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初めての林間学校

1 名前:みや 投稿日:2002年10月01日(火)00時10分21秒
新垣一人称アンリアル。
加護、紺野と同じクラスの新垣。
彼女達が2泊3日の林間学校に行きました・・・。
という話し。

本文はレス2から
2 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)00時11分09秒
 紺ちゃんは輝いてた。
 隣にいる亜依ちゃんも、いつも元気でうらやましかった。
 私とは違う。
 私には、何もない。
3 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)00時11分55秒
 あしたから林間学校へ行くというこの日に、紺ちゃんの大会を見に私と亜依ちゃんは
陸上競技場へとやってきた。
 2年生なのに3年生達にまじって県大会に進んだ紺ちゃん。
 普段はおとなしく見えるのに、なんであんなにも早く走れるのだろう。
 亜依ちゃんは私の隣で大きな声で声援を送っている。
 長距離は声援が大事だ! なんて張り切って横断幕まで作ってきて、紺ちゃんに恥ずかしい
からやめて、って怒られてた。
 そうやって、他人のことを必死になって応援できる亜依ちゃんがうらやましい。
 私には、出来ない。
4 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)00時12分41秒
 紺ちゃんはレースを終えて戻ってきた。
 目標の5分を切って、8番に入賞して。

 「紺ちゃんすごいかっこええんやな。絶対転ぶとか思ってたのに」
 「そんな、めったに転ばないよ。でも、千五って、スタートの時、人が多いからよくぶつ
かるんだよ。市大会の時、私も転んじゃって・・・」

 珍しくテンションが高くてよくしゃべる紺ちゃん。
 いつもおとなしくて、勉強が出来て、スポーツも出来て、そんな紺ちゃんの新たな一面。
 こんな紺ちゃんもすごくかわいい。
 それにあわせて話してる亜依ちゃんもみんなの人気者。
 勉強はそんなに出来るわけじゃないし、スポーツもそこそこ。
 だけど、いつも笑顔で、いつも元気で、みんなのために一生懸命で。
 だからみんなの人気者。
 そんな二人が、なんで私なんかといつも一緒にいてくれるのだろう。
 分からない。
5 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)00時13分13秒
 ふと気づくと、紺ちゃんは歩いて行ってしまいました。

 「あれ、紺ちゃんどこ行くの?」
 「賞状もらって、先生のところに戻るって言ってたやん、聞いてなかったん?」
 「うん」
 「理沙ちゃん、紺ちゃんやないんやから・・・。まあ、えっか、かえろ」

 加護ちゃんは呆れ顔。
 でも、紺ちゃんみたいって言われるのはちょっとうれしかったりする。
6 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)00時13分43秒
 明日の準備しなきゃね、って言いながら帰る。
 亜依ちゃんとは途中の駅で分かれた。
 一人ぼっち。
 これが本来の姿のような気がする。
 亜依ちゃんと紺ちゃんの他は、学校に友達はいなかった。
 だから、林間学校は少し憂鬱。
7 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)00時14分23秒
 「ただいまー」
 「お帰り。理沙、明日の準備しときましたからね」
 「はーい」

 はー・・・。
 やっぱりな、と思う。
 ママは、私のことは何でもやってくれる。
 塾を選んだのはママ。
 私が入る学校を選んだのもママ。
 お部屋の掃除もしてくれる。
 お弁当も作ってくれる。
 私の友達もママが選ぼうとしてた。
8 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)00時15分26秒
 やさしくて、きれいでとってもいいママなんだと思う。
 でも、だけど、私だって、自分でいろいろとやってみたいよ。
 友達のこととかは、あんまり口を出して欲しくない。
 勉強の出来る紺ちゃんはいいけど、そうでもない亜依ちゃんとは仲良くしちゃダメなんて
いわないで欲しい。
 私には、二人しかいないんだから。
9 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)23時39分40秒
 私は、学校でいじめってやつにあってた。
 理由は、裏口入学したってうわさがあるらしい。
 通っている塾の先生は、うちの中学の校長先生と仲がいい。
 ママが、塾の先生によくお土産とかいろんな物を送ってたから、そんなうわさが立ったみたい。
 私が勉強できたらそんなうわさもなくなったのだろうけど、テストの点数は、学年でもビリの方。
 これだけいろんな証拠がそろっちゃったら、私だってその子をいじめるかもしれない。
 でもね、入学試験は出来たんだよ。
 ホントに。
 全然みんな信じてくれないけど、入学試験は自分でもびっくりするくらい出来た。
 面接でも、はきはきしゃべれたと思う。
 ママは、「この学校に入りたいって気持ちがそうさせたのよ」って言ってた。
 本当は私が入りたいって言うより、ママに喜んでもらえるって気持ちのが大きかったけど。
10 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)23時40分19秒
 1年生の1学期の中間テスト。
 私はクラスでビリだった。
 それまで、陰で私のうわさをしてた子達が、表立って私のことをいじめるようになったんだ。
 「死ね」って何度も言われた。
 上履きも隠された。
 体育の時間にボールをぶつけられるのなんてしょっちゅうだった。
 1学期は、そんな風にして終わった。
 学校へ行かなくてすむ夏休みが待ち遠しくて仕方なかった。
 2学期が始まる。
 学校なんか行きたくなかったけど、ママを困らせたくなかったから宿題を抱えて仕方なく学校へ行った。
 私の机には、花瓶が置いてあった。
 泣きたくなったけど、歯を食いしばって耐える。
 なにごともなかった様に片付けなきゃ、とおもって席へ向かうと、突然横から手が伸びてきた。
11 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)23時41分10秒
 「誰や、こういうことするの!」

 亜依ちゃんだった。

 「誰や! 答えい! おらんのか? おらんのならこの花うちがもらうで」

 そう言って亜依ちゃんは花瓶を窓際の金魚の水槽のとなりに置いた。
12 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月01日(火)23時42分09秒
 あの時、なんで亜依ちゃんが急に私のことを救ってくれたかは今でも分からない。
 でも、クラスの人気者の亜依ちゃんが助けてくれたおかげで、表立っていじめられることは
無くなっていった。
 それでも、影ではいろいろいわれてたし、バカにもされる。
 授業で指名されて、答えられないとくすくすとバカにしたような笑いが起きたし、消しゴム
を投げられたりもした。
 そんな状況から救ってくれたのは紺ちゃんだった。
 10月の席替えで隣の席になった紺ちゃんは、私が授業で当てられて困っていると、すぐに
助けてくれた。
 目立たないけれどひそかにみんなの尊敬を集めている紺ちゃん。
 彼女と私が近づいたことで、私はみんなからいじめられることは無くなった。
 その代わり、いまでも他の友達はいない。
13 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月05日(土)00時42分56秒
 いつもよりも少し早い朝。
 それでも、目が覚めるといつものようにお味噌汁のいい匂いがした。

 「理沙、おはよう。お弁当出来てるわよ」

 テーブルには、ご飯と、わかめのお味噌汁、玉子焼き、塩鮭が並んでる。
 お弁当箱からはハンバークがのぞいて見えた。
 台所に立つママの背中を見ながらの朝ごはんだった。
14 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月05日(土)00時43分41秒
 いつもより少し早く起きると、いつもの朝のテレビとは少し違って新鮮な感じ。
 そろそろ着替えて準備しなきゃ、と思うけどなんとなく席を立ちにくい。
 でも、時間は押し迫ってくる。
 この占いのコーナーが終わったら、着替えてこよう。
15 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月05日(土)00時44分15秒
 「理沙。そろそろ着替えて来ないで大丈夫なの?」
 「わかってるよー」

 最近、こうやって先回りするママがちょっとわずらわしく感じる。
 言われなくたって分かってるよ。
 そう思うことが多い。
16 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月05日(土)00時44分53秒
 部屋に戻って着替える。
 いつもは制服だけど、林間学校の間は私服で動く。
 だから、理沙のファッションセンスをみんなに見せるために、悩みに悩んで選び抜い
た服を来ていくんだ。
 本当は、フリルのついたスカート、といきたいところだけど、山歩きをするから下は
ジーンズでクールに決める。
 とっておきのブルージーンズを選んだ。
 じゃあ、それで上を思いっきり、おっしゃれー、にしたかと言うと、Tシャツなんだけど。
 あまり気の進まない林間学校だから、せめて服くらい、自分の満足いくものじゃないと、
のりきれない気がした。
17 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月05日(土)00時45分23秒
 かばんを抱えて階段を降りて行く。
 玄関に荷物を置いた。

 「理沙。お弁当持ったの?」

 だから、今お弁当とって、薬飲んで、それで出かけようと思ったのに。
 軽くため息をついて台所に向かう。
 お弁当を持って行こうとすると、またママは言うんだ。

 「ちゃんと、お薬飲んでから行きなさいね」

 もう、限界だった。
18 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月05日(土)00時46分06秒
 「なんで、ママはいつもそうやって理沙がこれからしようとすることを先回りするの?
自分で出来るよ。余計なこと言わないでよ」
 「そんな、怒ることじゃないじゃない」

 怒ることなの!
 なんでそれが分からないの?

 「私だって、自分のことは自分でしたいの。もういい、行って来ます」

 かばんにお弁当を詰め込んで、私は家を出た。
 ママは、お薬飲んで行きなさい、ってドアの前で言ってるけど無視。
 大丈夫だもん、薬なんか飲まなくたって。
 たぶん。
19 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月06日(日)21時57分23秒
 学校につくと、もうみんな結構集まってた。
 紺ちゃんは、なんとなくイメージどおりたくさんの荷物を詰め込んだ大きなかばんを抱えている。
 亜依ちゃんはまだ来てなかった。

 「おはよう」
 「おはよう」

 亜依ちゃんがいなくて、紺ちゃんと私だけだと会話がこれで終わってしまう。
 紺ちゃんは、話し掛けられないといつまでもだまったままで平気だし、私は、話せばたくさん話すんだけど、紺ちゃんの静かな雰囲気が好きだったから、自分から話しかけることはあまりしない。
 しばらくして、時間ぎりぎりに亜依ちゃんが来た。

 「おはよう。もう、遅刻ぎりぎりだあ。なんか、いつもより早いから眠うて・・・」

 亜依ちゃんは、ほっといてもよく話す。
 そんな亜依ちゃんの雰囲気も私は好きだ。
20 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月06日(日)21時58分15秒
 わいわいがやがや、そんな感じの中、バスは動き出す。
 私の席は通路側で、となりは紺ちゃん。

 友達が少ないと、バスの席決めなんかでも、いちいちはらはらする。
 紺ちゃんと亜依ちゃんが隣同士で座ったら、私余っちゃうから。
 亜依ちゃんなら、私や紺ちゃんがいなくても、誰がとなりでも全然平気だからいいよね。

 それで、紺ちゃんと隣に座ったんだけど、ずーっと静かなの。
 静かなのは、普段はいいんだけど、今日はきつかった。
 だんだんつらくなってくる。
 私は、バスが苦手だった。
 動き出して1時間、高速に入った頃、完全に私はバス酔いでダウンした。
21 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月06日(日)21時59分03秒
 紺ちゃんはずっと背中をさすってくれた。
 私は、エチケット袋ってのに口をつけっぱなし。
 大丈夫? って前の席からのぞきこんでくる亜依ちゃんに答えることも出来ない。
 やっぱり、ちゃんと薬飲んでくればよかったな。
 でも、ママが悪いんだよ。
 あんなタイミングで薬飲みなさい、なんて言うから。
 あー、もう助けて。
 苦しいよう。
 早く停まって。
22 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月06日(日)21時59分45秒
 祈り続けること30分。
 ようやく、パーキングエリアで休憩になってくれた。

 「大丈夫? 座ってる? 外出る?」
 「外出る。空気吸う」

 バスを出ると、外は入道雲が立ち込める、いかにも真夏ですって感じの天気で暑かった。
 気持ち悪さに耐えるのに必死で、疲れ果てていた私は、道路わきに座りこむ。
 うちのクラスの子や、他のクラスの子も何人か、そんな私のことを見ながら通り過ぎて行った。
 「また吐いたんだ、汚い」とか言ってるんだろうな、きっと。
 でも、事実だから仕方ないし。
23 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月06日(日)22時00分34秒
 「理沙ちゃん、なんか飲んだら? ただの麦茶でよかったらあるけど飲むか?」

 紙コップを持って亜依ちゃんが私の前に立った。

 「いいの?」
 「うん。ただやから」
 「ありがと」

 亜依ちゃんから紙コップを受け取り、麦茶だけどごめんなさい、とおもいながら軽くうがいする。
 のどのいがいがした感じが取れていった。
 次に、一口軽く口にした。
 体全体がスーッとしていくみたい。
 急に、楽になった感じがした。
 残りの麦茶を一気に飲み干す。
24 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月06日(日)22時01分13秒
 「ごめん、全部飲んじゃった」
 「ええよ、別に、理沙ちゃんのために持ってきたんやし」

 亜依ちゃんはそう言って、私の隣に座る。
 それと同時に、紺ちゃんがやってきた。

 「理沙ちゃん、麦茶飲む?」

 紙コップを二つ持ってきた紺ちゃんを見て、亜依ちゃんはうけている。

 「紺ちゃん、遅いで。理沙ちゃんにはうちがもう持ってきたから、それ、うちがもらうは」
 「えっ、そうなの?」
 「うん。おいしかった」

 紺ちゃんは不満そうな顔をしつつも、紙コップを亜依ちゃんに渡した。
25 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月06日(日)22時01分55秒
 「理沙ちゃん、復活?」
 「うーん、どうだろ。バス乗ったらまたわかんない」

 ちょっと、元気でた気はするけど、正直、また揺れるバスに戻ったらどうなるか分からない。

 「絶対に酔わない方法教えたろか?」
 「そんなのあるの?」
 「ある!」

 自身満々な亜依ちゃん。
26 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月06日(日)22時02分39秒
 「人って言う字を手のひらにかいて三回飲みこむといいらしいで」
 「それ、緊張しないおまじないだよ」
 「似たようなもんや。理沙ちゃん、やってみ」

 紺ちゃんの突っ込みにもめげない亜依ちゃん。
 私は、言われた通りにやってみた。

 「よし、これでバスにのってもへちゃらやでー」
 「へっちゃらやでー」
 「紺ちゃん変や」
 「まねしただけなのに」

 おどける紺ちゃんもかわいかった。
 もしかしたら、わたしが元気出るように頑張ってくれてるのかな?
 おかげで、ちょっぴり元気になったよ。
27 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時17分46秒

