動物愛護的共同生活。

1 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年10月02日(水)01時22分05秒
矛盾だらけな小説。
タイトルからして矛盾。
タイトルで分かるようにそんな小説です。
ただなちまり。ひたすらなちまり。
最初からなちまり。最後までなちまり。ずっとなちまり。
・・・・・・のつもり。
2 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)01時31分07秒
とある所のとある怪しい研究所。
太陽の光なんかいつ浴びたっけ?
ここは窓なんかなくてひたすら壁ばっかだから分かんないや。

灰色の壁が絶え間無く続いてて光という光は全部電気。
ここはあまり人が寄りつかない人里ちょいと離れた研究所。

人気がある所に行くには山下りて行くしかないくらい離れてます。
研究所・・・というのは響きがいいだけでほんとは
そんなカッコいいものじゃない。

あたしは色々地道に密かに研究してるけどさ。
どんなのかっていうと…ひ、秘密!!

3 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)01時48分01秒
もう何もかもがイヤだった。
学校行くのもしんどいし。
言いたい事もやりたい事も本当はいっぱいあるのに何1つできない。
そんな環境にうんざりして思いきって学校を辞めた。


   これからは自分らしく生きてやる。

そう思ってはみたもののいざというとやりたい事なんてなかった。
学校辞めても変わらずただひたすらムダに毎日生きてた。
でもそういうのじゃダメだって思って
久しぶりに外へ出た。

太陽の光は暖かくて気持ちよかった。
少し吹いている風も心地いい。

そのままふらふらと目的もなく歩いて、歩いて…
気付いたら遠くの方まで来てて見回すと街から大分離れていた。

4 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)01時55分27秒
・・・足痛くなってきたし帰ろっかなぁ。

そう思って元来た道に一歩踏み出した時…


『ドォォォォォン!!!!!』

何かが爆発した音が聞こえた。
くぐもっている感じだったけど確かに聞こえた。

その一歩踏み出した足を引っ込めて音がした方に振り返ると
ここから少し行った所の山の方からだった。


何?何なワケ??まさか…宇宙人の乗った宇宙船が落っこちたとか??

その場で考え込んだけど

興味本位で気付いたら自然と足が進んでいた。

それが始まり。

5 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)02時07分20秒
山道を登りきると目の前には灰色の大きな建物が建っていた。

宇宙船が落っこちたんじゃなかったんだ…

ちょっとヘコんだけど。

まぁ…いっか。中見てみよう!!

すぐに立ち直ってドアを開けた。


長い廊下が先の先まで続いていてその左右には部屋が無数にあった。

淡々とした作りにちょっとがっかりした。
もっとこう…怪しいような異空間っての?ああいうような
作りを期待していたのにさ…

人気も全く感じられなくて全体的にここ自体ひんやりしてる。
あたしはあたしでドアの前でずっと固まったまま。

誰かいると思ったのに…
まぁ、こんなトコに住んでるような人なんかいないっしょや〜?

そう思ってたら・・・住んでました・・・しかも大人数で。

6 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)02時27分05秒
ドアを勝手にかたっぱしから開けて行くといるわいるわ・・・
総勢…忘れたけど5人はいた!

勝手にどんどん奥に進んで行って
最後のちょっと他より大きなドアで
作られているドアを開けると(もちろん勝手に)

白衣を着た(大体の人は着てたけど)25歳は過ぎてるべ…って人がいた。

話していくとこの人はここの持ち主でありこの建物を作った本人であるという。


「じゃ、他の人達は?」
「それが勝手に増えよったんや。たった一言『ここに住ましてね』
 くらいのあいさつ1つだけでやで?家賃とったろうか思うわぁ…」

そう言いながらその人はくーっと悔しそうな顔をして見せた。

あたしはもう1つ聞きたかった事を
「そうだったんだ…じゃ、ここで何してるの?」
聞くとその人はきっぱりと
「研究や!」と言った。
補足に「他の人はどうか知らんけど」とドアの方を見て言った。


7 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)02時47分24秒
話しを聞いているとここにいる人全員に当てはまるのが
みんな「自分らしく、自分の好きなようにしている」という事。

そしてあたしは思いきって決めた。


「ねぇ…まだここって空いてる部屋ある?」

色々グチっていたその人は眉間に皺を寄せていた顔を戻すとその人は

「あるって言えばあるけど・・・?ってまさか!?」

不思議そうな顔をしてからはっと何かに気付いたような顔をした。

「あったり〜!ここに住ましてね!」


そして。
1週間もしない内にあたしは今までいたマンションから
自称研究所に引っ越した。


引っ越し終えて荷物の整理も一段落ついて「あいさつ」をしに
もう1度あの大きなドアを開けた(勝手に)

「へへ〜!これからお世話になります!」

ちょっとかわいくあいさつ。
その人は初めて会った時と変わらない姿で

「・・・はいはい。よろしく。ところで自分名前何ていうんや?」

「安倍なつみ。なっちって呼んでね!そっちは?」

「裕ちゃんでいいわ。とにかくあんまりややこしい事は起こさんようにな」

淡々とそう言って怪しい研究に没頭していった。


それが全ての始まり。
それからあっという間に2年の月日が流れた。
8 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)03時09分16秒
いつものように朝と夜の逆転した生活をしている毎日。
ここへ来てから不規則な生活になってしまったのは言うまでもない。

いつものように昼過ぎに固いソファから落っこちて目が覚めた。
最悪な目覚め方。いつもの事なんだけどね。
ベッドはあるけどほとんどそこには寝ない。
たいして離れてないけどそこまで行くのがめんどうだから。

固いソファで寝てたから腰と首と背中が痛くてたまらない。
首を左右に曲げると「ボキッ」という音が何回かなった。

首をさすりながらとりあえずコーヒーを入れた。
トポトポというコップに注がれる音に耳をすまして
ミルクを入れてスプーンでかき混ぜた。
落ちついた時間。この時間がとても好きだ。


この思いを噛み締めていたその時・・・

「安倍さん!安倍さーん!!起きてますか!?安倍さーん!!!」

ドンドンというドアを叩く音と大きな声に何もかもかき消された。

気分最悪・・・になったのは言わなくても分かるっしょ?

あたしにしては長い白衣をバサバサと言わせながら
小走りでドアに向かった。

9 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)03時33分52秒
この声の主は・・・

あたしにとってトラブルメイカーでしかない。

今まで関わっていい事なんてなかったから。

ガチャ。

「何?りかちゃん、そんなに言わなくても分かるべ」

「起きてたんですか〜!!よかった!じゃ、早く来てください!」

りかちゃん…この人に関わって散々イヤな目に合わされた。

なぜ彼女がここに住んでるのかとかそういう事は知らない。
というか「聞かない」のがここの暗黙のルールみたいなものだから。

それぞれの過去は聞かない。
聞かれて嬉しい事ばかりの人はいないから。
それに嬉しい思いばかりをしてる人ならここへは来ないハズだから。


だからりかちゃんの事も他の人達も大抵名前しか知らない。

それはいいとして。
この白衣を着ていると何となく保健室の先生風に見えるこの人は
この研究所の『爆発娘。』でしかない。
「研究」と言っては無理矢理薬品を混ぜて混ぜて
最後には爆発させるという(いつもの事)恐ろしい人。

あたしがここに気付いたキッカケとなるあの爆発音も彼女のせい。
考えるとあの爆発音が聞こえなかったら
あたしがここに気付く事もなかったわけだけど。

10 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)03時57分46秒
あたしの考えも不機嫌な声も気にするはずもなく
いきなり手を引っ張って思いきり走り出した。

どこへ行くの?
とかそんなの聞く余裕もあるわけがなく
着いた場所は裕ちゃんのあの大きなドアの部屋だった。

頭の微か奥にいれたてののコーヒーが浮かんだ。
コーヒーのためにも早く帰る事を心に誓った。


「りかちゃーん…ここに何があ…」
「いいから入ってください!」
あたしの言葉を遮って勢い良くドアを開けた。

中に入ると何人かが何かを囲うように集まっていた。
その中には裕ちゃんもいた。


「どうしたの〜?」
そう声をかけながらみんなの方に寄って行った。

「あー、なっち来たんだ」
来たんじゃなくて無理矢理なんだって。
ほんとは来たくなかったんだって。

そう言ったのは圭ちゃん。
この研究所に来て長いらしい。
自称20歳だけど絶対ありえないと思う。

「なっちー!おそいよ〜!」
これでも早く来た方なんだって…
無理矢理走らされたし…

そうせかすのはごっちん。
研究所に住んでるけど研究という研究は全くしていない。
ほとんど寝てるか食べてるか人の邪魔するくらい。

11 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)04時05分11秒
「安倍さん見てくださいよ〜!」
何?なにがあるの?
あれだけ走ったんだからきっとスゴイものなんっしょ?

そう言いながらそれを指さすのはよっすぃー。
まさにオットコマエ!
着ている白衣も妙に似合って見える。


ていうか白衣着た5人が何か囲んでるこれってすっごい変・・・
どうでもいい事を思いながらあたしは6人目に加わった。

「何なの?」
そう言いながら裕ちゃんを見ると

「頭痛いわ・・・」
困り果てていてすでにお手上げのご様子。

髪をグシャグシャにかきながらイスに座ってため息。

そんな裕ちゃんの態度に首をかしげながらもみんなの言う
「すごいもの」を見ると・・・

12 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)04時21分51秒
犬だった。
でも人間だった。


ん?
だからあたしが言いたいのは犬なんだけど人間なんだってば。


んん??


「何これ・・・・?」

としか言いようがなかった。

「ね?変でしょ?」


みんなの話しをまとめるとこうだ。

研究所の外の木の茂みにコレがいたらしく
左手をケガしてるみたいだから手当てした・・・
見つけたのも手当てしたのもごっちんらしい。

それで一応裕ちゃんに見せようとここに連れて来たみたい。

圭ちゃん・よっすぃー・りかちゃんはただの野次馬的存在だとか。


これだけですごい(というか変)なのにさらにコレが・・・


「あーもー!変変言うな!」

・・・しゃべった。

13 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)04時35分39秒
それにはみんなビックリで。
一斉にコレから離れて後ずさり。
あたしもその一員。


「「「「「「しゃべった・・・」」」」」」

そして一斉にハモった。

「お前らだってしゃべってんじゃんか!」

しかも口答えしている。
・・・ちょっと憎たらしい。


「ちょ、どうすんのよ。コレ!」
「そりゃ〜ごっちんでしょ?見つけた&手当てした張本人だもん」
「え〜!?何でそうなんの!?こういう時は裕ちゃんじゃないの?」
「はぁ〜?何ぬかしとんじゃい!?押しつけるなっちゅうねん!」
「ごっちん・・・頑張って!」
「ちょっと、りかちゃんまで何言ってんの〜!?
 ・・・そうだ!なっち!なっちが引きとってよ!」

・・・・・・はい?
今何言って…??
そう言おうとした時。

みんなこっちを見ててうるさかった会話も一斉になくなってて…
おまけにあの「犬のような人間」もこっちを見上げている。

「そうやな」
「そうですよね」
「そうそう」
「なっち動物好きだし」
「安倍さん意外に世話好きだし」

14 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)04時43分37秒
「ちょ、待ってよ!何でなっちが・・・!?」

「「「だから動物好きだし世話好きだから」」」「「です!」」

最後に「です」と言ったのはよっすぃーとりかちゃん。
おいおい、そんなあたしの言い分も聞かないで勝手に・・・!?


「けって〜い!あぁーよかったぁ!」
「ほんとほんと」
「それじゃ、安倍さんよろしくお願いしますね!」
「可愛がってあげてください」
「なっち、頑張りや」

そう言ってその「犬のような人間」となぜか一緒に部屋に戻って来てしまった。

何でそうなるわけ!?無理矢理押し付けてるし!!

あーもー!!今までの生活リズム絶対狂うよこれは…

ちらっと連れて来た「そいつ」を見ると
あたしのベッド代わりのソファんに腰掛けて周りをぐるぐる見まわしている。


コーヒーも冷めきっていておいしいとは言えない。
まさか1人じゃなくて2人で帰ってくるとは・・・
15 名前:・・・ていうか。 投稿日:2002年10月02日(水)05時00分18秒
「…名前は?」

冷めきったコーヒーをすすながら隣に座って
顔を覗きこみながら話しかけてみる。


「おいら…腹減った」

あたしの質問は完全無視…?

「あたしはなっちっていうんだよ。あなたの名前は?」

今度は自分の名前も言ってもう1回聞く。

「・・・はぁ…」

おいおい…こっちがため息つきたいんですけど?
完全にあたしの事は無視ってワケですか?
あーもうームカツクなぁ…この犬。

冷え切ったコーヒーを机において

「はぁ・・・」
ソファに座ると自然にため息が出た。



会話一切なし。静かな時間が過ぎて行く。
犬の方を見ると(すでに犬扱い)
さっきから口をとがらせて下を向いたまま。


仕方なく頭をかいてから

「犬・・・なんだよね?」

あたしの一番の疑問を言うと犬は・・・


「犬じゃねぇよ!!豹だっつーの!!!」

と初めてあたしの言う事を聞いた。
怒ってるけど。どうやら「犬」と言われるのが相当嫌いらしい。

でもいぢわるで

「・・・ていうか犬っしょ?」

と言うと

「犬じゃねぇっつってんだろ!?」

と牙を向けて毛を逆立てていた。

この会話が奇妙な共同生活の始まりだった。

16 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年10月02日(水)05時02分49秒
今日の更新終了。

早くも矛盾する所が出てきたようで。
でもこんな感じで進めて行くつもりです。
17 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)05時57分52秒
かわいい!なちまり好きです。
18 名前:あんパンと銀色プレート。 投稿日:2002年10月05日(土)01時59分03秒
「犬」
「犬じゃない!」
「犬でなかったら何さ?」
「なっ!?豹に決まってんじゃんか!」
「豹・・・?」
「豹にしか見えないじゃん!?」
「いや、犬にしか見えないから」
「はぁっ!!?」

こんな会話が続いて30分近く。
そろそろからかうのも飽きたなぁ・・・

「分かった分かった。豹だね」
「ったく…分かればいいんだよ!」

ブツブツ言いながらも何とかご納得されたご様子のこの
野良犬ならぬ野良豹。

しっかし本当に憎たらしい・・・
何でしゃべれるわけ??

この野良豹にはまだまだ知らない事が多すぎる。

19 名前:あんパンと銀色プレート。 投稿日:2002年10月05日(土)02時00分59秒
「犬」
「犬じゃない!」
「犬でなかったら何さ?」
「なっ!?豹に決まってんじゃんか!」
「豹・・・?」
「豹にしか見えないじゃん!?」
「いや、犬にしか見えないから」
「はぁっ!!?」

こんな会話が続いて30分近く。
そろそろからかうのも飽きたなぁ・・・

「分かった分かった。豹だね」
「ったく…分かればいいんだよ!」

ブツブツ言いながらも何とかご納得されたご様子のこの
野良犬ならぬ野良豹。

しっかし本当に憎たらしい・・・
何でしゃべれるわけ??
何で人間なのに豹なの?
何であんな所にいたの?
何で・・・何で??


20 名前:あんパンと銀色プレート。 投稿日:2002年10月05日(土)02時12分07秒
「おいら、腹減った」

お腹を押さえてあたしの顔を見てくる。
ん?これってやっぱ何かあげなきゃダメって事だよね?

「何、食べたいの?ていうか何食べるの?」
「おいしいもの食べたい」

そんな物欲しそうな顔されても・・・


あたしはめんどくさそうにソファから立ってキッチンに置いていた
あんパンを持ってきた。
まぁこれくらい食べれるっしょ?


「はい」

あんパンを袋のままお腹を押さえている野良豹の目の前に差し出した。
野良豹の反応は・・・


「何これ?」

どうやらあんパンを知らないらしい。

「おいしいから食べてみなよ」

そう言いながら差し出していた手をもう1回突き出した。


21 名前:あんパンと銀色プレート。 投稿日:2002年10月05日(土)02時25分05秒
あたしが差し出したあんパンを手にとってじぃっと見つめている。


いつまで経っても食べるきなし。
あぁー・・・じれったい!

 「貸して」
・・・と言いながら返事も聞かずにあんパンをとると
袋を開けてパンを取り出した。

物珍しそうに呆然とそれを見ている野良豹。

「口開けて・・・ほら、あーん」

パンを片手に持ってあーんって言うとそれに従ってあーんと口を開けた。

まだ尖っていない丸みがある牙のような歯が見えた。
でも口の中もあたし達人間と全く変わりない。

こいつ・・・本当に何者?


開けている口を塞ぐようにあんパンを入れてやった。
微かに「んぐっ」って聞こえた気がした。

両手で掴んでかじって・・・

あたしはそれを見てからあんパンの入っていた袋をゴミ箱に捨てに行って
またさっき座っていた野良豹の横に腰掛けた。
そして机においていた冷たくなったコーヒーを一口飲んだ。

22 名前:あんパンと銀色プレート。 投稿日:2002年10月05日(土)02時39分57秒
喉を冷たくなったコーヒーが流れていった。

ふぅ・・・と一息つこうとした瞬間…



「うまい!!!!!うまいよコレ!?」

あんパン1つで感動してる人初めて見た・・・
あ、野良豹だから仕方ないか…。


「そう?そんなにおいし…」

野良豹がこっちを向いている時…
あたしは野良豹の首に付けられている何かに気付いた。
さっきまで野良豹が下を向いていたから気が付かなかった。
最後まで言えなかったのもコレに気付いたせい。

「どうしたの?」

野良豹は何事もないように普通にこっちを向きながらパンを食べている。


あたしはいきなりパンを取り上げた。


野良豹の顔が「あっ…」ていう顔からみるみるうちに
「くっそー」っていう顔に変わっていくのが一瞬にして分かった。

「何すんだよ!?返せ!おいらのパン返せ!」
「首見せてくれたら返してあげる」
「は?首?やだよ」
「じゃ、パンあげない」
「何で首なんだよぉ!?パンかーえーせぇー!!」
「だからパン食べたかったら首見せてよ」

じたばたしてあたしの手に持っているパンを必死に奪おうとするけど
野良豹の方が小さすぎて当然奪えるわけがない。

23 名前:あんパンと銀色プレート。 投稿日:2002年10月05日(土)02時53分57秒
「・・・本当に首見せたらパン返してくれる?」
「うん。約束するよ」

観念したのか小さく「…ん」って言って顔を上向けた。

首には赤い首輪が巻かれていた。
何の変哲のない普通に犬とかに付けるような首輪。

ただ1つ変わっていたのは・・・・・・

首輪の左側に銀色のプレートが付けられていた事。

野良豹はじぃっとして上を見上げている。
あたしは銀色プレートを見るために片手に持っていたパンを野良豹にあげた。
不安そうな納得いかない顔をしていたくせに
パンをあげるとすぐに表情が変わった。


銀色プレートを指でなぞると文字が彫られているような感触があった。

顔を近付けて見るとローマ字で彫られている文字。


「Y、A・・G…U、C、H、I・・・やぐち?」

思わず声に出して読む。やぐち…?何だぁ?


その瞬間・・・・・・


「なに?」

パンを食べ終わった野良豹が返事した。

24 名前:あんパンと銀色プレート。 投稿日:2002年10月05日(土)03時01分07秒
「・・・え?」

ばっと顔を上げて野良豹を見ると

「いや、だから今呼んだじゃん?なに?」



どうやら「やぐち」は野良豹の名前らしい・・・



「何で始めに聞いた時名前言わなかったの?」
「聞いたっけ?」
「聞いたっしょ!?」
「んー…覚えてない」
「はぁ・・・じゃ、やぐちって呼んでもいいの?」
「うん。別に何でも。それよりさ〜パンもうないの?」
「もうない!」
「え〜!」


その他銀色プレートを見たけど名前以外何も書いてなかった。

とりあえず名前だけ知れたからよしとするか…

25 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年10月05日(土)03時09分26秒
今日の更新終了。
レス付けてくれて嬉しかったり(w

名無し読者さん。
自分もなちまり大好きなんですよぉ〜!!!
頑張って書きたいと思います。
26 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月05日(土)06時34分57秒
首輪がついてるということは飼われてたのかな。
イメージ的には美教Uの豹やぐでいいんですか?
27 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月09日(水)22時45分04秒
おもしろい!
なちまり最高。
がんばってください。
28 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月13日(日)16時25分21秒
はまった。
初めて読みました。
いいですっ!!
なちまりLOVE!!
29 名前:調子悪っ! 投稿日:2002年10月15日(火)00時16分03秒
…やぐちという名の野良豹と出会ってからすこぶる調子が悪い。

まず最初に眼と首にキた。
目を離すと何をするか分からないっていうのにちょこまかとよく動くから。

次にノドと腹筋が痛くなった。
声を張り上げるのは結構お腹にくるんだと初めて知った。

その後は足。
やぐちはコンパスが短いくせに逃げ足は異様に早い。
最近よくふくらはぎの辺りがツって寝てる間に目覚めたりする。

肩も凝る。
何せ小さいと言われるあたしより背が小さいチビのくせに
無遠慮に見上げてくるから仕方なく視線を合わせてやる。

30 名前:調子悪っ! 投稿日:2002年10月15日(火)00時31分19秒
「はぁぁ〜…調子最悪」

重苦しい空気が流れてる。
あたしの周りだけ。

何せありえないくらいに早く起こされたからねぇ?
いやーありがたいったら!あははは・・・くそー。

もちろんあたしを起こすのはこの「やぐち」という名の野良豹しかいない。


現在午前7時30分。
あたしの就寝時刻午前6時。
・・・ありえない!

ほんっと寝てないんだから。
6時にソファに寝転んでも色々考え事とかしちゃったりして
結局寝つけたのは6時30分頃になって。

でもこうして今起きてるのはやぐちのせい!
こいつがあたしの寝ているソファまで寄って来て起こすもんだから。
起きずにはいられないくらいうるさいから。

しかもあたしを起こす理由は決まって

「腹減ったよぉー!!なっち起きてよぉー!!」

朝ご飯要求。(しかも毎日)

31 名前:調子悪っ! 投稿日:2002年10月15日(火)00時45分18秒
でも決まってあたしは機嫌悪く
「・・・パン。パンあるから…勝手に食べて…」
そう答えるんです。だってやぐちパン好きなんだもん。
実はいうとまだパンしかあげた事がないってのもあるけど…
(パンの中では特にあんパンがお気に入りらしい)

でも・・・
「え〜!?やだよ〜!!パン焼いてよぉ〜!!
 おいらあったかいパンが食べたいんだってば〜!!!」
と言ってまさに聞く耳持たず状態。



実は最近電子レンジで焼いたパンをあげたら
感激してこれが今の超お気に入りっぽくて
(特にあんパンをあっためたら最高らしい)
こればかりねだってくる・・・


勝手にあっためて食べろって言いたいんだけど
何か危なっかしい感じがして・・・
…あ!別に飼い主らしいトコが出てきたとか愛情が涌いてきたとかでなくてね!?
ただ何かその、電子レンジ壊されたら困るし〜!?
それだけだから!


まぁこうやっていつもパンをあっためて、
さらにミルクココアを作って差し上げるんです。


今もその最中なワケで。

32 名前:調子悪っ! 投稿日:2002年10月15日(火)00時59分22秒
マグカップの中のココアをかき混ぜてたら大きな欠伸が自然と出た。
涙目になってやぐちを見ると電子レンジの中で
くるくる回ってるあんパンを目でじぃーっと見つめてる最中で。

自分のコーヒーとやぐちのココアをテーブルに運ぶとちょうど
「チン!」というパンが出来あがった音がした。

部屋中に甘い匂いが漂っている。
きっとココアとパンのせいだと思う。


「なっち!パン!パン!!」

そう言いながら電子レンジを指差して
じたばたしてるやぐちの方へ行ってパンを取り出した。



やっと朝食。
2人イスに腰掛けて食べ始めた所であたしはまた1つ大きな欠伸をした。

最近ロクに寝てないから欠伸の1つや2つ仕方ない。
朝は無理矢理起こされるし
昼〜夜にかけてはやぐちにかまいっぱなしで
夜中は自分の研究に没頭してしまうし。

33 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年10月15日(火)01時24分11秒
かなり少ない更新終了。

>26の名無し読者さん。
まだ誰かに飼われてたとかまでは考えてないです。
美教Uの豹やぐをイメージしていただけたら嬉しいです。
あれ想像してるんで(w

>27の名無し読者さん。
ありがとうございます!
なちまり最高ですよね!最高ー!!
頑張ります。

>28の名無し読者さん。
読んでハマって頂いて嬉しいです。ありがとうございます。
なちまりLOVEですか!?
結構いるんですねぇ〜!!!嬉しい!

まだまだ進展せずに豹やぐとなっちばかり書いていきます。
その中で他のメンバーも登場できたらいいかなぁ…と思ってます。

34 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年10月15日(火)13時18分10秒
なちまり発見!!
世話の焼ける子供のような矢口萌え。
この先の展開も激しく期待してます。
35 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月18日(金)17時40分38秒
子供やぐちがいい!!
36 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月01日(金)17時56分06秒
初めて読みましたが、おもしろいですね。
がんばってください。
37 名前:悪口。 投稿日:2002年11月03日(日)01時19分56秒
もう1つ大きな欠伸をしてパンを食べようと下を向くと
パンがないのだ。あれ??今焼いたはずなのに…??

 そう思ってやぐちの方を向くと・・・


「…何してんの?」
「ん〜?パン食べてる」
「…誰のパン?」
「な、なっちの・・・」

そう。パン泥棒はやぐちサン★もうかぶりついちゃってます♪
ってふざけんなぁ!

「あのねぇ…なっち食べるモノないっしょ!?
 どうしてくれるの!?」

「だってぇ…なっちボーっとしてるからいらないんだと
 思ったんだもん」

すっかり耳が下に下がって口を尖らせている。
でもそんな事ではあたしの機嫌は治まらない。
 無理矢理起こされた苛立ちもあってさらにムカムカしてくる。

38 名前:悪口。 投稿日:2002年11月03日(日)01時36分36秒
やぐちへの不満が爆発して一気にしゃべり出す。
少しの細かい事でも思い出したらすぐに口に出して言いまくる。
そんなあたしの姿にやぐちもさすがにビビって呆然としている。




「大体ねぇ・・・あたしはまだ一緒に住んでるとかそういう風には
 思ってないから!ただ置いてあげてるだけだから勘違いしないでね」

色んな悪口を吐き出した後で大きく溜息をつきながらそう言って
やぐちを見ると眉間に皺が入っていた。



「何だよ・・・置いてやってるって…どういう意味だよ、それ」

「えー?そのまんまの意味だべ?居候させてあげてるだけで
 もしやぐちに何かあってもあたしは関係ないって事。
 あたしとやぐちは飼い主でも友達でも親友でも恋人でも
 何でもない!そうっしょ?」

いつのまにか最後の方は早口になっていた。

39 名前:悪口。 投稿日:2002年11月03日(日)01時47分16秒
「そっ…そこまで言わなくてもいいじゃんかぁ!」

やぐちはイスからいきなり立ち上がってあたしの方を見つめてくる。
耳もいつのまにか普通に戻っていた。


見つめてくる目はなぜか淋しそうに見えた。
多分気のせいだろう・・・


コーヒーとミルクココアのまじった甘い香りがするこの部屋で
ピリピリとした空気が流れている。


「何期待してんの?やぐちには愛情も同情も何もないよ。
 変な期待なんかしないでよ。迷惑だから」


少し言い過ぎたかなぁと心の中で思った。
本当に少しだけね。ちょっと後悔もした。
何でかって?だって・・・



「・・・・・」


何も言い返そうとしないでただ悲しそうな淋しそうな目であたしを
見つめるやぐちを見たから。
尖らせていた唇を噛んでただあたしを見つめていた。


40 名前:悪口。 投稿日:2002年11月03日(日)02時06分32秒
でも素直じゃない変な所で頑固者なあたしは
「ごめん」なんて言えなくてっていうか言いたくなくて


「何?イヤだったら出てけばいいっしょ?」

なんて言ってしまう。心の中では罪悪感がいっぱいなのに。


あたしの冷たい言葉にやぐちは


「・・・言われなくても出てくよ!」

とあたしを睨みつけて言った。

「はいはい。二度と戻ってこないでね〜」
「も・・・戻って来るか!こんなトコ!」


そう吐き捨てるように言ってドアに向かっていくやぐち。
わざと大きな足音を「ダンダン!!」とたてながら…
何ていうか…子供っぽい。



ドアを開けた時振り向いて

「ごっちんが言ってた。なっちみたいな顔の事を童顔っていうんだって。
 バイバーイ!童顔サン!」

ニヤニヤして笑いながら言うやぐちはただのガキじゃなくて悪ガキだ。
……ムカァァァ!


「この野良犬!早くどこにでも行けー!」

そう叫ぶとやぐちは早々と出ていった。
ドアの閉まる音が静かに響いた。



41 名前:悪口。 投稿日:2002年11月03日(日)02時17分38秒
それから速攻ソファに寝転ぶとすぐに眠りにつけた。

 どうせあたしが起きた頃に戻って来てるっしょ…
 どこにも行けるとこないくせに意地張っちゃってバカしか言いようがないよ。
 
あたしは軽い気持ちで考えていた。
未だに心の中に罪悪感でいっぱいだけど。
 







眠りから覚めるとそんなに時間が経っているように思えなかったけど
時計を見ると驚きのあまり目を疑った。
もうすぐ夕方から夜に変わる頃だった。

その間1回も目を覚まさずに寝ていた自分自身がすごいと思った。


欠伸をしながら筋を伸ばして起きあがると周りは朝と変わりない。
机の上にはコーヒーとミルクココアが入った2つのコップ。
パンの粉だけが残っているお皿。

忘れかけていたそこで起こった出来事が思い出されてくる。


「あっ…やぐち…」

自然に名前を呼んだけど返事が返ってくるワケもなかった。
二度と戻って来るなと言ったのはあたしだから。


42 名前:悪口。 投稿日:2002年11月03日(日)02時23分28秒
予想もしていなかった事態に戸惑いながら
とりあえず考えてみる。


 そりゃちょっと言いすぎたと思うよ…
 いや…相当言いすぎたけどさ〜。
 本当は…その、意外に好きだったりするし。
 意外にカワイイって思う所もちょっとはあるし…
 置いてあげてるとかもう思ってないし…
 一緒に住んでるって思ってるし…


とかワケも分からない事を思いつつ…
考えてもらちがあかない事に気付いてとにかく探してみる事にした。


43 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年11月03日(日)02時40分49秒
短いけど更新終わり。
久々の更新です。
もっと更新を早くしたいですねぇ。

読んでる人@ヤグオタさん。
レスありがとうです!
なちまり好きですか?そうなら嬉しいです。
ここの矢口は子供っぽいです。
そしてなっちは口が悪い!笑
期待に応えられるように頑張りたいです。

>35の名無し読者さん。
子供矢口気に入ってもらえて嬉しいです。
ちょっと子供すぎるかなぁとも思いますが(苦笑)

>36の名無し読者さん。
レスありがとうです!
更新遅いかもしれませんが頑張りたいです。


喧嘩させてしまいましたがこれを乗り越えれば・・・
次の更新で他のメンバーも登場予定です。
44 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年11月03日(日)13時49分12秒
確かにここのなっちは少し口が悪いですね。
口が悪いのは矢口って、相場が決まってるのに(w
しかし、やぐちはどこに行ったんだろう・・・?

>なちまり好きですか?そうなら嬉しいです。
はい、なちまり大好きです。
45 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月03日(日)15時14分29秒
なっちは自分にもなかなか素直になれないみたいですね。
でも、よくありますよね。
思ってなくても口に出しちゃう事とかって・・・。

もうそろそろやぐちとなっちも仲良くなるのを楽しみにしてますが
やぐちが子供っぽいとこ、好きなのでやぐちはこのままにしてくれれば
嬉しいです。
次の更新楽しみにしてます。
46 名前:ヤグ豹捜索中・・・ 投稿日:2002年11月04日(月)00時36分04秒
あたしにしてはちょっと大きすぎる白衣をバサバサと音をたてながら
まず向かった所は裕ちゃんの部屋。

やぐちが裕ちゃんの部屋にいる確立はゼロに等しい…。
やぐちはどうも裕ちゃんが苦手らしくて近付こうとしないないから。
まぁでも一応行ってみる事にする。いないと思うけど。



ドアを開けて入ると妙な煙が漂っていた。
まさか・・・りかちゃんみたく爆発でもするんじゃない?
って心配するくらいにすごい。


「裕ちゃ〜ん?いるのぉ〜?」

前もロクに進めないくらいすごい煙だったから立ち止まって呼んでみる。


「・・・何や?どうかしたんか?」


少しするとあたしの目の前には裕ちゃんがいた。

47 名前:ヤグ豹捜索中・・・ 投稿日:2002年11月04日(月)00時44分15秒
「あのさ〜やぐち知らない?」

この煙の事を聞きたかったけど今はそれよりやぐちの事が気になって仕方ない…
煙を手で払いながらきくと(こんな事しても意味ないけど)

「さぁ?知らへんけど何や?おらんようになったんかいな…?」

裕ちゃんは全くこの煙を気にしていないらしく平然としていた。

ほんとひどい煙だよ・・・裕ちゃんの顔見えないもん。見たくないけどさぁ。

「うん・・・ちょっと色々あって。
 まぁ他の人に聞いてみるからいいや。ありがとうね」

そう言って早々と部屋を飛び出した。
煙のせいで目がしみて涙が出てきて仕方なかったのだ。

裕ちゃんはあんなトコにずっといて大丈夫なのかなぁ…?
関係無いけど。今はやぐちの方が先決だ。


あたしはそう思いながら圭ちゃんの部屋に向かった。

48 名前:ヤグ豹捜索中・・・ 投稿日:2002年11月04日(月)01時01分22秒
やぐちが圭ちゃんの部屋にいる確立は少ない。
だってやぐち、圭ちゃん見ると「オエッ」って気持ち悪そうな顔するんだもん…
これってすっごい失礼だし。(でもちょっと笑える)
圭ちゃん怒るし…やぐちはからかってるだけなんだけど。
まぁでも一応行ってみる事にする…いないと思うけど。



圭ちゃんの部屋に入ろうとするとチェーンがかかって入れなかった。
(特別に圭ちゃんが独自にチェーンを付けたのだ)
全くめんどうな事するんだから…
チェーンの「ガチャガチャ」鳴る音に少しうんざりしながら大声で

「けぇーちゃーん!開けてよー!!」
…と叫ぶと部屋とドアの隙間に現れた。
ちょっと…怖いんですけど?


「何?」

圭ちゃん…眼鏡ちょいとズレてますよ?斜めってるって。

「あのさ〜…それより開けてくれない?」

一向にチェーンをはずす気がなくてそのまま聞く態勢に入っている。

「・・・そんなに長い話なの?」

「え?いや、すぐ済むと思うけど…」

「だったらこれでいいじゃない。で、何?」


圭ちゃんの迫力に負けてしまった。
何かやだなぁ・・・まぁいっか。

49 名前:ヤグ豹捜索中・・・ 投稿日:2002年11月04日(月)01時08分03秒
「あのね。やぐち知らない?」
「知らない」
  ・
  ・
  ・
「え…!?」

早っ!速攻!


「話それだけ?」


「あぁー…うん・・・」

「もういいの?」

「う、うん・・・」

「ふーん。それじゃーね」


  ・・・・・・バタン。


そう言って即ドアを閉められた。
「キィィィ…」というかすかなドアを閉める音も
耳に残ったままあたしは歩きだした。



あれ、絶対ヤバイ事してるよ・・・どうしよ…
関係ないけど。今はやぐちの方が先決だ。


あたしはそう思いながらりかちゃんの部屋に嫌々向かった。
・・・どうか無事で帰って来れますように…
そう心の中でつぶやいた。


50 名前:ヤグ豹捜索中・・・ 投稿日:2002年11月04日(月)01時21分39秒
ヤダなぁ…行く気しないけど仕方ないし。
できれば近付きたくない。関わりを持ちたくない。

やぐちがりかちゃんの部屋にいる確立はゼロを越えてマイナスだ。
やぐちもりかちゃんの恐ろしさに勘付いているのか近寄ろうとしない。
まぁでも一応行ってみる事にする。絶対いないと思うけど。





ドアを開ける前に大きく深呼吸する。
 どうか変な事してませんように…!
 危険な事してませんように…!

