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ミニモレンジャーV3

1 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年09月24日(火)22時37分22秒
赤板で書いていた者です。
続編を書かせていただきます。
この小説はオバカな話です。
年齢設定は実際とは多少違います。
前スレは以下のURLです。

http://mseek.obi.ne.jp/kako/flower/1014042663.html
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/red/1025709223/

コテハンは共同のものを使いますが2人で書いてますので、
更新は遅くなるかもしれませんがご了承ください。
この小説の設定その他は以下のサイトにあります。

http://members.tripod.co.jp/honobonoA/
2 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月24日(火)22時53分31秒
「ふぅ…。」
「はぁ…。」

「むっ、こっち見てんじゃねーよ!!」
「見てんのはそっちでしょ!!!」

犬と猿を同じ場所で飼うのは
良いことではありません。

花火事故から2週間。
9月も丁度折り返し頃。
未だに外は秋という感じがまだありません。

全身火傷という重傷で病院に担ぎ込まれたにもかかわらず
2日後には意識も戻るし、身体も人間とは思えないほどの回復を見せ、
あと少しで退院というところまで状態が回復している二人。

ついでに今ではこの通り…。

「ふぅ…いつまでこんなウゼーやつと同じ部屋なんだよ…。」
「ウザいのはあんたの方さ!!」
3 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月24日(火)22時54分32秒
人間でも、仲が悪い人を同じ部屋に住ませるのは避けたほうがいいでしょう。
特にこの2人は。
後で説明しますが、とっても下らない因縁によって
ここまでツンケンできるのは、ある意味凄いことなのです。

「カーテン閉めろよゴルァ!!」
「あんたの方が近いでしょ!?」

これだけ目ざとく相手への攻撃対象を探し出せるのならば
それに対する穏便な解決策を考えてみたらどうなんでしょう。

「あっ!」
「あっ!」

何となく浮かれたリズムでノックされると、
2人が一斉に部屋の入り口の方に視線を集中させる。
そう、矢口と市井が停戦するとき、
それは石川、もしくは後藤が見舞いに来たときだけなのである。

言わば、戦場に突如現れた女神
もしくは、砂漠で見つけたオアシス。
市井は溜まりに溜まった不満を一気に吐き出し、
矢口は…見舞いの品を期待する。
4 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月24日(火)22時55分08秒
「矢口さーんっ♪」

「よっしゃー!バーカバーカ!」
「チッ!氏ねっ!」

今回は石川だった。
自らの負け様をわざわざ相手に晒すわけにもいかない。
市井は、さっきまであれほど頑なに拒んでいたのに
物凄いスピードで仕切りのカーテンを引いた。

「ププッ!!負け犬は去れ!!」

犬とはどっちのことだろうか。
石川の差し出したフルーツ盛り合わせに
ハァハァ言って飛びついているのは矢口である。

「今日はですねぇ、もう1つプレゼント持ってきたんですよっ♪」

「マジっすか!?ハァハァ…。」

矢口の脳内に浮かぶのは何だったのだろうか、
などと考えるだけ時間の浪費である。
彼女が金以外に望むものはない。
石川がそう言って部屋を出て行くと
じれったさ全開で『ハァハァ』のスピードがどんどん上がっていく。
5 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月24日(火)22時55分51秒
「ハァハァ梨華ちゃんハァハァまだー!?ハァハァ。」

2分くらい待っただろうか。
廊下をパタパタと走る音が聞こえると
こちらも『ハァハァ』言いながら石川が戻ってきた。

「ハァハァ……これ…石川だと思って抱いて寝てくださいねっ…ハァハァ…。」

全身ピンク色をした等身大のクマのぬいぐるみが
差し出されたのだが。

「チッ!」

「チッって何ですかぁ〜…せっかくこんなに必死になって持ってきたのに…グスン…。」

店で買ったら、それでも2万くらいはするだろう。
しかし、矢口としては『それなら2万を現ナマで持ってこい』である。

「……まぁいいや。今度は期待してるからね…。
ところで、さっきどこ行ってたの?」

「えっ、あ、その、廊下に置いといたんですけど、それ。
看護婦さんに片付けられちゃってて…ナースステーションまで取りに行きました…。」

「はぁ…。」

クマだって、こんなに愛されない人に貰われるなら
ナースステーションに飾られてるほうが嬉しいだろうに。
誰一人として喜べないプレゼントって…
そんなの悲しすぎるっ!!
6 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月25日(水)23時31分48秒
「まぁいいや。とりあえず、これ食べよう。」

「えー?さっき御飯食べたばっかりなんじゃないんですかぁ?」

「いいんだよっ。」


さて
市井は読書に勤しんでいる。
病院じゃ携帯電話も使えずに、暇潰しといえば本を読むくらいなのだ。
隣りのむかつく奴は平気で人の目を盗んで携帯を使っているが。

"フワフワと浮かぶ雲に目を移しながら
あの頃の思い出を…"

『なんでー?いいじゃんか、このままで…。』

『いやっ!ダメですよ…。』

"子供の頃、夢に見た光景が
目の前に蘇って…"

『いいじゃんか〜。ちょっとだけだよ〜…。』

『ダメっ…待ってくださいよ…あっ…もうっ…』

小説の途中に入り込んでくる
隣りからの声。
退屈な物語ということも相まって
全く集中できないで、どんどん苛立ちが募ってくる…。
7 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月25日(水)23時32分27秒
"あの日、確かに見た陽の光は
今でも懐かしい暖かさを残して…"

『我慢できないよ〜…。』

『んもぅ♪しょうがないなぁ…。』

時計を見ればまだ2時前。
こんな時間から隣りのバカ2人組は何カマシテくれてんだ、と
気になってしょうがない。

「…クッ!…うるさいな……。」

『あっ、ダメですよぉ、汚いですから…。』

『汚くないよ〜…だって、いつもこうしてるんだから…。』

『そうでしたっけ…』

『そうだよ…。ほら…こんなに美味しい蜜が…』

「あんた達何やってんのさっ!!病院だろっっ!?」

ちぎれそうなほどに引っ張られたカーテンが
全開になると、瞬間、市井の怒声が病棟中に響き渡る。
が…

「……。」
8 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月25日(水)23時33分07秒
「何って…リンゴ食ってるんだよ。
欲しい?メチャメチャ余ってるんだけど。」

「い…要らないっ!!」

「何だよ、訳もなく怒るなっつーの。」

何故だか顔を真っ赤にして布団に潜り込む市井を他所に
石川は素っ頓狂な声をあげた。

「あっ!」

「ん?どしたの?」

今よりももっと心地よい風が吹く早春。
2人は奇妙なほどに距離を縮めていく。

「そういえば…矢口さんと初めて会ったのも"リンゴ"でしたね…。」

「そうだったっけ???」

「もうっ!!梨華知らないっ!!」
9 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月25日(水)23時33分38秒
――――――

部屋の段ボール箱もようやく片付いた頃、
石川は、目星をつけていたバイト先へ、話を伺いに訪れていた。

『水曜は休みだけど…それ以外はずっと炎天下での仕事よ?
それでも大丈夫なの?』

『はいっ。がんばりますっ。』

『んじゃ…ここに連絡先だけ書いて。』

『はいっ。えっと…ちょっと質問なんですけど…。』

『なに?』

『ホッダさんは…』

『ヤスダよ!!』

『あっ、ごめんなさい…。』

わざわざ余るほどの仕送りを断ってまでバイトをするのには訳があった。

籠の中の鳥は空にあこがれる。

過保護な両親からの脱却。
これまでほとんど味わったことの無い充実感を求めて
一人暮らしを願い出たのだ。
全てが新鮮で全てが大変な生活は
それでも石川にとって楽しみに違いなかった。
10 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月25日(水)23時34分08秒
『デパートでの仕事だからぁ…
夕御飯の材料も買って帰れるねっ。』

嫁入り修行と言う名のもと、実家でも料理をやらされていたが
それとは違った感覚がある。
"自分のために"という理由は何に付けても有意義な響きに変わる。
地下の食品売り場でカゴをぶら下げて歩いて回るが
どれも目移りするばかりで、材料から出来上がりを想像できない。

『う〜ん……どうしようかなぁ…あっ!!』

空のカゴが山積みのリンゴに当たった瞬間
雪崩が起こって石川はリンゴに埋もれてしまった。
へたり込んでその場に座るが
その頭の中は真っ白で、どうすることもできない。

『いったぁ〜〜い…。』

辺りの客の冷たい目線にすら気づくことはなく、
ただ泣きそうになるのを堪えている時だった。
11 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月26日(木)23時48分57秒
『大丈夫!?』

前方から物凄い勢いで飛んできた金髪の少女。
この時は、まさか矢口が自分と同い年だとは想像することすらできなかっただろう。

『ううぅっ…ありがとうございますぅ…。』

矢口は店員がやってくる前に急いでその場を片付ける。

『よし、これでOK。んじゃあね!!』

そしてそのまま走り去ってしまった。

『あっ!ちょっと待ってくださいっ!!』

それを追いかけて走る石川。
2人の距離は縮まりもせず離されもせず、
途中で走っている理由を忘れそうになるほど走った。
元々運動をあまり得意としない2人だけに
2キロほど走ったところでダウン。
12 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月26日(木)23時49分37秒
『ハァハァ…ッハァハァ…。
ちょっと…待ってくださいよっ…ハァハァ。』

『ハァハァ…分かった…ヤグチが悪かったよハァハァ…。』

『ハァハァ…へっ?悪かったって…何がですか…?』

弛んだTシャツの裾の辺りに
2つの膨らみがあることに気づくと
矢口も苦笑いに終始する。

『あはは……どう?天然パッド…食べる?』

『いいんですかぁ?バレたら捕まっちゃいますよっ!?』

『ほら、食べときなって。』

『えっ…はぁ…。』

シャリシャリとかぶり付く姿は
石川の渇いた喉を鳴らすのに充分なほど。
どうしようどうしよう、と揺らいでいる石川だったが
そうしているうちに矢口はリンゴを食べ終わり、
何かを思い出したように立ち上がった。

『しげるを置いてきちゃったよ…。そんじゃ、ばいばい。』

『えっ、あっ…お礼を…』

結局小走りに去っていく小さな背中と手のひらに残った1つのリンゴを交互に見た後
おちょぼ口でリンゴをかじりながら、長い距離を歩いて帰る石川だった。

『しげるって誰だろ?…彼氏かな?』

――――――
13 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月26日(木)23時50分09秒
「あのオンボロスクーターに名前付けるのやめたらー?」
「うっせーよ!愛着が湧くんだよ!お前こそステージでカマトトぶるのやめろよ!!」

ムクッと布団から顔を覗かせると
早速茶々を入れる市井。
小説に飽きたのか、どうやらずっと聞き耳を立てていたようだ。

「ははん…盗聴が趣味なんだろ?」
「そんなわけないでしょ!!」
「ヤベーぞ梨華ちゃん!部屋に盗聴器仕掛けられてるっぽい!」
「仕掛けないわよ!!」

冒頭にちょこっとだけ触れたこの2人の因縁。
それは、ちょうど矢口と石川が出会ったのと同じ頃発生したのだった。
14 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月27日(金)23時01分00秒
――――――

『ゴルァ!!テメーら寄ってくんじゃねーよ!!あっち行け!!』

矢口が騒々しいのは、例えば江戸っ子の口が悪いのと同じように
生まれつきのものなのだ。
それは、朝でも夜でもお構いなし。
今日はそれに加えて黒い軍団との対決が…。

燃えるゴミを出しに来た石川は
その異様な光景に、道端で唖然として突っ立っていた。

『くそっ!!痛ててっ!!突っつくんじゃねー!!』

まるでヒッチコックの映画のように
金髪の人に群がるカラスが口ばしを武器に迫っている。

『金髪…背も小さいし……』

『あっ、そこの人!こっち来ちゃダメだから!!危ないよ!!』

『クソッ!バカガラスどもー!!シネッ!!シネっ!!』
15 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月27日(金)23時01分39秒
人違いっぽい。
眉毛がないし、何だか以前の人よりも貧相な顔をしている。
でも金髪だし、背が小さいし、何より声が似ている。
及び腰でゴミ袋を放り投げると、ササッと5歩くらい逃げて
その人が格闘を終えるのを待つことにした。

『…ふぅ……BB弾の銃買ってこようかな…。』

何とかカラス達の攻撃から逃れた矢口が
頭を擦りながら歩いて来ると、それを呼び止めて
尋ねてみる。

『あのぉ……この前の方ですよね…?』

『この前?……ああ、リンゴをぶちまけた人!?』

『リンゴって…ええ、そうですけど…。
あの、この前のお礼を…。』

"お礼"という言葉が右脳を刺激して
矢口は口を開き、舌を出して…

『お礼ハァハァ。』

『あ、あの大したことはできないんですけど…。あの、朝ごはん食べましたか?』

『……いや…食べてないけど…。』

『朝ごはん奢らせてください。』

チッと言ったかどうかは定かではないが、
矢口が紙幣を想像していたのは明らか。
だが、ここ数日、上京してから朝ごはんとは無縁の生活をしてきただけに
それなりに魅力的な誘いではあった。
16 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月27日(金)23時02分13秒
『喫茶店ないねぇ…。』

『そうですね…。』

私鉄沿いのちょっとした田舎。
店なんてそんなに沢山あるわけではなく、
あるのはビッシリならんだ一戸建ての住宅と
個人経営の商店くらい。

『…ここは…喫茶店じゃないですか?』

『えー?でも…なんか、スナックっぽい名前だよ?』

『確かに…でも一応喫茶って書いてあるますし…。』

『中を少し見てみようか。』

そろそろ歩き疲れた2人の前に現れたのが
喫茶さやかだった。
ちょっと店内の様子を見ようと
矢口が少しだけドアを開けてみたら

カランコロン♪

という例の鐘の音が鳴り響いて、
しかも店員に『いらっしゃいませ』と言われてしまった。
17 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月27日(金)23時03分19秒
『…いらっしゃいってさ……。』

『しょうがないですよぉ…。入りましょっ。』

そう、『いらっしゃいませ』と言った張本人が市井なのだ。
平日の朝8時過ぎ。
店内に客はなく、2人の不安感は殊更煽られていく。
しかも目つき悪い店員だし。
まったくをもってやる気ゼロな感じ。

『ここ…大丈夫かな、ホントに…。』

『でも、平日ですからねぇ…。』

適当に窓側の席につく二人。
店内を見渡す、いかにも怪しい。
店内も怪しいが、じろじろ店内を見ている二人も充分怪しかった。

『なんかぼったくりバーなんかじゃないよねぇ…。』

『ええっ!?』

『シッ!!店員来たから…。』

『はい…。』

市井の持ってきたおしぼりで顔を拭く矢口と、
メニューを見て少し安心する石川。
18 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月27日(金)23時04分10秒
『あの…注文決めないと…』

『カレーある?』

『カレーですかーありますよー、カツカレーがー。』

相当やる気がない店員だと印象を受ける二人。
矢口はそんな態度にすこしムカッと来た。

『じゃあそれ。大盛りで。』

『えっと…あたしは…サンドイッチ。』

その間も矢口はオシボリで顔を拭き、
更には脇の下まで拭っている。

『あの…まだお名前聞いてませんでしたよね…。』

『プハーッ!ん?…そうだったね。ヤグチ。矢口真里。』

『えっと、あの石川梨華って言います…。』

『ほーん。ゴミ捨て場があそこってことは…
結構近くに住んでるんだね。』

ようやくオシボリを置いたかと思うと
今度はグラスに入った水を一気のみして
カラカラと氷を鳴らしてオカワリを要求している。
石川にとって、矢口の行動1つ1つがやけに新鮮。
19 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2002年09月28日(土)20時25分41秒
はじめまして。
いつも楽しく読ませていただいます。
すっかり、ここの矢口さんのファンになっちゃいました。

更新を楽しみに待っています。
20 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月28日(土)23時09分47秒
『えっと…アパートOTOHIMEっていうとこなんですけど。』

『あっ、それって、ウチのアパートの正面じゃんか。
ヤグチはブドウ荘ってとこに住んでるんだけど。』

『えっ…あそこって人住んでるんですか…?』

『あっさり毒吐くねぇ…』

『すいません…。』

『まぁいいけど…見た目その通りだし。』

他愛も無い会話だったが、石川にとっては頼もしい。
引っ込み思案で人付き合いの下手だった当時の石川。
こちらに来て、まだ友達が居なかった彼女としては
(かなり無茶苦茶な人っぽいが)
これ以上ない展開だった。
21 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月28日(土)23時10分49秒
『お待ちどうさまでーす。』

当たり前だが、この頃はまだ普通の喋り方で矢口にも対する市井だったが、
それは、この『お待ちどうさまでーす』が最後だった。
目の前に置かれたカツカレーに
躊躇なくソースをぶっ掛ける矢口を見ると
市井の表情が見る見る強張っていった。

『何やってんのさ!!』

『何って?ソースかけてるんだけど何か?』

自分のやりたいように振舞う矢口にとって、
カレーにソースかけなきゃ何かけるんだ、という感じ。

『カレー頼んだんならカレーを食え!!』

『ああっ!?客に向かって何言ってんだゴルァ!!
カレーにソースかけるなって法律がどこにあるんだよ!!
ほらほら!もっとかけてやるぜ、ドボドボ!!』

『あああっ!!!それならライスだけ頼みなっ!!』

『うっせーよバーカ!!福神漬みたいな顔しやがって!!!』

『何さっ!!あんたなんかシラスみたいな顔してるじゃない!!!』

『シラスとカレーは関係ないだろ!!!』

店員と客という範疇を遥かに超越した全く幼稚な罵りあいに、
石川は圧倒されてサンドイッチを落としたことにも気づかなかった。
22 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月28日(土)23時12分09秒
『あのぉ…ちょっと…止めましょうよ…。』

『テメーなんかチャーハンにチョコレート入れてろ!!』
『うっさいよ!!チョコバナナに練乳かけてなっ!!!』
『チョコバナナとカレーは関係ないだろがっ!!!』
『チャーハンだって関係ないじゃないのよ!!!』

手の付けられないバカっぷり。
見れば、矢口のカレーは意地を張ってかけまくったソースで
真っ黒になっている…。
ついでに二人の顔は真っ赤になっている。
まるでガキのような罵り合いが展開していた。

『バカって言うほうがバカなんだよ!!』
『バカって言うほうがバカって言うほうがバカなのよ!!』
『バカって言うほうがバカって言うほうがバカって言うほうがバカなんだよ!!』
『バカって言うほうがバカって言…』

『紗耶香!!!』

『ちょっと、お母さんは黙ってて!!』
『あんた、バイトの時間でしょ!?早く行きなさい!』
『くっ!……もう二度と来るなよっ!!』

悔しそうに背を向ける市井に
見事なまでに真直ぐと中指を立てて勝利のポーズを決めた。
23 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月28日(土)23時12分42秒
『ゴメンね、あの子オテンバだから…。』

『いやぁ、このカレー美味いですよ……ゥェッ…』

『ふふっ、そんなにソースかけたら美味しくないでしょ?
今もう1つ作ってあげるから待ってなさいっ。』

とんでもなく相性が合わない娘と
優しい母親。
あいつさえ居なければいい店なのだが…と、ちょっと思い出す。

喫茶さやか

『あいつの名前じゃんか……糞。』

『矢口さん…あの、わたしこの後バイトなんで急がないと…』

『えっ?あ、そういえばヤグチもバイトだ!梨華ちゃんは何のバイトなの?』

『駅前のトイズEEっていうデパートの…』

『屋上のショー!?』

『そ、そうですっ!もしかして…』

『ヤグチもそれだよ!!』

『うそっ…。』

偶然か運命か。
2人はこうして密接な関係を始めるのだった。

――――――
24 名前:第11話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月29日(日)21時58分13秒
「あーっ!思い出しただけで腹が立ってきたー!!」

「プッ!まぁまぁ、福神漬の顔して怒るなよ、面白すぎるから!プププッ!!」

いつまでも互いに挑発を繰り返すのが
もはや入院生活でのライフワークと化している。
よくもまぁ、罵るネタが尽きないもんだ。

「あ…そういえば、夏休みが終わったから週1だよね?バイト。」

「ええ…。」

「今度いつだっけ?早く体治してショー出なきゃ…金が…。」

「あの…矢口さん。」

「ん?」

石川は窓から臨む遠くの景色を眺めていた。
自らの演出だろうか?
とにかく、何となく悲しげな演技をしているような…。
まぁ、セリフも棒読みなら、演技もイモということか。

「あの…わたし、今度実家に帰ります…。」

「このコの芝居、どうにかならないの?」
「ヤグチだって困ってるんだよ…。」

「うっとり…。」
25 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年09月29日(日)22時00分13秒
>19
ありがとうございます。
ここの矢口さん、かなり親父臭いですがどうぞよろしく。

今回も休みなしで12話を明日から開始します。
26 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)11時11分51秒
いつも楽しく読ませていただいます。
休みなしって言うのが嬉しい限りです!
がんばってください!
27 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月30日(月)21時52分54秒
次第に赤く色づき始めた木々が鮮やかに輝き、
その様は都会の喧騒を忘れさせてくれる。
数ヶ月ぶりの景色が目に飛び込むと
自分を取り巻いた鬱陶しい出来事が待ち受けていることを思い出した。
次々と窓の外を流れていくそれは
飛びつかれた鳥が羽を休める暫しの休息。

JR東海道本線大船駅に降り立つ石川。

見上げてみれば目眩がするような晩夏の光が
自分だけに向けて燦燦と降り注いでいる気がした。
電車に駆け込む女子高生達。

(私の高校の制服だ…懐かしいな…。)

携帯電話を弄りながらキャアキャア言い合う高校生達に
昔の自分を照らし合わせた。
ここではいつも、普通の女子高生だった。

昔したようにバックを後ろ手に回し、
少し汚れた懐かしい階段を昇る。
ようやく平たい床が見えてきたところで
思いがけず戸惑うことになる。
28 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月30日(月)21時54分10秒
「やぐっ…。」

違った。
背格好がまるでそっくりな金髪の少女が居たからだ。

「そんなわけないよね。入院してるもんね…。」

頭を切り替えると、すぐに階段を降りる。
ここからまたJR横須賀線に乗り換えるために電車を待つのだ。
待ち時間を確かめると25分待ち。
中途半端な待ち時間に少し溜め息を吐いて
ホーム端の喫煙エリアに向かった。
銀のパッケージを開けて一本取り出し、ピンク色のジッポで火を付ける。
胸の内に溜まった鬱憤が吐き出されるように
煙が立ち込めては風に乗って消えていった。

(電車乗ったらもうすぐ家かぁ…。やだなぁ…。)

そんな憂鬱な彼女の携帯が鳴った。
取り出して携帯を開いてみると、そこには彼女の名前があった。
29 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年09月30日(月)21時54分40秒
「矢口さん?どうしたんですかぁ!?なんで携帯なんですかぁ〜。」

『ん〜…まぁ、いいじゃんか。アハハ。そうそうお土産よろしく。』

「ああ、はい…。買いますけど…今病院なんじゃないんですか?」

『えっ?まぁ、そう。アハッ。気にすんな!ってかさー、クサヤはやめてね。臭いから。』

「えっ…普通に私も嫌です…って…それだけですかぁ?もっと
どうして帰るのー?とか心配だよーとか、ないんですかぁ?」

『ない!食い物よろしく、じゃーねー。』

プツッ。

「ちょっ…もうっ!!梨華知らない〜〜〜〜、バカぁ〜〜〜〜〜!!!!!」

「ハッ!?」

めちゃくちゃ目線が集中してますた。

こんな時はやたらタバコの数も増えるわけで。
開けたばかりの箱が、もう既に空間が目立つようになっている。
立て続けに5本ほど吸っただろうか、
ようやく到着した来た電車に忙しなく乗り込んだ。
30 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月01日(火)22時11分52秒
地元の駅に着くと、いよいよ来てしまったという思いに駆られる。

「来ちゃったぁ〜…けど懐かしいなぁ〜…。」

まるでポラロイド写真のように
薄ぼけたカットが徐々に鮮明に浮き上がってくる。
小学生の頃に通った駄菓子屋。
自分の通った塾。
お得意様となっていた美容室。
全てに懐かしさを覚えた。

ランドセル集団を見かけると先ほどイラついていた事も忘れ
思わず微笑んでしまう。
彼女らの後ろをに続いてウキウキしながら歩いた。

しかし、そんな気分も束の間。
石川の前に坂道が見えた。
実家へはこの坂を登ればすぐなのだ。
31 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月01日(火)22時12分56秒
「もうっ…どうしよう…なんて説得しよう…。」

より重い足取りで坂道を行く。

「お見合いなんて絶対いやぁーっ!!…ってダメよねぇ…。説得力ないもの…。」

「実は付き合ってる人がいるの…だからお見合いは出来ないの…。
…ふぅ…相手が女の人だし…。ダメよねぇ…。」

グイッと俯いた顔を持ち上げて

「矢口さーーんっ!!どうして貴方は女なのぉ〜〜〜!!」

坂から見える青い海におもいっきり叫んだ。

「まだ遊びたーい…もダメよねぇ…はぁ…。」

「んっでも…今の私の姿を見せればお見合いなんてさせられないって思うかもっ♪」

どうやら石川の中では結構、自分の見た目は遊んでる女に見えるようである。
まぁ、普通の美少女って感じに第三者としては見えるが。

「煙草も吸うしっ♪なんならお見合いでパカパカ吸っちゃうわよぉ〜♪
うんっ、いいアイデアねっ♪『あたし吸うの大好きなのっ♪』とか言って。」
32 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月01日(火)22時14分00秒
そうこう独り言を喋って歩いているうちに
目の前に大きな邸宅が見えてきた。
そう、石川梨華の実家である。
すこし洒落た鉄格子に、手入れの行き届いた木々たち。
中央にそびえる洋館のような家に大きな門。

石川は少し息を吸い込んでインターホンを押した。

『どちらさまですか…?』

「私。梨華。」

『お嬢様っ!!お待ちください今すぐに!』

すると、洋館の門が開いた。

「戻ってなんか来たくなかったよ…。」

そう呟いて、敷地内に足を入れた。
33 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月02日(水)22時25分20秒
何も変わっていなかった。
この家は以前と全く変わっていない。
家だけじゃない、住む人間でさえも。
自分の部屋に戻ると、重厚な檻の中に入れられたような感覚が襲ってきた。

「これが…見合い相手…。」

帰ってすぐに渡された大きな写真に目を落とす…。

「もう見合いするの決定なのかな…?」
34 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月02日(水)22時25分57秒
――――――

9月13日夜。

石川は入院して暇を持て余した矢口の相手を
20時までして、歩いて帰宅した。
いつものようにポストを確認すると中からはピンクチラシがどっさり。

『見ないのにご苦労様。』

階段をカツカツ上がって自室の前に来て鍵を差し込み、ドアを開ける。

『ただいまー。』

『ニャ〜ン。』

『おなかへったのー?まっててねーすぐにご飯出すねー。』

アフロ犬に纏わり付かれながら、部屋に入った。
棚を開けて猫の缶詰を探す。

『あれっ…ない…あっ…買ってくるの忘れちゃった…。』
35 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月02日(水)22時26分30秒
しょうがないという顔をしながら
辺りを見渡す。
ある物といえば、矢口に料理が下手だと言われてたおかげで
負けず嫌いの闘志に火が付いて、
矢口が退院するまでに絶対上手くなってやると思って
料理本を見ながら作った料理。
正直、自分でも食べたくないような出来である。
しかも、このクソ暑いのに朝作って放置していたやつだ。

『……うんっ、アフロ犬に食べてもらおうっと♪』

そう言って、朝炊いたご飯と鰈の煮付けの予定だった物を
エサ皿にご飯を載せて更に鰈らしき物を乗っける。

『うーん。これじゃあ、ご飯も食べてくれないわよねぇ〜♪』

そして、箸でグチャグチャとかき混ぜた。

『よしっ、これが日本の猫のご飯、かの有名なネコマンマねっ♪』

何か自己満足した石川ではあるが、
アフロ犬はシャム猫である、ついでに輸入ものだ。
ニコニコ笑顔を見せながら、アフロ犬の元へ置く。
36 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月02日(水)22時28分05秒
『どーぞっ♪美味しいわよっ♪』

すると、アフロ犬は匂いをかいだ。

が、

『フギャッ!!!!』

そう叫んでゴミ箱の中へ飛び込んだ。

『ちょっとぉ〜、失礼よぉ〜、ご主人様が一生懸命作ったのにーっ!
なによっ、おいしそうじゃないっ。』

石川は何が不満なのかとネコマンマを口にしてみた。

『……イタッ!!痛いっ!!舌が痛いっ!!』

何故か激辛のようです。
慌てて冷蔵庫からミネラルウォーターを口につけた。

『…っまぁポジテブポジテブ。がんばろっと♪』
37 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月02日(水)22時28分47秒
そんな時、自宅の電話が鳴り響いたのだ。

プルルルル、プルルルル、プル…

容易に電話の相手を想像できた。
最近催促のようにこの電話がよくかかってくる。
出てみれば、やっぱり母親だった。


『…だから、少し待ってよ…。まだ見合いなんてしたくないよ。』

『うん。えっっ、そんなっ……わかった…うん…。』

『明後日にそっち帰るから、そのときに。私は見合いなんてしたくないから。』

『はい、じゃあね…。』

受話器置いて溜息を一つ。

『もう嫌っ!お金持ちの家に好きで生まれたんじゃないもーんっ!!』

贅沢な悩みが虚しく部屋の中を木霊した。

――――――
38 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月03日(木)23時12分35秒
「やだよぅ〜矢口さんと離れちゃうのやだよぅ…。ぐすん。」


夜、石川家は長いテーブルを囲んで夕食の時間を過ごしていた。
そのとき、石川に衝撃な展開が訪れていた。

「ええっ!?明日なのっ?お見合い明日なのっ!?」

『決まった事よ。あなたがお見合いを避けてるからこの機会に
あちらさんに言って用意してもらったのよ。』

「そんなっ、お母様酷いよっ。梨華お見合いしたくないって言いに帰ってきたんだもんっ。
お見合いする為に来たんじゃないもんっ!」

『もう決まった事なの、お見合いをして、その人と結婚するのよ。
これはお父様のお仕事の為よ。お相手は大企業の御曹司さんなのよ。』

「ちょっとまって!!私はお父様のために結婚するのっ!?
それじゃあ政略結婚じゃないっ!!」

『梨華、帰ってきたお前を見てショックを受けたぞ。チャラチャラした格好をして。
これがいい機会だ、嫁に行って上流家庭なりの生活をしなさい。』

「いやっ!!いやっ!!お父様のバカッ!!梨華絶対受けないっ!!
明日なんて絶対受けないっ!!」

そう吐き捨てて、食事にも手をつけず自室へ閉じこもった。
そして部屋に鍵をかけるとベッドへダイブした。
39 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月03日(木)23時14分06秒
「やだよう…やだぁ。ばかぁっ!ばかぁっ!」

