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東京M高探偵団
- 1 名前:4489 投稿日:2002年11月16日(土)18時37分59秒
- 元ネタありの探偵(ギャング)ものを書きたいと思います。
主役は吉澤です。かなり男っぽい話し方ですがそれは元ネタから来ているんでよろしくお願いします。
かなり長くなると思います。
- 2 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)18時39分15秒
- 賛美歌が流れ始めた。
彼は何もない薄暗い部屋を歩いていた。
彼女は震えながら彼を目で追った。
「助けて!」
自分の出した声が、壁に跳ね返って響いた。
ここの音は外に聞こえないのだと、彼女は思った。
そうでなければ、彼は彼女を黙らそうとしたはずだ。彼は振り向きもしなかった。
彼は何かを引きずって戻ってきた。
青いリボンのついたテディベアだ。2メートル近くある。
彼女の目の前で、彼はそれから手を離した。
彼はポケットからカッターを取り出した。
「!」
彼女は悲鳴を押し殺した。
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2002年11月16日(土)18時40分09秒
- 「・・・・助けて。」
彼女は彼を必死で見上げた。
いきなり彼が動いた。
仰向けのぬいぐるみに馬乗りになる。カッターを振り上げ、一気に胸に突き刺した。
「!!」
彼はぬいぐるみを切り裂いていく。彼の熱に浮かされたようなその横顔を見て、彼女はすすり泣いた。あのぬいぐるみが、ばらばらになった後はどうなるのだろう。
考えられることは一つしかなかった。
ナイフの手を止めた彼がふっと顔を上げた。天井に向かってつぶやく。
「喜んで私は十字架を背負う。」
- 4 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時42分54秒
- ふと目が覚めると、時計は十時半を指していた。
吉澤ひとみは腕を伸ばし目覚ましを手に取って、ながめた。
「・・・・・・うそ」
十時半!?
目覚ましは九時にセットしたはずだ。
「うわーーーーーーーー!!」
寝過ごした!
なんてこった!!
四限にどうしてもはずせない英語の授業が入っている。今日出なければ問答無用で留年だ!
「まずいまずいまずいまずいっ」
どうしてこんなことになるんだろう。万が一のために母に頼んだはずだったのに。
かばんをつかんで階段を駆け下りる。
四限は11時20分からだ。駅まで自転車を飛ばし、電車にかけこみ、バスの扉をこじ開けて乗り込んでも間に合うかどうか。
- 5 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時45分14秒
- 「ばばあ、九時半に降りてこなかったら起こしてくれって頼んだだろ!なんで起こ
して・・・」
キッチンは今日まだ使われてないことを示すように冷えきっている。
あの女起きていない!!確かにまともに勤めている母にとって、今日が貴重な休日
だということは、私だってよおく知っている。
でも、瀬戸際の私は一月分の食事当番を交換条件として、昨夜拝み倒したのだ。
それなのに!!
