ゲーム◆夢◆U & アゴンな壊れ物

1 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)01時37分24秒
同じ板で書かせてもらっていますものの続きです。
正直、あと数スレで話自体は終わるのですが、
あとがき等を考えるとはみ出てしまう勢いでして・・・。

前スレ
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=yellow&thp=1027270894

で、それで終わるとスレッドがもったいので別のお話を載せようと思っています。
宜しくお願い致します。
2 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月10日(日)01時47分08秒
わぉ!!期待してますよ!
これからもがんばってください
はじめましてでした。
3 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時47分16秒
pipipipi pipipipi

目覚まし時計の鳴る音が聞こえて目が覚める。

(・・・ん・・はれ?・・・目覚ましなんか掛けてたっけ・・・)

むくりと起き上がって取りあえず時計を止める。

「・・・?!ごっつぁん??」

一緒に寝ていたはずのマキが隣に居ない。
それどころかベッドの様子も部屋の様子も何やら違う。

矢口は、恐る恐る部屋を見渡して目を点にさせた。

「まさか〜・・・。」

ベッドから飛び降りて部屋のドアを開けて顔をひょこっと外に出す。
「ま、まじで・・?」

そこにはいつもの薄暗い部屋ではなく、一般家庭の一戸建てによくある廊下があった。
4 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時48分06秒
カチャ

「・・ん?おねーちゃん何してんの?」

「・・・矢口って何?矢口真里?」
「は?何言ってるの?寝ぼけてる?」

隣の部屋から出てきた妹にそんなことを聞いて欲しい答えを返してもらえずにがっくりとする。

「矢口って何してる人?フリーター??」
「おねーちゃん、変。」
「良いから答えてよ。」
「モーニング娘。のメンバーじゃないの。」

「!!」

それを聞いて矢口はあっけに取られたような顔をして妹を無視して部屋にまた引っ込む。
顎に手をやって部屋をうろうろと歩き回って「まさか」「まさか」と繰り返す。

〜♪〜♪〜♪
「おわぁっ」

そんな矢口の動きを止めたのは枕脇に置いてあった携帯。
ディスプレイの表示画面には‘後藤真希’とある。
5 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時48分53秒
ピッ

「・・・」
「―?やぐっつぁん?」
「ああっはいはい・・・ごっつぁん?」
「何止まってんの?何、寝起き?」
「あああっ、そ、そうそう寝起きだよ。」
「?何よさっきから。まぁいいや、それより今日の約束忘れてないよね?」

約束と言われて思い出せないのか矢口は返事を返せずに黙りこくってしまう。

「・・・・・ちょっと。」
「いやほら、今寝起きで頭死んでるから・・・」
などと言い訳をして後藤の口から聞こうとする。

「・・・今日のオフ・・・10時に待ち合わせ・・・遊び・・・・」

「あーっうん、うん、分かってる分かってるちゃんと行くし!」
冷や汗をかきながら慌てて返事をする。
6 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時49分26秒
「そんじゃ!」
ピッ

一方的に電話を切ってスケジュール帳を確認する。

“ごっつぁんとデート”

ハートマークつきで書かれてある。
他のページを見ると、
“ミニモニ。映画の撮り”だとか、“うたばん収録”とか、
仕事内容が書かれてあった。

矢口はスケジュール帳をかばんに戻すとその場に蹲った。


「なんだよ・・・そんなのってありかー!!」

7 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時50分07秒


         ゲーム◆夢◆ お楽しみいただけましたか?
8 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時50分37秒


       「でも、付き合ってるからありか・・・。」


9 名前:ゲーム◇夢◇ 投稿日:2002年11月10日(日)01時51分08秒
終わり。
10 名前: 投稿日:2002年11月10日(日)01時53分51秒
お疲れ様でした
次回も期待させてもらっていいですか?
勝手に期待させていただきます。
11 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)01時55分32秒
>272 名無し読者さま
    
    冗談抜きで更新が遅くなってすいませんでした。
    レポ読んで頂けて嬉しいです(w

>273 名無し読者さま

    お待たせして申し訳なかったです(汗
    待たせてこれかよ!という感じだったらすいません(汗
    いや、本当に待っていただいて感謝です。

>274 77さま
   
    ありがとうございます(泣
    なんとか完結させることが出来ました。
12 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)01時57分48秒
>>2 >>10 名無しさんさま

   初めましてです(w
   次回は・・・次回もへなちょこりんな設定で(w
   ありがとうございました。
13 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)02時03分16秒
このゲーム◆夢◆はそもそも、作者が寝ぼけ眼に思いついたネタでした。
作者自身ゲーム、特にRPGが好きで、暇を見つけては手を出しています。
だからといって主人公(〜^◇^〜)のモデルが私というわけでは全く無くて(汗
(〜^◇^〜)もゲーム好きなので主人公にしました・・・と言っておきます。

相手が( ´ Д `)だったのは私がやぐごま好きだから。と、いう理由もあるのですが、
それだけではなくてですね、実際(〜^◇^〜)が恋焦がれるほどの相手って?
と考えると自然と当てはまったのが実際でも憧れている( ´ Д `)でした。

そして(〜^◇^〜)に恋をする相手を吟味した結果、これまた実際に仲の良さそうな
(いや、仲は良いはず)(●´ー`●)になりました。

続く。
14 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)02時08分20秒
その結果矢口さんは二股をする役に。
そして引きこもり気味な役に。
そして安倍さんは放置気味で傷つくだけの役になってました。

話の終わり方としてはタイトルどおりで申し訳ないのですが、
これは最初から決めていたことでした。
しかしラストの更新を目の前にして他の案がふたつ浮かび上がって
悩みだしてしまいました。
その結果更新が大幅に遅れたことをお詫びいたします。

最終的に当初通りのラストに落ち着きました。

最後までこの話に付き合ってくださった皆様、
今までどうも有難うございました。

では。
15 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)02時08分50秒
では。
と言いながら。
16 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)02時09分24秒
ネタばれ的なあとがきを書いてしまっているので。
17 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)02時09分57秒
ほんのり隠し(w
これで大丈夫かな・・・。
18 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)03時58分40秒
よく考えたら256kbまでだった!
250と勘違いしてました・・・(恥
足りたのに・・・。
19 名前:りょう 投稿日:2002年11月10日(日)05時59分16秒
数スレではなく数レスの間違いでした(恥
20 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月10日(日)09時11分00秒
大量更新&完結お疲れ様でした。

いや、こういうラスト好きです。
でも一番好きなのは安倍がソフトを割るシーンでしょうか。

次回作も期待してます。
21 名前:名無し読者。。。 投稿日:2002年11月10日(日)19時26分45秒
初レスですがずっと読んでました。
完結おめでとうございます。

ネタバレになりそうなので突っ込んだ感想は言えないのですが、
ハッピーエンドで良かったです。
他の案のふたつが気になります。
どこかにうpされるんですか?
22 名前:77 投稿日:2002年11月12日(火)14時20分51秒

完結オメデトウございます!!
結局はすべて<夢>だったって事ですよね!?
すいません・・文章理解力が無いもので・・・(w
自分もやぐごま大好きなんで、幸せに終われて良かったなって思います。
安倍さんはちょっと可愛そうな気もしましたけど・・・(w
ラストも、なんだかこれで終わってしまうには惜しいくらい上手くまとまっていました。
あのー・・ところで、続編ってゆうか裏話や真希視点などはもうありませんか?
次の話も楽しみに待ってます。
それでは、長くなりましたがこれで失礼します!!
23 名前:77 投稿日:2002年11月12日(火)16時27分47秒

すいません・・このままじゃネタバレしますよね。
少しさげます・・
24 名前:77 投稿日:2002年11月12日(火)16時28分40秒



















すいません
25 名前:77 投稿日:2002年11月12日(火)16時29分29秒






このくらいかな??





もうちょいかな??
26 名前:77 投稿日:2002年11月12日(火)16時30分25秒



・・・すいませんでした。
これからは気をつけます・・本当に御免なさい!
27 名前:殿 投稿日:2002年11月14日(木)00時59分04秒
幕張メッセ見て来ました。
滅茶苦茶おもしろいっす。引き込まれました。
ラスト、楽しみにしています。
28 名前:りょう 投稿日:2002年11月15日(金)02時21分43秒
>>20 名無し読者。さま

    どうもありがとうございます(w
    オチは、当初予定のものを敢行しました・・・。
    次回作も頑張ります!!

>>21 名無し読者。。。さま

    こんばんは初めまして。
    ありがとうございました!
    別のふたつの案、ひとつめをまずうpします。
    ここに・・・(汗
29 名前:りょう 投稿日:2002年11月15日(金)02時24分11秒
>>22 77さま

    読んで下さってありがとうございます。
    そうです、全て<夢>だったというオチでした。
    急な展開で分かりにくかったでしょうか・・・。
    続編や( ´ Д `)視点ですが、ぶっちゃけあります(w
    ただ、先に載せたものの続編は無いです(汗
    これから載せるものはそんな感じになります。
    ラスト隠ししていただいてありがとうです(w

>>27 殿さま

    わぁメッセから!
    本当にどうも有難うございます。
    ラストは一個は終わりでして・・・(汗
    別のやつを次に載せます(w
30 名前:りょう 投稿日:2002年11月15日(金)02時39分39秒
今から更新しますのは、続きでも番外編でもなくて別ラストになります。
マルチで申し訳無い気もするのですが、どうかヨロシクお願い致します。

続き方としましては、
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=yellow&thp=1027270894
の最後のレスの続きになります。

このスレ以前の最後から別の話という感じです。
ややこしくてすいません。
一枚目のあとに、ここから下の更新に飛ぶ感じです。

では。
31 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時41分18秒
pipipipi pipipipi

携帯の音で目を覚ました矢口は、すぐに横を確認した。

「ごっつぁん?!」

一緒に眠っていたはずのマキはそこにはおらず、ベッドには矢口ひとりがいた。

「うそだ!」

慌ててベッドから飛び降りて部屋を出る。
すると洗面所から何やら音が聞こえて来た。

音のする方に小走りをして駆け寄ってノックもせずに勢いよく開ける。

バァンッ

洗面所からお風呂場に続くドアも構わずに開ける。

「わぁっっなにーっ?!」

するとそこには体を洗っているマキの姿があった。
32 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時41分57秒
「・・・良かった居た・・・」
いきなりの矢口の突入に訳が分からずに慌てて胸を隠すと、すぐに矢口を追い出した。
追い出された矢口はそのままドアにもたれかかって安堵の表情をしている。


「じゃあごとーが居なくなったと思ったの?」

お風呂からあがって髪の毛をタオルで拭きながら矢口に向かって言う。

「・・・うん。だって起きて居なかったら焦るよ」
「居なくなったのはやぐっつぁんなのに」

「うっ・・・」
痛い所をつかれて矢口は何も返せなくなる。

「あはっ」
「とにかくっ・・・!今日はいっぱい話しようね」

部屋着に着替えてお昼をとる。
33 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時43分26秒
狭いのに向かい合うことはせずに隣に座ってくっついて座っている。

「寒いの?」
「え?全然」

「そう・・・」
「なんでそんなこと聞くの?」
「いや別に」

ただ隣に座るだけでなくかなり密着をしてくるマキに照れくささを感じたのか、そんなことを聞いた。
特に会話をするわけでもなく、それでも楽しそうに嬉しそうに食事をとるマキを見ながら、
矢口は温かい気持ちになっていた。
自分は食事を取らずにただじっとマキを見つめる。

「あんま見ないで」
「んー」
見ないでと言われても生返事を返すだけで見ることをやめない。
見られることを恥ずかしく思ったのかマキはそっぽを向いてしまう。

「・・・ごっつぁんさー」
「なによ」
振り向きもせずに返事をする。

「・・・どうやってあそこに来たの?」

「・・・あそこ?」
くるっと振り向いてお箸を置く。
34 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時44分24秒
「ん、昨日どうやって矢口の前に現れたのかな・・・って。」

ゲームの世界の住人のはずのマキが現実の自分の世界に現れたこと。
自分がゲームの中に入ったことももちろん普通では考えられないおかしな事ではあったが、
そのことは今の矢口の頭には無かった。

「・・・赤い服を着たおじさんがね」

「なにそれ」
「んー・・・やぐっつぁんが居なくなった後のことから話した方がいいよね」

と、マキは矢口をじぃっと見つめながら話し出した。


「それじゃあすぐ帰るからね」

結婚の報告をするために矢口はマキに見送られながら宿を出た。
残されたマキは矢口が戻って来るのをひとりで我慢強く待った。
父親にも会いに行き、数週間もするとまた一緒に暮らし始めていた。

「あいつは・・・いつになったら戻ってくるんだ?」
マキの父親が、1ヵ月経っても戻って来ない矢口のことを食卓で話題に出した。

「もうすぐだよ。やぐっつぁんちは遠いの」
片道4日程の場所にあると知っていたマキだったが、そう言った。
35 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時45分07秒
「・・・大丈夫か?」
「だーいじょうぶ!」

(やぐっつぁんはずっと一緒に居るって言ったもん。)

  あっ、えっと、マキさん?

初めて会った時の言葉。

  マキ、ほら。

初めて自由を手にした時の言葉。

  あのさ、矢口は出会った時からずっとごっつぁんが好きなんだよ。

初めて想いが通じ合った時の言葉。

  やぐっつぁん、キスしよう。

初めて自分から言った言葉。

  幸せ。

初めてのキスの後に二人そろって口にした言葉。
36 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時45分48秒
  一からごっつぁんと作って行きたいからです。
  困ったときにふたりで乗り越えたいからです。

初めて聞いたやぐっつぁんの本音。
自分ばかり好きだと言っていたから。
いつもやぐっつぁんは上手く交わしてちゃんと気持ちを言ってくれることはなかったから。

  私はマキさんの婚約者です。今日はその報告に来たんです。

初めてお父さんに面と向かって言った言葉。

  矢口はごっつぁんが大好きなんだ。どこに居たって見つけてみせる。
  それに離さないから、ずっと。だから安心して眠って。

最後に聞いたやぐっつぁんの気持ち。

家から出て街の外に出て、何も無い丘からどこまでも続く地平線を見ながら
マキは矢口に出会ってからのことを思い出していた。
37 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時46分37秒
(どこに居るのさ・・・)

思えば最初から矢口は優しかった。
抜け出したくても抜け出せないマキを自由な世界に連れ出した。
素直じゃないマキをいつも大きな心で笑って許していた。

(帰ったら・・・ごとーのこと忘れちゃったの?)

三角座りをして自分の足に顔を埋めてほろほろと涙を流す。
歯を食いしばって泣かないように我慢をしてもそれは無駄な抵抗だった。

(ずっと一緒って言ってた、見つけてみせるって言ってた・・・)

最後に聞いた言葉が、矢口の顔が、とても偽りとは思えなかった。
心の底から、本音を言っているようにしか見えなかった。

(何かあったのかな・・・?)

人差し指で溜まった涙を拭って口をきゅっと結んで立ち上がる。
キッと、地平線を睨んで、父親の待つ家へと戻った。
38 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時47分23秒
「なんだ?それじゃあ旅に出るのか?」
「やぐっつぁんを探すの。事故にでも遭ってるのかもしれないから」

マキは父親に、矢口探しの旅に出ることを報告していた。
父親はかなり渋っている様子で、何かを言いたげで、なかなか了承をしなかった。

「旅に出ちゃいけない理由が何かあるの?」
止められても行くことを辞めるつもりはなかったマキではあったが、
そんな父親を見てはすっと出て行くことは出来なかった。

「あー・・・その、なんだ・・。おまえ・・・騙されてるってことは・・・」
と、申し訳なさそうな表情をしながら言う。
それを聞いてマキはすぐに返事をした。
「ないよ!そんなのっ!やぐっつぁんは騙したりなんかしないよ!!お父さんのバカッ!」

マキは思ってもいなかったことを父親に言われて怒って家を飛び出した。
「あっ!待ってくれマキっ!!」
すぐに後を追いかけて来た父親は、家を出たすぐの所にあるベンチに
泣きながら座っているマキを見つけた。
39 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時48分10秒
「・・・ふぇっ・・ぇっ・・ぇぐっ・・っく・・やぐっ・・つぁんはっ・・やぐっつぁんは嘘ついたりなんかしないっ!!・・・ぅっ・・」

泣きじゃくりながらそう何度も何度も訴えかけるマキに、
父親は抱きしめて何度も何度も「すまん、すまん」と繰り返し謝っていた。

「あいつのことを信頼してない訳じゃない、ひとりで旅をするお前が心配なんだ」
「・・っぅ・・うん・・ありっありがと・・っでも大丈夫だから・・・」

いつまでも泣き続けるマキに父親は深く息を吐くと
「いつでも帰って来て良いんだからな、疲れたらいつでも休みに来いよ」
と、言い、笑顔でマキを見送った。


「絶対に見つけるからね」

街を出て地平線に向かってひとこと、挑むような目をして言った。
そしてマキは大荷物を持って自分が矢口と辿った道程をまたいちから辿りなおして行くのだった。
40 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時50分26秒
「こんちは」

まず最初に訪れたのはベーグルタウン。
初めて来た時のような薄暗さはなく、街全体が明るく、
そして相変わらずの美味しそうな匂いを漂わせていた。

「ひとりなの?」
「矢口さんは?」

街を訪れたマキは、真っ直ぐにひとみの屋敷に向かい、
庭で楽しそうにおしゃべりをしているひとみと圭織を見つけた。
そして会うなりすぐにふたりは矢口のことを聞いて来た。

「んーと、やぐっつぁんはちょっと実家に帰ってるの。」
「え?なんで?」
いつも、食事の時でさえもすぐ横にくっついて一緒に居たふたりが
一緒に居ないということですぐにひとみが疑問を投げかけてきた。
41 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時51分01秒
「あのね・・・ごとーたち結婚するの」

マキの言葉にひとみたちは顔を見合わせると自分達のことのように嬉しそうな表情をしながら
「なんだよすっごいじゃん!おめでとうマキ!!」
と、本当に心から喜んでくれているようにマキに向かって言った。

「あれ、でもそしたらなんで一緒に帰らないの?」
そんな疑問がまた浮かんでひとみがストレートに聞いてくる。

そこでマキは何故自分がひとりで旅をしているのかをふたりに話した。
話を聞いていくうちにふたりの表情は暗くなっていき、遂にはほんの少しの笑顔も消えた。

「ちょっとそんな暗い顔しないでよ!要するに、事故にあってたらヤだから、
 なんか分かったら教えて欲しいの」
自分の言った言葉でふたりが暗くなってしまい、慌ててマキは言った。
42 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時51分44秒
「・・・わかったけど。・・・ねぇ?」
と言いながらひとみが圭織の方を見る。
「うん・・」
と圭織はひとみに返す。

「なに?」
訳が分からないマキはすぐに聞き返す。

「大丈夫なの?無理してない?」
と、ひとみが心配をしたような表情で言う。

「大丈夫だよ。ごとーは強いんだ」

ニカッっと笑って、心では今にも泣きそうなのをぐっと堪えながら、マキは言っていた。
何か分かったらここに連絡をちょうだい、と、中澤の住所を渡してマキは去って行った。

そしてすぐにマキは次の場所へと向かった。
梨華に会って同じことを伝えた。
なんとなく、梨華に言うのは少し嫌な気もしたが構ってはいられずに言った。
43 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時52分16秒
そして次に保田に会って、保田にも同じ事を言った。
保田は、矢口の似顔絵を書いてみんなに配って探すと言った。
マキはほとんど期待をしていなかったが、その気持ちが嬉しかった。

そして次に向かった先は辻と加護の住む国。
子供の国ではなく、お菓子の国となって新しく生まれ変わっていた。

「矢口さんに似た人見つけたらここまで攫ってくるわ!」
「だめだよあいぼん、悪い事はもうだめれす。」

相変わらずの加護に、相変わらずの辻だった。
「人攫いは駄目だよ。でも、もし似た人が居たら教えてね」

そう言い残してマキは最後に姉の住む街へと向かった。
44 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時53分21秒
「やっと着いた・・・」

ぼろぼろになった服に破けたかばん。
すっかり底の減った靴を履いて、マキは姉である裕子の住む街へと辿りついた。
真っ直ぐに裕子の屋敷に向かった。
この時点でマキは、旅を始めてから半年をひとりで過ごしていた。

「おっ・・!真希やないかどうしたん?」
「・・っく・・・ぅ・・おねっ・・おねーちゃん!」

裕子に会った途端、今まで我慢してきたものが一気にこみ上げてきたのか、
マキは大声をあげて泣いた。
突然の訪問に驚きを隠せないでいる裕子。
一緒に居るはずの矢口がどこにも居ないこと。
そして泣くことをやめないマキ。
その姿を見るだけで、マキと矢口の間に何かがあったことが裕子にはすぐにみて取れた。
45 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時53分57秒
「取り合えず泣きやみ。話はそれからや。」

裕子は自分の部屋へとマキを連れて行き、ソファーに座らせて泣き止むのを待った。
待っている間に紅茶を淹れてマキを温める。

差し出された紅茶を受け取ったものの口をつけることはせずに、
というよりは、泣いているので指が震えてしっかりとカップを持つことが出来なかったのだ。

震える指をどうにかしておさめようと手もみをしながらきゅっと握りこぶしを作るのだが
いくら待っても震えが止まることはなかった。

裕子はあえて口出しすることはせずに、向かい合ったソファーに座って、
ただ、じっとマキが泣き止むのを待った。
しばらくすると泣きつかれたのか、ソファーにもたれてマキは寝息を立てだした。
眠ったことに気付き、裕子は毛布をかけてやると、電気を消して隣の部屋へと移動をした。
46 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時54分33秒
ごっつぁん起きろー
   ん〜もうちょっと・・・

いつまで寝てんだー?
   あとちょっとぉ・・・

置いて行くぞー
   えー・・・置いて・・・?