久しぶりに本気で泣いた。
自分の運命を嘆いた。
思い浮かべるのは矢口のことばかり。

「矢口さん…そうだ…矢口さんに…。」

石川はバッグの中から携帯を取り出す。
電話帳から矢口の文字を探してコールした。

「矢口さん…御願い…出て…。」

『電波の届かない場所にいるか…。』

「…そんなぁ…。」

携帯は引力に従いポトリと落ちた。
40 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月03日(木)23時14分54秒
それからしばらく泣き尽くした。
もう何がなんだか分からないほど泣いた。
家族が部屋にノックを何度したか分からない。
そんなノックも石川の耳には届いていなかった。

唯一つ。
耳に届いた音は携帯の着信音だった。

ピピピピピ ピピピピピ ピピピピピ

「!!矢口さんっ!!」

慌てて携帯を手に取ると、
画面には矢口ではなく後藤の名前が表示された。
もういい、誰でもいいから聞いてほしい。
そう思った石川は、通話ボタンを押した。

「…もしもし…。」
41 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月04日(金)21時24分11秒
『んぁ、どしたー?…泣いてるの?』

「えっ…うん。ごめんね。」

『実家帰ってるんだよね、なんかあったの?』

「…うん…もしかしたら私、明日見合いさせられるかもしれないんだ。」

『見合い??』

「うん…前からその見合いのね…催促が…来てたんだけど…
ずっと避けてて…見合いしたくないって…言いに帰ってきたんだけど…
もう…明日に見合い…用意されてたの…。」

『ふーん…やぐっつあんは知ってるの?』

「…知らない…。」

『んー、話さなきゃダメだよー。』

「話そうと思ってたんだけど…なかなか言えなくて…今、電話繋がらないし…。」
42 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月04日(金)21時24分46秒
『あのさー。梨華ちゃんの嫌いなところなんだけどー、
ウジウジしててさー、それじゃどうにもならないでしょー?』

「ウジウジって……」

『大事な人にはちゃんと伝えたほうがいいと思うわけー。
分かってて今まで言わなかったんでしょ?見合いの事。
ズルイよね。大事だと思うなら、いや、男も女も関係ないよ、
好きな人だったらちゃんと伝えないとダメだよ。』

珍しく、後藤が熱くなっていた。
滅多に見せないその様子は後藤が認めた友人に対してのカツ入れなのだろう。
そのキモチがガンガンと心にを打ち付けていった。

「うん…ごめん…アリガト…。」

『後藤もごめん。』

「なんで?」

『熱くなっちゃった…後藤らしくないなー。アハハ。』

「…ごっちん。」

『とにかく、何とかしてやぐっつあんに伝える事。いい?』

「うん。梨華ガンバルッ♪」

『キショッ。』

「ええっ!?」

『なーんてね。じゃあね。』

「うん。バイバイ。」
43 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月04日(金)21時25分28秒
後藤のおかげでだいぶ気分がすっきりし、
もう一度矢口にコールした。

『おかけになった電話は、電波が届かない場所におられるか…。』

「もうっ。気持ちを改めたのにぃ〜っ。メールも出来ないし…
機種変勧めたのなぁ〜…。」

矢口の古いPHSでは、Eメール機能などなく、
更に電波が届かないのでは打つ手がなかった。

「伝えに行こうか…。」

チラッと携帯の時計を見る。
時刻はあと少しで21時になろうとしていた。

「抜け出しちゃおうかなぁ…ダメっ!それじゃあ問題の解決にならないっ。
ダメダメダメッネガティブ梨華ダメッ。」

あーでもない、こーでもない。
だだっ広い洋室をウロウロと歩き回って
浮かんでは消えるアイディアを吟味してみる。
44 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月05日(土)21時56分14秒
「でも…病院に行って伝えて帰ってくれば…今からなら…。」

忍び足でドアに近づき、そっと開けると
制服を着た警備員が部屋の前に
2人立ち塞がっていた。

「ナハッ!?」

『お嬢様、どちらへ行かれるのですか?』

「えっ、な、何でもないわよっ!あはっ♪」

慌ててドアを閉める石川。

「どうしよぉ〜…。監禁されてるぅ〜〜。」

窓から下を見ても、昔と同じ高さで
庭の植え込みが見える。
そこはやっぱり3階。

「高ぁ〜い…無理ぃ〜…。どうすればいいのぉ〜…。」

ここから飛び降りれば、確かに見合いをしなくて済むかもしれないが。
しばらく考えた。
どうやって脱出しよう。
それほど時間もない。
45 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月05日(土)21時57分00秒
部屋をウロウロしながら考える。
そして、次のアイデアが浮かんだ時、
それ以上考えるのをやめて即座に実行しようと決めた。
そっとドアを開く。

「あのぉ〜…おトイレ行きたいんですけど…。」

何やら警備員は耳打ちしては首を傾げている。

『お嬢様…』

「ん?何?」

『本当に…"される"のですか?』
『何を…"される"のですか?』
『もしかしてファ…』

「し、しないよっ、オホホホホっ♪」

また再びドアを閉じる。

「するわけないでしょお〜〜っ、私しないもぉ〜んっ!って…
ウソでもいいから"する"って…言っとけばよかったのかな…。」

何をするのか、サッパリ分からないが。

「でもぉ〜…トイレも3階だし…窓から出ても…自殺と一緒よねぇ…。」

今日何度目かの溜息が出る。

「ダメッ!!ポジティブ梨華なんだからっ!!」
46 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月05日(土)21時58分20秒
また部屋内をウロウロする。
気分は名探偵なのか、顎に手を当てて考える。

「まるで…矢口さんと私ってロミオとジュリエットね♪真里っ!どうして貴方は真里なのぉ〜!?
…じゃないっ、考えないと、えーっとえーっと…」

妄想癖によって脱線したが、今回はそれどころではなく
自然と線路に戻ってきた。
恐らくこの後に甘い甘いシーンが続くのだろうが、
理性がそれを打ち切って必死に打開策を考えた。

「よしっ、あそこなら1階だし大丈夫ねっ♪そうしよっと。」

再び決意を胸に、ドアをそっと開ける。

「あのぉ〜…、お風呂…行きたいんだけど…。」

そう言うと、警備員は目を見合わせ
無線を手になにやら報告をし始める。
するとまもなく、メイドが3人やってくるではないか。

『お嬢様。お風呂へ参りましょう。』

そういうメイドはネグリジェや下着、そしてバスタオル
その他風呂に必要な物を持って現れた。

「うっ…厳重ね…。」

『はい、お嬢様がお逃げにならぬようにとご主人様からの指示でございます。』

「はぁ…。」
47 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月06日(日)21時36分14秒
長い廊下や階段を警備員二人もついてきた。

(なんなのよぉ〜これぇ〜…。)

風呂に着いてみれば、入り口の外側に警備員が並び
更にメイド3人は脱衣所にまで入ってきた。

「着替えるところ見るんですかぁ〜?」

『はい、ご主人様の指示でございます。』

「えぇ〜〜…。ぐすん。」

そして覚悟を決めたのか諦めたのか、
渋々服を脱いで風呂場へ入っていった。
流石に中には入ってこないようで一安心の石川。

音を立てずに風呂場の奥の窓に向かって歩き出す。
そう、ここは1階。
自室やトイレから考えれば、脱出しやすい。
自由に開く事を確認し、外を見回してニヤリ。

「よしっ、外はザルの警備ね。お父様ぬかったわね…。」

と、窓に足をかけて抜け出そうとしたとき、
ぬかっていたのは自分だと気がついた。
48 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月06日(日)21時36分50秒
何故、メイドが脱衣所まで入ってきたのか。
それは完全に服を脱ぐ事を確認する為だと気がついた…。
このまま脱出したとしても、裸の美少女が町中を歩き、
その後電車に乗って病院に向かう。
恥ずかしいということ以上に、
絶対に途中で警察のお世話になってしまう。
警察ならまだいい、もしかしたらヤられちゃう可能性もある。

「だめっ、そんなことできないっ、こんな可愛い子が裸で居たら…
…だめっ、ダメッ…。」

ジガジサーン。
そして、万策尽きた…。
しょうがなく、いくつか種類のある風呂の中から
ジェットバスを選んで、顔の半分まで浸かってブクブク言っていた。

「どぼびびょう…。どぼぶぶぼぼぼべびばび…??」

結局アイデアが浮かばず、スポンジにたっぷりボディソープをつけて
ゴシゴシと身体中を擦り回す。
募るイライラにその手つきはどんどん強力に、
気づけば真っ赤になってしまった。

「ああっ!もうっ!ヒリヒリするじゃないっ!!」

なんだか、保田のような発言が浴室に響き渡ると
間もなくその場を後にした。
メイドがバスタオルを差し出すので、
受け取って身体を拭く。
49 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月06日(日)21時37分20秒
下着を着けようとすると、渡されたのはピンクの下着。
新品のようだが、嫌にお嬢様チック。

「センス悪ぅ〜い。」

いや、貴方の下着のほうが…(略。
我慢してパンツを履き、ブラをつけようとする。

「キツッ…ちょっと…ちっちゃいんですけど。
私の胸には合わないみたい。変えて。」

『そんな、お嬢様のサイズでございますよ?』

「いつの話をしてるんですかぁ?揉まれて膨れてボヨヨヨ〜ンなのよっ。」

そう自慢げに豊胸を突き出し、ブラを変えるようにと
指示を出す石川。

『少々お待ちください。』

と、メイドの一人が慌てて脱衣所から出て行った。
その間、髪を乾かす。

(まぁ、寝る前にブラなんて外すもんだし…腹いせよっ♪)

少しほくそえんで髪を拭いていると、
メイドは予想以上にスピードで戻って来たのだ。
50 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月06日(日)21時37分52秒
『お待たせいたしました。』

ブラを受け取ると、意外とセンスがいい。
急に用意したものなのに、である。

「もう買ってきたの?案外センスが良いけど…。」

『妹様から新品を頂いてまいりました。』

真っ赤なそれをマジマジと眺めて思った。

(へぇ〜…あのコ結構派手なのつけてるわねぇ…。)

さっそく試着してみる。
色々なところでしきりに豊胸と自慢している石川であったが、
なぜかサイズが合わない。
小さいわけじゃなかった。

『いかがでございますか?梨華御嬢様。』

「ええっ、少しキツイけど我慢するわっ。」

(ま、負けた……自慢だったのにぃ〜〜…ぐすん。)

そしてネグリジェを着て、来るときと同様の警備の中
自室へ戻っていった。
51 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月07日(月)01時12分35秒
妹?!誰だ?!w
52 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月07日(月)02時52分29秒
3階くらいからならロープがあれは降りられると思うが。
この高度ぐらいなら落ちても死なんし。
53 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月07日(月)22時07分52秒
ドアを閉め、着信履歴を確認する。
やはり、矢口の文字は出てこなかった。

「んもうっ…もう一度かけてみようかな…。」

『…電波が届かない場所におられるか…』

「矢口さぁ〜ん…出てよぅ…。」

「もしかして何かあったのかなぁ…。う〜ん、矢口さぁ〜ん…。」

ベッドの上を転がりながら何往復もして、
同じ番号にかけ続けた。
しかし、いつまで経っても矢口の携帯はコールされる事がなかった。

深夜2:30。

再びドアの外を見てみる。
しかし、相変わらず警備員は二人部屋の前に立っていた。

「あのぉ〜…眠くないですかぁ?お仕事も大変でしょうしぃ〜…。」

そう問いかけてみても、大丈夫だと機械的に答えるだけだった。

「あの、トランプでもしません?暇でしょ?」

やはり、結構ですとしか言わなかった。
もう終電もないことだし警備員の説得をあきらめベッドに転がる。
54 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月07日(月)22時09分16秒
天井を見上げると、淡い茶色のランプが点灯している。

「矢口さぁ〜ん…私眠れないよぉ〜…。
優しい温もりが欲しいのっ…。」

しばらくすると、不気味な歌声が口をついて出てきた。

「言葉をー忘れーたーカナリヤーが空を飛ーぶー
もう一度ー会ーいたいーなとー」

どうやら今の心境にピッタリの曲が決まったようで、
"その歌声"でも戸惑うことなく続ける。

「ひーとりでー泣ーいてちゃーあたーまがー疲れるかーらー
うーちゅうにーでーんわーしーたよー、オーイェー……」

これによって、警備員の無線が壊れたかどうかは定かではないが、
耳を塞いだのは見るまでもない。
55 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月07日(月)22時09分57秒
「あーなたをー抱ーきしーめー派ー手にやーらせてー
とーきどーきーキーレイーなー言ー葉ー吐ーいてー……はぁ…。」

大きく息を吐き出した。
何度電話しても繋がることはない。
だんだん悲しくなってきて、目がウルウルし出した。

「ううっ……ヤグチさぁ〜ん……寝れないよぉ〜……
ステェ〜イウィズミ〜…19にも〜なった〜のに〜……」

2時間後。

「zzz…zzz…zzz…」

おもいっきり寝てたとさ。

そしてそのまま眠りに着いた石川は一向に起きる様子がなく、
起きた時は既には15時を回っていた。
56 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月08日(火)22時26分26秒
なにやら視界が明るい。
太陽の光より、もっと人工的な…。
しかも妙に寝苦しい体勢。

「っ…何処ぉ…?」

改めて目を見開いてみる。
ぼやけた視界が徐々に鮮明になっていくと、
何となく見たことのある鏡に、
眠そうに座っている自分と、よく通っていた美容室の店主、
そして、黒いスーツのメンインブラックが映っていた。

『おはよう、梨華ちゃん。今日お見合いだってねー。』

「お、おはようございます…。???」

何がなんだか分からない。
どうして自分がここにいるのか
何故今毛染めされているのかサッパリ分からなかった。
57 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月08日(火)22時28分22秒
「あの…私、なんでここにいるんですか…?」

『なんか、寝たままでいいから髪の毛黒くして切ってくれーってねー、
後ろにいる館の使用人さんが連れてきたんだよー。』

「えっ!???」

よくよく確かめてみると背中につくほどだった髪が
肩の辺りまで短くなっている。
しかも身体は椅子にガンジガラメにされて
身動きすら取れない状態。
店主を見てみれば、胸ポケットに諭吉の端が見え隠れしていた。

(買われたの?…どうして?)

高校のときの楽しい思い出がよみがえる。
ファッション雑誌を手にここに通って
あーだーこーだーと、この店主と髪型について熱く語っていた頃の事を。
58 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月08日(火)22時28分53秒
「……。」

『梨華ちゃーんそんなに落ち込まないでよー。良いように出来てるからー。
もうすぐ頭洗って終わりだからねー。』

それから、美容室で石川が口を開くことはなかった。

縄を解かれ立ち上がる。
服はいかにもお見合い的なお嬢様チックな服に着替えさせられていた。

美容室の去り際。
スモークの張った黒いベンツのガラスに映る
沈痛な面持ちの店主を見て、勝手な振る舞いをする親に憤りを覚えた。

ベンツは、"お嬢様"を拘束をしたまま見合い会場へ向かっていった。
59 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月09日(水)10時08分54秒
梨華ちゃん絶体絶命か?!
メンインブラックどもには勝てないのかぁ〜?!
勝てないよなぁお嬢様だからなぁ〜w
60 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月09日(水)21時46分44秒
17時

実家と遠くはなれた街にやってくると、
日本庭園がライトアップされた高級料亭の前で車が停まった。
強引な話もココまでくれば立派な物である。
娘が帰省すれば拘束をし、見合いまで強引に行おうというのだから。
半ばやけくそになっていた石川。
MIBに『トイレ』とだけ告げ、少しでも寄り道してやろうと向かう。
さすがのMIBも女子トイレの中に入ってくることはできず、
しかしすぐ外に陣取って、背中で両手を組んでいる。

「はぁ、まいったなぁ…。ん?財布は入れておくのねぇ…。変なの。」

今まで気づかなかったのもおかしいが、石川のポケットには財布と携帯電話が入っていた。

「財布が有ってもなぁ……。携帯圏外だし…何処なの…?ここ…。」

洗面台の当たりをウロウロする。

「そう言えば、さっきトイレ入ったところにタバコの自販機があったよね…
煙草でも吸おうかな。」

タバコ販売機には愛用のラーク1はなかったが
矢口愛用のラッキーストライクメンソールは有った。
61 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月09日(水)21時47分24秒
「矢口さんのにしよっ。なんか元気がもらえそうな気がするっ。」

ジッポもなかったので自販機で100円ライターを買った。
そして石川はトイレに入って座り込み紫煙を吐き出し始めた。
まるで不良生徒のようだが、不満が溜まっているのは同じか。

「う〜ん…。手元にあるのは見合い写真と財布とタバコとライターと無意味の携帯…。
どうにもなんないかなぁ〜…。」

すると、隣りのトイレに誰か入ったようである。

「…どうしよ…。」

ふと、石川は矢口に少し前に言われたことを思い出した。
マッド梨華の発生についてである。
ある条件下で彼女は出現する…。

「…隣りの人に頼もう…。」

石川は隣りトイレから人が出てくるのを待ち構えた。

「あのっ、すいません。」

何事だ?という顔をする中年の女性。

「御願いがあるんですっ、あの、私これから政略見合いされちゃうんです…
もう親は絶対結婚させる気で…私の気持ちなんて無視なんです。」
62 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月09日(水)21時48分58秒
見ず知らずの他人に自分の事情を話すのはリスクがあった。
その頼み事を聞いてもらうのに一か八かの賭けだった。
いきなりそんなこと言い出す奴の相手を
真面目にしてくれるかどうか…。

「…を御願いします、ここで待ってますので買ってきてくださいっ。」

そう言って頭を深々と下げた。

その女性に金を渡そうとすると、その女性は金を受け取らなかった。
聞くところに寄れば、その人は昔、許婚を蹴って駆け落ちしたのだという。
その頃の自分に石川が重なって見えたようだ。

女性は石川が話した以上の話は聞こうとせず
すぐに買ってきてくれた。

そして、深く女性に感謝をしてその20分後
石川はやっとトイレを出た。

『オジョウサマ、シナイハズデハ?』

「はぁ〜!?誰がそんなこと言ったんだよ!?
するに決まってんだろー!?ブリブリーだよ!アヒャヒャ!!」
63 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月10日(木)22時22分26秒
有線で琴の音が流れている和室の空間。
すでにその場所には石川と相手の両親、
そして仲介人の中年男女と、肝心の御曹司が待っていた。

MIBが先に入り、石川が来た事を告げる。
それに続いて出てきたのは顔を真っ赤にして陽気なマッド梨華だった。

「アハッアハッアハッ♪Dカップ梨華ちゃんでぇす♪
イイコトしてくれるのはアナタぁ〜?今日はよろしくねぇ〜♪」

唖然。呆気に取られた両陣営。

「あ〜、なんかツマミないのぉ〜ツマミぃ〜。普通用意するでしょうがぁ〜、ヴォケェ〜
キャハッキャハッ。」

『梨華、何を言ってるんだ?そんな赤い顔をして!』

「あー?バカオヤジぃ〜、アタシだってねぇ〜飲みてーときがあんだよぉ〜アハハハ♪
誰が好きで見ず知らずのおっさんと見合いしなきゃなんねぇんだよー、アハハハッ。」

よくよく見合い相手を見てみると
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
しかも、見合い写真は合成か?思えるほどだ。
禿げデブ眼鏡オヤジ…。
64 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月10日(木)22時24分45秒
「おいおいおい、勘弁してくれよ〜♪何でこんなにキッショイんだよー♪
禿げだしデブだし眼鏡の縁太いし、キャハハハハ♪なに?なんか食いもんくれよなぁっ。
メシ食うまでヤニでも吸ってっかぁ〜。ってかー吸い付かれるのが好きなんだよねーアハハハ♪
あんた上手いのっ?そうそう、アタシ淫乱なのよぉ〜淫乱♪」

一方的マシンガントークと、灰皿もないのにタバコをふかし始める石川。

『やめなさいっ!梨華っ!』

見合い相手の手前、強引な事が出来ない親。
それに気づいてか、より一層の悪態をつく。

「おい、はげぇっ、お前だよお前、なに?19の娘コマして何やろうとしてんだよー
ロリコンヤロー、おめぇヤベーよ、犯罪だよ犯罪。
わかる〜?キャハハハハっ♪オエッ…ゲップ!」

禿げと言われたその男は目を虚ろにしながら
オシボリで光ってる部分を拭き拭き。
その母親は眼鏡を整えながら口をパクパクしているが、
イカレまくっている石川を見て声を失ったようだ。
65 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月10日(木)22時25分21秒
「どうせチェリー君なんでしょぉ!?アタシ上手い人じゃないとヤなんだよねぇ〜。
短小包茎はタートルネックのセーターを鼻の辺で着てろよ!
こんな奴のせいでアタシが不感症になったら…
梨華、悲しすぎるっ!!キャハハハ!!」

どこかで聞き覚えのある笑い方。
誰かに似ている。
というより、模倣なのだ。
そう、これはまさに矢口のソレである。
口の悪い矢口が相手だとしたら、
たちまち向こうは怒り出して…

ドン!!

切れた、見合い相手が切れた。
狙い通りだった。

『この件はなかった事にさせていただきます!!』

そう吐き捨てて御曹司は去っていった。

「バイバイ〜ロリコンキショ男ぉ〜♪キャハハハッ♪ゲップ。」

『石川さん!!御宅への献金の話はなかった事にさせていただきますよ!!』

そう言って、相手陣営は全てその場所からいなくなった。
66 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月10日(木)22時26分07秒
「バイバ〜〜イ♪キャハハハっ。」

そこは両親と石川の空間。

「フゥ…ねぇ、分かってくれた?本気で私は見合いなんてしたくなかったの。」

『…るな。』

「ん?なんかいった?パパァッ♪」

『お前はもう私の家のものではない!!二度と顔を見せるなっ!!』

「アハッ…そう…勘当って事ね…。うん。しょうがないよね、寂しいけど
私自分のやった事後悔しないから…バイバイ、お父さん、お母さん。」

その言葉を終えると、石川は即座にその場を去っていった。
涙が止まらなかった。
政略に使われた事もショックであったが
こんな方法しかできなかったこと、
勘当されたこと。
67 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月11日(金)09時38分23秒
( ゚Д゚)ポカーン 梨華ちゃん・・・カアイソー
(´Д`).。oO(石川家の両親糞だな)
・゚・(ノД`)ノ・゚・ 続きがんがって!
68 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月11日(金)22時18分32秒
会場を出ると、そこには妹がバイクスーツに身を包んで立っていた。

「あれっ…?どうしたの?」

一生懸命に涙を拭い、何事も無かったかのように装って
すぐに作り笑顔をする。

『どうしたの、じゃないでしょ、いいかげんあんな様子見てたら
誰か他に好きな人がいるって分かるもんじゃん。』

「もしかして…財布と携帯入れたのって…?」

『そう、私。ほらっ、おねぇちゃんのバッグ。』

放られたバッグを受け取ると
立て続けに物が飛んでくる。

『帰るんでしょ?ほら、ヘルメットも持ってきたから。』

「……アリガト。」

そして石川は妹の背中にしがみ付いて、近くの駅までバイクで向かった。
この感覚、いつもしげるの後ろに乗ってるそれと同じだ。
69 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月11日(金)22時19分13秒
「あたし…お嬢様演じるの、もう疲れちゃったよ…」

フルフェイスのヘルメットを被った2人では
互いの声が聞こえるはずもない。

「今は好きな人と好きなことができる……
お金持ちとかじゃなくても…そっちのほうがいいよ…。」

マスク越しに頬擦りした背中は
柔らかく逞しかった。

(いつの間にこんなに大きくなったんだろ…、私も強くならなきゃ…。)

バイクを降りて駅の前に立つ。
駅名を見ればそこは東京都内だった。
70 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月11日(金)22時20分03秒
『おねーちゃんさぁ、真面目すぎるんだよ、きっと。』

「えっ?」

ヘルメットを脱いで一息ついた妹は
突然そう言ってポケットを弄った。

『これ、餞別。お母さんがね、どうせ必要になるだろうからって…。』

「餞別…?」

そう言われて渡された茶封筒を受け取り
中身を確かめると、小切手が入っていた。
当面は困らない額、もう親でもないはずの人から貰うのは憚られる。
しかし、甘んじて受け取った。
籠から飛び出すための助走は必要だ。

『お母さんも分かってたみたいだよ。こうなるって。』

「そうなんだ…。」

『自分の好きな道を歩みなさいって伝えてってさ。じゃ、私
これからデートだから♪困ったら私の携帯に電話してね♪
お母さんに伝えとくから♪』

「うん、アリガト…。」
71 名前:第12話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月11日(金)22時20分43秒
『お父さんもきっと分かってくれる時が来るよ…。』

そう言って再びヘルメットをかぶって颯爽と去っていく。
その姿を見送り、石川は駅の中へと向かっていった。

「えっと、駅まで230円…か…。お土産…忘れちゃったな…。」

そんなとき、石川の携帯が久しぶりに鳴り響いた。
取り出してみると、ずっと求めていた彼女の文字が示されていた。

「矢口さん…どうしたんです…あれっ…?誰ですか…?」

聞いたこと無い声が向こうで何か言っている。
でも確かに矢口の名を表示した携帯。

「うそ…。」

そして、その電話の内容は
確かに矢口に関しての要件だった。
72 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年10月11日(金)22時22分40秒
これで12話は終了です。
13話も内容が続きなので、休み無しで明日から開始します。
73 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年10月12日(土)23時20分01秒
>>26
はい、13話まで連日で更新を行います。
>>51
これからおいおいわかっていくかもしれません。
>>52
石川の考えることですので。
>>59
マッド化が早ければ勝てたかもしれません。
>>67
まもなく13話開始です。
74 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月12日(土)23時21分05秒
「やっとコイツと離れれるわ……どれだけ長かったことか…。」

どれだけ長かったって、
全身火傷から2週間で退院に至るとは信じられないことだ。
隣りで寝ている市井はまだまだ回復までに時間がかかるようで、
矢口の不死身さが際立つ結果となった。

「ふぅ……。どうしよう…。」

荷物を纏めて一息ついて考えてみたら、
アパートに帰ってもやることない。
残暑を凌ぐエアコンもない、DVDも見れない、ゴミも捨ててない。
家賃も払ってないし、足もない。
そして何より"財布が居ない"。
ナイナイナイ、もう止まらないーっ。じたばた(ry

「そうだよ…梨華ちゃん昨日実家に帰ったんだっけ……あっ!」

そういえば、昨日石川にお土産の催促の電話を入れてるのを
看護婦にバレて…

「携帯没収されてたんだ…。」

何か足りないと思ったら、いつもポケットに入っているはずのそれだった。
75 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月12日(土)23時22分13秒
「帰るんならさっさと消えなさいよ!」

もたついている矢口が目障りだったのか、
カーテンの向こうから罵声が飛んでくる。

「うっせーよ!今帰るところなんだよ!!
あっ、はは〜ん…。」

「はは〜んって何さ?」

「ヤグチが居なくなってちょっと寂しいんだろ?」

「んなわけないでしょ!?ウザい奴が消えて快適さっ!」

「どうだかねー、ヤグチが居ないと暇なんだろ!?」

「とっとと失せろ!ドチビ!!」

「ムカッ!」

普段使わないデカいカバンを肩に下げて
オヤジっぽい弾み声と共に立ち上がる。
向かうはナースセンター。
76 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月12日(土)23時22分58秒
『病院で携帯電話使っちゃいけないなんて常識ですよ?』
「はーい。すんませーん。」

反省の色は少しも見当たらない。
それどころか、天敵に置き土産を残していこうとしているのだから
転んでもただで起きない女である。

「そういえばー、隣りのベッドの市井さんも携帯使ってましたー。
それとー、『看護婦が(゚д゚)ウザー』って言ってましたー。」

呆れた表情で市井のところへ向かう看護婦を見て、
悪どい笑みを浮かべて去っていった。

「けけけっ!!」

誰も居ないエレベーターを降りて、
待合室の前を通ると午前中から
たくさんの人がテレビの周りで椅子に座って
自分の名前が呼ばれるのを待っている。
よくよく考えてみれば、退院するのに迎えも居ないのは寂しいもんだ。
自動ドアの横で、久しぶりに自腹で缶ジュースを買った。
ふとテレビを見ると、画面端に
横浜:晴れとマークが映っていた。
77 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月12日(土)23時23分52秒
「そうだ、京都に行こう…じゃなくて、地元に帰ってみるか…久しぶりに。」

幸い、病院で無駄遣いすることもなく
財布の中にはまだ給料がほとんど丸々残っていた。
普段元気な人ほど案外寂しがり屋なもので、
例に漏れず矢口もそうなのかもしれない。

何台か停まっているタクシーの前を素通りして
駅行きのバスに乗り込む。
病院からの帰りにあたる車内は
ポツリポツリと座席が埋まっている程度で、
矢口は窓際の席に腰を下ろした。

ガリガリと鳴るバスのエンジン、
普段原付ばかり乗っているから
久しぶりにこの音を聞いて、何だか懐かしさが込みあげてきた。
78 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月13日(日)23時17分38秒
――――――

バスの窓を開けると
慰めの風が爽やかに吹きかけてくる。
揺れる黒髪が目に掛かると
重く張り付いて離れようとしなかった。

『サヨナラ、だね。』

ポツリと呟いた相手は誰でもない。
ポケットに財布をひとつ詰め込んで出ていくこの街、
そして矢口真里にサヨナラ。

窓を閉めると海の香りは薄らいでいった。

――――――

たった少しの間眺めていたそこからの風景が
ミラーコーティングされたビルの中に浮かんだような気がして
窓を開けてみた。
無機質で無感情な空気に
淡い思い出もかき消された。
無論、そのために故郷を飛び出してきたのだから、
でも、矢口の中に突然、
一掴みの捉えようの無い感情が湧き出してきたのも事実だった。
79 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月13日(日)23時18分14秒
鮮やかな金髪が都会の空気に乗ってフワフワと揺れる。

「あー…なんだよ、腹痛ぇ…」

久しぶりの外の空気に不順応を起こしたのか、
刺すような痛みに苦悶の表情を浮かべながら
時が経つのを待っていた。


切符販売機の路線図を見上げ少し溜め息。
他人の財布ならば、迷わず特急券を買うのだが、
自分の財布となるとそうはいかない。
ただ、矢口が金で悩むことはほとんどない、色んな意味で。
石川には高いものをねだり、自分では一番安いものを選ぶのだから。

ということで、片道3時間の道のりを
お世辞にも"青春してます"とは言えない矢口が
近くの金券ショップで買った
18切符で帰ることとなった。

「3時間なんて寝てればあっという間だし。」
80 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月13日(日)23時19分13秒
とは本人の弁。
駅弁を買って電車に乗ると
即座に食事を開始し、終了後、眠りに入った。
が、如何せんシートが硬い。

「畜生…これじゃ腰が崩壊だ……どうしたものか……あっ!!」

閃いた!