ひとみは、母の寝室に向かった。
「圭―――――!!」
ドアを蹴り開けて入ったとたん、ドレッサーの前にいた人物が、ギョッとしたよう
に振り向いた。
- 6 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時46分46秒
- 「どうしたの?」
化粧を終え、スーツを着た圭がそこにいた。
娘の剣幕に驚いている。二十歳でひとみを生んだ圭はまだ若い。とても十七の娘がいるとは思わないだろう。
「なにかあったの、ひとみ?」
「何かじゃない、起こしてくれって言っただろう。」
圭はゆっくりと頬に手を当てる。
「あら・・・・・・・・・・・・・・・・忘れてた。」
つぶやいた圭にひとみは頭を抱えた。
「何で忘れるんだよっ。昨日あんだけ頼んだのに!どうしてあんたはいつもそうなんだ。」
圭の物忘れは、今に始まったことではない。幼稚園のときは遠足を小学校のときは参観日を、中学校では入学式さえ忘れ、出勤していた。
「あなたはそんな母に育てられたのよ?」
小さいころ父と死に別れたひとみはそれ以来ずっと圭と二人暮しだ。
「だめよ、それを忘れちゃ」
「そうですね!」
もっともな意見に、ひとみはわめいて返した。
私が甘かった。こんな母を信じた自分が悪いのだ。今度こそは、なんて思っては行けなかったのだ。
情けない。心の中で号泣した。圭を責めても無駄だ。結局自分が寝坊したのが行けないのだから。
- 7 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時48分59秒
- 「もう行ってきます!」
そう言ってきびすを返した。
「お・ま・ち」
背後から強い力のこもった圭の声が飛んだ。思わず足を止める。昔からこの声を無視してろくな目にあったことがない。ひとみは振り返った。
圭が仁王立ちになっている。目だけは笑っていない。
「ひとみ」
笑顔を浮かべながら圭は1歩間合いを詰めた。
「は、はい?」
数歩下がりながらひとみは答えた。圭はすたすたと歩み寄ってひとみにささやいた。
「ばばあ?」
次の瞬間、ひとみの耳をいやと言うほどつねり上げた。
「そういうことを言う口はどの口じゃあ!」
よけるひまなんて無かった。痛い、なんてものじゃない。
「母に向かってなんて口を利くの!?ばばあ!?だれがばばあよ!?こんなきれいなばばあがどこにいるって言うんだよ!?」
「いません、いません。」
このままでは耳がちぎれる。ひとみは必死に答えた。
「ごめんなさい、私が間違っていました。お母さん、痛い!」
- 8 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時50分28秒
- ピンポーン
突然チャイムが聞こえた。
「あら」
鬼が顔を変えた、圭はぱっとひとみを離した。
「誰か来たわ」
「〜〜〜っ」
ひとみは耳を押さえて前かがみになっていた。痛みのあまり涙目になっている。
もちろん、その気になれば圭の手など振り払えた。ひとみは自分の力の強さもわかって
る。そうしなかったのは、これが二人にとって、一種のレクリエーションだからだ。
でも、こんなにしなくていいじゃないか。ひとみはこっそり悪態をつく。くそばばあ、と。
ピンポーン
「ひとみ、出て」
「なんでっ」
反射的にひとみは叫んだ。なぜそんなことが言える?遅刻しそうな娘に向かって。
すでに十時四十五分を回ろうとしていた。
「いいじゃない」
圭は出て行くのが面倒なんだ、と言わんばかりに肩をすくめる。玄関まで十メートルもないのに!?
- 9 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時52分20秒
- 「自分で行けばいいだろ、くそばばあ」
もう出かけようとしているのだ。
「くそばばあ?」
つい口に出してしまった悪態に、圭の眉が動いた。
「! 行きます!」
すぐにひとみは玄関に向かった。どうもこの母は苦手だ。頭が上がらない。
チェーンをはずし、ひとみはドアを開けた。
「困るんですよ、あんたの家の娘さん。」
制服を着た六十ぐらいの男が立っていた。彼はタクシーの運転手のようだった。
「夜の十時に乗ったと思ったら、あっちだこっちだと走り回らせて、鹿島って言うか
ら、茨城かと思ったら、柏って言って、千葉に逆戻り。柏じゅうぐるぐる回った後、
見せてくれたメモをみたら、川下市って書いてあるじゃねえか。川下なら、高速乗っ
てすぐだったんだよ。午前二時に帰庫するつもりだったのにもう朝の十時じゃねえか
。しかもようやく着いたと思ったら、料金米ドルで出すじゃねえか!どこのタクシー
がドルで客乗せるんだよ。日本じゃ円しか使えないって、どうして家で教えてないん
だ?」
・・・はい?
