かぼちゃ。

1 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年09月25日(水)01時54分03秒

ふと目が覚めると部屋の中はまだ薄暗かった。
カーテン越しに差し込む光はとても弱く、時間を見るのにも一苦労。
針の部分が蛍光加工されているといっても、数字の部分が見えなけ
れば、あまり意味がないんだということに気付いた。
一生懸命眠い目を擦りながら、今の時刻を確認する。
でもやっぱり無理なものは無理で。見えないものは仕方ないわけで。
目覚まし時計をクッションがあると思われる位置に投げ捨てて、近
くにおいてある携帯で時間を確かめた。

「……まだ5時…?」
あまりの突拍子もない時間が表示されていて、私は一気に脱力した。
そのまま、ばふっと音を立てて枕へと沈む。
2 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月25日(水)01時57分07秒
「緊張してるのかなぁ…」
うつ伏せで寝ていた私は携帯を枕元にある充電器に差し込み、体勢
を仰向けにしてから再度布団をかぶった。
もう眠気は覚めてしまっていて。仕方なく上を眺めながら、ふと考える。
普段は真っ白な天井が、外の光と微妙な暗さが混ざって青くなっていた。

(いじめられたりなんて…しないよね…)
頭の中でまだ見ぬクラスメイトたちに体育館裏へ連れて行かれてい
る場面を想像してしまい、首を振ってそんな考えを打ち消す。

じわりじわりと、よくわからない不安に駆り立てられていくような気がした。
この世界に存在するのは私一人だけで、今ここで叫んだとしても誰
も助けに来てくれないのではないだろうか。
きっと何かのマンガや小説を読みすぎたんだろう。そんな絶対あり
えない非現実的な世界に、私一人だけが迷い込むことなんてありえ
ないのに。
寝ぼけているからそんな空想が頭の中で好き勝手に暴れているんだ。
無理やりそう結論付けて、布団を頭まですっぽりとかぶせ、目を閉じる。
3 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月25日(水)01時58分03秒
一人でいるのは怖くない。
だけど、一人だけで何かをするにも、限度がある。

例えば家族。
血の繋がった人間が二人以上存在していることを前提に成り立つ関係。
たった一人ではどうしても手に入れることができないもの。

例えば友達。
これは、人が二人以上存在していることを前提に成り立つ関係。
たった一人じゃどうしても手に入れることができないもの。

例えば…例えば、恋人。
人が二人以上存在していて、なおかつお互いを大切に想いあう気持
ちがあってこそ成り立つ関係。
私にはきっと一生手に入れることができないもの。

別に彼氏なんかが欲しいわけじゃない。
愛情に飢えてるわけでもない。
敢えて言えば、私には出来ないそんな相手を作れる人たちが少しだ
け羨ましいといったところだと思う。

一人でいるのにも、限度があるんだ。
4 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月25日(水)01時58分47秒
「はぁ〜…」
知らないうちにため息をついていた。
これから自分はどうなっていくんだろう。
明日から通う新しい学校は、私にどんな影響をもたらすんだろう。

やっと眠気がやって来て、
私は自分でも気付かないうちに、深い眠りへと沈んでいった。
5 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年09月25日(水)02時05分37秒
初の投稿、初の更新作業終了。
川;・-・)<た、多分完璧です…。

初めまして。挨拶遅れました名無し@かぼちゃです。
アンリアルで主役は紺野さんで書いていこうと思います、ハイ。
書く速度がのろのろしてるんで更新遅いと思いますが、
よろしくお願いしまっす。

ええと、できればsageでよろしくーです。
6 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時22分38秒
■1.かぼちゃたおる。■

授業終了のチャイムが鳴った。


「ばいばーい!」
「…あ…はい。さようなら…」
急な挨拶に思わず同い年のクラスメイトということも忘れて一礼してしまった。
クラスの人たちは結構友好的だった。私にもバイバイなんて声をかけて、
一人またひとりと教室を出て行く。
担任の先生も良い人だったし、転入初日にしてはうまくいった。
ただ唯一気になることといえば、先生がHR中いきなり大きな声で
奇声をあげたり、たまにやけに片言の日本語を喋りだしたり、
語尾にYO!YO!をつけるぐらいだろうか。
クラスの人たちは慣れたようにそんな先生を見ていたけれど、その
光景が私からすれば異常な感じだった。
まぁそれさえ除けば授業の内容だって北海道の学校と進み具合が同
じくらいだし、簡単に付いていけそうで、本当に良かったと思う。

(さて…)
これから、どうしようか。
教室掃除のために、椅子を机にあげながら放課後の予定について考える。
学校を案内してくれると申し出てくれた人もいた。でも私はそれを
全て丁重にお断りして、結局一人で探索することにしたのだ。
7 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時23分45秒
孤立しない程度に付き合って、でも、一人でいるほうが楽。
そんな風に逃げてばかりいてもダメだと、ちゃんとわかっているけれど。

取り敢えず、教室の中でいつまでもぐずぐずしている暇はない。
箒を持った女子が何人か話し込んでいるのを横目に教室を出た。
廊下は込んでいて、通るのが面倒くさそう。教室の扉付近で座り込
んでる生徒がいたり、会話をしていて歩みが遅いグループが道を塞
いでいたりするからだと思う。
あまりの人の多さに何だか眩暈がした。
玄関へ向かう道は何処も混んでいてまったく動きそうもない。
どうせ学校内を探索するつもりだったしちょうど良かった。
私はその場で踵を返して、反対方向へ進んでいくことにした。

だんだんと人気がなくなっていく。
この道は、何処へ続いているんだろう。
8 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時24分43秒
――――――――――――――――――――――――――――――

 「…おねえちゃん」
 私がそう呼びかけると、お姉ちゃんは綺麗な髪を揺らしながら振り向いた。
 お姉ちゃんの後ろにはお父さんもお母さんもいた。

 私は、お姉ちゃんやお母さんとは血が繋がっていない。
 小さい頃本当のお母さんは病気で亡くなって、お父さんが再婚した相手。

 ただでさえ普通の家庭とは違ううちの家。
 そのことで幼かった私は色々言われて、何度も泣いていた。

 今じゃもう、泣く気力さえ…、

――――――――――――――――――――――――――――――
9 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時27分35秒
はっと気付いたときには、もう周りの景色が変わっていた。
どうやらここは体育館へと続く外の渡り廊下らしい。
今日の授業内容といい、今といい。私はよくボーっとしていて全然
内容を覚えてないことが多々あって困る。
結局何処をどう歩いたのかはわからない。だから唯一わかることは、
探索といって校内を歩き回っていた意味が、結局なかったというこ
とだった。

後ろを振り返ってみると、曲がり角やら別校舎に入る玄関やらで色
々な道が入り乱れていて、来た道がまったくわからなかった。
仕方なく廊下を歩き続けていると、いくつかの更衣室の扉が見えた。
一番奥まで行くと、屋根はなくなり空が見えた。眩しい太陽の光に
目を細めながら、最後の扉、目の前で聳え立つその入り口のプレー
トを見た。
10 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時28分19秒
『プール入り口』

「…プールかぁ…」
特に興味もなかったので、私はそこで引き返すことにした。
光を遮るために上げていた左腕につけられた時計を見て、もうすで
に、掃除も終わっているような時間帯になっていたことに気付く。
もうそろそろ帰ろうか。そう思い、後ろへ振り返って数歩歩く。
しかしすぐに立ち止まって私は考え込んでしまった。

「……どうやって帰ればいいんだろう…」
どこからか聞こえてくる水音だけが、静かな廊下に響いていた。
11 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時29分14秒


   □   □   □   □   □   □   □

12 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時32分11秒
鉄の門が、キィッ…と音を鳴らした。
シャワーはさすがに止められてはいたけれど、床が水で濡れていて。

(やっぱり、誰かが使ってる…)

予想は確信へと変わった。
私は靴下と靴を門の側に脱ぎ捨ててゴムのような緑色の床に一歩踏み出す。
身長よりも高い壁の向こう側から、バシャバシャッ、と水音が聞こ
えていたのだ。
すぐに薬の入った浴槽が目の前に広がる。
多分その水槽の真ん中は膝辺りまで入るんじゃないだろうかと思う
ほど深そうで、スカートが濡れないようにまだ浅い端の階段部分を
通って、角を曲がった。

やっぱりプールを使用している人間がいた。
今まさに泳いでいる真っ最中のようで、向こうから5m地点から、
こちらの方へ移動するように水飛沫をあげている。
泳ぎ方は遠目でもわかる綺麗なバタフライ。水をかきあげ、また水
の中へ飛び込む時の勢いで、水飛沫があんなにもあがっているんだ
と冷静に観察する。
13 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時33分21秒

「…すごい、速いなあ…」

帰り道を聞こうにも、泳いでいる人間相手ではどうしようもなく。
仕方なく、泳ぎが終わるまでその場で立ち尽くしていると、急に冷
たい風が吹いて、スカートがパタパタとはためいた。
乱れる髪を押さえながら周りを見渡す。
こんな時期に泳ぐということはやはり水泳部か何かの活動なんだろう。
周りには他に誰もいなかったのが少し気になった。

太陽の光が差し込んでいても風は冷たい。
特に今日は朝から気温が低くて、天気予報士もそのことについてコ
メントをしていたぐらいだ。
そんな秋の日に好き好んで水に入るなんて、よっぽど泳ぐのが好きなのか。
どちらにしろあまりまともな考えをしている人とは思えなかった。
そんな人に関わらなければならないのかと思うと自然とため息が出る。
ふと、プールのほうへ視線を向けた。
14 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時34分39秒
ちょうど良いタイミングに水音は止んでいた。
水面から上げられた顔が、頭を横に振って水飛沫を飛ばす。
泳いでるときはカッコ良かったのに、水が器官にでも入ったのか、
飛び込み台に手を突き、俯いて咳き込んでいる姿がカッコ悪かった。

「ごほごほっ…げへっ…あ、あれ?帽子どこ行った…?」
必死に帽子を探している彼女の顔を見て、同い年くらいなのかなと思った。
すぐそばで立っている私に気づいた様子は全くなく、振り返って水
面をじっと見、しきりに首を傾げている。

あぁ、確かにバタフライって帽子脱げ易いもんね。

探してあげようかと思って彼女の真後ろ、つまり飛び込み台のとこ
ろに立って同じように水面を一応眺めてみる。
15 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時36分13秒
「あ」
一言だけそう発したんだと思う。
彼女は水の中へ潜り、壁を蹴ってすごい水飛沫を上げながら華麗な
クロールでプールのど真ん中へと進んでいく。
すごい水飛沫を上げながら華麗なクロール。
もちろん彼女の真後ろにいた私にその水がかかるわけで。

「…ぷはぁっ……あ〜、よかったぁ。新調したばかりなのに早速失
 くしたとか言ったら、怒られ…」
嬉しそうに黒いスクール帽を片手に彼女はこっちを向く。
一時停止。

「………」
「………」
お互い見つめあったまま数秒。
やっと彼女も私の存在に気づいたようだった。
同時に私が水浸しな理由も察してくれたのかどうかはわからないけ
れど、彼女はプールサイドまで泳いでさっさと上にあがった。
スクール帽を片手に濡れた前髪をかきあげる。
16 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時36分57秒
…やっぱり、カッコ良いかもしれない。
一瞬怒りも忘れてそんなことを考えてしまった。

そんな私の考えてることなんてつゆ知らず(当たり前)、学校指定の
スクール水着を身に纏った彼女は、目の前へとやってきた。
少しキツそうな目つき。
それが自分の泳いでる姿を見られていた怒りのためか、元からそん
な目つきなのか、今の私には判別しにくかった。

『あの…』
別に私は悪くないとは思うけれど、その一言が中々言い出せなかった。
金魚みたいに口をパクパクさせたまま、その場で立ち尽くす。
彼女は彼女で視線をこっちに向けて微動だにしない。

「…えっと…あのさ」
先に動いてくれたのは彼女だった。
もう少し近くまで寄ってきて申し訳なさそうに話しかけてきた。
17 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時37分51秒
「とりあえず何か用?」
「……あ、ええっと」
少し気まずい雰囲気の中、私は素直に今の状況を話すことにした。

「…迷っちゃって」
「……へ?」
間抜け顔。
彼女の表情が一気に崩れ、お腹を抱えてその場にうずくまったかと
思うと、大きく笑い声をあげ始めた。

「…な、なんで笑うんですか…」
少しムカッとした。
自分だって泳いだあと咳き込んでたくせに。
…いや、今それは関係なくて。

「だ、だって迷ったって…何?方向音痴なの?」
「……違います。初めてだから、道がわからないんです」
「? 何それ」
急に笑い声を上げるのをやめ、真剣な顔で立ち上がって首をかしげた。

「…あ、転入生とか?」
「…何か悪いですか?」
思わずムッとした返事になってしまった。
でも彼女は気にした様子もなく、納得顔で頷いた。
18 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時38分46秒
「なるほど、それじゃあ迷っても仕方ないじゃん。先に言ってくれ
 れば良いのに」
「……こっちが何か言う前に笑ったくせに…」
小さくつぶやいたその言葉は彼女の耳には届かなかったらしい。

「どこ行こうとしてんの?校舎?玄関?」
「…玄関で良いです」
「それじゃ、あっち」
玄関があるらしい方向を指差そうと腕を上げると、少量の水が飛び散った。
今更そんな水は気にもならなかったけれど、普段の私ならしないよ
うな嫌味をこめて、頬に付いた水滴を拭き、そっちを見る。
私の行動を見て気付いたのか彼女はごめんと一言謝って、
詳しい道を教えてくれた。

「…ありがとう…ございます」
まだ笑われたことに対しての怒りが残っていた私は、一礼をしてさ
っさとその場を去ろうと玄関のほうへ振り返る。
不意に彼女の声が聞こえてきた。

「あのー…さ」
まだ何かあるのかな。
多分不機嫌丸出しになってる顔を彼女へ向ける。
19 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時39分56秒
「名前なんていうの?」
「…聞いて、どうするんですか?」
「いや、えーと…別に、どうもしないけど」
「……紺野あさ美です」
「そっか」
普通、人に名前を聞くときは自分から名乗るものじゃないだろうか。
道を教えてもらった恩もあるから一応こっちから先に名乗ったけど、
そっちも名前を教えるのが礼儀のはず。

「名前、なんていうんですか?」
「あ、小川麻琴」
「おがわ、まこと…」
「そう。まこっちゃん」
礼儀知らずのまこっちゃん、と。
そんなフレーズが頭を過ぎって思わず頭を振った。
何だかこれでは私がとても嫌味な奴みたいだ。
普段ならこんなこと思わない。こんな酷いこと、考えない。
普段なら、

(…こんなの、簡単に流してたっけ…)

何をされても、言われても。気にしないように放っておく。
それがいつもの私の反応なのに。
20 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時42分15秒
「…それでは。道を教えてくれて、ありがとうございました…」
自分のペースがどんどん崩されていくようで、さっさとその場を後
にすることにした。
濡れたスカートが腿に張り付いて気持ち悪い。
(…そういえば…水かけたこと、謝ってもらってない…)
今更思い出しても後の祭り。
すでに鉄の門のところまで来ていた私は、一応道を教えてもらった分で、
勝手にチャラにしてあげることにした。
靴下と靴を履いて一歩踏み出したとき、冷たい風が吹いた。

