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片道切符。2本目。

1 名前:片道切符。10th. 投稿日:2002年11月01日(金)13時27分32秒
マンションの前やとか、寒いとか、そういうんが全部くだらんように思えた。
歳とか、性別とか、世間体とか、どっちがいっぱい好きかとか、
そういうんが全部無意味に思えた。

愛しあう   そのときに

この世は   止まるの

時のない   世界に 

ふたりは   行くのよ

夜は流れず  星も消えない

愛の唄    ひびくだけ

愛しあう   ふたりの

時計は    止まるのよ...


   END
2 名前:後書きと言う名の言い訳 投稿日:2002年11月01日(金)13時35分40秒
最後の詩は「夜明けのスキャット」です。
何か、全部物語ってくれそうだったので。
―2本目だけど、終わるよ?
なので、片道切符。でやり残してる、
あれを見たかったのにっていうんがあったらどうぞ。

勝手に次回予告

たぶん片道切符。11th.

そういえばなかよしDEパラレルどうなった?
ま、いっか?言い逃げです。
オニオンでした。
3 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)01時29分51秒
次スレおめでとうございます。
長編期待してます。(w
ネタが・・・と書いてらっしゃいましたが・・・
他のメンバーなどを絡ませてみたらいかがでしょうか?
流石に長編で二人だけというのはネタ的に厳しいのでないかと・・・
パラレルとかならいけるかもしれませんが・・・いらぬことを申してすいませんでした。
とにかく毎日楽しみに待ってるので頑張って下さい。
4 名前:オニオン 投稿日:2002年11月02日(土)12時56分15秒
えぇっと、自分もやっぱそうかなぁと思って
他メン絡ませようと思ってます。
何気に片道切符。ラスト。
どうぞ。
5 名前:片道切符。11th. 投稿日:2002年11月02日(土)13時03分46秒
時々、寂しくなる事があった。
前、付き合ってた人とは、一緒におっても何か、遠いなぁって思う事があった。
例えば、2人して同じソファーに座って、同じようにテレビ見てたとしても
たとえ肩に手ぇ回してくれてたとしても
心が寂しいなぁって時があった。
6 名前:片道切符。11th. 投稿日:2002年11月02日(土)13時10分26秒
今、私は吉澤と付き合っとって、今、その吉澤はすぐ隣におる。
前、別の男と座っとったソファーに腰掛けとる。
ただ、あの時みたいな距離は感じん。
テレビの中では吉本の若手の芸人さんが体張って笑いを作り出してて。
それを見ながらたまに一言二言話しかけてくる。
私はその吉澤の言葉に相づちを打つ。
それだけやのに、幸せやった。
寂しいどころか、あったかかった。
7 名前:片道切符。11th. 投稿日:2002年11月02日(土)13時17分47秒
「…私はなぁ…。」
「…はい。」
「こうして2人でおる時いつも思うねん。」
2人とも視線はテレビにおうたまま。
「もう、誰も愛したないなぁって。」
「…どういう意味でしょう?」
初めて吉澤の目がこっちを見た。
「これを最後の恋にしたいなぁって。」
「…これを、ですか?」
吉澤は自分を指差して言う。
「せや。」
「んー…。愛の叩き売りは終了?」
「終了や。」
「蔵出し売り尽くし品、完売?」
「完売や。」
「買ったのは、吉澤?」
「違うよ、あげたんや、タダで。」
「…もらい、ました。」
私があんまり真剣なカオして言うもんやから
吉澤もまともに返して来よった。
8 名前:片道切符。11th. 投稿日:2002年11月02日(土)13時25分13秒
「…きっとな、私が生きてく上で、吉澤ひとみが占めてる割合が
半分を超えてる思うんや。」
もしかしたらもう、ほとんどが
吉澤を中心に廻り始めとんかもしれんくらいやった。
「やから、あんたなしではきっと私、何も出来ひんと思う。」
「それは、吉澤もですよ。」
「やから、もう、離れたくないねんて…。」
ギュッて抱き締めた。
こんな弱いセリフを言うようになるとは思わんかった。
あんまり、甘えるんは得意やないはずやのに。
吉澤の前では、弱い自分も見せられた。
それを、自分自身も、受け入れる事が出来た。
吉澤しか知らん私。
吉澤にしか見せん私。
9 名前:片道切符。11th. 投稿日:2002年11月02日(土)13時30分33秒
「吉澤も、失くしたくないっすよ、中澤さんの事。」
抱き締め返して来た手の一方が後ろ髪をそっと撫でた。
「吉澤の愛も在庫ゼロですから、もう誰にもあげません…。」
離れたくないって思った事は、これが初めてって訳やない。
やけど、言葉にしたんは初めてやった。
それで、吉澤はそんな事言うてくれるから
何か、泣きそうやった。
10 名前:片道切符。11th. 投稿日:2002年11月02日(土)13時36分20秒
今まで、心のどっかで少し不安やった。
愛とかって結局終わりのあるもんやからってどこかで諦めとったから。
やけど、こんなに近かった。
吉澤と私の心は、私が思てる以上に近くにあった。
終わりのない愛もあるんやないかなって思える。
せやから、それでええやん。
何かを間違っとるかもしれん。
人から見れば幸せなんかやないんかもしれん。
それでもええ。
それでもええやん。
それでも、これが吉澤と私の幸福な結末やから。
      END
11 名前:片道切符。-フィナーレ- 投稿日:2002年11月02日(土)13時43分18秒
片道切符なんやと思ってたって吉澤は言うてた。
吉澤の愛が私の元へ届いた所で、その愛が折り返して
吉澤の元へ返ってくる訳やない。
このまま終着駅に着くんやって思ってたって。

吉澤がその掌に握り締めとる片道切符と同じのんを私も買うて
同じ電車に乗った。
窓の外のは、出逢った頃の2人や、
吉澤が告白して来た日や、
私が吉澤を選んだ日とかがいっぱい映っとって
その間を電車は駈け抜けて行く。
同じ終着駅へ向かう2人を乗せて。
     END
12 名前:後書きと言う名の言い訳 投稿日:2002年11月02日(土)13時49分07秒
片道切符。11th.-幸福な結末-。フィナーレ。
を持ちまして終了に御座います。
最後までお付き合い頂いた読者のみなさん、
ありがとうございました。

勝手に次回予告

とにかくなかよしであると言う事は約束します。

お礼。
おまけ、上げときます。

終われてよかった。オニオンでした。
13 名前:運命。 投稿日:2002年11月02日(土)13時51分08秒
「好き」って言葉を聞くために恋愛してる訳やない。
このままずっと一緒におれるって思い込んでる訳やない。
ただ「好きです。」って差し出されたその手を取ってみたくなっただけ。
それだけ。
14 名前:運命。 投稿日:2002年11月02日(土)13時52分59秒
「好き。」って言葉を囁けば、別れずに済む訳じゃない。
結局心行き違ったら、二度と元通りに戻る事はないって知ってる。
ただ、今は、あなたの隣で幸福な夢を見ていたいだけ。
それだけ。
15 名前:運命。 投稿日:2002年11月02日(土)13時55分38秒
人を想い過ぎて、疲れ出してたら、
押し付けるくらいの愛が欲しいなって思い始めて、
そしたら偶然、押し付けるくらいの愛をくれる吉澤が目の前に現れて
一瞬で恋に落ちてしもただけ。
16 名前:運命。 投稿日:2002年11月02日(土)13時57分41秒
愛した数だけ愛してくれる。
愛された数だけ愛したくなる。
そんな恋愛がしたくて、それを満たしてくれるあなたが目の前にはいて
だから、この手を差し延べただけ。
17 名前:運命。 投稿日:2002年11月02日(土)13時59分33秒
必然的に出逢った訳やない。
偶然やった。
やから、こんなに今吉澤の事を好きなんは
私にとって奇跡みたいなもんやと思う。
18 名前:運命。 投稿日:2002年11月02日(土)14時01分12秒
あなたに出逢うためにここへやってきた訳じゃない。
ただ、偶然同じグループの中にあなたはいた。
だから、あなたの事をこんなに好きになってしまったのは
自分にとって奇跡みたいなものだったと思う。
19 名前:運命。 投稿日:2002年11月02日(土)14時02分03秒
今、こうして手ぇつないでるんは
奇跡みたいなもんやなって吉澤に言うたら
吉澤も、そう思うって。
20 名前:運命。 投稿日:2002年11月02日(土)14時03分16秒
ねぇ、中澤さん。
あなたは知っていますか?
奇跡が2つ重なれば
それは、運命に成るんだって事を。

END
21 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月02日(土)14時09分51秒
気がつけば二本目のスレですね。
この更新速度にカンパイ〜。尊敬です。
これからもマイナーCPのなかよし応援じてるので突き進んでください。
「運命」なんげに好きです。
22 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)16時26分43秒
本当に凄い更新速度ですね。
片道切符完結お疲れ様でした。
作者さんの短編もかなり好きです、頑張ってください。
23 名前:オニオン 投稿日:2002年11月03日(日)12時53分40秒
あのぉ、リアルとパラレル同時進行で作ってるんすけど
パラレルが調子いいんでそっちから
やっつけさせて頂きます。
終わったらリアル行きますんで。
あと、誤字・脱字は見てみぬふりしますんで。
どうしても意味不明って時は言ってください。訂正します。
では、スタートです。
24 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)12時59分37秒
秋の終わり。
私は駅の広場で立ち止まってた。

ここではいつも何組かのストリートミュージシャンが演奏をしてて
申し訳ないけど、その前を素通りしてた。
なのにその日は何故か、立ち止まってしもた。
きっとそれは秋のせい。
あまりにも悲しげな歌を葉っぱを失った木のふもとで歌ってるもんやから
つい、その似つかわしさに惹かれてしまったんやろう。
25 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時01分51秒

