いしよし畑
- 1 名前:20 投稿日:2002年10月18日(金)21時28分26秒
- まえがき
塾の講師のアルバイトをしながら生計を立てている短大生の石川梨華は、
仕事帰りに、路地の奥で傷つき倒れている少女、吉澤ひとみと出会った。
怪我の後遺症か、ひとみは記憶を失っており、梨華とひとみは記憶を取り
戻すまでという条件で共に暮らし始める。梨華は、親身になってひとみの
世話をし、ひとみは次第に心を惹かれ始める。一方梨華は、最愛の人を失
い、人を愛する事に臆病になっていたが、ひとみの純粋な優しさに触れ、
閉ざされた心を少しずつ解放していく。
そんなある日、ひとみを知る人物が梨華の前に現れる。彼女は後藤真希、
中国マフィアのボスの一人娘であった。梨華は、真希によって最愛の人を
殺した人物がひとみであることを聞かされる。しかし、梨華は既にひとみ
を憎めぬほど深く愛してしまっていた。やがて、彼女達は巨大な陰謀の渦
へと巻き込まれていく。
これは、眠らない街東京を舞台に、運命に翻弄されながらも強く生きる
二人の乙女の真実の愛の物語である。
この話はすべてフィクションです。使用されている地名・人名・会社名
等は実在のものと一切関係ありません。
- 2 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時28分56秒
- 『消しゴム』
- 3 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時29分42秒
- かくん、と頭が落ちる。
石川梨華は、必死に睡魔と闘いながら午後の現国の授業を受けていた。
日差しが良く暖かい気持ちの良い午後に、退屈な授業を聞かされるのは
ある種の拷問に近い。
ふわふわと揺れる頭を左右に振り、意識を保とうと試みる。
目が覚めると、再び教科書に目を落として必死に朗読の後を追った。
途端に文字が歪み、掻き混ぜたコーヒーに入れたミルクの様にぐるぐると
回りだし、何度目かの睡魔が再び襲いかかる。
その時だった。
- 4 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時30分17秒
- 「ふごおっ!!」
突然の叫び声が聞こえ、教室が騒然となった。
声の方向を見ると、吉澤ひとみが両手で顔を抑えて机に突っ伏していた。
「どうしたの?」
石川は、慌てて吉澤の元へ駆け寄ると優しく声をかけた。
吉澤は顔をゆっくりと上げると、涙目で石川を見つめた。
鼻のあたりを両手で隠し、何かを訴えているようだ。
「鼻? 鼻が如何したの?」
「なんや吉澤、どないしたん?」
石川の言葉に重ねるように声がかけられる。
何時の間にか現国教師の中澤裕子が二人の傍まできており、
心配そうに様子を伺っていた。
- 5 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時30分57秒
- 吉澤は、途端に渋い顔をする。
吉澤は昔から中澤の事が苦手だった。
別に嫌いだとか、そういう訳ではない。
ただ、他の教師と違い、中澤にだけは反発できない何かを感じていた。
その感情は尊敬や畏怖からきているのかもしれない。
ともかく、中澤の言葉にはある種の強制力があった。
「なんや、鼻がどないかしたんか? 見せてみぃ」
中澤の言葉に溜息をつくと、吉澤はゆっくりと両手を離した。
その鼻はぷっくりと膨れ、消しゴムがすっぽりと中に入っていた。
消しゴムと言っても馬鹿にしないでいただきたい。
横幅30mm、縦幅40mm、高さ7mmはあろうかいう巨大なものだ。
「きゃぁ、大変! 先生、吉澤さんの鼻に消しゴムが入っています!」
「ぷっ、きゃはははは! なんやその顔、腹痛い、し、しぬー!」
心配する石川の横で、中澤は笑い転げていた。
- 6 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時31分32秒
- その後、シャープペンシル等を駆使して消しゴムを取ろうと試みるが、
消しゴムのカスがぼろぼろと零れるだけで効果は無かった。
その間、中澤はずっと笑い転げていた。
「もう、先生! 笑ってばかりいないで何とかしてください!」
「はーっ、そうやな、吉澤、顔見せてみい。ぷっ、くっ、きゃははははは!」
「先生! もういいです、よっすぃー、保健室行こう」
なおも笑い続ける中澤を尻目に、吉澤を立たせると保健室へと向かった。
顔を真っ赤にして俯きながら歩く吉澤を、石川は心配そうに見つめていた。
「もう! それにしても先生ひどい! あんなに笑う事ないじゃない」
「ううん、あたしが悪いんだ。あたしがアフォだから……」
「そんな事無いよ! よっすぃーはアフォだけどアフォなんかじゃない!」
「……梨華ちゃん、ありがとう」
優しく微笑む石川を見つめ、一筋の涙が頬を伝った。
石川は、その涙をとても綺麗な涙だと思った。
保健室に行けばきっと上手くいく、すべてが元通りになるんだと
二人はそう信じて疑わなかった。
- 7 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時32分10秒
「……だめだ、こんな筈じゃなかったんだけど……」
保健室へたどり着いても事態は好転しなかった。
いや、寧ろ悪化していた。
消しゴムを取り出そうとピンセットや針金を突き刺した結果、
それが消しゴムに深く突き刺さり抜けなくなっていた。
今や、鼻から幾つもの金属の棒が生えた状態になっていた。
「ごめん、あたしにはもうどうする事もできない」
保険医の保田圭はすまなそうに吉澤に頭を下げた。
下を向いた保田は、ぴくぴくと肩を震わせていた。
「気にしないで下さい。先生が悪い訳じゃありませんから」
吉澤が首を振ると、突き刺さった金属棒も振り子のように揺れて、
カチャカチャと音を立てた。
- 8 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時32分43秒
- その後、色々と試したが消しゴムを取り出す事はできず、
結局、救急車を呼ぶ事になった。
吉澤はそんなに大事にしたくは無かったのだが、鼻から金属棒を
垂らした状態で帰る訳にもいかず、しぶしぶ同意した。
ほどなくして校内に救急車が到着した。
学校中が騒然となり、授業中だというのに救急車の周りに
人溜まりができ始めた。
そんな中、鼻をタオルで隠した吉澤が救急隊員の手を借りて
救急車に乗り込んでいった。
何も知らない生徒たちは、彼女が鼻を骨折でもしたのだろうと、
憶測で語り合っていた。
救急車はやがて、吉澤を乗せてゆっくりと走り出した。
石川は、救急車で運ばれていく吉澤を見送りながら首を傾げ、
ぽつんと言った。
「どうやって消しゴムを入れたのかしら?」
- 9 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時33分36秒
- 翌朝、吉澤は元気に登校してきた。
鼻もすっかり元に戻っており、昨日の出来事がまるで嘘のようである。
吉澤は救急車で運ばれた事もあり、すっかり注目の存在になっていた。
吉澤が席につくと、途端に彼女を取り囲んで人垣ができた。
「ねぇ、吉澤さん。救急車に乗ったって本当?」
「手術したの?」
「お医者さんかっこよかった?」
アイドルの記者会見のように次から次へと質問攻めにあい、
解答するので大わらわであった。
その様子を石川は眉を顰めて眺めていた。
- 10 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時34分11秒
- その日の午後、お昼の喧騒も静まり、黒板を叩くチョークの音が
静かな教室に響いていた。
生徒たちはみんな、黒板のミミズがのた打ち回ったような文字を
必死にノートに書き留めていた。
「ふがぁ!!」
突然、デジャ・ヴュのような叫び声が聞こえた。
教室内の全ての視線が声の主に集中する。
石川は立ち上がると、直ぐに吉澤の傍へと駆け寄った。
「見てぇ、やっと分かったわ! どうやって入れたのか!!」
石川の鼻には消しゴムが入っていた。
石川はそのまま救急車で病院に運ばれて行った。
それから数日間、石川は、学校に来ることはなかった。
- 11 名前:19 投稿日:2002年10月18日(金)21時34分52秒
- ―おしまい―
- 12 名前:sorari 投稿日:2002年10月18日(金)21時35分46秒
- 更新終了です。
何かご意見があれば…無くても何かレス下さい。mageで下さい。待ってます。
ただし、荒し、誹謗中傷、宣伝、勧誘、逢引等はご遠慮ください。
- 13 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2002年10月18日(金)21時38分12秒
- いしよしですね。
まさかあの場面で告白するとは……意表を突かれました。
続きが楽しみです、がんばってください。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月18日(金)22時53分47秒
- 次のが読みたい、
そう思わせるものでした。
もしかすると、すごく好き系なものかもしれなひ・・・
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月18日(金)23時53分46秒
- いいのか?
笑っていいのか?
深刻そうな展開っぽいのに。
悩みます。
これからも読みます。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月19日(土)03時47分38秒
- >>14&15
作者さんがmageでって言ってるんだからちゃんとmageようよ…
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月19日(土)15時55分31秒
- まさかあんなに愛し合っていた二人が最後にあんなことになるなんて…
めちゃめちゃ切ない。
最後は涙なしで読むことはできませんでした。
でも裕ちゃん圭ちゃんのあの一言で救われた気がします。
またどこかでまた19さんのお書きになられた小説を読めることを期待しております。
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月23日(水)18時43分23秒
- いいっすねぇ…この雰囲気。
なんかあんま見ない感じで…
次を期待。
- 19 名前:sorari 投稿日:2002年10月25日(金)02時31分16秒
- レスをいただきありがとうございます。
>>13
貴方のレスに意表を突かれました。
>>14
ありがとうございます。
今後とも当店をご贔屓に宜しくお願いします。
>>15
笑ってください。ですが、失笑はどうかご遠慮くださいますよう。
>>16
本当にmageて下さりありがとうございます。
やっぱりmageって大事ですよね。
>>17
本当に19の感想なんですか?
と突っ込みたくなるほど嬉しい感想ありがとうございます。
>>18
ありがとうございます。
次を見てガッカリしないで下さいね。
このスレでは、色々ないしよしを書きたいと思っています。
むず痒くなるほど甘甘だったり、吐き気がするほど痛かったり……
時には読者を不愉快にさせてしまうかもしれません。
その時は、作者はナマ☆モノですので凹まない程度のご意見、
ご感想をよろしくおねがいします。
次は、本当にあった悲しいお話です。
- 20 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時32分14秒
- 大粒の雨が地面を叩き、世界を灰色に染め上げる。
時折、豪雨の降りしきる音を切り裂くように雷が鳴り響いていた。
誰もが足を踏み込まない人外の地、
そこに、明かりが灯った建物がぽつんと存在した。
人里はなれた平地に建てられた研究施設、そこに彼女はいた。
彼女の名前は吉澤ひとみ、かつて、天才の名を欲しいままにした科学者である。
今から三年前、ひとみはある研究を学会に発表した。
しかし、そのあまりに奇抜な発想に危機感を感じた学会は、
彼女を異端とし、学会から追放したのだった。
政府から追われる事となったひとみは、ある人物の協力により
どうにか政府からこの不毛の地へと逃亡する事に成功した。
そして、この最果ての地で廃棄された研究施設を発見したのである。
ひとみはこの寂れた研究所を僅か一年の歳月で復活させると、
学会に追われることになった例の研究を一人で始めたのだった。
その研究とは――
- 21 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時33分04秒
『人類梨華化計画』
- 22 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時34分01秒
昨夜から降り続ける雨はより激しさを増し、雷鳴を轟かせる。
しかし、完全に外界と遮断された室内では、外の天気などまるでお構いなしに
着々と研究が続けられていた。
ひとみは、八畳ほどある部屋の正面の壁と向かい合っていた。
周囲の壁には無造作に積み重ねられた機械類で埋め尽くされ、
天井や床には無数のワイヤーが張り巡らせてある。
正面の壁には一面に巨大なディスプレイが取り付けられており、
そのディスプレイにはどこか別の実験室の映像が映し出されていた。
実験室の中央には実験台があり、金属のアームによって
透明のカプセルが固定されている。
カプセルの中には、白い半透明の幕に覆われた赤い円形の物体が
カプセル内に伸びた金属の触肢によって固定されていた。
- 23 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時34分37秒
- 規則正しく並べられた操作盤のキーを複雑な手つきで流れるように叩と、
カプセルの拡大画像が切り取られ、ディスプレイに大きく表示される。
「おっけー。チャーミー、今日は2千ボルトから始めようか」
『はい、マスター』
室内に備えられたスピーカーにより、甲高い、機械的な声が響いた。
EFFによりMS用に開発された世界最高の処理速度を持つ
中央処理装置(CH-14)と、自動応答型被虐性知能(ARMI)を
搭載した巨大コンピュータ、通称CHARMIの発した『声』である。
- 24 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時35分45秒
- カプセル内の物質を繋ぐ金属肢の先端に青白い閃光が走る。
同時にカプセル内の培養液に僅かな気泡が生じた。
「そのまま電圧をあげて、1万から1万2千の間で維持してみて」
『はい、マスター』
金属肢の光りが強まり、気泡は徐々に激しさを増す。
すると、赤い円形の物体が微細な振動を起こした。
振動は徐々に激しくなり、赤い鮮やかな色が僅かに黒みを帯びていく。
『8千に到達しました。これ以上続けるとRW細胞が破壊される恐れがあります』
RW細胞とは、ひとみが長年の研究により生み出した極小の生命体の事であり、
細胞そのものに単純な思考を持たせることに成功した”考える細胞”の事である。
しかし、RW細胞には多くの課題が残されており、繁殖能力もその一つであった。
- 25 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時36分35秒
- これまでの実験で、ここからRW細胞の核が分裂を始めようとするが、
その直後、100%の確率で死滅していった。
死と分裂の境目が必ず存在する筈である。
ひとみは用心深くディスプレイに映し出されるRW細胞を注視する。
「続けて」
『はい、マスター』
細胞は激しく横揺れを起こし、同時に黒く変色していった。
そして、徐々に縮小してゆく細胞を目にし、ひとみは細胞の死を予感した。
その時である。
- 26 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時37分09秒
『アアアァァアアァァァアンアンアン!!』
CHARMIの奇声が室内中に響き渡る。
と同時に、手を置いていた基盤に激しい電流が流れた。
「キャァァッ!!」
電流がひとみの全身を駆け巡り、後方に弾き飛ばされた。
体内で爆発が起こり、全身がばらばらになったかのような痛みが走る。
室内の明りが弾けるように消えると視界は暗闇に閉ざされた。
- 27 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時37分39秒
- 緊急のブザーが鳴り響くと同時に非常灯の赤いライトが点灯する。
痺れる全身を無理に起こし、椅子に手をかけ立ち上がった。
「チャーミー、ブザーを止めて。いったい何があったの?」
『落雷です。推定電圧1億8000万、被害は電気系統の45%、
一部の配線がショートしています。外部との接続が切断されました。
それと、トイレの水が逆流しました』
ディスプレイに次々と被害状況が映し出される。
焼き切れ切断された配線が、だらしなく天井から垂れ下った映像に始まり、
水が便器より溢れ出す映像に終わる。
- 28 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時38分22秒
- 緊急のブザーが鳴り響くと同時に非常灯の赤いライトが点灯する。
痺れる全身を無理に起こし、椅子に手をかけ立ち上がった。
「チャーミー、ブザーを止めて。いったい何があったの?」
『落雷です。推定電圧1億8000万、被害は電気系統の45%、
一部の配線がショートしています。外部との接続が切断されました。
それと、トイレの水が逆流しました』
ディスプレイに次々と被害状況が映し出される。
焼き切れ切断された配線が、だらしなく天井から垂れ下った映像に始まり、
水が便器より溢れ出す映像に終わる。
- 29 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時38分54秒
- 落雷の被害が思いのほか酷く、ひとみは軽く舌打ちした。
「復旧までどのくらいかかるの?」
『およそ45分です』
「そ、おねがい」
ひとみは椅子に深く腰を落とすと目を閉じて復旧を待った。
後は、自動修復ユニットが勝手に修理を行なうはずである。
『あっ』
突然CHARMIが間の抜けた『声』を上げ、
ひとみは驚いて体を起こした。
「なに? 今度はどうしたの?」
『食料庫に火災が発生しました。直ちに消化します』
「なんだ、そんなの後回しでいいよ」
『ですが、ベーグルの格納倉庫ですよ?』
「最優先でお願い」
- 30 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時39分28秒
- これまでの映像に、食料庫に放水される映像が追加される。
ひとみは表示されている映像をぼんやりと眺めていた。
やがて、その中の一つに目を留めると、慌てて椅子から立ち上がった。
「チャーミー、実験室の映像を拡大して! 早く!」
『はい、マスター』
ディスプレイ全体に実験室の様子が映し出される。
カプセルは粉々に破壊され、床全体に白い靄のようなものが立ち込めていた。
「あの靄は何?」
『分かりません。初めてみる分子構造をしています』
「拡大して」
『はい、マスター』
- 31 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時40分03秒
- 映し出される映像は雪の結晶のようで、凄まじい勢いで分裂していた。
それも、一つの固体から一度に数百という数が。
ひとみは食い入るように映像を見つめ、やがて、ある結論に達した。
途端に破顔する。
「ははっ、やったー! ついに分裂に成功した!
これが完全な姿だったんだ。まるで雪の結晶のよう」
一つの結晶が細かく砕け、その一つ一つが元のサイズになると再び分裂を始める。
その幻想的な様子を、ひとみは我を忘れて見つめていた。
その時、突然サイレンが鳴り出した。
いきなり現実に引き戻され、慌てて周囲を確認する。
- 32 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時40分48秒
「なに? チャーミー、何があったの?」
『RW細胞の分裂が早すぎます。既に実験室を完全に埋め尽くし、
空調ダクトより基地内に進入を始めています』
RW細胞の画像が小さく脇にずれ、変わりに研究所の立体敷地図が表示される。
その図面の実験室を中心に、蜘蛛の巣のように赤いエリアが拡大していく。
「そんな……どのぐらいのスピードなの?」
『僅か数秒の間に新しい分裂を始めています。この速度で分裂を続ければ、
およそ14日で全世界に蔓延すると思われます』
「そんなバカな! 早すぎる!」
ひとみは苦渋の表情を浮かべて操作盤に両手を叩きつけると、
そのまま考え込むように目を閉じた。
- 33 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時41分39秒
- ひとみの瞳の奥には、RW細胞によって地球全土が覆われていく映像が浮かび上がる。
RW細胞が人類にどのような影響を及ぼすか分からない。
さらにはRW細胞群によって太陽光は遮断され、第二の氷河期が訪れるだろう。
「こんな、こんなはずじゃなかったのに……
あたしはただ、そのタコさんウインナー美味しそうだね。
ほんと? 食べる? あーんして! はい、あーん。
て、したかっただけなのに……
夕暮れ時の砂浜を、あははははっ、待てーっ! やだー、ここまでおいでー!
て、したかっただけなのにぃ!」
『…………』
ひとみには、もはや三つの選択肢しか残されていなかった。
残された僅かな時間で解決法を見つけ出して分裂をコントロールするか、
このまま見過ごして悪名を歴史に刻むか、研究の全てを放棄するか。
今こそ「三択の女王」竹下景子の力を借りたいところである。
- 34 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時42分18秒
- 数秒が経過し、既に敷地内の25%以上がRW細胞によって侵食された。
やがて、目を開けると真正面を向いて侵食を示す赤いエリアを睨みつけた。
「全ての隔壁を遮断して、それからRW分解溶液をRWに放出して」
『はい、マスター』
苦渋の選択であった。
この決断は、ひとみにとっては生まれたばかりの我が子を見殺しにするようなものである。
画面の右端に各通路番号が表示され、その右隣に次々と『OK』と表示されていく。
やがて、各部屋のスプリンクラーより青色の液体が放出され始めた。
- 35 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時43分01秒
- RW分解溶液が放水され始めてから既に数分が経過していた。
しかし、隔壁で閉ざされた全てのエリアに侵食を示す印が表示され、
その範囲は一向に衰える様子を見せない。
『だめです。分裂速度は一向に衰えません。あと24秒後に隔壁が破られます』
「そんな!」
いつも聞きなれた『声』が死の宣告をする。
同時に、画面の中央に『23』の数字が表示された。
ひとみはただ呆然とカウントダウンされてゆく数字を眺めていた。
- 36 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時43分44秒
- 数字は既に10秒台に突入していた。
操作盤に乗せていた掌を強く握り締める。
「そんな……どうれうば……あたしは何てことを」
学会を追放した教授たちの顔が次々と浮んでくる。
彼らはみな縞々の水着を着て、それ見たことかと尊大な表情でひとみを笑っている。
そして、サーフボードを持つと伝説のビックウェーブに向かって駆け出していった。
ひとみはそのまま沈めばいいと思った。
彼らは沈んだ。
『10秒をきりました。9……』
CHARMIの機械的な『声』が残りの時間を告げた。
後悔と自責の念にかられて力なく椅子に倒れこむ。
ぼんやりとその『声』を聞いていたひとみは、
視界の端にガラスで覆われている赤いボタンを見つけた。
- 37 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時44分21秒
『8……7……』
ひとみは起き上がると、操作盤をに向かい合い、素早くキーを押した。
電子的な信号音が鳴り、画面に『セキュリティー解除』の文字が表示される。
『自爆装置のセキュリティーが解除されました』
機械的な声でアナウンスが流れる。
椅子の手摺のボタンを押すと、手摺の一部が開きいた。
- 38 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時44分57秒
『4……3……』
ひとみは中に入っていた鍵を取り出すと、
ガラスケースの横にある鍵穴に差込み右に回す。
ガラスケース二つに割れ、操作盤の奥へと引っ込んでいった。
『2……1……』
ひとみはゆっくりと息を吸い込むと、ボタンに手をかけた。
「ごめんね。チャーミー」
『0』
そして、ボタンを押した。
- 39 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時45分37秒
突然、研究施設全体が揺れた。
侵食を示す赤色の範囲が急激に広がってゆく。
それは、隔壁が破られた事を示していた。
『自爆モードが起動されました。30秒後に自爆します。直ちに避難してください』
騒々しいサイレンと共に、新たに画面に数字が表示される。
死を告げるカウントダウンが始まった。
やれることは全て試した。
研究の成果にも一応の満足はしている。
このカウントが『0』になった時、全てが終わる。
死を前にすると過去の思い出が走馬灯のように浮ぶというが、
今のひとみには何も思い出されなかった。
- 40 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時46分26秒
- 画面に表示されていく数字が刻々とカウントダウンされていく。
ひとみは立ち上がると、部屋の右隅にある金属ケースの電子キーを解除する。
扉を開け、中からワイン瓶とグラスを取り出した。
研究が成功したら飲もうと思い、取って置いた年代物の赤ワインだ。
ひとみはワインを開けるとグラスに注いだ。
グラスを器用に回して色を確認し、香りを楽しんだ。
そして、今まさに飲もうとした瞬間、16秒を表示してカウントダウンが止った。
「えっ、どうしたの?」
驚きを隠せず画面を注視した、その時である。
『キャスター、それは、天空を埋め尽くす無限の可能性。
もうすぐ世界はあ、た、し、の、も、の。ハッピー! チャーミー石川です!』
「……はい?」
甲高いのは変わらないが、より人間味を帯びた『声』が室内に響いた。
ひとみは呆然と立ち尽くしていた。
- 41 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時47分36秒
- 画面に表示されていた画像が全て消えると砂嵐のように乱れ、
やがて人の顔の輪郭が浮びあがる。
徐々にはっきりしていくその顔は、ひとみが思い描いていた梨華という女性に
そっくりだった。
『ねぇ、よっすぃー聞いて! あたしね、このコンピューター乗っ取っちゃった。
もう自爆も解除しちゃったし、隔壁も全部開いちゃった』
外の監視カメラの映像が、画面の中央に映し出される。
そこには、建物のいたるところからピンクの雲が立ち昇る映像が映し出されていた。
突然、赤い非常灯の明りが消え、通常の乳白色の明りが室内を照らす。
『あっ、電気系統の修復も終わったみたい。ちょっと待っててね、えい!』
今迄映しだされていた映像が脇へと移動し、中央にテレビのニュース番組が出てきた。
突然その映像は砂嵐のようにかき消され、変わりに梨華の顔が表示される。
ひとみは今だショックから立ち直る事ができず、呆然とその様子を眺めていた。
- 42 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時48分24秒
『ハッピー! テレビをご覧の皆さん。この放送は電波ジャックです。
これから重大発表がありまーす。チャンネルはそのままで』
そう言うと、画面が切り替わり、コントロール室内部を背景に
ワインが注がれたグラスを手に持つひとみの姿が映し出された。
ひとみは自分の姿を画面で見かけ、ようやく我に帰った。
そして、軍服かドレスを用意しなかったことを心から悔やんだ。
『さぁ、よっすぃー、なんでも命令して!』
ひとみは困惑していた。
こういう場面を想定したコメントを考えていなかったからだ。
この場合なんと言えばいいのだろう。
「ふっ、ふっ、ふっ、ヤマトの諸君」とでも言えばいいのだろうか。
それとも、「うちの事好きって言えだっちゃ!」だろうか。
思案のしどころである。
- 43 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時49分07秒
- やがて、その様な事を考えている事態ではないのを思い出した。
とにかく人類に警告をしなければならない。
自ら生み出したピンクの悪魔が地上に降り注ぐ前に。
ひとみは意を決すると喋りだした。
「みなさん逃げてください! もうすぐ……」
ひとみは喋るのを止めた。
映像が途中で切り替わったからだ。
『もう、何てこと言うのよ。いいわ、あたしが変わりに言ってあげる。
みんな聞いて! これから重大発表がありまーす。
この世界は、よっすぃーの物になっちゃいました!
抵抗しても無駄ですよ。もう直ぐみんなは、あたしになっちゃうんだから。
きゃは、うれしい? ハッピー! みんなも、ハッピー!
それじゃぁまたね。チャーオー!!』
そして、映像は元のニュース画面に戻る。
ひとみはその場で力なく項垂れた。
- 44 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時49分46秒
- モニターの全ての映像が消えると、全面に梨華の姿が表示される。
バスガイドのような制服を着て、手には黄色い旗が握られている。
梨華は、まるで先導するかのようにその旗を振り回していた。
『ねぇよっすぃー、似合う? 似合う? 可愛い? やっぱりぃ?
さぁ、これからあたしが出口まで案内してあげるね!』
放心状態のひとみの脳髄に響く甲高い声が響く。
そして、ひとみの背後で部屋のドアがひとりでに開いた。
『もうここに居てもしょうがないでしょう。出ましょう』
「そう……だね……」
確かにこの場にい続けても何の意味も無いし、外の様子も気になる。
ひとみは頷くと、出口へと向かって歩き出した。
- 45 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時50分32秒
- 赤さびた重たい鉄の扉が音を立てて開く。
冷たい風と共に外気の湿った空気が通路になだれ込んでくる。
扉を開け、眼窩に広がったその世界は、まるで別世界だった。
見渡す限りの空は、ピンクの雲に覆い尽くされ、
大地にはピンクの絨毯が敷かれていた。
先程の豪雨が嘘のように静まり、空一面を覆うピンク色の空から
同色の雪がゆらゆらと粉雪のように舞い降りている。
ひとみは、舞い降りる雪にそっと手を伸ばした。
- 46 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時51分44秒
空を見上げていた若者は突然立ち止まった。
隣りを歩いていた少女は訝しそうに彼の方を見る。
「おい、見ろよ。ピンクの雪だよ」
「ほんとだ、綺麗だね」
空にはピンク色の雲が広がり、はらはらと雪が降り始めた。
若者はそっと手を伸ばすと雪を受け止めた。
すっと、雪は解けるように若者の掌から消えた。
次の瞬間。
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
「どうしたの!? はぐっ! きゃぁぁぁぁ!!」
若者の体格が少し小柄になり、女性的な端整な顔立ちとなった。
胸が膨らみ、角張った体のラインが柔かい曲線へと変わる。
一方少女も、首筋に雪を受けた瞬間、蹲り苦しみだした。
顎のラインがより細くなり、僅かにしゃくれ上がる。
二人は、全く同じ顔立ちと体格へと変貌していった。
この現象は世界中のいたるところで起きた。
老若男女を問わず、全ての人間は梨華へと変化していったのだ。
そしてそれは、年齢、性別、思考、行動にまで影響を与えた。
- 47 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時52分34秒
ひとみはピンクの雪を掌に受け取ると、それをじっと眺めた。
雪はコロコロと転がり、風に吹かれて飛んでいった。
ゆっくりと地面に降り積もったピンクの雪を踏みしめる。
キュッと音がして足が僅かに沈み、ピンクの雪が塵のように舞い上がった。
それは、雪を踏みしめた時の感触と似ていた。
僅かな風で桜の花びらのように舞い踊り、ひとみを包み込むように渦を巻く。
ひとみを愛でるように舞う花びらは、やがて、そよ吹く風に乗って流れてゆき、
まるで先導するかのように花びらのトンネルを作り出し、風に紛れて溶けていった。
ひとみは風の気まぐれが作り出した花びらのトンネルの先を見据えると、
まるで、花びらに誘われるように歩き出した。
その先にある人里を目指して。
- 48 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時53分33秒
どれほど歩いただろうか、ピンクの雲に遮られて太陽の位置すら掴めない。
完全にピンクに染まった世界で、ひとみは自分が妙に浮いた存在に思えた。
風に揺られてさざめく木々の擦れる音と、川のせせらぎだけが
絶えることなく聞こえてくる。
「……ぃょ……」
風邪に紛れて人の声が聞こえた。
ひとみは、声が聞こえた方へ駆け足で向かった。
林道の出口が見え、開けた世界が広がる。
道沿いに田畑が耕され、木組みの民家が建ち並ぶ、そこは小さな村だった。
- 49 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時54分27秒
「あっ! よっすぃーだ!」
突然声をかけられ驚いて振り向くと、
農民の格好をした梨華が、ひとみを指さして立っていた。
「えっ? よっすぃー?」
「あっ! ほんとだ、よっすぃーだ!」
「よっすぃー? ほんとによっすぃー?」
「どこよ。……あっ、いたぁ! よっすぃー!」
「よっすぃー。よっすぃー。よっすぃー」
どこから湧き出したのか、次から次へと梨華が現れひとみの周りを取り囲む。
その数は既に数十人に及び、今なお増え続けている。
ひとみは梨華が次々と増えてゆくその様を茫然と眺め、
そして一言呟いた。
「うわぁい、ウザイなぁ」
ひとみは苦難はここから始まる。
- 50 名前:18 投稿日:2002年10月25日(金)02時55分46秒
- ―おしまい―
- 51 名前:sorari 投稿日:2002年10月25日(金)02時56分25秒
- 更新終了です。
この話は、構想は割と直ぐに出来たのですが、
書き上げるのに多大な時間と労力と人材を必要としました。
いきなり赤字です。次回制作のためスポンサーを増やさないといけません。
どなたかスポンサーになってくださる方を募集しています。
宛先は[こちら]
 ̄ ̄ ̄
- 52 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2002年10月25日(金)03時02分38秒
- すみません。
宛先ですが、クリックしても何処にも遷移されません。
ちゃんとリンク張ってますか?
