やぐちゅーメイン3

1 名前:つかさ 投稿日:2002年11月21日(木)23時13分57秒
つかさです。
3つ目のスレッド立てることになるとは・・・・・。
それもこれも読んでくれてる人のお陰です。

まぁここではやぐちゅーだけではなく、なっちゅーも誕生するかも?(書ければ 笑)

っつ〜ことで、前作からの続きです。
楽しんでいただければ幸いです。
2 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時16分26秒
 それから、数日がたった。
 雑誌の取材を終えて楽屋に戻ると。

「裕ちゃん、もう、痛いべさっっ!!」
「なっちが放せば済むことやろ?」
 なっちと裕ちゃんが雑誌の取り合いをしてた。

 既視感。
 あぁ、そういえば。
 裕ちゃんが娘。にいた頃、よくなっちと裕ちゃんで雑誌の取り合いとかしてたっけ。

「何するのさっっ!!」
「なっちこそ、何するねんっっ!!」

 言葉だけ聞いてると、喧嘩っぽいけど。
 これも二人のコミュニケーションの一貫なんだな、と。
 思わせる程に、二人の雰囲気は穏やかだ。
 それに・・・・・・二人とも、楽しそうだし。

 ・・・・・・・・・矢口が戻ってきたことに、気付かないくらい。
3 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時17分12秒
 何となく、二人を眺めたまま思わず突っ立っていると。
 圭ちゃんが近づいてきた。
「お疲れ、矢口」
 そのまま圭ちゃんも、二人に視線を向ける。
「何で裕ちゃんがいるの?」
 とりあえず、思った疑問を口に出してみる。
 今日は、別のスタジオのはずなんだけど。
「あ〜、何かなっちの家で今日御飯食べるみたいだよ」
 それでお出迎えってわけ?
 相変わらず、誰にでも優しいね〜。
 思わず心の中で悪態をつついてみる。

「まだ、撮影の方は終わってないんだ」
「うん、最後に全員の撮るって話だから・・・・・・もう少し時間、かかるみたいだね」
 まばらな楽屋のメンツ。

「も〜、やめてってば〜」
 なっちの声が一際大きく響く。
「何もしてへんやんっ!」
 裕ちゃんの笑い声。

 見ると、裕ちゃんがなっちを丁度抱き寄せたところで。

「・・・・・・・・・・・」

 矢口はくるっときびすを返した。
「矢口?」
 ちょっと慌てたような圭ちゃんの声。
「コーヒー買ってくる」
 呟くように言うのが、精一杯だった。
4 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時17分48秒
 誰もいないロビー。
 ちょこん、と矢口はソファーに腰掛ける。

 何だかな〜。

 別に、泣きそう、とかそんなんじゃないけれど。
 ってか、泣く資格もきっと矢口にはないんだろうけど。

 ため息すら、出やしない。

 ぼんやりとしていると、後ろからぽん、と肩を叩かれた。
「圭、ちゃん・・・・・・・」
「はい」
 差し出されたのは、あったかいミルクココア。
 自分の分は持ったまま、圭ちゃんは、矢口の隣りに腰を下ろした。

「慰めないわよ?」
 冷たい、とも思えるその言葉に、矢口は小さく笑った。
「慰めて欲しい、なんて思ってないもの」
「矢口・・・・・・・・」
5 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時18分19秒
 ひょんなことからバレた、矢口と裕ちゃんの関係。
『裕ちゃんってなっちと付き合ってたんじゃなかったの?』
 驚いた表情を見せた圭ちゃんに。
『付き合ってるみたいだね』
 静かに告げると。
 大きな眼がすっと細められた。
『ど〜ゆ〜意味?』
『・・・・・・・・そのまんま』
 ぽつり、と答えた矢口に、圭ちゃんは、怒ったような口調で。
『それって、裕ちゃんが二股かけてるって・・・・・・・』
『そうじゃないよ。矢口と裕ちゃんは本当に、身体だけの関係だから』
『は?』
 あんな圭ちゃんの間抜け面、見たの初めてだったかも。
『・・・・・・・・・だから、別に、二股、とかそんなんじゃ、きっとないよ』

 あの人にとって、矢口は、なっちの代わり、でしかないから。
 そして、矢口にとっても、あの人は。
 ただの・・・・・・・・ただの。
 寂しさを紛らわせてくれる、そんな存在にしか、すぎないのだから。
6 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時18分50秒
「ねぇ矢口」
 沈黙を破ったのは圭ちゃんだった。
「関係、まだ続いてるの?」
「・・・・・・・・・・・」
 矢口は、沈黙を守る。
 それが、矢口の答え。

「矢口」
「矢口は」
 圭ちゃんが何が言いたいのか、なんてわかりすぎるほどわかってる。
 矢口は、重い口を開いた。
「裕ちゃんなんて、好きじゃないよ」
 圭ちゃんが、息をのんだ。
「なら、何で」
 続く言葉を矢口はさえぎる。
「だから、矢口は傷つかないし、泣かない」
「・・・・・・・・・・・」
 淡々と話す矢口に、圭ちゃんは絶句したように黙り込む。
「矢口と裕ちゃんのことは、二人がわかってれば、それでいい。矢口はそう思ってるから」
 だから、ほっといて。
 口から出かかった言葉は。
7 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時19分27秒
「矢口、圭坊」
 静かな声にさえぎられた。

「「・・・・・・・・っっ!!」」
 二人して、肩を強張らせた。
 恐る恐る振り向くと。
 何とも言えない表情をして、裕ちゃんが立ってた。
「裕ちゃん、いつからそこに」
 焦ったような圭ちゃんの声。
 矢口は、何も言わなかった。
 ただ、真っ直ぐに、裕ちゃんを見つめていた。
 裕ちゃんも、矢口を真っ直ぐに見つめていた。

 絡みあう視線。
 裕ちゃんは、一瞬切なそうな表情になって、矢口から視線を外した。
 そして、肩をすくめてみせる。
「矢口が、裕ちゃんなんて好きじゃないってあたりから」
 潔い裕ちゃんの言葉に、矢口と圭ちゃんは黙り込むしかない。
「そろそろ時間やって、教えにきてんけど。・・・・・・・・・いや〜、それにしてもショックやな〜。
 矢口がうちのこと好きやないなんて・・・・・・・・、あかん、今晩寝れんかもしれん」

 冗談めかして言う口調は、全然ショックそうじゃなくて。
 からからと笑ってみせる表情は、いつもの裕ちゃんだったけど。
8 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時20分06秒
「裕子・・・・・・・」

「裕ちゃん、遅いっっ!!呼びに行くのにどれだけ時間かかってるんだい?」
 なっちの声がロビーに響き渡った。
「あ〜〜・・・・・・、ごめん、なっち」
「早く終わらせて、なっちの手料理裕ちゃんに食べてもらいたいのに〜」
「はいはい・・・・・ごめんって」
 なっちに腕を掴まれて。
 裕ちゃんは、苦笑い、してる。

「矢口、行こう」
 圭ちゃんが立ち上がる。
「うん・・・・・・・」
 矢口も立ち上がって。
 でも。
 視線があげれない。
 足が踏み出せない。

「・・・・・・・・なっち、圭坊、先行ってて」
 裕ちゃんの声が聞こえて。
 二人が遠ざかっていく足音とともに。
 俯いてる矢口の視線の先に。
 裕ちゃんの靴が眼にとびこんできた。
9 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時20分40秒
 そっと、優しく抱きしめられた。
「裕子・・・・・・・・・・」
 それ以外、言葉がでない。

『裕子なんて、好きじゃない』

 その言葉を撤回できればどれだけ、救われるのだろう。
 でも。
 決して撤回できない。
 しちゃいけない言葉だってのも、自分でわかってて。
 堂堂巡りの矢口の思考回路。

「なぁ矢口」
 すっと顎に手をかけられて、くっと上を向かされた。
 キスする直前のような状態。
 でも、キスが降ってくるわけなんかなく。
 二人して、見詰め合う。

 裕ちゃんの瞳は、穏やかだった。
 矢口の眼は・・・・・・・裕ちゃんに、どう映ってるんだろう。

「何、情けない眼しとんねん」
 ぴん、と鼻の頭をはじかれた。
「・・・・・・・・・だって」
 それでも裕ちゃんから視線を外せなくて、呟くと。
「・・・・・・・・・二人のことは、二人がわかってればええんやろ?」
 そっと頭を撫でられた。
10 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時21分28秒
「裕ちゃんは・・・・・・・何がわかってるの?」
 声が、震えた。
 何て答える?
 ねぇ、裕ちゃん。
 矢口、わかんない。
 わかんないよ・・・・・・・・・。

 やっぱり堂堂巡りの思考回路を断ち切ったのは。

「うちは矢口が大切で。矢口もうちのこと、大切に思ってくれてる」

 裕ちゃんのきっぱりとした声だった。

「それ以外、何かいるんか?」
 自信たっぷりな瞳に。
 優しい腕に。
「いらない」
 そっと身体全体をこすりつけた。

 あぁ、矢口はここにいる。
 絶大な、安心感。

「ん・・・・・・、そろそろいかなヤバイやろ」
 裕ちゃんの腕が離れた。
 足りない。
 拗ねたような矢口の視線に、裕ちゃんは安心したように笑った。
11 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月21日(木)23時22分00秒
「もう、大丈夫やな?ちゃんと笑えるか?」
 うん。
 コクリ、と頷くと、裕ちゃんはちょっと乱暴にがしがしと、矢口の頭を撫でた。
「ほな、いってき。見てるから」
 ぽん、と肩を押されて。
 矢口は歩き出す。
 今の矢口の居場所。

 それは、きっと裕ちゃんの腕の中、安らぎじゃなくて。
 どれだけ辛くたって、しんどくたって。
 自分で選んだ、そして選ばれた。
 矢口だけの居場所。
12 名前:つかさ 投稿日:2002年11月21日(木)23時24分27秒
続きは明日、更新します。
はい、やけくそです。
ま〜じ〜で、仕事、やばいほど忙しいです(遠い目)
13 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月21日(木)23時36分10秒
はぁ〜 矢口切ない…。
明日の更新、楽しみにしております。
仕事がんばってくださいね。
14 名前:読者 投稿日:2002年11月21日(木)23時42分08秒
やっぱりつかささんはスゴイ〜!!
文章に引き込まれる・・・
仕事頑張ってください。
15 名前:素人 投稿日:2002年11月22日(金)14時55分32秒
ああ、スレ名がー。泣。
16 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)01時30分24秒
 ・・・・・・・・・・・・。

 見てるから、とかいいつつ。
 あんだけ優しく抱きしめといて。

『ほな、お疲れ、またな〜』
『またね〜』

 仲良く連れ立って、帰っていった二人組み。

 ・・・・・・・・・・・・・・。

「そりゃ、そ〜だけどさ」
 ぽつりと呟いて。
 それでも。
 がお〜と吠えてみたくなるのは、仕方ないと思う。
「や、矢口?」
 焦ったような周りの声は、とりあえず、気にしない。

「矢口、帰ります、今日も一日お疲れ様でした〜〜っっ!!」
 やけくそ気味に声を張り上げると。
17 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)01時31分36秒
「矢口さんが壊れてる・・・・・・・」
「珍しいよね・・・・・・・・」
 吉澤に石川・・・・・・・、聞こえてるぞ、お前ら。
 ぼそぼそとささやかれる声に。
 普段だったら、ノリ良く突っ込むんだけど。
 な〜んかもう、めんどくさいや。

 さっさと身支度終えて。
 え〜と今日は、この後、オールナイトのラジオか。
 時間・・・・・うん、ぴったりだな。

 忙しいうちが、華。
 バタバタとラジオの打ち合わせに、本番。
 少し反省会があって。
 その日の仕事が終わったのは、1時前だった。
18 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)01時32分26秒
「つっかれた〜〜」
 ぽすっとベッドにダイブ。
 主のいない部屋で何してるんだってちらっと思いつつ。

 何となく、家に帰る気がしなくて。
 どうせ今日は帰ってこないんだろ?
 借りるぜ。
 頭の中の優しい笑顔を見せる存在に断って。
 裕子の部屋のドアを開けた。

 そ〜いえば。
 昔、まだ部屋の鍵をもらってなかった頃。
 ずっと部屋の前で待ってたこと、あったっけ。

 何でいないんだよ〜。
 ぶつぶつそう思いながら。
 でも、何だか動けなくて。
 このまま帰ってこなかったら矢口、どうするつもりなんだろ?
 自分で自分に突っ込みつつ。
19 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)01時33分30秒
 膝をかかえて、裕子の部屋の前。
 空を、見上げていた。

『あんた・・・・・・何やってるん?!』
 驚いたような、焦ったような声。
『空、見てた』
『・・・・・・・うちの家の前でか?』
『うん』
 裕子の顔見て、安心して、少しだけ何かから救われたような気がして。
『んじゃ、矢口、帰るよ』
『ちょ・・・・・・・。何かあったんちゃうんか?』
『別に、何もないよ』
 不思議そうな顔した矢口を見て。
 裕ちゃんは何だか困ったように笑った。

 きっと、今ならわかる。
 寂しくて。
 逢えないときに、裕ちゃんの存在を求めたんだって。
 裕ちゃんが生活するその場所に。
 自分を置くことで、裕ちゃんの存在が感じられるんじゃないかって。

 家の前で。
 膝を抱えて裕ちゃんの存在を探していた、あの頃。
 そして。
 こうやって、裕ちゃんが眠るベッドで。
 アナタの匂いにつつまれながら、それでも。
 裕ちゃんの存在を探してる。そんな今は。
 きっと、裕ちゃんと矢口が一緒に歩いてきた、その証。
20 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)01時34分16秒
 裕子の元気がない時。
 はしゃいでみた。
 いつもみたいに、絡みついてくる腕がなくて。
 温もりがなくて。
 何も気が付かないふりをして、はしゃいでみた。

『何やねん、もう〜』
 呆れたように笑った裕子に。
 少し、嬉しくなった。
『泣いていいんだよ?』
 ふっとこぼれた言葉に。
 裕子は何だか、くしゃっとした笑顔をみせた。

『何であんたにはわかるんやろうね?』
 不思議そうな言葉に。
『好きだから』
 簡単にそんな言葉を返せなかった。

 困らせたくないんだよ。
 だから、今は、このままでいい。
 このままでいい。
 待ってるから。

 いつか、対等に向き合えるって思える日まで。
 封印しよう。
 そう思った言葉。
『裕ちゃんが好きだよ』

 裕ちゃんなんて、好きじゃない。
 そう言わないと。
 抑え切れなくなる矢口の、心。
21 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)01時35分01秒
 ねぇ。
 そんな顔して、他の誰かに笑いかけないで。
 なっちの代わりなんかじゃ、嫌だよ。
 矢口だけを、見て欲しい。
 自分から望んだ、あったかい腕の中。

 でも、それと引き換えに。
 矢口は「好きだ」って言葉を。気持ちを。
 捨てたんだ・・・・・・・・・・・。
22 名前:つかさ 投稿日:2002年11月23日(土)01時36分27秒
続きは明日・・・・死んでます。
レスも明日・・・・・すんません^^;
23 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時17分14秒
 結局昨日の晩・・・・・というか、今日の朝は、寝付けなくて。
「・・・・・・・・矢口、早いね」
 一番乗りで楽屋で机に突っ伏してた矢口に。
 二番乗りは、なっちだった。

「・・・・・・・・なっち」
「おはよう」
 いつものなっちの笑顔。
 でも、なっちも眠れなかったんだな、何となく、そう思った。

「・・・・・・・・裕ちゃんとこ、行ってたんだ」
 鞄をおろして。
 なっちはくんくん、と矢口の匂いを嗅いだ。
「犬かいっっ!!」
 思わず突っ込むと、なっちはくすくすと笑った。
「鼻はいいんだな〜」
 冗談めかして答える口調。
 でも、眼は笑ってないね。

「なっち」
「矢口」
 二人の声がだぶった。

「・・・・・・・・・何?」
 そういえば、こんなシーン、前にもあったような気がする。
「・・・・・・・・・・・なっちね」
 今日は邪魔は入らないよね・・・・・・・・。
「なっち、今は裕ちゃんと付き合ってないから」
 静かな楽屋になっちの声が響いた。
 きゅっと唇を噛み締めて、矢口を真っ直ぐに見つめてくるなっち。
 今にも眼から涙がこぼれそうで。
「ずっと言えなくてごめんね、矢口」
 でも、なっちは笑顔を作った。
24 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時18分02秒
「・・・・・・・・ど〜ゆ〜こと?」
 矢口の声は、震えてたかもしれない。
「・・・・・・・・・・だって、昨日、裕ちゃん、なっちのとこ・・・・・・・・・」
「泊まってないよ」
 少し、寂しそうな横顔。
「もう、なっちと裕ちゃんはそんなんじゃ、ないんだ。ずっと前から」
 なっちの言葉が頭の中をぐるぐると回る。
「ずっと前からって・・・・・・・・・」
 やっと言葉をつむぎ出せた。

「なっち、まだ裕ちゃんのこと・・・・・・・・」
 なっちは首を振った。
「昨日、裕ちゃんに言われた。『うちが一番好きで、一番大事に思ってるのは矢口やから』
って。『矢口傷つけるような真似したら、いくらなっちでも許さんから』って」

「なっち・・・・・・・・・・」
 どんな思いでその言葉をなっちは聞いたんだろう。
 矢口の複雑な想いが表情に出ていたのか。

「聞いてくれる?」
 なっちは静かに話し出した。
25 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時18分57秒
 裕ちゃんとはね。
 一杯いろんなことあったよ。
 ずっと怒りんぼって思ってた。
 何であんなに怒るのかわかんなかった。
 喧嘩したし、泣いたし。
 でも、裕ちゃんが泣くことってあんまりなかったような気がする。

 ん〜〜、泣き虫ってのは知ってたけど。
 なっちの前で弱さを見せる、とかそんなのはなかったんだよね。
 本気で怒って、喧嘩した。
 違うや、喧嘩になってならなかった。
 子ども扱いばっか。
 それが悔しくて。

 ごっつぁんが加入してきた時。
 何だか、娘。の雰囲気が変わったんだよね。
 今までは、何してても、なっちだった。
 目立とうとしなくても、自然と前にいてるのが当たり前。
 そんな風にいつの間にかなっちゃってたんだ。

 いつの間にかそんな風に思ってたんだ、自分でも・・・・・・・・。
26 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時20分31秒
『な〜にぶ〜たれとんねん?』
『・・・・・・・裕ちゃん』
 収録が終わって。
 楽屋で帰り支度してたら、いつの間にか裕ちゃんと二人っきりだった。
『・・・・・・・・何でもないよ』
 裕ちゃんと言い合う気もしなくて。
 先に眼をそらしたのはなっちだった。

『ぶ〜たれてるってのは認めるんや?』
 何だか、いやに挑戦的な裕ちゃんのセリフに。
『ぶ〜たれてなんかないっっ!!なっちはいつも通り頑張ってるっ!!』
 思わず声を荒げてしまった。
『カメラの前でしゃべりもせんとにこにこお人形みたいに笑っとるのがあんたの言う
頑張ってるってことなんか?』
 ・・・・・・・何それ?
『なっちはお人形なんかじゃないっっ!!』
 叫んでた。
 その時、初めて裕ちゃんと眼があった。
 裕ちゃんは・・・・・・・今まで見たこともないような厳しい眼をしてた。 
『今、うちと喧嘩してるあんたはお人形やないよ。でもな』
『聞きたくない』
 拒絶の言葉を裕ちゃんは、簡単に無視した。
『悔しくないんか?』
『・・・・・・何が?』
『わかってるはずやで?』
27 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時21分25秒
 真っ直ぐな言葉と、真っ直ぐな眼。
 ・・・・・・・・なっちの本当の気持ちが引きずり出される。
 嬉しそうな顔で慕ってくれる可愛い後輩。
 大舞台で、大失敗やらかしそうなのに、天性の勘でそれをこなしていく13歳。
 ・・・・・・・・なっちがいるはずの場所を簡単に奪っていった。

『うちらは仲良しこよし、それでいいグループなんか?』
 自分でも眼が潤んでくるのがわかって。
 でも、裕ちゃんは言葉を止めなかった。
『あんたの後ろでうちらがどんだけ悔しい思いしたか、してるかわかってたんか?』
『・・・・・・・なっちはっっ!!』
 そんなつもりじゃなかった。
 でも、言葉がでなかった。
 本当はわかってた。
 なっちが運が良くて。
 恵まれてて。
 それを笑って受け止めてくれる人たちがいて。
 だから、なっちは笑えたんだ。
 なっちを支えてくれる人がいなかったら。
 なっちは一人じゃ笑えなかったよ。
28 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時22分13秒
『なっち・・・・・・・諦めるのは、しょうがないや、これでいいやって思うのは簡単やねん』
 いつのまにか、裕ちゃんがなっちを抱きしめていた。
『でもな。悔しい気持ち忘れたらあかんねん』
 独白のように続く裕ちゃんの言葉。
『上は目指さな見えてこえへんねん』
 
 裕ちゃんの言葉がなっちの身体に染み渡る。
 裕ちゃんの言葉がなっちの身体に力を与えてくれる。

『なぁなっち』
 ふって裕ちゃんが笑った。
 情けなさそうな、でも、誰よりも強い真っ直ぐな瞳がなっちを見つめていた。
『うちは負けへんで。なっちにも・・・・・・後藤にも。そして自分に』
『うん』
 確認するように呟かれる言葉が。
 何だか嬉しくて。
 変な感情だったけど。
 なっちをライバルとして見てくれてるって。
 嬉しくて。

 笑ったら、裕ちゃんは苦笑い、してた。

『やっぱりなっちには笑ってて欲しいな』
 くしゃって頭をなでられた。
 うち、何が言いたかったんやろ?
 首を傾げてる裕ちゃんがおかしくて。
29 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時23分11秒
 でも、さ。
 裕ちゃん。
『なっちの味方でいてくれる?』
『当たり前やろ?』

 当然のように返された言葉に。
 何だかもやもやしていた気持ちが晴れていくような気がした。
『なっちはなっちだから。大丈夫だよ?』
 裕ちゃんはなっちの眼を覗き込んだ。
『うん』
 安心したように和らぐ瞳。

 ライバルと思ってくれてありがとう。
 悔しく思ってくれてありがとう。
 怒ってくれてありがとう。
 支えてくれてありがとう。

 一杯のありがとうを裕ちゃんに伝えたい。
 でも。
 ありがとう、の言葉さえ言えずにいた自分は、きっと。
 守ってもらうのが当然で。
 100%甘えきっていたんだね、あの頃・・・・・・・・・・。
30 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時23分54秒
「ずっとなっちは裕ちゃんが好きだったんだ。裕ちゃんの視線がどこを見てるか気付いてからも」
 なっち・・・・・・・。
 矢口はなっちを抱きしめた。
 何かを耐えるように、少し震える肩。
 そんな風にさせたのは自分と・・・・・・・裕子で。
 誰が悪い、とか。
 人の気持ちはどうしようもないものだけれど。
 もし、自分がなっちの立場だったら。
 そう思うと、平静でいられないもの事実で。

 いつからだろう?

 ステージに出る前に震える腕に気付いたのは。
 強がる言葉の裏に。
 弱さと寂しさを感じ始めたのは。

 何もわからなくて。
 裕ちゃんを怖いとしか思わなかった頃。
 私たちはきっと子どもで。
 裕ちゃんは自分の弱さを見せない大人だった。

 いつからだろう?
 守ってもらうだけではなく。
 守りたいと思ったのは。
 裕ちゃんからもらった愛情を返そうと思ったのは。

 絶対的な信頼と。
 100%の愛情。
31 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時24分40秒
 言葉じゃなくて。
 態度で、背中で守ってもらった。
 でも、ねぇ。もう、子どもじゃないよ?
 裕ちゃんの背中を見てるんじゃなくて。
 裕ちゃんと共に肩を並べて歩きたいと思ったのは。

 いつからだったんだろう?

「・・・・・・ずっと、矢口となっちは近くにいたんだよね」
 裕ちゃんを挟んで。
 裕ちゃんに自分を見て欲しくて。
 きっと競い合うようにして、大人の階段を上ったんだ。
「なっち・・・・・・・後悔してる?」
 裕ちゃんを好きになったこと。
 裕ちゃんと・・・・・・・・別れたこと。
「してないよ。するわけないべ」
 きっぱりとしたなっちの声。
「矢口・・・・・・ずっと別れたって言えなくてごめん。矢口がいろいろ考えて辛い思いしてたの
知ってたのに、ずっと何も言えなくてごめん」
 泣き笑いの表情でなっちが矢口の額に、こつん、と額をぶつけてきた。
 今度は矢口が首を振る。
「矢口こそ、ごめん。なっちがいるってわかってたのに裕ちゃん好きになって。何も聞けなかった
のはなっちだけが悪いんじゃないから。ずっと、なっちに辛い思いさせてたのは矢口だって
一緒じゃん・・・・・・・矢口こそ、ごめん、だよ」

 泣き笑いの表情でお互い、見詰め合ってると。
32 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月23日(土)23時25分19秒
「おはよ〜〜」
 ドアが開く。

 あ・・・・・・・・・やば。
 慌てて離れる矢口となっち。

「「お、おはよ〜、圭ちゃん」」
 どもってしまったとこまで一緒。声がはもる。
「・・・・・・・・朝から何やってんのよ?」

 いや、何やってたって・・・・・・・・ねぇ?
 思わずなっちと顔を見合わせて照れ笑い。

 圭ちゃんは矢口となっち交互に顔を見比べて。
「ま、い〜けどね。どうせ裕ちゃんがらみだろうし」
 ・・・・・・・ばれてる。
 なっちと顔を見合わせてくすくすと笑ってると。
「まぁ、あんたらはそ〜ゆ〜感じで笑ってるのが似合ってるよ」
 やさしい顔で圭ちゃんがこっちを見てた。

 ねぇ裕ちゃん。
『矢口〜〜』
 腕の暖かさを信じていいですか?
 何だかとても逢いたいよ・・・・・・・・。
33 名前:つかさ 投稿日:2002年11月23日(土)23時28分17秒
>>名無し読者さん
 これで結構一区切りっす。
 切ない矢口さん・・・・書くの好きかも、と思いつつ(w

>>読者さん
 全然凄くないっす。まぁ・・・・のんびり、ぼちぼちやってきます。

>>素人さん
 わり〜な^^;;<スレ名

はい、今日の更新は以上です。
続きは、月曜日。気が向いたら、明日更新あるかも、です。
34 名前:名無し読者。 投稿日:2002年11月24日(日)15時18分59秒
つかささん最高〜♪
復帰してくれて嬉しいです。
やぐなっちゅー&圭ちゃん・・・
裕ちゃんはいつから、矢口>なっちになったんだろう?とか
いつの時期になっちと別れていたんだろう?とか
別れたことを矢口に言わなかったのはなっちへの優しさなんだろな?とか
圭ちゃんはどういうキッカケでやぐちゅーに気づいたんだろう?
ひとりで妄想して楽しんでいます。(W
はやく続きが読みたくて読みたくてうずうずしてます(W
35 名前:読者 投稿日:2002年11月24日(日)20時03分58秒
なっちゅーの別れシーンとか登場予定あるのかな?
ちょっぴり気になるのですが(w
36 名前:同板作者 投稿日:2002年11月25日(月)17時16分37秒
新スレ、おめでとうございます。
そして、ありがとうございます!

前になっちが言いかけた言葉が判明して、すっきりしました(w
しかし、tsunagiの関係、微妙に揺れ動きそうですね。
どうなっていくのか、楽しみにさせていただきます。

でも、決して無理はなさらないでくださいね。
37 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時19分49秒
 でも、そういう時に限ってタイミングが合わなくて。
 しばらく、裕ちゃんとしゃべってない。
 っつっても、二週間くらいなんだけどね。
 ハロモニの収録で会っても、ほとんど会話を交わすことなく、裕ちゃんは次の仕事に
向かっちゃう。
 どうしても、時間が合わなくて。
 裕ちゃんの家には行ってるけど、すれ違い。

 矢口が家に行ってること、気付いてるのかな?
 そんな風に思ってたら。
 リビングのテーブルの上に、一枚の紙切れを発見した。

「仕事、お疲れさん。最近、痩せたんやない?ちゃんと御飯食べなあかんで〜。
 今日は夕方くらいに仕事終わるから、早く帰るけど、矢口は仕事か?
 裕ちゃん、矢口不足でへこみそ〜やわ。好きやで。         裕子」

 何だか、裕子、と書かれた名前が。
 嬉しくて。
 何度も指でなぞってしまった。
38 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時20分51秒
「メールでやりとりすればもっと早いじゃん・・・・・・・」
 ぼそっとそう呟いたりしたけど。
 メールだと。
 お疲れさん、って、こんな風にやりとりできないよね。
 機械の文字よりも。
 何だか、こんな風なメモの方が、伝わるものってあるのかもしれない。
 ぼんやりと、そう思った。

「今日は歌どりあるから、スタジオに缶詰めだと思う〜。
 もっとじっくり歌いたいなって思うけど、しょ〜がないよね。
 裕ちゃんも仕事、お疲れ様。知らない人いっぱいで相変わらず緊張してるの?
 疲れたら、矢口〜ってちゃんと矢口のとこ、来るんだぞ?
 今日の晩はゆっくりできるんだったら、お酒は禁止っ!
 美味しいものでも食べてゆっくり休んでね。           真里」

 何度かそういうやりとりが続いて。
 でも・・・・・・・・ねぇ。
 やっぱり、裕ちゃんに会いたいな。
39 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時22分02秒
「矢口〜〜、お疲れ?」
 楽屋でぐで〜っとしてると、圭ちゃんが笑いながら尋ねてきた。
「う〜〜ん」
 曖昧な微笑みを返すと、圭ちゃんは、苦笑い、した。
「裕ちゃんも、同じような笑い方、してたよ?」
「・・・・・・・・・・え?」
「さっき、来てた」
 嘘っっ?!
 思わずがたん、と盛大に椅子の音が鳴ったけど。
 気にせず立ち上がる。
「あ〜〜、もう帰ったと思う。何かなっちとしゃべってた」

「・・・・・・・・・・ふ〜〜ん」
 のろのろと、椅子をひいて、もう一度座り込む。
「矢口、撮影中だったから。裕ちゃんも会いたがってたと思うよ?」
 圭ちゃんの慌てたようなフォローに。
「い〜よ、無理しなくても」
 矢口は、口元だけで笑ってみせた。

 ちらっと、なっちの方に視線を向けると。
 なっちは、辻ちゃんと、遊んでた。
「安倍さん、ずるいです〜〜」
 無邪気な辻の笑顔。

 ・・・・・・・・・・・・何だかね〜・・・・・・・・・・・。
40 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時22分45秒
 もう一度机に突っ伏すと。
「ねぇ、矢口」
 真面目な圭ちゃんの声がふってきた。
「はい?」
 自分でも、視線に力がないのがわかったけど。
「そんな、捨てられた子犬みたいな眼、しないでよ」
 圭ちゃんがくすっと笑った。

 い〜じゃんよ、別に。
 ふてくされたような矢口を見ながら、圭ちゃんは口ごもる。
「こんなこと、あたしが言うべきじゃないのかも知れないんだけど」
 ん?
 ちらっと圭ちゃんを見上げるとやっぱり、真面目な顔で。
「裕ちゃんとなっち、付き合ってないよ?」

 ・・・・・・・・・・・・・。
 圭ちゃんがど〜ゆ〜意図を持ってそう言ってくれたのかはわからないけど。
「うん、知ってる」
 ぽつり、と返すと。
 圭ちゃんはちょっと驚いたような顔をして。
「なら、ど〜してそんな顔してるのさ?」
 心配そうに尋ねてきた。
「・・・・・・・・・どんな顔してる?」
 試しに聞いてみた。
「・・・・・・・・・・・・迷子になった子犬みたい」
41 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時23分21秒
 うまく笑えなくて。
 圭ちゃんから視線を外した。
 裕ちゃん。
 ちょっとは矢口に逢いたいって思ってくれてますか・・・・・・・・・?
42 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時28分52秒
 その日の仕事を終えて。
 珍しく早く終わったこともあって、矢口はメンバーと御飯食べてた。

 鞄の中で振動してる携帯に気付いたのは、ほぼ御飯食べ終わってからで。
 ちょっとごめん。
 今日の収録さ〜。
 盛り上がってる席から離れる。

「もしもし?」
「・・・・・・・・・・・今、大丈夫か?」
 少し、弱気な言葉に。
 思わず顔が緩む。
「うん」
「・・・・・・・・・今日、逢われへん?」

 勿論、矢口に異存なんかあるわけなく。
 すぐ裕ちゃんの家に向かったんだけど、どうやら裕ちゃんの方は撮影がおしてるらしく。
「ごめん、遅くなる。ごめんな〜」
 携帯メールに連絡一本。
43 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時29分37秒
 しょ〜がないな〜。
 シャワー浴びて、ソファーでテレビ見て待ってたんだけど。 
 いつの間にか矢口は眠っちゃってたらしい。
「矢口、矢口」
 身体を揺すられる感覚に。
「ん〜〜?」
 ぼ〜っと眼をあけると。
 裕ちゃんの顔がドアップで。
「・・・・・・・風邪ひくで?」
 優しい裕ちゃんの声。

 寝起きのはっきりしない頭。
「・・・・・・何で泣いとるん?」
「・・・・・・・・え?」
 更にびっくりする。
 でも。
 頬に冷たい感触。

「・・・・・・・・・裕ちゃんが泣いたんじゃないの?」
 心当たりがなくて。
 思わず呟くと。
「・・・・・・・あんたな〜。そんなわけないやろ〜が」
 ぺし。
 チョップされた。
44 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時30分16秒
「・・・・・・・・・・裕ちゃん、汗くさいよ?」
「ん?」
 抱きしめられて。
 久々の裕ちゃんの腕の感覚に、匂いに酔いそうになりながら。
 でも、こんな時でも出てくる矢口の中の天邪鬼。
「マジ?ん〜、撮影で汗かいたかな〜?
 ちょお待っとき。シャワー浴びてくるから」
 ちょっと名残惜しそうに裕ちゃんは矢口の身体を離す。
「すぐに戻ってくるからな。眠かったらベッド行っとき?」
 裕ちゃんは、ぽんぽん、と矢口の頭を撫でて。
 ついでのように側にあったぽいっとタオルを矢口に投げてよこすと、スタスタと部屋を出て行った。

 ごしごし、と涙の痕を拭いて。
 裕ちゃんに言われた通り、ベッドに移動してみた。
 少しだけすっきりとした頭で。
 何で矢口、泣いてたんだろ?
 考えてみる。

 ・・・・・・・・・・・・・あぁ。
 昔の夢を、見ていた気がする。
45 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時31分13秒
 夢の中で。
 まだ裕ちゃんは娘。のメンバーで。
 裕ちゃんの機嫌が悪くて。
 何だかぐで〜っとしてて・・・・・・・・。
 目つき、怖いよ?
 四期メンバー、びびっちゃってるじゃん。
 なんて矢口思ってて。

 そして。
 こういう時。
 まず最初に動くのはなっちなんだよね。

『裕ちゃん。どうした?』
『ん〜、別に〜?』
 答えながらも、ちょっと嬉しそうになる裕ちゃん。
 矢口はそんな二人を見ながら。
 動けなくて。

『ありがとな』
 なっちの頭を撫でてる裕ちゃんを見てるしか、できなくて。
 胸のあたりがムカムカしてるのがわかってても。
 見ない振りもできなくて。

 裕ちゃんのしんどさを取り除くのは矢口でありたい。
 裕ちゃんが甘えてくるのは矢口だけであって欲しい。
 湧き上がる独占欲に、矢口の気持ちは振り回されっぱなしで。

『矢口〜?』
 優しい声に、優しい腕に、それだけで満足なんだと。
 自分を騙していたんだよね、あの頃・・・・・・・・・・。
46 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時31分53秒
 いろいろ思い起こしながら、ベッドの上でごろごろしてると。
「何難しい顔しとんねん?」
「はやっっ」
「そら・・・・・・矢口泣いてるから」
 ベッドのスプリングがきしんだ。
「・・・・・・・・矢口が悪いの?」
 上目遣いで裕ちゃんを見上げると。
「・・・・・・・悪いのはうちや」
 優しいキスがふってきた。
「ば〜か」
 お互いが、悪いんじゃん?
 そのまま裕子の首に手を回す。
 離れていかないように。
 矢口だけの裕子でいてくれる、今だけは。

「ねぇ、裕ちゃん・・・・・・・・・」
 続きを。
 深いキスをねだる。

「・・・・・・・・・んっっ」
 甘い口づけが。
 矢口を、溶かしていく。

 罪悪感とか。
 裕子が誰を好きなのか、とか。
 いろんなごちゃごちゃした感情はもうどうでもいい。
 だって。
 この腕の中はこんなにも安心できる。

 こんなにも・・・・・・・・・。
47 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時32分54秒
「矢口・・・・・・矢口、好きや」
 繰り返されるように呟かれる睦言。
「あぁ・・・・・・・、んっっ!!裕ちゃん、裕ちゃん・・・・・・・・」
 しがみつく手に力が入る。
 ねぇ、裕ちゃん。

 裕ちゃんなんか、好きじゃないよ。
 もう、そんなとこ通り越して。
 その身体ごと。
 魂ごと。
 全部、全部。
 愛してしまったのかも・・・・・・・・・・・・・しれない・・・・・・・・・・・。
48 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時33分57秒
「ん・・・・・」
 気だるい、身体。
 ぽんぽん、と頭を撫でられた。

 裕ちゃんの腕にすっぽりくるまれて。
「もぅ、寝るか?」
 柔らかい、声。
「今日さ・・・・・・・何で逢いたい、なんて言ってきたの?」
「・・・・・・・・ん〜〜」
 矢口を抱きしめる腕に、力が入る。

「・・・・・・・・何か、あった?」
 そっと裕ちゃんの瞳を覗き込む。
 意外と、嘘つけないその性格。
「何も、ないよ」

 こつん、と額をぶつけられた。

「・・・・・・・・・・・何で?」
 同じ言葉を繰り返した矢口に。
「ん〜〜」
 曖昧な言葉で返事を濁す、裕ちゃん。
49 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時34分41秒
「何だよ、答えろよ〜〜」
 わき腹をこちょこちょとくすぐってみる。
「っっっ〜〜、こら、やめ〜や〜」
 他愛もないじゃれあい。
「矢口、マジで怒るで?」
 気付けば。
 矢口はベッドに押し付けられていた。
 両手は頭の上で。
 裕ちゃんの手が押さえつけてる。
 裕ちゃんは矢口の上にのしかかった状態で。

「「・・・・・・・・・・・・」」
 思わず、二人、黙りこんだ。
「裕、ちゃん・・・・・・・」
 掠れた声が、出た。
「矢口・・・・・・・」
 苦しくなるくらい深く。
 裕ちゃんは矢口を求めてきた。
 それに応えながら。

 裕ちゃんが、小さく呟いた。
「何で・・・・・・・この前・・・・・・・・好きじゃない、なんて言ったん?」
 反則的な寂しそうな声。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 思わず、沈黙で答えてしまった矢口を。
 やっぱり、裕ちゃんは寂しそうに見つめてる。

 やっぱり、気にしてたんだ?
 ・・・・・・・・嬉しい、って思う矢口は・・・・・・・・・。
50 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時35分35秒
「裕ちゃん、なっちと付き合ってないんだって?」
「は?」
 思いがけないことを言われた、といった感じの裕ちゃん。
「・・・・・・・・・いつから?」
「・・・・・・・・・うちが卒業するちょっと前くらい、やけど・・・・・・・・・・」
 それがど〜したん?
 本気でわからん、といった感じの表情の裕ちゃん。

 アホ・・・・・・・・・。
 矢口は大きくため息をついた。
 もう、一年以上も前の話なのかよ・・・・・・・・・・。

「矢口?」
 心配そうな裕ちゃんの声。

「あのさ・・・・・・裕ちゃんにとって矢口って・・・・・・・・何?」
 ずっと聞きたくて、聞けなかった言葉。
「・・・・・・・・わからん?」
「・・・・・・・・・・・都合のいい女?」
「何でそ〜なんねん」
 裕ちゃんは思いっきり情けない表情になって苦笑い、してる。

 そして。
「矢口はうちのこと、そんな風に思ってたん?」
 好きじゃないって言われるより、そっちの方がショックやねんけど?
 ふわり、と微笑まれて。
 矢口はどうしようもなくなった。
「思いたくなかったよ・・・・・・・でも・・・・・・でもっっ!!!」
 なっちに抱きつく姿とか。
 他の子にだって、一杯手、出しまくってて。
 そう思わなきゃ、矢口が辛すぎるじゃん。
51 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時37分12秒
「そら、ちゃんと言わんかったうちも悪いけど・・・・・・・・・」
 そっと裕ちゃんが矢口のほっぺに手を滑らす。
「うち・・・・・・・・・矢口と付き合ってるつもりやってんけど・・・・・・・・・」

 ぼそり、と呟かれた言葉に。
「・・・・・・・・・は?」
 予想外の言葉を聞いて。
 思わず矢口の口からこぼれた言葉に。
「・・・・・・・・・え?」
 裕子もつられて間抜け面・・・・ってそうじゃなくてっっ!!!

「なら、何でなっちの家に御飯食べに行ったり、そ〜ゆ〜こと、するわけっっ?!」
 思わず叫んでた。
 そしたら。
「別れたからって仲良くしたらあかんって法律はないやろ?」
 裕ちゃんはぽりぽりと頬をかきながら、しれっとそんなセリフをはく。
「ずっと一緒にやってきたし。うちの大事な妹であることは変わらんし」
「は?何だよそれ・・・・・・」
 言葉が出なくて。
52 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時38分44秒
「・・・・・・・・っつ〜か、矢口、もしかしてうちとなっちのこと、ずっと誤解してたん?」
 非常に情けなさそうな裕子の声が部屋に響いた。
「・・・・・・・・・・・・・そりゃ、誤解するだろ」
 それ以外、矢口にどう答えようがあるっつ〜んだ・・・・・・・・。
「何でわからへんかな〜」

 ぼやきのような裕子の声。
 ・・・・・・・・・・・それって、矢口が悪いのか?

『なっち?うん、付きあっとるよ』
『でも、矢口のことも気になるねん』
『なぁええやろ、やらせてぇや』

 ・・・・・・・あのセリフで遊ばれてるって思わないほうがどうかしてるぞ?

 きつめの矢口の視線に、裕ちゃんはちょっと、困ったように視線をあちこちにさまよわせて。
 ぼそぼそと話し始めた。
53 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時39分46秒
 最初はな・・・・・・・・うん、確かに興味本位やってん。
 可愛いな〜とか。
 どんな声で鳴くんやろ〜とか。
 いや、だからそこで殴るな、確かにそれはうちが悪かったけどっっ!!
 でも・・・・・・・ホンマにいつの間にか矢口に惚れてた。
 結構一筋で大事にしてたと・・・・・・・思ってなさそうな顔やな・・・・・・・。
 誰かとどっか行ってもちゃんと矢口のとこ帰ってきてたやん。
 だいたい、合鍵渡す時点で本命やって気付くやろ?

 途中から真剣な眼で矢口を覗き込みながら話す裕ちゃん。
 ・・・・・・・・・・・でも、ねぇ。
 あの。
 その話聞いてると、どんどんむかついてくるんですけど、矢口・・・・・・・・・。

「この、大アホっっ!!!」
 パッシーン。
 いい音がして、裕ちゃんのほっぺに矢口のビンタが綺麗に決まった。
「・・・・・・・何すんねんっっ!!!」
「・・・・・・・殴られて当然のことしてたと思わないわけ?」

 とっても静かな声が出て。
 裕ちゃんがびくっと身体を揺らした。
 髪をかきあげる。
「合鍵渡した時のこと、覚えとる?」
54 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時40分22秒
 え?
 確かあれは。
 裕ちゃんが卒業する前、くらいだったよね・・・・・・・・・。

『・・・・・・・・あ〜これ、渡しとくわ』
『・・・・・・・・何これ?』
『見てわからん?裕ちゃんの家の鍵』
『そんなこと、わかってるよっっ!!!』
 何で矢口にそんなもの渡すのかって聞いてるんだよっっ!!!!
 って凄い思って。

『欲しくないん?』
『そんな聞き方、ずるいよ。
 合鍵、とか。
 意味深じゃん?
 ってか。
 矢口が来て、なっちとかがいてたらど〜すんだよ?
 アホ裕子。
 何も考えてないだろ』

 そう言ったら。
『んじゃ、矢口以外この部屋いれんから』

 って言われたんだよね、確か・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・あんさぁ、アホ裕子」
 あの時から誰もうち、部屋にはいれてないねんで?
 部屋にはって何だよっつ〜突っ込みはともかく。
 アホ裕子って何やねん、とぼそぼそ呟いてるこの馬鹿もほっといて。
「もしかして、あの頃から矢口本命だったとか?」
「・・・・・・・・・もしかしなくてもそうやったんやけど・・・・・・・・・・・」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
55 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時41分06秒
 お互い、しばらく黙りこむ。
 何て言えばいいんだ、こ〜ゆ〜時?
 何か、頭痛くなってきた・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・え〜と、矢口」
 おずおずと、アホが声をかけてきた。
「寝る」
 くるり、と裕ちゃんに背を向けて布団をかぶる。
「・・・・・・・・・・あの、うちは・・・・・・・・?」
「ソファーで寝れば」
 冷たく一言返すと、そんな殺生な・・・・・・・ぶつぶつ呟く声に。
「・・・・・・・・何か文句でも?」
 ぎろり、と布団から顔を出して睨みつけると、アホ裕子はがっくりと肩を落とした。
「いえ、ありません」
 しょぼん、と肩を落として部屋を出て行く姿にちょっと心が痛まなかったっつったら嘘に
なるけれど。

 え〜と、矢口のこの2年は何だったの?
 とかそりゃ、いろいろ思っちゃうわけで。
 それに・・・・・・・・最初はやっぱり、二股かけられてたんだよね・・・・・・・・・。
『なっち〜〜』
 嬉しそうになっちとじゃれあう裕ちゃんの姿。
 なっちは・・・・・・・どんな想いで矢口と裕ちゃんのことを見てたんだろう。
56 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時41分42秒
 何だかな〜。
 眠れるはずもなくて、ゴロン、と寝返りを打つと。
 マグカップが目に入った。

『見て見て、プーさん〜〜♪』
『・・・・・・・・・それ、あんた専用な』
『何でだよっっ!!!』
 せっかくお揃いで買ってきたのにって散々文句言ったら。
『そんなん趣味ちゃうわ〜』
 とか言いながら、大事にしてくれてるとことか。

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 ソファーで寝れば、とか言っちゃったけど・・・・・・・・。
 何とかは風邪ひかないって言うけど・・・・・・・・。
 季節の変わり目には風邪引いてるし・・・・・・・・・。
 ぶつぶつと心の中で自分に言い訳。

 カチャ。
 リビングへ通じるドアを開けると。
 裕ちゃんはまだ、寝ていなかった。
 窓際に立ってぼんやりと、窓の外を眺めていた。
 うっすらと明けかけている空。
57 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月25日(月)23時42分38秒
「・・・・・・・・・何や、まだ起きてたんか?」
 まだ薄暗い部屋。
 裕ちゃんが矢口を見て、笑みを浮かべた。
「・・・・・・・・・・風邪、ひくよ?」
「追い出したん、矢口やん」
 そりゃ、そうだけどさ・・・・・・・。
 ちょっと不満気な顔して裕ちゃんを見ると。

「嘘。ごめんな」
 裕ちゃんはそっと近づいてきて。
 ぎゅっと抱きしめてくれた。

「・・・・・・・・一緒に寝て、いいん?」
 小さな声。
「風邪引かれたら、困るし」
 小さく答えると。
「ありがと」
 優しく、キスをされた。

 好きじゃないって。
 もう、自分の気持ちに嘘は付かなくていいのかな?
 ・・・・・・・・・・。
 好きですって伝えても、いいのかな・・・・・・・・・・。
58 名前:つかさ 投稿日:2002年11月25日(月)23時48分41秒
>>名無し読者。さん
 そうなんです、その妄想の部分・・・・矢口さん視点だと、まったく入らない
んですっっ!!!ってか、矢口さん視点のために、いろんな考えてたシーンを削り
ました・・・・・。まぁなっちの姐さんへの想いは無理矢理入れちゃったけど(w

>>読者さん
 ん〜、とりあえず、番外編2ではあるかな?
 さ〜す〜がに、この話は番外編、入れます。
 ってか、圭ちゃん、ちゃんと微妙に自分の中ではキーパーソンになってるのに、
 全然その話がでてこなかった・・・・・(w

>>同板作者さん
 どうなっていくのか・・・・・いや、これ以上なっちに辛い思いはさせたくない
んで・・・・(w
59 名前:つかさ 投稿日:2002年11月25日(月)23時55分23秒
っつ〜ことで、この話は明日で終了です。
おまけ編っぽい感じかな〜?