――「サヨナラ」
あなたが言った たった一言 
この一言が
僕の心を現実に引き戻す
あなたのいない現実に――
26 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時04分35秒
気が付けばもう、3、4曲が演奏されてて、
その間中、聞き入ってしまっとった。
よく考えてみれば、その曲全てが別れの歌やった。
友達や恋人に去られた人の歌。
このこは、誰かを失ったんやろうか…。
27 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時12分16秒
歌ってる声では、男の子なんか女の子なんかはよう分からんかった。
高くも低くもない、ただ、心地いい澄み切った声をしてた。
「お姉さん。自分の演奏は今ので全部です。
最後まで聞いてくれて、ありがとうございました。」
ずっとうつむいとったからよう分からんかったけど、
そう言うて顔を上げたそのこは思いの外、美少女やった。
「…こっちこそ、ええ歌聞かせてもらって、ありがとう。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
ニコッて微笑んで、ギターをケースの中へ仕舞って立ち上がった。
「毎日、ここで歌ってるんで、ヒマだったらまた聞きに来て下さい。」
「うん…。」
「じゃあ。」
って軽く会釈されて。
私はただ、そのこの背中を見送ってた。
28 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時14分26秒
それから、何となくいつもそのこの演奏を聞いてた。
私がそこに着くんが18時頃。
演奏が終わるんが20時を過ぎた頃。
恐ろしい事に私は、この寒空の下、
2時間以上もじっと聞き入っとる事になる。
29 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時20分28秒
何日かする内に、あったかい缶の紅茶や
コンビニで買うたあんまんを差し入れてあげたりするようになった。
「お姉さんだけですよ、そんなに優しいのは。」
って言うて苦笑する。
確かに、このこの演奏を聞いてる人の数は少なかった。
多くて10数人位しかおらん観客相手に
それでもせいいっぱい歌を唄い続けよる。
…私がいつも最後まで聞っきょんは、同情なんかもしれん。
やけど、同情だけで2時間聞いてられる程、自分はお人好しやないと思う。
やとしたら、何がこの足をここで留まらしとんやろうか…。
30 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時25分01秒
「次は新曲です。―地球―」
もひとつ不思議なんはこれ。
3日に1曲くらいのペースで新曲が出来よる事。
詞書いて曲書いてその歌覚えて、をするんにたった3日て。
どんな脳みそしてんねやろ。
すごい回転率ええやん。
それを本人に言うたら
「何か、湧いてくるんですよねぇ…。
若いから創作意欲が旺盛なんじゃないっすかねぇ。」
って人事みたいに答えよった。
31 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時29分10秒
私がこのこについて知っとる事は3つ。
1つ目が17歳って事。
2つ目が1人暮らし。
3つ目がこの後はバイトに行ってるって事。
名前も知らんし、よう考えたら全然何も知らんのやなぁ。
まぁ、ムコウも私の事はOLって事以外、あんま知らんやろうけど…。
32 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時32分42秒
やから、一念発起して、
いつもは行かん日曜日に16時頃行ってみる事にした。
案の定、あのこの姿はまだなかった。
もしかしたらこの時間もバイト入れてんのかもしれんし。
とにかくあのこが来るんを待ってた。
33 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時39分20秒
17時頃になってようやくあのこは現れた。
「今日和。」
先に私が気ぃ付いて声を掛けた。
「…こ、今日和…。」
そのこはびっくりして私を見つめとった。
「どうしたんですか?」
「んー、ちょっとな。」
「何ですかー。言って下さいよぉ。」
いつもと同じ場所。
いつもと同じギター。
いつもと同じマフラー。
いつもと同じように準備を始めてるんやろう。
「話が、したいなぁって思て。」
「話、ですか?」
「そう。あかん?」
「や、別にいいですよ。」
「今日バイト?」
「あぁ、今まで行って来てたんで、この後はないですよ。」
「せやったら後でええよ。歌聞いてるから…。」
34 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時46分28秒
一人ぼっちの日曜日を誤魔化しに来たんか、
それとも会いたくなったんかは、
自分でもよう分からんかった。
けど、その結論はひとまず置いといて
このこの歌を聞く事にした。
最初から聞くんは、これが初めてやった。
20時頃まで20曲以上を歌ってて。
時折70年代の歌のカヴァーも入ったりしながら。
けど、それでもそのこのオリジナルは17〜18曲あったと思う。
相変わらず悲しい歌ばっかりやねんけど
全く飽きる事はなかった。
曲調が急激に変化する訳やないから
それはきっと、その声のおかげやねんやろうと思う。
初めて足を止めたあの日から
その声の魅力が私の中で衰える事は未だないから。
35 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時51分08秒
いつもと同じ頃に演奏を切り上げて
「話、するんですよね?」
「ええの?」
「いいですよ。」
ギターケースを携えたそのこと駅の向かいにある喫茶店へ入った。
コーヒーと紅茶をひとつずつ頼んで。
「最近、お姉さんが差し入れてくれる影響で
紅茶がマイブームなんですよねぇ。」
って、毎日紅茶を飲んでる事を告げられた。
「飽きんの?」
「今の所全く。」
「…根性座った味覚しとんのやなぁ。」
「どんな味覚ですかっ。」
36 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)13時56分16秒
他愛ない話をしとったら
あんな悲しい歌ばっかり唄っとるこやとは思えん程『普通』やった。
「…何でいつもあんな悲しい歌唄ってんの?」
「――。そんなつもりはないんですよ。
作ってる段階では気付かないんですけど
知らない内にそういうのばっか増えて来ちゃってて…。」
意識的ではないらしい。
「そうやねんや。ワザトなんかなぁとも思ってんけど。」
…あ、目線が下がっとる。
この話はあんましして欲しくないみたいやなぁ。
37 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)14時04分34秒
「高校、行ってへんの?」
「行ってないです。
何か、協調性とか、周りとの調和みたいなのばっかり
押し付けられそうで…。」
あぁ、このこは腹決めてんねやなぁ。
夢がある人ってそういうん嫌うからなぁ。
「自分の信じとるもんを信じて
自分が感じる事、思う事を大事にしたいんやな?」
「そうです、まさに。
すごい。よく分かりますねぇ。」
「…私の周りにも、夢追いかけよる人がおったからなぁ。」
「へぇー。その人、もう、夢叶えたんですか?」
「…。」
コメントしずらいなぁ。
…けど。
「それ、前の彼氏やねん。
別れたから、私には分からんのよ。」
「あ、ごめんなさい。」
「ううん、ええよ。もう、気持ちの整理ついてるし。」
私は、夢にも他の女にも勝てんかった…。
38 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)14時08分28秒
「…見る目ないですねぇ。
お姉さんこんなに美人なのに…。」
紅茶をかき混ぜながら、そのこはそんな事を言いよった。
「そんなん、美少女な自分に言われたら嬉しいわ。」
「…いや…。」
とんでもないですって首を横に振る。
「カオもやけど、声もええよなぁ、透き通る声してるもん。」
「そんな事言っても何も出ないですよぉ。」
せいいっぱいの照れ隠しなんやろう。
「嘘やないよ。私、その声に惚れてるんやから。」
…。あーぁ。黙ってもうた。
39 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)14時13分20秒
「…出ましょう。」
「え?あ、うん。」
何やろう、何か急に雰囲気が…。
伝票を持って行かれてしもて、
やけど、話掛けにくい感じがしとって
仕方なくそのこの後を追いかけた。
店を出た所でそのこは振り返って
「…去年、ライブ始めた頃は、2人だったんです。
だけど、彼女はもういないんです。
去年の暮れに、ここに来る途中、
事故に遭って…。
彼女もあなたと同じ科白を言ってたんですよ…。
その声に惚れてるって…。」
「…。」
「そんな事ないのに…
あっちの方がよっぽどいい声してたのに…。」
40 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)14時17分58秒
…泣いてた。
まだ、それから1年も経ってない。
それにこのこはまだ17歳やし…。
きっと、その現実は重過ぎたんやろう。
―私はそのこを抱き締めてた…。
「…ごめんな…。」
私の腕ん中で微かに首を振る。
「…誰かに…聞いて…もらいたか…たから…。」
悲しい歌の全部がそのこのためやったんかもしれん。
きっと、歌唄う度に思い出してたんやろう…。
ひとりで抱え込んでたんやろうから
その悲しみは計り知れんもんやったんやろうと思う。
41 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)14時24分29秒
「…自分の…せ…で…。
彼女の…両…親から…
この…世界から…私が…彼女…奪い…」
「そんな事ないって。
そのこを失ったんは自分も一緒やんか。
大事やったんやろ?
自分もそのこのためにイッパイ泣いたんやろ?」
きっと、そのこの両親から責め立てられたんやろう。
それで、自分でも自分の事責めて…。
「私が保障したる。あんたは悪くない。
もう、十分背負い込んだやろ。
もう、ええねんって。」
そんな科白で救ったげられるかは分からんかったけど
少しでも楽にさしたげたかった。
「…。」
42 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)14時29分52秒
そのこの涙が収まるんを待って、手を離した。
「…すいません…。」
何に対してかは分からんけどそう謝られた。
「…。明日も聞きに来るから。」
そのこの頭を軽く撫でて、帰ろうとした。
「…。あのっ。」
「んー?」
「ありがとうございました、お姉さん。」
せいいっぱいの笑顔でそう言う。
まだ、目は真っ赤なままやいうのに…。
「…私、あんたのファン1号になってええ?」
「え、あ、はい。」
「せやったら。
私は中澤裕子や。覚えといてな。」
「はい。…私は吉澤ひとみです。」
「ひとみちゃんやな。
ほな、また明日な。」
「はい。さようなら。」
43 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月03日(日)14時32分40秒
私が彼女の歌声に惹かれて立ち止まった日が
スタートラインに立った日なんやとしたら
これが第1歩目で、
ようやく私等の時間は動き始めたんやろうと思う。
44 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月03日(日)18時55分17秒
せつないなかよしイイッス。
45 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月04日(月)12時25分15秒
君の綺麗な声がする。

すごく(゚∀゚)イイ!!!
ファン2号名乗りたいくらいですw
46 名前:オニオン 投稿日:2002年11月04日(月)12時52分24秒
お褒めにあずかり光栄です。
自分の書くパラレル駄目なんじゃないかと
思ってたので有難いです。
では、続きです。
47 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)12時56分44秒
翌日。
いつもの時間に駅に行ったら、彼女の姿はちゃんとあった。
ひょっとしたら来おへんのちゃうんかなって
内心不安やってんけど。
今、彼女の歌を立ち止まって聞いてんのは7人。
高校生っぽい制服のカップルと、
若いサラリーマンの兄ちゃんが2人。
それと女の人の3人組がおる。
いつもと同じような観客。
その輪の中へ私も肩を並べた。
48 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時02分43秒
相変わらずええ声しとる。
乾燥した空気ん中を彼女の歌声が駆けて行くようやった。
『サヨナラ』や『忘れられない』って言葉が頻繁に出てくるのに
心が洗われていく気がした。
「次でラストです。」
…やっぱり、あっという間に2時間は過ぎて行って。
寒いとか感じとるヒマもない内にラストの曲になる。
ギターを弾く手や髪の間から覗く耳が真っ赤になってて
時折吹く風が彼女の髪とマフラーを揺らす。
そんなんは気にも止めず、俯いたまま歌を唄う彼女。
いつもと同じやった。
49 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時09分01秒
やけど、少し違っとたのは、その彼女の隣に
未だ見ぬ少女が座って歌を唄ってるみたいな
錯覚がする事やった。
昨日、彼女に話聞いた影響やろう。
どんなこなんかは全然分からんのに
何でか、髪の長い女の子が歌っているように見えた。
「終了です。ありがとうございましたぁ。」
っと、トリップしとる間に終わってもうた。
何人かおった観客の人は皆歩みを始めて去って行った。
1人残った私は彼女に声を掛けた。
「お疲れさん…。」
「…今日和。」
「元…気…?」
「んー…そこそこっす。」
そこそこ、か。
ギターを仕舞い終えたら、両手を口元に持って行って
ハァッて息を吹きかけよる。
50 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時13分51秒
「…手ぇ、大事な商売道具やろ?」
私は自分がしとったマフラーを取って
彼女の両手にぐるぐる巻き付けた。
「気休め。」
「お姉さん、寒いでしょ。」
「大丈夫やで。」
困ったカオして見上げて来るもんやから
私も困った。
「…手袋、買ったげてもええ?」
「はい?」
私はそのこの前にしゃがみ込んで
マフラーに包まれとる手を握った。
「いい人ぶらせて。」
「…。」
そしたら、マフラーで繋がれて切れ口がなくなった両腕を
私の首に回して来た。
力を入れてその手を引っ張るもんやから
すごい近くにそのこのカオがあって…。
51 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時18分32秒
「…どうしょう…。」
「何をな?」
「裕子さん、似てるんすもん。」
自分のおでこを私のおでこにピタッとひっつけて。
「このマフラー…彼女がくれたんすよ。
去年の、クリスマスに…。」
『彼女』が誰を指しとるかは訊かんでも分かった。
あかんなぁ、また思い出させてしもたやん…。
「その声、潰さないように、ノド、大事にしてねって…。」
「……。」
52 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時25分50秒
…踏み込んだげた方がええんかもしれん。
せやったら…。
「――さっきな、ひとみちゃんが唄んよる横に
髪の長い女の子がおった気ぃしてん。」
「…髪の、長い…。」
「せやねん…。」
「…ごっつぁん…。」
…やっぱ、あのこがそうやってんや…。
「…2人で、やってんねや。
ひとみちゃんと、そのこと、今でも2人でやってるやん。」
「ごっつぁん……。」
53 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時31分56秒
「忘れる事ないよ。2人で見とる夢なんやろ?
せやったら、2人で追い掛けたらええやん。
私にはちゃんと2人に見えたで…。」
「…ほんと…?」
「ホンマやって。
せやから、その心ん中におるそのこと
歌、唄い続けてええんやで。」
めいいっぱいも力で抱き締めたげた。
「…裕子さん…。
ありがと…。」
微かにやけど、確かにそう言うてくれた。
「…いつか…裕子さんに
聞いてもらえたらいいなぁって思う曲があるんです。」
「うん…。」
「…私の心が…私の心の中にいるごっつぁんが
許してくれたら…その曲…唄わせて下さい…。」
「うん。楽しみにしとるから…。」
54 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時36分02秒
その日から数日後、私は彼女に白い手袋をプレゼントした。
「まじっすか?いいんすか?」
って喜んではいてくれよった姿が
彼女にしては珍しく歳相応に見えて、嬉しかった。
いつも、何か、大人びとる表情しとるから
そういうんを見るとホッとする。
「じゃあ、お礼に人生初のラブソングを。」
この前言うてたんとは違う歌らしいねんけど
彼女がそんな歌を唄うって事はすごい進歩やと思う。
55 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時38分55秒

