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約束の行方−今を生きる2−

1 名前:作者 投稿日:2002年10月22日(火)19時28分05秒
風板で書いてました、「今を生きる」の続きです。
とりあえず、約束の行方の番外編からスタートです。
2 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時29分03秒

初めっから予想はしてたんだ。
動物とコドモってのは、相性が良いか悪いか。どっちかだから。
だから、泣き声が聴こえた時、やっぱりなぁって感じ。


「どーした?」


リビングに入ると、更に大きくなる声。
泣いてるのはウチの娘。で、泣かせたヤツは、ティッシュの山に埋もれてた。


「引っ掻かれたの?」


泣きながら、グイって差し出された腕。
あぁ、ちょっと引っ掻かれてるねぇ。
3 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時29分35秒

「いじめたの?」
「ううん。いじめてないもん」
「ホントに?」
「うん」


とりあえず消毒してやった後、傷害事件の犯人と向かい合う。
そいつは、何が気に入らないのか、ふわふわのティッシュに、鋭い爪を突き立てて。
次から次へと抜き取って、ティッシュの山を作りつづける。


「こら!」


ひとりで暴れる首根っこを掴まえると。
ジタジタと腕を回して、めちゃめちゃ嫌がる。
4 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時30分10秒

「悪いコだねぇ。躾は出来てるんじゃないわけ?」


ぶらさげたまま、青い瞳を覗きこむと。
生意気そうに、フイって明後日の方を向く。
・・・・・・何か、ムカツク。


「君はねぇ、少し反省しときなさい」


てことで、出してやったばかりのカゴに再び押し込んで。
玲夢と離すように、別の部屋に隔離した。
5 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時36分48秒
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6 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時37分20秒

「少しは反省したかい?」


玲夢を寝せた後、暗い部屋を覗く。
カゴの中のそいつは、丸くなって眠ってた。


「ゆーちゃん?」
「・・・・・・・・・」


名前を呼ぶと、顔を上げて。
でも、アタシを見ると、再び顔を背ける。


「そんなに怒るなよぉ。君が悪いんだろ?」
「・・・・・・・・・」


カゴから出して、拗ねた顔を覗き込む。
やっぱり目が合うと、フイって視線を外されて。
―――コレは嫌われちゃったかな?
7 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時37分54秒

「ま、いーけど。ご飯食べるっしょ」
「・・・・・・・・・」

「ほい、ネコ缶だよ〜ん」


ゆーちゃんを抱いて、話し掛けるも反応なし。
キッチンに連れてきて、ご飯を前にしても食べる気配なし・・・・・・

―――ヤバイよぉ。預かったのに、ヤグチに顔向けできないじゃん。
でも、何でそんなに拗ねてるわけ?
そんなに閉じ込めたのがイヤだったのか?


「君が悪いんだろぉ? 引っ掻くし、ティッシュ無駄にするし」
「・・・・・・・・・」


相変わらず拗ねたまま。
でもムカツイてた青い瞳が、ちょっと揺れて。
8 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時38分24秒

「うん? 何か言いたいのかい?」
「・・・・・・・・・」


ムカツク。ムカツク。ムカツクぞぉ〜〜〜
言いたいコトは、いっぱいあるっちゅーねん。


あたしが悪いんちゃうぞぉ?
さっきのは、あんたの娘が悪いねんでぇ?

ヒトのしっぽ、思いっきり引っ張りやがって。
ついには、ヒトの耳ん中に、指を突っ込んだんやで?
引っ掻くくらい、当たり前やろーが。


ティッシュやって、それ以上引っ掻いたらアカン思うて。
そいつでストレス発散してたんやし。―――あたしは充分オトナやんかぁ。
9 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時38分58秒

それなのに、こんな暗いトコ閉じ込めやがって。
むっちゃ寂しかったっちゅーねん。彩っぺのアホ。


まあ、言いたいコトは涙を飲んでやるけども。
―――彩かて、あたしがしゃべったらびっくりするやろーし。


「まあ、食べなよ。美味しいよ?」
「・・・・・・・」


でも・・・・・・ネコ缶は食えんのやぁ・・・・・・
せめてふつーのご飯にしてやぁ・・・・・・・


「ま、食べたくないんならいいんだけどさ」


―――あっ? ちょっとお前さん? 何であんたはビール飲んでんの?
10 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月22日(火)19時39分31秒
「・・・・・・・・・」
「ん? どーした?」
「にゃあ・・・・・・」
「何?―――――あ、ちょっと待って」


―――彩は電話に呼ばれて行ってもぉた。

チャーンス!! ちゅーコトで、いっただきまーす。

うん? あんま入ってへんやん。え〜と皿が欲しーなぁ・・・・・・アレでええか。
よいしょっとぉ・・・・・・うお? ちょっとこぼれた。―――舐めちゃえ。
11 名前:猫ずき 投稿日:2002年10月23日(水)20時51分26秒
新スレキタ━━━━!! 彩っぺキタ━━━!!
初めて書込みます。さっき前スレ一気読みしてきました。
柔らかくて少し切なくてやさしいお話し、とても素敵です。
(前に冒頭だけ読んで読むのパスしてた私のバカバカバカ)
彩っぺと一緒にいる裕ちゃんがとても好きだったので、
今回の番外編はとくに楽しみ。期待してます!
12 名前:作者 投稿日:2002年10月23日(水)21時12分48秒
>11
初レス、ありがとうございます。
新しいスレで唐突に始まってるので、意味分かるか心配でしたが。

>彩っぺと一緒にいる裕ちゃん・・・
私も好きでした。思い出すときはサマナイのPVを見てます。
あの色気は最高です。
13 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時13分32秒
ちょっと長電話しちゃったか・・・・・・
全く、もっと早く電話ちょうだいって話よね。
今頃ンなって今日はお泊りなんて。


ん? 


意外なものを見た気がして、一瞬我が目を疑った。
テーブルの上には茶色いネコ。―――まあそれはいいとして。
そいつが、ビール缶を抱えて転がっている。はぁ?


――― ヤグチぃ〜。ちゅーしたぁ〜い・・・・・・・・

はぁ??

―――や〜ん。エッチやなぁ・・・・・・

ちょっと待って? 何? 声?

―――って想像してるんアホやんなぁ。


うん。アホだ。ってそーじゃなくて・・・・・・電話だ。
14 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時14分27秒

・・・・・・信じらんないよなぁ・・・・・・でも、う〜ん・・・・・・


イマイチ真実味の無い話。
でも、現実は確かにそこにあるわけで・・・・・・う〜ん・・・・・・
混乱した頭ン中、でもどこか期待している自分も感じて。

―――確かめてみるかぁ・・・・・・


アタシの足音に気付いたのか、キッチンに入ると同時に、トンっと音が響く。
どうやらテーブルの上から降りるのが、得策と読んだらしい。
15 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時15分16秒
「あれぇ? ビールがない。飲んじゃったっけかぁ?」


わざとらしく言ってみて、何気なく見渡すと。
視界に捕らえてた青い瞳は、目が合う瞬間に逸らされる。


「ま、いっかぁ」


立ち上がって冷蔵庫を開けようかなぁ・・・・・・・
なんて背中に、ヒシヒシと感じる視線。


だるまさんが、転ん――――――

だっ!!

ピキッ!!


―――おぉ〜、固まってる、固まってる。
16 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時15分51秒

「お刺身余っちゃったなぁ〜〜」


冷蔵庫から取り出しながら、横目で見ると。


「悪くなっちゃうしなぁ〜」


青い目は、アタシの手元をジーっと追いかけて。


「捨てちゃおっかなぁ・・・・・・」


生ゴミの方へ向かう背中に。


「にゃあ!!」


イキナリ自己主張。
17 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時16分43秒
―――やっぱタイミング良いもんなぁ。


「何?」
「にゃあ」


床にお座りしたまま、見上げる視線はお皿に釘付け。
―――食べたいんだろうなぁ・・・・・・


「足りないの?―――ネコ缶、まだあるじゃん」
「にゃ〜〜」


座り込んだアタシを引き止めるように。
お皿を持った腕に、必死にしがみついてくる。


「どした? 遊びたいの?」
「うう〜〜〜」


―――上目使いに見上げてくる目。
これって、中味がホントなら、も少しでキレるかも・・・・・・
18 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時17分20秒

「食べる?」


お皿のイカを摘んで、目の前にぷら〜んと。
すぐに釘付けになった目は、イカの動きをジーっと追って。

鼻先まで近づけたら、あ〜んって口が大きく開いた。


「・・・・・・嘘だよ〜ん」


寸前で止めて、そのまま自分の口へ。


「やっぱ、イカって良くないじゃん?」


口を開けたままのゆーちゃんを尻目に、もぐもぐしながら立ち上がる。
「やっぱネコならネコ缶じゃん?」って、冷蔵庫にしまいながら。
と、下のほうから小さな声が。
19 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時18分41秒

「おいこら! 彩っぺ!」


―――おぉ〜やっぱりホントだぁ。
驚きながらも、振り向かず。聴こえなかったフリをして。
「さてと、飲もっかなぁ」なんて、もう1本。


「ゆーちゃんも飲むかい?」
「飲む!」
「なんてねぇ。ネコが飲むわけないじゃんねぇ」


ひたすら聴こえないフリで、わざとらしく喉を鳴らす。

―――しかし、ホントにゆーちゃんなんだねぇ。
ヤグチの言ったコト、嘘じゃなかったんだぁ・・・・・・
20 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時19分27秒

「彩っぺ? あたしの声、聴こえへんの?」


テーブルに乗って、アタシと目線を合わせてくるゆーちゃん。
今度はジーっと見つめても、青い瞳は逃げようとはしない。


「どしたの?」
「なぁ、あたしの言ってるコト、分からへんのぉ?」
「分かった!! トイレだね?」
「ちゃう!!」


抱き上げようと伸ばした手を、ペシッて叩かれる。
一瞬逆立ったオーラは、でもすぐに消えて。


「何やねん。彩っぺには聴こえへんのかいな。ってコトは、ネコ缶取っ替えてもらえんなぁ」


ぶつぶつ言ってるのが聴こえてくる。けど―――問題はそれなのかい?
というか、ネコ缶嫌だったんだぁ。
21 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月23日(水)21時21分52秒

「ネコ缶食べないの?」
「そんなんいらん!」

「お腹空いてないのかな?」
「めっちゃ空いてるっちゅーねん!」

「もう寝る?」
「だから、腹減ったっちゅーの!」

「寝よっか」

「彩ぁ〜〜〜・・・・・ネコ缶イヤやね〜ん。でもお腹空いてんね〜ん・・・・・・」


抱き上げた腕の中からは、随分と情けない声。
思わず笑いそうになった。―――ちょっと苛めすぎたかな?


「彩ぁ。お願いやぁ〜。ご飯〜〜〜」
22 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月24日(木)23時14分19秒
わぁぁぁ〜い!!
彩裕だ。たまんない(w
23 名前:作者 投稿日:2002年10月25日(金)19時42分42秒
>22
彩裕好きですかぁ? 私は大好きです。
マイナーと言われ様とコレばっかりはやめられません。

前スレでリンク貼っていただいた通りすがりのヒト、ありがとうございます。
そこまで気が回らなくて。
24 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時43分42秒

「あっ! 何か聴こえる」
「ホンマか?」
「・・・・・・気のせいか」
「気のせいちゃう! 聴こえるやろぉ?」


「あっ! 何か、彩っぺキレイって聴こえる」
「はぁ?」
「気のせいかなぁ」
「気のせいや」


「えっ? ゆーちゃん、しゃべった?」
「お? あ、うん。しゃべったでぇ?」
「・・・・・・気のせいか」
「気のせいちゃう!」


「う〜ん。やっぱり、彩っぺキレイって聴こえるんだよねぇ」
「それは気のせいや」
「気のせいかなぁ」
25 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時44分25秒

「・・・・・・彩っぺ、キレイやで・・・・・・」
「うん? 何か聴こえたぞ?―――気のせいかなぁ」


「彩っぺ! めっちゃキレイ!!」


「お? 何? ゆーちゃん? ゆーちゃんが言ったの?」
「―――ごっつワザとらしいわ」
「ばれた?」


抱きしめたままだったのを、テーブルに降ろして。
目線を合わせて、青い瞳を覗きこむ。


「何でネコになってんの?」
「まあいろいろあってな。ちゅーか知ってたん?」
「うん。さっきビール飲んでたトコから」
26 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時45分02秒
「うっわぁ。根性悪ぅ〜〜」
「だってさぁ、普通は信じらんないじゃん」
「せやけどぉ・・・・・・」


そらそーやけどぉ・・・・・やっぱ根性悪くないかぁ?
ってコトは、分かってるくせにネコ缶食えゆーてたわけやんな?


「イカ!」
「へ?」
「ビールも!」
「全く、わがままだなぁ」


当たり前やろぉ? ネコ缶なんか食えるかい!
27 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時45分33秒
わがままだなぁって言いながらも、ちゃんと揃えてくれる。
もちろんイカの他にも、トロやらサーモンやら盛り沢山!―――おぉ!!


「ええの? こんなにええの?」
「いいよぉ。今日は泊まりって言うから、余ってたんだ」
「はぁん? ついに倦怠期かぁ?」

「――――――いらないみたいだね」
「嘘。ごめん。いる。いります。―――冗談やんかぁ」


スゥーって取り上げられそうになるのを必死に追いかけて。
今更おあずけされてたまるかい。餓死するっちゅうーねん。
28 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時46分05秒

「ネコになっても、口が悪いのは変わってないねぇ」
「自分こそ、性格悪いの変わってないやん。ネコ相手に大人げないでぇ?」
「ネコには優しいよ? ゆーちゃんだからじゃん」
「あ〜〜何や、あたしはネコ以下っちゅーコト?」
「いやいや。―――ま、飲みなよ」


何や、めっちゃコバカにされた気がするけど―――ま、ええか。
だって、コポコポと注がれた白い泡が、あたしを待ってるしぃ〜


「いっただっきま〜す!」
29 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時46分39秒
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30 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時47分15秒


満足したのか、アタシの膝で寝転ぶゆーちゃん。
お腹が苦しいって、膝の間に仰向けになって。

アタシ・・・・・・刺身に齧り付かないネコって、初めて見たかも。
一切れ一切れ、爪で食べてたけど、行儀良いってコトなのかなぁ?


「美味しかった?」
「ん〜・・・・・美味しかったぁ・・・・・ありがとなぁ・・・・・・」


目を瞑ったまま、喉をゴロゴロと鳴らして。
丸くなったお腹を撫でてやると、その音はもっと大きくなる。


ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・


気持ちイイんだろうなぁ・・・・・・
でも―――やっぱりネコなんだねぇ・・・・・
31 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時47分51秒

「なぁ・・・・・・」
「ん?」
「皆のコト、頼むなぁ・・・・・・」


思わず見下ろしたゆーちゃんの目は、閉ざされたまま。
空耳かと思うほど、次の言葉は聴こえてこない。
―――ゴロゴロと満足そうな音が聴こえるだけ。


「ゆーちゃん?」
「・・・・・・ずっと守ってやりたかったけど。かなわんようになってもぉたから」


相変わらず、青い目は隠されたまま。
でも、気持ち良さそうな音は、聴こえなくなっていた。
32 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時48分28秒

「なっちとか、カオリとか・・・・・」
「うん」
「明日香とか、けーちゃんとか、ごっちんとか・・・・・」
「うん」

「石川とか、吉澤とか―――」
「ちょっと、面識ないよぉ」
「せやな」

「大丈夫。任せといて」
「頼むわ。・・・・・・・ついでに、みっちゃんもな」
「ついでなの?」
「うん。ついででええから」
「うん。大丈夫だよ」


そのまま言葉は途切れて。
静かなリビングには、ゆーちゃんのゴロゴロが響く。
33 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時49分08秒

「ゴロゴロ言ってるね」
「うん。気持ちええ・・・・・」

「寝る?」
「ん〜〜彩っぺは?」

「お風呂入ってからね。ゆーちゃんは? 入る?」
「ん〜〜〜・・・・・臭い?」
「どれどれ?」


ゆーちゃんを抱き上げて、鼻先に近づける。
ふわふわのお腹に、顔を埋めると、甘い匂いがした。
―――ヤグチのシャンプーの匂いかな?


「いい匂い」
「んじゃ寝る。一緒?」
「一緒だよ。あ、でも玲夢もいるから、引っ掻かないでね?」

「あ! アレはな、あたしの所為ちゃうで」
「うん。どーせ悪戯されたんでしょ?」

「分かってんやん。あ? あんた分かってて閉じ込めたん?」
「え? 違うよ。今ならそう思うってコト」


抱き上げてるから、ちょうどゆーちゃんの口が首元に。
下手なこと言ったら、噛み付かれそうだ。危ない危ない・・・・・・


「それじゃ、潰されないようにね?」
「ん〜〜。はよ来てなぁ」
34 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時49分52秒

手足を投げ出して、豪快に寝るコドモ。
その隣に、ちっこい身体を置いてきて。


―――ゆーちゃん、ネコだったんだぁ・・・・・・


髪を洗いながら、想い出すのはさっきまでのコト。

イキナリ人間の言葉しゃべるから、びっくりしたよぉ。
アタシ、おかしくなっちゃったのかと思ったもん。
ヤグチも、よく受けいれたよなぁ・・・・ってアタシもか。
35 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時50分28秒

―――成仏しないのかなぁ・・・・・・


もう一回、逢えて嬉しいんだけど―――でも。

でも、成仏しないと生まれ変われないわけで。
ということは、人間のゆーちゃんには、逢えないんだよね?

昔のゆーちゃんは、お酒を飲んでは上機嫌になって。
些細なコトでキレて、誰かの卒業では涙を流して・・・・・・・・

・・・・・その辺は、きっと今でも同じなんだろうけど。
でもさぁ、やっぱりさぁ・・・・う〜ん・・・・・・


―――止めた!! アタシが考えても仕方ないもんね。


勢い良く出したシャワーのお湯で、泡立ち過ぎたシャンプーを洗い流す。
勢いを増した水流で、頭ン中のもやもやまで一気に流した。

36 名前:彩っぺ編 投稿日:2002年10月25日(金)19時51分17秒



初めっから予想はしてたんだ。
動物とコドモってのは、相性が良いか悪いか。どっちかだから。
そして、コドモを枕にして眠る動物ごと、抱きしめて眠った。

幸せってのは、こんな感触なのかも知れないと感じながら。



Fin
37 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月27日(日)01時57分13秒
彩裕ご馳走様でした。(W
次は誰なのかな?
38 名前:作者 投稿日:2002年10月27日(日)13時55分06秒
>37
お粗末様でした。
次は圭ちゃんです。
39 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月27日(日)13時55分50秒

今日はけーぼぉンちにお泊りや。

カゴに入れられゆ〜らゆら。
やっとたどり着いたと思ったら、けーぼぉいなくなってもーた。

「ご飯買ってくるね」ってコンビニに行ったわけやけど。
―――あのコ、まだコンビニ生活しとるんやろか。姉さんとしては心配やわぁ。


しっかし・・・・・・暇や。
部屋の中を物色しても、何もオモロイ物ないし。う〜ん・・・・・・

せや!! 夜景でも見たろ。
今日はええ天気やったしな。月でも出とるとええなぁ。

ちゅーことでカーテンの裏に入りこんで、ベランダの窓の前。鍵はぁ・・・・・・
40 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月27日(日)13時56分22秒

そりゃっ!!―――届かん。

てりゃっ!!―――もーちょい。

ん〜・・・・とぉっ!!―――よっしゃっ!・・・・・・う、開かん。


やっと届いたと思ったら、何気に固くて、中々鍵が下りてこん。
あぁ〜〜手ぇ伸びるぅ〜。身体も伸びるぅ〜〜・・・・・・も、限界ぃ・・・・・・


ぅおっ??

“カチャ”

どてっ!


・・・・・・ちょっとかっこ悪かったけど、まええか。誰も見てへんしな。
41 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月27日(日)13時56分59秒

“カラカラ・・・”


ベランダは少し土っぽかったけど、吹いてる風は結構さわやか。
目の前を流れる川は真っ暗やったけど、対岸の夜景はなかなかのモンや。

月はぁ・・・・・・うん、アレやな。夏にしては、まあまあキレイやん。
東京タワーが見えたら最高やったのになぁとか思いながら、川風に吹かれてボーっと・・・・・・



??―――何か、視線を感じるんやけど・・・・・・・あんたか。

きょろきょろと周りを見回すと、隣の部屋のベランダにおるヤツと、ガチっと目が合った。
そいつは細っこい手すりに座って、あたしのことをジーっと見つめてる。

よぉ落ちんなぁって感心しとると、何やら唸り声が、う゛〜って。
何や? 喧嘩売っとんのか? えーで。相手になるで?
42 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月27日(日)13時58分00秒

「ゔぅ゙〜〜・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」


そいつは、手すりから見下ろしてるから。
あたしは、ベランダから見上げてやる。

2人の間の糸が、ピーンと張って・・・・・・


サァァ・・・・・・・・・


砂っぽい風が吹きぬけた瞬間。
43 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月27日(日)13時59分13秒
「アホか、ボケ、カス! 誰に喧嘩売っとんねん!
 あんたなんか怖ないわ! 悔しかったらコッチ来てみぃ!!」

「!!」


あたしの攻撃にビビったのか、そいつは尻尾を巻いて逃げてもーた。
情けないやっちゃ。あたしに喧嘩売るなんて100年早いっちゅーねん。

負けネコの背中に言いたい放題投げつけて、快勝の余韻に浸りまくる。
そろそろ帰ってくるかなぁって、部屋に戻ろうと振り向くと――――――



「けっ!!」
「けって何よ」
「にゃあ」

44 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月27日(日)13時59分58秒

「わざとらしいよ」


窓際にけーぼぉがおって、あたしをジーっと見下ろしていた。


「い、いつからおったん?」
「アホかボケカスって所から」


―――初めっからやん。


「何でそんなに落ち着いてるん? 怖ないの?」
「ん? 怖くないよ。だってゆーちゃんでしょ?」
「分かった?」
「そりゃあね。久しぶりだね。とりあえずご飯食べよ。お腹空いてるでしょ?」


驚きもせず。怖がりもせず。ましてや他のコらみたいに泣きもせず。
妙に冷静なけーぼぉに促されて部屋に入った。

45 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月28日(月)19時30分22秒
テーブルの上には唐揚げ、ししゃも、サラダにおにぎり。もちろんビールも・・・・・・


「どしたの? ビール飲むでしょ?」
「あ、うん。・・・・・・なぁ、いっつもこんなん?」
「え? や、いつもは違うよ。今日は材料がね。ま、いいじゃん」
「ええけど・・・・・・」


―――あたしの疑わし気な視線を気にもせず、トポトポってビールを注いでくれて。


「乾杯」
「お、乾杯」
46 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月28日(月)19時31分07秒


「訊かへんの?」


乾杯した後、一心不乱にビールを舐めてたゆーちゃんが、ボソっと呟いた。


「何を?」
「何をって、あんたなぁ・・・・・」


あたしの答えに、呆れたように顔を上げて。青い瞳でにらめっこ。


「ま、ええけど」


勝敗が決まる前に、ゆーちゃんの視線は再びビールへ。


「うん」


―――別に良いんだよ。何も訊かなくてさ。
もし夢だったら、不思議に思った瞬間、覚めちゃうじゃん?

47 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月28日(月)19時31分43秒

「ししゃも取って」


ビールに満足したのか、お皿から顔を上げて。
―――取ってって言われたら、取ってあげるけどもさ。


「それで食べるの?」
「アカン?」


アカン?って・・・・・・普通の姿勢じゃないよ、それ。
近くにあったクッションに背中を預けて、座椅子代わり。
すっごく人間ぽいけど、しっぽとか痛くないのかなぁ。


「悪くはないけど」
48 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月28日(月)19時32分17秒

ししゃもを一匹、渡してあげたら、両手でお腹の辺りを挟み持って。
まるでアライグマみたいな仕草で、頭からパクっと・・・・・・


「器用だね」
「けーぼーとちゃうからな」


もぐもぐさせながら、返ってきたのは失礼な言い草。
ししゃも取り上げてやろうかと思ったけど、ま、いっか。
貴重なシーンを見せてもらったことだしね。


「あ〜しょっぱいなぁ、コレ」
「まあ人間用だからね。水飲む?」
「ん〜ん。ビール飲むからええ」


しっぽまでキレイに食べて、今は丹念に自分の手を舐めている。
―――会話だけしてるとゆーちゃんだけど、見てると・・・・・ネコだよなぁ。
49 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月28日(月)19時32分50秒

手の平を舐めてたらイキオイ付いたのか、更には腕やお腹まで。
ペロペロペロペロ・・・・・・いつ終わるんだろう・・・・・・


「ねぇ、ビール飲む?」


顔を上げたゆーちゃんに、缶を掲げて見せたら。
あたしの手元をジーっと見つめて・・・・・・
「せや!! なぁお願いがあんねんけど」って妙にワクワクした目で見つめてきた。


「何?」
「あんなぁ、ビール飲ませて」
「はい?」
「こーやってな・・・・・・口開けとるから」
「注いでってコト?」
「うん!」


何かおもちゃを前にしたコドモのようで、ちょっと可愛い。
缶を近づけると、あ゙〜ってな具合で待っている。
50 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月28日(月)19時33分28秒

「いくよ?」
「ん゙〜・・・・・・」


そっと注ぐと、小さい口はすぐいっぱいになって。


「・・・・・・・・んがっ・・・・・げほっげほっ・・・・・・」


溢れるビールを飲み込めず、むせまくっている。
口の横から、ほとんど流れて、毛皮がびちょびちょだ。


「ムリなんじゃん?」
「んにゃ! だいじょーぶ。今度は抑えてるから」


顔やらお腹やら、ビールまみれになっても懲りないらしい。
今度は口の両脇を、手で抑えてる―――つもりらしい・・・・・・
51 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月28日(月)19時34分02秒

「いい?」
「・・・・・・・・・・んぐっ・・・・・けほっけほっ・・・・・・」


―――やっぱムリじゃん。


「素直に飲んだら?」
「え〜〜喉越しを味わいた〜い」


・・・・・・その後も何回かチャレンジしたけど、結局ムリ。
大人しく、ピチャピチャ舐めることにしたらしい。


「はぁ〜〜お腹いっぱいやぁ。ごちそーさん」
「もーいいの? じゃあお風呂は、少し休んでからね」
「ん〜? もぉ眠いぃ〜」
「ダメだよ。ビール臭いし。ししゃもも掴んでたじゃん」
「・・・・・・そーやった」
52 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時03分57秒

・・・・・・ぅん、冷たっ・・・・・・うお??


「何やぁ??」
「あ、起きた?」


まったりした眠りから覚めると、目の前にはけーぼぉ。それもまっぱや。
・・・・・・・・あ、お風呂かぁ・・・・・


「いつのまに・・・・・・」
「気付かなかった? 結構鈍感だね」
「・・・・・・・」


どうやらあたしが寝てる間に、お風呂まで運んでくれたらしいけど。
・・・・・・全然記憶がない・・・・・どーせあたしは鈍感やねん。
ネコじゃらしも上手く掴まえられへんしぃ・・・・・・・ええねん、ええねん。

ほんのちょーっとネガティブ入ってたら「洗おうか」って。
53 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時04分57秒

「お、おう。優しく頼むで」
「どうだろ」


相変わらずぶっきらぼうな口調やけど。
シャカシャカシャカシャカ。泡立ててくれる手は、充分優しい。


「はい、仰向け」
「ん」


言われるままに、けーぼぉの膝で反転して。
今度はお腹を、シャカシャカシャカシャカ・・・・・・・


「何か、恥かしーなぁ」
「何が?」
「お腹とか洗ってもらうの」
「そーだね。―――自分で洗う?」
「う〜ん・・・・・」
54 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時05分41秒

試しに、自分の手で、シャカシャカ・・・・・・


「疲れる。洗って」
「わがままだな」


うん。やっぱヒトに洗ってもらうんが楽でええわ。
まあ胸とかお尻とかな、ちょっとやけど・・・・・・ええねん。あたしはネコや!


「お湯かけるよ」
「おう。あ、ちょお待って。――――――ええよぉ」


シャワーの前には、ちゃんとやっておかなアカンことあんねん。
それはな、こーやって、耳をな、両手で、ピタっと。
55 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時06分18秒

「初めて見た」
「―――何やってぇ〜?」
「ううん。かけるよぉ!」
「ええでぇ!!」


スゥゥ・・・うっ――――――ぷはぁぁ・・・・・・・

ああ苦しかったぁ。こんな時ネコって不便やなぁ。
口で息できたら、楽なのになぁ・・・・・・


「んじゃ、ちょっと待っててね」
「ん〜」


トリートメントしてもらった後、またまた洗面器で待機。
その間、けーぼぉは身体を洗ってる。
56 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時06分50秒

「何?」
「いや、えー身体してんなぁと」
「オヤジ」
「えーやん。減るもんやあらへんしぃ」
「いーけど」


色気も甘さもない会話。でもこれがけーぼぉやんなぁ。
昔と変わってへんのなぁ、けーぼぉ・・・・・・


「あんたも変わらんなぁ」


トリートメントを流してもらった後。
湯船に入るけーぼぉの背中にボソっと言ってみたら。


「ゆーちゃんもね」


やっぱり変わらん言葉が返ってきた。―――やっぱ変わらんなぁ・・・・・
しみじみとしてたら、やっぱ変わらん口調の声が降ってきた。
57 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時07分21秒

「ほら、おいでよ」
「へ? ええの? 毛ぇ抜けるかもよ?」
「いいよ。どーせあたしだけじゃん」
「あ、まぁそーやな」


伸ばされた腕に抱えられて、おっきい湯船に入る。
うっわぁ、足つかへん。怖っ。


「なぁ、手ぇ放さんでな?」


けーぼぉの肩に顎を乗せながら、両手でしがみつく。


「放さないから、チカラ抜きなよ」
「ホンマに放さんでな」
「放さないから、足の方、チカラ抜きなって。リラックスできないでしょ」


―――チカラ抜け言うたって、どーすりゃええねん。
とりあえず、手のチカラは抜いたらアカンのやけど。足の方、足の方・・・・・・
58 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時07分55秒
ぅお?? うわぁぁぁ〜〜・・・・・・・・・


「浮いとる? あたし浮いとるん?」
「うん。気持ちいいでしょ?」
「うん。めっちゃ不思議な感じやぁ」


言われた通り、チカラ抜いたら、下半身がふわぁってなって。
けーぼぉがちょんってしたら、腰の辺りがゆらゆらゆらゆら。


「すっごいなぁ。初めてや、こんなん」
「ゆーちゃん、泳げなかったもんね」
「うん。泳ぐってこんな感じやったんかぁ・・・・・」
「―――まあ、近いかもね」


そっかぁ。昔は泳げなくて、ちょっと損したかも。
こんな浮遊感、めったに味わえんもんなぁ。ま、今味わえばええねん。
59 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時08分33秒
あ、そーいや、確かこんなんして――――


「ちょっと、ゆーちゃん」
「あ、ごめん。ついな」


水飛沫を受けたけーぼぉが、非難の声をあげる。

いや、思わずバタ足してもぉた。
ごっつでっかいお風呂で、平泳ぎする気持ちがちょっと分かったわ。


「ネコはバタ足じゃないよ」
「へ?」
「ネコはネコかきでしょ。足はね自転車を漕ぐように―――」
60 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時09分09秒

―――ちょお待ってや? あたし別に泳ぎたかったわけとちゃうんやけど。
ちゅーか、何であんた、そんなに詳しいん?
ネコかきって、人間の泳ぎとちゃうやろ?・・・・・イヤ、だからそんなに必死になられても。


「ゆーちゃんやる気あるの?」
「いや、あのな?」
「落すよ?」
「いっやぁ〜〜〜〜」
61 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時09分41秒
−−−−−−−−−−−−−−−−−
62 名前:けーぼぉ編 投稿日:2002年10月29日(火)20時10分14秒


「ヤグチぃ。見て見てぇ」


妙に真剣に、お風呂で溺れるネコ、一匹。
―――イヤ、違う。多分泳いでいるんだろう。


「ど、ど、どや?・・・・・うま、い、やろ?・・・・・・・」


そんな必死にならなくても。
というか、今、お湯飲まなかった?


「う、うん。上手だね」
「そーやろぉ? ゆーちゃんは、何でも出きんねんで」
「そーだね・・・・・」


かなり自慢気で、でも息も絶え絶えなゆーちゃん。
抱き上げて、一緒にお湯につかる。


「イキナリどーしたのぉ?」
「うん。けーぼぉに教えてもらってん」
「けーちゃんに?」
「うん。この前、お風呂場でなぁ」



お風呂場で、必死に練習してるゆーちゃんと。
多分相変わらずの調子で、教えてるけーちゃん。
想像したら、かなり笑えた。

―――いいオトナが、お風呂で何してんだか・・・・・・



Fin
63 名前:作者 投稿日:2002年10月29日(火)20時11分47秒
番外編終わりました。
で、いいかげんマンネリ化してきたので、次からは本編に戻ります。
64 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月29日(火)21時36分10秒
> こーやって、耳をな、両手で、ピタっと。
か・・・かわいい・・・
65 名前:隠れファン 投稿日:2002年10月29日(火)22時10分14秒
番外編堪能させていただきました。
66 名前:名無し読者。 投稿日:2002年10月30日(水)21時06分50秒
本編楽しみです。
67 名前:作者 投稿日:2002年11月04日(月)15時27分36秒
64,65,66>
番外編、楽しんでいただけて幸いです。
本編、ようやく再開です。
68 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時29分22秒

「行ってくるね」
「気ぃつけてなぁ」


うん。今日も元気に出てったで。あたしのヤグチは。
さてとぉ。あたしは何しよっかなぁ・・・・・・

よっしゃ! 見に行こーっと。


身体を返すと、ネコはソファーの上で丸くなる。
―――お前、まだ寝るんか? 目ぇ溶けてまうで? 
 