まぁ、はっきり言って、あんま長編にする気はなかったんで。
ってか、この話・・・・・
中澤さん「なぁええやろ、やらせてぇや」
矢口さん「・・・・・・・・・」

矢口さん「もう、こんな状態、やだよっっ!!矢口は裕ちゃんの一番になりたいっ!」
中澤さん「え?うちらって付き合ってなかったっけ?」
矢口さん「・・・・・・・・・・・(絶句)」

 このシーンが浮かんだ時はこんな話になるとは全く思ってませんでした(笑)
60 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時16分57秒
 あれから少しはいろいろあったけれど。
 相変わらず矢口は裕子と一緒にいる。

『や〜ぐ〜ち♪』
 抱きしめられて、複雑な表情を浮かべることも少なくなったかも。

 ただ、とりあえず。
『もう絶対浮気は許さないからね?』
『・・・・・・・・・浮気なんかしたことないって・・・・・・・・・・』
 ・・・・・・そこで眼をそらすな、全然信憑性ないぞ・・・・・・・。
 相変わらずだけど。
『矢口だけやって』
 少しはそのセリフ、信じられるようになったかな?

「何、ぼ〜としてんねん?」
 手のひらが目の前で揺れている。
「・・・・・・・・ぼ〜っとしてた?」
「めちゃめちゃな」
 ふわり、とした優しい笑顔にドキっとする。
「・・・・・・・・・・・」
「何やねん?」
 じっと裕ちゃんを見つめていると。
 裕ちゃんは照れたように笑う。
61 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月26日(火)23時17分19秒
今日終了とのっこと・・・残念・・・
でも、番外編?おまけ?があるらしいので楽しみです。
なっちゅーも読みたいな〜。
62 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時17分49秒
「・・・・・・可愛いな〜って思って」
 心の中で思ったはずなんだけど。
 思わず言葉に出てしまったらしい。
 裕ちゃんは固まっている。
「・・・・・・・・・・・・・・どしたん?」
「何だよその反応、めっちゃ失礼っっ!!」
 思わず手をあげると、裕子はからからと笑った。

「矢口の方がむっちゃ可愛いっちゅ〜ねん、矢口、好きやで〜〜♪」
「耳タコだよ、アホっっ!!」
 ぎゅ〜って抱きしめられて。
 照れくさくて、じたばたと腕の中で暴れてみた。

「だって可愛いねんもん♪」
 懲りずに何度でも言ってくるそのセリフ。

 何度もその優しさに救われて。
 でも、甘えるだけの関係じゃ、もうないよね。

「甘えるな〜〜」
 そんなセリフが言える今の関係が嬉しい。
 裕子が弱さを見せてくれたとき。
 裕子が涙を流したとき。
 そばにいれた。
63 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時19分36秒
『泣いていいから』
 初めて自分から裕子を抱きしめたとき。
『ごめんな・・・・・・・・』
『謝るな、アホ』

 大人なふりが崩れて。
 子どもみたいに暴走する裕子。
 それだけ、成長したってことだよね?
 それだけ、信頼してくれたってことだよね?
 裕子だけに重荷を背負わせたくなかったから。
 自分のことはそっちのけで。
 メンバーのフォローをしていた裕子を知っているから。

『あんたらのお母さんちゃうっちゅ〜ねん』

 そう言いながら、優しい眼をしながら、ずっと矢口のことを見ててくれた。
 支えてくれた。

 今度は、矢口が支えるからね。

 違うや。

 支えるし、支えてよ。

 胸張って、笑いあえるそんな関係でいようよ。
 泣きたくなったら裕子のところに行くよ。
 裕子も・・・・・・泣きたくなったら矢口のとこ、おいで?
 他の誰かのとこに行っちゃヤダよ?
 ってか、もう行かせないけどさ。
64 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時21分04秒
 天邪鬼で、強がりで。
 そんなに簡単にSOS出さないのなんて知ってるから。
 寂しくなったら矢口を抱きしめにおいでよ。
 そんなこともできないくらい、落ち込んだら。
 矢口が裕子を抱きしめにいく。

「や〜ぐ〜ち♪」
 ふっと気付くと裕ちゃんが矢口の顔を覗き込んでた。
「何考えてんの?」
「・・・・・・・・裕子のこと」
 何だか恥ずかしくなって、ぎゅっと裕子の胸に顔をうずめる。

「何や今日はやけに素直やな?」
 回されてきた腕があったかい。
「い〜じゃん。・・・・・・・・・・たまには、さ」
 呟くと。
「まぁ・・・・・・・・って、たまにしか素直にならんのかいっっ」
 くすくすと笑いあう。

「ってか裕ちゃん、ここ娘。の楽屋なんだけど・・・・・・・・」
「ん?圭坊、おったんかい?」
「・・・・・・・・・何だかその反応、めっちゃ失礼じゃない?」
 がくっと肩を落とす圭ちゃん。
 でも。
 ごめん、矢口も忘れてたよ・・・・・・・・。
65 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時22分00秒
「もう、このバカップル」
 圭ちゃん、口調は乱暴だけど、眼が笑ってるよ?
「ええやん、バカップルやったらあそこにもおるやろ?」
 矢口を抱きしめたまま、裕ちゃんがちらっと楽屋の別方向に視線を向ける。
「「ん?」」
 矢口と圭ちゃんがそっちに視線を向けると。

「安倍さん〜〜」
 辻がなっちにじゃれついてる。
「「・・・・・・・・・・・・??」」
 良かった、圭ちゃんもわからないみたい。
「辻、なっちの相手に立候補したらしいで?」
 ニヤニヤと声をひそめながら。
 裕ちゃんはいたずらっ子の顔して笑ってる。

「うっそ〜〜っ!!!」
「え、それ本当なの?!」
 思わず矢口と圭ちゃんが叫ぶと。
「あ、こら。そんなでかい声出したら・・・・・・・・・」

 ん?
 と言った感じでなっちがこっちを振り向く。
 最初、裕ちゃんの顔見て・・・・・、矢口、圭ちゃんとその視線が動いて。
 何だかにやけ顔になってる矢口と圭ちゃんと。
 なっちから視線を外して、罰の悪そうな顔してる裕ちゃん。
「ゆ〜ちゃ〜ん〜」
 低い声でなっちが裕ちゃんを呼んだ。
「うわ、ごめん、ごめん、なっち」
「あれほど黙っといてって言ったのにっっ!!!」
66 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時22分48秒
 ぱっと矢口から腕を放して、裕ちゃんは逃げ出そうと試みる。
 運動神経ないっつってる割りにはそ〜ゆ〜逃げ足だけは早いんだね、裕ちゃん。
 思わずど〜でもいい感想を浮かべてしまうほど素早い行動だったんだけど。

 楽屋内を逃げ回る裕ちゃんに、追いかけるなっち。
 なっち、そのおばちゃん走りはやっぱりどうかと・・・・・・・。
「安倍さんはののと遊んでるのっっ!!」
 更に辻がそのおっかけっこに参戦して・・・・・・・・・。
「ちょ、ちょ、何っ?!」
 よっすぃ〜の悲鳴めいた声。
 あ〜、辻の体当たりをまともにくらったんだね・・・・・・。
「チャ―ミーのお弁当・・・・・・・」
 ひっくり返った弁当見ながら悲しげな石川に。

「ん〜〜ムニャムニャ」
 相変わらず君は大物だね・・・・・・・ど〜やったらこの状況で寝れるのか、矢口はとっても教えて
欲しい・・・・・・・・ごっつぁん・・・・・・・・・。

「だ〜か〜ら〜、ごめんって、謝ってるやんっっ!!!」
「許さないべさっっ!!!」
「安倍さんはののと遊ぶの〜」
 相変わらずどたばたと楽屋の中を走り回る三人。
 このままほっとくと被害はさらに拡大しそうなんだけど。
67 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時23分44秒
 も〜、わけわかんないや。
 思わず天井見上げた矢口。

「あんたら、いい加減にしなさいよっっ!!!!」
 ・・・・・・・・・・・・さすが圭ちゃん。
 半ばパニック状態になった楽屋を一喝。
 みんなびくっと動きを止めて、圭ちゃんを見てる。

 元凶の三人と言えば。
「「「・・・・・・・・・・・ははははは」」」
「誤魔化し笑いしても駄目っっ!!!」
 誤魔化し笑いというか、ひきっつってるんだけど・・・・・・・圭ちゃん。
 ぼそぼそと突っ込む矢口の声を聞いてるのか聞いてないのか。

「辻はなっちと遊んでなさい」
 圭ちゃんは、動きを止めたなっちと辻の手をつながせて。
 まだ辻の体当たりくらってもだえてるよっすぃ〜には。
「気合がたりないわよっっ」
 ・・・・・・・・・・・・・・。
 もうちょっと労わってあげようよ、よっすぃ〜完璧に被害者じゃん。
 よっすぃ〜、涙眼だし・・・・・・・・。
 っつ〜か矢口の突っ込みはまったく無視かよ。
 ま、いいけどさ。
68 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時24分30秒
「石川は、さっさとその弁当の残骸を片付けて」
「まだ殆んど食べてなかったんですけど・・・・・・・・」
 泣き出しそうな石川の声に、圭ちゃんは。
「んじゃ、ほら、これ代わりにあげるから、文句言わないのっっ!」

 ・・・・・・・・・・・それ、矢口の弁当なんだけど、圭ちゃん・・・・・・・・・。

「それから」
 くるっと圭ちゃんは裕ちゃんの方を向く。
「・・・・・・・・・いや、圭坊、不可抗力っちゅ〜かなんちゅ〜か」
 必死になって言い訳しようとしてる裕ちゃんの襟首つかんで。
 ぽいっ。
「しばらく娘。の楽屋、立ち入り禁止だからね?」
 にっこり極上の笑みつきで。
 廊下に放り出しちゃった。

 っつ〜か。
 どうして矢口まで放り出されなきゃいけないの?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・圭ちゃん・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
 呆然と廊下で立ち尽くす矢口に。
「あ〜、マジで切れさせてもうたな〜」
 裕子、全然反省してないだろ・・・・・・・・。
「ってか、何で矢口まで?!」
「あんた、その反応、遅いから」
「誰が悪いと思ってるんだよっっ!!!」
「あんたと圭坊がでかい声出すから」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
69 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時25分20秒
 がっくりと肩を落とした矢口の頭をぽんぽん、と裕ちゃんは叩く。
「まぁ、っつ〜ことで、うちの楽屋、行きますか?」
 後一時間もしたら、圭坊の怒りもおさまるやろうし。
 そう言って、矢口の顔を覗き込んでくる裕子。
「・・・・・・・・・・確信犯?」
 じろり、と裕子を睨みつけると。
「まっさか〜。棚ボタやな、とは思ってるけど」
 クスクスと笑う。

 盛大なため息で答えた矢口に。
「好きやで」
 肩に腕を回されて。
 相変わらずなセリフに。
 まぁたまには。
「・・・・・・・・・矢口も好きだよ」
 そっぽ向いて呟くと。
「・・・・・・・・・へ?」
 間抜けな返答。
「裕子ば〜か」
 裕子の腕から抜け出して。
 背伸びをして、ぺちん、と裕子の額を叩いてやる。
 裕子があんまりにも間抜け面してるから。

「大好きだからね。覚えとけよ?」
 最高級の笑顔付きで。
「・・・・・・・・・うわ、何かめちゃめちゃ、ドキドキするんやけど・・・・・・・」
 お?
 裕子、真っ赤になっちゃってるじゃん。
「ば〜か」
 矢口まで恥ずかしくなるじゃん。
70 名前:ホントウの理由 投稿日:2002年11月26日(火)23時26分26秒
「ほら、裕子、行くよっっ!」
 んでもって、ガラにもないことしちゃったりするんだけどね。
 何だか動こうとしない裕ちゃんに手を差し出すと。
「初めてちゃう?」
 そっと矢口の手を取りながら、裕ちゃんは照れくさそうに笑った。
「・・・・・・・・・何がさ?」
 聞かなくてもわかってるけど、一応聞いてみる。
「わかってるくせに」
 ぎゅっと握ってる手が強くなって。
「裕子がアホだから悪いんだろ〜がっっ!!」
「はいはい」
 やっぱり、嬉しそうな声に。
 矢口も自然と頬が緩むのがわかる。

 い〜んだ、バカップルだろうが、裕子がどんだけアホだろうが。

 ねぇ、ずっとこうやって歩いていけたらいいね・・・・・・・・・・。

                                   【end】
71 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月26日(火)23時47分24秒
すいませんm(._.)m
レス書いてる間に更新・・・
更新途中にレスになってしまいました・・・すいません(汗
リアルで読めて感動です。
終ってしまったんえですね(涙
つかささんの小説大好きなので又すぐ次の作品書いて下さい(w


72 名前:つかさ 投稿日:2002年11月26日(火)23時48分21秒
>>名無し読者さん
 はい、本編はこれで終了。っつ〜か、なちのの、初めて書いた(汗
 きっと、これが最初で最後でしょう。
 基本的に、中学生組みと年上メンバーって絶対自分の中では無理な設定なんで。

>>素人○吉
 ど〜だ、見たかっ、読んだか〜。
 これが自分の精一杯(w<なちのの
 今後の辻さんに期待っちゅ〜ことで。
 ま、どっちにしろ、なっちは姐さんのもの♪(ww

 な〜んかラストだけ妙にテンションが高いような気もしつつ・・・・(笑)
 矢口さん視点、本編はこれで終了です。
 結局こ〜ゆ〜オチにしかもってこれないんです、すいません(笑)
 今、番外編、保田さんと中澤さん書いてます。
 さくさく更新できればいいんですが・・・・ちょい、構成で迷ってる部分もあり。
 来週月曜日からまたアップしたいです。
 ・・・・・・再来週になっちまったらごめんなさい^^;;
73 名前:つかさ 投稿日:2002年11月26日(火)23時53分09秒
>>名無し読者さん
 ってまただぶっちゃいましたね(笑)
 まぁタイミングの問題で。
 レス頂けるのはすげ〜嬉しいんで、気にしないでください^^

 次の作品ってか、番外編はだいたいまとまってるので、結構すぐかな〜?
 今度こそギャグっぽくいきたいんで、多分そんなにはお待たせしないかと。

 そ〜いや、某所で、tsunagi、鬼畜姐さんと予告したけど、ちゃんとtsunagi、
 鬼畜姐さんになったんだろうか・・・・・・?(汗)
 まぁ、本人ギャグのつもりで書く番外編、お楽しみに・・・・(ちょい弱気 笑)
74 名前:たむ 投稿日:2002年11月27日(水)01時46分55秒
短期間での濃いぃお話と更新お疲れさまでした。
つかささんの書く“裕ちゃんと矢口さん”スゴイ好きですわ。
鬼畜なハズなのに、裕ちゃんだとそう見えないところが素敵でした(w
番外編も楽しみに待ってます。
75 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月29日(金)08時21分28秒
感想は直接。
お疲れさん。なっちゅー頼んだ。
76 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月02日(月)13時12分56秒
死ぬほど待ちどうしかった月曜日がやってきました(w
楽しみです。
77 名前:同板作者 投稿日:2002年12月02日(月)16時16分22秒
矢口さんのお弁当を、石川さんにあげる圭ちゃん、ナイス!!
勉強させていただきました。
って、食い付くとこはそこなんかっ!!…って感じですが…(w
もちろん、つかささんのやぐちゅーは最高!
なっちの相手の、意外さにもやられました。
78 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)01時59分04秒
「「乾杯」」
 いつもの居酒屋で。
 保田は中澤とビールジョッキを傾けていた。

「まぁ、一時はどうなることかと思ったけど」
「ん〜?」
 保田の意味ありげな視線に、中澤は苦笑い、した。
「矢口、大事にしないと怒るわよ?」
「めっちゃ大事にしとるっちゅ〜ねん」
「とてもそうは思えないわね、今までの態度見てると」
 あっさり言い切った保田。
「・・・・・・んじゃ、もっと大事にするわ」
「やけに素直だね?」
「うるさいっちゅ〜ねん」
 こつん、と中澤は保田の額をこづく。

『いろいろ心配かけてごめん。でも、ちゃんとうまくいったよ』
 嬉しそうな顔して報告してきた矢口。
 なっちと矢口の関係が少し心配だったけど。
 なっちも矢口もいつも通り、ふざけ合ってるのを見て、安心したり。
 まぁ。
79 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時00分16秒
「もう一年たってるんだもんね・・・・・・・」
 ん?
 思わず口を突いて出た言葉に中澤は不思議そうな顔をするが、何も言わずにビールを口にする。
「よく一年も黙ってたわね〜?」
「何のこと?」
 とぼけた顔をする中澤だが、保田はさらに追求する。
「なっちと別れたこと」
 中澤はしばらく無言で保田の顔を眺めていたが。
「まぁ、いろいろ迷惑かけとったみたいで」
 いつになく殊勝に謝罪の言葉を口にする中澤。
 
「ほんっと、最初矢口から、『矢口と裕ちゃんはただのセフレだから』って聞いたときは本当に、
もう・・・・・・・・」
 どうしてやろうかと思ったわよ。

 あながち冗談でもなさそうな保田の口調に、中澤は肩をすくめた。
「どうもされんで良かったわ」
 あんた怒らせたら怖いもん。
「ど〜ゆ〜意味よ?」
「言葉通りの意味やんってか、そろそろ娘。の楽屋出入り解禁にしてくれてもえ〜んちゃう?」
80 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時01分00秒
「うるさい楽屋、さらにうるさくしないでくれるんならね」
「・・・・・・・・・別に、うちがうるさくしとるわけちゃうやん」
 中澤は中澤なりの言い分があるようで。
「・・・・・・・・・まぁそれはそうだけどさ」
 保田は情けない表情する中澤を見て、クスクスと笑みをこぼした。

 
『『裕ちゃんっっ!!』』
 中澤が楽屋に来ると、きまって飛びつく子犬と小兎。
『はいはい』
 まんざらでもなさそうな中澤に。
『安倍さ〜ん』
 小さい怪獣がからみつくからさらに話はややこしくて。
 ついでに、そのちっこい怪獣は中澤のことも大好きらしく。
『なかざ〜さんだ〜』
 たまに、楽屋に入ってった中澤に一番に飛びついたり。
 膝の上、独占したりするのだが。
『『・・・・・・・・・・・・・』』
 まぁ一応建て前上は大人な振りして静観する子犬と小兎だけれど。

『あの〜、保田さん。空気が放電現象起こしてません?』
 あの、超空気が読めないはずの石川までもがこう言う楽屋のぴりぴり感。
 五期メンなんて、びびって石のようになっちゃってるし。
『・・・・・・・・・・・・気のせいよ』
81 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時02分17秒
 そして。
 子犬と小兎が中澤に絡んでたら絡んでたで。
『あの〜、保田さん』
『今度は何よっ?!』
『ののが・・・・・・・・・弁当のやけ食いしてます・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・・・』

『そ〜ゆ〜ことは圭織に言いなさいよ・・・・・・』
『・・・・・・・・・えっと、交信されてて・・・・・・・微動だにしてくれないんです・・・・・・・』
 泣きそうな後輩に。
『辻っっ!!!』
 雷を落としても聞く気配がない・・・・・・・。
 何であたしがこんな目に・・・・・・・。
 保田の嘆きはもっともだ。
82 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時02分55秒
「くっくっく」
 とりあえず、元凶はこの眼の前で、辺りもはばからず、肩を震わせてくれている、元リーダー。
「裕ちゃんっっ!!」
 思いっきりむくれた顔して睨みつけると。
「しばらくは、娘。の楽屋行けそうにないな〜」
 の割には思いっきり笑顔なのがむかつく。
「・・・・・・・・・矢口とうまくいってるんだ?」
「まぁな」
「即答しないでくれる?何かむかつくんですけど」
 じろり、と中澤を見る保田だが、中澤はどこ吹く風。
「まぁっつってもあんま変わらんよ、うちらは」
 ぼそっと呟かれた言葉に。
 保田は中澤を見つめる。
 ひょうひょうとした感じで。
 別に照れた表情も見せずに、グラスをあおる中澤だが。
 少し・・・・・・口元が緩んでるようにも、見える。
「・・・・・・・・矢口は変わったわよ」
 ん?
 怪訝な顔をする中澤に。
 矢口の名前を出した途端、これだもんね・・・・・・。
 保田は目を細めた。
83 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時03分39秒
「何が変わったん?」
「・・・・・・・だから、その嬉しそうな顔、むかつくんだってば・・・・・・」
 保田の話を聞く気があるのかないのか。
 こら、はよ教え〜や。
 頭をこづいてくる中澤は、結構酔ってるのかも。
「・・・・・・・大人になった」
 ぽつり、と呟くと。
 中澤は少し、眉をひそめた。
「そ〜かもな」
 けれど、淡々とつむがれる言葉に。
「・・・・・・・・なっちも大人になったよね」
 中澤のポーカーフェイスを崩してみたくて保田はあえてその名前を出してみた。
「・・・・・・喧嘩うってんのか?」
「そ〜ゆ〜わけじゃないけど」
 保田自身、何故なっちの名前を出したのか、自分の心の中を測りかねて。
 曖昧な微笑みを浮かべた。
 それを見て、中澤はしゃ〜ないな、と言った感じで。
「まぁいろいろ心配かけてたっちゅ〜ことやな」
 ふわり、と笑って見せた。
84 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時04分38秒
 その笑顔を見て、ほっとするものを感じながら。
 保田はなおも言葉をつむいだ。
「矢口、無茶苦茶幸せそうだよ?」
 あえて断定じゃなく、疑問形で聞いてみると。
「ん〜〜」
 中澤は眼を細めた。
 しばらく中澤の表情の変化をおもしろそうに眺めていた保田。
 しかし。
「ん?」
 ふと、中澤の表情が不思議そうなものに変わった。
「何よ?」
「前は幸せって感じやなかったん?」
「・・・・・・・・・・・裕ちゃんがそれ、聞く?」
 それ聞いたら、きっと矢口、怒るよ〜。
 付け加えると。
「ははは。ま、そら、そ〜か」
 中澤は、ちょっと困ったような顔をした。
 それ以上何も言おうとしない中澤に、保田は少し、意地悪い表情になった。
「なっちと別れたこと、何で矢口に言わなかったの?」

 ふっと中澤は真顔になった。
「別に、言いまわることでもないやろ」
 そのまま半分以上残っていたジョッキのビールを一気にあけてしまう。
「・・・・・・・・・・・・・」
 言いたいことはたくさんあったけれど。
 保田は何も言わずに。
 同じように残っていたビールを一気にあおった。
85 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時05分14秒
「いい飲みっぷりやな〜。次は何いっとく?」
「ん・・・・・・んじゃ、ワインで」
「もち、ボトルやんな?」
 ニヤリ、と悪戯っぽい笑みを浮かべる中澤の表情に、さっきの真面目な雰囲気は一切感じられな
かったけれど。


 なっちのことになると、中澤の表情は一変する。
 勿論、矢口のことでも、だけど・・・・・・・。
 辛そうな矢口の態度に気付きつつ。
 中澤を問い詰めて、何になるのか。
 そう思っていた。

 矢口と裕ちゃんと、なっち。
 仲良くじゃれてても、ふっと流れる緊迫した空気に。
 中澤が気付いてないはずもなかったけれど。
 中澤の冗談混じりの軽い言葉に、真意が見えなくて。
 なっちと別れたって話も一切聞かなかったしね・・・・・・・。
 そ〜ゆ〜意味では。
 本当に中澤が安倍のことを大事に思っているのがわかっていたから。

 だからこそ、同期の軽率な行動に呆れかえった。
 矢口の手帳から落ちた一枚の、写真。
86 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時06分30秒
『矢口・・・・・・・・これ』
 見た瞬間、絶句した。
 ベッドの上、誰かの肩に頭をのせて、幸せそうな寝顔を見せてる裕ちゃん。
 誰か・・・・・・そりゃ、顔は写ってなかったけれど。
 肩のライン、それだけで相手が誰かわかっちゃうのは、しょうがない。
 どれだけの付き合いだと思ってるのよ?
 ってな感じ。

 まぁ別に。
 同じベッドで寝るくらいなら・・・・・・問題って言えば問題だけど。
 何とか眼をつぶれる範囲ではあったのよね。
 ただ、どう好意的に見ても、その写真の二人は。
 シーツがかかってるとはいえ、剥き出しの肩のライン。
 ・・・・・・・裸、だよね・・・・・・・。
87 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時07分09秒
 呆然としてる保田。
 矢口は俯いたままだったけど。
『・・・・・・お願い、裕ちゃんには何も言わないで』 
 ・・・・・・・・・なっちには、じゃないんだ。
 意外と冷静にそう思ったことだけは、覚えてる。
 俯いたままの矢口の表情は見えなかったけれど。
『こ〜ゆ〜写真はまずいんじゃないの?』
 さすがに言わずにはいられなかった。
『わかってるよ、わかってるから・・・・・・・』
 その時初めて、矢口が顔をあげた。
 ・・・・・・・・・泣き出しそうな、苦しそうな。
 切ないってこんな表情を言うのかって。
『・・・・・・・・・・矢口・・・・・・・・』
『これだけ、だから。これしか持ってないから。だから・・・・・・・』
 その続きに矢口が何を言おうとしたのか。
 矢口は結局口を閉ざしてしまった。
88 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時08分48秒
「け〜ぼ〜?」
 中澤の声で、ふと保田が我に返ると。
「・・・・・・・・・ホントにボトルで頼んだわけ?」
「好きやろ?」
「・・・・・・・・好きじゃないっつったらど〜するのよ?」
 いささか呆れ気味の保田の声に。
「うちが責任持って飲んだる」
「それで、責任持って、酔いつぶれた裕ちゃんをあたしが家に送るわけね・・・・・・・・」
「わかってるやん」
 あ〜でも、うちの家はあかんで〜。
 圭坊の家でよろしく。
 好き勝手言ってる中澤。
「何で裕ちゃんの家、駄目なのよ?」
 一人暮らしでしょ?
 保田の疑問はもっともと言えばもっともで。
 ふっと、中澤は黙りこんだ。
「ん〜〜」
「・・・・・・・・何なのよ?」
「別に?」
「答えになってないし」
 軽くため息をついた保田に、中澤はやっぱり、ん〜と考え込んでいるけど。
「やっぱ、うちはあかん」
 妙にきっぱりした声。
「・・・・・・・・・だから、何でよ?」
 中澤の家の方がここからじゃ、近い。
89 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時09分42秒
「・・・・・・・・・・矢口と約束したから」
「・・・・・・・・へ?」
「だから、そ〜ゆ〜こと」
「・・・・・・・一緒に住んでるわけじゃないんでしょ?」
「住んでるわけないやろ〜が」
 苦笑いしながらも。
 グラスにワインを注ぐその横顔は誰のことを話す時よりも、穏やかな優しい表情をしている。


 裕ちゃんとなっちと矢口。
 どんな関係であろうが、ほっとこうって決めてた。
 メンバーのプライベートにそこまで踏み込んでいいのか、というためらいも勿論あった。
 まぁ、そういうのは建て前で。
 踏み込んで・・・・・・・矢口と中澤となっちの関係を壊すのが嫌だった。

 本当に・・・・・・・。
 三角関係ってもっとドロドロしててもいいんじゃない?
 場違いな感想を抱くほど、三人を取り巻く空気は優しくて。

 たまに。
 矢口とじゃれてる中澤をなっちが切なそうな眼で追っていたり。
 なっちとじゃれてる中澤を矢口が切なそうな眼で追っていたり。
 でも。
 それでも、三人でいる時。
 三人とも、最高にいい笑顔を見せていた。
90 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時10分26秒
「ねぇ、裕ちゃん」
 しばらく無言でグラスの杯を重ねていた二人だったが。
 保田が口を開いた。
「ん?」
 中澤の視線は、保田の方を見ようとはせず。
 グラスの中、揺れる液体を眼を細めて見つめていた。
「・・・・・・・・・・・裕ちゃんにとって、矢口となっちの存在ってどう違うの?」
「・・・・・・・・・・・また、答えにくい質問やな」
 中澤は保田の方をちらっと見て、困ったように笑った。
「純粋な個人的興味だから、別に答えにくかったらいいけど」
 そんなに簡単に手のうちを見せてくれるとは思ってないし。
 物分りがいいのか悪いのか。
「圭坊らしいな」
 中澤は、ふっと笑みを浮かべた。

「誰よりも幸せになってもらいたいんがなっちで。矢口は・・・・・・誰よりも幸せにしてやりたい」

 そこまで正直な答えが返ってくるとは思ってなかった。
 保田は驚いた表情を隠さなかったが。
「そっか」
 小さく呟いた。
91 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時11分17秒
「・・・・・・なっちには、悪かったと思っとるよ」
 中澤は少し、俯いた。
「でも、しゃ〜ないやん」
 ・・・・・・きっと、中澤も中澤なりにいろいろ悩んだんだろう。
 そう思わせるだけの強さをその言葉は持っていて。
「うちには矢口やねん、やっぱり」
 保田はきつめの中澤の視線を動じることなく受け止めた。

「もっと早くにそのセリフが聞きたかったわね」
 保田の毒舌に、中澤は苦笑いした。
「怒っとるん?」
「・・・・・・・本気で怒ってたらとっくに見捨ててるわよ」
 実に保田らしい答え。


『・・・・・・・そんなん、圭坊には関係ないやろ?』
 冗談交じりで矢口となっちのことを聞いたことがあった。
 いつもの軽口が嘘のように、ぴたり、と中澤の口が閉ざされた。
『どっちも大事や。何か文句でもあるんか?』
 冷たい視線に。
 言葉を失った。

 どっちがどう大切なのか。
 中澤も決めかねているのか?
 矢口は、自分が二番手だと思ってるみたいだけど。
 中澤の態度を見てれば、どっちが中澤の本命かなんて。
 どっちも本命なんじゃないの?
 思わずそう言いたくなるほど、中澤の二人に対する態度は他とは明らかに違っていた。
92 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時11分57秒
『なっちとは付き合ってとらんよ』
 そのセリフを聞くまでにどれだけの時間がかかったか。
『第三者に話す事やない』
 頑なまでなその態度に。
 キレたのは保田だった。

『矢口がどんな思いしてるかわかってるわけ?』
 中澤を悪者にしたいわけではなかった。
『裕ちゃんの態度が二人を傷つけてるんだよ?優柔不断も大概にしたら?』
 多分、そう。
『一人、美味しいとこどりじゃない。それで二人を振り回して満足なんだ?』
 二人のことを思いやるふりをして。
 頼ってよ。
 きっと自分の本音はそんなとこだったんだろう。

 傷つかない人間なんていない。

 わかっていたけれど、止めれなかった言葉。


「しっかし・・・・・・・なぁ、圭」
 苦い顔をしてワイングラスを空ける保田に何を思ったか。
 中澤はいたずらっぽい眼をして話し掛ける。
「合鍵渡す意味、わかる?」
「・・・・・・・は?」
 唐突な言葉に保田は眼を丸くした。
93 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時12分32秒
「合鍵ってうちの中ではオンリーワンっつ〜意味やねんけどな〜」
 独白のように続く中澤の言葉に。
「矢口にあげたの?」
 保田が口をはさんだ。
「他に誰がおるねん?」
 いや、他にもいろいろいそうな気はするけど。
 思わず心の中だけで保田は突っ込むが。
「いつ?」
 とりあえず、先立つ疑問を口にする。
「だいぶ前やで〜。なっちと別れて・・・・・・うちが卒業する前くらいやったかな?」
「・・・・・・・・・・・」
 保田はとりあえず、沈黙を選択した。
「確かに言葉には出さんかったけど・・・・・・普通、わかるやろ〜」
 中澤はぼやく。
「誰が本命じゃない奴に自分の部屋の鍵渡すかっちゅ〜ねん」
 そのせいで、部屋に誰も連れこめなくなったのに。
 続けられたあんまりといえばあんまりなセリフに、保田はがっくりと肩を落とした。
「あんまり浮気ばっかしてると愛想つかされちゃうわよ?」
「・・・・・・・・・冗談や」
 それくらいわかってや〜。
 甘えた視線。
「冗談に聞こえないとこが裕ちゃんだよね・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・悪かったな」
 何やねん。圭坊のアホ。
 ぶつぶつ言いながらワイングラスを空にする中澤。
94 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時13分45秒
「矢口、泣かせたら承知しないわよ?」
 確認、というか脅しというか・・・・・・・・。
 保田の言葉に中澤はニヤリ、と笑った。
「泣かされるのはうちの方やって」
「それならい〜けど」
「・・・・・・・・・・うちのことはど〜でもいいんかいっっ!!」
 突っ込みながらも中澤は幸せそうに笑っていたので。
 まぁいいか。
 保田もグラスを傾けた。
95 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時14分21秒
 それから何だかんだと話をして。
 もうそろそろボトルが空になろうかという頃。
「まぁでも、なっちの相手が辻ってのは意外だった」
「そやな」
 ひょうひょうと同意する中澤を保田はじろっと睨む。
「本当に、恋愛ごとになると、口堅いわよね〜」
「気付かん圭坊が悪い」
「・・・・・・・・・・何か口惜しいんだけど」
 拗ねた表情になった保田を見て、中澤はこっそり笑ったつもりで・・・・・・。
「も〜、笑わないでよ〜」
 しっかりばれていたらしい。
「でも、辻に持ってかれるとは・・・・・・何や、うちも口惜しかったで」
「何よ、その意味深セリフは?」
「せっかく手塩にかけて育てたのにな〜」
「裕ちゃん、それ、冗談に聞こえないわよ?」
 素早い保田の突っ込み。
「妹が姉離れする時ってこんな感じなんかな〜と」
「親離れじゃなくて?」
「うっさい」
 ぽかり、と中澤は保田をこづく。
96 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時15分31秒
 その時、中澤の携帯が鳴った。
「あ、悪い」
 慌てて中澤は鞄の中からごそごそと携帯を取り出した。
『ゆ〜こ〜〜っっ!!何してんだよっっ!!』
 保田の耳にも飛び込んでくるぐらい大きな声。
「矢口?ど〜した・・・・・・あ」
『ど〜したもこ〜したもないじゃん。迎えに来てくれるって言ってたのにっっ!!』
「ごめん、忘れてた」
『・・・・・・・・・・・このアホっっ!!!』
97 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時16分12秒
 一段と大きな矢口の声。
「そんなでかい声出さんでも・・・・・・あ〜、うん、だから悪かったって」
 矢口の声のトーンが落ちて。
「ん?圭坊と飲んでるんや・・・・・・・・アホ、変なことなんかしてないっちゅ〜ねん」
 中澤の声しか聞こえないけれど。
「・・・・・・・・ん、すぐ行くし。15分くらい」
 会話の内容はだいたいわかって。
 保田は自分の鞄を手にとる。
「は?!」
 いきなり素っ頓狂な中澤の声。
 ちょっと裕ちゃん、ここ普通の店なんですけど。
 幸い、あたりはざわざわしててそんなに目立たなかったようだけど。
 顔の前に手をたてて、中澤は「ごめん」といった感じでジェスチャー。
「あんな、うちが今いる場所わかっとる?」
 少し言葉のやり取りを交わして。
 中澤は髪の毛をかきあげた。
「アホ。・・・・・・・・・・・・愛してるで、真里」

 ・・・・・・・・・・・・・・。
 色っぽい声。
 ってか、誰かに聞かれたらどうするつもりよ?
 いつものおふざけじゃないって、丸分かりだよ?
「ん、知ってる。んじゃまた後でな」
 携帯のボタンをピッと押して。
 中澤はパタンと携帯を閉じた。
98 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時16分47秒
「尻にしかれてるわね」
 精一杯の保田のイヤミ。
「しゃ〜ないやん、惚れてるねんから」
 中澤はあっさりとそう返して。
「圭坊もいい相手さっさと見つけ〜や〜」
「一応、私たち、アイドルなんだよ?」
「一応なんかいっ」
 お約束の突っ込みを中澤は入れる。


 店を出て。
 タクシーを拾う時間待ちの間。
 独り言のように中澤は呟いた。
「十年後、二十年後なんてわからんけど」
 空を見上げてる綺麗な横顔。
「いつまでもこ〜やって笑いあえてたらい〜な」

 ・・・・・・・・・・・・・。
 そうだね。

 保田も中澤と同じように空を見上げた。

 暗くて、ネオンが夜空を照らし出していて。
 星なんて一つも見えないけれど。

「これが私たちの住んでる街なんだよね」
 中澤は何も言わなかった。
 無言で何を考えているのか。
99 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時17分24秒
「うちは結構好きやけどな」
 不意に中澤が保田の方を振り向いた。
「・・・・・・・・・・・・」
 何も言わない保田に。
 中澤はウィンク一つ。
「こっから始まったんやろ?全部」
「・・・・・・・・・・・」
「辛かったってしんどかったって、先が見えてるより見えてない方が楽しいと思わん?」
 中澤は綺麗に笑った。
「道はうちらの後ろにできるんや。なら、前進むしかないやん」


 一台のタクシーが二人の前に滑り込んできた。
「乗っていくか?」
 保田は首を横に振った。
「矢口結構怒らせると怖いんだよ?」
「知っとる」
 中澤は笑った。
「そしたら先行くわ。気つけて帰るんやで?」
「うん」
「そしたら、またな」
 ひらひらと手を振って、中澤は車内に消えた。
100 名前:ホントウの理由 番外編 投稿日:2002年12月06日(金)02時18分03秒
 保田はもう一度空を見上げた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

『いつまでもこ〜やって笑いあえたらい〜な』
 お互いが、みんなが。
 そう思うなら、きっと大丈夫。
 絆は、消えない。
 そう信じれる。
 だから。

「お客さん?乗らないの?」
 ふと気付けばタクシーが目の前に止まっていた。
「あ、すいません」

 タクシーに乗り込みながら。
 見上げた空は、やはり星は見えなかった・・・・・・・・。
101 名前:つかさ 投稿日:2002年12月06日(金)02時27分23秒
>>たむさん
 確かに、何か鬼畜なはずなのに・・・・・妙に鬼畜じゃなかったですよね(笑)
 番外編。全然矢口さん出てこなくて・・・・・ってか出す予定はなかった・・・(自爆)

>>素人○吉
 なっちゅ〜・・・・・ちょい待って。とりあえず、二週間くらい待って。
 今、誰視点にするか迷ってるから(笑)

>>名無し読者さん
 すいません、お待たせしました(汗)
 ある程度はできてたんですが・・・・何となく中途半端更新は嫌だったんで。
 その代わり、大量更新ってことで♪

>>同板作者さん
 いや、喰い付いてくれてありがとです♪
 ひそかにあ〜ゆ〜感じの好きなんですよね(笑)
 もだえてる吉澤さんとか(笑)

 ってことで、予定通り(? 笑)一気更新です。
 次回作は未定っつ〜か、番外編2でなっちゅ〜編に・・・なるのかな???(汗)
 いまいちど〜もよくわからんので。
 次回更新は未定っつ〜ことで。
 読んでくれた方、多謝、です。
102 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月06日(金)04時05分35秒
番外編ありがとうございました。
あるいみKUってカンジでとってもツボでした(w
つなぎの微妙なトライアングルが、リアルでも好きな私としては・・・
本編&番外編ともにたまらない魅力いっぱいのお話で〜乾杯〜!!としか言えないぐらい最高です。
なっちゅー編もこころより楽しみに待っています。
103 名前:素人○吉 投稿日:2002年12月06日(金)10時13分01秒
圭ちゃんHappyBirthday♪www

KU=98kg。
104 名前:読者 投稿日:2002年12月09日(月)23時44分53秒
なっちゅーもかなり楽しみです(w
年末でかなりお忙しいと思いますが・・・息抜きにマータリとがんばってください(w
105 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時37分47秒
『なっち、裕ちゃんのこと、好きなの。・・・・・・好きです。付き合ってもらえませんか?』
 思いもかけない、同性の。
 それも、8個も下の可愛い女の子から。
 真面目に告白されたら、ど〜したらええと思う?
『・・・・・・・・・冗談やろ?』
 なっちが真面目やってのはわかってた。
 冗談やろ?なんて。
 そんなセリフ出てきたら失礼なくらい、いつもは見せないような真剣な瞳に。
 少し、震えていた声。
 ぎゅっと握りしめられてた拳。
 それでも。
『・・・・・・・冗談やろ?』
 なんて聞いたのは。
 ま、冗談って言って欲しかったっつ〜願望と。
 うち、そんなええ奴ちゃうで?
 ・・・・・・・・うちにはなっちはもったいない、とか。
 勿論、同性相手っつ〜ためらいもあったし。
106 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時38分32秒
『・・・・・・冗談なんかじゃこんなこと言えないよ・・・・・・・裕ちゃんが好きなの』
 涙眼で。
 ぎゅって服の裾なんかつかまれて。
 上目遣い。
 ・・・・・・・・・・・・それ、反則やろ・・・・・・・・・。
 うちは思わず天をあおいだね。
 まぁ心の中でやけど。
『なっち・・・・・・・・』
 うちのしたことっつったら、困った顔、やったんやろうね。
 うちの顔見て、なっちも困った顔した。
『もう、妹じゃ嫌だよ・・・・・・』
 でも。
 そのままぎゅって抱きつかれて。
 腕の中のぬくもりに、愛おしさを感じたのもまた、事実。
 なっちの好き、とうちの好き。
 どっちが重いとか、そんなん関係なく。
 大事にしてやりたいな、とか珍しくそんな殊勝な考えが頭に浮かんで。
『・・・・・・・ええよ、付きあおっか』
 それがうちとなっちの始まりやった。
107 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時39分57秒
 娘。の活動が忙しくなってくる最中。
 久しぶりにうちはなっちの家にお泊りしてた。
 あんまり最近はこ〜ゆ〜感じでゆっくりできることもなかったから、なっちはめっちゃ
はしゃいで。
 疲れてたのもあるんやろうか、早々に寝てしまったんやけど・・・・・・・。
 何やろうな、何か、うちは寝付かれへんのよな。
 やっぱ人の家やからやろうか・・・・・・?
 なっちを寝かしつけて。
 夜12時を過ぎてうちもベッドに入ったけれど。
108 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時41分31秒
 なっちの寝顔。
 ・・・・・・・間抜けな顔してるな〜とか。
 やっぱ可愛いな〜とか、いろいろ思いながら眺めてると。
『ねぇ、なっちのこと、本当に好き?』
 ふっと、昔のことを思い出した。
 付き合い始めた当初はやたらそんなことばっか聞いとったなっちやったけど。
 腕の中、安心しきった顔で無防備に眠るなっちのほっぺをぷにっと押してみる。
 こ〜ゆ〜のもええもんやな。
 そう思ってる自分がいることにびっくりしてたりする。
 好き?とか聞かれたら。
 そんなんわかっとるやろ、と思わず突っ張ってしもうて。
 好きやで、なんて返したことなかったからな・・・・・・。
 今までは結構割り切った付きあいっちゅ〜か。
 自分の心にセーブをかけた恋愛しかしたことなかったんやな・・・・・って。
 なっちと付き合って初めて知った。
「ん・・・・・・・ゆ〜ちゃん・・・・・・・?」
 腕の中、なっちがもぞもぞと動く。
「あ・・・・・・・ごめん、起こしてもうた?」
「・・・・・・・ど〜したの?」
 まだ、眠そうな声。
「・・・・・・・ええよ、まだ寝とき、時間なったら起こすから」
 抱きしめなおして。
 ゆっくりと頭を撫でてやると、なっちは安心したようにまた眼を閉じた。
109 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時42分42秒
 いくらかもたたないうちに、聞こえてきた寝息に、ほっとする。