「大切」が募って「好き」になる
君以外何もいらないと言える

「会いたい」が募って愛になる
僕以上君を想う者はない

君のために生きたいと願う

切なくて 抱き締める
愛しくて 息が詰まる
果敢なげに君が微笑むから
僕の胸は言葉を失くす
56 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時43分12秒
…普通やん。
うわぁ。普通にラブソング作りよった。
「何や、全然いけるやん。
完璧ラブソングになってるやん。」
「そうっすか?よかったぁ。」
ってテレ笑いしとる。
「…一応、裕子さんに捧げる歌なんすよ…。」
「へぇー…。」
って、はい?!
「いい恋してねって事で。」
あぁ、そういう意味な。
「私、そんなに愛に飢えてそうに見えるんかなぁ。」
「…正直、すっごいヒマ持て余してそうっす…。」
「毎日ここに来とるからやろ?
それは、ひとみちゃんの歌聞きたいからやんか。」
57 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時47分50秒
「…じゃあ、彼氏出来たんすか?」
「…無茶言うたらあかんわ。」
「何が無茶なんすか。」
「別に。ひとみちゃんは彼氏おらんの?」
「…無茶言ったらダメっすよ。」
「…何が無茶なん。」
「ギターが恋人。」
「…寒っ…。
ギターは抱き締める事は出来ても
抱き締め返してはくれへんで?」
「じゃあ、お姉さんが抱き締めて?」
…このこ、一気に精神年齢下げよったな。
やめい、その上目遣い。
「なんてね。」
困り果ててもうた私を見て満足したんか
ニカッて微笑んどった。
58 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時51分21秒
「…大人をかろこうたらあかんよ。」
「子供にからかわれたらダメっすよ。」
言い返して来よる。
「…お仕置きや。」
ってほっぺにチュ―してやった。
「うわあ!!!」
何や、やっぱりただの子供やん。
「チ、チュ―した?!
今、チュ―しましたよねぇ?!」
顔真っ赤にして慌てふためっきょる。
「減るもんやないねんから、そんな慌てんでも…。」
「だ、だって、人生初なんすもん…。」
59 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)13時56分41秒
「人生初?
今まで付き合うた事ないん?」
「ないっす。」
「…じゃあ、ちっちゃい頃、お母さんとかが…。」
「うち、そういう家庭じゃないんで。」
「…。」
じゃあ、どういう家庭なんやろう。
普通の家やったら絶対する思うねんけどなぁ。
「何ですか?」
あかん、凝視してもうとった。
「いや、ピュアハート持っててええなぁと思て。」
「…はあ…。」
「あ、そういやもう19時やで。
ライブ始めんでええん?」
「あー…ホントですねぇ…。」
腕時計に目を落として
それから今度は私の方見て…。
60 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時01分13秒
「デート、しましょうか?」
「デエト?」
「そうっす。」
「何でな、急に。」
「ファン1号さんへの感謝デー。」
「…。」
「よし、決定。行きましょう。」
かなり強引に決められて、手ぇ引っ張られたから
諦めて従ったげる事にした。
最も、只今恋人募集中の私に
この後予定なんてある訳なかったけどな…。
「どこ行くん?」
何か、もう目的地は決まっとるみたいな歩き方やったから。
「あっち。」
って進行方向指差された。
分かっとるわ、そんなん。
61 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時04分21秒
大通りから路地へ入って、複雑に曲がり角曲がって
この街に住んどる訳やない私なんかは
行った事のない道をズンズン進んで行った。
さっきあげたばっかりの手袋をしとるひとみちゃんの手に引っ張られるまま
歩いて行っとったら、あるお寺の前で足取りが止まった。
62 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時09分39秒
「こ、ここなん?目的地…。」
お寺でデートかいな…。
「…もうすぐ、命日なんで…。」
…。そうか、もうすぐ年末やから…。
彼女の大事な彼女の…。
ホンマの命日はたぶん彼女の家族が来るやろうから
それを避けてんな。
「…私も、手ぇ合わせてもええかなぁ…?」
「…いいっすよ。きっとごっつぁんも喜ぶと思うんで…。」
よっしゃ。って覚悟を決めて
2人してお寺の敷地に足を踏み入れた。
―出来るもんやったら、聞いてみたかった。
ひとみちゃんとそのこが作り出す歌を…。
63 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時14分22秒
「ここです…。」
後藤家之墓って書かれたお墓の前で、ひとみちゃんが立ち止まった。
墓石には、真希という名前があって
去年の12月28日と、死亡した日付が刻まれてあった。
後藤真希。
彼女が、ひとみちゃんの相方やってんなぁ…。
大事な人を失くしたんが17歳のこやったら
その失った相手もまた、17歳やった…。
やりきれんかったやろうに…。
2人とも、苦しかってんやろうなぁ。
辛くて、悲しくて…。
64 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時18分24秒
私は手を合わせて思った。
彼女の代わりにはなられへんけど
それでも、ひとみちゃんの事を彼女の分まで支えたげたいって。
ひとみちゃんが彼女と2人で見た夢を叶える時を
この目で見届けようって。
「…裕子さん…。」
ひとみちゃんの指が私の目元を拭った。
あぁ、私、泣いてしもてんな…。
「ごめっ…。」
「ううん。」
って首を横に振って
「ありがとうございます。
私等のために、泣いてくれて…。」
って言うた。
65 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時22分35秒
「裕子さんって、心の優しい人ですね…。
出逢えたのが…あなたでよかった…。」
全然そんな事ないよ。
私はただ、ひとみちゃんの心の痛みを
ようやく少し理解出来た気ぃして、
現実目の当たりにして、事の重大さに
やっと、気付いただけやねんから…。
「ここ、出ましょう。」
来た時と同じ様にその手に促されてお寺を出た。
そのすぐそこにある道路の脇で
ひとみちゃんは、ギターをケースから出しよった。
66 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時25分50秒
「…。きっと、今なら大丈夫だと思うんで…。」
って前置きをして。
「2人で作った最初の歌なんです。
例えどんなに現実が厳しくても
諦めたりせずに、唄い続けようって。
きっといつか、誰かが認めてくれるって。
頑張って行こうって作った歌なんです。
聞いて下さい。」
67 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時31分47秒
小さな駅の片隅で
ひっそり歌を唄っています

過ぎ行く人の足音に
もみ消されてく歌唄いです

時折 足を止めてはみても
心に響く何はなくて
すぐに歩みを始めてしまう

君は今日もやって来ない
来るはずのない事くらいは
知っているけど それでも
最後の歌は君のために

家路を急ぐ人の背を
見送りながら唄っています

2人は未だ名前さえ
持たないただの歌唄いです

時折 誰か拍手をくれて
『負けるな』なんて言ってくれます
まるで自分を見てるかのように

君は今日もやって来ない
来るはずのない事くらいは
知っているけど それでも
最後の歌は君のために
68 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時39分03秒
「…私等、お姉さんの事を待ってたのかもしれないですよね。
あの頃、未来のいつか、
自分たちの事を認めてくれる人は現れるって信じてて。
あなたが来るのを待ってたのかもしれないですね。」

穏やかなメロディーが
リアルな歌詞が
澄み切ったその声が…
私の心を叩っきよる。
鼓動が速くなってく。
もっと、もっと、いっぱいにの人に聞いてもらいたい。
知ってもらいたい。
悲しい過去を背負って生きよるこのこの歌を
色んな人に伝えたいって思った。
「…自分等…ええ歌、作ってるやんか…。」
「ありがとうございます。」
深々頭下げられた。
「いつか…夢、叶えてや…。
日本中が、その声に魅了される日が来る事を待っとるから…。」
きっと来る。
きっとその日は訪れる。
私の心はそう信じた。
69 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時43分31秒
それから彼女は
悲しい歌も、明るい歌も、恋の歌も唄うようになった。
少しずつではあるけど
ひとみちゃんの心が上向いて行っきょんのを感じとった。
そして、雪の降り続く頃になると
彼女の観客は、以前とは比べ物にならん程に増えとった。
この駅周辺のストリートミュージシャンの中で
一番観客のおらん歌い手やった事のある彼女が
今はここのナンバーワンになろうとしとった。
70 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時47分05秒
前みたいに、彼女に声を掛けれる回数は減っって行ったけど、
それでもよかった。
私が声を掛けんでも、誰かがそうしよったから。
もう、私の役目は終わったんやと思う。
ひとみちゃんの心にあった闇を少しだけ散らせて
きっと本来そうであったやろう姿に
彼女を戻すんが私の役目やったんや。
やからもう、私の役目は終わったんや…。
71 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月04日(月)14時51分37秒
タイムリーな事に、この春には
私は移動になるのが決まっとった。
桜が咲く頃には、名古屋におる事になる。
ひとみちゃんにそれは告げんとこうと思う。
ズルイ大人やって思うかもしれん。
薄情な人やって思うかもしれん。
それでも、伝えたくなかった。
私のカオ見たら、また
あの頃を思い出すかもしれんから…。

その言葉通り、私は春になったら
何も告げずにこの街を出る事になる――。
72 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月05日(火)01時05分53秒
凄くぐっときました。
73 名前:オニオン 投稿日:2002年11月05日(火)12時44分03秒
そろそろお互い飽き始めて来た頃だと思うので
パラレルラストです。
どうぞ。
74 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)12時46分21秒
東京を出てから、いくつか季節が通り過ぎた。
名古屋での生活は以前とあまり変わらんもんやった。
あのこに出逢う前に戻っただけのようなもんやった。
75 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)12時50分34秒
会社の近くのマンションを借りたから
18時頃には家に帰って来て、テレビを見たり
DVDを見たりして過ごすだけの日々。
時々、会社の人に誘われて、ご飯食べに行ったり
飲みに行ったりもした。
けど、やっぱり何か物足りん気がした。
誤魔化そうとすればするほど、誤魔化し切れんようになってた。
あのこの歌声がどんだけ、このつまらん日々を
快適にさせてくれよったんかを痛感してた。
76 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)12時54分17秒
…行ってみよか…?
会社が終わってから電車に乗ったら
あの駅に着くんは20時を回った頃になるはず。
もし、まだあの駅でやりよんやとしたら
帰るか帰らんかくらいの時間や。
運が良かったら会える。悪かったら会われへん。
一目だけでもええから、彼女に会いたいと思った。
やけど、もう忘れられとるかもしれん。
なら、運試しや。
明日会社終わりで行ってみよう。
私は、そう決意した。
77 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)12時59分14秒
翌日。
何か変に緊張して昨日はあんまり眠れんかった。
小学生の頃の遠足の前の日の晩と同じ様な気持ち。
色んな事考えてしもて、不安や期待が頭ん中ぐるぐる回りよった。
会社へ行ってもそれは続いてて
コピーする資料を間違うたり
コンピュータ入力する時、
キーを打っては間違え、打っては間違えを繰り返したり
…考えればきりがないくらい手元が覚束んかった。
78 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時02分51秒
…私、ウキウキやん。
手元はわややわ、足元はふわふわやわで、
気分としては、初恋の人に会いまSHOWやった。
そんな気持ちのまま電車に乗り込んだ。
電車で揺られとる内に、夕陽は沈んで行って
窓の外は宵闇に支配されてしまった。
そしたら段々心も沈んで来て、
あぁ、もう会われへんのちゃうんかなぁって
考えてしまうようになった。
79 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時07分23秒
電車を降りる頃には月が昇ってて
気分は最悪まで落ち込んどった。
20時10分。
久しぶりに、この街に降り立った。
耳にはすぐ、誰かの奏でよる音が飛び込んで来た。
何組かの演奏が重なって聞こえてて、
そしたら、すごい懐かしいなぁって思った。
―そして私は歩き出した。
広場をぐるっと囲むように立っとる木の中で
一番ほっそりした木を目指して。
いつも、彼女が唄っとった場所へ。
80 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時13分48秒
…。歩っきょる途中で気ぃ付いた。
その木を照らす街灯の明かりの中に、彼女の姿は見えへんかったから。
やけど、立ち止まって引き返そうとは思わんかった。
青々とした葉っぱを付けて風に揺れる木。
私があのこに出逢った頃は葉っぱなんて一枚もなかったのに
冬を越えて、見違えるほど、立派に広葉樹になってた。
この木のふもとに座って、ギターを弾いて唄うひとみちゃんは
どんな歌を聞かせてくれるんやろう…。
出逢ってから数ヶ月しか過ごしてないっていうのに
ひとみちゃんの声は私の心に深く根を生やして存在しとった。
81 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時18分54秒
もう、帰ったんかなぁ…。
それとも場所変えたんやろか…。
街灯の明かりの中へ入って為す術なく立ち尽くしとった。
…人間って理不尽な生き物や。
会われへんて分かったら、どうしても会いたなるねんから。
…会いたい。会いたいねんって…。
「ひとみちゃん…。」
今、どこで何しよる?
今、どんな歌を唄んよるん?
…会いたい。そんで、声を聞きたい…。
「――はい。」
!?
後ろで声がしてた。
びっくりして降り返ったら、
今まさに一番会いたかった相手がそこにはおった。
82 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時23分01秒
「…な、何で…?」
「何でって、今呼んだじゃないですか。」
「…。」
「あーあ、美人が台無し。」
びっくりしたんと、会えて良かったってホッとしたんとで
涙が溢れてしもとった。
そんな私を見て彼女は苦笑しながらそう言うた。
「…久しぶりですね?一年以上振りかなぁ。」
見馴れたギターケースを足元に置いて
ポケットからハンカチを出して私に差し出した。
私はそれを受け取らんと、彼女を抱き締めた。
83 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時28分36秒
「…自分からいなくなっといて
再会したらいきなりセクハラですか?」
冗談めかして言うて、私を抱き締め返してくれた。
「ホントはもう帰る所だったんすよ。
だけど、駅の方から美人なお姉さんが出てきたから
見に行こうって思ったら裕子さんなんで、びっくりしましたよ。」
「…今…何しよん…?」
「ここで、唄ってますよ。
あと、インディーズでなんですけど、CD出せる事になったんですよ。」
「嘘!?」
「嘘って…。それでもファン1号ですか?」
「ごめん…。でも、ほんまな?よかったなぁ…。」
やっと、世間に認められてんや…。
84 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時32分28秒
「ね、背ぇ伸びたと思いません?
一年で2センチ伸びたんすよ。」
「うん…。分かるで…。」
「19歳にもなったし。」
「…そうなんや…。」
あの頃まだ、17歳やったのに…。
「…大きなったんやなぁ…。」
歳も、背もそうやけど、顔つきとか、心が大人になってる気がした。
私の知らん一年の間に、彼女はどんな経験をしたんやろう。
どんな事を考えて生きよったんやろう。
どんな歌を唄ってたんやろう。
85 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時36分27秒
「…埋められんなぁ…。」
この一年を埋める術なんてあるやろうか。
私には見当たらへんかった。
「埋められますよ。簡単じゃないですか。」
やのに彼女はそう言うた。
「どう、やって…。」
「もうずっと一緒にいればいいだけじゃないっすか。
この先ずっと。」
ずっと、一緒に…。
「正直、めちゃくちゃ寂しかったんすよ。
突然裕子さんいなくなるから、あぁ、捨てられたんだなぁって。」
「ごめんなぁ。」
「でも、それで気付いたんです。
私、裕子さんこ事が好きなんだって…。」
「ひとみちゃん…。」
86 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時42分14秒
「だから、いつかまた会える時が来ると信じて
その日まで、いっぱい成長して、
もうずっと離れたくないって思われるくらいになってようって。」
……。
「…せやったら、大成功やわ。現に今、もうその手離して欲しないもん。」
どこで、愛に変わったんやろう…。
同情でも友情でもない。
これは恋で、愛なんやってなったんはいつの事なんやろうか…。
でも…。
「裕子さんが好きです。」
ひとみちゃんがそう言うから、
もうそんなんどうでもええやんて思った。
「私も好きやで…。」
2度目のキスはほっぺにではなくて、唇にやった…。
87 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時45分18秒
それからひとみちゃんは週末はうちに泊まりに来るようになった。
本気半分、冗談半分で
「一緒に住む?」
って訊いてみたら
「邪念が入って歌作れなくなっちゃいますよ。」
って丁重にお断りされたけど。
コンポにはいつも同じCDが入れっぱなしになってて。
ひとみちゃんの声が一日中聞けるから
毎日会えんでも大丈夫やった。
88 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時50分30秒
でも、やっぱり生で聞く彼女の声は格別で。
「裕子さん、まだ私のCD入ってるじゃないっすかぁ。
たまには別の歌聞いたらどうっすかぁ?」
文句も許せる。
「ええやん。好きやねんもん、ひとみちゃんの声。」
「何か、有難味が減りそう…。」
「そんな事ないよぉ。生声は別。別物や。」
「とか言って油断させてどうする気ぃっすか?」
隣に座っとる私に全体重かけて来よった。
「重いがな、潰れるぅ…。」
ってわざと前に崩れ込んだ。
89 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時54分41秒
「…押し潰しちゃえ。」
人の背中に胴体乗せてきた。
「痛いって。ほんまに潰れてぺったんこになったらどうしてくれるん。」
「スクラップとして埋立てゴミに…。」
「鉄くずか?私は。」
「うそうそ、そんな事しませんって。」
「…やったらのいて。」
「やだ。」
「可愛げのない奴め…。」
「よく言いますよぉ。こんなに愛くるしいのに。」
「何て?」
「プリチー。」
「…。」
「あれぇ?違いましたかぁ。」
体をのけて今度はカオを覗き込んでくる。
90 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)13時57分09秒
「…ええわ。もう、何でも。
プリチーでもビューティーでも何でも…。」
「あぁ、今私との会話の成立、諦めたでしょう?」
「ええから、1人でしゃべっときって。」
「ひどーい。また見捨てられた。」
「違うって。その声聞けるだけで私は幸せやねんから。」
91 名前:君の綺麗な声がする。 投稿日:2002年11月05日(火)14時02分06秒
「…。声だけが好きなんすか…?」
「えぇっと、話し声やろ、唄い声やろ、
叫び声やろ、泣き声やろ、それから…。」
「いいっす。もういい。
分かりました。声だけって事はよく。」
「そうか、じゃあ、これ聞こうで。そんで唄って。」
って私はCDの再生ボタンを押した。
数秒間の前奏があって。
「さんはいっ。」
私の掛け声でひとみちゃんも唄い出す。
CDのひとみちゃんの声と本物のひとみちゃんの声が重なって
ひとみちゃんの綺麗な声が部屋を支配して行ってた。
        END
92 名前:後書きと言う名の反省文。 投稿日:2002年11月05日(火)14時05分38秒
もう、パラレルには手を出すなって感じっすよねぇ。
すいません。
次からはリアルで行きます。
って事でリアルへのリハビリ作品(自分的に)を4つ上げときます。
これで今までの事は忘れて下さい。
オニオンでした。
93 名前:愛しき人。 投稿日:2002年11月05日(火)14時08分00秒
あなたのその手の中
ずっと眠り続けたい

