなもので…

続き楽しみにしています。
頑張って下さい。
15 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月17日(火)02時15分28秒
ごまこん最近好きなんですよね。
しかもこーゆうの好きです!
楽しみにしてます(w
だけど気になったのだけ…
真琴→麻琴 理沙→里沙ですよ〜。

続きお待ちしてます
16 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時28分08秒
「あ…っ、お久しぶりですっ」
そのとき、私達の後ろを走ってきた愛ちゃんが追いついて目の前の女の人に軽く頭を
下げた。
それを見て、私もまこちゃんも理沙ちゃんも「?」と首をかしげる。

愛ちゃんの…知り合い…?
でも、高等部に知り合いがいるなんて一言も…。

そんなことを考えていると、目の前の人が愛ちゃんに声をかけていた。

「あ、高橋。あ…、もしかして、この子達が新しい中等部の生徒会の子?」
「はい、そうなんです。去年はお世話になりました。今年もお願いします」
「あはっ、高橋はよっぽど生徒会が好きなんだねー。まぁ、また会えて嬉しいよ。こちらこそ
今年もヨロシクね」
「はいっ」
愛ちゃんは、心なしかちょっと恥かしそうにペコリとお辞儀した。

今年も…? あ、もしかして…。
17 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時28分56秒
「あの…愛ちゃん…」
気がつくと、愛ちゃんの隣に来ていたまこちゃんが小声で話しかけていた。
多分、考えているのは私と同じこと。

「あ、そっか。みんなは初めて会うんだよね。この人は…」
疑問に答えるように、愛ちゃんが目配せをすると女の人もそれに気づいたみたいだった。

「ああ、ごめん。あたしは高等部生徒会長の後藤。中等部の子が遅いから探しに行こうと
してたんだ」
「あっ、スミマセンっ!」
「ううん、いいよ」

愛ちゃんが謝ると、また目の前の女の人、後藤さんは笑顔で返事を返した。

高等部の生徒会長さんで、後藤…さんって言うんだ…。

その綺麗な横顔を、私はまた吸い込まれるようにじっと見つめた。
18 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時29分52秒
「それより、そろそろ入って。始めるみたいだから」
「あっはいっ!」
「ああ、そうそう…」

後藤さんは扉を完全に開いて背中で止めながら、私達を中へ招き入れた。
と、同時に何かを思い出したように私に振り返る。
そして、少し意地悪な笑みを浮かべると、

「廊下はあんまり走らないようにね。また誰かにぶつかっちゃうよ?」

(うわー…恥かしい…)
自分の頬が熱くなるのがわかる。

なんだか、後藤さんに話しかけられただけでドキドキのスイッチが入ったみたいに
なってしまうのは何故だろう…?

説明のつかない感情に、胸をしめつけるような痛みを感じながら私は部屋の中へ
入っていった。
19 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時31分56秒
「おっ!ごっつぁん、もしかしてその子達が中等部の生徒会役員?」

入った途端に、突然声をかけられて私達4人は顔をあげる。
するとそこには、髪を金色に染めた小柄な女の人が黒板前の長机に腰をかけて
興味深々に身を乗り出していた。

(きっ、金髪だ…!?)

あまりの見事な頭髪に、たじろいでしまう。
ちゃんなんか,里沙ビックリして愛ちゃんの後ろに身を隠しちゃってる。

その話し方から、後藤さんより年上なんだってわかるけどどこか幼い感じがする気がする。

(高校生って、よくわからないけど凄い…)

「矢口センパイ、後輩の前ですよ?せめて椅子に座ってください」
後藤さんは気づいてかそうでないのか、私たちの前に立って苦笑してみせた。
なんだか、少し呆れてるみたい。

「あ、ゴメンゴメン、ついね〜。で、どうなの?」

ストン、と小気味良い音を立てて床に下りたその人はすぐ側にあったパイプイスに腰掛けた。
その言葉には、なんだか全然悪びれた様子がなくって、でも全然鼻につく感じでもなくって
この人の人徳なのかなぁって思ってしまう。
20 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時34分26秒
「ちょっと、矢口…。みんな困ってるじゃない。少し落ち着きな」
「え〜、だって気になるじゃんかぁ〜。なっちだってずっと『どんな子達が来るんだろうね』って
言ってたじゃん」
「そりゃそうだけど、矢口はちょっとはしゃぎ過ぎだよ」

なっちと呼ばれた女の人は、黒板になにか文字を書いていたけど小柄な女の人の後ろに
回って小突くように拳を落としながら苦笑してみせた。
それから私達4人に、柔らかく笑って見せた。

「ごめんね〜、ビックリしたでしょ?この先輩ってば、あんまし落ち着きとかってないんだ」
「ちょっとぉ〜、何?矢口だけ悪者なの!?」
「いきなりそんな格好してたら、しょうがないと思う」
「ごっつぁんまでぇ〜」
二人に丸め込まれて、女の人は「も〜」と言いながら両手を挙げる仕草をみせた。
その姿形に似合わないギャップに、少し笑ってしまう。
21 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時34分58秒
高等部の生徒会の人たちは、なんだかとっても楽しい人たちばかりみたいで私は
少しホッとした。

「ねぇ、なんか想像してたのと違くない…?」
まこちゃんも同じことを考えてたみたいで、里沙ちゃんに向かって小声で話しかけてる。
でも、里沙ちゃんは矢口と呼ばれた先輩にまだカルチャーショックを受けてるみたいで
曖昧に笑っていた。

「愛ちゃんは、みんな知ってるの?」
「え? うん。私は2年の時も生徒会に入ってたから…」
「おっ、高橋じゃん? やっぱり今年も入ったんだ?…ってゆーか、押し付けられた?」
「いや、そういうわけじゃないですよ。自分でもやりたかったんです」
「高橋らしいね〜。責任感の塊ってみたいなトコロ」

後藤さんと同じく、矢口さんとも面識があるみたいで愛ちゃんは少しテレ笑いしながら
答える。

なんだか、ちょっと羨ましいな…。
22 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時35分50秒
「さて、と…それじゃあ、自己紹介から始めようか?4人とも、適当に座ってくれる?」
「あ、はいっ」
後藤さんの指示に、私たちは手近にあったパイプイスに腰を下ろした。

「えっと…それじゃあまずは…」
「はいはいっ!あたしから言うよっ!」

どうしようかと考えている後藤さんに、矢口さん真っ先に手を上げて自己紹介を促した。
私から見た矢口さんの第一印象、それは『自己主張が激しそう』だった。

同時にまだ幼い女の勘が、この人を敵にしてはいけないって教えてくれた気がした
瞬間でもあった。

「えっと…」

矢口さんの勢いに、後藤さんは後ろにいたなっちと呼ばれた女の人に目配せをしてる。
その人も、どこか困ったように笑いながらも『いいんじゃない?』というように頷いてみせた。
どうやらOKの印みたい。

「じゃあ、矢口センパイ…どうぞ?」
「サンキュ、ごっつぁん! では、ゴホンっ!」

一度わざとらしく咳払いをしてから、矢口さんはパイプイスから勢いよく立ち上がる。
一瞬、それほど大きくない身長が伸びた…気がした。
その勢いに、理沙ちゃんは少しビクッと身体をふるわせたのが判った。
23 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時36分31秒
「名前は矢口真里。3年で、会計担当〜!みんなはやぐっつぁんとかまりっぺって呼ぶけど
まぁ、自由に呼んでやって。それじゃあヨロシクっ!」

言葉の最後には、ウインクを一つしてみせてくれた。
正直、こういう時にどうしたらいいのかわからない私は横目で愛ちゃんの方を伺う。
すると、さすが1年面識のある愛ちゃんは心得ていて満面の笑顔で拍手をしていた。
私やまこちゃん達も続いておずおずと拍手をする。
24 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時37分17秒
それに気を良くしたのか、矢口さんはさらに何かを言おうと口を開きかける…けど。

「じゃあ、次は私ねっ」
タイミングよく、後ろにいたなっちと呼ばれた女の人が前に出て口を開いた。

「私は3年の安倍なつみ。とりあえず副会長をしています。えー…と、何かわからないこととか
あったら遠慮なく聞いてくださいね。それじゃあヨロシク」
綺麗にまとめた言葉に、今度こそ私たちは素直な拍手を送った。

良かった…なんだか、この人は優しそうで色々話せそうだ…。
矢口さんには悪いけど、私はそんなことを考えていた。
でもそんな光景に、もちろん矢口さんはあからさまに不機嫌そうな声を出す。

「なんだよぉ…矢口の時と、対応が違くないかぁ…?」
「まぁまぁ…。それじゃあ、あとはごっつぁんだね」
「はい」

安倍さんは矢口さんと付き合いが長いのか、子供をあやすみたいに肩をポンポンと
叩いていた。
それから、入れ違いに後藤さんに声をかける。

途端に、私の胸はドキンと跳ね上がった。
25 名前:気になるあなたは生徒会長 投稿日:2002年09月18日(水)00時40分26秒
どこか凛とした雰囲気を出している後藤さん。
これが生徒会長の風格なのかな…って考えてしまうくらいの空気。

「2年の後藤真希、生徒会長をしています。中等部と高等部では色んな違いがあって戸惑ったり
すると思うけど、色々と意見を言ってね。それじゃあヨロシク」
「おっ、生徒会長らしい気配りっ。さすがごっつぁん」
「こら」
横から茶々を入れた矢口さんに、再び安倍さんの拳が頭に落ちる。
その光景に、私達はやっと声を上げて笑った。

それから、改めて今紹介した人を垣間見る。

後藤真希…さん。
高等部の生徒会長さん…。
その落ち着いた雰囲気に、私はどうしても目が離せないでいた。
26 名前:tsukise 投稿日:2002年09月18日(水)00時47分46秒
更新はここまでです。
とりあえず大量UPしましたけど、この調子で続けていけるといいなぁ…。

14>>名無し読者さん
  レスをありがとうございますっ!!
面白そう…だなんて嬉しいご意見をありがとうございますっ!!
私も結構学園もののこういう展開が好きなタイプなんで
  ご期待に添えるように頑張りますね。

15>>名無し読者さん
  ごまこん好きということで、同じ意見の私はとっても嬉しいですっ!
結構、紺野⇒後藤ってカンジになってますが気に入って頂けると
  嬉しいです。

>だけど気になったのだけ…
真琴→麻琴 理沙→里沙ですよ〜。

  うあ〜!!とんでもない失敗をしてしまっていたみたいですねっ!!
ご指摘、ありがとうございますっ!!
27 名前:tsukise 投稿日:2002年09月18日(水)00時54分33秒
訂正です(-_-;)

19の7行目
 ちゃんなんか,里沙ビックリして愛ちゃんの後ろに身を隠しちゃってる
⇒里沙ちゃんなんか、ビックリして愛ちゃんの後ろに身を隠しちゃってる。

いきなりミスってしまってスイマセンっ!!
28 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年09月18日(水)01時02分24秒
14の名無し読者です。
昨日に引き続き
リアルタイムで読むことが出来ました。
更新はやいですね。
読者としては嬉しい限りです。

作者さん これからも頑張って下さい。
つづきもかなり期待しています。
29 名前:先輩達の事情 投稿日:2002年09月19日(木)21時04分48秒
「そういや、よっすぃーに梨華ちゃんは?」

何かに気がついたように、矢口さんは安倍さんに問いかける。

「んー…一応連絡しといたんだけど、あの二人って『アレ』だから」

私達に気づかれないように、なんだか安倍さんはヒソヒソと耳打ちしていた。
本当は丸聞こえだったんだけど…。

『アレ』…?
アレってどういうことなんだろう…?

見るとまこちゃん達も首を傾げてる。
ただ、安倍さんの様子から見て問いかけるには気が引けた。

「あ…、気になる?中等部の諸君」
でもそんな様子にめざとく気がついた矢口さんは、意味深な笑顔で問いかけてくる。

「えっと…はい」
「うんっ、正直でヨロシイ!では、教えてあげましょう」

好奇心に負けてしまったまこちゃんは、自然と返事をしてしまっていた。
でも正直、私も聞いてみたい。
矢口さんはニッコリ笑って近づいてくると、クイックイッと小さく手招きをしてみせた。
どうやら、小さく集まれという合図みたい。
30 名前:先輩達の事情 投稿日:2002年09月19日(木)21時06分02秒
「ちょっと矢口…っ」
「いいじゃん、どうせこの子達だってそうなるかもしんないんだし」
「だけど、まだ中学生だよ?マズイって…」

安倍さんの声かけに、矢口さんは悪びれた様子もなく首だけを向けて答える。

「え〜?でも、なっちと矢口だって中2の頃から…」
「わ、わ〜〜!!」
矢口さんの言葉に、安倍さんは顔を真っ赤にして大声を出す。

?…どういうことだろう?

「やぐち〜…」
「これも立派な『意見交換』だってば」
「もう〜」

安倍さんは抗議するのを諦めたのか、まだ赤い頬を押さえながら黒板の方へ向いてしまった。
31 名前:先輩達の事情 投稿日:2002年09月19日(木)21時06分54秒
「でねっ、『アレ』って何?ってことなんだけど〜、実は高等部生徒会で書記をしている2人は
付き合ってたりするんだよ〜」
「ええっ!?」
「フフッ、驚いた?」
「は、はい…」

里沙ちゃんの大きな驚きの声に、矢口さんは満足そうに笑う。

「…で、今日はどうせ二人でどっかほっつき歩いてるだろうから、来ないんじゃないかっての」
「はぁ〜…、そうなんですか…」
いつもは落ち着いているまこちゃんでさえも、その顔に驚きを隠せずにいた。
私も実はビックリしていた。

女子校だから、同性で付き合っていたとしても不思議はないって思ってはいた。
けれど、まさか本当にそういうカップルがいるんだという事実を知らなかったから衝撃的
だった。
そのことを知れただけでも、意見交換としては大きな収穫だったな、なんて考えてしまう。
32 名前:先輩達の事情 投稿日:2002年09月19日(木)21時07分36秒
(あれ…? そういえばさっき…)

「ん?どした?なんか質問?」

私の疑問が顔にでちゃったのか、矢口さんは身を乗り出してきた。
正直、目の前に金色の髪が揺れてビックリしたけどこの際目をつむっておく。

「あ、あのー…、さっき矢口さん『中2の頃から』って言ってましたよね?それって…」
「アハハッ、わかった?そーなんだよ〜、矢口も実はなっちと…」
「やぐちっ!!」

またもや顔を赤らめた安倍さんが矢口さんに向かって大声を上げた。
矢口さんは首をすくめると、ペロっと舌を出して笑いかけた。

「ま、そーゆーコトなんだよ」
それだけ言って、矢口さんは黒板前のパイプイスに戻っていってしまった。

(…高校生って、やっぱり色んな意味で凄い…)

わけもわからず、そんな言葉が浮かんだ。
33 名前:先輩達の事情 投稿日:2002年09月19日(木)21時08分18秒
「えーと…、それじゃあ話を戻してもいい?」

そこまでじっとイスに座って様子を伺っていた後藤さんが、やっと口を挟んだ。

「あ、スイマセンっ。お願いします」
愛ちゃんが慌てたように、答える。

すっかり本題を忘れてしまっていた自分が、ちょっと恥かしくなってしまった。

「じゃあ、中等部の自己紹介をお願い。それから今月までの行事の集計と意見交換を
するから」
「「「「はいっ」」」」
後藤さんのテキパキとした言葉に、私たちは声をハモらせて返事をする。

それから4人の自己紹介が済み、意見交換が色々と交わされた。
話してみてわかる、中等部と高等部の違い。
何度か、矢口さんが話を脱線させそうになっていたが、安倍さんと後藤さんのフォローもあり
なんとか話は進んだ。
そして、すべての意見交換が終わって後は決算報告書を製作することになった。
34 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時12分40秒
あれからどのくらい経ったんだろう…。
真剣に作業をしていた私達は、すっかり時間のことなんて忘れていた。

「なっち〜、今何時〜?」

パイプイスにもたれ掛かりながら、矢口さんが安倍さんに声をかける。
安倍さんは領収書を数えながらも、腕時計に目を落とす。

「今は…、6時10分前だよ〜」
「えー!?もう、そんな時間なの〜!? …ねえ、ごっつぁん」
「ダメですよ」
後藤さんは器用に電卓を弾きながら、それだけ答えた。
途端に矢口さんはブーイングをとばす。

「ちょっとぉ〜、まだなんにも言ってないじゃんか〜」
「『明日にしよう』っていうつもりだったんじゃないんですか?」
「う゛…まぁ、そうだけどさぁ…」
「この報告書は、明日の朝には顧問の中澤先生に渡さないといけないんですから」
「ゆうちゃんなら、なんとか一日ぐらい延ばしてくれるってば」
「…その交渉をするのは、私なんですけど?」
「う゛…。で、でもっ、ほら!中等部の子達だってそろそろ帰らないとさぁ〜」
「………」
その言葉に、後藤さんは中等部の私たちに目を向ける。
35 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時13分13秒
まこっちゃんと里沙ちゃんは、必死に領収書の枚数を数えているけどどうも数が
合わないみたいで頭を抱え込んでしまっている。
その隣で、私も愛ちゃんと計算間違いを指摘しあっていた。

「安倍さん」
「ん? 何〜?」
「この後、何か予定とかってありますか?」
「え!?」

後藤さんのさりげない質問に、安倍さんの電卓を取ろうとしていた手がピタリと止まった。
それから急に落ち着きをなくして、チラチラと矢口さんの方を見始める。
それだけで、何かを把握した後藤さんは側の領収書の束を集めるとゆっくり立ち上がった。
36 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時13分59秒
「みんな聞いてくれる?」
「「「「?」」」」
後藤さんの声に、私たちは手を止めて顔をあげる。

「今日はもう遅いし、ここまでにして帰っていいよ」
「えっ、でも…」
「今日は初めて――と、高橋は久々で疲れたでしょ?この続きはまた今度やるからさ」
愛ちゃんの戸惑いを含んだ言葉に、後藤さんは優しく答えた。

「やったぁっ!じゃ、矢口は帰るよ〜っ!ほら、なっちも行こう!」
「ちょっ、ちょっと矢口!」

後藤さんの言葉を待ってましたと言わんばかりに、矢口さんは領収書の束もそのままにして
カバンを片手に立ち上がる。
そのまま安倍さんのカバンと腕を持つと、引きずるようにして扉を開いた。

「んじゃお疲れっ!またね〜!」
「矢口…っ、ちょっと待っ…」

バタン!

まるで嵐が去って行ったかのような空気が流れる。

「先輩がアレだし、みんなもいいよ。そのままにしておいていいから」
その様子にポカンと口を開いて見ていた私たちに、もう一度後藤さんが声をかけてくれた。
37 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時14分46秒
「どうしよ…?」
「まだこんなに残ってるし…一日じゃ無理だよね…?」

まこちゃんと里沙ちゃんが、困ったみたいに愛ちゃんに話しかける。
私も手を止めて、じっと愛ちゃんの言葉をまった。

本当は一日でやらなきゃダメなんだろうけど、初めてのことで全然思うように事が運ばない。
その状況に私は少し苛立ちさえも感じていた。
しばらく愛ちゃんは考えていたみたいだけど、
「…また今度にしようか? みんな疲れてるし…。このままやっても終わるかどうか判らない
からさ…」
少し悔しそうな声だった。

「えっと…、それじゃあ失礼します」
「お疲れ様」

しばらく考えた末に、疲れていることもあって素直に帰る事にした。
そんな私たちに、後藤さんだって疲れてるはずなのに変わらずに優しく笑ってくれる。

「ちょっと暗くなってきてるから、気をつけて帰ってね」
「はい。それじゃあお先に失礼します」
「「「失礼します」」」
そのまま、私たちは深々と頭をさげて、高等部を後にした。
38 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時15分30秒
学校の帰り道。
私は、愛ちゃん・まこちゃん・里沙ちゃんと一緒に暗くなっていく帰り道を
自販機で買ったジュース片手に、トボトボと歩いていた。

「今日は疲れたね〜。あんなに大変だなんて思ってなかったよー」
「まこっちゃん、何回も計算間違いしてたもんね」
「そういう里沙ちゃんだって、記入漏ればっかしてたじゃん」
「でも、さっすがは愛ちゃんだよね。私達の中で一番手際よかったし」
「そんなことないよ。それに私も終わらなかったんだから同罪だって」
「ねえねえ、あさ美ちゃんは―――って、聞いてる?」
「…え? あ、何?」

ぼんやりと3人の後ろを歩いていた私は、突然呼びかけられてジュースに
落としていた視線を前に向けた。
途端に、里沙ちゃんはちょっと顔をしかめて首を傾ける。
39 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時16分16秒
「疲れてるのは判るけど、人の話はちゃんと聞いてよ〜」
「ご、ごめんっ」
「ま、いつもの事だけどさぁ・・・」

里沙ちゃんは呆れたみたいにそれだけ言って、またまこちゃんと話し始めた。

(別に疲れているわけじゃないんだけどなぁ…)

心の中で小さくため息をついて、ぼんやりとさっきまでの事を思い返した。

すぐに浮かんだのは、大変だった仕事のことじゃなくてある人のこと。
とっても綺麗な人で、優しい感じのした高等部の生徒会長さん。

仕事もテキパキこなしていて、まるで自分とは正反対で憧れちゃうなぁ…。
あ、そのせいなのかな…今、こんなに胸がドキドキしてるのは…。
40 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時16分56秒
「あ、そういえば高等部の生徒会長の後藤さん」
「!」
まこちゃんから出た、その名前に私はまたドキッとした。

「なーんか、カッコいいよね〜。それに美人だったし…憧れちゃうなぁ〜」
「まこっちゃんってば…。でも私も思ったよ〜すっごく優しいしね」

まこちゃんの言葉に、里沙ちゃんもうんうんと頷きながら答える。
やっぱり、みんな考えることは一緒だったんだ。
同じ事を考えてたことにちょっと嬉しさを感じた反面、何故か胸がチクリと
痛んだ気がした。

「それと、安倍さんに矢口さん」
「あー…」
「まさか付き合ってるなんて思わなかったよ〜」
「まぁ、女子高だし不思議じゃないけど、いざ目の当たりにするとビックリだね」

確かに。
私も結構ビックリしてしまった。まぁ…矢口さんの頭にもビックリしたけど。

あれ…?でも、あんな頭していて怒られないのかなぁ…?うーん。
41 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時17分36秒
「ねぇ…。私さ、思ったんだけど…」
突然まこちゃんが小声になって、話し始めた。
私達はつられるみたいに小さくなって身を寄せる。

「後藤さんに、コクっちゃおっかな」

え…ええっ!?
コクるって、告白っ!?

「それは…やめた方がいいかも」

え…?

びっくりして声を上げようとした私や里沙ちゃんの言葉より先に、愛ちゃんが困った
みたいな顔をして口を開いた。

「え〜? なんで?」
まこちゃんも、あからさまに不機嫌な顔になって愛ちゃんに聞き返す。
それにたいして、愛ちゃんは急に真面目な顔になった。
42 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月19日(木)21時18分28秒
「後藤さん…、結構色んな人から告白されてるらしいんだけど全部断ってるんだって」
「え、そうなの? なんでだろ…?」

「告白した子が『他に好きな人でもいるんですか?』って聞いたら『どうしても忘れられ
ない大切な人がいるんだ』って言われたんだって」
「…ってことは、後藤さんがフられたの…!? ウソ、信じられない…」
まこちゃんが、驚いたみたいに大きな声をあげていたけれど私には全く聞こえていなかった。

愛ちゃんの言った、『忘れられない大切な人』っていうのが気になって…。

やっぱり…そういう人がいるんだ…。

後藤さんみたいな綺麗な人だったら当然のことなんだろうけど、何故か私は心臓を掴まれた
みたいに息苦しさを覚えた。

どうして、後藤さんの事を考えるとこんなにも心を乱されてしまうんだろう。
わかんないよ…。
43 名前:tsukise 投稿日:2002年09月19日(木)21時23分12秒
今日の更新はここまでです。
今回でちょっとストック分をつかっちゃったんで次回は少し
ペースダウンするかも…デス。

>28 名無し( ´Д`)ファンさん
リアルタイムでのレスをありがとうございますっ!!
うーん…更新早いですかね?これから遅くなってしまうカモですっ(^^ゞ
なるべく早めに更新できるように頑張りますねっ。
応援レスをありがとうございますっ。
44 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年09月19日(木)21時37分41秒
更新お疲れ様です。
たとえどんなに更新が遅くとも
ボクはいつまでも待っております。

作者さんのペースで頑張って下さい。
45 名前:15 投稿日:2002年09月20日(金)14時39分50秒
15です(w
いやー来てみたら・・・好きなCPが一杯。
オイラもマータリ待ちます。
頑張ってください
46 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)19時53分55秒
ピリリリッ ピリリリッ

突然鳴った携帯の着信音。
私達はその音に一斉に、カバンの中をあさり始める。
そこで私は気がついた。

あ、あれ…!?

「あ、もしもし? あ、お母さん。うん、今学校の帰り」
慌てる私の横で、鳴った携帯の持ち主であるまこちゃんがこっちに軽く手を上げて
少し距離をとって会話を始めた。

「みんな同じ着信音だとまぎらわしいね」
「うーん、私も何か変えようかな〜って思ってたりするんだけど…って、あさ美ちゃん
どうしたの?」

私の様子がおかしいのに気がついた愛ちゃんが声をかけてくる。
その声に、私は情けなく顔をあげてオロオロと手を上げ下げした。
47 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)19時55分11秒
「どうしよ…っ、携帯を学校に忘れちゃったみたい…っ」
「ええっ!?ほんとに!?」
「う、うん…。困ったなぁ…」

私ってほんとドジ。
なんでこう、いつもしっかりしてないんだろう…。
落ち込んだ気持ちが益々増長してしまう。

「でも、もうこの時間だと校舎は閉まっちゃってるかもしれないし…」
「うん…。で、でもっ、もしかしたらまだ誰かいるかもしれないし私ちょっと取ってくる」
「えっ! 明日にしなよっ」
「ううん、でもお母さんに買ってもらったものだから…っ。ごめんっ、みんな先に帰ってて!」
「あっ、ちょっと! あさ美ちゃ…っ!!」

後ろから里沙ちゃんの声が聞こえたけれど、私はもう駆け出していてそれには
応えられなかった。
48 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)19時56分19秒
案の定、やっぱり中等部の校舎は鍵が掛かってて入ることができなくなっていた。

まだ時間は7時なんだし、先生の一人ぐらいいてもおかしくないのに教室はおろか
職員室の明かりも消えてしまっていて誰もいないのは明らかだ。

バカだなぁ…もう…。だからドジとかのろまとか言われちゃうんだ…。
だんだんと気が滅入ってきちゃう…。
ハッ!だめだめ!自分だけでも、自分を信じてあげないと…!
携帯だって、明日になれば絶対に戻ってくるんだし。

目じりに溜まった水をぬぐって、私は大きく首を振った。

(よしっ、帰ろうっ!)

そう思って、校舎に背を向けて歩き出したその時、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが
見えた。
49 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)19時57分10秒
どうしよう…。警備員さんとかだったら…。

「誰かいるの?」
「あっ!ごめんなさいっ!私、忘れ物を取りに来て…っ、でも閉まってて入れなくて帰る所
なんですっ!」

混乱した頭で、まともなことが言えるわけがなくって私はバカみたいにペコペコ頭を下げて
謝った。

「あれ…? もしかして紺野…?」
「え…?あ…っ」

怒られると思っていた私は名前を呼ばれて顔を上げ誰なのか顔をうかがう。
暗くなり始めていてよくは見えなかったけど、そこには警備員さんじゃなくって不思議そうに
首を傾げながら顔を覗き込むさっきまで一緒にいた、あの人がいた。
50 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)19時58分21秒
「後藤さんっ」
「そんな大声で呼ばないでよ。ちゃんと聞こえてるから」
「あ…っ、スイマセン」

私の声に、ちょっと周りを気にするように見渡しながらそれでも誰もいないことを確認して
苦笑してみせた。

「何してるの?こんな所で…って、さっき言ってたか。忘れ物したんだって?」
「あ、はい…」
「で、取りに来たけど校舎が開いてなくって、帰る所だったっけ?」
「そうなんです…」

なんだか改めて言われると、ほんとに自分がマヌケで恥かしくなる。
しかも、そんなところを後藤さんに見つかっちゃうなんて…。

あれ…?でも、なんで…

「後藤さんは、どうしたんですか?」
気がついたら尋ねてしまっていた。

集会が終わってもう一時間も経つのに、どうしてここにいるんだろう?

