セルロイドエイジ 2
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月02日(土)21時34分14秒
- 緑板の続きです。
前スレ
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/green/1018362225/
引き続きマイペース更新になりますがよろしくお願いします。
- 2 名前:中澤 投稿日:2002年11月02日(土)21時37分18秒
--77--
あんな意味のない実験データなんて下らない物を盗み出したねずみは
今頃どうしているかな。
必死で頭を捻っているだろうか。
おそらく気づいただろう。
セルロイドエイジは違う世界の住人が起こした、気まぐれの産物だということに。
どうすればセルロイド製の時間からこちらの世界に引き戻してやれるか。
そんなことを考えているのだろう。
……紺野あさ美……調べるのに苦労した。
極普通の経歴の中に一箇所、普通でない事柄を見つけた。
紗耶香と圭坊はこの子がどういう人物かちゃんと知っていて
ここに連れて来たのだろうか。
彼女はこの“ゲーム”の勝利の鍵を持っている。
- 3 名前:中澤 投稿日:2002年11月02日(土)21時38分23秒
“あいつ”もセルロイドエイジの寿命を使い切るまであと僅か。
時間が動いてしまった今、ヤツはもう使えない。
邪魔なだけだ。
早々に消えてもらう。
コンコン。
軽い音が静かな部屋に踊る。
その訪問者は「遅くなってごめん」と息を切らせてドアの向こうで
私が扉を開ける許可を出すのを待っている。
予定時間を30分押しているが、大方、加護のことで切れた後藤を
なだめていたとかそんなとこなのだろう。
「遅かったな。入りぃや」
遠慮がちにドアが開いて紗耶香が部屋の中へ足を踏み入れた。
その表情は凛としていて、強い自分を無理矢理作り上げている感じがした。
- 4 名前:中澤 投稿日:2002年11月02日(土)21時39分49秒
「……何をするのかは大体分かってるよ。私が進んで買って出た役割だし。
早くしてくれる?」
「そう焦りなや。とりあえず実験室へ移動や。……その前に……」
抱きつくように手をまわし、ズボンの後ろのポケットから拳銃を奪い取る。
一瞬だけ気まずそうな顔をしてすぐに元に戻った。
「信用してないわけやないんやけど、一応な」
小さく頷いて「わかってるよ」と口だけ動かすのを見て、手を引いた。
紗耶香はそれを振り払おうとはせず、そのまま部屋を後にし大人しく
研究室へ向かった。
- 5 名前:紺野 投稿日:2002年11月02日(土)21時40分46秒
--78--
用意された部屋は全くの無防備な状態で監視カメラ等も一通り探してみたが
見当たらなかった。
「福田さんの部屋はどうでした?」
「ここと同じような部屋だった。防犯設備はこの鍵くらいしかなかったな」
そういってカード型の電磁ロック解除キーを白衣のポケットから取り出した。
そういえば、私がこの部屋に入れられたとき鍵は閉まっていたはずなのにも
関わらず福田さんは普通にドアをあけて入ってきていた。
「それって全部の部屋を開けられるんですか?」
ため息混じりに首を横に振る。
話によると、セキュリティーランクが階層でわけられていてそのフロア専用のキー
でしか開けられないらしい。
そのキーはここで一番偉い中澤という人が持っているので簡単には奪えない、と。
- 6 名前:紺野 投稿日:2002年11月02日(土)21時42分05秒
「紺野さんも多分もうちょっとしたら部屋を移されると思う。
“福田明日香”はセルロイドエイジだから矢口たちと同じ階へ
だから、その移動のときに何とかして鍵を奪えば……」
その鍵でセルロイドエイジを助け出せる。
「でも、セルロイドエイジをこっちの世界に戻す方法を……――」
この施設から脱出することばかり考えている気がするけど、本来の目的は
セルロイドエイジを元の世界の時間軸へ戻すことなのだから。
でも、どうすればいいのだろう。
黙り込んでいると、福田さんが白衣の袖を捲くりながら口を開いた。
「研究所を抜け出すんじゃないよ。中澤専用の研究室へ行くんだ。
そこに行けばセルロイドエイジを戻せるかもしれない」
「……根拠は……あるんですか?」
不安げな表情の私に福田さんは自信に満ちた笑みをくれた。
「紺野さん、お客が来たみたいだ。私は足手まといになると思うから
大人しくベッドの下に隠れてるよ」
鍵を奪って先へ進める状態になってから説明すると耳元で残して
福田さんは小さな体をすばやくベッドの下へもぐりこませた。
私だけが危険な事してる気がするのは気のせいだろうか。
- 7 名前:紺野 投稿日:2002年11月02日(土)21時43分05秒
聞こえないように小さくため息をついたのと、ドアが開いたのは
ほぼ同時だった。
「紺野、部屋を移すから……――ぐはっ!!」
「ごめんなさい!」
ドアが開くと同時にまず鳩尾に膝蹴りを一発。その後すかさず首に手刀をいれる。
流れるような攻撃にドアを開けた保田さんは成す術もなく倒れこんだ。
急所は外しておいたし、力も加減してるから意識はまだあるハズだ。
とりあえず上着から銃を抜き取ってこめかみに突きつける。
「痛ッ……もうちょっと警戒しとくべきだったか……」
苦痛に顔を歪めた保田さんが床に両手をついた状態のまま視線を向けてきた。
敵意が篭っていないのはきっと私たちに逆らう気がないからだろう。
それを承知の上であえて腕を捻り上げて部屋の中に引きずり込み、
外に人の気配がないのを確認してドアを閉める。
「今からいくつか質問します。それに正直に答えてくれますか?」
「わかった。わかったから!腕放して!痛いって!!」
- 8 名前:紺野 投稿日:2002年11月02日(土)21時43分53秒
無意識のうちに力が入りすぎていたようで本当にやばい角度まで
曲げてしまっていたことに気づき慌てて手を緩めた。
「あぁ!……ごめんなさい、痛かったですね……ホントすいません」
保田さんは涙目になっていたけど憎まれ口も非難の言葉も発しなかった。
悪あがきをする様子も泣く床にあぐらを書いて私からの質問を待つ。
「では、質問を。まず、福田明日香さん捜索を打ち切りにしたかったのは
何故ですか?私を福田明日香に仕立ててまでする理由を教えてください」
銃口はこめかみに固定したまま。
保田さんの表情は少し固い。
「明日香の捜索は打ち切ってないよ。裕ちゃんだけ騙せれば良かったから」
どういうことだろう。
上を騙せればいい……それは密かに組織に対立してるってことか。
でも何のために……
「私たちの目的はセルロイドエイジを普通の人間に戻すことなの。
本当は明日香も見つけ出したかったんだけど、事は急を要してるし
紗耶香ももう長くないし……だから明日香捜索は後回しにして研究を
進めてもらいたかったんだ」
- 9 名前:紺野 投稿日:2002年11月02日(土)21時46分36秒
目的は……私たちと同じだったのか……
保田さんの台詞の直後、ベッドの方から布が擦れる音がして
怒ったような表情の福田さんが出てきた。
「紗耶香が長くないって……どういうこと!?
意味わかんないよ!ちゃんと説明して、圭ちゃん!」
「――……明日香?なんで……」
突然目の前に現れた10年前の姿のままの福田さんを見て目を白黒させたが
白衣を見てすぐに気が付いたらしく、苦笑した。
「は……はははっ……そっか、やっぱ福井今日子は……
紗耶香の言ってたことは間違ってなかったんだ」
福田さんは早足でこちらへ来ていきなり髪をかきあげる保田さんの
胸倉を掴んだ。
無言で先程の説明を急かしている。
「紗耶香は……末期ガンなんだ……明日香と同じ、ね」
福田さんも?
初めて知った事柄に動揺して福田さんの方を本当なのかと問い掛けるように
見ると、ゆっくりと瞬きを一つしながら頷いた。
- 10 名前:保田 投稿日:2002年11月02日(土)21時48分15秒
--79--
紗耶香は福田明日香を探しているうちにセルロイドエイジという存在を知り、
明日香もセルロイドエイジになっているのではないかと考えるようになっていた。
セルロイドエイジはその年齢の上限より成長することはない。
本来なら死んでいるかもしれない明日香もその時間の中なら生きているかもしれない。
でも、いつまでも成長できない気持ちを考えると、その先の生が短くても
本来の時間軸に戻してあげた方がいいという結論を出した。
それは私も同じ考えだ。
ある日、紗耶香は突然吐血して苦しみながら意識を失った。
運ばれた先で判明した病気。ガンだった。それも、もう末期の。
今まで自覚症状はあっても病院へ行かなかったらしい。
なんでこんなになるまで放置してたんだと強く叱り付けると、苦笑いしてこう言った。
『時間が惜しかったんだよ。入院しても寿命はあんまり変わらないと思ったし』
どうしようもない馬鹿だ。
- 11 名前:保田 投稿日:2002年11月02日(土)21時48分53秒
入院先の病院はすぐに抜け出して、また明日香の捜索を始めた。
私は何度も紗耶香を止めた。でも、紗耶香は聞く耳もたない。
仕方なく私は紗耶香の意志を尊重することに決めた。
そんな中で裕ちゃん……中澤裕子に出会ったんだ。
セルロイドエイジの研究をしている事を知り、私たちもそれに協力する事になった。
福田明日香を探すついでに、裕ちゃんの計画を阻止しようと思ったから。
結果は見ての通り。結構な時間がかかったけど、こうして今わかっているだけの
セルロイドエイジを集めることが出来た。
でも、原因もどうやったら普通の人間に戻せるのかもまったく分からない。
紗耶香の時間はあと僅か。
だから藁にもすがる思いで裕ちゃんの人体実験の被験者になる事を決めた。
成功すれば自分のデータを元に何かわかるかもしれない。
失敗すれば死ぬかもしれない。でも、何もしなくても死ぬのだから関係ない。と。
- 12 名前:保田 投稿日:2002年11月02日(土)21時50分25秒
私はそこまで話すと、少し笑った。面白かったわけじゃない。
ただ、自嘲的な笑みが自然と浮かんできただけだ。
「もっとも、紗耶香は明日香以外のセルロイドエイジはあんまり興味ない
みたいだけど。実験に付き合ってもらう代わりに絶対に命は助けるってさ」
パシンッと乾いた音と共に左頬にひりひりとした痛みが走った。
明日香の平手打ちがきれいにきまった。
「……みんなに手荒な真似したお返し……紗耶香はぶん殴る」
「……うん。思いっきり殴ってやってよ」
やっと十年前の友達を思い出した気がした。
そのとき、紺野が思い出したように「あーっ!」と、か細い声で叫んだ。
- 13 名前:保田 投稿日:2002年11月02日(土)21時52分02秒
「愛ちゃんたち、ずっと外で待機してる……どおしよう」
外はマズイ。裕ちゃんがなんか“ねずみ退治用の客”を呼んだみたいだし。
見つかったらちょっとやばいことになるかもしれない
今から引き返しても途中で鉢合わせになる。
「……中の安全なとこにいてもらう方が良いかもしれないね。
今から門のロック解除するから、すぐに入ってもらおう。
あ、でもどうやって連絡……」
「連絡ならすぐできます」
そう言って紺野が通信機を取り出すのを見て、ここに連れて来た時
ボディーチェックを入念にしていなかったことを思い出し、やっぱり
私たちは詰めが甘かったなと少し反省した。
- 14 名前: 投稿日:2002年11月02日(土)21時55分57秒
- 本日はここまで。
読みやすいように視点変えの人数減らそうと試みてみましたが、
やっぱり減らせそうにないので、このちょっと読みにくいままの書き方で
続行させて頂きます。
こんなへたれな作者ですが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月03日(日)06時42分04秒
- やりやすいように続けてくらさい
色んな人の思惑が見えてきましたな…
- 16 名前:ひとみんこ 投稿日:2002年11月03日(日)09時12分15秒
- 引っ越しおめです!
これは引っ越し祝いの「娘。の掛け時計}です。
- 17 名前: 投稿日:2002年11月08日(金)22時10分34秒
--80--
「……もう我慢できんです……乗り込みましょう!」
「ちょっ、ちょっと!そうしたいのは山々だけど、紺野から連絡ないじゃない」
「あさ美ちゃんは絶対連絡するの忘れてるだけなんだから!
頭良いのにどっか抜けてんだもん!こっちから行動しないと留守番と一緒じゃない!」
石川さんの制止を振り払って車から降りる。
建物に向かって歩いて行くと、後ろから肩を強く掴まれた。
「……私が先に行く」
麻琴ちゃんがいつもの笑い顔で私の斜め前を歩く。
石川さんが後ろから話し掛けてきた。
「小川、高橋のためなら命捨てそうだね……」
- 18 名前: 投稿日:2002年11月08日(金)22時11分19秒
きっと、その言葉は間違っていない。自惚れとかそんなんじゃなくて。
それが私は怖かった。
私のために誰かが死ぬのも、私のせいで誰かが死ぬのも。
それでも、車の中であさ美ちゃんのことを考えながら待ってるだけは
我慢できなかった。
胸騒ぎが収まらないから。
もしもの事が起こったとしたら何もしないままだと、絶対に後悔すると思ったから。
「ん?ちょっと待って……車が止まった……」
麻琴ちゃんの声に顔をあげると、白い車が建物の脇に横付けされているところだった。
運転席側のドアが開き、誰か出てきた。
息を潜めて木の陰に隠れ、その様子を窺う。
ようやくハッキリとその人の顔が見えたとき、3人が同じように目を丸くして
驚いた。
だってその人は、石川さんの部屋で待機してるはずの飯田さんだったんだから。
- 19 名前:高橋 投稿日:2002年11月08日(金)22時12分33秒
「……――飯田さん!」
石川さんが味方を見つけてホッとした表情で飯田さんに駆け寄る。
言い知れない違和感を感じつつ私と麻琴ちゃんもそれに続く。
飯田さんは助手席のドアを開けようとした体勢で動きを止め、こちらへ向き直った。
「……石川……」
「どうしたんですか?紺野から何か連絡があったんですか?」
無表情の飯田さんが石川さんの問いに少し間をおいて答える。
瞬きもせずに、唇だけを動かして。
「紺野は……あんたたちにはもう帰れって伝えてってさ」
おかしい。
その連絡は私たちの方にするはずだ。
あさ美ちゃんが持ってる発信機も通信機もまだ生きてるのなら。
私たちの方の機械に故障したような形跡は見当たらない。
- 20 名前:高橋 投稿日:2002年11月08日(金)22時13分24秒
「でも、こっちには全然そんなこと……」
「直接言っても聞かないと思ったんじゃない?」
石川さんがうなだれて反論の言葉を考えている時、突然私のポケットから
雑音と共に何かが聞こえてきた。
『……あ……ちゃん……愛ちゃん、聞こ……る?』
通信機だ!