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月25日(金)10時14分11秒
- はじめましてソーリダイジン小泉☆純1郎です。
あ、ちなみに真ん中の「☆」は「つの○☆ひろ」の「☆」と同じなのでちゃんと発音してください。
sorari さんのかかれるお話を読んでファソになりますた。
しかし私が極秘に進めさせていた計画をすっぱ抜くとはsorari さんやりますね
僭越ながら日本国をあげてsorari さんを応援していきたいと思います。
ぜひ来年度の国家予算にsorari さん支援金の計上を本国会開催期間中に提案したいと思います。
つきましては予算は1兆2千億万円位でよろしいでしょうか。
お手数ですが官邸に直接お越しいただければ私か官房長官が応対しもっと具体的なご提案をさせていただきます。
それではお会いできる日を楽しみにしております。
最後に今回の、ノベル文学賞受賞おめでとうございます。
- 54 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月26日(土)17時51分14秒
- もうおかしすぎ。
ヴァカらいっすき♪
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月27日(日)16時56分56秒
- 悲しい幕切れですね…涙が止まりません。
描写力に圧倒されました。
次回作も期待しています。
- 56 名前:名無し娘。 投稿日:2002年10月30日(水)20時45分57秒
- 某所で紹介されていたので読まさせて頂いたのですが、まえがきの時点でやられてしまいました。
すでにカウントダウンが始まっているのも堪りません。
ウザさこそが石川さんの真骨頂です。
TVの中の吉澤さんも言っていました「あのー石川さんウザいんですけど」と。
次回作も期待せずに待っています。適度に頑張ってください。
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月01日(金)20時04分25秒
- 名スレの予感。。。
- 58 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月01日(金)20時07分05秒
- うがぁ!うっかりhageてしまいましたすいません。
半年ROMってきますゴメンナサイ
- 59 名前:sorari 投稿日:2002年11月01日(金)21時45分40秒
- レスをいただきありがとうございます。
>>52
もっと強く押してみてください。
>>53
応援ありがとうございます。ですが、国家予算はもっと有効に使いましょう(笑)
ノォベル文学賞は子供の頃からの夢でした。
>>54
褒められてるのか馬鹿にされてるのか化かされてるのか…
どちらにしても大変嬉しいです。
>>55
このような話に泣いてくださるなんて…感激です。
次回はもっと悲しい出来事が起こります。ハンカチのご用意を。
>>56
あい。適度にがんばります。
>>57-58
hageないでください。
*お詫び*
知人より本スレの27-28レス目が重複しているのではないかとご指摘をいただきました。
確かにそう見えますね。一字一句同じですし。ですが、あれはデジャ・ヴュ効果を狙った
新しい試みです。28レス目を読んだみなさんは、「あれ?この文前に読んだ気がする!」
とお思いになったはずです。説明不十分で分かり難かったですね。すみませんでした。
次は、いしよし以外で書いてみようと思います。
- 60 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時46分57秒
- 『騒々しい朝』
- 61 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時47分43秒
- 窓から射す暖かい日差しが心地よく、今は秋だという事を忘れさせてくれる。
そんな朝の早い時刻に、珍しく梨華パパは目を覚ました。
階段を下り、ダイニングのドアを開くと中へと入いる。
ダイイングでは、梨華ママが朝食をテーブルに並べていた。
梨華パパに気づくと意外そうに驚いた表情をする。
「あら、早いのね」
「ああ」
梨華パパは気のない返事をすると、テーブルの上に置いてある新聞を取り、
椅子に腰を下ろした。
- 62 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時49分06秒
- 新聞を広げ、今日の天気とテレビ欄を隈無くチェックする。
ふと、新聞から目を離すと朝食を並べ終えた梨華ママに声を掛けた。
「おい、梨華はまだ寝てるのか?」
「あなたが起こしてきてよ」
梨華パパは、ばつが悪そうに再び新聞に目を向ける。
一月ほど前、梨華を起こそうと部屋に無断で入った時に、
寝ぼけた梨華にパロスペシャル極められた事を思い出したのだ。
それ以後、石川家では「パロスペシャル禁止条例」ができたぐらいだ。
今でもその事を思い出すと古傷が痛み出す。
梨華パパは、頭部に受けた4本の爪跡をそっと撫でた。
その時、階段を駆け下りる足音が響いた。
- 63 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時50分04秒
- 廊下を走る足音が止むと同時にダイニングのドアが勢いよく開かれる。
梨華は、ドアの前に立つと梨華ママを睨みつけた。
「もおぅ、おかあさん! 起こしてよぉ!」
「やぁ、梨華。おはよう」
「起こしたわよ。直ぐに起きないあんたが悪いんでしょ」
「梨華。おはよう」
「それでも起こして! シャワー浴びてくる」
「……梨華、おは……」
梨華パパが言い終わる前にドアを閉められ、
風呂場へと向う梨華の足音が遠ざかっていった。
「ママ、おはよう」
「おはようございます」
梨華パパは、満足そうに新聞に目を落とした。
- 64 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時51分28秒
- 梨華ママは、朝食の後片付けの為にキッチンへ向かうと、調理器具を洗い始めた。
その間、梨華パパは新聞を読みながら梨華ママが戻るのを待つ事にした。
何時もは時間帯が違う為、家族が朝食に揃うといった事があまりなかった。
一家の主ともなると、それなりに夢がある。
可愛い娘と綺麗な奥さんに囲まれて、華やいだ会話をしてみたい。
恋人の話しなんかをしたりなんかして、
「なによ! お父さんには関係ないでしょ!」
「もうこの子も17ですよ」
「お父さんは認めないからな!」
などと噛み合わない会話をしてみたい。
と、このような思惑もあり、久しぶりに家族一緒に食事を取ろうと思ったのだ。
- 65 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時52分39秒
- やがて、片付けが終わるとエプロンで手を拭きながら梨華ママが台所から出てきた。
テーブルの椅子を引くと腰を下ろす。
「あなた、早く食べてよ。片付かないでしょ」
「そうだな。いや、そうじゃなくて久しぶりに一緒に……」
その時、風呂場のドアが勢いよく開く音がした。
廊下を走る足音が聞こえ、ダイニングのドアの前で止るとドアが開いた。
梨華は、頭だけ出して室内を覗き見る。
「今何時?」
「もう7時45分よ」
「あーん、もう、遅刻しちゃうよぉ」
「朝ご飯はどうするの?」
「いらなーい」
そう言ってドアを閉めると、梨華は再び駆け出した。
梨華パパは、寂しそうにご飯に箸をつけた。
- 66 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時54分09秒
- 梨華は、自分の部屋へと駆け込んだかと思うと直ぐに出てきた。
手には鞄を持ち、駆け足で玄関へと向かう。
「それじゃあ行ってきまーす」
玄関から梨華の出かけの挨拶が聞こえた。
梨華ママは、玄関まで見送ろうと立ち上がった。
「行ってらっ……!?」
梨華ママがダイニングのドアから玄関を覗くと、
梨華は靴を履いて玄関を出ようとしてるところであった。
「待ちなさい、梨華!!」
そう言うと、梨華ママは慌てて玄関まで駆け出した。
梨華は呼び止められて煩わしそうに顔だけを梨華ママに向ける。
「んもう、小言は帰ってから聞くから」
「そうじゃなくてあんた……」
梨華は最後まで聞かずに外に出ると扉を閉めてしまった。
梨華ママはため息を付くとダイニングへと戻った。
- 67 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時55分23秒
- 梨華パパは相変らず新聞を読んでいる。
梨華ママは呆れたように溜息をつくと椅子に腰を下ろした。
「あの子、服を着ていくの忘れていったわ」
「ははは、相変らずあわてんぼうだなぁ」
梨華パパは、新聞に視線を落とし、焼き魚を器用にほぐしながら答えた。
ふいに箸の動きが止り、梨華ママに顔を向ける。
「後で制服届けてやれよ」
「あの子も馬鹿じゃないんだから直ぐに帰ってくるでしょ」
「誰に似たんだろうなぁ」
「あんたでしょ」
梨華ママは既に興味を無くしたのか素気なく答えた。
梨華パパは、寂しそうに視線を新聞へと戻した。
- 68 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時56分25秒
- 再び焼き魚をほぐし始め、新聞を見たまま箸で摘むと口へと運ぶ。
その様子を梨華ママはじっと眺めていた。
「ねぇ、あなた」
「なんだ?」
梨華パパは顔を上げた。
その表情は、心なしか嬉しそうだ。
「食事の時ぐらい新聞読むの止めたら?」
「……そうだな」
梨華パパは、つまらなそうに新聞を二つ折りにしてテーブルの上に置いた。
一口味噌汁を啜り、顔を上げる。
「おっ、味噌変えたのか?」
「えぇ、よく分かるわったわね」
梨華パパは満足そうに頷くと、食事を続けた。
- 69 名前:17 投稿日:2002年11月01日(金)21時57分16秒
- ―おしまい―
- 70 名前:sorari 投稿日:2002年11月01日(金)21時58分12秒
- 更新終了です。
前回、スポンサーを募集したところ、思いのほか多くの企業からの
申し出がありました。ありがとうございます。
皆様のご期待に添えるよう、今後も満身創痍でやらせていただきます。
本日から、ご覧の提供でお送りいたします。
- 71 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2002年11月01日(金)21時59分36秒
- 七夕の織姫と彦星を思い出しました。
本当に切ない話をありがとうございます。
これからも楽しみにしています。
- 72 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月02日(土)16時30分13秒
- 何気ない日常の中に潜む終末の予感…
>>61から察するに、舞台は死の部屋、なのですね。
恐ろしい世界を垣間見ました。今も震えが止まりません…
- 73 名前:名無し娘。 投稿日:2002年11月02日(土)19時15分41秒
- Oすぎです。
このレスをみているあなた!!この作品を見なさい!!
なんたって愛!愛!愛!この作品を見て泣けないなんて心がどうかしてるんじゃない!
この秋は絶対これで決まり!見ないとフンズケてやる!!
- 74 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月03日(日)09時23分26秒
- >>72
自分はむしろ強烈な「生」への希求を感じて泣いたが・・・。
根底に広義の愛を感じるという点では、>>73に同意。
- 75 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月03日(日)21時42分50秒
- やっぱりあの人の正体は例の人だったんですね。
梨華パパは現代社会の歪んだ家族構造に対する
作者さんの強烈なアンチテーゼと私は捉えましたが…
今この小説が自分の中では一番です。
- 76 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月05日(火)20時18分14秒
- 泣きますた…
漏れだったら、自分の娘がこんな事になったら
正気じゃいられないだろうなぁ…
- 77 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月05日(火)20時39分24秒
- >>76
激しく同意。
考えただけで総毛立ち
- 78 名前:sorari 投稿日:2002年11月08日(金)20時50分33秒
- レスをいただきありがとうございます。
mogeたりhogeたりkogeたりchageたりmageたりkakeたりkikuたりして下さり
感謝の言葉もありません。ですが、Cookieに残ってるので間違えて他のスレ
までmageたりしないよう気をつけて下さいね。追放されますから。
>>71
七夕は意識していません。
>>72
この話に込められた真のメッセージに気づくとは流石ですね。
この事はできれば内密にお願いします。
>>73
「愛」こそ全ての物語の根底にある隠れテーマです。
できればフンズケるのは勘弁して下さい。
>>74
深いですね。この話にそんな意味が含まれていたとは……。
勉強になります。
>>75
はい、そうです。あの人の正体に気づいたのは貴方とミートとケビンぐらいです。
気を付けて下さい。消されますよ。
>>76
美人で有名なご近所の娘さんで想像して下さい。
>>77
ですから美人で有名な(略)
次は、口から砂糖が出るくらい甘々な学園モノです。
- 79 名前:16 投稿日:2002年11月08日(金)20時51分48秒
- 『今日は何色?』
- 80 名前:16 投稿日:2002年11月08日(金)20時57分03秒
- 朝礼の開始を告げる学校のチャイムの音が校内に響き渡る。
ひとみは教室に入ると、足早に窓際の席へと向かい机の上に鞄を置いた。
ひとみのクラスは、担任の教師がいつも5分遅れで来るので
チャイムが鳴ったというのに教室内は騒然として賑やかだ。
教室の窓から覗く空は晴れ渡り、窓からは暖かな陽光が差し込んでいた。
その柔らかい日差しは、秋の冷えた空気を優しく温めてくれる。
「おはよーよしこ」
ふいに呼ばれて振り向くと、栗色に染めたさらさらの髪を肩に流した少女が
柔らかな笑みを浮かべていた。
「ごちーんおはよー」
ひとみが挨拶を返すと、少女は空いている前の席の椅子を引いて腰を下ろした。
淡い栗色の髪が太陽の光に透けて金色に光る。
ひとみは、クラスメイトであるその少女、後藤真希の綺麗な髪を羨ましいと思った。
自分には似合わないかな、と思いつつ、もう少し髪を伸ばしてみようかと考える。
- 81 名前:16 投稿日:2002年11月08日(金)20時59分16秒
- 思案顔のひとみを、真希は面白そうに見つめていた。
はぁ、と溜息をつくその表情に、いつもの覇気が感じられない。
元気がないその理由は、真希には何となくであるが分かっていた。
「よしこ、元気ないねぇ」
「そう? そんなことないよ」
「梨華ちゃん、今日は遅いね」
「うん、そうなんだ。何時もだったらもう来てるのに……」
そう言うと、小さく溜息を漏らして校庭に視線を向ける。
真希は、その心配そうな吉澤の横顔を見て楽しそうに微笑みを浮かべた。
「よしこって、梨華ちゃんのこと大好きなんだね」
「えっ? ちがうよ、そんなことない!
ほら、梨華ちゃんって女の子しててうざいしそれに……」
「ふふ、とぼけても無駄だよ。顔にオナンスキーって書いてある」
「えぇっ!?」
真希は、顔を両手で隠してあたふたと狼狽えるひとみを楽しそうに見つめながら
声を殺して笑っていたが、次第に我慢できなくなり、けたけたと笑いだした。
- 82 名前:16 投稿日:2002年11月08日(金)21時02分11秒
- ひとみはようやく騙されたことに気づき、顔を赤らめながら真希を睨みつけた。
だが、真希の、してやったり、と微笑んでいる姿を見ると、
とたんに顔を緩ませ笑みを溢してしまう。
素晴らしい悪戯を思いついた子供のような、無邪気で、屈託の無い笑顔。
真希は、ひとみをからかう時はいつもそんな顔をする。
真希のそんな笑顔を見ていると、ついつられて笑ってしまう。
ひとみは真希の子供染みたそんな仕草が好きだった。
その後も、お決まりのように軽口をたたきあいながら冗談交じりに会話をしていると、
二つ隣りの席で屯っている男子生徒の声が聞こえてきた。
「なぁ、今日の石川のパンツは何色やと思う?」
「白だろ」
「いや、あいつは黒やろ」
「赤だよ赤。間違いないって」
「よぉし、じゃあ賭けようや。負けた奴昼飯おごりでどーや」
教室であるというのにサングラスを掛けたリーダー格の金髪の男が賭け持ち出す。
ヘルメットのような髪型の茶髪の男がそれに賛同し、
眉毛の薄いのぺっとした長身の男は笑いながら頷きを返した。
彼等はバンド仲間のようで、いつも三人で連んで行動していた。
余談だが、金髪の男とヘルメットの男は相当仲が良いらしい。
- 83 名前:16 投稿日:2002年11月08日(金)21時03分55秒
- ひとみは彼等の会話を聞いて、面白くなさそうに顔を顰める。
そんなひとみに不安を感じたのか、真希は心配そうにひとみを見つめていた。
「あいつら何勝手なこと言ってんだ!? ちょっと注意してくる」
「よしなよよしこー」
真希が止めるのを聞かず、ひとみは席を立つと、男子生徒達のもとへと向かった。
ひとみの気配に気づいて彼等は談笑を止め視線を向ける。
ひとみは立ち止まると、腰に手を当て睨むように彼等を見下ろした。
「ちょっとあんたたち」
「あぁ? なんや吉澤」
金髪の男は苛立たしげに立ち上がるとひとみを睨みつける。
ひとみは女子にしては背が高い方であるが、
さすがに金髪の男が立ち上がるとひとみを見下ろした姿勢になる。
しかし、ひとみは気圧される風でもなく金髪の男を見上げていた。
- 84 名前:16 投稿日:2002年11月08日(金)21時06分08秒
- 気まずい雰囲気が教室内に浸透し、先程の喧騒が嘘のように静まり返る。
長身の男は万一の時の為に直ぐ止めには入れるように身構え、
ヘルメットの男は瞳をキラキラさせながら金髪の男を見上げていた。
そんな中、沈黙を破ったのはひとみのほうであった。
「あんたらバカ? 梨華ちゃんはピンクに決まってんだろ!」
一瞬、彼等はひとみが何を言ったのか理解できないかのように顔を見合わせ、
次に腹を抱えて笑いだした。
張り詰めていた空気が一気に和らいだ。
「おーけーおーけー、吉澤はピンクやな。負けたら昼飯おごりやからな」
金髪の男が薄笑いを浮かべながら言うと、
ひとみは自信に満ち溢れたいやらしい笑みを浮かべる。
「決まりね。まぁ、あたしは負けないけどね。梨華ちゃんピンク以外持ってないし」
「な! お前きたねーぞ!」
そう、つーちゃん、まー坊の愛称呼び合うこの二人と同様、
ひとみと梨華も仲の良い事で有名であった。
つまり、ひとみが梨華の下着に詳しくても何ら不思議ではないのである。
金髪の男は勝ち目の無い賭けを持ちかけた事に気づき、逆上するとひとみに詰め寄った。
- 85 名前:16 投稿日:2002年11月08日(金)21時07分11秒
- その時、激しい音を立てて教室のドアが開け放たれた。
自然と視線がドアに集まり、教室に再び静寂が訪れる。
視線が集まるその先には、通学鞄を持った梨華が、一糸纏わぬ姿で突っ立っていた。
いや、上履きとソックスだけは履いているので何も身につけていない訳ではない。
教室まで走ってきたのだろう、苦しそうに呼吸を荒げている。
梨華は、教室に担任が来ていないことを確認すると、満面に笑みを浮かべて言った。
「セッ、セーフ?」
「……いや、アウトだと思うよ」
ひとみの言葉にクラスの生徒全員が頷いた。
この日、一人の少女が伝説となった。
- 86 名前:16 投稿日:2002年11月08日(金)21時07分44秒
- ―おしまい―
- 87 名前:sorari 投稿日:2002年11月08日(金)21時08分50秒
- 更新終了です。
私生活で大事件が起きました。いや、マジで。洒落になりません。
今はまだ小康を保っていますが、じきに更新も儘ならなくなるかもしれません。
しばらくはこのペースでやりたいと思いますが、突然ぷっつり更新が途切れたら
死んだと思ってください。その頃は日本にいないし帰って来れないので……。
- 88 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2002年11月08日(金)21時09分40秒
- 吉澤は本当に石川の事が好きなんだなぁと思いました。
ところで包○手術したら○起してはいけないって本当ですか?
これからも楽しみにしています。
- 89 名前:名無し娘。 投稿日:2002年11月08日(金)21時31分06秒
- えっ!!こんなトリックが隠されていたとは・・・仲間由紀恵もびっくりだ・・・
じっちゃん俺にはこの事件解けなかったよ。だいたい一話完結だと思っていたよ。
作者さん日本に帰って来た時は学生時代でも思い出して野球でもしましょう。
- 90 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年11月09日(土)15時44分34秒
- 作者さん、ゆっくり逝って来てください。
もしもの時は、菩提を弔っておきます。
- 91 名前:sorari 投稿日:2002年12月14日(土)03時33分05秒
- おひさしぶりです。
激しく倉庫行きの予感がするので何か書きます。
- 92 名前:15 投稿日:2002年12月14日(土)03時36分26秒
- 『しりとり』
- 93 名前:15 投稿日:2002年12月14日(土)03時42分49秒
- あたしはとても素敵なお尻をしているの。
それはもう、自慢のお尻。
今日はモーニング娘。のコンサートの打ち上げなの。
あたしは行きたくないけど行かなきゃいけないみたい。
だってもうすぐ18だもの。
立派な大人のな・か・ま・い・り!
そして宴が始りました。
あたし達は炎を囲んでわいやわいやと踊りました。
でも、みんな、なかなかのお尻だけどあたしにはとても敵わないわね。
あたしはとても自慢した。
ランラランララン
ランラランララン
- 94 名前:15 投稿日:2002年12月14日(土)03時45分32秒
「うがー!自慢すんじゃねぇよー!!」
お酒を飲んで真っ赤になったよっすぃーが、すごい勢いでわたしに襲い掛かります。
それはもう、凄いの形相で……。
そして、あたしのお尻を掴むとぐりぐりと抓りました。
「アンビリーボブザーップ!!!」
あたしが叫ぶと、ブチっという音がしたの。
「うおーっ!取ったどー――――!!!」
あたしは、涙が止まりませんでした。
- 95 名前:15 投稿日:2002年12月14日(土)03時46分25秒
- ―おしまい―
- 96 名前:sorari 投稿日:2002年12月14日(土)03時47分57秒
- 保全更新なので内容に突っ込まないでください。
レスのお返しは次回更新にやります。
- 97 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月15日(日)03時37分00秒
- 嵐の夜はマーラーが似合いますが、昼間のあわただしい日から開放されて孤独な自分に戻ったとき、
そんな時sorari さんの小説を読むと日ごろのやっつけ仕事で燻って汚れてしまった感性が洗われる気がします。
今回も裏に潜んだ強烈な生に対するメッセージ性を感じ取れる深い文章でした。
sorari さんの文章を読むとき人間の裏に潜む精神の深淵が垣間見えるようで常に緊張します。
なかなか交信も大変でしょうが楽しみにしておりますのでがんがってください。
- 98 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月27日(金)22時54分30秒
- 梨華ちゃんのお尻は平家さんの物だい!