あなたのその愛に
抱かれて眠りたい

もっと もっと
一番深くまで堕ちて

もう二度と
目覚めたくはない

あなたの愛に
抱かれたまま死にたい

END
94 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月05日(火)14時08分00秒
読者はまったくもって飽きてませんです!!!
「君の綺麗な声がする。」かなr
95 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月05日(火)14時12分38秒
レスの途中でエンターおしちゃいました(w

読者はまったくもって飽きてませんです!!!
「君の綺麗な声がする。」かなり好きな作品です。
つぎは何がくるのか楽しみです。
関係ないけど、昨日は中澤さんの声の綺麗さにヤラレテきました(w
中澤さんがあんなに歌上手くなってたとはビックリです。(w
96 名前:青春とは何かについて考える(仮) 投稿日:2002年11月05日(火)14時13分19秒
中澤さんへのこの気持ち、
思春期っていうコトバの中にはないんです。
恋愛っていうコトバの中にあるんですよ。
憧れとか、そういうんじゃなくて、愛なんです。
愛したい、抱き締めたい、抱かれたい。
私の全てを壊して欲しいんです。
その目でその指でその唇で…
もう何も見えなくなってもいいんです。
最初からあなた以外の何も見えてはいないから。
瞳も心もあなただけを捕らえて離しはしないから。
あなたの全てを手に入れられなくてもいいんです。
ただ、私の全てを捧げたいだけだから。
END
97 名前:心の言葉。 投稿日:2002年11月05日(火)14時17分40秒
嫌って言うんやったらやめるよ
(やめられへんくせに)
待ってって言うんやったら待つよ
(そんな余裕ないくせに)
別れようって言うんやったら別れるよ
(手放す気なんてないくせに)
嘘でもええから愛してるって言うてくれたら他に何もいらんよ
(嘘なんかじゃ満たされへんくせに)

いつからやろう
ホントの気持ちを見せるんが怖くなったんは

あんたを失うんが
こんなに怖くなったんは…

END
98 名前:ココロ炎上。 投稿日:2002年11月05日(火)14時20分31秒
あなたに抱かれる夜は
燃え上がる炎のようなもの

あなたのいない夜は
燃え落ちた瓦礫のようなもの

体が熱くなる度に
心も熱を帯びて行く

この心の火を
ずっと絶えず燃やし続けたい

だからきつく抱き締めて…

END
99 名前:オニオン 投稿日:2002年11月06日(水)13時36分52秒
リアル長編、未だに行き詰まりをみせているので
取りあえず明日からはこんな感じ(↓)で行きます。
題して「吉澤さん奮闘記」
細々とスタート。
100 名前:偽装結婚。 投稿日:2002年11月06日(水)13時44分48秒
中澤さんは常々結婚したいとおっしゃっております。
なので、中澤さん大好きっ子の吉澤さんは彼女のために
結婚式を挙げてさしあげる事にしました。
準備いち。
近くの野原(?)でスミレなどの花を摘み、花冠を作ります。
準備にぃ。
美術さんに頼んで(色目を遣って)手に入れた
白いレースのカーテンを手元に構えます。
準備さん。
出席者がいなくては味気ないので
娘。たちに出席をお願いします。
準備よん。
場所が確保出来なかったので
急遽式場に決まった娘。たちの楽屋を整理整頓します。
準備ごぉ。
何も知らずハロモニ。の収録にやって来た中澤さんを拉致し、
手元に用意してあります例のカーテンを羽織らせ花冠をかぶせます。
そして中澤さんがパニックに陥っている間に式場へと誘導します。
101 名前:偽装結婚。 投稿日:2002年11月06日(水)13時50分26秒
あらかじめお願いしておきましたので、娘。たちが一斉に
「裕ちゃん、おめでとう。」
「おめでとう、よっすぃ〜。」
「よかったね、結婚式挙げれて。」
などと、祝福してくださいます。
中澤さんを手に入れたい吉澤さんの願いと
結婚したい中澤さんの願いが同時に叶ってしまうという
超画期的な式となり、その場にいた全員が感動に包まれ
涙、涙で終わる予定でした。
…しかし、残念な事に
「ウチが欲しいんは男っぽい女やのうて
少々女っぽくてもええからとにかく男なんやー!!」
という中澤さんの一言で吉澤さんの想いは無残にも
打ち砕かれるという結末で幕を閉じる事となってしまいました。
END
102 名前:偽装工作。 投稿日:2002年11月06日(水)14時29分30秒
挙式大作戦の大失敗から一週間が経過いたしました。
全く反省の色が見えない吉澤さんは次の手を考えました。
まず、中澤さんのマスコット・矢口さんに
中澤さんを屋上に呼び出していただきます。
その間に娘。の楽屋をもぬけの殻にします。
すると、いくら待っても矢口さんは現れず、
おちょくられたと怒り爆発で中澤さんは娘。の楽屋に乗り込んで来ます。
103 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
104 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
105 名前:偽装工作。 投稿日:2002年11月06日(水)15時47分51秒
しかし当然、広々とした楽屋には人っ子1人見当たりません。
そこで、通りすがりの吉澤さん(作為的)が声を掛けます。
すると、どうでしょう。
まぁ、こんな所で娘。に会えるだなんて。
と、大喜びで感謝されるという手順で御座います。
が、しかし、あくまで予定は未定と申しますか
吉澤さんは
「私の矢口をどこに隠したんや。」
と、詰め寄られ、責め立てられてしまったではありませんか。
こんな安直な方法では中澤さんの心をゲットする事は出来ないようです。
…吉澤さん、また次の作戦を考えましょうね。
END
106 名前:偽装相談。 投稿日:2002年11月07日(木)12時49分32秒
皆様、冷静になって考えてみましょう。
大切な事を忘れていたではありませんか。
中澤さんはかわいいのがお好き。
という事をきれいさっぱり忘却の彼方に捨て去っていました。
なので今回は少し方向を変えて
年下という武器をフルに使い
落とそうという作戦で挑戦する事になりました。
107 名前:偽装相談。 投稿日:2002年11月07日(木)12時54分58秒
「夜、ひとりぼっちで寝るのが怖いんです。」
寂しそうな表情をして、最高に甘ったるい声で
吉澤さんはそう言いってみました。
「誰かが傍にいてくれたらいいのに…。」
と、もう一押ししてみました所、
「せやったら、石川に添い寝してもらい。」
と、中澤さんの中で吉澤さんは石川さんと公認カップルに
なってしまっているという事実が発覚してしまいました。
その上さらに
「あんた、まだまだ子供やなぁ。
ウチは1人じゃないとよう寝れんのようなぁ。」
と、絶対一緒に寝ては頂けない、
天と地がひっくり返ってもありえはしない
という確信まで頂いてしまいました。
END
108 名前:偽装接吻。 投稿日:2002年11月07日(木)12時58分30秒
大発見です。
なんと、矢口さんは中澤さんよりも吉澤さんの事がお好きらしいのです。
なので、吉澤さんは先週中澤さんには全く通用しなかった
甘えた声で、自分とキスして欲しいとおねだりしてみました。
二つ返事で了承して頂き、わざわざ中澤さんの目の届く範囲内で
実行させて頂いた所、中澤さんは
口をあんぐり開けているではありませんか。
これはチャンスです。
吉澤さん、チャンス到来ですよ。
109 名前:偽装接吻。 投稿日:2002年11月07日(木)13時02分22秒
「吉澤とキスすると矢口さんの味がお楽しみ頂けますよ。」
と、素敵な誘い文句を吉澤さんは披露致しました。
すると中澤さんは
「あーあ、次矢口とチュ―する時は
吉澤と間接キスする羽目になってもうた。」
と、おっしゃるではありませんか。
…無駄だったようですね。
今回はせっかく妥協してキスだけでも手に入れようとしていたのに
またしても上手くは行きませんでした。
また、作戦を練り直しましょう、吉澤さん。
END
110 名前:偽装図式。 投稿日:2002年11月07日(木)13時06分22秒
復習です。
中澤さんは矢口さんが大好きです。
今回はそれをだしに使う事にしました。
「矢口さんって他にお気に入りの人がいるみたいですよ。」
と、吉澤さんは中澤さんに出来るだけソフトに且つ明確にお伝えしました。
「だから、中澤さんも他に目を向けて…。」
まだまだ吉澤さんの話は途中なのですが
吉澤さんの言葉を遮って、中澤さんは
「誰や、そいつは?いっぺんいてこましたる。」
と、すごい形相でおっしゃいました。
111 名前:偽装図式。 投稿日:2002年11月07日(木)13時09分51秒
…吉澤さんは悟りました。
絶対、死んでも口を割ってはいけないと、
その相手が自分である事は墓場まで持って行こうと
固く心に誓いました。
吉澤さん自身の存続が危ぶまれますから。
そして、吉澤さんはひとつ、お勉強を致しました。
『友情から愛情へ』の方程式は
滅多な事では成り立ちはしないものであるという事を。
END
112 名前:偽装幸福。 投稿日:2002年11月07日(木)13時15分26秒
吉澤さんにはどうしても気になって仕方ない事がありました。
それは、矢口さんと中澤さんはもう愛の契りを
結んでしまったのかという事です。
それを確認するために、吉澤さんは矢口さんに詰め寄り
吐かせた所、どうやら手遅れな状態だったらしいのです。
つまり、平たく申しますと
抱いちゃいました、抱かれちゃいました、美味しく頂きました
という事であります。
ならばと吉澤さんも矢口さんを抱いてみる事にしました。
申し訳無いのですが矢口さんは吉澤さんの好みのタイプではないので
終始、中澤さんの事を思い描いて抱かせて頂くという形になりました。
113 名前:偽装幸福。 投稿日:2002年11月07日(木)13時18分30秒
どうした事かえらいもので、顔も声も似ていないのに
中澤さんを抱いているかのような気がするではありませんか。
理由は簡単です。
それは、矢口さんの体が中澤さんを知っているからなのでしょう。
まぁ、理由はともあれ
当分誤魔化せそうな道具が見付かり
吉澤さん的にも大変満足のいくものだったようです。
END
114 名前:偽装逃亡。 投稿日:2002年11月07日(木)13時22分12秒
今回の作戦は『あなたはドコへ?』です。
つまり、ハロモニ。の収録の合間に姿を消してみましょうという訳です。
ただ単にいなくなったのでは
テレ東の七不思議・神隠し編あつかいを受けてしまいますので
とりあえず、娘。には居場所をお知らせした上で決行致しました。
心配して捜してくださいますよね?中澤さん。
115 名前:偽装逃亡。 投稿日:2002年11月07日(木)13時25分59秒
そんな吉澤さんの心とは裏腹に、収録が再開しても
気が付く気配すらありません。
業を煮やした安倍さんが
「よっすぃ〜がいない。」
とおっしゃって下さいました。
すると、耳を疑いたくなるような事なのですが
「あぁ、ほんまやなぁ。まぁええんとちゃう?」
と、中澤さんにあっさり流されてしまいました。
中澤さん、あなたにとって吉澤さんは
ま、いっか。程度の存在でしかないのでしょうか。
もし、本当にそうなのだとすれば大変ショックです。
END
116 名前:偽装遊戯。 投稿日:2002年11月07日(木)13時29分55秒
吉澤さんの近況を報告させて頂きます。
今回は矢口さんについてなのですが
どうやら吉澤さんとの愛の営みがクセになったらしく
最近の矢口さんは頻繁に吉澤さんを誘って来るようになっております。
吉澤さんも孤独な夜は大変お嫌いなので
そのお誘いを断ったりするはずがありません。
117 名前:偽装遊戯。 投稿日:2002年11月07日(木)13時34分14秒
しかし、抱いてはみたものの
以前のような速効性が失われているのです。
つまり、吉澤さん自身が頑張らなければ
中澤さんを抱いている気にはなれなくなってしまったという事です。
ただでさえ、妄想をお供に連れておりますのに
その上さらなる妄想が必要とされるようになったのです。
イメージトレーニングでもしろとおっしゃるのでしょうか…。
そうなってしまったのはきっと
矢口さんが中澤さんに抱かれる回数よりも
吉澤さんが抱く回数の方が
多くなってしまったからなのでしょうね。
END
118 名前:偽装失恋。 投稿日:2002年11月07日(木)13時39分48秒
反省しております。
少々手の込んだ作戦ばかりを練ってしまっていましたので
今日は正々堂々と告白するという手段を取らせて頂きます。
気が付けば毎週こういった行事を組んでいましたから
大事な事を見失う所でした。
吉澤さんも無駄な事に力を入れるのが
結構楽しくなってしまっているらしいので。
119 名前:偽装失恋。 投稿日:2002年11月07日(木)13時46分26秒
「好きです。」
遂に言ってしまいました。
思えば長い道のりでした。
遠回りをだいぶしてしまいはしましたが
ようやく吉沢さんの口からピュアな言葉が…。
ドキドキですね。わなわなですね。
中澤さんは何とおっしゃるのでしょうか。
「えーとぉ、まずは矢口やろ、それからあなっち。で、かおりん。
その次がごっちんで、あぁ、紺野も捨て難いなぁ、
で、石川やろ、高橋…。」
一体何の順番で名前を挙げていらっしゃるのでしょうか。
「で、高橋の次ぐらいが吉澤やな。」
成る程、理解する事が出来ました。
つまり、吉澤さんはどうでもいい位につけている、という事ですね。
そうですか、全く吉澤さんには興味がないのですね。
ですが、それくらいで諦める程
吉澤さんは聞き分けのいい子ではありませんから。
つづきますよ。
END
120 名前:偽装未来。 投稿日:2002年11月07日(木)13時51分48秒
吉澤さんと中澤さん。2人は手をつないで帰ります。
同じ家へと帰ります。
家に着きましたら、まず中澤さんはエプロンをつけて
夕食の準備に取りかかります。
その横で不器用な吉澤さんは
「何か、手伝いますよ。」
と、うろうろいています。
「すぐ作るから座っといて。」
なんて、スイートな科白が返って来て
吉澤さんはおとなしく席に着きます。
包丁とまな板の奏でる音が心地よく響き
まるで新婚さん、新妻さんのような中澤さんの後姿を見つめ
ただただ幸せを実感する吉澤さんなのです。
121 名前:偽装未来。 投稿日:2002年11月07日(木)13時54分05秒
…あくまでも吉澤さん妄想の一環として語られる
吉澤さんの中における中澤さんとの未来予定図なのですがね。
いつかそんな日が訪れるといいですね。
願っていますよ、中澤さんが吉澤さんの罠にはまる日が来る事を。
END
122 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月07日(木)14時25分27秒
偽装シリーズ。なんかイイ
偽装接吻→図式→・・・・・未来、と段々面白くなっていってる
次回も期待
123 名前:オニオン 投稿日:2002年11月07日(木)16時35分57秒
>>122
どうも有難う御座います。