「あー…うん、まぁ少しでも仕事は少なくなってた方がいいでしょ?それで、ちょっと
居残り。今ちょうど飲み物を買いに行こうかなって思ってたの。そしたら、なんか怪しい
人影が窓から見えてさ」
「そうだったんですか…」

ってことは、後藤さんは私達が帰った後もずっと一人で仕事をしてたんだ…。
なんだか早々に帰ってしまって、すごく申し訳ない気持ちになってきちゃう。
51 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)19時59分03秒
「それより…忘れ物って何か大切なもの?」
「あ、その…携帯電話なんです」
「携帯…電話」
「あっ、でもいいんですっ。別に携帯がなくても…一日ぐらい…」
「……」

嘘。

本当は、お母さんにこの間買ってもらったばかりで大切なものだから、一日だって
手放しておきたくない。
両親ともに深夜遅くまで働いている私の家では、その電話から聞こえる声だけが
私にとって唯一の家族の絆。
たとえ留守電だったとしても、私にはとっても嬉しい時間を与えてくれるんだ。

でも…変に後藤さんに心配をかけたくない。
どうしてかわからないけど、この人の前ではドジな私は見せたくないって思うんだ。
52 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)19時59分48秒
「…でも、大切なものなんでしょう?」
「え…?」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。
だって、携帯なんて持つ人によってはただの連絡手段の一つであって。
どう考えたって、『大切なもの』になんて結びつかないはずなんだ。
それなのに、まるで私の心の中を読んだみたいにそう言われたんだもの。

それにその時の後藤さんの顔は、さっきまでの凄く頼もしくてしっかりしていた
表情とは違って、どこかやるせないような…それでいて切ない表情をしていたから。
そんな変化に、ただ戸惑ってしまって…。

「携帯電話、すごく大切にしているんじゃない?」
「それは…そう…ですけど…」
もう一度言われた言葉に、私はぎこちなく頷いてしまった。

「じゃあ、取りに行こう?」
「え…っ?でもっ」
「高等部に中等部の校舎の鍵があったはずだから」
「あ…っ」

気がつくと、後藤さんは私の手をとって高等部に向かって歩き始めていた。

そのつないだ手から伝わるぬくもりに、私の胸はドキンと大きく高鳴った。
(やっぱり、私…後藤さんにヘンだ…)
53 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)20時00分41秒
高等部職員室。
自然、手を引かれる形になって私は職員室までついてきた。
後藤さんはそのまま、静かに扉を開いて入っていく。

「失礼します」
「おっ、なんや後藤、もう仕事は終わったんか?」
「中澤先生、違いますよ」

入っていきなり目に入ったのは、教員の机の上に投げ出された高いヒールを履いた
足だった。
ちょっと戸惑いながら、少し顔を傾けると中澤先生と呼ばれた人の顔が見えた。
MDを聞きながらファッション雑誌をめくっている。

正直な、第一印象は『怖そう』。
矢口さんに負けず劣らず見事な頭髪に加えて、ブルーに輝いているカラーコンタクト。
どう見ても先生だなんて信じられない…。

なんだか矢口さんが風紀で引っかからない理由が、わかったような気がする。
54 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)20時01分31秒
「あれ?そのこは?みたカンジ、中等部の子みたいやけど?」
「はい。今度生徒会の会計になった紺野です」
「へ〜、後藤が下級生連れて歩いてるなんて珍しいやん。で?どうしたん?なんか用が
あるんやろ?」
中澤先生は、雑誌を閉じて立ち上がると私たちの方へと歩いてきた。

「あのー…中等部の校舎の鍵ってここにもありましたよね?」
「あーうん、あることはあるけど?」
「30分だけ貸してもらえませんか?」
「え〜!?そらあかんよ。もう向こうには誰もおらへんやろうし、勝手に入ったら怒られるし」
「お願いします。大切なものを忘れてきちゃったんですよ」
「せやけどなぁ…」

困ったみたいに唸る中澤先生に、後藤さんは自分の事みたいに必死になって言ってくれて
頭まで下げてくれた。
慌てて、私も一緒に頭を下げる。

「お願いします…っ」
55 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)20時02分23秒
「うーん…、ちなみに何を忘れたん? それ次第やな」

中澤先生は腕組みをして、机の端にもたれ掛かって訊いて来た。
それに対して後藤さんは、私を少し前に出すと自分で言うように促した。

そうだよね、自分でちゃんと言わなきゃ…っ。
でも…、携帯なんて言ってダメって言われないかなぁ…。

少し不安になって俯くと後藤さんがつないでいた手を離してそのまま肩に軽くおいた。
不思議に思って顔を向けると、

「―――」
「…!」

とても優しい表情で、口だけで言葉を表してみせた。

その言葉は、『大丈夫』。

それを見ただけで心の中でモヤモヤしていた不安は、一気に消し飛んだ。
私は、もう一度中澤先生を見ると、小さく深呼吸して口を開いた。
56 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)20時04分46秒
「携帯…電話です」
「!?」

その言葉を聞いた瞬間、中澤先生が明らかに表情を変えてこっちを凝視した。
ううん、正確には私の後ろにいる後藤さんの方をだった。

「後藤…アンタ」
「………」
中澤先生は、どこか悲しそうな…それでいて辛いものを見るような表情で呟いた。
でも、後藤さんは何も答えない。
その時の後藤さんの表情は、前に立っていた私にはわからなかった。

携帯電話が…どうかしたのかな…。
そういえば、さっき携帯を忘れたって言った時の後藤さんもちょっとヘンだった…。
尋ねようかと思ったけど、口を開く前に中澤先生が話し始めていた。

「…わかった、うちも一緒に行くわ。ホンマに携帯とるだけやで?」
しばらくじっと考えていた中澤先生は、大きくため息をついて頭をかきながらそう言った。
「あっ、ありがとうございます!」
私はもう一度大きく頭をさげる。
それから後藤さんの方をみた。

後藤さんは何も言わなかったけど、その顔に笑顔を浮かべていてくれた。
57 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)20時05分24秒
…あとになって考えれば、どうしてその時きづかなかったんだろうと疑問が浮かぶ。
あの時の私の肩に置かれた後藤さんの手は、微かに震えていたんだ。

多分、その手に移った感情は――怯えに似た悲しみ。

でも、そのことに…その震えていた手の理由に気づいたのはもっともっと後の話…。
その時はただ、目の前で笑う後藤さんだけしか私の目には映ってなかったんだ。
58 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)20時11分15秒
中等部の私の教室。
携帯は思ったよりもすぐに見つかった。
授業中に机の中に入れたままにしていたから、手を入れただけでわかった。

それから高等部へと戻る廊下でのこと。
私が着信履歴を確認している時、スッと中澤先生が後藤さんに近づいてポツリと
口を開いた。

「後藤」
「…?」
「鳴らない電話を待つんは、もうやめときや。アンタが辛いだけやで?」
「…っ。…わかって…ます」
「…そうか。なら、ええねん」

私には、何のことを言っているのか全くわからなかったけど、その時の後藤さんの
表情は凄く傷ついたみたいなそんな顔をしていて、大切な事を言ったんだって事は
わかった。

私にはわからない後藤さんの過去…。
『鳴らない電話』と『忘れてきた携帯電話』、そして後藤さんのつらそうな表情が
気になりはじめた瞬間だった。
59 名前:気になるあなたの過去 投稿日:2002年09月20日(金)20時12分08秒
本当はそのまま家に帰っても良かったんだけど、後藤さんが一人で残って仕事を
していたんだって知ったら、なんだかそのまま帰れなくて、私は少しだけ仕事を
していくことにした。
後藤さんは、しきりに「家の人は大丈夫?」って聞いてたけど、事情を話すと「じゃあ
程ほどにね」と承諾してくれた。

実のところは、仕事なんてどうでも良かったのかもしれない。
ただ、後藤さんの同じ時間を過ごせるならそれで…。
60 名前:気づいてしまった自分の気持ち 投稿日:2002年09月20日(金)20時13分27秒
「そういえば、紺野って生徒会に入ったのは今回が初めてだよね?」
「え? あ、はい…っ」

後藤さんは、領収書の束をまとめて机でコンコンと立てながら尋ねてきた。

「どうして生徒会に入ったの?」
「あ…、その、担任の保田先生に勧められたんで」
「そうなんだ?へー…圭ちゃんが勧めるなんて珍しい」
「圭…ちゃん?」
「あ、保田先生のこと。ちょっとした…知り合いでさ」
「そうなんですか…」
「でも、大変でしょ?この仕事」
「あ、はい…。こんなに大変なものだなんて思ってなかったです」

言ってから自分の机を見渡すと、まだまだ計算の終わっていない領収書が山のように
埋め尽くしていて、少し眩暈を覚えてしまった。

「こっち、あらかた終わったから手伝おうか?」
「えっ?そんな…っ」

後藤さんの自然に出た言葉に、私は戸惑ってオーバーに手を振ってみせた。
だって、折角後藤さんの仕事を減らそうと思って残ったのに、これじゃあ足手まといだ。
61 名前:気づいてしまった自分の気持ち 投稿日:2002年09月20日(金)20時15分43秒
「気にしないで。初めてだし、大変でしょ?」
「ま、待ってください…っ。あと10分だけ時間を下さいっ」
「え?」
「あと10分したら、終わりそうなんですっ」

向かい側の机からこちらに向かってこようとする後藤さんを制して、私は必死にお願い
していた。
その姿に、後藤さんは一瞬キョトンとしてそれから突然声を上げて笑い出した。

「ご、後藤さん…?」
「あ、あはっ、ご、ごめんっ」

後藤さんは謝ってもなお、何かツボに入ったらしくてしばらく笑っていた。
その様子に私は戸惑うしかない。

(こんな風に笑ったりもするんだ…)

そして不謹慎にも、そんなことを考えていた。

「ホントごめん。だって、今の紺野ってば、まるで昔の私みたいだったから」
「昔の後藤さん?」
「うん。実は私も今の紺野と同じで中等部で生徒会会計をしてたんだ」
「そうなんですか?」

後藤さんが私と同じ会計をしていたなんて。
驚いた反面、ちょっと嬉しかった。
62 名前:気づいてしまった自分の気持ち 投稿日:2002年09月20日(金)20時16分20秒
「それでさ、こうやって居残りで仕事してた時、一緒に残ってくれた高等部の……
生徒会長さんが手伝おうとしてくれて、自分で仕事が片付かないのが恥かしくて
『10分だけ待ってっ!』って言ったんだ」
後藤さんは私の所まで歩いてきて笑いながらそう言った。

でも、その時見た後藤さんの瞳はどこか悲しそうで…切ないもので…。
ただ思い出を懐かしんでいるような感じではなかった。

どうして…そんな瞳をしているんですか?

そう尋ねたいけど、何故かそのことに触れてはいけないような感じがして、私は
ただ曖昧に笑うことしかできなかった。
63 名前:気づいてしまった自分の気持ち 投稿日:2002年09月20日(金)20時17分06秒
「でも…、10分で終わる量じゃないんだよね。こういうのって」

次の言葉を言ったときの後藤さんは、もう悲しい瞳をしていなかった。
そのことに、私は心の中で少しホッとする。
それから、今の状況が恥かしくなって俯いた。

「二人でやれば早く終わるし、こういうときぐらい先輩を頼ってよ」
「…はい。それじゃあ…お願いしていいですか?」
「任せて」

後藤さんは優しく笑って、まだ目を通していない領収書を半分以上も取って向かいの
机側へと戻っていった。
その背中を見ながら、私は1つのことに気がついた。

(私…もしかして…後藤さんのことが…?)
64 名前:気づいてしまった自分の気持ち 投稿日:2002年09月20日(金)20時26分27秒
そんな考えを、私は否定するように大きく頭を振った。

だって、女の子同士だよ?
そんなの絶対ヘンだよ…っ。
でも…

再びイスに座って作業を始めた後藤さんをもう一度みた。
途端に高鳴る鼓動。
その鼓動が、自分でも気づくぐらい赤くなっていく頬が、すべてを物語っていた。

思い当たることはたくさんあった。
ううん、ありすぎたぐらい。

最初に出会った、あの瞬間。
優しく語り掛けてくれたあの時。
頼りなさげに伏せられた瞳さえも、私の中では綺麗に映って…。

だからもう、否定するなんてもう無理だった。

やっぱり…私、後藤さんが好きなんだ…。

ヘンだって自分でも思うけど、気づいてしまった『好き』って感情は止められなかった。
65 名前:tsukise 投稿日:2002年09月20日(金)20時34分05秒
今日の更新はここまでです。
大量UPしましたけれど、本当にストック分を使い果たしてしまったんで
次回は、ちょっち遅れるカモ…デス(^^ゞ
ペース配分していない、自分のせいですね(-_-;)

>名無し( ´Д`)ファンさん
ペース配分のできない私に、嬉しいご意見をありがとうございますっ!!
結構、これからの展開はごっちんの過去話なんで安易に書けないんですよね(^^ゞ
気長にお待ちくだされば幸いです。

>15さん
応援レスをありがとうございますっ!
好みにカンジになっていて良かったです〜♪
…つーか、私個人の趣味入りまくりでスイマセン(^^ゞ
次回、更新はマターリお待ちくださると嬉しいデス…。
66 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年09月21日(土)08時12分40秒
更新お疲れ様です。

ごっちんの過去・・・
かなり気になるところですが
気長に待ってます。

ゆっくりでもいいので頑張って下さい。
67 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月22日(日)23時58分51秒
再び作業を始めてから、大体30分過ぎぐらい。

「んーー…っ」
おんなじ体勢で辛くなった私は、椅子に座ったまま両手を組んで大きく伸びをした。

やっぱり一日で高等部・中等部の決算報告書を整理するなんて無謀だったかな、と
今更ながら後悔してしまう。
しかも後輩にまで居残りさせてまですることなかったかも。

ぼんやりそんなことを考えながら目の前に座る紺野を見ると、ちょうど私の方を見ていた
みたいで目があった。

「どう?終わりそう?」
「あっ、は、はいっ、あと、この一枚で終わります…っ」
「そうなんだ?早いねー。さすが圭ちゃんが推薦しただけのことはあるかも」
「そ、そんなことないです…。後藤さんが手伝ってくれたんで…なんとか…」

テレたみたいに俯いてしまった紺野に、私は少し笑顔を向ける。
68 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月23日(月)00時00分26秒
出会ってまだ、数時間しか経ってないけど私から見て紺野はいい意味でも悪い意味でも
真面目なコだなぁって思う。
与えられた仕事を完璧にこなそうと頑張るトコロとか…。
その反面、全部自分で背負い込んでしまおうとするトコロとか…。
そんな自分に気づいていないみたいなのが、ちょっと難点だけど。

「そんなことないって。自信持ちなよ」
「そ、そうですか…? ありがとうございます…っ」

私の言葉に、紺野はまた恥かしそうに俯きながらペコリと頭を下げた。
なんか初々しいなぁ、なんて考えてしまう。
あ、そうだ。

「ねぇ、もうすぐ私の方も終わるから一緒に途中まで帰らない?」
「えっ!? 一緒にですかっ?」
「うん。あ…それとも迷惑?」
「そっ、そんなことないですっ。ご一緒しますっ!」
「あはっ、そんなかしこまらないでよ」

苦笑する私に、紺野は何度も「すいません…」と謝った。
そんな姿を見て、やっぱりいきなり誘うのはまずかったかな、と後になってから思った。
69 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月23日(月)00時01分00秒
私はあんまり気にしたりしないんだけど、紺野の性格から考えると上級生と一緒に
帰ったりするのって、もしかしたら気を使ったり大変なのかもしれない。
でも、もう言ってしまったことは仕方ないし。
それに…心のどこかで、ちょっと不思議な雰囲気をもったこのコともうちょっと話してみたい
なんて思っていたんだ。

それからマッハで仕事を片付けると、決算報告書を手にとって職員室へと向かった。

ホントは紺野が『私が行きます』なんて言ってたけど、さっきの中澤先生を目の前にして
硬直していた姿を見ると頼めるわけもなくって、戸締りをお願いしておいた。
70 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月23日(月)00時01分30秒
「失礼します」
「おー後藤。やっと終わったん?」
入ってすぐに、机でまだ雑誌を読んでいた中澤先生が気づいた。
「はい、一応確認してもらえますか?」
「はいはい、ちよっと待ってな」
私から決算報告書を受け取ると、ゆっくりと確認するみたいに並んでいる数字を指で
なぞっていく。

「…そういえば、どうなん? 新しく入った中等部の生徒会の子らは」
ぼんやりとしていた私に、中澤先生がプリントをめくりながら尋ねてきた。
「んー、みんないいコですよ。仕事も頑張ってやってくれてますし」
「ふーん。まぁ、これから半年一緒に仕事するし面倒みてやってな」
「はい」
「…ん〜、よしええよ。完璧や」
「ありがとうございます」

「もう、帰るん?」
「はい。あ、ちゃんと戸締りはしておきますよ」
「一人で帰るんやったら、途中まで一緒に行こか?」
「いえ、紺野と途中まで一緒に帰るんで」
それだけ言うと、中澤先生は少しだけびっくりしたみたいに眉を上げた。
71 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月23日(月)00時04分18秒
「へー…、後藤が誰かと一緒に帰るなんて久しぶりなんちゃう?」
「そう、ですか?」

言われて考えてみた。
そういえばそうかもしれない。
生徒会長って立場からか、あんまり誘ってくれる友達もいないし、なにより私自身
誘ったりすることが最近なかったから。

「紺野、だっけ?どこか気に入ったりしたん?」
ちょっとからかうみたいな口調で言われた言葉に、私は曖昧に笑って見せた。

「そんなんじゃないですよ。ただ、なんかもう少し話してみたいかなって」
「それを気に入った、って言うんとちゃうん?」
「う――ん…」
そうなのかなぁ?
よくわからないなぁ…。

「…まぁ、なんにしても良かったわ」
「え?」
口調の変わったのに気がついて中澤先生を見ると、どこか優しい目で私を見ていた。
「アンタ、『あの時』からずっと人と距離を置くようになってたみたいやから」
「……」

あの時。
それは私の心に強く刻み付けられた過去の傷。
決して癒える事のない深い深い痕。

考え始めたら、もう止まらなくなっていて私の記憶は過去へと遡っていた。
――あの時の記憶へと。
72 名前:tsukise 投稿日:2002年09月23日(月)00時09分22秒
今日の更新は以上です。
少ない内容でスイマセンっ!

>名無し( ´Д`)ファンさん
更新が結構遅れていたりして申し訳ないかぎりですっ(^^ゞ
ごっちんの過去…結構深いトコロまで突っ込んでいるんで
まとめが大変なんですが、近日中に大量UPできると思うんで
もう少しお待ちいただけるとありがたいですっ<(_ _)>
73 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年09月23日(月)00時14分48秒
更新お疲れ様です。

更新は全然遅くないですよ。
近日中に大量UPですか
楽しみに待ってます。
74 名前:読者 投稿日:2002年09月24日(火)01時02分47秒
今日初めて読ませてもらいましたが、ごまこん良いっす!
とても読みやすいし、早くもはまってしまいました。
後藤卒業は残念ですが、小説界からの卒業はないですからね^^
更新楽しみにしてます。
75 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月25日(水)00時44分39秒
今でもはっきりと覚えている、あの出来事。
思い出はまるで映画のように私の記憶を元に、その形を目の前に映し出していった。

夏の暑さに焼けたアスファルトの地面の匂いが、鮮明だったあの日。

『…ご…とう…』

流れる汗の存在も忘れて、ただ呆然と目の前に広がる光景に立ちすくんでいた私。
だって、大好きなあなたはただ地面に横になって虚ろな瞳を向けていたから。

『なんで…?どう…して…?』

『ごめん…、なん…か…事故に…まきこまれちゃったよ…ハハ…』

力なく笑いながらそう言ったあなたの体中から、深紅の液体が広がっていて…。
広がって…いて…。

『やだ…、冗談やめてよ…。ねぇ…っ!嘘でしょ!?』

『どうしたんやっ!? 後藤…っ…紗耶香!?』

『中澤先生っ!! いちーちゃんが…っ、いちーちゃんがっ!!』

『すぐに救急車を呼ぶわ!後藤はちゃんと見といて!』

『いちーちゃんっ!すぐに救急車が来るから…!』
76 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月25日(水)00時45分20秒
でも、私の呼びかけなんて、もうあなたの耳には届いていなくて。

『…携帯ちゃんと…とって…きたよ…。あれ…?どこだっけ…?もう…見えない』

フラフラと持ち上がった真っ紅に濡れた手を、すがりつくみたいに握り返したのを覚えている。

『携帯なんてどうでもいいよっ!!やだ…やだよぉ!』

『ちゃんと…メール見たよ…。あたしも…返事…打つ…から……』

『…いちー…ちゃん…?』

『………』

閉じられた瞼は、もう開かれることがなくて…。
私の呼びかけにも、もう返事はなくて…。

『いや…っ、いやぁぁっ!!』




その日から、私は大切な何かを無くしてしまった。

多分…それは人に自分を委ねるという『信じる気持ち』。
失うことが怖くて…人と深く関わることが苦手になってしまったんだ…。
77 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月25日(水)00時46分01秒
「…ちょっとずつでええから、誰かと接していき。心からな」

その声に、私はハッと我に返って顔を上げた。
中澤先生は、変わらない優しい表情で私を見つめている。

きっと今私が考えていることがわかって言ったんだ。
ため息をつきながら言った中澤先生の言葉が何よりの証拠。

「今は…多分無理です。まだ…今は…」
「…そうか」
静かに答えた言葉に、中澤先生は困ったみたいな笑顔を向けた。
それから、
「でも、気づいたら誰かが側にいた、なんてこともあるかもしれんからなぁ」
といった。

「なんですか、それ?」
私は思わず顔をしかめてしまった。
だってそんなこと、あるはずがないって思ったから。
でも、中澤先生は私の問いに答えずに「そしたら、帰ろか」と言って職員室の
窓を閉めにかかった。
78 名前:忘れられない過去の痕 投稿日:2002年09月25日(水)00時47分28秒
「そういや紺野を待たせてるんとちゃうん?」
「あ、そういえば。それじゃあ…失礼します」
「うん、お疲れさん」
まだなんだか引っかかっていたけど、紺野の様子も気になったから私はおとなしく
職員室を後にした。

「紺野…か。もしかしたらその子が鍵になるかもしれんなぁ…」
もちろん部屋を出て行ってしまっていた私は、そんな中澤先生の呟きを知る由もなかった。
79 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月25日(水)00時50分04秒
学校からの帰り道。
もう真っ暗になってしまった道を紺野と並んで歩いていく。

話せば話すほど、紺野って…面白いコだなぁって思った。

なんか、ぼーっとしてるみたいに見えて……やっぱりぼーっとしてて。
でも何にも考えてないわけじゃなくって、時々話す自分の事はすごくしっかり
しているもので。
一番意外だったのは、ちょっとドジそうに見えるのに空手をやっていたって事。

「うそ、ほんに?」
「はい。小さい頃にやってたんです」
「じゃあさ、型とかってできたりするわけ?」
「はい、できますよ」

嬉しそうに頷いた紺野は、手に持っていたカバンを肩にかけ直すと両腕を素早く
交差させるみたいな型をみせてくれた…けど。
80 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月25日(水)00時50分45秒
「あはっ、はははっ」
「ご、後藤さん…っ、笑わないでくださいよ…っ」
「ご、ごめん。でも紺野ってば…かっこいいって言うよりなんか可愛いんだもん」
「そ、そんな…」
だって、本人は真剣な表情を作ってやってるんだろうけど、大きくて少し下がった目が
全然強そうに見えなくて、むしろ動作をすることで可愛さを強調してしまっていたんだ。
でもそんな私に、紺野は困り顔で見上げてくる。

「あー…ごめんごめん。お詫びにジュースでも奢るからさ」
そんな懇願するような目に負けて、私はまだ緩んだ口元に手を当ててそう言った。

「えっ、でも…そんなつもりじゃ…」
「気にしないでよ。それに今日手伝ってもらったお礼もしたいし」
「そう…ですか?それじゃあ頂きます」
ちょっと恥かしそうに答える紺野。
それを見て、やっぱり紺野は真面目すぎるなぁって思ったりしていた。
81 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月25日(水)00時51分51秒
だからかなぁ。
なんか、紺野って放っておけないんだよなぁ…。
よくはわからないけど、そう思ってしまう自分がいた。
82 名前:tsukise 投稿日:2002年09月25日(水)00時59分24秒
今日の更新はここまでです。
ごっちん視点と紺野視点2つを描くって大変ですね…(^^ゞ

>73名無し( ´Д`)ファンさん
大量UPには程遠いもので申し訳ない限りです<(_ _)>
結構ゆっくりめになっているんですが、またまたご覧に
なってくだされば嬉しいです♪楽しみにしてくださって
本当にありがとうございますっ。

>74 読者さん
ごまこん小説に嬉しいご意見をありがとうございますっ。
ごっちんの卒業…本当に残念ですがこれからのソロ活動を
応援したいですね。ゆっくりな更新ですが、続けて読んで
下されば嬉しいです♪
83 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年09月25日(水)01時05分50秒
更新お疲れ様です。

毎回楽しみに読ませて
頂いております。
ありふれたことしか
言えないのですが
更新頑張って下さい。
84 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月25日(水)17時02分55秒
ものすごく楽しみにしています。今後どうなっていくのか気になります。
がんがってください!!
85 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月25日(水)20時04分58秒
イタッ!
86 名前:読者 投稿日:2002年09月25日(水)22時07分25秒
いいなあ〜、後藤と紺野じゃ、どんなCPにも勝るまったりペアだ(w
特に会話がなくても気にしなそうな後藤、そして気を遣ってるけどどこか
抜けてる紺野……2人が並んで歩くシーンが脳内で映像化されてます。
更新が非常に楽しみです。作者さん、ありがとう。
87 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月27日(金)00時14分32秒
翌日。
朝一番に学校に着くと、その足で生徒会室へと向かった。
別に理由なんてないんだけど、時々一人になりたい時があるとこの場所にくるんだ。
ここだったら、限られた人しか入って来れないし。
でも、残念ながら今日そこには先客がいた。

「あ、ごっちん。おはよ〜」
「おはよ〜、早いね」
少しボーイッシュな声と、可愛らしいキーの高い声が続けて二つ私に挨拶をしてきた。
その声だけで、誰だかわかる。
昨日集会をサボって、仕事を押し付けた張本人の書記2名。

「よっすぃー、梨華ちゃん」
顔を上げて確認すると、窓際にパイプイスを並べて二人がお弁当箱の何かを食べている。
その匂いが、ちょっと甘ったるくて私は少しだけ顔をしかめてしまった。
88 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月27日(金)00時15分38秒
「なに?二人ともここで朝食とってんの?」
「いや〜実は昨日サボっちゃったじゃない?それでさ、梨華ちゃんが『ごっちんに謝ろう?』
って言うからさ〜。朝早く、大抵ここにくるごっちんを先に待ってようと思って」
「…で、どうせなら朝食もここで食べよっかなって2人分作ってきちゃったんだ」

作ってきちゃったんだ、って…。
ここは食堂とかじゃないんだからさー…。
そう思ったけど、きっとこの二人にはそんな常識なんて通用しないんだよね。

「…で?昨日は二人でどこ行ってきたの?」
ため息を一つついてから、二人の近くに腰を下ろす。
その時、お弁当箱の中身がドーナツだったのにかなり驚いたけど見なかった事にしておく。
89 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月27日(金)00時16分18秒
「そうそう!聞いてよ、ごっちん!昨日はさ、今人気の遊園地に行ってきたんだぁっ」
「へー…」
梨華ちゃんが、カバンからパンフを取り出して私の前に広げた。
それを手にとって見る。
あー…なるほど。誰かさんが好きそうな少女趣味なカンジだわ…。

「よっすぃーってば、たまたまそこのチケットを手にいれたらしくってさ。早速昨日行ってきちゃった」
それから嬉しそうによっすぃーに視線を向ける。
そんな梨華ちゃんによっすぃーは嬉しそうに…けど、少し困ったみたいに私に笑いかけた。
その理由はわかってる。

梨華ちゃん…。そのチケットは、たまたま手にいれたんじゃないんだよ?
よっすぃーは、ずっとクラスのコ達とか先輩達に話してチケットを譲ってもらえないか頼んでたんだよ?
他でもない、梨華ちゃんのために。
で、ちょうど2枚持ってた私が譲ってあげたんだけどね…。
90 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月27日(金)00時16分59秒
二人が付き合い始めたのは約1年前ぐらい。
中学の頃から私と仲が良かったよっすぃーが、高校1年の時転校してきた梨華ちゃんに一目惚れ
したのが始まり。
その頃も生徒会役員をしていた私は、梨華ちゃんの事を先生に頼まれて色々学校の事とか教えたり
していて。

そんな私に、よっすぃーが仲をとりもって欲しいってお願いしてきたんだ。
他でもないよっすぃーの頼みを断れるわけもなくって、出来る限りのことをした私の苦労が実り、
今に至っている。

何に苦労したかって、それは梨華ちゃんの天然さ。
これでもかってぐらい悪戦苦闘したのを覚えてる。
でも、そんな天然さとは裏腹に、とっても思いやりがあって誰にでも優しくて…。
そんなトコロによっすぃーは惹かれたんだろうなって思った。
91 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月27日(金)00時17分53秒
「それは良かったねー」
「うんっ。もうすっごい楽しかったよっ、ごっちんも誰かいい人が…いたら……」
急に小さくなっていく梨華ちゃんの声。
それは表情にも移っていて、さっきまでのはしゃいだ顔はどんどんと気まずいものに変わっていた。
隣のよっすぃーも、小さく「あっ…」て声をだしてる。

あー…なるほど。
そこで気がついた。
きっと、私の事を気遣ってくれたんだ。
二人は、私が『あのヒト』を好きだったことを知っている数少ない理解者だから。
今はもういない、あのヒトのことを…。

「やだなー、気にしないでよ。私だって、そのうち超素敵なヒト見つけるって」
二人の気持ちが嬉しくて、私は元気に笑って見せた。

「ごっちん…」
「そんな顔しないでよ。ってゆーかさー、謝るんだったら昨日の集会の事にしてくんない?」
まだ申し訳なさそうにしている二人に、意地悪くちょっとオーバーなため息をついてやった。
だって、こうでも言わないと梨華ちゃんなんて、ずっと気にしそうだし。
92 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月27日(金)00時18分46秒
「ははっ、ゴメンゴメン。今日の集会にはちゃんと出るからさぁ」
「もー、ほんと昨日は後輩にまで居残りさせちゃったんだからねー?」
付き合いの長いよっすぃーはすぐにわかったみたいで、笑いながら受け流してくれた。

「ご、ごめんね〜。でもごっちん、いつも私達にたくさん仕事回すんだもん」
「当たり前じゃん。先輩なんだから、それぐらいしてもらわないと」
「も〜ひっどーい」
梨華ちゃんもぎこちないながらも、笑い返してくれた。
そんな二人に、私は心の中で感謝した。

まだ過去のことを引きずっている私に、二人はいつも気を使ってくれてる。
ちょうどいい距離を保ってくれてる。
触れられたくない部分には絶対に立ち入らず、でも冗談を言い合うときは思いっきり付き合って
くれたりして。
こんな友達がいて、良かったなーなんて考えてしまう。
93 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月27日(金)00時19分48秒
「そういえばさ」
「うん?」
よっすぃーが思い出したみたいに声をあげた。
「さっき中澤先生に聞いたんだけど、ごっちんなんか後輩で気に入った子がいるんだって?」
「んぁ?何それ」
まさに寝耳に水ってこのこと。
よっすぃーの言葉に、私は意味が良くわからなくて思わず聞き返してしまった。

「昨日も一緒に帰ったらしいじゃない?えー…と? こ、近藤…じゃなくて…」
「紺野さん」
「そうそう!紺野、紺野」
よっすぃーに教えるように、梨華ちゃんが紺野の名前を口にする。
「あ〜」
そこでやっと理解できた。

昨日それらしいことを中澤先生に言われたっけ?
そんなんじゃないのに…。
確かに紺野の事は気になるっていうか、放っておけないようなそんなカンジはするけど
それがイコール気に入ってるか?って聞かれればなんとも言えない。

「どーなんだろーねー…」
気がついたら、考えてたことが口に出てしまっていた。
よっすぃーと梨華ちゃんは意外そうに私の顔を見てる。
94 名前:何故か気になる女の子 投稿日:2002年09月27日(金)00時20分28秒
「あれ…てっきり『ちがうよー』とか言うと思った」
「珍しいね、ごっちんが誰かの事を気にかけるなんてさ」
「んー…なんてゆーか、ちょっとドジっぽかったりボーっとしてたりで、放っておけない
タイプなんだよねー…」

変に隠すことでもないし、二人に私は素直な気持ちを伝える。
そこで二人は、ますます意外な顔をする。
それからお互いに顔を見合わせて、何かに頷きあった。

「そっか。まぁ、今日集会があるし、その気になる紺野さんにウチらも会って話してみるよ」
「いや、気になるっていうか…」
「いいから、いいから」
何か言おうとするけれど、二人は意味深な笑いを含みながら私の言葉を遮った。

なんだろう…?なんだかヤな予感がするなー…。
あんまり私の勘は当てにならないんだけど、こういうヤな予感は結構当たったりするんだよね…。
何もなければいいんだけど。
95 名前:tsukise 投稿日:2002年09月27日(金)00時31分43秒
今回の更新はここまでです。
いしよしの二人の登場で、ちょっと盛り上がっていけるか心配…(^^ゞ

>83名無し( ´Д`)ファンさん
毎回読んでいただきまして、ありがとうございますっ!
いえいえっ、ありふれたことだなんてとんでもないっ。
書いている方としては、応援して頂くと頑張って更新しようという
気になるんです♪是非、これからもおつきあいください♪

>84いしごま防衛軍さん
楽しみにしてくださってありがとうございますっ!
今後の展開ですが、ちょっちネタバレするといしよしの二人に
活躍してもらおうかと思っていたりします♪
応援レス、嬉しいです〜♪

>85名無し読者さん
そうですね〜。ちょっち、イタイ内容が絡んだりしてるんで
書く方も結構苦戦したりしてるんですよね〜(^^ゞ
続けて読んで下さると嬉しいです〜♪

