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Tokyo killing city
- 1 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)11時42分30秒
- 暗い小説です。
埋もれて行くと思います。
- 2 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)11時44分32秒
- ―1―
晩秋の雨のが降る深夜は、都心といえど極端に人通りが少なくなる。
頭上の首都高を疾走する大型トラックの騒音は、普段よりも数倍大きく感じられた。
排水溝に収容しきれなかった雨水が、高架の継ぎ目から音を立てて流れ落ちている。
そんな高架下の広いスペースに、二人の女性が向き合っていた。
「堪忍や……殺さんといてー!」
小柄な女の声は、頭上を疾走する乗用車の騒音に掻き消された。
上下をコンクリートで挟まれた空間だったが、女の声を反響させることはない。
「……だよ」
大型の拳銃を構えた少女の声も、流れ落ちる雨水の音に消えた。
小柄な女には少女の言ったことが聞き取れなかったが、
どういった意味であるかは理解することができている。
それは、少女が自分を殺す意思表示に他ならない。
- 3 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)11時45分55秒
- 「うちのせい……」
小柄な女の声は、乾いた銃声と同時に止まってしまう。
ベレッタ92Fから排出された9ミリパラベラム弾の焼けた薬莢が、
甲高い音をあげてコンクリートの床を転がった。
小柄な女は自分の腹から噴出す血を見て唖然としていたが、
やがてガックリと両膝をついて出血を止めようと手で押さえる。
再び銃声が響くと、小柄な女の顔の半分が吹き飛んだ。
小柄な女を撃ち殺した少女は、まだ銃口から煙が出ているベレッタを、
ウールのマフラーに包んでレインコートのポケットに押し込んだ。
少女は無表情に女の死体を一瞥すると、そのまま闇に溶け込んで行った。
- 4 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)11時46分29秒
- ―2―
廊下を歩く足音がする。
決して若い者の足音ではない。
どこか足を引き摺ったように聞こえるのは、
歩いているのが老人だからだろう。
老人はつき当たりにあるドアをノックした。
「飯田さん、書留ですよ。印鑑をお願いします」
老人は大きな茶色い封筒を持っている。
飯田は本を読んでいたが、笑顔で老人に近付くと、
優しく腕をとって廊下に連れ出した。
「う〜ん、これは夏先生宛てだよ。圭織が受け取っちゃまずいでしょう?」
敬愛会・鶯谷病院
ここは都心に近い精神病院である。
入院患者の多くがボケ老人であり、
退院=死亡という人生の終着駅だった。
その看護師の中に飯田圭織がいたのである。
- 5 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)11時47分18秒
- 「それじゃ、圭織と一緒に配達に行こうよ」
老人は元郵便局員であり、持っていたのは自分のレントゲン写真だった。
看護師の飯田は老人を連れ、医局にいる夏医師へ『配達』に行く。
毎日のようにボケ老人の世話をしている飯田だったが、決して笑顔を忘れない。
ボケは障害の一種であり、認知力が低下してしまっただけの話である。
言語や行動には問題があるものの、『心』は決して変わらないのだ。
飯田は人生の大先輩である患者達を、尊敬しながら接していたのである。
そんな彼女がやって来ると、患者達は笑顔で迎えたのだった。
飯田は夏医師にレントゲン写真を届けると、『郵便屋』を部屋に送り届けた。
昨夜までの雨が嘘のような秋晴れの太陽が、黄色くなった銀杏の葉を照らす。
その日差しが病室にも差し込んでいたが、どことなく冷たさがあるのは、
窓にはめられた格子の影のせいだった。
- 6 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時04分43秒
- ―3―
「今日は星が出てるー」
仕事を終えた真里は、小さな窓から大好きな星空を見上げる。
遅番の同僚達が店を出て行く中、彼女は暫く空を見ていた。
晩秋の夜風は決して優しくはなかったが、東京にしては珍しい澄んだ星空である。
真里は深夜であることも忘れて、ビルの隙間から覗く星を見ていた。
「ふう」
真里は溜息をつくと、疲れた体を引き摺ってマンションへ帰る。
今日は最後に酔った客が無理矢理挿入しようとして、
小柄で非力な真里は、危うく犯されるところだった。
ファッションヘルスでは本番行為が禁止されているというのに、
酔った客の中には、平気で挿入しようとするのもいる。
そういった危険と隣り合わせなのがヘルス嬢だった。
「コンビニに寄っていくかな」
真里はジャンバーのポケットに手を突っ込んだまま、
自宅マンション近くのサークルKに入って行った。
そこでカップ麺と朝食のサンドイッチを買うのが、
もう三年近くになる彼女の東京での暮らし方である。
悪い男に騙され、ズルズルと夜の仕事をするようになった。
世間知らずな少女が堕ちて行く典型的なパターンである。
- 7 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時05分22秒
- ――4――
数日後、夜の無人の倉庫街を、息を切らせて逃げる女の姿があった。
恐怖と疲労で、普段のキツネ顔の表情とは変わってしまっている。
月が雲に覆われると、薄暗い電灯だけになってしまう。
隠れるには便利だが、追手は必ず発見してしまうに違いない。
「あうっ!」
女は先回りした少女に、行き手を遮られた。
晩秋の冷たい夜風が、倉庫の壊れた雨どいを鳴らし、悲鳴のような音を発生させる。
女は逃げようとするが転んでしまい、そのまま後退りを始めた。
「か……堪忍や……許して……」
少女の手には大型拳銃が握られている。
女は少女の殺気を感じ、許しを乞うことしかできない。
少女は拳銃を構えたまま、女に近付いて行った。
「あんたは許さなかったでしょう?」
「ちゃう……あれは姐さんが」
女は言い訳の最中に腹を撃たれて悶絶する。
少女は女の胸を狙って、二発発射した。
噴水のように血が噴出し、女は痙攣を始める。
少女は拳銃をマフラーで包むと、闇に消えて行った。
- 8 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時06分08秒
- ――5――
飯田はナースステーションに戻る際、ふと足を止めて病室を覗き込んだ。
303号室。ここは重症患者用の個室だったが、中には一人の若い女性がいる。
無機質な部屋の中で、小柄な若い女性がベッドに座り、真っ白な壁に向かって、
何やら楽しそうに話をしていた。
「なっち、寝てようね」
飯田はなつみをベッドに寝かせる。
なつみは飯田の眼を見ると、これまで話していた内容を喋りだした。
「何で『ハッピーサマーウェディング』なんだべか? 歌詞には『夏』も『結婚』も入ってないべさ」
なつみの疑問は当然だった。
この曲は謎に包まれた部分が多い。
『コングラチュレーション』があるからなのか?
『パラッパラ……』が夏の季語である雨を表しているのか?
単に娘が彼氏を紹介しただけではないのか?
更に、石黒が山田と結婚したことに関係があるのか?
「う〜ん……圭織にはわかんないよ」
飯田はなつみに毛布をかけながら言った。
すると、なつみは窓の方を見ながら、秋の気配に溜息をつく。
故郷の室蘭では、冬が来ると、この部屋のように無機質になってしまう。
なつみは、そんな冬が嫌いだった。
- 9 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時06分41秒
- 「蝋燭が一本、消えたべさ」
そう言うと、なつみは眼を閉じてしまった。
飯田には、なつみが言った意味がわからない。
重度の精神障害があるため、意味不明なことを口走るからだ。
飯田はなつみの頭を撫でると、ナースステーションに戻って行った。
ナースステーションには、飯田の一年先輩である保田がいた。
養護教諭の免許を取るため、日夜猛勉強をしている。
飯田とは正反対の考えを持った看護師であった。
「保田さん、303号室の安倍さんなんですが……」
「もう、あの子は完全に壊れてる。話を真に受けちゃだめだよ」
保田は問題集から眼を離さない。
飯田は保田の、こういった部分が嫌いだった。
何度も口論し、殴り合い寸前にまで行ったこともある。
飯田は冷蔵庫から牛乳を取り出して飲み始めた。
- 10 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時07分16秒
- 「保田さん、鼻……ついてますよ」
そう言うと、飯田は空になった牛乳パックをゴミ箱に捨て、
居心地の悪いナースステーションを出て行った。
指摘された保田は、慌ててハンカチで鼻を拭ってみる。
しかし、ハンカチには何も取れていなかった。
保田はバッグから手鏡を取り出してチェックする。
「鼻……確かについてる」
保田は可笑しそうに笑いながら、問題集を握り締めた。
- 11 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時07分50秒
- ――6――
月末の土曜日は、一日に十人もの接客をしなくてはならない。
クタクタになって店を出て、家路についた頃になると、
彼女の腕は疲労で震えていたし、顎の調子も良くなかった。
バブルの頃ではないにしろ、月末の土曜日の夜にタクシーはつかまらない。
真里は重い体を引き摺って、歩いて自宅マンションへ向かった。
「ごめんなさい」
神田川に架かる橋の上で、一人の少女が真里にぶつかった。
その拍子に、真里はよろけて転んでしまう。
疲労した小柄な真里は、少しの衝撃で倒れてしまうのだ。
「いてーな」
真里は苦笑しながら立ち上がった。
体が鉛のように重く、立つだけで息切れがしてしまう。
気温が低いこともあり、真里の息が白くなっていた。
彼女は別に怒ってはいなかったのだが、少女は俯いたままである。
- 12 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時08分38秒
- 「ごめんなさい」
そう言うと少女は足早に立ち去ろうとする。
大きな満月が雲に隠れて行くと、少女の後姿が怪しく映った。
「ちょっと、ねえ、ちょっと待ちなさいよ」
真里が少女を呼び止めた理由は、自分でもわからなかった。
店ではそこそこ常連客もついてくれるようになってはいたが、
そこには愛情などはなく、男の欲望を満たす手伝いをするだけである。
仕事をしていれば嫌なことを忘れられるし、どんな男でも肌を寄せれば温かかった。
「こんな時間に何かあったの?」
真里は驚いたように立ち止まった少女の背後から声をかけた。
神田川をゆっくりと流れる水が、ビブラートしたような音をたてる。
少女は大きな眼を見開いたまま、真里を振り返った。
「あなたは……誰?」
少女は怯えて警戒していた。
その理由など、真里が知る由もない。
- 13 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時09分15秒
- 「警察じゃないから安心しなよ。でも、もう1時過ぎだよ」
完全に月が雲に覆われると、冷たい水銀灯の光だけとなった。
真里は大きな少女の眼が、異様に見開かれていることに気付く。
その眼が思い詰めた眼であることは、真里がよくわかっていた。
昨年までの彼女の眼と同じだったからである。
真里は橋の欄干に寄りかかると、ポケットからキャラメルを取り出した。
「思い詰めた眼をしてるね。家出じゃなさそうだし……」
真里はキャラメルを口に放り込み、金髪を手で撫でた。
彼女の無警戒な態度に、少女は緊張を解いて行く。
真里は少女にキャラメルを差し出した。
「結構です」
少女は真里の横にやって来た。
真里は少女を見上げるが、もう冷静な眼に戻っている。
こんな展開を望んでいたわけではなかった。
真里は疲労困憊しており、一刻も早く自宅に戻りたかった。
しかし、なぜか少女を呼び止めてしまったのである。
早い話が、真里は寂しかったのだ。
- 14 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時10分17秒
- 「何があったか知らないけどさー、あんまり思い詰めない方がいいよ」
少女は反対車線を走り過ぎるタクシーを見つめ、
無表情な顔をしたまま小さく笑い声を上げた。
真里には少女が笑った理由がわからない。
だが、そんなことは真里に関係のないことだった。
「オイラ真里。あんたは?」
「……あさ美」
あさ美は消え入るような声で言った。
それは数日前まで聞こえていた虫の鳴き声に似ている。
最後まで残ったコウロギは、何を思って死んで行くのだろう。
真里はそんなことを思い、口元だけで笑った。
「行くところはあるの? 良かったら、オイラの家に来いよ」
大きな眼で真里を見るあさ美を、真里は見つめ返して笑った。
- 15 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時10分53秒
- ――7――
スナック『明日香』の奥にあるボックス席では、男女が向き合って俯いていた。
店のスピーカーから流れる有線放送では、誰がリクエストしたか、『威風堂々』が流れている。
それとは全く逆の立場である二人は、先程から小声で何やら話しているだけだった。
「稲葉に続いて平家まで殺されたんや。あんたも気をつけた方がええで」
女はブラウスを捲り、下に着けた防弾チョッキを見せた。
男は事態の深刻さを思い知り、小刻みに震えている。
まさか、こんな事態になるとは思ってもいなかったのだ。
更に女は、ハンドバッグから拳銃を取り出してみせる。
「50万したけどな、これで命が助かれば安いもんや」
女が取り出した拳銃は、スミス&ウェッソンのM29である。
44口径のマグナム弾を撃てる、世界最強の拳銃だった。
『ダーティハリー』で有名になった大型拳銃である。
本来はハンティング用で、熊には支援、鹿などには主力として使用された。
「ト……トカレフくらいは必要やな」
男は脂汗をかきながら唸った。
この男女と殺された女二人は、関西の暴走族出身である。
東京に出て来てコカインを扱うようになり、
悪の道に走った連中だった。