「よし!」

小声でそう気合いを入れてドアのブを持つと・・・


「ちょっ・・・りかちゃぁーん!ホントにやめようよぉ…」
「よっすぃー何言ってるの?大丈夫だって♪
 こんなに綺麗な色の液体になったんだから、あとこれを混ぜれば完璧だよ☆」
「そんな問題じゃなくてぇ…ドロドロじゃん。その液体・・・」


・・・この情けない声はよっすぃーで。
あの甲高いアニメ声ですごい事を言ってるのはりかちゃん・・・。


あたしはそのまま入らないで部屋の会話を聞く事にした。超イヤな予感。



51 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年11月04日(月)02時01分37秒
めっちゃ少ないけど更新終了。
ヤグ豹捜索開始です。

読んでる人@ヤグヲタさん
ちょっと口が悪くて黒いなっちが意外に好きなんで(w
なちまり好きさんだったんですね!
なちまり好きさんが少ないんでかなり嬉しいです!

名無し読者さん。
思ってもない事を口に出してしまう…私もよくあります。
なっちと矢口が仲良くなるのはもうすぐの予定です。
子供な矢口は多分ずっとこのままだと思いますよ〜。
なっちは段々と性格が変わっていくつもりです。

次の更新はいつか分かりませんが早めにしたいと思っています。

52 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月04日(月)13時36分00秒
やぐ、どこいった!?
53 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年11月04日(月)22時31分28秒
あの人のトコロに居ると思ったんだけど、
やぐちはあの人のコトが苦手なのか・・・。
じゃあ、ドコに行ったんだろう・・・?
54 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月08日(金)16時40分35秒
やっぱ、ごとーさんかなぁ。


それとも、外とかに旅立ったとか・・・・
55 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)01時43分31秒
「しかも何かシュワシュワいってるし〜!!!」
「よっすぃーって心配性だねぇ・・・」
「そういう意味じゃなくて!ていうかりかちゃんの場合は
 ただ薬品混ぜて楽しんでるだけじゃん!絶対ヤバイって!」

ガタガタと大きな音がした。
多分よっすぃーがりかちゃんのそばから離れたんだろう・・・

「そんなに離れなくてもいいんじゃない!?もう混ぜるよ〜♪」

「あっ、ちょっ!?」

「いっせー・・・」


ヤバイ!りかちゃんの薬品を混ぜる直前の言葉「いっせーのーで」の
「いっせー・・・」が耳に入った瞬間・・・
あたしは条件反射でドアノブを
握っていた手をすぐに離して全速力で走り出した。



後ろからよっすぃーの悲鳴と爆発音が聞こえた。
よっすぃー・・・ご愁傷様です。

56 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)02時00分37秒
久々の全速力はキツイってもんじゃない。呼吸困難に陥る。
もうよっすぃーの心配なんかしてる場合じゃない。もうどうでもいいのだ。


はぁはぁしながら最後に思い浮かんだ相手はごっちんだった。
だって他の人達はやぐちがいる事をまだ知らない人達ばかりだから。



やぐちがごっちんの部屋にいる確立は今までの中で一番高い。
意外と好きらしい。実はいうとあたしよりごっちんの方に懐いてるし。
部屋にいないと思ったら大抵ごっちんの部屋にいる事が多いのだ。
だから多分いるだろう。
ほんとに単純の上にバカがつくくらい分かりやすいんだから。
いないという事を想像しないでごっちんの部屋のドアを叩いた。


「んぁ〜?なっち、どうしたの?」
「あのさ〜、やぐちいるっしょ?呼んで来てくれない?」

もういる事分かってるんだから。いない?なんて聞く必要ない。

「え〜?やぐっちゃんなら今日は来てないよ?どうかしたの?」







「・・・えぇー!?ほ、ほんとにいないの!?」

まさか、かくまってたりしないよね?

「ほんとに来てないよ?」
「あ、ありがとう・・・」


やぐちサン?どこにいるんですかぁ!?

57 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)02時20分53秒
呆然としたまま自分の部屋に戻った。
まさに放心状態ってやつ?
あぁ・・・買ってた犬が急に逃げ出しちゃった気分だよ。
ごっちんのとこにもいないって・・・どこにいるワケ!?


まさかほんとに外に飛び出しちゃったとかかなぁ?
いてもたってもいられない。
今は研究に没頭する力もなくてやぐちの事で頭はいっぱいだ。


とりあえず外へ探しに行く事にした。
ほんとに何でこんなに気にしてるんだろう?
いたらうるさくてうざったいのに、いなかったら不安で気になって仕方ない。

それだけやぐちが好きって事?・・・あえりない!好きなんかじゃないから。



「はぁー・・・」
白衣をバサバサさせながら外に出た。ため息を1つ自分の部屋に残して。

58 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)02時38分09秒
重い扉を開くと冷たい風がいきなり飛びこんできた。

何ヶ月ぶりの外だろう?
何ヶ月ぶりの太陽の光だろう?
何ヶ月ぶりの景色だろう?
 何もかもが懐かしく思えた。・・・そう思うのってヤバイかなぁ・・・


外はもうこんなにも寒かったんだ。
ため息をつくと白い息が出て空に消えて行った。


周りを見渡すと緑の葉っぱが綺麗な赤や黄色に染まっていた。
落ち葉が赤のじゅうたんや黄色のじゅうたんに見える。


しばらく久々の外の景色に見とれてやぐちの事を忘れていた。
でも思い出した。何でかって?



綺麗な紅葉の木々の下の茂みに
遠くからでも分かるような不自然なモノが見えた。

 豹模様のやぐちのしっぽ。

やっと見つけた。
赤いじゅうたんを踏んで茂みの中を見ると
小さくくるまっているやぐちの姿があった。


寒いのに・・・こんなトコで何やってんだか。

59 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)02時59分26秒
「・・・やぐち。こんなトコで何やってんの?」
腕組みして覗きこむように言うとやぐちはあたしの方を向いて

「うっさいなぁ!ほっとけよぉ!」

・・・・・・ムカッ。何その態度?


「行くとこなくてこんな寒〜い外にいるの?へぇ…ご苦労様ぁ」

「なっ!?そ、そうだよ!悪いか!?」

ふん。素直に部屋に戻りたいって言えばいいのに。ほんと強情なんだから。
そう思ってるけどあたしからは
「部屋に戻ろう?」って絶対言わない。
だって折れたみたいでイヤなんだもん。
 
 そんな事思ってるあたしが強情?そんな事ない!



「ふ〜ん…夜になったら凍え死ぬくらい寒くなるんじゃない?
 まぁなっちには関係ないけど。頑張ってね?」

「もう分かったから早く帰れ!
 部屋にこもって怪しい研究でもしてろ!この・・・童顔!」

・・・・・・ムカムカッ。

「豹か犬かわかんない奴に言われたくないべさぁ!この…野良犬!」

吐き捨てるようにそう言って重い扉の方へ走った。
後ろからギャーギャー騒いでる声がしたけど気にしない。

あんな奴、凍死でも何でもすればいい!
あたしの知った事じゃない!


60 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)03時15分57秒
部屋に戻るとすぐに暖房をつけた。
何分かするとすぐに部屋全体が暖かくなって心地いい。

でも頭の中では相当苛立っていた。
探して探してやっと見つけたと思ったのに・・・
もう知るもんか。あそこで凍死しなさい。


ソファに寝転がると部屋の暖かさのせいかまた眠気が襲ってきた。
夢の中に入るにさほど時間はかからなかった。











目を覚ますと部屋が暖かすぎて頭がボーっとしていた。
寝ぼけているというのもあるけど。
何時間くらい寝たのか分からない。
でも時計を見ると7時過ぎ。もう外は真っ暗だろう…




 やぐちは?
今頃凍えているだろう。
もしかして本当に凍死してたりして。
あの時あたしから言えばよかったのかもしれない。
「部屋に戻ろう?」って。


・・・気にしだしたら止まらない。
本当は心配なのだ。いないと不安なのだ。


あたしは起きあがって決心した。
筋を伸ばして、首を左右に曲げて、欠伸をして。

「よし…行くか。野良犬を連れ戻しに」

そう言って部屋を出た。暖房はつけたまま。

 
 今度は2人でこの部屋に戻ってこれますように。


61 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)03時32分51秒
重い扉を開けるとさっきと同じように冷たい風が飛びこんできた。
その冷たさはハンパじゃない。


暗くてじゅうたんすら見えない状態で茂みに近付くと
さっきと同じ態勢でくるまっているやぐちの姿があった。


「やーぐーちぃ。風邪ひくよ?」

「うるさい!」

今だお怒りのご様子。

「ほんとに風邪ひくってば!」
「おいらが風邪なんかひいても関係ないくせに!」


関係なくなんか、ない。
心配してんだっつーの。
分かれ、このバカ。


風が容赦なく吹いていて余計に寒い。
このままじゃ本当に凍死しかねない。


「やぐち・・・」

今度はきっと言えるはずなんだ?
「戻ろう?」って。言えるはず。
自分に素直になれるはず。



「部屋に・・・戻ろう?」

何でこんなに緊張するんだ?
歯を食いしばったのは寒さのせいだけじゃない。


「・・・え?」

あたしの事を見向きもしなかったやぐちが驚いてこっちを見ている。


「き、聞こえなかったの?戻るよ!?早く!」

「でも、なっちにとっておいらは・・・」


「あー、もう!」


「えっ?なっち!?・・・うわぁ!?」


62 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)03時50分18秒
気付いたらやぐちを抱きかかえて歩き出していた。
やぐちの驚いた顔が可愛く見えた。これは気のせいだと思う・・・


それにしてもやぐちて意外に重い…




部屋のドアを開けるとさっきとは違って温風が飛びこんできた。
暖房…つけっぱなしだったんだっけ。
今度はちゃんと2人で戻って来れたよ。



今だあたしの腕の中にいるやぐちをソファに座らしてココアを入れてあげた。
体全体が冷たいやぐちの体。抱きかかえて分かった。


少しの沈黙・・・
言わなくちゃいけない事がいっぱいある。

重い口を開く。

「あの…ごめん。その何ていうか、ちゃんと一緒に住んでるって思ってるから。
 それに同情はないけど少なくとも愛情はあるから」



「おいら・・・ここにいていいの?」


ココアの入ったコップを両手で包み込むようにして
持っている手が寒さのせいで赤い。


「当たり前っしょやー!ここにいてくれなくちゃなっちが…困るか、ら」


恥ずかしいくらい本心ですらりとこんな事言ってしまった…
顔がみるみるうちに赤くなっていくのが自分で分かる。


63 名前:ヤグ豹捜索中・・・2。 投稿日:2002年11月23日(土)03時57分54秒
「へへっ…嬉しい!」

心から笑っているやぐちを初めて見た。
それと共に何ていうか…ドキッてした。
今のが気のせいならいいけど。



それからすぐにやぐちは寝てしまった。
よほど安心したのだろう。

 あたしはやぐちをベッドに運んでから自分の研究を始めた。


64 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年11月23日(土)04時07分08秒
更新終わり。
久々っす。
早くしたいとか言ってたのにすいません・・・

名無し読者さん。
ヤグ豹は外に行ってました。
寒いのに・・・

読んでる人@ヤグオタさん。
何となくなかざーさんが苦手という設定にしたかったんで。
犬猿の仲みたいなのが理想。
ヤグ豹は外に行ってました。

名無し読者さん。
最初ごとーさんのとこに。って思ってたけど
ちょっと変えて見ました。
外っつーのは正解!笑


一応これで仲良くなったって事で。
次からは…どうなるかまだ考えてないです。

65 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年11月23日(土)12時41分15秒
2人とも、子供な性格でカワイイですね。
やぐちは、研究所の近くに居たってコトは、
やっぱり心のどこかで、なっちが探しに来てくれると思っていたんですかね?

次は、もっと2人を仲良くさせてあげてください(w
66 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月24日(日)15時03分57秒
二人の心がふれあいましたね。
よかったです。
67 名前:なちまり大好きっ子 投稿日:2002年12月06日(金)01時34分27秒
数少ないなちまり小説、発見した時は心躍りました!
なちまりのほのぼの系期待してます!
68 名前:古びたソファの上で。 投稿日:2002年12月09日(月)00時02分20秒
夢を見ていた。
何故か夢の中であたしは見覚えのある場所にいた。
そこはあたしが通っていた高校の教室。
チョークの粉とホコリっぽい匂いのする懐かしい教室だ。


ふわっと空気が入ってふくらんだ真っ白なカーテンがゆらゆらと動いている。
あたしは教卓の前でただ突っ立っていた。
自分自身を見るといつものダボダボでヨレヨレの白衣でなくて
毎日のように着ていた高校の制服だった。
 余計に懐かしい感じがした。
 

69 名前:古びたソファの上で。 投稿日:2002年12月09日(月)00時06分04秒
ゆらゆらと規則的に右から左に空気が入って流れていた
真っ白なカーテンの側に人影が見えた。

(あれっ?誰もいないと思ったのに…誰?)

あたしの頭に飛びかかってくるカーテンを手でよけながら一歩一歩近付く。

 「誰?そこに誰かいるの?」

聞いても返事は返ってこない。


70 名前:古びたソファの上で。 投稿日:2002年12月09日(月)00時11分57秒
やっとたどり着いて人影を隠しているカーテンをよけた。
その子はあたしと同じ高校の制服で後ろを向いていた。

(こんな子学校にいなかったよ…?でも・・・誰かに似てる…)

学校では校則違反のキレイな金色の髪。
かなり低い身長…。


  
  んー?これって・・・!?



71 名前:古びたソファの上で。 投稿日:2002年12月09日(月)00時19分22秒



  ・・・・・・・・ぎゅっ。

いきなり何かに抱きしめられた。
今の今まで見てたあの夢も途切れて目を開けると金色の髪。尖った豹柄の耳。

 まぎれもなくやぐちだった。

てかビビるっしょ!?しかも超〜抱きついてるんですけど!?

「やっ…やぐち!?」
半分寝ぼけたような声で名前を呼んだ。
当の本人やぐちはぎゅーって痛いくらい抱きついたまま…
まだ状況が理解できていないあたしは

「どうしたの?何かあった?」
なんてまぬけた声を出しながらやぐちの顔を見ようと引き離す。
やぐちの顔を見ると

「何もナイよ。ただ一緒に寝たいだけ」
「ふぇ!?一緒に寝たいって…も、もう朝だべ!?」

寝る時さえもつけている腕時計を見ると
(正確にははずすの忘れるだけ)7時過ぎ。


72 名前:古びたソファの上で。 投稿日:2002年12月09日(月)00時26分09秒
「なっちまだ寝るんでしょ?」
「あぁ…うん。できれば寝たいかなぁ・・・」

「んじゃおいらもなっちと一緒に寝るぅ」

やぐちはそう言いながらあたしの胸のトコにもぐりこんできた。
しっかりと背中に手を回してあたしの白衣をぎゅっと握りしめている。

「ちょ・・・何言ってんのさ!?」



「だめ?なっち、おいらと寝るのイヤなの?」

ちょっと口を尖らせながら甘いコエ。
豹柄の耳も下へ垂れ下がっている。
子犬だったら「きゅーん」って鳴いちゃってるような状況…
そんな、そんな顔でそんな仕草をしながら
あたしを見て…そんなの言われちゃったら

断れるワケないっしょやー!!!


73 名前:古びたソファの上で。 投稿日:2002年12月09日(月)00時41分18秒
小さい古びたソファに2人。
あたしも普通より体は小さめだしやぐちも普通よりずっと小さめだけど
やっぱそれなりに窮屈で・・・

やぐちがソファから落ちないように
あたしが横向きに寝て抱きしめる態勢になった。
あたしの左腕はやぐちの枕がわりになっている。
余った右手でやぐちの体をかばうように抱きしめる。
やぐちはやぐちであたしに抱きついたまま離れない。
気付くと微かに寝息をたてている。
すっかり心を許して安心しきった寝顔。


あのやぐちのプチ家出事件から数日・・・
あたしの「同情はないけど少なくとも愛情はある」とか
「ここにいてくれないとなっちが困るから」とか言っちゃったせいで
やぐちはすっかりあたしに懐いてしまった。
この一緒に寝る回数も段々多くなってきている。
ずっとあたしから離れない日も多い。
まるで小さな子供。それか子犬。

あたしもあたしでこんなやぐちをカワイイとか思っちゃってるから相当ヤバイ。
それに実はこうして甘えられるのが嬉しくて仕方ない。
もうヤバイくらいやぐちに愛情注いじゃってます。


74 名前:古びたソファの上で。 投稿日:2002年12月09日(月)01時02分04秒
あぁ・・・ほんっとにヤバイ。
間近でそんな顔しないで。
気付きたくなかった思いが見え隠れしている。
このやるせない感情に戸惑いながら
さっきより強くやぐちを抱きしめて目を瞑った。



これはただの動物愛護。ただそれだけ。
あたしはやぐちを大切な存在だと思っているんだ。
ペットとか友達とか家族とか・・・恋人とか。
そういうので表せない関係なんだ、あたし達は。

あたしはやぐちが好きだよ?
でもそれは違う好きなんだ。
愛してるでなくて。
愛してるじゃない。
愛して・・・ない!
愛してない。愛してない。愛してない・・・


自分自身で言いきかせている内に段々と睡魔が襲ってた。
気付くとやぐちに起こされるまで見ていた夢の続きっぽくて驚いた。

さっきの校則違反の髪色の彼女があたしの方を向いている。
さっきまでゆらゆらとしていたカーテンが静かになって穏やかに流れている。
あたしも彼女の金色の髪と真っ白なカーテンが眩しくて
目を細めながら彼女を見た。


75 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年12月09日(月)01時46分45秒
更新終わり。
かなり短くてすいません。


読んでる人@ヤグヲタさん。
ありがとうございます。
やぐちも一応期待しながら待っていたんですよ。
今回でもっと仲良くなったつもりです。

名無し読者さん。
ありがとうございます。
意外と心が触れ合うのに時間がかかりましたが
もう喧嘩する事もないと思います…多分。

なちまり大好きっ子さん。
ありがとうございます。
本当になちまりって少ないですよねぇ…
こんなにもベストカップルなのに!笑
この良さを伝えようと書いてるんですけどねぇ…
なちまりほのぼの系。期待に応えられるように頑張りたいです。


他のメンバーの皆さんも徐々に出していきたいんですけど機会がないです…
一応やぐちに一番深く関わっていた予定のメンバーがいるんですけど
まだ出てもいないです。

76 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年12月09日(月)16時23分09秒
ようやく添い寝するまで関係が進んだんですね。
でも気持ちの方はまだまだ・・・かな?

>一応やぐちに一番深く関わっていた予定のメンバーがいるんですけど
>まだ出てもいないです。
誰だろう・・・い(略)かな?
77 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月10日(火)16時58分54秒
やっぱりなっち、自分の気持ちを否定しまくってますね。
でもなんかこーゆーのも好きです。
78 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)20時29分17秒
ほのぼのしてていい感じです。
やぐちに深く関わってたメンバー・・・ねぇ。
なんとなく予想はつきます。
その人も好きなんです。たぶん。

楽しみにしてます。
79 名前:古びたソファの上で。2 投稿日:2002年12月28日(土)01時52分45秒
「・・・やぐち?」
あたしより身長が低いせいで少し上目遣いで笑っているのは
他の誰でもない、あたしがよく知っているやぐちだった。


「なっちの制服姿、初めて見た。かわいいね。」

いつもと違って見えるのは豹模様の耳やしっぽがないだけだろうか?

「やぐちこそ…制服似合ってる…」

何で耳としっぽないの?
何で豹じゃないの?
何で制服着てるの?

聞きたい事、いっぱいあったはずなのに
そんな事忘れるくらいあたしは、やぐちに見とれてた。


80 名前:古びたソファの上で。2 投稿日:2002年12月28日(土)01時59分45秒
「ありがと。」そう言いながらあたしに笑いかけて壁に背中を向けてもたれた。
トン、トン、トン、トン…トン、トン、トン、トン…
やぐちがリズムをとるように軽く頭を壁に打ちつけてる音が教室に響くだけで
他には何も聞こえない。

  何だかなぁ・・・。

やぐちはやぐちでボーっと周りをキョロキョロ見渡してたりしてるし
あたしはあたしでそんなやぐちをじぃっと見つめたまま。
  制服のスカァト超短い。
  ルーズソックスはいてる…
・・・ギャル?やぐちギャル?
  
そんな余計な事を考えていると・・・


81 名前:古びたソファの上で。2 投稿日:2002年12月28日(土)02時07分26秒
「・・・何、足ばっか見てんの?」

トントン…って音もいつのまにかなくなってて
どうやらあたしはやぐちのスカァトとルーズソックスの間に見えてる
生足に釘付けだったみたいで…

「あっ…その…」
「なっちやぁーらしぃ〜!!!!!おいらの生足見て欲情しないでぇ〜!」

あたしの言葉を遮って自分の足を隠しながら大声。(でも隠しきれてない)

「や!そんなのでなくて!なっちは、その・・」
「エロなっちぃ!!!!」

あたしの否定虚しく「エロなっち」決定…
違うべ!違うべ!全然違うべ!そんなの思ってないべさ!

「うぅ…」って唸りながらやぐちを見るとまだ自分の足を隠している。
(でもやっぱり隠しきれてない)



82 名前:古びたソファの上で。2 投稿日:2002年12月28日(土)02時17分14秒
「まぁ、でもおいら知ってんだよねぇ…」

さっきの「エロなっち」って言われた事に今だヘコみながらやぐちを見ると
笑いたいのを我慢してるみたいに肩を震わせてる…
完璧からかわれてるんですけど??

「な、何を知ってるのさ?」

からかわれてる事に内心怒りながら
あたしがそう言うとやぐちは曖昧に微笑みながら近付いてきた。
目の前まで来ると背伸びして、あたしの首に指をからませて、
ぐいって思いきり引きつけられた。
その瞬間、一気に顔が赤くなるのを実感した。


目の前にやぐちの顔。
そのまま崩れ落ちそうになって、とっさにそばにあった机に手をついた。
穏やかに流れてたカーテンが
またふわふわと流れ出したけど見る余裕なんかなかった。

やぐちから目を離せない。
見つめ合ってる時間が長く感じた。

  
  沈黙を破ったのはやぐち。



83 名前:古びたソファの上で。2 投稿日:2002年12月28日(土)02時24分47秒



「本当の■■■、■■■■■■だよ?」


やぐちのクチビルだけが動いて声は所々しか聞こえなかった。
こんなに間近にいるのに何を言ったのか分からないで

「…え?今、何言っ」

『何言ったの?」って言えなくなった。


それは…あたしのクチビルがやぐちのクチビルで塞がれたから。






   柔らかくて、生暖かくて、とろけそうな。
   触れるだけの軽いキス。





84 名前:古びたソファの上で。2 投稿日:2002年12月28日(土)02時33分21秒
自然と目が覚めた。
頭だけ起こして周りを見ると
やぐちに抱きつかれて起きた時と全く変わらない状況。
寝る前と起きた時の体勢すら変わらない。


しばらく呆然としていると自然と夢の事を思い出してた。
不思議なもので今日の夢は何故か鮮明に欠ける事無く完璧思い出せる。
別に怖い夢でも悲しい夢でもないけど…
あんな夢見るなんて…もしかして欲求不満!?!?

ま、まぁそういう事は後で考えるとして。
そのあたしのちゅーの相手!!

 やぐちだった。
しかもいつものやぐちの性格と違うし、しかもしかも人間だし。
        変な夢。

それにしてもやぐちはあたしに何を言いたかったんだろう??
やぐちに言われるような事なんかないし。
何かとても大切な事を言ってくれた気がしてならなかった。

思い出そうとしても考えても無理なんだけど。


85 名前:古びたソファの上で。2 投稿日:2002年12月28日(土)02時45分44秒
「ちらっ」とあたしの腕枕で気持ち良さそうに寝てるやぐちを見ると
口をもごもご動かして半笑い…。

  ―コイツ、どんな夢見てるんだか。


そう呆れながらも視線は何故かクチビルに。
このクチビルに…(夢の中で)

柔らかくて。生暖かくて。とろけそうな。
触れるだけの軽いキスだったのに忘れられない。(しかも夢の中)
・・・・・生々しい。



「ごくっ」て文字に書いたみたいにのどが鳴った。

気付いた時には今まで力を入れてなかった右手に力を入れて抱き寄せてた。



距離を縮めて。やぐちの寝息があたしの顔をかすめる。
何かもう何が何だかわからなくて。
ただドキドキして、もう1回触れたいって思って、
あたしの胸の中におさまるサイズっていうのが余計にあたしをソソって…


   ・・・ごめん。あたし、やっぱり「エロなっち」だ。


顔を近づけて静かに目を閉じた。


86 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2002年12月28日(土)02時57分23秒
更新終了。
これからどうなるやら。

読んでる人@ヤグヲタさん。
添い寝だけど大した進歩です。
気持ちはまだそれに追いついてないですけど。
あぁぁぁ!!!!!!何で分かるんですかぁぁ!?かなりビビりました。

名無し読者さん。
なかなかこういうのってじれったいとか言う人いるんですけど
そう思われなくて良かったです。
でも私自身こういうのじれったくて
早く認めろとか思う奴なんでこういうのは長く続かないかもです。

名無し読者さん。
あぁぁぁぁ!!!!!!何でこうも分かるんですか!?
多分当たりです。何でかなぁ…??
ほのぼの言われて嬉しいです。ありがとうございます。


問題はこの次です・・・
このままやっちゃっていいのやら…?
それともやめさせるべきなのか…?
かなり悩んでます。
みなさんの意見お願いします…

87 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)13時59分36秒
やぐが寝てるんだから、
やっちゃえ、やっちゃえ。
88 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年12月30日(月)13時12分02秒
本能のおもむくままにやっちゃってください(w
89 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月22日(水)00時49分20秒
すごい好きな作品なので、あきらめずに待ってます。
90 名前:なちまり大好きっ子 投稿日:2003年01月22日(水)20時22分09秒
同じく。
91 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月26日(日)23時36分57秒
ぎゅっていつもの冗談で抱きついたりする時と違って
離れないようにきつく抱きしめた。
やぐちを見つめてた瞳を静かに閉じて顔を近づけた。

 やわらかくて、生あたたかくて、とろけそうな。
 夢で感じた感触と全く同じだった。


離れた時吐息が微かにもれて余計にヤラシィ感じ。
1回だけ。なんて思ってた感情はいずこへ・・・

 結局数えられないくらいの回数と長くて甘いキスを味わった。

92 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月26日(日)23時43分12秒
本人のやぐちは全然気付くどころかまだ夢の中。
まぁその方があたしにとって都合いいけど。

じぃーっと寝息をたてるやぐちを見ながら
「やぐちを好き…?でもなぁ、動物だし。」
1人ごと。
愛でも恋でもないはず。
じゃー何でちゅうしたいんだろ?
・・分からない。嫌いだったらそんな事考えるのもイヤだし。

ぎゅって抱きしめたり唇を合わせたり…そういう事をすると
ずっとこうしていたいって思う。
 大げさに言えば「シアワセ」?
・・・・・感情狂ってる。



93 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月26日(日)23時50分29秒
それから何も気付いていないどころかやっぱり夢の中だったやぐちは
「なっちぃ。おはよぅ」
なんて幸せ一杯の笑顔で朝のご挨拶。
そんな笑顔を見るとやぐちに内緒でした事が
「悪い事」のように思えてきて罪悪感で胸がいっぱいになる。
       『ごめん・・・』
と心の中でつぶやいた。口に出しては言わないけど。





ご飯を食べてあたしが机に向かって集中し始めた時

「ごっちんのトコ行ってくる」

そう言ってやぐちは出て行った。

「早く帰っておいでよー?」
やぐちの背中に少し声を大きくしてそう言ったら

  「はぁーい」
振り向かないで返事だけ返ってきた。


94 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)00時03分38秒
やぐちが部屋から出て行くのはごっちんの部屋に行く時くらいだ。
しかも最近はあたしにべったりで(1日中)
ごっちんの所へ行く事がなかったから久しぶりに1人ぼっち。

何か…こんなにこの部屋って静かだったっけ?
ため息1つさえも大きく聞こえる。
つい最近まで1人でこの部屋にいる事が当たり前で
淋しいとか感じる事なんかなかったのに
(むしろ1人でいる事に落ちついて安心していた)
やぐちと一緒似生活し始めてから変わってきた。
始めはイヤで仕方なくてうるさくてウザイって思ってたのに今はその反対。
現にやぐちが出て行ってからまだ10分も経っていないというのに
「早く帰ってこーい」なんて思ってるしそれに少しイライラする。
逆にやぐちがいないと集中できてない。

さっきの「早く帰っておいで」はただの「心配」じゃなくて
「(やぐちがいないと不安で淋しいよ。だから)早く帰っておいで」
って意味……。

        何だかなぁ…本当に狂ってる。


95 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)00時08分30秒
少し苛立って左手で髪をクシャクシャにするようにかく。
あたし自身この「イライラ」の原因は何か気付いてる。
今までの事は認めたとしてもコレは認めたくない。


「ごっちんにやぐちとられた」だなんて。認めたくない。
そんな「とった」「とられた」とかの問題じゃないけど。
バカみたいだ。1人でこんなにイライラして。

やぐちぃ。早く戻っておいでよ。


96 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)00時21分39秒
TVの恋愛ドラマ(再放送でしかも今日が最終回)を見てる時
軽快なドアを叩く音が聞こえた。

「コン、コン、コン」

少し名残惜しくTVの前から離れてドアを開けると

「ごっちぃーん!!」
いきなり抱きつかれてやぐっつぁんだと気付く。
「久しぶりだねぇ、やぐっつぁん」
「ずっとなっちのそばにいたんだけどごっちんに会いたくなったんだぁ」
「そっか。」

「中にどうぞ」そう言いながらTVの前まで来た。
ドラマの事忘れてた…でもやぐっつぁんが来たから
多分ちゃんと見れないだろうなぁ。

「この箱なに?」
「んぁ!?やぐっつぁんTV知らないの?」
「てれび?」
やぐっつぁんはTVの前のソファに座って「人がいる!人がいる!」と大騒ぎ。

やっぱりドラマ見れそうにない。
でもやぐっつぁんだから許す☆

97 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)00時29分08秒
「何か説明しずらいけど見てたら分かるよ」
「中に人がいるの?」

口を開けたままのやぐっつぁん。
いるなんて言ったら完璧信じちゃうんだろうなぁ…

「いないいない!本当に知らないんだぁ。
 確かなっちの部屋にもあったと思うけど」
「なっちも持ってるんだ…帰ったら聞いてみる」

そのままやぐっつぁんはTVに夢中になってしゃべらなくなった。
ごとーもやぐっつぁんの隣に座った。


98 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)00時43分52秒
良く分からないけどやぐっつぁんはりかちゃんや圭ちゃん達とは
そんなに仲良くないんだってぇ。

りかちゃんは爆発娘。だし
(ごとーも被害経験あるから近寄らない)
裕ちゃんと圭ちゃんは何やら怪しい研究してるし
(ごとーも良く分からない)
よっすぃーは・・・かわいそう。
(同情の一言)

多分あの人達に関わらない方がいいって事を理解してるんだと思う。
それにしてもやぐっつぁんってほんと小さい子供みたい。
何にでも好奇心おおせいな所とか喜怒哀楽が激しい所とか。
思わずぎゅーって抱きしめたくなっちゃうんだよねぇ〜。
ごとーにとってやぐっつぁんは可愛い妹だよぉ。

99 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)00時57分13秒
「ごっちぃん!箱の中の人達何してるの?」
「箱じゃなくてTVだよ〜。それに中に人はいないってぇ。」

口を開けてごとーの方も見てくれないほどTVに集中してるやぐっつぁん。


「ていうか何〜??・・・あぁ、キスシーンだ」
「きすしーん?」
「うん。これはドラマだからね。って良く分からないか」
「???」

恋愛ドラマ特有のハッピーエンドでお決まりのキスシーン。
やぐっつぁんにはその「キス」が珍しいみたい。

「ちゅうとも言うんだけどね、唇と唇を合わせる事を言うんだよ」
何かこういうの言葉にして(しかも説明)するの恥ずかしい。
しかもやぐっつぁんがごとーの言う事を真剣に聞いてるから余計に恥ずかしい…

100 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)01時05分36秒
「合わせてどうなるの?何かあるの?」
「んー…嬉しいしあったかくなるよ」
「あったかく?暑くなるの?」
「あはは。そうじゃなくてココが。」

そしてごとーはやぐっつぁんの「ココ」を2,3回小突いた。
やぐっつぁんはじぃっとごとーの手を見てた。




「・・・むね?」

「胸っていうよりココロかな。」
「ココロ?」
「そう。ココロがあったかくなるんだよ。」
「それって幸せ?」
「幸せだよぉ」


それからやぐっつぁんは「そうなんだ」ってつぶやいた。
ココロあったかくなるって…表現変かなぁ??



101 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)01時13分01秒
部屋にはドラマのエンディングが静かに流れてて
エアコンの暖房がの音がそれに混じって聞こえた。





「ねーねーごっちぃーん!!」
「んー?何、やぐっつぁ・・・」

少しの沈黙の後いかにもこっち向いてって
言わんばかりに呼ばれたから向いたら・・・びっくりだ。




     やぐっつぁんにちゅうされた。




離れてからの第一声は
     「ココロあったかくなった??」
「どう?どう?」って感じにキラキラ目を輝かせて
ごとーの反応を待ってるけどだめ・・・


ホント不意打ちで今、顔真っ赤だよぅ。
やぐっつぁんはごとーの妹みたいな存在なのにぃ〜!!!



102 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)01時19分57秒



「やぐっつぁん!!ち、ちゅうっていうのは別に
 誰でもいいってワケじゃないよ!」

真っ赤なのを隠そうと必死なごとー。
やぐっつぁんにどう写ってる?

「だっておいらごっちんの事好きだもん。
 ごっちんはおいらの事好きじゃないの?
 だからココロあったかくならないの?」

耳が垂れ下がって小さい子供が悪戯して
お母さんに怒られたって言うような状態。



103 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)01時27分58秒
「やぐっつぁんの事は好きだよ!!これは本当!
 でもその好きとは違・・・」
「じゃーココロあったかくなった??」








       少しの間。
ここで「なってないよ」って言ったら落ちこむだろうなぁって事で…

「な、なったよ?今すっごいあったかい・・・」
「あはは」って苦笑いをしながらウソ。

「よかった!んじゃなっちにちゅうしてくるー!!」
そう言い残してやぐっつぁんは勢いよくドアを開けて出て行ってしまった。

「変な事」教えちゃったかなぁ・・・
なっちに怒られちゃうよぉ…。心配はこれだけ。
そして唇を指で触れながらさっきの事を思い出してまた呆然とした。


104 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)01時38分07秒
遠くの方から足音がした。
それが段々あたしの部屋に近付いてきてドアの前で止まった。

「やぐちだ・・・」
そうつぶやいた瞬間・・・・・・

「なっちぃ〜!!!!」

「バン!!!!!」ってすごい勢いと音でドアが開いて反動で閉まった。
やぐちはあたしに近付いてきて「ハァハァ」と息切れ。

「やぐちぃ、ドア静かに開けてよ。びっくりするっしょやぁ〜!」
やぐちを見ないでそう言いながらも顔が緩む。
嬉しそうなやぐちの声を聞くのは大好きだから。
それに予想以上に早く戻ってきてくれて安心。

「なっちー!!こっち向いて!!!」

「はぁ〜やぁ〜く!はぁ〜やぁ〜く!」とせかされて
資料に目を通していた顔をやぐちの方へ向けたら・・・びっくりだ。













       やぐちにちゅうされた。







固まって動けなくて呆然。時間が止まった。




105 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)01時43分50秒





「…ッ!?・・・・・・や、やぐち・・・?」

一気に体が熱くなって火を吹き出しそう。
さっきまで頭に入っていた
化学式、金属の反応性とイオン化傾向、酸・塩基の強弱と電離度…
全部頭から抜けた。



唇が離れてからのやぐちの第一声は

「ココロあったかくなった??」
「どう?どう?」って感じにあたしの反応を待ってるけど…
それどころじゃ、ない。

これのせいで朝の夢と古いソファの上であたしがやぐちにやってしまった事を
思い出してまた耳まで真っ赤になってしまった。


・・・って「ココロあったかくなった?」ってなに?


106 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)01時49分50秒
「な、なに?ココロあったかくなった?って。」

平常心平常心…必死で冷静に対処しようとしてるあたし。
やぐちにどう写ってる?



