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シングルブルー
- 1 名前:lou 投稿日:2002年09月30日(月)23時15分24秒
- スレタイは敬愛する作家さんの作品より採りました。
中身と関係してくるかは分かりません。
ひたすらなかよしの短編を書きたいと思います。
「なかよしなんて認められんのじゃゴルァ!」
という方以外は、ざっとでも目を通していただけるとありがたいです。
そして、こんな話より上等のなかよしをいっぱい見せてください(w
- 2 名前:オオナミコナミ・ソコナシヌマ 投稿日:2002年09月30日(月)23時16分03秒
- 彼女は決まって、シャワーを浴びる前に私に囁きかけてくる。
「待たせてゴメンな」
とろける様な甘い声、吸い込まれるような色っぽい言い方。
そんな陳腐な言葉で表すのが耐えがたい苦痛になるほど、私を苦しめる声で。
「もう、いいから早くいって下さいよ」
私はいつも翻弄されて、顔に熱を溜め込みながらそう返す。
彼女が満足する事は分かっているのに、強気な態度を見せる事が出来ない。
案の定、彼女はタオルをはためかせながら上機嫌でバスルームへと向かっていく。
その後ろ姿を見るたび、いや、彼女を喜ばせるたびに、私の中の何かが私に働きかける。
「なんでアイツを笑わせるんだ?」と。
- 3 名前:オオナミコナミ・ソコナシヌマ 投稿日:2002年09月30日(月)23時16分42秒
- シャワーの水音が響くのを確認してから、私はのそりと立ち上がって、台所の冷蔵庫を開けた。
ここは彼女の家だけれど、冷蔵庫から勝手に飲み物を出す、と言う行為に躊躇するような関係ではない。
遠慮なく物色してみたが、どうやら飲めそうなものは限られていそうだ。
仕方なくモスコの缶を取り出し、ついでにテーブルの上に置かれていた裂きイカを持ってリビングに戻った。
途切れ途切れにシャワーの音が聞こえてくる。
それ以外は静かな部屋だ。
テレビも付いていないし、外の騒音が聞こえることもない。
こんな落ち着いた雰囲気のまま、彼女がシャワーを浴び終え戻ってきてくれればどれだけ嬉しい事だろう。
きっといつもより、長い時間口付けを続ける事が出来るのに。
そう、そういえばいつもそうだ。
私が少しの間幸せな気分を味わおうとしたその瞬間。
その瞬間に、例外なく魔笛が部屋に鳴り響く。
- 4 名前:オオナミコナミ・ソコナシヌマ 投稿日:2002年09月30日(月)23時17分25秒
- 彼女のバッグの中から、少しくぐもり気味の電子音が鳴り出した。
それはいつも通り。
彼女の部屋にいるとき、彼女がシャワーを浴びている最中。
決まって鳴り響く、悪魔の笑い声。
今日も解放してくれなかった。
このミニモニ。を歌う悪魔、歌わせる矢口さんは。
悪魔は気持ちよさそうに歌い続けている。
矢口さんが歌わせ続けているから。
断続的にシャワーの水音が聞こえてくる。
彼女がシャワーを浴びているから。
二人は私にどうしろと言うのだろう。
彼女に携帯が鳴っている事を知らせろとでも言うのか。
それとも、勝手に保留ボタンに手を伸ばせばいいのか。
私を悩ませて、悩ませて、いつの間にか悪魔は歌う事を止める。
これも、いつも通りだ。
- 5 名前:オオナミコナミ・ソコナシヌマ 投稿日:2002年09月30日(月)23時17分49秒
- そして私もいつの間にか、いつも通り不機嫌になりながらモスコに口をつける。
唯でさえ簡単に酔えない酒で、しかも機嫌が悪いとなればなおさらだ。
腹立たしいほどすっきりした頭のまま、モスコの缶だけが軽くなる。
それがまた、腹立たしさを助長させる。
彼女は知っている。
今ココで、私が一人で彼女を思っているとき、矢口さんが悪魔に歌わせる事を。
ディスプレイに、「矢口」の文字が浮かんでいることを。
そして私が、それを快く思っていないことを。
- 6 名前:オオナミコナミ・ソコナシヌマ 投稿日:2002年09月30日(月)23時18分25秒
- それでも彼女はそ知らぬ顔で、髪に水滴を光らせながらバスルームから出てくる。
体全体からうっすらと湯気が立ち、青い瞳は私を捉えて離さない。
「おいで、吉澤」
その言葉と、薄いグレイのバスローブに誘われ、ベッドに入ってしまったが最後。
私は彼女を追い詰める事が出来ないまま、朝を迎えてしまう。
- 7 名前:オオナミコナミ・ソコナシヌマ 投稿日:2002年09月30日(月)23時18分53秒
- 悪魔の歌声は、私の心に立つさざ波。
私の心を小さく震わせる。
けれど、彼女の存在は大波。
声、仕草、全てが大きく私を包み込むから、さざ波なんて気にならない。
「吉澤、声、聞かせて」
「あっ…な、かざわさん…」
矢口さんは何で電話を?
気づいてるんでしょ?
言いたかった言葉は全て、快楽に溺れる。
それも静かに、抵抗することなく。
水面はいつも通りの穏やかさを保っている。
- 8 名前:オオナミコナミ・ソコナシヌマ 投稿日:2002年09月30日(月)23時19分14秒
- 矢口さんと中澤さんの関係は、影さえも見えない。
もしかしたらないのかも、そう思わせるほどに。
それでも、私は常に心にさざ波を立てられ続ける事だろう。
そしてすべて、彼女という大波に飲み込まれる事だろう。
それでいいかと聞かれても、自信を持っていいと答える事は出来ない。
それでも、そんな自分は嫌いじゃない。
だって、私はもう「中澤裕子」という底なし沼にはまってしまっているのだから。
- 9 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)23時19分39秒
- 二本目。
- 10 名前:考えてごらん 投稿日:2002年09月30日(月)23時20分11秒
- 「さぁさ、みんないらっしゃい。
今日も、おじさんが実際に見てきた恋の話しをしてあげるよ。
十五分だけのタイプスリップ、大人になるという感覚を、じっくりと味わってね」
- 11 名前:考えてごらん 投稿日:2002年09月30日(月)23時20分34秒
- 「今日はね、少し変わったお話だ。
なーに、変わったといっても、恋の話には変わりない。
ただ、好きになった相手の性別が、自分と同じだった二人の話だよ。
…え?気持ち悪い?
おいおい、話も聞かずにそんなことを言われちゃ困るなぁ。
おじさんもいろいろな恋人達を見てきたけど、この二人ほど純粋な二人はいないよ。
ただ真っ直ぐに、相手の事だけを思ってね。
気持ち悪いと思うのは、そのあとでいいんじゃないかな?」
「さて、それでは始めようか」
- 12 名前:考えてごらん 投稿日:2002年09月30日(月)23時20分58秒
- 「まずは二人の紹介だ。
一人目は、二十九歳の女性。
アイドルグループのリーダーだった人なんだけど、この時はもう一人で活動していた。
綺麗な人だろう?
まぁ、関西出身の人だから、少し口の悪いところはあるけどね。
それも、愛情の裏返しと取っていただいて結構。
そしてこの人は最近、あることで悩んでいるんだね。
そう、察しが着いたと思うけど、気になる人がいるんだ。
それも同性、しかも一回りも年下の子。
びっくりするだろう?一回りだから十七歳。
二十九歳のいい大人が、十七歳の子供の事が気になる…恋ってのは不思議なもんだね。
しかし、この時この女性はまだ、それが恋だとは認めていなかった。
本当に一回りも下の子が好きだ、なんてことはすぐにはちょっと信じられなかったんだ。
そこが、この女性を苦しめていた一つの原因なんだよね」
- 13 名前:考えてごらん 投稿日:2002年09月30日(月)23時21分20秒
- 「二人目は当然、十七歳の女性。
アイドルグループに所属している。
二人には、そのアイドルグループによるつながりがあったんだね。
まぁそうでもなきゃ、これだけ歳の離れた二人が恋に落ちるなんてそうそうあることじゃないから。
それとまた、こっちも綺麗だろう?
これだけでも、少し気持ち悪さは薄れるんじゃないかな。
そして、こっちの子の場合はさっきの女性よりストレートな感情を持っていた。
私はあの人の事が好きだ、と、確固たる意思を持っていたんだ。
若さのせいかな、相手が女性だから、と言うことによるためらいはほとんどなかった。
それでも、その相手の女性の前に来ると萎縮してしまって上手く話せなくなったりしてしまう。
これは逆に、若さゆえかもしれない。
難しいものだよね」
- 14 名前:考えてごらん 投稿日:2002年09月30日(月)23時22分14秒
- 「さて、二人のことはよくわかったね。
それじゃあ、いつも通り目を閉じて。
おじさんの言った風景を、よく思い浮かべるんだよ」
- 15 名前:考えてごらん 投稿日:2002年09月30日(月)23時22分50秒
- 「季節は冬、十二月。
少し雨が降っていて肌寒い日だ。
二人は約束していた通りに夕食をフレンチレストランで済ませ、二十九歳の女性の住むマンションへと向かっている。
しかしまぁ、この日の雨は予想外だったんだ。
十七歳の女の子の方が、ちょっと薄着で来てしまってね。
鼻をすすりながら歩いていた。
それがもう、女性の方は心配で心配で。
自分もあまり厚着をしているわけではないから、コートを貸してあげる事も出来ない。
そこで困ってしまった女性は、女の子にこう言ったんだ。
「こっちおいで」とね。
それで…ん?」
- 16 名前:考えてごらん 投稿日:2002年09月30日(月)23時23分20秒
- 「ああ、もう時間か。
それじゃあ、おじさんはこれで。
え?これだけではなにもわからないって?
わからないなら、考えて御覧なさいよ。
おじさんが言った風景を思い浮かべて、二人の様子を思い浮かべてね。
例えば、そのとき街はどれくらいの明るさだったんだろう、二人の横にはどんな人が歩いていたんだろう、とかね。
女の子は女性に言われるまま女性に近づいたのか、近づいたとしたらどういう状態で家まで帰ったのか。
いや、家まで帰っていないかもしれないな、もしかしたら別の場所で一夜を過ごしたかもしれない。
そうやって、色々考えるんだ。
そうすれば、人それぞれの愛の形をした二人が出来上がるだろう、それでいいんだよ。
ただ、実際の二人の愛は物凄く純粋だった事は付け加えておくけどね」
- 17 名前:考えてごらん 投稿日:2002年09月30日(月)23時23分46秒
- 「私の仕事は土台作りだからね。
ただ土台を作るだけ、その土台に登るも、割って中を確かめるも、或いはサッパリ無視するのも、すべては君ら次第だ。
この話、説明不足だと怒る人がいるかもしれない。
しかし、この話だけはこれだけのパーツから全体像を想像していただきたいね。
事実と一緒である必要はない、君の解釈がそのまま、答えになるんだ。
もし、面白い解釈をした人がいたら、是非私に教えて欲しいね、待っているよ。
さて、それでは長話をした。
また会うときがあったら、楽しい話を聞かせてあげるね」
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月30日(月)23時24分01秒
- 三本目。
- 19 名前:一致する歪み 投稿日:2002年09月30日(月)23時24分34秒
- よっすぃーの声は水色。
四万十川を思わせるすんだ透明。
裕ちゃんの声は赤。
目に悪いほど鮮やかな純色。
けれど、二人とも心の中は真っ黒。
一筋の明かりさえも見出せない漆黒。
今日も、私はベッドの上で踊る。
上も下も何も纏わず、パートナーのなすがまま、狂ったように声を上げる。
- 20 名前:一致する歪み 投稿日:2002年09月30日(月)23時25分24秒
- 今日のパートナーはよっすぃーだ。
柔らかい腕で、柔らかく、それでも決して逃げられないように私の身体を締め付ける。
「安倍さん、どう?」
どうって、何を言ってるのか。
気持ちいいに決まってる。
けれど、そんな思いは言葉にはならない。
代わりに口をつくのは、言葉とはいえない悲鳴じみたもの。
思考がムチャクチャに振り回され、言葉と言うものの存在が消えうせてしまったかのような錯覚。
全身がベッドのスプリングでバウンドして、頬の横を一筋の汗が流れ落ち、それからようやく訪れる絶頂。
自分の意思とは無関係に身体がぐらつく。
「よかったですか?」
揺れる意識の中、よっすぃーはいつも、最後にその言葉を口にする。
- 21 名前:一致する歪み 投稿日:2002年09月30日(月)23時25分48秒
- 今日のパートナーは裕ちゃんだ。
細く華奢な腕で、私を逃がさないようしっかりと抱きしめる。
「なっち、イイやろ?」
恥ずかしがる事もなく、ストレートに聞いてくる。
それはもはや決めつけ。
けれど、私がそれに答える事はない。
返事をするどころか、首を縦に振ることさえままならないほどの激しいセックス。
自分が自分であるという感覚が飛び、あるのは快楽のみ。
半開きの目でわずかに窺える裕ちゃんの卑しい顔は、私の中の火種を大火事にする。
燃えて、燃えて、それでもどんどん薪を足すように、裕ちゃんは責め続ける。
「なっち…」
私の中の最後の火を消すように、裕ちゃんはそっと私の髪に指を差し込む。
- 22 名前:一致する歪み 投稿日:2002年09月30日(月)23時26分14秒
- 二人は、私の中ではまったく同じ存在だった。
一週間に一度、曜日も時間も決めず、突然腰に腕を回してくる。
いつまで経っても慣れない驚きで私が身を固くすると、私の前髪を揺らす程度の微かなため息を漏らしながら言う。
「時間、ある?」
ない。
そう言おうとする唇は、まだ前髪の揺れも止まらぬうちに塞がれる。
自然に流れ込んでくる温かな唾液は拒否を許さない。
まるで断食中のように、ほんの少しの唾液で、私の身体は暴走し始める。
今の唾液は何?この上手なキスはどういうこと?
気が付くと、私の首は数回の上下運動を繰り返している。
そして不思議な事に、私の答えに満足そうな顔をする二人を見ると、私自身も笑顔になっていた。
- 23 名前:一致する歪み 投稿日:2002年09月30日(月)23時26分40秒
- よっすぃーに抱かれるたびに思う。
この人は、私のことなんか好きじゃない。
きっと私のことなんか、どうとも思っちゃいない。
裕ちゃんに抱かれるたびに思う。
この人は、私のことなんか好きじゃない。
きっと私のことなんか、どうとも思っちゃいない。
- 24 名前:一致する歪み 投稿日:2002年09月30日(月)23時27分16秒
- 二人の私を誘う行動が完璧に同じ理由、そんなものは知らない。
裏で二人は付き合っているのかもしれないし、ただ考える事が似てるだけなのかもしれない。
それでも二人は、これっぽっちの特別な感情も抱いていない人間とセックスが出来るんだから。
一度や二度くらい、身体を重ねた事があるかもしれない。
その時、二人は何か感じたんだろうか?