あたしが借りると、疲れるらしーけどなぁ。
ま、ゆっくり休んでてや? また借りるんでなぁ。
69 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時30分04秒

真っ青な空を、真っ直ぐに舞い上がる。
少しずつ暑くなってくる空気を、身体全部で感じ取る。

あぁ、これがえーねんなぁ。


曇った空の、冷たい空気。
雨が降る前の、湿った空気。

果物畑の上は、甘くてえー匂いやし。
花畑なんかは、最高の眺めが見下ろせる。


地上のビルの中だけで生きてた頃は、気付けなかった。
あたしらを取り巻く自然には、匂いがあるってコト。
灰色じゃない、キレイな色が、あるってコトを・・・・・・


あたし、初めて知ったんや。
水にも匂いがあるってコト。
何や、匂いすんねんなぁって見下ろすと、川とか滝があんねん。

何てな?
そんなコト考えてるうちに、ヤグチ、めーっけ。
70 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時30分42秒


―――ほぉ?
今日は、ドラマ録りかぁ。
 
どれどれ?
・・・・・・ちょ、待ってーや。何してんねん。
おい、ヤグチ。お〜〜〜い!!


『オッケー』
『は〜い。お疲れ様でしたぁ』


オッケーあらへん!
お疲れ様ちゃうやろぉ!!
ヤグチぃ〜〜〜〜〜!!
71 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時31分27秒
−−−−−−−−−−−−−−−−
72 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時32分09秒

パサ・・・・・・パサ・・・・・・

静かな部屋に響くのは、フローリングを叩くしっぽの音。


「ゆーちゃん?」

パサパサパサパサ・・・・・パサ・・・・・・パサ・・・・・・


名前を呼ぶと、応えるように振られるしっぽ。
でも喜んでるわけじゃないのは分かる。

だって、ずーっと窓の方、向いたままだし。
背中の毛とか耳とかが、怒ってるみたいにピリピリしてるし。


でも、その原因が分からないんだ、ヤグチ・・・・・・
帰ってきた時から、ずーっとこんな感じなんだもん。
73 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時32分58秒

いつものようなお出迎えがなかったから、どーしたのかな?って思ったんだ。
中味が裕ちゃんじゃなくても、「にゃあ」って飛びこんでくるから。

シーンとした返事に、具合でも悪いのかなって心配して来て見たら。
入ってきたヤグチを一瞥した後、裕ちゃんはツーンってそっぽを向いて。

それから、ずーっとこんな調子。―――ヤグチ、何かした?


「どーかした?」


とりあえずその理由を知りたくて。
一生懸命話しかけるヤグチ。でも徹底無視?
話しかけても、撫でようとしても、プイって。

―――何だよ。無視するくらいなら、ココにいなきゃイイじゃんか。


「ゆーちゃん!!」
74 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時33分38秒

パサ・・・・パサ――――――


少し声を荒げたら、不機嫌そうに振られてたしっぽは止まったけど。
今度は、肩越しに恨めしそうな青い瞳が、ヤグチをジーっと。


「何?」
「ロケ、見たで」


―――ロケ?・・・・・・ドラマのかな?
今日でクランクアップしたんだけど、あ、そー言えば・・・・・・


「キスシーン?」
「ヤグチの浮気モン!」


そー言って、またまたプイって向こうを向いて。
75 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時34分38秒
・・・・・・何だよぉ、浮気者ってぇ。それはちょっと酷くない?
だってドラマの中の話だし。キスだって、ほんのちょっと触れただけだし。
そんなコト言ったらさぁ―――


「自分だってしてたじゃん。舞台とかでいっぱいさぁ」


毎日毎日してたくせに。それも1日2回もだぞぉ?
アレ見てヤグチが悔しくなかったとでも思うのかよぉ。


「ヤグチのアホ!」


ヤグチの話しなんか全然聴かずに。
・・・・・・ムカツク。何かムカツクぞぉ。
76 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時35分35秒

「ゆーこのア〜ホ!」


パタパタするしっぽと、ピリピリする背中にそう言ったら。
ピタっと止まって。くるっと振り向いて。


「アホなんは、ヤグチやっ!!」


思いっきり叫んだかと思うと、クラっと傾く身体。
慌てて支えようと思ったら、「にゃあ」って・・・・・・・・・
77 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月04日(月)15時36分11秒

窓を開けると、月光の照らされた一羽の鳥。
・・・・・・ホントに出てくかぁ?―――イイも〜ん。なぁ?

当てつけるみたいに、思いっきりなでなでしてあげる。


「お前は可愛いなぁ?」
「にゃあ」
「そーだ。いーものあげよっか」


大好きなイカ、買ってきたんだけど、こいつにあげちゃうもんね。
裕ちゃんなんか知らないも〜んだっ!
78 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月05日(火)14時17分03秒
本編に戻ってやぐちゅーだ(w
拗ねる猫の中澤さんかわいい。
作者さんのほんわか温かくなる最高♪〜です。
79 名前:作者 投稿日:2002年11月06日(水)20時19分24秒
>78
寒い冬。温かくなっていただければ幸いです。
というか、ヤグチさんの方が拗ねそうですよね。<番外編、出番なかったし・・・
80 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月06日(水)20時20分14秒
ヤグチなんか知らん!
ヤグチの浮気モン!
ムカムカするから、思わず飛び出してもぉた。


だって・・・・・・あたしとのキスはもぉ増えへんのに。
何で知らんヤツとキスすんねん。
なぁ・・・・・・あたしとのキス、忘れてへん? もぉ忘れてへんか?


―――あたしはなぁ・・・・・・忘れそうや。

あんたの、プニプニした唇。忘れそうやねん。
あんな身体でちゅーしても、全然感触がちゃうねん。
・・・・・・イヤ、勝手に身体借りてて、何やけども。

あ〜あ。もぉずーっと抱きしめてへんしなぁ。
みっちゃんの身体でも借りよっかなぁ。
・・・・・・アカン。みっちゃんにヤグチの感触は教えたらへん。
81 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月06日(水)20時20分51秒

―――あたし、こんなんで、ホンマにヤグチの幸せ願ってるんやろか。
ちゅーか、受け入れられるんやろか・・・・・・。ムリやな・・・・・・

ごめんな、ヤグチ。
あたしワガママやねん。
・・・・・・ごめんなぁ。


暗い空を飛んでたら、何となく冷静になって。何となく寂しくなって。
どーしとるかなぁってリビングを覗くと、幸せそうに眠るネコ。
それもヤグチの膝の上で。―――そこはあたしの場所や。
82 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月06日(水)20時21分27秒



イカを食べて満足したのか。
膝の上でゴロゴロ鳴らしてたのが、途端に起き上がって。
もぞもぞ、シャツの中に入ろうとする。―――裕ちゃんだ。


「おい!」


潜りこんだ頭を引っ張り出して、顔の高さに持ってくる。
ジっと目を合わすと、「ごめん」って小さく口が動いた。


「ヤキモチやねん」
「知ってる」
「ヤグチぃ」


青い目が、ウルウルとして泣きそうだ。
何でそんなに悲しそうなのか分からなかったけど、抱きしめてあげて。
震えそうな身体が、安心するまで、ずーっと撫でてあげた。


「ごめんなぁ」


裕ちゃんは、ずーっと謝っていた。
ヤグチの腕の中で、眠っちゃうまで、ずーっと謝っていた。
83 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月07日(木)21時31分18秒

「キレイだねぇ・・・・・・」


今日は、みっちゃんの結婚式。
そっと忍び込んだ、花嫁さんの控え室。
鏡の前のみっちゃんを見た瞬間、思わず漏らしてしまった。


「お? やぐっちゃん。来てくれたん?」
「みっちゃん。おめでとう」
「ありがとぉ」


他に誰もいないのを確認して、裕ちゃんはみっちゃんに駆け寄って。
いつかと同じように、鏡の前に飛びのった。
84 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月07日(木)21時32分05秒

「ホンマ、キレイやで、みっちゃん」
「ありがとな、姐さん」


いつかと全然違うのは、みっちゃんが笑ってるコト。
ヤグチも笑ってるコト。そして裕ちゃんも―――


「なぁ、やぐっちゃん。ブーケ受け取ってな?」
「うん!・・・・・・あ、でも多分ムリ」
「何で?」
「―――手ぇ、届かないよ。きっと・・・・・・」
「・・・・・・・・・そぉかぁ」


そぉかぁって納得されるのも悔しいんだけど。
でも、多分ヤグチの身長じゃムリっぽいよ。
85 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月07日(木)21時32分54秒
しばらく考えた風のみっちゃんは、ニヤって笑って。
ブーケから、花を二輪、引き抜いた。


「なら、先あげるわ」―――そう言って、ヤグチに一輪。
「姐さんにもな」―――裕ちゃんにも一輪。


「マジでぇ? めっちゃ嬉しいわぁ」


裕ちゃんは、すっごく喜んで、もらった花を見つめてる。
ヤグチも、すっごく嬉しくて、もらった花をジッと見つめた。
そんなあたしたちを前に、みっちゃんは、とっても優しく笑ってくれた。


「なぁヤグチぃ。同じ時にブーケもらったら、同じ時に結婚せなアカンと思わん?」


ヤグチとみっちゃんが、お話してる間。
もらったお花を、ジーっと見つめてた裕ちゃん。
やっと顔を上げたと思ったら、・・・・・・・・何だって?
86 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月07日(木)21時33分30秒

「どーゆーコト?」


ヤグチの疑問は当然だと思うよ。
だってみっちゃんも、同じように、裕ちゃんの返事待ってるもん。


「なぁ。生まれ変わったらな、同じ時に結婚しよ?」


同じ時? それって時間を合わせてってコトじゃないよね?
ってコトは、プロポーズだね?


「そうだね。そうしよ?」


指切りは出来ないけど、約束しよう。
次の人生。必ず2人で幸せになろう。

あたしが裕ちゃんを幸せにするから。
裕ちゃんが、あたしを幸せにしてね。

87 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月07日(木)21時34分09秒

「あのぉ〜。今日はアタシの結婚式やねんけど」

「あっ!」
「ごめ〜ん。忘れてた」

「忘れてたんかい!」


おしとやかな花嫁さんの外見に反して。
裕ちゃんに突っ込むみっちゃんは、いつも通り。

嘘だよ、みっちゃん。忘れてないよ。
幸せになってね。―――裕ちゃんの分まで。


そして。
「良かったなぁ。ホンマ、幸せになるんやでぇ」って。
ヤグチの膝の上で、裕ちゃんはずーっと泣いていた。
88 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時23分38秒

行きたくないんなら、ムリに連れてく気はないんだけど・・・・・


「止めとく?」
「・・・・・・ううん。行こ。逢いたい」
「分かった」
89 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時25分00秒

「ねぇゆーちゃん。京都、寄って行こうか・・・・・・」
「へ?」


式が終わった後、膝の上の震える背中を撫でながら、そっと話し掛ける。
未だ鼻をすすっていた裕ちゃんは、あたしの言葉に、驚いたように顔を上げた。


「みっちゃんにさ、手紙、預かったんだ」
「京都って・・・・・・ウチ・・・・にか?」
「うん。イヤ?」
「・・・・・・・・・そーやないけど・・・・・・・」


少し戸惑ってるような、困ってるような裕ちゃん。
行きたくないんなら、ムリに連れてく気はないんだけど・・・・・


「止めとく?」
「・・・・・・ううん。行こ。逢いたい」
「分かった」
90 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時25分46秒
大阪から京都。京都から福知山。
電車から見える風景は、だんだん緑が色濃くなっていって。
やっと辿り着いたプラットホームは、ジリジリと焼け付くような日差しだった。


「なぁ、あたしがネコになってるって内緒やで」
「・・・・・分かった。―――しゃべらないでね」
「にゃあ」

「何て?」
「“うん”ってコト。ちなみにイヤだったら“にゃ”な?」
「よく分かんないけど、分かった」


妙な打ち合わせをして、裕ちゃんのお母さんチに向かった。
ヤグチは数週間ぶりに。裕ちゃんは数年ぶりに―――
91 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時26分22秒
久しぶりに帰った家は、昔と全然変わっていなくて。
純和風の庭には、生命力あふれる緑が、太陽の光をはね返していた。


「いらっしゃい」


家の奥からでてきたヒトは、やっぱり昔と変わらなくて。
懐かしい顔を見た瞬間、慌てて口を抑えた。―――お母さんって言いそうやったから。


「コレ、みっちゃんから預かってきました」
「忙しいのに、ありがとなぁ」


お茶を飲みながら、必死に手を振るヤグチに、微笑みながら。
お母さんは、みっちゃんからの手紙を開いた。
92 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時26分59秒

「・・・・・・あの娘も、ええ娘やなぁ。みっちゃんはキレイやった?」
「にゃあ!!」


めっちゃキレイやったで。
ホンマ、キレイで幸せそうやった。
お母さんにも見せてやりたかったわ。


「ん? あぁ、それがゆーちゃんやね?」
「そう。ネコ平気ですか?」
「ん、まあ。おいで」


伸ばされた手に、すっ飛んでって。
スリスリスリスリ・・・・・・あぁ変わらんなぁ。お母さんや。
93 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時27分30秒

「ヒト懐っこいなぁ」
「普段はそうじゃないけど、お母さんが好きなんじゃないですかね」
「そうなん?」
「にゃあ!!」


めっちゃ好きやで。めっちゃ大好きやで。
大好きやったのに、ごめんな。親不孝してもぉて。


「ありがとな。さ、遊んできぃ」


も少し、暖かい手で撫でてもらいたかったけど。
―――でも知ってんねん。ホンマはネコ、ちょお苦手やねんな。

しゃあないから、大人しく離れて。
・・・・・・・せや、久しぶりやし、部屋見に行こ。
94 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時28分10秒

2人の話し声を聞きながら、居間をそっと抜け出して。
トコトコと、あたしの部屋を目指して歩く。
イヤ、あたしの部屋っちゅーか、あたしのモンを置いといてもらった部屋や。


スゥ〜っとふすまを開けると、懐かしいモンが山のようやった。
昔、あたしが送ったモンや、もらったファンレター。
そして、東京の部屋にあった服や本や写真や・・・・・・・・・・


時間が止まってる気がした。
ここでは、あたしが死んだ時から、時間が進んでない気がした。


「処分すればええんやろぉけどな・・・・・・」
95 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時28分50秒

突然降ってきた呟きは、ちょっと寂しそうで。
誰に言うともない自嘲気味なそれは、部屋の壁に吸い込まれていく。


「手放せへんのよねぇ」


―――そんな顔せんといて。そんな寂しそうな顔、せんとってや。
あたしは元気やのに、何でお母さんが寂しい顔してるん?



「またおいでや」


出迎えてくれた時と同じ笑顔で、見送ってくれたお母さん。
でも、あたしの頭ン中から、あの寂しそうな顔が離れへん。

―――きっとあのヒトは、あの部屋に入る度に、あの顔をするんや。
96 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月09日(土)14時29分30秒

「ヤグチぃ。抱っこして」


タクシーの中、我慢し切れず、お願いした。
何も言わず、ギュッと抱きしめてくれた胸の中。
その暖かさに、涙がジワーッと溢れてきた。


―――ごめんなぁ、お母さん。
あたし、ホンマに親不孝モンやったなぁ。
コドモの頃も苦労かけて、オトナになっても悲しませて・・・・・・


「お母さん・・・・・・・」


ホンマはもっと抱っこして欲しかったんや。
きっともう抱っこしてもらえへんから。きっと、もう・・・・・・・・・


「ゆーちゃん・・・・・・」


背中を撫でるヤグチの手に、お母さんを想い出して。
涙が枯れるまで、泣きたいと思った。お母さんの分まで・・・・・・・
97 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時46分43秒
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
98 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時47分14秒
『うん。ありがとなぁ―――うん。今準備中やねん。―――せやな。じゃ、頑張ってな』


電話越しでも伝わる、独特の雰囲気。さすがごっちんや。
聴いてると、こっちまで楽しくなってくる。

オメデトウって言ってくれる多くの仲間たち。
ホンマ、幸せなこっちゃ。

―――なぁ、あんたにも味合わせてやりたかったわ。
大きなお世話かも知れんけど。・・・・・・今更やな・・・・・・


『♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪』


おう? またや。
何や、人気モンみたいやなぁ、アタシ。


『もしもし?』


・・・・・・姐さんかいな。噂をすればやな。
ちょお待て。またやぐっちゃんか? あ、ちゃう? じゃあ何やの?
99 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時48分12秒
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

―――何でアタシ、ヒトんチで飲んでんやろぉ。
主のいない部屋で。しかも動物相手に・・・・・・・・・


「なぁ〜〜」
「何?」


さっきまでピチャピチャさせてたのが、少し真面目な声だして。
どーしたん? お、気付かんくて悪いなぁ。

コポコポ注ぎ足してやると、「ありがとぉ」って言われる。
ホンマ、人間並みやなぁ、あんた。
100 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時48分54秒

「ヤグチ。ホンマにだいじょぶなん?」
「何で?」
「この前もな、痛がってたんやぁ・・・・・・・・・・・・」



別にな激しい運動とかしたんとちゃうねん。
一緒にお風呂入ってな、ソファーでボーっとしてたんや。
したらな――――


『ヤグチ!?』
『だ・・・・・じょ、ぶ・・・・・・』


苦しそうに胸、押さえてな?
マネージャー呼ばなって言ったら、何か舐めてな。
「これ舐めれば大丈夫だから」って。



「なあ、だいじょぶなんやろかぁ・・・・・・」
「よぉ分からんけどな。―――傍にいたりや?」
「おるけどぉ・・・・・・・・・」
「アタシもおるしな? いつでも電話してや?」


やぐっちゃんの病状はよぉ分からん。それはホンマ。
でも倒れた後でも、ちゃんと仕事しとるし。
大丈夫やと、信じてんねん。な? まだやろ?

―――あんた、連れて行かんよな?
101 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時49分57秒


「ただいまぁ〜〜」


何故か電気の点いてる自分の部屋。
まあ、みっちゃんに鍵を預けてるから。
泥棒とかじゃないのは、分かってるんだけど。

案の定、「おかえりぃ」って声が迎えてくれた。―――2人分だ。

1人は床に座って、漬物なんかポリポリしながら。
もう1人は、空き缶やお菓子に紛れて、テーブルの上にいた。


「あのさぁ。宴会のために鍵渡したんじゃないよぉ?」
「イヤ、ちゃうねん。これは―――」
102 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時50分36秒
「そーやでぇ? ヒトんチで、イキナリ酒飲んでたらびっくりするやろぉ?」
「そーやなぁ。って、姐さんが呼んだんやろ!」

「えーやん。新婚早々逃げられたんやろぉ?」
「ちゃうがな。地方で仕事や言うたやろ」
「へぇ〜〜。案外、不倫してたりしてな?」

「あんたなぁ・・・・・・あ〜〜バナナでも食べよっかなぁ」
「ちょ、近づけんなや。・・・・・・きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜〜」

「――――――ムカツク・・・・・・」
「イテテテ。ちょ、止め、痛いってぇ」


繰り広げられる漫才に、笑いながら。
乾いた喉に、ちょーだいってお茶をもらう。


「また呼び出されちゃったの?」
「そーやねん。電話でなぁ。―――アタシ、ヘンなヒトやねんで?」


ネコキックしまくる裕ちゃんを、ベリって引き剥がして。
ポイって投げたみっちゃんは、「聴いてやぁ」ってかしこまる。
103 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時51分27秒

「何で?」
「だってなぁ―――――」


『もしもし?』
『にゃあ』


「電話だと、言葉分からへんねん」
「あ、そーなんだ?」
「せやからな―――」


『あ〜分からへんがな。イエスやったら1回鳴いてな?』
『にゃあ』


「電話口でそんなん言うたら、ヘンなヒトやん?」
「そーだねぇ・・・・・・」


『やぐっちゃん、倒れたんか?』
『・・・・・・・・・』
『そんなら、何やねん?』
『・・・・・・・・・』
『・・・・・・酒か?』
『にゃあ!!』



―――ある意味、みっちゃんってスゴイと思う。
というか、知り尽くしてるってコトなのかもね。
104 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時52分30秒

「みっちゃん安心しぃ。電話でそんなコト言わんでもヘンやから」
「そーやったんかぁ・・・・・・って何でやねん!」


再び始まった、2人の漫才。
何で関西人って、普通に会話できないんだろう。
・・・・・・コレって偏見? まあ面白いけどさ。

ヤグチもなぁ、生まれ変わったら関西人がいーかなぁ。
でも、普通に話したら「つまんない」とか言われちゃうのはヤだなぁ。
・・・・・・やっぱ、関西人の友達がいればイイや。


「・・・・・・ヤグチ、お風呂入ってくるよ」

「あ〜〜あたしも入るぅ」
「相変わらずラブラブやなぁ」
「そーやでぇ? 羨ましいんか?」

「アホか。さっさと入ってきぃ」
「ん? 止めといたるわ。みっちゃんが泣いたら可哀相やし?」
「うぅ。優しいなぁ・・・・・って泣くか、アホ!」


いつまでも続きそうな漫才。
105 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時53分15秒
・・・・・・・・。


「あ〜〜そのイカ、ツバつけといたのにぃ」
「何でやねん。そっち食べーや」

「イヤ、ホンマに一回舐めたんや」
「ヤっ! ホンマに?」
「いや〜ん。間接ちゅーや」

「汚いだけやがな」
「何やとぉ?!」


ヤグチが、お風呂からでてきても続いていた。
―――まだ、やってたのか・・・・・・・
106 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時54分07秒

「ヤグチぃ。みっちゃんがな、あたしのちゅーが汚いゆーねんで?」
「ちゃうがな。あんたが舐めたイカやがな」
「何言うてんねん。勝手に食うたくせにぃ」

「そんなん知らんがな。舐めたんなら、ちゃんと除けときぃや」
「そんなん器用なマネ、出来るかいな」
「出来るやろ?」
「まーなぁ」
「じゃー、しとけぇ!」


―――どーでもいいけど。
何で、ヤグチの前と後ろで会話するのさ。


「うるさ〜いっ!」


張り上げた声に、ビクッと固まる1人と1匹。
辻加護でもこーはいかないだろうってくらい「ごめんなさい」がハモる。

「何か飲みますぅ?」って注いでくれたり。
「肩凝ってないかぁ?」って揉んでくれたり。
―――や、裕ちゃんだから、ムリなんだけど。

あまりにも甲斐甲斐しいから、まあ許してあげたけどね。
107 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時55分07秒

もらったお茶で一息ついて。
裕ちゃんもみっちゃんも、とりあえず一段落ついたのか。

裕ちゃんは、ヤグチの膝の上で、まったりと。
みっちゃんも、チビチビと傾けるだけになっていた。


「ねぇ、いつ引っ越すの?」
「せや。ずーっと大阪なん?」


あたしと裕ちゃんの質問に、軽く首を振って。

「ずっととちゃうよ。とりあえずは向こうに住むけどな。
 仕事はこっちと向こうで半々にしよーと思ってる」


みっちゃんは、ライブ活動してくんやって嬉しそうだ。
自分で詞を書いて、曲を作って。歌いたい歌を歌っていくんやって。
108 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時55分40秒

「そっかぁ。頑張ってな? ちゃんと応援してるからな」
「ありがとな」
「ヤグチも。聴きに行くからね」
「うん。待ってるで」
「あたしも!」
「―――どーやって?」


ライブハウスで歌うみっちゃん。
人ごみに紛れて、ノリまくる裕ちゃん・・・・・・ムリがあるな。
じゃあ、2階席にちょこんと座って・・・・・・うん。こっちの方が想像できる。


「じゃあ、2階席で見ようよ」
「え〜〜〜騒げへんやんかぁ」
「大丈夫。十分、騒げるって」


ネコの鳴き声だったら目立っちゃうけど。
人間の言葉だったら、誰から聴こえるか分かんないしね。
109 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時56分42秒

「そーやな。スタンディングやったら、ヤグチ届かへんもんなぁ」
「何だとぉ? そんなら裕ちゃんなんか、連れてってあげないもん」
「あ〜〜、そんなぁ。入れへんやんかぁ」

「姐さん、負けやな」
「うっさい」

「ゆーちゃん?」
「・・・・・・ごめんなさい。せやから一緒に行こ?」
「分かったよ。大丈夫。一緒に行こう」


見えない未来も、裕ちゃんと一緒になら、楽しいものだと信じられる。
想像するだけでもイイから。ずーっとこんな時間が続けばイイ。

裕ちゃんが。みっちゃんが。皆が笑っていられる。そんな時間が。
110 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月10日(日)18時58分24秒

「さて、そろそろ帰るわ」
「え。帰るの? 泊まっていけば?」
「イヤ、2人の邪魔したら、誰かさんが怒るからなぁ?」
「誰や、そんなんするんは」
「あんたや!」


笑いながら玄関に向かうみっちゃん。
裕ちゃんは、ふざけるように、その背中に飛びついて。
ヤグチも、お見送りしようと立ち上がる―――
111 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月11日(月)14時39分31秒
いつも楽しく読ませていただいてます。
なんだか痛くなりそうな気配が・・・
112 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時36分57秒

「またなぁ―――」


あたしを引っ付けたまま、みっちゃんはぐりんと振り向いて。
その暢気な声が、背中が、強張った。


「やぐっちゃん!」


みっちゃんの鋭い叫びに。
肩越しに覗いたのは。


ヤグチ。

胸を押さえて。
膝から崩れる―――


「ヤグチぃ!!」
113 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時37分52秒

何かを探すように。
ヤグチの手が、空を。


「これやろ!!」


手渡された薬を口に入れるヤグチ。
苦しそうな表情。早くいつもの笑顔になれ。


「ヤグチ〜〜。ヤグチ〜〜〜」
「アカン。治らへん。救急車や」


電話口で叫ぶみっちゃん。
胸を押さえたままのヤグチ。
探すようにあたしを呼ぶ。


「ゆーちゃん・・・・・・」
「ヤグチ! だいじょぶか?! ヤグチぃ!!」


しゃべったらアカン!って言った。
歯を食いしばるんが出来なくなるから。
なのにヤグチは・・・・・・・・・


「まだ早い! まだ早いねん!」
「だ、だって・・・・・・拗ね・・・・ちゃ・・・・・じゃ・・・・」 


114 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時38分29秒

あの時と同じように、胸を抑えて病院に運ばれたヤグチ。
白い担架に乗せられて、目の前で閉まった扉。

蒼白な顔。苦しそうな呼吸。流れる汗。
小さい身体で、襲う痛みに必死に堪えていた。


だから、覗いた窓から、皆が泣いていた時、正直ホッとした。
だって、ヤグチの苦しそうな顔、もぉ見たないもん。
115 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時39分07秒

『迎えに、来てね』
『ゆーちゃんよりは、幸せになれなかったけど』
『同じくらい、幸せだから・・・・・・・・・』

『ゆーちゃんより幸せになったら、ゆーちゃん、拗ねちゃうじゃん』


痛みに顔を歪めながら。
でも笑おうとしながら、一生懸命しゃべってた。

―――アカン!!
そー言ったけど。でも・・・・・・・・・あたし、自分勝手やな。
ホンマはな、もぉ待てへんかったんや。



ヤグチが、だんだん近づいてくるのが分かる。
やっとこの腕に、戻ってくるんやなぁ。
116 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時39分42秒

『ヤグチぃ!!』
『―――ゆーちゃん?』
『迎えに来たで』
『ゆーこぉ!!』

『やっと逢えたな』
『うん。逢えたね・・・・・・』


このまま一緒にいてもえーけど。

あたしな、ヤグチを抱きしめたいんや。
ヤグチに、キス、したいんや。せやから―――


『なぁ、約束。叶えに行かん?』
『うん』
117 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時40分15秒
−−−−−−−−−−−−−−−−−
118 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時40分51秒

再び繰り返された、真夏のお葬式。
熱い太陽。眩しい光。響き渡るセミの声。

違うのは、それに負けない私達の歌。

歌が大好きやったやぐっちゃん。送るのは歌声。
涙を堪えて、静かに重なるハーモニー。
線香よりは喜んでくれるやろ?


歌声に誘われるように、現れた一羽の黒い鳥。
楽しむように、クルクルと頭上を旋回した後。
乾いた風と歌に乗って、青い空を舞い上がって行く。


『最後に、皆の歌、聴けて良かった』
『こーやって聴くと、案外上手いやんな』


そんな声が聴こえた。

だからもう行くんやなぁって分かった。
姐さんにしたら、随分我慢して待ってたもんなぁ。


「また歌っちゃるよ」


2人の別れの言葉に。
叶うであろう約束をして。


なぁ。
もぉ泣いてもええやろ?
安心して、泣いてええよな?

どんなに泣いても、あんたには届かんから。
あんたを悲しませんで済むんやから―――
119 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時41分22秒
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
120 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時42分19秒



『ゆーちゃん!!』


画面から、懐かしい声。懐かしい響き。
聴こえた瞬間、手を止めて振り返る。


「やぐっつぁんがさ、ゆーちゃんって呼ぶとさ。何かゆーちゃんだね」
「せやな」


テーマ曲とスタッフロールが流れる画面。
食い入るように見ていたごっちんが、ようやく視線を外す。


「何や。泣いてたんか」
「へへっ・・・・・・・・」


零れた涙を拭うごっちん。
差し出したカップを受け取ると、ニパって相変わらずの笑顔。

カップを両手で包み込んで、その視線は少し遠いところ。
121 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時42分49秒
「ごとーね、預かってあげるとは言ったんだけど」
「うん」
「ちょうだいとは言わなかったんだよぉ」


少し寂しそうな目が、言外に含む。
―――言わなければ良かったのかなって。


「やぐっちゃんも安心しとるよ」
「預かってあげるって、ごっちんが言ってくれたから」
「安心して、ゆーちゃんを任せられるって」

「そーかなぁ・・・・・・」
「ちゃんと可愛がってやってな?」
「そーだね」


スッキリしたような、さわやかな笑顔。
スクっと立ち上がって、隣の部屋を覗き込む。
122 名前:約束の行方 投稿日:2002年11月11日(月)19時43分30秒

「ねぇ、何か目つき悪くない、このコぉ」
「しつれーやなぁ。ヒトが頑張って産んだコに。―――ちょっとなぁ」

「そーいや、彩っぺんトコ。今度も女の子やって?」
「うん。黒目がクリクリして、かわいーんだよぉ」
「そか。今度見に行かんとなぁ」

「東京、連れてくるの」
「うん。今度行く時なぁ」
「ごとーも呼んでね」
「ん」


―――そして、再び魂が集う。


Fin
123 名前:作者 投稿日:2002年11月11日(月)19時46分50秒
>111
>痛くなりそうな予感・・・

ビンゴでした。
こんな終わりでしたが、満足していただければ幸いです。

124 名前:つかさ 投稿日:2002年11月11日(月)21時38分40秒
やぐちゅ〜ファンにとっては、ハッピーエンドかもしんない・・・・・(笑)

ずっと待ってた姐さん。
結構健気で好き・・・・まぁ待ってた態度はあんまり健気じゃなかったけど(爆)

お疲れさまでした。
すげ〜、楽しませてもらいました^^
やっぱり、作者さんの、書くスピードには脱帽っす。
125 名前:隠れファン 投稿日:2002年11月11日(月)22時08分44秒
輪廻転生・・ある意味ハッピーエンドかも。でもみっちゃん
えらい娘生んでもーて。とても楽しめました。お疲れさまでした。
126 名前:竜之介 投稿日:2002年11月12日(火)22時44分16秒
こちらの裕ちゃんネコに15年一緒だったうちのネコを重ねてほのぼの読んでいたのですが、
結婚式のくだり辺りから泣けてしまって(実際泣いちゃったんですが…)
生まれ変わった二人の可愛い姿・成長っぷりもすこ〜し見たいな〜なんて。
本当に、素晴らしい作品をありがとうございました。
127 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月16日(土)20時14分54秒
いい作品ありがとうございました
128 名前:作者 投稿日:2002年11月20日(水)19時34分03秒
ありがとうございます。

124>
ずっと待ってたねーさん。待ってた態度は・・・大きかったですねぇ。

125>
みっちゃんが産んだのは、私的に男の子のつもりです。

126>
生まれ変わった2人。・・・書けたらなぁって思ってます。

127>
いえいえ、こちらこそ。
楽しんでいただければ、一石二鳥ってヤツです。
129 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月30日(土)22時01分48秒
温かい作品ありがとうございました。
続編or次作・・・のんびりとお待ちしています。
とりあえず、お疲れ様でした〜!!
130 名前:作者 投稿日:2002年12月02日(月)19時33分49秒
129>
書き終わってから結構経ってますが、未だ感想を頂けるのは嬉しい。

とりあえず予定としては、矢口さんの誕生日あたりに短いのを。
続編は、書けそうだったら、それの後に書きたいなぁと。

まあそれまで、ココが残ってたらの話ですが。
131 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月22日(日)23時34分49秒
保全
132 名前:GOO 投稿日:2002年12月31日(火)01時28分07秒
最高にいいお話でした。
泣けたぁぁぁー。
保全。
133 名前:きいろ 投稿日:2002年12月31日(火)15時00分50秒


はじめから読んでました。
まずは、完結、お疲れ様です!
心が温まる作品、有難うございます。
ネタばれしそうなので詳しい感想は言えませんが、本当に良かったです。
次回作などご考えでしたら教えてくださいね。
134 名前:やぐちゅー命 投稿日:2002年12月31日(火)20時26分12秒
とても、いいお話しでした。
135 名前:やっくん 投稿日:2003年01月05日(日)20時44分37秒


心が温まる作品、どうもありがとう(●´ー`●)
色々書きたい事があるのですが、なんだか胸がいっぱいでかけそうにないです。
とにかく、作者様、お疲れ様でした。
続編など、ご考えでしたら大期待です。
がんばってください
136 名前:作者 投稿日:2003年01月18日(土)14時48分38秒
130〜135>
保全&感想、ありがとうございます。
おかげで、矢口さん誕生日まで生き残ってました。
ということで、予告(?)通り、ちょこっと短いのを。

時間軸は「今を生きる」の後、「約束の行方」の前。
ややこしいですが、矢口さんは元気です。
137 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時49分29秒



「お、雪降ってんで。どーりで寒いはずや」


ビールを追加しようと立ち上がったついで。
ふとカーテンをめくると、暗い空に、キラキラ輝く白い結晶。

アタシの言葉に、トコトコと寄ってきた姐さんを、ひょいっと抱き上げて。
細かい雪がチラチラ舞う様を、しばし鑑賞・・・・・・


「あ〜〜なんでやねん!」


と、突然キレたように叫びだすヒト。もといネコ。
そんなのに慣れっこなアタシは、カーテンを閉めて宴会再開。
138 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時50分06秒

「どーしたん? ま、飲みや」


姐さん専用の“ぐいのみ”に、トクトクと注いでやると。
「おう」って、飽きずにピチャピチャ始める。


「んで? なんでやねんって・・・・?」
「いやなぁ。なんであたしはココでみっちゃんと雪見とるんやろぉって」


思い出したように顔を上げて。
ぶつぶつ言うんは、何やら随分なお話ちゃうか?