- 10 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時53分33秒
- ひとみはぼうっと立ったままだった。
教えるも何も、娘さんっていやあ、私一人だ。もちろんタクシーなんて乗ってない。
「あのう・・・」
人違いでは、と言おうとしたら、運転手は舌打ちした。
「あんたの妹さんだよ。」
妹?妹がいるなんて聞いたことが無い。
「あのう、うちは娘は私一人なんですけど・・」
「そんなはずはない!俺はちゃんと聞いたんだ。アメリカで留学中の妹が帰ってきたんじゃねえか!」
留学していた妹?一体誰のことだ!?
「いい加減にしてくんな。このメモ、ここの住所だろ?」
ひとみはそれに目を走らせる。メモに間違いは無い。
「ほーら、見てみろ」
運転手は得意げにふんぞり返った。
「ちょっと、何の騒ぎ?」
圭がスリッパを鳴らしてやってきた。
- 11 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時54分27秒
- 「ひとみ、どうしたの?」
「あんたが奥さん?困りますよ、娘さん」
運転手が圭を見上げたとき、外からひょっこりのぞかせた顔があった。
同い年くらいのかわいらしい少女だ。髪はきれいなストレートだ。
む。
くせ毛を持つひとみは彼女に反発を覚えた。
少女はひとみに目もくれず、圭だけを見ている。圭も思い当たることがあるかのように、頬に手をやった。
「・・・あなた、梨華ちゃん?」
「隠し子かよ、おい!」
ひとみは思わず声を上げた。
ひとみを無視して、少女は圭の質問に答えるかのようにうなずいた。
「だってあなた、昨夜『これから行く』って」
「成田で電話したんです。」
「あら、そうだったの」
「じゃあ奥さん、この人はお宅の子なんですね。」
運転手が身を乗り出す。
「ええ」
圭は平然と答えた。
「うそっ」
叫んだひとみをみんなは無視した。
- 12 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時55分43秒
- 「運賃、これだけなんですけど、お支払いいただけますよね」
運転手の出した額にひとみは目を見開いた。一般人の出す額じゃない!
「こちらもドルを受け取るわけにはいけないので」
「両替を忘れちゃって」
「仕方ない子ね。」
圭はカードで支払った。
「ああ良かった。それじゃ毎度」
ほっとして運転手は戻ろうとした。
「ちょっと待って、ついでだから私を成田まで送ってちょうだい。」
「ええ!?」
「ちょっと待った、圭!?」
驚いた運転手を押しのけて、ひとみは圭の前に回った。
「梨華ちゃんがちゃんと着いたなら安心だわ。じゃあ、後のことはよろしく。この馬鹿と好きにやってください」
馬鹿とはひとみのことである。
「わかりました、お気をつけて」
「もちろん」
「よろしくじゃない、もちろんじゃない!さっきからわけのわからないことをべらべらと。こいつの親父は誰だよ?おれのおやじはしんだんだろ!?」
「あら、知らなかったの?再婚したの。梨華ちゃんのパパと」
- 13 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時56分31秒
- 「・・・・はい!?圭さん?」
寝耳に水だ。
「いつ?」
「先週。ハネムーンなの」
「それで出かける用意をしていたの?」
「と・う・ぜ・ん」
圭は鼻歌を歌いながら運転手にスーツケースを渡した。
「これ、トランクにいれてね」
「何でそんな大事なこと、今まで言わないんだよ。」
「言ったと思うわよう。」
「聞いてないよ!」
「やーねえ、また言うの忘れてたのね。」
「圭〜〜〜〜〜!」
「そんな大声出さなくてもいいじゃない。」
「だすよっ!あんたはどうしてそういい加減なんだ!」
「あなたの母よ?」
「知ってるよ!」
「ならいいじゃない。いい子にしててね。」
「まて、このばばあ!」
そのとき、梨華が家に上がっていくのを見た。
- 14 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時57分45秒
- 「ちょっと待て!」
不法侵入する気かと、彼女の後を慌てて追った。
「勝手に入るな!」
「だって今日から、私ここに住むし」
梨華は当然のように言う。
「私は認めない」
「ひとみが認めなくても、もう荷物きちゃうし」
「荷物!?」
「ちわ〜。引越しセンターです。」
絶妙のタイミングで玄関から声がかかった。青いユニフォームを着た男たちが入ってきた。
「ご苦労様です。」
「お世話になります。荷物全部いれちゃっていいんですよね?」
「はい。お願いします。」
梨華がうなずくと、荷物を持った男たちが次々と入ってきた。
作業が始まった。
入れ替わりにタクシーが出て行く。
あのばばあ、本当に行っちまった。
「く〜そ〜ばば〜〜あっ」
ひとみは叫んだ。
- 15 名前:第1章 梨華はある朝突然に 投稿日:2002年11月16日(土)18時58分44秒
- 時計が鳴った。時刻は十一時になっている。
「うっそ!」
ひとみは怒りも忘れてかばんをつかんだ。
遅刻は免れないが、顔だけでも出して、お情けで単位をもらわなければ。
留年だ!!