- 16 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)12時11分33秒
- 「つんく♂さん、あんじょう気いつけや。こいつはリベンジやで」
「まさか、あの女が……」
つんく♂はドライマティーニを口に運ぶが、半分近くを溢してしまった。
女は冷たい目でつんく♂を見ると、モスコミュールを一気に飲み干す。
こんな気の小さい男と付き合っていたと思うと、女は嫌悪感から吐き気がするほどだった。
「あの女は精神病院やろ? 稲葉と平家が殺された以上、あの件以外には考えられんけどな」
女は追いつめられた獲物のような眼をして立ち上がった。
そんな女に、つんく♂が抱きつく。
女はつんく♂の腕を掴んだ。
「二人でおれば安心やろけどな。そうもいかへんしな」
コカインを流す暴力団は、売人である彼女達が徒党を組むのを嫌っていた。
摘発されれば一蓮托生であったし、何よりも要求を突きつけて来るのを恐れていたのである。
「裕子、少しくれへんか?」
つんく♂は裕子にコカインを要求した。
裕子はバッグから数枚のパケを取り出し、
泣きそうなつんく♂に握らせる。
「やりすぎるんやないで」
そう言い残し、裕子は店を出て行った。
- 17 名前:MU 投稿日:2002年09月28日(土)21時17分55秒
- とりあえず、今日はここまでです。
近いうちに更新する予定です。
もし良かったら何でも構いませんのでレス下さい。
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月28日(土)22時31分16秒
- 暗めのやつは結構好きなので続きを頑張ってください。
- 19 名前:MU 投稿日:2002年09月29日(日)19時27分40秒
- >>18
嬉しいです。
seekはレスが貰えないと評判だったので。
割と短編で終わりそうなんで森板に起したのですが、本当に短くて終わりそうです。
- 20 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年10月01日(火)14時51分11秒
- まだ出てきていない登場人物に期待。
出来たらオールスターキャストがいいな。
- 21 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)00時17分53秒
- >>20
そうしたいんですが、今回は許してください。
別のキャスティングで、次のプロットを練っています。
まだ先のことになりそうですが。
- 22 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時01分59秒
- ――8――
救急病院に搬送されたなつみは、一命をとりとめたが、重傷に違いなかった。
連絡を受けたあさ美は病院に駆けつけたが、そこには厳しい現実が待っていたのである。
中年の医師はあさ美を呼び、淡々と現実を告げて行く。それは正に青天の霹靂であった。
「打撲傷と擦り傷、火傷がありますが、重傷ではありません。問題は性器の方なんです」
あさ美は『姉はレイプされた』という確信を持った。
壁にかけられた時計の秒針が、途轍もなく大きな音で時を刻んでいる。
あさ美の心臓の鼓動がコンバインされ、妙な音になって行く。
「瓶が性器の中で割れていましてね。子宮がズタズタになっていました。
縫合はしたんですが、その……言いにくいんですが、もう出産することはできません」
あさ美の視界が歪み、耳鳴りがしてきた。
もう姉は子供を産むことができない。
夜風に吹かれて枯葉が窓ガラスに当たり、
何とも乾いた音をたてた。
- 23 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時03分00秒
- 「レイプされたのは確実です。警察に通報しますか?」
医師の話す様子を、あさ美は別の角度から見ているように感じた。
気の毒だと思ったのか、医師はあさ美に、なつみの容態を説明する。
蝋燭や鞭のようなもので嬲られたこと。縛られていたこと。
レイプされていたが、出血が多かったため、妊娠の可能性が低いこと。
そして、何よりも大切なことが告げられた。
「お姉さんはバージンでしたからね。かなりショックを受けたはずです。
場合によっては、精神的に立ち直れなくなる可能性もあります」
これが一番、あさ美にとってショックな宣告だった。
姉が壊れてしまったら、どうすれば良いのだろうか。
自分が施設に入れられるのは構わないが、
姉はどうなってしまうのだろう。
あさ美は絶望で、ハレーションを起してしまった。
- 24 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時03分35秒
- 「あう……ああ……はっ!」
あさ美は跳ね起きて身構えた。
また夢を観たのである。あの忌まわしい夢を。
あさ美は頭を抱えて首を振った。
「どうしたの?凄く魘されてたじゃん」
あさ美に声をかけたのは真里だった。
真里はスタンドの灯りを点け、眠そうな顔を上げる。
あさ美は額の汗を拭いながら、蒼い顔をして謝った。
「ごめんなさい」
午前5時を少しだけ過ぎた時間である。
間も無く大都会は眠りから覚め、活気付いて行くだろう。
今はその前の静かな時間でもあった。
「今日は休みだから、別にいいけどさ」
真里はトイレに行くと、冷蔵庫からウーロン茶を出してコップに注ぐ。
あさ美に手渡し、自らは残り少なくなったペットボトルをラッパ飲みにした。
真里は空のペットボトルをテーブルに置くと、ベッドに腰掛けてあさ美を見る。
- 25 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時04分12秒
- 「真里さんは、何の仕事をしているんですか?」
あさ美は大きな眼を真里に向けた。
15歳の少女にしては、疲れた眼をしている。
真里はあさ美の眼を見て、昨年までの自分を連想した。
男に捨てられ、借金だけが残った真里は、
仕方なく風俗の道へ走ったのである。
果たして15歳の少女に話したところで、
この意味を理解できるのだろうか。
真里は少しだけ考えた後、率直に言ってみた。
「風俗で働いてるの。ヘルス嬢だよ」
「えっ……」
あさ美は思わず真里から視線を逸らし、俯いてしまう。
真里は『またか』といった表情で溜息をつき、
ベッドに入り込んで天井を見つめる。
「軽蔑した? まあ、女として最低の仕事じゃないかな。自分でも、そう思ってる」
「そんな……」
あさ美は生まれて初めて風俗嬢と会話したのだから、ひどく動揺している。
確かに自分の肉体を使って男の欲望を満たすという仕事は、
潔癖なあさ美にとっては許せないものであった。
だが、真里は自分で『最低の仕事』だと言い切っている。
- 26 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時05分23秒
- 「オイラだって、色々とあったんだよ」
まだ19歳の真里だったが、本当に色々とあった。
借金は雪だるま式に増えて行き、現在は五千万円にもなっている。
全ての借金を返済できるのは、あと10年はかかってしまう。
それまでは、女の幸せである結婚すらできないのだった。
「軽蔑するならしろよ。でも、どうしてこうなっちゃったのかな……」
真里の話は15歳のあさ美には重すぎた。
確かに風俗嬢など、胸の張れる仕事ではない。
しかし、真里は決して好きでやっているわけではなかった。
それはあさ美にも理解できる。
「そんな、あたしは真里さんを軽蔑したりしません」
あさ美は大きな眼を見開いて、真剣な顔で言った。
真里は微笑みながら顔を逸らすと、溢れ出る涙を拭う。
恐らく、あさ美の言うことは本当だろう。
だが、あさ美は風俗の仕事を理解していない。
少なくとも真里には、そう思えた。
- 27 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時06分00秒
- 「風俗嬢なんて最低の仕事だよ。好きでもない男のペニスを咥えるのよ。
体中を舐められて、触られて……口の中に出されることだってあるし……
運が悪けりゃ、無理矢理犯されることだって……」
「真里さんは素敵な人です! 仕方なく今の仕事をしてるんじゃないですか」
あさ美は真里の手を握った。
人の温もりを感じた真里は、自分の人生に後悔を始める。
この温もりは欲望でも社交辞令でもない。
こんな触れ合いがあることさえ、真里は忘れていたのだった。
「逃げるとか考えなかったんですか?」
「何度も逃げようかと思ったよ……でも、見つかったら殺される……」
19歳の少女が5千万もの借金をできるわけがない。
当然ながら、非合法な金融業者からの借金であった。
その金融業者からの紹介で、風俗嬢になったのである。
簡単な話が、真里は最初から騙されていたのだった。
「……5千万もヤクザ関係から借金してるし」
借金を踏み倒して逃げたりしたら、世界の果てまで追ってくるだろう。
散々甚振られた挙句、臓器移植のドナーとして殺されるに違いない。
健康な臓器を欲しがっている患者は五万といるのだ。
- 28 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時06分34秒
- 「それじゃ一生?」
あさ美は唇を震わせながら真里に聞いた。
降り始めた雨がサッシの窓を叩き、
ポツポツと鈍い音をたてている。
雨が降ったら傘をさせばいいのだが、
真里は一生傘をさし続けるのだろうか。
「うまくすれば、30までには返済できるかな? それまで体を壊さなかったらの話だけど」
前向きなことを言ってみるが、真里にはわかっていた。
ヤクザは真里の骨の髄までしゃぶるつもりらしい。
借金完済の直前になれば、一気に利子が増額されるだろう。
若いうちはヘルスで働けるが、30近くになったら、
良くてもソープランドで働くことになるに違いない。
「ひどい話ですね」
あさ美は涙を溜めながら俯いた。
こんな純真な少女を見ると、真里は救われたような気になる。
あまり表情がなくて、わかり辛かったが、忘れていた何かを与えてくれるようだ。
- 29 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時07分07秒
- 「あさ美ちゃん、帰る場所はあるの?」
寂しそうに首を振るあさ美を見て、真里は癒されて行く自分に驚いていた。
男女で言えば、一目惚れというやつに違いないだろう。
とにかく真里が、あさ美を気に入ったのである。
一緒にいてくれさえすれば、前向きに頑張って行けるような気がした。
「ずっといてもいいんだよ」
真里が優しく話し掛けても、あさ美は俯いたままだった。
まだ15歳のあさ美は、なぜか全く笑わない少女である。
大きな眼には影があり、とても悲しそうな顔をすることがあった。
「寝ます」
あさ美は布団を被ると、真里に背を向けてしまった。
真里は溜息をつくと、彼女には少し大きいベッドで、
真っ白な天井を見つめながら考えごとをする。
そしていつの間にか、真里は寝息をたてていた。
- 30 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時07分38秒
- 翌日、真里はあさ美と買い物に出かけた。
あさ美の服が必要だったからである。
真里はブランド物の高級品を勧めるが、
あさ美は特売の安物ばかりを買った。
あさ美は堅実な割に意外に大金を持っている。
だが、真里はあさ美に何も聞かなかった。
「焼肉でも食べて帰ろうか」
晩秋の夕暮れは早かった。
まだ5時前だというのに、西の空には金星が輝いている。
朝方まで雨だったが、きれいな夕焼けがビルの合間から見えた。
そのアンバーの光が、二人の顔を照らしている。
特に色白のあさ美は、普段よりもきれいに見えた。
「ちょっと金魚顔だけど、こうして見ると、意外に可愛いじゃん」
あさ美は驚いたような顔をした直後、頬を緩ませた。
この時、真里は初めてあさ美の笑顔を見たのである。
グラビアアイドルのような美形ではなかったが、
あさ美の笑顔は、真里にとって眩しかった。
「食べ放題だけどさー、ここは美味しいんだよ」
真里は少し恥ずかしくなって、焼肉屋の中へ入って行った。
- 31 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時08分18秒
- ――9――
飯田がなつみの病室へやって来ると、
珍しく一人の少女が面会に来ていた。
彼女はなつみの妹の『あさ美』である。
なつみよりも少し大柄で、無表情な少女だった。
「検温ですよ。あさ美ちゃん、来てたんだ」
飯田はなつみの耳に体温計を差し込んだ。
なつみは焦点の定まらない眼で、
あさ美の後方にある窓を見つめている。
今日はなつみの具合が良くないようだ。
「36度4分、平熱だね」
飯田は検温表に数値を書き込みながら、あさ美の表情を覗った。
早くに親に死なれ、姉妹だけで生きて来た二人である。
たった一人の肉親である姉が、こんな状態になってしまったのだから、
まだ中学生であるあさ美のショックは大きいだろう。
飯田は、そんなあさ美を心配していたのだった。
- 32 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時09分08秒
- 「脈を測るよ」
飯田はなつみの手首を握った。
かなり回復していたものの、彼女の手首には縛られた後がついている。
体の傷は癒えても、心の傷は全く癒えていなかった。
心の傷が深すぎて、なつみは完全に壊れてしまったのである。
「二本目のベルトが切れたべさ」
なつみは意味不明の言葉を口走る。
飯田はなつみが太ったのかと思ったが、彼女はここに来て、一段と痩せていた。
なつみの頭を撫でながら、飯田は場違いなほど高いトーンで話し掛ける。
「ベルトが切れちゃったの? それは残念だったね」
すると、なつみは飯田を睨みながら、怒ったように口を尖らせる。
それが何を意味しているのか、飯田には全くわかっていなかった。
勿論、重度の精神障害を起しているため、なつみの言葉を信用はできない。
「ベルトをしてたから痛かったんだべさ。なっち、もうベルトなんてしないよ」
飯田には意味がわからなかったが、
心配なのは妹のあさ美も痩せて来ていることだ。
そろそろ蓄えも底をついているに違いない。
あまり立ち入った話を聞くべきではなかったが、
飯田は15歳の少女が一人でいるのが心配でならなかった。
- 33 名前:MU 投稿日:2002年10月02日(水)09時24分24秒
- 今回の更新は、ここまでです。
自分で読んでみて、文章がヘタだと実感しますた。
鬱!