>86読者さん
応援レスをありがとうございますっ!!
そうですね〜、ごっちんと紺野だとリアルではほんとマッタリでしょうね♪
二人で歩いているシーンは、私も結構頭の中で想像しながら
書いたんで、読者さんの意見うれしいです♪
これからも頑張って更新していくんで、おつきあい下さると嬉しいです♪
96 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年09月27日(金)01時09分58秒
更新お疲れ様です。

毎回楽しみにしています。
そして、毎回同じようなレスでごめんなさい。
この作品大好きなので頑張って下さい。



97 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月27日(金)15時39分15秒
いしよしって思いやりに欠けてるよな…。
98 名前:15 投稿日:2002年09月27日(金)19時02分16秒
いしよしキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
天然なのがいいw
この後、紺野が来た時どうなるのかが楽しみですね。
がんがってください
99 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年09月29日(日)23時32分44秒
昨日の出来事が全部夢だったんじゃないかな、なんて思いながら私は目が覚めた。

時刻はAM6:23―――。
目覚ましをセットした時間よりも、約30分も早く目が覚めてしまったみたい。

ゆっくりとベットから起き上がって、カーテンを勢いよく開く。
「んー…っ」
目の前に広がる空は真っ青で、とっても清々しくって思いっきり伸びをした。
今日もいい天気になりそうだなぁ…。

それから部屋に振り返ったとき、机の上にあった何かが朝日の光に反射して
私の視界を真っ白に焼き付けた。
眩しさに目を細めながらその机の上に置いてあるものを見て、私はやっと昨日の
出来事が全部夢なんかじゃなかったんだって気づく。

だって、机の上に置いてあったのは、昨日の学校帰りに後藤さんに奢ってもらった
カフェオレの缶ジュース。
どうしても、もったいなくて飲むことができなかったんだ。
100 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年09月29日(日)23時33分28秒
「後藤さん…」
手にとって、缶ジュースを眺める。
それだけで昨日の事が、頭に浮かんでくる。

学校からの帰り道、気さくに話しかけてくれた…。
時々声を上げて笑った時の表情は、とっても無邪気で子供っぽくて。
黙って歩いていく時間も全然息苦しいものじゃなくて、むしろどこかホッとして。
やっぱり、私は後藤さんが好きなんだって改めて思ってしまったんだ…。

だからこそ…、気になることが2つあった。
1つは愛ちゃんから聞いた、後藤さんの『どうしても忘れられない大切な人』。

そんな風に言わせてしまう人って、どんな人なんだろう?
やっぱり、すっごくカッコイイ人で誰もが憧れちゃうような人なのかなぁ…?
頭の中で想像してみるけれど、起きだちの寝ぼけた頭でちゃんと考えられるわけも
なくって諦めた。
101 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年09月29日(日)23時34分28秒
それから気になることのもう一つは、後藤さんが話している時に時々見せた悲しそうな表情。
ずっとしっかり仕事をしている所を見ていたから、ふと見せたその表情が気になって…。

私が忘れた携帯を取りに行って、中澤先生と話していたあの時も…。

『後藤』
『…?』
『鳴らない電話を待つんは、もうやめときや。アンタが辛いだけやで?』
『…っ。…わかって…ます』
『…そうか。なら、ええねん』

そうだ…っ、仕事を手伝ってくれたあの時もだ。

『それでさ、こうやって居残りで仕事してた時、一緒に残ってくれた高等部の……
生徒会長さんが手伝おうとしてくれて、自分で仕事が片付かないのが恥かしくて
『10分だけ待ってっ!』って言ったんだ』
102 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年09月29日(日)23時35分05秒
待って…。
あの時、後藤さんは途中で何か言葉をすり替えていなかった…?
思い出して…。えっと…。

『それでさ、こうやって居残りで仕事してた時』

違う…そこじゃなくて…。

『一緒に残ってくれた高等部の……生徒会長さんが』

あ…っ!
そうだっ、高等部の生徒会長さんの名前だ…っ。

あの時、後藤さんはその人の名前を故意に避けたみたいだった。
それは別に名前を出したところで、私には分からないだろうからっていうような簡単な
理由じゃないような気がする。

そう…あれはまるで、口に出すだけで溢れ出してしまいそうな思い出したくない何かを
抑えるみたいな…そんな感じ。
躊躇いがちに止められた口調が私にはそう思えた。

もしかして…『どうしても忘れられない人』って、その生徒会長さん…?
え…っ?待って…。
それじゃあ、後藤さんが好きになった人も…女の人…?
103 名前:tsukise 投稿日:2002年09月29日(日)23時43分54秒
今回は短いですが、ここまでです…(^^ゞ
ちょっち、お仕事が切羽詰ってて中々書けないんですよね…(ーー;)
次回はがんばりますっ!

>96名無し( ´Д`)ファンさん
本当に、毎回楽しみにしてくださってありがとうございますっ。
大好きだなんて、かなり嬉しい感想なんで小躍りしてしまいました(^^ゞ
レスをくださるだけでも嬉しいので、そんな気にしないでくださいね♪



>97名無し読者さん
あはは…(^^ゞ実際のいしよしはともかく、うちの小説でのいしよしは
ちょっち遊び心を出して書いているので、そうかもしれないですね(^^ゞ
なるべく思いやりのあるキャラにできるよう頑張ってみますね(^^ゞ

>98 15さん
はいっ、いしよし大暴走させますっ(*^_^*)
梨華ちゃんはバリバリの天然にさせたいんで、同じくちょっち
天然な紺野との絡みに苦戦中だったりして…(^^ゞ
応援レスをありがとうございますっ♪
104 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年09月29日(日)23時55分09秒
更新お疲れ様です。

お仕事ですか大変そうですね。
学生にはよく分かりませんが
小説も仕事もほどほどに頑張って下さい。
105 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年09月30日(月)00時33分05秒
さすが紺野陛下という感じがしました。頭よすぎや!!
ごっちんはどういうふうに紺野陛下を見る目がかわっていくのか気になります。
紺野陛下はごっちんの過去を忘れさせることはできるんでしょうか。
すごく気になります。更新楽しみに待っています。がんがってください!!
106 名前:15 投稿日:2002年10月01日(火)20時22分31秒
天然石川自分の中では滅茶苦茶(・∀・)イイ!!ですw
同じくちょっち天然紺野との対面になったらどうなるのか楽しみですw
苦戦しているそうですが頑張ってください。
107 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年10月03日(木)00時08分32秒
だんだんと混乱し始めた私は、その場を行ったり来たりしながら考えをまとめようと
全神経を、まだ寝ぼけている頭に集中させようとした。
だけど。

ジリリリリリッ!!

「!!」
び、びっくりしたぁ…。
突然鳴った目覚ましに、心臓が止まるかと思った…。
そこで中断された思考をもう一度奮い立たせることもできなくなって、私は大きく
ため息をついた。

それからゆっくりとベットに乗っかって、枕元にある目覚ましに手をかける。
その時、あることを思いついた。

「そうだ…っ、愛ちゃんだったらその生徒会長さんが誰か分かるかもしれない…」
去年も生徒会に入っていたんだし、後藤さんの前に生徒会長をしていた人だって
知っている可能性は高いよね。

訊いて…みようかな…。

ほんとは人の過去を詮索するなんて、よくないことだってわかってる。
それも第三者から訊こうとしているのは間違ってると思う。
でも、私には後藤さんに直接訊く勇気がなかったんだ。

そのほんのちょっとの勇気と、思いやりがなかったために、私はこの後とても後悔することになる。
後藤さんの気持ちの深さと、繊細な心をちゃんと理解できずに…。
108 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年10月03日(木)00時09分57秒
「え? 高等部の前生徒会長がどんな人かって?」
学校につくなり、私は愛ちゃんに尋ねた。

同じクラスメートの愛ちゃんは席も私の隣で何かと話しやすくて、それでいてとっても親切なのだ。
きっとこの質問がまこちゃんや里沙ちゃんだったら、絶対に訊けなかっただろうなぁ…。
そんなことを考えながら、ちょっと驚いた顔をしている愛ちゃんに頷く。

「愛ちゃんは、去年も生徒会に入ってたんだよね…?何かわからない?」
「うーん…」
「どんなことでもいいんだ」
自分では普通に尋ねていたつもりだったけど、傍からみると必死に見えたみたいで
愛ちゃんは少し眉をひそめて私の顔を見つめ返してきた。

「あの…さ、どうしてそんなに訊きたいの?」
「え…っ?あ、うん…と…」
後藤さんの気になっている人が知りたいから、なんて言える訳もなくって私は視線を宙に彷徨わせる。

どうしよう…?
愛ちゃんって結構カンがよかったりするから、ヘタな言い訳なんてできない…。
うーん…。あっ、そうだっ!
109 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年10月03日(木)00時10分42秒
「そのっ、高校生で生徒会長になるための参考に…っ、し、知りたいなぁって…」
「生徒会長に?」
「うっ、うんっ」
「…ふーん……」
やっぱり…不自然…だよね。
自分でも視点が定まってないのがわかるし…。

「…後藤さんを見てじゃ参考にならないの?」
「ふぇっ!? あ、あぁ…っ、うん…えっと…」
突然出てきた後藤さんの名前に、思わず声を裏返してしまう。
そんな反応に愛ちゃんは首を傾げた。

だめだ…。
愛ちゃんと私じゃ役者が違いすぎる…。
元来、嘘とか隠し事が苦手な私には、このあとのシナリオが浮かばないんだもん。

「あの…愛ちゃん、もう…」
「く…っ、あははっ!」
諦めて『もう、いいや』って言おうとした私に、じっと顔をみていた愛ちゃんが突然吹き出した。
110 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年10月03日(木)00時11分16秒
「あ、愛ちゃん…?」
「ごめんごめん、ちょっと意地悪な質問だったね」
「?」
「あさ美ちゃんが言いたいこと、もうわかっちゃったんだ」
「え…っ?」
驚いて愛ちゃんを見返すと、もう何もかもわかってるよっていう笑顔を浮かべて机に肘をついた。

「あさ美ちゃん、後藤さんのことが好きなんでしょ?」
「えっ!? そ、それは…」
ずばり指摘されて私は口よどんでしまった。
そんな私に、愛ちゃんは苦笑するみたいに困った顔をしている。

「わかっちゃったって言ったでしょ?正直に答えてよ」
「…うん。その…好きになっちゃったんだ…」
私は観念して、素直な気持ちを愛ちゃんに伝えた。
途端に、愛ちゃんはため息を一つ。
「やっぱりね。あさ美ちゃんが高校で生徒会長をやりたい、なんてフツー言うわけないもん」
う…。
確かに、私にはできない仕事だってわかるけど、そうあからさまに否定されると少しだけ傷つく…。
111 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年10月03日(木)00時11分53秒
「いつ…わかったの?」
「高等部の前生徒会長がどんな人かって訊いきた時から、なんとなくね。確信をもったのは
後藤さんの名前に反応したからだけど」

愛ちゃん…カンが鋭いにも、程ってものがあるよ…。
それとも、私が隠し事がヘタ過ぎるってことかな…。
どっちにしても、なにもかも分かっている人の前で往生際の悪いことをしていたんだって
気づいて恥ずかしくなって俯いた。

「…で、前生徒会長がどんな人かってことだけど」
「あ、うん…」
「色んな人から同じこと訊かれたりするんだけどさ。悪いけど、私は名前だけしか教えて
あげられないよ」
「え…?どうして?」

名前だけだなんて…。
意地悪でもしてるのかな?って愛ちゃんの顔を見たけど、全然ふざけているような表情なんて
していなくて…。
むしろ、その表情はどこか真剣で…ぎこちないものだった。
112 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年10月03日(木)00時12分35秒
「やっぱり、人の過去の事を言いふらすわけにはいかないし…。それに、私もあんまりその人
のこと詳しくないから…」
「そっか…」
やっぱり、愛ちゃんも同じ事を思ってたんだ。
当然だよね。私だって、知らないところで色々噂されたりするのは嫌だもん。

「ただ…」
「?」
止められた言葉を不思議に思って、もう一度愛ちゃんを見ると今度はすごく悲しそうな顔をしていた。

「その人がどんな人か知って後藤さんに告白した人って、あんまりいないんだよね…」
「え…?どういうこと?」
「うーん…名前を聞いて、あさ美ちゃんもその人のことを知ればわかるよ」
「…う、うん」

どういうことなんだろう…?
そんなに、その人は凄い人ってことなのかな?
それこそ、私なんかと比べるのも失礼なくらい…。
113 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年10月03日(木)00時13分36秒
「とりあえず、名前は『市井紗耶香』さん。後藤さんが中3の時に高校1年にして生徒会長になった
人だよ」
「こ、高校1年生でっ!?す、凄いね…」

やっぱり、凄い人なんだ…。
なんだか、出端ををくじかれるってこういうことを言うのかなぁ…。
ちょっとネガティブになってしまった。

「あさ美ちゃん…」
「え?」
ちょっと落ち込み気味にうつむいていた私に、愛ちゃんは優しく…でも少し困ったみたいに声を
かけてきた。

「その…名前を教えといて言うのもなんだけど…」
「うん?」
「憧れぐらいの好きって気持ちだったら、後藤さんの事を調べたりするのはやめた方がいいよ」
「どう…いうこと…?」
114 名前:知りたい、あなたの過去 投稿日:2002年10月03日(木)00時14分23秒
愛ちゃんの言葉は、どこか警告を示しているような言葉で私は戸惑ってしまった。
知ってはいけない何かに触れようとしているっていうことを、言われたような気がする。
そして、続けて言われた言葉が決定打だった。

「…一番傷つくのは…あさ美ちゃんだと思うから」

え…?私が…?
どうして後藤さんの事を知って、私が傷つくの…?

キーンコーン…

「は〜い、みんな席について〜。出席とるわよ〜」

訊ねようと身を乗り出した瞬間、チャイムと保田先生の声にさえぎられてしまった。
だからこのときの愛ちゃんの言葉の意味が、全く分からなかったんだ。
115 名前:tsukise 投稿日:2002年10月03日(木)00時24分49秒
今回更新はここまでです。
ちょっちイタめになってきてますが、次回出没します
いしよしに大暴走してもらおうと思っていたりして…(^^ゞ

>名無し( ´Д`)ファンさん
うぅ…気遣っていただきましてありがとうございますっ(TдT)
仕事は1年中忙しい職種なんで適当なんですが、こちらの小説は
それなりに頑張りますので、またまたおつきあいくださると嬉しいです♪

>いしごま防衛軍さん
やっぱり、紺野といえば『頭が良い』というイメージが強いですよね♪
ごっちんの過去の出来事をどんどん知っていく紺野を頑張って
現在書いておりますので、またおつきあい下さると嬉しいですっ。

>15さん
天然梨華ちゃんと紺野の対面、多分次回更新時には披露できるかと♪
結構遊び心満点で書いてたりして、収集つくか心配だったりして(^^ゞ
応援メッセージを本当にありがとうございますっ♪
116 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年10月03日(木)00時38分44秒
毎回定期的な更新お疲れ様です。

ごっちんといちーちゃんの過去も気になるけど
紺野がこれからどう動いていくかもかなり気になっています。

作者さんのペースで頑張って下さい。


117 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年10月03日(木)21時36分10秒
いったいどうなっていくのか気になります!おつきあいさせていただきます!!
118 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時26分37秒
放課後。
結局、愛ちゃんとまともな話もできないまま、集会の時間を迎えてしまった。
ううん、何度か話す機会はあったんだ。
けど、その度に愛ちゃんは曖昧に笑って私を避けた。
だから自然と、朝の会話はできなくなってしまって…。

机の上に広げていたノートとかをカバンに入れながら、私は大きくため息をついた。
隣に座っていた愛ちゃんは、今は保田先生に呼ばれて職員室に行っている。
なんだか生徒会長の仕事を頼まれたらしくって、今日の集会は遅れるって言ってたっけ…。

「生徒会室に行かなきゃ…」
ぼんやりと愛ちゃんの机を眺めていても、愛ちゃんが戻ってくるわけもないし…。
私はちょっと沈んだ気持ちを振り切るように立ち上がって、まこちゃんと里沙ちゃんの教室に向かった。
放課後のこの時間、当番制で掃除があるせいか廊下に出ると色んな人がせわしなく動いている。
何度か人にぶつかりそうになりながらも、二人の教室の前へと向かっていく。
119 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時28分05秒
「あっ、あさ美ちゃん」
「え? あ、里沙ちゃん」
ちょうど教室の前についたところで、里沙ちゃんに声をかけられた。
その里沙ちゃんは、制服の上からエプロンをつけていてホウキを片手に軽くこっちに手をあげてる。
あ、もしかして…。

「これから掃除?」
「うん。運悪く当番になっちゃっててさ〜。もしかして、誘いに来てくれたの?」
「うん…」
「そっか〜、ごめんね。実はまこっちゃんも当番でさ、集会には遅れると思うから」
「そうなんだ…」
「悪いけど、先輩達に言っておいてくれる?」
「あ、うん。わかった。頑張ってね」
「ありがと。じゃ」
そのまま教室の中へと入っていってしまう里沙ちゃん。

そっか…。当番だったら仕方ないよね…。
私はそのまま、一人高等部の校舎へと向かった。

やっぱり、高等部に入るのはすっごく緊張する。
だって、自分は中等部の制服を着ていてただでさえ目立ってるし…。
いつも一緒にいて心強い愛ちゃん達もいないから、余計緊張しちゃって…。
私は高等部の人達の視線から逃げるように、足早に生徒会長室へと向かった。
120 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時29分35秒
「失礼…します…」
扉をあけてゆっくり顔をのぞかせてみる。
後藤さんあたりがいるかな?なんておもっていたんだけど、私の視界には別の人が入ってきた。

「あっ、いらっしゃ〜い。その制服って事は中等部のコ?」
「あっ、はい」
私の姿をみつけるなり、一人の女の人が向かいの机側から満面の笑顔で声をかけてくれた。
その声は、ちょっと高めの声で…なんていうか可愛らしい印象を受けてしまう。
どこかお嬢様っぽい雰囲気の人だなぁ…。
二つにくくられたおさげに少しカールがかかっていて、それがすっごく似合ってて。
それが一番可愛らしさを強調してるみたい。

「どうぞ、入って入って」
「失礼します…」
手招きをしているその人に戸惑いながらも、私は中へと入っていった。
そこで気がついたんだけど、その女の人のほかにこの部屋にはもう一人いたんだ。
ちょうど、声をかけてくれた女の人の膝に頭を乗っけて寝転がってる。
長身な人みたいで、横になるために並べられたパイプ椅子は4つもあった。
121 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時30分11秒
「よっすぃー、後輩のコが来たよ。起きて」
「ん…もう?しょうがないなぁ…。今日は早起きして眠いのに…」
呼びかけられて体を起こしたその人は、不機嫌そうにまだ眠そうに目をこすったりしている。

「あ、あの…」
「ん〜?あ、ごめんね。ちょっと寝不足でさぁ。びっくりさせた?」
「あ、いえ」
控えめに声をかけると、むっくり起き上がったその人は打って変わって笑顔で問いかけてきた。
その笑顔はとっても整っていて、きっとこういうのを『さわやかな笑顔』っていうんじゃないかなって思う。
多分、カッコイイ女の人ってこの人みたいな事を指すのかもしれない。

「ウチは高等部書記の吉澤ひとみ。で、こっちが」
「同じ書記の石川梨華だよ。ヨロシクね」
私が椅子に座ったのを確認してから、二人は自己紹介をしてくれた。
書記の吉澤さんに、石川さん…。
って、じゃあもしかして二人って、矢口さんが言ってたあの…?
122 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時30分46秒
「あ…、よっすぃー寝癖ついてるよ?」
「え?どこ?梨華ちゃん直して」
「しょうがないなぁ〜。ほらここだよ」
二人は私の視線なんか気にすることもなく、仲良く寝癖と格闘し始めた。
それを見て、多分、きっと…ううん、間違いなく矢口さんの言っていた二人だと確信した。

「それはそうと、アナタは?」
「あっ、私は中等部会計の紺野あさ美です…っ」
石川さんに髪の毛を触らせながら問いかけてきた吉澤さんに、私はあわてて答える。
その瞬間、二人の動きが止まった。
「中等部の…」
「紺野…?」

ガタンッ!!

「!?」
一呼吸おいて、吉澤さんと石川さんは勢いよく机を乗り越えて私の元へと駆け寄ってきた。
その怪しい行動に思わず私は2、3歩あとずさってしまった。
123 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時31分19秒
「アナタが紺野!?」
「え…っ?あの…?」
「そっかぁ〜、そうだったんだぁ〜?」
「?」
よくわからない言葉をいいながら、二人は私の全身を値踏みするみたいにしげしげと見つめてきた。
はっきりいって…かなり怖い。

「実はあたしたち、あなたに訊きたいことがあったんだよ〜」
「私に…ですか?」
「そう。超・ウルトラミラクルスーパー重要なこと」
吉澤さんの言葉の意味って、とりあえずすっごく重要な事って意味ってことだよね?
私…なにかいけない事でもしたかなぁ…。
不安になる私をよそにそのまま二人は、パイプ椅子を近くにもってきて向かい合うように私の前に座った。

上級生2人に見つめられて座る下級生…。
なんだか、妙な威圧感を感じてしまって一瞬刑事さんの取調べにあう犯人さんの気持ちが分かった
ような気がした。
124 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時31分58秒
「あ、そんな緊張しないでいいよ?ヘンな事を聞くわけじゃないからさ」
「あっ、じゃあ梨華ちゃんさぁ、コーヒーでも入れてあげてよ。もちろんウチにもね〜」
「オッケー」
「あ、べつに…そんな…」
「いいからいいから」
遠慮する私をよそに、石川さんはスキップをしながら部屋に設置されてるポットに近づくとコーヒーを
波々と注ぎ始めた。途端に濃厚な香りが部屋に漂いはじめる。

私…あんまり苦いのは飲めないんだけどなぁ…。
でもまさか「いただけません」なんていえない…。

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
早速つがれたコーヒーを手にとって一口のんでみる。
う゛…っ。

「どう?美味しい?」
「…えっと…」
石川さんの煎れたコーヒー…。
なんていうか…コクと苦味が強くて、ちょっと独創的な味がした。
「ん〜、美味しいよ梨華ちゃん。この間よりウデを上げたんじゃない?」
えっ!?吉澤さん…!?
本気で言ってるんですか…?
…というか、『この間より』って…、そんなに以前は凄かったのかなぁ…?
125 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時32分33秒
「ホント、よっすぃー!?やっぱり〜?自分でも最近煎れ方が様になってきたかなぁって思ってたんだ〜」
煎れ方が…?
あの…それってもしかして…。
「あの…石川さんは自分では飲まないんですか?」
「え?あ〜私コーヒー派っていうより、紅茶派だから」
そう言って、カバンから何やら大きなポットを取り出して机の上に、ゴトンと置いた。

「じゃーん!マイティー!!」
マ、マイティー…ですか?
私が目を見開いてるのをよそに、石川さんはコップに『マイティー』なるものを注いで幸せそうに飲み始めた。
あ…なんだか匂いが午後の紅茶のストレートティーだ…。
その時点で『マイティー』じゃない気がしたけど、気のせいにしておく。
126 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時34分12秒
「でさ、話を戻すけど…聞いてもいい?」
「あ、はい…。答えられることなら…」
「それなら大丈夫。紺野は高等部の生徒会の人達ってどう思う?ってことだからさ」
石川さんが煎れたコーヒーを一気に飲み干した吉澤さんが、少し顔をしかめながら尋ねてきた。
えっと…それは客観的でいいのかな?
「あ…皆さんいい人ばかりです」
「「例えば?」」
突然机に身を乗り出して、私の顔を凝視する石川さんと吉澤さん。
自然、私は少し背をそらせる形で二人の顔を困ったように見る。

「その…、矢口さんとか面白そうな人だし。安倍さんは優しいですし」
「他は?」
「石川さんは、楽しくて優しいし…」
味覚はヘンだけど…という言葉は心の中だけにしておく。
「ほんとに〜?嬉しいな〜」
「梨華ちゃん…っ!他は?」
脱線しそうになった石川さんを吉澤さんが肘で小突いた。
それからまた私に鋭い視線を送ってくる。
なんだか、私の口から何かを言わせようとしているみたいだけど…何なんだろう?
127 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時34分44秒
「もちろん、吉澤さんだってカッコ良くて素敵な人だと思います」
「でもよっすぃーは、私と付き合ってるからね」
今度は、少し怖い顔をして返事する石川さんに、「梨華ちゃん…」と少し嬉しそうな吉澤さん。
やっぱり、お互いに好きあってるんだなぁ…なんて思ってしまった。
でもそれも束の間で、吉澤さんは大きく首を振って、
「他には!?」
と、さっきよりも強めに訊ねてきた。
あとは…生徒会で残っているのは、あの人だけだよね…。

「えっと…後藤さんは…」
「「ごっちんは?」」
「後藤さんは、あこが…」
そこで言葉を止めた。

憧れ。
後藤さんは私にとって憧れの存在…?
多分、間違ってないと思う。だって難しいことだって大変な事だって、テキパキとこなしていって
凄いって思うから。
でも、私は『憧れ』だとハッキリ言うことができなかった。
それは、愛ちゃんに言われた言葉が頭に浮かんだから…。
128 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時35分40秒
『憧れぐらいの好きって気持ちだったら、後藤さんの事を調べたりするのはやめた方がいいよ』

どんな意味で言ったのか、まだその意味は私にはわからない。
でも、あの時の愛ちゃんの様子から見て軽い気持ちで言った言葉なんかじゃないって思うんだ。
だからこそ、ちゃんと自分の気持ちを確かめたかった。

私の後藤さんを好きって気持ちは、『憧れ』からくるものなの?
憧れだから、『市井紗耶香』さんのことも知りたいって…後藤さんの過去を知りたいって思ってるの?
違う…そんなんじゃない…。確かに最初は憧れだったかもしれない。でも今は…?

「紺野?」
「…いんです」
「え?」
「後藤さんは…わからないんです」
答えの見つからない疑問をうまく伝えられるわけもなくって、口をついてでたのはそんな言葉だった。
「わからない? どういうこと?」
やっぱりというか、吉澤さんは首をかしげながら訊いてきた。
129 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時36分19秒
「その…後藤さんのことを知れば知るほど、なんだか『凄い人』とか『カッコイイ人』っていう言葉で
簡単に言えなくて…どういえばいいのか…」
「…………」
言いよどんでしまって二人の顔を見ると、顔を見合わせて何かに頷いているみたいだった。
その様子が、まるで研究結果を二人で意見交換しているみたいで、少し居心地の悪さを感じてしまった。

「じゃあさ…。紺野にとって、ごっちんって今どういう存在?」
「え…?」
「別に、ハッキリした答えじゃなくてもいいから答えてみて?」
石川さんに言われた言葉に、私はまた戸惑った。

どういう存在…? ゆっくり頭の中に消化して自分自身に問いかけてみる。
一緒にいるだけで嬉しくなって、話しかけてもらえるともっともっと嬉しくなって…。
でも、時々見せる切ない表情には胸が締め付けられるように痛くなって…。
多分、私にとって後藤さんの存在は…

「何故か、気になってしまう人なんです…」
正直な気持ちだった。
130 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時36分56秒
そんな私の答えに、石川さんと吉澤さんは驚いたような…でも少し嬉しそうに私の顔を笑顔で
見つめ返してきた。
私、何かヘンなことでも言ってしまったのかな…?

「あのさ、紺野…」
不安になって何か言いかけたとき、吉澤さんが優しい声で私に声をかけようとした。
でも、

バタンッ!

「石川ぁッ!」
それよりも早く、勢いよく開いた扉から矢口さんが入ってきた。
なんだかその表情は怒っているみたいで、少し…いやかなり怖い…。
「あ、矢口さん、なんですかぁ〜?」
対照的に石川さんは、のほほんとした返事で軽く会釈。
それがカンに触ったみたいで、矢口さんは大股で歩いてきて石川さんに近づくと、鼻先に一枚の
紙をつきつけた。
131 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時37分37秒
「この請求書はなんだよッ!?」
請求書?
なんの事かわからなくて、私は恐る恐る石川さんの目の前でヒラヒラ揺れてる紙を覗き込んだ。
そこに書いてあったのは、『文化祭入場ゲート製作費用』の文字。
そういえば、文化祭がもうすぐなんだっけ…。
この時期から、生徒会では実行委員の代表として色々活動しているんだよね。
高等部では、工夫を凝らした入場ゲートが名物の一つになっているんだ。

「文化祭入場ゲート製作費の請求書ですけど?」
「んなこたぁ、わかってンだよッ!その額がなんなんだって訊いてンだ!」
額…?
確か、聞いた話では例年だいたい4、5万円ぐらいだったっけ?
私はゆっくりと視線を総額の欄に落としていって――――ビックリした。

「92万7200円です」
「そ、ん、な、入場ゲートがあるかぁっ!!」

スパンッ!
矢口さんは手に持っていた請求書の束を丸めて、石川さんの頭をはたいた。
132 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時38分21秒
「いったぁ〜い…っ。何するんですかぁ…っ!」
「何するんですかぁ…っ!じゃねーよ!さっきどれだけ、ゆうちゃんに怒られたと思ってンだ!
『会計がしっかりしてへんからやで』なんて言われたんだぞ!?」
ご丁寧に、矢口さんは『何するんですかぁ』の部分を石川さんの声色を真似て、怒りを露にした。

「大体、アンタがもってきたあの『完成見取り図』は何だよ!?」
「あっ、見てくれました〜?あれ、ウチが考えたんですよ。かっけぇーっスよね?」
「お前もかぁっ!このバカップルがッ!」

スパンッ!
続けざまに、矢口さんは吉澤さんの頭にも請求書の束を落とす。
そんなに、凄い入場ゲートだったのかな?92万も費用請求してるみたいだし…。

「あ、あのー…、一体どんななんですか?」
「…なっち、ごっつぁん」
控えめに訊ねると、矢口さんの後から入ってきた安倍さんと後藤さんが少し呆れたみたいな顔を
しながら一つの見取り図を机に広げて見せてくれた。
「うぁ…」
私の第一声はそれ。
だって目の前に広げられた見取り図には、とんでもないものが描かれていたんだもん。
133 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時39分03秒
確か、去年は『平和』を象ったもので、たくさんのハトと風船が空に飛んでいくのを立体的に作って
いたんだけど…。
でも目の前にあるそれは、なんていうか…入場ゲートっていうより重々しい要塞の入り口のような
物々しい異様なオーラを漂わせていた。
材料だって見たところ、ベニア板とかそんなんじゃなくて、鉄板とか金属類みたいだし…。

「どーゆーことか、説明しなさい!」
腕を組んで仁王立ちしながら矢口さんは、石川さんと吉澤さんをにらみつけた。
「えー…だって去年は『平和』ってテーマだったじゃないですか?だから今年はそれに輪をかけて
『平和の維持』ってどうかなぁって思って」
蛇に睨まれたカエルみたいに、少し怯えながらも吉澤さんは説明し始める。
うーん…方向性は間違ってないとは思いますけど…。
134 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時39分38秒
「で、やっぱりその為には『強くて何者にも負けない』って所を見せつけなきゃって思ったんですよ〜。
だから、梨華ちゃんから戦争物のビデオを借りて研究して、こーゆー建物を見つけたんでコレにしたって
わけです」
「これなら、テロリストが来ても大丈夫ですよっ!」
自信満面な石川さん。
確かに…最近物騒な事件が相次いでますけど…1高等学校にテロリストさん達は来るんでしょうか?