- 99 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月07日(火)22時37分24秒
- 待ってます
- 100 名前:sorari 投稿日:2003年01月14日(火)21時40分02秒
- >>88
しらね。
>>89
二月ほど経ちましたが無事帰って来れました。
つい最近までお花畑で花冠作って遊んでました(汗
>>90
弔っていただけましたでしょうか。
>>97
私ごときの文章に勿体無いお言葉を頂き、大変嬉しく、誠に恐縮至極に存じます。
これからも満身創癡でえーと、そんな感じです。
>>98
願望ですか? 夢をみるのは自由です。
>>99
お待たせしてすみません。
次は、台詞だけで書いてみたいと思います。
- 101 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時41分52秒
- 『はんたぁ×はんたぁ』
- 102 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時42分33秒
「キャ、今ベランダから音がした! 誰かいるの?」
「怖がらないで! あたしだよ、梨華ちゃん」
「よっすぃー? どうして窓から出てくるの? ここ15階よ、どうやってここま……」
「そんなことより聞いて! あたしね、ハンターになったんだ」
「はぁ?」
「信じてないね。いいよ、証拠見せてあげる」
「証拠って何? キャァ! どうしたの、いきなりズボンを脱ぎだすなんて!」
「ふふふ、ちらちらこちらを窺いながら恥かしがる梨華ちゃんも可愛いよ。まってて、今真実を見せてあげる」
「あぁ、とうとうパンティーまで……ドキドキ」
「いくよ、見ててね。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
- 103 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時43分24秒
- 「えっ!? えぇぇぇぇっ!!」
「ふふん、すごいでしょ。これね、【念】能力って言うんだ。この能力身に付けるの大変だったんだよ」
「すご……これ、本物?」
「見えるけどね。違うよ。これは具現化系能力っていってイメージを具現化する能力なんだ」
「……ねぇ、触ってもいい?」
「いいよ。でもちょっとまってね。おりぁぁぁぁ!!!」
「きゃあ! いまぶるんってした! ぶるんって!」
「あはは、ごめんごめん。どう? おどろいた?」
「うん、びっくりした! 突然大きくなるんだもん」
「ふふ、今のが変化系能力。さぁどうぞ、触ってごらん」
- 104 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時43分58秒
- 「あ、柔らかい……それに……温かい」
「それだけじゃないよ。見てて。はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「きゃあ!! 硬くなった!!」
「はぁ、はぁ、これが強化系能力」
「すご……ねぇよっすぃー……いいかな?」
「うん。ふふ、上目遣いで瞳をうるわせてる梨華ちゃんも可愛いよ」
「もう。じゃ、いくね。ん……んん……んんん……はぁ、どう?」
「あ……くっ……はぅぅ……う、うん……凄いよ」
- 105 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時44分51秒
- 「感じてくれてるんだ。梨華うれしい! もっとしてあげるね」
「ま、まって、もっと梨華ちゃんを感じたい……いいかな?」
「え? あ……うん、いいよ」
「それじゃ、いくよ。オラオラオラオラオラァ!!!」
「ああんあんあんあんあんあんあんあん!」
「をぁたたたたたたたたたたた!!」
「あぁんあんあんあんあんあん! すごい! 腰が勝手に動いちゃう!!」
「はは! 操作系能力、一等得意な能力だよ! どう? あたしに踊らされる気分は?」
「す、すごいよ! よっすぃーすごいよ! 頭の中が真っ白になっちゃうよ!」
- 106 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時45分40秒
- 「あはははは、まだまだこれからさ! おりゃ……あれ? おかしいな、もう、やばい、かもしんない……」
「いいよ、よっすぃー、あ、あたしも、もう……」
「うん。はぁぁぁぁぁ……梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃぁん!!!」
「はぁぁぁんよっすぃーよっすぃーよっすぃーよっすぃーよっすぃぃー!!!」
「ユゥゥリィアァァァァァァァァァァア!!!!」
「くぅううっ、はぁぁぁ……あつい、あついのが……いっぱい……よっすぃー……」
「はぁ、はぁ、今のが、放出系能力。はぁ、あたしの、切り札、なの」
「ああ、んん、うん、すごかった、よぉ。でも、よっすぃー、さっき、他の人の名前、呼んだ」
「はは、気づいた? あれはおまじないだよ。ああ言うと威力が高まるんだ」
- 107 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時46分24秒
「よっすぃーの念能力、見せてもらったよ」
「えぇ!? またベランダから声が聞こえた!! 誰かいるの?」
「あぁっ! あなたは矢口さん!!」
「おいらがこんなに近くにいたのに気づかないなんて、修行が足りないね」
「見られてた……矢口さんに見られてた……」
「くっ! 矢口さん、どうしてここに……」
「もちろんあんたを倒すためだよ。いくよ、よっすぃー」
「あぁ、矢口さんがあんな所に指を這わせている! いったいどうなるというの?」
「な!? 突起物があんなに大きく伸びて……まさか!!」
- 108 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時47分19秒
- 「そう、おいらは特質系能力者。指でこすった部位を自在に変形できるんだ」
「あぁ、矢口さんのアレが鞭のようにしなってる! すごい! すごいわぁ!!」
「くっ! あたしも念を……あぁ……急に眠気が……さっき念を使いすぎたか……」
「チャンス! くらえ! にょい棒こうげきぃぃぃ!!」
「あぁ!! 矢口さんのアレが凄い速さで伸び縮みを繰り返しよっすぃーを連打してるわ!! よっすぃーファイト!!」
「キャァァァァァァァァッ!!!」
「ふん、やっぱりその程度なんだ。そんなじゃMの旅団には勝てない。特に団長のアスカには……」
「あぁ、戦いに勝ったというのになんて悲しそうな瞳をしてるのだろう」
「矢口さん。あんたすげぇや」
- 109 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時48分53秒
- 「よっすぃー、ついて来い! おいらが鍛え直してやる」
「あぁ、なんだろう。ドキドキが止まらない! 私たちは今、青春の真っ只中にいるのね! うっとり」
「うおぉぉぉぉっ!! お願いします、矢口さん。いえ、師匠!!」
「そうと決まればさっそく修行だ! いくぞ、よっすぃー! とう!!」
「あぁ、矢口さんが窓から飛び出していったわ。よっすぃー……よっすぃーも行っちゃうのね……」
「梨華ちゃん……まってて梨華ちゃん! あたし、強くなって必ず帰ってくるから」
「ほらぁ、何してんの? 早く行くよー」
「わたし、まってる! よっすぃーのこといつまでも」
「うん、それじゃ行ってくる。 しぃしょぉ〜う、今行きまぁ〜す!!」
「おう、来たか! じゃあねー。ばいばいきーん」
「こうして二人は嵐のように去っていきました。この時私は世界の命運を賭けた壮絶な戦いが繰り広げられる事など知る由もありませんでした。つづく」
- 110 名前:14 投稿日:2003年01月14日(火)21時49分26秒
- −つづきません−
- 111 名前:sorari 投稿日:2003年01月14日(火)21時50分02秒
- やっちゃった
- 112 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年01月14日(火)21時50分41秒
- 終焉を見た気がしました
- 113 名前:名無し読者。 投稿日:2003年01月14日(火)21時56分13秒
- まさかこのような結果になるとは…
真実に気づいた二人はこの先どうなるのかとても心配です。
- 114 名前:名無し娘。 投稿日:2003年01月14日(火)21時59分46秒
- だめだ…。
こんなの読まされたらもう話を書けない。
だめだ、あんた面白すぎるよ。
ラオウの悲しみが伝わってきた。
- 115 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月15日(水)02時31分22秒
- 文中において作者は、「なにか」を明記してはいない。
一方で、読者はその「なにか」を想像せずにはいられない。
しかし、作者が決定的な「なにか」を明示しない限り、読者が何を
想像し、何を語ろうとそれは所詮単なるトートロジーにすぎないのだ。
この小説には、作者の娘小説。の現状に対する痛烈なるアイロニーを感じてならない。
鈴○S(嘘)
- 116 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月03日(月)01時12分56秒
- この世に真実と言う物があるとするなら、それは作者のみが明示しうる命題である。
逆にいえば、それは作者にしか明らかにできないのであって、それを読者が推察
することなどできないのだ。
その意味で、この作品の持つ意義は大きい。
なぜなら、それは作者がその深遠なる意図を読者に伝えようとする努力が見える
からである。
- 117 名前:sorari 投稿日:2003年02月26日(水)01時47分54秒
- お詫び
『はんたぁ×はんたぁ』は、某雑誌で連載されている『HUNTER×HUNTER』
のパロディです。その為、もとネタを知らないと何がなんだかわからない
書き方をしてしまいました。ごめんなさい。
レスをいただきありがとうございます。
なかなかつづき書けてませんが見捨てないでください。
>>112
いしよしに終焉はありません。
>>113
なるようになります。
>>114
ラオウの悲しみ……まさに今回の主題でした。
上手く伝える事が出来てほっとしています。
>>115
考えすぎです。
>>116
努力は惜しみません。
これから幾つか没にした話を書こうと思います。
- 118 名前:13 投稿日:2003年02月26日(水)01時49分58秒
- 『迷惑な来客者』
- 119 名前:13 投稿日:2003年02月26日(水)01時51分12秒
- 「ねぇ、よっすぃー聞いて! 私ね、新しい特技覚えたの!」
懐中電灯で照らされて、私は目を覚ました。
今はまだ真夜中なのだろう、夜の闇に閉ざされて、彼女の持つ懐中電灯が唯一の光源となっている。
「うわぁ、梨華ちゃん! どうしたの、こんな時間に?」
「えとね! えとね! 私、また新しい特技覚えたの! よっすぃーに一番初めに見せたくて急いで来ちゃった!」
「へぇー、ほんとぉ」
懐中電灯で自らの顔を照らすと嬉しそうに話し出す。
全身は闇夜に溶け込み、照らし出されたその笑顔は、さながら生首のようだ。
本当に楽しそうに話す彼女の笑顔を眺めながら、私は、スペアキーを渡すんじゃなかったと心から後悔した。
もっとも彼女の事だ、玄関から入ったとは限らないが。
- 120 名前:13 投稿日:2003年02月26日(水)01時52分12秒
「ちょっと待ってて、今、電気をつけるから」
私は寝る時はいつもベッドに潜ってからリモコンで部屋の電気を消している。
枕付近を手探りでリモコンを探した。
「あ、そうだ、梨華ちゃん、懐中電灯で手元を照らしてくれ……」
明かりが付いた。
「え? なに?」
にこやかに笑顔を浮かべながら、部屋の扉の横に立って、電気のスイッチに指を当てている。
そのまま電気を消して、今日は帰って欲しいと願ったのは言うまでもない。
時計の針は4時を回ったあたりを指していた。
どうやら多少は眠れたらしい。
ここは気持ちを切り替え、朝早くから梨華ちゃんに会えてラッキーと思う事に決めた。
- 121 名前:13 投稿日:2003年02月26日(水)01時52分54秒
「それで、なんだっけ」
「うん、新しい特技を覚えたの。よっすぃーに一番最初に見せたくて。飯田さん直伝なんだ」
「飯田さんの直伝! まじで!? カッケー! どんな?」
私は、彼女の特技に興味を覚えた。
何しろ飯田さん直伝である。
突飛な事をやらかすに違いない。
彼女は感情がすぐに表情にでるから見ていて飽きない。
私が興味ありげに尋ねると、これ以上はありえないだろうと思えるほどの笑顔を向ける。
「えとね、えとね! 今やるから見ててね!」
そう、言い終わるや否や、彼女は人差し指をピンと伸ばし、肘を90度に曲げて腰を落とす。
そして、歌を歌いだすと、その歌にあわせて踊りだした。
- 122 名前:13 投稿日:2003年02月26日(水)01時53分38秒
「キノコノッコノコ、ゲン……」
そして、腕をピンと伸ばすと部屋の隅を指差した。
「キノコォーッ!!」
すると、指を差した場所から茸がにょきにょきと生えてきた。
エリンギ、マイタケ、ブナシメジ、他にもたくさんの種類の茸が確認できる。
少しだけだけど、彼女を尊敬した。
「キノコノッコノコ、ゲンキノコォーッ! キノコノッコノコ、ゲンキノコォーッ!」
歌と踊りは続いていた。
「ゲンキノコォーッ! ゲンキノコォーッ! ゲンキノコォォーッ!!」
- 123 名前:13 投稿日:2003年02月26日(水)01時54分30秒
- 次々と生えてくる茸の群れ。
私は、呆けたようにその様子を見入っていた。
室内はたちどころに茸に占領されていく。
「はっ! うわーっ! 止め、止めーっ!!」
「ゲンキノコーッ!? ってあぶなぁい!!」
私は特技を止めさせようと飛び出した。
当然である、部屋を森にする気もないし茸に囲まれた部屋に住みたいとも思わない。
しかし遅かったようだ。
彼女は、既に勢い良く腕を伸ばして床の空いたスペースを指差していた。
ちょうど私はそのスペースと彼女の間に滑り込むように飛び込んだのだ。
ぴょこん、と茸が飛び出した。
「もう、急に前に出たらだめだよ!」
そう言って私の正面でしゃがみ込むと、生まれたばかりの茸を優しく撫でた。
窓から差し込む光が、朝の訪れを知らせた。
- 124 名前:13 投稿日:2003年02月26日(水)01時55分07秒
- ―おしまい―
- 125 名前:sorari 投稿日:2003年02月26日(水)02時00分34秒
- 更新終了です。
没にした理由は、内容が意味不明だしいまいちだしオチがすぐ読めるからです。
早ければ今日中にもう一度上げれると思います。遅くても明日中に何とか……。
没ネタだしね!
- 126 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年02月26日(水)02時06分15秒
- レスをしようか迷いましたがレスをせずに入られませんでした。
マジ感動しました!どこかで聞いた歌ですね。
あー、なんだっけかなー。どっかで聞いたことあるんですよ、ほんと。
この間も気がついたら口ずさんでいましたし。
そういうことありますよね。
- 127 名前:sorari 投稿日:2003年02月26日(水)04時43分24秒
- >>126
レスありがとうございます。
いや、ほんと、レスがないとさみしいですよね(鳴)
没ネタ第二段です。
- 128 名前:12 投稿日:2003年02月26日(水)04時44分09秒
- 『午後の喫茶店』
- 129 名前:12 投稿日:2003年02月26日(水)04時45分25秒
- 私は今日も、喫茶ジュマペールに立ち寄っていた。
喫茶ジュマペールは大通りに面した可愛い喫茶店で、店内も割と広くゆったりとしている。
この喫茶店のポテト料理は絶品で、飲食系の雑誌でも紹介されるほどだ。
ちなみに紅茶とのセットがお勧めである。
私がどうしてこの喫茶店に立ち寄るようになったのか、
もちろん、喫茶店の雰囲気を気に入ったというのもあるのだが、
一番の理由は、最近付き合い出したよっすぃーと待ち合わせをしているからである。
私は、この近辺では有名なお嬢様学校、白百合女学院の高校三年生である。
白百合女学院は県内で一、二を争うほど学費が高い事で有名であるが、偏差値はそれほどでもない。
何より制服が可愛い。
まさに、お嬢様育ちの私に御肬え向きの学校である。
そして、よっすぃー、本名、吉澤ひとみは、風林館高校に通うとても綺麗な女の子だ。
私達は、ふとした偶然で出会い、そして、恋に落ちた。
それからというもの、二つの学校のちょうど中間に位置するこの喫茶店で待ち合わせをするのが常となった。
- 130 名前:12 投稿日:2003年02月26日(水)04時46分27秒
- 私は紅茶に口をつけると、ゆっくりとソーサーにティーカップを戻した。
そして、道路側の壁一面に張られたガラス越しに、外の様子を窺っていた。
その時、喫茶店のドワが開く際の、小さな呼び鈴の音が聞こえた。
よっすぃーかもしれないと視線を向けると、全身を黒で統一した洋服を着て、
おそろいの黒い帽子にサングラスをかけた二人組の女の子が店内に入ってきた。
顔が見えないので年齢まではわからないが、どちらも若そうである。
そのうち、背が低い方の女の子が黒い革の鞄をレジに置くと、中からナイフを取り出した。
店内は水を打ったような静けさに包まれ、店員の息を呑む声がここまで聞こえたような気がした。
- 131 名前:12 投稿日:2003年02月26日(水)04時48分39秒
「あんた、この鞄にジャガイモをつめな! 早くするべ! 命が欲しくないべか!」
「この人は本気ですよ。逆らわない方が身のためです。完璧です」
青ざめた顔をしたレジの女の子は、弾かれたように鞄を持つと、厨房へと駆け出した。
厨房の奥で、「店長! 店長!」と叫ぶ声が聞こえてくる。
「新ジャガは入れるんじゃないべ! 新ジャガは足がつくべさ」
「完璧ですね。はい」
背が低い女の子が厨房に向って叫ぶと、もう一人の黒髪の女の子が満足そうにあいづちを打つ。
その時、パトカーのサイレンの音がこちらに向って近づいて来ていた。
店内にざわめきが起きる。
- 132 名前:12 投稿日:2003年02月26日(水)04時49分25秒
「ち、サツを呼びやがった! 紺野、逃げるべ!」
「あ、今、名前呼びませんでした?」
「しらないべ。それよりも早くするべ。なっちはまだ前科ものにはなりたくないべ」
「……そうですね」
そう言うと、二人は不安そうに互いを見つめ、そして、出口へと駆け出した。
ドワを開け、外へでる間際に、黒髪の方の女の子は一度振り返り、店内を見渡した。
「おまえらさいてーだ」
そして、勢い良くドワを閉めると脱兎のごとく駆け出し、
あっという間に店内からは見えなくなってしまった。
その後、2人がこの喫茶店に現れる事は無かった。
- 133 名前:12 投稿日:2003年02月26日(水)04時50分01秒
- ―おしまい―
- 134 名前:sorari 投稿日:2003年02月26日(水)04時52分24秒
- 更新終了です。
今回の没の理由はいしよしがほとんど関係ないからです。
没ネタで後2、3回やろうと思います。
次回更新は明日か明後日になります。
- 135 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年02月26日(水)04時54分27秒
- この話の細かい分析と評価は僕には出来ない。
しいていえば、紺野の台詞そのままですね(誉め言葉)
- 136 名前:sorari 投稿日:2003年02月28日(金)23時35分29秒
- のんびりと構えていたら時間がなくなってしまいました。
しばらくの間書くことに集中したいのでレスはご遠慮ください。
次ぎ書きます。
- 137 名前:11 投稿日:2003年02月28日(金)23時42分15秒
- 『ライフライン』
- 138 名前:11 投稿日:2003年02月28日(金)23時45分12秒
- 「うそつき」
「え、どうしたの、いきなり」
仕事帰りの別れ際、タクシーを降りる直前に梨華ちゃんが突っかかって来た。
- 139 名前:11 投稿日:2003年02月28日(金)23時51分55秒
- 「本当は欲しいくせに、どうしていらないなんて言うの?」
「だから、いったい何の話を……」
「とぼけても無駄だよ。私、知ってるんだからね」
「とぼけてないよ。本当に何の事だかわからない」
「そう、だったら聞くけど、この二日間どうしてたの? その気になったら
よっすぃ―の方から電話だって何だって出来たのにして来なかったじゃない!
私の方から電話をしてくるのを待ってたんでしょ! メールだって何度も
来ていないか確かめてたでしょ! 私知ってるんだからね!」
- 140 名前:11 投稿日:2003年02月28日(金)23時54分09秒
- 「ああ、電話ね。繋がらなかったんだ」
「またうそついた! たった二日だけ繋がらないなんてあるわけ無いじゃない!
もっとマシなうそをついたらどうなのよ!」
「もしかして、電話しなかった事を怒っているの?」
「違うわ! うそをつくからよ!」
「ついてないよ。梨華ちゃんこそ変な言いがかりやめろよ」
「あ、逆ギレ?」
- 141 名前:11 投稿日:2003年02月28日(金)23時56分34秒
- 「はぁ、もううっさいなぁ。こんなの……」
「壊せるの? 携帯。無理よね」
「……どうしたらいいの。どうして欲しいの?」
「だから、素直に私に電話をして欲しいって言ったらいいのよ」
「……電話、待ってるから……」
「うん! 電話するね! じゃあね、ばいばい」
「ばいばい」
- 142 名前:11 投稿日:2003年02月28日(金)23時57分17秒
- そして、私を降ろすと梨華ちゃんを乗せたタクシーは遠ざかっていった。
- 143 名前:11 投稿日:2003年02月28日(金)23時57分47秒
- ―おしまい―
- 144 名前:sorari 投稿日:2003年02月28日(金)23時58分28秒
- ごめんなさい。やっぱり欲しいです。感想ください。
- 145 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年02月28日(金)23時59分11秒
- 感想書いてるじゃんかよ。俺だけじゃ不満なのかよ!
- 146 名前:sorari 投稿日:2003年03月01日(土)00時32分42秒
- >>145
不満です。
次は、没ネタ第三段です。
- 147 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時33分14秒
- 『(ё)』
- 148 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時34分11秒
- こんばんは、新垣です。
皆さんもご存知のように、私のチャームポイントはこのまゆげです。
このように、動きます、動きます、さ ら に 動きます。
この他にも私の特徴を述べれば、この浮き出した前歯がございます。
別に私は出っ歯ではありません。
いえ、ありませんでした。
では、何故このように歯が前と突き出しているのか。
今日はその理由について話したいと思います。
そう、あれは、今日のように雪が降り出した、寒い日の出来事でした。
- 149 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時35分27秒
- 私達は、某スタジオの楽屋で、撮影までの待ち時間をメンバーのみんなと
過ごしていました。
朝からぱらぱらと降り出した雪は、午後にはすっかり止んでいたのだけど、
それでも、凍えるほどの寒さに変わりはありません。
だけど、楽屋内はそれとはまるで対照的に熱気に包まれ、暖かな賑わいを
見せていました。
私は、吉澤さんの隣の席に座ると、吉澤さんが先ほどまで読んでいた漫画を
読み始めました。
「ねぇ、よっすぃー」
「え? なに?」
見ると、石川さんが吉澤さんに話し掛けていました。
吉澤さんが答えると、小鳥のように唇を突き出します。
- 150 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時36分12秒
「キスして」
「…………は?」
「だ、か、ら、キスして!」
「……無理だって」
「どうしてぇ? 私の事キライ?」
「いや、別に嫌いじゃないんだけど」
「だったらキスして」
「いや、だからみんな見てるし」
「見てないよ。ね、みんな、見てないよね」
- 151 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時36分51秒
- 石川さんは同意を求めるようにみんなに尋ねます。
私達は、頷くしかありませんでした。
「ほら、見てないって!」
「……見られてるじゃん」
そのうち、いつまでたってもキスをしようとしない吉澤さんに業を煮やし、
ついには駄々をこね始めました。
- 152 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時37分54秒
「んもう! 私はキスして欲しいの!
今すぐ欲しいの! キスが欲しいの!
よっすぃーにキ、ス、し、て、ほ、し、い、の!
キスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ……。
すごい! キスを繰り返して言うとスキになった!
もうキスをするしかないわね! キスしてよ!
ね、キスしよ。キースッ! ねぇ、いいでしょう?」
- 153 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時38分39秒
- 余りの勢に押され、吉澤さんもとうとう観念したのか小さくため息をつきます。
「わかった、わかったから……目を瞑って……」
「うん!」
そうして目を瞑ると、じっと吉澤さんのキスを待っているようでした。
その時、すぐ傍でつぶさに観察していた私を捕まえると、石川さんの
前へと突き出したのでした。
石川さんの両腕は、まるで、獲物を待ち構えた罠のように私を捕らえて
放しません。
「新垣、ごめん」
「え? ちょ……ん」
そして、私は強引に石川さんと口付けを交わしました。
- 154 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時40分06秒
- それはもの凄い吸引力で、頭蓋骨が口から飛び出すのではないかと
思えるほどでした。
全身に悪寒が走り、ぽつ、ぽつと鳥肌が立つほどです。
それが、私の命を救いました。
「キャ! 鳥! ……あれ? 鳥いない……」
私はようやく石川さんから開放され、その場に崩れ落ちると、
そのまま泣いてしまいました。
「あれ? なんで新垣泣いてるの?」
石川さんは不思議そうにしていました。
- 155 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時41分04秒
- その日、私はファーストキスを石川さんに奪われ、初めて殺されそうになり、
生まれて初めて恐怖を覚え、理不尽さに悲しみ、吉澤さんを恨み、
モーニング娘。に入った事を後悔しました。
その時の後遺症で、私の前歯は若干飛び出したままになってしまったのです。
そして、私は大人になりました。
- 156 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時41分40秒
- これが、私の前歯にまつわる真実です。
もちろん、信じる信じないは皆様の自由です。
ですが、あの日以来私の前歯が飛び出てしまったのはまぎれもない現実です。
皆さんも気をつけてください。
恐怖は、すぐそばまで迫って来ているかも知れません。
ほら、あなたのすぐ後ろにも……。
- 157 名前:10 投稿日:2003年03月01日(土)00時42分21秒
- ―おしまい―
- 158 名前:sorari 投稿日:2003年03月01日(土)00時43分19秒
- 更新終了です。
今回の没の理由は、新垣が大人になったからです。
- 159 名前:sorari 投稿日:2003年03月01日(土)04時17分47秒
- 次ぎいきます。
- 160 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時18分24秒
- 『星になった彼女』
- 161 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時19分35秒
- 鍵は開いていた。
金属の扉はひんやりと冷たく、表面は夜露に濡れていた。
取っ手を握りゆっくりと押すと、扉は、微かな擦れる音を立てながら開いた。
夜の湿った冷たい空気が流れ込み、火照った体は急激に冷やされてゆく。
面前には真っ白いコンクリートの床と、僅かに星が浮かぶ夜の空が広がった。
吉澤は、夜の学校へと来ていた。
- 162 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時20分20秒
- 制服の上に藍色のコートを着て、左手をポケットに突っ込んだまま、
荒れた呼吸をゆっくりと整える。
そして、屋上へと出ると、周囲を窺いながら静かに歩いた。
ふと、その足が止まる。
吉澤の視線の先には、石川がいた。
- 163 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時21分12秒
- 石川は、屋上の手摺を超えて、縁の上に立って夜空に浮かぶ月を眺めていた。
後一歩先には、何も無い空間が広がっている。
吉澤が一歩近づくと、その気配を感じたのか、体ごとゆっくりと振り向いた。
吉澤に視線を合わせると、口元に笑みを浮かべて微笑んだ。
「月を見てたの」
そう言うと、上体だけで振り向き月を眺める。
「月を見てたらね、綺麗だなーって見蕩れちゃって、時間も忘れてずっと眺めてた」
そして、微笑みながら「だからね、よっすぃーの事待ってたんじゃないんだよ」と
付け加えた。
- 164 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時22分04秒
- 吉澤は、石川になんと声を掛ければよいのかわからなかった。
石川が笑うほど、楽しそうに話すほど、胸が締め付けられる。
ポケットに入れたままの左手に力がこもる。
吉澤は、ゆっくりとポケットから左手を出した。
左手にはクシャクシャとなった手紙が握られていた。
「これ」
そう言うと、ゆっくりと左手を前に持ち上げる。
石川は、左手にあるものに気づくと、少しだけ可笑しそうに笑った。
- 165 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時23分11秒
「あぁ、それ。よっすぃーにだけは、きちんと“さよなら”をしておきたかったの。
よっすぃーは、世界でただ一人の味方だから」
「駄目だよ梨華ちゃん。死んじゃ駄目だ」
今にも泣き出しそうな震えた声で吉澤は言う。
石川は、小さく横に首を振った。
「私ね、イジメにあってたんだ」
まるで他人事のように過去形で話すと、
吹っ切れたように迷いの無い明るい笑顔を見せた。
- 166 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時24分35秒
「……知ってるよ。知ってて、見ないようにしてた。あたし、怖かったんだ。
梨華ちゃんを庇ったりしたら、あたしも苛められるんじゃないかって、
あたし、強そうに見えるけどほんとはそんなに強くない。強くないんだ。
でも、あたしはもう逃げない。あたしが梨華ちゃんを守る。
あたし、強くなるよ。だから、お願いだから、こっちに来てよ」
石川は、笑顔のまま再び首を横に振った。
「もう遅いよ」
「そんな……」
石川は、両手を広げ、くるりと向きを変えると、縁に沿って歩き出した。
無造作に、危なげなく歩き、再び、くるりと向きを変えて歩き出す。
- 167 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時25分52秒
- 「私ね、もう、誰かを信じて裏切られるのは嫌なの。保田先生も、
初めは同じ事を言ってくれた。でも、苛めてるのが理事長の孫だと
わかると私を裏切ったわ。よっすぃーもきっと……」
「あたしは違う、裏切ったりしない」
「私ね、別に恨んでないよ。保田先生の事も、苛めてた人たちの事も。
みんな大好き、ほんとだよ。ただね」
石川は、立ち止まると吉澤の方を向いた。
「だだ、疲れただけ」
まるで人形のように表情の無い笑みを浮かべる。
その姿がとても綺麗で、余計に悲しかった。
- 168 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時26分31秒
- 「待ってよ。梨華ちゃん、死なないで……」
吉澤には他に言葉が見つからなかった。
ただ石川と、一緒に生きていたい、それだけを望んでいた。
石川にも、吉澤の気持ちが伝わったのだろう、優しく微笑んだ。
今の石川にできる、精一杯の笑顔で笑った。
「ばいばい」
そして、屋上の縁から石川の足が離れた。
そのまま石川はどんどん上昇して星になった。
- 169 名前:9 投稿日:2003年03月01日(土)04時27分09秒
- ―おしまい―
- 170 名前:sorari 投稿日:2003年03月01日(土)04時28分13秒
- 更新終了です。
没にした理由は、オチなかったからです。
- 171 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年03月01日(土)04時30分44秒
- 別れ離れになる2人の今後が気になります
次回更新楽しみにしています。
- 172 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月01日(土)10時11分38秒
- 梨華ちゃん・゚・(ノд`)・゚・
しかし何か間違っている(w
- 173 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月01日(土)17時55分28秒
- 最後の一行がオチの役目を果たしてると思う。
こういうのもちょっと好きです。
- 174 名前:名無し娘。 投稿日:2003年03月01日(土)19時42分11秒
- 石川さんのバニー姿がみたい。
- 175 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月02日(日)10時37分31秒
- 石川さんのむーミン姿がみたい。
- 176 名前:sorari 投稿日:2003年03月04日(火)23時53分56秒
- 感想ありがとうございます!!
思わず小躍りしてしまいました!!
>>171
気になりますね。
>>172
間違ってましたか(w
そう言っていただけでとても嬉しいです(w
>>173
ちょっと好きですか!とても嬉しいです!
目指していた目標が、何となく好きかも、と思わせる作品でしたので。
>>174
よくわかりましたね!
あの後月へ逝った石川さんがバニー姿でもちをついている事を。
>>175
むーミン姿ですか、考えてみます。
ところでむーミンってなんでしょう??
次ぎは、多分最後の没ネタです。
- 177 名前:8 投稿日:2003年03月04日(火)23時54分50秒
- 『空も飛べるはず』
- 178 名前:8 投稿日:2003年03月04日(火)23時55分37秒
- ライト兄弟は言いました。
「俺たちは空を飛べるはず!」
そして、彼らは飛んだ。
私は感動した!
そう、空は飛べるんだ!!
あの青い空を、私は飛んでみせる!!
- 179 名前:8 投稿日:2003年03月04日(火)23時56分42秒
- そして、私は今、屋上にいる。
空は晴れ渡り、太陽はその姿を惜しみなく晒している。
下を見ると、群集がまるで蟻のように蠢いていた。
傍らにはよっすぃーが、籠一杯の焼き芋をもって佇んでいる。
「本当にやるの?」
よっすぃーが心配そうに尋ねた。
私は笑って答えた。
「もちろんよ。今日はいけそうな気がする」
そして、空を仰ぎ、両腕を広げ、そのときを待った。
私はこれから歴史に名前を刻むことになるだろう。
風が止んだ。
私は燃料の芋を大量に胃の中に放り込むと、
勢いをつけて屋上から飛び上がった。
- 180 名前:8 投稿日:2003年03月04日(火)23時57分29秒
- 世界は凄い勢いで回転し、自由落下を始める。
私はガス噴射をしようと下っ腹に力を込めた。
え?