 こんな幸せな、落ち着いた恋愛は初めてかもしれん。
 そら、自分の心はドタバタとしてるけど。
 駆け引きも何もまったくない恋。
 好き、をそのまま信じることができる。
 ・・・・・・・・まぁ、浮気性なのはごめんってことで。
 一番大事に思っとるのはなっちやから。
 信じてな。

 なっちを腕の中に抱きしめたまま。
 でも何となく寝付くことができずに。
 やっとうちが寝付けたのは、空が白み始めた頃やった。
110 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時43分30秒
「ゆ〜ちゃんっっ!!!遅刻だべさっっ!!!」
 はい?
 耳元ででかい声出されて。
 ゆっくりと半覚醒。
「も〜、集合時間とっくに過ぎちゃってるってっっ!!!」
 焦りまくったなっちの声。

 ・・・・・・・・・・はい?
 ゆっくりと顔を起こすと、なっちはそれを見て安心したのかベッドの中からそのまま
すっ飛んで行ってしまった。
 洗面所からどたばたとやかましい音。

 そのまま、うにゃうにゃと、顔を上げると。
 枕もとに置いてある時計は。
 9時半ジャストを指していた。

 ・・・・・・・・・・・・・。

「今日、確か9時に事務所集合やったよな・・・・・・・・」
 ぼそり、と呟いて。
「やばいやんっっ!!」
 一気に頭が覚醒した。
111 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時44分27秒
「裕ちゃん、早くっっ!!!」
 ドタバタと道路を全力疾走。
 こんなに走ったん、いつや・・・・・・?
「なっち、裕ちゃんもう、限界・・・・・・・」
 ぜいぜい息を切らせながらそう呟くと。
「も〜ちょっとだから」
 ぎゅっとつないだ手を離そうともせずに、なっちはのたまう。
 ・・・・・・・そら、あんたはええかもしれんけど・・・・・・・・、うちはあんまり寝てないんやで?!
 思わずそう叫びたくなるが、ぐっと我慢する。

 タクシー乗ったはええけど、事務所につく5分前くらいから道が渋滞し始めて。
『走った方が早いべさっっ!!』
 焦る気持ちから、そう叫ぶなっちに思わず同意してもうて。
 ・・・・・・・・・後悔先に立たずって言うけど・・・・・・・。
 タクシー乗ってた方が早くついたんちゃうんか?
 っつ〜か。
 裕ちゃん、朝からこんなに体力使って、もう今日の仕事の分は使い切りました。
「裕ちゃん、ほら、事務所見えたべっ」
 嬉しそうに。
 ・・・・・・・・何がそんなに嬉しいねん、とか思いつつ。
 何だかそんななっちがめちゃくちゃ可愛くて。

 まぁ、ええか。
 そんな風に思うけど。
 やっぱり、朝から全力疾走はしんどいんやっっ!!!
112 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時45分13秒
「仲良く同伴出勤、羨ましいですわ」
 昼休憩。
 今日は打ち合わせだけやったのが幸いやったけど。
 やっぱり眠くてしんどくでうだうだで。
 娘。のとこいてもいいんやけど。
『大丈夫?』
 心配そうななっちに更に心配かけるのも嫌で。
 たまたま事務所に遊びにきてたみっちゃん見つけたら、開口一番これや。
「うっさい」
 いつもやったら蹴りいれるとこやけど、それもだるくて。
 こつん、とみっちゃんにもたれかかると。
「・・・・・・・・・疲れてますのん?」
「・・・・・・・・ちょっとな」
「あ〜もう・・・・・・・私だって忙しいんですよ?」
 そう言いながら、みっちゃんは使ってない会議室にうちを引っ張り込んだ。

 ソファーの上。
 みっちゃんに膝枕してもらってた。
「こんなんなっちに見つかったら大変ですやん」
 ぼやくように呟くみっちゃん。
「なら、ほっといたらえ〜やん。別に一人でも平気やし」
「またそ〜ゆ〜天邪鬼なことを・・・・・・・」
 みっちゃんがうちの髪の毛をなでる。
113 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時45分55秒
 張ってた気持ちが徐々に和らいでいく。
「ん・・・・・・ごめん、ちょっと寝ていい?」
「いいですけど・・・・・・・、休憩後何分くらい残ってますの?」
「30分くらい」
 そう答えて、そっと眼を閉じた。
 相変わらず優しくうちの髪を撫でる手。
 ・・・・・・・そんなことせんでも、えぇから・・・・・・・。
 その言葉は、睡魔が襲ってきて。
 口には出せんかった。

 夢うつつ。
 みっちゃんとなっちがしゃべってるのを聞いた気がした。

 裕ちゃん・・・・・・寝ちゃってるんだ

 ごめんな・・・・・・・・

 謝ってもらうことじゃないべ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 それだけみっちゃんに対しては、裕ちゃん、気を許してるってことだし。
 ちょっと、悔しいけどさ。しょ〜がないよね・・・・・・。
114 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月12日(木)23時46分37秒
 何だか。
 急に身体が寒くなったような気がして。
 眼をあけた。
 もうみっちゃんはいなくて。
 なっちが心配そうにうちの顔を覗き込んでた。

「・・・・・・・・・・・・夢やなかったんかな?」
「? 何が?」
 ぼそり、と呟くと。
 なっちが不思議そうな顔しながら、うちのほっぺたを撫でてくる。
「ん・・・・・・」
 曖昧な返事をして、また眼を閉じた。
 夢の中のなっちの声が、あまりにも大人びて聞こえた、なんて。
 そんなん言われへんし。

「裕ちゃん・・・・・・もうちょっと休む?」
「・・・・・・・そ〜ゆ〜わけにもいかんやろ」
 頬を撫でてるなっちの手を掴んで。
 そっと引き寄せた。
「ゆ〜ちゃん?」
 少し驚いたような声。
「しばらく、こうしててええ?」
 なっちの耳元で囁くと。
「うん」
 小さな小さな答えが返ってきた。

 さすがにもう一回寝る、まではいかんかったけど。
 柔らかいなっちの身体。
 いい匂いに。
 うちは充分、満たされていた。
115 名前:つかさ 投稿日:2002年12月12日(木)23時56分01秒
>>名無し読者さん
 KUっすか・・・・個人的には保田さん→矢口さんへの片想いっつ〜イメージが
あるんですが(w
 勿論、保田さん→中澤さんへの片想いも可(要は何でもいい 笑)
 ちなみに。平家さん→中澤さんっつ〜のも自分の中では勿論ありでっ!(笑)

>>素人○吉
 元気してっか〜?なちのの、期待に添えなくて悪かったな^^;;

>>読者さん
 忙しい方が書けるのは何故に?ってな感じです(笑)
 息抜きってか現実逃避ですね・・・・(自爆)

っつ〜ことで、暇じゃないのに何故か進む進む。
なっちゅ〜なんて書けないと思ってましたが(笑)
意外と書けるものなのだな〜と。
もう書き上げてるので連日更新いきます。
続きは明日♪
116 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月13日(金)16時30分25秒
なっちゅー過去編・・・いいですね。
裕ちゃんのたらし具合も(w
ほのかなみっちゅーもかなりツボでした。
今晩続きが読めるそうで・・・待ちどうしいいな(w
117 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月13日(金)16時30分25秒
なっちゅー過去編・・・いいですね。
裕ちゃんのたらし具合も(w
ほのかなみっちゅーもかなりツボでした。
今晩続きが読めるそうで・・・待ちどうしいいな(w
118 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月14日(土)00時23分42秒
 テレビの収録中。
「も〜このセクハラリーダーっっ!!!」
 抱きしめた小さな身体が腕の中で暴れる。
「い〜やん、矢口ちっこくて可愛いねんから〜」
「やだっつってるだろっっ!!」
 良くないっっ!!!
 ジタバタするのが更におもしろくて。
 後ろから抱きしめた体勢でほっぺにちゅ、とキスをしてみる。

「あ〜、またしたな、このアホっっ!!!」
 矢口の振り回した腕が、うちのみぞおちに綺麗に入った。
「・・・・・・・ぐぇ」
 あまりの痛さに思わずしゃがみ込む。
「自業自得だよっっ!!!」
 その隙に矢口が逃げていく。
 メンバーや司会の人たちが笑ってて。
 うん、ええ感じや。

「はい、OKです」
 カットの声がかかる。
 大きく伸びをしようとして・・・・・、わき腹がずきっと痛む。
「いたたたた」
 思わず声がでた。
119 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月14日(土)00時24分28秒
「・・・・・・・・・ごめん、大丈夫だった?」
 脇から声がして。
 ふっと視線を下げると。
 申し訳なさそうな表情をして、矢口が立っていた。
「大丈夫や」
 くしゃくしゃと頭を撫でると。
 ほっとしたように笑った。
「でも、矢口、ホンマにちっこいな〜。全然側来たの気付かんかったわ」
「ちっこいって言うなっっ!!!」
 ぽかぽかと殴ってくる。
 でも、手加減してか、その力は弱い。
「痛い、痛いって、矢口」
 笑いながらそう言うと。
「も〜、ゆ〜ちゃんなんて、知らないっっ」
 ぷいっと横を向いて紗耶香たちの方にいってしもた。
 でも、ふっと心配そうにこっち見る。
 大丈夫やから。
 そっと笑ってみると。
 安心したのか、べ〜と舌を突き出してきよった。

 ま〜ったく。
 まだまだ子どもやね。
「裕ちゃん」
 そっと服の裾をつんつん、と引っ張られて。
 ん?
 と再び視線を下げる。
120 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月14日(土)00時25分11秒
 矢口よりはちょっと大きい。
 でも、見慣れた位置に。
 なっちのふくれっつらが見えて。
 思わず笑ってもうた。
「何や、心配してんの?」
「そ〜ゆ〜んじゃないよ、も〜」
 拗ねてる仕草が可愛くて。
 抱きしめた。
「裕ちゃん、やだってば〜」
 矢口と同じようにぽかぽかと叩いてくるけれど。
 全然やっぱり痛くなくて。
「ん〜、今日、なっちの家行っていい?」
「ん?」
 最初はびっくりしたような顔で。
「なっちの作った御飯、食べたいな〜なんて」
 ど〜ですか?
 ぷにっとほっぺをつねってみると。
「何だよ〜、急に言われても、何もないべさ」
 照れたように急に真っ赤になって、さらにぽかぽかと叩いてくる腕が愛しくて。
「なっちがいれば何もいらんよ」
 なんて。
 普段言えないようなことも言えちゃったりするわけで。
「も〜。裕ちゃんってば」
 気恥ずかしそうに、嬉しそうに。
 うちの腕の中に収まってしまったなっちを抱きしめながら。
 切なげな視線に気付いてしまったり。
121 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月14日(土)00時25分49秒
 ふっとそっちを見ると。
 大慌てで逸らされた、視線。

 なっちの可愛さは格別やけど。
 あれはあれで可愛いな〜、やっぱ、ペットにしたいかもしれん。
 能天気にそんなことを考えてたうちは。
 なっちがどんな思いでうちの腕の中で抱きしめられているのか、そんなこと、
考えもしてなかったんや・・・・・・・。
122 名前:つかさ 投稿日:2002年12月14日(土)00時29分03秒
>>名無し読者さん
 ほのかなみっちゅ〜。
 はい、また出てきます、みっちゃん。
 こっそり、圭ちゃんと並んで書きやすいんですよね(w

え〜とすいません、ちょい明日は忘年会なんで・・・・
日曜更新になると思います。
もしかしたら、月曜になるかも(汗)
それでは。
123 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月14日(土)18時05分46秒
なっちゅーは、なんかせつない感じがたまりません。(爆
やっぱりつかささんの小説最高ッス〜♪
124 名前:名無し人 投稿日:2002年12月15日(日)19時54分12秒
いつも楽しい読み物をありがとうございます。
125 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時23分39秒
 ごっちんが加入してきて。
 娘。の地位が不動のものになってきて。
 忙しさにもだいぶ慣れた。
 めまぐるしく動くこの世界で。
 娘。自体も変化し続けて・・・・・・・。

 忙しさのピーク。
 精神的にも、身体的にも、疲れは最大限にたまってた。
 寝ようとしても寝れない、身体。
 最近、メンバーにもよく心配される。
『大丈夫や』
 そんな強がりも板についてきた。
 そんな頃。

「姐さん」
 ダンスレッスンが終わって。
 疲れきった身体を引きずるように、家に帰ろうとしたら。
 廊下で呼び止められた。
「・・・・・・・・何や、みっちゃんかい」
「ご挨拶ですね〜。ちょっといいですか?」
「借金の申し込みやったら・・・・・・・」
「そんなわけあるはずないでしょ〜がっっ!!」
 素早い突っ込みに笑いがこみ上げる。
126 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時24分24秒
「・・・・・・元気そうで安心しましたわ」
 ・・・・・・・・・・。
 みっちゃんの一言に。
 思わず苦笑い。
「あぁ、そやな。んで、何?」
 ふっと目線をみっちゃんから外して、廊下の壁に背をもたれかけさせた。
「・・・・・・・・・・姐さん?」
 いぶかしげな声。
「・・・・・・・・・・・・・」
 何かを言えばみっちゃんを傷つけてしまいそうな気がして。
 黙って俯いた。

「・・・・・・・・・姐さん」
 呼びかけられて、伸ばされた腕に。
 思わず身を引いてよけた。
「・・・・・・・・・・・・」
 傷ついたような瞳に何も言えなくて。
 そんなうちを見て、みっちゃんは一つため息をついた。
「なっちが心配してましたで?」
 だから来たんか?
 ひねくれたその考えに。
 やっぱり何も言えなくて。
「ほっといてや」
 やっと出た一言はそれだけだった。
 だるい身体を壁から引き離すように起こして。
「うちは大丈夫やから」
「そんなしんどそうな顔してですか?ちゃんと寝てるんですか?食べてはるんですか?」
 みっちゃんの言葉に。
 何かが切れる音が聞こえた。
127 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時25分31秒
「だから、ほっとけっつってるねんっ!!」
 うちの怒鳴り声に。
 みっちゃんの表情が凍りついた。

「・・・・・・・・・ごめん、心配してくれてんのに。でも、ホンマに大丈夫やから」
 無理矢理笑みを浮かべてみせた。
「・・・・・・・・支えたいって思ってるんですよ?」
 悲痛なみっちゃんのセリフに。
「何そんなに、この世の終わりみたな顔してんねん」
 もう一回うちは、笑ってみせる。
「寝てるし、食べてるし。なっちが心配症すぎるだけや」
 っつ〜ことで。
 裕ちゃん疲れてるねん、帰ってええかな?
 そう付け加えると、ため息とともに。
「・・・・・・・・ご飯でもっつっても付き合ってくれないんでしょ?」
「・・・・・・・・またの機会っつ〜ことで」
「意地っ張りですよね・・・・・・・」
 お互い様やろ?
 そんな意味を込めてニヤリ、と笑って見せた。
128 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時26分54秒
 そのまま歩き出そうとして。
「ゆ〜こっっ!!」
 後ろから、ドン、と体当たりされた。
「うわっっ」
 思わずひっくり返りそうになって、何とか体勢を立て直す。
「・・・・・・・・・・矢口、あんたなぁ・・・・・・・・」
 そのままうちに抱きつきながら。
「・・・・・・・喧嘩、してたの?」
 かなり急いで走ってきたのだろう、矢口の息はちょっと荒い。

「してへんって」
 うちの答える声を聞く気があるのかないのか。
 矢口は、みっちゃんをむっとした顔で睨みつけてる。
 かな〜り焦った様子で首をぷるぷると横にふってるみっちゃん。
 みっちゃん・・・・・・・お気の毒に。
「だって・・・・・・裕ちゃんの怒ってる声、した」
 ぽつり、と呟くと。
 今度は矢口がうちの方を見上げてきた。
 甘えた視線。
「だから、してへんって」
 ぐりぐりと頭を撫でると。
 本当に嬉しそうに笑った。
129 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時27分35秒
 矢口に抱きつかれたまま、みっちゃんの方を見ると。
 苦笑い、してた。
「ホンマに姐さん、浮気性ですよね・・・・・・」
「しみじみと言うセリフちゃうやろ」
 ホンマやったら蹴りいれたいとこやけど。
 矢口がしっかりうちを抱きしめてるからそれもできへん。
「今日のとこは退散しますわ」
 言いたい言葉を半分で飲み込んだような表情。
 まぁだいたい何言いたいかはわかるけどな。

 うちのことを心配してくれてるだろう、なっち。
 最近、なっちの家、行ってへんねん。
 何かな・・・・・・そ〜ゆ〜気分ちゃうし。
 忙しいってのもあるし。
 ・・・・・・・あんま心配かけたくないってのもあるし。
 うちは大丈夫やって、そ〜ゆ〜強がりも板に付いた気、するし。

「ん。ありがとな、心配してくれて」
 ひらひらと手を振って、みっちゃんは足早にその場を立ち去って。

 残されたのは、うちと矢口で・・・・・・・・。
130 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時28分24秒
「・・・・・・・あ、アホ裕子。いつまで抱きついてるんだよ?」
 ふと今の体勢に気付いたのか。
 矢口が焦ったように、うちの身体を押し返してきた。
 普段やったらもうちょっとじゃれつくとこやねんけど。
「そやな」
 ふっと腕を外した。

 歩き出そうとして。
 一瞬眼の前が白くなった。
「・・・・・・・ちょ・・・・・・裕ちゃん?!」
 矢口の声が、何とか、うちの意識をつなぎとめた。
 ちっこい矢口に思わずもたれかかる体勢になってもうて。
「あ・・・・・・ごめん」
 間抜けな声を思わず出してもうた。

「・・・・・・・裕ちゃん、凄い顔色悪いよ?」
 少し暖かい手がほっぺたをぴたぴたと叩く感触。
「ごめんついでに・・・・・・・冗談っぽいふりでタクシー乗り場までうちのこと、連れて行ってくれへん?
 それだけでええから。後は帰れるし」
 眼を瞑ったまま、何とかそう言うと。
 小さなため息と。
「ほっておけるわけないだろ?」
 そんな声が聞こえたような聞こえなかったような。
131 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時30分17秒
 気が付くと。
 うちは自分の部屋で寝ていた。
「ん・・・・・・・」
 だるい頭をふってみる。
 台所から、トントンと何やら包丁の音。
 あ、とか。
 うわ、これど〜やんだよ〜とか。
 かな〜り不安を煽る声が聞こえてくるのは・・・・・・・・やっぱり。
132 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時31分03秒
「矢口?」
 足元がちょっとふらつくのはしょうがないとして。
 とりあえず、立ち上がってみる。
 矢口が着替えさせてくれたんだろうか、Tシャツにジャージ姿にいつの間にかなってた。
 着替えさせてくれたのにも気付かんて・・・・・・。
 かな〜り疲れとってんな、うち。
 軽くため息つきながら。
 キッチンへと向かう。
「あ・・・・・・裕ちゃん。起こしちゃった?」
 バツの悪そうな矢口の表情。
「いや・・・・・・それより、何やってんの?」
「ご飯・・・・・・作ってるんだけど・・・・・・・・」
 ますます矢口はバツの悪そうな顔になる。
「え〜と・・・・・・」
「着替えさせてくれたことか?え〜よ、気にしてへんし。それより、うちの方こそごめんな」
「いや、だって、どこに何があるかわかんなかったから、適当にいろんなとこ開けちゃったし・・・・・」
「わかってる方が怖いっちゅ〜ねん」
 軽口を叩くと、矢口はほっとしたように笑った。
 でも。
「部屋の鍵もどこにあるか良くわかんなくて、鞄の中、いろいろ見ちゃった・・・・・・」
 またちょっと困ったような表情をする。
「え〜よ、別に。見られて困るようなもの、入れてないし」
「うん」
 やっと安心したように矢口は笑った。
133 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時31分42秒
「ええ匂いするな〜」
 ひょい、とうちは矢口の肩越しにコンロにかかってるものを覗き込んだ。
 ぐつぐつと鍋に煮えてるのは・・・・・・・。
「うどん、か」
「あ・・・・・・・いや、関西風にちゃんとだしとったんだよ?」
 妙に焦ったような矢口の口調がおもしろくて。
「うん」
 うちはそのまま矢口を抱きしめた。
「ちょ・・・・・・・ゆ〜ちゃんっ!」
 さすがに、目の前で倒れるとこを見たからか、矢口の抵抗はほとんどなくて。
 それをいいことに、うちはさらに矢口をぎゅっと抱きしめた。

 なっちの匂いとは違うけど。
 妙に安心できる暖かさと。
 矢口の匂いに。

 どれくらいそうしていたんだろうか。

 矢口は動かなかった。
 うちも動けんかった。
134 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時32分25秒
「・・・・・・・・裕子、裕ちゃん」
 腕の中で矢口が身じろぎした。
「・・・・・・携帯、鳴ってる」
 ん?
 ふと耳をすませば。
 寝室から聞こえてくる軽快なメロディ。
「あ〜〜ごめん」
 そっと矢口から腕を離すと。
 矢口は寂しそうな顔、した。
「・・・・・・・でなくていいの?」
 そのまま動こうとしないうちに、矢口はすぐその表情を消して、不思議そうな顔になった。
「ん〜〜、用事やったらまたかけてくるやろうし。それより、もうそろそろいいんちゃうん?」
 ぐつぐつ煮立ってる鍋。
「うん、そうだね。・・・・・・ちょっと味、自信ないけど・・・・・・・」
 口ごもる矢口。
「え〜って」
 くしゃっと頭を撫でて。

 一人分しか鍋焼きうどんもどき?を作ってなかった矢口と。
 笑いあいながら、一つの鍋を半分コした。
 ちょっと味は薄かったけど。
 しばらくまともに物を食べてなかったうちにとって。
 何や、五臓六腑に染み渡るっちゅ〜の?
 なっちの料理とはまた違う。
 美味いな〜ってしみじみと思った。
135 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時33分02秒
 あんまうち、部屋に誰かを入れるのって好きな方ちゃうねん。
 自分のテリトリーっつ〜の?
 まぁ、そんな大層なもんでもないけど。
 なっちとは長い付き合いやけど、合鍵とかも渡してへんし。
 逢いたくなったら逢いに行く。
 誰かを待つとか。
 そんなん、ガラちゃうしな。

『裕子。紗耶香いなくなって寂しいの、しんどいの、辛いの、みんな同じだから、
泣いていいんだぞ?』
『・・・・・・・・・・矢口も泣くんやろ?』
 みんなも泣くし。
 そしたら誰が娘。まとめんねん。
 軽くそう続けたら。
 矢口は難しい顔して考えこんだ。
 でも。
『そりゃ、泣くよ』
 同期だし、一杯いろんなことあったし。
『だからって裕子が泣いちゃいけないってこと、ないじゃん』
 力強い瞳。
『一緒に泣こうよ』
『・・・・・・・・・・そやな』
 一杯言わなあかんセリフがあったような気がした。
 でも、うちが言えたセリフはそれだけやった。
136 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月15日(日)23時33分37秒
 なっちには悪いと思ったけど。
 その晩、布団出すもの面倒くさくて。
 矢口と一緒に寝た。
 別に、変な意味とかそんなんやなくて。
 まぁ、何か照れまくってた矢口が可愛いな〜ってな感じ。
 久しぶりに、夢も見んと眠った気がする。
137 名前:つかさ 投稿日:2002年12月15日(日)23時40分31秒
>>名無し読者さん
 なっちゅーはどうしても切なくなるんですよね〜。
 ど〜してなっちを書くとこんなに切なくなるんだろう?とか思いつつ。
 幸せになってもらいたい人NO1ですね。
 あ、ちなみに勝手に幸せになってろ馬鹿野郎NO1は勿論書くまでもなく・・・(w

>>名無し人さん
 楽しく読んでください、今回の話は楽しくはないんですが・・・(w

ってことで、今日の更新は終了。
少し書き加えたいシーンが増えたので、明日更新できるかは微妙です。
自分の体力次第かな?
とりあえず、今週末までには・・・・あげたいです(やや弱気 笑)
138 名前:読者 投稿日:2002年12月17日(火)18時23分05秒
レスがカウントされず・・・書き込みできないのはなぜなんでしょうか?
139 名前:読者 投稿日:2002年12月17日(火)18時25分31秒
すいません・・・書き込みできました。
この前は二重投稿ですいませんでした。
タラシな中澤さんが、ステキすぎです。
140 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月18日(水)23時26分14秒
 紗耶香の卒業ライブ。
 武道館で。

 まっすぐに飛び込んできた矢口の涙が。
 うちの心を直撃した。

 それは、うちの為に流された涙やなかったけれど。
 泣きじゃくる矢口を抱きしめながら。
『泣かんといてぇや・・・・』
 そんなセリフしか言えなかったうちは、全然いけてないんやけど。

 心の中で決めたんや。
 矢口を笑顔にしたるからって。
 あたしが、矢口を笑顔にしたるって。

 うちは。
 うち以外の誰かの為に涙を流す・・・・・・その姿に。
 その、誰かに。
 嫉妬した。

 うちやったら、あんたを泣かせへん。
 ・・・・・・・・・違う。
 泣くんやったら、うちのために泣いて?
 そんなことを想いながら、あんたを抱きしめていたうちは。
 もしかしなくても、リーダーとして失格やったんかもしれん。
141 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月18日(水)23時26分58秒
 矢口・・・・・・・。
 初めて矢口を見た気が、した。
 うちにはなっちがいる。
 そう思っても。
 そう思った矢口への気持ちは止められなかった。
 うちの心をどうしようもなくかき乱す存在。

 なっちのことが嫌いになったとか。
 そんなんじゃなく。
 そう。
 なっちのこと、嫌いになったんやったら、もっと簡単やった。

 なっちの寂しげに笑う仕草を見るのが増えたような気がする。
 それと同時に。
 うちのため息の数も増えていった。

 そんな時、うちは矢口を抱いた。
 ・・・・・・・・・・・。
 抱いたら、何かが変わるかもしれん。
 何かを変えたかった。
 でも。
 何も変わらなかった。
『裕子は悪くないよ。矢口が・・・・・・悪いんだ』
 10個も下の子に、そんな風に言わせてしまう自分のふがいなさ。
 何をどうしたらいいのかもわからず。
 うちは、大人のふりしかできずに。
 月日は流れていったんや・・・・・・・。
142 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月18日(水)23時27分49秒
 朝一の仕事、雑誌のインタビューが終わって。
 珍しく時間が空いた。
 昼からは娘。全体の撮りで・・・・・・ん〜、後二時間もあるんか。
 
「裕ちゃん?」
 ぼんやりと椅子に座りながら、MDを聞いていた。
 不意に肩を叩かれて。
 うちは、反射的に後ろを振り向く。

「あ・・・・・・・ごめん」
 よっぽど険しい顔をしてもうたんか。
「なっち、どうしたん?早いやん」
 何だか泣き出しそうな顔をしてるなっちに焦る。

「なっち?」
 椅子に座ったまま。
 そっとなっちの頬を撫でると。
 なっちは眼を閉じた。
「裕ちゃん、今日、収録の間、時間あるって言ってたから・・・・・・・家にいても落ち着かなくて」
 ぽつり、ぽつりとつむぎ出される言葉に。
 最近、まともにしゃべっていなかったことに気付く。

「うん・・・・・・・・ごめんな」
 そっとなっちの手を引いて。
 なっちの身体を引き寄せた。
 なっちの身体は・・・・・・震えていた。
143 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月18日(水)23時28分40秒
「なっち、どしたん?何か怖いことでもあったんか?」
 髪の毛を撫でる。
 うちの声に。
 なっちはうちに抱きついた。
 うちを抱きしめる強い腕に。
 何故だか、言葉を失った。

「裕ちゃんが好きなんだよ・・・・・・・・・」
 耳元で囁かれる言葉。
「うん・・・・・・・」
「なっちから離れていかないでよぉ」
 何かをこらえるような囁きに。
「うちはなっちの側におるよ」
 あやすように背中を叩くと。
 なっちはうちから手を離した。
「嘘つきっっ」
 悲しい瞳に。
「何が嘘やねん?」
 怒ることもできずに、うちはただ、なっちに問いかけることしかできんかった。

 嘘やない。
 うちが辛いとき、しんどい時。
 一番側におって、支えてくれたのはなっちやった。
 彩っぺがおらんようになった時。
『裕ちゃん』
 そう呼びかけてくれた声。
 なっちに救われた。

 誰よりも大事で、誰よりも守ってやりたい大切なうちの・・・・・・・・・。
144 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月18日(水)23時29分46秒
 そこで思考回路がストップした。
 大切なうちの。
 その続きに、うちは何を考えた?

 思わず呆然としているうちに。
 なっちの叩きつけるようなセリフが続いた。
「最近、矢口から裕ちゃんの匂いがするよ?なっちが気付いてないとでも思ってたの?」
 なっちの瞳に浮かぶ、傷ついたような光。
 うちが・・・・・・・悪い。
 そこまでなっちを傷つけたのはうちや。

「どうすればええ?」
 不意に口を突いて出てきたセリフに。
 うちが一番驚いていた。
 でも。
 妙にその言葉で。
 自分の心が納得したのがわかった。

 どうすれば、もう一度笑ってくれるんや?
 そんな眼をさせたいわけやないねん。
 正直なうちの、心・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・」
 なっちは黙りこんだ。
 何かをいいかけて、口を閉じる。
 何度かそれを繰り返して。
「・・・・・・・・・・なっちと矢口、どっちが好き?」
 ・・・・・・・・・・・。
 そんなん、答えられるわけ、あらへん。
 うちは黙って首を横にふった。
145 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月18日(水)23時30分40秒
「答えてよ、裕ちゃん」
「そんなん、どっちなんて答えられるわけあらへんやろ?」
 なっちと付き合ってて。
 こんな答え方。
 なっちを傷つけるってわかってても。

「なら、なっちのことが好きだって言ってよっっ!!!」
 
「うちは・・・・・・・」
 なっちのこと、好きや。
 そう答えることは、できるはずやった。

『裕ちゃん、ゆ〜こっっ。アホっ』
 矢口の顔がフラッシュバックした。
 憎まれ口ばっかたたいて。
 好きだよ、なんて。
 全然言おうともせずに。
 でも。
 うちの腕が身体から離れたら。
 どんな顔してるんか気付いてるんか?
 言葉よりも雄弁に語ってくれるその表情。

 ・・・・・・・・・・裕ちゃんが好きなんだよ・・・・・・・・・・。
146 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月18日(水)23時31分47秒
「なっち・・・・・・・」
 何も言えずに。
 うちは、俯いた。
「裕ちゃん、気付いてなかったの?」
 なっちの寂しそうな声に。
 うちは反応できへんかった。
「裕ちゃん、ずっと矢口のこと、眼でおっかけてるよ?」
 なっちの眼から視線が外されへん。
「裕ちゃんが本当に大事に思ってるのは誰?」

 しんどい時。
 辛い時。
 寂しい時。

 いつの間にか、うちが求めていたのはなっちやなかった。
『アホっっ』
 大人の仮面を外して。
 馬鹿やって、ふざけあって、じゃれあって。
 かっこつけないそのままんまのうちを。
 見せれたのは。

 ・・・・・・・・・・・・・・矢口・・・・・・・・・・・・。

 やっぱり何も言えないうちを見て。
 なっちはため息をついた。

「もう一回聞く。裕ちゃんは、なっちと矢口、どっちが好き?」

 沈黙が続いた。
 なっちはもう何も言わなかった。
 黙ってうちを見てる。

「うちが好きなんは・・・・・・・・」
 そう言いかけたとき。
147 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月18日(水)23時33分04秒
「おっはよ〜〜♪」
 楽屋のドアが勢いよく開いた・・・・・・・。

「「「・・・・・・・・・・・」」」
 何とも言えない三者三様の沈黙が落ちた。

「・・・・・・え?何か矢口、まずいとこに来ちゃった?」
 戸惑ったような矢口の声。
「別に、大丈夫や」
 ため息と同時に。
 うちは、声を吐き出す。

 さすがに、そのまま楽屋にはいづらくて。
 そのまま立ち上がって、楽屋を出て行こうとしたんやけど。

「裕ちゃん、答えてよ」
 なっちが不意に、言った。
 なっちはうちと矢口に背を向けてて。
 表情は見えなかったけど。
 握りしめた拳に。
 震えてる肩。

 なっちの痛いほどに真剣な想いが伝わってきて。
「・・・・・・・・・・矢口や」
 え?何?
 何が矢口なの?
 まったくわけがわからない、といった矢口。

「わかった」

 そう答えたなっちは。
 楽屋から出て行くうちを追いかけてこようとはせんかった・・・・・・・・。
148 名前:つかさ 投稿日:2002年12月18日(水)23時38分02秒
>>読者さん
タラシな中澤さん・・・・・ですよね〜(笑)
姐さんの心境ってのを書きたくて。一応、タラシのつもりではない姐さんには
なってる・・・・・はず、なってると思いたい(笑)

っつ〜ことで。
明日で更新終了です。
何か、いろいろと感慨深いものはありつつ。
それでは。
149 名前:つかさ 投稿日:2002年12月18日(水)23時40分25秒
あっと書き忘れ^^;;
読者さん、別に二重投稿とか、そんなん全然気にしてないんで^^
レスありがとうございます(ぺこり)
150 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時09分04秒
 それから。
 何故かさんざん矢口に怒られた。
『何があったかわかんないけど、なっちを泣かせるなよっっ!!』
 はいはい。
 しゃ〜ないから、ちゃんと怒られといた。

 後は、さらに何でかわからんけど、圭坊。
『自業自得だから、しばらくへこんでなさい』
 わかってるんか、わかってないんか・・・・・・・。
 妙に悟ったその口調に。
 素直にしたがって、しばらくへこんどくことにしといた。

 まぁそんなこんなでも。
 やっぱり過密スケジュール。
 なっちはうまいことうちを避けてるようにも見える。
 心配は心配やけど。
 ・・・・・・・・・・・。
 こればっかはしゃ〜ない。
 何だか妙に冷静な自分の感情にこっそり苦笑い、してたり。

 そんな時。
 収録の合間。
 珍しく、なっちが近寄ってきた。

「裕ちゃん、裕ちゃん」
 袖口を引っ張られて。
「なんや?」
 じっとうちの顔を見つめてくるなっち。
151 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時09分52秒
 ・・・・・・・・・・・何やねん、照れるやんけ。

「「・・・・・・・・・・・・・」」
 しばらくお互い見詰め合って。

「やっぱり綺麗な顔、してる・・・・・・」
 なっちがぼそり、と呟いた。
「は?」
 何やねん、それ。
「エルセーヌのCM見た」
 あ、そう。
 思わず普通に返すと、なっちはふくれる。

 っつ〜か、安倍さん。
 もう、平気なんか?
 うちは・・・・・・まだ、覚えとるよ。
『なっちから離れていかないでよぉ』
 なっちの一生懸命な言葉に。
 応えられなかった、その気持ち。

 痛くないんか?

 思わず、なっちの頭をぽんぽん、と叩くように撫でると。
 なっちは、複雑そうな表情を見せた。
152 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時11分10秒
 そして。
「かっこよかったよ、裕ちゃん」
 ため息とともに吐き出されたセリフに。
「ど〜した?」
 不安定っぽいなっちをほっとけずに、思わず抱き寄せた。
「・・・・・・・もう、終わりにしようね」
 思わず、ドキっとして。
 抱き寄せた腕が強張るのがわかった。
 なっちだけや。
 そんな気休めを言えるほどうちは・・・・・なっちのこと、大事にしてないわけじゃない。
 無言になってしまったうちを見て。
 なっちは大人びた顔して笑った。

 いつの間に、そんな表情するようになったんや?
 ・・・・・・・きっと、多分。
 いや、絶対うちのせいやけど。
「なっちのこと、大事に思ってるねんで」
「でも、好きだ、とは言えないんでしょ?」
 うちは、眼を閉じた。
 浮かんでくるのはちっこい可愛くていつだって元気一杯に飛び跳ねるあの娘で。
「・・・・・・・・・ごめん」
153 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時11分54秒
 いつの間にか、うちの中でどんどん存在が大きくなっていった。
 止めようと思った。
 でも、止めれなかった。
 なっちを泣かせたいわけやない。
 うちにはなっちがいる。
 何度だってそう思って。
 何度だってブレーキをかけて。
『裕子、アホっっ!!』
 何で・・・・・・憎まれ口が嬉しいなんて思ってしまったんやろ?
 真っ直ぐな瞳に、真っ直ぐな行動に。
 本当に本当に、可愛いペットやって。
 そう思えた時期はあったのだけれど。

「・・・・・・・ごめん、なっち」
 もう一度そう呟くと。
「・・・・・・・・ただの浮気じゃないとは思ってたよ。浮気だったら、裕ちゃんもっとうまく
やる人だし」
 何も言い返されへん。

 なっちのこと、嫌いになったわけやない。
 いや、どっちかというと、やっぱりめちゃめちゃ好きや。
 ずっと一緒にうちを支えてきてくれた、大事な、仲間。

 ・・・・・・・・・・・・・・仲間やから。
 大事な存在に変わりはないから。

 うちは、ごめん、以外の言葉は持たへんねん。
154 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時13分26秒
 もう、これ以上なっちの心をもてあそんだらあかんねん。

 何も言えずに黙ってなっちの眼を覗き込んだ。
 なっちは、わかってるよ、と言いたげに。
 もう一度うちの身体をぎゅっと抱きしめて。
 そして、離れた。
155 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時14分06秒
「裕ちゃん、最後になっちのワガママ、聞いてくれる?」
「・・・・・・なんや?」
 なっちは一つ、大きく息を吐いて。
 うちの眼を真っ直ぐにみたまま。
「裕ちゃんのこと、好きでいていい?」
「・・・・・・・・うん」
 思わず、いろんな感情が渦巻いて。
 きっと、嬉しさと、困った感情。
 なっちがうちのことを好きでいてくれる、という安心感と。
 この返事がなっちを縛り付けるのかもしれん、という困惑。
 うちの微妙な表情に気づいているんかいないのか。
 なっちは淡々と続けた。
「後、なっちと別れたこと・・・・・・・矢口にはしばらく言わないで欲しい・・・・・・・」
 思わずうちは言葉に詰まった。
 それは・・・・・即答できへん。
「しばらくってどれくらいや?」
 矢口にこれ以上こんな中途半端な位置で。
 しんどい立場を続けさせることに、ためらった。
 でも、そんな風にうちが思う資格があるのかどうか。
「・・・・・・・・なっちが裕ちゃんのこと、ふっきれるまで」

 うちを見上げるなっちの大きな瞳が、揺れた。
 今にも、泣き出しそうな。
156 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時14分57秒
「わかった。約束する」
 それ以外、どう言えっちゅ〜ねん。
 ただ。
「矢口が本当の本気でうちを欲しいっつったら、うちはばらすで?」
 譲れない、ライン。
「矢口が・・・・・・」
 なおも続けようとした言葉を。
 なっちはさえぎった。
「わかってる。もうちょっと時間、欲しいだけ、だから・・・・・・・」
 声が震えてた。
 でも、なっちは笑ってた。

「なっち・・・・・・・」
 うちは、拳をぎゅっと握り締めた。
「なっちはうちの支えやった。今までも、これからも、それは変わらんから・・・・・・ごめんな」
 なっちの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「わかってるよ。ありがと、裕ちゃん。・・・・・・・・・・バイバイ」
 それだけ言うと。
 なっちはうちから離れていった。

 うちの方を振り返ることは、しなかった。

 わいわい騒ぐメンバーの中に混じって。
 なっちが笑顔を作ってるのを見て。
 うちは、ほっと息をついた。
157 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時15分34秒
 ただ、その輪の中に入ることもためらわれて。
 ぼんやりと近くにあったパイプ椅子に腰をおろした。

 自分でも驚くほど平静やった。
 別れたっつったらもっと、こう・・・・・・心の痛みとか。
 いろいろあってもええんちゃうん?
 思わず自分で自分に突っ込み。

 そしてそれと同時に。
 今更ながらに、なっちに悪いこと、しててんな、と自責の念が湧き上がってくる。

 なっちは。
 どんな思いでいるんやろ、今・・・・・・・・。

 ぼんやりと考え込んでいると。

「裕ちゃん」
 現実世界にうちを引き戻す、声。
「ん?圭坊、どした?時間か?」
 立ち上がりかけたうちを、圭坊は手で制した。

「なっちと何かあった?」
 心配そうな瞳。
「・・・・・・・別に?何か変なんか?」
 普通の声で聞くと。
「そ〜ゆ〜わけじゃないけど」
 圭坊はいいよどんだ。
「大丈夫や」
 ぽつん、とそれだけ返した。
 圭坊はわけわからんって表情しとるけど。
158 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時16分14秒
 なぁ、なっち。
 あんたはそれくらいでへこたれる奴ちゃうやろ?
 ・・・・・・・・・大丈夫じゃなかったら、うちが支えたる。
 ずっと・・・・・やないけど。
 あんたが不安定になったら、うちにはすぐわかるから。
 矢口とはまた違った意味であんたのことが大事やねん。
 矢口とは違う。
 でも。
 太陽みたいなその笑顔に何度もうちは救われた。

 だから。
 限界まであんたとの約束は守るし。
 あんたが幸せになるの、ちゃんと見届ける。
 それがうちのケジメやと思ってるし。

 圭坊は何も言わずにうちの側で、うちと同じように騒ぐ娘。の輪を見てる。
 一際大きく響く笑い声。
 矢口の笑顔に思わず見惚れてた。

「ニヤケ顔っっ」
 ぺしっと頭をはたかれた。
 圭坊が苦笑いしながら、うちを見下ろしてる。
「誰見てにやけてるのよ?」
159 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時16分49秒
 眼は笑ってないけど・・・・・・・。
「内緒」
 ばればれやろうけど、な。
 うちはニヤリ、と笑ってみせる。
 まだまだあんたには負けへんで?
「圭坊こそ、誰見てにやけてるねん」
 うちは立ち上がって、お返し、とばかりに、圭坊の頭をこづいた。
「大丈夫や、大丈夫」
「裕ちゃんが言うと、信憑性ないわよね・・・・・・」
 ぼそり、と呟かれる言葉は無視や、無視。

「後、も〜ちょっと、頑張っていこうや?」
 はいはい。
 圭坊がしょ〜がないな〜って表情して笑う。
「頼りにしてるんだからね、リーダー」
 ぽん、と背中を叩かれて。
「まっかせなさい」
 手をひらひらと振る。
「・・・・・・・・やっぱり信憑性、ないわね・・・・・・・」
「うるさいんわっっ!!」
 思わず突っ込んで。
 二人、けらけらと笑いあった。
160 名前:ホントウの理由 番外編2 投稿日:2002年12月19日(木)23時17分50秒
 なぁ、矢口。
 も〜ちょっとやから。
 しんどい思いさせるかもしれんけど。
 うちのこと好きでいといてな?

 そんな風に不安に思う気持ちを。
 笑い飛ばそう、今だけは。
 未来なんて、先なんてわからへんから。
 今、この瞬間を、笑いあおう。
 幸せやったね、って。
 いつか振り返れれば、それでいいねんから。


                                 【end】
161 名前:つかさ 投稿日:2002年12月19日(木)23時20分03秒
はい、終わりました。
tsunagiになってたのか?なっちゅーになってたのか?
等々の意見は勿論のことですが。
ずっと書きたかったものが書き上げられて自分的には大満足です。
そして。
突然かもしれませんが。
とりあえず、これでSEEKでの作品発表は終わらせてもらいたいと思ってます。
自分で、やぐちゅーの話を書かなくなるのはファンを辞めたときか、自分の中で書きたいものが
なくなった時、っつ〜のは決めてて。
これ書き終わった時。
本当に、あ〜、完全燃焼だ〜と。
過去、話終わらせる時にあった、まだも〜ちょっとこれ書きたい、あれ書きたいが。
すっぱりとなかったんで。

もしかしたら、戻ってくるかも、とかそ〜ゆ〜ことは今は一切言えないので。
書きたいものができれば戻ってきます。
ただ、今は本当に完全燃焼。
しばらくSEEKであげてなかった時期に書き溜めたものも今回の話で一気に大放出させました。

レス下さった人、読んでくれてた人、本当にありがとうございました。
やぐちゅー好きは全然健在なので。
どっかのスレで感想など書き込んでるかもしれないですが(笑)
暖かく見守ってやってください。
162 名前:つかさ 投稿日:2002年12月19日(木)23時21分50秒
後、ここで名指ししていいものか迷いつつ(笑)
たむさん。
turning pointのスレ内で、つかささんのファンなんでっつ〜の、すげ〜嬉しかったです。
>>山ほど書き溜めてずばっと載せてくれるはずです
っつ〜言葉に。
思わず、ドキっとしながら(笑)
他スレで作品待ってます、な〜んて言われたの初めてで。
んで、またたむさんの言葉が嬉しくて、妙にインパクト残ってて、改めてお礼、言わせてください。

そして。
もう名指しはしませんが(笑)
いろんな人のいろんなレスが自分を勇気付けてくれました。
マジで感謝の気持ちで一杯です。

最後になったけど、中澤さん、矢口さんに、栄光あれ。
やぐちゅーは永遠に不滅です。
163 名前:たむ 投稿日:2002年12月22日(日)01時13分08秒
完全燃焼お疲れさまでした。名指しでレスまで頂いちゃって(喜)
一ファンとしては“ずっと火が燻ったまんま”を希望しますが(w
いつの日か、つかささんのお話に再び出会えることを楽しみにしてます。
最後に・・tsunagi・なちゅー、非常に美味でした(w
164 名前:スレッド保全屋 投稿日:2003年01月15日(水)19時54分55秒
世界人類が平和でありますように
165 名前:つかさ 投稿日:2003年02月10日(月)01時18分41秒
保全
166 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月10日(月)03時22分10秒
何かを期待しつつほぜん〜。
167 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月29日(土)23時16分38秒
 重ねてきた年月は。
 無駄じゃなかった。
 そう思えること。
 そう思おうとすることに。

 意味はきっとあるのだろう。

 例え流されつづけ。
 翻弄されつづけたとしても。
 自分が自分であることに、後悔したくないから。

 歯を食いしばろう。
 どんな結末が待っていたとしても。
 叫びだしたい気持ち、抱えてみても。
 笑って見せよう。

 きっとそれは、強さとかそんなんじゃなく。
 意地とプライドだったとしても。
168 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月29日(土)23時17分43秒
偶然

〜〜〜1〜〜〜

 夜、ふっと気付いた。
「あれ?」
 鞄の中をごそごそとあさってみても。

 ・・・・・・・・・携帯が、ない。

「うっそ〜?!」
 とりあえず叫んでみた矢口だが。

 最後に携帯を触った記憶をまさぐると。

「・・・・・・・・・・・・ぁ」

 どうやら何かを思い出したらしい。

 電話をとって。
 手慣れた様子で番号を押す。

「もしもし、裕ちゃん?」

 あ〜矢口?そろそろかかってくると思ってたわ。
 携帯ここにあるで。ドジやなぁ〜。

 受話器の奥から聞こえてくる声に。
 矢口は笑う。

 そういや矢口、だいぶ前にも携帯落としたことあったよな?