「バカッ!テロリスト以前に、警察がくるだろっ!大体、そんなガラクタの為に92万もの金を使う気!?
文化祭予算は100万なんだぞ!?あと10万足らずで、何しろってんだよ!」
もっともな意見だと思います、矢口さん…。

「「え〜〜〜っ!」」
石川さんも吉澤さんも『せっかく考えたのに〜』っていう顔をして矢口さんを見るけど、
「え〜じゃない!!もう一回考えてこい!」
ピシャリと言い放って、請求書を破り捨ててしまった。
バラバラになって床に散らばっていく、吉澤さん曰く『平和維持』のゲート。
その額の大きさにちょっとだけ完成品を見てみたかった気もしないかなぁ…なんて思ってしまった。
135 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時40分35秒
「あ〜〜〜!!私の血と汗と涙の結晶がぁっ!」
「うるさいっ!私にとっては怒りの結晶よっ!」
それだけ言い放って、矢口さんは向かいの机へと歩いていってしまった。

「昨日はすっごく楽しかったのに…、こんの目に逢うなんて…」
「そりゃ、集会サボって遊びに行ったんだから楽しかったでしょうよ。まぁ、これは天罰だと思って頑張って」
「そんなぁ〜」
石川さんの情けない声に、少し苦笑しながら安倍さんがそれだけ言って矢口さんの後に続いた。
残された石川さんと吉澤さんはガックリと肩を落としてしまってる。
それだけ、『平和維持』ゲートに自信もってたんだろうなぁ…。

「紺野」
「え? あっ、後藤さん」
「気にしないでいいよ。この二人の場合、いつものことだからさ」
「あ、はぁ…」
そうは返事したものの、目の前で落ち込んでいられると気にせずにはいられなかったりするんだけど…。
136 名前:独創的な先輩2人 投稿日:2002年10月08日(火)19時41分10秒
「それより、他のコは?」
「あっ、愛ちゃ…高橋さんは保田先生に呼ばれてて、小川さんと新垣さんは掃除当番で送れるそうです」
「そうなんだ?んー…じゃあ、みんなが来るまで私の仕事を手伝ってくれる?荷物運びだけど」
「あっ、はいっ!」
「あはっ、ほんとに荷物運びなんだしそんなに張り切らなくいいよ」
後藤さんは可笑しそうに笑う。
そんな言葉にちょっと恥ずかしさを感じながら、それでも嬉しさを隠せなかった。
だって、後藤さんからこうやって頼まれることは初めてだったから。
この間手伝ってもらったんだし、頑張らないと…っ。

「あ、紺野」
「え?あ、はい、なんですか?」
生徒会から出て行こうとする後藤さんに続こうとしたとき、後ろから石川さんに呼び止められた。
なんだろうと思って振り返ると、吉澤さんと一緒にちょっと頬を緩ませてこっちを見ていた。
「今日さ、私たちと一緒に帰らない?」
私たち…。ということは、石川さんと吉澤さんのことだよね?
もちろん、断る理由のない私は
「はい、ご一緒します」
と答えて、部屋を後にした。

なんだか、部屋から出る時も、石川さんと吉澤さんは私と後藤さんを見て笑っていたような気がした。
137 名前:tsukise 投稿日:2002年10月08日(火)19時49分47秒
今回はここまでです。
いしよし暴走はいっぺんに上げたかったので、
大量更新になっちゃいました…(^^ゞ
次回からは、かなりシリアスで深い所へ行く予定デス(^^ゞ

>116名無し( ´Д`)ファンさん
定期的な更新がくずれちゃいましたけど大量UPさせて頂きました♪
ごっちんといちーちゃんの過去&紺野の行動は次回更新でかなり進展
させる予定です〜♪いつも応援レスをありがとうございますっ。

>117いしごま防衛軍さん
今回はいしよし暴走でしたが、次回ごまこんの一番要部分をUP予定ですので
楽しみにしていただければ、小躍りして喜びます(*^。^*)
いつも応援レス、本当にありがとうございますデスっ!最近、応援レスが
元気の源だったりして…(^^ゞ
138 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年10月08日(火)20時31分30秒
大量更新お疲れ様です。

ごっちんも気になりますが
最近は高橋がなにをどこまで知っているのか
気になり始めています。

次回の更新も楽しみに待っています。




139 名前:名無し読者の一人 投稿日:2002年10月09日(水)16時30分02秒
紺野の嘘のない、正直な気持ちが伝わり、
まったりとしたハラハラ感が出てて引き込まれます
いしよしの動向にも注目ですね

それにしても今回の大量更新にはビックリ
次回も楽しみにしています
140 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年10月11日(金)18時10分06秒
たったしかに暴走してましたね。でも平和維持ゲートいい発想だと思う
んですけどねー!!この後がきになります!!がんがってください!!
141 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時15分07秒
「くしゅん!」
「…大丈夫?」
「大丈夫です、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。ってゆーか、ちょっとここホコリっぽいし」
生徒会室を後にした私と紺野は、資料室へと来ていた。
ちょうど今日、両校の文化祭について話そうと思っていて、その為の資料が必要だったから。

「それにしても…すごい資料の数ですね…」
私の隣でぎっしりと資料の入った、たくさんの棚を見上げながら紺野がため息交じりに呟いた。
確かに…。
私もこの場所に初めて入ったときは、かなり圧巻されちゃったりしたもんだ。

「ここにはね、創立以来の生徒資料とかが無意味にたくさんしまってあるんだって」
「そうなんですか?」
「うん。でさ、毎年毎年増えてくもんだから収拾がつかなくなっちゃって、誰も整理とかしない
からどこに何があるのか、ほとんどわかんないんだよね」
「それは困りますね…」
「まったくだよ。で、紺野にも探すのを手伝ってもらおうと思ったわけなんだけど?」
「あっ、はい。なんでも言ってください」
はりきったように頷く紺野に、私は少し笑ってしまった。
ほんと…紺野は真面目すぎるよ…。
142 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時15分50秒
「それじゃー…、悪いけど去年の文化祭費用の書かれたファイルを探してくれる?」
「わかりましたっ」
それだけ言って、紺野は少し離れた棚を探し始めた。

紺野ってちょっとボーっとしてる所があるみたいだから、心配なんだけど…大丈夫だよね?
ハッ、ダメだダメだ。ちゃんと、信じてあげないとね。
それに、またこうやって気にしてる所をよっすぃー達に知られたりしたら色々言われそうだし。
さっさと、私も探そう。
それから私も資料に目を通し始めた。

そういえば…、私もこうやってあの人と…いちーちゃんと資料を探したりしたっけ…。
まぁ、私の場合、紺野みたく真面目じゃなかったんだけど。
143 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時16分20秒
『後藤、アンタあっちの棚を探してくれる?』

『えーっ、あっちってなんか、いちーちゃんのトコロより資料の数多くない?』

『バカ、どこも一緒だってば。いいから、ほら行って』

『やだよ。いちーちゃんの方がお姉さんなんだし、あっちに行ってよ』

『お前…先輩に行かせるなんていい根性してるよなぁ…。大体学年だって1つしか変わらない
だろ?』

『でも、ごとーまだ中学生だも〜ん。それに生徒会長じゃないし〜』

『ったく…わーったよ。それより後藤、アンタ言葉遣い気をつけなよ?』

『え?なんで?』

『なんでって…、あたしはあんまし気にしないけど、とりあえず目上の人には敬語を使わないと
目ェつけられるよ?』

『えー…なんかタイヘンだねー…』

『とにかく敬語っ!わかった?』

『うん、わかった』

『……ダメだ、こりゃ…』

いちーちゃんは、私の事をすっごく気にかけてくれてたよね。
『なんか後藤って放っておけない』なんて言ってさ。
最初は色々注意とかしてきて厳しい先輩だなぁって思ってたけど、だんだんいちーちゃんと
一緒にいる時間が増えてくると、それは優しさの裏返しだったんだって気がついたんだ。
144 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時17分34秒
あの頃、ちゃんと敬語を使ってなかった私に呆れてたよね?
でもね、いちーちゃん。あたし、もう敬語でちゃんと話せるよ?
頼りにしてくれる後輩もたくさんできたよ?

そういえば、あの時こんなことも話したよね?

『なーんかさぁ…、生徒会長って楽そうだよねー』

『はぁ!?アンタ、どこをどう見たらそういう言葉が出てくるわけ?』

『だって、いちーちゃんってば、いつもみんなの話を聞いて多数決とか取ってるだけだし』

『だけって何よ失礼な。他にも、ちゃんと色々やってンだよ』

『でも、全然大変そうに見えないよ。なんかごとーにも出来そう』

『ほぉ〜、会計の仕事もまともに出来てないのによく言うよ』

『むっ。じゃあ、もしごとーが生徒会長になれたらどうする?』

『そーだなぁ〜。なんでも後藤の言うこと一つ聞いてあげるよ。まぁ、絶対にないと思うけど』

『ほんとに?じゃあ約束だよ?ごとーが生徒会長になったらなんでも一つ言うこと聞いてよ?』

『はいはい、まぁ頑張って。未来の生徒会長くん』
145 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時18分20秒
いちーちゃん、私生徒会長になったよ?
必死に色々頑張って、いちーちゃんみたく1年でちゃんとなれたよ?
だから、なってみて初めて分かることが多すぎて…。いちーちゃんがとれだけ大変だったか、とか。
あの時はバカにしちゃったけど、ずっとずっと尊敬してたんだよ?

ねぇ…、あの時の約束…覚えてくれてたよね…?
なんでも一つ言うことを聞くっていう。
私もさ、その事を覚えてて生徒会選挙があった日の放課後に、いちーちゃんにメールを打ったんだ。
自分のいちーちゃんに対する気持ちを込めて。
震える指で一文字一文字打って、それでも気持ちを伝えたくて勇気を出して送信したのを覚えてる。
いつも一緒に帰ってたから、その時に返事がもらえるのを期待してさ。
でも、肝心のいちーちゃんは携帯を教室に忘れてきちゃってて…。
146 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時18分53秒
『えーっ!私メールを打ったんだよ〜!?』

『ごめんってば、そんなに怒んないでよ。で、なんて打ったの?』

『…約束したお願い事。生徒会長になったら言うこと聞いてくれるって言ってたやつ』

『あ〜!そうなんだ…?んー…』

『いちーちゃん…?』

『後藤、アンタちょっとこの先の喫茶店で待ってて』

『え?』

『あたし、ちょっと戻って取ってくるよ』

『そんなっ、いいよ別に。明日でも』

『いいからさ。今日はアンタが晴れて生徒会長になった日なんだし。これぐらいさせてよ』

『いちーちゃん…』

『じゃ、ちょっと行って来るわ!』

まさか、あれが元気ないちーちゃんを見れる最後だったなんてね…。
思い出すだけで、自分を責めたくなる。

あの時、もしも口でちゃんと気持ちを伝えていたとしたら…?
あの時、もしもメールを打ったりしなかったら…?
あの時、もしも生徒会長になっていなかったとしたら…?
あの時、もしも…もしも…。
147 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時19分40秒
ガタンッ!!

「!?」
突然の物音に、そこで私の思考は途切れた。
それから音のしたほうへ顔を向けると、紺野が床に散らばったファイルを慌てて集めていた。
きっと、棚から1つファイルを取り出そうとして周りのファイルも巻き込んでしまったんだ。

「紺野? 大丈夫?」
「あっ、はいっ、大丈夫です。スイマセンっ!」
近寄っていくと、紺野は更に慌てたみたいにファイルを拾い始める。
けど…
「あぁっ」

バサバサッ!
あまりに慌てすぎて、せっかく集めたファイルをまた床にばら撒いてしまった。
紺野って、やっぱり少し…いや、かなりドジっぽいかも…。

「そんな慌てなくても大丈…」
声をかけようとして…途中で止めた。
正確には、床に散らばってしまったファイルの中身を見て。
きっと偶然に開いてしまったページなんだろうけど、その偶然を恨まずにはいられない。
だって、そこにはいちーちゃんが写った入学式の写真があったんだから。
148 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時20分18秒
写真に写るいちーちゃんは、入学式っていう大舞台に少し緊張しながらも、はにかんだ笑顔で
フィルムに焼き付けられている。
きっと、これから始まる高校生活に期待とか、不安とかいっぱい抱えて…。
1年生で色んな行事に初めて取り組んだり、2年生になって進路を考え始めたり、3年生になって
修学旅行に行ったり…そんな楽しい未来を夢見てたはずのいちーちゃん。
それなのに…。

「後藤…さん?」
「! あっ、ほら、早く片付けないと」
少し心配そうにかけられた紺野の声に、私は我に返って目の前にあったファイルを閉じた。
これ以上写真を見てると、思い出したくない過去まで思い出してしまいそうだったし、そんな弱い
自分を誰かに見られたくなかったから。

「それじゃあ、私はあっちを探してくるね」
「あ、はい…」
それだけ言って、何か言いたげだった紺野から離れた。
きっと訊かれるのは、誰から見ても不自然な今の自分のことだったと思う。
でもそれを訊かれても私には、なんにも答えることなんてできないんだ。
自分自身で、気持ちの整理がついてないんだから…。
149 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時20分56秒
それからまたファイルを探し始めてしばらくのこと。
「あの…後藤さん?」
「ん?なに?」
「後藤さんは、忘れられない過去ってありますか?」
「………」
ファイルに伸ばしかけた手を止めて紺野の方を見たけど、紺野は何気ない世間話みたいな
感覚で言ったみたいで、ファイル探しを続けていた。
それに私の返事を期待していなかったみたいに、言葉を続ける。

「実は私、昔いじめられてた事があって、その時のことが忘れられなかったりするんです」
「そう…なんだ?」
話の内容とは裏腹に、紺野の声は全然辛さなんかなくってちょっと首を傾げてしまった。

「ほら、私って結構ドジでのろまだったりするじゃないですか?」
「あー…うん。…って、ごめん」
ついうっかり頷いてしまって謝るけど、紺野は「いいんです」って笑ってみせた。
150 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時21分39秒
「それで…あ、これは小学生の時の話なんですけどね。私、学校に行きたくないって言って
家に閉じこもっていたんです」
「そうだったんだ…?」
「はい。それでしばらく一人で家にいて…ある日、思ったんです」
「…?」
「確かに…学校に行かないでずっと家にいれば、いじめられることも…傷つくこともないけど…
ひとりぼっちの寂しさを忘れたりすることもできないんですよね」
「ひとりぼっちの寂しさ…」
紺野の言葉はまるで、私自身の事を言っているようにも思えた。
いちーちゃんがいなくなってからの私の事を。

他人と触れ合うのが怖くなって…深く接していくのを避けて。
他人を知らなければ、大切な人を失ったり互いに傷つくこともないんだって、そう言い聞かせて。
でも…そう、紺野の言うとおり…寂しいって気持ちだけは消えたりしなかった。
151 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時22分54秒
「『自分』っていう人間が1人しかいないんだから、人はみんな多かれ少なかれ寂しいって気持ち
と付き合うしかないんだろうけど、自分から進んで寂しい思いをしなくてもいいんじゃないかって。
そう、思ったんです」
「紺野…」
「それから学校に行くようになって、やっぱりまだいじめられたりもしたけど友達もいっぱい出来て
自分の知らなかった自分を知ることができたんです」
いじめのことを話し始めた紺野が、どうして辛そうじゃない顔をしていたのか今分かった。
多分、紺野にとってのその過去は、決して嫌な事ばかりじゃなかったから。
嬉しいことも楽しいこともたくさんあったから…辛いことだって乗り越えられたからなんだ。

「きっと…あの頃いじめにあったりしなかったらそんな風に考えたりしなかったと思うんです。
私の中の知らない私を知るために、色々な人と触れ合おうって」
152 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時23分24秒
「そっか…」
「あっ、スイマセン…っ、なんか長々と話しちゃって…」
「ううん、いいよ。それよりなんで、私にそんな話したの?」
「なんか、後藤さん。退屈そうに見えたんで…」
こんな紺野の答えに私は一瞬呆気にとられて、それから笑ってしまった。
「ご、後藤さん…?」
紺野は、そんな私に戸惑った顔をしてる。

私が笑ってしまったのはね、やっぱり紺野は紺野だなぁって思って。
何か計算して、私に過去の話をしたのかなぁって正直思ったんだけど全然理由は違くて。
そのことに、なんかホッとしちゃったんだ。
ううん、それに例え計算して言ったとしても自分の事を一生懸命に話す紺野は真剣で…
気を使ってくれたんだって痛いほど分かったから、許したと思う。

「ごめんごめん。それに、ありがと」
「あっ、いえ…そんな」
紺野はテレたみたいに、またファイル探しを始めた。
153 名前:彼女とあの人の『匂い』 投稿日:2002年10月11日(金)20時24分07秒
『ありがとう』…素直に浮かんだ感謝の気持ち。
その思いを言葉にして、私はなんだか少し楽になったような気がした。
それから、なんで紺野のことが気になってたのか分かったんだ。

いつも何事にも、精一杯頑張っていたいちーちゃん。
全然辛い素振りだって見せないで、私の事を励ましてくれだりして…。
そして、何より『自分』っていうものをしっかり持ってた。

そんないちーちゃんと、紺野は同じ『匂い』がしたんだ。
誰よりも自分自身を信じていて、前向きな考えを持っていて…。
今の話を聞いて、確信した。
154 名前:tsukise 投稿日:2002年10月11日(金)20時32分34秒
今回、更新はここまでです。
結構大量UPになっちゃったみたいですね…(^^ゞ
ペース配分していない自分が悪いんですが(^^ゞ

>138名無し( ´Д`)ファンさん
大量更新にありがとうございます♪深いところを描き始めると
止まらないんですよね〜(^^ゞ
そしてそして、実は高橋なんですが、かなり後半では両者の鍵になる
ようにしていたりします(^.^)鋭い洞察力に脱帽です…。

>139名無し読者の一人さん
まったりの中にハラハラ感が出てますでしょうか?
うわ〜嬉しいご感想をありがとうございますデスっ!
いしよしには今後も結構活躍してもらう予定なので
楽しみにして頂けると、嬉しいです♪

>140いしごま防衛軍さん
いしよし、実際はこんなことないんでしょうけど遊び心が
入っちゃって暴走させちゃいましたデス(^^ゞ
平和維持ゲート…実物はとんでもないものに出来上がりそうですけどね(^^ゞ
応援レスをほんとにありがとうございます♪
155 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年10月11日(金)20時51分01秒
今夜も大量更新お疲れ様です。

ごっちんの過去がじわじわと見え始めてきましたね。
これからの展開がとても気になります。

次回の更新も楽しみに待っているので
作者さん、頑張って下さい。


156 名前:TRUE 投稿日:2002年10月14日(月)16時19分12秒
高橋が後半では両者の鍵をにぎる…気になるー!
この作品メチャ好きです。同じ板で
お互い頑張りましょう!
157 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月15日(火)22時48分58秒
後藤さんのお手伝いで資料の入ったファイルを見つけて生徒会室に持って帰ると、もう
みんな集まっていたみたいで、矢口さんに「おそ〜い」なんて言われてしまった。

でも、持ってきた資料のおかげか、その日の集会は、特に問題もなくすぐに終わったんだ。
遅れてきた愛ちゃんや、まこちゃん、里沙ちゃんもすぐに文化祭の催し物について色々
考えてくれたし、私もみんなにフォローされながら作業を終わらせることができたから。

ただ、何回か石川さんと吉澤さんが矢口さんに、例のゲートの案を持っていってて破り
捨てられてたりしたけど…。
それから帰り支度を進めていたときのこと。

「こ〜んのっ」
私の肩を軽く叩いて、石川さんが呼びかけてきた。
「もう帰り支度できた?」
「あ、はい。完璧です」
「それじゃあ、帰ろっか? あ、そうだ。良かったら他のみんなも一緒に帰らない?」
石川さんの後ろから、カバンを肩にかけた吉澤さんがまこちゃん達にも声をかけた。
けど…。
「すいません…。実はこの後、稲葉先生の所に行かなきゃいけないんで…」
まこちゃんは、申し訳なさそうに里沙ちゃんと顔を見合わせながら答えた。
158 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月15日(火)22時50分19秒
え…?稲葉先生の所に?
稲葉先生は、まこちゃんと里沙ちゃんのクラスの担任で、中等部ではもっぱら噂が
たえない先生の一人だったりするんだよね…。
何がかって、その指導の凄さ。

この間なんて、音楽の授業中なのに突然グラウンドを走らせる、なんて事をしていたような…。
先生曰く『走ったら、喉が開いて声がよくでるんや』ということだったらしいけど。
確かに一理あると思うけど、制服でグラウンドを走らされたまこちゃん達は、疲れきって
しまって逆に声がでなくなっちゃったって、聞いたような…。

「どうかしたの?稲葉先生に呼ばれるなんて…」
私の隣にいた愛ちゃんも、その稲葉先生の凄さを知ってるから、ちょっと心配げに問いかけた。
それに対して、まこちゃんはあからさまにウンザリした表情を浮かべる。
159 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月15日(火)22時51分11秒
「どうもこうもないよ。なんか、『掃除のやり方がなってない!』とかって言われてさぁ」
「生徒会が終わったら、掃除の極意を教えるから職員室に来なさいって言われたんだよ」
里沙ちゃんも少し呆れたみたいに首を傾げてみせてる。

掃除の極意…そんなものがあるのかなぁ…?
ちょっと聞いてみたい気も…。
「あさ美ちゃん、言っとくけど掃除の極意なんてないからね?」
「ふぇ?あ、うん」
愛ちゃん…、私の心の中まで読まないで欲しいな…。

「そっかぁ…じゃあ仕方ないね。高橋は?」
本当に残念そうな顔をしながらも、石川さんは愛ちゃんに尋ねる。
「あ、私は大丈夫です」
「あ、じゃあさ、ごっちんも呼んで5人で帰ろっか?」
「えっ、後藤さんもですかっ?」
言って、慌てて口を押さえた。
少し狭い生徒会室では、私の驚いたような声は必要以上に大きく響いてしまっていたから。
160 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月15日(火)22時51分48秒
案の定、私の声に気がついた後藤さんは、
「なに?私が、どうかした?」
カバンに資料をしまっていた手を止めて、私のほうを不思議そうに見てきた。
うわー…、恥ずかしいっ。
で、でもっ、後藤さんが一緒なんて聞いてなかったのに…。

混乱してしまって私が何も言えないでいると、吉澤さんがスッと私の前に出て後藤さんに
話しかけていた。
「いやー、せっかく同じ生徒会役員同士仲良くなったんだし、一緒に帰ろうかな〜って」
「そうそう。でさ、ごっちんもどうかな〜って」
あ、うんの呼吸ってこの事を言うんじゃないかってぐらい、吉澤さんに続いて言った石川さんの
言葉はさりげなく後押しするものだった。
161 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月15日(火)22時53分31秒
「んー…別に構わないけど…」
そこまで言って、後藤さんはカバンに肘をついてみせると私に向かって少しだけ意地悪な
笑みを浮かべる。
「なーんか紺野は私と帰るの、イヤっぽいみたいなんだけど?」
「えっ!? そっ、そんなことないですっ!」
私は慌てて両手を大きく振って否定するけど、今度は少しオーバーなくらい顔を伏せる後藤さん。
「さっきなんて、すっごい驚いてたみたいだし。あーあ、寂しいなー…」
そっ、それは、石川さんが言ってた『私達』っていうのに、後藤さんが含まれてたなんて知らな
かったからで…っ。
「そ、それは…っ、知らなくて…っ、石川さんがっ、帰る約束で…っ」
あぁっ、うまく言えないよ…っ。どうしようっ。

「…くっ、あははっ」
あ、あれ…? 後藤さん…笑ってる…?
恐る恐る後藤さんの表情を伺うと、顔を上げて声を出して笑っていた。
「ごっちん、からかい過ぎ」
その隣では、吉澤さんが呆れたように軽く後藤さんの肩を叩いてる。
162 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月15日(火)22時54分04秒
か、からかい過ぎ…って、もしかして私のことですか…?
じゃ、じゃあ今のは…。
「紺野、冗談なんだから気にしないでいいよ」
石川さんの言った言葉に、ようやく私は後藤さんのさっきまでのは演技だったのに気づいた。
ご、後藤さん…驚かせないでください…。私、嫌われちゃったのかと思ったじゃないですか…。

「へー…」
その時、後藤さんの隣に座っていた安倍さんが少し驚いた声を上げた。
「? なんですか、安倍さん」
それに気がついた吉澤さんが尋ねると、安倍さんはちょっと嬉しそうに笑ってみせた。
「ううん、ごっつぁんがこうやって笑ってるトコ見るの久しぶりだなぁって思って」
「そうですか…? いつも笑ったりするけど…」
後藤さんは少し不思議そうな顔をしてる。

「そうでなくてさ、今みたく声を上げて大笑いすることって、ここんトコロなかったじゃない?」
「あ〜そういえば。だってごっつぁんってば紗耶香の事があってから…」
「矢口」
「あ…」
矢口さんの言葉を遮った安倍さんの声は、とても冷たいものだった。
そのことに気がついたのか、矢口さんはバツが悪そうに顔を背ける。
163 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月15日(火)22時54分39秒
…? どうしたんだろう突然。
なんだか急に空気が重くなったような…。
後藤さんも、曖昧に笑いながら髪を触ったりして落ち着きがないみたいだけど…。

そういえば今、矢口さん『紗耶香』って言ってた? それって、『市井紗耶香』さんの事…?
だとしても、どうしてその名前が出ただけで、こんなにも雰囲気が変わってしまうんだろう?

…ちょっと待って…。
矢口さんと安倍さんは、市井さんの事を知ってる…みたいだよね?
そういえば愛ちゃんが『後藤さんが中3の時に高校一年で生徒会長に』って言ってたっけ。
ってことは、矢口さんや安倍さんと同学年の人。知ってて当然なんだ。

あれ…?でもだったらなんで、市井さんは生徒会に入らなかったんだろう?
後藤さんや矢口さん達を見る限り、役員を続投する人は少なくないみたいなのに…。
生徒会長をやってたぐらいの人なんだったら、尚の事なんじゃ…。
何か続投できない理由でもあった…?
…っ。なんだろう…胸騒ぎがする…。

でも、一度浮かび上がってしまった疑問を、私は消すことができなかった。
164 名前:tsukise 投稿日:2002年10月15日(火)23時02分27秒
今回、更新はここまでです。
少なめですが、ちょっちキリのいい所で止めたかったんで。
次回、紺野にはすべてを知ってもらう予定です(^^ゞ

>>155名無し( ´Д`)ファンさん
ごっちんの過去、そろそろ一番の山場の予定です♪
タイトルスレッドでも分かるように、とりあえず次回更新時には、
全貌を明らかにさせますです(^^ゞ
楽しみだなんて…嬉しいご意見を、ありがとうございますっ!

>>156 TRUE さん
そうですねっ、高橋にはちょっち重い荷をもってもらう予定です(^^ゞ
もしかして、一番大人なのは彼女かも…?
TRUEさんも、同じ板なのですね。お互いに良いものができるよう
頑張りましょうね♪
165 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年10月15日(火)23時33分01秒
更新お疲れ様です。

いや〜そろそろ山場ですか
かなりつづきが気になります。
毎回、更新されるのが待ち遠しいです。

これからも頑張って下さい。
166 名前:TRUE 投稿日:2002年10月16日(水)13時55分35秒
はい、お互い頑張りましょう♪
にしても作者さん、いい作品だぁ(涙
167 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時12分23秒
私達の沈んだ雰囲気を破ったのは、突然の来訪者だった。

ガラッ

「後藤に高橋、おる〜?」
扉に身体を預けるようにして、顔を覗かせたのは中澤先生。
ちょっと間延びした言葉が、けだるそうに聞こえたりするんだけどこれはクセみたい。

「あ、裕ちゃん。どしたの?」
「アンタなぁ、学校では『中澤先生』って、呼べ言うてるやろ〜?」
「え〜、別にいいじゃん。圭ちゃんみたく『オバちゃん』なんて言われるよりはマシでしょ?」
矢口さんが重苦しい空気を変えようと、中澤先生に話しかけたみたいだけどなんだか
中澤先生の顔色は険しくなっているような…?

