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モーニング娘。連続殺人事件
- 1 名前:能出板 投稿日:2002年11月16日(土)01時45分38秒
- 初心者です。
初めて書きます。
- 2 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)01時50分13秒
- 〜プロローグ〜
私、安倍なつみはとあるコテージに来ていた。
つんくさん所有の別荘で、洋風のちょっとしたペンションといった感じだ。
実はこの別荘であるテレビ番組の収録が行われるのだが、つんくさんのイキなはからいでここ三ヶ月間全くといっていい程休みの無かった私達モーニング娘。の為に、実際の収録より先にこのコテージに来てその間休日として自由に過ごせるよう段取りして下さったのだ。
しかも、3日間も!
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)01時54分44秒
- と言っても、実際は次のシングルの練習や番組の企画の為の宿題など、この休みの間にやらなくてはいけない事もいろいろと用意されてはいたのだが。
しかし、そこらへんは辻と加護なんかは聞いてはいなかった。休みと聞いた時点で、ひたすらはしゃぎまくっていた。
でも、私は辻と加護と同じように単純にはしゃいではいられなかった。
なぜなら私と圭織だけはこの休日の本来の目的をつんくさんから直接言い渡されていたからだ。
それは今後のモーニング娘。の存続にも関わる程、重要なものだった。
- 4 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時00分20秒
- そういうわけで、今日朝早くからメンバーのみんなと事務所のスタッフとつんくさんと一緒にこの別荘にやってきていた。
ただし、5期メンバーは学校の行事の都合で、今日の午後からの参加という事になっている。
そして、事務所の人達とつんくさんは私達を残して帰り、夕方5時頃につんくさんだけが5期メンバーを連れて戻ってくるという予定になっていた。
その後、つんくさんとモーニング娘。のメンバー全員で、この別荘で三泊三日を過ごすわけだ。
- 5 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時04分26秒
- つんくさんの別荘は都心からかなり離れた所にあり、食料等の買い出しに行こうと思えば車で片道1時間、往復2時間もかかる山奥にある周りには自然以外全く何もない一軒家だ。
携帯電話も圏外で、天下のNTTDoCoMoでさえ使い物にならなかった。
しかし、普段マスコミや多くの人に囲まれる事の多かった私達にとっては、久しぶりに人の目を気にする事なく落ち着いた時間を過ごす事ができた。
特に圭織は自然に囲まれたこの環境をいたく気に入り「わー、自給自足だー!」と意味不明な事を口走っていた。
あいかわらず、圭織の電波は激しかった。
- 6 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時08分54秒
- つんくさんの別荘は二階建てで、一階は台所とかトイレとか何やらがあり、それとみんなでくつろげる大きな広間があった。
そして、そこから階段で二階へと上がるようになっている。
二階には部屋が通路を挟んで向かい合うように3部屋づつ合計6部屋あり、どの部屋に誰が休むかはみんなもうそれぞれ決めてあった。
- 7 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時16分07秒
- 階段を上りきるとすぐ目の前につんくさんの部屋のドアがあり、そこから右へと通路がのびている。
そして、つんくさんの右隣の部屋に圭ちゃんと後藤と矢口が休む事になっていた。
その右隣が石川と吉澤。
その向かいが後から来る5期メンバー達の部屋。
その右隣が辻と加護。
さらに右隣が私と圭織が休む事になっていた。
ちなみに、圭ちゃんの部屋の向かいが辻と加護、つんくさんの部屋の向かいが私と圭織の部屋という事になる。
- 8 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時19分15秒
- 今は雪も積もって寒いというのに、みんな外に出てそれぞれ好きなように過ごしていた。
辻と加護はすでに大きな雪ダルマを2つも作っており、その後石川を加えて雪合戦のような事をやっていた。
どうやら辻と加護対石川という対決になっているようで、あきらかに石川の方が分が悪い。
辻を攻撃しようとしては加護にやられ、加護を攻撃しようとしては辻に撃沈されていた。
マンガか、お前は。
私はひそかにつっこんだ。
- 9 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時21分52秒
- 圭織は気に入ったここの景色をさっそく絵にしたためていた。
先日、画集を出版して以来、圭織は以前にも増して絵を描く事に力を入れていた。
圭織の絵は本当に上手い。
そして、独自の世界感も持っている。
歌だけでなく絵という全く違う別の表現方法を持っている圭織を、私はちょっとねたましく思った。
- 10 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時23分42秒
- その横では圭ちゃんが圭織が描く絵を不思議そうに眺めていた。
ただ見ているだけで特に会話らしい会話もしていないようだった。
圭ちゃんも一緒になって絵を描けばいいのに…
そして、圭ちゃんにもぜひ画集を発表してもらいたいものだ。
私は誰に願うでもなく強く切望した。
- 11 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時26分42秒
- 後藤と吉澤はどこから見つけてきたのか、大きな斧を持ち出して薪割りをして遊んでいた。
と言っても、今まで一度も薪を割れずに失敗ばかりしている。薪を斧で傷つけるばかりで全然縦に割れてない。
ケガをしないか少し心配だったが、あの二人なら大丈夫だろうと放っておいた。
ただ…、もし吉澤の振りおろした斧が後藤の頭をカチ割りでもしたら、これがほんとのマキ割りね。
思わぬ会心のできに、私は一人ほくそ笑んだ。
- 12 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)02時30分31秒
- 「何、ニヤニヤしてんの?」
不意に声をかけられ、私は驚いた。
矢口だった。
「いや〜、なんかさ〜、平和だな〜って思って…」
みっともない所を見られたかな?
私は少し焦りながら答えた。
だが、矢口は特に気にしていないようだった。
「ほんとだねー。こうやっていつまでもみんなで楽しくいられたらいいのになー」
それは私も同じ気持ちだった。
3日といわず、ずーっとこの時間が続けばいい。
私は素直にそう思った。
しかし、その願いは一日としてかなわない事を、今の私には知るよしもなかった…
- 13 名前:能出板 投稿日:2002年11月16日(土)02時31分30秒
- 続く。
- 14 名前:名無し娘。 投稿日:2002年11月16日(土)02時53分14秒
- これはミステリーかな?
ミステリーだったら好きなんで頑張ってください。
- 15 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
- 川o・-・)ダメです…
- 16 名前:能出板 投稿日:2002年11月16日(土)11時49分04秒
- >>15
同じ。
見てた人いたんだね。
- 17 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月16日(土)16時43分20秒
- え、元ネタ何?某マガって???
- 18 名前:名無し娘。 投稿日:2002年11月16日(土)17時44分16秒
- >>15
恐ろしい読者だな(w
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月17日(日)17時09分25秒
- 終了?
- 20 名前:nanashi 投稿日:2002年11月17日(日)22時34分28秒
- >>15>>19
っていうか、ネタばれしたら終了じゃん。
何を考えてる読者やねん。
自分としては楽しみにしてたから、残念でなりません。
作者さんの返事待ちということで。
- 21 名前:能出板 投稿日:2002年11月17日(日)23時55分27秒
- >>20
一応、続けよう。
- 22 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時02分04秒
- 〜第一章〜
『一人目の犠牲者』
時間は4時。もうすぐ、つんくさんが戻ってくる時間だ。
外は雪が降ってきた事もあって、今は全員建物の中にいた。
自分と圭織と後藤は夕食の用意をしていて、辻と加護はデザートを作るとかいって、何やら怪しげな作業をしていた。
残りの4人は手伝いというか、食器の準備というか、料理完成の応援をしていた。
そして、一通りの作業が終わり、あとはつんくさんを待つばかりとなった頃、外で車が止まる音がした。
おそらく、つんくさんだ。
- 23 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時04分24秒
- 玄関の扉を開けるといつの間にか外はかなり雪が強く降っていて、車から玄関までのわずかな距離を走ってきただけにも関わらずつんくさんは雪だらけになっていた。
「あれ、5期メンバーは?」
5期メンバーの姿が見当たらなかったので、圭織がつんくさんに尋ねた。
「いや、それがなぁ…」
- 24 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時06分06秒
- つんくさんの話では5期メンバーには急遽仕事が入ってしまった為、明日、マネージャーが連れてくる事になったらしい。
その話を聞いて私は拍子抜けしてしまった。
なぜなら、つんくさんから私と圭織にのみ明かされていた今回の休日の本来の目的とは、5期メンバーとそれ以前のメンバーとの結束をより強固なものとするというものだったからだ。
- 25 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時08分11秒
- 5期メンバーがモーニング娘。に加入してから早いもので、もう半年近くが過ぎた。
それにともない5期メンバーがモーニング娘。として馴染んできたかというと、何かと問題があった。
正直、既存のメンバーとの距離はいっこうに縮まっていないというのが現状だ。
それをこの3日間のうちにいくらかでも改善するというのが今回の目的だったわけだが、実際どれだけ成果が出せるかは予想もできなかった。
しかし、それでもそれをやらなければいけない程、現在のモーニング娘。の状況は切迫しているのかもしれない。
- 26 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時08分57秒
- 私はそう思って、気合いを入れていたのだが、5期メンバーがいないのではどうしようもない。
取り合えず今夜はみんなと一緒に何も考えず、休みを楽しもう。
そして、番組の企画の課題も明日にまわそう。
私はそう心に決めた。
- 27 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時10分46秒
- 夕食の時間はとても楽しく過ごせた。
それが、5期メンバーがいないせいだとすると、それではいけないんだけどな、と思った私はあえて5期メンバーの話をする事にした。
「つんくさん、ダメですよー。せっかくの休みなのに仕事入れたら。小川達がかわいそうじゃないですかー」
「そんなん知らんがな。仕事入れるのは俺やないんやから。マネージャーや、マネージャーが悪いんや!」
冗談めかして、つんくさんが答えた。
- 28 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時12分18秒
- 「でも残念…、せっかくみんなで夕食を楽しめると思ったのにな…」
圭織の言葉に圭ちゃんがうなずいた。
「ほんとだよ。ちゃんと小川達の分のご飯も用意したのに…」
「用意したのは圭ちゃんじゃなく、なっち達だけどね」
「あんたに言われたかないよ!」
矢口のつっこみに圭ちゃんがものすごい形相で言い返した。
いや、ものすごいというのは気のせいで、普段通りの圭ちゃんの顔だったかな?
- 29 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時13分40秒
- 「でも5期メンバー達の料理、ムダになっちゃいましたね…」
「いや、その心配はないようやで」
石川の言葉につんくさんが辻と加護を指さしながら答えた。
案の定、5期メンバーの分の料理はすでにもう辻と加護によって、あらかた処分されていた。
みんなのあいだに笑いが起こる。
そんな中、矢口がふとつぶやいた。
「あーあ、こんなに楽しいのに、これで最後だなんてなー…」
- 30 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時15分17秒
- 一瞬、会話が止まり、全員が矢口の方を見た。
矢口もそんなみんなの反応に気づき、あわてて訂正した。
「えっ!?別に深い意味はないよ。ただ、こんな休みはもうないだろうなーって思って…」
「そんな事ないですよねー?来年もやりましょうよ、つんくさん」
そんな矢口を助けるように、圭ちゃんが言った。
「そうやな、できたらな」
「できたらじゃなくて、やるんです!」
「分かった、分かった」
つんくさんが、けおされながら答えた。
- 31 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)00時17分28秒
- 「ほんと、小川達も今日来れればよかったのにね…」
圭織は相当5期メンバーの事を気にしているようだ。
「そうやな、はよ会わしたらなあかんな」
「でも、来年は5期だけじゃなく、6期メンバーもいるかも知れませんよ〜」
石川の冗談に吉澤が続ける。
「それじゃあ、ここだとちょっとせまいなー」
「おいおい、そりゃないで。これでも結構したんやで、この別荘」
再び、みんなの間に笑いが起こる。
そして、楽しい時間はすぐに過ぎ、夜はふけていった…
- 32 名前:能出板 投稿日:2002年11月18日(月)00時19分26秒
- 続く。
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月18日(月)18時34分18秒
- 作者さん、応援しています。
- 34 名前:名無し娘。 投稿日:2002年11月18日(月)20時07分49秒
- 自分は原作知らんので、まだトリックなどわからんので結構楽しみです。
がんがって。
- 35 名前:りゅ〜ば 投稿日:2002年11月18日(月)20時15分17秒
- 殺人事件ものイイ(・∀・)です!