雑音に乗ってあさ美ちゃんの声が確かに聞こえた。
反射的にそれを取り出し、応答する。
「あさ美ちゃん!?」
『今から門のロック解除……るから……すぐに入っ……て来て……』
私たちの間を、不気味な空気が流れていくのを感じた。
「どういうことですか?飯田さ……っ!?」
- 21 名前:高橋 投稿日:2002年11月08日(金)22時14分06秒
問い詰めようとした石川さんに飯田さんが突然膝蹴りを入れた。
気を失った石川さんが地面に倒れこむ。
「なっ!?石川さん!!」
思わず駆け寄ろうとする私の視界に影が覆い被さった。
それを確認するように視線を上げると、飯田さんと目が合った。
次は私だ!そう覚悟して唇と目を硬く閉じる。
ガッと鈍い音が聞こえた。
- 22 名前:高橋 投稿日:2002年11月08日(金)22時14分50秒
……痛みがない……
ゆっくりを目を開けると麻琴ちゃんが私の前に来て
両腕で飯田さんの足を受けていた。
「私だって、これくらいは出来るんだから!」
痛みでちょっと涙目になりながら麻琴ちゃんが声を出した。
飯田さんを睨み付けながら。
でも、次の瞬間その目は大きく見開かれ、言葉を発する間もなく力を失った。
飯田さんの手には小さな護身用の武器が握られていた。
二つの短い金属の間をバチバチと音を立てて光る電気の糸。
素早い動作でそれは私の首筋に向かってくる。
『愛ちゃん?どうしたの!?』
先程より感度がよくなっている通信機からこちらの異常に気づいたらしい
あさ美ちゃんの声が聞こえる。
その声を聞きながら、私の意識は遠のいていった。
- 23 名前:紺野 投稿日:2002年11月08日(金)22時15分53秒
--81--
「愛ちゃん!?愛……」
通信機からガシャンという叩きつけられるような音が聞こえたのを最後に
向こうの音声は何も聞こえなくなった。
……どうしよう……私のせいだ。
やっぱり、こんなとこに来させるべきじゃなかった。
心の何処かで自分の力を過信しすぎていた。何があっても守れると思っていた。
私のせいで……私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで
私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで
私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで全部私が悪い全部私が悪い
全部私が悪い全部私が悪い全部私が悪い全部私が悪い全部私が悪い全部私が悪い
全部私が悪い全部私が悪い全部私が悪い全部私が悪い全部私が悪い全部私が悪い
全部全部全部全部全部全部全部
「紺野さん!」
- 24 名前:紺野 投稿日:2002年11月08日(金)22時16分42秒
肩を揺らされてハッとした。
私の肩を掴んだ福田さんがまっすぐな視線を向けている。
ぐちゃぐちゃになった私の頭の中はそれによって何とか持ち直すことが出来た。
「あ……ごめんなさい……」
「あなたの仲間に何かあったのは確かだと思うけど、まだ最悪の事態に
なってるって確定したわけじゃないでしょ?みんな一緒に助けれるから」
自信に満ちた感じは受けない。それでも、その言葉は心強かった。
そうだ。
まだ何とかなる。何とかできる。何とかしてみせる。
きっと、愛ちゃんたちも私を信じてくれている。
私が助けに行くと信じてくれてる。それに応えなきゃ。
「どうする?セルロイドエイジの部屋に行く?それとも、紺野の仲間を探す?」
- 25 名前:紺野 投稿日:2002年11月08日(金)22時18分15秒
「……安倍さんたちが先です」
本当は石川さんたちのことも心配だ。真っ先に探し出して助けたい。
でも、安倍さんたちを助け出せばいざという時セルロイドエイジが必要な向こう
相手に有利な交渉が出来る。
そこまで考えて、自分が嫌いになった。
セルロイドエイジを交渉の道具にしか見ていない……
結局、石川さんや、愛ちゃんたちが無事なら良いと思ってるんだ。
自分勝手でひどい人間。
「……大丈夫。紺野さんは“正しい”よ。私もあなたの立場ならそうすると思う。
セルロイドエイジは簡単には死なないから。もしものときは迷っちゃ駄目だよ」
福田さんは不思議な力がある。
セルロイドエイジの力じゃなくて、私の心に触れることが出来ているみたいに
私の必要としている言葉をくれる。
当たり前だ。お前は彼女の一部。
「――!?」
……なんだ?
- 26 名前:紺野 投稿日:2002年11月08日(金)22時18分58秒
今、頭の中に響いた声……私の声なのに、私じゃない誰かの声……
本当は気づいているくせに。
気付かない振りをしても、お前はお前の運命に逆らえない。
自分自身の力の意味を知ったときから、もう全て知っている。
……そうかもしれない。でも……
「……知ってても、さ……もう少し私は私のままでいたい……」
はっきりとした形は見えないけど、なんとなくわかる。
自分が何かに気付いていることも、頭に響く声の意味も。
本当は気付いてること、ちゃんとわかってる。
でも気付かない振りをさせていて。
もう少しだけで良いから。
- 27 名前: 投稿日:2002年11月08日(金)22時21分16秒
- 本日はここまで。
- 28 名前: 投稿日:2002年11月08日(金)22時24分30秒
- レス有難う御座います。
>15
そう言っていただけるとありがたいです。
お言葉に甘えて、やりやすいように続けさせていただきます。
>16
娘。の掛け時計 有りがたく頂戴します。
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月11日(月)02時45分43秒
- う〜む。紺野のフェイズ気になりますねぇ・・・
秘密有りげな・・
- 30 名前: 投稿日:2002年11月14日(木)22時29分59秒
- --82--
「裕ちゃん?早速ねずみを3匹捕まえたんだけど、どこに置けばいい?」
『エレベータで全員一番上の部屋まで連れてってくれるか?その一番奥の部屋に
適当に放り込んどいて。今ちょっと忙しいさかい、中入って待っとってな』
「わかった。早くしてね」
携帯の電源を切り、あたりを見回す。幸いエレベータは割りと近くにあった。
3人を引きずるように動かしてエレベータに乗せる。
気を失った人間は完全に力が抜けているため重い。力が弱い私は運び込み終えると
額にうっすらと汗がにじんでいた。
- 31 名前:飯田 投稿日:2002年11月14日(木)22時30分45秒
罪悪感が全くないわけじゃない。
でも、仲間意識は殆どなかったし、出会って間もない人間だ。
特別な思い入れもない。
完全に“壊さなかった”だけでも感謝してほしいくらいだ。
「……辻は……」
車の助手席で静かに眠る辻。
道中にジュースに混ぜておいた睡眠薬がよく効いているみたいだ。
辻にだけは見られたくなかった。
仕事をする私の姿を。
しかし、そばにいないと私の手の届かないところで何かされるかもしれない。
「目、覚まさないでね」
私は車から辻を降ろすとおんぶしてエレベータに向かった。
- 32 名前:飯田 投稿日:2002年11月14日(木)22時31分55秒
裕ちゃんは何を考えているのだろう。
一体、何者なんだろう。
私に仕事を紹介したのも、私の力を知っていたのも、辻の病気を治したのも、
全て計算の中に入っているような……このときがくるのを知っていたような……
いや、このときがくるように仕組んでいたような気がする。
まるで、手のひらで踊らされてるみたい。
「……胸糞悪い……」
エレベータのボタンを乱暴に押して吐き捨てるように呟いた。
- 33 名前:石川 投稿日:2002年11月14日(木)22時32分46秒
--83--
ここはどこだろう。
あぁ、また、あの夢の続きだ。
------
血まみれの部屋で二つの肉の塊を見下ろしている私が見える。
ふと振り返る。
手を真っ赤に染めた金色の髪をした鬼が、優しく笑う。
きれいだなぁ。
その顔は鬼ではなく、普通の端整な顔立ちをした女性のものだった。
「本当は、もっと一緒にいたかったんやけどな。家族として……」
私は言葉もなくただただ呆然と鬼の言葉を聞いていた。
「ごめんな、梨華。うち、あんたの運命を狂わせた……
本当はずっと前にあんたをこの世から消しておくべきやった……」
肩に置かれた手から記憶が流れ込んでくる。
- 34 名前:石川 投稿日:2002年11月14日(木)22時33分28秒
懐かしい光景だった。
生まれてから数年間だけすんでいた村の、集会所みたいなところだ。
そこで大人たちが数人集まって会議している。
力をあわせて、どうやって私をこの村から追い出すか。
『この子は災いをもたらす子なんだから早く始末しないと』
『災いなんて、そんな根拠もない不確かな言いがかりで!?』
『言いがかりなんかじゃない!根拠だって立て続けに起こった事件がある』
『そうだ!もう既に何人この子の周りで行方不明者が出てると思ってるんだ!?』
『この子の……梨華のせいだという確かな証拠もないだろう!』
- 35 名前:石川 投稿日:2002年11月14日(木)22時34分40秒
そうだ……思い出した。
私はお父さんとお母さんとお姉ちゃんと一家4人で暮らしてた。
私の周りでは昔から事件が起こってて……村では疫病神っていじめられてて……
そして、それをきっかけに一家は村に居場所を失い、比較的人の干渉を
受けにくい都会へ引っ越したんだ。
それから短い期間だったけど、4人で幸せに暮らした。
「……ごめんな、梨華……」
「お姉ちゃんはなんでお父さんたちを殺したの?私も殺すの?」
……私の問いかけに、鬼は持っていた刃物を床に落とした。
ポツリポツリと聞き慣れた関西弁がこぼれる。
「梨華の存在は許されるもんやない……でも、どうしても知りたいんや……
セルロイドエイジが何のために生まれるのか……不老は可能なのか……」
だから、まだ殺さない。自分は悪魔に取り付かれた、と。
- 36 名前:石川 投稿日:2002年11月14日(木)22時36分39秒
私が時間の軸を歪ませることが出来るのを知って、ある仮定を立てた。
それは無意識に私が作り出した時間の歪みに迷い込んで、一定の年齢の
幅でしか時間の動かない人間がいるいうとても現実とは思えない説。
そして、その研究の邪魔をしようとした石川夫妻を殺した。
やっとわかった……あの時のデジャヴ……何であんなに気分が悪くなったのか。
皮肉にも、私を追い出そうと画策している村の大人たちとそっくりだったんだ。
でも、私たちはあの人たちとは違う。助けるために力をあわせる。
- 37 名前:石川 投稿日:2002年11月14日(木)22時37分28秒
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腹部に鈍い痛みを感じ、瞼を上げると心配そうに覗き込む高橋の顔が見えた。
「――石川さん!よかった……凄いうなされてましたよ……大丈夫ですか?」
「うん、ありがと……えっと、ここは……そうだ飯田さんは!?」
起き上がりあたりを見回す。
高橋と小川、それに白い壁と10p四方位の小さな窓。目に付いたのはそれだけ。
何もない部屋。広さは……4畳くらいだろうか。
「わからないです。私たちも気が付いたらここにいて……」
飯田さんが敵だった……ということなんだろうか……
だとしたら辻ちゃんはどうなったのだろう。
それよりもここを抜け出すことを先に考えなきゃ。
- 38 名前:石川 投稿日:2002年11月14日(木)22時38分16秒
「ドアは……鍵が掛かってるね……体当たりしたらっ!」
短い助走をつけてドアに体当たりしてみるが、びくともしない。
反動で後ろに倒れこむ。かなりかっこ悪いなぁ私って。
年上なのに一番先に倒されてるし……車の運転も下手だし……
ネガティブになり、軽く凹んでいると目の前に手が差し出された。
小川のいつもの笑顔と共に声が降ってくる。
「大丈夫ですか?」
「あははっ、ごめんね〜。大丈夫だよ」
手を掴むと、ほんの一瞬だけ、小川の表情が硬くなったのを私は見逃さなかった。
もちろん、高橋も気付いたみたいだ。
二人で同時に小川の服の袖を肘のあたりまで捲り上げた。
「うあっ!?なにすんですかっ!?」
- 39 名前:石川 投稿日:2002年11月14日(木)22時38分53秒
両腕ともかなり腫れていて凄く大きな痣が出来ていた。
それは見るからに痛そうで、言葉がすぐに出てこなかった。
私の横で高橋が辛そうな顔をして震えた声で小川に言う。
「……痛いよね……ごめんね……ごめんなさい」
「や、その、べつにそこまで痛くないし……触らなけりゃ全然平気だし
愛ちゃんはなんも悪くないじゃん」
「でも!」
「私が自分の判断で行動したの。ちょっとカッコよかったでしょ〜?へへ」
小川がわざとふざけて笑う。
高橋も、これ以上そんな言い合いをするのは無駄だと思ったのか、苦笑して
その話題を口にするのを止めた。
- 40 名前:石川 投稿日:2002年11月14日(木)22時40分03秒
よくわからないけど、私が気絶してた間に小川が高橋を庇って負った怪我らしい。
ホントにすごく想われてるなぁ高橋って。
でも、高橋の口から出てくる言葉は大抵一つだけ。
「あさ美ちゃんは大丈夫かなぁ……」
小川……いい子なのにね……ちょっと同情しそう……
高橋が紺野の心配をするのを見て、いつものようにニコニコ笑う小川。
まるで、それを望んでいるかのように。
報われないからこそ良いヤツに徹することが出来るのかもしれないな、と思った。
- 41 名前: 投稿日:2002年11月14日(木)22時40分37秒
- 本日はここまで。
- 42 名前: 投稿日:2002年11月14日(木)22時43分50秒
- レス有難うございます。
>29
紺野の秘密はもうすぐ明らかになります。
今回はちょっと気合を入れるために早めの更新。ようやく終わりが見えてきました。
- 43 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月15日(金)02時48分10秒
- 最近小川が気になるのはきっとここの小川のせいです。
いい子なのにぃ〜切ない〜☆
終わりが見えるのは寂しいですけど、これからも更新楽しみに
まってます。
- 44 名前:中澤 投稿日:2002年11月18日(月)06時41分38秒
--84--
紗耶香と矢口が目を覚まさないうちに研究室を出て、すぐ横の自室へ向かう。
扉を開けると椅子に座った圭織が見えた。
そのひざの上にはもう一人小さな少女が眠ったまま座らされている。
「大きくなったなぁ、その子辻やろ?」
「……今回の依頼はねずみ退治でいいの?」
圭織は質問に答えることなく、仕事の話を催促した。
私はそれに頷いて答える。
「報酬は……辻の命に今後一切手を出さないことを約束するわ……」
圭織の表情は動かなかった。
ただ一言「それでいいよ」といって辻の頭を軽くなでる。
そのときだけ表情が柔らかくなる。まるで本当の母親のように。
- 45 名前:中澤 投稿日:2002年11月18日(月)06時43分04秒
「もうすぐや……もうすぐ時が満ちる……」
外は黒い雲の隙間からうっすらと月の光が漏れている。
全体の形は見ることが出来ないが、今日は満月。
あの雲の向こうには大きく光る円が確かにあるはずだ。
「月光症候群って知っとるか?」
聞いたことは有るが詳しくは知らないと圭織は首を振った。
ムーンライトシンドローム……月の光で人は狂う。
満月の夜は猟奇殺人、事故が増える。
満月の夜は自殺が増える。
満月の夜は火事が増える。
満月、新月時は精神病が顕著になる。
月の光によって人は狂気に目覚めてしまう。
「こういうのはどっかで聞いたことがあるやろ」
「うん」
そして、もう一つ付け加えた。
インドの言い伝えでは『妊婦が月光を浴びると生まれた子供は精神病になる』
- 46 名前:中澤 投稿日:2002年11月18日(月)06時43分42秒
「石川梨華は、満月の夜に生まれたんや。真っ赤な大きな月が見える夜に。
精神病や無いけどな……もっと厄介な力を持って生まれた」
それが、村を追われる原因になった。
彼女の力は『時間を歪ませる』それでその強い力に当てられた人間は時折
その歪んだ時間の中で迷子になってしまう。
「その迷子の名前は通称セルロイドエイジ」
そこまで言って、再び窓の外の月を見上げる。
今日の月はあのときの月とそっくりだ。
きっと大きな満月が赤い光を身に纏っていることだろう。
「全て、うちの計算通り……さ、カオリそろそろ出番や……
ねずみ退治は任せたで」
「…………」
「忘れなや。任務が終わるまで辻の心臓に仕掛けた爆弾の起爆スイッチは
うちの手の中にある」
- 47 名前:後藤 投稿日:2002年11月18日(月)06時44分48秒
- --85--
圭ちゃんがちょっと用事があるといって部屋を出て行ってすぐに市井ちゃんも
裕ちゃんに呼び出されているからと部屋を出て行った。
ひとしきり泣いて、落ち着きを取り戻した私は加護のいる自室へ戻った。
「加護……!動いて大丈夫なの?」
「……全部、思い出した……後藤さん、うちをセルロイドエイジのとこに
連れてって……鉄砲、一つ貸して」
さっきまでとは全く違う表情。
あまりにも鋭いその眼差しに逆らえずに銃を手渡した。
「……オートマのはないん?」
無言で頷く。本当は持っているけど、今の加護にそれを渡していいものか
どうか迷ったから。弾丸もその中に入っている分だけしかないと嘘をつき、
一応手首を痛めない持ち方を教えてあげた。
- 48 名前:後藤 投稿日:2002年11月18日(月)06時45分44秒
「セルロイドエイジのとこに行ってどうするの?」
「皆殺し」
にっこりと笑う加護は天使のように可愛らしい。その口から出た単語とは両極に。
「さ、とっとと連れてってぇな。詳しいことは道中話したる」
そうして、半ば強引にその部屋を後にした。
エレベータに乗ろうと思ったが、上の階で誰かが乗ったらしく少し待たなければ
ならない状態になったが、加護が「またなあかんのやったら階段で上がった方が
早いやろ」と言った為、私たちは急遽非常階段から上へ登ることに。
階段を駆け上がりながら加護が話してくれたことは、信じられない話だった。
- 49 名前:後藤 投稿日:2002年11月18日(月)06時46分20秒
新垣に殺されかけて精神的なショックから心を閉ざしているときに
今まで押さえつけられていた記憶を加護が自分の心の中で発見した。
加護は両親を生まれてすぐに亡くた。その両親はセルロイドエイジの研究を
していたらしい。叔父さんは有名な科学者だったけど、何を間違ったか
麻薬を作り出す仕事へと転換。その薬の実験台に加護を使っていたらしい。
そのトリップの中で加護はセルロイドエイジについて知った。
そして、セルロイドの時間の苦痛から楽にするため、セルロイドエイジの悪用を
防ぐためにもこの世からセルロイドエイジを消すと。
「でも、セルロイドエイジは治るかもしれないよ?」
それでも殺すというのだろうか。
加護は俯きがちに無表情のまま口だけを動かした。
「治すことができるっちゅうことは、作ることも出来るかもしれんやろ」
それは、そうだけど。
- 50 名前:後藤 投稿日:2002年11月18日(月)06時49分18秒
加護は静かな表情だった。まるで出会ったときはと別人のように。
上に続く階段がなくなり目の前を塞ぐ扉だけになったとき、銃を硬く握り締めて
顔を上げた。
「ここが一番上の階みたいやな。セルロイドエイジはほんまにここにおるの?」
「さっき動いたエレベータに乗ってたら、確実にここにいるはず」
だって、最上階は裕ちゃんの専用研究室だから。
遅かれ早かれ、みんなここに集まる。多分、裕ちゃんの思惑通りに。
加護は非常階段を塞ぐドアに手をかけた。
- 51 名前:吉澤 投稿日:2002年11月18日(月)06時51分18秒
--86--
あの訪問者が来て、どれくらいたっただろう……
部屋の隅に片膝を立てて座ったまま、ただ時間が過ぎるのをじっと待つ。
「よっすぃ、また誰か来たみたいだべ……足音が近づいてくる……」
ドアに張り付いていた安倍さんが振り向く。
さっきの人だろうか?