「も〜時効じゃんっ。いつの話してるんだよっ!」

 矢口のツッコミにクスクス笑う声。

 あの頃はこんな風になるとは思ってへんかったわ。

 優しい声音に。

「ば〜か・・・・・・・・矢口もだよ」

 初めから創られたストーリなんて存在しないように。
 この世に存在するものすべて。
 誰かが創りだしたもの。

 たった一つのボタンの掛け違い。
 たった一つのささいな出来事が。

 何かを創り出す、偶然になる。
169 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月29日(土)23時19分18秒
ーーーーーーーーーーー

 最初のイメージ?
 そんなの決まってる。
 怖い。
 たったその一言に始まって。
 その一言で終わる感じ。

 黙って立ってれば、綺麗なお姉さんなのに。
 言葉を発せば、関西弁にきつい突っ込み。

 だいぶ慣れたけど・・・・・・・。

 矢口は廊下でため息をつく。

「矢口〜〜っ!!」
 後ろからダッシュで駆け寄ってくる人間、約一名。

「うわっ!!!」
 体当たりされて、矢口はつんのめる。
「何すんだよ〜〜っ!!」
 振り返ると。
 満面の笑みを浮かべた市井がいた。

「市井も今終わったんだ。一緒に帰ろ?」
 ニコっと笑われて。
「な〜に営業用スマイル作ってるんだよっ!!」
 お返しとばかりに体当たりし返して。
「痛いってば、矢口っ」
 ケラケラと笑いあった。

 帰り道。
「ご飯でも食べにいこっか?」
「紗耶香元気だよね〜」
 しみじみと呟く矢口。
170 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月29日(土)23時20分09秒
「なん?矢口は元気ないのか〜?」
 その口調に。
 怖い怖いリーダーを思い出して矢口は口をとがらせた。
「も〜、思い出させないよ」
 拗ねた顔つきに。
 市井は苦笑いする。
「矢口は裕ちゃんのこと、嫌い?」
 真っ直ぐな視線。
「そ〜ゆ〜わけじゃないけど」
 矢口は俯く。

 市井は困ったように笑った。
「誰だって嫌われ役になんてなりたくないもんだよ」
 妙に大人びたその言葉に矢口は顔をぱっとあげる。
「怒られて、それでわかることもあるんじゃん?」
「・・・・・・・紗耶香は裕ちゃんのこと、好き?」
 単刀直入な矢口の言葉に。
 市井はきょとん、とした表情。
「そ〜ゆ〜問題じゃなくて、さ。怒られるってことはまだできるって認めてくれてるって
ことだよ。市井は裕ちゃんに負けたくはないって思ってるけど」
 好きかどうか、なんて考えたことはないな〜。
 笑って空を見上げた同期の顔。

 妙に悟ったその表情。
 何だかとても印象的、だった。
171 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月29日(土)23時21分36秒
「ただいま〜」
 結局軽く市井とお茶をして。
 家に帰ってきた矢口。

 そのまま部屋に入ろうとする矢口に、母親が声をかける。
「真里、さっき中澤さんから電話、あったわよ」
「へ?中澤さんって・・・・・・・・裕ちゃん?」
 はい?
「そうよ・・・・・・・・アンタの携帯預かってるって」
 え?

 矢口は鞄をごそごそあさる。
「・・・・・・・げ」
「ほんとにおっちょこちょいなんだから。ちゃんと中澤さんにお礼言っとくのよ」
 母親の言葉はとりあえず、右から左へ。

 部屋のベッドに転がり。

「あ〜、失敗したよ〜〜っ」
 よりにもよって何で裕ちゃん?
 とりあえず、電話で連絡しなきゃいけないなか〜とか思っても。

「メモリ、全部携帯の中じゃん・・・・・・・」

 また怒られるのかな?

 う〜〜〜。

『誰だって嫌われ役になりたくないもんだよ?』

 頭の中で市井の言葉がリフレイン、する。

「・・・・・・矢口にはわかんないよ」

 ぽつり、と独り言。
172 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月29日(土)23時22分24秒
 怒った顔が見たいわけじゃない。
 オリジナルメンバーに見せる表情と、矢口たちに見せる顔。
 ・・・・・・・全然違うじゃん。

 怒らせたいわけじゃないんだ。

 ねぇ、もっと・・・・・・・・・。

 疲れからか。
「ご飯できたわよっ」
 母親のその言葉に起こされるまで。
 考え途中でそのまま矢口は眠りに引き込まれていた。
173 名前:つかさ 投稿日:2003年03月29日(土)23時25分25秒
久々にageると気持ちいいな〜(おい)
舞い戻ってまいりました。
保全、ありがとうございました。
自分でも保全かけちゃったけど(笑)
多分こっちが残ってなかったら新作あげようとは思わなかったような気が・・・(苦笑)

それでは。この話でも楽しんでいただければ幸いです^^
174 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)23時56分54秒
待ってました。
「つかさ」さん自身の保全に凄く期待していたんです。

ポコポコのやぐちゅー話、お願いします。
175 名前:たむ 投稿日:2003年03月30日(日)00時11分55秒
久々にagaってるの見ると気持ちいいな〜(w
お帰りなさいませ。
やっぱり好きです、つかささん!(の話 ヲイ)
更新、頑張ってください。
176 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月30日(日)00時52分43秒
復活バンザイ〜!!
つかささんのやぐちゅー大好きです!!!
177 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月30日(日)01時07分29秒
わ〜、復活されてる〜っ。
つかささんの書かれるお話大好きなのですごく嬉しいです。
またここに来る楽しみが増えました。
続き楽しみにしてま〜す。
178 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
179 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
180 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年03月30日(日)15時29分34秒
しまった、出遅れた!つかささん復活おめでとうございます。
頑張って下さい
181 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月31日(月)00時34分13秒
〜〜〜2〜〜〜

 次の日。

「おはよ〜ございます」

 ガチャリ。

 矢口は恐る恐る楽屋のドアを開ける。
「おはよ〜さん」
 飛んできた声がそれほど不機嫌そうじゃなかったことに矢口はほっと息をつく。
「早いな?」
「あ・・・・・・・・うん」

 前、敬語でしゃべって。
『タメ口でええで?』
 きつめの視線が怒ってるようで。

 みんながいるとこじゃなくて、ちゃんと二人のときにお礼、言いたかったから早く来てみたものの。
 いざ二人っきりになると・・・・・・。
 場がもたないじゃんっ。
 何となく居心地悪そうにしている矢口を見て。
 中澤はしゃ〜ないな、といった表情。
「ほら、これ」
 差し出された携帯と。
 差し出してきた、人。
182 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月31日(月)00時35分05秒
 矢口は難しい顔をして、交互に携帯と中澤を見比べる。
「・・・・・・・・・・寝てるんか?」
 きょとん、とした表情の中澤。
 ちゃんとお礼、言わなきゃ、だよね。
「ありがとうございましたっ」
 いきなりの矢口の勢いのよさに。
 中澤は、思わず身をひいて。

 いきなり爆笑し始める。

「・・・・・・・・何だよ〜」
 上目遣いの恨めしげな視線。

 中澤はクスクスと笑いながら。
 矢口の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「可愛いぃな〜」
 中澤の無防備な、笑顔に。
 ほっとするものを感じながら。
 矢口はむっと頬をふくらませてみせる。
「子ども扱いすんなよっ!!」
「子どもやん」
 一刀両断に切り捨てられて。

「そ〜だけど」
 矢口は俯く。
「・・・・・・・・・・ん?」
 ふっと中澤の声のトーンが変わる。
「・・・・・・どうした?何かあったんか?」
 心配そうな声に。

「何でもない」
 矢口は顔をあげて笑って見せたけれど。
「・・・・・・・大丈夫って顔してないやん?」

 中澤はそっと矢口の頬を撫でようとして。
「ヤダッ」
 矢口は泣き出しそうな顔をして身体をひいた。
「・・・・・・・・・・・・え?」
183 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月31日(月)00時36分17秒
 タイミングがいいのか悪いのか。
「おはよ〜」
 爽やかな笑顔で石黒彩、登場。
「・・・・・・・・・彩」
 何となくバツの悪そうな顔をする中澤に。
「何?また矢口泣かしたの?駄目じゃん」
「・・・・・・・・アタシ、何も・・・・・・・・」
 情けなさそうな表情に。
 石黒はカラカラと笑う。

「まりっぺ〜?どした?」
 いつの間にか自分の後ろに隠れてしまった矢口に。
 石黒はいつも通り。
 何も言えず、矢口は首をぶんぶんと振る。

「何でもない」
「何でもないって顔してないけど・・・・・・・」

 石黒はちらっと中澤の方を見る。
 中澤はぐしゃぐしゃと髪をかきあげて。

「飲み物でも買ってくるわ」
 さっさと立ち上がる。
「矢口、携帯ここ置いとくから」
 簡単に告げられた言葉。
 怒ってるわけでもなく、哀しんでるわけでもない、そんな表情に。
「・・・・・・・・・ぁ」
 呼び止めたいような、そうじゃないような。
 矢口は微妙な表情でその後姿を見送る。
184 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月31日(月)00時36分50秒
 中澤が楽屋を出て行って。
 石黒がぽんぽん、と矢口の頭を叩いた。
「彩っぺ〜〜」
 ふにゃ、と矢口の表情が崩れる。
「ん、わかってるよ」
 よしよし、と矢口の頭を撫でる石黒と矢口の姿は。
 姉妹、といってもいいほどの感じで。

「仲良くしたいんだよね?」
 石黒の言葉に、矢口はこくこく、と頷いた。

 何となく、微笑まして、石黒は笑う。

 まだ、慣れないかな〜?
 勿論、その頭に浮かんでいるのはさっき楽屋を出て行った拗ね気味のひねくれ者。
 矢口が近づいてくるの、結構嬉しがってるくせに。
 威嚇してるよね〜。
 矢口がびびっちゃうのも無理ないって話で。

 紗耶香とか、圭ちゃんだとそこまででもないんだけど・・・・・・?

「裕ちゃん、矢口のこと、嫌いなのかな?」
 半泣きの矢口の表情に。
 石黒は思わず苦笑。
「そんなわけないじゃん?」
 結構矢口のこと、心配そうに見てるよ?

 石黒の言葉に。
 矢口は俯く。
185 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月31日(月)00時37分24秒
 そんな言葉が聞きたいんじゃなくて。
 何だか、もやもやする、この感情。

『子どもやん?』

 当然のように告げられる、言葉に。

 どうしてこんなに胸が痛むんだろう?
「まりっぺ〜?」
 石黒の優しい視線。
 石黒にはお姉ちゃんって素直に甘えれるのに。
 同じように中澤が近づいてきても。
 何となく、素直になれない。

「・・・・・・・・・嫌われた、かな・・・・・・・・・」

 本格的に落ち込んだ様子の矢口を目の前にして。
 石黒は困ったように腕を組む。

「裕ちゃん、確かに人見知りで目つき悪いし、とっつきにくい人だけどさ」
 ん?
 自分で言ってて誉めてる気がしない。
 石黒は少し首を傾げるが。
 それでも。
「理由もなく人を嫌いになる人じゃないよ?」
 それは、確信。
 うん。
 矢口が頷いた。
186 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月31日(月)00時38分48秒
 コンサートの最中。
 大事なソロのパートで大トチリ。

 次の公演で。
 また失敗しないか、緊張でガチガチになってた矢口のとこに来たのは中澤だった。
『誰もあんたに期待なんかしてへん』
 怒られる、と思って。
 萎縮した矢口に。
『失敗してもええから思いっきりやったらええねん』
 思いもかけない言葉だった。
『あんたは一人ちゃう。みんな、メンバーおるから。忘れんとき。あんたは一人ちゃうから』

 その時初めてぎゅっと抱きしめられた。
『失敗してもええから。思いっきり暴れてこようや?』

 ニカっと笑ったその笑顔。
 やっとあの時、震えが止まった。

「習うより慣れろって言うじゃん?懐にいれた人に対して冷たい人じゃないし。ね?」
 
 石黒の言葉に。
 矢口はコクコクと頷く。
「んじゃ、ま、仲良くなれるように頑張りな?」

 そんな中。
「ただいま〜って、何?まだやってたん?」
 能天気といえば能天気な声。
 石黒は、ちらっと中澤の方に視線をやると。
「はい、裕ちゃん、バトンタッチ」
「へ?」

 ひょい、と中澤の手の中から一本缶コーヒーを引き抜いて。
 今度は石黒がさっさと楽屋から出て行く。
187 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月31日(月)00時40分01秒
「「・・・・・・・・・・・・・・」」

 思わず中澤と矢口は顔を見合わせて。
 クスクスと笑った。

「も〜大丈夫か〜?」
 中澤は矢口の近くにあった椅子を引き寄せて。
 どっかと座りこむ。
 中澤の眼は、優しい。
「うん。・・・・・・それよりあの、さ。裕ちゃん」
「ん〜?どした?」
 おずおずとした矢口の声に。
 中澤は矢口に視線を向ける。

「ご飯、食べに行こっ?!」
「はい?」
 唐突な矢口の申し出。
 中澤はきょとん、とした表情。
「アタシと?矢口で?」

 大きく頷く矢口。
「ほら、携帯拾ってもらったお礼っ」
 一生懸命言葉をつむぐ矢口を見て。
 中澤はクスリ、と笑みをもらす。
「ホンマあんたびっくり箱みたいな奴やな」
 ええよ。
 簡単に告げられた言葉。
「あ〜でも矢口、何食べに行きたい?」
「裕ちゃんが行きたいとこがいいっ!」
 はい?
 何故だか力いっぱい拳を握り締めてる矢口に。
 中澤は不思議そうな表情を隠さない。

「・・・・・・・・まぁ、考えとくわ」
「うんっ」

 嬉しそうに笑った矢口の顔を見て。
 まぁええか。
 中澤はちょっと乱暴に矢口の頭を撫でた。
188 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年03月31日(月)00時40分31秒
 メンバーがそれぞれに集った後。

 矢口が石黒のところにトコトコと駆け寄って、結果報告。
「ね〜ね〜彩っぺ、習うより、慣れろ、だよねっ!!」
 力いっぱいそう宣言された石黒が。
 大爆笑したことは言うまでもない。
189 名前:つかさ 投稿日:2003年03月31日(月)00時51分40秒
>>173 名無し読者さん
 保全はつかさでかけるかかなり迷ったんです、正直。
 書けるのか?って自問自答してた時期でもあり。
 それでも待ってる人がいてくれるっつ〜のは励みになりました。

>>174 たむさん
 お久しぶりです^^
 な〜んかね〜、二つ同時ageっつ〜のをやってみたかったんです(ただの馬鹿 笑)

>>175 名無し読者さん
 ありがとうございます。
 やっぱ、復活っすよね〜。でもまたこの話の後、期間あくかも(苦笑)

>>176 名無し読者さん
 楽しみにしてくださっていいものかどうか・・・・まだ思考錯誤してますが^^;;

>>177,178に関しては削除依頼出しました。

>>179 やぐちゅー中毒者セーラムさん
 全然出遅れてなんてないですよ〜。
 っつ〜か気付くの早いっすね、みなさん・・・ってageたらさすがに目につくか(自爆)

春は別れの季節、そして出逢いの季節。
自分は中澤裕子が大好きだな、と。
今日のラジオ聞いて改めて実感しました。
190 名前:名無し読者。 投稿日:2003年03月31日(月)21時28分03秒
昨日のラジオ・・・マジでかっけ〜!!でした。
やぐっちゃんに対してのさりげない優しさなど・・・
普段は、子供っぽさ全快なの中澤さんですが
やっぱり大人なんだな〜と 改めて感じました(w

つかささんの小説に癒されました。
191 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月01日(火)14時19分37秒
〜〜〜3〜〜〜

 で・・・・・・・・アタシ、何やっとるんやろ?

 いきつけの居酒屋。
 奥に座敷があって。
 そんなに目立つ場所やないってので、よくみっちゃんとか彩っぺとかと来てるんやけど。

 中澤の目の前には興味津々、といった感じの矢口。
「え〜と、なぁ、矢口」
 やっぱり場違いな感じは拭えなくて。
『裕ちゃんの行きたいとこがいいっ』
 頑固に力説してくれるこの子には逆らえなかったわけやけど。
 やっぱり普通のイタ飯屋とかにした方が・・・・・・・・・。

「何?」
 妙に嬉しそうに答えてくる矢口。
 ここで別の場所に・・・・・・なんて言うても・・・・・・・聞いてくれそうにあれへんなぁ。

 とりあえず、こんなトコに矢口連れてきたのバレたら、彩っぺにどやされそうやし。
「彩っぺとか、他のメンバーにはここ来たの内緒な」
 一瞬、矢口はきょとん、として。
「矢口と裕ちゃんの秘密ってこと?」
 ?
 何でそんなに嬉しそうやねん?
「あぁ、そうやで」
 それでも律儀に中澤がそう答えると。
「へへへへへ」

 まぁ、何やようわからんけど。
 嫌われてはないらしいな。
 中澤はほっと息をついた。
192 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月01日(火)14時20分31秒
『何で矢口には威嚇するの?』
 呆れたような石黒の言葉が頭の中をリフレイン。
 威嚇なんてしてないっちゅ〜ねん。
『アタシ、嫌われてるんやろ?』
 真面目にそう返したら。
 石黒はぼこっと中澤の頭を一発はたいて。
『矢口のど〜ゆ〜態度見てそう思うわけ?』
 さっさと行ってしまった。

 二時間後。
「矢口、デザートとかええか?」
 さすがに矢口と二人っきり。
 それほど羽目を外す飲み方はしなかったものの。
 中澤は至極上機嫌で。
 矢口もそんな中澤の様子を満足そうに眺めていて。

 話すことはしょ〜もないことばっかりするけど。

 裕ちゃんと二人っきりだ〜。

 やっぱり矢口は嬉しそうに笑っている。

 いつもは楽屋でも何でも。
 中澤の周りには人がいてて。
 矢口のこと、ちゃんと見てくれてる?

 何だか、不安で。
 この気持ちが何ていうのか。
 段々矢口にもわかってきてるけど。

「矢口?そろそろでよか?」
 ぼんやりしていた矢口に。
 中澤がふっと笑いかけていた。

 無防備な笑顔に。
 ドキン、とする。

「あ、うん」

 慌てて立ち上がる。
193 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月01日(火)14時21分05秒
 矢口が誘ったんだよ?
 年下に奢ってもらうわけにいくかいっ!

 しょうもないことでレジで騒いだり。

「あ〜、明日も早いねんな〜」
 店を出て。
 中澤が大きく伸びをした。
「裕ちゃん、遅刻したら駄目だよ?」
 アンタなぁ。
 ジロリ、と中澤が矢口を見て。

 ひょい、といきなり矢口の肩を中澤が抱き寄せた。
「え?」
 脇を通り過ぎる酔っ払いのおじさん。
「気ぃつけや」
「あ、ありがと」
 中澤は何も言わずに黙ってそのまま矢口の手をぎゅっと握り締めた。

「矢口ちっこいから迷子になりそうやしな〜」
「何だよそれっ!!!」
 叩かれた憎まれ口に反応しながら。
 矢口はぎゅっと握りしめられた手から伝わってくる。
 中澤の手の温もりをずっと感じていたい。
 そう思っていた。

 結局矢口の家まで送ってくれた中澤。

 未成年、危ないやろうが。
 中澤にしたら当然の行動なのだろうが。
194 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月01日(火)14時21分48秒
「あのさ、裕ちゃんっ!!」
 別れ際。
 矢口は勢いよく顔をあげる。
 いきなりの矢口の行動に。
「・・・・・・・・・ぅ?何や?」
 驚いた顔しながらも。
 中澤は矢口に向き合う。
「矢口、裕ちゃんのこと、好きだからねっ!!」

 一瞬の沈黙の後。
「はい?」
 中澤は本当に何もわかっていません、と。
「彩っぺとかなっちとかに負けないからねっ!」
 はい?
「今日はありがとっ。んじゃねっ」

 真っ赤な顔して。
 矢口が家の中に駆け込んでいくのを中澤はぽか〜んとした表情で見送り。

 ?

 頭の中はそればっかりが駆け巡っているが。

 まぁ、えぇか。

 楽しくなりそうやな。
 何となくそんな予感に包まれて。
 中澤は歩き始めた。
195 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月01日(火)14時22分40秒
ーーーーーーーーーーーー

 電話口。
「や〜ぐ〜ち?寝とんか〜?」
「へ?」
 思わず。
 昔を思い出していた矢口は間抜けな声を出す。

 クスクスと笑う声。
「返すのどうする?明日、収録どこでや?」
 柔らかい声。

「え〜とね・・・・・・・・」

 あれからもう、5年という月日が流れて。
 変わったことは、数え切れないぐらい。
 もう、一緒の収録なんてほとんどなくて。
 毎日会っていた頃とは、違う、自分たち。

 それでも。
 5年前には覚えていなかった裕子の携帯番号を、いつの間にか覚えた。
 怖いとしか思えなかった裕子の関西弁がいつの間にか大好きになっていた。

 だから、大丈夫。

 見えない明日を。
 笑い飛ばそう。
196 名前:つかさ 投稿日:2003年04月01日(火)14時26分58秒
こんな時間の更新なんて初めてじゃなかろうか・・・・(笑)

>>189 名無し読者さん
 癒されていただけました?
 っつ〜か、書きたいものを書きなぐってるだけなんで・・・恐縮です。

晩にまた更新できればいいとは思いつつ。
ちょっと思い立ったことがあるんで、もしかしたら来週まで更新は無理かも^^;;
すいません。
197 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)15時23分49秒
やっぱり恐がられてますね、中澤さん(苦笑)
なんだか可愛いですね、矢口さん・・・初々しくて(笑)
続き楽しみにしてます!!
198 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)16時25分49秒
お昼ご飯はお腹いっぱいになりました(w
晩御飯もお待ちしております〜!!!

199 名前:kai 投稿日:2003年04月01日(火)23時08分15秒

あっ、発見!
・・ってか遅いですよね・・すみません。

あ〜も〜なんか好きっス。
いいな、いいなぁ〜こういうやぐちゅー♪
昔のやぐちゅーってずっと読みたかったから。
続きが、気になって仕方ないです。

・・つかささんワールド、やっぱり大好きです!(告白かよ)
200 名前:マコト 投稿日:2003年04月02日(水)00時26分09秒
どーも、初めまして!
こちらにカキコするのは初めてですが、実は結構前から読ませてもらってます!

つかささんの小説大好きです!これからも頑張ってください!!
201 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)13時04分45秒
つかささんの小説
全部5回以上読んでるような気がします。(w
何回読んでも最高です〜。
202 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時06分35秒
必然

〜〜〜1〜〜〜

 携帯なかったら困るやろ?
 朝一でもってくで?
 アタシのそのセリフを。

 別に後でいいからさ、一緒にご飯でも食べない?

 そう言われて。

 何となく、頬が緩むのを感じつつ。

「こら、裕子っ、遅いっ!!」
 スタジオに入っていくと。
 ちっこいのが飛びついてきた。
「あ〜、ごめんごめん」
 本気で怒ってるわけじゃないのはわかる。
 眼が笑ってるもんな。

「矢口、何食べたい?あ、その前に」
 矢口に携帯を返そうと。
 カバンの中をあさっていると。
「あ〜〜」
 唐突に飯田が呟いた。
 ん?
 何となく気になって中澤が飯田を見ると。
 何だか妙に嬉しそう・・・・・・・?
203 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時07分16秒
「圭織、怖いよ?」
 矢口のナイスツッコミ。
「そんなことないもんっ」
 そう言いながら。
「今日矢口が機嫌良かったのって裕ちゃんが来るからだったんだ〜」
 邪気のない言葉に。
 おや?
 中澤がニヤリ、と矢口の方を見ると。

「そんなことないもんっ!」
「「「圭織、気付くの遅いよ〜」」」

 矢口の声とメンバーの声。
 圧倒的に後者の方が多いのだが。

「何や、矢口そ〜やったん?」
 中澤が矢口にがばっと抱きつく。
「あ〜〜っ、もぅ、やめろ〜〜っ!!!」
 矢口の声にメンバーがケラケラと笑う。

 チュッ。

 抱きしめたまま、中澤は矢口の頬に軽くキス。

「な・・・・・・何すんだよっっ?!」
 焦る矢口に比べ。
 中澤はひょうひょうとしたもので。
「だって矢口可愛いんやもん」
 堂々と言い放つ。
「も〜〜」
 悪びれない中澤に矢口は苦笑い。
204 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時08分03秒
「ほら、行くよ」
 矢口に手をひかれ。
 中澤はひらひらとメンバーに手をふってみせる。
「んじゃな。みんなお疲れさん」
「また明日ね」

 中澤と矢口。
 二人連れ立って楽屋を出て行く姿を見ていたメンバー。

「あの二人って仲いいですよね」
 しみじみと呟く吉澤に。
 飯田と安倍、保田が顔を見合わせた。
「今はそうだけど・・・・・・」
 そのまま三人でクスクスと笑う。
「最初は悪かったんですか?」
 意外そうな吉澤の声。

「そ〜ゆ〜わけじゃないけど・・・・・・・」

 飯田と安倍、保田は。
 困ったように顔を見合わせて。
 それでも、楽しそうにクスクスと笑みをもらす。

 何があったかなんて、第三者にはわからない。
 何かが変わるとき。
 当事者だって、何が起こって。
 何がどうなったかなんて。
 わかってないのが本当かもしれない。
205 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時08分42秒
 ただ。
 何が起こっても。
 何が変わろうとも。

 心の中のベクトルが向いている先にあるものが信じれるモノならば。
 進むしかない。

 いつになっても、どこにいっても。
 胸を張れる自分でいるために。
 頑張るしかないのは。
 頑張らなければいけないのは。
 自分自身でしかありえないから。
206 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時09分42秒
ーーーーーーーーー

「裕子〜、ねぇ、起きてよ」

 楽屋の休憩時間。
 朝から眠そうなだった中澤は奥のテーブルと椅子で。
 爆睡かましていたわけだが。

 その中澤にまとわりつくちっこい人間・・・・・・約一名。

「こら、寝るなよ〜」

 矢口は、ぷにぷにと中澤の頬を突っついてみたり。
 別に中澤が起きてようが起きてなかろうが。
 それはそれで楽しそうだったりするのだが。

 最近楽屋で良く見られるようになった光景。

「ねぇ彩っぺ」
 見るともなしにそんな光景を見ていた他のメンバーたち。
 口火を切ったのは市井だった。
「ん〜〜」
 雑誌を読んでいた石黒はちらっと二人の方に視線を向けて。
「仲良きことは美しきかな」
 ぼそっと呟いてそのまま雑誌に眼を向けようとして。
「でもそろそろ裕ちゃん切れそうじゃないかい?」
 少し心配そうな安倍。
「あ〜大丈夫だよ、多分」
 あっさりとそう言いきった石黒にメンバーの視線が集中する。
「見てればわかるって」
 石黒がそう言い終わるか終わらないかで。
207 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時11分29秒
 中澤がむくり、と身体を起こした。
「何やねん・・・・・・あぁ矢口か」
「何だよ〜、それ矢口にめっちゃ失礼っ!!」
 矢口の言葉を気にする風もなく。
 中澤は再び机に突っ伏した。

「裕ちゃん疲れてるねん・・・・・ちょっとくらい休ませて〜や」
 本気で疲れてそうな中澤に。
 矢口は首をかしげて。
「ど〜せ二日酔いだろ〜」
 憎まれ口は相変わらずだが。
 さっきから中澤の頬を突付いたりしていた手は。
 中澤の頭に移動する。
「ん〜〜」
 気持ち良さそうに眼を閉じている中澤。

「・・・・・・・・何かラブラブだべな」
「なっち、ラブラブってもぅ死語じゃないの?」
 安倍と保田の掛け合いに。
「・・・・・・・・いつの間にあの二人って仲良くなったわけ?」
 もっともな市井の疑問。
 自然とやっぱりもう一度、メンバーの視線は石黒に向く。
「なんでアタシを見るわけ?」
 とうとう石黒は諦めたように雑誌をパタン、と閉じる。
「アタシは習うより慣れろって言っただけ」

「「「はぁ?」」」

 思わずそろった安倍、保田、市井の疑問形には答える気はないらしく。
 石黒は、席を立つ。
「ちょっと飲み物買ってくる」
208 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時12分08秒
「圭織、思うんだけど」
 さっきから話を聞いてるのか聞いてないのか。
 交信していた飯田が不意に口を開いた。
「矢口は犬で、裕ちゃんは猫なんだよね」

「「「はい?」」」

 石黒を除く三人の声が再びはもる。
 石黒は・・・・・・何だか複雑そうな表情で飯田を見ていた。
「んじゃアタシは・・・・・・何になる?」
 真面目な石黒の表情。
「彩っぺは・・・・・・」
 言いかけた飯田の言葉を。
 石黒はさえぎった。
「まぁ何でもいいか。アタシはアタシだし」

 大きく伸びをして。
 石黒は何でもないように笑ったけれど。
 飯田の大きな目が石黒を射抜く。
「・・・・・・・・圭織、彩っぺ好きだからね」
「・・・・・・・・」

 石黒は何も答えなかった。

 微妙な雰囲気を。

「・・・・・・・タンポポでわかりあうなよ〜っ!!市井も彩っぺ好きだぞ〜っ!!」
209 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時13分14秒
 市井が絶妙のタイミングで壊した。
 勢いよく石黒に抱きついて。
 市井はニカッと笑って見せた。

「あ〜、はいはい。アタシも紗耶香好きよ」

 石黒が笑う。
「あ〜、心こもってないな〜、ショ〜〜ックっ」
 オーバーリアクションでおどけてみせる市井。

 自然に起こる笑い声。

「何だよ〜、何笑ってるのさ〜?」
 本気で寝てしまったのか。
 ぴくりとも動かない中澤の側で。
 相変わらず中澤の頭を撫でながら。
 矢口が声をあげて。
「内緒っ」
 誰が答えたのか。
「矢口にも教えてよ〜〜っ」
 駄々っ子のような声に。
 やっぱりみんなが笑って。

「そろそろスタンバイお願いします」

 タイミングよくアシスタントが呼びにきて。
210 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月07日(月)23時14分35秒
「う〜〜」

 だるそうに中澤が起き上がる。
「裕ちゃん、今日矢口、送ってくからね?」
 有無を言わせない矢口の一言に。
 はい?
 いぶかしげな中澤。
「心配かけるなっ」
 ぺしっと中澤のおでこをはたいて。
 矢口は立ち上がった。

「はいはい」
 中澤は笑う。

 年下だけど。
 妙に居心地よく感じるこの空間。

 何でや?

 その答えはもう。
 心の中にあるのだけれど。

 今はまだ。
 もう少し。
 この時間を楽しんでいたい。
211 名前:つかさ 投稿日:2003年04月07日(月)23時22分21秒
>>196 名無し読者さん
 初々しい・・・ですね。
 中澤さんを怖がる矢口さん・・・。
 うん、それがきっと書きたかったんでしょう自分は(おい)

>>197 名無し読者さん
 ・・・・晩御飯にはならなくてすいません・・・・。
 いや、ただ、ご飯はおなかがすくほど美味しく食べれると・・・(我ながら苦しい w)

>>198 kai さん
 いやいや^^
 気付いて貰えて何よりってか・・・・kaiさんの続きも気になります。
 自分には書けない話なんで。
 な〜んとなく恥ずかしくてレスはしてないんですが、楽しみにしてます(笑)

>>199 マコトさん
 あ〜マジっすか?<結構前から
 いや〜、初レスありがとうございます。
 適当にほどほどに頑張ります(おい)

>>200 名無し読者さん
 自分でも気にいってる話とそうじゃないのは確かにあるんですが・・・。
 すげ〜、読み直してもらってるのは本当に。
 ありがたいです^^

え〜とそして。
すいません、ちょっと週一更新になります^^;;
仕事休んじゃってちょっと忙しいので。
それでは今日の更新はここまで。
212 名前:マコト 投稿日:2003年04月08日(火)01時58分34秒
更新されてるー!!やったぁ〜!

圭織の『矢口は犬で裕ちゃんは猫だね』の台詞に一人うんうん頷いていました。
仕事も忙しいでしょうが、頑張ってください!
213 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月09日(水)19時54分38秒
彩っぺの「習うより慣れろ」の言葉を実践するとは、矢口さんらしい(w
彩っぺが市井さんがほのぼのしてて・・・いい感じです。
更新たのしみにしてます、お仕事頑張ってください。
214 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月15日(火)07時23分43秒
いつも楽しみにしています〜。
215 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月17日(木)00時59分04秒
つかささんの書くやぐちゅー
バカカップル風味もあり・・・ほんのりせつなくて、でも後味は甘いって感じで大好きです!!!
216 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月21日(月)19時36分52秒
やぐちゅー禁断症状発令中!!
助けてくださ〜い(w
217 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時13分01秒
〜〜〜2〜〜〜

 最近、よく絡み合う、視線。

 元気か?
 ニヤっと笑って見せると。
 慌てて逸らされるけれど。

「や〜ぐ〜ち?」

 近づくと。
「うわ、何だよ〜」
 バシバシと身体を叩いてくる、手。
「アンタこそ何するねんっ」
 抱きしめると。
 腕の中にすっぽり収まるサイズ。
「可愛いな〜」
 思わず口を突いて出てくる言葉。

 最初言われた時はぴき〜んと固まっていた矢口も。
「はいはい」
 軽く流してくるようになった。

 まぁ嬉しいような悲しいような・・・・・・・。

 いつものように楽屋でじゃれついてる中澤と矢口。

「はいはい、そこ。いちゃつかない」
 楽屋に戻ってきた石黒が。
 呆れたようにぱしっと中澤の頭を叩く。
 そんな光景も普通になってきて。

「裕ちゃん、マネージャーさんが呼んでたよ」

 石黒から告げられた言葉に。
 中澤は眉をしかめる。
「何やねん・・・・・・・またスケジュール変更か〜?」
218 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時13分32秒
 ラブマシーン発売とともに確実に忙しくなったスケジュール。

 分刻みで動いてるにもかかわらず、わずかな合間にもまた更に雑誌の取材が入ったりして。

「聞いてないけど・・・・・・・多分そうじゃない?」
 答える石黒の顔は勿論。
 メンバーの疲労は確実に溜まっていってる。
「しゃ〜ないな」

 矢口の身体から腕をはずし。
 中澤は大きく伸びをする。
「ちゃんと休んどくねんで」
 おのおの好き勝手に撮影の合間の休憩を過ごしているメンバーにそう告げると。

 中澤は足早に楽屋をでていった。

「ね〜ね〜彩っぺ」
 袖をくいくいとひかれて。
 石黒が視線をさげると。
 心配そうな顔した矢口がいた。
「裕ちゃん、大丈夫かな?」
 眉間によった皺が。
 誰かさんを思い出させて。
 石黒は笑う。
「大丈夫じゃん?大丈夫じゃなくなったらアタシもサポートするし」
 安心させるつもりでそう言った石黒だったが。
 矢口の眉間の皺はますます深くなる。
219 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時14分33秒
「裕ちゃんみたいになってるよ?ど〜した〜?」
 中澤が最近よくやるみたいに石黒は矢口を抱きしめようとして。
「う〜〜、彩っぺじゃ嫌っ」
 思いがけない抵抗に。
「へ?」
 思わず間抜け面。
「え?」
 言った矢口自信も。
 びっくりしたように石黒を見上げてきて。
「「・・・・・・・・・・・」」
 しばらくお互い無言で見詰め合って。

 矢口は困ったように俯いた。
 石黒は黙って矢口を見つめていた。
 矢口が居心地悪そうに視線をうろうろをさまよわせていると。

「ふ〜ん?」
 石黒はちょっと意地悪そうな表情になる。
「な、何だよ、彩っぺっ!」
 動揺を隠せない矢口。
「アタシじゃ不満なんだ?」
 人の悪い笑み。
「そ〜ゆ〜んじゃないもんっ!」
 ムキになる矢口が面白くて。
 石黒は笑う。

 中澤とは違う意味で散々じゃれあって。
220 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時16分02秒
「ま、い〜んじゃない?」
 はい?
 能天気な石黒の声が頭上から響いてきて。
 矢口が顔をあげると。
「今付き合ってる相手いないみたいだし。頑張っちゃえば?」
 いたずらっ子のように面白がってる石黒の視線に、みるみるうちに矢口の顔が赤くなる。
「・・・・・・・あ、彩っぺ何言ってっ!」
「いや〜、若いっていいね〜」
 おばちゃん臭いことを呟きながら。
 石黒はニヤニヤと笑う。

「そんなんじゃないもんっ!!矢口、裕ちゃんのことなんて・・・・・」
「アタシ、裕ちゃんなんて一言も言ってないけど?」

 うっと矢口は言葉に詰まる。

「そろそろ休憩終わりやで〜」
 戻ってきた中澤。
 のんびりとした声が二人のやりとりを中断させた。

「まだ後30分くらい残ってるはずだべ?」
「そ〜だよ、もぅちょっとくらい休ませてよ〜」

 メンバーの声に。
「振り付け変更や。本番でトチりたかったら休んでいいけど?」

 シビアな言葉。
221 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時17分48秒
「ま〜ったく・・・・・・・振り付け覚えたばっかだってのに」

 石黒は苦笑して。

 メンバーもそれぞれ立ち上がる。

 文句が出ないのはさすがと言うべきだろう。

「後残りもうちょっと、今日も頑張っていきまっしょいっ!!」

 やけくそ気味の誰かの声に。
「「「「いきまっしょ〜〜っ!!」」」」

 声が、ハモる。

 走りつづけ。
 もがきつづけ。
 その先に何が見えるのか、そんなこと、思いもしなかった、そんな時期。

 幸せだったね。
 あの頃は良かったね、と。
 振り返るそんな気持ちはいらない。

 今が幸せじゃないならば。
 どうすれば幸せになるかを考えればいい。

 単純で。
 何より難しい、ことだけれど。

『裕ちゃんが好きなの。付き合って』

 そう矢口が言ったのは。

 それからしばらくたってから、だった。
222 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時18分46秒
ーーーーーーーーー

「裕子〜、お腹空いた〜っ!!!」
 中澤の車の中。
 叫ぶ矢口に思わず中澤は苦笑い。
「だから何食べたいってさっきから聞いてるやん?」

 赤信号。
 運転席から急に顔を覗き込まれ、矢口は顔を赤くする。

「何でもいいっつってるじゃんっ」
 ぶっきらぼうになってしまった答え。
 急に無言になってしまった中澤に。
 怒ったかな?
 矢口はちらっと中澤を盗み見て。

「んじゃ、アタシの家でえ〜よな」
「何でそうなるんだよっ」
 思わずツッコミいれて。
「だって矢口、疲れてそうやし。アタシも疲れてるねんな、これが」
 矢口を見つめる中澤の視線は別に怒った風もなく。

「裕ちゃんが作ってくれるの?」
「まぁ、適当に」

 青信号に変わって。
 アクセルを踏み込む中澤。

 不覚にも。
 かっこいいなって思っちゃったことは内緒にしておこう。
223 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時20分26秒
 そして。
 中澤の家について。

「・・・・・・・うどんかよ」
「ええやん、食べたかってんから」
「ってか、残り物、全部ぶちこんだだろ?」
「・・・・・・・ええやん、残っててんから・・・・・・・」

 確かに、矢口、何も手伝ってないけどさ〜。
 どん、と置かれた器一つづつ。

「裕子、これで料理してるって言うの、反則っ!!」
 矢口の言葉に。
「ちゃんとダシからとってんから、ええやんっ!!」
 むっと口をとがらせる中澤。

 さんざん騒いで。

 一口食べて。
「「あ・・・・・・美味しい」」
 どうして作った奴が意外そうな声をあげる?
 ジロっと矢口は中澤に視線をやるが。

 どうやら冷蔵庫の残り物の野菜を処分したかったらしく。
 たまねぎに、ネギに、白菜に、さやえんどう。
 いれすぎじゃないの?
 っつ〜くらいに入ってた野菜たっぷりのうどんは結構いける味で。

 しばらく無言でお互いうどんを食す。

「あ〜、もぅお腹いっぱいや〜」

 食べ終わって。
 中澤はソファーにごろり、と寝転がったまま。
224 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時22分30秒
 矢口はとりあえず後片付け。

 いつの間にか決まった暗黙のルール。

 作ってもらった方が片付ける。

 そして。
「裕子〜、ビールにする?コーヒーがいい?」

 食後のお茶も作ってもらった方がいれる。

「あ〜、どっちでも」
 中澤は動かない。
「裕子〜?」
 迷って、自分用には紅茶。
 中澤用にコーヒーをいれて。

 矢口は適当にテーブルの上にそれを置く。

「疲れてるの?」
 矢口はソファーの側に座り込み。
 そっと中澤の髪の毛を撫でると。
「別に?」
 中澤は薄く笑う。
「・・・・・・・・・嘘つき」
 その言葉に。
 中澤は苦笑して。
「そやね」
 そっと呟く。
「矢口は?」
 疲れてるんちゃうん?
 真っ直ぐな中澤の視線に。
「・・・・・・・意地悪」
 一言矢口は呟いて。
 中澤の首筋に頭を埋めた。
225 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月21日(月)23時23分19秒
 何も言わず、中澤は矢口を抱きしめる。

 言葉に出したい気持ちはお互いたくさんあるけれど。
 きっと今は、見ているものが違いすぎて。
 言葉に出してもわかりあえない、そんな気がする。

 昔は良かったね、と。
 そんな言葉で片付けたくないから。
 いつだって見ていたいのは、前。

 何も見えなくても。

 この温もりがあれば。
 前に進んでいける。
 そんな気がするから。

 結局、そのまま矢口は中澤の家にお泊り。
 今日は帰さへんで?
 確信犯の中澤の視線に負けたのか。
 側にいたいよ。
 素直な矢口の気持ちなのか、きっと両方だけど。

「偶然、じゃないよね?」
 中澤の腕の中、不意に矢口が真剣な眼差しを向けてくる。
「ちゃうよ」
 望んでる言葉かどうか。
 わからないままに、中澤は本心を口にする。

「必然やん」

 返された言葉に。
 矢口はそのまま中澤にぎゅっと抱きついた。
「大好きだよ」
「珍しいな・・・・・・・」
 矢口からそんなん言うてくるなんて。
 口ではそんなことを言いながら。

 中澤も抱きしめる腕を強くしたのだった。
226 名前:つかさ 投稿日:2003年04月22日(火)00時01分25秒
211 マコトさん
>>圭織の『矢口は犬で裕ちゃんは猫だね』の台詞に一人うんうん頷いていました
 絶対そうなんですよね。
 自分の中ではそれは決定事項です(笑

212 名無し読者さん
>>彩っぺが市井さんがほのぼのしてて・・・いい感じです。
 そう、矢口さんと姐さんしかあんまり見てないので(おい)
 他の人の描写は怖いとこはあるんですが・・・・そう言って頂いて嬉しいです。

213 名無し読者さん
 お待たせしました(ぺこり)

214 名無し読者さん
>>バカカップル風味もあり・・・ほんのりせつなくて、でも後味は甘いって感じ
 そういうの目指してるんで(そういうのしか書けないんだけど 笑)
 素直に嬉しいです。

215 名無し読者さん
 自分も・・・・ごっつやぐちゅー不足です・・・・・。
 っつ〜か、矢口さんの新しいラジオ始まってまだ一回も聞けてない(哀)

っつ〜ことでお待たせしました。すいません。
仕事も一段落・・・はついてないけど、忙しさはちょっとマシになると思うので。
次はこんなにお待たせしないかと(断言できないとこが悲しい 汗)
来週月曜日にまた更新します。
227 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月23日(水)23時28分04秒
待ってました〜!!
いつもご馳走様です。
228 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年04月25日(金)01時42分14秒
つかささんのやぐちゅーは心が和んだり切なくなったりして
最高です。次も楽しみにしてます。
229 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)20時09分33秒
そろそろつかささんのやぐちゅーが読みたいな〜。
お忙しいのは承知してるのですが・・・我慢の限界(w
230 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月28日(月)23時06分05秒
運命

〜〜〜1〜〜〜

 最近矢口が中澤の家に来ることが増えた。

「やっぱり裕ちゃんの家って生活感ないよね〜」
 ぱたぱたと動き回る矢口。
「ええやん別に」
 何だかその仕草が。
 マーキングつけようとしてる犬みたいに思えて。
 苦笑いしながら中澤は矢口を腕の中に捕まえた。

 それでも。
「何するんだよ〜」
 憎まれ口叩きながら。
 ほっとしたように笑う矢口に。
 中澤は何だか何も言えなくて、ぎゅっと抱きしめる。

 寝支度ととのえて。
 ぽつん、と矢口が呟いた。
「このまま時間が止まっちゃえばいいのにね」
 妙に大人びた表情が。
 言いたい言葉を飲み込んだような表情が。
「・・・・・・・・・・・・」
 同情でも何でもなく、中澤はゆっくりと矢口を包み込む。

「・・・・・・・・プロポーズか?」
 そっと矢口の髪の毛に唇を落として。
 わざと冗談めかした口調にしてみて。
 それでも中澤の眼は笑ってなくて。
「違うけど、そうかも」
「何やねん、それ」
 お互いに笑って見せても、わかる。
231 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月28日(月)23時06分50秒
 後藤真希の卒業。
 春には保田圭が。
 タンポポ、ミニモニ卒業に新ユニット。
 六期メンバーが加入したら。
 今度はさくら組、おとめ組・・・・・・・・。