- 34 名前:18の名無し。 投稿日:2002年10月02日(水)20時16分00秒
- 文章がヘタなんてそんなことありませんよ。
- 35 名前:MU 投稿日:2002年10月03日(木)23時36分52秒
- いや、ほんとうにコンプレックスなんです罠。
大胆になれないっちゅうか、折りたためないっちゅうか。
つくづく、自分の実力を思い知らされますな。
結局は大人になれないんでしょう。裕ちゃんより年上なのに……鬱鬱
- 36 名前:MU 投稿日:2002年10月03日(木)23時54分53秒
- よろ!
- 37 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時45分53秒
- ――10――
「今日は遅くなるからね」
真里は洗い物をしているあさ美に言った。
あさ美は振り向いて頷くが、真里は少し悲しそうな顔をしている。
蛇口から流れ出る水の音が、妙に冷たく聞こえて来た。
「何時ごろになるんですか?」
「2時くらいになっちゃうかなー? いい子で待ってるんだぞ」
真里は元気良く出て行ったが、どこか悲しそうであった。
やはり、風俗嬢をしていると、人に言えない悲哀があるのだろう。
あさ美は洗い物を終えると、テレビを観て時間を潰した。
テレビのワイドショーでは、拳銃による連続殺人の続報が報道されている。
二人の若い女性が、何者かに拳銃で撃たれて殺された。
そんなテレビ画面を、あさ美は冷めた眼で観ている。
- 38 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時46分26秒
- 「警察なんか……」
あさ美は日本の警察に不信感を持っている。
どんな状況になろうと、被害に遭わない限りは何もしてくれないからだ。
姉がレイプされて壊れてしまっても、警察では本人の届出が必要だという。
あさ美は何度か警察と交渉したが、『規則』の一点張りであった。
警察が何もしないのなら、被害に遭った者は泣き寝入りするか、
個人的に復讐するしかないのである。
だから日本の犯罪は増え続けるのだろう。
「復讐か……」
あさ美は窓から見える秋晴れの青空に眼をやった。
とても小さな空である。
彼女は真里を連想した。
- 39 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時47分01秒
- ――11――
「えへへへ……えへへ……」
つんく♂は自分のペントハウスで、コカインとウイスキーをやっていた。
気の小さい男は、こうして薬物などに頼るしかないのである。
手元にはトカレフが置かれていたが、つんく♂は扱い方を知らない。
午前1時を過ぎたころ、屋上への階段を昇る足音が聞こえた。
瞬くような星空の中、小柄な影がペントハウスに向かって行く。
手には大きな拳銃が握られており、それは月明かりに鈍く光った。
近くを走る首都高の騒音が、風に流されて聞こえて来る。
やがて音も立てずペントハウスのドアが開き、少女が侵入して来た。
少女はベレッタを構え、ベッドの上で蹲るつんく♂に向かって行く。
つんく♂は完全にラリっており、全ての感覚が麻痺しているようだった。
少女はベッドの枕元に置かれたトカレフに気付き、それをポケットにしまう。
そして涎を垂らしながらラリっているつんく♂の腹を蹴り上げた。
「うっ!……えへへへ……えへへ……」
「あんただけは、何度殺しても飽き足らない」
少女はつんく♂を引き起こし、外に連れ出して行った。
- 40 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時47分31秒
- コカインとアルコールで、完璧にラリってしまったつんく♂は、
深夜の二子多摩川の河川敷に連れて来られていた。
日中は人通りが多いものの、夜になると街灯もなく、
このあたりは本当に寂しい場所になってしまう。
彼方に東急田園都市線の鉄橋が見える河川敷で、
少女は蹲るつんく♂に拳銃を向けていた。
「復讐なんだよ」
少女は黒いウィンドブレーカーの中から、
とにかく冷たい視線をつんく♂に向けていた。
この男だけは、普通の殺し方では飽き足らない。
少女はつんく♂に近寄ると、足を撃ち抜いた。
「ひゃ!……あはははは……足が」
ラリっているつんく♂は、自分の足が撃ち抜かれていても、
まるで他人事のように喜んでいた。
すでに、つんく♂は廃人寸前だったのである。
- 41 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時48分08秒
- 「この汚らわしいモノを……」
少女はつんく♂の股間めがけ、三発発射した。
至近距離からの9ミリパラベラム弾は、
つんく♂の恥骨やペニス、睾丸を破壊する。
凄まじい出血が起きると、つんく♂は痙攣を始めた。
骨盤や背骨まで破壊されており、まず助からないだろう。
仮に運良く助かったとしても、一生車椅子だろうし、
二度と悪さができる状態には戻らないに違いない。
少女は冷たい川の水音を聞きながら、闇に溶け込んで行った。
- 42 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時48分40秒
- ――12――
「ただいまー、ごめんね。遅くなっちゃ……」
真里は両手いっぱいの買い物を持って帰って来た。
あさ美と一緒に手料理を作りたかったのである。
だが、そこにあさ美の姿は無かった。
「まさか……出て行っちゃったの?」
真里は崩れるように膝をつくと、壊れたように笑い出した。
どう考えても、それは当たり前のことである。
15歳の純真な少女が、まさか風俗嬢と一緒には暮らせない。
たった二日だけの触れ合いだったが、あさ美との時間は楽しかった。
真里は笑いながら大粒の涙を溢していた。
「莫迦みたい……住む世界が違うのに……」
真里は夢を観たかったのかもしれない。
それでなくても、不幸を絵に描いたような人生である。
夢を観なければ、生きて行くのが辛いのだ。
家族や男にも見捨てられた19歳は、
何度も自殺を考えていたのである。
- 43 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時49分18秒
- 「真里さん!」
ドアが開き、あさ美が帰って来た。
あさ美は真里が床に座り込んでいるので、
具合が悪いのかと思って抱き起こした。
すると、真里はあさ美に抱きついて泣き声を上げる。
「こんなに遅くまで、どこに行ってたのよ……莫迦」
「ごめんなさい……ちょっと……あの……コンビニまで」
あさ美は動転して、言葉に詰まりながら説明する。
真里は息が詰まるほど、強くあさ美を抱き締めていた。
ひとしきり泣き終えると、真里は俯いたまま、
驚いて眼を丸くするあさ美に話し始める。
「出て行くのは勝手だけど、ちゃんと話をしてからにしてね」
「は……はい」
「そうじゃないと……オイラ寂しいからさー!」
真里は再び泣きながら、困った顔のあさ美に抱きついた。
すでに時計の針は午前3時を指している。
二人は暫く抱き合ったままであった。
- 44 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時50分04秒
- ――13――
「今度は男の人だってさ」
保田はナースステーションで新聞を見ながら言った。
例の拳銃による連続殺人事件の話である。
これまでに二人の女性が殺されていたが、
ここに来て中年の男が射殺されたのだった。
やはり看護師という仕事をしている以上、
被害者の死因に興味があるのだろう。
「暴力団の抗争じゃないですかね」
飯田は日誌に記入しながら、上の空で話に参加する。
それが面白くなかったのか、保田は大きな眼で飯田を睨んだ。
だが、飯田は全く気付かずに、日誌にボールペンを走らせる。
「暴力団の抗争だとしたら、女性が殺されるかな」
暴力団の抗争であるのなら、殺されるのは幹部が多い。
まだ30代の男や女性が殺されるのは異例なことである。
若い男女が殺されたのだから、怨恨による犯行という線が濃い。
推理小説好きの保田は、これは怨恨、つまり復讐だと主張した。
- 45 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時51分04秒
- 「何の復讐ですか? 恋人が殺された? それとも子供が殺された?」
飯田が顔を上げると、保田は困ったように新聞を折りたたむ。
そんなことを聞かれても、保田は関係者ではないのでわからない。
しかし、ひとつ言えるのは、これはプロの犯行ではないということだ。
プロであるのなら、一人を殺すのに、銃弾を複数発発射することはない。
恨みがあるからこそ、苦しめて殺すのだろう。
「何で拳銃を使ったのかな」
保田は拳銃を使った事件に疑問を覚えた。
最近では日本にも拳銃が入って来ているが、
犯罪で使用される凶器には、刃物が多いのが現状だ。
拳銃の利点といえば、持ち運びに便利なことと、
僅かな握力さえあれば、誰にでも撃てる点だろう。
つまり、女性を殺害する場合、足のつきやすい拳銃を使うより、
絞め殺したり刃物を使う方が安全なのである。
- 46 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時52分08秒
- 「犯人は非力な女?」
「じきに捕まりますよ」
飯田は朝の検温をしにナースステーションを出て行った。
老人たちの検温を済ませ、個室に入った飯田は、
なつみの様子を診ながら、あることに気がついたのである。
なつみの女性としての機能を奪った瓶の破片の中に、
口紅が付着したものがあったのだ。
したがって、なつみを襲ったのは、女性を含む複数犯である。
二人の女性と男が殺されたのは、何か関係があるのではないか。
そういえば、あさ美の表情にも何か不安を感じる。
「なっち……まさかね」
飯田はなつみの検温をすると脈を診る。
なつみは秋晴れの外を眩しそうに見ながら、
なにやら歌を歌っていた。
それが子守唄だとわかると、飯田は胸が締め付けられる。
なぜなら、もう、なつみは自分の子供を抱けないからだ。
- 47 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時52分59秒
- 「赤ちゃん……産まれるべさ」
なつみは嬉しそうに飯田の顔を見た。
自分と同い年の小柄な女性が、将来を奪われたのである。
飯田は悲しみと怒りを感じ、なつみを抱き締めていた。
「なっち、赤ちゃんなんていないよ。なっちは妊娠してないもん」
なつみは子守唄をやめ、天井睨みつける。
重度の精神障害を負った患者に、言ってはいけないことだった。
飯田も看護師である以上、それはわかっていたのだが、
あまりにも憐れななつみを見て、感情が昂ぶってしまったのである。
「なっちは……セックスすれば妊娠するべさ!」
なつみは飯田を突き飛ばして暴れ出した。
慌てる飯田を尻目に、なつみは壁に自分の頭を打ち付ける。
額が割れて血が流れるのと同時に、無理に動いたせいで、
再び彼女の性器から出血が始まった。
- 48 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時53分35秒
- 「何やってんの!」
「三本目のナイフも壊れたべさー!」
騒ぎを知った保田が駆けつけ、飯田と二人掛りで、暴れるなつみを押さえつける。
何とかベッドに縛りつけ、鎮静剤を注射して事なきを得た。
先輩看護師である保田は、ナースステーションに戻ると、
いったい何があったのか、項垂れる飯田を問い詰める。
飯田は仕方なく、ポツリポツリと話を始めた。
「そんなこと言ったの? 相手にしちゃ駄目だって言ったじゃないの!」
保田に叱られ、飯田は謝ることしかできない。
何にしても、なつみが怪我をしたのは病院の責任であるから、
唯一の家族である妹のあさ美に謝罪をしなければならなかった。
飯田は保田の説教が終わると、なつみの病室に行く。
注射で眠らされたなつみは、なぜかとても小さく見える。
入院患者が小さく見える時は、死期が近いということを、
飯田は誰かから聞いていた。
「なっち……」
飯田は昏睡するなつみの手を握り、溢れるものを堪え切れなかった。
- 49 名前:MU 投稿日:2002年10月04日(金)19時56分56秒
- ちょっと休憩。
数時間後には完結させます。
- 50 名前:18です。 投稿日:2002年10月04日(金)20時28分25秒
- 覚悟はしていましたがもうすぐ終わりなんですね。
- 51 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時37分39秒
- >>18
短い小説なんでスマソ!