 バスに戻る。
 紺ちゃんが席を代わってくれたので窓側に座った。
 さっきと違って、紺ちゃんはいろいろと話してくれた。
 おうちのこと、陸上部のこと、いろいろ。
 私は「うん」とあいづちをつくことしか出来ないけど、それでも、紺ちゃんはたくさんお話してくれた。
28 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時18分28秒
 「なあ、二人とも、UNOせえへん?」

 亜依ちゃんが前の席から声を掛けてくれた。
 隣の子も顔を出している。
 ほとんど話ししたことない子なんだけど・・・。

 「うん、やろう! 理沙ちゃんも」

 私がためらっていると、紺ちゃんが決めてしまった。
 通路の反対側の席の子達も混ぜて補助席を舞台にした8人でのUNO 。
 学校でも休み時間にゲームをしている姿はたまに見かけるけど、私は参加したことはなかった。
 ホントは紺ちゃんだけ誘いたかったのかな? なんて思ったりもする。
29 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時19分12秒
 ゲームにもいろいろとルールがあるらしい。
 私は、すごくシンプルなのしか知らなかったけど、今日のルールは枚数が際限なく増えていくようなルールらしい。
 Draw two に Draw four を重ねられるどころか、その逆もありだし、Draw fourをあてられても、色さえ合えばskipで飛ばすことも出来る。
 なんか、恐ろしいルールだなあ。
30 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時19分45秒
 こんなところでも私だけ集中砲火にあったらどうしよう、なんて思ったけど、そんなことはなかった。
 やってみると結構楽しい。
 隣の紺ちゃんは、わたしがDraw Twoを出すと、ちょっと悩んでから素直に2枚山から受け取る。
 亜依ちゃんは、自分にDraw TwoやDraw fourが来ると、意地でも他に飛ばそうとする。
 素知らぬ振りして、普通の数字カードを出してはみんなに突っ込まれてた。
31 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時20分20秒
 ゲームは進む。
 だんだん数字のカードばかりみんな出すようになってきた。
 私が残り二枚になると、紺ちゃんはまるで待っていたようにDraw four を出した。
 でも、順番は逆だから私には関係ない。
 そう思って見ていると、みんなDraw twoやDraw fourを次々と乗っけていく。
 12枚になったところで加護ちゃんがskipを出した。
 Skipで飛んでくるのは私。
 でもね、こんなこともあろうかと、私はちゃんと切り札を隠し持ってたんだ。

 「UNOで黄色」
32 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時20分56秒
 Draw fourを出して、UNOを宣言。
 残りは1枚。
 自信たっぷりな私を見て、紺ちゃんは微笑んだ。
 可哀想に16枚もとるなんて。
33 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時21分41秒
 「reverseだよ理沙ちゃん」

 紺ちゃんは黄色のreverseカードを出した。
 私は手元の黄色の6を見つめる。

 「うそー!!」

 私の声にみんなが大笑いした。
 泣く泣く16枚を山から取る。
34 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時22分16秒
 「理沙ちゃんも詰めが甘いな!」

 そう言って亜依ちゃんがUNOを宣言した。
 でも、やっぱり集中砲火を浴びて8枚取らされている。
 結局一番で上がったのは紺ちゃんだった。
 私は、最後まで残って、ビリを亜依ちゃんと争う。
 これじゃあ、学校の勉強と一緒だよー!!
 亜依ちゃんと二人での熱戦が10分近く続く。
 反対側の席の子達は飽きてしまって、おしゃべりを始めている。
 紺ちゃんと亜依ちゃんのとなりの子は、私達に付き合ってくれた。
 最後は結局、skipを6枚貯めこんだ亜依ちゃんが7枚続けて出して上がり、私が負けてしまった。

 「よーし、もう一ゲームやるでー!」

 亜依ちゃんがそう叫ぶと、反対側の席の4人もまた加わってくる。
 いいなあ、人気者って。
35 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月10日(木)23時22分51秒
 サービスエリアでバスに乗ってからの時間はあっという間だった。
 何ゲームUNOをやっただろう。
 夢中だったから分からない。
 気づいたら目的地についておひるごはんになってた。
36 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月13日(日)21時44分23秒
 「理沙ちゃん、弱すぎや」
 「しょうがないじゃん・・・」
 「亜依ちゃんも結構負けてたよね」
 「紺ちゃんが強すぎなんやて。ことごとくDraw fourをreverseやskipで返すの無しや」

 山道に入る前の広場のようなところでのおひるごはん。
 話しも弾む。
 テーブルには、私達3人だけじゃなくて、さっき一緒にUNOをした子も何人かいた。
 やっぱり私からは話しづらいなって思う。
37 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月13日(日)21時45分03秒
 「理沙ちゃんのお弁当おいしそう!」

 亜依ちゃんが私のお弁当をのぞきこむ。

 「ハンバーグええなあ。うちのおかあちゃん、和風なもんばっかいれよる」

 そう、ぶーたれる亜依ちゃんのお弁当は料亭で出てくるんじゃないの? って思わせるられるような感じだった。
 でも、一番すごいお弁当は紺ちゃんのだった。
38 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月13日(日)21時46分08秒
 「紺ちゃんのお弁当、パン?」

 お弁当箱に器用に詰め込まれたパンの数々。
 こんなお弁当箱初めて見た。

 「おかあさんに頼むと、大人の人たちと同じのにされちゃうから、自分で作ったんだ。
でも、あんまり料理とか出来ないし、それで、自分の好きなのをいれようと思ったら、
パンになっちゃった」

 紺ちゃんの家は、造り酒屋。
 たくさんの職人さん達のアイドルだったりするみたい。
 そういえば、ご飯がいつも和食ばっかりってこぼしてたっけ。
 だからって、お弁当箱にパンを詰めこむなんて、紺ちゃん以外にありえない。
 サンドウィッチじゃないんだよ。
 クリームパンにフレンチトーストにアップルパイ。
39 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月13日(日)21時46分46秒
 「それも自分で作ったん?」

 紺ちゃんのお弁当箱には、パンの他に、さつまいもの煮付けが入っていた。

 「うん。唯一の得意料理」

 料理も自分でしちゃうのか。
 なんか、私自身のこと考えると、ちょっと悲しくなる。
 でもさあ、パン三つとサツマイモの煮付けって、お弁当としてありえるの?
40 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月13日(日)21時47分34秒
 みんなでおかずをこうかんこしながらのお昼ご飯。
 学校の給食とは全然違う。
 嫌いな物も入ってないし。
 最近は席が遠くて、一緒には食べてない亜依ちゃんも紺ちゃんもいる。
 外だからちょっぴり暑いけど、森が日差しをさえぎってくれて、たまに通る風が気持ちいい。
 こんなに楽しくお昼を食べたのは久しぶりなことのような気がした。
 ママのハンバーグはすごく評判がよかった。
41 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月14日(月)23時30分37秒
 午後は最初の山歩き。
 今日は、ホテルに泊まるから荷物のほとんどはバスが運んでくれててらくちん。
 亜依ちゃんは、拾った木の枝を振り回しながら走り回っている。
 私は、列の後ろの方で紺ちゃんとのんびり歩ってた。
 森の奥まで進んでくると、真夏なのにTシャツ一枚だと少しひんやりする。
 思いっきり伸びをすると、なんか気持ちいい。
42 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月14日(月)23時31分13秒
 「どおしたの? 急に」
 「なんとなく。なんか気持ちいいんだもん」
 「うーん、ほんとだ」

 紺ちゃんも、私と同じように伸びをした。
 気持ちよさそうな顔が可愛い。
 なんかずるいなーって思う。
 何でも出来て、その上こんな小さなしぐさまでも可愛いんだもん。

 「二人とも、とろとろあるってると置いてくで」

 亜依ちゃんが戻ってきてそれだけ言うと、また前の方へと走り去っていく。
 元気だなあ、あんなに走り回って。
 私は、楽しいんだけどちょっとつまらなくて、ジーンズのポケットに手を突っ込んで歩いていた。
43 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月14日(月)23時31分43秒
 森中で泣いているミンミンゼミの声。
 木々の間から見える太陽と入道雲。
 ああ、林間学校なんだな、って思う。
 しばらく進んでいくと、エメラルドグリーンに光る湖も見えてきた。

 「きれいなのか、きれいじゃないのかわかんないね」

 紺ちゃんはそう言って湖の方に歩いていく。

 「変だよね。湖なのにグリーンなんて」

 私も紺ちゃんについて岸辺に。
 湖の水を手にすくってみた。
44 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月14日(月)23時32分24秒
 「飲めるかなあ?」
 「やめたほうがいいよー」
 「手にとってみるとグリーンじゃないね、透明だ」

 手にすくった水を何度も繰り返し湖に流しながら紺ちゃんは、なんで透明なのかなあ? 
なんでグリーンなのかなあ? とぶつぶつ言っている。

 「光のあたりかたかなあ? 発光する生き物とかいるのかなあ?」

 いろんなことを考えられる紺ちゃんって、やっぱり頭いいなあって思う。
 私は、きれいだな、不思議だな、で終わっちゃう。
 しきりに水を手にすくっては流しを繰り返す紺ちゃんを横に、私は立ち上がる。
 ふと横を見ると、「しー」と唇に人差し指を合わせた亜依ちゃんが近づいてきた。
45 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月14日(月)23時33分02秒
 亜依ちゃんは、紺ちゃんの方に近づいていく。
 紺ちゃんが気づいた時には、亜依ちゃんは両手ですくった湖の水を紺ちゃんにかけて逃げた。

 「紺ちゃん、ぷくぷくって湖に帰りたくなったんちゃうか?」
 「ふぐは、淡水魚じゃなーい」

 逃げる亜依ちゃんを紺ちゃんが追いかける。
 紺ちゃん、自分がふぐにされたのはいいの?

 「まってよー」

 置いていかれた私も走って追いかけた。
 陸上部の紺ちゃんは当然、亜依ちゃんに追いついていた。
46 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月14日(月)23時33分52秒
 「陸に上がってきたら料理されちゃうで」
 「亜依ちゃん、UFO!」
 「え? うわあ!」

 私が二人に追いつくと、紺ちゃんが亜依ちゃんを不意打ちで湖に落とそうとしているところだった。
 亜依ちゃんは、左足のくつを湖に突っ込んでぬらしていた。

 「本気で落とすの無しや! むかついた!」

 亜依ちゃんは、湖の水をバシャバシャと紺ちゃんにかけている。
 紺ちゃんもやり返していた。

 「まってよ、二人とも」
 「とろいで理沙ちゃん」

 亜依ちゃんは、ターゲットを私に変えて攻撃してきた。

 「うわっ、やめてよー」

 私もやり返す。
 亜依ちゃんの攻撃が激しくて私は逃げ出した。
 木の枝を拾って亜依ちゃんは追いかけてくる。
 そんな私達を、紺ちゃんは笑って見ていた。
47 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月14日(月)23時34分26秒
 「こらっ、まったくお前たち、馬鹿やってないで早く進め!」

 先生がやってきて、私と亜依ちゃんが怒られる。
 亜依ちゃんが発端で、私が巻き添えで、紺ちゃんはお咎めなし。
 なーんか、いつものパターンって感じ。
 日ごろの行ないのせいなんだろうけど、ちょっと悲しかった。
 どうせ、私っていつもそういう役周りなんだなって思う。

 湖からバスが待つ目的地までは、もうそんなに距離がなかった。
 亜依ちゃんも、先生に目をつけられたからか、その間だけはおとなしかった。
48 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月15日(火)00時18分50秒
連日の更新乙です
人物一人一人のキャラクターがリアルに感じ、
特に新垣は、本物もこんな娘なのかなぁ、と感情移入しまくってます。
次回も期待してます。
49 名前:作者 投稿日:2002年10月16日(水)22時30分36秒
>>48
ありがとうございます。
本物は、どんな子なんでしょうね?
50 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月16日(水)22時31分35秒
 バスに乗り今日の宿へ。
 1時間くらいかかったみたいだけど、ほとんど寝ていたから分からない。
 よくゆれるなあ、っておもいつつ夢の中でした。
 紺ちゃんとそろって寝ぼけまなこでバスを降りる。
 今日の宿は湖のほとりにある大きなホテル。
 フロント前での先生のながながとした話しがおわり、それぞれの部屋へ移動する。
 私は、紺ちゃんや亜依ちゃんと同じ6人部屋だった。
51 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月16日(水)22時32分18秒
 「うち、ここがええ。こことっぴ」

 亜依ちゃんは、部屋の一番奥に荷物を置いた。

 「冷蔵庫かっらぽやん」
 「テレビも無いね」

 6人部屋は畳が10枚あって、窓の外には湖が見える。
 部屋の中はがらんとしていて、なにも無い。
 一番奥のちょっと仕切られたところに、椅子二つとテーブルがあって、冷蔵庫もそのそばにある。
 テーブルの上に湯飲みとおかしが六つ置いてあった。
52 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月16日(水)22時32分52秒
 「粗茶でございます」
 「どうもどうも」

 紺ちゃんが湯飲みにお茶をついてみんなに渡していく。
 亜依ちゃんと二人、なんかコントみたいにしてみんなを笑わせてくれた。
 私も、紺ちゃんからお茶を受け取り、お菓子も取って畳に座る。
 うちには畳の部屋は無いから、座った時のざらざら感がなんとなく新鮮だった。
53 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月16日(水)22時33分33秒
 「あとで枕投げとかしよーな」
 「うん」

 窓際で椅子に座り、湖を見ながら亜依ちゃんが言う。
 紺ちゃんも、その向かいの椅子に座って、笑って答えていた。
 他の三人は、大の字に横になっていたり、早くも荷物の整理をしたりしてる。
 私は、なんか手持ち無沙汰で、壁に寄りかかってゆっくりとお茶を飲んでいた。
 ちょっとだけ、居心地悪かった。
54 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月16日(水)23時24分54秒
更新乙かれさまです

自分は、転校(小4の時)2日目に林間学校という
レアな体験をしましたが、それなりに受け入れられたんですけどねぇ(w
新垣はまだ、殻を打ち破れてないみたいですね。
55 名前:作者 投稿日:2002年10月17日(木)23時04分01秒
>>54
なんとまあ、レアな体験ですね。
今後の新垣さんは、どうなっていくのでしょうか?(ここも、現実も)
56 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月17日(木)23時05分08秒
 しばらくすると館内放送で夕食の準備が出来たと呼び出される。
 「ごっはん、ごっはん」とリズミカルに腕を振りつつ唄いながら歩く亜依ちゃんと紺ちゃん
を先頭にぞろぞろと食堂へ。
 二人とも食いしん坊だもんなあ。
57 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月17日(木)23時05分42秒
 一学年200人近くが集まった食堂。
 先生の誘導で、あっちこっちへ配置される。
 私たち6人は、一番はじのテ−ブルにまわされた。
 すでにテーブルに並べられた料理の数々に目を輝かせながら、亜依ちゃんと紺ちゃんは向
かい合って座った。
 私は、一番後ろをついていったから、あまっている一番隅っこの席に座る。
 となりも正面も斜め前も、普段ほとんど話さない子になった。
58 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月17日(木)23時06分53秒
 「今日も母なる大地からの恵みに感謝して合掌」
 「いただきます」