願わくば、私とのセックスより刺激的だったと思っていて欲しい。
そしてゆくゆくは、私と回数を減らし、二人だけの愛に浸って欲しい。
私を解放して、私の身体は本当に私のことを愛してくれる人だけのものにさせて欲しい。
けれどそれは叶わない。
もし本当に二人が私から離れてしまう時が来たら、私が離さないだろうから。
愛情なんてかけらも感じられない、ただの行為に成り下がったセックスを、涙を流して求めるだろうから。
そんな私は惨めに違いない。
それでももう、認めるしかない。
愛のないセックスに、いや、愛のないセックスだからこそ、自分がのめりこんでしまったと言うことに。
機械的に抱かれ、機械的に果てる。
流れ作業のセックスが、朝の歯磨きと同じように生活の一部として溶け込みつつあることを。
- 25 名前:一致する歪み 投稿日:2002年09月30日(月)23時28分34秒
- 今日もまた突然に、腰に手が回された。
首筋に感じる吐息、髪にかかる重圧。
「時間、ある?」
決まりきった問い。
その声は、よっすぃーにも裕ちゃんにも聞こえた。
「あるよ」
私ははじめてそう答える。
「嬉しい」
どちらとも取れる声は、臆することなく、本当に嬉しそうに言った。
その時何か、私の中に言いようのない不安のようなものが広がる感覚を覚えた。
けれど、その思考を中断させる唇が降りてきたとき、私の回路はぴたりと停止した。
間違えたかもしれない。
答えてはいけなかったかもしれない。
けれどもう遅い。
いつもより気持ち多めの唾液が流れ込んできて、私の身体は硬直した。
そして、謎の声は静かに言い放った。
「三人で出来るね」
- 26 名前:lou 投稿日:2002年09月30日(月)23時33分02秒
- とりあえず、シュバッと読めるくらいの長さを三本おいておきます。
しかし、多分今後もあまり長くはならないかと。
ほのぼのは少ないかもしれません、というか訳分からない話が多いと思われます。
いろいろやろうかと思っていますので。
それでは、初めに言うべき事でしたが、よろしくお願いします。
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)00時06分38秒
- めっちゃ面白いです!!なかよし好きなんで
頑張ってください。
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)02時59分25秒
- 四本目。
- 29 名前:居酒屋トーク「ライスシャワー」 投稿日:2002年10月02日(水)03時00分41秒
- 「あ、アタシモツ煮込みと熱燗ね、みっちゃんは?」
「あたしも熱燗でエエですよ、それと牛のたたき」
夜の幕が降りきって、派手好きな本性を見せ始めた東京。
パカパカとうるさい明かりが我が物顔で街を占領し、昼間以上の喧騒に包み込まれる。
しかしそんな中で、ぽつんと一つたたずむ居酒屋。
赤提灯のぼんやりとした明かりと、店から僅かにこぼれる電灯の光のみで彩られた地味な店で、二人の女性が酒を酌み交わしていた。
「しかしここ、姉さんの行き付けかなんか?」
「そうよ、いいやろ落ち着いてて」
はっきり言って、居酒屋が似合う感じはしない。
洒落たバーやクラブのようなしっとりした雰囲気が似合いそうな二人だ。
くたびれたサラリーマンに囲まれて酒を飲むには少々華がありすぎるようにも見えるが、二人は一切気にかけていない。
「で、何ですの相談って?
あたしに相談して解決するような悩みなら、とっくに自分で解決できると思うんですけど」
「うん、まぁね。
相談って言うか、ちょっと愚痴らせてもらおうかと思ってな」
- 30 名前:居酒屋トーク「ライスシャワー」 投稿日:2002年10月02日(水)03時01分21秒
- 愚痴ですか、と茶髪の女性が笑いながら漏らした。
まぁそう言わんと頼むわ、と金髪の女性が運ばれてきた熱燗を茶髪の女性の猪口に注ぐ。
注がれた熱燗に息を吹きかけながら、茶髪の女性がポツリと呟いた。
「よっすぃーの事ですか?」
金髪の女性の方がピクリと揺れた。
が、すぐに平静を取り戻したのか、同じように熱燗に息を吹きかけながら言う。
その顔には、自嘲気味の笑みも浮かんでいる。
「吉澤の事って言うか、まぁアタシのことやな。
無関係ではないけど」
くっと猪口を傾げ、金髪の女性は一息に熱燗を飲み干し大きく息を吐いた。
数人の若者が、ちらちらと遠くから二人の様子を伺っている。
「なんかなぁ、アタシもう駄目かも知れんわ」
「…何言ってますの?」
- 31 名前:居酒屋トーク「ライスシャワー」 投稿日:2002年10月02日(水)03時02分00秒
- 茶髪の女性の問いには答えず、金髪の女性はモツ煮込みに箸を伸ばした。
茶髪の女性もあきらめたのか、たたきに箸を伸ばす。
そのまま十五分ほど、言葉を発さぬまま料理と酒の間を手が行ったり来たりした。
そんな二人の重苦しい雰囲気を感じ取ったのか、いつの間にか彼女らに興味本位の視線を向ける者はいなくなっていた。
「ちょっと前にな、友達の結婚式行ってきたんよ」
金髪の女性が語りだしたのは、モツ煮込みがなくなってしばらくしてからのことだった。
「そいつがな、グァムで挙式したんよ。
で、その時コメ投げるやろ、コメ」
「コメぇ?」
茶髪の女性は目を丸くして金髪の女性の顔を覗きこんだ。
金髪の女性はそう、と頷く。
何を言っているのか分からない、と言った感じで難しい顔をしていた茶髪の女性だったが、やがて大きくかぶりを振って頷いた。
「ああ、はいはい、ライスシャワーね」
「なんや、ようわからんけど」
- 32 名前:居酒屋トーク「ライスシャワー」 投稿日:2002年10月02日(水)03時02分43秒
- ようわからんて、と笑いながら酒を注ぐ茶髪の女性。
しかし金髪の女性は、笑顔一つ見せず酒をあおる。
飲み干した後、猪口に視線を落としながら言った。
「いいなぁ、あれ」
「はぁ?」
予想していなかったのか、茶髪の女性が危うく猪口を取り落としそうになった。
金髪の女性はそんなもの視界に入っていないかのように遠くを見つめている。
茶髪の女性は体勢を立て直すと、問い詰めるように言った。
「結婚、したいんですか?」
「相手がおらん」
「いや、もしおったら…」
「もしもなんもあらへんやろ」
- 33 名前:居酒屋トーク「ライスシャワー」 投稿日:2002年10月02日(水)03時03分18秒
- 空になった徳利を揺らしながら金髪の女性が笑みを浮かべた。
茶髪の女性が黙り込む。
「アタシには吉澤がおるんやからなぁ、結婚はできひんけど」
金髪の女性が伝票を手に茶髪の女性を一瞥し、無邪気に笑った。
茶髪の女性は対照的な、苦笑いを浮かべた。
- 34 名前:居酒屋トーク「ライスシャワー」 投稿日:2002年10月02日(水)03時03分56秒
- 勘定を済ませ店を出ると、外の町は相変わらず活気に満ち溢れている。
その場所だけ切り取って時間を止めたかのようにこの街にそぐわない居酒屋は、そろそろ暖簾を下ろす時間が近づいてきている。
二人の女性は最寄の駅に向かって歩き始めた。
と、突然金髪の女性が茶髪の女性に声をかけた。
「なあみっちゃん」
「何ですの?」
「アンタが結婚したら、しこたまコメ投げたるわ」
「何でですか?」
「よくも結婚しやがっていうことで」
言い終わると、金髪の女性は鼻で笑った。
茶髪の女性も、声を立てずに笑っている。
「ほんなら、明日辺りに姉さんチ押しかけていいですか?」
「なんで?」
「ふたりにしこたまコメ投げつけるために」
華を携えた二人の女性は、小さく声を出しながら顔を見合わせて笑った。
- 35 名前:lou 投稿日:2002年10月02日(水)03時06分06秒
- >>27
レス有り難うございます。
なかよし好きだなんて公言してくれる方は珍しいんじゃないでしょうか?
ご期待に添えるよう、頑張ります。
- 36 名前:寄り添い眠れる幸せ(前編・side H) 投稿日:2002年10月03日(木)00時17分29秒
- 目が覚めたとき、隣に人がいなかったら。
そんなことはもう考えられない。
計り知れない寂しさ、苦しさに押しつぶされ、発狂してしまうかもしれない。
けれど、今私の隣にはちゃんと人がいる。
時には寝顔で、時にはしっかりと目を見開いて。
そしてきっと、いや絶対、次に目を覚ましたときにも、隣には見慣れた顔がある。
- 37 名前:寄り添い眠れる幸せ(前編・side 投稿日:2002年10月03日(木)00時19分06秒
- 台所から漂ってくる香ばしい匂いに、私は有無を言わせず目を覚めさせられた。
まだまだ光を飲み込めないしょぼついた目で頭上の目覚まし時計を手にとって見ると、時計は八時を示している。
正直もう少し寝ていたいと思いつつも、台所から発生している匂いの元を考えると、もう一度頭から布団をかぶろうという気は起こらなかった。
仕方なく布団を剥いで、着替えながら、壁一枚隔てた向こうで悪戦苦闘をしているであろう人に声をかけた。
「裕子さーん、またですかぁ?」
「うっさいわ!早よ手伝いにこんかい!」
間髪いれずに怒気を含んだ返答が返ってくる。
それはあまりに想像通りだったが、特に笑えたりしない辺り、自分はまだ眠いなと思った。
- 38 名前:寄り添い眠れる幸せ(前編・side 投稿日:2002年10月03日(木)00時19分57秒
- 手近にあったティーシャツを引っ掛け台所に顔を覗かせてみると、予想通り裕子さんがフライパンを手に右往左往していた。
そのフライパンからは、少しばかり色の付いた煙が上がっているようにも見える。
いつまで経っても料理が出来ない裕子さんはかわいい。
もちろん、そんなことを口にしたことはないけれど。
「いつになったらスクランブルエッグが黒ずみにならないで済むようになるんですか」
そして自然と、裕子さんにかける言葉は決まってくる。
今日も軽く憎まれ口を叩くと、
「知らんわ!」
キッと睨み返してきた。
見慣れぬ人なら萎縮してしまいそうな鋭い目つきだけれど、半年も同じベッドで眠る関係の私にとってはそれさえも魅力的に映る。
普通は笑った顔こそが最も美しいのだろうと思うが、裕子さんに限っては、怒った顔以上に美しい顔は存在しない。
もう少し慌てふためく裕子さんを見ていたかったが、裕子さんから発せられる洒落にならないオーラを感じてしぶしぶと近寄った。
- 39 名前:寄り添い眠れる幸せ(前編・sideH) 投稿日:2002年10月03日(木)00時20分49秒
- 「何でもっと早よ手をかさへんの?」
見事に黒くなったモノ(notスクランブルエッグ)を箸でつまみながら、裕子さんが恨めしそうに私を見る。
しかしその目には力がなくて、怒っていると言うよりは自分に呆れているように見える。
その顔が見たくて黙って見てたんです、なんていうときっと殴られるのだろうなぁ。
「だって、手貸したら裕子さんの練習にならないでしょ」
「ええやん、美味い朝ご飯が食いたいやろ」
「裕子さんがおいしい朝ご飯を食べさせてくれればいいんですよ」
「…うっさいなぁ」
こんな言い合いで私が負ける要素など万に一つもありえない。
裕子さんだってそれが分かってて突っかかってくるのだ。
けれど、存外粘りがなかった。
すぐに頬を膨らませて、どう呼ぶのが適切なのか分かりがたい真っ黒のモノを口に運ぶ。
- 40 名前:寄り添い眠れる幸せ(前編・sideH) 投稿日:2002年10月03日(木)00時21分19秒
- 「まずっ」
まずいに決まってる。
そう思いながらぼんやりと裕子さんを眺めていると、
「早よ何か作ってよ」
いかにも悔しそうに、こちらに視線を合わせないまま吐き捨てるように言った。
- 41 名前:寄り添い眠れる幸せ(後編・sideY) 投稿日:2002年10月03日(木)00時22分09秒
- 上機嫌に鼻歌なんか歌いながら、吉澤が朝ご飯の支度をしている。
何をやっているのかよくわからないが、少なくとも自分の時にはなかった食欲をそそられる匂いが立ち込めてきて気が滅入る。
てきぱきと台所を右へ左へ走り回る吉澤を見てまた、気が滅入る。
あまり歳のことは考えないようにしているが、吉澤は自分より12歳も下だ。
そんな子が何の戸惑いもなく出来る事が自分に出来ない、と言うのは、恥ずかしさを通り越して情けなくなる。
「はい」
そうして差し出されるものも、自分の黒ずみとは比べるのもおこがましいようなスクランブルエッグ。
黄色と白が綺麗にとり合わさって、見るからに美味しそうだ。
なんだか何も喋る気が起きなくなり、差し出されたものを反復運動のようにただ食べ続けた。
- 42 名前:寄り添い眠れる幸せ(後編・sideY) 投稿日:2002年10月03日(木)00時23分07秒
- 簡単にご飯を済ませて、とりあえず食器は流しにぶち込んで、新聞でも読もうかとリビングに戻った。
程なくして吉澤も食べ終わり、私の隣のソファに座る。
そして座るなり、大きく欠伸をした。
ふぁ、と音を漏らす吉澤が可愛くて、つい突っ込んでしまう。
「なんや、眠いの?」
「誰かさんが香ばしい匂いを漂わせてくれましたからね」
「…ああそうですか」
怒んないで下さいよ、と目をこすりながら吉澤が言う。
最近とみに、吉澤の細かい仕草が可愛くなってきている気がする。
一緒に住み始めて半年かぁ、早いなぁ。
- 43 名前:寄り添い眠れる幸せ(後編・sideY) 投稿日:2002年10月03日(木)00時23分48秒
- 「そんなら寝てきたら?」
「動くのが億劫です」
「お前は…一発どついたろか」
えへへ、と吉澤が笑いながら、テレビ欄を確認しだした。
私もばららっと経済面に目を通す。
たいしたニュースはない。
「あー裕子さん、ちょっとマジで眠いんで寝ますね」
テレビ欄の確認が済んだのか、吉澤がいつもよりさらにトーンの低い声で言った。
相当に眠たいらしく、少し罪悪感を感じる。
「はいよ、もう起こさんから安心しいや」
「はーい」
しかしそういうが早いか、吉澤はアタシの肩で穏やかな寝息を立て始めた。
- 44 名前:寄り添い眠れる幸せ(後編・sideY) 投稿日:2002年10月03日(木)00時24分24秒
- しまった、やられた。
声にならない声で舌打ちをした。
これでもう、吉澤が起きるまでのアタシの行動はがんじがらめに制限されてしまった。
しかしもう、眠ってしまったものはしょうがない。
今から起こしたら何を言われるか、想像すらつかない。
黒ずみだ香ばしい匂いだといわれるのは精神衛生上よろしくない。
「しゃあないなぁ…」
吉澤を起こさないよう気を使いながら新聞を折りたたみ、カーペットに投げ捨てた。
このまま動けないとなれば、もうやる事は一つしかない。
「おやすみー…」
誰に言うでもなく呟いて、静かに目を閉じた。
- 45 名前:寄り添い眠れる幸せ(後編・sideY) 投稿日:2002年10月03日(木)00時24分55秒
- 目が覚めたとき、隣に人がいなかったら。
そんなことはもう考えられない。
計り知れない寂しさ、苦しさに押しつぶされ、発狂してしまうかもしれない。
けれど、今私の隣にはちゃんと人がいる。
時には寝顔で、時にはしっかりと目を見開いて。
そしてきっと、いや絶対、次に目を覚ましたときにも、隣には見慣れた顔がある。
- 46 名前:lou 投稿日:2002年10月03日(木)00時27分25秒
- 五本目。と入れ忘れてた。
文章説明不足でしょうかね?