ひとみは梨華を指差していった。
「あんた、私出かけるから。どこにも行かずに、帰ってくるまでここにいろよ。」
逃げられてはたまらない。
「それはできないよ」
「なんで!?」
あっさり却下され、ひとみは逆上した。梨華はポケットから別のメモを取り出した。
「今日じゅうにここに行きたいの」
「鏡原市、八橋?中澤裕子・・・?」
ひとみは眉をひそめた。ひとみの高校と同じ市だ。
「どこかわかる?」
聞かれてひとみは早口で説明した。そしていえのかぎを渡す。
「ちゃんと閉めて出てよ。三時までには戻っといてよ。」
もうだめだ、タイムリミットだ。
ひとみは玄関を飛び出した。自転車に乗って猛然と走り出す。
まだ七分の電車に乗れる。
四時間目の終了チャイム前には、何とか滑り込めるだろう。
これを逃せば明日は無い!
ひとみの自転車は煙を上げようかというくらいの勢いで、駅に向かっていった。
- 16 名前:4489 投稿日:2002年11月16日(土)19時02分56秒
- とりあえずプロローグと第1章を書きました。
はじめなのでちょっと長めに。
第三章ぐらいでたくさん登場人物が増えると思います。
- 17 名前:チップ 投稿日:2002年11月16日(土)21時57分14秒
- なんか軽快でいいですね〜
よしこ振り回されてるし、続き楽しみです。
頑張って下さい☆
- 18 名前:d b 投稿日:2002年11月16日(土)22時18分49秒
- オモロイ!続き期待!
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月16日(土)22時51分57秒
- 気になったので書き込みました。
私はこの元ネタの小説を愛読してる者です。コ○ルト文庫ですよね。
元ネタというかほとんど文章が同じなのですが大丈夫ですか?