「それこそ、なんでやねん。嫌なん?」
「だってな、明日はヤグチの誕生日やねんで?」
「しゃーないやん? やぐっちゃん、ハロコンでおらんのやし」
「そーやけど・・・・・・」

139 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時50分58秒

珍しく寂しそうな姐さんは。
これまた珍しく、アタシの膝になんか乗ってきて。


「どしたん?」
「ん〜〜別にぃ〜〜」


誰が見ても別にぃって様子じゃない背中に、手を伸ばして。
柔らかい毛なみの、暖かい温もりを、そっと撫でる。


「やぐっちゃんと一緒やったら何してたん?」
「ん〜? せやなぁ・・・・・・」


撫でる手を許したまま、アタシの膝に身体を預け。
少しおっきくなった茶色いネコは、ヒトの言葉で考え込む。

140 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時51分28秒

じーっと考えて、考えて、考えて。
寝てもぉたかな?ってくらい考えた後、ぼそっと呟いたのは。
「やっぱ、みっちゃんと一緒で良かったわ」って。


「なんで? 一緒におりたかった言うたやん?」
「うん。おりたかったけど、えーねん!」


言い放ったイキオイのまま、膝の上から飛び降りて。
“ぐいのみ”の縁に手を掛けて、お酌を催促。

あっけに取られながらも、とりあえず注いでやると。
「ええねん・・・・」って、呟く瞳は、白い泡をジーっと見てた。

141 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時52分07秒


・・・・・・だってなぁ。

一緒におったら、おめでとうって言いたくなるやん?
おめでとうって言うたら、ヤグチにバレちゃうやん?
いつまでたっても、ヤグチん中で整理つかないやん・・・・・・?
だから、ええねん・・・・・・


「みっちゃんとでえーねん」


そう言うと。
イマイチ腑に落ちない顔してたみっちゃんも。
「姐さんがええんなら、えーけど」って、笑ってくれた。

あたしも笑おうとしたけど、ネコって表情筋が豊かとちゃうねんなぁ・・・・・・
ホンマにあたし、ネコやんなぁ・・・・・・

142 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時52分44秒


「アカン!!」


突然の大声。
しみじみしてしまった自分を、止めてはくれたけど。
ごっつびっくりしたっちゅーねん。

多分丸くなってるだろう目で、みっちゃんを見ると・・・・・


「なんで、あたしおるのにメールしとるん? 寂しいやんかぁ〜」
「や、12時過ぎてしもた。メールしよぉ思うたのに」


あたしの方を見もせんと、携帯相手に格闘中。
12時ぃ?・・・・・あぁ、ヤグチへかぁ・・・・・・

143 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時53分19秒

ヤグチぃ。
裕ちゃんはな、直接言ってやれんけど、おめでとうなぁ。
ホンマはすぐ傍でお祝いしてやりたいけどな。
・・・・・・ええオンナになるんやで。ヤグチ・・・・・・


「せや。姐さんもなんか言うかぁ? メール送ったるよ?」
「メール? ヤグチにかぁ?」


―――メール? ヤグチにメール?

それってええんか? ええんかなぁ・・・・・・
何か、死者からの手紙みたいやん、それって。
やっぱアカンよなぁ。う〜ん・・・・・アカンかなぁ・・・・・・

144 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時54分04秒
*** *** *** *** ***
145 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時54分51秒



「雪降ってるよぉ」


こいこいって手招きするなっち。
誘われるままに外を見ると、白い雪がふわふわ舞っていた。


「ホントだぁ。綺麗だねぇ」
「ねぇ。でも、積もったら帰れないかなぁ」


「そしたらもう一泊だね」って、2人で笑う。
と、背中の方からヤグチを呼ぶ声。何?って振り向くと。
そこにあったのは。


『Happy BirthDay!!』


丸いケーキと、ろうそくの火。
それ以上に輝くみんなの笑顔。
146 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時55分27秒

「おめでとう」


暖かいなっちの手に促されて、仲間の輪の中に。
おめでとうって祝ってくれる、優しい笑顔。
それに負けじと、鳴り続ける着信音。

友人・家族・仲間。
たくさん届いた優しさに感謝しながら。


「返信しないの?」
「うん。後でする。―――あ、みっちゃんだ」


ヤグチの言葉に、「あ、忘れてた」って声を上げて。
部屋の奥から戻ってきたカオリの手には、一本のボトル。


「何、それ」
「みっちゃんがね、みんなで飲んでって」
「へ〜。スゴイじゃん。シャンパン?」
「うん。誕生日に乾杯するんやろって」


シャンパングラスなんてモノはなかったけど。
ガラスのコップに注がれた、金色の液体。

そのキラキラした泡を見つめてると。
少しずつ少しずつ、寂しくなってく気がして。

遠い記憶。大好きなヒトと見た夢の宝箱。
その蓋をそっと開けた・・・・・・・・・


147 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時56分13秒



『はよ、飲めるようにならんかなぁ・・・・・・』


大好きなビールを飲みながら、酔いが回ってくると。
ヤグチを膝に抱きながら、裕ちゃんがよく言った言葉。

その度に、あたしは嬉しくなった。
お酒が大好きな裕ちゃんが、あたしと飲みたいんだなぁって。


『ヤグチと飲みたいの?』
『うん。ヤグチと飲みたいなぁ』


お酒が入ると素直な裕ちゃんは。
コドモみたいに真っ直ぐな笑顔で、そー言ってくれた。


『ヤグチが二十歳になったら、飲みに連れてってくれる?』
『うん。どんなトコがええかなぁ・・・・・・』


ヤグチの腰を抱きしめながら。
ぽわぽわした、真っ赤な顔で考える風。
148 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時56分46秒

『誕生日。どこ連れてってくれる?』


いつもより暖かい首に腕を回して。
楽しそうな横顔を、ジーっと見つめた。


『せやなぁ。スカイラウンジとかええなぁ』
『夜景が見えるトコ?』
『うん。海とかの側でなぁ』


それは、ビルが乱立する東京のど真ん中。
海も見えないマンションでの、一コマだったけど。


『テーブルには、キャンドルが置いてあってなぁ』
『もちろん窓際?』
『うん。対岸の夜景とか船の灯りが、水に反射して見えんねん』


裕ちゃんが語る情景を、ヤグチも一緒に。
東京じゃない、どっか外国の、綺麗な夜景を思い浮かべた。
149 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時57分33秒

『ヤグチはな、めっちゃドレスアップしてな』
『ドレスアップ? どーゆーの?』
『ん〜。やっぱ肩とか出しちゃってな。スリットもぉ―――』


こんくらいまでかなぁって、忍び込んできた悪戯な手を掴まえて。
エッチだぞって、目の前の首筋に噛み付いてやった。


『まあまあ。で、ストレートで大人っぽくな』
『ストレート好き?』
『うん。好きぃ』


ヤグチが噛んだ首筋を、スリスリと撫でてた手は。
好きやなぁって、ヤグチの髪を撫でてくれた。


『裕ちゃんもドレスアップしてね』
『うん。ヤグチの為に気合入れたる』


マーキングするみたいに、ヤグチの首筋に擦り寄ってくるから。
ヤグチも同じように、裕ちゃんの首筋に顔を埋めた。
150 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時58分10秒

『シックなドレスで、脚とか出しちゃってさ』
『ミニじゃなくてもええよなぁ』

『うん。あ、ピアスはいっぱい着けてもいいけど』
『いいけど?』

『化粧は薄目ね』
『なんやねん、それ』


裕ちゃんの耳たぶを触ってると。
くすぐったいねんって、いつのまにか手を繋いでた。


『シャンパンで、乾杯しよなぁ』
『ビール飲み過ぎないでね』
『ん・・・』

『楽しみだね』
『ん・・・・・・』


繋がった手は、だんだん暖かくなって。
見上げた裕ちゃんは、半分眠ってた。


『裕ちゃん』
『ん〜?』
『ベットで、お話しよっか・・・・・』

151 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時58分53秒



・・・・・・・・。

叶わない夢だとは、思ってなかったなぁ・・・・・・
2人で見た夢は、そんなに難しい夢だった?

ねぇ・・・・・・



「・・・・・・グチ。ヤグチ? 携帯鳴ってるよ」


圭ちゃんの声に我に返って、携帯を手に取る。
メールの相手は、またまたみっちゃんで。


「みっちゃんだ」
「また?」
「うん。さっきの追加だって」


どっか抜けてるトコが、みっちゃんらしいなぁって愛しく思いながら。
続く文字を、目で追いかける。

152 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)14時59分33秒


『自分らしく生きるんやで』


懐かしい囁きが、胸に響いた。
雪と一緒に舞い降りた、あなたからの贈り物。


―――生きるよ。ヤグチらしく・・・・・・

そっと答えたあの日のリングが、優しく光る。
大好きだった、あなたのように・・・・・・

153 名前:プレゼント 投稿日:2003年01月18日(土)15時01分18秒

Fin
154 名前:作者 投稿日:2003年01月18日(土)15時02分39秒
続編は、未だ迷ってます。
ただ、ねーさんネコに関しては、完全燃焼しました。
155 名前:作者 投稿日:2003年01月18日(土)15時11分58秒
从´∀`从<ヤグチぃ、たんじょーび、おめでと〜〜!!
〜^◇^〜<ありがとぉ。で、プレゼントは?
从´∀`从<もちろん、ア・タ・シ・・・・・・
〜^◇^〜<ありがと。じゃ、もらってくね。

从´∀`从<・・・・・じょーだんやんかぁ。・・・・・や、マジ・・・?
〜^◇^〜<マジだよ。ちゃんと残さずもらうから。
从´∀`从<・・・裕ちゃんも、オトナとしてのプライドがあんねんから。堪忍してやぁ。
〜^◇^〜<大丈夫! ヤグチもオトナになったから。
从´∀`从<だれかぁ〜〜(ズリズリ・・・・・・)


( `.∀´)<オチがないわ・・・
( `◇´)<えーねん。隠してみただけやから。
156 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月18日(土)16時20分21秒
作者さんの復活&やぐちゅー話に感動〜!!

ぼちぼちでいいので・・・このまま飼育でもいろんな作品書いて下さい
お願いします(w
157 名前:きいろ 投稿日:2003年01月20日(月)21時09分40秒
続編とっても良かったです。
ここの小説を読むと、なぜこんなに温かい気持ちになるのでしょうか?
作者さんの書く小説が大好きです。
これからも期待しています。
頑張ってください、そして、出来れば新作の方をお書きになってくださるのを懇願します。
158 名前:作者 投稿日:2003年01月30日(木)00時24分12秒
あ〜・・・・

>156、157
どもです。ま、やぐっちゃん記念日ということで書かせてもらいました。
感想&励まし・・・調子にのりそうです。
が、新作はも少し待ってください。
書けそうなのか微妙なので。
でも、ありがとうございました。
159 名前:ストレス解消 投稿日:2003年02月04日(火)21時53分32秒

最近、ちょっとストレス溜まりまくりなんだよね。
原因は、そりゃあいろいろあるよ。

モーニング周辺の改革が大きいのは、まあ挙げられるよね。
少しは小泉さんも見習って欲しいってくらい、娘の周辺は変化しまくり。

これこそ激変ってやつだよ。


でもね、自分的に、もっと重要なのはね。
あれだよ、あれ。


「あんた、何着ても可愛いなぁ」

「見て、イヌみたい」


―――何だよ、そのハートマークついてる声は。

鬼の着ぐるみが、可愛いわけないじゃんか!
イヌって、やぐちの専売特許じゃなかったのかよ〜〜!!

・・・・・それは置いといて。


今更って言われれば今更だけどさ。
ロリコンって噂も、信じちゃいそうなノリのゆーちゃんには、マジ不安。


ヤグチらは恋人同士じゃなかったのかよーーー!!

でもなぁ、石川とか高橋とか、何気にストレートなんだよねぇ。
・・・・・ヤグチも、たまには素直に言っとかなきゃ、かなぁ・・・・・・
う〜ん、でもどーしたら・・・・・あ!!


「石川ぁ〜〜、アレ貸して?」
「あ、良いですよ」
160 名前:ストレス解消 投稿日:2003年02月04日(火)21時54分31秒
・・・・・・・・・いやぁ、久しぶりにびっくりしたわぁ。
ってのが、今の素直な感想?


コンコン・・・っちゅーか、ゴンゴンってなノックの音がして。
「はい」言うても、中々開かんわけや、ドアが。
しゃあないから、わざわざ開けたったのに・・・・・・


「あ〜〜・・・・・・」


これは、どー見ても・・・・・


「何しとんの?」


目の前にはピンクのうさぎ。
片手を挙げてるっぽいけど・・・・・・微妙やな。手の先、折れてるし。

161 名前:ストレス解消 投稿日:2003年02月04日(火)21時55分13秒

「ヤグチやろ?」


佇んだまま、話そうともしない着ぐるみ。
・・・・・・あ、話できへんかったな。


「どしたん?」


でっかい頭を取ってやると、予想通り、金色の髪。
―――汗かいてるやん。


「驚かないの?」


紅いホッペで、不思議そうな顔。見上げる視線。
―――くぅ〜〜可愛い!!!


「驚かんよ。分かるし」
「何で?」
「そりゃ愛してるし、とーぜん」


胴体部分はピンクの身体を、ギュッと抱きしめて。
熱いホッペに、熱いキス。

―――手足の先がだぶついてたからとかは、ぜーたい言わんけど。
162 名前:ストレス解消 投稿日:2003年02月04日(火)21時55分46秒

「驚かしたかったん?」
「え? や、そーゆーわけじゃ・・・・・」


そう言って俯いた顔は、もっと赤く染まって。
金髪の隙間から覗く耳も、じわじわと赤くなって。


「やぐち?」
「自分でも、良く分かんないけど―――」


背伸びしたヤグチが、耳元で。
照れくさそうな声が、あたしの心臓を、めちゃめちゃ興奮させまくり。


「ちょっ―――んんっ・・・・・」


もちろん、即行、引っ張り込んで。
興奮させた責任は、とりあえず取ってもらったけどな。


「あたしも好きやで・・・・・」



耳元で囁いたら、ふるふるっと震えてくれるヤグチ。
その反応は、あたしを更に加速させて行くんやけど・・・・・・

―――着ぐるみじゃ脱がせんの、大変やんかぁ〜〜!!
どっかの誰かを思い出すコレを、さっさと脱がせることにして。


一応、言っておこうかな。叶ったらラッキーやし。
真っ赤なほっぺと、潤んだ瞳を見下ろして。



「次はミニマムで来てな」
「・・・・・アホ・・・・・・」



Fin
163 名前:作者 投稿日:2003年02月04日(火)21時57分47秒
続編はムリっぽいので、何か思いついたら書くことにしました。
164 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月06日(木)15時26分23秒
復帰待ってました。

ミニマムは最初だけで、完全に代打でしたね。
高橋さん、いつか休まないかなぁと願ってしまいます。
165 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月07日(金)20時28分32秒
石川さんが休んtsunagiでもいいですけどね〜
>続編はムリっぽいので、何か思いついたら書くことにしました
楽しみに待ってます。
166 名前:作者 投稿日:2003年02月09日(日)10時42分03秒
・・・すいません。続編はムリとか書いたけど。
やっぱ続編を・・・
ま、私が気まぐれなのは、周知の事実ということで。

164,165>
読んでてくれるヒト、いるんですねぇ。
これを励みに続編、放置せずに頑張れたらいいなと。

ちなみに続編は、今までのスタイルではないかも。
ついでに三人称に初挑戦です。
読みにくかったら、アドバイスください。
167 名前:遠い約束 投稿日:2003年02月09日(日)10時44分14秒
〜〜〜遠い約束〜〜〜

「約束の行方」の続き・・・?のつもりで。
168 名前:1 ファースト・インパクト 投稿日:2003年02月09日(日)10時45分11秒

都内の閑静な住宅街の、とある豪邸。
その玄関先が、にわかに騒がしくなった。


「彩っぺ〜来たでぇ〜〜」
「いらっしゃ〜い」


タクシーから降りたのは、陽気な関西人。
腕にはちっこい人間を抱いている。

迎えたのは、一応まだまだ若奥様。
マダムという人種からは、ちょっと離れているが。


「泣かなかった?」
「うん。大人しかったで」
「ミルクにビールでも混ぜたでしょ」
「イヤ、さすがにそれはまだや」


かなりキケンな会話をしながら、リビングへの廊下を歩く2人。

聴こえているのかいないのか。
腕の中のコドモは、手をギュッと握ったまま無表情。
というか、まだ会話は理解できない年齢らしい。


「ちょっと待ってて」


そう言い残して、奥の部屋に消えること数分。
再び現われた彩も、腕の中にちっこいコドモを抱えてきた。
169 名前:1 ファースト・インパクト 投稿日:2003年02月09日(日)10時45分55秒

彩に抱えられているのは。
柔らかい黄色いべピー服に、ふわふわの黒髪。
黒目のくりくりとした、可愛いオンナのコ。

みちよの服をギュッと握っているのは。
淡い藤色のベビー服に、さらさらの茶髪。
たれ目のくせに、目つきの悪いオトコのコ。


「いやぁ、初対面だね」
「ん。やっと連れて来れたしな。ほな―――」


お見合いするように、向かい合わせたコドモたち。
彷徨った視線が、お互いを認識して数十秒・・・・・・


「んぎゃぁぁぁぁ・・・・・・」
「ふ・・・ぎゃぁぁぁぁぁ・・・・・・」


先に泣き出したのはオンナのコ、マリ。
追いかけるように泣き出したオトコのコ、ゆーた。
泣き止むまで数十分、2人分の泣き声が豪邸に響き渡った。

―――ファースト・インパクト。最悪。
170 名前:作者 投稿日:2003年02月09日(日)10時47分28秒
てな感じで続けていけたら良いなと。
ちなみに、この設定が不快な方は読まないことをお勧めします。
171 名前:作者 投稿日:2003年02月09日(日)10時50分12秒
( `◇´)<ついに始めてしもたか・・・
( `・ゝ´)<かなり迷ったけどね・・・
172 名前:作者 投稿日:2003年02月09日(日)10時51分49秒
( ´ Д `)<メインな2人、寝てばっかじゃん。
( `・ゝ´)<寝てばっかってより・・・
( `◇´)<泣いてばっかやね。
173 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月09日(日)12時37分59秒
やった!続編!
とうとう再会(?)したんですね。
つづき楽しみです。
174 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月09日(日)22時55分26秒
続編!
待ってました。
楽しみです。
175 名前:つかさ 投稿日:2003年02月10日(月)23時17分48秒
すげ〜嬉しいっ!!!
それ以外に言葉ね〜っす♪
176 名前:ミニマム。 投稿日:2003年02月11日(火)04時16分59秒
裕ちゃ〜ん!
やぐちゅうだべさぁ(素敵)
177 名前:竜之介 投稿日:2003年02月11日(火)15時54分32秒
嬉しいです・嬉しいです・嬉しいです!!
短編もヤグチさんが可愛らしくてたまらなかったですが、
続編♪ 赤ちゃんの二人の姿が目に浮かびます。
更新を楽しみにお待ちしております。
178 名前:作者 投稿日:2003年02月11日(火)17時22分02秒
おぉ? レスがいっぱい。ありがとうございます。
とりあえず、初の三人称は、違和感なかったみたいですね。

173>
はい。一応再会です。・・・ま、本人たちは分かってないですがね。

174>
お待たせしました。頑張ります。

175>
その喜び。裏切らないと良いんですが。

176>
やぐちゅーでしょう。安倍さんもたまに出す予定っす。

177>
そんなに喜んでいただいて・・・
男の子話は書いたことないのですが、頑張ります。
179 名前:2 トラウマ 投稿日:2003年02月11日(火)17時22分57秒

「よぉ来れたなぁ。明日もライブやろ?」


みちよが声を掛けた先には、ベビーベットを覗き込む少女。
かなりコドモ好きなのか、ニコニコと嬉しそうな笑顔。

寝ているゆーたのほっぺを、ちょいっと突付いて。
爆睡中のコドモは、全くもって気付いてない。


「だってさ、彩っぺのトコ来た時、呼んでくんなかったじゃん」


隣に立ったみちよに、口を尖らせて抗議する後藤。
さっきまでの笑顔とは、大違い。ちょっと拗ねモードらしい。

ソロになって数年。随分と大人びたと思ったが。
仲間に見せる表情は、まだまだコドモで可愛いらしい。


「あれはちゃうやん。ごっちんが仕事やからムリって」
「違う日に来てくれれば良かったんだよぉ」
「また行くから」
「絶対だからね」
180 名前:2 トラウマ 投稿日:2003年02月11日(火)17時23分31秒

みちよの言い訳と、頭を撫でる手に、納得したらしい。
みちよから視線を外した後藤は、眠るゆーたに再び釘付け。


「ねぇみっちゃん」
「ん?」
「ゆーちゃんてさ。目つき悪いよね」


後藤が呟いた瞬間。
今まで爆睡していたコドモが、ピクッと震えて。


「ふぇ・・・・・・」

「あ〜・・・・泣くなやぁ〜〜」


顔を歪めたゆーたを、素早く抱きかかえるみちよ。
よしよしと揺らしながら、頭を撫でている。

それを見つめる後藤の顔には、???がでかでかと。


「どしたの?」
「あんな、目つき悪いって言葉な。嫌いやねん」


―――微妙にトラウマがあるらしい。
181 名前:3 トラウマ2 投稿日:2003年02月11日(火)17時24分19秒
場所は再び都内の一等地。
閑静な住宅街のとある豪邸、そのお庭から聴こえるのは陽気な鼻歌。


パン!

抜けるような青空の下。タオルを叩く音が、心地よく響く。
主婦らしく洗濯物を干して、リビングを覗く彩。

ベビーサークルの中では、ちっこいカタマリがもそもそと。
そろそろハイハイができるようになった。


「ビデオでも観るぅ〜?」


娘のためにビデオをセットして。

再生ボタン・オン!
182 名前:3 トラウマ2 投稿日:2003年02月11日(火)17時24分59秒
画面には元気な4人組。
アニメを思わせるカラフルな映像が、ポップに踊る。


「ほーら、ミニモニだよ」


サークルの中でごそごそしてたマリを抱きかかえて。
テレビ画面に視線を向けさせるコト、数分・・・・・・

ニコニコしていたマリの顔が、少しずつ歪んで。


「・・・・・・・ふぇ・・・・・・」

「あ〜〜待って、待って」


泣き出す前に、ビデオを消して。
抱きしめた背中を、さわさわと撫でる彩。


「ミニモニ、嫌なの?」


―――こっちもトラウマがあるらしい。
183 名前:ミニマム。 投稿日:2003年02月12日(水)06時03分11秒
やぐちゅう〜チュキ!

(^◇^)<裕ちゃんメツキが悪の?
      視力が悪いの。。。でも子供か
      ぁぁ眉間にシワが、なんつって(笑)

从´∀`从 <知。。。今日はお持ち帰り決定やな
       朝まで説教や

裕ちゃん、本当の目的は…違うようなw

有る意味い『あやみち』ですね    
184 名前:レス返しだけ 投稿日:2003年02月12日(水)21時03分32秒
>裕ちゃん、本当の目的は…違うようなw

( `・ゝ´)<というか目的はそれだけしかないじゃん。
( `◇´)<ま、しゃあないわな。やっと再会したと思ったら。

(〜^◇^〜)<しゃべれないじゃん!!
从 ~∀~ 从<ちゅーもできへん!!!

从´∀`从 <ちゅーか、何であんたが母親?
( `◇´)<えーやん。可愛がったるで?
从´∀`从 <え〜彩っぺの方がええなぁ・・・
( `・ゝ´)<何で?(嬉)

从´∀`从 <リムちゃんおるし。キレイなおねーさん好きですか? 好きやぁ〜〜
(〜^◇^〜)<ゆーちゃ〜ん!!(怒)

・・・・ま、いつかはやぐちゅうになるはずです。
185 名前:4 ファースト・コンタクト 投稿日:2003年02月13日(木)19時29分02秒
場所は変わって大阪。
タクシーの運転手さんも“おおきにぃ”の関西弁。
地下鉄では、おばちゃんたちの会話が漫才に聞こえる・・・ってのはホントか?


「リムちゃんは?」
「お義母さんに頼んできた」


みちよの後を歩く彩の腕には、前より大きくなったコドモ。
ベービー服は初夏らしく、淡いグリーンで。
ニコニコと嬉しそうに、元気に手足を動かしまくっている。


「元気やなぁ、マリちゃん」
「ねえ〜。何が楽しいんだか」
「かわえーなぁ」


彩が覗き込むと、キャッキャッと声を上げる。
みちよの顔を見ても喜んでるから、人見知りではないらしい。
186 名前:4 ファースト・コンタクト 投稿日:2003年02月13日(木)19時29分48秒

「何言ってんのさ。ゆーちゃんも可愛いっしょ?」
「ん〜オモロイけどなぁ・・・・・」


言葉を濁されてしまうとは・・・・・・
リビングで独り遊ぶゆーたに、聴こえてないのが幸いであろう。


「マリちゃん、来たでぇ」


みちよの言葉に振り返ったコドモ。
母親に濁されるほどは、可愛くない訳じゃない。

どちらかといえば、髪の毛も瞳も色素が薄く。
マリほど、瞳が黒目がちではないのが原因か。
ついでに、人見知りの激しい性格故、笑顔ではないのも・・・・


「ゆーちゃん、久しぶり。元気だった?」


話し掛けながら、彩はマリをカーペットに降ろす。
同じ目線になったマリに、ゆーたの視線は釘付けで。
187 名前:4 ファースト・コンタクト 投稿日:2003年02月13日(木)19時30分21秒

「あ〜〜」


何やら口走りながら、一歩一歩、前進するマリ。
それを、ジーっと見つめたままのゆーた。

2人の距離が、ゼロになる。
視線を絡めあいながら、マリの手がゆっくり上がって。


「あ〜・・・・あっ!!」
「―――ふぇ・・・・・・・」


マリのちっこい手が、ゆーたを直撃。
数秒後、顔を歪めたゆーたに続いて、何故かマリも泣き出した。


「・・・・・・・何したかったんだろ?」
「知らん。あ、お茶入れるわ」


―――ファースト・コンタクトも失敗。
188 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月13日(木)21時07分05秒
また失敗ですか〜。
残念!(笑)
189 名前:きいろ 投稿日:2003年02月13日(木)21時52分03秒
ひぃい!!
続編のほうが始まってらっしゃる!!!
気がつきませんでした…
ゆーた君とマリちゃんですか。
可愛いですね(W
これからもめっちゃ期待しています。
190 名前:読者 投稿日:2003年02月13日(木)23時59分58秒
二人とも可愛過ぎ!!
待ってました(w
191 名前:ミニマム。 投稿日:2003年02月14日(金)03時35分07秒
从´∀`从 <イタイ。。。ウチまだ何もしてないで
(^◇^)<今のうちにオシオキ
从´∀`从 <なんでやねん
(^◇^)<これから、いっぱ〜〜ぃ裕ちゃんはオイタするから
从´∀`从 <ううぅぅ信頼度0かいなぁ

( ` ・ゝ´) <裕ちゃんって一体 前世で何やってんだかぁ
( `◇´)<親友だったウチからは。。。怖くて言えない
192 名前:レス返しだけ 投稿日:2003年02月15日(土)09時42分14秒

从´∀`从 <何言うてんねんな、みっちゃん。言われて困るような前世は歩んでへんで?
( `◇´)<ほぉ〜〜?? なら言うたるわ。

ヽ^∀^ノ<いたいけな少女のファーストキス奪って泣かせたり。
从´∀`从 <そらしゃあないやん。知らんかってんもん。てかどこから出てきてん?

(●´ー`)<<カメラの前で、堂々とセクハラしてみたり。
从´∀`从 <そらぁ、愛情表現やん。愛してるからやで?…ってあんたも、どこから?

( `◇´)<可憐な女子高生に、ビール買いに行かせたり。
从 ~∀~ 从<ええやん。 
( `◇´)<おい・・・・・

( ´D`)( ‘д‘)<目の前でビール飲んで、空き缶つぶしてみたり。
从#~∀~#从<してへん!! ぐびぐび・・・ぷはぁ〜・・・・ちゅーか、それって悪いコトなん?

(〜^◇^〜)<決まってんだろぉ!!(怒) てか、何飲んでんだよ!
从#~∀~#从<ミルクや!
193 名前:作者 投稿日:2003年02月15日(土)09時43分15秒
レスありがとうございます。

188>
そのうち成功するはずです。多分・・・・・

189>
続編はムリとかなんとか言いながら始めちゃいました。
また気が向いたらどーぞ。

190>
あ、お待たせしました。でもすぐ可愛くなくなるかも。

191>
从´∀`从 <ぅぅ・・・・・(ちゅーことはオイタしてええってコトやな)
(〜^◇^〜)<ばしっ!!
194 名前:5 トラウマ3 投稿日:2003年02月16日(日)11時08分23秒
またまた、場所は変わって、とある豪邸。
その玄関先は、今日はとても静かなもので。

モデル並みのキレイなおねーさんが、門をくぐる。


「いらっしゃい」
「久しぶりだね」


手土産を片手に現われた圭織は、彩の招きに応じて家の中に。

お子様志向に走った娘。から、卒業したのは正解だろう。
20台も半ば、大人の色気にも磨きが掛かって、なかなかのモノだ。


「また、本出すんだって?」
「うん。出来たら送るね」
「サンキュ」


その辺のおばちゃん同様、世間話を終えた後。
リビングに置かれた、ベビーサークルを覗き込む圭織。
195 名前:5 トラウマ3 投稿日:2003年02月16日(日)11時09分03秒
「ん〜〜目ぇくりくりしてる。可愛いねぇ」
「結構、気ぃ強いけどね」


圭織の凝視にも、マリの視線は真っ向勝負。
泣き出さないのは、さすがとしか言い様がない。

が、徐々に笑顔が、しかめられて。


「ふぁ、あ・・・・くしゅっ!」


一連の動きを、ジーっと見つめていた圭織。
しばらく空を見つめた後、思い出したようにポンと手を打って。


「あ、パグそっくり」

「・・・・・ふぇ・・・・・・」


―――これも若干トラウマらしい。
196 名前:きいろ 投稿日:2003年02月17日(月)16時21分58秒
おい、カオリさん…泣かすなよ(w
かーわーいーいーですよぉおっ!!(壊
早く仲良くなってね、ゆーたとマリ♪(すでに呼び捨て)
197 名前:作者 投稿日:2003年02月17日(月)21時03分00秒
>196

(〜^◇^〜)<ふぇ・・・・(笑ってるんじゃないぞ)
( ゚皿゚)<違うよ、圭織、パグみたいって言っただけだもん。
(〜^◇^〜)<ふぇぇん・・・・

( `・ゝ´)<元祖タンポポでお送りしました。
198 名前:6 天使の笑顔 投稿日:2003年02月17日(月)21時03分43秒
の世の終わり。あるいは火がついたよう。
そう形容される泣き声が、玄関を開けたなつみの耳に飛びこんできた。


「一体何ごと?」


不思議に思いながらも、人様のお家。
掛けこむようなマネはせず。というか、その瞬発力がなかったり・・・・

泣き声の元。
リビングを恐る恐る覗くと、中には泣いてるコドモとその母親。
199 名前:6 天使の笑顔 投稿日:2003年02月17日(月)21時05分42秒
「おじゃましま〜す」
「いらっしゃい」


なつみの声に振りかえったみちよは、別段変わった様子もなく。
目の前でチカラいっぱい泣き叫ぶ我が子を、笑って見ている。


「ゆーちゃん。何で泣いてるの?」
「ん? これや」

ニヤリと笑って差し出したのは、バナナ。


「これをな、こーするとな―――」
200 名前:6 天使の笑顔 投稿日:2003年02月17日(月)21時06分31秒
「んぎゃぁぁぁ・・・・・やぁぁ・・・・・・」


楽しそうな笑みを浮かべて、バナナを近づけるみちよ。
目の前の黄色い物体に、飽きもせず泣きまくるゆーた。
そんな親子の光景を見るはめになったなつみは、やがて呆れたようにため息をついて。


「・・・・・楽しい?」
「うん。キライやねんなぁ」


軽く脱力したなつみは、とりあえず目の前のバナナを取り上げてやって。
抱きしめたゆーたの手が、自分の服をギュッと握ってくるのに。


「ゆーちゃん、みっちゃんなんて嫌いだって」

一応、腕の中のコドモの心中を伝えてやる。
201 名前:6 天使の笑顔 投稿日:2003年02月17日(月)21時07分02秒

「んなことないやろぉ・・・・・・・・ホンマ?」
「当然でしょ」


ねぇ〜と笑うなつみに、やっと泣き止んだゆーたがニコッと応えた。
その笑顔は、みちよに見せる笑顔。それ以上の笑顔で。


―――恐るべし、なっちの笑顔。しかし今世もキライな物、上位決定!
202 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月17日(月)22時48分37秒
ゆーちゃん・・・やっぱりなっち好きですね(笑)
みっちゃん・・・今までの腹いせか?(笑)
203 名前:ミニマム。 投稿日:2003年02月18日(火)05時31分33秒
从´∀`从 <新しいママです。
(●´ー`●)<う〜可愛いべさぁ チュ!
( `◇´)<我が子が ぁぅぁぅ
       生後数ヶ月で…もぅ反抗期ヤ
(^◇^)<ソコ うるさい(怒)
( ` ・ゝ´) <あらら また家の子 妬いてます
( ゜皿゜) <カオにはその気持ち分かる
( ‘ д‘)<おいおい ホンマカイナ
( ´D`)<ののには分かりません
( ^▽^ )<チョットひとみちゃん!なにしてんのヨ
(0^〜^0)<オラ『悟空♪』
( `.∀´)<おい!吉澤〜〜