「へへへ。ごっちんが言ってた。
 ちゅうするとココロあったかくなるんだって。
 なっちあったかくなった??」

ごっちんめ…変な事やぐちに教えてどういうつもり??
まさかあたしの心の中見えたとか!?・・・そんなワケない。


「あー…確かにやぐちとちゅうできて嬉しいしココロあったかくなっ…って
 違う違う!!!!!全っ然違う!!!!!こんな事どこで覚えたの!?」

思わず本音爆発。ってそれも違う!!!
やぐちの頭の上には「?」が飛びまわってる。


107 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)01時56分01秒
「あのね。黒い箱がごっちんの部屋にあったの。
 中に人いてぇー・・あっ!てれびだ!てれびって言うんだよぅ!
 その中に人がいてぇー、人いるって言っても本当にいるわけじゃないんだよ!
 それでね、キスシーンしてたの。でもね、これはドラマだからねって
 ごっちん言ってた。えっとねぇ、それからちゅうすると嬉しいし
 ココロあったかくなるんだよぉ!!」



やぐちの必死の説明・・・多分簡単に言うと
『ごっちんの部屋にテレビを見てそこでたまたまやってた
ドラマのキスシーンにやぐちが疑問を持ってごっちんに聞いたら
「キスっていうのは心があったかくなる」って説明してくれた。』

・・・って所かなぁ??大体分かった気がする。


108 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)02時00分44秒
「やぐちぃ、ちゅうっていうのは好きな人とするから意味があるんだよ?」
顔の火照りも大分ましになってようやくやぐちとちゃんと目が合わせられる。

「おいらなっちの事好きだよ?
 なっちはおいらの事好きじゃないの?
 だからココロあったかくならないの?」

あぁぁ〜!!!そんな上目遣いで見ないで。
ドキドキしてきた…

「や。そうでなくてさ〜…やぐちの事好きだよ?
 でも軽い好きじゃそういう事しちゃだめなの。
 重い好きじゃないとそういう事しちゃだめなんだよ?」



言いながら思った。
じゃーあたしのやぐちに対する気持ちは・・・重い好き??



109 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)02時04分27秒
「んー…良く分かんない。そういう事って??ちゅうの他に何かあるの?」
変に細かい所に気がついて…するどい。

「いや!やぐちはそういう事知らなくていいの!まだ早いから!」

「何でぇ?なっちはそういう事した事あるの?」

「え?…そ、そりゃ〜・・・まぁ…って違う!そういう事聞かなくていいの!!」


あたし1人であせってバカみたいだ。
やぐちはじぃっとそんなあたしを見つめている。



110 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)02時10分27秒
「んー…もっと簡単に言うと・・そうだなぁ…
 やぐちの1番好きな人としかちゅうしちゃだめだよ。
 2番目に好きな人とちゅうしても相手も自分も
 ココロあったかくなんかならないからね。
 1番好きな人とちゅうしたら相手もそうだけど
 自分もココロあったかくなるんだよ。
 だから1番の人が見つかるまでそういう事しちゃだめだよ?分かった?」


「分かった・・・」
やぐちは一言そうつぶやいて「うぅ…」と唸りながら考え込んでしまった。
あたしもあたしで考え込む。
やぐちに「1番好きな人としかちゅうしちゃだめ」
って言っておきながら自分は…。


 それともあたしの1番はやぐち???



 
111 名前:ココロあったかくなるんだよ。 投稿日:2003年01月27日(月)02時18分13秒
「よし!分かった!おいら間違ってた!!!
 今度からもうなっちとしかちゅうしない!!」
「うんうん。そう、それでい・・・って、なに言ってるの!?」

やぐちは満面の笑みで
「だって今のおいらの1番はなっちだから!」
そう言った。
あたしがドキってしたのは言うまでもない事。


「あ、あのだからね・・・」
「なっち迷惑なの?」
「いや!迷惑じゃないけど…」
「そっか!それなら良かったぁ!!」



何が何だか分からないけど結局やぐちは1番好きな(やぐちにとって)
あたしにしかちゅうしないって事らしい。
あたし的には複雑・・・
だってコレのせいでまた気が狂いそうだから。
でもやぐちが他の人とちゅうするよりかは全然ましだけど。


   余談:やぐちはあたしとちゅうする前にごっちんとちゅうしたらしい!
      その事で一気に機嫌が悪くなるあたしは
      やっぱり狂ってると自分で思った。


112 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年01月27日(月)02時30分23秒
久々の更新終了。
2003年初めの更新です。
年明け1ヶ月経ちそうですがご挨拶。あけました!笑。


名無しさん。
やぐが寝てるんだからいっか☆って事でやっちゃいました!笑
しかも1回じゃなくて数えられないくらいの回数です。笑

読んでる人@ヤグヲタさん。
本能のままにしたら結果こうなりました・・・
どうでしょうか?

名無し読者さん。
すごい好きな作品って言ってくれてありがとうございます。
なちまりの良さが伝わってくれていたら嬉しいです。
遅い更新すいませんでした。

なちまり大好きっ子さん。
どうもありがとうございます。
なちまり大好きっ子さん…名前からして好きです!笑。
私もなちまり超大好き野郎に改名しようかなぁ…笑。

一応これで「大量更新」のつもりです…。
お待ちしていた方々ほんとうにすいませんでした!
そしてありがとうございます!

113 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月27日(月)16時15分29秒
待ってました。
やぐちさん、キス魔ですか。
まきまりが出てきましたね。
なんかこの二人もなちまりとは少し違ってまたいいです。
114 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月29日(水)14時00分09秒
読んでるほうもあったかくなりました。
待ってました!待ってます!
115 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月29日(水)17時56分01秒
個人的にはやぐちと深く関わったヒトが出てくるのを待ってます
116 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月08日(土)20時59分54秒
hozen
117 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月14日(金)23時35分59秒
待ってるよ
118 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月18日(火)15時52分01秒
忙しいのかな、作者さん…
119 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月25日(火)17時20分12秒
保全
120 名前:嵐の襲来。 投稿日:2003年03月02日(日)02時01分08秒
「いぬやぁ〜〜!!!!」
「犬じゃない!豹だ!!」
「やぐちさぁん!待ってぇ!」
「誰が待つかぁ!」


さっきからホントにうるさい。
こんな所で走り回らないでよ。


はじめ2人が来た時かなり驚いた。
それ以上に驚いたのは2人だったけど。

いつものようにあたしは机に置いてある山積みの資料と格闘中で
やぐちは床に座ってそんなあたしをじぃっと見つめていた。
 そんな時普段開くはずもないドアがノックもなしに開いた。


「・・・・・ぁ。」
「人れすよ。」


「・・・・・?誰?」
「・・・どうしたの?」
121 名前:嵐の襲来。 投稿日:2003年03月02日(日)02時02分34秒
初対面。
見た目小学生っぽい悪ガキ2人組。
2人は驚いてドアを開けたまま入ってこようとはしない。

 何?誰?何の用?
あり得ない訪問者にあたしも驚いた。

「…そんな所に立ってないで入っといでよ?」
とりあえずそう言ったら

「どうする?のの。」
「何か怪しいれすよ??」
「でもなぁ、見つかってしもたし。」
「見つかったらどうかなるんれすか?」
「見つかったら…ここの事バラされんようにって殺されるかもしれへん」
「え〜〜!?」
「だから今こうやって甘い声であっちへ来させようとしてるんちゃうか?」
「じゃー行ったらだめれす!!」
「でも、もう見つかってもうたし…」

「あのー??内緒の会話全部聞こえちゃってるんだけど?」

こそこそ何やってんだか。
内緒っぽいようだけど全部筒抜け。
ていうか殺されるとか人聞き悪いし。
ここは何かの組織かっつーの!
最近の子供は想像力豊かだ。

122 名前:嵐の襲来。 投稿日:2003年03月02日(日)02時03分24秒
「こっちにおいで?ずっとそこにいたら鬼出るよ?」

「「・・・鬼??」」

「うん。鬼」

裕ちゃんという名の鬼がね。
これは秘密だけど。


この言葉が効いたのか2人は部屋に入ってきた。
――――その時。


「な、何やこいつ!?」

悪ガキの一人がやぐちに気づいた。
んーやっぱりびっくりするよねぇ…。
やぐちは怪訝そうな顔をして2人を睨んだまま。


「これ…作りもん?」

「バカ言うな!誰が作りもんだよ!?」

「ぁ、あいぼん!!」

「しゃ、しゃべった…」


やぐちと悪ガキ2人との距離が何だか可笑しくて笑えてきた。
あたしはやぐちの横に行って頭を2,3回ポンポンしてから


「この部屋で一緒に住んでるやぐちって言うんだ。
 仲良くしてあげてね。」

「なっちー!!おいら、こいつらと仲良くする気ないよ!?」

「いーっしょや?やぐちも退屈してたんだし。一緒に遊んだら?」

「え〜っ!?おいらが子供と遊ぶの!?」

やぐちも十分コドモだと思うけどね。

123 名前:嵐の襲来。 投稿日:2003年03月02日(日)02時04分11秒
「よ、よろしく!やぐち…さん。うちは加護言うねん。
 で、こっちがのの。」

「・・・ののれす。」


微妙な距離が2人によってじりじり縮んで行く。
2人共やぐちにかなり興味があるらしい…
(特にとがった耳と尻尾)


やぐちはあたしに助けを求めるような目で見上げてきたけどあえて無視。
友達?できるチャンスだし。それに・・・


「それじゃー2人共やぐちをお願いね」


やぐちの世話してくれそうだし。
そしてあたしは研究に没頭できるってワケ。
ちょうど良かった。


あたしはそう言い残してまた机に置いてある山積みの資料と格闘しに戻った。


124 名前:嵐の襲来。 投稿日:2003年03月02日(日)02時05分09秒
「何でやぐちさんはニンゲンなのに犬なんれすか?」

「犬じゃない!おいらは豹だぁぁ!!!」

「どこが豹なんですか?全っ然犬にしか見えんし!」

「見たら分かるだろー!」


研究に集中できると思ったのに…うるさすぎて集中できない。
やぐちもやぐちで意外と仲良くできちゃってるし。
やっぱ子供だ、やぐちは。

机に向かって資料を読んでるから3人の表情は見えない。
でも微妙な距離は縮まってるみたいだ。


「この耳としっぽ本物なん?」

 「えっ!?ちょ、触んなー!!」

「にせものじゃないんれすか、これ。」

 「ぅあ、い、痛いッ!痛い痛い痛いーーー!!!引っ張るなぁ!」

「ほんものだ…」

「ほんものや…」

 「当たり前だよ!」

「あいぼん、やぐちさんのしっぽ長いれす。」

「んー?どれどれ…」

 「ちょっ!?痛ッ!だから引っ張るなってぇぇ!うあぁぁー!!!」

「やぐちさんが逃げたぁ!のの、追っかけるで!」

「やぐちさぁぁん!」


125 名前:嵐の襲来。 投稿日:2003年03月02日(日)02時11分22秒
わぁわぁ喋り声がしていたと思ったら今度は走り出す足音。
やぐちもさすがにこの2人の元気さに参っているらしい。
3人共『ドタドタ』と言う足音を部屋中に響かせて走りまわっている。

資料から目を離してやぐちを見ると2人に「犬」やら何やら言われながら
逃げている…ちょっと可哀相かも。


「やめなさい!」って注意すべく立ち上がったら
やぐちが部屋から逃げて行ってしまった。


開いたままのドアが無力に「キィ、キィ」と音をたてている。


あたしはやぐちを気にしながらも2人を呼びとめて注意。

「やぐちはなっちの大切な人だからいぢめないでー!分かった?」



「大切な人ってどんな人れすか?」

「…えっ?」

のの、という子に言われて言葉がつまる。
2人は興味津々にあたしを見上げている。



大切な人…。
前は大切な人なんて思わなかったけど今はかけがえのない
あたしにとっては家族の一員みたいな存在。(多分ね)


126 名前:嵐の襲来。 投稿日:2003年03月02日(日)02時12分17秒
「・・・やぐちはなっちにとって、かぞ」

「のの、こんなに言葉つまるっちゅう事はヤバイ関係って事や。」

「ヤバイ関係れすか!?」

「…ちょっと?あの、」

「うち的には…こいつらデキてるんちゃうかなーって思う」

「できてる?なにがれすか?」

おーい!全然話聞いてない。
だから家族だって!
デキてるって…子供が言うもんじゃない!


「だから簡単に言えばちゅうしたりする仲って事や。」

「ち、ちゅう?」

「ちっがーーう!!!!何勝手な事言ってるの!
 何でなっちがやぐちとち、ちゅーなんか!!
 やぐちは家族みたいな存在なの!それ以外何もない!分かった?」

想像力豊かなのはいい事だけど変な所で豊かすぎる…
何というか…鋭い。


127 名前:嵐の襲来。 投稿日:2003年03月02日(日)02時13分11秒
いきなりまくしたてて弁解したあたしに2人は疑惑の目を寄せている…


「何もそないおっきぃ声出さんでもええやん。」

「怪しいのれす。」

「だから違うって!」

「・・・・・・のの、行こっか?」

「あいぼん、帰るんれすか?」

「ののはまだまだ子供やなぁ!2人邪魔したら悪いやろ?
 うちらは言わば邪魔者っちゅー事や。」

「なるほどー!あいぼんは大人れす。」

「あ、あのねぇ…」

そりゃ帰ってくれるのはこっちとしては好都合だけど
そんな理由で帰られても後味が悪い。


「そんじゃ、お邪魔しましたぁ〜!後は2人でラヴAやって下さい!!」

「やぐちさんによろしくなのれす。」


「えっ!?ちょ、っと待ってよ!」


あたしの話を聞くまでもなく
2人はさっさと開いていたドアから出て行ってしまった。


2人が出ていった後の部屋はまるで嵐が去った後のように急に静かになった。


全く最近の子供は…。
呆れながら部屋を出て逃げ出したやぐちを探す事にした。


128 名前:何もない部屋の住人。 投稿日:2003年03月02日(日)02時27分29秒
なっちひどいよひどいよ。
やぐちがあんな悪ガキ達と仲良くできるわけないじゃんか。
うー…怖い怖い。

なっちの部屋から逃げ出したおいらは
すぐにごっちんの部屋のドアを叩いた。

でも返事はなし。ごっちんもおいらを助けてくれないの…?
うー…早くしないとまた2人が追っかけてくるよぉ。

圭ちゃんの所へ行くのはイヤだしりかちゃんとよっすぃーの所もイヤだし
裕子の部屋なんか行く気しないし…。

うー…行くトコないよぉ。
なっちの所…戻ろうかなぁ?
でもなぁ…2人がいたらまた耳としっぽ引っ張られるし。
あれは痛いんだよぉ。


トボトボと廊下を歩いていると突き当たりの裕子の部屋の右側の壁に
1つドアがあるのを発見。

こんな所にドアあったっけ?
裕子の部屋の近くに来ないから今まで分かんなかった。

恐る恐るそのドアに近付いてドアを開けてみる。
「カ、チャ…」と弱々しい音を出してドアが開いた。
とりあえず中に入って2人から隠れる事にした。


129 名前:何もない部屋の住人。 投稿日:2003年03月02日(日)02時29分17秒
中に入って驚いた。
まるで誰も住んでないみたいに何もない部屋だったから。
あるのはベッドと机と最小限必要な薬品を置く棚だけ。
机の上はなっちの机と同じでごちゃごちゃしてるけど
それ以外は素っ気無い感じで妙に淋しい感じがした。

 とりあえず机の中に潜り込んだ。
なっち、ごっちん、りかちゃん、よっすぃー、圭ちゃん、裕子…の他にも
誰か住んでるのかなぁ…?
もし怖い人だったらどうしよう…。
勝手に部屋に入って怒られるかな?
その時は素直に「ごめんなさい」しよう。
なっちが言ってた。
「悪い事した時はごめんなさいって言うんだよ」って。
「ちゃんと言ったら許してくれるから」って。


「そこにいるの、誰?」

なっちの事考えてたら急に人の声がした。
多分この部屋に住んでる人だ…。
どうしようどうしようどうしよう・・・
「ごめんなさい」しなきゃ。


「ご、ごめんなさい!」
机の中から出て頭を下げた。
怒られるかな?叩かれちゃうかな?
どきどきどきどきどきどきどきどき……


130 名前:何もない部屋の住人。 投稿日:2003年03月02日(日)02時31分03秒
いくら待っても何も言われない。
あれっ?何で?


下げていた頭をちょっと上に上げるとその人の白衣が見えた。
なっちと同じ真っ白な白衣。
なっちもこの人と同じくらい膝の所まであるような長い白衣だったなぁ。








「・・・・・・や、やぐち・・・?」







ふいにその人がおいらの名前を呼んだ。
ちょっと上に上げていた頭を普通に上げるとその人は驚いてた。
おいら以上に。何で?




「何でおいらの事知ってるの?」


なっちより背が高いその人を見上げるとその人はおいらの名前を呼んだまま
何も言ってくれなかった。


「ねぇ、何で?何でおいらの」

「やぐちぃー!やぐちぃ〜〜!出ておいでぇ。もうあの子達帰ったから
 大丈夫だよー。だから戻っておいでー!」


なっちの声だ!!!
今言いかけた事も忘れてドアの向こうの廊下から聞こえる
なっちのおいらを呼ぶ声が聞こえてすぐに部屋から飛び出した。


131 名前:何もない部屋の住人。 投稿日:2003年03月02日(日)02時32分00秒
「なっちぃぃぃ〜!!!」

やぐちぃ、と叫んでいると意外な部屋から出てきた。
まさかあんな所にいるとは…。

全速力で走ってくるやぐちが見えたからあたしも走って迎えに行く。
ガバッと抱きつかれてちょっとふらついたけどしっかり受けとめた。


「もう、いきなり出ていって…探したっしょ−?」

「ごめんなさい。」

「もういいよ。部屋に戻ろ?」

「うん!」


ぎゅって抱きついてくるやぐちの頭を優しくなでながら帰ろうとした瞬間。



「…さやか?久しぶり〜。」

やぐちが出てきた部屋からさやかがあたし達を見ているのに気付いた。
その顔は何故かすごく驚いている表情だった。


「なっち…それ…」

「あぁー…さやかには紹介してなかったよね。
 ずっと部屋にこもってるんだもん。
 この子ねぇ、なっちの部屋で一緒に住んでる」
「やぐちだろ?」

「そうそう。やぐちって言うんだ。やぐちからもう名前聞いてたの?」




132 名前:何もない部屋の住人。 投稿日:2003年03月02日(日)02時32分59秒
「なっちぃ、おいらその人に名前言ってないよ?
その人おいらの顔見た時からおいらの事やぐちって呼んでたよ?」




「・・・えぇっ?さ、さやか何でやぐちの事…」


「やぐちは昔の記憶が何もかもないみたいだ。
 分かるわけない。」


白衣のポケットに手を突っ込んだままあたし達を見つめるさやかの瞳には
明らかにあたしの知らないやぐちの秘密を知っているような瞳だった。


「や、やぐちの事何か知ってるの・・・?」


抱きついてたやぐちを引き離しながらも目線をさやかから離さずに聞くと
さやかは意味深に口元だけで微笑んで






「赤い首輪もいちーがしてあげた。
銀色のプレートもいちーが作った。
やぐち自身いちーが作った最高傑作だ。」

そう言い放った。


「ちょっ、ちょっと待ってよ!作ったって何!?
 ねぇ、さやか!答えてよ!?」


かなり動揺しているあたしの声が廊下に響いていた。
さやかは答えるわけもなく自分の部屋に戻っていってしまった。



133 名前:何もない部屋の住人。 投稿日:2003年03月02日(日)02時33分48秒
どういう事だって言うの?
やぐちは作られたってどういう事?
最高傑作ってやぐちはモノなんかじゃない!何かの作品なんかじゃない!


完全に動揺しまくっているあたしをやぐちはただ心配そうに見つめながら

「なっちぃー?」

名前を呼んでいたけど答える事が出来なかった。
微笑んであげる事すら出来なかった。

134 名前:何もない部屋の住人。 投稿日:2003年03月02日(日)02時34分31秒
部屋に戻ってもずっとさやかの言葉が気になっていた。
でもいくら考えても悩んでもあたしはさやかとやぐちの間に何があったのか
知らないし分かるわけない。
知りたいけど知りたくないような…すっごい微妙!


あぁー…思い悩んでヘコんでいても仕方ないから
結局さやかに聞き出す事しか道はない。

確かやぐちは「昔の記憶」がないみたいだから聞いても無駄って言ってたし。


悪ガキ2人に追いかけられて疲れたのか
眠っているやぐちの寝顔を見ながら切なくなった。



135 名前:何もない部屋の住人。 投稿日:2003年03月02日(日)02時35分46秒
まさかやぐちが「作られた」なんて。
信じたくないけど豹と人間が混ざった人なんて
人工でしか出来ないわけだしおそらく本当なんだろう。

やぐちはさやかの何だったんだろう。
さやかはやぐちをどう思っていたんだろう。

ただの研究材料としか思っていなかったのかなぁ。
やぐちはそこらへんの研究所で
使われているねずみと同じ扱いを受けていたのか…

   


   真相を聞くのが相当怖いけど絶対聞き出してやる。


136 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年03月02日(日)02時52分19秒
とりあえずここまで。
1ヶ月以上また間あけてしまいました。
すいません…。

113名無し読者さん。
キス魔?やぐちにするつもりなかったんですけど
そうなってしまいました。
まきまりイイですか!?
ちょっとこの2人も仲良しでイイ感じです。

114名無し読者さん。
そう言って下さってありがとうございます。
更新速度できるだけ早くしたいです。

115名無し読者さん。
お待たせ?しました。やっと登場です。
多分想像がついてたと思いますが…。

116名無し読者さん。
保全ありがとうございます!

117名無し読者さん。
お待たせして本当にすいません!
今度から早く…したいです。

118名無し読者さん。
心配?して下さってありがとうございます。
忙しいのも後1週間で終わりです!!
学校が春休みに入るんで!
春休みになったら更新早くなる…と思います。多分。

119名無し読者さん。
保全ありがとうございます!


一応数えた所あと4回の更新で完結しそうです。
思ったより少ないです…。
終わった後も色々考えてるんですがとりあえず完結が目標です。

137 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月06日(木)17時29分04秒
やった!
更新されてる!

あと四回かぁ…。
なんか悲しいけど頑張ってください。
138 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月14日(金)18時03分31秒
あと少しで終わりなんですね。
続き期待。
139 名前: それぞれの過去。 投稿日:2003年03月19日(水)04時47分28秒
さやかはなっちがここに来る前からあの部屋にいた。
初めてここへ来てドアを片っ端から開けた時が初対面。

確か1番目がごっちん。
2番目が圭ちゃん。
3番目がよっすぃー。
4番目がりかちゃん。
そして5番目が、さやか。

バァァンと勢いよくドアを開けて

「すごーい。ここにもいるー」

そう言ったら

「・・・誰?」

って感じの冷たい反応だった。


それからここへ住み始めてからも
さやかとは2,3回話した事あるだけだった。

そういえば…1回だけごっちんからこんな事聞いたっけなぁ…
ここにいる人達の話になった時。
あたしがごっちんの部屋に遊びに行ってて
やぐちとはまだ出会ってなかった頃。

140 名前:それぞれの過去。 投稿日:2003年03月19日(水)04時53分05秒
「よっすぃーは学校退学になったんだってぇ。
 何か髪の色注意されてそれでキレてその先生殴っちゃったんだって。
 それで退学。」

「よっすぃーらしいね。」
「だね。」

「りかちゃんは優等生だったらしくてそれに嫌気がさして
 思いきって学校辞めちゃったんだってぇ。」

「何か思いきりすぎじゃない?でも優等生だったって意外…」
「ホントだよぉ。今じゃポジティブばっか言ってんのに。」
「あはは。」
「でも全く正反対の2人があんなに仲良くなるとはねぇ…」
「りかちゃんはよっすぃーお気に入りだしね。
 それに学校同じだったらしいよ。
 その頃は話しなんか全然しなかったらしいけど。」

141 名前:それぞれの過去。 投稿日:2003年03月19日(水)04時53分51秒
「へぇ…知らなかったぁ…圭ちゃんや裕ちゃんは?」

「圭ちゃんは全然そんな事教えてくれない。」
「そっか…」
「裕ちゃんは酔った時に自分から教えてくれたんだけど
 妹がいたんだって。その妹、いじめが原因で自殺したらしいんだ。
 しかも裕ちゃんってここに来る前は高校の先生やってたらしくて
 その妹さんの死が余計に辛かったみたいだよ。
 何回も自分の事責めたって言ってたもん。
それで死んだ人を生き返らせる研究する為にここに住み始めたんだって。
 今もその研究ずーっとしてるよ。」
「何か…すごい、ね。」
「うん。ごとーもそれ聞いた時泣いちゃった。
 もう3年も前の事らしいんだけど裕ちゃん、全部覚えてて。
 すごい悲しそうな目で話してた。」
「そう、なんだ…」


142 名前:それぞれの過去。 投稿日:2003年03月19日(水)04時54分45秒
「さやかは?」

「いちーちゃんの事も良く分からないんだよねぇ。
 いちーちゃんって圭ちゃんの次にここへ来たんだって。」
「え〜、意外…。」
「でしょー?裕ちゃんの次が圭ちゃんだし。結構長いよ」
「でも何でだろ…」
「何かねぇ、ここに住んでちょっとしてから2人で住んでたんだって。」
「え…?どういう事?」
「ほら、裕ちゃんといちーちゃんの部屋って近いでしょ?
 それで誰かと話してる声が聞こえてきたんだって。」
「今も…2人で?」
「ううん。今はいないみたいだけど。
 って裕ちゃんが酔った時に言ってたから本当かどうか分からないけど。」


さやかは誰かと2人で住んでいた事があったらしい。
何で急にいなくなったんだろう?
てか、その1人って誰・・・?
まさか―――――やぐち?


143 名前:早朝8時03分前。 投稿日:2003年03月19日(水)04時55分40秒
結局ロクに寝ないまま朝がやってきた。
昨晩やぐちとさやかの事で頭がいっぱいで考え込み過ぎて寝れなかった。


洗面所に行って歯を磨いて、髪を整えた。
何だかいつも以上に気合いが入ってる気がする。
だって今日聞くから。
本当のことを。
さやかに。
やぐちの事を。

今からもうドキドキしている。


まだ爆睡中のやぐちが寝ているベッドに行って髪をなでながら

「大丈夫だよ。何があってもなっちはずっとやぐちのそばにいるから。」


そうつぶやいて早朝8時03分前、部屋を出た。
行き先は―――さやかの部屋。


144 名前:早朝8時03分前。 投稿日:2003年03月19日(水)04時59分38秒
ノックした。
静かな廊下に響いていた。

ちょっと早すぎたかなぁ、と今頃後悔していると
ドアを少し開けた隙間にさやかが顔を出した。


「来ると思ってた。・・・入れば?」

「…うん。」


中に入ると初めてドアを開けたあの日から何も変わっていなかった。
誰も住んでいないようなどこか寂しい雰囲気を漂わせている部屋。
冷えているのは温度のせいだけじゃない。 


「やぐちの事聞きに来たんだろ?」

「そ、そうだよ。何でやぐちの事…?」
自分から核心に迫ってきた。
少しドキッとした。

「いちーが作ったから。」

「つ、作ったって…どうやって…?」
意味わかんないべさ〜…。

「なっちに説明して理解できるの?
 …やぐちは2人いたって事だけ言っとくよ。」


「……やぐちが2人?もう1人のやぐちはどこに?」」
あんなのが2人いたら相当うるさいだろうなぁ…。
とか関係ない事を思ってた。


145 名前:早朝8時03分前。 投稿日:2003年03月19日(水)05時00分50秒
「本物のやぐちはいない。だからいちーはやぐちを作ったんだ。」

「いないって…何で?」
さやかの顔が少し歪んだ気がした。

「死んだから。いちーの目の前で…死んだから。」

「えっ…!?」
その言葉を言うのに躊躇ったのが分かった。




「さやかとやぐちは…どんな関係だったの?」
一番聞きたかった事を口にした。

「・・・・・・・」

返事はいくら待っても返って来ない。
そのままさやかは机に散乱している紙の束を片付け始めた。
どこか悲しそうな目で一点を見つめている。
あたしはただ返事を待つ事だけしかできなかった。


紙の重なる音が無力にバサバサと音をたてて床に散乱したのは
さやかが紙をバラまいたから。
紙にいっていた視線をさやかに戻すと
目を閉じて何かを思い出している感じだった。


そして静かに話し始めた。


146 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時01分47秒
季節は春。桜の花びらが風に舞ってピンクの雪が降ってるみたいだ。
暖かくて気持ちいい。気分も最高。
桜並木道を通った。
地面に花びらが落ちていてまるでピンクのじゅうたんだ。


高校に進学してから1ヶ月が過ぎようとしていた。
この高校に入ったのは単に家から近いから。
15分で行けるくらいに近い場所。
それにこの桜並木道を通れるから。
ここはいちーのお気に入りの場所だった。
春夏秋冬どの季節でもこの場所は最高だった。

朝だというのに人通りは意外に多い。
ここを通学路として利用する人が多いのだろう。
みんな決まって桜を見上げながら歩いている。
いちーもそれの1人だ。
何だかそれも心地良かった。

147 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時02分20秒
教室へ入るともうHRが始まっていて完璧遅刻だった。
ちょっとゆっくり歩きすぎたらしい。
窓側から2列目の一番後ろがいちーの席。
座って横を見ると空席の机。
…アイツまたサボりか…
隣の机には油性ペンで何やらラクガキしてあったり
ペン立てが置いてあったりプリクラを貼ってあったり…と
この机の利用者がどんな人なのか想像できる。

窓から入ってくる気持ちいい風がいちーの髪をなでる。
フワフワと弧を描くようにカーテンが舞う。
隣の席のアイツはこれが相当邪魔らしくて嫌ってたっけ。
いちーはこれが意外に好きなのに。

先生の話を無視してアイツの事を考える。
アイツの事を考えてたら時間が経つのも早い。
つまらない時間も楽しい時間に変わる。

何たってこの高校を志望した1番の理由は
アイツがここに行くと言ってたから。
家から近いとか桜並木道を通れるからとか二の次で。
アイツがいるから。
148 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時05分00秒
アイツといちーは中3の時からの仲だ。
期間としては短いけどかなり仲はいい。
妙に気が合って仲良くなるのにそんなに時間はかからなかった。
いちーが転校してきた時に最初に話しかけてくれたのがアイツだった。
アイツはクラスでも目立ってていつもアイツの周りには友達がいた。
途中から、しかもこんな中途半端な時期に転校してきた
いちーに話しかける奴なんかいなくて1人でいた時


「ぉっす、転校生。そんなこの世の終わりみたいな顔してないでさ〜
 明るく行こうよ!?ほらほら笑って。
 自分の中でのベストスマイルまで3,2,1、キュー!!!」

「・・・はぁ?」

「何だよぅ!ノリ悪いね、転校生。ベストスマイルってのはこうだ!」


教室が騒然としている中アイツはいちーに向かってベストスマイルを見せた。
「ニカッ」と白い歯を見せて笑っている。


「な?最ッ高の笑顔だろ??シケた顔してないで笑って行こうぜぇ?」

「あ…あぁ…」

「おいら矢口真里。おいらのベストスマイル見たかったらいつでも言ってよ。
 何せスマイル0円でぇーす!だもんね!!」


149 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時06分11秒
「キャハハハ」なんて明るく大声で笑いながら向こうへ行ってしまった。
それから段々クラスの中の奴らがいちーに話しかけるようになった。
全てはアイツのおかげだった。
――――矢口の。





矢口から話しかけてくれたおかげでクラスに溶け込めた。
気付くといちーはクラスの中心的存在になっていた。
そしてこれも矢口のおかげだと思った。

矢口はかなり変わり者な性格で友達はいっぱいいるくせに
誰ともつるんだりしていなかった。
1人でいる方がいい。むしろ1人でいたい。と思ってるようだった。
でもそのくせ時々ひどく寂しそうな目をする。
全く今まで出会った事のない極度の変わり者だった。

150 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時06分55秒
でもそんな矢口と友達になって
学校が最高に楽しくてたまらなかった。
つるみだしたのはいちーが勝手に矢口について行くから。
矢口も自然にそれを受け入れるようになっていった。

お互い「言いたい事ははっきり言うタイプ」なせいで
喧嘩はいつも本気で時には胸倉を掴むような殴り合い寸前の喧嘩にまで
発展した事もあった。
でもやっぱり気が合って喧嘩してた事も忘れて
次の日には普通に会話してたりした。
…周りの人は驚いていたけど。


151 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時08分04秒
 授業をサボるのも2人一緒で、
いたずらと言えないような悪さも2人一緒でやった。
(でも逃げ足が人一倍速い矢口に置いて行かれて
 いつもいちーが怒られていた)

「矢口!逃げるなんて卑怯だろ!?窓ガラス割ったの矢口じゃん!」

その日は矢口が冗談で肘打ちした窓ガラスにヒビがいってしまって
それが通りかかった先生にバレたのだ。
ハァハァ言いながら必死で矢口の後を追って屋上へ行った後そう怒っても


「割ってないし〜。ヒビ入れただけじゃん?
 そんな脆い窓ガラスなんか使ってる学校が悪いんだって。
 ていうかほんっと、さやかは要領悪いねぇ。
 先公追ってきて逃げない奴なんかいないって!」

そう言って笑いながら大の字に寝転んで両手を空に翳した。

いちーも横に寝転んで同じように両手を翳す。
諦めた。矢口に怒っても何を言っても仕方ないという事は
一緒いて良く理解していたから。
軽く笑い飛ばして逆にいちーの痛い所を突かれるのがオチだ。


152 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時08分37秒
この屋上は2人にとって最高のサボり場所だ。
いつもサボる時はここで時間を潰してた。
特に何もする事はないけどここでただ空を見上げるだけで気持ち良かった。


矢口曰く、
 先公の戯言混じりの能書き聞いたって何にも楽しくないじゃん?
 それだったらここで空見てる方がずーっと楽しいよ。
・・・だそうだ。
153 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時09分29秒
「矢口ぃ…」

そろそろ翳していた手が痛くなってきてだらん、と一気におろした。

「んー?」

矢口はまだ手を翳しながらブラブラさせている。

「矢口さぁ…高校どこ行くの?」

3学期に入って周りは推薦やら受験勉強やら騒ぎ出しているのに
進路を今だにはっきりさせていないのはクラスでいちーと矢口だけだった。
ずっと気になって聞きたかった事。

正直矢口と同じ高校へ行きたかった。


「・・・・・何?じゃーおいらが行くって言った高校へさやかも行くの?
 おいらと同じにするの?」

急に機嫌が悪くなったのが声で分かった。
少し声のトーンが低くなる。
無愛想に翳していた手を下げた。

「な、何だよ…一緒の高校へ行くのイヤなわけ?」

横に寝転んでいる矢口を見ると

「イヤとか言ってないじゃん。
 ただ自分の意思はどうなんだって言ってんの。
 さやかがしたいようにしなきゃ損だし楽しくないじゃん。 
 自分が楽しいって思える事しないと
 毎日ベストスマイルで笑ってられないぞぅ!?」

矢口も顔だけこっちへ向かせていちーを見て
「イ〜」って顔をしかめてみせた。


154 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時10分00秒
「いちーは矢口となら楽しいよ。したいようにしろって言うんなら
 いちーは矢口と同じ高校へ行きたい。それがいちーの意思だ。」




「・・・キャハハハハ!!!何今の〜!愛の告白??」

それを聞いた瞬間一気に顔が赤くなった。ドキっとした。
まさか・・・


「ち、違う、何言ってんだ!」


「キャハハハハ!だってさぁ〜…マジウケる!」


「う…うるさい!!!笑うなって!」

心拍数上昇中…。
何で矢口なんかにドキドキしてるんだ??
ただの冗談だってのに…。
何で・・・・・???


「あ〜…脇腹痛ぃ…。こんな笑ったの久々だね…」

ころころと転がり回ってお腹を押さえている矢口。
そんな矢口を見れないくらいに動揺しまくってるいちー。

矢口の笑いすぎで「はぁはぁ」と息切れしている声だけが聞こえていた。




155 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時10分42秒
「・・・おいらさぁここから一番近い高校へ行くと思うよ」

少しの沈黙を破ったのは矢口の一言。


「えっ…?マジで??」

さっきまで見れなかった矢口の顔を見ると目が合った。

「マージーでぇ。だって家から近いし。電車通学とか勘弁だし。」




「いちーもその高校行ってもいいの?」



ドキドキしながらそう聞くと



「…好きにすれば?」


矢口は一言そう言って合っていた目をそらして
空を見上げながら少し微笑んでいた。




156 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時11分34秒



進路の話をしてから自分の中の気持ちがおかしい。
もちろん矢口に対しての―――。


「さやかの意思はどうなの?」

そう聞かれた時、考えないで思った事をすんなり口にしたあの言葉は
全て事実で。全部本心だ。
そして「愛の告白」とか冗談で言われて
ドキドキして動揺してしまったのも嘘じゃなくて本当で。





いちーは矢口を「気の合う友達」としてじゃなく
接してしまっている事に気付いてしまった。



「恋は思案の外」ってヤツ…??
ってか、コレって「恋」か?



