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Trust No One 

1 名前:七誌 投稿日:2002年09月24日(火)23時36分32秒

今は風で短編・中編しつつこっちでもしちゃいました。
やっぱり月が落ちつくべさ。交信はいつもどおりちょっとさがってから
2 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月26日(木)09時51分31秒



その日は、例年より少し早めの雪が冬の訪れを告げていた。
吹雪を体に感じながら、あたしはある人物の家に向かっていた。
その人物、寺田は、慈善事業家としていろいろな施設に多額の寄付金を与えていたが、
その反面、悪いうわさの絶えない人物でもあった。
ジャーナリストであるあたしが追いかけていたのは彼の裏の顔。すなわち、悪い噂のほうだ。
その彼が今朝方、何者かに殺されたらしい。
犯人は捕まっていない。
そんな情報を耳にしてあたしは早速、彼の死が事実であるかどうかを確かめるために雪の中を急いでいた。

郊外にある豪華な彼の家に着くと人だかりができていた。
時折、警察官らしき男の怒声が耳に届いてくる。
あたしは、そこでようやく彼の死が事実であることを認めるにいたった。
人だかりをかきわけて現場へと向かう。
立ち入り禁止とかかれたテープの向こうに顔見知りの刑事がいた。

「保田さん!!」

あたしは、その刑事に届くくらいの大きさで声をかける。
彼女は、その声に振り向きあたしに気づくと入ってくるように手で促した。
それを見て、テープをくぐる。
3 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月26日(木)09時53分02秒

「まったく、こんな日に死なないでほしいわよね」

保田さんは、苦笑いしながら皮肉っぽく言った。
よく見るとみな寒さで頬が赤くなっている。何時間も現場検証をしているのだろう。
大変だな、とあたしは素直に思った。

「それで、犯人の手がかりは?」
「さぁ?なんせこんな大雪の早朝でしょ、目撃者も期待できそうにないのよね〜」

保田さんは、野次馬に視線をやりながらかじかんだ手に息を吹きかけている。
それから「あんたじゃないでしょうね」と、悪戯っぽく微笑んだ。冗談だとすぐにわかる。

「まさか、あたしはつんくをペンの力で倒したかったんですよ・・・これで今までの苦労も水の泡・・・・・・」

あたしも冗談っぽく返しはしたが保田さんに言っていることは遠からず思っていたことなので
実は内心少し落ち込んでいた。そのとき、奥から「警部!!」と、保田さんを呼ぶ声が聞こえた。
保田さんは、それに返事をしながら「なんか分かったら連絡してあげるわ」と
あたしを慰めるように肩をたたき奥へと歩いていった。

4 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月27日(金)08時57分13秒

保田さんを見送りながらあたしはしばらく死体を見つめた。
その表情を見て不思議に思う。
彼の死に顔は、恐怖にゆがめられているわけでもなく苦痛を感じていることもないように見えたからだ。
逆に奇妙なほど優しく安らかだった。
こんな表情の死体は見たことがなかった・・・・・・いや、たった一度だけ・・・・・・
だけど、それは思い出してはいけないものだ。
あたしは、乱暴に頭を振りその記憶を追い払いながら遠くでまだほかの刑事と話している保田さんを見やった。


保田さんは、あの死体を見てどう思ったのだろう・・・・・・


再び、自ら掘り起こしそうになった記憶に気づいてあたしは大きく息を吐いた。
そのとき、背後から突き刺さるような視線を感じた。
あたしは、驚いて振り返る。

なんだ、今の――

慌てて人だかりの中から視線の主を探す。
しかし、大勢の野次馬の中にそんな人物は見つからない。
あたしは、諦めて視線を雪の積もった地面に落とした。

気のせいだったのかな・・・・・・
5 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月27日(金)08時59分28秒

ここでこうしていても捜査の邪魔になる。
少しでも足しになるようにほかで情報収集でもしてこよう、そう思って顔を上げた瞬間、
一人の少女と目があったような気がした。
そのまま呆然とあたしが少女を見ていると少女はあたしが見ていることに
気づいたのか嫣然と微笑み返しスッと背を向けた。


あの子だ!


さっきの突き刺すような視線の主は今の少女だ。
あたしは、そう思うが早く人だかりをかき分けて少女を追いかけていた。
あの子は、事件に関与している。あたしの五感がそう告げていた。

6 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月27日(金)09時00分10秒

「ねぇ、君!ちょっと待ってよ!!」

少女の背中に呼びかける。
少女は止まらない。
ウサギを髣髴とさせる白いコートが雪に溶け込んで、少女をあたしから隠そうとしているかのようだ。

「ねぇっ!!」

何度目かの呼び声でようやく少女が振り返った。
その表情は、まるであたしが追いかけていたことを知っていたかのような笑顔で――次の言葉が続かなくなる。

「なに?」

そんなあたしに少女のほうから口を開いた。

「あ・・・えっと・・・さっきの寺田さんの事件について聞きたいんだけど・・・・・・」
「寺田さん?」

少女は首を傾げて聞き返す。その反応に拍子抜けする。

あれ?もしかして・・・・・・

「知らないの?さっき見てたよね、屋敷」

あたしは、内心の動揺を隠しながら言う。

「人がいっぱいいたから何かと思っただけだよ」
「え?」
「普通、そうでしょ?」

少女は、そういって屈託なく笑った。あたしは、呆然とそんな少女を見た。
7 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月27日(金)09時01分12秒

ってことは――ただあたしの勘違い?

そのことに気づいて、急に恥ずかしくなる。
少女は「もしかして、私が殺したと思ったんですか?」と、クスクス笑いながらいった。
馬鹿にされている。
だいたい、そっちが紛らわしいことするから間違えるんだよ

――あたしは、心の中で毒づき、それから尋ねてみることうした。

「ねぇ、じゃあ、なんであたしのこと見てたの?」
「え?」

あたしの問いかけに少女が笑うのを中断する。
なんのことか分からないといった表情だ。

「さっき野次馬の中から見てたでしょ」

あたしがそれとなく教えると少女は考えるような仕草でぷっくりとしたかわいらしい唇を
指ではじき、しばらくして思い出したように「あぁ」と笑顔を見せた。
それから、おもむろに歩き出す。

「ちょっと、どこいくの?質問に答えてよ」

やはりなにかあるのか、あたしはそう思って慌てて少女の肩を掴む。
すると、あたしよりも10cmは身長が低いであろう少女はあたしを見上げて
「こんなところで立ち話もなんだから」と、きらきらと瞳を輝かせた。

8 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月28日(土)11時03分03秒



「ゴチになりまーす」

少女は、運ばれてきたケーキを前にして嬉しそうに言った。

なんであたしがおごんなきゃいけないんだよ

あたしは、コーヒーを口に含みながら苦々しく少女を見る。
少女は、一心不乱にケーキを口に運んでいた。
その姿はなんだか微笑ましくて、あたしは、まぁ、いいかと思いなおした。

それよりも本題に入ろう。

9 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月28日(土)11時04分09秒

「・・・で、さっきの質問の答えは?」

あたしは、尋ねる。

「あれはですねー、あなたを見てたんじゃないよ」

もぐもぐと口を動かしながら答える。
あたしを見てたんじゃない?それなら誰を見てたんだよ?

「あの死体を見てたんですよ」

あたしの心の声が聞こえたかのように少女が短く言う。

――死体を見てた?

どういうことなんだ、それは?
だって、この子は寺田のことを知らないって・・・・・・
あんな嫣然とした微笑みを見ず知らずの死体に向けていたっておかしくないか?
そんなことになんの意味が?

ウソ?
寺田のことを知らない振りをしているのかもしれない

――頭の中で様々な憶測が飛び交う。
少女は、そんなあたしを別段気にしている風もなくウェイトレスに向かってメニューを指差している。

「・・・って、おい!なに勝手に注文してるのっ!」

それにきがついたあたしが声を荒げると少女は「ゴチになりまーす」と、
やけに憎めない笑顔で言った。

何なんだ、この子?素直にそう思った。

10 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月28日(土)11時05分40秒

しばらくして、追加オーダーのミックスサンドとスープが運ばれてくる。
少女は、ワーイと歓声を上げて食べ始める。
あたしは、ただ呆れてそんな少女の様子をぼんやりと見ていた。

そのときすでに、あたしはこの子は事件とは関係ないと判断していたんだ。

「そうや、お姉さん、名前なんていうん?」

ふと今までとは違う砕けた口調になって少女が尋ねてきた。
こっちのほうが喋りやすいのかもしれない。

「吉澤・・・吉澤ひとみ――君は?」

流れでたずね返す。

「吉澤・・・・・・よっすぃーって呼ばれてるやろ?」

少女は、あたしの問いを無視して言った。

「・・・まあね」
「やっぱりー」

あたしの返答を聞いてなにが楽しいのかニコニコと笑っている。
そういえば、会ったときから笑顔ばかりだな、とあたしは思った。

11 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月28日(土)11時06分28秒

「ほんで、よっすぃーはあの死体を見てどう思った?」

「は?」

死体を見てなにを思えというのだろう。
冗談かと思って少女を見つめると「なんかあるやろ?」と、少女は、上目遣いであたしを見つめ返す。

「と・・・特に何も思わなかったけど」
「なんも思わんかったん・・・・・・変なのー」

あたしの答えに少女は人を小ばかにしたような口調で言った。
あたしは、それに多少ムッとして「じゃぁ、君はなに思ったんだよ」と聞いた。
すると、少女はよくぞ聞いてくれましたとでも言ううように手をたたき言った。

「うちは、綺麗やなって思ったよ」

「き・・・れい?」

「だって、死体って綺麗やん。しかも、雪降ってたから血が花びらのように散っていつもよりもっともっとキレイやった」

少女は、半ば陶酔したように言う。

死体がキレイ・・・・・・?

この子、頭がおかしいんじゃないかとあたしは思う。

いや・・・それよりも――

12 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月28日(土)11時07分23秒

「いつもよりってどういうこと?」

あたしは、引っかかったことをすぐさま聞いた。

「え?」

少女が勢い込んで尋ねたあたしに驚く。

「今、いつもよりもっともっとキレイだったって言ったじゃん」
「よっすぃーは、死体を見るの初めてやったん?」

間髪をいれずに少女が言った。
あたしの体は、その言葉にビクッと反応してしまう。

しばしの沈黙。

それから黙っているあたしにあどけない表情で少女はもう一度言った。

「よっすぃーは、死体を見るの初めてやったん?」



13 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月28日(土)11時08分24秒


死体を見るのが初めてだという人はこの世界に存在するのだろうか。
いや、それ以上に人を殺したことのない人間はいったい、どれくらいいるのだろうか。
おそらくごく少数のものだけだろう。



よっすぃ・・・・おねが・・・もぅ・・・・・・・・・楽に・・・し、て・・・・・



あの子の声が頭に響いた。


思い出すな!!
忘れろ!!!

そう、自分に言い聞かせる。

あれは・・・仕方がなかったんだ。もう忘れたんだ。


しかし、そんな思いをあざ笑うかのようにあたしの中の記憶のスクリーンは勝手に映像をながしはじめていた。



14 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月29日(日)06時11分01秒



それが何度目の襲撃だったのか、どこと戦っているのか――そんなことさえも
分からなくなるほどあたしたちは疲弊しきっていた。
それでも、敵を見れば手は銃を構え攻撃し、逆に敵から攻撃を受ければ足はそれを避けるため逃げる。
そんなことが当たり前になっていたある日
――あたしたちは支援物質を受け取りに隊からはなれて別行動をすることになった。

昼でも日差しを通さない巨大な樹木の間を潜り抜けるように歩く。
時折、あたしたちを驚かすように激しく鳥が鳴いていた。
あたしたちは、道なき道をひたすら歩き続けた。

そして、もうすぐ辿り着く――そう思った瞬間だった。

不意に強い風があたしたちをなぶり、ざわざわとまるで人の話声のように木々が揺れて

――キュンと鋭い銃声がした。

15 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月29日(日)06時12分33秒

気がつかなかったのは突風のせいか、それともようやく仲間と合流することへの
安堵が生み出した油断だったのか――
あたしの斜め前を歩いていた彼女がまるで糸を切られた操り人形のように崩れ落ちた。

あたしは、無意識のうちに銃を手に敵を撃った。
弾がきれるまで撃ち続けた。
激しい銃声と動物たちの悲鳴が森を駆け抜け、再び自然の静寂が訪れる。

聞こえるのは、かすかな虫たちの息遣いと、荒い彼女の呼吸。

ヒューヒューと喉から息が漏れて――それでも、彼女はあたしの姿をみとめるとうっすらと微笑んだ。
あたしは、なにも言えなかった。
彼女の受けた傷が明らかに急所を貫いていたから・・・・・・

それでも、あたしは、何か言うべきだったんだ。
慰めでも何でもいいからただ一言

――大丈夫だよと・・・・・・。

立ち尽くすあたしに彼女は声にならない声で確かに言った。



――オネガイ・・・ワタシヲ・・・・・・ラク二・・・シテ・・・・・、と


16 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月29日(日)06時14分14秒


「よっすぃ〜、よっすぃ〜?大丈夫??」

気がつくと少女があたしの服の袖を引っ張っていた。
あたしは、反射的にうなづく。
すると、少女は申し訳なさそうな顔になって言った。

「ごめんな、よっすぃ〜はもっと強いかと思ったんや、うち」
「・・・どうして?」

会ったばかりでそんなこと思うの?

あたしが問うと、少女は少しだけ微笑んだ。
なにも答えになっていないけどどこかで見たことのある笑顔だとあたしは思った。

けっきょく、少女は事件とは何も関係のないことしか話してはくれなかった。
正直、たかられただけのような気がする。

唯一つ、あの笑顔だけはあたしの中に残った。

17 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月30日(月)05時39分48秒



それから、3日後。
保田さんから署に来てくれと電話があった。
もしかしたら、寺田殺しについてなにか進展があったのかもしれない。
あたしは、そんな期待を胸にコートを羽織るとすぐさま家を飛び出した。

警察署というのは、特別なにか法をおかしたわけではないのに妙に人を緊張させる。
そんなことを思いながら受付で保田さんを呼び出す。
数分後、保田さんがあたしの元に早足でやってきた。

「ごめんごめん」

保田さんは、あたしと目があうと片手を顔の前に立てる。

「いえ、それでなんなんですか?なにか事件に進展が?」
「あー、今回は違うのよ」
「え?」

「ちょっとついてきて」

あたしが答えるよりも先に保田さんは今来た道を引き返す。
あたしも仕方なく保田さんのあとに付いていった。
それから、案内されたところは取調室の前だった。

どういうことだ?

この間の冗談が頭をよぎる。

まさか、本当にあたしが犯人だと疑っているんだろうか・・・・

つい保田さんをじっと見てしまう。
すると、それに気づいたのか保田さんが笑いながら首を振り、取調室のドアを薄く開ける。
18 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年09月30日(月)05時40分35秒

「ちょっとのぞいてみて」
「・・・はぁ」

ワケが分からず薄い隙間から中をのぞいてみる。

中には一人の女の子が・・・・・・って、あれ?あの子、この間の子?

「知ってる?」

後ろから同じように覗き込んでいる保田さんが言う。
あたしは、隙間から顔を離して「ええ、まぁ、知ってるというかなんというか」と、曖昧に答えた。

「どっちなのよ」

どっちと言われても返答に困る。
大体、なんであの子がこんなとこにいるからってあたしが呼び出されなくちゃいけないんだ?

「あの、あの子なんかしたんですか?」

一応、たずねてみる。

「ん、万引きの現行犯」
「万引き?」

ますますワケがわからない。

「そっ。まぁ、手口から言って常習じゃなかったみたいだけど、保護者がいないらしいのよね」
「はぁ、保護者が・・・・・・え?」

まさか――あたしは、思わず保田さんの顔を振り返る。
保田さんは、困ったように頬をかくと「あんたを呼んでくれって・・・あの子が」と、言った。

「はぁっ!?」

なんで、あたし!?

まず、頭の中にそんな言葉が浮かんだ。

19 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)18時47分01秒
少女ってあの子か。で、あの子ってのはあの子かな〜?
20 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年10月01日(火)05時59分30秒



「・・・・・・それで、なんであたしを呼んだの」

何度、おなじことを尋ねただろう。
取調室にあたしが通されるのを見て少女はうれしそうに微笑んだ。
それからは、ただにこにことするだけでなにも話そうとはしない。
いい加減、あたしも疲れてくる。
たった一回、話をしただけなのに、なんでこんなことになったのか――深くため息をつく。

「迷惑やった?」

少女がうつむいたまま小さく呟く。

「え?」
「迷惑やった?」

少女が不意に顔を上げる。
迷惑に決まってるだろ――と、言おうとしてあたしは言葉を飲み込んだ。
その代わりに、さっきから何度も尋ねていることをもう一度聞いてみた。

「・・・なんであたし?」
「ごめんな〜、つかまったとき、よっすぃ〜しか思い浮かばんかったんよ」

少女があたしに謝るのはこれで二度目だ。
ぼんやりとそんなことを思った。

21 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年10月01日(火)06時00分37秒

「・・・・・・やっぱ迷惑やったよな」
「いや、別に・・・・・・」

申し訳なさそうな少女に同情してあたしはつい首を振っていた。

「ホンマに?」

少女が身を乗り出してくる。
キラキラした瞳に見つめられるとなんだか心を除かれてるみたいな気がしてあたしは話をそらした。

「あぁ・・・・・・そうそう、書類書いてあげたからもう出られるよ」
「ほな、長居は無用やな」

少女が勢いよく立ち上がる。あたしもつられて勢いよく立ち上がる。
そのとき、外で待っている保田さんと目が合った。もしかしたら、変に思われているのかもしれない。
ともかく、ここを出るまでは一緒に歩いていったほうがいいんだろうな、そう思ってあたしは少女に手を差し出した。
少女は、一瞬キョトンとあたしを見上げ、それから恥ずかしそうに笑ってあたしの手を握った。

22 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年10月01日(火)06時02分44秒



外に出ると霙交じりの雨が降っていた。
少女が、ため息をついて空を見上げている。傘がないんだろう。
この寒い中、濡れて帰すのもかわいそうだ。しょうがない、乗りかかった船。

「送ってくよ、家、どこ?」

あたしは、傘を開きながら少女に声をかける。
少女は、「え?」と小さく呟いて、それから「ええよ」と首を横に振った。

なに、意地はってるんだ?
ここまで来たんだから遠慮することないのに――

「いいから、風邪引くだろ」

あたしは、腰をかがめて少女に目線を合わせる。
少女の瞳が悲しげに揺れたような気がした。
でも、それは一瞬のことですぐに少女はいつもの笑顔で「家ないんよ、やからええねん」と言って雨の中にその身を投げるように駆け出していった。



家がない?

―― あたしは、少女の言葉を頭の中で反芻していた。

どうして、気づかなかったんだろう

家の人に万引きがバレルのが嫌だったからあたしを呼んだわけがないのに・・・・・
・・・・ほかに誰も思い浮かばなかったって、そう言ってたじゃん
・・・・・・こんな雨の中、野宿なんてしたら死ぬぞ。

あたしは、少女を追いかけようと走り出した。
23 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年10月01日(火)06時04分00秒

あまりに勢いよく走るので傘をさしてもほとんど意味がない。
ずぶ濡れになりながら大通りに出る。いったん、立ち止まって辺りを見回す。
まだそう遠くには行ってないはずだ

――しかし、少女の姿は雑踏にかき消されてしまったかのように見当たらない。

「くそっ、どこいったんだよ、あのバカッ!」

あたしは、そのときになってはじめて少女の名前を聞いていなかったことに気づいた。

「ったくもーっ!!!」

こうなったら、手当たりしだいだ。

あたしは、再び走り出した。


24 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年10月02日(水)06時19分19秒



どれくらい時間がたったろう。
雨は止み帰宅する人の姿が目に映るようになる。街灯にも灯りがともりだす。
ずぶ濡れの体に北風があたり体が震える。

今日一日、あの子に振り回されたな・・・けっきょく、見つからないし。

あたしは、疲れて教会の入り口の階段にいったん腰掛ける。

これから、どうしようか?寒いしこれじゃ、風邪引くのはこっちのほうだよ。
それによく考えたらまったくあたしに関係ないんだよな、あの子。
そうだよ、あの子がどこでのたれ死のうが関係ない。

そうあたしはムリヤリ思い込んで少女を探すことを諦める。
濡れて髪に張り付いた髪がうっとおしい。


「ずぶ濡れやん、よっすぃ〜」

少し上から声がした。
その声にあたしはなぜかふっと安堵の息を漏らしていた。
座ったまま髪をかきあげその声の主を見上げる。

「お前な〜人がどれだけ探したと思ってんだよ」

同じようにずぶ濡れで立っている少女に言う。
少女は「誰も探してなんて言うてないやん」と口を尖らせる。
それから、ニコッとし「なんかうちに用ですか?」といった。

25 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年10月02日(水)06時20分18秒

その悪戯っぽい表情を見て

あたしが追いかけてくるの計算してたんじゃないのか?

そんな気にさえなってくる。

「用っていうか・・・・・・お前がさ・・・・・あっ!!」

文句を言いかけて大事なことを思い出した。

「なんですか?」

少女が、突然大声をあげたあたしに不思議そうな顔をする。

「お前の名前!」
「へ?」

「だから、名前だよ」

今度こそ誤魔化されないように少し強めに言ってみる。
少女は「それだけでわざわざ?」とポカンとあたしを見た。あたしは、うなづく。

「うちの名前なんて知ってどうするん?」

少女が困惑したようにあたしを見つめる。

「どうするって」

言われてみればそうだ。
なんでこんなにこいつのこと――少女はなおもあたしを見つめている。

どこか寂しげな小悪魔の眼差し。

26 名前:第1章 死体と雪と少女、または優しい雨 投稿日:2002年10月02日(水)06時21分13秒

「・・・・・・どうするって・・・・・・い、一緒に暮らすとき名前知らなかったら不便だろ」

あたしの口は勝手にそんなことを言っていた。
少女が驚いて息を呑み下を向いた。ポツリポツリと再び雨が降り出し始める。

「加護・・・・・・」

「え?」 

「加護亜依・・・」

うつむいたまま少女が言った。
あたしは、立ち上がって少女――加護の頭を撫でる。
加護がビクリと顔を上げた。その眼に透明な滴が溜まっている。

「泣くなよ、加護〜」
「な、泣いてへん!あ、雨や!!」

あたしの言葉に加護は目元をぬぐってそう言った。

「ま、そういうことにしてやるよ」

あたしは、笑って加護の頭に手を置いた。




降り出した雨はなぜかさっきとは違ってすごく暖かくて、
まるであたしたちのこれからを優しく見守ってくれる――そんな気がした。


27 名前:間奏 投稿日:2002年10月02日(水)06時22分13秒


もし、出会わなければ

もし、手を差し出さなければ

君は――

あたしは――


どんな終わりを迎えたんだろう?


28 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月03日(木)06時17分27秒



加護と一緒に暮らすようになって2週間がたった。
あたしの生活にはこれといった変化はない。
ただ、一つあげるとすればクールを自負していたあたしが少しだけホットになったって感じかな。

「だから、なんでこんな悪戯するんだよっ!」

ほぼ2日に一回はこんなことを言っている。
加護の悪戯は彼女の性格同様ユニークなものばかりで、あたしは彼女を叱りながらもそれを実際には楽しんでいた。

だけど、その日は少しだけ違った。
加護にしてみればいつもと同じたわいのない悪戯だったのかもしれない。
あたしが部屋に入ると舞台は完成していた。加護が前フリの小芝居を始める。

テーマは、密林の二人。
戦争をモチーフにしたものらしい。

最終的には、あたしを銃声なりなんなりで驚かすつもりだったんだろう。
たとえ意図的ではなかったにしろそれはあたしが封じ込めていたものを引き出そうとしていた。

29 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月03日(木)06時18分07秒


私は、あの子を忘れたいのに――



気がつくと、あたしは加護に向かってひどい言葉を吐いていた。
加護は、普段とは違う反応を示したあたしに驚いて目を見開く。
その目が徐々に怒りにギラギラと燃え出し、次の瞬間、加護はあたしを押しのけるようにして部屋から出て行った。


どうして、追いかけなかったんだろう?

いや、そんなことが思い浮かばないくらいにあたしは動揺し追い詰められていたのか・・・・・・。




それから、加護は3週間あたしの前に姿を現さなかった。


30 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月04日(金)05時46分01秒



「よっすぃ〜」

久しぶりに会った加護はあたしの顔を見てへラッと笑った。
どう接しようか悩んでいたあたしはその笑顔に正直安心した。

「まったく、これからはちゃんと面倒見なさいよ」

呆れたような口調で保田さんが言う。

加護を見つけてくれたのは保田さんだった。
もちろん、保田さんが彼女を見つけたのは偶然だ。
今日の午後、中澤総会の会長中澤裕子が庭先で何者かに殺されていた。
その捜査に出向いた際、野次馬の中から見覚えのある顔を見つけたらしい。
それで、すぐにあたしに連絡をしてくれたというワケだ。

あたしは、すぐに保田さんの待つカフェへと向かった。
別に迎えにいかなくてもよかったのかもしれない。
もともと、あたしたちの間にはなんの繋がりもないはずだから。

だけど、あたしの中で眠っていた人間らしい感情を揺さぶるように毎日起こっていた悪戯や、
あの時からできなくなっていた他人とのたわいもない会話――それらが、なくなってからあたしははじめて加護の存在がこんなにも大きくなっていることに気づいたのだ。

31 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月04日(金)05時49分09秒

あたしたちは、保田さんに礼を言ってからカフェをあとにした。
話したいことはいっぱいあったはずなのに久しぶりでなにから話したらいいのか分からない。
それに、なんとなく気恥ずかしさも感じていた。

「なぁ、よっすぃー、おなかすかへん?」

しばらく黙って後ろを歩いていた加護が唐突に口にする。

「は?さっき軽く食べてたじゃん」
「じゃぁ、のどかわかへん?」
「乾かない!さっさと家に帰ろうよ」

もしかして、家に帰りたくないんだろうか?

そんな思いが頭をよぎる。
それを打ち消そうとあたしは加護の手を引っ張った。
と、微かにその手に抵抗を感じる。
あたしが振り向くと「よっすぃーはなんにも聞かないんだね」と加護がポツリと呟いた。

「え?」

「なんでもないよ、帰ろ」

戸惑うあたしの手を笑顔でほどくと加護は走り出した。

32 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月04日(金)05時49分57秒



聞きたいことはたくさんあった。ホントにたくさんあった。
だけど、聞かなかったんだ。



違う・・・聞けなかった。


だって、聞いてしまえば加護がいなくなりそうで怖かったから


――どうして、殺人現場にいたの?

――君は、事件とは関係ないんだよね?



あたしの中で最初に加護に感じたなにかが少しだけ蘇ろうとしていたから


33 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月05日(土)06時11分23秒



家に着くやいなや、彼女はいなくなる前に定位置だったソファに飛び込みをするように体を預けた。
その無邪気な様子に抱いていた彼女への疑念は薄れていく。

そう、信じてあげないことには・・・・・・

「そんなとこで寝ると風邪引くよ」

そう声をかけると「じゃぁ、よっすぃーが隣で暖めて」と加護は寝転がったまま笑い両手を広げた
ほんの一瞬、奇妙な感覚に胸がざわつく。
次の瞬間、それが性的ななにかだと気づいた。

・・・・・・なにを考えているんだ、あたしは。

こんな少女相手に、変態かって、まったく――そう思いすぐにその感覚を打ち消す。

「どないしたん、よっすぃー?」

苦笑していると加護が半身を起こして不思議そうにあたしを見ていた。

「いや、なんでもないよ。ともかく、寝るんだったらベッドに行けって」
「は〜い」

そう答えて寝室へと向かった加護がどこか不満げだったのは気のせいだろうか。

34 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月05日(土)06時11分58秒

あたしは、深く嘆息して加護のいたソファに腰掛ける。

加護が一瞬だけ見せたコケティッシュな表情。
狡猾そうなきらめきをたたえた瞳。小悪魔の笑み

――そんな風にかんじてしまったのもどこかであたしが加護を信じきれていないからだろうか?

「ふぅ・・・・・・」

全身をソファに預ける。
もう考えるのはやめよう。ともかく、加護は帰ってきたんだしな。
そのまま、あたしはまどろみ始めた。



――思えば、どうしてあたしは加護にこんなにもはまってしまったのだろう?


35 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月05日(土)06時13分21秒



加護が帰ってきてからの数日間、すばらしく平凡で退屈な日々が続いた。
あたしたちは、広大な牧場をのんびり二人で歩いているかのように穏やかに暮らした。
毎日、9時過ぎに起きてベーグルと牛乳を飲み――その時、加護が牛乳が飲めないことをはじめて知った――それから、いろいろな取材をしてまわる。
本当は寺田事件のことを最優先にしたかったが、生活のためにはそうも言っていられない。
そのため、あたしは時間を見つけては寺田事件を調べることにしていた。
以前は、あたしが仕事をしている間、加護は留守番をしていたんだけれど、
いつのまにか彼女はあたしの仕事場についてくるようになっていた。
まるで、姉妹の様とは誰が言ったか――あたしたちは、完璧なまでに上手くいっていた。
あれほど、抱いていた加護に対する不安はもう空のかなたへと消えうせ、あたしもこの時間が永遠に続くものだと信じて疑わなかった。





そう、あの時までは――



36 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月05日(土)06時15分09秒

「加護?加護でしょ?」

「え?」

ホテルでの取材が終わり、あたしたちがそこにあるカフェで少し遅めのランチを取っていた時だった。

肩の線をくっきり見せる細身の黒いワンピース、それに合わせたミュール、シンプルだけど目を引くネックレス
――そのどれもが高価そうで、あたしはこの二人はどういう関係なんだろうと、素直に思った。
女もあたしのことをそう思ったのかチラリと値踏みするようにあたしに視線を動かし、
それから口元に意味もない微笑を浮かべた。

ひどく失礼なやつだ。

あたしが睨み付けると女は視線をスッとはずし加護に話しかける。

37 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月05日(土)06時16分05秒

「ねぇ、どうして最近来ないの?」

妙にすがりつくような女の声。
いったい、なんだっていうんだ。そう加護に目で問いかける。
女とあたしに挟まれて加護は困ったように前髪を弄くる。
それから、「あ・・・ちょっと、向こうで話しましょ?」と、少し離れたテラスを指差しながら女に言った。
女はうなづく。

「よっすぃー、ちょっと待っててね、すぐ戻るから」

加護は、いつもと違った標準的なアクセントで早口にそう言うと女と連れ立ってテラスへと向かった。
普段、見せることのない妙に大人びた表情の彼女にあたしは少し気圧されてついうなづいていた。

38 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月05日(土)16時51分41秒
うわっ、こういう雰囲気の作品好きだな。
加護がひとくせもふたくせもありそうだ。
んー続きが気になる。更新、楽しみにしてます。
39 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月06日(日)05時51分09秒



ぼんやりとテラスでなにか親しげに話している二人を見つめていると不意に胸ポケットの中の携帯が振動した。
着信画面には公衆電話の文字。いぶかしげに思いながら通話ボタンを押す。

『あ、吉澤』

あたしが、出るとすぐに電話の相手は喋りだした。

「保田さん?どうしたんですか、いきなり」

電話の主は、保田さんだった。

『今、一人?』

保田さんは、あたしの問いかけに答えることなく逆にあたしに問いかけてくる。

「え、まぁ・・・今はそうですけど」

あたしは、まだ戻ってきそうにない加護の姿を視界に映しながら答える。

『なによ、はっきりしないわねー』

保田さんが受話器越しに鼻を鳴らした。

40 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月06日(日)05時53分59秒

「それより、どうかしたんですか?」

『そうそう・・・よかったら時間作ってくれない?電話じゃちょっと言いにくいことなんだけど』

「はぁ・・・・えっと、ちょっと待ってくださいね」

あたしは、バッグからスケジュール帳を取り出す。
ちょうど、3日後の午後からはなんの予定も入っていなかった。
そのことを告げると保田さんは『じゃぁ、この間のカフェで13時に』と言った。
あたしが了承すると、保田さんは最後に『あ、絶対に一人で来てよ、あの子も連れてこないでね』と念を押した。

携帯を直しながらテラスに目をやる。まだ二人は話している。
あたしは、肩肘をついて保田さんの話とはなんなのだろうと考えた。

やけに一人で来るようにと強調していた。
もしかして、実は加護の両親とかから捜索願がだされてたとか。

ってことは、あたしが誘拐犯か!?