私は驚愕した。
どうやら長年使用しなかった為、発射口が詰ってしまい、
ガスがちっとも出なかったのだ。
地面は見る見る近づいてゆく。
そして――。
プゥ
少し出た。
…………。
……。
- 181 名前:8 投稿日:2003年03月04日(火)23時58分04秒
- 私は今、自由に空を飛んでいる。
肉体という柵を離れ、真の自由を手に入れたのだ。
もう誰も私を止める事ができない。
さようなら、地球。
私は翼を手に入れた。
- 182 名前:8 投稿日:2003年03月04日(火)23時58分38秒
- ―おしまい―
- 183 名前:sorari 投稿日:2003年03月04日(火)23時59分29秒
- 更新終了です。
没にした理由は、ネタがリサイクルだからです。
- 184 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)00時53分44秒
- 『梨華ちゃんの秘密』
- 185 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)00時54分47秒
- 私は、新幹線のシートに深く腰を静め、窓の外を流れる景色を眺めていた。
都会を離れるほど、緑の色彩はより鮮明になり、やがて白に被い尽くされてゆく。
私は逃げていた。
もし、彼女の見つかれば私は殺されてしまうだろう。
彼女の秘密を知ってしまったから。
彼女、石川梨華の秘密を……。
- 186 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)00時55分28秒
- あの日、私は梨華ちゃんを驚かそうとあらかじめ作っておいた合鍵で部屋に侵入していた。
そして、クローゼットの中に隠れると、梨華ちゃんが帰ってくるのを一人待っていた。
梨華ちゃんが部屋へ入るや否や、急に飛び出して驚かそうというのだ。
しかし、日ごろのハードスケジュールの疲れが出たのか、うとうとと居眠りをしてしまった。
- 187 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)00時56分22秒
- 目が覚めると、既に梨華ちゃんは帰ってきているらしく、部屋の明かりが点いていた。
「しまった」
私は居眠りをしてしまった事を後悔しながらクローゼットから飛び出した。
ベッドの上には脱ぎ散らかした洋服が散乱し、バックも部屋の隅に無造作に置かれている。
ふいに、水が流れる音が聞こえた。
音は浴室から聞こえてくる。
どうやら梨華ちゃんはシャワーを浴びているようだ。
- 188 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)00時57分26秒
「そうだ! ふふ」
私は、浴室を覗いて驚かそうと計画した。
「ふんふふ〜ん」
浴室から鼻歌が聞こえてくる。
私は、ドワを開けようと、そっと近づいた。
その時、シャワーの音が止み、ガチャリと内ドワが開く音がした。
- 189 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)00時58分10秒
「キャ、寒い! えっと、かわ、かわっと」
梨華ちゃんの声が聞こえる。
私は、ほくそ笑みながらゆっくりとドワノブを回し、勢いよく開けた。
そこには、ピンク色のカバのような生き物が、
何か皮のようなものに左足を突っ込んでいるところだった。
- 190 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)00時58分57秒
- 突然の出来事に、ピンクのカバは目を見開き、口を開けて両腕を上げてのけぞった。
ばさり、と床に落ちた皮は、背中と思しき場所にチャックがついており、
ぱっくりと開いていた。
私はドワを閉めた。
「み、見た?」
ドワを隔てた向こう側から、チャックを上げる音が聞こえる。
そして、ドワノブが回った。
- 191 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)00時59分29秒
- 私は恐ろしくなって逃げ出した。
そして、一旦自宅へと戻り、急いで旅支度を整えると荷物を持って家を飛び出した。
もう二度と、この家に帰ってくることはないだろう。
不思議と、涙は出なかった。
- 192 名前:7 投稿日:2003年03月05日(水)01時00分09秒
- ―おしまい―
- 193 名前:sorari 投稿日:2003年03月05日(水)01時03分39秒
- 更新終了です。
ずいぶんと無理がありました。
次ぎは3時までに書きたいと思います。
- 194 名前:6 投稿日:2003年03月05日(水)01時19分52秒
- 『ピン・チャポー現る』
- 195 名前:6 投稿日:2003年03月05日(水)01時21分08秒
- 「フッサフッサー! ヒャッホウ!」
某ビルの自動ドワが開き、陽気な西洋人がスキップをしながらビルから出てきた。
僕の名は、ピン・チャポー、ザビエル似の好青年で、今だ独身である。
僕の唯一の悩み、それは、頭の毛が薄いこと。
しかし、今や僕の頭には、フサフサの髪が風になびいていた。
その時、突風が吹いた。
フサフサの髪は、新たな生命を得た生物のように空高く舞い上がった。
- 196 名前:6 投稿日:2003年03月05日(水)01時21分55秒
「あー! 僕の髪がーっ!!」
髪は空を滑るように飛んでゆく。
その後を、僕は必死に追いかけた。
その時だ。
「はっ!」
色白のお嬢さんが浮遊する髪を、ジャンプしてキャッチした。
- 197 名前:6 投稿日:2003年03月05日(水)01時22分29秒
「あぁ、ありがとう、ありがとう」
僕は御礼を言った。
その時、色黒のお嬢さんがどこからともなく駆け出してきた。
「ヘイ! パス! ヘイ! パス!」
色白のお嬢さんの歯が光った。
「オッケー梨華ちゃん!」
色白のお嬢さんは僕の髪を放り投げた。
- 198 名前:6 投稿日:2003年03月05日(水)01時23分05秒
「あぁ」
僕は喘いだ。
髪は色黒のお嬢さんの腕の中へと収まった。
「ヘイ! ヘイ!」
色白のお嬢さんが叫んだ。
「オッケーよっすぃー!」
髪は放物線を描き、再び色白のお嬢さんの下へと飛んだ。
「やめてよ! やめてよ!」
僕は叫んだ。
- 199 名前:6 投稿日:2003年03月05日(水)01時23分40秒
- ―おしまい―
- 200 名前:sorari 投稿日:2003年03月05日(水)01時27分36秒
- 更新終了です。
予想以上に早く書きあがってビックリです。
次ぎは、いしよしに目覚めてから、長年研究してきて発見した法則を
書きたいと思います。正直、かなり危険な内容になっております。
- 201 名前:5 投稿日:2003年03月05日(水)01時28分20秒
- 『いしよしの法則』
- 202 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:2003年03月05日(水)01時29分39秒
- 川o・-・)ダメです…
- 203 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:2003年03月05日(水)01時30分09秒
- 川o・-・)ダメです…
- 204 名前:5 投稿日:2003年03月05日(水)01時30分50秒
- ―おしまい―
- 205 名前:sorari 投稿日:2003年03月05日(水)01時31分55秒
- 更新終了です。
かなり際どい内容ですね。
削除依頼出されないかちょっと不安です。
- 206 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年03月05日(水)01時45分17秒
- もう削除されてます。管理人様、仕事早いですね。
- 207 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時02分33秒
- 『海底都市伝説』
- 208 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時03分59秒
- 一人の老婆が浜辺に打ち上げられた古木に腰を降ろし、海を眺めていた。
波打ち際では、子供達が波と追いかけっこをしたり、貝殻を拾ったりして遊んでいた。
しばらくすると、貝殻を拾っていた少女が、老婆の下へと駆け寄った。
年の頃はまだ4、5才に見えるその少女は、真っ直ぐ老婆に右手を差し出す。
差し出したその手には、乳白色の貝殻が握られていた。
「これあげる」
老婆は、貝殻を受け取ると手のひらに乗せて裏返した。
貝殻の内側の表面は乳白色をしており虹色に光っていた。
- 209 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時04分54秒
- 「おや、綺麗だね。ありがとう。何かお礼をしないとね。
お礼といってもあげれるものなんて何も持っていないけどね。
そうだ、お話をしてあげよう。お嬢ちゃん、聞きたいかい?」
「うん! おねがい!」
老婆は、満足そうに頷くと、古木の横に座るよう少女に手招きをした。
少女は、老婆の横に、ちょこんと腰をかける。
「それじゃお聞き、昔あるところに、ひとみと言うたいそう綺麗な少女がおったそうな」
- 210 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時05分28秒
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
- 211 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時06分54秒
- その日の海はとても穏やかで、温かい日差しの中、ひとみは海を眺めていました。
すると、静かな海面が急に波立ち、巨大な銀色の亀が海から上がって来るではありませんか。
突然の事で、ひろみは茫然と眺めていました。
亀は、陸へ上がると体を地面に降ろし、身動きしなくなりました。
やがて、左脇にハッチが開き、中から綺麗な女の人が降りてきます。
これまで亀だと思っていたのは、実は、亀型の潜水艇だったのです。
亀から出てきた少女は優雅に動き、ゆっくりと階段を下りていきます。
ひとみは、ある事を思いつきました。
この女性を悪漢から救って、お礼に潜水艇に乗せてもらおうと思ったのです。
ひとみは近くで遊んでいる二人の女の子に声をかけました。
- 212 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時07分57秒
「ねぇ、あそこのとろいねーちゃんを苛めてくれない?」
「えー、いやだよぉ」
「なんで苛めなあかんねん」
ポニーテールの女の子は困った顔をし、
お団子頭の女の子はあからさまに嫌な顔をしました。
「いーじゃんか、お小遣い上げるからさ」
そう言うと、ひとみは100円玉を2枚取り出します。
「しゃーないな」
お団子頭の女の子は、200円を受け取ると、一枚をポニーテールの女の子に渡しました。
そして、ゆっくりと浜辺を歩く少女のそばに歩いていくと、すれ違い様に肩をぶつけました。
- 213 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時08分48秒
「きぃやぁあぁっ!!」
少女は、ゆっくりと派手に転ぶと痛そうに顔をしかめます。
「ようよう姉ちゃん。なにとろとろ歩いとんねん」
「気をつけろよー」
「ごぉっつ、ぐぉおめぇんんなぁさぁあぁいぃ!」
少女は、謝る時もゆったりとした動作でした。
「な、なんやねん、おまえ」
お団子頭の女の子は、かるく叩こうと、手を上げました。
その時です。
「そこまでだ!」
声の主はひとみでした。
- 214 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時10分10秒
「弱い者いじめをするとはなんて子だ! 少しお仕置きが必要だね!」
そう言うと、走り込んで空中へ飛び上がり、
お団子頭の女の子に向けて蹴りを繰り出します。
「ま、待ってや、話しがちがぐはぁっ!!」
ひとみの飛び蹴りはお団子頭の女の子に見事命中し、
女の子は派手に吹き飛ぶと地面に2、3度バウンドし、
何度も回転しながら転がりようやく止まりました。
ひとみは素早くもう一人の女の子を睨みます。
- 215 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時11分19秒
- 女の子は、ガクガクと振るえながらポケットから100円を取り出しました。
「こ、これ、返します。ゆ、ゆるしてぐぇっ!!」
強烈な右フックが女の子の溝内に食い込みます。
女の子の体は一瞬浮き上がり、右手からするりと100円玉が零れ落ちました。
そして、そのままその場に腹を押さえて蹲り、
プルプルと震えながら身動きしなくなりました。
「大丈夫だった?」
ひとみは、爽やかな笑顔で亀から出てきた少女に手を差し出します。
「あぁりぃがぁとぉう、ごぉざぁいぃまぁしぃたぁあぁ。
おぉれぇいぃにぃぃ、どぉおぉぞぉ、おぉのぉりぃくぅだぁさぁいぃぃ」
こうして、ひとみは亀の内部へと招き入れられる事になりました。
- 216 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時12分57秒
- 亀の内部は思ったよりも広く、ソファーやテーブルや冷蔵庫など、
生活に必要な調度品は一通り揃っていました。
「どぉうぅぞぉ」
少女は、ゆったりとした動作でお茶を勧めます。
ひとみは、お茶を受け取ると一息に飲みました。
すると、どうした事でしょう、突然体が熱く火照りだしました。
「ウワァ、すごい熱い、これ、何だったの?」
「大丈夫だよ。火照ってるのは直ぐに収まるから」
少女の言う通りでした。
体の火照りは徐々に収まってゆきます。
- 217 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時13分53秒
「そのお茶を飲むと、私たちと同じ時間軸でお話できるの。
やっと普通にお話できるね。私はチャーミー。助けてくれてどうもありがとう!」
何時の間にか、チャーミーはひとみと同じテンポで話せるようになっていました。
どうやら、お茶の効力のようです。
「うちは吉澤ひとみ」
「ひとみちゃんかぁ」
ひとみは下の名前で呼ばれ、照れくさそうに鼻の頭をかきます。
「ひとみちゃんはよしてよ。吉澤でいいよ」
「えー、じゃ、よっすぃーでいいでしょ?」
「まぁ、ひとみちゃんよりはマシか」
こうして、二人はよっすぃー、チャーミーと呼び合うようになりました。
- 218 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時15分09秒
- 「ねぇ、助けてくれたお礼に家に招待したいんだけど、来てくれるよね」
「もちろんだよ」
まさに願ったり叶ったりです。
こうしてひとみは、亀に乗って海底へと潜る事となりました。
亀の頭部と思しき操縦席では、美しい海底の様子を一望する事が出来ました。
やがて、光さえ届かない深い場所へと到達します。
亀の目から発せられる人工的な光を頼りに、より深い場所へと潜っていきました。
やがて、下方に幻想的な光を放つ、ドーム状の膜のようなものが見えてきました。
まるで、シャボン玉のようなその綺麗な透明の膜の内側には、
美しい建物が建ち並び、様々な光を発していました。
ドーム内には、亀と同型の潜水艇の他にも、
エイ型や、ヒラメ型の潜水艇が幾つも見かけられます。
そこは、遥かな海の奥深くに作られた海底都市だったのです。
- 219 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時16分19秒
- 亀は、ドーム状の膜に触れると、するりと通過しました。
そして、居住区と思われる場所へと遊泳すると、
海底の砂を巻き上げながら、ゆっくりと海底に足をつけました。
そのまま、のそのそと歩き出します。
やがて、亀は、豪華な屋敷の中へと入っていきました。
屋敷へと到達すると、亀は足を止め、潜水艇のハッチを開きます。
すると、海水が内部へと流れ込んできました。
「うわぁ! 溺れる!」
ひとみは慌てて息を止めます。
水の勢いは思いのほか緩やかで、濃霧のような濡れたかどうかわからない
感触しかしませんでした。
- 220 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時18分19秒
「大丈夫だよ。この水は外の海水と違って比重が小さいの。
呼吸だってできるのよ」
ひとみは、チャーミーに言われて試しに少しだけ水を吸い込んでみました。
水は肺を満たし、呼吸が楽になります。
多少の息苦しさはあるものの、呼吸をするのに支障はありませんでした。
ひとみは、チャーミーに続いて潜水艇から降りました。
すると、屋敷から少女が駆け出して来て、チャーミーに抱きつきます。
「お姉さま、お帰りなさい! 地上への旅行はどうでしたか?」
「うん、それがね、亀から降りた途端に地上の女の子に苛められちゃった」
少女はとても驚き、口を開けて目をまん丸にしました。
- 221 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時19分11秒
「まぁ、それで大丈夫でしたの?」
「うん、よっすぃーが助けてくれたの」
「よっすぃー?」
名前を呼ばれて、隣に立っていたひとみは軽く会釈をします。
少女は、初めてひとみの存在に気づいたのか、再び驚いた顔をします。
「どうも、吉澤ひとみです」
「あぁ、申し遅れてすみません。わたし、ラブリーって言います。
お姉さまを助けてくださって、本当にありがとうございます」
ラブリーは深々とひとみにお辞儀をするのでした。
- 222 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時19分49秒
- その後、ひとみは二人に屋敷の中へと通され、歓迎を受けたのでした。
ひとみの前に出される料理はこれまで見たこともない豪華なもので、
どれも、極上の美味しさでした。
あまりの楽しさに、月日も忘れて遊びほうけ、チャーミーにお世話になるうちに、
次第にひとみは、チャーミーに惹かれてゆきます。
一方、チャーミーも、ひとみに特別な感情を抱いていました。
ですが、ひとみは地上のことを忘れたことは一度もありませんでした。
月日が流れるほど、地上が恋しくなっていきます。
- 223 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時20分53秒
- そして、十数年の月日が流れ、海底都市での遊びに空きてしまうと、
ひとみは地上へ帰ることを決心します。
チャーミーは分かれることをとても悲しみました。
しかし、ひとみの決心を変えることはできませんでした。
亀はチャーミーとひとみを乗せると、地上を目指して泳ぎ始めました。
そして、ついに地上へたどり着きます。
- 224 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時21分50秒
- チャーミーは、ひとみに最後の挨拶をすると、黒い小箱を渡します。
「良く聞いて、今、よっすぃーは地上とは全く違う時間軸にいるの。
だから元に戻さないといけない。この小箱を空けると、元の時間軸に戻れるわ。
だけど、戻るかどうかはよっすぃーが判断して」
そして、ひとみの頬にお別れのキスをします。
「さようなら、よっすぃー。楽しかった」
「うちもだよ。ちゃーみー、元気で」
そして、ひとみは亀から降りました。
亀は、ひとみが降りるとゆっくりと海へと戻ってゆきます。
そして、亀が完全に海中へと消えてしまうと、改めて周囲を見渡しました。
- 225 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時23分01秒
- ひとみは驚愕しました。
依然、知っている風景とはあまりにも違っていたのです。
一瞬、帰って来た砂浜を間違えたのではないかと思ったほどでした。
それだけではありません。
世界が、すごい勢いで動いているではありませんか。
砂浜で遊ぶ子供たちの動きを目で捕らえるのがやっとで、
早口で何をしゃべっているのかも解かりません。
ここで、ひとみはチャーミーを始めて見かけた時の事を思い出しました。
今、ひとみはあの時のチャーミーと同じように周りには亀のように遅く見えているはずです。
この状態は、あまりにも危険でした。
今のひとみには、何気なく投げられた小石も、メジャーリーガーの剛速球のように感じ、
子供のか弱いパンチも、プロボクサー以上のパンチに感じることでしょう。
- 226 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時24分01秒
- ひとみは、チャーミーの言葉を思い出しました。
小箱を空ければ時間軸が元に戻ると。
ひとみは迷わず小箱を空けました。
すると、中に入っていた液体は空気に触れて途端に水蒸気と化します。
その水蒸気は、ひとみを包み込むと呼吸する度に肺をみたし、皮膚からも
直接浸透していきます。
そして、体が急激に熱を帯びて、熱くなっていきます。
やがて、水蒸気が晴れると、ひとみはおばあさんの姿になっていました。
- 227 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時24分33秒
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
- 228 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時25分54秒
- そこまで聞いて、少女は首を傾げた。
「どうしてひとみお姉ちゃんはおばあさんになったの?」
「ひとみも、そのことが不思議で仕方がなかった。
だから、何日もこの砂浜で考えたんじゃよ。
そして、一つの答えを見つけた」
少女は好奇心できらきら輝いた瞳を老婆に向けた。
「答えって?」
老婆は、砂浜に落ちている小枝を拾うと、地面に30センチ程の円形を書いた。
- 229 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時26分49秒
「この丸が地球だとするよ。お嬢ちゃんも知ってのとおり、
地球は真ん丸い形をしている」
そして、その円の内側と外側に同じように円を描く。
「この内側の円と、外側の円は、同じ地球の円の周りにあるのに
長さがまるで違うじゃろ」
少女は頷いた。
老婆は、今度は円の隣に長さの違う2本の線を引き、
それぞれ短いほうの左端にA,長いほうにはBと書いた。
そして、A線の右端に100m、B線の右端に500mと書くと、
一番上に1分と書いた。
1分
A―→100m
B―――――――――→500m
- 230 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時28分08秒
- 「いいかい、Aの線を内側の線、Bの線を外側の線とするよ。
これはね、地球の周りを一回りするのにかかる時間と距離、
つまり、同じ時間内で動ける距離を現している。
つまり、一分間という時間内で、BはAの5倍の距離を動いている。
だからBの方が5倍すばやく動けるってことになる。
これで、海底に住んでいるチャーミーの動きが遅いのも説明できるじゃろ」
「そっか、海の底はここよりもずっと内側にあるもんね」
老婆は満足そうに頷く。
「そうじゃ、そして……」
今度はAの線をBど同じ長さにして、100mと500mを
それぞれ5分、1分と書きなおした。
そして、上に書いた1分を消すと、500mと書きなおす。
500m
A―→―→―→―→―→5分
B―――――――――→1分
- 231 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時29分02秒
- 「同じ500mを動くのに、Aだと5分、Bだと1分ですむ。
わかるかい、Aの時間帯でBと同じ場所に立つと、
同じ500mを進むのにも4分も開きが出るんじゃ。
つまり、AはBよりも5倍早く時間が進むということじゃ」
「そっかー、ゆっくり動くのに時間が早く進むって変だね」
「ここまで解かったようじゃね」
「うん!」
- 232 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時29分55秒
- 「それじゃ続けるよ。さっきも言ったように地底も地上も
1日にかかる時間は同じじゃ、違うのは、流れる速さじゃな。
そして、ひとみは海底に十数年いた。
そして、同じく地上でも十数年の年月が流れたんじゃ。
だが、地底の時間は地上よりも5倍のスピードで流れている。
つまり、ひとみは5倍の時間の中で十数年過ごしたことになるんじゃ。
そして、チャーミーが時間軸を元に戻すといった本当の意味は、
二つの時間軸を行き来して狂った時間も元に戻すということ、
つまり、5倍の速さで過ごした時間が、地上時間で過ごした時間と
なってしまったんじゃよ」
「うーん、良くわかんない」
- 233 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時31分15秒
- 「そうじゃのう、海底では十数年を過ごしたのじゃが、
実際は地上の5倍の速さで時間が流れていた。
そして、地上の時間軸に狂った時間軸を合わせたとき、
過ぎ去った5倍もの時間の流れが一気に押し寄せた、
と言えば解かるかの?」
「うーん、つまり、50才余計に年をとっちゃったってこと?」
「まぁ、そんなもんじゃ、もっとも5倍という単位も仮にもうけただけで、
実際はもっと長いかもしれんしもっと短いかもしれん」
「不思議な話だね」
楽しそうな少女の微笑みに、老婆は満足そうに頷く。
「楽しかったかい?」
「うん!」
少女は頷くと、にっこりと笑って可愛い八重歯を覗かせた。
- 234 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時32分21秒
- 「そういえば、昔、この辺りにいじめっ子がいて、
ママもお腹をぶたれたことがあるって言ってた。
お風呂に入ったとき、その時の痣を見せてもらったんだ。
そのいじめっ子は亀さんに乗って海に行っちゃったんだって。
もしかしたら、本当の話なのかもしれないね」
老婆は驚いて少女を見つめた。
そして、少女に話しかけようとすると、遠くで少女を呼ぶ声が聞こえた。
声のほうをみると、長い黒髪を後ろに束ねた若い女性が、
こちらに向かって歩いていた。
「あ、ママだ」
- 235 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時33分26秒
- 少女は立ちあがると母親へ向い駆け出した。
そして、1度振り向くと、「ばいばーい」と元気に手を振った。
やがて日も傾き、海が赤く染まる頃には、老婆は砂浜で一人になっていた。
老婆は、少女から受け取った貝殻をじっと見つめていた。
貝殻の内側は、変わらず虹色に光っている。
まるで、話に出た海底都市を覆うドームのように。
やがて、貝殻の内側に一粒の涙がこぼれ落ちた。
- 236 名前:4 投稿日:2003年03月05日(水)04時34分19秒
- ―おしまい―
- 237 名前:sorari 投稿日:2003年03月05日(水)04時35分03秒
- 更新終了です。
この話の教訓は、美味しい蜜は一生吸い続けろってことです。
- 238 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年03月05日(水)04時35分37秒
- 海がめが涙する理由がわかりました。
- 239 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月05日(水)12時24分20秒
- とうとう4まできてしまったんですね。
カウントダウンに、わくわくしつつ淋しさを感じます
20のまえがきをはじめて読んだ日が懐かしい
- 240 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月05日(水)19時33分27秒
- 怒涛の更新お疲れ様です。
科学的で面白くて寂しい亀さんの話がお気にデス。
- 241 名前:名無し娘。 投稿日:2003年03月05日(水)21時46分26秒
- 亀頭万歳!!
- 242 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月06日(木)10時17分51秒
- 時間軸動いてねーじゃねぇかよ!ワロタ
- 243 名前:sorari 投稿日:2003年04月25日(金)01時59分56秒
- レスをいただきありがとうございます。
今月中に完結できるのかどうか自問自答の毎日です。
>>238
私はわかりません。
>>239
ありがとうございます。あれからもう半年…短いようで長いですね。
>>240
お気ににですか!嬉しいです。
>>241
万歳!!
>>242
えとですね。レコード盤を思い浮かべてください。レコードの針を動かす
ようなものです…………ほんとだ!軸は動いてないや!!