 目の前に並べられた料理の数々は、母なる大地だけじゃなくて、作った人にも合掌したく
なるくらいの、見た目からしてもう、絶対おいしい! と言いきれるようなものだった。
 そんな献立だから、亜依ちゃんと紺ちゃんは、もう、すごい勢いで箸を伸ばしていき、
「おいしいね」を連発。
 なんか、見ていて微笑ましいんだけど、私はその輪の中に入っていけない。
 楽しそうな二人の周りで、時々起こる笑いに合わせてなんとなく私も笑ってみること
しかできなかった。
59 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月17日(木)23時07分56秒
 となりの子は、たまに私にも話しかけてくれる。

 「このグラタンおいしいね」
 「うん」

 私は、なんか気が引けてそれしか答えを返すことが出来ない。
 となりの子は、バスの中でUNOも一緒にやったし、昼のご飯の時もそばにいた。
 だけど、なんとなく話しづらかった。

 1年生の時に私のことをいじめていた子は、そんなにたくさんいたわけじゃない。
 となりの子は、もちろんその中の一人ではなかった。
 だけど、ずっと馬鹿にされていた私のことをこの子達も見てる。
 だから、やっぱりこの子達も私のことを馬鹿にしてるんじゃないかな、という思いはずっ
と消えない。
 そう思うと、亜依ちゃんや紺ちゃん以外の子とほとんど話すことが出来なくなっていた。
60 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月17日(木)23時08分57秒
 じゃあ、なんで亜依ちゃんや紺ちゃんとは話せるんだろう?
 亜依ちゃん達が私のことを助けてくれたのと同じ位、それも私にとって不思議なことだった。
 私は、紺ちゃんが好きだし、亜依ちゃんも好き。
 でも、他の子だって嫌いだから話せないわけじゃない。
 となりに座ってる子は、出来れば話してみたいなって思うけど、やっぱり馬鹿にされてるか
もしれなくて怖いから話せない。
 紺ちゃんや亜依ちゃんは私のことどう思ってるんだろう?
 おいしそうにご飯を食べている今の亜依ちゃんは、多分私のことを視界の中にいれてくれて
ないと思う。
 二人には友達がたくさんいるし、私と違っていろんなことが出来るから、誰かに馬鹿にされ
るってことも無い。
 そんなことを考えながらはしを進めていると、なんか味が全然分からなくなって来た。
 やめよう、とりあえず、ご飯食べ終わるまで。
61 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)01時54分32秒
加護に負けないくらい、わんぱく紺野。
おっとりタイプと思ってたら、交際範囲も広いし、なんか新鮮ですね。
62 名前:作者 投稿日:2002年10月20日(日)21時02分24秒
>>61
なにせ、いまだに猫かぶってる紺野さんですから。
”わんぱく”、はちょっとかわいそうなので”やんちゃ”くらいでお願いします(笑)。
63 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月20日(日)21時03分06秒
 夕食を終え部屋に戻る。
 戻ってすぐに亜依ちゃんはどこか他の部屋へと遊びに出かけてしまった。
 紺ちゃんも班長会議でお出かけ。
 部屋にはその他の4人だけがのこされる。
 私は、手持ち無沙汰でぼんやりと座っていた。
 来る前から想像していた、なんとなく浮いてしまって居場所が無い、っていう恐れてた事
態にはまってしまっている。
 つまらないので、自分のバックを枕にして横になる。
 眠くは無かったけど、目を瞑って眠っていることにした。
64 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月20日(日)21時05分00秒
 「新垣さん寝てるのかなあ?」
 「寝てるみたいだね」
 「置いていくの?」
 「ねてるし、いいんじゃない? お風呂くらい、起きたら自分でいくでしょ。亜依ちゃんや
紺野さんもいるし」
 「そうだね」
65 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月20日(日)21時05分30秒
 寝たふりをしてしばらくすると、こんな会話が聞こえてきた。
 起きてるよ、と心の中で叫ぶ。
 いま起きたふりしたら、みんなどうするかな? 困っちゃうかな? どうしよう。
 そんなことを考えている間に、3人は出て行ってしまったようだ。
 ドアの閉まった音がして、部屋は静かになる。
 廊下で誰かが騒いでいる声が聞こえた。
 私は目を明けて起き上がる。
 6人部屋に残っているのは私一人。
 他にはだーれもいない。
 私は、寂しくなって窓際の椅子に座った。
66 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月20日(日)21時06分25秒
 一人ぼっちは寂しいけど、みんながいるのに一人になっちゃうよりいいのかな。
 すっかり暗くなった湖を見ながらそんなことを思う。
 さっき、私が寝たふりをしてなかったら、あの子達は私になんて言っただろう。
 考えても分かることじゃ無いけど、どうしても考えてしまう。

 窓の外を見ながら、今度は本当に眠りそうになった頃、紺ちゃんが戻ってきた。

 「みんなは?」
 「寝てたからわかんないけどお風呂みたい。亜依ちゃんは、どこかに遊びに行ったみたいだけど」
 「そっか。じゃあ、亜依ちゃん戻ってきたらお風呂に行こう」
 「そうだね」
67 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月20日(日)21時06分57秒
 私の向かいの椅子に紺ちゃんも座る。
 紺ちゃんに、班長会議の話しなんかを聞きながら亜依ちゃんを待つ。
 亜依ちゃんは、お風呂に行った子達と一緒に戻ってきた。

 「おっ、紺ちゃんも帰ってきたな。お風呂いこお風呂。なんか、泳げるくらい広いらしいで」

 上機嫌で部屋に戻ってきた亜依ちゃんは、そう私達に声を掛けて自分のかばんをあさりだす。
 私と紺ちゃんも準備をしてお風呂に向かった。
68 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月21日(月)22時02分19秒
 お風呂場の脱衣場は結構人がいたけれど、それでも余裕があるくらいに広かった。
 亜依ちゃんは、さっさと服を脱いで裸になってお風呂に飛び込んでいく。
 私と紺ちゃんも、結構遅れて後を追った。

 お風呂場のドアを開けると、湯気がもわっと私達を包む。
 亜依ちゃんはすでに湯船に入って泳いでいた。
 確かに、泳げるくらいに広い。

 「きもちええよ。早く泳ごうよ」

 湯船の中からそう言っている亜依ちゃんは、うちのクラスの子とお湯のかけあいをしていた。
 私と紺ちゃんは、笑ってそれを見送り、まずは体を洗う。
 お湯をためて、タオルに石鹸を塗って、自分の体を洗うんだけど、やっぱりこういう時は、
周りに目が行ってしまう。
 私は、正直に言うと、紺ちゃんの方を何度もちらちらと見ていた。
 さっきの亜依ちゃんも思い出す。
 いいなあ、二人とも胸があって。
 私は、なんか、そういうところが、全然、ない。
 女の子の体になってる亜依ちゃんや紺ちゃんがうらやましい。
69 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月21日(月)22時03分11秒
 私は、まだ、亜依ちゃんみたいに、あんな開けっぴろげで全部見せられなくて、胸とか、
そのへんとか、タオルで隠しながら歩いてしまう。
 私が湯船に向かう頃になっても、亜依ちゃんはまだ足をばたばたさせて泳いでいた。
 紺ちゃんの横に座る。
 もち肌で、胸があって、頬をピンク色に染めている紺ちゃんを横から見ると、みじめ
になってくる。

 「やだ、恥ずかしいから、そんな見ないでよ」

 恥ずかしいのは、こっちのほうだよ。
 となりに座っている自分が、恥ずかしくなってくる。
 お先に、と一言残して、先にお風呂を上がった。

 脱衣場で服を身につけて二人を待つ。
 鏡に向かって髪にくしをいれているとようやく二人が上がってきた。
 一人で来ればよかったかなあ?
70 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月21日(月)22時03分42秒
 三人で部屋に戻ると、部屋に先に戻っていた三人は布団を敷き終わっていた。

 「お風呂上りの枕投げと行きますか?」

 亜依ちゃんはそう言って、自分の布団を敷き始める。
 私と紺ちゃんも、自分の場所に布団を敷いた。

 「昼間のお返しだー!!」

 口火を切ったのは紺ちゃんだった。
 敷き終わったばかりの自分の枕を亜依ちゃんに投げつける。
 亜依ちゃんももちろん黙っていなくて、自分の枕を拾って投げ返す。
 私は、紺ちゃんに加勢して、自分の枕を投げた。
71 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月21日(月)22時04分22秒
 「やったなー!」

 亜依ちゃんは、枕を二つ拾って右手で紺ちゃんに左手で私に同時に投げた。
 私は、投げつけられた枕をキャッチして投げ返す。
 周りの三人も混ざってきた。
 みんな、亜依ちゃんに向かって投げつけている。
 孤立無援になって、壁際に追い詰められる亜依ちゃん。
 私達は、そんな亜依ちゃんを取り囲んで、いっせいに枕を構えた。

 「うわ、うそや、うそや。そんな、ひどいやんか、みんなして。な、な」
 「せーの!」

 紺ちゃんの掛け声で5人で一斉に枕を投げつける。
 亜依ちゃんは、5つの枕を受けて布団に沈み込んだ。
 倒れこんだままぴくりとも動かない。
 私達5人は、亜依ちゃんを取り囲んだまま顔を見合わせてしまう。
 紺ちゃんがしゃがみこんで、恐る恐る声を掛けた。
72 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月21日(月)22時05分11秒
 「大丈夫?」

 反応が無い。
 紺ちゃんは、どうしよう、という顔で私達の方を一度見た。

 「亜依ちゃん! 亜依ちゃん! どうしたの? 大丈夫?」

 体を揺さぶって声を掛けるけど反応しない。

 「亜依ちゃん!」
 「うっそぴょーん。えい」

 亜依ちゃんは、唐突に枕をつかみ上げて、紺ちゃんの顔に押し付けた。

 「もう、心配したのに!!」

 顔に押し付けられた枕を払いのけて、足もとの布団を亜依ちゃんにまきつける。
 私は、そんな紺ちゃんに向かって後ろから枕を投げつけた。
73 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月21日(月)22時55分38秒
やばいっ!知らぬ間に口元が緩んでる
風呂場で紺野・加護に挟まれたら、普通の子でも自信なくすな(w
74 名前:作者 投稿日:2002年10月26日(土)10時13分09秒
>>73
口元緩みっぱなしでお願いします。
と、言いたいところですが、今後の展開は、波乱万丈? かもしれないです。
75 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月26日(土)10時13分52秒
 せっかくお風呂に入ったのに、そんなの全然意味なくなるくらいまでみんなで暴れて騒いだ。
 私も、最初の頃は亜依ちゃんや紺ちゃんにしか枕を投げつけなかったのに、気づいたらみんな
に向かって枕を投げていた。
 動きつかれて一息ついていると、就寝時刻を継げる館内放送が流れる。
 その直後に、見回りの先生も来た。
 私達は、とりあえずおとなしく布団に入る。
 先生が去った後、暗くなった部屋の中みんながまたもぞもぞと動き出す。
 布団に入ったまま私は様子を伺っていた。
76 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月26日(土)10時14分47秒
 「理沙ちゃん、起きてる?」
 「うん」

 頭を向かい合わせる位置の布団にいた紺ちゃんが話しかけてくる。

 「あのさ、私、もう少しして、先生の次の見回りが終わったら、上の部屋に遊びに行くん
だけど、一緒に行かない?」
 「上の部屋?」
 「うん。ほら、今日一緒にUNOやった子もいるし、いこ!」

 楽しげな紺ちゃんの口ぶり。
 でも、私が呼ばれたわけじゃないし。
77 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月26日(土)10時15分22秒
 「いこーよ」
 「亜依ちゃんは?」

 首をよじって斜め向こうにいる亜依ちゃんに聞く。

 「うちは、他の部屋行く」

 亜依ちゃんもお呼ばれしてるのか。
 私はうつ伏せになって枕に顔をうづめる。

 「行こうよ、理沙ちゃんも」
 「いい、行かない」

 紺ちゃんはしつこく誘ってくるけど、私は行かないことにした。
 どうせ、私が行ったって一人で浮いちゃうに決まってる。
 それなら、部屋で寝える方がずっといい。
78 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月26日(土)10時15分52秒
 「行こうよ。理沙ちゃんも一緒に連れて行くかも、って言っちゃったから」
 「いいよ、行かない。疲れたし、明日もたくさん歩くから寝る」

 そう言うと、さすがに紺ちゃんもあきらめてくれた。
 やがて、先生が見周りに来た。
 私達は、全員起きてたけど全員布団に深く入って眠った振り。
 先生が出ていって少し時間を明けてから、亜依ちゃんや紺ちゃんが布団から抜け出し始めた。
79 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月26日(土)10時16分37秒
 「理沙ちゃん、ホントに行かない?」
 「行かない。寝る」
 「そっか、じゃあ、おやすみ」
 「おやすみ」

 紺ちゃんは、部屋を抜け出して行った。
 続いて亜依ちゃんも。
 それだけじゃなくて、他の3人もそれぞれにどこかの部屋に行くみたい。
 私は、一人ぼっちで布団にくるまる。
 真っ暗な部屋の中の天井に視線をおくりぼんやりとする。
 たくさん歩いた疲れもあって、だんだん気持ちよくなり、いつしか眠りに落ちていた。
80 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月26日(土)23時20分13秒
何もそこまでっ、ってくらい卑屈な新垣に苦笑い
甘めでも痛めでもないのに、読んでて狂おしい(w
81 名前:作者 投稿日:2002年10月29日(火)22時14分02秒
>>80
なんか、作者が新垣をいじめてるような気がして来た・・・。
甘くも痛くもない、中学生の一イベントを、新垣と一緒に体験していってください(笑)
82 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月29日(火)22時14分59秒
 翌朝、私は目を覚ます。
 少し明るくなっているけれど、まだ、太陽の光は弱弱しい感じだった。
 枕元の時計を見ると6時少し前。
 時計を見るついでに周りを見渡すと、亜依ちゃんと紺ちゃんの姿がなかった。
 二人とも、他の部屋で寝ちゃったのかな?
 あとの三人はそれぞれの布団で寝息を立てている。
 私は、もうあんまり眠くなかったけど、起き出しても仕方ないので布団の中でごろごろ
していた。
83 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月29日(火)22時15分47秒
 しばらくするとそっとドアが開いてTシャツ短パン姿でうっすらと汗をかいた紺ちゃんが入
ってきた。
 そろりそろりと足を忍ばせて、自分の布団へと戻ってくる。
 私は、寝返りを打ちうつぶせになって紺ちゃんの方を向いた。