157 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時12分08秒


「矢口さぁ…今、恋してる?」

ふいにそんな事を聞いたら

「はっ?…何でそんな事聞くワケ?」

こんな話しした事なかったから矢口は呆然としていた。

「いや・・・何となく。」

「…さやかはしてるの?」

逆に質問・・・


「……し、してるようなしてないような…分かんない。」

「微妙?」

「うん…」

「ふーん…気になってる人かぁ。ってか相手誰だよー」


ニヤニヤしながら「誰?誰?」としつこく聞きに来る。


―――矢口だっつーの。

なんて言えるワケがなくそのままはぐらかした。



158 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時12分59秒




「なに〜、その人のどこがイイの?これぐらい教えてくれてもイイじゃん」


「えー………笑顔・・とか。」

本人目の前にして「笑顔」とかすごく恥ずかしくなった。


「…君の笑顔に恋してるってヤツ?」

ニヤニヤした顔をしながらそんなバカげた事を言っている矢口。


・・・だからお前の笑顔だっつーの。
矢口のベストスマイルの事だっつーの。

こういう事に関しては全く鈍感な矢口。
全然関係ない事とかには鋭いくせに。


明るくて愛想が良くてノリのいい矢口の事が好きって人は
結構多かったりするのに本人は無頓着で

「矢口の事好きなんだってさ。」

って誰かに教えてもらっても

「…そうなの?でもそういうの興味ないし。」

と一切気にかけない。
よく本気で「コイツ人好きになった事あんのか?」って思ったりした。


159 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時13分40秒
『気になる→好き』に変わるのはすごく簡単で気付いたら好きになってた。
『好き→愛してる』に変わるのも意識しなくてもいつのまにか愛してた。


「好き」と「愛してる」の違いとか良く分からないけど
多分「その人の長所も短所も含めて好き」ってのが
「愛してる」って事なんだろうと勝手に思ってる。


いちーは矢口の「無謀」で「思い立ったら考えなしですぐ行動する所」とか
「自分の事は後回しで周りの人を気遣ってやれる所」とか
「イイ所」も「悪い所」も全部好きだ。

―――だから「愛してる」って思える。

160 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時14分30秒
中学の制服を着るのも最後の日。
卒業式だ。
式自体はつまらないモノで嫌気がさした。
でもいちーはそんな中、悩んでいた。

悩みのタネはもちろん矢口。
想い続けた期間はかなり浅い。
でも期間とかじゃなくて、
どれだけ相手を想っているかってのが大事だと思う。

告白…。真面目に愛の告白。
矢口にできるのか…?
バカにされないか心配だ。
でも一番の心配は「この友達関係が崩れてしまうんじゃないか?」って事。
崩したくなければ、告白しなきゃいい。
でも想いを伝えなきゃ矢口はいつまで経っても気付かないだろう。
それにいちーが我慢できそうにないから。
高校も一緒で、ずっとこのまま「いい友達」として思われたくない。
「友達」という一線を越えたい。ラインを越えたい。

卒業式の内容とか全然覚えてなくて
ずっとその事で煩悶していた。


161 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時15分06秒


「あーぁ…つまんねぇ式だったなぁ…」


式も最後のHRも全て終わった帰り道、
矢口は筋を伸ばしながら大きな欠伸をした。


「…そうだな…」


手には卒業証書と花束。
胸には卒業生の印の「花」がつけられたままだ。

矢口の制服はボタンとネクタイがなくなっていた。
腕のボタンすらない。

それを見た時

「くれって言われたのか?」

と聞いたら

「ぅん。言われてやってたらいつのまにか全部なかった。
 ネクタイもないし。」


――ボタンなんて欲しいのかぁ…?

とか全然もらう側の気持ちを理解していない
矢口はそんな事を平気で言っていた。


コイツにはまだ告白できそうにない…とその鈍感さに呆れた。


そしてはっきりしない気持ちを引きずって高校へ入学してしまった。


162 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時16分02秒


気付いたらもう1限が始まっていた。
我に返るとどうやらずっと矢口の事を考えていたらしい。
本当に矢口の事を考えると時間が経つのが早い。

開きもしない教科書とルーズリーフを机に出して横を見た。
空席の机。矢口はまだ来ていないらしい。

カーテンはさっきと同じでまだ弧を描いている。


――――――ガラガラガラッ……

後ろのドアが開く音がした。
先生の声だけ聞こえていた静かな授業中の教室に不似合いな音。


現れたのはもちろん矢口。
ダルそうに眉間に皺を寄せて頭をかきながら
遅刻した事に悪びれる様子もなく(もちろん謝りもしない)
自分の席に小さい体のくせに大きな「どかっ」という音をたてて座った。

先生も呆れてもう注意するような事はしなかった。
はじめの頃何回も注意したが矢口は聞く耳を持たなかったから。
それからどの教科の先生も矢口に注意する事は諦めたらしい。


163 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時16分35秒
イスにもたれてだらんとしている矢口に


「おはよ。また社長出勤か?結構なご身分で。」

からかうように嫌味っぽく言った。
矢口はだらんとしたまま顔を横に向けた。

「からかうなよー。これでも急いで来たんだから。」

「急いでるようには見えなかったけど?」

「…おいらなり急いだんだって!」

「わーったよ。」


それから矢口は窓の方をじっと見つめていて
いちーもノートをとり始めて会話は途絶えた。


ノートをとっている合間にちらっと矢口の方を見ると
つまらなさそうにカーテンの弧を描いている間から見える
外の景色を見ていた。
その目は出会った頃から変わらない1人でいる時の独特の目だ。
寂しさと何かを強く思っているような冷たい目。


164 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時17分22秒
金色の髪が風にのってなびいている。
中学の頃はまだ少し明るめの茶色だった髪の色。
高校の入学式当日。
出会って驚いた。少し目が痛いような金色の髪になっていたから。

「第一印象が大事でしょー?ナメられたら嫌だし。」

とか何とか屁理屈を言っていた。
もちろんそんな派手な金色の髪で
入学式に出席できるはずもなく先生にとめられた。
ネクタイすら持って来なかったしシャツのボタンはとめていないし…
入学早々から問題児決定だった。


165 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時18分08秒



「…このカーテン、マジ邪魔!」

矢口の相当イライラしている声に気づいて我に返った。

どうやらさっきからカーテンが頭を掠るらしい。


「そうか?結構見てて気持ちいいけど。
 何つーの、弧を描くって感じで。」

笑いながらそう言ったら

「見てる方はいいだろうよ。でもこっちとしてはたまんないね。
 イライラする…クソッ!」

矢口はこっちを見ないでカーテンを縛り上げた。
途中何だかカーテンに遊ばれてる子供のように見えた、
というのは内緒にしておこう。



「さやか。おいら寝るから。おやすみ。」

カーテンを縛り上げた後、片言でそう言って
窓の方を向いて机の上に突っ伏した。


いちーはというと呆れて何も言えない。
中学からそうだったけど時々このあまりにも気楽すぎる性格が羨ましく思う。
後先考えない。今が一番大事って思える矢口の性格。

羨ましく思うけどいちーにはどうも真似できない。


「おやすみ。」


多分聞いていないと思いながらもそう言ってノートをまたとり始めた。

166 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時18分56秒
カーテンがなくなったせいで風がもっと入ってくるようになった。
矢口の金色の髪もさっき以上に風になびく。


なびいている金色の髪を見て出会った頃から思っていた事を思い出す。


矢口は蝶々だ。蝶々のように気まぐれで捕まえようと思ってもひらひらと
すぐにどこかへ飛んで行ってしまう蝶々のような奴だ。
そんな蝶々のようであって時には豹のようでもある。
周りの友達と楽しそうに話している反面、
1人でいる事を好んでいる豹のような奴だ。


金色の羽を持つ蝶々。
追ったら飛んで行く。ひらひらと自由にどこまでも。
金色の毛並みを持つ豹。
1人を好んでいるけど時々どこか寂しい目をする。
執着心は強いが飽きっぽい。





そんな蝶々のような矢口を好きになったいちーは天道虫のようだ。
追いかけられるが捕まえる事はできない。

自分のモノには決してならない。



167 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時19分39秒



「キーンコーンカーンコーン・・・」

1限終了のチャイムだ。
先生はさっさと教室を出て行ってしまった。
途端にざわざわ騒ぎ始める。

結局ノートは半分もとらなかった。
ただの暇つぶし程度にとっていたから別にいいけど。
ルーズリーフを半分に折って教科書にはさんでおいた。

そして本気で寝入っている矢口を揺さぶって起こす。
矢口は言葉にならない声を出して細めた目をこすりながら


「・・・終わったの?」

とか暢気な事を言っている。


「終わった。だから起きろ」


大体いつもこんな調子だ。
中学の時とあまり生活のリズムは変わらない。
矢口と違う高校へ行っていたのなら相当変わったと思うケド。


168 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時20分45秒
それからいつも通り過ぎて行った。
4限まで受けて、昼になって矢口と学食に行ってラーメンを食べた。
それから学校の近くにある駄菓子を売ってる店で
ガムやら飴やらを買って屋上へ行った。

中学と変わらない絶好の時間を潰せる場所。
壁にもたれて矢口と他愛ない会話をした。


矢口の噛んでいるブルーベリーガムの匂いがした。
「フーッ」と風船を何回か膨らまして遊んでる姿は子供にしか見えなかった。
すごく大きい風船を作って壊した後

「今の超ーデカくなかった!?」

なんて喜んでる辺りなんかそこら辺の小学生共と変わらなかった。
矢口に言ったら烈火の如く怒り狂ってくるけど。
1回言って失敗しているから2度と同じ失敗はしない。

 5限は案の定サボり。
そのままダラダラと屋上で過ごしてしまった。
 6限は遅刻して行った。
授業開始25分過ぎたら欠席扱いだからギリギリ23分に教室へ到着。
先生は予想通り怪訝そうだった。
正に苦虫を噛み潰したような顔って感じ。
矢口は案の定全く気にしていなかった。

169 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時22分17秒
そして帰り道。桜並木道を通る。
人通りは朝と違って誰もいない。
静かに桜の花びらが舞う。
木々の葉音があちこちから聞こえてくる。


「さやかはホントにここが好きだね。」

桜の木々に深く心を奪われていた。
桜並木道を歩き出してからずっと上を見上げていたらしい。
首が少し痛い。

「あー…まぁね。何かピンクの雪降ってるみたいで綺麗じゃん?」

「ピンクの雪?あぁ…桜の花びらね。確かに綺麗だけどさぁ…
 ――桜って何でこんなに綺麗なピンクか知ってる?」



「…知らない。何で?」



「昔、織田信長が徳川家康と一緒に長篠の戦いをして
 武田勝頼の騎馬隊を撃ち破った時の事らしいけど
 その場所にちょうど桜の木がたくさんあったんだって。
 ここの並木道みたいに…。
 で、その戦いでいっぱい人が血を流しながら死んでったんだ。
 桜がこんなに綺麗なピンクなのは…人の血を吸ったかららしいよ。」

まさに突風という感じの風が吹いて花びらが一気に舞う。


「えっ…?」


170 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時24分04秒
「桜の木の下には今もその死んだ人が埋まってて
 だから今もこんな綺麗なピンクなんだって。」


矢口は不敵な笑みをこぼして急に立ち止まって桜を見上げていた。




「そ、そうなんだ・・・」


それにつられていちーの足取りも止まる。
何か…怖いな。



「ふっ…アハハハハハ!!!!!!バァーカ!
 ほんっとにさやかは騙されやすいね。」


不敵な笑みはどこへやら…矢口がいきなり大声で笑い出した。


「えっ?…まさか冗談?」


「決まってんじゃん。ちょっとからかいたくなっただけ。
 それに織田信長とか素で嘘っぽいじゃん?」


そう言いながら笑う矢口は涙目だ。
怖いとか普通に思った自分がバカみたいだった。


「う、嘘つく事ないだろ!?」


「だって〜…さやかは人の言う事全部信用しすぎだって!
 さーってと、帰ろ帰ろ。」

何となく風で揺れる葉音が笑っているように聞こえた。
桜までいちーの事バカにしてんのか?


171 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時25分23秒
「うっさい。矢口みたいにいちーは性格曲がってないんだよ。」


「あぁ?誰の性格が曲がってるって言ってんだよ!?」


「あれ?小ーーーーっさい矢口には聞こえなかったぁ?」


「なっ…さやか!マジぶっ殺す!」


「矢口なんかにぶっ殺されないし。」




口喧嘩の会話もいつのまにかなくなってまた歩き出した。
桜の花びらを踏みながらまた落ちてくる花びらを見つめた。

矢口も同じように見つめていた。
散り行く桜を。



さっきのは冗談だって分かったけど
何故か頭から離れなかった。

『桜が綺麗なピンクなのは人間の血を吸っているから』

冗談に聞こえない冗談をよく考え付くもんだ。
そこら辺は尊敬するよ。

あの矢口の不敵な笑みと共にこの冗談はずっと忘れられないでいた。


172 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時26分10秒
「・・矢口、上ばっか見つめてないでもうすぐ横断歩道だぞ。」


桜並木道も終わりに近付いた時今だ口を開けて見上げている矢口は
目の前の横断歩道に気付いてなかった。
 
「え?・・・あぁー…」


桜並木道の目の前に横断歩道。
この道路を利用する車はほとんどない。
でも一応、車とか急に来たら危ないし。
何メートルもない、そんな大それた横断歩道じゃない。


いちーは気にせずに普通に渡る。
矢口は白線だけ踏もうと必死で歩いていた。



それから少し歩いて分かれ道。


「そいじゃーな。」


「うん。また明日」


素っ気無い感じのいつもの挨拶をして別れた。



173 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月19日(水)05時27分04秒


今日も1日終わった。
自分の制服を見ると所々に花びらがついている。
それを1つ手にとって見る。
淡い綺麗なピンクだ。

――この花びらも血を吸ったからこんなに綺麗な色なんだろうか?


「ふっ」と一息したら花びらが静かに地面に引き寄せられて行った。
所々についている花びらを払いながら帰った。


174 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年03月19日(水)05時38分29秒
過去全部書きたかったんですけどとりあえずここまで。
今回はなちまりじゃなくてさやまり(っていうのか?)になってしまいました。


137の名無し読者さん。
レスありがとうございます。
更新遅くてすいません。
予定では後4回ですが何か分からなくなってきました…

138の名無し読者さん。
レスありがとうございます。
あと少しで終わりのはずです…。
期待にそえられるように頑張りたいです。

過去が考えていたよりも相当長くなってしまったので
4回で完結か分からなくなってきました。
3月中にあと1回更新したいです。


175 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月20日(木)12時04分17秒
さやまりだぁー。
なちまりも好きだけどさやまりも好きなんですよー。
過去の続きが気になる。
176 名前:なちまり大好きっ子 投稿日:2003年03月22日(土)09時09分31秒
過去矢口にどんどん引き込まれていきます。
さやまりもいいもんですね。
それに朽ち果てる体と桜の花びらだなんて・・・
更新待ってます。。
177 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時01分13秒
忘れもしない矢口が朽ち果てた瞬間。
空から降るピンクの花びら。
肌で感じるほどの暖かい風。
最後の一言。



5月07日。

桜もそろそろ終わりに近付いてきている季節。
並木道を通る時、上を見上げるのが日課になってきている。

その日もいつも通り過ぎて行くはずだった。
何も変わらないいつも通りの1日を。


4限の授業まではいつも通りだったけど
昼休みから段々と何かが変わってきた。

178 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時01分44秒


屋上のドアのすぐ横の壁に2人並んでもたれていた時

「そういえばさやかさぁ…中学ん時言ってた子はどうしたワケ?」

いきなり矢口がそんな事を言い出した。
飴をくわえたままだから声がくぐもって聞こえる。
口からはプラスチックの白い棒が見えていた。


「中学ん時言ってた子…??」

ってまさか…


「ほら、『君の笑顔に恋してる!』って言ってた子いたじゃ〜ん!」


「ばっ…バカ!それは矢口が勝手に言ったんだろ!?」

ニヤニヤしながらいちーを覗きこんできた顔をぐいっと手の平で押し返す。


「まぁまぁ…そんな細かい事はイイからさぁ〜…で?どうなの?」

押し返されてもニヤニヤした表情はそのまま。
いつのまにか飴は手に持っていた。

179 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時02分17秒
「ど…どうって…別に変わりないよ。」

「って事はまだ好きなの!?…さやかって案外一途なんだ…」


「ふ〜ん」って感じに2,3回頷きながら
また飴を舐め出した。


「な、何だよ。一途だったら悪いのか?」


「一途」って…。まぁ自分でもそう思うよ。
こいつ、いちーが言うまで気付きもしないだろうし。何せ鈍感だから。
でもそれでも好きだし。
ましてや矢口がいちーの事友達以上として見てる・・・
っていう風には今まで見えた事ないし。


「いや、そうじゃないけどさぁ。ここの高校じゃないんでしょー?
 よく好きでいられるなぁ、とか思って。」


溶けてなくなりかけた飴がちらっと見えた。
ほとんどプラスチックの棒だけの状態。
やっぱ鈍感だよ、矢口。


「・・・一緒の高校だよ。」


言った瞬間から「ドキドキ」し始めている。
コレって思ってもみなかった『告白』のチャンスってヤツですか?

180 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時02分47秒


「まぢでぇ!?…元中同じで高校も一緒って事は…
 おいら絶対知ってる人じゃん。」


腕を組んでくわえていたプラスチックの棒を思いきり前へとばした。
棒は落ちた瞬間風にのってフェンスの方へ転がって行った。
 でも2人共そんな場合じゃない。

矢口は誰なのか考え込んでいるし
いちーは突然のチャンス到来で悩みまくっていた。



それから矢口の口から何人かの名前が次々出された。
でもどれも当たり前に違って「違う。」と一言であしらった。

181 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時03分23秒



「もしかしてさぁ…おいら!?矢口真里はどうよ!?」


ニカっと120%のスマイルでこっちを見て自分を指差している。
久々のベストスマイル始動。

「・・・はっ?」


顔に出てしまってる…
絶対真っ赤だ。


暖かい風が2人の間をすり抜けた。


「ほら、おいらって可愛いし〜。優しいし〜、思いやりっつーの?
 結構あるじゃ〜ん!?」


キャハハハハ!と矢口は笑いながら自画自賛。



「ばっ…バーカ!何で矢口なんか好きになんなくちゃなんねぇんだよ!
 そういう自画自賛は身長伸ばしてから言え!聞いて呆れるよ。」


神様…この曲がりくねった性格何とかして下さい。
本当は好きなくせにそれを隠していぢめる小学生並の性格何とかして下さい。


182 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時04分29秒


片目をぎゅっと瞑って舌打ちした。
言った後後悔したのは言うまでもない事。
思わず顔をそむけてしまった。
きっと
「うっさい!おいらだってさやかとなんか嫌だし〜。」
なんて憎まれ口を叩いてまた喧嘩が始まるんだ、とか思った。



でもそういう雰囲気じゃなかった。
いちーがそう言った後、急に静かになった。





矢口は腕を組んで壁にもたれながら










「ははっ…そっか。そうだったらよかったのにぃ〜。」


苦笑いしながらそう言った。





耳を疑った。幻聴?いや、そうじゃなくて。
確かに『そうだったらよかったのに』と言った。
誰が?―――矢口が。
誰に?―――いちーに。





183 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時05分06秒






「・・・・・・えっ?そ、それどういう…」


そむけた顔を元に戻して矢口の顔を見ると



「・・・さぁーね。」


一言そう言って曖昧に笑った。


「さ、さぁーねじゃ…」

「あ、チャイム。…授業出ないとなぁ…。さやか、行くぞー?」


聞き出そうとした瞬間、
それを遮るかのように5限始まりのチャイムが鳴り響いていて
矢口は屋上のドアから出て行った。
いちーも呆然としながら後を追った。



184 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時05分57秒
矢口の心理がわからない。

5限は日本史だった。
でもとてもじゃないけど日本史の事を考えられるわけがなく
ずっと懊悩していた。

さっきのは何だぁ!?
矢口の考えてる事全てが分からなかった。

「そうだったらよかったのに。」って…
変な期待が頭をよぎって仕方ない。
その都合の良い考えを捨て去るように頭を左右に振った。



本人、矢口は1人楽しそうにプリ帳の整理をしている。
何でプリ帳の整理なんか…人が悩んでるっつーのに。
呆れながらちょっと覗きこむと
綺麗に貼ったプリクラの横に何やら書きこんでいる最中だった。



「見るなよぅ!プライベェトの侵害だぞ!?」

視線に気付いて顔を横向けた矢口は何故か顔が赤かった。

プリ帳見たくらいで赤くなるなんて変な奴…


「そんな怒る事ないだろー?
 矢口さぁ、前から言おうって思ってたけど
 そうやって几帳面に貼っておいていちーに
 1回も見せてくれた事ないよなー。」

普通に接しようと思うけどさっきの矢口の言葉が気になってぎこちなくなる。
矢口も何故かいちーから目をそらしている。

185 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時06分29秒
「べ、別にいいだろー?見ても何もないし。」

・・・素っ気無いってのは気のせいか?

「…何もないって事はないじゃん。そんだけ貼ってるし。」

「……うっさいなぁ!他の奴に見せてもさやかには絶対見せてやんねぇよ!」


矢口はそう言い放っていちーを無視するかのように
またプリ帳に没頭し始めた。


何だよ…。
何でそんな怒ってるんだ?
プリ帳見られるのそんなに嫌なのか…?


それから何も話さなくなってしまった。

いちーはまだあの事で悩み続けて5限、6限が過ぎて行った。

186 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時07分04秒



「…帰るか。」


「うん。」


やっと話したのは6限が終了して帰る時。



気まずい雰囲気も歩きながら帰っている途中でいつのまにかなくなっていた。
矢口はもう何も気にしてない素振り。
でもいちーにはどうしても聞いて確かめたい事があった。
さっきから引っかかっているあの事。


並木道を数歩、歩き始めた。
この間よりも花びらがよく落ちてくる。
ヒラヒラと風にのって舞っていた。

ピンクのじゅうたんを広げたような道を歩きながら
ずっといつ聞こうかタイミングを狙っていた。

人通りは全くない。静かに木々の揺れる葉音が聞こえていた。



187 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時07分37秒





「ゃ、矢口…」

声が震えた。1人で緊張してるなんてカッコ悪い…。

2,3歩前をピョンピョン跳ねながら歩いていた矢口は
くるっと振り返っていちーの方を向いた。

「んー?」


「…昼休みのアレ、何だよ。どういう意味なんだ?」


右手は制服のポケット。左手で頭をかきながら聞くと


「昼休みのアレ〜?何それ。」


首をかしげながらそう言って
「意味わかんなぁーい」とまたピョンピョン跳ねだした。


思いきり両手をあげてジャンプして桜木に触ろうとするけど当たり前に無理。
掠りもしない。




188 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時08分12秒



「『そうだったらよかったのに。』って言っただろ!?
 忘れたなんて冗談言わせないぞ?」


「…あぁ〜そのアレか。」


「他にアレなんてないだろ!?」


「そっか。ないか。」


「…どういう意味なんだよ?」


リズム良く『会話のキャッチボール』ってのが出来てたハズなのに
いざ、核心に迫った所で急に矢口が黙ってしまった。

そのまま何メートルか歩いていくのを少ししてから後を追った。
2人の間にはいつのまにか結構、距離があいていた。

ピョンピョン跳ねようともしないで
少し俯き加減で歩いていく少し離れた矢口の後ろ姿をじっと見つめていた。



189 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年03月31日(月)05時10分58秒
「……ぁー…だから、それはぁ・・・」


重い口を開いた言葉は笑えるほど曖昧なもの。


「・・・そういう意味だよ…」


小声すぎて分からなかったけど確かにそう言った。
それを聞いた瞬間笑えたけど確信したんだ。


天道虫が蝶々を捕まえられる事が出来た、と。


190 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年03月31日(月)05時22分16秒
めっちゃ中途半端な更新…。ここまでです。
さやまり編?まだ続く予定です。

175 名無し読者さん。
レスありがとうです。
さやまり…初めて書きました。
ずっとなちまりしか書いた事なかったんで
さやまりってどんなのか全然分からないで書いてます。
何か、違う気がする…。
過去編はまだ続きます。


176 なちまり大好きっ子さん。
レスありがとうです。
さやまりは自分でも意外にいいもんだ、とか思ってます。
私も過去矢口が好きなんです。
何か雰囲気的に。
タイトルはそのまんまです。


何とか3月中に1回更新できました。
次の更新も早く出来そうです。
191 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月31日(月)13時59分22秒
なんかすごい展開ですねー!
次の更新を楽しみにしてます
192 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月31日(月)15時24分18秒
うわぁ〜こんないい所で終わるなんて…(ToT)
続きすっごく気になります!!頑張って下さいね☆
193 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時38分52秒
「す、好きか?」

しばらくたってもやっぱり返事はなくて黙って歩き続けていた。


その間、心の中で決めていた。
ドキドキ胸が高鳴っている間、無数の考えが頭の中をぐるぐる回った。
こんな時に限って関係ない事なんか思い出したりして。

そういえば家、鍵かけ忘れたかもしんない、とか。
朝食べた食パンとバター、イチゴジャム冷蔵庫に入れ忘れたとか。


でも肝心な事には意外に決断が早かったり。
矢口が「好き」って言ってくれたらいちーも「好きだ」ってはっきり告白しよう。
でも正反対の答えだったら…その時はまだこの密かな矢口への想いはまた封じておこう。
なんて都合のいい事を思っていた。

194 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時39分28秒







答えをはっきり聞く事は出来ないっていう事はその時のいちーは気づくわけなかったけど。

着々と時間は過ぎていっていたのだ。

この桜並木道に入った時から、矢口の死へのカウントダウンは始まっていたのだ。

この桜並木道を普通に歩いていたんじゃなくて、死への道をまっすぐ歩いていたのだ。

後ろから知らず知らずに影が迫っていたのを知らずに。






195 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時40分02秒







ピンクのじゅうたんは横断歩道にもぎっしりひかれていた。
横断歩道まであと数歩の所で矢口は口を開いた。





「なんか…そう言われるとよく分かんないんだけどさ…」




一歩・・・



二歩・・・





いちーもそれを追う。





人通りはいつもみたく、全くない。



静かだ。





風が暖かい。







「うん・・・」





返事を待つ。









196 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時40分36秒










矢口がまた一歩、二歩踏み出した。





横断歩道の真ん中だ。





いちーも同じように追う。



やっと横断歩道まであと数歩、って所まで来た。




197 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時41分35秒



矢口がいちーから見ても分かるほどに大きく息を吸った。


何を言うんだ?






「おいら・・・さやかの事・・・・・」




ふいに風が強く吹いて。
木々が大きく揺れた。



ドキドキして仕方ない。今のいちーには何も見えない。
矢口だけしか見えない。
まるで視野が狭くなったみたいに。


変なとこで引き伸ばすなよ。

おもしろい悪戯を思いついたように笑う矢口。


いちーをからかってんのか?





「なんだよ」


桜並木道で留まっていちーも微笑んだ。






微かに車の音がする。


でも今は何も見えない。


矢口しか、見えない。




198 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時42分10秒





段々とでかくなる車の音。






少し体で感じるくらいの振動がきた。





・・・トラック?







「…へへっ。おいら、さやかの事……好きかもし」





矢口だけしか見えていなかった視界が急に広くなって視野の右端にトラック。







「・・・・・ちょ、矢口!あぶな・・・!」


矢口の言葉を遮った。


手を伸ばして大声で叫んでダッシュ。


トラックはすぐにいちーの視界いっぱいに入り込んできた。



目の前で少し照れながら微笑んでいた矢口の姿は・・・?
















199 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時43分30秒











暖かい風が吹いて木々を揺らしていた音も
大きなブレーキの音でかき消された。




手を伸ばして大声で叫んでダッシュした時には遅くて。





砂埃のせいで眼をぎゅっと瞑った後、ゆっくり開くと
横断歩道特有のゼブラ模様の黒白で描かれたラインが
全て真っ赤に染まっていた。




運転手は少し後ろを振り向いただけでこの光景に驚いて
走り去って行ってしまった。
あんなに驚いた顔を見たことはなかった。





呆然と立ち尽くした。
2,3歩トボトボと歩いて矢口の真横に来た。



クラクションも鳴らさなかったって事は多分
居眠り運転とかそういう相場だろう。











200 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時44分03秒







人間って呆気ないと思った。

なぜか涙は出てこなかった。

ただ、この状況を冷静に受け止められている自分自身が怖かった。

脈を確かめる、呼吸があるか?人工呼吸…そんな事をする必要もない。
見て理解できた。


望みは何もなかった。



ドクドクドクドクドク・・・
さっきとは全然違う心臓の音。










蝶々の金色の羽が呆気なくちぎれた。

天道虫は何も出来ないまま追いつくことも、
ましてや捕まえる事も結局出来なかった。














201 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時44分36秒






強い風が吹いた。



桜の花びらが空から舞って矢口に引き寄せられていく。
自然と落ちていく。

金色の髪の毛に引き寄せられる花びら。
手の甲にゆっくり落ちる花びら。
制服の上に落ちる花びら。
頬に落ちる花びら。
首筋に落ちる花びら。


そして、真っ赤な血の海にふわりと落ちて風にのって
ゆらゆら揺れる花びら。




『桜が綺麗なピンクなのは人間の血を吸ってるから。』

不敵な笑みでそう言った矢口をふっと思い出す。



真っ赤な矢口の血に引き寄せられて花びらが集まっている。







202 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時45分06秒







この桜並木道の桜は・・・今年よりももっと綺麗に咲くだろう。




特にこの横断歩道に近い桜木は。




だって矢口の真っ赤な血を吸ったから。




きっと花びらは今まで見た事ないような綺麗な色をしているんだろう。








203 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時45分37秒





いちーは矢口を抱えた。

制服が真っ赤に染まる。
手が真っ赤に染まる。

その真っ赤に染まった手で矢口の鞄を持った。





でもそんな事どうでもよかった。


矢口の顔を見ると眠り姫のように安らかだった。
ベストスマイルまではいかないけれど微笑んでいる。





こいつは、最後の死に顔でさえこんなにもいちーをドキドキさせるのか。
何だかそれを見て少し笑えた。






204 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時46分16秒





どこに行けばいいのか分からずとりあえず
この桜並木道から立ち去ろうと思った。
ここに来る事はないのかあるのか分からない。


でも来年の今頃もう一回来たい、と思った。
矢口の血を吸った桜木をもう一回見たい、と思った。



「・・・一年後にな。」




桜木にそう言ってこの桜並木道を後にした。







ずっと、あてもなく歩き続けた。
人間のいない所に行くために気付くと山道を歩いていた。


さっきからいちーの腕の中で眠り姫している矢口。
眠り姫にお姫様だっこしているいちー。


王子様とお姫様だな。
何か童話でありそうだ。





枯れた葉っぱを踏みしめるとバリバリ砕ける音がした。
その音をさせながら登りきったら何かの建物。





それがこの研究所だった。




205 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時46分47秒



それから勝手に住み始めた。
部屋も勝手に決めた。
一番目立たない端の部屋。



矢口を隣に寝かせた。

今も尚、死に顔を見るとドキドキしてたまらないのだ。愛しい。
制服にべっとり染み込んだ真っ赤な血は止まる事を知らない。


いちーの上半身は真っ赤だった。
でも何故かその「赤」は温かかった。



206 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時47分29秒



矢口の鞄も真っ赤に染まっていた。まるでペンキで塗られたみたいに。
中身を見るのを躊躇いながらも見ると、財布。携帯。化粧品。
飴。色鉛筆。ぬり絵。
・・・まるで子供の鞄の中身じゃん。
 そして最後に出てきたのがプリ帳。



「見るなよぅ!プライバシィの侵害だぞ!?」


矢口がそう言って頑なに見せるのを拒否し続けていたプリ帳。


静かに開いた。




すると、そこには・・・・・




いつか忘れたけど遊んだ時に撮った二人のプリクラ。



そして横にメッセージが書かれていた。




207 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時49分09秒
『さやかと久プリ〜!!何かもうテンパっちゃって
 全然可愛くないよ、おいら!
 だってだってさやかとプリ撮る事なんてあんまないんだもん。
 あいつこういうの嫌いだし。だからコレは大切な1枚☆』



一つ一つのいちーとのプリクラにはちゃんとメッセージが書かれていた。




『この時のさやか超最低!お前1人で撮れとか言いにくるんだもん!
 1人で撮っても面白くも何ともないっつーの!
 おいらはさやかと撮りたいんだって事分かれ!この馬鹿!』




『さやか、ちっとも笑ってくれない。プリクラ撮る時くらい笑えよぅ!
 おいらはちゃ〜んとベストスマイル+ダブルピースでノリA☆(笑)』




『コレは貴重な1枚!!!だってさやか、超笑顔なんだもん!
 おいらはさやかの笑顔が大好きだぁぁぁ!!(笑)』



208 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時49分46秒

そういえば遊んだ時によく「プリクラ撮ろう!」ってうるさかったな…。
本当は嫌いじゃなくて恥ずかっただけだけど。
これでも結構撮ってたりしてたんだなぁ…




2、3ページ使っていただけで後は白紙。
その2、3ページは全部いちーと矢口2人のプリクラだった。




ぺらぺらと白紙の部分をめくっていると最後のページに何か書かれていた。




209 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時50分19秒



      それだけ。

ただあなただけ ひとつだけこの気持ちはここにしかない


昨日も今日も夢に出てきた あなたはしっかり笑顔でいた
少しだけ手を繋いでみたら 当たり前のように握り返した


このまま一生離したくない  尊い今をあなたといたい


ただあなただけ ひとつだけこの気持ちはここにしかない
ただあなたが好き 苦しみも重ねて ただそれだけ


このまま一生離したくない  尊い今をあなたといたい
遥か彼方の赤い光よ 2人を照らし続けていて


ただあなただけ ひとつだけこの気持ちはここにしかない
ただあなたが好き 苦しみも重ねて ただそれだけ





何か聞いたことあるなぁ、と思ったら歌の歌詞だった。
その歌詞の右ページには『戯言』と大きく上に書かれていた文章があった。





210 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時50分58秒

      

      『戯言』

  この歌詞みたいな2人になりたい。
手を繋いだら握り返してくれるようなそんな優しい奴には見えないけど。
毎日、口喧嘩するし、友達以上の関係にはなれないけど
でも、さやかが好きだ。
気付いたのは遅すぎたけど、さやかが好きだ。
他に意味なんかなくって。
何かもう今は、それしか分からないんだ。

隣で何か考え込んでるさやか。
きっとさっきの昼休みの事だってぐらいおいらだって分かる。
口を滑らせすぎたかもしんない…
あぁ〜、おいらって本当にバカだ…
さやか「えっ?」って顔してたよ。
信じらんないって顔してたよ。どうしようA??