そこまで考えてあまりの馬鹿馬鹿しさに苦笑する。
まぁ、なんにしても加護を連れてくるなってことは保田さんの話が
加護のことであるには間違いないだろう。
それ以外にはありえない。多分、保田さんはあのことに気づかないはずだから

・・・・・・気づいたなら今みたいにはきっと・・・・・・・・・

41 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月06日(日)05時55分22秒

あたしは、再びテラスのほうに目をむけ――愕然として危うくカップを落としそうになった。

女が加護に背丈を合わせるように膝を曲げ腰をかがめ――キスをしていたのだ。
加護の幼い手が女の長く艶やかな神を撫でる姿はやけに妖艶に、
それでいてどこか神の祝福を授けにきた天使のように見えた。

あたしが、固まったままその光景を見ていると二人が離れる。
加護の表情は陰になっていて見えない。
しばらくして見詰め合った二人はテラスから店の中へと戻ってくる。
途中で、女が加護になにか耳打ちし、それに加護はうなづく。
すると、女は嬉しそうに笑いあたしの元へ来ることなく店を出て行った。

「ごめんな〜待たせて」

加護は、まるでなにごともなかったかのように振舞う。
あたしは加護といることにはじめて居心地の悪さを感じてなにも言わずに伝票をもってレジに向かった。

「よっすぃー?怒っとるん?なぁ、待たせてゴメンって」

加護の慌てた声があたしのあとをついてくる。

別に怒っているわけじゃなかった。
このときのあたしは、あんなことのあとで普通に接してくる加護とどう接していいのか分からなかったんだ。

42 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月06日(日)20時18分10秒
吉澤もなんか隠してるみたいだな〜。気になる
43 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月07日(月)06時11分36秒



駅前の道を無言で歩く。
加護も諦めたのかあたしに話しかけることなくついてきている。
おかげでいろいろと考えをまとめる時間ができた。

あたしは別に加護の恋人ってわけじゃない。
もとから、あたしが加護に抱く思いはそんなもんじゃない。
だから、加護が誰と付き合おうが知ったことじゃない。

ただ・・・・・・あたしは、心配なだけなんだ。
ともすれば、さっきのようにあたしの知らない人と突然消えてしまいそうな彼女のことが・・・・・・
きっと彼女と一緒にいる何日間があたしを変えている。
もう失うものがなくてどんな危うい仕事だってしてきたのに――

あたしは、つい最近手に入れた彼女のことを失いたくないと思っている。
傷つき凍えていた彼女を一人には出来ないと思っている。

命が惜しいと――あのときから、そんなこと思いもしなかったのに――そう、思い始めている。

だからこそ、どこか無鉄砲な彼女のことが心配なんだ。

44 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月07日(月)06時13分50秒

「なぁ、よっすぃー、ホンマに怒っとるの?」

ひじが引っ張られて振り返る。
加護が情けない顔であたしを見上げていた。

そんな彼女をたまらなく愛しいと思う。守ってあげたいと思う。
でも、それはあの子に抱いていたようなたぎるような情熱じゃなく、穏やかな感情。

「怒ってないよ」
あたしは、口の端を緩めながら加護の頭を撫でる。

「ホンマに?」
「ああ」

あたしがうなづくと、加護は安心したように笑った。

子供らしい彼女とさきほどの妖艶な彼女。

どちらが本物の彼女なんだろう?

そんなことをおもいながら彼女の手を握った。
そして、根本的な疑問をぶつけてみた。

「ねぇ、さっきの人って誰?」
「え?・・・・・・えっとぉ」

加護は、あきらかにどう誤魔化そうか考えている。
それを察して先に「あ、言いたくないんなら別にいいけどさ。やばいことだけはしないでよ」といった。

ウソをつかれるよりはいい。あたしは、そう思った。
加護は、あたしの言葉に曖昧な笑顔を返した。

45 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月08日(火)06時14分39秒



――3日後、保田さんとの約束の日。
あたしは、重要な会議に出るからと加護にことわってから一人でこの間のカフェへと向かった。

あのことじゃないと分かっていても少しだけ怖かった。



「吉澤」

5分前についたのに保田さんはもう席についてコーヒーを飲んでいた。
あたしに気づいて手を上げてくれる。
それに軽く答えながらコーヒーを注文して席へと向かった。

「すみません、待たせちゃって」
「ううん、勝手に早く来てただけよ。呼び出して悪かったわね。少し聞きたいことがあってさ」

「聞きたいこと、ですか?」

スッと鼓動が早くなる。

聞きたいこと――なんだ?

内心の動揺を悟られないように注意しながら保田さんを見た。
別に普段と変わった様子もない。

安心していいんだろうか?

「そう・・・・・・先に一ついいかしら」
「なんですか?」
「あなたと・・・この間の加護さんだっけ・・・・・・」

保田さんは、やけに言いにくそうにつっかえつっかえ続ける。
あたしはというと、加護の名前がでた時点で緊張の糸を緩めていた。

そう、ばれるわけがないんだ。あの子はもう・・・・・・いないんだから。

46 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月08日(火)06時16分06秒

「吉澤とさ、けっきょくどういう関係なの?」
「え?あ、それは・・・えっと・・・・・・」

一瞬、ごまかそうかとも思ったがこれ以上保田さんにウソをつきたくない。
あたしは、正直に今までのいきさつを詳しく話した。
保田さんは、あたしが話し終わるとしばらく考え込むように口元に手を当てポツリと確かめるように言った。

「・・・・・・つまり、あの子のことなんにも知らないってことよね」
「・・・どういう意味ですか?」

「できれば、すぐにあの子とは離れるべきよ」

あたしの問いに答えずに保田さんは冷たいともとれる口調で言い放つ。

「なんでですか?なんで・・・・・・加護がっ、あいつがなにかしたんですか!?」

横暴な話しにカチンときて少し語気を荒げてしまう。
周囲の人がちらちらとそんなあたしを探るような目で見ていた。
保田さんは気にした風もなくかすかにかぶりをふりため息をついた。

47 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月08日(火)06時17分55秒

「私はさ、もっとあんたは加護さんのこと知ってると思ってたのよ・・・つまり、私とあいつみたいな関係だと・・・・・・だから」

ズキッ――

突然、保田さんの口からでてきたあの子の存在にあたしの胸は再び激しく活動を始める。
そこにタイミングよくコーヒーが運ばれてきた。
あたしは、気を静めようと一気にそれを口に含む。
独特の苦味が口いっぱいに広がる。


なんの話だったっけ?

「・・・でも、知らないならそのままのほうがいいわ」

知らないってなんのこと・・・・・・


加護

そう、加護だ。大丈夫、あの子のことじゃない。


「どういうことですか?」

「ともかく、加護さんとは離れなさい」

保田さんが、もう一度言った。

「どうして?加護とあたしはうまくいってるしもう家族なんですよ。そんなことできません」



人間ってつくづく最低だなって思う。
あの子の話題がでるたびに思考をシャットアウトするくせに、そうじゃなければ全部を求めようとする。

いや、それよりも今現在最低なのはこの人に頼っているあたしだろう。
48 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月08日(火)06時19分08秒

保田さんは、コーヒーを口に含み私を見ている。
まだ迷っているみたいだ。

「ねぇ、保田さん・・・・・・ほんとになにを知っているんですか?」

なおも食い下がるあたしに保田さんは深くため息を付き傍らにおかれたバッグの中から数枚の写真を取り出した。

「・・・・・・?」

一枚目の写真には、血まみれの少女が写っていた。

なんだ、これ?
あたしは、反射的に顔を上げる。

「誰だと思う?」
「え?」

誰って――?

「それ、加護亜依の5歳頃の写真よ」

保田さんの言葉にあたしはもう一度写真に目を落とす。
よく見れば確かにどことなく今の面影がある。

でも、なんでそんな何年も前の写真・・・・・・それも、こんなものを?

49 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月08日(火)06時20分25秒

「戦争が一番激しかったころね、母親に守られるように抱きしめられてたんだって。」

保田さんは、そう言って写真をなおす。
かわりにもう一枚の写真をバッグから取り出し、あたしの前においた。
ピントがずれてぼやけた写真。
でも、さっきとは違ってすぐにうつっている人物の一人が加護だということが分かる。

どうして、保田さんはこんなに加護のことを調べているんだ?

疑問が浮かんだ。
そして、それは、いやなものへと姿を変えていく。

「それ、加護さんに間違いないわよね」

保田さんの無機質な問いかけにあたしは無言でうなづく。

「・・・・・・・・・その隣、見覚えないかしら」

加護にばかり目がいっていたあたしはいわれてその隣に立っている人物に目を動かす。

どこかでみたことがある・・・・・・・


・・・・・この人、この間殺された――


あたしは、顔をあげる。
保田さんは、静かにうなづいた。


――なんで、加護が一緒に写ってるんだ?


50 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月08日(火)06時22分22秒

「これだけじゃないわ。中澤裕子邸のメイドたちにもこの子に似た子が目撃されてるの」

少し厳しい顔つきになった保田さんは淡々と言葉を重ねて行く。

「あたしは、彼女を一連の事件の関係者として調べてた。彼女がどこからきてどのようにこの町にきたのかあらっていってた。調べれば調べるうちに私は彼女が事件に関係していると確信をもったわ」

「・・・どうして?」

「彼女と関わった人は必ず死んでるの・・・どの町でも3人ずつ・・・
 一枚目の写真も公にはされてないけど彼女は母親を見殺しにしたんじゃないかって
 一部で疑われたらしいわ。 まぁ、そのときは5歳児がそんなことするわけがないって
 結論だったようだけどね。私は、調べたすべてを捜査委員に提出した」

ノドが干からびたみたいに乾いている。


保田さんは、なにを言ってるんだ?

加護が・・・加護がそんな、人殺しなんてするわけがないのに。

あんな子供がするわけが、ない・・・・・・のに・・・・・・・・・・・・・・・





あぁ、それなのになんで、なんであたしの中にあの時の加護が浮かんでくるんだ。


51 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月08日(火)06時23分31秒

「捜査委員ははやいうちに動き出すわ」

保田さんは、重々しい口調であたしに告げた。


「私たちは、彼女を重要参考人として扱う」


胸をえぐるような言葉。

せっかく、まわりだした穏やかな時計がまた壊れてしまう・・・・・・。




神様、これが――あたしへの罰なんですか?








「吉澤?・・・・・・大丈夫?」

保田さんが、心配そうに身を乗り出してくる。

「え、ええ・・・・・あの、保田さん」
「ん?」

「あいつ、犯人じゃないですよ」

半ば言い聞かせるように口にしたその言葉はまるで空々しく自分の耳には聞こえた。

人は、簡単に人を殺す。
それくらいあたしは身を持って知っているから――

「あいつが人なんて殺せるわけないですよ」

もう一度、言った。

「そうね」

保田さんは、あたしの肩を優しく叩くと気遣うように言った。

52 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月09日(水)06時59分21秒



保田さんと別れてから寺田の家へ行ってみた。
寺田家は、主を失ってガランとしたはりぼてのようだった。
あたしは、まだ捜査テープの残った門を開け中に入りあの時と同じように立ってみる。
それから、あの時、加護が立っていた方向に視線を動かした。

加護はいない。

当たり前だけど――


あたしは、その場に座り込む。
地面は少し湿っていたけどそんなこと気にならない。

考えるのは加護のことばかりだ。

53 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月09日(水)07時01分12秒

中澤裕子・・・・・・


加護とどういう接点がある?
どうして一緒に写真なんかに写っていたんだ?


寺田・・・

加護はあの時、どうしてここにいたんだ?

あの背の高い女は?



――考えれば考えるほど泥沼には待っていっているかのような感覚に襲われる。

あたしは、加護を信じたい。それは、本当だ。
だけど、心のどこかで信じ切れていないのは、
きっと加護とあたしがどこか似ていることに気づいているから・・・・・

誰が言ったのか姉妹みたいとはよく言ったものだ。

でも、加護になら殺されてもいいかもしれないとも思う。
楽に慣れるかもしれない――と。



「くっくっ」

そんなことを考える自分に喉の奥から自嘲的な笑いがこみあげてくる。
ともかく、今までのようになにも聞かないままってわけにはいかないだろう。

加護を信じるために――真実を確かめなければ。

あたしは、立ち上がって加護の待つ家へと急いだ。
途中、加護の好きなケーキを買って――


だけど、彼女がそれを口にすることはなかった。

54 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月10日(木)06時56分54秒

10

家に帰るといつも出迎えてくれる加護の姿が見当たらない。

「加護?どこいんの?隠れてないででてこいよ」

あたしは、部屋の中を見回す。
きっとまた悪戯だろう。そう思った。

「ケーキ買ってきたんだぞ。早く出てこいって」

返事はない。
聞こえていないわけがない。
あたしは、すべてのドアというドアを乱暴にあけてまわる。
しかし、どこにも加護はいない。考えられることは一つだ。

・・・・・・ウソだろ?なにも言わずにでていくなんて――

足が妙にがくがくとして、なんとなく立っていられないような感覚を覚えた。
あたしは、ふらふらとソファに座り込む。

このソファに加護が寝転がることももうないのだろうか・・・・・・

55 名前:第2章 穏やかな世界には気まぐれな風が吹く 投稿日:2002年10月10日(木)06時57分45秒

「・・・・・・ん?」

動かした視線の先に白い紙が置かれてあった。
メモは、必ず自分の手元においてある。出かける前にはこんなものなかった。
あたしは、勢いよく立ち上がりその紙に目を通す。
加護の丸っこい文字が躍っている。


『よっすぃ〜へ。

  ちょっと用があって出かけます。帰ってくるんで心配せんでください。

加護』


短いメッセージ。

だけど、帰ってくると書いてあったのを見てあたしはホッとしていた。



加護がひょっこりと帰ってきたのは、それから3日後のことだった。
そして、あたしが、ホテルのカフェで加護と親しげに話していた女が死体で発見されたニュースを見たのもちょうど同じころだった。

56 名前:間奏 投稿日:2002年10月10日(木)06時58分32秒



ねぇ、君、君は笑うかな?

それでも、あたしは

君の事を信じたいとそう思っていたんだよ。



57 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月11日(金)10時26分56秒
うーん、アンハッピーな予感
58 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月13日(日)05時48分52秒



殺された女は、飯田カヲリという名前だった。

あたしがそれを知ったのは加護が帰ってくる数時間前のことだ。
加護がいなくなってから、あたしは毎日仕事を早く切り上げて家で彼女の帰りを待つことにしていた。

その日もそうだった。
あたしは、いつ加護が帰ってきてもいいように食事の支度をしてなんとはなしにニュースを見ていた。
スポーツニュースが終わり画面が切り替わる。
どこかで見たことのある女の顔写真が画面に映る。
あたしは、即座にその女をどこで見かけたのか思い出した。
あのホテルで加護に話しかけた女だ。
あたしは、もっていたフォークを思わずとりおとす。
金属が落ちる無機質な音が部屋に響いた。

59 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月13日(日)05時49分23秒


――私たちは、彼女を重要参考人として扱う


保田さんの言葉が蘇ってくる。


偶然・・・だよな
まさか、加護じゃないよな・・・


あたしの中で、加護を信じたい気持ちと疑う気持ちが同時に生まれ鬩ぎ会う。



加護、お願いだから早く帰ってきてあたしに話を聞かせてよ


そのときのあたしは、ただ、そう願うしかなかった。

60 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月16日(水)06時21分18秒



「ただいま」

玄関から加護の声がした。あたしは、ころげるように玄関に向かう。

「ど、どないしたん、よっすぃー?」

血相を変えて自分を出迎えたあたしに加護は驚きに目を丸くしながら言った。
それから、あたしが怒っているとでも思ったのか「ゴメンなさい」と呟く。

「どこにいってたの?」

努めて冷静に言葉を発したつもりだったけど――出てきた声はまるで
あたしの声じゃないみたいに動揺を含んだ上ずったものになっていた。
加護は、誤魔化すようにえへへと笑う。

そう、いつもならここで引き下がるところだろう。
加護もそう思っているはずだ。

でも、今日は事情が違う。

「・・・飯田カヲリ」

あたしが低く呟くと加護の顔から笑顔が消える。
かわりにでてきたのは能面のような無表情。まったく感情の読み取れない。
こんな加護を見るのは初めてだ。あたしは、つばを飲み込む。

「さっきニュースで死んだって」
「そう・・・」

加護は、無表情の仮面のままあっさりと相槌を打った。

「・・・それだけ?」

こんなこと言いたくないけど・・・・・・言わずにいられない。

あたしと加護のこれからを考えるなら――

61 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月16日(水)06時22分18秒

「・・・・・・どういう意味?」

加護の目が鋭く光る。威嚇しているかのようだ。

「あんた、警察から疑われてる・・・・・・中澤裕子・寺田、ほかにもいろいろ・・・・・・きっと飯田カヲリのことでも疑われる」

「ふ〜ん、だから、なに?」

加護はぞっとするほど冷たい声で言った。あたしは、言葉につまる。
そんなあたしを試すように加護は尋ねてきた。

「よっすぃ〜はどう思う?」

「・・・あたしは」

あたしは、信じたいと思っている。
だけど、加護のことをあたしは何も知らない――だから、知らなければいけないと思う。
たとえ、それがどんなことであっても。

あたしは、そう答える。
すると、加護はあたしの答えを予想していたかのように満足そうに微笑んだ。

「うちのことを知りたいんだ?」

「・・・ああ」

「そうやな〜、ほんなら交換条件や」

「え?」
「うちは、よっすぃ〜のことを知りたい」

加護はきっぱりと私の目を見つめながらいった。

62 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月16日(水)06時23分12秒

「よっすぃーの昔のことが知りたい」

昔の・・・こと・・・・・・加護の悪意に満ち溢れた言葉。

「な、なんであたしの昔のことなんて・・・・・・」

動揺を悟られないように言おうとしたが上手くいかない。
そんなあたしをあざ笑うかのように加護はソファに座る。
それから、囁きに近い声で言った。

「人、殺すのってどんな気分やと思う?」

なにげなく、だけど、計算されたような言葉はあたしの急所を確実に捉えていく。
捕食者が獲物をじわじわと嬲り殺しにするように――

なにを知っているんだ?

動悸が早くなるのを感じる。手に汗がわいてくる。
喉も乾いてひりひりと痛い。つばを飲み込む余裕さえない。
あたしは、立ち眩みに近い感覚を覚えてデスクに手をつく。

「大丈夫?よっすぃ〜?」

どこか楽しそうに問いかける加護の声がエコーして聞こえる。


63 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月16日(水)06時23分58秒


熱帯の大樹が見える。
うっそうと生い茂った緑。
樹木とシダ植物と苔。


落ちていく



落ちていく





堕ちていく


もう、限界だ





そう思った瞬間、全身からすっと力が抜けた。

最後の意識が消えるとき、あたしは頭の片隅であの子の名前を呼んでいた。

64 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月16日(水)14時43分00秒
交信キター!
ついによっすぃーの過去話?かなり期待してます。
65 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月17日(木)06時15分57秒



あたしの前を歩く背中。
細くて小さいのにどこか強い。
取り巻く世界は静かでまるであたしと彼女しかいないような気がした。
不意に彼女が振り向き微笑みながらあたしに言った。

「もう少しだね」

そう、あたしたちはあと少しで辿り着ける――もう大丈夫だ、とそう思っていたんだ。





額になにか冷たいものがあたってあたしは、強制的にまどろみを断ち切られた。
薄く目を開けると、かすかに開け放たれた窓と
冷たい風に揺れている日に焼けたカーテンがうつった。
雪が降っている。あたしはぼんやりとした頭のまま自然に窓を閉める。


なにをしてたんだっけ? 

あたしは、どこか現実感を欠いた状態のままたちあがある。
部屋は暗く誰もいる気配はない。

ともかく、記憶をたどらないと――

そう思って部屋中を歩き回ってみる。

確か、保田さんと話したあと飯田カヲリの死を知って・・・・・・・・・・・・

そうだ、加護、加護を問い詰めた、


それから――



『人を殺すのってどんな気分やった?』


ズキン


あの子のことを思い出したんだ。

66 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月17日(木)06時16分41秒

「・・・・・・・・・・・・加護?」

あたしは、暗い部屋に呼びかける。
返事は期待していない。きっともうどこかに行ってしまったのだろう。

あたしを殺すことなく・・・・・

「加護・・・」

あたしの呼びかけにインターホンの音が返ってきた。
あたしは、大げさなほど飛び上がり玄関のある場所を見る。
もう一度、インターホンが鳴らされる。それから、遠慮がちなノックの音。


「・・・ざわ!吉澤!!いないの!?」


・・・・・・保田さん?

その声の主にあたしは、まだ如実に残るこめかみの麻痺に似た不快感を振り払いながら玄関に向かった。

67 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月18日(金)06時22分51秒



「どうしたの?」

玄関先に立つあたしを見て開口一番に保田さんは言った。
きっとよほどひどい顔をしていたんだろう。あたしは、曖昧な笑みを返す。
保田さんは、それに少し眉をひそめる。

あぁ、どこかで見たことのあるような光景だ。

あたしは、ぼんやりとしたままそんなことを思う。
どこで見たんだっけ・・・・・・思い出せない。

「あのさ、ニュースで見たかもしれないんだけど・・・・・・・」

保田さんが口を開く。
飯田カヲリのことだろう。
あたしは、うなづいて気遣いの必要のないことを告げる。
保田さんは「そう」と言うとあたしの肩越し――部屋の奥に視線を動かした。

「・・・あの子は、いるの?」

あたしは、首を振る。

「どういうこと?」

保田さんの問いかけにあたしは、加護を問い詰めたこと、目が覚めたときにはもう姿が見えなくなっていたことを伝えた。
どうしてあたしが倒れたのかを除いて、起こったすべてのことを・・・・・・。
68 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月18日(金)06時23分48秒

保田さんは話を聞き終わると「疑ってるわけじゃないんだけど・・・中見てもいい?」と、
口ごもりながら言った。
あたしは、脇により保田さんを中に招き入れる。
保田さんは、少しためらいがちに部屋に入るとあたりを注意深く見回す。
そして、あたしと視線を合わせないように気をつけながらいった。

「警察は、加護亜依を99%の確立で寺田・中澤・飯田の殺害に関与していると見てる」


99%――なんて、中途半端な確率なんだとあたしは思った。

真実は一つしかないのに、黒か白か、1か0か・・・・・・その間なんてない。
だから、あたしは白に、0になろうとした。

ウソをついてまで――



どうしてだか分からないけど加護はそれに気づいていたんだ。


69 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月18日(金)06時24分37秒

「吉澤、あの子の行き先に心当たりはないの?」

あたしは、やはり首を振る。
保田さんはあたしの顔を心配げに凝視する。

「・・・あんた、本当に大丈夫?・・・・・・なにかあったの?」

今、ここで言ってしまえば楽になるのかな?

加護はあたしを置いていってしまったから・・・もう楽になる方法が見つからない。

「保田さん・・・・・・あたし」

――あなたにウソをついていたんです



言葉が出てこない。

「なに・・・?」

怪訝そうにあたしを見つめる保田さん。
心配そうな大きな瞳。その優しい視線にあたしの胸は切なく痛む。




ごめんなさい、保田さん

ごめんなさい

何度、心の中で謝っただろう


「吉澤?」

「――なんでもありません」




弱いあたしは、彼女に真実を告げられない――

70 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月19日(土)06時40分35秒



保田さんが帰ってからしばらくしてあたしは自分のポケットの中に一枚の手紙を見つけた。

加護からの手紙。
もう関わるべきではない、一瞬、そう思いそれを捨てようとして――やはり捨てられなかった。


囚われている。

みな、そうなのかもしれない。
惹かれたのは逃れられない闇。
あたしたちは、加護の作り出す果てのない虚無に全てを捧げてしまうのかもしれない。
かって、埋めてあげることの出来なかった自分たちの最愛の人のために――



よっすぃー、お世話になりました。
うちは、朝一の電車でこの街を出ます。
ホンマは、よっすぃーのこと殺すつもりやった。
やけど、よっすぃーは他の人とは少し違うから・・・・・・やから、見逃したるな。

          
                                加護亜依

71 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月19日(土)06時41分37秒

まだ雪の降り止まぬ夜の街をあたしは走る、彼女を探して――

始発まで駅で待つことはできない。
彼女には、もうどこにも行くあてはないはずだ。
今、彼女がいるところはきっとあたしの知っている場所、あたしと行った場所。
寺田の家、中澤の家、飯田の家、食事をしたカフェ、取材につかったスタジオ、ホテル・・・・・・ともかく、ところかまわず駆けずり回った。
だけど、彼女の姿は見当たらない。

他にどこがある?

他に――?

あたしたちが一緒に・・・・・・・・・・・・





――ずぶ濡れやん、よっすぃー


――加護・・・・・・加護亜依



「あ・・・・・・」


たった一つだけあった。

まだ行っていないところ・・・・・・

教会。

あたしと加護が一緒に暮らすきっかけになった場所――どうして忘れてたんだろう。


あたしは、きびすを返すと教会に向かって一目散に走った。

加護は、絶対いる。
今までにないほど強い確信がそこにはあった。
72 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月20日(日)07時10分38秒



教会内に一歩入るとそこには荘厳な空間が広がっていた。
建物を取り巻く長い回廊と簡素でありながらきわめて美しい天井。それを支えるアーチ。
あたしは、奥へと足を進める。

視界の先に3つのドアが見えた。
そのうちの一つがわずかにあいている。大きさから言って中央礼拝堂だろう。
こんなところに加護はいるのだろうか?
不安が頭をよぎる。
そのとき、がたんと微かな音がした。
あたしは、音を立てないように細心の注意を払いながらドアの隙間から中をのぞく。
暗い廊下とは違い天井のステンドグラス越しに白い光が差し込んでほんのりと明るい。
突然の光にあたしの目が慣れるまで少しの時間を要した。
ようやく目が慣れ徐々に礼拝堂が浮かび上がってくる。
そのまさに中央で母子像を見上げる加護の姿が目に入った。
何を思っているのかその後ろ姿はやけに儚い。

「・・・・・・加護?」

呼びかけると彼女は肩をビクッと震わせ警戒しながら振り返る。
しかし、あたしの姿を認めると警戒の姿勢を解き柔らかな微笑を浮かべた。
まるで、後ろにある母に抱かれる子どものような――
73 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月20日(日)07時11分21秒

「ずぶ濡れやん、よっすぃー」

あたしは、雪で湿り気を帯びた髪をかき上げ苦笑した。

「それ、前も聞いた」
「そうやったな」

加護も苦笑する。
それから、不意に鋭い視線になってあたしをにらみつけた。
あたしは、急激な加護の変化に戸惑いを覚える。

これまで一度だって彼女はこんな目であたしをみたことがあっただろうか?

――加護がゆっくりと近づいてくる。

「なにしにきたん?」

彼女は、あたしの顔を正面から見つめたまま言った。

「・・・君を・・・・・・助けたいと思って」

自然とそんな言葉が口をつき「どういう意味?」と、彼女はいぶかしげに首をかしげた。

あたしにも分からない。
ただ、さっき見た加護の後ろ姿があまりに小さかったから――

74 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月20日(日)07時12分28秒

「・・・・・・・・・・・・どうして、殺人なんて?」

加護は、答えない。
長くて短い息の詰まるような沈黙が流れる。

「・・・・・・・・・よっすぃーは?」

ぽつんと加護が言う。

「・・・・・・・・・」

今までの試すような口調ではない。
だけど、あたしは答えられずに加護から視線をそらした。


「・・・なぁ、懺悔大会せーへん?ちょうど、教会やし」

黙っていると奥にある懺悔室を指差して加護が悪戯っぽく笑った。
あたしの返事も聞かずにさっさとその中に入っていく。

懺悔

――神への告解


一生、この胸にだけおさめて死のうと思ったことがある。

だけど、もしそれを告白するなら加護が一番いいのかもしれない。

どうして?なんて問われても答えられないけど

きっと加護はあたしを責めはしないだろうから――

75 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月21日(月)06時20分03秒



「ふふ、なんか変な感じやな」

壁越しに加護の笑い声が聞こえる。
たかが一枚の隔たりがあるだけでその声はやけに遠く感じられる。

「それじゃ、よっすぃーから話して」

あたしは返答に詰まり「・・・・・・なにから話せばいいんだよ」と訊いた。
それに加護は短く「話したいことから」と答えた。



――話したいこと



――あの子のこと

――あたしの犯した罪

――重ねたウソ



あたしは、喘ぐように言い出した。


「私を殺してと・・・・・・彼女は言ったんだ」




ああ――言ってしまった。



口にしたとたんに、あたしの世界はあの頃に戻っていく。
そう、ずっとあたしの耳の中でその声は響いていたんだ。

76 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月22日(火)06時05分30秒



ひどい道だった。
めちゃくちゃな戦争だった。夜中に非常呼集でたたき起こされることもしばしばあった。
みな、疲れ果てどこか狂いだしてたんだ。

それでも、あたしが正気を保っていられたのはあの子がいたから――

「生きて帰ったら・・・一緒に暮らすんだ」

ある日、あの子は嬉しそうにそう言いながら写真を見せてくれた。
あの子の最愛の人との写真を。

そのときのあたしの気持ちはどうだったんだろう?