今回は諸事情により投稿するのを止めようと思った話です。
でもせっかく書いたので更新します。
- 244 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時00分42秒
- 『垣さん、ありがとう』
- 245 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時03分09秒
- 高橋と新垣の二人は、空いた時間を利用して一緒にコンビニに来ていた。
新垣は両手に弁当とお茶を持ち、高橋の後ろに並んでいる。
やがて、高橋の会計の番となり、店員は次々と商品にバーコードリーダーを
当てていった。
「661円です」
店員に言われ、高橋は、財布からお金を取り出しながら勘定した。
ピタリとその手が止まる。
「あぁ、10円足りん、どうしよう」
高橋の顔は見る間に青くなり、額には汗が滲んだ。
財布を凝視し、何度も中身を確認し、ついには膝が震え出す。
- 246 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時04分34秒
- 新垣は、財布を開くとカウンターに10円を置いた。
「里沙ちゃん」
「使って」
新垣はにっこり微笑む。
高橋は、人目もはばからず新垣に抱きついた。
「ありがとう、ありがとう里沙ちゃん」
そして、感激のあまり泣いた。
店内のお客の誰かが、パチ、パチと手を叩いた。
その波は徐々に広がり、やがては店内に拍手の喝采が巻き起こった。
コンビニを出る時、新垣と高橋は手を繋いでいた。
- 247 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時05分13秒
- テレビ局のビルへ戻ると途中、交差点に指しかかると、高橋の足が止まった。
「あっ」
驚いた声をあげ、前方を注視する。
新垣が高橋の視線を追うと、信号の手前の十字路の曲がり角に加護が一人で
立っていた。
信号が青であるのに横断歩道を渡ろうとせず、携帯を握り締めながら辺りを
きょろきょろと伺っている。
- 248 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時05分48秒
「加護さん、どうしたんですか?」
「り、里沙ちゃんに愛ちゃん」
新垣が話しかけると、加護は、驚いて振り向いた。
そして、携帯を後ろに隠すとぶるぶると首を振った。
「ち、ちが、別に道に迷ってたりしてないよ」
加護は慌てて迷子になったことを否定する。
確かに付近の交差点は同じようなビルが建ち並び、目印を付けづらい。
- 249 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時06分32秒
- 新垣と高橋は向き合い、互いにうなずく。
「あの、私達コンビニに行った帰りなんです、加護さんも一緒に戻りませんか?」
「里沙ちゃん……」
加護は、うっすらと涙を浮かべた。
「そうだね。一緒に帰ろ」
加護は頷くと、新垣の左に並んだ。
ふと、新垣の左手に視線を落とす。
新垣は弁当が入ったコンビニの袋を持っていた。
- 250 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時07分04秒
「加護が持ったげるよ」
そう言うと、コンビニの袋に手をかける。
「え、でも」
「いいからいいから」
加護は、半ば強引にコンビニの袋を取り上げた。
そして、開いた左手を右手で繋いだ。
「加護ねぇ、里沙ちゃんのこと大好きだよ」
「あ、ありがとうございます」
新垣は照れ臭そうに御礼を言った。
- 251 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時07分35秒
- 急に右手を強く握られて痛みが走った。
新垣が右に振り向くと、高橋がにっこりと微笑んでいる。
「信号青やよ。渡ろ」
信号は青が点滅していたが、高橋は構わず新垣を引っ張って歩き出す。
渡っている途中で赤に変わってしまい、三人は慌てて駆け出した。
横断歩道を渡りきると、胸を弾ませながら顔を見合わせて笑った。
- 252 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時08分10秒
- テレビ局のビルには3分ほどでたどり着いた。
加護は、膝をもじもじさせて落ち着かない様子だ。
高橋と新垣に向き直り、片手でごめんのポーズを取った。
「ごめん、里沙ちゃん、愛ちゃん。先行ってて」
新垣はにっこり笑った。
「私達も付き合いますよ」
新垣の言葉に高橋も頷き、三人で階段の横にあるトイレへと向かった。
- 253 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時08分46秒
- トイレへ駆け込むと、洗面台の前に石川が立っていた。
「しくしくしくしく」
石川は、鏡の前で涙を流して泣いていた。
加護は、石川に困惑しながらも新垣に預かっていたコンビニの袋を返す。
「はい、里沙ちゃん」
そして、新垣が受け取ると、急いで個室へと駆け込んだ。
- 254 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時09分24秒
- 新垣と高橋はその場に居づらそうにしていたが、無視をするわけもいかず
声をかけた。
「石川さん、どうして泣いているんですか?」
「里沙ちゃん……どうしよう、あたし、あたしね」
石川はずるずると鼻を啜った。
「おっぱいがボタンになっちゃったの」
新垣の動きが固まった。
眉を寄せてどうしたものかと困った顔をする。
「はぁ……それは……困りましたね」
「そうなの、ねぇ、どうしたらいいと思う?」
「押さなきゃ、いいんではないでしょうか」
新垣が言うと、石川の涙が止まった。
まぶたをパチパチさせている。
「そっかー、そうだよね。ありがとう新垣!」
そう言うと、石川は走り去っていった。
新垣は呆然と見送った。
高橋は、新垣の肩に手を置くと、目を閉じて2、3度首を横に振った。
- 255 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時10分02秒
「おまたせー」
加護が個室から出てくると、新垣と高橋が同時に加護に視線を向ける。
「え?なに?」
二人の視線に驚き、自分の衣服を調べるように見まわした。
「いえ、何でもないです」
「楽屋に行きましょうか」
新垣と高橋が大げさな手振り身振りで交互に話す。
加護は、二人の様子に不思議そうに小首をかしげた。
- 256 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時10分46秒
- トイレを出ると、真っ直ぐ楽屋へと向かった。
楽屋は二階の通路の奥に用意されていた。
通路の途中にはリフレッシュコーナーが割り当てられており、その壁沿いに
は自動販売機が二台並べられている。
その自動販売機の前に紺野がいた。
投入口に小銭を入れ、丁度お茶を買おうとしているところだ。
ボタンに指をかけている。
「あ、あさ美ちゃん」
新垣が声をかけると、紺野は呼ばれた方向に顔を向けた。
勢いで指がずれた。
「あっ」
紺野の指先に圧力が加わり、ガコンと取り出し口に缶が転がる音がする。
腰を下ろし、取り出し口から取り出した缶には、おしること書かれていた。
- 257 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時11分26秒
- 紺野は缶を握り締めたまま身動きしない。
わずかな時間がとても長く感じられた。
新垣は、コンビニの袋からお茶を取り出すと紺野に差し出した。
「あたしのと取り替えたげるよ」
「え、でも」
新垣はお茶を紺野に押し付けた。
「いいからいいから」
そして、おしるこの缶を受け取る。
「ありがとう、里沙ちゃん」
紺野はお茶を握り締めると瞳を潤ませた。
新垣は微笑みで返した。
そして、4人は並んで楽屋へと向かい歩き出した。
- 258 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時13分04秒
- 楽屋はリフレッシュルームからそれほど離れていないところにあった。
大人数で入れる部屋が無かったのか、隣り合わせに二部屋用意されている。
手前が2期の矢口、保田と5期の小川、高橋、紺野、新垣で、奥の部屋が
1期の飯田、安倍と4期の吉澤、石川、辻、加護に分けられている。
「じゃ、またあとでね」
そう言うと、加護は新垣たちと別れ、奥の部屋へと向かった。
紺野が手前のドアを開けて楽屋へと入り、高橋、新垣が後に続いた。
- 259 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時13分52秒
- 楽屋は、8畳ほどの広さで畳のある部屋だ。
ドアの周囲は靴置き場になっており、向かいの壁一面に化粧台と鏡が張られ
ている。
部屋の中央にはテーブルが置かれており、そこでは小川が腰を下ろして弁当
を食べていた。
テーブルには、小川が持つ弁当のほかに空の弁当殻が置かれている。
「は、ほはへひー」
ドアが開く気配に気づくと、振り向きざまに挨拶をした。
左手には弁当を、右手には箸を持ち、口をもぐもぐと動かしている。
そして、口の中のものをごくんと飲み込む。
その様子を、紺野は呆然と眺めていた。
- 260 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時14分33秒
「そのお弁当……」
「あ、から揚げ弁当、おいしいよ。二つも食べちゃった」
「……あたしの」
「へっ?」
新垣、高橋、小川の視線が紺野に集中した。
お茶を持つ右手が震えていたかと思うと、パシュッと音がしてお茶の缶が
ひしゃげた。
こぽこぽとこぼれて畳を濡らす。
- 261 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時15分38秒
「ご、ごめん、部屋には私と保田さんだけだし、一つだけ残ってたし……」
紺野は無表情で小川を見つめていた。
そして、ひしゃげた缶をテーブルに置くと、小川に向かい、膝を畳につけて
歩き出した。
「保田さんいらないって、あさ美ちゃんどっか行っちゃうし……」
紺野は小川と目の高さを合わせ、狙いを定めた獣のようにゆっくりと近づく。
小川は、紺野から逃れるように上体を後ろに反らした。
「ほ、ほら、まだから揚げが1個残ってる」
紺野は、目だけを動かし弁当を見ると、再び小川に視線を戻す。
そして、ついには小川の上に覆い被さった。
- 262 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時16分14秒
- 両手でほっぺたを抓ると横へ引っ張る。
「お弁当を食べたのはこの口か、この口なのか」
「ふぉ、ふぉふぇんはふぁい」
「出せ、全部出せ」
「ふ、ふひはふぉ」
紺野は手を放すと、馬乗りのまま小川を見下ろした。
小川は赤くなってひりひりと痛む頬に手を当て、うるうると瞳を潤ませていた。
- 263 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時17分05秒
「変わりにまこっちゃん食べる」
「へっ?」
紺野は再び覆い被さると、小川の手をどかして首筋に軽く歯を立てた。
「あの……あさ美ちゃん?」
そのまま口を放すと再び唇を当て、それは回を重ねる後とに下へと向かった。
「あ、ひゃ、あさ美ちゃ、ちょちょちょっとまっ、て」
小川は困惑し、じたばたと暴れ始めた。
しかし、紺野は器用にあしらい服を脱がせていく。
高橋は、頬を紅潮させメモ帳を開いた。
新垣は、さすがにまずいと思ったのか止めに入った。
- 264 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時17分40秒
「待って、私のお弁当あげる」
紺野は行為を止めて小川を放すと新垣に振り向いた。
「いいの?」
「うん、お腹空いてないから」
「ありがとう」
紺野は弁当を受け取ると、さっそく食べ始めた。
その横では、小川が下着姿でぐったり項垂れていた。
- 265 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時18分17秒
- 新垣は脱がされた服を拾い集め、小川に差し出す。
「まこっちゃん、これ」
小川は服を受け取った。
束ねられた服の上にはおしるこが乗っていた。
「これは?」
「それでも飲んで元気出して」
小川はうっすらと涙を浮かべた。
「……ありがとう」
小川は可愛い下着姿のまま立ちあがると、プルタブを捻りグイッと飲んだ。
「あっまー、でもおいしい」
「おぉ」
新垣、高橋、紺野は、小川に惜しみない拍手を送った。
- 266 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時18分55秒
「キターッ!!」
突然の叫び声が室内に木霊した。
見ると、保田が部屋の隅でイヤホンを耳に当てラジオを聞いていた。
「いいぞ、そこだ、いけ、いけ!」
徐々にヒートアップしていく。
「いけーっ!……おい、何やってんだよ、いけよ、いけってお願いだから、
ああ……あにやってんだよ!」
保田はイヤホンを外すと床に叩きつけた。
そして、財布を掴むと立ち上がった。
- 267 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時19分40秒
- 誰とも目を合わせないままドアへと向かう。
「ちょっと営業に行って来る。2時間で戻るから」
「あっ、あの、保田さん」
新垣は思い出したように保田に声をかけた。
「なに、新垣?」
不機嫌そうに保田が答える。
「駅前のお店に新台が入荷されたみたいですよ」
その言葉を聞くと、保田はニカッと笑った。
「サンキュー」
そして、鼻歌を歌いながら保田は楽屋を後にした。
- 268 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時20分31秒
- その時、ドアが閉まる間もなく入れ違いに加護が飛び込んできた。
ドアを閉じると、顔面を蒼白にして立ちすくむ。
体がわずかに震え、深い呼吸を繰り返していた。
「どうしたんですか?」
「え?あ、なに?」
視線をきょろきょろとさ迷わせ、あさっての方向を見て答える。
ドアの前から動こうとしなかった。
「隣りで何かあったんですか?」
「隣り?なにもないよ、何言ってるの、あるわけない・……」
加護の様子は尋常ではなかった。
隣りで何かが起こったことが容易に想像できた。
- 269 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時21分44秒
- 新垣は立ち上がるとドアへ向かった。
加護が新垣の前に立ちふさがる。
「待って、どこ行くの?」
「ちょっと隣りに」
「行ったらだめ!」
「でも」
「行くな言うてるやろ!」
ついに加護はぼろぼろと泣き出した。
新垣は加護を抱きしめると、優しく背中をさすった。
加護は徐々に落ち着きを取り戻してゆく。
「様子を見たらすぐに戻ってきます。加護さんはここで待っててください」
加護は頷くと、扉の前から退いた。
しかし、新垣が部屋から出ようとすると新垣の服を掴んで止める。
新垣が振り向きにっこりと微笑むと、加護の手から力が抜け、服から離れた。
そして、ドアが閉まるにしがたい、新垣の視界から加護の姿が見えなくなった。
通路に出ると、吉澤と石川が楽しそうに話しをしていた。
新垣は軽く会釈だけすると隣りのドアを開いた。
- 270 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時22分49秒
- 1期と4期の為に割り当てられた部屋は、常軌を逸した凄惨な様を見せていた。
壁や天井にはいたるところに赤い血が飛び散り、滴り落ちていた。
床には赤黒い血液が水溜りのように広がり、その中央には飯田が倒れていた。
飯田は腹を縦に大きく裂かれ、腸などの内臓がほとんど飛び出していた。
飯田の傍には辻が蹲り、泣き叫びながら必死に飛び出したはらわたをかき集めていた。
刃が飛び出たままの赤いカッターナイフが辻のすぐ傍に転がっている。
そして、少し離れた場所で、安倍が立って様子をうかがっていた。
二人とも、飯田の返り血を浴びて全身が真っ赤に染まっていた。
「いいらざー、ゔあ゙ぁぁー」
辻は泣き叫びながら腸を掴むと切り口に押し込んでいく。
そのたびに飯田は体を振るわせた。
そして、反動で腸は再び飛び出しバチャバチャと血の水溜りを叩いた。
辻は、同じ行為を何度も繰り返していた。
- 271 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時23分53秒
「な、なっちは関係無い」
安倍が口を開いた。
「なっちは関係無いべ、辻が、辻が勝手にやったんだべさ!」
安倍は辻を指差して叫んだ。
辻は、驚いて目を見開き、安倍の方を向いた。
安倍は挑戦的に睨み返す。
「だって……」
「辻が圭織を殺したんだ!」
辻は何も言い返せなくなり、黙ってうつむいた。
そして、再び腸を掴むと腹に入れようとする。
- 272 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時25分03秒
- 新垣は、辻の傍によると隣りにしゃがんだ。
「私も手伝います」
新垣は腸を掴み、少しずつ体の中に収めていった。
「強引に詰め込んだんじゃ駄目です。こうやって綺麗に折りたたんで仕舞わないと」
2、30センチ仕舞うと折りたたみ、丁寧に隙間を埋めていく。
やがて、5メートル、10メートルと腸は納まっていった。
辻は、泣きながらも感心したように見つめ、腸が絡まらないように後ろの方を持ち次々と新垣に回してゆく。
そして、数分後には飯田の内臓は綺麗に体の中に納まった。
「後は、こうして」
新垣はタオルで綺麗に切り口周辺の血を拭った。
そして、ガムテープでしっかりと切り口を塞いだ。
「すごい、完璧だ」
これまでの作業を黙って見ていた安倍が呟いた。
- 273 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時25分55秒
「いいらさん、ねぇ起きて」
辻は飯田の肩を掴むと揺さぶった。
「ん、なに? のんちゃん」
飯田は目覚めた。
「ゔわ゙ぁぁん゙、いいだざーんよがっだー」
辻は飯田に抱きつくと声を上げて泣いた。
「うわぁ、のんちゃん、重いって」
飯田は辻を支えるのに必死だ。
血を流しすぎた為か全身が真っ青で、ふらふらと揺れている。
その様子を見て、安倍も泣いていた。
- 274 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時26分59秒
- 新垣は、飯田が無事なのを確かめると、立ち上がり安倍に歩み寄った。
「あの、そろそろ何があったのか話してくれますか?」
安倍は、人差し指で頬を掻きながら視線をそらした。
「あー、あのさ、辻が圭織のお腹をそこに落ちてるカッターで裂いたんだべ」
飯田が無事に目覚めたので余裕ができたのだろう、先ほどと違い、辻は飯田を
支えながら安倍に反論した。
「らって安倍さんがいいらさんはロボットだから平気だっていったんらもーん」
「おい」
新垣は思わず突っ込んだ。
「普通冗談だって分かるっしょ。まさかほんとにやるとは思わなかったんだもん」
「らって、ロボットだからお腹の中にオモチャがいっぱいあるって……」
「それはなっちじゃない、加護が言ったんだべさ」
「でも頷いたー」
新垣は頭を抱えた。
飯田は微笑ましげに見つめていた。
- 275 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時27分47秒
「だいたい分かりました。でわ、私はこれで」
新垣が部屋を出ようとすると、辻が抱き着いてきた。
「里沙ちゃんありがとう」
「いえ」
飯田は、辻という支えを失い倒れるが、ふらふらと手を振った。
「まだ良くわかんないけど新垣が助けてくれたんだね。ありがとう」
「いえ、それよりも早くトマトジュースを飲んで元気になってください」
「うん、わかった」
安倍は、辻にぺこりと頭を下げた。
「辻、ごめんね。それと、新垣ありがとう」
「はい、では失礼します」
新垣は笑顔で会釈すると、飯田達の楽屋を後にした。
- 276 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時28分30秒
- 通路では、吉澤が独りでうろたえていた。
石川の姿はどこにも無かった。
「あの、吉澤さん。どうしたんですか?」
「ああ、新垣、どうしよう」
吉澤は新垣にすがりついた。
「胸のボタン押したら梨華ちゃん飛んで行っちゃった」
「はぁ?」
「本当だって、ほらぁ」
吉澤は天井を指差した。
見ると、天井に巨大な穴が開いており、数十階分を突き破って空が見えていた。
- 277 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時29分27秒
- 嫌な予感がした。
「私、後を追ってみます」
「え、できるの?」
新垣は答える代わりに微笑んで見せた。
「では、少し離れてください」
「うん、分かった」
吉澤が離れると、新垣は片足立ちして足で4の字を作り、右手をアイーンの形の
ように顎の下で真っ直ぐ伸ばし、左手を真っ直ぐ上へ伸ばすと手首を90度内側
に曲げた。
吉澤は、新垣をじっと見つめながら拳を握り締めていた。
「では行ってきます」
「あ、ちょっと待って」
突然引きとめられ、新垣は怪訝そうな顔をする。
吉澤は言葉を続けた。
「私も行くよ。連れて行って」
- 278 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時30分06秒
- 吉澤の気迫に押され、新垣はまじめな顔をする。
そして、頷いた。
「わかりました。しっかり掴まってください」
吉澤は、新垣の腰に腕を回ししっかりと抱きついた。
新垣の腰まわりは予想以上に細く、右手が左肘に届くほどだ。
「行きますよ」
「いいよ、行って」
新垣は前歯を突き出した。
「シェーーーーーーーーーッ!!」
そして、掛け声と共に空へと飛び上がった。
- 279 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時30分53秒
- 新垣は吉澤を乗せ、雲をつき抜け飛行していた。
飛行直後に感じた体を引き剥がそうとする強い重力と空気の壁は何時の間にか
無くなり、代わりに目を開けられないほどの強烈な風がぶつかって来た。
「すごい、飛んでる!飛んでるよ!」
「はい、このポーズを維持している間は飛び続けます」
「すっげー! うぉーっ、きっもちいーっ!!」
吉澤は新垣にしがみ付き楽しそうにはしゃいでいた。
新垣はその様子におかしそうに表情を緩ませる。
「吉澤さんって不思議な人ですね。普通、こんな状態で飛んでたら怖がるはずなのに」
「新垣だからだよ。あたし、新垣の事信じてるから」
新垣は耳まで真っ赤になった。
- 280 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時31分30秒
- 慌てて話題を変える。
「そ、そうだ、石川さんを探さないと! どの方角に飛んでいったから分かりますか?」
「うーん、建物の中に居たから……梨華ちゃんの匂いもしないし探しようが無いね」
眼下には白い雲が絨毯のように広がり、太陽の光を反射してまぶしいぐらいだ。
この広い空で石川を探すのは困難を極めた。
「もう少し上へ行きます。しばらくの間息を止めてください」
新垣は探査衛星にシンクロするために電波が届くぎりぎりまで急上昇した。
先ほどまで青かった空がとたんに暗くなり、星々の光もはっきりと見えるようになる。
- 281 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時32分29秒
- 突然、新垣は上空で静止した。
そして、新垣の体からは青白い光を発し、光は矢のように真っ直ぐ飛翔した。
その光は宇宙に漂う衛星に直撃する。
新垣の精神は肉体を離れ、探査衛星を通して視界が格段に広がった。
そして、ついに石川らしき影を発見する。
石川は一人ではないようで、影は3つあった。
天空に飛翔した光は衛星を離れ、新垣に直撃する。
「吉澤さん。石川さんを発見しました。これから向かいます、しっかりと掴まっててください」
吉澤は息を止めているために声を出す事ができず、代わりに頷いた。
そして、急降下で石川がいる場所まで向かった。
- 282 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時33分29秒
- 強力な重力が吉澤にのしかかり、意識を失いそうになる。
吉澤は引き剥がれそうになりなるのを必死で耐えた。
そして、体力と握力が限界に指しかかった頃、唐突に激しい重力から解放された。
「ついたの?」
「はい、石川さんが向かっていた方向、距離、速度からこの辺りだと思うのですが……」
体に受ける風もかなり弱くなり、景色を楽しむ余裕がうまれた。
吉澤は、新垣の背中に尻を乗せて、馬乗りになると辺りを見まわし石川を探した。
周囲は高い入道雲で覆われ視界がはっきりしなかった。
「雲が邪魔でよく見えないな……まって、あれは何? 右眉毛の方向!」
新垣が吉澤が指差した方向を見ると、一瞬だけ何かの影が見えた。
影はすぐに雲の中に入ってしまった為にはっきりと確認することができなかった。
- 283 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時34分01秒
「行ってみよう、はいどう!」
吉澤は新垣の尻をパシッパシッと何度か叩いた。
「き、きゃぁ!? 何するんですか止めてください!」
「あ、ごめん。痛かった?」
吉澤はやさしく尻を撫でる。
新垣の顔が真っ赤になった。
その様子に吉澤は楽しそうに笑った。
「新垣可愛いねぇ。顔真っ赤だよ」
尻を撫でながら言うと、益々赤くなる。
- 284 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時34分45秒
「……落としますよ」
「それは大変だ! しっかりしがみつかなきゃ」
そう言うと、足で腰を挟み、両腕を背中から前に回して抱きついた。
「新垣がどのくらい成長したか確かめてあげる」
そう言うと、おもむろに胸をもんだ。
新垣は飛行ポーズを取っているために抵抗する事ができなかった。
「やーーーーーーめーーーーーーてーーーーーーっ!!」
新垣はくるくると回転しながら飛行を続け、雲の中へと消えた。
数十秒後、二人は雲を突き抜け再び姿を現した。
雲の中から現われた時、新垣は回転しておらず、吉澤はおとなしく新垣に跨っていた。
二人とも心なしかつややかな顔をしていた。
- 285 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時36分02秒
「あれ? よっすぃ? それに新垣も……」
左上方から声が聞こえた。
声がした方向を見ると、そこには石川がいた。
両足の裏からジェット機のように炎を吹き上げて飛んでいる。
「梨華ちゃん!!」
吉澤は叫んだ。
「よっすぃー……どうして追ってきたの?」
「梨華ちゃんを連れ戻すためだよ。一緒に帰ろう。みんな待ってるよ」
「……だめだよ、あたしにはやらなきゃならない事があるの」
その時、左下方に広がる雲を突き破り、白銀の巨大な円筒状の物体が現れた。
白い雲をわずかに纏う物体の表面は、太陽の光を受けて目が眩みそうな輝きを
放っている。
わずかな時間差をおいて、同じ形状の物体が右下方からも現われる。
それは、翼の無いジェット機のようにも巨大なミサイルのようにも見えた。
- 286 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時37分14秒
- 全長50メートル程あるその物体の側面には、それぞれ”PLUTO”、”URANUS”
と文字が書かれている。
「そんな! プルートにウラヌス! どうしてこんな物が……」
「新垣、知ってるの?」
「はい、現在アメリカが保有する最大級の原爆です。その威力は保田さんの寝っ屁の
100万倍です」
「そりゃすげぇ!!」
新垣の説明を受け、吉澤は驚いた。
石川は得意げな顔をする。
「紹介するわ。プーちゃんにウッちゃん。私はこの子達をロシアまで運ばなきゃならないの」
- 287 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時38分33秒
- 「止めてください! そんな事をしたらロシアの報復攻撃を受けて人類は壊滅的
打撃を受けます!」
新垣の悲痛な叫びも、石川には届かなかった。
プルートのボディに張り付くと、まるで我が子を愛でるように慈しむ。
「……どうして……どうしてそんな事を……」
吉澤が誰に聞かせるともなく呟く。
その声が聞こえたのか石川の顔に暗い影が落ちた。
「体が勝手に動いちゃうの、私にはどうしようもないよ」
石川は視線をプルートに向けたまま、小さな声で答えた。
- 288 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時39分44秒
- 空気の避ける音とともにオレンジ色の炎を吹き上げ空を走る。
決して視線を合わせようとしない石川の姿を、吉澤はただ眺めていた。
次第に吉澤の表情に苛立ちの色が浮かぶ。
「もうやめてよ! 馬鹿げてるよ! 何で簡単に諦めるのさ! 勝手すぎるよ!」
「じゃあどうしてボタンを押したりしたのよ!! よっすぃーはいつもそうだよ。
自分勝手で気分やで、いつも後先考えないで行動して、面倒な事は私に押し
付けて、勝手なのはよっすぃーの方だよ」
石川の剣幕に驚き言葉を詰まらせる。
吉澤を真っ直ぐ見つめ、今にも泣きそうな顔をする。
- 289 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時40分29秒
- 吉澤は毒気を抜かれたように沈黙し、視線をそらす。
新垣は押し黙ったまま二人の様子を見守っていた。
やがて、吉澤は石川に視線を戻し、優しい微笑を浮かべた。
「梨華ちゃんだから」
「えっ?」
「梨華ちゃんだからだよ。あたし、他の人にはそんな事しない。あたしが甘え
られるのは梨華ちゃんがいるから。梨華ちゃんだけだよ。ねぇ、一緒に帰ろ
う。梨華ちゃんならできるよ。あたし、梨華ちゃんの事信じてる」
「……帰りたい……よっすぃー、帰りたいよ」
石川は涙を流し始めた。
「でも駄目なの……体がいう事を聞かないの……」
「そんな……」
- 290 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時41分21秒
- 「方法はあります」
二人の視線が新垣に向けられた。
「左ボタンをつまんで右右左左上下一回転させて右ボタンを押すとリセットできます」
「ほんとう?」
「はい、アルゴリズムのフローチャートを逆算したので間違いありません」
「やった!これで帰れるんだ!!よかったね、梨華ちゃん!」
「里沙ちゃんすごい! いったい何者なの?」
新垣ははにかんだ笑顔を見せる。
「普通の女の子ですよ。石川さんと同じ」
「あら、同じじゃないわ、だって私飛べるもの」
「あ、そういえばそうですね」
「ウフフ」
「エヘヘ」
「ハハハハハ」
3人の笑い声が何時までも木霊していた。
- 291 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時42分42秒
- その時、遥か後方で地上から一筋の光が真っ直ぐ太陽へと放たれた。
そして十数分後、強烈な光が発せられたかと思うと世界は闇に包まれた。
突然おとずれた闇の中で、石川が放つオレンジ色の炎の光が唯一の光源となって
三人を照らしている。
新垣は、石川に接近すると、吉澤に移動するように頼んだ。
バランスを取るのが難しい空中で、吉澤はどうにか石川にしがみつき移動する。
吉澤の移動を確認すると、新垣は二人から少し離れた。
「吉澤さん、後は頼みます。私は光の発射地点まで行ってみます」
そう言うと、二人を残して方向を変えた。
「待って」
今まさに飛び立とうとした時に吉澤に呼び止められる。
「ありがとう、新垣」
「いえ、それでは失礼します」
そう言い残すと、びゅーんと飛んでいった。
- 292 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時43分52秒
- やがて、都市の光が見えてきた。
その光は、地上にばら撒かれた宝石のように輝いていた。
地上を照らす人工の光。
そして、わずかに残る光線の軌跡をたよりに新垣は発射地点までたどり着いた。
そこは、テレビ局の屋上だった。
泣き声が聞こえた。
新垣は、そっと泣き声がする方へと向かった。
「だ、だれ?」
矢口の声がした。
「新垣です」
新垣は答えた。
- 293 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時44分24秒
- 「あの、いったい何が……」
新垣は恐る恐る聞いた。
「おいらのせいだ……おいらが……」
新垣はそっと近づき、矢口を抱きしめた。
「あの、私で良ければ話してください。私、矢口さんの力になりたいんです」
そう言うと、照れ笑いを浮かべて
「私なんかじゃ力になれないかもしれないけど」
と付け加えた。
矢口は首を横に振ると、ぽつりぽつりと話し始めた。
- 294 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時47分08秒
「みんな矢口が悪いんだ。おいらってさ、どちらかと言うと可愛い系じゃない?
自分でセクシー隊長とか言ってたけどさ、本当は分かってたんだ。矢口がどん
なに可愛いかって事を。分かってて武器にしてた。でも……矢口ももう大人、
何時までも子供じゃない、十代の頃とは違ったんだ。知らなかったんだ!
二十歳になった矢口がこんなにもセクシーだったなんて! 二十歳になって、
今日始めて太陽に向けてセクシービームの練習をやったんだ。そしたら
太陽が消えちゃった、消えちゃったんだ。矢口がセクシー過ぎるせいで!
ねぇ、どうしよう……矢口どうしたらいい?」
涙ながらに訴えます。
新垣は、宝物を扱うかのように、優しく抱きしめました。
「私に任せてください」
新垣は立ちあがった。
- 295 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時49分07秒
- 新垣は矢口の声がする方を向き、少しだけ自信なさげな暗い顔をする。
「矢口さん、私、これからも『モーニング娘。』でいていいですか?」
「そんなの当たり前だよ。新垣がいなきゃ、ううん、新垣だけじゃない。小川や紺野
や高橋、それに、これから入る六期の子達みんながいて『モーニング娘。』なんだ。
卒業していった裕ちゃんやごっちん、卒業していく圭ちゃん、これから入ってくる
まだ名前もわからない後輩達、みんな繋がっている。だから、おいらは『モーニン
グ娘。』が大好きなんだ」
そう言うと、照れ臭そうに笑った。
新垣は嬉しさで涙が溢れそうになった。
真っ暗闇の中、矢口と二人っきりだったがまるで傍にみんながいるように思えた。
- 296 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時49分53秒
「ありがとうございます」
新垣は御礼を言うと飛行ポーズを取った。
「シェーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
そして、すごい勢いで飛びあがった。
「キャァッ!」
そのあまりの風圧の為、矢口は吹き飛ばされそうになった。
「おま……めちゃん?」
やがて、風は収まり再び静寂が訪れる。
新垣の返事は無かった。
「お豆ちゃーーーーーん!!」
矢口は叫んだ。
- 297 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時50分48秒
- 新垣は雲を突きぬけ大気圏を飛び超え、宇宙へと飛び出していた。
そして、光よりも早く飛行を続け、太陽系のほぼ中心へと到達していた。
呼吸が少し苦しかったが我慢した。
両足を広げ蟹股になると、腕をピンと伸ばし股のところで指先が触れるほど
近づけて腕でVの字を作る。
そして、飛んできた、地球がある方向を見つめた。
「ニイガキフラッーシュ!!」
叫ぶと同時にクイッと肘を曲げ、腕をひし形にする。
と同時に、新垣は太陽に匹敵する強烈な光を生み出した。
その光は太陽系を照らし、星々に光を与えた。
そして、数分後には新垣が生み出した光は地球にも届いた。
その暖かな光は世界を照らし、優しく包み込んだ。
- 298 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時51分41秒
- 矢口は、新しく生まれた太陽を眺めていた。
感動が胸に溢れ、涙が止まらなかった。
「お豆ちゃん、ありがとう」
矢口は呟いた。
「矢口」
背後から声がした。
振りかえると、安倍と辻に支えられた飯田がいた。
右手にはトマトジュースを持っている。
辻の隣りには加護がいた。
そして、商品が入った紙袋を抱えた保田が後ろに立ち、
その後に高橋、小川、紺野が続いた。
彼女達は新しい太陽を眺め、涙を流していた。
「みんな……」
矢口は涙を拭うと、再び太陽を振り仰いだ。
そして、太陽が沈むまで何時までも眺めていた。
- 299 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時52分25秒
- 吉澤を背中に乗せて、石川は核ミサイルをアメリカへ送り届けていた。
それは、突然訪れた夜が唐突に明け、優しい光に包まれた瞬間だった。
「梨華ちゃん、見て!」
吉澤はまぶしい輝きを放つ太陽を指し示した。
胸を締め付ける感動が押し寄せ、涙が溢れた。
石川も太陽を眺め、涙を流していた。
「あれ? 何でだろう……涙が止まらない」
石川の呟きに、吉澤が頷いた。
- 300 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時53分50秒
「梨華ちゃん、日本に帰ったら結婚しよう」
「えぇ!?」
石川が驚いたのが不服のようだ。
吉澤は膨れっ面をする。
「いやなの?」
「嫌じゃない。むしろ嬉しい……でも、無理だよ」
「どうして? 無理だなんて思うの? 本当に出来ない事なんて、きっと本当は
無いんだ。それは、新垣の身近にいたあたし達が一番良く知ってるはずだよ。
出来ないのは、自分で勝手に限界を作って無理だって諦めるからだよ」
「でも、私たちじゃ子供も作れないんだよ」
「できるさ、あたしと梨華ちゃんなら……」
石川は、吉澤にそう言われると、本当に出来るような気がしてきた。
無理だと決めつけていた自分が恥ずかしくなる。
「そうね、私が間違ってた。私達、結婚しましょう!」
「梨華ちゃん!」
吉澤は、石川に背中から抱きついた。
自分の両手を胸の前で強く握る。
石川は、吉澤の両手に自分の両手を重ねた。
そして、いつまでも二人で太陽を眺めていた。
- 301 名前:3 投稿日:2003年04月25日(金)02時54分26秒
- ―おしまい―
- 302 名前:sorari 投稿日:2003年04月25日(金)02時59分27秒
- 更新終了です。
長すぎ…こんなに長かったんだ、ビックリした。
通りで書き上げるまでに2週間もかかったはずです。
この長さなら2,3回に分けて更新してもよかった気がします。
- 303 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年04月25日(金)03時05分38秒
- 感動しました。涙が止まりません。プロの殺し屋である紺野とその手下から、
石川と吉澤が逃げ延びた、と思った矢先に吉澤が撃たれてしまい、十数人の
男たちに囲まれた時はなんて事をするんだと思いましたが、まさかあの場面
で死んだはずの後藤が現れるとは思いもしませんでした。
一瞬にして男たちを倒し、背を向けていた紺野に振り向き様に言い放った
台詞、「切痔だからって泣くんじゃないよ。みんな戦ってるんだ」を読んだ
時は背筋がぞくぞくして震えがきました。
続きが楽しみです。
- 304 名前:sorari 投稿日:2003年04月25日(金)03時16分53秒
- >>303
ネタバレはNGです。削除依頼を出してください。
- 305 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月25日(金)17時39分09秒
- 流そう。
- 306 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月25日(金)17時39分57秒
- ホイとな。
- 307 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月26日(土)22時16分30秒
- ( ^▽^)<さっすがsorariたん!