 「あっ、ごめん。起こしちゃった?」
 「ううん。もう起きてた。どこか行ってたの?」
 「うん。ちょっと、外走ってきた」

 林間学校まで来て朝からトレーニングか。
 私は、とうていまねする気にもならない。
84 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月29日(火)22時16分50秒
 「一緒にお風呂行かない?」
 「お風呂はいれるの?」
 「うん。特別に入れるようにしてもらってるの」

 紺ちゃんのその言葉で、私は布団から起きだした。

 「なんか、大変だね。こんなとこまで来ても練習なんて」
 「知らないところを走るのも気持ちいいよ。それより、お風呂行こうよ。あんな広いとこ
一人じゃ寂しいし」

 私は、しきりに誘う紺ちゃんに今度はしたがってお風呂に行くことにした。
 昨日お風呂に入ってからずいぶん暴れちゃったし、夜中も暑くて汗かいてたしちょうど
よかった。
 それに、今日の夜はキャンプだからお風呂に入れないし。
85 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月29日(火)22時18分19秒
 昨日はたくさんの人がいたお風呂が今日は誰もいない。
 だから、なおさら広く感じた。
 広いおふろに二人で入る。
 シャワーを軽く浴びてすぐに湯船に浸かった。
 なんか、のんびりとした時間が流れていて気持ちいい。
 紺ちゃんは、見知らぬ土地に来てテンションが上がっているのか、昨日からいつもより
よく話す。
 湯船の中でもいろいろと話してくれた。
 朝の練習は、先生が三日以上続けて休むと後に響くから軽くでいいから練習しておくよう
に言われたこと。
 朝練習はするけど、その代わり朝のお風呂に入れてもらえるように先生にかけあったこと。
 今晩のキャンプ楽しみだね。
 キャンプファイヤー、歌、頑張ってね、などなど。
86 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月29日(火)22時19分09秒
 今晩のキャンプファイヤーでは、それぞれのクラス出だし物をやるんだけど、そのなかで
私のクラスは合唱のパートがある。
 私はクラスを代表して、ソロパートを歌うことになっていた。
 学級会で、私が寝ている間に気づいたらそう決められていた。
 絶対嫌がらせだよ、と思ったけど、紺ちゃんや亜依ちゃんまでも賛成したらしい。
 それなら、嫌がらせではないのかもしれないけど、憂鬱だよ。
 でも、紺ちゃん達には私のそんな気持ちは伝わらないらしく、すごいじゃん、頑張って
と勝手なことを言っていた。

 紺ちゃんにとっては、合唱のソロを歌うくらいのことは、きっと小さなことなんだろう。
 すぐに別の話しになっていく。
 昨日の夜どうだった? と聞くと、理沙ちゃんも来ればよかったのに、と言っていた。

 「みんな、残念がってたよ、理沙ちゃんも来るって期待してたのに」

 本当のことなのだろうか?
 紺ちゃんを信用していない、というのではないけど、そのまま素直には受け取れなかった
87 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年10月29日(火)22時20分20秒
 湯船から上がる。
 朝のお風呂というのは初めてだったけど、なんかすごく得をした気分になった。
 二人で部屋に戻ると、まだみんな眠っている。
 亜依ちゃんは部屋に戻っていなかった。
 紺ちゃんと二人で窓際の椅子に座り、ぼんやりと湖を見ながら時間をつぶす。
 静かな静かな時間だった。
88 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月31日(木)06時42分39秒
朝風呂でマターリ。いいっすね!
それにしてもあいぼん・・・。大物というか・・・。
89 名前:作者 投稿日:2002年11月02日(土)10時46分47秒
>88
まあ、林間学校ですから。
部屋に戻って来ない、くらいのことは、あいぼんなら、平気でやってのけるでしょう(笑)。
90 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月02日(土)10時48分28秒
 7時になると同時に館内放送が流れる。
 朝食の準備が出来たので起床。
 みんなが眠そうに目をこすりながらのそのそと起きだしてくる。
 窓際でさっぱりした顔をして座っている私達を見てみんな、なんで? って顔しながら
も朝の挨拶を交わす。
 3人がそれぞれに身支度を整えている頃、亜依ちゃんが戻ってきた。

 「おはよう」
 「どこ行ってたの?」 
 「気づいたら朝やった」

 それだけ言って布団に倒れこむ亜依ちゃん。
 どうやら他の部屋で寝てしまったみたい。

 「ほら、寝てないで、朝ご飯いこうよー」

 うつぶせになっている亜依ちゃんの腕を紺ちゃんが引っ張っている。
 亜依ちゃんは、何も答えずなすがままになっていた。
91 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時38分31秒
 二日目の予定は、一日山道を歩いて、そのあと、はんごうすいさん。
 そして、キャンプを張ってその中でおやすみ。
 何が起こることやらって感じ。
 山歩きのスタート地点までのバスの中は、みんな静かでした。
92 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時39分12秒
 今日は、昨日と違って森の中じゃなくて、晴れ渡った空の下、岩だらけの道を歩く。
 ところどころに草が生えていて、見たことのない花も咲いている。
 私は、列の真ん中らへんを紺ちゃんと亜依ちゃんとのんびり歩いて行った。
 昨日は元気一杯走り回っていた亜依ちゃんも、今日はちょっとおとなしい。
 太陽にどんどん近づいていっているはずなのに、なんでこんなに涼しいんだろう。
 ときおり吹いてくる風が、山登りの疲れをとってくれる。
 私は、紺ちゃんとも亜依ちゃんともほとんど話すこともなく、静かに歩いているだけだった
けど、二人がとなりにいてくれて、きれいな景色が目の前にあって、とても楽しい気持ちだった。
93 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時39分49秒
 山の頂上へようやくたどり着く。
 昔は火山だったっていうこの山の、火口に当たるところには湖があった。
 ちょっとだけ、硫黄の匂いがした。

 「ついたーーーー」

 亜依ちゃんがちょっと大きめな岩に座りこむ。
 私もそのとなりに座った。
94 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時40分40秒
 理科の先生が火山とか、なんとか石とかの授業を始めた。
 はっきり言って面白くない。
 亜依ちゃんも、座りこんだままぼけーっとしている。
 紺ちゃんだけが、ちゃんとノートを取って聞いていた。
 私にとっては長く感じた話が終わって、しばらく自由時間になった。
 紺ちゃんは、湖の方へと降りて行った。

 「おいでよー。石がきれいだよ」

 湖までの途中で座りこんで、石を広い上げた紺ちゃんがこっちを向いて私達を呼ぶ。
 石か・・・と思いつつ亜依ちゃんと一回顔を見合わせてから、私達は坂を降りていった。
95 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時41分18秒
 「ごつごつしてて、ところどころ白いはん点があってきれいでしょ」

 紺ちゃんが広いあげていたのは、真っ黒でいかにも火山にありますって感じの石だった。

 「きれいって、これがか」
 「きれいだよー」

 私も、亜依ちゃんの言うように、これがきれいとはとても思えない。

 「ところどころ、光るのがあったり、かわいいでしょ」
 「かわいい?」

 今度は、私と亜依ちゃんではもってしまった。
 だって、おかしいよ紺ちゃん、石を見て可愛いなんて。
96 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時41分59秒
 「ほら、これなんか、多分、輝石ってのが混ざっててところどころ光ってて、かわいい」
 「キセキ?」
 「違う。輝く石で輝石。理科の時間に習ったよ」
 「そんなん、覚えてるわけあらへんて。すごい方の奇跡ってことにしといた方が、なんか気分ええし」

 うーん、どっちにしても私には、この石のよさが全然分からない。

 「まあ、でも、石なんてのは、こうしとけばいいんじゃあらへん?」

 亜依ちゃんはそう言って一つの石を拾い上げて湖の方へ歩いて行った。
 私や紺ちゃん、それにその辺にいるみんなが見ている前で、亜依ちゃんは石を湖に向かって投げた。
97 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時42分43秒
 「あーーー!」

 紺ちゃんが声を上げる。
 亜依ちゃんは笑顔で振り向いた。

 「結構とんだやろ」
 「きれいな石なのに、もったいないなあ」

 なんか、おもしろそう。
 私も、石を拾い上げて亜依ちゃんの方へむかう。
 そして、同じように湖に向かって投げた。
 あんまり飛ばなかった。
98 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時43分22秒
 「理沙ちゃんまで、もう」

 紺ちゃんは不満そうだけど、周りのみんなは、私や亜依ちゃんと同じように石を投げ始めた。
 みんな、遠くに投げたり、水面を何度もジャンプさせたり。
 私も、三つくらい投げた。
 振り向くと、紺ちゃんは、黙々と石を拾い上げ、眺め、を繰り返していた。

 「そんなに気に入ったの?」
 「きれいだし、可愛いし、持って帰らなきゃ」

 そう言って、紺ちゃんはかたわらにまとめておいた石を見直している。
 小さめないくつかを選んで、リュックに詰め込んだ。
 うーん、紺ちゃんの不思議なセンス。
 たまについていけなくなるんだよな。
99 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時43分56秒
 紺ちゃんは、リュックを背負い満足げに立ち上がると坂を上って行った。
 私もついていく。
 山頂の中でも、一番高いところにある展望台に上がった。
 360度、どこを見ても全部私より低いところに地面がある。
 私達の目線よりも高い位置にある建物もない。
 もくもくと入道雲が空に浮かんで、太陽はその間から私達を照らしていた。
 近くの山、遠くの山、緑が茂っていたり、岩だらけだったり。
 手すりに腕をつき、水筒からホテルでもらった麦茶を出して飲んでいると、となりで紺ちゃんが叫んだ。
100 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月04日(月)11時44分31秒
 「やっほーー!!」

 叫んでからちょっと照れた顔。
 風が紺ちゃんの髪をかき上げた。

 「やっほーー!!」

 私もさけんでみる。
 こだまは返ってこなかった。
 紺ちゃんの方を向く。
 なんか、可笑しくなって二人で笑い合いました。
101 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月06日(水)22時28分38秒
 頂上でお昼を済ませて、午後は山下り。
 午前中のさわやかな感じとうってかわって、すっごく暑い。
 ぎらぎらに燃える太陽に髪の毛を焼かれてるみたい。
 水筒の中の飲みものがすぐに空になってしまった。
 暑くてつらいけど、だらだらと歩く。
 みんな、無口になっていた。
 汗の流れる額を拭うハンドタオルは、もう、びちょ濡れだった。
102 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月06日(水)22時29分16秒
 「紺ちゃん、なんか、飲みものない?」
 「全部飲んじゃったの?」
 「うん。暑いんだもん」

 紺ちゃんに飲みものをねだる。
 いつも鍛えている紺ちゃんは、まだ元気みたいだ。

 仕方ないなあって顔をしてリュックから水筒を出してくれた。
 コップ半分まで注いでくれる。
 水筒の中にはまだ大分残っているみたい。
 氷で冷やされた麦茶がすごくつめたくて気持ちよかった。
103 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月06日(水)22時29分59秒
 「まだ、大分あるみたいだけど大丈夫?」
 「もう、歩くのやだよー」
 「理沙ちゃん、ちょっとは鍛えないとダメだよ」

 あきれた風に紺ちゃんは言う。
 まあ、紺ちゃんの言うとおりなんだろうけど、今は、そんなことより、とにかくさっさと
山を降りてゆっくりしたかった。

 「もう、いやや。バスまだ? ご飯まだ?」

 亜依ちゃんも愚痴っぽく言っている。
 私と同じで、もうバテバテみたい。
 紺ちゃんみたいに、普段から部活を頑張っているような子以外は、疲れきった表情をしていた。
104 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月06日(水)22時30分41秒
 容赦なく私達の体力を奪い取る太陽。
 こんなにうらんだのは初めて。
 ただただ、足元を眺めて歩き、ようやくのことバスが待つ所まで降りてきた。
 崩れるようにバスのシートに沈み込む。
 紺ちゃんと亜依ちゃんが何かを言ってるような気がしたけど、私はそれに反応することも
なく、夢の世界に落ちて行った。
 次に目覚めた時は、もう、バスはキャンプ場についていた。
 紺ちゃんが私の肩を揺さぶっていた。
105 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月08日(金)14時00分25秒
いよいよキャンプ地突入ですね。
はんごう(ry・テント作り等々、まだ四波乱くらいありそう。

そういえば、3人以外では娘。出演予定はないんですか?
106 名前:作者 投稿日:2002年11月09日(土)00時35分32秒
>>105
四波乱て・・・(笑)
無いとは言わないけど、どうでしょう。

3人以外で娘。が出るかは、秘密ってことで(大した秘密でもないけど)。
最後に言うつもりでしたが、これを聞かれたのでここで言ってしまいます。

この話しは、花板倉庫の”初めての夏休み”から続いて、赤板へ行った”みんなの冬休み”のその後の世界です。
なので、この話しもその設定は生きてます。
新垣、加護、紺野という人選になったのもその為です。
3人以外の娘。達が出てくるかどうかは、その辺から推定してください。
107 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)00時36分07秒
 大きな伸びを一つしてからバスを降りる。
 自分の荷物を受け取ってキャンプ場へと向かった。
 寝てたから少し疲れは取れたけど、元気一杯と言うには程遠い。
 それでも、陽射しが大分弱くなっていて、暑くないからずいぶんと楽になった。

 今日の晩ご飯はみんなで作る。
 献立は、もちろんカレー。
 楽しそうなんだけど、私は、あんまり楽しみじゃなかった。
 だって、私は、料理なんか全然出来ない。
108 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)00時38分23秒
 私の班は、昨日一緒の部屋に泊まった六人。
 仕切っているのは亜依ちゃんだった。

 「米とがなあかんし、野菜もきらなあかんやろ。あと、火つけるのに、いろんな枝とか」
 「私、野菜切るよ」
 「うん、じゃあ、紺ちゃん野菜切って、木の枝は」
 「私行く」