だいぶ読者さんが離れて行っているっぽいので
ここら辺で好き勝手やらせて頂こうかと思います。
『偽装』が終わったらリアル中編です。
今月中に3本目立てたいのでね(無謀)。
明日も『偽装』です。
124 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月07日(木)18時36分14秒
>読者さんが離れて行っているっぽいので

そんなことはございません。ガッツリ見守らせていただいてます。
すっげおもしろい。
125 名前:名無し 投稿日:2002年11月07日(木)23時13分30秒
離れてませんよー!!応援してます☆
126 名前:偽装訓練。 投稿日:2002年11月08日(金)12時43分29秒
お気付きの通り、どうも作戦が上手く行きません。
そこで、相手を変えてみる事にしました。
つまり、吉澤さんの作戦がイケナイのか
中澤さんの鈍感さんっぷりがイケナイのか
白黒はっきりさせましょうという事で御座います。
今日の実験台は石川さんです。
お手頃な年上さんを捕まえてみましたって訳ですね。
「梨華ちゃん、寒いね…。」
と、吉澤さんは隣り合って座っていた石川さんに
体をピッタリとくっ付けてみました。
すると、なんとその吉澤さんの余りの可愛さぶりに
石川さんは吉澤さんを押し倒したではありませんか。
127 名前:偽装訓練。 投稿日:2002年11月08日(金)12時47分21秒
軽く説明しますと、
吉澤さんが下、つまり受って事です。
吉澤さん、受初体験しちゃいましたか…?
まぁ、この後どうなったのかは
とてもとても申し上げられはしませんが
皆様のご想像通りであるとだけ
申し上げさせて頂きます。
そして今回はっきりしました事は
やはり吉澤さんの作戦に抜かりはなく
中澤さんが鈍感さんであるという事で決着致しました。
END
128 名前:偽装愛撫。 投稿日:2002年11月08日(金)12時51分52秒
これはあくまで自主練習です。
この先いつ、中澤さんを押し倒せるチャンスが訪れるか分かりませんから
どんな場面でも対応出来るように
自主練習を行っておく事にしたのです。
今回、その自主練習の助手を務めてくれるのが高橋さん。
すこぶる気力を奪い去って行ってしまう
彼女の最強の武器・福井訛りを聞きながら
どれだけ吹き出しようなのを堪え
やってしまえちゃうものなのかを検証してみました。
129 名前:偽装愛撫。 投稿日:2002年11月08日(金)12時55分13秒
正直、大変手強い相手でした。
アクセントがどうといいますか、それ以前に
理解不能なジャパニーズが連発され、吉澤さんとしましても
外国に放り込まれたような錯覚さえしたそうです。
いやぁ、今回は大変勉強になりました。
色々な意味で、彼女はやり手ですよ。
気を付けましょうね、火の始末と高橋さんには。
END
130 名前:偽装成功。 投稿日:2002年11月08日(金)12時59分48秒
その日、吉澤さんは中澤さんの楽屋に呼び出されていました。
ウキウキ半分、ビクビク半分で入室致しました所、
何とびっくり、中澤さんが迫ってくるではありませんか。
遂に、遂に念願の一線を超える時がやって来たのですね。
やりましたね、吉澤さん。
と、思ったのも束の間です。
中澤さんが顔を近付けて来ましたので
当然、吉澤さんは目を閉じます。
しかし、一向にブツが当たって来ないのです。
あげくには何か、変な音がする始末です。
131 名前:偽装成功。 投稿日:2002年11月08日(金)13時04分00秒
吉澤さんがそぉっと目を開けてみました所
ケータイのカメラに収められてしまっていたのです。
そしてその映像を娘。全員に送り付けられるという
最悪の展開に御座います。
さすがの吉澤さんもこの不意打ちには
顔を赤らめるほかありませんでした。
…仕返し…でしょうか…?
吉澤さんも中澤さん程上手く
作戦を遂行して下さればいいのですが…。
悩みは尽きませんねぇ。
END
132 名前:偽装裕子。 投稿日:2002年11月08日(金)13時07分38秒
再び、吉澤さんの近況を報告させて頂きます。
今回は気になる方も多いかと思われます
吉澤さんのお部屋についてです。
皆様お察しの通り、吉澤さんの部屋には
等身大の中澤さん抱き枕が転がっております。
きっと、その枕をお抱きになり
日々妄想にいそしんでおられるのでしょう。
そして、懐かしいかな
今時天井にポスターを貼っておられたりします。
もちろん中澤さんのものです。
133 名前:偽装裕子。 投稿日:2002年11月08日(金)13時10分02秒
さしずめ、ベッドのお供に中澤裕子さん、という所でしょうか。
何だか少し、心配になってまいりました。
もしかしたら吉澤さんは中澤さんに抱かれたいだけであって
別に愛してくれはしなくても構わないのではないかと…。
そうではない事を信じたい次第で御座います。
END
134 名前:偽装交錯。 投稿日:2002年11月08日(金)13時13分03秒
さぁ、卑怯な手を使いましょうね。
今回は罠を仕掛けます。
まず、廊下に矢口さんを放り出します。
その後はただひたすらに中澤さんが通りかかるのを待ちます。
もちろん息を潜めて。
通りかかった所を捕らえてすかさず廊下の隅へと連れ込みます。
そしてそこで強引に奪っちゃいましょう。
というのが吉澤さんの仕掛けた罠です。
135 名前:偽装交錯。 投稿日:2002年11月08日(金)13時18分30秒
しかし、通りかかりました中澤さんの隣りには
何故か高橋さんが…。
忘れもしない自主練習の時の彼女の逞しさ…。
思い出しただけで腰が引けてしまった吉澤さん。
その間に矢口さんをかっさらわれてしまい
挙句の果てには高橋さんと2人
廊下に取り残されてしまう始末です。
高橋さんは『この前はご馳走様でした。』
と言わんばかりに微笑んでいらっしゃいます。
仕方なく吉澤さんも『結構なお手前で。』
と微笑み返すしかありませんでした。
…一体、自主練習の時に何があったのでしょうか…。
謎は深まるばかりです。
END
136 名前:偽装矢口。 投稿日:2002年11月08日(金)13時23分11秒
行く行くは実行して頂きたく思っております作戦が御座います。
それは『酔った勢いで押し倒されました。』です。
つまり、打ち上げなどの帰りを狙い
酔っ払ってしまわれている中澤さんに声を掛け
誘って、脱いで、やられちゃいましょう、という事です。
そのためには矢口さんになりすました方が都合が良く
日々、「裕ちゃん。」の練習に余念のない吉澤さんなのです。
137 名前:偽装矢口。 投稿日:2002年11月08日(金)13時26分40秒
しかし、ご自分でご自分の「裕ちゃん。」発言に照れる始末です。
なので、なかなか実行する機会は訪れません。
中澤さん抱き枕に「裕ちゃん。」と囁き掛けてはにやけ
正直ちょっと危ない人にしか見えません。
お願いですので吉澤さん、
もう少し、あと少しだけでいいので
やる気を見せて下さい。
どうしてもやられちゃうんだという気迫を見せて下さい。
お願いしますよ。
END
138 名前:偽装危機。 投稿日:2002年11月08日(金)13時30分22秒
何かを、狙っておられるのです。
石川さんの目が吉澤さんを食い入るように
見つめていらっしゃるのです。
吉澤さんも美人は大好物なので悪い気はしないのですが
とてともなく邪悪なオーラが感じられるのです。
そして気が付けば、他の娘。たちは
一足お先にスタジオへと向かわれたようで
この楽屋には吉澤さんと石川さんしか残っていませんでした。
139 名前:偽装危機。 投稿日:2002年11月08日(金)13時34分22秒
「ひとみちゃん、行こ。」
何処へですか?!
なんて、取り乱してしまいまして申し訳ありません。
勿論スタジオへですよね。
えぇ、分かっておりますとも。
差し出された手を吉澤さんが取りますと石川さんは
「一緒に…ね。」
と、耳元囁かれました。
とてつもなく意味深な気がするのですが
気のせい、思い過ごしである、
と処理しても構わないのですよね?
石川さん…。
END
140 名前:オニオン 投稿日:2002年11月08日(金)13時42分02秒
>>124
>>125
そうですか、まだいらっしゃいましたか。
すいませんね、毎回こんなとりとめがない駄文で…。

明日は『偽装』じゃなく中編の話になる予定です。
本日は撤収。
141 名前:オニオン 投稿日:2002年11月09日(土)13時58分32秒
「言いたかった言葉。」
スタート。
142 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)13時59分47秒

―中澤編―

中澤と矢口の恋は終わった。 

143 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時04分05秒

―1―

中澤に抱かれた後、矢口が小さく溜め息をついているのを知っていた。
眠ったふりをしていたけれど
中澤の耳にそれはしっかり聞こえていた。
  何か、あかんかったんやろうか…。
声にはならない言葉。
中澤はそれを口にした所で
矢口が何と答えるのか分かっていた。
  ううん、何でもないよ。ちょっと疲れただけ。
きっと矢口はそう答える。
そして中澤もそれ以上踏み込む事は出来ない。
144 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時06分43秒
一秒でも、一瞬でも、こうしていられる時間を
長く保っていたかったから。
もし、それを言ってしまったら
  もう、終わりにしたいの。
なんて言われてしまうかもしれない。
だとすれば、偽りでも誰かの代わりでもいいから
あともう少しだけでも一緒にいたかった。
145 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時11分39秒
そしてその溜め息の後、ケータイを見つめる。
誰からの連絡を待っているのだろうか。
そんな事までは中澤にも分からなかった。
その『誰か』からの着信はなかったらしく
そこでまた、溜め息をつく。
  誰を待っとんの?
中澤が一言そう訊けば
こんな関係はすぐにでも終わるかもしれない。
だから、訊かない。
何かを諦めたかのように布団に潜り込む矢口。
矢口の背中が中澤の方を向いている。
中澤はその背中を見つめ
どうか、離れていかんといて。
と、祈る事しか出来なかった。
146 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時12分41秒