もうすでにあの子に恋してたからきっと内心穏やかじゃなかったはずだ。
だけど、あの子の最愛の人は遠くの地にいて、あたしは一番近い場所にいる。
だから、もしかしたら奪い取れるかもしれない――そんな期待を抱いていたんだ。

あとになって思えば、やはりあたしも気づきもしないうちにどこか狂い始めていたんだろうけど。


そして、あの日はやってきた。

77 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月22日(火)06時06分43秒

一瞬のことだった。


撃たれたとき、あの子はあたしを見て微かに微笑んだ。

緑の中に散らばった赤い血痕。
まるで湖のようにそれは溜まっていく。

あたしは、放心したままそれを見つめていた。


「・・・お願ぃ・・・・よっすぃ・・・・・・に・・・して・・・・・・」

あの子が吐息だけで言う。
あたしは、いやいやをする子供のように首を振る。
そんなことができるわけがない。

「もうすぐ、みんながいるとこにつくよ。おぶっていくから・・・・そしたら」

あたしの言葉にあの子は悲しげなまなざしで応えた。

そんなことあたしだって分かってる。

銃弾は、これ以上ないくらいに急所を貫いていることくらい――
78 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月22日(火)06時07分59秒

「オネガ・・・イ・・・・・・」

途切れ途切れの声。

半ば意識が朦朧としているのか、あの子は遠い目であたしの肩越しの空を見ていた。
あたしは、その髪をそっと撫でる。
彼女はあたしの手を愛しそうに握る。そして、言った。


「・・・愛してる・・・・・・やす・・・だ・・・さ・・・・・・ごめん・・・なさ・・・い」


「・・・梨華ちゃ・・・・・・」


こんな時なのに――

こんな状況なのに、あたしの心は彼女のうわごとにひどく痛んだ。

そして――

今まで躊躇っていたのがウソだったかのように、彼女を撃った。




――彼女は、棺になって最愛の人の元へ帰った。


79 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月23日(水)05時38分03秒

あたしは、処罰を受けることはなかった。
でも、いっそのことそうしてくれたほうがよかったんだ。
どこからどこまでが夢でどこからどこまでが現実なのか分からない。
確実なのは、あたしは戦場から生きて帰り麻薬にでも頼らなければ息もできないほど心が壊れていたことだけだ。

そんな時、あの人はあたしの元を尋ねてきた。

最後にあの子と一緒にいたのが私だと誰かに聞いたのかもしれない。
それで、なにか聞きたいことがあったのかもしれない。
でも、あの人は麻薬の打ちすぎでひどい状態のあたしを優しく抱きしめてくれた。
そして、小さな声で――だけど力強く――囁いた。

「戦争のことはもう忘れなさい」

のうのうと生きて帰ったあたしにそう言ったんだ。

あの人が力になってくれなかったらきっとあたしはこの街の片隅で冷たい死体になっていただろう。
でも、彼女が優しくしてくれるのは

――真実を知らないからだ。



真実なんてものは――

それを知らない人に語るとき、すでにその形を変えてしまう。

80 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月24日(木)00時20分44秒
見てますよ。
81 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月24日(木)06時43分43秒



「ある日――だいぶ、あたしが回復した時に言われたんだ」
「・・・・・・なんて?」

「石川のこと守ってくれてありがとうって。
 笑っちゃうよ・・・あたしは・・・・・・あたしが殺したのに・・・・・・」


そう、そのときに言ってしまえばよかったのかもしれない。

そうすれば、どんなに罵られようと憎まれようと、これまで苦しむことはなかっただろう。

でも、あたしの弱い心は、優しく手を差し伸べてくれる保田さんを失いたくなくて――

あたしが梨華ちゃんを殺したとも、殺すときになにを思ったのかも言えなかった。


「よっすぃーはなんでその子を撃ったん?」

加護があたしの傷をじんわりと抉る。

「・・・・・・」

「好きやったのになんで?」

加護は、答えを知っているのにわざわざ質問をする子供のように純粋に問うた。

82 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月24日(木)06時46分14秒


あの時――

梨華ちゃんの口から保田さんの名前が出たとき――

どうして、彼女が呼ぶのはあたしの名前じゃないんだって思ったんだ。
どうして、こんなに近くにいるのにあたしを呼んでくれないんだって――

ここで殺してしまえば、永遠に彼女を保田さんから奪い去ってしまえると――
永遠に彼女を自分だけのものにできると――



そんなわけないのに・・・・・・


そんなわけなかった。

殺してしまったら梨華ちゃんはいなくなってしまった。

保田さんの前からも、あたしの前からも――

83 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月24日(木)06時46分52秒

「ふふ」

含み笑いが聞こえてあたしは意識を加護に向ける。

「やっぱり、よっすぃーやな」

どこか同意するような口調。

「・・・・・・どういう意味?」
「もうええよ。ほな、次はうちやな。なにから聞きたい?」

誤魔化されたかもしれない。でも、救いにはなった。
あのまま話を続けてたら、また倒れていたかもしれないから。
現に手は勝手に震え始め、全身に汗をかいていた。
あたしは、気持ちを落ち着かせるために大きく息を吐いた。

「まぁ、ええよ。勝手に話すから」

無言のあたしに焦れたのか加護が言う。

「ああ・・・」

あたしは、短く返した。
84 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月25日(金)06時16分51秒

10

「よっすぃーの聞きたいことはうちがなんで人を殺すかってことやったな〜」
「・・・うん」

加護はもう暗に認めている。
自分が人を殺してきたことを――

「よっすぃーと一緒の理由やと思うけどな・・・・・・」

もって回った口調で加護は言う。
それは、興味を抱かせるのには最適な方法だ。

「・・・・・・どういうこと?」

「好きやったんや、寺田のおっさんも、中澤さんも、飯田さんも、うちはみんな大好きやった――やから、殺した」

それが当たり前だという風に――

「どうして・・・?」

「なぁ、よっすぃー、人間ってウソツキやと思わん?」

妙に達観したようなセリフ。

「昨日まで別の人を思って泣いてたのに、次の日にはまた別の人に愛を囁く・・・・・・信用できへんよな」

それは――誰のことだろう?

あたしだろうか?それとも、殺された3人?

「愛を永遠のものにしたかったら、その人の愛を感じたときに殺してしまえばいい――そうすれば、絶対にその人の愛はなくならん」

加護は、高揚した声で言う。
85 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月25日(金)06時18分01秒

歪んでいる――


だけど、あたしも同じだ。いや、あたしの方がひどい。
あたしは、自分のことを愛してもいない人を殺したんだから――加護とは違う。

いくら戦争という極限状態下にあったからといって許されるべきことではない。
それは言い訳にしか過ぎない。

でも、加護はどうしてそんな風になってしまったんだ?

加護は、どこで壊れたんだ?

そんな疑問が浮かび上がったあたしは一枚の写真を思い出す。

血まみれの幼い加護
全ては、そこからはじまったのかもしれない。

「・・・加護」
「ん?」

「加護の両親は・・・どうしたの?」



――沈黙。




どれほどの時が流れたのだろう。
不意に加護は囁くような声で話し始めた。

今までと違った、抑揚のない感情を一切排除した悲しい声で――
86 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月27日(日)09時06分25秒

11

「私に親はいないよ――いたのは、仲がいい3人の家族・・・・・・
私は、その中に入れてもらえなかった。お父さんとお母さんは再婚だったから、私のことが邪魔だったみたい」

言葉遣いが変わって、あたしは加護が今どれほど自分を抑えて話しているか気づく。
少しだけあたしたちは沈黙した。
すぐそばでキーッという音が微かに聞こえる。

そして、足音。

「加護?」

あたしは、いぶかしく思い呼びかける。返事はない。
そのかわりに、懺悔室のドアが開けられた。

「・・・加護」
「ある日、お母さんと喧嘩して家を飛び出した。
木の上に、秘密の小屋があってそこで3日間暮らしたの」

冷めた目であたしを見る加護。
あたしは、どう答えていいのか分からないまま目の前の加護を見つめた。
彼女の語る言葉は御伽噺のように頼りなかったけど、だからこそ真実なんだと思う。
87 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月27日(日)09時07分49秒

「3日後、家に戻ったら――家は燃えてて地面は赤く染まってた。
私は、すぐにそこが戦争に巻き込まれたんだって思った。
 少し離れたところでも何箇所か火の手があがってたから・・・・・・それから、みんなを探した。
 お父さんの死体はすぐに見つかって・・・それが、一番初めに見た死体」

語尾が震え掠れたようになった。
加護は、涙に濡れた目であたしを見つめ口を開きかけ、躊躇うように目を伏せる。
そして、決心したようにもう一度あたしを見た。

「そのあと、一つだけ焼け残った納屋で弟とお母さんを見つけた。
 二人ともまだ生きてた・・・意識はなかったけど、血まみれで弟を抱いているお母さんはキレイだった。
 しばらくずっと見てたら弟は息をしなくなったの――だから、私、お母さんから弟を引き離したんだ。
 そして、かわりにお母さんに抱きしめてもらった」

加護は、悲しく微笑む。

88 名前:第三章 重ねた嘘と吐き出した真実 投稿日:2002年10月27日(日)09時09分08秒

「――お母さんの体は温かかった・・・・・・私は、人間の体があんなに温かいものだなんて知らなかった。
 お母さんの体もそこから流れる血も温かくて、気持ちよかった。はじめて愛されてると思ったんだよ」

胸元に真珠の粒のような涙が零れ落ちる。

加護の瞳には、なにもうつさない狂気の炎が揺らめいている。

死を目の前にして――彼女の幼い自我は放たれることなく彼女の内部を蝕んでいたのだ。

誰が彼女を責めることができよう――

あたしは、加護の頬に手を触れてみた。
壊れてしまった彼女をこれ以上壊すことのないように優しく涙を拭ってやる。

加護は震えながら小さな頭をあたしの胸に預けた。

「加護・・・・・・」

あたしは、彼女を呼んだ。

何度も何度も加護の体から震えが止まるまで小さな声で、彼女の体を抱きしめながら――

89 名前:間奏 投稿日:2002年10月27日(日)09時09分43秒



はじめて見つけた君の姿

はじめて触れた君の心


どうしたら、二人は幸せになれるのかな?


90 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)23時57分15秒
この話、なんか気になる。楽しみにしてます
91 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月03日(日)10時18分27秒



馬車が走る音が遠くに聞こえた。
あたしたちは、薄暗い教会の礼拝堂の長椅子に座ったままマリア像を見ていた。
加護はもうとっくに泣き止んでいて――でも、あたしの手を離そうとはしない。

「加護・・・あのさ・・・・・・」

言いかけて躊躇する。
問うべきではないと思う。
だけど、加護の虚無的な目があたしの心とは逆の選択をさせた。

「あのさ・・・街をでたらどうするの?」

加護の顔に明らかな困惑が浮かぶ。

「なんで?よっすぃーには・・・・・・関係ないやろ」
「いや・・・もし、ほかの街で・・・・・・平和に暮らせるんならいいなって思って」

「平和に?」

ガラス玉のような瞳がどこかあたしを誘っている。

92 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月03日(日)10時19分34秒

「そう・・・・・・君がもう人を殺さないなら」

「無理や」

短くあたしの言葉はさえぎられる。
加護は、絡み合った指をほどくと立ち上がりあたしを見下ろした。
そして、きっぱりと言った。

「うちは・・・・・・人を殺すことはやめられへん」
「・・・どうして?このまま逃げても必ず捕まるよ」

それでもいいの?――あたしが言うと加護は「つかまらんよ」と薄い笑みを浮かべた。
どこからくる自信なのか・・・と、あたしは加護を見つめて首をかしげる。
加護は人形のような表情で言った。

「うちが人を殺したことを知ってるのは、よっすぃーとあのおばちゃんだけや」

ぞっとするほど冷たい声。

彼女は、あたしを殺すつもりなんだ。自然、それが分かる。
でも、なぜかそれもいいと納得する自分がいた。



あたしは、ずっと死にたかったのかもしれない。


93 名前:名無し@カオヲタ 投稿日:2002年11月04日(月)17時01分32秒
初めて読ませていただきました。独特な世界観ですね。
ふたりにはまったく違うようで同じ世界が見えているのでしょうね。
どちらも前向きなようで後ろ向きな姿に惹かれました。
今後どのようになるのか非常に楽しみです。
94 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月07日(木)05時07分52秒



「あたしを殺すか?」

加護は、曖昧な表情を返し口を開いた。

「なんでうちがよっすぃーのこと殺さんかったと思う?」

不意に問われてあたしは口ごもる。
言われてみれば、加護にはあたしを殺すチャンスなんていくらでもあった

――ならどうして加護はあたしを殺さなかったのだろう?

「・・・・・・さぁ?」

あたしは、困惑して彼女を見た。
彼女はあたしの困惑に微かに満足したようにうなづく。

「よっすぃーは、うちのこと好きやないやん」

「え?」

突然、なにを言い出すんだろう?

「うちは、うちを思ってくれる人を殺すんや」

少し切なげに息を漏らす加護。

「よっすぃーの心には他の人がおるから――やから、殺さへんかった」

他の人――

梨華ちゃんのことか。
あたしが気づくと同時に加護はうつむいた。
95 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月07日(木)05時10分17秒

「加護・・・・・・あたし、あんたのこと好きだよ」

あたしは、加護の肩に触れようと手を伸ばした。
だけど、加護はスッと体を引いてあたしの手を避ける。
その目は、やはり切なげで――あたしは、どうしたらいいのか分からなくなってただ加護を見つめた。

「加・・・護・・・・・・?」

彼女は、泣きそうな顔になる。
真珠のような涙が零れ落ちんばかりになるのを必死にこらえている。

「・・・・・・おおきにな、よっすぃー。うちはもう行く」

加護は、あたしの視線に耐え切れなくなったのか目を逸らしきびすを返すと
床をけるように走り去った。あたしは、あわてて後を追う。
聖堂を抜け、階段を駆け下り、表に飛び出して行った加護が雪に飲み込まれてしまう前に
つかまえないと、あたしは思った。
いつのまにか激しく舞い散っていた雪を泳ぐように手で掻き分ける。

「加護!!」

彼女の名を大声で呼ぶ。
加護は驚いたようにあたしの方を振り向いた。



愛じゃないかもしれない

ただ、今のこの気持ちは確かだから

96 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月07日(木)05時11分26秒

あたしは、両手を差し出し加護の体に触れる。
加護と視線がからみ合う。
あたしは、微笑む。
加護は安心したようにあたしに体を投げ出した。

あたしは、もうこの腕の中の少女をどこにもやりたくなくて思い切り抱きしめる。

「・・・・・・痛いよ」

加護の温かい吐息があたしの耳に当たる。
たちまちのうちに冬があたしたちを包み込む。
雪が薄手のジャケットにまとわりつく。

このまま抱き合ったまま眠りに落ちたらあたしたちはどんな朝を迎えられるだろう。

でも――

「よっすぃー、うちを殺して」

加護の声があの子の声と重なった。

97 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月07日(木)21時31分30秒
あ、あいぼんっ!?
98 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月11日(月)07時34分52秒



「お願いや、よっすぃー」

あたしは、思わず彼女を抱いていた力を緩める。
加護は、不確かなまなざしであたしを見上げていた。

「うち・・・・・・怖いよ」
「加護?」
「うち・・・・・・きっと誰からも愛されへん・・・・・・寂しいよ、どうしたらええん?みんな、うちのこと好きやって優しかったのに――でも、殺さなどっかいってしまう。うちが間違っとったんかな?」

泣きそうな声であたしに訴えかける加護。

「ホンマは・・・・・・みんながうちを愛してくれてるうちに殺してもらえばよかったんや。やけど、うちがおらんくなったらって思ったら・・・そんなん頼めへんかった・・・・・・」
「加護・・・・・・」

加護は、羽織ったコートの下から小さな拳銃を突き出した。
99 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月11日(月)07時35分58秒

「よっすぃー・・・・・・うちを殺して」

こんなに近くにいるのになぜか遠い空の上から加護の声が聞こえた。
視界には怪しく光る拳銃。
白銀の世界に混ざりこんだ異物。

あたしは、視線を逸らす。
それを見て、加護はふっと白い息を吐いた。

「冗談や・・・・・・」

ポツリとつぶやく。

「・・・待って」

あたしは、やはり卑怯なのかもしれない。


あらかじめジーンズに挟んだ自分の銃を取り出してかごに向ける。
加護は、驚いた目であたしを見た。あたしは、笑顔を作る。

「殺してあげるよ――だから、加護もあたしを殺して」

すんなりと口をついて出た言葉にあたし自身戸惑う。
だけど、あたしの体は勝手に動き出していた。
100 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月14日(木)09時30分32秒



あたしは狂っている。

彼女も狂っている。

あたしたちは、きっと決定的にどこか狂ってしまっている。


彼女を殺すのは簡単だろう。

彼女があたしを殺すのが簡単なように――


でも――

お互いがお互いを離せなかったのは、二人とももう一人にはなりたくなかったからだ。

狂ったもの同士が埋めあった隙間はやはりどこか歪でもうこうすることでしか終わらせることはできないような気がする。



あたしは、加護を抱きしめ背中に腕を回す。

101 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月14日(木)09時31分18秒



――長かったな。


あのときから、ここまで長すぎた。
でも、ようやくあの戦場から逃れられる。




「加護・・・・・・愛してるよ」


最後にウソを一つだけ

――彼女が安心できるように


あたしの体に包まれた加護はあたしを見上げて天使の微笑を浮かべた。
102 名前:第4章 目を開けて眠る時間はもう終わる 投稿日:2002年11月14日(木)09時32分06秒


これは――恋じゃない

これは――愛でもない

友情でも、同情でもなんでもない



――――ドン



耳に劈くような銃声。
同時に、腹部に焼け付くような痛みを感じる。
目の前が真っ赤に燃えた。そして、その紅は暗く黒へと溶け出す。



これは――


購いの儀式


終わらせることのできない弱いあたしたちの――



103 名前:幕間 投稿日:2002年11月14日(木)09時33分31秒




















―――――――――――――――










104 名前:エピローグ 投稿日:2002年11月14日(木)09時38分17秒


私は、雪原に散らばった赤い血痕を見つめた。
雪はいまだに止む気配さえなく彼女たちは埋もれていく。

どうしてこんなことになったんだろう。

私は、止めるべきだったのだろうか――

彼女が少女に囚われていくのを――



破滅に突き進んでいくのを。

105 名前:エピローグ 投稿日:2002年11月14日(木)09時40分44秒


ねぇ、吉澤
あんたは必死で隠そうとしてたんだろうけど私は知ってたのよ、あんたと石川のこと。
あの子が死ぬ前に書いた手紙であんたの存在に気づいてたの。

正直、あんたを恨んだこともあった。
それでもね、あの日、私があんたを訪ねたとき
どうにかしてあんたを助けてあげられないかって思ったのよ。

あんなに追い詰められて傷ついて苦しんでたから
――少しでもそれを和らげてあげたいと――そう、思ってたのよ。
だから、あんたがいつか私に真実を話してくれるまで私は気づかない振りをしていこうと決めたの。

それが、間違いだったのね。



「保田警部、死体を運んでも?」

不意に現実に戻され私はうなづく。
二人の遺体がビニールにくるまれて車へと運び込まれていく。
雪よりも白くなった二人はやけに穏やかな笑みを浮かべていた。

まるで、全ての枷から解放されたように――

「・・・・・・あなたたちは、バカよ・・・ホントに・・・大バカだわ」

雪は、四方から激しく世界が不確定なものであるかのように吹き荒れ始めた。



                                  Fin
106 名前:七誌 投稿日:2002年11月14日(木)09時42分42秒

なめんな、ゴルァって感じの終わり方で申し訳。
とりあえず、読んでくださった方(がいれば)
こんな駄文につきあっていただきどうもありがとうございました。

かなり容量あまってるんで次は明るく馬鹿馬鹿しいのでいきましょう。

107 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月14日(木)18時02分53秒
なめんなゴルァーっ!
・・・いや、言ってほしいのかと思って(w)
そうするしかなかった二人。そして、吉加護というホットなカプ(?)
悲しいけど自分はけっこう好きな感じでしたよ。
次回策も期待してます
108 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月14日(木)18時04分19秒
って、やっちまった
けっしてごるぁーだからあげたわけじゃないです。
マジですみません
109 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月20日(水)19時19分38秒
いつのまにか終わってた・・・
悲しいのはダメだ。次回に期待します
110 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月02日(月)23時20分19秒

「おいっ!!そこのお前!」

楽屋でうとうとしているといきなり声をかけられた。

「んぁ・・誰?」

ノックもしないで人の楽屋に入ってくるなんて失礼な・・・・・・

思いながら振り返ったあたしの視界に飛び込んできたのはピンクの衣装に尻尾。
そして、見慣れた顔。

っていうか、やぐっつぁん!?

「やぐっつぁん、なに、どしたの?しかも、ピョーン星人の衣装なんて着て・・・・・・」

今は、河童のなんとかってやつになってるはずなのに、
そこにいるやぐっつぁんはピョーン星人の衣装を颯爽と纏っている。

「やぐっつぁん?誰のことだ?あたしは、ピョーン星から来たピョーン星人の親びんだぞ」
「はいはい。じゃぁ、親びん、なんでそんな格好してんの?実はけっこう気に入ってたりしたわけ?」

なんだかよく分からないけど、とりあえずやぐっつぁんがムキになっていたから話をあわせる。
すると、さらにやぐっつぁんはムキになって言った。

「失礼な!この格好は、あたしたちの星の正装だぞ。バカにするな!!」

・・・・・・あの、えっと、どこからツッコミ入れたらいいのか。
第一、あたしはツッコミキャラじゃない。
111 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月02日(月)23時22分04秒

「んぁ〜、ねぇ、やぐっつぁんさ〜、なんか嫌なことでもあったの?っていうか、仕事は?今日、オフ?」

とりあえず、今思いつくことだけを聞いてみる。

「仕事?オフ?なにそれ?そんなことよりこっちは聞きたいことがあるんだ」

やぐっつぁんは、あたしの質問にクエスチョンマークを投げかけ問答無用に今度は質問を返してきた。

「ここは、なんていう星?」
「はぁ?」
「“はぁ“という星なのか?」

あたしの疑問の言葉を勝手に勘違いしてやぐっつぁんは頷く。

「ちょっとやぐっつぁん。マジでなに言ってんのか分かんないんだけど」
「だから、さっきからやぐっつぁん、やぐっつぁんってなんのこと?こっちが分かんないんだけど」

だんだん疲れてきた。
っていうか、やぐっつぁんってこんな喋り方だっけ?
でも、姿形はやぐっつぁんなんだよね〜。

いったい、どゆこと?

「あの、やぐ・・・親びんって矢口真里じゃないの?」

ため息をついてそう尋ねるとやぐっつぁん・・・じゃなくて、親びんはなぜか偉そうに頷いた。
頭痛くなってきた・・・・・・
112 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月04日(水)00時04分23秒



「で、旅行から帰る途中に燃料が切れてここの不時着したってわけ?」
「そうそう」

話をすること1時間。
なんでそれだけでこんなに時間がかかるの?って思うだろうけど、
途中でこいつ、へんな方向に脱線してなかなか話がすすまなかったんだよ。まぁ、いいけど。

「で、あたしにどうしろと?」

あたしは、もっとも重大なことを尋ねた。
っていうか、答えはなんとなく予想がついてたけど――

「一緒に燃料を探してほしい」

案の定、やぐっつぁん・・・じゃなくて、親びんはまたまたなぜかえらそうにそういった。
っていうか、人にモノを頼む態度がそれかよっ!心でツッコミをいれてるけど、あたしはツッコミキャラじゃないので黙っていた。
すると、それを勝手に勘違いしたのか「そうか、手伝ってくれるんだ。いやー、よかったよー」と、
やぐ・・・もうあえて間違えるのはやめよう。親びんはにっこりと笑った。

それは、片目が少し潰れたあの独特の笑顔――

まさしくやぐっつぁんそのものだった。
113 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月04日(水)00時05分38秒

まさか、やぐっつぁんがあたしのことからかってんじゃないよね?

マジで思っちゃいそうな5秒前、メールの着信音が部屋に響いた。
その途端、親びんはビクゥッと天井に頭をぶつけそうなほど飛び上がって壁に体を貼り付けた。

「な、な、な、なに今の!?て、て、て、敵!!!?」

・・・・・・あたしは、怯える親びんを無視して携帯を取り出す。
メールは、やぐっつぁんからだった。
なんてタイミングがいいっていうか都合がいい話なんだろうね。
あたしは、チラッと親びんを見る。
今、あたしと話してたってことは親びんはメールなんて打つヒマないし・・・
つまり、やっぱりこの人(?)ピョーン星からきたってことだ

――ほんとにピョーン星人がいるなんてさ
ハロモニスタッフもビックリだね。

「ね、ね、マジで敵じゃないの?」

あたしの腕をクイッと引っ張って上目遣いをしてくる親びんを見てこれからが大変そうだとあたしは思った。
114 名前: ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月09日(月)00時40分38秒



「いい、あたしの仕事が終わったらこれがなるからそれまで絶対にここから出ちゃダメだからね」

これから、収録があって親びんの相手ができないことに気づいたあたしは
仕方なく親びんに自分の携帯を渡してトイレに閉じ込めた・・・
じゃなくて、隠れてもらうことにした。

「ここってなにするとこ?いい匂いで気にいった」

親びんは、鼻をひくひくさせると満面の笑顔でそう言った。
トイレがいい匂い・・・・・・それならいっそのこと梨華ちゃんちに漂着すればよかったのに。

「・・・まぁ、いいけど、ともかく、じっとしててね」
「何回もいわなくても分かるって」

親びんはへらへらと笑った。かなり不安だ。
あたしは、不安だらけのまま親びんをトイレに残して楽屋に戻った。

ほんとになにもなければいいけど・・・・・・・・・・・・

115 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月09日(月)00時42分03秒

「おはよー、ごっちん」

楽屋に戻るとまるで自分の部屋のようにくつろいだよっすぃ〜がいた。
ハロモニの収録の時はいつもいるから別に驚かないんだけど・・・・・・
でも、クイズとかの撮りってまだ終わるはずないと思う。

「んぁ、おはよ〜っていうか、よっすぃ〜もう撮り終わったの?」
「それがさ〜、途中で矢口さんの具合が悪くなっちゃって」
「やぐっつぁんの?」
「そう、それで今、収録中断してるんだよね〜」

なら先にゴマスズ撮ればいいじゃん・・・
そしたらこんな不安だらけの毎日を僕らはおくらずにすむのに・・・・・・なんてツッコミはおいといて、
あのやぐっつぁんが具合悪いって珍しい。
親びんがきたことと関係してたりして。
なんかそういうお化けの話があったよね。
確か、ノッペリトンガーとかそんな感じなの。

「ま、矢口さんのことだからすぐにキャハハハいいながら戻ってくると思うんだけどさ〜」
「そうだね〜」

なんてのんびりと言ってられたのも間の悪いあの子があたしの楽屋に飛び込んでくるまでだった。
116 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月09日(月)22時33分42秒

「よっすぃーっ!!」

まったりとした空間をぶち壊す壊滅的な・・・もとい甲高いアニメ声。
相変わらず冬でも黒い梨華ちゃんだ。

「梨華ちゃん、どうしたの?」
「収録はじめるんだって」
「え?だって、まだ10分しかたってないよ。矢口さん、大丈夫なの?」
「なんか大丈夫みたい。まだちょっと様子が変なんだけどね・・・」

梨華ちゃんは、少し言葉を濁した。
なんかいやな予感がするのはあたしだけかな。

「ふ〜ん。じゃ、ごっちん、またあとでね」
「あ、うん」

よっすぃ〜と梨華ちゃんは連れ立って楽屋をでていく。
呆然と見送ってる場合じゃない。
まず、嫌な予感の元凶である親びんに電話だ。

――プルルルル

「・・・おうっ!」

何度目かのコール音の後に親びんの元気な声。
よかった、あたしの勘違いか・・・そうほっと胸を撫で下ろしたその瞬間
「矢口さん、携帯切っておかないと」とさっきまで近くにいたよっすぃ〜の声が聞こえた。

ウソ?
なんでよっすぃ〜と一緒にいるの?
っていうか、やばいじゃん。

やっぱり嫌な予感はあたってた。
117 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月09日(月)22時35分31秒

「ちょっと親びん、あんた、なんでトイレでてんの!?」
「いやー、それがさー」

あたしの気持ちも知らずにノンキな声。
それに混じって後ろから

――矢口ッ!あんたがそんなとこで電話してたら示しつかないでしょ

――と、誰かの声が聞こえた。
続いて、「あっ!」という親びんの驚いたような声。
そして、無常にもプチッという音がして電話は切れた。

マジデ?デジママジデジマ?

なんてふりつきでしてる場合じゃない。
親びんが収録なんかでたらどうなるか、想像するだけで恐ろしい。
それよりも、もしリアルやぐっつぁんが戻ってきて鉢合わせなんてなったら考えるまでもない。

あたしは、楽屋を飛び出した。
向かう先はリアルやぐ(ryがいる医務室だ。
118 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年12月10日(火)13時37分03秒
オモロイ。
続き期待してます。
119 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月11日(水)00時03分01秒
新作はじまってたー!
ヤグゴマ(親びんゴマだけど)好きなんで楽しみっす。
120 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月11日(水)00時03分35秒
チェック入れ忘れてますた・・・すみません(ーー;)
121 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月11日(水)18時11分45秒

幸いなことに医務室には誰もいなかった。

一番、奥のカーテンが閉じられている。
隙間からのぞくと誰だかわからない小人・・・・・・
じゃなくて、メイクを落としたやぐっつぁんが静かな寝息を立てていた。

「・・・・・・やぐっつぁん、ゴメンね」

これもそれもどれもあれも全部圭ちゃんのせいなんです・・・・・・親びんのせいだから。
あたしがするのは悪いことじゃないし犯罪じゃないし恨まないでね。

最後のお別れにやぐっつあんの小さな手を握った。

「ん?・・・ごっつぁん?」

それに気づいたのかやぐっつぁんが薄く目を開く。

もはや、一刻の予断も許されない。
緊急事態ってやつだ。

だから、なにしたっていいはずだ。
なんとかかんとかのなんとかっていう法律が外国であったし――

やぐっつぁん、ごめん!