 普段はこういう場で自分から何かをいうことはないんだけど、今日は自分で枝を取って
きたいと言った。
 だって、包丁なんか全然使えないし、お米もといだことないんだもん。
 私に出来るのは、枝を拾うくらいだった。
109 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)00時39分20秒
 なんか、戻っても多分出来ることはほとんどないから、ゆっくり拾っていこう。
 大きくなければなんでもいいのかな。
 草ばっかりの中に入り込んで、ちょっとづつ枝を拾う。
 虫が結構飛んでいて、ちょっと嫌だなって思う。
 他の班の子達も結構枝を拾っていた。
 みんな、手際よく集めて次々と戻っていく。
 私も、大体みんながいなくなった頃に、枝を集めてとりあえずもどった。

 「理沙ちゃん、遅い!」
 「ごめん」

 亜依ちゃんは、ニンジンを切りながら笑顔でそう言った。
110 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)00時39分53秒
 「ほんじゃ、火付けよ」
 「うん」

 亜依ちゃんがチャッカマンで新聞紙に火をつける。
 その火を、私が集めてきた枝に移そうとするのだけど、どうしても枝は燃えてくれなかった。
 一枚目が燃え尽きて、二枚目で再チャレンジ。
 でも、どうしても火は点いてくれない。

 「理沙ちゃん、ちゃんと乾いた枝もって来た?」
 「え?」
 「え? やないで。湿った木の枝じゃ燃えないやろ」
 「乾いた枝を拾いなさいって、先生も言ってたよ。聞いてなかったの?」

 聞いてなかった、そんなの全然。
 私は、答えることが出来なかった。
111 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)00時41分00秒
 「あー、もう、お腹すいとるのに!」
 「ごめん。もう一回行って来る」

 とぼとぼともう一回林の中へ。
 私と同じ境遇っぽい子が何人かいた。
 なんか、もう、うちに帰りたいなあ。
 また、足引っ張っちゃった。
 みんな、野菜切ったり、お米といだりできて、すごいよなあ。
 何にも出来ないよわたし。
112 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)00時43分10秒
 そんなことを思いながら、枝をかき集める。
 今度は、ちゃんと乾いたかんじのやつ。
 見た目にかさかさのやつだからって紺ちゃんが教えてくれたのを頼りに拾った。
 日が陰ってきた。
 太陽は、山の向こう側に沈んでいくらしい。
 暗くなる前に、枝を集めなおしてみんなの元へと戻った。

 「理沙ちゃん、遅いよ。いためるのも煮込むのも火がなきゃできへんのやで」
 「ごめん」
 「とにかく、点けよう」

 今度は紺ちゃんがつけようとするけど、やっぱりなかなか点かない。
 先生がやってきて、新聞と枝、炭を並べなおして、もう一度試すとようやく火が点いた。
 みんなに拍手が起こった。
113 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)23時24分53秒
 レンガで台を作って、長い棒にご飯をいれた容器を通して火の中に置く。
 私がいない間にみんなで用意したお米。
 もう一つの火の方に、大きいなべを乗せて、その中に野菜をいれていった。
 ずっといなくて、枝を拾っただけの私も少しは手伝わなくちゃと、肉の入ったトレイを
調理台から運ぶ。
 なべの方へと歩いて行こうとすると、後ろから声がかかった。

 「理沙ちゃん」
 「なに? あっ」

 紺ちゃんに呼ばれて振り向こうとしたら、ちょうど足をおいたところに石があって、
それにつまずいた。
 トレイに入った肉の半分くらいが落ちてしまった。
114 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)23時27分34秒
 「なにやってるんや理沙ちゃん」
 「ごめん。ほんとごめん」
 「ごめんやないで。枝集めるだけでも手間取って、肉は落とすし」
 「ごめん、ちゃんと洗うから」
 「洗えばいいってもんやないやろ。地面に落ちたんやで」
 「亜依ちゃん、やめようよ」
 「やめへん! 理沙ちゃんが悪いんや」

 もう、私には返す言葉は無かった。
 亜依ちゃんの言ってることは正しいと思う。
 私が悪いんだ。
 何にも出来ない私が悪いんだ。
 亜依ちゃんにも嫌われちゃったし、もう、私の居場所なんか、どこにもないんだ。

 「ごめん、みんな」

 そう、一言だけ言って、私はその場を走って逃げた。
 理沙ちゃん、と呼んでいる紺ちゃんの声が聞こえたけど、私は何も答えずにそのまま走っ
てキャンプ場を出た。
115 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)23時29分18秒
 森の中を走った。
 でも、体力がないからそんなに遠くまでいっぺんに行けるわけじゃない。
 キャンプ場から少し離れた森が開けて崖っぽくなっているところがあった。
 とりあえずそこに座りこむ。

 思わず走り出てきたけど荷物も置いてきちゃったし、乗ってきたバスも明日の朝まではいない
みたいだしどうすることも出来ない。
 まさか、このまま歩いて山を降りてうちに帰るなんてことはとてもじゃないけど無理だった。
 あたりは、暗くなっていた。
 山奥で一人ぼっち。
 来なきゃよかったな、林間学校なんて。
 どうせ、つまんないのわかってたし。
116 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)23時30分29秒
 私ってダメだなあ、何やっても。
 みんなといてもみんなの足を引っ張っちゃうだけ。
 勉強も出来ない。
 スポーツも出来ない。
 料理が出来たり、絵が上手かったりするわけでもない。
 紺ちゃんみたく、可愛いわけでもない。
 亜依ちゃんみたく、明るく楽しくも出来ない。
 何にも出来ない。
 何にもない。
117 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月09日(土)23時31分11秒
 きっと、裏口入学のうわさだって本当なんだ。
 お母さんが、塾の先生から校長先生にいろいろとお願いしたんだ。
 もう、学校なんか辞めたい。
 あの中に私がいる方がおかしいんだよ。
 私なんかがいるべきじゃないんだ。
 亜依ちゃんにも嫌われちゃったし。
 でも、そんなこと言っても、お母さんが許してくれるはずはない。
 どうしよう。

 私は途方にくれて、その場に横になった。
 陽はもうすっかり暮れている。
 ちょっとづつ星が見え始めた。
118 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月10日(日)21時44分57秒
 このまま、真っ暗な中に一人ぼっちでいたらどうなるんだろう?
 そんなことが頭をよぎり、はっとして起き上がる。
 狼とか、熊とかはいないって言ってたけど、でも、何がいるか分からない。
 朝まで一人でいるのかな?
 自分が走って来た方を見ると、ちょっと遠くに明かりが見えた。
 たぶん、あそこでみんなはカレーを作って、今頃食べているんだろう。
 グーー。
 お腹がなった。
 ものすごく、寂しい気がした。
 こんなところで一人ぼっちの自分が、ものすごく寂しく感じた。
119 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月10日(日)21時46分23秒
 「新垣さーん!」

 同じ班の子の声がした。
 声の方を振り向くと、もう一度声が聞こえる。

 「新垣さーん! どこにいるのー!」

 私のことを探しているみたい。
 心細くなった私は、その声の方に行こうかとも思ったけど、でも、なんか、いまさら出て
行きづらかった。
 みんな、ごめんね、迷惑掛けちゃって。
 最初から来なければよかったんだよね、そうすれば、そうやってわざわざ探さなくても
よかったし。
 班の中の誰かがいなくなったら、先生に怒られちゃうもんね、いなくなった方が全部
悪かったとしても。
 ごめんね、みんな。

 ひざを抱えてうずくまる。
 泣きそうだった。
 寂しかった。
120 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月10日(日)21時47分15秒
 「いた。あんたは、ホンマに手のかかる子やな」

 振り向くと、先生が立っていた。

 「こんなところに朝までおるつもりやったんか? 朝までおって、その後どうする気やったんや?」

 先生は、そう言って私のとなりに私と同じ様にひざを抱えて座った。
 私は、泣いていた。

 「みんな、心配しとるよ。どうするん? このまま朝までここにおるか?」

 私は、ひざを抱えうづくまったまま、何も答えない。
 どうしたらいいのか、なんて分からなかった。

 「まあ、あれくらいのへま、誰だってするんやから、あんまし気にせんで、戻ってカレー食べようや」

 先生は、授業の時や、学活のときと同じ口調だった。
 私は、ひざに頭を乗せたまま、首を横に振った。
121 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月10日(日)21時48分16秒
 「加護がなあ、無茶無茶ぱにくってた。うちのせいで、理沙ちゃんが、理沙ちゃんが、
って、そらもお、発狂しそうな感じで。なあ、もどろうや?」

 平家先生の言葉が頭の中に響く。
 どこか遠くでは、また、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 「探してる声聞こえるだろ、新垣のこと。心配してるんやで、みんな。」
 「みんな、私がいなかったら先生に怒られるし、ご飯も食べられないから」
 「あんたなあ、その卑屈な発想直しや」

 1年生の時の面接で、成績の悪い私にあきれ果てていた時とおなじようなトーンだった。
122 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月10日(日)21時50分36秒
 「新垣おらんかったら、キャンプファイヤーの合唱どうするん? 変わり出来る奴
なんかおらんのやで」

 ソロじゃなくて、みんなで歌えばいいじゃん、と思うけど口には出来なかった。

 「新垣な、もうちょっと自分に自信持とう。確かに、人と比べて劣ってる部分ってのは、
どうしても誰にでもあると思うけど、努力して改善していけばえんやから」
 「でも、みんな、怒ってるし」
 「その場にいなかったけど、話は聞いたは。加護も、お腹空いてカリカリきてただけ
みたいやで。許したってや」
 「許すも何も、私が悪いから」
 「じゃあ、これ以上迷惑掛けないようにすればいいんやないのか? ここに座って
たら、迷惑掛けっぱなしやで」

 私は、うつむいたままうなづいた。
123 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月10日(日)21時53分42秒
 「新垣さん、いた!」

 私のことを見つけて走ってきたのは、昨日の晩ご飯を隣に座って食べた子だった。

 「みんな、心配してるよ。亜依ちゃんなんか、理沙ちゃんが遭難したどうしよう、ってぼろ
ぼろ泣いちゃうし。早く帰ろ」

 どうしよう。
 見つかってしまったら、戻るしかないんだけど、でも、なんか、気まずかった。
 黙りこんでいたら、お腹がなった。

 「新垣、体は正直みたいやな」

 隣ですでに立ち上がっていた平家先生は、私の方に右手を差し述べた。
 私がその手をつかむと、引っ張り挙げられた。
 立ち上がった私は、おしりを払う。

 「はやく、帰ろうよ。みんな、新垣さんのこと心配してる」
 「でも、お肉ダメにしちゃったし」
 「大丈夫だから」

 私は、ばつがわるくて、立ったままうつむいた。
124 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月10日(日)21時54分40秒
 「早く帰れって! あんたは、そうやって、うじうじしないの! カレー食べて、みんな
と騒いで、それでええやん。ほら!」

 平家先生は、そう言って私の背中を押した。
 私は、ちょっとよろめいて、一歩、二歩足をキャンプ場の方へと進めた。

 「ごめん、心配掛けて」
 「もう、いいから」

 ホントにいいのだろうか?
 ちょっと、不安もあるけど、その子は、私の方を見て笑ってくれた。

 「新垣、キャンプファイヤーでの歌、期待してるからな」

 私の背中に、平家先生が声を投げかけた。
 期待してくれるのはうれしいけど、でも、やっぱりそれは重荷だった。
125 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月12日(火)23時57分40秒
 キャンプ場に戻ると、紺ちゃんが一人でお鍋の番をしていた。

 「いい匂いでしょ」

 とぼとぼと歩いて戻った私への、紺ちゃんの第一声がこれだった。
 私は、黙ってうなづく。

 「みんなで食べるとおいしいよ、きっと」

 もう一度うなづく。
 鍋の中身をゆっくりと混ぜている紺ちゃんは、私の方を見て微笑んでくれた。
126 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月12日(火)23時58分41秒
 「ごめん。迷惑かけて」
 「もう、いいよ。亜依ちゃんさあ、さっきあんな風に怒ってたけど、自分だって理沙ちゃ
んが枝集めてる間に、お鍋の水ひっくり返してるんだから」
 「そうなの?」
 「うん。あと、これはみんなには秘密ね。ここに入ってるジャガイモの半分は、一回私が
おっこどしたものです」
 「ホントに?」
 「秘密ね。みんなには。絶対秘密ね」

 ちょっと真剣な顔だった。
 私も笑って、うん、秘密ねと答える。
 私のことを見つけた子は、みんなを呼んでくる、と森の方へと出ていった。
127 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)00時00分06秒
 「理沙ちゃんさあ、細かいこと気にしすぎだよ」
 「そうかなあ?」
 「お肉おとしちゃったのは、よくないけど、いなくなっちゃう方がもっとよくないよ」
 「ごめん」
 「先生に怒られちゃった。友達よりご飯のが大事なのかって」

 野菜とお肉が煮込まれている鍋を見つめながら、私は紺ちゃんの言葉を聞いた。

 「みんな、心配したんだから。理沙ちゃんが戻ってきたらすぐに食べられるようにって、
平家先生が言うから、こうやって一人でお鍋の番して待ってたけど、ホント心配したんだ
からね」
 「ごめん」

 私は、ごめんと言うことしか出来なかった。
 それ以外には、何も言えなかった。
128 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)00時01分16秒
 他の班の子達は、どんどん準備を終えて、出来上がり次第食べはじめている。
 私達は、しばらく黙ったまま木のへらでお鍋をかきまぜていた。
 とってもおいしそうな、いい匂いだった。

 しばらくして、ようやくみんな戻ってきた。

 「理沙ちゃん、堪忍や。うち、早くご飯食べたかったからあんな言うて」
 「いいよ、もう。お肉落とした私が悪いんだもん」
 「二人とももういいからさあ、早く食べようよ。みんな、食べ終わりそうなのを見ながら
お鍋の番してるのもつらいんだよ」

 紺ちゃんがそう言って、さっそくお皿の準備を始めていた。
 火に掛けたご飯も、十分に炊けている。
 また、私のお腹がなった。
 ご飯を私がよそって、紺ちゃんがカレーを乗せる。
129 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)00時02分18秒
 「理沙ちゃん、うちの分大盛りな」

 そういう亜依ちゃんに笑いながら、私は大盛りの皿を一つ作って紺ちゃんに渡した。

 「ずるい。これ私の分ね」
 「なにいうんや。うちの分って理沙ちゃんがよそってくれたんや」
 「だめ、私の」
 「ダメやない、よこせ」
 「よこさない」

 二人でご飯の乗った紙皿を奪い合っている。
 危ないなあ、と思って見ていたら、予想通りのことが起きた。
 二人で引っ張り合うお皿から、ご飯がぽとりと落ちた。

 「あっ!」

 お互いの顔と下に落ちたご飯を交互に見る二人。
 一瞬の間が空いた後、また口論が始まった。
130 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)00時02分54秒
 「何するんや紺ちゃん!」
 「私じゃないよ。亜依ちゃんがずるするからでしょ」
 「ずるってなんやずるって」
 「ずるはずるだよ。一人で大盛り食べようとするから」