川’ー’川 <あぁ、何か影が見えた
∬`▽´∬<ル〜ル・ル・ル・ル〜
(ё)<キツネかよ!まゆげビィーム
川o・-・)ノ<え〜あれは生物学的に言いますと
      「ゴキブリ」ですね

(^◇^)<ギヤァァアア〜〜〜
204 名前:作者 投稿日:2003年02月18日(火)20時01分59秒
>202、203

从´∀`从 <腹いせ? んなことされる覚えがないがな。
( `◇´)<・・・・バシ!!
从´∀`从 <虐待やぁ〜〜(泣)

(●´ー`)<また泣かせて。―――なっちのトコ来るかい?
从´∀`从 <行くぅ〜〜・・・・(なっちの方が料理上手いしなぁ)

(〜^◇^)<・・・・ぅぅ・・・・
( `・ゝ´)<あんたはダメよ。
205 名前:7 ただいま爆走中 投稿日:2003年02月18日(火)20時02分54秒

さて、食い倒れの街、大阪。
自分と同じくらい大きい荷物を抱えながら、歩く女性が一人。
お好み焼きの看板を横目に、どうどうと独り言。


「お好み焼きも良いけど、やっぱイカ焼きっしょ」

妙なこだわりがあるらしく、人目も憚らずダメだしである。


「ん〜〜、でもやっぱりたこ焼きもいいなぁ〜」

・・・・・あまりこだわりはないらしい。
206 名前:7 ただいま暴走中 投稿日:2003年02月18日(火)20時03分42秒

「こんにちわぁ〜」


目的の場所に到着したなつみは、抱えた荷物を、玄関先にどさっと置いて一息つく。
即座に、部屋の奥から、「いらっしゃ〜い」と聞こえたが、声の主の姿が見えない。
その代わり、ちっこい頭が、リビングからひょこっと覗く。


「あ、ゆーちゃん。おいで〜」


人見知りなコドモも、なっちの笑顔は大好きで。
危なっかしいバランスのつかまり歩きで、トコトコと寄ってくる。


「やぁ、上手になったねぇ」
「せやけど、あちこちコケて泣きまくりやで」


いつのまに現れたのか、ゆーたの背後にはみちよの姿。
なつみの持参した大きな箱に、視線を向けて。

207 名前:7 ただいま暴走中 投稿日:2003年02月18日(火)20時04分13秒

「何持ってきたん?」
「ゆーちゃんにお土産」


実はなつみ、その天使の笑顔を武器にCM出演多数である。
ということで、出演したベビー用品の商品をお土産に持参した次第。


「何なん?」
「えーっとねぇ・・・・・・じゃん!!」


興味津々で箱の中を覗きこむ親子。その目の前に取り出されたのは。


「歩行器・・・・・?」
「そっ! これでゆーちゃんも転ばないよ」
「ほぉ〜〜。良かったなぁ、ゆーた」

「あぅ!」


思いがけないプレゼントに、コドモの瞳が輝いたのは、誰も気づいていなかった。
208 名前:7 ただいま暴走中 投稿日:2003年02月18日(火)20時04分46秒

さて、食い倒れの街、大阪。
配られるティッシュの波をよけながら、颯爽と歩く女性が一人。
お好み焼きの看板を横目に、「もんじゃが食べたいわ」とは心の声である。


「こんにちはぁ」


目的の家についた保田。玄関を開けると、何やら妙な音が近づいてくる。


シャァァァァ〜〜〜〜

妙な音の正体は、コドモ用歩行器。
車輪の音も軽やかに、イキオイ良く突っ込んでくる一つの影。


「あぅあぅあぅあぅ〜〜〜〜」
「きゃぁぁぁぁ〜〜〜」

「・・・・・・またや・・・・・」


―――なぜ血が騒ぐのか、分からないゆーたである。
209 名前:タモ 投稿日:2003年02月18日(火)21時04分04秒
爆笑!!!
ゆーた君カッケー>(○^〜^)
210 名前:ミニマム。 投稿日:2003年02月19日(水)04時29分27秒
もー毎日交信( ゜皿゜) チェックが楽しいです!
変なレスばっかししてゴメンナサイ。

从´∀`从 <はぁぃ マリちゃんご飯やでぇ
(^◇^)<なにソレ
从´∀`从 <勿論子供のお食事と言えばミルクやん
(^◇^)<アホ それは牛乳って言うんじゃ(怒)
从´∀`从 <しっとれでぇ(笑)
(^◇^)<さやか トマト持ってきて
ヽ^∀^ノ<お互い子供っぽい喧嘩はやめなよ
( ´ Д `)トマト<はいよ持ってきたよ やぐっちゃん

(0゜-゜0)<えぇ 二人の行方に注目です。
211 名前:読者 投稿日:2003年02月19日(水)22時43分04秒
ゆーたとマリの成長がはやく読みたい(w
とにかく想像力をかきたてる小説をありがとうございます。
212 名前:作者 投稿日:2003年02月21日(金)20時20分06秒
ありがとうございます。
少しずつ話が進んでいく予定。まったりとお楽しみ下さい。

>209
从´∀`从 <かっけーやろぉ? 尊敬してくれてええでぇ。
( `.∀´)<あたしはどーでも良い訳?

>210
(〜^◇^〜)<コドモっぽいって・・・
从´∀`从 <コドモやも〜ん。
(〜^◇^〜从´∀`从 <なあ〜〜

( `◇´)<仲ええやん。

>211
从´∀`从 <成長・・・あんま伸びへんでぇ。
(〜^◇^〜)<ばしっ!!(泣&怒)
213 名前:8 死んでも直らない 投稿日:2003年02月21日(金)20時21分42秒
またまた場所は変わって、都内の高級住宅街。
とある豪邸の前に横付けされたタクシーからは、お決まりの2人。


「さ、着いたでぇ」
「あぅ!」


しょっちゅう訪問してるようだが、ヒマではない。
あくまで、忙しい中、合間をぬっての訪問である。

慣れた様子でチャイムを押して。
「入ってきてぇ」の声に、遠慮なくドアを開けるみちよ。


「こんにちわぁ〜〜」
「わあ〜〜」


玄関先で、声を掛けるも、誰も応対する気配無し。
214 名前:8 死んでも直らない 投稿日:2003年02月21日(金)20時22分56秒
「入っちゃうか」
「あぁ〜〜」


親子にしか分からない会話を交わしつつ。
ゆーたを腕に抱いたまま、リビングへと歩みを進める。

「ここかなぁ」と、扉を開けた2人の耳に飛び込んできたのは、ウルサイくらいの喚き声。
声の主は当然マリ。彩の腕の中で、チカラいっぱい泣いている。


「どしたん?」


抱いていたゆーたを降ろしながらのみちよの問いに、「ちょっとね」と笑う彩。
心配そうとか、困ってるとか。そーゆー空気がないのは、慣れっこだからか?


「あ、お茶いれるよ。何がいい?」
「せや。お土産買うて来た」


それどころか、泣きつづけるマリを置いて、立ち上がる彩。
キッチンに向かう彩に続いて、みちよまでもが立ち去る気配。

そんなオトナを気にもせず、本能のままに泣き喚くマリ。
215 名前:8 死んでも直らない 投稿日:2003年02月21日(金)20時23分59秒

「・・・・・・・・・・・」


残されたゆーたに、一体何が出来るのだろう・・・・・・
まあ、そう深刻に悩める程、脳は発育していないのだが。


ということで、わんわん泣いているマリと2人きり。
リビングの床に、ぽつんと取り残されたゆーたは。


「あぅあぅ―――」


よたよたと、一歩一歩近づいて。
途中に転がっていたミニモニのぬいぐるみに心を奪われつつも。
何とか無事に辿り着き、マリの横に座り込んだ。


「う・・・・・・?」
216 名前:8 死んでも直らない 投稿日:2003年02月21日(金)20時25分05秒

不思議そうなマリの視線。
その先には、何考えてるか分からないゆーたの瞳。
目があったかどうかは知らないが、2人の距離がゆっくり近づく・・・・・・・・



「・・・・・・泣き止んだ?」
「みたいやな」


用意したお茶を持って、再びリビングに現われた母親たち。
目にしたのは、2人のコドモの熱い口付け・・・・・・・


―――とりあえず、接触成功?
217 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月22日(土)08時49分28秒
熱い口付け・・・いきなりですか!?
やっぱり、ゆーたはキス魔?(笑)
218 名前:ミニマム。 投稿日:2003年02月23日(日)06時35分28秒
(^◇^)<パシリ
从´∀`从 <いぃ・たぁ・いぃ
(^◇^)<やっぱりオイタした
从´∀`从 <ええやん 減るもんやないし。それに泣き止んだ
(^◇^)<うぅファストキッスだったのに

矢中最高!
219 名前:タモ 投稿日:2003年02月23日(日)08時39分21秒
ゆーた手、早っ!!(矢口的つっこみ
ついに二人に接触が…楽しみに読んでいます。
220 名前:作者 投稿日:2003年02月23日(日)15時23分35秒
>217
从´∀`从<や、今回は硬派でいくでぇ。
( ´ Д `)<ていうかキス魔だったら、アブナイよねぇ。

>218
从´∀`从<ウチかて初めてやで。なぁ?
( `◇´)<・・・・・せやな。(言えへん。実はアタシが初めてやなんて・・・
       いや、母子はカウントに入らへんか?)

219>
( `・ゝ´)<手ぇ早いって。
从´∀`从<まぁなぁ〜
(〜^◇^)<ばしっ!!
从´∀`从<ぅぅ・・・・(あんたも早いやんか)
221 名前:9 懲りない面々 投稿日:2003年02月23日(日)15時24分36秒
梅雨真っ只中の6月。
まだまだおむつが取れないコドモは、誕生日を迎えていた。

親子水入らずの食卓。
お決まりのケーキの上には、色鮮やかなろうそくが数本。
ゆらゆら揺らめいて、今日の善き日をお祝いしている。


「さ、消しやぁ」


そう言って、ゆーたに手を伸ばしたのは、初登場のみちよ夫。
彫りの深い顔立ち。短い金髪は生まれつき。実は混血ってのは初耳だ。

父親に支えられ、テーブルに乗り出したゆーた。
スゥーっと大きく息を吸い込んだ後、唇を突き出して―――


「ふぅ〜〜〜」
222 名前:9 懲りない面々 投稿日:2003年02月23日(日)15時25分15秒
「おぉ〜〜。上手いでぇ。おめでとう」
「おめでとー。ゆーた」


ぱちぱちと手を叩いて、祝福する両親の図。
さすがのみちよも、先に消しちゃおうなんてコトはしなかったらしい。

ろうそくの煙が消え去って、一段落ついた頃。
ニコニコと笑うゆーたの目の前に、少し大きめの箱を差し出して。


「じゃん! プレゼントやでぇ」


おぉ!
何のひねりもないが、プレゼントである。


「開けてみぃ」
「うん!」


みちよの言葉に、嬉々として包装を解いて。
現われた箱の蓋を、わくわくしながら開けた瞬間。
223 名前:9 懲りない面々 投稿日:2003年02月23日(日)15時25分48秒

みょ〜ん!!・・・・・・ょん・・・・ょん・・・・・


「ふぇ・・・・わぁぁぁぁん・・・・・・」


これでも、もうすぐ三十路のみちよ。
お決まりの様にビックリ箱を用意しちゃうとは・・・・・


「やっぱコレは外せんよねぇ」
「みちよ・・・・・」


残るのは、泣き喚くコドモ、笑う関西妻と戸惑う混血夫。


―――非行に走らないコトを祈るしかない。
224 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月23日(日)18時35分13秒
みっちゃん・・・ゆーたが大きくなったら仕返しされるぞ(笑)
225 名前:タモ 投稿日:2003年02月23日(日)23時28分47秒
平家さん…ゆーた君ぐれますよ(w
二人の成長の過程が楽しいです。
初キッスした二人はあの後どうしたのかな…?
226 名前:作者 投稿日:2003年03月01日(土)12時04分07秒
>224,225

从 ~∀~ 从<おら、酒買うてこいやぁ〜〜(蹴)
( `・ゝ´)<今と変わんないじゃん。

从 ~∀~ 从<おら、酒買うてこいやぁ〜〜(蹴)
( `◇´)<うぅ・・・DVやぁ・・・
( ´ Д `)<へ? AV?

从 ~∀~ 从<・・・・・・オカン!!(襲)
( `◇´)<や、アカン。やめっ・・・・(ドキドキ)

( ´ Д `)<ふんふん。(メモ)
ヽ^∀^ノ<止めてやれよ・・・
227 名前:10 再会 投稿日:2003年03月01日(土)12時05分14秒

夜も深い時間。都内のとある小料理屋には一組の男女。
カウンターに並んで腰掛け、おかみさん自慢の料理に舌鼓。

飲む?とお銚子を掲げる男に、女は静かに頷き杯を差し出す。


「んまいわぁ〜〜。さすがおかーさん、最高や」


静かな雰囲気は数分と持たず、陽気な声を上げるのは、おなじみ平家みちよ。
一応現役歌手のみちよは、バックバンドの旦那と共にライブツアーで出張中である。


「もっと食べてねぇ」

とは、小料理屋のおかみさん。名を後藤さんという。


「ごっちんも上手いけど、やっぱおかーさんには敵わんちゃうかぁ?」


カウンターの後ろ。座敷に話しかけるみちよ。そこには当然誰かがいるわけで。
228 名前:10 再会 投稿日:2003年03月01日(土)12時05分54秒
「しつれーだなぁ。へーけさんには言われたくないよーだ」
「ザッツ・ライト!」


隣の突っ込みには、当たり前のように裏拳をかまして。
やぶへびな空気を、「飲むで」の一言で吹き飛ばすみちよ。

・・・・誰かさんを髣髴させるのは気のせいか?



カウンターに向き直ったみちよから、後藤の興味は目の前のコドモへ。
珍しく夫婦水入らずの2人のために、ゆーたの世話をなんて―――良い子である。


「ゆーちゃん。眠くない〜?」
「な〜い」

「ゆーちゃん。お腹空いたぁ〜?」
「すいたぁ〜」

「ピスタチオ食べるぅ?」
「たべるぅ」


どこから取り出したのか、後藤の手にはピスタチオ。
両手を差し出すゆーたの手に、ポンと一つ乗せてやる。
229 名前:10 再会 投稿日:2003年03月01日(土)12時06分36秒
「あ、ダメだよぉ。カラむかなきゃあ」

カラごと放りこんだゆーたの口から、素早く回収して。
ジーっと真っ直ぐな視線を受けながら、パキっとカラをむいてやる。


「はい、あ〜ん」
「あ〜・・・・・・」
「美味しい?」
「うん!」


新婚さんのような光景である。
全国の後藤さんファンには涙ものであろう。


「ゆーちゃん」
「にゃあ」


後藤の呼びかけに、ゆーたよりも素早く反応した声。ネコである。
客が引けて静かになった店内に、カラカラと扉を開けて侵入中であった。

堂々と歩く様は貫禄充分の茶色いネコ。若干に壮年の域に達している感がある。
黒いレザーの首輪には、銀のクロス。これがまた、あまり似合っていない。
230 名前:10 再会 投稿日:2003年03月01日(土)12時07分11秒
「おいで」
「にゃあ」


寄ってきたネコを抱えあげた後藤は、ゆーたの前にデデンと置いて。


「ゆーちゃんだよ」

見上げる青い瞳と、見下ろすブラウンの瞳。バチっと合って、ガチンコ勝負。
恐る恐る手を伸ばすゆーたの、ちっこい指が鼻先に触れた瞬間。


かぷっ!


「・・・・・・・ふぇ・・・・・・」


―――ゆーちゃん(ネコ)も感じるコトがあるらしい・・・・・
231 名前:タモ 投稿日:2003年03月01日(土)18時37分35秒
更新お疲れ様でした〜。
ゆーちゃん…ゆーちゃんを噛むなぁあ!!!!(壊
232 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月02日(日)00時43分13秒
ゆーちゃん と ゆーちゃん再開しましたか。
なんかまたいい再開じゃないですね(笑)
233 名前:作者 投稿日:2003年03月02日(日)15時58分13秒
>231,232
( ´ Д `)<ゆーちゃんと、
从´∀`从<ゆーちゃんかぁ・・・
( `◇´)<ホンマややこしーなぁ。

从 ~∀~ 从<ちゅーか育児放棄やんけ!
234 名前:11 海水浴の夏 投稿日:2003年03月02日(日)15時59分05秒
いつの間にか季節は夏。
灼熱の太陽。青い海。白い砂浜。
ということで、東京から少し離れた太平洋を臨む砂浜に一行はいた。


メンバーはお決まり。2人のコドモと2人の母親。
プラス、なぜかとあるグループ(元)の同年代3人組。

この3人。黙っていればキレイなお姉さんなのだが・・・・・・
235 名前:11 海水浴の夏 投稿日:2003年03月02日(日)15時59分48秒
「やっぱ海だよねぇ〜〜」

腰に手を当てて、海に正対する様はまさに海の男。
きっと巨大あなごも平気で捕まえるだろう。


「ねぇ〜〜」

言葉尻だけで、感動を表すことに成功するのは、普段の彼女ならでは。
海に入る前に、既にスイカに齧りついているのは、当たり前と言うしかない。


「きゃあ!! ヤダぁ〜〜」

特徴的な声で騒がれては、鬱陶しいコトこの上ない。
歩き出した途端、砂を這ってたカニさんを踏んだのは、ある意味呼吸がばっちり?
236 名前:11 海水浴の夏 投稿日:2003年03月02日(日)16時00分20秒
「あんたらなぁ。もっと静かにせんと。ばれてまうやん」


年上らしく、そう諌めるみちよの腕には、海パン一枚のゆーた。
日焼けしてない真っ白な身体と、だぶつき気味の真っ青なパンツ。
初めての海に、みちよのシャツをギュッと握ってビビっているようだ。


「そうそう。皆がいるの分かったら、大騒ぎじゃん」


みちよの後に続ける彩の腕にも、マリが抱かれていた。
ひまわりのような黄色いビキニを着けたマリは、早くも海に興味津々。
入ってみたくて、うずうずしている。
237 名前:11 海水浴の夏 投稿日:2003年03月02日(日)16時00分55秒
「ほな頼むでぇ〜〜」
「よろしくぅ〜〜」


無責任な親から放り出されたコドモたち。
熱い砂を足の裏で踏みしめたのは、初体験で―――


「あつぅ〜〜」
「あつい〜〜」


初めこそきゃいきゃい騒いでいたが、徐々に慣れてきたのか。
傍にいた3人に手を伸ばして、遊びに誘う。
238 名前:11 海水浴の夏 投稿日:2003年03月02日(日)16時01分30秒

「ごっちん。あっちいこー」
「いーよぉ」

「よっすぃ〜。マリもぉ〜」
「おっけー」

「・・・・・あのぉ・・・・・・・」


―――なぜ石川の手を取らなかったのか、本人たちも実は知らない。
239 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月02日(日)18時19分07秒
石川さんはこの2人にはこおいう扱いされる運命なんですかね?(笑)
石川さん・・・可哀相に・・・(笑)
240 名前:タモ 投稿日:2003年03月03日(月)13時19分33秒
ってかすでに仲良いですね。みなさん。
ゆーたとマリの接触が楽しみです。
241 名前:作者 投稿日:2003年03月03日(月)18時00分52秒
>239,240

从´∀`从<いこー。
( ´ Д `)<ん〜。

(〜^◇^)<いこ♪
(0^〜^)<オッケー。

( ^▽^)<・・・・美しさは罪なのねぇ〜♪

( `・ゝ´)<面白いねぇ。
( `◇´)<心配いらんもんなぁ・・・

さっさと話の動く年代に成長してもらわないと・・・
どんどん飛ばして進みますんで、間の過程は想像してください。
242 名前:11 海水浴の夏2 投稿日:2003年03月03日(月)18時01分36秒
それでもとりあえず3人と2人は波打ち際まで進出。
穏やかな波が行ったり来たり。白い砂を黒く染める。


「ゆーちゃんは、海、初めて来たのぉ?」
「うん」

「マリちゃんも?」
「うん。はじめてぇ」


初めてなら、水が怖いかも。ということで、まずは波うち際で水遊び。
お互いに水を掛け合うという、なんともこそばゆい事をして。


「あ!!」


と、突然走り出す吉澤。何かを見つけたらしい。
243 名前:11 海水浴の夏2 投稿日:2003年03月03日(月)18時02分15秒

「あー!」
「あ〜」


何でもマネしたがりのコドモたち。
同じように声を上げて、吉澤の後をちょこちょこと。

水かさが膝まで上がって来た頃、やっと追いつくと。
うずくまって、何やら見ている吉澤の背中。


「なにしとんのぉ?」
「よっすぃ〜〜?」


不思議そうに見上げる2人。
クルっと振り向いた吉澤が、両手に乗せて見せてくれたのは。


「なまこだよ〜ん」
244 名前:11 海水浴の夏2 投稿日:2003年03月03日(月)18時02分48秒
吉澤の手の上で。
黒くて大きい物体が、うねうね・・・・・・


「「きゃあぁぁ〜〜〜〜〜」」


思わず落してしまったなまこを、拾い上げて顔を上げた吉澤。
その視界には、浜辺のパラソルを目指して逃げ帰るちっこい背中が映っていた。


―――2人が両生類&爬虫類嫌いになるのは、自分が原因であることを吉澤は知らない。
245 名前:11 海水浴の夏3 投稿日:2003年03月03日(月)18時03分33秒
皆で囲む浜辺でのお弁当。
料理上手の彩が腕を振るったというだけあって、見た目もキレイな品々が並ぶ。


「いっぱい食べてねぇ」


彩の一言を待つまでもなく、既に箸は動かされていて。
ぱくぱく もぐもぐと、ひたすら食べまくる後藤と吉澤。


「美味しいねぇ〜」
「ホント! 最高っす!」

「そう? ま、いっぱい食べなよ」


しかし、大事な一言も忘れないのは、芸能界生活の賜物か。
一方、ひたすら食べまくる2人をよそに、石川はというと。
246 名前:11 海水浴の夏3 投稿日:2003年03月03日(月)18時04分13秒

「はい、あ〜ん」
「あ〜・・・・・・ん。んまーい」

「はい、マリちゃんも」
「あ〜・・・・・おいしーねぇ」


微妙に吉澤から離れて座る2人を、両脇に置いて。
お箸の使えないコドモたちの、箸代わりになっていた。


「りかちゃん。悪いなぁ〜」
「ホント。良いんだよ、ほっといてくれて」


放任主義な親たちにも、「大丈夫です」と可愛く笑う。
・・・・そんなにさっき、無視されたのがショックだったのだろうか?

そんな光景の横では、やっと箸が止まる面々。
とりあえず落ち着いた後は、クーラーボックスに手を伸ばす後藤。
247 名前:11 海水浴の夏3 投稿日:2003年03月03日(月)18時04分45秒

「彩っぺぇ。飲んでいーい?」
「良いよぉ。程ほどにね」
「あはっ。誰かさんじゃないよぉ」
「誰か・・・・中澤さん?」


思いっきり過去を思い出させることを、さくっと言い放つ石川。


「あ〜確かに。ねーさんは飲み過ぎやったなぁ」
「全くだ。ビールは水だったもんね」

「よっすぃ〜も飲みなよぉ」
「あ、ありがとぉ」


ま、感傷に浸るような人間など、ココにはいないのだが。


プシュ!

窒素ガスの抜ける音が、涼しげに響く。
それは、ご飯に飽きたゆーたの耳にも届いて。
248 名前:11 海水浴の夏3 投稿日:2003年03月03日(月)18時05分15秒
「あ〜ごっちん。なにのんでるん?」
「んぁ〜〜・・・・飲みたい?」
「うん!」


何故か止めようとしないオトナたち。
缶ビールを傾ける様子を、興味深げに見つめている。


「美味しい?」
「・・・・・・・にがぁ・・・・・・」


顔をしかめて、泣き出しそうなゆーた。
幼児の反応としては極普通のモノに、周りのオトナは至極残念そう。


「やっぱアカンかぁ」
「というか早すぎでしょ」

「早すぎかぁ・・・・・・」


―――もう少し経ったら飲ませてみようと思っている後藤である。
249 名前:タモ 投稿日:2003年03月03日(月)21時03分05秒
たくらむなたくらむな(後藤w
密かにゆーたが「んまぁい」と言うのを期待していた自分でございます。
250 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月05日(水)16時56分24秒
ごっちん・・・ゆーちゃんを飲んべぇにする気か・・・(笑)
大人2人もそれでいいのか?!
更新たのしみです。
251 名前:作者 投稿日:2003年03月05日(水)20時18分11秒
>249,250

( `◇´)<いや、さすがにコドモにお酒はアカンからな。
( `・ゝ´)<そーそ。脳の発達に何とかかんとかって言うし。

(〜^◇^)<って止めてないじゃん!
从*~∀~*从<せやせやぁ〜〜おかわりぃ!

( ´ Д `)<ほ〜い。
ヽ^∀^ノ<だから、止めとけって・・・・
252 名前:12 読書の秋 投稿日:2003年03月05日(水)20時18分55秒
さて、照りつける太陽が幾分優しさを増した今日この頃。
都会の喧騒に紛れてひっそりと息づく木々も、鮮やかに色づく秋である。


「「こんにちはぁ〜」」


玄関先で仲良く声を揃えたのは、一応仲良しの石川と吉澤である。

今ではモーニング娘。のリーダー格として頑張っている2人。
本日はオフを利用してのご訪問である。


「いあっしゃ〜い」


迎えるのは、少し舌足らずの高い声。
腕に抱える大きな絵本のせいで、自分の視界がかなり危ない事に、気付いていない。
253 名前:12 読書の秋 投稿日:2003年03月05日(水)20時19分32秒
家に来たお客さんに、絵本を読んでとせまるのは、ここ最近の恒例である。
なかでも、この2人のお話がお気に入りである。
なぜなら・・・・・・


「いいよぉ。今日は何読む?」
「しらゆきひめぇ〜」
「白雪姫かぁ。じゃあ読むよ」


『あぁ!! こんなところに美しい姫が!!』

『目覚めるにはキスを』
『王子様! キスを』

『姫・・・・・・』


ソロの仕事もそれぞれこなす2人だが、何故か女優の仕事はこない。
心密かに憧れる女優業。こんなところで頑張ってしまうのである。

たまに、演技を忘れてしまうのが難点か・・・・・


『ひとみちゃん・・・・・』
『りかちゃん・・・・・』


―――余計な知識が増えるマリである。
254 名前:13 芸術の秋 投稿日:2003年03月05日(水)20時20分06秒
みちよの部屋。
その扉を開けると、中にはなぜかコドモの背中。
偉そうにあぐらをかいて、何やら床に並べている。


「何しとんの?」
「わっ!!」


腰をかがめたみちよが、その肩越しに覗き込む。
突然声を掛けられたゆーたは、ビクッと肩を震わせた。

その拍子に、ゴトっとビデオがこぼれ落ちる。


「あん? 何? 見たいん?」


それは、モーニング娘。のビデオ。
床に並べられていたのも、ハロプロ関係のモノで。
255 名前:13 芸術の秋 投稿日:2003年03月05日(水)20時20分41秒

「コレだれ?」
「モーニング娘。やん」
「うっそやぁ〜」


ゆーたの驚きも一理ある。
今現在、テレビに映っているモーニング娘。と、ビデオの表紙の娘。たち。
どー見ても、同じグループとは思えない。


「ホンマやって。あそこはな、ヒトが入れ替わんねん」
「ふうん・・・・・・」


一応納得したらしく、他のグッズを興味深そうに眺めるゆーた。
中には、もちろんみちよのもあって。


「あ! コレみっちゃんやん?」
「うん。せやで」
「ふうん。みっちゃんもモーニング娘。やったん?」


きっとそれは、コドモの純粋な質問。
プロジェクトなんて言われても、分かるわけないお年頃。
256 名前:13 芸術の秋 投稿日:2003年03月05日(水)20時21分13秒
質問されたみちよの顔は、ニコっと笑顔。
・・・・・・ニヤリと邪悪な笑み、とも言う。


「せやで。知らんかったん?」


・・・・・・そこで否定しないのは、コドモを傷つけたくない親心?
それとも、単に楽しんでるだけ?・・・・多分後者。いや絶対、後者だろう。


「へ〜。すごいなぁ。そーやったんかぁ・・・・・・」
「せや。ビデオあるで。観るか?」


そう言ってみちよが手に取ったのは。
『ファーストライブ at 渋谷公会堂』いわゆる初のハロコンで。
平家のバックで娘。が唄う『GET』が収録されている、貴重な一本である。


「みるみるぅ!!」


めっちゃ嬉しそうなゆーた。
その手を引きながら、こっちもオモシロそうなみちよ。


―――真実が明らかになるのは、まだまだ先の事。
257 名前:タモ 投稿日:2003年03月05日(水)20時40分49秒
なんか…ゆーたやマリの教育がなってないような気が…(w
258 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月05日(水)22時42分05秒
みっちゃん・・・・・・モーニング娘。ちゃうやん(笑)
ゆーちゃんも騙されすぎ・・・
259 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月06日(木)06時49分05秒
もうこの親子最高(笑)
ママとかお母さんじゃなくて、みっちゃんて呼ぶとこも。
260 名前:作者 投稿日:2003年03月09日(日)14時48分31秒
>257

( `◇´)<だいじょーぶや。子はいなくとも親は育つ、ちゅーてな。
从 ~∀~ 从<すでに間違っとるんやぁ〜!!(殴)
( `◇´)<うっ・・・DVや。
( ´ Д `)<へ? AV?
ヽ^∀^ノ<繰り返すなよ。

>258

( `◇´)<うんにゃ。あたしはある意味娘。やで。
从 ~∀~ 从<ちゅーか騙すなや。

>259

从´∀`从<そりゃあ、お母さん言うたら、誰のことか分からんやん。
( `◇´)<せやせや。

( `.∀´)<オトナの嫌らしいトコよね。それよりも今夜はゲストよ。
从´∀`从<矢口が良かったなぁ・・・
(〜^◇^)<矢口が行きたかったなぁ・・・

( `.∀´)<何か言った?
从´∀`从(〜^◇^)<いえ、何にも・・・・・はぁ・・・
261 名前:14 暖かい冬 投稿日:2003年03月09日(日)14時49分10秒
凍えそうな北風が吹き荒れる冬。
明けましておめでとう。とご挨拶して数週間。

とある豪邸では、クリスマスを思わせる光景が繰り広げられていた。


「じゃん! 手作りだよ〜ん」
「おぉ! スゴイじゃん」


彩の手作りケーキに感嘆の声を上げたのは、やっぱり初登場。彩っぺ旦那である。
あの風貌に似合わず、喜んじゃうからあの体格なのか・・・・

それは置いといて、今日の主役はマリである。


「電気消すよぉ」


灯りはケーキの上のろうそくのみ。風に合わせてゆらゆら揺らめく。
シーンと静まり返った部屋。ふぅ〜っと聴こえた瞬間、真っ暗になった。
262 名前:14 暖かい冬 投稿日:2003年03月09日(日)14時49分45秒
「誕生日おめでとぉ〜」


さすがはミュージシャンの家庭らしく。
バースディソングも、聴くに堪える出来である。


「はい。プレゼントだよ」
「ありがとぉ〜」


大きなプレゼントをくれたパパに、チカラいっぱい抱きつくマリ。
抱きつかれたパパは、よほど嬉しいのか、ほっぺが緩みまくり。

未だ、抱きついたままの娘に、ニヤケっぱなしの彩っぺ旦那。
今度は何を買ってあげようかな、と思案しながら。


「マリ、パパのコト、好き?」
「だいすきぃ〜」


―――しかし、プーさんにそっくりだからとは言えないマリである。
263 名前:15 日本の冬 投稿日:2003年03月09日(日)14時50分54秒
お正月ムードはあっという間に消え去って。
世の中は、バレンタインに向かって動き出している頃である。

しかし、都内の一等地ではそんな浮ついた雰囲気は一つもなく。
夜道をカツカツと歩く女性からも、バレンタインなんて空気は感じられない。


「あ、あたし。今向かってるから」


通話を終えた携帯をしまいながら、一人歩くのは猫目の女性、保田である。

電話の相手は、もちろんこの高級住宅街の住人。
ちょっと相談事があって。というのが訪問の理由である。

というのも、ソロになって数年の保田。もうすぐ30だし・・・・・
女優業も経験し、そろそろ音楽に専念したいなぁとか考えちゃってるわけで。


「こんばんわぁ〜」


何度か来た事のある門をくぐると、玄関には彩が待っていた。
264 名前:15 日本の冬 投稿日:2003年03月09日(日)14時52分37秒
「いらっしゃい。旦那もいるよ」
「あ、ありがと」


差し出されたスリッパを履き、彩に続いてリビングへ。


「やっぱりバンドとか?」
「うん。それも考えてる」
「圭ちゃん、何弾くの?」
「ん〜・・・・キーボードとか?」


真面目な雑談をしながら、リビングへ顔を覗かせる保田。
そこには、ちっちゃい背中がポツンと一つ。


「こんばんわ、マリちゃん」


近づいて、声を掛ける保田。
その声に振り向いたマリの手には、豆がいっぱい・・・・・・


「おにはぁ〜そとぉ〜〜」
「きゃぁ!!」


―――今日は節分である。
265 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月09日(日)20時53分33秒
保田さん・・・豆投げられてるよ(笑)
石川さん保田さんといい、この2人はゆーちゃん・まりちゃんにやられることが似てますね。
266 名前:タモ 投稿日:2003年03月09日(日)21時55分54秒
さすがマリ!!正しい反応だ(笑)
267 名前:作者 投稿日:2003年03月10日(月)19時36分24秒
265、266>