それとも、今度こそ本当に実験材料としてこの部屋から連れ出そうとする人が
来たのだろうか。
2人……いや、3人か。
ドアの向こうで複数の足音がまとまり無く止まった。
ピッという電子音の後、金属音が聞こえ、しばらくすると赤外線センサーの
光が消えてドアが開く。
室内に入ってきた人物は、私たちの緊張を消し去ってくれた。
- 52 名前:吉澤 投稿日:2002年11月18日(月)06時51分56秒
「吉澤さん、安倍さん!無事ですか!?」
「紺野!待ってたべさ!!」
笑顔の紺野の後ろにいつかの猫目の女を見た私はとっさに紺野と安倍さんを
自分のほうへ引き寄せた。
それを見て猫目の女は両手を挙げて争いの意思が無いことをアピールする。
「大丈夫だよ、そんなに警戒しなくてもさ」
「信じられるわけ無いだろ!」
睨み付ける私を抑えるように紺野が間に割って入ってきて「事情を説明するので
落ち着いて下さい」と無理矢理肩をおさえて座らせた。
座るまで気付かなかったが猫目の後ろに白衣を着た小さな女の子が見えた。
安倍さんも同じようにその子の存在に気付いたらしく、その子に駆け寄って
飛びついた。
「明日香……!やっぱ生きてたべ」
- 53 名前:吉澤 投稿日:2002年11月18日(月)06時52分28秒
そうか、あの子が福田明日香……話に聞いていた通り確かに頭よさそうだ。
安倍さんから身体を離しながら優しい眼差しで応える。
「うん。そう簡単に死なないよ……とりあえず紺野さんの話を聞いて」
明日香さんから話を振られると紺野がホッとしたように私たち二人に
事情を話し始めた。
聞いている途中、監視カメラから異常がばれて他の敵が来るんじゃないかと
心配したがどうやらここにくる前に猫目がセキュリティルームで細工をして
きたから大丈夫とのこと。付け加えるなら、ガードはいないのと同じらしい。
だから、人の要らないほどのハイテク設備が整っている。
それを聞いて少し安心した私は紺野の話をちゃんと聞くことが出来た。
「じゃ、梨華ちゃんは……」
「まだ詳しいことはわかりませんが、この建物の何処かにいる可能性が
高いですね。人質にとられているかもしれません」
「……そっか……で、これからどうするの?すぐその研究室に行く?」
紺野は静かに頷く。
- 54 名前:吉澤 投稿日:2002年11月18日(月)06時53分29秒
私たちの部屋にくる前に“矢口真里”の部屋にも行ってみたが
既に人の気配はなく、ただ何もない部屋になっていたと言う。
“市井紗耶香”も中澤に呼び出された事を考えると、おそらく研究室へと
連れて行かれたのだろう。
中澤裕子は私たちの知らない何かを掴んでいるのかもしれない。
「……時間が無い急ごう!」
明日香さんの言葉と同時に私たちはその部屋を後にする。
最上階は中澤専用フロアとなっていて、そこに研究室もあるらしい。
そこへ行く手段は非常階段か一本だけあるエレベータのみ。
この階の非常階段へ出る扉は内側からは開けられなくなっている
らしいので狭い箱の中へみんなで入る。
エレベータの中は奇妙な連帯感で覆われていた。
保田圭は市井紗耶香の意のままに動く。
セルロイドエイジは無くした時間の流れを取り戻すために動く。
紺野は……紺野は何のために動くのだろう……関わってしまったから
と言ってしまえばそれまでなんだけど。
なんだろう。この違和感。
本来ならば無関係の人間なのに、なぜかこの件に関して必要不可欠な気がする。
まるで核心に一番近いような。
そんなことを考えていると、紺野の声が聞こえた。
- 55 名前:吉澤 投稿日:2002年11月18日(月)06時54分26秒
「吉澤さん、安倍さんお願いがあります。中央に立っていてください。
保田さんと福田さんは出来るだけ扉が開いたときに死角になる位置へ」
一瞬何故そんなことをする必要があるのかわからなかったが、紺野の
申し訳なさそうな表情でなんとなく理解できた。
エレベータの扉が開いた瞬間を奇襲されたら終わりだ。
しかし、セルロイドエイジを殺すわけにはいかないだろうから私たちを
先頭に立たせて外へ出る。ちょっと危険が伴うが仕方ない。
明日香さんはまだセルロイドエイジだとばれていないと思うから庇った方がいい。
もうすぐ最上階へ着く。
扉が開いたとき、本当の戦いが始まるんだ。
梨華ちゃんを助けれたら、それでいい。
もう多くは望まない。
体が元に戻らなくても、最悪のとき何をすればいいかはわかっているから。
視線に力をこめて、身構える。扉が左右に滑らかに開いた。
- 56 名前: 投稿日:2002年11月18日(月)06時55分42秒
- 本日はここまで。
- 57 名前: 投稿日:2002年11月18日(月)07時03分04秒
- レス有難うございます。
>43
そう言っていただけて嬉しいです。
リアルでも小川はいい子で頑張ってますので(w
終わり、見えてきてますが それでも先はもうちょっと長いので
まだ「あと何回の更新で終わる」という公言は出来ません。
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月18日(月)14時06分20秒
- 全登場人物が動いてるんで、どう決着つくのか楽しみですよ
最後までがんばってくださいな
- 59 名前:紺野 投稿日:2002年11月21日(木)20時54分43秒
- --88--
同時に二つの扉が開き、三方向の塊が緊張に包まれた。
奇襲攻撃はなかったが、それ以上に強いプレッシャーを喰らう。
エレベータには私と保田さんとセルロイドエイジ。
非常階段の扉からは小さな女の子と高校生くらいの女の人……
おそらく女子高生のほうは保田さんから聞いた後藤さんに間違いないだろう。
そして、部屋の正面には中澤裕子と……――
「……飯田さん?」
何故、石川さんの家で待機してるはずの飯田さんがここにいるのだろう。
愛ちゃんと連絡を取る直前に保田さんが教えてくれた情報が頭を掠める。
『ねずみ退治の客を呼んだらしい』
まさか。
でも、それ以外考えられない。
- 60 名前:紺野 投稿日:2002年11月21日(木)20時56分25秒
飯田さんの瞳はどこか遠くを見つめているようなのに不気味な迫力がある。
そのオーラに気を取られていると小さな女の子がいきなりこちらに向かって
発砲した。「危ない!!」とっさに吉澤さんたちを引っ張って床に伏せさせる。
エレベータの壁に黒い穴が開いてにわかに焦げた匂いを漂わせた。
「あっ、あの子も中澤サイドの人間なの!?」
慌ててその子から死角になる位置へ回り込み、自分の頭のあった位置を
通り過ぎていった弾丸を見て青ざめた表情の吉澤さんが震えた声で
保田さんに問い掛ける。
「いや、そんな筈ない……だってあの子は後藤が誘拐した加護だよ?
あんたたちが連れ戻そうとしてる」
私たちに明らかな殺意を抱いているあの小さな女の子が、加護さん?
馬鹿な……なんでこんなことを……
- 61 名前:紺野 投稿日:2002年11月21日(木)20時57分04秒
「加護さん!何で私たちを殺そうとしてるんですか!?」
「あんたにゃ用はない。セルロイドエイジだけや!邪魔するなっ」
加護さんは私の言葉に間髪いれずに怒鳴るように声をあげ「存在自体が罪なんや
から」と付け加えて再び引き金を引いた。今度は外のボタンの付近に命中。
時間がたって閉まりかけた扉が三分の一くらい動いてそのまま止まった。
機能部分が今ので壊れてしまったらしい。
後藤さんにレクチャーしてもらったのだろうか。初めて銃を扱う素人にしては
コントロールが良過ぎるくらいだが、所詮素人は素人。そう簡単にあたらない。
こちらにも勝機はある。
二人を保田さんに任せると、先ほど拝借した拳銃を握る。
弾が装填されているのを確認してセーフティを解除。扱った事なんか一度もないはず
なんだけど、その動作はすんなりと出来、冷たく重いそれは不思議と手に馴染む。
- 62 名前:紺野 投稿日:2002年11月21日(木)20時58分04秒
何とかタイミングを見つけ出そうとしていると福田さんが私の耳元で囁いた。
「私が囮になって飛び出すから、その隙にあの子を何とかして」
「……わかりました……頼りにしてます」
福田さんは口の端を少しだけあげて微笑み、勢い良く飛び出した。それを見て
加護さんが銃口をこちらから逸らした瞬間にその銃に狙いを定めて引き金を引く。
サイレンサーの付いていない銃は大きな音を立てて火を吹いた。
「あっ!」
加護さんの短い声とともに鉄が床に転がる音が響く。
福田さんがすかさず回転しながら床の上を滑る銃へ向かって走り、それを拾い上げた。
西部劇で見たことのあるガンパフォーマンスのようにクルッと銃を回して持ち替える。
「ごめんけど、生憎まだ殺されるわけにはいかないの。手を上げて!
中澤裕子もそこのでっかい人も」
- 63 名前:紺野 投稿日:2002年11月21日(木)20時59分57秒
四人はその指示に従い素直に手を上げる。「後藤さんと加護ちゃんは向こうの二人の
横に行って一列に並んで」二組が90度違う方向にいるのは片方の動きが把握しにくいので
一方向へ纏める。
後藤さんたちが移動を終えたとき、中澤さんが口を開いた。
「圭織、殺れ」
その言葉を合図に、突然飯田さんが福田さんに向かってタックルした。
子どもの身体に戻っている福田さんはそれに耐えることなど出来るはずもなく、
床に叩き付けられる。わずかだが床が揺れるほどにその衝撃は大きい。
「福田さん!」
思わず駆け寄りそうになったが、エレベータから半身を出した時に我に返り止まる。
――――しまった!
福田さんの上に乗ったまま振り返った飯田さんの手には先程の銃が収まっている。
細い指が引き金を引くのを見た瞬間、私の左脇腹に焼けるような痛みが走った。
誰かが私の名前を叫ぶ。
近づいてくる床に吸い込まれていく感覚にゆっくりと目を閉じた後、不意に懐かしい
香りに包まれたような気がした。
- 64 名前:高橋 投稿日:2002年11月21日(木)21時01分10秒
--88--
すぐ外から何か大きい音が聞こえた。
打ち上げ花火みたいだけど、なんか違う大きな音。
「……今のって、銃声……?」
麻琴ちゃんがドアのほうを向きながら呟いた。
それに続くように人の声が聞こえてきた。『加護さん!何で私たちを殺そうと
してるんですか!?』『あんたにゃ用はない。セルロイドエイジだけや!』
その後に二度目の銃声。
聞き間違えるはずはない。どんな大勢の人がいようと彼女の声だけは聞き分ける
自信がある。
はじめに聞こえた声は確かにあさ美ちゃんの声だった。
「加護ちゃんがセルロイドエイジを殺そうとしてるって……どういうこと?
今の加護ちゃんが撃ったヤツの音なの?ひとみちゃんはどうなってるの!?」
石川さんは混乱気味に頭を抱えた。
- 65 名前:高橋 投稿日:2002年11月21日(木)21時01分51秒
それを見てすぐに「吉澤さんたちはまだ大丈夫ですよ」と麻琴ちゃんが励ます。
さっきの台詞から推測すると、まだセルロイドエイジは生きているはずだ。
『殺そうとする』ってことは『まだ殺されてない』って事だよね。
「どっちにしろここから外に出られない限り、私たちには何も出来ない」
それはここにいる三人ともわかりきっている。
また銃声が響いた。
ドア越しに伝わってくる緊張感。
ここは日本なのに……治安の良い国で、銃とか持ってちゃいけないのに……
そんな台詞はここでは通用しないと無理矢理思い知らされた。
ダンッ!!