「やだぁっ!!」
ガバッと起き上がる。

「・・っく・・ぅ・・っ・・やだ・・・ってばぁ・・」

夢から覚めて目を開けたらそこは真っ暗闇。
夢では居たはずの矢口は傍にはおらず、自分ひとりがそこに居た。

途端心細さがこみ上げて来てマキはまた泣き出してしまう。

「どして・・・ごとーひとりっ・・ぼっち・・っく・・・どして・・・?」
47 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時55分25秒
毛布をタオル代わりにしてマキはお構いなしに顔を擦り付けて泣く。
しばらくすると後ろの方で何か音がしていることに気がつき、
マキは目じりに溜まった涙を拭って、ソファーから降りて近付いた。
後ろのドアを開けて中を見ると、そこには今一番頼りになる裕子が居た。

「おねっ・・ちゃ・・。」

裕子を見て、また涙を溢れさせたマキ。
裕子も困り果ててただ頭を撫でてやることしか出来なかった。


「・・・落ち着いたか?」

裕子の問いに、マキは頭をコクンと上下させて返事をした。
ぴたっとくっ付いて居た体を離して傍のソファーに腰掛ける。

「・・・何も聞かないの?」

泣き止んでから一言も矢口に関する話題を出さない裕子に疑問を感じてマキは問う。
裕子は優しい表情をして、「言いたくなったら言ったらええ」と言った。
48 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時56分09秒
マキはしばらく黙って床を見ていたが、ぽつりぽつりと話し出した。
裕子と前に別れてから父親に会いに行き、結婚の承諾を得て一度実家へ報告に帰ると矢口が言ったこと。
別れる前に離さない、ずっと一緒に居ると言ったことなど、全てを話した。
そして今まで何のために旅をしてきたのか、半年もの間ひとりで旅をしてきた理由がなんだったのかを話した。

裕子は「そうか、そうか」と頷くだけでなんの意見も言葉もマキには与えなかった。

「やぐっつぁんはね、どこかで待ってるの」

「やぐっつぁんね、ずっと一緒だよって言ってたの」

「やぐっつぁんはね、きっと帰って来れない事情があるの」

「お母さんが病気になったとか、お父さんが事故に遭ったとか・・・」

「きっとそうなの」

マキは一人で頷きながらぼそぼそと言いきかせるようにして言っていた。
49 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時57分33秒
「・・・分かってる。矢口は嘘言うような子に見えへん。それに真希を大事にしてるのめっちゃ分かったしな」

しばらくして口を開いた裕子は、静かな口調でゆっくりとマキに同意をするような形で返事をした。
それを聞いたマキは、ほんの少し間を空けた後、顔色を変えることなく返事をした。

「ほんとに思ってること言って」

「ほんとてなんや?」

思っていなかった返事だったのか、裕子はマキの言葉の意味が分からずにすぐに問い返した。
マキは俯いていた顔を上げて一瞬裕子を見るとまたすぐに視線を逸らし、

「やぐっつぁんはごとーのこと好きじゃなかったのかもしれない」
と、言った。

「あほなこと言いなや」
と、すぐに反論をする。

「ほんとはずっと離れたくて、それで帰って来ないのかもしんない・・」
裕子の言葉を耳に入れようとせずに言う。
50 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時58分26秒
「本気で言うてんのか?」
裕子の口調はきつくはなく、どちらかというとマキを落ち着かせるような口調で優しく言っていた。
マキの顔を覗き込むように近付きながら。

「だって、もうやだもんっ!やぐっつぁんにずっと会えなくてっ・・・ずっとひとりぼっちだもんっ・・・!!」
そんな裕子から逃げるようにそっぽを向いて言う。

「辛いのは分かる、頑張ってるのも分かる。もうちょっと我慢してみんか・・・?」
「・・・できないよ!」

「矢口も探してるかもしれんやろ」
「・・・そんなのっ・・・ないも!やぐっつぁんは別の女の子と仲良くなってるんだ、どうせ!」
マキは真っ赤な顔をして泣きそうになるのを堪えながら言う。
それを聞く裕子は、段々と表情を硬くしていく。

「やぐっつぁんなんてっ、ごとーのこと忘れてるんだ!」

「もうどうだっていいよ!!!」

と、マキが興奮してそう叫んだと同時だった。
51 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)02時59分23秒
バチンッ

「いい加減にしぃ!」
裕子は弱音を吐き続けるマキの頬を思い切りひっぱたいた。
叩かれたマキは頬を押さえてキッと裕子を見る。
叩いた裕子はそんなマキに構うことなく、

「矢口と一緒やったら野原でも洞窟でもどこででも生きていける言うたん誰や!」
と言い放つ。

「・・・」
「真希やろ?!矢口と約束したんやろ?!ずっと一緒やって」

「・・・」
裕子の言葉にマキは何も返さないでじっと聞いている。

「なんで信じたらん?辛いのは分かる、ずっと頑張って来たのも分かる。
 でも、矢口だって一緒かもしれんやろ?」

「・・・一緒って・・何が・・」

「真希を探してるかもしれんやろ。矢口の言葉思い出してみ」
と、実際に矢口がどんな人間だったかは知らなかった裕子だったが、マキを落ち着かせるためか、
マキをもう一度歩かせるためか、そう言った。
52 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時00分15秒
  ごっつぁんが好きなんだよ

  ごっつぁん ごっつぁん ごっつぁん

「やぐっつぁん・・・」

裕子の言葉と平手打ちで目を覚ましたのか、
「やぐっつぁん」「探してるの?」「やぐっつぁんもごとーを探してる?」
「また会えるの?」「またごとーの名前呼んでくれるの?」と、
ほろほろと涙を流しながらマキは言っていた。

「・・・叩いてごめんな」
余程力を入れていたのだろうか、マキの頬は真っ赤に腫れあがっていた。
傍にあった溶けかけた氷を当てて冷やしてやる。

「・・・気にしないで、おかげで目が覚めたから」
先ほどまで弱音を吐いていた目とは違って、光のある目をしてマキは裕子を見た。

「ありがとう、お姉ちゃん」

「まだ頑張れるか?」
「・・・頑張るよ!絶対探して見せるから」

そう答えるマキの表情はほんの少しの曇りもなく、何かが吹っ切れたような顔だった。
それを見た裕子は「お姉ちゃんも情報集めるから。頑張るんやで。」と言って笑った。
53 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時01分30秒
それから裕子の屋敷で夕食をご馳走になって、風呂を済まし、
裕子の用意したベッドを借りてマキは寝転がった。
一晩お世話になってまた探す旅に出る。


「起きてるか?」

ベッドに入って少しした頃、ドアは開けられて、裕子が部屋に入って来た。
「ん。まだ寝てないよ」

むくりと体を起こして返事を返す。
裕子はベッドサイドにあるランプを点けて、傍にあったソファーに腰掛ける。

「どうしたの?」
「やー・・・真希とこうやって話するのも久しぶりやなぁと思てなぁ」

そう言う裕子に応えるように、ベッドから出ようとしたマキだったが、
「寝ながらでええよ。」と裕子に言われ、いうことを聞く。

「あんなぁ、あんたに母さんから聞いたええ話教えたるわ」
「んー」

「昔々あるところに・・・」
「昔話なの?」
昔話風に話し出した裕子に思わず笑ってしまうマキ。
笑われた裕子は「最初だけやん、黙って聞き」と苦笑いをしながら答える。

「あはっ 何さぁ」
54 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時02分08秒
「昔々あるところに・・・
ふたりの男女の兄弟が居ました・・・
上の子は12歳で女の子。
下の子は9歳で男の子。
どちらも優しくて明るくて元気の良い子供でした・・・
誰からも好かれ、誰からも信頼されて幸せに暮らしていました・・・
たったひとつ、“貧乏”ということを除いて・・・

ある日、下の子が泣いて帰って来ました。
弟の泣いた顔など見たこともない姉は驚いてどうしたの?と聞きました。
すると弟は、こう答えました。

「僕はどうして裸足なの?」

家が貧乏なあまり、その兄弟は服はかろうじて着ているものの、
靴なのどは持ってはおらず、生まれた時から今の今までずっと裸足で暮らして来ていました。
ずっと裸足だったため、なんの疑問も抱いていなかった兄弟だったのですが、
今そのことに気付いたのでした・・
55 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時02分47秒
「汚ねぇ足見せんじゃねぇよ」

学年があがって新しく知り合った友人に、初対面でそう言われ、汚い、貧乏だ、
近寄るな、と、ひどい言葉を浴びせられて帰って来たのでした。

それを聞いた姉は、「靴が欲しい?」と聞きました。
弟は考える間もなく「欲しい」とすぐに答えました・・・。

病気がちで稼ぎの無い母親に、出稼ぎに出ている父親のことを考えると、
まさか買ってくれなどとは言えるはずは無かったのです・・・
父親の稼ぐ金でかろうじて生活をしているという状況でした・・・

「お姉ちゃんが買ってあげる」

「お金貯めるからそれからだけど」
と付け加えて弟に言いました・・・。

弟は満面の笑みを浮かべて、
「ありがとう、お姉ちゃん、ぼくずっと待ってるよ」と、とても嬉しそうに言いました・・・
56 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時03分37秒
それからの姉の毎日は大変でした・・・
街中のゴミ拾いをしてお金に変えて、毎日毎日雨の日も雪の日も、
どんなに寒く、辛い日であっても新聞配達をしました。

そんな生活が1年ほど経った、ある冬の寒い日。
取り合えずの靴の代わりとして布を縫い合わせたものを弟に履かせていた姉は、
やっとちゃんとした靴が買えるお金が貯まったことを確認すると、
配達を終えてすぐに靴屋へと向かった。

「やっと買える。喜ぶだろうなー」
と、弟が喜ぶ顔を想像して軽い足取りで向かいました・・・

ところが・・・

「ところが?!」

「ところが・・・姉が靴屋へ辿りつく前に、店の近くで倒れている老翁を見つけました・・・
姉は一直線に店に入りたい気持ちをすぐに消し去って、老翁に近付き、声を掛けました。

「どうかしましたか?」と。
すると老翁は、起き上がることもせずに俯いたままで
「家で待つばあさんに薬を・・・」とだけ言いました・・・
57 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時04分18秒
「薬を買うの?」
姉は聞きました。

「買うお金が・・・無いんじゃ・・・300モニあれば、ばあさんは元気になれるのに・・・」

300モニ。
姉が、一年間必死になって稼いだお金の合計はちょうど300モニ。
老翁自身にも薬が必要に見えた姉は家で待つ弟の顔を思い浮かべて、
「ごめんね」
とぼそっと口に出して言い、笑顔でお金を差し出したのです・・・

老翁は「それはお嬢ちゃんのお金じゃろう?何かを買うんじゃないのかい?」と言いました。
脳裏に浮かんだ弟の笑顔と靴を消し去って、姉は笑顔で「おじいちゃんが使って」と言いました。

なんどもなんども断る老翁にずっと笑顔で使ってと言う姉
そんな遣り取りが何回か続いて、老翁は「すまんのう、お礼はいつか必ずする」と言って去っていった。

家に帰った姉は何も知らない弟にあえて言うことはせずにまたこつこつと貯める。
ほんの少しの愚痴も弱音も吐かずに・・・
58 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時05分12秒
そんな日が数日続いたある日のこと
いつものように新聞配達をするために姉は目を覚ましました。
そして家から出ると・・・

ドアの外に小さな箱がふたつ置いてありました。
中を開けて見るとそこには男物と女物の温かそうな靴が二足入っていました。

誰が置いたのか不思議に思った姉は辺りをキョロキョロと見回しました・・・
よく見るとまだ箱の周りには自分以外の足跡が残っていたのです・・・

跡を辿ってみるものの、その人物は見つかりませんでした。
ただ、遠くで、以前会った老翁を見た気がしました・・・。

家に戻って箱をもう一確認すると、中には
“心優しい頑張りやのお嬢ちゃんにプレゼントだよ”
と書かれたメモが入っていました。

姉はすぐに弟を起こして靴を見せました。
弟は久しぶりに本当の笑顔を見せて姉を喜ばせました。

そして兄弟はいつまでも優しく、頑張って生きていこうと誓い合い、仲良く幸せに暮らしていくのでした・・・。」
59 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時06分09秒
「・・・終わり?」
「そや」

「助けたお爺さんがくれたの?」
あまり理解をしなかったのか、マキは思ったことを聞いてくる。
「恐らくな」
「要するに良いことしとけってこと??」
「まーぶっちゃけそうなんかもしれんけど、それだけやないやろに・・わからんか?」
と、少し呆れたような顔で裕子は言う。
そんな裕子の顔を見ることもせずにマキは興奮した様子で話す。

「良いことするする!」

「・・・・そうし」
伝えたかったことをなんとなく伝えそこなった気がして裕子はガクっとした様子で
どうでも良いように答える。

「頑張るっ!おやすみ!」
そんな意気消沈の裕子を他所に、マキはさっさと眠ってしまった。

翌朝、
裕子に見送られてマキは街をあとにした
60 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時07分06秒
それから2ヶ月、いくら探してもどこを探しても矢口に関するほんの少しの情報も、
矢口の住む村を見つけることも何も出来なかった。
裕子の街を出てからずっと、マキは弱音を吐くこともせずに、
ぐっと泣きそうになるのを堪えて旅を続けていた。

「やぐっつぁんも起きたかなぁ・・・」
目を覚ましてまず浮かぶのはもちろん矢口。

「やぐっつぁん今どこかなぁ・・・」
眠る時はいつも矢口を思い浮かべて眠る。

 久しぶりだね

 やっと会えたね

夢ではいつも矢口と再会をしていた。


裕子の話を聞いて、矢口と会いたい一心でずっと頑張ってきていたマキだったが、
旅を始めて一年が経ったここに来て、ついに何かが切れた。

何も無いだだっ広い荒野に立ち、空に向かって

“どこに居るの?!” “どうして居ないの?!” “嫌いになったの?!” “会いたい、会いたいよ!”

と繰り返し叫んだ。
喉が枯れるほど大きな声で叫んでいた。
61 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時07分53秒
叫びすぎて声が出なくなるのではないかと思うほどに叫んだその時だった―

ミシミシ・・ミシミシ・・・と、どこかからか何かがしなるような音がマキの耳に聴こえてきたのだった。

「・・・?なに・・・?」

何かがしなる音。
何か―
それは自分の居る世界そのものが音を立てているようにマキの耳には聴こえた。

ミシミシミシ・・・

「・・・・やだ・・怖いっ・・なんなの?!」

そう思った瞬間、 バキッ という、耳を劈くような音が聴こえて、マキはその場に倒れこんだ。

倒れこんだ周りで、地面ががたがたと音を立てて崩れてゆくような感じをマキは受けた。
62 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時08分40秒
・・・・・・え・・・・なに・・・・?

どこ・・・・ここ・・・・・・なに・・・・?

真っ暗はやだよ・・・ひとりぽっちはもうやだよ・・・やだって言ってるじゃん・・・

マキが、しばらくして目を覚ますと、そこは何も無いただ、真っ暗闇の広がる空間が広がっていた。
地面は固く、金属のような感触。
四方八方走り回っても何かにぶつかることはなく、どこまでも道は続いていた。

こんなところにっ・・・やぐっつぁんが居る訳ないじゃんっ・・・

頑張って来たけど・・・ごとーには無理なの?

靴をもらった女の子みたいに手に入れられないの?

頑張って頑張って辿りついた先の真っ暗闇。
何もないただの空間。
矢口が居なければ裕子も父親も誰も居ない。
自分ひとりが居るだけ。

マキは弱音を吐いて歩くことをやめた。
そして何もしないまま数時間が経った。
63 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時09分28秒
何時の間にか眠っていたマキは、目を覚ますと何かを考えるような顔をする。

「・・・絶対見つけてみせる」

一度折れかかった心をまた真っ直ぐにして、歩き出す。
何もない真っ暗闇をひとりで歩き出す。
懐中電灯もマッチも何も持たずに歩き出す。


少し歩き、休憩をしていた時、
どこかからかマキに語りかける声が聞こえて来た。

  頑張ったのう・・・

・・・んぁ?

  ひとりで何度も何度も躓きながら・・・

・・・んぁ?

  何度も立ち上がって頑張ったのう・・・

「・・・誰か居るの?」

声のする方を見渡してみても何も見えるはずが無い。
ここにあるのは暗闇だけだから。
そう思っていたマキは辺りを見回すことはしなかった。
64 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時10分22秒
  ご褒美じゃ

しかしすぐ後ろで声が聞こえて、マキは驚いて振り返る。

「えっ?!」

振り返ると、真っ暗闇で、自分の姿でさえも見えないのに、その人物ははっきりと見ることが出来た。
赤い服を着てふさふさとした立派な髭を生やして老人のような顔をしてマキを見ていた。

驚いて後ろに倒れそうになったマキに手を差し伸べて優しい表情で言う。

「ご褒美をやろう」と。

しばらく呆然として返事が出来なかったマキは、我に返ると、慌てた様子で問いかけた。

「ご褒美って何?あなたは誰?なんなんですか?ここはどこなんですか??」

赤い服を着た人物は、
「今一番欲しいもの、それをやろう」とだけ答えた。

「一番欲しいものって?やぐっつぁん?やぐっつぁんのこと??」
すぐに問い返したマキに、
「欲しいものは想いが強ければ強いほどすぐに叶う。
 強く想うのじゃ。わしはほんの少し手を貸すだけ。」
と、言って何も無い暗闇に向かって四角を描く。
65 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時11分26秒
「あ、ちょっと?!おじいさん?行かないで!・・・どこに・・。」

描いた四角に気を取られている隙に赤い服を来た人物は姿を消した。
叫んで呼んで探してみてもどこにも見つけることは出来なかった。

描いた四角を見つめて何が起こるのかをじぃっと見つめる。

すると・・・

  あ、ちょっとすいません、人を探しているんですけど、ゴトウマキって子知らないですか?

と、マキを探す矢口の姿が映し出されたのだった。
朝から晩まで必死になって探し続ける矢口の姿がそこに映し出されていた。

何度も何度も「マキ」と口にする矢口。
マキに会えなくて泣いている矢口。

ずっと会いたかった矢口が、自分を探す矢口がそこに居た。

それを見たマキは、心の奥底から何かがものすごい勢いで昇ってくるのを感じた。
“やぐっつぁんに会いたい!”
マキは、そう強く念じた・・・。

そして意識が薄れていくのを感じ、その場に倒れこんだ。
66 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時12分30秒
  いたた・・・お尻・・・打った・・・

  ぶるるるっ 寒〜い・・・

むくりと目を覚ましてキョロキョロとする。
そこは、今まで居た真っ暗闇とも、荒野とも違い、キラキラとした灯りが散りばめられた街だった。

「なに・・・ここ」

訳が分からずに立ち上がる。
ずっと旅をしてきた荷物は持ってはおらず、身一つだった。
吹き付ける冷たい風に、薄着で居る自分。
そのことに気がついて温まる場所を探そうと歩き出した。

明るい街灯の漏れる通りに足を向けて動く。

「クリスマスケーキいかがですかー」

・・・!

「当日販売もございますよー」

・・・・・!!