「カバンの上に座ればいいか……お、OKOK!」

その程度だった。
カバンの中でピンク色のクマさんが圧死寸前だということも忘れて、
ようやく手に入れた快適スタイルにご満悦で目を閉じた。

やたら座高が高く、しかも上を向いて口を開いて寝ている様は、
例え矢口が金髪でなくとも目を引いただろう。

「ガァ〜、グッ、ガガガァ〜〜〜。」

19の女が公衆の面前で大イビキ。
客は失笑や迷惑な表情を浮かべていた。
知らぬが仏と言うべきか、
まぁ、矢口ならそんなことも気にしないだろう。

「…ふにゃふにゃ……そろそろかな…?」
81 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月13日(日)23時20分14秒
ノーメイクの目を擦って辺りを見回す。
何となく覚えのある景色に冷や汗が噴き出たが、
駅名を確認するとそれどころではないことが分かった。

『扉が閉まります。閉まる扉にご注意ください。』

「…げっ!!着いてるし!!しかも発車しそうだし!!
ちょっ、ちょっと待ってっ!!!」

グキッ

ヘンテコな体勢で寝ていたことがアダとなり、
急に動いた瞬間、イヤ〜な音と共に床にへたり込んだ。

「イテテテッ…ちょっと待って…車掌さん…待ってってば…」

『お客さん、こんなところで寝ないでくださいよ?』

「違うってば……腰が…腰がグキッって…」

車掌に支えられて降りるころには
すでにホームはガラガラ。
ピンク色のクマさんの怨念恐るべし、
いや、石川の呪いか…。

とりあえずまともに歩けるようになるまで
ベンチに座って一服することにした。
どうせ目的もなく帰ってきたのだから、
時間を気にする必要もない。
82 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月14日(月)23時02分48秒
「しっかし、ジャリうるさかったなぁ、寝られなかったじゃんか。」

しっかり寝てたじゃないですか。

「あー、畜生…帰ってきてもロクなことないな…。」

一年半ほど前は
タバコなんて吸うこともなかった。
結構真面目に学校行って、
塾にも通って勉強したのに。
受験に失敗して彼氏と別れてこの街を飛び出そうと決意した。
バスで駅に来ると
少し悪ぶって自販機でタバコなんか買って。
ライターがないことに気づいて
恥ずかしそうに売店で買ったのも覚えている。

ここの来ると同化してしまうのか。
昔の自分に顔向けするのが気まずかったのに、
ここの空気が媒介になって
僅かながらにあの頃の気分を取り戻していた。
83 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月14日(月)23時03分23秒
でも、実家には帰りたくない。

あそこは嫌だ。

「帰ってもなぁ…どうせ受験がどうこう言うんだろうし…。
ミキばっか可愛がるしなぁ…。」

親は無理矢理お嬢様にしようとした。
高校もお嬢様学校、
入りたくもないのに必死に勉強させられた。
そして、予備校に通うという口実の元
実家を離れたのだった。

蘇ってくるのはいい思い出だけではない。
複雑な気分が矢口を苛む、
とその時、ポケットの中で携帯が震えた。

「…なんだ?こんな番号知らないけど…。」

家出して初めて買った携帯。
携帯とは言ってもPHSなのだが、
おかげで昔の友達の番号は1つも登録していない。

「ま、いいか…。」

切ってポケットに仕舞い直すと
またすぐに着信する。
84 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月14日(月)23時03分54秒
「なんだよっ、名を名乗れ!」

今度は少々苛立ちながら切ると
すぐさま同じ番号が…

「くそっ!!…もしもし!?」

『真里っぺ』

「はぁ!?」

イタ電にしては、自分の名前を呼んでいるではないか。
しかし、そう言ったきりそれ以上何も言わない。
不気味すぎる。


(第一、真里ッぺってなんだ、真里っぺって…そんな風に呼…。)

一先ず冷静を保ってみる。

「誰?」

『……。』
85 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月14日(月)23時04分24秒
誰も居ないと思っていたホームを
キョロキョロと見回すが、やっぱり誰も居ない…
いや、居た。
ホームの端の階段のところに。
目を凝らして見ると
すぐに誰だか分かった。
中学・高校とずっと一緒だった…

「明日香!?」

『…アタリ。』

でも、矢口がいくら手を振っても
全く反応がない。
いくらちっちゃいからって、それくらいは判別可能な距離である。

「何やってんの、そんなとこで!」

忙しなく荷物を背負ってベンチから立ち上がるころには
何とか歩けるほどにはなっていた。
ホームの中ほどから端の階段まで歩くと
だんだんとその姿が近づいて…こない。
86 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月14日(月)23時04分55秒
「逃げるなってば!」

そう言っても、矢口と同じスピードで遠ざかっていく。
なんでだろー、なんでだろー。

「何で逃げるんだよ!?」

『……確信が持てないから。』

「さっき真里っぺって言ったでしょ!?」

『当たってる…よね?』

「アタリアタリ!だから逃げるなって。」

『ぁゃιぃ…。』

「ぁゃιぃのはどっちだよ!!」
87 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月15日(火)23時06分30秒
階段の中ほど辺りでようやく距離が縮まってきた。
デカいカバンが、走るごとに背中をドシッドシッと打ち付けて
真直ぐ走るのだけで精一杯。
よく考えれば、あのぬいぐるみがなければ
もっとコンパクトに纏まったものを…。

「ハァハァ……やっと追いついた…。」

「お疲れさん。」

「明日香が逃げなきゃ疲れなかったよ!」

考古学の研究のために大学に通っているという
そのコの名前は福田明日香。
中学の頃は矢口よりも少し背が高いくらいだったのに、
今では完全に顔半分ほど抜きん出てしまった。
あの頃よりだいぶスリムになって女らしくなっている。

「考古学!?…って…何やるところなの?」

「恐竜。」

「ジュラシックパーク?」

「発掘。」

「あそう。」
88 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月15日(火)23時07分03秒
特徴は、言葉少なで冷静に分析すること。
さっきも電車で、奇妙な人間を見つけて
ずっと観察していたのだという。

「なんか…上向いて口開けて寝てたから…。」

「へぇ〜……ん?」

「乗り過ごしそうになって…慌てて起きたら腰痛めたみたいで。
無声映画みたいで面白かった。」

「それヤグチじゃん!!気づけよっ!!助けろよっ!!」

「危なそうな人だった。」

「はぁっ!?」

残念ながら、矢口を観察しても
特に得るものはなかったようだ。
89 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月15日(火)23時07分49秒
「真里っぺは…何してるの?」

改札を抜けて地上に到着すると
曇り空の隙間を縫って、淡い西日が射していた。
その元を二人、同じ歩調で進むと
いやが上にも学生時代と重ねてしまう。
長い黒髪を二つ縛りにしていた頃を、
長い制服スカートを履いていた頃を。

「今?…フリーター。」

「フリーター…。プータロー?」

「そう、バイトはしているけどね。」

「予備校は?」

「大学はさ…もう諦めたんだ。
別に、勉強したいこともないし。」

いいところだけ思い出したい。
都合よくいくかどうかはその時次第だが、
地元で一番仲のいい相手に
変な態度で接するのも抵抗があった。
90 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月15日(火)23時08分25秒
「それ…」

「ん?なに?」

「金髪…似合ってないよ。」

「そういうこと、結構ハッキリ言うよね、はははっ。」

外見は意識して遠ざけようとしたが、
中身はここに戻ってきた瞬間から昔の矢口真里だった
…例え金髪であったとしても。
そのギャップに、『似合わない』と言ったのだろう。
矢口自身も、そのことは何となく分かった。

「楽しい?」

「何が?ってか、主語を省略しすぎ。いつもだけど。」

「生活。向こうでの。」

「生活か…。」

アリーナの手前の交差点が青信号に変わると
俄かに群集が動き出す。
二人もそれに従って歩いて
どこに行くとも決めないまま周りの風景を変化させていった。
91 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月16日(水)23時03分38秒
「まぁ、それは追々話すとして…。
明日香、この後暇?」

「暇…だけど?」

「じゃあ、再会を祝して飲みに行こう!」

「…いいよ。」

「明日香んちに。」

「ウチ?」


ガラガラの店内。
そりゃそうだ、定休日なんだから。

「ちょうど良かったじゃん。貸切ってことで。」

福田の家はスナックをやっていて
昼間はダンスホールとして解放している。
普段なら会社帰りのサラリーマンが居るような時間だが
今日はこの二人の貸切となった。
矢口の親と福田の親は仲が良くて、
どうもお嬢様高校に入れたがったのもそれが影響していたようだ。
92 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月16日(水)23時04分16秒
カウンターに座って、タンブラーを傾けて軽くぶつける。
ビールを一気に飲み干す矢口に対して、
福田は一口だけ飲むと店の奥に消えてしまった。
ジュージューと食欲をそそる音と共に
香ばしい匂いが流れてくる。
そういえば、病院の食事以外を口にするのも2週間ぶり。
いや、駅弁を食べたが、あれはどちらかと言うと流し込んだに近いか。

「おおっ、焼きうどん!いやぁ、気が利くねぇ。」

一口食べると香ばしい醤油の味が口いっぱいに広がる。
同じ焼きモノ麺類でも、誰かが作った焼きそばとは大違いだった。

「トイレの臭い?」

「そうっ、何か、トイレの臭いなんだよっ。何でもトイレ臭いんだ。」

「へぇ。」

酒が入った矢口はだんだん饒舌になって、
話すつもりのないこともポロッと零してしまう。

「でもね…焼きそばなんかどうでもいいんだよ。
向こうで一番最初に仲良くなったんだし…。」
93 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月16日(水)23時05分37秒
本人の前では言わないし、言えない。
でも、昔の矢口真里は今の矢口真里を客観的に捉えてくれるから、
福田の前ではそんなことも言えてしまうのかもしれない。

「黒くてさ…アニメキャラみたいな声で…お金持ちだけど
そういうのは問題じゃなくて…。
結構さ…寂しいんだよね、居ないと…。」

泣き上戸の矢口は、ビールを3杯飲んだところで
やはり鼻をすすりながら独り言のように
ひたすら喋り続けた。
福田は物凄く酒に強いので、
そんな矢口を観察しながらも相づちを打つ。

「実はさ…今朝まで入院してて…
ほとんど毎日見舞いに来てくれてたんだけどさ…
昨日実家に帰っちゃったみたいで…。」

「入院してたの?」

「全身火傷だったんだけど…」

「全身火傷って…。どこが?」

「もう火傷の跡は無いよ。」

「トカゲの尻尾…。」

「何それ。」
94 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月16日(水)23時07分13秒
カバンを引きずって近寄せると
全開にして"あれ"を取り出した。
そして福田は、固まった。

「これさ…プレゼントって言って持ってきたんだけどさ…」

「趣味…悪いね…。」

「そう、趣味悪いんだけど、横に置いとくと
寝るときにちょうどいいんだよ…。」

これが矢口の本音だ。
ということは、石川の思い通り。
普段、矢口がそういう素振りを見せないから
不安になった石川の行為がどんどんエスカレートするのだ。
これを聞かせてやれば小躍りして喜ぶだろうに。
95 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月17日(木)02時46分57秒
献金と言うことは石川の親は国会議員ですか・・・。
日本の政治家にはろくなやつがおらん!!
96 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月17日(木)10時01分12秒
「その人…かなりアレだね…。」

「アレ?…うぐっ…」

「まぁいいや…。名前は?」

「……イツッッ……」

「五つ?」

「いたた…やばい…。」

「板田?矢倍?どっちが苗字…?」

さっきからずっと俯き加減で話していたから
気づくのが遅くなったが、
どうも矢口の様子がおかしい。

「違う…って…。」

「どしたの?」

「…腹が痛い…。」

「トイレ行く?」

「いや……そ、そうじゃなくて…」

スッと席を立ってカウンターの向こうに回る福田。
冷静沈着な性格はこういうときに物を言うのだ。
97 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月17日(木)10時01分45秒
「あ、救急です。腹痛で。はい、急にです。住所は……」


数分後、到着した救急車に乗せられて
またもや病院へ。
早く回復しすぎた天罰か、はたまた普段の行いが悪いからか分からないが。

「…明日香……梨華ちゃん呼んで…ううっ…」

腹痛で、意識もあることから、焦るまでにはいかなかったが
矢口はかなり大袈裟だった。

「氏ぬ…」

「氏なないって。」

「マジで氏ぬ…。」

「だいじょうぶだよ。」

「ううっ…諭吉の絨毯に転がりたかった…
イケメンハーレム作りたかった…。」

「意味あるの?それ。」

「イッタァ〜イ!!氏、氏ぬぅ〜〜!!」

「だから大丈夫だって。」

「氏ぬよ…梨華ちゃんを…」
98 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月17日(木)10時02分30秒
偽の遺言を吐いて、矢口は治療室へと運ばれていった。
残ったのは荷物だけ。
ピンクのクマさんが、やたらオーラを醸し出しているのは
気のせいではなさそうだ。

「梨華ちゃんって…誰?」

整理という言葉に全く無頓着な矢口だから
カバンの中身も、ほとんどの物がミックスされて
何がどこにあるのかサッパリ分からない。
嫌がる手を無理矢理突っ込んで
とりあえず携帯の在り処を探し出すことにした。

「これは…香水…。」

「充電器…。」

「ストパーセット…。」

「リモコン…なんの…?」

「バイブ…へぇ…。」

「あった。」

「とりあえず…オバサンに電話して……」
99 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月17日(木)10時03分00秒
ようやく見つけたそれを開くと
まず目に飛び込んできたものは
"梨華ちゃん 着信6件"の文字。
そして…

「…実家の番号入ってないし……。」

そういえばさっきから"梨華ちゃん"という名前を連呼していた。
本来なら、若干人見知りな福田が
知らない人に電話することなどありえないのだが、
こういう状況ではそうも言ってられない。
律儀に病院の外に出てその番号をコールすると
3回も鳴らないうちにすぐ繋がった。

『矢口さん!?何やってたんですかぁ!?』

「あ…あの…」

『あれっ?……誰ですか?』

なるほど。
アニメ声のこの人が、矢口が言っていた人だ。

「真里っぺの友達だけど…救急車で運ばれたから…」

『…うそ……』
100 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月17日(木)23時10分55秒
     ◇     ◇     ◇

「矢口さんっ……もうっ……ばかっ……。」

その知らせを受けた石川は
ホームから駅の外へ飛び出し、すぐさまタクシーを拾った。
電車を待つ時間すら惜しい、
そう考えれば長距離のタクシー代なんか全然気にならなかった。

「何で…いつも石川のこと振り回してばっかり……」

確かにその通り。
だが、逆に言うと、振り回されてばっかり、である。

夜も更けるとオフィスの明かりも消えて
残り輝くのは煌びやかなネオンと看板だけ。
ガラガラの3車線の道路を
石川を乗せたタクシーだけが速度を上げる。
ひとつ先、またひとつ先の街灯を目指して。

「矢口さん……氏んじゃイヤっ……氏んじゃイヤだよっ…」

泣きそうになるのをぐっと堪えて、ひたすら祈った。
101 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月17日(木)23時11分36秒
「氏ぬわけないでしょ?盲腸だもん。」

「いや、自分で言ってたから。」

治療室から手術室へ移された矢口は
程なくして元気な顔で出てきた。

「…まぁ、テンパってたのは事実だけど。」

結局、今日退院したばかりの矢口は
同じ日に違う病院でまた入院ということになってしまった。
ひっそりと静まり返った病院内に聞こえるのは
能天気な笑い声と、バタバタという足音のみ。
病院の廊下は走っちゃいけません、ということを知っていても
どうやら抑えきれない感情が急がせるようだ。

「しっかし…あれだねぇ…。救急車で運ばれたのに誰も駆けつけてこないとは…。
誰も呼ばなかったの?」

「呼んだよ。梨華ちゃんって人を。」
102 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月17日(木)23時12分11秒
「マジで!?何で!?」

「呼べって言ってたからでしょ。」

「あー、言ってたかなぁ…。」

マジかどうか確かめるまでもなく、
廊下に響いていた足音が途絶えるとその人が姿を現した。

「ハァハァ……矢口さんっ…ハァハァ……あっ!」

けろっとした表情の矢口を確認すると
全身の力が抜けて、その場にへたり込む。

「よかったぁ……矢口さんよかったぁ……」

「ちっともよくないよっ。また入院だよっ!?」

「それくらい……命と比べれば……はぁ…。」

コイツは何を言っているんだ、という顔で福田を見ると
いつものポーカーフェイスが若干濁った。
103 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月18日(金)23時33分54秒
「"腹痛で"運ばれた…って言ってなかった…。」

「明日香、それ言わなきゃダメじゃんっ。」

「…ほぇ?腹痛…って…」

素っ頓狂な声をあげる石川の頭は
最悪の状況→一命を取り留めた
という風になっていたようだが、実際は
やや悪い状況→スキーリ
だったから、そのギャップたるや凄いものである。

「盲腸だよ。急に痛くなっちゃってさ、手術してスッキリ。」

「……バカ…」

「ん?」

「バカーっ!矢口さんのバカーっ!!」

このベタな恋愛物のやり取りに強烈な寒気を感じたのか、
福田はさっさと退室し、石川の後ろに移動した。
まったく。という顔で自販機のコーヒーを購入した。
104 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月18日(金)23時34分28秒
「バカって何だよっ!なりたくて盲腸になったわけじゃないんだよっ!!」

「石川を…心配させないでよっ…ばかっ…。」

「ごめん…。」

ここで終えておけばいいものを、
好奇心は何事にも勝る。

「あの…矢口さん……手術したんですよね…?」

「そうだよ。」

「もしかして……パイパ……キャッ♪
つるつるっ?ツルマン?イヤ〜ン♪」

「カマトトぶってんじゃねーよ!!
……あー、腹減った…。」

福田としてはこのいい感じに臭い会話を
もうちょっと楽しみたかったところだが
医者がやってきてお開きとなってしまった。
105 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月18日(金)23時35分04秒
『矢口さん、まだ何も食べちゃダメですよ?』

「えーっ!?マージっすか!?」

『ダメです。オナラが出てからですよ。』

オナラ
その言葉に顔を赤らめる石川には
あまり関係ない"はず"の言葉ではあるが。

「残念でした〜っ♪あ〜あっ、あたしお腹減ったなぁ。
あ、あの…明日香さん…ですよね?
ラーメンでも食べに行きませんっ?矢口さんはほっといてっ♪」

「おいっ!!ほっとくなよっ!!」

これはこれで上手く均衡が取れた関係なんだろう、
福田の頭の中で想像したこの2人の関係はあまり当てはまらなかった。
本音は隠しておいても滲み出るものなんだろう、と。

「ラーメン…いいよ。」

ブリッ!…ビチビチ……
106 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月18日(金)23時35分45秒
「「「!!!」」」

「……ヤグチ…じゃないよ…?」

「い、い、石川でもないですよっ!!」

「じゃあ…明日香…?」

「違う。」

さっきまでの暖かい雰囲気は
一瞬にして消え去って、残るのはうごめく謎。
"ウルトラQ"のオープニングみたいに
ウネウネと渦を巻く空気である。

「……。」

矢口の冷たい視線が
とある人物にブッ刺さっているのは本人も気づいているだろう。

「や、やだなぁっ♪石川"しない"ですよっ♪
ほら、靴が床に擦れた音じゃないですかっ!?
……あれっ、音が出ない…あれっ……。」

「いーやっ、今のは"実"が出かかった音だよっ。」

2人は、石川の後ろで虚ろな目をしている福田に気づくことなく、
延々とお粗末なやり取りを続けていた。
107 名前:第13話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月18日(金)23時36分22秒
「どうなんだよ!?"する"のっ!?"しない"のっ!?」

「いやぁ…デリケートな問題ですから……」

「どんな問題だよ!!」

1週間後
ようやく病院のお世話にならなくなった矢口は、
真偽を確かめるために福田に電話した。

「やっぱ梨華ちゃんだったでしょっ!?」

『あれは…違うよ…。』

「何でよっ!?明日香、モロに喰らってたじゃんかっ!」

『別物だよ…もっと…何ていうか…』

「?」

『考古学で言う、ある種のティラノサウルスの化石のような……
ファンタスティックでかつエキゾチックな香りが……』

不可解な謎は一生解けることはない…。
108 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年10月18日(金)23時38分05秒
以上で第13話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして14話を開始したいと思います。
109 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月19日(土)04時10分10秒
( ^▽^)<しないよ
110 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月25日(金)15時16分43秒
この小説ほのぼのしてて(・∀・)イイ!ですね。
なんかごく普通の日常生活の雰囲気を醸し出してるところが
他の小説と異なっていて、すごく気に入ってます。
登場人物のキャラもおもしろいですしね。
続きを期待してますのでがんばってください。
111 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年10月26日(土)00時51分38秒
>>95
政治家で間違いないです。
>>109
グレーゾーンで。
>>110
ありがとうございます。
まもなく14話を開始したいと思います。
112 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月26日(土)00時54分26秒
石川と矢口は久しぶりに松浦工業大前駅に戻ってきた。
自分の感覚に刻まれている匂いと色、
それに慣れるのに時間は要らなかった。

「ん〜〜!!気持ちいいねぇっ。帰ってきたねぇ〜〜。」

「そうですねぇっ。やっぱここが落ち着きますよねぇ〜…。」

「梨華ちゃぁん、バス使おうよー。バスー。」

「えぇっ。歩きましょうよー、石川、先考えてお金使わないといけないんですからー。
それにリハビリですよぉ〜リハビリぃ〜♪」

「だるいよー。散々病院内暇でウロウロしてたしー。暇なもんだから
外出て立ち読みもしちゃったしさー。ねぇっ、乗ってこーよー。」

「ダメですよおっ。」

「イタッイタタタタタ、傷口開いたっ!!いたいいたいいたぁぁぁぁい!!」

途端に腹を抱えて蹲る矢口。
あわてて、石川は心配そうに顔を伺う。

「だいじょうぶですかっ、救急車っ!!救急車呼ばなきゃっ!!」

「そ、それよりも…バ、バス…乗ってこうよ…。」

石川は呆れ返って腰に手を当てる。
ホッペを膨らませれば、分かりやすい不満を表すポーズの完成。

「んもうっ!!ふざけないで下さいっ!!」
113 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月26日(土)00時55分09秒
鈍く重い音が矢口の背中辺りで響く。

「いたっ!!マジでイタっ!!病み上がりなんだからーもう少し優しくしてよー。」

「はいはい、行きましょ。歩いて。」

「うぇ〜〜…わかったよー。」

段々涼しくなっていく風に吹かれ、
歩くのも苦にはならない。
町は相変わらず寂れてはいるが
秋らしさを感じさせるようになっていた。

「う〜…やっぱさーバス乗ってこーよー。矢口疲れたー。」

「もうっ。まだ言ってるんですかぁっ!!バス待ってるより
歩いて帰ったほうが早いですよー。」

石川は腕時計を矢口にこれでもかと見せていた。
普段から原チャリでばかり移動していたものだから、
もはや歩きで帰るのには億劫になっている。

「わかったわかった。歩くよー歩けば良いんでしょー。」

「そうですっ♪よろしいっ♪」

石川と、ろくに疲れていないのにヘトヘトのフリをしている矢口が
しばらく歩くと久しぶりにあの店の看板を見かけた。
114 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月26日(土)00時56分40秒
「梨華ちゃんっ!!あれっ!!マルゾロだよー!!」

「ちょっ、矢口さん!!は、はやっ!!」

ライフスタイルと言うべきか、
コソビニ=座り読みの習慣は健在。
矢口の叫び声に振り向いたときには、
既に突風のように走り去った後だった。

「もうっ…バリバリ元気じゃ〜なぁ〜い。うふっ♪」

置き去られた事よりも、いつもと変わらない矢口に
嬉しくなった。

石川がマールゾロのドアを開くと、以前と何も変わらない矢口の姿があった。
雑誌コーナーの前に座り込んで、片手に緑茶。
115 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月26日(土)00時58分16秒
「矢口さぁ〜ん。速すぎますよぉ〜。元気じゃないですかぁ〜。」

「ん〜…誰も元気じゃないとは言ってないよー。ってかさー
病院の近くのコンビニ品揃え悪くてさー。読みたかったんだよーコレー。」

その横で石川も久しぶりにマールゾロ連れ立ち読みをする。
これがまた、週刊女性の不倫記事だったりで。
が、意外な事に矢口は早急に本を閉じて立ち上がった。

「あれっ、もう読み終わったんですかぁ?」

「うん、ま、まぁねっ。もう行こうよっ。矢口歩きたくなった。」

「え、ちょ、ちょっとぉ〜矢口さぁ〜ん。先行かないでくださいよー。」

石川も慌てて本を閉じて、本棚に返して矢口の後を追う。
さっきまでゴネていたとは思えないほどに、
歩くことに意欲的だ。
116 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月26日(土)23時23分10秒
「待ってくださぁ〜いっ。」

やっと追いついた頃にはもうすっかりマールゾロの姿は見えなくなっていた。

「ハァッ、ハァッ。矢口さんっ速すぎですよっ、どうしたんですかぁ〜?」

「はぁ、はぁ、本に緑茶こぼしちゃった。」

「えぇ〜〜〜っ!!」

「アハハハハ、まぁいいじゃんか。」

「良くないですよー。石川買ってきますから、矢口さん鍵、渡しときます。
先行っててください。」

「あいよー。」

鍵をさっと受け取ると、スキップで家へと向かう矢口だった。

「もう…、尻拭いはいつも私なんだからっ。はぁ…。」

そして石川は、マールゾロへ向かい矢口が緑茶をこぼした本を
購入するハメになった。

「うーん。無駄な出費はしたくないんだけどなー…。」

手持ち金額には、僅かな札、小銭と一枚の小切手が残った。
117 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月26日(土)23時23分42秒
一方矢口は石川の部屋の前に辿り着こうとしていた。
カツカツと階段を駆け上がって、部屋のドアを開ける。

「…?なんか臭い…臭い…矢口の部屋と同じ臭いがする…
これは…?腐った臭い…??」

少し考えた。
腐る物とはなんだろう、と。
大体石川がこの部屋を離れて1週間以上になる。

「…ん?なんか水の音がするし…。」

恐る恐る中へ歩みを進めると腐った臭いが濃密になってくる。

「まさかアフロ犬が?」

この状況を考えれば、アフロ犬が飢え死にして腐っているとしか考えられない。

「うう〜…どうしよーどうしよー…、腐った死体怖いよぉー。」

そおっとそおっと、部屋の中を覗き込んだ。

「!!!!!」

驚いた。
すっごい部屋が散らかっている。
冷蔵庫が開放されたまま。
水の音はキッチンの水道の水が流れていたからだった。
118 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月26日(土)23時24分14秒
「臭いは…?…冷蔵庫から……?」

流石に開けっ放しなら中のものは腐るわけである。
そおっと臭いの元を閉めて、ついでに蛇口も閉める。
ふと物陰がごぞごぞ動いてる事に気がついた。

「!!!!な、なにっ、何かいるっ!!」

人がいるサイズではない。
もしかしたらアフロ犬なのかもしれない…。

「アフロー…。出ておいでぇ〜…ヤグチだよー…。」

すると、ゆっくりアフロ犬は物陰から顔をのぞかせた。
が、矢口は一瞬にして固まった。
何か咥えている。
いや、食べている。
とっても黒いコックローチ食ってますた。

「…ハハッ…アフロ…タクマシイネ…ふぅっ…。」

ドサッ。

そんな時、やっと自室に石川が帰ってきた。
119 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月26日(土)23時24分46秒
「ちょっとぉ〜…何の臭いですかぁ〜…すっごいクサっ!きゃああっ、何でこんなに
散らかって…あ、アフロ犬にご飯…置いとくの忘れてたかも…。矢、矢口さんっ
どうしたんですかっ!!矢口さんっ!!」

矢口が倒れているのを発見し、慌てて抱き起こす石川。

「どっか痛いんですかっ?矢口さんっ矢口さんっ…。」

「うう…梨華ちゃん…アフロが…アフロが…。」

「アフロ犬がどうかしたんですかっ!?」

「アフロ犬が…たくましかった…。」

「どういうことですかっ!?」

「見てみれば…わかるよ。」

そのときアフロ犬が目の前に現れた。
今度は更に大きなコックローチを咥えている。

「アフロっ、良かったぁ〜…生きてたのねぇっ。ごめんねー、エサ置いとかなくてー…
ってアフロ何食べてるの…?ゴ、ゴキブリっ!!た、たくましい…ふぅっ…。」

ドサッ。

帰って来て早々、散らかりまくった臭い部屋でオネンネする二人だった。
120 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月27日(日)23時12分20秒
夕方。

「あータルーい。何で矢口が梨華ちゃんの部屋掃除しないといけないわけー?」

「いいじゃないですかぁ〜…ほとんど一緒に住んでるじゃないですかぁ〜私たちぃ〜…。」

「だからってさー、もうかったるいよー。病人捕まえといて掃除させるなんてさー。」

「病人じゃないでしょっ。ちゃんと拭いてくださいよー。」

「はいはい。しっかし、ちゃんとエサはあげとかないとダメだよー、梨華ちゃぁ〜ん。」

「だってぇ〜、矢口さんが入院すると思ってなかったしー…
ついでに私もう1週間も同じ服で病院泊り込みだったんですよー。」

「しょうがないじゃぁ〜ん、梨華ちゃんはー矢口の面倒見るのっ。」

「ええ〜〜…。」

「でも、嬉しかった。アリガト、梨華ちゃん。」

「…ぐすっ…。」

「梨華ちゃん?…ゴメン悪かったよー、矢口やるよー。一生懸命床拭くからさー、泣かないでよー。」

すると、石川は首を横に振る。
121 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月27日(日)23時12分53秒
「違うの…嬉しかったの…。」

「???」

「嬉しかったんですっ♪矢口さぁ〜んっ!!」

「ちょ、ちょっ、梨華ちゃんの、重いっ!!く、苦しいっ。」

「もうっ♪大好き♪」

まぁ、掃除そっちのけで、なにやら如何わしい事をして帰宅した日は終わったわけで。


翌日。

「おはよーございまーす。矢口真里、19歳と8ヶ月ちょっと。トイズEE復帰したしましたー。」

「遅いわよっ!!まったくっ!!あんたねー、やっと職場復帰したのに初日から
遅刻ってなんなのよっ!!」

「おはようございます…。遅れてすいません…。」

「まったく、二人穴が開いたショーは大変だったわよっ!!とにかく…おかえり。」

怒ってるのかと思いきや、保田はにこやかだった。
どうやらミニモレンジャー。ショースタッフ達は相当心配をしていたようだ。

「えへへ。で、今日は何話?日曜だから…。」

「そこなんだけどね。この前から台本変わったのよ。」

「「ええっ!?」」
122 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月27日(日)23時13分54秒
「ひとまず、これ。これからのローテーションと台本。」

「こ、これ覚えなおすのー!?」
「石川も無理ですよー、覚えてすぐなんてー。」

「誰も今すぐやれって言ってないわよ。」

「じゃあどうすんの?」

一息ついて保田はこう言い放った。

「今日からすこし、あんた達はクレープ屋やってもらうわ。」

「エ゛エ゛っ!?マジっすか。もっとショーの裏方とか…。」

「ない。十分矢口と石川の役は代役が果たしてくれてるしね。
さ、行った行った。」

「「えぇ〜〜〜…。」」

「はい、クレープ屋の鍵。ちゃんとやるのよっ!!ほら行った行った。」


こうして、事務室を追い出された二人は
クレープ屋のドアを開けて中に入る。
改めて安倍と飯田の空間を見てみた。

「せめぇ…、せめぇよココ。」

「ですねぇ…、あ、マニュアル見つけましたよー。」

石川はテーブルの上にある下敷きチックなマニュアルがあるのを
見つけ出した。
123 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月28日(月)23時15分28秒
「ってか、矢口クレープ作れるよ。フツーに。」

「ええっ!?作れるんですかぁ〜スゴ〜イ。」

「普通19にもなれば女の子は大体そういうの1度は作ってるもんだって。」

「え…私作った事ないですけど…。」

「まぁ、他の料理みればわかるよ( ´,_ゝ`)プッ」

「ええ〜〜…噴きだすの我慢しなくてもぉ〜…。」

「じゃあ梨華ちゃんはレジね。矢口は作る〜、面白そーだし。
どうせ客来ないからレジも製造も仕事ないけどねー。」

矢口は意気揚揚とマニュアルを見て生地作りに取り掛かり始めた。
珍しく矢口の眼は輝いているが、どうやら本来は職人向きなのかもしれない。

「矢口さーん。ところで代役って誰ですかねー?」

「う〜ん。だれだろ?まぁなっちとカオリンが居ないってことはー
ショーに関係してるのは間違いないだろうけど。」

「まさか…チャーミーケメコが…。」
124 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月28日(月)23時16分00秒
「サブっ!!見ろっ!!変な事言うから鳥肌立っちゃったろお!!」

矢口は見事にブツブツした腕を見せ付ける。

「分量はこれでいいっと。さて梨華ちゃん。君の出番だ。」

「はいっ?」

「これ捏ねて。ひたすらかき混ぜるの。」

「えぇ〜…すっごい量じゃないですかー。」

「まぁ、分量どおりだよ。でも、こんなに用意したって
売れてる所みたことないよね。」

「そうですよねぇ。」

「いいからこねる。」

「はぁ〜い…もうっ、力仕事はいつも私ですよねぇ〜…。」

黙々と仕事をこなしていると、なにやら聴きなれた音楽が流れてくる。
石川が頭上の時計を確かめると、それはショーの開始を示す
音楽だとわかった。
125 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月28日(月)23時16分35秒
「あ、もうすぐでショー始まりますねー。私たちを差し置くと
どんなに不出来なショーが出来上がるか見ものですねっ。」

珍しく矢口以外の相手に毒を吐く石川だったが、
普通に考えると、これから始まるショーも、以前矢口達がやっていたショーも
50歩100歩といったところに違いないだろう。

「うし、後はこいつを寝かせるだけだな。梨華ちゃん!」

「なんですかぁ?」

「冷やかしに行こう。あいつらのショー。」

「あ、はいっ♪」

適当に生地の素で汚れた手を洗って
二人はクレープ屋を出てショー観客席の最前列に座った。

「おっ、常連さん。微妙に暑いのに来てるねー。ご苦労様だよー。」

矢口が声を掛けたのはその隣りの長椅子に座った
クソガキ3人組だった。
この3人組、本当に毎回ここに来ている。
なんと為にきてるのか全く分からない。
そんなクソガキ三人組も、横に座る二人にはすこし驚いたようだ。
126 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月28日(月)23時17分38秒
「おどろくなって、矢口だってーおやすみの日もあるさー。
あ、おでぶちゃん、チョコ貰うねー。」

と、強引にクソガキの一人のデブからチョコを奪った。

「うん。うめー物毎日食ってるとー、死ぬぞ。
おまえ、将来の体重180キロ確定。」

そう言ってチョコをペロッと平らげた。
大好物のチョコを奪われたまま黙っているわけがなく、
プルプル震え顔を真っ赤にしている。
いかにも泣きそうな感じである。

「ちょっとぉ〜矢口さ〜ん…泣かせちゃダメですよぉ〜。」

「っていってももう食べちゃったしさー。」

すると、クソガキの一人、インテリがバックの中から
同型のチョコを取り出し、デブに与え、そして一言。

「大人気ないね。大人のやる事じゃないね。そんなんだから男も出来ないわけだよ。」

そう毒吐いた。
まぁその通りだったわけですが、向きになって立ち上がる矢口。
高くこぶしを上げて、顔を真っ赤にした。

127 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月29日(火)23時09分00秒
「クソガキっ…ぶっとば…。」

そんなとき、ショーが始まった。

「矢口さんっ、ショー冷やかすんでショー?なんつって。」

ガスッ!!