あたしは、心の中でそう叫んでやぐっつぁんに×○×○をくらわしてもう一度深い眠りに陥らせた。
122 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月11日(水)18時12分30秒

さっき親びんを連れてきたトイレ。
あたしは、目の前のしっかり閉じられた・・・というか、あたしがモップをつかって
中から開かないようにしっかりと閉じた天岩戸チックなドアを見つめた。
ちゃんと凍え死なないように毛布用意したし、声出さないように猿轡もしたし、
紺野じゃないけど完璧です。

「ごめんね、やぐっつぁん」

最後にもう一度だけ呟いて――トイレ清掃中、入るべからず――の看板を入り口に立てかけた。
次は、親びんのところだ。
休む間もなくあたしはスタジオに向かって走り出していた。
123 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月12日(木)23時40分29秒



モーニング娘。楽屋前。
中からはなんの声も聞こえてこない――わけがない。
まだ収録再開してないのか、相変わらずガヤガヤとしている。
大きく息を吸う。意を決してからドアを開けた。

あたしの視界に飛び込んできた異様な光景。

やぐっつぁんを取り囲むカオリとなっちと圭ちゃん。
それを取り囲む辻と加護とよっすぃ〜。
さらにそれを遠巻きに眺める小川と新垣と紺野。
梨華ちゃんと高橋がいないってことはハロプロニュースを先に撮ってるってことか。

124 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月12日(木)23時41分35秒

「だからさー、なんでそんなにピョーン星人の格好したがってるの?」

少し心配と怒りの交じった複雑そうな圭ちゃん。

「矢口がその格好だと収録再開できないんだよ」

やぐっつぁんよりも仕事のことを考えているなっち。

「ともかく、あとからカオリが話し聞くからそれ脱ご、ね、いい子だから」

なぜか、子供に対して言い聞かせるようなカオリ。

「あ、加護も同じ格好したらええんやないですか?」
「一日だけのピョーン星人復活れすね」

てんぱっているのか楽しんでいるのか分からない辻と加護。

「あれ?ごっちん」

あたしに気づいたよっすぃ〜。
なんてのんびり見守っている場合じゃない。
だいたい、よっすぃ〜も他人事みたいにのんびりあたしに手を振ってる場合じゃないでしょ。
125 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月12日(木)23時42分41秒

「ちょっと、どうしたの?みんな」

知ってるけど白々しく輪の中に割ってはいって親びんに接近。
親びんは少しホッとしたようにあたしを見た。

「もうごっちんもどうにかして。矢口おかしいんだよ」

カオリが疲れきったようにそう言うと親びんは「おかしいとはなんだ!」と怒鳴る。
そうだよね、確かその格好がピョーン星の正装なんだよね。
でも、ここ地球だから・・・・・・・

「さっきからずっとこの調子なんだよね〜」

あたしの背後でやはりのんびりとした口調でよっすぃ〜が言う。

「ちょっとやぐっつぁんかりるね」

「離せ!んぁ星人!!あたしはまだいい足りな・・・モガモガ」

こういうとき、やぐっつぁんがちっちゃくてよかったって思う。
あたしは、無理矢理、親びんの口を塞ぎながら
彼女と本来やぐっつぁんのものである衣装を小脇にかかえて
訝しげに見つめるメンバーたちの輪の中から脱出した。
126 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月12日(木)23時45分11秒

「なんでトイレから出たの?」
「出たんじゃないよ。変なおばちゃんがいきなり水をかけてきたから外に避難しただけ」
「変なおばちゃん?」
「そ、頭に変な布つけた青い服の・・・・・・」

どうやら掃除のおばちゃんのようだ。
なんて間の悪いおばちゃんなんだろう。まるで梨華ちゃん並だね。
それじゃ、仕方ない。
あたしがさっきみたいに看板用意し忘れたのがミステイクのような気もするし・・・・・・なんて納得している場合じゃなかった。

「ねぇ、親びん」

あたしは真剣に親びんを真正面から見据えて呼びかけた。
が、あたしがつくった真剣な表情はノンキな親びんの

「ん?なんだ、んぁ星人」

というむかつく返事でいともたやすく崩れ去った。
127 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月12日(木)23時46分13秒

「っていうか、さっきからんぁ星人って人のこと呼んで失礼な」
「なんだ、名前じゃなかったの?しょっちゅう、んぁんぁ言ってるからオイラてっきり・・・・・・」

「あたしは後藤真希っていう立派な名前があるんだってば」

「後藤真希?」

「そ、ごっつぁんって呼んでいいから」

「ごっつぁん?どこが後藤真希と関係してるの?ぜんぜん違うじゃん」
「自分が名づけたんでしょ」

「はぁっ!?」

「ともかくっ!こうなった以上、親びんがやぐっつぁんの代わりしなきゃいけないんだからね」

あたしは、まだなにか言いたげな親びんに少しきつめの口調で言った。
親びんはキョトンとした顔であたしを見上げてくる。
状況が飲み込めていないみたいだ。
128 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月12日(木)23時48分18秒

「あのね・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ryというわけ。
 だから、親びんはそのやぐっつぁんの代わりに仕事しなきゃいけないの」
「・・・・・・・・(ryか。分かりにくい説明だね」
「めちゃくちゃ分かりやすいじゃん。分かった?」

「まぁ、一応」

首をかしげながら親びんはそう答える。
いったい、どっちやねん。曖昧な!というツッコミは(ry・・・・・・・・・・
(ryって便利かもしれない。

ともかく、時間がないから省略できるところは省略したほうがいいよね。うん。
現状を理解させることは終わったし、納得もさせたし、
いつのまにかメンバーの名前も覚えさせたしあと残っているのは・・・・・・

あたしは、ピンクの衣装にチラリと目をやる。

――これだけか。

一番骨が折れそうなのが残っていた。
さっきの様子から簡単には脱いではくれないだろう。

やる気it’sEasyなわけないよ。
やる気だけじゃどうにもならないこともあるし。
129 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月12日(木)23時49分15秒

「よーしっ!やぐっつぁんってやつはあたしにそっくりなんだから楽勝楽勝!」

あたしの気持ちとは逆に親びんは、妙にやる気満々になっている。

「行くよ!ごっつぁん!!」

さっきまでメンバーに囲まれて小さくなっていた(今も小さいけど)のが
ウソみたいな張り切りっぷりで楽屋のドアノブに手をかける。

「ちょっと待って」

「・・・なに?まだなんかあるの?ごっつぁんは心配性だな〜この親びんに任せとけって」
「じゃなくて、一番大事なことなんだよ」

「?」

あたしは、獲物を捕らえる肉食獣のようにゆっくりと親びんに近づく。
親びんは、本能的になにかを察知したのかくるりと背を向けて逃げ出そうとした。

逃げられてたまるかっ!

すばやく首根っこを掴む。
それでも親びんは往生際悪くじたばた暴れている。
130 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月12日(木)23時51分35秒

「そんな怖がることじゃないってば」

「イヤだ!ピョーン星人は勘が鋭くて有名なんだ!んぁがなに考えてるかぐらいピピピンとくるんだよっ!!」

「だから、んぁじゃないってば!!ほらっ!こっち来て」

嫌がる親びんを力づくで祐ちゃんの楽屋まで引っ張る。
さっきハロプロニュースの収録してたからまだ戻ってきていないはずだ。
乱暴にドアを閉める。
あたしの腕の中で親びんがビクッと体を強張らせたのが分かった。

「・・・・・・・・・さぁ、いい子だから」

「・・・うぁ・・・・・・ぁ」

親びんは、目にじんわりと涙を浮かべて壁際に逃げる。
これだけ見たらまるであたしが変態みたいだ。
ん〜キャラじゃないからやめようかな、可哀想だし・・・・・・

そう思った瞬間

「ごっちーんっ!?矢口さーん!?」

というまた間の悪い甲高い声が耳に届いてあたしは思わずドアのほうを振り返る。

「いないねー」
「どこ行ったんだろうね〜」

呑気なよっすぃ〜の声まで聞こえてくる。
あたしは、再び親びんを振り返った。
と思ったらあたしがよそ向いてる間にロッカーの中に隠れようとしていた。
そんなとこまでやぐっつぁんに似なくていいから。
131 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月13日(金)21時25分47秒

「お願いだから、その服脱いでこっちの服着て!!」

「イヤだヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!!!!!!!!」

「収録終わったらそれずっと着てていいからほんのチョコッとなんだから服装を変えてみて〜♪」

「ほんのチョコッとでもヤナもんはヤダッ!!」

わざわざ節つきで言ってやってるのにほんとに強情なッ!!!
こうなったらもう無理矢理しかない。

「とうっ!!!」

あたしは、ロッカーから親びんを引きずり出す。

「きゃーっ!!」

な、な、な、なんて声だすの!?こいつっ!!!
132 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月13日(金)21時26分27秒

「あれ?今のって矢口さんの声じゃない?」

梨華ちゃん、なんでこういう時だけうざいくらいに気がつくの?

「え〜、そうだっけ?」

よしよしよっすぃ〜、その調子だ。
のんびり梨華ちゃんとどっか他のところを探しに・・・

「うん、中澤さんの楽屋からだよ」
「でも、中澤さんスタジオにいるんでしょ?」
「そうだよ、私にチャッチャッとうちの矢口探してこんかいって自分はのんびりと」

っていうか、二人とも無駄に声大きいし。
じゃなくて、もうハロプロニュースの収録終わってたのか・・・・・・ほんとに一刻の猶予もないじゃん。

133 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月13日(金)21時27分32秒

「ねぇ、親びん。あのさ〜親びんはマジであたしに宇宙船捜して欲しいと思ってるの?」
「え?」

卑怯といわれようがしょうがない。

「思ってるんだったら、少しはあたしの言うことも聞いてよ。ほら、これ着て」

親びんの顔の前に服を差し出す。
親びんは、あたしと服を恨めしそうに交互に見比べた。
恨むのは掃除のおばちゃんを恨んでほしい。
いや、むしろ、やぐっつぁんと同じ顔でこの場所に不時着した自分を恨んだほうがいいかもしれない。

「・・・むぅ・・・・・・・・んんんん・・・・・・・」

「ほら、唸ってないでほんとにすぐ終わるからさ〜」

「・・・・・・終わったらすぐに宇宙船探しする?」
「しないよ(^▽^)・・・間違えた。うん、するする」

確か今日はこのあとオフだし・・・・・・
いくらあたしでもこんな問題キャラを抱えて生活するのはきついからね。
宇宙船でもなんでも探してあげるよ。

134 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月13日(金)21時28分42秒

「・・・・・・」

あたしの答えを聞くと親びんはようやく渋々ながらも服を受け取った。
そして、なにを思ったのかいきなり服を頭上に掲げて

「○#=¥×^2煤~・・・・・・」

と謎の言葉を唱え始めた。
それはまるで飯田カオリただいま交信中そのものだった。
すぐに着替えるのかと思っていたあたしは突拍子もない親びんの行動に面食らってポカンとバカみたいに口を開けた。
その時、さっきよりも近くで

「だから、見るだけみてみようよ」

と梨華ちゃんの声が聞こえた。
呆然としていたあたしはその声にハッと我に返る。
親びんはまだぶつぶつとなぞの言葉を唱えている。

「親びん!いいから早く着替えてよ」
「ちょっと待ってよ、今、清めの儀式を」
「そんなのあとでいいから、ほら、脱いでっ!!」

「あとでしたら意味ない・・・うわ!!」

あたしは、親びんの言葉を遮るようにピンクのピョーン星人衣装に手をかけてすばやく脱がせる。

意外に胸が・・・・・・

そんなところ見てる場合じゃなかった。
135 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月13日(金)21時29分34秒

「ちょっとマジやだってばーっ!!清めの儀式ぃーっ!!!」

羞恥心と言う概念はないのか――やぐっつぁんもあんまりそういうのないか――
上半身マッパの親びんが暴れはじめる。

「呪文いいながら着ればいいじゃん、ほら」

それを押さえつけながら今度は下を・・・・・・って、いいのかな?


――トントン


一瞬、躊躇ったあたしの耳に地獄の使者の登場を告げるノックの音が聞こえた。

「入りますよーっ!!」

ヤバイッ!

親びんが暴れたせいで散乱とした部屋の中。
さらに上半身マッパな親びん@見た目やぐっつぁん。
そして、ピョーン星人の衣装を持って今下に手をかけているあたし。

こんな状況見られたら――

「ちょ、ちょっとまっ・・・!!」

慌ててあたしは声をあげた。
が、それよりも早くドアが開いた。


そして、あたしの人生は終わった・・・・・・・・・・・・・・・・・

136 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月14日(土)19時17分31秒
オモロスギ・・・。ごっちんと親びんいいコンビ過ぎる!!
137 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月15日(日)00時12分59秒



「・・・お・・・お疲れさまです」
「お疲れー、紺野」

収録を終えたみんなが不思議そうにあたしを見ながら声をかける。
それもそうだろう。
いつもならゴマスズが終わったあとはすぐに楽屋に戻っている。
でも、今日は違う。まだスタジオを出るわけにはいかない。
今から、最大の恐怖、カッパの収録があった。
カッパの衣装に着替えてミニモニの4人が戻ってくる。

「あれ、ごっちん、まだおったん?」
「んぁ?あぁ、加護のカッパを間近で見ようと思って」

不思議そうな加護にあたしはそう答えると加護は嬉しそうに「任せときっ!」と胸を張った。

「ののは?ののの河童は?」

加護に張り合うかのように辻があたしの前に身を乗り出してきた。

「んぁ?あぁ、辻もしっかり見るから頑張ってね」

あたしが答えるとののも嬉しそうに「痛いケロ」と言った。意味が分からない。
そこへミカちゃんが「辻チャン、加護チャン、始まりますよ」と声をかけた。
さっそくリーダー面か?なんてことは思わないけどね。

「はーいっ!!」

二人は、元気に返事をして現場に向かう。
138 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月15日(日)00時14分21秒

あれ?親びんは??

――あたしが、思うのと同時に「矢口さん、はやくーっ!」と加護が少し大きな声で呼んだ。
あたしが振り返ると河童の格好をした親びんがスタジオの隅に立っていた。
親びんは加護に呼ばれて少しだけ不安そうにあたしに視線を動かす。
台本は覚えさせたから大丈夫、きっと大丈夫♪のはずだ。
やぐっつぁんよりも記憶力はよかったし・・・・・・
あたしは、親びんを安心させるために「大丈夫だから」と口だけ動かした。
それを見て親びんは、頼りないながらも小さく頷くとミニモニたちの輪の中に入っていった。

「ったく・・・世話が焼ける」

安堵してあたしはスタッフの邪魔にならないところに移動して座った。

「誰が世話が焼けるの〜」

「んぁ。親びんにきま・・・って、よっすぃ〜!?なんで!?」

あたしの背後から覗き込むようによっすぃ〜が顔を出してきた。
その顔は、あたしをからかうようにニヤニヤ笑いが浮かんでいる。
139 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月15日(日)00時15分16秒

「いや〜、愛だね愛」
「な、なんのこと?」
「矢口さんのこと心配なんでしょ〜?服を脱がせっこする仲だし〜」

「脱がせっこなんて・・・・・・してたけど、あたしは脱いでないし」

「ちょっとピントずれてるよ、そのツッコミ」

よっすぃ〜が微妙な顔で言った。
やっぱりあたしにツッコミキャラは無理みたいだ。そう悟った17の冬。

「まぁ、隠さなくてもあたしはそういうの気にしないからさ」

よっすぃ〜は、あたしの肩をぽんと叩いて隣に腰掛けた。

「だから、根本的に違うし・・・・・・」

「でも、矢口さんとごっちんなんて超意外だよね〜」
「だからそういうのじゃなくて・・・」

「まさか矢口さんの元カノ中澤さんの楽屋使うなんて、ごっちんったらダ・イ・タ・ン」

あたしの否定をまったく耳にしないでよっすぃ〜は相変わらずノンキにノンキに勘違いを続けていく。
だんだん否定する気がなくなってきた。
140 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月15日(日)00時16分50秒

「あたし、ビックリして咄嗟に梨華ちゃんにヒップアタックして押し出しちゃったもん」

「あっそ・・・って、マジで?」

「マジデジマ」

まったく罪の意識がないのかあっさりと答えるよっすぃ〜。
どおりであの時、梨華ちゃんがいなかったわけだ。
よっすぃ〜に吹っ飛ばされてたなんてね。

あれっきり姿見てないけど・・・死んでないよね?

「で、梨華ちゃんは?」

「ん〜、さぁチャチャチャチャチャーミーチャーミーチャチャチャチャオハッピ―とか言いながらどっか行っちゃった」

いや、それヤバイんじゃないの?
頭のねじが外れたんだよ、絶対・・・・・・にこやかに話すようなことじゃない。

まさかそれが自分のせいだってことに気づいてないのかな。
隣にいる親友がまるで異形のもののように思えた。
なんて展開にはしないけど――

今度から、よっすぃ〜の後ろは歩かないことにしよう。
梨華ちゃんの捨て身の実験には感謝の気持ちでいっぱいだった。
141 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月15日(日)08時54分04秒
前回のかっこいいよすぃこはどこへ(w
おもろいっす。がんがってください
142 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月15日(日)22時55分38秒

「おっと、のんびりしてる場合じゃなかった。あたし、これからラジオの収録あったんだ」

よっすぃ〜が突然思い出したように立ち上がった。
っていうか、忘れるなよ・・・・・・あっちゃんが泣くよ。

「んぁ、頑張ってきてね〜」

立ち去りかけたよっすぃ〜に手を振るとよっすぃ〜はわざわざ戻ってきて
「矢口さんとのこと、今度じっくり教えてね」と、耳打ちした。

「はぁっ!?」

「じゃ、お疲れ〜」

あまりの勘違いッぷりにあたしが呆然としているうちによっすぃ〜はさっさとスタジオから出ていってしまった。
あたしの頭の中は、どうやってこの誤解を解こうとか
ヒップアタックを食らったその後の梨華ちゃんとかよりもなによりも、
よっすぃ〜の頭の中はいったいなにでできているのかでいっぱいだった。

「ごっつぁん!!」

「んあっ!!?」

そんなあたしの顔めがけてすばやくなにかが飛んできた・・・

親びんだ。

身構えていなかったあたしの首は確実にグキッと音を立てて上を向いた。

143 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月15日(日)22時57分17秒

「終わったぞ!着替えて宇宙船探すぞ」

親びんは、よほど嬉しいのかピョンピョンと飛び跳ねている。

あぁ、だからピョーン星人っていうのか。ちょっと納得。
っていうか、着替えよりも宇宙船よりも首を痛めて天井を向いているこのあたしを気にして欲しい。
そう思った瞬間、「ねぇ、んぁ、なんで上向いてるの?」と、タイミングよく親びんが聞いてきた。

「なんでだろうね〜ふふふ」

あたしは、ギギギときしむ首をゆっくりと戻しながら不適な笑みをつくった。
親びんはそれを見て咎めるように言った。

「話をするときは目を見て話すほうが正しいんだよ」

誰のせいでこんな目にあってると思ってるんだ。
ムカつく・・・・・・

「無防備な人にボディプレスかますのは正しくないんだよ」

悔し紛れに嫌味を口にしてみると親びんは
「当たり前じゃん、んぁは変なこと言うね」とあたしの頭をペシッと叩いた。

そう、あたしの頭を――

首を痛めてゆっくりとしか動かないあたしの頭をだ!!

あたしの悲痛な叫びはスタジオ中に木霊したとかしなかったとか・・・・・・

144 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月16日(月)23時18分47秒



「あ、それが河童のはなみつぅぃっ!!」

親びんは、そのセリフが気に入ったのかさっきからそればかりを叫んでいる。
はっきりいってかなり恥ずかしい。

「分かったから少し静かにしてよ」

あたしが言うと親びんは子供のように手を上げて「はーい」と返事をした。

「よろしい」

なんかあたしとやぐっつぁんの関係じゃないな、これ。
あたしは、苦笑する。
まるで子供の面倒を見ている母親の気分だ。
って、なったことないけど多分こんな感じなんだろうな。

「ところで、んぁ?」

言いながら親びんはあたしの服の袖をクィッと引っ張った。

「ん?」
「どこに向かってんの?宇宙船探しは?」
「するよ。その前に、本物のやぐっつぁんを楽屋に置いていかないとね〜
 仕事上、なにかと面倒だし・・・・・・あ、親びんは、一番最初の部屋に戻っててよ」

「一番最初の部屋?」

「そ、一番最初にいた部屋。分かるよね」
「えっと、うん」

頷いたのを確認してからあたしは親びんと別れてやぐっつぁんを閉じ込めたトイレに向かった。
それが間違いだとはまったく気づかずに・・・・・・・・・・・・
145 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月16日(月)23時20分36秒

あたりに人がいないのを確認してからトイレに滑り込む。
中はごっちん特製看板効果なのかさっきとまったく変わった様子もない。

「やぐっつぁん?」

念のため、ドア越しに声をかけたが返事は返ってこなかった。
今のうちに医務室に戻しておこう。
収録にでてなかったことは、きっとやぐっつぁんなら眠りの小五郎現象だとでも思ってくれるだろう。

あたしは、蝶番の役割と果たしていたモップを外してドアをあけた。
中には寝ている――もちろん気絶しているわけじゃない、断じてそれは違う――やぐっつぁんがいた。
よく寝る子だ。
あたしは、さっき運んだのと同じ要領でやぐっつぁんを抱えあげる。
146 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月16日(月)23時22分06秒

「・・・ん・・・んん?」

あたしの背中の上でやぐっつぁんが吐息を漏らしてもぞもぞと動く気配がした。

げっ!!また起きる!?
緊急避難。なんとかかんとかのなんとかだっ!!

ごめんね、やぐっつぁん。

あたしは、さっきよりも多めに心の中で謝りながら、
やぐっつぁんが目を開けるよりも先に背負い投げの要領で彼女を投げ飛ばしていた。

「キュ〜・・・・・・」

奇妙な声とともに再びやぐっつぁんは沈黙した。

トイレに投げちゃってごめん、マジでごめん、死ぬほどごめん。
今度、飴玉あげるからね。

そう口に出さずにあたしは物言わぬやぐっつぁんの体を抱きかかえてトイレをあとにした。
147 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月19日(木)00時08分08秒

なんとかかんとかやぐっつぁんを医務室に置いてくることに成功したあたしは自分の楽屋に向かう。

「親びん、お待たせ〜」

ドアを開けながら声をかける。
その声は誰もいない空間にむなしく響いた。
もうここに戻っていてもおかしくはないはずなのに親びんの姿はない。
あたしの背筋にさっと冷たいものが走った。

――迷子になったんだ!

思うよりも先にあたしは廊下に駆け出していた。

148 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月19日(木)00時09分26秒

覚えているっていったのになんで迷子なんかに・・・・・・・・・・・・

親びんが台本覚えの時に見せた記憶力を過信しすぎていたみたいだ。
とりあえず、さっき親びんと一緒に歩いたところまで戻ってみる。
親びんの姿はない。
いったい、どこに消えたんだろう。
またスタッフに見つかってたら今度こそアウトだ。

「親びーんっ!!」

周りの目も気にしないであたしは親びんを呼んだ。
返事はない。

「親びん、でてこいってば〜!」

呼び続けながら適当に歩き回る。
すると、微かに「ぁ〜!!」と親びんの悲痛な叫び声が聞こえてきた。

方角は酉か!
いや、分かんないけど・・・

あたしは、声の聞こえた方へと走った。
しばらくすると、今度は「ヤダってばー!!!」という親びんのはっきりした声が耳に届いた。

親びんが危ない!!

廊下の角を宝塚予備校生もビックリの高速直角で曲がる。

149 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月19日(木)00時10分50秒

「親びん!!」

そんなあたしの目に飛び込んできたのは祐ちゃんと戯れるやぐっつぁん@親びんの見慣れた光景だった。

「なんや〜、今日の矢口はやけにかわええな〜。チュゥさせて〜な〜」

あたしに気づいていない祐ちゃんは親びんをやぐっつぁんと間違えてそんなたわごとを抜かしている。
親びんはというと涙目で祐ちゃんを見上げている。
これは、確かにかわいいかもしれない。

グッとくるね。
いつもと違う反応に人は弱いものだ。
などと、冷静に観察している場合じゃなかった。
今、まさにか弱い草食動物があらゆる意味で喰われ様としている。

なんとか助けないと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仕方ないよね?

祐ちゃん、ゴメンね!!

150 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月19日(木)00時12分10秒

「ごっちんアターックッ!!!!!!!!!!!!!」

あたしは、卑怯だと知りながらもバックから祐ちゃんに○×▼□をくらわせた。

「・・・やっちゃえ・・・・・・・・・まず・・・・やっちゃ・・・・え」

祐ちゃんは、謎の言葉を残して膝から崩れ落ちた。
今日、あたしは何回この体を血に塗れさせたんだろう。
仲間を手にかけた自己嫌悪が体を包み込む。

「んぁっ!!!」

親びんが、まるで子供のようにあたしに抱きついてくる。
感動の再会ってやつだ。
まぁ、悪い気はしないかもしれない。
そう、親びんを守るためならあたしはどうなってもかまわない、この命だって
・・・・・・・・・なんか、だんだんあたしおかしくなってきてる。
そんな話じゃなかったはずだ。
・・・・・・・・・・・・ま、どうでもいっか。
とりあえず、祐ちゃんを楽屋に放り込んでおこう。

151 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月19日(木)11時22分16秒
まじでおもしろい。ごっちんの一人語りがすごいイイ!!
152 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月19日(木)17時35分57秒
作者さん、ごっちん一人称がうまいっすね。
ヤグゴマ・・・親ゴマ(w、がんがってください
153 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月19日(木)22時27分47秒



――パリパリ
――ポリポリ

楽屋内に煎餅をかじる音が響く。
中澤裕子殺人事件の証拠隠滅を終えたあたしとやぐっつぁんは楽屋に戻ってくつろいでいた。

はて、なにか大切なことを忘れているような・・・・・・

「んぁ、それも食べていい?」

やぐっつぁんが、あたしの前にあったゴマ煎餅を指差す。

「いいよ、やぐっつぁ・・・・・・」

ゴマ煎餅を渡しかけてあたしは妙な違和感に気づいた。

やぐっつぁん、あたしのこと‘んぁ’なんて呼ばないじゃん!
あまりに疲れすぎて相当脳に負担がきてたらしい。
人間って疲れてくると現実逃避しちゃうんだな。
煎餅とやぐっつぁんのいる風景にトリップしてたよ。

「早くちょ〜だいってー、ねぇ」

親びんはおあずけを食らった犬のような目であたしを見ている。
もうなんでこいつはこうノンキなんだろう?

「っていうか、煎餅食べてる場合じゃないでしょ!」
「ん?なに?」
「宇宙船探すんじゃないの、宇宙船」

「あっ!」

いわれて気づいたと言う風に親びんは口をあけた。
どうやら、親びんも現実逃避モードだったみたいだ。
なんで諸悪の根源のお前がそんなモードに入るねん!というツッコミは・・・・・・(ry
154 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月19日(木)22時29分48秒

「ともかく、親びんはどこに不時着したの?」
「んー、不時着はここだ」

「はぁっ!?ならここに宇宙船があるの?」

「いや、ない」

きっぱりと答える親びん。意味が分からない。

「不時着したのがここなのに宇宙船はここにないの?」
「そういうこと。宇宙船からパラシュートで脱出したからね」

親びんが簡単な説明する。
つまり、なんらかのトラブルで宇宙船を乗り捨ててここにパラシュート部隊として投下されたわけか。

まったくなんでよりによってあたしの楽屋なんかに・・・・・・

155 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月19日(木)22時30分39秒

「でも、それじゃ探しようなくない?」
「あるあるあるある」

「大辞典?」

「??」

「いや、なんでもない。どうやって探すの?」

言ったあとに恥ずかしくなってあたしはキョトンとする親びんを急かす。
親びんは、変なんぁだとぶつぶつ言いながら立ち上がりあたしにお尻を向けた。

って、お尻!?

なんで?
そりゃあたしと親びんはもうお尻会いだけどお尻を向けられるのは気分のいいものじゃない。

「ちょっといきなり人にお尻向けないでよ、失礼だよ」

「んぁ、ちょっとあたしの尻尾に触ってみろ」

気にすることなく親びんは顔だけこちらに向けて言った。

「尻尾?」

あたしは、ピョーン星人衣装の仕様かと思っていたものに目を向ける。
これって作り物じゃなくてマジもんだったんだ。
156 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月19日(木)22時31分29秒

「触っていいの?」
「うん」

「でも、ピョーン星人の弱点じゃなかったっけ?」
「ううん」

テレ東スタッフもいたいけな少女を騙すウソをついてたのか・・・・・・

あたしは恐る恐る尻尾に手をかける。
その途端、ビビビビッと視覚に直接あるイメージが伝わってきた。

「んぁっ!!!!!!!!????」

驚いて尻尾から手を離す。

なんだ今の?
どっかで見たことあるようなないような部屋だったけど・・・・・・

「どうだった?分かった??」

親びんがくるりと体を反転させあたしに言った。

「わ、分かったってなにが?」
「だから、宇宙船が落ちてるところ」

「は?」

「なにか見えなかった?」
「見えたけど」

どっかで見たことあるようなないような部屋がね・・・・・・あたしが頷くと
親びんはにっこりと嬉しそうに笑って「そこに宇宙船があるんだよ」と言った。

マジデジマ?

157 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月20日(金)01時47分23秒
これオモロイっす
毎日楽しみ
158 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月20日(金)22時37分59秒



どこで見たんだっけ・・・確かにどっかで見たことあるような気がする。
あたしは、普段あまり動かしていない頭をフル回転させてさっき見た部屋のことを思い出そうとしていた。

っていうか、なんで親びんは自分で尻尾を触ってみなかったんだろう?

謎は深まるばかりだ。
いや、もしかしたら触ったことは触ったけど見たことないところだったから途方にくれていたが正解?
そっか〜、それはあたってるかもね。
でも、あたしも知らないところだったら同じことじゃん。微妙だな〜
・・・ああっと、なんか速攻脱線しちゃってるよ。
フル回転すると四方八方に思考が飛び回るみたいだね、あたしの脳は。

こう一本スコッといけたら今頃天才?