私も原作知らないので更新期待してますw
- 36 名前:能出板 投稿日:2002年11月18日(月)23時06分11秒
- >>31からの続き。
- 37 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時09分37秒
- 夕食が終わってすぐ矢口はつんくさんに呼ばれ、つんくさんの部屋に入っていった。
そう言えば最近矢口はつんくさんと二人で話をしている事が多い。
何の話をしているのだろう?
私達は次のシングルについて、まだつんくさんからいっさい聞かされていなかった。
次の曲のセンターは矢口で、それについての話でもしているのだろうか?
あまり表に出さないようにしていたが、本当は非常に気になっていた。
- 38 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時11分29秒
- 30分ほどたった頃、矢口がつんくさんの部屋から出てきた。
その矢口の顔は、普段の矢口と違いすごく落ち込んだ暗い印象に見えた。
「何の話をしてたんですか?」
石川が矢口に話しかけた。
「え?別に何でもないよ、梨華ちゃん」
そう答えた矢口は、いつも通りの明るい矢口だった。
さっきのは気のせいだったのだろうか?
「次の新曲の話ですか?」
石川も同じ事を考えていたようだ。
それにしても、随分とあからさまに聞くものだ。
- 39 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時14分19秒
- この手の話は私達の間ではおいそれとしない。ある意味モー娘。の内でのタブーといってもいい。
無神経な石川はあまり気にしていないようだが。
「う、う〜ん…、まぁそんな所」
「そうですか…」
さすがの石川もそれ以上は聞かなかった。
しかし、矢口のあいまいではあるが肯定とも受け取れる今の返事、おおいに気になった。
おそらく、他のメンバーも同じ気持ちだっただろう。
- 40 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時17分44秒
- その後は、みんな一階の広間でくつろいでいた。
辻と加護は何が楽しいのか、建物中を無意味に走り回っていたが。
テレビでは大雪による警報のニュースをやっていた。
たしかに、外はものすごい吹雪になっている。
「今、外に出たらTMレボリューションみたいになっちゃうなー」
雨戸の閉まった窓を見ながら吉澤が言った。
「タイタニックだよ!」と言いながら、後藤が例の甲板の有名なシーンのマネをした。
「チャゲ&アスカだよ!」
後藤に続いて私も言ってみた。
「ふっる〜」
全員からつっこまれてしまった…
- 41 名前:能出板 投稿日:2002年11月18日(月)23時19分59秒
- 夕食が終わってから2時間ほど過ぎただろうか。つんくさんが自室から出てくる気配は一向になかった。
さすがに気になったのか、圭ちゃんが矢口に聞いた。
「つんくさん、このまま寝ちゃうのかな?」
「え?さぁ、分かんないな…」
「もしかしたら、新曲の追い込みに入ってるのかも…」
私は思いついた事を言ってみた。
だとしたら、そっとしておいた方がいいのかもしれない。
- 42 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時22分46秒
- しかし、圭ちゃんは納得いかなかったようだ。
「石川、ちょっと見てきてよ」
「はい」
石川は素直に従い、階段を上って二階へと向かった。
その途中、走り回っている辻と加護とすれ違う。
つんくさんの部屋のドアは階段を上ってすぐ目の前にある。
つんくさんの部屋のドアだけは、この一階の広間からでも見えた。
「つんくさ〜ん」
石川の声が聞こえる。
その時、私はテレビでちょうど自分が出演しているドラマをやっていたので、そっちに集中していた。
- 43 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時24分33秒
- 「キャアアアアアア──!!」
突然、耳をつんざぐような叫び声が建物中に響いた。
それは今まで聞いた事のない叫び声だった。
本当の恐怖を目の当たりにした人間が発する悲鳴、そんな感じがした。
全員が二階を見る。
石川だ。
石川はつんくさんの部屋の前で硬直していた。
タダ事ではない。そう思った全員が二階へと上がる。
その際、階段がせまい為、私と圭織が先頭という形になった。
「どうした、石川!?」
石川に問いかける。
- 44 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時26分16秒
- だが、石川は声を出して答える事もできないほどおびえており、ただ震える手でつんくさんの部屋の中を指さした。
そこにはつんくさんがあお向けになって倒れていた。
そして、その左胸には包丁が深々と刺さっていた。
一瞬、その光景が信じられず、何が起こったのか私には理解できなかった。自分も石川と同じように体が震えてくる。
そして、もう一度つんくさんを見た。
確かに、左胸に包丁が刺さっている。
血もかなり出ていて、つんくさんの倒れている所が真っ赤に染まっていた。
- 45 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時28分18秒
- 後ろにいるメンバー達も動揺し始めているのが分かる。
でも、誰も動けないでいた。
「つんくさん!」
私のすぐ後ろにいた圭ちゃんが叫んだ。
しかし、つんくさんの反応は無い。
つんくさんは死んでいるのだろうか?
生きているかどうか、確かめないといけない?
どうしよう?
どうしたらいいのか全く分からなかった。
その時、圭織がきぜんとした声で言った。
「慌てないで!みんな落ち着いて!」
そして、圭織はつんくさんの部屋の中へ一歩踏み出した。
- 46 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時31分03秒
- 「みんなはそこで待ってて」
全員その言葉に従い、リーダーである圭織に任せる事にした。
圭織はゆっくりとつんくさんに近づき、膝まづいた。
圭織のスカートが床に広がった血で汚れるが、圭織は気にせずつんくさんの左手を取った。
そして、手首を押さえる。
おそらく、脈をとっているのだろう。圭織はしばらくそのままじっとしていた。
次に圭織はその結果を言う事なく立ち上がると、つんくさんの頭の方にまわった。
- 47 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時35分23秒
- そして、つんくさんの頭の近くでかがみ込み、右手でつんくさんの目を広げた。
次に、もう一方の手をつんくさんの目の前にかざし、それを何度か繰り返した。
目に入る光をさえぎって、瞳孔に反応があるか調べているのだ。
意識を失っているだけなら、瞳孔に反応があるはず。
もし、反応がない場合は…
何度もその行為を繰り返した後、メンバー全員が見守る中、圭織は静かにこう言った。
「つんくさん…、死んでるわ…」
- 48 名前:第一章 投稿日:2002年11月18日(月)23時37分00秒
- その後の圭織の行動は迅速だった。
まず、警察の人が来るまで現場が荒れる事のないように、つんくさんの部屋に鍵をかけた。
圭織はその鍵をスカートの右のポケットに入れていた。
それから、つんくさんが死んでしまった事を伝える為、事務所に電話をした。
しかし、私は見てしまった。
圭織がつんくさんの部屋のドアを閉じようとしたその一瞬、つんくさんの右手の近くに血の文字で『矢口』と横書きで書かれているのを…!
- 49 名前:能出板 投稿日:2002年11月18日(月)23時37分59秒
- 続く。
- 50 名前:名無し娘。 投稿日:2002年11月19日(火)20時30分03秒
- 死んでんジャン!いや,しん(ry
- 51 名前:能出板 投稿日:2002年11月19日(火)21時15分28秒
- 以下続き。
- 52 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時18分50秒
- 今、みんなは一階の広間にいた。
圭織はまだ事務所に電話をかけていた。
私はまだつんくさんが死んでしまった事を信じられないでいた。
自然とつんくさんの事が思い出される。
オーディションで初めて会った時の事、モーニング娘。としてデビューしてからもいろいろと怒られた事、レコーディングの時上手く歌う事ができ珍しくほめられた時の事…
涙が止めどなくあふれてくる。
みんなも同じ気持ちなのだろう。
全員、自分と同じように泣いていた。
いや、一人だけ涙を流していない者がいる。
後藤だ。
- 53 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時21分25秒
- 後藤はつんくさんの死を知ってから、まだ一度も涙を流していない。
かつて後藤は彩っべや紗耶香、そして裕ちゃんがモーニング娘。から脱退すると聞いた時、ひきつけを起こすほど大泣きしたものだが、あれから後藤は精神的に成長して大人になったという事だろうか?
あるいは悲しみの種類が違うのだろうか?
後藤のお父さんは不慮の事故ですでに亡くなっている。その為、親しい人の死に対して耐性がある?
それとも後藤にとってつんくさんは親しい人物ではなかった…!?
- 54 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時23分43秒
- そんな事を考えていると、圭織が電話を終えて広間にやってきた。
「今、マネージャーに連絡してきたわ。
警察にはマネージャーから連絡してもらう事になったから。
でも、今は雪がひどいし暗くて視界もほとんどないから、今すぐには行けないって。
こっちに来れるのは明日になるだろうって、マネージャーは言ってた」
それだけ言うと、圭織はソファーに座り頭を抱えて黙り込んだ。
- 55 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時25分30秒
- それからしばらく誰も話をしなかったが、沈黙に耐えかねたのか吉澤がおそらくここにいる誰もが思っている疑問を口にした。
「つんくさん、なんで自殺なんかしたんだろう…」
この別荘にはつんくさんと私達しかいなかった。だから、つんくさんは自殺したという事になった。
しかし、本当にそうだろうか?
自分で自分の胸を包丁で刺して死ぬ。そんな事が現実にできるのだろうか?
不可能ではないのかもしれない。
しかし、それには相当な覚悟がいるはずだ。
では、もし自殺でないとするのなら…!?
- 56 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時26分41秒
- 私は矢口の方を見た。
矢口はみんなと同じように泣いていた。
それはつんくさんの死を悲しんでいる。少なくともそう見えた。
それにしても…、つんくさんのそばに残されていた血で書かれた『矢口』という文字。あれはいったい何だったのだろう?
- 57 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時28分36秒
- 次に私は圭織の方を見た。
圭織は頭を抱え、ずっと黙ったままだ。
圭織はつんくさんの部屋の中に入ったのだから、あの血の文字に気がつかないはずはない。
圭織が何も言わないという事は、あれは自分の気のせいだったのだろうか?
それともこれ以上事態を混乱させない為に、あえてしゃべらない?
だから私もこの事については、何も言わないでおく事にした。
- 58 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時32分42秒
- その後、誰も話をする事もなくただ時間だけが過ぎていったが、突然圭織が立ち上がってみんなに言った。
「つんくさんが死んじゃったのは悲しいけど、後は明日来る警察や事務所の人達に任せて、今夜はゆっくり休んでおいた方がいいわ」
急に言い出すので少し驚いたが、私も圭織の意見に賛成だった。
間違いなく明日からは大変な騒ぎになる。
警察の人にはいろいろ聞かれるだろうし、今後の事について事務所の人達とも話をしなくてはならない。他にもいろいろとあるだろう。
- 59 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時34分52秒
- もしかしたら、まともに休めるのは今夜が最後となるだろう。
「うん、そうだね。そのほうがいい」
私も圭織と一緒になって、自室で休むようみんなに言った。
みんな疲れていた事もあり、反対する者はいなかった。
そして二階に上がり、石川と吉澤、矢口と圭ちゃんと後藤がそれぞれの部屋に入っていく。
私も圭織と一緒に休む事になっていた部屋に入ろうとしたのだが、圭織に呼び止められてしまった。
- 60 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時37分39秒
- 「ゴメン、なっち!今夜、圭織ひとりにさせてくれないかな?」
「え?」
思いがけない圭織の言葉に、私は一瞬戸惑った。
なぜ圭織が一人になりたいのかは分からない。
ただ、今日の自分は圭織に頼りっぱなしだった。全ての事を圭織に任せてしまっていた。
だから圭織が今夜ひとりになりたいと言うのなら、そうしてあげるべきだと思った。
「安倍さん、私達と一緒に寝ませんか?」
加護も気をきかせて声をかけてくれた。
- 61 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時41分26秒
- 「分かった、圭織。
今日は大変だったけど、ゆっくり休んで。
明日からはもっと大変になるかもしれないけど…、一緒にがんばろう!」
「うん。ほんと、ほんとゴメンね、なっち…」
圭織は本当に申し訳なさそうに言いながら、部屋の中に入っていった。
そして、私は辻と加護の部屋に入った。
部屋にベッドは2つしかなかった。
さて、どうしたものか…
「安倍さん、一緒に寝てもいいですか?」と辻が言ったかと思うと加護も「加護も一緒に寝ていいですか?」と言ってきた。
- 62 名前:第一章 投稿日:2002年11月19日(火)21時44分41秒
- ひとしきり泣いて落ち着いたように見えたが、やはり二人とも凄く不安なのだ。
当然だろう。正直、自分も同じ気持ちだった。
「よし!じゃあ、三人で寝よっか!」
私はわざと明るく言ってみせた。
それにつられて辻と加護も少しだけ笑顔になり、うなずいた。
そして1つのベッドで、私は辻と加護に挟まれながら寝る事にした。
これからいったい、私達はどうなるのだろうか…?