「いったぁ〜いぃぃぃ、何するんですかぁ〜、矢口さぁ〜ん…ぐすん。」

振り上げられたこぶしは石川の頭に投下したとさ。

「ふぅ、清々した。ショー見よう。」

しょうがないなぁという顔で、やはり矢口の尻拭いをする石川。

「はい、これでチョコ買ってね。ゴメンね。大人気ないおねぇさんで許してねー。」

ガスッ!!

「いったぁ〜い…。」

オープニングが変わった。
音楽が変わったのである。
テーマソングは『アイーンダンスの歌(白塗り抜き)』だった。

すると、舞台端から長身の彼女が現れる。
正直、ケメコでなくってホッとしたが。
128 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月29日(火)23時09分34秒
「こんにちわぁ〜、ミニモレンジャー。ショーを見にきてくれたお友達。ありがとうっ。
進行のおねーさん、チャーミーカオリンよんっ。」

そう言って飯田は胸の谷間を強調するポーズをする。
すかさず矢口が野次を飛ばした。

「ない胸強調すんなー!!毎日同じジャージ穿くなー!!
携帯電話代6万円滞納するなー!!1ヶ月で6万も使うなー電話魔ぁー!!」

そんな野次に少しムッとした飯田はどこから取り出したのか
ホイッスルと黄色いカードを取り出して吹き、カードを高く掲げた。

「そこ、うるさいっ!!」

「どこからもってきたんだよーそれー、キャハハハハ。」

全く効果がないようで、懲りない矢口は高々に笑った。

「さて、邪魔が入ってるみたいだけど、今日も平和な毎日ねー♪」

「お前と彼氏険悪だろー!?」

「うっさい!!関係ないっ!!」

相当飯田はムッと来ているようだ。

「矢口さ〜ん…暴露するの止めましょうよー。」

「いいのいいの、いつもカオリン達はうち等のショーをバカにしてたんだから。」

一先ずタイムテーブルどおりにショーを進めようとする飯田。
すると、また端から着ぐるみを着た彼女が現れる。
129 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月29日(火)23時10分10秒
「きゃあああ〜〜怪人よぉ〜。コワァ〜イ♪」

「カオリンの凝視のほうがコエーよー!!ガクガク((((;〜゚◇゚))))ブルブル」

「うっせ!!」

「キレたーキレたー!!カオリンキレたーコワーイ。ほら、梨華ちゃんも一緒に。」

「「カオリンコワーイ!!」」

「クッ…。」

で、すっかり忘れられている吉澤であるが
今回新しいコスチュームはピンク色のペンギン。
しかも顔出し。
ついでに喋る。

「忘れてもらっちゃ困るよー、ヒトミペンギンだよーおねーちゃーん!!」

「忘れてないよー、ピンクのカーテンナンバー1!!」

「ハグゥッ!!」

矢口の野次は吉澤にショックを与えた。
そのついでに何もしていないのに倒れる。

「…起きれない…起こして…飯田さん…。」

慌てて飯田は怪人であるはずのヒトミペンギンを必死になって起こした。
130 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月31日(木)00時08分41秒
グダグダだ。
矢口と石川の野次さえなければ、ここまで普通にやってきているはずなのに。
起き上がった吉澤は気を取り直して飯田に襲い掛かる。

「腹減ってるんだよーおねーちゃーん、お魚ちょうだいよー。」

「いやっ、ゴメンナサイッ!!もってないのー!!だ、誰かぁ〜助けてぇ〜。」

もう矢口の野次など抜かしてショーを進めている感がぷんぷん匂う。
すると、奥から彼女達は現れた。
新コスチュームのミニモレンジャー。たちだ。

「待つのれすっ!!怪人ヒトミペンギン!!」
「悪事は許さへんでー!!ヒトミペンギーン!!」
「なっちたちが相手してやるべさー!!」

目の前に現れたミニモレンジャーは、辻、加護、安倍だった。
きっとミニモレンジャーを希望した保田は全会一致で
反対されて安倍になったのだろう。
まぁ、普通に考えてみれば背丈的に安倍が適役であるのは間違いないのだが。
一先ずお決まりのポーズをするらしい。
131 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月31日(木)00時09分23秒
「伸び盛りー育ち盛りー、けど少し痩せたーののたーん!!」

「すこし女の子っぽくなったぞーのアイボーン!!」

「道産子魂!カニ食うっしょ?のなっちだべさ〜!!」

「3人そろってぇ〜…」

「「「150cm以下戦隊(仮)ミニモレンジャーに安倍なつみ(モナーのクレープ屋。)カッカッ。」」」

するといつもの如く爆発の効果音。

「ヨッシャー決まったっしょー。今日やっと決まったべさー!!」

するとまた矢口の野次が再び飛び出す。

「オーイ、ののたーん、一体体重何キロなんだー!?」

「ヴッ…えっと…5*kgれす…。」

「オメーよそれ!!まだオメー!!重過ぎキャハハハハ。」

おおウケの矢口。
132 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月31日(木)00時09分54秒
「客の野次なんて無視やで、のの。」

「そうれすねっ!!柄の悪いパイパソ女は無視するのれす!!」

そう言ってショーに集中しようとするミニモレンジャーたち。

「もう止めましょうよー矢口さーん…険悪になっちゃいますよー…。」

「いいんだよー、どうせすぐ矢口たちはあそこに戻るんだからー。」

そんな答えに石川は溜息をついて立ち上がった。
すると石川は拳を作ってハァ〜っと息をかけている。

「ん?どしたの梨華ちゃん?ちょっ、待って矢口野次止めるか…ガハッ」

瞬殺されますた。

「みんなゴメンねー!!良く言って聞かすから〜♪ショーがんばってねー。」

そう言って石川は矢口を引きずりながらクレープ屋に戻っていった。
133 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月31日(木)00時10分30秒
午後、結局方々に頭を下げて回った石川がクレープ屋に戻ると
矢口は気絶から目覚めてクレープを作っていた。

「あれ、矢口さん。起きてたんですね。さっきはごめんなさい。
ああするしか矢口さん止めらんなくて…。」

「ああいいよー、矢口の代わりに謝りにいってくれてたんでしょー?
何食べたい?」

「はいっ?」

「クレープ。」

「え。じゃあイチゴクリーム…。」

「あいよー。」

手際の良さですぐさまクレープは仕上がる。
家事が上手なのに何故この人はやろうとしないのかとふと思う石川。
134 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月31日(木)23時34分46秒
「ほい、できたよ。食べてみな。」

「あ、どうも…。んっ…おいしぃ〜♪」

「だろ?矢口昔から料理得意でさー。まぁ、面倒だからやらないけど
金もらってるわけだし作らないとね。あ、いいアイデア思いついたよー。」

「んぐんぐ…なんれふか?あいれあって…。」

「クレープの中身変えんのよ。中身。」

「なはみ…?」

「そう。中身。ちょっと買ってくるよー!!店番頼むねー。」

そう言って目をやたらに輝かせて
光の速さで去っていった。

「ひょ、ひょっほぉ〜やぐひは〜ん…。」

また良からぬ企みを…と不安になる石川だった。

20分後。

「はいはい買ってきたぞーっと。まず、昼飯まだ食ってないんだよねー矢口。
でさーみっちゃんのところ行ってラーメン貰ってきてよー。」

「そういえば…ショー邪魔したから昼飯抜きって保田さんから…。」

「エ゙エ゙…マジで!?っかーやられた。だったら野次なんか飛ばさなきゃ良かったなぁ…。」

後悔先に立たず。
すこし宙に視線を泳がすと、すぐさま視線は石川に戻る。
135 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月31日(木)23時35分43秒
「梨華ちゃぁ〜ん、経費で買ってきてよー、みっちゃんのラーメン♪」

「ええっ…でもいいんですかね…?」

「良いんだよ。客としてだし。梨華ちゃんもおなか減ってるでしょ?」

「あ、はい…。じゃあ、買ってきます。」

「行ってらっしゃーい。ノーマルで良いからねー。」

と、石川を見送るとニンマリした笑顔を浮かべる矢口。
なにやら意図があっての事のようだ。

「よしっ、作ろっと…。前からやってみたかったんだよねー。」

そう言って買ってきた袋の中からいくつか取り出し始めた。


石川が戻ってみるとなにやらクレープ屋らしからぬ匂いが
クレープ屋から流れてくるのが分かった。
お盆にラーメン二つを置いてバランス取りながら歩くので
何をやっているか見る事が出来なかった。

「矢口さぁ〜ん。ラーメン買ってきましたぁ〜、食べましょぉ〜♪
って矢口さんっ!!何やってるんですかっ!?」

「え?焼き肉。」

「それは分かりますけどっ!!」

「まぁまぁ。そこに置いて。みっちゃんのマズイラーメンも生まれ変わるよ。」
136 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年10月31日(木)23時36分36秒
そう言って程よく焼いた焼き肉をラーメンの上に乗っけた。
火元を消して、ヘラを洗い、店に前の長椅子に腰をかける。

「よっしゃ、食べてみな。」

「頂きます…。美味しいんですか…?」

「食べてみればわかるよ。いっただきまーす。」

食中。

「「(゚д゚)ウマー !!!」」

「美味しいですよー!!矢口さーん。平家さんのラーメンが何倍にも美味くなってますー。」

「でしょー?いろいろ買ってきたんだけどー、こうやって調理してー
生地で包んで売ってみようよー。」

「そうですねー♪いい試みだと思いますよー♪」

「どうせ買う人いないんだしー、試験的でも良いじゃん。」

「ですねっ♪やってみましょっ♪」

「よし、早めに食べて、準備しよう。梨華ちゃん食べ終わったら
下行ってマジックと画用紙買ってきて。」

「はぁ〜いっ…って矢口さん食べるの早っ!!」
137 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月01日(金)20時34分06秒
そして矢口石川がショーに復活するまでという
臨時的なクレープ屋「(゚д゚)ウマーなクレープ屋」がスタートした。
付け焼刃的に、元々書かれているメニューを画用紙で覆い
その画用紙に新メニューと金額を書き込んだ。

「うんうん。こんなもんだよね。相場を考えるとさー。」

「スゴーイ矢口さん、あったまいいんですね♪」

「いやあ、能ある爪は鷹を隠す?ってやつ?」

「矢口さん…それ逆…。」

「んまぁいいじゃん。アハハハ。」

ショー午後の部が始まる。
相変わらず観客は少ないようだが屋上では
臨時的リニューアル「(゚д゚)ウマーなクレープ屋」もオープンを始めていた。

「あのー矢口さぁ〜ん…このメニューで大丈夫なんですかぁ〜??」

そう心配をする石川の意見は最もである。
なにせメニューがメニューなのである。
138 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月01日(金)20時34分36秒
・キムチクレープ
・焼き肉クレープ
・酢豚クレープ
・すき焼きクレープ
・カレークレープ

甘いのも胃もたれをしそうであるが、
これも充分胃もたれをしそうである。

「う〜ん。作るのに時間が必要だなぁ〜。カレーは止めとこう。」

「あ、矢口さんっ、カレーに×付けないで下さいよー
レイアウト悪くなるじゃないですかぁ〜。」

「いいんだよ、どうせ臨時なんだし。じゃあ売り切れって書いとこう。」

「売ってもいないじゃないですかぁ〜。」

「いいのいいの。うし、酢豚とすき焼き作るぞっと。」

「私は何すればいいですかぁ〜?」

「うーんと、クレープ焼いといて。マニュアルどおりに。
矢口はみっちゃんの厨房借りて作らせて貰うから。」
139 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月01日(金)20時35分25秒
「ええっ!?私がやるんですかぁっ!?」

「うん。普通にマニュアル通りにやればいいから。じゃ、店番もよろしく。」

「ええっ〜…。ぐすん。」


ガラガラガラ…。

「ヘイらっしゃい!!」

ラーメン落ち武者の戸をあけると威勢のいい声があがる。
これは客向けの挨拶であるが、やはり矢口だと認識すると
スーパースマイリーも萎え〜な表情にすぐ変わる。

「なんや、矢口やないの。どないしたーん?まだ食い足りへんかー?
金払えばもっと作ったるでー。」

「いやー。美味かったよー。みっちゃん。」

「ホンマかー?なんか狙いがあるんちゃうの?」

「ん?まぁねー。ちょいとさー、厨房が空いてるところでさー
具材持って来たから料理させてくれない?」
140 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月01日(金)20時35分55秒
「はぁ?なんかすんの自分。」

「うん。クレープの具を作るんだよー。」

「へぇ〜…で、何作るんや?」

「酢豚とすき焼き。」

「よっしゃ、ウチ暇やし手伝ったるわ。」

「いいよ、矢口一人で作った方が美味いから。」

「ア゛ン!?」

「まぁまぁ、とにかく貸してよ。」

「まぁええけどなー。適当に鍋も何も使ってええで。暇やしな。」

「サンキュー。」

「その代わり、ちゃんと洗ってけやー。」

「うい。あ、皿下げとくね。」

そう言って、厨房の中にはいると中を見回して
適当に必要な物を取り出す。
非常に馴れた手つきは平家の目にもなかなかだとすぐ分かった。

「なんや?矢口ぃー、アンタなんか経験あんのかいな?」

「ん〜、まぁない事もないかなぁ〜。」

そういいながら、手際のいい作業を淡々とこなす。
十数分で酢豚とすき焼きが出来上がった。
141 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月02日(土)23時32分20秒
「うっし、できた。これをタッパーに移し替えてー…終わりっと。」

「お、速いいなー。ちょお食べさせてみーな。みっちゃん味判断したるさかい。
まぁ、ウチの酢豚と比べるほうがかわいそうやけどなぁ。」

そう自信満々に、酢豚を味見してみる。

「………ん〜…まぁまぁやなぁ〜…ハハッ。」

明らかに顔が引き攣っている。
それの意味は明らかに負けたということの照明だった。

「ああ、そう。まぁ、みっちゃんのよりきっと美味いよねー。」

「んなわけないやろがー!!素人を考慮して評価してやってやでぇっ!!」

「じゃあ、酢豚作ってみてよ。」

「う゛…。」

そんな言葉に詰まった平家を横目に、矢口は鍋を洗い
適当に片付けて去っていった。

「何やねんな…ようわからんなぁ…いいかげんな子やと思っとったのに…。」

すこし廃業を考えた平家だった。
142 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月02日(土)23時33分04秒
タッパーを二つ抱えて戻ってくると石川が
クレープ生地と格闘していた。

「たっだいまぁ〜。どうよー?ん…?」

「矢口さんっ♪結構石川がんばりましたよぉ〜♪」

矢口が見てみれば明らかにこげた物質がそこには有った。
形は円でなく、クレープ生地とは全く言えない物が。

「あのさー、梨華ちゃ〜ん、どうやったらこうなるわけ?」

「えっ…ダメですか…?」

すこし溜息を吐いて呆れる矢口。

「いいよもう、店番してて。お客来たら0円スマイルね。
生地も矢口がやるから。」

「ごめんなさい…。」

「ま、梨華ちゃんはスマイルが売りだから、接客頼んだよ。」

「はぁいっ♪がんばりますねっ♪」

しかし待てども待てども客は現れない。
ついでにミニモレンジャー。ショーは新必殺技を繰り出していた。
なにやら安倍が辻加護に担ぎ上げられている。

143 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月02日(土)23時33分51秒
「げ…まさかあれ必殺技かなぁ…。」

暇を持て余していた矢口が見たものは
世にも恐ろしい技だった。
右手右足を辻に、左手左足を加護に持ち上げられた安倍は、
仰向けになり、そのまま股間から特攻。
どうやら"ミニモX"という名前らしい。

「ええ、午前中も矢口さんが伸びてる間にやってましたよー。
もうすぐ終わると思いますけど…。」

「終わるって、じょーだんじゃないっ!!」

「どうしたんですか?急に…。」

「見てみろよー、なっちとヨッスィー伸びてるんだそぉー!?
ほら引きずっていったじゃんかー。」

「そうみたいですねぇ。大丈夫かなぁ。」

「そういうことじゃないっ!!」

「じゃあどういうことですか?」

「ウチら復活したら、あの投げられる役矢口なんだよ!?」
144 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月02日(土)23時34分52秒
「あ!!」

「あ!!じゃないっ。あんなの毎週やるんだったらクレープ屋やってた方が
マシ…あ!!」

「矢口さんこそー、あ!!ってなんですかー!?」

「ヨシヨシ。矢口達が今日クレープを売ったらどうなると思う?」

「売上が上がる…ですか?」

「そう、その通り。そしたらメニューまでやってるんだし
そしたらウチらカオリンたちと交換にクレープ屋じゃん。」

「ええ。まぁ。」

「そしたら毎日働けるからー別に平日バイト探さなくて良いしー
あんな必殺技やられなくて済むし。」

午前中までクレープ屋をやるという事で
文句を言っていた矢口であるが、あの必殺技をみて
クレープ屋を志願し始めた。
自身が大事という第一自分主義丸出しである。
145 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月03日(日)23時11分11秒
「うーっし、売るぞお!!」

そう気張って30分が過ぎる。
やはり客は来ない。

「呼んでも来ないとは…カオリンたちの気持ちが分かった気がするね…。」

「そうですねぇ…。」

小さな背もたれもない椅子に座り、肘を立てて
気分はブルー。
そんなとき、救世主が現れた。

「「くっださーいなっ!!」」

この声につぶさに立ち上がる二人。

「「いらっしゃいませっ!!」」

するとどこか聞き覚えのあった声なのか
やはりというべきか辻加護が目に前に立っていた。

「なんだよー辻加護かよー。」

「「えへへ。」」

「ん〜買いにきてくれたのねぇ〜♪アリガトっ♪」

「のの〜なんにするぅ〜?ってかメッチャ変わったメニューやね。」

「だろー?全部矢口が作ったから、安全だぞ。」
146 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月03日(日)23時11分54秒
「ほっ、よかったのれす。」

「ええっ…ぐすんっ。」

「ほな、ウチ酢豚クレープ。」

「ののはぁ〜…すき焼きクレープとーキムチクレープとぉ〜
酢豚クレープとぉ〜焼き肉クレープ。」

「ののっ、それ全部やんか。」

「てへてへ。いいれすよね、矢口しゃん。」

「うんうん。OKOK。全然OKだよぉ〜。」

売上に必死。
まさにそんな感じ。

「ねぇ、ののちゃぁ〜ん。安倍さん担いで投げてたけどぉ〜
あれ新必殺技?」

「そうれすよ。"ミニモX"れす。矢口しゃん戻ってきたら矢口しゃんが投げられる役なのれす。」

「う"…やっぱそうか…。」

「そういえば、ヨッスィーと安倍さん大丈夫?」

「あー安倍さん氏んjでぇ〜。ヨッスィーは生き返った見たいやけど。
やっぱ安倍さん重いなぁ〜…矢口さーんはよう戻ってきてなー。」
147 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月03日(日)23時13分21秒
「さ、仕事仕事、ほらできたよ、梨華ちゃん。」

先にできた酢豚クレープを一つずつ辻加護に渡す。

「おっ…案外美味いやんかぁ、意外〜。」
「ほんとうれすねっ。こういうクレープもいいのれすっ♪」

「ですって、矢口さんっ♪」

「うっし。味は自信あったからねー。みっちゃんの味になんか負けたらお終いだしさー。
辻食べ終わったかー?次行くぞー。」

「大丈夫れすよぉ〜。」

次々に渡されるクレープ。どれもが辻の御眼鏡に叶った様で
おいしいおいしいとあっという間に完食した。

「美味かったなぁののぉ〜。」



148 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月03日(日)23時14分01秒
「美味しかったれす。クレープに包む意味ないんじゃないれすかね。」

「う"…ま、まぁそういう意見もあるかな。」

「ののぉ〜矢口さんがこんなにお料理上手だとは知らなかったれす。
どこかでやってたんれすか?」

「まぁ、高校お嬢様高校だったけど調理科に行っててねー、
調理師免許あるし。ついでに高校のとき3年間中華飯店でバイトしてたからー。」

「お、ホンモノれすね。凄い事実なのれす。なのになんで料理しないんれすか?」

「ん?簡単だよ、矢口金にならない料理はあんまりしたくないんだよね。アハハ。」

やっぱり矢口だった。

そして食べ終わった二人はお互いに感想を言い合いながら
事務室に戻っていく。
149 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月04日(月)23時04分41秒
「ヨカッタですねぇ〜♪5つ売れましたよぉ〜♪」

「まぁ、身内だしなぁ…5つ売れたって1500円だしさー。」

「そうですよねぇ〜…。飯田さんたちもきっとこんな…あ。」

何かはるか前方からものすごい速さで近づいてくる。

「あ…?どしたの?あ…。」

息をハァハァ吐き出しながら矢口達の目の前に現れたのは
汗だく、顔真っ赤の吉澤だった。

「どうしたのー?ヨッスィー。」

「ハァハァっ…はい、これ。」

そういって取り出したのは300円。

「「???」」

「…はぁっはぁっ…キムチクレー…ゲフォッゲフォッ…プ一つ。」

「そんな慌てなくてもいいのにぃ〜♪」

「ハァッ……ハァッ…ふぅ〜…キムチ通としては黙ってられないからね。」

そうだった。
吉澤はキムチ通だったのだ。
自家製キムチをつけるほどのキムチ通。
その舌は確かだ。
150 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月04日(月)23時05分25秒
「あ、まいど。すぐ作るから休んでなよー。」


そして…

「ウッメー!!カッケー!!」

この繰り返しで去っていったという。
その様子をたまたま見ていた、というヤンママ風の女性がやってきた。

「いらっしゃいませぇ〜。」

(やった…、一般客だ。)

ニヤッと石川と顔をあわせた。

「何にいたしますかぁ〜?」

「せやなぁ〜、キムチクレープもらおかー。」

「はい、300円です。」

どうやらこの女性は依然もこの屋上にきたことが有るらしい。
クレープを作る僅かな時間、雑談を交わした。
151 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月04日(月)23時06分22秒
「あれぇ〜?ショーやってた子ちゃうん?自分ら。」

「そうですよー♪見てくださっているんですかぁ〜?」

「見とるでー。でも、どないしたん?クレープ屋に転身したん?」

「いやあ、まぁーそんなところですよー。」

「…そんなところなんですかぁ…?矢口さぁ〜ん。」

「シーーー!!ビークワイエットプリーズッ。」

「はぁ…。」

とにかく出来上がった。
やはりおおウケであった。

「メッチャ美味いやんかぁ〜。ほな口コミしたるわぁ〜。
ええもん食わせてもらったでぇ〜。ほななー。」

「「ありがとうゴザイマシター。」」

深々と頭を下げて初めての一般客を見送った。

「やりましたねぇっ♪矢口さんっ♪」

「だねっ。あの人の口コミを期待しよう。」

「はぁいっ♪」

それから少しして、ふらふらしている安倍と飯田がやってきた。

「売れてんのー?」

所詮、素人がクレープ屋なんかしたって売れるわけないわよ
そういった思いが露骨に出ている飯田の蔑んだ目。
152 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月05日(火)23時02分52秒
「ええっ♪2100円ですよっ♪今の売り上げ。」

「そのくらい普通じゃないのー?ねぇ、なっち。」

「はぁっ、はぁっ、・・・なっちに話しかけないで欲しいべさ・・・なっち氏にそうっしょ・・・。」

あまりにも苦しくてまともな返事ができないというところのようだ。

「あのねー、2100円売り上げたってー、うちらのバイト代にもなんないよー
しっかりやりなよー。」

「ああ、やるさ。やるよなぁ〜梨華ちゃぁ〜ん。」

「やりますよっ♪」

「なっちたちの平均売り上げ超え・・・。」

ガスッ!!