「…矢口やなかったら、張り倒してるトコやで…」
怒られるのかな?って思っていたんだけど、中澤先生は大きくため息をついて矢口さんとの
会話を切り上げた。
矢口さんはそれを見て、小さくVサインをしてる。
なんだか、中澤先生は矢口さんに弱いみたいだなぁ…。
168 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時13分10秒
「まぁ、ええわ。後藤と高橋は?」
「あ、はい、なんですか?」
「帰ろうとしてるトコ悪いんやけど、前期の役員からの引継ぎ登録が終わってないから、
確認の為に残ってくれる?」
さして申し訳なさそうにする様子もなく、中澤先生は後藤さんと愛ちゃんの顔を交互に
見比べた。

「あ、はい」
「判りました。…よっすぃー、梨華ちゃん、悪いんだけどそういうコトなんだ」
愛ちゃんに続いて返事した後藤さんは、それから吉澤さんの方に振り返って少し苦笑してみせた。
なんだかその声が、ホッとしてるようなそんな感じに聞こえたのは気のせいじゃないと思う。

だって、後藤さんの表情が…時折見せる寂しそうな、あの顔をしていたから。
その表情が『さっきの話に触れられたくないんだ』って、そう言ってるような気がしてならなかったんだ。
169 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時13分43秒
「…まぁ、それならしょうがないよね。また、今度一緒に帰ろうよ」
吉澤さんにそれに気づいているのか、そうじゃないのか明るくしょうがないって顔で答えた。
「うん、約束するよ」
「ごっちん、頑張ってね」
続けて声をかけた石川さんに、軽く手を上げて答えてから後藤さんは教室を後にした。

「…それじゃ、私も行って来るよ。ごめんね、あさ美ちゃん。…一緒に帰れなくて」
「あ、ううん…っ、気にしないで。愛ちゃんも頑張ってね」
「うん。じゃ」
愛ちゃんも、すごくすまなそうな顔で私にそれだけ言うと、後藤さんの後について出ていった。
やっぱり生徒会長って大変な仕事なんだなぁ…。

「あっ! じゃあ、あたし達もそろそろ失礼します!」
思い出したみたいに声を出したのはまこちゃん。
そういえば、里沙ちゃんと一緒に稲葉先生の所へ行かなきゃいけなかったんだっけ…。
「それじゃあ、あさ美ちゃん、またねっ!」
「あ、うん…っ」
軽く私が手を振ると、二人は急いで教室を出て行った。
170 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時14分26秒
みんながいなくなった生徒会室で、やっと緊張がとけたみたいに吉澤さんが大きく
ため息をついた。
「…矢口さ〜ん…、心臓に悪いこと言わないでくださいよ〜」
あからさまに不機嫌な声。
でも、それに対して矢口さんはさっきまでの元気を無くして、
「…ゴメン」
静かにそう言って、頭を下げる。
「やっぱり…まだごっつぁん…」
安倍さんは矢口さんを慰めるように肩をポンと叩いて、呟くように後藤さんが出て行った
扉に向けて複雑な笑みを漏らした。

後藤さんが…まだ?
まだ…なんなんだろう?
やっぱり、私の知らない過去に何かあった…?
171 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時14分59秒
「よっすぃー…」
「あ…、そっか」
ぼんやりしていた私に気がついた石川さんが、吉澤さんの服の袖を軽く引っ張った。
それから何事もなかったような笑みを浮かべてる。
…私に聞かれちゃマズイってことなのかな…?
なんだか、ちょっとした疎外感を感じてしまった。

「じゃあ、ウチらも帰ろっか?」
「あ、はい…」
「紺野、元気ないよ?大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
その大丈夫じゃない原因の一つは皆さんなんです、なんて言えないよね…。
「じゃあさっ、ちょっと帰りにハンバーガーでも食べて帰らない?」
吉澤さんの提案にも、あんまり素直に頷く気分になれなかったけど…

ぐぅぅぅ…
私のお腹は素直だった。

それから、矢口さん達に挨拶をしてから学校を後にしたんだ。
172 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時15分38秒
あれから学校の近くのバーガーショップに入った私は、吉澤さんの奢りでハンバーガー
とポテトをご馳走になっていた。
石川さんはというと、甘党みたいでカスタードパイを2つも頼んでいてちょっとビックリ
してしまったんだけど。
隣で注文しようとしていた吉澤さんも、ちょっと引いてしまったみたいでボテトのLと
アメリカンコーヒーを頼んでいたっけ。

それからしばらく他愛ないおしゃべりをしていたんだけど、やっぱり私の中には一つの
事がずっと気にかかっていたんだ。

それはもちろん…市井さんと後藤さんの事。
さっきの生徒会室での出来事を見て、こんなこと聞いてはいけないのかもって思ったん
だけどやっぱり、知りたいって気持ちには勝てなくて、ついに切り出したんだ。
173 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時16分11秒
「あの…訊いてもいいですか?」
「ん〜?何?」
ポテトを口の中に放り込みながら、吉澤さんは首を傾げて見せた。

「あの…『市井紗耶香』さんってどんな人なんですか?」

自然に、ごく自然に私の口から出た疑問。
だけど、目の前に座る吉澤さんと石川さんは誰から見ても判るように顔色を変えた。
そして何か信じられないものでも見るような…そんな驚いた瞳で私を凝視してくる。
「あ、あの…?」
何か、悪いことでも訊いたのかと思って戸惑いながら問いかけようとしたその時。

「…知ってどうするの?」
どこまでも冷たい声が、店内に響きわたった。
その声を発した吉澤さんに顔を向けて、私は一瞬息を飲んでしまった。
だって、今目の前に座る吉澤さんは、さっきまで楽しそうに喋っていた時とは
うって変わって、すごく怖い顔をしていたから…。
174 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時16分43秒
「え…?」
「ちょ、ちょっとよっすぃー…」
隣の石川さんは、私と吉澤さんの顔を見比べて困ったみたいに呼びかけたけど、
「梨華ちゃんは黙ってて」と吉澤さんは顔を私に向けたまま、軽く手を上げてそれを制した。

「紺野、厳しい事を言うようだけどさぁ…」
そう言いながら、首の後ろ辺りをかきながらこちらを見る吉澤さんに妙な威圧感を感じて
私の身体が強張っていくのがわかる。
次の言葉を聞くのが…少し怖い。
でも、そんな私の事なんて構うことなく容赦ない言葉を告げられた。

「興味本位で訊くんだったら、やめてくんない?」

頭を殴られたみたいな衝撃。
『紺野には教えられないよ』って言われたような気がした。
さっきも感じていた疎外感が大きく胸の中に膨れ上がってくる。
175 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時17分14秒
途端に頭に何か熱いものが流れ込んでくるのを感じた。
目の奥が痛くて瞬きができない。
喉だってカラカラになってる。
きっと、この感情に名前をつけるとしたら、それは『憤り』。

興味…本位なんかじゃない…っ。
そんな簡単な気持ちだったら、こんなに悩んだりしない…っ。
どうしても知りたいなんて、そんなこと考えもしないっ。
私はただ…っ、後藤さんに悲しそうな顔をさせてるのは市井さんだと思ったから…っ。
少しでも、市井さんのことを知って後藤さんの悩みとかを理解したいって…。
誰よりも、理解したいって…。

思ってみて感じる、自分のエゴ。
これって単なる、自己満足だ。
後藤さんの気持ちも、吉澤さんの気持ちも、きっと市井さんの気持ちも無視した想い。
でも、止められない想いなんだ。
176 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時18分20秒
「違います…っ、興味本位なんかじゃありませんっ」
声が上ずった。
今にも泣き出したくなるのを必死に抑えて、吉澤さんを見つめる。

その瞳の中に、私が映っていた。
頼りない女の子だった。でも、それでも後藤さんを理解したいって強く思っていた。
後藤さんの心に深く残っている過去を理解したいって…。

「じゃあ…何? どうして市井さんの事…ううん、ごっちん過去の事を訊こうとするの?
紺野にとって、ごっちんって何?」
私にとっての後藤さん。
この質問は、二度目だ。
一度目は『何故か、気になってしまう人』って言ったけど、今回吉澤さんが聞きたいのは
そんな曖昧なものなんかじゃない。
私も、もうそんな曖昧な感情を口にする気はなかった。

「私にとって後藤さんは、誰よりも好きな人なんです」
177 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時18分59秒
「紺野…」
石川さんが、吉澤さんの隣でポツリと呟いたのが聞こえた。
でも、吉澤さんは相変わらず厳しい表情でじっと私を見つめてる。

これでもまだ話せない、というのならもう市井さんの事を考えるのはよそうと思った。
それだけ、私には入り込めない何かがあるってことだから。

それからしばらく私を見ていた吉澤さんは、ゆっくりと目を閉じて大きくため息を一つついた。
途端に不安になる私。
でも、次に私を見つめ返した吉澤さんは、優しい顔で笑ってくれていた。

「OK、紺野の気持ちは判ったよ。市井さんとごっちんの事、ウチが知ってる範囲で教えて
あげるよ」
「あ…」
判って…くれた。
私の気持ち…伝わった。
でも、私は頭の中が真っ白になってしまって、すぐに話すことができなかった。

「紺野?大丈夫?」
「あっ、だ、大丈夫ですっ。ありがとうございます…っ、ありがとうございますっ!」
石川さんの心配そうな呼びかけで、やっと今の状況が把握できた私は、バカみたいに
何度も吉澤さんに頭を下げていた。
「やめてよ、も〜。紺野って真面目過ぎ」
もう一度見た吉澤さんは、いつもの吉澤さんでホッとした。
178 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時19分47秒
「…じゃあ、ちょっと思い出話でもしようか?」
「思い出…話ですか?」
「うん、ごっちんとウチが中3の頃の」
中3の頃の後藤さん…。確か、愛ちゃんの話では市井さんが生徒会長だった時だ。

「あの頃のごっちんはさ、今とは全然違くてあんなしっかり者なんかじゃなかったんだよね」
「え…?」
「そりゃ、もうひどいのなんのって。学校はよく遅刻するし、授業中に起きてることなんてまず
なかったし…」
後藤さんのそんな姿…想像できないなぁ…。
それだけ今の後藤さんが、すごくしっかりしてるからなんだろうけど。

「…で、学校もサボリ気味だったごっちんを学校に来させるために、圭ちゃん…あぁ、保田
先生のことなんだけど、その人がごっちんを生徒会の役員に入れたんだよ」
179 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時20分20秒
『後藤っ! アンタまた遅刻なんかして〜っ!』

『だって、朝弱いんだもん。仕方ないじゃん』

『朝が弱いにしても、午後から学校に来るってどういう事よっ!まったく…。まぁ、そんなアンタに
あたしからご褒美をあげよう』

『え? なになに? いいもん?』

『とぉ〜ってもいいものよ。アンタ、今日から生徒会の会計になりなさい』

『はぁ!? 何ソレ!?ヤだよ、そんなん。めんどくさい』

『ダメよっ。もうこれは決定事項だからねっ!早速今日から高等部との合同集会に行きなさい!』

『え〜〜〜!?』

『え〜〜〜!?じゃない! サボったりしたら容赦しないからね』

180 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時21分01秒
「最初は嫌々だったみたいだけど、1ヶ月ぐらいしてからかなぁ…?ごっちんが真面目に学校に
来るようになったんだ」
「はぁ…」
後藤さんが言ってた、保田先生とちょっとした知り合いってこの事だったんだ…。

「で…その真面目に学校に来るようになった原因が、市井さんなんだ」
「市井さんが?」
「うん」
181 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時21分31秒
『あれ〜? ごっちん、最近真面目じゃん?朝ちゃんと学校にいるし』

『へへ〜、ごとーだってやる時はやるんだよ。生徒会もあるしさ』

『あ…、さては生徒会役員の中にイイ人でもいたの〜?』

『うわっ、よっすぃーってば鋭いね。なんでわかったの?』

『だって、ごっちんってば集会に行く時、なんか嬉しそうなんだもん〜。で、どんな人なの?』

『ん〜、よしこならいっか…。あのね〜、高等部の生徒会長のいちーちゃん』

『い、いちー…ちゃん!?先輩にちゃん付けしてんの?』

『だって、いちーちゃんってばお姉ちゃんみたいだもん。だからいちーちゃん』

『まーいいけどさー…。じゃーまー、振り向いてもらえるように頑張って』

『もっちろん!』

182 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時22分10秒
「思えば、あの時が一番幸せだったんじゃないかな…ごっちんは…」
「そう…ですか」
後藤さんが好きだった人は、やっぱり市井さんだったんだ。
薄々わかってはいたけど、いざそうだと言われるとやっぱり複雑だった。

「ごっちんは変わったよ…。ちょうど高1になった頃かなぁ?どんどん真面目になって、
誰にでも好かれるように優しくなって」
きっとそれが、私の知ってる後藤さんなんだろう。
何もかも完璧にこなしていく、誰からも憧れの対象になる後藤さん。

「…でもね、それには大きな理由があったんだ。今となっては、憎いぐらい悲しい理由がね」
「悲しい…理由?」
吉澤さんは、そこで冷めてしまったコーヒーを一口啜った。
隣にいる石川さんは、辛いものでも見るように吉澤さんを見つめてる。
これから話されるだろう、内容を知っているみたいに…。
183 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時22分40秒
「いつだったかなぁ…?あれは…そう、生徒会役員選挙の日だ。ごっちんがさ、
『今日の選挙では絶対に会長にならなきゃダメなんだ』って言ってたんだ」
「生徒会長にですか?」
「うん。まぁ、当選確実って言われてて、ちゃんとなれたんだけどね」
「そうなんですか?」

驚いた。
後藤さんも一年で生徒会長になっていたなんて…。
やっぱり…市井さんの為に…?

「…で、その理由を聞いたんだ」
184 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時23分21秒
『なーんで、そんな会長職にこだわってんの?ごっちん』

『あはっ、実はさ、いちーちゃんと約束したんだ』

『市井さんと約束? 何、どんな?』

『私が生徒会長になれたら、なんでも私の言う事1つ聞いてくれるって』

『あ、そうなんだ? で、なに?何をお願いするの?』

『…笑わない?』

『笑わない、笑わない〜。親友だろ?教えてよ』

『…ずっと好きでした、私と付き合ってくださいって』

『うわぁ〜お〜! それってもしかして愛の告白ってやつ〜?』

『からかうなよ、よしこぉー…。私、本気なんだからさー』

『ごめんごめんっ、でもさぁ、ごっちんって誰かに『好き』っていうの苦手なんじゃなかったっけ?』

『だからさ、生徒会長になったらメールで伝えようと思って。それだったら学校帰りにでも返事を
もらえるじゃん?』

『あ、なーるほど。OK、じゃあウチもごっちんに1票入れるから頑張んなよね』

『おうっ、まかせろいっ!』

185 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時24分21秒
「そうだったんですか…」
なんだか、嬉しそうに理由を話す後藤さんの姿が浮かんできてズキンと胸が痛くなった。
やっぱり…私なんかが入り込めないぐらい、後藤さんは市井さんの事…。

「…でもね」
ぼんやり考えていた私は、突然トーンの低くなった吉澤さんの声に顔を上げた。
すると、吉澤さんはすごく悲しい瞳でコーヒーに視線を落としながら話し始めた。
「メールで告ったけど…、その返事が返ってくることはなかったんだ」
「え…? どういうことですか?」

もしかして、断られたりして…?まこちゃんもそんな感じのことを言ってたし…。
そんな簡単な考えが浮かんだけど、吉澤さんと石川さんは凄く辛そうな表情をしていて
もっと事態は深刻なことなんだって感じ取った。
それからしばらくの沈黙の後、吉澤さんがゆっくりと口を開いて衝撃的な事実を告げた。
186 名前:衝撃的な事実 投稿日:2002年10月19日(土)16時25分01秒
「その日の放課後…、市井さんは飲酒運転のトラックに轢かれて…」

え…?
ちょっと待ってください…。
何ですか?
まさか、そんな…。

戸惑う私に、容赦なくその言葉は告げられた。

「…亡くなったんだ」

187 名前:tsukise 投稿日:2002年10月19日(土)16時30分55秒
今回UPはここまでです。
ぐはっ、結局目標にしてた所までは上げられなかったですが、
次回頑張ります…(-_-;)

>>165 名無し( ´Д`)ファンさん
毎回読んでいただきまして、本当にありがとうございますっ!
そろそろ紺野に一大決心をしてもらおうかと考え中ですので、
またまた読んでくだされば嬉しいですっ♪

>>166 TRUEさん
良い作品だなんて…嬉しいご感想をありがとうございますっ!
本人結構バテ気味だったりしたんですが、元気がでましたです♪
お互い完結に向けて頑張りましょうね。
188 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年10月19日(土)17時16分35秒
更新お疲れ様です。

ついに紺野はごっちんの過去を知ることができましたね。
ごっちんの過去を知った紺野さてどうする!?
今後の紺野の行動がかなり気になります。

作者さん、頑張って下さい。

189 名前:TRUE 投稿日:2002年10月19日(土)17時56分01秒
自分ではイチオシの作品ですよー。なんせ組み合わせがいいもんで(w
完結したらまたいい作品作るんだろーなぁ。バデ気味だったんすかー。
自分もそーいうときあります!!マターリ待ってますよ☆応援しまっしゅ!!
190 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)01時09分07秒
今回の更新分だけで、目頭が熱くなってしまいました。
紺野の衝撃もそうだけど、よっすぃ〜の優しさが・・・もうひしひしと。
191 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)22時33分36秒
いちごま&ごま紺スキーなので、更新毎日楽しみにしています。
これからもがんばってくらさい!>作者さん
192 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)21時55分02秒
まさかよっすぃー達が、そんなことを話しているなんて全く知らない私は高橋と一緒に
職員室へと来ていた。
中澤先生に言われた、いわゆる生徒会役員の後任手続きをするために。

「じゃあ、この書類一式全部に名前の変更を書いといて」
そう言いながら中澤先生が持ってきた書類は、半端じゃない量だった。
「…こんなにたくさんあるんですか?」
高橋なんて、目を丸くして驚いてる。

「うん。ホンマは全員でやった方がええんやろうけど、ま、なんとなく2人でやって
もらおかな〜と思って」
言葉の最後に、私に向かって軽くウィンクしてみせた。
それで気がついたんだ。
さっき、教室で話していたことを聞いていたんだって。
きっと、中澤先生は中澤先生なりに気をつかって、私をあそこから連れ出してくれたんだ。
正直、そんな風にされたら冷たくあしらえない。
193 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)21時55分59秒
「わかりました。とりあえずやれるだけやっておきます」
「はいはい。それじゃあ、あたしは帰るけど学校から出るときは警備員さんに声かけてってや」
それだけ言うと、中澤先生は鼻歌交じりに教室を出て行ってしまった。
なんか、つかみ所のない先生だよなぁってつくづく思う。

「あの…後藤さん?」
「あ、なに?」
振り返ると、高橋は困った顔で資料の山を見つめている。
「これ…今日中に終わるんですか…?」
「………聞かないで。…とりあえず、やれるだけやっちゃおっか?」
どうせ今日出来なくても、明日もやらされるんだろうし。

ある程度の束をとって、手近な机に座ると早速目を通し始める。
殆どの資料は前期の役員の名前のままだから、それを直していくだけでも結構な作業だ。
ホント、私が高橋の立場だったとしても誰かに『終わるんですか?』って聞きたいぐらい。

…まぁ、私は生徒会長だし、先輩だからめったに弱音を吐けないのが辛い。
194 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)21時56分47秒
それにしても…。
今日は、なんでこんなにもケチばかりつくような出来事があったんだろう。
資料室でのアルバムといい、矢口先輩といい。
こんなにもヤな事が続くと、何か起こる前触れなんじゃないかって思ってしまう。

まぁ…ヤな事ばかりではなかったけど…。
そう思ってすぐに浮かんだのは、紺野の慌てたような姿。
ちょっとからかっただけで、凄く反応する紺野が可笑しくて…。

「あの、後藤さん?」
「ん? あ、なに?」
顔を上げると、向かいの机に座って作業をしていた高橋が首を傾げていた。
「どうしたんですか? なんだか嬉しそうな顔してますけど…」
「え?そう?」
言われて私は、自分が笑っていることに気がついた。
つい、考えていたことが顔に出てしまったみたい。

「や、なんでもないよ、うん、気にしないで」
「そうですか?」
曖昧に笑ってから、また視線を書類に戻す。
真面目にやらないとね、真面目に。
195 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)21時58分29秒
「そういえば、後藤さんはあさ美ちゃん…紺野さんの事どう思います?」
「んあ…!? 何、急に?」
突然の質問に、私は名前を書き換える欄を間違えてしまった。
だって、今考えていた事をズバリ読まれてしまったんだから。
でも、高橋はそんな私の様子に「?」と一度首を傾げただけで言葉を続けた。

「実は今日、紺野さんから…好きな人の事で相談を受けたんです」
「へぇー…そうなんだ?」
まぁ、紺野だって中学3年生なんだし、当然といえば当然の悩みか。
なんだか外見が結構おっとりしてるから、そういう事には疎いのかなって思ってた。
…っと、また書き間違えちゃった。

「それで、その好きな人っていうのが私もちょっと知っている人だったんで、紺野さんが
その人の事について聞いてきたんですよ。その人には…好きな人がいるのか?みたいな
事を」
「ふうん…。それで?」
「で、一応少しだけ教えたんですけど…ちょっと心配で」
「心配?」
書類から顔を上げて高橋の方を見ると、手を止めて表情を曇らせていた。
心底、紺野の事を心配してるんだって事がその表情から判る。
196 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)21時59分07秒
でも、一体なにが?
「どうして?」
話を促すように声をかけると、こちらに不安げな視線を向けてきた。

「紺野さんって、1つの事に集中すると自分の事も二の次にして考えちゃったりするから
もし、上手くいかなかった時に…凄く傷つくんじゃないかって…」
「そっか…」
確かに。
紺野って変な所で真面目だったりするし、なんでも自分で背負い込んじゃう所もあるみたいだし。
私より付き合いが長い分、高橋はその事を痛いほど判っていて心配してるんだ。
友達想いのいいコだなぁって思う。
でもね…。

「でも、紺野なら大丈夫だと思うよ?」
「え…?」
私の言葉に、高橋はビックリしたみたいな顔をしてる。
その視線を受けて、私はペンを止めて笑って見せた。
197 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)21時59分42秒
「ああ見えて、紺野って自分自身の事をしっかり理解してるみたいだし。仮に悪い結果に
なったとしても、紺野ならどうすれば良かったのかとか、これからどうすればいいのかとかって
ちゃんと自分で見つけられると思う」
「後藤さん…」
別に気休めで言ったわけでも、その場しのぎで言ったわけでもない。
本当に、紺野なら大丈夫だと思ったから、そう言ったんだ。

「フフッ」
「ん?なに?」
「あ、すいません…。ただ、なんだか後藤さんってば紺野さんのお姉さんみたいだなぁって」
「お姉さん?私が?」
「はい、凄く紺野さんの事を気にかけてるみたいだし」

気にかけてって…別にそんなんじゃない…と思うんだけど。
うーん…、周りからはそんな風に見えてしまうものなのかなぁ…?
中澤先生といい、高橋といい。
198 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)22時00分18秒
「気にかけてっていうか…なんか放っておけないような気はするけどねー…」
「それって…『好意』があるってことですか?」
「えー?」
何言ってんのーと軽く言おうとして、ふと止まった。
高橋は、すっごく真剣な目でこっちをみていたから…。
自然と私まで、顔が引き締まっていくのがわかる。

「それは…ないよ」
口から漏れたのは、そんな言葉。
でも、その後に思ってもいなかった言葉も一緒に自然と出ていた。

「…たぶん」
って…。

言ってから、自分でも驚いた。
どうしてここで、曖昧な言葉が出てしまったんだろう?
だって私は、いちーちゃんの事が好きなんでしょう?
なのに、なんで?
199 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)22時01分45秒
「あの…後藤さんは今、好きな人っているんですか?」
続けて言われた高橋の問いかけは、深く私の心に突き刺さってくる。

私に今、好きな人? いるよ、もちろん。
それはいちーちゃん。
ずっとずっと好きだった人。ずっとずっと憧れてた人。
でも…もう、逢う事も叶わない人。

…ちょっと待って…。
今私の胸に広がるこの悲しい感情は…苦しい感情は何?
好きな人の事を思っているのに、どうしてこんなに悲しくて苦しいの?

ああ…そっか…。
私のせいで、いちーちゃんはいなくなっちゃったからだ…。
私はこうやってずっと、いちーちゃんを思い続けなきゃいけないからだ。
じゃあ…

じゃあ、この気持ちは本当に『好き』って感情なんだって呼べるの…?
今、好きな人なんだって、胸を張っていえるの?

目まぐるしく回転していく思考に私は翻弄されながら口を開いていた。

「いないよ…今は」

その言葉を口にして、より一層私は動揺してしまった。
だって、その言葉はいちーちゃんと…いちーちゃんを好きな私を過去のものへと
させるものだったんだから。
200 名前:迷走する気持ち 投稿日:2002年10月22日(火)22時02分18秒
「そう…なんですか」
高橋は、驚いたような顔で私を見てる。

きっと今の私は、限りなく無表情な顔をしていたと思う。
だって、高橋がそれから「あの、作業を続けましょうか」って困ったみたいに声を
かけてきたから。
でも、もう私には書類の事なんか頭に入ってこなかったんだ。

どうして…私はあんなことを言ったの…?
私が好きなのは、いちーちゃんじゃなかったの?

疑問は大きく胸に圧し掛かってきて、自然と一人の面影を脳裏に映し出した。
それは、ずっとずっと私が追いかけていたいちーちゃんじゃなくて―――

『ま、待ってください…っ。あと10分だけ時間を下さいっ』

慌てて、私が手伝おうとして歩み寄ったのを静止していた―――

『ご、後藤さん…っ、笑わないでくださいよ…っ』

一生懸命に空手の型を私に見せてくれた―――

『後藤さんは、忘れられない過去ってありますか?』

辛い過去も乗り越えることができるんだって、教えてくれた―――

―――紺野の姿だった。
201 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時03分51秒
もう外も真っ暗になったっていうのに、私はまだバーガーショップにいた。

さっきまで一緒だった吉澤さんと石川さんは、この後予定があるからって
何度も謝りながら出て行ってしまっていたんだけど、私はショックで情けなく
立ち上がることもできずに、ただそれを見送ることしかできなかったんだ。

あの後の会話は、ぼんやりとしていた私にはあんまり頭の中に入ってこなかった。
ただ、どれだけ後藤さんか傷ついたか…どれだけ心に大きな傷をつけたか…、
そんな事を言ってたような気がする…。
202 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時04分34秒



「ウチも梨華ちゃんも、その時そばにいなかったから状況は良くは判らない。でもね、
その日の夜にかかってきた電話では…ごっちんは泣きながら笑ってたんだ…」

『よっすぃー…どうしよう?いちーちゃんがいなくなっちゃったよぉ…っ』

『ごっちん…?何、どうしたの!? 何があったの!?』

『いちーちゃんが…いちーちゃんが、トラックに轢かれて…血が止まんなくて…っ、
私に笑って手を伸ばしてぇ…っ!』

『ごっちん…っ、ちょっと落ち着きなよっ!』

『ははっ、私がいちーちゃんにメールなんか打ったから…、私が殺しちゃったんだぁ』

『何、言ってンだよごっちん!しっかりしなって!何があったのっ!?』

「結局、ごっちんは意味不明なコトばっか言ってたけど…、次の日学校で市井さんが
亡くなったんだって聞いて…やっとごっちんの言ってた事を理解したんだ」
「後藤さんが…殺した?」
「…そんなことないのにね。あれはただの事故だったのに…、ごっちんは自分がメールを
打ったせいだって言ってた。詳しい事はウチには判らないけど、多分中澤先生に訊けば
そこら辺は判ると思う。その時、そばにいたらしいからさ」
203 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時05分12秒
中澤先生が…。
そういえば、中澤先生は後藤さんの事を凄く気にしていた。
あの時…私が教室に携帯を忘れてしまった時、後藤さんに何かを言っていた。

『後藤』
『…?』
『鳴らない電話を待つんは、もうやめときや。アンタが辛いだけやで?』
『…っ。…わかって…ます』
『…そうか。なら、ええねん』
きっと、あれはこの出来事に関係することだったのかもしれない。

「次の日…葬儀があったんだけど、その時に参列したごっちんを見てウチは鳥肌が立ったよ」
「え…?」
どういうことか判らなくて問い返すと、吉澤さん石川さんに目を向けて『ねぇ?』と呼びかけた。
それに対して石川さんは、曖昧に頷きながら口を開く。

「…ごっちんはね、あれだけ好きだった人の葬儀なのに、涙一つ流さなかったんだ…。ただ
何を考えてるのか判らない顔でじっと参列する人がいなくなる夜中まで、写真の市井さんを
見つめ続けてた」
204 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時05分52秒
大切な人を失った悲しみ。
その悲しみがどれだけ大きいものなのか、本当に失った人にしかわからないんだと思う…。
でも、きっと…何にも頭の中には浮かばなくて、事実として受け止められなくて…、そんな自分が
理解できなくて…ただぼんやりと目の前に映る光景しか見つめられなかったんじゃないかな…。



人の悲しい過去なんて、知らなければそれにこしたことはないと思う。
でも、それを知ってしまった時、今まで通りその人と関係を続けられるか…、その過去まで一緒に
その人を理解してあげられるかどうかは、きっと人間の器の大きさなんだって思う。

私はまだ、自分が思っているほど大人じゃないし器の土台すらも作れてない子供かもしれないから
後藤さんの過去を知って、何のためらいもなく受け入れられるか自信はなかったけど…、少なくとも
私が好きになった『後藤真希』という人は、理解したいと思った。
205 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時06分27秒
「あれ? もしかして…紺野?」
「え? あ…中澤先生…っ」
まるで狙ったかのようなタイミングで、中澤先生はバーガーショップの入り口から現れた。
そのまま店員にコーヒー1つだけを頼むと、「相席いい?」と関西弁独特のイントネーションで
訊ねてきた。
もちろん、断る理由のない私は頷いて席をゆずる。

「ホンマは中学生が寄り道なんて、あかんねんよ?」
「す、すみません…っ」
「まぁ、どうせ誰かに誘われて来たんやろうけど」
「え?」
言われた言葉にちょっと驚いて中澤先生を見ると、何もかもお見通しなんだっていう表情を
しながらコーヒーに口をつけていた。

正直…中澤先生はちょっと苦手だなぁ…。
なんだか本当にすべてを見透かされてるみたいで…。
今だって、私から何かを喋るのを待っているようにも見える。
多分、その内容ももう判っているんじゃないかな…。
206 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時07分22秒
「あの…訊いてもいいですか?」
それでも、私は勇気を出して問いかけた。
内容はもちろん…あの事。

「ん?なにを?」
「市井さんの事故のことを…」
私の言葉に、中澤先生は視線をコーヒーに移して一度大きくため息をついた。
濃厚なコーヒーの香りが、私の鼻孔をくすぐっていく。

「紺野は、後藤が好きなんやね?」

突然、はっきり言われた一言に身体が震えた。
まさか、質問に質問で返されるなんて思っていなかったから。
でも、それから恐る恐る顔を見上げると中澤先生は優しい表情で私を見ていた。
そのことに後押しされて、わたしはゆっくり頷いた。
207 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時08分14秒
「そっか…」
中澤先生はそう言うと、窓の外へと視線を向けた。
つられて私も視線を向ける。

真っ暗になった景色の中でも、空だけはまだうっすらと薄紫色に広がっているのが見える。
それを見た瞬間、素直に私は『寂しい』なんて思ってしまった。
気分が滅入っているせいかもしれなかったけど、そう思わずにはいられない。

そんな気分を振り切りたくて大きく頭を振ると、もう一度中澤先生を見た。
それに気がついた中澤先生は、ゆっくり口を開く。

「…あの日の放課後、あたしはたまたま職員室に残ってたんよ。そしたら紗耶香が廊下を
走っていくのが見えて声かけたんを覚えてる」
208 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時08分50秒
『あれ? おーい、紗耶香〜』

『え? あ、ゆうちゃん。なに?あたし急いでんだけどっ』

『何をそんなに急いでるん?』

『実はさ、携帯を教室に忘れちゃって…』

『別に携帯は逃げへんやん』

『いやー、でも後藤がなんかあたしに大事なメールを送ってきたらしいからさ』

『アンタ、いっつも思うけど後藤のこと可愛がりすぎやで?』

『いや、可愛いしアイツ。なーんか放っとけないし好きなんだよね〜ああいうコ』

『おっ、それはLIKE? LOVE?』

『ちょこっとLIKE、ちょこっとLOVE…かな?』

『なんやねんそれっ。もし告白メールやったらどうするんよ〜?』

『アイツだったらOKかな』

「あの時の紗耶香は嬉しそうやったわ。ホンマに後藤の事が好きやったんやろうなぁ…」
「………」
中澤先生の言葉に、私はぼんやりと頷くことしかできなかった。
209 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時09分56秒
そしてその時にはもう、吉澤さん達の話を聞いていた時の息苦しさはもうなかったんだ。
ただ、切なくて悲しい感情が胸の中に広がるだけ。
すべてが過去の話だから…。
すれ違ってしまった過去だから…。

「ほんで…あれが起こった」

私が一番聞きたかった出来事だ。
でも…今は聞きたくないって気持ちもあった。
だって、話を聞いて思い浮かべることは傷ついた後藤さんのことだから。

「ちょうど紗耶香が携帯を見つけて校舎を去ったすぐ後、もの凄い轟音が響いたんや。
慌てて見に行ったら…そこには、道路に溜まった血の水溜りと…そこに横たわる紗耶香…
それから…後藤がおった」
210 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時10分37秒
『…っ。ねぇ…っ!嘘でしょ!?』

『どうしたんやっ!? 後藤…っ…紗耶香!?』

『中澤先生っ!! いちーちゃんが…っ、いちーちゃんがっ!!』

『すぐに救急車を呼ぶわ!後藤はちゃんと見といて!』

「あの時、あたしはああ言ったけど、誰の目から見ても助からんのは明らかやったわ…。
それからやな…後藤が深く他人と関わる事を避けるようになったんは」
「後藤さん…」

『鳴らない電話』と『忘れてきた携帯電話』。
すべての疑問が、ここで繋がった。
そして、何故私が携帯を教室に忘れたんだって言ったとき、あんなにも真剣になっていたのか…。

それは全部、市井さんのこの出来事があったからだったんだ。
深く刻まれた傷は簡単には拭い去ることなんてできなくって、それこそまだ癒えていないカサブタを
取った時出血するのと同じで、ちょっとした事で表面にでてしまうものだから…。
211 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時11分15秒
「…この話を聞いても、好きでい続けることができる?」
言われた言葉に、我に返った。
中澤先生は、痛いものでも見るように私に視線を向けている。

本気で市井さんを好きだった後藤さんと…そしてきっと同じくらい後藤さんを好きだった市井さん。
そんな二人には辛すぎる現実。
そして、決して消えない傷として、それは後藤さんの胸に残っていて…。
確かに…。
普通、こんな話を聞いたら…好きでい続ける自信なんてなくなっちゃうと思う。

私だって、さっきまでそうだった。
過去の話を聞いて胸が熱くなると同時に、どうしようもない恥ずかしさが押し寄せてきて。
自分の安易さが情けなくなって、後藤さんの辛さが痛いほど判って…自己嫌悪とやるせなさで
消えてしまいたい気分になった。

『…一番傷つくのは…あさ美ちゃんだと思うから』
愛ちゃんの言葉が、耳の奥で聞こえたような気がした。

そっか…、こうなることを愛ちゃんは薄々わかってたから…。
でもね、愛ちゃん。
―――私、大丈夫だよ?
212 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時12分10秒
「大丈夫です。私…、後藤さんが好きです。その気持ちは変わりません」
私の言葉に中澤先生はちょっと驚いたみたいな顔をして、それからまた優しく笑ってくれた。

うん、私は大丈夫。
何にも知らない自分に対して、まだ嫌悪感はあるけど…それよりもなによりも後藤さんの
辛さを少しでも無くしてあげたいって思ったから。

私なんかに出来ることなんて、何にもないかもしれない。
でも、自分さえも嫌ってしまっているみたいな後藤さんに、『私は好きなんだ』って伝えることはできる。
誰かのために、心を痛めることができるそんな優しい後藤さんが好きなんだって。

「…ほんなら、あたしはそろそろ帰ろかな」
私の表情を、うんうんと頷きながら見て中澤先生は席をたった。
そして、出口に向かっていこうとして、思い出したみたいにこちらに振り返った。
213 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月22日(火)22時12分41秒
「あ、そうや…。後藤はな、大抵朝一番に生徒会室に寄っていくことが多いんよ」
「え…?」
一瞬意味がわからずに、首を傾げる。
ても、そんな私に一度ウィンクをする中澤先生を見てやっと分かった。
その時間なら、後藤さんに絶対に逢うことができるんだって。
もちろん、気持ちを伝える事だって。

「ありがとうございます…っ」
慌てて立ち上がって頭を下げる。
それに対して中澤先生は、片手をヒラヒラさせてから出口に向かっていった。
それから出て行く瞬間にポツリと呟いていた。

「別れの痛みに泣くからなんやっていうねん…。そんなことの為に出会いを放棄するなんて
ナンセンスや…」

誰に言ったとも判らない呟きは、しっかりと私の耳にも届いていた。
214 名前:tsukise 投稿日:2002年10月22日(火)22時23分29秒
今回更新はここまでです。
かーなーり、大量になっちゃいましたね…。
次スレの事も考えなければならない今日この頃…(^^ゞ

>>188名無し( ´Д`)ファンさん
ごっちんの過去を知った紺野ですが、この後
もちろん気持ちを伝えてもらっちゃいます…が。
ちょっち、一波乱させてしまうかも…(^^ゞ
応援レスに励まされつつ、頑張りますねっ!