そんな事を考えながらも、寝付きのいい私はすぐに眠りに落ちた…
- 63 名前:能出板 投稿日:2002年11月19日(火)21時45分21秒
- 続く。
- 64 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時00分56秒
- 〜第二章〜
『二人目の犠牲者』
朝、私は加護に起こされて目を覚ました。
ぼーっとする意識の中、昨日の出来事が夢だったのではないかと思ったが、辻と加護の暗い表情と頭の中の確かな記憶がそうではないという事を教えてくれた。
一階に下りると、みんなもう広間に集まっていた。
見ると、全員昨日と着ている服が変わっていない。
みんなも自分達と同じように、服を着替えて休むという余裕も無かったようだ。
- 65 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時04分51秒
- 眠っている間に外の吹雪はおさまっていた。
このまま待っていれば、事務所や警察の人が来るはずだ。
それまでは何もする気になれなかったが、どうしても昨日の事を考えてしまう。
自室で死んでいたつんくさん。そして、部屋に残されていた『矢口』と書かれた血のメッセージ…
あれはつんくさんが書いたものなのだろうか?
もしそうなら、どういう意味があるのだろう?
しかし、誰もその事について話をする者はいなかった。
- 66 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時06分30秒
- やはりあれは自分の見間違いだったのだろうか?
でもそうでないとしたら、つんくさんの部屋に入った圭織は間違いなく気付いているはずだが…
そう思った時、圭織が広間にいない事に気がついた。
「あれ、圭織は?」
「圭織なら、まだ下りてきてないよ」
後藤が教えてくれた。
当初の予定では私と圭織は同じ部屋で休む事になっていた。
しかし、昨夜圭織が一人になりたいと言ったので、私は辻と加護の部屋で休み、圭織は一人で夜を過ごした。
どうやら圭織はまだ部屋にいるようだ。
- 67 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時08分36秒
- 「なっち、見てくるよ」
そう言って、私は階段を上って二階に向かった。
そして、圭織と二人きりになった際に、あの『矢口』の血文字について聞いてみよう。そう考えていた。
圭織の休んでいる部屋の前に立ち、ドアを叩く。
「圭織〜」
しばらく待ったが返事がない。
まだ寝ているのだろうか?
「圭織〜、朝だよ〜」
そう言って、もう一度ドアを叩いた。
しかし、返事はない。
昨日の事で相当疲れていたのだろうか?
確かに、昨日は全て圭織に任せていたからな。悪い事をした。
- 68 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時10分09秒
- そう思いながら、ドアのノブにふれてみた。
ガチャ
ノブは何の抵抗もなく回った。
あれ?開いてる…
圭織は昨日、鍵をかけずに部屋で休んだのだろうか?
「圭織、開けるよー」
小さくそう言いながら、ドアを開いた。
しかし、私は部屋の中の光景を見て愕然とする。
中では圭織がうつ伏せになって倒れていた。
そしてその背中には、つんくさんの時と同じように包丁が深々と刺さっていた…
- 69 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時11分45秒
- 「圭織!」
私は圭織に駆け寄り体にふれた。
それは異様な感触だった。
触った感じは普段と変わらない。
しかし、返ってくる反応はまるで置物のように全く無かった。
圭織の肌にふれてみた。
冷たかった。体温が全く感じられなかった。
「圭織!」
そして、何度呼びかけても圭織が返事をする事はなかった。
「どうしたの!?」
様子がおかしい事を察した圭ちゃんが部屋までやってきた。
しかし、私はただ泣き崩れる事しかできなかった…
- 70 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時15分09秒
- つんくさんに続き圭織まで死体となって見つかった。
度重なる親しい人間の死に、自分も含め全員ただただ泣いていた。
圭織がいなくなって、自分が圭織に頼りっきりだったという事が改めて分かった。
でも、だからこそ今は自分がしっかりしなくてはいけないとも思えた。
ショックから立ち直れたわけではないが、今必要な事は自分がやらなくてはいけない。
まずは事務所に圭織の事を連絡しなくてはならないだろう。
- 71 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時16分20秒
- それでも一人では不安なので、圭ちゃんにそばについてもらって電話をかける事にした。
受話器を取り事務所の電話番号をダイヤルしようとした時、受話器から発信音が全く聞こえていない事に気がついた。
ダイヤルを押しても全然反応がない。
「電話が…使えなくなってる…」
「嘘!?」
圭ちゃんにも確認してもらったが、やはり電話は不通になっていた。
ここは携帯も圏外の山奥である。
つまり、外部に連絡する手段が無くなったという事になる。
不安がつのるが、この事をみんなに伝える為に広間へと戻った。
- 72 名前:第二章 投稿日:2002年11月20日(水)23時18分09秒
- 「昨日の吹雪で、どっか切れちゃったのかな?」
電話が不通になった事に対する後藤の意見だ。
たしかに、昨日の吹雪はものすごかったので、その可能性は考えられる。
しかし、もしそうだとすると、どのくらいで復旧するものなのだろうか?全く予想がつかなかった。
それでも昨日、圭織が電話した時にはまだ電話がつながっていたのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
- 73 名前:第二章 投稿日:2002年11月20日(水)23時19分23秒
- 昨日の夜は吹雪で警察の人が来る事はできなかったが、今は吹雪もおさまっている。このまま待っていれば警察の人が来るはずだ。
そうなれば事件は解決する。後は警察に任せればいい。
だから私達は警察の人が来るのをひたすら待った。
しかし、昼になり夕方になっても警察の人はおろか、事務所の人も誰一人として来なかった。
そして、再び夜になった…
- 74 名前:能出板 投稿日:2002年11月20日(水)23時21分03秒
- 続く。
- 75 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)20時58分04秒
- 「なんで誰も来ないの!?」
圭ちゃんがなかば叫びながら言った。
「昨日の吹雪で、道まで不通になっちゃったのかなぁ?」
吉澤が言った。
この別荘までの道はある所からほぼ一本道である。だから、そのどこかが何らかの原因で塞がれでもしたら、ここまで来る事はできないだろう。
しかし、電話が不通になり、ここまで来る道までも不通になる。そんな偶然があるのだろうか?
でも、私は他の可能性を思いつけなかったので、そう思い込む事にした。
- 76 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時00分15秒
- そんな事を考えながらもある事に気づいた。
そう言えば、昨日の夜から何も食べてない…
すると急にお腹が空いてきた。
目の前の机にはみかんが積んであった。
取り合えずそれを食べようと手をのばした時、同じようにみかんを取ろうと手をのばす者がいた。
それが矢口だと気づいた瞬間、私は思わず手を引っ込めてしまった。
「どうしたの、なっち?」
そんな私の行動を不信に思った矢口が聞いてきた。
「う…ううん、何でもない…」
「変ななっち」
- 77 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時01分17秒
- なぜそんな事をしたのか自分でも分からなかったのであいまいな返事をしたが、矢口がそれ以上気に止める事はなかった。
そして、矢口はみかんの皮をむいて、それを口に入れた。
すると突然、矢口に向かって石川が叫んだ。
「何で!?何でみかんが食べられるんですか!?」
全員が石川の方を見た。
みんな石川の言っている意味が分からないといった感じだった。
それでも石川は続けた。
「つんくさんが死んで、飯田さんも亡くなったのに、何でみかんが食べられるんですか!?」
- 78 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時02分50秒
- どうやらつんくさん達が亡くなったのに、食べ物が食べられるなんて信じられないと言いたいらしい。
これには矢口も困惑した。
「はぁ!?何言ってんの、石川?そりゃ、つんくさんが亡くなったのは悲しいけど、それとこれとは別じゃない。ねぇ、なっち?」
矢口は私に同意を求めてきた。
「う…うん…」
実際私もみかんを食べようとしていたのだが、一緒にされるのがいやだったので、あいまいな返事をしてしまった。
ところが、石川はさらにとんでもない事を言い出した。
- 79 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時06分33秒
- 「それに私、見たんです!つんくさんが倒れていたすぐそばに、血で矢口さんの名前が書かれていたのを!」
私は驚いた。
やはり『矢口』と書かれた血文字はあったのだ。
考えてみれば、つんくさんが倒れているのを最初に見つけたのは石川だ。
石川ならあの血文字に気づいていてもおかしくはなかった。
しかし、突然そんな事を言われて、矢口も冷静でいられるはずがなかった。
「何それ!?まさか矢口がつんくさんを殺したとでも言いたいの!?」
- 80 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時09分37秒
- 矢口はすごい剣幕だったが、石川は一向に引かなかった。
「だってそうじゃないですか!つんくさんと最後に会っていたのは矢口さんなんですよ!他に誰がいるって言うんです!?
安倍さんだってあの文字に気づいてたから、昨日の夜からずっと矢口さんを避けてたんじゃないんですか!?」
そう言って、石川は私に同意を求めてきた。
「えっ!?う…う〜ん、どうかな〜、なっちは気づかなかったな〜」
石川の言っている事ははっきり言って図星だった。だからこそ私は矢口の前では認める事ができず、またしてもあいまいな返事をしてしまった。
- 81 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時11分45秒
- 「何よ、なっち知らないって言ってるじゃない!矢口だって、そんなの見なかったよ!
他のみんなはどう?そんなのあった!?」
みんな何も言わず、ただ首を横に振った。
「ほら、誰も見てないじゃない!いい加減な事言わないでよね!どういうつもり、石川!?」
「でも、私見ました!嘘じゃありません!」
「まだ、言うの!?」
矢口の反応は当然だし、一度言ってしまった手前石川も引くに引けないのだろう。
そのまま話は平行線になり、しばらく二人の言い争いは続いたが、だんだん石川が押されぎみになってきた。
- 82 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時15分33秒
- 「もう、いいです!でも、私は矢口さんと一緒にここにいるなんてできません!
事務所の人が来るまで自分の部屋で待ってます!