天才ごっちんあらわるみたいな。
透明人間あらわるあら・・・あぁ、やっぱり脱線しまくるな〜

159 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月20日(金)22時40分09秒

「思い出した?ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ?」

「・・・・・・ん〜」

「ねぇってば?思い出せそう?っていうか、早く思い出してよ」

親びんは、あたしの背中におぶさるようにして抱きつき顔を覗き込んでくる。

うるさいな〜、人の気も知らないで。
集中集中。耳なしホウイチのごとく集中。親びんは放置決定。

あたしが無視していると「・・・んぁ、冷たい」と寂しそうに呟きあたしから体を離した。
あたしの頭の中に冷たくてけっこう晩飯食うなというフレーズがうかんでいた。
これってなんのアレンジなんだっけ?
思い出せないと気になってくる。
いや、余計なことを考えている暇はなかった。

さっき見た部屋。
乱雑に荷物が置かれてて、中央にテーブル、汚いソファー、そしてロッカー・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あれ?それってこの部屋と同じつくりじゃん。
160 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月20日(金)22時42分19秒

「あっ!」

あたしは、さっき送り込まれた映像がどこのものだったのか瞬時に気がついた。

「なに?思い出したの!?」

あたしの声にいじけていたはずの親びんが飛んでくる・・・

そう、文字通り飛んで・・・・・・

「って、マジでっ!?」

今度はあたしの腰がグキリという音をたてて後ろに曲がった。
首だけじゃなく腰まで・・・・・・わざとじゃないよね?
恨みがましく親びんを見ると期待に満ちた眼差しとぶつかる。
どうやらわざとじゃなさそうだ。
なんか親びんってやぐっつぁん+辻×加護÷√2みたいな感じ。
√ってなんとなく使ってみたかっただけだけど・・・・・・あたしは、親びんをどかしながら起き上がる。
161 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月20日(金)22時43分32秒

「・・・イタタタ。もういきなり飛んでくるのはやめてね」
「はーい」

あたしが言うと親びんは子供みたいに両手をあげて返事をした。

「それで、宇宙船の場所分かったの?」
「んぁ、多分ね」
「どこどこどこ」

親びんは、一瞬飛びつきそうになるのをこらえてあたしに詰め寄ろうとする。
あたしは、親びんの頭に片手を押し付けてそれを阻止した。
親びんは、前に進めずにじたばた足だけ動かし「いじめるな〜」と叫んだ。
ふっリーチの差ってやつだ。なんか面白い、これ。

「あはっ、親びん、おもちゃみたい」

「むかっ!」

いまどき、擬音語を口にする人も珍しい。
人じゃないけど・・・・・・さておき、いじめるのはやめてとりあえず行ってみるか。
それらしきものなんてあったかは自信ないけど・・・あの感じは絶対にあそこだと思う
162 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月20日(金)22時44分04秒

「おいで、親びん」
「?」

「宇宙船のところに行くんでしょ?」

あたしが言うとクエスチョンマークを浮かべていた親びんの表情は一変したものに変わった。

「うんっ!」

あたしたちは楽屋を出た。
これで親びんの面倒を見ないでいいようになる。
そう思ったらホッとするのと同時になぜか少し寂しさを感じた。

なんでだろ?

163 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)04時45分29秒
面白いなぁ〜。特に、何しても全く悪びれない後藤の態度とか…(w
「親びん」「んぁ」のやり取りが恐ろしいまでに微笑ましい。
164 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)10時17分01秒
いや、マジでおもろい
作者さんの昔書いたヤツが読みたい
165 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)12時52分47秒
>>164
166 名前:164 投稿日:2002年12月21日(土)18時13分57秒
>>165
見たよ。他のあったら見たいって意味
167 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月21日(土)22時51分09秒



やってきたるは娘。の楽屋。
中からはさすがにもう誰も残っていないのか声は聞こえてこない。
チャンスだ。
あたしは、スパイもびっくりするほど音をたてずに楽屋のドアを少しだけ開けた。
隙間からこっそり覗きこむ。うん、やっぱり誰もいない。

「んぁってばー宇宙船はどこなの?ここってさっき苛められた部屋じゃん」
「だから、ここにあるんだって」

「えーっモガモガ・・・」

大声をあげかけた親びんの口を押さえる。
壁に耳あり廊下に娘ありだ。
どこにメンバーが潜んでいるかは分からない。
なんたってゴロゴロと人数いるんだから。
168 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月21日(土)22時52分45秒

「ちょっと静かにしててね〜」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「親びん、聞いてる?」

気がつくと親びんはぐったりしていた。

やばっ!力強く押さえつけすぎた。

あたしは、慌てて口を塞いでいた手を離す。

「・・・・・・親びん?大丈夫?」

「・・・じぬかと・・・おもっ・・・た・・・・・・・・子々孫々まで・・・恨む・・・ぞよ・・・・ガクッ」

思っただけなら死なないでよ。しかも、呪いの言葉まで残して。
っていうか、絶対あたしに探させてちょっと楽しようと思ってるでしょ。
全体重あたしにかけてきやがって・・・・・・そっちがその気なら――
169 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月21日(土)22時53分55秒

「さっきさ〜、親びんの尻尾触った時みたのって絶対この部屋だったんだよね〜」

ぐったりとあたしにもたれかかってくる親びんに聞こえるようにわざとらしく言ってみる。
親びんの腕がピクリと動いた。でも、まだ動かない。

「でも、親びん死んじゃったら意味ないか〜」

親びんの体がピクリと動いた。でも、まだ粘っている。

「あたしが探そうにも宇宙船の形分かんないしな〜」

親びんの頭がピクリと動いた。でも、まだ我慢している。
意外に頑張っているけど足はじたばたしている。なんかかわいい。

「死んだふりやめて探す?」

あたしは、親びんの耳元で尋ねた。

「うんっ!!」

親びんがしびれをきらしたのか待っていたのか勢いよく頭をあげた。

そう、頭を・・・・・・って、このパターンはっ!!!

まさに人間の急所。
顎先狙われると脳震盪起こすってところに親びんの頭突きがはいった。

170 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月21日(土)22時55分14秒

「顎は・・・梨華ちゃんだけで十分・・・・」

あたしは、膝から崩れ落ちた。
そんなあたしにかまわず親びんは楽屋のドアを思いっきり開けた。

そう、思いっきり・・・・・・って、またこのパターンっ!?

繰り返しは人をあきれ返らせる。
追加オーディシ・・・いやいやむにゃむにゃ。

そんなことを0.06秒の間に思っているうちにあたしの顔面に親びんのあけたドアが迫ってきていた。
これまでくらったら再起不能だ。
あたしは、火山高の主役の女の子並に
(分からなかったらマトリックスを思い出してもらえばいいですぞ)うまく避けてやった。

ふっ、親びん敗れたり!!
別に戦っているわけじゃないけど

「んぁっ!!んぁっ!!早く探そうよーっ」

あたしがむなしい一人バトルをしていると中から呑気な声が投げかけられた。

「んぁ、はいはい」

気を取り直してあたしも中に入った。
171 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時17分32秒



モーニング娘。楽屋

――やっぱりさっき親びんの尻尾を握った時に見た部屋だ。
何人か帰っているのか荷物は減ってるけど、この乱雑さといいお菓子のかけら具合といい
親びんの宇宙船はこの中のどこかにある・・・らしい。
さっきは年長組に囲まれた年少の親びんを助けるのに夢中で楽屋の中を細部まで見渡していなかった。
まずぐるりとそれらしきものがないかを探す。

「ない」

「え?」

「んぁ、別に〜」

さすがにぱっと見ただけで結論付けるのは早いか。
真面目に探そう。
親びんも床をはいつくばるようにして捜している。
っていうか、今メンバー戻ってきたらあたしたちって完璧に怪しい人だよね。
やだな〜。そうなる前にチャッチャと宇宙船見つけないと。
あたしも床に膝をついて捜す。
172 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時18分24秒

「ねぇ、親びん」
「なに?」
「宇宙船ってどんな形なの?」

「えっと、まーるくってちっちゃくって三角で」

「この自他共に認めるツッコミキャラじゃないあたしにどっちだよってツッコミいれてほしいの?サ○マのイチゴミルクめ」
「なにいってんの、んぁ」

床にかがみこんだまま親びんは不可解だとでもいうように目を丸くした。
てっきり冗談かと思ったら本気らしい。

「イヤ・・・なんとなく。丸くてちっちゃくて三角ね〜」

まったく、想像つかないけど・・・サ○マのイチゴミルクなら三角だよね、形状は。
で、丸いってのはどこのことをさしてるの、○クマさんよ〜。

「ないね・・・・・・」

あたしが一人でサク○に対してツッコミをいれていると後ろで親びんがポツリと呟くのが聞こえた。
振り返ると親びんは目から涙がこぼれるのをこらえているかのように眉を寄せ俯いていた。
173 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時19分44秒

まったく能天気にみえたけどやっぱり不安なんだ。
異国の地にきてカッパの役なんてさせられて――意外に気に入ってたみたいだけど――早く帰りたいよね。

「親びん・・・・・・」

小さな肩にそっと触れる。

「オイラ・・・これからどうしよう?」

うつむいたまま親びんが呟く。

これから――

もし、宇宙船がこのまま見つからなかったら・・・・・・

「んぁには迷惑かけられないし・・・・・・」

消え入りそうな声の親びんの姿。

「迷惑なんて・・・もし、見つかんなかったらあたしんちで暮らせばいいよ。」

さすがのあたしも鬼じゃない。
っていうか、マジでそう思った。
こんな親びんの姿見たら面倒みずにはいられないよ。

「・・・ほんとに?」
「うん、無駄におっきいから親びん一人ぐらいなんとかなるって」

あたしが答えると親びんがパッと涙目で顔をあげ・・・・・・

あれ?

泣いてない?

174 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時21分11秒

「いやー、よかったよかった!もう少しぐらいこの星のこと勉強できちゃうねー。
 さすが、んぁだっ!オイラ、超嬉しいよーキャハハハハ」

「はっ?」

あれ?

あれ?

ここって感動の抱擁シーンとかになるんじゃなかったの?

固まるあたしの前で親びんはソファーに飛び乗って跳ねまわっている・・・・・・

騙された?
ってか、最初からあたしの勘違いだった?

「んぁっ!!!いくぞっ!!」

「ふぇ!?」

不意に声をかけられてソファの方を振り向くと黒い影が飛んできた・・・・・・
あぁ、またこのパターンか。マジやってらんない。
この間、ざっと0.01秒。

そして、予想通り親びんのフライングボディアタックがクリーンヒットする。
後頭部強打で死亡とかになったら嫌だな〜と思いながら・・・・・・あたしは、そのまま後ろに倒れた。
次に来る衝撃に身を固めているとポフッとなにか柔らかいものがそれを抑えてくれた。
クッションかな。
とりあえず、後藤真希謎の変死っていう見出しはなくなったからよかった
175 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時22分41秒

「ちょっと親びん!マジでいきなり攻撃してくるのやめ・・・・・・親びん?」

文句を言いかけたあたしの胸にしがみつくように親びんは顔を埋めている。
胸にじんわりと温かいものがしみこむのを感じる。

「親びん?どうしたの?」
「・・・・・・別に」

そのままの姿勢で親びんは小さく答えた。その肩が少し震えている。
やっぱりさっきのはあたしの勘違いじゃなかったのか。
素直じゃないな〜、親びんは・・・・・・あたしは、両手で親びんを抱きしめながら
「絶対、見つかるから大丈夫だよ」と小声で囁いた。

「知ってる・・・・・・」

親びんは短く答えた――ほんとに素直じゃない。

「なら、顔あげて探そうよ」

「・・・・・・うん」

あたしが言うと親びんはあたしの服で顔を拭いて――
って、ちょっとこれ買ったばっかなんだけど――「よしっ!」と、妙にスッキリした顔で立ち上がった。


・・・・・・まぁ、いっか。
泣くのずっと我慢してたんだろうし。

176 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時23分44秒

親びんがどいたのであたしも起き上がる。

「あーっ!!!!!!!!!」

その途端、親びんが大きな声をあげてあたしの後ろを指差した。

「んぁ!?」

その声に指差された方向――さっきまであたしの頭があった場所――を向く。
そこにはやぐっつぁんのプーさんポーチがあった。
あの年でこのポーチ姿が似合うんだからあぁ、女神様、小さいってことは便利だねってもんだ。
断じてアニオタじゃないからよく知らないけどね。
177 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時25分41秒

「これがどうしたの?」

「それそれそれ!!オイラの宇宙船だ!」

「はぁっ!?だって、これやぐっつぁんの・・・」

「帰れるんだーっ!!!!!」

あたしの言葉も聞かずに親びんは飛び跳ねながら――だから、ピョーン星人・・・さっきも思ったね――
プーさんポーチを手に取った。

「だから、それやぐっつぁんのポーチだって」

だいたい、そんな小さなものに人一人が入るわけない。
いくら親びんがロッカーに入れるミニマムサイズだったとしてもだ。

「これ見てよ!これっ!!」
「んぁ?」

ズイッとポーチが顔の前に突きつけられる。
あけられた中にはやぐつtぁんがなにを忘れても絶対にそれだけは忘れないあるものがない

そう、やぐっつぁん化粧七つ道具だ。

七つどころじゃないのがホントの話だけど。
そして、代わりにまるでのび太君の引き出しのような空間が広がっている。
よ、四次元空間?
とりよせバッグなの、これ!?
178 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時26分49秒

「オイラの宇宙船だ」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

世界って広いね〜違う、宇宙だ。
宇宙は広いね〜

「そうなんだってそれだけ?」

親びんが少し不服気にあたしを見上げてくる。
なにが気に入らないんだろう?

「んぁ?」

あたしが首をかしげると親びんは「もっと喜んでくれたっていいじゃん」と口を尖らせた。
なんだ、そんなことか。

「よかったね〜」

「・・・・・・んぁ、冷たい」

「なんで?」

「もっとさーこう『よかったじゃん!!親びん、本当におめでっとーっ!!
 んぁも最高にうれすぃよーっ!!キャハハハハハ』ってこれぐらい喜んでくれてもいいじゃん」

「・・・・・・」

えっと、どこから心のツッコミいくか。
まずね、おめでっとーってちっちゃい“つ”の位置がおかしいじゃん。
うれすぃは、まぁいいけど。よすぃこのすぃだし。
最後のキャハハハはあたしがこの笑い方したら頭狂ったかと思われるよ、多分

179 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時27分36秒

「ほら、早く言ってよ〜」
「嫌だ」

「なんでー、んぁは喜んでくれないの?おいら、星に帰れるんだよ」
「喜んでるけどさっきのは言えない」

「なんで?なんで?なんで?なんで?」

しつこいな〜、こいつ”なんで”星人だったっけ?

「あのね〜・・・・うっ」

な、な、な、なんて目で見つめてくるの?
これ、反則だよ・・・裕ちゃんじゃないけど至近距離でこの潤んだ上目遣いされたら絶対に・・・・・・

「よかったじゃん!!親びん、本当におめでっとーっ!!んぁも最高にうれすぃよーっ!!キャハハハハハ」


もう死にたい・・・・・・

180 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月22日(日)23時28分53秒

「いやーっ!!んぁがそんなに喜んでくれるとは思わなかったよー!!
 ありがと、おいら嬉しいよ!!」

でも、こんなことで喜んでくれるならいっか。
あたしは、親びんの頭をわしゃわしゃとダンを撫でるみたいに撫でた。
親びんは「なにするんだよ〜」と文句を言いながらもそれを避けようとはしなかった。

181 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年12月23日(月)03時34分23秒
>>「よかったじゃん!!親びん、本当におめでっとーっ!!んぁも最高にうれすぃよーっ!!キャハハハハハ」
こんなごっちん見てみたい(w
182 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月23日(月)23時10分01秒

10

「じゃ、オイラもう行くね」

あたしは、頷く。親びんが宇宙船に足を入れる。

――少しの沈黙。

さっきまでのテンションがウソみたいに親びんは宇宙船に片足をいれたままあたしを見つめた。
少し間抜けな格好だけど笑う場面じゃない。

「・・・それじゃ、お別れだね」
「うん・・・・・・」

「今度は、気をつけて帰るんだよ」
「・・・・・・うん」

ポタリと取り寄せバッグの淵に親びんの涙がこぼれた。親びんはうつむく。

「ほら、泣かないでよ。親びんはさ〜笑ってるほうが親びんらしいって」

「泣いて・・・かない」

親びんは首を振る。
なんかいいな、こうやって子供みたいに泣けるのってさ。
183 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月23日(月)23時10分44秒

「じゃぁ、顔あげてよ、ね」
「・・・・・・」

親びんは、ごしごしと目をこすってから顔を上げた。
そして、あたしの顔を見てポカンと口をあける。

「?」

「んぁ・・・ごっつぁんこそ泣いてんじゃん」

「え?」

ハッとしてあたしは目もとに手をやる。
温かい・・・・・・なんであたしがこんなやつと別れるぐらいで泣かないといけないの?
っていうか、マジで?

「こ、これは違うんだって!地球人は定期的にこうなるの!!」

「ふ〜ん」

親びんはにやにやしながら背伸びをしてさっき自分がされたようにあたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「やめてよ」
「キャハハ、ごっつぁんも笑ったほうがかわいいよ」

「なっ、なに言ってんの!?」

そういう言葉には正直、弱い。慌てるあたしと落ち着いた親びん。
いつのまにか立場が逆転していた。
184 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月23日(月)23時12分07秒

「んぁにはほんとにお世話になった」

「ほんとお世話したよ」

なんとなく憎まれ口を叩くと親びんはペコリとお辞儀人形のように頭を下げた。

「どうもありがとー」

「親びん・・・・・・」

なんかちょっと感動の場面だ

「ピョーン星についたら地球にんぁという心優しい生物がいたって伝えるからね」

・・・・・・前言撤回。


「それじゃ、バイバイ」

「バイバ・・・んっ」

言いかけたあたしの口を親びんが塞ぐ。

「お別れの挨拶だ」

口が離れると親びんはウィンクしながらそう言い、
あたしが驚いて目を白黒させているうちにとりよせバッグもどきの宇宙船に乗りこんでしまった。
ジャジャジャジャーンというミニモニテレフォンの前奏部分のような音がして
目も眩まんばかりの光が楽屋内を照らし始める。その眩しさに思わず目を瞑る。

ヤンバルクイナってなんなんだーっ!

という謎の発信音とともに光は消えて宇宙船のあった場所にはなにもなくなっていた。

185 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月23日(月)23時13分38秒

「・・・親びん」

ポツンと一人取り残された楽屋に呟く。

来るのも急で帰るのも急だったね。
親びんってほんと落ち着きなくてさ、子供っぽくて、我がままで、すぐ人に攻撃しかけてきて、
あたしに犯罪行為までさせておいて、素直じゃなくて、あたしに迷惑ばっかりかけて・・・・・・・・・・・・

だけど、いなくなると少し寂しいよ。

あたしは、またじんわりと湧き上がってきた涙を拭いながら大きくため息をついた。

「親びんのバーカ・・・アーホ・・・・・・オタンコナス・・・・・・」

って、言ったところで意味ないし。
でも、最後にもう一回叫んでおこう。
これでスッキリ明日からまた元気キッズの大盛りだ。

「親びんの大バカーっ!!!!!!!!!!!!!!!!」


「え!?」

背後でそんな声がした。い、いつのまに!?

「え?」

恐る恐る振り返る。
そこにはなにもなかった。と思って目線を下げると親びんが驚いたように立ちつくしていた。

なんで、親びんが・・・・・・

186 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月23日(月)23時14分45秒

「・・・親びん?」

呼びかけると親びんは眉を寄せた。

「親びんって・・・あ、ピョーン星人のこと?ってことは、もしかして矢口の悪口言ってたの?」

「え?あ、いや」

やぐっつぁんだ。

アホだ、あたし。当たり前じゃん。親びんはさっき帰ったばっかだし。

「まぁ、いいけどさ〜。どうしたの?楽屋で誰かと待ち合わせ?」
「んぁ?ううん、ちょっと、まぁ、えっとそんな感じ」

「キャハハ、意味わかんないし」

「アハッ」

「そうだ、ごっつぁん、このあとヒマ?」

やぐっつぁんは、あたしに背を向けロッカーから上着を取り出しながら言う。

「え、うん」
「矢口も今日これからヒマなんだー、ヒサブリにどっか行こっ」

やぐっつぁんがクルリと振り返った。

その肩には親びんの宇宙船と同じ形のプーさんポーチ。

自然、笑みがこぼれてくる。
187 名前:ピョーンの星からハローハロー 投稿日:2002年12月23日(月)23時16分19秒

「あれ?どうかした?」

「ううん、どこ行く?」

「そうだねー、とりあえず適当にブラブラしながら決めよ」
「うん」

やぐっつぁんがいつもみたいに腕を組んでくる。
なんかこういうのってヒサブリだ。

親びんが来なかったらもうとっくに帰ってただろうし
親びんが来なかったら楽屋でやぐっつぁんと会うこともなかっただろうし
最初は最悪だったけど、今日って意外といい日だったのかもしれない。

我がままで(ryな親びんにチョコッと感謝だ
もう会うこともないけど親びんのことは忘れない・・・と思う。

ありがと、親びん。
もしかしたら、これってサンタさんからのクリスマスプレゼントだったのかもね

                                   Fine?

188 名前:――――――――――――― 投稿日:2002年12月23日(月)23時17分51秒

「おかえりー」

「ただいまー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、なんで親びんがあたしんちにいんの!?」

「燃料が足りなかったの忘れてた。んぁの匂いを覚えておいて助かったよ」
「・・・ちょ、それじゃずっとここで暮らすの?」

「子分たちに救難信号を送ったからすぐに迎えに来てくれる。それまでは世話になるつもりだ」

「子分って・・・・・・まさか」

あたしの頭にあのうるさい二人組みの姿が浮かんだ


                                  Fine

189 名前:七誌 投稿日:2002年12月23日(月)23時18分48秒
予定通り終了
オチかくしというわけじゃないけど
190 名前:七誌 投稿日:2002年12月23日(月)23時19分20秒
なんとなく荒らしっぽいことを(w
191 名前:七誌 投稿日:2002年12月23日(月)23時22分13秒
あとがきっていうか完璧です。
全てにおいて完璧です
川o・-・)あのことに気づいてからどうしようかとおもいましたが完璧にフォロー

こんなものを読んでくださってありがとうございました。
192 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)00時05分37秒
面白かったです。
やぐごまという(実際は少し違うか?)組み合わせでなければ成し得なかった
面白さだと思います。作者さん、天才!!
小ネタも効いてて、めっちゃ笑いました。
次回は……シリアス、コメディと交互にやってくのはいかがでしょう?(w
193 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)00時40分00秒
脱稿乙!めっちゃおもろかったっす。
見事に重大なミスも切り抜けましたね(w
今度はもう一個のみたいな短編集もいいな〜
でも、作者さんのお好きなようにしてください。
194 名前:なちまりっぷ 投稿日:2002年12月24日(火)10時45分52秒
まさかこんなおバカ話を書いていたとは(w
クリスマスイブなのにこれを読んでる自分も自分ですが(泣
かなり笑わせていただきました。次回作はぜひ萌え系に一票
195 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)14時28分48秒
やー、オモロかったー!びんごま(勝手に)サイコー。
シリアス&アホ、交互に一票。
196 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月25日(水)01時49分24秒
おもしろかったです。子分ってやっぱりあの二人ですよね(w
自分もシリアス&アホかな〜
っていうか、びんごまって某テロリストさんみたいだ(w
197 名前:七誌 投稿日:2002年12月25日(水)19時10分32秒
皆々様、レスありがとうございます
ここで一言・・・

シリアス&アホ交互なんて無理っちゅうねん!(w

いえいえ、とりあえず今書いてるのが予想外に長編になってしまいましたので
かきあがるまでちょこっとお休みします。
短編は思いついたらこっちかあっちかどっちかに
リクは随時受付中ってことで
本当にこんなアホいのを読んでくださってありがとうございました
198 名前:石川梨華の穴 投稿日:2002年12月29日(日)12時20分13秒

深夜にある映画を見た。
穴に入ると一人の俳優の視点を15分間楽しめるとかそんな内容の話だ。
結局、途中で寝てしまい最後まで見ることはなかったが私がひどくその話に惹かれたのは確かだ。

そう、私にはかねてからあるメンバーにどうしても確認したいことがあった。
彼女の情報はインターネットにあふれかえっている。
しかし、この議論だけは本人に尋ねてみないかぎり決着はつかないだろう。

身近にいるんだから聞けばいいじゃないか、そう思う人もいるだろうがそれはできない。
こんなことを聞いてしまえばきっと昔のように困った八の字眉で私を見るに違いない。
いや、それともうたばんにでてくるきもい男を見るような目をするかもしれない。
それは絶対にイヤだ。

199 名前:石川梨華の穴 投稿日:2002年12月29日(日)12時21分37秒

理由はそれだけじゃない。

私は、その議論が開かれている巨大掲示板を見ていることを秘密にしている。
私が睨むに保田さんと矢口さんはきっとその板の常連だ。
つまり、私がその質問を彼女にするということは暗に自分がその板を覗いていると言うことをあらわしている。

二人は、鬼の首を取ったかのように

「あんた、スピカでしょ。自演してんじゃないわよ!」
「キャハハ、そこまでするか〜よっすぃ〜」

などと私のことをあざけるに違いない。

無論、私はスピカじゃないけれど――そんな言い訳は通用しないだろう。
まぁ、そんなわけで直接聞くわけにはいかないのだ。
200 名前:石川梨華の穴 投稿日:2002年12月29日(日)12時22分44秒

ここまで書けば私が映画の話に惹かれたかがわかると思う。

私は、探したいのだ。
彼女に通じる穴を。あの7と2分の1階のあるビルを。
きっとある、妙な確信が私のなかで生まれていた。


それから、私は仕事が終わるとすぐにビルを探す旅にでかけるようになった。
どんな時間になろうとなにかに取り付かれたように私はそれを探し求めた。

途中、それらしき穴のあるビルを見つけた。

湧き上がる興奮をおさえ穴の中に入ったのが私の求める彼女には繋がってはいなかった。
その穴がなにに繋がっていたかは教えるわけには行かないが、
私の願望を少しだけ実現させてくれる動物に繋がっていたとだけ言っておこう。
もちろん私は、速攻でそのビルをお気に入りにいれた。
しかし、私が探しているのはペットに繋がる穴ではない。

私の旅は終わらない。
201 名前:石川梨華の穴 投稿日:2002年12月29日(日)12時23分27秒

「ねぇ、最近よっすぃ〜寝てないんじゃない?」

一週間がたった頃、ソファでぼんやりと寝そべる私の前に
しゃがんだ辻が心配そうに言った。

「辻、世の中には寝る間を惜しんで探さないと見つからないものがあるんだ」

私がそう答えると辻は不思議そうな表情になった。
私は、辻の頭を撫でてニッコリと笑ってやった。

「のの〜!」

楽屋の外で加護が辻を呼んでいる。
辻は、まだ心配そうに私の顔を見やりそれから「今行く〜」としゃがみ歩きをして楽屋をでていってしまった。

今日は、珍しく楽屋に一人だ。
バッグは12個、つまり全員ここには来ているらしい。
それなのに、一人で楽屋にいる、こんなことは滅多にない。
いや、滅多にないどころかありえない。
ありえないことが起こっている奇跡に私はなかば感動した。
202 名前:石川梨華の穴 投稿日:2002年12月29日(日)12時24分32秒

「ん?」

そこではじめて妙な違和感に気づく。
寝そべっているから気づかなかったのか、
寝不足でぼんやりしているか気づかなかったのか天井が近く感じる。
私は、ハッとして状態を起こし天井に頭をぶつけた。

「・・・痛っ〜」

やはりそうだったのか。
私は、ぶつけた部分をさすりながら思う。

さっき辻がなぜしゃがんで私の前にいたのか。

楽屋になぜ誰一人としていないのか。

私は、しゃがんで辺りを見回す。


「あった・・・・・・・・・・・・」

私の願いが神様に通じたのかもしれない。
それは確かに楽屋の隅に存在していた。

しゃがみながら私はそれの前に移動する。


絶対にこれは彼女に通じる穴だ。

彼女――石川梨華に通じる穴だ。


203 名前:石川梨華の穴 投稿日:2002年12月29日(日)12時25分22秒

はいつくばりながら移動する。
不意に強風が私を吹き飛ばし私の視界に見覚えのある顔がうつる。
彼女は鏡を見ているようだ。
髪を撫でつけそしてくるりと体を反転させた。

並ぶ個室。

その一つをあけて彼女は中に入った。


私の血と汗と涙の努力がここに報われる。
そして、1000×154にもわたる論争も私の書き込みによって終焉を迎えるのだ。


私は感動に撃ち震えながらそのときを待った。

                             
                                   Fine
204 名前:隠す 投稿日:2002年12月29日(日)12時26分36秒

(0^〜^)どう、パクってみたよ
205 名前:隠すとき 投稿日:2002年12月29日(日)12時27分16秒

(0^〜^)この話はなにがしたかったのか分かりませんね。
206 名前:隠せば 投稿日:2002年12月29日(日)12時28分15秒

(0^〜^)私がみたものはなんだったんでしょう答えは↓

207 名前: 投稿日:2002年12月29日(日)12時29分02秒


( ^▽^)

208 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月29日(日)21時27分39秒
( ^▽^)<し(ry
209 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)01時44分05秒
す、す、す、す、す、するの?
210 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月05日(日)14時17分31秒
4714
211 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月05日(日)16時33分42秒
( ^▽^)<しないよ
212 名前:七誌 投稿日:2003年01月05日(日)20時48分59秒
皆様のレスだけ見たらどこかの確認スレみたいですね(^^
ちょっとおもしろかったっす。

明日からくだらない中篇?を書こうと思ったり思わなかったり
213 名前:アイボンの奇妙な出来事 投稿日:2003年01月10日(金)21時49分41秒

「アイボン、アイボン起きて!朝だよー、アイボン!!」

なんや、こんな朝っぱらからうっさいわ、ホンマに。
っちゅーか、婆ちゃんえらい声高くなったな

「起きないと保田さんに言っちゃうよー」

え!?保田さん!?なんでおばちゃんがでてくんのっ!?
うちはガバッと飛び起きた。

「おはよーっ!やっぱり保田さんの名前は効果的」

・・・・・・なんで梨華ちゃんがおんねん?

っちゅー突っ込みの前に、キッショイエプロンやな〜、ピンク全開やん。
ピンク卒業いうたんはどの顎や、ホンマに。
よし、気が済んだ

なんで梨華ちゃんがうちんちにおんねん

あれ?

そう言おうとしているのに口が動かない。

なんでや!?

「ほら、早くご飯食べないと学校遅刻しちゃうよ」
「はーい」

って、なんで口が勝手に動くねん。
梨華ちゃんに「はーい」やなんてキショキショ過ぎる!!
体も動かんのやろか?