一応ワザとなんですが、これが作者の技量の限界である可能性が高いのでなんとも言えませんが。
- 47 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月03日(木)10時58分17秒
- なかよし大好きです。
頑張って下さい。・・・放置はなしで(w
- 48 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月03日(木)15時11分59秒
- 六本目。
- 49 名前:荒野の二人 投稿日:2002年10月03日(木)15時12分40秒
- 決闘に真っ当な理由など必要ない。
- 50 名前:荒野の二人 投稿日:2002年10月03日(木)15時13分12秒
- 風がひぅぅと音を立てて通り過ぎていく。
足元の砂からせり上がってくる熱が、私の足を軽く炙るような感覚。
ぐっとかみ締めている唇の血の味が私の口にじわっと染み込んでくる。
「なんや、ヒニクなもんやね」
脳神経まで痺れるかと思うほど強烈な砂の匂い。
「そうですね」
そして視界には、ガンを構えたナカザワさん。
私の五感はすべて、ただただ前を見つめていた。
- 51 名前:荒野の二人 投稿日:2002年10月03日(木)15時13分56秒
- 「まさかヨシザワとサシで向かい合う事になるとは思わんかったわ」
「こっちだって、ナカザワさんにガンを向ける日が来るなんて想像してませんでしたよ」
テンガロンハットに煤けた茶色のマント。
似たような出で立ちで、私とナカザワさんは相対している。
そしてお互いの手に、手のひらより少し大きいガン。
「なんでこんなことになってしもうたんやろ」
「そんなこと、こっちが聞きたいですよ」
ナカザワさんの構えには隙がない。
不用意にこの突っ張っている右腕を動かそうものなら、頭が粉微塵に吹き飛ぶ画がすぐに浮かぶほどだ。
「寂しいなぁ」
「ほんとですよ」
そういって、お互い薄く笑った。
- 52 名前:荒野の二人 投稿日:2002年10月03日(木)15時14分48秒
- 「こんなところでヨシザワを失うなんて惜しすぎるわ」
「じゃあ、失わないように配慮してくださいよ」
「いやぁ、そうしたいのはやまやまやけど、それより何より自分の命やから」
ナカザワさんの言葉は少しばかりショックだった。
もう、欠片も疑っていない。
私が今向けている銃口から火が噴出すことを。
「アタシなぁ、ヨシザワには正直言って嫌われてないと思ってたんやけどなぁ」
「嫌ってないですよ、ほんのこれっぽっちも」
「ホンマ?ありがとう」
「いえいえ」
死の淵にいる二人とは思えないとぼけた会話は、足元を流れる砂の音にだんだんとかき消される。
- 53 名前:荒野の二人 投稿日:2002年10月03日(木)15時15分44秒
- 本当になんでこんなことになってしまったのだろう。
私をここまで成長させてくれたナカザワさん。
冗談を言い合い笑いながら、それでもぐんぐんと腕は上がっていった。
今の私ならもう、ナカザワさんと対等の速さで動けるはずだ。
けれど、たとえ何がどうなっても、私はナカザワさんを撃てない。
理不尽な砂漠の掟に飲み込まれ、師に魔弾を撃ち込む。
そんなこと、できるわけがない。
- 54 名前:荒野の二人 投稿日:2002年10月03日(木)15時16分31秒
- 「腕、疲れたんとちゃう?」
ナカザワさんが優しく言った。
会ったばかりの頃、ガンの握り方から指導されたあの時に似た声で。
「少々」
「少々か、若いなぁ。
アタシはもうプルプルやで」
私の体にぎゅっと力がこもった。
時間が迫っている。
「アタシもうオバチャンやねんから、あんま疲れさせんといてぇな」
その言葉が合図。
- 55 名前:荒野の二人 投稿日:2002年10月03日(木)15時17分06秒
- 私はしっかりと目を瞑り、空砲の引き金を引いた。
- 56 名前:lou 投稿日:2002年10月03日(木)15時22分22秒
- >>47
レスどうもです、がんがります。
もう六本も書いたのでやめようかとも思ってますが(w
嘘です、今書いててすごく楽しいので当分はやめません。
それと、このスレのサブタイは「説明不足な話をただたんたんと並べるスレ」ですのでご注意を。
- 57 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月04日(金)00時36分31秒
- 七本目。
- 58 名前:改心 投稿日:2002年10月04日(金)00時37分11秒
- 中澤さんは悩んでいました。
「あかんなぁ、アタシ。
なんか最近吉澤を見るとムラムラしてしょうがなくなるわ。
吉澤はもっとこう、純粋な気持ちで接してきてくれてんのに。
このままじゃあかんぞ」
恋人の吉澤さんの事を思い、改心する決心をしました。
- 59 名前:改心 投稿日:2002年10月04日(金)00時37分33秒
- しかし手術は失敗し、中澤さんは帰らぬ人となりました。
- 60 名前:lou 投稿日:2002年10月04日(金)00時38分13秒
- ちょっくらオチ隠し。
- 61 名前:lou 投稿日:2002年10月04日(金)00時38分40秒
- しかしこんなことしたらショートショートだってばればれ。
- 62 名前:lou 投稿日:2002年10月04日(金)00時39分10秒
- でもしょうがない。
- 63 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月07日(月)15時18分13秒
- 八本目。
- 64 名前:無題 投稿日:2002年10月07日(月)15時19分02秒
- 皆、ただ真っ直ぐだった。
皆、ただただ真剣に愛していた。
だから、狂った。
- 65 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時19分44秒
- 悲惨な光景でした。
真希ちゃんの泣き叫ぶ声が、とても苦痛でした。
私は真希ちゃんの赤いシャワーを浴びて、少しの温度を持ちました。
腕時計であることを、心底嫌に思ったのは、この時が最初で最後でした。
- 66 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時20分22秒
- ∇
私と真希ちゃんは、3年付き合いました。
出会った時は、ものすごく寒い冬の日でした。
ちらちらと舞う雪の中、茶色のコートを着込んだ真希ちゃんが、じっと私を見つめてきたのです。
「…高いなぁ」
私は、自分で言うのもなんですが、結構いい素材で作られているのです。
見た目にもキンキラしてて、よく周りの連中に妬まれました。
そして、そんな身なりのせいか、私を手にとるのは好きになれそうもない中年ばかり。
真希ちゃんのような若い子が覗き込んでくれるなんて、滅多になかったことなのです。
私はこの時とばかり、心の中で必死に祈りました。
どうか、どうか私を手にとって。
あなたのために、身を粉にして動きつづけますから。
- 67 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時21分19秒
- 周りの連中は笑いました。
あんなガキがテメェみたいなくそ成金を手に取るわけないだろう、そう言いました。
断じて私は成金ではないのですが、悪口を操作することはできません。
極力耳を傾けないようにして、ただ一心に願いました。
「うーん…やっぱり買おう」
そういうと、真希ちゃんは店員さんを呼ぶためにいったんウインドウを離れました。
そしてすぐ、店員さんとともに現れ、あの時計ください、と私を指差してくれました。
このときの感激振りといったら、言葉にはできません。
周りの連中の苦々しげな顔、真希ちゃんのホンの少し不安そうな、でもとても嬉しそうな顔。
今でも、すぐに鮮明に思い出すことができます。
- 68 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時21分49秒
- ∇
今日という日は、一体どういう日なのでしょう。
真希ちゃんは苦しそうに、一呼吸一呼吸をゆっくりと繰り返します。
そして、私から見える左頬には、うっすらと涙の筋が見えます。
さらに、私の巻きついた左腕で抑えている腹部からは、ゆっくりと血が滲んでいます。
「オイラのだ…よっすぃーはオイラのものなんだ…」
目の前では、ナイフをぎらつかせた女性が虚ろな声でそう呟いています。
今日という日は、どういう日なのでしょう。
真希ちゃんは、なぜお腹から血を流しているのですか?
- 69 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時22分34秒
- ∇
真希ちゃんは、私のことをとても大事に扱ってくれました。
私を買ってくれたその日は、両親に自慢して逆に怒られていましたが、幾日かすると、皆さん私のことを認めてくださったようでした。
ですが、あまりにはしゃぎすぎて私をはめたまま学校に行ってしまったり、真希ちゃんは少し抜けたところがありました。
けれど、そんな真希ちゃんのことが私はとても大好きでした。
友達に自慢して誉められるたび、羨ましがられるたび、真希ちゃんは相好を崩しました。
私も真希ちゃんが誉められるたび、まるで自分のように誇らしげに思ったものです。
「ごとーは一生この時計使いつづけるもんねー」
口癖のようによく聞いたこの言葉は、今まで聞いたどんな言葉よりも嬉しいものでした。
- 70 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時23分19秒
- ∇
女性の言葉に、真希ちゃんの頬がぴくりとゆれました。
その意味は、残念ながら私にはわかりませんでしたが、真希ちゃんが苦しそうに表情を歪めながらも何かを言おうとしていることに気づき慌てました。
真希ちゃんは怪我をしています。
早く病院へ行かなければなりません。
こんなところでおしゃべりしている暇はないのです。
わたしは真希ちゃんと出会った当時のように、必死に心の中で祈りました。
「勘違いしてるよ…」
けれど、どうやら願いというものは一つしか叶わない物のようです。
真希ちゃんは明らかに苦しそうに言葉を紡ぎました。
「ごとーは、よしことは何もない…」
「ウルサイ!そんなこと信じられるわけないだろ」
女性はまったく真希ちゃんの話を聞かず、手にしたナイフをぶんぶんと振り回しました。
- 71 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時24分05秒
- ∇
真希ちゃんは、多分あまり友達の多い子ではないと思います。
私が顔をしっかりと覚えているのは十人ほどですが、きっとその程度でしょう。
その中に一人、特別に仲のよい人がいました。
その人のことを真希ちゃんは「よしこ」と呼んでいました。
「ごっちん、またその時計つけてるの?」
「当たり前じゃん、ごとーの今一番の宝物だもんね」
私はショーウインドウに並べられていたせいで世間というものをよく知りませんが、真希ちゃんと「よしこ」さんはとてもいい関係なんだなとは思っていました。
いい意味で、言いたいことを言い合える仲とでも言うのでしょうか。
「よしこ」さんといる時の真希ちゃんはとても楽しそうでした。
- 72 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時24分45秒
- ∇
「ダメだよ」
目の前の女性が、今までとは打って変わって声を低くして言いました。
「いくらごっつぁんでも、よっすぃーに手出しちゃダメだよ。
だって、よっすぃーはオイラのものなんだもん」
真希ちゃんは返事をしません。
と、その瞬間、嫌な予感がしました。
まさか真希ちゃん、もう返事ができないんじゃ。
けれど、真希ちゃんはゆっくりと首を横に振りました。
相変わらず息遣いは荒くて苦しそうで、私まで辛くなってきました。
- 73 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時25分31秒
- ∇
「よしこ」さんほどではないのかもしれませんが、真希ちゃんにはもう一人、よく遊んでいる人がいました。
真希ちゃんはその人のことを「やぐっつぁん」と呼んでいました。
「やぐっつぁぁぁん、今日も宿題教えてよぉ」
「たまには自分でやれよオイ…」
真希ちゃんと「やぐっつぁん」さんは、友達というよりは姉妹、と言った感じだと真希ちゃん自身が言っていたのを思い出しました。
私には姉妹がいませんのでその感覚はよくわかりませんが、真希ちゃん本人が言うのだから間違いはないでしょう。
「やぐっつぁん」さんといる時の真希ちゃんも、「よしこ」さんの時と同じようにとても楽しそうでした。
- 74 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時26分21秒
- ∇
実を言うと、私、あまり状況を理解できていなかったのです。
なぜ真希ちゃんが「やぐっつぁん」さんに刺されたのか。
なぜ二人が「よしこ」さんについて話をしているのか。
あまりに現実離れしていたせいかもしれません。
「ごっつぁんとは、ずっとトモダチでいられると思ったのに」
「やぐっつぁん」さんが寂しそうにそう言いました。
そしてゆっくりと、真希ちゃんに近づいてきます。
真希ちゃんはもう、顔を上げることもできないようでした。
「でも、よっすぃーに手出しちゃダメだよ」
そういうと、「やぐっつぁん」さんは真希ちゃんの首にナイフを突き立てました。
- 75 名前:後藤真希の腕時計 投稿日:2002年10月07日(月)15時27分28秒
- 真希ちゃんの悲鳴は、聞くに堪えるものではありませんでした。
思わず耳を塞ぎたくなるような、おぞましい声でした。
真希ちゃんが真希ちゃんでなくなってしまった、それは肌で感じることができました。
全身で、真希ちゃんの血を浴びたのですから。
とても悲しかったです。
私を大事にしてくれた真希ちゃんが、この世を去ってしまった。
けれど、私は時計です。
どれだけ悲しんでも、私にできることは短針と長針を動かすことのみです。
世界中の誰より真希ちゃんの死を悲しんでも、涙を流したり声をあげたりすることはできません。
せめて。
せめて、真希ちゃんと同じように私も動きを止めることができたら。
けれど、私の内臓電池は私を休ませてくれません。
なぜ、私は真希ちゃんの腕時計になってしまったのでしょう。
- 76 名前:lou 投稿日:2002年10月07日(月)15時28分20秒
- 続く
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月07日(月)19時57分43秒
- かなり良い。
- 78 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時29分53秒
- 嫌な感触だった。
アイツの首をきりきりと締め付ける。
アイツの細い血管が薄らと浮き出て、声にならない息が漏れる。
俺は何をやってるんだろう。
俺はマフラーなんだぞ。
- 79 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時30分43秒
- ∇
アイツ…石川梨華が正式に俺を生み出したのは、たかだか二週間前だった。
まぁ、アイツは不器用だったから、俺自体は一年以上前から存在してたんだけどな。
「上手くできるかなぁ…
できるといいなぁ…」
完成されていく意識の中で聞く言葉はいつも似たような言葉だった。
見ればちゃんと手芸の本を見ながら俺を作っているのに、何をそんな心配しているのかサッパリ分からなかった。
上手く作ろうとしての気持ちだったら嬉しいんだがな。
どうやらこれはただ単にアイツの性格の問題だったって事が完成してからわかったよ。
ネガティブってやつだ。
- 80 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時31分30秒
- 完成してからは、俺は毎日アイツの首にくるまった。
が、俺の体はアイツの好きなピンク色で、こっちとしては恥ずかしい事この上ないんだが、生んでもらった以上贅沢はいえない。
それに、はっきり言ってかなり上手く出来てるからな。
アイツの連れからもよく、
「おぉ、梨華ちゃんそのマフラーよく出来てるじゃん」
なんて言われる位だからな。
- 81 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時32分01秒
- ∇
知らない奴だ。
知らない奴が、俺を使ってアイツの首を絞めてる。
それに、この絞め方は遊びじゃない。
こいつ、本気で絞めてやがる。
- 82 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時32分32秒
- ∇
生まれて二週間、俺は一時たりとも忘れる事のない疑問を持って生きていた。
俺が生まれた理由だ。
よくわからんのだが、人間の女ってのは自分用にマフラーを手編みしたりしないらしい。
手編みってのは、大概が好きな男に送るためのキーワードらしいからな。
まぁアイツは少し変わってるから、自分用にマフラーを編んだといっても信用するだろうな。
編みそうな気はするし。
それに、アイツに好きな男が居るとは思えないからな。
アイツの通う学校は女子高だし。
- 83 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時33分01秒
- ∇
「アンタ…石川梨華だろ?」
アイツの首を絞めてる奴が低い声で言った。
やっぱり、聞き覚えがない声だ。
「初対面、ていうかアンタから顔見えないだろうけどさ」
女の声だった。
それによくよく聞いてみれば結構高い声してやがる。
「悪いけど、死んでもらうよ。
よっすぃーは、オイラのものなんだから…」
- 84 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時33分28秒
- ∇
実は、俺はアイツ以外に一人だけ、首にくるまった奴が居た。
そいつも女だ、当然だな、同じ学校の奴なんだから。
アイツは、そいつのことを「よっすぃー」とか呼んでた。
「よっすぃー似合うよ、カワイイ」
「でもさぁ、ウチにピンクってどうかなぁ」
そいつには、はっきり言って俺は似合わなかった。
明らかにアイツとはタイプの違う人間だからな。
どうやって仲良くなったのか、皆目見当が付かないよ。
- 85 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時34分07秒
- ∇
「や…ぐ…」
アイツはノド元をかきむしりながら、必死に俺を解こうとしてる。
だけど後ろの女、バカに力が有りやがってちっとも解けやしない。
「や…ぐ…」
掠める程度に見えるアイツの右目は、普段からは想像も出来ないくらい、落ちるんじゃないかと思うくらい剥き出しになっていた。
口も開いて、舌が突き出すように伸びきっている。
「や…」
そして、アイツの落ちそうな瞳から涙がこぼれた。
- 86 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時34分35秒
- ∇
アイツは泣き虫だった。
二週間で四回も泣きやがったんだぜ。
それも、親と喧嘩した、だとかな、とても高校生とは思えない理由で、とても高校生とは思えないくらいワンワン泣きするんだ。
だけど、そのうち一回だけ、ワンワン泣きしなかった事があったんだな。
「よっすぃー、今日、一緒に帰れないかな?」
「アーゴメン、今日は矢口さんと一緒に帰るんだ」
その時は、いつもと様子が違ってた。
家に帰って、すぐに俺を解いて、俺を目に当てながら泣いたんだ。
それもすすり泣きだよ。
- 87 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時35分06秒
- ∇
アイツが動かなくなった。
目はばっちり見開かれたまま、口もぱっくり開いたままで、アイツは前のめりに倒れた。
すぐにわかったよ。
直に伝わってくる体温が、だんだんと冷めていくんだからな。
「よっすぃーがうざがってたのは、多分アンタだろ?