明るい通りに出て向かい側、マキは、そこに矢口を見つけた。
寒そうな格好をしてケーキを売る矢口を見つけたのだった。
67 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時13分39秒
やぐっつぁん・・・

矢口を見つけたマキは大声で名前を呼びながら駆け寄りたい気持ちでいっぱいになったが、出来なかった。
矢口の姿を見て感動のあまり言葉を失ったのだ。
ぶわっと涙を溢れさせてふるふると震えながらじぃっと矢口を見つめる。

そして少しすると、矢口もそんなマキに気付いて駆け寄って来たのだった。
泣いているのを見られたくないのか、マキは走りよる矢口から逃げるように後ろに回りこんで抱きついた。

「やっと見つけた」

「やっと会えた」


「って感じだったんだよー」
と、今は満面の笑みを浮かべながらマキは一人になってからの全てを矢口に話した。
話している途中、何度も思い出して泣きそうになるのを、矢口に手を握られながら堪えて話し続けた。
68 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時15分03秒
「・・・そうだったのか・・・」
(サンタは・・・ほんとに居るのかもしんない・・・)

「やぐっつぁんがね、ごとーのこと探してくれてるの嬉しかった」

「また会えてほんとに良かった」

「もう絶対に離さないでよ」

と、最後の方は泣きそうな顔をしながら訴えるように言った。

矢口もマキも黙ったまま、数分が経った。
俯いて矢口の服の裾を摘んでいたマキは、顔をあげると、にやりと笑ってこう言った。

「次はやぐっつぁんの番だよ。どして居なくなったのか聞かせてもらおー」

「ええっ?どうしてって・・・」
(夢から覚めたからなんて・・・言えないじゃんっ)

「言ってくんなきゃ許さないよ」

「ぅぅぅっ」
69 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2002年11月15日(金)03時15分36秒


   ゲーム◆夢◆お楽しみ頂けましたか?

70 名前:りょう 投稿日:2002年11月15日(金)03時18分13秒
ただ今更新分と最初の更新で悩みました。
短いですが一応ひとくくりです。

ただ、( ´ Д `)が今後どうするのか
(●´ー`●)と( ´ Д `)は会わないのか?
など、まだ消化不良な話が残ってますのでThe endではないです(w

ややこしくてすいませんでした!
71 名前:りょう 投稿日:2002年11月15日(金)03時18分53秒
隠す必要はないけど一応・・・。
72 名前:りょう 投稿日:2002年11月15日(金)03時19分25秒
隠しってことで・・・。
73 名前:りょう 投稿日:2002年11月15日(金)03時19分55秒
よしっ!
では〜。
74 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月15日(金)12時22分15秒
おおっ。
別パターン!!
更新乙です。

まだまだ続きを読みたい感じです。
頑張って下さいね!!
75 名前:77 投稿日:2002年11月15日(金)17時07分58秒


更新おつかれさまです。

このパターンもまたいいですね♪
真希がなぜこっちにこれたのかは、前の話でちょっと疑問だったものですから。
サ○タという設定も良かったです!
後藤の今後がぜひ知りたいですね。頑張ってください・・・
76 名前:ごっちん親衛隊1号 投稿日:2002年12月08日(日)18時20分24秒

続き見たいっす〜!!
なっちがごっちんと会って修羅場?っぽくなるのも見たいですよ。
更新気長に待ってます
77 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)22時18分32秒
待ってま〜す!
78 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月04日(土)20時39分18秒


hozen
79 名前:ゲーム◇夢◇ Another 2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時44分05秒

「矢口も・・・矢口はね?」

マキの話を聞き終えて、今度は矢口が話をする番になった。
マキは、紅茶でも淹れようかと席を立とうとする矢口を無理矢理座らせて、
後ろから抱きつくように押さえつけて言葉を待っている。

「やぐっつぁんはどうして帰って来なかったの?」
矢口の言葉が続かずにマキが先に口を開く。
それを聞いた矢口は、困ったような表情をして申し訳なさそうに話し出した。

「・・・怒らないで聞いてくれるかな・・・?」
申し訳なさそうに言っているのが伝わったのか、マキは矢口を解放すると、
振り向かせて向かい合うようにして座りなおす。

「えとね・・・えっとね、・・・その・・・」
「怒らないから落ち着いてよぉ」
言いにくそうにする矢口をみかねてマキが助け舟をだす。
80 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2003年01月05日(日)06時45分24秒
ぐっと唾を飲み込んで口をぱくぱくとさせてなかなか言わない。
マキがじっと覗き込んでいるせいもあるだろう、落ち着いてと言われた言葉を忘れたように、
初めから聞こえてなかったかのように体を固くしてどのようにして言おうかと、
悩んだ表情を見せている。

「起きたらここに居たの」

そうやって悩んで悩んで出た言葉がこれだった。
それを聞いたマキは一瞬目を丸くして、ぽかーんと口を開けて固まった。

「えと・・・聞こえた・・?」

金縛りにあったみたいになっているマキの体を揺さぶって声を掛ける。
ゆっさゆっさと激しく揺さぶっても反応が無い。

「なんだとー!!」
「おわぁっ」
なんの反応もなかったマキは、急に大きな声で矢口を睨みつけて言った。
両腕を掴んでいた矢口もあまりの恐ろしさに慌てて手を離して体を固くする。
81 名前:ゲーム◇夢◇ Another 2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時46分42秒
わなわなと肩を震わせて頬を思い切り膨らませて真っ赤な顔で矢口を見る。
見られた矢口は視点の定まらない目でマキ以外を見てほんのり震える。

「本気で言ってるの?」

信じられないという表情をしながら矢口を睨みつける。

「う、うん。ほんとに、起きたらここに居たの」
これ以上に言いようがない矢口は、ただただ申し訳なさそうに言うしか出来なかった。

「・・・・・・ま、あんだけ必死になって探してくれてたし、・・・ごとーのことが嫌になったんじゃないよね?」
「ないないありえない!」
思っても無いことを言われて矢口は大慌てでフォローをする。
「起きたらごっつぁんの居ない世界で、すごく辛かった」
「どこ探しても誰に聞いても知らないって言われてさ・・・ほんとに辛かったんだよ?」
マキの髪に指を通しながら下から覗き込むようにして言う。
言う矢口は、その時のことを思い出して泣きそうになる。
言われたマキは我慢することなく涙をぽろぽろと流す。
82 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2003年01月05日(日)06時47分47秒
「泣かないで。もう離れないから、これからはずっと一緒だから」
頬を伝って落ちていく涙を手で拭ってやりながら、マキが泣き止むのを待った。

「・・・約束だよ?もう急に居なくなっちゃヤだからね」
「うん、うん、絶対居なくならない、約束する」

マキの頭を抱え込んで自分の胸に押し付けるようにして抱きしめて、
頭の上から言い聞かせるようにして言う。
きゅっと掴まれた服の裾が、矢口の胸に辛く感じた。

(矢口が探すよりもずっと長い時間マキはひとりで探し続けてたんだね・・・)

ほんの数ヶ月の自分ですら辛かった。
マキが居なくても自分には他に人間が居た。
マキはたったひとりで探し続けた。

考えると、胸が痛く、本当は泣いてしまいたかった。

(それなのになっちまでを泣かせて・・・)
83 名前:ゲーム◇夢◇ Another 投稿日:2003年01月05日(日)06時49分06秒
「ごっつぁん、これからのこと話そっか」

いつまで立っても泣き止まないマキの両肩を持って少しだけ離して、
問いかけるようにして言う。

「これから・・・?」
ぐずったまま、それでも矢口の目をじっと見つめて返事をする。

「そ、これからのこと。これからこっちで暮らすんだから、
色々と知らなきゃいけないこともあるし、矢口も・・・紹介したい人居るし」

「紹介・・・?あ、お母さんとかだね?ごとーのこと紹介してくれるの?」
同性同士の恋愛や婚約が普通の世界だったゲームの世界。
そして婚約のことを伝えるところで別れたこともあって、マキはそんなことを言った。

「えっ・・・あ、えっと、そのこともちゃんと話さなきゃいけないね。
違うんだ、紹介したい人ってのは・・・えと、取りあえずお茶淹れなおそっか」

掴んでいた手をそっと解いてキッチンへ向かう。
残されたマキは、矢口を追うようにして視線を移し、悲しそうな目で問う。

「ごとーにとって嬉しくないこと?」

その問いに、顔だけを向けて矢口は返す。
「ちょっと待って」
84 名前:ゲーム◇夢◇ Another 2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時50分48秒
矢口が紅茶を淹れる間、マキはじぃーっと矢口のことを見つめたまま戻って来るのを待った。

「お待たせ」
2人分の紅茶を持って向かいに座って、矢口は話し始める。

「まずさ、謝らなきゃいけないことがある」
カップを両手に持って俯き加減に切り出す。
「謝る?ごとーに?やぐっつぁんが?」
「うん。あのね、そのぅ・・ほら、ねっ・・・?」
なかなか切り出せない矢口を見て、マキは大人しく言葉を待つ。

「その・・・ごっつぁんと出会う前にさ、他に付き合ってる人居たんだ」
やっと切り出した矢口の言葉を聞いて、マキは「え?」という顔をする。

「・・・ごとーと出会う前?出会ってからは?」
「付き合ってた」
正直に答えた矢口に、マキはすぐに言葉を返さない。
紅茶をこくっと飲んでカップを置いてから話し出す。
85 名前:ゲーム◇夢◇ Another2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時52分01秒
「・・・なんで?ごとーと出会う前のことはいいよ、仕方ないもん。でも、どうして付き合ったあともなの?」
マキはもっともなことを返す。
言ってみれば二股をかけられていたということなのだから。
「それはその・・・言い訳になっちゃうけど、別れるきっかけがなくて・・・ごめん」
小さな声でボソボソと俯きながら言う矢口に、低いトーンでマキは言う。
「顔あげなよ」

「ごとーの目を見て」
そう言われて、矢口は申し訳なさそうにマキの目を見た。
ふたりだけの部屋は静かで、どちらかが黙ると耳がおかしくなりそうな感じになる。

「裏切るようなことしてごめん」
それでも言わなければならないことは言わないと、これから上手くやっていけないことが分かっているので、
今度はマキの目を見てしっかりとした声で言う。

「・・・結婚するんじゃなかったの」
「そうだね・・」
「一生一緒に居ようって・・・」
「そうだよね・・・」
ふぅと大きな息を吐いて紅茶を飲む。
86 名前:ゲーム◇夢◇ Another2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時53分11秒
窓の外から聞こえてくるかすかな声に耳を傾けて、その声に導き寄せられるように立ち上がる。
相変わらず閉まったままのカーテンをシャっと開けて声のする方を見下ろす。
そこには自分達と同じくらいの年齢の恋人達が幸せそうに手を繋いで歩いている姿があった。
じーっとそれを見つめ、振り返ることもせずにマキは口を開いた。
「結婚してるのかな」

「え・・なに?」
窓の方を向いて言ったマキの言葉を聞き取れずに矢口はすぐに問い返す。
「ごとー達も結婚しようよ」
振り向いて聞こえた言葉は結婚しようという言葉。
「それについてもちゃんと話さないといけない」
前に約束した時は快く結婚しようと言った矢口が今度はうんと言わないことにマキは不安が募る。
「まさかその人と結婚してるとか・・・?」
「なっ、ち、違うよ!そうじゃないんだよ」

訳が分からないといった顔をしてカーテンを閉めてマキは元居た場所に戻って来る。
説明してよという顔をして矢口を見つめる。

「あのね・・」
87 名前:ゲーム◇夢◇ Another2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時54分23秒
そして矢口は話し出した。
この世界では異性愛がほとんどで、同性愛は認められていないということ。
ましてや結婚なんてとんでもないことだということを。

「なんで?好きなのに付き合っちゃいけないの?結婚できないの?」

自分が居た世界では普通だったことがここでは受け入れられない、
自分が当たり前のように好きだと言っていた気持ちはここでは受け入れられない。
そんな、今までの自分の生き方を否定されるようなことを言われ、マキはがくっと肩を落とした。

「今すぐに結婚とか、そんなのは出来ないけど、ごっつぁんのことを好きなのは本当だから」
ショックを受けているマキを元気付けようと矢口は言う。

「浮気したくせに・・・」
「うう浮気じゃっ・・・ない・・けど、その子には悪い事したと思ってるから・・その子にごっつぁんを会わせたいの」
「・・・なんで?」

「ごっつぁんが存在するってことを教えたい」
「・・ごとーはここに居るもん、やぐっつぁんの傍にいるもん」

そう言うマキを見て、
「ほんとに居るんだよね・・・」と涙を溜める。
「なんだよやぐっつぁんが悲しい顔する必要ないでしょおー」
と、ふざけたように言うマキもしばらくすると涙を溜める。
88 名前:ゲーム◇夢◇ Another2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時55分17秒
「・・・」

じっとお互いに見つめたまま、しばらくすると笑みがこぼれた。
「へへへっ泣きすぎだよごっつぁん、変わらないんだからー」
「うーるさいなぁやぐっつぁんだって泣いてるくせに」

いつしか笑い泣きに変わったふたりは、恥ずかしいのか憎まれ口をたたきあう。
「いつまでも泣いてたら辻加護に笑われちゃうぞ」
「そっちだって」

しばらくどうでもいいようなことを話して、矢口は携帯電話を取り出す。

「なにそれ」
「ええ?これ・・電話だよ」
へーこんなちっちゃい電話なんかあるんだねーと珍しいものを見るようにしてマキはまとわりつく。
これからメールを送ろうとしている矢口は、そんなマキがほんのり邪魔になり、
部屋のもの見て良いからちょっと邪魔しないでとマキに向かってあっちいけをする。

「ぶー。いいじゃんケチー」
言われたマキは拗ねてしまい、言われたまま寝室へと入っていった。
89 名前:ゲーム◇夢◇ Another2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時56分43秒
「えーっとなっちなっち・・・」
拗ねてしまったマキが気になりながらもメールを打つ。

「ねーこれなにー?」
寝室からマキが大きな声で問いかけてくる。

「・・・・・・ちょと待って・・・・・・・・・・よしっと」

「なにがー?」
大急ぎで、それでも書きたいことをしっかりと書いてメールを送信し、矢口は慌ててマキの元へと向かう。

―失礼な事してるって分かってるんだけど、
―なっちに会わせたい人が居るの。
―なっちがもし嫌じゃなかったら会ってくれないかな。

「これこれ。何に使うの?」
そう言って差し出されたのは安倍が割った、マキの存在したゲームだった。
「あ・・・・それどこにあった?」
「んーみんな丸いのにこれだけ二つになってるから目立ってたよ」
マキから受け取って矢口は懐かしそうに眺める。
「これはね、ごっつぁんと矢口を繋いだものなんだ・・・直しとこうね」
くっ付かないふたつをひとつの形にしてケースに直し、マキの行動を柔らかい表情で見守る。

「やぐっつぁんの部屋、知らないものいっぱいで楽しいね」
にかっと笑ってCDやDVD、ゲーム機を手に持って何に使うの?おもちゃなの?とわくわくした様子で聞いた。
90 名前:ゲーム◇夢◇ Another2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時58分19秒
〜♪

しばらくそうしていると、居間の方から音楽が聞こえた
「あ、なっちだ」
安倍からの返信メール。

全然良いよ!なっちも紹介しちゃおうかな♪
日にちはいつでもいいけど、今年中に会っておきたいかな。

メールの内容を見てほっと胸を撫で下ろす。

「誰?」
寝室に居たはずのマキが後ろから覗き込むようにして立っていた。
「紹介したい人居るって言ったでしょ?その子とひにち決めてるの」
「ああ・・・浮気相手ね」
ふんとそっぽを向く素振りをしてマキは寝室に戻る。
「ぬわぁ〜ごめんってば〜!!」
慌てて矢口も後を追う。
91 名前:ゲーム◇夢◇ Another2話 投稿日:2003年01月05日(日)06時59分01秒
「そういや今日は昨日みたいなことしないの?」
「?なんのこと?」
「赤い服きてケーキ売ってたじゃん」
「バイトか・・・いやあるよ、夜からいかなきゃ」
「ごとーもいく」
「駄目だよバイトなんだから」
「いくも」

今までずっと生活を共にしてきたマキは、矢口と少しでも離れると不安になる。
嫌ってほどひとりぼっちを体験して、もう二度とごめんなのだ。

「ごっつぁん、お仕事なの。分かる?それをしないとね、生活できないの」
「だって・・・」
「ちゃんと帰るから心配しないで」
「・・約束だよ」

それから安倍とも日程を決めて、夜になり、矢口はバイトへと向かった。
92 名前:りょう 投稿日:2003年01月05日(日)07時05分35秒
まず初めに、更新が大変遅くなったことをお詫び申し上げます。
作者の怠慢で遅くなりました、申し訳ありません。
今回の話は全部であと3話続く形となり、前回の再会部分を含むと全5話になります。
書き上げ済みですので時間があれば本日もう一度更新します。
取りあえず、寝ます…。

>>74 名無し読者。さま
   遅くなってすいませんでした。
   残りはすぐに更新します(汗

>>75 77さま
   後藤さんの今後は…次々回位で明らかになります(w
   お待たせしてしまってすいません。
93 名前:りょう 投稿日:2003年01月05日(日)07時08分38秒
>>76 ごっちん親衛隊1号さま
   遅くなってすいません(汗 
   ( ´ Д `)×(´ー`●)…
   次回位対面しそうです。

>>77 名無し読者さま
   ほんっとすいません。
   心から感謝してます(汗

>>78 名無し読者さま
   保全ありがとうございます。
   すいませんです。

では、また。
94 名前:77 投稿日:2003年01月05日(日)09時19分55秒


こ、更新きましたね。
まってました!
更新ペースは作者様の都合に合わせますので、マターリ頑張ってください。
『ゲーム 夢』の方がまだ続いていて嬉しいです。
続きを楽しみに待ってます。
95 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時19分34秒
「やぐっつぁんの匂いがするね・・・」

家にひとり残されたマキは、家中の隅から隅までを探検するかのようにして物色していた。
探検すると言っても所詮は一人暮らしの狭い部屋。
15分もすると、暇になり、寝室のテレビをつけて暇を潰す。

「・・・」
25日の今日はクリスマス。
テレビはクリスマス一色で、映された街を行く人々は皆幸せそうな顔をしている。
寒そうにしながらも恋人とくっついて仲睦まじい若者。
親の手に引かれて楽しそうにスキップをする子供。
子供も大人もお年よりも皆、幸せそうな顔をしてそこに居た。

「・・・いいな」

矢口の部屋でひとりぽつんと帰って来るのを待つだけのマキ。
チャンネルを変えて、他に楽しい番組が無いかを探す。
カチカチと一周をして電源を消す。
どうやら気に入る番組はなかったようだ。
96 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時20分50秒
「こんな格好じゃ出れないし・・・」

身ひとつで現れたマキは、さすがに15cmも身長の違う矢口の服は合うはずもなく、
取り合えずとして借りたジャージを着ていた。
そんなジャージも丈は短く、無理矢理着ている状態だった。

「そだ、ご飯」
思い出したかのように台所へと行くと、冷蔵庫を開けて食材を漁る。
「何も無いじゃんやぐっつぁんのばか」
冷蔵庫には飲み物以外の食べ物がほとんど入ってはおらず、大飯ぐらいのマキはへなへなと座り込む。

カンカンカン・・・
家の外に誰かの足音を感じて慌てて立ち上がる。
駆け寄ってドアが開くのを待ってみてもその足音は遠ざかっていく。

「・・・」
時計は8時を過ぎたところ。
矢口がバイトに向かってからまだ1時間ちょっとしか経っていない。
そのことを知ると、マキはまたその場にへたり込む。

やぐっつぁんは仕事、ごとー達が暮らしていくために働いてる。
おうちでちゃんと待ってないと。
お姉ちゃん達に、会えたこと報告したいな・・・

気がつくと、マキはそのまま眠りの世界へと落ちていった。
97 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時22分32秒
一方こちらはバイト中の矢口

そわそわそわそわと落ち着きが無い様子で居る。
何度も何度も時計を見ては少しも時間が経っていないことにため息を付く。
早く帰りたい気持ちからか、ただ単に忙しいのか、次から次にと入るオーダーを
矢口ひとりでこなしているといっても不思議じゃないほどに矢口は動き回っていた。
一生懸命働いて時間が経つのを早送りするかのように。

(そうだ、店長にお願いしなきゃ)

年末年始までびっちりとシフトを組んでもらっていた矢口だったが、
マキが現れたことで予定を変える必要があった。
98 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時23分05秒
「どうしても人手が足りない時は来ますから、なんとか休みを頂けませんか?」
矢口は、年内中の残りの日全てを休みにしてくれと、無謀なお願いをしていた。
年末年始は稼ぎ時、役に立つ矢口を店は簡単に休ませるはずが無かった。

「まだ風邪が治らないのか?」
昨日、風邪という理由で休みを貰った矢口に当然ながら理由を聞いてくる。
シフト表を眺めながら「うーん」と頭を捻りながら予定を組みなおしているようにも見える。

「風邪はもう大丈夫です。その・・・」
と、矢口は「ずっと行方不明だった妹が見つかって家に来てるんです」と、
あながち嘘とも言えないような理由をつけて事情を説明した。
99 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時23分52秒
普通なら信じないであろうそんな理由を、店長はあっさりと信じ、
そして「それなら仕方ないな」と、矢口の無理なお願いを承諾したのであった。

「その代わり、本当に忙しい時は来てもらうから。年始も宜しく頼むぞ」
「はい!どうもありがとうございます」
(ごっつぁん喜ぶぞー♪)

休みの承諾を得て、矢口はスキップ混じりに仕事へと戻った。
それでも時刻はまだ9時を過ぎたころ。
終わるまでまだ3時間もある。

店に来る客はほとんどと言っていいくらいにカップルばかり。
手を繋いでイチャイチャとして入ってくる姿を見るたびに、羨ましいという感情を抱きながらも
帰ったらマキが居るということを思い出してひとりにやける矢口であった。
100 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時25分10秒
「・・・ん・・・ 」

目を覚ましたマキは、自分が真っ暗闇の中に居ることに気付いてキョロキョロと辺りを見回した。
すくっと立って光を探す。
歩いても歩いても光は無い。
あるのは何もないただただ真っ暗な空間だけ。

「そんな・・・嘘だよね?」

矢口と会う前に自分の居た世界。
何も無い空間にまた居ることに気がついて泣き出してしまう。

「ご褒美って・・夢だったの?」

「やぐっつぁんに会えたのも・・・夢だったの?」

何も無い、誰も居ない空間に向かってひとり泣き叫ぶ。
遠くまで響き渡る自分だけの声。
マキが黙ると、自分の息の音しか聞こえずに、マキは耐えられなくなる。
わーーーと走り出して何も無い所で躓いて前のめりに倒れ込む。

「やだよっこんなの・・・嘘だよ・・・やだってばーーー!!」

わああとうつ伏せになって我慢することもなく大声で泣き喚く。
以前に手を差し伸べてくれた人物を思い出して呼んでみる。

「やぐっつぁんに会わせて!引き裂かないでよごとー達のことっ・・・!!なんで!」

叫んでも、呼んでも、どこからも誰からも返事は来ない。
自分の声だけが虚しくこだまする。

「やだよ・・」
101 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時26分10秒
ガチャガチャ
「ただいま〜」

(やだよ・・助けてやぐっつぁん・・・・)

「おわっこんな所で寝ると風邪引くぞー起きろごっつぁん〜」

(・・・やぐっつぁん?!)