がっくぅぅぅ。

「あー!!なっちだいじょうぶー?じゃあねーアハハハ。」

超亀レス的な安倍の返事を完全に言わせる前に制裁を加えた飯田は
気絶した安倍を引きずって去っていった。

その直後だった。
屋上が揺れた。
ズンズンと足音が木霊している。

「!!!な、何の音これっ!?」

「矢口さんこわぁ〜いっ♪」

矢口と石川が身を寄せ合ってると目の前にはパーマ軍団・・・いや
おばちゃん達が現れた。

「な、なんですか・・・?」

恐れおののきながらそう訪ねる矢口。
するとおばちゃん達は財布の中から小銭を取り出し
153 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月05日(火)23時03分58秒
「焼き肉!!」「キムチクレープ!!」「酢豚ね!!私酢豚クレープ!!」
「すき焼き3つ〜!!」「ちょっとぉ〜押さないでよぉ〜あたしキムチ2つねー!!」
「焼き肉巻きねー焼き肉巻きー!!2つよー!!」

客だった。
目を見合わせる二人。

「「あの人だっ!!」」

そういって、接客、クレープ作製に取りかかっていった。
その客に追われ大忙しのクレープ屋を
口コミをしたヤンママ風の女性は見つめた後、くすっと笑って
すぐにサングラスをかけ去っていった。

その後次々に客が殺到し、夜のショーもそっちのけに
ラーメン落ち武者もそっちのけにクレープ屋は忙しかった。

19:00

「「本日は閉店でーす。ありがとうございましたー。」」

最後の客を見送ると、どっと疲れが二人に押し寄せる。
その場にどかっと座り込む二人。
154 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月05日(火)23時04分48秒
「う〜…おわった…。梨華ちゃん売り上げいくら…?」

「えっと…結局273個売れましたよ。」

「で…?いくら…?」

そういわれて、携帯を開き電卓機能を使い始める。

「273×300=81900円です。」

「よっしゃ…。でも…あの女の人…何者…?」

「さぁ…。後で又来たらお礼言いましょうよ。」

「そだね…。」

少しのんびりした時間が流れる。
メイクが汗で落ちただの、足が向くんでパンパンだの、
やけどしただの言い合っていた。

そこに、店の外から中をのぞき込む人物が現れた。

「どうよ、売り上げは。すっごい人だったけど。」

「ああ、圭ちゃん。うん。今日の売り上げね、81900円だって。」
155 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月05日(火)23時05分40秒
「す、すごいわねっ!?材料・光熱・人件費引いてもたいした売り上げよ、あんた達。」

「ねぇ〜、このままカオリン達と交換しておかない〜?」

「そうねぇ、今日みたいな売り上げが続くんだったら考えてあげてもいいわね。」

そういわれると矢口はガッツポーズを作った。

「そうそう、矢口。」

「なに?圭ちゃん。」

「私にも1個作ってよ、クレープ。余ったのでいいからさ。」

「300円ね。」

「なによー、ケチねぇ…。はい、300円。あ、事務所まで届けて。ついでに
今日給料日だから取りに来てちょうだい。矢口、あんたは8/25〜8/31までのしかないわよ。」

「ハァハァハァハァ…。キュウリョーハァハァハァハァ…。」

給料日だとすっかりわすれていた矢口の頭は
給料で頭いっぱいに埋め尽くされていた。

「石川も取りに来なさいよ。」

「はぁ〜い♪」

そういって先に保田は事務所に戻っていった。
156 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月05日(火)23時06分40秒
「矢口さぁ〜ん。お給料はいって良かったですね。1週間分しかないみたいですけど・・・。」

「ハァハァハァハァ給料…ハァハァハァハァ。よしできた。逝くぞ梨華ちゃん。」

「あ、ちょっとまってくださいよぉ〜。えーっと売り上げ…持ってってっと…足はやすぎですよー
矢口さぁ〜ん…。」

今日の売り上げとキムチクレープを保田に渡すとその代わりに
矢口と石川は給料を受け取った。

まぁ、ほんのわずかではあるが有るだけうれしかった。

「そうそう、あんた達。平日のバイトはどうしてるの?」

「えーっと、まだ帰ってきたばっかりで…まだ決まってないんです。」

「そう。今日のクレープ屋。明日もやってみる?」

「ええっ!?良いの!?圭ちゃん!」

目を見合わせ大喜びの矢口達。
そんな3人のところに後藤が静かに入ってきた。

「んぁ〜。」

「ああ、ごっちんにも給料渡さなきゃね。」

「それもいいけどー、クレープ屋もえてるよぉ〜。」

「「「はぁぁぁぁ!???」」」

あわてて外に出ると、クレープ屋が出火していた。

結局翌日からクレープ屋は休業。
そして週末には矢口が辻加護に投げられているショーが通常通り行われていたそうな。
157 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年11月05日(火)23時07分56秒
以上で第14話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして15話を開始したいと思います。
158 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月12日(火)01時08分28秒
「なんぁ足んぁい、なんぁ足んぁい♪」

ちょっとカッコイイ長袖のボタンシャツにスリムなジーンズで
スタスタと軽快に道を歩く。
汚れなき朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、
目にも鮮やかな木陰の下を行けば
何となく活力を得られるというものだ。

「んぁふーれちゃーうービーインラーブ♪」

すっかり夏の暑さは遠のき、
暑いの大嫌いな後藤は自然とご機嫌になっていた。

「んぁ♪んぁ♪くれいじーふぉーゆー♪」

一方、最近表情が晴れないのが平家のみっちゃん。

「んぁ〜、おはよー。」

「んっ、…ああ、ごっちんか。おはようさん。」

「どしたのー?元気ないねぇ〜。」

「…そう見える?」

「違う?よく分かんないけど、あはは。」
159 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月12日(火)01時09分50秒
「まぁ…当たりやけど…。」

「やっぱり。」

倉庫からひとつだけ長椅子を運んできて
ステージの前に2人腰掛けた。
さっきから下か上のどちらかしか見ない平家だが、
後藤が自販機で缶コーヒーを買ってくると、ようやく向き合うことができた。

「ウチなぁ…あのラーメン屋どうにかせんと、と思ってるんやけど…。」

「んぁ。」

硬いプルトップに何度も爪をかけて弾くと、
開いた飲み口から少量のコーヒーが溢れて縁に溜まった。

「どうにかって、どうするの?」

「いや…まだ決めとらんのやけども…。」

平家が言うには、先週のこと…
160 名前:第14話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月12日(火)01時11分06秒
――――――

珍しく、ショースタッフ以外の客が来た、と張り切って声を出したはいいが
その客は例のジャリ3人組。
しかし客を選べるほど余裕のある経営状態ではないために
何とか堪えて接客すると

『ラーメン1つ。』

インテリがそう言った。

1つ
初めはオコチャマだから金がないのだろう、と思っていたが
それも次第に怪しくなってきた。

『『『じゃんけんポン!!あいこでショッ!!』』』

なんとじゃんけんを始めたではないか。
それでも、まだプラス思考プラス思考で
震える親指をスープにつけないように丼を1つ、差し出した。
じゃんけんの結果は見てなかったが、
どうやら青ハナが食べることに決まったようだ。

ズズズズッ
161 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月12日(火)01時11分44秒
鼻水をすすったのか麺をすすったのか分からない音がすると
しばらくの沈黙が訪れる。
青ハナは元から無表情だが、
残りの2人はニヤニヤと笑いながら青ハナの方を見続けている。

『ぉぇっ。まずい。』

口の中に溜められた麺は
まるで猫が毛玉を吐き出すように
丼の中に戻っていった。
怒りを堪えきれない平家は
包丁の柄に手を伸ばしたが
そこからが本当の泣き所だった。

『わっはっは!!吐き出したよ!!!エンガチョッ!!!』

『このラーメンはヤクザもゴキブリのオモチャを入れる必要がないほどのマズさですね。』

どうやらさっきのじゃんけんは
誰が罰ゲームを受けるのかを決めるためのものだったようだ。
そして、罰ゲームというのが、
このラーメンを食べること…。

――――――
162 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月13日(水)22時03分32秒
「ふざけんのもええ加減にしいやホンマに……くそっ!」

「エンガチョって…あたし達、いつも昼ご飯にそれ食べてるのに…。」

「ウチかて…好きでマズくしとんのと違うんや……」

吉澤が呼びに来た。
どうやらショーのミーティングの時間のようだ。
平家を放っておくのは忍びないのだが、
後藤は仕方なく腰を上げ、控え室に入っていった。

部屋には既に全員揃っており、
後藤が部屋に入ると石川が寄ってきた。

「平家さんとごっちんなんて珍しいねっ。」

「んぁ?んん…まぁ…。」

みんな、平家と話していたことを知っていたが
特にそれについて触れてくることはなかった。
ただ、後藤は珍しく、みんなと相談しようと決めて眠った。

「寝るんじゃないわよっ!!」

「んぁ…。」
163 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月13日(水)22時04分07秒
いつもの控え室。
午前中の公演が終わるとここに集まって、
全員揃うと"落ち武者"に趣く。

「よっすぃーの汗かきが治ってきたれすね。」

「いやぁ、着ぐるみの中はまだまだ暑いYO!」

「そんでも真夏よかマシやろ。臭くてよぅ近寄れんかったわ。」

爽やかな秋風と共に
何となく古びた外観の店へ。

「あー腹減ったーっ。…ねぇ梨華ちゃん?」

「何ですかっ?」

「この店…そろそろ改装したほうがいいと思わない…?
看板もボロボロだし…。」

"落ち武者"という名前的にはピッタリなのだが
ラーメン屋としては不適当な風貌。
164 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月13日(水)22時04分38秒
「うーん…そうですけどぉ……。
平家さんも経営が苦しいから…しょうがないんじゃないですか?」

「そうだなぁ…親父さん、退院しては入院しての繰り返しだもんねぇ…。」

「そうですよぉ。入院費だってバカにならないですよぉ、入院費は。」

「…何か?」

「別にっ♪」

入院費云々よりも
先ずはあなた達がお金を払って食べなさい。


いつも通りの席に陣取ると
さっさとラーメンが人数分出される。
メンバーにとっては慣れた光景だが
平家は一つ一つの行動を頭の中で整理して
一から考え直していた。

こんなに真面目に考えるのは久しぶり。
それだけ、あのジャリ共から与えられた屈辱感が大きかったということだろう。

「みっちゃん、みっちゃん。ちょいちょい。」

後藤が手招きしているのに気づくと
カウンターから出てそちらへ向かった。
165 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月13日(水)22時05分11秒
「みんなにも相談してみたら?
案外力になってくれるかもしれないよー。」

「そやったら嬉しいんやけど…。
うーん…ま、エエか…。」

そうしてプロジェクトの一人歩きは始まった。

「改装ついでに焼肉始めれば?
それがダメならタン専門店を……」

「矢口さんっ!個人の趣味に走りすぎですよっ。
それなら白玉のほうが…。」

「アイス店にするのれす!」

「そやな。甘い物なら客集まるんちゃう?」

「キムチチゲとかはどうっスか?」

平家の心配は的中した。
こいつら我が強すぎ。
しかも動き出したら止まらない、
ブレーキの壊れた車の如く。
166 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月14日(木)00時48分11秒
「全部やったらいいんじゃん!ヤグチ頭(・∀・)イイ!!」

「どうせなら安倍さんと飯田さんのクレープ屋さんも
一緒にしちゃったらどうですかぁ?」

「それがいいべさ!これで夏も冬もエアコン効いて快適だべ!!」

「カオリもそれがいいと思う。」

「そしたら、たこ焼きとお好み焼きも入れてーな。」

「ん、んぁ…あのー、とりあえずみっちゃんの意見を聞かないと……」

壊れていることを知りながら、
一応ブレーキを踏んでみた後藤だったが

「オメーら!これでいいれすかー!?」

サンセーイ!!!

結局毎日ここに集まって
日が暮れるまで準備をすることに決まった。
店主の意向を全く無視して。

「んぁ…ごめん…。」

「…まぁ、エエよ。ウチかてこうなることは大体予想できたし。」
167 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月14日(木)00時49分06秒
騒ぐ集団とは反対の隅で
落ち着いた、というかテンションが高くない3人。
さっきまでの騒動に全く関与しなかった保田は
ドンブリを返すと変わりに灰皿を目の前に置いて、
我関せずといった風にタバコを吹かしている。
そして保田は『峰』を差し出して平家に勧める。

「…おおきに。」

「…で、みっちゃんはラーメン屋辞めるわけ?」

「……どうなんやろな…。」

「自分の店なんだから他人任せだと酷いことになるわよっ?
特にあいつらのことだから……。」

「まぁなぁ…。」

そう言いながら胸ポケットから手帳を取り出して
何やら書き始めた。
途中、指折りしながら上を向いてはまた手帳に視線を落とす。

「…6、7、8…これで全員ねっ!ほら、これ、あげるわよっ!!」

ハーッと煙混じりの息を印鑑に吹きかけると
何ともソレらしく作った書類が完成。
ビリッと破いて向きを変えると
ちょうど平家の目の前に差し出された。

「…何これ?……"以下の8名を自由に使ってヨシ券"…?」
168 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月14日(木)00時54分31秒
「ちょっ、こんなん勝手に作ってしまってエエの!?」

「いいのよっ、どうせ何の効力もない紙切れだからっ。
あいつらが言うこと効かなかったらそれを見せればいいわっ。
そうすれば、あら不思議。大人しくなるわよっ、はっはっは!!」

「はっはっはって…。」
169 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月15日(金)23時19分21秒
もう一方のグループは…

「ところでさ……これ、金が結構かかるよね?」

「そうれすね…。」

「全部で100万じゃ下らないっスよ?」

「そしたら…誰が出すんや?」

ジーッ

「えっ、もうっ!何でいつもお金のことになると石川なんですかぁ!!」

「ウルセーウルセー。もう決まったぴょ〜ん。」

聞く耳持たず。
矢口は石川を一瞥することもなく
さっさとメモに書き足した。

「勝手に決めないでくださいよっ!!
ほら、この前ごっちんだって競馬で大儲けしたじゃないですかっ!」

「はいはい。もう書いちゃったから。遅かったね〜。」

「書いちゃったからって…消せばいいじゃないですかっ。」

「ん?消す?誰か消しゴム持ってる人ー?」

持ってなーい!
170 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月15日(金)23時19分56秒
「……ぐすんっ。平日バイト探さなきゃ…
ねぇ、ヨッスィー…いいバイトない〜?」

「ウチで働く?」

「……いらない…、ぐすんっ。」

ショーが終わると片付けが始まる。
8月なら今頃でもまだまだ明るく陽が照っていたのに、
辺りはもう夕暮れも終わろうとしていた。
コオロギや鈴虫の鳴き声がBGMのように流れ、
それが秋風を一層心地よいものに仕立て上げてくれるのだった。

朝と同じように、今度は最後の長椅子を残しておいて、
2人はまたステージの前でコーヒー片手座っていた。

「みっちゃんはさ…」

「…ん?」

「ラーメン屋を続けたいわけでしょー?」

「…まぁ……。」

缶を一口傾けると
急にしかめっ面で後藤が咳き込んだ。

「ゴッホ!ゲッホ!……ん゛ぁー…間違えて買ってきちゃった…。
甘ぁーいよ、これ。あはは。」

「アホやなぁ、自分。アハハ。」
171 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月15日(金)23時20分29秒
いつもブラックばかり飲んでるから
ミルク入りのコーヒーにかなり驚いた様子。
もっとも、ブラックを飲む理由は"眠気覚まし"という
なんとも効果がない理由ではあるのだが。

「あ゛あ゛ん゛っ……でさ、そんならやっぱ…
ごとーがやぐっつぁん達に言っとくよ。」

「……矢口は止められへんよ。」

「…そうかもしんないけどさー、言わないよりはマシでしょ。」

自分がみんなと相談しようと言ったんだし。
後藤はコーヒーを飲み干すと立ち上がって、
長椅子を持ち上げた。

「ほっ!……ふぅ…。わっせっわっせっ……。」

「ウチも手伝うわ。」

「ん?いいよいいよ。……やっぱ手伝って。」
172 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月15日(金)23時21分31秒
3メートルほどある椅子の端を持って
カニ歩きで倉庫まで。
平家は言っておきたいことがあった。

「あんな…」

「んぁ?」

「ウチ、ラーメン食べて欲しいだけやねん。」

「……。」

倉庫までの道のりはあっという間で
後藤は鍵を開けずに、そこに椅子を下ろしてもう一度腰掛けた。
ちょうど、どっぷり日が暮れた屋上に照明が灯り、
そこは影になってしまった。

「食べてもらえれば、別に儲けとかはどうでもエエねん…。
矢口とかだって、マズいマズい言うてもちゃんと食べてくれるし…。」

「んぁ…。」

「そんなことに今日気づいたわ。」

「…あっ。」

「ん?どしたん?」

「ちょっと待ってて。」
173 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月16日(土)23時34分44秒
タッタッタッと小気味いい音と共に駆けて行った後藤は
さほど時間も経たないうちに帰ってきた。
手には厚めの封筒を持って。
時折当たる照明が、彼女のはにかんだ表情を映した。

「んぁ、これ使っていいよ。」

「何なん?……ゲッ!!こんな大金どこに……?」

「事務所の金庫だよ。」

「アカンやんっ!!早く返してきっ!!」

「大丈夫だよー。ごとーのお金だもん。
圭ちゃんに奪われたんだよー。」

あれ以来ずっと金庫に眠っていた金は
先月の給料の差額が、丸々残っていた。

「全部使うとバレちゃうから…んぁー……じゃあ20万円。」

「そんなん言うてもやな……」

「"以下の8名を自由に使ってヨシ"でしょ?
じゃあ、ごとーのお金も自由に使ってヨシ、ね。」
174 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月16日(土)23時35分20秒
お前の物は俺の物。
要するにそういうことである。

「すまんなぁ…おおきに、ごっちん。」

こちらはスネ夫のような役回りの石川さんの部屋。
そして隣りに寝ているのは言わずもがなのジャイアン矢口さん。

「…でも平家さんを無視して勝手に話進めていいんですかね?」

「いいんじゃない?何にも言わなかったんだし。
とりあえず明日は買出しだね。梨華ちゃんの金で。」

「もうっ。ホントにイヤですからねっ。
いっつも石川のお金ばっかり……。」

「そう?結構梨華ちゃんとはイーブンだと思うけど?」

「どこがですかぁ!……あんっ♪」

「これから一回2万円取ろうか?ん?」

「い、あっ…んっ…ズルいですよぉ……」
175 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月16日(土)23時35分55秒
ジャイアンとスネ夫のベッドシーンなど激萎えだが、
『ジャイアン!ボクの買ったばっかりのラジコン取らないでよー!』
『ウルセー!!俺が先だー!!(ガシャーン!)』
というやり取りに置き換えていただければ幸い。
まぁそれは置いといて、
バカップルは事が済むとさっさと眠りに落ちてしまった。
が、そこへ一本の電話が入った。
まだ辛うじて意識を保っていたのは矢口の方。
完全に睡眠中だったら、恐らく壁に向かって投げつけられ、
電池が外れて通話不可能、という事態になっていたことだろう。

「……ぁぃ……もιもι……」

『んぁ、やぐっつぁん?』


バイトが無い日の昼間は
大概石川の部屋で引き篭もっているわけだが、
今日は久しぶりの外出だ。
バイトに行くのと同じように街まで出てくると、
デカいビルに入っていく2人。
トイズよりも背丈の大きいそこの最上階の辺りには
"東急フッツ"という看板がデカデカと掲げられている。
日常生活でこことコンビニと"ドソキホーテ"があれば困ることはない。
176 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月16日(土)23時36分27秒
「とりあえず…何が要るっけ?」

「看板直さないとダメですよぉ…。」

「看板か…。大工系統の材料は加護の父ちゃんのコネで揃うって言ってたし…。」

「…じゃあ何でここに来たんですかぁ?」

「……フラリと…。」

入店5分で店を出る2人。
続いて隣りのドソキホーテに入っていく。
ここはとにかく色々な物が売っていて、
マスコットキャラのペンギンの目つきがやたら悪くて不評なのだ。
店内は、また微妙な音楽が鳴り響いている。
そんなことはさておき、矢口は使命を忘れて、
お買い物モードなわけで。

「これ!これ買ってー!!10分間に600回の腹筋運動だよ!!」

「これ持ってるじゃないですかぁ…押入れで埃被ってますよぉ…。」

「そうだっけ…。」

「それよりも、ここで何買うんですかぁ?」

まさかここもフラリと入ってしまったのでは、
と勘ぐる石川だったが、案の定その通り。
177 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月17日(日)23時21分26秒
「えっと……何するんだっけ?」

「もうっ!」

首を一回ししてお決まりのセリフを吐く。
矢口の言葉に反応するときは
『もうっ』と『何でですかぁ』で大体OKなのだ。

「あ、そうだ。焼肉の網と…アイスクリームの機械か…。
白玉は……却下ということで。」

「何でですかぁ!」

ほら、やっぱり。

「ん?それとも一回2万円にする?オプションで目隠しが2000円、縛りが3000円、バイブが…」

「……。」

まだそのネタを引きずっていた矢口。
やはり金への執着心は並外れている。
そしてそれは
店中に筒抜けだった…。
結局何も買わずに、ただ恥を晒しに来た奇妙な客。
そう取られたに違いない。
178 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月17日(日)23時22分17秒
すっかり日も暮れて
いつもなら閉店の時間だが
この日は"落ち武者"の明かりはまだ点いていた。

「誰れすか!『とりあえず掃除シル!』って言った人は!!」

嘆く辻、そして他の面子は既にくたびれて椅子に座っている。
じゃんけんで負けて掃除当番は辻となったのだった。

「ののは学校でも掃除当番なんれすよ!?
テメーら気が利かねーのれす!!
第一、ののは受験生れすよ!?受験生!!
一流大学狙ってるんれすよー!?」

そしてその店内の明かりが零れる外で
平家がせっせとスープの仕込みを行っている。
鶏のガラから肉を削ぎ取り、箱に入れる。
その繰り返しをもう2、3時間はずっと続けていた。
179 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月17日(日)23時22分53秒
「お疲れさん。」

「ん?ああ、圭ちゃん。今日はショー休みとちゃうん?」

「アタシはバイトじゃないのよっ?」

「ああ、そっか。社員やったな。」

「まったく、レジは疲れるわね。むくんでるわ。」

「顔がかいな?」

「脚がよっ!!」

ずっと中腰のままだったが、
そう言ってようやくコンクリートに腰を下ろした。
見下ろすのが悪いと思ったのか、
保田も平家の目線に付き合ってしゃがみ込むと
残っている骨を手に取ってマジマジと眺める。
確かに、ガラを見る機会などあまりない。

「鶏?」

「アタリ。」

「何で外でやってるのよ?自分の店なんだから中でやればいいじゃないっ。」
180 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月17日(日)23時23分38秒
何だか楽しそうな声が聞こえてくる方を向くと
煌々と照る明かりが眩しくて目を細めた。

「中でやると大騒ぎになるやろ?
確か石川は鶏大嫌いやったし。頭や足が平気で入ってるさかいな。」

「そしたら、アレよ。昨日渡した紙を見せてやればいいのよっ。」

「ああ、あれか…。あれは、もうエエねん。」

「どういうこと?」

「あのコらかて意地悪で騒いでるんのとちゃうし。
……うしっ、下処理終了!」

箱を店の裏口まで運んで帰ってくると
また元の通りにしゃがんで保田と話しだす。

「それなら……早く止めないとっ。
店を無茶苦茶にされるわよっ。
少なくとも、ラーメン屋じゃないように…。」

「ん?んん……。」


駐輪場にポツリと残されたしげるに向かって歩いて行く2人。
いつもならもう2つ自転車が停まっているのだが、
それは一足も二足も先に帰ってしまった。
181 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月18日(月)23時09分02秒
「結局平家さんどこ行っちゃったんですかねぇ?」

「ああ…そういえばみっちゃんの姿を見てないね…。」

愚痴りながらもしっかり掃除するあたり、
辻の優等生ぶりが伺える。
電気を消すことも忘れて、
何もしてない矢口と石川はなぜか疲弊しきった表情で店を後にする。
吉澤はもうひとつのバイトへ、
辻は半ギレを起こして早々に帰ってしまって、
加護もその後をついて行き、
安倍と飯田に至ってはいつの間にか逃げられていた。

「あっ、ヤベッ!キー忘れた!」

店のテーブルでキーをクルクル回して
そのまま置きっぱなしだったことに気づくと、
非常階段をダッシュで駆け上がる。

「あ、ちょっと…石川も行きましょうかぁ〜!?」

そんなこと言う頃には既に矢口の姿は未確認ゾーンまで達していた。

「わーすれちゃったー、わーすれちゃったー……あれ?」

電気を消し忘れたこともそうだが、
その店の奥に、すっかり姿を眩ませていた店主を発見。
しかも、今まで見たこと無いくらいに一生懸命の平家は
外の暗い風景と相まって
声を掛けにくい雰囲気を醸し出していた。
182 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月18日(月)23時09分54秒
そっとドアを開けてキーを手に取ると
足音ひとつ立てずに去っていく。

「矢口さんっ、キーありましたかぁ!?」

「んっ!?あ、ああ、あったよ。ほらっ。」

「よかったっ。…あれ?電気消さないとダメですよね?」

「電気!?…いいんじゃない?ヤグチ達の責任じゃないしさ。
ほら、帰るぞー!」


後藤が自宅に帰る頃には
時計の針は11時を回っている。
昨日はあまりの眠さに、矢口にしか電話せずに寝てしまったが、
さすがに今日はそういうわけにはいかない。

「…んぁ…誰に電話したんだっけ?
…やぐっつぁんと……ののと…よっすぃーは仕事中だし…加護ちゃんか…。
……んぁ!!」

後藤は
安倍と飯田の電話番号を知らなかった。
もう一度時計を見てみると
さっきから既に30分も経過している。
183 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月18日(月)23時10分25秒
「…誰が知ってるんだろ……やぐっつぁんとか梨華ちゃんなら知ってるかな…。」

部屋をウロウロしながらあれこれ考えてはみるものの、
後藤なりの配慮で全て消えていく。

「…あの二人は……んぁ〜…こんな時間だしなぁ…。
ヤッてるに決まってるよねー…お盛んだから…。」

冷蔵庫を開けてヤクルトを一本取り出すと
アルミの蓋に指をぶっ刺して咥えた。
携帯を眺めながら顔を上下に動かす様は
かなり不思議な光景ではある。

「……歩いて行くかぁ…。」

結局、以前話していたときに聞いたのを元に、
安倍と飯田の住むアパートまで歩いて行くことにした。
が、

「んぁ。シャワー浴びよ。」

家を出る頃には日付は変わっていた。
184 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月18日(月)23時11分40秒
工大付属高校前の駅周辺には色々な建物がある。
学校はもちろんのことだが、矢口や石川のアパート、
パチンコ屋、喫茶さやかに風俗店など。
そしてそんなちょっとした繁華街に安倍と飯田も住んでいた。
その名もアパート二人暮し。
その外観はピンク色に彩られており、
名前通り二人暮しのカップルがほぼ全室を埋めるという
ちょっと奇妙なアパートなのだ。

後藤にとっては歩きでも大したこと無い距離で、
鼻歌雑じりにしばらく行くと、そのラブホテルのような建物が見えてきた。

「んぁ〜……こりゃ…入りにくい…。」

やはり一般人には異様な雰囲気に見えるようで、
後藤も辺りに人影がないのを見計らって突入した。

郵便受けに並ぶ表札は
やたらラブラブ感を表現した文字ばかりだが、
その中でひとつだけ物凄く普通、いや普通でいいのだが、
周りの威圧感に押されてやけに味気ない表札を見つけた。

「……別にあの二人はカップルじゃないしね…。」

185 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月19日(火)23時01分33秒
ピンポーン

『……はーい?』

「んぁ、ごとーだけど。」

夜中に突然の訪問でも
飯田の声はいつも通りに聞こえる。
エントランスから続く廊下は
パカパカと蛍光灯が点いたり消えたりを繰り返していた。

「ごっちん……どうしたの?」

「んぁ…ちょっとオハナシが。」

さすが二人暮しと言うだけあって
2Kの間取りは結構余裕があるように造ってある。
飯田の部屋の真ん中にはキャンバスが置いてあり、
毎日寝る前に絵を描いているのだとか。
言葉を交わしている最中、ひっきりなしに壁を挟んで
上から、下から、右から、左から、
ヤッている声がする。

「すごいね、ここ…。」

「慣れっしょ、慣れ。」

「ふ〜ん、で、なっちは?」
186 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月19日(火)23時02分14秒
「さぁ?カオリがお風呂から出たら居なかった。
多分そこら辺をほっつき歩いてるんだと思うけど。」

補導歴は数知れず。
北海道の大地を夜中に徘徊する安倍は
いっつもお巡りに見つかっては交番に連れて行かれていた。
どうやらこっちに来てからもその癖が抜けないようだ、
理由は分からないが。

とりあえず部屋を見回して、本題へ。

「あのさ…みっちゃんのお店の話なんだけどー…」

「あー、それね。カオリ達は無関係だから。」

「んぁ?クレープ屋の合併して、とか言ってなかったっけ?」

「まぁ〜、その場のノリでね。
だってみっちゃんはラーメン屋やりたいんでしょ?
今日だって何か色々やってたし。どこにそんなお金があるのか知らないけど。」

「んぁ……。」

「みっちゃんはさ、お父さんから引き継いだんだから。
だからさ、この絵で言うと、ここら辺がみっちゃんで、ここら辺がお店で……」

「あっ、その話は解っ……」
187 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月19日(火)23時02分59秒
後藤が阻止するのを許さぬように
勝手に絵に例えた話になだれ込んでしまう。
ただでさえ真夜中にやってきたのに、
この飯田先生の"ためになるお話"のおかげで
帰る時間は2時ごろとなりそうだ…。

「……でさ、要するにみっちゃんはラーメン屋を続けたほうがいいってこと。」

「ほわわぁぁ〜…フシュフシュ……。」

「それでカオリはね…。」

「もういいよ…もう沢山だから…朝になっちゃうから。」

「これからが大事なの。」

「後藤帰る、オヤスミ。」


夜道を照らす街灯が点々と続き、
その道を延々と歩く。
その先には自分の家があって、
電気が点けっ放しの自分の部屋がある。

「みんな何だかんだ言ってみっちゃんのこと考えてるんだねー……。」
188 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月19日(火)23時03分35秒
どこに行っても結局帰る場所は決まっているのだから、
そんなに心配する必要もなかったのかもしれない。
平家にはラーメンしかないのだから。

「ほわわわぁぁぁ……眠い……んぁ!?」

背筋に悪寒が走ったのに気づき振り返ると
電柱の辺りに人影が…。

「ん、んぁ……」

歩調を速めると、そいつもそれ以上の速度で近づいてくる。
身の危険を感じた後藤は
ホントに久しぶりの猛ダッシュで一本道を駆け抜けていった。

「ごっつぁん!なっちだべ!!ほら、なっちだべーー!!!
ちくわ一緒に食べるべさぁ〜〜!!なんなら
ビーフジャーキーもパクってくればいいべかぁ〜〜!!」


トントンカンカンと日曜でもないのに大工をするメンバー達。
加護は学校が終わると一旦家に帰って
こんなに使わないだろ、というほどの木材とペンキを持ってきた。

「これくらいで足りるやろ?」

「余ったやつは加護ちゃんが持って帰るんでしょ?」

「なんでやねんっ!絶対イヤや!シンナーの香りは懲り懲りやねん。」
189 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月20日(水)23時08分51秒
材料調達は加護、力仕事は吉澤、
矢口はメンドくさがりで、石川はペンキ塗り。
で、辻は……

「ソージばっかりやらせるななのれす!!
テメーら!ののを怒らせるとはいい度胸れすね!!
そんなにホウキぶっ込まれたいれすか!?」

今にも泣きそうだった。

「ごくろうさん。おお、めっちゃ綺麗になったやん!」

真新しいエプロンを纏って、
新しい看板の店を眺めると、
また一から始める心構えが出来てきた。
新装開店だけど"落ち武者"という名前はそのままで、
一仕事終えた大工さん達に労いのラーメンを差し出した。

「ありがとな、ホンマに。」

「いえいえ、これくらい晩飯前っスよ。」

「間違うてるて。……でも時間的には晩飯前か…。」

「礼ならののに言うんれすね!!
これじゃダスキソのオバサンと同じれすよ!!!」
190 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月20日(水)23時09分26秒
前みたいなどす黒いスープはどこかへ消えて、
器の底に描かれたマークが見えるような、透き通ったしょうゆ味のラーメン。
後藤がくれた金で試行錯誤して行き着いたこれが、
落ち武者唯一のメニューだ。

「あとは平家さんのラーメンですよっ。」

いただきますも言わずに麺をすする矢口。
シビアな舌の持ち主だけに、
彼女の一言が全てと言ってもいい。

「どうや…?」

「うーん……」

他の4人も矢口に視線を集中させて、感想を待つ。

「普通。普通のラーメンだね。」

「ちょっとっ、矢口さんっ!そんなこと言ったら平家さんが……」

「いやいや、そうじゃなくて。
普通の店で出せるくらいのラーメン、ってこと。」

全員苦笑い、だけど正しい。
スタートラインに立てたのだから、
あとは平家次第、ということだろう。

「みんなな、お礼と言ったら何やけども……これ、貰ってくれへんか?」
191 名前:第15話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月20日(水)23時10分19秒
「ん?……永久タダ券…?」

「ウチのラーメンやったら、いつでも食べに来てくれてエエから、な?」

「タダ券カッケー!!」

「こんなの貰ってもなぁ……いつもタダで食ってるんだし。」

今度は矢口が苦笑いだった。

「あとはどうやって客を集めるか、やなぁ…。
ってか、ののはいつまで掃除しとんねん!」

「ふぅ……ソージはこれくらいれいいれしょう…。
平家しゃん!ののにもラーメン一杯くらしゃい!!」
192 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年11月20日(水)23時13分28秒
以上で第15話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして16話を開始したいと思います。
193 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月26日(火)02時41分22秒
加護しく大好きです。
かなり長い事続いてくれそうなのでほっとしつつ見守らせていただきます。
頑張ってください。
194 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年11月27日(水)23時12分44秒
>>193
ありがとうございます。
企画自体は相当長い予定になっています。
今後もご愛読よろしくお願いします。
195 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月27日(水)23時17分24秒
「ナ、ナハッ…。」