それまで誰も部屋には来ないで下さい!」
そして、石川は逃げるように台所に向かった。
ガチャガチャと物をかき回すような音が聞こえたかと思うと、両手にいろんな食べ物を抱えた石川が戻ってきた。
「みなさんの分の食べ物はちゃんと残してありますから安心してください!それでは失礼します!行こう、よっすぃー!」
それだけ言うと、吉澤の反応も待たずに石川は階段を上り始めた。
- 83 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時18分01秒
- 呼びかけられた吉澤はどうするべきかとまどっていたようだが、石川が心配というのもあったのだろう。
「私、梨華ちゃんと一緒にいるよ…」
私達に申し訳なさそうにそう言うと、石川の後を追って二階へと上がっていった。
こうなると、おさまらないのは矢口である。
「何よ、あれ!勝手な事言って!矢口がつんくさんを殺すわけないじゃん!」
「本当にそうかしら?」
矢口は私達に同意を求めてそう言ったのだろうが、返ってきたのは意外にも異論をとなえる圭ちゃんの言葉だった。
- 84 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時21分17秒
- 「何よそれ…、どういう意味?」
思わぬ圭ちゃんの言葉に矢口は少し動揺しているように見えたが、その瞳には殺気じみたものが感じられた。
「石川の演技がアレなのはみんなも知ってるでしょ?さっきの石川、嘘を言っているとは思えない。
それに矢口、昨日の夜私とごっちんが寝ている間、一人で部屋を出ていったわよね?あれはどこに行っていたの?」
「どこって…、トイレに行っただけだよ…。それにすぐ戻ってきたじゃない!?」
「でも、十分な時間はあったわ」
- 85 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時22分40秒
- 「十分って…、圭ちゃんも矢口がつんくさんと圭織を殺したと思ってるの…!?」
「そうは言わない。ただ…」
「ただ…、何よ…?」
「私もあんたとは一緒にいたくないって事よ」
強い口調ではないが、圭ちゃんははっきりとそう言った。
それを聞いた矢口は言葉を失った。
矢口だけではない。誰も言葉を発せず、沈黙が続いた。
それは圭ちゃんの言葉をみんなも肯定しているかのようだった。
しばらくして、矢口が絞り出すようなか細い声で話しだした。
- 86 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時24分58秒
- 「そう…みんなも矢口がつんくさんを殺したって言うのね?
分かったよ…、そんな人殺しの矢口とは一緒にいたくないでしょうから、矢口は5期メンバーが使う予定だった部屋に行くから。そうすれば、みんな安心だし、誰も死ななくてすむでしょ!?」
そして矢口は後ろを見せ、いっきに階段を駆け上がっていった。
止めるべきだったのかもしれない。
でもどうやって?
私と一緒にいようとでも言えばよかったのだろうか?
しかし、私にはそれを言う事はできなかった。
だから、矢口を止める事はできなかった。
- 87 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時28分44秒
- 圭ちゃんは矢口がいなくなると、何も言わず立ち上がり台所へと向かった。
そして、石川と同じように両手に食べ物を抱え戻ってきた。
「矢口にはああ言ったけど、私は別に矢口が犯人って決め付けたわけじゃないから。
悪いけど私達も自室にこもらせてもらうわ。なっちもせいぜい気をつけるのね」
私に向かってそう言うと、圭ちゃんは後藤を連れて二階へと上がっていった。
つまり圭ちゃんは矢口だけでなく、私も含め全員を怪しんでいるという事だ。
それとも誰も信用してはいけないと、私を戒めてくれたのだろうか?
- 88 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時31分32秒
- 残された私達も仕方がないので自室に戻る事にした。
台所に行って食料を調達する。
幸い食べ物はたくさん用意されており、二、三日は大丈夫そうだった。
そして、辻と加護と私の三人で6回分位の食べ物を抱え、二階へと上がった。
私達の部屋に入る前、左隣の部屋を見た。
そこは後から来るはずだった5期メンバーが使う予定だった部屋で、今は矢口が一人でいるはずだ。
今ならまだ矢口に声をかける事ができる。
しかし、やはり私にはそれができなかった。
- 89 名前:第二章 投稿日:2002年11月21日(木)21時34分01秒
- 部屋に入いるさい、しっかりと鍵をかける。
そして、三人で運んできた食べ物を食べる事にしたが、空腹のはずなのに私はあまり量を食べられなかった。
辻と加護は普段通り食べ続けていたので、私は二人より先に寝る事にした。
明日になれば事務所や警察の人達が来て、全てを解決してくれる。そう願いながら…
- 90 名前:能出板 投稿日:2002年11月21日(木)21時34分38秒
- 続く。
- 91 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月22日(金)13時37分18秒
- 酷いよ、みんなでやぐたんを犯人扱いして〜!!
- 92 名前:能出板 投稿日:2002年11月22日(金)21時02分14秒
- 以下続き。
- 93 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時05分53秒
- 〜第三章〜
『三人目の犠牲者』
ドン!ドン!ドン!
朝、誰かがドアを叩く音で目が覚めた。
ドン!ドン!ドン!
「なっち、開けて!話があるの!」
後藤だった。私は起きたばかりで思うように体が動かなかったので、加護がかわりにドアの鍵を開けにいってくれた。
ドアが開くと後藤が入ってきた。後ろには圭ちゃんもいた。
「どうかしたの、ごっちん?」
なんだかただならぬ雰囲気を感じた。
「なっち、正直に本当の事を話してほしいの」
いつになく後藤の顔は真剣だ。
- 94 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時07分36秒
- いったい何を聞くつもりなのだろう?
まさか私が犯人だと問い詰めるつもりなのだろうか?
「な…何、ごっちん?」
私は少し動揺していた。
後藤はそんな私の目をまっすぐ見て聞いてきた。
「梨華ちゃんが言っていたつんくさんの死体のそばにあった文字…。あれ、ホントに『矢口』って書いてあったの?」
私は後藤の問いが自分が考えていたのと違っていてとりあえずホッとした。
しかし、なぜ後藤はそんな事を聞いてくるのだろうか?
- 95 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時11分39秒
- 昨日は矢口がいた事もあってなりゆきで否定してしまったが、後藤には何か思い当たる所があるのだろう。今回は正直に答える事にした。
「う…うん、書いてあったよ、『矢口』って。一瞬見ただけだからあんまり自信ないけど…」
「ねぇ、それって横書きだった?縦書きだった?」
「えっ?さ…さあ、どっちだったっけな〜。横書き…だった…かな…」
「そっか…」
それだけ聞くと、後藤は一人思案し始めた。
「ねぇ、それって何か意味があるの?」
話が見えずしびれを切らした圭ちゃんが説明を求めた。
- 96 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時14分55秒
- 「いや、私さぁ、昔やぐっちゃんの名前を『矢口』じゃなくて、知っているの『知』っていう字に読み間違えた事があるんだよね。だからさぁ、なっちが見た字も本当に『矢口』って書いてあったのかなって思って…」
「そうか、横書きなら確かに『知』って見えなくもない…。もしそうだとしたら、矢口を犯人に決め付ける理由も無くなるわけね…」
圭ちゃんが自分の考えを確かめるようにつぶやいた。
「それに他の文字も書いてあったのかもしれないよ」
後藤がそれに付け足す。
- 97 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時16分46秒
- 「確かめないといけない…」
私達の意見は一致し、つんくさんの部屋に向かう事にした。
その際、後藤が石川にも声をかけようと言い出した。
石川はあの血の文字のせいで矢口を犯人と思い込んでいる。
一緒に血文字の確認を行い、それが違っていれば石川は矢口が犯人とは思わなくなるだろう。
たとえ確かに『矢口』と書かれていたとしても、今より状況が悪くなる事もないだろうから別に構わないと思えた。
「でも、石川、話聞いてくれるかな?」
- 98 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時18分46秒
- 私は石川が事務所の人達が来るまで部屋には近づかないでと言っていたのを思い出した。
「大丈夫だよ。あの時は梨華ちゃんちょっと興奮してただけだから。今ならきっともう落ち着いてるよ」
そうかもしれない。
圭ちゃんも特に反対しなかったので私達は石川に声をかける為、石川の休む部屋の前に立った。
吉澤も一緒にこの部屋にいるはずである。
「石川ー、ちょっと話があるんだー。ここ開けてくれない?」
ドアを叩きながらそう言ったのだが、返事はなかった。
- 99 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時22分03秒
- 「おーい、よっすぃーでもいいんだー。返事してよ」
しかし、返事はなかった。
私は急にイヤな予感がして、ドアのノブを触った。
ガチャ
ノブは何の抵抗も無く回った。
開いている、なんで!?
昨日、石川は矢口を避ける為、部屋にこもった。
だから鍵をかけずに休むはずはなかった。
しかし、鍵は開いていた。
私はゆっくりとドアを開いていった。
少し隙間ができると同時に、中の空気が流れ出てくる。
それと一緒に独特なにおいも感じられた。
なま暖かいこのにおいは…、血!?
- 100 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時26分06秒
- 私は体が震えてきて動く事ができなくなった。
「なっち?」
私の様子がおかしい事に気づいた圭ちゃんが声をかけてきたが、私は返事をする事もできなかった。
そんな私に後藤が優しく手をかけてきた。
そして、ゆっくりと私の手をドアから離すと、後藤が代わりにドアを開けた。
部屋の中にベッドは二つあったが、石川と吉澤は一つのベッドで一緒になって寝ていた。
開いている方のベッドはシミひとつ無く真っ白なのに対し、二人の寝るベッドは二人の大量の血によって一面が赤黒く染まっていた…
- 101 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時27分45秒
- 「梨華ちゃん!よっすぃー!」
後藤は部屋に飛び入った。
圭ちゃんも後に続いたが、私は動く事ができなかった。
辻と加護も同じで、ドアから見守る事しかできずにいた。
しかし、ここから見ただけでも石川と吉澤が絶望的なのは分かった。
ベッドを染めている血の量は尋常ではなかったし、二人の顔の表情は眠っているかのように安らかだったが血の気は全然無く真っ白だった。
それでも圭ちゃんは二人に何度も呼びかけていたが、返事をする事はなかった。
- 102 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時30分19秒
- 石川と吉澤のなきがらをじっと見ていた後藤が言った。
「首の所が何かで切られてる…」
おそらくそれによる出血多量…いや即死だろうか。
どちらにしても完全に命を奪う事を目的として行われた行為だった。
突然、圭ちゃんが叫んだ。
「何よ、これ!?これも矢口がやったっていうの!?」
その言葉に真っ先に反応したのは後藤だった。
いきなり部屋の出口に向かって走り出す。
私は後藤にぶつからないように、辻と加護をかばいながら横にそれた。
- 103 名前:第三章 投稿日:2002年11月22日(金)21時31分37秒
- 後藤はそのまま矢口が休んでいる向かいの部屋の前に立ち、ドアのノブに手をかけた。
鍵はかかっていなかった。
ためらう事なく後藤はいっきにドアを開けた。
そして、矢口も死んでいた。
- 104 名前:能出板 投稿日:2002年11月22日(金)21時32分11秒
- 続く。
- 105 名前:りゅ〜ば 投稿日:2002年11月22日(金)21時46分39秒
- 一体誰が犯人なんだ…
更新頑張って下さい
- 106 名前:能出板 投稿日:2002年11月23日(土)21時25分00秒
- 以下続き。
- 107 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時27分21秒
- 矢口も石川達と同じように首の所を切り裂かれて、ベッドの上で亡くなっていた。
三人共とくに争ったり抵抗した様子はなかった。
おそらく熟睡している所を襲われたのだろう。
本人達は痛みを感じる隙もなく命を失った事だろう。
せめてそう願いたかった。
それにしてもドアに鍵をかけた事によって安心していたのはうかつだった。
犯人はこの別荘のドアの鍵を開けるすべを持っていたのである。
- 108 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時32分57秒
- 合い鍵…いや、ここは旅館でもペンションでも何でもない。つんくさん個人の別荘だ。
建物内のドアの鍵はたいして複雑な構造ではないだろう。
道具…それこそ堅いハリガネのようなものでもあれば、自分でも鍵を開ける事ができるのではないだろうか。
ともかく条件的には石川達ではなく、自分達が殺されていたかもしれなかったのだ。
今回私達が狙われなかったのは、三人で休んでいた為、他の二人で休んでいたメンバー達と比べて不意を付きにくかった程度の差ぐらいだろう。
- 109 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時35分29秒
- また、矢口が殺されていた事は別の意味でショックだった。
なぜなら正直自分も矢口の事を少なからず怪しいと思っていたからだ。
しかし、これで矢口が犯人という事はあり得なくなった。
だからといって圭ちゃんや後藤が怪しいとも思えないし、思いたくもなかった。
私達以外の何者かの仕業というのも考えたが、つんくさんが殺された時点で私達9人の誰にも気づかれる事なくこの建物に潜んでいられるとは思えない。
いくら考えても答えが見つからないので、私はこの事について考えるのを止めた。
- 110 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時37分26秒
- 圭ちゃんは矢口の死体を発見してからは事務所に連絡を取ろうと、ずっと一階にある電話でダイヤルし続けていた。
電話はまだ復旧しておらず不通になったままなのに、それでも圭ちゃんは同じ事を繰り返していた。
後藤は一見した所、取り乱したりする事もなく静かに押し黙っていた。
しきりに何かを考えているようにも見えたが、それが何かは分からなかった。
辻と加護は私を挟むようにして、ぴったりと寄り添っている。
二人ともひどくおびえており、それは私にも痛いほど伝わってきた。
- 111 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時40分16秒
- 圭ちゃんが事務所に電話をかける事をあきらめて広間に戻ってきた。
その表情はとても憔悴しており、少し普通ではなかった。
私は今日こそ事務所の人達が来てくれると期待していた。
道が不通になっていて昨日は来れなかったのなら、さすがに今日は道が復旧されるか何らかの方法でここまで来てくれるだろう。
しかし、それは淡い期待であるという事に私は内心気づいていたのかもしれない。
はたして私の予感は当たり、今日も誰一人として来る事はなく再び夜になった…
- 112 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時41分57秒
- どうして誰も来てくれないのか?