「……くしゅっ…」
「やっぱ寒いよねえ」
小さいくしゃみに間髪入れず上から降ってくる声。

「これ、使っていいから」
ぱさっと頭に何かが降ってきて、視界がふさがれる。すぐにこれが
タオルなんだということに気がついた。
少し大きなバスタオルを両手に抱えて上を見上げると、コンクリに
肘を立てて頬杖付いている彼女の姿があった。
21 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時42分55秒
「…でも、」
「早く拭かないと本気で風邪ひいちゃうよ」
何が面白いのか、くすくす笑いながら彼女は言葉を続けた。
「あたしは予備のタオル使うから、さ」
「………」
彼女の暖かい優しさを感じて、私はさっきまでの自分に自己嫌悪した。
タオルは風に晒されてたのかとても冷たかったけれど。

「ありがとう、ございます」
「別にお礼なんていいよー」
まぁそのタオルは一応お気に入りだからさー、と冗談交じりわざわざ付け足す。
さっきまでは気に障って仕方なかった彼女のその笑い方が、
急に気にならなくなった。
私も気づかないうちに笑っていたからなのかもしれない。

「絶対明日、返します」
「うん。待ってるよ」
嬉しそうに彼女、小川さんは微笑んだ。
22 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時46分01秒
「それでさ」
「はい?」
早速そのタオルで髪を拭こうとしていた私は、彼女の呼びかけに首を傾げる。
小川さんは、それはそれはとても不思議そうな表情で。でも悪意の
ない笑顔で同じように首を傾げた。
「あさ美ちゃん、何でそんなに水浸しなの?薬入りのあの水溜りに
 でも落ちた?あはは、そしたらかなりのドジだねー」
「………」
私は無言で背中を向けて歩き出した。

後ろから聞こえる声は全部無視無視無視。
一瞬でも感謝してしまった自分が何だか悔しかった。
何も聞こえないように強く髪をがしがしと拭く。
23 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時47分29秒
彼女の教えてくれた道順どおりに歩いていくとさっき通ってきた廊下を抜け、
そして本校舎へと戻って来れた。
玄関に着く頃には、やはり少し大人気なかったかなぁなんて思う。
よく考えてみれば小川さんが水をかけてしまったのは全くの不可抗力であって、
側に他の生徒がいるなんて普通は思わない。
普段ならそのぐらいのこと簡単に気づけるはずなのに、やっぱり
今日の私は何だかおかしいのかもしれない。
さっきの会話を思い出して息をつき、少し気分を落ち着けたその時に
やっとタオルの柄に気づいた。
彼女のお気に入りらしいその大きなバスタオルのど真ん中に緑色の物体。
その物体の周りは全て黄色で彩られていて。

(…かぼちゃ……)

…かぼちゃ、好きなんだ。あの人。
確かに私も好きですけど…。
24 名前:1.かぼちゃたおる。 投稿日:2002年09月26日(木)01時49分02秒



一つわかったことがある。
彼女、『小川麻琴』と話してると何故か私の調子が狂わされる気がする。
だからこれからはあまり関わらないほうがいい。タオルはさっさと返して、
それでもう二度と関わらなければいい。


…でも、あんな鈍感な人に散々笑われたのに。

それでも彼女のことが気になってしまう私は、
もうすでに調子を狂わされているのかもしれなかった。
25 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年09月26日(木)01時51分38秒
更新完了。

∬´▽`∬<帽子〜、帽子〜。

小川さん登場です。
一応、他の5期メンも何らかの形で出てくることになりますが。

無駄にだらだら書いてしまう癖があるので、さくさくっと書くように
心がけてみたら さくさく過ぎて展開早い気がしなくもないです。

次の更新はいつできるかなー(´□`;)
26 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月26日(木)04時11分04秒
おがこん初の名作の予感。
頑張って下さい。
27 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月26日(木)11時21分39秒
とてもいいです。かなり紺野推しなので、
期待しております。頑張ってください。
28 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月26日(木)11時22分39秒
とてもいいです。かなり紺野推しなので、
期待しております。頑張ってください。
29 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月27日(金)15時55分05秒
おがこんで初めて更新が待ち遠しい作品発見!
期待してます。頑張ってください。
30 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月27日(金)15時56分25秒
スイマセン…ageてしまいました。(鬱
31 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年09月27日(金)22時14分29秒
煤i゜□゜)
うぉぉ、レスが付いてる。

>>26
ども。自分おがこん好きなので、頑張りたいと思います。

>>27
ありがとーございます。期待に副えるよう頑張りたいと思いますです、ハイ。

>>29
更新スピードのろくてすみません。頑張ります。
ageは自分もやっちまったので、あんまり気にしないでいいっすよ(´ー`;)

更新は明日の夜までにはできたらいいなぁ、と。
32 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時18分05秒
次の日の朝。
目覚めると、おぼろげながら見ていた夢の内容が頭に残っていた。
とても懐かしい記憶。
私はまだ、両親もお姉ちゃんも一緒に住んでいたあの頃の思い出に、しがみついてる。


「あさ美」
「…なぁに、おねえちゃん?」
私が駆け寄ると、お姉ちゃんは優しく頭を撫でてくれた。

「今日のご飯は何が良い?お母さん達帰りが遅いから、私が作るわ」
「………」
「…あさ美?」
「ううん、なんでもない」
子供ながらに今思ったことを素直に言ったら、お姉ちゃんが傷つくって
ちゃんとわかっていた。
だから私は首を横に振って、今日はラーメン食べに行こうよ、なんてワガママを言う。


まさか、お姉ちゃんの作る料理がトイレの芳香剤の臭いがするから
食べたくない、なんて。
…言えるはずなかった。
33 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時19分05秒
■2.かぼちゃのにもの。■


なんでこんな夢を見たんだろう。
夢の内容はとにかく、とりあえず学校には行かなければならない。

カーテンの隙間から差し込む朝日に近づく。
両手でばっと大きく開け放った窓から、眩しい光が部屋一杯に入り込んでくる。
窓を開けてベランダに出ると視界の端に茶色い日本風の家が見えた。
2階の左端に位置している私の部屋は一歩ベランダへ出ると隣の
一軒家から丸見えになってしまうから、洗濯物をさっさと取り込んで
部屋の中へと戻る。

(…こんなタオルが私の趣味だなんて思われたら、ここに住んでいられない…)

結構これは重要な問題。
目にとても悪そうな黄色と緑のタオルを片手に持っている私が映っている
鏡を見てしまい、何だかとても気分が暗くなった。

洗濯物をたたんで仕舞ったりしているうちに、そろそろ家を出ないと
いけない時間になった。
まだタオルを持っていく準備をしていなかった私は急いで鞄に詰め
ようとしたがさすがに無理があった。
クローゼットを漁ってみるけれど適当なバックがない。

仕方なく適当な紙袋にタオルを詰めて、誰もいない部屋を背に私は家を出た。
34 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時21分10秒

階段を下りる途中、外の景色が良く見える。
残念なことに今は時間に余裕がなかったからゆっくり風景を眺める
ことも出来ず、さっさと階段を駆け下りて表へと出た。
先程も見たあの光り輝く太陽が眩しくて、足もとを眺めながら歩く。

モグラじゃあるまいし。
昔、お父さんがそう言って私をからかっていたのをふと思い出した。

今朝の夢といい今といい、何でこうも家族のことを思い出してしまうんだろう。
余計なことは考えないように無心のままで、行こう。

大通りに面したマンションだから一歩出るとすぐに同じ学校の生徒達と
合流することができた。
さすがに同じクラスの人はそう簡単に見つからなかったけれど。

みんな仲が良さそうだった。
周りを見渡すと、私以外の誰も一人でぽつぽつと歩いている生徒なんていない。

(……歩きにくいな…)

すぐそばを通っていく女子の集団が笑い声をあげるたびに、私が笑われて
いるんじゃないかなんて気になってしまう。
35 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時22分38秒

一人でいるこっち。
集団でいるあっち。

駆け足でその場を離れた。
翻るスカートを押さえて、手に持っていた鞄を肩にかけて。
息があがっても走る足はとめずに曲がり角を何個も曲がった。

どのくらい走っただろうか。
ちょうど良く引っかかった信号でやっと走るのをやめる。
深く深く、深呼吸をした。

「何で私…逃げたんだろう…」
周りには聞こえないほど小さな声で自分に問いかけた。

大丈夫。怖くない。
一人でいるののどこが悪い。

何とか呼吸は落ち着いた。
最後に大きく息を吐いて、いつの間にか青になっていた横断歩道を渡る。
幸いにもさっき歩いていたあの場所よりか周りにいる生徒が少なかった。

バックを肩に、紙袋を片手に。
とぼとぼと歩いていると、学校の校舎がもうすぐそこに見えてきた。
気づかないうちに家から学校までの道を80%くらい走ってきて
しまっていたらしい。ふと前方へ視線を向けると、少し集団に
なっている大きなグループがあった。何か話しているようだった。
できるだけ目立たないように、下を向いてそのそばを通ると、
嫌でも会話の内容が耳に飛び込んでくる。
36 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時27分43秒

「…って、おが……こと、だよね…」
「とな…だれ…」
「…そ……んで…」

聞いたことのある単語が聞こえたような気がした。
周りの喧騒に顔を上げ前方を見る。
「…小川…さん」
やはりそうだ。みんなは、彼女のことを言っている。
近づくに連れて彼女のほうも私に気づいたらしい。
俯いていた顔を上にあげて、にかっと爽やかな笑顔を浮かべてこっちを見ている。
どう見たって私に用事があるとしか思えなかった。

「…何してるんですか?」
「あさ美ちゃん待ってた」
校門に寄りかかったままブレザーのポケットに手を突っ込んでくすくすと笑う。
そんな小川さんを遠巻きに見ている生徒達。
私達の周り、半径1m以内には誰も寄り付こうとはしなかった。

一体何なんだろう。
ひそひそと小さい声で話し合うグループの会話に出てくる単語は『小川麻琴』。
つまり私の目の前で能天気に笑顔を浮かべてる彼女のこと。

「あたしのクラスわかんないでしょ?」

どう考えても周りの生徒は彼女について何か話しているのに、
小川さんは気にしていない様子でいた。
だから私も同じように気にしないことにする。
37 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時33分07秒
「お気に入りが帰ってこないとさすがに悲しいからね」
「そう、ですか…」
まあ確かにクラスがわからなくて、どうやって返せばいいのか悩んでいたのは本当だ。
今朝準備をするときにやっとその問題に気づいた方としては何も言えなかった。

「…じゃあ、これ。本当にありがとうござ…」
「あれ?」
頭を半分下げた状態で紙袋を差し出す私を放って置いて、
小川さんはその後ろのほうへ視線を向けていた。
「飯田先生だ」
「…あの」
「わーすっごい!相変わらずいいなぁあの車。
 ね、あさ美ちゃんもそう思うよねえ?」
笑顔で同意を求められ、仕方なく私は振り返った。
視線の先に見えるのは黄色と緑でカラーリングされた自動車。
小川さんはそれを見てはしゃいでいる。
理由はきっととても簡単。
(…黄色と緑だからだ…)
彼女のセンスに何とも言えず、その車がのろのろとこっちへやって
くるのをボーっと眺めた。
速度はとてもゆっくり。これなら歩いたほうが早いかもしれない。
目の前を通っていく車の窓を覗き込んで、中にいるはずの運転手を見る。

(゜皿゜)

何か凄まじい表情で固まったまま、飯田先生とやらは通り過ぎていった。
私の首が右から左へと動く。
38 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時35分19秒
「…あれは一体…」
「飯田先生だよ」
一応あたしの担任でさ、と彼女は肩をすくめた。

「あーあ。あの顔はまた運転中に交信してるよ…」
「こうしん…?」
「うーん、携帯電話みたいなもんじゃないの?あたしもよくわから
 ないんだけどね」
ほら、ADSLのCMの人っぽいしさ。と彼女は続けた。
ADSLのCMの人なんて結構多い気がしなくもないですが。
私と小川さんは校門前に並んだまま、視線で車の後姿を追った。

「ヤバいなぁ。また轢いちゃったりしたら、今度こそ教師の仕事や
 めさせられるかも」
「また…って……」
「あ、いつものことだから気にしなくていいよ。あのスピードで轢
 かれる様な人いないし」
確かにそうかもしれないけれど。

(またって、前は何を轢いたのか…)
とても気になった。

周りの人たちは脇に避けて、車の動向を見守っている。
のろのろと走る車は一方通行の道をどんどん進んでいた。

「……あの人、どうなるんですか?」
「いつも通りだったら壁にぶつかって停止だね」
「………」
さっき私が曲がってきた時通った、あの壁か。
確かに白い色の壁へ吸い込まれるようにして車は進んでいく。
39 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時38分01秒

不意に小川さんは慌てたように袖をまくって舌打ちした。
色は黄色とみど……とにかく、腕時計を見ていた。
「ヤバいなぁ、遅刻になっちゃうや」
「え?」
何でも飯田先生が事故った日の朝のHRは教頭先生がわざわざやってくるらしい。
必然的に遅刻の取り締まりも厳しくなる。
「ってなわけで、じゃあまた今度ねあさ美ちゃん。あたし先行くからー!」
「というか、まだタオル渡してな…い…」
引き止めようと伸ばした腕も虚しく、彼女はコートを翻して校舎の方へと
走っていってしまった。
それが合図のように遠巻きに見ていた生徒も一斉に走り出す。
ため息をついた私も、もちろんその後を追うように走り出す。

後ろから聞こえてきた何かが崩れるような音は、気にしないことにした。
40 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時40分09秒

   □   □   □   □   □   □   □
41 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時42分06秒

靴を履き替え階段を上ると、良い具合にチャイムが廊下に鳴り響いた。
教室のノブに手をかけかけていた私はさっさと部屋の中に滑り込み、
すぐそばにある自分の席へ付く。

「ハーイ皆さーん、オハヨウゴザイマース」
その後すぐに独特のイントネーションで朝の挨拶を繰り出しながら先生が入ってくる。
転入して早々、出席簿に遅刻なんて文字を書かれずに済んだらしい。
そして何事もなかったように朝のHRが始まった。
特に代わり映えのしない、今日の予定などを説明している先生の声を
適当に聞き流して、鞄の中身を机へと移し変える。
床に置いていた紙袋を持ち上げた。

(結局、返せなかったな…)

机の上に置いておくわけにも行かず、机の横にかけることにした。
意味もなく廊下を眺めながらどうしようかと思案した。
彼女の担任の先生はわかっている。けれどいちいちそれを調べだして渡すのか。

「吉澤先生」
「んでー…え?何、紺野?」
いつの間にか通常モードに戻っている担任の先生。
ちゃんと片手を上げて、そして先生は名前を呼んだので私には発言権があるはず。
椅子を押して立ち上がった。
42 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年09月28日(土)21時43分09秒
「飯田先生はどこのクラスを担当しているんでしょうか」
「イーダー?」
「いえ、飯田…」
「あ。先生を呼び捨てにした」
「…あの…」
楽しそうに笑う先生はまるで子供のようだった。
まぁ、元から若いけれど。

「飯田先生は美術科担当でねー…ええと、どこだったかな?」
「隣のクラスなのれす」
「あー、そうだったかもしれない」
「…隣のクラス…?」
そうそう、と先生は頷いた。
生徒にクラスを教えてもらうような先生がいていいのかと思った。

「でもいきなりどうしたんだ?飯田先生に轢かれかけたか?
 慰謝料請求なんてしたらダメだぞぉ。あの人、車の修理代で給料全額飛んでるから」
「そうですか…」
隣のクラス。
休み時間にでも訪ねていけば良いか。

「紺野って意外に変な奴だなあ」
この後の予定を色々立てていた私の耳には、先生のその言葉は聞こえなかった。
43 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年09月28日(土)21時45分35秒
とりあえず更新完了。
(0^〜^)<YO!YO!YO!