- 20 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月17日(日)00時02分06秒
- みんなで生温かく見守れば大丈夫なのれす。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月17日(日)01時01分08秒
- 少なくとも私は元ネタ読んだことないから大丈夫
- 22 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月17日(日)07時20分09秒
- 荒れるのは嫌なので丸パクならやめとけば。
- 23 名前:4489 投稿日:2002年11月17日(日)11時54分27秒
- >>17,18
ありがとうございます。
>>19〜22
すみません、文章力無いのでとりあえず登場人物がそろうまでは原作と同じような文になると思います。
それまではおおめに見てください。
- 24 名前:第2章 重役出勤 投稿日:2002年11月17日(日)11時58分09秒
- 大体なんで日曜なんかに学校に通わなきゃならねえんだ。
世間さまは休日である。どこを見ても遊びに行く人ばっかり。
ひとみはアスファルトにひざまずき、天に祈りをささげたくなった。だが、追い詰められている十七歳にはそんなひまが無かった。
四限目終了まで、後十五分。
「くっそーーー」
ひとみは汗をぬぐいながら、校門へと走りこんだ。
- 25 名前:第2章 重役出勤 投稿日:2002年11月17日(日)11時59分36秒
- 残り十三分で何とかたどり着いた教室はいつに無く混んでいた。
普段半分も埋まらないのに、今日は満席に近い。
つまり、ひとみのお仲間が、これだけいるという事だ。
学期末ごとに帳尻を合わせる、そんなシステムなのだ。だから、こんな日は自己管理のできない人間がこうして詰め掛ける。
えーと、出席表。
授業のはじめに回ってくる、その紙に学籍番号を書かないと、授業に出ていても出席にみなされる。点呼を取ってくれるような優しい学校ではないのだ。潜在生徒数五千人を超える、この高校で、そんなことをやってられないのだ。
出席表は、教卓の上にあった。
あれを取るのは不可能に近い、とひとみは思った。
時々振り返る教師にばれずに、最後列からほふく前進で近づき、気づかれずに戻らなければならない。
でも、やらねばならない。
今日だけはなんとしても出席していなければならない。
- 26 名前:第2章 重役出勤 投稿日:2002年11月17日(日)12時00分31秒
- 「あのー、吉澤さん」
ひとみははっとした。見ると、内気そうな見知らぬ少女が見ている。
呼ばれた理由がわからず、ひとみは戸惑った。何の用だろうか。
「あのー、出席表のことだけど。吉澤さん、来てなかったから、あたし書いといた。今日出ないと、やばいんだよね。学籍番号これでいいよね?」
うつむきながら、手帳を見せる。
間違ってない。でも、彼女に教えた覚えは無かった。
「勝手だと思うけど・・・留年したら困ると思ったし。絶対遅れても来ると思ったし・・・」
ひとみは言葉に困った。だって、何でこの人私の番号を知ってるの?
彼女は泣き出しそうな瞳で見ている。彼女としては、代返と言う不正行為に、相当の勇気を振り絞ったのだろう。
「ああ、ええと。・・・ありがとう」
助かったのは確かだが、気持ちのいいものではない。
「吉澤さん。・・・がんばってね」
少女は頬を赤くしながら、視線を戻した。
「・・・・」
私の過去を知っているのかあ・・・。
ひとみはため息をついた。
- 27 名前:第2章 重役出勤 投稿日:2002年11月17日(日)12時02分41秒
- 去年の今ごろまで、ひとみはテニスプレーヤーだった。
中学のとき、全国優勝の三連覇を果たし、名門スポーツ校に特待生で進学した。
テニスを少しでもかじったか、ジュニアスポーツに興味のあるものなら、誰でも顔を知っているはずだ。
テレビ取材も何度か受けたことがある。
ところが、試合中のアクシデントで肩をいため、スポーツとしてのテニスをあきらめなければならなくなったのだ。
そのまま名門校を退学した。
それが一年前の夏のことだ。
もちろん、授業料さえ払えば、そのまま在学することもできた。でも、それには、ひとみ自身が耐えられなかった。
そのままだと悲運のテニスプレーヤーのレッテルから逃げられない。
それで今年、この高校に再入学したのだ。
意志さえ硬ければ、誰とも卒業まで、一言も口を利かずにいることもできるだろうと思われる、個人主義のシステム。
それが、ここの志望理由だ。
あまり誰かと関わりたくなかった。
- 28 名前:第2章 重役出勤 投稿日:2002年11月17日(日)12時03分36秒
- こうして隣の彼女のような昔のファンに会うこともある。
同学年をチャンスとばかりに、学籍番号から出席率まで、せっせと調べたに違いない。
こんな日の時に、有効利用するために。
あんまりいい気分しないよなあ。
目を閉じれば、試合に勝ったときの歓声とチームメートにもみくちゃにされた自分が見える。
未練がましいな、私も。
ひとみは苦笑する。どうでもいいがさっきから説明されている、文法はさっぱりわからない。海外遠征もあり、日常会話なら何とかなるが、正しい英訳となるとお手上げだ。
- 29 名前:第2章 重役出勤 投稿日:2002年11月17日(日)12時05分02秒
- ガララララ
突然教室のドアが開き、全員が注目した。
授業終了五分前である。こんな時刻に入ってくるなんて、たいした度胸と言わねばならない。
「・・・・おはよう」
教師が怒りを浮かべながら、ドアを振り向いた。
「社長さん。どうぞ入ってください。」
教師は手招きをした。
げっ。
彼女を見たひとみは青ざめた。
梨華!?