道が不通になっていたとしても、つんくさんが亡くなっている事は伝わっているはずである。
だとしたら、それこそヘリコプターでも何でも使って、救出に来てくれてもいいようなものである。
また、もし何らかの理由で初日の圭織の連絡が事務所に伝わっていなかったとしても、電話も不通になっているのだから昨日の朝からずっと事務所とは連絡が取れてない。
この場合も様子がおかしいと、状況を調べに事務所の人が来てくれるだろう。
- 113 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時45分35秒
- そのどちらもないという事は実は事務所の人達もすでに全員殺されて、もう世界には私達しか生き残っていないのではないか?
ついにはそんなあり得ない妄想まで考えてしまうようになってきた。
もう何もかも理解できない事ばかりだ。
全てを投げ出したい気持ちになったが、車も運転できない私達はここから逃げ出す事すらできない。
どうする事もできず自暴自棄になりかけていた私に、圭ちゃんがさらに追い打ちをかけるように口を開いた。
- 114 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時47分08秒
- 「なっちがやったんでしょ?」
「えっ、な…何の事…?」
圭ちゃんの言っている意味はすぐに分かった。でも、私はそう返事する事しかできなかった。
「あんたがつんくさん達を殺したのかって言ってるのよ!」
前触れもなく、圭ちゃんはいきなり激高した。
「そんな…、なっちがそんな事するわけないじゃない…。私そんなのやらないよ!」
私は圭ちゃんの急変が怖くてそう答えるのがやっとだったが、それでも圭ちゃんはなおも続けた。
- 115 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時48分43秒
- 「じゃあ、誰がやったっていうの!?ここにはもう私達しかいないのよ!?後藤は私とずっと一緒にいたんだから、あんたしかいないじゃない!」
「でも…それなら、なっちだって辻と加護とずーっと一緒にいたよ…」
「そんなの、辻と加護が寝ている間にやったのよ!」
「そんな…」
圭ちゃんはあきらかに冷静を欠いていた。今の圭ちゃんを説き伏せるのは不可能だと思えた。
- 116 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時52分37秒
- 「証拠が無い事くらい分かってる…。けど、それしか考えられないじゃない!
死んじゃった石川じゃないけど、もうあんたとは一緒にいられない。部屋に戻らせてもらうわ。
さぁ、辻と加護も来な」
圭ちゃんが私を一人にするつもりだと分かって一瞬驚いたが、辻と加護は圭ちゃんの言葉に反発するかのように黙って私に強くしがみついてきた。
圭ちゃんが一緒にいなかった私を怪しいと思うのなら、逆に私達にも同じ事が言える。つまりはそれが辻と加護の答えだった。
辻と加護は私の事を信じてくれている。
今はそれだけで十分だった。
- 117 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時55分09秒
- 辻と加護が返事をしなかった事については、特に圭ちゃんは怒ったりするような事はなかった。
「そう…分かった。好きにすれば。そのかわり、どうなっても知らないわよ。行こう、ごっちん」
あきらめるようにそう言うと、圭ちゃんは階段を上り始めた。
後藤は何も言わず黙って立ち上がり圭ちゃんの後について行ったが、階段の手前で立ち止まると私達の方を振り返った。
「なっち、お願いだから辻と加護だけは助けてあげてね…」
真剣な顔でそれだけ言うと、後藤も階段を上っていた。
- 118 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時57分23秒
- 今の後藤の言葉、どういう意味だったのだろう?
この惨劇を起こした犯人から、私が辻と加護を守れと言うのか?
それとも後藤も私の事を犯人だと思っていて、辻と加護だけは殺さないでほしいという意味だったのだろうか?
分からない。
だから私は後藤に返事をする事ができなかった。
しばらくすると、二階から何か大きな家具のような物を動かす音が聞こえてきた。
おそらく圭ちゃん達が鍵をかけても無駄なのでドアにバリケードを作っているのだろう。
それを聞いて私達も部屋に戻る事にした。
- 119 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)21時58分49秒
- 二階に上がると、圭ちゃん達の部屋から圭ちゃんが後藤に指示する声が聞こえてきた。
とうやら、かなり厳重なバリケードにするつもりらしい。
私は部屋に入ると、一応鍵をかけた。
そして、私達もバリケードを作る為、辻と加護と私の三人で使っていない方のベッドを動かした。
見た目以上にベッドは重く三人がかりでもなかなか動かなかったが、なんとかドアの前まで移動さす事ができた。
- 120 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)22時01分08秒
- バリケードといってもドアの前にベッドを置いただけの簡単なものだが、このベッドの重さなら十分バリケードとしての役目ははたすだろう。
少なくとも寝ている間に何者かに侵入されるという事はないはずだ。
そうこうしているうちに、いつの間にか圭ちゃん達の部屋の方からも音がしなくなっていた。どうやら向こうも終わったらしい。
それから私達は昨日確保していた食べ物を食べた。
今日になって初めての食事だったのでさすがに今回はそれなりの量を食べれたが、それでも辻と加護ほどは食べられなかった。
- 121 名前:第三章 投稿日:2002年11月23日(土)22時02分33秒
- 私は重たいベッドを動かして心身共に疲れた事もあり、その後すぐに寝る事にした。
眠りにつく前、私はこんな事を考えた。
これから圭ちゃんと後藤の二人のうち、どちらかがどちらかを殺すのだろうか?
今の私に二人を心配するだけの余裕はもう残っていなかった…
- 122 名前:能出板 投稿日:2002年11月23日(土)22時04分06秒
- 続く。
- 123 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時05分41秒
- 〜第四章〜
『六人目の犠牲者』
どのくらい眠っていたのだろうか?
なぜか私は急に目が覚めた。
それほど長い時間眠っていたわけでもないらしい。時間にして2、3時間くらいだろうか?
音は全くせず、非常に静かだった。
聞こえてくるのは私の両側にいる辻と加護の寝息ぐらいのものだ。
- 124 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時06分51秒
- 少し首を起こしてドアの方を見るとバリケードもそのままだった。
圭ちゃん達の方のバリケードが崩された音が聞こえた様子もない。
いくら寝ていたとはいえ、そんな事があれば気づかないという事はないだろう。
圭ちゃんと後藤もまだ無事と思えた。
- 125 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時11分18秒
- 少し眠った事によって幾分疲れが取れ、多少冷静に物事を考えられるような気がした。
当然、考えるのはこの別荘に来ての3日間の事だ。
つんくさんやメンバーのみんなが殺されるという異常な事態の中、現実から逃避するように私はわざとこの事を考える事を避けていたが、それでも私はこれまでに何かしら違和感のようなものを感じていた。
いつもと違うのは当然の事である。
でも何かを見落としてる。そんな気がした。
それが大事な事なのかどうかは分からない。それでも私はこの3日間に起こった事実のみを思い返してみる事にした。
- 126 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時16分43秒
- この別荘に来てしばらく私達は各々自由に過ごし、後から来たつんくさんと夕食を食べた。
ここまでは何の問題も感じられない。思い出されるのはみんなと過ごした楽しい時間だけだ。
この時点ではこのような惨劇が起こるなど誰も予想していなかっただろう。もちろん惨劇を引き起こす犯人以外はだが。
その後つんくさんと矢口はつんくさんの部屋に入り、矢口が一人で部屋から出てきた。そして、少し時間がたってから様子を見に行った石川がつんくさんが殺されているのを発見したのだ。
- 127 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時21分13秒
- この時つんくさんを殺す事ができたのは最後につんくさんと会っていた矢口と第一発見者の石川だろうか?
しかし、この時点ではつんくさんが殺されるなど誰も考えていなかった。誰かがつんくさんの部屋に出入りしても気づかなかったという事もあるかもしれない。
そうだすると、つんくさんを殺す事は全員に可能だったと考えておいた方がいいだろう。
- 128 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時22分52秒
- つんくさんが倒れているのを見つけた時、どうしたらよいのか分からず私だけでなくみんな何もできなかったが、圭織は気丈にもつんくさんの部屋に一人で入っていった。
そして圭織はつんくさんの脈を取り瞳孔の反応を調べて、つんくさんが亡くなっている事を確認した。
ここで私は何かひっかかるものを感じた。
それが何かははっきりとは分からない。
しかし、何かおかしくないだろうか?
- 129 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時24分19秒
- この時はその場の流れでリーダーである圭織に全てを任せたが、包丁を胸に刺されて倒れているつんくさんを見て、平気でいられるような圭織はそんな性格だっただろうか?
逆にこんな時、最も最初にパニックを起こして錯乱するメンバーこそ圭織ではないか?
それに圭織がつんくさんの体を調べた一連の行為にも何か違和感を感じる。
脈を取り、瞳孔を調べる。つんくさんが生きているかどうか調べるにあたって非常に正確な行動だ。冷静な判断といえる。
しかし、冷静すぎはしないだろうか?
- 130 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時27分03秒
- 実際、私が圭織が倒れているのを見つけた時、私は圭織の脈があるかどうか調べていないし、瞳孔の反応があるかどうかも調べていない。
そんな事をしなくても目の前の人が死んでいるかどうかは分かるのである。
体に触れた感触、冷たい肌。そしてなにより何度呼び掛けても返事をしない圭織…
そう考えて私は気がついた。
そう言えば、つんくさんの体を調べている間、圭織は一度もつんくさんに声をかけていない。
あれではまるで生きているかどうかを確認するのではなく、死んでいるかどうか確認していた…?
- 131 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時28分52秒
- もしかして圭織はつんくさんが死んでいる事を事前に知っていた…!?
しかし、だからといって圭織が犯人という事はありえない。なぜなら圭織も既に殺されてしまっているからだ。
ではなぜ圭織は率先してつんくさんの死体の確認を行ったのだろう?
そう考えて私は何かひっかるものを感じた。
死体の…確認…?
その次の瞬間、私の頭の中である仮説が浮かび上がった。
それはあまりにも常軌を逸した考えだった。
- 132 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時30分01秒
- しかし、その仮説をふまえて今までの出来事を思い返してみると、全てのつじつまが合うような気がした。
確かめないといけない。
その方法は簡単だ。あの部屋に行きさえすればいい。
- 133 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時31分34秒
- 私はすぐに行動に移した。
ベッドから飛び起き、私の両側で寝ている辻と加護を叩き起こす。
出口を塞いでいたベッドを動かそうとするが一人では思うようにいかないので、辻と加護にも手伝うように言う。
いきなり起こされて状況を理解できずにいた二人だったが、私の真剣な様子にただならぬものを感じたのか、何も聞く事なくベッドを動かすのを手伝ってくれた。
ベッドを動かすたびに大きな音がする。
圭ちゃん達の部屋からバリケードが崩されるような音がした様子はまだない。
今ならまだ間に合うはずだ。
- 134 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時35分34秒
- ドアを開けられるほどの隙間ができると、私は素早く鍵を開けて廊下へ出た。
そして、向かいの圭ちゃん達の部屋のドアを叩く。
「圭ちゃん、開けて!話があるの!