(〜^◇^)<誉められちゃった♪
( `.∀´)<何でよぉ〜〜
( ^▽^)<何でですかぁ〜〜

从 ~∀~ 从<運命や。
( `◇´)<しゃあないわな。
268 名前:16 プロポーズの春 投稿日:2003年03月10日(月)19時37分13秒
『歌手・平家みちよ』が、東京でライブなんかやってたりする日。
まるで兄妹のように、2人で遊ぶ光景が日常となった頃である。


春の日差しがぽかぽかと、優しく注ぐ公園。
ぶらんこや滑り台では、きゃあきゃあと子供たちが騒ぎまくり。

その一角、ちょっと小さめの砂場には、ちっこいカタマリが2つ。
お互いに向き合って、どうやら砂のお城を創作中。


「なぁマリちゃん。うちのオトンとみっちゃん、なかよしやん?」
「マリのパパとあやっぺもなかよしだよ」
「それってな、けっこんしてるからやねんて」
「ふうん」


2人とも、砂をいじる手はそのままで。
真っ直ぐな視線も、目の前の山に注がれたまま。

意思の疎通は図れているのだろうか・・・・
269 名前:16 プロポーズの春 投稿日:2003年03月10日(月)19時38分01秒
「けっこんするとな、ずっといっしょにおれるんやって」
「うん」
「なぁ、おれとけっこんしよぉ」
「うん! するぅ」


暖かい春の風が、満開の桜を優しく撫でる。
ちらちらと舞う花びらが、2人の上に降り注いで。
その様は、花々が撒き散らす、祝福のライスシャワー。


「ちゅう、しよ」
「うん」

砂で真っ黒になったちっこい手で、互いの手を握り。
口付けを交わす2人は、森○エンジェル(?)のようだ。



「あやっぺぇ〜」

照れくさくなったのか、突然、駆け出すマリは、桜以上に笑顔満開。
両手を広げた彩の胸に、一目散で飛びこんで。
270 名前:16 プロポーズの春 投稿日:2003年03月10日(月)19時38分44秒
「あのねぇ、けっこんするのぉ」
「はい?」
「ゆーちゃんがねぇ、けっこんしよぉって」

「あぁ、それは―――」

良かったね。そう続けようとした彩の耳には、聴き慣れた関西弁で。


「な〜おれとけっこんしよぉ〜」
「いいよぉ」

声を掛けているのは、さっきまで砂場で遊んでたオトコのコ。
声を掛けられているのは、ぶらんこで遊ぶオンナのコ。


『ちょっと待て プロポーズの意味 分かって使え あんたの母が 歌ってたでしょ?』


思わず一歌詠んだ後、きらきらした目で見つめるマリに。


「考え直した方がいいよ」

相手が幼児であることを忘れ、真面目に諭す彩であった。


―――2人が今日を理解するのは、まだまだ先の事。
271 名前:作者 投稿日:2003年03月10日(月)19時42分13秒
と、ここまでが一応プロローグ的なものです。

次からが本編。時代も飛びます。
从´∀`从<やっと主役やぁ。
(〜^◇^)<やっと出番だぁ。
272 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月10日(月)20時40分25秒
ゆーちゃん・・・どんだけタラシやねん!!(笑)
行く末がおもいやられますね・・・みっちゃんもこれでいいのか!?
273 名前:タモ 投稿日:2003年03月11日(火)21時32分46秒
やっときましたね〜。
ゆーた君みたいな男の子いますよね。幼稚園内の悪ガキって感じの(笑)
274 名前:作者 投稿日:2003年03月13日(木)20時37分53秒
272,273>

从´∀`从<や、ちゃうねん。あれはコドモの話やん。なぁ?
( `◇´)<せや。ゆーやんはタラシちゃう。浮気や。
从 ~∀~ 从<フォローせぇ!(殴)

(〜^◇^)<悪ガキだって。
ヽ^∀^ノ<ってコトは、現実のゆーちゃんって・・・
( ´ Д `)<ガキなんだね。

从´∀`从<はぅ!
275 名前:17 旅立ちの日 投稿日:2003年03月13日(木)20時38分31秒
カーテンの外では、灼熱の太陽がぎらぎら輝き始めている夏の朝。
そんな事は知るかと言わんばかりに、夢の中を漂うコドモが一人。


「ん〜アカンてぇ・・・・・んなコトぉ・・・・・・」

声変わりが来たのかこないのか、若干低目の声が何やら呟く。
身体に掛かっているはずの布団も、ほぼ抱き枕状態で意味を為していない。


「怖ない・・・から・・・・・・・ん・・・・マリ・・・・・・・・・・・・」

幸せそうな笑みを浮かべ。
傍にあった温もりを、抱き寄せる腕にもチカラが入って。


「ん〜・・・・・・・・???」

「いや〜ん。何すんのぉ〜ん♪」
276 名前:17 旅立ちの日 投稿日:2003年03月13日(木)20時39分13秒
陽気な声が上がった瞬間、がばっと跳ねあがる身体。
寝ぼけ眼が捕らえたのは、自分の母親。ニヤニヤ笑い付き・・・・・・


「何しとんねん!」
「それは自分やん。夏休みやからって、いつまでも寝てたらアカンで」


真っ赤になって怒鳴るゆーたを、全く意に介してない様子のみちよ。
早よ起きや。と付け加えて、部屋から出ていこうとする。その直前。


「二度寝しても、続きは見られへんで」

振りかえったみちよ目掛けて、枕が飛んだのは言うまでもない。
277 名前:17 旅立ちの日 投稿日:2003年03月13日(木)20時39分56秒
しばらくして、キッチンに現れたゆーた。迎えたのは、やっぱりニヤニヤ笑い。
「何笑っとんねん!」ってセリフが、喉まで出かかってるのを、必死に堪えて。
思いっきり無視するがごとく、まっすぐ冷蔵庫に向かう。

目覚めの一杯とばかりに、健康的に牛乳を流し込む背中に。


「マリ・・・・・・」
「ぶっ!」

妙に芝居がかった声に、白い液体がシャツを濡らした。


「汚っ!」
「だ、だ、誰のせいじゃあ〜〜!!」
「あんたがこぼしたんやん」
278 名前:17 旅立ちの日? 投稿日:2003年03月13日(木)20時40分26秒

ぬかに釘。のれんに腕押し。柳に風。
さすがは、遠い昔に鍛えられただけはある。としか言い様がない。

ぶつぶつ言いながらも、自分でこぼした牛乳を拭くゆーたの背中に追い討ちも。


「マリちゃん。襲ったらアカンでぇ」
「お、お、襲うかぁ〜〜!!!」


―――今日も今日とて、騒がしい家なのである。
279 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月13日(木)21時49分55秒
母親みちよがイイ!!
280 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月13日(木)23時26分31秒
この親子最高!!
ゆーちゃん・・・どんな夢みとんねん!!(笑)
281 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月14日(金)01時51分18秒
みっちゃん最高。
そう言えば、遠い昔に鍛えられてたのね。納得。
282 名前:タモ 投稿日:2003年03月14日(金)07時38分04秒
今現在ゆーたは何歳ぐらいまで成長しているんですかねぇ。
そんな事を夢に見るって事はもう思春期ですな(笑)
283 名前:作者 投稿日:2003年03月15日(土)11時36分48秒
>279,280,281

( `◇´)<せやろ、せやろぉ♪ みっちゃんはな最高やねんでぇ?
从 ~∀~ 从<ぅおいっ!! 
( `◇´)<何や? 我が子よ。
从 ~∀~ 从<あんた、喰いすぎやぁ〜!(殴)
( `◇´)<はぅ!!

(〜^◇^)<そーだぁ! のっとるなぁ〜〜!(殴)
( `◇´)<はぅ?・・・・・・何や? 今の・・・

282>

从´∀`从<思春期・・ええ言葉やね。
( `◇´)<そんなコト、言われる年やなかったもんなぁ・・・

(〜^◇^)<って、どんな夢見てんだよぉ〜
从 ~∀~ 从<知りたいん? ん? 教えたるで?

( `・ゝ´)<バシッ!(殴)
从 ~∀~ 从<何やねん。
( `・ゝ´)<変なこと教えないでよね。

从´∀`从<・・・なら彩っぺでもええで?
( `・ゝ´)<・・・じゃ、向こう行こうか?

(〜^◇^)<ばかぁ〜〜!!
284 名前:17 旅立ちの日2 投稿日:2003年03月15日(土)11時37分52秒
いつものような親子の会話。
しかし今日は、それだけでは終わらなかった。


「アカンでぇ。ちっこくてもオトコなんやからなぁ〜」
「ちっこいゆーなぁ〜! こっから伸びんねん!!」

「頼むで、ゆーちゃん」
「ゆーちゃん、ゆーなぁ〜!!!」

「マリちゃんに言われたら嬉しいくせにぃ」


牛乳臭い雑巾を、ぷるぷる震える手で握っていただけでは収まらず。
ヤバイくらいの怒りが、ついに爆発!!


「い、家出やぁ〜〜!!!」
285 名前:17 旅立ちの日2 投稿日:2003年03月15日(土)11時38分41秒
声高らかに宣言されたそれは、一応みちよの耳を通過したらしく。


「どこに?」
「どこって・・・・・・」


行き先言ったら、家出にならんやろ? その心の声はもっともだ。
しかし、相手はどっか敵わない感のあるみちよ。

妙な緊張感が、ゆーたを包む。


「あの・・・・」
「ま、どこでもええけど。夕飯までには帰って来ぃ」
「夕飯て・・・・・」
「あ、ちゃんと講習行きやぁ? 来年は受験なんやから」
「・・・・・・・」


ヒトの話を聴いているのか。みちよの口からは、次から次へと言葉が溢れる。
夕飯までって。講習って。―――それは家出と言えるのか?

案の定、口を挟む隙がなかったゆーたの脳でも、徐々に理解が深まって。
286 名前:17 旅立ちの日2 投稿日:2003年03月15日(土)11時39分22秒
「あほ〜〜!!」
「親に向かって、アホとは何やな」
「イテっ」


咆哮一閃も、ペシッと一発。教育的指導であっという間に大人しく。
というか、若干疲れ気味な表情を浮かべながらも、引き下がる程素直じゃない。


「ちゅーか家出するっちゅーねん」
「だから、行って来いゆーてるやん」
「・・・・・・・みっちゃんの、あほぉ〜!!」


思いっきり言い放った後、教育的指導から逃げるように。
ダダダっと階段を駆け上がったと思ったら、再び騒音を撒き散らして。
玄関を閉める音も、バタンと、乱暴そのものだ。
287 名前:17 旅立ちの日2 投稿日:2003年03月15日(土)11時39分59秒
「単純やなぁ」

呟きながら、近くの窓を開けたみちよの耳には、軽いエンジン音。

どうやら、原チャを使うらしい。
ということは、やっぱり近所の友達のトコか?


「―――君トコかぁ〜?」


姿は見えずとも、そこにいるだろうコドモに向かって叫ぶみちよ。


「ちゃう、ゆーてるやろぉ〜〜」


こっちも、見えない相手に怒鳴り返す。


「ほな、どこやぁ〜?」
「内緒やぁ〜〜」

愛用のモンキーに跨ったまま、チャっと右手を挙げて颯爽と走り去った。
288 名前:17 旅立ちの日2 投稿日:2003年03月15日(土)11時40分33秒

「内緒やゆーてもなぁ。原チャ乗って、どこ行くっちゅーねん」


独り言を言ってしまうのは、やっぱり年のせいなのか。
ぶつぶつ言いながら、2階のコドモの部屋を覗く。

床に散らばる情報誌。東京の文字が元気に踊る。
道路地図も、東京区部の部分が抜けて・・・・・・


「・・・・・・・・・・ホンマかいな・・・・・・」


―――少しずつ何かが動く気配。17歳の夏である。
289 名前:名無し読者。 投稿日:2003年03月15日(土)12時19分16秒
ゆーた可愛すぎ(w
マリーのとこ行くのはいいけど・・・そのお年頃の男の子って年上・・・。
彩っぺに惚れるなよ(w
290 名前:作者 投稿日:2003年03月16日(日)18時20分08秒
>289

( `・ゝ´)<惚れるなよってさ。
从´∀`从<好きやでぇ〜〜!!

(〜^◇^)<・・・ダメだってぇ!!
291 名前:18 同じ空の下で 投稿日:2003年03月16日(日)18時20分51秒
灼熱の太陽は日本全国どこも同じ。
ここ都内の一等地にも、チカラいっぱい照り付けていた。


「おはよー」


今や立派な女子高生。
自由な校風のおかげか、キレイな茶髪をばっちり決めてご挨拶のマリである。

が、返してくれるはずのヒトは。


『え、ホントにぃ?――――――うん。分かった。――――』


朝も早いというのに、テンション高く電話中。
その声に、何となく相手が分かってしまうのは何故だろう。


『――――うん。またね』
292 名前:18 同じ空の下で 投稿日:2003年03月16日(日)18時21分25秒

電話を終えた彩の楽しそうな顔。
やっぱり相手はあのヒトだろうな、と推測して。


「みっちゃん?」
「ん? あ、おはよう。そうだよ」
「何かあったの?」
「それがねぇ―――」


ちょっと聞いてよ。と言わんばかりの彩に、思わず身を乗り出してしまうマリ。
朝食の準備もそこそこに、耳に入った情報は。

ゆーちゃんが、原チャで家出した事。
東京の情報誌が散乱してたから、ココ来るかもって事―――
293 名前:18 同じ空の下で 投稿日:2003年03月16日(日)18時21分59秒

「はぁ?? マジでぇ?」
「イヤ、もしかしたら行くかもって話。元気だよねぇ」


みっちゃんとの会話の中味を、一つずつ教えてくれた後。
若いって良いねぇ。そう言いながらキッチンに消える彩の背中を見送りながら。


―――若いってよりアホじゃん。マリはチカラいっぱい、そう思う。
294 名前:タモ 投稿日:2003年03月16日(日)19時36分46秒
いや〜これからどうなるのか、楽しみですね。
年頃になったゆーたとマリの再会!って感じで。
295 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月18日(火)10時45分08秒
キタキタ本編。
ゆーたは17歳でもへたれなのか?(w
マリーのほうが積極的なんだろうな〜。
296 名前:作者 投稿日:2003年03月18日(火)20時14分32秒
>294,295

(〜^◇^)<楽しみだって。
从´∀`从<楽しませなアカンな。

(〜^◇^)<へたれだって。
从´∀`从<んなわけないやろがぁ! せっかく若いんやで? そりゃあ楽しみまくるで〜〜

(〜^◇^)<ははん??
从´∀`从<や、その・・・
297 名前:18 同じ空の下で2 投稿日:2003年03月18日(火)20時22分25秒
オレンジジュースとトースト。サラダに目玉焼き。
モーニングセットの様な朝食を摂った後、片づけをして2階へ上がる。

閉めたままのカーテンを、シャっと開けると、夏の太陽は既に空高く昇っていた。


「家出ねぇ・・・・・」


先ほどの話を思い出しながら、一人呟いて。
日の当たるベットに、ドサッとダイビング。

寝っ転がったまま、一冊のアルバムに手を伸ばす。


「何やってんだか・・・・・」


パラパラと捲りながら、頭の中の誰かさんに呆れるしかない。
いまどき家出するなよなぁ・・・というのが正直な感想である。
298 名前:18 同じ空の下で2 投稿日:2003年03月18日(火)20時22分55秒
アルバムの中には幼い自分と若い両親。若い家族。
昔飼ってたイヌ。ごっちんチのネコ。そして・・・・・・


パラ・・・・・


何故かいっぱい写ってる家出中のアホ。ゆーちゃん。

イヌに吠えられて泣いてるゆーちゃんとあたし。
遊園地でも泣いてるゆーちゃん。あたしは笑ってる。

海でも泣いてる。こっちは不機嫌・・・・・・


「泣いてばっかじゃん・・・・・」


思わず苦笑するマリだが、次のページを捲った途端。
299 名前:18 同じ空の下で2 投稿日:2003年03月18日(火)20時23分31秒
満開の桜。手を繋いだ2人。はちきれんばかりの笑顔。
隣の写真は、いつの間にか撮ったのか、キスするあたしたち・・・・・


この写真の頃。
昔は、マリちゃんだったのに、いつの間にか呼び捨てになって。
・・・・あたしは今もゆーちゃんって呼んでるのに・・・・・

前は同じくらいの身長だったのに、いつの間にか大きくなって。
そのくせ細っこくてチカラもなくて・・・・・


何となく心配になって、投げ出していた携帯を掴む。


「メールしよ」


―――弟はいないけど、何だか姉な気分のマリである。
300 名前:19 夏の空、見上げて 投稿日:2003年03月18日(火)20時24分04秒
いってきますと元気良く出かけていく後姿。
変わんないなぁと心の中で呟きつつ、「いってらっしゃい」と送り出して。

さて、風でも入れてやろーかと、2階の部屋の扉を開けた。
一歩踏み入れた部屋は、住人の性格そのままに、明るく楽しい空気が充満してる。


「こりゃ遺伝だね」


ごちゃごちゃ貼られた写真の鮮やかさに、彩は思わず苦笑い。
同じように、色鮮やかな部屋の住人だった彩。

・・・・・・ふと思い出すのは遠い昔。あの頃の、彼女の笑顔。
301 名前:19 夏の空、見上げて 投稿日:2003年03月18日(火)20時24分46秒
ごちゃごちゃしてんなぁって、呆れたように笑ってた。
何だかんだ言って、しょっちゅうヒトんチに来てさ。
ご飯作ってぇ、ビール飲もーやぁって散々だったくせに。


『あんたなぁ・・・・・』
『すごいっしょ?』
『ま、あんたらしいわなぁ』

さすがに、冷蔵庫黄色に塗った時は引いてたけど・・・・・



開け放した窓の向こう。夏の空は真っ青に、どこまでも広がっていた。

いつも夏だったなぁと、ぼんやり思う。
302 名前:19 夏の空、見上げて 投稿日:2003年03月18日(火)20時25分21秒
裕子が逝ったのは、熱い夏の日。夏の明け方。
追いかけるように、矢口が逝ったのも夏の日。真夏の夜だった。

もう、何回目の夏なんだろうと、数えた指を見つめて思い出すのは。

真っ直ぐな瞳で、子犬のように慕ってくれたコ。
オトナとコドモの顔で、思いっきり翻弄してくれたヒト。


午後は、お茶でも飲みながら、昔のアルバムを開いてみよう。
冷たいコーヒーでも飲みながら、懐かしい笑顔を思い出そうか。


―――ほんの少し感傷に浸る彩であった。
303 名前:タモ 投稿日:2003年03月18日(火)23時12分07秒
しんみり…
二人の再会は次の更新に持ち越しですね(w
(〜^◇^)<ゆーちゃん♪
楽しみにしてます。
304 名前:作者 投稿日:2003年03月19日(水)20時18分07秒
>303
再会・・・気長に待っててください。
一体どこにいるのやら。いつになったら会えるのやら・・・

从´∀`从<そんな、可愛く誘うなやぁ〜〜
305 名前:20 心配するヒト 投稿日:2003年03月19日(水)20時18分45秒
天辺にあった太陽が傾いて、幾分日差しも弱まった頃。
特徴的な電子音が、静まり返った教室に響く。
先生お決まりの「今日はここまで」の言葉。騒音で掻き消される程である。

その教室の住人として、皆と同じように解放の声を上げたマリ。
いつもの習慣通り、バックの中の携帯を取り出した。


『16:30-------』

開いた画面には、現在の時刻と今日の日付。バッテリー残量。受信状態・・・・・・


「何してんの?」
「え?」
「首、傾げてるから。何かあった?」


何かあったのではない。何もないのだ。

メールを送ったのが午前中。講習を受けて今は夕方。
とっくに返事が来ても良いのだが・・・・・・・届いていないのだ・・・・・・
306 名前:20 心配するヒト 投稿日:2003年03月19日(水)20時19分18秒
「別に何にも・・・・・・」


メールが来ないから・・・・なんて言ったら、何やかんやと食付いてくるに違いない。
今も昔も、ヒトの恋話、噂話は格好のネタなのだから。

いつものように笑って返すマリに、ふうん、と納得した友人。


「ねぇ、どっか寄っていこーよ」
「いーねぇ。まだ早いしさ」
「あたし、用あるから帰る」


友人2人の誘いを断り、そそくさと荷物をまとめるマリ。
「じゃあねぇ」と、笑顔で手を振り、見えなくなった途端走り出した。


―――思いっきり怪しい行動である。
307 名前:20 心配するヒト2 投稿日:2003年03月19日(水)20時19分56秒
まとわりつく熱い空気のせいで、息も絶え絶え。
さすがに若いといっても、真夏に走れば当然の結果であろう。


「ただいまっ!」

声は小さいが、玄関を開けたイキオイそのままに。
わちゃわちゃと靴を脱いで、キッチンに飛びこむ小さな人影。


「おかえり〜〜」
「ゆーちゃんはっ!?」


のんびりと迎えた彩の声に、興奮気味に食い掛かる。
近年にない興奮状態で、辺りは緊迫に包まれる・・・・・・訳もなく。
目の前で、コテコテと包まれる餃子に視線が行ってしまうマリである。
308 名前:20 心配するヒト2 投稿日:2003年03月19日(水)20時20分42秒
「・・・・・・・あ、ゆーちゃん。何か分かった?」
「は? あー・・・・さあ?」
「さあ?」
「何かあったら知らせてくれるよ」


手は動かしたまま、あっさりと答える母親に、何となく冷静になって。
それもそうかと、納得する娘。―――それで良いのか?


手伝うよ、と着替えを済ませ、あっという間にいつもの風景である。

彩の隣に立って見つめるのは、手際良く作られていく餃子たち。
焼き餃子と蒸し餃子。形が違うのは、さすがである。
309 名前:20 心配するヒト2 投稿日:2003年03月19日(水)20時21分12秒
「ねぇ、いつ料理覚えたの?」
「あー独り暮ししてからかな。ヒトに食べさしていくうちにね、覚えていくわけよ」
「そんなヒトいたの?」
「ん〜、お菓子の好きなコドモたちとか、好きキライの激しいオトナとかね」

何を思い出したのか、楽しそうな笑顔の彩。そのまま、隣で考えこむマリに視線を移して。


「何? 料理覚える気になった?」
「え、まぁ・・・・・・」


微妙に言葉が濁るマリ。それもそのはず。頭の中に浮かんでいたのは。
ヒトん家に来る度、彩っぺの料理に感動して。ついでに見習やぁとムカツク一言をくれるヒト。
ビシッとすごい料理を出して、びっくりさせたいなぁなんて思ったのだ。


―――美味しい手料理。それは愛から生まれる形である。
310 名前:タモ 投稿日:2003年03月19日(水)21時06分07秒
ゆーたとの再会を心待ちにしているマリが可愛いです(w
311 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月19日(水)21時25分29秒
密かな彩裕がなんとも考え深い(w

HP・・・掲示板以外文字化けで読めないのですが?・・・。
私だけでしょうか?
こちらにすいません。
312 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月19日(水)22時18分53秒
あー、私も文字化けです。
なんか気に障るようなことしたのかと、ヒヤヒヤでした。
とりあえず(ヤグチの口癖らしい)、その心配がなくなってよかった。

こちらの小説も楽しみです。
毎日の更新が、新聞小説を読んでいるようで、非常に楽しみなんです。
いつもありがとうございます。
313 名前:作者 投稿日:2003年03月20日(木)20時15分10秒
レスありがとうございます。
文字化けの方は・・・私は大丈夫なんですが、どうしてでしょ?
ま、そのうち直りますよ、きっと。

从´∀`从<何や、そんなに会いたいんか?
(〜^◇^)<ばかぁ! ぜーったい来んなぁ!!

( `・ゝ´)<密かな彩裕・・・そりゃあねぇ。
从´∀`从<押しやもんなぁ。てことは危ない展開もあり?
( `・ゝ´)<・・・自分好みに教育・・・それも面白そうね。
从´∀`从<怖っ!
314 名前:21 心配させるヒト 投稿日:2003年03月20日(木)20時16分07秒
日も落ちた夕暮れ。夕飯どき。噂のコドモはここにいた。
目の前を流れる川は、鴨川に続いているのだろうか。―――地理に弱いコドモである。
愛車のモンキーを隣に、川縁に座りこむ背中には、ちょこっと迷いが見える。

目的の場所はすぐそこにあるのだ。
こんなとこでお腹を減らしたまま、たそがれる必要はないのだが・・・・・


「どないしよぉ・・・・・」


傍らに生える雑草を、プチっとちぎっては投げてを繰り返して。
何となく邪魔するプライドみたいなモノと格闘中。

と、その背中を目指す一つの影。
タッタカ タッタカ テンポ良く。軽い足音が近づいてくる。
315 名前:21 心配させるヒト 投稿日:2003年03月20日(木)20時16分41秒
「あんっ!」

甲高い鳴き声とともに、襲い掛かったのは小さな影。
飛びあがらんばかりにドキドキした後、ようやく振り返ったゆーたの後ろでは。


「・・・・・はなやんか・・・・・」


真っ白いロングコートチワワが、嬉しそうにまとわりついていた。


「何でおんの?」
「あんっ!!」
「散歩中なん?」
「あんっ!!」


鼻先をつきあわせて、ボソボソと会話する1人と一匹。
その奇妙な光景に、新たに加わる一つの人影。
316 名前:21 心配させるヒト 投稿日:2003年03月20日(木)20時17分21秒

「ゆーちゃん? 何しとるん?」
「おばーちゃん・・・・・・」


もちろん、ホントのおばあちゃんではない。
ゆっくりゆっくり歩いてきたヒト。名前は中澤さんという。

赤ちゃんの頃から、おばーちゃんと慕うヒト。つまりココは福知山。
大阪から意気揚々と、京都までは家出したのである。


「別に、何しとるわけでも・・・・・」
317 名前:21 心配させるヒト 投稿日:2003年03月20日(木)20時17分51秒
はなを抱っこしたまま、何となく言い訳がましいゆーた。
それを見るともなしに一瞥した後、くるっと背中を向けて。


「帰るで。これ、ちゃんと持って来ぃ。盗られてまうからなぁ」


モンキーを一撫でして、ゆっくり歩き出す中澤さん。
あっけの取られながらも、はなを地面に降ろしてモンキーを転がすゆーた。


―――夕暮れを歩く、2人と一匹であった。
318 名前:ミニマム。 投稿日:2003年03月22日(土)02時14分45秒
おっす!オラびみょう♪
親子対面ですね!ワクワク
さてオイラ最近PCが。。。HPのURLって何処に有りますか…レルプme
319 名前:作者 投稿日:2003年03月23日(日)16時38分34秒
>318
親子というのか、全くもってややこしいですが。
何気に、はなちゃんが好きです。ANNSSのトップで惚れました。
320 名前:22 上京物語 投稿日:2003年03月23日(日)16時39分21秒
遠い空の下、携帯片手にやきもきしてるヒトがいることなど知る由もなく。
久しぶりの田舎料理を堪能して。今ははなと2人きり。じゃれ合っているコドモがいる。

突然の訪問に、全く動じない中澤さん。
何しに来たの?とか一言も訊かず、ご飯にお風呂と当たり前に用意してくれる。

ゆーたもゆーたで、勧められるままにご馳走になって。
入れ替わりにお風呂に入った中澤さんの代わりに、じゃれ合い中なのである。


「なぁ、はなぁ。おばーちゃんって変わってるよなぁ」
「あんっ!」
「イキナリ来たのに驚かへんし。何も訊かへんし」
「あんっ!」
「・・・・・・・どないしよぉ・・・・・・・」
「―――あんっ!!」
321 名前:22 上京物語 投稿日:2003年03月23日(日)16時40分01秒
夕方の再現を見ているようだ。
1人と一匹の背後に、静かに近づく一つの影。
先に気づいた一匹が、ゆーたの手の中から飛び出していく。


「どないしたん?」


足元ではなを遊ばせながら、ゆーたに問い掛ける口調は軽いモノで。
答えなくても、どーでも良いような気楽さに、何となく口が開く。


「よぉ分からんけど。・・・・・・・・何かしよーかなぁと思うて・・・・・・」
322 名前:22 上京物語 投稿日:2003年03月23日(日)16時40分38秒
キレイに手入れされた庭を、居間の明かりが淡く照らす。
あれはアサガオの蔦なんかなぁと、ぼんやり見つめながら、自分の言葉を反芻して。

・・・・・・そうや。何か・・・・いつものように過ごしたらアカン気がすんねん。


「ま、やりたい事あるんやったら、やったらええよ」
「チャンスもな、時間もな、一瞬なんやから」


-------------
323 名前:22 上京物語 投稿日:2003年03月23日(日)16時41分12秒
明け方に降った霧雨が、白い石とその周りを黒く染める。
目覚め始めた街を見下ろす高台、その奥の方には影が2つ。


『中澤家之墓』

深く刻まれた墓石の前で、手を合わせるゆーた。足元ではチワワがじゃれている。


福知山に来た時は、必ず訪れる場所。
おばーちゃんの旦那さんと娘さんが眠る場所。
会う事はなかったけれど、手を合わせるとチカラをもらえる気がして・・・・・・


「はなぁ。オレ東京行ってくるわ」

鼻先つきあわせるのは3回目。ポケットには、軍資金を携えて。


―――今も昔も、目指すは東京。
324 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月23日(日)17時58分32秒
なにがしたいか分からないけど、頑張れゆーちゃん!!
全く動じないおばあちゃん・・・カッコイイな、さすがあの方の母だけあるな(w
325 名前:ミニマム。 投稿日:2003年03月24日(月)00時56分04秒
じゃぁ、JBくんは出手来るのかな?w
HP、すっぴん裕ちゃんイケてるよね。
やっと出発ですね。真里が待つ東京へGO!
青春まっしぐらやなぁ
二人の再会の会話に期待
326 名前:作者 投稿日:2003年03月24日(月)20時01分46秒
>324,325

从´∀`从<おう。やりたい事は内緒やけどな。頑張るでぇ〜
(〜^◇^)<内緒って・・・ホントはないんでしょお?
从´∀`从<・・・内緒や。ちゅーか、はよ会いたいなぁ〜
(〜^◇^)<・・・ばーか・・・・(照)

从´∀`从<彩っぺ元気かなぁ・・・
(〜^◇^)<そっちかよ!(殴)
327 名前:23 普通じゃない日 投稿日:2003年03月24日(月)20時02分20秒
本日も快晴。元気いっぱいの太陽が、いそいそと天辺に昇っている時間。
未だ閉切ったカーテンが、その日差しをとりあえず遮っていた。

カーテンの恩恵を受けて、うつうつとまどろんでいた部屋の主。
叩き起こしたのは電子音。心に優しくない目覚めである。

本能のままに、音の出所を探っていた手は、発生源をがしっと掴む。
どうやら原因は枕もとの携帯電話。昨夜は掴んでいたそれを、いつのまにか手放していたらしい。


結局昨日は、何度電話をしても繋がったのは留守電サービス。
送ったメールの返事も来なくて。

『何かあったら連絡くれるよ』の彩の言葉に、一度は納得したものの。
自分には返事をくれると思っていたマリだけに、連絡無の事態は心配そのもの。
328 名前:23 普通じゃない日 投稿日:2003年03月24日(月)20時03分07秒

短く切れた着信音はメール受信の報せ。
寝ぼけ眼をごしごし擦って、ようやく開けた隙間からその内容を読み取ると。

起きたばっかりのマリだが、もう1回寝たくなる脱力感。

『今、東京駅。デートしよーや』


「何だよ。これぇ・・・・・・」


ヒトの事、散々心配させといて『今、東京駅』だとぉ? 『デートしよー』だとぉ??
こんなのに、ほいほい出かけるやつがいるかってーの!