しかし、スタイルといい文章といい、自分の書き物じゃないみたいです。
- 52 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時38分29秒
- ――14――
翌日、あさ美は真里に話をした。
自分の姉が入院していること。
全てを売り払ったが入院費を捻出できないこと。
途方に暮れていたところを、真里に拾われたこと。
「あさ美ちゃんのお姉さんまで……」
真里は額に皺を寄せながら、あさ美の話を聞いた。
彼女はあまり過去を話したがらなかったが、
なつみと同じようなめに遭ったのは確かなようである。
真里はあさ美の話を一通り聞くと、
何も言わずに預金通帳をあさ美の前に置いた。
そこには200万円が入っている。
そして真里は仕事に出掛けて行った。
「遣えないよ」
あさ美は真里の預金通帳を見ながら首を振った。
曇天の昼下がりは、いつにも増して暗い。
あさ美は面会時間に合わせて、鶯谷病院に向かった。
- 53 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時39分19秒
- 鶯谷病院に着くと、あさ美は飯田に呼び止められた。
飯田は深刻な顔をしながら、あさ美を談話室へ連れて行く。
談話室の奥には、普段は使用されていない部屋があった。
飯田はそこの鍵を開け、あさ美を連れ込んで話を始める。
「お姉ちゃんが暴れて怪我をしたの。あたしがいけないんだ」
いきなりの話に、あさ美は驚いて立ち上がった。
あさ美の手を取って座らせると、飯田は落ち着いた顔で話を続ける。
まずは、あさ美に謝罪しなければならなかった。
「ごめんなさい。あたしが余計なことを言っちゃったから……でも大丈夫。
ちょっと額を切っただけだから、縫合の必要もないよ」
安心したあさ美は、溜息をついて体の力を抜いた。
曇ガラスから差し込む太陽光は、曇天に負けている。
蛍光灯を点けるには明る過ぎ、そのままでは暗い。
そんな中途半端な明るさの中、飯田は核心に迫る話を始めた。
「あさ美ちゃん、お姉ちゃんが妙なことを言ったの。何のことだかわかる?」
あさ美は大きな眼で飯田を見つめる。
薄暗い部屋の中で、あさ美の眼は、
いつも以上に大きく感じられた。
いつも無表情な少女だったが、
今日は一段と心の内を見抜けない。
- 54 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時39分58秒
- 「一本目の蝋燭が消えた。二本目のベルトが切れた。三本目のナイフが壊れた」
飯田は無表情なあさ美の顔を凝視する。
ごく僅かではあったが、あさ美は震えていた。
飯田はあさ美が反応したことで、残念に思ってしまう。
とうとう雨が降り出し、曇ガラスに水滴が直撃した。
「それって、お姉ちゃんの……」
あさ美が口を開くとは意外だった。
なつみは蝋燭と鞭として使われたベルトにいたぶられ、
レイプされた挙句に瓶を突っ込まれたのである。
疾走する車から突き落とされ、性器に大怪我をしたのだった。
「稲葉貴子、平家みちよ、そして寺田光男。
麻薬の売人であると同時に、少女を食い物にする不良」
飯田はあさ美に自首を勧めようと思ったのである。
私的な復讐ではあったが、事情が事情だけに、
あさ美に対する情状酌量の余地は充分にあった。
仮に最悪の状況として、少年院送致になったとしても、
まだ15歳であるため、早期に退院することができるだろう。
- 55 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時40分47秒
- 「あさ美ちゃん!」
「ニュースは観てました。お姉ちゃんには、不思議な能力があるんです」
あさ美が言うには、なつみには霊視的な能力があるという。
両親の死亡を感じていたし、愛犬の死亡も感じ取れていた。
よく幽霊を目撃してしまい、恐怖に震えていたという。
なつみは自分を廃人にした相手の死を感じたのである。
「あさ美ちゃん、自首して!」
飯田は涙を溜めながら、首を傾げるあさ美に言った。
- 56 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時43分44秒
- ――15――
つんく♂が殺されたことを知った裕子は、海外に逃げようと考えていた。
成田から航空機で行けば楽なのだが、彼女は警察からマークされている。
航空券を手配しようものなら、何かしらの理由をつけられて検挙されるだろう。
こうなったら、日本海側に出て、韓国か中国、ロシアの船に潜り込むしかない。
持ち合わせのコカインと全財産を持ち、裕子は夕方の雑踏を利用して東京駅に向かった。
東京駅までは歩いて行けるが、人通りの少ない道を通らなければならない。
裕子に一抹の不安こそあったが、まさか日中に撃ち殺されることもないだろう。
それに、念には念を入れて、ブラウスの下に防弾チョッキを着ている。
- 57 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時44分28秒
- (あの女の関係者が犯人なんやろか)
裕子はなつみの関係者が犯人ではないかと思っていた。
愛人関係にあったつんく♂が、眼の前でなつみを犯したのである。
逆上した裕子は、子分格の稲葉と平家に命じて、なつみをいたぶった。
そして、最後には彼女自身が、なつみの性器に瓶を押し込み、
疾走する車から突き落としたのである。
他にも何人か、なつみのように生贄にした少女はいたものの、
あれほど酷く虐待したことはなかった。
(あの女には妹がおったそうやけど、まだ中学生やしな)
裕子はそんなことを考えながら、雨の中、裏路地を歩いていた。
考えてみれば、もう10年以上も悪いことばかりをやっている。
暴走族から麻薬の売人となり、つんく♂と結託して少女を騙した。
稲葉や平家と知り合ってからは、たまに一人歩きの少女を拉致して、
レイプしたりSMごっこなど、極悪非道の限りを尽くしていた。
- 58 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時45分09秒
- 「うっ!」
裕子の背中に何かが押し付けられた。
同時にマニキュアをした手が彼女の腹に回される。
裕子の心臓は破裂しそうな勢いで鼓動していた。
「防弾チョッキね……トカレフにも対応してるのかな?」
「だ……誰や!」
後方から抱きつかれた形の裕子は、
相手の顔を確認することができない。
全身の毛穴から、冷や汗が噴出して行く。
完全に裕子の後ろをとった少女は、
素早く上着の中に拳銃を入れて来た。
「ここで撃ってもいいけど、弁解の機会をあげようか?」
裕子はハンドバッグの中へ手を入れようとした。
中にはM29が入っているからである。
だが裕子は少女の話に乗る気になった。
人気のない場所へ移動し、そこで撃ち殺してしまえばいい。
少女は後ろをとって、油断しているに違いないからだ。
- 59 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時46分02秒
- 裕子が連れて来られたのは、御徒町に近い問屋街である。
ここの倉庫を使って、彼女たちは極悪非道の限りを尽くしたのだ。
なつみが拉致され、四人の生贄になったのも、ここの倉庫である。
すでに日が暮れており、問屋街のオフィスは、次々に灯りが消えて行く。
「あんたたちの祭壇だったよね。ここが」
少女は裕子を突き飛ばし、持っていたベレッタを向けた。
裕子は尻をついたまま、壁際まで移動すると、
ハンドバッグの中からM29を取り出して少女に向ける。
M29は世界最強のパワーを誇る拳銃だ。
裕子が壁を背にしたのは、反動を考えてのことである。
- 60 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時46分33秒
- 「ひゃはははははー!この裕子が丸腰かと思ったんかい!」
少女は一瞬身構えたが、裕子の拳銃がM29だと知ると、
溜息をつきながら、落ち着いてベレッタを構え直した。
裕子は相手がベレッタであるのを悟り、かなり強気に出ている。
9ミリパラベラム弾であれば、防弾チョッキが完璧に防いでくれるからだ。
「ほんとうに救いようのない女だね。そんな銃じゃ当たらないよ」
「じゃかましいわー!」
裕子は少女の胸を狙ってトリガーを引いた。
凄まじい銃声と共に、銃身と同じくらいのマズルフラッシュが飛び出す。
ところが、肝心の銃弾は、少女の頭上を通過し、コンクリートの壁に命中した。
- 61 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時47分30秒
- 「倉庫の奥行きが16メートルだから、だいたい11メートルは離れてるよね。
44マグナムの反動じゃ、せいぜい5メートルじゃないと当たらないよ」
少女はベレッタを両手で構え、裕子の足元を狙って撃った。
銃弾は裕子の左腕に命中し、彼女は痛みでM29を落としてしまう。
ベレッタを構えながら、少女は少しずつ裕子に近付いて行く。
「ベレッタの9ミリパラベラム弾だって、10メートル離れると中々当たらないのに」
少女は8メートルくらいの位置で再び撃った。
銃弾は胸に命中し、裕子は衝撃で息が詰まってしまう。
それでも裕子は右手だけでM29を撃つが、
銃弾は少女の二メートルも横を通過して行った。
「どこまで莫迦なの? ハンマーも起さないで当たると思う?」
そう言うと少女は裕子の足を撃った。
激しい痛みに、裕子は完全に戦意を喪失してしまう。
そろそろ引き揚げなくては、銃声に気付いた人間が通報する頃だ。
少女は足早に裕子へ近付くと、トカレフを取り出して彼女の足を撃つ。
4発づつ撃ち込まれた裕子の足からは、噴水のように血が噴出した。
- 62 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時48分04秒
- 「ううう……早く殺せや……」
少女はトカレフを捨てると、ベレッタに持ち替え、裕子の右手を撃った。
手の甲に穴が開き、裕子は右手を押さえて悲鳴を上げる。
それは恰も赤ん坊の泣き声のようだった。
「あんたが最後だからね。それに、一番苦しんでもらわないと」
四人の中でもリーダー格の裕子は、
なつみだけでなく、他の少女を襲うときにも、
徹底した残忍振りを発揮していたのである。
少女は裕子の左手の甲にも穴を開けた。
すでに彼女は出血によるショック状態で、
意識が朦朧として来ている。
「早く死にたいでしょう?」
少女は裕子の額にベレッタを押し当てた。
- 63 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時53分30秒
- 「ようやく死ねるよ。これまで苦しめた女の子の報いだ。オイラを含めて……」
「やめて!」
いきなり倉庫の扉が開き、あさ美が飛び込んで来た。
あさ美の後方には大柄な女もいる。
「あさ美ちゃん……」
「真里さん、やめて。お願い……そんなことして何になるの?」
真里はベレッタを握り締め、泣きそうな顔であさ美を見る。
これまでの事件の犯人は、何と真里だったのだ。
真里はつんく♂に騙され、莫大な借金をした挙句、
例の四人に『生贄』にされたのである。
真里は妊娠し、中絶を余儀なくされた。
体の傷も癒えない内に、風俗店で働かされる。
自分の人生を踏み躙った四人が、どうしても許せなかったのだ。
「真里さん、悪いとは思ったけど、写真や日記を見せて貰ったの」
大柄な女が言った。勿論、飯田である。
あさ美は泣きながら真里を説得した。
自分たち姉妹も被害者ではあるが、
私的な復讐が許されるわけがない。
- 64 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時54分48秒
- 「あさ美ちゃん、どうしてオイラだと?」
真里は不思議で仕方なかった。
あさ美には注意して接していたし、
自分が復讐の犯人だとわかるとは思えない。
あさ美は最初から真里が犯人だと思って接したのか?