なっち、分かったんだ、みんなを殺した犯人が!
その犯人は私じゃないし、もちろん圭ちゃん達でもない!犯人は…」
そこまで言って、私は口ごもった。
私の頭の中にはすでに誰が犯人か浮かび上がっている。
しかし、それを口に出して言うほどの確信はまだ持てないでいた。
- 135 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時37分57秒
- しかし、そんな事を考えている間も圭ちゃん達からの返事は無かった。
今の状況でこれだけ大きな音をたてているのに、眠っていて気づかないとは思えない。
私は嫌な予感を抑えながらドアのノブに触れた。
ガチャ
ドアに鍵はかかっておらず、ノブは簡単に回った。
鍵をかけても意味がないので圭ちゃん達はバリケードを作った。それでも、一応は鍵はかけておくものではないのか?
しかし、鍵はかかっていなかった。
- 136 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時39分50秒
- 開かないで!
私はなかば祈りながらドアを押した。
しかし、非情にもドアは何の抵抗もなく開いていく。
バリケードがある様子はなかった。押せば押しただけドアは開いていった。
ドン
ドアに体を通せるほどの隙間ができたと思うと、不意に鈍い音がしてドアの動きが止まった。
何かにぶつかったらしい。
私はそれが何かを確かめる為、ドアの隙間に上半身を潜り込まして部屋の中をのぞき込んだ。
それは圭ちゃんだった。
- 137 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時42分48秒
- 圭ちゃんはドアの近くで大量の血を流しながら倒れていた。
そして、そのすぐそばに後藤も同じように倒れていた。
二人ともすでに息はなかった。近づいて調べてみると、石川達の時と同じように首の所が深く切られていた。
「オバケだよ!保田さんも後藤さんも…みんな…みんなオバケに殺されちゃったんだ!」
いきなり辻が非現実的な事を叫んだ。
しかし、圭ちゃんと後藤のどちらかを犯人だと思い込んでいたら、私も同じような考えを持っていたかもしれない。
- 138 名前:第四章 投稿日:2002年11月24日(日)21時46分15秒
- しかし、そんな事はあり得ない。
そう、これはお化けや幽霊によって引き起こされた現象ではなく、人の手によって行われた現実の出来事なのだ。
そう考えても私には怒りの感情も悲しみの感情も、もはやわいてこなかった。
相次ぐ悲惨な惨劇に、とうとう私の精神は麻痺してしまったようだ。
だが今はそれならそれでいい。
私は犯人がどのようにしてバリケードを破り圭ちゃん達を殺したのか、冷静に考える事にした。
- 139 名前:能出板 投稿日:2002年11月24日(日)21時47分48秒
- 続く。
- 140 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)01時36分05秒
- 部屋に戻ってすぐ圭ちゃん達は確かにバリケードは組んでいた。
しかし、ドアを塞いでいたであろうベッドや鏡台などの家具は、今はドアの横へと押しやられていた。
もし圭ちゃん達の意志でバリケードが解除されたのだとしても、その時にはそれなりの大きな音がするはずである。
ではなぜ私達はその音に気付かなかったのだろうか?
いや、そうではない。
気付かなかったのではなく、気付いていたのに気にしなかったのだ。
圭ちゃん達の部屋から大きな音が聞こえても、私達が特におかしいと思わない時が一度だけあった。
- 141 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)01時41分41秒
- それは私達自信もバリケードを作っていた時である。
この時は私達も大きな音をたてていたし、圭ちゃん達の部屋から音が聞こえてもまだバリケードを作っているのだと思っただろう。
しかし、そうではなかった。
私達がバリケードを完成させた時、すでに圭ちゃん達は犯人によって殺されていたのである。
つまり、圭ちゃん達が部屋に入り犯人の侵入を阻む為バリケードを作っている時には既に犯人は部屋の中に身を潜めていたのだ。
圭ちゃん達は私の事を犯人だと思っていたのだから、自分達よりも先に犯人が部屋に入っていたなんて考えもしていなかっただろう。
- 142 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)01時45分28秒
- そして、圭ちゃん達はバリケードを作っている最中、不意をつかれ犯人に襲われたのだ。
見ると圭ちゃんと後藤の頭からも血が出ているように見えた。
おそらく、まず頭を殴られて意識を失った所を首を切られ、完全に命を奪われたのだろう。
私には犯人の察しはついている。
私はそれを確認すべく部屋を出た。
今となっては犯人が判明した所でどうなるわけでもなかったが、それでも何もか分からず殺されるのだけは絶対に嫌だった。
- 143 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)01時48分55秒
- 廊下に出た私は圭織の部屋に入った。
そこでは圭織が無惨な姿のまま横たわっていた。
後に警察の人に調べてもらう為に、圭織にはかわいそうだができるだけ発見時の状況のままにしておいたのだが、もしかしたらもうその必要もないのかもしれない。
せめて背中に刺さっている包丁だけでも抜いてあげたかったが、それはあまりにも根深く刺さっている為、抜くだけでもかなり強い負荷がかかって圭織の体をさらに傷つけてしまいそうで、それすら私にはできなかった。
「ごめんね、圭織…」
- 144 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)01時50分20秒
- 私は圭織のスカートの右のポケットをまさぐった。
予想していた事だが、そこには私が期待していた物は無くなっていた。
一応、部屋の中を見回してみたがやはり無かった。
それだけ確認すると、私は部屋を後にした。
そして、次に私はつんくさんの部屋の前に立った。
ドアのノブに手を伸ばす。
ガタガタ
ノブは回らず鍵がかかっていた。
さっき私が圭織の部屋で探していたのはこの部屋の鍵だ。
だが、鍵は無かった。
それでも私はこの部屋のドアを開けなくてはならない。
- 145 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)01時55分09秒
- その為、私はある物を求め階段を一気に下りた。
「安倍さん、どこに行くんですか!?」
私のいきなりの行動に置いていかれるのかと思ったのか、辻が不安げに大きな声で声をかけてきた。
しかし、私は二人がついてきている事を確認だけすると、それに答える事なく玄関を開け外に出た。
外に明かりは無かったが、月明かりを頼りに深く積もった雪をかき分け、私は庭にある物置を目指した。
辻と加護は玄関の所まで来て、そこで立ち止まっていた。
- 146 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)01時57分46秒
- なんとか物置までたどり着くと、私は戸を開け中にあった一振りの斧を手に取った。
ここに来た初日に後藤と吉澤が薪割りをして遊んでいたものだ。
斧は見た目以上に重く、私の体力では持ち上げるだけでもかなりの労力を要した。
そして、ふらつく足取りで別荘へと戻る。
玄関では辻と加護が不安そうな顔で私の方を見つめていた。
私がこの斧で二人の事を襲うとでも思ったのだろうか?
すれちがう時もかなり二人に距離をおかれているような気がした。
しかし、私が何もしないという事が分かったのか、二人はすぐ私の後をついてきた。
- 147 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)01時59分29秒
- 別荘に戻った私は階段を上り、再びつんくさんの部屋の前に立った。
そしてためらう事なく斧を振り上げドアに叩きつけた。
バキッ!!
ものすごい大きな音が建物中に響いたが、かまわず私は何度も斧をドアに打ちつけた。
バキッ!バキッ!ドカッ!
あまりの騒音に辻と加護はおびえて耳を押さえている。
それでも私は何度もその作業を繰り返した。
ドアに無数の傷ができていき、そしてそれは少しづつ大きくなっていった。
- 148 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)02時01分53秒
- バコン!!
ひときわ大きな音がしたかと思うと、ノブがドアからはずれ落ちた。
それと同時にドアにわずかな隙間ができる。
もしかしたらこの中に犯人がいるかもしれない。
だが、それこそ私の望むところだった。
私は覚悟を決めて、斧でドアを押し開けた。
しかし、部屋の中には犯人はおろか誰もおらず、そしてつんくさんの死体も消えていた。
- 149 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)02時04分36秒
- 「つんくさんの死体が無くなってる…」
加護がつぶやいた。
辻と加護の二人にはこの事実は以外だったろう。
しかし、私には予想できていた事だった。
私は何者かが中に潜んでいないか、警戒しながら部屋の中に入った。
中にはつんくさんの部屋らしく高性能そうなパソコンや大きなモニター、ギターやキーボードといった音楽機材、電話、ロボットの人形等いろいろな物があった。
- 150 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)02時08分12秒
- 部屋の中につんくさんの死体は無くなっていたが、直径1メートル大の血の跡は残ったままだった。
そして、そのすぐそばには確かに『矢口』と書かれた血の文字があった。
しかし今となってはこの文字は何の意味も成さなかった。
私は手に持った斧を床に置いて、血の跡に近づいてみた。
圭織や石川達の血を見た後だから感じられる事だが、少し赤すぎはしないだろうか?
私は血の広がった床に指を強く押しつけて少しこすってみた。
次にその指を鼻に近づける。
- 151 名前:第四章 投稿日:2002年11月26日(火)02時13分11秒
- 独特なにおいがしたが血のにおいではない。これは…絵の具?
そう、ドラマや映画の撮影なんかで使う血のり…、そんな感じだ。
これでついに私は自分の仮説が正しかった事を確信した。
圭織や圭ちゃん達みんなを殺した犯人は…
「つんくさん!?」
突然、廊下から辻が叫ぶ声が聞こえた。
それは私が今まで生きてきた中で最も尊敬する人物の名前であり、私が今最も会いたいと思う人物の名前であり、そして私が今最も恐ろしいと思う人物の名前であった…
- 152 名前:能出板 投稿日:2002年11月26日(火)02時13分43秒
- 続く。
- 153 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月26日(火)17時27分07秒
- いいところで〜。
続きが楽しみです。
更新も早くて嬉しい!