かなり当たり前なことで今更何をって感じですが、
頭で考えてることを文章にするのってやっぱムズイっすね。
上手く書けないのがもどかしい…(´□`;)
44 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月28日(土)22時58分07秒
笑いました。w<(゜皿゜)

だんだん登場人物が見えてきましたね。
これからどんな人たちが出てくるのか楽しみです。
45 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月29日(日)00時29分41秒
噂を耳に(目に?)してやってきました。
かなり面白くなりそうですね。こういう雰囲気、大好物です。
がんがってくださいね。
46 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月29日(日)11時36分46秒
ワラタ
かぼちゃが好き過ぎるだろ>小川
47 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月30日(月)00時21分57秒
反則だ〜。油断してる所にいきなり飯田さんの顔が。笑いが止まらん…。

続き楽しみにしてます。
48 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年09月30日(月)01時35分02秒
レス、ありがとーございますー。

>>44
笑ってもらえましたかw
登場人物は収拾が付く程度の人数を出していきたいと思ってます。

>>45
煤i゜□゜)噂が出ているとは。
何だかこんな自分が書いた拙い文章で、気恥ずかしさと嬉しさが
微妙な感じです。

>>46
まぁ、とりあえず題名からしてかぼちゃですのでw

>>47
す、すみません(´□`;)
まさかそこまで(゜皿゜)さんがウケるとは思っていなくて…w

次の更新はちょっと未定で。
悪い癖が出て少々だらだらと書いてしまったので、推敲出来次第
すぐに更新したいと思います。
49 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月30日(月)02時29分28秒
ほぉ〜お姉さんはあの人ですかぁw
ここの雰囲気好きです。頑張ってください
50 名前:こぶろく 投稿日:2002年10月01日(火)20時29分55秒
紺ちゃんが主役の話だ〜!
雰囲気が柔らかいし小ネタも入っていてとてもお上手ですね。
メンバーの設定が面白くて羨ましいなあ・・・いいらせんせい…
そして紺ちゃんのクラスメイトにののたんが!?ののたん…
すいません…おがこん小説もプッシャ〜なので頑張ってください!
51 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時20分41秒

一時間目の授業も終わり、私は隣の教室の前にいた。
どうやって呼ぶべきか。どうせだからと、紙袋をぎゅっと掴んで気合をいれ、
空いている手で一気にドアを開けた。

どこのクラスも所詮同じものらしい。中にいる生徒達は好き勝手に
集まってはゲラゲラと笑い声をあげていた。
誰一人私の存在には気づかないほど騒がしくて、思わず耳を塞ぎたくなった。
両手をあげかけて、手に持っていた紙袋に気づき、思い直す。
これさえ渡せばここから抜け出せるのだから。そう言い聞かせて、
ドアの近くにいた数人のグループの一人に話しかける。

「あの…」
「ん?」
何?と小さく首を傾げる。
私よりも少し小さい子。髪を二つ、上のほうで結んでいた。
ガラの悪い人ではなさそうだ。少しだけ心に余裕が持てた私は、言葉を続けた。

「小川さんいますか?」
「おが……ごめん、下の名前は?うちのクラスって小川が6人ぐらいいるから」
あそこにいるのもそうだし、この子もそう。と、数人を指差した。
その中に彼女はいない。
関係ないけれど、小川多すぎ。
52 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時21分25秒
「ええと…小川麻琴さんを、探しているんですけど…」
「おがわまこと…」
小さく繰り返す少女の言葉に、周りにいた数人の表情が強張るのを、
私は見逃さなかった。
「まこっちゃんは…どこにいるんやろ。一時間目には出てなかったような…」
周りの空気が一転して張り詰めた空気になっているのがわかる。
少女はうわ言のようにブツブツと呟いていてそのことに気づいていないのかも
しれないけれど、集団の周りにいたただのクラスメイト達もその空気を
読んだように、ぴたっと喧騒が止む。
なんだか不気味だった。
いつも(と言ってもまだ会って2日も経っていないけれど)笑顔を
絶やさない彼女の名前を出しただけで、どうしてここまで敏感に反応するのか。

「あ、校長室に行ってる」
微妙なアクセントのつけ方からして彼女は関西出身なのかな、
なんて考えていた私は、その単語を一瞬理解できなかった。

「こうちょう、しつ?」
「確か呼び出されてて…多分今日の休み時間はずっと校長室やと思う。
 用事あるんなら放課後にしてみたら?」
なんならうちが言付けておくよ、と親切にも申し出てくれたけれど、
それを断って私は教室を出た。
53 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時23分36秒
校長室に呼び出されてる。
それは一体どういうことで、なんて。私にわかるはずも無い。
でも何となく状況はつかめた。私だってバカじゃない。
多分小川さんは何らかの理由で近づきにくい存在、または関わりを
持ちたくないような、そんな人間としてみんなに認識されている。
校長室に呼ばれているのだってそうだ。何かの理由があったとしか思えない。
でも、

「…その理由がわからないなら、意味ないよ…」
一人で自虐的に笑ってみるけど誰もそんな私を気には留めない。
道のど真ん中で一人笑っているところを見られたらそれはそれで面倒だし、
私は端のほうへと移動する。
廊下の窓から外を眺めて、風に拭かれて撓る木々を特に意味もなく見つめた。
54 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時24分28秒

そもそも私がそこまでして彼女のことを知る必要はあるのか。
答えはNO。彼女との関係は、このタオルを返して終わりだ。

例えあの小川さんがかなりの問題児で万引きなんて日常茶飯事だとしてもそれはそれ。
私にタオルを貸してくれたことに嘘はないし、そしてそれを返すのは当たり前。
何かの間違いで私と彼女が出会ってしまったのだとしたら、どこかでそれを
終わらせてしまえばすむこと。だから、

(……だから、何だろう?)

だからもう少し深く関わっても良いと、そう思っているのか。
終わらせるのは簡単だからもう少し関わっていても良いんじゃないか、と。
自分のことなのに、自分の考えを上手く把握できない自分に苛立ちを覚えて、
唇を少しだけ噛んだ。

あと少しでわかりそうなのに、歯がゆくて、もどかしい感覚。

最初から開いていた窓の枠に手を付いて外の冷たい空気を吸い込む。
教室の中でじっと勉強をしていたせいで少し温まっていた身体が、
内側から一気に冷やされていく。
口から吐いた息は薄く白く、すぐに消えていった。
55 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時25分02秒
よくわからない考えに囚われてる。
この気持ちもこのため息と一緒に消えてしまえば、楽になれるのになぁ、なんて。
一瞬バカなことを考えた。

もうそろそろ教室に戻ろうかと窓から手を離す。
「…紺野?」
鍵を閉めて帰ろうとする私の背中へとからかけられた声に振り向くと、
そこには吉澤先生が立っていた。

「久しぶりだなあ」
「HRでお会いしたと記憶していますが…」
「なにっ」
何なんだこの教師、とは思わないでおこう。

「まあ冗談はともかく。どうかしたか?何だか気分悪そうに見えるけど」
「いえ…少し、考え事を」
にこにこと浮かべていた笑顔を消して、真剣な眼差しで顔を覗き込む吉澤先生。
その笑顔は誰かに似ていた。
つい最近見たようで、どこか遠い昔にも見たような記憶。
ただでさえ頭の中がぐるぐると回ってしまっている私にこれ以上混乱の種を
増やさないでほしい。

「ふーん…まぁそれならいいや。興味ないし」
「………」
生徒の悩みを興味ないしの一言で蹴飛ばした先生。
56 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時48分38秒
「ところでイーダーには会えた?あ、でもまだ1時間目終わったばかりだから、
 見つかんないか」
「いえ、あの…飯田先生自体には、特に用はなくて…」
しまった、と思っても後の祭り。
こんな言い方をすれば何の用事だったのか気になってしまうのが人間の性。
特に隠す必要もなかったけれど、小川さんの存在が一体どういう影響を
及ぼしているのかわからないうちに、こんなことを話していいものかと考える。

「そうか、そりゃ残念だなぁ。イーダーの交信してる時のあの雰囲気を
 ぜひ近くで味わってもらいたいと思ったんだけど」
特に考える必要はなかったらしい。

「うん。まぁ、機会があったら見てみると良いよホント」
「運転席で固まっているのなら見ましたが…」
「あれとはまたちょっと違うね。なんていえばいいのか…あの状態で
 繰り出される言語が」
「はあ…」
このまま語りだしそうな勢い。
私はそんな先生をとりあえず止めて、教室に戻らなければならないと
適当な理由をつけてその場を離れることにした。
57 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時49分20秒
「あ、紺野」
「…はい?」
振り返ると、最初と変わらない笑顔で先生が自分を指差す。
「先生に相談してもいいからね」
確かに他にも先生はいるけれど、転校してきて色々不安とかがあるんだったら、と。
その優しさがほんの少しだけ嬉しかった。
私はお礼を言ってその場から離れ、一瞬だけ、窓から校長室があると
思われる場所を見た。

このタオルを返すためにはもう少し簡単な方法があるはず。
そう思って頭をフル回転させた。
さっきよりもクリアに働く頭脳に感謝しながら、昨日の出来事を思い出した。
58 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時49分56秒

   □   □   □   □   □   □   □
59 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時50分54秒

放課後。
昨日と全く同じようなシチュエーションで、ここまでたどり着けた自分を褒めたい。

(…また帰り道わからないけどね)

来た道に目印でも落としていくべきだっただろうか。
今更そんなことを悔やんでいるのも遅すぎることなので、ここまで
来たなら前に進むしかない。
どうせ彼女に会えれば帰り道はわかるわけだし。
会えれば、だけど。

『プール入り口』

そうかかれた扉を目の前にして私は周りを見渡した。
まだ彼女はいないらしい。それとも先にプールに入ってしまっているのだろうか。
とりあえず、扉を押してプールの方へと出る。

もし私の感が外れていなければ、彼女は来るはず。

しばらく歩くと昨日と同じ鉄の門が見えてきた。
昨日と違うのは、鍵がかかっていること。
まだ来ていないのか、今日はもう来ないのか。

(10分ぐらい待って、来なかったらあきらめよう…)

彼女もタオルは返してもらいたいはずだし、もしかしたら明日、
今朝のように門で待っていてくれるかもしれない。
そう考えた私は、軽く門に寄りかかった。
60 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時52分01秒
少しだけ肌寒い。
首筋に手の甲を当てたりして身体を温めながら、数分待つ。


そして物音が聞こえた。


「あれ?あさ美ちゃーんっ」
聞こえてきた声に顔を上げると、小川さんが満面の笑みを浮かべて
こっちに走ってくるのが見えた。
まるで飼い主に突撃する仔犬。
水着をきて、バスタオルを持っている。
タオルのその柄は極力見ないようにしよう。

「…こんにちは」
「こんちわっす」
朝にも会ったのに、律儀に挨拶をする私を真似するように彼女もお辞儀を返す。
そして私の隣を通り、手に持っていた鍵で門をガチャガチャと開け、
どんどん進んでいく。
私は急いで後をついていった。

「ここで何してんのー?また迷った?」
「…小川さんを待っていました」
彼女はきょとんとした表情で私を見た。

「え、告白?」
「何を言ってるんですか」
なんだつまんなーいと連呼する彼女の目の前に、紙袋を突きつける。
「今朝、渡しそびれましたので」
「チョコレート?」
「時期が早すぎです」
何で私がツッコミを入れてるんだろう。
61 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時53分06秒
「……タオル、です。昨日の」
「………」
「…忘れていましたね?」
「お気に入りなのにそんなわけないじゃないですか」
何故敬語なのかわからないけれど、とりあえず彼女は紙袋を受け取って
中身を確かめていた。

「あぁ、おかえりスティーヴン…」
「………」
「…ツッコミは?」
ぎゅっと紙袋ごとタオルを抱きしめて、彼女は一言そう呟いた。
大体どこをどう突っ込めと言うのか。

「…私はあなたの相方じゃありませんので…」
「せっかく恥ずかしい気持ちを押さえて頑張ってみたのに…」
何を言っているんだか。
そう思って顔を見ると、耳まで真っ赤になっていた。

「…そこまで恥ずかしいなら、言わなければ良いと…」
「今度からはやめておく…」
タオルをフェンスにかけてストレッチをしながら移動する彼女。

(…変な人…)
変で、カッコ悪い。
だけど笑顔だけはとても眩しいんだ。
62 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時54分04秒

後をついていきながら、昨日とあまり変わらない気温に思わず身体を震わせた。

「…寒くありませんか?」
今朝はあんなに晴れていた空も今じゃ曇っている。
「結構寒い」
その言葉どおり、よく見ると確かに彼女も小刻みに震えていた。
心なしか唇も紫色。
もうさすがに顔は赤くなかった。
「カッコ悪…」
「じゃああさ美ちゃんも水着になってみてよ」
「嫌です」
別に最初から答えを期待していたわけではないらしい。
彼女は肩をすくめてプールサイドに座り込む。
何故そこまでして練習する必要があるのか。
そもそも3年生の彼女はもう部活自体引退しているはずじゃ、
という疑問が頭に浮かんできた。
それに他の部の人もいない。それがとても気になった。

「でも冬になったら本当に泳げなくなるしね」
「あの、他の部の人は…」
「中で筋トレ。もうそろそろ時期的にキツイからね」
黙々と身体の筋を伸ばす彼女の背中を眺めながら、私は頭を回転させた。
時期的にキツイ。それはそうだ、もう10月に入りかけている。
近々大会でもあるのかとも思ったけれど、やはり3年である彼女が
出場するとは考えにくかった。
63 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時54分54秒
「学校には、慣れた?」
不意に彼女がそんなことを言ってきた。
これ以上私が一人で勝手に考えていてもわかるわけがない。
勘ぐるのはやめて、その問いに答える。

「まだなんとも…」
「そっか。そいえば、クラスはどこなの?」
「小川さんの隣のクラスです」
「へ?隣って…担任は」
「吉澤先生です」
「げっ」
一瞬顔をしかめた彼女は、首を振ってまた入り口のほうへと戻っていく。
さっきは素通りした薬の水槽に浸かり、そこから手が届くシャワーの
蛇口をひねった。

「…何か問題でも?」
「ん…?」
「吉澤先生の名前を出した瞬間、何だかマズったなという表情をしたので」
「…あー…」
もごもごと口を篭らせて俯く。
シャワーを間に挟んで立つ私には、彼女の表情が少しだけ見難い。
小さく細かい水の粒がベールとなって私の視界を薄く遮っている。
お互い黙り込み、水が床を叩く音だけが響いていた。
64 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時55分38秒
「…シャワー、浴びないんですか?」
「あ、うん。浴びる浴びる」
水槽から出て降りしきる水の中へと一歩進む彼女。
前髪が濡れて、その水が頬を伝い顎から雫となって落ちていく。
自分がその水を浴びているわけではないのに、その様子を見ているだけで、
一瞬身体がとても寒く感じた。

「…まあ、所詮私は部外者ですから、良いんですけど」
何だろう。
この言い方じゃ、まるで私がいじけてるみたい。

「………」
彼女は沈黙を保ったまま何かを考え続けているようだった。
ただの部外者なのに、深く追求されて迷惑なんだ。
そんな当たり前のことに、今更気づいてショックを受けている自分。
とても滑稽だと思った。
大体、タオル返すだけで別に話し込むつもりはなかったのに。