―2―

2人の休日が重なったある日。
中澤は矢口を誘った。
しかし、矢口の答えは
147 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時17分00秒
NO.
だった。
「ごめん。今日は先約があるんだぁ。」
いつもなら、何を置いても中澤を選んでいた矢口なのに
そんな言葉が出る時点でおかしかったのだ。
中澤の誘いを断ってでも会いたい相手
それはいつも着信履歴の中に捜している人なのだろう。

148 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時21分16秒
そう考えた中澤は、矢口のマンションの前まで行き
その目で相手を確かめる事にした。
きっと相手は今風の若い男なのだろう。
そうなのだとすれば諦めもつく。
男に奪われるなら、勝ち目はないと思えるから。
現実を見つめて、矢口を自分の手の中から
解放してあげようと決意したその時だった。
マンションから出てきた矢口の隣りには見知った顔があった。
149 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時24分41秒
せっかく諦めようと思ってやって来たというのに
自分の敗北を認めようと思っていたのに
矢口と楽しそうに街へと消えて行くその相手は
安倍なつみ、その人だった。
中澤と矢口が付き合っている事を安倍が知らないはずがない。
中澤がどれほど矢口を好きかは、
安倍が一番よく知っている者の1人のはずなのに。
150 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時27分28秒
その場で安倍の手をつかみ、2人に問い質す事が出来たなら
どんなに楽になれただろうか。
しかし、それは出来ない。
独占欲の強い人だと思われたくはなかったから。
それはまるで矢口なしでは生きられないと
言っているかのようだったから。
そしてまた、中澤はひとつ言葉を呑み込んだ…。
151 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時29分42秒

―3―

あの日を境に矢口と安倍の関係は
明らかに親密になっていた。
矢口の視線が中澤の前を通過し安倍を捕らえる。
安倍の視線が中澤の存在をものともせず矢口を捕らえる。
152 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月09日(土)14時32分05秒
それだけで十分だった。
中澤には2人がどんな所まで行ったのか悟る事が出来た。
きっとこの日、もうすでに
矢口は決心していたのだろう。
中澤との関係を壊し、安倍と新しい日々を過ごす事を。
153 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月09日(土)19時52分47秒
今回は痛めですか。
そうですか。そうきましたか。

楽しみにしてます。
154 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)12時44分47秒

―4―

「今、時間ある?」
久しぶりの矢口からの電話だった。
近くまで来ているから出て来れないかと尋ねられ、中澤は
「ええよ。」
と、答えた。
あれだけ幸せだった矢口からの電話が今はこんなに辛い。
電話が掛かって来るという事は
矢口が中澤を手放す日がやって来たという事だったから。
155 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)12時49分47秒
出来る事なら掛かって来て欲しくなかった。
出来る事ならその電話を受けたくはなかった。
出来る事なら出て来たくはなかった。
けれど、矢口がそうしろと言うのなら、そうして欲しいのなら
何でも聞いてあげるのが中澤だから、嫌とは言わなかった。
これは最後の意地だった。
矢口が好きだと言ってくれた中澤はそういう人間だったから。
どんな願いも鵜呑みにする事が
矢口への忠誠の愛の証だったから。
156 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)12時52分48秒
中澤のマンションから徒歩5分程の所にある月極駐車場に矢口の姿はあった。
小さな街灯すらなく、ぼんやりと微かに姿が見える程度の場所。
それがせめてもの救いだった。
矢口の顔を見ずにすむから。
自分の顔を見られずにすむから。
157 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)12時55分18秒
幸せだった矢口との待ち合わせ。
いつも先に着いている矢口の姿を遠くから見付け
ただその姿を目掛けて駆けて行く瞬間が好きだった。
待ち合わせ場所にいる間だけは
矢口の時間が自分のためだけに時を刻んでいるようだったから。
158 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)12時58分39秒
だけど、初めてこんなに辛い待ち合わせをした。
これから自分に訪れる結末を、もうすでに知っているのに
トドメを刺すかのように矢口の口から聞かなければならない。
聞かなければ終われないから。
終わらせたくなくても、矢口がそうしたいなたら
何も言う事はない。
ただ、彼女の言葉にうなずくのみだ。
選択肢は一つしか用意されていないのだから。
159 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時04分58秒
「裕ちゃん、矢口さぁ…。
もう、こういうのヤメにしたいんだ…。」
知ってる。
「矢口ね…他に好きな人が出来ちゃったんだ…。」
知ってる。
「ごめんね、裕ちゃん…。」
分かってた。
謝る事なんてないのに。
矢口が求める時に傍にいて、離れたくなった時に去るのが
自分の役目だと中澤は知っていた。
だから…
「矢口がそうしたいんやったらええよ…。」
迷わずそう言えた。
  別れたくない。
  一緒におりたい。
言おうと思えば言えただろう。
だけど、その言葉は全て飲み込んで、心の奥深くに押し込んで
平静を装った声で賛同するのが
矢口の恋人としての最後の使命だった…。
160 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時06分12秒

―吉澤編―

吉澤と石川の恋は終わった。
161 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時09分39秒

―1―

石川が好きと言う度に、吉澤の視線は下へ下へと落ちていく。
ベッドの中で吉澤を見上げる石川の顔を見ると
吉澤の心も高揚していたはずなのに、いつの間にか
どんなに石川が声を出そうとも
どんなにせがんだ顔をしても
心の温度は1℃たりとも上昇しなくなっていた。
162 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時12分38秒
石川が自分の名を呼ぶ度に
大きな闇が迫って来るのを感じていた。
そして、吉澤の心は
あっという間にその闇の中へと呑み込まれていった。
漠然とした不安が体の細胞を隅々まで駆け巡って行き
心さえも蝕み、吉澤を弱くさせた。
163 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時15分24秒

―2―

愛が失われた訳ではない。
今でも石川に傍にいて欲しいという気持ちは変わらない。
けれど、彼女は帰る。
午前0時を迎えれば、必ず自分の家へと帰って行く。
「またね。」
と軽くキスをして。
何度か振り帰り、見送る吉澤に手を振って。
164 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時18分41秒
  帰らないで。
そう言えたなら、どんなに楽だろうか。
  離れたくない。
そう言えば彼女はここに留まるかもしれないのに。
それは言えない。
石川は必ず家へと帰る。
吉澤はそれを引きとめない。
だからこそ今までこうして
2人の関係は続いていたのかもしれないから。
もし、言ってしまって疎ましく思われたら
帰る所か、2度と彼女はここへは来なくなるのだから。
165 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時20分57秒
未来の事など、どうでも良かった。
ただ、今を守りたかった。
制限時間があったとしても
吉澤の元へやって来るという事が大事だったから。
もしも今、石川を失くせば、
吉澤の心は必ず使い物にならなくなるのだろうから。
166 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時22分57秒

―3―

脳がやめろと指示を出す。
これ以上一緒にいても自分は
石川の事を幸せにしてやれはしないんだからと。
踏み込む事が出来なくなった恋はもう
自分にとってマイナスにしかならないのだからと。
167 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時24分35秒
心がそれを否定する。
彼女が自分の全てなのに、石川を失くしたら
これから先、何を支えに生きて行けばいいのか。
どうやって1人で生きていけるというのかと。
168 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時27分19秒
心と脳がバランスを失くしてしまったから
吉澤の体は何も感じなくなってしまったのだろう。
手が触れただけで鼓動が高鳴っていたはずなのに
もう、あの頃には戻れない。
今でもこんなに好きなのに…。
169 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時31分11秒

―4―

神経が不安定なまま仕事をこなす吉澤に中澤は声を掛けた。
以前は片時も離れずにいたはずなのに
近頃2人の関係がギクシャクしている事に気が付いたからだろう。
「何か、あったんな?」
この時すでに、中澤と矢口の関係は終わりを迎えていた。
だから中澤は誰よりも早く
すれ違い出した吉澤と石川の関係に気付いたのだろう。
170 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時35分09秒
「別に、何もないっすよ。」
言えはしない。
自分でも考えかねているというのに。
「私はな、矢口と別れてんや。」
まだ、誰もその事には気付いていなかった。
中澤と矢口、そして安倍だけが知っていた事実を
吉澤は思いがけず知ってしまう。
冷められた中澤。
冷めた吉澤。
2人の立場は両極なものだった。
だからこそ分かりうるものがあるのだろう。
171 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時39分33秒
「…不安なんです。」
吉澤は1人で抱え込んでいたはずの闇を
中澤に話し始めた。
「梨華ちゃんの事を近くに感じれば感じる程、
血の気が引いて行くっていうか…。」
両方の掌を見つめ
まるでそこに終わりのない闇があるかのようにそう話す。
「満たされているはずなのに
全然、満たされて行かないっていうか…。」
一瞬だけ、その闇を忘れる事は出来ても
すぐに蘇り、そして新しい闇をも連れて来るような気がしていた。
172 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時41分45秒
「…分かるで…。」
中澤の手がやさしく吉澤の頭を撫でる。
そして一瞬、唇が唇を掠めた。
幻だったのかもしれないと思う程度に。
しかし、その瞬間、吉澤の中で何かが一つ
音を立てて崩れ落ちて行った。
173 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時45分16秒

―5―

答えはもう、決まっている。
石川の意見などくみ取る気も、聞く気さえなかった。
もう、一緒にはいられない。
心がようやくそう結論を出したから。
今言わないと、もう一生言えない気がした。
顔を見ると言えないかもしれない。
声を聞くと言えないかもしれない。
だから、メールを打った。
極力冷淡に。事務的に。
次、会う時にすがられたくはなかったから。
そんな事をされれば、心が揺らぐに決まっているから。
174 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時50分02秒
『別れよう。』
たった四文字だけを打ち、送信した。
その後すぐにケータイの電源をOFFにして
電話もメールも受信しないよう、机の引出しにしまった。
他に好きな人が出来た訳じゃない。
石川が駄目な訳じゃない。
ただ、心の闇を払うには
他に方法がなかったから。
石川を愛し過ぎたが故に生まれた闇は
石川を失う事でしか、消し去れはしなかったから。
その日、吉澤は1滴たりとも涙を流さなかった。
自分が泣いてしまったら
石川にも自分にも嘘を付いた事になりそうだったから。
175 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時52分12秒

―中澤と吉澤編―

『人』が空けた穴を埋められるのも『人』でしかない。
176 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時55分37秒

―1―

「別れました。」
吉澤は中澤に石川と別れた事を報告した。
「そうか。」
とだけ中澤は答える。
広げた雑誌から目が離れる事はなく。
端から見れば冷たい人だと思うかもしれない。
けれど吉澤には中澤のその態度がやさしく思えた。
張り詰めていたものが切れたように
吉澤の瞳からは涙が溢れ出した。
177 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)13時59分08秒
 泣き顔は見いひんから。
そんな言葉が聞こえて来そうだった。
 誰かに、もうええねんでって言って欲しかったんやろ。
そう言われているみたいだった。
吉澤の押し殺した泣き声と、
その雫が頬をつたい床に落ちる音と
中澤が雑誌をめくる音だけが楽屋の中で聞こえていた。
178 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時02分12秒

―2―

水曜日。
中澤が矢口と別れてから2週間。
吉澤が石川と別れてから1週間。
偶然2人共水曜日に別れたという事が分かり
シングル記念日と題し
2人で食事に出掛ける事になった。
179 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時06分43秒
街中で堂々と待ち合わせをし
歩いて目的の店へと向かう。
イタリアン。中華。フレンチ。割烹料理。
お洒落とされる店を何軒かあげたが
どれもシングル記念日には似合わないとして
決まった先がセルフのうどん屋。
シングルに相応しいというより
サラリーマンの昼食、といった気はしたが
2人共、初めてのセルフうどん体験に
意気込み十分で入店した。
180 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時13分20秒
うどん1玉100円。
ダシを注ぐのも自分。
ネギをのせるのも自分。
天かすを振るんのも自分。
トッピングに天ぷらを置くのも自分。
まず、そのセルフっぷりに驚き
会計の時に2人で500円玉1枚分の料金で足りる事に感動した。
矢口を失った事を、石川を失った事を紛らわすのには丁度よかった。
ざわついている店内が
慌ただしい大将の声が
留まる事なく入れ替わり立ち代り席に着く客が
心のマイナスな考えをも
掻き消してくれているようだった。
181 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時16分06秒
「…うまいやん…。」
「そうっすね…。」
中澤にしか話せない事がある。
吉澤にしか話せない事がある。
いっぱい聞いて欲しかった事があるはずなのに
あまりにも多過ぎて何から話せばいいのか分からなかった。
そして、他愛ない話だけが口を突いて出てくる…。
182 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時19分38秒
「…これから、どうしよか…?」
『これから』が指しているものは
この店を出た後の事なのか
それとも矢口を、石川を失った今
これからどうやって生きていこうかという意味だったのか
吉澤は考えあぐねていた。
「どっか、行く?」
答えは前者の方だった。
「…どこに、ですか?」
「…どっかに。」
中澤の返事は目的地ではなかった。
けれど吉澤はその言葉にうなずいた。
183 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時22分17秒
「そうっすね…。」
どこかを明確に言おうとしても、思い当たる場所全てに
矢口との思い出が刻み込まれていたから
そんな場所の名前を言う事は出来なかった。
吉澤もなた、ありきたりな場所は全て石川と行った事があった。
だから『どこでもないどこか』で安心した。
184 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時26分11秒
その会話から数分後。
店を出た2人は夕陽の沈んだ冬の街をあてもなく歩き出した。
閉店時間を間近にした道路脇の店内からは
流行歌が聞こえている。
そんな喧騒を避けるかのように
2人の足は郊外へと向かっていた。
さっきあれ程までに有難かった騒々しさが
今はもう、耳障りでしかなかった。
185 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時30分47秒
家の窓から洩れる明かりと
数メートルおきにある街灯の明かりだけが
2人とその行く先を照らしている。
星のない空を見上げて、中澤は言う。
「…こんな闇ん中におると
不安に蝕まれた心も見えへんな…。」
闇の中では、闇は見えない。
「…だけど、そこ空いた穴は
前よりももっと明確に見えてしまう…。」
心の中で唯一闇のない場所、それは
石川がいた場所だった。
でも今はもう何もない。
ぽっかり穴が空いてしまっているだけ。
風が吹き抜けて行くだけ。
186 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時34分57秒
「…どうすれば、埋められるんすかねぇ…。」
そんな術など、あるのだろうか。
隠してしまう事は出来ても
板を打ち付ける事は出来ても
完全に塞いでしまう事は出来ないだろう。
吉澤の心はそう思っていた。
「…いっぺん、捨ててしもたらええんやわ…。」
心を、捨てる。
「…どうやって、ですか?」
「…誰かと寝ればええねん…。」
それは卑怯な手だった。
寂しさを埋めるために誰かを利用したり
誰かを忘れるための道具にするのは
最も卑怯な行為だから。
187 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時38分23秒
「…中澤さんは、そうしたんですか?」
「…まさか…。」
中澤がそんな事をするような人ではない事くらい
吉澤も知っていた。
だけど。
「…やから、言うてんねや…。」
同じように塞ぐ事の出来ない穴が空いた心を抱えている2人。
つまり。
「…お互いを利用するって事ですか?」
「…せや…。」
188 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時42分07秒
吉澤の頭の中が、戸惑いを隠せないでいる。
だけど心はそうしてしまえと訴える。
「…私や、あかん?」
駄目じゃない事を、本当に中澤は知らなかったのだろうか。
それとも
「…そんな事、ないです。」
と、吉澤に言わせたかっただけなのだろうか。
再び歩き始めた2人の足はようやく
目的地を定める事が出来た。
中澤のマンションという目的地を目指して…。
189 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時45分37秒