おいらの気持ちずっとA、一生隠し続けるから。
一生心の奥に沈めておくから。
せめて、今までみたいな「トモダチ」でいさせて。
この気持ち、さやかに気付かれていませんように。
・・・まぁ鈍感なさやかだから意味分かってないかもしんないけど(笑)

                           5月07日。





211 名前:朽ち果てる体と桜の花びら。 投稿日:2003年04月04日(金)04時52分12秒



5月07日。
今日の日付だった。
これはきっと今日の5限に書かれたモノだろう。
矢口がこんな風に想っていたなんて…。
本当にいちーは鈍感だ。
矢口もいちーに劣らずに鈍感だけど…


あの時は『プリ帳見たくらいで赤くなるなんて変な奴』とか思ってたけど
ホントは違ったんだ。
このプリ帳には矢口の本当の気持ちが書いてあったんだ。


お互い、同じ気持ちだったなんて思いもよらなかった。
矢口がいちーの事を想っていてくれてたなんて気付きもしなかった。


段々と視界がぼやけてきて、プリ帳にポタポタと音をたてて何かが落ちた。



涙だった。





矢口の死後、これが初めて流す涙だった。

流れ出したら止まらない。


言葉にならない声を出して大声で叫んだ。
何回も何回も矢口の名前を呼んだ。
まるで壊れた人形のように…





そんないちーの隣にいる矢口は眠ったままで
変わらない微笑みを浮かべていた。





212 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年04月04日(金)04時59分06秒
ここまで。
呆気なさすぎ??
かなり自己嫌悪です。



191の名無し読者さん。
レスありがとうです。
本当にいきなりな展開ですいません。
あれだけ引き伸ばしたのに案外呆気なく死んでしまいました…。

192の名無し読者さん。
レスありがとうです。
いい所?だったのが台無しです。
呆気なさすぎたなぁ、と自己反省。


今回意外に早く更新できて嬉しかったです!笑
次も出来れば早くしたいです。

213 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2003年04月04日(金)07時40分44秒
泣ける・・・。
214 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)21時47分45秒
いや、上手いですよ。
ほんとにお世辞じゃなくて。

この後が気になります。
215 名前:なちまり大好きっ子 投稿日:2003年04月05日(土)03時50分30秒
(泣)。。。
216 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)00時46分53秒







「…だから、もう本当の矢口はいない。分かっただろ?」


さやかの話に聞き入っていて、しばらく時間を忘れていた。


気付くとあたしの目には涙が溢れていて、1つ綺麗な線を描いて流れた。




さやかは、机に両手をついたままずっと目を閉じていた。
1つ1つ忘れもしない記憶をたどって話しているさやか。




「・・・そ、れで?ど・・・したの?」


声は出るけど何を言いたいのか分からない言葉で聞くと
さやかは目を開いてこっちを見た。



「矢口にもう1回会いたいって思った。
 だから、作った。」



「でも、作…ってもそれは本当のやぐ、ちじゃないよ?」



「そんなの分かってる。」


217 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)00時48分36秒




「・・・豹はどうして??」




「ただの思いつき。
 1番の目的は本当の矢口の再現だったけど、
 思いつきでやったら上手く出来た。
 本当の矢口に近づいた。」



「近づいた・・・って?」




「矢口は性格が豹の性格に似ていたからな。
 何にでも飽きやすい所。食い意地が張ってる所。
 1人でいたいって思う所。
 一緒にいてあてはまるのがいくつかあるだろ?」


さやかは笑っていた。
矢口の話をする時は終始笑顔なんだなぁ、と今頃気付いた。



ぱっと一瞬矢口の顔が思い浮かんだ。




「た、確かに飽きっぽいし、人一倍食い意地張ってて
 人のモノでも食べるし…
 でも1人でいたい、っていうのは違うよ。
 いつもなっちにくっついてくるから。」



なっちなっちなっち、とうるさいくらい人の名前を呼んで
ぎゅっと抱きついてくる。
それはあたし的にはすごく嬉しいんだけどさ。

とてもじゃないけど「1人でいたい」
とか思ってる様には見えない。




218 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)00時49分13秒



「その辺りが微妙にズレたんだろうな。
 でも、本当の矢口にかなり似ているよ」


「そんなに大事だったんならどうして矢口は研究所の茂みにいたの?
 それって手離したって事っしょ?」

 
 
矢口は最初、研究所の前の茂みにいた。
ごっちんが見つけたんだっけなぁ…怪我してるからとか言って。


それから無理矢理押し付けられた。




「・・・喧嘩したんだ。」



「喧嘩?」






219 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時50分57秒




初めて矢口が目を開いた時は本当に蘇ったのかと
思ったくらいに本物に近かった。


言葉も、動作1つでさえ出来ない矢口。
まるで生まれたての赤ちゃんのようだった。




それから1つ1つ丁寧に教えていった。
始めに教えたのは「言葉」




「いいか?お前は矢口だ。や、ぐ、ち。」



「・・・?」



「言ってみ?や、ぐ、ち。」




「…ぁ、ぅぁ…」




「そうそう。まずは声出してみた方がいいかもな。」




220 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時51分35秒



毎日、練習した。
でも「やぐち」と言うのにそんなに時間はかからなかった。




「や、ぐ、ち。言ってみ?」


「やぁーぐぅーちぃー!やぐち!」


「そうそう。うまいうまい。」


「やぐち!」


「もっといっぱい言葉教えてやるからな。」



頭をなでてやると嬉しそうに笑った。
その笑顔は矢口の得意だった「ベストスマイル」だった。







221 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時52分38秒



言葉を教えるというより、矢口は感覚で自然と覚えていった。
気付けば普通に話すようになっていて、いちーと会話が出来ていた。




「さやかぁ。おいら、腹減った。」



「分かったよ。今、作るから。ていうか矢口、お前何で
 自分の事おいらって言うんだ?」



いつのまにか矢口は自分の事をおいら、と言うようになっていた。
それもまた昔の矢口を思い出させる。



「何かねぇ、言いやすいから。」


「…そうか。」


「それより、早く作ってよ。」


「わぁーったから待ってろ!」


「はぁい。」




言葉も動作も何もかも普通の人間と全く変わらない。
いちーは自分自身で矢口の「出来」に満足していた。






222 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時53分25秒



本当の矢口と違ってかなり幼い矢口。
本当の矢口に恋していた時と違って、いちーにとって今の矢口は
何だか妹のような存在だった。



可愛くて仕方なかった。
新しい事を覚えたり、知ったりすると大喜びして
目を輝かしていちーを見上げる。







「よし、完了〜!きつくないか?」


その日はいちーが作った首輪を初めて付けた日だった。
真っ赤な首輪には綺麗に光る銀色のプレート。
いちーが作ったプレートには『yaguchi』と彫ってある。


「…大丈夫だけど…コレ何?」


きょとん、とした顔で首輪を引っ張って見ようとしている。
いちーはかがんで矢口と同じ目線になって優しく笑った。
それは他の誰にも見せた事のない笑顔だ。


「矢口はいちーの大切な人だっていう証だよ。」


「あかし?」


「そう、証。」


「ふぅん…。」



矢口はさほど気にしていない素振りだった。
そして、矢口の首にはいつもいちーの付けた「証」がしてあった。


遊んでる時も、寝てる時も、何か食べている時も。
それがちらっと見えて光る度にいちーは安心していた。





223 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時54分08秒




「証」なんて格好の良い事言ったけど本当は違った。
本当は言わばいちーにとっての「安定剤」のようなモノだった。
時々、まだ不安になる時があった。
急にいなくなってしまうんじゃないか、とか。
しなくてもいい不安で胸が押し潰されそうだった。

だから、そのプレートがちらっと見えるだけで不安は消えていくのだ。


どこへも行ってほしくなかった。
いちーを一人にしないでほしかった。







224 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時54分50秒









でも、そんないちーの思いとは裏腹に
段々と矢口はこの部屋以外の「外」の世界を気にし出すようになった。




「外行きたい。」



「だめだ。」



「何でぇ!?いつもそう言うけど何でだめなの?」



「何かこの部屋で不便な事とかあるのか?」



「…いや、別にないけどさぁ。」



「だったら行く必要なんかない。」



「えぇ〜!?いいじゃん!おいら見たいよ。外見たい。」



「うっさい。静かにしろ。」



「…アホさやか。」



「はっ!?お前そんな言葉どこで知って・・・」



「ふん。アホさやかぁ!」





呆れるほど色々な言葉を理解して使うようになった。
好奇心大盛で、怖いもの見たさって感じに
「外」の世界を知りたがるようになった。






225 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時55分31秒



毎日毎日、そう言ってはドアの方に近づく矢口。
目を離したらドアを少し開きかけてる所だったり。



この部屋にずっといればいい。
外なんか知らなくたっていい。
ずっといちーのそばにいろ。

外に行ったらどうなる?
またあんな事になったらどうすればいいんだ?
もう二度とあんな思いするのはごめんだ。



 そんな事、矢口は知る由もないのはわかってるけど。






226 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時56分03秒





その日もまた同じことを言っていた。
「だめだ」と言っても、聞くわけがなく何回も同じ事を言っている矢口。
まるで、5歳児。





「ちょっとくらい…いいじゃん。」



「だ、め、だ!」



「ケチ。」



「ケチで結構。」



「あぁ〜あ…何でそんなだめだめ言うんだよぅ。」




「行く必要がないから。」



「……必要とかそんなのさやかが決める事じゃないじゃん。」



「うっさい。」



「また、それだぁ。」



「・・・・・」



「アホさやか。アホさやかぁ!」








―――その瞬間。体中が熱くなって何かが切れた。









227 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時56分59秒








「あんなぁ!アホアホ言うけど、
 お前を作ったのは誰だと思ってんだ!?
 いちーだぞ!?お前は!生まれたんじゃない!
 いちーが作った、作り物だ!」





頭に血が昇って行くのを実感しながら、矢口を睨み付けた。
自分が言った事がまずかったと、その時はまだ気付かなかった。




「・・・つ、くった・・・?」




「そうだよ?矢口はいちーが作ったんだよ。
 近くにあるパソコンとか時計とか人間が作ったみたいに、
 矢口はいちーが作ったんだ。」




「・・・おいらは、ぱそこんと同じ・・・?」



「そうだよ。」




「そ、そうなんだ・・・」



「大体…大体、お前は本物の矢口じゃない!
 本物の矢口は…研究所の前の茂みに……いる。
 今もそこで眠っている。」







228 名前:本当の別れの日。過去の過去。 投稿日:2003年04月09日(水)00時58分01秒









歯を食いしばった。
唇をぎゅっとした。

あの日の事がフラッシュバックみたいに蘇った。
永遠の眠りについた矢口に土をかぶせる瞬間。
スコップとかそんなの使いたくなくて、自分の手で土を握って穴を作った。
爪に土が思い切り入っても、汚れても、何時間かかっても掘り続けた。

涙が止まらなかった。
顔がグシャグシャになった。

体中の水分が出るまで。声が嗄れて出なくなるまで。
泣いて泣いて叫び続けた。


掘った穴に矢口を入れてあげたけど、
いつまで経っても土をかぶせる事が出来ないで座り込んでいた。





229 名前:本当の別れの日。過去の過去。 投稿日:2003年04月09日(水)00時58分37秒





ようやく意を決して立ち上がって矢口を覗き込んだ。
いちーは溢れるほどの土を両手で持っていた。
最初は足から。どんどん土がかぶされていって
制服のスカートが見えなくなる。

そして、気付くと首の所まで土がかぶっていた。
最後は顔。

安らかに、まるで死んでいるという雰囲気を出していない矢口の顔。


自然と体が動いて、矢口の唇にそっと自分の唇を重ねた。
最初で最後のやぐちとのキス。
冷たくて、涙のせいでしょっぱくて、土の匂いがした。


そして大粒の涙を流しながら矢口の顔にそっと土をかぶせた。


矢口の鞄も一緒に埋めた。
でも、プリクラ帳だけはいちーの手の中にあった。
何故か埋められなかった。





230 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)00時59分44秒










全てが歪んだ。
いちーと矢口の関係も、矢口に対する気持ちも。





 



「外…行きたかったら行けよ。でも、もう戻ってくるな。
 それを分かって行くんだったら行けよ。」




その後、矢口は何も言わず部屋を出て行った。
久しぶりに全開に開いたドアからは風が入ってきた。





矢口がいなくなった部屋は妙に冷たく感じた。
バカみたいに、昇っていた血の気がひいて我に返ると後悔の嵐だった。
何時間待っても帰ってくる気配はない。
待ってる自分がバカみたいだった。
戻ってくるな、と言ったのは自分なのに。





231 名前:誕生の日。過去@ 投稿日:2003年04月09日(水)01時00分23秒





探し出すにも、もう誰かに見つかっているかもしれないと思った。
足をガクガク揺らしながら椅子に座っても落ち着くワケなかった。





もう、駄目だ…と思った。



「…くそっ…」


目を瞑って顔を隠すように片手で覆った。



真っ暗だった。
視界も、心の中も。


覆った手を下ろしても、視界は明るくなっても
心の中は真っ暗のままだった。




それから、毎日外の状況を伺うようになった。
でも何も変わらなかった。
それに聞いているだけじゃ分からなかった。






232 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)01時01分45秒







「・・・だから、昨日矢口に出会った時は本当に驚いたよ。
 しばらく今が過去か現在か分からなくなった。」



「自分で部屋から出て探そうとはしなかったの?」




「そうしようと思ったよ。でも誰にも会いたくなかったんだ。
 誰とも関わりを持ちたくなかった。
 外にも探しに行ったけど、無理だった。
 もうその頃にはなっちの所にいたんだろうな。」









233 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)01時02分25秒







流した涙は気付くと乾いていた。

さやかがどれだけやぐちの事を大切に思っていたか分かった今。

どうすればいい?



さやかは椅子に座って右手をこめかみに当てて下を向いていた。
あたしはさっきと同じように呆然と立ち尽くしている。





どうすればいい?






「…さやかは、どうしたいの?」



「……別に、どうもしたくない。なっちはどうなんだ?」



「な、っちは……」





ぐるぐる頭の中でやぐちの笑った顔が駆け回っている。
どうしたいか?


思った事をそのまま言った。





234 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)01時03分00秒









「本当は、やぐちに『今度からさやかの所に住むんだよ』って
 言ってあげなきゃいけないんだろうけど…。
 ごめん。ごめんなさい…。
 なっちにはね、やぐちが必要なんだ。
 本当にごめんなさい。
 勝手だけど、自分の事しか考えらんない子供だけど、
 やぐちは―――渡せないんだ。」



声が震えていた。
最後の方、っていうか全部かな。
下を向いたままのさやかを見ると急に顔を上げて目が合った。






「そんなに謝らなくてもいいよ。
 矢口を返してほしくて過去の話したワケじゃないから。
 それに急にいちーのトコに住めって言ったって矢口が嫌がるだろ?
 昔の記憶ないし。」


「…うん。ごめん、ありがとう。」



「うん。」―――さやかはそう言って腕を組んで目を閉じた。






235 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)01時03分34秒







「…そういえば…桜、一年後見に行ったの?」


やぐちが亡くなった一年後。
さやかの話していた並木道の桜。


「……見に行ったよ。すごく綺麗だった。」









236 名前:やぐち色の桜。過去A 投稿日:2003年04月09日(水)01時04分51秒









一年後の5月07日。

あの桜並木道を歩いた。
一年前、隣でぴょんぴょん跳ねながら
桜木に触れようとしていたアイツは―――もういない。


横断歩道側の桜は、見事に咲いていた。
満開であの日と同じ、ピンクの雪が降っていた。
空中をあの日と同じように、花びらが舞う。



  「今年の並木道の桜は色が妙に濃いなぁ…」

  「それに5月に入ってるのにまだ満開だね。本当に珍しい。」


通りがかった2人組がそんな事を言ってるのが聞こえて来た。


―――今年の桜は色が濃い。







237 名前:やぐち色の桜。過去A 投稿日:2003年04月09日(水)01時05分35秒






「…当たり前だろ。綺麗に咲いてなかったら切り落とすトコだったぞ?
 桜ぁ……矢口の血はうまかっただろう?」


桜にそう話しかけると、葉音がさっきよりも激しくなった。
まるで、その葉音は「うまかったよ」と言っているようだった。



「もう、ここには来る事ないから。
 お前は矢口の分も生きろよ?
 いちーは、矢口に何もしてやれなかったから…」


木の幹を2,3回叩いて桜並木道を後にした。


もう少しあの場所にいたら、涙が流れそうだったから。
既に、桜に話しかけた時から涙目だった。

鼻をすすった。
後ろはもう、振り返らなかった。











238 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)01時07分09秒




「本当に綺麗だった…。あんな桜今まで見たことない。」


「そっか…。色々ありがと。」


「あぁ…。」





さやかの短い返事を聞いてから
あたしは背を向けていたドアに振り返ってノブに手をかけた。

その時

「・・・なっち。」


急に呼び止められた。



「な、何?」



「矢口の首輪…はずしてやってくれ。」



「えっ?だ、だ…ってアレは……」





「・・・頼む。」


あたしの目をまっすぐ見てそう言うさやかに何故か
「どうして?」とは聞けなかった。



239 名前:心の底の思い。 投稿日:2003年04月09日(水)01時07分44秒




「わ、分かった…」



「ありがとう。それと…コレ」


さやかが椅子から立ち上がってあたしに近づいてきた。
右手には何かを持っている。



差し出されたのはノートだった。
・・・何のノート?



「矢口のプリ帳だ。いちーが持ってても仕方ないから。
 なっちが持っててくれ。」


「ぁ…うん。ありがとう。」




そして、あたしは部屋を出た。
やぐちのプリ帳を持って。





240 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年04月09日(水)01時18分53秒
ここまで。
過去やら現在やらごちゃごちゃで意味不明かも。

213読んでる人@ヤグヲタさん。
レスありがとうございます。
な、泣けましたか!?
呆気ないと自分で思ってましたけど…。
駄文ですいません!

214名無し読者さん。
レスありがとうです。
上手いとか言われたの初めてなんで
何と言っていいのやら…。
こんな駄文ですが…ほんまにありがとうございます。

215なちまり大好きっ子さん。
レスありがとうです。
泣けましたか!?
自分では全く泣けもしませんでしたが…(笑)


さやまり編(過去)これで終了です。
次からまたなちまりになります。
241 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2003年04月09日(水)06時05分34秒
大量更新お疲れ様です。
矢口を埋めている描写部分がなんか好きです。

市井から授かったプリ帳・・・なちまりの関係に何らかの影響を与えるのかな・・・ドキドキ
242 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月10日(木)18時45分12秒
ウヒャァ!
泣けたよ、作者さーん。
続き楽しみに待ってるよー。
243 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時21分51秒
腕時計を見ると9時過ぎ。
多分矢口は起きているだろう。



静かな廊下をとぼとぼ歩いて自分の部屋に戻った。

何だかセンチメンタルって感じ?
泣きそうだ…。


最後のさやかの切なそうな顔が忘れられない。
首輪…はずさなきゃなぁ…。
さやかが頼んでいる事だし。


プリ帳も…あたしがもらって良かったんだろうか?
いろんな気持ちでいっぱいだった。
かなり複雑。




244 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時22分22秒




部屋のドアを開けるといきなりぎゅって抱きつかれた。



「なっちぃー!どこ行ってたんだよーぅ!!!」



やぐちだ・・・。


首輪がちらっと見えた。
さやかの―――安定剤。



「ご、ごめん。ちょっとさやかの所に行ってて…」



あたしは左手で抱きついているやぐちの頭をなでた。




245 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時23分16秒


「別にいいけどさぁ…一人じゃ寂しいじゃんかぁ。
 起きたら誰もいないし。」

ぎゅっとさっきよりもきつく抱きついてきた。
うーん…やっぱり一人でいたいって思ってるわけなんかない。



「ごめんね。もうどこにも行かないから。」


「本当に?」


「本当だよ。」


「へへっ、良かったぁ…」



頭をなでてやぐちを引き離した。
やぐちは何でだよぅ?と不服そうな顔をしながら
あたしを見上げていた。

あたしはプリントでいっぱいいっぱいになっている
机の上にプリ帳を置いて椅子に座った。
多分、このプリ帳はしばらく見る事出来ないだろうなぁと思った。

キャスター付きの椅子があたしの座った反動で少し後ろに下がった。



246 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時23分47秒



「はぁ・・・」


机に肘をついて頭を抱え込む。
何か今、頭いっぱいで何も考えらんない。



「なっちぃ。どうしたの?頭痛いの?」

やぐちが心配そうな表情で覗き込んできた。


優しいね。さやかにもそんなに優しかったの?



 
「そんなのじゃないよ。全然大丈夫!!・・・ねぇ、やぐち。」


あたしの「大丈夫」という声でやぐちの表情が笑顔に変わった。


さやかにもそんな笑顔で笑いかけてたの?





247 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時24分19秒



「なに??」



「首輪…。はずそっか?」



そう言って両手をやぐちの首に持って行った。
やぐちはあたしの手に反応して上を向いた。


「…別にいいけど…。どうして?」


目線を下にしてやぐちがそう言った。

首輪は簡単にはずす事が出来た。

コレがさやかが作った首輪。
もう何年もしてあったせいで古びた感じがした。
プレートには傷が付きまくっていた。


そっとプリ帳の置いてある机に置いた。





248 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時24分54秒



「ん?別に…意味はないけどさ。」


言えなかった。さやかがはずしてやってくれって言ったから、って。
だって、もし言ったら…


「ふぅん。ちょっと首が寂しい感じするけどね。」

やぐちは首を両手でさすりながら口を尖らせた。


「こ、今度は首輪じゃなくて他の物、
 なっちが作ってあげるからさ。待ってて。」

 
さやかの事を言ったら…


「ホントに!?やったぁぁ!!約束だよ??」



「うん。約束。」



「んじゃ、指きり!指きりしよ!?」



やぐちがそう言って小指をからめてきた。
すごく嬉しそうだった。







249 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時25分34秒








……もし、やぐちにさやかの事を言ったら。

やぐちが全て思い出してしまって
あたしから離れていってしまったらどうすればいい?
そんな事が起こりそうですごく怖かった。







「なっちぃ?指きり終わったよ?」




どうやらあたしは難しい顔をしてやぐちと
からめている小指に力を入れてしまっていたらしい。 

 


「えっ?あ、ごめん。」



パッと小指を離した。
やぐちはきょとん、としている。



「なっち、何かあった?」


意外に鋭い……。でも話すわけない。



「ううん。何もない」



「…元気ないよ?」



「そ、そーかなぁ…?」



原因は分かってる。
今はその事だけで頭いっぱいだから。
パンク寸前だ。





250 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時26分09秒





「おいらが、元気にしてあげよっか??」


そう言ってやぐちはいきなりあたしの膝の上に座った。
そして、あたしの首に腕をからませた。


「え…?や、やぐ…」


されるがままになっている自分に気付いて名前を呼ぼうとした瞬間…。











―――――ちゅ。














やぐちの唇が重なった。



「…なっち、元気になった??」



正に呆然。


っていうか何かちゅうするのうまくなってない!?
腕をからませる仕草とか…やらしぃ。
まさか、誰かと練習とかしてる!?
…ってそんなわけないか…。



「なっち?」


「えっ?…あぁ〜、なったなった!元気になったよ!!」


「へへっ、よかったぁ!!」





251 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時26分39秒






ちゅうされて元気になるって…変態だ…。
でも本当に元気になってしまった自分って一体…。



あたしの変な思いをよそにやぐちがぎゅーっと抱きついてきた。
この体勢…ヤバくない!?
とか思いながらもあたしは抱きしめた。



・・・・しあわせ、とか余韻に浸ったりして。

でもいつまでも浸ってるわけにはいかなくて…。
やぐちに聞かなくちゃいけない事があるんだ。






252 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時27分15秒






「ねぇ、やぐち…」


「んー?」


「…前の事、覚えてたりするの?」


「前ー…覚えてるよぉ!!」



くっついていた体を離して、やぐちはあたしに笑いかけた。

「覚えてる」――その言葉にドキッとした。

まさか、やぐちはさやかに出会った
あの時に忘れていた記憶を思い出したのか??



「ほ、本当に!?」


思わずあたしはやぐちの両腕を掴んだ。



「う、うん。…覚えてるよ?なっちと初めて会った時!」


やぐちはあたしのすごい勢いにビビっていた。
そりゃいきなり腕掴まれたらビビるよねぇ…


「えっ?・・・い、いやそうでなくてさ。
 もっと前!…怪我する前とか。」


拍子抜け。



「ん〜…覚えてない。
 気付いたらごっちんに運ばれてたもん。」


「そっか。」


はぁぁ、と何故か安心した。
やぐちはずっと「なんで?」って顔してる。






253 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時27分46秒





「…それならいいんだ。別に何もないよ。」


あたしはやぐちを安心させる為にそう笑いながら言った。

さやかもこんな笑顔をやぐちに向けていたのだろうか?
さっきからこんな事ばかり思ってる…。



254 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時28分16秒



「…おいらね、初めてみんなに会った時びっくりしたんだ。」








やぐちは急にそんな事を言い出した。
あたしは黙って聞いていた。





255 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時28分49秒








「みんなはおいら以上にびっくりしてた。初めは何でだろうって思った。
 みんなの方がおかしいのに、って思った。」


「…何に驚いたの?」


「――みんな、おいらみたいに耳と尻尾ないんだもん。
 それにみんなが耳と尻尾あるって言ってるんだ。
 それで…おいらの方が変だったんだって思った。」



「うん。」


「初めは、おいらみたいに耳と尻尾あるのが普通だって思ってたけど
 みんなないんだもん。びっくりしちゃった。」


「や、やぐち…」


へへっ、と無理矢理笑ってみせるやぐち。


尖った豹模様の耳。
口を開けた時に見える牙。
少し長めの尻尾。



やぐちはコレがあるのを何回恨んだだろう。
何か悲しかった。
そんな事気にしてないんだろうって思ってた。
でも、本当は違った。




やぐちは尻尾を触って何も話さなくなってしまった。


 






256 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時30分35秒




「―――やぐち…みんなみたいになりたいの?」







あたしはその瞬間何かを決心した。


それは・・・









「みんな、みたいに…?」


「みんな……なっちみたいに。」








やぐちを



「・・・なりたい。なっちみたいなニンゲンになりたい。」








人間に



「何か変な言い方だね。
 でも、やぐちがそう望んでるなら…なっちがそれ、叶えてあげるよ」







する事。











人間にって、元は妖怪みたいな言い方だけどね。
やぐちの耳と尻尾を取り除くって出来るんじゃないかなぁ、って思う。
単純すぎる発想だけど。










「・・・出来るの?」



「出来るよ!絶対、出来る。」



「ほんとに?」



「ほんと。約束…する?」




「うんっ!!!」







257 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時35分15秒



本日A回目の指きり。
小指を絡ませて、ブンブン振って、やぐちは歌いだした。


「指きりげんまん、嘘ついたら…何しよっかなぁ??」


「ふふっ…どうする?」


「ん〜…なっちがぁ…」


「なっちが何さ?」


「…おいらに〜」


「やぐちに?」


「ひゃっかい〜・・・」


「ち、ちょっと待っ…」


まさか・・・・・・


「ちゅうする!」


やっぱり、きたよ…。ってか全然嫌じゃないんだけどなぁ…


「それでいいの?」



「うん!破っちゃだめだよ?」


「分かったよ。約束絶対守るから。」








258 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時35分47秒




こつん、とやぐちのおでことあたしのおでこを合わした。
目の前にやぐちの笑顔。
コレが・・・さやかの言ってた「ベストスマイル」?


「指きぃーった!!」

「はいはい。」




259 名前:指きり。 投稿日:2003年04月30日(水)20時36分27秒




「なっちがそれ、叶えてあげるよ」
・・・とは言ったものの。
そういう…動物学?っていうの?
全然分からない。


一から勉強やらなきゃ。
だって、約束したもんね。
やぐちと指きりしたから。

破ったら100回ちゅうしなきゃいけないし。
(まぁ、あたしはそれでも全然いいんだけど)


自信はないけど絶対叶えてみせるから。
もし、あたしが叶えてあげられたら
その時は今みたいにベストスマイルで笑い合おうね。




260 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年04月30日(水)21時12分07秒
ここまで。
何か淡々としすぎのような気が…。


>242 読んでる人@ヤグヲタ様。
レスありがとうございます!
矢口を埋める所は、ずっと前から
書きたいと思ってた所だったんで書いてて楽しかったです。
プリ帳は…しばらく出てきません…。

243名無し読者様。
レスありがとうございます!
な・・・泣けたんですか!?
こんな小説でそんな…
ありがとうございますっ!


一応最後まで書き終えました。
思ってたよりかなり長いですが
最後まで読んでいただけたら幸いです。

261 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年04月30日(水)21時14分58秒
すいません…
>241読んでる人@ヤグヲタ様。
>242名無し読者様。

・・・でした。
間違えてました。すいません!!
262 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月10日(土)13時50分56秒
最後まで書き終えたって終わりってことですか?
263 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月10日(土)13時52分11秒
最後まで書き終えたって終わりってことですか?
264 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)23時16分05秒
えっ?終わりだったの?・・・今気付いた。
なんかもっと続いてほしい作品ですね
265 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時47分13秒


約束した次の日から早速勉強した。
まずはありとあらゆる資料を集めて片っ端から読んだ。
時間がなかった。一日24時間とか短すぎると思った。
とにかく早く叶えてあげたいと思った。

やぐちはあたしの今まで見た事のないやる気いっぱいの姿に驚きながらも
じぃっと見つめていた。

毎日毎日、机に向かっていた。
椅子から立ち上がるのは数えるくらいしかなかった。


そんな生活が何日も続いていた。



266 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時48分18秒



「なっちぃ。遊ぼうよぉ」



「ごめん、無理。」


机に向かって本から目を離さずにそう告げる。
今日だけで「遊んで」って言われるの何回目?
今さっきも言われた気がする。



勉強を初めてからいつのまにか一ヶ月が経っていた。
気付いたのはふいに見た腕時計の日付。
一ヶ月なんて短いもんだ。



「ねぇ、本とばっか遊んでないでおいらと遊んでよぉ。」



「あのねぇ、別に遊んでないから。忙しいんだってば。」





267 名前: T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時49分04秒





やぐちと遊ぶ事がなくなって一ヶ月。
すぐそばにいるのに会話もあまりしていない。


それのせいか、最近やたら抱きついてきたりスキンシップしにくる。
普段のあたしならば嬉しいはずのスキンシップが、
今はぶっちゃけうざったいのだ。
やぐちのスキンシップのせいで集中力が途切れてしまう。


そのせいとあまりにも勉強が思うように進まないせいで相当苛々していた。

やる気は人一倍あるはずなのに。
まさに自暴自棄。






268 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時49分52秒



「なっちぃ。なっちぃ、なぁーっちぃ!!」


ぎゅーって後ろから首筋に抱きついてくるやぐち。


あたしは突然思い切りそれを振り払った。



「あのねぇ、何回言えば分かるの?
 今遊べないって言ってるっしょ!?
 大体何のためになっちがこうやって勉強してると思ってるの!?
 ぜんぶ!全部、やぐ・・・」



『全部やぐちの為なんだから!』

そう言う前に、はっとした。






269 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時50分55秒









   あたしは苛々している感情をやぐちにぶつけてしまっている。











この瞬間、何かとダブった。
気付くのはそんなに時間がかからなかった。


やぐちがさやかの手から離れた原因の喧嘩。
多分、あの時のさやかもこんな気持ちだったんだろう。








 心の中がグシャグシャになる。









あたしが振り払って、
その反動で2、3歩後ろへ下がったやぐちは呆然としている。


急に部屋が静まり返った。
重い空気に変わっていた。











270 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時51分29秒






「あ…ご、ごめん。」


目をぎゅっと瞑って手でこめかみを押さえた。
自己嫌悪。



「・・・うん。おいらこそごめんなさい。」


やぐちは唇を尖らせて下を向いていた。

やぐちは全然悪くないのに…。
悪いのは、やぐちに当たった自分なのに。


あたしは、少し離れているやぐちを手で引っ張って抱きしめた。

腕の中にすっぽり入るやぐちの小さな体。
やぐちの両腕があたしの背中に回った。





「ごめん、悪いのはなっちなんだ。
 やぐちに当たったりして…本当にごめん。」


「…うん。」






271 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時52分11秒






その日は勉強の事を忘れて、やぐちと遊んだ。
久しぶりのせいでやぐちはいつもの倍以上はしゃいでいた。
あたしもすごく楽しかった。

 

でも心の中でさっきの事があってから、ある事を決めていた。








272 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時53分03秒






「なっちぃ、一緒に寝ようよ」


夜になって、やぐちがそんな事を言い出した。
ベッドから顔を出している。


 本当にいつまで経っても甘えたがりの豹。


「いいよ、じゃぁ腕枕してあげる。」


ベッドで寝転んでいるやぐちの隣に入って右腕を差し出した。


「やったぁ!おいらねぇ、
なっちに腕枕してもらったらすぐ眠れるんだよ。」


やぐちは嬉しそうに腕に頭を乗せてあたしの胸のトコに潜り込んできた。
何かくすぐったい。
枕になってる右腕をやぐちの頭にもっていった。


「ねぇ、やぐち…。
明日なっちと一緒にごっちんの所へ行こっか?」


体を横向けてやぐちを見たら目が合った。


「えっ?遊びに行くの??」


「あー…うん。」


嬉しそうなやぐちとは裏腹にあたしは言葉を濁していた。
本当は遊びに行くためじゃないから。






273 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時53分56秒




一人で考えに耽って我に返ると
やぐちはいつのまにか寝息をたてて眠っていた。
あたしの腕が枕になってるせいかなぁ?
妙に寝つきがいい。




やぐち…明日からしばらくさよならだね。
なっち頑張るから。やぐちに会わない間頑張るから。





274 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時54分36秒






次の日の昼頃。
あたしはやぐちと一緒にごっちんの部屋を訪ねた。



やぐちははしゃいでいた。
ぴょんぴょん跳び回りながら部屋を出て
すぐ前のドアをリズム良く3回ノックした。

あたしは複雑な気持ちでドアを開くのを待った。


しばらくするとドアが開いた。
ごっちんは眠たそうな目をこすりながら


「んぁー…やぐっちゃん?…となっち??」

あたしとやぐちを見ていた。
やぐちはすぐに「ごっちーん!」と言いながら抱きついた。


「おいらに会いたかった?会いたかった?」


「うん。やぐっちゃんに会いたかったよ!」


「へへっ。よかった!」







275 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時55分25秒






ぎゅっとしているやぐちの頭をなでながらごっちんはあたしを見た。


「やぐっちゃんだけ来るのなら分かるけど、
なっちも一緒なんて。どうかした?」


ごっちんが驚くのも無理はない。
ごっちんの所へ遊びに行く時は、
いつもやぐち一人であたしはずっと部屋にいるから。
二人で来るなんてコレが初めてっぽい。



「ごっちんに、頼みたい事があるの。」



あたしは複雑な表情のまま。真剣だった。
やぐちは全く気にしていない。


ごっちんは首をかしげていた。


「そんな改まって…なに〜?どうかした?」


呑気に笑っている。






276 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時56分06秒








「しばらくやぐちを預かってほしいの。」










「はっ?」
「えっ?」




全然冗談なんかじゃなくて、本気だ。
コレには全く気にしていなかったやぐちも
呑気にとらえていたごっちんも急に表情が変わった。




「・・・なんで?」


ごっちんの声がさっきと違った。

やぐちはゆっくりとごっちんから離れた。









277 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時56分38秒






「色々、事情があって…。今やぐちと一緒にいたらだめなの。
 勝手かもしれないけどお願い…。預かって。」


「…事情って?」



「やらなきゃいけない事があるの。」



やぐちは交互にあたしとごっちんを見つめていた。
心配そうだった。



「やぐっちゃんをごとーに預けてでもやらなきゃいけないの?
 今でなきゃだめなの?」



あたしもごっちんも真剣だった。



「今しかないの。今でなきゃ。これはやぐちのためなんだ。」








278 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時57分14秒



「…ごとーは別にいいけど。やぐっちゃんはいいの? 
 この様子だとやぐっちゃんに話してないんでしょ?」


 
やぐちはすごく心配そうな目であたしを見ていた。



あたしはやぐちと同じ目線になるために少しかがんだ。
ちょうど中腰の体勢だ。


「やぐち…」


「なっち、おいらの事嫌いになったの?」


心配そうな目ではなく、拗ねた子供って感じだった。
唇を尖らせてあたしと目を合わせてくれようとしなかった。

ごっちんの深い溜め息が微かに聞こえた。



「違う違う。全然そんなんじゃないの。
 ただ勉強に集中したいだけ。」


「・・・うん。」


「だから、ごっちんの所で待ってて。
 絶対迎えに行くから。約束するから。」


あたしが微笑んだら、やぐちはあたしを見た。






279 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時57分55秒







「約束?」


「うん、約束。」


「破ったら…迎えに来てくれなかったら、ちゅうひゃっかいだよ?」


「んふふ、いーよ?100回でも200回でもして・・・」



「してあげるから」と言う前にはっとした。
やぐちと2人きりじゃない事に…。

恐る恐る見上げると、そこにはニヤニヤしたごっちんの嬉しそうな顔。






280 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時58分25秒







「・・・あの、その…絶対迎えに来るから
 そんなありもしない冗談言えるんだよ!?
 コレ、冗談だから!ね?分かるよね!?」



必死の弁解むなしく…



「別にいいんじゃない?
 200回ちゅうしても。」


笑われて終わり。



「…や、やぐち、ごっちんの言うこと良く聞くんだよ!?
 ごっちん、やぐちをよろしく!それじゃー!」


体中の熱が顔に上がっていったような気がして早々と立ち上がって
自分の部屋に戻った。



やぐちの

「はぁーい!」

という返事と

ごっちんの

「分かったよ〜」

という返事が急いで閉めたドアの向こうから聞こえた。

 






281 名前:T Love You SAYONARA 投稿日:2003年05月17日(土)02時59分20秒







あたしは、真っ赤な顔を両手で覆ってそのまま座り込んでドアにもたれた。




今の自分は最悪だ。
勉強のストレスのせいでやぐちに当たってしまうから。
あの時、これ以上やぐちと一緒にいたら駄目だ。
そう思った。



あたしのせいでやぐちを傷つけてしまう。
それだけは絶対したくない。


だから、ごっちんに頼んだ。



本当は、一緒にいたいんだ。
本当は、もっとかまってあげたいんだ。

でも、今はそういかない。
やぐちのためにも。
自分のためにも。



どうしても叶えてあげたいから。
一刻も早くあの日みたいにベストスマイルで笑い合いたいから。



あたしは勢い良く立ち上がって机に向かった。




282 名前:ピンチはチャンス! 投稿日:2003年05月17日(土)03時20分20秒



矢口と離れて過ごしてきた一ヶ月間、結局何も進歩していなかった。
ただ、ダラダラと本を読んでいた。

その結果、今あたしの頭には何一つ残っていない。



飛び込むように倒れたベッドのスプリングの反動で体が揺れた。
やぐちがいない部屋は妙に寂しく感じて仕方ない。
心細いというか…。
あたしってこんなに弱かったっけ?
寂しがりだったっけ?