「……勘なんです」
あさ美にも、なつみのような特殊な能力があった。
真里は殺意を隠していたが、あさ美はそれを感じたのだろう。
飯田に犯人ではないかと疑われ、否定しながらスキャンしてみると、
こともあろうか、真里に僅かだが殺気を感じていたのである。
あさ美が飯田に訴えると、彼女は半信半疑で真里のマンションへ行った。
そこでつんく♂(寺田)と一緒の写真や、日記を発見したのである。
それでも、この場所を特定するのには、あさ美の能力が必要だった。
- 65 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時55分30秒
- 「よくわからないけど、オイラは許せない。あさ美ちゃんのお姉さんまで苦しめた連中だよ」
「真里さん、お姉ちゃんも被害者だけど、こんなことは望んでない」
あさ美は泣きながら説得するが、真里の決心は固かった。
すでに裕子の意識は限りなく無に近付いていたが、
真里は自分の手で殺さなければ気がすまないのである。
真剣な表情で裕子の額にベレッタを押し付けると、
真里は眼を閉じて射殺の体勢に入った。
- 66 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時56分09秒
- 「この女だけは許せないの!」
そう言うと真里はトリガーを引いた。
反射的に飯田はあさ美を抱き締め、
飛び散る血と脳漿を見せないようにする。
恐る恐る眼を開けた飯田は、真里が項垂れている姿を見た。
背後の裕子は無事であり、頭は砕け散っていない。
真里は意図的に外したのだった。
「真里さん、自首して……お願い」
「あさ美ちゃん、行こう」
飯田は真里が殺害を断念したことを悟り、
あさ美を連れて、倉庫を後にした。
残された真里は激しく泣いている。
これで、あさ美とは別れなければならない。
短い間だったが、真里は楽しい時間を過ごせた。
「ハハハハハ……あさ美ちゃん、夢を観させてくれて、ありがとう」
真里は泣きじゃくりながらベレッタを自分の頭に押し当てた。
壁に寄りかかる裕子は大量の出血で、もう助からないだろう。
復讐を終えた真里には、もう何も残ってはいなかった。
- 67 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時56分45秒
- 真里を心配し、何度も倉庫を振り返るあさ美を、飯田は優しく抱き締めていた。
小さな傘は二人を雨からカバーしきれずに、肩や背中を濡らして行く。
「真里さん、自首してくれるかな……」
あさ美は泣きそうな顔で飯田を見上げた。
飯田にはわかっている。真里は自殺するつもりだろう。
あさ美と逢わなければ、最初からそうなるはずだった。
しかし、偶然にもあさ美と逢ってしまったために、
捕まるまでは、一緒に暮らすつもりだったらしい。
いつも拳銃を持ち歩き、捕まる寸前で自殺する。
これが真里の計画だったのだ。
「あさ美ちゃ……」
銃声が鳴り響き、二人は傘を落として振り返る。
何台ものパトカーがやって来る中、
あさ美は泣きながら叫んだ。
「真里さーん!」
- 68 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時57分23秒
- ――16――
数日後、鶯谷病院は、慌しい状況にあった。
衰弱しつつあったなつみが危篤状態になったのである。
あさ美に手を握られ、なつみは昏睡が続いていた。
「心臓が弱りきってる。残念だけど、もう時間の問題だね」
夏医師は泣いているあさ美に優しく言った。
体だけではなく、心の病気でも人間は死ぬ。
飯田には初めてのことであり、ひどく動揺していた。
「……あさ美」
ふと、なつみの意識が戻った。
あさ美は搾り出すような声で、
「お姉ちゃん」と声をかける。
「先に逝って……ごめんね」
「なっち! 先生! ……正気に戻ってる」
なつみは正気に戻っていた。
そして、あさ美に自分の生命保険を告げ、
医療費の心配はないことを語ると、
再び意識が混濁して来る。
- 69 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時57分59秒
- 「もう……終わったべさ……四人目の鬼も……死んだ……」
なつみはそれだけを言うと、次第に呼吸をしなくなり、
数分後には完全に呼吸を停止してしまった。
夏医師は脈と瞳孔反応を検査し、あさ美を見て首を振る。
「稀に、患者が死の直前に正気に戻ることは、臨床例として報告されているよ。
しかし、ほんとうに残念だね。まだ若いのに……」
夏医師は、辛そうに言いながら、病室を出て行く。
あさ美は泣いていたが、取り乱した様子はなかった。
まるで、こうなることを予知していたようである。
飯田は泣きながら、なつみの手を胸の前で合わせ、
点滴を外し、鼻へ送っていた酸素も取り外した。
「飯田さん、見て。お姉ちゃん、笑ってる」
安らかな顔で横たわるなつみの顔は、
心なしか微笑んでいるように見えた。
そこへ保田がコップを持ってやって来る。
竹串の先には脱脂綿が巻かれていた。
- 70 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時58分32秒
- 「何て言うか……その……末期の水だよ」
保田はあさ美にコップを渡すと、俯いてしまった。
飯田は保田が意外にシャイであると悟り、何だか嬉しくなってしまう。
秋晴れの陽が差し込む窓ガラスに、風で飛ばされたらしい、
紅葉したツタの葉がぶつかり、とても小さな音をたてた。
「あさ美ちゃん、これからどうするの?」
飯田はどうしても心配で仕方ない。
なつみが死んだばかりではあるが、
あさ美には明日がないのであった。
「真里さんが200万円をくれました。
お姉ちゃんも保険に入ってたし、金銭的には何とかなります」
あさ美が問題なのは、社会的な自立に年齢的条件が付けられていることだった。
未成年であるがゆえの差別と、中学生であるがゆえの限界である。
要するに大人の保護者がいなければ、何もできないのだった。
- 71 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)04時59分11秒
- 「あさ美ちゃん、施設に行くことになると思うけど……」
「……そうですね」
あさ美は冷たくなって行くなつみの唇を濡らしながら、
今回の不幸な事件を思い起こしていた。
麻薬が不良が偶然が、憎しみと恐怖を生み、
そして、悲しみと別れを齎したのである。
誰の心の中にも、四人の不良や真里、なつみは存在するのだ。
これから半年間、季節は寒い冬を迎える。
だが、全ての生物は、必ず春がやって来ることを信じて、
じっと寒さに耐えて行くのだった。
――END――
- 72 名前:MU 投稿日:2002年10月05日(土)05時02分57秒
- なんというか、試行錯誤したわりに、こんなものになりました。
ススススススス……スマソ!
次は、もっと頑張りますです。
ということで、次回も読んでくらさい!
- 73 名前:18です。 投稿日:2002年10月05日(土)21時38分16秒
- 終わってしまうのは残念ですが次回作も期待しております。
- 74 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月06日(日)02時37分56秒
- 予想を見事に裏切られました(w
もう少し長く読みたかったです。
次回作も楽しみにしてますね。
- 75 名前:MU 投稿日:2002年10月06日(日)02時43分26秒
- >>18
読んでくれて産休です。
やっぱり、この書き方のほうが見やすいれすよね。
しかし、安物の2時間ドラマみたいになって申し訳ないです。
反省すべき点が多いので、今度はじっくり考えてからうpしますです。
- 76 名前:MU 投稿日:2002年10月06日(日)02時50分58秒
- >>74
産休です。
埋もれて行くはずだったんですが、短命に終わってしまいますた。
ちょっと不満なので、いつか完全版をうpしたいと思いますです。
次は、違うメンバーで明るく行きたいです罠。
(しまった!矢口を使ってしまったか……)
- 77 名前:MU 投稿日:2002年10月14日(月)09時11分19秒
- 朝も早くからスマソ。
せっかく立てたスレだから、第二弾を書きます。
…Tokyo Killing City U…
- 78 名前:MU 投稿日:2002年10月14日(月)09時12分26秒
- ――1――
杉並区立和泉中学オカルト研究会(オカ研)では、
いつものように放課後になると、部員が集まってくる。
部長の亜依は、今日の出席率の悪さに頭を抱えた。
こういったクラブは変人が多く、晴天にも関わらず、
雨が降るとかで、半分以上が帰宅してしまったのである。
要するに幽霊部員が多いため、それだけでオカ研だった。
「オカルト、なめくさって……」
談笑しながら帰って行く幽霊部員を校舎の窓から見ながら、
亜依は無意識の内に洩らしていた。
晩秋の夕方はセンチメンタルな色と風景に染まって行く。
亜依は一番きれいな季節だと思っていた。
「あいぼん、今日は四人だね」
舌足らずな少女は希美である。
オカ研きっての重量級であり、力自慢でもあった。
15歳の少女にしては、恐ろしいほどの力がある。
彼女の存在自体が、オカルトでもあった。
「そうしたらさー、絵の中の顔が目を開けて行くの」
色白な少女が真剣に話をしていた。
四人の中では霊感の強い麻琴である。
彼女の場合は見えるのではなく、
霊の存在を感じるのだそうだ。
- 79 名前:MU 投稿日:2002年10月14日(月)09時13分33秒
- 「怖いですよ〜」
痩身で小柄、色黒の少女は、二年生の里沙である。
真面目で出席率が良いため、亜依は彼女を次期部長と考えていた。
麻琴と里沙は声が低いので、怖い話をすると本当に怖い。
普段は陽気な希美ですら、泣き出しそうになってしまう。
「でもさー、オカ研だってのに、霊を見た子がいないってのもねー」
希美は溜息をつきながら言った。
文化祭では、心霊写真を展示することになっていたが、
どれも斬新なものはなく、つまらないものである。
亜依や希美を中心に、新しい写真を集めていたが、
古本屋にでも売っている雑誌の切り抜きにすぎない。
- 80 名前:MU 投稿日:2002年10月14日(月)09時14分15秒
- 「これじゃ、文化祭も閑古鳥が鳴いちゃうね」
亜依は宜保愛子の顔真似をしながら、苦笑する希美と向かい合って座った。
その話を聞いていた里沙は、二人に駆け寄ると、思いがけないことを言う。
「だったら、写真を撮りに行きましょうよ」
亜依と希美は驚いたが、それは前向きな考えであると痛感した。
目玉となる写真がないのなら、撮りに行けばいいのである。
まだ二年生だから無責任に発言できるということもあった。
だが、里沙の提案は斬新かつ前向きであることには間違いない。
退廃的な雰囲気を一掃するだけの魅力ある提案であった。
- 81 名前:MU 投稿日:2002年10月14日(月)09時14分46秒
- 「いいんじゃない? どう? まこっちゃん」
「うん、面白そうじゃん」
亜依が麻琴に振ると、彼女も興味があるのだろう。
嬉しそうに微笑みながら頷いていた。
それとは逆に困った顔をしているのが希美である。
希美の家は親が厳しく、夜は外出ができなかった。
そのことを知っていたのは、亜依だけである。
「ののちゃん、うちに泊まれば?」
文化祭の支度をすると言えば、希美の親も許してくれるだろう。
亜依の家は放任主義であるため、夜間の外出は問題なかった。
四人は額をつき合わせ、場所や持ち物を相談する。
- 82 名前:MU 投稿日:2002年10月14日(月)09時15分20秒
- 「二丁目の病院跡がいいんじゃない?」
麻琴は幽霊の目撃談が絶えない廃病院を提案した。
最近では女子高校生の首吊り事件もあり、
その場所は肝試しのメッカとなっていたのである。
週末になると、若者が車でやってきて大騒ぎをしていた。
「今日は水曜日だから、人もいないだろうしね」
亜依は場所を廃病院と決定し、持ち物の確認を始めた。
インスタントカメラにポラロイド、ビデオカメラである。
ライト付きのビデオカメラを希美が持っていたので、
亜依はポラロイドを持ってくることになった。
- 83 名前:MU 投稿日:2002年10月14日(月)09時16分45秒
- 今日は、このへんでお休みなさい。
- 84 名前:18です。 投稿日:2002年10月14日(月)14時03分15秒