今朝どこかへ行くと言っていた彼女がどうして現れるのか。私が教えた住所はこの近くだが、この高校ではない。
「社長さん。スペシャルな重役出勤にプレゼントあげようか。三十一ページ、丸ごと訳してちょうだい。」
彼は無理やり笑顔になった。
教室じゅうがどよめく。三十行にわたる英文にひとみを含むクラスの8割が本を閉じた。
だが、梨華はまったく聞いてなかった。
ここ、ここ。
静かに、と合図しながら、ひとみは軽く片手を上げる。気づいてかすかにうなずいた梨華に、教師が甲高い声で叫ぶ。
「社長さん!はやく訳しなさい!!」
- 30 名前:第2章 重役出勤 投稿日:2002年11月17日(日)12時06分49秒
- ようやく、梨華は自分のことだと気づいたようだ。悪びれもせず、教師に近づき、教師の本からべらべらと読み始めた。
「確かにこの四年間はナポレオンにとって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・彼の仕事はヨーロッパの平和確立だった。」
驚きのあまり、クラスじゅうが身を乗り出す。
恥を書かせるつもりだった教師は呆然とする。彼だって、こんなに即座に訳す自信はいだろう。
まあ、アメリカ帰りだからな。
ひとみがそんなことを考えていたとき、終了のチャイムが鳴り始めた。
騒ぎにならないうちにと、ひとみはすぐさま教室を出た。気づいた梨華も追いかけてきた。
「待って、ここに出席を・・・」
出席表を差し出した教師は無視された。
- 31 名前:第2章 重役出勤 投稿日:2002年11月17日(日)12時08分32秒
- 「ひとみ」
廊下で、梨華はニコニコとやってきた。
「何であんたがここにいんの?」
まさか編入か、と疑いのまなざしで見る。同じ高校の義理の兄弟なんて恥ずかしすぎる。
ひとみの静かな高校生活はますます遠ざかってしまう。
「ここに行ったら、こっちに行ってって」
梨華は今朝のメモをまた見せた。
「鏡原市、八橋・・・・中澤裕子探偵事務所」
・・・・・探偵事務所?
「ひとみ。保健室どこにあるの保健室」
「保健室?」
「そこに行けって言われた」
「探偵事務所で?」
「うん」
そんなこと言うかーー?
「保健室は一階。まあ無駄だと思うけど」
「どうして?」
まじめに聞いてきた梨華に説明するだけの気力は無かった。
「いい、いい。行こう」
自分の目で見れば納得するはずだ。
ひとみは梨華の背中をたたき、階段を下り始めた。
- 32 名前:4489 投稿日:2002年11月17日(日)12時13分16秒
- すみません、とりあえずこんな感じで、第三章まで行かせてください。
それと後、プロローグは無かったことにしてください。お願いします。
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月28日(木)18時55分50秒
- 続きが気になります
- 34 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)14時59分53秒
- ひとみの通うM高は都内唯一の通信制の女子高である。
普通の高校と違うところは、
1 登校は週1日、好きな曜日を自分で選択する。
2 その代わり、年数十冊のレポートを提出し、単位の認定を受ける。
3 レポートは締め切り厳守。
4 入学に年齢制限が無い。よって、十五歳の少女から、六十代のばあちゃんまでいる。
そして、探偵事務所の出張所がある。一般の生徒は知らない。好きなときに来て、好きなときに帰って良いと、自主性が尊重されるので、その出張所が置かれている場所を訪れる生徒はめったにいない。
普通の学校ならオアシスである場所。
大概のことは、大目に見られる場所。
そう、保健室だ。
人のこないのを良いことに、設置された探偵事務所の出張所。
- 35 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)15時01分25秒
- M高の保健室は、本館とは別に、図書室などがある別館の一階にある。
保健室なんて何年振りかなと、ひとみは思った。
中学時代は常連だった。テニス部でハードな練習をしていたひとみは、授業をサボって、ベッドに潜り込んでいたことがよくあった。
「ここ?」
梨華が尋ねる。
「そう」
ひとみはドアに手をかけた。
「失礼します」
返事は無かった。
「留守?」
梨華に聞かれ、入ってきたドアを確かめる。「CLOSED」の札は無かった。
いるのだろうか?