「…どうしても話したくないなら別に」
「そういうわけじゃないよ」
早口で遮られて、下がりかけていた視線を彼女へと向ける。
「あさ美ちゃんだから話したくないわけじゃなくて」
「……なくて?」
「…理由はとてもくだらないことなんだけどさ」
ぶるぶるっと頭を振って水飛沫を飛ばし、彼女はシャワーを止めた。
私はプールサイドへと向かう彼女のあとを付いていかずにその場に留まった。
65 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時56分21秒
「実は」
勿体つけるように少し間を空けて、彼女はプールサイドに据わり足を水面につける。
今日は曇っていて太陽は見えないし風に吹かれてとても肌寒い。
さらに冷たく冷えたコンクリートに座り、私は話を聞く体制を作る。

確かに彼女と私の間はかなり離れてはいたけれど、ここは2人だけしかいない。
声は十分届くし、逆にこんなに広い場所で二人寄り添うようにしているほうが
よっぽどおかしく感じた。

滅多に味わえない不思議な閉鎖された空間。
こんな距離があっても、お互いの声が聞こえるこの感覚が、何故か嬉しいと
感じてる自分に少し戸惑ってる。

「あたしと吉澤先生っていとこ同士なんだよ。うん」
勿体つけてた割には、秘密はあっさりとバラされた。

「いとこ…?」
「今は一緒に住んでるから、お姉ちゃんって感じに近いけどね」
お姉ちゃん。
一瞬脳裏を掠めた昔の映像を頭の中で消す。
66 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時57分13秒
「元々うちの実家が新潟なんだけど、あたしだけがこっちに来たんだ」
「小川さん…だけ?」
「うん。こっちに住んでる吉澤さんとおばちゃんの家に居候させてもらってる」
「お父さんやお母さんは…」
私のその言葉に彼女は笑顔で首を振った。

「いないから」

さり気ない日常的な会話を返しただけのような彼女の返事。
その分、何だか重みがあるような気がした。
昨日見た笑顔と、今朝見た笑顔と、大差ないはずの彼女の笑い方。
そして少しだけ悪戯っぽく光った瞳で、
「…同情した?」

普通の人ならきっとこの不幸な少女に同情する場面。
だけど私は正直言って同情なんてしていなかったと思う。

「あさ美ちゃんはあたしに同情しないでね」
「………」
無言で頷く私を見て嬉しそうにしながら無意味に足をぱたぱたと動かしてる。
水面に波紋が広がって、水飛沫がパチャパチャと音を立てながら飛ぶ。
67 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時57分53秒

彼女の告白に真っ先に浮かんだのは、変な言い方だけど、仲間意識。
ただ境遇が似ているというだけで感じた同じ匂い。

「うちねー、吉澤さんはともかくおばちゃんがすごく良い人だから。
 一回遊びに来てみて。ご飯もご馳走するし」
「遠慮しておきます…」
「えー!大丈夫だよ、すっごく美味しいし。おばちゃんが味付けする
 かぼちゃの煮物は甘くて甘くて」
「いえ、あの」
私の言葉を全く聴いていない。

「…そんなわけでさ。言いたくなかったわけじゃなくて、吉澤さんと
 一緒に住んでるって言っちゃったら…その、やっぱり何で一人で
 こっちに来たのかとか、あたしの両親の話になっちゃうじゃん?だから、ね」
「……ごめん…なさい」
「あ、いや、ええと。別に親の話するのはいいんだけどさ、あさ美ちゃん
 優しそうだから」
傷ついたら何かやだなぁって思った、と小さく呟く。
優しそう、というのは一体誰の事を指すのか。
答えはわかっているのにわざわざそんなことを一瞬でも考えてしまう。

「…私は…」

(優しくなんかない)
思わずそう言おうと口を開き躊躇する。
68 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時58分34秒
そんなことをいちいち彼女に言ってどうするのか。そう思われているなら
そのまま、悪いイメージを持たれるよりかはいいはずだ。
いまさら人に嘘をつきたくないなんて良い子ぶるのは、おかしすぎた。

「……小川さんほどかぼちゃ好きではないです」
我ながら変な返答だと思う。
でも彼女は気にした様子もなく首を傾げた。

「かぼちゃ美味しいじゃん」
「美味しいですけど…でも、タオルを買うのは…」
「可愛いくない?結構良いと思ったんだけど」
「…可愛い…ですか?」
「あの緑色な部分とか」
「はあ」
冗談かと思ったら、意外に顔は真剣だ。
彼女の場合意外も何も最初からそんなこと確かにわかってはいたけれど。
69 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月02日(水)23時59分28秒

「でもかぼちゃって切るのが大変なんだよね、固くて。上手く切る方法知ってる?」
あのねーこうやってー、と包丁の先をかぼちゃの真ん中に刺し込み
外側へ刃を落とすような動作をしながら、注意点などを事細かに説明している。
それで私にどうしろと。
でもとても切り易そうなその方法に、思わずそばへ寄り彼女の隣に
しゃがみ込んでまで聞き入ってしまう私は何なんだか。

「ね?こうすると楽でしょ。レンジに入れて少し柔らかくするのもいいよね」
こくこくと頷くと、小川さんは嬉しそうに笑った。
「全部おばちゃんの知恵袋なんだけどさ」
立ち上がって腕を伸ばし、彼女は呟く。

「…おばあちゃんではなく、おばちゃんの知恵袋…」
「そう、おばちゃん。やっぱ変かなぁ」
「…良いんじゃないんですか?」
そんなどうでもいい事で真剣に悩む彼女が可愛かった。
思わず笑いそうになってしまうのを堪えている私には気づかない。

(ここで声を出して笑ったら負けだ)
何となくそう思った。
70 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月03日(木)00時00分01秒
最近は笑うことすらあまりなくなったのに、昨日から彼女の言動一つ一つが
私を狂わせて行く。
これは良い影響なのか、悪い影響なのか。
今の時点では私はどうとも判断できない。

そっかぁ、と安心したように頷くと、彼女は水面を見据える。

「てやっ」
そして飛び込んだ。
ざぶんと水飛沫が舞い、彼女はとても楽しそうに肩まで使ったり潜ったりして、こっちを向いた。
そう、水飛沫が高く舞ったのだ。高く。大きく。
つまりそれは昨日と同じような状況なわけで。

「や〜、やっぱ冷たいね。もうそろそろ泳ぐのもいい加減無理かも…って、あれ?」
彼女は小さく首を傾げる。

「あさ美ちゃん、なんで制服濡れてんの?」
「………」

いきなり飛び込まないでくださいと文句を言うより先に、
わざとやってるんじゃないのかと問い詰めたくなった。
71 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年10月03日(木)00時01分23秒

(゜皿゜)<………。
推敲したつもりでも文章がだらだらしてるのはどうだろう自分。

>>49
きっとあの人っすw
雰囲気ですか。できるだけ壊さないように頑張りたいです、ハイ。

>>50
ども、ありがとうございます。
小ネタは思いついたのを片っ端から詰め込んでたりするんで、
入れすぎて本編が全然進まなかったりします(´□`;)
72 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月04日(金)09時23分08秒
こんまこイイですね。
続きが楽しみです、頑張って下さい。
73 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月06日(日)01時12分56秒
ほのぼのしつつ、ネタも入ってて…いいですね。面白いです。
あまりレスしないと思いますけどずっと読んでいくと思うので頑張って下さいね。
74 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月06日(日)16時59分21秒
――――――――――――――――――――――――――――――

 最近見る夢の始まりはいつも同じで。
 私が呼びかければ、その人は振り向く。

 だけど今日は何だか違っていた。

 呼びかけようとしても、私はその術を知らない。
 例え彼女の名前を呼んだとしても振り向いてくれるかどうか、
 そんな不安が身体全体を包んでる。

 彼女は一体誰だった?
 常に笑顔を浮かべていて、私に笑いかけてくれて。

 「…おねえちゃん?」

 そう呼びかけても、彼女は振り向いてはくれない。

――――――――――――――――――――――――――――――
75 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月06日(日)16時59分59秒
じっとりと汗ばんだ握り拳を開いて、パジャマの襟を扇ぐ。
秋だと言うのにこの暑さは何だろう。
上半身を起こして、寝苦しいベッドから抜け出した。

部屋の中は真っ暗だけどどうにか台所まで行くことができた。
体温を下げようと、ひんやりとしてる冷蔵庫の扉に寄りかかる。

(変な夢だったなぁ…)

ずるずるとその場にしゃがみ込んで、さっきまで見ていた夢の内容を思い出す。
ついさっきまで見ていた部分しか思い出せない。だけどその部分だけで
大体の内容が掴めた。
靄がかかった頭で整理する。

今までは見たこともなかった家族の夢を最近よく見るようになっていた。
だから多分今日のもそれ。私の家族の、誰か。
お姉ちゃんじゃないとすればお母さんか。お父さんにしては少し体つきが
弱弱しいと言うか、どう見てもあの後姿は男の人には見えなかったはず。
76 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月06日(日)17時00分43秒
問題は何故そこまでしてあの人たちの夢を見るのか。
夢は願望の現われ、と言うことだとしたら。

「今の私に当てはめたら…つまりあの人たちに、会いたい?」

一人でつぶやくと、何だか空しい気持ちも一緒に部屋の中に響いた。
バカらしいと思った。
今更、イギリスに飛んでいってしまっている父や、この日本のどこかで
暮らしている母に会いたいなんて、心の底で願っているとは思いたくなかった。
唯一心を開けたお姉ちゃんになら会いたかったけれど。


家族も友達も恋人も。
そんなものいらないと思うようになってしまったのはあの二人の、
両親のせい。

本当のお母さんが死んでからすぐに、お父さんは再婚をして。
新しいお母さんは怯えたような目で、私の顔色を窺っていて。

それでも一応楽しくなっていたはずの家庭はすぐに壊れるし、
クラスメイト達からはどこから聞きつけたのか、それについてからかう始末。
何も知らない子供だったとはいえ、あれは幼心にもはっきりと傷ついたのを覚えてる。
77 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月06日(日)17時02分25秒
立ち上がって冷蔵庫を開け、中に入ってた麦茶のパックを取り出す。
いつもは行儀が悪いとコップにちゃんと入れて飲むけれど、今のだるい
身体で食器棚のほうまで移動することは困難に思えた。
パックの注ぎ口に唇をつけて、ゆっくり喉に流し込む。
ごくごくと喉を鳴らすたびに食道に冷たい感覚が走った。

「…っ…はぁ…」

息をついてふと窓の外を見た。
カーテンとカーテンの間が少しだけ開いていて、ベランダが少し見える。

黄色に緑の物体。

いつからうちのベランダはあんなにカラフルになっただろうと、
冗談交じりに考えながら、麦茶を冷蔵庫へ仕舞う。
少しだけ体が冷えて頭の靄も取れてきた。

(…そっか)
小川さんの話を聞いたせいであんな夢を見たんだ。
78 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月06日(日)17時02分58秒
ふと脳裏に彼女の笑顔とか浮かんできて、少しだけ考える。

私の中の彼女は一体どんな人なんだろうか。
家族ではないし、友達とは多分呼べない、恋人でもないし。
今のところただの知り合い、というべきか。

彼女は一体、私の中で、どんな存在になるんだろう。
そんなの今の私がいくら考えてもわかるはずないけれど。

目を閉じても、いつまでも頭の中から消えない彼女の残像は、優しく笑っていた。

あさ美ちゃん、って小さく動く口から発せられる声。
高くもなく低くもなく、普通の一般的な声だけれど。
79 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年10月06日(日)17時39分23秒
微妙な更新完了〜。

>>72
楽しみにしてくださってどもです。
こんまこもおがこん、どっちもイイです。はいw

>>73
いえいえ、読んでくださるだけで嬉しいです。
ネタはこれからもどんどん入れて行こうかとw

最近更新速度落ち気味っす。
でも放置は絶対しない方向なんで、気長によろしくです。
80 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月07日(月)00時26分11秒
たぶん>76の次だと思うんですが、こちらに誤爆されてるようです。
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/white/1010300505/362n
81 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年10月07日(月)00時56分46秒
うわぁ、マジだっ(汗)
ども、わざわざありがとうございます。>80
えーと…削除依頼だ…うぉぉぉ…。
82 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月07日(月)01時19分09秒
そんなわけで(汗)
76の後、77の前に↓を入れてください。
読みにくくてすみません。指摘、本当にありがとうございました。



あんなに嬉しそうに毎日愛し合って過ごしていた両親が、一回の喧嘩で別れた。
その事実は変えられない。

(…恋人だって別れもするし、友情なんて脆いものだし、家族も…)

壊れることだって、ある。

だから最初から手に入れようと思わなければいいんだと思った。
一人でいれば裏切られることもないし、あんな思いをもう二度としなくて済むはず。
何があってもたった一人で。
そうすれば、『手に入れられないもの』は『手に入れることができなく』なる。
努力すれば手に入れることができるかもしれないと安っぽい希望にすがるよりか、
最初から手に入れることができないものにすればいい。
家族も友達も恋人も。
遠ざかって、絶対手に入れられないものにすれば諦められる。
一人でいるのにも限度があるけれど、限度内でほどほどに欲しいものを
手にしていれば大丈夫。

絶対、大丈夫。
83 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月12日(土)02時57分03秒
この感じ、好きです。続き期待してます。
84 名前:おがこんヲタ 投稿日:2002年10月13日(日)13時57分12秒
今日見つけてここまで全部読みました。
はじめて見つけたおがこん小説なんでとても楽しみです。
がんがってください
85 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年10月14日(月)03時15分03秒
れすれす。

>83
どもありがとございます。
暇を見つけて続きをちょこちょこと書いてたりするんで、
気長に待ってもらえると嬉しいです。

>84
全部ですか、どもーです。
まだまだ話も進んでおらず、量も少なくてすみません(´ー`;)
がんがらせていただきます。

明日辺りパソコンの前で鬼のようにキーボード打つ予定。
更新できたら良いなぁ、と、願うぐらいならさっさとやれよ自分(´ー`;)
86 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時05分10秒
もう少しその声を聞きたい。
その声で名前を呼ばれたい。

そう思ってしまうのは、少しずつ彼女に惹かれ始めている前兆なのか。
どちらにしろ自分ではあまり良い状態だと思いたくなかった。

思いたくなかった、けれど。
やっぱりそんな希望と現実は別のものだから、私がそう思い込むだけで、
もしかしたら実際とても良い状態へと進んでいるのかもしれないし。
逆にとても最悪な状態なのかもしれないし。

そんなことを考え始めたら終わりなんて見えないのはわかってる。
ある意味鶏が先か卵が先かのような、輪。
悪循環の末、答えなんてわからない。

(…頭…痛くなりそう…)
延々と続く懊悩の鎖に、縛られてく。

もうやめよう。さっさと寝よう。
部屋に戻ってベットにもぐりこむ。
少しだけ気になって、目覚ましの時間を確かめた。
87 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時06分25秒
大丈夫。約束の時間には十分間に合う起床時間にセットされてる。
時間をちゃんと確認して今度こそ眠りに付く。

まぶたの裏に映るのは、彼女の笑顔。

『明日一緒に学校行こー』
水の中でちゃぽちゃぽ浮かびながら、相変わらずにこにこ笑ってた。
私が返事する前に決められた一方的な約束だったけれど。

何となく心地良い。
冷えてた身体が心から温かくなって行く不思議な感じ。
これじゃまるで恋してるみたい、なんて。
ふと頭にそんな言葉が過ぎった。

そんなわけないのに。

私は、一人でいたいはずなのに。
88 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時07分05秒
   □   □   □   □   □   □   □
89 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時07分44秒

そんな昨日見た真夜中の夢を思い出して、私は横を見ていた。

「? あさ美ちゃん?」
「…はい?」
「ボーッとしてるみたいだけど、どうかした?」
心配そうに覗き込む彼女。ちょうど背に朝日を背負っている。
眩しくて目を細めたけれど、その姿形が目に焼きついた。