十月中ごろの午前中、辻希美は廊下に立ち尽くしていた。
自分の名前の書かれた大きな模造紙の前で

「そんな…。」

掲示板の記されていたものというのは、

-----------------------
第二学期中間考査結果

1位  松浦亜弥    896点   平均 99.6



13位  辻希美      860点   平均 95.6



178位  加護亜依    100点   平均 11.1
                  以上183人(欠席含め)
-------------------------
196 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月27日(水)23時18分06秒
「ののが…13位…ののが…ののが…。」

松工大付属高始まって以来の天才と持てはやされた辻希美の凋落。
そんな(´・ω・`)なオーラムンムンの辻に話し掛けてくる人物がいた。

「残念でしたねぇ〜♪辻さんっ♪」

「ぁゃゃ…。おめでとうれすね…。」

「いやあ、辻さんが手を抜いてくれたおかげですよぉ〜。もしかして受験モードに
完全に切り替えたんですかぁ?いつも満点なのにぃ〜♪」

「ハハハッ、そ、そうなんれすよっ。じゅ、受験生れすし、先のこと…考えてれすね…
ナハッナハッ…。」

「ヤッパリそうなんですかぁ〜♪汗だくだくですよぉ〜、辻さん♪」

「うぐっ…、きょ、今日は、暑いれすからっ。」
197 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月27日(水)23時18分50秒
「そうですかぁ〜?涼しいと思いますけど♪」

「なはっ…、汗っかきれすから…。」

明らかに脂汗。
完全に松浦は見抜いていた。

「来週の模擬試験が楽しみですねぇっ♪ご健闘を祈りますよ♪」

松浦は辻の肩をポンポンと叩いて不敵な笑みで去っていった。
ギュッと握りこぶしを作り、表を見上げるが
何度見ても結果は変わらなかった。
そんな辻を見つけ、近づいてきた加護は
相変わらずの能天気さで口笛を吹いている。
耳にはヘッドフォン装備で、大音量で曲を聴いている。

「どないしたん?のの。」

辻の視線を追ってその対象を見つける。

「あー、のの13位やなぁ、あったまええなぁ〜ののはぁ〜。
ウチは何処かなぁ〜。おっと、100点やで100点。スゴッ。
ウチ初めてこのガッコで3桁の点取れたなぁ〜。アハハハ。
また提出物の山やなぁ、アハハハ。ん?どしたん?」
198 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月27日(水)23時19分21秒
「…ぃぃ…ぇ…。」

「はぁ?なんやて?」

そりゃあ聞き取れないだろう。
大音量で音楽聴いているのだから。
ヘッドフォンを取り外して再度尋ねる。

「なんやて?」

「のんきでいいれすねっていったんれすよ!!」

そう吐き捨てて、辻はその場を逃げるかのように走り去っていった。

「なんや機嫌悪いなぁ〜生理かいな…。」

改めて結果表を見上げる加護。

「ウチの上のひと301点かいな…、アハハ、ウチあったま悪いなぁ〜。
さよかーさよかーハッハッハッハーッ。」

また音楽ガンガンにかけて、教室へと向かっていった。
教室に戻ると、辻が参考書やら問題集を開いて机に向かっている。
いつもなら、何か口に入れながら雑談をして盛り上がっているのに。
なにやら背中から話し掛けづらい空気を漂わせている。
199 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月28日(木)20時47分27秒
「ん〜、どないしたんやろ。そないに勉強なんかせーへんでもええと思うんやけどなぁ。」

ヘッドフォンを外して、MDごと机の中にぶっこむと
カバンの中からポッキーを取り出して辻の元へ向かう。

「よう勉強すんねんなぁ〜。どないしたん?」

「……。」

相手にしてられない、そういう雰囲気を醸し出している。

「ポッキー食べるかぁ〜?」

加護はタバコを差し出すように、ポッキーの袋を振って辻の前に一本差し出す。
視界に入っているはずなのに見向きもされない。

「なんやねんな、気ぃ悪いで、自分。」

「……。」

少しムッとした加護はポッキーを元に戻す。

「ほな、今日はガッコ終わったら、もんじゃでも食べにいこかー?
ウチおごったるから。どや?ウチが奢るなんてメッチャレアやでぇ〜。」
200 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月28日(木)20時47分58秒
「……。」

「ちょお、聞いとるんか!?」

すると、辻はキッと加護を見上げ、机をドンと叩くと

「うるさいれすよ!!ののは勉強してるんれすよ!!どっかいってくらさい!!」

すごい剣幕で逆ギレ。
いつもならヘラヘラしている辻が、今日はやけにイライラしていた。

「あーさよかーさよかー、ほなな!勉強ヴァカ!!ケッ!!」

「とっとと消えろマザーファッカーれす!!」

加護はアッカンベーとすると、これからまもなく授業が始まるというのに
教室を出て行った。

「まったく、あいぼんはいい気なもんれすよ…。」


そのころ加護はトイレの中にいた。
紫煙を吐く。
そう、高校生のタバコの吸い場としてはメジャーなトイレの中である。
男子トイレから比べると遥かにチェックがゆるい女子トイレは格好の喫煙場所である。
セブンスターの煙は立ち上り換気扇の中へ消えていく。
いろいろなことを考える、ため息に似た煙を吐き続ける。
201 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月28日(木)20時48分28秒
「まったく、何やねんなぁ…。」

考えるとこといえば辻のこと。
不機嫌な理由が良くわからなかった。

「生理はこの前来とったしなぁ…。」

――――――

加護が突っ伏して机で寝ていたある日の午後のこと。

ブーブーブーブー…。

「ん…あかんて…あかん…そこ…ダメッ…んっ…ん?」

なにが『あかん』のか良くわからないが、
携帯が震えているのを気づいたようである。
いかんせん授業中だしさすがの加護でも出るはずが…ある。

「ん?ののどないしたん??」

「あいしゃぁ〜ん…助けてくらさぁ〜い…グスッ…。」

「どしたん?なんかあったんか?」

小声で対応するが、今にも気づかれそうだ。
前を見ると、辻が席についていなかった。
202 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月28日(木)20時49分16秒
「ううっ…生理来ちゃったんれすよ…ナプキン持ってくるの忘れたんれす…
たすけてくらさぁ〜い…。」

「なんや、そんなことかいな。ほな、ちょお待っとって。」

「はい。トイレにいるれす…。」

加護は携帯を閉じると、カバンの中をあさって小さな巾着袋を取り出す。
203 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月29日(金)22時03分06秒
「せんせぇ〜、トイレ逝ってエエですかぁ〜?」

『ダメですよ、加護さん。授業終わるまで我慢しなさい。』

「殺生やでぇ、センセー、ウチがここで股から血ぃ流してもええんですかぁ?血生臭いですよー
鉄臭いですよー。」

一同爆笑。

『は、はやくいきなさい。』

「ほな、おおきに。」

にかっと隙っ歯を見せると、教室を出て行く。

トイレに入ると、ひとつの戸が閉まっていた。

「ののぉ〜?おるかぁ〜?」

「いるれすよぉ〜…。」

場所を確認すると隣のトイレに入る。
そっと足元の隙間からナプキンを差し出した。
204 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月29日(金)22時03分38秒
「ありがとうれす…。」

「ええてええて。ヤニ切れしとったさかいな、ちょうど喫煙タイム入ってちょうどええわ。」

セブンスターの箱をとんとんと叩きタバコを咥える。

「あいしゃぁ〜ん…助けてくらさぁ〜い。」

「何やねんまだあるんかいな。」

「ののもヤニ切れですよぉ〜。」

「アハハハ、さよか。やるわ。」

先に加護はタバコに火をつけると、セブンスターとライターをナプキン同様に渡した。

「ゲホッゲホッ、セッター重いれすね…。」

「アハハハ、さよかーさよかー。」

――――――

「う〜ん…なんで怒っとんのやろ?」
205 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月29日(金)22時04分11秒
そんな時隣のトイレに誰かが入ってくる。

(やばっ…消さな…。)

慌てて消そうとすると聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「アイボン?」

「ん?ああ…。愛かぁ〜。びびったわぁ〜。」

「セッターのニオイがシたかラ〜。たブんソウじゃなイかなァって。」

「アハハ、もろバレやな。」

「そウだねェ〜。」

隣のトイレに入ったのは
高橋愛、加護同様に転校生であるが
出身地の福井弁は直ったもののアクセントがおかしい。
206 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月29日(金)22時05分26秒
しばらくすると高橋の入ったトイレから紫煙が昇る。

「あれ?愛も吸うんやったっけ?」

「ウン。」

「KENTかぁ〜。」

「わかル?」

「まぁなぁ〜。」

「ヒトリでどシタの?」

「ん〜。ちょっとなぁ。」
207 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月30日(土)12時37分00秒
「辻ちゃんとケンカしたでショ?」

「うーん。まぁ当たりかなぁ。なんやか凹んどる気がしてなぁ
声掛てんけど、キレられてもうた。」

「たブん…あヤやにマケたからだと思うヨ。」

「ん?」

「辻ちゃん一度もこの高校入って1位以外とったコトがなイいんだって。
それにあヤやにナニカ言われてタシ、今度の模試、マケられないんジャナイかなぁって。」

「そっか…。おおきに。」

「もう、授業イクノ?」

「まぁ、出席足りんくなって卒業できへんのも困るしやなぁ。」

「ソウ。じゃあガム食べていきナヨ。」

そういうと高橋は隣のトイレに放り投げる。

「おおきにっ。」

「私はもうすこシ、吸ってイクから。」

「ほなな。」
208 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月30日(土)12時37分35秒
結局、その日加護は辻に話し掛けることがなかった。
話し掛けづらい雰囲気を醸しているし、何より喧嘩をしてしまった。
加護は一人、ヘッドフォンを大音量にしながら歩いて自宅へ向かっていく。

「つまらんなぁ…。」

すると、後ろからパッシングの音が加護を呼び止めようと鳴った。
それに気づかない加護はスタスタ家路に向かっている。
その音源は徐々に近づき並走となって、加護はやっと存在に気がついた。

「あれ?梨華ちゃん?どないしたん?しげるに乗って。」

そう、なぜか今日は矢口がおらず、石川が一人、しげるに乗っている。
しかも彼女は無免許である。

「やっと気づいてくれたぁ〜♪ずっと鳴らしてたのにぃ〜♪」

「ゴメンゴメン、ずっと音楽きいとったわ。ほんで、どないしたん?」

「ん〜?お買いものぉ〜♪矢口さんがねーダルイッとか言うからぁ〜
一人でお買いものなのぉ〜。」

「無免で?」

「うん。そう、無免で。えへへっ♪加護ちゃんはどうして今日は一人なの?」

「うーん…。」

「ハッハ〜ン♪喧嘩したんだ?」

「うん。」
209 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年11月30日(土)16時48分49秒
石川は、加護の話に付き合うためエンジンを切って、手押しをする。
すこしづつ、今日の出来事を話し始める。

「ん〜、テストかぁ〜。懐かしいなぁ〜♪」

「ハァ…どないしよ。」

「う〜ん、どうしよう…。」

一緒になって困る。
加護は石川の顔をうかがうが
加護同様に困った顔をしていた。

「ゴメン、梨華ちゃん、相談に乗ってくれておおきにっ。ほな、ウチ
もうすぐ家やから、ほななー。」

「あ、うん。元気だしてー、きっと大丈夫だからぁ〜。」

そう石川に別れを告げて、加護は自宅への道を歩む。

「梨華ちゃんが答えられるわけ無いわなー。」

つまり、最初からあてにしてないということらしい。
優柔不断な石川に答えを期待して損した気分になっているようだ。

自宅に帰ると、カバンを放って、ベッドに飛び込んだ。

「ハァ…。」

外を見れば、雨が窓ガラスを濡らし始めて
少し季節外れの雷音が木霊していた。
210 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月01日(日)20時52分43秒
――――――

豪雨と雷音が鳴り響く中。
加護は一目散に走った。

それは、泣きながら寂しくて怖いと加護に辻から電話が入ったからだった。
転校して日が浅く、それほど友達と言えるものが無い中
辻はいち早く友達になってくれた。

ただの友達なら、こんなことするだろうか。

「なんでやろ…。」

息があがる中、加護はそうつぶやいた。
傘はもはや無意味といえるほど、大量の雨が降り注ぐ。

加護が辻の家にたどり着きチャイムを押すと
押すのが早いか否かという速さで辻がドアを開いた。
どうやら加護が家にくるまで、ずっと玄関で待っていたようである。
キティのぬいぐるみを抱いて、目、鼻、耳を真っ赤にして加護に抱きつく辻。
211 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月01日(日)20時53分14秒
「ど、どないしたん…?」

「雷…こわいんれすよぉ〜〜〜…グズッ…。」

思わず笑みがこぼれる。
あまりにも辻がかわいすぎて。
小さく震える辻をキュッと抱きしめるた。

「あいしゃん、ずぶ濡れれすよ。」

「誰のせいやねん、アハハ。」

「ゴメンれす…。雷収まるまでののの家にいてくらさい。」

「うん、そうさせてもらうわ。」

家に入ると、静かだった。
家族がいないらしい、それで電話してきたんだなと悟る。
部屋に入ると、辻がタオルを加護に渡した。

「おおきに。」
212 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月01日(日)20時54分36秒
頭を拭きながら、ぬれた靴下を脱ぎ捨てる。
自宅に帰ってすぐ電話がかかってきたため、
加護は制服姿だった。

「あかんなぁ〜、明日乾くかなぁ〜これ…。1着しかあらへんさかいな。」

「大丈夫れすよ、ののの奴使ってくらさい。」

そういって、夏用の制服を取り出して渡す。

「ええの?」

「ええれすよっ。」

安心感からか、純粋なうれしそうな笑みを浮かべる辻。
そんな辻を見て、辻は純粋なんだなぁと感じる加護。

「せやけどぉ〜、これ着替えたら帰りまたぬれるかも知れへんし…。」

「あ、そうれすね。じゃあ、のののTシャツとジーンズ着てくらさい。」

「おおきにっ。」

ふと加護は辻の視線が気になった。
なぜかその先は、自分の目でなく、腹のあたりに。

「あ…。」

濡れた制服は、タトゥーの姿を浮き上がらせていた。
とっさに手をヘソに当てて隠した。
213 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月01日(日)20時55分26秒
(いつか…バレることやし…。)

そう思い直して、手をどける。

「…タトゥーれすか?」

「うん。」

お互いにとって気まずい空気が漂う。
ここで笑い飛ばせるほど易いタトゥーならよかったが。
そんな空気を切り裂いたのは加護だった。

「のの…、ウチら友達よな….。」

「そうれすよ。」

「あんな、ウチが転校して来た理由…
ホンマの理由…ののに話そうと思うねん。
できることなら…どんな事聞いても…ウチら友達でいてくれるか?」

「やぼれすね。」

つらそうに俯いていた加護にそう答える辻。
意外だったのか加護が面を上げると、
そこにはいつもの辻スマイルがあった。
214 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月02日(月)21時45分24秒
「ののはもう、あいしゃんと親友れすよ。こんなどしゃ降りに
のののところにきてくれて嬉しかった、ののは認定れす。
どんなことを聞こうと、あいしゃんはののの親友れすよ。」

「のの….おおきに。」

大粒の涙がこぼれた。

その夜、加護は辻に打ち明け、
二人は涙を流しあったという。

――――――

「親友かぁ・・・。」

風呂上りに加護は鏡の前でつぶやいた。
ヘソと肩には太陽と蠍。
これらは過去の産物。
これらを消さないのは、戒めだと加護は言う。
毎日映る身体を見て、自ら犯した過ちを忘れぬようにする存在なのだという。
215 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月02日(月)21時45分57秒
「男とHとご利用はご計画的に。」

いつものように鏡の前でそういった。


ベッドに二人、こちらは言わずもがな矢口・石川さん。

「ん〜〜?ケンカァ〜〜?」

その言葉は紫煙とともに吐き出された。

「そうなんですよぉ〜♪」

この言葉も紫煙とともに吐き出された。

「へぇ〜、珍しいなぁー、辻加護が喧嘩ねぇ〜。」

「まぁ、たいしたことじゃないんですけど。」

「20点。」

「えっ。」

「だから20点。わかれよー、大したことじゃないならはなすなよー
オチあるのかと思ったよー、ツマンネー女ッ!!」
216 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月02日(月)21時46分28秒
「ひっどぉ〜い…ぐすんっ。」

「で、どんな原因なわけ?」

「それがですねぇ…ゴニョゴニョゴニョ。」

二人だけなのに耳打ち。

「あっ、んっ、ちょ、ちょっ、っとまって、梨華ちゃんっ。」

「はい?」

「ウイスパーブレスはキタネーよっ。」

「えっ…何がですか?」

「あ、ナハッ…わかってないならいいや。
ふつーにしゃべろ?ふつーに。」

「はぁ…。で、ですねー。」

そして一通り、今日加護に聞いたことを矢口に話した。

「べつに亜弥ちゃんはわるくないっしょー。」

「何いってんですかっ!!悪いに決まってるじゃないですかッ!!」
217 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月02日(月)21時47分09秒
「そんな剣幕立てんなってー。何ムキになってんのぉ〜?事実っしょー。」

「ええ!!事実嫌味のせいで余計にののちゃんにプレッシャーかかって
喧嘩になったんですよ!!」

「そうかなぁ〜〜??」

ひいき目。
完全に分かりやすいほどのひいき目。
それが気に入らない石川の膨れた頬はもっと膨らむ。

「で?いつが模擬試験だって?」

「土曜ですって!!結果は月曜発表だそうですっ!!」

「ふ〜ん。」

矢口はカレンダーを見上げ日にちを確認する。
218 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月03日(火)18時57分04秒
「26試験かぁ〜。」

目線が中を泳いでいる。

「…どうしたんですか?」

何かを考えている。
矢口の思考というものは、石川でなくとも
予測不可能である。
理解することはこれから先も難しいだろう。

「うっし!!OK!!寝よう!!」

「えっ…。なにが…って、寝るの早やッ!!」

聞き返す間もない速度で眠りについていた。

「もうっ!!」

時間も時間なので、寝ている矢口にキスをして
石川も眠りについた。
219 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月03日(火)18時57分45秒
翌日。
松工大付、辻加護の教室にて。

テストを終え、発表された翌日あたりは
大概答え合わせなどが授業で行なわれる。

辻にとっては何処がミステイクなのかとても気になる時間であり
加護にとっては点数や正答には縁が無く、暇な時間である。
だから双方の態度は対極的。

辻は最前列に席を構え、一人挟んで後ろの席に加護が座っている。
暇な加護は突っ伏して寝たり、曲を聴いたりしているが、
さすがに6限もあれば飽きてくるというもの。

「そろそろ仲直りしよかなぁ〜…。」

そうつぶやくと、消しゴムを取り出してちぎっては辻に向かって投げた。

(気付けッ♪気付けッ♪)

まぁ、仲直りしようとする行為にこれは不適当であるのは目に見えてるわけで、
もちろん、辻希美にはそんな意図からの行為だと分からないわけで。
赤ペンの筆圧が高くなるわけで。
220 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月03日(火)18時58分17秒
バキッ!!

完全に血管がキレております。

授業終了後
顔を真っ赤にした辻が加護の元へやってくる。
どうみてもスマイルでなく鬼のような形相である。

「お、どないしたん?」

「…でろ…。」

「ん?なんやぁ〜。」

「表に出ろゴルァ!!」

その時やっと逆効果だったと加護は気付いた。
そして、基本的に加護はヤる気はなくとも
どんなに自分が悪くとも、売られた喧嘩は…

「上等だゴルァ!!ヤッたらぁ〜〜!!ヴォケェッ!!」

別名人間沸騰器なわけで。
221 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月03日(火)18時58分50秒
そんな一触即発な空間は
様子をうかがっていた高橋が間に入ることで収まった。

「ブレ〜〜イク!!」

レフリーなみのすばやさで二人の間に身体を挟み込み
両者を突き放した。

「おちつイテー。二人ともー。ケンカはヨクないよー!!」

「くっ…命拾いしたれすね…このトゥルッパゲッ。」
「なんやと、この舌ったらずがっ!!」

「やめてホラやめて。」

ひとまず高橋に免じて最悪な事態は避けられたようであるが
決別は決定的になったようだ。
222 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月04日(水)23時08分40秒
「ソレはあいぼんがワルイよー。」

ファミレス『グワシト』で高橋、加護の二人は
テーブルを囲んでタバコをつまみにドリンクを飲んでいた。
制服姿で大またを広げてタバコを吹かす。
決して態度は良くは無い。
通報されないのが奇跡といったところか。

「あかんかったかぁ〜〜。」

「仲直り下手ダネェあいぼんは。」

「まぁなぁ〜、自分で思うわぁ〜。ヘタクソやなぁ〜って。」

「ココマデこじれちゃうとネェ〜。」

自然にフゥ〜とため息が漏れる。
その二人の後ろの席で聞きなれた声が…。

「スイマセーン!ミックスグリル2つー!!」

店員が来てから頼めよ…と思ってどんなやつかと
振り向くといきなり頭が…
223 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月04日(水)23時09分48秒
ゴツッ!!

「イタッ!!」

「いってぇYO!!」

「あ?」
「あ゛っ、ヨッスィー!!」

「加護ちゃ〜ん。どうしたんだYO!」

「どうしたって、見てわかるやんか、ファミレスでだべっとんねん。」

「ん?あ、はじめましてー、ヨッスィーでーす!!」

「あ、ドウモ…。」

なんと、なぜかテンションが高い吉澤が後ろの席だった。
お初な顔同士、挨拶を交わす。

「あれ?辻加護コンビ解散中なのかYO〜?」

タイムリーだ。
まぁ、二人いつも一緒という認識は、ミニモスタッフ共通なわけである。
逆に一緒でないのが不自然であるわけで
224 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月04日(水)23時10分32秒
「まぁ、停止中やな。」

「ケンカ中だなぁ〜?」

あまりにも的を得た発言に、思わず
苦笑いの高橋と無言の加護。

「そっちの席うつっていい??」

「ああ、ええよ。」

そう了承を得ると、席を移る吉澤。
すると手を上げて何をするかといえば

「スイマセーン席移ったYO!!」

大声で言う。

高橋はこの恥ずかしい人について
身を乗り出して加護にヒソヒソ話をする。

「この人誰?」

「バイトで一緒の友達…。」

「ショーのヤツ?」

「そう。」

ひそひそ話しに気付いた吉澤さん。
225 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月04日(水)23時11分06秒
「何ヒソヒソやってんだYO!!」

とバシッと加護をたたく。
何もかもが吉澤さんとてもダイナミックです。

「イツツ…ヨッスィーこそどしたん?なんかあったんかいな…?」

「ん〜?そう!!生理が終ったんだYO!!
腹痛くて飯も食えなかったんだYO!!」

「さ、さよか…。」

目の前に並ぶミックスグリル二つ。
ゆうに2000キロカロリーを超える。
それをあっという間に平らげてしまうのだから
唖然とする。

「スイマセーン!!ポテトフライ3つー!!」

「…た、たくましいネ…。」


結局、ソレをも食べきり、終始二人の目の前で食べていたわけで。
ふと、時計を確かめると、17時半に示していた。
226 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月04日(水)23時12分06秒
「もう、5時半か…。」

「まじでっ!?マジかYO!!ヤッベっ、バイトだ!!」

そう言ってあわただしく立ち上がると吉澤は、

「じゃあ、またねー!!」

伝票を持って、去っていった。

「忙しない、やっちゃなぁ〜…。」

「あれ?あいぼんもバイトなんじゃナイノ?
バイト一緒デショ?」

「ああ、ちゃうちゃう、ヨッスィー掛け持ちしとるから。」

「へぇ〜〜…。何ノ?」

「風俗。」
「フウゾクッ!?」

「手コキ魔。」
「テコキマッ!?」

「まぁ、そんなとこ。」
「マァ、ソンナトコッ!?」

「楽しいか?」
「タノシイカッ!?……………べつニ…。」

高橋愛、ちょっと壊れたところアリ。
227 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月06日(金)13時57分26秒
「ってわけよー、でさー空いてる〜?」

こちらはモシモシ矢口さん。
お相手は後藤さんのようです。

『んぁ〜。OKだよー。』

「んじゃ、よろしく。」

『んぁ〜。』

電話を切ってメモ帳の後藤の文字に×を書き込む。

「梨華ちゃぁ〜ん。どうよー?そっちはー?」

「保田さんもOKみたいですよー。」

「うし、これでミニモスタッフ辻のぞいて全員だな。」

「どうする気なんですかぁ〜?」

「ん〜?言ったとおりだよー。金曜にカラオケ行って、飲むだけ。」
228 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月06日(金)13時58分28秒
「ほんとうですかぁ〜??」

釈然としない。
ただ遊んで飲むだけとはとても考えずらい。

「ま、矢口に任せときなって。」

「はぁ…。」


そして、辻加護が仲直りできないまま
金曜日を向かえた。

辻姉のバイト先である、カラオケ『秀樹』で
もりあがるミニモレンジャースタッフ(辻抜き)。
適度に酒も入ってノリノリである。
加護や他のメンバーも初めは辻がいないことを
気にしていたが、矢口が『勉強だってさ。』
と言ったことに加え、酒も手伝って頭からその存在が抜けていた。
無論、矢口が辻にこの件で電話をかけたことなどないわけで。
229 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月06日(金)23時24分47秒
「はいはい、梨華ちゃん、またランク外〜〜。」

カラオケのブラウン管にしめされる、大きな数字。
なにやら怪しいおっさんアニメが『42点』の文字に向かって泣いていた。

「え〜〜…またぁ〜〜?えへへぇ〜〜♪」

矢口はそういうと、缶ビール1本、石川の前に突き出す。

「ハイ!イッキイッキイッキイッキイッキイッキイッキイッキイッキ。」

イッキイッキイッキイッキイッキイッキイッキイッキイッキイッキイッキ

オオオオオオ〜〜〜〜!!!!

「ぷはぁっ♪キャ八♪オイシッ♪」

もうこんなイッキを4回飲まされている。
普通に飲んでいる分もいれれば
相当体内にアルコールが回っているようだ。

「よーし!!第5ラウンドだぁ〜〜!!いくぞー!!」

結局、次のラウンドも石川がイッキをしたわけで。
宴もたけなわな、午後10時半。
午後6時過ぎから入って4時間半。
飲み放題サービスで店も上がったりというほど飲んでいた。
230 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月06日(金)23時25分26秒
「うっし、これから辻の家に陣中見舞いいくぞっ!!」

オ〜〜〜〜!!!

どうやらこれが狙いのようである。
そして矢口は次の行動に。
インターホンをとって、缶ビール20個と言い出すではないか。
それは、これから店出るというのだから、
もちろん『オモチカエリ』のことである。
まぁ、インターホンの受け手が辻姉であるから、
融通を効かしてくれるのだろう。

少し待つと、ご丁寧に辻姉がビニール袋に
缶ビールを30個以上、ダンボール詰でもってくるではないか。

「あー、ごめんねー文子さ〜ん。アリガトー。」

辻姉は内緒だからね、と口元に指を立てて言った。

「あ、文子さ〜ん。鍵貸してくれる〜?家の。
これからののんところ陣中見舞いしようと思って。」

陣中見舞いにカギが要る物なのだろうか?
すこし不思議に思っていた辻姉であるが、快くカギを渡してくれた。

「サンキュー、文子さ〜ん。」

こうして酔いどれどもは一路、
よっぱらい運転で辻宅へ向かった。
231 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月06日(金)23時26分12秒
辻宅にて。

辻の両親は趣味を持っていた。
それは、社交ダンスで金曜の夜は、夜遅くまでいない。
社交ダンス自体は23時に終るのだが、ダンス友達と飲んだり
実質帰りは、深夜の2〜3時になってしまう。
辻にとって、両親も姉もいない静かなこの夜は、
事実上のテスト対策の山場であるわけで、黙々と勉強していた。

「えっと…等電位線はこうれすから…ここは12Vれすね。」

無論そんな山場に酔っ払いが訪れてくるとは考えもしないわけで。
来た所で、普通なら門前払いをするだろうが…。

「ふぅ、物理はここまででいいれすかね…。」

テキストを閉じて首を鳴らす。
ここ数時間、固定位置であったから、コリは相当である。
ふと閉じていた、写真立てを上げて、眺める。
そこにはトイズ屋上で笑顔満面のミニモスタッフ達の姿。
232 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月06日(金)23時27分33秒
「あいしゃん…どうしているれすかね。」

「ここにおるでぇぇぇぇぇっ!!!」

ビクッ!!