ひとみは中に入った。梨華も後をついてくる。
ベッドの仕切りの奥に、保険医の机などがあるようだ。
ベッドに手をかけ、ひとみは奥を覗いた。
三人の女性が何かに見入っていた。
- 36 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)15時02分10秒
- パソコンのようだ。眼鏡をかけたおしとやかそうな少女が、キーボードをたたいている。
その両脇に、大きな厚底を履いた金髪の美少女と、ロングヘアーの二十代の美女が立っている。
三人とも、パソコンにくぎ付けだ。ひとみの声も気づいてなかったようだ。
「・・・・あの〜」
再度呼びかけると、美女のほうが、うるさげに、振り向きもしないで手を振った。
静かにしろ、と言いたいのだろうが、恐らく無意識の動作だ。
何をしているのだろうと思いながら、ひとみはそこを動けなかった。強い女に逆らってはいけない、と言う母・圭からの教訓だ。
彼女達の機嫌を損ねたら、ただじゃ済まないだろう。
一段落付くまで、待つしかないと、ひとみは思った。そんなひとみの後ろから、梨華がすたすたと歩き出した。彼女達に近づき、背後からパソコンを覗きこむ。
「!!!」
叫び出しそうなのを辛うじてこらえる。そんなことをしたら、鉄拳が飛んでくるだろう。
梨華、戻れ。
小声で手招きしても、梨華は見向きもしない。
彼女達の邪魔をする気も無いのか、そのままそこで見物を続ける。
- 37 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)15時03分04秒
- 眼鏡の少女の指が、目まぐるしく動く。
画面を見る目は真剣で、片時も離れない。
三人とも生徒だろうか。それとも、十代の二人が生徒で、美女のほうが保険医だろうか。
こんなきれいなお姉さんが保険医なら、もっと早くにこれば良かった。
固まったまま、ひとみはそんなことを考えていた。
金髪の美少女も可愛らしい。露出度の高いミニスカートが似合っている。
眼鏡の少女も魅力的だ。眼鏡を外したら、かなり可愛いはず。
目の保養のために、常連になろうかとひとみが考えていると、小さな電子音が鳴り、叫び声があがった。
「おーおーおー、出る出る出るー」
眼鏡の少女が床を踏み鳴らしている。
「ホントに出たよ。ごっちん、天才!」
「まーね」
ごっちんと呼ばれた眼鏡少女は、得意げに肩をそびやかす。
「あたしにかかれば、こんなのちょろいもんよ。どうする、やぐっちゃん。換金するなら記録するけど?」
金、と聞いて、やぐっちゃんと呼ばれた金髪美少女がごっちんに飛びついた。
「やっほー!いくらになる、ごっちん?あたし、エルメスのバッグ欲しいんだけど。」
「三十万にはなるんじゃない?持ってく場所間違わなければ」
どうやら彼女は、どこかの企業の情報に侵入したようだった。
ハッキング、とひとみはつぶやいた。
これは、いつだったか、新聞をにぎわした犯罪と同じではないのだろうか?