ガバッと起き上がって声のした方へ振り向くマキ。
「うとうとしてたの?風邪引いちゃうよ」
コンビニ弁当を片手に後ろ手に鍵をかける。

「おなかすいたでしょ。遅くなってごめんね」
靴を脱いで部屋に入り、コートを脱ぎ、台所でお茶の用意をする。

その間一言も返さないマキを不思議に思って、矢口は「どうかした?」と問う。
「あ、もしかして食べるもの無かったから怒ってる?」と聞いても何も答えない。
「さては矢口に会えなくて淋しかったんだろー」とふざけた風ににやにやとしながら言う。
マキは何かを耐えている風で、口をキュっと結んでわなわなと肩を震わせる。
102 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時27分30秒
「・・・ほんとどうかし―」
矢口が全部を言い終える前に、マキは矢口を見つめたままポロポロと泣き出した。
「えっ?なに、どうしたの?」
ふざけていた顔を曇らせて、慌ててマキの傍へ駆け寄ると、両肩を掴んで「何があったの?」と心配そうに問いかける。
問われたマキは、何も答えることをせずにただただ、泣き続けていた。

「・・ぅぇっ・・っ・・ぅっく・・ぅぇっ・・や、やぐっ・・ぅぇぇっ・・っく・・やぐっやぐ・・っ」
「矢口がどうかしたの?どうして泣いてるの・・・?」

「ぅぇぇっ・・やぐっ・・居ない・・ごとー・・ぼっち・・ぅええっ・・」

矢口よりも大きな身体を震わせてポロポロと涙を零す。
その姿は年齢よりも幼く、触れたら壊れてしまいそうなおもちゃのように弱く感じた。

そんなマキを落ち着かせようと、ギュっと抱きしめて背中をさすってやり、落ち着くのを矢口は待った。
(やな夢見たのかな・・・心細いよね・・矢口以外誰もごっつぁんのことを知らないんだから・・)
103 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時28分24秒
「・・ぇっ・・あの、あのねっ・・目ぇ覚ましたらやぐっつぁん居なかったの」
しばらくして落ち着きを取り戻してきたマキは、矢口に抱かれながら先程見た夢の内容を話し出す。
「やぐっつぁんと会う前の世界にまた居たの」
「・・・うん」
「どこを見てもいくら叫んでもごとーしか居なくて、ひとりぼっちで・・・っく・・もうあんなのはいや」
「ひとりぼっちになんかさせない、傍にいるから」
「もうひとりはいや・・・」
「うん・・」

まだ少し鼻をすすっていたマキは、「おなかすいた」と言って空腹を訴える。
「お弁当しかないんだけど食べよっか」
作りかけていたお茶を淹れて弁当を温める。

「やぐっつぁんさ、冷蔵庫カラッポだよ」
「あ、う、うんそうだよね、一人だとあまり必要なかったからさ」

ごとーは食べる時が幸せなの〜♪と、先程まで泣いていた人物とは思えないほどに明るい声で嬉しそうに弁当を待ちながら言う。
104 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時29分06秒
「おいしそーっ。食べていい?食べていい?」
矢口が座るまで手をつけるのを待って、早く座れとせかす。
「はいはい、食べよ」
そう言ったと同時にマキは食べ始める。
幸せそうに味をかみ締めるように。

「そういやさ、ごっつぁんの服明日買いにいこっか」
「えっ買ってくれるの?」
「うん。矢口のはちっちゃいしね。それと食料も買い足さなくちゃね」

バイトの休みを貰ったこと、しかし忙しい時だけかり出される可能性があるということ、
それらを説明し、マキは嬉しそうに頷いた。
105 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時29分48秒
「ごとーも働く。やぐっつぁんだけに負担かけられないからね」
ふんと鼻息を荒くしてそう意気込むマキではあったが、矢口は速攻で却下をした。
「なんで?お金無いのに」
「ごっつぁんにはさ、もっとここの世界を知ってもらわないといけないから」
「何が違うの?一緒でしょ?」
ゲームの世界から出てきたことを信じるはずもないマキは当然のようにそう答える。
「まっ、正直に言うとさ、家に帰ったときにごっつぁんが居てくれた方が嬉しいからさ・・」
と、説明することはせずに嘘ではないことを言いつつその場を取りまとめる。

「明日はさ、ごっつぁんの好みの服買ったら良いからね。たくさん買おうね」

食事を終えたふたりは、順番に風呂を済ますと寝室に入る。
先にベッドに入ったマキに、思い出したように矢口は声をかける。
106 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時31分00秒
「なに?」
問い掛けるマキに、矢口は待ってと言い、耳に手をやってピアスを外す。
「これ、あげる」
渡したのは元々マキにあげるために買った、マキのピアス。
安倍のピアスは着けたまま、マキのピアスだけを渡す。

「やぐっつぁんのじゃないの?」
受け取ったピアスを見て不思議そうにそれを返す。
「それはごっつぁんに会えたら渡そうと思ってたの。だから受け取って欲しい」
「・・・良いの?もらっても」
「気にいんなかったら着けなくてもいいけど、それはごっつぁんのだから」
「ううん、着ける、ありがと」
貰って早速に、着けていたピアスを外して着け直す。
そして矢口の耳を指差して「それは?」と問い掛けてくる。
「ん?」
「それは誰の?」
残ったピアスを指差して聞いてくる。
一瞬躊躇ったような顔を見せて、「これは戒めなんだ」と返す。
マキは「ふぅん」と、大して気にもとめない様子でそれ以上聞くことはせずに布団を被った。

「・・おやすみ」
「ん、おやすみ」

布団からほんのり出ているおでこにキスを落として、眠りについた。
107 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時31分56秒
「ギリギリのラインだね・・」
「だね・・・すぐ着替えないとね」

矢口が持っている服の中でも一番大きなサイズの服をマキに着せて用意をする。
かなりあり得ない格好をしているのだがそれも仕方なし、
ふたりは気にしていても仕方ないというような前向きな考え方で家を出た。

「どっか行きたいところある?」
ゲームの世界には無かったものだらけの現実世界。
どこに行ってもマキはわくわくとした顔であれなに?これなに?と楽しそうにはしゃいでいた。

「やぐっつぁんのおすすめ!どこでもいいよ」

どこに行きたいかなどマキに分かるはずもなく、矢口に付いていくしか出来ないのだ。
「とりあえず服買おっか」

街を並んで歩き、マキの足が止まった店に入る。
「ここ入ってい?」
以前は、どこへでも勝手に行ったマキだったが、再会してからはピタッとくっ付いて離れない。
どこへ行くのも何をするのも矢口に聞いてからになった。
「良いよ、入ろっか」
108 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時32分43秒
ちょうどマキ位の年齢の少女が着るような洋服が売られている店に入り、
矢口の手を引っ張ってお気に入りを探す。

「これどーかな?ごとぉーに似合う?」
「似合う似合うすっごく可愛い」
矢口はちらっとだけ見て返事をする。
そんな矢口に不満を感じて「見てないじゃん」と文句を言う。
「ごっつぁんはかわいーから、なんでも似合うってば」
フォローをするように言うが、
「やぐっつぁんが好きじゃなかったら意味ないよ」
と、マキは返す。

「・・・そんじゃ試着してみよっか」

マキのお気に入りの中から矢口が更に数着を選んで試着室を探す。
探すが、生憎全ての部屋は満室で、列が出来ていたので諦める事にした。

「サイズ、分かるでしょ?」
「うん。じゃあこれとこれにする」
109 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時33分48秒
マキは最終的に、自分で決めたものを矢口に渡し、矢口は会計に向かう。
「プレゼントされますか?」
「・・・え?何をです?」
会計をしようとレジに並んでいた矢口は、店員から思ってもいなかった質問をされる。
「お客様がお召しになられますか?」
「・・・(あ、サイズが大きいからかな)ああ、違います、この子が着るんです」
すぐ横に居るはずのマキを指差して言う。
「?」
しかし店員は誰のことですか?というような顔をする。
あれ?と思い、マキが居る方を見るとそこには誰もおらず、少し離れた所で違う洋服を見ているのを発見した。
「あ、あの子ですあそこに居る女の子です」
再度指を差し直して説明をするが、先ほどと変わらずに不思議な顔をする。
「・・かしこまりました」
「はぁ」
(なんだ、ごっつぁん座ってるのか、そりゃ見えないね)
110 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時34分43秒
「ごっつぁんお待たせー」
入り口付近で別の洋服を見て時間を潰していたマキに声を掛けて手を差し伸べる。
「ありがと。どっかで着替えたいな」
ということで、近くの喫茶店に入り、手洗いで買ったばかりの服に着替えることにした。

「温かい紅茶ふたつお願いします。あ、それとお水ももうひとつ」
「ご一緒にお持ち致しますか?」
「はい、すぐ来ますんで」
マキが手洗いで着替えている間に注文を済まして出てくるのを待つ。

「・・・へへ」
購入した服は、ほんのりゲームの世界を思い出させるような今時ではない服で、
それでいて大人っぽさを引き出してくれるような少女向きではない服だった。
候補に入れたのは矢口。
マキも自然と懐かしさを感じるのか、導かれるようにしてその洋服を手に取った。
111 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時36分00秒
矢口がその洋服を着たマキを想像してにやにやとしていると、手洗いの方から何やら怒ったような顔をして戻って来るマキが視界に入った。
「あれ?早かったね」
よく見ると、洋服は着替えておらずにそのままで、洋服の入った袋も開けてもおらず、向かったままの姿であることが分かった。

「やぐっつぁん帰ろ!」
「ええっ?今注文したところだよ?」
と、注文をしたところの矢口は「とりあえず座りなよ」と言って立ち上がり、
自分の向かいになるように座らせた。

「何かあった?」
真っ赤な顔をしてぷんぷんと怒るマキを落ち着かせるようにして言う。
しかしマキはなかなかおさまらない様子で、手洗いの方をキッと見つめている。

「嫌な人居た?出ようか?ここ」

「・・・ごとーが着替えようとしてるのに変な人がさ、ごとーを押し退けて場所とっちゃったんだ」
「ええ?そんな失礼な人居るー?気付かなかったんじゃないの?」
「違うもん、ちゃんとすいませんって言ったもん」
「んー・・・なんでかなぁ。・・・やっぱ出よっか」
112 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時36分51秒
注文をした紅茶はまだ来ては居なかったが、マキが気分の悪い思いをしているのを見るのもさせるのも
可哀想に感じた矢口は、伝票を持って席を立とうとする。
しかしちょうどその時に紅茶は運ばれてきて、せっかくだからということで、飲んで帰ることにした。

「なっちって人にはいつ会うの?」
「ああ、なっちとは明日昼から約束してるけど」
「そか。闘う準備しなきゃね」
「へ?」
「やぐっつぁんはあげないぞって言うの」
真剣な顔をして言うマキが面白く、矢口はわははと声を出して笑ってしまう。
「なんで笑うのさ」
「だって、もう別れてるんだよ。なっちにも良い人居るし、矢口にも・・・ね?」

にっと微笑んで見つめられたことに恥ずかしさを感じたのか、ほんのり頬を染めてマキはよそ見をする。

「ね、ご飯作ってあげる。早く帰ろ」
じぃーっと見つめ続ける矢口の視線から逃れるようにして席を立ち、矢口も立たせて店を出た。
113 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時37分52秒
一週間分の食料を買い込んで両手一杯に袋を提げて家路につく。

「料理なんか出来るの?」
以前一緒に居た時は食べてばかりのイメージがあったマキが料理をするということを信じられずにそんなことを聞く。
矢口自身もほとんど料理という料理はしたことがなく、食べずに済む日は食べない、
食べる日でもコンビニ弁当か出前をとるというなんとも不健康で、女性らしくない食生活を送っていたのだ。

「しっつれーしちゃう。家事はなんでも出来ます!」
そう言ってどこから出したのかエプロンを身に付けてマキは料理を作る姿勢に入る。
「あ、そういやお父さんに作ってあげてたっけ」
思い出したようにその時の姿を想像してひとり頷く。
「手伝わなくて良いの?」
「大人しく待ってなさい」
「・・・へい」

言われても大人しくしているはずのない矢口は、マキの作る傍でウロウロと纏わりつく。
後ろから覗いては「何が出来るの?」「良い匂いするー」「まだかなまだかな」と声を掛ける。
「邪魔しないでよやぐっつぁん!!」
ダンッと包丁をまな板に刺してキッとした目で睨みつける。
「ははい!」
本当に刺すんじゃなかろうかというマキの勢いに身を縮めてソロソロと離れていく。
114 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時39分11秒
(・・・なんかやってるかな)

邪魔をすることを諦めた矢口は、寝室に入ってテレビの電源を入れる。
クルクルとチャンネルを回して面白い番組を探す。
一周をしたところでどれも気にいらなかったのか、リモコンをベッドに放り投げて自分も寝転がる。

(なっちになんて言って紹介しよっかなー・・・)

安倍に会う日のことを考えているうちに、矢口の瞼は閉じられた。


「やぐっつぁ〜ん出来たよ〜」
それからしばらくして料理を作り終えたマキが眠っている矢口を呼びに来る。

「寝てるし・・・」
テレビを見て大人しく待っているものとばかり思っていたら眠っている。
そんな矢口をほんのり憎らしく思って傍に歩み寄り耳元で声を掛ける。
「起きろ!」
(・・・あと5分・・・)
(・・・隣のお姉ちゃんがね、空飛んでたの・・・)
目を覚まさない矢口は、母親に言い訳をする子供のような寝言をぼそぼそ言っていた。
「こらぁ起きろ!」
横を向いて眠っていた矢口は、耳元で叫ぶマキを払いのけると、ゴロンと寝返りを打って仰向けになってまだ目を覚まさない。

「・・・♪」
115 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時40分06秒
ドスン
(・・・ぅぅ・・)
「・・・♪」

「・・ぉ・・おも・・」
「起きて、やぐっつぁん」
仰向けになった矢口に跨って両手で頬を包み込む。
「んー」と顔を近づけて眠ったままの矢口にキスをする。
(・・・)
「♪」
(・・・こしょばい)
眠っているのを良いことに、マキは矢口のおでこから唇から矢口の顔の至る所にキスを落としていく。

「・・・う、うわっ」
顔がこしょばゆいことい気付いて目を開けると、そこにはにこにこした顔で嬉しそうに迫ってくるマキの顔が目に入った。

「んーも1回だけ・・・」
と言って、目を思い切り見開いたままの矢口に再度キスをする。
「ななにしてんのさ、寝てる隙に!」
自分からすることはあってもされたことのなかった矢口は、何故か恥ずかしさを感じて顔を赤くする。
「だってしたかったんだもん」
えへへといたずらっ子のような笑みを浮かべて矢口の上から身体を退ける。
「ご飯出来たから呼びに来たんだよ。食べよ」
「・・・うん(くそーなんかもったいない)」

嬉しくないはずはないのだが、何分寝ている間の出来事のため覚えていないこともったいなく感じたのだ。
116 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時40分48秒
「うわ、これ、こんなの作れたんだ」
と矢口は言うが、メニューはなんてことはないクリームのかかったオムライスにコーンスープだった。

「簡単だよこのくらい。料理はごとーがするから毎日楽しみにしててよね」
にっこり笑ってスプーンを口に運ぶ。
「ほら、やっぱごとー上手〜」
と、矢口よりも先に手をつけて自画自賛をする。
「はは。美味しそうだよほんと」

矢口もスプーンを進め、あっという間に平らげた。

「明日はなっちっていう人に会うんでしょ?心変わりしないよね?」
「しない、っていうかあり得ない。ごっつぁんを紹介しに行くんだからね」

何回行っても心配性のマキ。
食事中も風呂上りもベッドに入ってさえも何度も言う。
しつこいなと思うことはせずにその度に矢口はきちんと答えていた。
117 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時41分47秒
「やっぱり似合うね」
翌日、購入した洋服を身に纏ったマキを舐めるように見て感想を言う。
「すっごく可愛い」
言われたマキは「食べちゃいたいくらい?」とドキドキさせることを言う。
「うん、食べちゃいたい位可愛い」
赤面しつつも素直に答える矢口に「食べさせません」と逃げるようにおどけてみせる。
「なんだよっ真剣に答えたのに!」
ふんと珍しく拗ねた矢口に慌ててフォローをする。
「結婚してからじゃないと駄目なんだよ、そういうのは」
「・・じゃ無理だね」
フォローになっていないマキのフォローにまだ拗ねたように返す。
「えー・・・だってまだ朝じゃんか・・」
と、今度は艶っぽい視線を向けて誘惑をするように近付いていう。
「べべ別にそういうことがしたい訳じゃないよ。もうっ良いから用意出来たら行くよ」
と、やはり赤面をしたままに矢口はマキから視線を外して言った。

「・・はいはい」
118 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時43分08秒
待ち合わせ場所は自宅から30分ほどのところにある、安倍の家寄りの喫茶店だった。

「こないだの所じゃない?」
「ないない」
嫌な思い出の残る喫茶店ではないことを確認してほっと安堵の表情を見せる。

先に店に入った矢口達は、「すぐにもうひとり着ますんで」と言って注文をせずに安倍を待った。

「ねー」
「んー?」
並ぶようにして座って安倍を待つふたり。
先程からマキが話しかけては何も言わないまま終わる、それの繰り返し。
「ねー」
「だからなにー?」

「・・・もっと大人だったはずなんだけど」
「へ?」
「やぐっつぁんに会ってさ、子供になった気がする」
「それは矢口のせいだと言ってるのでしょうかマキさん・・・」

などと会話をしていると、窓をコンコンとする音が聞こえて来た。
音のした方を見ると、安倍が笑顔で手を振って矢口の方を見ていた。
そんな安倍につられて矢口も笑顔で手を振って返す。
119 名前:ゲーム◇夢◇ Another3話 投稿日:2003年01月05日(日)16時44分22秒
「あの人がなっちか。可愛い人だね」
「う?う、うん」
マキの言葉にほんの少し棘を感じて矢口は口ごもってしまう。

「ごめん待たせちゃった」
マフラーを取りながらピンクに染めた頬を両手で摩りながら矢口の向かいに座る。

「前に言ってた人は?」
安倍が前に言っていた“良い人”。てっきり一緒に来るものだとばかり思っていた矢口はすぐに問いかける。

「後から来るよ。矢口の言ってた紹介したい人も後から来るの?」

「・・・え?」
「?なんかおかしなこと言った?」

矢口のすぐ横に座っているマキを見ようともしないで、というよりは見えていないような雰囲気で安倍は言う。
昔付き合っていた人間が新しく紹介をしたいといったことに腹を立てるような人間じゃないことは矢口が良く知っている。
安倍は冗談でも、理由がない限り、無視などするような人間ではないのだ。