>>189 TRUEさん
イチオシの作品だなんて、ありがとうございます〜♪
ミュージカルでこの組み合わせにハマっちゃったんですよ(^^ゞ
いい作品…になるでしょうかね…(^^ゞ 不安要素一杯ですが頑張ります♪

>>190 名無し読者さん
紺野の衝撃も去ることながら、よっすぃーの優しさ…良かったでしょうか?
やっぱり、親友なら友達のことを大切にしますしね♪
これからも、よっすぃーは活躍させて行きますので
続けて読んでくださると嬉しいです♪

>>191名無し読者さん
私もいちごま&ごまこん好きなんで嬉しいご意見ですっ!
これから、結構ごまこん絡みで頑張りますのでまたまた
続けて読んでくださると、嬉しいです♪応援レスをありがとうございます!
215 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月22日(火)22時26分29秒
いつも楽しみに読んでます!
裕ちゃん...いい味だしてますね!
紺野とごっちんの絡み期待してます!
頑張ってください!
216 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月22日(火)22時27分10秒
ageてるし!!スイマセン!
217 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年10月22日(火)23時09分34秒
大量更新お疲れ様です。

うーむ。ごっちんは紺野によって
徐々に変わり始めてるのかな?

次回もかなり気になります。
作者さん頑張って下さい。
218 名前:TRUE 投稿日:2002年10月23日(水)21時35分17秒
おぉ、いい所でお切りになられる(w
ごっち〜ん(>_<)!!
219 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月26日(土)20時58分14秒
その夜。
家に帰ったと同時に、携帯が鳴った。
誰だろうと思って表示を見ると、それは愛ちゃんだったんだ。

「もしもし…?」
『あ、あさ美ちゃん?』
「うん、どうしたの?」
『いや、今日は一緒に帰れなくて悪かったと思って…ごめんね、ホント』
「そんな…っ。愛ちゃんはお仕事だったんだし気にしないでよ」

そんなちょっとした事でも気にして電話してくれるなんて、やっぱり愛ちゃんって
責任感が強いんだなぁって思ってしまった。

あ…そうだ…。
そこで、私はひとつの事を思い出す。
それは…後藤さんと市井さんのこと。
220 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月26日(土)20時58分46秒
愛ちゃんは、私に市井さんの事を知るきっかけを作ってくれたんだし、話しても
いいかもしれない。
すべてを知ったこと。
そして、明日…後藤さんに気持ちを伝えようと思っていること。

「あの…、あのね、愛ちゃん」
『ん…?なに?』
自然と緊張してしまう声。
でも愛ちゃんは、優しく聞き返してくれる。
それに勇気をもらって、続きの言葉をつげる。

「私…後藤さんに、明日気持ちを伝えようと思うんだ…」
『……そう…』
「市井さんの事…後藤さんの過去の事、色々まだ自分の中で整理とかついていない
けど、でも…伝えたいんだ…」
『………』

受話器の向こうで、愛ちゃんが大きくため息をついたのがわかる。
呆れられたかな…。
そうだよね…、あれだけ愛ちゃんは心配とかしてくれたのにね。
221 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月26日(土)20時59分34秒
でもね…後藤さんの事を知れば知るほど、好きって気持ちは大きくなっていって、もう
どうしようもなくなってしまっていたんだ。
後藤さんが私の事をどう思っているとか、市井さんが残した思い出とか、想いを伝えて
どうなるとか――色々疑問はあったけど、それはもう考えるのはやめた。

だって、私が後藤さんを好きなんだって気持ちさえも見失ってしまいそうだから。
ただ…ここで躊躇ったら、なにもかもがふいになる。それだけは理解できたんだ。
だから…。

『…本気なんだね』
愛ちゃんの明らかに気落ちした声。
心にチクリと痛みが走る。
でも…。
「うん」
迷うことなく頷く。

『止めても、もう無駄なんだね?』
「ごめん…」
『謝ることないよ。あさ美ちゃんは思ったとおりのことをするだけなんだから』
「愛ちゃん…」
愛ちゃんの声は、それでもどこか沈んでいて謝らずにはいられなかった。
ずっと、相談にも乗ってくれていたのに…止めてくれていたのに、…ごめん。
222 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月26日(土)21時00分05秒
『…でも、あさ美ちゃんなら…』
「え…?」
呟いたような声に問い返すと、愛ちゃんが『あのね…』と話を切り出した。

『後藤さんはさ…過去から抜け出せずにいるんだ…。多分、それを断ち切ることが
出来るのはあさ美ちゃんだけなんじゃないかなって…そう思ったんだ』
「え…っ、そんなこと…私になんか…」
そんなだいそれたことなんて、私にできるはずがない。
続けて言おうとした言葉は、愛ちゃんのちょっと強い口調に止められてしまった。

『そんなことないよ。後藤さんのことを全部ひっくるめて好きになったあさ美ちゃん
なら、きっと大丈夫』
強く、しっかりとして…それでいてとっても明るい言葉。
きっと勇気が湧く言葉っていうのは、こういう言葉なんだって思う。

私だから、大丈夫。
くすぐったい言葉だけど、凄く嬉しかった。
223 名前:明日の勇気 投稿日:2002年10月26日(土)21時00分46秒
それからたっぷり1時間話したところで、愛ちゃんは『そろそろ』と言って電話を
切ろうとしたんだ。
その時…、
『後藤さんがちょっと羨ましい。そこまで好きになってもらえて…』
と言ったのが気になった。
でも、問い返す私に愛ちゃんは『なんでもない』とそれだけ言って電話を切った。

きっと…私がもう少し周りに気を配ることが出来ていれば気づくことが出来た愛ちゃんの
気持ち。
どうして、愛ちゃんが私に気を配ってくれていたのか…。
それは決して『友達』だからっていう理由だけじゃなかったんだ。

極端に視野が狭くなっていたせいで、その時の私は――鈍感だったんだ。
224 名前:tsukise 投稿日:2002年10月26日(土)21時10分00秒
今回UPはここまでです。少なくてスミマセン…(-_-;)
次回はまた、大量UPさせていただく予定です。

>>215 名無しさん
いつも楽しみにして頂きましてありがとうございます!
裕ちゃん…やっぱり年の功で、カッコ良くさせたかったので♪
次回更新では、絡み中心になると思いますのでまたまた
読んでくださると嬉しいです♪

>>217 名無し( ´Д`)ファンさん
ごっちん…そうですね…微妙なトコロですね(^^ゞ
とりあえず、紺野の存在によって少しずつ心情に変化が
ついているかな?…というところだったりしますです(^^ゞ
次回更新で白黒ハッキリさせる予定ですので、続けて
読んでくださると嬉しいです♪

>>218 TRUEさん
よい展開になっているでしょうか…?結構、尻切れに
なっていないか心配なのですが、感想を見てホッとしましたです♪
そしてそしてっ、別板のいしよし小説これから拝見させて頂きますね♪
そちらでも頑張ってください♪
225 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年10月26日(土)21時41分32秒
更新お疲れ様です。

次回はついに告白ですかね?
うーん、つづきが気になりまくりです。

次回の更新も楽しみに待っています。
226 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月26日(土)22時03分54秒
うぉ〜!久しぶりに来たら大量に更新されててw
紺ちゃん頑張れー
最後の・・・高橋はひょっとして・・なんでしょうか?w
次回気になります
227 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)19時35分46秒
目覚めは、どちらかというとあまり良い方ではなかった…。

ここのところ急に冷え込んできていて、薄着で眠ってしまった私は少し肌に寒さを
感じてしまったぐらいだから。
起き抜けにくしゃみも二つしてしまって…幸先ちょっと不安になってしまった。

「ひとつのクシャミは良い噂…二つのクシャミは悪い噂…」
口に出して、尚のこと不安になってしまう。

もし…後藤さんが私を拒絶したらどうしよう…?
もし…嫌われたらどうしよう…。

ううんっ!
でも、決めたんだ。
この気持ちを伝えるって。
それでもし、結果がどうなったとしてもいいじゃない…っ!

自分を奮い起こすように言い聞かせて、私は急いで着替えて朝食もそこそこに
家を出た。

もちろん…、後藤さんに逢うために。
228 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)19時36分28秒
まだほとんど人がいない学校に着いた私は、迷うことなく生徒会室へと向かっていく。
誰もいない廊下に響く自分の靴音が、なんだか不気味に思えて知らず知らずのうちに
早足になってしまっていた。

そして…。

ガチャ…

「失礼…します…」

静かに扉を開けた向こうに―――後藤さんがいた。
ただし…

「後藤…さん?」
「………」
「もしもー…し」
「………」
眠ってしまっているみたい…。

緊張していた私は、大きなため息をひとつ。
それは安堵のため息。
本当は、ここにきて後藤さんに逢って、まず何を言おうかなんて全く考えてなかったから。
起きてからぼーっとした頭で必死に色々考えたんだけど、上手い言葉なんてみつからなくて。
だからちょっとホッとしてしまったんだ。
229 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)19時37分10秒
それから私は、恐る恐る後藤さんの隣の椅子に腰を下ろす。
起こさないように…静かに…。
そして後藤さんの顔をそっと覗き込んでみた。

机に突っ伏すような格好をして眠っている後藤さんは、規則正しい寝息を立てていて…。
長くてサラサラの髪が少し顔にかかっているのが、凄く綺麗に映った。
顔立ちが整っている人って、寝顔も整ってるんだなぁ…なんて考えてしまう。

そういえば、こんな後藤さんの無防備な姿をみるのは初めてかもしれない。
いつもはすっごくしっかりしてて、どんなことでも完璧にこなしてしまう姿しか見ていなかったから…。

でも、今目の前で眠る後藤さんは…どこか酷く疲れているみたいな表情をしていて…。
いつもの姿はただ強がっているだけなんじゃないかって思ってしまう。

無理…してるのかな?
誰かのために…。

思ってみて、胸が苦しくなった。
誰か…はもちろん…あの人だと思ったから。
230 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)19時37分42秒
「んー…」
「あ…っ」
ふいに寝返りをうつようにして顔を傾ける後藤さん。
それと同時に、流れるように髪が顔にかかる。
私は、ちょっと戸惑ったけどその髪を顔から外してあげた。

途端にシトラスフルーツの香水の香りが広がって、私はドキッとする。
でも、目の前で閉じられた瞳がどこか苦しげにしきりに動いていて、うなされているんだって
気づいた瞬間、居たたまれない気持ちがこみ上げた。

サラサラの髪から覗く後藤さんの瞼。
その奥の瞳には、今何が映ってるんですか…?
辛い辛い過去の夢…? それとも不安に満ちた、市井さんのいない未来…?

「…ん…、だれ…?」
「あ…」
私の思考を中断したのは、後藤さんの少し気だるそうな声。
それからゆっくり顔を上げて、しきりに瞬きを繰り返し…私と目が合った。

「……こん…の…?」
「は…っ、はい…っ」
それでもまだぼんやりとした瞳で辺りを見渡している後藤さんは、半覚醒状態で私の
存在をちゃんと確認していないみたいだった。
231 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)19時38分15秒
でも、だんだんとしっかり開かれていく瞳に、意識も引き戻されたみたいで…、

「紺野…っ!?」
少し上ずったような声で飛び起きた。
その反応に、思わず私もビックリしちゃって後ろにのけぞってしまった。
でもマヌケに、
「お、おはようございます」
なんて言ってしまったんだ。

「お、おはよう…」
後藤さんは、動揺した時のクセなのか髪をしきりに触りながらもぎこちなく笑って
返事を返してきた。
それから、困ったみたいに辺りを見渡している。

そりゃそうだよね…いきなり目が覚めたら下級生が目の前にいて…。
しかも、ここは高等部の生徒会室で、滅多に人はこないんだから…。

「あの…さ、なんで紺野がココにいるの…?」
やっぱり聞かれたこの質問。
でも、その質問に対する答えは、すっごく勇気のいるものだったりして私はすぐに
返事ができなかった。
232 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)19時38分45秒
「えっと…その…」
「…んー…、とりあえず何か飲む?…って言っても、コーヒーぐらいしかないけど」
「え? あ、はい…いただきます」
気を使ってくれたんだろう、後藤さんはゆっくり椅子から立ち上がるとコーヒーを入れに
ポットへと近づいていった。

どうしよう…、だんだん緊張してきた…。
どうやって切り出せばいいんだろう…?
結果はわかっていることなのに…。

「それにしてもビックリしたよー…、目が覚めたらいきなり紺野がいてさ」
「あっ、すみません」
「や、べつにいいけど。さっき夢でもさ、ちょこっと紺野が出てきたもんだから余計ビックリ
しちゃったんだ」
「え…?」
顔を上げて後藤さんを見ると、手際よく入れたコーヒーを持ってこらに向かってきていた。

私の夢?
なんだろ?一体どんな夢だったんだろう?
さっき見た、険しい表情は私が原因だったのかな…?
そう思うと、なんだか不安になってしまった…。
233 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時06分35秒
それから後藤さんは「熱いから気をつけて」とカップを一つ私に渡してから、向かいに
立ちながら自分のカップに口をつけてコーヒーをすすった。
ちょっと昨日飲んだ石川さんのコーヒーの味がまだ残っていたんだけど、私もコーヒーに
口をつける。

「あ…美味しい…」
「そう?良かった」
後藤さんの煎れたコーヒーは、本当に美味しくて昨日飲んだものと同じものなのかって
疑ってしまった。
味も濃すぎず、薄すぎずちょうどよくって…。

「それで…どうかした?忘れ物ー…ってわけでもないみたいだし。何か相談しにきたの?」
「あ…っ、えっと…」
「うん?」
後藤さんは、優しい笑みで私の言葉を待ってくれてる。

言わないと…。
きっと、今言わないと絶対にもう言えない。
言うんだ…、言うんだ…っ。

「後藤さん…っ」
「な、何?」
ちょっと驚いたみたいな後藤さんの顔。
きっと、今私は必死な表情をしているんだろうなって思った。
でも、そんなことはどうでもいいんだ。

一度、緊張を飲み込むように喉を鳴らし…そして、私は――

「私…、後藤さんの事が好きです…っ」

そう、告げたんだ。
234 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時07分23秒
まさか…、紺野が私に対してそんな気持ちを持っていたなんて…。

私は動揺してしまって、ただ目の前に立つ紺野を見つめることしかできなかったんだ。
でも、そんな私とは対照的に紺野はまっすぐな目で私を見つめてる。
そこで私はひとつの事を思い出した。

それは、さっきまで見ていた夢のこと…。

夢の中では、いちーちゃんはいつも私のそばにいて。
色んな話とかしたりして、色んなアドバイスもくれたりして…。
いつだって逢える、そんな場所。
でも…。

さっき見た夢の中には、いちーちゃんがいて私がいて――紺野がいた。
ちょうど私がいちーちゃんと紺野に挟まれるみたいに向かい合っていて、お互いに
少し開いた距離に不安を抱いたのを覚えてる。

そして、いつもは色々話してくれるいちーちゃんが、ただ笑ってポツリポツリと話し始めたんだ。
235 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時08分23秒
『後藤はさ、私の手って好き?』

「? うん、好きだよ? 暖かいし」

『そっか…。でもね、元気になったらこの手は離さなきゃならないんだよ』

「?元気になったら…?どういうこと?」

問いかけに、いちーちゃんは優しく笑いながら私の後ろに視線を向ける。
私もつられるように振り替えると、そこにはじっと私達を見守っている紺野がいた。

『一人じゃないね、後藤は』

「え?」

もう一度いちーちゃんの方を振り返ったときには、いちーちゃんの姿はなくって声だけが
私に届いていたんだ。

「いちーちゃん…!? どこ!?」

『思い出は消えないから…』

「どこっ!?」

『ずっと後藤の中にあるから…、生き続けるものだから…』

「いちーちゃんっ! ねえってばっ!」

もう、いちーちゃんの声が聞こえることはなかった。
それで思ったんだ。
私…一人じゃん…って。
でも。
236 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時08分56秒
『後藤さん』

今度は紺野が声をかけてきて、振り返ったら紺野も優しく笑って私に手を差し出してたんだ。
まるで一緒に行こうって誘うみたいに。
でも、その手を握り返そうとしたその瞬間、目が覚めたんだ。
起きてすぐ紺野がすぐ隣で私の顔を覗き込んでて、余計驚いたっけ。

そして…告白。

きっといつもの私なら、迷うことなく『ごめん』という言葉がでたんだろう。
でも、このときの私は少し戸惑ってしまって、すぐに返事をすることができなかったんだ。
だって、まさか紺野の口からそんな言葉がでるなんて思ってもいなかったから…。

まって…。
それじゃあ、昨日高橋が言っていた紺野の好きな人の話っていうのは、全部私のコトだったの?
ってコトは…高橋から聞いて少なからず、紺野は私に大切な人がいるってことを知ってる…?
それなのに?どうして?
疑問はたくさんあったけど、私はとりあえず紺野の目を見据えて口を開いた。
237 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時09分41秒
「ありがとう紺野…。でも、気持ちはうれしいけど…応えられない」
できるだけ紺野が傷つかない言葉を選んだつもりだ。
…ううん、もしかしたら私自身も傷つかない言葉を選択したのかもしれない。

確かに、紺野のコトは気になる存在なんだ。
でも、誰かに歩み寄る勇気は、もうない…。
もう傷つきたくないし、誰かを傷つかせたくない。
それなら深く知り合わないで、先輩後輩でいたほうがずっと楽じゃないか。

でも…そんな私の想いとは裏腹に、紺野の口から衝撃的な言葉を聞かされた。

「…それは…亡くなった市井さんのことが今でも好きだからですか?」
「!?」
驚きを隠せなかった。
きっと傍からみても判るぐらい、今私は愕然としているだろう。

なん…で、いちーちゃんのことを…?

「中澤先生や、吉澤さんに全部聞きました…。後藤さんが好きだった人だって…」

中澤先生に、よっすぃー…。
それだけで、すべて理解した。
だって、この二人は一番私といちーちゃんのコトを知っているんだもん。
きっと、あの事件のことも全部紺野に…。
238 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時10分13秒
言い知れない何か、熱い感情が胸にこみ上げてくる。
自然と顔が強張っていくのが自分でも判った。

「後藤さん…、私上手く言えないですけど…自分を責めないでください」
心底私の事を気遣っているのが判る声

でも…。
いちーちゃんの名前が出たことで、私の中で何かが――切れた。

「…ふーん…私の過去の事は、全部お見通しってわけ?」
「え…っ?」
明らかに困惑した紺野の声。
それは表情にもはっきり表れていて、顔色が変わった。

ズキン、とその顔に胸が痛んだ。
でも、それ以上に冷たくて黒い感情が腹の奥からこみ上げてきていたんだ。
止まらない、止められない弱くて攻撃的な自分が、ここぞとばかりに姿を現す。

やめて…っ、紺野に悪気はないんだから…っ。
239 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時10分57秒
「『好き』って気持ちがあれば、ヒトの過去の事に触れてもいいんだ?」
抑えきれない感情の波が、私の口から思ってもいない言葉を吐き出していく。

違う…っ、こんな事が言いたいんじゃない…っ。
やめてよ…っ、紺野を傷つけたくない…っ!醜い自分を出したくない…っ!

頭でわかっていても、気持ちがついていかない。
心の底に溜まった黒い感情が止まることなく溢れかえってくるのがわかる。
激情っていう感情が。

「それは…っ!…それはいけない事だって判ってました…すみません。でも…でもっ、
後藤さんの辛そうな表情のワケが知りたくて…っ!」
「知りたくて? 知りたくて、色んな人に訊いて回ったの?なんで私に直接訊かないの?
おかしいじゃん、そんなの!?」

ドンッ!

握り締めた拳で机の上を叩いた。

…心が痛かった。
それは、いちーちゃんとの思い出を他人にふれまわされたこともあったけど、なによりも
私の口から、こんなにもヒトを罵る言葉が…紺野を責める言葉が出るなんて思っても
いなかったから。
240 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時11分37秒
逃げ出したい衝動に駆られた時、私は初めて気がついた。
「…っ」
頬に伝う一筋の熱いものに。
私は、泣いていたんだ。
誰かの口から『いちーちゃんは亡くなった』っていう事実を突きつけられたのは初めてだった
からかもしれない。
その事実を受け止め切れなくて、きっと感情が高ぶってしまって…。
そんな情けない姿を見られたくなくて、私は顔を背ける。

「後藤…さん…」
歪む視界の先で、紺野は思わぬ相手から平手打ちを食らったみたいな表情をしていた。
それから、なにかを言いかけ…黙り込み、俯いてようやく口を開いた。

「私がした事は…間違ってました…。本当にすみません。でも…後藤さんに訊ねる勇気が
私にはなかったんです…。ううん…これも言い訳にしかならないですよね…」

もういい…やめて。
241 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時12分13秒
「でも…っ、でも、もし訊ねていて、後藤さんが市井さんの事で心を痛める姿は見たくなかった
から…。後藤さんが自分自身を責める姿が見たくなかったから…」

紺野に何が判るの…?

「きっと…、きっと市井さんだって、そんな後藤さんの姿を見たくない筈です…っ」

紺野に何が判るのよっ!?

「知ったようなコト言わないでよっ!?紺野に、いちーちゃんの一体何が判るっていうの!?」
「判ります!市井さんは、後藤さんのことが誰よりも好きだったからっ!だから、きっとこんな
辛そうな後藤さんを見たくないって思ってた!」

紺野の叫ぶような声。
初めて聞くその声は、泣き叫んでいるみたいで一瞬私は戸惑ってしまった。
でも…感情に翻弄されている私は、その声にも半ば苛立ちも露に怒鳴り返していた。

「やめてよっ!!」
「!」
「…じゃあ、紺野があの日に戻っていちーちゃんを助けてくれるの…!?」
「後藤…さん…っ」
242 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時12分51秒
そこで一度深呼吸した。
涙は一向に止まらない。
無様で、情けなく、臆病な私。
自分がこんなにも感情的だなんて思ってもいなかった。
ううん…忘れていたんだ。自分の中に、こんな感情があったことを。

「全部聞いたって言ったよね…?じゃあ、なんで事故にあったのかも知ってるんでしょ?
そう、私が打ったメールのせい…っ!ぜんぶぜんぶぜんぶっ!…いちーちゃんは私の
せいで死んだも同然なんだよ…っ!」

紺野はもう何も応えなかった。
ただ、呆然と私を見つめるだけ。
純粋なその瞳に映る自分は酷く滑稽だった。

「なんにもわからないくせに…わかったみたいにいわないで…っ!」

そのまま私は、行く当てもなく部屋を飛び出した。
すれ違い様見た、紺野の瞳は大きく揺れていた。

結局私は紺野から―――

―――逃げ出したんだ。
243 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時13分27秒
部屋を出て行った後藤さんを追いかけることもできず、私はただその場に立っていた。
その胸にこみ上げてくるのは、自責の念。

私は…バカだ。
それも、底なしの大バカだ…。

何が『後藤さん辛さを少しでも無くしてあげたい』だよ…。
その後藤さんを追いつめて、辛い立場にしたのは他ならない私じゃない…っ!

「…っ…くっ…」
嗚咽が漏れた。
頭の芯が熱くなって、ぐにゃりと視界が歪んでいく。

「私は…いったい…っ…うっ…」

もう何もかもが判らなかった。
昨日、愛ちゃんや中澤先生に言った『大丈夫』の言葉の意味も。
後藤さんの色んな過去をしって、こんな朝早くに学校に来て、後藤さんに気持ちを伝えて…。
それで私は何がしたかったのかも。
244 名前:すれ違う想い 投稿日:2002年10月31日(木)20時14分10秒
「大丈夫って…一体何が大丈夫なの…っ!?」
もう…立つ気力もなくて、私は情けなくその場にくず折れる。
詰まった喉から小刻みな嗚咽が漏れ、太ももにポタポタと熱い雫が落ちた。

「好きって気持ちだけじゃ…何にもできないの…?」
それ以上は言葉にならなかった。
誰もいない生徒会室に、むせび泣く声がただ響くだけ。

後藤さんも泣いていた。
悲痛に助けを求めて叫ぶみたいに泣いていた。
それは、私が一番見たくない姿だったのに…。

結局私は何も出来なかったんだ…。
だって、後藤さんが救いを求めていたのは…後藤さんを救うことができるその役は他でもない
市井さんだったんだから。
245 名前:tsukise 投稿日:2002年10月31日(木)20時21分46秒
今回の更新はここまでです…。
ぐはっ、なんだかダークになってますね…(^^ゞ
とりあえず、次回でまたいしよし&なちまりに明るくしてもらう予定です(^^ゞ

>>225名無し( ´Д`)ファンさん
ついに告白させてましたです♪
どーなんでしょう…?思っていた展開なんでしょうか…?それとも…?
ここらへんは、書いてる方の自己満足なんで心配ですが…(^^ゞ
いつも本当に応援レスをありがとうございますっ!
かなり元気を頂いちゃってますので、嬉しいです!

>>226名無し読者さん
そうですね♪結構重要なところはいっぺんにUPしちゃうので
大量更新になっちゃいますね…(^^ゞ
ラスト高橋ですが、ちょっち最近高紺もいいかなぁなんて思って
しまって書いちゃったんですよね(^^ゞ
応援レス、ありがとうございます♪
246 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年10月31日(木)21時53分53秒
更新お疲れ様です。

いっ痛い…でも次の展開が気になる…
っていつも気になってばかりですが
毎回の更新が本当に楽しみなので
これからも、頑張って下さい。
247 名前:15=226 投稿日:2002年11月02日(土)00時37分54秒
前回のレス・・番号書くの忘れてますたw
15です。(今思ったらいちごだ・・w)

またまた大量更新お疲れ様です。
痛いところで切りましたね・・・
続きがどうなるのか次の展開が待ち遠しいです。

自分も最近?ってか前からなんですが
推し娘。同士なんで高紺好きですw
もっとCP増えて欲しいですわ〜w
248 名前:傷の痛み 投稿日:2002年11月04日(月)15時14分50秒
行くあてなんて、本当になかった。
ただ、学校にいる事なんてできなくて…カバンも置いたまま校舎を後にしたんだ。

手元にあるのは、制服の上着のポケットに突っ込んでいた財布と携帯…。
こんなときでも、絶対に携帯を手放すことができない自分に、我ながら女々しいヤツ
だなんて思ってしまう。

もう、連絡がくることなんてないって判ってるのに。
もう…返事をもらえることもないってのに…。

ポケットから出した携帯をギュッと握り締めて―――思ったんだ。
―――いちーちゃんに会いに行こうって。
249 名前:傷の痛み 投稿日:2002年11月04日(月)15時15分25秒
そこは、電車に乗って2つ目の駅を降りたすぐそばにあった。
ちょっと高台になっていて見晴らしも良くって、空がとても近くに感じる…そんなところ。

もう何度も来ていたから、迷うことはなかった。
ゆっくりと目的の墓石の前に行くと、途中で買った花をそっと差し出して手を合わせる。
このときばかりは、いちーちゃんが本当にいないんだって…いなくなったんだって痛感
してしまうんだ。
ううん…紺野に言われたから、なんだかそれは尚のことのような気がする。

紺野…。
瞼を閉じて思い出すのは、傷ついた紺野の顔ばかり。

『…じゃあ、紺野があの日に戻っていちーちゃんを助けてくれるの…!? 』
『後藤…さん…っ』

あんなこと言うつもりなんてなかったんだ…。
なかったんだよ…っ。

生徒会室でのコトからずっと縛り付けていた感情が、全部の鎖を断ち切って胸の中を
かき乱していく。
中澤先生に諭すみたいに、いちーちゃんの事を言われた時でさえ揺るがなかった私の
強くて固い意志が、後輩の…紺野のたった一言で、脆くも打ち砕かれてしまったんだ。
250 名前:傷の痛み 投稿日:2002年11月04日(月)15時15分55秒
『きっと…、きっと市井さんだって、そんな後藤さんの姿を見たくない筈です…っ』
『知ったようなコト言わないでよっ!?紺野に、いちーちゃんの一体何が判るっていうの!?』

紺野はホントになんにもわからないで、私にいちーちゃんのコトを伝えたりした?
そんなわけ――ないじゃん。

『判ります!市井さんは、後藤さんのことが誰よりも好きだったからっ!だから、きっとこんな
辛そうな後藤さんを見たくないって思ってた!』

叫んでいた声なのに、どこか切なかった。
胸が…苦しかった。
もう枯れてしまった筈の涙が、じわっとまたあふれ返ってきた。

「いちーちゃん…」
閉じた瞼を開いて、目の前にある墓石を見つめる。
ううん、その先にいる、いちーちゃんを。

どうしてココにいないの?
いちーちゃんが悪いんだよ?
いちーちゃんがいないから、私はあんな風に…。
なんとかしてよ…そばにいてよ…っ、「大丈夫だよ、後藤」って言ってよっ!