 どんどんトーンが上がって行く二人の口論。
 私は、おろおろしながらも割って入った。

 「ごめん。私が大盛りでよそったりするから」
 「理沙ちゃんは関係ない。亜依ちゃんがずるするから」
 「だから、ずるってなんや」
 「やめようよ。ねえ。ごめんって。ね。はやく食べよう。私のせいで遅くなっちゃったけ
ど。お腹すいたしさ」

 二人とも渋々ってかんじで引き下がる。
 けんかはやんだけど、なんか険悪な雰囲気は残った。
 食べ物のことになると亜依ちゃんも紺ちゃんもこだわるからなあ。
 多分、ご飯食べてお腹一杯になれば仲直りしてくれるだろうけど。
 私は、残りのご飯をみんなに見られながら注意深く均等によそって紺ちゃんに渡していった。
131 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)00時03分39秒
 まわりの班はほとんど食べ終わっていた。
 そんななかで、私達はようやく晩ご飯にありつく。
 ご飯の量がちょっと少なくなっちゃったけど、それでもおいしそうなカレーだった。

 「いただきます」

 スプーンを口に持っていく。
 ちょっと辛いけど、すごくおいしかった。
 みんな、おんなじ感想みたい。
 水とスプーンを交互に口へと持って行く。

 「おいしいけど、野菜の大きさばらばらやな」
 「いいじゃん、おいしいんだから」

 亜依ちゃんと紺ちゃんは、お腹が満たされて自然と仲直りしたみたい。
 ちょっとだけ、まだ、言葉にとげが混ざってるけど。
 でも、二人とも顔は笑ってた。
132 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)00時04分20秒
 「あんたら、まだ食べとるんか。紺野、あんたは食べ終わってるな。そろそろいいか」
 「はい。ごめん、みんな、後片付けよろしくね」

 この後のキャンプファイヤーで、大事な役を演じる紺ちゃんは、平家先生につれられて行
ってしまいました。

 「みんな、いうても、まだ食べ取るの理沙ちゃんだけやけどな」

 亜依ちゃんをはじめ、みんなもうお皿は空っぽ。
 私だけが、一人取り残されて、まだ食べていた。
 まわりが片付けをしてる中、一人で食べているというのは、ちょっと恥ずかしかった。
133 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)23時17分15秒
 後片付けも終り、キャンプファイヤーが始まる。
 それぞれのクラスが集まって、暗闇の中に座る。
 真ん中には、火をつけるやぐらが置かれていた。

 「それでは、キャンプファイヤーの始まりです。さあ、まず、火の精霊を迎え入れましょう」

 マイクを通した先生の声が響く。
 一本のトーチを持ち、白いレースの衣装を身につけて入ってきた火の精霊は紺ちゃんだった。
 一歩一歩、ゆっくりとみんなの輪の中を回る。
 薄い化粧をして、紅い炎が映し出す紺ちゃんの表情は、きりっとしていて、可愛いという
よりも美しかった。
 本当に、火の精霊のようだった。
134 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)23時17分55秒
 儀式は続く。
 精霊としてやぐらに火をともした紺ちゃんは、それぞれのクラスの代表の持つトーチに
火を移していく。

 努力の火。
 信頼の火。
 勇気の火。
 正義の火。
 協力の火。

 それぞれがトーチを手に、誓いをたてる。
 そして、その五つのトーチと精霊が握るトーチを、再び合わせた。
 五つの誓いを一つに合わせ、それぞれのクラスに持ち帰ってくる。
 私には、どれも足りないものばっかりだ。
 クラスのトーチに火がついて、キャンプ場は明るくなった。
135 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)23時18分31秒
 それぞれのクラスの出し物が始まる。
 私のクラスは5クラス中の4番目だった。
 他のクラスは、寸劇をしたり、ちょっと大人数で手品をやったりしているみたい。
 私は、自分のことが心配で、あまり楽しく見ていられなかった。
 2番目のクラスが終り、3番目のクラスへ。
 私の手は、震えていた。
136 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)23時19分03秒
 もしも、私が失敗したら、クラスのみんなにまた迷惑がかかる。
 もしも、私が失敗したら、また、みんなに馬鹿にされるかもしれない。
 もしも、私が失敗したら、紺ちゃんも亜依ちゃんも、私から離れて行ってしまうかもしれない。
 もしも、私が失敗したら、また、独りぼっちになってしまうかもしれない。
137 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)23時19分34秒
 怖かった。
 ここにいるみんなが、私の歌を聞くんだ。
 ソロパートは、8小節。
 その間、ここにいるみんなが、私のことを見て、私の声を聞く。
 いままで、一度も注目なんかされたことは無かった。
 私に期待する人なんて、お母さん以外いなかった。
 なのに、いきなりこんなにたくさんの人の前で歌うなんて、あってはいけないことだと思った。
138 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)23時20分07秒
 「理沙ちゃん、緊張してるでしょ」

 精霊の衣装のまま戻ってきていた紺ちゃんが、話しかけてきた。

 「う、うん」
 「単なるレクだから、気楽にやろうよ」
 「うん」

 紺ちゃんの言葉は、あんまり耳に入っていなかった。

 「理沙ちゃん歌うまいし、大丈夫だよ」
 「紺ちゃんって、緊張とかしたりしないの?」

 紺ちゃんは、緊張したりしないのだろうか?
 さっきも、すごく堂々としていて、美しい精霊を演じていた。
 この前の陸上の大会でも、すごくいいタイムを出している。
 怖いとか、緊張するとか、そういうのないのだろうか。
 そう、問いかける私に、紺ちゃんは答えてくれた。
139 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月13日(水)23時20分53秒
 「さっきもすごい緊張したよ。このあと。もう一回あるけど、失敗したらどうしようって
思うし、火だから火事とかおこしちゃいけないし。でも、何度も練習したから、絶対大丈夫
って言い聞かせて、頑張った」
 「何度も練習かあ」
 「理沙ちゃんも、何度も練習してたじゃん。大丈夫だよ。それよりも、全員で歌う部分が
上手く行くかどうかのが、私は心配」

 紺ちゃんはそう言うけど、私は、とにかく逃げ出したい気持ちで一杯だった。
 練習は、それなりにしたけど、本番はまた違うよ。
 そんな、私の気持ちを知ってか知らずか、亜依ちゃんは、3番目のクラスの出し物を見な
がらげらげら笑っていた。
140 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月14日(木)23時05分36秒
 カセットテープからイントロが流れ出す。
 前半は、ソプラノとアルトに別れての二部合唱。
 私も、ソプラノ側に入って歌う。
 みんなの視線が私達の方を向いている。
 自分でも、手とひざが震えているのが分かった。
 歌声よりも、自分の心臓の音の方が大きいような、そんな気がした。
 自分達の歌声は、あまりきちんと分からなかった。

 ソロパートが近づいてくる。
 入りをしっかり。
 指揮者を見ながら、右手でリズムを取って拍数を数える。
 心臓の鼓動は、そのリズムのさらに倍以上の速さで刻んでいた。
141 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月14日(木)23時06分15秒
 合唱が止まる。
 私は、一歩前へと出た。
 オケだけの部分を数秒挟んで、私のソロパートに入る。
 3・2・1。

 目を瞑った。
 目を瞑って、夢中で歌う。
 自分の声は、自分でしっかり聞き取れた。
 おかしな所はなかったと思う。
 特別上手く出来たわけじゃないけれど、それでも、下手ではなく歌えたと思う。
 大丈夫だと思う。
142 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月14日(木)23時06分51秒
 自分のパートを終わって、一歩下がり列に並ぶ。
 残りの部分を、ソプラノに混じって歌った。
 でも、ソロパートを歌っていた時よりも、さらに心臓がばくばくしていて、あまり声が出
せなかった。

 曲が終わった。
 ふーっとため息を一つつく。
 そこそこの拍手がもらえた。
 列に並んで、元の場所に戻る。
 とにかく、ほっとして力が抜けた感じだった。
 座りこむ、というよりはへたり込むってかんじで、私は腰を下ろした。
143 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月14日(木)23時07分55秒
 最後のクラスが、出し物を始めた。
 ぼんやり座っている私に、亜依ちゃんが話し掛けてくる。

 「すごいやん。みんなばらばらだったんを、一人でまとめた感じやったで。なんか、自信
たっぷりに歌ってて」
 「そんな、こと、ないよ。もう、いっぱいいっぱい」

 私がそう言うと、周りの子は、そんなことないよって言ってくれた。
 うまかったとか、かっこよかったとか言ってくれた。
 お世辞なのかな? って思うけど、でも、みんな笑って言ってくれるから、お世辞でも
うれしい。
 私も、気づけば自然と笑っていた。

 最後のクラスの出し物が終わった。
 私は、もういっかい大きなため息をつく。
 おわったー。
 なんとか、おわった。
 なんとか、みんなに迷惑掛けずにすんだ。

 上手く歌えたのかどうか、ほんとうのところはよくわからない。
 でも、無事に終わったから、それでいい。
144 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月14日(木)23時09分16秒
 出し物の審査を先生達がする間に、私達はダンスを踊る。
 カップルダンスではないけれど、亜依ちゃんとか紺ちゃんとか、一緒の班の子とかと小突
きあったり、かるくハイタッチしたりしながら踊る。

 アブラハムには七人の子♪ ひとりはノッポであとはちび♪ みんな仲良く暮らしてる♪
 さあ、お・ど・り・ま・しょ♪

 あんまりその場を動かないダンスのはずなのに、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
 右手♪ なら、右手でその辺の子とハイタッチ。
 左手♪ でもおんなじ。
 おっしり♪ だったら、おしりどーん、って亜依ちゃんにぶつかってみたり。
 はじきとばされたけど。
 なんか、よくわからないけど、たのしい。
 あんまり話さない子とも、テンション上がっちゃってぶつかったり笑ったりしてた。
 林間学校に来てよかったな、って思えた。
145 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月15日(金)07時35分11秒
更新お疲れ様です。
やっと、新垣さんの前向きな発言が聞けましたね(w

火の精霊のこんこん<見てみたいなぁ。恐ろしく似合いそう
146 名前:作者 投稿日:2002年11月16日(土)23時29分43秒
>>145
なっち天使と精霊こんこんを並べてみたいですね。
一種のコスプレだ・・・
147 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月16日(土)23時30分50秒
 ダンスが終わって、みんな腰を下ろした。
 先生が、真ん中のやぐらの前に立って、出し物の成績発表をする。
 また、ドキドキしてきた。
 私のクラスがダメだったら、やっぱり私のせいなんだろうな。
 手のひらが、なんかじとっとしてた。
148 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月16日(土)23時31分33秒
 3位も2位も他のクラス。
 別に商品があるわけじゃないけれど、やっぱり上の順位になりたいなって思う。
 この学校に入ってから、一番、なんて縁のないものだったし。
 みんなで歌ったんだから、一番になっても自分のおかげなんて言えないけど、でも、やっ
ぱり、ソロパート歌ったし、一番になるのに自分の力が入ってると思える。
 だから、一番で名前を呼ばれたかった。

 だけど、1位で名前を呼ばれたのは、他のクラスだった。
 すごい手品を見せたクラス。
 私達は、名前を呼ばれなかった。
149 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月16日(土)23時32分46秒
 キャンプファイヤーのラスト。
 紺ちゃんが、精霊の衣装でまた入ってくる。
 その、りりしい姿は、やっぱり本物の精霊みたい。
 なんで、こんなに違うのだろう。

 結局、私の歌は、ダメだったってことだよね。
 自分では、そんなに変だったとは思わなかったけど、それでも、やっぱり上手くなかった
ってことだよね。
 歌とか、ファッションとかは、勉強なんかと比べて、周りの子に負けないかなあ、って
思ってたけど。
 それも、違うのかもしれない。
150 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月16日(土)23時34分20秒
 各クラスの代表5人を従えて、トーチの火を集める精霊の紺ちゃん。
 何でも出来る紺ちゃん。
 何にも出来ない私。
 なんでだろう。
 なんで、こんなに違っちゃうんだろう。
151 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月16日(土)23時34分55秒
 トーチの火が消され、やぐらにも水が掛けられる。
 キャンプファイヤーが終わる。
 林間学校ももうすぐ終わる。
 ときどきは楽しいな、って思った瞬間はあった。
 昨日は、UNOやったり、湖ではしゃいだり、枕投げもした。
 今日だって、山の上でヤッホーって叫んだり、さっきのダンスもちょっと楽しかった。
 だけど、なんか、自分が場違いな気がしてしまう。
 みんなの中にいていいのかなって。
 紺ちゃんや亜依ちゃんと一緒にいていいのかなって。
152 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月17日(日)21時57分18秒
 火が全部消され、キャンプ場の明かりがついて、今晩は解散になった。
 晩御飯のあとに建てたそれぞれのテントに向かう。
 班を半分に分けて、私と亜依ちゃんと紺ちゃんが一つのテントに眠る。
 長い一日だった。
 いろんなことがありすぎて疲れちゃったよ。
 とにかく眠りたい。

 「テントで寝るのなんか初めてや。なんか、すごいは。ここで寝るんやで、ここで」

 亜依ちゃんは興奮気味にはしゃいでる。
 そのとなりで、紺ちゃんは落ち切っていない化粧をほんのりつけて微笑んでいた。

 「寝袋ってのが、また雰囲気あってええなあ」

 それは、私も思った。
 山奥でキャンプでテントの中で寝袋で寝る。
 貴重な体験かもしれない。
153 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月17日(日)21時58分29秒
 紺ちゃんは、はしゃぐ亜依ちゃんをおいて、さっさと寝袋の中にくるまる。
 私も、眠いから、それに続いた。
 そうすると、もちろん亜依ちゃんも自分の寝袋にくるまる。
 3人が顔だけ出して寝袋にくるまって頭を寄せている。
 そこに、テントの外から平家先生がのぞきこんだ。

 「おっ、あんたら、いもむしみたいやな。証拠写真一枚取るで」
 「そのうち、さなぎになって、チョウになるんやでうちら」

 寝袋にくるまって、ごろごろ回りながら亜依ちゃんは言った。
 私も、チョウになれるかなあ?
 三人で仰向けになってピースしているところを、平家先生は撮っていった。
154 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月17日(日)21時59分32秒
 先生が出て行くと同時に、亜依ちゃんは突然明かりを消した。