「!?なに!?いま、床が……」
- 66 名前:高橋 投稿日:2002年11月21日(木)21時03分01秒
一瞬だけ地震のように揺れた。『福田さん!』あさ美ちゃんの声。
その直後。
乾いた音が再び空気を震わせる。
『紺野ー!!』
複数の声が同時に聞こえてきた。
それの叫び声は確かにあさ美ちゃんの身に何かあったことを示している。
――撃たれたんだ。
一心不乱にドアを殴る。蹴る。体当たりする。
それでも、丈夫に出来た部屋はただ空しく音が響くだけで。
「高橋、落ち着いて!」
「……さない……絶対に、許さない……」
石川さんの制止する声を無視して続ける。涙が止まらない。
あさ美ちゃんの近くにいけない、何も出来ない自分が悔しくて。
ぼやける視界の中、私の隣で同じようにドアを蹴る影が見えた。
- 67 名前:高橋 投稿日:2002年11月21日(木)21時04分47秒
麻琴ちゃんは唇を一文字に固く結び、その強い視線で見えるはずのないドアの
向こうを睨み付けている。そのオーラは今まで見たことないくらいに鋭い。
その表情に思わず息をのんだのと同時に背後からパリンとガラスの割れる音が
聞こえて、振り返る。
この部屋に唯一あった小さな窓が外から割られ、そのすぐ下の床にガラスの破片が
散らばってキラキラ光っていた。
「……これ、貸してあげる」
その窓から白い綺麗な手が何かを投げ込んだ。
ゴトンゴトンと黒い鉄の塊が二つ床に落ちる。拳銃だ。
「なんで……誰ですか!?敵じゃないの?」
「裕ちゃんを止めてあげて。お願いやから……うちじゃ駄目なんや」
その弱々しい声に石川さんが躊躇いがちに口を開いた。
- 68 名前:高橋 投稿日:2002年11月21日(木)21時05分31秒
「――平家さん、ですよね……」
その声の主は石川さんの問いかけに対して肯定も否定もせずに続ける。
「裕ちゃんは、あとに引けんだけなんや。梨華ちゃんのご両親を殺したときに
あの人は鬼になるって自分で決めてしもうた。だから、今更この件から
手を引くわけにはいかんって意地になっとるだけや……せやから……」
搾り出すように「止めたって」と言うその声に、麻琴ちゃんが少し間をおいて
真剣な口調で尋ねる。
「銃を渡して『止めてくれ』って言うことは、“そういうこと”なんですか?」
返答はなかった。
ゆっくりとその窓に近づき外を覗き込むが、既にそこには人の影はなかった。
驚いたのは、窓の外には足場がなく、ただ少し離れた位置に雨どいがあるだけ
だったという事実。
足を滑らせれば、大怪我運が悪ければ死んでいるかもしれない。そんな危険を
冒してまでその人は中澤裕子を止めてほしいのだ。
おそらく、麻琴ちゃんの言った意味で。
- 69 名前:高橋 投稿日:2002年11月21日(木)21時06分12秒
「石川さん、これは私たちに持たせてください」
石川さんが頷くと麻琴ちゃんが拳銃を拾い上げてひとつを私に差し出した。
それを受け取ると、予想外に重かったことに驚いた。
「扱い方は私も知らない。映画とかで見たことがあるけど……とりあえず
セーフティ……これかな?を下ろして……」
麻琴ちゃんは両手で銃を構え、ドアノブのほうへ銃口を向ける。
ゆっくりと引き金を引くと爆音が響き、それは煙を噴いた。
その衝撃が響いたのか両腕を少し痛そうにしながらも、鍵の壊れたドアを見て
いつものように強気に笑った。
「……やるじゃん、私って」
- 70 名前: 投稿日:2002年11月21日(木)21時06分59秒
- 本日はここまで。
- 71 名前: 投稿日:2002年11月21日(木)21時10分40秒
- 早速訂正。
59のナンバー 88→87 です。
レス有難う御座います。
>58
楽しみにして頂いて有難う御座います。
最後までなんとか頑張ります。
今回更新分からちょっと痛い描写が結構出てきますので、
苦手な方はお気を付けください。
- 72 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月22日(金)04時17分44秒
- 確かに痛い。修羅場ですねぇ…
- 73 名前:後藤 投稿日:2002年11月24日(日)23時35分25秒
--89--
「紺野ー!!」
その長身の女が撃った弾丸はその子の左腹に命中した。
赤黒い液体が床に大量に流れる。
「……なんてことを……っ」
すぐに病院に連れて行けば何とか一命を取り留めることが出来るかもしれないが、
そうはさせてくれそうにない。
隣で裕ちゃんが冷たく笑っているのがわかる。
加護は言葉もなくただ紅く広がる水溜りの中に倒れている少女を見つめていた。
少女の身体を圭ちゃんが引きずってエレベータの中へ引っ張り込む。
それを見て思い出したかのように裕ちゃんは抑揚のない声で指示を出す。
「圭織、保田圭を“壊せ”」
「圭ちゃんは味方でしょ!?なんで……――」
「……先に後藤真希を殺せ」
淡々と続けた。
- 74 名前:後藤 投稿日:2002年11月24日(日)23時37分33秒
長身の女がこちらへ視線を移す。大きな瞳と長い髪が余計に迫力を増幅させる。
ゆっくりと歩いて近づいてくる。
怖い。
あと数歩で手が届く範囲に入る。そのとき、エレベータから走って出てきた
圭ちゃんがその女に向かって殴りかかった。女が一瞬体制を崩す。
「後藤、今だ!撃てっ!!」
「……起きてきたなら早く撃て」
圭ちゃんの声に被るようにボソッとしゃべった声は動作に忙しく聞き取れなかった。
ポケットからすばやく拳銃を抜く。銃声が二回、空気を裂いた。
一発は私の撃った音。女の右手を打ち抜いている。
もう一発は……私の身体に襲い掛かった。
「…………はっ……マジで……?」
- 75 名前:後藤 投稿日:2002年11月24日(日)23時38分07秒
背中が熱い。
息を上げながら後ろへ視線を移すと、銃を構える人が見えた。
見覚えのある顔。優しいお姉ちゃんみたいだった人。
ずっと、護っていくと決めた人。
「市井ちゃん、無事だったんだ……よかっ……――」
台詞の途中で、もう一度銃声が響いた。市井ちゃんはいつもと同じ優しい表情で。
すごく、痛い。
でも撃たれたときの痛みってこんなんだっけ……?
あぁもうどうでもいいや……とりあえず……眠ろう……
薄れていく意識の中、床の硬く冷たい感覚がただ心地よかった。
- 76 名前:保田 投稿日:2002年11月24日(日)23時39分20秒
--90--
後藤の身体がおもちゃのようにごろんと転がった。
その後ろにいるのは、間違いなく紗耶香。
……でも、私の知ってる紗耶香はもういないみたいだ。
「裕ちゃん、紗耶香に何したの!?」
「永遠の若さをあげようと思ってな。同じ血液型の矢口の血を混ぜてみたんや。
月光よくの当たる窓際で。失敗する思うとったんやけど、成功した見たいやな
脳のほうも弄っといて正解やったわ」
脳を弄った……裕ちゃんは得意げに続ける。
私たちが裕ちゃんに隠れてセルロイドエイジを助けようとしてたことは随分前から
気付いていた。しかし、それでも利用できるものは利用しようとセルロイドエイジを
集めるために利用して用がすんだら実験体として役に立ってもらうつもりでいた。
実際紗耶香はその予定通りに終わった。
- 77 名前:保田 投稿日:2002年11月24日(日)23時41分52秒
後藤についてはそのうち消すつもりだったし、どうでも良かった。
そんな中誘拐してきた加護をも利用するために精神的ショックを与えてその隙に
新たな駒として使うために洗脳しようとしていたのに後藤が加護に対して余計な
思い入れを見せてしまったがために加護を洗脳する時間もなくここへたどり着いて
しまった。しかも、正気に戻った加護はセルロイドエイジを殺そうとしている。
「正直、どうしようかと思ったわ。でも、まぁ予想外のことでも別に
消してしまえば問題ない」
「最っ低……!」
「……まぁ、そういうわけで、紗耶香の実験が成功したから圭坊ももう用済みや」
- 78 名前:保田 投稿日:2002年11月24日(日)23時42分35秒
にっこりと笑ったあとに「圭織、壊せ」と女に命令した。
“壊す”と殺すとではどう違うのだろう。
とてつもない力で首を掴まれ、そのまま持ち上げられた。
「う……ぐぁ……」
その細い身体のどこからこんな力が出てきているのだろう。
足をばたばたさせて暴れても一向に力が緩まることはない。
「まずは、左腕から」
左手で首を持ったまま、右手で私の左腕を掴んだ。
先程後藤の撃った弾丸が命中したらしい。生暖かい血が皮膚に触れる感触。
怪我をしていることが嘘のように強く握る。
数秒後、私は“壊す”と言う意味を初めて身を持って思い知る。
「うあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
- 79 名前:紺野 投稿日:2002年11月24日(日)23時43分27秒
--91--
白黒の景色の中に、ぼんやりと浮かぶように私は立っていた。
雪が降っている。
見覚えのある風景。ここは、私は小さい頃住んでたとこだ。札幌。
目の前を小さな女の子が駆けていく。
ぷくぷくしたほっぺたがほんのり紅く染まって可愛い。
『あさ美ー!あんまり車道のほうに行くな!危ないぞ』
『へーきだもん!』
――あっ!
その子が親の制止を無視して車道へ飛び出した瞬間、車のヘッドライトがその子の
シルエットだけを鮮明に映し出した。
人形のように弾き飛ばされる子供。親らしき人の悲鳴。
- 80 名前:紺野 投稿日:2002年11月24日(日)23時44分27秒
急にテレビにノイズが入ったときのように景色が乱れて、場面が変わる。
消毒液の匂いの中、白い部屋にたくさんの管を体中に纏った少女が横たわっている。
ピッピッピッピッ。緑色の光が均一の感覚で上下しながら動く。
――あれは……あの子は私だ。
彼女以外は誰もいない部屋。扉の外には味気のない面会謝絶の札がある。
しかし、それを無視するように扉が開いた。入ってきたのは、見覚えのある
白衣の少女。
――福田さん!
福田さんはその子の外傷の程度を一通り眺めるように見て、両手で包み込むように
その子を抱きしめた。
柔らかな光が二人を包み込む。
- 81 名前:紺野 投稿日:2002年11月24日(日)23時45分34秒
3秒ほどしてその光が消えると身体を離し、心臓の音を聞くように胸に耳を当てる。
ほっとした表情を浮かべ、その場に膝から崩れ落ちるように座り込むのを見て
声をかける。
『福田さん』
私の声にハッとしたように顔を上げ『なんだ紺野さんか』と息を吐いた。
『ここはいったいどうなってるんですか?私は撃たれて死んだんじゃ……』
『ここは12年前の札幌。紺野さんが撃たれて死んだかどうかはわからないけど、
私は最後に“ここ”へきて紺野さんを助けなきゃいけなかったんだ』
命の……私のすべてをあなたに託すために。そういう運命だから。そう言って
苦しそうに息を上げ俯いた。大きく肩が上下している。
顔色は悪いなんてもんじゃない。死にそうだ。
“最後に”確かにそう言った。福田さんは、自分の寿命をちゃんと知っている。
- 82 名前:紺野 投稿日:2002年11月24日(日)23時46分43秒
『……死んじゃ嫌です……』
『うん』
『死んじゃ駄目です!』
『……うん……死なない。だって、言ったじゃん。命を託すって。
紺野の中で私はこれから生きていくことになるんだよ』
『…………』
『12年後の私と紺野さんが、私の目の前で泣いてるんだ』
福田さんが優しく頬をなでた。
そのときやっと気付いた。私の目からそれが流れていたことに。
『ばっかだなぁ……大丈夫だよ。私を信じなさい……紺野さんは未来を見てる
いま、ここで寝てる間に、私たちの知らない未来を見に行ってる……だから』
- 83 名前:紺野 投稿日:2002年11月24日(日)23時47分15秒
言葉が止まった。
福田さんの身体は先程と同じ光に包まれて、跡形もなく消えていく。
頭に響く声も、いつのまにか消えていた。
部屋に残された私は、寝ている昔の私を見下ろす。
『……未来を見てるんだ……それは、どこまでの未来なんだろうね……
私があそこで終わる未来?それとも、もっともっと先の?』
酸素吸入装置をつけた顔が、少し笑ったように見えた。
『……その顔を信じるよ……あなたは、私だもんね』
頭をそっと撫でて、目を閉じた。
笑顔になれる未来へ続く道へ戻るために。
- 84 名前: 投稿日:2002年11月24日(日)23時48分16秒
- 本日はここまで。
- 85 名前: 投稿日:2002年11月24日(日)23時50分48秒
- レス有難うございます。
>72
痛い場面はまだ続いてしまいます。スイマセン。
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月25日(月)01時19分36秒
- いやもう息を飲んで見守っとります・・
- 87 名前:吉澤 投稿日:2002年11月28日(木)21時54分53秒
- --92--
「うあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
保田圭の叫び声が鼓膜を震わせる。
千切れそうなほどねじり上げた腕をナイフで何箇所も切り裂く。
そのたびに大きな悲鳴がフロアに響き渡る。
その光景は、まるで小さい子が人形を壊して遊んでいるようだった。
残酷で純粋な怖さ。
しかし人形とは違って皮膚は布じゃないし、中から出てくるのは乾いた綿じゃない。
- 88 名前:吉澤 投稿日:2002年11月28日(木)21時55分41秒
- そのグロテスクな風景を凝視できるのは感覚が麻痺している所為だろう。
狂ってる。
いつのまにか私の中の何かが壊れているのを確かに感じた。
安倍さんが泣きながら目と耳を塞ぐ。
頭を抱え込みその場にうずくまる。このまま眠ってしまえば、起きたとき
何事もなかったかのように日常へ戻れる気がした。
保田の悲鳴がいつのまにか途切れていることに気付き、顔を上げると
目の前に広がるのは紅い世界。
力なくぶら下がる紅い腕がゆらゆらと揺れている。
左腕から始まった破壊は、順番に全身へ進められたらしい。
それはすでに人間とは思えなかった。ぼろぼろの人形。
- 89 名前:吉澤 投稿日:2002年11月28日(木)21時56分24秒
- 「……あ……あぁぁぁあぁ……っ」
言葉にならないというよりも自分が何を言おうとしているのかがわからない。
それを聞いてこちらへ視線を移した彼女が口を開いた。
「殺してないよ。カオリは壊しただけ」
にっこりと笑って保田を放り投げる。
返り血は鮮やかに彼女を染めて、その美貌を引き立てた。
死神ってのは、案外こんな普通の人間の姿をしているものなのかもしれない。
これは、現実なんだろうか……――
もしかして私は悪い夢を見てるだけじゃないだろうか。
そんな気すらしてきた。
早く目が覚めてほしい。
- 90 名前:吉澤 投稿日:2002年11月28日(木)21時57分58秒
- でも、これは現実だ。殴られたときの痛み、弾丸が鉄との摩擦により
発した匂い。足元に転がる、あまりにリアルな紺野の傷口。
「――!」
紺野がわずかに息をしている。まだ死んでなかったのか!
でも、この出血の量じゃ時間の問題だろう……どうすれば……
『この手の中の時間だけ、進めることが出来るんだべ』
いつか安倍さんが言っていた言葉。セルロイドエイジの“力”。
怪我した動物を治したりしたこともあるって言ってたよな……
――やってみよう。出来るはずだ。
人が死にかけてるのに何もせずに見捨てるなんて出来るわけがない。
紺野は私たちを助けようとしてくれた。次は私が紺野を助ける番だ。
- 91 名前:吉澤 投稿日:2002年11月28日(木)21時59分11秒
- 両手で紺野の傷口を覆い神経をそこへ集中させる。
幸いにも弾丸は貫通しているようだ。
細胞の時間を早送りして自然治癒力を利用すれば何とかなる。
その接触部分が柔らかな光を発し、じわじわと傷口が塞がっていく。
「……っ……くっ……」
体中の血が逆流していくような奇妙な感覚。
このままじゃ自分まで倒れそうだ。そのとき、そっと誰かの手が重なった。
「安倍さん……」
安倍さんは泣きながら力を流し込む。
先程とは比べ物にならないくらいのスピードで傷口は完全に塞がった。
「はぁ、はぁ……は……ぁっ」
二人とも肩で息をする。
今の私たちで出来ることはした。あとは、紺野の意識が戻れば……
- 92 名前:吉澤 投稿日:2002年11月28日(木)22時00分02秒
- しかし中澤はその時間をくれそうにない。
「おお、その力も興味深いんや。ええもん見せてもろうたわ
でも圭坊は治させんで。せっかく壊したんやからなー……ん?」
ねずみが箱から出てきた見たいやなと首を少し回して通路を確認する。
市井の後ろにある開いたままのドアの向こうに小さく3人の人影が見えた。
壁に身を隠し、笑顔のままの市井が銃を構える。
その存在に気付いてない3人は勢い良く走ってこちらへ向かってくる。
「梨華ちゃん!来ちゃ駄目ぇーっ!!」
- 93 名前:小川 投稿日:2002年11月28日(木)22時01分48秒
- --93--
吉澤さんの叫び声と同時に壁の死角にあたる部分に人がいることに気づいた。
振り向かずに小声で愛ちゃんたちに指示をする。
「愛ちゃん壁際に出来るだけよって隠れられるとこがあったら隠れて」
私たちがそれに頷いて従っていくのを確認した後、すばやく上着を脱いで
そのまま走りながら前へ投げた。
それに過剰反応した誰かが発砲し、轟音が耳を襲う。
その隙に通路の途切れた所から転がるように室内へ入り、銃を構える。
そこには服を撃ったままの姿勢で電池が切れたように止まっている髪の短い女と、
金髪と小さな女の子。
やや離れた所に二つの紅い塊と返り血を全身に浴びた飯田さんが立っていた。
- 94 名前:小川 投稿日:2002年11月28日(木)22時02分51秒
- むせ返るような血の匂いに吐き気がこみ上げてくる。
「……飯田さん……辻さんはどうしたんですか?」
「…………」
撃ち合いが始まらないことを確認した石川さんと愛ちゃんが警戒しつつ
室内へ足を踏み入れる。
金髪の女が石川さんを見て表情を消し、目を逸らした。
「……お姉ちゃん……もうやめてよ……自然な時間の流れに身を任せれば
それでいいじゃない。無理にそれを壊せばどうなるか良くわかっ……――」
「全ての元凶のお前がなにをぬかしとんねん!お前が異質の力を持って
なけりゃ、うちはこないなことにならんかった!!」
「勝手に自分がそうなっただけじゃん!こんなことになるんなら私はあの時
一緒に殺されてたほうがマシだった!!お母さんとお父さんと一緒に」
「そんなに死にたきゃ今すぐ殺したるわ!もうお前は必要ないんや!」
- 95 名前:小川 投稿日:2002年11月28日(木)22時03分43秒
- 懐からナイフを抜き出し、石川さんに襲い掛かる。
すこし背の高い女の人がエレベータから飛び出してきた。
飯田さんは私を突き飛ばして吉澤さんの行く手を阻む。
――間に合わない
大きく振り上げた手を見つめながら、石川さんは金髪の女の目をじっと見ている
だけで防御しようともしない。
「やめてくださいっ!!」
その手が振り下ろされる直前で、女のこめかみに銃が突きつけられ動作を止めた。
- 96 名前:小川 投稿日:2002年11月28日(木)22時05分00秒
- 「……撃てるんか?生ぬるい環境でぬくぬくと育ってきたお譲ちゃん。
それはおもちゃやない。引き金を引くだけであんたは人を殺せるんやで」
身体を動かさずに視線だけで引き金に手をかけている愛ちゃんを咎める。
遠めでも小刻みに手が震えているのが確認できた。
「撃つ度胸もないくせにそないなもん持つんやない!ボケがぁ!!」
ナイフの先端が向きを変え愛ちゃんに襲い掛かる。
私の動揺で動きが遅れたよりもずっと早く銃声が聞こえた。
どこからともなく放たれた弾丸は二人を傷付けることなく的確にナイフだけを
弾き飛ばした。
「私は撃てますけどね」
その声は、きっと愛ちゃんが一番聞きたかった声。
先程吉澤さんが飛び出してきたエレベータの陰から銃を構えるあさ美ちゃんは
今まで見たことないくらい怒っていた。
- 97 名前: 投稿日:2002年11月28日(木)22時05分54秒
- 本日はここまで。
- 98 名前: 投稿日:2002年11月28日(木)22時10分25秒
- レス有難うございます。
>86
じわじわと終わりに向かってるんでもうちょっと見守っていて
いただければ幸いです。
- 99 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月29日(金)22時53分23秒
- 保田が…
さぁ押し迫ってきてますな。。
- 100 名前:高橋 投稿日:2002年12月02日(月)21時14分12秒
- --94--
「今すぐ愛ちゃんと石川さんから離れてください」
「死に損ないの紺野か……調べたんやけど、お前一回死にかけとるんやて?