声にならない声。返事が返ってくるわけもない。
ここで一人で泣きじゃくっていた所で、なんにもかわらない。
いちーちゃんがもういないってコトも…私が紺野を傷つけたんだってコトも。
251 名前:傷の痛み 投稿日:2002年11月04日(月)15時16分26秒
「私って…いつもこうじゃん…っ」

これまで気になる相手ができても、自分では絶対に認めようとしなかった。
どうせ離れ離れになるんだ。ずっと一緒にいるなんて保証もない。きっと傷つくだけ。
…いちーちゃんみたいに。
だから頼らないし、近づいたりしない。
だから…自分の気持ちを――認めたりしない。

それで全部が手遅れになってしまった時に、初めて気づくんだ。
自分にどうにかできたこと、自分が相手を傷つけているだけでしかなかったってことを。
そして…自分に勇気がなかっただけなんだってことを。

「紺野…」

今度も同じなの?
自分からはなんにも行動しないで、終わってしまうの?
ちょっといちーちゃんのコトを言われただけで逆ギレして、紺野を傷つけるだけ傷つけて…。
もう一度だけ、自分に問いかける。

――本当に、もうおしまいにしていいの?
252 名前:傷の痛み 投稿日:2002年11月04日(月)15時17分10秒
その時、手向けた花を揺らすように静かに風が通り抜けた。
やわらかい風が…。
なんだろうと思って、風上に顔を向けて……驚いた。

…昔から、私は霊感が強いらしくて時々それらしいものを見たりしたんだけど、
まさかこんな時に、そんな力を発揮しなくてもいいのに、なんて思ってしまう。

だってそこには、一番逢いたくても逢えなかった――いちーちゃんがいたんだ。
ぼんやりとした白い影みたいだったけど、確かにそれはいちーちゃんだったんだ。

「いちー…ちゃん…?」
呆然とした声で問いかけてしまう私。
逢いたいときに逢えなくて、逢いたくないときに逢えたら誰もがする反応みたいに。
でも…私の問いかけにも、いちーちゃんはただ悲しそうに私を見つめ返すだけ。

「いちーちゃん…? なんでそんな顔してるの…?」
私はフラフラと立ち上がりながら、いちーちゃんと向かい合う。
でも、いちーちゃんは何も答えない。
やっぱり悲しそうに、こっちを見てる。
253 名前:傷の痛み 投稿日:2002年11月04日(月)15時17分43秒
「やっぱり…、私のせいで事故にあったこと…責めてるの?」
訊きたくても訊けなかった質問を恐る恐る問いかける。
ずっとずっと、胸につかえていた罪の意識。
でも、やっぱりいちーちゃんは何も言わずにただ私を見つめるだけ。

そしてまた、強い風が吹き抜けた。
それと同時に、いちーちゃんの姿が頼りなく漂っていく。

「やだ…っ、行かないでよ!いちーちゃんっ!」
慌てて私はいちーちゃんに駆け寄って、腕を掴もうとして――すり抜けた。
スルリと、まるで水を掴もうとしたみたいな感覚。

そのままいちーちゃんは…消えた。
最後の最後の瞬間まで、いちーちゃんは悲しい顔をして私を見つめていた。
254 名前:傷の痛み 投稿日:2002年11月04日(月)15時18分20秒
「…っ…、どうしたらいいのぉ? どうすればいいのよぉっ!?」
差し出したままの軽く握った拳を額につけて、私はその場にうずくまって泣いた。

なにもかもが判らなかった。
いちーちゃんが突然現れたことも。その悲しい表情の意味も。
そしてなにより…自分自身の気持ちも…。

私は紺野の事をどう思ってるの…?
私の好きな人って誰…?
255 名前:tsukise 投稿日:2002年11月04日(月)15時26分17秒
今回更新はここまでです。
ちょっち短い更新で申し訳ないかぎりです…(^^ゞ
そろそろ…佳境…カモ…(^^ゞ

>>246 名無し( ´Д`)ファンさん
痛い展開にしてしまいましたけれど、やっぱり人間
触れられたくない過去に触れられると、こんなカンジかなぁ…と(^^ゞ
次回更新は、またまた大量UPになる予定ですが
続けてお付き合いくださると嬉しいですっ!

>>247 15さん
おおっ、本当に『いちご』ですね〜♪続けて読んでくださって
嬉しいですっ!痛い展開で申し訳ないですが…(^^ゞ
高紺のCPってほんとあんまり見ないですねー…私も見てみたいと
思ってるんですけどね…。
256 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年11月04日(月)19時40分13秒
更新お疲れ様です。

ごっちんは今一番大変なときなのかな?
早く元気になって欲しいなぁ…なんて思いつつ
次回の更新も楽しみに待っています。
257 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月07日(木)16時17分20秒
うお〜〜!痛いっすねw
ごっちん...早く自分の気持ちに気づいてくれ!
そろそろ佳境ですか!楽しみにしてます!
紺野の想いが報われますように!!
作者さん、頑張ってください!
258 名前:15 投稿日:2002年11月08日(金)13時14分12秒
後藤悩んでますね
紺野の想いが報われるといいです。

自分も高紺好きで探しましたら、携帯サイトでいくつかありましたよ♪
いつかは書いてみたいですが無理でしょうね(w
259 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時25分23秒
…その日の放課後の集会に、後藤さんの姿はなかった。

あの後、生徒会室に置きっぱなしになったカバンを後藤さんの教室に持って行ったけど
受け取ったのは石川さんで、教室にもいないみたいだったんだ。
その時、石川さんのビックリしたような顔に、私はきっと酷い顔をしていたんだろうなぁって
思った。

自分でも判るぐらい、腫れぼったい瞼。
頭も熱っぽくてクラクラしてたし。
…でも、石川さんはあえて何も聞かないでいてくれた。
きっと、全部判っていたんだろうけど…。

「…美ちゃん、あさ美ちゃんっ!」
「えっ? あ…、まこちゃん」
「『あ…まこちゃん』じゃないよ、人の話聞いてる?」
「ご、ごめん…」
「まったくも〜、いつもコレなんだから…」
ハッとして顔を上げると、まこちゃん・里沙ちゃん、それに愛ちゃんがちょっと呆れたみたいに
私を見ていた。

今日の集会は、結局最終判断を下す生徒会長の後藤さんがいないからって、早めに切り上げ
られたんだ。
進行自体は副会長の安倍さんがスムーズにしてくれたんだけど、やっぱりまとめ役の後藤さん
がいないから、ちょっと大変そうだったっけ…。
そして、今は4人で家へ帰っている途中。
260 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時26分41秒
「それにしても、今日のあさ美ちゃんってば、いつもの倍以上ボーっとしてなかった?」
「そうだよ〜、集会の時だって会計なのに計算間違いばっかやってさぁ」
里沙ちゃんの困った声に、ちょっと不機嫌なまこちゃんの声。
確かに、今日の集会での私は散々な有様だったと思う。

頭の中は今朝のことで一杯で…。
腹が立って、ガッカリして、悲しくなって…自分って人間が嫌いになって…。
考えが煮詰まってくると、ジワリと涙で視界が歪んだりして。
そんな自分が情けなくて、またまた頭が熱くなって…まともに計算なんてできなかったんだ。

リセットできたら…後藤さんと初めて逢ったあの日まで全てをリセットできたらいいのに…。

「…誰だって調子の悪い日はあるよ。そんなにあさ美ちゃんを責めないであげなよ」
「愛ちゃん…」
ごめん、って謝ろうとした私の言葉を遮ったのは愛ちゃんだった。
その瞳が心配そうに曇ってる。まるで『大丈夫?』って問いかけてるみたいで戸惑った。
261 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時27分16秒
もう…わかっちゃってるんだよね?
私が後藤さんから断られたこと…。
でもね、それだけじゃなかったんだよ?
私…後藤さんを助けたいって言っておきながら、その全く逆のことをしちゃったんだよ。
バカだよね…私。

声にならない声。
もちろん愛ちゃんには伝わらない言葉を、見つめる瞳に込めた。
それなのに…伝わらないはずなのに、愛ちゃんは悲しそうに、でも優しく笑ってくれたんだ。
と、その時。

ピリリリッ ピリリリッ

突然鳴る携帯の着信音。
私達4人は、いつかのようにまた一斉にカバンをあさりはじめる。
そして……また私は気づく。

「あ、もしもし? 何、いまお姉ちゃん学校の帰りなの」
電話に出たのは里沙ちゃん。
多分、その口調から見て相手は妹さんだと思う。
262 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時27分54秒
「やっぱり、みんな違う着信音にした方がいいね〜。まぎらわしいし…ってあさ美ちゃん?」
まこちゃんの声に、私は肩を落としながら顔を上げる。
「どうしたの?顔色悪いよ?」
「まさか、また携帯を学校に忘れたとか〜?」
冗談交じりに出たんだろうけど、まこちゃんの言葉は見事的中していた。

「うん…そうみたい」
「ウッソ、まじで?も〜…普通同じことを2回もする?」
「まぁまぁ…あさ美ちゃんも疲れてるんだよ…」
愛ちゃんがフォローしてくれるけど、やっぱり少し気が滅入ってしまった。
そして、もちろん携帯をそのまま置いて帰ることなんてできなくて私は…。

「ごめん、取りに行って来るよ…っ、先に帰ってて」
それだけ言って、学校への道を走って戻っていったんだ。
後ろで愛ちゃんが何か言っていたみたいだけど、結局私の耳には届かなかった。

そういえば…後藤さんとたくさん会話したのも、こうやって携帯を忘れた日だったな…。
もう…あの時みたいに話せないかもしれない…。
そう思うと、何故か学校へと走る足が自然と速くなった気がした。
263 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時28分35秒
学校に戻ると、ひとまず生徒会室へと立ち寄る。
教室で忘れた記憶はないから、多分集会の時に忘れたんだと思って…。

「失礼…します…」
「あれ?紺野?」
「安倍さん…」
軽くノックをして中に入ると、安倍さんがまだ机に座ってプリントに目を通していた。

「なに?なんか忘れ物でもしたの?」
「あ、はい…その…携帯を忘れたみたいで…」
「あ〜、あれって紺野の携帯だったんだ?そこの机の上にあるよ?」
安倍さんは、にっこり笑いながら向かい側の机を指差して教えてくれた。
振り向くと、間違いなく私の携帯がそこにあった。
「あ、ありがとうございます」
いそいそとそれを手にとって、教室を後にしようとした時…、

「ねぇ、紺野?」
「え…?あ、はい、なんですか?」
安倍さんに呼び止められたんだ。

不思議に思って振り返ると、なんだか安倍さんは言葉を選ぶみたいに『うーん』と
うなっていた。
「?」
264 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時29分19秒
なんだろう…?
何か私悪いことでもしたかなぁ?
確かに集会では、計算間違いをたくさんしちゃったけど…。

「あのさぁ…気のせいならいいんだけど、今日の紺野…おかしくない?」
「え…っ?」
言われてビックリした。
それは顔にも出てしまったみたいで、安倍さんは『やっぱり…』なんていってる。

安倍さんにもわかってしまうぐらい、私はそんなに今日一日ヘンだったのかな…?
落ち込んだ気持ちになんだか拍車がかかってしまう…。

「ね、紺野。あたしで良かったら話してみない?」
「え…?でも…」
「あ…それともあたしじゃ、頼りになんない?」
「そっ、そんなことないですっ」
「じゃあさ、こっち座って」
「あ…はぁ…」
結局私は押し切られる形で、安倍さんの隣の椅子に腰掛けた。
265 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時29分51秒
「…で、今日はどうしたの?なんか辛いことでもあった?」
「それは…っ」
どうして安倍さんは、こうも的を得たことばかり訊いてくるんだろう?
まるで私の心の中を読んだみたいに…。

「な…、なんでもないですよ?ちょっと風邪気味なだけで…っ」
それでも私は、笑顔で否定する。
本当は凄く辛いことはあったけど、安部さんに話していいことなのかわからなかったから。
でも…

「紺野って、ウソがヘタなんだね〜…。目が泳いでるし、しかも顔に『ウソです』って書いてる」
「そんなこと…」
ない、って言葉は出てこなかった。
安倍さんがじっと私の瞳を見つめ返していたから…。

「うん…?」
安倍さんが私の顔を覗き込むみたいに頭を傾ける。
その瞳は、本当に私の事を心配してくれてるんだって判るぐらい真剣で…でも優しくて…。
一生懸命作っていた笑顔も、その瞳の前ではもう無駄だったんだ。
266 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時30分25秒
「安倍さん…。…っ…私…、うっ…」
「紺野…」
泣き崩れていく私に、安倍さんは優しく背中をさすってくれた。

すべてを話して、もう楽になってしまいたい。
誰かに助けてほしい。
次々と、そんな想いがあふれ返ってくるのがわかる。
でも…、その想いを止めたのは脳裏に焼きついた―――後藤さんの傷ついた姿だった。

『なんにもわからないくせに…わかったみたいにいわないで…っ!』

きっとここで安倍さんに全部話したら、私は楽になれる。
安倍さんなら、優しく話を聞いてくれて『元気だして』なんて言ってくれるかもしれない。
でも、それじゃダメなんだ。
そんなの自分に甘えてるだけなんだ。
何の解決にもならないんだ。

「安倍さん…話を…聞いてもらってもいいですか…?」
「うん…?なに?」
自分の中で、喋ってもいい事とそうじゃない事を頭の中で確かめて私は口を開いた。
267 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時31分08秒
「実は私…、好きな人の気持ちを…傷つけてしまったんです」
何故か後藤さんの名前は出さないほうがいいと思った。
「好きな人?」
「はい…。その人はすごく苦しんでて…それなのに私がもっと辛い思いをさせてしまったんです」
「なに?どういうこと?」
少し首を傾げるみたいに問いかけてくる安倍さん。
私はしばらく悩んだけど、どんなことがあったのか説明したんだ。

その好きな人には、別の好きな人がいて…でも遠くに行ってしまって会えない人だっていうこと。
そして、その人は自分のせいで好きになった人を遠くに行かせてしまったと悔やんでいるってこと。
それから…私が、好きになった人のことを勝手に人から訊いて、問い詰めて、追い込んでしまったこと…。

何度か、後藤さんと市井さんの名前をだしてしまいそうになったけど最後まで言わなかったと思う。
ホっとした反面、自分の口の軽さに少し罪悪感を感じてしまった。

「そっか…。そんなことがあったんだ…」
「はい…」
そう言いながら安倍さんは、窓の向こう側で紫色になった空をじっと見つめた。
まるで何かを思い起こしているようなそんな瞳をしながら…。
268 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時31分40秒
「それでさ…」
「?」
「紺野は、これからどうしたいの?」
「え…?」
言われて私は、素っ頓狂な声を出してしまった。

だって、そんなこと全然考えてなかったから…。
ずっと後藤さんを傷つけてしまったことしか頭になくて、自分を責めることしかできなくて。
安倍さんも、私の反応がおかしかったのか困ったみたいな顔で振り返った。

「考えて…なかったんだね」
「…はい…。あの…その、自分が傷つけてしまったことしか考えてなくて…」
恥ずかしくなって、私は俯いた。
呆れられたかな?と思って横目で見ると、安倍さんは少し考えるような仕草をしていた。

「あのさ、紺野」
「はい…?」
「あたし思うんだけど、人を好きになるってコトは相手も自分もいっぱい傷ついたりするんだと思うよ?」
「え…?」
「だってそうじゃない?好きって気持ちの中には『相手のことを知りたい』っていうのと、『自分を知って
欲しい』って2つの想いがあると思うんだ」
「………」
269 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時32分10秒
そうだ。
私も後藤さんの事を知りたいって強く思ったんだ。
そして、私の事も知って欲しいとも思った。
それは、後藤さんの事が好きだから…。

「知りたい、知って欲しい…。この気持ちってどんどん膨れ上がっていくものだから、時には
知りたくない過去だって知ってしまうと思う。でも、その過去を知っても好きでい続けられるなら
いつかは…その過去に二人で向き合わなきゃいけない時がくるかもしれないんだ」

そう言って、私のほうに振り返った安倍さんは辛いものを見るような表情をしてた。
その言葉には、強い意志のようなものが含まれていて…私は自然と身体が強張っていた。

「…紺野は、その好きになった人を傷つけてしまって、嫌になった?もう好きじゃなくなった?」
「そんなことっ!そんなことないです…っ」
「じゃあ、大丈夫だよ。その気持ちがあるんだったら」
「え…?」
そこで安倍さんは優しく笑ってくれた。

大丈夫…。
その一言が、今の私には凄く心に響いた。
ぐちゃぐちゃになってしまった気持ちが、いっぺんに吹き飛んでしまったみたいな…そんな感じ。
でも…。
270 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時32分45秒
「でも…好きって気持ちだけじゃ…」
「ううん、それは違うよ紺野」
「安倍さん…」
「好きって気持ちだけじゃどうにもならないコトがある、なんて誰かが言うけど、そんなことない。
それは相手よりも自分のコトを大事にしてしまってるから、そうやって自分に言い訳してるだけ
なんだよ」
「言い訳を…?」
「紺野は紺野のできることを精一杯やってごらん。全部やらないで後悔するより全部やって
後悔する方がいいでしょ?どんな結果になっても、いつかは笑って話せる日がくるからさ」
安倍さんは最後にポンと背中を軽く叩いてくれた。
その手に込められた言葉は…『頑張れ』。

そうだ…私はまだなんにもしていないじゃない。
あの時…後藤さんに告白した時、ただ私は市井さんの影を振り払うことに必死だっただけ
かもしれない。
肝心の後藤さんの気持ちも考えずに。
だからただ、自分の気持ちを伝えるだけ伝えて…後藤さんがどんな想いをもっているのか
ちゃんと知ろうとしなかった。
271 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時33分26秒
でも、そうじゃないんだ…。
あの時どうすれば良かったのか、それがやっと今になって判ったんだ。
そしてそれは、まだこれからでも遅くはないはず。

すべては後藤さんの気持ち次第だけど…、安倍さんの言ってくれたように、やらないで後悔
するよりはやって後悔したい。
自分に言い訳なんてしたくないから。

「…はい…っ」
強く返事を返す。
頬に流れていた涙は、もう止まっていた。

「…うん、いい返事だね。じゃあ、もう遅いし帰りな?」
「はい…っ、それじゃあ失礼しますっ」
安倍さんが笑って見送る中、私は生徒会室をあとにしたんだ。
だからこのあとの事は、まったく判らなかったんだ。

安倍さんが、私の好きな人が後藤さんだって気づいていたことも。
矢口さんがずっと教壇の下に隠れて話を聞いていたことも…。
272 名前:変わらない想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時33分56秒
「…もう出てきていいよ?矢口」
「ったくも〜っ!よっこらせっと…。なんでヤグチがこんな目にあわなきゃなんないんだよ〜」
「まぁまぁ…。たまたまプリントがそこに落ちちゃったんだし、ボヤかないの」
「でもさぁ、そんなまさか人生相談が始まるなんて思わないじゃんか〜出るに出れなかったよ」
「人生相談じゃなくて恋愛相談」
「どっちも一緒っ」

「それにしても紺野がねー…、まぁ薄々そうじゃないかと思ってたけど…」
「え?なに?なっちは紺野の好きな人が誰か判ってんの?」
「え〜?矢口、わっかんないの?」
「ダレよダレ?教えてよっ!」
「最近の紺野見てればわかるじゃない〜、それにその好きになった人の過去の話聞いてて
わかんない?」
「わかんないから聞いてンだろ〜?教えろよっ」
「う〜ん、どうしよっかな〜?やめとこっかな〜?」
「この〜〜っ!教えないとこうだっ!うりゃ〜〜!!」
「ちょっ!な…っ!やめてよ矢口っ!アハハハっ!くすぐらないでってば…っ!アハハっ!」

この日、なんだか私は安倍さんの優しさに触れることができて嬉しかった。
そして…また後藤さんと向かい合う勇気を与えてくれた安倍さんに感謝したんだ…。
273 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時35分08秒
結局――ここに戻ってきちゃうんだよね…。
私はため息を大きく一つついて、校舎の中へと入っていった。
人がもういなくなってしまってからカバンを取りに来ようと思っていたんだ。
きっと、教室にあると思ったから。

もう時間は7時前だから部活動の生徒達ももう少ないだろうし、何より集会も
終わってるはず…。
紺野に会う…心配もない。

自分の教室の前に来たとき、まだ誰かが残っているのか明かりがついていて少し
戸惑ってしまった。
どうしよう?サボったことを何か言われるかもしれない…。
でも、カバンを置きっぱなしだし…。
しばらく考え込んだけど、やっぱり私は扉に手をかけて開けたんだ。

「あ、ごっちん」
「梨華…ちゃん?」
入ってすぐに、視線が合ったのは梨華ちゃん。
自分の机の上に座って、漫画を読んでたみたい。
タイトルが『ガラスの仮面』で、ちょっと涙ぐんでたのが気になったけどこの際放っておく。
274 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時35分45秒
そのまま何も言わないで、自分の席に置かれていたカバンを手にとり出て行こうとして…

「ごっちん」
呼び止められた。
そうだろうなーとは思っていたけど、ちょっとドキっとしてしまう。

「なに?」
「んー…ちょっと話がしたいな〜って思って」
「私は、ないよ」
「あたしがあるの。いいからさ、まぁ座ってよ」
「…………」

少し冷たく梨華ちゃんを見つめたけど、梨華ちゃんはいつもと変わらないのほほんとした
笑顔で私をみつめてる。
私は鋭く睨みつけようとして……やめた。
ここでどれだけ冷たくあしらっても、梨華ちゃんには通用しないだろうし…。
諦めて私は、梨華ちゃんの隣の席の机に腰掛けたんだ。

「紺野…」
「!」
「…がカバンをもってきてくれたんだ」
「……そう」
確かめるみたいに言った『紺野』って言葉に、私は敏感に反応して身体を震わせてしまった。
きっと、梨華ちゃんもそれに気づいたはず。
275 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時36分30秒
でも…そっか…紺野が…。
当然といえば当然なのかもしれない。
だって、カバンは生徒会室に置きっぱなしになっていたんだし、朝の例のコトの後誰も触って
いないのなら生徒会室にあるはずなんだから。

紺野…その時、どんな顔をしてたんだろう…?
やっぱり…泣いていた…?

「紺野…なんだかとっても辛そうだったよ?」
「……そうなんだ…?」
胸がチクチクと痛んだ。
だって、そんな思いをさせたのは私だから。
紺野に…謝りたい――そんな強い想いが衝動的にこみ上げてきた。

「ねぇ、ごっちん…」
「…!?」
呼びかけに私が顔をむけようとするより早く、梨華ちゃんが突然私を後ろから抱きしめてきた。

「なに…っ?」
「いいから、そのまま聞いて」
「…………」
有無も言わせないような、梨華ちゃんの鋭い声に私は何もいえなくなった。
そんな声を聞いたのは初めてだったから。
276 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時37分00秒
「あたし、思うんだけど…どんな人だって辛い過去はたくさん持ってると思う。でも、その過去に
引きずられて今を見失ってしまったら、大切な何かをなくしちゃうんじゃないかなぁ?」
「…………」

大切な…何か。
それはきっと…今の私に必要な――ヒトのこと。
でも私はいちーちゃんが…。

「ごっちんは今、『誰かのために』って思って何かを押さえつけていたりしない?」
「え…?」
「それは自分の気持ちだったり、考えだったり」
「そんなこと…ないよ」
「…酷なコト言うようだけど、『誰かのために』って思ってやってることが実は『誰かのせい』に
なってることもあるんだよ?」
「え…っ?」

虚をつかれるってこのことかもしれない。
誰かの…せいに?
いちーちゃんの…せいに…?
277 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時37分45秒
そんなことないっ!
私はいちーちゃんのせいにしたことなんて何にもないっ!

だって、私はいちーちゃんといた時間が、すごく楽しかったから…だからいちーちゃんが
いなくなってしまった時間が苦しくて。誰と話していても、いちーちゃんみたいに楽しくなくって…。

だから…私は……いちーちゃんを事故に遭わせたのは私なんだから…いちーちゃんのために
一人で生きていこうって…。
いちーちゃんのために…誰とも…付き合ったりしないで……。

いちーちゃんの…ために……?

―――いちーちゃんの…せいで……?

――妙に冷静に――考えをまとめようとしている自分がいた。

今まで私は、いちーちゃんのためにと思って何もかもやってきていた…。
いちーちゃんの残した生徒会だから、いちーちゃんのために頑張ろうって。
そう考えてやってきていたけど…実際には全部――いちーちゃんにとらわれていただけじゃんか。
278 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時38分20秒
「…ごっちん、もうわかってるんでしょ?」

梨華ちゃんの優しい声。
まるで、お母さんみたいだと思った。
その腕に込められる温もりも、その体温も…。

そう…。
もうずっとずっと前に自分でも判っていたんだ。
私にとって、いちーちゃんは『過去』なんだって。
そして、私に必要なのは不安に思う未来じゃなくて精一杯生きる『今』なんだって。
それから、その道を一緒に歩いていくのは、いちーちゃんじゃない。

「…うん」

何故、自分は紺野に謝りたいのか。誰のために謝りたいのか。
それが今、はっきりわかった。
全部―――自分のためなんだ。

私は、紺野と…一緒にいたいって心のどこかで思っているんだ。
ちょっとトロくて、ドジで、ボーっとしてて危なっかしいけど、凄く芯が強くて自分を持っている
紺野と…。
一緒に…生きたいって…。
ただ、それを自分で認めたくなかっただけなんだ。
279 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時38分56秒
「…もういいんだよ…?」
「え…?」
さっきよりぎゅっと強く抱きしめるようにして、梨華ちゃんが突然耳元に呟いてきた。
よく意味のわからない私は、首を動かして振り返る。
そしたら梨華ちゃんは、今までに見たコトもないぐらい優しい笑顔を向けていたんだ。

「もう、自分の事を許してあげていいんだよ、ごっちん…」
「梨華…ちゃん…?」
「よく頑張ったね…。頑張って辛いコトを投げ出さなかったね…。でも、もういいから」

そこでわかったんだ。
梨華ちゃんは、いちーちゃんのコトを言っているんだって。

「でも…私…」
「ううん、もう頑張らなくていいんだよ。自分を責めなくていいんだよ」
言いかけた私の言葉を遮って、梨華ちゃんは髪を撫でながらそう言った。

「自分に正直に…素直になっていいんだよ、もうごっちんはさ」
その言葉に、ずっと張り詰めていた糸が切れたみたいに涙が零れた。

『素直になっていいんだよ』
きっと…ずっと誰かに言われたかった一言。
280 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時39分42秒
いちーちゃんのコトは、自分のせいじゃないんだって心のどこかで気づいてた。
だけど…あれだけ好きだったいちーちゃんを忘れるみたいに、別の誰かを好きになっていく
自分が許せなくて…苛立って…苦しくて…。
でもそんな気持ちも、梨華ちゃんから言われた一言で何かが断ち切れたような気がした。
自分を…許せるような気がしたんだ。

「梨華ちゃん…、…っ…」
回された腕に手を乗せて、私は情けなく泣いた。
悲しくて泣いた今朝の涙とは違う、優しさが嬉しくてこみ上げてきた涙。

もう、いいんだ。
私は私の気持ちに正直になろう。
苦しんで辛い想いをするのは、今日でおしまい。

「ありが…」

バンッ!

ありがとう、といいかけた時、突然教室の扉が勢い良く開いてビクッとした。
それから扉のほうへふりかえると…
281 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時40分24秒
「…なに、やってんの?」
「よっすぃー…?」
気持ち、髪が逆立ちになっているよっすぃーが仁王立ちをして私達を交互にみていた。

「よ、よっすぃー…っ、ち、違うんだよ?これには深いワケがあって…」
「…ふーん…深いワケ…ねぇ?」
キョトンとしている私とは裏腹に、梨華ちゃんは慌てて私から離れるとよっすぃーに向かって
必死に訴えかけている。
それで判ったんだ。

誰もいない教室に、私と梨華ちゃん。
それに私は泣いていて、梨華ちゃんは後ろから私を抱きしめて髪を撫でている。
誰がどう見ても…勘違いするわけだわ。
しかも、相手が梨華ちゃんLOVEなよっすぃーとくれば…この怒り方も当然なワケで。

「どんなワケがあって、ごっちんが泣いて梨華ちゃんは嬉しそうにごっちんを抱きしめてたの?」
「ち、違うよ…っ!誤解だってば。それに嬉しそうになんか…」
「してたよっ!ウチにだって、あんな嬉しそうな顔で抱きしめてくれたことなんて1度しかないのに!」
1度はあるのか…。
まったくこの二人は………いいコンビだね。
282 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時41分02秒
いつもはクールに見せてて、カッコつけで…でも友達思いのよっすぃーに、いつも頼りなくてちょっと
天然で…でも、いざって時は信じられないくらい優しい梨華ちゃん。
二人とも…私にとってはかけがえのない親友だね。
それに、ちょっと妬けちゃうカップルかな。

「ちょっと、ごっちんもボーっと見てないで何とか言ってよ〜っ」
「…んぁ?あ、あ〜」
助けを求めるような梨華ちゃんの情けない声。
なんだかさっきと同一人物だなんて思えないね。

「どうなの?ごっちん。梨華ちゃんの言うことは正しいの?」
そして梨華ちゃんのコトになると、目の色が変わるよっすぃー。
判りやすい性格だなーなんて、改めて思ってしまう。

「んー、どうだったかなー…?梨華ちゃんが後ろから抱き付いてきたんだっけなぁ?」
「ご、ごっちん!?」
「…ふーーん、そぉなんだぁ〜?梨華ちゃん〜」
ほんとは『違うよ』って言おうと思ったんだけど、二人を見てると可笑しくてついついそんな
ことを言ってしまっていた。
途端によっすぃーは冷たく梨華ちゃんを一瞥。
逆に梨華ちゃんは真っ青な顔で、よっすぃーの視線にうろたえだした。
その様子がまた可笑しくて…
283 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時41分38秒
「ぷ…っ! あははっ」
「? …ごっちん?」
「急になに…?どうしたの?」
噴出した私に、二人はビックリしたみたいに顔を見合わせて首をかしげた。

そりゃそうだよね。
いきなり目の前でワケも分からずに笑い出したら、誰だって驚くよね。
でもね、私が笑ったのは二人が可笑しいからっていうのもあるけど、一番の理由は私が
悩んでいるコトが、なんだかちっぽけなことに思えたからなんだ。

全部、悩んでいるコトの答えはもう自分の中にあって、ただ素直になるだけで解決するのに
それができないんだって決め付けてた自分がバカみたい。
今なら分かる。
紺野が言ったあの言葉、

『市井さんは、後藤さんのことが誰よりも好きだったからっ!だから、きっとこんな辛そうな
後藤さんを見たくないって思ってた!』

そうだね…誰だって自分の事で苦しんでいる好きな人なんて見たくないよね。
きっと…お墓の前に現れたいちーちゃんがその証明。
284 名前:変わりゆく想い 投稿日:2002年11月12日(火)18時42分09秒
「へんなごっちん…フフっ」
「ほーんと、ヘンだよごっちんは。あははっ」
結局二人は、まだ笑い続けている私につられるように笑ってくれた。

なんだか、こうやって素直に笑ったのは久しぶりかもしれない。
それもこれも二人のおかげだね。
ありがとう…よっすぃー、梨華ちゃん。

私…自分の気持ちに正直になるよ。素直に思ってることを…紺野に伝えるよ。
285 名前:tsukise 投稿日:2002年11月12日(火)18時51分54秒
今回更新はここまでです…。大量すぎっ!(^^ゞ
しかも心理描写多すぎでスイマセン…。
上手くいけば…次回でUP終了する…かも…(^^ゞ

>>256 名無し( ´Д`)ファンさん
ごっちんの辛い立場は、とりあえず今回で終わりです♪
次回では、そろそろ元気になってもらう予定です♪
んー…次スレ立てずに済むかどうか心配ですが、
続けて読んで下さると嬉しいですっ!