「・・・」

安倍はずっと矢口しか見ていない。
120 名前:りょう 投稿日:2003年01月05日(日)16時47分59秒
>>94 77さま

   早速のレス、どうもありがとう(●´ー`●)
   いえ、本当にありがとうございます(汗
   夜は忙しくなりそうだったので先に更新しました。
   思ったより長くて焦りましたが。
   あと2話なんですが、そんな長くもないので…。
   読んでくださって感謝!感謝です(w

では、また!
121 名前:りょう 投稿日:2003年01月05日(日)16時50分43秒
筋に関係ないですけど。
最近5期のお話が増えましたね…っと。
122 名前:りょう 投稿日:2003年01月05日(日)16時52分20秒
現実でも活躍の5期メン。
それに負けないようにオリメンにも頑張ってもらいたいな…っと。
みんなに頑張ってもらいたいですね。

よし。
123 名前:きいろ 投稿日:2003年01月05日(日)19時13分31秒


やぐっつあん・・!!
後藤はどうしてしまったんだ!?
新たな試練が二人の間に立ちふさがるようですね。
続き期待してます。
124 名前:77 投稿日:2003年01月05日(日)20時47分05秒

素早い更新どうもです(○´ー`○)
ま・・・・マキーーーーーーーーーーーーーーーーー(絶叫
意味不明な感想でごめんなさい。
125 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月05日(日)22時27分48秒
更新お疲れ様です。
そうきましたかぁ…せつなくなりそう。
幸せを願いつつ続き楽しみに待っています!
126 名前:Nami 投稿日:2003年01月05日(日)23時43分32秒
ここでのカキコはいつも違うHNなんですけど、
りょうさんの作品なのでいつものHNを、、、。

ここではお初ですー。
ま、まさか、こんな展開になるとは!!
続き、ドキドキしながら待ってますー。

PS.ゴマも好きだけど、やっぱりヤグヲタだと今日ハロモニで思い  ました (w
127 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月07日(火)23時56分03秒
「何言ってるの?この人」
目の前に居る自分を全く見ようともしないで矢口だけを見て安倍は話し続ける。

「なっち、この子が紹介したい人だよ。矢口の好きな人」
マキの肩を掴んで自分に引き寄せながら自分しか見ない安倍に紹介をするようにいう。
しかし安倍は不思議な顔をして「何言ってるの?」と言う。

「だから、この子がマキだよ!前に・・・観たでしょ?あのマキだよ?」
一生懸命マキを引き寄せて安倍に見せようとするが安倍は「何言ってるの?」と繰り返す。

「なっち・・・!ふざけるのはやめてよ、ごっつぁんが可哀想じゃんか・・・矢口が悪いのは分かってるけど・・・」
「待って、やぐちが悪いとかそんなことは思ってないし、それはもう終わったことだよね?そうじゃないの、
やぐち・・・さっきから何言ってるの?」
「だからっ、ここにっ―」
「矢口の横には誰も居ないよ?」
「なっ――」
128 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月07日(火)23時57分07秒
性質の悪い嫌がらせをしているとしか考えれらないことを安倍は言う。
ふたりのやりとりを見ながら、ぐっと黙りこくっていたマキは、勢いよく立ち上がると、
「ごとー帰る!気分悪いよ!」と安倍に向かって叫んだあと、矢口を置いて出て行ってしまった。

「ちょっごっつぁん!!」
慌ててコートを持って席を立って「なっちあんまりだよ・・」と言い残してマキを急いで追いかける。

残された安倍は注目を浴びてしまい、「ご注文は?」と聞かれたのを断ってそそくさと店を出た。
129 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月07日(火)23時58分04秒
「ごっつぁん待って、待ってよごっつぁん・・っ・・ぁっ・・はぁっ・・」
普通に歩いてもマキの方が早いため、矢口は必死になって追いかけるのだがなかなか追いつかない。
走って走って限界が来て、足を止める。
かろうじて見えていたマキの後姿も見えなくなった。

はぁはぁと息を吐いて整えてまた探し出す。

(なっちもなんであんなこと・・・)

―――――「・・・ごとーが着替えようとしてるのに変な人がさ、ごとーを押し退けて場所とっちゃったんだ」

(・・・)

タッタッタと小走りにマキを探していた矢口はふと疑問を感じて速度を緩める。

―――――「プレゼントされますか?」

(ごっつぁんを指差しても誰のこと?って顔をした・・・)

―――――「温かい紅茶ふたつお願いします。あ、それとお水ももうひとつ」

(最初から2人で入ったのにお水はひとつだった・・・)

タ タ タと、ほとんど歩いているようなスピードで追いかけていた足は完全に止まった。
130 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月07日(火)23時59分15秒
(・・・まさかね・・・)
脳裏によぎった悪い考えを否定しようと立ち尽くしていると、マキがいつの間にか目の前に居た。

「・・・あの人意地悪だ。ごとー居るのに居ないなんてっ・・・っ・・ぅくっ・・」
頬に涙を伝わらせて俯いて泣く。
矢口は不安を遮ろうと自分の胸に抱き寄せて「ごっつぁんは居るよ、ここに居る」と言い聞かせるように言った。

街を歩く人々が、道の真ん中で抱き合う自分達を邪魔にするように歩き、また、不思議なものでも見るような厭らしい目で見ては通り過ぎていく。

「・・・!」
そんな街の人間を目で追いながら、矢口はとんでもないことに気がついた。
気がついたというよりは気付かせられた。

きらきらと輝く宝石が綺麗に整理されて並べられてある宝石店のショーウインドー。
そこを見た瞬間に、矢口の体は固まった。

「そんな・・・」
131 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時00分17秒
マキは、矢口が何かを言っていることに気付いて、泣きながらも「やぐっつぁん?」と問い掛ける。
しかし矢口はそんなマキの声が聞こえていないかのような表情でぼーっと口を開けてショーウインドーを見つめる。

矢口が見たそこには、自分の姿しか映っては居なかった。
抱きしめているはずのマキの姿は、どこにも無かった。

「・・・なんで・・」

マキを抱きしめる腕が弱くなり、抱きしめられていたマキは矢口の顔を覗き込むようにして声を掛ける。
「ねぇ、どうしたの?」
泣いていたはずのマキも、矢口がおかしいことに気がついていつの間にか泣き止んでいる。

「やぐっつぁん?」
ユッサユッサと揺すって固まっている矢口の意識を自分に向けようとする。
「・・・・あ・・・、ごめん・・・帰ろっか」
心ここにあらずといった様子で、マキの手を引いてなんとか自宅まで辿りついた。
132 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時01分31秒
「どうしてあの人あんなこと言ったの?」

帰るなり質問攻めにしてくる。
普通なら性質の悪い嫌がらせだよとでも言えるのだが先程のことがあった後ではそうは言えなかった。

「やっぱりまだやぐっつぁんのこと好きなんじゃないの?」
「だからごとーのこと居ないとか、無視したりするんじゃないの?」

矢口は安倍に悪いと思いながらも、“そうかもしれないね”と、マキの言う言葉を肯定してあげたかった。
しかしどうしてもそうは言ってあげられなかった。

「ごとー、もうあの人には会いたくないよ・・・もう誰とも会いたくない・・」

マキの問いに何も安心するような言葉を返してあげることが出来ずにいると、いつしか疲れたのか、マキは寝息を立てていた。
くてっと壁にもたれかかってスースーと寝息を立てる。

「・・・息してる・・・居るじゃんか・・・」
133 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時02分51秒
持てる力を目一杯使ってマキをベッドまで運んで毛布を掛けてやる。
矢口はベッドにもたれかかって視点の定まらない目でぼーっとどこかを見ている。

ブゥンッ
真っ暗闇の中でテレビの電源を点けてゲーム画面にする。
何も映し出さない真っ暗な画面を見つめながら働かない頭を一生懸命働かして、
色んな事を思い出そうとしていた。

―――――ゲームの中に入った矢口は元の世界に戻って来た

ならごっつぁんは?
ごっつぁんの世界はどこ?

―――――クリアしたから戻ったんだと思った・・・

でも違う、クリアなんかしてなかった。
恐らく・・・最初に決めた冒険の目的を“立派になって帰る”にしたから終わったんだ・・・

―――――なっちと揉めてゲームが割れた日、ごっつぁんは会いたいって叫んでた

ごっつぁんは言った。
耐え切れなくなって叫んだら、ミシミシと音が鳴って世界が崩れるような感覚を受けたって・・・

―――――暗闇に落ちた後もずっと探してたって言った

ゲームが割れてから同じくらいの時間、矢口も探してた
134 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時03分54秒
ゲームが割れた衝撃でマキは居るべき世界から異世界に放り出された。
暗闇はゲームの中のプログラムだかなんだかわかんないけどそんな部分なのかも。
それがまたなんらかの歪みで放り出されて矢口の世界に来た。

そう考えると辻褄が合いそうな気がする。
矢口が、本来居るべき世界に戻ったことと同じようにマキもいつかは戻らなくちゃいけないのかも。
でも、マキの世界はもう無い・・・。
真っ二つに割れて、戻る世界は無い。

だとしたらマキはどうなる?
元居た世界にも戻れず、こっちで一緒に暮らし続けることも出来ない?
そんなの嫌だよ・・・。

矢口にしか見えないマキ。
矢口だけが体験したゲームの世界。
ゲームの中に入ったと思ったのは夢だった・・・?
ゲームから戻ったって感じたのも夢・・・?
ゲームの中のマキが矢口を探してくれていたのも、矢口の前に現れて、
今こうやって一緒に暮らしているのも夢・・・?

全ては矢口の願望が作り出した夢なの・・・?
135 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時04分47秒
「・・んん・・」

夢じゃないよね。
ここにこうしてごっつぁんは居るもの。
矢口の名前を呼んで、矢口の傍で息をして、矢口には見えてるもの。

なんだって言うの・・・。

働かない頭をフルに働かせた矢口は、いつの間にかその場で眠りについた。


朝になり、ベッドに居ることに気がついてマキの存在を噛みしめる。
寝る前は記憶違いじゃなけりゃベッドに入らないで寝たはず。
それが今はベッドの奥で、いつもの場所に自分は居る。

寒そうにする自分をマキが運んでくれたとしか考えられなかった。

「・・・」

じーっとマキの寝顔を見つめながら矢口はある決心をした。
136 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時05分33秒
(ごっつぁんに気付かれないようにしなきゃ)

マキがどういう人間なのか、いや、人間ではないのだが、どういう存在なのかを隠し、
いつか話さなくてはならない日が来るまで言わないでおこうと決めたのだ。

(泣くのは矢口だけで充分だよね)

苦しむのは自分だけで良いと、胸に決めて、マキが起きるのを待った。

それから1時間ほどしてやっと目を覚ましたマキに、柔らかく「おはよう」と言い、
くすぐったそうにする瞼に軽くキスをする。
「やだーこちょばいよやぐっつぁん」
「こないだの仕返しっ」
言われても押し退けられても矢口はマキに優しいキスを繰り返しした。
137 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時06分49秒
昼食をとって洗い物をする矢口に、ゴロゴロとテレビを観るマキ。
「ねー」
寝室から何度も矢口を呼ぶ。
洗い物を適当に片付けて、矢口はすぐにマキの下へと向かった。

「どした?」
矢口が返事を返すと、マキは「あーもう終わっちゃったよー」と言い、
違うチャンネルを回す。
「なに?」
「あのさ、遊園地行って見たい」
どうやらコマーシャルで遊園地の宣伝をやっていたようだった。
年末のカウントダウンとかいう企画の宣伝らしかった。
「行きたい?」
「行きたい!」
即答をするマキにふっと微笑んで、
「遊園地はもうチケット取れないと思うけど、知り合いにあたってみるね」と返す。
「混むの?」
「人気だからね」
しかし矢口は遊園地で働く友人が居るため、簡単に手に入れることが出来るのだった。
138 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時07分32秒
「あ、あとさ、映画館っていうの?それも行ってみたいなー」
「おぅ、映画館も行くか!他は?他に行きたいところない?」
「なんかやぐっつぁん優しい。怖いなぁ〜」
やたら気前の良い矢口を不審に思ってマキは言う。
「矢口はいつだって優しいでしょ」
エッヘンとえばった様子で胸を張って矢口も返す。

「まぁね!」

結局マキは、遊園地、映画館、水族館、ゲームセンターなど、
ゲームの世界には無かった場所を順番に行きたいと言った。

「いっちばん行きたいのはね、遊園地!」
マキはそう言ったが、貰ったチケットは30日のもの。
先に他の場所へ行くことを決めた。
139 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時08分49秒
「ぽっぷこん食べたい」

新しいものばかりを観るマキは、本当の年齢よりもずっと幼く、
生まれたばかりの赤ん坊のようにきゃいきゃいとはしゃいでいた。
ゲームを始めた当初のマキはどこにも居なかった。

「2枚ですか?」
店員に枚数を尋ねられて2人分の料金を払う。

指定席を取って席に着く。
「何が始まるの?」
と、始まる前からわくわくとした様子でそわそわとする。
しかし始まってすぐにマキは眠ってしまった。

「どこでも寝るのは・・寝つきがいいのは変わってないね」
ふふっと笑ってポップコーンを片手にひとりで映画を観る。


――――ねー、あのお姉ちゃんひとりで笑ってるよー


「ごっつぁん起きろ、起きろっ終わったぞ」
最初から最後まで爆睡をしていたマキは、目をこすりながら矢口を見ると、
「あはっ 寝ちゃった」と悪びれもせずに言う。
140 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時09分49秒
「やぐっつぁんは寝なかったの?」
「寝るものじゃないからね」

ふーん、と、どうでも良さそうに返事をして「ご飯食べよっ」と元気になって歩き出す。
そんな調子のよさを愛しく思い、しばらく見つめてしまう。

「置いてくよ」

行き先も分からない癖に先に行こうとする。
「お金はここだぞ」
と矢口もふざけて返し、立ち止まったマキの手を取って歩く。


――――ねーあのお姉ちゃんひとりでしゃべってるよー


何度聞いたか分からない言葉。
マキは自分達のことだとは思いもせずに、全く気にも留めないが、
矢口にはそれが自分を指していることが分かる。
そう言われる度に胸が苦しくなるのだが、マキに悟られないようにと、
必死になって笑顔を作っていた。
141 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時10分46秒
翌日は水族館へ来ていた。

「うわーいっぱい居るね」
「ごっつぁんそっくりじゃん」
「・・・なんだとー!!」

水族館に着くなり追いかけっこを始めるふたり。
傍からみると、矢口ひとりが走っているのだが。
くだらない内容で、矢口とマキは必死になって走り回った。

「掴まえた!!」
体力の無い矢口は最終的に、ばてたところでマキに捕まり、
「どの口が言った〜!」と唇を引っ張られてお仕置きをされた。

「冗談なのにさ・・・」
「魚顔は禁句なの!今度言ったら噛むよ!」
「・・・やっぱ魚・・」
途中まで言った所でジロリと睨まれて口ごもる。
「あは、あはは。ちゃんと魚見よっか」
そう言って初めて水族館に来た目的を果たす。

ガラスに映る自分だけの姿を見てやはり胸が苦しくなる。
(夢なのかな・・・)
「ごっつぁん」
「んあ?」
「や、なんでもなかった」
ガラスに映らないマキに話しかけて返事があることを確認してほっとする。
(聞こえるし見えるのに・・・)
「魚って、こんだけ居ると綺麗だよね。すっごく神秘的な感じがする」
ほーっと、うっとりと魚を見つめ、ぼそりと口に出す。
「そうだね」
142 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時11分51秒
水族館をあとにして、家へと戻ったふたりはゴロゴロとする。

「ねー最近痩せたんだよねー」
思い出したようにマキが言う。
「そう?あんまわかんないけども」
ちろっとマキを見てそんなことないでしょと返す。
「んー痩せたっていうのかなぁー、食べても蓄えられない感じ?
確かに食べてるんだけど味が無いっていうかさー」

「!・・・ちょっと触っていい?」
マキの言葉に気になることがあったのか、矢口はマキの傍に歩み寄る。
「なにー?やぐっつぁんのえっちー」
「いや痩せたっていうから気になるじゃん」
おどけてみせるマキを他所に、矢口はマキの服の上から体を触る。

「・・・痩せた?」
「・・・ちょい失礼」
「うわわっ」
ペロっと服をめくって生肌を見る。
「!!・・・」
見て、一瞬固まった矢口をマキは見逃さなかった。
143 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時12分50秒
「な、なに?」
「・・・いや、良いカラダしてんなーと思って」
そう言ってすぐに矢口はマキの張り手によって吹っ飛ばされていた。
「痛ててて」
「ばか」
「ま、ま、ま、明日は遊園地でしょ、そう怒りなさんな」
宥めるように声をかけ、「そうだった!お弁当作らなきゃね!」と言ってマキは冷蔵庫を開ける。
「明日で良いじゃん」
「用意するの」
材料を確かめて弁当箱を出して明日のメニューを決めるマキの後姿を見ながら、
矢口は必死になって耐えていた。

(なんで・・・)

「ね、卵全部使っていい?」
「・・あっ、うん、いーよ」

(透けてるんだよ・・・)

「よっしゃ、先にお風呂入ってくんね」
それだけを言い残して、矢口はささっと風呂場へと消えた。
144 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時13分44秒
パタン

「・・・ぅ・・ぅっ・・やだよ・・離れたくない・・っく・・ぅ・・」

風呂場へと入って服も脱がずにその場に座り込む。
別れが近いことを悟って、だけど本人に言えなくて矢口はひとりで苦しむ。

「ごっつぁんが消える・・・居なくなる・・」

大声を張り上げて泣いてしまいたかった。
わああと声を張り上げて街を走りたかった。
だけど、それが出来るのは別れてからだと決めていた。

「長かったねー次ごとー入るから」
入れ違いに風呂場へと入るマキ。
マキと顔を合わした矢口の目に涙はもう無かった。
「ゆっくり入っておいで」と声を掛けてベランダへと出た。

「大丈夫、まだ笑える」
自分に言い聞かせるようにして言い、マキを待った。

「おやすみ」
「おやすみー」

いつものようにおやすみのキスをしてふたりは眠りについた。
145 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時15分12秒
そして遊園地当日、
作りもしない矢口までもが早起きをして、マキが弁当を作る姿を見ていた。
「やぐっつぁんもっと寝てていいのに」
「ん、眠くなったら寝るから気にしないで」
そう言っても矢口はずっとマキを見続けた。

「よっしゃ、良いお天気だー」
遊園地に着いた矢口達は、手を握り合うと乗り場へと走った。
朝一番はまだそこまで混んではおらずに数分待つだけで順番が回ってくる。

「たのしー!!!こんなに楽しいと思わなかった!!」
いくつか乗り物に乗ったところでマキは大声をあげてウキウキとした声で叫んだ。
「時間の許す限り乗ろうね」
心の底から嬉しそうに笑うマキを見て矢口も自然と笑みがこぼれる。

「お一人様ですかー?」
「あっ・・隣空けておいてもらえますか?」

乗るたび乗るたびに当然のことながら言われる言葉。
さすがにマキも、不思議がって矢口に聞いてくる。

「ね、なんでいちいち聞くの?」
「聞くのが仕事なのさ」
「ふーん」
146 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時16分47秒
「あれ乗りたいなぁ」
「あ?」
そう言ってマキが指差したのはメリーゴーランド。
子供ばかりが乗って、マキ位の年齢の子は誰も乗ってはいない。
「あれは・・・(馬車があるからいっか)よっしゃ乗るか」

いくつかジェットコースターに乗ったところでマキが機嫌を損ねたので、
それからはコーヒーカップやゴーカート、サイクリングなど、
ふたりきりで乗れるものばかり乗っていたのだった。
メリーゴーランドは馬車があるので大丈夫だろうと、矢口はほんの少し不安を抱えたまま了解をした。

「ごとーこれっ」
しかしマキが選んだのは一人用の白馬だった。
「一緒に馬車にしようよ」
「やだ」
なんとかして止めようとするがマキは頑固で聞こうとしない。

「・・・落ちるなよ」
そんな心配とは別のところで、「誰もここに来るな」と心から祈っていた。

しかしそんな矢口の願いも虚しく、動き出すギリギリのところで
「白いお馬さんが良い!」と走って向かってくる子供が居た。
147 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時17分38秒
「ボク、ここは駄目だよ」
「なんで」
止めたものの言い訳が思いつかない。
「それはさ、えと」
「よいっしょ」
矢口の願いも虚しく、子供はマキの乗っている馬に飛び乗った。
「・・なにさこの子」
「ご、ごっつぁん違うのにしよっか」
「どいてよ」
「ごっつぁん」
マキがいくら言っても子供はどこうとはしない。
見えていないのだから当然のことだ。
しかしそれを知らないマキは「なんだよこの子!」と言って譲ろうとしない。
慌てた矢口は、無理矢理マキを降ろしてその場から立ち去った。