―3―

中澤のマンションに辿り着いて
お互い少し沈黙していた。
もしそれでも無理だったとすれば
もう他に術はない。
もう手も足も出なくなってしまう。
それに脅えていた。
「…シャワー、浴びる?」
玄関を入って数歩目の所で中澤は振り返り、そう訊く。
けれど吉澤は俯いたまま返事をしない。
「…迷ってんの?」
迷っていないといえば嘘になる。
190 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時49分44秒
「…吉澤…。」
中澤の右手が吉澤の頬に触れ
顔を上げるよう促す。
ゆっくりと、中澤の唇が近付いて
凍え切った吉澤の唇を奪った。
触れた感覚さえないくらい
それを含めた体中が冷え切っていた。
その内に、触れている唇だけが温度を取り戻して
中澤の唇の感触を、感じられるようになって行った。
191 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時53分41秒
このまま、その手の中に落ちて行ってしまっても構わないと
吉澤の心は思った。
キスをしただけなのに頭の中はぼうっとなっていた。
長いキスから解放された吉澤の唇は
「…したいです…。」
と動いた。
初めてだったのかもしれない。
吉澤の方から誰かにそう告げたのは。
石川と付き合っていた頃でさえ
そうしようと言うのはいつも石川の方だったから。
192 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)14時58分00秒
無言のまま中澤は吉澤を奥の部屋へと誘導する。
吉澤をベッドに座らせて、押し倒す中澤。
押し倒されたのも初めてだった吉澤。
声を押し殺す事も
我慢する事も
感じる振りをする事もなかった。
吉澤を愛でる中澤の全てが
ゆっくりと、確実に闇を忘れさせてくれていたから。
そして中澤もまた、吉澤に愛される中で
『負』の考えに犯されていた心が
浄化されて行くのを感じていた。
193 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)15時03分40秒

―4―

吉澤はいつの間にか眠っていたらしく
目を開けた時には、時計の針が午前0時を指そうかとしていた。
「…起きたん…?」
ベッドの中で体を吉澤の方へ向け
中澤は吉澤の寝顔を見つめていた。
「…どうかしましたか?」
「…別に。ただ、相手の方が先に眠ってまうのって
久しぶりやったから…。」
いつも矢口はケータイを見つめていたから。
「…自分も、寝ちゃったのは久しぶりです…。」
いつも石川が帰るまでの時間を1秒すら惜しんで
見つめていたから…。
194 名前:言いたかった言葉。 投稿日:2002年11月10日(日)15時07分58秒
「…また、してくれますか…?」
「…そうやな…。」
「ずっと…中澤さんの手の中に、いたいです…。」
石川には一度たりとも言わなかった言葉。
「…私も、帰したないよ…。」
矢口には一度たりとも言わなかった言葉。
「…もう、離れたくないっす…。」
石川には一度たりとも言えなかった言葉。
「…離したないよ…。」
矢口には一度たりとも言えなかった言葉。
そんな言葉を今は何故か
こんなに簡単に言ってしまう事が出来た。
一番言いたかったはずの相手に
一度たりとも言えはしなかったのに…。

END
195 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月10日(日)15時09分47秒
作者さん、ありがとうございます。
タイムリーで読ませていただいてました。
このスレ、やっぱ大好きです。
196 名前:後書きと言う名の反省文。 投稿日:2002年11月10日(日)15時13分17秒
伝わりましたかねぇ…。
今までで一番有耶無耶な終わり方だったような気が…。
反省します、すいません。
反省ついでに明日予告です。
懲りずにまたパラレル作っちゃいました。
何か、パラレル楽しいだよね、これが。
本日は撤収です。オニオンでした。
197 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月10日(日)15時13分52秒
え???この話おわっちゃうんですか?
せっかく始まったと思ったのに〜!!!
続編希望×1000000000000000000000ジョウ
198 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)12時42分42秒
広い公園の中。
緑がいっぱいあって、その木々の囲まれるように道はあって
そこにはベンチとくずかごだけが置かれてて…。
何故か、若い女の子がベンチにではなく
くずかごを挟んだ反対側、つまり地面の上に座っとった。
履き潰された靴にジーパンとパーカー。
時折風が強なって砂塵がそのこの体を叩っきょった。
199 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)12時47分26秒
何か失望感みたいなんが漂ってきてて
私はつい、声をかけてしもた。
「何しとん?」
薄暗くなり始めていた景色の中
微かにそのこが顔を上げたんが見えた。
「…捨てられて…るんです…。」
「…。」
何に?誰に?
「…お姉さん、拾ってもらえませんか?」
前の発言の理解も済んでへんっていうのに
またしても不可解な事を言う。
「…拾うって…捨て猫とちゃうねんから…。」
「…そうっすか…。」
溜め息をつく訳でもなくそう言うて、また俯く。
200 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)12時51分13秒
このこ、ずっとここにおる気やねんかなぁ…。
「…もう暗なるで。帰らんの?」
「ない。」
「ん?」
「帰るとこがないっす。」
俯いたまま言うからこもった声になってて。
「親、心配してんで?」
「ない。そんな人、いないです。」
「…お姉さんの事からこうてんの?」
そのこの前にしゃがんだ。
「お姉さんこそ、拾ってくれないんだったら
構わないでよ。」
…もの言う時は相手の目ぇ見ぃ。
201 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)12時54分53秒
「やけど、連れて帰ったら私、誘拐犯になるやんか。」
「捜索願出す人がいないから大丈夫。」
…そういう問題か?
「…私が連れて帰らんかったら
ずっとここにおるんな?」
「…行くとこないっすもん。」
「…。」
この時、何でか私は
そのこの髪の毛にかぶっとる砂を払いながら
「…ええよ。一泊だけさしたげる…。」
って言うてしもとった。
202 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)12時59分19秒
家に着いてとりあえず風呂に入らした。
着とったもん全部洗濯して
新しい下着とパジャマを渡して。
風呂から出て来たそのこは
ガンガンに髪から水を滴り落としてるもんやから
タオルで拭いたげる羽目になった。
「うちのフローリングはやわなんやから
気ぃ付けてや。」
「…うん…。」
今、風呂から上がったとこやから
シャンプーとかのニオイがしてもおかしないのに
何か、無味無臭って感じがした。
不思議なこやなぁ…。
203 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時04分38秒
「…ねぇ、まだ…?」
「あ、ごめんごめん、もぉええよ。」
別ん所に心が飛んどったわ。危な。
タオルから手ぇ離した私の方をじっと見て来てて
「何?」
「…ありがとう。拾ってくれて…。」
なんてマジな顔して言われてしもた。
「…いつからこんな生活しよん?」
「んー…2年くらい?」
「…変な人に捕まったりせえへんかったん?
って言うか、よう今日まで無事やったなぁ。」
このデンジャラスシティー東京で。
「…別に無事じゃなくてもいいんすけどね…。別に。」
「…。」
「人間、死ぬ時は死ぬし。」
204 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時09分34秒
…だれや。こんな若いこにそんな事悟らしたんは。
「…後ろ向きやなぁ…。」
「…そうっすか…。」
って言うた後、大きなアクビしよった。
「眠いん?」
「んー…。」
「ええよ、ベッド使て。」
「…座ったまま寝れるよ?」
「そんな寝方されたら私が寝れんからやめて。」
ってベッドのある部屋に押し込んで
押し入れから自分用の毛布を取って部屋を出た。
それから私も風呂に入って、何をする訳でもなく
すぐにソファーに横になった。
その時まだ、9時頃やったと思う。
205 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時13分17秒
やから案の定、夜中に目ぇ覚めてしもた。
「…あかん…まだ3時やん…。」
っていうてももう6時間眠ってたんよなぁ…。
あぁ、そういやあのこ、ちゃんと寝てんのかなぁ。
何か心配になって、恐る恐るドア開けて中を見たら…。
カーテン全開のまま、外の景色をボーッと眺めとった。
ベッドの上に体育座りで。
206 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時17分38秒
「何しとんのよ。」
眠ってるんちゃうんかいな。
「あ、お姉さん。」
「あ、やないわ。寝れんのな?」
「んー…。」
「どしたん?」
私はベッドに近付いて、そのこの隣りに座った。
「…平和っすねぇ…。」
「平和かぁ?」
そら、世界で銃持たんと生きていけそうなんは
スイスと日本だけっぽいけど。
「…お姉さん、どうして拾ってくれたんすか?」
「あんたが拾ってって言うたんやんか。」
「…そうじゃなくて。」
「そうじゃなくて?」
「何も、しないんすか?」
「何もって、何をな?」
「だから、エッチとか、殴るとか…。」
「…。」
207 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時20分57秒
何や、それ。
「…何でそんな事せなあかんの?」
「…だって…。」
「――。今まで拾ってくれよった人は
そんなんさせよったん?!」
全然、無事やないやん。
「…だって、世の中、ギブアンドテイクでしょ?」
違う。そのギブアンドテイクは間違うとる。
「私は何もあげてへんやん。
やから、あんたも返す事ないねんで。」
「…もらったっすよぉ。」
「…何をな?」
「やさしさを。今。」
208 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時26分34秒
ヒドイ目に遭うてるいうのに
このこの心はまだ真っ白なままなんや…。
「だから、テイクしないと…。」
「ええねんって。」
「よくないっす。」
「…。」
以外と頑固やなぁ。
「…せやったら、ちゃんと眠って。な?」
「…うん…。」
「ええこや。」
私はそのこの頭を撫でた。
「…あの…。」
「ん?」
「…お姉さん、好きです…。」
「…ありがとう。
ほな、ちゃんと寝るんやで?
おやすみ。」
「…おやすみなさい…。」
今度は布団に潜るん見届けてからドアを閉めた。
次の日、朝日が昇るまでの間中
私の頭の中ではあのこの言葉が響き続けよった。
「…お姉さん、すきです…。」
まるで、何かの魔法みたいに…。
209 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時30分55秒
太陽の光が射し込んで来て
ようやくその声がおさまって
私は再びそのこの寝とる部屋を覗いた。
よう見えへんけど動かんから
ちゃんと眠ってんねやろう。
私はそのこを起こさんと朝食の準備を始めた。
って言うても食パン焼いてハムエッグ作るくらいやけど…。
最後に牛乳をコップに注いで、完了。
で、あのこを起しに行った。
210 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時35分40秒
「朝やでー。」
応答なし。
「起きなやー。」
…あかん、起きへんやん。
「なぁ、起きてって。」
仕方なく肩を揺すった。
「…うぅー…。」
「起きたな?」
「。。。はぁーい…。」
ムクッて起きあがって私の方見て
「おはようございます…。」
って言いよる。
素晴らしいマイペースやなぁ。
「ごはん、食べなな。」
「…。」
こくんとうなずく。
寝起きやとさすがに
昨日みたいな絶望っぽい感じはせえへんのやなぁ…。
「顔、洗っといで。」
私の言葉に促されるまま洗面所に向かった。
211 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時40分16秒
2人でごはん食べよったら、そのこは
「泊めてくれてありがとうございました。」
って言うた。
「…。戻んの?あっこに。」
「…うん。」
あかんなぁ、情が入って来よるわ。
昨日あんな事知ってしもたし…。
「…戻りたい?」
「んー…仕方ないっすから。」
全然表情変えんと言う。
…どうしよう。どないしょう。
このまま帰したら、またこのこは
誰かに拾われるんをひたすらに待って
捨てられたらまた待ってって
それ、繰り返すねんやろうなぁ…。
212 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時44分27秒
「…いいんすよ、それで。」
まるで私の心を見透かしたみたいに。
「お姉さんのせいじゃないっすもん。」
…。そう言われてもなぁ…。
「…昨日、私の事好きや言うてたやろ?
今はどうなん?」
「んー。好きっすよ。
美人。やさしい。」
「…ここにおるな?」
また、魔法が聞こえてきよる。
魔法が効っきょる。
「もうすぐ冬やで?
凍え死なれたら、困るし…。」
「…お姉さんに、関係ないのに。」
「あるよ、ある。
今、私の目の前にそんなこがおんねんから…。」
213 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時50分05秒
変な中年のおっさんに連れてかれて
やられてまうかもしれん。
そんなん考えただけでさぶいぼ出そうやわ。
変な若者に絡まれて、刺されてまうかもしれん。
そんな事で、このこにいなくなられたくない。
「…捨て猫、拾っちゃうタイプ?」
「…動物は苦手やから、拾ったげれねんよ。」
「…飼ってくれるんすか?」
「一緒に住むんや。人対人やねんから…。」
「お姉さん、何か悪いものでも食べたんすか?」
分かっとる。自分でもおかし気な事言いよるんは分かっとるって。
「…そうかもしれんな…。」
魔女が差し出した毒りんごとかな…。
214 名前:空き缶。 投稿日:2002年11月11日(月)13時51分11秒
その日以来、あの公園で
このこが誰かが拾ってくれるんを待つ事はなくなった。