「あ〜ほ」
329 名前:23 普通じゃない日 投稿日:2003年03月24日(月)20時03分42秒

それでも、目覚めてしまった身体は二度寝はしたくないらしい。
第一、ゆーちゃんは方向音痴で・・・・・・もしかして悪いヒトにさらわれちゃうかも知れないし・・・・・・

『1時間くらいで行く。着いたらメールする』


「だってさ、やっぱりさ・・・・・・」


そんなことになったら後味悪いしさ。とか何とか。
ちゃかちゃかと着替えながら、誰も訊いていないのだけれど。


―――頭の中で言い訳三昧なマリである。
330 名前:23 普通じゃない日2 投稿日:2003年03月24日(月)20時04分34秒
さすがに時期は夏休み。
いつもよりヒトが多い気がする東京駅を、必死の思いで掻き分けて。
「そこにいて」と告げた場所に、ようやく辿り着いたマリを迎えたのは、それは陽気な関西人。

ティーシャツにジーパン。茶髪にサングラス。―――ガラ悪すぎである。


「よぉ、久しぶりやな」


足を組んだままの偉そうなやつに、つかつかと近寄ってバシッと一発くらわせる。
座っている頭は、ちょうどマリの射程圏内。ということでチカラいっぱい。思いっきり。


「ぃてッ! 何すんねん!」
「ばか! 自分こそ何してんのさ!」
331 名前:23 普通じゃない日2 投稿日:2003年03月24日(月)20時05分07秒

立ち上がって見下ろすゆーたを凌ぐイキオイ。見上げたマリの視線は強い。
キッと睨み付けられて、怯えたように身体を引いて。
距離を少し確保した後、何やら頭をフル回転。


「・・・・・・何で?」


やっぱり分からなかったらしく、問い掛ける瞳は、打って変わって情けない。
その様子をジーっと睨み付けていたマリも、呆れたように息をついて。


「家出したんだって?」
「あれ? 何で?・・・・・・みっちゃんかぁ〜〜・・・・・・」
332 名前:23 普通じゃない日2 投稿日:2003年03月24日(月)20時05分37秒

辿り着いた回答に、ガクッとチカラが抜けたように、再び座りこむ。
悔しそうなゆーたの様子にマリの機嫌も直ったようで、楽しそうな笑みが浮かぶ。
ゆーたの隣に腰掛けながら、「昨日はどこにいたの?」の問いに、「おばーちゃんちや」と笑顔のゆーた。


「なら何で返事くんないのさ。電波入るでしょ?」
「ん?・・・・・・・あ、入れっぱなしやった」


慌ててバックから携帯を取り出して、受信記録をチェックする。
その横顔が、だんだん困ったように歪んでいって。
「マリぃ」と振り向いた時は、ホントに泣きそうだった。


「どしたの?」
「コレ・・・・・・」
333 名前:23 普通じゃない日2 投稿日:2003年03月24日(月)20時06分39秒
差し出された画面を覗きこむと、送信者は見覚えのあるヒトで。

『東京に来たら、ウチに来てね♪』

うわぁ〜。この最後の『ね♪』が怖いよぉ。自分の親ながら、これはちょっと怖いね。


「なぁ? 彩っぺも知っとんの?」
「当たり前じゃん。誰に聞いたと思ってんの?」
「帰ろうかなぁ・・・・・・」
「大丈夫だよ。ホントに来て欲しいだけかもよ」


ほっといたらそのまま帰ってしまいそうな腕を掴んで、「行こ」と強引に引っ張るマリ。
その様子は、お兄ちゃんをリードする妹のようにも見えて微笑ましいのだが。


―――2日目にして後悔してるゆーたである。
334 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月24日(月)20時26分05秒
マリな対面よりも、彩っぺの対面のほうがかなり楽しみだったりします。
『♪』が気になる〜!!
ゆーちゃん大丈夫か?(w
335 名前:ミニマム。 投稿日:2003年03月25日(火)02時16分48秒
彩とマリの女の戦い?w
ゆうた少年の運命はドッキドキ
油断すると、彩お姉様にくわれるでぇ〜
336 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月26日(水)13時17分33秒
やぐちゅー&彩裕?
とうとう(w
337 名前:作者 投稿日:2003年03月27日(木)19時26分46秒
>334,335,336

(〜^◇^)<なんか彩っぺ、大人気だねぇ・・・・・
( `・ゝ´)<そーねぇ・・・(アリってことよねぇ)

(〜^◇^)<!! 良くないこと、考えたでしょ?!
( `・ゝ´)<んーん。そんなコドモのもの、取らないって。

(〜^◇^)<コドモのものって・・・あたしのものじゃないけど・・・
从´∀`从<そーなん?? 彩っぺぇ〜〜
(〜^◇^)<ばしっ!!(殴)
338 名前:23 普通じゃない日3 投稿日:2003年03月27日(木)19時27分21秒

大方の予想通り。というかコドモたちの経験測通り。
玄関先で迎えた彩の笑顔は、いつも以上に輝いて見えた。


「いらっしゃい。ゆーちゃん♪」
「こ、こんにちは・・・・・・」


珍しく真面目に頭なんか下げてしまったゆーたが顔を上げると、彩の笑顔は目前で。
本能的に逃げ出す身体。それより先に彩の手が伸びて。
「ぅわっ!」短い声を残したゆーたは、ヘッドロックの餌食となった。
339 名前:23 普通じゃない日3 投稿日:2003年03月27日(木)19時28分03秒
「遊びに来たの?」

顔は見えないが、その声が怒っている。そう察したゆーたは、大人しく餌食になったまま。


「そー、です・・・・・・」
「みっちゃんは知ってるの?」
「あ〜・・・・・いてててて・・・・・・知らん。知らんがな」


濁らせた言葉は、強くなった締め付けに簡単に搾り出されて。
やっと手を放した彩は、真赤な顔のコドモに、ビシッと言い放つ。


「みっちゃんに心配かけない! いいね!」


解放された頭を、もみもみしていたコドモも、その迫力には頷くしかない。
コクコクと頭を上下させて、ごそごそと携帯を取り出した。
340 名前:23 普通じゃない日3 投稿日:2003年03月27日(木)19時29分50秒
その様子に至極満足そうな彩。「昼ご飯できてるよ」と家の中へ入っていった。
残されたのは、カチャカチャと画面に向き合うゆーたと、一部始終を見ているしかなかったマリ。


「だいじょーぶ?」
「やっぱ怖かったやん。あ、オレ。―――――」


繋がった電話に、初めこそ静かにお話していたが、その声がだんだん荒くなって。
ついにはまたもや喧嘩口調。「もぉええ!」言い放って、切れた電話を睨み付けた後。
今更気づいたとでも言うように、マリの正面に向き直ったゆーた。


「決めた! 居候さして!」
「はぁ?」


―――いつもと違う夏の始まりである。
341 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)19時42分21秒
マリちゃんゆーちゃんと同居?!
この人はちゃんと考えて行動してるんですかね〜・・・
しかし、彩っぺに弱いなゆーちゃん・・・
342 名前:作者 投稿日:2003年03月30日(日)13時44分35秒
>341
从´∀`从<考えてぇ? そんなん行き当たりばったりや。
(〜^◇^)<だろーねぇ・・・
343 名前:23 普通じゃない日4 投稿日:2003年03月30日(日)13時45分14秒
他人のコドモの唐突なお願いに、あっさりOKを出す両親。
そんな簡単にいいのか?と思った娘は、十分常識が身に付いているだろう。
「近くに置いといた方が安心でしょ」そう続いた言葉に、結局は納得したのだけれど。


「で? 何かしたいことあるの?」


まるで家族のように、昼ご飯を頬張るゆーたに、これまたお母さんのような彩の質問。
掻き込みすぎたオムライスを一生懸命咀嚼して、やっと開けることができた口。


「決めてないけど・・・・・・やっぱバイトやろなぁ。マリは講習なんやろ?」


突然振られた話題に、こちらの顎も一生懸命動かして。冷たい麦茶をゴクッと一口。


「うん。後1週間くらいだけどね」
「やっぱバイトやな。何か探す・・・・・・」
344 名前:23 普通じゃない日4 投稿日:2003年03月30日(日)13時45分46秒
そう結論付けて再びもぐもぐ。静かになった空間に、狙ったようなベルの音。
「はいはい」と電話に返事しちゃうのは、やっぱりおばさん共通なのだろうか。

コドモたちが密かに思っていることなど露程も知らず、戻ってきた彩は楽しそうで。


「どーかした?」
「うん。ゆーちゃんのバイト、決めてあげたよ」
「はぁ?」
「圭ちゃんがね、少し手伝ってってさ」


―――事態よりも先に、オムライスを飲みこんだ2人である。
345 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月31日(月)01時33分15秒
ゆーちゃん家族の一員みたいですね(w
でも、ゆーちゃんとマリちゃんは恋愛に発展するんですかね?
まるで、兄弟みたいですし(苦笑
346 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月03日(木)18時35分11秒
どんなバイトなのかワクワク
347 名前:作者 投稿日:2003年04月03日(木)20時12分30秒
>345,346

( `・ゝ´)<兄弟・・・そー見えるわねぇ。
从´∀`从<そんなんイヤやぁ!!

从´∀`从<バイト・・・
(〜^◇^)<行ってらっしゃーい♪

( `.∀´)<いらっしゃーい♪
348 名前:24 リカイして 投稿日:2003年04月03日(木)20時13分10秒
音が洪水。音の洪水なのである。
・・・・・・つまりは、爆音が襲い掛かってきた。そんな状況。


突然決まったバイトの話。
一応顔見せというか、話を聞こうと真摯な姿勢で。
知らない街の一角、教えられた通りのドアを開けた瞬間の出来事だった。


「っ!!・・・・・・」


とりあえず、本能のままに閉めたおかげで、聴覚は無事だった。
がしかし、頭の中ではぐわんぐわんと鳴り響いたままである。

ままであるが、このままでは何も解決しないということで―――


「い、いくか・・・・・」


独り気合を入れて、覗き込んだのは良いのだが。
349 名前:24 リカイして 投稿日:2003年04月03日(木)20時13分58秒
真っ暗で、人気の無い空間。
対照的な白い光。一ヶ所だけを照らし出す。そこから生まれる脈動。

ということで、眩しいステージに歩み寄ろうと、一歩踏み出した背中。
少しビビリ気味な細っこい背中に、ヒタヒタと忍び寄る一つの影。


「いらっしゃい」


ポンと肩を叩かれた瞬間、ビクッと飛び上がってしまったゆーた。
振り返って、も一度驚いてしまったけど、臆病者と言われるのは心外だろう。
―――真っ暗な闇の中、光を反射していたのが、その顔だけなのだから。


「何、びっくりしてんの? ゆーちゃんでしょ? 久しぶりだね」
「あ、え、うん。お、お久しぶり―――」


何故か標準語。ついでにどもってるゆーたを前に、不満気な顔で何やらぶつぶつ。
「そんなに驚かなくても」とか聴こえても、「自分がおったらビビるがなぁ!」とはさすがに言えない。
ある意味、その辺のチンピラに売った喧嘩の方が、勝目アリである。
350 名前:24 リカイして 投稿日:2003年04月03日(木)20時14分33秒

「そりゃあ驚くでしょ」


いつのまにか止んでいた騒音。もとい音楽。
静けさの中、別の声が2人に掛かった。


「どーゆー意味よ」
「どーゆー意味だろ。―――よっ、久しぶりだね、ゆーた」


目の前の怖いヒトを意にも介さず。
人懐っこい笑みを浮かべ、ステージを降りてくるヒト。

そう。この2人が雇い主。
東京・千葉を中心に、一応全国規模でライブを繰り広げる2人である。


「今回は箱もちっちゃいし。休み欲しいってコがいるんでね」
「そ。少しで良いんだけど。ちゃんと働いてね」


―――やっぱり、理解できない男の子・・・・・・である。
351 名前:25 完璧なヒト 投稿日:2003年04月03日(木)20時16分38秒
関西出身の男の子が、千葉の一角で訳の解らない状況に陥っている頃。
関東出身の女の子は、都内の一角でショッピングの真っ最中であった。


標準より小さ目のマリ。その隣には、やや細身のスラリとした男性。まるで恋人同士である。
そう。まさにマリはデート中。交際期間約4ヶ月。お相手はこの春に卒業した憧れの先輩。


卒業式。桜がチラチラと舞う校舎の裏。

『オレと付き合ってくれる?』
『・・・・・・はい』

という訳で、今に至る。
352 名前:25 完璧なヒト 投稿日:2003年04月03日(木)20時17分12秒

「コレなんかどう?」
「ん〜・・・・・・いいですか?」
「うん。それいい! それにしよ!」

「あ、いいですよ。自分で―――」
「良いって。買ってあげるよ」


レジに向かう背中を見つめながら、良いヒトだなぁと思う・・・・・・
憧れていたくらいだから、顔は好みだし。大学生だからお金はあるし。年上だからか、優しいし。

出がけに見かけた誰かさんと比べたら、月とスッポンとでも言うのだろう。

ワガママで無鉄砲で、自分勝手で小心者で。偏食家で、野菜嫌いで。
昨日の夕飯、あたしが作ったのに残しやがって・・・・・トマトサラダは無理だと思ったけどさ。

顔は、まあ、好きだけど、関西弁だし・・・・・・あ、コレは関係ないか。
353 名前:25 完璧なヒト 投稿日:2003年04月03日(木)20時17分42秒

「行こうか。―――夕飯、何食べたい?」
「あ、えーと・・・・・・」


余計な事を考えたせいで、すこーし挙動不審のマリだったが。
精算を終えて戻ってきた恋人は、優しい顔で流してくれた。
ついでに当たり前のように荷物も持っててくれて・・・・・・完璧だよねぇ・・・・・・


―――何故か、ため息がでてしまうマリである。
354 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月03日(木)21時52分24秒
マリちゃん・・・・・・彼氏いたのか?!
ゆーちゃん、マリちゃんとられとるがな。
この2人がどうなってくのか楽しみです!!
355 名前:作者 投稿日:2003年04月06日(日)18時55分20秒
>354
从´∀`从<おったんか?
(〜^◇^)<何が?
从´∀`从<や、だから、その・・・
(〜^◇^)<はあ?

从´∀`从<彩っぺ〜〜
( `◇´)<ヘタレ全開やがな。
356 名前:26 今、何処 投稿日:2003年04月06日(日)18時56分55秒
今年も快晴。見慣れた風景も、ぎらぎらと反射して輝いている。
純和風の庭の木々も、太陽に負けじと。緑が色濃く息づいている。

玄関先に置かれた金色の物体。
見慣れた車体に、思わずため息が零れてしまう。


「こんにちはぁ〜」


「いらっしゃい」と迎えてもらうよりも先に、「ごめんなさい」と謝りたい気分である。
というか、実際、謝ってしまったのだが・・・・・・

ご迷惑をお掛けしまして―――そう頭を下げるみちよに、からからと笑う声。
357 名前:26 今、何処 投稿日:2003年04月06日(日)18時58分32秒
「そんなんええから。上がりぃ」


ふいっと背中を向けられて、慌てて追いかける図は、つい先日も見られた。
ついでに、ちっこい動物が、きゃんきゃん纏わりついているのも。



「毎年、ありがとな」


みちよのごめんなさい攻勢が、一段落付いた頃。
冷たい麦茶のお代わりと一緒に、差し出された言葉。

ポツっと呟く一言に、何となく寂しさを感じてしまって。
いやいやと首を振った後、「ちょっと行って来ます」それだけ言って立ち上がった。
358 名前:26 今、何処 投稿日:2003年04月06日(日)18時59分06秒
通いなれた坂道。
高台の上のその場所は、いつもと同じように迎えてくれる。

何も言わないその石が、昔は少し嫌いだった。
今は、あのヒトの代わりに聴いて欲しい。そう思うようになったけど。

―――聴き上手はあたしの方やったのになぁ。


抱えていた花を添えて。
立ち昇る煙を追いかけてると、何となく訊ねたい気分になる。


「誰かさんそっくりやて」


ワガママで一直線で。周りが見えなくなるトコなんか、そっくりやねんて。
なぁ、ホンマにあなたは、あの・・・・・・



「ゆーちゃん。今、どこにおるん?」
359 名前:26 今、何処 投稿日:2003年04月06日(日)18時59分46秒
「皆の心の中っしょ」


返ってくるとは思わなかった答え。
未だに訛りの抜けない口調は、振り返らなくても正解を叩きだす。


「今、来たん?」
「うん」

「お母さんがね、上にいるよって」


みちよに向けた笑顔は、そのまま目の前の墓石に微笑んで。

柄杓ですくった冷たい水が、白い墓石を黒く染める。
少しだれてた花も、冷たい水を吸い上げて、涼しげに葉を伸ばす。


「ねぇみっちゃん。ゆーちゃんは幸せだったのかな」
360 名前:26 今、何処 投稿日:2003年04月06日(日)19時01分30秒
お線香の煙りと共に、風に乗って届いた呟き。
手を合わせる横顔からは、何の想いも読み取れないけど。


「幸せに見えんかった?」逆に問い掛けたみちよに。
クルっと楽しそうに振り返った安倍は、思い出すような笑顔を見せて。


「ううん。思いっきり楽しそうだったよ」
「じゃあ幸せやったんちゃう?」

「そっかぁ。でも結婚の夢は叶わなかったね」
「んなこと言うて、結婚してたら、あんたら何してたか・・・・」
「それもそーか」


無責任に笑い合う2人は、おそらく聴こうとはしないだろうが。

『結婚したかったっちゅーねん!!』


―――心の中の彼のヒトは、そう叫んでいるはずだ。
361 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月06日(日)19時56分21秒
なんか、ちょっと切ないです・・・
でも、『結婚したかったっちゅーねん!!』は笑いました。
裕ちゃん、今でも愛されてなる〜(笑
362 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)13時56分53秒
物語があっちにいったり、こっちにいったり
でかなり楽しいです。
363 名前:作者 投稿日:2003年04月13日(日)20時18分02秒
最近ペースが落ち気味です。
放置はしない方向なんで、広い心でお待ちください。

>361,362

从 ~∀~ 从<結婚したいっちゅーねん!
(〜^◇^)<じゃあ、しよ?
从 ~∀~ 从<彼氏おるやんけぇ〜〜

( `◇´)<ホンマなぁ。話があっちこっちになぁ。
( `・ゝ´)<いいじゃん。そーしないと出番ないよ?
( `◇´)<は!
364 名前:27 衝撃の事実 投稿日:2003年04月13日(日)20時18分44秒
さっきまで残っていた耳鳴りも、電車に揺られている間に収まって。
その代わり、聴こえるはずのセミの声は、ゆーたの耳には届いていない。

つまりは、テクテクと歩く頭の中では、何やらもやもや考え中なのである。
何を考えているかというと。その原因は、先程かけた1本の電話。


少し遅くなると――そりゃあ出先が千葉なんだから――連絡したのだが。
『まったくウチのコドモたちはぁ・・・・・・』と返ってきたのだ。

『はぁ?』
『いや、リムもマリも夕飯いらないって。デートなんだってさ。あ、ゆーちゃんは?』
『んぁ? あ、ご飯? 食べる、けど―――』


何が引っかかったのかと言うと。もちろん『デート』この一言である。
365 名前:27 衝撃の事実 投稿日:2003年04月13日(日)20時19分31秒
デートぉ? ちょお待ちや? デート? 誰が? リムちゃん?
ちゅーかマリは恋人おるんか? 知らんで、んなコト・・・・・・はぁ??


てなのが、頭の中でグルグルしてるおかげで、暑苦しい鳴声を聴かずに済んでいる訳だが。
まあ、はっきり言えば外界を思いっきり遮断している訳で。


「ゆーちゃん!」
「おわぁ!!」


突然掛けられた声に、またまたびっくりするゆーた。本日2度目である。
振り向いた後、今度はホッとしたのだが。


「リムちゃんやん。ビビらせんといてーや」
「おどかしてないじゃん。何? どっか行ってきたの?」
「うん。いちーさんとこに」


ゆーたと同じくらいの身長。並んで歩くリムは、話によると彩っぺそっくりらしい。
鼻ピはないが、ピアスの数はかなり多い女子大生。イイ女である。
366 名前:27 衝撃の事実 投稿日:2003年04月13日(日)20時20分05秒
「デートやったん?」
「ん? そーよぉ。何で知ってんの?」
「んや、彩っぺが言うとった。せっかくの夕飯がぁって」
「なるほどね」


答える声が楽しそうで、ホンマ楽しかったんやなぁって羨ましくも思いつつ。
あ、せや。訊いてみよーかなぁと、ゆーたが口を開いた瞬間。


「あ、マリじゃん」
「へ?」


言いたかった名前を先に言われて。何や何やと、前を向いてるリムの視線を追いかける。
と、目に映ったのは白いセダン。あの車種はぁ・・・何て分析してる場合じゃない。
バイバイと手を振る影が、その傍らに立っている・・・・・・


「可愛いねぇ。高校生の恋愛は」


―――隣の空気が陰鬱になった一言である。
367 名前:28 三者三様 投稿日:2003年04月13日(日)20時20分39秒
さすがに重たい空気は辺りをヒンヤリとさせたらしく。
隣の陽気なお姉さんも、事態を把握してくれたようだ。


「ま、家、入ろう」「ま、飲もう」と、自分の部屋まで引っ張り込んで。
未成年にも拘わらず、当たり前のように勧めてくれる。

何故か酒を知っている未成年は、こっちも当然のようにカパカパとグラスを空けて。
美味しいご飯(夕飯である)と美味しいお酒に。


「何やっちゅーねん!」

いつのまにか酔っ払いである・・・・・・
368 名前:28 三者三様 投稿日:2003年04月13日(日)20時21分34秒
「なあなあ、ホンマに彼氏なん?」
「いつから付き合ってるん?」
「ホンマ、好きなんかなぁ・・・・・」
「え、もしかして、もう・・・・・・?」


1人赤い顔して眠そうなくせに、目の前のヒトに絡み上戸で独り言。

酔っ払いを煽ったり慰めたりで、軽くあしらうお姉さんだったが。
もっと面白い事を思いついたと言わんばかりに、瞳を輝かせて。

「ちょっとごめんねぇ」と、部屋を出ていったと思えば、もう1人追加である。


「何? 訊きたいコトって」
「はぁ??」


隣にちょこんと座られて、首なんか傾げられてしまったら、もう!!


「え? や、別に・・・・・・」
369 名前:28 三者三様 投稿日:2003年04月13日(日)20時22分06秒
さっきまでのぐだぐだは、どこに行ってしまったのだろうか。
一体何を訊けと言うのだろうか?ってなくらいに、頭の中は真っ白で。


「えーとぉ・・・・あ、今日、何してたん? 遅かったやん」
「あ、うん。買い物。水着買ったんだ」
「水着ぃ?」


この単語は、ゆーたの酔いを軽く覚まし。ついでに余計な熱が身体中を駆け巡る。
つまりは興奮状態で。思わずコップなんか倒しそうになったりして。


「ちょ、何、あの、海とか行くん?」
「え、うん。そのうちね。どーしたの、ゆーちゃん」
「いや、あの。・・・・・・せや。オレとも行こ! な? オレも海行きたいねん!」


―――必死なコドモと押されるコドモと傍観者。人生いろいろである。
370 名前:タモ 投稿日:2003年04月13日(日)21時01分01秒
マリ彼氏いたのかぁああ!!!!
ショックゆーた可愛い(w
371 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)23時44分14秒
ゆーちゃん・・・マリを彼氏から奪い取るのかな〜。
必死なゆーちゃんが可愛いです(w
更新のペースは気になさらないでください、のんびり待ってます。
372 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2003年04月14日(月)11時43分28秒
必死なゆーちゃんがカワイイですね(w
373 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月14日(月)12時15分50秒
マリーは彼氏が・・・(w
ゆーたは過去に彼女つくったことないのかな(w
374 名前:作者 投稿日:2003年05月05日(月)11時06分05秒
我ながらちょっと放置してました。
一応最後は出来てるんで、その間を書ければ終わるんですが・・・

370−373>
レスありがとうございます。
これからどーなるんでしょう・・・
自分でも巧く運べるか不安です。
375 名前:29 気付かなかったこと 投稿日:2003年05月05日(月)11時07分08秒
太陽に照らされた木々が、泣きたくなる程の快晴。
そんな庭木に比べたら、クーラーの効いた部屋は天国なのに・・・・・


「ねむ・・・・・・」

何となく、身体が重い・・・・・


結局昨夜は、酔っ払いに巻き込まれて、飲んで騒いだマリである。
ついでに、海に行く約束もしてしまった。というか押し切られたというか・・・・・


「そんなに海、行きたかったのかなぁ」


的外れなコトを呟きながら。
それでも、二度寝はせずに起きだして、1階へと階段を降りる。
と、いつものように、キッチンからは美味しそうな匂い。
376 名前:29 気付かなかったこと 投稿日:2003年05月05日(月)11時07分44秒

「おはよー」


顔を洗ってさっぱりしたのか、さっきよりは爽やかな笑顔。
それにクルっと振り向いたのは、マリを上回る爽やかさ。


「おはよ。遅いじゃん」


フライパン片手に、朝から元気な彩である。


「ん、ちょっとね・・・」


さすがにお酒を飲んだせいとは言えず、ちょこっと濁る言葉尻。
それを気にする風でもない彩は、再びコンロと向き合いながら。


「あ、ゆーちゃん、起こしてきて」

オレンジジュースを取り出すマリに、そう告げたのだった。
377 名前:29 気付かなかったこと 投稿日:2003年05月05日(月)11時08分20秒
お願いされては嫌とも言えず。
まあ、彩っぺが起こしに行って、お酒臭かったらヤバイよね。とか思いながら。

ふすまを開けた瞬間、逃げていった空気・・・・・
やっぱり彩っぺじゃなくて良かった。そう実感したマリである。


うんうんと頷いている場合ではないので、とりあえず窓を開ける。
もわっとした熱い空気が入ってきて、一気に温度が上がった気がする。
タオルケットを抱いて眠るゆーたは、そんなことではピクリともしていないが。


「ゆーちゃん。朝だよ」


声を掛けながら、眠るゆーたに近づいて「起きろぉ」と、もう一度。

が、寝こけるゆーたの耳は、そんな声もシャットアウト。
マリが枕元に近寄っても、全くもって起きようとはしない。

叩いてやろーかと上げた手は、その頭上でピタっと止まる。
久しぶりな寝顔に、しばし観察開始!である。
378 名前:29 気付かなかったこと 投稿日:2003年05月05日(月)11時09分40秒
髪の毛、ホント茶色いなぁ。オジサンの遺伝かなぁ。
ひげとか生えてないなぁ。まつげ長いし、オンナのコみたい。
あ、唇、動いてる。夢でも見てるのかなぁ・・・・・・


「・・・・・・ぅん・・・・・・・・」

「うん?」

「・・・・マ、リ・・・・・・・・」

「っ!――――――」


これ以上、聞いたら悪い気がして、急いで部屋を出た。
ほっぺが熱い気がするけど・・・・・・まぁ・・・・・その・・・・・


「ゆーちゃん、起きた?」
「あ・・・・・・」


―――きれいさっぱり、忘れられていたのである。
379 名前:29 気付かなかったこと2 投稿日:2003年05月05日(月)11時10分15秒
起きないんだもん。そういい訳するマリに替わり、手を拭きながら出ていく彩。

「仕方ないなぁ」って呟きに、「嘘じゃないもんね」と、フライパン相手に独り言。
パチパチと跳ねるベーコンの油を、ボーっと見ていたマリの耳に、突然―――


「――――ぁぁっ―――っっ!!」


驚いたのか、何なのか。客間の方から聞こえてきたのは、何やら叫び声。
あれは多分ゆーちゃんだ。ということは、彩っぺが何かしたのかな?

マリの予想通り、キッチンに戻った彩の顔は、とても楽しそうで。


「何かしたの? ゆーちゃん起きた?」
「うん? したというか、されたというか。ま、目は覚めたでしょ」
「された?」


マリの驚きもムリはない。
さっきまで爆睡してたゆーたが、一体何をしたというのだろう。


「何かされたの?」
「ん〜されたというか、されそうになったかな?」

若いよねぇ〜。楽しそうにそう笑った後、始まった彩の話は―――
380 名前:29 気付かなかったこと2 投稿日:2003年05月05日(月)11時10分46秒

『ほら、ゆーちゃん。起きな』

ごく普通に部屋に入って。ごく自然にゆーたを起こしたのだが。

『ん〜・・・・・あ・・・・・』

何やら呟き、起きようとしないゆーた。

『ほーら。起きろぉ〜』

近づいてペシッと一発。とか思った彩の手が。

『・・・・すき・・・・やぁ・・・・・』

ふいに伸びた手に、グイッと引かれ。

『・・・・ん・・・・・・・』
『―――おーい・・・・・・』
『ぅん?・・・・・・・・・・あぁぁぁっっ!!』


「危うく、不倫しちゃうとこだったわぁ」と締めくくられたのである。


一体どんな夢を見てたんだか――そう続いた彩の言葉のせいで。
真赤な顔で起きてきたゆーたを、同じように真赤になって迎えたマリである。


―――お互いの顔は見えていなかったけれど。
381 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月05日(月)13時31分19秒
照れてるマリちゃん可愛いな〜。
ゆーちゃん、マリが無理なら彩っぺにでも・・・
382 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月05日(月)13時53分38秒
更新乙です(w
照れる二人可愛いーーー!!!
なんとかくっついてほしいなぁ。
383 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月05日(月)14時55分48秒
ゆうちゃん最高〜。
再開待ってました(w
384 名前:つかさ 投稿日:2003年05月05日(月)19時03分15秒
姐さん今日のHEYHEYHEYでるんすよね〜。
更新してないかな?と思ったらどんぴしゃv
385 名前:作者 投稿日:2003年05月06日(火)18時58分32秒
从´∀`从<彩っぺかぁ・・・
(〜^◇^)<ゆーちゃん?
从´∀`从<・・・嘘やん。マーリちゃん♪

( `・ゝ´)<変わんないよねぇ。
( `◇´)<成長してへんちゅーことやね。

从´∀`从<くっつく・・・
(〜^◇^)<くっつく・・・

(〜^◇^)´∀`从<ピトッ・・・

( `◇´)<熱いがなぁ!!
386 名前:30 押された背中 投稿日:2003年05月06日(火)18時59分27秒
さて、バイトである。
ということで、薄暗い階段を、地下へと降りたその場所に、ゆーたはいた。

元々無い愛想というものを使おうともせず、いわゆるチケットもぎりである。
先日の話が、頭の中で渦巻いてるせいで、かなり上の空な状態なのだが・・・・・・


『開演したら、観てていーよ』

そんな暖かい雇い主の言葉に、さっさと店じまいをして。
ライブ会場に潜りこもうとしたゆーたの背中を、ポンと叩く人間。


「よっ! ちゃんと働いてるかい?」
「―――なっちやん。何でおんの?」
「それはこっちのセリフ。みっちゃんが心配してたよ」


振り返ったゆーたの目には、にこやかに笑う安倍の姿。
お返しの笑顔を見せて、エスコートするように会場へと誘う。

会場の中は、始まったばかりだというのに、既に熱気が充満していた。
387 名前:30 押された背中 投稿日:2003年05月06日(火)19時00分18秒
比較的静かな後ろの方。並んで壁際に凭れる。
眩しいステージを眺める2人は、恋人同士に見えなくもない。

ライブも中盤。静かに流れる恋の歌。
飲み終わったビールの缶を、ボーっと見つめるゆーたに。


「恋人、いるの?」


思いっきり地雷を踏んだ一言がかかる。


「・・・・・おらん、けど・・・・・」
「ふーん。じゃ、好きなヒト、いるんだ」
「・・・・・何で?」
「優しい顔してたから、そー思っただけ」


「頑張れ」

そう続けた安倍に、気持ちを吐露したくなったのは。
母のような笑顔の所為なのか。ライブの雰囲気に流されたのか・・・・・・


「好きなんはおるけど。そいつ、彼氏おんねん。大学生で、頭良さそうやし。金も車も―――」

「好きやけど・・・・・邪魔したらアカンかなぁって―――」
388 名前:30 押された背中 投稿日:2003年05月06日(火)19時00分54秒
ポツリと零れた、ゆーたの想い。
俯いた横顔を、ジッと見つめていた安倍は、その視線を前へと移す。

ステージ上では、一休憩。昔の仲間が、何やらお話中だった。


「高校生だねぇ・・・・・・」
「はっ?」
「ゆーちゃんは大学生に負けちゃうの?」
「・・・・・負けへん・・・かも知れんけど。でも・・・・・・」

「ゆーちゃん。夢はある?」


話は唐突。
人の話を聞いているのかいないのかの性格は、相変わらずで。
クルッと向き直った安倍の視線に、若干戸惑いつつも。


「あ、うん。一応・・・・・・」
「じゃ、だいじょーぶ。夢を追いかけてる人はね、いつでもカッコイイから」


優しい眼差しの安倍に励まされ、そーなんかぁと頷くコドモ。


―――話を聴け!とはステージからの叫びである。
389 名前:31 真夏の海 投稿日:2003年05月07日(水)17時58分17秒
いよいよ灼熱の太陽が、本性を露にしてきた今日この頃。
いつかの約束が、湘南のとある海岸で実行されていた。


「海はええなぁ」と独りごちるのは、海パンにTシャツ姿のゆーた。
普通ならココで、そーだねぇと答えてくれるヒトは、傍にいない。


「2人っきりの方が良かった?」
「な、何言うてんねん。ちゅーか誰とやねん」
「答えて欲しい?」
「・・・や、ええわ」


その代わり、答えてくれたのは、彼女の母親。
ゆーたが設置したパラソルの下に潜りこんだ彩は、運転で疲れた身体をほぐしながらのからかい口調。
そんなコトに慣れっこなはずのゆーたは、平然とした顔で軽く流した―――つもりである。


「彩っぺは泳がんの?」
「うん。疲れるし。・・・・何? アタシの水着姿見たかった?」
「ばっ!・・・」


思わず想像するゆーた。―――悪くはない。というか見たいかも・・・とも思ってしまった。
390 名前:31 真夏の海 投稿日:2003年05月07日(水)17時58分55秒
「ま、ゆーちゃんはマリしか見えないんだろうけど」
「・・・・・・」


気持ち赤らんだゆーたの顔は、隠し様も無く真赤に染まり。
「何言ってんねーん」と叫びそうになった頃、やっと救いの手が差し伸べられた。


「お待たせ」
「あ、・・・・・・・」


背後からの聴き慣れた声に振り向くと、水着に着替えたらしいマリがいた。
薄いブルーのシャツを羽織り、その下から伸びる生脚。ドクンと胸が大きく鳴った。
釘付けになった自分の視線を、強引に海へと戻して。


「お、泳いでくる」


そう言い残して、ダッシュで駆け出した。
391 名前:31 真夏の海 投稿日:2003年05月07日(水)17時59分37秒
勢い良く飛びこんだのは良いが、その冷たさに頭も冷えて。
水着見ないでどーすんねん、とか。準備運動し忘れた、とか。
ということで、そのままUターンして、砂浜を真っ直ぐ戻ることにした。

がしかし、目当ての場所には、ブルーのシャツが見当たらない。


「マリは?」
「ん? ジュース買いに行ったよ」


彩が指差す先には、見覚えのあるシャツを着たちっちゃいコ。
ペットボトルを片手に、テクテクと歩いてくるのが見えた。が、突然遮る2つの背中。


――― 一大事である。
392 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月07日(水)19時51分42秒
一大事だ!!
ゆーちゃん、男前なところ見せてやれ〜。
393 名前:名無し野郎 投稿日:2003年05月07日(水)20時19分19秒
ゆーたぁあ!!ここでバシッとマリを救ってやれ!!
394 名前:作者 投稿日:2003年05月08日(木)20時38分26秒
>392,393

从 ~∀~ 从<一大事やぁ〜〜。今行くでぇ〜〜(逃)

( `・ゝ´)<そっちじゃないし・・・
(〜^◇^)<・・・だいっ嫌いだぁ〜〜
395 名前:31 真夏の海2 投稿日:2003年05月08日(木)20時39分02秒
ジュースでも買おうかなと、マリは熱くなった砂浜を1人で歩いていた。
真夏の海辺は、既にたくさんの人で埋まり、何となく歩きづらい。

何でイキナリ駆け出すかなぁ?
誰かさんの行動を思いだすと、置いて行くなよなぁと少し寂しい。
知らず俯いてしまった視界に、誰かの脚が入り、寸での所で身をかわす・・・・


「ねぇ、1人?」


かわしたはずの方向から、聴き慣れない声が聞こえた。


「はい?」


顔を上げてみると、目の前には2人の男性。
知り合いではないよね?と見つめた後、今の状況にやっと気づいた。
396 名前:31 真夏の海2 投稿日:2003年05月08日(木)20時39分56秒

「一緒に泳がない?」そう言って伸びてくる手から。
「結構です」と逃れようとしたマリに、一つの影が駆けて来た。


「何してんねーん!」


マリと男たちの間に、強引に分け入ったゆーたは、とりあえず吼えてみる。
マリへと伸ばされた腕がムカツイて、思いっきり払うことも忘れていない。


「何だよ、お前は」
「関係ないやろ」
「関係ないなら邪魔すんなよ」


ゆーたの背中に庇われて、何となくホッとしていたマリだが。
漂う不穏な空気を感じて少し緊張した耳に、予想外の言葉が届く。


「そっちこそ、ヒトのオンナに手ぇ出すなや」
397 名前:31 真夏の海2 投稿日:2003年05月08日(木)20時40分36秒

そう言い放ったゆーたは、マリの手を取り、悠々と歩き出す。
「オレのオンナって。アカンかったかなぁ?」と、内心ドキドキのゆーたであったが、見た目は平然。

一方のマリも、ゆーたのセリフが気になってはいたのだが。
後ろにいるままの2人が、追いかけて来そうな気がして、剥き出しの腕をギュッと掴む。


「だいじょぶか?」


しがみついた意味を、そう捉えたのか。
労わるような優しい声に、違う一面を見た気がした。

・・・・・・ちょっと見直したかも。
そう答えようかと思った瞬間、予想通りの声が聞こえた。


「ちょっと待てよ」の声に、振り向くゆーた。
2人が近寄って来る前に、その後ろを指差して、小さく叫ぶ。


「あれ? あれって、元モー娘の石川とちゃうかぁ!?」
「何ぃ??」
「マジ?」
398 名前:31 真夏の海2 投稿日:2003年05月08日(木)20時41分24秒
今時の高校生が、石川に反応したことにホッとしつつ。
振り向いた2人を横目に、スタコラと逃げるゆーたとマリ。

海の家に逃げこんで、そっと外を覗き見ると、2人に絡まれる1人の女性。
少し困惑気味のそのヒトは、それでも笑顔で2人をあしらい。
傍にいたもう1人の女性と、楽しそうに談笑している。


「ん?・・・・りかちゃんとよっすぃ〜やん」
「―――自分で言ったじゃん」
「来てたんや」
「・・・・・一緒に来たじゃん・・・・・・」


―――ホントにマリしか見えていなかったらしい。
399 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月08日(木)22時39分38秒
ゆーちゃん珍しくカッコイイな〜、いつもはへタレなのに。
石川さんはやっぱこんな役回りか・・・(笑
400 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月09日(金)12時40分26秒
裕ちゃん男だったんだ(w
でも・・・へたれ・・・。
401 名前:作者 投稿日:2003年05月10日(土)14時35分02秒
399,400>

从 ~∀~ 从<ちゅーか、いつヘタレになったんやぁ!! 
(〜^◇^)<・・・
( `・ゝ´)<・・・産まれた時から?