不意に不安に襲われて恐る恐る動かしてみる。
動く・・・・・・とりあえず、動かせないのは口だけみたいなのでホッと胸をなでおろす。

やけど、なんで言葉だけでらんのかな〜不思議やな。

とりあえず、梨華ちゃんがおりていった階段をおりて顔を洗いに行った。
214 名前:シナリオ 1 投稿日:2003年01月10日(金)21時53分05秒

「お、加護、おはよーっ!」

鏡越しにうちの姿を見つけたおばちゃんが言う。
なんでおばちゃんがおるんかっちゅー疑問はもうええわ、めんどくさいし。
挨拶だけはしておこう。

「おはよーございます」
「ん?今日の加護はやけに他人行儀じゃない?どうかした?」

他人行儀?
他人やっちゅーねん。と、つっこもうとしてまたしても口が動かない。
うち、病気やろか。

「どうもしないよ、お父さん」

は?お父さん!?誰がや!?

自分の口からでたなぞの言葉にうちはキョロキョロと周りを見まわす。
おとんの姿は見あたらへん。
215 名前:シナリオ 1 投稿日:2003年01月10日(金)21時53分50秒

「そう、ならいいんだけど・・・・・・・あっ、歯磨き粉ないじゃない、加護知らない?」

そんなん知るわけないわ!!

「知らない」

・・・・・・口が勝手に動くっちゅーことは変な感じやな。
頭でおもっとることとは違う言葉が出るし。
うちの口には自意識ゆうんがあったんやな。それの反乱や、たぶん。
ま、楽やし今日一日口さんの思うがままにさせとこう。そうしたら気が済むやろ、たぶん。

「加護も知らないの、しょうがないわね。梨華―、歯磨き粉どこ〜」

ぶはっ!!梨華!?!?
なんや、その新婚さんいらっしゃいみたいな声はっ!

やけど、梨華ちゃんからかえってきたのは

「私に頼らないで自分で探してください」

という冷たい一言やった。
216 名前:シナリオ 1 投稿日:2003年01月10日(金)21時54分42秒

「ちょっとまだ怒ってるの?」

保田さんの口調からしてどうやら二人は少し前にケンカをしたみたいや。
それを梨華ちゃんがまだ根に持っていると・・・・・・

なんなんや、この新婚さんいらっしゃいみたいなんはーー

「怒ってます!!だいたい、保田さんは口ばっかりじゃないですか!
 できないなら軽々しく約束なんかしないでください」

そう言って、梨華ちゃんは台所に戻っていった。

おばちゃん、口ばっかりかな〜?
どっちかゆうと梨華ちゃんのほうが口ばっかやろ?
まぁ、なんやしらんけど、おばちゃんが梨華ちゃんの約束破ったっちゅーことか。

くだらんなー、ホンマに。

217 名前:シナリオ 1 投稿日:2003年01月10日(金)21時55分57秒

「ハァ・・・・・・ごめんね、加護。いやなところ見せちゃって」
「ううん、大丈夫だよ、お父さん。でも、どうしてケンカしてるの?」

口さん、せめて関西弁で喋ってくれへんかな。
自分で自分にサブイボがでるわ。

それより、うちのおとんっておばちゃんか!?

なんでおとんがうちのこと加護って呼んでんねん!おかしいやろ、普通に。
っちゅーか、おかんは梨華ちゃんなん!?

・・・・・・めっちゃイヤやん・・・・・・

「まぁ、いろいろあるのよ。あんたは知らなくていいの」
「ふーん」
「おっと、そろそろ行かなきゃ。じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃーい」

・・・かわいそうにな、おばちゃん。
絶対いつもなら見送りがあるはずなんやろうに。背中が少し寂しげや。
これは、うちの出番やな。
伊達に複雑な家庭に生きとったワケやないで!
チャッチャッと二人のケンカの原因探って仲直りさせたろ!

そう思うが早く梨華ちゃんの姿を探す。
梨華ちゃんはテーブルに座って朝食を食べていた。

218 名前:シナリオ 1 投稿日:2003年01月10日(金)21時57分03秒

「お母さん!」

なにがかなしゅうて、梨華ちゃんをお母さんってよばなあかんねん。
はぁ、ホンマに自分で自分がいやになるわ・・・・・・

「なにアイボン」

梨華ちゃんもアイボンって呼んでるしこんな家あるか、ボケ!
心で突っ込みながら梨華ちゃんの向かいの席に座る。

「今日のけんかの原因は?」

まず原因を知ることが一番や。

ん?
今日の??

ってことは、そんなに何回もケンカしとるんか、この夫婦。
あかんわ、うちまた複雑な家庭に生まれとるやん。

「アイボンには関係ないでしょ」
「関係あるよー、お父さんがかわいそうだもん」

ふーむ、うちはどうやら保田さんの味方なんやな。

「アイボンはいっつもお父さんお父さんって、たまにはあたしの味方してくれてもいいじゃない」

うわっ梨華ちゃん逆ギレや。
大人気ない、親やな。

219 名前:シナリオ 1 投稿日:2003年01月10日(金)21時58分54秒

「だって、お母さんっていっつもくだらないことで怒るじゃない。
 この間は、寝坊したお父さんがおはようのキス忘れたからって一日家にいれてあげなかったし」

マ、マジデ!?マジデデジママジデジマ!?

「だって、愛が足りないと思わない?おはようのキスは毎日絶対してくれるって
 結婚するときに言ってくれたんだよ」

「それに、その前に外食したときにお父さんが脂身食べてくれなかったからって怒ったじゃない」

マ、マジで!?マジデデジママジデジマ!?
脂身ぐらい食べへんで残したってええやん。
なんで自分の食べかすを人に食べさせようとすんの

「それは、もったいないでしょ。牛さんだって、キレイに食べてもらったほうが喜ぶと思ったの。
 それに私の食べたものが余ったらどんなにおなかいっぱいでも食べてあげるよって言ってくれたもん」

保田さんもアホやな。
220 名前:シナリオ 1 投稿日:2003年01月10日(金)22時00分14秒

「ともかく、お母さんの約束っていっつもムリヤリすぎるの。
 あれじゃ、お父さんかわいそうじゃん」

にしても、うちの口さんって関東の人やったんやな。
それで娘。に入った時やけにすんなり標準語喋れるようになったんかもな。
ちょっと感謝や。

ふと見るとうちの言葉に傷ついたのか梨華ちゃんはうなだれていた。
世話の焼ける親やな〜、ほんまに。

「・・・・・で、今日はどんな約束してたの?」

「よく聞いてくれたわ!!」

いきなりチャーミーモードになって席を立つ梨華ちゃん。

二重人格なんかな、この人は。

胸を張って口を開いた。
221 名前:シナリオ 1 投稿日:2003年01月10日(金)22時01分21秒

「隣の中澤さんちに負けないように一日5回は愛してくれるって言ったのに
 それも三日坊主!昨日なんて疲れてるからって2回しかしてくれなかったんだよーっ!!」


「・・・・・・はっ?」

はじめてうちの口さんとうちの思うとったことが重なった。

今、なにいうた、このアホは・・・・・・
そりゃ、子供(不本意やけどそういう設定らしいからな)には言えへんよな〜保田さん。

「あの・・・」

「ひどいでしょ?愛が足りないよね、そう思うよね、アイボン!」

ものすごい勢いでまくしたてる梨華ちゃん・・・・・・
普通、子供(不本意ry)の前でそんなこと話すか?

「学校行ってきます」

NICEや口さん。呆れて相手してられへんもんな〜さすがうちの口や。
さ、こんなアホは放置決定や。


うちは、梨華ちゃんをおいて家を出た。


                                 next
222 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月11日(土)17時18分43秒
梨華ちゃんぶっとびすぎ(w
223 名前:シナリオ 2 投稿日:2003年01月11日(土)23時06分30秒

家から出ると見たこともない景色が広がっとった。
なんとなくそんな予感はしとったんよな。
ここは異世界や、パラパラワールドや。
やないと、うちのおかんが梨華ちゃんでおとんが保田さんやなんてあるわけないもん。
いうなれば不思議の国の( ‘д')ってもんやな。
こんなんで学校行ってもまた変なことに巻き込まれそうやし・・・・・・しゃーない、どっかで時間つぶそ。

「あれ、アイボン」

「え?」

へ?と思って振り返ると紺野ちゃんが立っていた。

「あさ美ちゃん」

あさ美ちゃん・・・か、なんか新鮮やな。
っちゅーか、紺野ちゃんからアイボンって呼ばれるのも新鮮や。

いや、違う。

そこに突っ込むのは違うで。
なんやろ、あんまりどうどうとしとるから突っ込み間違えたわ。

なんで紺野ちゃん、学ラン着てんの?
アレか、紺野あさお君か?
224 名前:シナリオ 2 投稿日:2003年01月11日(土)23時07分38秒

「アイボン、どうして制服着てるの?今日、学校休みだよ」
「え?あ、ホントだ。ちょっとドタバタして間違えちゃった」

って、おいっ!うちか!?
うちが、間違えとんのか。
うち、思いっきり私服やん。自分が制服、しかも学ランやんか!・・・・・・

ここって、学ランが私服なん?ワケ分からんわ・・・・・・

「それじゃ、いこっか」
「うん」

どこにって聞きたかったのに、うちの口はあっさりと了解している。

どこ行く気や、うち!?

紺野ちゃんに腕を組まされて引きずられていくうちにどんどん繁華街に迷い込んでいるような気がする。
これもしかして俗に言うラブホ街っちゅうのやないんか!?
うちは、確かめるように紺野ちゃんを見た。

ポッ

――なんでそこでタイミングよく顔赤らめんねーん(ねーん、ねーん)!!!

うちの叫びは心の中で激しくこだました。

225 名前:シナリオ 2 投稿日:2003年01月11日(土)23時08分48秒

「さ、大人になろ」
「うん♪」


――「うん♪」やないってなんでうちが紺野ちゃんと大人にならなあかんの。
若かったあの日といつか笑えるようになるわけないって!

思わず足を止める。
不思議そうな顔で紺野ちゃんが顔を傾ける。

「どうしたの?」

どうもこうもないし。
誰か助けてぇな。このままやったら、このままやったら、うちの口は絶対に

「どうもしないよ。あさ美ちゃん。さぁ、めくるめく愛の世界へ!!」

言うてもうたーっ!!!!!!!
こんな性格やったんかっうちはっ!!
こんなん、中澤さんみたいやん、イヤや。
紺野ちゃんがイヤっちゅーんやなくてこんなエロ道まっしぐらなうちがイヤやっ!!

誰かうちを助けて。

うちがそう祈ったとき――やっぱり日ごろの行いがいいせいやな――見事に人ごみの中から救世主到来!!

226 名前:シナリオ 2 投稿日:2003年01月11日(土)23時10分52秒

「んぁ、アイボン!」

「ごっちん!!!」

ごっちん、あんたはうちのホンマの師匠や。
弟子のピンチに駆けつけてくれるやなんて、タイミングよすぎや、あんた漢の中の漢や!

うちは、溢れそうになる涙を抑えてごっちんに抱きついた。
戸惑ったようなごっちんの顔。やけど、次の瞬間には満面の笑みに変わる。

「アイボン、あたしを選んでくれるんだ〜」

「ウソ?どうしてアイボン」

二人の声が重なった。
振り返るとあさ美ちゃんが悲しげな眼でうちを見とる。

「どうもこうもアイボンはあたしを選んだんだから紺野さんは帰ったら」

冷たいごっちんの声。

あれ?なに?なんなん?
これって俗に言う修羅場ゆうやつなん?
罵りあう女二人に囲まれて浮気をした張本人が疎外感を感じるっちゅーあの修羅場か?

「後藤さんこそ途中から来ておいて私のアイボンをとらないでください」

震える声の紺野ちゃん。
そうやな、パッと見ごっちん怖いもんな・・・・・・

やなくて、いつから紺野ちゃんのアイボンなん?

どないしよ?中澤さんの話ちゃんときいとくんやったわ。
中澤裕子の恋愛談義第29回、彼女と彼女が鉢合わせ そんな時どうするPART1・・・・・・

227 名前:シナリオ 2 投稿日:2003年01月11日(土)23時12分35秒

「待ってよ、二人とも。あたしいい考えがあるの」

な、なに言い出す気や!?うちの口はっ!

二人がそろってうちの顔を見る。


「3人で仲良くしよ」


ドガーンッ!!!!!!!!!!
ウソやろーっ!!こんなん中澤さん以下やんか。

「あ、それ楽しそう」
「後藤さんには負けませんよ」

なんで、二人ともあっさり乗り気やねんっ!!!

こうなったら口さんの言うことはほっといて逃げる。

うちは逃げる。

体は動くんやーっ!!!

「じゃぁ、入ろうか」

と、嬉しそうに言いながらうちは二人をホテルの前に置き去りにして
猛ダッシュで紺野ちゃんと来た道を戻った。


                                  next
228 名前:シナリオ 3 投稿日:2003年01月13日(月)16時29分50秒

行くところがなくなったうちはたまたま見つけたドラえもんたちがよくいる空き地の土管に座った。
口が勝手に動くとは言え、あんなことを言うとは・・・・・・さすがにショックや。
気づかへんかったけどうちは中澤さんを継ぐものやったんかいな。
そういや、うちもキスするのは好きやしな。
セクシーなところは「くぅちぃ」って自分で言ってまう矢口さんの口に
ムリヤリバキュームキスするのなんか特に好きやし・・・・・・
ある日、突然、あんなセクハラ魔人に変わってしまうんやろか。
イヤやな〜

「いやー助けてー!!」

なんや、うちが悩んどるいうのにうるさいな。
助けて欲しいんはこっちやっちゅーねん。
だいたい、このご時世、助けて言われて助けるヤツなんておらんわっ!

「そこの人、助けてください」

――って、目の前かいっ!!

高橋ちゃんが着物着て新垣ちゃんに回されようとしとるやん
・・・・・・悪代官みたいやな。うちもぴょーんのときにしたけど。
229 名前:シナリオ 3 投稿日:2003年01月13日(月)16時31分00秒

「ラブラブ、愛ちゃん、いいとこで会ったじゃない。私とラブラブラブラブしようよ」
「イヤやわー、助けてー」

「その手をはなしなっ!」

口が勝手に言うし・・・助けなあかんのやろうな。

「ラブラブ、コネって言うなーっ!!」
「言ってないよっ!!」

んー、これは一応ツッコンどるんやろうけどやっぱり関西弁やないと迫力ないな。

「覚えてろよーっ!」

新垣ちゃんは走り去ってしまった。

はっ!?
それでええんか?なぁ!?
あっさりしすぎやろ!もっと粘ってや、新垣ちゃん!!

・・・・・・いったい、なにがしたかったんやろ?

230 名前:シナリオ 3 投稿日:2003年01月13日(月)16時33分40秒

「あの」

「ん?」

服を引っ張られる。
見ると地面に座り込んだ高橋ちゃんがなみだ目でうちを見上げている。
涙目になるほどさっきの新垣ちゃんが怖かったんか?
なわけないよなぁ?なぁ?なぁ?なぁ?

「助けてくれてありがとうとざいます」

ペコリと頭を下げる高橋ちゃん。
かわいいんやけど・・・・・・嫌な予感がする。

「あなた、かわいいからあんなのが多くて大変でしょ」

あー、やっぱり動き出したわ、うちの口が・・・・・・めっちゃイヤ〜な予感がするんよな。
もう空き地出る準備しよ。
クラウチングスタートの体勢や、憩いの地よさようなら。

「私の彼女にならない?」

そういいながらうちは空き地を飛び出した。
後ろから高橋ちゃんの

「なりますーっ!!」

という独特のアクセントが聞こえた。


                           
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231 名前:シナリオ 4 投稿日:2003年01月13日(月)23時35分52秒

さらにどこにも行く当てがなくなったうちはあてもなくフラフラと道を歩いた。
しゃーないやん。家に帰ったら梨華ちゃんと二人きりやし・・・・・・

「はーい、加護」
「はーい、アイボン」

今度は、安倍さんと飯田さんか。
ある意味、危険な取り合わせやな。

「あ、なっちにカオリ」

マジで!?マジでデジマ・・・もう飽きた。
っちゅーか、リリパットの録り以外でこんな呼び方するの怖いわ。
飯田さんはまだしも安倍さんなんて録りの時、5期の子たちがなっちって呼ぶたびに
すばらしいエンジェルスマイルを返すんやで。
分かる?それがどれだけ怖いか。
はっきりいって裏ナッチ言うんは、ほんまのとこあの笑顔に隠されとるんや。これはうちの秘密情報やけどな。

232 名前:シナリオ 4 投稿日:2003年01月13日(月)23時37分35秒

「どうだべ最近」
「えー、どうって?」
「照れるなよー加護。のののことに決まってるだろー」
「え?やだー、カオリッたら」

のの?

そういえばまだ出てきてへんもんな。
ののことでなんでうちが照れるんやろ。
この二人は、特に怪しい場面に持ち込みそうにないしもうちょい話聞くか。

「ウカウカしてたら小川さんに取られちゃうよ」

安倍さんの忠告。

まこっちゃんにののがとられる?
なんやよう分からんわ。

「そうだよ、ののは食べ物をくれる人についていっちゃうからね。
 小川、お小遣いつぎこんでののにお菓子買ってあげてるんだよ」

のの・・・・・・あんただけはどこにいっても変わらんのやな。
さすがうちの相方や。

「えー!二人とも私の恋路の協力してよー」

お前は、ほんまに誰が本命なんや?と小一時間問い詰めたい。
誰でも彼でも手出しおって・・・

233 名前:シナリオ 4 投稿日:2003年01月13日(月)23時38分11秒

「なっち、いいお店知ってるべ」
「あ、もしかしてあそこ?」
「そうそう」

二人して顔を寄せ合って笑う・・・・・・ある意味、レア物や。

「二人だけで納得しないで教えてよー」

こんなぶりっ子喋りのうちもある意味レア物やけどな。
せやけど、こんなにうちが必死になっとるところを見るとののが本命なんかな。

「あのね、この間カオリとデートしてて、80段アイスを売ってる店見つけたんだベ」

は、はちじゅうだん!?

八段やなくて!?

マジで!?マジで・・・、あ、これはもうやめたんやった。

「そうそう、二人で食べたんだよね〜」

ねーと顔をあわせる二人。

八十段・・・・・・どんなんやろ、想像もつかんわ。

234 名前:シナリオ 4 投稿日:2003年01月13日(月)23時38分58秒

「加護ちゃんとののの恋路のためにさしずめなっちはエンジェルだべ」

ナッチ天使・・・・・・

「そうそう、カオリはロボだよ」

それでええの?飯田さん。

「はい、これ地図」
「ありがとう、早速ののちゃん誘ってみるね」

こう言うた手前、ののを探さなあかんのやろうな。
ま、八十段アイス見てみたいし。ののと一緒のほうがええしな

「頑張ってねー」

絶対に見られない仲のいい二人をまぶたに焼き付けてうちはののを探しに出かけた。


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235 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月15日(水)19時12分03秒
おもろいっ!前半とは大違いだ(w
Ttust no oneのよしかごの傷を舐めあう、
みたいな構図がなんだか現実とダブりました。とってもヨカッタ。
236 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月16日(木)09時31分27秒
前半のシリアスはなんだったんだ(w
親ごまから路線が・・・・・・作者さんは、どっちのジャンルが得意なんすか。
おもろすぎっす
237 名前:シナリオ 5 投稿日:2003年01月16日(木)23時29分24秒
さ、ののはどこにおるんやろ。
ウキウキしてきたで。
安倍さんと飯田さんの話から推測するとののだけはあんまり実際のののと変わらんような気がするもんな。
もう会いたくて会いたくてたまらんわ。
お昼休みはウキウキウォッチングや!

「かーごっ♪」

浮かれていると突然目の前に割烹着姿の矢口さん。
割烹着に金髪とその化粧は・・・・・・・やな。

ここも口さんに任せる。
絶対、矢口さんは口説かへんやろ。
だって、矢口さんって中澤さんと結婚しとるみたいやし・・・

ねぇ、口さん♪


238 名前:シナリオ 5 投稿日:2003年01月16日(木)23時30分24秒

「矢口さんじゃないですかー、聞いてくださいよー」
「え?なに??」

え?なに??

「実は、またお父さんとお母さんがケンカして」

あー、そのことか・・・って普通家庭の事情を他人様に言わへんやろ。

「はぁ、またケンカしたのー!?今度はなに?またけーちゃんうちに泊めるのヤダよ」

呆れた顔の矢口さん。

あれ?矢口さん、知っとるみたいや。
しかも、保田さん泊めてるって・・・またってことは何回もお世話になっとるんやろうな〜。

「けーちゃんが来るとさー矢口、声我慢しなきゃいけないんだよ。
 それはそれでスリルあっていいんだけどね、キャハハ・・・・・・でも、どうして仲良くしないんだろうね、あんたんちの親は」
「ですよねー」

口さん、サラって流したけど、矢口さんすごいこと口ばしっとらんか?
客が来とるときぐらい我慢せーっ!!

・・・・・・相手は中澤さんやし・・・ありなんかな?

239 名前:シナリオ 5 投稿日:2003年01月16日(木)23時32分36秒

「それよりさ、この間の魅力的なお誘いなんだけど」

この間?
この間もなんも起きたらここにおったうちには分からんわ。
魅力的なお誘いってなに?

って、なんで矢口さんそんな顔接近させてくるん。

「やっぱり、キスだけにしとく」

チュッ

へ?

や、矢口さんからキスしてくるやなんて、どんな風の吹き回し?
分からん、この間の魅力的なお誘いってなんなんや!?

「そっかー、残念だなー」

「矢口は、不倫しない主義なの」

不倫!?

なに!うち、うち、矢口さん@既婚者まで口説いてたんかーっ!??
ウソやーん(やーん・・・やーん)

240 名前:シナリオ 5 投稿日:2003年01月16日(木)23時33分56秒

「でも、矢口さんの口って大好き」

いや、確かに好きやけど・・・・・・そんなことよう言えへんわ

「キャハハ、加護は口がうまいねー」

笑い事やないやろ、矢口さん。

「おっと、そろそろ夕飯の準備しないと。それじゃーね、加護」

行きかけた矢口さんにうちの口が問いかける。

「あ、そうだ、のの見ませんでした?」

忘れてなかったんやな、のののこと。

「のの?あー、さっき小川さんとそこの駄菓子やにいたよ」
「そうですか、じゃ、いってみますね。サヨナラー」

・・・・・・・・・・・・お前は、ほんとに誰が本命なんや。
小一時間・・・いや、小三時間ほど問い詰めたいわ。

うちは、鬱ボンになりつつも矢口さんが指差していた方角に向かって歩き始めた。



                                     NEXT
241 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月17日(金)22時03分31秒
相変わらず面白い話書くなぁ
マジで感心するよ
242 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月18日(土)12時43分15秒
最高だよ、作者さん
243 名前:七誌 投稿日:2003年01月19日(日)00時18分38秒

( (( \( ^▽^)/ )) )<ハッピー!!!
244 名前:シナリオ 6 投稿日:2003年01月19日(日)00時20分46秒

矢口さんの言うた駄菓子屋はすぐに見つかった。
駄菓子屋の前には、ののとまこっちゃんの姿。
うちは、二人の元に駆け寄る。

「ののちゃーん」

キショッ!

誰や、この甘酸っぱい声は・・・・・・って、うちやん。
まったく、なんでののにこんな声で呼びかけなあかんねん。

「ん?」

ののがのんびりと振り返る。
やけど、うちの姿を捉えるよりも先にまこっちゃんがお菓子をののの前に差し出した。
あっさりとお菓子に目が行くのの・・・・・・
ここのののはうちの知っとるののよりも食い意地がはっとる。
っちゅうか、今よりもうちょっと昔のののやな。

ちなみにうちはあんなに食い意地はっとらんで。
食欲は旺盛やけど・・・・・・

245 名前:シナリオ 6 投稿日:2003年01月19日(日)00時22分35秒

「・・・加護ちゃん」

ののがお菓子に夢中になっている間にうちの前に来るまこっちゃん。
その顔は、猪木・・・・・・やなくて、なんていうんかな?
人をこう威圧するゆうか・・・

やっぱり猪木やな。

「なに、まこっちゃん」

おっ、まこっちゃんはまこっちゃんやねんな。
そら、ええことや。
これがオマコとかお○ことかケメコやったらどないしよう思うてたからな。
ケメコはおばちゃんやけど・・・・・・・

「なにじゃないよ。いい加減、ののちゃんのことは諦めてくれない?」

まこっちゃんが、のののこと好きやなんて変な感じや。

「なんでまこっちゃんにそんなこと言われなきゃいけないの?」

おっ!
口さんが言い返した。
修羅場や。これまた修羅場や。
うちって争いの化身やな。
246 名前:シナリオ 6 投稿日:2003年01月19日(日)00時23分49秒

「だって、加護ちゃんには他にも相手がいるでしょ。私は、ののちゃん一筋だもん」
「そんなの関係ないよ。あれはあれ、これはこれ」

くわーっ!
嫌なヤツやな、こいつ・・・・・・って、うちや。
マジで鬱ボンになるで

「どうして加護ちゃんはいっつもそうなの!?もっとまともに恋愛しなよ!」
「だから、ののちゃんとするって」

まこっちゃんの顔が怖い。
そら、怒るわな。
うちもこんなヤツおったら切れるわ。
ぶち切れや。プッツンプリンや。

ここは、素直に身を引こう。うちは、体の向きを変えさせる。

体は自由なんやで!

そう思った瞬間、うちの口さんは大きな声で叫んでいた。

247 名前:シナリオ 6 投稿日:2003年01月19日(日)00時25分37秒

「ののちゃーんっ!80段アイス食べに行こうよーっ!!」

「なっ!?」

「あーいっ!!!」

まこっちゃんの驚きに満ちた顔と0.01秒の速さで駄菓子屋から姿を現した
ののの姿を見ながらうちは走った。

「ののちゃん、待ってよーっ!!」

後ろからまこっちゃんの悲痛な叫び声が聞こえる。

ののちゃん、待ってって、のののヤツどこに・・・・・・

うちは、後ろからものすごい気を発しながら近づいてくるなにかの気配
――例えるなら飢えた肉食獣や――を感じて咄嗟に振り返った。

そこには、案の定、ののがおった。


                                  NEXT
248 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月19日(日)14時11分54秒
(♯‘д')おまこ、けめこ、おめ・・・・・・
キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
249 名前:七誌 投稿日:2003年01月20日(月)00時02分43秒
<⌒ ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ ⌒',
         \.,/⌒'⌒⌒⌒⌒⌒'⌒',/
           \ | .ノ从~\ヽ//
              0从*^◇^)0
              ヽ( ×..)/          
               し'し'           
250 名前:シナリオ 7 投稿日:2003年01月20日(月)00時07分01秒

うちは走った、力のつづく限り走り続けた。

やけど

食べ物のかかったののに勝てるはずがなかった。

「アーイボンッ!!」

上から黒い影が降ってきた。

「ぐぇっ!」

うちは、つぶされた。
あのお上品な口さんからぐぇっという声が漏れとった。
まぁ、それはしゃーない。不可抗力ってヤツや。

「ねぇ、はちじゅうだんアイスは?」
「教えるからどいてよ〜」

必死に訴えるとののはよっこいしょと重い腰をあげた。

251 名前:シナリオ 7 投稿日:2003年01月20日(月)00時08分27秒

「で?どこれすか?」
「えっとね、場所教える前に約束して欲しいことがあるんだ」

なんかまた企んどるんか?

嫌な予感がした。
そんなうちの思いも知らずにののは無邪気にうなづく。

「あのね、まこっちゃんとは仲良くしないで欲しいの」

それかぃっ!!

こいつ、卑怯や、卑怯者や!!
買収しようとしとる、賄賂や賭博やお食事券や・・・!!
断れ、断るんやで、ののぉっ!!

「いいよ。だから、はちじゅうだんアイス!」

そうや、それでこそうちの・・・

はっ!?
今、いいよって言うた、のの?

「ホントにいいの?さっきみたいに二人でデートしちゃダメだよ」
「うん」

「ホントのホントに約束だよ」
「うん」


・・・・・・・・・・・・友達より食べ物やったんやな、のの。

口さんかて疑いたくもなるよな、こんなあっさり頷かれると・・・・・・。

252 名前:シナリオ 7 投稿日:2003年01月20日(月)00時09分26秒

「それじゃ、八十段アイス食べにレッツゴー!!」

「ゴーッ!!」


のの・・・ゴメン、うちは卑怯者にはなりたくないんやっ!!
勝負は正々堂々としたいんや。

やから

やから・・・今日は一緒には行けへん!!


うちは、再びののを撒こうと走り出した

――はずやった。

ガシッ

「どこいくの?」


食べ物のかかったののに隙はないみたいやな。
あはは・・・・・・うちは卑怯者の烙印を背負ってしまうんや。

まこっちゃん、堪忍な。



                                   next
253 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時21分52秒

うぇ〜気持ち悪い。
甘いアイスの匂いが体にこびりついとるような気がする。

八十段アイス
――あんなん、食べもんやない。

ゲテモンや。

ののと別れて・・・っちゅうか、ののを八十段アイスの店に置き去りにして
うちはフラフラしながら家路を急ぐ。
もう暗いしな、よい子は家にかえらなあかん時間やろ。
別に、八十段アイスをたいらげようとするののを見捨てたわけやあらへんのや。

ん?

――うちの視界に中澤さんと保田さんがうつった。

「お父さーん!」

そういえば、保田さんってうちのおとんやったな〜。忘れかけとった。
いろんなことがありすぎたし・・・・・・

「気づいてないみたい。ま、いっか」

呼びかけを無視されたうちの口さんは独り言を言った。

254 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時22分59秒

保田さん、今日家に帰ってけーへんのやろうか?
中澤さんと肩なんて組んで朝まで飲み明かしモード全開や。
どこの世界でも二人が酒飲みやっちゅうんは変わらんのやな。

うちは、感心しながら梨華ちゃんの待つ黒い家・・・ちゃうやん、黒い家やったら保険金目当てで殺されるわ。
もとい、暗い家に向かった。

「ただいまー」

返事がない。家も電気がついておらず薄暗かった。

梨華ちゃん、出かけとるんやろうか?

うちは、家に上がる。

「!!」

ありえないものを見て驚きに息を呑む。

そこでうちが見たものは――っ!!??