「裕子」
 矢口は何も言わない。
 だから中澤も何も、言わない。

 それでも。

 不安になる気持ちはいつだって変わらないから。
 そう、あの時だってそうだった。
232 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月28日(月)23時07分28秒
ーーーーーーーーーーー

 後藤の加入。
 石黒の脱退。
 いつだって娘。は現状維持を続けない。

 楽しくないわけじゃない。
 やりきれない想いを抱えながら。
 それでも走りつづけるしかない、自分たち。

「矢口〜、どした?元気ないやん?」

 それでもいつもと変わらない様子のセクハラリーダー。
 まぁ、普段と変わらない様子を見せているだけってのは。

 わかってるけど。

 いつもは騒がしい楽屋も今日は珍しく矢口と中澤の二人きり。

 収録が終わってメンバーは三々五々と帰っていった。

 市井と後藤は・・・・・・居残り練習だって言ってたっけ。

 矢口はため息をついた。

「変わらないものなんてあらへんよ」

 独り言のように呟かれた中澤の言葉。
 それとともに、ふってきた優しい手。
 矢口の頭を優しく撫でる。

「裕ちゃんはさ・・・・・・何でモーニング娘。のオーディション、受けたの?」

 言葉がさらり、と流れ出た。

 中澤は一瞬きょとん、とした表情を見せて。
 真剣な眼差しで中澤を見つめる矢口を見て。
 眼を細めた。
「・・・・・・・・・・何か見つけたかったんや」
233 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月28日(月)23時08分10秒
 ・・・・・・・・・・・・・・。

「見つかった?」

 中澤は肩をすくめる。
「さぁな」
 矢口から外された視線は。
 どこか遠いところを見ていて。

「・・・・・・・・彩っぺは見つけたのかな」
 矢口の言葉がさくっと中澤の胸を切り裂く。
「・・・・・・・・・・・・」
 喧嘩売っとるんか?
 その言葉は矢口の顔を見た途端に消えて。
 中澤はいい子いい子と矢口の頭を撫でる。

「なぁ矢口。運命って信じるか?」

 唐突な話の展開。
 は?
 矢口のしかめっ面に構おうともせず中澤は言葉をつむぐ。

「アタシがモーニング娘。入ったのは運命やった。アタシはそう思ってるで」

 自分自身に言い聞かせるような口調。

「運命ってのはな、命が運ばれてくるんや。アタシらにできることはそれに従うことだけや」

 諦めにも似た。
 淡々とした口調。

「でもな矢口」

 中澤の視線が矢口を射抜く。
 真っ直ぐな強い視線。

「アタシはそれでも構わないって思ってる。例え運命に翻弄されてる駒やったとしても」

 強い、言葉。
234 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年04月28日(月)23時08分43秒
「アタシは歌いたかったんや。ここにいるアタシをアタシが選んだ。・・・・・・・わかるか?」

 はっきり言って。
 半分もわからなかった。
 それでも。
 たった一つだけわかったこと。

「裕ちゃんは後悔してないんだ?」

 矢口の言葉に。

「当たり前やろ?こ〜んな可愛い彼女ができたしなっ」

 笑ってみせる中澤。

 右へ進めと言われると。
 左へ進みたくなるんや。

 そう言って笑っていたっけ。

 いつかアナタをわかりたい、そう思った。
 わかりあえることなどないけれど。
 わかっていても。
 いつかわかりあえるんじゃないか。
 そう思うほど裕ちゃんの側は居心地がいいよ。

 そんなこと、口に出したら。
 アタシだって同じや。
 そんな風に返ってくるって信じられる。

 中澤に抱きしめられながら。
「矢口は矢口でええんやから。大好きや」
 矢口の心を包んでくれる呪文・・・・・・・・・・。

 いろんな想いを抱えながら。
 矢口は眼を閉じた。
235 名前:つかさ 投稿日:2003年04月28日(月)23時13分18秒
>>226 名無し読者さん
 ご馳走様と言われるほど・・・・甘くならないのは何故だろう・・(汗)

>>227 やぐちゅー中毒者セーラムさん
 和んだり切なくなってください。しかし・・・・何か切ない系になってますよね(苦笑)
 まぁしゃ〜ないかと・・・・広い心で見守っていただければ(おい)

>>228 名無し読者さん
 すいません、お待たせしててこの分量かよってのはわかってるんですが(苦笑)

 とりあえず今日の更新はここまで。
 めっちゃやぐちゅー不足に姐さん不足で凹みそうです。
 早くFS4でないかな〜(切望)
236 名前:マコト 投稿日:2003年04月28日(月)23時20分24秒
ほのぼのしててなんかいいっすねぇ〜。

FS4は自分も早く出てほしいっす。
237 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)00時13分27秒
中澤さん、いつも大人でカッコイイですね。
切ないような甘いような、微妙な感じがすごくイイです。

FS4、中澤・矢口での二人でのデュエットの曲がないんですよね。
期待してたんですが・・・
238 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月04日(日)22時30分44秒
人生最大のミス。
今さら気付くなんて・・・

でも、生きてた甲斐がありました。
またひとつ、楽しみが増えた...
239 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時04分45秒
〜〜〜2〜〜〜

 石黒が娘。を脱退して一ヶ月が過ぎた。
 最近お泊り、してなかったんだよね。
 家おいで〜や。
 中澤からの誘い。
 へへ。
 素直に嬉しくて。
 超特急で支度ととのえて。
 待ち合わせの楽屋に矢口は向かったのだが。

「ねえ裕ちゃん」
 楽屋の前で聞こえてきたのは。
 保田の声だった。

 お疲れ〜っ♪
 いつものように入っていけば良かった。
 一瞬矢口の足が止まったのは・・・・・・・。
 保田の妙に真面目な声のせいだったのか?
 どっちにしろ。
 変な雰囲気の楽屋の前で矢口の足は止まる。
「何や?」
 それに気付いているのかいないのか。
 中澤の声はいたって普通。

「裕ちゃん、彩っぺと付き合ってたんでしょ?」
 立ち聞きするつもりはなかった。
 でも、足が止まってしまったのはしょうがない。
 それでも立ち止まらなければ良かった。
 矢口の頭の中、いろんな思いが交錯する。
240 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時05分29秒
「・・・・・・・・・・・・・」
 中澤は何も答えない。
 沈黙が続いている、楽屋。
「・・・・・・・・・矢口を利用してるの?」
「彩っぺ、付き合ってる相手おるねんで?」
 中澤の答えは肯定でも否定でもなく。
「アタシが聞きたいのは・・・・・・・」
「もう終わったことやし。アタシが矢口のことを利用してようが利用してなかろうが圭には関係
ないやろ?」
 冷たい、声。
「裕ちゃん、矢口と付き合ってるんでしょ?!」
 さすがに保田の声が大きくなるが。
「それもアンタには関係ない。それとも矢口がアタシとのことを何か相談でもしたんか?」
「・・・・・・・・っ・・・・・・」
 何かを言いかける保田。

 それ以上聞いていられなくて。
 矢口は駆け出した。

 パタパタパタ。

 小さな足音に先に反応したのは中澤だった。

 楽屋のドアをあけて。
 もうそこには誰の姿も見えなかったけれど。
 中澤は困ったように矢口が走り去った廊下をじっと見つめていた。

「誰かいたの?話はまだ終わってない・・・・・・」
 動かない中澤の姿に。
 焦れたような保田の言葉だが。
「もぅええやろ」
 あっさりと中澤は保田の言葉をさえぎった。
241 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時06分58秒
「アタシは矢口に惚れてるし、彩っぺと二股かけた気もない。
 二人に失礼やろうが?」

 保田に向けられた視線はけして穏やか、とは言いがたいもので。

 保田は思わず黙り込む。

「お疲れさん」

 中澤は自分のカバンをつかみ。
 当然のことながら。
 あっという間に姿を消した。

 スタジオの前のタクシー乗り場で。
「ちょ、待ってや」
 腕をつかまれた。
「・・・・・・・・・・・・・」
 矢口はじろっと中澤を睨みつける。
「・・・・・・・・・悪かったって。ごめん。だから、話、聞いて?」
 珍しく真剣な眼差し。

 ・・・・・・・・・・珍しく、は失礼か。

 矢口は小さくため息をつく。

「すぐ追いかけてきてくれたんだ?」

 問いかけに。
 こくこくと頷く中澤の姿に矢口はくす、と笑みをもらすが。
「でも、帰る」
 今度はうまく笑えていたかわからない。

「ごめんね」
 中澤を見上げると。

「・・・・・・・・・・・・・・」

 沈黙と、強い眼の力。

 矢口は俯く。

 いつの間にかタクシーが目の前に止まっていた。
「お客さん?乗らないの?」
「あ・・・・・・・・」
 運転手の言葉に。
242 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時09分18秒
 動いたのは中澤だった。

 ぎゅっと矢口の手をつかんで。
 そのままタクシーに乗り込む。

 告げられた住所は勿論、中澤の家のもの。

 抗議するような矢口の視線。
 真っ向から受け止める、中澤の眼の強さ。
「・・・・・・・・・・・」
 ぎゅっと握られた手。
 
 矢口は眼をそらした。
 それから二人の視線が絡み合うことはなかったけれど。

 普段はあまり見せない、強引な中澤の態度。

 なんだよ、反則じゃん。

 矢口の呟きは心の中で小さく、消えた。

 そして、中澤の家。
 さっきの強引な態度はどこへいったのか。
 ソファーで中澤は何やら難しい顔をして考え込んでいる。

 とりあえず。
 矢口は中澤の横に腰をおろした。

「裕子〜?」

 ぷにっと頬をひっぱってみる。
「・・・・・・・・・・・・」
 中澤の顔が情けなさそうな微妙な笑い顔に変わる。
「・・・・・・・・・言い訳するんじゃないの?」
「ん〜〜」
 曖昧な、言葉。

 でも。
 不意にそのまま腰を引き寄せられた。
 ぎゅっと抱きしめられる。

 甘い、匂い。
243 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時09分55秒
「矢口が好きやで」
 落とされた囁きと、腕の力がアンバランスで。
「・・・・・・・・なら、何で」
 圭ちゃんに・・・・・・・。
 矢口の言葉を中澤はさえぎる。
「だから、別れよっか?」

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 ぱっし〜んっ。

 いい音が響いた。

「・・・・・・・・・・この、大アホっ!!!」
 矢口は眼を閉じる。
「・・・・・・・・・・何で、そんなこと、言うんだよ・・・・・・・・・」
 泣きたくなんてなかったのに。
 何だか、涙があふれてきて。
 ど〜しようもなくなった。

「だってしゃ〜ないやん」
 中澤はぽつり、と呟いて。
 あぁ、逃げ口上。
 自分でもわかるから。

「何で好きだから別れようになるんだよっ?!」

 実にもっともな矢口の言葉。
 そして。
 怒ってるのか泣いてるのか。
 きっと両方なんだろうけど。
 両手をぐっと握り締めて中澤を睨みつけてくる視線に。
 今度は中澤が矢口から視線をそらす。
244 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時10分47秒
 なんでそんなこと言うんだよ。 

 嗚咽がこぼれる。
 このままじゃ、やばい。
 コントロールできなくなる。
 わかるけど。
「矢口・・・・・・・?」
 不思議そうな裕子の声。
「・・・・・・・・・・・・彩っぺの方が・・・・・・・・・っっ」
 中澤は首を横にふる。
「ちゃう・・・・・・・・そんなんちゃう」

 駄目だ。
 涙が止まらない。
 泣き顔を見られるのが嫌で。
 矢口は中澤の肩に顔をうずめた。

「ちょ・・・・・・・矢口。泣かんといてや。ごめん、アタシが悪かったから・・・・・・」
 裕子の手が、矢口の身体に回される。
 おずおずとした、動き。
 でも、意外と力強くて。
 もう、離れることなんてできないんだから。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 矢口だけを見てよ。
 矢口だけを愛してよ。
 もう、子どもじゃないんだ。
 ねぇ、今抱きしめてくれている腕は、同情?
245 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時11分58秒
 何も言えなくて。
 泣きたくないのに、涙が止まらなくて。
 声を殺して涙を流す矢口の耳に。
 中澤の弱い声が届く。
「矢口・・・・・・矢口が一番好きや。大事に思っとる。だから、そんな風に泣かんといて・・・・・・・」
「・・・・・・・・嘘付きっっ・・・・・・・」
 思わず、涙でぐしゃぐしゃの顔で思いっきり矢口は中澤を睨みつけてた。
 気休めでも、そんなこと言って欲しくない。
「へ?」
 矢口のきつい眼差しに、中澤は思いっきり間抜け面。

 しばらくの沈黙の後。
「・・・・・・・・・・何が嘘なん?」
 すっと眼が細められた。
 怖い。
 昔だったらそう思ったのかもしれないけれど。
「裕子は、彩っぺが一番のくせに・・・・・・っ」
 押し殺した矢口の声。

 矢口はきっと、裕子を睨みつけた。
「気休めなんて欲しくないよ、矢口は」
 きっぱりとした声が出て、少しほっとする。
 涙もいつの間にか止まってた。

「アタシがいつ気休め言ったん???」
 目の前にいるアホはやっぱり、不思議そうな顔で。
「・・・・・・・・何か矢口、誤解してへん?」
 大きく伸びをすると、ソファーから立ち上がる。
246 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時12分34秒
 5分後。
 冷やしたタオルと湯気の立つマグカップ2つを持って中澤は姿を現した。
 困ったような顔は相変わらずだけれど。

 テーブルの上にマグカップを置いて。
 中澤は矢口から少し離れた椅子に腰掛けた。

 ぎゅっと胸をつかまれた感じがした。
「・・・・・・・・・何で?」
 矢口がぽつり、と呟くと。
「矢口。言いたいこと、一杯あるんちゃうん?」
 その言葉に、矢口はぎゅっと両手を握り締める。
 言いたいこと?
 うん。
 一杯ある・・・・・・・と思うよ。

 でも。
 まずはこっからだね。
「・・・・・・・矢口が何を誤解してるのさ?」
「・・・・・・・・・・・・アタシと彩っぺのこと」
 矢口の身体が強張った。
「確かに、付き合ってたで・・・・・・・・でもな」
「でも・・・・・・・何なのさ?」
「もう、別れとる。だいぶ前に」
「・・・・・・・・でも裕ちゃんは彩っぺが・・・・・・・・」

 矢口は、テーブルに置かれたマグカップを手にとる。
 じんわりとあったかいマグカップ。

「そうやないよ」

 中澤は苦笑い。

「彩っぺより矢口の方が好きや・・・・・・そう言ったらアンタは安心するんか?」
247 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時13分13秒
 少し考えて。
 矢口は首を横にふる。
 そう・・・・・言って欲しいだけなのかもしれないけれど。
「そうじゃなくて・・・・そうじゃなくて」
 うまく言葉がでてこないもどかしさ。
 中澤は優しい眼でそんな矢口を見つめて。

 アタシな。
 彩っぺのこと確かに好きやで。
 うん、めちゃめちゃ大事に思っとる。
 でもなぁ。
 何か矢口に対する気持ちとはちゃうねん。
 束縛する方とかちゃうねんけど。
 矢口にやったら、束縛されてもええかもしれん、とか。
 束縛したい、とか。
 ずっとアタシを見とって、とか。
 どんどんワガママになる。
 だから、これ以上矢口にはまったらアカン、とか・・・・・・。
 自分にブレーキかけな、とか。
 いろいろ考えるんや。

「いつか、別れなあかんくなるかもしれんやん?なら最初から手に入らん方がええんかもしれん、
とか」
 中澤は自嘲気味に笑った。
「アホ」
 矢口は立ち上がって。
 中澤の横に移動する。
 そっと髪の毛を撫でると。
 中澤が泣き笑いの表情で矢口を見上げてきた。
248 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時13分47秒
「矢口は裕子が好き。裕子と一緒にいたいよ。裕子はどうしたい?」

 真っ直ぐな、言葉。
 中澤は眼を閉じる。
 何も知らないからこそ言える、言葉なのか。
 いつか。
 矢口が本当にいろんな経験をして。
 自分と同じ歳になって。
 それでも同じセリフが言えるのか。

「アタシは・・・・・・・」

 心の中にある、答えはきっと一つ。
 一度手にした温もりを離す事なんて、きっとできないから。
249 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月05日(月)23時14分20秒
ーーーーーーーーーーーーー

「もう二十歳やねんな〜」
 ふっと中澤が呟いた。
「裕子は二十九なんだよね〜」
 喧嘩売ってるんか?
 ジロっと睨まれて、矢口はケラケラと笑う。

「運命は命が運ばれてくるもの。裕子、覚えてる?」

 中澤は眼を細めた。
「あぁ」
 短い答えだけれど。
 矢口は満足そうに頷いた。

「変わらないものなんて、ないんだよね?」

 真っ直ぐに見つめてくる瞳を。
 中澤も真っ直ぐに見つめ返す。
「あぁ」
 それでも、矢口は笑った。
 嬉しそうに。

「矢口は裕ちゃんが好きだよ」
「アタシも矢口が好きやで」

 こつん、と中澤は矢口のおでこに自分のおでこをくっつける。

 いつだって追いつけない歳の差に。
 環境の変化に。
 不安を感じない日はないけれど。

 そんな時は、互いの胸で泣けばいい。

 不安を感じたら。
 ぶつけ合おう。

 運命は、命が運ばれてくるもの。
 できることはそれに従うことだけ。
 例え運命に翻弄されてる駒だとしても。
 その場所にいる自分を自分が選んだのだから。

「矢口・・・・・・」
 落ちてきた唇を。
 優しい感触を。
 そっと矢口は受け止めた。
250 名前:つかさ 投稿日:2003年05月05日(月)23時22分27秒
>>235 マコトさん
 ん〜ほのぼのというかなんと言うか・・・微妙な感じで(笑)

>>236 名無し読者さん
 きっと中澤さんの中でもいろんな苦悩とかあると思うんですが・・・
 ん〜、書ききれないっすね。だから曖昧にぼかして・・・(おい)

 っつ〜かFS4矢口さん中澤さんデュエットないんすかっ?!(哀)
 ・・・・・拗ねてやる・・・・・っつ〜かマジ悔しいっ(姐さんに代わって叫 笑)

>>237 名無し読者さん
 いえいえそんな人生最大のミスなんて言わず・・・っつ〜か、もう一個同じ紫
 でスレ一本あげてみたんでもしよかったら探してください^^

 え〜と。
 保田圭さん卒業おめでとう、そして。
 声を大にして。
 姐さん新曲聞きました。ま、トークはともかく(笑)
 来週も出るみたいなんで、楽しみっす〜。
251 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月06日(火)01時45分10秒
新曲聞いたけど・・・・中澤さん。。。雰囲気が本当にやわらかくなったように感じました(w
カッコいい中澤さんも大好きだけど・・・
今、幸せなんだろうな〜って感じが凄い伝わってきました(w
中澤さんの歌は、聴いてて優しく包まれてる感じがするので最高でーす。

つかささの小説も大好きでーす!!!
252 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月06日(火)15時00分19秒
やぐちゅーキタ〜!!!
253 名前:名無しです。 投稿日:2003年05月08日(木)22時43分20秒
もう最高です!!
つかささんのやぐちゅー大好きです。
254 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月09日(金)23時39分14秒
>>252>>253
感想はsage基本。
てかうざいんでいちいちあげるな。
255 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月12日(月)23時06分57秒
宿命

〜〜〜1〜〜〜

 いつまで一緒にいられるんだろう?
 いつまで一緒にいていいんだろう?

 出ることのない、答えと。

 いつまで走れるんだろう?
 いつまで走り続けなきゃいけないんだろう?

 見えない、自分の心。

「裕子」

 そっと呼びかけた。

 ベッドルーム。
 丸まって寝ていると思っていた・・・・・・・けれど。
「ど〜かしたか?」
 即答で返ってきた答えに。
「・・・・・・・・・・・」
 矢口は無言のまま。

「・・・・・・・・・・・」

 中澤は矢口の方を見ようとしない。

 今日、矢口は。
 木曜のラジオが終わることを聞いた。
 そして・・・・・・・4月から。
 日曜の中澤の枠にうつることも。

 聞いてすぐ。
 中澤に電話しようとした矢口の手は・・・・・・・動かなくなった。
256 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月12日(月)23時08分22秒
 −−−−−−でてもらえないんじゃないか−−−−−−−。

 根拠のない、想い。

 電話じゃなくて。
 逢いたかった。
 声だけじゃなくて。
 顔が見たかった。

 もらってたけれど、数回しか使ったことのなかった合鍵。
 ドキドキしながら鍵穴にさしこむ気持ちはいつも通りだったけど。

 逢いたいけれど、逢いたくない。

 矛盾した、想い。

「・・・・・・・知ってたの?」

 小さな、矢口の呟き。
 微妙な、二人の距離感。

 最近、忙しくて逢ってなかった。
 電話はしてたけれど。
 中澤は。
 何か、はしゃいでたり、落ち込んでたり。
 不安定な様子が気になっていた。

 忙しかった。
 そういうのはきっと言い訳で。
 気になっていた。
 そういうのもきっと言い訳にしかすぎなくて。

 矢口は眼を閉じる。

 泣いていいのは中澤で。
 自分じゃない。

「・・・・・・・・知ってたで」

 答えた中澤の声は、悲しんでいる様子も、怒ってる様子も。
 何もなくて。

 矢口が眼をあけると。

 中澤がこっちを真っ直ぐに見ているのがわかった。

 そのまま中澤は枕もとにある小さな電気スタンドのスイッチをひねる。
257 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月12日(月)23時09分01秒
 ど〜ゆ〜表情をしたらいいのか、わかってない。
 困ったような顔しながら。
 それでも、中澤は矢口の顔を真っ直ぐに見ていた。

「ラジオの件やろ?」
 中澤がそっと腕をあげた。
 そのまま、こいこい、と手招き。

 矢口は首を振った。
「行けるわけ、ないじゃないかよ〜」
「・・・・・・なんで?」
 泣きたくないのに。
 何でかわからないけど。
 涙が零れ落ちる。
 涙混じりの矢口の声に。
 中澤は苦笑い。
「ホンマあんた涙もろくなってんで?」
 茶化すようなものいいにも。
 いつもの憎まれ口が叩けなくて。

「悔しかったで、そりゃ」
 だから、言われへんかってん。

 淡々とつむがれる、中澤の言葉。

「でもな、しゃ〜ないやん。
 それに、アタシこのままで終わるつもりないし」

「ゆ・・・・・うこ?」
 矢口の目の前で、中澤は不敵に笑って見せた。
「アタシは矢口に同情されなあかんようなそんな存在か?」

 矢口はぶんぶんと首をふる。

「矢口、木曜が終わっても日曜があるってわかって嬉しかったやろ?」

 ・・・・・・・・・・・・・。

 矢口は何も答えない。
 いや・・・・・答えられなかった。

 それがきっと本当だから。
258 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月12日(月)23時09分32秒
「それでええねん」

 どうして中澤は笑ってられるのだろう。
 自分が中澤の立場だったら笑えないかもしれないのに。

「矢口」

 差し出された、腕。
「始まりがあれば終わりはきっとあるねん。・・・・・・わかるやろ?」
 変わらずに真っ直ぐな、眼と。
 そして。
 笑顔。

「おいで」

 ふっと矢口の肩の力が抜けた。

「裕ちゃん」

 一歩、踏み出す。
 もう一歩。

 つかんだ中澤の手はいつも通り、少し冷たくて。
 そのまま矢口は中澤の胸に飛び込んだ。

「・・・・・・裕ちゃんだ」
 胸の中、そっと呟く。
 中澤がくすくすと笑うのがわかった。
「アタシはアタシやよ」
 見上げると。
「どんなに環境が変わって。アタシ自身が変わったとしても。アタシはアタシで、それは変わらへんから」
「・・・・・・・・矢口は矢口?」
「うん」

 そっと触れ合うだけのキスをする。

「大好き」
 おでこをこつん、とぶつけて。
 へへ。
 照れくさそうに矢口は笑う。
「・・・・・・・・あ〜・・・・・・・・それ、反則」

 ぎゅっと回された腕に。
 回した腕。

「アタシも大好きや」

 きっと、もう言葉は、いらない。
259 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月12日(月)23時10分12秒
ーーーーーーーーー

「こら、辻加護っ。あんたら何やってんの〜っ!!」

 楽屋に響くでっかい声。

「「あ、矢口さんが怒った〜〜」」

 まったく懲りてないメンツ二人。

 中澤は飯田と安倍と三人。
 ぼんやりとその光景を見ていた。
「矢口、元気だよね〜」
 ぼそり、と安倍が呟く。
 ちらり、と中澤は安倍に視線をやるが。
「そやな」
 あえてそれ以上何も言わず、ペットボトルのお茶をごくごくと咽に流し込む。

「飯田さん〜〜」
 矢口に追いかけられて。
 辻が飯田のところに逃げ込んできた。
「あ〜?また何かやったの?」
 珍しく交信してない飯田が苦笑いしながら、立ち上がる。
「も〜、圭織からも言ってやってよっ!!」
 怒った口調の矢口だが。
 眼は笑ってる。

 何せ明日は久々のオフ。
 そりゃはしゃぎたくもなるだろう、ってな感じで。

 楽屋は妙に浮き足立ってるような雰囲気で。
260 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月12日(月)23時10分45秒
「裕ちゃん、何か言わなくていいの?」
 今度はちらっと安倍が中澤を見る。
「あ〜、別にええんちゃう?収録前にはちゃんとあの子らもしてるやろうし」
 あっさりとそう言うと。
 中澤は特にその騒ぎの中に入ろうともせず。
 再びその光景を見つめている。

「明日は矢口とデートかい?」
「ん〜?」
 安倍のセリフにだるそうに中澤は答える。
「まぁな」
「・・・・・・・・・ど〜りで矢口が元気なわけだ」

 中澤は小さく笑う。
「えぇやん」
 矢口に向けられてるだろう視線は何だか優しくて。
 安倍は小さくため息をついた。

「ま、頑張りぃや」

 どうやらこっちのことを気にしてない、と思ってたのは違ったみたいで。

 気が付くと、中澤が安倍を見つめていた。
「ごっつぁんにおんぶにだっこやったらあかんで?」
 中澤の言葉はわかるようなわからないような。

「センターに立つしんどさはアンタが一番よぅわかってるやろ?」

 柔らかい、視線に。
 自然と安倍は俯いた。

 ぽんぽん、と頭の上に感じる手の感触。

 何故だか、涙がこぼれそうだった。
261 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月12日(月)23時11分58秒
「買い出し舞台、到〜着っ!!」

 楽屋のドアが勢いよく開いた。
「・・・・・・・あいつら、よぅ喰うなぁ・・・・・・・」
 感心したように呟く中澤。

 さらににぎやかさが増した楽屋で。
「も〜、あともうちょっとで収録終わりだっつってんのに」
 ぶつぶつと保田が中澤、安倍がいるテーブルに座り込む。
「引率ごくろ〜さん」
 笑いを含んだ中澤の声に。
「も〜、誰よ、じゃんけんしようなんて言い出した馬鹿はっ」
「い〜じゃないですか〜」
 保田の後ろにはニコニコと石川がいて。

 中澤は肩をすくめた。
「アタシちょっとコーヒーでも買ってくるわ」
「あれ?裕ちゃん頼まなかったの?」
 不思議そうな安倍の声。

「あ〜、頼むの忘れててん」

「ふ〜ん?」
 保田、安倍のいぶかしげな表情をそのままに。

 あっさりと楽屋から抜け出していく中澤。
262 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月12日(月)23時12分37秒
「あ〜、これ、うちのっ」
「違うって、これは吉澤の〜」
「後藤のは〜?」

 残ったのは喧騒で。

「ま〜ったく・・・・・・」
 保田と安倍は顔を見合わせて苦笑い。

 いつも通りの光景。

 だが。
 こっそりそれに紛れて一人ふっと楽屋から抜け出す小さい人物を見て。

「「なるほど」」

 保田と安倍、思わず声がそろう。
 もう一度顔を見合わせて。
「相変わらず仲いいべさ」
「羨ましい限り」
 お互いに笑いあって。

 とりあえず、二人そろって。
「「静かにしろ〜〜っ!!」」
 叫んでみるのだった。
263 名前:つかさ 投稿日:2003年05月12日(月)23時19分33秒
>>250 名無し読者さん
 確かに。な〜んか歌ってる雰囲気が丸くなったような優しくなったような。
 でも、ミュージックフェアにでてた雰囲気は変わってなかったんで。
 やっぱ歌の内容かな〜?とか思いつつ。
 HEROみたいな声の出し方、やっぱ好きだな、とか思いました。

>>251 名無し読者さん
 っつ〜か・・・・ひたすらに。
 やぐちゅーしかきてないような気が・・・・(自爆)

>>252 名無しです。さん
 ありがとうございます。
 楽しんでください。

>>253 名無し読者さん
 自分は別にagesageは気にしないんで・・・。

ってことで、後一回で終わりです。
妙に長々とひっぱっちゃいましたが。
何が書きたかったんだろう?それでもこれが書きたかったんだ、と。
ここまで書き終えて素直にそう思います。

それではまた、一週間後に。
264 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月13日(火)21時38分56秒
抜け出し方上手いですね、二人とも(笑
中澤さん、スゴイ大人ですね〜カッコイイ。
一週間後、楽しみにしてます。
265 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月14日(水)23時20分02秒
来週を楽しみに待っています。
266 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月20日(火)21時15分21秒
やっぱ、やぐちゅーは最高っすね(^o^)
楽しみにまってまぁす♪
267 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時03分07秒
〜〜〜2〜〜〜

 抜け出して廊下のロビー。
「アホ」
 ぽかり、と矢口は中澤をペシペシと叩いた。
「何やねん?」
 中澤はきょとん、とした表情。

「矢口?」

 幸い、人通りもまったくなくて。
 ラッキー。
 中澤がそう思ったのは当然で。

 ふわり。
 ぎゅっと中澤の腕が矢口を抱きしめる。

「今日アタシの家、来るんやろ?」

 嬉しそうな顔。
 それでもやっぱり矢口は膨れっ面は変わらない。

「・・・・・・・・拗ねとんの?」

 こつん、と中澤は矢口の額に自分の額をくっつける。

 見詰め合う、瞳と瞳。
「・・・・・・・・知らない」
 むぅととがらされた唇。

 ・・・・・・・・・可愛すぎ。

 さすがに廊下で襲うわけにもいかないが。

「・・・・・・・真里?」
268 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時03分50秒
 めったに使わない呼び名で呼ぶと。
 矢口の顔が少し赤くなる。
「そんなんじゃ誤魔化されないんだからね」

 そのまま矢口は中澤の肩に顔をうずめた。

「・・・・・・・・何やねん・・・・・・・」

 くすり、と笑みをもらして。
 そっと中澤は矢口の髪の毛にキスを落とした。

 嫉妬ってのはやっかいな感情で。
 安倍をみる中澤の視線一つに。
 何だか胸がもやもやして。

 ずっと自分だけを見ていて欲しい。

 好きだから、当たり前の感情で。

 コントロールしなきゃいけないのは自分だけど。

 わかってるけど。

「・・・・・・あんまり吉澤といちゃいちゃすなや」

 不意に中澤が呟いた。

「え?」

 あまりに予想外のことを言われて。
 思わず矢口は中澤の表情を見ようと顔をあげて。
 拗ねたような中澤の瞳にぶつかる。

「アタシ、ヤキモチ妬きやねんで?」

 すぐにぎゅっと抱きしめられて。
 表情は見えなくなったけれど。

「あんまり不安にさせんといて」

 ぽつり、と落とされた囁きに。
「ごめん」
 ぎゅっと抱き合う腕の力を強くする。

 不安にさせられてるようだけど。
 きっと不安にさせてるのは矢口も一緒。
269 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時05分06秒
 好きやで、と。
 言葉に出して、態度で表現してくれている。
 いつだって。

 他の人にするスキンスップで矢口はいつだって不安になるけれど。
 それは矢口だって一緒だし。

 コツコツ。
 人の足音が聞こえて。
「・・・・・・残念」
 中澤は矢口の身体から腕を離す。
 不敵に笑うその表情からはさっきの不安げな様子は微塵も感じられなくて。
「意地っ張り」
 矢口が中澤の頭を撫でると。
「・・・・・何やねん」
 むぅっと。
 頬を膨らます中澤。
 それでも、眼は嬉しそうに笑ってる。

「明日、どっか行くか?」
 優しい声。
「いいの?」
 矢口が嬉しそうにぱっと顔をあげる。
「久しぶりやん?一日まるまるオフってのも」

 珍しい中澤からの提案に。
 え〜とね。
 矢口は行きたいところを指折り数えてみるが。

 ・・・・・・・・・・・。

 不意にぎゅっと矢口は中澤の手を握る。

「ん?」
 いぶかしげな中澤の表情。
「どこでもいいや。でもね」
 不意に中澤に向けられた真っ直ぐな視線。
「明日は矢口だけの裕ちゃんでいてくれる?」
270 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時05分37秒
 ・・・・・・・・・・・はい?
 真っ先に中澤の頭に浮かんだのはそんな言葉で。
 でも。
 一生懸命な矢口の言葉に何となく、わかる。
「いつだって矢口だけの裕ちゃんやで?」
「・・・・・・・・・」
 む〜と膨れた頬が矢口の返事。
 中澤は思わず苦笑い。

「わかった。んじゃ、矢口も裕ちゃんだけの矢口でいてな?」

「矢口はいつだって裕ちゃんだけの矢口だよ?」

 きょとん。
 不思議そうな眼をした矢口だったが。

「アタシと同じこといいなや」
 くすっと中澤は笑って、矢口の頬をつんつん、とつつく。

 きっと、思うのは同じこと。

 リーダーとして娘。全体を見てる中澤と。
 娘。の一員としてムードメーカー的な矢口と。

 いつだって考えるのは周囲への気配りが最優先だから。

 いつだって、一番に想って。
 いつだって、一番に心配して。
 いつだって、一番に側にいるのは自分でありたいけれど。

 だから、明日は。
 娘。の中澤裕子じゃなくて。
 娘。の矢口真里じゃなくて。

 ふわり、とお互い眼を見合わせて笑う。
271 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時06分14秒
「アタシ、水族館行きたい」
「矢口、買い物っ」

「そしたら、水族館行って、買い物行って、ご飯でも食べるか?」
「焼肉がいいっ」

「・・・・・・・色気ないな〜」
「い〜じゃんよ〜、あ、ど〜せなら、晩、ディズニーランドでパレード見ようよ〜」

「・・・・・・・次の日仕事やで・・・・・・・・?」
「い〜じゃんよ〜」

 さすがに呆れ顔になった中澤に。
 矢口は中澤の袖口をつかんで。
 上目遣い。
 にこっと笑ってみせる。

「矢口、行きたいっ」

 ・・・・・・・・・・・・・。

 あ〜もう。
 確信犯め。
 めちゃめちゃアタシがその顔に弱いの知ってるやろ?

 中澤が押し黙ったのを見て、矢口は心の中でガッツポーズ。
「駄目?」
 とどめの一撃。
「あ〜ったく。しゃ〜ないな〜」
 ぐりぐりと中澤は矢口の頭をこづいた。

 たまには外で、普通のデートをしよう。

 笑って、はしゃいで。

 わがまま言って。
 次の日のことなんて考えずに。
272 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時06分52秒
ーーーーーーーーーーー

 ベッドの上。
 淡い照明だけが二人を照らす。

「裕子」

 矢口がそっと中澤の頬を撫でた。

「ん?」

 答える中澤の声は限りなく、優しい。

「ずっと矢口の側にいてくれる?」

 真剣な、声音。

 ・・・・・・・・・・・。

 中澤は沈黙を選ぶ。

 そして。
 頼りなさげな表情を浮かべている矢口を見て。
 くすり、と小さく笑みをもらした。

「・・・・・・・約束はできんけど。アタシはずっと矢口の側におりたいって思ってるで?」

 肯定でも、否定でもない答えに。
 矢口は俯いた。

「・・・・・・・・そんなんじゃ、不安だよ」

 そのまま矢口はぎゅっと中澤に抱きつく。

「そ〜やな」

 中澤はちょっと、困った声?
 困らせたいわけじゃないけど。
273 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時08分13秒
「アタシもいろいろ不安やったりするねんけど」

 中澤の瞳が矢口の眼をのぞきこむ。
 ちょっぴり弱気な眼。
「絶対、とか永遠とか。そんなん信じられる歳ちゃうし」
 今度は中澤が矢口の頬をなでる。

「形のあるものはさ、いつかは壊れるって言うじゃん」
 矢口はぽつり、と呟く。
「でも形のないものは壊れないって」
「・・・・・・・・信じてるん?」

 信じれるんか?

 矢口は首を横に振る。
「・・・・・・・信じるに値するものがあるって矢口に教えてよ」

「アタシはここにおる。それじゃアカンか?」

 妙に真面目な中澤の表情。
 ふわり、と矢口は笑った。

「・・・・・・・・そ〜だね」

 ぎゅっと中澤に抱きつく。
 中澤を抱きしめる。
274 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時08分43秒
「形のあるものでも形のないものでも、いつかは変わるし、壊れるんだ」

 確認するように紡ぎだされる、言葉。

 だって、今の矢口と裕子は、昔のままじゃない。
 いろんなことがあって、本当に。
 一番に想い続けることがどれほど難しいか、なんて。
 言われなくても。

 去っていったメンバーとの絆は。
 切れないって信じれるけど。
 いつまでだって、あの頃のままじゃ、ない。

 人気なんて。
 CD売上げ枚数なんて。
 そんなのいつまでだってあるわけじゃない。

 わかってる。

 だから。
「変わったら、壊れたら。もう一度作り直せばいいんだよ、それだけの話じゃん」

 中澤の瞳が。
 矢口の瞳が。
 揺れる。

 いつになっても、どこにいっても。

 互いの一番になりたい。

 それだけは変わらないって信じたい。
275 名前:変わらないモノ 投稿日:2003年05月20日(火)23時09分24秒
「変わっても、それでも。アタシとアンタの関係は何度でも作り直せるって」

 囁くような声。
「アタシは作り直すから」
 形を変えて、何度でも。
 君は。
 自分にとって、そんなに軽い存在じゃないから。

 ぎゅっと抱きしめられる。
 抱きしめる。

「受動的じゃないからね?」

 見つめ合う、瞳。

「宿命、だよ?」

 命を宿すんだ。
 運命のままで終わらせない。
 いろんな命が運ばれて。それに命を宿すかは自分らしだい。
 変わらないと信じれる、心。

 だから。

 何度だって伝えよう。

 愛してる。

 君は誰にとってもかけがいのない存在だけれど。
 自分にとって、唯一無二の存在なんだと。

                             【end】
276 名前:つかさ 投稿日:2003年05月20日(火)23時17分09秒
>>263 名無し読者さん
 中澤さんが大人・・・ん〜。自分の書く矢口さんが子どもすぎるだけのような
 気もしつつ(汗)

>>264 名無し読者さん
 お待たせしましたっ。
 一日遅れっす(汗)すいません。

>>265 名無し読者さん
 やぐちゅーは最高を通り越して永遠・・・になればいいな、なって欲しいな・・
 (果てしなく無茶な野望 笑)

っつ〜ことで、終わりましたっ!!
ほ〜んと。終わってよかった(しみじみ)
しばらくはまた一読者に戻ります。
スレ容量増えたことだし、書きたいものがまとまればまた舞い戻ってきます。
(スレ残ってりゃ おい)

やぐちゅーは永遠に不滅ですっ。
ありがとうございました。
277 名前:マコト 投稿日:2003年05月20日(火)23時51分13秒
久しぶりに来たら完結してるっ!!
>『壊れたらまた作り直せばいい』
これを読んで、あ、そういう考えもあるな。と一人で感心してました(笑)

遅れましたが、完結おめでとうございます!
やぐちゅーは永遠に不滅ですっ!やぐちゅーばんざーい!!!
278 名前:たむ 投稿日:2003年05月21日(水)00時44分06秒
やぐちゅーを通して色々思うこと、考えることが出来たお話でした。
つかささんの書くお話が好きな気持ち、これからも読み続けたいと思う気持ちは
自分にとって変わらないモノだと言い切れます(w

脱稿お疲れさまでした。
279 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年05月23日(金)00時46分45秒
お疲れさまでした。
宿命、運命・・・・
考えさせられる言葉でした。
そして二人の絆。
なにはともあれ、やぐちゅー万歳です(w
280 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月31日(土)16時56分48秒
完結おめでとーございます♪♪
やっぱ、つかささんの書く物は最高です!!
いつかまた、つかささんの小説が読めることを楽しみに待ってます!(^^)!
281 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時12分51秒
 今日もいい天気だな。
 でも・・・・・・・今日もお仕事なんだよね。
 今日はハロモニの収録。

 朝、スタジオに来る時。
 空、青かったなーーーーーーー。
 北海道、思い出しちゃった。
 圭織、北海道出身なんだよ?
 海が青くてね。
 オホーツク海って知ってる?
 日本海と全然違うんだよ。

ーーーーーーーーーーーー

「また圭織、交信してるんか?」
 娘。の楽屋に遊びに来ていた中澤は矢口となっちを突っつく。
「最近、してなかったのに・・・・・・・」
 ひょい、と三人が飯田の方を見ると。
 鏡に向かって・・・・・・・・・ぼ〜〜っと突っ立っている飯田の姿。

「「「こわっっ」」」
 奇しくも三人揃ってしまって。
 ニヤリ、と三人でガッツポーズ。
「「「さすがtsunagi」」」
 今度も揃って。
 何だか、嬉しくなって。
 三人でケタケタと笑う。
282 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時13分55秒
ーーーーーーーーーーーー

 圭織がね。
 北海道から出てきたときは、まだデビューできるかもわかんなくて。
 すっごいドキドキしたんだ。
 あ〜〜。
 なっちがいる。
 うん、なっち。
 いい顔して笑うようになったよね。
 一時期、元気がなかった時は本当に心配したんだ。
 やっぱり、裕ちゃんと矢口のおかげかな?

ーーーーーーーーーーーー

「そろそろこっちに戻さんでいいん?」
「まだ時間あるからいいんじゃないかい?」
「そうそう。たまには充電させとかないと、圭織、壊れちゃうよ」
「矢口、さりげにひどくないか?」
「ん〜、そう?それより裕ちゃん、何かしてあそぼ〜」
「なっちも遊びたいっっ」
「あんたら・・・・・・・ガキかっっ」

 この三人でいたら、とんでもなく盛り上がる。
 こっそり作った極秘ユニット、「tsunagi」。
 「tsunagi」の目的は。衣装は。

「きのこ採りにいこうか?」
「でも、なっちたち、今日、つなぎじゃないべさ」
「矢口も持ってきてない」
「あんたら、あかんな〜〜」
「「裕ちゃんだって、持ってきてないくせにっっ!!」」

 また、ケタケタと笑いあう。
283 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時14分49秒
ーーーーーーーーーーーー

 圭織ね、あの三人が仲良くしてくれて本当に嬉しいんだ。
 ほら、北海道って大きいじゃん。
 だからね、圭織、大きくなりたいんだ。
 背は充分大きくなったと思うんだ。
 だから、心をね。
 いっぱいいっぱい大きくしたいなって。

 ねぇ、宇宙って行ってみたくない?
 宇宙ってきっと広いんだよ。
 北海道より大きいんだ。
 でも、どんだけ大きくても。
 きっと変わらないものがあるんだよね。

 圭織はそう思うんだ。

ーーーーーーーーーーーーー

「黄色のヘルメットも忘れちゃだめだべ〜」
「黄色の軍手も〜」
「矢口が背負えんような大きいリュックもな(笑)」
「何だよ、んじゃ、荷物持ちは裕子に決定っっ!!」
「一番下っぱが持つんだよ、荷物は〜〜」
「え〜、いやや〜〜」

 ふくれてる中澤をからかう二人。
 笑いが止まらない。
284 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時16分04秒
ーーーーーーーーーーーーーー

 圭織、リーダーになって。
 最初はどうしようと思ったんだ。
 裕ちゃんの苦労が本当にわかったよ。

 でも、宇宙が大きくても変わらないものがあるのと一緒で。
 モーニング娘。にも変わらないものがあるんだよね。

 何だかわかる?
 すごいんだよ。
 メンバーがどんだけ入れ代わっても。
 みんな、モーニング娘。が大好きなんだ。

 圭織、これに気付いた時、鳥肌たっちゃった。
 凄いことだな〜って。
285 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時16分50秒
ーーーーーーーーーーーーーーー

「これって、ミーティングだよね〜?」
「うん、tsunagiのミーティング」
「なら、ミーティング場所は、楽屋裏で決定やな」
「何で裏なんだよ〜〜っっ」
「だって、やっぱ、山っつったらきのこやろ?
 んで、きのこっつったら、やっぱなめこやん。
 んで、なめこの王様っつったらやっぱり・・・・・・・・」
「黄金のなめこっっっ!」
「そうそう、黄金のなめこ探すのに、楽屋で堂々と計画練ってたらあかん。
 誰かにきかれたらどないすんねん?」
「そっか〜」
「納得」

 うんうん。妙に真面目な顔になる三人。

「んじゃ・・・・・・黄金のなめこがあるとこは、例の山だねっっ」
「そうや、誰にもばれたらあかんからな」
「探しにいくべっっ」

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 圭織、宇宙になりたいな。
 でっかい宇宙。

 でも。
 北海道は魚が美味しいんだよね。
 圭織、魚、大好き。
 宇宙にも魚っているのかな?