( `◇´)<せやで? もー、アタシのおっぱいから離れへんし。
       放っておいたら泣くし。ホンマ、大変やったわぁ・・・
从 ~∀~ 从<当たり前の反応やろがぁ!!(殴)
402 名前:32 受け継がれた言葉 投稿日:2003年05月10日(土)14時35分50秒
短かったバイトも今日で終わり、の勤労少年である。
最終日だからといって、真面目に働く人間ではない。それどころか思いっきり上の空である。

今、彼の頭を占めるのは、先日の海の出来事。
背中に触れた小さい手。裸の皮膚を通して感じた体温。―――守りたいと思った。
シャツを脱いだ水着姿。日焼けしてない白い肌。―――触れてみたい。それが許される存在になりたいとも・・・・


「コラ! 働け!」
「う?」


ビクッと反応したのは良いが、何をするべきか良く分からない。
とりあえず何かしようと、周りを見回すと、悪戯っ子な笑顔と目が合った。


「冗談だよ。もう終わってるみたいだしね」


市井の言葉通り、確かに頼まれていた仕事は終わっていたらしい。
「何か飲もうか」という市井の言葉に、会場の中へと移る2人。
ライブが終わった後の会場は、照明が落とされているため薄暗かった。
403 名前:32 受け継がれた言葉 投稿日:2003年05月10日(土)14時36分23秒

差し出されたビールを、頭を下げて受け取り。
自然、視線は明るめのステージへ。そこでは、若いスタッフたちが練習でもしているのだろうか。
ガチャガチャと音を鳴らしながら、その合間には、話し声も聞こえてくる。


物理的には、眩しいというほどの光ではないのに。
何故か眩しい気がして、目を合わせていられない。

思わず視線を逸らしたゆーたは、ずっと見られていたことに気づく。


「なん?」
「ううん。何かさ、羨ましそうだなぁって思ってさ」
「羨ましい?・・・・・・オレが?」
「うん」
404 名前:32 受け継がれた言葉 投稿日:2003年05月10日(土)14時36分58秒

羨ましいと言われて、別にそうは思っていないと思う。ただ、楽しそうやなとは思う。
だってあそこにいるヒトたちは、自信に満ち溢れた顔で笑っているから。
―――自分と同い年くらいなヤツら。あの自信はどこから来るんだろうか・・・


「楽しそーやなぁ・・・・」


訊くともなしに呟いた声は、耳の良い隣のヒトにも当然届いて。


「そりゃ、やりたいコトやってるからね」


その答えは、何を当たり前とでも言うような口調だった。


「知ってた? 夢はね、待ってても叶わないんだよ。自分が近づかなくちゃ」
「なーに青春してんのさ」
「や、ゆーたがね、悩めるお年頃らしーよ」


イキナリ現れた保田と共に、勝手に青春させられるゆーたであった。
405 名前:32 受け継がれた言葉 投稿日:2003年05月10日(土)14時38分10秒

散々酒の肴にされて終電に乗る。真っ暗な風景をボーっと眺めながら。
その頭の中では、さっきの保田の言葉が繰り返されていた。

「昔、ウチらの仲間が言ったんだ。『夢は掴むためにある』って。どう?」

どうって・・・
すぐには答えられなかったけど、きっと見てるだけじゃダメなんやろなぁと思う。

しかし、ウチらの仲間って言ったけど、誰が言ったんやろ。
けど、絶対みっちゃんじゃないわな。んなカッコええ言葉言わんやろし・・・・


―――息子に、そう確信されるみちよであった。
406 名前:33 憧れの結末 投稿日:2003年05月12日(月)19時52分25秒
一方、青春真っ只中のもう1人は、またまた逢引中である。
先日お買い上げの品を、いつ使おうかと仲良くご相談。


「今度の土曜は?」
「大丈夫ですけど、バイトは?」
「入ってないんだ」


ディナーを摂りながらの、この会話。
どこの海が良いかなぁとか何とか。全く優雅な話である。


結局無難な海辺に決めた後、夜の街をフラフラ歩く。
繋がれた手が、少し強くなったと感じて、ふと隣を見上げる。
と、妙に緊張した顔が、少し前方を真っ直ぐ見詰めていた。

その視線を追いかけたマリが、何か言おうと口を開いた瞬間。
遮るように、小さな声が降ってきた。


「良い?」
「う・・・・ん」


一応は持ってる好奇心が、マリを頷かせた。
未だ感じる距離感がもっと近くなる。もっと仲良くなれるかも知れない。
そんな期待もあったのかなぁと。後になって、そう思ったのだが。
407 名前:33 憧れの結末 投稿日:2003年05月12日(月)19時53分25秒

初めて入った場所は、その目的だけのための場所で。
全てを取り去って無防備になって。自分以外の体温を肌で感じて。
薄闇の中。自分じゃない息遣いは、マリの中で恐怖を創りだした。

目の前のヒトが知らないヒトに見えて。
好きだったはずのヒトからは、何故か怖さしか感じない。


「やだっ!」


ホンキの拒絶。
後先考えず、ただそこから逃げ出した。



数日後届いたメールには、別れの言葉。
多分、待てないヒトと、待たせた自分は合わなかっただけ。
憧れは恋に変わっていたのか。自分でも良く判らないけれど・・・・・


あの日、胸の中で泣いたマリに、彩は言った。
「ホントに好きなヒトに抱いてもらいなさい」と。


―――そのヒトに、早く会いたい。
408 名前:34 内緒話 投稿日:2003年05月12日(月)19時54分01秒

さて、相変わらずの勤労少年である。
さすがにヒトんチでゴロゴロしていられるほど、神経は図太くない。
というか、怖いのだ・・・・・誰かさんが・・・・・

先日のバイトに引き続き、今度は某下町の小料理屋。
女将さんが旅行中ということで、ネコの手にはなるだろうと、皿洗いの真っ最中である。


「それ洗って」
「へい! 大将!」
「・・・・・・」


言葉少ない板前は、かつては芸能界で話題になったユウキ。
話題の中味は様々であったが・・・・・

兄弟のいないゆーたにとって、彼は兄とも叔父にも似た存在で。
あまり会う機会はないが、小さい頃からのお気に入りなのである。
409 名前:34 内緒話 投稿日:2003年05月12日(月)19時54分44秒
「ねーたいしょー。オレさー、悩みあんのぉ・・・・・」


のれんも仕舞った深夜。
酌み交わす2人は、片方が未成年。周りのオトナたちの常識を疑ってしまう。
―――まあ、相手がユウキであることを考えれば、当たり前なのかも知れないが・・・・


「悩みねぇ。女か?」
「う? ん、それもあるけど・・・・」
「けど?」
「うん。・・・・・・たいしょーのデビューさぁ、15やっけ?」
「確か、そのへん」


若いなぁと呟きながら、コロコロ転がすピスタチオ。
ここでのつまみに、ピスタチオは欠かせないのである。


「何だ? 芸能界に入りたいって相談か?」
「イヤ、入りたくないけど・・・・」
410 名前:34 内緒話 投稿日:2003年05月12日(月)19時55分17秒

悩み相談を持ちかけた割には、ぐだぐだと。なかなか本題に辿りつかない。
血筋ゆえか、まったりと聴いてたユウキだが、さすがにコレ以上まったりされると眠くなる。

昼間の疲れでボンヤリとした頭を、冷たいビールで覚醒させた後、はっきりしろぉ!と訴えたのだが。
オレさぁ・・・・と呟くだけ。酔っ払いには効果ないらしい。


「どうしたのよ?」


表情で訴えるのは諦めて、きちんと言葉で促すユウキ。
呆れず怒らず付き合ってやるのは、さすがに年の功ってヤツだろう。
彼もオトナになったものだ・・・・


「ねぇ・・・・オレってカッコええ?」
「はぁ?」
「や、顔とちゃうよ。なんちゅーか、どうなんかなぁと?」
「・・・・・・自分はどう思ってんの?」
「・・・・・・あんまり・・・・・」
「じゃあカッコ良くないんだろ。あのな、何悩んでるか知らないけど、―――・・・・いっとけ!」


・・・・・前言撤回。グイっとビールを飲み干した後、「いっとけ」と一言。
さすがに、もう待てないらしく、スパっと終わりにしよう魂胆がミエミエだ。
411 名前:34 内緒話 投稿日:2003年05月12日(月)19時56分25秒

「・・・・いっとけって?」
「男ってのはな、自分に自信を持たなきゃダメだ。何でも良いから、やりたいことに突っ走っとけ!」
「・・・・・・何に?」
「何でも。あ、犯罪は止めとけ。ま、人生長いんだし、今から平穏を望んでどうするよ」


・・・・・ユウキが言うと、何となく説得力があるのは気のせいだろうか。
というか、このオトナ、結構酔っている。酒に。ついでに自分にも・・・・
そんなオトナの言葉に、ウルウルと感動しているコドモも、やはり酔っている。


「そーやな。やっぱ冒険せんとな」
「その通り! やりたいコトはやる。欲しいモンは手に入れる。やっぱコレでしょ」
「欲しいもん?」
「欲しいもん。金、女、・・・・あと何だ?」
「・・・・・・ヒトの女でもええ?」
「んなヒトの女だってな、旦那がいなきゃさ、いーじゃん?」


―――情操教育に、ちょこっと不適格なユウキであった。
412 名前:名無し野郎 投稿日:2003年05月12日(月)20時18分18秒
マリー!!
ゆーたとユウキの会話が良いです(w
あぁ…早くくっつかないかなぁ…(ドキドキ
413 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)20時46分13秒
「別れてくれないと」・・・
そうそう、マリがちょっと傷ついたようなので可愛そうだったけれど、
それもまあ、青春ということで。
彩の母親としての言葉も、簡素だけれど凄く奥深くて、
それも切ないけれど、これもまあ、青春ということで。

マリちゃん、きっと「ゆーちゃん」が、ヘタレな中にかっこよさを携えて、
迎えに来るはずだから・・・

そうなる?
そうなることに期待しているのは、私だけでしょうか?


414 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時59分26秒
ゆーちゃん、突っ走れ!!!
でも、へタレの中にかっこよさか・・・やっぱへタレなんですね(笑
415 名前:作者 投稿日:2003年05月13日(火)19時20分40秒
从 ~∀~ 从<だぁかぁらぁ。何でヘタレが定着してんねん!! 
(〜^◇^)<・・・(まだ認めてなかったんだ)
( `・ゝ´)<諦めなよ。言わば周知の事実?
从 ~∀~ 从<・・・・・・生まれ変わってもヘタレやなんて・・・・(鬱)

(〜^◇^)<大丈夫。それがゆーちゃんなんだから。
从 ~∀~ 从<・・・ありがとなぁ。マリぃ。
( `◇´)<誉め言葉ちゃうやん・・・・
416 名前:35 アドバイス 投稿日:2003年05月13日(火)19時21分33秒

夏季講習なるものに勤しんでいた数日が過ぎ、昼間から部屋に篭もるコドモが一人。
先日受けたショックで、何も手につかない―――訳ではなく、この熱い中、お部屋の掃除中である。


「・・・・・・どーしよーかなぁ・・・・・」


ごみ袋を前に、考えるのはコレの処分。
一度しか着ていない水着を手に、うーんと唸っているのである。
やはり最近のモノだけに、コレを見るといろいろ思い出す訳で・・・・・


「捨てよ」


嫌いになったわけじゃないけど、終わってしまった関係だから。
買ってもらったモノは、全部捨ててしまおうと思ったのだ。

で、ついでに始めた部屋の掃除が一段落ついた頃、階下から声が聞こえた。


「なーにぃ?」
「暇ならさぁ、ちょっと出掛けよーよぉ」
417 名前:36 アドバイス 投稿日:2003年05月13日(火)19時22分08秒

ということで、彩と2人。久しぶりのドライブ。
到着したのは、都内を離れた海沿いの街、横浜である。


「あ、お墓参り?」
「うん。天気も良いしね」


傾いたにもかかわらず、相変わらず眩しい太陽に、白く照らされる墓石。
途中で購入した向日葵が、その熱さに負けじと輝いている。

冷たい水をかけながら、「久しぶりだね」と話しかける彩。
マリはその隣で、石に刻まれた文字を、ボーっと見つめていた。

『矢口家之墓』

ここに眠るのは、自分と同じ名前。人生が急に終わってしまったヒト。


「ねえ彩っぺ。このヒトはさ、幸せだった?」


突然終わった人生。彼女は幸せを感じたのだろうか?と思った。
もし今、自分の命が終わったら、自分は幸せだと言い切れない。そう思ったから。
418 名前:36 アドバイス 投稿日:2003年05月13日(火)19時23分02秒

「どーかなぁ・・・・まあ、いい恋はしてたね」
「いい恋・・・・」
「うん。どんどんキレイになっていってね。コレは恋だなと」


ふと気づくと、彼女はどんどんキレイに、そしてオトナになっていた。
もう一人のヒトは、彼女を見守るように、優しさと包容力を・・・・・・微妙だ・・・・

まあ、2人が幸せ薔薇色だったコトは、第三者の彩にも良く分かった。
―――殴りたくなるほどだったが・・・・・


「マリにも好きなヒト、出来るといいね」
「そ・・・・だね」


先日の出来事を知る彩だけど、それでも恋はして欲しいと思う。
ヒトを好きになることは、間違いなく自分を磨いてくれると思うから。


「以外に近くにいるかもよ?」
「近くって?」
「さぁ・・・・・」


きょとんとした顔で見上げてくる様は、まるで遠い昔の誰かのようだ。
彩は、腕の中に抱きしめながら、「教えてやってよ」と白い石に思う。
きっと、ちゃんと、繋がるんだろうけれど・・・・・・


「ねえ、彩っぺは幸せ?」
「当たり前じゃん。マリたちがいるんだから」


―――静かに眠る魂たちが、優しく微笑んだ。
419 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月13日(火)22時52分13秒
やっぱり、彩っぺカッコイイな〜。
しっかし、裕ちゃんもエライ言われようだな・・・微妙って・・・(笑
でも、へタレな裕ちゃん・ゆーちゃんが好きです!!

420 名前:名無し野郎 投稿日:2003年05月18日(日)15時14分42秒
いい雰囲気ですね。
マリは近くにいるその人に気がつく事が出来るのでしょうか?
421 名前:作者 投稿日:2003年05月18日(日)15時35分53秒
419,420>

先週は、彩っぺ強化週間?でしたから。
というか、彩っぺ、好きなんでしょうね、私。

从 ~∀~ 从<ちゅーか、思い出くらい美しく語ってや。
( `・ゝ´)<いや、ちょっと。嘘はねぇ・・・

(〜^◇^)<どこにいるのかなぁ・・・
从´∀`从<・・・・
(〜^◇^)<ねぇ、ゆーちゃん?
从T∀T从<・・・
422 名前:36 噂話 投稿日:2003年05月18日(日)15時36分26秒
労働基準法など無視して、大都会の片隅で働く若者がいる。
その一方、母親である関西人もまた、同じ大都会の片隅にいた。

美味しい酒と美味しいつまみにご満悦のみちよ。
客商売にも慣れたようで、軽く酔っ払いの相手をするゆーた―――同じ店ではない。


「旦那さんは?」
「まあ、適当にしとるんちゃう?」
「みっちゃーん・・・・・・」


ライブツアーで関東まで出てきたみちよ。北上する途中、東京に立ち寄ったのである。
旦那を放って、飲んでる相手は元祖プッチ。彩のトコには顔を出したのだろうか?


「ヨロシク言ットイテ、ゆーてた。そーいえば」
「・・・・忘れてるし」
423 名前:36 噂話 投稿日:2003年05月18日(日)15時37分01秒
「で? ゆーたには会ったの?」
「あ、世話になったみたいで。ありがとな」
「ううん。久しぶりで楽しかったよ。相変わらず細っこいね」
「言える。あ、でも筋肉質っぽいよね・・・って、そーじゃなくて。会ってないの?」
「ん。今回は時間ないし、ええねん」


そう。この母親。
家出して数週間の息子に、未だ会っていない。
せっかく東京まで来ておいて、どーせなら、某小料理屋で飲めば良いのに・・・・・


「ゆーちゃん、元気だよ。ユウキと楽しそうだった」
「あ、ごっちんもありがとな。ホンマ迷惑掛けるわ」


一応オトナの常識として、一通りのご挨拶を済ませた後は。
やはり女3人(以上)寄れば姦しい・・・・てのは、年を取れば取るほど、パワーアップ。
424 名前:36 噂話 投稿日:2003年05月18日(日)15時37分31秒

「ねえ、ゆーちゃんとマリちゃんってどーなってるわけ?」
「どーなってるって?」
「付き合ってないの?」
「ないやん? ま、ゆーたはその気、あるっぽいけど」

「ちっちゃい頃から仲良かったけど、ずっとなのかな?」
「さあ? でも、彼女連れてきたコトはないわな」
「ホントに? そりゃ一途だ」

「あ、でもマリちゃん、彼氏いるよね。確か・・・・」
「そーなの? ゆーた、玉砕? 奪っちゃえ、奪っちゃえ」
「いやあ、そんな度胸ないでしょ」
「違うよ、けーちゃん。ゆーちゃんはね、優しいんだよ」


―――その優しいコが弟に煽られたコトなど、知る由もない後藤である。
425 名前:37 ハプニング 投稿日:2003年05月18日(日)15時38分38秒
奥さんが旧友と親交を深めている―――酒を酌み交わしている頃。
放っておかれた旦那は、某小料理屋で適当にしていた。


「ユータぁ。オカワリ〜〜」


酒が回ってくると、若干怪しげな呂律のゆーた父。
隣に座るのが、今日は若い娘さんというコトで、いつも以上に酔っ払いだ。


「何で一緒に来んねん」
「ミチ、オシエテくれるって。ヤサシイねぇ」
「道分からんなら、来んでえーやん」
「ア〜冷タイ。マリちゃん、ダメよ。こんなコにナッタラ」


というか、そんな酔っ払いになる方がイケナイと思うマリである。

しかし、さすが半分は外人さんのゆーた父。奥さんがいないと、結構軟派だ。
何気ないスキンシップ&可愛いねぇの誉め言葉を、マリ相手に繰り返す。
自分の親だけど、マリが喜んでいるわけじゃないけど・・・・・ムカツクのは仕方ない。
426 名前:37 ハプニング 投稿日:2003年05月18日(日)15時39分08秒

「へい! お待ち!!」


マリの肩に回った腕を跳ね除けて、グイッと間に分け入るゆーた。
多少、いや多いに不自然でも、構うもんかのイキオイだ。


「オウ! アリガト」


そんな息子のイキオイなど、ドコ吹く風の父。
追加されたお銚子を、嬉しそうに傾けている。

この親にして、この息子アリ。酒好き遺伝子は、間違いなく受け継がれている。
そんなオトナを横目に、皿洗いに戻る背中は、ちょこっと心配そうだ。

がしかし、オトンは後でちくってやろうと決め、真面目にお仕事。
と、突然、マリの声。小さいけど「キャッ!」って悲鳴。当然反応は早い。
427 名前:37 ハプニング 投稿日:2003年05月18日(日)15時39分42秒

「っ!」


顔を上げると、マリの後ろにオヤジが一人。マリの肩に手を置いて・・・・・
オトンは・・・・・・おらんやんけ。どこ行ってんねん。


「おい―――」


ユウキが止めるよりも早く、回り込んで。
酔っ払いオヤジの腕を掴む。


「触わんな、オレのや!!」


かばうように間に入り、掴んだままのオヤジを睨みつける。
真赤に酔ったどっかのオジサンは、ほわぁ〜とした顔で。
428 名前:37 ハプニング 投稿日:2003年05月18日(日)15時40分14秒

「いやぁ〜、おじょーさん、ごめんねぇ〜〜」
「いえ、大丈夫ですか?」
「おにーちゃん。トイレはぁ?」
「・・・・・・・向こうです」


たった今、父が出てきたドアを指差すゆーた。
残されたのは、気まずい2人と、把握してないゆーた父、密かに笑うユウキ。


「ゆーた、皿」
「あっ・・・・・」


助け舟らしきユウキの言葉に、やっと動き出したゆーた。
その背中に、小さな声が届く。


「ゆーちゃん、ありがと」


―――緩みそうな口元に困るゆーたであった。
429 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月18日(日)20時26分48秒
海の時といい今回といい、ゆーちゃんマリちゃんの事になるとカッコイイな〜。
でも「オレのや!!」ってまだちゃうやん(笑
430 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月21日(水)12時44分56秒
ゆーたカッケー!!
ってか、さりげに『俺のや!』って言ってるけど…マリちゃん気づいてるかな?(w
はやくその勢いでマリをゲッツしてまえ!w
( ´Д`)<でもほんとはへタレだからねぇ〜
431 名前:作者 投稿日:2003年05月21日(水)20時35分50秒
从´∀`从<ちゅーか、生まれた時からオレのや!
(〜^◇^)<・・・・
( `・ゝ´)<コメントに困ってるじゃん。

从´∀`从<いやなん?
(〜^◇^)<・・・アーホ・・・・

从 ~∀~ 从<コラ、ごっちん。誰がヘタレやって? 
      そんなん気付かんかったら、マリの方がヘタレやん。

(〜^◇^)<・・・(気付かない方が良かったかなぁ・・・)

从´∀`从<何か言うた?
(〜^◇^)<アーホ・・・
从´∀`从<そればっかやん。
432 名前:38 マリの目覚め 投稿日:2003年05月21日(水)20時36分40秒

ほんの少しのハプニング。そんなコトで目が覚める。
事実ってのは小説より奇なり・・・・である。


マリは、ついさっき気づいた。
この背中を見慣れてる自分に。背中越しに、見た風景が多いコトに・・・・

親子仲良く酔いつぶれて、隣でうつ伏せてる背中を、そっと撫でる。
爆睡しているらしく、ピクっと反応しても、起きる様子はない。

「泊ってけば」のユウキの言葉に、ううんと答えて。
店じまい後の静かな店内、大人しくお迎えを待っているのだ。


「ねえ、大将。あたしね、この前も助けてもらったんだ。海でね、絡まれた時にね・・・・」
「うん」
「今日はちょっと違かったけど・・・・でもね・・・・・・」
433 名前:38 マリの目覚め 投稿日:2003年05月21日(水)20時48分15秒

ずっと昔、大きな声で吼える犬が怖かった。
暗くなりかけた夕方が怖かった。空気を震わす雷鳴。世界が揺れる地震。見えない何か・・・・

怖いものはいっぱいあって、その度に泣きそうになったけど。
同じように小さかった背中が、その間に立ちはだかってくれたから。


「ずっと、嬉しかったのかも知れない・・・・・」
「そーか」
「うん・・・・」


―――酔っ払っていなければ・・・・ゆーたの代わりに、嘆くユウキである。
434 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月21日(水)22時38分49秒
ゆーちゃん、はやくマリちゃんゲッツしろ〜(笑
しかし、肝心なときに酔っ払って・・・ホントゆーちゃんダメだな〜
435 名前:ミニマム。 投稿日:2003年05月22日(木)00時48分16秒
ぉぉぉ良い感じ!
ってか、ヤッパ
生まれ変わっても、ゆうちゃんヘタレ王決定!
つぶれてるやん。どアホォォォ〜w

从´∀`从 <まりoooムニャムニャ
(0^〜^0)<アホとヘタレは死んでも直らなかった
436 名前:作者 投稿日:2003年05月22日(木)19時25分30秒

从´∀`从<・・・・
( `・ゝ´)<言われ放題だねぇ。
( `◇´)<何や、人に言われると可哀相になってくるわ。

( `◇´)<だいじょぶかぁ?
从´∀`从<何がやねん。
( `◇´)<ゆーちゃんダメやなぁって。どアホぉ〜やと。
从´∀`从<・・・・みっちゃんなんか、大嫌いやぁ〜〜(泣)
( `◇´)<やっぱ自分で言わんとな。

从´∀`从 <ちゅーか、よっすぃ〜に言われたくないわ。
(0^〜^0)<なまこ、触れるも〜ん。
从´∀`从 <・・・・・
(〜^◇^)<ゆーちゃん・・・・・
437 名前:39 夢の世界 投稿日:2003年05月22日(木)19時26分03秒
夏休みも終わりに差しかかった頃。
2人のコドモは、都心から少し離れた某ランドにいた。
仲良く並んで、アトラクション待ちなんてしていると、いかにもデートなのだが・・・・・


真夏の園内は、いつも以上の熱気に溢れ。
立ってるだけで熱射病になりそうやぁ・・・・なんて、ちょこっと弱気な人間が一人。

対照的に、大好きなプーさんが、そこここに。
ついでにはちみつ探しなんてしちゃったマリは、思いっきりハイテンションである。

興奮状態、あるいは熱射状態を冷まそうと、絵本の前で一休憩。
マリをベンチに促した後、「ジュース買うてくる」と歩き出し、ふと立ち止まる。


「さらわれんなや」
「迷わないでね」


目と鼻の先のスタンド。
これで迷ったら、それはそれで貴重な存在かも知れない。
438 名前:39 夢の世界 投稿日:2003年05月22日(木)19時26分41秒
「ほい」


差し出されたオレンジジュースを受け取って、嬉しそうに笑うマリ。
満足そうなマリの隣に腰を掛け、自分はコーラをズズっと吸い込む。
しゅわしゅわとした炭酸で、だらけた気分も一新された気がした。


「なぁ、訊いてもええ?」


手に持ったジュースも軽くなり、喉も体温も一息ついた頃。
ゆーたの声に顔を上げると、その視線はでっかい絵本(もどき)に向けられていた。


「何?」
「・・・・・・・・別れたんやって?」


思いがけない質問に、それでも「うん」と素直に出てくる。
そして、そのことが随分昔に思える自分が、ちょこっと不思議だった。
439 名前:39 夢の世界 投稿日:2003年05月22日(木)19時27分14秒
「オレな、ごっつビックリしたやんか。マリが男と付き合ってるって」
「で、相手は大学生やって。もっとビックリしてん。中学生辺りかと、痛っ!・・・・・」


少し早口の関西弁でぺらぺらと。
もちろんTシャツの背中をバシッと叩いて、突っ込む所はきちんと突っ込む。


「ま、ビックリしたっちゅー話や」
「ふうん・・・・・・・ゆーちゃんは?」
「うん?」
「ゆーちゃんは彼女いないの? 」


今度はマリから訊いてみる。
ようやくマリを振り返ったゆーたは、やっぱり、視線をそらして。
「おらんよ」そう呟くと、残りのコーラをグイッと飲み干す。
自分を勢いづけたように見えるのは、気のせいではないだろう。


「なあ・・・・・・・オレじゃアカン?」
「え?」

「オレ―――好きやねん」
「・・・・・・金もないし、自慢できること、何もないけど。オレ、ずっと好きやったと思―――」
440 名前:39 夢の世界 投稿日:2003年05月22日(木)19時28分22秒
自分の方を見ようとせず、自分の言いたい事だけ。
そんなゆーたの顔を両手で挟み、自分の方へグイッと向ける。

間近で見つめたゆーたの瞳は、緊張からか潤んで見えた。


「知ってたよ。多分ね」
「・・・・・・・・・」
「ずっと守ってくれたんだなぁって」
「マリ・・・・・オレな―――」
「もう一回言って」


「好きや」
「あたしも好きだよ」


近づく距離に目を閉じたのは、何故かゆーただったりする。

照れくさいのか、離れると同時に立ちあがるマリ。
「プーさんコーナー行こっ!」と歩き出す手を、ゆーたはグイッと引っ張って。


「好きやで」


――― 一勝一敗で、満足気なゆーたである。
441 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月22日(木)21時49分21秒
ゆーちゃん、やったー!!!
とうとう告白した、男だな〜。
でも、ゆーちゃんが先に目を閉じるって情けないな・・・らしいけど(笑
442 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月22日(木)21時57分08秒
ばんざーい!やったね!
ヘタレだけど、ゆーたカッケー。
443 名前:ミニマム。 投稿日:2003年05月23日(金)01時43分18秒
(0^〜^0)<きたぁ〜〜かっけー
从´∀`从 <そやろぉ、因みに魚も焼けるんやでぇ
(0^〜^0)<…いや、真里さんが流石師匠かっけー
从´∀`从 <自分、どついたろかぁ

(^◇^)<ハイハイ。卵も魚も 知能は同レベル

さてコレから、どうなる・甘い?痛い?
「ゆうちゃんに昔の悪い癖」が出ない様に
見守ります。<でも やや期待もありw

444 名前:新・加勢大周 投稿日:2003年05月24日(土)13時07分16秒
オモロイ。
445 名前:作者 投稿日:2003年05月25日(日)11時45分40秒
レスありがとうございます。
やっと・・・ですが、これからの展開は・・・・・

でもラストに向かって突っ走りますので、てきとーについて来てください。
446 名前:40 心、動く時 投稿日:2003年05月25日(日)11時46分17秒
何気ない時に絡む視線。
その奥の想いが、同じであることが、とても嬉しい日々。
といっても、そう長くは続かない。

何と言っても、只今夏休み。
ゆーたもそろそろ大阪に帰らねば・・・という夕方、2人はとあるライブハウスにいた。


『へ〜〜け〜〜!!』


手を繋いで聴くのは、みちよのライブ。野太い声が、ちらほらと。
確か計算では三十路を過ぎて十数年、それでもパワフルなライブ。パワフルな声援である。


ゆーたは、久しぶりに思い出した。
自分の母親が、歌手であったことを。

コドモの頃、普通でない職業の両親が、何となく不思議だった。
友達のお父さんみたいに、朝早くスーツ姿で出勤しないし。
隣のおばちゃんみたいに、井戸端会議しないし。

いつのまにか普通になってたけど。
今更ながら、輝いてるなと思うゆーたである。
447 名前:40 心、動く時 投稿日:2003年05月25日(日)11時47分04秒

「みっちゃん、カッコ良かったね」
「カッコええ・・・・わな・・・・」
「うん。カッコ良い」
「・・・・せやな」


ステージが終わった人込みの中を、楽屋へと足を進める。
みちよを誉めるマリの言葉に、珍しくも素直に頷くゆーた。
本気で、スゴイと思っているからだ。

ま、数週間ぶりで顔を合わせたみちよは、相変らずだったが・・・・・


「何でみっちゃんは歌手になったん?」
「歌いたいからに決まっとるやん」
「・・・・・・・」
「歌いたくて、歌えるから、今歌うんや。意味解るか?」
「・・・・・・・解った」


―――珍しく真面目な親子の会話である。
448 名前:41 心、決まる時 投稿日:2003年05月25日(日)11時47分43秒
考えてみれば、2人の周りには、夢を語る大人が多かった。
夢を持たなきゃダメだ。追いかけなきゃダメだ。動かなきゃ・・・・・

しかし、誰も語ろうとはしなかった。
夢を追いかけたヒトの、その周りの人間の気持ち。

残された寂しさ。
感じたはずの切なさは、自分の中に閉じ込めたまま・・・・・

そして、コドモは夢を見る。
輝くために。輝くオトナに負けないように・・・・・・・・
449 名前:41 心、決まる時 投稿日:2003年05月25日(日)11時48分52秒
ライブからの帰り道。
少し涼しくなった夜道は、火照った身体を冷ましてくれる。