素直にあなたのことを考えていました、なんて答えられるはずがないわけで。

「いえ…別に、大丈夫です」
「そう?」
何かあったら言ってね。
笑いながらそれだけ言い残して、彼女は前方を向く。

私も倣って前を向いたけれど、本当は盗み見るようにして、
彼女の横顔をちらちらと眺めていた。
90 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時08分27秒
歩くたびに動く前髪。
陽に透けて茶色のように見えたその髪に手を伸ばして触りたい衝動に駆られる。
触れるということはそれなりに近くへ寄らなくてはならないわけで。
のんきにあくびをかみ殺してる彼女の側に、近づける絶好の機会で。

その髪にこの手が触れられるならどんなに幸せだろう。

最近、彼女と二人でいるところしか覚えてないぐらい、ずるずると一緒にいる。
だけどやっぱりどこか一歩引いてる私。引かなきゃいけない、私。

目を閉じても彼女の残像がまだ目に焼きついたままで。
灰色のアスファルトを見ると、ぼんやり緑色の輪郭が映って見えた。

「そういえば…」
「うん?どうかした?」
周りを見回しても人の気配は全然ない。

「…何故こんな早い時間に待ち合わせを?もう少し遅くても良かったんじゃ
 ないんですか?」
「あ。あさ美ちゃん朝弱いほうだった?」
「いえ、そういうわけじゃないですけど…」
91 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時09分02秒
まあいいか。
とにかくこのタオルさえ渡せればいい。
そうすれば、全てが終わる。

(…そう。これで、終わるんだ)

タオルを入れた紙袋を彼女へ渡そうと口を開いたのに。
一瞬声が出なかった。躊躇ってしまって。
だからタイミング悪く、機会を逃してた。

「あー。今日は早いんだ、飯田先生」

何を悩んでいるのかもわからない頭の中に、彼女の声が何故か安心させてくれた。
振り向いてみると、昨日と同じ方向からやってくる赤い車。
きっと昨日の車は修理に出されていると思われる。

「なんかスピード遅いね」
全然昨日のようにはしゃがない小川さんは、のんきに車を眺めていた。

(そんなにかぼちゃが…)

今に始まったことではない彼女のセンスは放って置いて、車を見た。
スピードが遅いと言うところに不安を感じているのは私だけなんだろうか。
しかしその不安はすぐに的中。
側を通り過ぎていった運転席には、やっぱりどこか飛んでる飯田先生がいた。
92 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時10分05秒
「…止めなくていいんですか」
「あれ以外にも何台か車持ってるから」
「そういうことじゃなくて…」
え?と首をかしげている彼女。
本気でわからない小川さんにわざわざ説明をしようとする私の声を
さえぎるように、遠くから声が聞こえてきた。

「遅刻遅刻ー!」

古典的な使い古された少女漫画の出だしの様なセリフ。
向こうから走ってくるのは小さい女の子。
ツインテールの髪がぴょこぴょこ揺れながら、飯田さんの車の前に飛び出て行った。

(? 飛び出て…?)

バンッ!と、素敵な音が辺りに響いた。

「…うっわー」
「………」

女の子は見事なまでに飯田先生の車にぶつかった。
93 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時10分46秒
「朝から嫌なもの見たねー…スプラッタ?血は出てないからそうじゃないか。
 明日の新聞の見出しはこれで決まりだね」
「…のんきにしてる暇があるなら、助けに行きましょうっ」
「へ?わ!ちょっと、あさ美ちゃん引っ張らないでー!」

轢かれた(?)女の子は、ボンネットに乗ったままぴくりとも動かない。
私の頭では最悪の事態が展開されている。
車の速度はやはり歩いていても簡単に追いつけるほどのスピード。
走っていくと簡単に車の横につけた。
併走しながら、中の飯田先生の様子を見た。

「電波ってるね」
「…そうですね」
小川さんの表現は、飯田先生の様子を表すのにとても適している言葉だと思う。

「先生ー戻ってきてー」

どんどんと窓を叩いて呼びかけている彼女の声は、飯田先生にはやはり
聞こえないのだろうか。
目をカッと見開いた状態で固まっている。
94 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時11分42秒
「……なんか怖い…」
「いいから早く先生を戻してください!」
怯えたように訴えてくるへたれな小川さんに大きな声で渇を入れて、
私はボンネットの上で動かない少女を助け出そうと車の前に出る。
仰向けに返してみると、どうやらただ気を失っているだけのようだった。

(まぁ、このスピードだし)

そのスピードでぶつかっても気を失ってしまうというのは、ちょっとあれだけど。

「ねえあさ美ちゃん、もう無理だって〜…全然戻ってくる気配ないもん」
「…このままこの子が先生の車と壁にサンドイッチされてもいいんですか?
 先生を止めないと、最悪な事態は免れないかもしれませんけど」
「………」
彼女は目の前に迫りくる白い壁を見てから、かなり焦った様子で窓ガラスを叩く。

「先生、クビだよ!!」
「…言うに事欠いてそれですか」
思わず突っ込んでしまった私の声も聞こえないほど必死になっている。
それほど彼女が教師思いの良い生徒なのか、ただ単に阿呆なだけなのか、
敢えて考えないことにした。
95 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時12分22秒
「人殺しになっちゃうよ先生ー!先生ー!」
小川さんも壁がもうすぐそこへと迫ってきていることに危機感を感じたようだ。
私のほうも急がなければという焦燥にかられる。
小柄な少女を抱きかかえようと試みるがどうも上手くいかない。
小川さんの呼びかけにも、遠くへ行ってしまった飯田先生には届かないようだ。

「人殺しー!人殺しー!」

どうでもいいですが、人聞きの悪いことを大声で叫びながら窓を叩かないで下さい。
多分彼女的には必死になっているのだろうけれど、もうすでに内容がかなり端折られて
いることから、ご近所の反応がとても心配になってきます。

「ダメだ、作戦を変えよう!」
「え?」
急にそう宣言した小川さんは窓を叩くのをやめてこちらへ。車の前へと移動してくる。

「あたしがこの子運ぶから、あさ美ちゃんは保健室へ走る。事情を話しておいて」
「……わ、わかりました」
頷いてその場を離れると、さっきまで私がどう頑張っても上手く抱き上げられなかった
少女を軽々と抱き上げる。
やっぱり水泳部は腕力があるんだ。
96 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時13分01秒
(…と、そんなこと考えてる場合じゃない)

私は急いで校舎へと走っていく。
そこでふと疑問が浮かんだ。
小川さんは少女を抱きかかえて保健室へ。
私は小川さんよりも先に事情を話しに保健室へ。

(……じゃあ一体誰が飯田先生の車をとめ)

ガシャンッ、という音が後ろから聞こえてきたので、考えを中断させる。

こう見えても私は運動神経は人並み。下手するとそれ以上ある。
校庭なんて突っ切って、玄関の中に滑り込んだ。
靴を履き替えるのももどかしい。
下駄箱を乱暴に閉めてそのまま廊下を疾走する。

プールでの一件から校舎内の構造は大体記憶しておいた。
まだ不安な部分は多いけれど、保健室は職員室の隣に位置しているから、
行くのは簡単そうだ。
時々後ろを振り向いて、小川さんが付いてきているかを確かめ、足は前へと進める。
97 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時14分03秒
朝早くだったせいか廊下には誰もいなかった。
扉の向こう側にも誰もいないような錯覚を覚える静けさ。
プールサイドとは違う、不思議な雰囲気。
パタパタと走る上履きの音を追うように、小鳥のさえずりが
開け放った窓から聞こえてくる。

しばらくして職員室の札が見えた。
少し足を緩めて、足音を立てないように急ぐ。
ようやく到着した保健室には外出中の札がかけられていた。

(どうしよう…)

後ろから追いついてきた小川さんに相談してみると、不思議そうに彼女は首を傾げる。

「先生いない?」
「…みたいです」
「おっかしーなぁ……さっき自転車があったんだけど…」
何故そこまで先生の車とか自転車とか詳しいのかはさて置いて。
彼女は背負っていた少女をそこら辺に座らせておいて、立て札を目の前に腕を組む。
私はその隣で扉を見ていて不思議なことに気づいた。
98 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時14分54秒
「…鍵が、開いてますね」
「へ?あ、本当だぁ」
ノブを握って少し回すと、扉は簡単に開いた。
小川さんと私はお互い顔を見合わせて、ゆっくりと部屋の中へ、一歩踏み出す。

保健室は電気こそついていないものの、窓から差し込む光に部屋中満たされていた。
扉に入ってまず目に入ったのは白い白衣。
机に突っ伏すような形で、もぞもぞと何か動いている。

「先生」

小川さんはその様子を見て呆れたように声をかける。
その呼びかけに、白い白衣は飛び跳ねるように振り返った。

「わっ!た、食べてないべ?なっち、学校にお菓子持ち込んで
 食べてたりしてないべっ!?」

ポテトチップスの袋を背中に隠しながら、白衣を着た女性は片手をぶんぶんと振る。
99 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時15分54秒
「やっぱり、また食べてましたね先生」
「ち、ちが…これは違うっしょ!」
「どこが違うんですか!思いっきりのりしお味って書いてるじゃないっすか!」
小川さんは早足で先生の側へ寄ったかと思うと、背中に隠したポテトチップスの
袋を取りあげ、ため息をついた。

「この間も食べてましたよね」
「実はポテトチップスは遠く懐かしき故郷を思い出させてくれて…」
「言い訳はいいです。それよりも…」
小川さんはそう言い放ち、廊下に置き去りにしている生徒を指差した。

「飯田先生が殺っちゃいました…」
「…まだ死んでないと思います」
「あぁ…なっちののりしお……」
誰も人の話を聞いちゃいない。

「のりしおはもういいですから!始末の方法を考えてください!!」
「そんなの燃えるごみと一緒に出せばいいっしょ!」
「人を焼かないで下さい…」
もともと変な小川さんと、ポテトチップス(のりしお)を取り上げられた事
によって逆ギレし始めた先生のやり取りは、冗談なのか本気なのか判断しにくい。
この学校はもしかして普通の感性を持つ人間がいないんじゃないだろうか。
そう思わずにはいられない。
100 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時16分38秒
「多分あの子は気を失ってるだけだと思います…とりあえず、ベッドに
 寝かせてあげても良いですか?」
「…好きにすると良いべ。なっちはもう…もう、帰る…」
「帰るってちょっと、先生!」
「北海道に帰ってお腹一杯のりしお食べるべ。お腹一杯。
 ジンギスカンだって食べ放題っしょ…」

哀愁漂うその姿。

今まさに部屋を出て行かんとする先生の背中を羽交い絞めにして、
小川さんは焦った様子で必死に説得している。

「す、すみません、もうのりしお食べちゃダメとか言いませんから!
 ほらっ、ポテチ代もあるし!」
「…他の先生には言わないかい?」
「言いません大丈夫です告げ口なんてそんな悪趣味なっ」
「ありがとう小川!!」
朝の太陽のような清清しく可愛らしい笑顔を浮かべながら、小川さんから
のりしおを取り返した先生は、満足げに机の椅子へと座る。
ちなみにポテトチップス代として差し出していた小川さんのなけなしの
お小遣いも、きっちり取り上げられている。

「…あたしのかぼちゃパン…」

そんなものがこの学校の学食に置いてあるのかどうかは知らないけれど。
とりあえず悲しそうに呟いてる事から、相当痛手を受けたようだった。
101 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時17分35秒

「ところでそっちの子は?見ない顔だよね?」

ぱりぱりとポテトチップスを早速摘みながら、先生は首を傾げてこっちを見ている。
私のことを言っているんだとすぐに気づいた。

「…私は…」
「転入生の紺野あさ美ちゃんっす」
小川さんは、戸惑ってる私をすかさずフォローしてくれた。

「あー、転入生なんだぁ、職員会議で話をちゃんと聞いてた。
 なっちは安倍なっちって言うべ。名前で呼ん」
「先生、嘘を教えないでください」
「…安倍なつみって言うべ」
何で嘘をつくんですか、とか。だって誰もなっちって呼んでくれないんだもん、とか。
とても仲良さそうにやり取りをする二人を見て、少しだけ、小さな棘が胸に刺さった。

(…どうして)

一体、何なんだろう。
海底に沈められたような圧迫感。
102 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時18分33秒
「それよりも、あの子を…」
「あー、ベッドは空いてるから、中に入れて」

その声を聞いて小川さんがすばやく少女を回収に廊下へ向かおうとした。

「私がやります。小川さんはさっき運んだし、疲れてるでしょうから…」
「…うん?そう…?」
じゃあ頼むねー、と、先生のお菓子をくすねながら笑う。
私は少女を今度こそ上手く抱きかかえて、ベッドのほうへと運ぶ。

保健室の少し奥のほうにドアのない小さな別室がある。
ドアの代わりに引かれていたカーテンを肩で避けながら、中へ入った。
そこに白いベッドが3つ置かれていて、そのうちの一つに彼女を寝かせる。

その寝顔を覗き込んで、思わず手で目の前をさえぎる。
額がまぶしい。
指の隙間から見えた彼女の顔は、全体的に小さいイメージを受けた。

ふと耳を済ませると隣の部屋にいる小川さんたちの会話が聞こえてくる。
103 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時19分55秒
「ああ!!小川何食べてるべさ!それはなっちののりしおっしょー!!」
「す、すみませ…じゃない!あたしのかぼちゃパン返してくださいよー!」
会話というかただの喧嘩。
しばらく言い合いが続くあの部屋に戻るのも少しだるくて、私はベッドの
近くにおいてあった椅子に、何となく座った。

ううん、だるい、じゃない。
ただ見ていられないだけで。

嫉妬のような、そうでないような。
あの二人の仲の良いところを見せ付けられて、何だか胃の辺りがずきずきした。
自惚れていたわけじゃないけれど、

(何か…嫌だな…)

どす黒い欲望が私を支配して、飲み込まれていきそうになる。

「それにしても」

その声にはっと我に戻った。
別に私に話しかけたわけではないらしい。
小川さんたちの会話を途中で遮ってしまうのも悪いので、椅子に座ったまま
ベッドに眠る少女を意味もなく眺めていた。
104 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時21分11秒
「よかったねぇ小川、お友達できて」
(お友達…?)

それは、私のことなんだろうか。

胸がドキドキする。
胃がズキズキする。

「はい…」
「…どした?何か元気ないべ?」
「………」
一呼吸おいた後、じっと耳を済まさないと聞こえないぐらい小さい声で
彼女は言葉を続ける。
思わず、隣の部屋へ通じるその入り口の近くに移動した。

「でも…話してないし。何も」
(…何を?)

「だから、どうすればいいのかわかんなくて。話していいのか…どうしよう、先生」
「小川は紺野のことが信じられない?」
(信じてない?)

「そんなつもりじゃないけど…でも、やっぱり怖いんです。
 あさ美ちゃんまで皆みたいになったら…」
(…なったら…?)

「…あさ美ちゃんに冷たくされるのだけは耐えられないよ。嫌だよ…」

だったら何で全てを話してくれないんだろう。
信じられないわけじゃないなら、話してくれてもいいのに。
105 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時22分03秒
(私は…友達じゃないから?)

確かに会って一週間すら経っていないし、私だって友達と呼んで良いような
間柄になったのかどうか、わからなかった。
わからないから。信じ切れないから。
判断がつけられないから、自分から距離をとって。
一人でいるのは怖くない。
誰かに裏切られるくらいなら、一人でいるほうが何倍もマシだと思うから。

(…お姉ちゃん……私…)

ふと浮かんだ唯一心を許せた人。

(こんなのだから、お父さんたち…私を置いて行っちゃったのかなぁ…?)