- いや〜お待ちしておりました。
- 85 名前:MU 投稿日:2002年10月19日(土)08時27分44秒
- >>18
有賀党でつ。
今回はダーヤスつながりで、石川・辻・加護・小川・新垣の登場でつ。
また短く終わってしまいそうでつ。
- 86 名前:MU 投稿日:2002年10月19日(土)08時28分51秒
- ――2――
梨華は喫茶店のバイトを始めて二ヶ月になろうとしている。
決して頭は悪くないのだが、ドジをやらかすことも多い。
昼の忙しさが一段落した頃、カーディガンを羽織った看護師がやって来る。
彼女は近くの鶯谷病院に勤務する保田という看護師だ。
日勤の場合、昼食後は、この喫茶店で何やら勉強している。
梨華は注文されたコーヒーを持って行った。
「お待たせしました。キャ!」
手を滑らせた梨華は、保田の膝にコーヒーを溢してしまった。
驚いた保田は、熱さのために飛び上がり、そのまま後方に倒れてしまう。
慌てた梨華は火傷を心配し、コップの水を保田の膝にぶちかけた。
「もう! パンツまで濡れちゃったじゃないの!」
カンカンになって怒る保田に、平謝りの梨華だった。
コーヒーは落ちにくいので、白衣は漂白が必要だろう。
梨華は保田だけでなく、店長にも叱られてしまい、
かなり鬱な気分になってしまった。
- 87 名前:MU 投稿日:2002年10月19日(土)08時30分12秒
- (こんな日は、何か面白いことをしたいな)
梨華はバイトが終わると『いつもの場所』へ急行する。
彼女にとっての『いつもの場所』は、
誰にも邪魔されない一人だけの空間だった。
この場所を得るために、彼女は努力を惜しまなかった。
見晴らしの良いバルコニーからは、首都高のライトが宝石のように見えた。
このきれいな風景を得るため、梨華はこの場所を選んだのである。
彼女は固形燃料で湯を沸かし、買っておいたカップラーメンを食べ始めた。
寒い場所で温かいものを食べるのは、とても嬉しくなるものである。
梨華は宝石のような景色を独り占めし、幸福感を貪っていたのだった。
- 88 名前:MU 投稿日:2002年10月19日(土)08時30分51秒
- 「あたしは選ばれた女。だから、この景色を見る権利がある」
そんな特権意識が梨華にあるわけがない。
だが、そう思わないことには、厳しい現実に押しつぶされてしまいそうだった。
全共闘時代の過激派のように、新聞配達をやりながら自分の主義を貫くような、
そんな奉仕的イデオロギーにも似た感覚を、彼女は持っていたのかもしれない。
「ここは治外法権なんだから」
梨華は恐ろしくて震えながらも、勇気を出して自販機で買ったハイライトを取り出した。
まだ17歳である梨華にしてみれば、法律的には吸ってはいけない年齢である。
しかし、17歳でタバコを吸ったことのない人の方が少ないだろう。
梨華は小心者だったのである。
「あ……あたしだって、す……吸えるもん」
梨華は震えながらもタバコに火をつけてみる。
絶えがたい臭気と刺激が口腔粘膜を襲い、
梨華はたまらず咳き込んでタバコを揉み消した。
「うえっ……まずい……」
コーラでうがいをすると、少しは気分が楽になった。
- 89 名前:MU 投稿日:2002年10月20日(日)08時39分58秒
- ――3――
亜依は自宅に帰ると希美を待ちつつ、道具を揃えることにした。
ポラロイドカメラとフィルム、小型の懐中電灯を机の上に並べる。
録音可能なMDウォークマンも持って行くことにした。
勿論、お清めの塩と酒、万が一のための護符も忘れない。
そんな支度をしていると、自転車に乗って希美がやってきた。
「おなかすいたー」
希美は夕飯も食べずにやってきたのである。
亜依は彼女のために、インスタントラーメンを作ってやった。
テレビを観て一息つくと、集合時間である11時が近付いてくる。
亜依の家から現地までは、歩いて15分くらいであった。
国道沿いを10分ほど歩き、次第に寂しい場所へ入って行く。
- 90 名前:MU 投稿日:2002年10月20日(日)08時40分31秒
- 「あれがそうだね」
亜依と希美は不気味に佇む廃病院を見上げた。
夜空に浮かび上がる不気味な黒い影は、
侵入者を拒むような雰囲気に満ち溢れている。
亜依が身震いをしながら歩き始めた時、
希美は病院の一点を凝視しながら声をあげた。
「あ……」
「どうしたの?」
「何か光った……」
- 91 名前:MU 投稿日:2002年10月20日(日)08時41分13秒
- 亜依は慌てて希美が指差すポイントを見た。
病院を廃業して間もないためか、ガラスが割られずに残っている。
そのガラスに車のヘッドライトが反射したようだった。
若しくは先客がいるのかもしれない。
「おーす」
マウンテンバイクで颯爽と現れたのが麻琴だった。
彼女は大型の懐中電灯と数珠を持って来る係である。
三人で待ち合わせ場所である病院の入り口に着いた時、
息を切らせながら里沙が走ってきた。
- 92 名前:MU 投稿日:2002年10月20日(日)08時41分53秒
- 「ごめんなさーい。遅れちゃった」
「おいおい、水筒にリュックかよ。遠足じゃねーんだぞ」
希美が言うと亜依と麻琴も笑った。
四人は入り口の階段に腰を降ろし、暫く他愛もない話をしていた。
いきなり入らなかったのは、やはり怖かったからである。
異様な満月が頭上に輝き、影ができるほど明るかった。
「せっかくだから、この病院跡に出る霊の話をしない?」
亜依の提案で、ここの情報に詳しい麻琴が話を始めた。
離れた場所を通行する車の騒音などが、
あたかもフランジャーを通したようなエフェクト音となって、
神経が過敏になっている四人の耳に届いている。
冷たい風が雲を運んで来ると、満月が隠れてあたりは闇に包まれた。
- 93 名前:MU 投稿日:2002年10月20日(日)08時42分46秒
- 「若い女の霊が出るらしいよ」
麻琴の低い声に、他の三人は固唾を飲む。
何でも不治の病で死んだ高校生の霊だそうで、
排他的な眼で侵入者を睨みつけるらしい。
これまでに数人の目撃談があり、警察が介入したこともあった。
ホームレスが住みつき、そのまま病死ということもあるので、
定期的に見回ることになったという。
「若い女の霊だけなのかな」
里沙は怖くて仕方がない。
自分で言い出したことであるから、
いまさら後戻りはできないが、
できれば帰ってしまいたかった。
- 94 名前:MU 投稿日:2002年10月20日(日)08時43分23秒
- 「まこっちゃん、何か感じる?」
希美は霊感の強い麻琴に聞いてみる。
だが、麻琴は笑顔で首を振った。
安心する三人だったが、麻琴は妙なことを言う。
「霊的には感じないけど、嫌な予感がするの」
麻琴の『嫌な予感』は当たることが多かった。
テストのヤマカンが外れたり、体育の授業中、
バスケットボールで顔面を強打して鼻血噴出。
といったことがある。
- 95 名前:MU 投稿日:2002年10月20日(日)08時44分23秒
- 「中は暗いからね。足元に気をつけよう」
そう言うと亜依は希美を連れて立ち上がった。
この行動が、いよいよ中に入るのだということは、他の三人にも分かっている。
恐怖話の上手い麻琴の話で、最年少の里沙は、本気で怖くなってしまった。
亜依と麻琴も怖かったが、希美や里沙ほど怯えてはいなかった。
「さあ、行こう。まこっちゃん、何か感じたら教えてね」
四人は互いに手をつなぎながら、恐る恐る病院の中へ入って行った。
入り口を入ると、左右にシンメトリーな造りになっている。
この広い空間は、恐らく会計の待合室なのだろう。
さすがに屋内になると、外の雑音が聞こえない。
それは、あたかも閉鎖された空間を、自己主張しているようであった。
- 96 名前:MU 投稿日:2002年10月20日(日)08時44分58秒
- 「右が外科・皮膚科・整形外科、左が内科・小児科・耳鼻科」
一階は外来や事務所だけといった造りが一般的である。
こういった病院では、二階に手術室やICUがあるはずだ。
三階と四階が病室で、最上階は研究室などがある。
これだけ広くては、どこから探検しようか迷ってしまう。
「二手に分かれようか」
亜依が提案すると、麻琴は大きく頷いた。
互いに行く方向を確認し、亜依は希美、麻琴は里沙と行動する。
そして、亜依たちは外科方面、麻琴たちは内科方面に行く。
懐中電灯の光が闇を照らして行った。
- 97 名前:MU 投稿日:2002年10月23日(水)05時30分07秒
- ――4――
一人の時間を満喫していた梨華は、突然の侵入者に嫌悪感を露にした。
耳を澄まして話し声を聞くと、どうやら中学生くらいの少女たちのようだ。
このくらいの年齢であれば、脅かせば逃げ帰ってしまうものである。
月が雲に隠れ、暗闇が訪れる中、梨華はさっそく、幽霊を演じることにした。
「まったく、近頃の中坊ときたら……」
梨華は 幽霊用のパジャマに着替えようとしていたが、
その時、ふと悪魔の囁きを聞いてしまった。
それは恐怖の囁きである。何と、侵入した女子中学生を狩るのだ。
梨華はこの建物の構造を知り尽くしており、それを利用すれば、
中学生たちを相手に殺人ゲームを楽しむことができる。
宝石を散りばめたような東京の夜景を見ながら、
梨華の顔はは泣き叫ぶ少女たちを想像して歪んだ。
- 98 名前:MU 投稿日:2002年10月23日(水)05時30分44秒
- 「うふふふふ……楽しくなりそうね」
梨華は黒いコートを羽織ると、外階段を使って入り口に行き、
頑丈なワイヤーでドアを縛ってしまった。
これで中学生たちは、閉じ込められてしまったわけだ。
雲から顔を出した月が異様に赤く光っている。
それは、まるでこれから起こる地獄を連想させるようであった。
「ドアが開かないとすれば……うふふふふ……」
再び外階段を使って最上階の『自分の部屋』に戻ると、
梨華は黙々と殺人ゲームの用意を始めたのである。
- 99 名前:MU 投稿日:2002年10月23日(水)05時31分16秒
- 数種類の仕掛けを作った梨華は、湧き上がる興奮に酔っていた。
きっと楽しいハンティングになるに違いない。
梨華は皮の手袋をし、大型のナイフとロープを持つと、
嬉しそうに廊下に踊り出て行った。
「いっつぁーしょーたいむ!」
梨華は音が出ないように、スニーカーにキルティングを巻きつけていた。
少女たちを探すのは簡単である。懐中電灯の光がそうだからだ。
梨華は少女たちのすぐ上の階で、彼女たちの様子を覗っている。
消え入りそうな足音は、とても頼りなく聞こえた。
それはあたかも、自分たちの生命を暗示するようである。
この建物の『主』である梨華は、嬉しくて仕方がない。
退屈な日常を忘れ、こんな刺激的なものを楽しめるのだ。
問題は狩りを楽しんだ後のことだったが、
梨華は最高のものを発見していたのである。
(二手に分かれたの? 莫迦な子たちね)
まずは、誰でもいいから一人だけを殺す。
そうすればパニックになって、刺激的な興奮が味わえるのだ。
梨華は左側を探検する華奢な方の少女に眼をつけた。
どう見ても梨華より軽そうであり、吊り上げるにはちょうどいい。
真っ暗な屋内に差し込む月光が、梨華の顔を不気味に照らしていた。
- 100 名前:MU 投稿日:2002年10月23日(水)05時31分49秒
- (どうやって殺そうかな……そうだ、まずは首吊りだね)
梨華は階段を利用して少女の首を絞めようというのだった。
以前、煩そうな高校生のアベックが侵入したので、
梨華はいつものように幽霊に扮して追い払ってみた。
ところが、男の方は驚いて逃げてしまい、
少女は失禁しながら腰を抜かしてしまう。
梨華は少女の首にロープを通して吊り上げてみる。
手足をバタつかせて苦しむ様は、梨華に異常な興奮を齎せた。
結局、警察がやって来たが、自殺ということで終わってしまう。
50キロを超える少女を吊り上げるのには苦労したが、
今回は作業が楽なように工夫を凝らしてみた。
天井の照明にロープを通し、うまく操作して少女の首を輪に入れる。
そうしたら、ロープを持ったまま、一階に止まったままになっている、
エレベーターの屋根に飛び降りるのである。
梨華の体重より軽い少女であれば、これで充分だったし、
重い子であれば、何か錘を持てばよかった。
エレベーターの屋根にはいくつもの引っ掛ける場所があるので、
そこへロープを固定すれば、首吊りの完成である。
梨華は嬉しそうに仕掛けを始めた。
- 101 名前:18です。 投稿日:2002年10月23日(水)20時20分05秒
- いろんな意味で続きが楽しみ!