次回、最終回「アイボン3回怒る」に続く。



続かんわ!
なにを考えとんねん、うちは。

255 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時26分17秒

「お母さん・・・?」

いたのは梨華ちゃん。
朝、見たときと同じ場所にポツンと座っている。
しかも、朝使っていたお茶碗を持って・・・・・・おっそろしい光景や。
一日中こうしてたんやろうか。まさにネガティブモード全開や。

黒いで、黒すぎるで肌が・・・

間違えた。

いや、あながち間違いとはいえんけどな。
梨華ちゃんの背負っとる全てが黒いんや。

うちは、あの時保田さんたちについていけばよかったと加護しく・・・・・・激しく後悔した。

「お母さん、なにしてるの?」

思いっきり話しかけたくないんやけど口が勝手に動く。

「梨華はいつまでたっても・・・一人・・・・・・しないよ・・・・チャ、チャ、チャ、チャーミーポジティブ・・・・・・違う?そうだよね、お昼ご飯?・・・・ネガポジ?」

梨華ちゃんは、うちの声が聞こえていないのかなにかぶつぶつ言うとる。
この人はヤバイ。うちは、咄嗟にそう判断した。
元からそう思っとったけど、まさか、ここまでいっとるとは・・・・・・
256 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時27分46秒

「お母さん、しっかりしてよ」

そう口にしながら、よっすぃ〜のsage走りよろしくうちは家出を決意して玄関に走り出していた。
うちがドアを開けようとした瞬間、勝手にドアが開く。

この家は自動ドアやったんか!!

驚きの事実。

なわけない。誰かが家に入ってきたんや。

目の前にドアが迫り来る。
おかしいやん!日本の家は外に開く形式や。こんなんなるわけない。


「ただいまーっ」

「キャッ!」

可愛らしい悲鳴を上げながらもすばやくマトリックスを見て覚えた上体そらしでドアを避ける。
うちが物まねの天才やなかったら死ぬとこやったで。

「あ、加護。危ないわよ、ドアの前に立ってると」

「お父さん、帰ってきたの?」

文句を言いたかった。
やけど、うちの口はそんなことよりもお父さんの帰還に興味があるみたいや。
257 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時28分50秒

「お母さんは?」

「ネガティブの空間」
「そう」

保田さんは、スタスタと梨華ちゃんのいる暗黒ゾーンへと突入していく。

あかん、殺されるかもしれへんで。

どないしよ。
ここでうちが逃げて保田さんが梨華ちゃんに刺されて梨華ちゃんが自殺したら、
うち、めっちゃ悲惨な子になるやん。

うちは、暗黒ゾーンへの再突入を決めた。

これしか道はない。
Do it nowはこういうときに使うんや。多分。
258 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時29分55秒

「石川ッ!!」

保田さんの声がした。
今の梨華ちゃんに言葉なんて通じんのやで。耳から耳へ抜けるんや。
そう思った瞬間、「気安く呼ばないでください」という甲高い梨華ちゃんの声がした。

なんで保田さんの声には反応すんねん!
うちが嫌いなんか!?
そうか、それでミニポポ一方的に解散したんやな、最悪や。

「あたしが間違ってたわ」

なんで?

保田さん、間違えてへんやろ。
どう考えてもおかしいんは梨華ちゃんやし。


「いまさら・・・んっ」

文句を言いかけた梨華ちゃんの声が途中で途切れた。

まさか――


うちの予想が当たって保田さん・・・・・・うちは、居間に駆け込んだ。

259 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時31分01秒


「っ!?」


うちの前には熱っぽく約束の口付けを原宿やなくて小さな家でしとる二人の姿。
呆然とそれを見つめた。
しばらくして二人の唇が離れる。見詰め合う二人。

、か、かゆいわ、この空気。

「ゴメンね、石川。寂しい思いをさせて。私の気合が足りなかったわ」

いや、気合とかそんな問題やないやろ。
突っ込みをいれずにはいられへん。

「・・・どうして突然そんなこと?」

梨華ちゃんも戸惑っとる。

「さっきね、祐ちゃんに会って言われたの。
 『うちは、矢口が望むなら命削ってもやるでー!それが愛や。それもせんで
  石川の愛を得ようなんて圭坊は甘えすぎやで』って。私は目から鱗よ」

拳を振り回して熱弁を振るう保田さん

・・・・・・・・・・・・保田さんは、もうちょっとマトモやと思ってました。

260 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時31分45秒

「だから、頑張るわ!5回でも10回でも100回でも1000回でも!!」

最後の二個はいらんやろ。
ビッグマウスになるで。

「保田さん、梨華うれしいっ!!」

「梨華っ!!」

ひしっと抱き合う二人。

うちは、ポカンとそれを見た。
呆れて口さんもなにも言えへんみたいや。

そらそうやな。なんか根本的におかしいもん。
今こそ、加護伝説の突っ込みを見せる時や。

覚悟せぇや、この色ボケコンビ!

ズビシと指を突き出したうちの前には甘いささやきを交し合うアホの姿。

261 名前:シナリオ 8 投稿日:2003年01月23日(木)23時32分40秒

「・・・ね、今からいいでしょ」
「え?でもまだこんな時間ですよ」
「昨日できなかった分も頑張っちゃうわよっ!」
「もう、保田さんのエッチ」
「梨華だって」

二人は、よく電車におるバカップルのようにベタベタしながらうちの横を通り過ぎていった。
その際、保田さんが、

「それじゃ、加護、私たち朝まで寝室にいるからなにかあったら呼びなさいよ」

と、ボソッとうちに言った。
脊髄反射でうなづいてしまう。

バタンとドアが閉まる音がした。


・・・・・・・・・・・・こんな家おったらこんな子供ができるんやな

「仕方ない、今日はよっすぃ〜の家に泊めてもらおっと」

その言葉にうちははじめて素直に従った。
っていうか、そういえばよっすぃ〜って今まで出とらんかったよな?

なんでやろ?

まさか忘れられとったわけやないよな。多分。


262 名前:エピローグ 投稿日:2003年01月25日(土)12時51分50秒

「加護、起きろ!加護ってばーっ!!」

「ン・・・なんや、婆ちゃん」

「誰が婆ちゃんだよ!」

ん?

うちが目を開けるとよっすぃーの怒ったような顔。

あれ?
うちよっすぃーの家に泊まったんやっけ?

「あんま怒るとしわができるで・・・・・」

あれ?

うち今自分の意思で喋っとるやん。
やっぱり、口さんの一時的な反抗やったんやな。
昨日、一日我慢したかいがあったわ。
世界も元の世界にもどっとるんやろうな。もうあんな世界こりごりやで。

263 名前:エピローグ 投稿日:2003年01月25日(土)12時52分48秒

「ほら、加護起きろって!」

「あいよ」

よっすぃーがそろそろマジで切れちゃう5秒前だということに気づいてうちは体を起こした


・・・はずやった。


「あれ?」

「なに?」

「なんか体が」

体が・・・・・・うごかへん。

なんで?
今度は、体さんの反抗!?
あかん、口ならええけど体はあかん。

ドッと汗が全身に噴き出した。

「体がどうしたの?」

よっすぃーが少し心配そうにうちをのぞきこんだ。
嫌な予感がした。
やけど、それをもううちは止めることはできへん。

うちの手はゆっくりとよっすぃーの首に・・・・・・


イヤやー、これは夢や!!

誰か夢って言うてーな!!



                                    Fine ?
264 名前:なんつーか 投稿日:2003年01月25日(土)12時53分22秒

(ll|l゚д゚)
265 名前:なんつーか 投稿日:2003年01月25日(土)12時53分54秒

(ll|l゚д゚)駄作やな
266 名前:なんつーか 投稿日:2003年01月25日(土)12時54分36秒

(;^▽^)
267 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月02日(日)22時38分15秒
( ^▽^)ヨカッタデスヨ〜
268 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月04日(火)22時57分12秒
( 〜^◇^)/<出番すくねーよ
269 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月08日(土)01時12分54秒
面白いよ!!今度は体さんが謀反を起こすと・・・(・∀・)イイ!!
随所に効いてるコネタに何度も加護しくワラタ(w
作者サソ面白い作品をありがとう!
270 名前:nanasi 投稿日:2003年02月19日(水)20時24分50秒
hozen
271 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月21日(金)01時29分20秒


――獏

人間の悪夢を食べてくれる空想の動物。

なにかで見た絵だと象と熊を足したような感じだったけど・・・・・・

272 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月21日(金)01時31分47秒

「・・・・・・君がそれだって言うの?」

「うん」

私は、目の前で頷く少女を見た。
そう、奇妙な生き物ではなく少女をだ。

夜中に突然人の部屋に現れて安眠を妨害した挙句にこれだ。
いったい、なんだというんだ。
自分は、まだ夢の中にいるんだろうか?
そう思って両手でパンと頬を叩いてみる。痛い。
ということは、これは紛れもない現実らしい。

私は、再び少女を見つめた。

目が少し離れ気味だが全体のバランスは整っている。
年は同じくらいだろう。少し頭のおかしい子なのかもしれない。
どうやって部屋に入ってきたのかはさておき、あまり刺激しないほうがよさそうだ。
そう思いとりあえず話にあわせて「その獏が私に何のようなの?」と尋ねてみた。

「あたし、もうすぐ死んじゃうんだ」

少女は、肩をすくめながらそう答えた。

死ぬって――

悪いけど、とてもそうは見えない。
私の中でかもしれないレベルだった説は断定レベルまで一気にすすんだ。
273 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月21日(金)01時33分07秒

「どうして死んじゃうって分かるの?」

「夢が見えなくなった」

「夢が?」

「そう、人間の悪夢。あたしが生きるために必要な食べ物。それが見えなくなったんだ」

少女があまりにも真面目に言うので仕方なく私もあくびをかみ殺しつつ話を続ける。

「・・・・・・えっと、それは私が起きちゃってるから見えないとかじゃなくて?」
「違う。あなたが寝てるときから見えない。だから、起こしたの」
「起こされても私にはなにもできないって」

私が少女の勝手さに呆れながら言うと少女はそんなこと分かっているとでもいうように頷き

「獏はね、生まれてから誰に知られることなく死んでいくの。
 でも、それじゃぁ寂しいじゃん。だから、最後くらい誰かと話をしたいな〜って」

とウィンクをした。

その仕草をすごくかわいらしいと思った。
だけど、同時に少女がこのまま空気のように掻き消えてしまいそうな、そんな奇妙な感覚を覚えた。

274 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月21日(金)23時56分15秒

「ね、ねぇ」

少女が消えてしまわないように慌てて声をかける。
どうしてそんなことするのか分からないけど、なぜか彼女とこのまま話してみたかった
――さっきまでは、むしろ早く消えて欲しいとさえ思っていたはずなのに――
自分の中にある二つの感情に私は戸惑った。

それに気づくことなく少女は「んぁ?」とボケた返事をし私を見つめてくる。

なにを言えばいいのか考えていなかった。
私の言葉を待って視線を逸らそうとしない少女に私は焦って言葉を探す。

「えーっと・・・・・・そうだ、君のことなんて呼べばいいの?」

ようやくそれだけが出てきた。
でも、これから彼女と会話をしていくわけだから、まぁ大事なことだ。

それに、獏と名乗ったからそのまま「バク」と呼ぶのも変だろうし。
275 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月22日(土)00時09分18秒

「ん〜、なんだっけ?生まれてすぐの時に神様から名前もらったんだけどね〜」

彼女は首をかしげる。

「覚えてないの?」

「だって、誰も呼ぶ人いないし。なんだったかな〜。バクでいいよ。あなたは?」

彼女はあっさりと言うと逆に尋ね返してきた。

「あ、私は吉澤ひとみ」
「吉澤ひとみか・・・・・・目が大きくて綺麗だからひとみっていうんだね」

彼女は、どこか嬉しそうに私の名前を繰り返しそういった。
確かにそんな話を両親から聞いたことがあった。私は、曖昧に首をすくめる。

「きっとそうだよ。寝顔しか見たことないあたしが言うと変だけど、きっとひとみの目は綺麗だと思うよ」

彼女があまりにも力をこめてそういうので次第に照れくさくなってくる。
それを誤魔化そうと「君って、今までずっと夢を食べてきたの?」と聞いた。
276 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月22日(土)00時11分24秒

もちろん、彼女がバクだなんて頭から信じたわけではないから
ほんのちょっとした冗談のつもりだった。
でも、彼女は真面目に

「そうだよ。食べないと死んじゃうから、人間と一緒でしょ」

と言った。
彼女だって人間なのに変な会話をしているなと私は苦笑しながらも話を合わせて続ける。

「でも、悪夢を食べるんでしょ?悪夢っておいしくなさそうだけどね」
「ん〜、確かにおいしくないね。苦い」

彼女は顔をしかめる。
私は、バカみたいだけど悪夢の味を想像した。

悪夢――人間の苦痛や恐怖が入り混じってそれはそれは苦くてまずいんだろう。

それなのに、なぜ獏は悪夢を食べるのかふと疑問に思った。
自称、獏の彼女なら知っているのかもしれない。
277 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月22日(土)23時45分38秒

「じゃぁ、なんで悪夢を食べるの。楽しい夢を食べたらいいのに」
「悪夢を食べるのがあたしたちの仕事なんだよ。神様に与えられたね」
「ふ〜ん」

神様に与えられた仕事ね。
それだけで、死ぬまでおいしくもない悪夢を食べ続けるなんてずいぶんと偉いんだな、獏っていうのは。
私は、少なからず感心した。

「だから、おいしくはないけど悪夢を食べてきたの。それは別に嫌じゃなかった・・・・・・でもね、今、すごく不安なんだ」

不意に声の調子が変わった。
私は、驚いて彼女のほうを見る。
だけど、変わった調子とは裏腹に彼女の表情に変化は見られない。
それが逆に彼女の不安が本物なのだということを私に気づかせる。
278 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月22日(土)23時46分37秒

「な、なにが不安なの?」

「あたしは、悪夢を食べてきた。生まれてからずっと・・・・・・・・・・・・
だから、あたしの体の中はきっと汚れちゃってる。きっと真っ黒に染まってるよ」

彼女は淡々と穏やかな口調で言う。
私は彼女がなにを言いたいのかまったく分からずにただ黙って話の続きを待った。

「だから・・・・・・真っ黒なあたしは地獄にしか行けないんじゃないかって思ってさ」

私は、眉を寄せて彼女を見た。
彼女は、少し寂しげに微笑む。胸がざわついた。
なんと声をかけてあげればいいんだろう?

そんなことないよ

――そう言えば彼女は安心するんだろうか。

「なんか眠くなってきたね〜」

かける言葉を探しあぐねているうちに彼女がのんびりと言った。
279 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月22日(土)23時51分33秒

「知ってる?獏って普段は夢を見ないの」

唐突にそんなことを言われて私は訝しげに彼女をみる。
今まで真剣にどう声をかけようか悩んでいた自分がバカみたいだった。

「・・・そうなんだ」
「うん、見るのは一度きり。」

「え?」


「死ぬときだけ――」

ひどく暗い調子なのに微笑を消さない彼女から私は目が離せなかった。
そのあいだにも彼女は本当に眠たそうにあくびをし、
もう支えきれないというように部屋の壁に体を預ける。

急に様子の変わったバクに私は動揺を隠せない。

「ちょっと、どうしたの?ねぇ?」

「言ったじゃん。もうすぐ死ぬんだよって」

私が揺さぶると彼女は軽くそう口にした。

「だって、それは・・・・・・・・・」

それは冗談だったんでしょ?

――そう言いかけた瞬間、私の腕の中に彼女の体が倒れこんできた。
空気よりも軽いその体に私は息を呑む。

まるでそこにはなにもないかのように――
280 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月23日(日)22時42分00秒

もうすぐ死ぬと言っていたのは冗談じゃなかった。
そう思っていたのは自分だけだったのだ。

そのことに気づいて私は激しい混乱を覚える。

そんなわけがない。

そんなわけがあるはずないのに――

彼女は、最初から本当のことしか話していなかった。

つまり、彼女は――

私は、呆然と腕の中にいる彼女を見た。
彼女は、辛そうに、だけど笑んだままポツリと

「地獄ってどんなところかな・・・・・・・・・・・・」

と呟いた。
281 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月23日(日)22時42分58秒

「・・・・・・君は、地獄には行かないよ」

私の口はまるで操られているかのように勝手に動いた。
もうなにがなんだか分からなかったけどただ一つだけ私にいえることは――

「え?」

「だって、君は汚れてなんかない」

それだけだ。
彼女は汚れてなんかいないってことだけだ。
ほんの少し話しただけなのに不思議とそう思った。

「・・・あはっ・・・・・・ありがと〜」

私の言葉に彼女は子供のように口を開けて笑った。
ますます軽くなっていく彼女。
半分、床が透けて見えはじめる。

今にも消えてなくなってしまいそうで――
282 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月23日(日)22時44分35秒

「・・・バクッ!!しっかりしてよ、ねぇっ!!」

咄嗟に私は今までそう呼ぶことを躊躇っていた名前で彼女を呼んでいた。
彼女は、ぐったりとしたままで私の呼びかけに視線を動かす。
それから、弱々しい声で言った。

「・・・・・・あのね、いまさらなんだけど」

「うん・・・なに?」

「マキ・・・・・・」
「え?」

「あたしの・・・・・・・・名前、マキだったと思う。最後に・・・呼ばれてみたいから」

「マキ・・・・・・」

震える声で彼女の名前を呼ぶ。
すると、彼女は嬉しそうに「もう一回」と言った。

どんどん腕の抵抗はなくなって、彼女の姿はもうほとんど見えない。

私は、何度も何度も彼女の名前を呼び続ける。

「マキ・・・・・・死なないでよ。マキ。マキ――」

呼び続ければ彼女が元気になるとでもいうように――バカみたいに繰り返す。
彼女は、困ったように首を振りウィンクした。

その仕草はやはりかわいらしかったけど――

私は、きつく彼女を抱きしめる。
283 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月23日(日)22時45分38秒

「マキッ!!!」

「いい・・・夢だったらいいな・・・・・・・・・・・」

小さく小さく、まるで、虫の羽音のような呟きが耳に届いた。
そして、次の瞬間に私の腕は空を掻いた。

「・・・・・・・・・マキ?」

私は、ぼんやりと真っ暗な部屋を眺める。
さっきとまったく変わらない。変わったのは彼女が消えてしまったことだけだ。
確かに彼女はいたはずなのに、ここにはもうそんな痕跡さえ残っていない。

それが私に全てが夢だったのかとさえ思わせた。

ひどく悲しいことだったけれど――
私には、どうこの気持ちを表現すればいいのか分からなかった。
284 名前:Dream Peaceful at Least to 投稿日:2003年02月23日(日)22時46分34秒

しばらくそうしているうちにカーテンの隙間から一筋の光が差し込んできた。
もう朝がきたらしい。
私は、のろのろと立ち上がり窓に向かうと勢いよくカーテンを開けた。
まばゆい朝日が暗闇になれた私の目を突き刺し、不意に私の視界がぼやけた。
涙。一度流れてしまうとそれはとめどなく溢れだす。


――いい夢だったらいいな


不意にマキの最後の言葉が頭をよぎった。

「・・・・・・きっと・・・・・・いい夢だよ」

私は、あふれ出る涙を拭い昇りはじめた太陽を見上げた。


                                      Fine
285 名前:七誌 投稿日:2003年02月23日(日)22時52分36秒
(0^〜^)ちなみに
286 名前:七誌 投稿日:2003年02月23日(日)22時53分39秒
(0^〜^)じゃない
287 名前:七誌 投稿日:2003年02月23日(日)22時54分11秒
(0^〜^)ない
288 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月23日(日)23時17分14秒
(0T〜T)<エガッタ…
289 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月23日(日)23時43分00秒
静かに見守ってました。
笑いからシリアスまで、作者さん、マジで引き出しすごすぎっす。
290 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月24日(月)04時59分40秒
(ll|l゚д゚)作者さんがシリアスを!!
291 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月26日(水)14時05分37秒
( ^▽^)ホントによかったですよ〜
292 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月01日(土)02時47分35秒
勿論アホノリも好きなのだが、Trust・・といい今回のといい。
作 者 さ ん シ リ ア ス 上 手 い ・・・?
293 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月01日(土)11時56分57秒
新作キテタ━━(゚∀゚)━━━━!!!!
終わってたー!!!よかったーっ!!!
294 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月02日(日)07時21分05秒
( T◇T)ええ話やったで〜
>>293
trust以外に吉主役のシリアスあるんですか?
295 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月03日(月)14時31分03秒
>>294
296 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月04日(火)01時12分26秒



昔から私は、「入院」という言葉にちょっとした憧れを抱いていた。
学校もさぼれるし、ベッドでごろごろして自由に過ごせると思っていたから。
だけど、いざ入院することになったらそんなことなんて跡形もなく吹き飛んでしまっていた。

――あの日。

私の入院が決まったあの日。
私は、いつも通り学校に向かう準備をして玄関に向かった。

ドアノブに手をかけた瞬間のことだった
――原因不明の鋭い痛みが私の胸を突き刺し、それから急激に意識が遠のいた。
あまりに突然すぎて詳しいことはまったく覚えていない。
ただ母の慌てふためく声と救急車のサイレンをうるさいと思ったことだけは、
なぜだか分からないけど今でも思い出せる。
297 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月04日(火)01時14分01秒



「さやか、手術、頑張るんだよ」

母はあたしに短くそう言い残し、これからあたしが世話になる病棟の方々に挨拶をすると、すぐに仕事に行ってしまった。
私の病気が心配するほどのないものだったので安心しているようだ。
私の病気は、心臓移植をすればいいだけの軽いものだった。
臓器移植は、かってあまり一般的な治療法ではなかったらしい。
だけど、今では盲腸の手術とおなじくらい浸透している。

まったく、いい時代に生まれたものだ。

真っ白に統一されている病室は、清潔感があって気持ちのいいものだったけど、
あたしは、どこかで寂しさを感じていた。
こんな気分は普段感じることがない。

やっぱり病気で少し気が滅入っているんだろうか?

もし、ここが旅行中の宿泊先とかだったとしたら、きっとこんなこと思いもよらないだろうから。
298 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月04日(火)01時16分56秒

「安静にしていて下さいね」

検温のたびにそう言われる。
理由は聞かなくても簡単に分かるし、そうすることが、自分のためにはいいのだということもわかっている。
だけど、毎回毎回同じことを繰り返されると逆にそれに反した行動をしてしまいたくなるのは仕方ない。
それに、どこかで病気だということを拒否したがっている自分がいた。

薬が効いているのか胸は全然痛くない。
入院前となんら変わったことはないと思う。

走ったりしなければ問題ないだろう。

心の中で浮かびあがったことに抵抗する気は少しもなかった。
タイミングを見計らって、体を起きあがらせると私はベッドの下のスリッパを履いた。

299 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月04日(火)21時17分15秒



院内を歩き回りながら、私は小学校の時の遠足気分を感じていた。
勝手に病室から抜け出したスリルと、初めて視界にうつる世界が私を高揚させる。
医療技術が発達した現代ではこんな風に病院内を歩く機会は滅多にない。
軽い病気は、家にいてもなおすことができるようになり、
よほどのことがない限り、病院に行くなんてことはなくなったからだ。
かくいう私も、実を言うと病院に来たのはこれがはじめてだ。
はじめてが入院というのもそうそう出来ることじゃないだろう。

私らしいといえば私らしいか。

苦笑を浮かべながらロビーに目をむける。
光がたくさん入るように設計されたロビーは見ていて気持ちがいい。
数少ない入院患者たちがにこやかに談笑をしている姿が目に入る。
その様子は、日常で見る公園の風景とそんなに変わらない。
ただ一つ、違和感をあげるとすれば、話している彼らの目が本当には笑っていないということだ。顔は笑っているけど、心のどこかではさまざまな不安を抱えているんだろう。

それは……私にも言えることだった。

300 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月04日(火)21時18分34秒

それから、あてもなくぶらぶら歩き回った。
気がつくと私は、見覚えのない場所まで来ていた。
今までとは違って薄暗く日光の入らないジメッとした場所。
昼間でも電灯をつけっぱなしにしているのか、そのうちの何個かは寿命を訴えるようにチカチカと点滅を繰り返している。

無意識のうちにこんな所まで来てしまったのは、今の自分の顔を誰にも見られたくないと考えていたからだろうか?


―――サヤカはいいね、いつも明るくて元気で―――


よくこんなことを言われる。

皆から見た私の印象。
明るく元気に、まるで学校の標語みたいな性格だ。
別にそう思われることは嫌じゃない。他人からも気に入られていた。

でも――

実際の私はそんなに強くない。
強く見えるように振舞ってきただけにすぎない。

母と一緒にいても、お見舞いに友達が来たときも、完璧な笑顔を絶やさず“いつもの明るい私”を演じる。
だから、みんなは安心していく。

だけど、1人になると沸き上がってくる不安は抑えられなかった。

臓器移植は簡単だってことは頭では分かっている。
それでも、怖い。怖かった。

そんな不安をふりはらうために歩きたかったのかもしれない。

301 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月04日(火)21時19分59秒

「にしてもな……」

私は、無意識のうちに頭をかく。

こんなワケの分からない場所まで来る気じゃなかったのに。
どうやって病室に戻ろう?

さすがにこの歳で迷子になったとは恥ずかしくて言いだせないので、ともかく自力で戻る決心をする。

とにかく人気の多い場所を目指せば勝手につくだろう。
Uターンをして、今来た廊下を引き返す。

しかし、どうやらその考えは甘かったらしい。

院内は、予想外に複雑な造りをしており、細い通路や分岐がたくさんある。
いったい、どうやって自分がここまで歩いてきたのかさえ疑問に思うほどだ。
適当に進んで行けば行くほど、どんどん奇妙な通路に迷い込み事態はますます悪化していった。
耳を済ませば、微かに機械音まで聞こえてくる。
もしかして、関係者以外立ち入り禁止区域に、入ってしまったのだろうか。
霊安室なんかに辿り着いてしまったらどうしよう?
嫌な想像をしてしまった。
302 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月04日(火)21時21分46秒

焦りながら必死に来た道を思い出す。
その時、目の前にぼんやりとだがなにかの影が動くのが見えた。

まさか……

さっきの想像をまた思い出して鳥肌がたってくる。
しかし、すぐにそうではないことが分かった。
その影が、私に

「どうしたの?」

と尋ねてきたからだ。

前からゆっくりと歩いてきた影の正体は、私と同じ年くらいの少女だった。
なんでこんなところにいるんだろう?という疑問が頭をかすめたが、
それよりも今は病室に戻るという大事な使命がある。

「えっと……あ、そうだ。売店まで一緒に行かないかな?」

“道に迷ったから助けて”なんて言うのは、私のプライドが許さないのでそう気さくに話し掛ける。
我ながら演技派だ。

「いいよ。売店の途中までなら案内してあげる」

少女は、嫌な顔一つせず、にっこりとそう言った。

案内してあげるなんてまるで私が道に迷っているかのような言い方だ……
って、道に迷ってたんだっけ……

どうやら、少女には見事にお見通しのようだった。
私は、多少恥ずかしくなったが、それでも、これで病室に戻れると思うと安心していた。


これが私と彼女の出会いだった。

303 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月05日(水)13時46分20秒
市井ちゃんが遭遇したのは誰なんだろう?
こっちも続き楽しみです。
304 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月05日(水)22時38分37秒



彼女は、薄暗い明かりの中でも分かるぐらい青白い顔をしていていかにも病的な印象を受ける。
というか、生気が感じられないと表現すべきだろうか、
彼女からはまったく生きているという感じが伝わってこない。
長い闘病で疲れ果てているかのようにも見える。
それでも彼女は笑顔を絶やそうとはしなかった。

「そうだ、私は市井さやか。君は、名前なんていうの?」

「名前?……は、確か真希…だったのかな?」

私が問うと、彼女は一瞬、真顔になりなにかを思い出すかのような仕草を見せたが、
次の瞬間には好感の持てる笑顔でそう答えた。
305 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月05日(水)22時39分19秒

「真希か…いい名前だね」

名前を思い出そうとした仕草と、“たしか”と自分でも分かっていないような
彼女の発言が微妙にひっかかったがそう返す。

「ありがと」
「いやいや。それにしても、真希はよく迷わないね、私はここまで複雑だと迷っちゃうよ」

彼女が、病院中を把握しているかのようになんのためらいも見せずに
今まで私が迷いに迷った複雑な作りの院内を進んでいくので、私はちょっとなさけない発言をしてしまった。
真希は、私をじっと見る。
元来、こんな風に人から見つめられることは好きではないのだが、
なぜかあまり気にならない。不思議なヤツだ。

「あたしは、ずっとここにいるからね、いやでも覚えちゃったんだよ。どうせ、これからも外には出られないだろうし」

私の言葉に、彼女は、まるで日常会話の延長と言ったぐあいにそんなことを話した。
私は悪い事を口にしてしまったと思い反省する。
306 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月05日(水)22時40分28秒

どんなに技術が進んでも治らない病気というのは、
私たちが知らないだけでまだ少し残っているのかもしれない。

真希は……そういった不治の病と称される病気と長年、戦ってきたんだろう。
彼女の青白い顔と骨張った体は、その戦いの名残。

私の中に真希のことを少し痛ましく思う気持ちと、
彼女に対する発言にはいろいろと気を使わなければならないことがありそうだと、
彼女と距離を置こうとする自分が同時に生まれた。

そんな自分に気がついて無性に腹が立つ。

なにか話すべきだろうけれど、頭の中にうまい言葉は浮かんでこないし、
唇も制御を失ったかのように全く動かなくなっていた。
307 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月05日(水)22時41分57秒

「――そういえば、市井ちゃんは健康そうだけど、なんで入院したの?」

自分と違って、私は顔色も良いし健康そうだから、彼女はそう問うたのだろう。
真希の言葉がフリーズしかけた私の頭を溶かしていく。

「え?あっ、心臓が悪くてさ。まぁ、3日後に、移植手術受けたらすぐに退院できるらしいから…ま、健康といえば健康なんだけどね」

「3日後の手術?……ああ…そっか。それじゃぁ、元気になれるよ」

真希は相変わらず笑顔を浮かべていたけれど、何故か急にその表情が今までと違った物に見えた。
うまく言葉に表せないけど、辛いとか、悲しいとか、そう言ったマイナスのもののように……

そこまで考えて、私は、ハッとなる。

真希は、重病なんだ。
自分は3日後、手術をして目が覚めたらまた外に出られる身だけど…
彼女は、いつまでだっても外には出られない。
そういう彼女の哀しさがあの笑顔には含まれているんだ。

あまりにも違う立場にギュッと胸が締めつけられそうになった。

308 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月06日(木)17時32分09秒



薄暗かった廊下が、だんだんと明るくなって行く。
窓からも緑が見え出す。
ここで苦しんでいる患者とは裏腹に鮮やかに生き生きとした木々たち。
それを横目にだんだんと無口になっていく真希に不安を抱きながら私はなにか話そうと試みる。

「で、でもさ“バンク”がなかったら、私も危なかったんだよね」
「え?」

「ほら、移植できなくなるじゃん」

“バンク”とは、移植用臓器の全てを管理しているシステムのことだ。
そこで全ての臓器は製造・保管され、必要な人々に提供される。
臓器は、個人個人に合わせて製造されるので、他人から提供してもらう移植より、
遙かに拒絶反応が少ない。遺伝子技術が発達した結果の産物ともいえる。
昔は倫理がどうのこうのとかで色々もめていたらしいけど、
今では最も効率のよい治療法として浸透してしまった。

「バンクの管理下ではない臓器での移植は違法」

そんな法律ができるほど、公に認められている。

死人の臓器を移植させるくらいなら、いっそのこと遺伝子操作で人工的に作ったものを移植させたほうが、より倫理的ではないのか?