奇跡的に生還ちゅうことやけど、うちはわかっとるで。二回も人の命削らせて
生き返った気分はどうや?」
「……早く退かないと本当に撃ちますよ」
無表情なのに物凄い威圧感。私の知らない間に何があったのだろう。
あの人は本当にあさ美ちゃんなんだろうか。
そんなことを考えてしまうほど、別人だった。
普段の柔らかな空気は消えて全てを威嚇しているような。
- 101 名前:高橋 投稿日:2002年12月02日(月)21時14分58秒
- 「紗耶香!おいっ!こいつを殺せ!紗耶香!!」
紗耶香と呼ばれた先程の発砲女は笑顔のまま動かない。
痺れを切らしたように蹴りを入れると、バランスを崩した女はそのまま
床へ倒れ、近くにいた加護さんの足元に転がる。
それまで呆然と立ち尽くしていた加護さんがハッとしたように顔を上げ
泣きそうな顔を見せ、いきなり非常階段を駆け下りた。
まるで発狂したように。
「チッ、脳を弄り過ぎたのがまずかったか……どいつもこいつも使いもんに
ならん……圭織!こいつを壊せ!!」
今度は飯田さんに向かって命令するように叫んだ。
それに従うように飯田さんが捕まえていた吉澤さんを投げ飛ばして
あさ美ちゃんのほうへ走り寄る。
その白い首に手が伸ばされた時、あさ美ちゃんは静かに口を動かした。
- 102 名前:高橋 投稿日:2002年12月02日(月)21時16分16秒
- 「辻さんには手を出させませんから邪魔をしないで下さい」
「!?」
飯田さんの動きが止まる。
「なにしてんねん!はよそいつを壊せ!起爆スイッチ押してええんか!?」
「なるほど。辻さんに爆弾を仕掛けてたんですか。そうやって飯田さんの
弱みに付け込んでたわけですね」
納得したように頷くと、飯田さんが動き出す前に金髪のほうへ歩きだした。
慌ててその後を追う飯田さんの手をするりとよけながらゆっくりと
間合いを詰める。
「押されたら困りますねぇ。さてどうしましょう?答えは簡単です。
その前にあなたを殺してしまえばいいんです……もっとも本当に辻さんに
爆弾を仕掛けているのなら、の話ですが」
- 103 名前:高橋 投稿日:2002年12月02日(月)21時18分14秒
- 金髪は焦ったように石川さんの上から退いて先程のナイフを拾い上げ、
すばやく呆然と立ち尽くしていた私の喉元に突きつけた。
「くっ……来るなっ!こいつがどうなってもええんか!?」
掴まれた腕から震えが伝わってくるのが良くわかる。
この人は、本気であさ美ちゃんに対して恐怖を感じている。
なんて滑稽なんだろう。大の大人が、一回りも歳の離れた少女に怯えている。
「二回目です」
「――――あぁ!?」
「愛ちゃんに刃を向けた回数。それは私以外の人も頭に来てる
みたいですよ……ね、麻琴ちゃん」
「!!」
- 104 名前:高橋 投稿日:2002年12月02日(月)21時19分17秒
- その台詞と同時に背後から伸びてきた腕に金髪の腕が捻り上げられた。
力の入らなくなった手からナイフが落ち、床に転がる。
あまりの恐怖であさ美ちゃん以外見えなくなってしまった結果、いつのまにか
近づいてきた麻琴ちゃんの気配さえ読み取れなかったようだ。
「ただのガキだと思って油断しすぎ。だてにあさ美ちゃんと遊んでたわけ
じゃないんでね」
どんな遊びをしてたんだ。
麻琴ちゃんが金髪を取り押さえているうちにあさ美ちゃんが石川さんに
手をかして立ち上がらせる。
「紺野……ありがとう……」
「吉澤さんたちの所へ行ってあげてください」
- 105 名前:高橋 投稿日:2002年12月02日(月)21時20分00秒
- そっけなくそう言って、石川さんの背中を優しく押してその足を進ませた。
少し寂しそうな表情でその背中を見つめたあと、私の足元に落ちるナイフを
蹴飛ばす。
「愛ちゃん、大丈夫?」
あさ美ちゃんの声に「うん。大丈夫」と答えようとしたが、顔の筋肉が
こわばって上手く口を動かすことが出来ない。
それを察したかのようにあさ美ちゃんが私の頭を抱えるように抱きしめた。
「……もう大丈夫だから。ごめんね。怖い思いいっぱいさせて……」
安心して気が抜けた私は、また泣いてしまった。
- 106 名前:安倍 投稿日:2002年12月02日(月)21時20分54秒
- --95--
紺野に背中を押されて梨華ちゃんがよっすぃの方へ向かって歩く。
距離が近くなると、早足になりそのまま抱きついた。
「ごめんね。結局何も出来なかった。紺野がいなかったら……」
情けなさそうに首を振るよっすぃに、梨華ちゃんは無言で抱きついている。
その時、非常階段から誰かが呼びかけてきた。
「邪魔してわるいけど、セルロイドエイジと梨華ちゃん研究室に行って」
「平家さん!」
梨華ちゃんがその女の人の方を向いて驚いた顔をした。
知合いなんだろうか。白衣を身に纏った細身の女性。
- 107 名前:安倍 投稿日:2002年12月02日(月)21時21分37秒
- 「遅うなってすまん。早くその奥にある研究室に!時間がないんや」
梨華ちゃんたちと一緒に言われるままに移動する。
ベッドが二つ並んでいる横にいろんな機材が所狭しと置かれていた。
きっとここが研究室だろう。大きな窓からはちょうど雲に隠れたままの
月がそのフレームに収まるかたちで浮かんでいる。
その部屋に入ると矢口が笑顔で迎えてくれた。
「なっち!良かった。やっと会えた」
「……やぐちぃ……明日香が……」
矢口に会えたのは嬉しかった。
けど、それ以上にさっき起こった地獄のような出来事のほうが私の中に
大きく影を落としていた。
矢口は「全部知ってる……ずっとここから見てたから……」と頭を撫でる。
- 108 名前:安倍 投稿日:2002年12月02日(月)21時22分40秒
- 「何をするんですか?」
「今夜は綺麗な満月や。しかも、真っ赤な。梨華ちゃん、あんたの力が一番
発揮される日なんや……もうすぐ雲が流れて月が全体の姿を現す……」
時間の歪みが生じた瞬間にセルロイドエイジをもとの時間軸へ戻す。
それが出来るのは梨華ちゃん自身や。流暢な関西弁で説明を受けたあと
矢口と顔を見合わせた。
何も言葉を交わさなくても、微笑んで頷いた。
矢口が平家さんに向かって口を開く。
「平家さん、私たちは遠慮しときます」
- 109 名前:安倍 投稿日:2002年12月02日(月)21時25分00秒
- 「はぁ!?なに言うてんねん!あんたら普通の身体に戻りたいんやなかったんか!?」
「なっちたちはもう随分前から戻ることよりもお互いに再会することが
目的だったべ。それに、もう元に戻ってもすぐに死んじゃうべさ。
セルロイドエイジの時間の中だからまだ辛うじて生きてるだけだから……
なっちと矢口の命はあの人に上げるべさ」
そう。あの人。
指差した方向には全身血まみれで倒れている保田圭がいる。
あの人はまだ死んでもらっちゃ困る。セルロイドエイジの研究データを持つ
数少ない人なんだから。市井紗耶香の意思に従っていただけとはいえ、
セルロイドエイジの保護をしようとしてくれた。
- 110 名前:安倍 投稿日:2002年12月02日(月)21時26分11秒
- セルロイドエイジはきっと自分たちのほかにもいる。
梨華ちゃんの周りの人じゃない矢口や明日香が何故セルロイドエイジに
なったのかも、まだわかっていない。
「だから、心の鬼に負けない良心を持った研究者が必要でしょ?」
「……圭坊が姐さんのようにならんっちゅう保障はないで」
「大丈夫っしょ。だってあの人は市井って人の意思をずっと代わりに
持ち続けるべさ」
平家さんはもう何も言わなかった。
その優しさが嬉しかった。でも感謝の言葉は声に出さない。
見えないように背中に向かって口だけ動かした。
『ありがとう』
- 111 名前:安倍 投稿日:2002年12月02日(月)21時27分46秒
- その背中の向こうからよっすぃは物言いたげな表情で私のほうを見ている。
笑顔でピースサインを送ると苦笑して頷いた。
梨華ちゃんはただ俯いて泣いていた。
梨華ちゃんの中でなっちはとっくの昔に死んだ義姉なんだから、泣くことないのに。
以前なら抱きしめてあげたと思う。
でも今はもうその役目はなっちの手から離れているから。
よっすぃが梨華ちゃんの頭を撫でる。
その姿に一礼すると、矢口がなっちの手を引いてくれた。
もう、思い残すことはないや。
- 112 名前: 投稿日:2002年12月02日(月)21時28分29秒
- 本日はここまで。
- 113 名前: 投稿日:2002年12月02日(月)21時30分34秒
- レス有難うございます。
>99
保田、簡単には終わらせません。
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月02日(月)23時54分30秒
- 紺野かっこいい!!惚れました。
でも高橋への愛で動く小川ちゃんがやっぱり素敵☆
なっちと矢口会えてよかった、ちょっと悲しいけど、
蘇れ!圭ちゃん!
- 115 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月04日(水)00時10分15秒
- いよいよって感じ。楽しみです。
- 116 名前: 投稿日:2002年12月06日(金)21時08分41秒
- 更新の前に今更なんですが108にコピペミスがあったので訂正を。
>「今夜は綺麗な満月や。しかも、真っ赤な。梨華ちゃん、あんたの力が一番
> 発揮される日なんや……もうすぐ雲が流れて月が全体の姿を現す……」
この下にこれが入ります↓
↓ ↓ ↓
「梨華ちゃんの力って……」
わけがわからないと聞き返すと、梨華ちゃん自身が大まかに説明してくれた。
無意識のうちに時間をゆがませられること。
その時間の歪みの中に迷い込んでしまった人間がセルロイドエイジだということ。
「全ての元凶は、わ――」
梨華ちゃんの言葉を遮るように平家さんが口を開いた。
「さ、時間がない。はじめよか」
>時間の歪みが生じた瞬間にセルロイドエイジをもとの時間軸へ戻す。
>それが出来るのは梨華ちゃん自身や。流暢な関西弁で説明を受けたあと
>矢口と顔を見合わせた。
となります。よく確認せずにUPしてしまってごめんなさい。
では、今回分の更新へいきたいと思います
- 117 名前:吉澤 投稿日:2002年12月06日(金)21時10分09秒
- --96--
二人が部屋から出て行き、ドアを閉めた。
部屋の中には梨華ちゃん、平家さん。そして、私。
「じゃ、はじめよう。梨華ちゃんとよっすぃは窓際に行って両手をつないで。
もうじき雲が切れる。紅い満月がその姿を全て見せた時がチャンスや
よっすぃの本来の時間を見つけて引き戻してやれ」
「はい」
高い声がはっきりと流れた。
梨華ちゃんは意外なほど落ち着いているように見える。
不安そうな目で見ていたのがばれたのか「大丈夫だよ」と目を細めた。
- 118 名前:吉澤 投稿日:2002年12月06日(金)21時11分00秒
- 数秒の間の後に、それは起こった。
雲で隠れていた月が強い光と共に姿を現し、窓から私たちを照らす。
その光は梨華ちゃんと私の周りを包み込んだ。
次第にあたりが見えないほどのまばゆい光となり、私は目を閉じた。
――此処は……なんだぁ?のび太の机の中か……?
恐る恐る瞼を上げると、そこはまるでドラえもんに出てくるタイムマシーンが
移動する時の空間のようだった。
少しくらい七色が混ざり合ってぐにゃぐにゃと波打っている。
――私の身体の時間が迷いこんでるとこが見えているのかな
『ひとみちゃん』
どこからともなく梨華ちゃんの声が聞こえてきた。
――梨華ちゃん?どこにいるの?
『ひとみちゃんがいるべき時間のところ』
- 119 名前:吉澤 投稿日:2002年12月06日(金)21時13分08秒
- そんなこと言われてもわかるわけがない。
360度ぐるりと見回してみても道らしきものはないし、同じ風景が延々と
続いているのみ。
どうしたらいいんだろう。
だんだんと不安が大きくなっていくのを感じた。
まるで小さい時に迷子になった時みたい。
――梨華ちゃん……怖いよ……此処どこなの?たすけて
返事がない。どうすればいいんだ。気付かないうちに涙が溢れていた。
駄目だ。冷静にならなきゃ。
考えても何もわからない。でも、動かずにいても事態は動かない。
とりあえず、直感に従って動くしかない。
――梨華ちゃんも……私が急に消えた時こんな感じだったのかな……
酷い事をしてしまった。
帰らなきゃ。……帰って、ちゃんと謝らなきゃ。
梨華ちゃんに“本当の私”で会うんだ。
- 120 名前:吉澤 投稿日:2002年12月06日(金)21時14分24秒
- 歩く速度を早めた途端に、バランスが崩れた。
――うん?なんだ?
急に世界が溶けてきている。
上も横も、先ほどまで重力を支えていた床もドロドロと溶けていく。
――うあっ!どおしよう!梨華ちゃん!梨華ちゃん!