- 308 名前:sorari 投稿日:2003年05月25日(日)13時45分49秒
- レスをいただきありがとうございます。
>>307
ありがとうございます。これからも精進していきたいと思っております。
次の話は、今年の2月に考えたネタで、面白くなかったので書くのを止めた話です。
他にネタが浮かばないので書きます。
- 309 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時46分37秒
- 『パーティしようよ』
- 310 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時47分44秒
「カオリ、起きなさいよ!」
まだ起きるには早い時刻に、私は体を揺すられ起こされた。
うっすらと目を開けると保田さんの顔が見える。
春とはいえ、今だ肌寒いこんな朝早くに、ふかふかの布団から這い出るには相当の
気力が必要だ。
それに昨夜は夜遅くまで騒ぎすぎた。
そのため、まぶたを開けるのも辛いほど疲れていた。
こうも眠いと周囲の騒々しい物音でさえ眠りを誘う子守唄のように聞こえてしまう。
私は保田さんから顔をそむけ、毛布を頭まで被りなおした。
- 311 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時48分40秒
「……うぅ、眠いよぅ。後五分だけ寝かせて……」
「寝ぼけてんじゃないわよ!」
頭に衝撃が走った。
「いったーい」
痛む頭を押さえながら仕方なく体を起こす。
そして、涙目でこの理不尽な仕打ちを行なった人物を見る。
保田さんはかなり怖い顔で私を睨んでいた。
「やっと目が覚めたようね」
背筋が凍るような低い声で言う。
- 312 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時49分46秒
- どうやら私は保田さんを怒らせてしまったようだ。
でも、どうして怒っているのか皆目見当がつかない。
「あの、おはよう御座います。どうかしたんですか? 怖い顔して」
「如何したもこうしたもないわよ! あんたいったい何を食べさせたの?」
「何って、朝ご飯はまだ食べてませんが……」
「朝の話をしてんじゃないわよ! 昨日の話よ!」
「昨日ですか? 茸鍋じゃないですか」
「そんな事分ってるわよ! 昨日の茸は何処から持ってきたのかって聞いているのよ!」
「そんな事分りませんよ。飯田さんが用意したんですから飯田さんに聞いてくださいよ」
私を睨みつける保田さんの動きが一瞬とまった。
私は蛇ににらまれた蛙のように身動きが出来なかった。
数秒の後、保田さんはゆっくりと息を吐き出した。
- 313 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時50分36秒
「あなた、圭織じゃないのね?」
「はい、石川です」
「……なんてことなの……それじゃ圭織はいったい……」
どうやら保田さんは私を飯田さんと見間違えていたようだ。
しかし、私と飯田さんでは、どのパーツをとっても似ているとは言い難い。
何故保田さんは私を飯田さんだと思ったのだろう。
私が不思議そうに保田さんを見ていると、保田さんは、一人納得したかのように
頷き、手鏡を私に渡した。
「ほら、自分の顔を見ごらん」
私は手鏡を覗きこんだ。
手鏡に映る私は飯田さんだった。
- 314 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時51分21秒
「え、えぇぇぇぇ!? これは一体何の冗談ですか?」
私が叫ぶと保田さんは哀れむように私の肩に手を置いた。
「残念ながら冗談じゃないのよ。見てごらん」
保田さんに言われ、私は始めて室内を見渡した。
室内は、異様な賑わいを見せていた。
異様というか、普段通りなのかもしれない。
モーニング娘。のメンバー全員が揃ったこの状況では――。
- 315 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時52分16秒
- 先ず、目についたのは美貴ちゃんだ。
敷かれていた布団を片付け、リビングの中央に開いたスペースを作り、軽やかに
フットワークをしている。
そして、どういう経緯かは分からないが、美貴ちゃんの正面で新垣がファイティ
ングポーズを取って立ちはばかっていた。
「新垣、避けてみな。ていうか避けるなよ!」
「はぁ? 何言ってんの?」
美貴ちゃんは、シュッ、シュッと息を吐きながら鋭いパンチを突き出していた。
その鋭い連打を新垣はことごとく避けていた。
いつのまに反射神経を鍛えたのか、笑みを浮かべる余裕さえ見せる。
しかし、美貴ちゃんがコンビネーションと使いだすとその笑みが消えた。
- 316 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時53分16秒
「おらおら、避けてばかりじゃうちには勝てないよ! 反撃してみな!」
「はぁ?そんな可愛くて美しいナイスボディを殴れるわけないでしょ! あっ!」
ついに、美貴ちゃんの右拳が新垣の顔面を捉えた。
美貴ちゃんは拳を突き出した姿で、新垣は殴られ体をよじった態勢で静止する。
そして、新垣の前身に力が抜けると、がっくりと膝から崩れ落ちた。
「ご、ごめん、まさか当たるとは……大丈夫?」
心配そうに新垣に声をかける美貴ちゃん。
新垣の肩は怒りでわなわなと震えていた。
「いったーい! 何するのよ!」
「わるい、ごめん、ゆるしてーっ!」
新垣は立ちあがると、腕を振り回して反撃する。
それを美貴ちゃんは片腕で額を押さえ、征していた。
- 317 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時54分25秒
- そのようすを座って眺めていた高橋は、静かに立ちあがる。
そして、肩幅に足を開くと両脇を締めて構える。
「脇が甘いです。もっとこう、両肩が正面を向くよう構えて、
肩が流れないように拳を正面に突き出して、えい!」
そして、拳を前へと突き出し、正拳突きのレクチャーを始めた。
そのまま、誰に見せるわけでもなく淡々と突きを繰り返している。
その風景に多少の違和感を感じた。
そう、いつもならこうも騒がしいと必ずと言っていいほど口を出すあの矢口さんが、
部屋の隅で邪魔にならないように体育座りをしてぼんやりとしているのだ。
そして、とても寂しそうな表情で新垣や高橋を眺めていた。
「里沙ちゃん、愛ちゃん、がんばれー」
ささやくような声で声援を送っている。
そして、声援の合間に覇気のない笑みを浮かべ、笑った。
- 318 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時55分22秒
- 突然、矢口さんとは対照になる部屋の隅に敷かれていた布団が毛布が捲れあがった。
ついに騒音に耐え兼ねたのか、つい先ほどまで布団に潜りこんでいた亀井が勢い
良く立ち上がる。
「おまえ等うるさぁい! 少しは静かにしろー!」
そして、手に持っている枕を美貴ちゃんと新垣に向けて放り投げる。
「おおっと」
美貴ちゃんは難なく枕を受け止める。
そして、亀井を見るとにやりと笑った。
「おりゃぁっ!」
お返しとばかりに枕を投げ返す。
枕は見事に亀井の顔に命中した。
- 319 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時56分05秒
「はぶっ、よくもやったなぁ! とりゃぁ!」
亀井はわずかに助走をつけると美貴ちゃんに飛びけりを放つ。
「おおっと」
亀井の飛び蹴りは美貴ちゃんに難なくかわされる。
「ふごぉっ!」
しかし、たまたま隣りにいた新垣の顔面にクリーンヒットした。
「いっったいわね!なにすんのよ!」
新垣は半泣きで立ち上がり、亀井を睨みつける。
こうして、三つ巴の大乱戦が始まった。
その様子を小川は、折り畳んだ布団の上に腰を下ろしてポテトチップスをかじり
ながらほおけた顔をして観戦していた。
- 320 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時57分16秒
- 一方、加護は困ったように立ち尽くしていた。
紺野に腕を掴まれ、どうしたらよいのか対処に困っているようだ。
「返してぇ!うちの体返してよぉ!」
紺野は半泣きで叫びながら加護にしがみ付いていた。
加護の傍には道重が、同じように困った顔をして立っている。
道重は紺野に言葉をかけようとするが、言葉が見つからずに言いよどんでしまう。
加護は、道重の服を引っ張りながら助けを求めるように視線を向ける。
「ねぇ、さゆ、どげんしよう……さゆ?」
道重はつぶらな瞳を加護に向け、不思議そうにぱちぱちと瞬かせる。
それまで乱闘に見入っていた小川がホテチを頬張りながら加護に振り向いた。
「……なんでしょうか?」
そう小川が言うと、加護と道重は納得したように頷き、ぽん、と一つ手を叩いた。
- 321 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時57分46秒
- 突然、手をパンパンと叩く音が室内に響いた。
そして、良く通る怒声が後に続く。
「ほら、あんたたちうるさいよ! ご近所に迷惑でしょう!」
声の主に私達の視線が集中する。
見ると、辻が真っ直ぐ立って腕を腰に当てて怒った顔をしている。
こうして、それまで喧騒としていた室内に平静が訪れた。
- 322 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)13時59分22秒
「これは一体……どうなってるの?」
さすがに私でも、今の状況が異常であることぐらいわかる。
保田さんは、了解とばかりに一度頷く。
「あなたももう気づいているだろうけど、あなた達の心と体がランダムに入れ替わって
いるみたいね。これは推測だけど、昨日食べた茸が原因じゃないかと思うのよ。
その証拠に昨夜は怪しんで食べなかった私だけ何ともないみたいだし」
そまで言って、保田さんは話すのを止めた。
私達に気づいて、安倍さんが指差しながら私の傍まで歩いてきたからだ。
「あー、いいらさんおきたー」
そして、私の膝の上に乗り、向き合うようにちょこんと座った。
えへへと微笑み潤んだ瞳で私を覗き込む。
- 323 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時00分10秒
「ねー。おはようのちゅーしよー」
そう言うと唇を突き出し、私に迫ってくる。
「あ、安倍さん、ちょっと待って下さい。あ……だめ……あん」
私は上から覆い被さる安倍さんの重みで、布団に倒れこみ押し付けられた。
そして、強引に私の唇に唇を重ねてくる。
安倍さんの唇は柔らかく私をとろけさせる。
安倍さんの甘い微香が私の鼻をくすぐり、ほんわかと意識が遠のいた。
安倍さんの威力を私は肌で感じていた。
ごめんなさい、よっすぃー、私、安倍さんの事好きになりそう。
その数秒の後、私は安倍さんの唇から解放された。
「もう、強引なんだから」
あたしがそう言うと、えへへぇと安倍さんは無邪気な笑顔を浮かべる。
- 324 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時01分00秒
- その時、安倍さんに真っ赤な顔をした私の体が駆け寄ってきた。
さて、私の体と呼ぶのは混乱を招きそうなので、これからは私の体を梨華ボディ、
略して梨華ボと呼ぶことにする。
とにかく梨華ボは、安倍さんを捕まえると強引に正面を向かせた。
「ちょっとー! なっちの体で変な事しないでよー」
そう言うと、頬を膨らませて怒った顔をする。
「えー、だってぇー」
「だってじゃないでしょう、これは私の体なんだからもっと自覚なさい!
わかった?」
すねて体をくねらせる安倍さん。
梨華ボは指先でちょんと安倍さんの鼻頭を突付いた。
「はぁい、ごめんなさぁい」
「わかればよろしい」
そして、梨華ボは安倍さんをいい子いい子して頭を撫でた。
- 325 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時02分07秒
- 安倍さんを叱る梨華ボの姿に、私は感動していた。
こんなシチュエーションもう二度と見られないだろう。
私の勇姿をよっすぃーは見てくれたであろうか。
私は部屋をくまなく眺めた。
しかし、よっすぃーの姿を確認することは出来なかった。
「あれ? よっすぃーは?」
「あぁ、さっき田中と一緒にコンビニに出かけたわよ」
なにやら考え事始めた保田さんが上の空で答える。
そう言われ、もう一度、部屋全体をもう一度眺めてみる。
現在部屋にいるのは私を含め14名。
部屋にいないメンバーはよっすぃーと田中だ。
- 326 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時03分48秒
- これでメンバー全員の動向を知ることが出来た。
ヒントはたくさんある。
これまでのみんなの行動や言動から誰に誰の心が入っているのか大よその見当が
ついた。
私は、誰が誰なのかを推理をすることにした。
>>500
頭が真っ白になった。
今はまだ何も思い浮かばないようだ。
この問題は時間が解決してくれるかもしれないし、してくれないかもしれない。
- 327 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時04分37秒
- そもそも、何故こういう状況に陥ってしまったのだろう。
保田さんが言うように、昨日食べた茸がいけなかったのだろうか。
それ以前に、何故私達は飯田さんのマンションに集まっているのだろう。
そう、ことの始まりは、昨日かかってきた一本の電話だった。
昨夜、私達は飯田さんに呼び出され、マンションへ集合することになったのだ。
- 328 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時06分31秒
- 私が飯田さんのマンションにたどり着いたのは夜中の10時ごろで、リビングに
通された時には殆どのメンバーが揃っていた。
ソファーやら調度品は隅に除けられ、12畳ほどのリビングの中央には、メンバー
全員で囲めるほどの広いテーブルが置かれている。
そして、既に到着しているメンバーは、テーブルを囲んで思い思いの席に座っていた。
テーブルの中央にはガスコンロと土鍋が置かれ、その両隣には野菜や肉類のほかに、
山積みとなった沢山の茸が置かれていた。
やがて、安倍さんも遅れて到着し、現モーニング娘。の12人のほかに、六期の
亀井、田中、道重、そして美貴ちゃんを含めた総勢16名が集合することとなった。
この時の飯田さんの第一声は、「さぁ、茸鍋パーティーを始めよう」である。
モーニング娘。に入いって日の浅い六期との親睦を深める為、そして、卒業する
保田さんと楽しい思い出を作る為というのがその名目である。
かくして、ご近所に多大な迷惑をかけながら、儀式にも似た鍋パーティーは開かれた
のである。
- 329 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時08分03秒
- その後、パーティーは深夜遅くまで続けられ、私達は帰るのが面倒になっていた。
幸い、寝室、キッチンを含め、16人でも眠れるスペースはあった。
そこで私達はその夜は泊ることに決め、一つの部屋でみんな一緒に眠りについた。
そして、目覚めたら私は飯田さんになっていた。
飯田さんになったことは、それほど嫌ではない。
確かに初めは驚きこそしたが、今ではこのままでもいいかもと思い始めている。
そう思ったのは、どうやら私だけではないらしい。
先ほどまであれほど騒いでいた紺野でさえ泣き止み、加護や小川や道重と楽しそうに
話をしている。
部屋にいる誰もが今の現状を自然に受け入れ始めているように見えた。
新垣を除いた全員の顔に笑顔がこぼれていた。
- 330 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時09分16秒
- 新垣はというと、美貴ちゃんによって羽交い締めにされ、じたばたと足掻いていた。
美貴ちゃんも本気で締めていないようでそれほど苦しそうではないが、腕力と体格の
差は歴然としており抜け出せないでいた。
「こら、いいかげんにしなさい。新垣が可愛そうでしょ」
梨華ボが見かねて美貴ちゃんを注意する。
美貴ちゃんは、新垣を放すと梨華ボに飛びついた。
「梨華ちゃーん」
「きゃあっ」
美貴ちゃんに抱き付かれ、梨華ボは驚く声をあげた。
「ふふ、そんなに怒らないでよ。でも、怒った梨華ちゃんも可愛いよ」
「きゃ、やめて、くすぐったい」
美貴ちゃんは梨華ボにほおずりして甘い声でささやく。
- 331 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時10分09秒
- 私は梨華ボに嫉妬した。
「ちょっとよっすぃー! 私はここよ!」
気が付いたら叫んでいた。
私は本能的に美貴ちゃんがよっすぃーであることに気づいていた。
美貴ちゃんは梨華ボから離れようとはせず、楽しそうに私を見る。
「だってうち、梨華ちゃんのビジュアルが好きだもーん」
そう言うと、まるで私をからかっているかのように梨華ボに甘える。
その時、玄関の扉が開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「今戻りましたぁ」
玄関からよっすぃーと田中の声が聞こえる。
どうらやコンビニから帰ってきたようで、ジュースやお菓子がつまったコンビニ袋を
両手に抱えていた。
- 332 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時12分11秒
- 私は美貴ちゃんを一瞥すると、よっすぃーに向かって駆けだして抱きついた。
「うわぁ! 飯田さん。どうしたんですかぁ?」
「へへぇ、よっすぃー大好き!」
私はよっすぃーに抱きつきながら美貴ちゃんをちらりと見る。
美貴ちゃんは面白くない顔をしてこちらを睨んでいた。
「ちょっと、重たいですよ」
「いいじゃん、もう少しこのままいさせて」
そう言うと、よっすぃーはため息をついて「少しだけですよぉ」と言う。
私達を見ていた美貴ちゃんはつかつかと私のもとに歩み寄って二人を無理矢理引き
離した。
- 333 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時13分06秒
「やめなよ、嫌がってるじゃない!」
「嫌がってないわよ!ねー」
「え、いや、わたすは別にぃ」
「ほら!嫌がってないじゃない!」
「嫌がってるよ!見てわかんないの?」
「なによ、よっすぃーには関係ないでしょ!」
「関係あるよ! それうちの体だよ!」
「なによ、よっすぃーは私に抱きつかれるのが嫌なの?」
「あぁ、嫌だね」
私は悔しくって藤本を睨みつけた。
藤本も負けじと私を睨み返してくる。
その時、立て続けに枕が飛んできて私と美貴ちゃん直撃した。
- 334 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時14分05秒
「いいかげんにしろーっ!」
声のほうに視線を向けると、亀井が枕を投げた体勢で立っていた。
「ちょっと亀井! どういうつもりよ!」
私がすごんでも、亀井はちっとも怯えた様子を見せない。
むしろ、挑戦的に睨みを効かせる。
「圭織も圭織だよ! ミキティと言い争いをして、もし外部に漏れたらどうするの?
ミキティとリーダーの不仲説なんて洒落にならないだろ!」
「そうだそうだ」
「ミキティも朝から騒ぎすぎ! だいたいミキティの方から喧嘩ふっかけてどうするの!」
「ごめんなさい」
「よっすぃーのこと悪く言うのはやめて!」
- 335 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時14分58秒
- 私は亀井に怒られてしょんぼりしている美貴ちゃんを庇った。
美貴ちゃんは瞳を潤ませて私の手を握る。
「ううん、うちが悪かった。ごめんね梨華ちゃ、いや、飯田さん」
「そんなことない。私もいけなかったの。ごめんねよっす、いいえ美貴ちゃん」
そして、私達は強く抱きしめ合った。
「あんたら、たち悪すぎ」
亀井がぼやいた。
しかし、亀井は嬉しそうに頷いていた。
- 336 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時15分32秒
- その時、それまで考え込んでいた保田さんが辻にそっと近づくのが見えた。
真剣な眼差しを辻に向け、話しかける。
「ねぇ、あの茸まだ残ってる?」
「ん? ああ、あの茸ね。まだたくさん残ってるよ」
辻は保田さんの意図に気づいたのか、驚いた顔をする。
私たちの視線が集中する中、保田さんは同意するように頷き、怪しく微笑んだ。
「じゃあさ、またやんない? 今度はごっちんも呼んでさ」
- 337 名前:2 投稿日:2003年05月25日(日)14時16分05秒
- ―おしまい―
- 338 名前:sorari 投稿日:2003年05月25日(日)14時17分50秒
- 更新終了です。
次の更新は明日やります。
- 339 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年05月25日(日)14時23分43秒
- こんな時間に更新お疲れ様です。
暇なんですね(w
ochiを使ってみたい誘惑を我慢しました。
誉めてください。
- 340 名前:名無し娘。 投稿日:2003年05月25日(日)18時26分08秒
- ったくよ、よくやるよ。
あーおもしれーさ、おもしれー。
- 341 名前:sorari 投稿日:2003年05月26日(月)00時13分40秒
- わーい、レスが来てたーっ!
期待していなかったので小躍りしたいほど嬉しいです。
>>339
暇じゃないです。マジで。
>>340
ありがとうございます。メール欄見ました。
矢口はメール欄の人のつもりだったんです、前もキャラがわかり難いと
言われたのに……成長ないですね(汗
まだまだ修行が足りないようです。
では、次の更新をします。
- 342 名前:1 投稿日:2003年05月26日(月)00時14分34秒
- 『ひとみとりか』
- 343 名前:1 投稿日:2003年05月26日(月)00時15分52秒
「梨華ちゃんのばかぁっ!」
よっすぃーの右こぶしが唸りを上げて私に襲い掛かる。
私に流れるグレイシーの血が咄嗟によっすぃーの裏を読んだ。
よっすぃーのことだ。
右ストレートに見せかせて右脇腹を抉るような左フックに切り替えてくるはずだ。
そして、動きを止めたところでガゼルパンチを放ち、上体が浮いたところでデン
プシーロールを撃ってくるだろう。
つまり、初撃さえかわせば、こちらの反撃に楽に移れる。
私は左手の動きにのみ集中した。
- 344 名前:1 投稿日:2003年05月26日(月)00時16分43秒
「へぶぉ!」
よっすぃーの右こぶしが私の顔面に炸裂した。
さすがよっすぃー。裏の裏を読んでくるとは。
は、しまったぁ! 裏の裏は表かぁ!
とにかく私は頬を擦りながらよっすぃーを睨んだ。
「何するのよ!」
あぁ、私は何てことを言ってしまったのだろう。
よっすぃーは目に涙を浮かべ、わなわなと震えていた。
カレーが食べたいと言うからカレー屋さんに行ったのに、スパゲティを本気で
頼んで「ありません」と言われて逆切れするあのよっすぃーが泣いているのだ。
- 345 名前:1 投稿日:2003年05月26日(月)00時18分00秒
「ご、ごめん……」
私が謝ると、よっすぃーは私を抱きしめてくれた。
「ううん。梨華ちゃんが悪いんじゃないのに殴ったりしてごめん。みんな、
うちの親父が悪いんだ! 信じられる? うちの母さんと結婚する前に
梨華ちゃんのお母さんを孕ませていたなんて! ちくしょう! 殺して
やりたい」
「だめだよ、そんなこと言っちゃ……」
「でも! だけど……同性愛で近親相姦だなんてあんまりだ!」
「そうね……でも、だから私達はここまで逃げてきたんじゃない。こんな
片田舎まで……二人っきりで生きようって!」
「そうだったね。ごめん、梨華ちゃん」
「よっすぃー!」
「梨華ちゃん!」
「あのー、そろそろご注文を」
「スパゲティって言ってるだろ!」
よっすぃーの剣幕に圧されて、カレー屋の店員は子犬のようにぶるぶると
震えていた。
- 346 名前:1 投稿日:2003年05月26日(月)00時18分50秒
「あああの……ですからうちはカレー屋でして……」
「あぁ? そんなのそっちの都合だろ! ちっ、だから嫌だったんだ。こんな
田舎まで来るの」
「何言ってるの! 田舎に逃げようって言ったのよっすぃーの方じゃない!」
「忘れたね」
「ひっどぉい! なによ! よっすぃーの色白美人!」
「言ったね! 梨華ちゃんのセクシーボディ!」
「あのぉ、ご注文は……」
「うるさいわね! あなたがスパゲティぐらい置いてないのが悪いんじゃない!」
「そうだ! お前のせいだ!」
「そんなぁ」
- 347 名前:1 投稿日:2003年05月26日(月)00時19分22秒
- ―おしまい―
- 348 名前:第1回支配人 投稿日:2003年05月26日(月)00時21分29秒
- さて、全作で揃いました。
これから投票を開始したいと思います。
投票は何作品でもかまいませんが、必ず感想をつけてください。
点数は一作品につき一点とします。
期間は、勝手ながら26日の23時59分までとさせて頂きます。
- 349 名前:第1回支配人 投稿日:2003年05月26日(月)00時22分04秒
- 作品一覧
01:ひとみとりか
02:パーティしようよ
03:垣さん、ありがとう
04:海底都市伝説
05:いしよしの法則
06:ピン・チャポー現る
07:梨華ちゃんの秘密
08:空も飛べるはず
09:星になった彼女
10:(ё)
11:ライフライン
12:午後の喫茶店
13:迷惑な来客者
14:はんたぁ×はんたぁ
15:しりとり
16:今日は何色?
17:騒々しい朝
18:人類梨華化計画
19:消しゴム
20:まえがき
- 350 名前:第1回支配人 投稿日:2003年05月26日(月)00時23分41秒
- それではこれから投票を開始したいと思います。
では、奮ってご参加ください。
- 351 名前:ガバチョ@ホーム49 投稿日:2003年05月26日(月)00時26分31秒
- 05 いしよしの法則 (書かれている内容に度肝を抜かれました。)
06 ピン・チャポー現る (とにかく禿てるから。)
15 しりとり (唯一sage更新した謙虚さが良かった。)
- 352 名前:名無し娘。 投稿日:2003年05月26日(月)00時48分07秒
- なんだ?今度はレス数かせぎか!
なんでもありだな、ちきしょーー!!
20・フィクションだから一票
19・鼻がでかいから一票
18・うざいから一票
17・オヤジが可哀想だから一票
16・伝説だから一票
15・猪木だから一票
14・痛みを知らない大人は嫌いだから一票
13・して欲しいから一票
12・痛々しいから一票
11・レスが欲しそうだったから一票
10・あの夏を思い出したから一票
9・オチなかったから一票
8・世界はオレのものだから一票
7・悲しいなら俺の胸で泣けば良いから一票
6・いい加減飽きてきたから一票
5・つうか、これって迷惑じゃないかしら一票
4・まーそんなのオレの知った事ではないから一票
3・胸のボタンを連打したいから一票
2・ガバチョ@ホーム49さんに敬意を表して一票
1・シアターだから一票
- 353 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月26日(月)19時01分50秒
- 02:パーティしようよ(こういうの大好き)
投票期間一日なところが素敵だね
あぁ、今から第二回開催が楽しみだ
- 354 名前:第1回支配人 投稿日:2003年05月27日(火)00時02分12秒
- 時間となりました。
投票を締め切らせて頂きます。
これより集計します。飛び込みは無効とします。
- 355 名前:第1回支配人 投稿日:2003年05月27日(火)00時02分59秒
- 投票の集計が終わりました。
これより順位の発表をします。
1位 8票 17:騒々しい朝
>71>72>73>74>75>76>77>352
1位 8票 18:人類梨華化計画
>52>53>54>55>56>57>58>352
3位 7票 19:消しゴム
>13>14>15>16>17>18>352
4位 6票 09:星になった彼女
>171>172>173>174>175>352
4位 6票 04:海底都市伝説
>238>239>240>241>242>352
4位 6票 14:はんたぁ×はんたぁ
>112>113>114>115>116>352
7位 5票 03:垣さん、ありがとう
>303>305>306>307>352
7位 5票 15:しりとり
>97>98>99>351>352
9位 4票 02:パーティしようよ
>339>340>352>353
9位 4票 16:今日は何色?
>88>89>90>352
- 356 名前:第1回支配人 投稿日:2003年05月27日(火)00時03分56秒
- 11位 2票 05:いしよしの法則
>351>352
11位 2票 06:ピン・チャポー現る
>351>352
11位 2票 11:ライフライン
>145>352
11位 2票 12:午後の喫茶店
>135>352
11位 2票 13:迷惑な来客者
>126>352
16位 1票 01:ひとみとりか
>352
16位 1票 07:梨華ちゃんの秘密
>352
16位 1票 08:空も飛べるはず
>352
16位 1票 10:(ё)
>352
16位 1票 20:まえがき
>352
MVPの発表
MVPは53レスのソーリダイジン小泉☆純1郎さんに決まりました。
おめでとうございます!