>>257 名無しさん
痛い展開を続けてしまいましたが、ごっちんに自分の
気持ちに気づいてもらいましたです♪
本当にもう佳境なんで大変ですが、紺野の想いが
報われるよう執筆頑張りますですっ!

>>258 15さん
ごっちん…やっとふっきれさせましたです♪
紺野の想い、これで報われなければ悲しいですよね(^^ゞ
頑張って良い展開にさせたいと思いますですっ。
そして高紺小説、携帯サイトでありましたかっ!それはチェックせねば!
15さんの書かれるだろう高紺小説っ、期待していますね!(←プレッシャーならスイマセンですっ!)
286 名前:こんごま推進派 投稿日:2002年11月13日(水)06時44分11秒
大量更新、乙です。

いつもROMって読んでましたが、もうすぐうp終了ですか?
紺野とごっつあんが上手くいくといいなぁと願いつつ
次回更新楽しみに待っています

作者さん頑張ってください。
287 名前:キャンドル 投稿日:2002年11月13日(水)13時42分12秒
更新お疲れ様です。

UP終了ってことは、物語も終了ですか。
なんかさみしい感じですね。
288 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年11月15日(金)17時24分06秒
大量更新お疲れ様です。

火曜日から3泊4日の実習に行っていて、
帰ってきてからソッコウでチェックしました。
ごっちんもふっきれたようなので後は紺野と…
どこまでも作者さんについて行くので頑張って下さい。
289 名前:15 投稿日:2002年11月16日(土)17時19分28秒
ごっちん気づいたのか!
遅いよ!(w これから幸せに向かってって欲しいです。
ってもう終わっちゃうのですか?残念です。
でもどこまでも着いて行きますよーw
携帯の方は見つけましたか?
自分も何れ頑張って書いてみたいです…(←をいうち(w
290 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時46分00秒
次の日の朝―――。
珍しく私は目覚まし時計がなっているのに、目が覚めなかった。
結局止まる頃に起きれたんだけど、そのまま眠っていようと思えばずっと眠れていたのかも
しれない。

それから身体を起こして最初に思ったのは…体がだるいってこと。
ううん、それだけじゃなくて頭もちょっとクラクラしてて、もしかして風邪なのかなぁって思った時、
「くしゅんっ!」
って、今までで一番大きなクシャミがでた。

完全に風邪だなぁ…。
ここのところ冷え込んでいたし、最近くしゃみとかよく出てたし…。
もしかしたらずっと体調が悪かったのも、風邪のせいかもしれない。
どうしよう…?学校、お休みしようかなぁ…。

でも、その時大事なことを思い出したんだ。

――後藤さんと、もう一度話すんだってことを。

こんな風邪ぐらいで、やめたりなんかしたくない。
そう思って、私は今日も学校に行くことにしたんだ。
291 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時46分34秒
「おはよう…」
「「あっ!おはよーっ、紺野ちゃんっ」」

教室に着くと、揃った声で返事が返ってきた。
元気な声で、ちょっと舌たらずなその声は相手を見なくてもわかる。
辻さんと加護さんの二人だ。
入り口の席に座っている二人は、いつもこうしてクラス全員の子に挨拶をしているんだよね…。

「元気だね、二人とも」
「「そりゃーもっちろん!」」
親指を立てて私に突き出す形で、元気さをアピールしてくる二人。
なんだか、その元気さを分けてほしいなぁ…なんて考えてしまう。

「なんか、紺野ちゃんは元気ないね」
「え…?」
「どっか具合でもわるいの?」
体調が悪いのが顔に出てしまったのかな…?
二人は、両方から覗き込むみたいに私を挟んで問いかけてきた。

「ううん、そんなことないよ…っ、今日はちょっと朝寝起きが悪かっただけなんだ」
「そうなのー?」
「なのー?」
「うん。だから大丈夫だよ?」
「「ふーん」」
二人はちょっと首を傾げるみたいに私をみていたけど、
292 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時47分11秒
ガラッ

「はい、出席とるよーっ、みんな席についてっ」
「あっヤバっ、オバちゃんだっ」
「じゃあ、またあとでね、紺野ちゃん」
教室に入ってきた保田先生に、慌てたみたいに席に着いた。
二人とも保田先生には弱いみたい…。

そういえば、以前宿題を忘れてしまって叱られてたときに、ついいつものクセで
『オバちゃん』って呼んじゃって、放課後居残りをさせられてたことがあったっけ…。
なんだかそれ以来、苦手になっちゃったみたい。

「あ、あさ美ちゃん、おはよう」
「おはよう、愛ちゃん」
自分の席について、隣の愛ちゃんに挨拶。
でも、愛ちゃんは私の顔を見たい瞬間ビックリしたみたいに目を見開いた。
それから、保田先生に見つからないようにカバンから何かを取り出して、私の机に置いたんだ。
なんだろうと思ってみてみると、それは頭痛薬。

「え…? 愛ちゃん?」
「具合…悪いんでしょ? 顔が真っ赤になってる。その薬、風邪とかに効くから飲んどきなよ」
言われて驚いた。
愛ちゃんは、なにもかもお見通しだったんだ。
自分では、なんともないみたいに見えるって思っていたんだけど、さっきの辻さん・加護さんといい
相当酷くみえるみたい。
293 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時47分45秒
「ありがとう…」
小さく愛ちゃんに言うと、その薬をポケットにしまいこんだ。
途端にちょっと自己嫌悪。

頑張って学校に来たのに、こんな状態で大丈夫なのかな…?
ちゃんと後藤さんに伝えられるのかなぁ…。
そんな不安がこみ上げてしまったんだ。

それでもなんとか授業は持ちこたえたんだ。
どんどん頭が熱っぽくなっていってるのは分かったんだけど、どうしても今日だけは頑張りたくて
放課後まで頑張ったんだ。

そして、いよいよ集会の時間。
たまたま掃除当番に引っかかってしまって、私は愛ちゃん達から遅れて生徒会室についたんだ。
と、その時、入り口の前に…後藤さんの姿を見つけた。

「あ…っ」
「…? あ…、紺野…」
私の声に気がついたのか、後藤さんも扉に手をかけたまま私の方に振り返った。

言わないとっ。
せめて、集会の後にお話がありますってことだけでも…っ。
けど…

「…っ…」

喉まで言葉はでているのに、何故かでてこない。
後藤さんも、戸惑ったみたいに視線を動かしながら何か言いかけて口をつぐんでしまっているみたい。
294 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時48分16秒
傍からみると、きっとおかしな光景かもしれない。
でも、私も後藤さんも俯いたまま、なんにも言葉がでてこなかったんだ。
そんな重い雰囲気を断ち切ったのは、

「ごっち〜ん…って、あれ紺野?」
「どうしたの、二人ともこんなトコで立ち止まっちゃって…」
いつ聞いても変わらない、のほほんとした石川さんと吉澤さんの声だった。

「う、ううん…、なんでもないよ。集会が始まっちゃうし入ろ? 紺野も…さ」
ぎこちなく笑う後藤さん。
最後に私の方を見たときは、目もあわせていなかった。
きっと、すごく困ってしまっていたんだと思う。

「あ…はい」
結局私は、そう頷いて中に入ることしかできなかったんだ。
ただ扉をくぐるとき、石川さんが軽く肩をたたいて『元気だしなよ?』って言ってくれたことが
せめてもの救いだった。
295 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時48分47秒
そのまま後藤さんとは何も話せないまま、その日の集会は進んでいった。
何度か目が合って、話しかけようとしたんだけど、その度に誰かが後藤さんに仕事を
見せに来て、何も言えなかったし…。

諦めて私も仕事を始めて数十分。
やっと自分の分が終わったんだ。
あとは、この会計処理を済ませたプリントを後藤さんに渡すだけ。

身体が重くて立ち上がるのがちょっと辛かったけど、後藤さんの所へと歩いていく。
後藤さんは私には気づいていないみたいで、真剣な顔で安倍さんと何かを話してる。
きっと、集計の話なんだろうけど私には聞こえなかった。

…って、あれ? なんで聞こえないの?
だって後藤さんは、すぐそこにいるのに…。

ちょっと待って…。
あれ…? なんだか…頭がクラクラして…なんにも聞こえない…。

後藤さんに…このプリントを渡さないと…。
でも…後藤さんの姿がぼやけてて…よく見えなくなって…。
296 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時49分18秒
「…紺野?」

後藤さん…?
今、私を呼んだのは後藤さん?
だめだ…もう何がなんだか…わからない…。

途端に、私の意識はブラックアウトして…

「紺野ッ!!」

全身の力が抜けた。

最後に聞こえたのは、後藤さんの叫ぶような声。
もう名前も呼んでもらえないかもしれないって思ってた私は、そんな声でも…どこか嬉しかった。
297 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時49分48秒
「紺野ッ!!」

自分でも信じられないくらい大きな声を出していた。
目の前にいた安倍さんなんて、『な、なに?』って言いながら耳を塞いだくらいだし。

でも、こっちに向かって歩いてくる紺野があまりにも危なっかしい足取りだったから…。
ぼんやりとした目をしていて…手に持っていたプリントも歩くたびに一枚一枚落としていたし。
誰の目から見ても明らかに、紺野はおかしかったんだ。
もしかして、体調が悪いのかも?って思ったのと、紺野が前のめりに倒れこんできたのは同時だった。

「危ないっ!!」

気がついたら、私は動いていた。
座っていたパイプ椅子を倒すほど勢い良く立ち上がって…手に持っていたプリントも投げ捨てて。
…紺野に向かって、両手を差し出していたんだ。

ドン…っ!

次の瞬間、強い衝撃が全身に響き渡った。
それは紺野を抱きとめた時、受けとめきれずに一緒に倒れこんでしまったから。
298 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時50分18秒
「痛っ…、紺野…っ!?」
「…………」
紺野はなんにも答えずに、気を失ってしまっていたけど、身体にはどこもケガはなくてホッとした。
どうにか間に合って紺野の身体を床に落とさずに済んだみたい。
その分…ちょっと腕をぶつけてしまって擦り傷ができてしまったけど…。

「ちょっと、ごっちん…っ、紺野っ大丈夫!?」
「なに、どうしたの…!?」
私の声にビックリした梨華ちゃんとよっすぃーが、すぐに駆け寄ってきて声をかけてきた。
他のみんなも、何が起こったのか判らない様子で覗き込んできてる。

「急に紺野が倒れて…、気を失っちゃったみたいなんだ…っ」
言いながら私は紺野の額に触れる。
その手から伝わる温かさは、異常なくらい熱くて驚いた。

「酷い熱…っ」
「すぐに保健室からカオリを呼んできてっ」
私の反応に、安倍さんは矢口センパイに呼びかけた。
そのまま『うんっ!』って頷いて駆け出そうとしている矢口センパイに、私は、

「待って!」
強く呼びかけて、自分でも信じられない言葉を続けていた。

「私が連れてく」
って。
299 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時51分00秒
普通ならこんなこと言ったりしないのに、その時は紺野のコトで頭が一杯で…。
カオリが来ることをじっと待ってるなんてできなかったんだ。

「後藤さんっ、連れてくったって、そんなすぐに運べる距離じゃないですよ…っ」
「そうですよ、先生を待ったほうが…」
「まこっちゃん、里沙ちゃん」

小川と新垣が戸惑ったみたいに私に言いかけたけど、それを制したのは…高橋だったんだ。
ちょっと強めのその口調と、何かを訴えるような視線に二人は何も言えずに口をつぐんだ。
それから高橋は、一度目を伏せて私に向き直るとしっかりした口調でこう言ったんだ。

「後藤さん…あさ美ちゃんの事、お願いします」
「高橋…」

たった一言なのに、何故かずっしりと重い何かが込められているようなカンジだった。
そこで、気がついたんだ。
高橋の気持ちに…。

思えば、居残りをしたあの日に気づいてもおかしくなかったんだ。
なんで、あんなにも紺野のコトを気にしているのかって…。
友達だからって、あんなにも心配したりするはずがないんだ。

そう…高橋は、紺野のコトを…。
300 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時51分42秒
「…わかった。大丈夫だからね」

できるだけ自分の声が優しく響いていることを願いながら言った。

これが、私から高橋に言える返答。
大丈夫だよって…。

もう、自分の気持ちに気づいたんだから。
紺野のコトをどう思っているのか。

「ごっちん、じゃ早く…っ」
梨華ちゃんの声に、私は我に返って紺野の手を肩に回して立ち上がった。
「よろしくね、ごっちん」
「気をつけて」
それから、よっすぃーの声に頷いて、安倍さんが開けてくれた扉から出て行った。
扉から出る瞬間、高橋が笑っていてくれたような気がする…。
301 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時52分13秒
紺野を抱えて保健室についた頃には、もう私は汗だくになっていた。
でも、そんなことはどうでもいいんだ。
紺野の具合が、相当悪かったらって思うと気が気じゃなくて…。
そのまま勢い良く、保健室の扉を開けた。

「失礼します…っ」
開けてすぐに目に映ったのは、机でお茶をすすっていた保健医のカオリと中澤先生だった。

「あれ? 後藤?…ってどうしたんっ?」
「紺野が…、さっき倒れて…っ」

真っ先に異変に気がついて立ち上がる中澤先生。
それから私の方に近づくと、紺野の額にふれてきた。

「酷い熱やんか…カオリっ」
「は、はいっ」
中澤先生に呼ばれてカオリは慌てたみたいに、ベットの一つを整えた。
どうやら、ここに寝かせてってことらしい。
今まで必死になって来たせいで、ちょっと足がガクガクしたんだけど私は力をだして紺野を
連れて行く。
302 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時52分56秒
「後藤、一人で連れてきたん?」
「はい。みんなは生徒会室にいます」
「そうなんや…?」
中澤先生は、意外そうな顔を一度して少し笑った。
なんだか、意味深なその笑みがちょっと気に入らなくて私は顔を背ける。
やっぱり…中澤先生はちょっと苦手だ。

それから、結局中澤先生がしきるみたいにカオリに色々指示をだして紺野を寝かせた。
なんだかどっちが保健医かわかんない、なんて思ってしまったっけ。

「えー…と…? 38度2分…。紺野の病名は『風邪』ね」
当たり前のことをカオリは体温計片手に、ちょっと威張ってつげた。

そんなこと分かってるよって、内心ツッコミたかったけどそんなコトを言うのもおっくうで
「そう…」ってつぶやいて、ベットのそばの椅子に座る。

紺野は、水枕のおかげか穏やかに眠っている。
でも上気した頬が、少し辛そうに見えて少し不安になった。
303 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時53分36秒
「さて…と、ほんならウチらは職員会議に行こか?」
不意に告げる中澤先生。
え?って思って振り返ると、カオリも不思議そうに首を傾げていた。

「え…?今日って職員会議なんてあったっけ?ゆうちゃん」
「あるんよ、あたしとカオリはな」
「えーっ!? なにソレっ聞いてないよっ」
「今言うた。ホラ、ブーブー言っとらんといくで」

そのままカオリの手を引いていく中澤先生。
でも、扉から出る瞬間、私の方に振り返って軽くVサインをしたんだ。
だから、分かった。
職員会議なんてウソだって。

きっと、私の気持ちの変化にも気がついているのかもしれない。
そう思うと、ますます中澤先生に苦手意識が生まれてしまった。

それから10分。
結局私は、生徒会室に戻ることもできないで、ずっと紺野のそばにいたんだ。
304 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時54分06秒
「紺野…」
不意に名前を呼んで、そっとクシャクシャになってしまっている前髪を撫でていく。

グッスリ眠ってしまっているのか、紺野は目が覚める素振りさえ見せない。
それだけ、体調が悪かったってことか…。
なんだか、ここ最近ずっと一緒にいたのになんにも気づいていなかった自分が恨めしい…。

「ごめんね…。私のせい…だね」

自然とでた言葉。
だって、ヒトが体調を悪くしてしまうのは気持ちからくるモノだってあるって聞いたことが
あったから。
もし、ホントにそんなコトがあるんだとしたら、全部私のせいだと思うから…。

自分勝手に紺野を責めて…気持ちを踏みにじって。
どれだけ紺野を傷つけたんだろう?

でも、絶対に紺野は私を責めなかった…。
傍若無人な私の振る舞いを、ただじっと受けとめてくれてた。
そのことに、紺野はどれだけ無理が生じてしまっていたんだろう…?

「ホント…ごめん」
305 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時54分44秒
「ん…ご、とう…さん…?」
「紺野…? 紺野…っ?」
かすれた声で返事を返してきた紺野に、私は顔を近づけて呼びかけた。

紺野は、ぼんやりとした瞳でしばらく天井を見つめて、それからゆっくりと私の方を見た。
どこか焦点のあってない瞳。
きっとまだ、熱のせいで状況を把握していないからだと思う。
でも、だんだんと覚醒してきたのか、私を確認するとちょっと驚いたみたいに…、

「後藤さん…っ!?」

身体を勢い良く起こそうとしたんだ。
でも、そんな反応についてこれない弱った身体は正直で、頭に鋭い痛みが走ったみたい。
すぐに頭を抑えてうずくまってしまったんだ。

「ダメだよ、まだ起きちゃ。さっきあんな豪快に倒れたんだからさ」
そんな紺野の身体をささえて、またベットに横にしてやった。
その時、軽く触れた腕に少しおどろいてしまった。
何故って、それは私が思っていたよりもずっとずっと華奢で細いものだったから。

どれだけしっかりしたコトを言っていても、ホントはとても弱い女のコなんだ。
…誰かの言葉に一喜一憂して、思い悩んでしまったりする普通の女の子なんだ…。
何故か、そんなことを考えてしまって胸が苦しくなってしまった。
306 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時55分21秒
「あ、あの…?」
「なに?」
どこか遠慮がちに訊ねてくる紺野に、できるだけ優しく私は聞き返す。
そんな私に、ちょっとホっとしたみたいに笑ってから紺野は辺りを見渡した。

「私…どうしたんですか?なんで、保健室に…それにどうして後藤さんが…?」
「覚えてないの?」
「あの…はい…スイマセン」
「いや、別に謝んなくていいけど…」

こんなときでも真面目に答えてくる紺野にちょっと苦笑してしまう。
それから、私はあの後どうなったのかを説明してあげた。

突然生徒会室で倒れてしまったこと。
咄嗟に、私が身体を支えたこと…。
そして、保健室でしばらく安静にしているように言われたこと。
聞いた後、紺野は何度も謝っていたけど、正直そんなことよりも自分の身体を大事に
しろってカンジだった。
307 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時56分04秒
「ほんとにスイマセン…っ、後藤さんにも迷惑をかけちゃって…っ」
「……迷惑じゃないよ」
まだ謝ってくる紺野に、私は自然とそんなことを言っていた。

全然、迷惑なんかじゃない。
だって…私が望んでしたことなんだから。
ここに連れてくるのも、目が覚めるまでまっていたことも。
正直、誰かに任せたくないとさえも思っていたんだ。

「え……?」
「ううん、なんでもない」
聞き返してくる紺野は、ホントに聞こえなかったみたいで真顔だった。
でも、今思っていたことを伝えるなんてなんだか恥ずかしくて、私はただ曖昧に答えて
そっぽを向いたんだ。
308 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時56分37秒
『迷惑じゃない』。
ちゃんとは聞こえなかったけど、後藤さんはそう言ってくれたと思う。
ちょっとバツが悪そうに顔を背けてしまったのが、なんだかその証明みたいで…
不謹慎にも、ちょっと嬉しいだなんて思ってしまった。

でも、それもつかの間で私はとことんネガティブになってしまった。
だって、後藤さんの前でこんな情けない姿を見せてしまって…。
しかも、ここまで運んでくれたのも後藤さんで…なんで自分はもっとしっかりして
いないんだろうって、泣きたくなってしまったんだ。
今日は頑張って学校に来て、後藤さんの気持ちを確認しようって思っていたのに…。

……って、今はそのチャンスなのかもしれない…っ。
途端に、私の頭はフル回転して熱の事なんて忘れてしまったんだ。

だって、今ここには私と後藤さんだけなんだし。
それに、今目の前にいる後藤さんはこの間の後藤さんとは違って…うまく言えないけど
どこか穏やかな表情をしているように見えるんだ。

今なら…ちゃんと昨日の話ができるかもしれない…。
伝えなくてはいけなかった言葉を伝えられるかもしれない…。
309 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時57分09秒
そう思って口を開いたら…、

「あの…っ」「あのさ」
後藤さんの問いかける声と重なってしまった。

「あ…っ、あの、後藤さんからどうぞ…」
「いや、いいよ。紺野から言って」
「そんなっ、やっぱり先輩である後藤さんから言ってください…っ」
「…そう?」

なんてタイミングが悪いんだろう…。
でも、後藤さんの言いかけた言葉も気になるし…。
結局私は、後藤さんの言葉を聴くことにしたんだ。

そしたら、後藤さんはちょっとソワソワした感じで視線を泳がせながらポツリポツリと
話し始めた。
自分の言葉を確かめるみたいに…。

「…ずっと考えてたんだ、昨日の紺野に言われた言葉」
「え…っ?」

言われてびっくりした。
だって、後藤さんも同じ事を考えていたなんて夢にも思わなかったから。
でも、私が言った言葉って…?
310 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時57分42秒
「私が『紺野の気持ちに答えられない』って言ったとき『それは市井さんの事が今でも
好きだからですか?』って訊いたでしょ?」
「あ…はい…。スイマセン…っ、後藤さんの気持ちも考えないで…」
「ううん、もう気にしないで。別にそのコトを責めようと思ってるワケじゃないんだし…」

後藤さんは笑顔で両手を軽く振ってくれた。
それを見た限り、本当に責められるわけじゃないみたいでホっとした反面、じゃあ一体
なんなんだろうって首を傾げてしまった。

「でさ…、あるヒトと話をして…自分の気持ちを見つめなおして…1つのコトに気づいたんだ」
「え…?」

1つの事…?
じっとその先の言葉を待つ。
でも、後藤さんは少し言いにくそうにしきりに髪を触りながら言いよどんだ。
それから、一度大きく深呼吸をしてから口を開いたんだ。
やっとのことで言えた言葉みたいに…。

「…いちーちゃんのことを忘れられないけど、紺野に惹かれていく自分がいるってコトに」
311 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時58分15秒
え…? 今…なんて…?

「確かに、いちーちゃんのコト好きだった…。ずっとずっとこれからだって好きでい続けると
思ってた。でもね…それじゃダメなんだってあるヒトが気づかせてくれたんだ」

上手い言葉が見つからずに口をパクパクしていると、後藤さんは反応がない私にちょっと
焦ったみたいに言葉をまくし立てた。
一生懸命自分のことを伝えるみたいに。
こんな後藤さんは…初めて見る…。

「けど…、ずっとずっと好きだったいちーちゃんを忘れちゃうみたいに誰かに惹かれていく
自分が許せなくて…苦しくて…、それで紺野に辛くあたってしまって…バカだね、私」

自嘲気味に苦笑する後藤さんは、いつもより小さく見えた。
ううん…実は、これが本当の後藤さんなのかもしれない。
私はずっとしっかりした後藤さんばかりみていたから、それが当たり前なんだって勝手に
決め付けていたんだ、きっと。
312 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時58分51秒
後藤さんは、完璧なんかじゃない。

時には理不尽なことも言うだろうし、私の言った一言で傷ついて、憤りを覚えたり…泣いたり
することだってある。
ただ、それを表に出すことが不器用なだけで、私と…なんにも変わらない人間なんだ。
考えてみれば、今までだってそういうことは何度かあったはずなのに。
どうして、そんなことにも気づかなかったんだろう…?

あの時の…昨日の生徒会室での後藤さんの涙や怒りの意味を、全部理解するのはまだ
無理だったけど、私は今までのそんな勘違いに気がついたんだ。

それから…後藤さんに伝えたかった言葉が口からでてきたんだ。

「後藤さん…そんなに自分を責めたりしないでください」
「…けど」
「私は、そんな誰かのために真剣に悩んだり考えたりする、優しい後藤さんが好きだから」
「紺野…」

戸惑ったような後藤さん。
でも、本当にそうだったから。
後藤さんの事を知るたびに、ああ…この人は誰かのために泣いたりできる優しい人なんだって
強くそう思ったんだ。
313 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)17時59分26秒
私は言葉を続ける。
その時何故だか、後藤さんに告白したあの時よりも緊張していた。

「後藤さん、あの…待ち続ける電話…私じゃダメですか?」
「え…?」
さっきよりもさらに困惑したみたいに私を見つめる後藤さん。

当然かもしれない。
ずっと待ち続けている電話は、市井さんとのつながりを表すもの。
それを引き継ごうとしているってことは、市井さんの事を断ち切ろうとしている後藤さんの気持ちを、
少し鈍らせるものだったんだから。

でも、私はそれでいいって思ったんだ。
だって、市井さんとの過去は確かに辛いこともあったと思うけど、でもそればかりじゃなかった
はずだから。
きっと、楽しい思い出だってたくさんあったはずだから…。
だから、無理に断ち切ろうなんてしなくていいと思うんだ。

昨日いえなかった言葉、やっと伝えられる…。
そう、私が本当に言いたかったのは、この言葉。

「市井さんのこと、忘れられなくてもいいです。市井さんを好きな後藤さんを好きになったから」
314 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)18時00分02秒
悔しいけど、ホントのこと。
口に出してみて…もう、市井さんの影に怯えることはなかった。
無理に振り払おうとしていた自分がバカみたいに思える。

「いつか…ゆっくりでいいから、市井さんの事をいい思い出にできればいいじゃないですか」

そう…ゆっくりでいいから。

「紺野…」
後藤さんは、私の言葉をかみ締めるみたいにちょっと俯いて微笑した。
その表情は、どこか嬉しそうに見えたんだ。
それからしばらく俯いていた後藤さんが、笑顔で顔を上げて口を開いた。

「…電話、夜中にこっちからかけちゃうかもよ?」
ちょっと楽しそうに私の顔色を伺いながら言われた言葉。
でも、私の決心は揺らがない。

「後藤さんだったら、いつでもいいです」
「明け方に、かけてって言うかもよ?」
「早起きには自信あります」
「メールだって、どんどん打つかもよ?」
「一回10円だから、お小遣いで払います」
「…ぷっ、あはっ」

しばらくの問答が続いて、後藤さんは噴出すみたいに笑い出した。
そんな笑顔をみたのが、なんだか久しぶりのような気がして私もつられて笑った。
315 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)18時00分39秒
もう見れないかもって思っていた後藤さんの笑顔。
それをこんな近くで見れて…一緒に笑い合えて…本当に嬉しかった。
これもみんな、アドバイスをくれた安倍さんや吉澤さん、石川さんに中澤先生…それから
愛ちゃんのおかげだね…。
本当に、ありがとうって心から感謝したい。

それから私と後藤さんは、携帯のアドレスを交換しあった。
ちょっと…いや、かなり長い後藤さんのアドレスにビックリして問いかけたら、
『なんか、自分の好きなものとか短いアドレスだと色んな人からヘンなメールが届いたりするんだよね』
なんてちょっと困り顔で答えていた。
それはきっと、私のライバルさん達なんだろうなぁ…と思って、改めて後藤さんの人気を思い知らされた
気分だった…。

それからしばらく他愛ないおしゃべりをしていたその時、突然後藤さんが声を上げたんだ。
316 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)18時01分09秒
「そうだ。ね、紺野、一つワガママなお願いしてもいい?」
「あ、はい、なんですか?」
「なんてゆーか…、自分の気持ちに素直になりたいから…その証が欲しいんだよね」
「? はぁ…」

曖昧に頷く私に後藤さんは、ニッコリと笑って顔をじっと見つめてきた。
なんだろう…?この意味深な笑顔は…。
そういえば、こういう笑顔を前に何度か見たことがあったような…?
うーん…。

あ…っ、そうだっ。
後藤さんにからかわれたあの時だ…っ。

『んー…別に構わないけど…なーんか紺野は私と帰るの、イヤっぽいみたいなんだけど?』
『えっ!? そっ、そんなことないですっ!』
『さっきなんて、すっごい驚いてたみたいだし。あーあ、寂しいなー…』
『そ、それは…っ、知らなくて…っ、石川さんがっ、帰る約束で…っ』
『…くっ、あははっ』

あの時も、今みたいなちょっと意地悪そうな笑顔を向けてた。
うぅ…なんだかヤな予感がするなぁ…。
317 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)18時01分40秒
「? どした、紺野?私の顔になんかついてる?」
「あっ、いえ…っ、なんでもないですっ」
ちょっと疑心暗鬼におちいってしまって、後藤さんをじっと見つめてしまったみたい。

「あの、それでなんですか?お願いって…」
「あのさ…」
そこで後藤さんは、携帯電話を取り出してみせた。

「今から携帯でメールを送るから、それに返事をしてほしいんだ」
「メールの返事…ですか?それは…もちろん返信しますけど…」
「ううん、そうじゃなくて、メールが届いたら5秒以内に口で返事してほしいんだよ」
「口でですか?」

それって別にメールでお願いしなくても、口で言ってもらったほうがいいんじゃ…。
しかも5秒って、短いですよ…。
でも、そんな疑問が顔に出てしまったみたいで、後藤さんは…

「YESかNOかで答えてくれればいいから。こういうお願いって、私口では言えないんだよね」
「は、はあ…」
「あ、それと、返事ができなかった場合は『YES』ってコトにするからね」
「? はぁ…わかりました…」
私の返事に後藤さんは満足そうに笑って、早速さっき教えたアドレスにメールを打ち始めた。
318 名前:TEL ME 投稿日:2002年11月21日(木)18時07分22秒
すみません…やはり容量的に結構キビしいんで
次スレを立てさせていただきました(^^ゞ

続き&レスもそちらへさせていただきますので
ヨロシクお願いします。

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TEL MEU
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