- 154 名前:能出板 投稿日:2002年11月26日(火)23時34分00秒
- 以下続き。
- 155 名前:最終章 投稿日:2002年11月26日(火)23時38分27秒
- 〜最終章〜
『十三人目の犠牲者』
振り返ると辻と加護が部屋の外で、廊下の奥の方を見つめていた。
私は急いで部屋の外に出た。
辻達の見つめる先には、確かに生きたつんくさんが立っていた。
つんくさんの着ている服に血の跡は無い。おそらく着替えたのだろう。
そのつんくさんを見て、私は先ほど抱いた確信が速くも揺らぎそうになる。
なぜなら、つんくさんの顔は普段の優しいつんくさんのそれとなんら変わる所がなかったからだ。
- 156 名前:最終章 投稿日:2002年11月26日(火)23時40分18秒
- 私はつんくさんが生きているであろう事は予想していた。
それでも一度死んだと思っていた人物が実際に目の前に現れると、私はあふれてくる動揺を抑える事ができなかった。
だから、辻の行動への反応が遅れてしまった。
「つんくさん、生きてたんですね!」
辻はつんくさんに向かって走りだした。
「違う!だめっ、辻!」
私は辻を引き留めようと辻の肩をつかもうとしたが間にあわず、私の手は空をきった。
- 157 名前:最終章 投稿日:2002年11月26日(火)23時42分36秒
- 辻はそのままつんくさんの元へ走っていき、つんくさんに抱きついた。
いや、ぶつかったという表現の方が正しかったかもしれない。
その瞬間、辻の動きが止まったかと思うと、辻の体はゆっくりと仰向けに倒れていった。
そして、つんくさんの左手には辻の血で真っ赤に染まった大きなナイフが握られていた。
- 158 名前:最終章 投稿日:2002年11月26日(火)23時45分07秒
- 辻は倒れたまま動かない。
突然の出来事に呆然とする私の横で、何かが風を切る音がした。
続いて加護が床に倒れる音がする。
見ると加護が腕ぐらいの長さの矢に貫かれて倒れていた。
矢は完全に貫通しており、血に染まったやじりが加護の背中から突き出ていた。
つんくさんを見ると、つんくさんの右手には機械じかけの弓矢のような物が握られていた。
「加護!?」
私はしゃがみ込んで加護の体に手をかけた。
しかし、私は加護に刺さった矢を抜く事もできず、どうする事もできなかった。
- 159 名前:最終章 投稿日:2002年11月26日(火)23時50分29秒
- 「安倍さん…、逃げてください…」
加護がかすれる声で私に言った。
「喋っては、だめ!」
そんな加護に対し、私は加護のその手を握ってあげる事ぐらいしかできなかった。
加護の息が荒くなっていく。
「加護!」
私はさらに加護の手を強く握った。
加護も私の手を握り返してきたかと思った瞬間、加護の手からは一気に力が抜けた。
そして、加護の息は止まった…
- 160 名前:最終章 投稿日:2002年11月26日(火)23時52分49秒
- 私はつんくさんが怪しいという事は気付いていた。
それでも私は心のどこかで何かの間違いであってほしいと願っていた。
しかし、今、私の目の前で辻と加護は殺された。
認めなくてはいけない。
これまでの惨劇を引き起こした犯人、それはつんくさんだったのだ。
- 161 名前:最終章 投稿日:2002年11月26日(火)23時56分17秒
- 私は力のなくなった加護の手を離して立ち上がった。
私の見る先にはつんくさんがいる。
聞きたい事は山ほどあったはずだ。
しかし、そのいずれも言葉にはならなかった。
私以外のメンバーが全員殺されてしまった今、何を聞いても何をしても全てが無意味に感じたからだ。
そんな私に対しつんくさんの方が口を開いた。
「誰も気が付かへんうちに終わると思うとったんやが、安倍、お前は俺が犯人やと気付いとったみたいやなぁ。
なんで俺が犯人やと分かったんや?」
- 162 名前:最終章 投稿日:2002年11月27日(水)00時00分37秒
- つんくさんは右手に持った弓矢の機械を床に投げ捨て、左手に持ったナイフを右手に持ちかえながら聞いてきた。
答える必要はないのかもしれない。
しかし、私は今なおつんくさんに逆らえないでいた。
「最初におかしいと思ったのは、倒れているつんくさんを見た時の圭織の反応です。
死んでいるかもしれないつんくさんを見て、圭織があんなふうに冷静でいられるわけがないんです。
あの時、圭織はつんくさんが死んだふりをしているという事を知っていて、私達にはつんくさんが死んでいると嘘を言ったんです。
だからあの後、圭織はつんくさんが死んだと事務所に連絡なんかしていない。
私達と連絡が途絶えたのに事務所の人が様子を見に来ないのは、つんくさんが定期的に事務所に連絡を入れていたから…
そうですよね、つんくさん!?」
- 163 名前:最終章 投稿日:2002年11月27日(水)00時16分16秒
- つんくさんは右手にナイフを持ったまま私をあざけるように手を叩く仕草をした。
「お見事!その通りや。
飯田にはドッキリカメラみたいな事をするて言うておいたんや。
俺が死んだふりをして、みんなを驚かすってな。
だからお前の言うとおり、飯田は俺が死んでるのを見つけた後、事務所に連絡なんかしてへん。
あの時、飯田が電話で話しとったんは事務所の人間やなくて、二階におった俺や。
せやけど、あの時は参ったで。飯田のやつ、お前らがあんまり悲しむもんやから、かわいそうだからみんなに本当の事を話したいなんて急に言い出してよってなぁ。
ほんま、説得すんのに難儀したわ。
それでも何とかその場はおさまったんやけど、その夜あいつ俺んとこに一人で来て、また同じ事言い出してよんねん。
まぁ、その時は説得する必要はなかったんやけどな」
そう、なぜなら圭織はつんくさんに殺されたからだ。
- 164 名前:最終章 投稿日:2002年11月27日(水)00時20分32秒
- 「事務所の人間が来おへんのも、お前の言う通りや。
不通にしたんは一階の電話だけで、俺の自室の電話はちゃんと使えるからな。
事務所へは俺が定期的に連絡を入れとったんや。『メンバー13人、みんな元気にやってます』ってな」
13人!?
私はつんくさんのその言葉を聞いた時、自分の耳を疑った。
しかし、確かにつんくさんは言った、13人と!
- 165 名前:最終章 投稿日:2002年11月27日(水)00時21分37秒
- 13人とは5期メンバーを含む現在のモーニング娘。全員の人数の事である。
しかし、5期メンバーはこの別荘に来てはいない。
当初の予定では5期メンバーも今回の休日に参加する予定だったが急遽5期メンバーだけに仕事が入った為、一日遅れて参加する事になったのだ。
その後、つんくさんが亡くなるという事件が起きた為、5期メンバーが後から来るという話は無くなったのだと私は思っていた。
だが、圭織はその事は事務所に連絡していないのである。
- 166 名前:最終章 投稿日:2002年11月27日(水)00時24分05秒
- ではなぜ五期メンバーはこの別荘に来なかったのだろうか?
ここで私はある事実に気が付いた。
元々は五期メンバーは学業の都合で私達より遅れてここに来る事になっていた。
そして、その五期メンバーを連れてくる予定になっていたのは…つんくさん!?
しかし、つんくさんは一人でこの別荘に来た…
- 167 名前:最終章 投稿日:2002年11月27日(水)00時26分40秒
- 「つんくさん、13人ってどういう事です!?
五期メンバーは…小川達は今どこにいるんです!?」
私は無意識のうちに叫んでいた。
そんな私につんくさんは優しく答えた。
「みんなと同じとこにおるよ…」
- 168 名前:最終章 投稿日:2002年11月27日(水)00時33分56秒
- 私はその事実に、気を失いそうになった。
私は5期メンバーは、この惨劇には関係ないものとばかり考えていた。
しかし、実際はつんくさんがこの別荘に来た時にはすでに、5期メンバーはつんくさんによって殺されていたのだ。
- 169 名前:能出板 投稿日:2002年11月27日(水)00時34分47秒
- 続く。
- 170 名前:最終章 投稿日:2002年11月27日(水)23時59分53秒
- 次々とメンバーが殺される中、いつからか私は自分も含めみんな殺されてしまうのだろうと半ばあきらめていた。
それは最も最悪な状況を覚悟しておけば、その後どんな事が起こっても耐える事ができると考えていたからでもあった。
異常な状況の中で正気を保つ為、強引に自分自身をごまかしていたのだが、私の覚悟の中に5期メンバーは含まれていなかった。
その為、自分が考えていた以上の最悪の状況に自分がいるという事を知った私は、もう平静を保つ事はできなくなっていた。
そして、私の張っていた虚勢は一気に崩れていった。
- 171 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時01分42秒
- 知った所でどうにもならない事は分かっていたし、今のつんくさんが何を考えているのか理解したくもなかった。
しかし、私はついに叫んだ。
「なぜです、つんくさん!?どうして…どうしてみんなを…、なぜ圭織達を殺したんですか!?」
私の問いに対し、つんくさんは真剣に、そしてどこか寂しげに答えた。
「モーニング娘。を終わらせる為や…」
- 172 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時07分20秒
- 「終わらせるって…何ですか?モーニング娘。を終わらせたいんなら、解散でも何でもやればいいじゃないですか!」
「それがそうもいかんのや…」
つんくさんは困ったようにかぶりを振った。
「お前らモーニング娘。は今や自分達で考える以上に強大な存在となっとる。もう俺の一存でどうこうできるもんやない。
事務所の意向としても終わらせる事はできんやろう。
外野が許さんのや。
今や様々な大企業がお前等の人気にあやかろうと大騒ぎしとる。
モーニング娘。に宣伝させれば商品が売れると安易に思うとるようやが、実際に売れんねんやからなぁ。そりゃしゃあないわ」
つんくさんはあきれたように両手を上げた。
「マスコミかて、そうや。お前等の記事を載せるだけで本が売れるもんやから、掲載許可を得るのにみんな必死や。
せやから、最近まではお前等の事を悪く書くようなとこはどこもあらへんかった。
あの読売でさえお前等なしでは今ややってかれへんねんから、ホンマたいしたもんやで」
つんくさんはそこで一息ついた。
- 173 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時10分53秒
- 「しかしや…」
一瞬つんくさんの声が低くなり、緊迫した空気になる。
「この日本ちゅうのは恐ろしい国や。持ち上げるだけ持ち上げといて、飽きたら今度はいっせいになって潰しにかかってきよる。例えば、広末涼子しかり、小泉首相しかりや。最近では浜崎あゆみなんかもそうか?
ようは最初は好意で応援しとっても、実際に成り上がられるとそれはいつの間にか妬みに変わってしまうわけやな。
そして、それはお前等とて例外やない。モーニング娘。に対するマスコミの叩きは、もう始まっとる」
- 174 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時14分03秒
- 一呼吸おいて、つんくさんは私に聞いてきた。
「安倍、お前は矢口から何も聞いとらんかったんか?矢口は近いうちにモーニング娘。を脱退する事が決まっとったんや」
私は何も聞いていなかった。私は無言で首を振った。
「そうか…、保田は気付いとったようやけどな…」
メンバーの中で矢口と一番親しいのは自分だと思っていた私にとって、その言葉は正直ショックだった。その事につんくさんは気付いていただろうか?
- 175 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時28分54秒
- それともそうと知っていて、あえてつんくさんはそんな言葉を付け足したのだろうか?