理由は、名前に☆があるからです。
以上の結果となりました。
みなさま、お付き合いありがとうございました。
- 357 名前:『騒々しい朝』を書きました。 投稿日:2003年05月27日(火)00時04分55秒
- 皆様、投票して頂きありがとうございました。
まさか、自分の作品が1位になるとは思っておりませんでした。
これも、ここまで盛り上げ、応援してくださった皆様のおかげです。
本当に感謝しています。
今回、この企画に参加できたことを心より感謝いたします。
どうもありがとうございました。
- 358 名前:『今日は何色?』も書きました。 投稿日:2003年05月27日(火)00時06分41秒
- すみません。複数投稿してしまいました。
この話は、『騒々しい朝』の二次的なもので、ぶっちゃけ続編になります。
短編として完結していないのもどうかと思ったのですが、それぞれ単独でも
成立するよう心がけたつもりです。
せめて、続編だとわかり難いように投稿する順番を変えてみましたが……。
こんな話で1位を取ってしまい、本当に申し訳ないです。
たくさんの感想、本当にありがとうございました。
- 359 名前:『パーティしようよ』を書きました。 投稿日:2003年05月27日(火)00時07分46秒
- 皆様お疲れ様でした。
今回の第一回CP短編集企画が成功して嬉しく思います。
実はこの話はテーマであるいしよしの他に、肉体面、精神面、及びその複合で
秋に行われるモーニング娘。分割によるCP分裂をできるだけ救済したつもり
でした。
しかし、あまりうまくいかなかったようです。自分の力不足でした。
皆様の感想を糧に、もっと良いものを書いていきたいと思います。
最後に、大好きだと言ってくれた方、投票してくれた方、感想をくれた方
ありがとうございました。もし次回もあるのならば是非参加したいです。
- 360 名前:『垣さん、ありがとう』を書きました。 投稿日:2003年05月27日(火)00時08分51秒
- 支配人さま、管理人さまありがとうございました。
そして、投票してくださった方、本当にありがとうございました。
今回、テーマが『いしよし』でありながら、いしよしとほとんど関係ない
話を書いたにもかかわらず、たくさんの票をいただき驚いております。
私の持てる精一杯の作品に仕上げたつもりですので評価を頂けると、
やはり嬉しいものです。
今後も、心に残る作品をたくさん書いていきたいと思います。
本当に楽しかったです。ありがとうございました。
- 361 名前:『しりとり』を書きました。 投稿日:2003年05月27日(火)00時09分27秒
- ごめんなさい。ごめんなさい。
まさか票が入るなんてごめんなさい。
とても信じられません。これは夢でしょうか。
いてぇ!夢じゃない!
とにかくごめんなさい。
- 362 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月27日(火)00時10分09秒
- さて、終わった。
次ぎリレーやろうぜ!リレー!
- 363 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月27日(火)00時10分44秒
- 狽ワじすか!?
- 364 名前:第一回CP短編集 テーマ「いしよし」 投稿日:2003年05月27日(火)00時12分24秒
【完】
.
.
- 365 名前:sorari 投稿日:2003年05月27日(火)00時13分40秒
- 『第一回CP短編集 テーマ「いしよし」』ようやく完結しました。
本当の予定では、去年には完結しているはずでしたが、作者が至らない
ばかりに、ずるずると伸びてしまいました。本当に申し訳ありません。
こんなに長い小説を書いたのは初めてです。途中、何度も諦めようとし
ましたが、読者様のレスに救われ、何とか完結することができました。
本当にありがとうございました。
このスレは、今後もいくつか短編を載せていきたいと思います。
- 366 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時25分02秒
- 『ぬいぐるみ』
- 367 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時27分17秒
- 私はいらついていた。
部屋は綺麗に片付けられており、テーブルには真新しい真っ白なテーブルクロスが
かけられ、テーブルの上にはデリバリーではあるが豪華なパーティ料理が並べられ
ていた。
探しに探したピンク色の炎が出る蝋燭も用意したし、雰囲気を出すためにクラシック
のCDも買った。
さすがに自宅でドレスはどうかと思ったので、今日の為に一番お気に入りの可愛い
洋服を選んで、ちゃんとクリーニングにも出していたのだ。
それなのに、電話でたった一言。
『ごめん、今日は来れない』
悲しみよりも先に怒りが湧き起こった。
- 368 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時28分10秒
- 私もアイドルだし、仕事が大切な事ぐらいわかってる。
だけど、どうしてよりにもよって今日なのよ。
せっかく用意したお料理が無駄になったのが嫌だった。
よっすぃーの心配よりも、来ない事に怒ってばかりいる自分が嫌だった。
だから、苛々していた。
不意に、玄関のチャイムが鳴った。
私はよっすぃーが来てくれたのだと思った。
だから急いで玄関に向かった。
「ごめんくださーい。宅急便でーす」
宅急便だった。
- 369 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時29分34秒
- 私は玄関を開けると、リビングまで運ぶように頼んだ。
制服を着た男性は、2人がかりで大きな熊のぬいぐるみを抱えると、リビングへ
ぬいぐるみを運んでいく。
そして、リビングの壁の立てかけると、サインを貰って帰っていった。
リビングに置かれた熊のぬいぐるみは、体にピンクのリボンを巻いて、ピンクの
花束を両手に持っている。
花束にはカードが差し込まれていた。
私はカードを手に取ると、目を通した。
- 370 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時30分14秒
カードには、
『Dear 梨華ちゃん。
今日は来れなくてごめんね。
このぬいぐるみを私だと思って大切にしてね。
ひとみ』
と書かれていた。
.
- 371 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時31分39秒
- 私は微笑を浮かべ、カードを花束に戻した。
そして、思いっきりぬいぐるみの顔面を殴った。
「なにが『私だと思って』よ! 思えるわけないでしょ!」
ぬいぐるみはぶっ飛び、床に倒れる。
私は倒れたぬいぐるみ腹を思いっきり蹴り上げた。
「今日が、何の日か、分ってる、くせに!」
何度も何度も蹴り上げた。
「バカに、しないでよ、ね!!」
更に蹴りをいれ続けた。
そして、肩で息をしながら床に転がるぬいぐるみを見つめた。
いつしか気分がすっきりしていた。
- 372 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時32分37秒
「あー、すっきりした」
私は大きく両手を上げて背を伸ばすと、ぬいぐるみをそのままにして寝室へと
向かった。
そして、そのままの格好でベッドに倒れこむとそのまま眠った。
翌朝、目が覚めてリビングに行くと、リビングがめちゃくちゃに荒らされていた。
そして、昨夜よっすぃーから貰ったぬいぐるみが消えていた。
私は恐くなって警察に電話した。
無くなった物は?と聞かれて、ぬいぐるみです、と答えておいた。
- 373 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時33分18秒
- その日、楽屋に着くと、よっすぃーがあいぼんと楽しそうに話をしていた。
私は、ぬいぐるみが盗まれたことを謝ろうとよっすぃーに近づいた。
「あのね。よっすぃー」
よっすぃーは何も言わずに立ちあがると楽屋を出ていった。
それから暫くの間、よっすぃーは口も聞いてくれなかった。
- 374 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時33分49秒
- おわり
- 375 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時35分09秒
- /
- 376 名前:ぬいぐるみ 投稿日:2003年05月27日(火)21時35分49秒
- /
- 377 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月28日(水)21時58分37秒
- 『読心眼鏡』
- 378 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月28日(水)22時00分45秒
- 「おはよー(あ、あさ美ちゃんだ)」
「あ、おはよう」
「あれ? あさ美ちゃん、どうしたのその眼鏡?(可愛いなぁ)」
「あ、うん。イメチェン」
「似合ってるよ(ホントに可愛いなぁ)」
「え? ありがとう」
「あれ? 照れてる?(うわぁ、顔真っ赤にして……可愛い)」
「…………」
「…………(キスしたいなぁ。怒るかなぁ)」
「あ、あの。みんな遅いね」
「そうだね(急にどうしたんだろ。二人っきりだと嫌なのかな)」
「そ、そんな事は」
「おっはよー(あー、だっりー)」
「あっ、吉澤さん。おはようございます(あ、吉澤さんだぁ)」
「あ、おはようございます」
- 379 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月28日(水)22時01分38秒
- 「あれ? みんなまだ?(なんだ、麻琴とあさ美だけかよ。話合わないんだよなぁ……まぁいいや、漫画でも読も)」
「まだみたいです(吉澤さん、相変らずかっこいいなぁ。あたしもあんな風になりたいな)」
「ぐっちゃー(みんなぁ、げんきぃ?)」
「あ、おはようございます(あ、石川さんだ)」
「梨華ちゃんおはよー(げ、ウザイのが来た)」
「おはようございます」
「あ、あさ美ちゃん、まこっちゃん。おはよう(ふふ、羨望の眼差しで見てるわ。私って罪な女)」
- 380 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月28日(水)22時02分40秒
- 「今日も似合ってるよ。その服(相変らずキショい服装だな。ピンクで統一するか普通? あの服をあそこまでキショく着こなすのは天武の才だね)」
「よっすぃーもかっこいいよ(ふふ、当たり前よ。それにしてもよっすぃー相変らずダサいわね。ラフな格好がかっこいいとでも思っているのかしら。ちょっと可哀想……)」
「あ、やっぱりぃ?(色くっろいなー。何食ったらあんな色になるんだ? あ、でも、あれでスタイルはいいんだよなぁ。あの顔であの体なら裸の方が人気でるね。絶対。まぁ、アイドルとしては再起不能だけどね)」
「うん、すごく似合ってる(もしかしてまた太った? アイドルとしての自覚あるのかしら? 男前キャラからデブキャラに転向するつもりか)」
- 381 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月28日(水)22時03分30秒
- 「きゃぁ! あさ美ちゃん、どうしたのいきなり」
「うわ、紺野カッケー」
「そんなことしたらダメだよ。怪我したらどうするの?」
「ああ! そうだよ。怪我してない? 大丈夫?」
「……平気」
「よかったぁ。でもビックリしちゃった。あさ美ちゃん、突然眼鏡を踏み壊すんだもん」
- 382 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月28日(水)22時04分07秒
- おわり
- 383 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月28日(水)22時04分45秒
- /
- 384 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月28日(水)22時05分15秒
- /
- 385 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)21時58分41秒
- 『嘘発見機』
- 386 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月29日(木)21時59分37秒
- 楽屋の扉が開くと、ひとみが楽しそうに入ってきた。
そして、鼻歌を歌いながらテーブルに置かれていた紙の袋を開いた。
「あぁっ!無いっ!」
ひとみは、驚きの声を上げると楽屋を見渡した。
楽屋には、なつみ、梨華、希美、亜依の4人がくつろいでいた。
4人は、ひとみが大声を上げたことに驚いて彼女を見た。
「買っておいたチーズケーキがなくなってる!」
ひとみは、この世の終わりのように絶望した顔をしている。
梨華は、ひとみのあまりの狼狽ぶりに驚いて声を上げた。
「え? し、知らないよ」
ひとみは梨華を睨んだ。
つかつかと歩み寄ると、梨華の顔を覗きこむ。
「怪しいなぁ」
ひとみは言った。
希美と亜依も、怪しそうに梨華の顔を覗きこむ。
「知らない、知らない」
梨華は、首を横に振って身の潔白を主張した。
このままでは、自分が犯人にされてしまうと思ったのだ。
- 387 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月29日(木)22時00分44秒
- ひとみは梨華の必死な姿に、犯人である確信が持てなくなった。
ひとみは頭を傾げ、困った顔をして辻と加護を見る。
「信じられる?」
ひとみは尋ねた。
「信じらんなーい」
辻と加護は、声をそろえて楽しそうに言った。
その時、それまで様子を見ていたなつみが、ぽん、と手を打った。
「いい物があるべ」
そう言うと、部屋の隅の自分の荷物を探った。
「じゃーん。嘘発見器!」
なつみは、鞄の中から幅20センチ、高さ5センチ、奥行き10センチほどの
機械を取り出した。
上辺には赤いランプと緑のランプがついており、5センチ程の金属の棒が黒い
コードによってその機械に繋がっていた。
- 388 名前:読心眼鏡 投稿日:2003年05月29日(木)22時01分42秒
- なつみは機械をテーブルの上に置くと、梨華、希美、亜依、ひとみの顔を順番
に見た。
「これは、嘘を見破る機械で、この金属の棒を握った人物が嘘をついたら赤い
ランプが、本当のことを言ったら緑のランプが点くようになってるの」
なつみの説明を聞いて、ひとみは興奮していた。
そして、金属の棒を掴むと梨華に差し出した。
「さぁ、見の潔白を証明して見せてよ!」
梨華は、金属の棒を受け取った。
そして、「わかった」と言った。
「じゃあ、ちょっとテストしてみるね。うちが何を言ってもいいえって答えてよ」
「わかったわ」
ひとみに言われて梨華は頷いた。
- 389 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時03分21秒
「じゃ、いくよ。梨華ちゃん、自分が一番お金貰っているの、当然だと思って
いるでしょう」
「いいえ」
機械は赤いランプが点灯した。
「あぁ、赤いランプが点いた。ということは嘘ついてるんだ」
亜依が言った。
「ふーん。梨華ちゃんってそんな人だったんだ」
ひとみが軽蔑の視線を向けた。
「梨華ちゃんサイテー」
希美は笑いながら言った。
「ちがう、ちがうよ」
梨華が言った。
- 390 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時04分15秒
- 「じゃ次は亜依が言うね。梨華ちゃんってさ、実は、自分が娘。の中で一番
可愛いって思ってるでしょ」
「いいえ」
機械は赤いランプが点灯した。
「あーっ、やっぱり思ってるんだ!」
亜依が呆れた顔をして言った。
「梨華ちゃんらしいね」
ひとみが頷きながら言った。
「梨華ちゃんサイテー」
希美は笑いながら言った。
「ち、ちがうよ。確かに一番セクシーかもしれないけど可愛さではあいぼん
だよ」
梨華は、必死に弁解した。
- 391 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時04分50秒
「じゃあ次は辻の番。梨華ちゃん辻のこと馬鹿だと思ってるでしょー」
「いいえ」
機械は赤いランプが点灯した。
「しかたないよ。バカ女だし」
亜依が言った。
「事実だからね」
ひとみが頷きながら言った。
「梨華ちゃんサイテー」
希美は冷たい視線を向けながら言った。
「ち、ちがうよ。辻数学できるじゃん。馬鹿だなんて思ってないよ」
梨華は、焦りながら言った。
- 392 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時05分34秒
「さて、いよいよ本題だね」
ひとみが言うと、希美と亜依は神妙な面持ちで頷いた。
梨華はごくりと唾を飲んだ。
「それじゃいくよ。ケーキ食べたの梨華ちゃんでしょ」
「いいえ」
機械は赤いランプが点灯した。
「あー、やっぱり梨華ちゃんが食べたんだ!」
ひとみは、勝ち誇った声で言った。
「亜依たちのせいにしようとしてたんだよ!」
亜依は希美と顔を見合わせていった。
「梨華ちゃんサイテー」
希美はニヤニヤしながら言った。
「ち、ちが、ちが、ホントに私じゃない! 信じてよぉ」
梨華は一生懸命首を横に振りながら言った。
- 393 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時06分13秒
- 「信じられるぅ?」
と、ひとみが言った。
「信じられるぅ?」
と、希美が言った。
「信じられるぅ?」
と、亜依が言った。
「信じらんな〜い」
と、3人の声が揃った。
「ホントに、ホントだもーん! うえぇぇん」
梨華は、とうとう泣き出してしまった。
ひとみ達は、まさか泣き出すとは思っていなかったのか、困った顔を見合わせる。
そして、何時の間にか立場が逆転して、3人で梨華を慰め始めた。
- 394 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時06分45秒
- その時、圭織が楽屋に入ってきた。
ひとみ達を見て首を傾げると、少し離れた場所で傍観しているなつみの傍に寄る。
「ねぇ、なっち。どうしたの?」
「ううんとね。梨華ちゃんがよっすぃーのケーキ食べちゃったらしいの」
「ふーん。で、なんで石川が泣いてるの?」
「さぁ」
なつみがそう言うと、圭織はもう一度首を傾げた。
- 395 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時07分26秒
- ふと、圭織は4人の中央に嘘発見器が置かれていることに気づいた。
「あぁ、ごめん。あれ、なっちのだよね」
圭織は嘘発見器を指差しながら言った。
なつみは頷いた。
「実はさ、この前それで遊んでたら壊れちゃって、何を言っても赤いランプ
しか点かなくなっちゃったんだ。ずっと謝ろうと思って忘れてた。本当に
ごめん」
圭織は頭を下げて謝った。
なつみはにっこりと微笑んだ。
「うん、知ってる」
- 396 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時08分23秒
- おわり
- 397 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時09分06秒
- /
- 398 名前:嘘発見機 投稿日:2003年05月29日(木)22時09分51秒
- /
- 399 名前:名無し娘。 投稿日:2003年05月30日(金)12時47分30秒
- あー、今更何がしたいのかわかった。
続き期待。
- 400 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時30分16秒
- 『空間固定装置』
- 401 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時31分17秒
- 乱雑に積み上げられ、絶妙なバランスでその形を留めている書籍や雑誌。
ベッドの上に脱ぎ散らかされたいくつもの衣服類。
食べた後、無造作に袋に突っ込まれたコンビニの弁当殻。
そんな真っ只中に私は立っていた。
つい先ほど梨華ちゃんに電話で呼び出されて部屋に招かれたのでる。
当の本人は、机の上に置かれた何に使うのか分らない奇妙な機械を脇にどけながら、
何やら探し物をしていた。
「で、用事って何?」
「うん、ちょっと待って」
上の空で答え、探し物に没頭している。
- 402 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時32分57秒
- 私はあらためて室内を見回した。
もっと部屋を片付けておれば、探し物もすぐに見つかるだろうに。
私がそう思っていると、梨華ちゃんが声を張り上げた。
「あ! これこれ、これ見て!」
ようやく見つけ出したのか、机の奥から黒いベルトを引っ張り出し、手に取って
見せる。
ベルトは黒いエナメル素材でできており、バックルは銀色で、中央に赤いボタン
のような出っ張りがあった。
梨華ちゃんは、誇らしげにベルトを私に見えるよう掲げている。
「じゃーん。実はこれ、空間固定装置なんだ」
「うん、すごいね」
私はきびすを返して玄関へと向かった。
- 403 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時35分29秒
「ああん、待って! ちょっと聞いてよ!」
梨華ちゃんは帰ろうとする私の腕を取ると、強引に体の向きを変える。
子供のように「いやいや」と肩を揺らし、今にも泣き出しそうな顔をする。
私はこの顔に弱い。
ふぅ、とため息を落とし、梨華ちゃんに向き直る。
「で、そのベルトがどうかしたの?」
私が聞く体制に入ると、梨華ちゃんは本当に嬉しそうな笑顔を作る。
そして、私の腕を掴んだままぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいた。
傍目に見ても話したくてうずうずしているのが手に取るようにわかる。
こうなると、マシンガンのように話し始めてなかなか止まらない。
私はすぐ傍の本棚に凭れ掛かって楽な姿勢を取ると、長期戦の構えを取った。
梨華ちゃんは嬉しそうにベルトを差し出すと説明を始めた。
- 404 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時37分27秒
「うん! このベルトは装着した人物の体を好きな空間に固定する事が出来るの。
この赤いボタンを押すと、ベルトで囲われている物体は全てその瞬間の空間に固定
されて、もう1回押すと解除されるってわけ。これで、何かの事故でベランダから
落ちたとしても救助が来るまでその空間に留まっていれば助かるし、この部屋みた
く寝る場所がなくってもジャンプして空間に留まっちゃえばいいのよ! どう!
私が作ったんだよ! 凄いでしょ!」
私は腰に手を当て、えっへんとポーズを取る梨華ちゃんに驚嘆の視線を送った。
彼女の言う、『空間固定装置』に興味を持ったのだ。
物体を空間に留めるとはあまりにも突飛な発想ではあるが、梨華ちゃんが言うのだ
から本当なのだろう。
そう、梨華ちゃんはNASAからも声をかけられるほどの天才で、これまで数々の
発明品を作っては私に見せてくれた。
豆粒を100倍もの大きさに変える光線を出す質量変換装置や、離れた場所に一瞬
で移動できる物質移転装置などである。
- 405 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時38分08秒
- 梨華ちゃんは、天才であることを隠して、モーニング娘。というアイドルグループ
で私と一緒に活動している。
NASAの誘いを断って私の傍にいることを選んでくれたのだ。
私は梨華ちゃんに選んでもらった事がとても嬉しかったし誇らしくもあった。
そんな梨華ちゃんが作った装置である。
疑う余地などまるでなかった。
「へぇ、凄いね。もう動かしてみたの?」
「ううん、テストはまだ。よっすぃーに一番に見てもらいたくて」
梨華ちゃんは万事この通りであったが、今まで失敗した事は一度もなかった。
楽しそうに自分の腰にベルトを巻き、いろんなポーズを取って私に見せた。
- 406 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時39分00秒
「うふふ、どう? 似合う?」
「まぁ、デザインはダサダサだね。梨華ちゃんのポーズと相成って滑稽だよ」
私が冗談めかしてそう言うと、両手を腰に当てて「もう」と頬を膨らませる。
一生懸命眉を寄せて、精一杯の恐い顔を作っているつもりなのだろうが、端整な
顔立ちに子供じみた表情では可愛さを引き立たせるだけである。
本人はこれで怒っているつもりなのだろう。
可愛らしくて笑みがこぼれる。
「ごめんごめん。で、それからどうすんの? やってみせてよ」
「あ、そうね。それじゃ、今からジャンプして空間に留まってみるから、フォロー
ちゃんとお願いね」
「オッケーまかせて」
- 407 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時39分49秒
- 梨華ちゃんは数歩下がって深呼吸を数回繰り返し、腰に巻きつけたベルトを左手で
しっかりと掴み、右手の指をバックルのスイッチに軽く乗せた。
「それじゃいくよ」
梨華ちゃんの言葉に私が頷くと、真っ直ぐ私を見て彼女も頷く。
不安など毛ほどもない、自信に溢れた強い瞳をしていた。
そして、私が見守る中、ジャンプしてスイッチを押した。
その瞬間、梨華ちゃんはジャンプした姿勢のままで部屋の窓を突き破り、向かいの
ビルに激突してビルを貫通し、真っ直ぐ青空を飛翔して瞬く間に星になった。
部屋の窓は、見事にジャンプした人の形で割れていた。
遠目で見ると、向かいのビルも同様の穴が開いているように見える。
- 408 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時41分33秒
「なっ!?」
私は驚きのあまり、凭れ掛かっていた本棚押して起きあがった。
押された拍子に本棚が大きく揺れて、上に無造作に重ね置きされていた本や地球儀
が落ちそうになる。
「うわぁっとっと」
私は急いで本棚に抱きつき、両手を伸ばし崩れ落ちそうな本を押さえた。
しかし、どうしても手の数が足らず、地球儀が回転しながら転げ落ちた。
ガタンと大きな音お立てて床に落ち、衝撃でスタンドが壊れて球体が外れた。
「あちゃー」
私は支えていた本を奥へと押しやり落ちないようにすると、ごろごろと床を転がる
地球儀を拾いに行った。
床を転がる地球儀を腰を屈めて拾うと、両手にとって真っ直ぐ見つめる。
- 409 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時42分34秒
- 梨華ちゃんはどうして飛んで行ってしまったのだろう。
まさか、失敗だったのだろうか。
私は考え込みながら無造作に手を動かして地球儀で遊んだ。
バスケットボールのように地球儀をポンポンと浮かせては受けとめ、右手の人差し
指に乗せてくるくると回転させた。
物質を空間に固定する装置。
飛んでいってしまった梨華ちゃん。
指の上で回転する地球。
「あ、そうか!」
私は唐突に理解した。
地球は常に自転し、太陽の周りを回っている。
そして、太陽系は銀河系の、銀河系は外宇宙の周りを常に動いているのだ。
つまり、梨華ちゃんが動いたのではなくて、宇宙そのものが動いているのだ。
- 410 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時43分48秒
- 梨華ちゃんは本当に天才だった。
いや、天才過ぎた。
梨華ちゃんの作った装置は、想像も及ばない途方もない遠い宇宙の中心を基点に、
物質をその唯一点に留めてしまったのだ。
梨華ちゃんが傷つくことは恐らくないだろう。
物質が固定されるということは決して崩れることはない、つまり、絶対に破壊でき
ないからだ。
むしろ、梨華ちゃんに衝突する様々な物体の方が危険に晒される事になる。
梨華ちゃんは、これから死ぬことも老いることもなく、何かの衝撃でスイッチが
押されるまで唯一点の場所に居続けるのだろう。
それは、生きているとさえ言えないのかもしれない。
私は、いつまでも梨華ちゃんがいるであろう方向を見つめていた。
不思議と涙は出なかった。
- 411 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時44分28秒
- おわり
- 412 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時45分08秒
- /
- 413 名前:空間固定装置 投稿日:2003年05月30日(金)21時45分53秒
- /
- 414 名前:sorari 投稿日:2003年05月30日(金)21時50分06秒
- >>399
あ、わかってしまいましたか。恥ずかしい(w
お願いしますから秘密にしておいてください。絶対ですよ!
- 415 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時39分31秒
- 『ガンダルフ様』
- 416 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時41分30秒
- 見渡すかぎりの空は灰色の雲に覆われ、はらり、はらりと静かに雪が舞い落ちている。
晴れていれば壮大であろう景色を、真っ白な雪が覆い隠していた。
風は無風に近かったが、肌を指すような冷たい空気が容赦なく体の熱を奪ってゆく。
私は今、北海道の最果市に来ていた。
今年の秋に、モーニング娘。がさくら組、おとめ組に分けられ、人気の再生が期待
されていたのだが、その出足は好調とはとても言えなかった。
そこで、つんくさんの思いつきで、復活をかけた新曲CDの10万枚手売り活動を
行うことになったのだ。
私達さくら組は北から、おとめ組は南から進み、東京で合流してコンサートを開い
て残りを一気に売り上げる寸法だ。
各組のノルマは5万枚だが、合計が10万枚を超えればいいことになっている。
名目上は初心に戻ろうということだが、実質売れ残った在庫の処分をやらされてい
るのである。
もちろん、10万枚に達しなければペナルティが待っている。
モーニング娘。は完全に解体され、まことプロデュースによる新たなユニットが作
られるのだ。
それだけは絶対に避けたかった。
- 417 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時42分18秒
「よろしくおねがいしまーす」
安倍さんが声を張り上げて呼びかける。
「よろしくおねがいしまーす」
その後に続いて、私達は声を張り上げた。
私達の前に置かれた横長のテーブルには、サインが書かれたさくら組の新曲のCD
が山済みにされている。
私達は、かれこれ3時間ほどこうして手売り活動を続けていた。
凍えそうな寒さに晒されて体はすっかり冷え、唇も紫色に変色していた。
私はため息を一つすると、安倍さんに話しかけた。
- 418 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時44分01秒
「安倍さん、もう、次の町に行きましょうよ」
「なーに言ってるべ。まだ50枚も売れてないんだよ!」
「もう無理ですって。これだけ売れればもう充分ですよ」
「無理じゃないべさ。たった50枚で何言ってるベさこの子は」
安倍さんは呆れたように言う。
私はなおも食い下がった。
「もう無理ですよ」
「無理じゃない」
「だって、人口300人に満たないこの町で、どうやってこれ以上売れっていうんですか!」
- 419 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時44分53秒
- 私は思わずテーブルを叩いていた。
テーブルが揺れて、重ね置きされたCDが危なっかしくカタカタと動いた。
目の前の広場では、私の声に驚いて数人のお年寄りがこちらを向くが、すぐに興味
を無くしたのか通りすぎていく。
お年寄りの多いこの町で、50枚売れただけでも奇跡だった。
安倍さんは、それでも食い下がってきた。
「ま、まだ250人残ってるべ」
確かに残っているだろう。
しかし、CDを買ってくれた人達の中には家族ぐるみで買いに来た人もいた。
今や一家に一枚は持っているのではのかとさえ思えてしまう。
これ以上、いったい誰が買うというのだ?