 「わっ! 急に消さないでよ」
 「怪談の始まりです」
 「おやすみ」
 「理沙ちゃん、乗り悪すぎ!」

 明かりが消えたから、私は眠ることにしたい。
 でも、亜依ちゃんはそれを許してはくれなそう。
 仰向けになって、私が眠る体制になったら、また明かりがついた。

 「まだ、寝るには早い!」
 「でも、ちょっと疲れたよね」
 「やっぱ、こんな夜は怪談するんがええって」
 「いいよ。寝ようよ」

 うつぶせになって、三人顔を寄せ合っていたけど、私はやっぱり眠りたい。
 ひっくり返って、もう一回眠る体勢になる。
155 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月17日(日)22時00分19秒
 「理沙ちゃん、いつも乗り悪すぎや。そんなんやと、楽しいこと逃げてっちゃうで」
 「いいもん、別に」
 「なんで、そう、いっつも後ろ向きなんや?」
 「どうせ、私は、後ろ向きで暗くて、裏口入学してて、何にも出来ないよ」
 「そんなこと言ってるんやなくて」
 「おやすみ」
 「理沙ちゃん!」

 私は、寝袋の奥深くまで身を沈めた。
 体が小さいから、顔がうずまる位まで入れる。
 なんか、もう、疲れちゃったんだ。
 キャンプなんか張ってるんだから、はしゃぎたいっていう亜依ちゃんの気持ちはよく分かる。
 でも、私は、きょうは、眠りたいんだ。
 いろんなことに疲れちゃったから。
156 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月17日(日)22時01分12秒
 「亜依ちゃん、私も寝るよ」
 「みんな、まったりやなあ。なんか、うちも眠たくなってきた」
 「ホントは、夜遅いのだめだもんね」
 「昨日も、遊びに行ったのはええけど、気づいたら朝やったもん」
 「電気消そ」
 「うん。おやすみ」
 「おやすみ」

 二人も眠ることにしたみたい。
 よかった。
 明日になれば、うちに帰れる。
 そしたらゆっくり休もう。
 電気が消えて、暗くなったテントの中だけど、亜依ちゃんと紺ちゃんは、なにかひそひそ
と話してるみたいだった。
 ごめんね、無理やり寝かせたみたいで、って思いながら、私の意識は遠のいた。
157 名前:作者 投稿日:2002年11月17日(日)22時11分28秒
切の良いところでちょっと御挨拶。

先日の(というかまだ続いてるんだけど)人気投票で、この”初めての〜シリーズ”に投票してくださった方ありがとうございました。
ああ、また蚊帳の外なんだろうな、と思っていたところで自分の書いたものの名前を見つけた時はうれしかったです。
残念ながら、先に進めるようなものはまだまだ描けませんでしたが、今後も精進していくつもりです。
どうもありがとうございました。

とりあえず、この話しは後数回で終りです。
もうしばらくお付き合いください。
今後ともよろしくお願いします。
158 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月19日(火)23時43分59秒
 寝袋の奥深くに入ってぐっすり眠っている私を、何かが揺さぶる。
 地震? 夢? 
 目を開けて見ると、顔があった。

 「起きて」

 私の寝袋のチャックを開けている亜依ちゃんがいた。

 「朝やで」

 もう、朝?
 あくびを一つして、ゆっくりと体を起こす。
 テントの中は暗かった。
 眠い。
 顔を両手で覆う。
 また、あくびが出た。
159 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月19日(火)23時44分53秒
 「外出るから、しゃきっとしてや」

 亜依ちゃんは朝から元気だ。
 私は眠い。
 もう一回大きなあくびをしてから、周りを見ると、紺ちゃんも眠そうな顔をして起きていた。
 なんだかよく分からないまま寝袋から出る。
 ちょっと、寒かった。

 「暗くない? まだ」

 私はそう言って、荷物と一緒においてあるはずの時計を捜す。
 見つけた腕時計を暗い中でじっと見てみると、まだ5時にもなってなかった。
160 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月19日(火)23時45分24秒
 「まだ、全然夜中じゃん」
 「なんかね、亜依ちゃんがどうしても見せたい物があるんだって」

 見せたいもの?
 夜中に?
 お化けとかじゃなきゃいいけど。
 それよりも何よりも、とにかく眠い。

 「眠かったら、帰りのバスで寝ればええ。二人とも、しゃきっとせんか!」

 しゃきっとせんか、言われても、眠いものは眠い。
 でも、眠いながらも起きてしまって、ぼーとしてるから、なんとなく亜依ちゃんにしたが
って動いてしまう。
161 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月19日(火)23時46分01秒
 「大丈夫、先生いないみたい」

 テントの外へ顔を出して、紺ちゃんがまわりを確認してる。
 頭のはっきりしない私は、二人の言うがままになっていた。

 「よし、行こう」

 テントを抜け出す。
 最初に亜依ちゃん、次に紺ちゃん。
 私は、またあくびを一つしてから、キャンプ場の入り口に向かって走った。
 先生には見つからなかった。
162 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月19日(火)23時46分33秒
 「どこ行くの?」
 「まあ、いいから」

 私が聞いても、なんかごまかされる。
 あたりは、少しづつ明るくなって来た。
 太陽はまだ見えないけれど、星もほとんど見えなくなった。
 いったい何をするんだろう。
 前を歩く二人の背中を見つめながら、私はぼけーっと歩いてついていった。

 「ついた。ここここ」

 そこは、昨日、キャンプ場から飛び出した私が座りこんでいたところだった。
163 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月19日(火)23時47分06秒
 「昨日な、理沙ちゃん探しとるとき、見つけたんや」

 明るくなった今見て見ると、すごく見晴らしのいい場所だった。
 山の木々が見えて、湖も遠くに光ってる。
 空も、だんだんと白みがかってきた。

 「きれいだね」
 「まだまだ、こんなもんやあらへん」

 こんなもんって、景色が見せたかったんじゃないの?
 でも、ちょっと考えてみたら、私が来た時にもう暗かったんだから、亜依ちゃんが、この
景色を見ているわけはなかった。
 三人で少しの間だまったまま、座りこむ。
 ひんやりした風が森の中をとおりぬけていた。
164 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月19日(火)23時47分45秒
 「あっ! あっ!」

 紺ちゃんが、山の向こうを指差して声を上げる。
 薄く青い空と、濃い緑の山の間に、オレンジ色の光が差しこんだ。
 光は、少しづつ少しづつ昇ってくる。
 空と山の間に、オレンジ色の半円が出来た。
 その、半円のすぐ上に、うっすらと白い雲がよりかかっていく。
 私達は、その光景を静かに見つめていた。
 オレンジの光は、さらに昇ってきて、半円から、だんだんとちゃんとした円に近づいてくる。
 でも、しっかりした円を描く前に、白い雲がその光に薄く覆いかぶさった。
 雲がかぶっているけど、それでも山の陰から昇りきった太陽のせいで、あたりは明るくな
っていた。
 また、冷たい風が、私達を通り抜けた。
165 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月19日(火)23時48分30秒
 「あーあ。雲一つない日の出が見せたかったのに」

 亜依ちゃんは、残念そうにつぶやいた。

 「でも、きれいだったよ」
 「うん。ホント。初めて見た、日の出なんて」

 こんなに、夜明けってのがきれいなのものだとは思わなかった。
 きれい以外の言葉が見つからなかった。

 「うちな、去年の夏休み、山奥で日の出をみて、すごい感動したんよ。だから、どうして
も、二人にも見せたくて。無理やり起こしてごめんな」
 「ありがとう。感動した」

 紺ちゃんが、亜依ちゃんの言葉に答えている。
 私も同じ気持ちだった。
 無理やりだったけど、起きてここに来てよかったと思う。
 太陽が昇ったばかりで、夏なのにすごく涼しい。
 きれいなものを見て、涼しさが心地よくて、いまなら、素直な気持ちで、いろいろなこと
が聞けそうな気がした。
166 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時16分16秒
 「二人はさあ、なんで、私と仲良くしてくれるの?」

 素直な気持ちを言葉にしてはみるけれど、やっぱりこんなことを聞くのは怖くて、太陽の
方を見ながら言った。
 答えが返ってくるまでに、ちょっと間があった。

 「なんでって、言われてもな。なんでやろ」

 亜依ちゃんがそう言って、またしばらく間が空く。
 太陽の光がまぶしくなってきた。
167 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時17分01秒
 「なんか、そんなん、面と向かって聞かれると、はずかしいやん」
 「私、二人と違って、何にも出来ない。とりえもない。可愛くもない。みんなに馬鹿にさ
れるような、そんな存在なのに、なんでこうやって一緒にいてくれるの?」

 ずっと聞きたかったけど、怖くて聞けなかったこと。
 聞いている今でも怖い。

 「そんなこと言われてもなあ」
 「理沙ちゃんは、なんで、そういうこと言うの? だれも、馬鹿になんかしてない。と
りえがなくもない。可愛くなくもない」
 「いいよ、そんなフォローしないで」
 「フォローじゃない!」

 紺ちゃんが、珍しく声を荒げた。
 初めて聞く声だった。
168 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時17分56秒
 「理沙ちゃんの、そういうとこいやだった。勝手に後ろ向きで、悲観的で。だれも、馬
鹿になんかしてないよ」
 「紺ちゃんには分からないんだよ。いじめられたこともないし、勉強もスポーツも出来
て、優等生な紺ちゃんには分からないんだよ、私の不安なんか」

 初めて、自分の気持ちをぶつけていた。
 自分の気持ちを、こんなにストレートに言葉にしたことは、今までなかった。

 「おとといの夜ね、理沙ちゃん寝ちゃったでしょ。あの時、理沙ちゃんの話題で持ちきり
だったんだよ」

 ずっと、太陽の方を見ていた私は、この言葉を聞いて、初めて紺ちゃんの方を向いた。

 「私や、亜依ちゃんは、学校の外でも一緒に遊ぶから、知ってたけど、みんなは、初めて
理沙ちゃんの私服を見て、すごいかっこよくて、すごいセンスがいいってびっくりしてた」

 紺ちゃんは、間に亜依ちゃんを挟んで私の方を見て、話を続ける。
169 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時18分46秒
 「楽しみにしてたんだよ、みんな。どんなお店でああいう服選ぶのかとか、どうやって
そんなセンス身につけたのか、とか聞こうとしてたんだよ」

 もしかして、私は褒められているのだろうか?

 「歌だって、クラスで一番上手いってみんなが思ったから、ソロパートに選ばれたんじゃ
ん。そうやって、みんなにさ、認められてるのに、勝手に後ろ向きで、もったいないよ」
 「でも、でも、紺ちゃんみたいに、なんでも出来る人とは違う」
 「私だって、なんでも出来るわけじゃないよ。服のセンスとか、馬鹿にされちゃうし、
ふぐとか言われるし」
 「気にしてたんか?」
 「ちょっとだけだけどね」

 なんだか、いろんなことが分からなくなってきた。
170 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時19分50秒
 「ごめんな、ふぐって、あんまり言わんようにするは」
 「あんまりじゃなくて、ずっと言わないの」
 「それは、おいといて、理沙ちゃん、最初の質問の答え、ええか?」
 「うん」
 「こんなん言うの、むっちゃ恥ずかしいけど、うちが、理沙ちゃんをすきやから、っての
じゃダメか?」

 亜依ちゃんは、地面に木の枝で何かを書きながら言った。
171 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時21分02秒
 「うち、紺ちゃんみたく、頭よくないから、上手く言えんけど、服のセンスがええとか、
歌上手いとか、たしかにそうなんやけど、それと、また違うところで、理沙ちゃんが好き
なんよ」

 地面の絵を書いては消し、書いては消ししながら、亜依ちゃんが続ける。

 「極端な話し、別に、裏口入学でもかまへんのよ」
 「亜依ちゃん!」
 「いいから、続けて」

 裏口入学って言葉に、紺ちゃんが反応して止めようとしたけど、私は最後まで亜依ちゃんの
言葉を聞きたかった。

 「まあ、もうちょっと、乗りがよくなってくれたらとか、いろいろあるけどな、でも、勉強
できなくたって、なんか、特別すごいとことかなくたって、うちは、なんていうか、その、理
沙ちゃんが、好きなんよ」

 私は、途中から、亜依ちゃんの方が見れなくて、うつむいて聞いていた。

 「うちにとってはな、紺ちゃんも一緒で、別に、足が速いとか、勉強できるとか、割とどう
でもええんよ。宿題教えてもらえんようになったら、困るけどな」

 亜依ちゃんの言葉に、ちょっとだけ笑う。
 私は、顔を上げてもう一度、亜依ちゃんの方を見た。
172 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時21分47秒
 「なーんてな。うちは、ふぐっぽい紺ちゃん、結構好きやで」
 「だから、ふぐじゃなーい」

 亜依ちゃんが、紺ちゃんに突き飛ばされて、私の方に倒れてきた。
 私は、そんな亜依ちゃんを抱き止める。

 「もう、紺ちゃん、きっついな。ちょっと言うてみただけやん」
 「ふぐじゃないもん」

 そう言った紺ちゃんは、それこそふぐのようにほっぺたをふくらませていた。
 その顔を見て、私と亜依ちゃんは、大きな声を上げて笑った。

 「紺ちゃん可笑しすぎ」
 「そんなんやから、ふぐなんよ」
 「いいもん、別に」

 ちょっといじけた顔を見せる紺ちゃんは、やっぱり可愛かった。
173 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時22分18秒
 「こんなんでええか? もう、恥ずかしいは。そろそろもどろ」
 「うん」

 太陽は、もうすっかり上がっていた。
 白い雲の切れ間から、私達に光をあててくれている。
 森の中では、ミンミンゼミの声がしはじめた。

 「私も、歌が上手いから、とか、そんなんじゃなくて、理沙ちゃんのこと好きだからね」

 三人で立ち上がって、テントに戻ろうというときに、紺ちゃんがぼそっと私に向かって言
ってくれた。

 「ありがと」

 私も、恥ずかしくなってうつむきながら、それだけ答えた。
 亜依ちゃんを真ん中に、三人で手をつないで、キャンプ場に戻って行く。
 その間、黙ったままだった。
174 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時23分13秒
 キャンプ場の入り口で、またあたりの様子を伺う。
 先生達の姿は見当たらないので、三人でテントに戻っていこうとした。
 だけど、途中で、テントの影から出てきた先生とばったり出会ってしまった。

 「自分ら、なにしとるん? 三人で」
 「あ、あの、あの、私が、トイレ行きたくなったんですけど、でも、なんか怖いから、亜
依ちゃんと理沙ちゃんを無理やり起こして、それで、ついてきてもらって、それで、帰って
きました」
 「ほんまか? 怖いって、もう明るいやん」
 「でも、なんか、怖かったから」
 「まあ、ええは。はよ戻り」
 「はい」