 う〜〜ん。

 誰かに聞いてみようかな?
286 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時17分25秒
ーーーーーーーーーーーーーーーー

「やっぱり、挨拶も決めとかなあかんやろ」
「「え〜〜〜?」」
「アホか、挨拶は基本やっちゅ〜ねん」
「矢口考えたっっ」
「どんなんや?」
「やっぱ、かっこよくなかったら駄目じゃん。だからさ」

 ・・・・・・・・・・・・。

「「矢口、最高〜〜〜っっ!!」」

「んじゃ、決まりだねっっ」
 「tsunagi」の挨拶は。
「「「警官のように手をあててっっ♪」」」
287 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時21分33秒
ーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇねぇ」
「何や圭織、戻ってきたんか」
 ?
 時々裕ちゃんってわけわかんないこと言うよね。
 それよりさ〜、聞いてよ。
「圭織さ、宇宙になりたいんだ」
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
 あれ?
 裕ちゃんと矢口となっち・・・・・・固まってる?
「それでね、考えてたんだけど、宇宙に魚っているのかな?」
「・・・・・・・・・・宇宙には水も酸素もないから、魚、おれへんと思うけど?」
「え〜そうなの、なら、圭織、魚、食べれないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 裕ちゃんががっくりと肩を落としてる。
 なっちと矢口が慰めるようにぽんぽんと肩たたいて・・・・・・・。
 何で?
「圭織、魚食べたいんか?」
 気を取り直したのか、裕ちゃんが聞いてきた。
「ううん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 裕ちゃんが、矢口、パス、と小さく呟いたのが聞こえてきた。
 え、オイラが相手するの?
 矢口も何だか困った様子。
288 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時22分32秒
「ねぇ、矢口はどう思う?」
「・・・・・・・・・・・・・・何を?」
 え、何でわかんないかな。
「圭織、宇宙になったら、魚、食べれないと思う?」
「・・・・・・・・・・そもそも宇宙って、食事しないじゃん・・・・・・・・・」
「え、そんなの困るっっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 なっち、オイラも一抜けた。後、よろしく。
 そんな呟きが聞こえたような聞こえないような。
 矢口と裕ちゃんが視界から消えた。

 でも、そんなの本当に困るよ。
 圭織が泣きそうな顔になってたら、なっちがにこにこと近づいてきた。

「圭織は宇宙になりたいんだ?」
「うんっ」
 やっぱりなっちだね。
「それで、どんな魚食べたいの?」
「北海道の魚が食べたい」
 うんうんってなっちが大きく頷いてる。
「北海道の魚、美味しいもんね〜」
 でしょ、でしょ?
「だから、圭織、宇宙には絶対に北海道の魚が欲しいのっっ」
 そうなんだ〜ってやっぱりなっちはにこにこ顔。

 何だか、圭織まで嬉しくなってくるよ。
「そしたらさ、北海道の魚じゃないけどなっち、魚の美味しい店知ってるから、
今晩、そこに御飯食べにいこっか?」
「うん、行くっっ」
289 名前:北海道と宇宙と魚と私 投稿日:2003年05月31日(土)23時23分04秒
ーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・・・なぁ矢口」
「・・・・・・・・・オイラにあの会話を理解できるかって聞くなよ?」

 圭織となっちから少し離れたところで。
 ぼそぼそと会話する怪しい二人組み。

「やっぱり圭織、魚食べたかったんやん・・・・・・・・」
 魚、食べにいこうか?ってなっちのせリフを聞いて、中澤がぼそぼそと呟く。
「聞きかたが悪かったんじゃん?」
 矢口の精一杯のフォローに、中澤は複雑そうな表情で応える。
「どこが悪かったん?」
「・・・・・・・・・・それをオイラに聞くなって・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・せやね」

 二人、顔を見合わせて、苦笑。
「やっぱり、なっちって凄いわ」
「やっぱり、なっちって凄いね」

 やはりtsunagiのリーダーはなっちしかいないと再確認する二人だったーーーーーーーー。

                              【end】
290 名前: 投稿日:2003年05月31日(土)23時24分01秒
 いきなりの電話。

「元気しとるか?」
 ふっと弱気なそんなアナタの言葉。

「……何言ってるの?」
 思わずそう答えてた。

「……ちょっとな」

 笑ったその声はやっぱり元気がなかった。

「海、行かん?」

 いつもと違う雰囲気に。
 嫌、なんて言えるはずもなく。
 嫌、なんて言うはずもないけどさ。
291 名前: 投稿日:2003年05月31日(土)23時25分13秒
ーーーーーーーーー

 アタシが運転していった海岸は。
 あいにく、というか。
 六月。
 まだ梅雨に入っていないせいか。
 いい天気で、真っ青な海と空。

 ……………………………………。

 良かったんだろうか?

 ふっと隣にいる人の顔色をうかがうと。
 満足そうに細められた目。
 じっと海と空の。
 境界線を見つめてる。

「こんなん珍しいんちゃうん?」

 嬉しそうな表情に。

 はぁ〜〜〜〜。

 思わず漏れ出た安堵の溜息。

「……どしたん?」

 怪訝そうな瞳が。

「何でもない」

 思わず頭を撫でてしまった。
292 名前: 投稿日:2003年05月31日(土)23時25分47秒
 ふにゃっと崩れた笑顔。
 きっとアタシの前でしかこんな表情してくんないんだろうなってのは。
 自惚れすぎ?

「歩こっか?彩っぺ」

 にかっと笑ったアナタは。
 朝に逢った時より。
 数倍いい顔になってて。

 それでも。
「………いいの?」

「何が?」

「いや……陽射しきつそうじゃん。ほら、しみとか」

 ボカ。

「アホか。怒るで」

「殴ってから言わないでよ〜」

 まるで昔に戻ったようだって思った。
 お互いの存在に違和感なんて感じずに。
 駆け引きなんて何も感じずに。
 ただ笑ってた、あの頃。
293 名前: 投稿日:2003年05月31日(土)23時26分28秒
ーーーーーーーーーーーー

「矢口と何かあった?」

「いや?」

 砂浜、歩きながら。
 心配そうな顔、してたんだろう。
 アタシに向かって。

「アタシと矢口がうまくいってないはずないやん」

 胸を張る。

 …………もぅ。

 思わず苦笑い。

「アンタこそどうやねん?」

 優しい笑顔。

「うん。変わらないよ」

「そか」

 ちょっと俯き加減になるアナタ。

 何度も喧嘩をした日があった。
 傷つけあうしかなかった日々。

 それでも。

「幸せなんやな?」

 不意に向けられた顔。

「………………当ったり前じゃん」

 最高級の笑顔を返すよ。

「うん」

 満足げに笑うアナタ。

 何があっても。
 どこへ行っても。
294 名前: 投稿日:2003年05月31日(土)23時27分04秒
「ずっと彩っぺと、こんな風に一緒に歩けたらいいな、って思っててん」

「手、繋いでいい?」

「は?」

 唐突な提案に。
 不思議そうな顔しながら。

「ええよ」

 ぎゅっと握った手はちょっと冷たくて。

「…………変わってないね」

 安心した。

「変な奴」

「何だよ〜、それ言うなら裕ちゃんっしょ。いきなり電話してきてめちゃめちゃびびったんだからねっ」

「その割には即答やったやんけ」

 む〜〜っと。
 拗ねたふり。

「…………ありがとな」

 不意に呟かれた言葉に。
 何だか涙がこぼれそうで。
 ぎゅっと繋いだ手の力を強くした。
295 名前: 投稿日:2003年05月31日(土)23時27分47秒
ーーーーーーーーーーーー

「また逢おうや」

 別れ際、笑顔のままのアナタ。

「………………矢口に言いつけるよ?」

「アホか。今日逢うのだって言ってきたっちゅ〜ねん」

「へぇ?」

 素直に驚いた顔すると。

 照れたようにアナタは笑った。

「矢口も逢いたいって」

 そうなんだ。

「ええか?」

 ちょっぴり弱気なその表情に。
 クスリ、と笑う。

「また三角関係やってみる?」

「もぅええっちゅ〜ねん」

 まったくもぅ。
 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。

「もうアタシ、迷わんし」

 強い真っ直ぐな瞳に。
 アタシは眼を細めた。

「そうだね。アタシも、もぅ矢口に意地悪しないし」

「アホ」

 パシ。
 軽くどつかれる。

「アタシも若かったし」

 謝らないとね。

「彩…………」

「謝らないでよ?」

 あえて先手を打つ。
296 名前: 投稿日:2003年05月31日(土)23時28分23秒
「アタシらはしょうがないじゃん?喧嘩両成敗って奴?」

 何やねんそれ。
 小さくアナタは吹き出した。

「一緒においでよ。アタシの家に」

「…………そやな」

 笑い合う。

 こんな瞬間が来るなんて、考えもしなかった。
 あの頃。

 時間が解決してくれるよ、なんて。
 そんな無責任な言葉、わからなかった。

「またな」

「またね」

 いつになっても。
 どこに行っても。

 願うのはアナタの幸せ。
 願いのはアンタの幸せやから。


                               【end】
297 名前:つかさ 投稿日:2003年05月31日(土)23時36分08秒
>>276 マコトさん
>『壊れたらまた作り直せばいい』
 自分も初めてこれを聞いたときは衝撃でした。
 ま、作り直すのは更に大変なんですけどね(w

>>277 たむさん
>やぐちゅーを通して色々思うこと、考えることが出来たお話でした。
 ホントいいコメントを・・・(感謝)
 たむさんのコメント大好きですっ(おい 笑)

>>278 やぐちゅー中毒者セーラムさん
>宿命、運命・・・・
 ずっとこの言葉を使って自分の中にあるものを表現したかったんで。
 っつ〜か自己発散でしたね、この話は(苦笑)

>>279 名無しさん
>いつかまた、つかささんの小説が読めることを楽しみに待ってます!(^^)!
 速攻で(?)あげてみました(笑)

まぁガラにもなく短編です。
ふと思えばSeekで書き始めて一年。
ちょい思考をリフレッシュさせるのもいいかな〜と。
ちょっと感じ違うかもしれませんが。
楽しんでいただければ幸いです。
298 名前:たむ 投稿日:2003年06月06日(金)00時22分03秒
ぬおっ!更新されてるやんか!!

つかささん凄いです〜。
アタシの中での飯田さんってこんな感じなのよ〜。
そしてtsunagiもこんな感じ・・・なんで分かったんですか?(w
299 名前:理由 投稿日:2003年07月01日(火)23時44分03秒
 春は別れの季節、そして出会いの季節。
 先人たちはうまいこと言ったものだ。
 廊下を猛ダッシュしながら矢口はしみじみと思う。

「矢口〜、一緒に写真撮ろうよ〜」

「先輩」

 呼び止める声は多数あるけれど。

「ごめん、急いでるっ!」

 たった一言で片付けさせてもらう。

 通いなれた学校とサヨナラするのは少し、寂しいけど。
 馬鹿やって、笑いあってた友達たちと、別々の道を歩いていく。
 そんな感傷にひたりたい気持ちも少しはあるけれど。

 それでも。
 それ以上にこの日を待っていたんだ。
 走りながら。
 矢口はぐっと唇を噛み締める。

 勢い良く。
 バタン、と屋上のドアをあけると。
 驚いたようにこっちを向く人影・・・・・・。

 驚いたような顔を見せながら。
 その眼は優しい。

「早かったやん?」

「ホームルーム終わって速攻で抜けてきた」

 肩で息をする矢口。
 中澤は足取り軽く矢口に近づいてくる。

「卒業おめでと〜さん」

「・・・・・・・・中澤先生」
300 名前:理由 投稿日:2003年07月01日(火)23時44分56秒
 ふわり、と微笑みかけられて。
 矢口は俯いた。
「・・・・・・・矢口が卒業か〜。早いな」
 普段と全く変わらない中澤の態度。
「入学してきた時と身長は全然変わらんけど」
「何だよ〜」
 笑い混じりの声に。
 矢口はちらっと中澤を見る。
 中澤は校庭に視線をやっていた。

「・・・・・・・・なぁ矢口、去年の文化祭、覚えてる?」
 矢口の眼を見ないまま。
 中澤は言葉をつむぐ。
「・・・・・・・忘れるわけ、ないじゃん」
 小さな。
 はっきりとした矢口の答えを聞いて。
 やっと中澤は矢口の方を向く。
「そやな」
 だから、来てくれたんやんな?

 ふわり、と笑顔を見せられて。
 矢口の鼓動は跳ね上がる。

「中澤先生・・・・・」

 約束、した。

 入学してからずっと、見てきた。
 大好きで。

 去年の文化祭。
 終わってずっと中澤を探してて。
 やっと屋上で見つけた。

 校庭からはキャンプファイヤーのはぜる音と。
 軽快なワルツの音楽に。
 生徒の声。

 今日は。
 あんな風に暗くもなくて。
 ワルツの音楽も流れてないけれど。

「・・・・・・・裕ちゃんって呼んでいいんだよね?」
301 名前:理由 投稿日:2003年07月01日(火)23時45分37秒
『矢口、中澤先生のこと、裕ちゃんって呼びたい』

 あの時、驚いたような顔をした中澤だけれど。

 今日は驚いたような顔はしない。

「もう先生と生徒やないしな」
「裕ちゃん、固すぎ」

 初めて呼ぶ、名前。
 初めて呼ばれる、名前。

 照れくさくて、お互い顔を見合わせて笑った。

「それから、これ」

 中澤はポケットから小さな紙切れを取り出した。

 卒業の時に同じ言葉、言えるんやったら裕ちゃんでも何でも、好きなように呼んだらええ。
『待てるんか?』
 挑戦的な目つきに。
『当たり前じゃん。先生は待てないって思ってるんだ?』
 皮肉めいた中澤の笑顔が返答。
『じゃあ、約束にオプションつけてよ。・・・・・携帯番号、教えて』
 矢口は眼をそらさなかった。
『・・・・・・ったく』
 小さく笑った中澤はその時何を思っていたのか。
302 名前:理由 投稿日:2003年07月01日(火)23時46分34秒
「メールアドレスはアタシからのオプションや」

「・・・・・・・ありがとう、裕ちゃん!!」

 本当に嬉しそうな矢口の顔を見て。
 くしゃり、と中澤は矢口の頭を撫でた。

「っつ〜ことで、そろそろ教室戻り。友達心配してんで?」

 え〜。
 不満顔の矢口を見て。
「連絡くれればいつだって会えるやろ?」
「そ〜だけどさ」
「あ、そや。忘れるとこやった」

 中澤はもう一度ポケットをがさごそとあさり始める。

「ほい、これ」

 矢口の手にぽん、と置かれた小さな箱。
「?」
 不思議そうに中澤とその箱を交互に見る矢口。
「・・・・・・・・バレンタインのお返しと卒業祝いや」

 んじゃ〜な。
 ひらひらとそっけなく手を振って。
 中澤は屋上から出て行こうとしたが。

「ありがと、裕ちゃんっ」

 矢口が中澤に飛びついた。

 ちゅっ。

 頬に軽く。

 それだけでも顔を真っ赤にさせた矢口だったが。

「大事にするから」

 ・・・・・・・・食べものやったら腐るぞ?
 思わず心の中で中澤は突っ込みつつ。

「大事にしてや」

 初めてやねんから、こ〜ゆ〜の用意するの。

 その言葉は秘密。
303 名前:理由 投稿日:2003年07月01日(火)23時47分16秒
「連絡するね」
「待ってるわ」

 まだ頬を染めたままの矢口が屋上から出て行っても。
 中澤はしばらくその場を動こうとはしなかった。

 ホントに来るとは思わんかったな。
 でも。
 来て欲しい、って思ってた。

『せんせ〜、ど〜して矢口ばっか当てるんだよ〜っ!!』
 授業中ぎゃ〜ぎゃ〜うるさい奴。
『あんたが前の席にいるからやろ?』
『お〜ぼ〜だ、矢口、好きで背、ちっこいわけじゃないもんっ』
 拗ねた顔つきに。
『・・・・・・・よし、そしたらおうぼうって漢字で書けたら許したる』
『書けるわけないじゃんっ!!』
『んじゃ、問題解け』
 漫才みたいなやりとり。
 素直に楽しかった。

 これで連絡してこんかったらマジで怒るからな。

 中澤は校庭を眺める。

 きっと側にいたいと思う気持ちに。
 理由はいらない。
304 名前:つかさ 投稿日:2003年07月01日(火)23時53分00秒
>>たむさん
 思いっきりギャグバージョン「北海道と宇宙と魚と私」楽しんでもらえたみたいで。
 っつ〜かダチと遊びでこんなん書けるか〜?よし、書いてやる、みたいな。
 ツボ、似てるな〜とか思いつつ(笑)<飯田さん、こんな感じ

っつ〜ことで姐さん誕生日おめでとうございますっ(おい)
短編で行く予定が・・・・(苦笑)
連日更新目指したい・・・です(苦笑)
305 名前:名無し君 投稿日:2003年07月02日(水)01時10分30秒
つかささんお帰りなさい〜。
ずっとお待ちしてました(w
連日更新ワッショイ〜!!!
306 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月02日(水)12時40分31秒
つかささん帰って来た〜!!
連日更新ですか、すごいですね(笑
すごい嬉しいです、お帰りなさい!!
307 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月03日(木)00時20分18秒
待ってまーす。
308 名前:kai 投稿日:2003年07月03日(木)01時40分19秒
や〜ん、次は“女教師”ものですかぁ〜?(w
アタシ一番弱いんですよねぇ〜・・それ系・・。
も、めっちゃ楽しみ!・・毎日覗きに来ま―す♪
・・・・って、アレ?・・卒業しちゃったから違うのかな?(疑問)
309 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年07月03日(木)02時02分20秒
つかささんが帰ってきた〜!
踊れ踊れぃ!
連日更新・・・自分には言えない言葉です(苦笑
310 名前:理由 投稿日:2003年07月03日(木)23時11分15秒
ーーーーーーーーーーー

 あれから三年。

 下北沢。
 週末、人ごみの中。
 仲良く寄り添って歩く二人組み。

「そういや裕子、今度誕生日じゃん?何か欲しいもん、ある?」
 何気ない、会話。
「本人に向かってそういうこと聞くな・・・・・ずぼらせんと自分で考え〜」
 こつん、と中澤は矢口の頭を叩く。
 そりゃそうだ。
 納得しつつも。
「え〜だって裕子、物欲ないじゃん・・・・・欲しい物あったらさっさと自分で買っちゃうしさ〜。
 矢口、これでもいっぱい考えたんだぞ」
 考えすぎて頭が痛い。
 とか言いながら。

 あ、これ可愛い。

 急に立ち止まった矢口に中澤は苦笑いする。

「どれ?」
 矢口の頭の上からそれを覗きこむ。

 ディズニーのキャラクター、ぷーさんのマグカップを見て。
 思わず笑いが漏れる。

「可愛いか?」

「可愛いよっ」
311 名前:理由 投稿日:2003年07月03日(木)23時12分14秒
 断言して。
 む〜、と膨らむほっぺを中澤はちょんちょん、とつつく。

「裕子は何かいいなって思うのある?」
 ん?
 むくれ顔から一転、期待に満ちた顔つき。
 可愛いな〜。
 くしゃり、と矢口の頭を撫でて。
 中澤はぐるり、と雑貨屋の中を見渡す。
「ん〜、そやな〜」

 しばし悩む中澤。
「・・・・・・別に今のとこ、ない」
 あ、そ。
 そう言うと思ったけどさ。
 肩を落とす矢口。

「ま、期待してるわ」

 不意に中澤が矢口の顔を覗き込んできた。

 イタズラ好きの子どもみたいな顔しちゃってさ。

「んじゃ、商品券でもあげるよっ」
 ぷい、と顔をそらすと。
 笑い声。
「ええよ、矢口のくれるもんやったら何でも」
 そのままぎゅっと手を握られた。

 ・・・・・・・何だかしてやられた気分。
 でも、ま、いっか。

 矢口はそっとその手を握り返した。
312 名前:理由 投稿日:2003年07月03日(木)23時12分53秒
 だいたい目当ての店も見尽くして。
「晩御飯、ど〜する?」
「う〜ん」
 なんてやりとりを二人がしていると。

 眼に入ってきたのは。
 何やら街角、もめてそうな女の人の二人組み。

「何でですかっ。わかりませんっ」

 ・・・・・・・雑踏の中。
 妙にはっきり聞こえてきたその声。
 ふと中澤は足を止めた。
「・・・・・・裕ちゃん?」
 脇に中澤の気配がなくなって。
 ん?
 矢口が後ろを振り向くと。
 首をかしげてその二人を見つめている中澤の姿が眼に入った。

「裕ちゃん」
 とてとてと矢口は中澤の側により。
 服の裾を引っ張る。

 失礼だよ。

 矢口がそう言いかける前に。
 不意に中澤は矢口の手をひいて。
 スタスタとその二人に近づいた。
313 名前:理由 投稿日:2003年07月03日(木)23時13分40秒
「奇遇やな」

「「・・・・・・・・中澤先生」」

 中澤の顔を見た瞬間。
 バツの悪そうな顔をして黙り込む二人。
 矢口は不思議そうな顔でその二人を見ていたが。
 先生って呼ぶってことは学校の人だよね。
 んでもって一人は背の高い・・・・うん、こっちは高校生だ。
 んでもって。
 もう一人は・・・・・。

「圭ちゃん?」

 見知った顔を見つけて思わず声が出る。

「・・・・・・・久しぶり、矢口」

 ちょっと困った顔をしているのは高校のときのクラスメイト。

『圭ちゃん、合格決まったって?』
『うん、教育大』
 卒業も間近に控えた頃。
 放課後、教室でしゃべってた。
『先生になるんだ?』
『・・・・・なれればい〜けどね』
 穏やかな笑みの中に。
 一本筋の通った強い意志を感じて。
 素直に感心したことを覚えてる。

 まぁ、もっとも。
『アンタらはよ帰り〜や〜』
 偶然通りかかった中澤。
314 名前:理由 投稿日:2003年07月03日(木)23時14分26秒
 保田が合格が決まったことを告げると。
 クラス担任にもかかわらず。
『そっか、圭坊の本命って教育大やったな、そ〜いや』
 のほほんと。
『それくらい覚えといてくださいよ』
 苦笑いの保田と。
『・・・・・・もしかして矢口の志望校も覚えてないとか?』
 矢口の突っ込みに。
『覚えてへん』
 胸張った中澤に。
『・・・・・圭ちゃん、こ〜ゆ〜先生にはならないほうがいいよ』
『反面教師って言うやろ?』
 中澤は、全然自慢にならないことを自慢気に言っていたっけ・・・・・・。

「圭坊、今な、教育実習で学校来てんねん」
 不意に頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
「え、そうなの?矢口、聞いてない」
 ちらっと上目遣いで中澤を見上げる矢口。
「あ・・・・・言うの忘れてた」
「何だよ〜」
 矢口は背伸びしてぽかり、と中澤をはたく。
「だって最近忙しかってんもん」
 拗ねたような中澤。
「それに圭坊が教育実習来てるって知ってど〜すんねん?」
 中澤の言葉は実にもっともだ。

 しかし。

「浮気調査」

 あっさりそう答える矢口に中澤はがっくりと肩を落とす。
「何やねん、それ・・・・・・」
「日頃の行いだろ〜がっ」
315 名前:理由 投稿日:2003年07月03日(木)23時21分35秒
 ・・・・・・・・まぁそれなりにじゃれあってる、とも見えなくない二人の雰囲気。

「・・・・・・・すいません、失礼します」
 いきなり。
 保田の横に立っていた女の子がぺこり、と頭を下げて。
 そのまま歩き出す。

「ちょ・・・・・・吉澤っ」
 慌てたように声を上げる保田を振り向きもせず。
「・・・・・・・・・」
 無言で立ち去るその姿を見つめて保田は唇を噛み締めた。

 何となく声をかけづらかったけれど。
「・・・・・・・・・・追いかけなくていいの?」
 矢口の声に保田はやっと我に返ったようで。
「・・・・・・・いい。ごめん、久しぶりだしご飯でもって言いたいとこだけど・・・・・私、帰るわ」
 弱々しい笑みに。
 中澤と矢口の返事も聞かず保田は歩き出す。
 吉澤が向かったのとは反対方向へ。

「「・・・・・・・・・・・」」

 中澤と矢口は眼を見合わせて。
 とりあえずアイコンタクト。
 見詰め合ったのはほんの数秒だったけれど。

「お節介はほどほどにしときや?」
「人のこと言えないじゃん」
 ふっと笑いあう。
「んじゃ、後で」
「連絡するね」

 簡単な言葉のやりとり。

 そのまま二人の後を追いかけるーーーーー。
316 名前:つかさ 投稿日:2003年07月03日(木)23時32分44秒
>>304 名無し君さん
 ただいまです。
 ん〜やっと暇になったんで(多分)さくさくいきたいですね。

>>305 名無しさん
 喜んでもらえる内容になるか・・・すげ〜不安ですが(汗)
 まぁほどよく頑張ります(笑)

>>306 名無し読者さん
 すいません、連日更新と言いながらしょっぱなから・・・(汗)

>>307 kaiさん
 同日更新っすね(ニヤリ)
 女教師モノ・・・・いや、予想通り卒業しちゃってるんで・・・。
 ん〜。シーン増やすかな・・・ま、考えてみます。

>>308 やぐちゅー中毒者セーラムさん
 連日更新・・・言うだけなら誰にでもできます(おい)
 中々あげないと書く気にならない・・・・(更におい)
 自分のペースをつかむのも大変ですよね。
 セーラムさんも頑張ってください、読んでますよ〜。

っつ〜ことで今日の更新はここまで。
連日更新とか書いときながらすいません、昨日はちょい野暮用がはいったもので(汗)
続きはさくさくとあげたいと思います(微妙な言い回し 笑)
317 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月05日(土)12時54分05秒
つかささんの小説
いつも先が読みたくてわくわくしています(w
さくさく・・・でもムリしないで頑張って下さい。
318 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時14分18秒
ーーーーーーーーーー

「ちょ、吉澤、待って〜や」

 雑踏の中。

「アンタ、足速すぎやねん」

 見つけられへんかもって思って焦ったわ〜。

 息を切らせながらも。
 中澤は不敵に笑ってみせる。

 対する吉澤は。
 ポーカーフェイス。

「・・・・・・何で追っかけてきたんですか?」

 不意に問い掛けられて。
 中澤はきょとん、とする。
「吉澤が生徒で先生だから、ですか?」
 挑むような眼差しに。

 思わず中澤は吹き出した。
「何で笑うんですかっ」
 真面目なセリフを茶化された気がして。
 それでも場違いなことを言った気はしたので。
 吉澤はむっとした表情をしながら黙り込む。

 高校生やねんな〜。

 中澤は柔らかい眼差しを吉澤に向けた。

「矢口がな、圭坊のこと追いかけたそうやったから」
319 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時14分58秒
 脈絡も何もない文章。
 今度は吉澤がきょとん、とした表情を見せて。
「矢口って・・・・・・・さっきの小さい人?」
「・・・・・・小さいって本人の前で言ったらごっつ怒られるで」
 くすり、と中澤は笑みをもらす。
「そ〜なんですか?可愛いのに」
 吉澤は何気なく発した言葉だったが。
「・・・・・・惚れるなや?」
 中澤の目つきが一瞬変わった。
「・・・・・・・・・惚れませんよ」

 アタシのもんや。

 言葉にはしなかったけれど。
 中澤の眼は充分それを物語ってて。

「・・・・・・・ど〜ゆ〜関係なんですか?」
 純粋な好奇心と興味・・・・・・だけではない、その質問。
 吉澤の眼が探るように中澤の表情を観察する。
「元教え子と教師」
 そんな視線をものともせず。
 中澤は笑う。
「んでもって、今は大事な存在」
 何か文句あるか?
 自信たっぷりな瞳に。
 思わず吉澤は視線をそらせてしまう。

「駅まで送るわ」
 何も言わない吉澤。
 別に何をしゃべるわけでもなく。
 二人は歩を進める。
320 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時15分35秒
 駅が見えてきた頃。

「吉澤と圭坊はど〜ゆ〜関係なん?」
 中澤からの問いかけ。
「・・・・・・・・・」
 やっぱり探るような視線を向ける吉澤に。
 中澤はニヤリ、と笑って見せた。
「純粋な好奇心と興味や」
「・・・・・・・・・」

 中澤の真意を測りかねて一瞬吉澤は躊躇して。
 ぐっと拳を握り締めた。
「一緒ですよ」
 ん?
 きょとん、とする中澤に。
 立ち止まって。

「元教え子です。・・・・・家庭教師、だったんです」
 あえて誰が、という主語は入れない。
「・・・・・・んでまた教え子になってるってわけか」
 中澤にとっては。
 嫌味でも何でもセリフだったのだろうが。
「二週間だけじゃないですかっ」
 中澤を睨みつける視線。
 何とも言えない表情でそれを見つめた中澤は。
 一つ大きくため息をついた。

「圭坊も苦労するな〜」
 吉澤に聞かせるために言ったわけではない。
 まるで独り言のように呟かれた言葉に。
「・・・・・・・・っ!」
 吉澤は唇を噛み締めた。

「え、ちょ、アンタ・・・・・」
 中澤はぎょっとした表情を見せる。
「何泣いてるねんっ」
「泣いてませんっ」
321 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時17分20秒
 でかい図体させて。
 いきなり目の前でボロボロと涙をこぼし始めた吉澤を見て。
 中澤は焦った表情になる。

「アタシが泣かせたみたいやんっ」
「だから泣いてないって言ってるじゃないですかっ」

 どっちにしろ。
 目立つことに変わりなく。
 道行く人の好奇心一杯の視線を感じて。
 中澤はがしがしと頭をかく。

 あかん。
 矢口に怒られる。

 頭の中は結構情けないことを考えてたりするのだが。

 とりあえず。
「ちょ〜、こっちおいで」
 あんまり人目につかない路地に吉澤を引っ張りこむ。

「ほら」
 差し出されたハンカチ。
 遠慮なく使わせてもらおう。
 ぐしぐしと目元こすって。
 吉澤は大きく息を吐く。
322 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時17分52秒
 中澤はしばらく何も言わず。
 何か考えているようだったが。
「・・・・・・・・中澤先生と矢口さんって・・・・・・・・」
 沈黙に耐え切れなくなったのか。
 ぽつり、と吉澤は呟いて。
 そのまま口ごもる。

 ・・・・・・・・・・。

 そんな吉澤の様子を見て中澤は少し困った顔をした。
「吉澤が何聞きたいんかよぅわからんけど」
 そのまま小さく笑う。
「きっとあんたらが思うほどアタシらだって大人やないんやで?」
 自嘲気味なそのセリフを聞いて。
 吉澤は真剣な眼差しを中澤に向ける。
323 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時19分14秒
『せんせ〜』
 昼休み。
 授業を終えて教室を出た中澤を矢口が捕まえた。
『何や?質問か?』
『そんなわけないじゃんっ』
 胸を張る矢口を中澤はぽかり、とこづく。
『威張んな』
『何すんだよ〜』
 言いながらも矢口はころころと笑う。
 思わず見惚れて。
 中澤は首を振った。
『んじゃ、何やねん?』
 何気ない問いかけだったのだが。

 一瞬矢口は口ごもる。

 ん?
324 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時20分10秒
『あのさ、矢口今日お弁当作ってきたんだけどっ』
 妙に緊張した面持ち。
『作りすぎちゃってさ。良かったら一緒に食べない?』
 揺れる、瞳に。
 今更ながらに中澤は、矢口の手に二つ、弁当袋がぶらさがってることに気付く。
『あ〜・・・・・・・・』
『・・・・・・・迷惑だったらいいんだけど・・・・・・・・』
 先ほどの表情から一転。
 それでも矢口の瞳は真っ直ぐで。
 らしくない態度。
『・・・・・・・・・喰えるんか?』
 それが中澤の返答。
『何だとっ?』
 むっとした様子に。
 今度は中澤が笑ってみせる。
『まずかったら喰わんで?』
 駄目押しの一言に。
『え・・・・・・多分大丈夫だと・・・・・』
『多分かいっ』
『文句言うなよっ。折角作ったんだかんなっ』

 戻ってきた憎まれ口に何だか安心して。
 ぐしゃぐしゃと中澤は矢口の頭を撫でた。
325 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時20分50秒
「・・・・・・・・ノロケにしか聞こえないんですけど」
 ぼそっと吉澤が呟く。
「・・・・・・・そう聞こえるか?」
 そう答えた中澤の表情は。
 何だか非常に情けないもので。
 普段の先生の顔とは全然違う。
「・・・・・・・・だって・・・・・・・」
 中澤は吉澤から眼をそらした。
「気持ちなんて日々変化していくもんやし。高校生なんてまた多感な年頃やし」
 そのまま中澤はその頃を懐かしむように。
 眼を細めて遠くを見つめる。
「傷つくのが怖いのは誰だって一緒やから」
326 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時21分29秒
『先生、付き合ってる人とかいるの?』
 いつの間にか恒例になってたお弁当タイム。
『さぁ?』
 屋上で。
 中澤は矢口の真剣な口調を軽く流す。
『・・・・・・教えてくれたってい〜じゃんよ』
 拗ねた目つきに。
『おらんけど。アタシ今、誰とも付き合う気ないから』
 小さく。
 それでもはっきりと中澤は告げる。

『・・・・・・・・・・・』
 無言で矢口は中澤を見つめた。
『やから』
 その先、中澤自身、何を言おうとしたのか。
『良かった〜』
 中澤の言葉をさえぎったのは。
 何とものほほんとした矢口のセリフで。
『・・・・・へ?』
 思わず中澤は間抜け顔。
『そしたら矢口にもチャンスあるってことだよね?』

 アンタ。
 すごい自信過剰な発想してないか?
 ついでに。
 すごい都合よくアタシの言葉、解釈してないか?

 いろんな言葉が中澤の頭を駆け巡る。

 呆然としてる中澤に。
『も〜ちょっと誰とも付き合わない、そう言っといてね』
 真剣な眼差しに。
 結局何も言えなかった。
327 名前:理由 投稿日:2003年07月05日(土)23時22分15秒
 クスクスと中澤は笑って。
 柔らかい眼差しで吉澤を見つめた。
「矢口が大学卒業したら一緒に住むねん」
 強い、眼差し。
「誰にも何も文句言わせへん。・・・・・・その意味、わかるか?」
 吉澤は黙り込む。
「今はわからんでもええけど。相手のこと信じられへんその気持ちはわかったり」
 わかるようでわからない中澤の言葉。
 それでもその言葉に迷いはない。
「・・・・・・そんなに好きなんですか?」
 吉澤の問いかけ。
「さぁ?」
 中澤は肩をすくめてみせる。
「側にいたいからいるんや。好き、とか惚れてる、とか。そんなんアタシには関係ない」

 −−−−−−側にいたいから、いるんや−−−−−−。

 何がどう、とか。
 良く分からなかったけれど。
 その一言はストン、と胸に落ちた。

「そろそろ帰らな、家やばいんちゃうん?」
 ふと腕時計を指差す中澤に。
 吉澤は黙って頭を下げた。
328 名前:つかさ 投稿日:2003年07月05日(土)23時27分07秒
>>316 名無し読者さん
 ありがとうございます・・・。

ってかすいません(汗)
サクサク今週中にあげるつもりだったんですが。
無理でしたっつ〜ことで。
ちょい旅行行くんで。一週間ほど更新できません。
まじですんません(汗)

まぁそして。
矢口さん写真集やっと購入。
・・・・・な〜んか。マジ綺麗で可愛くて。惚れました(今更? 笑)
何でこんなに惹きつけられるのか。あ〜中澤さんの気持が良く分かるっ(おい)
329 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月11日(金)02時26分38秒
楽しみに待ってまーす。
330 名前:理由 投稿日:2003年07月13日(日)23時34分36秒
ーーーーーーーーーー

「圭ちゃんっ」
 人ごみの中。
 やっと矢口は保田に追いつく。
「・・・・・・・・矢口」
 何とも言えない表情で振り向く保田に。
「・・・・・・・矢口じゃまずかった?」
 何となく期待はずれ的なものを感じて。
 矢口は拗ねてみせる。
「そんなことないけど」
 困ったような保田。
「追いかけてくるって思ってなかったから」
 正直な答えに。
 矢口はきょとん、として。
「何だよ〜」
 笑って見せた。

「久しぶりなんだしさ。飲みにでもいこ〜よ〜」
 くいくい、と保田の腕をひっぱる矢口は。
 思い立ったらすぐ行動。
 高校時代から変わってないな、と。
 今度は保田がクスリ、と笑みを漏らして。
「中澤先生、いいの?」
 至極最もな発言。
「あ〜」
 ちょっと矢口は困ったような顔をして。
「メールいれとく」
「ふ〜ん?」
 保田の不思議そうな声に。
「今日、泊まりの予定だしさ。後でちゃんとフォローしとく」
 何とかなるよ。
331 名前:理由 投稿日:2003年07月13日(日)23時35分14秒
 自信たっぷりな矢口が羨ましくて。
 保田はふっと空を見上げる。

 夕暮れ時だからか。

『中澤先生がねっ』
 嬉しそうな顔を何回も見た。
 誰々がかっこいいとか、そんな話も一杯したけれど。

『あ〜ぁ』
 夕暮れ時。
 教室から。
 矢口と並んで校庭を眺めてて。

 見えたのは中澤と並んで歩く同僚の男の・・・・先生。

 ため息をついて。
 矢口は何も言わなかった。

 切なげな視線に。
 保田も何も言えなくて。

 何も聞けなくて。
332 名前:理由 投稿日:2003年07月13日(日)23時35分51秒
「圭ちゃん?」

 ふと我に返ると。
 いたずらっぽい瞳が保田を見つめている。

「さっき一緒にいてたのって矢口らの後輩?」

 興味津々な正直な眼に。

「ま〜、そういうことになるかな」

「圭ちゃんもやるね〜」

 このこの。
 肘でわきを突っつかれ。
「何を期待してんだか」
 あえて冷たく言うと。
「別に〜」
 さらり、と流して。
 くるり、と矢口は保田を振り返る。
「いい恋しなきゃ駄目だよ?」

 ・・・・・・・・・・・・・・。
333 名前:理由 投稿日:2003年07月13日(日)23時36分24秒
 一度だけ。
 教室で泣いている矢口を見たことがあった。
 いつのことか忘れたけれど。

 かたわらには。
 中澤がいて。

 何をしゃべってたのか、聞こえなかったけれど。

 中澤が矢口を抱きしめた。

 震えてた矢口の肩。
 なだめるように矢口の背中をぽんぽん、と叩いていた中澤。

 見ちゃいけない、と思いつつ。
 何だか眼が離せなくて。

 しばらくして。
 矢口が顔をあげて。

 ・・・・・・・・・・・笑ったんだ。

 安心したように中澤も微笑んで。

 それでもしばらく二人は抱き合ったままだった。

 きっと、何気ない風景。

 そんな風にして。
 きっと二人は二人の距離を縮めて。
 何かを育てていったんだろうって。
334 名前:理由 投稿日:2003年07月13日(日)23時37分02秒
 保田はため息をつく。

「卒業して三年、だっけ」
 何かを確認するように呟く保田。
「もう三年なんだよね〜。早かった」
 しみじみと隣りで矢口はうんうん、と頷く。
「矢口はずっと中澤先生一筋だったんだ?」
 何気ない問いかけに。
 矢口はちらっと保田を見て。
「まぁね〜」
 軽い口調で答える。

「・・・・・・ふ〜ん」
 何も言えず。
 俯いた保田に。
 矢口は呆れた表情を向けて。
「圭ちゃんって変なとこ裕子に似てるよね」

 ど〜ゆ〜意味?

 問い返す視線の先に矢口はいなくて。

「こんばんわ〜、空いてます?」
 ガラリ。
 いつの間にたどり着いてたのか。
 一軒の飲み屋の暖簾をくぐっていた。
335 名前:理由 投稿日:2003年07月13日(日)23時38分15秒
 適当に乾杯なんかして。
 さっきの話など忘れたかのように近況報告で盛り上がってた二人だが。

 ふっと沈黙が落ちた。

「でも矢口、いいとこ知ってるよね〜」
 だいぶ酒が入って。
 保田のロレツは結構あやしい。
「裕子に教えてもらったんだ〜」
 キャハハハ、と明るい声を上げる矢口は・・・・・。
 いつもと変わらずハイテンション。

「何よ、ノロケてるんじゃないわよっ」
 どん、と保田はテーブルを叩く。
「圭ちゃんだってノロケりゃい〜じゃん」
 あっさりと答えられて。
「・・・・・・・それができりゃ苦労しないわよ・・・・・・・」
 ぼそぼそと呟く声は矢口に聞こえているのかいないのか。
「すいませ〜ん、これお代わり2つ〜」
 まったく聞く気、ないみたいね。
 盛大なため息を今度は矢口は聞き逃さず。

「考えすぎなんだって。ついでに言葉も足りなさ過ぎ」

 図星をさされて。
 思わず保田は黙り込む。
「そこで黙り込んでちゃ駄目じゃん」
 矢口の真っ直ぐな眼を見ていられなくて。
 保田は視線をそらす。
「理屈とかそんなん抜きで。側にいたいからいるでいいじゃん」
336 名前:理由 投稿日:2003年07月13日(日)23時39分12秒
 ここのタン塩、美味しいんだよね。

 まったく関係ないこといいながら、矢口は出てきた料理をほおばる。

「ほら、圭ちゃんも飲むっ」

 数時間後。
 すっかり潰れた二人を見て。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 この二人の世話するの、アタシなんやろか?
 中澤は苦笑いを漏らす。

『圭ちゃんと飲んでるから。10時に迎えに来てね』

 そんなメール一本だけで。

「・・・・・・ったく」

 店の人にすいません、と頭さげつつ。
「こら、矢口」
 ぺたぺたと頬を叩いてみる。
「ん?」
 うにゃ〜とした視線。
「起きれるか?」
「無理」
 そのまま首に回されてくる腕に。
「ちょお待て」
 そのまま中澤は保田の所へ。

 かな〜り目つきはあやしいが。
「圭坊〜?立てるか?」
 黙ってこくり、と頷く保田。
「んじゃ、車、店の前置いてるから。そこまでちゃんと歩くんやで?」

 さすがに二人は無理や。

 そのまま中澤は矢口を何とか抱え上げ。
337 名前:理由 投稿日:2003年07月13日(日)23時39分46秒
「・・・・・・矢口、アンタまた重くなったんやないか?」

 はなはだ失礼なことを呟きながら。
 何とか店を出ようとするが。
「あ、すいません、お勘定」
 店長から声をかけられて。
「・・・・・・コイツら、払ってないん?」
 非常に情けない顔をしながら。
 財布を取り出す。

 まぁその後も。
 中澤の家にとりあえず二人を連れて行ったはいいが。
「気持ち悪い・・・・・吐く」
 の二重攻撃。

「アンタらしばらく酒禁止」

 次の日。
 二日酔いの保田と矢口に。
 中澤の説教が飛んだのは言うまでもなかった。
338 名前:つかさ 投稿日:2003年07月13日(日)23時42分06秒
>>328 名無し読者さん
 お待たせしてますね、すいません(汗)

まぁやっとここまできました。
後も〜ちょっと。
頑張ります(ぺこり)
339 名前:理由 投稿日:2003年07月14日(月)23時22分06秒
ーーーーーーーーーー

 そして。

「ね〜、そういやあれから二人ど〜なった?」

 明日は中澤の誕生日。
 当然のことながら・・・・・・お泊まりに来ている矢口。

 どっか食べに行くか〜?
 そんなセリフを。
 今日は矢口が作るっ。

 何故か力いっぱい断言してくれた矢口に。
 はいはい。
 中澤は幸せそうに笑ったりなんかして。

「さ〜?」

 あっさりと答える中澤。

 矢口の作った料理は純和風で。
 日本酒の冷やをちびちびとやっていた中澤はもうほろ酔い加減。

 片付けの邪魔すんなよな〜。
 ええやん、矢口〜。

 キッチンで散々そ〜ゆ〜攻防を繰り広げ。

 ま、いいか。

 結局矢口の負けで。
 片付けも適当に。
 のんびりソファーでまったりくつろぐ二人。
340 名前:理由 投稿日:2003年07月14日(月)23時23分15秒
「さ〜って・・・・・・・心配じゃないの?」
「別に?」
 更にあっさりと中澤は答えて。
 矢口の首筋に顔を埋める。
「え〜匂い」
「こらこらこら」
 くすぐったそうにしながらも矢口もまんざらではなさそうで。

「何でもめてたんかも知らんし。・・・・・・・・元気そうやし。え〜やん、それで」

 気になってなかったわけじゃないのだろう。
 ぼそっと先ほどの自分のセリフに補足説明いれて。
 中澤はもう一度眼をつむる。

「・・・・・・そ〜だね」

 よしよし。
 珍しく甘えてくる中澤の頭を矢口が撫でると。
 ん〜。
 気持ち良さそうに中澤は眼を細めて。

「・・・・・・・こら、寝るな」
「ん〜やって」
 むにゃむにゃと中澤はもう夢見ごこち。
「お風呂まだ入ってないだろ〜」
 ぷに。
 鼻をつまんでみる。
「なら30分だけ・・・・・・・」
「・・・・・・・・ホントに30分だけかよ」
 突っ込みつつ。

 中澤は体勢を変えて。
 矢口の膝に頭を落とす。
「気持ちえ〜」
「・・・・・・・もう」
 そっと髪の毛を撫でる。
341 名前:理由 投稿日:2003年07月14日(月)23時23分53秒
 ちりん。

 季節はずれの風鈴が、鳴った。
「・・・・・・プレゼント、ありがとな」
 寝入ったと思っていたのだが。
 どうやら違ったみたいで。
 不意に中澤が眼を開けた。

「・・・・・・・別に。大したもんじゃないじゃん」

 照れくさくてそっぽ向く。

「ん。でもアタシがガラス細工好きってちゃんと覚えててくれたんやん?」

「・・・・・・・裕子にしては風流なもの好きなんだなって」

「・・・・・何やと?」

 笑いながら中澤が矢口の頬をつねる。
「いひゃい・・・・・・落とすぞ」
「落とせるもんなら落としてみぃ」
 軽いじゃれあい。

「も〜、危ないやんっ」
「何だよっ」

 いつの間にかお互いムキになってて。
 不意に中澤が笑う。
「・・・・・・・・?」
 いぶかしげな矢口に。
「いや・・・・・変な体勢でアタシら喧嘩してるな〜って」
 クスクス笑う中澤につられ。
 そ〜だね。
 矢口も笑い出す。
342 名前:理由 投稿日:2003年07月14日(月)23時24分27秒
 ひょい、と中澤は身体を起こして。
「・・・・・・・・矢口」
 手を差し出す。
「一緒にお風呂入ろっか?」