走ってどこか溶けてない所へ移動しようとするが、足はすでに膝のあたりまで
床に飲み込まれていて動けない。
もがいてももがいても、どんどん体が埋まっていく。
――たすけ……
成す術もないまま、私の身体は床へ沈んでいった。
- 121 名前:紺野 投稿日:2002年12月06日(金)21時16分16秒
- --97--
これはあくまで推測です。
そう断ってから銃口を中澤さんへ向けたまま話し始める。
「あなたは石川さんの両親を殺した後も何食わぬ顔で生活し、医師免許を取得した。
そして天性の才能から心臓病の権威とまで言われるほどにまでなった。
しかし裏ではセルロイドエイジに固執し続けている。あなたはある計画を実行に
移すために駒を捜していた。そのうち市井紗耶香と保田圭という駒を手に入れる。
しかしやはりそれだけでは心もとなくもっと強力な力がほしかった。
そこで、辻さんの付き添いで病院へ来た飯田さんに目をつけた。
辻さんの病状について話があるといって呼び出し、軽い催眠術をかける」
『お前にはとてつもない力がある』
火事場の馬鹿力があるように、その人の本来の力以上の力を暗示によって
引き出すことは可能。
- 122 名前:紺野 投稿日:2002年12月06日(金)21時17分21秒
- その力は死ぬよりもひどい目にあわせるにはどうすれば良いか考えたうえで
決まりました。
ギリギリで生かしておけばよい。恐怖はずっと残り続け、身体は使い物にならない。
では、何故すでに駒となっていた市井さんや保田さんでは駄目だったのか。
答えは簡単。外部の駒がほしかったからです。
飯田さんに仕事を紹介し、キャリアをつませて催眠術によってえた力を本物に
成長させて、研究の邪魔をする危険因子を潰し、いざとなった時にスポンサー
の新垣氏を消すために。
もし失敗した時も自分の計画だとばれる可能性はぐっと低くなりますからね。
必要以上の接触を経ち、いざという時に呼び出す。
絶対に断れないように弱みを握って。
「それが起爆装置ってわけですね。手術をした時に心臓に仕掛けたとでも
言ったんでしょう。予定通り飯田さんはあなたの指示に従う駒としてここへ来た」
- 123 名前:紺野 投稿日:2002年12月06日(金)21時18分31秒
- 飯田さんは何も言わない。
中澤さんはこぶしを握り締めたまま床を睨み付けている。
研究が成功し、自分が不老を手に入れることが出来れば全て消すつもりだった。
それが叶わなくても、この件にかかわった全ての人間を消すことに変わりない
……いや、叶わないと予想していたから死に場所を探していた……
みんな道連れにして死ぬ方法を。
でも、どこかでわずかに残った良心がそれを躊躇させた。
だから純粋に先生と慕ってくれた本当に辻さんの心臓に爆弾を仕掛けるなんて
出来なかった。
きっとそれが鬼になってからの最初で最後の良心だったのでしょう。
「しかしあなたはそれ以降、心の鬼に逆らえなかった。自分では止められない。
誰かに止めてほしい」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!!黙れ!」
- 124 名前:紺野 投稿日:2002年12月06日(金)21時19分23秒
- 殴りかかってくる中澤さんの拳を空いている手で掴んだ。
普通の女性のか弱いパンチだった。
「人は誰でも鬼になれます……同時にそれと戦う良心も持ってます……
その危ういバランスの上に自我があるんです」
ゆっくりと拳を掴んだ手に力をいれ、強く握り締める。
わずかに呻き声が中澤さんの口から漏れても、私はその手を緩めようとしなかった。
次第にみしみしと骨のきしむ音が聞こえてくる。
怒っていた。
生まれて初めて、本気で怒っていた。
間合いに縮まった中澤さんの眉間に銃口をぴたりとつける。
人を殺すということは、なんて簡単なことなのだろう。人差し指の筋肉を
ほんの少し動かすだけで一瞬にしてその命を奪い取ることが出来る。
引き金をゆっくりと引いた。
- 125 名前:紺野 投稿日:2002年12月06日(金)21時20分12秒
――カチッ
- 126 名前:紺野 投稿日:2002年12月06日(金)21時21分07秒
- 「私は、あなたとは違う」
エレベータの中でカードリッジの中の弾は全て抜いておいた。
銃に残っていた一発の弾もナイフを撃ったときに使った。
福田さんは私の中にいると言った。12年間で完全に紺野あさ美と同化して
しまっているけど確かに彼女は私の一部として生き続けている。
本当は気付きたくなかった。
それに気付くということは福田さんがもう此処にいないという事実を
認めてしまうことだから。
でも、事実は変わらない。ならば認めるしかないじゃないか。
私の命は福田さんがくれた命。吉澤さんと安倍さんが分けてくれた命。
私が彼女を殺すのはその3人分の命まで汚すことになる。
「私は良心でありたい……だからあなたを殺さない」
- 127 名前: 投稿日:2002年12月06日(金)21時21分53秒
- 本日はここまで。
- 128 名前: 投稿日:2002年12月06日(金)21時30分05秒
- レス有難うございます。
>114
紺野も小川もカッコ良く書けているようでホッとしました。
保田はもうちょっと後になりますが。ヤス誕生日なのにこの扱い……
>115
楽しみにして下さって有難うございます。
最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
- 129 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月07日(土)09時42分12秒
- 紺野キマってますな
いしよしも気になる…
- 130 名前:中澤 投稿日:2002年12月12日(木)01時20分52秒
- --99--
「ははっ……なんや、結局お前も自分の手を汚したくないだけやんか」
からかうように言っても、紺野は無表情のままこちらを見据えている。
挑発には乗らないらしい。
研究は成功した。この勝負は私の勝ちのはずだった。
「何もかもあなたの思い通りになると思わないで下さい」
紺野はこのゲームの鍵を握る。
そう思ったのは、ここにいる“生き残り予定者”のなかで唯一鬼を殺せる
人間と思っていたから。
その考えを見透かしているかのように、紺野は私を殺そうとしなかった。
- 131 名前:中澤 投稿日:2002年12月12日(木)01時21分41秒
- 「研究が成功しても、使えんけりゃ意味がないんや。かといってここで
あんたら相手に勝てるとも思えん。それなら無理心中や。一人では死なんで」
研究が成功しても……――うちはもう鬼として生きていきたくない。
研究資料も設備も全て残していくわけには行かない。
梨華も生かしておくわけにはいかない。あいつは全ての元凶。
もっと早く殺してあげとくべきやった。
ポケットの中に手をいれ、起爆ボタンを押した。
「うあっ!?な、何、今の!?」
爆発の振動に驚いた二人があたりを見回す。
圭織はとっさにソファの後ろに隠すように座らせていた辻の元へ走る。
研究室から出てきた安倍と矢口がドサクサに紛れて圭坊の倒れている所へ
走っていくのが見えた。
――そうだ。それでいい
- 132 名前:中澤 投稿日:2002年12月12日(木)01時22分20秒
- しかしそんな状況でも紺野だけは顔色を変えなかった。
表情は無表情に近い。そう、まるであの福田明日香のように。
やつは紺野を護り続けているのか。
紺野が明日香を受け入れてしまったから完全に二人が溶け合ってしまったのか。
「あなたは本当にどこまでも素直じゃない人ですね」
見透かされている。
その大きな瞳に映っている私は、もうすでに鬼の私でなくなっている気がした。
何も言えずに歯を食いしばっていると、冷たい感触が後頭部に押し付けられた。
「これは……予想外の展開やなぁ……」
- 133 名前:中澤 投稿日:2002年12月12日(木)01時23分18秒
- 「あさ美ちゃんには悪いけど、私はそこまで優しくなれない」
「麻琴ちゃん……」
「私は平家さんて人からこれを受け取った時にこの人を止めるって決めたんだ
……ってのは建前だけどね。本音は私を怒らせたから。許せない事をした
から撃つ」
麻琴と呼ばれた少女は静かに言葉を紡ぐ。
みっちゃんにはうちを殺して逃げて欲しかった。
そのために常に彼女の手の届く位置に銃を置いていたというのに、何をしても
彼女はそれに手を伸ばす事はなかった。
しかし本当はわかっていたのだ。
私がそこに銃を置いている理由も、殺して欲しいというサインを出し続けていた事も。
「みっちゃんはええ子やからな……結局最後まで鬼にはなれんかったんや……」
「……麻琴ちゃん銃を貸して。愛ちゃんを連れて外に逃げて」
紺野が非常階段のほうを指差して少女の銃を奪おうと手を伸ばすが少女はそれを
避けるように手を払う。
「この人を撃ってから逃げるよ」
- 134 名前:中澤 投稿日:2002年12月12日(木)01時24分03秒
- さっきの子のように震えていない。肝が据わっているようだ。
この子なら本当に撃ってくれる。人殺しになれる瞳をしている。
自分の禁域に足を踏み入れたもの全てを排除する非情な行動が出来る瞳を。
なんにしろ、もう助からない。非常階段もエレベーターも爆弾が仕掛けられて
いるのだから。
梨華も、セルロイドエイジも、その存在を知るものも、みんなこの世から消える。
全ての終わりがやってくる。やっと、終わる。
少女の人差し指にゆっくりと力が込められる気配を感じ、目を閉じた。
「麻琴ちゃん!人殺しにならないでよ!その人を撃っても何も変わらないじゃない」
「……――愛ちゃん……」
くそっ。またこいつか!
「……邪魔すんなやぁっ!」
紺野の手を振り払ってお嬢ちゃんの方へ走る。
「――っ!!愛ちゃんに近づくな!」
「麻琴ちゃん!駄目ぇっ!!」
乾いた音の後に右肩を鋭い痛みが駆け抜けた。
どうやら急所は外れてしまったらしい。
「もうちょい……上手く狙えんのかいな……」
ああ、でも、動けない程度になったからええわ。
やっと、金色の鬼は眠りにつけるんや……――
- 135 名前:中澤 投稿日:2002年12月12日(木)01時25分04秒
- --100--
ひとみちゃんが床に飲み込まれていく時、ほんの数秒の間にとてつもない情報量の
映像が頭に流れ込んできた。
「キャッ――!?」
私の過去、ひとみちゃんの過去、さまざまな映像が能に直に送られてくる感じ。
その直後ひとみちゃんの身体は完全に床に飲み込まれ、消えてしまった。
「ひとみちゃん!平家さんどうしよう……ひとみちゃんの気配が消えちゃった……」
床に飲み込まれていくひとみちゃんの手が脳裏に焼きつく。
ここで繋いでいる手は片時も離していないというのに、ゆがんだ時間の中では
私は何も出来なかった。ただ、呼びかけるだけ。
それも一言二言で届かなくなり、一方的に見る事しか出来なかった。
「……大丈夫みたいやで」
- 136 名前:中澤 投稿日:2002年12月12日(木)01時25分42秒
- 平家さんの声に反応し、ひとみちゃんの顔を見る。
瞼がゆっくりと持ち上がり、そのきれいな瞳を見せた。
「あ……」
「……久しぶりなのかな……?」
繋いでいた手に自然と力が入る。
また泣き出しそうになるのを懸命にこらえて笑顔で抱きしめた。
最後に会った時よりも、心なしか背が伸びているようだ。
セルロイドの時間から戻ってこれたのだろう。
「平家さん、私は本当にもうセルロイドエイジじゃなくなったんですか?」
「わからん。けど、多分大丈夫やと思うで。ただ……」
平家さんの言葉をかき消すように爆発音が響き、地震が起きた。
その後も二つ三つと次々に追いかけるように続いてく。
- 137 名前:石川 投稿日:2002年12月12日(木)01時26分16秒
- 「――っ姐さん……本気でここ全部灰にする気やな……二人ともはよ逃げや!
そこの窓から雨どいをつたって降りるんが一番早いはずやから」
「平家さんは!?紺野たちも――」
「紺野ちゃんたちは任しとき。うちも一緒に逃げるさかい」
嘘だ。
平家さんは逃げる気なんかない。
でも、ひとみちゃんは「わかりました」って言って私の手を引いた。
「ひとみちゃん――……」
「大丈夫だよ。平家さんはきっとちゃんと逃げてくれる」
果たしてそうだろうか……平家さんは本当に生きてここを出てきてくれるだろうか……
「梨華ちゃん。今は言う事を聞いて。素直に私と一緒に逃げて」
日常に戻ったらいくらでもわがままを聞くからと優しく言うひとみちゃんに
私は素直に従うしかなかった。
- 138 名前: 投稿日:2002年12月12日(木)01時26分57秒
- 本日はここまで。
- 139 名前: 投稿日:2002年12月12日(木)01時32分19秒
- 早速ですが訂正。
135と136の名前両方とも 中澤→石川
レス有難うございます。
>129
いしよし、なんかあっさり戻りすぎてスイマセン。
- 140 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月12日(木)11時40分29秒
- みっちゃんいいこなのに・・・
- 141 名前:紺野 投稿日:2002年12月12日(木)16時54分38秒
- --101--
おかしい。
麻琴ちゃんの腕を捻り上げて銃口を上に向けたはずなのに、中澤さんが倒れた。
弾が飛んできたと思われるほうへ顔を向けると、動かなくなったと思っていた人が
銃口から出る煙を「ふっ」と吹いている姿が見えた。
「フン。上手く狙えるわけないじゃんか……誰かさんのお陰で頭が痺れてる上に
目もよく見えないんだから」
「――市井さん……」
今の爆発の衝撃で意識が戻ったのか。
「ほら、今のうちに早く逃げるんだ。まだ間に合うから。それと……
後藤も連れてってあげてくれるかな……こいつに撃ったの麻酔銃にペイント弾
付けただけのヤツだから……まだ生きてるんだ」
そう言って後藤さんの身体を担ぎ上げて私に預ける。
気を失った人独特の重さが圧し掛かる。
- 142 名前:紺野 投稿日:2002年12月12日(木)16時55分44秒
- 「……いつから正気だったんですか……?」
「ずっとだよ。圭ちゃんにはひどい思いをさせちゃったけど、矢口と話し合って
こういうやり方になったんだ。紺野が思ったとおりに動いてくれてよかった……」
「あなたはどうするんですか?逃げないんですか?」
「成功例はここで消えるよ。それに、逃げたと……でこれ以上脳が
持たな……から…」
苦しそうに息を切らせて、市井さんは私のほうへ手を伸ばした。
握手を求めるかのように。
その手を握ると市井さんが私の手の甲に口付ける。
「……あーちゃん……ごめん……ずっと大好きだった」
あーちゃん。福田さんをそう呼ぶのは一人だけ。
『紗耶香は本当は泣き虫で優しい子なんだよ』
福田さんの声が蘇る。
私が何も考えなくても、市井さんへむける言葉が自然に口をついて出てきた。
「うん……ありがとう、紗耶香」
「……ははっ……ずっと、会いたかっ……たよ……あーちゃん」
- 143 名前:紺野 投稿日:2002年12月12日(木)16時56分38秒
- 市井さんはそこまで言うと手を離し、その場に膝から崩れ落ちて頭を抱えて
唸りはじめた。脂汗がぽたぽたと流れ落ちる。
掠れた声で「紺野……逃げ延びろよ」と途切れ途切れに告げる市井さんに
無言で頷き、麻琴ちゃんたちに後藤さんを担がせて逃げるように促した。
非常階段を下りていくのを見送った後、保田さんのほうへ向かう。
保田さんのすぐ横に安倍さんと矢口さんが寄り添うようにして倒れている。
二人のその顔はとても安らかで、笑っているように見える。
一度硬く目を閉じて、保田さんの身体を背負う。
そして、まだ部屋に残っている飯田さんに声をかけた。
「辻さんを連れて外へ出ましょう……あなたは辻さんにとって必要な人です。
ここで一人死のうなんて考えちゃ駄目ですよ」
「……カオリは、たくさん人を壊した……たくさん罪を犯したんだよ」
きれいな顔に涙を伝わせて、呟くように言う。
「それなら余計に生きて帰らないといけませんよ。償う事は出来るはずです。
まず手始めに、辻さんを助けましょう」
私の言葉に「……うん」と頷き、涙を拭いた飯田さんは辻さんを抱きかかえて
階段を駆け下りていく。
- 144 名前:紺野 投稿日:2002年12月12日(木)16時58分02秒
- あとは石川さんたちだ。研究室から逃げ出せただろうか。
研究室のほうへ歩こうとすると、ちょうどそこから出てきた平家さんが
声をかけてきた。
「紺野ちゃん、梨華ちゃんたちはもう逃げたから大丈夫や。あんたもはよ逃げや」
「平家さんも早く行きましょう」
私の言葉は届かないと分かっていた。
案の定平家さんは首を横に振り、苦笑いを浮かべる。
「ごめんな。うち、やっぱこの人に心底惚れとるみたいなんや」
中澤さんの傍へ歩いていき、膝を付く。
肩の傷を押さえる手にそっと自分の手を重ねて「鬼でも何でも関係あらへん」と
呟いた。それを聞いた中澤さんが眉間にしわを寄せて口を開く。
「……あほう。うちは一緒に死んでくれなんて思ってないで……