邪魔すんなよな、よっすぃーはオイラのものなんだから」
後ろでバカ力女が何か言ってたけれど、どうでもよかった。
俺には関係ない。
「よっすぃーを困らせたんだから、当然の報いだよ」
その言葉に続いて足音が聞こえ、後は何も聞こえなくなった。
- 88 名前:石川梨華の手編みのマフラー 投稿日:2002年10月09日(水)02時35分46秒
- やりきれなかった。
何がって、俺がアイツを殺した事に他ならない。
殺したのはバカ力女だろ、とかそういう問題じゃない。
俺がアイツの首に巻きついてたから、あの女はアイツを絞め殺したんだ。
俺が巻きついてなかったら、少なくともアイツは絞め殺されなかったはずだ。
わからんことは山ほどある。
根本の、アイツが殺される理由すら分からん。
しかし、何がどうなろうとも、俺はアイツが作ったアイツのマフラーだ。
何故だ?
何故俺はアイツに作られちまったんだ?
何故アイツは俺を作っちまったんだ?
- 89 名前:lou 投稿日:2002年10月09日(水)02時37分59秒
- 続く
>>77
レス有り難うございます。
正直そのレスかなり嬉しいです。
ワンパタ芸人で申し訳ありません。
- 90 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月09日(水)12時02分55秒
- ひたすらなかよしじゃないの?
- 91 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時25分54秒
- 弁明する気も起きません。
矢口は、人間として最低です。
- 92 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時26分24秒
- ∇
僕が矢口のものになったのは、三ヶ月ほど前でした。
そんなにたいしたものではない僕は、中堅のスーパーの日用雑貨コーナーに鍋やらやかんやらと一緒においてありました。
そこに、髪を金色に染めた小さな女の子が、文字通りふらふらとやってきたのです。
「ほう、ちょう…」
一目見た瞬間に、この子は普通じゃないと思いました。
言葉遣いもよたっていましたが、何より、僕を見て包丁と呟くその目です。
焦点の定まっていない、見ているのか見ていないのかわからないその目はとても不気味でした。
そして、僕を手に取りニヤリと笑いました。
「これで、よっすぃーはオイラのものだ…」
僕はもう、この時には少し覚悟していました。
ああ、僕は仲間と同じようにりんごの皮をむく事はないだろう、とね。
- 93 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時26分57秒
- 僕を鞄にしまいこんで家に帰った矢口は、部屋に着くなり僕にかけられていたビニールを取り外しました。
電灯に翳されて、僕の体がキラキラと反射するたび、矢口は子供のように幼い笑顔を浮かべました。
その笑顔は、いや笑顔だけは、純粋なものでした。
けれど、そんな笑顔は砂上の楼閣のようなもの。
似た様な笑みを浮かべたまま、今度は学生鞄から、四枚の写真を取り出しました。
「よっすぃー…」
虚ろに呟きながら、矢口はあろうことか、そのうちの一枚の写真を舐めまわし始めたのです。
裏から見ていた僕には全ては分かりませんが、その写真からたらたらと唾液が滴るたび、世界の闇が深くなっていくのを実感しました。
- 94 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時27分32秒
- ∇
矢口はまず、「ごっつぁん」と言う女の人を刺しました。
もちろん、僕を使ってです。
教室に呼び出して、まず腹を一突き。
「オイラのだ…よっすぃーはオイラのものなんだ…」
狂った声でそう呟き、「ごっつぁん」さんを見下ろしました。
苦しそうに何かをいう「ごっつぁん」さんの言葉には耳を傾けず、何かを語りだしました。
そして最後に、
「でも、よっすぃーに手出しちゃダメだよ」
そういって、「ごっつぁん」さんの首に僕を突き立てました。
- 95 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時28分17秒
- ∇
「ごっつぁん」を刺しに行く前、矢口はまた異常な行動をしました。
「ごっつぁーん、なーんでよっすぃーを横取りしようとするのー」
今度ははっきりと見えました。
「ごっつぁん」であると思われる女性の写真を、僕を使ってメッタ刺しにしたのです。
ピースをした満面の笑顔がぐしゃぐしゃに引き裂かれ、見るに耐えない姿へと変貌していきます。
「よっすぃーはねーオイラのなのー、ごっつぁんのじゃねーんだよ」
般若というのでしょうか、いや、あれが矢口なのでしょう。
止めの一突きを叩き込んだ時、その顔は既に人間のそれではありませんでした。
- 96 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時29分19秒
- ∇
僕を使わずに人を殺した事もありました。
学校の帰り道、突然後ろから、首にかけていたマフラーを思い切り絞めたのです。
「アンタ…石川梨華だろ?」
矢口はそう言っていました。
この言葉も、すごく異常です。
初対面の人間をいきなり絞め殺そうとしているわけですから。
「よっすぃーを困らせたんだから、当然の報いだよ」
石川さんが倒れた後、矢口はそう吐き捨てました。
その時思いましたよ。
矢口にはどんな報いがあるのかとね。
- 97 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時29分59秒
- ∇
実を言うと、この時まで矢口は何一つ苦しまないまま己の欲望のためだけに動き続けてきました。
邪魔な二人を殺して、「よっすぃー」さんを手に入れる計画は、着々と成功に向かっていたんです。
けれど、この辺りから少しずつ狂ってきたのです。
殺すべきもう一人の人間、その人のせいでと言うかお陰でと言うか、事態は矢口の計算していなかった方向へと転々と転がり始めたのです。
「裕ちゃん…よっすぃーはオイラのなの、若い子は若い子がお似合いに決まってるでしょー…」
いつものように矢口が僕を突き立てた写真。
そこには、金髪に青い目をした女性が写っていました。
- 98 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時30分38秒
- ∇
真夜中に程近い、午後十一時を過ぎた頃だったと思います。
矢口は計画通り、「裕ちゃん」さんの家に来ていました。
「なんや矢口、どうしたん?」
「なんか、おかしな男の人に追いかけられて、気がついたらココにいて…」
矢口の芝居はなかなかのものでした。
息を切らして、きっと身体も震わせて、哀願するような目をしていたのでしょう。
「先生、助けてください。
少しの間でいいから家に入れてください」
鞄の中にしまわれていた僕には「裕ちゃん」先生の声は聞こえませんでした。
きっと矢口が勝手に家の中に押し入ったのでしょう。
と、その時、矢口が突然に、僕の入った鞄を取り落としました。
- 99 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時31分17秒
- ∇
僕はよくわからないまま、二人目の血を吸いました。
「裕ちゃん」先生は惨たらしい姿に生まれ変わって、今僕の目の前に転がっています。
けれど、今までとは明らかに矢口の様子が違いました。
「何考えてんだ…何考えてんだ…何考えてんだ…何考えてんだ…」
今までのように、比較的冷酷な犯行ではありませんでした。
明らかに取り乱して、今まで以上に目は虚ろで、その姿はまるで、出来損ないの道化人形のようでした。
「何考えてんだ…何考えてんだ…何考えてんだ…何考えてんだ…」
もう聞きたくありませんでした。
矢口は変わらず呟いたまま、僕を鞄にしまいこみ、「裕ちゃん」先生の部屋を出ました。
- 100 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時31分42秒
- ∇
今、僕は三人目の血を吸っています。
血の主は、僕の持ち主でもある矢口です。
血液の混じったせきをしながら、なおも深く深く僕を自分の身体に押し込んでいきます。
気のせいでしょうか、矢口の血は、少し黒く感じました。
それから一分ほどした後、矢口は大きな血の塊を吐き出して絶命しました。
足もとの草草に赤い色がしみこんでいきます。
僕は何故か、矢口の血がしみこんだ草に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
- 101 名前:矢口真里のナイフ 投稿日:2002年10月10日(木)10時32分17秒
- 僕には、突然矢口が自分を刺した理由は分かりません。
「よっすぃー」さんとの幸せな日々を築こうと悪魔的な笑みを浮かべていた奴が、何故いきなり自分の腹を刺したのか。
まさか、今までの自分の行動に耐えかねての自殺と言うことはないでしょう。
そんな殊勝な気持ちなど、矢口の中にあるはずがありませんから。
それでも、矢口は死んだという事実が残りました。
同時に、僕が三人の人間を殺したと言う事実も。
不公平です。
僕はただの果物ナイフなのに、矢口なんかに買われた事により、人殺しの道具へと変貌してしまいました。
りんごの皮をむく事もなく、梨をカットする事もないまま、人の皮膚を切り刻む凶器になってしまったのです。
どうしてなのでしょう。
どうして僕は矢口に買われて、矢口のものになってしまったのでしょう。
- 102 名前:lou 投稿日:2002年10月10日(木)10時33分46秒
- 続く
>>90
もちろんなかよしです、それが前提ですから。
なのである程度先が読めてしまうかと思われますが、よろしければお付き合い下さい。
- 103 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)12時57分01秒
- 言葉もありません。
- 104 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)12時57分45秒
- ∇
私が裕子さんのものになったのは、半年くらい前でしたか。
裕子さんに買われるまでは、私は派手派手しい自分が大嫌いでした。
俗に言うヒョウ柄をしている私は、どう考えても睡眠用品として似つかわしくありません。
事実、売れ残り組みとして、私のいた売り場では「オバサン」と言う陰口まで叩かれていたほどです。
「あ、これいいなぁ」
ところが、裕子さんはほとんど迷わず私を手に取り、私を買ってくれたのです。
黒いスーツのようなものを着ていた裕子さんが、私のようなケバイベッドカバーを買うことに対していくらかの疑問もありましたが、
そんなことは些細な問題です。
私は、裕子さんに自分の声が聞こえてしまうのではないかと思うほど必死に、買ってくれるよう願いました。
その願いが通じたのか、裕子さんは私を買ってくれました。
私を車に積んでいる最中、上機嫌に鼻歌を歌っている裕子さんを見ると、私も嬉しくなってしまいました。
- 105 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)12時58分36秒
- 私の前に取り付けられていたベッドカバーは、私より少し地味な、それでも十分派手な黄色のカバーでした。
裕子さんの落ち着いた外見からは少し想像出来ないような気はしました。
もぁ髪は金色なのですが。
「こういうのが面倒なんよなぁ」
私をベッドに取り付けながら裕子さんが漏らしていました。
恐縮です。
けれど、裕子さんが私を買ったことを後悔させるような事だけは絶対にしないと、その言葉を聞いて改めて誓いました。
- 106 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)12時59分48秒
- ∇
「先生、先生、好き」
「吉澤…」
裕子さんとひとみさんが、私の上で激しく身体を絡ませています。
いつ見ても、裕子さんの細く締まった体は美しいし、ひとみさんのほんの少しふっくらとした体は魅力的です。
けれどそれ以上に、二人の乱れた呼吸が色っぽいのです。
「や…ぁ…」
「カワイイ、吉澤」
裕子さんが小さく囁くと、ひとみさんの体が大きく揺れました。
- 107 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)13時00分20秒
- ∇
裕子さんは学校の先生をしていました。
金髪でも大丈夫なんですね。
それにどうやら、生徒さんには好評の先生のようでした。
「せんせぇー」
私も幾度となく、生徒さんと思われる若いこの声を聞きました。
裕子さんはそういう声が聞こえるたび、嬉しそうに顔をほころばせます。
よく来ていた生徒さんは三、四人ですかね。
中でもよく来ていたのが、ひとみさんでした。
- 108 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)13時00分56秒
- ∇
裕子さんがひとみさんの口を塞ぎます。
ひとみさんは目を潤ませながら裕子さんを受け入れます。
長い口付けを終え唇を離すと、ひとみさんが大きく息を吐き出しました。
「はぁ…」
「吉澤…」
裕子さんは動きを休める事がありません。
すぐに吉澤さんの上に覆いかぶさり、体中に唇を這わせていきます。
「やぁ…先生…」
「やなん?」
裕子さんの問いに、ひとみさんは小さく意地悪、と呟きました。
- 109 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)13時01分33秒
- ∇
そういえば、あまり裕子さんの事を好いていない生徒さんもいたみたいですね。
普通の事なんでしょうけどね。
「先生、そんな事していいと思ってるんですか」
「そんな事って何よ」
「よっすぃーとキスしたんでしょ?」
「そんなんスキンシップやん。
ごっちんにだって、矢口にだってしたやんか」
裕子さんはカワイイ子が大好きだとよく言っていました。
だから誤解されるんでしょうか?
- 110 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)13時02分45秒
- ∇
行為が終わってぐったりとしているひとみさんに、裕子さんが声をかけました。
「どうだった?」
「ん、凄かったです…」
力ない声で、それでもわずかに微笑みながらひとみさんは言いました。
その顔を見た裕子さんの表情が少し翳ったように私には見えました。
「私の事好き?」
「はい」
「愛してくれてる?」
「はい」
私にはよくわからない問答でした。
少しの沈黙の後、裕子さんが自嘲気味に笑いながら言いました。
「今からアタシの言うこと信じて、言うこと聞いてくれるか?」
- 111 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)13時03分15秒
- ∇
裕子さんのことを気に入っていない生徒は、矢口さんと言う名前らしかったです。
裕子さんも時々、ぼやいていました。
「矢口はなぁ、どうしたらええんやろ」
手のかかる生徒さんなんてよくいるんですから、そんなに悩まなくてもいいとは思うんですが。
裕子さんは外見に合わず真面目なのです。
「あの子はなぁ…」
そのまま、悩み疲れて眠ってしまうこともしばしばでした。
- 112 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)13時04分00秒
- ∇
私は突然、目の前が真っ暗になったようでした。
「アタシ、もうそろそろ死ぬわ」
裕子さんの突然の告白にはひとみさんも驚いていました。
私だって驚きました。
「死ぬって?」
「殺される」
またまた驚きましたし、信じられませんでした。
ひとみさんはその答えに何かいいたそうでしたが、裕子さんが制しました。
「だから…吉澤も、一緒に死んでくれへんかな?」
ありえない話だと思いました。
- 113 名前:中澤裕子のベッドカバー 投稿日:2002年10月11日(金)13時05分02秒
- 今、私の上ではひとみさんが眠っています。
いつまでたっても覚めることのない永遠の眠りです。
裕子さんはその隣で、静かに私に涙を吸い込ませています。
そしてそっと顔を上げると、ひとみさんの頬に唇を落としました。
ひとみさんは裕子さんの申し出を受け入れました。
裕子さんは嗚咽を漏らしながら、ひとみさんの首を締め上げました。
何も分かりません。
裕子さんの申し出も、ひとみさんが受け入れた理由も。
これが「愛」なのでしょうか。
「愛」とはこんなに理解不能なものなのでしょうか。
突然、インターホンの音が鳴り響きました。
裕子さんが顔を上げ、玄関に向かいました。
玄関からは、矢口さんの声が聞こえてきました。
もう、何にも分かりません。
- 114 名前:lou 投稿日:2002年10月11日(金)13時05分26秒
- 続く
- 115 名前:通りすがり 投稿日:2002年10月12日(土)17時56分08秒
- 人死んでるのに何だけど今までで最高のなかよしだ。
続き期待
- 116 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)12時52分04秒
- たった十六年の短い人生だったけれど
私は自分の生き方を誇りに思います。
- 117 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)12時52分47秒
- ∇
先生の言葉は唐突で、とても突飛でした。
「アタシ、もうそろそろ死ぬわ」
ベッドの上で、白い肢体を惜しげもなく披露しながら、先生は言いました。
とても優しい目で、今まで私が身を任せてきた中澤先生の声で。
「死ぬって?」
「殺される」
もちろん驚きました。
先生が殺される理由なんか何も思い浮かびませんし、殺されることがわかっているのもおかしな話です。
何言ってるんですか?