 ・・・・・・・・・・・・・。

「エロオヤジ」

 中澤はがくっと情けない表情になる。
「えぇやん、たまには。誕生日やん、奮発してや〜」
「明日だろ〜がっ」
「大丈夫、明日もまたお願いするから」

 げいん。

 力いっぱい矢口は中澤の頭を殴る。
「・・・・・・・・ま〜ったく」
 ため息まじりの矢口の声に。
「でも、好きやろ?」
 自信たっぷりに身体に回された腕。

「自信過剰」
 ぷいっと口をとがらすと。
「素直やないな・・・・・・でも、好きやけど」
 優しいブラウンの瞳が矢口の眼をじっと見つめてきて。
「・・・・・・・・・」
 結局はこの瞳に負けちゃうのだ。

 いつだって。
343 名前:理由 投稿日:2003年07月14日(月)23時25分08秒
『矢口』
 初めて見つめられたのは、青い瞳だった。
 緊張しすぎて何しゃべったか覚えてなかったりする。
『そんなにアタシ、怖い?』
 困ったような、情けない表情に。
 何だかそのギャップにドキン、として。

 理屈じゃない感情を持て余したこともあった。
 何だかんだ言って。
 結局。
 ここしかない。
 そう思ったのだ。

「・・・・・・・今度は矢口がおネムか?」
 抱きしめられたまま。
 動こうとしない矢口に。
 中澤はからかい混じりに声をかける。
「そ〜じゃないけど」
 不意に矢口が顔をあげた。

「・・・・・・・・誕生日おめでと。・・・・・ちょっと早いけどね」

 クスリ、と微笑みあう。
344 名前:理由 投稿日:2003年07月14日(月)23時27分17秒
「カウントダウン、しよっか?」
「いらん」
「何でだよ〜」
「あんまり嬉しくない」
「矢口がいても?」
「あ〜それは嬉しい」
「どっちだよっ」

 理由なんていらない。

 君が欲しい。
 アナタが欲しい。

 側にいたい。

 単純な、コト。

                                 【end】
345 名前:つかさ 投稿日:2003年07月14日(月)23時32分08秒
っつ〜ことで姐さん誕生日おめでとうございますっ(おい)

何かむやみに長くなってしまい・・・・(汗)
まぁこういうのもあり、で。
お付き合いありがとうございました。
346 名前:名無し読者。 投稿日:2003年07月15日(火)00時25分35秒
やっぱり、つかささんの小説大好きです!!!
気が向いた時・・・ムリしないで・・・頑張って下さい。
やぐちゅーもかなり減って・・・三大王道から・・・。
やぐちゅーが絶滅しない事を祈ってます(w

つかささ引退はしないで下さいね〜。
347 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003年07月15日(火)13時05分30秒
お疲れさまです、やっぱやぐちゅー最高です
>つかささん引退しないでくださいね〜
怖いこと言わないでくださいよ〜
自分もマジでそう思っています
348 名前:つかさ 投稿日:2003年08月11日(月)23時48分47秒
保全もかねて。

>>345 名無し読者。さん
>引退はしないで下さいね〜。
 もうしばらく引退はしない気はしつつ・・・・短編書けない、でも新スレたてて
も全部埋めれるんだろうかという・・・・・ちょっと迷ってます。

>>346 やぐちゅー中毒者セーラムさん
>やっぱやぐちゅー最高です
 自分もそう思います。例え絡みが少なくなろうとも。
 そういう時こそ妄想が大事なんですよね(違)

っつ〜ことでまぁ。
一段落ついたようなついてないような(どっちやねん)
番外編・・・・考えてるのもあるのですが。
このスレに載せきる自信がないっつ〜のもあり。
tsunagiどろどろの奴、書いてみたいなっつ〜のもあるのですが。

新スレたてても今の状況ではきちんと更新&完結させる自信がなく。
ちょっと様子見させてもらえればな、と。
ある程度書き溜めれれば、もしくはちゃんと完結させる余裕が自分にできれば
その時はまた。
349 名前:たむ 投稿日:2003年08月12日(火)01時30分19秒
パラレルワールドスレの脱稿お疲れさまでした。
話の中での二人とその周りの仲間(人たち)との繋がりは
読んでいてとても心地良いものでした。
この心地よさは、つかささんが書くお話ならではだな〜と思いつつ
どろどろしたtsunagiもこっそり期待してみたり(w
やぐちゅーへの愛がある限り、つかささん(のお話)も永遠に不滅ですよね(w
また、お目にかかれる日を楽しみにしております。
350 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月12日(火)01時33分59秒
様子見する時間はありません。(w
やぐちゅー患者が、やぐちゅー不足で絶滅してしまいます(w
つかささんは書き始めるときっと・・・想像が膨らみ勝手に完結できるので大丈夫です。
っと勝手な事を言ってみる(w

tsunagiどろどろの奴ぜひお願いします。
期待してのんびりと待たせていただきます(w
351 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月12日(火)02時27分32秒
パラレルワールド、完結お疲れ様でした。
姐さん・矢口さん・矢口母の関係が面白く温かく、
毎回すごい楽しみにしてた作品でした。

番外編・どろどろのtsunagi密かに期待してます(笑
またつかささんの話が読めるときまで、のんびり待ってます。
352 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月12日(火)21時40分03秒
パラレルワールド最初から読ませていただきました。
つかささんのやぐちゅー大好きです。
その後の2人のお話を読んでみたいな〜、なんて密かに願ってます。
353 名前:名無しROM専 投稿日:2003年08月17日(日)17時17分43秒
パラレル・・・完結ありがとうございました。
つかささんのイタ甘やぐちゅー大好きです。
充電が済んだら・・・やぐちゅーでも・tsunagiでもいいのでお願いします。

つかささんには・・・ごまゆう・なかよし・なっちゅーなんか書くことはありえないですよね〜?
短編でもいいので読んで見たいな?なんって・・・勝手言ってすいません。
やぐちゅー信者なんですが・・・たまに浮気心が・・・。でちゃううんです。(苦笑


354 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時16分07秒
1 あなたの名前を教えてください
 从#~∀~#从   中澤裕子。
 (〜^◇^〜) 矢口真里。
 从#~∀~#从   そのまんまの答えやな(しみじみ)

2 年齢は?
 从#~∀~#从   女性に歳聞いたらアカンって教われへんかったか?
 (〜^◇^〜) 矢口は教わってないや、女盛り、二十歳ですっ。
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・フォローせ〜や・・・・・・・。

3 性別は?
 从#~∀~#从   メス。
 (〜^◇^〜) も〜ちょっとマシな言い方ない?メスです。
 从#~∀~#从   一緒やんけっ!
 (〜^◇^〜) 裕ちゃんのがうつっちゃったんだいっ。
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・・・。(可愛いから許す)
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・・・。(してやったり)

4 貴方の性格は?
 从#~∀~#从   人見知り。
 (〜^◇^〜) 人懐っこい・・・・・・はず、多分。裕ちゃんよりは。
 从#~∀~#从   アタシと比べたら誰でも人懐っこいと思うで?
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・そりゃそうだよね。
 从#~∀~#从   納得すんなやっ!
355 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時17分40秒
5 相手の性格は?
 从#~∀~#从   ん〜。空元気を周り悟られへんようにするのが上手い・・・・・基本的には
         気、使いな性格やと思います。
 (〜^◇^〜) ワガママ、へタレ、タラシ。最近、ロリコンの気もでてきたんじゃないの?
         (疑惑の眼差し)
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・・・・あれはちゃうって(困)
 (〜^◇^〜) 浮気したら別れるからね?
 从#~∀~#从   せぇへんわっ(とは言い切れへんけどな・・・・・・)

6 二人の出会いはいつ?どこで?
 从#~∀~#从   スタジオ。
 (〜^◇^〜) そうですね、スタジオ。

7 相手の第一印象は?
 从#~∀~#从   別に・・・・・・・どんな性格の子なんやろ、とは思ってたような気はしますが。
 (〜^◇^〜) 怖かった。でも、緊張しすぎててあんまり覚えてません。
 从#~∀~#从   そんなもんやんな。
 (〜^◇^〜) うん。
356 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時20分34秒
8 相手のどんなところが好き?
 从#~∀~#从   全部。(即答)
 (〜^◇^〜) アホ(笑)その中でどこが好きかって聞いてるんじゃん〜。
 从#~∀~#从   言っていいん?まずは顔。表情くるくる変わって見てて飽きへんし。怒った顔、
         拗ねた顔、笑った顔、・・・・・・泣き顔はあんま見たくないけど、たまに見たら
         ドキってするし。性格もまた可愛くて。しっかりしてるとことか・・・・。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・もぅいいよ。(でもちょっと嬉しい)
 从#~∀~#从   何やねん、言わせといて。矢口はど〜なん?
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・・・・全部(照)
 从#~∀~#从   一緒やん(でもちょっと嬉しい)

9 相手のどんなところが嫌い?
 从#~∀~#从   特には思いつかんけど・・・・・矢口の方がいっぱいありそうやんな?(苦笑)
 (〜^◇^〜) 自覚してるからタチが悪い・・・・・・最近は諦めてます(苦笑)
 从#~∀~#从   ごめんな。
 (〜^◇^〜) 謝るくらいだったら、するなよっ。
 从#~∀~#从   でも一番大事なんは矢口だけやから。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・アホ(照)
357 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時22分40秒
10 貴方と相手の相性はいいと思う?
 从#~∀~#从   どうやろ?いいといいな〜とは思うけど。
 (〜^◇^〜) いいって言い切ってくれてもいいじゃん(拗ね)
 从#~∀~#从   だって、矢口に無理させてるんやないかな〜ってたまに不安に思うから。
 (〜^◇^〜) 悪くても、良くしていきます。
 从#~∀~#从   そやな。

11 相手のことを何で呼んでる?
 从#~∀~#从   矢口。たまに、真里かな。(含み笑い)
 (〜^◇^〜) (照)。裕子、とか、裕ちゃん、とか。

12 相手に何て呼ばれたい?
 从#~∀~#从   別に今のままで。
 (〜^◇^〜) うん。

13 相手を動物に例えたら何?
 从#~∀~#从   犬。
 (〜^◇^〜) 猫。

14 相手にプレゼントをあげるとしたら何をあげる?
 从#~∀~#从   アクセサリー系?好きそうやし。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・一緒に住める、家、とか?
 从#~∀~#从   ・・・・・・何かアタシ、ごっつ強欲みたいやん(苦笑)
358 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時24分53秒
15 プレゼントをもらうとしたら何がほしい?
 从#~∀~#从   矢口の心。
 (〜^◇^〜) もぅ裕ちゃんのモノじゃん?
 从#~∀~#从   一生アタシのモンやで?
 (〜^◇^〜) ・・・・・・うん(照)んじゃ、矢口にも裕ちゃんの心、くれる?
 从#~∀~#从   当たり前やん。っつ〜かもう矢口のモノやし。

16 相手に対して不満はある?それはどんなこと?
 从#~∀~#从   ん〜〜、可愛すぎること。
 (〜^◇^〜) 何だよそれっ?!
 从#~∀~#从   たまに我慢するのが大変で・・・・・・。(ニヤリ)
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・たまにしか我慢しないのかよっ。
         ってか矢口の不満は・・・・・・・Best1じゃなくてOnly1になりたいかな。
 从#~∀~#从   Only1やで?
 (〜^◇^〜) 普段の言動と一致してるって言い切れる?
 从#~∀~#从   ・・・・・・・善処します。

17 貴方の癖って何?
 从#~∀~#从   さぁ?
 (〜^◇^〜) う〜ん(悩)

18 相手の癖って何?
 从#~∀~#从   憎まれ口は癖にはいるんかな?
 (〜^◇^〜) キス魔なところ。
 从#~∀~#从   矢口にだけや。
359 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時26分28秒
19 相手のすること(癖など)でされて嫌なことは?
 从#~∀~#从   何か言うだけ言って他の誰かと絡んでたらごっつ不安になります。
 (〜^◇^〜) 他の人に好きって言ったり、キスしたり、抱きついたりしてたら。

20 貴方のすること(癖など)で相手が怒ることは何?
 从#~∀~#从   他の人に好きって言ったり、キスしたり、抱きついてたら・・・・ってさっきの
         矢口の答えと一緒やな。
 (〜^◇^〜) あんまり怒らないかな?あ、でも仕事に対して手を抜いてたら怒られる。
 从#~∀~#从   当たり前やん(苦笑)

21 二人はどこまでの関係?
 从#~∀~#从   そら当然・・・・・・・。
 (〜^◇^〜) まぁ、ねぇ?(照れ笑い)

22 二人の初デートはどこ?
 从#~∀~#从   どこやろ?
 (〜^◇^〜) 結構二人の時間、ロケ先でもちょこちょこと作ってくれてたし、作ってたし。
         特定の場所ってのは思いつかないですね。

23 その時の二人の雰囲気は?
 从#~∀~#从   別に・・・・・・普通にいちゃついたり、喧嘩したり。
 (〜^◇^〜) 喧嘩するのは普通じゃないだろっ!
360 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時28分06秒
24 その時どこまで進んだ?
 从#~∀~#从   付き合い始めて初めて二人っきりになった時は、別に何もせぇへんかったよな?
 (〜^◇^〜) うん。意外だった。
 从#~∀~#从   アタシのこと、どないに思っててん(苦笑)

25 よく行くデートスポットは?
 从#~∀~#从   家が多いですね。
 (〜^◇^〜) 一緒のロケがあった時は、景色綺麗なとことか聞いてたまに抜け出して行ったり
         してたけど。

26 相手の誕生日。どう演出する?
 从#~∀~#从   時間が合えば、旅行とか出先でロマンチックに。矢口、そういうの好きそうやし。
 (〜^◇^〜) ん〜、裕ちゃんの家でご飯作って待ってるかな。

27 告白はどちらから?
 从#~∀~#从   口説いたのはアタシからになるんかな?
 (〜^◇^〜) 裕ちゃんは誰でも口説いてるじゃんっ。本気になってマジ告白かけたのは
         矢口です。
 从#~∀~#从   でも、めちゃめちゃ嬉しかったで?
 (〜^◇^〜) 当たり前だっつ〜の。
361 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時29分38秒
28 相手のことを、どれくらい好き?
 从#~∀~#从   そんなん自分でわかってればいいやん。
 (〜^◇^〜) 変なところでシャイだよね、裕ちゃん。
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・えぇやん、態度に出してるやろ?
 (〜^◇^〜) 出しすぎって話は置いといて。矢口はめちゃめちゃ好きです。
 从#~∀~#从   変なとこ素直やな〜(笑)
 (〜^◇^〜) たまにはい〜じゃんよ〜。
 从#~∀~#从   たまにかいっ(笑)

29 では、愛してる?
 从#~∀~#从   矢口がわかってればええねん。
 (〜^◇^〜) うん。お互いがわかってればいいよね。

30 言われると弱い相手の一言は?
 从#~∀~#从   言葉じゃないけど、上目遣いで眼、ウルウルされたら・・・・・・弱いな、アタシ。
 (〜^◇^〜) 甘えてくる時に出す、「矢口ぃ」って弱い声、かな。

31 相手に浮気の疑惑が! どうする?
 从#~∀~#从   怒る。
 (〜^◇^〜) 疑惑なら、もぅ慣れました。
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・・・・。
362 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時38分28秒
32 浮気を許せる?
 从#~∀~#从   許さない。
 (〜^◇^〜) 浮気なら、絶対許さない。でも、もし本気なら・・・・・・・どうしよ・・・・・・。
 从#~∀~#从   そんな心配せんでえぇって。矢口一筋やって(多分)
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・・・(ため息)

33 相手がデートに1時間遅れた! どうする?
 从#~∀~#从   とりあえず、携帯に連絡入れて。近くで待つ。
 (〜^◇^〜) 矢口は心配でずっとその場所で待ってるかも。
 从#~∀~#从   一時間遅れるなら、連絡は入れますよね、普通。
 (〜^◇^〜) そうだね。その辺は信用してるから、遅刻とかってあんま想像できないや。

34 相手の身体の一部で一番好きなのはどこ?
 从#~∀~#从   全部って言いたいとこやけど・・・・・・・身体、とかやなくて雰囲気かな。
 (〜^◇^〜) なんとなくわかる。落ち着くんだよね。あ、でも裕ちゃんの二の腕は好き(笑)
 从#~∀~#从   最近矢口、身体筋肉質なんが不満と言えば不満・・・・・・(笑)
 (〜^◇^〜) 誰も聞いてないじゃんっ!
 从#~∀~#从   抱きごこちが悪くなった・・・・・・・・・・。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・・・・エステ、まめに通うようにします(笑)
363 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時39分32秒
35 相手の色っぽい仕種ってどんなの?
 从#~∀~#从   上目遣い。
 (〜^◇^〜) 髪の毛かきあげる時。

36 二人でいてドキっとするのはどんな時?
 从#~∀~#从   二人で居る時に甘えてこられたら・・・・・・だいぶやばいです(笑)
 (〜^◇^〜) 風呂あがりかな?何気ない仕草なんだけど。

37 相手に嘘をつける? 嘘はうまい?
 从#~∀~#从   基本的にはつかんけど・・・・・ついてもばれてそうな気がします(笑)
 (〜^◇^〜) 矢口は何でも言っちゃうからな〜。裕ちゃんに関してはあんまりうまくない。
 从#~∀~#从   関してはって・・・・・・・(笑)

38 何をしている時が一番幸せ?
 从#~∀~#从   矢口と居るとき。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・歌ってる時じゃなくて?
 从#~∀~#从   矢口がアタシの元気の素やねんで?
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・・ありがと。
 从#~∀~#从   礼言うようなことか、アホ。

39 ケンカをしたことがある?
 从#~∀~#从   小さいのならしょっちゅう(笑)
 (〜^◇^〜) 大きいのもたまにするし(笑)
 从#~∀~#从   言いたいことお互いに言って。納得するまで喧嘩してるかも(笑)
364 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時40分50秒
40 どんなケンカをするの?
 从#~∀~#从   部屋、綺麗にしろや、とか(笑)
 (〜^◇^〜) 裕ちゃん、また誰々に手、出した、とか(苦笑)
 从#~∀~#从   何かコミュニケーションの一貫ですね。

41 どうやって仲直りするの?
 从#~∀~#从   何となく・・・・・・言いたいこと言い合って、悪いと思った方がごめん、とか。
         あ〜でも、泣かれると弱い。
 (〜^◇^〜) 裕ちゃんが折れてくれることが多いです。

42 生まれ変わっても恋人になりたい?
 从#~∀~#从   はい。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・浮気性なとこを何とかしてくれれば。
 从#~∀~#从   何とかするって。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・なら、今すぐ何とかしろっ!!

43 「愛されているなぁ」と感じるのはどんな時?
 从#~∀~#从   いつでも一生懸命感情出してぶつかってきてくれる時。
 (〜^◇^〜) 会えない期間が続いたら、矢口〜って抱きしめにきてくれる。
365 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時41分56秒
44 「もしかして愛されていないんじゃ・・・」と感じるのはどんな時?
 从#~∀~#从   あんまりないけど、会えない期間が長いとやっぱ、しんどいな。
 (〜^◇^〜) 浮気癖(きっぱり)
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・断言せんでも。
 (〜^◇^〜) 反論できる?(ジロリ)
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・すんません。

45 貴方の愛の表現方法はどんなの?
 从#~∀~#从   しんどい時に抱きしめてやること、側におれんかったら電話でも何でもいいから
         連絡入れること。
 (〜^◇^〜) いつでもどこでも側にいたいな〜。現実はそんなんじゃないけど。

46 相手に似合う花は?
 从#~∀~#从   ひまわり。
 (〜^◇^〜) スズラン、とかカスミ草とか。

47 二人の間に隠し事はある?
 从#~∀~#从   そらあるんやないかな。
 (〜^◇^〜) 自分が隠してるって思わなくても、相手が隠してるって思ったらそれは隠し事
         だしね。
 从#~∀~#从   そやな。
366 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時42分29秒
48 貴方のコンプレックスは何?
 从#~∀~#从   ハロー以外のバライティの仕事で自分を出していけないところ、かな〜。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・歌を歌えないこと。

49 二人の仲は周りの人に公認? 極秘?
 从#~∀~#从   公認ちゃうかな?そ〜ゆ〜風に言われてるし。
 (〜^◇^〜) まぁねぇ。特に隠そうともしてないし・・・・・・裕ちゃんが。

50 二人の愛は永遠だと思う?
 从#~∀~#从   永遠は信じへんけど。ずっと側におりたいとは思うし、おって欲しい。
 (〜^◇^〜) うん、矢口もそう思う。

ココからはエッチ有カップルのみ(笑)
51 貴方は受け? 攻め?
 从#~∀~#从   8:2で攻め(笑)
 (〜^◇^〜) 具体的すぎるんだよっ(殴)

52 どうしてそう決まったの?
 从#~∀~#从   え?矢口可愛いから。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・酔った時の裕ちゃんも可愛いよ。
367 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時43分06秒
53 その状態に満足してる?
 从#~∀~#从   アタシは満足やけど・・・・・・矢口は?
 (〜^◇^〜) もうちょっと攻めたい、かな。

54 初エッチはどこで?
 从#~∀~#从   アタシの家。
 (〜^◇^〜) うん。

55 その時の感想を・・・・
 从#~∀~#从   緊張してて・・・・・・アタシもいっぱいいっぱいやった。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・良かったです(照)

56 その時、相手はどんな様子でした?
 从#~∀~#从   ・・・・・気持ち良さそう・・・・うげっ。
 (〜^◇^〜) (殴)。緊張してたなんて思えなかったな〜。
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・・・・・・(涙眼)
368 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時43分37秒
57 初夜の朝、最初の言葉は?
 从#~∀~#从   おはよう。
 (〜^◇^〜) おはよう。
 从#~∀~#从   ・・・・・・普通やね。
 (〜^◇^〜) ってかそれ以外なんか言葉ある?(笑)

58 エッチは週に何回くらいする?
 从#~∀~#从   一緒にいてる時は多いけど・・・・・ツアーとかで離れてる期間も長いし。
 (〜^◇^〜) 平均したら二週に1回くらいかな?

59 理想は週に何回?
 从#~∀~#从   そら、毎日でも・・・・・・・。
 (〜^◇^〜) エロ(笑)
 从#~∀~#从   矢口、人のこと言えるんか?(ニヤリ)
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・・ごめんなさい(笑)

60 どんなエッチなの?
 从#~∀~#从   ま、普通です。
 (〜^◇^〜) 愛があるエッチ?(笑)
 从#~∀~#从   何かその言い方やらし〜わ(笑)
369 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時44分33秒
61 自分が一番感じるのはどこ?
 从#~∀~#从   ノーコメント。
 (〜^◇^〜) ノーコメント。

62 相手が一番感じているのはどこ?
 从#~∀~#从   え〜と、胸に、耳元に・・・・・・・うがっ。
 (〜^◇^〜) (殴)自分のはばらさずに人のばらすなよっ。裕ちゃんは、全身性体感♪
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・あんたの方が大概ひどいと思うねんけど・・・・・・・。

63 エッチの時の相手を一言で言うと?
 从#~∀~#从   子犬♪
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・狼(しみじみ)

64 エッチははっきり言って好き? 嫌い?
 从#~∀~#从   好きやなかったらせぇへんわ。
 (〜^◇^〜) まぁ、そうです(照)
370 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時45分16秒
65 普段どんなシチュエーションでエッチするの?
 从#~∀~#从   普段は普通にベッドで・・・・・・スキンシップの延長でそのままなだれこむ(笑)
 (〜^◇^〜) ま、たまには酔った裕ちゃんが可愛く誘ってくるってパターンもありで(笑)
 从#~∀~#从   ・・・・・・・そんなんばらさんでええやろっ(照)

66 やってみたいシチュエーションは?(場所、時間、コスチューム等)
 从#~∀~#从   いつ人がくるか分からん場所で・・・・・・・・屋外、とか。まぁ絶対やらんけど。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・猫耳つけて、可愛く「にゃ〜」って言いながらおねだりする裕ちゃん、
         見てみたい。・・・・・・・まぁ怖いような気もするけど(笑)
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・・そうなったらそうなったでノリノリで襲ってくるくせに・・・・・・(ぼそっ)

67 シャワーはエッチの前? 後?
 从#~∀~#从   前かな。でも我慢できへんときはそのまま押し倒す。
 (〜^◇^〜) だいたいは前。

68 エッチの時の二人の約束ってある?
 从#~∀~#从   特には。
 (〜^◇^〜) ないですね。
371 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時45分51秒
69 相手以外とエッチしたことはある?
 从#~∀~#从   そりゃ〜・・・・・・・・アタシの歳考えてもらえれば(苦笑)
 (〜^◇^〜) 矢口は裕ちゃんが初めて。

70 「心が得られないなら身体だけでも」という考えについて。賛成? 反対?
 从#~∀~#从   反対。自分が虚しくなるだけやから。
 (〜^◇^〜) 基本的には反対だけど・・・・・・・・どうだろ。

71 相手が悪者に強姦されてしまいました! どうする?
 从#~∀~#从   相手、ブチのめす。絶対に許さん。
 (〜^◇^〜) 矢口も。絶対に許さない。

72 エッチの前と後、より恥ずかしいのはどっち?
 从#~∀~#从   ん〜、される側やったら、やっぱ後やけど・・・・・する方やったら別に恥ずかしく
         ない。本能やし(笑)
 (〜^◇^〜) 矢口も同じく後。まぁだいたい寝ちゃうんだけど(笑)する方だったら確かに
         あんまり恥ずかしくないかも(笑)
372 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時46分26秒
73 親友が「今夜だけ、寂しいから・・・」とエッチを求めてきました。どうする?
 从#~∀~#从   悩む。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・・裕ちゃん・・・・・・・(苦笑)矢口は断ります。

74 自分はエッチが巧いと思う?
 从#~∀~#从   さぁ???
 (〜^◇^〜) う〜ん???

75 相手はエッチが巧い?
 从#~∀~#从   うんっつ〜のも何か恥ずかしい話やな(苦笑)
 (〜^◇^〜) そうだね(笑)でも裕ちゃんは巧いと思います。

76 エッチ中に相手に言ってほしい言葉は?
 从#~∀~#从   「好き」かな。
 (〜^◇^〜) 「真里」とか・・・・・・「愛してる」とか。
 从#~∀~#从   言ってるやん。
 (〜^◇^〜) アホ(照)
373 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時46分58秒
77 エッチ中に相手が見せる顔で好きな顔はどんなの?
 从#~∀~#从   焦れてもうわけわからんくなって、涙眼になってるの。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・何か、涙眼で「して」って言われたらもう、止まれないかも(笑)   

78 恋人以外ともエッチしてもいいと思う?
 从#~∀~#从   基本的にはあかんやろ。
 (〜^◇^〜) 駄目。

79 SMとかに興味はある?
 从#~∀~#从   まぁ少しは。
 (〜^◇^〜) うん。

80 突然相手が身体を求めてこなくなったらどうする?
 从#~∀~#从   相手に何でか聞く。
 (〜^◇^〜) 挑発してみる。
374 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時47分28秒
81 強姦をどう思いますか?
 从#~∀~#从   あかん。
 (〜^◇^〜) 絶対駄目。

82 エッチでツライのは何?
 从#~∀~#从   滅茶苦茶したいのに、周りに人がいてできへん時。
 (〜^◇^〜) ・・・・・・おい(苦笑)矢口は焦らされて恥ずかしい言葉いわされる時。

83 今までエッチした場所で一番スリリングだったのはどこ?
 从#~∀~#从   ん〜、楽屋、かな?
 (〜^◇^〜) 同じく。楽屋。

84 受けの側からエッチに誘ったことはある?
 从#~∀~#从   酒飲んでたら誘ってるっぽく見えるみたいやけど・・・・・。
 (〜^◇^〜) たま〜に。
375 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時48分16秒
85 その時の攻めの反応は?
 从#~∀~#从   何かね〜、妙に強引やった(笑)
 (〜^◇^〜) 嬉しそうでした(笑)

86 攻めが強姦したことはある?
 从#~∀~#从   ないと思うんやけど。
 (〜^◇^〜) うん、ないよ。

87 その時の受けの反応は?
 从#~∀~#从   だから、ないってば。
 (〜^◇^〜) (笑)

88 「エッチの相手にするなら・・・」という理想像はある?
 从#~∀~#从   矢口(笑)
 (〜^◇^〜) 裕ちゃん(笑)
376 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時48分51秒
89 相手は理想にかなってる?
 从#~∀~#从   もちろん。
 (〜^◇^〜) かなってますね。

90 エッチに小道具を使う?
 从#~∀~#从   使ったことはないな〜。
 (〜^◇^〜) 使ってみたいとは思いますけど(笑)

91 貴方の「はじめて」は何歳の時?
 从#~∀~#从   16。
 (〜^◇^〜) はやっ。矢口は17、かな?
 从#~∀~#从   同じようなもんやん(苦笑)

92 それは今の相手?
 从#~∀~#从   違います。
 (〜^◇^〜) 裕ちゃんです(照)
377 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時49分22秒
93 どこにキスされるのが一番好き?
 从#~∀~#从   ベタやけど、唇、かな。
 (〜^◇^〜) うん。

94 どこにキスするのが一番好き?
 从#~∀~#从   ・・・・・・・太もも(笑)
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・肩、かな。

95 エッチ中に相手が一番喜ぶことは何?
 从#~∀~#从   そんなん教えたらへん。
 (〜^◇^〜) 教えることではないと思うので。

96 エッチの時、何を考えてる?
 从#~∀~#从   ん〜、矢口、好きやで〜って。
 (〜^◇^〜) うん、裕ちゃん、好きって。
378 名前:CPなりきり100の質問。 投稿日:2003年08月29日(金)23時49分57秒
97 一晩に何回くらいやる?
 从#~∀~#从   さぁ?
 (〜^◇^〜) 2〜3回ですかね。疲れてたら1回だし。

98 エッチの時、服は自分で脱ぐ? 脱がせてもらう?
 从#~∀~#从   ぬがせっこする(笑)
 (〜^◇^〜) ・・・・・・・何かエロいよね(笑)

99 貴方にとってエッチとは?
 从#~∀~#从   愛情確認。
 (〜^◇^〜) 愛情表現。

100 相手に一言どうぞ
 从#~∀~#从   ・・・・・・・・アタシは矢口真里に出会えて本当に良かった。
 (〜^◇^〜) あ(驚)。うん、矢口も中澤裕子に出会えて本当に良かった(照)
379 名前:つかさ 投稿日:2003年08月29日(金)23時52分50秒
まぁ懐かしいのがでてきたもので。
だいぶ前にやったんで、ちょいタイムラグありますが。
380 名前:つかさ 投稿日:2003年08月29日(金)23時59分14秒
>>348 たむさん
>この心地よさは、つかささんが書くお話ならではだな〜と思いつつ

 書きたくて文章を書いてるはずが。
 書かなければいけないという思いが強くなった時。
 SEEK撤退宣言をして。
 もう一度書く楽しさを思い出させてくれたのがパラレルワールドのスレでした。
 本気でもぅたむさん(のコメント)大好きっす(笑)

>>349 名無し読者
>やぐちゅー患者が、やぐちゅー不足で絶滅してしまいます(w

 自分もごっつやぐちゅー不足です・・・・新スレ、もうちょっと待ってください。
 中々・・・ん〜、痛め、苦手かも(笑)

>>350 名無しさん
>姐さん・矢口さん・矢口母の関係が面白く温かく、
>毎回すごい楽しみにしてた作品でした。

 読んでくれる人がいるから書くのではなく。
 書きたいから書く。
 当たり前のことですが。
 自分で書いてて楽しかったです(笑)
381 名前:つかさ 投稿日:2003年08月30日(土)00時04分55秒
>>351 名無し読者さん
>パラレルワールド最初から読ませていただきました。

 やっぱ気付いてない人いるよな〜とは思いつつ(笑)
 楽しんでいただいたみたいで良かったです。

>>352 名無しROM専さん
>つかささんには・・・ごまゆう・なかよし・なっちゅーなんか書くことはありえないですよね〜?

 どうだろ???
 どう書いてもやぐちゅーにしかならない気はしつつ。
 予定は未定(笑)

 っつ〜ことでスレ埋めっす。
 この質問内容は某所からお借りしました。
 結構時間かかったんで。
 楽しんでいただければ幸いです(ぺこり)
382 名前:名無し読者 投稿日:2003年09月04日(木)23時15分49秒
楽しかったです。(w
次回作もめっちゃ楽しみでーす。
383 名前:名無しROM 投稿日:2003/09/23(火) 16:57
そろそろ つかささん 不足で死亡しそうです。
そろそろ新作のご予定は・・・ございませんでしょうか?(w
助けて下さい〜!!

384 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/13(月) 18:10
つかささん
「おいら」でやぐちゅーの健在さがよく分かったし
そろそろお願いします。(w
385 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/25(土) 22:09
щ(゜Д゜щ)つかささんカモォォォン

待ってます。
386 名前:つかさ 投稿日:2003/10/27(月) 23:56
またせてるってのは重々承知の上で。
やぐちゅー好きなのも変わってないんですが。

今、まじで書ける気がしないっつ〜現実がありまして。

すいません。
それ以外、言葉ないです(汗)
387 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/02(日) 01:58
のんびり待たせていただきます。(w
書きたくなったらざひお願いします。
388 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:10
〜〜〜1〜〜〜

 恋愛は先手必勝。
 そう教えてくれたのはアナタだった。
 あたしのモノやろ?
 自信たっぷりに微笑む顔に。
 アホっ!!
 そう言うことしかできなかった矢口は。
 まだまだ子どもだった。

 もう、五年、たつんだね?
 矢口はあたしのモノですから。
 冗談半分のようなセリフに。
 毎回ドキドキさせられっぱなしで。

 裕子がそんなに大人じゃないってそう思った日。
 矢口が大人になれたのかな?
 まだまだ騒いで笑いたい、矢口はまだ、そんな歳だけど。
 アナタの寂しそうな眼や。
 不安げに笑う、そんな仕草に気付けるようになったのは。
 紛れもなく。
 五年という月日がそうさせたんだよね。

 メンバーの脱退、加入。
 そうそう子どものままじゃいられない。
 ていうか。
 矢口的には早く大人になりたかったんだ。
 裕子に近づきたかったから。
 ちっこいけどさ。
 裕子を守れるくらい心が成長して欲しかった。
389 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:11
 もう二十歳になるねんな・・・・・・。
 曖昧に微笑んだ顔は。
 喜んでいるのか、寂しがっているのか、よくわからなかったけど。

 そらあたしも歳とるはずやわ。
 一緒に歳とっていこな?

 そんな嬉しいこと言っちゃってくれてさ。

 忘れないでよ?
 裕子は矢口のモノで。
 矢口は裕子のモノで。
 いつになっても、どこにいっても。
 変わらないからさ。

ーーーーーーーーーーーー
390 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:12
 恋愛は先手必勝。
 好きになったら誰にも譲らない。
 そう教えてくれたのはアンタやった。
 矢口のモノでしょ?
 可愛い上目遣いがもう、たまらんっちゅ〜ねん。
 あたしのモノやろ?
 平気でそう返してた頃。
 まだ、大人ぶってたんや。

 もう五年たつねんな。
 矢口のモノでしょ?
 怖いくらい真っ直ぐにあたしに向かってくるその眼に。
 いつの間にか本気になってた。

 子ども扱いしてたらあかんねんなって思い知らされた日。
 矢口があたしを支えてくれた。
 泣き出したくて、でも泣けないそんな大人ぶったあたしを。
 ちっこい手で。
 ちっこい身体で、抱きしめてくれた。
 あぁ。
 初めて会った時から五年たつねんなってしみじみと思った。

 メンバーの入れ代わりを通じて。
 矢口がどんどん大人になっていくのがわかって。
 そんなに急いで大人にならんくてもいいねんで?
 子どもと大人の境目にいたあんたは。
 限りなく不安定やったけど。
 その時に支えてやれたんが、何より嬉しかったんや。

 もう、子どもじゃないよ?
 思わず曖昧に微笑んだ。
 子ども扱いなんてしてない。
 いつの間にか、あたしの心をわしづかみにして離さないそんなあんた。

 いつまでだって、あんたの成長を側にいて、見ていたい。
 そして。
 あたしの成長も、見といてな?
 そう、約束した。

 無茶苦茶嬉しかったっちゅ〜ねん。

 忘れさせへんで?
 矢口はあたしのモノで。
 あたしは矢口のモノで。
 いつになっても、どこにいっても。
 変わらへんからな。
391 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:12
〜〜〜2〜〜〜

 深夜かかってきた一本の電話。

 最近、ハードスケジュールで、はっきり言ってあまり眠れていなかった。
 他にも理由は・・・・・・・・あるけどな。
 もしかして、と思って期待して手にした携帯のディスプレイには、『圭織』の文字。
「・・・・・・・・・・・何やねん、こんな遅くに?」
 自然と口調もきついものになる。

「・・・・・・最近、矢口と会った?」
 相変わらず唐突な切り出し。
「・・・・・・・会っとるやん。ツアーやし」
 それがどないしてん?
 思わずその言葉は飲み込んだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・」 
 そのまま黙りこんでしまったあたしに。
「矢口、元気ないんだけど?」
 圭織の言葉が続いた。
 ・・・・・・・・・関係ないやろ?

 思わずでかかった言葉に眼をつぶった。
 何を言いかけてるねん、あたしは・・・・・・・・・。
「ねぇ裕ちゃん、聞いてるの?」
 沈黙をどうとったのか、圭織の少し焦ったような声。
「・・・・・・・・・あんた、忙しいんやろ?はよ寝なやばいんちゃうん?」
 まったく関係のない話題に、圭織は当然のごとく。
「裕ちゃん?何言ってるの?圭織が話してるのは・・・・・・・・」
「もう遅いし、用件がそれだけやったら切るで?」
「ちょっ!!」
「じゃ〜、おやすみ」
 圭織の言葉、最後まで聞かずに、通話終了のボタン。
 何やねん、まったく。
 しばらく携帯見つめていたけど。
392 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:13
 圭織はもう一回かけ直してこようとはせんかった。

「なんやってん」
 ぽいっとベッドの上に携帯を放り出した。
『矢口、元気ないんだけど?』
 そんなんわかってるっちゅ〜ねん。
 最後に会った時の、少し怒ったような顔が思い出される。

 しゃ〜ないやん?
『裕子のアホっ!!』
 押し殺した声と。
 あたしを睨みつけた瞳。
 そのまま去っていく矢口を。
 あたしは追いかけること、できへんかった。
393 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:13
 次の日。
 あたしは久々に娘。の楽屋に顔を出してた。
 ツアー始まって初めてちゃうかな?
「中澤さんだ」
 辻が嬉しそうに寄って来る。
「久しぶりやな」
 頭を撫でると。
 嬉しそうなちょっと困ったような、複雑そうな顔。
「子ども扱いは嫌か〜?」
 笑ってそう言うと。
「へへ」
 いつもの笑顔に戻る。
「ま、今年もよろしくな」
「はい」
 短い言葉のやり取りで。
 辻も段々大人になってきてるっちゅ〜か。
 成長してるねんなって。
 目じりを下げてると。

「でも珍しいね、裕ちゃんがこっち来るのって」
 なっちが会話に加わってきた。
「ん〜、まぁな」
 なっちに視線をやりつつ。

 こっちに背を向けて。
 奥の椅子に座ってるちっこい姿が気になって。
「矢口?呼んでこようか?」
 なっちが気をきかせたみたいやけど。
「いや、別にえ〜よ」
 首を横に振った。
「挨拶来ただけやし。今年もよろしくな」
 皆に聞こえるように声を張り上げると。
「「よろしくお願いします」」
「ってか、今更じゃん?」
 とか。
 いろいろ声があがる中。
394 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:14
 やっぱり、ちっこいのはこっちを振り向こうともしなくて。
「矢口」
 圭織が矢口の肩をゆするけど。
 矢口は小さく何か呟いて、こっちを見ようとせんかった。

 ・・・・・・・・・・・。

 思わず、苦笑い。
 でも。
「んじゃ、帰るわ」
 あっさりとそう言うと。
 なっちがいいの?ってな感じで眼で合図してきた。
 別に?
 肩をすくめてそれに応えて。

 あたしは娘。の楽屋を後にした。
395 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:14
〜〜〜3〜〜〜

「矢口?どうしちゃったのさ?」
 圭織の心配そうな声。
「・・・・・・・・・何でもない」
 そっけなく答えると。
「何でもないわけないじゃん?裕ちゃんと・・・・・・」
「関係ない」
 思わずきっと圭織を睨みつけた。
「・・・・・・・・ど〜しちゃったのさ」
 何だか泣き出しそうな圭織。
 何だよ、これじゃ、矢口が苛めたみたいじゃん。
 他のメンバーも心配そうにこっちをちらちら伺ってる雰囲気が嫌で。
「ジュース買ってくる」
 ガタン。
 やけに大きな音がしたけど。
 そんなの知らない。

 楽屋を出ると。
 矢口はある場所に向かった。

「裕ちゃん」
 人気のない非常階段の踊り場。
「ん」
 裕子は頬杖つきながら、階段に座り込んでた。
「・・・・・・・・寒くない?」
 聞いたら。
「寒い」
 即答かい。
「・・・・・・・じゃ、何でここにいるのさ?」
「・・・・・・・ここにいたら矢口に会える気がしたから」
 微妙な間の後。
 ぽつり、と裕ちゃんは呟いた。
396 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:15
「アホ裕子」
 そっと裕ちゃんに近づいた。
 腕を伸ばす。
 頬をぴたぴたと叩くと。
 裕ちゃんは笑った。

 でも。
 ・・・・・・・・・何でそんな泣き出しそうな顔してるんだよ?

「矢口、怒ってるんだからね?」
 確認するように矢口が言うと。
「うん、知っとる」
 ま〜た即答かい。
 やっぱりむかつく。

 ぴしゃっとおでこをはたくと。
「何でやねん」
 恨めしそうな眼に。
「それは矢口のセリフだよっっ!」
 力いっぱい叫んでた。

 むくれた顔した矢口を見て。
 裕ちゃんはゆっくりと立ち上がった。

 そのまま抱きしめられた。

「そんなんじゃ、誤魔化されないんだからね」
 ぶつぶつと文句を言ってみても。
 裕ちゃんの腕の強さは変わらない。

「好きや」
 ぽつんと落とされた囁きに。
「ば〜〜か・・・・・・・・・矢口もだよ」

 髪の毛に唇の感触。
 あぁ。
 裕ちゃんだ。
 裕ちゃんの胸に、頭をこすりつけた。

「なぁ矢口。怒ってるのはわかってるけど」
 協力してや・・・・・・・・?

 珍しく甘えた声。
 矢口が断れないのわかっててやってるだろ?
 この確信犯。
 でも。
 そ〜ゆ〜とこも好きなんだけどさ。
397 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:15
「・・・・・・・・・・ばれても矢口は責任持たないからね?」
 ため息とともに吐き出したセリフ。

「・・・・・・・・・・何も悪いことせ〜へんやろ?」
 それ・・・・・・な〜んか微妙かも。
「矢口にとっては悪いことなんだけど?」
 じろっと睨みつけると。
「でも、おもろがってるやろ?」
 ニヤリ、と人の悪い笑み浮かべる裕ちゃん。

 ・・・・・・・・お見通しか。
「しょ〜がないから、付き合ってやるよ」
 でも、浮気したらただじゃ済まさないからな?
 噛み付くようにキスすると。

「するわけないやん」
 甘い吐息とともに、優しいキスがお返しと言わんばかりにふってきて。
「・・・・・・・も〜」
 最低。
 そのセリフは最後まで言えなかった。
398 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:15
〜〜〜4〜〜〜

 楽屋で矢口が裕ちゃんと絡まなくなって数日がたった。
 アホ裕子。
 協力してや?
 思わずOK出しちゃったけどさ〜。
 裕子の姿は見えても。
 絡んでくる腕はなし。
 これってかな〜り辛いんですけど。
 新手のイジメ?
 って思っちゃうよ。

 まぁその代わり。
 裕子からの電話は増えた。
『寂しいよ〜』
 なら最初からそ〜ゆ〜ことするなっての。
『だって・・・・・・・あいつらひどいねんもん』
 拗ねたような口ぶりに。
 やっぱりアホだって。
 ひたっすらに矢口はそう思うわけだよ。

 天邪鬼っつ〜か、頑固っつ〜か。
 いや。
 ただの子どもだね、あれは。

「はぁ〜〜〜」
 深々とため息をつくと。
「どした?」
 圭ちゃんがそのため息を聞いてたみたいで。
 興味津々。
 近づいてくる。
「何でもないよ」
 そう答えつつも。
 この一週間で何度「どうした?」って聞かれたことか。
399 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:16
 そりゃ裕ちゃんはいいだろうさ、あんまメンバーと会わないんだからさ〜。
 矛先が矢口のとこに来るなんて全然、まったく思ってなさそうだし。
 矢口だってこうなること、予想は全然してなかったけど。
 予想は簡単にできたんだよね・・・・・・。
 矢口もアホってことか?