こいつら、何者?実はとんでもない悪人?
- 38 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)15時04分31秒
- 少女たちは、ひとみ達に気づきもせず、話を続けている。
「売りつけるんでしょ。それ?誰が行くの?」
「あたしみたいな子供が行っても、足元見られるだけじゃん。うちには目つきの悪い人が二人もいるから、使わなくっちゃ」
「ああ、紗耶香に裕子か。適材適所ってわけね」
「そういうこと、儲けの一割でお願いしよう。」
「おいおい、おまえら」
黙って聞いていた美女が、ためいきと共に、あきれたような声を出す。
「うちは、れっきとした保健室なの。ここを犯罪者の巣窟にするのは・・・!!」
そこまで行って、彼女ははじめて覗きこんでいる梨華に気づいた。振り向いた二人の美少女も、梨華に気づき、叫んで飛びのいた。その拍子にキーボードにひじがあたり、押されたキーが、どう作用したのかエラー音が鳴り響いた。
ピ―――――――
「・・・、あ―――――!!」
少女が画面を見て絶叫する。画面はブラックアウトしていた。
「三十万が、パー!あたしのエルメス―!」
もう一人の少女も、顔面を蒼白にする。
- 39 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)15時06分55秒
- 「 ・・・ごめんなさい。驚かすつもりは無かったんですけど・・・」
二人の厳しい視線が向く。
・・・まずい!!
危険を感じたひとみは、飛び出して梨華の頭を無理やり下げさせた。
「本当にごめん。邪魔するつもりなんて無かったんだ。ただ、梨華が、中澤って事務所行ったら、ここに行けって言われたらしいからさ。ごめんね。」
息継ぎ無しで言って、梨華の頭を押した。
こう言うときは、ひたすら低姿勢で謝るに限る。
おかあさんありがとう、あなたのおかげで、こんなときの切り抜け方がよく分かります。
- 40 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)15時09分06秒
- 二人の少女は静かに顔を見合わせ、梨華に尋ねた。
「二丁目の事務所で聞いたの?」
「そう、私が中澤さんに会いたいって言ったら。若い女の人が出てきて、こっちに行ったって言うから」
「若いって、目つき悪い人?」
「違う、優しそうな人」
「なっちだ」
少女たちがうなずきあう。
「えーと、あなた」
「石川梨華」
「石川さん、所長はそのうち来ると思いますので、待っていていただけますか?」
「じゃあ、ここで間違い無いんですね」
梨華が尋ねると、彼女はうなずいた。
「圭織先生、お茶お願い」
「あたしのも」
「・・・ハイハイ」
「ちょっと、どういうこと?」
ひとみが説明を求めると、眼鏡の少女は事も無げに言った。
「出張所なの、ここ」
- 41 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)15時11分17秒
- 「へ?」
「事務所なの。中澤裕子探偵事務所M高支部。あたし達、バイトなの」
探偵のアルバイト!?
「何で、高校の保健室にそんなのあるの?」
金髪少女がチラッとひとみを見て、クールに言い放った。
「あるもんは、仕方ないじゃない」
「そう言う問題じゃないでしょ」
言い方にカチンと来て、ひとみは言い返す。
校内にばあさんたちがいるのは許そう。それはいい。けれど、探偵は。
「答えは簡単だ」
圭織先生が人数分のコーヒーを入れて戻ってきた。
「所長を含む全員がここの在学生だからだ」
「出席とか便利だからって、裕ちゃんがわがまま言ったからさあ」
「私が保健室貸すことになったんだ」
どうして、と言おうとしたひとみに圭織は苦笑した。
「遠い親戚なんだ」
ご愁傷様と、ひとみはカップに手を伸ばす。
「いただきます」
- 42 名前:4489 投稿日:2002年12月03日(火)15時18分56秒
- 変なところで切って済みません。
題名入れるの忘れてしまってました。
第三章 保健室の怪
ということでお願いします。
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