寝転んだベッドはやぐちと一緒に寝た日以来使っていなかった。
シーツの乱れも、ぐしゃぐしゃの毛布もあの日のまま。
一つだけ違うのはあたしの隣にぽっかりと空いた空間。

やぐちのいた空間。





283 名前:ピンチはチャンス! 投稿日:2003年05月17日(土)03時20分54秒







会いたいよぉ。…今、何してるの?
多分ごっちんと仲良くやってるんだろうね。
 
 なっちはねぇ、全然楽しくないよ?
勉強も思うように進まなくて、
食事も睡眠もほとんどとってないよ。
やぐちに出会う前のなっちに戻った感じがするよ。


ベストスマイルで笑える日…来ないかもしんない。
やぐちを迎えに行く事も出来ないかもしれない。
やぐちに会わす顔がないよ。



なっち、自信なくしちゃった…
初めた時は人一倍あったやる気も、今じゃ半分もないよ。


 あたしはその日、言葉にならない声を出して泣いた。
毛布をぎゅっと抱きしめた。
やぐちなんかじゃないって分かってるけど、抱きしめて抱きしめて
何回も「やぐち」と言った。
でも、返事が返ってくる事はなかった。









284 名前:ピンチはチャンス! 投稿日:2003年05月17日(土)03時21分24秒




多分明日、目ぇ腫れてるよ。
そう思いながらヒリヒリする目をこすって
それでもまだ溢れる涙を止められないまま、部屋を出た。

部屋を出たのは
「あたし一人だったら無理だ。」
――そう思ったから。


この部屋をノックするのはあの日以来だ。



ノックの音は心なしか弱々しい音だった。



「…はい?」


開いたドアから顔を出したのは、やぐちを作った張本人。



「・・・た、す……けて。」


鼻をすすって何て言っているか分からない声を出した。


「ど、どーしたんだ?」


驚いた声を出しながらさやかはあたしの顔を覗き込んだ。



「…や、やぐ……ち、を」



「やぐち?とりあえず、中入って。」



あたしの「やぐち」という声に反応して中に入れてくれた。
部屋はあの日と変わらず冷たくてひんやりしていた。





285 名前:ピンチはチャンス! 投稿日:2003年05月17日(土)03時21分54秒





それから堰を切ったように話し出した。

やぐちの望み。
それを叶えてあげたいというあたしの思い。
勉強が思うように進まない事。
それのせいでやぐちに八つ当たりしてしまった事。
今はやぐちをごっちんに預かってもらってる事。

そして、手伝ってほしいというあたしの頼み。




溢れる涙も話していくうちに止まった。
さやかは黙って聞いてくれていた。







286 名前:ピンチはチャンス! 投稿日:2003年05月17日(土)03時22分25秒





「…それ、かなり難しいと思うけど?」



「分かってる。でも、やぐちが望んでる事だから。」



ヒリヒリする目を押さえながら、やぐちの顔を思い浮かべた。
「なっちがそれ、叶えてあげるよ」
そう言った後のやぐちの笑顔を思うとどうしても叶えてあげたいって思う。




「はぁ…何とかやってみるか…」



髪をかきむしりながらさやかは難しい顔をしてそうつぶやいた。
あたしはヒリヒリしている目の事も忘れて


「て、手伝ってくれるの!?」

口を開けて叫んだ。









287 名前:ピンチはチャンス! 投稿日:2003年05月17日(土)03時22分59秒




するとさやかはあたしに背を向けて何やらプリントを探しながら


「…いちーも、矢口のベストスマイルには弱いからな。」


小さな声でそう言った。
多分、後ろを向いたのは照れ隠しなんだろうなぁ、と思った。

それを考えると笑えてきた。


「ありがと、さやか。お互いやぐちに苦労するねぇ。」



「全くだ。」



何だか、大きく進歩した気がする。
期待と不安でいっぱいだ。

やぐちの望みを叶えられることも
迎えに行く事も


出来る気がしてきた。








―――やぐち今頃、きっとくしゃみしてる。







288 名前:ピンチはチャンス! 投稿日:2003年05月17日(土)03時23分31秒




「ぶぇ〜っくしょん!」


「・・・やぐっちゃん、大丈夫?」


「うー…噂されてる…」


「あはっ、なっちかもよ?」


「なっちかなぁ!?へへっ、それなら
 くしゃみするの楽しみになっちゃうよ!」


「そうだね。早く迎えに来てくれるといいねぇ。」


「…うん。」







289 名前:ピンチはチャンス! 投稿日:2003年05月17日(土)03時24分01秒





なっち、早く迎えに来てあげて。
やぐっちゃんずっと待ってるよ。
預かって一ヶ月経つけど
やぐっちゃん今でも一日中ドアの前から離れない事があるんだよ?
何回呼んでも
「もしかしたらなっちが来るかもしれない」って言って動かないんだよ?
だから、早く来てあげて。



なっちなっちなっちなっちなっち・・・
おいらの声、なっちに届いてる?
おいらの思い、なっちに届いてる?
信じて待ってるから。
いつまでも待ってるから。
ごっちんの部屋のドアが開いてなっちが迎えに来てくれるの
ずっと待ってるから。



 今日もまた、一日が過ぎていく。
大きな一歩を踏み出したなっち。
戸惑いながら手伝う事を決めたいちー。
やぐちのそばで見守るごとー。
信じて待ち続けるやぐち。


全てが終わって、なっちがやぐちを迎えに行くのはまだ先の事。






290 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年05月17日(土)03時35分13秒

>262 名無し読者さん。
レスありがとうです。
あの、全然終わりじゃないです。
まだまだ続きます。

>263の名無し読者さん。
レスありがとうです。
全然終わりじゃないです。
まだまだ続きます。
って262の方と同一ですか??

>264の名無し読者さん。
レスありがとうです。
あの、まだまだ終わらないんです。
ダラダラとまだ続くんです。
続いてほしいって言ってくれてありがとうございます。


自分の説明不足で皆さんに迷惑をかけてしまい
本当にすいませんでした。
『自分の中で書き終える事が出来た』と言いたかったんです。
言葉足らずですいません…。


レスにも書いた通り、ダラダラと続きます。

291 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月19日(月)17時09分28秒
やった、更新お疲れ様です。
>まだまだ続きます。

よかったー・・・正直びくびくしていたので。
そうですよね!続いてよかった!
なっちとやぐちがどうなるのか。これからも見守ってます。
292 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)17時27分18秒
ここのやぐちがいちばんかわいい・・・
293 名前:ゴゥゴゥマシン!! 投稿日:2003年05月31日(土)00時59分07秒



それから、あたしはさやかの部屋に泊まりこみで研究に没頭した。
睡眠も食事もお互い、ほとんどとれない生活が続いた。
こんなに集中したのは久々だった。


順調に進んでいた研究もしばらくスランプに陥ってしまったけど
何とか抜け出すことが出来た。
毎日、工事並の大きな音を鳴らして作られていく機械。
それを作るのはさやかの仕事。
火花が絶え間なく散っている。
初めは鉄の塊だったモノが段々形になってきて完成へと近づいている。
あたしはというと、ほとんどさやかの助手的存在で…。
さやかに頼りまくっている。




294 名前:ゴゥゴゥマシン!! 投稿日:2003年05月31日(土)01時02分25秒








何回も何回も実験した。
でも、決まって成功率は半々という曖昧なものだった。


「ねぇ、本当に大丈夫かなぁ?」

あたしの心配を隠せない声にさやかもムスっとした顔のまま。

「大丈夫…とは言えないな。」

あたしの心配を余計に増幅する答えが返ってきた。



もし、やぐちがこの中に入って試した時失敗したとしたら…
一番の心配をさやかに言うと


「後遺症とか…残るかもな。」

「こ、後遺症!?やだよ!何とかしてよ!」

「何とかって…。今考えるから待ってろ!」

「・・・うん。」


カリカリした様子で顔を両手で覆った。
そんなさやかの背中を見て申し訳ないなぁ、と思った。
自分の我侭でさやかがこんなに苦労しているんだから。


多分…もうすぐなんだと思うんだよね。
やぐちを迎えに行ける日は…
あたしが待ちに待った日。

もう少しだけ待ってて。










295 名前:ゴゥゴゥマシン!! 投稿日:2003年05月31日(土)01時03分51秒







「どう?」


「んー…多分大丈夫…だと思う。」



成功率半々だったあの日から
やり直しして、さらに実験を繰り返した。
少しの変化も嬉しくて、着実に完成へと近づいているのを実感していた。


さやかが大きく溜め息をついた。
あたしはじぃっと機械を見ていた。



「……コレでいいだろ。」


「ほっ…ほんとに!?それって完成って事!?」



大きな金属音が鳴り響いていたのが急に止まって
部屋が静かになった。

あたしの耳は耳鳴りしていて変な感じだ。



「まぁ・・・大丈夫なんじゃないか。
 何回も実験した甲斐もあって成功する回数も増えてきたし。」



髪をガシガシかいてあたしに少しだけ微笑んださやか。
その表情を見て安心したと同時に一気にテンションが上がった。





296 名前:ゴゥゴゥマシン!! 投稿日:2003年05月31日(土)01時04分27秒





「あははっ・・・やった…やったぁぁぁぁ!!!!!
 今からやぐち迎えに行っていい?
 今から試していい?」


こんなハイテンションなの久々だ。
あたしのハイテンションぶりにさやかも驚いた顔をしている。


何より、あたしにとってはやぐちを迎えに行く事が最優先だった。
他の事なんて後回し。
やぐちに1分1秒でも早く会いたかった。




本当は飛び跳ねて床に大の字に寝転んで…ってしたかったけど
周りを見るととても出来ない状況だった。


あまりにも部屋が汚すぎたから。
大の字どころか寝る事すら出来ない…。
こんなに汚かったっけ…。
散らかしたってどころじゃない。



297 名前:ゴゥゴゥマシン!! 投稿日:2003年05月31日(土)01時05分06秒



大量のプリント。(ほとんどゴミ)
機械を作る為に使った道具。
積み上げられた資料の山…。

そして、完成した大きな金属の機械。
こんなの作れるさやかってほんとにすごい。




「今すぐは無理。夜中だし、矢口も寝てるだろ?
 それに…いちーの体が限界だ。
 明日にしろー・・・」




さやかはそう言って床いっぱいに広がっている
プリントも資料も気にせずに倒れるように寝転んだ。


「ぃてぇ…」

つぶやいた後、仰向けになって顔を両手で覆っていた。



298 名前:ゴゥゴゥマシン!! 投稿日:2003年05月31日(土)01時05分36秒

「ごめん…焦りすぎたね…。
 明日!明日朝早くに来るから!
 さやか、本当にお疲れ。それと本当に本当にありがとっ!
 それとそれと、おやすみ〜!!!」



大声で一気にそう言ってあたしは部屋を出た。
ドアを閉める時、隙間からさやかを見たら
右手でヒラヒラと手を振っていた。




そして、数ヶ月ぶりに自分の部屋に戻った。






299 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時36分19秒





部屋に戻ってから速攻ベッドに飛び込んだ。
あたしも大分疲労が溜まっていたようで
久しぶりのスプリングの効いたベッドは最高だった。
さやかは、あたし以上に疲れていたのだろう…
本当に悪い事したなぁ。
相当、罪悪感で胸が痛かった。




明日、やぐちに会える。
明日、やぐちの望みが叶う。

嬉しかった。気分は最高だった。



あたしはそのまま眠りについた。





300 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時36分49秒




暖かい風があたしを包む。
真っ青な青空から何かが舞い落ちて来た。


 桜の花びらだった。


もう一回空を見上げると、どんどん落ちてくる。
1枚、2枚、3枚…無数。


春の匂いがした。


首がいい加減痛くなって真正面を向くと道の両端に桜の木。
あたしは道の真ん中に突っ立っている。


ここは…桜並木道…?




あたしは制服を着ていて。
…何かこんな夢、一回なかったっけ?





301 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時37分21秒







「なっち、見ぃーっけ☆」


誰かの声がした。
風の音だけが聞こえていたあたしの耳に入り込んできた。
・・・すごく聞き覚えのある声。


振り返ると…いた。




「ゃ、やぐち!?」



やぐちは制服だった。
…前、見た夢と一緒だ…。




「見っけって言っても、おいらがここに呼んだんだけどね」



やぐちはあたしのすぐ横まで歩いてきて、微笑んだ。

・・・どういう事?



「呼んだって…?」



ゆっくり歩き始めるやぐち。
あたしもとりあえずそれを追った。








302 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時37分53秒





「へへっ…あ、夢の機械完成おめでとー。大変だったね。」


「な、何でそれ知ってるの!?」



『夢の機械』――そう言われただけですぐに分かった。
ついさっき完成したばっかの機械。
…あれは、まだ誰も知らないはずなのに。




「へへっ…上から笑って見てた。」



あたしの隣にいるやぐちは、左手の人差し指を立てて空を指さした。



「…上?」



あたしは、やぐちの指につられて空を見上げた。








303 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時38分25秒






「なっちさ〜、さやかに手伝ってもらってるじゃなくて
 さやかを手伝ってるって感じだったよね。
 なっちが出てってから、さやか死んだように寝てたよ?」



「…そ、それは言わないで!なっちが一番よく分かってるの!
 ていうか…何でそこまで・・・?」



やぐち・・・何者?
エスパー…?

 

「そろそろ、気付いてくれてもいいと思うけど?
 最後までおいらに言わせないでよ…」


さっきまで微笑んでいたやぐちと違って
苦笑い、って感じだった。




疲れきった頭をフル回転させて考えた。

うえ。
そら。
・・・うちゅう?
・・・ほし?
・・・・・てん?

――――――天。








304 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時38分58秒






「ま、まさか・・・」




あたしはとっさに一歩後ずさりしてしまった。



桜の花びら。

よく見ると…色が濃い。



やぐちの右手。

よく見ると…真っ赤。




「正解☆おいら、本物って呼ばれてる矢口でぇす!」



手だけが真っ赤で、あとは制服で隠れていて分からなかった。
顔も全然普通だし。

赤。

血の赤。

厭な色。

死の色。




「あ…っと、その…」



思い当たる言葉が見つからなくて、やぐちから目を離した。








305 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時39分32秒







「そーんな怖がんないでよぉ!
 おいら現実にはいないけどさ、でもいるんだよ」


あたしの思ってる事を雰囲気で理解したのか、
やぐちは至って明るくそう言った。



「でも、いるって?」



「んー…何ていうか。
 簡単に言うと、成仏出来ないの。
 だから今も上から見てられる。
 なっちの夢にもこうやって出られる。」



「成仏できない」
普通は悲しいんだろうけど、やぐちは明るかった。
何だか「上から見ていられる」事を喜んでいるようだった。






306 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時40分02秒






「前の夢に出てきた時も…?」



「あー…そうそう。ちゅうした時でしょ?」



そう言われて、「あの時」が鮮明に思い出された。
恥ずかしくなって下を向いてしまった。



「おいらだって、ビビったよ!
 夢から覚めたら隣のアイツに速攻ちゅうしてるしね!
 やっぱなっちはエロなっちだよ。」


「み、見てたの!?」


「当たり前じゃん。上から見てるって。
 あんねぇ…確かあの時13?…14、5回はやってたね!
 こう、ついばむような熱ぅ〜いちゅうを…」




「も、もう言わないで!!!」



やぐちはからかうようにリアルに説明・・・した…。
15回もやったっけ?
…ってそんな事考えてる場合じゃないない!

 あたしの顔は既に真っ赤だ。



でも、この話題のおかげで
とっさに一歩後ずさりした事も、
その時感じた恐怖感も全くなくなっていた。







307 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時40分35秒







桜並木道は歩いても歩いても続いていた。

散る花びら。

それでも満開の桜。




「そういえば!あれ、何だよぅ!!」


やぐちは思い出したように急にキレだした。
あたしは全く理解できないで


「なにが?」


って素っ頓狂な声をだすと



「なにが?って!
 なっちのそばにいる、おいらと似てるヤツ!
 さやかが作った、豹だよ!」



「・・・あぁ〜、やぐちの事?」



ポン!とあたしの頭の中でやぐちの顔が思い出された。
頭の中は可愛い満面の笑みのやぐちでいっぱい。


 あぁー、可愛い可愛い。早く会いたいよ。







308 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時41分05秒







「すーっごいガキじゃん!おいらあんなにガキじゃないよ!
 あれはヤグチじゃなくてガキヤグだよ。」


腕組みして、「んー」と唸りながらガキヤグなんて…



「あのねぇ、ガキヤグって失礼!
 なっちの大切な人なんだからそんな事言わないでよ!」






「……大切な人って回りくどい言い方…
 なっちさ〜…おいら言わなかったっけ?」



さっきまでキレていたやぐちとは裏腹にすごく冷めた表情をしていた。






309 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時41分35秒





「・・・えっ?」



「初めてなっちの夢においらが出た時。
 ほら〜、ちゅうする前だよ!」



あたしは、引っかかっていた事をすぐに思い出せた。



   『本当の気持ち、■■■■■■だよ?』



ちょうど、肝心の所が聞こえなくてかなり気になってたっけ…




「あれ、肝心の所聞こえなかったよ…。あの時何て言ったの?」



「聞こえてなかったの!?
 【本当の気持ち、殺しちゃダメだよ?】って言ったんだけど?」








310 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時42分07秒





『本当の気持ち、殺しちゃダメだよ?』











意味が分からなかった。
あたしは、本当の気持ちなんか殺してないし。
思い当たる事なんかないし。

やぐち…間違ってるんじゃないの??



「…なっちは、そんな事してないけど?」


やぐちの金色の髪には花びらがいっぱい付いてた。
多分、あたしの髪にもついているんだろう。


地面に落ちても、まだ風に乗って舞おうとする花びら。




「ふぅん…。なっちは、ガキヤグの事どう思ってるの?」



「…だから、大切な人だって…。」



「それが、嘘だって言ってんの!
 本当は気付いてるんだろー?」



「・・・べっつにぃ〜?」


合わせていた目線を避けるかのようにそらした。

このまま合わせたままだったら気持ちを見透かされそうだったから。
現に今、ヤバイ状態なのに…。







311 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時42分37秒






「…可愛くなぁ〜い!
 一番肝心な事、気付いてるくせに隠してる。なっちはずるいね。」


あたしの素振りを見て
やぐちは『イ〜!』って歯をくいしばって顔をしかめた。
ずるいって…ヤな感じ…。



「…隠してなんかないよ。気付いても、ない。
 やぐちは、何言いたいの?」


意地っ張り。
って自分で思う。
けど、ヤダ。


何で夢の中で、苛々しなきゃいけないの?


「おいらに言われなきゃ分かんない?」



「・・・・・」


返事できなかった。
やぐちの小さい溜め息が聞こえた。






312 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時43分09秒





少し前を歩いていたやぐちは振り返ってあたしを見て、




「アイツが好きなんでしょ?」


核心を突いた。





「…す、好き?」


ドキッとした。
心臓が飛び出るかと思った。


言葉にした事なんかなかったから。


「違うわけないよねぇ?
 好きでなきゃ、
 アイツの夢叶えるために必死になんないデショ?」



ニヤニヤして指をさした。

その目はあたしの心の中を知っている、見透かした目。
追い風が強くなった。









313 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時43分39秒






 

「…そ、れは…」




「後悔するよ?今言わないと絶対後悔する。
 一生言わないままだと、おいらみたいに死んでも成仏できないよ?」






首を切る真似をしてみせるやぐち。
きっと「死んだ」って意味だ、と自然に理解した。
あたしは、言葉に詰まったままで何も言えなかった。


追い風のせいで花びらが吹雪のように舞っている。





「やぐち…」






「おいらが成仏出来ないのは…心残りがあるから。
 アイツに言えないまま死んじゃったから。
 おいら、なっちにはそうなってほしくないなぁ…
 ってまだまだ死なないけどさ〜」





切なそうな目。
苦笑い。




自分の素直な気持ちも言えない人がいる。
言わない、じゃなくて言えない人が。
あたしは…言わないだけ。
ただ、無意味な意地を張って言わないだけ。



胸がぎゅって何かに掴まれたように痛かった。






314 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時44分10秒




「・・・ごめん。
 なっちは・・・やぐちが好き。
 本当は気付いてた。でも、何か認めたくなくて、
 ずっと否定し続けて、分からないフリしてた。
 ―――――やぐちが好き。」





夢の中なのに、何でこんな熱くなるの分かるんだろ…

恥ずかしくて顔を押さえて下を向いた。



やぐちはあたしと裏腹に、かなり困ったような顔をして


「…なっち、ダメだよ…」


と、つぶやいた。




315 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時44分42秒





「・・・な、何が?」


あたしは一世一代の告白を否定されてちょっとムッとした。
(一世一代の告白とは言っても本人目の前じゃないけど)


「なっちの気持ちは嬉しいけど…ゴメン、
 おいらはさやかが好きなんだ。」


訴えかけるような表情。
真剣な眼差し。


・・・ばか?やぐち、ばか?


「はっ!?違うべさ!
 なっちは向こうのやぐちが好きなの!」



「キャハハハハ!冗談だって。」

さっきの表情と逆にからかって楽しい、
って感じの明るい笑い声が桜並木道に響いた。


あたしの反応に喜んでいる姿が…

何か、むかつく。





316 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時45分13秒





「やぐちより向こうのやぐちの方が可愛いし、優しいもん。」


あたしの精一杯の憎まれ口・・・のはずが



「…なっちって、ロリコンだったんだ…」


変な誤解…。

やぐちは驚いたような、でもなるほど、って感じの顔であたしを見ていた。

ろりこんなんかじゃない!




「ち、違う!」


あたしはやぐちが好きなだけなのに。
(もちろん向こうのやぐち)



「キャハハハハ!これも冗談☆」



なっちをからかうのは本当に楽しいね。
―――と、言ってやぐちはあたしに背中を向けてぴょんぴょん跳ねだした。
リズムよく。


ホップ、ステップ、ジャンプ!





317 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時45分45秒






「……ねぇ、なっちの夢の中に出入り出来るって事は
 さやかの夢の中に入って話して来たの?」


あたしはやぐちのそんな姿を見ながら、さやかの事を思い出していた。

さやかは、どんな目をしてやぐちを見ていたのだろう?
きっと、あたしや他の誰にも見せた事のない表情をしていたんだろう。
あたしが向こうのやぐちに見せる表情のように。




「あぁ〜…それはないない。
 入ろうとも思った事ないもん。」



あたしの質問を否定するように苦笑いと共に左手をヒラヒラさせた。




「何で?さやかの夢に入って
 もう一回ちゃんと告白したら成仏出来るんじゃないの?」


好きな人に会えるってすごい嬉しい事だと思うんだけど。
これ以上の喜びは、ない。






318 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時46分18秒






「そうだけどさ〜・・・こんなおいらにも
『乙女心』っつーのがあるワケよ。簡単に、会えない。」


向こうのやぐちも時々する、独特の唇の尖らせ方。
やぐちが横を向いた時に見えた。




「・・・乙女心ねぇ…。似合わない…」





「――そんなの自分が一番分かってるっつーの!!」


ホップ、ステップ、ジャンプ!ジャンプ!
くるっ、とジャンプしながらあたしの方へ振り返ってあたしを指さした。


笑えてきた。



「あははっ!でもさ、簡単に会えないってどういう事?」






「ん〜…何ていうか、2回もあんなハズカシィ事言えないって感じ。」



手を下ろして今度は腕を組んだ。



 

「告白・・?」


また前を向いて歩き出した。

すぐ前のやぐちの背中が妙に寂しく感じた。

悲しい。

切ない。






319 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時46分51秒







「うん。」



さっきまであたしにギャーギャー言ってたのは誰?
ずるいとか言ってたの誰?


まるでさっきのあたしを見ているようだった。



「やぐちさぁ、なっちに言ったくせに…。
 後悔だけは絶対するな、って。
 やぐちはまだ間に合うよ?」


言い終わった後――ハァ、ってあからさまに溜め息をついた。
もちろんそれは、数歩前を歩いているやぐちに対してのあてつけ。






「―――理由はそれだけじゃないんだ。」



さっき、やぐちの頭、肩、服にのった桜の花びら。
まだ残ったまま。落ちる様子すらない。



あたしの体にもさっきからずっと花びらがついているんだろう。


両脇に植えられている桜の木は
これだけ花びらが舞っても未だ満開のまま。






320 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時47分23秒





「他にも理由あるの?」



どんな理由か想像するけど、思いつかない。



考え込もうとしていると静かに振り向いた。





「・・・これ。」





そう言ってやぐちはあたしの顔の目の前に右手を広げて差し出した。

手のひらは変わらず真っ赤のまま。
油性ペンとかの赤じゃなくて色あせた感じの赤。

まさに血の色。


「―――これ、消えないんだ。
 こすっても、かきむしっても、何やっても消えないんだ。
 右手だけじゃなくて体の所々にこんなのがあるの。
 二の腕、肩、鎖骨、胸、背中…全部に消えない血の色がついてんの。
 まぁ、左手と顔にないだけましかもね。」


やぐちはあたしの目の前に広げた手のひらを下ろして空を見上げた。

今まで全然気付かなかったけど
きっと前に一回会った時も「それ」…あったんだ。





321 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時47分54秒





「こんな姿で、さやかに会えないよ。
 こんな血の色した体で…。
 やっぱさぁ…好きな人に会うんだったら可愛い格好してぇ、
 それ見てもらいたいじゃん?」


「それがおいらの淡い乙女心!」とか冗談言って
誤魔化そうとしているやぐちを見ているだけで辛かった。




「でも…例えどんなやぐちでもさやかはやぐちに会って話するだけで
 嬉しいと思うけどなぁ…」



きっと、さやかは気にしない。
やぐちの体が血の色してたって。
急に背が高くなってたって…いや、それはビビるかも。
ちょっと言いすぎた、と心の中で反省。
 





322 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時48分28秒






「・・・でもコレの事絶対気にしないって事はないでしょ?」



やぐちは相当気にしているらしくて、なかなかそうだよね!とか言わない。
下を向いて制服の上から体をさすっていた。


「そ、そうだけど…やぐちはやぐちだよ?
 どんな笑顔よりもさやかはやぐちのベストスマイルが好きなんだよ?
 そんなの関係ないべ!」



「おいらの…ベストスマイル?」



あたしの「ベストスマイル」という言葉に反応して顔をあげた。


「そう。やぐちのベストスマイル!
 そんな事気にしないで、得意のベストスマイルしながら
 さやかに会っといでよ。」



あたしは、ベストスマイルってほどじゃないけど笑ってみせた。
――でもやぐちの表情はまだ曇ったまま。






323 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時49分01秒








「でもでも、おいら死んでるじゃん?
 告ってどうとかないじゃん。」




「なくても…生きてるとか死んでるとか関係ないよ。
 気持ち的に楽になるんじゃないかな、って思う。」









「……なっちに最もな事言われると思わなかった…。」



やぐちは腕を組んで「やられたぁ」って顔。
あたしは「いい事言うっしょ?」って自慢気な顔。


さっきの曇った表情はなくなっていて安心した。




「んふふ。さやかも喜ぶと思うよ?」



「どーかな…分かんないや。
 ―――おいら、なっちに自分の気持ち気付かせようと来たのに…
 逆に気付かされちゃったね。何か変な感じぃー」


やぐちは、両手をブンブン振り回して悔しそうに地団駄を踏んだ。





324 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時49分31秒






「絶対、さやかに言うんだよ〜?
 なっちもさ…ちゃんと言うから。」



「分かったよ。」



あたしとやぐちは最初会った時とは違う顔してた。
何か「一大決心した」って感じの引き締まった表情。








325 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時50分05秒






「ねぇ、そんなに…すごいの?」


しばらく無言で歩いてた。

でもあたしはやぐちの右手から目を離せないでいた。




「ん?・・・あぁ、すごいよ。
 脱いだらもっとネ!何なら脱いで見せてあげよっか?」




「へへっ」―――企み笑い始動!
・・・と思ったらシャツのボタンをはずし始めた。

1個、2個、3個…ってマジ待って!!!




326 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時50分41秒





「っだぁ〜〜〜!!!ダメダメダメ!何やってんだべ!?」


あたしはとっさに自分の顔を両手で覆った。

あせったから普段出ない(多分)方言も出るよ…。



「・・・何、あせってんの?
中にTシャツ着てるから見えるワケないじゃん?」



「…ぇ??」




覆った両手の指の隙間から黒いTシャツが見えた。


あ・・・ヤバイ…


2人の間に花びらをのせた風が通り抜けた。


さっきまで暖かかったのに、急に冷たい感じがした。






327 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時51分13秒





「…ガキヤグだけじゃ、物足りないの??」




「ぶはっ!な、何て事言うんだべ!」


急に恥ずかしくなった。
それに、間違った事も…。


やぐちは上目遣いであたしを楽しそうに見ていた。
その上目遣いの仕方も、向こうのやぐちと一緒だ…。


「だって、冗談だったのに勝手にあせってるし〜。
 なっち欲求不満なんじゃない?ほら、もう随分会ってないし。」


「そ、そうかなぁ?って違うべさ!」



一瞬納得した自分がさっきよりも、もっと恥ずかしかった。
やぐちは、遊んでいるというのに…





328 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時51分43秒






「おもしろかったぁ。
 ―――あ、もうすぐ朝だ…。」


赤くなってるあたしを無視して
やぐちはそう言いながら上を見上げた。
あたしもつられて上を見上げたけどさっきと全然変わらないままの空。


「えっ…もう朝?」
 


「うん。運命の日だ。」





「……そだね。何か心配だけど…」



「へへっ…まぁ、おいら上から見てるから。」




「うん。」



「それじゃーね。」







329 名前:散らない桜。 投稿日:2003年05月31日(土)01時52分17秒




簡単な「さよなら」の挨拶をしたら自然に目が覚めた。
何か「寝てない感」がするけど疲れもとれていてよく寝たって感じ。
不思議だなぁ…。


多分、この部屋にやぐちはいるのだろう。
夢から覚めたあたしには見えないけど。
霊感とかないし。


周りを見ても、何も変わらないことは当たり前。
さっきまで頭や肩、服についていた
桜の花びらが今もついているはずもない。


あたしは、やぐちとの会話を思い出しながら
とりあえずコーヒーを入れる事にした。




330 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年05月31日(土)02時05分20秒
ここまで。
何か微妙!

>291名無し読者さん。
レスありがとうです。
しつこいくらいにまだ続きます。
こんな小説ですが待ってて下さい!

>292名無しさん。
レスありがとうです。
>ここのやぐちがいちばんかわいい・・・

ホンマですか!?ありがとうございますー。
でもかなり幼すぎだと自分で思ってます。


矢口さん成仏編(?)は書くかどうか決めてません。
完結してから考えます。

331 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月01日(日)18時04分27秒
次回はやぐちが登場か?!
332 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月07日(土)09時39分19秒
なんで夢の中の矢口はなっちにチューしたの?
333 名前:再会。 投稿日:2003年06月17日(火)22時59分04秒



コーヒーを入れたけどなかなか飲む気になれない。
それは、今日の事が気になるから。


コーヒーの温かさがじんわりと手に伝わってくる。
呑気にコーヒー入れてボーっとしてないで
本当は、早く会いに行きたいんだけどなぁ。

まだ時間的に早すぎっぽい。



机いっぱいに広がってる紙の上にコーヒーを置いて、椅子に腰掛けた。

やぐち、今頃何してるかな…。
まだ寝てるだろうなぁ…。
ごっちんに迷惑かけてないかな…。
早く会いたいよ。





334 名前:再会。 投稿日:2003年06月17日(火)22時59分41秒




足を組んで白衣のポケットに手を突っ込んだ。

左のポケットに入ってるのは、やぐちへのプレゼント。
さやかがあの機械を作っている時にコレを作ったのだ。
それを触ると余計に会いたくなった。


「…もう、いいよね…?」



さっきからまだ5分も経ってもないのに…。
独り言のようでそうじゃないみたいな。



きっと上から笑って見てるやぐちへの問いかけ。
答えが聞こえてくるはずがないけど。



あたしは椅子から立ち上がって、部屋を出た。


コーヒーは全て終わって、
やぐちとここへ帰って来た時にゆっくり飲むとしよう。






335 名前:再会。 投稿日:2003年06月17日(火)23時00分24秒


あたしの部屋の目の前だから時間がかかるはずもない。

とりあえずノックする前に大きく深呼吸。
そして2回ノックした。


開いたドアからはやぐち・・・

「・・・なっち?」


ではなくて、ごっちんが顔を出した。

あたしの口から出た言葉は・・・

「やぐちは?」


今まで預かってもらったごっちんへの感謝の言葉でもなく
終わったんだ。っていう報告の言葉でもなかった。

やぐちは?

それしか頭になかったというか…。



「やぐっちゃんなら、まだ寝てるよ。どーぞ、入って。」


「あ、ありがとう。」



ごっちんの部屋に入るのはかなり久しぶりだった。
中に入ると相変わらず、ごちゃごちゃしてる…って感じ。







336 名前:再会。 投稿日:2003年06月17日(火)23時00分58秒





やぐちはベッドに規則的な寝息をたてて眠っていた。

あたしはその寝顔を見て、コレが本物のやぐちだよね。
と一人で納得した。


上から笑って見てるやぐちとは違う、あどけなさ。
あたしをからかったりなんかしないし。
素直で優しい子なのだ、こっちのやぐちは。



「昨日寝るの遅かったから、まだ起きないと思うよ。」


やぐちの寝顔に癒されているあたしの後ろでごっちんが言った。


「何で?…あ、遅くまで遊んでたの?」


振り返って思いついたように言うと
ごっちんは何も言わずに、首を横に振った。



「なっちが、預けに来た日からずっと寝るの遅いよ。
 ・・・なっちの事、ずーっと待ってたから。」


「えっ?」


一瞬、何も考えられなかった。





337 名前:再会。 投稿日:2003年06月17日(火)23時02分32秒




「毎日毎日、ドアの前から離れないんだよ?
 ごとーが何回言っても今日は来るかもしれないから、って。」



「・・・そ、そうだったんだ…」



待っててくれてなかったらどうしよう、とか
ごっちんの所の方がいいって言われたらどうしよう、とか
実はそんな事を心配してた。


でも、やぐちはちゃんと待っててくれてたんだ。
それを実感して、何だか泣きそうになった。


338 名前:再会。 投稿日:2003年06月17日(火)23時03分10秒


「…やぐっちゃんを迎えに来たって事は完成したんだよね?」


「・・・何で知ってるの?」



涙目になりながら思い返した。
確か、ごっちんには「どうしても今やらないといけない事がある」
としか言ってないはずなのに。


「やぐっちゃんが言ってたよ。
 なっちは今、おいらの為に頑張ってくれてるんだ、って。
 完成したんでしょ?」
 


「あ、うん。って言っても
 ほとんどさやかに手伝ってもらったんだけどね…」


さやかがいなかったら出来てないんだろうなぁ、と改めて思った。


「いちーちゃんに?何でいちーちゃんなの?」



「だって、やぐちをつく……な、何でもない!!!」


危うくやぐちを作った人だから。
なんて言いそうになった。

話がまたややこしくなりそうだったからとりあえず誤魔化した。
ごっちんはあまり理解していなかったみたいだけど…



339 名前:再会。 投稿日:2003年06月17日(火)23時03分57秒





「んぅー・・・」


「…やぐち?」


寝言?みたいな声を出しながら寝返ったやぐちに
気付いて振り返って見ると目が合った。



「…な、っちぃ??」


「おはよ、やぐち。」


目をこすりながらあたしを見るやぐち。
久々に名前を呼ばれて照れくさかった。


「…なっち?」


「んふふ、なっちだよ。」



やぐちは相当驚いたようで、
寝起きと思えないくらいにがばっと起き上がった。
おぉ…早い…。


抱きつかれるのかな?
――そう思って両手を広げたら…


「ぁ、…おかえりなさい。」


予想外の言葉。

広げた両手も自然にだらん、と下ろしてしまった。


上から見ているやぐちの、
得意だったあのベストスマイルで笑いかけている。





340 名前:再会。 投稿日:2003年06月17日(火)23時04分30秒





「・・・た、ただいま…」



あたしも自然にベストスマイルになった。
やぐちだけに見せる、最高の笑顔。
―――ベストスマイル。




「ぁ…と、とりあえず行こ?
 ――やぐちの夢、叶えに行こ?」


「…え?なっち、それって…」


驚いているやぐちの手をとった。
久々の再会に感動してる場合じゃないんだ。

これからきっと、もっと感動するから。
涙はその時まで、とっとこ。
抱きしめるのもその時まで、とっとこ。

 
「ほら、ごっちんも行こ?」


「…あ、うん。」


状況を理解しきっていないやぐちと
驚いている様子のごっちんを連れてさやかの部屋に向かった。



341 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時07分12秒



さやかの部屋に入った瞬間、
何故かいつものひんやりした感じに思わなかった。

それに何か圧迫感?っていうものがあるような…

更に部屋に入るとその原因はすぐに分かった。




「…何でみんないるの?」


部屋のドアが開く音と足音に気付いたのか
一斉にあたし達の方を見ている人がさやかを含めて5人…。

どうりで圧迫感があるってわけだ…。


椅子に座っているさやかの周りを5人が囲んでいて
さやかの姿を見る事は出来ない。



「裕ちゃん!なにやってるの?」


一番右端で腕を組みながらさやかを見ていた裕ちゃん。


「なにって…完成したんやろ?それ、見に来たんよ。」



「な、何で知ってるの!?」



当然のように言っている裕ちゃん。
「完成」と言っているって事は何を作っていたか知ってたって事??