そう問おうとした私の口は、先生の左手一本に制されました。
そして言いました。
「だから…吉澤も、一緒に死んでくれへんかな?」
- 118 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)12時54分08秒
- 先生のひとみは薄らと湿っていました。
嬉しくなりました。
泣いてくれた事がです。
自分が死にたくないのか、私を殺したくないのか、二度と体を交わすことができないことを悲しんでいるのか、それはわかりません。
けれど、先生は泣いてくれています。
先生にとっての私はいったい何なのか、結局わからずじまいでした。
私と同じように恋愛対象として見てくれているのか、それともただ欲求を満たすだけの関係なのか。
なんにせよ、先生は泣いてくれています。
私に選択の余地はありません。
「痛くしないでくださいね」
精一杯の冗談の中に覚悟を混ぜ込んで、先生に渡しました。
- 119 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)12時55分00秒
- ∇
私は先生の体が好きでした。
程よい大きさの胸、細くしまったウエスト。
手入れの行き届いた綺麗な爪も、柔らかく私を包み込んでくれる柔らかな腕も。
その中でも最も好きなのは口でした。
狂わせるキス、肩口に残る跡。
そしてなにより、私を盲目にさせる声。
「好きよ、吉澤」
「カワイイ」
「アンタのおらん世界なんて考えられへん」
先生の言葉が真実かどうか、そんなことは関係ありません。
嘘でもいいんです。
私の中に先生の言葉が入ってきた時、私はこれまでにない至福の瞬間を迎えるのですから。
- 120 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)12時55分44秒
- ∇
「もう一回、しよか」
私が答えてから、一分弱の沈黙の後、先生が呟くように言いました。
その顔には、自虐的な笑みが浮かんでいました。
「なんや、セックスで吉澤を殺したい、って言うのかな?そんな感じやねん」
先生は言ってすぐ、私から顔を背けてしまいました。
何言ってんねやろ、そう呟く声が聞こえました。
「ダメですよ」
「ん?」
「先生とのセックスじゃ死ねませんよ」
「どうして?」
「気持ちよすぎて、生きたまま天国にイッちゃうから」
「…アホ」
今までで一番幸せなやり取りでした。
- 121 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)12時58分32秒
- ∇
私は先生の性格が好きでした。
学校では厳しい、授業が終わると楽しい。
二人きりになると優しくて、ベッドの中ではいろいろな顔を見せてくれる。
弱々しい顔、傲慢な顔、いろいろな顔の先生とベッドに入りました。
どれだけ哀願しても続きをしてくれない先生も。
拒否を口にできなくなるほど激しく責めたてる先生も。
行為が済むと、決まって言いました。
「軽く飲もうか」
そんな先生の性格が大好きでした。
- 122 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)12時59分10秒
- ∇
「きっとすぐ行くから」
「え?」
「すぐに、吉澤に追いつくからな」
結局体を交わすことはせず、先生は私を自分の手元に引き寄せました。
先生の前に座り、うなじに先生の吐息がかかるたび、私は今まで味わったことのないおかしな感覚に襲われました。
「好きよ吉澤、メチャクチャ好き」
「私もです、先生」
先生の声が少し鼻に掛かっている気がしたのは、気のせいかもしれません。
首筋に先生の唇が落ちてきた時、火照った体に心地よい冷たさが走ったのも錯覚でしょう。
ほんのり熱を持った先生の手が、私の首をぐるりと囲みました。
- 123 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)13時00分11秒
- ∇
バッドエンド。
私の十六年間は、バッドエンドで幕を閉じることになりそうです。
それも、愛する人に殺されるという最上級のもので。
けれど、私は何も後悔していません。
だって、好きなように生きられたのだから。
私の愛した人は、私を拒まず受け止めてくれた。
私と別れる時、形はどうあれ涙を流してくれた。
これ以上、何も望むことはありません。
それでも私の人生は、あくまでバッドエンドです。
まだまだ死ぬには若すぎるし、きっと死ぬ時はとても苦しいでしょうし。
しかし、そんな要素を抜きにしても、私の人生はハッピーエンドだったということはできません。
というか、私にハッピーエンドが訪れることはなかったでしょう。
なぜなら、私の人生だから。
私一人の人生である以上、どうあがいてもバッドエンドにしかなりません。
私が先生の人生を共有して、先生が私の人生を共有してくれる。
そうしてはじめて、ハッピーエンドへの第一歩が始まるのです。
- 124 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)13時01分13秒
- 先生のことは信じています。
「愛してる」
先生は何度も言ってくれました。
私も愛しています。
けれど、そんな言葉じゃ足りません。
「二人で逃げよう」
「地の果てでも、海の底でも、二人だけでいられる場所へ行こう」
そう言ってくれたら、例え叶わなくても、そこまで言ってくれたら。
私の人生はハッピーエンドだったでしょう。
けれど、なぜか私はハッピーエンドを望みませんでした。
それはもう、自分に酔いしれているからに他なりません。
「死んでくれ」と恋人が言う。
騙されているかも知れない、厄介払いをしようとしているのかもしれない。
それでも、愛する人の言うとおり、愛する人に生命を断ってもらう。
そんな自分の姿に見惚れているからです。
つまるところ、私は一人で踊っていただけだったのです。
恋人のことを信用しているような姿をして、ただ単に自分のドラマのような生き方に憧れていただけ。
先生が流してくれた涙も、私の壮絶な人生の中の小道具に過ぎません。
安易で疲れるハッピーエンドより、奇想天外でその場限りのバッドエンドに憧れていただけの話なのです。
- 125 名前:生前の吉澤ひとみ 投稿日:2002年10月15日(火)13時01分55秒
- 先生の手が私の首をきつく締め出し、意識がゆれ始めました。
そんな中、私は自分に問いました。
私は本当に先生を愛していたの?
私はただ単に、自分を愛していただけじゃないの?
私はもしかしたら、先生に対してすごく失礼なことをしているんじゃないの?
けれど私の人生は、もうすぐバッドエンドで終わりを迎えます。
いまさらもう、何もわかりません。
過去の自分の気持ちは過去のものに、未来に生まれたであろう自分の気持ちは生まれることなく消えていきます。
それでも知りたい。
私は、先生のことを心から愛していたんじゃなかったの?
- 126 名前:無題 投稿日:2002年10月15日(火)13時03分35秒
- 狂気も倒錯も罪ではない。
自分のことを完璧に把握している人間など一人もいない。
だから、擦違った。
- 127 名前:lou 投稿日:2002年10月15日(火)13時08分36秒
- 以上です。
ですが、このラストはどうだったかな…。
書きたいことは一応書けてるんですが、わかりにくいかな…。
しかも最初の三人の話があまり必要のない話になってるかもしれないし…。
読んで下さった方、本当にすみませんでした。
>>115
こんなラストになってしまいました。
期待に添えている自信はありません、でも、書きたいことは何とか書いたのでご容赦ください…。
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月15日(火)22時49分35秒
- なかよし。
さすがです。
でも、先の三人が吉澤を好きな理由や絡みなどもう少しあれば
もっと分かりやすかった気がしないでもないです。
バッドエンド。
人生なんてそんなものかもそれません。
バッドエンドなのに味があります。
良かったです。
次回作期待してます。
お疲れ様でした。
- 129 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)22時18分31秒
- 九本目
- 130 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時19分20秒
- ポツリポツリと家々から漏れる光が闇夜に映える。
水滴のついた窓を通して見るそれらはおぼろげに揺れて、まるで私が泣いているかのような錯覚に陥る。
いや、もしかしたら泣いているのかもしれない。
- 131 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時20分00秒
- ∇
彼女と初めて出会った日も、小雨がぱらついていた。
待ち合わせた喫茶店と、そのはす向かいにあるイタリアンレストラン。
そこから流れ出る比較的強い明かりが雨粒に乱反射して、待つ身の私によりいっそうの孤独を味わわせた。
「何を期待している」
「この世を甘く見すぎじゃないか」
幻聴が幻聴に聞こえない。
喫茶店の窓際で笑うカップル、イタリアンレストランのレジで談笑するウェイトレス。
誰も彼もが私をあざけ笑う。
雨の中、密かな高揚を胸に一人たたずむ三十女を心の中で指差す。
しかし、そんな幻聴も少し強まった雨音も、携帯から流れるメロディに立場を失くした。
「ごめんなさい、ちょっと電車乗り違えちゃって。
後五分くらいでそっちに着きます」
顔も知らない、声も知らない、名前さえも知らない。
私に、自らを「ひとみ」と呼ぶよう義務付けたメールの相手は、たったの二文で私の冷えて震える足をほんのりと暖めた。
- 132 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時21分40秒
- 私とひとみは、世に言うメールフレンドの関係だった。
メールのやり取りだけで相手を創造し、その架空の相手と他愛もない会話を繰り広げる。
ひとみと知り合うまでは、私はそんな関係に否定的だった。
メディアに取り上げられて話題になるたび、バカらしいと思った。
何が楽しくてたかが文章に一喜一憂しなければならないのかまるで分からなかった。
事実、ひとみ以前にも何通か届いていたこの類のメールには、ただの一度も返信した事はない。
けれど、ひとみから初めて送られてきた文章は私の中の固定概念をガラガラと崩し落とすだけの雰囲気を携えていた。
「もし、このメールを受け取った方が女性なら、返事を下さい」
今思えば、危険な文章なのかもしれない。
いくらでも自分を騙る事の出来るメールの世界において、男や女と言う概念など無いに等しいのだから。
けれど私は、この文章から底知れぬ不安を感じ取った。
ただ機械的で無機質な文字の羅列、それが、無人島から昇るSOSの狼煙に見えた。
- 133 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時22分22秒
- それでも、もし私が会社でパソコンの前にいるときにこのメールを受け取っていたら、返事は返していなかっただろう。
家でバラエティ番組を見ていたとしても、きっと返信していなかった。
たまたま行った銭湯で、風呂上りの少し冷静でない頭だったから、私は慣れた手つきで文字を打ち、送信ボタンを押した。
「どうしたの?」
そのわずか1分後。
「あの、私とメールしてもらえませんか?」
運命の歯車ががっしりと噛み合い、音を立てて回り始めた瞬間だった。
- 134 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時23分07秒
- ひとみは躍らない子だった。
メールの文章はいつも簡素で、絵文字が入っていたり文末に!が三つ並んだりした事はなかった。
いつでも丁寧な言葉遣いで、それでもどこかにユーモアを含ませながら、彼女は私に気持ちをぶつけてきた。
私も、いつの間にかひとみに似た簡素な文を打つようになっていた。
普段は関西弁で喋る私も、改まって標準語で返事をしたりする。
段々と自分と違う自分が出来上がっていく様子は、客観的に見るとどうなのだろう。
主観的に見れば、悪いものではなかった。
まるで気づかなかった、もう一人のおしとやかな自分。
ひとみと話す自分は、まるで自分ではない。
けれどそれでも、自分は自分なわけで、奥底に隠れていたえらく女性的な面に自惚れたりもした。
- 135 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時24分08秒
- けれどそんなひとみのメールの様子が変わったのは、つい一週間ばかり前だった。
いつも通り、会社の昼休みに嬉々として携帯を手に取りメールを確認すると、文章が届いていた。
「あの、逢いたいです。逢えませんか?」
何の変哲もない文章。
普通の人が見れば、そう思うに違いない。
仲良くなったメールフレンドに逢ってみたい、一度や二度は抱く普通の感情だと思うかもしれない。
けれど、それは吉澤の文ではなかった。
腰を落とした落ち着いた文章とは程遠い、見境なく前へ前へとただただ走っている焦り気味の文章。
彼女らしくなさを感じて、少しばかりの違和感があった。
「何かあったの?」
違和感を感じはしたものの、その正体がはっきりとは分からず、曖昧な文を返した。
返事を見てから考えよう、冷たいのかもしれないけれどそうするよりなかった。
けれど、昼休みの間にメールは帰ってこなかった。
- 136 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時25分11秒
- 夕方、定時に仕事を終え、会社を出るとすぐ携帯を開いた。
仕事中は着信音をオフに設定しているため、メールが来ているのかは分からない。
来ていて欲しいような、来ていて欲しくないような、自分にも判断のつかないままメールをチェックすると、一通だけ届いていた。
届いていれば、それは必然的にひとみに繋がる。
ここでもまだ中途半端な気持ちでいたが、読まなければ埒が明かない。
ふぅ、とあからさまに一息つき、奮い立たせるように力強くボタンを押した。
「えと、逢いたいんです。
ごめんなさい、そうとしか言えない…」
文は相変わらず簡素で、けれどそれ以上に飾りをつけようがなかった。
型に嵌ったようにいつ見ても同じ形の文字。
それがこの時だけ、ほんの少し歪んでいるような錯覚に陥った。
- 137 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時25分58秒
- メールが届いてから五分が経った。
その間に、喫茶店からもレストランからも一組ずつ客が消え、雨足はさらに強まった。
そして雨足に比例するように、来ないのではないかという不安も募る。
と、その時
「裕子さん、ですか?」
背後から声をかけられ振り向くと、モスグリーンの傘を手に佇んでいる女性と目が合った。
白の強い肌、落ち着いた声。
少女と呼ぶほうがしっくりくるようなその人は、ゆっくりと笑顔を作った。
「ごめんなさい、遅れちゃって」
「あなたがひとみちゃん?」
「あ、はい、そうです」
そう言うと、彼女は少しはにかみながら身体を寄せ、入りませんかと傘の柄で店を指し合図を送ってきた。
- 138 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時26分42秒
- 喫茶店に入ると、入り口の扉についていたカウベルがからからと音を立てた。
その音に幾人かの客が反応し、思い思いにこちらを見やる。
その目には、二人はどういう関係に移っているのか気になった。
窓際の隅に席を取り、寄って来たウェイトレスにミルクティとカフェオレをオーダーし、ようやく一息ついた。
出されたお絞りで濡れた手を軽く拭き、水に口をつけると、ひとみちゃんがおずおずと切り出した。
「あの、突然なんですけど…」
「ん?何?」
「あの、私のこと、吉澤って呼んでもらえませんか?」
「ヨシザワ?」
「はい、あの、名字です。
吉澤ひとみって言うんです」
少し驚いた。
呼び方を変えて欲しいといった事にではなく、あっさりと本名をばらしてしまった事にだ。
無防備と言うのが正解なのだろうけれど、悪い気はしない。
「吉澤さん、って呼べばいいの?」
「あ、はい、それで…」
頬をほんのりと染め、恥ずかしそうに水に口をつける吉澤さんを、素直に可愛いと思った。
- 139 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時27分28秒
- 会話は案外弾んだ。
お互いの素性に関することが大部分を占めていたせいかもしれない。
そのなかで、いろいろな吉澤さんを知った。
今十七歳である事、学校には行っていない事、好きな歌手の事等々。
嬉しそうにバイトの話をする吉澤さんが可愛かった。
喋りすぎたと小さくなってミルクティを啜る吉澤さんが可愛かった。
甘ったるいカフェオレを飲みながら、見惚れていた。
確かにそれは熱病、恋だった。
彼女のさらさらと流れる髪が、言葉を発するその唇が、布に覆われて見えない彼女の体が愛しかった。
「あ、中澤さん…」
恋は熱病、誰が言い出したのだろう。
見事な例えだと思う。
熱に浮かされていた私は、彼女に浮かんだ表情の翳りを読み取れず、弾んだ気持ちで相槌をうった。
- 140 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時28分15秒
- ∇
雨が強くなった。
窓を叩く音は大きく早くなり、揺れる光は段々と形を保たなくなっている。
そしてはっきりと、頬を涙が伝った。
好きになっていたと思う。
顔を見て話したのはたかだか一時間弱だ。
それでも、彼女の一挙手一投足が愛しいあの感じは、恋と言う意外に仕方が無いと思う。
「あの、実は、もうメールが出来なくなっちゃうんです」
彼女は所在無さげに視線を動かしながらそう言った。
悪いと思っているのか、悲しんでいるのか、読み取れなかった。
いや、読み取ろうとする気が起きなかった。
それは、突然のリストラに似ているような気がした。