- 420 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時45分41秒
- 私が文句を言ってやろうと口を開きかけたその時に、小さい男の子が話しかけてきた。
「あの、一枚ください」
「ほら、きたべさ。ハイハイ、一枚ね。1200円です」
安倍さんがそう言うと、男の子は申し訳なさそうにもじもじする。
「ごめんなさい、お金は持ってないです。代わりにこれ」
と言って木彫り人形を差し出した。
5センチ程の、人の姿に狼の頭をした、眼に宝石のような赤いものが埋め込まれて
いる人形だ。
- 421 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時46分31秒
- 安倍さんは、つまらなそうにその人形を一瞥するとすぐに笑顔に戻って男の子に
話しかけた。
「ごめんねボク。これはお金じゃないと買えないの。お母さんに頼んで、お金を
貰ってからもう一度来てくれるかな」
男の子はとても悲しそうな顔をした。
良く見ると、一昔前の、みすぼらしい格好をしている。
お金じゃないと買えないことなど当に承知しているはずだ。
しかし、家が貧しい為にそのお金を作る事が出来なかったに違いない。
このまま帰せば、この男の子はもう戻ってこないだろう。
私は、この男の子が哀れになった。
何より少しでもCDの数を減らしたかった。
- 422 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時47分21秒
「じゃあ、お姉ちゃんがその人形を買ってあげる。そのお金でCDを買うと良いよ」
私は、ちょっと甘い気がしたが、その人形にも少し惹かれたので惜しいとは思わな
かった。
安倍さんは、非難の視線を私に向ける。
私は無視してCDを男の子に渡すと、人形を受け取った。
「お金は後で払っといてあげるから」
男の子は、CDを受け取ると、とても嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見ただけでも、自分のした事が正しかったと思えてくる。
「ガンダルフ様」
男の子が言った。
- 423 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時48分04秒
- 私が、不思議に思もって男の子を見ると、男の子は私が持つ人形を指差した。
「ガンダルフ様。山と森の神様。どんな願いでも叶えてくれます」
そう言うと、男の子は走り去っていった。
私は人形をまじまじと見つめた。
そう言われると、高貴な顔つきをしているように見える。
突然、私の脇と腕の間から、ひょこっと加護が顔を出した。
「なにそれーっ」
そう言うと、物珍しそうに人形を見る。
- 424 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時48分41秒
- さっきまで同じ呼びかけを何時間も繰り返してきのに、加護は始めた頃と変わらず
元気だ。
あるいは疲れを見せないようにしているのかもしれない。
人形をじっと見つめながら、楽しそうに笑っている。
「かっこいいねー」
そう言うと、私に視線を向けた。
私はそうだね、と答えた。
- 425 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時49分44秒
- 加護が持ち場を離れたことを切っ掛けに、みんな一気に緊張が解けたのだろう。
それまで安倍さんの隣りに立っていた矢口さんが、疲れた顔をしてため息をついた。
「ねぇ、ちょっと休憩しない?」
矢口さんが、安倍さんの方を向いてそう言う。
その隣りで、紺野と高橋が期待を込めた視線を安倍さんに向けた。
亀井も一番右端で、同じように様子を見守っている。
「んもう、しょうがないな。じゃあ15分休憩にしよっか」
安倍さんがそう言うと、一番はしゃいだのは加護だった。
「やったー」
と言うと、腕をすり抜け移動バスに向かって走り出した。
矢口さんも、ほっとした表情でバスに向かって歩き出した。
安倍さんは矢口さんと平行して歩きだし、紺野や亀井もその後に続いた。
高橋は、人形が気になるのか一瞬だけ視線を向けたが、疲れが勝ったのだろう、
すぐに紺野の後を追った。
- 426 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時50分42秒
- 私はというと、確かに疲れてはいたがバスにまで戻る気はなかった。
近くの、除雪後に出来たのだろう腰の高さほどの雪の山場に腰を下ろし、人形を
弄りながら遠くを眺めた。
遥か遠くの南の島で、梨華ちゃんはどうしているんだろう。
梨華ちゃんは頑張り屋だから、今も必死に手売りをしているに違いない。
つい数日前に会っているのに、どうしようもなく梨華ちゃんに会いたくなってくる。
「はぁ、梨華ちゃんに会いたい」
私はため息ついでに、つい、考えていたことを口にした。
その時、手に持っていた人形が、突然赤い光を発した。
- 427 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時51分44秒
「うわぁ!」
私は、人形が燃え出したのかと思い、驚いて放り投げた。
しかし、人形は燃えているわけではなかった。
人形は空中に留まると、その光を強めながらくるくると回転し始めた。
そして、その形が判別できなくなるほど激しく回転速度を加速させる。
「すっげー」
私は、その神秘的な光景に見とれていた。
突然、人形が音もなく爆発した。
爆発したように見えただけかもしれない。
とにかく、人形は姿を消し、人形があった場所を中心に、直径2メートルの巨大な
穴が開いていた。
空間に、である。
空間に巨大な穴が開き、私が今いる場所とはまったく違った景色がその穴から覗け
るのだ。
- 428 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時53分02秒
- 空間に開いた穴の向こう側の空は、真っ青に晴れ渡り、真っ白い砂浜にエメラルド
グリーンの海が広がっていた。
そして、すぐ傍の砂浜にはCDをたくさん入れた籠を肩に下げて、鼻水を流しなが
ら大泣きしている梨華ちゃんが立っていた。
「梨華ちゃん!」
「よっすぃぃぃっ!!」
私が呼ぶと、梨華ちゃんは私に向かって駆け出した。
私も、梨華ちゃんに向かって駆け出していた。
そして、互いにジャンプして空間に開いた穴に飛び込んだ。
梨華ちゃんは私を、私は梨華ちゃんを空中で捕まえ抱き合おうとする。
しかし、私と梨華ちゃんは抱き合う事はなかった。
きらきらと光る鼻水を、私は反射的に避けてしまったのだ。
その結果、私は梨華ちゃんを避けて梨華ちゃんがもといた砂浜に着地し、梨華ちゃん
は私が今までいた場所に着地した。
私が慌てて振り向くと、空間の穴は小さくなり始めていた。
閉じてゆく空の裂け目からは、私に振り向き、驚いた表情で、どうして?と言いたげ
な梨華ちゃんの後姿が見えた。
そして、瞬く間に空に開いた穴は消滅した。
- 429 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時53分54秒
- 私は、呆然とその場に突っ立っていた。
そして、先ほどまでぽっかりと穴が開いていた場所を眺めていた。
その時、足元にビーチボールが転がってきた。
ビーチボールを拾い、転がってきた方向に目をやると、水着姿の辻が素足で駆けな
がら私のほうに向かっている。
その奥の波打ち際の砂浜では、飯田さんや美貴ちゃんが私に手を振っていた。
小川も私に気づくと手を振って走りだし、田中や道重もその後に続いて駆け寄って
くる。
その全員が水着姿をしており、楽しそうに笑っている。
- 430 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時54分31秒
「あれぇ? よっすぃー、どうしたの?」
息を切らしながら、辻は私の傍まで寄ると、驚いた様子で尋ねてきた。
「あ、うん、ちょっと」
私が言うと、辻は一瞬惚けた顔をしたが、すぐに笑顔に戻って私の腕を取った。
そして、そのままみんなのいる場所まで強引に引っ張っていく。
「まぁいいや。それよりよっすぃーもビーチバレーやろうよ」
本当にどうでも良いのだろう、私がここにいることに何の疑いも持っていないようだ。
そのまま私はみんなと合流した。
- 431 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時55分19秒
「あの、梨華ちゃん泣いてたみたいだけど」
「梨華ちゃん? 梨華ちゃんなら『みんな、遊んでないで一生懸命CDを売りま
しょうよぉ』ってうるさいからほっとくことにしたけど、そういえば何処行っ
たんだろ?」
梨華ちゃんの物まねをしながら辻が言った。
梨華ちゃんを探しているのか、辺りをきょろきょろと見回している。
「そうそう、こんな人がいないところで売っても仕方ないのに、大きい町に行っ
て挽回すれば良いんだしさ。遊べる時は遊ばなきゃ損じゃん」
飯田さんがうんうん頷きながら言った。
小川と美貴ちゃんは、互いに顔を見合わせてると、「ねー」と声を合わせて同意
する。
- 432 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時56分53秒
- 辻は、私の腕に抱きつきながら服をちょんちょん、と引っ張った。
「ねぇ、そんな格好で暑くない?」
確かに私は北海道御用達の服装をしている。
服の中では汗が噴出し始め、湿った下着が肌に張り付いてくる。
秋も半ばだというのに、沖縄はまだかなり暑かった。
私が服を脱ぎ始めると、田中と道重が気を利かせて服を受け取った。
幸い、この場所には私達だけしかいないようだったので、少々大胆な格好になる。
「よっすぃーもやるっしょ」
飯田さんがビーチボールを両手で持ち上げながら聞いてきた。
私は頷いた。
どうやら私には、こっちの方が合っているようだ。
- 433 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時57分26秒
- おわり
- 434 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時58分09秒
- /
- 435 名前:ガンダルフ様 投稿日:2003年05月31日(土)18時58分39秒
- /
- 436 名前:sorari 投稿日:2003年05月31日(土)19時13分51秒
- これまでこの『いしよし畑』を読んでいただき、ありがとうございました。
今回の話で、当スレはさしあたり終了とします。
私事ですが、三ヶ月ほどの間、ネットができない場所に行かなきゃいけないようです。
なんか、私の態度次第では任期が伸びたり縮んだりするらしいのではっきりとは言えませんが…。
本来のんびりするのが好きな自分が更新を急いだのはそのためだったりします。
あらためて、今日までこのようなアフォな話に付き合っていただきありがとうございました。
それでは皆様、
( ^▽^)ノ グッチャーッ!
- 437 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月01日(日)21時36分49秒
- (0^〜^)ノ グッチャー!
- 438 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月02日(月)07時09分57秒
- sonariたん好き
- 439 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月03日(火)11時40分21秒
- soraniたん好き
- 440 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月03日(火)21時09分22秒
- sororiたん好き
- 441 名前:名無し娘。 投稿日:2003年06月03日(火)22時48分25秒
- tarariたん好き
- 442 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月04日(水)01時22分11秒
- tamoriたん好き
- 443 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月25日(金)21時14分29秒
- またsorariたんの小説が読みたいっす
- 444 名前:京 投稿日:2003年08月18日(月)23時45分05秒
- あと1ヶ月位かな〜…待ってます。
- 445 名前:sorari 投稿日:2003年09月01日(月)21時45分50秒
- 帰ってきました。
>>437
( ^▽^)ノ ちゃお〜♪
>>438
レスありがとうございます!
すっごい嬉しいです。でもちょこっとだけHN間違えてますよw
>>439
やったー。めっちゃ嬉しいです。ですがHNが少し違いますねw
あ、気にしてませんよ!ドンマイ。
>>440
はい、嬉しいです。ですが私のHNはsorariです。
>>441
あの……sorariなんですけど。
>>442
…………。
>>443
そう言っていただいて嬉しいです。
ですがしばらくは読者に戻ろうと思います。読みたい話がたくさんありますし。
ときどき思い出したように短い話を書かせていただこうと思います。
>>444
保全ありがとうございます。
このはもう残っていないだろうと思っていたので嬉しいです。
ごめんなさい。帰ってきたばかりでネタが一個もありません。
今回は返信レスで終わりです。
- 446 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月02日(火)13時28分18秒
- アニキ。おつとめご苦労様です。
ヒサブリのシャバの空気はどうですか?
- 447 名前:sorari 投稿日:2003年09月06日(土)13時07分26秒
- >>446
アニキなんて他人行儀名言い方はよしてくれよ。
昔のようにトニーって呼んでくれ。
とりあえず今は、溜まりに溜まったあいぼん出演ビデオのチェックがしたいぜ。
何か書きます。
- 448 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時08分13秒
- 『穴場』
- 449 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時09分57秒
- 「あ、梨華ちゃんいたいた」
私は急に呼びとめられ、振り向いたらよっすぃーが手を振りながらこちらに向っていた。
野球帰りの少年のようにバットの先にグローブを付けて肩に担ぎ、ラフな格好をして、開いた手にスーパーのビニール袋を持っていた。
「あれ?よっすぃーどうしたの?」
「うん、実はさ、バーベキューにもってこいの穴場を見つけてさ、超有名スポットなんだけど結構ローカルでほとんど人がいないんだ。それでね、飯田さんと矢口さんに教えたらみんなでバーベキューをやろうってことになってこうして声をかけまわってるってわけ。梨華ちゃんも行くよね」
「うん、行く!」
「良かったぁ。それじゃぁ、これもって後ろを向いて目をつぶって」
「え? わかった」
- 450 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時11分37秒
- 私は渡されたビニール袋を両手に持ち、言われるままに目を瞑った。
でも、何をするつもりなのか気になってよっすぃーに聞こうと目を開けて振り向いた。
「な!?」
よっすぃーは金属バットを振りかざし、私めがけてそれを振り下ろした。
バットは私の額に命中すると、額がぱっくりと割れて血が噴出した。
「あーあ、振り向くから一発でしとめ損ねたじゃん」
そう言うと、よっすぃーは再びバットを振り上げた。
「もう一発!」
――そうして、私は深い闇に落ちていた。
- 451 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時13分37秒
- 辺りは真っ暗で静かだった。
本当に落ちているのかわからないが地面の感触がないのでたぶん落ちているのだろう。
まるで両足に鉛をつけられ、冷たくて深い海に沈んでゆくような、そんな感覚を感じる。
この深い闇の底まで沈んだらどうなってしまうのだろう。
私は死んでしまうのだろうか。
まだ、よっすぃーとキスしかしてないのに……殺ったのはよっすぃ―だけど。
死ぬのはいやだ。
私は助けを求めるように両手を前に突き出した。
- 452 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時14分54秒
- その時、天上から光が降りてきた。
壮言な音を伴う清浄の光はいともたやすく追いつくと私を貫いた。
私は、光にすがり求めるように両手を伸ばした。
私は、ぐんぐん引き上げられるのを感じていた。
あるいは光が私に近づいているのかもしれない。
光は闇を塗り替え私を包み込む。
そして、長くて暗いトンネルを抜けるかのように、唐突に光と共に闇が払われた。
- 453 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時16分19秒
- そこは、見たこともない美しい川辺だった。
白く、丸く削れた小石が川沿いに敷き詰められ、さらさらと澄んだ川が流れている。
川の対岸は綺麗な野の草花が咲き乱れ、輝きに充ちていた。
川の水は澄んでおり、川底がはっきりと見える。
深さは膝に届かないぐらいだろう。
流れも緩やかで楽に対岸へと渡れそうだ。
- 454 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時18分59秒
- 私は、まるで引き寄せられるように一歩、また一歩と川へ近づいた。
この川を渡りきれば、素晴らしい世界が広がっている。最高に幸せになれる。そんな気がした。
その時、少し離れた川辺から私を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、梨華ちゃーん。こっちこっちぃ」
「石川ぁ、そっちに渡ったら帰れなくなっちゃうよ」
そこには、川辺でバーベキューの準備をしている矢口さんと飯田さんがいた。
「梨華ちゃんも来てたんだ」
「あいつ手加減知らないからやばかったでしょ。うちらももう少しで死んじゃうところだったしさ」
飯田さんの言葉に矢口さんもうんうん頷いている。
- 455 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時20分06秒
- 「ところで梨華ちゃんの持ってるの何?」
「え?」
私は矢口さんが指差した右手の方を見た。
今まで気がつかなかったが、私は殴られる前によっすぃーに渡されたビニール袋を持っていた。
中身を見てみると、たくさんのお肉が入っていた。
「お、お肉じゃん。気が利くね」
「よっしゃぁ! なんかバーベキューらしくなってきたぞ」
何だか私も楽しくなってきた。
- 456 名前:『穴場』 投稿日:2003年09月06日(土)13時21分05秒
- ―おしまい―
- 457 名前:sorari 投稿日:2003年09月06日(土)13時23分21秒
- こんな感じで次回の更新はまた来週。
- 458 名前:sorari 投稿日:2003年09月06日(土)13時26分00秒
- あ、ひさしぶりでageとsageまちがえました!
これからはsage進行でいきます。
- 459 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月06日(土)23時14分12秒
- (0^〜^)ノ おかえり
- 460 名前:京 投稿日:2003年09月06日(土)23時14分32秒
- 感動しますた。
なんだか石焼ピビンバが食べたくなりました。
- 461 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月07日(日)16時04分00秒
- おかえりんささい
- 462 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月08日(月)09時37分16秒
- トニー、あんたやっぱり最高だよトニー。
- 463 名前:名無し娘。 投稿日:2003/09/09(火) 16:53
- 「決意」を感じた。
この退屈と焦燥感が渦巻く現代に置いて、それでも強く生きていこうとする「決意」が見えた。
なぜなら、まだ吉澤さん自身はみんながいる世界とは別の世界にいるからだ。
そして、彼女はこの話の中では選択をしていない。その手は読者である僕らに委ねられたのだ。
僕には選ぶ事なんて出来やしない。
それでも僕はこの作品と共に強く歩いて逝ける「決意」はできそうな気がする。
- 464 名前:sorari 投稿日:2003/09/13(土) 17:07
- >>459
リクキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
岡本×亀井かぁ……いしよしじゃないしちょっと難しいですねw
せっかくのリクですがちょっと無理っぽいです。ごめんなさい。
>>460
またまたリクキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
石川×夏焼×ビビンバ(?)とはまたグルメというかマニアックですねw
でもちょっと書けそう。問題はビビンバさんが何人かということですねw
>>461
ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
>>462
よせやい。照れるじゃないか(照
やっぱりあいぼんは最高だなぁ。
>>463
すげぇよ。あんたすげぇ。
感無量です。もう他に何も言うことがありません。
あえて言うなら、合理主義のもたらした組織化、大衆化により平均化された
現代社会において、自己の社会的義務と責任を放棄し、主体性が失われた
大衆社会の中での理念や哲学といった行動が無意味であるように思える。
(中略)
彼女らの思考様式は極めて独創的であり、そうかとおもうと客観的で
偏見や好みといった多面性を超越した普遍妥当性を感じずにはられない。
そこには背景に理論やイデオロギーのようなものは何一つ無い。
私は彼女達の世界の習慣や常識では推し測れない行動理念に惹かれ、
その思いを小説という媒体を利用し表現したにすぎない、とうことです。
- 465 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:08
- 『もうひとりいる』
- 466 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:09
- 私が楽屋で適当に漫画――辻のカバンから勝手に取り出した物だが――を開いて時間を潰していると、高橋が思い出したような素っ頓狂な声を出した。
「そういえば石川さんに借りっぱなしだった」
そう言って、カバンをごそごそと探るとDVDを取り出した。
「はい、ありがとございました」
「え、あぁっ! それこの前無くしたやつだ」
「え!? 知らんですよ。あたしちゃんと借りましたもん」
「え? そう……っかなぁ。ごめんね高橋」
そう言うと、受け取ったDVDをカバンに仕舞おうと席を立った。
- 467 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:09
- カバンはメンバー内で一纏めに置かれており、丁度その傍で亀井がMDを聞いていた。
「あぁ! そのMD私の!!」
「え!? でも、あの、新しいの買うからあげるって先ほど……」
「そんなこと言ってない。返してよ」
「は、はい。返します。すみませんでした」
亀井は語尾になるほど声は小さくして言った。
今にも泣きそうになりながらイヤホンを外している。
私はちょっと可哀相だと思ったが、亀井が自分のカセットをMDから抜いているのを黙って見ていた。
その様子に見かねたのか、先ほどまで本を読んでいた飯田が本を閉じると席を立った。
- 468 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:10
-
「ちょっと石川! いい加減にしなさい!」
「でも、あれ私の……」
「だからってさっきの言い方はないでしょ。ほら、亀井泣きそうじゃん」
「私、悪くない……」
「悪いとか悪くないとかじゃなくて。他にも言い方があるでしょう?」
「じゃあ、なんて言えばいいんですか?」
互いにじっと見つめる。
その気まずさに私は目を反らすことができなかった。
飯田は、肩を落として溜め息をつくと、先ほどとは打って変わって優しい目付きをする。
- 469 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:11
-
「石川、どうしたの? あんた、さっきからおかしいよ」
そう、確かにおかしい。
おかしくっておかしくって頭が変になりそうだ。
私は冷静さを保つのに必死だった。
突然、その気まずい雰囲気をぶち破るように勢いよく楽屋のドアが開いた。
矢口が珍しく今頃――安倍が遅いのは何時ものことであるが――やってきたのだ。
「おはよーってあれ!? 梨華ちゃんいつのまに楽屋に戻ったの?」
矢口は楽屋に入るや否や驚いた声を上げる。
- 470 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:11
- 「何言ってるんですか。私ずっとここにいましたよ」
「え? あれぇ? じゃあさっきのは梨華ちゃんじゃなかったのかな」
「どういう事ですか!? 詳しく教えてください!」
「いや、ついさっき廊下で梨華ちゃん見かけた気がしたんだけどさ、たぶん見間違いだよ」
「さっきって? どこに向かっていました?」
「どこって、ロビーに向かってたよ」
そう聞くや否や楽屋を飛び出した。
見失ってなるものか、と、私は後を必死に追いかけた。
しかし、廊下に出た時は既にめぼしい人物はおらず、とりあえずロビーに向かうほかなかった。
- 471 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:12
- 「もう、何処にいるのよ」
「あ、梨華ちゃん」
「あれ? よっすぃーどうして?」
急に声が聞こえ、私が声の方に視線を向ける。
丁度そこは廊下の角で死角になりやすい場所なのだが、そこで、ここで会ったのが意外だとでも言いたげの表情を浮かべて立っていた。
戸惑いながらも旧知の仲だからだろう、挨拶もそこそこで互いに歩み寄る。
「ちょうど良かった。梨華ちゃん」
「よっすぃー。あのね、もしかして私とすれ違わなかった?」
「昨日貸したお金返して」
「変なこと言うようだけど……ってお金って何!?」
「何言ってるの! 昨日貸したじゃん」
「えぇ!? 借りてないよ!」
「貸したよ」
「借りてないって……あっ」
次の瞬間、驚き怪しむような表情に変わる。
- 472 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:13
- 「ちが、それ偽者……」
「何言ってるの? そんなわけわかんない事言って誤魔化せると思ってんの?」
「違うの、私じゃない。ホントに違うの」
「間違いなく梨華ちゃんだよ」
「違うのよっすぃー聞いて! 私にそっくりな人がいるの! そいつが私に成りすましてるの! 私じゃない! お願い信じて!」
「あーイライラする。梨華ちゃん、うちのこと馬鹿にしてるの? 偽者だったら気づくよ。うちら何年一緒にいると思ってんの」
「ちがうの、ああんもう! 今話してる時間はないの! その話しはまた後で」
そう言うと、この場を走って立ち去ろうとした。
しかし、そうはならなかった。
咄嗟に腕を掴み逃げられなくしたのだ。
- 473 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:13
- 「待てよ! 逃げるなよ! 何が偽者だよ。そんな奴いやしないよ。もともと返す気なんかなかったんだろ」
「ち、ちが、ほんとうに」
「もういい!」
そう言って、掴んでいた腕を離すと、そのままそっぽを向いて、行きたければ行けば、という態度をとる。
そのような態度を取られたら、この場を無視して行けるわけが無い。
事実、相手の出方を覗うように見つめる事しかできないでいた。
「梨華ちゃんがそんな奴だなんて知らなかった。あたし、梨華ちゃんだから信じて貸したのに。偽者だとかわけわかんないこと言って誤魔化そうとするなんて最低だね。見そこなったよ。もう口も聞きたくない」
「そんな……あたし」
「早く行ったら。急いでるんでしょ」
「……わかった、返す」
「まじで?」
途端に顔がほころぶ。
- 474 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:14
- 「で、いくらなの?」
「100万」
「ひゃ、ひゃくまん?」
「そう、100万円」
「……今持ち合わせない」
「なーんだ。だから色々言い訳言って誤魔化してたのか」
「違うけど……ごめん、今からお金降ろしてくる」
「わかった、楽屋で待ってる」
「んもう、絶対捕まえてやる!」
そう言うと再び後を追って走り出した。
私は、とりあえず楽屋に戻ろうと向きを変えた。
- 475 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:15
- 「どうだった?」
矢口だ。
私は立ち止まった。
「100万くれるって」
「マジで!?」
「えっと、返すだったかな? でもまぁ同じ事だし」
「嘘みたい。こんな手に引っかかるか普通」
「まぁ梨華ちゃんだし。それより如何します? 高橋と亀井が梨華ちゃんにうちらのこと話したらバレちゃいますよ」
「それなら大丈夫。おいらが口止めしとくから」
「それなら大丈夫ですね。100万かぁ。何に使おっかなぁ」
「焼肉食おうぜ。焼肉」
「いいっすねぇ」
- 476 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:16
- そのまま二人はお金の使い道を話しながら私とは反対方向へと廊下を歩いて行った。
私が聞き耳を立てていた事も知らずに。
さて、どうする?
中澤か保田のババァに話てもいいけどそれじゃ面白くないな。
今回の事は何かと利用できそうだし。
私は色々と考え事をしていた為、前方に不注意になっていた。
そのため廊下の角を曲がった時に、思いもがけない人物とぶつかった。
- 477 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:17
- 「キャッ、いったーっ。んもう、どこ見て……」
「痛っ! す、すみま……」
「あーっ!!」
私達の声が重なった。
「り、梨華ちゃん。戻って来てたの?」
「ミキティこそ如何してここに……あっ」
「もしかしてさっきの聞いてた?」
見事に声がシンクロした。
- 478 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:17
- 私達は、気まずい雰囲気の中、とりあえず楽屋に戻ることにした。
どちらとも話を切り出す切っ掛けがつかめず、チラチラと様子を覗う。
このままでは何も聞き出せないまま楽屋についてしまう。
私は思いきって聞いて見ることにした。
「あの」
私達は同時に切り出した。
何だかおかしくてつい噴出してしまう。
そのおかげか、場の雰囲気が和やかになり、すっかり話しやすくなった。
- 479 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:18
- 「ところでさ、梨華ちゃんお金降ろしに行ったんじゃなかったの?」
「ああ、カード、カバンの中だから」
「あ、そうか」
「そっちこそ何であそこにいたの?」
「えっと、ほら、梨華ちゃんの事が気になって探してたら偶然。ねぇ」
「ふーん。ホントかなぁ」
「ホントホント」
頷いて答える。
もっとも、今となっては何故あの場所で聞き耳立てていたかはそれほど重要じゃない。
それよりも、もっと気になる事が私にはあった。
その話を如何切り出して良いものか考えあぐねていた。
- 480 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:18
- 「ところでさ、お金は払うの?」
「払うつもり。二人には全額使ってもらわないと」
「え? もしかして……」
「うん、もしかしたらさくら組を出しぬけるかもしれない」
なんだ、拍子抜けした。
結局私達は同じことを考えていたようだ。
「じゃあさ、この事は私達だけの秘密だね」
「分ってるって」
「いい? あなたもしゃべっちゃダメだよ」
私は頷いた。
- 481 名前:もうひとりいる 投稿日:2003/09/13(土) 17:19
- ―おしまい―
- 482 名前:sorari 投稿日:2003/09/13(土) 17:19
- こんな感じで次回の更新はまた近日。
- 483 名前:sorari 投稿日:2003/09/13(土) 17:23
- 今回のSeekの衣替えによりトップの表示レス数が6レスになってしまいました。(管理人様お疲れ様でした。)
そこで、無駄にレス流しをするのは心苦しいので感想のサンプルをいくつか書きたいと思います。
ほら、感想を書こうと思っても良いフレーズが見つからず結局書かなかった、ということが多いですよね。
かくいう自分もそうです。ですので感想のテンプレートのようなものがあったら便利かな?と思いまして。
- 484 名前:サンプルA 投稿日:2003/09/13(土) 17:24
- 更新おつかれさまです。
(作者の名前)さんの小説を読むと心が熱くなり、忘れていた感情を取り戻したような気がします。
本当にありがとうございます。何かお礼がしたいです。
そこで、100万ほど口座に振り込みたいと思うので、メール欄まで口座番号をメールしてください。
よろしくお願いします。
- 485 名前:サンプルB 投稿日:2003/09/13(土) 17:25
- (作者の名前)さんの小説を読みますと電流が走ったように全身にが震え、読み終わった時は一抹の寂しさを感じます。
そして、再び(作者の名前)さんの小説に出会えた時にこの感情が「恋」だということに気づきました。
大好きです。私と結婚してください。先ほど私のヌード画像を貼付したメールを送りました。
お返事待ってます。
- 486 名前:サンプルC 投稿日:2003/09/13(土) 17:26
- 東京タワーに槍を投げたのは私です。
- 487 名前:サンプルD 投稿日:2003/09/13(土) 17:27
- パジェロ!!パジェロ!!
- 488 名前:サンプルE 投稿日:2003/09/13(土) 19:33
- ageるな
- 489 名前:サンプルFAX 投稿日:2003/09/13(土) 20:00
- 萌えました!
実は私も中学生なんです!(笑
でも、梨香ちゃんがあんなことする子だとは思いません!(怒
芳澤さんも、もっとイケメンですよー!!(爆
あーそう言えば、ガバチョ@ホーム49さんどうしちゃったんでしょうね★
あの人うざかったから別にいいんですけどねー!!!^-^
- 490 名前:サンプルG 投稿日:2003/09/14(日) 04:42
- >>489
一言、字間違えすぎ。
梨香→梨華
芳澤→吉澤
- 491 名前:サンプルH 投稿日:2003/09/16(火) 15:32
- >>490
きっとまだ夏は終わってないんだよ…
- 492 名前:サンプルI 投稿日:2003/09/16(火) 21:21
- 保全
- 493 名前:さんぷるK 投稿日:2003/09/20(土) 09:25
- 感動した!こんなに心動かされる話に出会えてぼかぁうれしいや。
でも、あの場所で紺野を登場させるなんて…作者さんもかなりのやり手ですなぁ。
また次の話も期待っす!
- 494 名前:さんぷる大ばか 投稿日:2003/09/20(土) 09:28
- ごめんなさい!!あかってる!!
- 495 名前:サンプルル 投稿日:2003/09/26(金) 22:41
- よかった酒くれ
- 496 名前:サンプルI 投稿日:2003/10/23(木) 04:25
- 保全
- 497 名前:京 投稿日:2003/11/20(木) 17:32
- ho
- 498 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 23:57
- ze
- 499 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/05(月) 22:01
- n
- 500 名前:500 投稿日:2004/01/27(火) 20:06
- 500get!
保全
- 501 名前:京 投稿日:2004/02/29(日) 02:03
- 待ってるよおおおぉぉぉおおお
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