なにやら声が聞こえた。
幻聴なんかではなく、これは生声である。
後ろを振り向くと…ドアがひとりでに…いや、

「陣中見舞いワショーイ!!」

ミニモスタッフ達が現れた。

あっけに取られる辻。
なにやら顔真っ赤な連中が酒の臭いプンプンさせながら
勝手に人の部屋、いや、人に家に入り込んで
勝手に座って酒を配り、宴の続きをし始めている。

「ほらっ♪ののちゃんも呑もッ♪おいしーよ♪あはっ♪」

「い、いや、ちょ、ちょっと待ってくらさいよ!!何で居るんれすか!!」

もっともなリアクションである。
233 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月07日(土)23時10分29秒
「文子さんにカギ借りたんだYO〜。」

「か、借りたんらよって…。」

「ともかく!!陣中見舞いしに来てやったのヨッ!!
アンタも呑みなさいよっ!!」

保田は缶ビールを突き出す。
なぜか受け取る辻希美。

「つまみねーYO。」

「あ、ウチもってくるわ〜。」

加護がふらっと立ち上がると部屋を出た。
どうやら台所に向かったようだ。

「んぁ〜…。ゴトートイレ…キモチワルイ…。」

こちらもフラフラ部屋を出て行く。

「キャハハハハ、ゴッチン酔っ払いじゃん!!」

いや、矢口さん、あなたも十分酔っ払いです。
あなたは一番タチの悪い酔っ払いかと。

「ちょ、まってくらさいよ!!どういうことれすかっ!!」

まったく事態が飲み込めてない様子。
234 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月07日(土)23時11分18秒
「いいのっ♪ののちゃんも呑みなさい♪」

理性派の後藤は居ないし、石川はタガが外れている。
石川は辻の持っていたビール缶のふたを開け、
そのまま辻の口元に押し付けた。

「いいれすよ!!ののは勉強があるんれすよ!!」

「ハイハイ♪ブレイクタイムでしょー、ブレイクタイムー♪」

「……ま、ブレイクタイム…れすかね…。…でもっ…んぐっ!!!!」

そう口をあけた瞬間に口の中に流し込まれたとさ。

「どう?おいしいでしょ♪すこし酒が入った方が頭に良いのよっ♪」

という見解が、一応元お嬢様の石川さんの弁。

「じゃあ、一缶つきあうれすよ。早めに帰ってくらさいね。」

そう言って、「ちょっとの付き合い」と思い酒をあおった。

加護が戻ってくるなり一言

「師匠が廊下で吐いとるよ!」

「え゛っ!!ちょ、ちょっと待ってくさらいよ!!!」

大慌ての辻は急いで部屋を出ると
廊下でリバースもんじゃを作っていた。
235 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月07日(土)23時11分49秒
「まきしゃんっ、だいじょうぶれすかっ!!」

部屋から聞こえる笑い声。

「う〜〜…ごめんねー…汚しちゃった。」

すると今度は部屋から…

「ビール溢すなよー、ヨッスィー。」

「漏れじゃねーYO!梨華ちゃんだYO!」


こんなドタバタ劇に付き合わされるわけで。
しまいには、時間は2時を示すようになるわけで。

「うい〜〜っ、冗談じゃねーれすよぉー!!
あいしゃんが消しゴムのカス投げてきやがったんれすよー!!」

辻の足元には500ml缶が4つ空で置かれ、なおかつ手に1本持っている。
236 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月07日(土)23時12分47秒
「あれはウチちゃうで〜、しらへんしらへん。」

「シラを切るのはよくねーっつーんれすよー!!!」

「シラを切るのはののやろぉ〜、ってか若シラガなんとかしいやぁ〜!!」

「アア゛!?いったれすね〜っく、このパゲ!!」

「なんやてゴルァ!!」

「やるんれすかっ!ウイック、上等れすよ!!」

「残り少ない髪の毛を毛根から根こそぎブチ抜いてやるれすよ!!」

「なんやとゴルァ!!そしたら麻酔なしでその見苦しい親知らずぶっこ抜いたらぁ!!」

「「ムキーーッ!!!!」」

ここで酔っ払いの喧嘩が始まったわけで、
止める人もいるわけも無く、ギャラリーが見ている中
殴ったり、噛み付いたり大騒ぎだったわけで。
237 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月08日(日)23時09分35秒
「はぁ、はぁ…今日はこのくらいにしてやるれす。」

「それは、はぁっ、はぁっ、こっちのセリ…う…。」

言い切る前に何かキたようです。
慌てて加護は部屋を出るとトイレでレッツリバース。
その様子で大笑いのミニモスタッフだったが…。

「アハハハ、ザマーミロれすよ!!のみずぎは…ハッ…うぐぅ…。」

そう言っていた辻が今度は慌てて部屋を出た。
これに大笑いの面々。
加護が吐いていると、その隣に座って
同じ便器にレッツリバースですた。


結局、親が帰ってきても帰らず、
朝方、ミニモレンジャー達は帰っていった。

「うう…。もう、5時れすよ…3時間しかないじゃないれすか…。」

とても勉強するコンディションではない辻は、そのままベッドに倒れこんだ。
238 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月08日(日)23時10分39秒
8時55分。

辻は絶不調の中、自転車をこいでいた。
とても急ぐ状態ではないので可能な限り速く漕いだ。

「テ、レスト…遅れ…いててて…。」

殴られた跡は痛いし、酒くさいし、胃はもたれるし
頭痛はするし、寝癖ついてるし。
最悪なコンディションで教室にたどり着いたのは
9時5分。
テストは15分過ぎていた。

「すいませんれす…、遅れてしまったれす。」

ひとまず教員に頭を下げて席を着こうとすると
加護が居ないのに気がついた。
気にしているわけにもいかないので、
すぐにテストを受け取り取り組んでみるが…

(うう…つらいれす…。頭がまともに働かないれす…。)

グダグダだった。

9時半を過ぎた頃。
教室が開く音がした。
ようやく加護が現れたようである。
239 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月08日(日)23時11分43秒
『加護さん、いくら模擬だからって遅刻しすぎですよ。』

そう教員に注意され

「すんまへん。」

頭を下げて席についた。
そしてまもなくして、一科目目か終了の鐘が鳴り響いた。


辻がわずかな休憩時間でも覚えようと
次の時間のテキストを開いていると、
目の前にユンケルが置かれた。
見上げると、額に噛み跡をつくった加護が
にかっとスキッ歯を見せて自分の席に戻っていく。
ユンケルを手にとると

『昨日ゴメンナァ。』

そう書かれていた。

嬉しくなった辻は、微笑みながら
ユンケルを飲み干した。

240 名前:第16話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月08日(日)23時15分39秒
そして月曜日

-----------------------
第6回大学入試対策模試結果

1位  松浦亜弥    580点   平均 96.6



45位  辻希美      492点   平均 82.0



176位  加護亜依    58点   平均 9.7
                  以上183人(欠席含め)
-------------------------

「ナ、ナハッ…。」

呆然と立ち尽くす辻希美の姿が掲示板前にあった。
241 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年12月08日(日)23時17分36秒
以上で第16話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして17話を開始したいと思います。
242 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月09日(月)23時39分58秒
松浦成績良すぎだってのに・・・。
243 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年12月15日(日)17時56分29秒
>>242
そうですね。やたら良いのは間違いないです。
もっと上には辻が居たんですけども…。
244 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月15日(日)17時57分26秒
「ほぁぁぁ〜〜わっ……最近ちょっと肌寒くなってきたなぁ…。」

ピンクのネグリジェで部屋を出る。
新聞受けまでの短い距離を歩くだけで、
もうそこまで来ている冬の気配を感じるような朝。
二の腕を寒そうに擦りながら

「もうっ…変な広告ばっかりっ。」

手に取る広告は、どれも普通に生活すれば必要もないような、
消費者金融やAV、風俗ばかり。

「ブラックOKだって…喧嘩売ってるのかしら…。」

一枚手にとって目を通してみては隣のポストにぶち込む。
慣れたものである。
矢口の癖がどんどん自分に移ってきているのことが
あまりに自然すぎて気づいていなかった。

「サムッ…。あとは部屋で見ようっと♪」
245 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月15日(日)17時58分10秒
「…ご利用は計画的にっ♪…だってさっ。んっ…?」

小型の紙切れに紛れたB4の広告を見つけたのは
部屋に戻ってきてまだ矢口が寝ているのを確認した後だった。
アフロ犬が足に懐いて来たから
しゃがみ込んで頭を撫でてやってから、
11月も下旬だというのにマッパで寝ている矢口をユサユサと揺すってみた。
普段、無理矢理起こすと
貧相なノーメイクのキツイ目で睨みつけてくるが、
今日はその機嫌をなだめるだけの理由があった。

ユサユサ。

「矢口さぁん…矢口さぁ〜ん……」

「……。」

ユサユサユサユサ。

「矢口さぁ〜ん、朝ですよ〜っ…。」

「……。」

大の字に寝転がったまま動かないと思ったら、
ゆっくりと片腕を動かし始めた。
246 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月15日(日)17時58分43秒
「どうしたんですかぁ〜?何か欲しいんで……グエッ……」

その手はスローなまま石川の喉元に近づき、
頚動脈を押さえつけてしまった。
しかも矢口は眠ったまま。
北斗の道を極めているような動きである。

「グルジイ……ヤグヂザン……ハナジデグダザイ……」

「……。」

必死に腕を解こうと試みる石川であるが
異常なほどの矢口の力の前にあまりにも無力だった。

日が昇ってから、まだ矢口は一度も話していない。
そして目も開けていない。
不気味なその人の突如の奇行に
石川もどんどん眉を潜めていく。

その刹那、石川に突然の開放感が訪れた。

「何なんですか、急にっ。もうっ、苦しかったですよっ!」

「…ヤグチはもう…眠っている…。」

そう言った後、3秒後にはイビキをかいて眠っていた。
247 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月15日(日)17時59分39秒
「何!?…運動会!?」

「そうですよぉ!それが言いたかっただけなのに…急に首締めてきて…ぐすんっ。」

結局矢口が自然に起きるまで
テレビの前で体操座りをするハメになったのだった。
だが、広告を見せたときの反応は案外良く、
せっかく作った朝ご飯を不味いと言われたショックも
少しだけ収まっていった。

「商店街の運動会ねぇ……んっ!?」

「石川あんまり運動得意じゃないんで辞めときましょうよー。」

「出る。出るに決まってんじゃん。何のためにそんなに黒いんだよ?
色黒の引き篭もりなんてあり得ねぇってば。」

まだ半開きの目を急に見開いたかと思えば、
朝も早よからズバズバと心に手裏剣を放つ。
その視線は広告の2点に釘付け。
よだれダラダラ、雑欲満開。

248 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月17日(火)00時32分37秒
「そんなぁ……」

「出たくないなら、3万おくれ。」

「何で3万円払わなきゃいけないんですかぁ…。」

「PS2買うから。」

何のことか分からない石川に"その部分"を見せてみる。
もう矢口の脳内ではバラ色の日々が始まっていて、
その妄想は止まることを知らない。

「あっ、賞品ですか。」

「そうっ!出るぞ!梨華ちゃんのやる気なんて問題なし。
ヤグチ一人で勝てるから。人数合わせね、要するに。」

それはそれで悲しいのだが、
すでに目をギラつかせている彼女を止める術は
この地球上にそれしか存在し得ないのだから、
了承するより他にしょうがなかった。

「それと、これもGETシル!!」

PS2のところを指していたのを少し下にずらしていくと、
行き着くところには松坂牛の文字が。
249 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月17日(火)00時33分13秒
「ホンットにお肉好きですねぇ…。」

「松坂牛だよ!?松坂牛!!あんた牛肉最高峰だよ!?
食ったことねーけどゼッテーうめーよ。」

「…そうでもないですけど…。」

「何じゃゴルァ!?」

「い、いえ…。」

出場したくないから終始テンションの低い石川は
そう言ってひとつ溜息を漏らす。
そのまま広告を読み耽る矢口を
半ばほったらかした状態で、
まだ夜の装備をしたままだった部屋を回って
カーテンを開けた。

「梨華ちゃんもさ、何か欲しい商品ないの?」

「欲しい賞品ですかぁ…?」

広告を一瞥してみたが、特にこれといった物はない。
強いて挙げるならば"野菜・果物一年分"くらいだろうか。
仕送りもなくなった生活において、
実用的なものを貰って損なことはない。
250 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月17日(火)00時33分45秒
「うーん……野菜ですかねぇ…それと、さっきの松坂牛。」

「野菜かよ!」

「だってぇ…他は縄5km分ですよ?……!!!」

「……確かに要らない罠。
いくら商店街の店がスポンサーって言っても
縄なんて明らかに在庫が余ってるから出したって感じだし。
……ん?」

(縄…縄って、もしかして……ダメッ、理性を保たなきゃっ。
でも…5kmもあったら…1、2、3、4、……何回使えるのかしら…
あーもうっ!これじゃただの欲求不満淫乱女じゃないっ!
でも……欲しい…縄欲しい…。
縛り上げられたら…どうなっちゃうのかしら…いやんっ。
スパンキングとかされて…蝋垂らされたり…
どうしちゃったの私!?たかだか縄5kmなのよ…
でもなぁ…さっきまで嫌がってたのに、急にやる気になったら変だし……。
どうしたらいいのっ!?教えてっ!!誰か教えてっ!!!
縄欲しい縄欲しいナワホシイナワホシイナワホシイ。)

「どうかしたの、梨華ちゃん?」
251 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月17日(火)00時34分20秒
「えっ!?な、なわんでも無いですよっ♪」

「へぇ…、ヨダレ垂れてるし。」

「エ゛っ…ジュルッ。あはっ♪」

「キショッ。」


休みの日というのは、
ウイークデーを忙しく過ごしているからこそありがたいのであって、
週休6日の彼女らにとっては、唯ひたすらにグダグダな時を過ごす24時間である。
夏休みが終わったて数ヶ月たつが、いまだにウイークリーのバイトなどやっていない。

気づけば陽も高く昇っているというのに、
矢口と石川は広告一枚でまだ、あーでもないこーでもない言っていた。

「でさ、何着ていく?」

「えっ…ジャージ…じゃないんですか?」

「ジャージじゃダメだよ、普通すぎ。
ほら、これ見てよ。ベスト・コスチューム賞だってさ。
これも何か貰えるらしいけど、秘密にしてあるから、
多分もっといい物なんだよ。」
252 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月17日(火)21時36分29秒
石川がさっき見た限りでは
そんな文字はどこにも見当たらなかったのだが、
矢口が示すところには確かにそう書いてあった。
まるでお札の偽造防止のために印刷してある"NIPPON GINKO"のように
言われなければ気づかないような場所に書くくらいだから、
さぞや豪華な賞品なんだろう、と矢口は考えたのだった。

「そんなこと言っても…動きにくい格好して負けちゃったら
元も子もないですよっ?」

「そこなんだよ…。」

バタンとベッドに倒れて天井を見つめてみる。
動きやすく、尚且つ目立つ衣装とは…
「スクール水着……。」

「…えっ?今何て…」

「スクール水着。」

冷や汗ダラダラの石川。
いくら目立って動きやすいからって、
19の乙女がプールでも海でも、
ましてや学生でもないのにスクール水着なんて…。
思いっきり息を吸い込んで…
253 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月17日(火)21時37分01秒
「ぜっっっっったい嫌ですっ!!」

「だって動きやすいし目立つし。」

「嫌!!イヤイヤイヤイヤイヤ!!!」

「じゃあ普通のビキニにしよっか。
そんで全身に金粉塗ってさ。」

「お笑いウルトラクイズじゃないんですからっ!!
だいたい、水着って時点で嫌ですよっ!」

「そうすると消去法で…裸エプロンになっちゃうけど…?」

「何を消してそれが残ったんですかっ!!もう11月ももう終わりですよっ!?
カレーライスの女じゃないんですっ!!それに…」

「それに…何?」

「矢口さん…ワキ毛……」

「あっ…。」

冬は長袖だから、と伸ばし放題にしていたワキ毛…。
付け加えれば、その他諸々のムダ毛もボーボーであります。
ちょいと自分の脇を調べて…
254 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月17日(火)21時37分33秒
「…処理するのメンドイ…。却下の方向で……。」

「ホッ。」

「バスローブとかバスタオルとか…
ほら、アフロ犬とブランデーグラスを手に持って。」

「もうっ…矢口さん、さっきから本気で言ってるんですかぁ!?
岡田真澄の世界じゃないですかぁそれじゃぁ。」

「渋いじゃん…岡田真澄…。」

「渋いとかそんなんじゃないですよっ!!とにかく嫌ですっ!!」

目立つ+動きやすさ=露出
という間違った方程式が矢口の頭を支配していたわけだが、
それだと石川が首を縦に振らない。
2人1組で参加、と書いてあるだけに、
どうしても石川の了承が必要だった。
そこで…申し訳ないとは思っていないだろうが、
騙すことに決定したようです。

「じゃあさ…」

寝転んだベッドから勢い良く立ち上がると
クローゼットに直行して中身を物色し始めた。
255 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月17日(火)21時39分53秒
「これは?」

「Yシャツですかぁ…?」

「そう。これなら……ほら、みんなスポーツ系の服装の中で
目立つじゃない?それにそこそこ動きやすいし、露出もないし…。」

恐らく、矢口をウソ発見器にかけても
見破ることはできないだろう。
表情ひとつ、冷や汗ひとつ、僅かな脈の乱れすら起こさないその身体は
ある意味サイボーグ並の出来栄えである。

「うーん…それならいいですけど…。」

「ホント!?じゃあ決定ってことで。」

ようやく決定したのはいいのだが、
上はYシャツ、じゃあ下は?
石川さん、まんまとハマってしまいました。

「部屋とYシャツとわたしぃ〜♪」

「ウザッ、音痴歌うなっ!!!」

「ぐすんっ…。あ、どうせならみんなも誘いましょうよっ♪」

「ああっ!?バカか!?あいつら誘ったら松坂牛にやる気出して
ウチらがGETする確率が減るだろうが、ヴォケッ!!」

256 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月18日(水)23時34分27秒
「そ、そんな言い方しなくても……ウエーン!!!」

「あっ、ああ、ゴメン。取り乱した。なんだよー、泣くなよー。」

「ウエーン…なんちゃってっ♪」

ゴスッ!!

「イッタァ〜イ!!ウエ〜〜〜ン…えへっ♪」

ゴスゴスゴスゴスゴス!!!!

「拳イテェ…。」


翌日、日曜日は週に一度のバイトの日で、
ついでに運動会は月曜日に迫っていた。
頭のコブを擦りながら背中に掴まる石川を乗せて
しげるはトイズに向かうが、
矢口は皆がこの運動会が開催されることに気づいていないのを祈っていた。
257 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月18日(水)23時34分57秒
「梨華ちゃんは絶対運動会について喋っちゃダメだからね!?
ヤグチが様子を探るから。」

秋風を切り裂いて到着した駐輪場で
辻と吉澤の自転車を発見すると、
緊張感漂う表情で石川に釘を刺した。

「おはよー。」

事務所には保田と吉澤、そして辻加護と、
駐輪場の様子そのままの面子が机を囲んでいた。

「ごっつぁんは?」

「まだよっ。あのこ寒くなると来るの遅くなるわねっ!」

去年もそうだったわよっ、と保田は濃い煙と共に溜息をついた。
時間はまだ集合5分前だが、他のメンバーは集まってしまっただけに
尚更後藤の到着が遅く感じられた。
258 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月18日(水)23時35分32秒
「でさ、何の話してたの?ヤグチも混ぜてよ。」

「…何の話れしたっけ?」

「あー、何やったっけ…?」

「あ、あんた達が急に来るから忘れちゃったわよっ!」

なんとも素直な人達だこと。
まさか矢口がそんなことを見逃すわけもなく、
3人の対応に眉を潜めた。
しかし吉澤だけはビクビクした素振りを見せない。
どういうことだ?2人1組のはずなのに…。

「あのさ、昨日ポストに商店街の運動会のチラシが入ってなかったー?」

(げっ!矢口さんも気づいてたんかいな…)
(げっ!矢口しゃんを敵に回すとなると厄介なのれす…)
(げっ!矢口も出場するつもりなのっ!?)

「入ってましたYO!東三商店街のやつ!」

「あ、やっぱよっすぃーんとこも入ってた?
でもさー、あんなの元気一杯のオコチャマか
物欲溢れるオバチャンしか出ないよねー。」
259 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月18日(水)23時37分18秒
(ウチはオコチャマともオバチャンとも違うで!)
(ののはオコチャマじゃないのれす!)
(誰がオバチャンよっ!?)

「んー、そうっスね。特に欲すぃ賞品もなかったっス。」

「じゃあさー、みんな出ないってことで、朝からカラオケ行こうか?
辻のネーチャンの割引使って。」

「おおっ!いいっスねー!カラオケカッケー!!……痛っ!!」

全員閉口してしまった。
辻は困った顔で宙を眺め、加護もアイプチ使用の目をパチクリしている。
保田に至っては、鬼のような形相で隣りに座るの吉澤耳を引っ張って
何かを耳打ちしているではないか。耳の中でプチッという音がしたに違いない。
と、急に辻の表情が晴れた。

260 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月18日(水)23時37分49秒
「の、ののは遠慮しとくのれす。勉強シネーとイケネーれすから。
受験生れすしねー、この前の模試ボコボコれしたし。」

「ウ、ウチも学校もバイトも無い日くらいゆっくり寝たいからやめとくわ。
なんてかブレイクタイムやなー、ハッハッハッハッハー。」

「あ、あの…やっぱ用事があったっス。」

「あーあ、アタシと矢口と石川だけじゃつまらないわねっ。
じゃ、この話はなかったことねっ。軍歌とか演歌唄っちゃうわよっ!?」

(こいつら……)

まだ、ここに着いてから石川は一言も喋っていない。
矢口の言いつけを忠実に守っているようだが、
別に『一言も喋るな』と言われたわけじゃないのに。
そんな石川が遂に口を開いたその時、
今までの騙しあいが無意味になる状況がやって来てしまった。
261 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月19日(木)08時11分33秒
「ブラックOKだって…喧嘩売ってるのかしら…。」
いきなり爆笑してしまいました!そして縄5km(w
火花散ることになりそうな17話も期待しています!
262 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)20時36分05秒
「あっ、ごっちんっ。」

「んぁ。おはよー。」

「おっ、ちょうどよかった。ごっつぁんもさ、明日カラオケ行かない?
圭ちゃんがさー、矢口と梨華ちゃんだけじゃ行きたくないとか言うからさー。」

ニヤリと保田に向かってほくそえんだ矢口だったが、
その笑みのまま凍りついてしまうこととなる。

「んぁ〜、ごめん。明日は何かの運動会に出ることになったから。」

ガ━━━Σ(^◇^〜; )Σ(^▽^; )Σ(´D`; )Σ(‘д‘; )Σ(`.∀´; )━━━ン!!!

「そ、そんなの出るんだ!?」

「んぁ。何か、いちーちゃんがどうしても一緒に出て欲しいって言うからさー。
そしたら松坂牛くれるって言ってたし。」

「へぇ…。あ、そう。」

この日、なぜか全員がコソコソするように仕事をし、
コソコソと帰っていくのだった。
263 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)20時36分38秒
帰り道

まずはいち早く自転車に乗って帰った辻と加護。

「師匠も肉狙いやったとは…。手ごわいでぇ…
結構運動神経ええやんか。」

「そうれすね、普段寝てるぶん体力があるれすよ。」

「嫌な相手やなぁ…。」

「ああ見えて勝負事には結構本気れすよ。」

「厄介やな…。でも、まぁ下克上もありやな。」

「そうれすよ!全ては肉のために、れす!ジーク・ミート!!」

「あと、父ちゃんが仕事で縄使うから…縄も獲れたらエエな…。」

「親孝行れすね。」

「言わんといて。恥ずかしいやん。」

「それって素敵れすやん。」

「「キャッ♪」」
264 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)20時37分11秒
薄暗い駐車場に呼び出された吉澤は、
保田のクラウンに無理矢理引き込まれてしまった。
他のメンバーは地下駐などに用があるはずもないので、
ここなら安全に密談が行えるということだ。

「分かるわよねっ!?」

「…動きやすくて目立つ衣装っスよね…?」

「そうよっ。店の全部の衣装の中から吟味しなさいよっ!?」

「…一応。」

運動不足解消に、と快く保田の誘いを受けたわけだが、
どうやらこれが目的で誘ってきたようだ。
保田も目ざとくベストコスチューム賞を発見したらしい。
いつも衣装のこととなると自分に回ってきて、
そろそろ嫌気がさしてきたのは事実だったが、
魅惑の松坂牛にKO寸前なのもまた事実である。

「じゃ、バイト終わったら駅前の雀荘に寄りなさいよっ!?
詳しいことはそこで決めるわよっ!!」

「はーい、了承っス…。」
265 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)20時38分47秒
話が終わると、吉澤が助手席から降りた瞬間に走り去っていった。
全部の衣装から吟味しろ、と言われても、
運動会で着るような衣装は、どう考えてもアレだろう…。


「いやっ!!」
「嫌じゃねーよっ!昨日しっかりOKしただろうがっ!!」
「嫌ですっ!!こんなの着たら、お嫁に行けませんっ!!」
「自分から見合いをぶっ壊した奴が言うセリフかよっ!!」

ゼェゼェハァハァ…

「着ろ!!」
「着ませんっ!!」
「もう決まったんだよっ!!」
「嫌ですっ!!」

ゼェゼェハァハァ…

「着ないと絶交だぞ!!」
「えっ…で、でもイヤッ!!」
「一生絶交だぞ!!」
「でもいやぁぁぁぁ!!」
266 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)23時02分27秒
ゼェゼェハァハァ…

「ほらっ、可愛いクマさんのパンツだよ〜?」

語気を荒げても脅しても無駄だと悟った矢口は、
用意した毛糸のパンツで頬をスリスリしながら、
恥ずかしくないことをアピールしてみる。
が、石川は激しく首を振って拒否した。

「何でだよー。ほら、これって見せパンでしょ?大丈夫じゃん。
要は、ローライズジーンズ穿いてても穿いてなくても一緒ってこと。ねっ?」

「全然違いますよっ!!」

「……。」

すると、矢口の表情は豹変した。
まるで、獲物をオトス顔つき。

「ねぇ…セクシーな下着もいいけどさ…
たまにはこういうの付けてる梨華ちゃんも見たいんだよ…。」
267 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)23時03分01秒
そしてお尻をサワサワ。
こういうときは、不自然な姿勢にならなくて済むから、
背が低いほうが有利である。
更に、つま先立ちで耳にフゥ〜。

「はぁんっ…」

「ダメ?…似合うと思うよ?」

「…だって……他の人にも見られちゃう……
矢口さんにだけなら…見せたいけど…。」

「ヤグチは明日見たいのっ……そしたら…すっごい燃えちゃうかも…。」

「う〜ん…で、でもぉ…。」

耳の穴に舌を入れてペロペロ。
だんだん遠くを見つめ出した石川を確認して
矢口が悪い笑みを浮かべたその時だった。

「エトォ!!!」
「エムボマ!!!」

ドサッ。
268 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)23時03分57秒
「…ふっふっふっ…悪いけど実力行使だよ。
さっ、手錠手錠…手錠は何処だっけな…?」

矢口の右フックがミゾオチにめり込み、
ダランと力が抜けた石川の身体はベッドにもたれ掛かって
意識を失ってしまった。

「手錠は…あ、あった。
後は…目隠しも必要か…猿ぐつわとかも要るかな?
……三角木馬は…あったっけな…?ロウソクと鞭も…
あっ!……参ったぞ…どうしよう……」

どうしたんでしょうか?

「ヤグチ、亀甲縛りできないわ…。」

結局、そうして手錠ついでに
石川さんのオマンビイクを頂戴した後、
ぐっすりと眠って翌日に備える矢口さんであった。
269 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)23時04分54秒
「もういいかげん諦めようよー、ね?」

「イヤだもんっ……絶対イヤだもんっ…ぐすんっ…」

「ほらぁー、飴買ってあげるから一緒に行こうよー。」

とりあえず手錠はつけたまま、
石川をしげるに跨らせることまではできたが、
こういうときに限ってエンジンが掛からない。
いつもなら石川がセルモーターを蹴れば一撃で回り始めるのだが、
最後の抵抗とばかりにそれを拒否し続ける秋の朝であった。

これでも矢口は結構譲歩したつもりである。
向こうに到着するまではジャージ着用を認め、
松坂牛も半分分けてあげることに。
大体、矢口がもっと早く手荒な行動を起こしていたならば、
スクール水着もありえない話ではなかっただけに
これ以上の抵抗はよしたほうがいいと思うのだが。

「じゃあジャージ没収だけど?」

「何でですかぁっ!!」

「なんだよ!じゃあどうすればいいんだよ!!」

「行きたくない。」
「ボツ。さっ、出発!」
270 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月20日(金)23時05分37秒
聞く耳持たぬのに一応意見を言わせる矢口は、
すでにPS2に向けてセルモーターの金具が千切れそうなほどに蹴りを入れていた。
そしてようやくエンジンが掛かると
座席に飛び乗ってアクセルを吹かし始めた。

「ヤグチと組んだら賞品総なめなんだよー?
普通嫌がらないと思うけどなー。」

「賞品総なめ…?」

「そうよ。PS2でゲームもできるし、肉食べまくりだし。
野菜は全部梨華ちゃんにあげるからさー。
……縄は…要る?…要らないよねぇ?」
271 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月21日(土)21時39分43秒
「縄…」

「えっ…縄要るの?」

「ちょ、ちょっと日曜大工でもしようかなぁ〜、なんてっ♪」

「へ、へぇ〜……独りでやってね?」

「ダメですよぉ……矢口さんと一緒じゃないと…。」

「キショイ。」

しかしそれは正にチャンスの合図であった。
今までごねていた石川が"何故か"急にやる気を出したのだから、
つべこべ言わずに早く出発しなければ。
手錠でひとつの円を描いている石川の両手を
肩に巻きつけるようにしてようやくしげるのスピードメーターは
速度を示すことができたのだった。

「ま、まぁいいか。じゃ、しゅっぱーつっ!」

「おーっ♪」


「おーっ!!」

「ウルサイのよっ!!」

ゴツッ!!