- 141 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時29分42秒
- 彼女は理由を言わなかったし、私も聞かなかった。
「彼氏」なんて単語が出てきたら、とても冷静でいられるとは思わなかったからだ。
もちろん、理由がそれなのかは分からない。
けれどもう、何を言ってもしょうがない。
繋がりが無くなったと言う事実が残っただけだ。
突然、携帯が鳴ったような気がした。
私は涙が流れている事も忘れ、はっきりとしない視界で膝元に転がっている携帯を手に取る。
しかしその携帯には、何の変化も見られなかった。
錯覚だったのだ。
そう、錯覚だったのだ。
熱に浮かされたような気がしたのも、彼女の薄い唇が妙に艶かしく感じたのも、全ては錯覚だったに違いない。
いや、そもそも彼女の存在さえ危うい。
もしかしたら、今までずっと長い夢を見続けていただけかもしれない。
- 142 名前:錯覚 投稿日:2002年10月20日(日)22時30分26秒
- そう思っていると、携帯が鳴った。
メールを知らせる音が、今度は確かに部屋に鳴り響いた。
しかし、手をつけようとは思わなかった。
万が一ウインドウに彼女の名前が表示されていたら、必死の現実逃避が仇になってしまうから。
私は立ち上がって、洗面所へと向かった。
涙を洗うためではない。
これから流れるであろう涙の温かさを感じないために。
涙を、錯覚にするために。
おわり
- 143 名前:lou 投稿日:2002年10月20日(日)22時34分47秒
- 原稿用紙十五枚で書いてみようと突然思い立って書いた話です。
短いような長いような、手頃な長さですね。
ですがやっぱり説明不足な気が…。
>>128
レス遅れましてすみません。
案内板の方にも感想有り難うございました。
味があるという言葉をいただけたのは大変嬉しいです。
- 144 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月23日(水)12時46分44秒
- 十本目。
- 145 名前:真っ直ぐに 投稿日:2002年10月23日(水)12時47分36秒
- 「好きです」
わざわざ楽屋にまで押しかけて、この一言が言いたかった。
中澤さんは特に取り乱す様子も無く、目にしている雑誌から顔を上げない。
無視されたと思った私は、語気を強めてもう一度繰り返した。
「好きです」
はらりとページをめくる音が聞こえた。
目は忙しなく雑誌を縦横に走っているけれど、私には中澤さんが本当に雑誌を読んでいるようには見えなかった。
「好きです」
三度目の私の告白に、ようやく中澤さんは顔を上げてくれた。
見なれたはずのその顔は、いつ見ても携えている美しさに違いがある。
今日は、ひたすらに妖艶な顔をしていた。
「好きです」
いつまでも言うつもりだった。
中澤さんが応えてくれるまで。
中澤さんは雑誌を置き、立ちあがった。
「好きです」
「どこが?」
中澤さんが初めて返してくれた言葉は私を試しているように感じた。
「身体です」
その言葉に、中澤さんは目を細め、そして手招きした。
「おいで」
- 146 名前:lou 投稿日:2002年10月23日(水)12時50分52秒
- 思うところがあって1レス短編。
一応某作の馴れ初めという感じです。
- 147 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)13時15分28秒
- 十一本目。
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)13時16分06秒
- 『ののの奇妙な冒険 アナザーストーリー』
- 149 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)13時16分38秒
- ののが悩んでいた。
「よっすぃー、大人って何かな?」
私は一瞬躊躇した後答えた。
「うーんと、中身が立派な人だよ」
ののは目をきらきらと輝かせ出した。
「大きくなれば大人になるわけじゃないんだね」
「そうだよ、大きくても子供の人や、ののより年下でも大人の人はいるんだよ」
「中澤さんは二十九歳だけど、大人かなぁ?」
「大人だよ、きっと」
「そうかぁ」
ののは満足そうに楽屋を出ていった。
- 150 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)13時17分14秒
- その夜、私は中澤さんの家に泊まりに行き、同じ質問をしてみた。
中澤さんは不思議そうに私を見つめながら答えてくれた。
「あたしなんて思いっきり大人やん」
やはり中澤さんは大人らしい。
- 151 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)13時17分50秒
- 翌日、私は楽屋に現れたののを引き連れトイレへと向かった。
「どうしたのよっすぃー?」
「大人の説明してあげるよ、昨日中澤さんに教えてもらった」
「ホント?」
ののはまた、目をきらきらと輝かせ始めた。
「ほら、これが中澤さんの心臓と肝臓、後肺ね。
こうちょっと黒っぽくなった肝臓と、大き目の心臓と、少しこの辺が薄くなってる肺を持ってる人が大人なんだよ」
- 152 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)13時18分58秒
- おしまい
- 153 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)13時20分13秒
- ( 0´〜`)
ある作者さんの作品をパクって見ました。
- 154 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)13時20分44秒
- ( 0´〜`)
もうきっと飼育追放でしょうね。
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)16時22分44秒
- ( 0´〜`)
しかしオチが弱い。
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月29日(火)00時22分50秒
- 十二本目。注:けして読まないで下さい。ホントに読まないで下さい。
- 157 名前:悪魔の愛し方 投稿日:2002年10月29日(火)00時24分42秒
- 愛。
それは時に恐ろしいパワーを生み出す。
- 158 名前:悪魔の愛し方 投稿日:2002年10月29日(火)00時25分20秒
- 皿が飛ぶ。
花瓶が飛ぶ。
クッションが飛ぶ。
一方通行で物が飛んでいく。
「何考えてんの!」
「酷い!」
「殺してやる!」
一方通行で言葉が流れていく。
残念なことに、物と言葉の進行方向は同じだった。
これではただの弱い者いじめか、ヒステリックな気狂いにしか映らない。
- 159 名前:悪魔の愛し方 投稿日:2002年10月29日(火)00時26分56秒
- 「男が出来たの一言で済ませるつもり?」
そのヒステリックな気狂いが、騒音公害の対象になりそうなほどの甲高い声を出した。
いじめを受けている弱い者は、ただただ身体を小さくしている。
「わかってるんでしょあたしがビアンだって事?
なのになんでそういう事がサラッと言えるの?
一年半騙され続けたあたしが馬鹿だったのね、そうしてあんたは男に適当に突かれながらあたしをあざけ笑うんだ」
中々に美形な気狂いは、足もとに散乱するガラスの破片やら何やらに躊躇することなく、こちらも相当な美形の弱者の首を掴みあげた。
弱者の表情が少し歪む。
「あんたノンケだったの?
ノンケのクセに一年半、あたしに奉仕させてたの?
あたしがあんたのことだけを考えてキスしてるときも、セックスしてるときも、
あんたは男のことで頭がいっぱいだったってわけ?」
気狂いの怒りは頂点に達したのか、掴んでいた首を思い切り締め出した。
弱者の表情がはっきりと翳る。
それでも気狂いはその手を緩めようとはしない。
「嘘じゃないから。
殺してやる。
ココまで侮辱されて、黙って指加えてられるやつなんかこの世にいるわけない」
- 160 名前:悪魔の愛し方 投稿日:2002年10月29日(火)00時27分58秒
- 弱者の口から音が漏れた。
と、その途端、気狂いの腕の力が弱まり、弱者は床に投げ出される格好で捨てられた。
弱者は床に身体を打ち付け悶絶し、気狂いはその様子を呆けたまま見つめていた。
そして、突然我に返ったように笑い出し言った。
「もしかしてそういうプレイなの?
そういえばあんたヤバイくらいにマゾだったね。
首絞められてる間にグショグショに濡れちゃったんだ?」
弱者は未だ、床でもんどりうっている。
気狂いはその頭を踏みつけ、征服感溢れる声で笑った。
「鞭でも蝋燭でも飽き足らなくなったんだ。
それで生きるか死ぬかの首絞めプレイをやってみたら気持ちよくてたまんない。
もう変態を遙か彼方に置き去りにしてるね」
呆れたように気狂いは弱者の頭を床にこすりつけると、機敏な動作で下着の中に手を滑り込ませた。
そしてほぼ同時に、水音が響いた。
それを確認すると、気狂いは高笑いを浮かべ、弱者はうなだれた。
「ビチョビチョじゃん、だらしない。
死にそうだって時に、それ以上にイキそうだって気持ちのが強いなんてどうかしてるね。
いっとくけど、あたしだって人殺しにはなりたくないからね、もうこれ以上はゴメンだよ」
- 161 名前:悪魔の愛し方 投稿日:2002年10月29日(火)00時28分44秒
- そうは言ったものの、気狂いは足をどけようとはしない。
そして何を思ったか、必死に身体を伸ばし、ハサミを手に取った。
「でもさ、あんたを気持ちよくさせたいとは思ってるの。
けど、死にかけまで体験しちゃったら、そうそうそれを超えるプレイはないじゃない?
だからさ、ね」
そう言って、瞼の上にハサミの刃を押し当てた。
「一石二鳥じゃん。
あんたは気持ちよくなれるし、わたしはあんたが他の男を見ないことで安心できる。
何の問題もないよね」
言うが早いか、気狂いは弱者の瞼にむけて、振りかざしたハサミを叩きつけた。
- 162 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月29日(火)00時29分15秒
- おしまい
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月29日(火)00時30分11秒
- ごめんなさい。
- 164 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月29日(火)00時32分35秒
- 今まで読んでくれた方々を侮辱するような行為、深く反省しています。
しばらく間隔を空けさせていただきたいと思います。
気持ちの昂ぶりが治まりましたら、また現れます。
見るに耐えない作品の羅列、申し訳ありませんでした。
- 165 名前:LVR 投稿日:2002年10月29日(火)03時20分28秒
- 更新お疲れ様です。
このスレ、残酷な話が増えてからの方が好きです。
というのは、作者さんの意向とはずれているのかもしれませんが……。
それでは、早い再開をお持ちしております。
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月29日(火)09時22分58秒
- 残念です
お早いお帰りお待ちしてます
- 167 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月30日(水)14時27分32秒
- 十三本目。
- 168 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時28分09秒
- 気が付いたら、私の手は血に濡れていて。
目の前には、腹部にナイフの刺さった中澤さんが転がっていました。
- 169 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時28分47秒
- ∇
私は中澤さんの家に来ていました。
話し合いをするためです。
矢口さんのことに関してです。
「矢口はウチの事が好きって言うてんねやで?」
午前の仕事だった中澤さんは、一言断りをいれてから持ち出してきたビールを飲んでいました。
黄緑色のトレーナーにタイトスカートと言う出で立ちで、眼光鋭く私を睨み付けてきました。
「私にも好きって言ってくれてます」
オフだった私は、水色のパーカーにジーンズと言う格好をしていました。
迫力に押されないようにとだけ思って乗りこんできていました。
「そんなん、調子いいお世辞に決まっとるやん」
「中澤さんの方こそ」
不毛な話し合いは、長期戦の様相を呈してきていました。
夜もふけていましたので、鞄の中には、護身用と言う名目で果物ナイフが入っていました。
- 170 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時29分25秒
- ∇
あらかじめ断っておきますが、私はビアンと言う訳ではありません。
男性との恋愛もありましたし、男性経験もあります。
今回好きになったのが、たまたま同性の矢口さんだったと言うに過ぎません。
その辺りの心理は、説明しなくてもわかっていただけると思います。
その点、中澤さんは生粋のビアンのようでした。
矢口さんに限らず、安倍さんや梨華ちゃん、時には私にも手を伸ばしてきました。
「カワイイなぁ、吉澤…」
突然仕事場で音も無く背後に忍び寄られると、多少の恐怖を感じます。
そして、獲物を狙うように身体の上を這いずり回る手には、僅かとは言えない嫌悪を感じます。
この手で、私にすると同じように矢口さんを弄んだ。
いや、きっとそれ以上も。
私は中澤さんが嫌いでした。
- 171 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時29分56秒
- ∇
「あかんな、こう言う話し合いは。
二人とも熱くなってかなわん」
しばらく睨み合いながら言葉を戦わせつづけて、はや一時間が過ぎようとしていました。
中澤さんがおどけたように両手を上げ、場の空気が一気に緩みました。
「少し落ちつかんと堂々巡りや。
何飲みたい?酒なら大概あるよ」
空になったらしいビール感を左右に振りながら聞いてきました。
中澤さんの言葉に挑発されたわけではありませんが、お酒が飲みたい気分でした。
「ギムレット下さい」
「強いの飲むんやね」
中澤さんは軽く笑って台所へと消えました。
その笑い方は明らかに私を見下していました。
- 172 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時30分29秒
- 「悪い吉澤、ライムが切れとるわ。
ベルモットならあるんやけど、マティーニでいい?」
「構いません」
中澤さんが台所に消えてからしばらくして、声が聞こえてきました。
わざわざそんな事のために確認を取るのは少し意外でした。
もしかしたら適当にあるもの混ぜて出されるかも、と言う不安もあったからです。
矢口さんを家に招いたときにはきっと、こう言う気配りは当たり前なのでしょう。
「おまたせ」
それからまた数分して、中澤さんが大きめのグラスに入ったマティーニと自分用らしいビールを持って現れました。
少しばかりさっきまでより嬉しそうな顔をしてるのは何故か、よくわかりません。
私はマティーニを受け取ると、一睨みした後一気に半分ほど煽りました。
景気付けの意味が九割五分を占めていました。
「いい飲みっぷりやね」
さっきよりは少しやさしそうな笑みを浮かべて中澤さんはビールに口をつけました。
その顔を見たとき、突然、お湯の沸騰のように、私の中に負の感情が渦巻いてきました。
- 173 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時31分00秒
- 矢口さんには、もっと柔らかな笑顔で笑うの?
矢口さんを真っ直ぐに見つめるその目には、矢口さんの動きを止める呪文でも書かれているの?
矢口さんに囁くその口は、矢口さんの喜ぶ言葉を何でも知っているの?
その手は、その脚は、その胸は。
中澤さんの全てのパーツが、矢口さんを虜にするためだけにできているの?
お酒のせいにするつもりはありません。
薄々分かっていたんでしょう。
中澤さんにはかなわない。
矢口さんは中澤さんのものだ。
だから私は、刺しました。
中澤さんがいなくなれば、そう思ったわけではありません。
ただ悔しくて、刺しました。
- 174 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時31分36秒
- 中澤さんは手にしていたビール缶を取り落としました。
私の足に缶が直撃し、鈍い痛みがありましたが、あまり関係ありませんでした。
中澤さんは後ろ向きに倒れ、ナイフの辺りにはジンワリと血がにじんでいます。
「かはっ…な、に?」
中澤さんは少しばかり血を吐き出し、大きく見開かれた目で辛そうに私を見上げました。
けれど私の目は中澤さんの目を捕らえてはいません。
捕らえているのは腹部でした。
思ったよりも黒くなく、鮮血と呼ぶにふさわしい真っ赤な血。
そのとき気付きました。
こんな綺麗な血をしているから、矢口さんは中澤さんに惹かれたんだ。
そう分かれば、考える事などありません。
私は中澤さんに近づき、ナイフの隣に口を寄せ、音を立てて血を吸いました。
その味は、唇を切ったときなどとは比べ物にならないくらい濃厚で、美味でした。
- 175 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時32分08秒
- 「くっ、よ、…」
中澤さんは苦しそうに、血と一緒に音を漏らしました。
私は血を吸うのに一生懸命で初めは気付かなかったのですが、中澤さんが喋っている事に気づくと、焦り気味に聞きました。
「中澤さん、中澤さんの体が欲しいです。
矢口さんは中澤さんのことが好きなんですよ。
でも、中澤さんの体が吉澤のものになれば、きっと矢口さん吉澤のこと好きになってくれると思うんです。
今血は飲んだんですけど、手とか足とかはどうすればいいんですか?