ぐっと拳を固く握っても、身体の震えが止まらない。
壁に背中を預けたままその場に座り込んで、揺れる白いレースのカーテンを眺める。

もうすでに小川さんたちの会話なんて聞こえなかった。

鼻の奥がツーンとなって、息を吸い込まないとその微かな、
針で刺したような痛みが引いてくれない。
吸い込むだけ吸い込んだ息をゆっくり吐くと、目の前が少しだけぼやける

瞬きをすると少しの水滴が頬を伝った。
106 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年10月19日(土)20時22分36秒

何なんだろう、私。
何に傷ついてるんだろう。

「…変なの」
一人でそう呟いて、ますます虚しさが込み上げて来る。

(こんなに傷つくって事は、それだけ彼女が、大切な人になっていたから?)

それじゃあ自業自得だ。
勝手に彼女に惹かれて行ったのは私なわけで。


 ―――…今なら戻れるよ?


こっちに引っ越してくる前に言っていたお姉ちゃんの言葉が、頭の中に木霊した。
107 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年10月19日(土)20時31分50秒
ちょっと文章が雑になっているかもしれません、更新。
川o・-・)<しかも自分でageてしまいましたとさ。

次の更新も相変わらず未定っす。
108 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月20日(日)04時20分46秒
大量更新ありがとうです。
未だに謎だらけだすね。期待してます。
109 名前:おがこんヲタ 投稿日:2002年10月20日(日)11時10分57秒
読みましたよーん
続きが気になる〜
110 名前:ななし 投稿日:2002年10月28日(月)22時20分44秒
不覚にも>>105でホロリときました。
ってか、なっちが保健の先生ですかぁ…毎日保健室に通います!
111 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時25分41秒

「わっ、あ…あさ美ちゃんっ?」

気が付いたときには部屋を飛び出していた。
保健室の扉を開けたまま廊下へ。後ろから聞こえてくる声を無視して走る。

頭の中で響いた声は私の足を早くさせる。
今ならまだ間に合う。そう言った。
引き返そうと思えば引き返せるはず。そう思った。
これ以上彼女に惹かれてしまわないように、自分が傷つかないように。

小川さんが門の前で待っていてくれたあの日の朝だって、
一人の私は何もできなくて、傷つくのが怖かったから逃げ出してしまったんだ。

傷つくのが怖い。
怖いから逃げる。
逃げるから何もできなくて、結局繰り返す。
終わらない悪循環。
だから私はいつまでも、変わらなくて、変われなくて。
112 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時27分13秒

「……っはぁ、はぁ……」
荷物がやけに重く感じる。
さっきまで大切に持っていたあの紙袋は、ちゃんと保健室においてきたのに。

小川さんは逃げ出した私を追いかけては来なかった。
多分、私がなんで走って行ったのかも気づいていないだろう。当たり前だ。

(…私…何やってるんだろう…)

自分だってよくはわかっていない。
たったあれだけのことで何を逃げ出してるんだ。
頭の中の比較的冷静な部分が、自分にそう問いかけてる。

でも本当にわからないよ。
神経質な子供だけれど、繊細と呼べるような人間じゃない。
たったあれだけのことで傷つくなんて常人からしてみればおかしいことなのに、
こんなに私は傷ついてて。

走っていた足も錘のように重くなり、いつの間にか速度がどんどん遅くなっていく。
ついには歩くことすら止めてしまって、廊下のど真ん中で、私は立ち止まった。
何をするわけでもなくその場で俯いたまま。
ずるずると膝が崩れて行って、そのまま座り込む。
113 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時27分59秒

遠くで生徒の笑い声が聞こえた。
多分、もう登校してくる時間帯なんだろう。

時計を見ようにも目の前がぼやけてて、時間が読めない。

いくら目を擦ってもそのぼやけは取れなかった。
むしろどんどん酷くなっていく感じ。

そんなまだぼやけてる目の前に映る廊下に、影ができた。
人の影。
白い物が視界の端に映るけれど、姿形まではちゃんと識別できない。
多分上履きなんだろう。つまりこれは生徒。

「紺野さん…?」

小さな子供のような少し舌足らずなしゃべり方。
顔を上げると、ちょっとのんびりした雰囲気を纏った女の子が、
不思議そうにこっちを見ていた。
私の苗字を知っているということはきっとクラスメイト辺りなんだろう。
でも私は彼女の名前が全く思い浮かばない。
114 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時28分55秒

自分からクラスの輪に入らずに、一人でいるように心がけていたのだから、仕方ない。

面倒なところを見られたな、と思う反面、何だかほっとした。
よくはわからないけれど、その不思議で心なし優しげな雰囲気が、
緊張していた糸を緩めてくれたようなそんな気がしたのだ。

それぐらいでいちいち気を許してたら痛い目にあうのは自分だと
ちゃんとわかっているのに。
それでもやっぱりどこか安らぎを求めていたのかもしれない。

「どうしたん…れすか?」

そっと手を伸ばし、私の頬に柔らかい指で触れる彼女。

不思議なしゃべり方だった。
文字で表すと、れす、という語尾。
聞き覚えがあって記憶を手繰るけれど、頭の中はぐちゃぐちゃで。息も乱れてて。
何も考えることができない。
115 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時29分43秒

「……なん…でも、ないです…」

そう言うのが精一杯だった。

なんでもない。小川さんとは何も、関係はない。
自分に言い聞かせるように口に出した言葉は、深く私の胸をえぐる。
淡い期待も、勝手な想いも、あの場所から逃げ出して全て断ち切ったはずなのに、

「でも泣いてる」

なのに、涙が止まらない。
そんな簡単に忘れられるわけがないんだと、身体中がそう訴えているかのように。

「…あ、おなかすいたのかぁ!ちょっとまってて…ええと、ええと…」

鞄の中をがさごそと漁りながら、これでもない、あれでもないと、
中身を廊下にぶちまけ、最終的に困ったように鞄をひっくり返す。
そんな彼女の行動が一瞬理解できなくて、私はぽかんとしていた。
すぐに状況を理解して彼女を止める。

「ち…ちが…」
「ち?チョコ?すまん、とけるからチョコはもってこれなかった」
「……そうじゃ、なくて…」

溶けなかったら持って来る気だったのだろうか。
思わずそんなツッコミが頭を過ぎって、首を振った。
116 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時30分18秒
顔を横から横へ振ると頬を伝う涙が飛び散る。
いまだに止まらないその涙に気づいて制服の袖で目元をごしごしと拭いた。

「チョコパイはさっき食べちゃったしなぁ…ど〜しよ〜…」

真顔で、でも少々すまなそうな表情でうな垂れる彼女は、
まったく私の行動に気づいてはいないようだった。
何故かその姿が、その雰囲気が。小川さんにかぶった。
背だって顔つきだってどこも似てる箇所なんてないはずなのに。

そこまで小川さんの残像にすがり付いてるみっともない私。

本当に今なら戻れたのか。
今、戻って後悔しないのか。

今こうやって逃げてきたのが正解なら、何で涙が止まらないのか。

「な…んで…」
「? なにがれすか?」

鞄から出てきたバナナを片手に首を傾げる。
その様子が可愛らしかった。

「何で、私に…優しくしてくれるんですか…?」
「え?」
117 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時31分11秒
優しくされたらまた勘違いしてしまう。
小川さんのときみたいに、勘違いしてしまうのに。

「紺野さんとなかよくなりたいからだよ」

彼女の答えはとても簡単だった。
その言葉が身体に染み込んで、私を安らげてくれた。

「…彼女も…そうだったの、かな…」

そんなことこの人に聞いてもわからないのに。
無意識のうちに口から出た言葉に、自分の頭でも認識できない。

「ののにきかれてもわからないれすよ。そういうことは、本人にきかないと」

てへてへ、と八重歯見せて笑っている。

「何も…話してくれなくて。秘密にしてることが、ある…みたいで…」
「だれにでもひみつはあるもんれすよ。お互いのこと、もっと知りたくなるけど」

どうしても仕方がないことだってあるんだよ、と。
私よりも年下に見える彼女の外見とは裏腹に、しっかりとした言葉で、
私を慰めてくれる。
118 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時31分50秒

「しんじてもらいたいなら、まずしんじてあげなきゃ。
 それで、話してくれるようにどりょくしないと」

そんな彼女の言葉で私の気持ちが簡単に、さっさと裏返った。
ううん、どちらかというと、元から持っていた答えの背中を押してもらったんだ。

彼女のことをもっと知りたい。
もう少し、一緒にいたい。

「にげても、まってても、ダメなんだよ。すすまないといけないのれす」

本当に、しゃべり方とは裏腹にとても大人びた言葉。
じーっとまっすぐ向けられてる瞳は透き通っていた。

その目が私を応援してくれているように思えた。
だから決心がついて、ぎゅっと拳に力を込めて自分に渇を入れる。

涙はもう止まってる。

「…小川麻琴について…何か知りませんか?」

まずは知らなきゃいけない。
どんな些細なことでもいい。彼女のことを、もっと知りたい。

私の急な言葉に驚くこともなく、彼女はうーんと唸った。
119 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2002年11月03日(日)23時32分26秒

「おがわ…まこと…」

そういえば私はまだこの人の名前も聞いてない。
そんなことに今更気づいて、後でちゃんと聞いておかなきゃと思った。

「それなら、よっすぃーにきいたほうがいいかも」
「よっ…すぃー?」
「ほら、せんせい。吉澤せんせーのことれすよ」

吉澤先生。
脳裏に彼女とまったく同じ笑顔を浮かべた先生が、浮かんだ。
120 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年11月03日(日)23時34分10秒
川o;-;)ノ<…ハロモニ、見れませんでした…。

>>108
確かに、のろのろしてていまだ謎だらけな感じが(汗。
でも実際謎と呼べる代物かどうか…(何)

>>109
どうもです。
最近更新サボり気味なので、自分に渇を入れて頑張りまっす。

>>110
ホロリときてくれましたか。
そうですね。なっちが保健医なら授業中でも寝かせてくれそ(ry

執筆速度が遅い上に、文章の書き方まで雑になってきてるような気がします。
取り敢えず今一度自分が何を書きたかったのかと言う事を考え直し、
そして自分を見つめなおしてから(ry

すみません。つまり次も更新がいつになるか不明ということで(氏)
121 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月05日(火)13時06分51秒
何か話が大きく動きそうな予感・・・。
122 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月06日(水)22時51分53秒
ドキワクドキワク…・・・w
123 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月11日(月)21時11分08秒
今日一気読みさせてもらいました。
とてもやわらかい文章で読んでいることに疲労を感じなかったです。
名前を出さなくても誰だかわかる描写は素晴らしいと思います。
これからも頑張ってください。
124 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月22日(金)07時11分40秒
読んでいてどんどん引き込まれていきました。
続きまた〜りお待ちしてます(w
125 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年11月27日(水)02時10分11秒
川;・-・)ノ<約一ヶ月経っちゃいました…。

>>121
起承転結で言えば、もう「転」辺りに入ったと思われます。
と言っても、全体的な話としてはまだ続く予定ではありますが。

>>122
一ヶ月経ってもまだドキワクしてもらえてたらいいなっ(汗)

>>123
ありがとうございますー。
一気読みしてもらったのに続きの更新を全然してなくてすみません。
今日一気読みさせてもらいました。
疲労を感じなかったのは、たぶん話の中身が薄っぺらいからかとw

>>124
本当すみません。また〜〜〜りお待ち下さいw

更新は今週の土日、最低でも来週辺りにはできるかなと思われます。
126 名前:一読者 投稿日:2002年11月27日(水)22時16分08秒
待っていますよ。
更新を楽しみにしています。
127 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月07日(土)23時49分38秒
続きをまったりとお待ちしています。
128 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)22時41分03秒
諦めません、読むまでは。
マターリマターリお待ちしております。
129 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月21日(土)15時45分25秒
連休なので期待
130 名前:ななし 投稿日:2003年01月03日(金)20時26分01秒
マターリマターリ待ちまっしょい!
131 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年01月06日(月)20時58分48秒
   □   □   □   □   □   □   □
132 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年01月06日(月)20時59分21秒

これからやるべきことは決まった。
さっきまで泣いてたカラスが、今は意気揚々と教室へ向かう。

あんな風に保健室を出て行った手前、何となく小川さんに会わせる顔はない。
いや、別に多分会っても大丈夫だけれど、気まずいだろう。
そのことを考えると少しだけ足取りが重くなるけど、
教室に行かないというわけにもいかない。

どうやって言い訳をしようか。
どう言えば不自然じゃない理由になるだろうか。

今まで朝の登校時と放課後のプールでしか遭遇していないとは言え、
彼女は隣のクラス。お互い会おうと思えば会えるほど近い距離にいる。
133 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年01月06日(月)21時00分08秒
そう、その意思さえさえあればすぐにでも会えた。やろうと思えば何でもできた。
彼女のことを知りたければぶつかればよかった。怖いからっていつまでも躊躇してたら、ずっとその状況から抜け出せやしない。
何も話してくれない彼女が悪かったわけじゃない。
逃げてた私も悪かったんだ。

その事に気づいた今ならこう思う。
これからは逃げないようにしなくちゃいけないんだ。

彼女とばったり会ったら、素直に言おうか。
もっと知りたい。もっと話したい。

友達になりたい。

拒否されたらなんて考える暇があるなら、行動しよう。
134 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年01月06日(月)21時00分45秒
そう心に誓って、一歩一歩を踏みしめる。
ペタペタと上履きの音が廊下の中に響いていたけれど、
そのうちにその音すら聞こえなくなっていった。

教室に近づくに連れ、すぐそばを通っていく生徒の数が増えていく。
同じ廊下でもさっきまで私がいた所とは大違い。
笑い声が響いて、楽しそうなお喋りが飛び交って。

無言でその中を突っ切る私は、その雰囲気に馴染めなくて、
気づかないうちに早足になっていた。
まるでそこから逃げるように。無意識のうちに。

これじゃ前と同じだよ。
たった今誓ったはずだよ。
逃げちゃダメだ。
ここで逃げたら、意味がない。

立ち止まる。
周りの目を無視して、大きく何度か深呼吸。
135 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年01月06日(月)21時01分21秒

落ち着け。落ち着け。
少しでもいいから、落ち着いて、私。

(…大丈夫)
周りの喧騒なんて気にしない。
私は変われるかもしれないんだ。
彼女のそばにいたいなら、彼女にそばにいて欲しいなら、
今までの私から変わらなきゃいけない。

だったら、変わろう。


一人でいるのが初めてイヤだと思えたから、今の私は変われるのかもしれない。
そのきっかけをくれた彼女は、やっぱり私の大切な人になりつつあったんだと、
そのときから心のどこかで気づいていたんだと思う。
136 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年01月06日(月)21時02分15秒
   □   □   □   □   □   □   □
137 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2003年01月06日(月)21時03分50秒
前回の更新予告日からかなり経った上に少なくて面目ないです。
不甲斐ない作者ではありますが、暖かい読者の皆様のレスがありがたいです。

>>126
本当にお待ちしててすみません。
やっとできた更新も少なくて、更新したと言えるほどのものでも無いですが、
これから頑張っていこうと思います。

>>127
本当にまったりさせてて申し訳ありません。

>>128
そ、そこまで…。
お待たせしていてすみません。

>>129
連休なのに更新少なくてすみません。

>>130
おがわっしょーい。
ありがとうございます。マターリさせすぎてごめんなさい。

∬;´▽`∬ 謝ってばかりでごめんなさい。
138 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)23時42分27秒
謝られるどころか、更新ありがとうですよ。
期間があこうと続きが読めるなら、モウマンタイ。
139 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月07日(火)20時04分04秒
更新多謝
これからもマターリ待ってます
140 名前:一読者 投稿日:2003年01月07日(火)21時54分54秒
コウシンキタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
141 名前:名前ってなあに? 投稿日:2003年02月02日(日)23時26分19秒
更新…待ってます…
142 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月05日(水)19時24分30秒
続き待ってまぁす(^○^)
143 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年02月09日(日)22時24分26秒
「あー、紺野さん。遅かったれすね」
教室に一歩入ると、そんな声が聞こえてきた。
黒板に寄りかかってクラスメイトの何人かと話していた彼女は、
そのまま私のほうへとやって来る。