そういった意見が圧倒的多数を占めたからだ。
309 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月06日(木)17時32分54秒

「あ〜、そっか…そうだね」

真希は、曖昧に笑顔を見せる。

「ま、まぁ、そしたら真希とずっと仲良くできたりなんかしてね…はは」

私は、気まずい空気に飲みこまれてワケの分からないことを口にしていた。
真希は、そんな私を不思議そうに見ながら首を傾げる。

「仲良く?」

「そうだよ」

と、その時、遠くで人の声が聞こえた。
売店に近づいているというなによりの証拠だろう。

「…売店で何買おっかな〜、真希も行くだろ?」

無事に戻れたことにホッと胸を撫で下ろしながら、いつもの私の表情に戻って、真希に尋ねる。
尋ねるとは建前で、彼女は、絶対来るものだと私は勝手に思っていた。
しかし、予想に反して真希は首をゆっくり横に振る。
310 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月06日(木)17時33分44秒

「行きたいんだけど、私にもいろいろあるんだよね〜」

「え?…ちょっとくらいいいじゃん」

私は、あっさりと立ち去ろうとする彼女をひきとめようとした。
ひきとめれば来てくれると思った。

が、意外なことに真希は絶対に行けないと私の誘いを断る。

行かないじゃなくて行けない……それも病気のせいなんだろうか。
それ以上、聞いてはいけないような気がして私は仕方なく彼女と売店に行くことを諦めた。

「…わかったよ、じゃあここでお別れか…また明日会えるかな?」
「うん、会えるよ。市井ちゃんがさっきの所に来てくれれば」
「さっきって…あの暗いとこ?」
「そう。それじゃーね、バイバイ」

真希は、そう言って今来た道を引き返していった。
私は、というと真希の白い服が闇に飲み込まれていくのをただポカンと見送ることしかできなかった。

311 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月07日(金)23時34分40秒



次の日、私は、はやる心を抑えながら昨日、真希と会った廊下に向かっていた。

「けっこう、いい線いってると思うんだけどなー」

私は、薄暗い廊下を見回しながら呟く。
しかし、なにぶん方向音痴。
しかも、迷いこんで偶然たどり着いた場所……行こうと思ってもそうそう行けるものじゃない。

「まいったな……」

案の定、途中で行きづまってここからどうしようかと視線を廊下の先に向けたとき、
見覚えのある白い服が目に入った。
真希だ。どうやら、道はあっていたらしい。

「おい!ま…き?」

そう呼びかけて真希が1人じゃないことに気づく。白衣を着た男と一緒だ。
主治医なんだろうか……なんとなく出ていくに行けない雰囲気なのでしばらくその場で待つことにした。

男は、真剣な面もちで真希に向かってなにかを話している。
昨日あったときとは、まったく違う真希の表情。
やけに萎縮しているような感じを受ける。逆に男の方は妙に威圧的だ。
あんなのは医者には向かないヤツだな…などと私は思い、向く向かないは私が判断することじゃないかと苦笑した。
312 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月07日(金)23時35分22秒

そうこうするうちに、話が終わったのか男がその場を立ち去っていった。
真希は、律儀にその後ろ姿に頭を下げて、疲れたかのようにため息をついた。

いったい、どうしたんだろう?

そう思いながら、男とは逆の方向にうつむいて歩き出そうとした真希を慌てて呼び止める。

「真希!」

「……あっ!いちーちゃん!」

私の声に、真希は振り返る。さきほどの暗い表情とは違う明るい笑顔。

「ホントに、来てくれたんだ〜あは、ビックリしちゃった」
「市井は、ウソつかなーい」

私は、インディアンがするように片手をあげてみせる。

「…ホントだね。ありがと」

真希は、はにかむように笑って私の腕に自らの腕をからませた。

「お、おいっ」
「あっちに裏庭があるんだよ」

動揺して声が裏返った私を気にとめることなく真希は腕を組んだまま歩き出した。
313 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月07日(金)23時38分08秒



真希が連れてきてくれた裏庭は、そこが地下に半分埋まっている場所とは思えないほど一面に緑が溢れていた。
誰のためにこんな場所がつくられたんだろうと、私は一瞬思い、真希のような外には出られない病気の人たちのためだと気づいた。

「市井ちゃん、すわりなよ」

私がボンヤリしている間に、真希は手にジュースの缶を持ってベンチに腰掛けている。

「あ、うん」

答えながら、真希の隣に座る。
真希は、「はい」と私にジュースを差しだす。

「ありがと」

喉が乾いていた私はちょうどいいタイミングで渡されたそれを素直に受け取る。
口を付けるとオレンジの酸味が口中に広がり体がひんやりとしてくる。
真希は、そんな私を肩肘をついて楽しそうににこにこと見つめている。

「ん…な、なに?」
「ん〜、別に〜」
「なんだよ?」
「市井ちゃん、美味しそうに飲むな〜って思ってさ」

いっそう、目を細める真希。
よく考えたら真希はジュースを一本しか手にしていなかった。
飲めないのだろうか?
それとも、私が飲んでいるこれが真希のだったのだろうか?

314 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月07日(金)23時39分37秒

「真希も飲む?」
「え?」

私が、缶を差しだすと真希はすごく驚いたように目を見開く。

別にそこまで驚くようなことでもないだろうに……

私は、そんな真希をカワイイと思いながら半ば押しつけるように缶を手に握らせる。

「…あ…ありがとう……」

真希は、多少戸惑いを含んだ照れ笑いを浮かべた。
そこまで、照れられると逆にこっちが照れてしまう。
私は、それを悟られないように真希から視線を逸らして景色を見つめた。
やけにのんびりとした時間が流れる。こういうのも悪くない。

「ねぇ、市井ちゃん」
「ん〜?」

今まで私と同じように景色を見ていた真希が不意に口を開く。

「なにか話してよ」
「は?なにを?」
「なんでもいいんだけどさ……市井ちゃんが好きなこととかいろいろあるでしょ?」
「んー、なんかあるかなー。そんなたいした話できないよ」

人の話は聞くことは多いが、自分から話すようなタイプではない。
私は、なにか楽しい話題がないかと頭の中で考える。
315 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月07日(金)23時42分31秒

「なんでもいいんだよ、楽しくなくても我慢してあげるから」
「……失礼なヤツだな〜」

私は、そう言いながらもしつこく催促する真希に、入院する前のこと学校でのこと友達のこと家族のこと――思いつく限りのいろいろな話をした。
それに、真希は大げさに一喜一憂してくれる。
いや、ずっと病院で暮らす彼女にとっては大げさではなく本当に私の話が驚きの連続だったのかも知れない。

しかし、私は気分が良かった。
今まで、これほどまで話を食い入るように聞いてくれる人はまわりにはいなかったからだ。
友達と言っても所詮上辺だけだったのかもしれない。
それを当たり前だと思うようになったのはいつからだったんだろう。
ともかく、真希はそんな私が忘れかけていた本当の友達というものを思い出させてくれる。

私は、時間が経つのも忘れて真希と語り合った。
316 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月07日(金)23時43分16秒

しばらくそうしていると、不意に真希の胸ポケットから奇妙な音が聞こえた。
真希は、その音にビクッと反応する。
その顔から水が引くようにサーッと笑顔が消えていく。
私は、怪訝に思い

「…どうしたの?」

と問いかけた。

「あ……呼び出しみたい」

私と目が合うと彼女はムリに引きつった微笑みをつくる。
そして、立ち上がりながら

「ゴメン、もう行かなきゃ……案内しなくて大丈夫?」

と、言った。

「大丈夫だよ」

私は、笑顔で答える。真希に余計な気を使わせたくなかった。
317 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月07日(金)23時44分23秒

「そう……それじゃ、ゴメンね」
「あっ、明日も会えるかな?」

その場を立ち去りかける真希の後ろ姿に問いかける。
と、真希は振り返って曖昧な表情を浮かべる。
その表情に私は余計な一言だったかなと思って返事を待たずに言葉を続ける。

「いや…ムリだったらいいんだ…うん」
「違うよ……明日も大丈夫。今度は、私が市井ちゃんの部屋まで行ってあげるね」

「え?でも、お前」

「大丈夫だから、それじゃーね」

私の声を振り切るようにして真希は走り去った。

大丈夫って――
昨日は、絶対行けないって言ったじゃないか……

私は、言えなかった言葉を口の中で呟いて、自分の病室に戻った。



その夜、夢を見た。
朝起きるとその内容は忘れてしまっていたが、私の頬はなぜか濡れていた。

……それは、予知夢だったのかも知れない。

318 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月08日(土)22時07分19秒



「あら?今日はちゃんと病室にいるのね」

私が、部屋で真希を待っていると看護婦さんがそう声をかけてきた。
そういえば、安静にしていろと言われていたのに、安静にしていなかったな…と私は苦笑する。
まぁ、とくに不調を感じなかったから気にすることでもないか。

「友達を待ってるんですよ」
「友達?」
「ええ」
「そう、それはよかったじゃない。でも、あんまり出歩かないようにね、明日は手術なんだから」

看護婦さんは、しっかり釘をさすと部屋から出ていった。
それから、数分後

「市井ちゃん、お待たせ」

と、入れ替わるように真希が私の病室に飛び込んできた。
いつもの白い服に笑顔が眩しい。
319 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月08日(土)22時09分12秒

「おっそいよ」
「あはっ、ちょっと寝坊しちゃった」
「まったく…」

「ごめんね……それよりも、売店に行こ。この間あたし行けなかったから、最後くらいさ」

「え?」

真希は、私の答えも聞かずに半ば強引に歩き出した。
真希の力は強く、とうてい私は叶わない。
袖をつかまれたままずるずると引きずられていく。
誰かの見舞いに来たと思われる花束を持ったおばさんがそんな私を見て楽しそうに微笑みながら通り過ぎていく。
いつもなら恥ずかしさが勝つだろうが、私の思考はそんなことよりも先ほどの真希の言葉で止まっていた。

最後とは…どういうことなんだろう?

「おい…最後っていったいどういう……っ!?」

私の質問よりも先に真希が急に止まった。
それから、私を見つめる。
320 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月08日(土)22時12分23秒

「ねぇ、市井ちゃん」
「な…なに?」

やけに真剣なその面もちに動揺を隠せない。

「さっきのおばさんの持ってた花の名前知ってる?」
「え?」

もっと大変なことを打ち明けられるのかと思っていた私は肩すかしを喰らった気分になる。

さっきのおばさんの持ってた花だって?

私は、おばさんの歩いていった廊下を振り返る。
微かに黄色いものが見えたが、よく分からない。

「さぁ、知らないよ」
「そっか…けっこう、キレイだったんだよ」

真希は、少し残念そうな顔をしてみせる。
そんなにキレイだったかなと私はすれ違ったときのイメージを思いだそうとする。
思い出せれば、花の名前ぐらい分かるかもしれない。
真希に教えてあげられるかも知れない。そう思った。
だけど、それはうまくいかない。

「もしかしたら、売店に売ってるかもしれないよ」

私がそう言うと真希は嬉々とした表情で「そうだね」と答えた。
その顔を見て、さっきの真希の言葉が頭から消えたワケではないが、今はおいておくことに決めた。
楽しそうな真希の笑顔が曇るのを見たくなかった。

――だけど、そんな私の思いはすぐに打ち砕かれることになる。
321 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月09日(日)10時01分42秒



売店まであと少しだった。

その時、昨日、真希と話をしていた男が私たちの正面から歩いてきた。
ビクンと、真希の体が強ばったのが分かる。
男は、少し遅れて私たちの――というよりは、真希の姿をとらえた。
真希は、男から視線を逸らし私の方を見る。

「市井ちゃん、先に売店行っててくれる?」
「え?でも…」

「すぐ行くから」

傍にいてやりたかったが、拒否することのできない響きの声だった。
男は、なにも言わない。私は、仕方なくその場を離れた。
だけど、売店には向かわず廊下にあるベンチに腰掛ける。

あの男は、いったいなんなんだろう?
どうして、真希はあの男を見るとあんなに萎縮してしまうんだろう?
あの男は、本当に主治医なのか?

考えていくうちに、今まで気にとめていなかった疑問が沸き上がってくる。
322 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月09日(日)10時04分05秒

真希は、病気のために隔離されているんだろうか?

私は、てっきりそう思いこんでいた。
だから、あの薄暗い廊下や庭のこともそんなに不思議に思っていなかったんだ。
でも、男の反応を見る限り、真希は隔離されているわけではなかったようだ。
さっきの「最後だから…」という言葉も分からない。

なぜ、彼女はあんな言い方をしたのか――
明日、私が手術するからもう会いに来ないと思ったのかもしれないけど、それでも引っかかる。

それに、私は真希に病室の場所までは教えていないはずだ。
ならば、なぜ真希は今日私の病室まで来ることができたのか?
病院内を把握しているからとはいえ、一個人の病室を調べるなんて普通の患者にはムリだろう。


真希は、いったい何者なんだ?


「市井ちゃん!」

私が、そこまで考えたとき真希が走って私の元にやってきた。
そのまま隣に座る。
323 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月09日(日)10時04分59秒

「もう話は終わったの?」
「……っていうか、ゴメン」

私の言葉に、真希は、申し訳なさそうに頭を下げた。
それだけで、彼女の言いたいことは分かったが念のため尋ねてみる。

「なに?どうしたの?」
「あたし、やっぱり売店行けなくなっちゃった」

心底、がっかりしたような声。
真希の意志ではないらしい。となると、さっきの男の指示か。
男が主治医だとしたらその言葉は絶対だろう。

でも――

「さっきの人になに言われたんだ?」
「うん……部屋に戻ってろって」
「……そうか」
「ゴメンね、もうあたし戻らなきゃ」

真希は、このあいだと同じように私を置いて立ち上がる。

「待ってよ!」

慌てて手を伸ばして彼女を引き留める。
なにか言わなければ真希は行ってしまう。
そんなことはないだろうけど――なぜか、このまま彼女と会えなくなるような気がした。
焦れば焦るほど、私の口からは言葉が出てこない。
324 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月09日(日)10時06分18秒

「市井ちゃん……もう行かなきゃ」

真希は、困ったように眉を寄せる。
こんな顔が見たいわけじゃないのに。

「あの…あのさ」
「…ん?」

「また、あそこに行けば会えるよな?」

必死で考えてでてきたのはいつもの約束だった。
でも、私の不安を解消してくれる約束。

笑って「当たり前じゃん」って言ってよ、真希

私が縋るように見ていると真希は今まで見たことの無いようなマイナスな笑顔
――いや、以前にも一回こんな表情を見たことがある――を一瞬、浮かべ、
それからいつものようにキレイに微笑んだ。

「明日も会えるよ」

「明日?でも、明日は私、手術だよ」

私は、彼女のとぼけた回答に緊張がほどけて笑った。
しかし、彼女は冗談を言ったつもりではないのか笑っていない。

そして、これもまた日常会話の延長のような口調で言葉を続けた。


――人には“聞かなければよかった”とあとから思うことが多々ある。

――私にとっては、まさにこの時がそうだったのかもしれない。

325 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月09日(日)23時01分13秒

「次に会う時は手術室でだよ。まぁ市井ちゃんは麻酔で眠ってるだろうけど……
 あっ、でも、あたしの命は終わっちゃうから…それは、会うって言わないのかな?」

真希の声ははっきり私の耳に届いたけど、彼女が発した言葉の意味は全く理解できない。

イマ、カノジョハナンテイッタ?

次に会う場所は、手術室だとそう言ったはずだ。

それは彼女が医療職についているからから?
そんなわけない。彼女は入院患者だろ?

じゃぁ、どうして真希が手術室に?


――次に私と会ったら…真希の命が終わる…のか?


手術室で……真希と、会ったら……彼女は、シヌ?

326 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月09日(日)23時02分24秒

私は、無意識のうちに胸に手をやっていた。
薬が切れたんだろうか。痛みの治まっていた胸がドクンドクンと疼きはじめた。

まるで、気がついてはいけないことだと、体中の細胞が訴えているかのように――

そんなこと、あるはずがない―――――いや、あってはならないんだ。

こんなこと考えるなんて私は、オカシイ……

――アリエナイ

――アリエナイ

でも、

もしかしたら――――――


二つの考えが私の頭を破裂させようとしている。
327 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月09日(日)23時07分26秒

さっきみたいに真希の顔を見つめることが、もう出来なくなっていた。
見てしまったなら、きっと、私はワケの分からない恐怖に駆られて逃げ出してしまう。
永遠に彼女から背を向けてしまう。

「市井ちゃん、大丈夫?」

真希の声がエコーを帯びて聞こえる。
私の今の表情は、きっと死人のようになっているだろう。
当たり前だ。
今までつくりあげてきたいつもの明るい自分なんて……彼女の前で、もう作れるはずがない。

「…顔色悪いみたいだけど…平気だよね。ちゃんと、明日、私が助けてあげるんだから」

真希はそんな私の表情を見てとても心配そうに言葉をかける。

彼女の優しい心配り。

だけど、それは私にとって、死刑宣告を読み上げるのと同意だ。

私の中で葛藤していた、最悪の考えが最悪の事実となった最悪の瞬間だったから。


―――――真希が命を失う理由は、私が彼女の命を奪うからなんだ―――――

328 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月10日(月)23時01分42秒

冷たい汗が背筋を伝う。
私は、理性を総動員させて、ともすれば、気を失いかけそうになる状況をこらえる。

……………まてよ……でも、おかしくないか?
人からの臓器移植は法律で違反とされているはずだ。
それなのに、彼女の臓器を私に移植するのか?
それじゃあ、ここは病院が一丸となって違法を行っている、とんでもない場所になるじゃないか。

私の中でふつふつと怒りがこみあげてくる。
ありきたりの正義感なんかじゃない。彼女が命を失う理由に納得がいかないからだ。

人の、それもまだ生きてる人からの臓器移植なんて――

「…真希、なんでお前が臓器の提供者なんだ?」

自分じゃないようなかすれた声。
真希は、「んーとね〜」としばし考えるように視線を上に向けてそれから口を開いた。

「市井ちゃん、バンクの話してたから知ってるのかと思った。
 なんか、あたしたちって…染色体が24対48本あるんだって。
 だからみたいだよ…って、まぁ、あたしにもよく分かんないんだけど」

真希がそう言って「えへへ」と照れたように笑う。
私は、彼女の言葉に頭をがんと鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
329 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月10日(月)23時05分21秒

染色体が、24対48本…………
そんな人間は…この世には存在しない、否、存在してはならない。
それは、神への冒涜によって作り出された……不自然な生物だから。

私は、真希の言葉の意味をしっかりと受け止めれずにいた。
受け止めてしまうことに全身が拒否反応を示していたし、
彼女の話す内容は、あまりにも普段の自分のなまぬるい生活とはかけ離れた世界の話で混乱していた。

――だけど、

時間の流れは残酷で、徐々に徐々に私の頭の中で物事が昇華されていることに気づいた。

「今日はさ〜、最期だから院内を散歩したかったんだ」

真希の話を聞いていくにつれて、嫌なくらいに頭が冴えてくる。

真希は人間ではない。

ヒトに――

私に適合されるように出来た存在であること。

移植治療のためだけに存在し、命を落としていくこと。

「バンク」

国民がその呼び名を知っていても、その存在は認められていないということ。

人の命を助けるために…人が死んでいく。
でも、彼女自身、命を失うことには何の関心も示していない。
きっと、誰からも「死」ということを教えられなかったのだろう。

彼女たちにとっては、必要のないことだから……
330 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月10日(月)23時06分16秒

――人間のエゴ

私を助けるために、真希が…殺される。

そんなことが許されていいわけない。
私は、立ち上がりながら強く真希の手を引っ張って怒鳴るように言う。

「とにかくここから逃げるよっ!!!」

「…どうして?明日、手術なんだよ」

真希は、キョトンとした顔をする。

「何のんきなこと言ってんだよ!?真希は生きたくないわけ?私のせいで…殺されるちゃうんだよ!?」

「……市井ちゃんの言ってることはよく分かんないよ。
 だって、誰かの役に立つのなら、命を捨てでも実行すべきでしょ?」

真希は、首を傾げる。
当然のようにそんなことを言う彼女に私は唖然となった。

彼女は、自己犠牲の倫理を刷り込まれながら育っていた。
自分が傷ついても、他人を助けることが当然のことだとそう誰かに教えられてきたのだ。

臓器提供のためだけに作られた存在だから……
ただひたむきに誰かのために――
331 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月10日(月)23時09分12秒

「真希……それは違うよ」

そんなひたむきさを、羨ましいと思う自分がどこかにいた。
だから、私は彼女に惹かれたのかもしれない。
科学の発展や技術の進歩、それが私たちから確実に奪っていくものを、
真希はちゃんと持ちつづけていたから。

純粋なまま生きているから……

私は、真希の頬に両手を添え、彼女の目を真っ直ぐ見つめた。

「真希が死んだら、私は涙が止まらなくて困るよ」

「市井ちゃんは私が死んだら泣いちゃうの?どうして?
 他の人は、みんな私が傷ついたら笑ってくれてたのに……」

「私は、真希と友達になりたいんだよ。だから、私のせいで真希がいなくなるなんて……死ぬなんてイヤだ」

言っていて涙がこぼれ落ちた。
本心からの言葉。
誰かに聞かれたら、きっと私らしくないと言われるだろう。

でも、それでもいい。
彼女にだけは、見せられたんだ。

私が、閉ざしていた心の奥を。
332 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月10日(月)23時10分05秒

真希は目を丸くして驚いていたが、やがて、あたしから視線を逸らすように目を伏せ口元だけで微笑む。

「市井ちゃん…ありがとう。そんなこと言ってもらうのはじめてだけどうれしいよ。だから――」

彼女の言葉を最後まで聞く前に、私は自分の心臓が暴れ始める合図を待っていたことに、
無理矢理気付かされた。ひどい激痛が身体中を駆け巡る。

「ま・・・き・・・・・?」

私は、信じられない思いのまま廊下に倒れこむ。
暴れさせる合図を送ったのは、真希の手の平だったからだ。
彼女が、私の心臓の痛みのスイッチに狙いを定めて思いっきり押した瞬間、
合図を待っていた私の心臓が暴れ始めた。
333 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月10日(月)23時11分42秒

「ドクター、来てください!」

そう大きな声ではないが、人を呼ぶのには充分な声量で、真希が声をあげる。
私は、廊下に這い蹲ったまま彼女の後ろ姿を見る。

真希の声に、気がついて走ってくる白い服とさっきの男。

私は、薄れいく意識をひきとめることに精一杯になっていた。
目に汗が入って視界が霞む。焦点が定まらない。
彼女が傍にかがみ込む気配がした。
ふわっと私の手を握ってくれる。温かくて安心する。

このままこうしていられるような気さえしてくる――なのに、それなのに、
私の耳には聞きたくなかった悲しい言葉が聞こえてきた。

「――だから、その言葉だけで十分なんだよ。こんなことして、ごめんね。
 でも、あたしが助けるから安心して眠ってていいよ」

その言葉をきっかけに…私の意識は薄れていった。
最後にもう一言真希がなにかを言ったような気がしたが、私の耳にははっきりと届かなかった。
334 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月11日(火)23時19分37秒



意識を失った市井ちゃんの容態を、ドクターと女の人が総出で調べていく。
それから、少し難しい顔をして深い溜息をついた。

「緊急オペだ。幸い、臓器はそこにあるしな」

あたしは市井ちゃんの手を握ったまま男に尋ねる。

「市井ちゃん…助かるよね?」

自分のことを本当の人間として扱ってくれた、たった一人の人間。
その人の命、それだけが心配だった。
自分の命のことなんて考えたことも無かったから、命が大切だなんて一度も思ったことはない。

でも、この人の命は大切な気がする。

「お前は何も考えなくていい、これで、役目は終わりだ」

男の人が、あたしを市井ちゃんから引き離すと手錠をかけた。
暴れる気はないのに拘束具までつけられて全ての自由を奪われる。

――ガシャン

その非常な機械音が、最後に与えられた自由の時間の終わりを告げるものになった。

335 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月11日(火)23時21分04秒

      ※               ※

あたしたちはきっと世界中の人たち救うために生まれてきたんだ。

そう考えないと、怖くて眠れなかった夜がある。

“真希”という名前は、小さい頃あたしたちのお世話をしてくれていたおじいちゃんが特別につけてくれた。
他にもあたしと同じ年くらいの子たちがいたけどおじいちゃんは、特にあたしには優しくしてくれていた。
あたしが、ちょっとだけ他の子たちよりも感受性が強かったからなのかもしれない。

「こんなにいい子なのに、名前がないなんて、可哀想にな」

そうあたしの髪を撫でながら悲しそうな瞳でつけてくれた名前だった。

やがて、長い時間がたって急におじいちゃんがいなくなった。
その代わりに来た人は、とても意地悪な人で、あたしが自己紹介をすると顔をしかめて

「お前たちにそんな中途半端な倫理観はいらないんだ。いいか?そんなものは捨てるんだ」

と、冷たく言った。

だけど、どうしても捨てきれられずに、とっておいた名前。
そのおかげで、市井ちゃんに変な目で見られずに話すことが出来た。
336 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月11日(火)23時23分07秒

あたしは、別に自分が死んでしまうことにたいしてなんとも思っていなかったんだ。

だって、それが当たり前だから。

今までだって、いろんなとこを取られて来た。
今回は、心臓っていうとこだっただけで……
それがなくなっちゃったらあたしが死んじゃうこと以外は別にいつもと変わらない。

ただね、市井ちゃんはあたしが死んだら悲しいって言ってたから少し気になるんだ。
ほんとに少しだけど、市井ちゃんがそう言うなら一緒に逃げてもいいかなって一瞬だけ思ったの

……でも……でもね、市井ちゃん。

ここであたしが市井ちゃんと逃げちゃったら……
今までのあたしのやり方を通さなかったら……

あたしが今まで生きてきた価値が、なくなっちゃうんじゃないのかなぁ?って、そうも思ったんだ。

あたしは、隣に眠っている市井ちゃんに声をかける。

「……だから、最後に助ける人が市井ちゃんであたしは嬉しいんだよ」


あたしの意識は、暗い闇に閉ざされた。

337 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月11日(火)23時30分43秒
号泣…
そんなのいやだよ
338 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月12日(水)10時34分53秒

10

――昨日と同じ天井が目に飛び込んでくる。

「経過は良好ですからすぐにでも退院できますよ」

寝起きがあまりよくなくていつもぼーっとしているのに、今日は嫌なくらいすっきりした目覚めだった。
私の脳裏に焼き付いた記憶。

全てが夢だったらいいのに――
長い悪夢を見ていたんだと…………

そう思いたかった。

医者は、柔らかい笑顔を浮かべていたがロビーにいた患者と同じように目だけが笑っていない。
それが、事実を物語っている。
私が、真希のことを誰かに漏らさないか不安なんだろう。
私は、どうすべきなんだろう。
このまま彼女のことを忘れてしまったほうがいいのかもしれない。

…それでも、真希のことを尋ねずにはいられなかった。

「……そんな子知りませんよ」

返ってきたのはそんな冷たい言葉だった。
これ以上、深入りするなという警告なんだろう。
深入りしたくても、真希はもういない。
私のせいで彼女はこの世からいなくなってしまった。

「お大事に」

医者は、それだけ言うとさっさと部屋を出て行く。
でも、そのほうが今の私には都合が良いから、別に気にならない。
339 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月12日(水)10時35分44秒

「真希…ごめんね…」

いなくなってしまった彼女に向けるように心臓に手をあてて呟いてみる。

こんな風に、誰かに臓器を与えるためだけに生かされている人は、沢山いるのだろうか?
ずっと何も知らされず、役目を果たすその時のために、人工的に産み出され生かされて。

でも、真希は人間だった。

私なんかよりよっぽど彼女のほうが人間らしかった。
それなのに、結局、彼女には何も残らなかった。
真希はただの治療器具としてだけしか生きられなかった。
結局、私は無力で何も出来なかったんだ。
340 名前:マリーゴールド 投稿日:2003年03月12日(水)10時36分39秒

こんなことなら、真希と出会っていなければよかったんだろうか?

あの時、“安静にしていて下さいね”というナースの言葉を忠実に守っていれば、
私は苦しまずにいられたんだろうか?

そんな思いが頭の中を駆け巡る。
なにも知らなければ――今さら、そんなことを考えても仕方ないのに。

私は真希の命を奪った、そして、彼女はそれを当然だと考えていた。
その事実は、決して変えられない。

そう考えると泣きたくなった。
でも、私の涙は枯れてしまったかのように一滴も出てこない。
悲しくて辛いという気持ちは、もちろんある。
だけど、それ以上に、こうして――真希の命を奪ってまで――生きていることが
腹立たしいという気持ちの方が大きかった。
じっとしているのがたまらなく苦痛になって、私は病室を抜けだしていた。

胸が痛むのは……きっと、手術の傷が原因だけではないだろう。
341 名前:七誌 投稿日:2003年03月12日(水)10時47分43秒
あと一歩ってところで容量オーバーキタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
さて、どうするか。
某掲示板じゃないから死にスレなんてないし海の方に一瞬だけ入れようかな。
っていうか、そうします。容量考えて話つくれっていう声が聞こえてきます
分かりにくくなって申し訳です<(_ _)>


342 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月12日(水)18時03分59秒
( ´ Д `)んぁ・・・・・・お疲れ
343 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月13日(木)09時10分50秒
海のほうから見てこのスレの話制覇しました。
号泣 ・゚・(ノД`)ノ・゚・。させておいて途中のアホ話で笑わせて
七誌さん、本当によく話を考え付きますね〜すごいです。
海の本編も期待してます。がんばってください

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