吉澤の手足を切って、中澤さんの手足をくっつければ大丈夫ですかね?」
中澤さんは答えてくれません、いや、答えられないのかもしれません。
口はぱっくりと開いて、そこから舌が覗いていました。
その舌に絡み付いている唾液を、一滴残さず舐めとった事は言うまでも無いでしょう。
さらに、私は中澤さんの下着に手を伸ばして、秘部を探り当てました。
そこはしっとりと濡れていて、私の手に合わせるように、中澤さんが苦痛に歪んだ顔を揺らします。
指についた液体は、今まで味わった事の無い味がしました。
- 176 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時32分41秒
- それから私は、手に入れられる限りの中澤さんを手に入れました。
頬を伝った涙には、微量の塩が混じっているかのような錯覚を受けました。
肩口に舌を這わせると、甘い匂いとこちらも塩味がしました。
床に落ちた綺麗な金髪を口に含むと、口の中がばさつきました。
おいしいだとかまずいだとか、そんな事は問題ではありません。
中澤さんを手に入れる事が重要なのです。
矢口さんが虜になる中澤さん。
中澤さんを手に入れれば、矢口さんは私のもの。
その一心で、私は中澤さんを貪りました。
けれど、困った事態が起きてしまいました。
中澤さんが反応しなくなってしまったのです。
今までは少しだけれど動いていた中澤さんの体が、ピクリともしなくなってしまったのです。
私は中澤さんを怒らせてしまった事を後悔しました。
- 177 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時33分15秒
- 失態でした。
中澤さんに許可を得ず、焦りに身を任せて中澤さんを味わってしまったのは。
拗ねてしまったらしい中澤さんは口を利いてくれません。
「中澤さぁん、答えてくださいよぉ。
吉澤が謝りますよぉ。
だから、アタシの体は好きにしていいって許可してくださいよぉ。
矢口さんを手に入れるには中澤さんの体が必要なんですよぉ。
黙ってると勝手に持ってっちゃいますよぉ」
もちろん黙って持っていく気などありません。
勝手に手足を交換したりなどしたら、今後の仕事に支障が出るに決まっています。
あくまでも許可が出るのを待つつもりでした。
けれど中澤さんはイエスといってくれません。
それどころか、相変わらず返事もしてくれません。
怒りは相当深いようです。
- 178 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時34分00秒
- 「わかりましたよぉ。
それじゃあ飲んじゃった血とか返しますからぁ。
だから、せめて返事してくださいよぉ」
このとき、私は嫌いなはずの中澤さんが少しかわいく感じました。
だって、拗ねて黙ってしまうみたいなんて子供みたいだから。
「じゃあ血返しますよぉ」
約束は守らなければいけません。
私は中澤さんの体からゆっくりとナイフを抜き取り、血が混じらないよう丁寧に拭き、
今中澤さんの血が巡っているであろう食道の辺りを掻っ切りました。
- 179 名前:あなたがほしい 投稿日:2002年10月30日(水)14時34分31秒
- おしまい
- 180 名前:lou 投稿日:2002年10月30日(水)14時39分18秒
- 思わせぶりな事を書いておきながら一日で復帰。
書いてる内容も合わせてキティガイとしか思えません。
もし読んでくださっている方々いらっしゃいましたら、作者の一人狂いお詫び致します。
>>165
早速帰ってきてしまいました。
このレスのおかげで、もうこの方向で行こうと言う決意が固まったので、大変喜んでいます。
あ、なかよしはマターリマターリ待たせていただくんで大丈夫です(w
>>166
いくらなんでも帰ってくるの早すぎですね。
レスありがとうございました。
- 181 名前:lou 投稿日:2002年10月30日(水)14時41分07秒
- 内容がアレなんで、以降は完全sage進行とさせていただきます。
- 182 名前:lou 投稿日:2002年10月30日(水)14時45分32秒
- 書き忘れ。
ここ最近の作品、なかよしとは認められないでしょうか?
自分的にはこれでも十分なかよしなんですが…。
- 183 名前:166 投稿日:2002年10月30日(水)19時07分49秒
- はやっw
でも帰ってきてくれて嬉しい
確かに残酷かもしれないしこういう話しが苦手な人は多いかも知れないけど
自分は大好きです。
残酷な話しとなかよしのミックス。
最高。
これからも頑張ってください。
- 184 名前:某板なかよし作家 投稿日:2002年11月01日(金)16時58分02秒
- 十三本目は若干吐きそうでしたが(褒めてます)
その文才、尊敬します。
次作、待ってます。
- 185 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)01時08分44秒
- 十四本目。
- 186 名前:フルコース 投稿日:2002年11月02日(土)01時09分17秒
- その日、食卓は目も眩むほど豪華だった。
ウェルダンまでこんがりと焼かれたステーキ、フォアグラを彷彿とさせる白い切り身。
グラスには濃厚な赤い液体が注がれている。
「豪華ですね中澤さん」
皿をテーブルに並べながら、吉澤が言う。
しかし悲しいかな、たとえ吉澤も中澤も一流の芸能人とはいえ、そう簡単に最高級の食材を手に入れられるわけもない。
さらに、二人とも料理はこなす程度だ。
宝の持ち腐れになってしまう可能性も多分にあり、せっかく最高級の食材なのに、なんて事にもなりかねない。
つまるところ、テーブルに並んでいる数々の品々はニセモノだ。
松坂牛だって、フォアグラだって、ロマネコンティだって、精巧に似せられた別の食材である。
「でもね、絶対美味しいですよ」
吉澤は中澤の手に指を絡めながら自信ありげに呟く。
今日調理をしたのは吉澤だった。
- 187 名前:フルコース 投稿日:2002年11月02日(土)01時09分52秒
- 「このステーキは、加護の太腿をちょっともらってきました。
やっぱりお肉は鮮度が重要ですから、これは今日取りたてですからね。
で、こっちが矢口さんの肝臓のホルマリン漬け。
ちょっと前に間違って矢口さん殺しちゃった時に、いつか役に立つかもと思ってとっといたんです。
偉いと思いません?
で、これは高橋の血ですね。
迷ったんですけど、やっぱり高橋が妥当かなって思ったんで。
飲むなら若くて綺麗な子がいいですもんね」
- 188 名前:フルコース 投稿日:2002年11月02日(土)01時10分31秒
- 吉澤が席に着く。
相変わらず中澤の手はとったままだ。
と思うと突然、あ、と声を発し立ち上がった。
「デザートもあるんですよ」
そういうと中澤の手を離し、冷蔵庫からアイスクリームらしきものを取り出してきた。
「へへっ、これはねぇ、ちょっと手作りなんですよ」
そういうと、アイスクリームの容器を手元に置き、囁くように言った。
- 189 名前:フルコース 投稿日:2002年11月02日(土)01時10分59秒
- 「中澤さんの脳味噌入りですからね、きっと凄く美味しいですよ」
吉澤の言葉が向けられた先には、ふやけた手首が存在していた。
- 190 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)01時11分16秒
- おしまい
- 191 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)01時12分47秒
- ジョジョじゃないもーん。
嘘です。
- 192 名前:lou 投稿日:2002年11月02日(土)01時16分14秒
- >>183
帰ってくんなと言われなくて心から安堵してます。
こんな話ばっかにお付き合いは辛いでしょうが、よろしくお願いします。
>>184
僕の考えが正しければ、多分あの作品の作者さんですよね?
固定読者第一号を名乗ってるのが僕です、よろしくです。
- 193 名前:166 投稿日:2002年11月02日(土)11時21分37秒
- 吉澤さん、デザート出すの早いですよw
ところで無題の続きみたいのは書かれないんでしょうか。
読んでみたいな。と言ってみるテスト
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月05日(火)11時31分24秒
- 十五本目。
- 195 名前:看病願望 投稿日:2002年11月05日(火)11時31分55秒
- 吉澤の身体を操る事など、赤子の手を捻るより容易い。
そして私は、吉澤に尽くす事で高まる。
- 196 名前:看病願望 投稿日:2002年11月05日(火)11時32分32秒
- 「どうした?」
「なんかちょっと気持ち悪くて…」
晩御飯を食べてる最中、突然吉澤が箸を置いた。
顔は普段より青白く、視線は上がってこない。
俗に言う「あたった」時のそれに酷似している。
なるほど、こんな風になるものかと思った。
「おかしいな、あたるようなもん無いけどな」
「はい…」
私は椅子から腰を上げ、吉澤の背中をさすった。
ゆっくりと上下する手の動きとは対照的に、吉澤の呼吸は乱れて落ち着かない。
それは欲情の息にも似ていて、背中を動く手のスピードが不自然に上がらないよう気を使った。
「とりあえずベッドに横になったほうがええんちゃう?」
「そうですね…すみません…」
さりげなく吉澤の腰に手を回し立たせる。
足取りもおぼつかないところを見ると、相当辛い事がありありと分かる。
それは予想外の、けれど予定の行動。
- 197 名前:看病願望 投稿日:2002年11月05日(火)11時33分01秒
- 吉澤をベッドに寝かせると、濡れタオルを用意しにキッチンに入った。
わかっている、濡れタオルが何の役にも立たない事くらい。
いや、気休めの役には立つかもしれないけれど。
タオルを濡らしながらそんなことを考えつつ、調味料棚に我が物顔でのさばっているプラスチックの容器に目を向けた。
そこに入っているのは黒い粉。
黒胡椒でも、黒マスタードでもないそれは、タバコの灰。
身体を壊す、魅惑の調味料。
- 198 名前:看病願望 投稿日:2002年11月05日(火)11時33分32秒
- タオルを持って寝室に戻ると、横になったせいか、さっきよりは幾分楽そうな吉澤がいた。
うっすらと汗をかいた顔にタオルを当ててやると、なお表情を崩す。
その顔が見たくてやった、と言いきれるほどの柔らかい笑みが眩しかった。
「楽になった?」
「ちょっとは」
「牛乳でも飲むか?温めたるで」
「すみません…」
申し訳なさそうに吉澤が言う。
言葉に含まれたその色に、私は脊髄反射で言葉を返す。
「気にせんでええよ」
私が看病したいだけなんだから。
- 199 名前:看病願望 投稿日:2002年11月05日(火)11時34分08秒
- キッチンに向かいながら考える。
私は多分おかしいのだろう。
吉澤と付き合い始めて半年、付き合いが始まったのは病室。
吉澤が足を折って仕事を休んでいた当時、何故だか見舞いに行きたいという欲望に駆られ、気が付いたときにはいつも病室にいた。
少しの休憩時間も、仕事終わりの面会ギリギリの時間も、毎日通い詰めた。
その理由に気付いたのは、皮肉にも、吉澤とのキスの真っ最中だった。
この子を守ってあげなければ。
母性本能とは違うと思う。
母親は健康なわが子こそが大切で、最も愛すべき存在だろうから。
私は違う。
ベッドで苦しそうに眠る吉澤にこれ以上ない愛を感じる。
熱に浮かされ、意識も朦朧としている吉澤の手足となって動く事にこれ以上ない快感を得る。
元気な吉澤など、ベッドで眠る吉澤の魅力の半分にも満たなかった。
- 200 名前:看病願望 投稿日:2002年11月05日(火)11時34分37秒
- だから私は吉澤をベッドで眠らせるべく苦慮する。
罪悪感を感じないではない。
けれど、私は献身的に看病をしているのだからと自分を正当化する。
看病は吉澤のために間違いはないのだから。
私はただ、苦しむ吉澤を見ていたいだけだ。
- 201 名前:看病願望 投稿日:2002年11月05日(火)11時35分14秒
- 牛乳を温めて持っていくと、吉澤は穏やかな寝息を立てていた。
まさか眠っているとは思わなかった私は少し困惑したものの、起こすわけにもいかず、仕方なくその牛乳に口をつけた。
ほんのりとした甘みが口に広がる。
そしてその横顔を眺め、幸せな気分に浸ろうとしたそのとき。
突然、頭の中がぐるぐると回る感覚に襲われた。
取り落としそうになったカップを手に取り直し、しかし立っているのが辛くなる。
仕方なくカップを足元に置き身体を起こそうとした瞬間、今までで一番ひどい立ちくらみを感じ、
吉澤に覆いかぶさるように倒れこんでしまった。
「どうしたんですか中澤さん?」
吉澤の声が遠くに聞こえる。
意識が体から離れていってしまうのではと言う錯覚に襲われる。
- 202 名前:看病願望 投稿日:2002年11月05日(火)11時35分48秒
- 「中澤さんも疲れてるんですよ」
しかし、その一言で私の意識は何とか繋ぎとめられた。
冷めた声。
初めて聞く声だった。
「中澤さんも一緒に休みましょう」
次に聞いた声は、普段の吉澤だった。
「吉澤の体調がよくなったら、看病してあげますからね」
柔らかい声に、髪に差し込まれた柔らかい手。
ばれてたんだと思いながら、また意識が飛ぶのを感じた。
「吉澤も最近気付いたんですよ。
苦しそうにしてる中澤さんて、凄く色っぽいなぁって」
- 203 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月05日(火)11時36分08秒
- おしまい
- 204 名前:lou 投稿日:2002年11月05日(火)11時39分06秒
- >>193
フカヒレスープは考えましたが、別の意味で気持ち悪くなったのでやめました。
無題に関しては迷ってます。
人視点での番外編面白そうとか案内板ではレスしましたが、実際どうなのかと。
人視点で書く話ではないような気がするので。
何か別案があったらいってください。
- 205 名前:lou 投稿日:2002年11月05日(火)11時39分44秒
- それと今度こそ少し休みます。
- 206 名前:lou 投稿日:2002年11月05日(火)12時17分21秒
- いきなり休みますだけでは意味分からないと思うので、冗長だと思いつつ言い訳と雑談。
ただ今バイトが14日に13日入っています。
ですので、更新する時間どころかネタを考える時間さえありません。
それと、某作をぱらぱらと眺めていた際、
「吉澤不人気話を書いて吉ヲタに喧嘩売ってんのか」
と言うレスを発見しました。
もちろんこのスレとは無関係ですが、やはり嫌がる人もいるんだなと言うことで。
ヘッドラインに乗らなくなってから更新します。
そのころには、多少やっつけ気味になってしまった文章も改善されてると思います。
勝手ですがご理解下さい。
- 207 名前:166 投稿日:2002年11月11日(月)00時57分48秒
- 今回は誰か死ぬよりゾクゾクきました。
初めて吉澤が中澤を上回った感じで。
うーん、上手く言えないけどこれ好きです。
無題は…作者さんが人視点は違うと言うなら違うんでしょうね。
何か小さな生き物視点てのはどうですかー?w
と、言ってみました。
忙しそうですがバイトがんがってください。
色んな人が居て色んな感じ方がありますよね。
自分は作者さんの感性が好きですよ。
またーり次回更新を待ってます。
- 208 名前:184 投稿日:2002年11月22日(金)13時34分01秒
- そろそろお帰りになる頃かと…。
飢えてます。
作者さんのなかよしに。
気長に待機中です。
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月22日(金)13時44分30秒
- 十六本目。
- 210 名前:卒業写真 投稿日:2002年11月22日(金)13時45分02秒
- 悲しいことがあると 開く皮の表紙
卒業写真のあの人は 優しい目をしてる
- 211 名前:卒業写真 投稿日:2002年11月22日(金)13時45分36秒
- ふと、本当に何も理由がないまま、卒業アルバムを開いてみた。
縦横に走る懐かしい顔の中で、一際目立つ柔らかい笑み。
色褪せてしまった写真の中でも、その顔だけは今でも、当時の輝きを保っている。
「三年二組 担任 中澤裕子」
中澤先生は、特別な人だ。
ファーストキスの相手でもあり、心の底から一緒にいたいと願った最初で最後の人で、そして、女を捧げた相手。
結局それ以降、恋らしい恋なんて一つもしていなかった。
生涯独身を貫き、還暦まで迎えてしまった老女の青春には、中澤先生しか存在していない。
「ちゃうよ吉澤、ここはこう」
「アンタ物覚え悪いなぁ、今度できひんかったら舌入れるよ舌」
「あたし今日学校泊まるんやけど、一緒に泊まるか?」
今思い出しても、あの先生は卑猥な事ばっかり言っていた記憶しかない。
当時はそれにきゃーきゃー喜んでたものだけれど、今となってはただただ恥ずかしいだけだ。
- 212 名前:卒業写真 投稿日:2002年11月22日(金)13時46分04秒
- そして私はまた、理由もなくアルバムを閉じた。
アルバムを閉じると閉ざされる過去への扉。
けれど、過去から中澤先生を引っ張ってきてしまったせいか、うるさくてしょうがない。
耳元で囁かれる「カワイイ」のセリフは、老女には少々刺激が強すぎる。
身をよじって先生を追い払おうとしたところに、電話が鳴った。
- 213 名前:卒業写真 投稿日:2002年11月22日(金)13時46分31秒
- 街で見かけた時 何も言えなかった
卒業写真の面影が そのままだったから
- 214 名前:卒業写真 投稿日:2002年11月22日(金)13時47分05秒
- 訃報は突然だった。
あまりの突然さに訳も分からぬまま呆然としていると、さっきまであんなにうるさかった先生がいなくなっていることに気が付いた。
翌日行われた先生の葬儀で見た顔は、想像以上に先生の顔をしていて、認めるしかなかった。
旦那さんのいない、男気のない葬儀場がやけに自然で、余計に涙腺を刺激した。
- 215 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月22日(金)13時48分37秒
- おしまい
- 216 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月22日(金)13時53分48秒
- ……・゚・(ノД`)・゚・
何でこんな説明不足な話に…。
もっと克明に描写する気でいたのに…すみませんすみません。
>>207
フカヒレスープは漢字を当てると「聖水」ですからね。
ええ、嘘です。
また人を殺してしまいました、すみません。
>>208
次回作はあなた様の作品を見習って、久々に綺麗な話を書くつもりです。
お待たせしてこんな話ですみません。
- 217 名前:lou 投稿日:2002年11月22日(金)13時55分33秒
- 最近流行ってるようなので次回予告。
「シングルブルー」です。
タイトルにしておきながらようやっと読みましたので(エッセイでしたが)
そんな感じでいきたいと思います。
- 218 名前:184 投稿日:2002年11月23日(土)12時02分14秒
- いい。
こう言う、何とも言えない
読後感好きなんですけど。
自分だけですか。そうですか。
- 219 名前:LVR 投稿日:2002年11月25日(月)02時59分42秒
- 今回のものは、また切ないですね……。
綺麗な話。余計残酷になるのではないかと怯えております(w
それでは、次の更新を期待してます。
- 220 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月27日(水)23時44分26秒
- 十七本目。
- 221 名前:深夜徘徊 投稿日:2002年11月27日(水)23時45分58秒
- 「おねえさん」
闇を切り裂き、低音の重みのある女声が響いた。
公園を遊歩していた女性が声の方に振り返ると、帽子を逆にかぶった少女が微笑を携えながら石階段に腰掛けていた。
「なに?」
「なにしてるんですか?