- 102 名前:MU 投稿日:2002年10月26日(土)07時03分22秒
- >>18
有賀党でつ。
いろんな意味ってのが怖いでつ。
- 103 名前:MU 投稿日:2002年10月26日(土)07時04分08秒
- ――5――
麻琴と里沙は階段を昇って3階に来ようとしていた。
少し慣れたのか、里沙も麻琴に抱きつくようなことはない。
それでも怖いのか、里沙は麻琴と話をしながら歩いていた。
自分たちの発生させる僅かな足音が闇に閉ざされた院内に反響し、
無機質な中での生命の存在を自己主張している。
無機質な中に存在する生命こそ恐怖であることを、
中学生の少女たちが気付くわけがなかった。
「先輩、3階には何があるんでしょうねえ」
「病室に決まってんじゃん」
里沙としては、麻琴が持った懐中電灯の明かりだけが視界だ。
だから、目前に下がって来た首吊りのロープには、
全く気がつかなかったのである。
「がっ!」
何か喉が詰まるような声を発し、背後にいた里沙が消えた。
麻琴は里沙が転んだのかと思い、階段を照らしてみるが、
そこには誰もいなかったのである。
麻琴の胸騒ぎは頂点を迎え、彼女は恐怖に震え始めた。
- 104 名前:MU 投稿日:2002年10月26日(土)07時04分47秒
- 「里沙?」
麻琴はあたりを見回し、頭上に揺れている何かを発見した。
彼女が恐る恐る懐中電灯の光を当ててみると、
それは目を見開いたまま死んでいる里沙であった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
麻琴の絶叫を聞いた亜依と希美は、ただごとではないと察知し、
息をきらせながら、急いで二人のもとへ駆けつけた。
恐怖と驚愕で狼狽し、腰を抜かす麻琴は二人を見ると泣きだしてしまう。
「何があったの? 里沙は?」
希美が麻琴を抱き起こし、背中を擦りながら話をきく。
麻琴は怪力の希美でも苦しいくらいに強く抱きつきながら、
彼女は「上」と震えながら二人に言った。
闇に覆われた天井部分から、何かが軋む音が聞こえてくる。
それがロープの音であると確認できたのは、
亜依が懐中電灯で照らした直後だった。
- 105 名前:MU 投稿日:2002年10月26日(土)07時05分29秒
- 「ひっ!里……里沙」
希美は麻琴を抱き締めたまま、恐怖に硬直してしまった。
全身の毛穴から分泌する『生』への執着心が恐怖に拍車をかける。
まず逃げることが、『生』への近道であるということを、
女性である彼女たちは本能的に知っていた。
一刻も早く、この場から脱出し、誰かに助けてもらう。
ただし、信用できる人間に。である。
「と……とにかく、外へ出よう」
亜依が言うと希美と麻琴は、脱兎の如く出口に向かったのである。
暗闇にしか思えない院内を平気で突っ走る三人の瞳孔は、
最大にまで広がっていたのだった。
三人の足音が異様に大きく聞こえ、背後に感じる恐怖は、
立ち止まったら『死』を感じさせていたのである。
- 106 名前:MU 投稿日:2002年10月26日(土)07時06分19秒
- 「し……閉まってる!」
亜依は入口のドアを押してみるが、全くビクともしない。
耐えがたい恐怖が、すぐそこまで迫ってきていた。
悲鳴を上げながらドアを揺する亜依と麻琴に対し、
希美は比較的冷静でいられたのである。
それは彼女の怪力のせいに違いない。
「窓から出ようよ!」
希美は入口の横にある窓を開けた。
窓は1メートルくらいの高さがあるので、
希美は飛びついて乗り越えようとする。
その時、何かが降ってきて大きな音をたてた。
同時に希美の体が後方に倒れてくるではないか。
- 107 名前:MU 投稿日:2002年10月26日(土)07時06分56秒
- 「のの!」
何ごとかと思って懐中電灯で照らしてみると、
希美が仰向けに引っくり返った。
ただし、希美の首から上はついていない。
以前まで頭部があった部分からは、
真っ赤な血が吹き出していた。
「うっ!」
もはや二人は悲鳴を上げることすらできなかった。
希美の体は痙攣し、大量の血を吐き出すと、
やがて、動かなくなって行く。
その希美の断末魔の恐ろしい光景を、
二人は最後まで見届けたのだった。
「嫌ぁ……」
麻琴は放心したように膝をついた。
そして妙な嗚咽を洩らす。
それは泣いているのか笑っているのか、
亜依には判断することができなかった。
- 108 名前:MU 投稿日:2002年10月26日(土)07時08分20秒
- 今日はこのへんで。
いつも朝早くにスマソ!
- 109 名前:18です。 投稿日:2002年10月26日(土)19時13分16秒
- 予想はしていましたが凄いです!
- 110 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時18分47秒
- >>18
有賀党でつ。
一週間振りの更新でつ。
カゼひいて寝込んでますた。
- 111 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時19分34秒
- ――6――
「ひゃーははははははー!窓ガラスのギロチンなんて、お洒落よねぇ」
梨華は誰かが首を出しそうな窓の数階上に、外した窓ガラスを吊るしておいたのだ。
そして誰かが窓から脱出しようとして首を出した時、窓ガラスを落下させたのである。
重くて鋭い刃物となった窓ガラスは、希美の首を刎ねて砕け散ったのであった。
これで少女たちは、脱出を諦めるに違いない。
「次は、どうやって殺そうかなぁ」
梨華は嬉しそうに思案を始めた。
もう、残っているのは二人だけである。
梨華は良案が思い浮かばないので、
とりあえず死体を処理することにした。
- 112 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時20分32秒
- 「まずは、この子からね」
梨華は首吊りにされた里沙を降ろすと、
車椅子に乗せて最上階の研究室に入って行く。
研究室の奥には秘密の部屋があり、
そこには人間の臓器や体のパーツが、
アルコール漬けになっていた。
「この子はちっちゃいから、全部入るかな?」
梨華は里沙の服を剥ぎ取ると、大きなガラス容器に押し込んでみる。
そして刺激臭のするアルコールを注ぎ、重い蓋をして終了だった。
梨華は大きな容器を倉庫から取り出し、全員をアルコール漬けにするつもりでいた。
彼女が見つけたものは、これだったのである。
- 113 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時21分23秒
- 二人が二階の端に移動したことを知った梨華は、
とりあえず希美の死体を回収することにした。
どうせ二人は逃げたくても逃げられないのである。
梨華は車椅子を持って一階へ降りた。
「あちゃー、血がこんなに出てる。掃除がたいへんだなぁ」
梨華は希美の体を車椅子に乗せ、窓から出て頭部を回収する。
希美の顔は、いきなり訪れた死を納得できず、困ったような表情をしていた。
月明かりに照らされた希美の顔を覗き込んだ梨華は、
嬉しそうに微笑みながら話し掛けてみる。
「いきなり死んじゃった感想は?……あははははは……答えられるわけないかー」
梨華は希美の体に頭部を抱かせ、中央にあるスロープを登りだした。
四人の中では一番重い希美を乗せた車椅子は、妙な音をたてて動き出す。
その音を聞く二人は、どんな恐怖に見舞われているのだろう。
それを考えると、梨華は楽しくて仕方がない。
- 114 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時22分13秒
- 梨華が車椅子を押して二階に上がると、
廊下の端に蹲る二人の少女を発見した。
非常階段の強化ガラスから差し込む月明かりで、
抱き合って震える二人の表情が見える。
梨華は軋む車椅子を押しながら、二人に向かって行った。
「助けてー!」
何を思ったか、亜依は梨華にアルコールをぶちかけた。
臭いからすると、安物の焼酎のようである。
亜依は日本酒をもってくるつもりが、
焼酎をもってきてしまったのだった。
「うえっ」
梨華は焼酎の刺激臭に顔をしかめた。
間髪いれずに、亜依は塩を投げつける。
これには、さすがの梨華も車椅子の陰に隠れてしまう。
その隙を狙って、亜依は麻琴を引っ張った。
「逃げよう! まこっちゃん!」
だが、腰が抜けてしまった麻琴は動けない。
亜依は後ろ髪を引かれる思いで逃げ出したのだった。
- 115 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時23分13秒
- 「もう! 最近の中坊は嫌ーい」
梨華は髪についた塩を払い、麻琴を睨みつけた。
麻琴の恐怖は亜依とは違っている。
梨華が人間であることを察知していたからだ。
幽霊が怖いというのは人間の心理なのだが、
本当に恐ろしいのは人間自身なのである。
「助けて下さい……」
麻琴は怯えながら哀願してみるが、梨華の殺気は消えなかった。
それどころか、梨華は冷たい笑みを漏らすと、麻琴の太腿にナイフを突き立てる。
麻琴の悲鳴は冷たいコンクリートに反響し、一階に逃げた亜依の耳にも届いた。
梨華は麻琴の悲鳴を聞き、爽快なトリップ感の中にいる。
少女の泣き叫ぶ声が、これほどまでに心地よいものなのか。
梨華は麻琴の髪を掴み、スロープを使って上の階へと昇って行った。
- 116 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時24分37秒
- 梨華は最上階に到着すると、希美を乗せた車椅子を置き、
麻琴の髪を掴んだまま、中央の吹き抜けまで引き摺って行った。
ここから一階までは吹き抜けになっており、14メートル近い高さがある。
誤って転落しようものなら、運が良くても大怪我は免れない。
「さぁ、跳んでみようかぁ」
梨華は麻琴の髪を掴んで手摺から頭を外に出した。
麻琴は悲鳴を上げながら梨華の腕をつかむと、
その場にしゃがみ込んでしまう。
「嫌ぁ……死にたくない……死にたくない……」
麻琴は泣きながら、うわ言ように呟いている。
そんな麻琴の願いとは裏腹に、眩しいくらいの月明かりが、
吹き抜けの天井にある窓から差し込んできた。
死のショーを行うには、充分すぎる照明である。
- 117 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時25分57秒
- 「死にたくないんだぁ。でもね、あんたのつかまってる手摺って、壊れてるんだよね」
梨華は笑いながら麻琴を突き飛ばした。
すると、手摺は途中から外れ、麻琴と一緒に吹き抜けを落下して行く。
束の間のフリーフォールの中で、麻琴は確かに目撃していた。
嬉しそうに見下ろす梨華の背後に蠢く、無数の亡者たちの霊を。
(やっと見えた。怖い顔をしてるな……)
それが麻琴の最後の意識となってしまった。
- 118 名前:MU 投稿日:2002年11月02日(土)08時29分38秒
- 連休なんで、明後日には更新できると思いまつ。
月末は忙しかったので、放置してスマソ!