END
215 名前:後書きと言う名の反省文。 投稿日:2002年11月11日(月)13時54分14秒
一度たりとも名前が出て来ませんでしたが
なかよしですよ、一応。
もっとしっかりラストを考えれる大人になりたいです。
以上。オニオンでした。
216 名前:オニオン 投稿日:2002年11月12日(火)12時35分28秒
言いたかった言葉。続編。
このスレを好きだと言ってくれたあなたと
続編を希望していただいたあなたに贈る。
そんな感じになっております。
スタート。
217 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)12時37分03秒
あなたに抱かれる度に、戸惑う。
体が、違うと叫んでいるかのようで。
あなたに抱かれる度に、思い知る。
体は、未だ彼女を求めているんだと。
218 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)12時39分23秒
心と体はもう諦めた。
彼女の心へ踏み込む事を躊躇い
そしてあなたに抱かれ、忘れようと決めた。
なのにこの体は、彼女の事を欲していた。
指が胸が唇が……
彼女の感触をあなたの中に見出そうとしている。
219 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)12時41分20秒
「…吉澤…?」
その後ろめたさから、視線を合わせないでいた私に
中澤さんは声を掛けた。
「…何も、ないっす…。」
私と天井との間にある中澤さんの首に両腕を絡ませ
強く、引き寄せた。
220 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)12時44分58秒
カーペットの上に散乱した衣服と
音を立てず時を刻む時計と
私を抱く、中澤さん。
ほんの数日前まで、矢口さんを抱いていた体。
ほんの数日前まで、梨華ちゃんを抱いていた体。
まるで磁石のS極同士をくっつけるかのように
強引に重ね合わせる体。
221 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)12時48分36秒
…あなたが抱いているのは本当に私?
私が抱かれているのは本当に中澤さん?
その疑問を掻き消すように
体を激痛が走り抜ける。
「…中…ざゎ…さ…。」
そんな時にでも思ってしまう。
いつか私は梨華ちゃんの名を呼ぶのではないかと。
けれどそれは中澤さんも同じなのだろう。
いつか、矢口さんの名前を呼ぶのかもしれない。
222 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)12時50分30秒
中澤さんに抱かれる事を認めようとしないくせに
反応する体。
中澤さんの手の中へ落ちてしまおうと決めたくせに
自分への言い訳を考える頭。
私は、最低な人間だ。最悪な人間だ。
223 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)12時52分43秒
「…好きやで…吉澤…。」
全てが終わった後で、中澤さんが必ず言う言葉。
…本当に、あなたは気付いていないのだろうか。
私の体が、あなたを拒もうとしている事を。
「…私も…です…。」
目を見てそう言う事の出来ない私なのに
本当に、これでいいのだろうか。
224 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)12時57分29秒
「…中澤さん…。」
「…何?」
「…矢口さんの事…もう、いいんですか…?」
私は中澤さんの横顔に問い掛けた。
「…何で、そんな事訊くん?」
「…吉澤はまだ…梨華ちゃんの事…。」
「…私は、もう、ええねや。
そら、まだ少し、引きずっとるかもしれんけど…。」
「…吉澤は、中澤さんに抱かれてるのに…。」
「…やから、あんなカオしとったんや?」
…やっぱり、気付いてたんだ…。
「すぐに、完璧に塞いでまうんは無理なんやから
少しずつ、塞いでったらええやん。」
「…でも…。」
225 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)13時00分40秒
どうして、そんなに冷静なんだろう。
どうして、そんなにやさしいんだろう。
「…私はな、あんたより大人やねん。
開いた穴の大きさは一緒でも
塞ぐ術を知らん吉澤と知っとる私とでは
ペースが違うんやから。今は、それでええんやって。」
…きっと、私は幸せになれる。
中澤さんといれば
きっと幸せになれると思った。
226 名前:やさしさをくれる人。 投稿日:2002年11月12日(火)13時03分53秒
「…いつか、中澤さんの事…
正面から、好きって言えるように、なりたいです…。」
「…待ってて、ええの?」
「…待ってて下さい。」
「…待つよ、いつまででも…。」
そう言って中澤さんは私をきつく抱き締めた。
私はその腕の中で思ってた。
いつか、この腕の中、愛する事、愛される事の幸福を
実感出来る日がくればいいのに、と。
END
227 名前:197ではありませんが… 投稿日:2002年11月12日(火)21時24分15秒
「言いたかった言葉。」がすごく好きな作品だったので
続編が読めてとても嬉しいです。
2人がいつか心からお互いのことを「好き」と言えるシーンが
見てみたくなりました。
228 名前:195ですが。。。 投稿日:2002年11月12日(火)23時33分14秒
なんか、心残りな切なさがいいです。とても。
ありがとうございます。
そして、すれちがいながらお互いを求めていく心の葛藤。ふたりによく似合います。
お疲れ様でした。
次回話の予告は???楽しみにしています。
229 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時33分19秒
中澤さんの手が私の視界を遮る。
「辛いのに、無理して見つめる事ない。」
梨華ちゃんを捕らえていた視線を遮る。
「…まだ、自分の事責めよんの?」
そう、これは自分への戒めだった。
230 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時35分47秒
勝手に愛する事を諦めて
勝手に後悔を続ける自分への罰。
もう2度と絡み合う事はないだろう
梨華ちゃんの瞳を見つめる事で
私の心に刺さっている棘を
もっともっと深くまで刺し込んで
その痛みで自分を正当化しようとしていた。
231 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時37分01秒
その度に中澤さんは手を伸ばし
私の視界から彼女を消し去った。
中澤さんの綺麗な指だけが
私の瞳には映る。
232 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時39分08秒
中澤さんは問い掛ける。
「何でそんなに自分の事責めるん?」
いつも、答えは同じ。
「…だって、私が悪いのに…。」
悪いのは私。
なのに傷付くのは彼女。
「そんな事ないよ…。」
中澤さんは抱き締める。
そして私は何も言えなくなる。
233 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時41分23秒
そのまま、中澤さんの楽屋へと連れられて
いつもよりも真面目な顔で
「恋愛って言うんはどっちが悪いとかやないねんて。
皆、一番幸せになれる、幸せにしたげれる相手捜して
付き合ったり別れたりを繰り返し¥っしょんやから。」
と言われた。
234 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時43分26秒
だけど、梨華ちゃんの事をすっぱりと忘れ
自分だけが幸せになっていいのだろうか…。
「幸せになる権利は、全員に平等にあんねんから。
吉澤かて、幸せになってええねんで…。」
そう言って私を抱き締める中澤さんの手が
少しだけ、震えていた。
235 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時44分31秒
梨華ちゃんを傷付けた私は
自分の事も傷付けて、そして
中澤さんの事まで傷付けてしまっていたんだ。
その事にようやく気が付いた。
236 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時46分35秒
「…私、いっぺんも吉澤の事
笑顔にさしたげれてないなぁ…。
いつも、辛い顔ばっかさせてしもとる…。」
中澤さんのせいなんかじゃない。
私が、楽しいとか嬉しいとかってキモチを
心の扉の奥に葬り去ってしまっていたからなのに…。
237 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時47分59秒
「…もう、やめますから…。
全部、やめますから…だから…
中澤さんも、笑ってください…。」
笑う事を忘れた私のために
笑う事のなかったあなた。
238 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時50分10秒
だけどもう、全部終わりにする。
梨華ちゃんを見つめる事も。
中澤さんを苦しめる事も。
全部、今日でおしまいにする。
239 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時52分53秒
「24時間、中澤さんの事だけを考えて
あなたと幸せになるために生きていきますから…。」
嘘じゃない。
だから。
「だから…これは…中澤さんとの
本当のファーストキスです…。」
自分から重ね合わせた唇。
中澤さんを抱き締める両手。
中澤さんだけを映す瞳と心。
私の全てがあなたを受け入れようとしている。
240 名前:愛したい。 投稿日:2002年11月13日(水)14時54分08秒
出口のない迷路に迷い込んだはずの心が
あなたのおかげで
今、ゆっくりと出口へと歩き始めていた。
END
241 名前:後書きという名の反省文。 投稿日:2002年11月13日(水)15時00分32秒
自分、幸せって言葉大好きだな。
他に何かないの?って感じですね。
あと、もうこのスレ終わりが近いっすね。
3本目まだ、何も決まってない。
切ないの書いてたから、気分滅入り気味でねぇ…。
明日、終わればいいな、このスレ。
って事で。オニオンでした。
242 名前:愛したい人。 投稿日:2002年11月14日(木)13時00分35秒
触れたがる。
最近の吉澤は中澤といる時はいつも
その腕に自分の腕を絡ませていた。
まるでそうしていないと
消えて行ってしまうと思っているかのように。
中澤がちょっと立ち上がっただけで
「どこ行くんすか?」
と問い掛ける。
トイレ。台所。コンビニ。自動販売機。
自分の目の届かない場所へ行く事を極端に嫌った。
243 名前:愛したい人。 投稿日:2002年11月14日(木)13時03分10秒
ただ、それは一緒にいる時に限っての事で
別れ際まで渋っているくせに
1人でいる時はそんなそぶりを見せなかった。
電話やメールも1日に数回だけ。
中澤は自分に甘えてくれているんだと思い
少し嬉しかった。
その反面、そんなに弱かっただろうかと
心配に思う部分もあった。
244 名前:愛したい人。 投稿日:2002年11月14日(木)13時07分03秒
「…何か、不安なん?」
思い切って訊いてみる。
「私、ここにおるし、ちゃんと吉澤の事愛してるで?」
「…うん…。」
吉澤はうつむく。
その表情を読み取れない。
「…嫌っすか…?こういうの…。」
絡めている吉澤の腕に少し力が入る。
「そうやないけど…。」
完全に支配してしまうのが怖かった。
吉澤の全てが中澤になろうとしているようで
いつか、離れ離れになる時が来たらまた、
あの時のように廃れてしまうのではないかと。
245 名前:愛したい人。 投稿日:2002年11月14日(木)13時10分25秒
「…結構、無理、してたんすよ?
冷静なフリするのとか、大人なフリするのとか…
だから…中澤さんといる時は…等身大でいようって思って…。」
弱い所も。寂しがり屋な所も。甘えたがりな所も。
中澤になら見せられると思った。
抱え切れない程、まっすぐな愛をくれる中澤に
長所も短所も見てもらいたい
全てを含めて自分だという事を知ってもらいたい
吉澤はそう思っていた。
246 名前:愛したい人。 投稿日:2002年11月14日(木)13時16分02秒
「…あと…。」
「ん?」
「…失くしたくないです…中澤さんの事…。」
「…そうか…。」
吉澤の体を抱き寄せる中澤。
「…吉澤は…中澤さんが…好きです…。」
いつも喉でつかえていた言葉。
口にしようとする度、自分の中で自問自答してた。
本当に好きなのだろうか。情に流されているだけじゃないのか。と。
だけどようやく声にする事が出来た。
吉澤の目の前数センチにある中澤の目を見て…。
ずっと聞きたかった言葉を耳にして
つい、笑みがこぼれてしまった中澤。
「…やっと、笑ってくれましたね…。」
2人の顔に笑顔が戻っていた。

END
247 名前:後書きでも…。 投稿日:2002年11月14日(木)13時26分04秒
最近、読者さんの波の上下が激しく
大変、ヘコませて頂きました。
それで鬱に陥った結果生まれたものもあるので
(言いたかった言葉。とか)
まあ、ヨシとしましょう。
3本目立てたらお知らせします。
いったん終了です。有難う御座いました。
オニオンでした。
248 名前:一号 投稿日:2002年11月14日(木)14時49分55秒
お疲れ様でした。
あまりレスはしてませんでしたが(申し訳)
ちゃんと全作品読ませていただきました。
特に最近の作品は自分のつぼに入りまくりだったので、お早い復帰をお待ちしています。
249 名前:名無し読者2号 投稿日:2002年11月14日(木)17時06分26秒
自分も全作品読ませてもらってましたよ
2号ではなく名無しでレスさせてもらったし。
なかよしは最近需要があるし結構沢山の人が読んでると思いますよ。
自分は作者さんの勢いを(更新の早さとか内容が大詰めだなとか)を
感じた時は勢いに水を差したくないので敢えてレスしませんでした。
特に「愛したい」「言いたかった言葉」が好きです。
これからも作者さんのなかよしについていく所存ですので(w
お帰りをまたーりお待ちしてます。
250 名前:次スレ 投稿日:2002年11月17日(日)13時23分53秒
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/wood/1037504808/

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