もう一時になりますよ」
「そっくりそのまま、アンタに返せるけどな、その言葉」
「だって、さっきからおんなじ所をぐるぐる回ってるから」
少女はよっ、と小さく声を上げ女性に駆け寄ると、少し大きめの背中をかがめ耳元で囁いた。
「そんな綺麗な顔してるんだから、襲われちゃいますよ」
少女の言葉に、女性は一瞬表情を崩したが、すぐに穏やかな顔を取り戻した。
「アンタか?
いっつもこの時間に公園におるのは」
「おねえさんいつも何やってるんです?
十二時回ると現れて、一時間ぐらいふらふらして帰って。
襲って欲しいんですか?」
- 222 名前:深夜徘徊 投稿日:2002年11月27日(水)23時47分42秒
- んー、と間の抜けた声を上げた女性を少女が覗き込む。
その声に気付いたらしく、女性が呟いた。
「襲って、言うたら襲ってくれるん?」
「んー、むしろこっちからお願いしたいくらいで」
「アタシ来年で三十なんよ」
「そそりますね」
「アホか」
女性は少女を小突く真似をし、少女をそれを巧みにかわす振りをした。
その一連の動作を終えると、女性は小さくため息をつき話し出した。
「アンタ、綺麗な顔してるんやろなきっと」
「何言ってるんです?」
「目ぇ見えへんのよ。
悪いけど、アンタの顔はサッパリ分からん」
- 223 名前:深夜徘徊 投稿日:2002年11月27日(水)23時48分30秒
- 初めて、少女の方が表情を崩した。
女性の見開かれた青い瞳をじっと眺めてみるが、女性は何一つアクションを起こさない。
「だって、いつもここにいるじゃないですか。
どこ住んでるのか知りませんけど、道路渡らなきゃ来れないんですよ」
「なんや、あるやん有名な話。
どっかが悪い人は、代わりにどっかがえらく敏感になるって。
アタシは生まれつき目が見えへんかったから、代わりに耳が発達したんやろな」
「そんな、いくら耳が発達したって言ったって、目が見えないのに歩き回れるんですか?」
「だから、ある程度音で分かるんやって。
アンタがおった事も、まぁアンタと断定は出来んかったけど分かってたしな」
少女が唖然としていると、女性はイタズラっぽく言葉をつなげた。
「人の心配はええけど、アンタこそ彼とは決着ついたん?」
突拍子のない女性の言葉に少女が一瞬うろたえる。
- 224 名前:深夜徘徊 投稿日:2002年11月27日(水)23時50分22秒
- 「何で知ってるんですか?」
「最近はそうでもなかったけど、アンタココに来るたび泣いてたやん。
どうせ振られたかなんかやろ?」
「そんなことまで分かるんですか」
女性が小さく頷く。
少女は見られていないことを分かっていながら、恥ずかしそうに頬を掻いた。
「それじゃあ、おねえさんは何でいつもココに来るんです?
いくら耳がいいって言ったって、やっぱり危ないんじゃないですか?」
「危ないよ。
ていうか、むしろなんかして欲しいって感じやな」
「意味わかんないですよ」
女性は自虐的に小さく笑うと、少女に手を貸すよう求めた。
少女が手を差し出すと、その手を真っ直ぐに己の耳に持っていった。
- 225 名前:深夜徘徊 投稿日:2002年11月27日(水)23時51分52秒
- 「死にたいんや。
いくらこんな性能のいい耳があっても、やっぱり目が使い物にならん言うのは痛いで。
お陰で立派な歳して無職やしな。
こんな真夜中に、腐っても二十九の女が一人で歩いてるんやから、何か問題起こらんかなぁと期待してたんやけどな。
釣れたのはオトコに振られたばっかりの不良少女一匹だけ。
もう自分に呆れたわ」
最後の方は冗談めかして締めくくった。
「悪かったですね、色気も魅力もゼロの不良少女で」
「まぁ自分の事は自分が一番よく知ってるからな。
アンタがそういうなら色気も魅力もゼロなんやろ」
「凄いムカつきますねおねえさん」
揚げ足を取られた少女は頬を膨らませ、女性のわき腹に腕を伸ばし抱きしめた。
突然の事に女性は身を固くし、少女はまるでそれに気づいていないかのように唇を耳元に寄せる。
- 226 名前:深夜徘徊 投稿日:2002年11月27日(水)23時52分43秒
- 「決めましたよ」
「なにを?」
「私おねえさんの事気に入ったから、私が殺します。
一人暮らしの私の家に連れ込んで、メチャクチャに犯してから首絞めます。
おねえさんのその青い瞳が好きだから、殺したあと目を抜き取ります。
今まで一人で寂しかっただろうから、いつまでも私が一緒に添い寝してあげますよ」
少女の言葉に、女性は声を上げて笑った。
しかしそれは下品でない、丁寧な丁寧な笑い方。
「お願いするわ。
ただ、死体が見つかったときに裸って言うのだけは勘弁してもらいたいけどな」
「不気味ですよ、しわしわの身体で目が抉られてる女の死体なんて」
「誰がしわしわやねん」
「だから、今から拉致して確かめるんじゃないですか」
空を一筋の星が流れた。
少女は笑いながら女性の手をとり、女性も笑いながら少女に引かれた。
それ以降、二人はこの公園に現れていない。
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月27日(水)23時54分46秒
- おしまい
- 228 名前:lou 投稿日:2002年11月28日(木)00時02分30秒
- 得意の説明不足キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
次回予告も裏ギッタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
…ごめんなさいごめんなさい。
>>218
最近また生活狂ってきました。
今はゴマーが乗り移ったかと思うほどいつも眠いです。
そのくせ徹夜とかしてるアフォですが。
>>219
もう、なんていうかレスの内容なんてどうでもいいや感が滲み出てて大好きです。
応援してますので頑張ってください。
- 229 名前:lou 投稿日:2002年11月28日(木)00時04分21秒
- 次回こそ「シングルブルー」で。
- 230 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月28日(木)00時31分14秒
- 今までで一番いいです。
これはそんなに説明不足じゃない。
説明しなきゃいけないところは説明して後は読んだ人におまかせという感じで。
- 231 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月29日(金)15時51分22秒
- ラスト。
- 232 名前:シングルブルー 投稿日:2002年11月29日(金)15時52分07秒
- 楽屋で一人昼の弁当を食べる時、当然ながら寂しい。
家に帰っても誰も迎えに出てくれず、酒に浸る夜、寂しい。
「相手がいないんだよね」冗談でいじられる、寂しい。
ココ最近、つとにシングルの憂鬱に駆られるようになって来た。
好きでシングルでいるわけじゃない。
肩肘張ってるわけでもない。
ただ相手がいない、理想の相手が。
「その歳になって理想なんて追い求めてちゃ駄目だよ」
矢口やなっちは無責任にそういう。
けれどそうだろうか。
歳をどれだけ重ねたって、胸を焦がすような恋愛をしてみたい。
妥協点を見つけるような作業はしたくない。
その結果一生シングルなら、それはそれで仕方ない。
寂しいけれど。
- 233 名前:シングルブルー 投稿日:2002年11月29日(金)15時52分48秒
- 「中澤さんも色々考えてるんですね」
「失礼やで自分」
ハロモニの収録日は、絶対にモーニングの誰かといられるから好きだ。
一人寂しく昼を過ごさないだけで、かなり違う。
今日は吉澤を引っ張ってきた。
「結婚する気がないわけじゃなかったんですね。
吉澤はてっきりこのまま独身かと」
「わからん、もう独身のままかも知れんけど」
かなり前になるけれど、吉澤とは不仲説が流れたことがあった。
接点が少なかったから流れたらしいのだが、はっきり言って不仲だったと思う。
特に話もしなかったし、楽屋で二人きりになったときはどうしていいか迷った。
まぁしかし、ずっと一緒にいれば時間が解決してくれるわけで。
今は一人きりの楽屋に引きずり込んで愚痴を聞かせる仲になった。
- 234 名前:シングルブルー 投稿日:2002年11月29日(金)15時53分38秒
- 「どういう人が好みなんです?」
「カッコイイ人」
「そんなら、いくらでも転がってるじゃないですか」
「あかんねやなぁ、なんかこうグッと来るもんがないと」
こりゃ駄目だといった感じで吉澤が首を振る。
「どういうのがぐっと来るんです?」
「そんなんしらへんよ」
「それじゃ無理ですね、吉澤で我慢してください」
さらりと言って笑う。
- 235 名前:シングルブルー 投稿日:2002年11月29日(金)15時54分21秒
- 関係がよくなってから、吉澤はよくこんな事を言うようになった。
別におかしな関係と言うわけではない。
キスの回数は倍増どころか三倍増四倍増にはなったけれど、
いいコトをしてたりいいトコを知ってたりはしない。
「あかんよ、吉澤全てがやらしいもん。
アタシはこう、清らかな人がええね」
「清らかなカッコイイ人なんていませんよ」
「だからそれを探してるんやないの」
今度こそ、もう駄目だと吉澤が大きくかぶりを振る。
やはり理想が高いのだろうか。
「信じられませんね。
今日び中学生でも身分をわきまえてますよ」
「悪かったね」
身分不相応らしい。
それでもしょうがない。
- 236 名前:シングルブルー 投稿日:2002年11月29日(金)15時55分05秒
- 「まぁいいや。
お弁当食べ終わったから帰りますね」
「ああ、お疲れさん」
モーニングは朝で仕事は終わりだったらしい。
私はまだ仕事がある。
帰り支度をしている吉澤に声をかけた。
「なんかいい人おったら紹介してや」
「だから吉澤でいいじゃないですか」
「写真持ってきてな」
「無視ですか。
まぁいいや、吉澤的チョイスで何人か紹介してあげますよ」
言いながら吉澤が部屋を出る。
そしてまた一人になる楽屋。
本当にシングルは憂鬱だ。
- 237 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月29日(金)15時55分40秒
- おしまい
- 238 名前:lou 投稿日:2002年11月29日(金)16時06分25秒
- と言うわけで終了宣言sage。
以上の作品を持ちまして、こちらのスレでのなかよし書きを終了したいと思います。
いくつか理由がありますので、馴れ合い大好きな自分は語りたいと思います。
このスレを立てた理由は大きく二つありまして、一つは自給自足のため。
もう一つはこの話を読んでもらって、
「なかよし萌え」
「何だこの話は!俺ならもっといい話が書ける!」
と思った方になかよしを書いてもらうためです。
なかよしを広めたいというのはおこがましいですが、まぁつまり自分が読みたかった。
そして、最近の様子を見ればお分かりですが、確実になかよしは増えてきています。
それはもう、自らの足を食わなくてもいいほどに。
- 239 名前:lou 投稿日:2002年11月29日(金)16時13分14秒
- だとすればもうこのスレの存在意義などありません。
作者がキティガイで文に波があり、話は一般受けしない。
(最後の話も、思い切り個人的な、今僕が最も萌えるなかよしを読者無視で書くほどですから。)
好きだといってくださる方もおられましたが、今後もっと作品数が増えれば、
僕が書いた話を容易に上回る作品が出回ることでしょう。
まぁ要は、今後はなかよし書きではなく読みになろうとそれだけですが。
- 240 名前:オニオン 投稿日:2002年11月29日(金)16時13分18秒
- ちょっと待ってよ。
すごい展開で唖然としてますとも、ええ。
ここを心の憩いの場にしてたのに。
…整理出来ないので確認。
別cp書くって事?
それとも別の所で書くって事?
- 241 名前:lou 投稿日:2002年11月29日(金)16時20分41秒
- Σレス付いてる。
>>240
なかよしの未来は明るいと思います。
オニオンさんを始め色々な方が興味を示してくれているようですし。
それに、僕はなかよしが一番であることは確かですが、他にも好きなCPがあります。
それも自給自足が必要なものばかり(苦笑
今後(まだ未定ですが)は、たちの悪い病気みたいにそっちを皆様に植え付けようかと。
偉そうに言ってますが、やろうとしてることは今と同じです(w
なかよしが浮かんだら白にでも書くことと思います。
とりあえずなかよしは休憩と言うことで。
- 242 名前:オニオン 投稿日:2002年11月29日(金)16時34分05秒
- …言い忘れたので。
たくさんのなかよしを
有難う御座いました。
別cpだって待ってます。
- 243 名前:lou 投稿日:2002年11月29日(金)16時37分12秒
- と言うわけで、今まで読んでくださった皆様ありがとうございました。
クドクドとコトあるごとに「なかよし書け」と連呼しましてお騒がせしました。
食ったり食われたり抉ったり殺したり、幸せな話は結局一本も書いてません。
それでもお付き合いいただき、さらにレスまで下さった方には感謝してもし足りません。
>>230
そういっていただき嬉しいです。
ありがとうございました。
>>242
あとはもう僕は無責任に楽しませてもらいます。
頑張ってください。
今一度、厨房な作者に付き合っていただき有り難うございました。
- 244 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月04日(水)19時32分20秒
- や、久々にネットに繋いでおるワケですが。
相も変わらず、アナタの引きの早さには脱帽です。潔すぎ。
またいつの日か、アナタ様のなかよしに出会えることを信じつつ、
そろそろ捧げものを致します。時節柄、お歳暮がわりってことで。
お疲れ様でした。
- 245 名前:lou 投稿日:2002年12月06日(金)01時14分47秒
- >>244
いつそんなに潔い引きのよさを見せ付けたのかさっぱり覚えてませんが(w
シュバッと身を引かせていただきました、ハイ。
お歳暮キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
楽しみにしてますです。
ところで昔言ってた「そろそろ落ち着いて書けなくなるからなぁ」
ってのはなんなんでしょうか?
まさかいさぎよ(略
そんなことがないよう願っています。
- 246 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月12日(木)21時39分46秒
- こんな事を書いてしまうのは完璧にスレ汚しで恐縮なんですけど…
もし宜しかったら、天上天下〜の続きをこちらで書いてもらえないでしょうか…。
自分は同じ作者様だと認識しているのですが、違うぞゴルァ!!でしたら申し訳ありませんm(_ _)m
失礼しました。
- 247 名前:lou 投稿日:2002年12月16日(月)13時25分31秒
- 天上天下…ガクガクブルブル。
いや、すみません、申し訳ないんですが、拒否させていただきます。
今から生半可に続けても、また放棄するのが目に見えていますので…。
楽しみにしていてくださったとしたら大変申し訳ありません。
金輪際飼育では長いの書きません。
本当にスミマセンでした。
- 248 名前:246 投稿日:2002年12月27日(金)21時21分30秒
- いえ、無理を言っているのは百も承知だったので。
お返事が貰えただけで十分です。
これからも、ガンガッテ下さい。
それでは、良いお年を。
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