- 119 名前:18です。 投稿日:2002年11月02日(土)15時18分21秒
- 狂った石川さん、素敵です。
- 120 名前:MU 投稿日:2002年11月04日(月)07時20分25秒
- >>18
有賀党でつ。
もうじき終わりでつ。
- 121 名前:MU 投稿日:2002年11月04日(月)07時21分32秒
- ――7――
一階の出入口近くの長椅子の下に隠れた亜依は、
怯えながらも、何とかして脱出の機会を覗っていた。
この廃病院さえ脱出すれば、助かると思っていたのである。
麻琴を見捨てたことに後悔しながら、冷静になろうとしていた。
(お酒もお塩も効かなかった……何で?)
亜依は梨華が幽霊だと信じて疑わない。
彼女の常識など曖昧なものである。
ドラキュラは十字架やニンニクに弱いとか、
狼男は銀の銃弾に弱いという程度の知識だった。
それでオカ研の部長が務まるのだから、
中学生のクラブなど他愛もないものである。
吹き抜けの上の方で、何やら話し声がする。
亜依は聞き耳を立てたが、小声であるばかりか、
コンクリートが妙に反響させてしまい、
どんな会話であるかまではわからなかった。
- 122 名前:MU 投稿日:2002年11月04日(月)07時22分32秒
- (何を話してるんだろう)
亜依は霊の声だと思っていた。
すると、何かが急速な速さで移動している。
そういった空気の流れを感じたのだった。
眼の前の床に視線を移した亜依は、
天窓から差し込む月明かりの中に、
何かが落下してくる影を発見する。
やがてそれは、床に叩きつけられ鈍い音をたてた。
驚いた亜依は身を固くして眼を瞑ったが、
自分が無事であることを悟ると、
恐る恐る眼を開けてみた。
すると、そこには大の字になった麻琴がいる。
後頭部を強打した麻琴は即死しており、
放射線状に血と脳漿が飛び散っていた。
彼女の頭は半分以上なくなっており、
それは、あたかも床の中に埋没しているようだった。
「まこっちゃん!」
亜依は悲鳴の混じった声で麻琴を呼ぶ。
だが、彼女が動くことはなかった。
その代わりに、耳や鼻から流れ出た血が、
月明かりで無色に照らされる床に、
どす黒い染みを広げて行ったのである。
- 123 名前:MU 投稿日:2002年11月04日(月)07時24分11秒
- 「あはははは……高いところから落ちる感想はぁ?」
梨華の嬉しそうな声が聞こえてきた。
亜依の恐怖はピークに達し、パニックになる寸前である。
ここでパニックになったとしたら、
彼女に待っているのは死だけだった。
亜依は必死になって自分に言い聞かせる。
(落ち着け! 落ち着け! 考えるの!)
亜依は持ち物の確認を始めた。
持っているのは瓶入りの焼酎と、
僅かばかりの食塩、数枚の和紙でできた護符、
そして麻琴が持っていた懐中電灯である。
「みんな死んじゃったねぇ。残りは一人だけだよぉ」
梨華は嬉しそうに言いながら、ゆっくりとスロープを降りてくる。
このままであれば、確実に殺されてしまうだろう。
亜依が生き残るためには、起死回生の何かが必要だった。
- 124 名前:MU 投稿日:2002年11月04日(月)07時24分55秒
- やがて一階に降り立った梨華は、麻琴の死体を見つめて微笑んだ。
その全身からは狂気が全く感じられず、替りに吐き気がするような、
重苦しい嫌悪感とも殺気とも区別がつかないものが漂っている。
梨華が麻琴の胸を踏むと、停止している心臓が圧迫され、
その分の血液が砕けた頭から流れ出た。
「さあ、クライマックスよぉ!」
そう言うと梨華は、近くにある長椅子を次々に放り投げる。
恐らく50キロ以上はある長椅子を、軽々と投げて行く梨華は、
何かが筋肉のリミッターを麻痺させているのだろう。
長椅子は壁に激突し、スチールの足が折れてしまった。
「あはははは……あはははは……」
梨華はカン高い声で笑いながら、長椅子を放り投げて行く。
- 125 名前:MU 投稿日:2002年11月04日(月)07時25分39秒
- 「みーつけたぁ!」
梨華は亜依を発見し、嬉しそうに微笑んだ。
その顔はまるで、籠から脱走し、
ベッドの奥に逃げ込んでしまったハムスターを、
やっと発見した時の顔のようである。
違っているのは、ハムスターは籠に戻されるだけだが、
亜依は間違いなく殺されるということだった。
「ひっ!」
亜依は死の予感を感じ、反射的に逃げる。
その後を、梨華は重い長椅子を蹴散らせて追いかけた。
捕まれば殺される。それは確実と言ってよかった。
だからこそ、亜依は逃げることに全てを懸けたのである。
その甲斐あって、天窓から差し込む月明かりから隠れた部分、
つまり、梨華から見えない部分を移動し、
一瞬だけ追手を眩ますことに成功した。
- 126 名前:MU 投稿日:2002年11月04日(月)07時28分21秒
- 梨華は一瞬、亜依を見失い、視覚から聴覚へ切り替える時間をロスした。
その間に亜依は懐中電灯の乾電池をショートさせ、
焼酎の瓶に突っ込んだ護符に火を放ったのである。
梨華が亜依に気づいたのは、護符に点いた火があったからだ。
「何やってるのぉ? 莫迦な子ねぇ」
梨華は大型のサバイバルナイフを取り出し、亜依に襲い掛かろうとした。
その瞬間、亜依は梨華の足元に、焼酎の瓶を叩きつけたのである。
亜依は考えたあげく、即席の火炎瓶を作っていたのだった。
飛び散った焼酎は梨華の服にかかり、発火の芯を得た焼酎は、一気に燃え上がった。
「きゃあああああああー!」
梨華は一瞬にして火ダルマと化す。
激しい炎が床の焼酎を気化させ、
それを巻き込んで、火は激しさを増す。
化学繊維であった梨華の服は恰好の燃料となり、
彼女を人間松明にしてしまったのである。
人間が燃える悪臭の中で、亜依は生き残れることを確信した。
- 127 名前:MU 投稿日:2002年11月04日(月)07時31分21秒
- いよいよ終わりでつ。
エンディングは思案中でつ。
- 128 名前:18です。 投稿日:2002年11月04日(月)13時30分59秒
- エンディングに期待です!
- 129 名前:MU 投稿日:2002年11月05日(火)06時25分45秒
- >>18
有賀党でつ。
ちょっと鬱!
- 130 名前:MU 投稿日:2002年11月05日(火)06時26分17秒
- ――8――
梨華はその場に倒れこみ、激しい炎に包まれていた。
こうなったら、火傷よりも酸欠で死んでしまうらしかった。
月明かりが雲で遮られても、梨華の体が松明となり、
耐え難い臭気とともに、不気味な照明となっている。
亜依は全ての悪夢が終わったと確信し、脱出の準備を始めた。
希美の首が刎ねられた窓から慎重に上を確認し、
何もないことを確認すると、そこから脱出しようとした。
「生きてる……あたしは生きてる……」
亜依にとって、窓の外は希望の空間であり、
そこへ行きさえすれば、安泰だと思っていた。
眩しいほどの月明かりは雲に遮られたものの、
梨華を燃料とする後方からの灯りは健在である。
亜依は窓へよじ登った。
- 131 名前:MU 投稿日:2002年11月05日(火)06時27分07秒
- 「熱い!」
亜依は左足首に激しい熱さと痛みを感じた。
なにごとかと思って振り向いてみると、
そこには全身から青い炎と煙を吐き出す梨華の姿があった。
「逃げるなんて……反則だよぉ……」
梨華は全身を炎に被われながらも、亜依の足を掴んだのである。
すでに梨華の声ではなかった。声帯にも熱が伝わっているのだろう。
亜依は恐ろしかった。とにかく恐ろしかった。
顔の脂肪が沸騰し、音をたてているというのに、
梨華は亜依の足を掴み、自分の意思を伝えたのである。
「嫌あー!」
亜依は生と死の狭間にいた。
このまま梨華に引き戻されたら、
生きては帰れないだろう。
亜依は渾身の力で梨華を蹴り、
引き離そうとしたのだった。
- 132 名前:MU 投稿日:2002年11月05日(火)06時27分37秒
- 「痛いなぁ」
梨華が尻餅をつき、亜依の足が自由になった。
しかし、焼けるような痛みは続いている。
亜依が振り返って自分の足を見ると、
そこには骨だけになった手がついていた。
「うわあああああー!」
亜依は転げ落ちるように窓から脱出した。
足首についた骨だけの手を振り落とすと、
彼女は這いながら廃病院から遠ざかる。
すると、ぼんやりと明るい窓の中から、
妙な笑い声が聞こえてくるではないか。
「あはははは……面白かったなぁ……」
亜依は腰を抜かしながら窓の中を凝視する。
すっかり炭化した梨華はヨロヨロと起き上がったが、
次の瞬間、頭が焼け落ちてしまった。
- 133 名前:MU 投稿日:2002年11月05日(火)06時28分18秒
- 「何? あれは……」
すっかりと下火になった炎は、数体の奇妙な姿を映し出した。
亜依はそれが亡者の霊であることを悟ったのである。
彼らは亜依を恨めしそうに見ていたが、炎が消えるのと同時に、
その姿を消して行ったのだった。
「あううう……見ちゃったよぉ……」
亜依は這いながら、廃病院の敷地から出て行った。
- 134 名前:MU 投稿日:2002年11月05日(火)06時29分02秒
- 数日後、中学校では何もなかったように文化祭が開催された。
亜依のオカ研では、当たらず触らずといった展示をしたに留まる。
その足首には、痛々しい包帯が巻かれていた。
三人の少女が死んだのにも関わらず、学校側は何の対処もしていない。
なぜなら、全てが帰宅後の話であったからだ。
「あいぼん、連れて来ちゃったね」
そう言ったのは、亜依と同じクラスのあさ美であった。
彼女は両親と姉を失い、長身の看護婦の世話になっているという。
無表情で気味の悪いところもあったが、霊感だけは強いようである。
亜依は何度もオカ研へ勧誘したが、あさ美は決して入ろうとはしなかった。
「マジ? 祓ってくれないかなー」
「うわっ! 団体さんだね。……他は祓うけど、三人は残しておくよ」
「何でだよー!」
「……帰ってきたんだからね」
あさ美は亜依の背中を撫でると息を吹きかけ、オカ研のブースを出て行った。
……終……
- 135 名前:MU 投稿日:2002年11月05日(火)06時33分53秒
- 前作を超えられない典型的なパターンでつね。
B級ホラーみたいになってしまいますた。
ここまできたら、何が何でも第三弾!
残りのメンバーで勝負しまつ。
でも、このスレ、もうじき終わりですた。
- 136 名前:18です。 投稿日:2002年11月05日(火)20時18分57秒
- いや〜、私的にはよかったです。
第三弾があるということなので楽しみに待ちたいと思います。
- 137 名前:MU 投稿日:2002年11月09日(土)19時00分43秒
- >>18
有賀党でつ。
何か関連性を持たさなくてはと思って、こんこんを出してみますた。
次回は後藤・吉澤・高橋あたりで書いてみようと思いまつ。
別スレたててもいいのでせうか?
- 138 名前:18です。 投稿日:2002年11月10日(日)18時01分01秒
- サイズ的にも残り少ないので別にスレを立ててもイイのではないでしょうか。
引き続き楽しみにしております。
- 139 名前:MU 投稿日:2002年11月23日(土)23時00分06秒
- 今、無間地獄に陥っています。
どうしても一作目を超えられないのれす。
仕事もうまく行かないし、死にたくなってしまいますた。
- 140 名前:18です。 投稿日:2002年11月24日(日)12時23分52秒
- 気長に待っていますので焦らずに頑張ってください。
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