うちを殺せんような奴うっとおしいだけや。紺野と一緒にはよ目の前から
消えてや。早く。今すぐ!」
本当に素直じゃない人だ。
確かに、これ以上ここにいると脱出は難しくなる。
「平家さん、中澤さんを担げますか?みんなで外に出ま……――」
- 145 名前:紺野 投稿日:2002年12月12日(木)16時59分15秒
- 言葉が終わる前に、中澤さんの胸にナイフがつきたてられた。
……――平家さんの手で。
「……ありがとな……でも、はよ……行け……」
肺に血が入ったのだろうか。大量に吐血しながら喋る。
「嫌です。うちは、残る……」
中澤さんが涙を流しながら首を振る平家さんの顔へ紅く染まった手を伸ばし、
引き寄せた。重ねるだけの優しい静かな口付け。ほんの数秒で顔を離し、
平家さんの肩を押しのける。
「大サービスしたったんやから……はよ、行け」
「……あんたっちゅう人は……ほんまに、ずるい人やね……」
『ドオーン』という先程よりももっと大きな音が建物を大きく揺らした。
「平家さん!」
「わかっとる……急ぐで!」
そう言って走り出した平家さんの表情は、もう死を求めている人間の
それではなくなっていた。
- 146 名前:高橋 投稿日:2002年12月12日(木)17時00分27秒
- --102--
麻琴ちゃんが重そうに後藤さんを抱えている後ろを必死で付いていく。
非常階段を降りきった所で、誰かがうずくまっているのが見えて立ち止まる。
「……――加護さん?」
間違いなかった。
加護さんは顔面蒼白で階段の下で膝を抱えて震えていた。
「はやく逃げないとここは危ないです。行きましょう!」
動く気配のない加護さんの手を強引に引いて再び走り出す。
やっとの思いで車まで辿り着くと、既に脱出していた石川さんたちが私たちを
見つけて手を振る姿が見えた。
「良かった!みんな無事……――紺野たちは……?」
麻琴ちゃんも、私も何も言わなかった。
ただ崩れかけている建物に視線を向けるのが精一杯だった。
- 147 名前:高橋 投稿日:2002年12月12日(木)17時01分20秒
- 程なくして飯田さんが辻さんを抱えて歩いてきた。
あさ美ちゃんの事を聞くと首を振るだけで、口を開いてはくれない。
次々に爆発音が聞こえてくる。
より一層激しい炎が白い建物を包み込み、橙色の光が私たちを照らす。
あさ美ちゃんはまだ出てこない。
炎によってガラガラと音を立てて次々にその形を崩していくのがよく見える。
建物のほうへ走り出そうとする私の腕を麻琴ちゃんが掴んで止めた。
「今戻ったらどうなるかぐらいわかってるでしょ!」
「でも、まだあさ美ちゃんが中に!」
手を振り解いた瞬間、背後から細い声が聞こえてきた。
「駄目だよ。あんまり我侭言っちゃ」
振り返るとそこには所々焼け焦げた跡のある服を着て、すすで黒くなった顔で
優しく微笑むあさ美ちゃんがいた。白衣を着た女の人と一緒に。
背中に背負っていた人を下ろして、ぐるぐると肩を回す。
- 148 名前:高橋 投稿日:2002年12月12日(木)17時02分06秒
- 「あさ美ちゃん!」
「平家さん!」
二つの声が同時に響く。
その後に続くようにパトカーと救急車、消防車のサイレンの音が
近づいてくるのが聞こえた。いくら町から離れたところにあるといっても、
これだけ大規模な火災が起きれば通報されるのは当然だ。
「そこの林の裏に車が一つやっと通れる道がある。そこからならパト達と会わずに
すむからみんな早く逃げや。あとは加護ちゃんとうちが残って何とかする」
その言葉に逆らわずにそれぞれの車に乗り込んだ。
飯田さんの車には辻さんと気を失っている二人。
残りは私たちの方へ。しかし、全員免許は持っていない。
あさ美ちゃんも運転はした事がないらしく、申し訳なさそうに首を振った。
「どうする?」
「じゃ、私が……――」
石川さんの口が吉澤さんの手によって塞がれ、あさ美ちゃんの手によって
むりやり後部座席へ座らせられた。
二人とも乗ったことはなくてもなんとなく予想はついているらしい。
「来た時は麻琴ちゃんだったんだよね。お願いしていいかな」
こうして運転手も無事に決まり、私たちの車も飯田さんたちの後に続いた。
- 149 名前:高橋 投稿日:2002年12月12日(木)17時03分11秒
- 道中、あさ美ちゃんに何故平家さんは加護さんまで一緒にあそこへ残らせたのか
聞くと少し考えてから「多分だけど」と答えたくれた。
「加護さんをちゃんとした病院へ早く連れ手行きたかったんだと思うよ。それに
事情聴取のときにショックで覚えていないって言うのに説得力も出てくるし」
「そっか……なんか、疲れた……まだ実感がないよ……」
この数日間で起こったことは、どれも日常からかけ離れ過ぎていて。
きっとこの車が元の町に戻って、明日になればいつもの日常が始まるんだ。
私たちの身に起こったことを周りの人たちは知るよしもなく、それまでと
同じようにゆっくりと退屈な日々が動き出すのだ。
「……早く眠って忘れちゃえばいいよ。全部夢だったんだよ」
まどろみに沈んでゆく意識のなか、優しくあさ美ちゃんの声が聞こえた。
- 150 名前:EPILOGUE 投稿日:2002年12月12日(木)17時04分34秒
- --EPILOGUE--
「こんにちはー」
「おう。紺野、久しぶり」
日曜の夕暮れ、薬局に明るい声が響く。
忙しそうに店内の商品を並べる平家さんの手伝いをする保田さんが
軽く手を上げて近づいてきた。
「お久しぶりです。今日は石川さんたちのとこへ行く日だって聞いたんで
差し入れ持ってきたんですよー」
「有難うね。あいつらも喜ぶよ」
あれから、石川さんの力の影響を考えて二人は人里離れた山奥で静かに暮らす道を
選んだ。セルロイドエイジの研究は平家さんと保田さんの手によって水面下で
ゆっくりと進んでいる。
また新たなセルロイドエイジが現れた時、誰も傷つくことなく救えるように。
新たな迷子を生み出さないようにするためにはどうすればいいのか。
「まだまだ未解明なんやけどね」
「平家さんなら大丈夫ですよ。きっと」
保田さんの肩越しに苦笑いする平家さんに笑いかけ「では、私は約束があるので」と
店を後にした。
- 151 名前:EPILOGUE 投稿日:2002年12月12日(木)17時05分56秒
- 杏色に染まった道を一人歩く。
こんなときにふと思い出すのは、あの時の私の表情。
未来を見ている私は何を見て笑っていたのだろう。
目的地に向かう途中にある公園で辻さんと加護さんの笑い声が聞こえてきた。
「あいぼんずるいー。反則だよぉ」
「ののがとろいかだけやん」
そのやり取りを見て穏やかに笑う飯田さんと後藤さん。
後藤さんは、加護さんの入院中も毎日のようにお見舞いに行っていたらしい。
一週間に一度必ず保田さんと一緒に市井さんのお墓参りをしているとも聞いている。
事件から少しの間は見るのが痛々しいほどやつれていたけど、加護さんが
退院してからはだんだんと顔色も良くなっていき、今では完全に大丈夫そうだ。
声をかけようかどうか迷って、結局辞めた。
彼女たちの笑い声を止めたくなかったから。いつものように
そっと公園の脇道を通過した。
- 152 名前:EPILOGUE 投稿日:2002年12月12日(木)17時07分26秒
- まっすぐに続く道をゆっくりと歩く。
道の端に置かれた小さなベンチに腰掛けている少女が見えた。
その端正な横顔に一つ心臓が跳ねるのを感じた。
――あ……そうか……
それは、いつか見た初恋の人と同じ光景。
人待ち顔で一人ベンチに座る少女。
あの人が何故あんなに気になったのか、今やっと理由がはっきりとわかった。
「……これを見たわけね」
斜め上の空を見上げて笑う。そこにいつかの私がいると思ったから。
初恋だと思っていた出会いは本当は二度目だったのだ。
きっと、今この時のこれが本当の私の初恋。
立ち止まる私を見つけた愛ちゃんは立ち上がり、少し早足で私のほうへ
駆け寄ってきた。その後ろから、優しい微笑みを浮かべてゆっくりと
歩み寄ってくる麻琴ちゃんが見える。
それぞれの時間は、今日も静かに流れていく。
- 153 名前:セルロイドエイジ 投稿日:2002年12月12日(木)17時08分13秒
セルロイドエイジ【終】
- 154 名前: 投稿日:2002年12月12日(木)17時09分31秒
- レス有難うございます。
>140
みっちゃんは最後までいい子でした。
- 155 名前:名無し作者 投稿日:2002年12月12日(木)17時18分26秒
- 半年も長々と続けさせていただいた「セルロイドエイジ」は以上で完結です。
途中放棄しようかと思うときもありましたが、連載中にレスを下さった方々の
お陰で何とか終わりを迎える事が出来ました。
ごちゃごちゃした設定の上、読みにくい書き方なのに読んでくださった方々に
心からの感謝をしたいと思います。
有難うございました。
- 156 名前: 投稿日:2002年12月12日(木)17時24分46秒
- それでは。
川o・-・)ノ<有難う御座いました。また会う日まで。
- 157 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月12日(木)19時15分39秒
- いやぁ、完結お疲れさまでした。読みでのある内容に着実な更新。
何より良いと思ったのはメンバー達全員に見せ場が作れていること。
これをやりながらストーリーをまとめるというのは
生半可な努力じゃなかったと思います。おもしろかったですよ。
- 158 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月15日(日)11時48分44秒
- 毎回更新の度にワクワクして読んでました。
感想書くの苦手なんでレスはしてなかったんですが。完結乙でした。
- 159 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月15日(日)21時38分35秒
- お疲れ様でした。私も感想上手く言葉にできないので
レスはしませんでしたが楽しみに読んでました。
今後も何か書かれる予定はあるのでしょうか?
またぜひ読ませていただきたいです。
- 160 名前:名無し作者 投稿日:2002年12月17日(火)20時22分19秒
- レス有難うございます。
>157
自分でも纏められるかどうか不安でしたが何とか出来てホッとしています。
そう言っていただけて本当に嬉しいです。
>158
有難うございます。
自分も感想書くの苦手なんでよくわかります(w
>159
有難うございます。
今後のことですが、まだこのスレにだいぶ余裕がありますので
番外編みたいなものを引き続きここで書かせていただこうかと
思っています。
更新したらちゃんとageますので暇な時にでも読んでくだされば嬉しいです。
- 161 名前:ごーしゅ 投稿日:2002年12月21日(土)22時47分46秒
- 市井ちゃんに感動しました(涙
なちまり…、幸せになってね…(号泣
すごくおもしろかった!
- 162 名前:名無し作者 投稿日:2002年12月24日(火)00時03分44秒
- >161
有難うございます。
感動してもらえて嬉しいです。
番外編らしきものが一応出来上がったのでUPします。
まずは小川編。マイナーCPな上に受け入れられるかどうかわからない
代物なので、あらかじめご了承ください。
- 163 名前:春の日差し 投稿日:2002年12月24日(火)00時07分02秒
早いもので、あの事件から半年が過ぎた。
愛ちゃんは相変わらず「あさ美ちゃん、あさ美ちゃん」ばかり。
私の気持ちを知っているのに「あさ美ちゃん大好き」攻撃をするのは
結構ひどいんじゃないかな。
でも、心のどこかでこのままの関係がいいなぁと思っている部分もある。
私と愛ちゃんは相思相愛じゃないほうが良い。
きっと愛情のバランスが取れなくて破綻するのは目に見えているから。
愛ちゃんが思っている以上に私の愛ちゃんに対する愛情は大きい。
だから、ある程度距離をおいて一方的に好きなほうがいい。
その点、あさ美ちゃんと愛ちゃんならきっと上手くいく。
愛ちゃんのあさ美ちゃんへの愛情はとてつもなく大きいけどあさ美ちゃんは
それを受け止めるだけの余裕があるもん。
「そうなの?」
「うん。だって普通じゃないでしょ。あの落ち着きよう」
もうこうやって色々と相談される事にも慣れてしまった。
心を許せる親友のポジションは誰にも譲れない。
- 164 名前:春の日差し 投稿日:2002年12月24日(火)00時07分58秒
- 噂をすればなんとやら。
校舎から駆け足で出てくるあさ美ちゃんが私たちに向かって手を振ってきた。
「ごめん。ゴミ捨て行ってたら遅れちゃって……」
お人よしで要領の悪いとこあるから押し付けられやすいんだよね。
それに嫌な顔せずにぽんぽん引き受けちゃうからこういうことはしょっちゅうだ。
愛ちゃんは「そこが良いんじゃない」って言うけど。
「じゃ、帰ろっか」
あさ美ちゃんはさりげなく愛ちゃんの手を取り歩き出す。
いつからだろうかあさ美ちゃんがこんな風に愛ちゃんに接しはじめたのは。
きっと本人は無意識だ。
愛ちゃんも気付いていないかもしれない。
以前私は『あさ美ちゃんは愛ちゃんを友達としか思ってないよ』と言った。
でも、今はどうだろう。
明らかに以前に増して好意を寄せているように見える。
これは二人がどうにかなっちゃうのも時間の問題かもなぁ……
そう考えると急にわけのわからない感情が私の中で暴れ始めてきた。
- 165 名前:春の日差し 投稿日:2002年12月24日(火)00時08分43秒
- 今これ以上ここにいるのは、この二人の傍にいるのはマズイかもしれない。
二人にとっても、私にとっても。
「麻琴ちゃん、どうしたの?」
「うんにゃ、別に。急用を思い出してさ。ちょっと時間かかりそうだから
ごめんけど二人で帰ってー」
ポケットから携帯電話を出して誰かにメールで呼び出された演技をしながら
その場を足早に離れた。
目的地が決まらないまま歩いていくと、いつのまにか学校へ戻っていたので
そのまま屋上へ駆け上がる。今の時間ならきっと誰もいない。
なんとなくすぐ家に帰りたくない。誰もいないところへ行きたい。
一人になりたい。
なんでだろう。
鼻の奥がツンとして視界がぼやけてきている。
あぁ、そうか。
私は泣き場所を探してるんだ。
- 166 名前:春の日差し 投稿日:2002年12月24日(火)00時09分20秒
- 「上を向〜いて…あ〜るこぉぉぉ…涙がこぼれ〜ないよぉぉに……」
誰にも聞こえないような小さな声で歌いながら空を仰ぐ。
赤と水色の曖昧な境界線が見える。
まるで無表情に私を見据えているようですぐに目を逸らした。
「なんでかな……今まで平気だったのに」
そう。平気だった。むしろそれを望んでいた。愛ちゃんの一番の笑顔は決して
自分に向けられる事はないのだとわかっていたから。
間接的にそれを見るためには、あさ美ちゃんの存在が不可欠だったから。
でも、それは愛ちゃんの気持ちが一方通行だという大前提があったからであって、
私はどこか期待していたのだと思う。
いつかその笑顔が私のほうに向けられる時が来るかもしれない、と。
それも、今はもう手遅れだ。所詮片想い。両想いには敵わない。
涙の意味を考える。
いや、本当は知っていた事をちゃんと認めるだけだ。
「あ〜ぁ……振られちゃったんだなぁ……」
そんなこと随分前から知っていたのに、今更何をショック受けてるんだか。
我ながら馬鹿みたいだ。
- 167 名前:春の日差し 投稿日:2002年12月24日(火)00時10分00秒
- 泣こう。気の済むまで、存分に。
目が腫れたって徹夜で漫画読んでたとか言って誤魔化せばいいや。
吹っ切るんだ。明日の私のために。
明日の朝また気の許せる親友として笑顔を見せれるように。
彼女の笑顔に負けないくらいの笑顔になるために。
今まで涙が零れ落ちないように堪えてきた涙腺を開放して上を向くのを止めると
頬を暖かい水滴が次から次へと重力に身を任せて滑り落ちる。
ギィとドアが開く軋んだ音が聞こえた気がして振り返る。
「あ……えーと……ハンカチ入ります?」
その子は理沙ちゃんの心臓を貰ったという新垣里沙に間違いなかった。
外見は全く同じ。でも、私たちとの記憶はないらしい。もちろんあの事件の記憶も。
里沙ちゃんの話をするのも酷だから不要な接触は出来るだけ避けようとみんなで決めていた。
「ありがと……でも、大丈夫だから」
そう言って制服の袖でごしごしと瞼を擦る。
- 168 名前:春の日差し 投稿日:2002年12月24日(火)00時10分43秒
- 「私の特技、披露しちゃいます」
「へ?」
特技が疲労?何を言っているのだろうと思い顔を上げると突然里沙ちゃんが右手を眉毛に当て
そのまま前へ腕を伸ばし叫んだ。
「眉毛ビーーーーーム!!」
「…………はぃ?」
「元気でました?」
ニコニコした表情のまま実に明るく問い掛けてくる。
ここで首を横に振れるわけがない。
「う……うん。元気になったよ!すごいね!」
「よかったー……よく寒いよとか意味わかんないとかって言われるんで」
わかっててやったのかよ!