「離してよ、離して!」
「あ・・ごめん」
立ち去ってからずっとマキの腕を引っ張って歩いていた矢口は、
言われて初めて掴んでいたことを思い出す。
マキと視線を合わせないようにする矢口の顔をむんずと掴んで自分の方へ向ける。
148 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時18分34秒
「説明してよ、さっきのこと」
「・・ちょっと落ち着こうよ」
「落ち着いてらんないよ!ごとーのことみんな見えないみたいに言ってさ!
あの人みたいにみんなしてぐるになってるんでしょ!やぐっつぁんもそうなんだ、
やぐっつぁんも一緒になってごとーのことバカにしてんだ!」

「説明するから!!!」

大きな声で捲くし立てるマキに大きな声で目を見て言う。
その言葉を聞いて、マキはやっと口を閉じた。

「・・・何から言えば良いのかな」

―――――あのお姉ちゃんひとりで何やってるのー?
―――――しぃっ、おかしいのよ、見ちゃだめ。

「・・・ここじゃ気が散るね。帰ろっか」

俯いて機嫌悪そうにしながら歩くマキの手を引いて、矢口達はお昼過ぎて間もない頃に帰宅した。
149 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時19分43秒
家に帰った矢口は寝室に入ると、何かを引っ張り出してマキを呼ぶ。

「なに」
「説明するから」

その言葉を聞いて、荷物をドサッと置いたマキは矢口の傍へと来る。

「こないだちょろっとやったでしょ」
と言ってゲーム機の電源を入れて適当にソフトを起動させる。
「うん。小さな人間が動くやつでしょ」
「そう、矢口達みたいな姿の人間が生活をするのを動かすゲーム」
ゴロゴロとしていた時にちょろちょろやったゲームであったため、
マキはすぐに理解する。
「それがごとーとどう関係するの?コントローラーでキャラクターを動かすのは分かった、それが?」

「・・・これ」
と言って差し出したのは前にケースに直した割れたソフト。
「1個だけ違うやつだね」
「ん。・・・これもゲームなんだよ。割れちゃったの」
「そうなんだ」
自分には関係ないという顔をしてどうでもよ良さ気に納得をする。
150 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時21分32秒
そして矢口はそのゲームの内容について話し出した。
一人で旅をするところから始まるゲーム。
ある日下町で見かけた少女に恋をして、その少女を救い出す主人公。
その少女と旅をする先々で出会う人々との交流があったり、手助けをしてあげたり、
時には魔物と闘ったりもしながら旅をする。
そして旅の終わりに差し掛かると少女は主人公と結婚をしたいと言い出す。
気持ちが通じ合って結婚を決めたところで別れて話は終わる、

「そういう物語のゲームなの」

話していく途中から、眉間に皺を寄せて矢口をじっと見つめながら真剣な表情で聞く。

「・・・その女の子は・・・ごとー・・・とか言うのはやめてよね、やぐっつぁんとの話に似てるけどそれだけでしょ?」
と、あくまで自分のことではないと、否定をしてマキは矢口に同意を求める。
151 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時22分12秒
「矢口だって信じたくないんだよ・・・だけど・・」
「だって、そんなの、あんなちいちゃな窓から出てこれるはずないじゃんか・・・」
「・・・だけど、矢口とごっつぁんは出会った」
「やだってば。嘘だよ、信じない、聞かない、やぐっつぁんの言うことはみんな嘘っぱちだよ」
耳を塞ぐようにして矢口から離れるようにしてわああと自分の声で矢口の声を消すようにする。

「マキはね、矢口の夢なの」
「聞こえない、聞かない!」
「矢口が作り出したんだよ・・・」
「聞こえないも!信じないも!」
なんとしても聞こえないというマキに、矢口は話し続ける。

「・・え?」
「だから、鏡に映らないでしょ、ごっつぁんは」
「映るよ!ほら!!」
そう言ってすぐ傍にあった手鏡を覗き込んで映っていることを矢口に見せる。
152 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時23分40秒
「・・映ってるように見えるだけだよ。矢口にはごっつぁんが見えるに、そこには居ない、見えないの」
「なんで、ごとー居るのに、なんでいじめるの?厄介払いしたいの?」
「違う!ごっつぁんのこと好きだよ大好きだよ!でもほんとのことなんだよ・・・!!」
ずっと歯を食いしばって泣かないで話していた矢口も、遂に涙を零してしまう。
一度泣くと止まれずに、ぶわぁと次から次にと涙を溢れさせてしまう。

「なんでやぐっつぁんが泣くの・・?!泣きたいのはごとーだよっ!」

「・・っぅ・・ご・・っ・・ごっつぁんはねっ・・っく・・ゲームの中から来たんだよっ・・!」

「矢口が・・っごっつぁんに会いたいって願ったばっかりに・・・矢口が作り出した夢なのっ・・!!」

「知らない、やぐっつぁんのばかー!!」
矢口が泣きながら言うのを見て、マキは何も持たずに家を飛び出した。
信じない!嘘ばっかりだ!やぐっつぁんなんか嫌いだー!!と泣き叫びながら街を走り回った。
残された矢口は、追いかけることも出来ず、ただ、その場に蹲ってマキを想って泣いた。
(言うべきじゃなかったの・・・?自然と消えるのを待った方が良かった・・・?)
153 名前:ゲーム◇夢◇ Another4話 投稿日:2003年01月08日(水)00時24分10秒
「矢口の夢なのか、ごっつぁんは本当に居るのか、・・・どっちなの・・・」
154 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時25分21秒
それから数時間が経って、時刻も17時を過ぎた頃。
冬の夜は早く訪れ、寒さも増して暖房なしでは耐えられない気温になる。

動けずに蹲って泣いていた矢口も、マキが心配になり探しに行こうと立ち上がる。

コートを着て財布と携帯を持って靴を履いた時、泣きはらした目でマキは帰ってきた。
「ごっつぁん・・・」
「・・・誰もごとーを見なかった・・・」
「・・・」
「呼びかけても、触っても誰も何も反応してくんなかった・・・」
「・・・」
玄関に立ち尽くしてボロロっと涙を零す。
「どして・・・こんなの無いよっ・・!」
靴を履いたまま言うマキを、とりあえず部屋にあげようと矢口は手を差し伸べた。
155 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時26分33秒
「!」
「・・・っぅ・・」
「あれっ・・?」
「・・・・ぅぇっ・・ぅぇっく・・ひ・・ひっぅ・・わああぁぁ・・!」
マキは上を向いて叫ぶ振りをしたかと思うと、がくっと蹲って泣き喚いた。

「なんで・・こっち・・」
矢口が手を差し伸べ、部屋に引っ張ろうと試みるたびに失敗をする。
マキの手はすぐ傍にある。
手を伸ばさなくても届くような、そんな位置にある。
それなのに、矢口の手が、マキの手に触れることは無かった。

良く見るとマキの体は所々透けていて、掴もうとしても、触ろうとしても空振りをするのだった。

「そんな・・・」
ばかな!と言いたかったが言えるわけもなく、その事実を突きつけられて矢口の胸は張り裂けそうだった。

触れたくても触れられない
156 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時27分19秒
マキはマキで、矢口だけは見えているから、矢口だけが存在を認めてくれるから、
「おいで」と中へ入れてくれるものだと思っていた。
しかしそんな矢口の体にさえも、もう触れることが出来ない。

触れられたいのに触れられない

お互いに見えているのに、存在を認め合うのに触れることが出来ない。
そんなもどかしさに、ふたりの胸は壊れてしまいそうだった。

「・・・うあああああああ!!!」
「ぅぇっ・・えぐっ・・っ・・うえええ!!」

お互いの声も聞こえる。
問えば答えが来る。

だけど触れられない。

ふたりは喉が枯れる程に泣き続けた。
157 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時28分20秒
「ごとーは・・・元の世界に帰らないといけないんだね」

「・・・ぅん」
「割れちゃってるから・・・消えるんだよね」

「・・・ッ・・ぅん・・」

しばらくして先に泣き止んだのはマキだった。
「最後にやぐっつぁんと一緒に寝たい」と言って起き上がり、
ベッドに潜りこんだ。

そしてベッドの中で最後の会話になるかもしれない会話をする。

「ごとーさ、忘れられちゃうの?」
天井を見つめたままぼそっと口にする。
「忘れるわけ・・・ないよ・・」
「また、会えるのかな?」
「会いたい」
「・・・ごとーが消えても料理はしないと駄目だよ」
「・・うん」

掴めない手を繋いでいつものように寄り添って話す。
158 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時29分17秒
「・・・恋人作って良いから、忘れないでね」

「・・・作らない」
「駄目、作って幸せにならなきゃ許さないよ」

「・・・うん」
「やぐっつぁんのことほんと好きだった・・・」
「やぐちも・・・ごっつぁんのこと・・」

「・・・・・・離れたくないね」
「・・・離したくない」

「あは でも、仕方ないもんね」
「ごっつぁんなんでそんなに笑えるんだよ・・」
未だ目に涙を溜める矢口とは反対にマキは涙ひとつも零さずに笑顔で話し続けている。
今まで何かと言えば泣いていたマキは、最後に限ってずっと笑顔なのだ。
それに比べて今までほとんど泣かなかった矢口が我慢もせずに泣いている。
159 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時30分09秒
「だって、泣いてお別れなんてヤだもん。最後は笑顔で別れたいから、寝ようね」
「・・・」
「ごとー幸せだったなぁ短い人生だったけど」
「最後まで幸せにしてあげられなくてごめん」
「ばっかだなーやぐっつぁんのせいじゃないよ。それに充分幸せだから」


いつまで経っても会話が途切れそうにないふたりの会話も、マキの一言で終わりを告げる。

「おやすみのキスして」

「ごっつぁん・・・もう行っちゃうの・・?」
その矢口の問い掛けに、「へへっ」と笑顔を返してキスをねだる。

空気さえも感じることが出来ないマキの頬にそっと手を添えて上から見下ろす。
下で矢口からのキスを待つマキは、最後まで目を開けて、唇を待った。

「・・・」

キスをしてすぐ、マキはにこっと微笑んで、「おやすみ、またね」と言って矢口から顔を背ける。
しばらくその後姿を眺め、「最後は笑顔で別れたい」と言ったマキの言葉を思い出して、自分も布団をかぶる。
160 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時31分06秒
(朝になったらもう居ないのかな・・・)

(消えるしかないのか・・・)

(・・・やっぱもっかい・・)
もう一度マキの顔を見ようと矢口は隣を振り返った。

「・・・え・・」

しかし、マキの姿はもう既にそこには無かった。
あるのは、相変わらずの暗闇の中、電気の代わりをするテレビのリモコンが
ポツンと乗っているだけだった。

マキは消えた。
マキは帰った。

どっちが正しいのか、誰にも分からない。
ゲームが存在したのかも分からない。
マキがそもそも居たのかすらも。

矢口に分かるのは、マキを愛した気持ちに偽りはないということ。
161 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時33分00秒
ほとんど眠ることも出来ずに朝を迎える。
洗面所に立って顔を洗い、鏡を見る。

「ひどい顔・・・」
昨日一日だけで一生分の涙を出しつくしたのではというほどに泣いて、
目も鼻も真っ赤になってボロボロだった。

「・・・持って行ってくんなかったんだね」
鏡に写った自分の耳を見てボソッと言う。
耳を触ってそれを取り外す。

手に持ったのは、マキのピアス。


台所に立って三角コーナーに目をやる。
手をつけていない一人分のおかずが捨てられてある。


一緒に購入した服も、袖を通した形跡が無く、買ったままの状態で置いてある。


ふぅとため息をついて寝室に入る。

入ってすぐ目に付いたゲーム機をコンセントから引き抜いて箱に直す。
ソフトは売れるような状態ではなかったため、全てをふたつに割って捨てる。
162 名前:ゲーム◇夢◇ Another最終話 投稿日:2003年01月08日(水)00時34分28秒
◆夢◆だけを残して他は捨てた。

そしてカーテンを開けた。


――――――――――――ごとー暗いの嫌い。




ゲーム◆夢◆お楽しみいただけましたか?


−FIN−
163 名前:りょう 投稿日:2003年01月08日(水)00時40分39秒
>>123 きいろさま
    レスどうもありがとうございます。
    お、終わっちゃいました。
    試練は乗り越えられる次元のものじゃなかったんですね・・・(汗

>>124 77さま
    いつもご感想をありがとうございました。
    おかげさまで頑張る事が出来ました。感謝してます。
    終わっちゃいましたが・・・(汗

>>125 マーチ。さま
    ここでは初めまして(w
    幸せを願って頂いたのにこんなラストになっちゃいました。
    
>>126 Namiさま
    初めまして(w
    そんな展開のままラストまで行きました。
    あわわわわ。
    読んで下さってどうもありがとうございます。
164 名前:りょう 投稿日:2003年01月08日(水)00時47分15秒
(〜T◇T)<…。

前のオチは書き上げた当時のオチ。
今回のは悩みに悩んだ末前回消えたオチ。
どっちのオチもある意味救いが無いような気がしてなりません。
ハッピーなのかアンハッピーなのかどっちなんだと自分自身悩みました。

ゲームの世界に入った矢口に出てきたマキ。
普通で考えて、あり得ないことですよね。
マキが出てこれた過程をハッピーに書いてほのぼのさせておきながら
リアルさ(実際にゲームから出て仲良く暮らすということはあり得ないので)を
出すために矢口さんを狂わせました。
実際に狂っているのか本当にゲームの世界があったのかは誰にも分からないんですが。
165 名前:りょう 投稿日:2003年01月08日(水)00時55分07秒
現実なのか夢なのか妄想なのか。
疑問を残しつつ終わらせました。

( ´ Д `)<ごとー暗いの嫌い。

っていうのは、真っ暗闇の中をひとり彷徨ってきたマキが、
またひとりでそこに戻るという取りかたが出来ます。
しかし、
( ´ Д `)<いつまでもうじうじしちゃダメ。
的な、気持ちを明るく生きて行ってねと、前向きに都合よく取ることも出来ます。
(あとがきのはずが解説者みたいになってきた…(汗)

作者自身の答えは(なんの答えだなんの!)出ていますが、
読んで下さった方はどうかなぁと思ったので書いてみました。
上記以外のとりかたも、もちろんあるかもしれませんね。

この話は、実体験ではもちろん無いのですが、あったら良いなぁという
作者の妄想から出来上がりました。

今まで読んで下さった方、どうもありがとうございました!
心から感謝致します(合掌)
166 名前:りょう 投稿日:2003年01月08日(水)00時57分07秒
(〜*^◇^)<次回作はアゴンなんですが、時間が掛かったらすいません。
167 名前:りょう 投稿日:2003年01月08日(水)00時57分38秒
(^▽^ ) <主役?!
168 名前:りょう 投稿日:2003年01月08日(水)00時59分41秒
(〜*^◇^) <おいらに決まってるだろ!
( ´ Д `)<とーぜんだよね。
(T▽T ) <なんなのなによ。
169 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月08日(水)11時57分26秒
完結お疲れです。

なんていうか、りょうさんにしてやられた感じです(爆
でも、おっしゃるとおり、うまく終わるとリアルさが欠けるので
良かったと思いました。(えらそうですいません)

続きはないです・・・か?(w
170 名前:77 投稿日:2003年01月08日(水)12時10分11秒


2番のり〜!!
完結お疲れ様です。
私的には、こちらのパターンの方がじーんときました(●´ー`●)
泣きながら読みました。
現実にはありえない事、けれどこの二人にはハッピーエンドで終わって欲しかったです。
次のアゴンな壊れ物は一体誰が主役なのでしょう!?
次もやぐごまだといいなぁ〜。そうなんないかな〜。
次の作品も、楽しみに読ませていただきますね!!
頑張ってください!
171 名前:Nami 投稿日:2003年01月08日(水)16時44分14秒
うぅ、、思いっきり泣きましたよー。
いやぁ、、切ない。マキー!!!
泣いてる時に誰も部屋に来なくてよかった、、(w

次回のアゴン、とても楽しみにしてますー!!
172 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月09日(木)03時42分57秒
別ラストお疲れ様でした。
自分もこっちの方が好きかもしれません。

最後の後藤の台詞は、矢口がゲームやりっぱなしの引きこもり生活から抜け出すために、
自分の心の中で後藤のことを思い出しながら言った台詞、と捕らえました。

作者さんの思ってるのとは違うかもしれないですが・・・。
次回作もがんばってください。
173 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)17時15分36秒
やぐごまにハマッタのは間違いなくりょうさんのせいだ…
甘いのも切ないのもツボ突いてくるんだもんな〜
174 名前:りょう 投稿日:2003年01月19日(日)21時36分50秒
>>169 名無し読者さま
    最後まで読んで下さってどうもありがとうございました。
    一緒に暮らしました、で終わるとまさにゲームなのでこうなりました。
    続きは・・・・・・・・・・・・・・・なちまり以外無いですしね(w

>>170 77さま
    いつもどうもです!
    えと、書いてて実はコッソリやぐごまに悪くて泣いちゃったので(爆
    同じように泣いてもらえたならヨカタです(w ちろっとでも。
    ハッピーエンドは、思った以上に「ないの?」と言われまして…
    時間があれば、サイトの方にでもいつか載せようかと思います。
    次回のアゴンは名前の通り、一応主役がアゴンなので…(w
    やぐごまは1回あったのでないかも(汗 すいません。

>>171 Namiさま
    どうも有難うございます。
    自分は書いてるときに何度も家族が邪魔をしにきて参りました(汗
    マキは今も矢口を愛してますよ!
    だから大丈夫です!(な、なにが…
    アゴンはもうちょろっとかかりそうです(汗
175 名前:りょう 投稿日:2003年01月19日(日)21時42分47秒
>>172 名無し読者さま
   引きこもり矢口を救うべく現れたゲームだったのかも…。
   アンハッピーではありますが、最終的にゲームを捨て、
   部屋を明るくするわけですから…。
   名無し読者さんの見解は自分の考えにあります(w
   でもそのように取って頂けるとは思わなかったのでうれしいです。
   ありがとうございました。

>>173 名無しさんさま
   わわわっ。
   私のせいですか(汗 ヤッター!!(爆
   最近ではやぐごまを書かれる方が増えたので嬉しいです。
   えと、甘いのが苦手になりつつあるので心機一転次回は…。
   だと良いんですが(汗
   そう言ってくださると、やぐごま好きとしては涙が出ます。
   ありがとうございます。 
176 名前:りょう 投稿日:2003年01月19日(日)21時45分47秒
お返事が遅くなって申し訳ございませんでした(汗
作者の怠慢です(汗

それで、私生活がほんのり慌しく、忙しい感じなので、
アゴンはもうしばらくお待ち下さい、待って下さっている方。
新しいキャラは出ません(ねたばれ)。
では。
177 名前:りょう 投稿日:2003年02月10日(月)16時33分23秒
管理人さま

個人的理由から3月まで更新が出来ません。
申し訳ないですが、次回倉庫行きを見逃して下さい。
宜しくお願い致します。
178 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)02時32分54秒
ほぜんします
179 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時08分06秒
ほぜん
180 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月31日(月)22時50分01秒
もう3月も終わります・・・(泣)。
181 名前:りょう 投稿日:2003年04月20日(日)17時13分40秒
ありえないくらい遅くなって申し訳ございませんでした。
えっと、先にも申し上げておりました通り、今から更新するのは
「アゴンな壊れ物−幸せの素−」という話になります。
初めて読んで下さる方には不親切な話になっており、続編になります。
何故なら推しメンを以前に書いてしまったので他メンが難しかったからです(汗

ちなみに以前のアゴンはどっちも短編です。
これまた不親切ですが、以前のものは青板の「アゴンな壊れ物-幸せの素-」スレの、
1−77(やぐごま編)
225−339(いしよし編)
にあります。リンクの貼り方分からなかったり…。

更新は、諸事情があり1週間単位になりそうです。
初回更新は短いですが、どうぞ宜しく。

最後に、保全をして下さった方、どうも有難うございました・゚・(ノД`)・゚・
182 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時15分34秒
「ちょっと信じられない話かもしれませんけど―――」

安倍を部屋に迎え入れて居間のテーブル前に座り込み、
吉澤はアゴンとの出来事の全てを目の前に居る安倍に話した。

「出会った時はもっと荒んでて、梨華ちゃんにひどいことをたくさん言った」
「最初から最後まで梨華ちゃんは私の心配をしてくれて、私のことを見てくれていた」
「なのに…そんな梨華ちゃんに辛く当たってた自分が馬鹿だ・・・やっと、やっと
梨華ちゃんの大切さに気付いて、梨華ちゃんに好きだと言えたのに…」