 すごくドキドキしたけど、でも、紺ちゃんが機転を効かせて切り抜けて小走りで、テント
にもぐりこんだ。
175 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時24分57秒
 「さすが優等生」
 「ドキドキしたんだから」
 「優等生が、うそついたー」
 「からかわないでよー、私だって、うそくらいつくもん」

 テントの中で三人で笑い合う。
 とっても、楽しい時間だった。
176 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時25分31秒
 「うそつきは泥棒の始まり」
 「じゃあ、亜依ちゃんにそそのかされて、日の出を見に行きましたって言えばよかったの?」
 「うーん、いや、えらい、紺ちゃん、ホント偉い」
 「あんたら、うるさい! みんなはまだ寝てるんだから、おとなしく寝なさい」

 平家先生が、テントをのぞきこんで言った。
 三人で、あわてて寝袋に入っていく。

 「楽しいのは分かるけど、おとなしくしとれよ」
 「はーい」

 平家先生は、それだけ言って出ていった。
177 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時26分08秒
 「もうすぐ帰るんやな」
 「そうだね」
 「たのしかったよね」

 楽しかった。
 いまなら、そう言える。
 そう、思える。

 「キャンプファイヤーの時の紺ちゃん、すごい可愛かったよね」
 「理沙ちゃんの歌も、よかったで」
 「うーん、そうかなあ。でも、賞とか取れなかったし」
 「それは、しょうがないよ。みんなで歌うパートがひどかったから。私なんか、口ぱくだし」
 「そうだったの?」
 「だって、精霊の練習で忙しくて、歌の練習みんなと出来なかったし」
 「そんなことやから、ふぐ、言われるんよ」
 「関係ないでしょー!」

 さっきの話し以来、亜依ちゃんはやたらとふぐを連発してる。
 絶対、わざと意地悪してる。
178 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時27分15秒
 「あんたら、だから、静かにせえ、言うとるでしょうが!」

 平家先生が、戻ってきてテントをのぞきこんだ。

 「寝たふりしても、声聞こえてたで」

 私達は、先生が何を言っても、寝たふりをつづけた。

 「別に、しゃべとってもええけど、外まで聞こえないようにな」

 先生がいなくなって、私達は、また、顔をあわせる。

 「ちょっと、寝よ。なんか、眠くなってきた」
 「そうだね。あんまり時間ないけど」

 今度は、本当に眠る。
 ちょっと寝つけなくて、ぼんやりとテントについている骨組みを眺めて過ごした。
 ひっくり返って亜依ちゃんと紺ちゃんの方を見てみる。
 二人は、すやすやと眠っていた。
 すごく、可愛かった。
179 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月21日(木)23時27分51秒
 「ありがとう、二人とも」

 声を出して言ってみた。
 寝てるから聞こえないだろうけど。

 「これからもよろしくね」

 ずっと、一緒に入られたらいいな、って思った。
 私も、二人が、やっぱり大好きだった。
180 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時46分57秒
 「あんたら! いつまで寝とるんや!」

 テントの中にすごい声がした。
 もぞもぞと寝袋から出る。
 平家先生が赤鬼のような顔で見ている。
 私が起き出して見回すと、紺ちゃんも亜依ちゃんもまだ寝てた。

 「起きて! 朝! 朝!」

 二人を揺さぶる。
 やっとのことで、むにゃむにゃ言いながら、二人が目を開けてくれた。

 「朝ご飯、早く!」

 ようやく、二人が寝袋から出てくる。
 私は、二人を置いて、顔を洗いにテントを出た。
 林間学校は、今日終わる。
181 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時47分36秒
 三日目は、山を降りて二つくらい神社らしき物に立ち寄って帰るだけだった。
 みんな、大分疲れていて元気がないみたい。
 あんまり寝てない子も多いのかな?
 私は、結構よく眠ったし、なんか、一人で元気だった。
 でも、亜依ちゃんも紺ちゃんも、眠気が強いみたいで、あんまり相手してくれなかった。
182 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時48分26秒
 最後の神社に立ち寄る。
 ここでも、先生の、そしてガイドの人の解説があったけど、あんまりよく分かんない。
 とにかく、古くて由緒正しいみたい、ということだけ分かった。
 紺ちゃんも、さすがにノートを取っていなかった。
 三人で並んでお参りする。
 おさい銭に、5円玉を投げ入れて、二回拍手して目を瞑った。
183 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時49分09秒
 ずっと、仲良くしていられますように。
184 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時50分17秒
 目を開けて二人の方を見る。
 二人は、何をお祈りしたのだろう。

 「なあ、何お祈りしたん?」
 「秘密」

 絶対、教えて上げないんだ。
 だって、恥ずかしいんだもん。

 私達は、追いかけっこをしながら階段を降りてバスにもどった。
185 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時50分59秒
 バスは一路学校へ。
 高速道路に乗ると、となりの紺ちゃんはぐっすりと眠っていた。
 前の席の亜依ちゃんも、そのとなりの子も眠っているみたい。
 バスの中で起きている子はほとんどいないみたいだった。
186 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時51分29秒
 私は、窓の外を見ながらこの三日間のことを思い出す。
 長い長い三日間だった。
 枕投げもした、追いかけっこもした、けんかもした。
 カレーはおいしかったし、合唱のソロはすごく緊張した。
 いろんなことがあった。
 来て、よかったな、って思った。
187 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時52分21秒
 隣に座る紺ちゃんは、結局学校につくまで眠ったままだった。
 肩を揺さぶって起こす。
 リスのように目をこすりながら私の方をみた。

 「帰ってきたんだ」
 「うん」
 「おわっちゃったね」
 「そうだね」

 バスを降りる。
 そこは、見慣れた学校の校門前。
 林間学校は、もう終り。
188 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時53分03秒
 「理沙ちゃん、帰りは大丈夫だった?」
 「何が?」
 「バス酔い」

 そういえば、全然、そんなの頭になかった。
 お話してたわけでもないし、ゲームしてたわけでもないけど、なんで酔わなかったんだろう。

 最後に、列に並んで、学年主任の先生から、家に帰るまでが林間学校ですって言われて、
私達の林間学校は全部終わった。

 「帰ろっか」

 紺ちゃんが言う。
 私も荷物を抱えて、すっかり帰るつもりでいると、亜依ちゃんに呼び止められた。
189 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時53分40秒
 「なあ、二人とも、来週の土曜日暇?」

 来週の土曜日は夏休み最後の土曜日。
 宿題以外の理由としては、多分暇だった。

 「うん。亜依ちゃんが一番忙しそうだけど、宿題で」

 紺ちゃんが、ちょっと皮肉っぽく答える。

 「宿題はおいといて、花火行こうって話があるんだけど、みんなでいかへん?」

 亜依ちゃんと、一緒の班だった子達4人が、私と紺ちゃんの方を見ていた。

 「うん。いいよ。理沙ちゃんも行こうよ」

 ちょっと考える。
 亜依ちゃんや、紺ちゃん以外の学校の子と遊びに行ったことなんかない。
 遊びに行って、仲間はずれにされたら嫌だなあ、と思った。
 でも、それでも、決めたんだ。
190 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時54分23秒
 「うん、私も行く」

 ちょっと怖いけど、行くことにした。
 そう答えたら、みんな笑顔になってくれた。

 こんどこそ、本当に解散。
 駅までの道を、みんなで歩く。
 林間学校は終わったばかりだけど、もう、みんなの話題は花火のこと。
 6人で浴衣を着て行くことになった。

 うちに帰ったら、ママに報告しよう。
 林間学校は楽しかったって。
 それに、来週みんなで花火に行くよって、言わなきゃ。
 あと、お弁当のハンバーグは評判よかったよって。
191 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時54分56秒
 「なあ、花火の前に、みんなで浴衣買いに行こうよ」
 「賛成! 新垣さんに選んでもらおうよ」
 「そうだね」

 みんなが私の方を見る。

 「よし、スーパーモデル新垣理沙が、みんなの分も選んで上げましょう」
 「なんかえらそう」
 「ごめん」
 「そんな、へこまんでもええやん」

 みんなに笑いが起こった。
192 名前:初めての林間学校 投稿日:2002年11月23日(土)22時55分45秒
 林間学校は終わったけど、夏休みはまだ終わらない。
 残り少ない夏休みだけど、楽しく過ごせそうな気がした。
193 名前:初めての林間学校 終り 投稿日:2002年11月23日(土)22時56分41秒
 初めての林間学校  終り
194 名前:あとがき 投稿日:2002年11月23日(土)22時59分09秒
途中でも書きましたが、この話は花板倉庫の“初めての夏休み” 赤板の“みんなの冬
休み”のその後の世界です。
いろんな話が浮かんで、広がらなくて脳内削除した中から、削除しきれずににいにいが、
私を書けー!と眉毛ビームを放って来たために発作的に書き始めた話しです。
新垣一人称アンリアル、という過去にない設定で書かせていただきました。
独壇場だ! と思っていたら甘かった・・・。
リアルならともかく、アンリアルの新垣もので自分より圧倒的にうまいものを見せつけら
れ、中盤で凹まされ悩んだりしましたが、どうにか完結させることが出来ました。
新垣アンリアルまではあるけど、一人称までかぶったのはまだ見たことないので独壇場なはず(笑)
195 名前:あとがき 投稿日:2002年11月23日(土)23時00分27秒
この話しだけでももちろん読めるように書いてありますが、過去のシリーズも読んでいた
だけると、さらに親しみが沸いてもらえるかと思います。
http://mseek.obi.ne.jp/kako/flower/1000386419.html
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=red&thp=1015079839

でも、本音は、昔のはちょっと恥ずかしかったりします(笑)
白で連載中の“氷上の舞姫”の方を読んでもらえるとうれしいなあ。
そっちは、主演に石川、はともかくとしてもう一人にりんね。
さらに、あさみ、里田、飯田が競演という、ここよりもマイナー設定になってます。
196 名前:あとがき 投稿日:2002年11月23日(土)23時02分33秒
このシリーズの今後は未定です。
いくつかイメージはありますし、なかなか好きな世界になって来たので、いつか書く時は
来るかもしれませんが、他に書きたい話しもたくさんあるので、お約束は出来ません。
“初めての〜”とか“みんなの〜”なんてスレが立ったら、ああ、あれか、と訪れてくれ
ればうれしく思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
197 名前:プー&まゆ 投稿日:2002年11月23日(土)23時34分52秒
作者さん、お疲れさま!

前作、前々作から、女房共々ずっと読んでいましたよ。
実は辻の小説を探していたら前々作にぶつかり、以来、今日まで愛読してきました。
いまは頭の中が一杯一杯でなにを書いても支離滅裂になりそうなので、ここまでにしておきます。

が、今度は辻たち姫牧村メンバーの小説が久しぶりに読みたいですね。辻と吉澤の別れは特に気になるところ。
次作も楽しみにしています。頑張ってください。
198 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月24日(日)03時39分40秒
脱稿お疲れ様です。
回を重ねるごとにネガティヴになっていく新垣に
マターリドキドキしっぱなしでした。
立ち直り方も無理矢理ではなく、
ごく自然に、自分の力で、というところに
最後まで気持ちを暖かくさせてもらいました。

なんだか文章がメチャクチャですみません。
次回作の「みんな〜」「初めて〜」シリーズも期待してます。
199 名前:作者 投稿日:2002年11月26日(火)22時20分20秒
>>プー&まゆさん
夫婦でですか! びっくりです。
次は、なんとなく、姫牧村の三人の話になるような気がしてます。
ありがとうございました。

>>198さん
ごく自然、というところが苦労したので、そう言って頂けるとうれしいです。
ありがとうございました。

次の話は、いつになるか分かりません。
書けるかどうかもはっきりは分かりません
少なくとも、年内はないと思います。
しばらくは、白板に専念です。

感想は、あれば、いつまででもお待ちしています。
200 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年12月01日(日)15時31分06秒
連載お疲れ様でした。
途中で自分の書き込みを見てしまうと雰囲気が壊れてしまいそうで、
静かに読む専門にさせていただいてました。
「〜冬休み」で2シーンくらいしか出てこなかった新垣ちゃんが
主眼の話と言うことで、はたしてどんな話になるだろうかと思って
いましたが、彼女のコンプレックスや中々表に出せない悩み、また
会話を通じての加護ちゃんや紺野ちゃんの生き生きとした表情など
まるで目の前にそのシーンが画面に映し出されるようでした。
ここまで膨らませられる作者さんの力量に感服いたします。
これからも、全作品に通じて流れる暖か眼差しで加護ちゃんを
はじめとする“みんな”を描いて欲しいと願うばかりです。
201 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2002年12月08日(日)22時22分47秒
みや様
はじめまして。ななしのよっすぃ〜と申します。
過去シリーズから全部読ませていただきました。
ちょっとホロリときたり、思い切り笑ったり、とても読み応えがあり楽しく充実したひと時をすごせました。
良質な作品群に感謝です。氷上の舞姫も読ませていただこうと思います。
はじめての書込みでお願いすることではないと思うのですが、現在、娘。小説の保存をさせていただいております。
もしよろしければ、「はじめての夏休み」「みんなの冬休み」「初めての林間学校」を保存させていただければと思います。

当方の保存場所
http://kuni0416.hp.infoseek.co.jp/text/index.html
よろしくお願いいたします。
202 名前:作者 投稿日:2002年12月15日(日)21時51分17秒
>>M.ANZAIさん
いつもありがとうございます。
映像が伝わる、というのは書いている者としてうれしいです。
話が浮かんだ時は、主役が主役なだけに最後まで書けるのか? と不安を感じながら書いてましたが
なんとか、完結させることが出来ました。
まだまだ力不足な部分が目立ちますが、今後ともよろしくお願いします。

>>ななしのよっすぃ〜さん
保存いいですよ。私の書いた物でよければ。
大変だと思いますが、サイトの運営頑張ってください。
203 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2002年12月16日(月)23時09分11秒
みや様
ありがとうございます。
早速、保存作業に入りたいと思います。
至らない点もあると思いますが、よろしくお願いいたします。
204 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月05日(日)09時48分51秒
作者さんの作品すっっっっっっごくスキです☆
『夏休み』『冬休み』とこちらの作品全部読ませて貰いましたが
・・・・・・・・・
めっちゃ面白いです♪
205 名前:作者 投稿日:2003年01月19日(日)00時44分09秒
>>204
ありがとうございます。
よろしければ、白板とか、銀の倉庫とかも読んでもらえるとうれしいです(笑)
このシリーズは、書いていて気に入ってしまったので、またいずれ何か書くと思います。
今後ともよろしくお願いします。

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