小川さんに遭遇することはなかった。
さっきまでバカみたいにうじうじ悩んでいたことは杞憂に終わり、
自分の中でやっぱりどこかほっとしている部分があって。

結局どんなに心でこうなりたいと願ったとしても、
簡単に変われるわけじゃないって事実を突きつけられたような気がして、
ちゃんとわかってはいるけれど、少しだけそんな自分が嫌になる。

「お腹、大丈夫れすか?」
そう言って心配そうに顔を覗き込んでくる彼女。
あの保健室から逃げ出したあとの廊下で出会ったクラスメイト。

あの後お腹が痛いとか適当な理由を付けて私はこの恩人を先に教室に返していた。
頬には泣いた跡がくっきり残っていたし、顔を洗いたかった。
だから名前を聞くタイミングを逃していて未だ彼女の名前は知らない。
144 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年02月09日(日)22時24分56秒
「ご心配おかけしました。あの…」
「うん?」
「…ええと…」
せっかくお礼を兼ねて名前を聞くチャンスなのになかなか言葉が出て来なくて、
私は微妙な大きさで口を開いたまま止まってしまった。
そんな私の様子に気づいているのか、いないのか、
彼女はいきなり何かを思い出したような様子で口を開く。

「紺野さんのことを紺野ちゃんと呼びたいなぁ」
「え…お、お好きなように…」
びしっと真面目な顔を作ったのは一瞬で、私の返事を聞くと
また嬉しそうにてへてへと笑顔を見せてくれた。

何だろう。このほのぼのした彼女の雰囲気が心地いい。
余計な肩の力を抜いてくれる、とでも言えば良いだろうか。
とにかく安心できる笑顔だった。

「のののことはののって呼んでくれていいのれす」
「の…のの…ののの?」
「ののれす」
あだ名じゃなくてどうせなら名前を教えて欲しかった。
一瞬そう思ったけれど、この場合名前を覚えてない方が悪いんだ。
やはり聞くタイミングを失って、私は仕方なくその名で呼ぶことにした。
145 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年02月09日(日)22時25分30秒
「あの、ののさん」
「うん?」
「…ありがとう、ございました」
ぺこりと頭を下げる。
彼女は何も言わなかった。何も言わずに、私の頭を撫でる。

「今度は紺野ちゃんのためにチョコパイを持ち歩いておくのれす」
「………」
多分わかってないんだろうなぁ。

そのあと私はののさんのお友達だというクラスメイト数人の元へ連れて行かれる。
簡単な自己紹介。他愛のない会話。
久しく忘れていた昔の、まだ小さい頃の友達との無邪気な記憶が懐かしかったけれど、
今の私はあのときみたいにうまく喋れなかった。

喋らなかった、と言うべきかもしれない。
何でか拒否反応があった。後ろめたさとか、そういうプライドがあった。
今まで頑として周りの人を寄せ付けなかった態度を今更簡単に変えられない。
146 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年02月09日(日)22時26分23秒
(それを自然に崩してくれるのが、小川さん…なのかな)
ぼーっとしている私を心配そうに気にかけてくれるみんなに
愛想笑いを浮かべながら、何でもないです、と首を振ってみせる。
笑えるだけまだましだ。そう自分に言い聞かせる。

そしてガラっと勢い良く扉が開いた。
黒板の前にいた私たちはその音を聞いて、一斉に上にある時計を見た。
いつの間にかチャイムが鳴っていたらしい。みんな急いで席へと向かう。

「またあとでね、紺野ちゃん」
辻さんは教卓の真ん前。自分の席はその列の一番後ろ。
にこにこと手を振られ、私は急いで席へ向かう。

「紺野さんおはよ」
「お…おはようござい、ます」
同じように席に着き始めたクラスメイト達が口々に挨拶をかけてくれる。
一つ一つに丁寧な挨拶を返す私が自分の席に着く頃には、
もうすでに起立の掛け声がかかっていた。
147 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年02月09日(日)22時26分57秒
(…こんなに、声、かけてもらってた?)
記憶を辿っても全然覚えがない。
転校して来てから覚えている記憶といえば、小川さんのことぐらいで。
たった1日2日ぐらいしか経ってないのにその記憶はかなり膨大な量で。

(ボーっとしすぎなのかなぁ…)
むしろ四六時中無意識のうちに彼女のことしか考えてなかったとか。
本当にそうだとしたら、恥ずかしすぎる。
顔が少し熱くなっていくのを感じて、思わず頬を押さえた。

「何やってんの、あんた」
「はい?」
両手を頬に添えたまま顔を上げると、教卓にはどこかで見たような人が立っていた。

どこかで見たような人。
どこかで、
どこ、

(…って、飯田先生だ)

そこに立っていたのは吉澤先生ではなかった。
隣のクラスの担任、飯田先生。
148 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年02月09日(日)22時27分32秒
(何で無事なんだろう)
長いストレートの髪、背も高いとても綺麗な人だなぁ、と
そんなお世辞めいたことを思う前にまずそんな言葉が頭に浮かんでいた。

「さっさと席に着きなさいよー」
「あ、はい…すみません」
周りを見回すと立っているのは私だけだった。
いつの間に号令が終わっていたんだろう。
さっきとは違う恥ずかしさに襲われて、私は急いで席に座る。
それを確認して飯田先生は口を開いた。

「ええとー、吉澤先生は保健室で寝てます。
 軽症ですので気にしないようにしてください」
「先生が轢いたんれすか?」
「今回は少し壁とサンドイッチにしちゃっただけよ」

そういえば、サンドイッチから助かったあの子はどうしているだろうか。
放っておいてきてしまったことにちょっと罪悪感を感じながら、
目当てだった吉澤先生の所在に、肩をがっくり落とす。
保健室といえばあの子のいる場所で、さっき逃げてきてしまった場所。
少し違うかもしれないけれど入れ違いになってしまったということだ。

というか。
あ な た が 犯 人 で す か 。
149 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年02月09日(日)22時28分31秒
「えーと、まあ罪悪感は少しあるから吉澤の代わりに出席取るわよ」
「少ししかないんれすか?」
「辻」
「あい」
ちょっと前出てこいやと言わんばかりに、飯田先生が指をくいっと動かす。
揚げ足取りをしていたののさんは素直に席を立ち教卓へ向かう。

「ちょっとジャンプしてみなさい」
いつの時代のカツアゲだろう。
いや、違う。突っ込む部分はそこじゃない。

言われたとおりジャンプをするののさんを眺めながら、
飯田先生は急に彼女のポケットを探る。
セクハラとか思った瞬間、そのポケットから何かが取り出された。

「あ。のののアイスが!イチゴアイスが!」
「そんな溶けるものを学校に持ってこない!没収!!」
「いいらせんせいがたべちゃうんだ!のののアイス!」
「食べるわけないでしょ!こらっ…腕に噛み付かないの!」
泣きながら取り上げられたイチゴアイスにすがりつくののさん。
周りのクラスメイト達は、その光景を当たり前のようにして眺めていた。

何なんだこの学校。

今更ながら、そういえばさっき飯田先生がののさんのことを辻って
呼んでたなーと、頭の端っこの方で思った。
150 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2003年02月09日(日)22時39分17秒
>>138
あうあう。こちらこそ本当にありがとうございます。
期間が相変わらず開いていますが、頑張ってます。

>>139
作者なら更新するのが当たり前。
そんな当たり前なことも出来てない自分にお礼なんていいんです。
∬つ▽`;∬ ほんとにゴメンネ。

>>140
コウシンシタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!

>>141
す、すみません。
待ってもらった結果がこんなんで本当にすみません。

>>142
ありがとうございます。
本当にマターリマターリお待ち下さい。
151 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月09日(日)23時13分07秒
更新キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
いつもいつも待ってます…。
152 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月10日(月)00時06分54秒
更新多謝w
ゆるりと流れる時間が心地良いです
川o・-・)ノ<続きが楽しみです、頑張って下さい!
153 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月10日(月)23時00分25秒
丁寧な描写にフィクションだけどどこか現実味のある世界観。
真面目な話と思いきや突然出てくるキレたギャグ・・・。

他の作者さんの名前を出すのはもしかしたら悪いことなのかもしれませんが
どこかすてっぷさん作品を彷彿とさせますね。

こういう話、自分的にツボです。
マイペースで構いませんので頑張って下さいね!
154 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月17日(月)20時23分29秒
マターリとお待ちしてます(^o^)丿
155 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月25日(火)22時46分37秒
ほぜむ
156 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年03月02日(日)22時18分13秒
で、結局何だかんだでいつの間にか先生のHRは終わってしまった。
最後までののさんはアイス取り上げ犯の腕に噛み付いていたけれど、
結構強情な飯田先生は、そんなののさんを振り払う。

「しつこいよ辻!文句あるならあとで職員室に来なさい!!」
「うわぁん!いいらせんせいのばかぁ!!」
先生に向かってバカと罵ることができるののさんはすごい。
正直そんな2人に関わりたくはなかったけれど、
吉澤先生に会うため、私は仕方なく教卓の方へと向かった。

「あの、飯田先生」
「何、あんたもカオリのやり方に不満があるって言うの!?」
「え…」
口を「皿」の形にしている飯田先生は少し血走った目で睨んできた。
正直、怖い。
157 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年03月02日(日)22時19分28秒
「あの、そ、そうじゃなくって、吉澤先生が…」
「あれは吉澤が車の前に飛び出してくるから悪いの!!」
「そうじゃなくて」
「いいらせんせいがよっすぃーひいた!よっすぃーを!よっすぃーを!」
「だから轢いてないってば。しつこいとこれ返さないよ!」
「うわぁああぁぁ〜ん」

手をぎゅっと握り拳を作る。
そのままその腕を後ろの黒板へと叩きつけた。

「………」
「………」
「………」
教室中が一気に静まり返り、ぱらぱらと何かの破片が落ちる音だけが響く。

「…人の話を聞いてください」
「ハイ。」
赤べこみたいに頭をかくかくと上下に振る2人を見て、
私は一度大きくため息をついた。
とりあえず話を聞いてもらう体制は整ったようだ。
何だか凄く周りの視線を感じたけれど、今はそんなことを気にしてる暇はない。
少し痛む右手を撫でながら私はそのまま飯田先生の方を向いて口を開いた。
158 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年03月02日(日)22時20分52秒
「吉澤先生はこの後どうするんでしょうか」
「ど、どうするって…保健室で寝てる、から…その…」
「授業出るんですか?それとも一応病院へ?」
「病院に行くほどじゃないらしいってなっち…安倍先生が言ってたから、
 多分そのうちいつもの能天気な顔で戻ってくると思う、けど…」
「そうですか…」
先生が戻ってくるのを待って話を聞くか、
このまま保健室へ向かって、むりやり話を聞くか。

そこまで急ぐことでもないと言えば、確かにそうだ。
だけど決心が鈍る前にさっさと話を聞きだしておきたい気もする。
逃げ出してきた保健室にまた戻るか。
吉澤先生が復帰するまでじっと待つか。

「…あの、カオリ、もう職員室に戻っていいかな?」
「ダメれすよ!のののアイス返してくらさい!」
「だからそれはダメだっての!」
「返せ!アイス返せぇ!」
「ちょっ、引っかく普通!?あんたは猫か何かなの!!」

手をぎゅっと握り拳を作る。
そのままその腕を後ろの黒板へと叩きつけた。

「………」
「………」
「………」
教室中がまた静まり返り、がしゃんと何か大きな破片が落ちた音がした。
159 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年03月02日(日)22時21分28秒
「…どうぞ。お引止めして申し訳ありませんでした」
「私たちもスミマセンでした。」
一字一句逃さずに、まったく同じ言葉を発する2人。
そして飯田先生は何かから逃げ出すように教室を飛び出して行った。
ののさんも、先生が持っていくのを忘れた出席簿を片手にその後を追う。

さて、どうしようか。
足元に散らばる緑色の破片を踏まないように上手く避けながら、
私も廊下の方へと向かい、一歩外へ出た。
明るい日差しが窓から差し込んでリノリウムの床が光ってる。
朝のHRが終わった後ということで、他のクラスの生徒やらで廊下はいっぱいだ。

この中に小川さんは居るんだろうか。
ふとそんなことを考えている自分に気がついて、ため息が出た。
あんな性格の彼女のことだ。友達の一人や二人とバカみたいに騒いでるに決まってる。

(…でも…)
昨日の朝の光景が引っかかった。
クラスメイト達の反応も気にかかって、
今朝の彼女の言葉が一番わからなかった。
160 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年03月02日(日)22時22分09秒
敬遠される。
近づきにくい。
冷たくされる。
何が正解なのかはわからない。
ただこれらを統合してどんな答えが出るのか、わかることは、
周りの人たちと小川さんたちの関係は普通じゃないらしいこと。
普通のクラスメイト同士ではないらしい、ということ。

一種のいじめにでもあっているんだろうか。
だけど彼女の様子はそんな雰囲気を微塵も感じさせなかった。

最初は誰でもわからないことだらけ。
それを知るためには、まず自分から行動だ。
ぐっ、と無意味に握り拳なんか作って気合を入れてから、
私は保健室へと向かった。

休み時間の残りはあと10分。
大丈夫。走れば全然間に合うよ。
161 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年03月02日(日)22時22分40秒
階段を降りるとき考えるよりも先に足が浮いていた。
内側にある手すりに軽く手を添えて、一気に。
周りの生徒が驚いた顔でこっちを見ているのがわかる。

そんなのを無視してスカートを上手く押さえながら、
大きな音を立てて、踊り場に着地した。

少しだけ足がジーンと痛む。
まだ間に合うといってもやっぱりそんなことを気にしてる暇はない。
とんとんとリズミカルに一段抜かしをしながら、適当な段になると、
さっきみたいに手すりに手を添えて一気に跳んだ。

それを何度か繰り返すと膝がおかしくなりそうで、それでも一階へ着地する。
そのまま職員室の前も走りぬけた。

「ちょっとっ、廊下は…」
「ごめんなさい!」
いかにも怖そうな女の先生の横をかなりのスピードで通り過ぎて、
後ろから聞こえてくる彼女の怒声も何だかおかしくて。
162 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年03月02日(日)22時23分25秒
流れる景色。
心臓が壊れそうなぐらいあがった呼吸。

忘れていた感覚が次第に戻ってきて、
自然と表情が緩まって、笑顔になるのがわかる。

これでも昔は陸上部だった。
毎日タイムを一秒でも縮めて喜んでいた。
あんな平和な日々をいつ忘れてしまったんだろう。
お姉ちゃんやお父さん達に褒められて、嬉しかったあの時のこと。

早く先生に会わなきゃ。
早く、全部知りたいよ。

頭に浮かぶあの人の笑顔ににやけてたわけじゃないけど、
通り過ぎる人たちが、皆不思議そうな顔で私を見ていた。

次第に人影は少なくなっていって、
保健室の前はさっきと変わりなくしんとしていた。
163 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年03月02日(日)22時24分38秒
(…この中に、いるんだ)
もちろんスピードも徐々に落ちていって、
ぱたぱたと、上履きが廊下の上を駆ける音がその周辺に響く。
きゅっとその扉の前で急に止まったんだから、
多分中にいる先生達には私の存在に気づいているだろう。

「あの!すみません!!」
もうここで止めようとは思わなかった。
思い切りがらっと扉を開けて、中も確認せず部屋の中に踏み出す。

そしてその決意はそのあと後悔となって私に返ってきた。

「もが?」
「あれ?さっきの…えっと、紺野?」
口いっぱいにポテトチップスを頬張る吉澤先生と、
どんどんとポテトチップスを詰め込もうとする安倍先生。
その2人が今気づいたという風に、椅子に座ってこっちを振り返る。

本能的に関わっちゃいけないと頭の中で誰かが囁いた気もしたけれど、
時すでに遅しとはこういうときに使うんだと、私は冷静に考えていた。
164 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2003年03月02日(日)22時25分20秒
>>151
更新ダ━━∬´▽`∬━∬ ´▽)━∬∬ ´)━∬  ∬━(` ∬∬━(▽` ∬━∬´▽`∬━━!!!!!