吉澤の口からついて出た言葉は安倍には信じられないことばかりだった。
宅急便で送られてきたとか、ロボットだったとか目の前から消えたとか。
だけど梨華のことを語る吉澤の目には偽りなどはなく、何か言葉を発するたびに
一緒になって零れる涙が真実だと語っていた。
183 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時16分59秒
「梨華ちゃんが言ったんだ…」

しばらく梨華との思い出を安倍にぶちまけた後、
吉澤は手紙を出してきて安倍に見せた。

“勇気を持って人に話しかけて”
“いつでも幸せになることを考えて”

その箇所を見て、安倍は胸を詰まらせた。
思えば吉澤から声を掛けることはほとんど無かった。
それがあの日、何も言わずに安倍は吉澤を置いて食事に向かったのだ。
毎日約束していなかったとはいえ、吉澤にとったら大きなことだったはずだ。
それなのに安倍は吉澤を置いて出て行ったのだ。

ポロリと涙を流して、
「もっと自分で動けるようになりたい」
そう言った。

「私に出来ることならなんでもするから、協力させて!」
うずくまる吉澤の手を握ってきつく力を込めて言った。

「ありがとうございます…」
184 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時18分16秒
ボワンッ

アゴン001タイプ 帰還しました。

そんなアナウンスが流れ、アゴンは声のした一室から出てきた。
アゴンの目には涙。
吉澤とキスをして瞬間的に戻って来たのだが、涙を零していた。
いつもなら「001、ただいま戻りました」と、報告をするのだが、
今回に限ってアゴンは何も言わなかった。
俯いて涙を流しながらトボトボと報告もしないで収納庫へと戻って行ったのだ。

「…」
それをモニター越しに見ていた創造主は、ブツッとモニターを消すと、
アゴンが収納されている部屋へと向かった。

コンコン
「入るわよ」
創造主はアゴンの部屋に入ると、中でアゴンの体を洗ったり壊れているところがないか
確認をしたり修理をしたりしている数人の中へと入って行った。
185 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時19分40秒
「博士…」
「おかしいわね」
博士と呼ばれた創造主は、アゴンに近付くと、顎を持ち上げて顔をじっくりと見る。
目をつむったまま両の目から涙に見える透明の液体を溢れさせているのだ。
本来アゴンは仕事を終えて帰還をし、自室へと戻ると機能を停止させ、次の出番を待つのだ。
何も発さず、何も見ず、何も感じることなく。

「はい…感情回路がショートしてます。今まで無かったことです」
修理担当の男が不思議そうに感情を制御したりする回路を眺めて言う。
泣いたり、怒ったり、憎んだり、人間が持つそういった感情をコントロールする回路だ。

「記録を観て、対処するわ」
そう言ってアゴンの顎を外して記録チップを取り出すと、創造主は部屋から出て行った。

残されたアゴンは、チップが外された後も、液体を溢れさせる事をやめなかった。
186 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時20分46秒
モニター部屋に戻ってチップをプレーヤーに入れる。
すると映し出されたアゴンと吉澤の一年間。
出会いから別れまでが早送りのように映し出された。

「吉澤ひとみ…この子が原因ね…」

はぁーと大きなため息を付き、だらんと背もたれに体を預け、
「アゴンが恋…」
ぼそっと口にすると、胸に下げたペンダントを出してきて中を開けた。
中に収められていた写真は、髪が長くほんのり茶色がかった笑顔の似合う儚げな少女。
見るからに幸の薄そうな、でも幸せだというような表情でカメラを覗く者に伝えるような
視線でそこに居た。
よくよく見るとそれはアゴン、タイプ001によく似ていて、
だけどほんの少しアゴンより年齢が上のような雰囲気があった。

「もう10年になるのね…」
187 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時24分42秒
天上1444年 人間界で言う西暦に当てはめるなら1977年。
アゴンは母親の命と引き換えに天上世界に生を受けた。
体の弱かった母親は出産に耐えられるだけの体力も気力もなく、
アゴンを引っ張り出したところで命は尽きた。

父親と親子ふたりで健気に元気良く生きていた。
当時、人工知能を持ったロボットを造るための研究所の所員だった父親は、
実験中の事故が原因でアゴンが5歳の時に命を落としていた。

生まれた時から母親の居ないアゴンに襲ってきた重なる不幸。
ひとり残されたアゴンは涙が枯れるまで泣き続けた。

そして通夜が終わったその日、アゴンは父親の勤めていた研究所の中で
暮らすように取り計らわれた。
食べるものも着るものも何不自由なく暮らせるような環境を手にしたのだった。
188 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時27分25秒
しかしそんなアゴンに足りないものがひとつだけあった。
それは"愛情"
母親も父親も居ないアゴンにとってあるのは自分だけ。
5歳にしてすでにひとりで生きなければならない状況にいたのだ。
誰からも愛情を貰えず、誰にも愛情を与えることが出来ないままに月日は過ぎた。
しかしそんなアゴンにも楽しみにしていることがひとつだけあった。

それは1週間に1度位のペースで、4歳年上の少女がアゴンのもとを訪れて遊びに来ることだった。
隣の部屋に住む少女は、10歳にして頭脳明晰で研究所員たちと一緒になって研究をしていた。
1週間のうち6日を研究所の中に泊まって過ごし、残り1日の帰った日にアゴンの部屋を訪れて
色々な話をした。

アゴンが知らない世界の話やアゴンが見たこともない景色の話など、
アゴンをわくわくさせることをたくさん言った。

愛情とは何か、そのことは分からないアゴンだったが、楽しみにしていたのだ。
189 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時28分13秒
「外で遊んじゃいけないの?」
外の世界のことを色々と知っている少女を羨ましく思ってアゴンは聞いた。
アゴンがちょうど10歳になったとき。

「アゴンは子供だから一人じゃ出ちゃ駄目なのよ」
「アゴン?梨華だよ?」
「アゴンはアンタのあだ名よ!ピッタシじゃない」
ニヤっと笑って少女はアゴンのおでこを小突いた。
「アゴン??カネゴンの仲間??」
「違うわよ!ゼネコンでもないわよ」
「?」
「ま、まぁそんなことはどうでもいいのよ。外に行きたかったら連れて行ってあげるから、
私が戻った時に一緒に行きましょうか?」
「行く!!」
そんな約束をして、アゴンは週に1度だけ外に出ることを許された。
といっても禁止されていたわけではないのだが、学校に通えなかった分
世間知らずで危なっかしいと感じた少女が阻止していたのだった。
190 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時30分31秒
「気持ちいー」
少女はアゴンを人間界が見える場所に連れて行くと、
高台に昇らせて世界を見下ろさせるようにして見せてやった
初めて受ける生の風を頬に受けて感動をするアゴン。
見たことも無いコンクリートのゴツゴツとした建物に自分と同じくらいの子供たち。
見るもの全てが新鮮で、発見で、アゴンは週に1度の外出を待ちわびるようになった。

「今日は下界の声を聞きに行きましょうか」
少女の誘いにアゴンは嬉しそうに頷くと、わくわくと胸を高ぶらせながら付いて行った。

「…ここ…?」
「そう、ここで下界の声を聞くことが出来る」
少女についてやってきた場所には、高くそびえ立った建物―無機質な巨大ビルが
所狭しと立ち並んでいる街だった。
身にまとう衣服は、安物生地で作られていることは分かるのだが薄汚れてはおらず、
かばんや持ち物もこれといって破けているわけでも壊れている風にも見えなかった。
暮らす場所が狭いというだけで、暮らす人は普通のようにも見えた。
191 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時33分00秒
「…」
しかしアゴンは眉間に皺を寄せて唇をキュっと噛みしめた。
そして憂いを帯びた目で道を行く人々を目で追った。

自室へと戻ったアゴンの様子がいつもと違うことに気付いて、
少女は心配そうに声を掛けた。
「気分でも悪いのかしら?」
「何か嫌なことでもあった?」
少女がなんと声を掛けてもアゴンは口を割らなかった。

その日から、アゴンはひとりで外へ出るようになった。

「この1週間外で何してたの?」
少女が仕事を終えて部屋へと戻って来た。
毎日出かけているという話を聞いていた少女は、ずっと気にはなっていたが一緒に
行くわけにもいかず、休みになるのをただひたすら待っていた。
192 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時38分22秒
「…下界を見てたの」
以前聞いた時には何も言わなかったアゴンだったが、今日は口を開いた。

「この研究所に居る人たちとも、外に居る人たちとも、下界の人は違ってた」
「みんな暗い顔して、みんな疲れきった顔してて…理由なんかわかんないけど。
…どうして幸せそうじゃないの?」

アゴンは自分と同じように誰もが、好きな洋服も料理も手にしているものだと思っていた。
だけど現実は違っていた。
実際にアゴンが観たものは、夢みることも忘れたような、
幸せという言葉からは到底かけ離れているような人々ばかりだったのだ。
193 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時39分03秒
――――――今日もまたシカトの1日が…

――――――あの子と付き合いたい…

――――――どうして居なくなったの…

――――――泥棒ー!!

――――――またクビかよ…

――――――あと少し金があれば死なずにすんだのに…

聞こえていたのは人々の苦悩の言葉。
それぞれが抱える悩みや訴えがアゴンの耳に流れるようにして入って来た。
人々の感情を毎日毎日受けたアゴンは、顔から笑顔をなくしてしまっていた。
194 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時40分26秒
「みんな幸せになれないの?」
何か方法はないの?と言う顔をして、アゴンは少女に言った。
それを聞いた少女は、そんなアゴンの希望に応える事は出来ず、
「今の世の中にそんなことの出来る余裕もお金も技術もないのよ」
と、申し訳無さそうに言った。

アゴンは、「私の着ている服や、お金であの人たちを幸せには出来ないの?」
と、少女に言うが、
「アンタが稼いでるわけじゃないでしょ?それに、
困っている人は数え切れない程にたくさんいるの」

「でも…一人でも良いから幸せにしてあげたい…」

少女から顔を背けてため息まじりにアゴンは言った。
195 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時41分41秒
それからアゴンは毎日下界の見える場所に行き、
人々の聞こえない声を聞き、毎日のように苦しい顔をして、
毎日のように涙を零した。

―――――何もしてあげられないのかな…

下界に降りれるわけでもなく、施しをしてあげられるわけでもなく、
ただ、上から見下ろすしか出来ないアゴンは、そんな自分を恨み、悔しく思った。

―――――ひとりでもいいのに…

「またここに居たの?」
アゴンが下界を見下ろすようになって5年、その場所に顔を出した少女は、
寒くなった気候に体を震わせながら近付いて、声を掛けた。
「何か方法があるはずだから…」
まだそんなことを言ってるの?というような、半ば呆れたというような顔をして、
少女はアゴンに上着を掛けた。
196 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時43分03秒
「ありがと…っ…!」
上着を掛けてすぐ、お礼を言って立とうとしたアゴンは、胸を押さえてうずくまった。
「アゴッ・・梨華?!」
うずくまったアゴンを抱き起こして顔色を見る。
アゴンの顔は青ざめていて、ほんの少し吐いたのだろうか、
胃液が袖についていた。
最近は出されたものをほとんど口にしていないと聞いていた。
時間さえあれば外に出て下界を見下ろしていると聞いていた。

アゴンは風邪をひいていた。

母親譲りで体の弱かったアゴンは、下界の空気を吸いすぎて、
外の寒い気候にやられて体調を崩していた。
ただの風邪ではあったが、そんなアゴンにとって風邪は命を落とすものとなった。
197 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時44分55秒
「死ぬのかなぁ…?」

アゴンは風邪をこじらせて、研究所内にある病院に入院していた。
週に1度だった少女の訪問も、入院してからは毎日に変わった。
少女が来るとアゴンは決まってそんな弱音を吐いた。

「アゴンは人々を幸せにしたいんでしょ?だったら生きなきゃ」
「うん…幸せにしたい…みんなが笑って暮らせる世界にしたい…」
「だったら弱音なんか吐いてちゃ駄目」
少女は見るからにやせ細って弱ってきているアゴンを励まし続けた。

しかしそれも終わりを迎える。
アゴンが施設に来てちょうど10年が経った頃、
アゴンは施設内の病院で風邪から来る肺炎が原因で息を引き取った。
198 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時46分53秒
アゴンは最後まで「ひとりでも幸せにしたい…」と訴えていた。
そして「お姉ちゃんの作ってるロボットにお願いできないの…?」と言っていた。

その時点で研究は佳境に差し掛かっており、人工知能を持ったロボットの完成は間近だった。
後は人間らしい顔をイメージして作り上げるだけだった。

アゴンが息を引き取ってから、数日の葛藤の後、少女はアゴンをロボットの顔の
モデルにすることを研究チームに発案した。

ロボットを作り上げるに当たって先陣を切って担当をしていた少女の案に、
身近な者をモデルにすると私情が出る、ロボットが故障したりスクラップになるときに
反対をして邪魔をしたり、何かと問題になるかもしれない。
など、そんな理由から過半数に反対をされ、却下となった。
199 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時48分42秒
「それなら、別プロジェクトにしてください!今回のロボットは家族ロボットです、
私が求めているのはそんなものじゃないんです、見返りなど期待をしない純粋なものなんです」

そんな少女の案に、一緒に研究を続けてきた所員たちは皆「馬鹿げている」
「話にならない」と取り合わずに少女はおかしい者だと認識された。
しかし少女は諦めることをせずに、研究所長のもとを訪れ、
一生懸命に自分の主張を聞いてもらった。

"お金など受け取らずに無償で誰かを幸せにする"

それだけを必死で訴え続けた。
そしてその熱意を買われ、名前もアゴンと決まり、
まだ元気だった頃のアゴンの顔をイメージし、
初代の001から今では021まで顔の違う21体のアゴンが出来上がり、活躍を始めた。
200 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月20日(日)17時49分38秒
「アゴンの幸せってなんなのかしら…」

モニターの電源を消して席を立ち、ふぅとため息を吐きながら想像主は言う。

「幸せってどういうことなのかしら…」

チップをプレーヤーから取り出して、アゴンに返すために想像主は部屋を後にした。
201 名前:りょう 投稿日:2003年04月20日(日)17時51分24秒
(;^◇^〜)おいらの出番は…?

(^▽^ ) 次回は人間界に戻ります。

(〜`◇´)=○T▽T )
202 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月21日(月)08時12分23秒
アゴーン!!
203 名前:タケ 投稿日:2003年04月22日(火)14時34分37秒
オモシロカッタです。
204 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月22日(火)16時15分14秒
(●´ー`●)アゴンお帰り。
205 名前:Nami 投稿日:2003年04月23日(水)00時00分35秒
アゴン、更新お疲れ様ですー。

(〜^◇^〜) おいらの出番は、、、?(w

続き楽しみに待ってます。
206 名前:りょう 投稿日:2003年04月30日(水)02時04分25秒
>>202 名無し読者さま
    先に言われちゃった…・゚・(ノД`)・゚・
   (^▽^ ) アゴーン  言うのかな…。

>>203 タケさま
    こっちにもあっちにも有難うございます。
    しばらく続くので、気長に読んでやってください。

>>204 名無し読者さま
   (^▽^ ) ただいまー!
    お待たせしてすいませんでした(汗

>>205 Namiさま
    やぐちさんの出番、出番ですか…。
    私はヤグヲタぽいので出るはずです(笑
    タブン…ですが。

遅くなりました。
更新です。
207 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時05分37秒
「吉澤さん、次休憩安倍さんと入って」

アゴンとの別れがあった後、吉澤はまた同じ場所でバイトを続けていた。
昼間はスーパーのバイト、夜は居酒屋でバイト。
相変わらず忙しい日々を送っていた。

「吉澤さん今度のおやすみに遊びに来ない?」

安倍は、休みの度に吉澤を誘っては自宅に呼んだり外で会ったりと、
吉澤が引き篭もってしまわないようにと必死になって連れ出していた。
そんな日々が半年ほど続き、吉澤にも大分と笑顔が戻り、安倍ともふざけあったり
お互いの家を行き来するほどに仲良くなっていた。
208 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時06分39秒
「今日は魚ですか!」
安倍が料理をご馳走すると、吉澤はそれがなんであっても嬉しそうに笑い、
大きな声で両手をあわせていただきますを言った。

「なんかつけていいっすか」
そう言って手にするのはテレビのリモコン。
食事を終えて安倍が茶を入れる間、暇を持て余す吉澤は毎回聞いてくる。
「どうぞー」
キッチンから返事をして許可をする。

ブゥン
テレビが点けられ、くるくると順番にチャンネルを回してく。
「なーにもやってないですねー」
つまらなさそうに歌番組にチャンネルをあわせてリモコンをテーブルに返す。
ぼーっとテレビ画面を見ながらソファーにもたれて今にも寝そうな体勢に入っている。
209 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時07分36秒
うとうとうとうと目をしょぼしょぼとさせながらも吉澤は安倍の淹れるお茶を待っている。

「…よしっと」
お茶を淹れ終えて台所から出てきた安倍は、ちょうどテレビ画面に目が行き、
そこで動きを止め、「お待たせ」の声を出せずに居た。

「…」
後ろから吉澤の視線の先を見る。
吉澤は、テレビに映し出されたひとりのアイドル、声の高い少し色の黒い少女を
切なげな目で見つめていた。

「…」
その姿を見て声を掛けることがためらわれた安倍は、その場に立ち尽くしてしまい、
吉澤が気付くまで動けなくなるのであった。

その少女がテレビや雑誌などで現れるたびにそれは起きた。
210 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時08分33秒
「…あ、どうしたんです?」
テレビ画面からその少女が消えて数分後、金縛りがとけたみたいに、
今居る場所が安倍の自宅であったことを思い出したかのように
振り返ると、何事も無かったかのような顔で安倍に話しかける。

「あ…、ううん、ちょっとぼーっとしちゃった。お待たせ」

ぼーっとしていたのはむしろ吉澤の方なのだが、安倍はそのことは言わずに
いつもと変わらない態度でお茶を渡す。

それからほんの少し会話を楽しんだ後、吉澤は自宅へと帰って行くのだった。

「やっぱりまだ駄目なんだね…」
211 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時09分23秒
瓜二つという訳ではなかったが、アゴンによく似たその少女が姿を見せるたびに
吉澤の視線はそちらへと行き、苦しそうな表情を見せながら安倍と居ることを
忘れたかのようにひとり殻に閉じこもるのだった。
アゴンのことを少しでも忘れるように、少しでも自分で動けるようにと
出来る限り話しかけて一生懸命に接してきた安倍は力になれていないことを悔しく思う。

「…好きにはなってもらえないのかな」

相手はこの世に居ない人を想ったままの人間。
それも同性。
失恋の痛手につけこんで仲良くしているような気がしないでもなく、
安倍は、吉澤と仲良くなるにつれてそんなことを考えてしまい、胸をぐっと詰まらせていた。

アゴンが消えてから半年が経過していた。
212 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時10分28秒
吉澤が帰り、片付けを済まして安倍も眠りに着いていた頃

ピンポーン!

インターホンが鳴り、玄関の外でなにやら音がしている。

「…ん…」

眠りについている安倍の耳に微かに聞こえて来たインターホン。
枕元に置いた携帯電話を開けて時刻を確認する。

時刻は午前4時を少し過ぎた頃。

ピンポーン!

「ええ…なに、だれ…」
眠たい目を擦ってベッドを降りて脇のイスに掛けてあった上着を羽織って玄関に向かう。
覗き穴から外を覗きこんで確認をする。

「…未来…宅急…便?」
覗き込んだ穴の先に見えた帽子に書かれた"未来宅急便"の文字。
「どっかで…」
213 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時11分17秒
考え込んでいるとまた押されるインターホン。
遅すぎる時間ではあったが、安倍は恐る恐るカギを開け、顔を出した。

「どうもこんばんはー!お荷物をお届けに参りました」
「こんな時間に?」

「えっと…『ネガティブでアゴンな壊れ物−幸せの素−』ですね、タイプは…001ですね」
「…え?」

名前を聞き、大きなダンボール箱を渡され、宅配人を見たが、すでにそこには誰も居なかった。
小さなマンションの廊下にあるのは邪魔になるほどのサイズのダンボール箱。
仕方なく安倍は持てる力すべてを出して家の中へとそれを運び込んだ。

「なんなの…」
安倍はダンボールの中身を確認することはせずに、睡魔に負けてそのまま眠りについた。
214 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時12分45秒
朝、目を覚ました安倍は、顔を洗い、朝食をとり、
落ち着いて初めてダンボールの前へと向かった。
起きてすぐに向かわなかったのは、開けなかったのは、めんどくさかったからではない。
どこか、心のどこかで「開けるな」と言っている声が聞こえていたからだった。

「…これって…」
(吉澤さんに聞いたやつ?)