「痛ツツっ…グーで殴らないでもいいじゃないっスかぁ…。」
272 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月21日(土)21時40分21秒
こちらは保田・吉澤組。
仕事終わりに雀荘に寄った吉澤が見たものは、
笑いが止まらないほど勝ち続けている保田の姿だった。
『6万も浮いたわよっ(違法)』などと高笑いしながらこちらを向いた姿は
本当におぞましく、オコチャマが見たら即座に泣き出しそうな光景だったとか。
有頂天になった保田は『祝勝会やるわよっ』などと言って
いつものゲイバーに吉澤を連行し、ベロンベロンになるまで飲みまくった挙句、
帰りの車を運転したのはほとんど吉澤だった(違法)。
そしてマンションに帰ってきた頃には午前5時になっていたのだった。

「二日酔いなのよっ!大声出すんじゃないわよっ!!」

初登場だが、今後恐らくほとんど出番はないと思われるので
簡単な説明だけにしておくが。
保田の住むマンション"Monta-Mino"は
(必要もないのに)最新鋭のセキュリティを完備した
高級賃貸マンションなのだ。以上。

さてこの二人、結局のところ作戦など何も練っておらず、
よくよく考えれば何故出場するのか、その動機もはっきりしない。

「とにかく、二人三脚だけは何があっても勝つのよっ。」

「はぁ。二人三脚……賞品は何スか?」
273 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月21日(土)21時41分00秒
「賞品は関係ないのよっ。キュウリとか茄子とか貰えても
全然関係ないのよっ!勝負にこだわりなさいっ!
いい勝負をすればキモチイイじゃないのっ!!」

「おおっ、勝負師カッケー!!」

「そうよ、その息よ!!ガツガツぶっ込んで…じゃなかった
ガンガンいくわよっ!!」

単純でよかったですね。


そしてこちらのペアは…

「師匠に見つからんかったやろな?」

「大丈夫れすよ。ごっちんの家の前は避けて来たれすから。
抜かりなし、れす。」

高校のジャージにハチマキなんか巻いて、
オーソドックスな運動会スタイルで登場だが…
若干おかしな点がある。
274 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月21日(土)21時41分38秒
「それよりも…そのハチマキは何れすか?」

「えっ?運動会言うたらハチマキは定番やろ?」

「そうじゃないれすよ。その"夜露死苦"ってのは…
衝撃映像れすよ、ある意味。絶滅品種が生き返ったのれす!」

「何でやねん!ののの"一石二鳥"かて間違うてるやん!間違うてるやん!」

「何で二回言うんれすか。これには意味があるのれす。」

「意味?どんな?」

「運動して痩せれて、松坂牛をいっぱい食べれて、一石二鳥れす。」

「…本末転倒やん。天才が書くことちゃうわ…。」

噛み合ってないようで、チームワークはいいんです、多分。
275 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月22日(日)17時23分53秒
他のペアに目を移しているうちに、
しげるは会場に到着したようで、
やる気まんまんの二人が柔軟体操をしていた。

「矢口さん身体固いですねぇ〜。」

「生まれつきなんだよー。痛ツツ…
ショーのおかげで結構柔らかくなったと思うんだけどね。
前屈なんか痛ツツ…ずっとマイナスだったよ…痛てて…ん?」

「どうしたんですかぁ?」

「敵のお出ましだよっ。」

ずっと歪んだ顔でつま先を見ていた矢口が遠くに見つけたのは、
宿命のライバル、とは絶対認めないだろうが、市井の姿だった。

「あーら、いつものオバカコンビじゃないっ。」

どうやら今回はわざと敵役を演じているような喋り方で第一声を放った。
トコトコとやる気なさげに遅れて歩いて来る後藤は、
大あくびをして目を擦っているが、そんなんで大丈夫だろうか。
276 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月22日(日)17時24分29秒
「…梨華ちゃん身体柔らかいよねー。」
「昔新体操やってたんですよっ。」

「聞きなさいよっ!!」

「ああー?なんだよ?朝っぱらから逆ギレかよ。
わけわかんねー基地外だなぁ。」

「ああっ!?まぁ、いい……えっと…何だっけ?ごとー、何だっけ?」

「んぁ〜…知らない。やぐっつぁん達、何でYシャツにジャージなの?」

「そ、そうさっ!バッカじゃない!?いや、バカか。はっはっは!!」

自分が言おうとしていたことを他人に尋ねても解るわけもなく、
しかし後藤の一言に調子付いて前のめりになる市井。

「バカはお前だろ。プッ。」

「何さ!?どう見たってアンタ達のほうがバカよっ!!」

「後ろ向いてみろ。」

矢口のその言葉になかなか従わない市井だったが、
後ろに居た後藤はその市井の背中を見て目を真ん丸に見開いた。
277 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月22日(日)17時25分05秒
「ごとー……あたしの背中、何にもおかしくないよね!?」

「ん、んぁ……」

「ごっつぁん、大声で読んでみなって。」
「読むなごとーっ!!」

「……昼下がりの午後は…喫茶さやか…」
「読むなって!!」
「アヒャヒャ!!」

「…モーニングセット(コーヒー付き)380円。だって、いちーちゃん。」
「シャラップッ!!!」
「アヒャヒャ!!!…いやー、競技やる前から腹が筋肉痛だー、笑いすぎで、アヒャヒャ!!!」

「迷子札みたいですね…。」

「梨華ちゃん今いい事言った。アヒャヒャ!!」

いくら親孝行な娘とはいえ、
さすがにこれは堪えられない恥辱である。
278 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月22日(日)17時25分39秒
「ゼッケンってこっちで貰うのに、家から付けてきちゃってプププッ!!」

「しかも…昼下がりの午後なのに"モーニングセット"ですもんね…。」

「梨華ちゃん!またいいとこに目をつけるねっ!!アヒャヒャ!!」


集合がかかって周りの眺める矢口。
石川はクマさんのパンツを隠すように
Yシャツの裾を引っ張っているが全然隠れていない。
この場合、むしろ矢口のように

「あっ!!あのクソッ!!」

がに股で裏切り者に向かって駆け出していくのが正解、かもしれない。


「ののっ!バレた!矢口さんにバレたで!!」
「本当れすか!?」

「げっ!ちょっとっ、矢口にバレたわよっ!!」
「スパイごっこカッケー!!」

獲物を襲う豹の俊敏さを兼ね備えている矢口。
さすが、『ヤグチ1人で優勝できる』と豪語するだけはあって、
人の群れを掻き分けて、逃げる辻と加護の後ろ襟を掴んだ。
279 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月22日(日)17時26分37秒
「や、矢口さんじゃないですか!?」
「こ、こんな所れ会うなんて奇遇れすね!」

「おまいらヤグチに見つかって逃げ出しただろうが!!」

「そ、そんなことあらへんよなぁ〜!?」
「そ、そうれすよ!のの達は屋台れ焼きとうもろこしを買おうとしただけれす。」

そう言って指を差そうとした先に…

「カオリ!トウキビだべ!!」

「あ、懐かしーっ。」

その道産子コンビは
もちろん矢口達に気づくことなく
焼きとうもろこしの屋台に向かって走っていった。
280 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月23日(月)14時28分01秒
「あいつらもか…。まぁいいや。」

「お、怒らないんれすかっ!?なっちしゃんたちにはっ!?」
「せやでー、あの人らやって参加しとるやんっ!!」

「うっせ、あいつらには出るかで無いか聞いてないっ、
だから裏切り者のおまいらとは違う。」

「「しょんなぁ〜〜。」」

ゴスッ!ゴスッ!!

そうして、辻加護の脳天に一発ずつ鉄拳を見舞うと、
いよいよ開会式が始まった。


あまりに広報活動していないのか、
平日だったためか良く分からないが、参加者数が極めて少ない。
男性は暇そうなオジサンばかりで、女性はミニモスタッフ達と
二段腹で肩にエレキバンを張っていそうな主婦数組だった。

「やれるね。やれるよ。」

「なにがです?」

「見てみなって、参加者をさ。」

「はぁ…、知り合いと…オバちゃんが少しですね…。」
281 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月23日(月)14時28分41秒
「こんな倍率のいい運動会、
何で去年気づかなかったんだろうね?」

「さぁ…?」

「オバちゃんは1種目でもやれば足が逝っちゃうだろうから、
もう敵は奴らだけだよ。」

「そうですかぁ。」

しかし敵は他にも居たようだ。
目の前の朝礼台に立ってすでに40分近く喋っている
町会長のジジイだ。

「しっかし長ぇな…氏んでんじゃねぇのか?」

「矢口さんっ、あんまりそういうこと言っちゃダメですよっ。」

「だってさー、絶対アレだよ。ミイラだよ。誰か腹話術してるよ。」

40分も立たされるとさすがに足が疲れてくる。
まぁ、矢口を見ると、座り込んで欠伸してるだけで全くノーダメージだが、
他の面子は、律儀にも突っ立っていた。
そして1時間を過ぎたころやっと町会長は話を止めた。
町の歴史から政策の話まで、要らん事が多すぎるのは
この町会長に限らず、どこのお偉方にも良く共通していることのようだが。
282 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月23日(月)14時29分23秒
とにかく運動会は始まった。
男女交互に競技は進められるようだ。
まず、ミニモスタッフたちの出番は第一種目、
工具店プレゼンツ、チーム分け綱引きだった。

チーム分けは
オバちゃん1組と飯安後市石矢(赤)VSオバちゃん2組と辻加吉保(白)
これに勝ったほうが縄5kmを山分けということらしい。
お祭り要素を入れてみたのか、両チームの間には
大きく地面を掘られ、小さな池が出来上がっている。
池といっても泥水が溜まっているだけなのだが。
いざ組み分けしてみると矢口と市井が同じチームになっていた。

「ちょっとぉ〜、何でアタシがあんたと同じチームなのさっ!!」

「しらねーよ、迷子札!!テメー足引っぱんねーで綱引っ張れよ!!」

「それはあんたにそのまま返してやるよ!!チビ!!」

「ああんっ!?」

「んぁ〜…やめようよー、同じチームなんだからー
勝つこと優先にしようよー。」

もっともな後藤の意見に黙る二人。
283 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月23日(月)14時30分01秒
「それもそうね…。」
「まぁ、負けなきゃいい。負けなきゃ。ね、梨華ちゃん……?」

「何で…山分けなのかしら…そしたら一組あたり1kmちょっとじゃない…
プレイ回数だって…四分の…」

「梨華ちゃん?」

「あっ、ごめんなさい…ボケッとしてました。あはっ♪」

「おーい、しっかりしろよー。」

そんな頃、よぼよぼしたじいさんが縄の真ん中辺りにやってきた。
どうやら審判のよう。
このじいさん、スターターガンを手に持っているが
鳴らした途端に自分が死んでしまいそうなほど危うい雰囲気。
プルプルしながらスターターガンを頭上に掲げている。
284 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月24日(火)20時55分54秒
「いち〜に〜つぅ〜ひてぇ〜。」

ドリフのコントのように分かりやすい老人。
腕を上げたかと思えばゆっくりと下ろして銃口を覗き込んだりしている。

「よぉ〜〜ひぃ〜〜。」

……

「……?」

動きが止まった。
ゼンマイ切れでも起こしたのかと視線が集中したときだった。

パン!!!

完全によぼよぼじじいに間を持っていかれた。
力を入れようにもなかなか両者とも力が入らない。

「クッソ!!あのジジイのせいだ!!」

「うっさい、しゃべんな!!ドチビッ!!」

「あんだぁ!?迷子札!!おまえがしゃべんな!!」

「んぁー!!負けてるよー!!喋ってないで引きなよー!!」

「「クソッ!!」」
285 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月24日(火)20時56分39秒
矢口と市井の不毛な争いのおかげもあって
劣勢を強いられる。
相手側にはスポーツバカの吉澤は居るし
無駄に体重のあるオバちゃん2組は居るし
腕相撲だけやたら強い辻も居る。

あっという間に近づいてくる泥水の池。

「くそぉ〜〜!!!」

最前列に位置しているのは矢口だった。
どんどん近づいてくる泥水。
このままいけば間違いなく矢口はドボンである。

「チッ。」

相向かいには市井が居る。
とっさに矢口はひらめいた。
力的、勢い的に見ても、もう負けは決定的だ。
かといって泥水まみれは避けたい。

そして矢口が繰り出した技は
市井の足を引っ掛けることだった。

ガツッ。
286 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月24日(火)20時57分20秒
「あ、ちょっ!!……」

そう言いかけたときには
市井は泥水の池にダイブしていた。

ピピーーーーーーーーーーー。

ジジイの笛の音が鳴った。
勝負あり。
勝者チームは白組となった。

泥水の中から恐ろしいほど鋭い目線が矢口に向かっている。

「危なかったよー梨華ちゃぁ〜ん。矢口飛び込みそうになったよー。」

「私っ!!縄欲しかったんですよぉ〜〜ぐすん。」

「そうかそうか…よしよし。後で買ってやるからな、梨華ちゃんのお金で。」

「はい…ぐすんっ。」

『それは"買ってやる"とは言わないだろ。』
そんな突っ込みは市井の泥まみれの頭を掠めもしなかっただろう。
ただひたすらに、泥沼から現れた人食いワニのように
何事も無かったかのように振舞っているチビを睨みつけているのだが、
そいつが市井に目をくれることはなかった。
そして、男子の部が始まり、しばしの休憩タイム。
287 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月24日(火)21時02分29秒
「ちょっと!!あんたアタシを池の中に落としたでしょ!?」

「あ?しらねー。」

「とぼけんじゃない!!あんたのせいで泥まみれじゃんか!!」

「さぁ?泥水かぶったほうがマシに見えるよ。くくくくっ!!」

「あーったまきたぁぁぁ!!」

完全にブチギレた市井。

「あ、オマエ、頭に蛙が乗ってるよ。」

「そんなウソ通ると思ってんの!?」

そういいながら、手をボキボキ鳴らしている市井であったが

「んぁ〜…本当に乗ってるよーいちーちゃーん。」

「んなことあるわけ無いじゃないっ!!」

そうは言っても少し気になったのが
市井は頭に手を持っていくと、

ぐにっ。
288 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月25日(水)20時58分07秒
何かつかんだ。
一瞬にして血の気の引く市井。
おそろおそるつかんだものをそぉっと
手を広げて、確かめてみた。

『ゲコッ』

「うわぁぁぁあああ!!!」

そのまま蛙をブン投げると、
あまりのショックに腰が抜けてしまう市井。
そんな時、女子の部第二種目の招集がかかった。

『女子の部、第二種目二人三脚を始めますので、
参加する女子はスタート位置に…』

「お、梨華ちゃぁ〜ん。出番だ、いこー。アホは無視しよう
相手するだけ疲れる。」

「はぁ〜い♪次もがんばりましょ〜♪」

そういいながら、二人は市井と後藤を残して
スタート場所へ向かった。

「ううっ…アイツラ…コロヌ…。」
289 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月25日(水)20時58分44秒
第二種目八百屋プレゼンツ『二人三脚』

「ガルルルルル!!!」

「キシャァァ!!!」

彼女らは、何かある毎に必ず因縁を深めている。
今日も早速綱引きで矢口が仕掛けていったから、
市井としてはこの二人三脚では必ずリベンジをしなければならないのだ。
そして、もう一方で執念のように燃える奴も居た。
保田である。
小言のように吉澤に檄を飛ばし続ける彼女。

「いい!?吉澤!!この競技だけは死に物狂いで
勝ち取るのよっ!!!!」

「はぁ…。」

「意地でもキュウリ、ナスを丸ごといただくのよっ!!
バナナでも良いわよっ!!!」

「なんでまた…その3つなんスか…。」

「いいのよっ!!始まるわよっ!!!」

再びよぼよぼのジジイが参上。
こいついったい何者なのかと
全員がそう思っていた。

「いちぃ〜〜〜にぃ〜〜…
つぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ひてぇ〜〜〜〜。」
290 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月25日(水)21時00分09秒
位置の着きようが無いほどの間だ。

「よぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ガァァァァ…ペッ!!」

パン!!!

痰がスタートの合図とはなかなかのツワモノであるが
そんなことを考えている暇もなく
全員がスタートを切った。
矢口の予想通りに、オバチャンどもは話にならなかった。

「梨華ちゃんっ!!歩幅長いよっ!!!」

「ち、違いますよっ!!矢口さんが足短いんですよぉっ!!」

「うおぁ!!」
「キャッ。」

ドテッ。
おもいっきり歩幅の差が裏目に出た。
その横を堅実に抜かしていく市井・後藤。

「ほら、短足がコケてるよ、ゴトー。」

「んぁ〜。」

「クソッ!!」

291 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月25日(水)21時00分52秒
市井は倒れた矢口に不敵な笑みを浮かべて
自由の利く足を振り上げた。

グニッ。

「グエッ。」

市井は矢口の頭を踏みつけ軽快に
市井と呼吸を合わせながら去っていった。

「チクショウ…迷子札め…。」

この後、保田・吉澤組と市井・後藤組の激しい
トップ攻防戦が始まった。
292 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月26日(木)21時37分01秒
「「1・2・1・2・1・2・1・2・1・2・1・2・1・2」」

非常に呼吸の合っている市井・後藤組
バカ力と執念で走る吉澤・保田組
ほぼ並走といった状態で、接戦状態にある。

「ちぃっ!!オバサンのクセにしぶといねぇ!!」

「オバサンって誰のことよっ!!!あんたみたいな
泥女になんか負けられるもんですかぁぁぁ。」

一進一退の結末はどちらが先にゴールしたのか
わからないほどの僅差だった。

審判団(町会長・八百屋・工具屋・肉屋・おもちゃ屋)の協議の結果
醜くない顔でゴールした方が勝ちということで話がつき、
若干保田より市井のほうがマシな顔をしていたので
市井・後藤組が勝利した。

「ヤッター、ゴトーヤッタヨー!!」

「んぁ〜。うれしいねーいちーちゃんっ。」

そこには美しい師弟愛があった。

「市井ちゃん…泥付いた…。」

「あ、ごめん。」

その頃恨めしそうに保田の視線が二人に向けられていた。
293 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月26日(木)21時37分31秒
「なんなわけよ!?醜いか醜くないかって!!」

「さぁ…わかんねぇっす…。まぁ、肉の方がいいしなー。」

「何ですって!?」

「いえ…なんでもないっス。」

もう一方でも殺気立った人物も居た。

「クソウ…迷子札め…。」

「大丈夫ですかぁ、矢口さぁん…。」

やさしく石川は頭をなでなで。

「いたい…。チクショー…まけたぁぁぁぁ!!!」

「大丈夫ですよっ、次、勝ちましょッ!!」

「うん。やるぞっ!!ゼッテーぶっ潰してやる。」
294 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月26日(木)21時38分08秒
第三競技、肉屋プレゼンツ『障害物競走』

この競技には借り物競争の要素も取り入れている。
スタート地点目の前に封筒が置かれ、
第一走者はそのいくつかある封筒から任意で選び
会場の中から指示されたものを手に入れてきたら
それをバトンにその先に居る第二走者である相方に
残りのトラック障害物をこなしていただくということらしい。

「肉だよ、肉だ。梨華ちゃん。」

「そうですねー。本命ですよねー、ね、矢口さん。」

「そうっ!!今までは準備運動!!じゃあ、
梨華ちゃん、第一走者よろしく。」

「えっ、借り物のほうですか?」

「短距離は負けないから、矢口に任せて。
梨華ちゃんは3位くらいで帰ってきてくれれば良いから。」

「はいっ、がんばります。」

「うん、がんばり次第で…今日…ねっ。」

「きゃっ♪がんばっちゃいますよぉ〜〜♪」

ハッパはかけた。
馬の前に吊るす人参のように魅了する甘い言葉。
これだけで石川には十分な発奮作用だ。
295 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月26日(木)21時39分00秒
この競技に燃える者は多い。
市井・後藤組や矢口・石川組もだが
食うことには目が無い、このコンビたちも燃えていた。

「うっし、今までまーったく、出番の無かったウチ等の出番やでぇ。」

「そうれすよ、亜依しゃん。のの達はこのときを待っていたのれす。」

「松坂牛ゲットに燃えるでぇ〜。」

俄然やる気を出したこの組が今後いかなる結果をもたらすのか。
いよいよ召集がかかり、第一走者、第二走者が各配置につく。
第一走者には、加護・保田・後藤・石川・安倍・オバちゃんズAが、
第二走者には、辻・吉澤・市井・矢口・飯田・オバちゃんズBが配置に着いた。

そして第一走者の元にスターターとして再びあのジジイがやってきた。
だからこのジジイはいったい何者なんだろうという謎がさらに深まる。
296 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月27日(金)19時14分29秒
「い〜〜ちぃにぃ〜〜ぶぇっくしゅぃ!!!」

パン!!!

もう狙いとしか思えないスタートを切った第三競技障害物競走。
第一走者が地面に落ちた封筒めがけて走る。
次々と拾われて中身を空けられる封筒。
人数分しかないゆえ、あけたて書かれている物が自分の探す物である。

保田が封筒を開けると中に書かれていたものは「バイブ・熊○子」

「な、なによこれっ!!こんなものどこにあるのよっ……あったかも。」

何を思ったのか一目散に探し出て行く。

そして加護が手にした封筒の中に指示されていたものは

「……ツムラの温泉の素…。どこにあんねやっ!!コンビニかっ!!」

慌てて、加護は近くのコンビニに向かって走っていった。
さすがに賞品が賞品だけに、この競技は難航する。

そして後藤が拾い上げた封筒には「サルノコシカケ」と書かれていた。

「んぁ〜〜〜…これなぁにぃ〜〜?」
297 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月27日(金)19時15分11秒
何かわからず、その場にしばらく立ち尽くしていた。
つづけて安倍も封筒の中身を確認すると

「ライントレーサー…ってなんだべ…。ねぇ〜!!
カオリー!!ライントレーサーってなんだべかぁ〜〜!?」

「カオリ、ライン入りトレーナーなら持ってるよー。」

「そうじゃないよー、ライントレーサー!!」

不毛な会話をしばらく続けていた。
そして、石川が拾い上げた封筒には

「黒いブラジャー(Aカップ)…。あ…。」

何かを思いつき、石川は矢口に向かってダッシュする。

「梨華ちゃーん!!ちげーよ、借り物してくるんだよー!!」

矢口の元に着くと息を切らしながら
向かってきた理由を話した。

「はぁ、はあっ…借り物しますよっ……。こ、これ…。」

石川は封筒の中身を矢口に渡した。
298 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月27日(金)19時15分55秒
「黒いブラジャー…Aカップ…。へ?」

「や、矢口さん…今日…黒いブラジャーじゃないですか…。」

「あ…そっか。ってバカッ矢口のサイズナメてるだろう!!」

「見栄張らなくていいですよー!!勝つんでしょー!?」

「…でも…ブラ…バトンじゃん…矢口ノーブラになっちゃうじゃん…
さすがに恥ずかしいし…。」

「な、なにいってんですかっ!!毛糸のパンツじゃなくてふつーのパンツ
にしようとしてたじゃないですかっ!!そのくらい平気でしょ!!」

いざ自分が恥ずかしい目にあうと、途端にしり込みし始める矢口。
意外と土壇場になったら、キモが座っているのは石川のほうなのかもしれない。

「…わかったよぉ〜…。」

恥ずかしそうにYシャツの中に手を引っ込めると背中に手を回し
うまい具合にブラジャーを取り出した。

「うう…恥ずかしいよぉ…。早くもう、受け取ってよ!!」

「はいっ、確かに受け取りました♪じゃあ、お返しします♪」
299 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月27日(金)19時17分18秒
自分のものを石川に渡して返されることほんの数秒。
これで、矢口の独壇場になるかと思われた。
矢口が恥ずかしそうに、白いワイシャツに
ビーチク浮かないようにかがめながら障害物を乗り越えて
走っているとものすごい勢いで、後方から向かってくる人物がいた。

吉澤だった。
手には極太サイズの熊○子をバトンに持っている。
足音に気づいた矢口が振り向くと
すごい顔を赤らめた吉澤が後わずかまで迫っていた。

「げっ!!ヨッスィー!?」

「ああああ!!!はずかしーYO!!公開セクハラだYO!!」

恥ずかしさに負にたら、松坂牛は吉澤たちの元に…
そう考えたら、負けん気が勝ってくる。

「矢口さん!!もらったッスよ!!この勝負っ!!」

「それバイブだろっ!!どこで見つけたんだよー!!」

「保田さんの私物ッスよー!!!」

「運動会に持ってくるもんなのかぁぁぁ!?」

「うっさいっすよ!!真剣勝負っすからー!!」

直線距離になった。
ここで歩幅の差が現れる。
300 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月28日(土)16時10分56秒
(クッソッ…松坂牛が…けど…。よし…)

「よっすぃー!!ピンクの常連が見てるぞー!!」

「!!!まじでっ!?」

(やった!!戸惑った!!)

この隙を逃すまいと、吉澤の脇を抜ける矢口。
わき目も振らず一目散にゴールへ。

「どこにも…あっ!!やられたYO!!」

吉澤が気がついた頃には矢口はゴールテープを切っていた。

「よっしゃあああああああ!!!松坂牛ゲェ〜〜ットォォォ!!!」

本当に久しぶりの感動を味わう矢口。
少し姑息な手はつかったが、達成感にうれしさがこみ上げた。
そこに石川が抱きついてくる。

「やりましたねぇっ♪矢口さんっ♪」

「あったりまえじゃーん。矢口がまけるわけ無いよーっ。」

「ですよねぇ〜♪」

そんな喜びを分かち合う二人の元に
不満たっぷりの保田がやってくる。
301 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月28日(土)16時11分48秒
「ちょっと!!吉澤に聞いたわよっ!!汚いんじゃないのッ!?」

「しらねーしらねー、ねー梨華ちゃぁ〜ん。」

「はいっ♪まったくしりませんっ♪」

「次待ってなさいよっ!!あんた一番最初にブったおしてやるわよっ!!」

そう捨て台詞を吐いて悔しそうに去っていった。

「矢口さぁ〜ん、石川がんばったんでぇ〜…約束どおり…ね♪」

「あーわかったわかった。皆まで言うなー、よきにはからえー。」


そして、女子最終種目『騎馬戦』を迎えた。

「よし、梨華ちゃん。この勢いに乗って、PS2もゲトーするぞっ。」
「はいっ、馬役は任せてくださいねっ♪」

「吉澤ッ、最初に矢口をつぶしに行くわよっ。」
「マジあったまキたっすYO、さっき。」

「あーちょっとぉ〜、まってよー電話切らないでよー…。カオリが謝…」
「ふぅ、騎馬戦直前にも携帯で北海道に電話ってごくろうだべー。」

「どっちが上やるぅ〜?のの重いからウチが上になろかー。」
「違うれすよ、いまなら亜依しゃんのほうが重いれす。」
302 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月28日(土)16時12分25秒
「アイツをぶっ潰す。それ以外ない。ゴトー、足は任せたよー。」
「zzzzz…。」
「ねるなっ!!!」

それぞれの思いが、騎馬戦前に交錯する。
最終種目、賞品はPS2。
PS2目的もあれば、リベンジ目的もいる。
これが最終種目なのだ。
それぞれが熱く燃えていた。

よろよろとまた、死にかけたじいさんがあらわれ
その開始の時をスターターガンで告げた。

全員が敵。
最後に生き残る者が、この競技の勝者となる。
そして勝者に与えられる賞品はPS2となれば
引くことはできない。

まず邪魔なオバちゃんたちの帽子を軽やかに
奪い去っていく矢口。

「さすがですねっ♪矢口さんっ♪」

「だろっ!?」

その勝ち誇っている矢口の背後から迫る保田。

「矢口っ!!覚悟しなさいよっ!!!」
303 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月28日(土)16時13分03秒
そういわれたことでやっと存在に気がつき
とっさに後ろを振り向いて
防御に回る。
背丈が不利なため必死に防衛を試みていたが
急に帽子が頭の上から奪い取られた。

「あれっ!?ないっ!!!」

保田の攻撃はすべて交わしたはず…、
しかし、自分の帽子は奪われた。
後ろを振り向くと辻加護の姿がそこにあった。

「矢口さぁ〜ん。甘いでぇ〜。」

ニカっとすきっ歯をみせると、市井のかぶっていた帽子も手中にあった。

「ええかぁ〜、矢口さ〜ん、人間ここやでここ。」

そういいながら頭を指さす。

「ハゲ?」

「ちゃうわヴォ゙ケ!!」
304 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月29日(日)20時51分08秒
まぁ、使い古されたのネタをしているうちに
保田組は少しずつ、ジリジリと加護組に近づいていた。

「加護っ!!覚悟しなさいよぉ!!!」

「オバちゃんなんかに負けるかいなぁぁぁ!!!」

背丈が違いすぎる。
それでも必死に抗った。
しかし大変なのは上だけではない、
下も支え続けてすでに数分が過ぎている。
一人を一人で肩車するだけの騎馬戦など
総重量差が腕力差がなければ長期戦など望めない。

(つ、つらいれすよ……。)

(やっべぇーYO………。)

上が乱暴な動きをするから
支えるのが限界が来て、
ついにその時は来た…。

「しぶといわよっ!!辻加護っ!!」

「しぶといのはどっち…うわぁぁぁ!!!」

ドスッ

落ちた、辻希美が限界を迎え、加護は地面へ落ちていった。
305 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月29日(日)20時51分42秒
「よし、辻加護は倒したわねっ。」

保田が周囲を見渡すと最後の安倍組が残っていた。

「あらっ、なっちを倒せば優勝よっ!!カオリは
電波飛ばしてて制止してるわっ!!ほらっ、がんばんなさいよっ。」

「は、はぁい………。」

その一方で安倍組は保田が近づいていることを安倍が気づいても
動けずにいた。

「ちょっと!!カオリっ!!圭ちゃんきてるっしょ!!いい加減動くべさっ!!」

この競技始まって、飯田は一歩も動いてはいない。
そして安倍も一度も戦っていない。
いつの間にか他がつぶし合ってくれて、生き残っている。
だが、今度は保田との一騎打ち。
肝心の飯田は、電話の後ブツブツ言ってどこか別次元に電波を飛ばしている。

「………ひどいよっ………考えてみれば………わるくないのに………。」

そんな安倍組に接近してくる保田組。

「覚悟しなさいよぉぉぉぉ!!!」
306 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月29日(日)20時53分26秒
が、保田はこのとき走馬燈を見たと後に語った……。
急に体感する落下感。
限界だった。
寝不足に二日酔い、そして運動会
吉澤に残された力はもう無かったのだ…。

ゴツッ!!

このまま保田は半日起きることがなかった。

「………勝った?なっちたち勝ったべさー!!!カオリやったっしょー!!」

最終種目は、なにもしなかった安倍・飯田組の勝利に終わった。


そして表彰式。
それぞれの勝者が賞品を授与されていく。
第一種目の綱引きでは工具店より勝利チームに
その場で縄を人数で割った長さでそれぞれ授与し、
第二種目の二人三脚では八百屋より市井・後藤組に
野菜1年分の目録を授与された。
第三種目の障害物競走では肉屋より矢口・石川組に
松阪牛の目録が授与された。
最後に第4種目の騎馬戦ではおもちゃ屋より安倍・飯田組に
PS2が一台手渡された。

そして、ベストコスチューム賞が発表される時となった。
町内会長がステージに上がり

『えーこれよりー、ベストーコスチューム賞の授与を
したいとおもいます。』


307 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月29日(日)20時54分15秒
会場より疑問符の声と顔がいっぱいになった。
そう、ほとんどの参加者がその賞の存在を知らなかったからだ。
そんなこともお構いなしに、紙を広げ受賞者を読み上げた。

『えー、白のワイシャツに毛糸のパンツを披露してくれた
矢口・石川さんペアにこの賞を与えます。壇上にどうぞ。』

そう聞いたとたん、目を見合わせる石川と矢口。
思わず喜ばずにはいられない。
手と手を取って飛び上がって喜んだ。

そして、壇上にあがると、アナウンスが鳴り響く。
308 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年12月30日(月)23時26分55秒
『ベストコスチューム賞として、緑亀を差し上げます。』

「「(゚Д゚)ハァ?」」

失笑が巻き起こった。

こうして、東三商店街主催の運動会は幕を閉じた。


帰り道。

「うーん。亀とはね……。やられた。期待してたのに。」

頭に亀を乗せながら、しげるまで歩く矢口と石川。

「でも、松阪牛とれただけいいじゃないですかっ♪」

「まぁ、1勝3敗。あんま納得できねーけどしょうがねーかぁ。」

「ポジテブでいきましょっ♪」

「で、いつ届くんだろうね。肉。」

「ん〜、たしかぁ…ウチらが帰った頃にはもう届いてるとか、言ってましたよ。」

「そうなの?」
309 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月30日(月)23時27分30秒
「はい。お肉屋さんにさっき話を伺ったんですけど。」

「郵送かぁ。家の前に放置されてちゃ、パクられちまうよなぁ。」

「そうですね♪早く帰りましょっ♪」

「よし、帰ろう。しげるフル稼働だっ。」

こうして、しげるをフル回転でニケツで帰った。
石川宅にしげるがたどり着くと、何か強烈なにおいがした。
においを我慢しながら2階へと駆け上がる。

「く、くせえ…何だ…?」

「さぁ…、!!!!!」

「「(゚Д゚)ハァ?」」

家の前に何かいた。
『あった』ではなかった『いた』なのだ…。
それは矢口も石川も間違いなく目視ができた。

「………ちょっと…何これ…。」

「牛…。ですよ…。」

「そりゃあ…わかるけど…まさか…。」
310 名前:第17話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年12月30日(月)23時28分08秒
『ンモォォォォォ〜〜。』

この日から石川と矢口の愉快な仲間たちに
1頭と1匹の仲間が加わった。

「どうすんの………。これ。」

「どうするって…どうしましょう。」



「ひとまず…、名前決める?」
311 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年12月30日(月)23時30分19秒
以上で17話終了です。
次の更新は1週間後、返レスを行った後の予定で、
別スレへの移転を行う予定です。
そのときに次スレ先を報告いたします。
312 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月04日(土)18時01分56秒
いや〜17話面白かったッス!
色々な意味で贅沢な対決でしたw
18話も期待してお待ちしております。
313 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月05日(日)23時30分42秒
牛オチとは気付かなかった…
314 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年01月06日(月)22時06分32秒
>>261
ありがとうございます。
17話はお楽しみいただけたでしょうか。
今回は運動会でしたが機会を見て色んなスポーツを
やらせようと思います。
>>312
ありがとうございます。
18話はまもなく開始いたします。
>>313
新メンバーの牛と亀です。
度々使っていきたいと思います。

まもなく開始する18話より移転します。
新スレは風板で、URLは以下のとおりです。

http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/wind/1041858311/

引き続きミニモレンジャーのご愛読をよろしくお願いします。

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