>>152
どうもありがとうございます。
のんびりすぎて飽きられていないといいのですが(w
∬´▽`∬ノ 頑張ります。

>>153
突然出てくるキレたギャグか(w
すてっぷさんの作品はもちろん読ませていただいてますし、
あんな素敵な作品と肩を並べさせてもらえて光栄です。あうあう。
のんびりマイペースな奴で本当にすみません。

>>154
いつもいつもありがとうございます。

>>155
保全してもらわないと保てないスレですみません、ありがとうございます。
あうあう ∬つ▽`;∬
165 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月04日(火)12時34分09秒
更新多謝
相変わらずな安倍先生に微笑みつつ、続きを待っております。

川o・-・)ノ<備品は大切にね!
166 名前:名無しスランプ。。。 投稿日:2003年03月25日(火)12時17分59秒
待ってます。。。
167 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年04月06日(日)04時02分00秒
「…どうしたの?」
後ろの方でごほごほと何度も咳き込む吉澤先生を奥へ押しやり、
安倍先生は私の方を見て可愛く首を傾げる。

その問いかけが何を指しているのかわからなかった。
今こうやって休み時間に保健室を訪れた意味を聞いているのかもしれないし、
さっき、いきなりここを飛び出して言った理由を尋ねているようにも感じる。
どちらとも取れる安倍先生のその言葉は、何となくずるいと思った。

「ごほっ…な、なっち、水っ、水を…」
「コップは戸棚に入ってるべ」
「うぉ…ぉおぉ…けほけほっ」
意味もなく唸りながら吉澤先生は戸棚へと走る。
しかしそれには薬品やシップなども入っているわけだから、
当然扉には鍵が厳重にかけてあるわけで。
吉澤先生が涙目で振り返った姿を見て、
私はやっぱり、今来たのは失敗だったと確信する。
168 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年04月06日(日)04時02分36秒
(このまま帰っちゃおうか)
思わずそんなことを思ってしまった。
壁にかかった時計に視線を走らせ、結局時間が残り5分と迫っているのを確かめる。
先程手渡された温いインスタントコーヒーを机の上に置き、とりあえず、
安倍先生の方を見た。

「………」
「ん?」
しかし何と話しかければいいのだろうか。
今朝の話では小川さんと安倍先生は少なくとも顔見知りの仲、
私の知らないことをこの人は知っているんだ。

金魚みたいに口を開閉させる私を助けるつもりでか、
安倍先生はにこっと笑顔を浮かべて、ベッドの方を指差した。
169 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年04月06日(日)04時03分29秒
「小川と紺野が連れてきてくれたあの子、
 今さっき元気よく教室に戻って行ったよ。そこですれ違わなかった?」
「あ…いえ…」
すれ違っていたとしてもこっちは全力疾走で駆けて来た。
顔は見ているけれど鮮明に思い出せるわけではないし、
とにかく、あの子が元気ならそれでいい。
よかったと思いながらも次の言葉をどうするか、頭はぐるぐると回転し続ける。

どうやって話を切り出そう。
話をしに来た相手は水水水と言いながらばたばたと部屋の中を走っているし、
この状況では、どう考えても目の前に座る安倍先生が聞く体制になっている。

(もしかしたら…)
この人は何もかもお見通しなのかも知れない。
私が望んでること、今から臨むこと。
他の人とは違うその笑顔が純粋すぎて思わずそんなことを思ってしまって。
170 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年04月06日(日)04時04分46秒
「紺野ってさぁ」
「…はい?」
「小川の…」
心臓が跳ねた。

ドクドクと心拍数は上がり、波打つ様が手に取るように感じられる。
小川の、ここの話題に出る小川と言えば、小川さんのほか心当たりはない。
やっぱり安倍先生は何もかも気づいているんだろうか。
ぎゅっと握った拳が汗ばむ。

「……やっぱりいいや」
そして口を閉じる。

「………」
「………」
「…はい?」
もう一度聞き返すと、安倍先生は、いいよなんでもないよって言って笑った。
171 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月06日(日)21時10分45秒
なんだよ、安倍先生!
すげぇ気になるだろぉぉぉぉ
少しずつ謎が解き明かされるんだろうか
172 名前:名無し読者。 投稿日:2003年04月26日(土)20時55分43秒
おもしろいです。続きを楽しみにしてます(^○^)
173 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月02日(金)14時29分53秒
保全
174 名前:HoZeNcxc 投稿日:2003年05月26日(月)13時00分18秒
待ってます・・・
175 名前:七誌 投稿日:2003年06月09日(月)00時37分48秒
2ヶ月…
176 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2003年06月29日(日)16時22分23秒
川;・д・)本当にごめんなさい。

書きたい部分が上手くまとまらず数ヶ月も放置していた形になってしまいました。
しかもまだ目処は立ちません。待っている方(いるかどうかわかりませんが)には、
本当に申し訳ないと思っています。

ですがもう少しだけ、気長に、本当に気長にお待ち下さい…∬つ◇`;∬
177 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月10日(木)10時28分37秒
待ってます。
178 名前:OGAフリーク 投稿日:2003年07月10日(木)10時48分32秒
待ってます。ガンバッッテください
179 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月14日(月)12時47分26秒
見捨てていないならOK。
お待ちしています。
180 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月15日(火)23時55分30秒
気長に待つよ
181 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月06日(水)20時46分53秒
182 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月15日(金)17時41分48秒
終わるまで10年はかかるね!
183 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)01時36分50秒
作者さんの納得のいく内容に仕上げられることを
祈りつつ、気長にお待ちしております。
あせらず頑張って下さいね。
184 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月05日(金)19時11分29秒
素人がうまく書こうなんて
色気だしてんじゃねーよ!
下手でもいいからとにかく書け。
185 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年09月05日(金)23時16分19秒
そう言われても気になってしまうのが人間のさがというもので。

「あの、気になるんですけど…」
「気にしちゃダメだべ」
そう言って浮かべた笑顔を浮かべた安倍先生から感じた雰囲気は、
何故か自分から切り出してきたくせにそれ以上の追求を許さないといった感じで、
仕方なく私は諦めて、それを一時的に横へと置いておくことにした。

そう、今の私にとって大切なのは小川さんのこと。小川さんの秘密。
だけどどう聞けばいいんだろう。そもそも私がそれを聞く権利があるのかどうか。
よく思い出してみれば小川さん本人だってどこか話したくなさそうな様子だった。
だったらここに来たのは間違いだったということになってしまう。

でもせっかく一歩踏み出そうと勇気を振り絞ってきたのに今さら引き返せると思うか。
ダメだ、無理だ。この機会を逃せば私は多分二度と小川さんと顔を会わせられない。
そう考えたら胸が少し痛んだ。保健室から逃げ出した前と、同じ痛みが。

「安倍先生は…」
私はまずそう切り出していったん口を閉じる。
安倍先生は相変わらずの笑顔で、それを見ていたら心が安らいだ。
186 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年09月05日(金)23時17分05秒
「安倍先生は…小川さんのこと、知ってるんですか?」
「…それは、どういう意味のことで?」
先生は、どの『小川さん』の話なのか、聞き返して来なかった。

「…私は、転校してきて間もないです。むしろ、今日でやっと3日目です」
その3日、正確にはきっと2日間。
私は小川さんに出会って小川さんと話して小川さんに、多分惹かれた。
正直、本当に私は彼女のことをそこまで大切に思っているのかはわからない。
今まで一人で居ることに慣れすぎて、そういう感覚を、忘れてるだけかもしれない。

勘違いしている可能性だってある。
もし、親の居ない小川さんを無意識のうちに哀れんでいるだけだとしたら。
それを指摘されたらはっきり否定できないだろう。それぐらい不安定な場所に居た。

でも多分もう引き返せないんだ。彼女のことが気になる。何かひとつでも知りたい。
そんな感情がこの胸に芽生えてしまった以上、枯らせることなんて、できなかった。
187 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年09月05日(金)23時17分55秒
「小川さんは初対面から馴れ馴れしかったんです。水はかけるし、人のこと笑うし、
 趣味の悪いかぼちゃ柄のタオルとか貸してくるし、担任の飯田先生を見捨てるし…」
「それは圭織に言っておかなくちゃね」
茶化すような先生の言葉に笑うことなく、私は言葉を続けた。

頭の中で思い出される今までの出来事。
彼女の描くバタフライのフォームがとても綺麗だったこととか、
朝日に照らされて光っていた茶色の髪の毛が柔らかそうだったこととか、
のんきに笑っているその表情がちょっと間抜けで、そのときばかりはカッコ悪いとか、
たった数日に凝縮されていたはずの彼女との思い出はそれぐらいしか思い出せなくて、
それが少し悲しくて、もっといっぱい一緒に居たような気がしていて、もどかしくて。

そして少しだけ気づいた。

「…だけど…彼女の言葉のどこにも、悪意とか、そういうものは無かった。
 私は……やっぱり小川さんは良い人なんだと思うんです…そう、思ったんです」
188 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年09月05日(金)23時18分41秒
それなのになんで。
水泳部なのに何故部員と一緒に部活をしないのか。
クラスメイトのあの反応は一体どういう意味があるのか。
彼女の言ってた私に言えなかった話に、どんな秘密があるというのか。

「私は何も知らないんです。知りたいけど、それを知る方法がわからないんです」
私の心は無意識のうちにある答えの方へと向かっていた。
さっき気づいたこと。それがきっかけとなって、道は明るく照らされる。

「…教えてください、先生」
安倍先生がどういう気持ちで私の話を聞いているのかはわからない。
だけどこうするのが一番なんだと、今の私は自信を持って言えると思った。
189 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年09月05日(金)23時19分28秒
彼女のことが知りたい。
さっきから何度も繰り返してきた言葉。
彼女の全てが知りたい。
そのためにこの保健室へとまた戻ってきた。

安倍先生に教えてもらうことは、たった一つだけでいい。



「私は、小川さんの友達に、なれると思いますか?」


190 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年09月05日(金)23時20分59秒
――――――――――――――――――――――――――――――

「今なら戻れるよ?」

お姉ちゃんは相変わらず日に焼けた健康的な肌と、
綺麗なコントラストを醸し出す白いワンピースを身に纏っている。
でもその手に持つ大きなトランクケースとは全然似合っていなかった。

「もう無理だよ、お姉ちゃん」
掠れたような声が聞こえてきた。
それが自分の発したものだと気づくまで数秒かかる。

「どうして?」
「私、もうあの人たちを親とは、思えない」
「………」

綺麗な眉がハの字になる。
またやってしまった。お姉ちゃんを困らせたいわけじゃないのに。

ちゃんとわかっている。私を生んでくれたのはあの親だ。
そしていくら血が繋がっていないとは言え、今のお母さんは私のお母さん。
その事実はいつまでも変わらないし、変えることはできない。
191 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年09月05日(金)23時21分41秒
「…お父さんのこと、嫌い?」
「ううん」
「じゃあ…」
「お母さんのことも嫌いじゃないよ」

嫌いじゃなかったのに。
信じていたのに。

二人が離婚してからは、ちょっと遠い位置にある大学のおかげで、
一人暮らしをすることになったお姉ちゃんと一緒に暮らすことになった。
お姉ちゃんは優しくて、大好きな人で、料理さえ少しまともになれば満点で、
私はそんなお姉ちゃんが遠くに行ってしまうことがとても寂しかった。

「一年だよね」
「…ええ」
「絶対帰って来るんだよね?」
「もちろん」

お姉ちゃんは約1年間、アメリカの大学へ通うことになった。
いわゆる交換留学生。それはお姉ちゃん自身が希望していたことだったし、
お姉ちゃんが夢を叶えるために、この経験は必ず後々役に立ってくれるだろう。
私はそれを邪魔したくなかったけれど、だからと言って親の家に戻る気も無かった。
192 名前:2.かぼちゃのにもの。 投稿日:2003年09月05日(金)23時22分53秒
「家の戸締りには気をつけてね」
「わかってるよ」
「絶対よ。知らない人に声かけられても着いて行っちゃダメだからね」
「着いていかないよ」
「干し芋に釣られて行かないでね」
「………」
「…釣られないでね!」

お姉ちゃんはそれだけを何度も繰り返しながらエスカレーターを降りていった。

「絶対にー!干し芋にだけは気をつけてねー!!」

せめてお別れのときぐらい『いってきます』って言って欲しかった。

――――――――――――――――――――――――――――――
193 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2003年09月05日(金)23時23分33秒
川o・-・)。o0(干し芋…)

>>177
いつも待たせてばかりでごめんなさい。

>>178
ありがとうございます。頑張ります。

>>179
必ず完結させてやろうと思います。

>>180
10年待たせたらごめんなさい(w

>>181
どうも、こんな亀スレの保全してもらってありがとうございます。

>>182
なんかムカつくので絶対10年経つ前に終わらせてやろうと思います。
せめて9年ぐらい(ry

>>183
ありがとうございます。
気長にゆっくりしすぎてごめんなさい(w

>>184
そういうのも色気って言うんですか?w
とにかく本当にありがとうございます。
とても気が楽になりました∬∬´▽`)ノ
194 名前:184 投稿日:2003年09月06日(土)18時59分05秒
偉そうなこと言ってごめんなさい!
この作品が好きなのです。
がんばってくださいね!
195 名前:ぽてと 投稿日:2003年09月07日(日)15時37分48秒
かぼちゃ。まってました!
今日、追加されてたぶんを全部よみました。
何かもう、ついてけません! ってぐらいややこしいとおもいました。
おこちゃまにもわかりやすくかいてくださったら、
感動です。
応援してるので、ガンバッテクダサイ!!!!
196 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/24(水) 19:56
あぁ、よかったよかった
安倍や吉澤に小川のこと訊いたらどうしようかと思った
197 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/25(木) 14:37
先生!締め切りが迫ってきてますよ。
早く書いてくださいよ!
198 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/03(金) 15:51
今月はハローウィンですね!
先生書いてくださいよ〜。
199 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 15:53
ho
200 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/09(火) 13:21
素敵作品。保全。
201 名前:名無しやねん 投稿日:2004/01/08(木) 01:27
あけおめ。ことよろ。
202 名前:ZeNFO3yU 投稿日:2004/02/15(日) 16:14
 
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/15(日) 17:43
・・・・・
204 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/07(日) 21:53
205 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2004/03/17(水) 11:23
∬つ▽T∬書かないと……書かないと……。
206 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/19(金) 13:29
期待させないで・・・。
207 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/24(月) 23:47
保全
208 名前:まこちゃんファン 投稿日:2004/06/28(月) 14:47
保全

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