342 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時08分00秒






「何でって…。あんなぁ、毎日毎日耐えず聞こえてくる
 金属音ウチの部屋にも当たり前に響いてくんねん!
 迷惑にもほどがあるっちゅうねん!
 …完成したんは、昨日のなっちの騒ぎ声で分かったんよ。」


苛々をぶつけられたような気がした。
(多分、あの金属音で眠れなかったんだろう。 
 まさに寝不足って顔してる…。)

「そ、そうだったんだ…。って事はみんなも…?」


肩身が急に狭くなった。
隣にいるごっちんは苦笑い。
あぁ…その笑い方はごっちんの部屋にも金属音が響いてたって事??

裕ちゃんの隣にいる圭ちゃんを見たら「はぁぁ…」
と大きく溜め息をつかれた。
そんな…あたしの顔見て溜め息つかなくても…。
表情と態度を見て圭ちゃんも迷惑してたんだ…と思った。




343 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時08分31秒





圭ちゃんの隣にはよっすぃー、そしてりかちゃん…。
よっすぃーはごっちんと同じように苦笑いしてた。
そして頭を軽く下げた。
まるで
「みんなの言う通りうるさかったですよ」と言ってるみたいだった。
りかちゃんの方を向くと

「安倍さぁん、早くやりましょうよ!市井さん待ちくたびれてますよ??」



どうやらりかちゃんはうるさかった事は気にしてないらしい。
久々に聞いた甲高い声で2,3歩横に移動してさやかを指さした。
元りかちゃんがいた場所からさやかが見えた。


さやかは、椅子に浅く座っていて苛々しているようだった。


「うるさい!大体、何でこんなに集まってくるんだよ!?
 別に見なくていーだろ??」


もしや、あたしに苛々してるんじゃ…という心配は一瞬で消えた。
さやかの前に立ち塞がっている(?)4人に言っているのだ。





344 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時09分09秒




「やかましい!今の聞いてなかったんか?
 ウチらは毎日毎日鳴り響く金属音に頭抱えてたんや!
 かなり迷惑しとったんや!
 迷惑かけられとったウチらが何で見たらあかんねん?
 別にえーやろ!?」


「何かの参考になるかもしれないしね。」


「ただの興味本位ですけど…」


「あたしは、よっすぃーが行くって言うから…」


…人それぞれ。
ごっちんも小首をかしげていた。
やぐちはさっきからキョロキョロ辺りを見回してばかりいる。



「……なっちやるぞ…」


さやかは裕ちゃんの一言がきいたのか
渋々って感じに椅子から立ち上がった。
あたしはやぐちとごっちんをその場に残してさやかの所に行った。






345 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時09分50秒






圭ちゃんとよっすぃーの間を通り過ぎてさやかが座っていた椅子の後ろ、
つまり皆の真正面にそれはあった。


「ドン!!」っと仁王立ちしてるみたいにある銀色の大きな機械。
あたしとさやかの努力の結晶とも言える機械。
(本当はさやかの努力の結晶だと思うけど…)


さやかは機械の横に設置した操作する別の機械で準備を始めた。
ここで操作をして機械を動かすのだ。
(もちろんさやかの仕事)

まるでパソコンみたいだ。
あたしには全く理解出来ない…。

さやかが1つキーボードを押すと画面には
『プログラム』って出て画面いっぱいに英語が出た。
それからキーボードを打っていた。
何かを打ち込んでいるようだけど何かは全く分からない…。


 後でやぐちに『全部さやかのおかげなんだよ』って言っておこう…。





346 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時10分20秒





しばらくすると機械の扉が静かに開いた。
皆、扉に釘付け状態だ。


「おぉ〜」

「ふぅん…」

「カッケェ〜!」

「すごい…」


ただ扉が開いただけなのにこの歓声…。
みんなどんなのと思ってたんだろう…。


「なっち、矢口をあの中に…」


さやかはあたしを見て扉の方を指さした。


「うん…」


あたしは短く返事をして扉を見た。

いよいよだ。
あたしがあの中に入るわけじゃないのに怖い。
無意味に怖い…。


唇を軽く噛んでやぐちを見た。

「やぐち…おいで?」


あたしの一言ですぐに走ってきたやぐち。
他の皆もやぐちを見ている。


中腰、というよりしゃがみ込むような体勢でやぐちを見上げる。







347 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時10分56秒




「…この中に入ったらね、やぐちの夢が叶うんだよ。入ろっか?」


「……なっち、何でそんなに悲しい顔してるの?」

やぐちからそんな事言われるなんて思ってもなかったから
思わず顔を押さえてしまった。

あたしが「そんな事ないよ?」って笑って言おうとした時、



「おいら、大丈夫だよ?怖くないよ?
 なっちの事、信じてるから全然怖くないよ?
 今、すっごい嬉しいよ!」


にぃってあたしの不安さ、怖さをも吹き飛ばしてくれそうな笑顔。
「行くぞぉ!」って言いながら
両腕を天井にあげて機械の中に入っていった。



…どうしてやぐちには何でも分かってしまうんだろう。
本当はやぐちだって怖いはず。不安なはずなのに。


あたしは立ち上がって
機械の中に入ったやぐちをじっと見つめていた。

 
そして、扉が少しずつ閉まっていった。






348 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時13分15秒


部屋にはさやかのキーボードを打つ音しか聞こえなくてすごく静かだった。
あたしはその場に立ち尽くしていて
もう既に閉まっている扉を未だにじっと見つめていた。


しばらくして機械が作動している音が聞こえてきた。


始まりの合図。
もう、後には戻れない。



「大丈夫なんですかぁ?」


「心配なんかいらんのちゃうん?」


「そうそう、成功率100%なワケだし。」


・・・・・・ち、ちょっと待って…


「誰が成功率100%とか言ったの!?」

「誰が成功率100%って言ったんだ!?」


はっとしてさやかを見た。
さやかもあたしを見つめている。
ハモった相手はもちろんさやかだった。


あたし達2人の声に5人は「えっ?」って顔してる。
皆、同じように口半開きにして…おもしろいよ。



349 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時14分24秒




「ちょ…っ、待てや!絶対成功するってワケちゃうんかい!?」

「それって危なくない!?」

「失敗するってのもあり得るんですよね!?」

「し、失敗!?」

「なっち、いちーちゃん…そうなの!?」



順番的に裕ちゃん圭ちゃんよっすぃーりかちゃんごっちん…。


「で、でも成功するかもしれないっしょ?」



  「あ…あれっ?」

カチカチ…カチカチカチカチ・・・

「何考えとんのや!?
 成功するかも、って失敗もあるんやろ!?」


  「ま、まぢかよ…」

ガガガガガガガガ・・・

カチカチカチ、カチカチカチカチカチ……


「大丈夫だって!何回も試したもん!失敗するわけ…」







350 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時15分12秒








・・・さっきから聞こえてくる音、なに?
カチカチ?ガガガ?


あんまりいい音ではない…。
嫌な予感を頭の中で考えながらさやかの方を向いて…


「さ、さやか?どーしたの?」


恐る恐る聞いてみる…

皆もその音が気になっていたらしく全員の視線がさやかに集中した。



「……作動しない…」


無表情でこのセリフ。


この部屋自体が固まったように皆、動かなくなってしまった。








351 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時15分43秒






「ホンマに?」

「マジで言ってんの?」

「冗談じゃないですよね?」

「嘘じゃないですよね?」

「…やぐっちゃんはどうなるの?」



「・・・やぐち!?やぐち!」


ごっちんの言葉ではっとした。
扉を開けようとしたけど当然無理。
変な「ガガガ…」という歪な音がまだ響いていた。


「・・・さやか、何か方法ないの!?」


あせったあたしは扉の前から離れて
さやかの操作していたパソコンみたいな機械を覗き込んだ。

でも変な英語みたいなのがいっぱい書いてあってあたしには理解不能。


「今、どうするか考えてる。」

さやかは腕を組んで顔を歪ませた。


「呑気な事言ってないで早く!やぐちが…やぐちが…」


あたしは皆が見えてないくらいにあせって扉の周りをウロウロした。
何も出来る事がないなんて。
自分の無力さを改めて実感した。
そんな自分に腹が立った。




352 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時16分32秒





その時、
急に「パァァン!」と勢いよく蛍光灯が割れた。
その破片が降ってきて皆、一斉に壁の方に寄った。
悲鳴やらあせった声なんかが部屋中に広まった。


それと共に機械の歪な音が大きくなる。
機械から伝わってくる振動がさっきの微弱さと一変して
立っているには困難なほどになった。


皆、壁の方に寄って座り込んでいた。
薬品棚がこの振動のせいで倒れてまた破片が飛び散った。



「みんな、この部屋から出ろ!ダメだ。爆発するぞ!?」


さやかのあせった声が響いた。
皆、這いつくばりながら部屋から出て行く中
あたしはどうしても出なかった。






353 名前:予想だにもしない事態が!!! 投稿日:2003年06月17日(火)23時17分08秒




やぐちがいるから。


やぐちが心配だから。



あたしは振動のせいでふらついて床に倒れた。
でも、扉の前から離れようとは絶対しなかった。

やぐちやぐちやぐち・・・
何かの呪文みたいに何回も心の中で名前を呼び続けた。


「なっち、逃げろ!爆発するぞ!?
 そうしたら一緒に死ぬ事になるんだぞ!?」


さやかはそう叫びながら壁に体を寄せた。



「やだ!だってやぐちはまだこの中にいるんだよ!?
 見捨てて自分だけ逃げる事なんて出来ない!」


あまりの振動のせいで声が思うように伝わっていない感じがした。
全身が揺れて気持ち悪い。


さやかが触っていたパソコンみたいな機械からは
バチバチと言う音がして火花が散った。



「とにかく、こっちに来い!でないと・・・」






さやかが何か言い終わる前に視界が真っ白になって爆発音がした。





354 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年06月17日(火)23時25分49秒
ここまで。
『予想だにもしない事態が!!!』は
「ガチンコ」のナレーションから(笑)


>331名無しさん。
レスありがとうございます。
やぐち登場しました!
これから「変身」します(笑)

>332名無しさん。
レスありがとうございます。
めっちゃ痛いトコつかれた…。
全ッ然気付きませんでした……。
かなり強引ですが手直ししました。
その理由は次の更新で分かると思います。



次の更新で完結の予定です。

355 名前:つみ 投稿日:2003年06月18日(水)01時01分47秒
遂に更新きましたね・・!!でも次がラストというのはちょっと残念です・・・
356 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)16時23分30秒
ほんとに予想にもしない事態ですね
矢口(ほんもの)の成仏のも希望します
357 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時50分12秒




『なっち起きろ〜!』


・・・誰?


『しっかりしろよぉ。』


・・・・・。 
 

『はぁーやぁーくぅ!』


・・・んー…


目を開けると見た事のない真っ白な世界。
周りには何もない。
何一つない。





358 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時50分58秒





「起きたぁ?」

キョロキョロするあたしを覗き込んできたのはやぐちだった。
本物の方のやぐち…


「もうちょっとして目ぇ覚めなかったら、ちゅーするトコだったよ?」


キャハハハハ!と笑いながらとんでもない事を…。


「ちょ…何言ってるべさ!」


あたしの何とも言えない表情。
その表情を見てニヤニヤするやぐち。


「だってさぁ、ちゅーした時のなっちの表情がおもしろいんだもん。」



耳まで真っ赤になって固まってんの。
やぐちは、前の事を思い出すように目を一瞬瞑った。


それであの時も……。
あたしは密かに気になってた疑問が解けた気がした。
全然いい気はしないけど…。




359 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時51分53秒






「…ていうかココ…何処?」



「天国☆」


ベストスマイル始動!
って・・・




「えぇ〜〜!?なっち死んだの!?」


「嘘だよ、死んでなんかないない。」


フッと鼻で笑われたけど、安心した。
とりあえず、無事らしい。


「びっくりしたっしょや〜!じゃー、ここ何処なの?」



「ん〜…天国の一歩手前?みたいなトコ。」


おいらも良くわかんないや。
やぐちは笑いながらそう言ってるけど…本当に死んでないよね??



「なっち、どうなったの?今、どうなってるの?」


自分の事も気になったけど何よりやぐちの事が心配だった。




360 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時52分32秒





「なっちは無事。ただ気絶してるだけだよ。
 さやかも無事。他のみんなも無事だよ。
 火傷とかそういう怪我はしてたけど」



「……やぐちは?」



あたしは「他のみんな」の中にやぐちが含まれていない事を自然に悟った。
何か……嫌な予感しか頭に浮かばない。



「・・・見れば分かるよ。すごい事になってるから。」



「――それどういう意味??」




やぐちは柔らかく笑った。
その笑い方が妙に怖くて、不安を余計にかきたてた。

あたしの質問に答えてくれないやぐちが
段々遠くなって視界が薄れていく感じがした。
意識も朦朧としてきた。









361 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時53分17秒








激痛が全身を走って嫌な目覚め方をした。
体中が痛くてゆっくり目を開けると周りは黒煙でいっぱいだった。
嫌な臭いがした。焦げたような臭い。


ゆっくり起き上がって自分自身を見るとすごい事になっていた。
白衣とは思えないほど汚れてしまった服。
所々、すり傷や火傷をしていた。


黒煙のせいで目が痛い。
自然と涙が出てくる。




「……な、っち…大丈夫か?」


足を引きずりながらさやかがあたしの隣まで来た。
さやかもあたしと同じように怪我をしていた。


「うん…何とかね。やぐちは??大丈夫なの??」


機械は黒煙を出していて扉はまだ閉まったまま。



「無理矢理、こじ開けるか…。」


「…うん。」



あたしとさやかは扉の両端に立って思い切り引こうとした。

「・・・っせーの!」


―――――その時。







362 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時55分46秒






ガガガガガ・・・歪な音と共にぎこちない感じに扉が自然と開いていった。
あたしとさやかはこじ開けるのを止めて呆然と立ち尽くした。



少しずつ開いていく扉の隙間からは部屋中に
広がっている黒煙を掻き消すように
スモークのような白煙が出てきた。
部屋は異様な感じに包まれた。



「なっち、いちーちゃん大丈夫!?」

「大丈夫かぁ!?」

「うわっ、すっごい煙!」

「前、見えないんですけど〜」

「ちょ、石川!どこ行ってんのよ!そこ壁だって!!」



少しずつ開いていく扉から目を離せないあたしとさやかの耳に
みんなの心配する声が聞こえてきた。



ごっちん、裕ちゃん、よっすぃー、りかちゃん、圭ちゃん。


5人もあたし達の近くに来た。
「すごい」とか「矢口さん大丈夫なんですか?」とか言ってたけど
あたしは全て聞き流していた。





363 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時57分16秒





ついに扉が全部開いた。
中は、真っ白なスモークがいっぱいで
やぐちがどうなっているのか分からない。
生きているのか。
死んでいるのか。(コレは絶対にない!)
無事なのか。



あたしは不安で不安でしかたなくて思わず


「やぐちーーー!!!やぐちー!」


名前を叫んだ。
あたしの叫び声はまるで機械に吸い込まれていくように
静かになくなっていった。




「…やぐっちゃぁん!」

「やぐち!はよ、出てこいや!」

「やぐちさぁん!」

「スモークのせいで目が痛いんですけど〜」

「石川、ちょっとだまってて。」



あたしにつられて、みんなも機械に向かって叫んだ。
(りかちゃんと圭ちゃんは違うけど)


その声に反応したのか真っ白だったスモークが人影で黒くなった。




スモークから出てきたのは




―――やぐち。












364 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時58分06秒









豹模様の耳も尻尾もなくなっていて
本当に普通の「人間」だった。


でも、それより…


「・・・ぁ。」

「おぉ…」

「や、やぐちさん…」

「な、何で…」

「・・・・・」


みんな驚いている。
口を半開きにして。
同じ表情をして。


・・・あたしの第一声。



「や、ぐち…なんで…」



・・・さやかは



「……いちーはこんな風に作ってないぞ??」


あせった口調。



「・・・なっち??」



やぐちは素っ頓狂な顔。そして、声。









365 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)01時59分08秒












「や、やぐち…何で裸なの!?」














やっと今、分かった。

本物のやぐちの言った「すごい事」の意味が。



あたしは居ても立ってもいられなくてそう叫んだ。
もう・・・見てられない。
顔、真っ赤だ。









「…えぇ??」


やぐちは特に気にしていないらしく「何が?」って感じだ。



「……もう…」


コレ着といて。あたしはそう言って
やぐちのそばに行って白衣を着せた。
ちょっと汚れてるけど裸よりましっしょ?










366 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時00分14秒






後ろにいるみんなをじっと見つめて



「・・・見ないでね」


怒ったように注意。
だってだって、やぐちを見た時のあの声はやぐちの裸を見た
「すごい」って声なんだもん。
みんなやらしぃべさ。


「何、キレとんねん!
 大体なぁ、やぐちの裸くらいで興奮するんは
 なっちぐらいやっちゅうねん!」

「そうそう。」

「安倍さん、すっごいやらしぃ顔してますよ?」

「顔、真っ赤です。」

「なっち、やらしぃ〜!!」




「う、うるさい!!!もう、みんな帰ってよ!?
 ちゃんと成功したんだから!
 うるさい金属音も聞こえてこないし文句ないっしょや!?」



あたしがあせったように早口に言い立てると
みんな「はいはい。」「後は2人の世界ですね。」とか言って
笑いながら部屋から出て行った。


耳まで真っ赤なのが自分で分かる…。
なっち、自分自身で言うのもアレだけど超やらしぃ…。





367 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時01分03秒





やっと静かになった部屋。

さやかは頭を抱えていた。
そりゃそうだよねぇ。
やぐちが裸で出てくるなんて、すごい計算外。
でも、さっきのあせった口調のさやか、おもしろかったよ。



「さやか、ありがとね。」



「言っとくけど本当に裸で出てくるとか、
 そういうのいちーのせいじゃないからな?」

それだけを必死で弁解しているさやか。
何か…笑える。


「あはは、分かってるって。
 それより部屋…こんなに汚してごめん。」


周りを見るとすごい荒れ様だ。
ここだけ竜巻でも発生したような…。



「…いいよ。自分で片付けるから。」


大きな欠伸をしてやぐちを見つめるさやか。


やぐちはきょとん、としてさやかを見上げる。



「…機械の中へ入ってから、どこか痛くなかったか?」


柔らかい表情。
こんなさやか初めて見た。


きっと、コレがやぐちにだけ見せていたさやかの笑顔。






368 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時02分03秒





「ん〜…全然覚えてない。でも痛くなかったよ」


「そうか…。」



それから、さやかは何も言わなくなって
やぐちを切なそうに見つめていた。
やぐちにはさやかの切なそうな目がどう写っていたのか
どんな風に感じたのか分からない。





――それじゃーね、本当にありがとう。

あたしはそう言ってドアの前に立った。

さやかは愛想笑いをしながら
手をヒラヒラさせてくれただけで何も言わなかった。





369 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時02分41秒





「やぐち、行こっか?」


あたしはやぐちの手を握ってドアノブを持った。
あたしのサイズに合った白衣だったから
やぐちにはちょっと大きめだったらしくて
手を握る、というより白衣を握るって感じがした。


やぐちは頷いてから振り返ると


「また、ココ来ていい?」


さやかの方を見てそう言った。
あたしも驚いたけど、もっと驚いたのはさやかだろう。


さやかを見ると、さっきの愛想笑いもなくて
ヒラヒラさせていた手も止まっていた。




370 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時03分17秒




「・・・こ、ここにか?」


さやかのやっと言った一言がそれ…。


「うん。…ダメ?」


「あ、いや、ダメじゃない。…また、来てもいいよ…」


「へへっ、やったー!それじゃバイバイじゃなくてまたね、だね!!」


「そ、そーだな…」


「さやか、またね!!」






「――!?…あぁ、また今度。」




『さやか』

やぐちがさやかの名前を呼んだのはコレが初めてだった。
多分、あたしが「さやか」って呼んでたからだと思う。


名前呼ばれた時のさやか、すごく驚いてたなぁ…。
それにやぐちのあの嬉しそうな表情。

きっと、本物のやぐちのベストスマイルを思い出しただろう。




371 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時03分54秒




やぐちは、さやかの部屋を出てから

「遊びに行く場所が増えた!」

って喜んでた。


あたしは「よかったねぇ」って言ったけど
ちょっとさやかに妬いてしまったりした。

・・・あたしって、本当に子供だ…。







372 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時04分50秒





久々に二人で戻ってきたあたしの部屋。
机には、今朝入れたままで飲んでいない冷めきったコーヒーがあった。



「…やぐち、ソファに座りなよ…」


「うん」



コーヒーを入れようとしたあたしを
「なっちも一緒に座ろうよぉ!」
と言われてやぐちに言われて半ば無理矢理に座らせられた。




「…どっか、痛くない?怪我とかしてない?」


「全然へーき!超元気だよ!」



何と、あの爆発の中心にいたやぐちが無傷。
周りのあたし達は火傷やらすり傷やら怪我してるのに…。

さやかにも言ってたように機械の中に入ってからの記憶が全くないらしい。
でも怪我一つなくて何よりだ。



「なっちはすごいね。おいらの夢叶えてくれるんだもん。」


あたしを見るやぐちの目は、異様に輝いていた。
何ていうの…?「尊敬の眼差し」??

ていうか、アレはあたしだけの力じゃないんだって事言うの忘れてた!

ほとんどさやかのおかげなんだよ、って言わなくちゃ…






373 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時07分52秒





「あのね、やぐち…アレはほとんどさやかのおかげなんだよ?」


そう言うとやぐちは何故か妙にニヤニヤして



「・・・そんな謙虚になんなくてもいいよー!!
 胸張っていいからさっ!おいらなっちの事尊敬しちゃうよぉ〜」



・・・・・・・ん???
やぐちってこんな難しい言葉使ってたっけ??
・・・ていうかこんな言葉知ってた??



「いやぁー、なっちはスゴイ!」


・・・・・・何か前のやぐちと違うんですけど??


「もーーーーっと好きになった!
 なっち好き。すごい好き!」


・・・・・・どっちかというと…今のやぐちって…



「へへっ…ちょっとドキっとした?」



・・・・・・本物のやぐちに似てる!!!

夢の中で出会ったやぐちもこんな風だった…


あの、あたしの心の中を全て見透かしたような
「ニヤニヤ」した表情が頭をよぎる。






374 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時08分31秒






「・・・なっち、どうしたの??」



やぐちの顔を見たまま固まっている
あたしに気付いてやぐちはあたしを見ていた。
きょとん、としてる姿は前のやぐちに似てる…。



「あっ、いや…やぐち色々言葉知ってるなぁ…と思って。
 ちょっと驚いちゃったよ。」



「あぁ〜…何かねぇ、頭に浮かんでくる、みたいな感じ。
 頭良くなったのかもしんないね〜!
 おいらスゴイかも!!
 でもなっちはもっとスゴイよ!!!」


ニカっと白い歯を見せながら笑いかけてくれた。
ほんっとに前のやぐち???

きっと「だからあたしはすごくない!」って言っても
信じてくれないだろうと思ってもう何も言わなかった。






375 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時09分15秒






何だかなぁ…妙に話しにくい。


本当言っちゃうと、抱きしめたい。
ぎゅーーってして頭なでて間近で顔見たいんだ。


でも…今のやぐちには出来そうにない…。
恥ずかしくてたまらない…。






376 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時09分52秒









一番気になってる事が一つある。
やぐちに着せている白衣の左ポケットに入ってるモノ。


やぐちへのプレゼント。
首輪の代わりに何か作ってあげるって言ってた約束のモノなんだけど…
渡せないじゃん!渡す前にやぐちの手の中だし…。


やぐちに白衣を着せた時は全くこんな事気にもしてなかった。
頭の中からなかったし…それにみんなやぐちの事見てるんだもん。
何とか早く隠さなきゃ!って必死だったし…。



白衣返して!とか言えるワケないしなぁ…。







377 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時10分55秒






「・・・何だコレ??」


やぐちの声であたしは我に返った。
悶々とした気持ちは全く消えないまま
やぐちの方を見た瞬間言葉を失った。



「ぁ…!」



やぐちの手の中に「やぐちへのプレゼント」が…。
それをくるくる回しながら視点を変えて見つめている。




「ねーねー、コレおいらに?おいらに?」


やぐちは嬉しそうに言葉を失ったまま
固まっているあたしの顔を覗き込んでくる。
あたしは、恥ずかしくてたまらなくて思わず



「何言ってんの!?ち、違うべさ!」


訛り全快で否定。
言った後「しまった」と訛りが出てしまった事を後悔した。







378 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時11分59秒






やぐちは、あたしの反応をおもしろそうに見てニヤニヤしている。
・・・この顔してるって事は…
悪い予感が頭に浮かぶ・・・



「でもコレの裏に『Dear.Yaguchi』『From.Natumi』って書いてる。
 なっちからおいらにって事でしょ??」


悪い予感的中。
…頭イイのもどうかと思う…
まさか読めるとは思ってなかった。

前のやぐちなら絶対読めないはずなのに…
あたしは弁解の言葉を失って、ただ一回頷いた。



「コレって首輪の代わりに作ってくれるって約束したヤツだよね??」


嬉しそうなやぐちはソレを蛍光灯に翳してみせた。
銀色のソレは蛍光灯の光で光っていた。
ソレを見ると眩しかった。





379 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時12分43秒






「そうだよ…。いつも身につけられるモノが
 いーなぁって思ってソレにしたの。」


観念したように呟いたあたしをよそにやぐちは



「ハイ!2つ質問があります!」


ハイハイハァーイ!!!と片手を挙げている…
人の話、聞いてるの??


「なに??」


「あんねー、まずコレ何??どこにつけるの?」



ガックシ。

漫画みたいにガクって体が一瞬崩れたよ。
喜んでるから分かってるものだと思ってた…

やぐちは「なになになに??」をエンドレス。
まるで壊れたラジオ。


あんまりウルサイと電源ごと切っちゃうよ?



「それは、バングルっていって手首にするものなんだよ。」



「そっかそっか、手にするのか。
 あと一つ質問!!コレ超重要っぽいんだけど!?」


あれだけ知りたがったのにリアクション&反応薄ッ!
とか思ったのは言わないでおこう…またうるさくなるから。






380 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時13分26秒






「なんですか?やぐちさん」



「あんね、このバングルの裏にさ、何か英語で書いてるんだけど…
 何て書いてるの???」



絶対聞くと思った…

出来れば言いたくない。


本物のやぐちと夢の中で約束したアレが書かれているから。


裏には「殺してきた自分の気持ち」が書かれている。
「気付かないフリ」してきた自分の本当の気持ちが。




「…知らない。」


バレバレの嘘をついても


「知らないワケないだろぉ??ねぇ、何て書いてんの?」


あの機械のおかげで『嘘』を見抜くくらいの知識がついたみたいで。



「何て書いてんの?何て書いてんの?」

――と、またエンドレスで言ってる。

壊れたラジオは電源切っても直らないみたいだから
思い切って埋め立てゴミの日に捨てちゃうよ?
やぐちならあのゴミ袋に入りそうだねぇ。
やってみようか?

あたしの心の中には埋め立てゴミの袋に入った
やぐちが易々と想像出来た。






381 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時13分59秒






「じ・・・自分で辞書引いて調べなさい。」


あくまで言わないつもりのあたし。



そして、やぐちは結局





「ちぇー・・・いいもん。ごっちんかさやかに聞くから」


人頼りの人任せ。

―――って…


「そ、それは駄目!!絶ぇ〜ッ対駄目だかんね!」


もし、コレ見られたらごっちんやさやかがどう思うか…。
どう思われるか想像しただけで嫌な気分、恥ずかしい気分。


「え〜!!!…いいよ、辞書引くからぁ…」



やぐちは「ぶーぶー」と拗ねながら左手首にバングルをつけた。


多分、やぐちにまだ口では言えないだろう…と思った。
バングルに書いてるような事は決して―――。








382 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時16分00秒





【Dear.Yaguchi

I like you.
This is a true feeling.
Please be near me all the time if you please.
Please laugh with the best smile much
good at you next to me.
I like your best smile.
She could meet you and it was really good.
Now, I regard as really fortunate
that you are next in this way.
No matter what I may have, I want to be in a you side.
I want to laugh by the you side.

It loves.
From.Natumi】




383 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時16分44秒




親愛なるやぐちへ。

私はあなたが好きです。
これは本当の気持ちです。
どうかずっと私のそばにいて下さい。
隣でずっとあなたの得意なベストスマイルで笑っていて下さい。
私はあなたのベストスマイルが大好きです。
あなたに会えて本当に良かった。
今、こうしてあなたが隣にいる事を本当に幸せに思います。
私はどんな事があってもあなたの側にいたい。
あなたの側で笑っていたい。

愛してる。

なつみより。
                        




384 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時19分01秒







それから、数ヶ月が過ぎた。
慣れっていうものは本当に怖いものだなぁと実感している。
初めの頃、違和感を感じていたやぐちの喋り方も雰囲気も態度も
今となっては全然気にもならない。


子供っぽいやぐちも好きだったけれど、今のやぐちも変わらず好きだ。


ギャーギャーうるさくて口は達者。
難しい言葉も知っていて、知識も豊富。
あたしとほとんど変わらないくらいだ。


その知識も言葉も全て本から学んだようだ。
あたしが机に置いている本を勝手に読んでいるみたいだし。



初めの頃にもまして、断然頭が良くなったと思う。






385 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時19分52秒








そのせいで、理解されてしまったのだ。




バングルに書いている英語の意味を―――。



言われた時は、本当に例えようのないくらい恥ずかしかった。
顔から火が出るどころじゃなかった…。
心の中で辞書を使って調べるような事までして
理解したいと思ってないだろう、と思っていた自分が馬鹿だった。




やぐちはニヤニヤ笑って

「ずーっとなっちの隣で笑っているから…。
 心配しなくていーよ??」


――――と一言。

あたしは頷く事しか出来なかった。




それから、やぐちがあまりにもうるさくて


「やぐちっ!ちょっとは黙ってって言ってるっしょやー!?
 あんまりうるさかったら本当に捨てるよ!?」


と、怒っても



「そんな事言ってさぁ…
 おいらの事こういう風に想ってくれてるんでしょー??
 こんなに想ってる人を捨てれるワケないよね?」



バングルをはずして、あたしの目の前に見せに来る…。

まるで弱みを握られたような気分…。


あたしをからかう事もバッチリ学習したようだ。



そして、あたしはその後何も言えないでただ一回頷くのだ。







386 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時20分33秒





我侭で、人の言う事全く聞かなくて、自分のペースを崩さない。
人に命令されるの大嫌いで人に命令するのは大好き。
甘え上手で、世渡り上手。
自分の思い通りにならないと怒る。
怒ると手がつけられない。

それが、やぐち。


・・・この性格って最低な人間なんじゃないかなぁ…と思ったりする。
でも、やぐちだから全然イイと思える。
その分、ココでは言い表せないくらいにいい所が倍以上あるから。



















387 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時21分31秒






―――そんなある日。




「ねぇー、なっつぃー!なっつぃーはぁ、おいらのお願い
 何でも聞いてくれるよね?」


・・・と急に甘えた声で言いに来た。

こういう時は要注意。
間違って「うん」なんて言ったら大変な事になる。
あたしの経験上間違いない。


「・・・聞くだけならね…」



「うっわ!超冷たい!おいらのお願い聞いてよぉ…」


そう言いながら、椅子に座って机に向かっている
あたしの背後に立って後ろから抱きついてきた。
首筋に抱きついてしっかりと腕を回してきている。





388 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時22分09秒






「ちょ、何やってんだべ!?離れなさい!!」


やぐちの腕をペシペシ叩くけど
「離れる気はさらさらない」ってのが伝わってくる…。


すっごい変な気分…。

しばらく隠れていたエロなっちが出てきそうだ……。


前のやぐちになら、抱きつかれたりしても
抱きしめるくらいの余裕はあったのに…。
何ていうか…今のやぐちには抱きつかれるだけでもドキドキして仕方ない。
心臓がぶっ壊れそうだ。


 
「いーじゃん。なっち、顔真っ赤だよ?嬉しいんだろー?」


やぐちの息が耳をかすめる。

鳥肌が全身にたった。



「あ・・・赤くなんかないべさ!
 もぅ、分かった…お願い聞くから離れなさい…」


あたしをからかうやぐちは相当嬉しそう。

本当に勘弁して下さいって感じ。


やぐちはあたしの「分かった」を聞いたらすぐに離れた。







389 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時23分09秒







「やったぁぁ!あんね、あんね、
 おいらさぁ…学校行きたいんだよね。」







「・・・・・・・・はぁ?」






―――唐突過ぎるっしょ・・・?



「何かぁ…ココにいるだけじゃ物足りないんだよね。
 もっと色々知りたいし…本読むのも飽きたしさぁ。」



やぐちは自分で「うん、うん」と頷きながら話している。

あたしはというと放心状態。



「何ていうの?何事も経験あるのみ!ってね☆
 ねぇー、おいらのお願い聞いてよぉ!!」




「えっ・・・学校って…幼稚園?小学校?」


半分以上本気の言葉。


やぐちは一瞬にして表情を変えた。



「おいらの事バカにしてんの?高校だよ!
 おいらくらいの頭あったら余裕で入れるでしょー?」


ダンダンという地団駄が椅子に座っているあたしにも響いてきた。


どうやら…マジで本気らしい。







390 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時23分44秒









――おいら一人で行くんじゃないよ?なっちも一緒に行くんだよぉ!


と、その後言われて頭が痛くなってきた。

あたしが学校に??
・・・あたしは一足早く卒業したのに…(実際には退学)

またあそこへ行って勉強しろって言うの?やぐちさん?