心の中で突っ込みをしつつ、いつのまにか涙が出てこなくなっている事に気付く。
失恋のショックを吹っ飛ばす効果があったのだろうか。
- 169 名前:春の日差し 投稿日:2002年12月24日(火)00時12分43秒
- 照れ笑いを浮かべる里沙ちゃんは私の傍に置いてあった教科書を拾い上げて
「邪魔してごめんなさい」と軽く頭をさげて下へ降りる階段へ向かう。
「あ、里沙ちゃん!」
思わず呼び止めた私に振り返り、驚いた表情をする。
きっと名前を知っている事に驚いたのだろう。
「あー……えっと、教科書に書いてあったから。新垣里沙ちゃんでしょ?
私、小川麻琴って言うの……えっと、その、あの……ありがとう」
「どういたしまして」
私の言葉に満面の笑みでそう返すと、今度こそ本当に階段を降りていった。
「……私って案外現金な奴なのかも」
それはまるで、真冬だったはずの私の季節にかすかに春の日差しが
差し込んできたようだった。
【終わり】
- 170 名前: 投稿日:2002年12月24日(火)00時17分43秒
- 小川編終了。
本編であまりに不遇な役回りだったので、これで相殺…出来てなさげ…
ネタ隠しのためにも引き続き保田編をUPします。
- 171 名前:Photographic subject 投稿日:2002年12月24日(火)00時20分13秒
「ねえ、圭ちゃん……明日香サンってどんな人だったの?」
紗耶香の墓前で手を合わせたまま後藤が問い掛けてきた。
身体的特徴はデータでわかってはいても、実際に話をすることも
会うこともないまま明日香は他界してしまったから、後藤が何も
知らないのは無理もない。
「そうだね……」
墓石に彫ってある紗耶香の名前を見ながら思い出す。
――――――――
―――――
―――
- 172 名前:Photographic 投稿日:2002年12月24日(火)00時21分17秒
- 「明日香〜?おーい。いるんでしょー」
大きなお屋敷の中に明日香は祖母と二人きりで暮らしていた。
父も母も死別したらしい。
その屋敷の一番奥にある日当たりの良い部屋に明日香は入り浸っていた。
自室にいないときは大抵その部屋に本を持ち込んで壁を背もたれにして
座り込んで読んでいた。
紗耶香は隠れるように作られたその部屋の存在を知らない。
私もちょっと前に猫が迷い込んで入っていかなければわからなかっただろう。
案の定、明日香はいつものようにそこにいた。
「返事くらいしてよ。紗耶香が遊ぼうってさ」
「…うーん…もうちょっと…」
本から目を離さずに生返事を返してくるのもいつもの事だ。
- 173 名前:Photographic subject 投稿日:2002年12月24日(火)00時23分05秒
- その横顔めがけてシャッターを構える。
ファインダー越しに見る明日香は今にも消えてしまいそうで、ついつい慌てて
シャッターを押す。出来るだけ多く撮ろうと、何度も何度も。
「いつもさ、すごく早くシャッター切るのは、何で?」
私の行動に気付いた明日香が問い掛けてきた。
相変わらず目線は本の上にある。
「どっか消えちゃいそうだから。押すのを躊躇った瞬間、消えたら
どうしようとか考えちゃうから」
明日香は確かにここにいるのに、瞬きの瞬間にそこから姿を消して
しまいそうな雰囲気がある。
存在感がないわけじゃない。むしろありすぎるほどだ。
「……別に、消えてなくなるわけないし。」
でもね、と明日香が本を閉じて私のほうへ向き直る。
「もし何も言わずに消えたら、紗耶香のこと頼んだよ」
- 174 名前:Photographic subject 投稿日:2002年12月24日(火)00時24分03秒
- その瞳は怖いほどまっすぐで。私は何も言わずに頷くことしか出来なかった。
明日香は紗耶香を本当に大事にしてる。
我侭も甘えも全てなんだかんだ言って許している。
「あんなに懐かれたらね。突き放せないでしょ。年上なのに頼りないし」
そう言ってそっぽを向くのは決まって照れているとき。
本当は紗耶香が可愛くて仕方がないのだと素直に言えばいいのに。
伊達にあんたらを見てきたわけじゃないんだ。それくらいはわかるよ。
指摘したら、ちょっとふてくされた顔をして後ろを向くんだろう。
「あーちゃーん!どこぉ?あそぼー」
遠くから紗耶香の声が聞こえる。
その声を聴いて明日香は壁の向こう側にいるであろう紗耶香を見て優しく微笑む。
「さて、そろそろ行こうか。ここがばれたら読書も出来なくなっちゃうよ」
うんざりしたような言い方をしたつもりでも、軽い足取りは誤魔化せない。
それが可笑しくて気付かれないように笑いながらファインダーを覗き込む。
シャッターは押さなかった。
その姿は写真ではなく心に強く焼き付けておいたから。
- 175 名前:Photographic subject 投稿日:2002年12月24日(火)00時24分43秒
- ――――――――
―――――
―――
「ねー?けーちゃん?」
後藤が心配そうにこちらを覗き込む。
「え?あぁ、ごめん。何?」
「だからー!明日香さんってどんな人だったの?」
「……うーん……」
どう言えばいいのだろう。的確な言葉が見つからない。
言葉を捜していると焦れた後藤が「はやくはやく」コールを言い出した。
その様子が、昔の紗耶香と重なって笑える。
「きっと後藤も好きになるような子だったよ」
その答えに「わからないよ」という顔をした後藤を見て両手で作ったフレームの
中にその顔を入れる。家に帰ったら久しぶりにカメラを引っ張り出そう。
今度の被写体は慌ててシャッターを押さなくて良さそうだ。
【終わり】
- 176 名前: 投稿日:2002年12月24日(火)00時26分08秒
- 保田編終了。短くてスイマセン。
- 177 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)01時16分14秒
- 小川編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
これはまたいろんな意味で貴重な……(w
- 178 名前: 投稿日:2003年01月04日(土)19時14分58秒
- >177
レス有難う御座います。
このCP結構好きになってしまいまして勢いで書かせて頂きました。
次の予定はいしよし編かなちまり編ですが、あくまで予定は未定です。
倉庫落ちまでに書けたら更新します。
- 179 名前:ごーしゅ 投稿日:2003年01月10日(金)22時10分17秒
- 作者様の作品全部好きです!
いしよしかなちまり楽しみに待ってます。
(…出来ればなちまりが…)
- 180 名前:名無し作者 投稿日:2003年01月14日(火)05時25分57秒
- >179
レス有難う御座います。
そう言って頂けてとても嬉しいのでリクエストにお答えしてなちまりで。
というわけで なちまり編UP。
- 181 名前:出逢い歌 投稿日:2003年01月14日(火)05時27分47秒
――それが偶然だとするのなら、あなたに会えたのはきっと必然。
- 182 名前:出逢い歌 投稿日:2003年01月14日(火)05時28分25秒
- 突然身体が焼けるように熱くなって、気が付いたら身体が縮んでた。
枯れている花を手に取るとキレイな花を咲かせることが出来た。混乱する頭で
必死に考えて、今の自分に帰る所がないことだけは理解できた。帰る所もなく、
手に入れた力で車に轢かれた犬や折れた枝を手で包み生気をおくりこむ。
その瞬間だけは、この世界にいてもいい気がしたから。
泣きたくなかったから気を紛らわせるために歌った。
大好きな歌を歌っていれば、泣かずに済むと思ったから。
それでも、やはり涙腺が壊れたように涙はぼろぼろと、とめどなく零れ落ちる。
2曲目の途中、背後から高い声が聞こえてきた。
「……歌、上手いね」
それが矢口との出会いだった。
- 183 名前:出逢い歌 投稿日:2003年01月14日(火)05時29分26秒
- ―――――――――――――
「ゴホッゴホッ」
喉の内側を切るような痛みが走る。最近、以前にも増して体の調子が悪い。
身体がだるく、頭もくらくらする。微熱が続いているせいだろうか。
「なっち、大丈夫?」
不意に額にあてられた冷たい手に目を細める。矢口は優しい。
それは同じセルロイドエイジだからなのだろうか。
それとも――――
「へーき、へーき。それよりほら、今のうちに家とか探しとかないと
子どもの姿のまんまだったらどこも借りれないっしょ」
「へいへい。なんかあったら言いなよ?すぐ無理したがるんだからさー」
こうして二人同時に実年齢に戻ってるのは滅多にないことだった。
大抵両方子どもかどちらか一人が元の年齢に戻っているかのどちらか。
だから余計に等身大の自分たちにはしゃいでいた。
- 184 名前:出逢い歌 投稿日:2003年01月14日(火)05時31分18秒
- 前の家は私たちを狙う“誰か”に見つかってしまった。決して捕まってはいけない。
「なっちたちは自らで解除できない爆弾を抱えているのと同じだから」
そう。これは爆弾。解除方法はあるかも知れない。でも、本当に出来るのか
どうかもわからない。この世にあってはならないもの……存在すら許されない
のならいっそ消えてしまえれば楽なのに。それすら叶わない。
「また消えたいとか考えてるでしょ?ヤグチは、なっちに消えて欲しくない」
「……?」
「ここに必要としてる人がいるってことは、それだけで簡単に消えちゃいけない
存在ってことだよ。だから……」
矢口の優しい抱擁に瞳を閉じる「消えるなんて言わないで」寒いのか、少し
震えている。腕をまわして抱きしめかえすと、矢口は小さく呟く。
耳元で聞こえたその言葉だけで生きていける気がした。
「ずっとヤグチのそばにいなよ……ずっと」
- 185 名前:出逢い歌 投稿日:2003年01月14日(火)05時32分15秒
- 嬉しくて、涙が出てきた。目の周りが熱くなり頭が痺れる感じ。
矢口から身体を離すと顔を真っ赤にしているのが目に入った。
おかしくて小さく笑う。
その直後だった。
「――ッ!ゲホッゲホッ」
口を押さえた手が赤く染まる。時が来たのだと思った。
遠くで矢口の声が聞こえる「なっち!なっち!」答えようとして、口を開くと
また血が出てきた。床、汚しちゃったなぁ。
血相を変えている矢口とは対照的に当の本人はそんな事を考えている。
覚悟をとっくの昔に決めていたし、実感のない死なんて、そんなものだ。
確かに苦しいけど、そばには矢口がいる。それだけで良かった。
だいぶ咳が収まって落ち着いたので目を閉じる。とにかく眠かった。
混沌とする意識の中に矢口の顔が浮かんで、消えた。
- 186 名前:出逢い歌 投稿日:2003年01月14日(火)05時35分09秒
- 「大丈夫、なっちを死なせたりなんかしないから」
意識を失う間際、耳に残った台詞。
どのくらい経ったのだろう。
再び瞼を開くと、部屋の押入れの奥に隠されるように横たわっていた。
ご丁寧に布団を前に積んで外からはわからないようにしてある。
それを押しのけて押入れから出ると、部屋は荒らされていた。
おそらく、奴らが来たのだろう。
そこに矢口はいなかった。優しい匂いだけを残して。
これから何年かかってもあなたを見つけ出してみせる。
もう一度会えたら、今度こそ本当に何も望まない。
この命はあなたの命。
残りの時間全てあなたのために使う。
4年、頑張った。たった一人でひたすら矢口を探した。
- 187 名前:出逢い歌 投稿日:2003年01月14日(火)05時36分58秒
- やっと再会出来たのに、間もなく二人はこの世界から解放される道を選ぶ。
これは何度目の死だろうか。怖くない。むしろ、使命感に満ち溢れて興奮している
気さえする。
本来なら真剣な面持ちで、沈んだトーンで話すはずの場面なのに矢口は照れ笑いを
浮かべてこう言った。
「この人に命を二人であげるってことは、ヤグチとなっちの子どもになる
みたいなもんなのかな」
どこまでも矢口は矢口だ。安心して笑顔を返す。
願わくば、この人の未来に幸あらんことを。
きっとここで命をあげるのも、それがなっちと矢口の役目だという事もすべて必然。
普通の人生を送りたいと思ったこともあった。
でも、セルロイドエイジになってなかったら矢口との出会いもなかったかも
しれない。そう思うと割と良い人生だったとも思えて、クスリと笑った。
あぁ、この運命に感謝を。
心の中で呟いて、繋がれた手の感触を確かめるように目を閉じた。
- 188 名前:出逢い歌 投稿日:2003年01月14日(火)05時38分41秒
――それが偶然だとするのなら、あなたに会えたのはきっと必然。
――次に会う時も私は歌っている気がします。
――今度は涙を誤魔化すためじゃなく、まだ見ぬあなたへの想いをのせて。
【終わり】
- 189 名前: 投稿日:2003年01月14日(火)05時40分15秒
- なちまり(安倍)編終了。
- 190 名前: 投稿日:2003年01月14日(火)05時41分00秒
- ( ● ´ ー ` ● )
- 191 名前: 投稿日:2003年01月14日(火)05時41分32秒
- (〜^◇^〜)
- 192 名前:ごーしゅ 投稿日:2003年01月14日(火)21時26分04秒
- 感動しました…。感無量です!
なちまりありがとうございましたー!
- 193 名前:ごーしゅ 投稿日:2003年01月14日(火)21時27分47秒
- …嬉しすぎてageてしまいました…。
作者様すみません…。
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月21日(火)01時32分01秒
- なちまりというレスに引かれて初めて読みました。
最初から一気に読んでしまった。
久しぶりに泣いちゃいました。いい作品をありがとうです。
最後のいしよし編も楽しみにしてます。
次回作始める時は一度ココで案内してくださいね。
- 195 名前:名無し作者 投稿日:2003年01月23日(木)15時08分26秒
- >192
レス有難う御座います。お気に召したようで嬉しい限りです。
別にage、sageはお気になさらないで大丈夫ですよ。
>194
レス有難う御座います。
一気にとは……結構な時間を割いて読んでくださったようで
こちらこそ有難う御座います。良い作品と言って頂けてとても嬉しいです。
で、いしよし編なんですが、なかなか筆が進まなくて参っています。
倉庫落ちまでに書けるかどうかも微妙な感じです。
その代わりにと言っては何ですが、緑板の『Let's meet in a dream.』
というスレでも書いているので話の路線もCPも主役も違いますが、よろしければ
読んで頂ければ嬉しいです。
それでも足りねーよ!と嬉しい事を言ってくださる方はメール欄の所へどうぞ。
- 196 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月26日(水)01時27分56秒
- 保全。。。
- 197 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月28日(金)05時37分47秒
- 保
- 198 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)22時01分36秒
- 全
- 199 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)16時54分25秒
- 保守
- 200 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月25日(月)07時03分39秒
- ボゼム
- 201 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/09(日) 20:12
- 保
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