恐る恐るガムテープに手を掛けて少しずつめくる。
少し開けたところで手を止めて耳を傾ける。

(何も聞こえないね)
中は静まり返っていて何も聞こえては来ない。
ちらっと覗きこんでみても何も見えずに真っ暗闇。

覚悟を決めた安倍は、残りのガムテープを一気にはがした。

すると出てきたのは、梱包された中箱と、
その上にひらりと乗せられている紙切れが一枚だけあった。

『これは、あなた次第でなんにでも変える事の出来る不思議な生物です。』

「…」
215 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時14分10秒
『このシリーズは、私ども娘。カンパニーが独断と偏見で絞込みをし、
今、すごく不幸を背負っている方のもとへと届けられるものです。
なお、商品代金は頂きませんが、食費がかかりますのでそちらはご負担下さい。
そちらのご負担さえ頂けましたらあとはお好きなようにお使い下さい。
きっとあなたの望むものとなるでしょう。
なお、初期設定はモード3となり、モード3の機能が使用可能になるのは、
本日の10時からです。最後に、これは、あなたが幸せになれたと同時に
あなたの目の前から消滅致します。』

「…」
紙切れに書かれてある項目に目を通し、中箱に目をやる。
以前に吉澤から聞いていたものに良く似ていると感じた。

中箱のガムテープに手をやり、そっと開ける。
すると、中から「アゴーン」という声とともに何かが勢いよく飛び出してきた。

「きゃっ」

急のことに驚いて床に膝をついていた安倍は後ろに仰け反り尻餅をついてしまった。
出てきたそれは、箱から体を出して床に立つと、尻餅をついたままの安倍に向き直って
口を開き、話し出した。
216 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時15分01秒
『私は、未来からのお届けモノ。"ネガティブでアゴンな壊れ物−幸せの素−"です。
名前はまだありませんのでお好きなように名付けて下さい。
私はあなたが幸せになるためのお手伝いをしに来ました。
あなたが幸せになるために望む事、そのために私は何でもします。
このまま私を使用する場合は頭を撫でて下さい。使用しない場合は
"なんだそのアゴ!なめてんのか!!"と言って下さい。
そうしたら私は再起不能になり、二度と動くことはありません。
回収には社のものが伺います。では、ご決断を!』

「…」

安倍は、急に出てきたそれをぽかーんと口を開けて不思議そうに見、
目をぱちくりとさせて何も言えないでいた。

「…」
「…」

(どうしよう…これ、吉澤さんの言ってたやつだ…顔も…梨華ちゃん…)
217 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時15分50秒
安倍がなんの動作も見せないので、それも動くことはせずにじっと突っ立っている。
沈黙が5分ほど続いた後で、安倍はすくっと立ち上がり、それに歩み寄りそっと
手を差し伸べた。

「…ごめんね」

安倍はそれの足を一本ずつ箱に戻し、箱の中に座らせ、
中ふたを閉めて外箱のふたも完全に閉めた。
そして箱を押してあまり足を踏み入れない部屋のクローゼットに押し込んで隠した。
起動することも返すこともせずに安倍はそれを封印した。

(吉澤さんには見せられないよ…ね?)
218 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時17分20秒
それから数日が経ち、バイト先で吉澤に顔を会わす度、
吉澤が遊びに来る度に安倍は隠していることを心苦しく思い、
後ろめたさでいっぱいになっていた。

ある日のこと、いつものように安倍の作った料理を食べてくつろいで居た時のこと。

相変わらずテレビに張り付いている吉澤を後ろから見つめ、安倍は考え事をしていた。

(もう少ししたら出てくる…)

出てくるとは何が出てくるのか。
今日はアゴンによく似た少女が歌番組に出演する日なのだ。
今つけているチャンネルそのままで20時から始まる。
それを知ってか知らずかは分からないが、吉澤はリモコンを握り締めて画面を見つめている。

(聞いてみようかな…)

番組が始まる少し前に安倍は、紅茶とお菓子を持って自分もテレビの前に行き、
吉澤と同じようにソファーに腰掛けた。
219 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時18分03秒
「ありがとうございます」
「ううん、紅茶おかわりあるからね」

お礼はきちんと言うものの視線はテレビに釘付け。
そして始まる番組。

(本当にまだ好きなんだね…分かってるのかな…)

テレビを見つめる吉澤を見る安倍は、あることを聞こうと決意していた。

番組が終わり、リモコンを置いてソファにもたれた吉澤をじっと見つめ、
安倍は口を開いた。

「ね、吉澤さんに聞きたいことあるんだけど」
「なんですか?聞きたいこと?」

安倍はゴクリと唾を飲み込むと、じっと吉澤を見つめ、そして言った。

「梨華ちゃんに会いたい?」

と。
220 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時19分15秒
「えっ…」
それを聞いた吉澤は眉間にしわを寄せて不思議そうな顔を見せる。
安倍は吉澤から視線を外すことはせずに見つめたまま返事を待っている。

「梨華ちゃん…?」
もう映っては居ないテレビ画面を指さして吉澤は返す。
しかし安倍は首を横に振って「違う」と言う。

「何…?」
「梨華ちゃん、もう1回会いたくない?」

「…意味が…」
「分かるはずだよ」

「…」
吉澤はキュッと口を結んで安倍を見つめ、
少しの沈黙の後、紅茶カップに手を伸ばし一口飲むと
カップを置いて口を開いた。
その間安倍はずっと口を閉じて吉澤の目を見つめ続けていた。
221 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時20分09秒
「それはもう出来ないですから」

ボソボソするでもなく途切れ途切れでもなく、
はっきりとした声と調子で吉澤は答えた。
そして沈黙が訪れる。

「…会いたくないの?」
「そりゃ…会いたくないって言ったら嘘になりますけど、もう居ないからどうにも出来ないんです」

(…会いたいんだね、やっぱり)
「…ごめんね、思い出させるようなこと聞いて」
「…良いんです、気にしないで下さい」

その後、冷たくなった紅茶を捨て、新しく淹れ直したものを飲み干してから吉澤は帰って行った。
222 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時21分30秒
アゴンが居なくなってから半年、季節はもうすぐ夏にさしかかろうとしており、
梅雨の開け切らない空気が安倍の心を重くさせた。
雨が降るたびに吉澤が泣いているような気持ちになるのだ。
もちろん泣いてなど居ないのだが。

吉澤が帰ったあと、安倍はしばらく使ってなかった部屋に入り、
クローゼットを開けた。
届けられた後に、隠すようにしてアゴンを直したクローゼットだ。
入れた時と変わらずにふたをされたまま入っている箱を引きずり出して、
リビングに移動をさせる。

ガムテープを外して中箱を開けて、中でうずくまるアゴンを安倍は上から見下ろした。

(…)

中で覗かせている頭をじぃと見つめ、そして手を差し伸べた。

「アゴーン!!」

「きゃっ」

頭を撫でてすぐに、アゴーンと叫ぶと、ゆっくりと立ち上がり、
箱から身を乗り出して安倍に向かって言った。
223 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時22分25秒
『ご使用、有難うございます。まず初めに私の名前を決めて下さい。』

「…梨華ちゃんでしょ?」
「梨華ちゃん?それが私の名前ですか?」
「や、…どうしよっかな…私のこと覚えてない?」

キョトンとした顔をするアゴンに安倍は次々に質問をしていった。
自分のこと、前に居たところのこと、そして吉澤のこと

だけど何を聞いてもアゴンの答えは同じ、「存じ上げません」だった。

「そか…名前は…梨華ちゃんにする…」

名前は前と同じ"梨華"と決まり、安倍とアゴンの奇妙な生活が始まった。
224 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時23分51秒
「ひ・と・みちゃん、吉澤ひとみ、分かる?」
「え…と、ヨシザワ…ヒトミ…?誰ですか?」

「だからっ…、梨華ちゃんを好きだった子だよ。梨華ちゃんも好きだったでしょう?」
「…いえ…」

安倍は起動させてからずっと、アゴンに吉澤のことを尋ねていた。
同じ顔なのに覚えてないはずがない、名前も一緒にした、知能があるなら思い出すだろう、
そう思って一生懸命になって吉澤について話した。
しかしアゴンから返って来る言葉は期待に副わないものばかりだった。

何を言っても効き目なしのアゴンを前に、深く、大きな溜め息を吐いた。

「会った時どうするの…」
「ヨシザワ…さん?…を、覚えることが幸せに繋がるんですか?」

「えっ…(どうだろう…なっちはどうしたいんだろ…)」
225 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時25分04秒
幸せになるための手伝いをしにきているアゴンからの尤もな質問に、
安倍は即答出来ないでいた。
じぃっと見つめるアゴンの視線をかわして台所へと消え、
水を流しながら何かを考えているような素振りを見せる。

「幸せになるためのお手伝い、させて下さいね」

この言葉を聞くと安倍は振り返って、
「敬語はやめて。もっとくだけた感じにしてくれるかな」
と言った。

「…うん、分かった」
「そう、それでいいから」

いつもは吉澤が腰掛けるソファーに腰掛けて同じようにテレビ画面を見つめるアゴン。
初めは不思議がって見ていたテレビも少し説明をするとすぐに理解をして受け入れた。
そんなアゴンをいつも吉澤を見つめる時と同じようにして見つめながら眉間に皺を寄せる。
226 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時26分17秒
(幸せってなんなのかな…)

「私の幸せしか叶えてくれないの?」

ぼそっと、ひとり言のように口にした言葉ではあったが、
アゴンはすぐさま反応をし、くるっと振り返って立ち上がり、こう言った。

「私はなっちが幸せになるためのお手伝いをしてるだけだよ。叶える力はないから」

「…そう」

その後、また見つめてくるアゴンの視線から逃れるようにして
台所へと姿を消し、安倍は考え事をしていた。

(吉澤さんと会わさない方がいいのかな…なっちの幸せってなんだろう…)
227 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時26分56秒
数日後

「良い?今日はひとみちゃん連れて来るからね?」
「えと、うん。なっちの友達だね?」
返事をするアゴンに一瞬間を置いてから安倍は言った。

「幸せに繋がるかもしれないお手伝いしてくれる?」
「もちろん!」
アゴンはすぐに返事をした。

「今日連れてくるひとみちゃんのことは、どう自己紹介されても"ひとみちゃん"って呼んで」
「お友達の名前なの?」
「そう、それと、敬語とかいらないから。なっちに接するみたいにして。仲良くなって欲しいの」
「うん、分かった」

アゴンにそれだけを言い残して安倍はバイトへと向かった。
228 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時29分16秒
数時間が経ち、バイトを終えた安倍と吉澤

朝からの仕事も、夕方近くになりそろそろ終わりとなる。
今日、居酒屋のアルバイトのない吉澤は、前々から安倍に誘われていたこともあり、
夜ご飯の材料を自分達の働くスーパーで購入してからともに帰る。

「今日は私が作りますからね」
「ええ?吉澤さんが?」
「なんか失礼な感じだなぁこれでも一人暮らし歴長いんすよ?」

などと、他愛のない話をしながら並んで歩いていた。
安倍の家まであと少しというところで吉澤は歩みを遅くした。
並んで歩いていた吉澤が遅れだしたことにすぐに気がつくと、
振り返って「どうしたの?」と問い掛ける。
その安倍の言葉を聞いて吉澤は完全に歩みを止めると、
少しの間、自分の足元を見つめるようにして頭を項垂らせると、
大きく息を吐いて顔を上げ、口を開いた。
229 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時30分45秒
「居ないんですよね」

居ないとはなんのことか。

「どこにも居ないんですよね」

安倍に問い掛けるように、自分に言い聞かせるようにして吉澤は言う。

「…なに…」
「梨華ちゃん」

よく聞こえなかったのか、聞こえない振りをしたかったのか、
安倍は分からないという顔をしたが、吉澤はすかさず返事をした。

(どうして今…?)
「ほら、前に安倍さん私に聞きましたよね?梨華ちゃんに会いたいか?って」
そう言われて瞬間的に安倍の表情は暗く曇った。
安倍が覚えていないわけはなかった。
アゴンを起動させることにした理由もきっかけもその日、
その質問をした日に決めたのだから。

「うん…言った」
「あれから考えてたんですよ、梨華ちゃんがもしまた現れたらどうするんだろうって」
230 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時32分14秒
「…どうするの?」
「…何も答え出ないんですよ。ありえないって思ってるから、会ってもどうなるかが
想像も出来ないし…ただ、…私を好きで居てくれたのかどうか聞きたいかもしれない」

そう言った吉澤の言葉に何も答えることはせずに安倍は問い掛けた。

「もし、梨華ちゃんじゃないけど、よく似た子が現れたらどうする?また…好きになっちゃう?」
安倍が言ったあと、世界には二人だけしか存在していないかのような静けさが訪れた。
うるさかった風の音も静まり返り、沈黙が訪れ、いくらか経つと安倍の喉がゴクンと鳴った。
自分から話題を振っておきながら自分の質問に後悔をし、吉澤の返事を聞くのが
怖く感じられたのだ。

数えるほどもない少しの沈黙の後、吉澤はにこっと笑顔を向けてこう言った。
231 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時33分07秒
「安倍さんのこと、ちゃんと見てます」

言われた安倍は少し嬉しそうな顔を見せたが、すぐに険しくし、困ったような顔
をしながら「帰ろ」と吉澤に声をかけて歩き出した。

(…なっち、喜んでる…)

吉澤のことを思ってアゴンを起動させ、梨華を作り上げたが、
自分のことを見てもらえていたと知って複雑な気持ちになる。

(会わせて良いのかな…良いよね?)

このまま中途半端な気持ちのまま吉澤とアゴンを会わせても良いものかどうか、
安倍は頭を抱えて悩み、苦しんだ。

あれやこれやと、色々なことを思いついたが、そうこうしているうちに、
ふたりはアゴンの待つ自宅へと辿りついた。
232 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時34分25秒
「すぐ作りますからね」
「…待って!」

玄関の鍵を開け、ドアを開けてすぐに中へ入ろうとした吉澤を止めてドアを閉める。
急に引き止められた吉澤は不思議そうな顔をして「どうしたんですか?」と安倍に問う。
いつもなら安倍が鍵を開けたと同時くらいの勢いで先に入ったりもする吉澤だったので
何故安倍が止めたのかが分からなかったのだ。
初めて来た家ではなく、何度も訪れた家なので遠慮などもほとんどしなくなっていた。
アゴンが帰ってからふたりの関係は少しずつ深くなっていたのだ。

「あの、あのね?驚かないで聞いて欲しいの」

ドアを背にしてチラッと家の中を気にするような素振りを見せて安倍は言う。
言われた吉澤は荷物を廊下に置いて安倍の言葉を待った。
233 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時36分23秒
「…安倍さん?」

7月になったとはいえ、時刻も19時を過ぎると辺りは暗くなり始める。
遊び疲れて家へと帰るおなかをすかせた子供たち、
仕事を終えて帰宅をするサラリーマンたち、
狭い廊下に何も言わずに向かい合って立っているふたりは、
その中では浮いていて、よく目立っていた。
先ほど「聞いて欲しい」と言った後に何も続けない安倍に吉澤は声をかけ、続きを促した。

そうこうしていると、安倍の家の玄関横の窓に明かりが点き、
中で誰かがこちらに向かって歩く音が聞こえてきた。

「誰か来てるんですか?」

一人暮らしの安倍の家に明かりが灯り、物音も聞こえてくる、
そんないつもならありえない状況を当然ながら不思議に感じる吉澤は即座に問いかけた。
吉澤が見た安倍は少し汗をかいており、慌てた様子でこう言った。

「っ何を見ても驚かないでっ」

一瞬言葉を詰まらせたが吉澤は
「…えっと、…分かりました」
と返した。
234 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時37分16秒
安倍がもたれたままのドアの向こうでドアノブに手をかけてガチャガチャと回す音が聞こえてくる。
「今開けるから待って」
安倍がドアの向こうの相手に声をかけると中では「は〜い」という返事をする声が聞こえた。

ガチャ

「おかえり!」

中から出てきたのはもちろんアゴン、"梨華"
「ただいま」

「こんにちは、ひとみちゃん。梨華です、初めまして」

安倍の後ろに続いて入ろうとした吉澤は、アゴンを見て立ち止まった。
頭を少し仰け反らせて上から見下ろすようにしてアゴンを見つめる。
安倍の友人でも居るのかと思い笑顔を用意していた吉澤だったがアゴンを見た瞬間
眉間に皺を寄せて険しい顔をした。
235 名前:アゴンな壊れ物−生きるべき場所− 投稿日:2003年04月30日(水)02時38分23秒
「…?」

じぃっと見つめられるアゴンは理由が分からずに不思議な顔をして安倍を見る。
「ご飯しよっか」
安倍はそれだけをアゴンに言い、そして先に中へと進んでいった。
安倍に続いてアゴンも進もうとしたそのとき、

「…梨華ちゃん…」

まだ玄関にも入っていなかった吉澤は、消え入るような小さな声で静かにそう言い、
大粒の涙を一粒こぼした。

「どこか痛いんですか?」

慌ててアゴンは吉澤のもとへと駆け寄り、顔を覗き込むと心配そうな顔をした。
アゴンの問いかけに、吉澤はずっと首を振って「大丈夫、大丈夫だから」と繰り返し言った。


アゴンとの再会だった。
236 名前:りょう 投稿日:2003年04月30日(水)02時42分49秒
(^▽^ ) 次回の更新はGW明けになります。
(〜`◇´)おせぇYo!
(#´ Д `)ごとぉーたち出番無いね、まだ…。
(〜`◇´)そうだよね、おいらたち無視で進んでるよね、これ。
(^▽^ ) 出番はないです。
(〜`◇´)=○)T▽T )だって本当じゃないですかぁぁぁぁぁぁぁ!

すいません(汗
次回の更新はまた開いちゃいそうです。
237 名前:タケ 投稿日:2003年04月30日(水)13時08分57秒
続きが気になるぅぅぅ・・・頑張ってください!
238 名前:Nami 投稿日:2003年04月30日(水)23時19分33秒
梨華ちゃんとよっすぃーはどうなるんだろー。
ヤグさんは出なくても、、出なくても (w
次回更新、楽しみに待ってます。
239 名前:名無し 投稿日:2003年05月17日(土)09時36分49秒
保全
240 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月07日(土)22時33分11秒
241 名前:タケ 投稿日:2003年06月09日(月)15時27分50秒
保全です
242 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月10日(木)01時07分13秒
保全
243 名前:タケ 投稿日:2003年07月15日(火)14時12分57秒
保全
244 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月15日(金)01時42分22秒
保全
245 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月17日(日)00時25分11秒
はじめまして。
りょうさんの作品は『乙女〜』から読んでおります。
やぐごまというこれまでにないジャンルがけっこうお気に入りです。

んで、久々にM-Seekに来たらゲーム◆夢◆に出会いまして、
一気に読みました。
非現実から現実的な結末になるとは…
感動しました。

アゴンの続きも楽しみにしております。

長々と感想をすいません…
246 名前:名無飼育さん 投稿日:2003/09/10(水) 00:23
247 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/10(金) 01:10
hozen
248 名前:hozen大使 投稿日:2003/11/11(火) 18:41
待つ、松末抹俟つ。
hozen
249 名前:タケ 投稿日:2003/12/23(火) 20:06
保全
250 名前:りょう 投稿日:2004/02/08(日) 00:59
保全をして下さった皆様、管理人様、今までどうも有難うございました。
そして申し訳ございませんでした。
次回更新宣言からかなりの間更新が出来ないまま、本当に申し訳ございません。
諸事情があり、書くことが出来ませんでした。
放置状態が続きましたが、放棄は致しませんので、
今しばらくこのままでお願いします。
ご迷惑をおかけします。
251 名前:名無し 投稿日:2004/04/13(火) 20:55
いつまでも待ってるんで、頑張って下さい!!
252 名前:りょう 投稿日:2004/04/14(水) 21:56
再び、失礼致します。
昨年もついこの間の倉庫整理の前にも
「放棄は致しません」と書いておったのですが、
諸事情(作者の精神的不安定や経済的・時間的余裕がないため)があり、
更新をすることが出来なくなりました。
場所を借り、倉庫落ちをとめて頂いたり、色々とお世話になったのですが、
誠に申し訳ございませんでした。次回倉庫整理の際にでも処理をお願いしたく、
宜しくお願い申し上げます。勝手な言い分ですいません。

また、この作品を読んで下さった方、お待ち頂いた方、
引き伸ばした挙句に裏切る形になり、誠に申し訳ございませんでした。

>>251 名無し様

本当に本当に申し訳ないです(汗
本当に本当に、すいません。
いつか更新できるようになったら送信させて頂きたいです。
いらないとは思いますが(汗
本当に申し訳なかったです。

管理人さま、読んで下さった方、本当に申し訳ございませんでした。
今までどうも有難うございました。
身勝手な言い分をお許し下さい。

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