何回も何回も話し合ったけど
言う事聞くような奴じゃないって事は一番あたしが分かってる。






391 名前:動物愛護的共同生活。 投稿日:2003年07月06日(日)02時24分16秒








そうして、結局許してしまった。
やぐちは溜め息まじりの「いーよ」というあたしの声を聞いて大喜びした。
(溜め息はやぐちには聞こえていないだろうけど)


「なっち大好き!」――を連発してぎゅーって抱きつかれた。

それだけで幸せな気分になれるあたし。


その幸せな気分に浸りながらもある思いが頭の中をよぎる。



やっと、何もかも終わってひと段落した所なのに………。

落ち着くヒマもなく、また色んな事に悩まされそうだ。



波乱な日々は終わらない。



やぐちが隣にいる限り・・・。







392 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年07月06日(日)02時36分38秒
最後の更新終わり。


>355 つみさん。
レスありがとうございます。
遂にラスト迎えました。
すごい微妙な終わり方ですが…。
読んで下さると幸いです。

>356 名無しさん。
レスありがとうございます。
矢口さん成仏編…未だに考え中です…。


以上で『動物愛護的共同生活』は終わりです。
続きあるんだかないんだか分からない終わり方ですいません。
拙い文章、矛盾しまくってる点が多すぎましたが
完結出来た事がよかったなぁと思ってます。
レスをくれた人、一回でも目を通してくれた人
全ての方に感謝します。
本当にありがとうございました。


393 名前:つみ 投稿日:2003年07月06日(日)08時44分37秒
遂に終わった・・・いや〜感動しましたね〜・・。
なんかこのまま2人の高校生活の続編が見たくなってきますわ・・・
394 名前:なちまり大好きっ子 投稿日:2003年07月07日(月)00時25分09秒
終わっちゃったよ〜(泣) でもハッピーエンドありがとうございます。
銀色さん、お疲れっした!
395 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2003年07月07日(月)11時40分51秒
脱稿お疲れ様でした!
ドタバタコメディーって感じで始まり、感動的な話があり、
そしてドタバタっていう雰囲気で終わる。
なちまりもさやまりもあり、いろいろ楽しめた作品でした。
次回作もあるコトを願ってます!
396 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月12日(土)22時04分52秒
素晴らしい作品でした。次回作も期待しています。
397 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年07月14日(月)18時11分46秒
レスのお返しです。

>393つみさん。
レスありがとうございます。
感動、でしたか?笑。
矛盾しまくってる話でしたがそう言っていただけて嬉しいです。
二人の高校生活編…あるかどうか分かりません…。

>394なちまり大好きっ子さん。
レスありがとうございます。
一応ハッピーエンドです。
結局は振り回されるなっち…
そっちの方がなちまりらしいかな、と思います。

>395読んでる人@ヤグヲタさん。
レスありがとうございます。
騒がしい雰囲気な話ですいませんでした…笑。
さやまりを書くのは初めてだったんですけど
結構楽しく書けました。
さやまりらしいのかは分かりませんけど…。

>396名無し読者さん。
レスありがとうございます。
素晴らしい作品なんて言っていただけて
ありがとうございます。
次回作、気長に待ってて下さいー。


今「矢口さん成仏編」をちょっとずつですが書いています。
多分悲しい話になると思います…。
待ってる人がいるか分かりませんが待ってて下さい!笑。
398 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月20日(日)14時34分31秒
矢口成仏編、楽しみに待ってますよー
399 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時07分53秒

『ったく〜…ちゃんと言うからって言ったじゃんか…
 バングルに刻んで伝える、って…まぁ、特別に許してやるか。』


上から見てる矢口が一人。
本物って呼ばれてる矢口でっす!

下では真っ赤な顔をしたなっちをからかってるヤグチがいる。


なっちの告白スィーン(シーンね)見てやろうと思ったのにさ〜…
まさかあんな方法で伝えるとは思わなかったね。
いやー、計算外!


ってか、あっちのヤグチ…顔はもちろんだけど性格おいらに似てるよなぁ…
って、自分で思ってた!
まぁ、おいらはあんなに我侭じゃないけど〜。



400 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時09分18秒



何か変な感じ…。

おいらも今生きてたらあんな風に甘えたり我侭言ったりしてんだろうな…。
無理な我侭もお願いも聞いてしまうなっち…惚れた弱味ってヤツだろう。
あ〜ぁ…悲しくなってきた…。




下ではヤグチといちゃついてるなっち。
(おいらにはそう見えるのだ)
惨めな姿の自分にはちょっと辛い。


・・・どっか行こ…。


壁をすり抜けて廊下に出た。



でもなぁ…知らない人ばっかだし。
行く所って言ったらやっぱあそこしかないんだよなぁ…。


自然と体が流れる先にあるのは・・・さやかの部屋。
壁を簡単にすり抜けると目の前にその姿があった。





401 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時09分57秒




さやかの部屋は妙に黒かった。
多分まだ爆発した機械の黒煙が残っているんだろう。
部屋も汚いまんまだし。



さやかは自分の寝る場所と机の周りだけを片付けたらしく
そこだけ綺麗になっていた。


何かさやからしいなぁ…


高校の頃とそういう所は変わっていないさやか。
その背中を見つめる、変わり果てた自分。


側に寄って行ってさやかの横顔を見つめる。

その真剣な目。
唇を噛む癖。

全てが好きだ。






402 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時10分30秒



「…くそっ!」


さやかは苛々しながら立ち上がってすぐさまベッドに飛び込んでいった。

おいらはそれを追ってベッドの側に行く。



こんなに近くにいるのに。
手の届く距離にいるのに。

触れられない。
声もかけられない。
さやかの視界に入る事もない。




これからさやかが苦しんでいても、泣き叫んでいても
おいらは助ける事も、手を差し伸べる事すら出来ないのだ。

もちろん喜びを一緒に味わうことも――。




403 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時11分04秒




『おいら・・・こんなになってまでさやかのそばにいる意味ないよなぁ…』


ただの疫病神じゃん。
いてもいなくても同じじゃん。
いなくなっても誰も何も言わないじゃん。

そう、おいらはあの日から既に「いない」んだから。


早く成仏しなくちゃ。




成仏する方法はただ一つ。



成仏出来ない人は、まだ心残りがあるから。



おいらの心残りは―――?



・・・さやかに告る事。






404 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時11分42秒




出来るわけないじゃん!

とか思う事はやめにしたんだっけなぁ。


なっちと約束したから。


なっちだってあーやってヤグチに言ったワケだし。
おいらも・・・約束守らなきゃなぁ。



気付いたらさやかは眠っていた。
規則正しい寝息が耳に入ってきたから。



・・・今しかないって事もないかもしれないけど…。



おいらの決心は固いのだ!


約束はちゃんと守る性格なのだ!




『やぐちぃ〜〜〜〜!!!!!
 ファイ!オゥ!ファイ!オゥ!行くぜぃ!』



気合い入れて。

自分で自分を励まして。





勢い良く放物線を描くように体を浮かせてさやかの中に入っていった。















405 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時12分17秒









「・・・桜並木道……?」



久々に言ったこの言葉。

ピンクの雪。
ピンクの絨毯。

満開の桜。


おいおい…マジかよ…。


気付くとココに立っていた。
全く変な夢だ。


両脇に規則正しく植えられた桜以外何もない。
・・・いちーは道の真ん中で突っ立ったままだ。



後ろを振り向いてもまっすぐ前を向いても何もない。



コレって…あの桜並木道か?
そういえば妙に桜の花びらの色が濃い感じがするけど…





「何だこれ…。夢じゃないみたいだな」








406 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時12分57秒





あぁ〜…どうしよ…どうすればいいと思う?
って誰に聞いても答えてくれないだろうけど。

さやかの後ろ姿が見える。
おいらには全く気付いていないさやか。

キョロキョロしてるけど…
こっち一回見たけど…何で気付かないんだよぅ!?



やっぱおいらから話しかけなきゃ駄目っぽい。



緊張する・・・手ぇ、汗かいてきたよ。




ゆっくり近づいた。

一歩一歩……踏み出すたびに緊張倍増。



両手を後ろに回して指を絡ませる。

それは、右手のアレを見られたくないという思いから。






407 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時13分46秒




・・・テンション高めでいった方がいいのかなぁ?
・・・それともちょいマジっぽい感じで?


あ〜、分かんない。
おいらどんな風にさやかと接してたんだ?
どんな気持ちで?


それすら分かんなくなってきた。



もう、いいや。


おいららしく。

矢口らしく。

矢口流で。





「・・・やぐちぃ〜ファイ!オゥ!」


小声でそう言ってから、大きく息を吸った。


そして、桜の木のそばに行って枝を一本折った。
どうやら桜には触れられるらしい。
ちょっとおいら自身ビビった。




枝折っちゃってごめん、でもおいらに協力してよ。
血ぃ、いっぱい吸わせてやったんだから。



408 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時14分27秒





近づいて思い切り桜の枝を投げた。


その枝は見事、さやかに命中。


さやかは前に飛び出るように体を崩しながらよろけた。




「ばーか!気付けよぅ!」



キャハハハハ!大笑いして言ってやった。


って…コレが矢口流??

やってからちょっと後悔した。





409 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時15分07秒






「・・・・・・や、ぐち・・・・?」



枝を投げられた事も忘れているっぽいさやかはただ驚いている。

一言おいらの名前を呼んで固まってしまった。




「うん。おいら以外に誰がいる?
 さやかが作ったアイツじゃないよ。」



ドキドキしてる。
早くここから逃げ出したい、でも嫌だ。

変な気分だ。




「お前…何で・・・」



頭をさすりながらじぃっとおいらを見てくる。
やっぱ頭痛かったんだ。



「ん?――さやかに言わなくちゃいけない事があるから。
 だから…さやかをここに呼んだんだ。」



「・・・言わなきゃいけない事?な、何だよ?」



さやかはおいらを見てまだビビってる…。
そんなビビらなくても…何か悲しくなる。



「ま、まぁ…それは後で……」


絶好のチャンスをたやすく逃してしまった。
――と気付いた時には遅くてさやかは微妙な表情をしたまま歩き始めた。






410 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時15分39秒




言っとけばよかった…

でも自分が言わなかった理由は分かっていた。

恥ずかしいからとか…それも本当はあるんだ。


けど、さっき言ってしまってたらおいらの
「心残り」ってのがなくなって
もうココにいる意味が本当になくなって
『成仏』しちゃうだろうから。

成仏したら…さやかに会えなくなるじゃんか。
元々成仏したいって思ってさやかに会いに来たんだけどさ…。
でも、ちょっとだけ…前みたいに並んでこの桜並木道を歩かせて。



これこそおいらの淡い乙女心っつーヤツだよ。
うんうん、そーだ。



「なに立ち止まってんだよ。ちゃんとついて来いよ。」



ぶっきらぼうなさやかの声に気付いて
おいらは少し離れた距離を縮めるように早足で歩いた。





411 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時16分22秒



「こうやって二人で歩くの…久々だな」


桜舞い落ちる一本道。

さやかは上を見上げながら笑ってた。
妙に緊張してるような顔してるけど…




その上を見上げる姿。
おいらいつも見てたよ。
隣で、その嬉しそうな横顔見てた。


あぁ…心の中で言えるのに何で言えないんだろ。



「・・・何か言えよ。
 いちーばっか喋ってるじゃん。」


さやかに言われてはっとした。

さやかに見とれてたおいら。
うわっ…ハズぃ。



「うん…。」


「矢口らしくないなぁ…。
 前みたいに…こう、何てーの?
 バカ騒ぎしろよ。
 今の矢口…妙に静かすぎて…変だぞ?」



・・・・・仕方ないじゃんか。
おいらがどんなに緊張してると思ってんだ?このバカ。




412 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時17分08秒





「うっさいなぁ!ちょっと黙ってろよぉ!
 おいらだって……緊張ぐらいするんだっつーの!」


やっとの思いで言えた言葉…。

言った後「しまった」って顔したおいら。
聞いた後「マジで?」って顔してるさやか。




しばらく沈黙・・・・・・。



おいらは顔真っ赤だし。
桜なんか見てられない。
見る余裕なんかないし。

下向いたまま。


さやかはどう思ってんだろ?
どういう表情してんだろ?



多分困っているんだろーな。
さやかにとってはおいら、過去の人だし。
きっと今のおいらにどう接すればいいのか悩んでる。




おいらさぁ・・・さやかだけは困らせたくないんだよね。


おいら…さやかにあの事言ったら成仏しちゃうからって思ってた。
だから言わないでまだそばにいたいって思ってたけど
コレって今のさやかにとったら迷惑でしかないんだよね。
おいらの我侭でこんな事しちゃいけないんだよね。




長い沈黙を破ったのはおいら自身。






413 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時18分00秒






「・・・あのさ…おいら、言いたい事あるって言ったじゃん?」



さっさと伝えて消える事にするよ。


なっち、おいらやっぱ駄目だよ。
得意のベストスマイルも出来ないよ。



「あのさー、おいらが成仏出来ないワケってのがね
『心残り』があるからなんだ。
 でさ、その心残りがさやかに告る事なんだよね。」


至って明るく言い放つ。
無理矢理すぎる。


乾いた笑い。
ベストスマイルにほど遠い。


さやかは驚いたまま。

否定もしないでただ聞いてて。
黙って聞いてて。

「ごめん」って言葉もいらないから。






414 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時18分34秒







「死んだから言えないままだったけど
 おいら、ずーっとさやかの事好きだったよ!本気だった。
 もちろん今もおいらの心の中にはさやか以上の人はいないけどさ。
 ・・・へへっ、なんちゃって。
 言いたいのはそれだけっ!コレでやっとおいら成仏出来るよ。」



言ってて涙が出そうになった。
泣きたくなる気持ちはこんな体になってから一回もなかったんだ。

泣きそうな顔を見られたくなくて思わず横を向いた。



視界が歪んじゃって何なのか分かんないよ。






「……矢口…アホ。」








415 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時19分09秒






「・・・・・・・・・・はっ?」



出そうな涙も急に引っ込んだ。
あれ、涙って引っ込むっていうのか?


ってかそんな事はどーでもいいんだって!


何だよ!?



「・・・何とも思ってないようにさっさと言いやがって…。
 お前本当に緊張してんのか?」




「ど、どー伝えようとおいらの勝手じゃんか!?」




「そうだけど…いちーの気持ちも考えろよ…
ぜ…絶対いちーの方が緊張してるっつーの。」


「えっ…?」


「どれだけ矢口の事好きだったか知ってるのか?
 どれだけ矢口の事想ってたか知ってるのか?
 それも知らないで簡単に向こうに逝って…。
 あの時、最高の瞬間が最低の瞬間になったんだぞ?」





416 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時20分25秒







…何かおいらが思ってた事と違う…。



あぁーそうか。
コレは「同情」ってヤツだな。
『矢口の気持ちにいちーも合わせてやろう。
 ただでさえこれから成仏するってのに
 片思いってのは余計に可哀想だから。』


そういうおいらの気持ちを察したさやかの『同情心』から出た言葉だな。


顔までそむけて…さやか意外に演技上手いかも。
でも全然嬉しくない。
同情される方が辛いっつーの。


「心から思ってない事言わなくていーよ。
 同情してくれてるんでしょ?
 可哀想だって思ってるんでしょ?
 余計な気使わなくてーから。
 ・・・心残りなくなったから多分もうすぐ成仏出来ると思・・」

「…っざけんなよ!何が心から思ってない事だよ?
 んじゃ、いちーのこの何年にも及ぶ
 叶う事のない片思いは何だったってんだよ!
 中学から矢口の事好きだったいちーの気持ちはどーなるんだよ?
 勝手に…同情で片付けるな…」





417 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時21分08秒





キレたさやかを見たのは初めてだったからビビったけど
それ以上に振り向いた時のさやかの顔に驚いた。


耳まで真っ赤だったのだ。
言葉に出来ないような歯痒い顔をしておいらを見つめていた。


「か、た…思い?中学から?う、嘘だぁー…」


どうしても信じられないおいらはまだそんな事を言ってて。


「…嘘じゃない。全部ホントだ。」


さやかはおいらの目をまっすぐ見つめてきてそらそうとしない。


恥ずかしくて照れくさくて「ホントだったんだ」って事しか分からなくて。







418 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時22分39秒







「あの、何て言うかすごい嬉しい…泣きたいくらい嬉しい…。
 その、さやかがおいらの事ずっと好きだったっての
 今まで全然知らなくて本当においら鈍感だよねー。
 ゴメン…鈍感でごめん…こんなになってまで気付かないなんて…
 でも、もう遅いよね。
 何でもっと早く気付かなかったんだろ…何でもっと…」

「もういい。もう…何も言うな…分かったから。」



さやかの目には涙がうっすらと浮かんでいた。
今こうして二人の思いが通じ合っても
幸せにはなれないって事、
おいらが言わなくてもさやかは気づいていたんだ。



さやかは自分の泣き顔を隠すようにおいらに背を向けて歩き出した。
おいらもそれを何も言わないで後を追った。


しばらく無言に歩き続けた。

その間に色々思い返していた。
さやかが中学の時から言っていた
「好きな人」はおいらだったって事。
その人のどこがイイの?って聞いた時
「笑顔」って照れながら答えていたさやか。
それはおいらの「笑顔」だったんだ。


何で気付かなかったんだろー…。







419 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時23分19秒





「矢口…」


「…な、なに?」


急に呼ばれてキョドったような声が出た。
おいらはさやかの背中を見つめた。




おいらの名前を呼んだくせに振り返らない。
そして、何も言ってこない…。
何だよぉ…




「矢口に会えて…嬉しいよ。矢口は変わらないなぁ…昔のまんまだ。
 いちーが好きな矢口のまんまだよ。
 今もこうして歩いてるだけでドキドキする。」


そう言ったさやかの声は震えたような声だった。

おいらの目からさっき引っ込んだ涙が溢れた。


「…おいら、ず、っと…さやかを見てた…。
 死んでから、ずっと・・・見てた。
 さやかも…見た目とかあの時から大人になって変わったけど、
 性格とか、おいらの好きなさやかのまんまだよ。」


一旦溢れたら止まらなくてほとんど大泣き状態。
おいらが言いたかった事ちゃんと伝わってるのかな…。





420 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時24分01秒




そんな事を考えてるとさやかが振り向いた。
さやかも涙で顔がグシャグシャだった。




「…手、つなごう?」


な、何言ってんの?
まさか忘れてんの?


「おいら、死んでるんだよ?手とかつなげるワケないじゃん…」


「…アホ。つなげるよ。」



さやかは手を差し出す。
さやかの手においらの手を重ねろって事?

でも、重ねる事は出来ない。

だって…おいらの右手は汚れているから。
血の色だ。
嫌な色だ。


後ろで組んでいる右手に爪の跡が残るくらい力を入れた。
コレは見られたくない。






421 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時24分52秒







「や、やだ…」


「…手、つなぐの嫌か?」


「そんなんじゃない!でも、やだ。」


「どういう意味?」


「…おいらの手見たらさやか、
 おいらの事絶対嫌いになるから…だからやだ。」


「…アホ。手見たくらいで嫌いになるワケないだろ。」


「嫌いになるよ。」


「嫌いになるかどうか見てみないと分からないだろ。」


「そうだけど…」


「…早く。腕上げっぱなしだから疲れてきたし。」



なかなか手を見せないおいらにキレると思ってたけど
逆にさやかは笑ってた。
「矢口、早く。」
そう言っておいらが手を重ねるのをひたすら待ってる。


つなげないのに…。
重ねる事しか出来ないのに…。




422 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時25分36秒





おいらは後ろで組んでいた手をほどいてゆっくりとさやかの手に重ねた。
真っ赤に染まった右手がさやかの真っ白な手を侵食するみたいに見えた。


さやかの反応を伺っていると


「…こんなので嫌いになるほどいちーの矢口に対する気持ちは脆くない。
 ていうか嫌いになる方が難しいし。」

「うん…」


その言葉が照れくさかった。
顔がまた真っ赤になった。



手を重ねて桜並木を歩いた。
おいらは桜を見る余裕なんかなくてずっと手を気にしながら歩いてた。


そんなおいらの態度に気付いたのかさやかは


「手、つなぐとあったかいだろ?」


柔らかく笑った。


「うん…手から何か伝わってくる…」


確かにじんわりと温かい何かが手から伝わってくる気がしていた。
重ねているだけなのに伝わるってすごい…。
きっとさやかの体温だ。






423 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時26分14秒






トボトボ歩いていると歌声が聞こえた。
その声は他の誰でもない、さやかの歌声。


透き通るような小さい、でもはっきりとした声。



『ただあなただけ ひとつだけこの気持ちはここにしかない

 昨日も今日も夢に出てきた あなたはしっかり笑顔でいた
 少しだけ手を繋いでみたら 当たり前のように握り返した』



・・・・・コレって…
おいらがプリ帳に書いた…『それだけ』って歌の歌詞?


「…いちーは矢口の手を握り返すくらいするよ。
 そんな握り返さないような優しい奴には見えない?」


・・・・・それって…
おいらがプリ帳に書いた…戯言?




424 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時26分44秒






「プリ帳…み、見たの?」


「…ゴメン、見た。」


「何で見るんだよー!プライバシーの侵害じゃん!」



恥ずかしー!って思いと何で見るんだバカー!って思いが半分ずつ。
内容、はっきり覚えてないけどかなり恥ずかしー事書いてたと思う…。

アレは見られたくなかったのに…


「あ、謝ってるだろ!?」


さやかも「ヤベェ!」みたいな顔になってちょっと開き直ってる…。
その態度もムカツクー。


桜の木が揺れてザワザワと音がした。
桜…おいら達を見て笑ってるみたいだ…。




425 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時29分22秒





っていうか・・・


「ま、まさかおいらの気持ち知ってたんじゃないの!?
 こうやって告る前から…プリ帳見た時から…」


「あー……うん。知…ってたよ。
 ゴメン、鈍感で。もっと…早く気付けばよかった。」


「ばっ…バカー!何で…何で言ってくれなかったんだよー!
 言ってくれてたら…おいら…
 こ、こんな恥ずかしー事しないですんだのにー!
 さやかのバカー!すっげぇバカー!」


重ねていた手を離しておいらは「さやかのバカー!」と叫び続けていた。
何だったんだ!?おいらの告白は!?
ずっとさやかはおいらの気持ち知らないと思ってたのに…。


さやかは重ねていた手をしばらく見つめていたけど
すぐにおいらの方を向いて


「な、何だよ!?そんなのどうやって言えばいーんだよ!?」


「だ、だからー…おいらがココへ来た時から
『矢口お前いちーの事好きだったんだろー?
 知ってたよ。プリ帳見たもん。』みたいに
 言ってくれてたら良かったじゃん!」


「そ、そんなの知らないし!
 ってかそうやって冗談っぽく言えるワケないだろ!?」



「ぅー…そうだけど…」



426 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時30分16秒


久々の口喧嘩。


さやか、相変わらず口悪い…
まぁおいらも負けず劣らず、だけどさー。



おいらもさやかも目を合わさないように桜を見た。
あからさまにお互いを見ないようにしてる事バレバレ。









「…告白して…成仏するっていうだけが目的か?
 いちーに会いたいとか、話したいとか…思わなかったのか?」


さやかは髪をかきながらおいらの表情を伺うようにこっちを見た。



「・・・バカ。見るだけじゃ満足出来るワケないじゃん。
 さやかにおいらはここにいるって気付いて欲しいに決まってるじゃん。
 見てるだけじゃなくて、ずっとさやかに見て欲しかったよ。
 さやかの視界に入りたかったよ。成仏だけが目的じゃない。
 高校の時みたいに…バカ騒ぎしたかったんだ…。」

「矢口…」


そう言うとまた涙が溢れてきた。
おいらこんな泣き虫じゃなかったのに何でだろ…
死んだせいで涙腺狂っちゃったのかなー。


427 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時31分30秒



「で、でもおいらさやかに触れる事すら出来ないし
 前みたいにバカ騒ぎしたいっていう方が無理あるよねー!
 本当、おいらの方がバカじゃん。
 死んだって事まだあんま理解出来てないんだからさー。
 こ、これから成仏し、ちゃぅ…ってのに…ね。」


最後の方、グダグダで何言ってるか自分でも分からないくらい。
泣いてる所、さやかに見られたくないとか
もう考えらんないくらい混乱していた。



「そんな事言うなよ…。
 いちーの心の中で矢口は高校の時と変わらない
 笑顔でいるんだよ。死んでなんかない。
 これからもいちーの心の中で生き続ける。
 だから……そんな事言うな…」


歪んだ視界から見たさやかはすごく悲しそうな顔をしておいらを見ていた。



何で、何でこんなにもおいらの事を想ってくれてるんだろう?
おいらはもう、この世にはいないのに。
死んだ人をひたすら想い続けるさやか、
今までどんな気持ちだったんだろう。



無償の愛と、無償の優しさ。

さやかを好きになって本当によかった。






428 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時32分09秒





混乱した頭の中でなっちの言葉が浮かんできた。


――そう。やぐちのベストスマイル!
そんな事気にしないで、得意のベストスマイルしながら
さやかに会っといでよ。



おいらのベストスマイル。
そういえばさやかにまだ一回も見せてないや。


「…へへっ…さやか…」


「なんだよ?」



ニカっとおいらの中での最高の笑顔を1つ、さやかだけに。

涙のせいで顔がグシャグシャになっててごめん。
ベストスマイルかどうか分かんないけど…。



「ははっ…もっと笑って?いちーは、矢口の笑った顔が好きなんだ。」


悲しそうな顔が一気になくなってさやかも微笑んでた。
何か照れくさかったけどおいらも笑い続けた。


「笑うよ!何せスマイル0円でぇーす!だもんね!!」


「…もうそれ古い。」


「マジで!?今まで知らなかったんだけど!?」



桜並木道。
隣にはさやか。
冗談を言い合って笑い転げる姿。


全ての雰囲気に酔いしれていた。

こんな些細な事がおいらにとっては最高の幸せなんだ…。







429 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時33分22秒









でも、おいらは少しずつだけど体の異変に気付いていた。
「フッ」とフラッシュバックみたいに
高校生の頃のおいらとさやかがこの並木道を歩いているのが頭をよぎる。
それに意識が途切れるみたいに視界が真っ白になる。
体も段々思うように動かせなくなってきている。


ヤバイ…そろそろなのかな…
やだよ。おいら…もっとさやかの隣にいたいよ。




矢口の様子がおかしいって事はさっきから気付いていた。
あいつは気付かれてないって思ってるようだけど。
必死で隠している。
目を瞑って苦しそうな顔をする。
制服のシャツをギュッと掴む。
急にビクっと体を強張らせてキョロキョロと辺りを見ている。


それだけで決め付けてはいけないと思ってたけど
ふと、下を向いた時見てしまった。
それを見た時「もうすぐじゃないのか?」という予想が確信に変わった。
矢口はそれには、気付いていないみたいだけど…
自然と全身に鳥肌がたった。


矢口…また、いちーの目の前からいなくなるのか?
コレはたった一瞬の夢でしかないのか?









430 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時34分30秒







「あ〜ぁ…何かもっとこう、
 恋人っぽい雰囲気期待してたのに全然違うじゃん!
 まぁ相手がさやかだから仕方ないけどー!」


「あぁ!?何だそれ!
 いちーだって矢口と同じで恋人っぽい雰囲気期待してたよ!
 でも相手が矢口だから無理だと思ってたけど。」


「はぁ!?さやかぶっ殺す!」


「矢口なんかにぶっ殺されないし。」


んべー!っておいらの気分を逆立てるようなさやかのムカツク態度。
あぁームカツク!!



「・・・矢口。」


「あぁ!?何?理系馬鹿の市井さん。」


「な、何だその言い方!?」


「だってさやか中学の時から変な本ばっか読んでたじゃん。
 おいら心の中でずぅーっと『理系馬鹿』って思ってたんだよねぇ。」


さやかは、昔から変な「生命科学」とかそういう理系の
色気の欠片もないような本を読んでいた。
そしてその趣味をおいらには全く理解出来なかったのだ。






431 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時35分12秒






「う、うるさい!別にいーだろ!?」


「おいらには関係ないけどー…で、何?」



「気付いて…るんだろ?本当は。」



ビクッと体が反応してしまった。

さやかは気付いていた?
おいらの異変に



「な、なにが?」


「隠さなくていい。そろそろ…なんだろ?」


「何でそんな事分かるの?」



「・・・分かるよ。…足が、もう消えてる。」

「…へっ?」



さやかは言いにくそうな顔をしながらそう言うと目をそらした。
自分の足を見ると膝から下がもう既に無くなっていた。

普通にピンクの花びらが落ちている地面が見えた。


もうすぐおいらの体が消えて、何もかもなくなってしまう。
ベストスマイルも出来なくなってしまう。
そして、さやかを想う気持ちも、さやかとの思い出もなくなってしまう。
全て忘れてしまう。





―――嫌だ。






432 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時36分33秒




「歩こう?」

「ぁっ…うん。」



急に暗くなった表情のおいらを気遣ってなのか
さやかは何も聞いてこなかった。



並んで歩いているけど不安な気持ちは隠しきれなかった。
どんどん消えていく自分の体。


もう一度見るとほとんど足がなくなっていた。






「消えるなよ…。お前はまたいちーを置いて行くのか?」
「え…?」



足に気をとられていたおいらの耳に聞こえてきた言葉。
隣を見るとさやかはいなくて少し後ろで立ち止まってた。



そして、泣いていた。
静かに、涙を流していた。






433 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時37分09秒





「嫌だ…矢口がいちーのそばからいなくなるのは、嫌だ。」


「お、おいらも嫌だよ!消えたくないよ…」


つられて泣いてしまったおいら。
また視界が歪む。
何回涙流してるんだろ…。


下を向いたら本当に地面しか見えなくて余計に泣けてきた。
下半身が完全に消えていた。





434 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時38分09秒





「ゃだょぉ…」


そうつぶやいて両手で涙を拭った時、何かに包まれた。
包まれたって感覚ないんだけど、多分そんな感じ。

びっくりして上を見上げたら真っ赤な目をしたさやかの顔。


「さ、さやか…そんな事しても意…」

「意味ないとか言うなよ。…こうして、たいんだ…。
 手、つなぐのと一緒で
 矢口にいちーの体温みたいな温かいの伝わればいいのに…」


唇を噛んで泣くのをこらえているさやかの表情を見て、
もっと泣きたくなった。
おいらの顔を見ないで遠くのどっか見つめてる。


「…温かいよ。」

「うん。いちーも矢口の心に触れてるみたいで温かいよ。」





ギュッと目を瞑った。

時間よ。

時間よ止まれ。

10分、いや5分………3分でもいいや。


この幸せ感じてたい。






435 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時38分58秒








そんな事叶うはずもなく、体が消える速度も変わらずに
おいらの体は鳩尾の部分まで消えていた。

もう手を重ねる事も出来ない。
既に手はなくなってしまったから。



ジワジワと迫る残りの時間。
矢口真里である時間。

神様、消えたら、成仏したらどうなるんでしょうか?











436 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時41分05秒





「成仏、したくないよぉ……
 ずっとこうしてたい。
 ずっとさやかのそばにいたい。
 ずっとさやかの事想っていたい。
 さやかの事、さやかが言ってくれた事、全部。
 全部…忘れたくないよぉ・・・」


「忘れないよ。
 ずーっと矢口を忘れない。
 矢口が消えたって、そばにいなくたって…何があっても忘れない。
 市井紗耶香と矢口真里は、思い出の中でまた会えるよ。
 きっとどこにいたっていちーが思い出した時、矢口も思い出してるよ。
 忘れる事なんてないよ。」



・・・・・・・・・・


「ぅん…絶対忘れない!忘れないよ。
 消えても、なくなっても…さやかとの思い出は忘れない。
 さやかを好きになってよかった。
 さやかと出会えてよかった。
 矢口真里の事、愛してくれてありがとう。」


「アホ。…いちーと出会うのは偶然なんかじゃない。必然だったんだよ。
 いちーも、矢口を好きになれてよかった。
 市井紗耶香の事、愛してくれてありがとう。」


「…へへっ…どういたしまして……」






437 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時41分39秒





「・・・いちーも矢口と一緒に消えれたらいいのに。
 そうしたら、矢口もいちーも寂しい思いしなくてすむのに。」


「そ、そんな事言わないでよ。
 おいら生まれ変わるもん。生まれ変わってまたさやかと出会うから。
 だからさやかまで消えちゃやだよ。
 さやかまで消えたら二度と出会えないじゃん…それだけは、やだ。」


「……変な事言ってゴメン。」


「…ん。」

 




438 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時42分13秒






頭から下を動かせないでいた。
その理由は分かってて。

きっともう、ないんだ。

見なくても分かる。


さやかは全然気にする様子もなく、おいらを抱きしめてくれてた。
さやかの最後の優しさを噛み締めてた。


目を瞑ってしまうと、今度目を開けた時
さやかがいなくなってしまってるような気がして瞑れなかった。






439 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時43分59秒






「矢口、笑って?ベストスマイルしろよ。
 スマイル0円なんだろ?」


「・・・そ、そーだよ…笑うよ!!さやかも笑ってよ。
 おいら、さやかの笑顔が大好きなんだ。」


「いちーも矢口の笑顔が大好きだよ。
 …強張ってるぞ?表情が硬い!もっと笑えよ。
 今日はいい日なんだから。
 矢口が生まれ変わる日、告白記念日。
 そして、市井紗耶香と矢口真里が恋人同士になった記念日。
 これ以上のいい日はないだろ?」


「・・・だねっ!」


二人してベストスマイル。


そうだ今日は最高の日。
おいらが生まれ変わる日。
告白記念日。
恋人同士になった記念日。


・・・・・・・・・・・・・・



視界が霞む。

頭が真っ白になる。

さやかが、見えない。

遠くの、ずっとずっと遠くで呼ぶ声がする。



――待って!
これだけは言わせて。
さやかに、これだけは言いたいんだ。

神様、お願い。







「―――生まれ変、わって目、を開け、た時、
 ・・・最、初にさや、かを見、たい、よ……」



























440 名前:君に会えてよかった。 投稿日:2003年07月24日(木)02時45分00秒













今まで寝ていなかったようにすんなりと目が覚めた。
ガバっと勢い良く起き上がって
辺りを見回しても何も変わらない、自分の部屋。

頬を触ると涙の跡がついていた。
相当泣いたみたいでヒリヒリする。


夢じゃ、ない。





消えても、いなくなっても、ずっと好きでいるよ。
絶対に生まれ変わって目を開けた瞬間、いちーがそばにいるよ。


その時までにいちーはもっといい奴になってやるから。
矢口が惚れ直すくらいに格好いい奴になってやるから。

矢口も、いちーが惚れ直すくらい、いい女になって生まれ変わって。

何年経ってもずっと待ってるから。
ずっと忘れないから。



「今度出会ったら二度と離さないから。覚悟してろよ?」


頭の中に矢口を思い浮かべて笑いながらつぶやいた。

そして、久しぶりに桜並木道に行こうと思った。
矢口の大好きな棒つき飴を持って。
向こうは棒つき飴なんてないだろうから。
絶対食べたがってる。
桜の幹に供えてやろう。




いつのまにか涙目になってる目をこすって部屋を出た。
矢口の好きな歌を歌いながら…












441 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年07月24日(木)02時55分52秒
「君に会えてよかった」
矢口さん成仏編です。
終わり方がめっちゃ微妙!
意味不明な所、多々あると思いますが…すいません!


>398 名無しさん。
レスありがとうございます。
矢口さん成仏編楽しみに待っていただいていたのに
めっちゃグダグダな駄文ですいません!
しかも中途半端やし…。


この後に成仏した矢口さんがなっちさんに
会うという所があったんですが削除。
もっと中途半端になるような気がしたのと
書いてる内に矢口さん(成仏してない方)との
ただのイチャイチャの話になってしまったからです…。
削除したにも関わらず中途半端ですが…(苦笑)


最後まで付き合って下さって読んでくれた方、ありがとうございました!

442 名前:つみ 投稿日:2003年07月24日(木)12時15分28秒
いやはや・・・ホンモノの矢口さんはどうなるかと思ってましたが・・
こうきましたね・・・二人が恋人になった瞬間は
二人が別れなければならないときだったんですね・・・
443 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2003年07月25日(金)14時26分30秒
作者さん、感動をありがとう!!
とても良い話でした。
444 名前:なちまり大好きっ子 投稿日:2003年07月26日(土)09時32分41秒
さやかと矢口の想い、やっと結ばれましたね。(泣)
数少ないなちまり小説、発見した時は心躍りました!
お疲れ様でした!!

445 名前:けい 投稿日:2003年07月26日(土)20時57分19秒
感動をありがとう
446 名前:LOVE 投稿日:2003年08月06日(水)19時16分02秒
初めから一気に読破しました。かなり感動です。
なちまり好きなおいらには堪らない!!でも、さやまりもいいですね。
っていうか、感涙しました。
447 名前:銀色カレースプーン。 投稿日:2003年08月10日(日)02時36分12秒
レスのお返し遅れてすいません。

>442つみさん。
レスありがとうございます!
結局はこういう結果になってしまいました…。
一応ハッピーエンドです。
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました!

>443読んでる人@ヤグヲタさん。
レスありがとうございます。
そう言っていただけて光栄です。
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました!

>444なちまり大好きっ子さん。
レスありがとうございます。
確かに本当に少ないなちまり…
こんなに素晴らしいのに!笑。
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました!

>445けいさん。
レスありがとうございます。
こちらこそ最後まで読んでいただいてありがとうございました!

>446LOVEさん。
レスありがとうございます。
こんな矛盾だらけな小説一気に読破いただきお疲れ様でした!苦笑。
さやまりもいいですけどやっぱりなちまりです!!笑。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!

森板で新しく短編を書き始めました。
かなりの駄文なんですけど
よかったら覗いてやって下さい。

レスをくれた皆さん、本当にありがとうございました!

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