私がつんくさんの真意を知る間もなく、つんくさんは話を続けた。
「最近、矢口のプライベート写真が流出した噂は知っとるな?あれは噂やなくてホンマやったんや。それもキス写真なんて生半可なもんやないで。アイドルとしては致命的な内容やった。
事務所もいろいろ手を尽くしたが、完全にもみ消す事は無理やという結論に達してな。
今回、問題の写真を手に入れた光文社をおさえはしたが、それも一時的なもんや。今後別の所から写真がもれるかもしれへんし、また新たに別の写真が流出せんとも限らん。
そうゆうわけで光文社と事務所で話をした結果、矢口がモーニング娘。を脱退した後にその問題の写真を世間に出すゆう事で話がついた」
矢口がそんな理由でモーニング娘。を辞めないといけないなんて…、なんてひどい話だろか。
- 176 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時34分52秒
- 「しかし、そんな事をしても無駄な事や。付け焼き刃に水ってやつやな。
たとえ辞めたとしてもモー娘。はモー娘。。結局は本体にも影響が出る。
もちろんその時、お前らの結束がしっかりとしたものなら何の問題もないのかもしれへん。
しかし、矢口が脱退したモーニング娘。がどうなるか、お前には分かるやろ?」
私はつんくさんの言いたい事が分かった。
「モーニング娘。が特にメンバー間で変な確執もなく、今までやってこれたんは矢口のおかげや。
初めてメンバーを追加した時、お前ら初代メンバーが追加メンバーに作っとった壁を取り去ったんは矢口やし、その後メンバーが増えるたびに積極的に追加メンバーとの交流を取っとたんも矢口や。
その結果、矢口は常にお前らの相関関係の中心にいた。
その矢口がいなくなるという事は、それが崩壊するという事や。
そして、チームワークを失ったモーニング娘。に魅力を感じる者はおらんようになる。そうなれば後は落ちていくのみや。
その事をマスコミはおもしろおかしく書き立てる事やろう。
俺はそんなお前らを見たくはなかったんや」
- 177 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時36分32秒
- 「だから殺したっていうんですか!?」
私にはつんくさんの考えが到底理解できなかった。
「それもある…」
つんくさんはメガネを直す仕草をしながら下を向いた。
「しかしそれ以上にお前らにモーニング娘。としてふさわしい今までにあり得へんような壮大な最後を用意してやりたかったんや」
つんくさんは私の方に向き直った。
- 178 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時39分34秒
- 「お前らは気付いてないやろうが、この別荘の部屋は全て隠しカメラでモニターされとる。お前らがここに来てからの一部始終を記録しとったわけや。
これによってお前らの迫真の演技によるドキュメントドラマが完成するっちゅーわけや!」
「ドキュメンタリードラマって…。そんな…そんなドラマ…どこも買ってくれませんよ!」
私の言っている事は正しいだろう。
しかし、つんくさんにはもう私が何を言っても伝わらないのかもしれない。
- 179 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時44分04秒
- 「おいおい、安倍、俺は一度たりとも金の為に何かをした事はないつもりやで。
今回の事かてそうや。別にテレビ局に売る為にやったわけやない。ネットに流すんや。
タイトルは…せやな…『モーニング娘。連続殺人事件』とでもしとくか。
ネットは広大や。あっと言う間に広まるで。日本だけやない。世界中にモーニング娘。の名前が響きわたるんや。
なんせ世界初の超大作スナッフ映像が誕生したんやからな!」
つんくさんは本当に楽しそうに話した。
- 180 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時46分34秒
- 「そんな卑劣なやり方で有名になって、何が嬉しいんです!?」
私はわざと挑発的な言葉を選んだ。
しかし、つんくさんはあくまで冷静だった。
「有名になるとか、そんな事はどうでもええんや。表現者っちゅうのはいつかは人としてのタブー、禁断の領域に踏み入りたい、そんな欲求があるもんなんや…」
そして、つんくさんは右手に持ったナイフを握り直すと、ゆっくりと私に向かって歩みよってきた。
- 181 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時49分19秒
- 「当初の予定では犯人は謎のままにしておくつもりやったが、モーニング娘。の中にもお前みたいな名探偵がおるとはなぁ。いつもお前らは俺の予想をいい意味で裏切ってくれよる。
急遽予定を変更していっきに解明編までやったが、種明かしもこれでしまいや。そろそろエンディングといこうやないか」
つんくさんは私を殺すつもりなのだろう。しかし、恐怖は全く感じなかった。
- 182 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時51分35秒
- それよりも、ただ悲しかった。
メンバーのみんなが死んでしまった事。それを行ったのがつんくさんである事。そして、その理由。全てが悲しかった。
これでモーニング娘。は完全に終わってしまった。
モーニング娘。は私の全てだった。それが終わるという事は、私自身が終わるという事だ。
このつらい現実から逃れられるのなら、つんくさんに殺されるのもいいかもしれない。
- 183 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)00時53分32秒
- そう、これはみんなの事を信じてあげる事のできなかった私に対する罰なのだ。つんくさんに殺される事は、みんなへの罪滅ぼしにもなる。
そう考えると気持ちが急に楽になった。
つんくさんはもう手が届くほどの近くまで来ていた。
つんくさんは右手に持ったナイフを両手に持ち直すと大きく振りかぶった。
そして、それを渾身の力で一気に振りおろした。
これで全てから解放される。
でも…痛いのはちょっとイヤだな。
私はそんな事を考えた。
- 184 名前:能出板 投稿日:2002年11月28日(木)00時54分08秒
- 続く。
- 185 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)22時52分45秒
- つんくさんが振りおろしたナイフが眼前に迫ってくる。
それは一瞬の出来事だったに違いない。しかし私には永遠の時のように感じた。
その間、私はいろいろな事を思い出していた。子供の時の事。学校で友達にいじめられた時の事。オーディションを受けた時の事。5万枚手売りキャンペーン。そしてモーニング娘。としてデビューしてからの事…
モーニング娘。となってからもいろいろな事があった。
しかしどんなにつらい事があっても、メンバー達と支えあい乗り越えてきた。
でも、そのメンバー達もみんな死んでしまった。
- 186 名前:能出板 投稿日:2002年11月28日(木)22時54分46秒
- 圭織も死んでしまった。
モーニング娘。結成時からの唯一の仲間もいなくなってしまった。
圭織とはいろいろあったが、今ではお互いの事を最も解りあった仲間であった。
おかしな考えかもしれないが、この別荘に来て一番最初に殺されたのが圭織だった事は彼女にとって幸せだったかもしれない。
なぜなら、つんくさんが死んでいない事を知っていた圭織の中では、誰も殺される事はなかったからだ。
圭織が殺された後に引き起こされた惨劇は、圭織の性格からは到底耐えられなかっただろう。
- 187 名前:能出板 投稿日:2002年11月28日(木)22時56分49秒
- 石川と吉澤と矢口も死んでしまった。
石川が吉澤と共に部屋にこもると言った時、無理にでも説得して引き止めるべきだった。
そして矢口の事を信じてあげ、みんなで一緒にいるべきだった。
そうすれば石川達だけでなく、その後の惨劇も防ぐ事ができたかもしれない。
- 188 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)22時57分53秒
- 圭ちゃんも死んでしまった。
圭ちゃんに自分が犯人だと疑われた時、正直心のどこかでプライドを傷つけられたという思いがあった。
だから私も圭ちゃんの事を信じてあげる事ができなかった。
くだらない思いにこだわってしまったばかりに、圭ちゃんを救う事ができなかった。
- 189 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)22時59分13秒
- 後藤も死んでしまった。
後藤は私や他のメンバー達と違って、最初から誰の事も犯人だと疑ってはいなかった。私や矢口も含めて、みんなの事を信じていた。
後藤が最後に私に言った言葉「なっち、お願いだから辻と加護だけは助けてあげてね」。あれは私の事を犯人と思っての発言なんかではなく、そのまま言葉通りの意味だったのだ。
- 190 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時00分41秒
- 辻と加護も死んでしまった。
二人は私の目の前で倒れている。
結局、私は後藤の最後の言葉を守る事はできなかった。
何も分からずつんくさんに殺されていった二人は、いったいどんな思いだったのだろうか。
いつも元気で明るかった彼女達。その無邪気な笑いも、もう二度と聞く事はできない。
- 191 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時03分46秒
- 小川、高橋、紺野、新垣も死んでしまった。
オーディションに合格して以降本当の意味でモーニング娘。のメンバーとして認めてもらおうと日々頑張っていた彼女達。
だがモーニング娘。になってしまったがゆえに、彼女達はつんくさんに殺されてしまった。
それでは彼女達は何の為にモーニング娘。となったのか?そしてそんな彼女達の人生とは何だったのか?
それを考えるとあまりにも彼女達が不憫でならなかった。
- 192 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時05分36秒
- みんな…みんな死んでしまった。残されたのは私だけになってしまった。
でも、それも今だけだ。すぐに私もみんなの所に行く事ができる。
連れていってくれるのはつんくさん。それで全てが終わる…
しかし…、私は同時にこんな事も考えた。
- 193 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時11分05秒
- つんくさんは私に「13人」と言った。13人という人数の中にはすでにモーニング娘。を脱退したメンバーは含まれていない。つまり、明日香も彩っぺも紗耶香も裕ちゃんも生きているのだ。今となってはそれだけが唯一の救いだった。
四人の顔がいっせいに思い出される。そして、それに触発されたかのように様々な人達の顔が私の頭の中に浮かびあがった。ハロープロジェクトの仲間達や事務所の人達。テレビやコンサートのスタッフの人達やファンのみんな。お父さん、お母さん、お姉ちゃんに妹の麻美…
多くの優しい思い出に包まれて、私は気づいた事がある。
私はけっして一人なんかじゃない…?
- 194 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時12分59秒
- 私は一人なんかじゃない!
そう強く思った瞬間、私の手が動いた。振りおろされるつんくさんの手に私の手が触れる。それは確かにつかむというよりも触れるという感じだった。そのまま私の手はゆっくりと右へと流れていった。それにあわせて、つんくさんの手が、腕が、肩が、そして体が右へと流されていった。
予測外の私の行動に驚愕の表情を浮かべるつんくさん。そのつんくさんの流された先には十数段に及ぶ階段が開かれていた…
- 195 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時16分30秒
- つんくは階段を落ちていた。
つんくは安倍はあきらめて完全に観念しているものと思っていた。まさか、殺される寸前に生に執着してくるとは少しも思っていなかった。それゆえ彼にとってそれは完全に予想外の行動だった。結果、彼は完全に不意をつかれ、安倍の行動に対処する事ができなかった。
彼は、なぜか昔の事を次々と思い出していた。小さかった時の事、初めて友人とバンドを組んだ時の事、NHK主催の大会で優勝した時の事、デビューしても全く売れなかった時の事…
それでも彼はあらゆる手段を尽くし成功を手に入れた。
その後の彼は常に登り続ける人生となった。しかし彼はいくら登っても登っても安息を得る事はできず、それを求めてさらに上を目指し彼はあがいた。
しかし今、つんくは階段を落ちている。
「そうか、俺はもう登らなくてええんや…」
つんくがそう考えた次の瞬間、つんくの思考はこの世から消えた。
- 196 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時19分21秒
- 私は呆然としていた。なぜ自分の体が動いたのかさえ分からなかった。ただ、昔テレビ番組の企画で柔術を習った事がある。そんな気がした。
私はゆっくりと階段の方を見た。
階段の踊り場につんくさんは異様な格好で倒れていた。動く気配は全くなく、まるで壊れた操り人形のようだった。首も不自然な角度で曲がっていた。おそらくナイフを振りおろした力と自分の全体重を首で受けてしまったのだろう。見ると血もどんどん流れ出てきており、つんくさんの倒れている所が真っ赤に染まり始めていた。
- 197 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時21分06秒
- これでつんくさんも死んでしまい、この別荘にはとうとう私一人だけになってしまった。
そしてつんくさんを殺したのは私。
もちろん正当防衛、事故などの理由で非難される事はない。しかしそれでも私がつんくさんを殺したという事実には変わりはなかった。罪の意識とかそんなものとは違った何かが私の心を押さえつけてくる。
私はふらつく足取りで部屋に戻った。
つんくさんに殺されて床に倒れたままの辻と加護を何とかしてあげたいという気持ちもあったが、今の私にはそれだけの余裕はなかった。
- 198 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時23分34秒
- 部屋に戻った私はベッドに潜り込んだ。
本来ならつんくさんの部屋にある電話で事務所なり警察なりに連絡するべきかもしれないが、とても今のこの状況を説明する気になれなかった。予定での休日は今日までだ。私が連絡しなくても夜があければ事務所の人が来てくれるだろう。それまでは何もする気になれなかった。いったいこれから私はどうなってしまうのだろう…?
- 199 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時26分36秒
- モーニング娘。のメンバーの13人中12人が殺され、しかもそれを行ったのはプロデューサーのつんくさんなのだ。単なる大量殺人としてみただけでも異常な事態だ。おそらく日本だけでなく世界を震撼させるニュースとなるだろう。ある意味つんくさんの思惑はすでに達成されているのかもしれない。
この事を知ったら、みんなはどう思うだろうか?裕ちゃんは?紗耶香は?彩っぺは?明日香は?そして死んでしまったメンバー達の家族の気持ちを思うとあまりにもいたたまれなかった。
- 200 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時28分52秒
- また、ファンの人達はどう思うだろうか?
もちろんみんな深い悲しみに襲われるに違いない。
過去に亡くなった芸能人を追って、後追い自殺をしたファンの話を聞いた事がある。私達のファンの中にも、はやまって同じ様な事をしてしまう人が出てくるかもしれない。それだけは絶対に防がなければならないと私は思った。
- 201 名前:最終章 投稿日:2002年11月28日(木)23時33分06秒
- 復帰したら出来る限りモーニング娘。を愛してくれたファンの人達を励ましてあげよう。それが生き残った私が、亡くなったメンバー達に対してしてあげられる唯一の事だと思えた。
それにしても…、復帰…?
こんな状況になってもソロデビューの事を考える。そんな自分に、私はほんの少しだけ恐怖した。
『モーニング娘。連続殺人事件』
―終―
- 202 名前:能出板 投稿日:2002年11月28日(木)23時35分55秒
- 終り。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
- 203 名前:名無し娘。 投稿日:2002年11月28日(木)23時57分07秒
- よくネタバレの痛みに耐えてココまで頑張った!!
感動した!!!
- 204 名前:りゅ〜ば 投稿日:2002年11月29日(金)13時39分37秒
- 面白かった!
更新も早くてよかった。
お疲れ様です。
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