2人分の足音が、静かな道に響いて、消える。
繋いだ手を、ギュッと握ったゆーたは、乾いた唇をようやく開いた。


「オレ、明日帰るわ」
「そっかぁ。そろそろ終わりだもんね」
「しばらく逢えへんな」
「そーだね・・・」

「マリ・・・オレな・・・・」
「何?」
「・・・・・・・・・や、ええわ」
「何だよぉ」

「なぁ、しばらく逢えへんし・・・・・・キス・・・してええ?」
「・・・・・うん」
450 名前:41 心、決まる時 投稿日:2003年05月25日(日)11時49分40秒

誰もいない。星も微か。
街灯の灯りに照らされたマリは、少し赤らんで見えた。


「好きやで」


絡んだ視線に、そう答えて顔を寄せる。
マリが何か言いた気なのを、唇を重ねて遮った。


「―――もっとええオトコになるから」
「うん?」
「その時にな、また、好きって言うから」
「どしたの? 変なの」
「変でもええよ」


―――夏の都心は、やっぱり熱い。
451 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月25日(日)15時43分22秒
この二人も熱いな〜w
でも、ゆーちゃん忘れてたのかよ、自分の母親が歌手って・・・(苦笑
452 名前:作者 投稿日:2003年05月27日(火)20時41分18秒
从 ~∀~ 从<そりゃ忘れるやろ。
( `◇´)<なぁ。アタシも忘れるトコやったし。
453 名前:42 原点 投稿日:2003年05月27日(火)20時41分57秒
8月某日。
夏休みのほとんどを東京で過ごした関西弁のコドモは、ようやく本来の居場所へと戻って―――


『きょーとぉ〜〜。きょーとぉ〜〜』

―――戻る前に寄り道である。



「こんにちはぁ〜」


愛車のモンキーが玄関先に保管されているのを横目に、イキオイよく開けた玄関。
中から出てきたヒトは前回同様、驚く様子は微塵も見せない。


「いらっしゃい」

それだけ言うと、くるっと背中を向けてまた奥に。
そっけない主人に代わり、熱烈歓迎を表したのは。


「あんっ!!」


飛び込んできた身体を正面から受け止めて。
追いかけるように、ばたばたと靴を脱いだ。
454 名前:42 原点 投稿日:2003年05月27日(火)20時42分30秒

外の眩しさから、部屋の中の薄暗さにしばし目を慣らした後、ポケットから何やらごそごそ取り出して。

麦茶を受け取った後、空いたその手に乗せたのは白い封筒。
されるまま何も言わない年寄りに、真面目に頭を下げるコドモ。


「ありがとーございました。ちゃんとバイトした金やで」


満足気なゆーたの笑顔に、初めて表情を柔らかくして。
眩しいくらい真っ白な包みを、机の上にそっと置いた。


「楽しかったか?」
「うん! 行って良かった。おばーちゃんも呼んだら良かったなぁ」
「そぉか。良かったなぁ」

「あんっ!!」


いつのまにか机の下に潜り込んでいたチワワ。
決めのセリフを奪われて、お返しとばかりにじゃれ合いが始まる。


―――心配性な年寄りが声を上げて笑ったのは、久しぶりかも知れない。
455 名前:43 新しい道 投稿日:2003年05月27日(火)20時43分02秒
スコールの様な夕立が駆け足で過ぎ去った夕暮れ。
洗い流された太陽は真っ赤に染まり、2つの背中を赤く照らす。

墓石を前に神妙な面持ちのゆーたと、既にパートナー化しているはなである。

足元でじゃれつくはなを気にもせず、直立する手には何かが握られていた。
それは薄い朱が混じるガラスのコップ。ちょこっと不恰好で、明らかに手作りを想像させる。


「コレ、もらってええ?」


そう言って掲げると、夕日を反射しキラキラ輝く。
実は先程見つけたのだ。とある部屋で眠っていたのを―――
456 名前:43 新しい道 投稿日:2003年05月27日(火)20時43分37秒

いつも閉じられていた部屋のふすま。
僅かに開いていた隙間から、引き寄せられるように踏み入れた。
そこに置かれた雑多なモノたちが物置を思わせて、引き返そうとしたゆーた。
その目を強く捕らえるモノが、そこにはあった。


それは1つの写真立。

今も昔も愛されるキャラクター、くまのプーさんが華を添える1枚の写真。
写っていたのは2人の女性。下の方には『ア』『ホ』とも。

1人はオトナ。1人はコドモ。仲良く寄り添う2人は幸せそうに笑っている。


『裕子と矢口さんや』
『うわぁっ!!』


突然掛けられて声に、飛び上がって驚くゆーた。
驚かした張本人はそんな様子を気にもせず、ゆーたの手元を見つめ続ける。
457 名前:43 新しい道 投稿日:2003年05月27日(火)20時44分26秒
『お葬式でのこの娘。忘れられへん』

捨てられたコドモの様な顔をして。
これは夢なんじゃないかって顔をして。

・・・・・・棺を目にした途端。
この世の終わりが来たように、わんわんと泣きじゃくった―――


『その後も何度か来てくれて。ええ娘やったのになぁ・・・・・・』


若くして死んでしまったみちよの仲間。
遠い昔、みちよは言った。「どーせ2人で仲良ぉしとるんやろーけど」と。

その時の表情は、ホントにそう信じているだろう心からの笑顔で。
コドモ心にも、嬉しかったのを覚えている―――


『だいじょーぶや。2人ともな、生まれ変わって幸せになっとるって!!』
『だから、泣いたらアカン!!』


実際は泣いていなかったけれど。
俯いた顔が寂しげに見えて、思わず声が荒くなった。
458 名前:43 新しい道 投稿日:2003年05月27日(火)20時44分59秒

大きな声に、顔を上げてくれたけど。
未だ不安そうに『そーやろかぁ』なんてぶつぶつ言ってるから。
『決まっとるやん。仲良かったんやろ?』ってニカって笑ってやったのだ。


そして、写真を戻した傍に、このコップがあったのだ。
これはなぁ―――と始まった昔話を聴いてるうちに、どうしても欲しくなって。
大事にせえよ。と了承を得たので、持ち主にも報告に来た訳である。



「ガラス職人になりたかったんやってな。オレもなるわ。・・・・なぁコレもらってくで」


―――心強いお守りを背中にしょって、一夏振りに帰宅した。
459 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月27日(火)21時40分42秒
ゆーちゃんの夢はガラス職人だったんですか!!
ゆーちゃん、ガンバレ〜
460 名前:作者 投稿日:2003年05月28日(水)19時20分19秒
从 ~∀~ 从<おう。がんばんでぇ〜〜
      ついでに、展開早いでぇ〜〜
461 名前:44 今になって解る事 投稿日:2003年05月28日(水)19時20分52秒
9月1日。始業式。
いつもより早めに登校したゆーたは、いつもより早めに下校した。
きっと誰もが他人事で、訳解からんと笑うかも知れない。

けれど胸を張って歩くゆーた。その顔に迷いは見えない。
堂々とした背中を後押しするように、一つの思い出が去来する。



あれはまだランドセルの大きさに負けそうだった頃。
462 名前:44 今になって解る事 投稿日:2003年05月28日(水)19時21分41秒

夏。
熱くなったアスファルト。
揺らめく空気の中を、やっと辿り着いた我が家。
緑濃い庭を見遣る縁側。そこに一人座る影があった。

そのヒト―――みちよはゆーたに気づく事なく。


真っ青な空を見上げて。
視線を落とした。自分の指に。

その時見えたのだ。
俯いた瞬間に、光る何かが落ちたのを―――


何や?と首を傾げて近づくゆーた。
やっと気付いたみちよは「おかえり」と笑う。
その笑みが、いつもの母の笑顔ではない気がして。


「どないしたん?」


心配そうに自分を気遣う息子に、思い出のヒトが淡く重なる。
463 名前:44 今になって解る事 投稿日:2003年05月28日(水)19時22分11秒

「何もないで」


そう笑った瞳から、堪えきれない涙が零れた。


「なんでないとるん? 手ぇ、いたいんか?」


苦しそうな顔をして自分の手を見つめていた。
そんなみちよの姿が、ゆーたの目には焼きついていたから。


「けがしたんか?」


見してみぃと掴んだ手には、何の傷も見つけられない。
ただ一つ、指輪が光っていただけで。


「コレ、いたいんか? とったらええやん」


みちよの手を握ったまま、心配そうな顔で見上げるゆーた。
まだ涙の残る瞳は、そんなコドモを優しく見つめて。
ランドセルを下ろした背中を、膝の上に抱き上げた。
464 名前:44 今になって解る事 投稿日:2003年05月28日(水)19時22分44秒

「痛くて泣いてたんとちゃうよ」


未だみちよの指を気にして、視線を外そうとしないゆーた。
その真っ直ぐな想いには、真っ直ぐに応えてやりたくて。


「コレはな、大切なヒトにもらったモンやねん。せやな、ゆーたやったら―――」


指輪をはめた右の手で、庭の隅を指差すと。
釘付けだったコドモの視線もくっ付いてきて。


「あのボールあるやん。アレ、誰にもらったんやっけ?」
「マリちゃんやで。このまえのたんじょーびにもらったやんか」


突然のみちよの問いにも、気にする事無く素直に答えて。
腕の中で身体をごそごそ。正面から向き合った瞳はキラキラしてる。
465 名前:44 今になって解る事 投稿日:2003年05月28日(水)19時23分37秒

「とーきょー行くんか?」
「ん? 行きたいんか?」
「マリちゃんゆったやん。とーきょー行ったら会えるやんか」

「せやな。東京に行ったらマリちゃんに会えるわな。
 でもな、この指輪をくれたヒトには、どこに行っても逢えんのや・・・・・・」


額に浮かぶ汗。みちよの指がそっと拭う。
冷たい指の気持ち良さに、目を細めて。
離れた指を追うように開けた瞳には、寂しそうな微笑が映る。


「だからないたん?」
「・・・・・そーかもな」
「・・・・・・・・・・とったらええやん。そんなん、とったらええやんか」


ちっこい眉は八の字に。ちっこい口はへの字に曲がって。
泣きそうに歪むゆーたの表情。穏やかな微笑が慰める。


「アカンねん。これにはそのヒトの気持ちがいっぱい詰まっとるから。
 泣いてもええからな。ずっと傍に持ってたいんや」
466 名前:44 今になって解る事 投稿日:2003年05月28日(水)19時24分10秒

「・・・・・・・そんなんわからへん。とったらええのに―――」


みちよの代わりに涙が零れた。
震える肩を抱きしめた、優しいみちよの囁きも、涙を止めることはなかったけれど―――



『ゆーたもいつか、大切なヒトができてな。
 ゆーたの“大好き”を込めたモノを贈んのや。したら解るから・・・・・・・』



贈りたいモノがある。
受け取って欲しいヒトがおるんや。


―――そして機上のヒトになる。
467 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月28日(水)22時54分26秒
すごい親子の愛を感じます、珍しく(笑
ゆーちゃんも、東京に行ってちょっと大人になったみたいですし。
はやく「贈りたいモノ」贈れるといいね、ゆーちゃん
468 名前:作者 投稿日:2003年05月31日(土)10時47分31秒
( `◇´)<おう。昔はふつーの親子やってん。
从´∀`从<・・・昔って・・・否定せんけど・・・
469 名前:45 解らない事 投稿日:2003年05月31日(土)10時48分19秒
思い込んだら一直線!!なタイプなのは知っていた。
ゴーイングマイウェイで頑固なのも知っていた。知ってはいたけど・・・・という話である。


9月1日。
全国どこでも(一部地域を除く)小中高校では始業式なるイベントが開催される。
御多分に洩れず、列の後ろに並んだマリも、退屈な時間を過ごしていた。
身長順などという差別的な考えが適用されていない事に感謝しつつ、意識の全てはポケットの中へ。
―――正確には、「ポケットの中にある携帯に届いた一通のメールへ」である。



『イタリアに行ってくる。ガラスの靴、作ったるから』


これが届いたのはついさっき。
イベント会場へと歩く途中、ぶるぶるっと携帯を揺らしたのだ。
470 名前:45 解らない事 投稿日:2003年05月31日(土)10時49分01秒

イタリア・・・・・・旅行にでも行くのだろうか。
一昨日まで東京にいたというのに、今度はイタリア? そんなに大阪がイヤなの?とか。
ガラスの靴・・・・・・ガラス細工の体験でもしてくるのか?とか。

いろいろ考えてみたけれど、結局は。

「分かんないなぁ・・・・・・」
声には出さず、心の中で呟くしかできなかった。
471 名前:45 解らない事 投稿日:2003年05月31日(土)10時49分37秒

頭の片隅を占拠されたまま、やっと帰宅の途について。
「おかえり」と迎えてくれた彩の笑顔に、言葉が素直に口から零れた。


「ゆーちゃん、イタリアに行くんだってね。旅行かなぁ」


彩に訊くべき事ではない。そんなの分かってる。
ただずっと頭の中でぐるぐるしてた言葉だったから。

でも、当然明確な回答は期待していない。
だってそれこそ他人の話。彩が知ってる訳はないのだから。


言葉にしただけで満足してるマリは、冷蔵庫を覗き込みながら何やら物色。
そんな背中に予想外の声が返ってくる。それは聞き様によっては楽しげで。


「修行だってさ」
「ふうん・・・・・・」


何気ない彩の口調。通り過ぎた言葉は、壁に跳ね返ってもう一度耳に。
オレンジジュースを取り出して、次はグラスだよね、と伸びた手がピタっと止まる。
472 名前:45 解らない事 投稿日:2003年05月31日(土)10時50分09秒

「はい?」


手が当たって倒れそうになったジュースの瓶を慌てて支えて。
ドキドキしながらも、さっきの言葉の方が、もっと心をドキドキさせる。


「何て?」
「だから修行に行くって。相変らずだよねぇ―――」


何故こんなに笑顔でいられるんだろう。
目の前の彩の笑顔は、マリにとっては不可解そのもので。


「みっちゃんと電話してたんだけど―――」

ゆーちゃん、退学届だしてさ・・・・・
イタリアにはお祖父さんがいるから・・・・・・
みっちゃんも、昨日知ってびっくりやわぁって・・・・・・


報告してくれる声が、フィルター一枚隔てた感じ。
遠くから聴こえるそれに、あんまり現実が感じられない。
それでも、1つだけ、訊きたいことが浮かんできた。


「いつ帰ってくるの?」
「マトモになるまで許さへんって―――マリ?」


妙な浮遊感が顔に出ていたのだろう。
気遣う彩に、大丈夫と答えて2階に上がる。
473 名前:45 解らない事 投稿日:2003年05月31日(土)10時51分25秒

1人の部屋。冷静になるためにダイビングしたベット。
横になっても、湧き上がった想いにゆらゆらと気持ちが悪くなる。


『何でそんな事。そんな遠い所。―――ずっと逢えないの?』


―――訳が解らなくて涙が出てきた。
474 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月31日(土)14時00分19秒
イタリアってゆーちゃん……学校も辞めてるし
行動派ですね、スゲー(笑
475 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月31日(土)18時49分24秒
ゆーちゃん即行動しすぎ!!(w
マリの気持ちにも気づいてやれ〜
476 名前:作者 投稿日:2003年06月01日(日)16時50分50秒
从 ~∀~ 从<人間な、やらなアカン時は、やらなアカンねん。
      ・・・・ちゅーか学校はええねん。嫌いや。
477 名前:45 解らない事2 投稿日:2003年06月01日(日)16時51分54秒

太陽が沈んで、窓の外が薄暗くなった頃。
同じように薄暗い部屋の中に、トントンと軽快な音が響き渡る。

チカラいっぱい泣いた後、コドモのように眠り込んだマリの耳にも、かろうじて届いて。
だるくなった頭と身体。起こすよりも先に、掠れた声が応えを返した。


ドアの開いた音に続いて、カチャっと小さな音。
パッと明るくなった室内に、電灯を点けたのだと理解した。

眩しさに目を擦って、焦点の合った瞳を入り口付近に向ける。
と、そこにいたのは予想外の人物。てっきり彩だと思っていたのに―――


「こんばんわ、マリちゃん」
「こんばんわ・・・・・・」


人懐っこい笑みを浮かべるそのヒトは、マリの寝そべるベットに近づいて。
ちょっと良い?と笑った後、身体を起こしたマリの横に腰掛けた。
478 名前:45 解らない事2 投稿日:2003年06月01日(日)16時52分37秒

「どーしたの・・・・・・?」
「ん? や、ゆーちゃんの忘れ物をね。そのうちみっちゃん、来るって言ってたから」
「そーじゃなくて」


赤くなった瞼を見られたくなくて俯いたままのマリ。
顔に掛かった髪の毛を、そっと払ってやる後藤は穏やかに笑う。


「マリちゃんが寂しがってるって聞いたから」


膝の上に置いた手に、自然とチカラが込められた。
ギュッと握った拳を見ながら、自分の心を探し出す。


「寂しい?」
「うん。ゆーちゃんの話聞いたよ。寂しい?」
「だって・・・・・」


だって仕方ないよぉ。
ゆーちゃんが突然イタリアなんかに行っちゃうから。
旅行じゃなくて修行とか言って。いつ帰ってくるか分かんないって。
479 名前:45 解らない事2 投稿日:2003年06月01日(日)16時53分46秒

「だって、だって・・・・・・」


だって、やっと気が付いたんだよ。
ゆーちゃんが好きなんだって気が付いて。
ゆーちゃんも好きだって言ってくれて。なのに、何で行っちゃうのかなぁ・・・・・・・


「ゆーちゃんはさ、何しにイタリア行ったのかなぁ? マリちゃん知ってる?」


言いたい事が言えなくて、想いだけに流されるマリ。
固く握られたマリの手を、暖かい後藤の手が優しく優しく包み込む。


「ガラス職人になるんだって」


その暖かさに引き出されるように、少しずつ言葉が声になっていく。


「ガラスの靴、作ったるからって」


そうメールに書いてあったから。
それしか知らない自分が、とっても悔しいけれど。


「そっか、良かったね」


悔しさに、またチカラが入りそうな拳。
それを解くような優しい手と、不可解な言葉・・・・・

不思議さを顔に出して、横に座る後藤を見上げる。
良かったねと言った後藤は、言葉の通り嬉しそうな顔をしていて。


「覚えてない?」

そして語られた昔話。


―――記憶の箱にしまった思い出。やっと探し出したのだ。
480 名前:46 忘れていた事 投稿日:2003年06月01日(日)16時54分30秒
マリが読書家だった頃。
家に来たお客さんに絵本を読ませては、喜んでいた遠い昔。


『ごっちん、よんでぇ〜〜』
『今日はどれ?』

『シンデレラぁ〜』
『おれもぉ〜』


絵本を覗き込む頭が2つなのは、珍しくもない話であった。
いつものように声色を変えて、話を読み終える。
と、これまたいつものように、きゃいきゃいと騒ぎ出す2人。


『シンデレラ、よかったねぇ。ガラスのくつ、はけてよかったねぇ』
『なあなあ、コレはけへんかったらどーなんのん?』

『ん〜。シンデレラは王子様と幸せになれなかったかもね』
『え〜〜? そんなんイヤやぁ〜〜』


『マリもほしい。ガラスのくつほしいよぉ』


ゆーたと後藤の会話を聴いていたマリが、言ったのだ。
ガラスの靴が欲しい。王子様と幸せになるために、ガラスの靴が欲しいのだと。


『ならおれがあげる』
『うん。ちょーだい』
481 名前:46 忘れていた事 投稿日:2003年06月01日(日)16時55分05秒

あんな他愛もない約束を、ゆーたは覚えているのだろうか。
あんなコドモの頃の話を、実現しようというのだろうか。


「ホントに・・・・・・?」
「ホントじゃない?」


思わず洩れた呟きに、はっきりと答えてくれた笑顔の後藤。
「忘れんなや」って怒ったゆーたの顔が浮かんできて。
悲しい事じゃないのかなって、思う事にしたのだ。
482 名前:46 忘れていた事 投稿日:2003年06月01日(日)16時56分38秒

そして、高校2年の夏は終わった。
冬が来て、受験生の一年が過ぎ、新生活も始まった。

ちょっとオトナな気になって、お酒とかも覚え始めた大学生。

あの夏から早数年。もうすぐ、マリも二十歳を迎える。


ゆーたから届いたのは、手紙が一通だけだった。
封筒を開けると、中には絵葉書が一枚。
裏には、細い河に浮かぶ舟。両脇には細い石畳と建物が立ち並ぶ。

『元気でやっとるか? オレは元気やで』


―――突っ込みを入れたのは言うまでもない。
483 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月01日(日)20時02分03秒
男やね(w
ゆーちゃんは男や!!
意味不明なレスでスマソ
それにしても温かい話だなぁ〜
484 名前:名無し 投稿日:2003年06月01日(日)22時48分26秒
ついて来んなや!と言われてもくっついて行きます。
作者さまの小説が読めるならどこまでも(笑)

ヘタレでもやるときゃやるゆーちゃん。
ちいさな恋人2人を見守る大人たち。
暖かくて優しい気持ちになれる作者さんの
作品が大好きです。
485 名前:作者 投稿日:2003年06月03日(火)19時47分03秒
从 ~∀~ 从<だぁかぁらぁ・・・初めっからヘタレやない言うてたやろ。
(〜^◇^)<・・・皆、そう見えなかったから、言ってんじゃん。
从 ~∀~ 从<・・・・・・
486 名前:47 特別な日 投稿日:2003年06月03日(火)19時47分38秒

正月の飾り付けは、とっくの昔に取っ払われて。
食べ続けたお餅がそろそろ無くなろうかという頃。

マリは二十歳の誕生日を迎えた。

成人式を数日前に済ませてしまったから、何となく気分が曖昧だったけど。
家族のほかにも、見慣れたヒトがお祝いに駆けつけてくれたから、やっぱり特別な日を実感させた。


昼間は、お祖母ちゃんたちがお寿司をご馳走してくれた。
一応着物を着てお礼をしたら、お祝いなんかもらっちゃって。

ばたばたとしてたらあっという間に夕飯どき。
今度は、都内にいるおねーさんたちが顔を見せた。
―――昔はおねーさんと言うのが正しいかもしれないが。


おっきなプーさんをくれたごっちん。
リカちゃんはよっすぃ〜の分も一緒にくれた。
来れなかった皆もいっぱいくれて。みっちゃんは―――
487 名前:47 特別な日 投稿日:2003年06月03日(火)19時48分51秒
「じゃん! 壊れ物やし。気ぃつけてな」


丁寧に開けた箱の中にはワイングラスが2つ。
黄色が淡く入ったモノと、青が薄く色付いたモノ。


「これは?」
「ゆーたが送ってきたんや」
「・・・・・・じゃあ―――」


予想通りなみっちゃんの答え。

じゃあゆーちゃんは来られないの? 
そう続けようとしたマリの言葉は、玄関のチャイムに遮られた。

キッチンからお願いと叫んだ彩に代わり、みちよも出ていってしまった。
488 名前:47 特別な日 投稿日:2003年06月03日(火)19時49分24秒

残されたのはマリとグラス。
ゆーたの名前を呟くと、思い出してしまうあの笑顔。

黄色い太陽と青い海に囲まれて。今もそこにいるんだろうか。
グラスよりも、本人が来てくれた方が良かったのに・・・・・


「ば〜か・・・・・・」


青いグラスに文句を言ったら、視界がゆらっと歪んでしまって。
ごしごしと拭って顔を上げると、誰かの手が後ろから伸びてきた。
489 名前:47 特別な日 投稿日:2003年06月03日(火)19時50分21秒

傾けたボトルから注がれるのは、白ワインだろうか。
金色に輝くそれは黄色のグラスを満たし、今度は青いグラスに注がれる。

透明なボトルを支える手は色白で。火傷の跡が幾つか見えた。
白いセーターの腕をたどると、シャープになった顎のラインが視界に入る。


「産地直送やで」
「ばか・・・・・」


―――重なった2つの影。キッチンからは4つの顔が覗いていた。
490 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月03日(火)22時12分05秒
ゆーちゃんカッコ良く登場!!
しかし、覗くなよ大人たち(w
491 名前:つかさ 投稿日:2003年06月03日(火)23時43分50秒
でもこのかっこよさはいつまで続くんだ?とか思っちゃう自分は(w
絶対マリちゃんの尻にしかれそうっすよね、ゆーちゃん。
怒りの鉄拳は飛ぶのか?(ひそかに期待)
492 名前:作者 投稿日:2003年06月04日(水)20時16分24秒
( `◇´)<いや、ちゅーか覗くやろ。
( `・ゝ´)<てゆーか、覗くよねぇ。

( ^▽^)<野次馬じゃないですよぉ。
( ´ Д `)<でも覗くんだよねぇ。

(〜^◇^)<良いカンしてる。アタシじゃないけど。
从´∀`从<・・・・誰?
493 名前:48 当然の報い 投稿日:2003年06月04日(水)20時16分58秒

数年ぶりに現われたコドモ。
いやこちらも二十歳になったから、もうコドモとは言わないかも知れないが。

薄情なコドモとの再会は感動モノであった。
が、それも最初だけで、今はお説教の嵐である。


当然チカラいっぱい説教するのは、母親であるみちよであろう。
ココが他人の家であろうがお構いなし。湧き上がった感情を、思いっきり言葉にしている。
怒られている方も、怒る方の心情が分かる所為か、大人しく聴いていたが―――


「あ〜、もーええやん。無事帰って来たんやからぁ」


ついに我慢の限界が来たようだ。

切れたように立ち上がったゆーた。
それを制したのは、別のヒト。


「もー少し我慢しよーねぇ」

彩の笑顔はやっぱり怖い。
身をもって知っているはずのゆーただが、数年ぶりに実感するはめになった。

結局、2人の母親に解放されて、夕飯を食べ終えた2人が2階に上がったのはそれから数時間後。
さすがにちょこっと涙目だったゆーたも、夕飯時にはコロッと笑顔で。切り替えが早いのは遺伝だろう。
494 名前:48 当然の報い 投稿日:2003年06月04日(水)20時18分12秒

腹いっぱいやぁと寝転ぶゆーた。
そんなゆーたから、視線を外してしまうマリ。

それも道理というものだろう。

突然いなくなって、数年ぶりに突然帰ってきたゆーた。
散々お説教をしていたオトナと違って、マリはまだ何も言っていない。
何も聞いてはいないのだから・・・・・・・・・


「どしたん?」

案の定、背中に届く声は深刻さの欠片もない。
堪えきれないのは、悲しさじゃない。多分苛立ち・・・・・・・


「ばかぁ〜〜!!」


イキオイよく振り返って。
チカラいっぱい怒鳴りつけた。

言い終わった後、目にしたのはきょとんとしたオトコのコ。
驚いた顔は少しずつ視線を落とし完全に俯いて。唇がキュッと結ばれたのが見えた。

495 名前:48 当然の報い 投稿日:2003年06月04日(水)20時18分48秒

「ごめんな・・・・・」


2人の間にポソッと零れたそれは、マリの我慢を完全にぶち破る。


溢れたのは想い。ずっと心の中で繰り返し繰り返し。
誰にもぶつける事が出来ない、ゆーただけへの想い。

言葉になって。涙になって。溢れ出す想いを、ジッと受け止める。
何も言えない。ただ震える身体を抱きしめるだけだけど。

叩かれる胸よりも、想いが痛い。
掴まれた腕よりも、涙に締め付けられて。


「ごめんな」


―――涙が落ち着いた頃。同じ言葉が繰り返された。
496 名前:49 遠い約束 投稿日:2003年06月04日(水)20時19分25秒

ばーか。
言い放って、濡れたセーターから顔を上げたマリ。
これで満足とばかりの言い様に、マリ同様笑みを返して「そんでな」と明るい声で話を進める。

やっぱり切り替えの早さは母親譲り。
照れくさそうな笑みを浮かべて、背中のバックから1つの箱を取り出した。


「コレ、あげるわ」


マリの手に乗せられたのは両手サイズの白い箱。
リボンも何も掛けられていないそれは、テープで止められているだけ。


「ちゅーか、もらってくれんと困んねんけど」


マリがテープを外す間。
蓋を開けて、中味を取り出すまで。
間がもたないのか、ゆーたの口は止まらない。
497 名前:49 遠い約束 投稿日:2003年06月04日(水)20時20分00秒

「オレがおったんはムラノってトコ――」
「ゆーちゃん・・・・・」


マリの声に、やっと口が止まって。
箱の中を見つめたまま動かないマリ。その横顔を覗き込む不安げなゆーた。


「気に、いらんかった・・・・・・?」


その声に、ううんと首を振って。
ゆーたの顔を、真っ直ぐ見つめた。


「ゆーちゃん」
「何や?」
「コレってさ・・・・・・ガラスの靴だよね・・・・・・」
「うん。そのつもりやけど・・・・・見えへん?」

「・・・・・昔、約束したやつ?」
「え、うん・・・・・・覚えてたん・・・・・?」

「・・・・・・ゆーちゃん」
「ん?」
「逢いたかった・・・・・・」
「オレもや」


「マリ・・・・・」
「ん?」
「好きやで」
498 名前:49 遠い約束 投稿日:2003年06月04日(水)20時20分30秒


やっと甘い空気が流れ始めた2階の部屋。
何かを感じ取ってしまうのか、1階でグラスを合わせる2人の肴になっていた。


「でもさ、良かったねぇ」
「ん?」
「無事帰って来てさぁ」
「せやね・・・・・・」


イタリア直送ワインを飲みながら、彩の声に答えるみちよ。

グラスの縁をなぞる指をジッと見ている。
その目は、もっと遠くを見ているように彩には見える。
499 名前:49 遠い約束 投稿日:2003年06月04日(水)20時21分06秒

実際みちよは遠くを見ていた。

目の前で交わされた遠い約束。
自分の存在を思いっきり無視してたもんなぁ・・・・・・

ニヤッとした得意気な笑みと、ひまわりのような満開の笑みに毒づいて。


「ホンマ、良かったわぁ・・・・・」
「・・・・・・お疲れ様」


―――やっと肩の荷を降ろせたみちよであった。
500 名前:50 約束の時 投稿日:2003年06月05日(木)19時36分33秒

冷たい冬が、春の気配に少しずつ遠ざかる早春のある日。
街を見下ろす高台に立つ桜の木。その蕾も少しずつ開き始める。

穏やかな風に誘われるように姿を現したのは2人と一匹。
仲良く手を繋ぐ2人の足元で、自己主張するようにじゃれつく一匹。


1人は若干逞しくなったオトコのコ。先日五年半の修行を終えて帰国した。
今は自分の工房を作るため、画策中のゆーたである。

もう1人はオトナっぽくなったオンナのコ。この春、大学を卒業した。
学んだデザインを生かすため、就職活動中のマリである。

ゆっくりとした歩みは、ある墓石の前でピタッと止まった。
501 名前:50 約束の時 投稿日:2003年06月05日(木)19時37分13秒


コッ―――


硬質に響くのは、石に触れたガラスの音。
墓石の前に置かれたグラスは、普通の物よりやや厚目で、淡い藤に染まっていた。

グラスを置いた手は、今度は黒いボトルを掴み、細い口をグラスへ傾ける。
ボトルを支える右の手に、重なる小さな左の手。薬指にはリングが光る。


「一応、報告や」


ビールを注ぎ終えたゆーたは、マリの手をギュッと握って。
ぶっきらぼうな口調だが、真っ直ぐな瞳で言葉を紡ぐ。
502 名前:50 約束の時 投稿日:2003年06月05日(木)19時39分18秒
「結婚するから」


そう続けるゆーた。その手をギュッと握るマリ。
気付いたゆーたがマリを見遣ると、見上げた瞳と目が合った。

お互い照れくさいのか言葉を交わす素振りはなくて。
ただ、解かれた右手が、マリの頭をクシャっと撫でた。


「見守っててや」


それだけ告げて手を合わせる。
同時に顔を上げた2人は、立ち込める煙を背に、再び仲良く歩き出した。
503 名前:50 約束の時 投稿日:2003年06月05日(木)19時39分54秒


来た時と同じように2人の足元で自己主張していたはなは、何故か再び現われて。
舞い降りたカラスを横目に、墓前のビールを一舐め二舐め。

「はなぁ〜行くでぇ〜」
遠くから聴こえたその声に、はじかれたように走り去った。


取り残された黒い鳥も、いつのまにか姿を消し。
真っ青に広がる大きな空には、黒い翼が優雅に羽ばたき、その瞳も青く輝く。


――― 愛する命を、見守るために・・・・・・
504 名前:遠い約束。 投稿日:2003年06月05日(木)19時40分40秒
遠い約束。


Fin
505 名前:遠い約束。 投稿日:2003年06月05日(木)19時41分43秒
完結です。

長編(中編?)初挑戦の「今を生きる」から約10ヶ月。
ずっと読んで下さいまして、ありがとうございました。
突っ込み所はたくさんあるし、やぐちゅー度も低いけど、自分的には満足です。

この「遠い約束」は、書く予定はなかったのですが、書きたいセリフがあったので。
私はセリフあるいは感情から入るので、その言葉を活かす話を・・・

途中、少し停滞しましたが、無事完結できて一安心です。
長い間、ありがとうございました。
506 名前:つかさ 投稿日:2003年06月06日(金)00時55分43秒
お疲れ様でした。
すげ〜・・・としかいいようがなく。
生まれ変わって姐さんと矢口さんが出会うなら。
きっとこんな感じなんだろうな、とか。
雰囲気で充分やぐちゅーです。
っつ〜か、これでやぐちゅーやなかったら何やねん、と(笑)
10ヶ月お疲れ様でした。
すげ〜いい作品読ませてもらって感謝してます(ぺこり)
507 名前:ミニマム。 投稿日:2003年06月06日(金)02時08分46秒
おつかれ・おつかれ・お疲れ様です。
マジいい話しですね。イパーイ感想は有るんですが…
今日は、感動を胸に…
ここの内容・矢中 不滅です!完結が残念なくらいです。
次回あれば是非お知らせ下さいね。
(^◇^)<LoveLove 从´∀`从<ヘタレ返上
508 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月08日(日)01時34分03秒
お疲れ様でした。
作者さんの作品をずっと読んできて、
本当に全部素晴らしい話でした。
いつでも戻ってきて下さいね、待ってます(笑


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