 う〜〜〜。
 何か悔しい。

「はぁ〜〜〜」
 再び盛大にため息をつく。
「おもしろいわね〜」
 何だと?
 ぎろり、と圭ちゃんを睨むと。
「矢口が裕ちゃんと喧嘩したんじゃないか、別れたんじゃないかって圭織とかなっち、
心配してるよ?」
 さらり、と言われた。
「ん〜、別に関係ないじゃん?」
 この答えも板についた。
「ま、ね〜。ってか、ホントは別れてなんかないでしょ?」
 ・・・・・・別に矢口、別れたなんて一言も言ってないぞ?
 何て言ったらいいかわからずに、無言でいると。
「裕ちゃんも矢口もアホだね〜」
 しみじみとそう言われて。

 わかってるわい。
「はぁ〜〜〜」
 再び矢口の口から出るのはため息だけだったりする。
400 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:16
 でもさすがにため息ばっかついてるわけにもいかないし。
「何で圭ちゃんはそう思うのさ?」
「アホだから」
 ・・・・・・・そうじゃないでしょっっ!!!
「冗談だってば」
 圭ちゃんは矢口の隣りに腰をおろす。
「矢口・・・・・・そんなに落ち込んでるように見えないから」
 へ?
「元気はないよね。でも、そんなにめちゃめちゃ落ち込んでないでしょ?」
 確信犯。
 いたずらっぽい微笑みに、矢口も苦笑い。

「な〜んか落ち着かないのよね」
 圭ちゃんはぼそっと呟く。
 何が?
 視線で問うと。
「裕ちゃんの『矢口〜』って呼ぶ声が聞こえないと」
「何だよ、それ〜」
「いや、ハロプロ名物っしょ」
 思わず矢口の肩ががくっと落ちた。
 どう突っ込んでいいかわからなくて。
 そんな矢口の肩を圭ちゃんはぽんぽん、と叩いた。
「ま、ど〜せ裕ちゃんのたくらみだろ〜けどさ」
 ・・・・・・・・しっかりばれてるや。
「あんまり皆を騒がせるんじゃないよ?」
「裕ちゃんに言ってよ、そ〜ゆ〜ことは」
 思わず返すと。
「聞きそうにないから矢口に言ってるんじゃん」
 きっぱりとした圭ちゃんの声。
「そ〜言われてもね〜」
 矢口が困ったように頭をかくと。
「あのね〜」
 大きく圭ちゃんが息を吐く。
「矢口が操縦しないで誰が操縦するのよ?」
 そ、操縦って・・・・・・圭ちゃん。
「強気なくせにヘタレで泣き虫で。
 緊張しぃで、小心者で。
 高いとこ嫌いで。
 好き嫌い多くて。
 人見知りで。
 黙ってたってりゃ奇麗系なのに、口悪いし。
 すぐ何か可愛い娘にふらふらとついていきそうだし」
401 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:17
 指折り数えて例をあげていく圭ちゃん。
 ・・・・・・・・・ごめん、裕子。
 反論できないや。
 ふと圭ちゃんはぴたっと口を閉ざししばし思案顔。
「・・・・・・・・・どこがいいの?」

 ・・・・・・・・・・・・・え〜と。
 全部っつったらこれってノロケかな?
「まぁ、人を好きになるのに理由なんていらないけどね」
 圭ちゃんは何も答えない矢口に笑ってみせた。
「元気がないのは不安だから?」
 ふと、問い掛けられた。

 ・・・・・・・・・・・・・。

 痛いとこつかれて思わず矢口は今度は別の意味で黙り込んでしまう。

 不安?
 まぁそれはあるかもしれない・・・・・・・・・・。
 
 考え込んでしまった矢口に。
「ど〜でもいいけど、誕生日までには何とかしなさいよ〜。
 どうせなら、みんなで笑って迎えたいじゃん?せっかく二十歳になるんだしさ」

 あ、そうか。
 ふむふむ、と矢口は頷く。
 圭ちゃんは少し呆れ顔。
「もしかして、忘れてたとか?」
「や、そ〜ゆ〜わけじゃないけど」
「ま、頑張んなさい」

 そう言って頼りがいある同期はさっさと収録のスタンバイに入っていった。

『どうせならみんなで笑って迎えたいじゃん?』
 そのセリフ、矢口も賛成。

 やっと裕子と飲みにいける歳になるんだし。
 一応、区切りの歳なわけだし。

 プレゼントなんてどうでもいいや。
 もう、だいぶ前にもらってるしね。
 だから、みんなで笑って祝ってよ。
402 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:17
〜〜〜5〜〜〜

 ・・・・・・・・・・・。
 名古屋でのコンサートのリハの最中。
 ど〜も矢口がおかしい。

「裕ちゃん♪」
 いやっちゅ〜ほどまとわりついてくる腕・・・・・・と身体。

 いや。
 嬉しいねんで?
 ただ・・・・・・・・・。

『しばらくハローでも絡むのやめようや?』
 不満気な顔しながらも。
『うん、わかった』
 わかってくれたんちゃうかったんかいな?

 ・・・・・・・・・・・・・。

 う〜ん。
 何となく、嬉しいねんけど素っ気なくしか反応できへん自分がいて。
 う〜〜ん。

「裕ちゃん、ど〜かした?」
 にこにこと、やっぱり矢口が側におる。
「いや、別にど〜もせ〜へんけど・・・・・・」
 口ごもるあたしに矢口はそれ以上突っ込もうともせずに。
 雑誌をぱらぱらとめくり始める。
 いや、それはいいねんけど。
 あの・・・・・・・ここ、あたしの楽屋やねんけど?

「矢口〜。やっぱり、ここにいたんだ」
 いきなりドアが開いて。
 圭織かいな。
「ど〜したの〜?」
 のんびり答える声。
 いや、だからここ、あたしの楽屋で・・・・・・何であんたはそないにくつろいどるん?
「集合時間もうすぐだよ?」
 珍しくまともな圭織の声に。
「ん〜、これ読んだらいく〜」
「わかった、早くおいでよ」
 ・・・・・・・・圭織、それだけでええんか?
403 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:18
 ちらっと圭織の方に視線をやると。
 微妙なあたしと矢口の距離を気にしてるのか。
 落ち着きの無い視線。
「圭織?」
 呼びかけると。
「いや、え〜と、すぐ帰るからっっ!!ごめんね、邪魔してっ!」
 ・・・・・・・・・何やねん、その反応。

 う〜ん。
 やっぱりわからん・・・・・・・・・。

 どうやらあたしは難しい顔して考え込んでたらしい。
「裕ちゃん?」
 気付くと、矢口が至近距離。
 うちの顔を覗き込んでた。

「うわっっ!!」
 思わず驚いて身体をひく。
「何だよ、その反応」
 矢口は唇をとんがらせる。
 いや・・・・・・・それ、反則やから。
 可愛すぎるっちゅ〜ねん。
 思わず抱き寄せそうになって。
 あかんあかん。
 思わず首を横に振る。
「裕ちゃん?」
 きょとん、と首を傾げてる矢口。
 やっぱ・・・・・・可愛い。
 いや、だから・・・・・・・あかんってあたし。
 ちゅ〜したいとか、そんなんあかんし。
「ど〜したのさ?」
 ひらひらと、あたしの眼の前で振られる手。
「いや・・・・・・・・」
 思わず口ごもる。
「昼間から寝てるんじゃないぞ〜?矢口、行くからさ。これ、借りてくね。後で取りに来てよ」
 ぴん、とでこぴんされた。
「・・・・・・あ、うん」
 それでも、そんな反応しか返せない・・・・・・・・・。
 あかん、重症や。
 あたしの悶々とした気持ちを知ってか知らずか。
「んじゃ、また後でね」
 矢口の笑顔は変わらん。
404 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:18
 ・・・・・・・・・・・何やねん・・・・・・・・・。

 リハが終わって。
 あたしは娘。の楽屋の前。
 一人考え込んでいた。

 矢口に会いたくないわけじゃない。
 できる限り一緒にいたい。
 いつだって、側にいて。

 ・・・・・・・・・・・・。

 あたしは一つため息をついた。

 帰ろ。
 雑誌はまた会うし、その時でいい。
 別にそんなに読みたいわけでもないし。
 何となく矢口が好きそうな雑誌ってだけで思わず手にとっただけやし。
 ひたすらに心の中で言い訳。

 実に後ろ向きな考えやっちゅ〜のはわかってるけど。

 丁度あたしが帰ろうとした時。

 勢いよく楽屋のドアが開いた・・・・・・・・・。

「・・・・・・っっ!!」
「わっっ!」
 おでこに衝撃と。
 驚いたような声と。

 っちゅ〜か・・・・・・・・クリーンヒットやんけ。
 あまりの痛さに思わずその場にしゃがみ込む。

「すいませんって・・・・・・な、中澤さんっ?!」
 石川の声が聞こえて。
 やっぱりコイツの間の悪さは天下一品や。
 なんて考えてるうちに。
405 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:18
「裕子?」
 あったかい腕に包まれた。
「大丈夫?ちょっとおでこ見せて」
 痛い、触るなっちゅ〜ねん。
 涙眼でそのあったかい腕の持ち主を睨むと。
「血はでてないみたいだけど・・・・・・こら、睨むな」
 そのまま手をひっぱられて。
「ここ、横になって。冷やしたタオル持ってくるからさ」
 優しく髪の毛を撫でられる感触に。
 眼を閉じた。

 しばらくたって。
 やっと痛みがひいてきて。
 でもまだ痛いねんけど。

 まぁそれより。
 ふっと気付けば、横になってるあたしのかたわらに矢口。
 心配そうにあたしを覗き込んでる。

 何か泣き出しそうな石川と。
 やっぱり心配そうなメンバー。
「あ〜、もう大丈夫やから」
 ゆっくり身体を起こす。
「ホント?」
「ん」
 矢口の問いかけに。
 軽く頷く。
「良かった〜」
 ほっとしたような表情を浮かべて、矢口はあたしに抱きついてきた。

 思わず反射的にぎゅっと抱き返して。
 慌てて腕をひく。

 何だよ?
 不満そうな矢口の顔から視線を外して。

「あ〜。もう大丈夫やから。ごめんな、心配かけて。帰るわ」
 おでこからタオルをはがして立ち上がる。
「矢口、送ってく」
 ぎゅっと袖をつかまれて。
 視線を下げると。
 心配そうな、不安そうな瞳が、揺れていた。
406 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:19
「・・・・・・・・・・えっと」
 一瞬返事に躊躇した。
 矢口はぎゅっと唇を噛み締めた。
 袖をつかんでる腕の力が一瞬だけ強くなって。
「・・・・・・・・矢口が駄目なら、圭織でも圭ちゃんでもいいからさ」
 一瞬、矢口が泣き出すかと思った。
 でも。
 矢口はふわり、と優しく笑ってみせた。

「・・・・・・・・・あ」
 何て言えばいいのだろう。
 後悔。
 謝罪。
 いろんな感情が渦巻いて。

「矢口」
 名前を呼ぶことしかできないあたしに。
「なんて顔してんだ?」
 あったかい手があたしの頬をぴたぴたと叩いた。
「矢口は・・・・・・別に大丈夫だから、さ」
 きっと矢口は笑おうとしたんだろう。
 でも、それは失敗した。
 くしゃり、と顔が歪んで。
 矢口は俯いた。

「ごめん」
 きっとあたしにしか聞こえなかっただろう。
 小さな小さな謝罪の言葉とともに。
 矢口はそのまま楽屋を飛び出していった。

 ・・・・・・・・・・・・っっ!!!
407 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:19
〜〜〜6〜〜〜

「矢口っっ!!!」
 もう誰もいなくなったステージの裏で。
 やっと矢口を捕まえた。
「何で来るんだよっっ」
 振りほどかれそうになる腕を必死になってつかむ。
「ごめんっっ」
 答えになってるのかなってないのか。
 それしか言えなくて。

 矢口の身体の動きが止まった。
「・・・・・・・・ごめん」
 ぎゅっと抱きしめても。
 矢口の腕があたしの身体に回されることはなくて。

 あたしの胸が濡れていく。
「矢口・・・・・・・・」
 矢口の肩が震えている。
「・・・・・・・・っぅっく」
 押し殺した泣き声が。
 切なすぎて。

 ・・・・・・・・・あたしが悪い。

 わかっていても。
 矢口を抱きしめている腕が震えるのがわかった。

 あたしのこと、嫌いになった?

 自分の中の矛盾した想い。

 あたしの腕が弱まる。
 それを感じとったのか。
「裕子が悩んでるの、わかってるよ」
 矢口が呟いた。
408 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:20
 矢口が顔をあげて。
 泣き笑いの表情で、俯いたあたしを見つめる。
「・・・・・・・・・ごめんね」
 ゆっくりと。
 あたしの腕が矢口から離れた。

 黙って首を横に振る。
「裕子?」
「ごめん」


 ハローでも公の場でも極力、矢口と絡まないようにしようって思ったのは。
 ハロプロの収録が終わった後。
 圭織の何気ない一言だけだった。
『裕ちゃん、矢口に絡みすぎっ。もう裕ちゃん娘。じゃないんだよ?』
 わかっていた。
 何気ない一言だって。
 あたしは娘。じゃない。
 今、いい関係を築いてて。
 元リーダーとして。
 つかず離れず。
 モーニング娘。をずっと見守っていければ。
 こんな感じでずっと続けばいい。
 そう思っていたのは事実。

 腕の中に愛しい存在を感じて。
 幸せで。
 でも。
 こんなに幸せでいいのかって思ってたのも事実。

 誰にでも平等に流れるのが時間で。
 矢口は。
 いつか後悔しないんだろうか?

 あたしが欲しいって。
 駄々こねて。
 泣いてただけの子どもはもういない。

 あたしを理解したいって。
 駄々をこねるかわりに。
 大人びた眼をするようになった女。
 変わってく様を見るのは楽しかったけれど。

 大人の部分を見るたびに。
 不安がこみあげて。

 誰よりも大事にしたいから。
 あたしがあんたの足かせになるようになることがあったら。
 あたしは自分自身が許せなくなってしまうから。
409 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:20
「あんたが好きやねん」
 最後にそう言ったあたしの声は震えていたかもしれん。
「好きすぎて、どうしようもないくらい」

 矢口の顔を見るのが怖かった。
 矢口はあたしのこと、大人やと思ってるのかもしれん。
 でも、あたしはそんなに大人やない。

「・・・・・・・・・裕、ちゃん」
 あたしの首に腕が回された。

 覚悟を決めて。
 矢口の顔を見た。

 ・・・・・・・・・・・・何でそんな顔、してんねん?

 呆れたような表情とか。
 そんなん全然抜きで。
 矢口の表情を一言で言い表すなら。

 安堵。

「矢口?」
「・・・・・・・嫌われたのかと思った」

 そのまま。
 お互いの温もりを感じていた。
410 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:21
〜〜〜7〜〜〜

 そのまま。
 矢口は裕ちゃんの家に行った。

 お互い、何となく無口で。
 でも、繋いだ手を離すことはなくて。

 お風呂入って。

 はなちゃん抱っこしながら矢口は裕ちゃんがお風呂からあがってくるのを待ってた。

 かまってくれるのが嬉しいのか、矢口の顔をぺろぺろ舐めてくる。
「最初はさんざん吠えてくれたくせに」
 ぐりぐりと頭を撫でてみる。
「ご主人様と一緒で人見知りなのか〜?」
 ちょっと持ち上げてみる。
「ちょっと・・・・・重くなったかな?」
 う〜ん。

 散々遊んでると。

 バスルームのドアが開く音が聞こえた。
 途端に、矢口の膝からぴょん、と飛び降りて。
 一目散に駆け出すはなちゃん。

「なんや、遊んでもらってたんとちゃうかったんか〜?」
 髪の毛をごしごし拭きながら、裕ちゃんがリビングの方に姿を現した。
 足元のはなちゃん見ながら。
「歩きにくいっちゅ〜ねん」
 普通に文句言ってる。
411 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:21
「こら、何笑ってるねん」
 何となく微笑ましくて。
 ソファーの上で矢口が一生懸命笑いをこらえてると。
 裕ちゃんの手のひらが矢口の頭をぐしゃぐしゃ、と撫でた。
「何するんだよ〜」
 ちょっとふくれてみせる。

「・・・・・・・あんた、その顔反則」
 いきなり裕ちゃんの顔が近づいてきたと思ったら。
 額に優しい唇の感触。
「ちょっ!」
「矢口、顔赤くなってんで」
 してやったり、と笑う裕ちゃんはいつも通りで。
「も〜」
 文句言いながら。
 ほっとした。

「ちょっと待っててな。髪乾かしてくるわ。・・・・・・矢口はもう乾かしたんか?」
 髪の毛を一ふさ。
 つまみあげられる。
 ついで、といった感じでくんくん、と匂いまで嗅がれて。
「こら、裕子っっ」
「ん〜、あたしの匂いや」
 きわどいセリフに、また顔が赤くなるのがわかった。

「はなちゃん、ケージにしまっといてや」
 矢口を赤くさせてる張本人は、ケロっとしたもので。
 ちぇ〜、とか思いながら。

 裕子はやっぱりこうじゃなきゃな、とか思っちゃったのは、内緒にしとこう・・・・・・。
412 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:22
「お待たせ」
 しばらくたって。
 ドライアーの音が止まったと思ったら、すぐ裕ちゃんが姿をみせた。
「何か飲むか?」
「あ、うん」
 生返事すると。
 自分用にビールと。
 矢口用にオレンジジュースを用意して。
 かたん、とグラスをテーブルに置くと。
 裕ちゃんは真面目な顔して矢口の横に腰を下ろした。

「ってことで、ごめん、矢口。マジで悪かった」
 座った途端、裕ちゃんが矢口に向かって深々と頭を下げてきた。
「え?」
 いきなりすぎて、ついていけないよ。
「こら、裕子。筋道立ててちゃんと話してよ」
 下げてる頭をぽかり、と叩いて。
 裕ちゃんの顔をこっち向かせる。
 ついでに、矢口は裕ちゃんの膝の上に移動。

 裕ちゃんをまたぐように座って。
 首に手回して。
 当然のように裕ちゃんの腕も矢口の腰をしっかりホールド。
 いつもの位置。

「裕ちゃんは何が悪かったって思ってるのさ?」
 真っ直ぐに見つめると。
 真っ直ぐに返される視線。
 うん。
 大丈夫。
 何も変わっちゃいない。

「・・・・・・・・最初はメンバー驚かしたろうってそれだけやってん」
 目を伏せて。
 ゆっくりと視線をあげて裕子は話し始めた。

「あたしと矢口絡みすぎって、みんなよく言うけど、絡まなくなったらそれはそれでど〜
反応するんやろ、とか」
 矢口はうんうん、と頷く。
 だから矢口も最初はしょ〜がないな〜って見てたんだよ。
413 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:22
「そしたら、何か・・・・・・矢口が他のメンバーと絡んでるのとか、見てて」
 裕ちゃんは困ったように笑った。
「・・・・・・・・不安になった」

 少し俯いて黙ってしまった裕子。
「ど〜して不安に思うのさ?」
 優しく頭を撫でると。
「ん」
 裕子は考え込んで、言葉を探して。
「・・・・・・・・・いつも矢口、しょ〜がなくあたしに付き合ってくれてるんかなって」

 ・・・・・・・なんてこと考えてるんだよ。
 矢口の顔見て、裕ちゃんは笑った。
「うん。わかってるねんけどな」
 矢口の髪の毛に指を絡めて。
「離れてるとどんどん不安になって。不安になったら今度は何か矢口に会えてもどう反応したら
いいのかわからんようになって」
 ごめんな。
 そっと頬にキスされた。

「・・・・・・・弱気になったんだ?」
 そうだね。
 新しくまた舞台のお仕事とか、一人で頑張ってるんだもんね。
 でも。
「自分で自分を追い込んでど〜すんのさ〜」
 そ〜ゆ〜時こそ頼って欲しいのにさ。
「だからごめんって」
 矢口をなだめるように、髪の毛を撫でられた。

「許してくれる?」
 珍しく殊勝な言葉。
 答えなんて決まってるじゃん?

 言葉に出すかわりに、唇にちゅっと軽くキス。

「矢口・・・・・・・好きやで」
 ぎゅっと抱きしめられて。
「矢口も大好きだよ」
 そう答えれる幸せ。
 裕ちゃんの匂いに包まれて。
 何だか頭、ぼ〜っとしちゃう。
414 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:22
 仲直りが終わって。
 矢口と裕ちゃんはソファーでくつろぎながらうだうだしてた。

 でも。
「ねぇ裕ちゃん」
 さっきから矢口が気になってること、一つ。

「なんや?」
 肩抱かれて。
 優しく微笑まれて。

 ・・・・・・・・・・・・。
 もしかしたら、矢口、地雷踏んじゃうのかも知れないけどさ。
 ちゃんとはっきりさせときたい。

「裕子、矢口が二十歳になるの、怖い?」
 直球勝負。
 裕子?どうする?
 一瞬、裕子が矢口の肩抱く腕が強張ったのがわかった。

 ・・・・・・・・・図星、か。

「そら・・・・・・一緒に酒飲みにいけるし」
 ぼそぼそと呟く声。
「嘘つくな」
 眼、泳いでるよ?

「・・・・・・・何が言いたいねん?」
 今度は逆ギレかよ。
 ま〜ったくもう。
「矢口は、年齢だけでも二十歳になれるの、嬉しいんだ」
 何で?
 眼だけでそう聞いてくる裕ちゃん。

「自分のこと、自分で責任取れる年齢になるから」
 裕子はきょとん、と不思議そうな顔する。
 ・・・・・・・・この、鈍感。
「これからのこと、将来のこと。矢口が責任持つ歳になれるんだよ」
 やっぱりまだ良くわからないって表情。

「・・・・・・・・・愛してる」

 あ。
 言っちゃった。
 二十歳になったら言おうってとっといたのにさ。
415 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:23
「・・・・・・え、あの」
 いきなり裕子の顔が真っ赤になった。
「な、何言うてんねん、自分・・・・・・・」
「い〜じゃん、矢口の気持ちなんだからさ〜♪」
 恥ずかしそうに矢口から離れようとする身体を強引に抱きしめた。

「愛してるって堂々と相手に言える歳になるってことじゃん?」
 ・・・・・・ちょっと成人になるって意味じゃないかもしれないけどさ。
 ま、気にしない。
 矢口流、二十歳になるって意味は。

 好きで好きでたまらない人に。
 責任が持てるってことです、はい。

 恥ずかしすぎてさすがにそれは言えないけどさ。

「も〜、あんたそれ恥ずかしすぎるって・・・・・・」
 ぶつぶつ言いながら、裕ちゃんが矢口の顔を見て。
 いきなり大爆笑し始めた。

「な、何だよ・・・・・・・」
 あの、矢口、初めて愛してる、なんて言ったんだよ?
 それで何でそんな反応するかな〜っっ!!!
「矢口、あんた顔、真っ赤。ゆでだこみたいやで?」

 ・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・悪かったなっっ!!!」
 今度は矢口が逆ギレ?
 駄目じゃん。

 でも。
「愛してるで、真里」
 初めてそんな言葉、聞けたから。
 しょ〜がないから、許してやるよ。

 いつになっても、どこに行っても。
 逃がさないよ、裕子。
 いつだって、矢口の側にいてね・・・・・・・・・・・・・。
416 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:23
ーーーーーーーーーー

 ベッドの中。
 あたしはすやすやと眠る矢口に腕枕しながら。
 何だかもやもやした気持ちがすっきりしているのを感じていた。

 ・・・・・・・・・これからど〜なっていくんやろ?

 そんな不安、吹き飛ばすくらいの気持ち。
 初めて知ったわ。

 寝る前の、会話。
『そ〜いや矢口、プレゼント何が欲しい?』
『もうもらってるからいいよ』
『?』
『裕子の、心』
 そう言って眠そうにあくびしたと思ったら。
 聞こえてきたのは、規則正しい寝息。

 こらこらこら。
 ま〜ったく。
 あんたには完敗やわ。

 年上の余裕、なんてもう全然、かけらもない。
 それが嬉しかったりするねんから、しゃ〜ないな〜。

 いつになっても、どこに行っても。
 あんたを好きな気持ちだけは誰にも負けないし。
 ガラにもなく、愛してる、なんて言うで。
 あたしを本気にさせたあんたが悪いんや・・・・・・・・・。
417 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:24
〜〜〜おまけ〜〜〜

 娘。の楽屋。
 矢口の姿は勿論、なかったりする。

 一時期の二人の微妙な雰囲気はもう、まったくなく。
 それでも、メンバーの前でいちゃいちゃしなくなったのは少しの進歩か?

「あれ?矢口は?」
 休憩時間、飯田さんがメンバーに眼を配りながら、楽屋の隅で読書にいそしむ保田さんに尋ねると。
「?裕ちゃんとこじゃないの」
 当然のように答える保田さん。

「ふ〜ん・・・・・・・・結局、あの二人、ど〜してたの?」
 あまり普段は人のことは気にせずマイペースな飯田さんですけども。
 さすがに気になってたのでしょう。
「さ〜?」
 保田さんはそう答えながらも。

「痴話喧嘩は犬も喰わないってやつじゃないの」
「・・・・・・・・はた迷惑だよね〜」
 しみじみとそう呟く飯田さん。

『裕ちゃん、矢口に絡みすぎっ。もう裕ちゃん娘。じゃないんだよ?』

 自分の一言が微妙な雰囲気をかもしだしたとはまったく気付いてなさそうです。

 こっそりと矢口さんからいろいろ事情は聞きつつも。
 さすがに圭織あんたのせいだよ、とは言えず、保田さんは少し困った顔。

「ってか・・・・・・そろそろ矢口戻ってこないと時間、やばいんじゃない?」
 聞くともなしに二人の話を聞いてた安倍さんが、珍しく時間にきっちりした意見。
「「あ〜〜」」
 保田さん、飯田さん、安倍さん、三人とも顔を見合わせて。
「やっぱ呼びにいかなきゃ駄目だよね〜」
 飯田さんため息一つつきながら立ち上がります。

 きっと心の中で、矢口、説教っ!とか思ってるのはどうやら間違いなさそうです。

 ってか。
 時間忘れていちゃいちゃしてる二人に問題があると言えばまったくもってその通りなんですが。
418 名前:大山鳴動して・・・・ 投稿日:2003/12/01(月) 23:24
「ま〜た何か面倒起こさないかな」
 飯田さんが楽屋を出て行って。
 保田さん、安倍さん。
 非常に複雑そうな表情です。

 矢口さん、中澤さんが幸せそうなのは非常にいいことなんですが。

 巻き込まれるのは絶対いや、だそうです。

 そりゃ・・・・・・・・まぁ、気持ちはわかります。

 結局。

 大山鳴動して・・・・・・バカップル一組。

                                end
419 名前:つかさ 投稿日:2003/12/01(月) 23:26
某所であげてた奴です。

既読の人は多数いらっしゃるかとは思いますが(苦笑)
一応、記録代わり。

んでは新作、いきます。
420 名前: 投稿日:2003/12/01(月) 23:27
〜〜〜1〜〜〜

 ふと。
 ボールの音に気付いた。

 まだ明かりのついてる体育館を覗いてみたのは、ほんの好奇心。

 それだけだった。

 それだけのはずだった。

「・・・・・・・・・・・」

 目に飛び込んできたのは、女性の姿、だった。
 バスケットゴールを見つめ。
 ボールを放つ姿。
 しなやかなフォーム。
 例えてみるなら。
 ぴん、と張った弓から放たれる矢。
 そんなイメージ。

 どれくらい目を奪われていただろう。

 その女性はゴールから半円を描いたさまざまな位置から、シュートを放つ。

 ・・・・・・・あれ、スリーポイントシュートって言うんだよね。

 ほとんどのボールがネットをくぐって落下する。
 女性のフォームも乱れることはなく。
 真っ直ぐにゴールを見つめ。
 腕が伸びて。
 放たれるボールは綺麗な曲線を描く。
421 名前: 投稿日:2003/12/01(月) 23:27
 凄い。

 眼が、離せない。

 ここの・・・・・・学校の生徒じゃないよね。

 茶色の髪の毛がなびく。
 その女性は高校生には見えなかった。

 夜学・・・・・にもあんな人、いないよね。

 記憶をフル回転させるけれど。
 一度見たら絶対忘れないよ。
 綺麗なフォーム、そして曲線を描くボールに見惚れていたが。
 その女性自身も美しかった。

「矢口〜、そんなとこで何やってんの?」

 ボールの音だけが響く体育館。
 不意にそれが破られた。

「・・・・・・・・ぁ」

 小さく声をあげたのはどっちだったのか。

 視線が、合った。

 誰かいるとは思ってなかったのだろう。
 驚いたような視線を向けられて。
 顔が赤くなる。

「す、すいません」

 ぺこり、と頭を下げて。

 相手に何も言う隙を与えず。
 そのまま駆け出した。

 何となく。
 振り向けなかった。
422 名前: 投稿日:2003/12/01(月) 23:28
ーーーーーーーーーー

「あんなとこで何やってたの?」

 体育館の外。

 矢口に声をかけた人物は鞄を片手に。
 大あくび。

「うん、ちょっと・・・・・」

 言葉を濁した矢口を見て。
 相手は首を傾げるが。

「それより圭織、遅かったね?」

 矢口のセリフに。

「・・・・・・・・担任に捕まってた。最近ちょっと授業でれてなかったから」

 困ったように飯田は俯いて。

「何かあった?」

 最近授業に姿を見せてなかった同級生。
 今までこんなことあんまりなかったから、気にはなってた。
 
「ちょっと馬鹿親父が事故起こしちゃってね〜。お金、いるし・・・・・バイト忙しくて」

「そっか」

 小さく笑みを漏らした飯田の顔は疲れていて。

 ぽんぽん。
 一生懸命背伸びをして、矢口が飯田の頭を叩くと。

「・・・・・・・矢口ちっこいんだから、無理しないでよ」
423 名前: 投稿日:2003/12/01(月) 23:28
 やっと飯田が笑う。

「ちっこい言うなっ」

 ばしっ。
 軽く矢口は飯田の肩にパンチ。

「帰ろっか」

 どちらからともなくそんな言葉。

 もう、生徒の姿は校庭には見えなくて。
 暗がりと静寂が支配する、空間。

 お互い無言で肩を並べて歩いた通学路。
 別れ際。

「圭織さ。もしかしたら学校辞めるかもしれない」

 真っ直ぐ前を向いて。
 一言だけ呟いた飯田。

 矢口は何も言えず。

「ごめんね」

 自嘲気味に笑って去っていく飯田の後姿を、じっと見つめていた。
424 名前:つかさ 投稿日:2003/12/01(月) 23:30
書き上げれるのかどうなのか。
まだ不安は尽きませんが・・・・・。

更新は不定期です。

楽しんでいただければ幸いです。
ってか気付く人がいるのかどうか・・・・・(苦笑)
425 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 23:57
つかささんの新作みっけ(w
待ってました〜!!!
バスケのお話なんですか?
ワクワクしてきました・・・つかさんの小説いつも最高です!!
426 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/02(火) 00:24
ヤッタ!
つかささんのやぐちゅーがまた読める!
感涙です。
427 名前: 投稿日:2003/12/03(水) 23:26
〜〜〜2〜〜〜

 夕方五時半から始まる授業。

 ただ、五時半に生徒が全員集ってることは殆んどない。

 それが定時制高校。

「ごめん、せんせ〜、仕事終わらなくてっ!」

「後藤、お前・・・・・その頭、ど〜した?」

 クラスメイトの頭が金色なんて、当たり前。
 赤、青、黄色ってそろったら信号じゃん。
 冗談っぽくそんな話をしてたら。
 一週間後に見事にそんな頭が出現して。
 みんなで大笑いした。

 かくゆう矢口も・・・・・かな〜り色を抜いてたりするのだが。

 休み時間。
 ぼんやりとクラスメイトの喧騒の中に入っていく気もなく。
 矢口はぼんやりと校庭を眺めていた。

「矢口〜、圭織、学校辞めちゃうってホント?」

 ガタン、と音がして。
 安倍が矢口の席の前の椅子に腰掛け。
 顔を覗き込んでくる。
428 名前: 投稿日:2003/12/03(水) 23:26
「・・・・・・・・みたいだね〜」

 あれから一ヶ月。
 完全に飯田は授業に出てこなくなった。

「そっか」

 そう言ったっきり。
 安倍も黙り込む。

「寂しくなるね」

 ぽつり、と呟かれた言葉。
 わけもなく、哀しかった。

ーーーーーーーーーーー
429 名前: 投稿日:2003/12/03(水) 23:27
 ボールの音だけが響く体育館。

 矢口は今日も授業が終わった後。
 体育館に姿を見せていた。

 ここ一ヶ月の日課。

『付き合い悪いよ〜』
『誰かいい人でもできた?』

 クラスメイトの誘いを断り続けていると。
 拗ねられたり、からかわれたり。

 それでも。

 何をしゃべるわけでもないその空間が好きだった。

 矢口はまだ、あの人の名前さえ知らない。

 体育館の入り口から入ったところ。
 今日も矢口はちょこん、とそこに座り込む。

 10時くらいまで、その人はずっとシュート練習を続けて。
 終わったらモップかけを始める。

 言葉を交わしたのは最初の一回きり。

『・・・・・見てていいですか?』
『ええよ』

 それだけで、終わった。
430 名前: 投稿日:2003/12/03(水) 23:28
 一ヶ月。
 通いつづける矢口を見ても。
 やっぱり会話することはなくて。

 あの人は矢口のこと、どう思ってるのかな?

 ・・・・・・・・・・・・・。

 ふわり。

 あったかい物を感じて。

 眼が覚めた。

 寝ちゃってたんだ。

 眼をあけると。
 その人が、いた。

「・・・・・・・・え?」

「あ、ごめん。起こしてもうた」

 ちょっとバツの悪そうな顔。

「風邪ひくかなって思って・・・・・・」

 身体の上には、冬用のコート。
 そっか。
 もう11月だもんね。

 納得しつつ。

 何だかうまく言葉がでてこない。

「・・・・・・・バスケ、好きなん?」

 この人の声、好きだな。
 声を聞いていたくて。
 首を横にぶんぶんと振る。
431 名前: 投稿日:2003/12/03(水) 23:35
「じゃあ、何で?」

 当然の疑問。

「・・・・・・・フォームが綺麗だったから」

 見ていたかった。
 それだけ。
 疲れた気持ちとか。
 いっぱいいっぱいなそんな気持ちを全部乗せて。

 ボールがリングをくぐるのを見てるだけで気持ちよかった。

 その人は首を傾げた。

「アタシのファンか〜?」

 くすっと笑って。
 そんな風に言葉を投げかける。

 やっと笑えそうだよ。

「名前、何て言うの?」

「中澤裕子。アンタは?」

「矢口真里」

 短い自己紹介。

 それだけで良かった。

「んじゃ、矢口もやってみる?」

 不意に。
 中澤がバスケットゴールを指差した。

「え?でも練習・・・・・・」

「終わったし」

 中澤に促されて。
 矢口はいつも中澤がシュートをうっていたコートに足を踏み入れる。

「そんな緊張せんでもええやん」
432 名前: 投稿日:2003/12/03(水) 23:35
 リングから真っ正面。

 やけに高くて、遠く見える。

「もっと腕伸ばして。手は添える感じで」

 何度もボールはリングのふちに当たって。
 もしくはリングをかすめることもなく。
 落ちる。

 中澤は根気良く、こ〜だあ〜だと矢口のフォームをチェックして。

「・・・・・・・・あ」

 投げた瞬間、入った、と思った。
 綺麗な曲線を描いて。
 ネットを揺らして落ちる、ボール。

「ナイスシュート」

 転がるボールを拾い上げ。
 中澤は笑顔を見せる。

「ええもんやろ?」

「うん」

 まだ、ボールを投げた感覚が手に残ってる。
 じっと手を見つめる矢口の頭を。
 中澤は乱暴にぐりぐりと撫でた。

 体育館の鍵は十時半までに返さなきゃいけないらしく。
 大慌てで二人でモップかけをした。

「また教えてくれる?」

 帰り際。
 中澤を見上げる矢口。

「ええで」

 短い返事。

 それでも。
 教えてもらった携帯番号片手に。
 今日は良く眠れそうな気がした。
433 名前:つかさ 投稿日:2003/12/03(水) 23:41
>>425 名無し読者さん
>バスケのお話なんですか?
多分・・・・っつ〜いい加減な話ですが(笑)
ただ、バスケ主体にはなりません(断言)

>>426 名無し読者さん
>感涙です。
いや・・・・そんな風に言っていただけると・・・恐縮です(ぺこり)

ってかレスくんのはやっ(驚)
まじでびっくりしました。
最後のまとも更新から何ヶ月たってんだ?って思ってたんで。

めちゃめちゃ嬉しかったです、ありがとうございました。
おおまかな方向性しか考えてないんでこれからどうなっていくか自分でも
わかんないんですが、リハビリって感じでのんびりやっていきたいと思います。
434 名前:マコト 投稿日:2003/12/04(木) 00:23
つかささんの新作発見!!(ちょっと出遅れたかな?)
バスケは自分好きなんで、楽しみにしてます!
頑張ってください(w
435 名前:426 投稿日:2003/12/04(木) 01:09
や、毎日のよーにチェックしてたもんで(w
とはいうものの、
つかささんのペースで更新してくださいね。
マターリとお待ちしております。
436 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/04(木) 16:34
つかささん新作発見!!
姐さんにバスケって意外な感じで。
すげー楽しみです。
437 名前:名無し読者。 投稿日:2003/12/04(木) 20:20
つかささん復活きた〜(わら
待ってました〜
やぐちゅー少なくなって悲しかったのですが・・・これで癒されます。
438 名前:sage 投稿日:2003/12/05(金) 00:14
お待ちしておりました。
「つかさ」さんのやわらかい表現が大好きです。

愛しき「やぐちゅー」を期待します。

439 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/05(金) 00:18
やぐちゅー、嬉しいな。
440 名前:つかさ 投稿日:2003/12/05(金) 01:18
ちょい待って。
今回のはageは勘弁して下さい。
落とします。
441 名前: 投稿日:2003/12/08(月) 21:02
〜〜〜3〜〜〜

「裕子〜っ!!!!」

 体育館に響き渡る大きい声。

「・・・・・・・・そんなでかい声ださんでも聞こえるわ」

 中澤は黙々と。
 シュート練習を続ける。

「何だよ〜」

 ぺたぺたと矢口は中澤の側に近づいて。
 邪魔にはならないように。
 コートの脇にちょこん、と腰をおろす。

 あれから二週間。
 何だかんだと。
 あっという間に縮まった、二人の距離。

「後何本?」

「100本」
442 名前: 投稿日:2003/12/08(月) 21:03
 流れる汗をぬぐいもせずに。
 中澤はリングだけを見つめている。

 普通科のバスケ部のコーチなんだと言った。
 普段は実業団でプレイしてる、とも。

 部活が終わってから体育館の使用許可がコーチの謝礼、らしい。

 一日300本のスリーポイントシュート。
 どうやら中澤はそれを日課としているようで。

 矢口は黙って、中澤を見つめる。

 軽く添えられた腕が。
 伸びる。
 躍動する、一瞬。

 ・・・・・・・・・綺麗、だよね・・・・・・・。

 行儀悪くあぐらを組んで、頬杖をつきながら。
 矢口は見つめる。

 ボールの行方、なんて見なくてもわかるようになった。

 フォームで。
 腕の位置が違う、って思ったら。
 ボールがリングの枠に当たる不規則な音と。
 悔しそうに一瞬、表情を変える中澤。
443 名前: 投稿日:2003/12/08(月) 21:03
 ・・・・・・・・・?

 どうやら。
 今日は中澤の調子は悪いらしい。

 いつもより肩に力が入ってる。

 表情自体はいつもと変わらないのだけれど。
 三本連続外して。

 中澤は。
 ぐっと唇を噛み締めて。

 点々と転がるボールを見つめた。
 そのまま動こうとしない。

 静まりかえる空間に。
 中澤の少し乱れた呼吸音。

 邪魔しちゃいけない。

 ぴーんと張り詰めた空気。
 静寂。
 普通の人だったら耐えれない、空気の重さかもしれない。
 それでも。
 矢口はその空気が好きだった。

 一人で自分に向き合う時間。

 真剣な、空気。

 自分が忘れかけていたものがここにある。

 そう思う。
444 名前: 投稿日:2003/12/08(月) 21:04
 ぐいっと中澤は額の汗をぬぐった。
 ゆっくりとボールを取りに行く。
 そして。
 もう一度。
 睨み付けるようにバスケットゴールを見つめ。
 眼をつぶる。
 肩の力が抜けたのがわかった。
 眼をあけて。
 躍動する、身体。
 スローモーションのように。
 ボールがネットに吸い込まれていく。

「っしゃっ!」

 拳を握り締め。
 珍しくガッツポーズして。

 ふと矢口の存在に気付いたのだろう。
 中澤は照れくさそうに笑った。

「オイラのこと忘れてんじゃね〜よ、裕子〜」

 解ける、呪縛。

「嫁入り前の女の子がそんな言葉遣いしな」

 苦笑いして。
 再び中澤はシュートを打ち始める。

 練習を終えて。

 矢口と中澤は二人でコートの掃除。

「ごめんな、手伝わせてもうて」

 申し訳なさそうに手を合わせる中澤。

「いいよ、別に」

 今日は思ったより中澤のシュート練習に時間がかかって。
 二人で掃除しても、鍵を返せたのは十時半ぎりぎりだった。
445 名前: 投稿日:2003/12/08(月) 21:04
「何かあった?」

 帰り道。
 二人、肩を並べて歩く。
「ん〜?」
 誤魔化すような曖昧な返事。
「肩に力、入ってたよ?」
「そっか」
 小さくアタシもまだまだやな〜。
 そう呟いて、中澤は大きく伸びをする。
「アタシ入ってる実業団な。今度なくなるかもしれんねん」
 さらりと。
 全然たいしたことじゃないみたいに。
 中澤の視線は遠くを見つめている。
「次の大会で結果を残したらどうなるかわからんっちゅ〜話やけど」
 いったん言葉を切って、続ける。
「多分、どんだけ好成績残しても廃部になるんやろうな〜って」

 今のこのご時世。
 好きなことをして生活できるほど、甘くはない。

 勝ち目のない試合。
 それでも。
 挑まなければならない時はある。

「人事尽くして天命を待つ、だよ」

「・・・・・うわ、難しい言葉知ってるな〜」

「・・・・・・思いっきりオイラのこと、馬鹿にしただろ?」

「ちゃうやん、感心したんやん」

「現役高校生だぞ、これでもっ」

 がうっと矢口が吠えると。
446 名前: 投稿日:2003/12/08(月) 21:05
「全然見えへんけどな〜」

 からからと中澤は笑う。

「あ、馬鹿にしたっ」

「見たまんま、言うただけやん」

「それがしてるっつ〜んだよっ!」

 他愛もない、じゃれあい。
 こんな風に言葉を交わしてる今も。

 それが信じられなかったりする。

「ま、今までバスケやってこれただけでもめっけもんか」

 少し、寂しそうな眼。
 何を伝えたいわけでもないだろう、その言葉。
 矢口は眼を細めて。
 流れ行く雑踏を眺めるその横顔を見上げた。

「矢口は夜学の方に通ってるねんな?」
 不意に視線を向けられて。
「うん」
 矢口は頷いた。

 偉いな、とか。
 頑張ってるねんな、とか。

 ある意味。
 言われ慣れ、してしまった言葉。
 中澤も同じような言葉をつむぐのかと思えば。

「若いうちの苦労は買ってでもしろって言うけど」

 中澤は矢口から視線を外した。

「誰もそんな苦労したくないわな」

 そのままぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。

 何故だか。
 涙がこぼれそうで。
 矢口は俯いて、ぎゅっと唇を噛んだ。
447 名前:つかさ 投稿日:2003/12/08(月) 21:15
>>434 マコトさん
>ちょっと出遅れたかな?
 バスケは自分好きなんで、楽しみにしてます!
いや、全然遅れてないですよ。
バスケ好きなんですか・・・・自分バスケあんまり詳しくないんで(おい)
ツッコミどころ満載になるかも(ちょい不安)

>>435 426さん
>や、毎日のよーにチェックしてたもんで(w
頭、下がります。
期待、裏切らないようにしたいです。頑張ります。

>>436 名無し読者さん
> 姐さんにバスケって意外な感じで。
書いてて自分もちょっと不思議・・・・いや、何となく浮かんできたシーンが
あっただけなんですが。

>>437 名無し読者。さん
>やぐちゅー少なくなって悲しかったのですが・・・これで癒されます。
読みたいものがないから書いてやれ。
自分の原動力はそれだということに再び気付き・・・・。
自己満足の世界かもしんないですが、楽しんでください^^

>>438 sageさん
>「つかさ」さんのやわらかい表現が大好きです。
ありがとうございます。
「愛しきやぐちゅー」になるかはわかりませんが・・・完全燃焼できる話にしたい
です。

>>439 名無し読者さん
>やぐちゅー、嬉しいな。
頑張ります(ぺこり)

いきなりいっぱいのレスでびびりつつ。
どうなっていくのかな〜と。
自分でも不安一杯、楽しみだったりします(笑)
448 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/12(金) 00:43
やっぱり・・・やぐちゅーはいいですね〜。
449 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:24
〜〜〜4〜〜〜

「なっちは納得できないべさっ」

 拳を握り締め。
 力説する安倍。

 その脇には、後藤が同じように難しい顔をしている・・・・・はずもなく。
 お菓子を食べながら眠そうな顔。

「・・・・・・・・・・」

 矢口は無言でそんな二人を眺めて。
 ちらっと。
 もう見慣れた後姿に視線をやる。

「矢口、聞いてるのかいっ?!」

 一段とトーンがあがる安倍の声に思わず。
 ため息が漏れた。

 いつもの見慣れた体育館。
 その隅で三人で丸く座って。

 矢口がここにいるのをどうやって知ったのか。
 いつものように中澤の練習を眺めていたところに乱入かけてきた二人。
 邪魔になるから場所変えよう、とは言ってみたものの。

『別にええで』

 中澤は淡々としたものだった。

 シュッ。

 ボールが空を切る音がやけに大きく聞こえる。
450 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:24
「圭織が決めたことじゃん?」

 何度繰り返したセリフだろう。

 飯田が学校を辞めることに対して。
 意外なほど猛烈に反対したのが安倍だった。
『駄目だよ』
 泣きそうな瞳に同情してしまったけれど。

「やぐっつぁんはさ〜、圭織が学校辞めても平気なの?」

 不意に今まで黙ってた後藤が口を開いた。
 開いたと思ったら・・・・・。
 矢口は肩を落とす。
「平気なはずないけど、だからってしょうがないって言ってるんじゃんっ」
 二人の顔を見ると。
「後藤の家で圭織、居候させてもらえないかなって」
 再び後藤が口を開く。
「なっちが頭さげに来たんだ、後藤のおか〜さんに」
 力の抜けた表情でにゃはら、と笑う。

 矢口が安倍を見つめると。
 ぷい、と逸らされる瞳。

「・・・・・・それならそれで良かったじゃん」

 矢口に何の関係があるのさ?

 そのまま。
 返事をもらえそうな後藤に詰め寄ると。
451 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:25
「やぐっつぁんに圭織、説得してもらえないかな〜と思って」

 はい?

 何か。
 とんでもないことを言われた気がする。

「圭織、知らないの?」

「うん、全然まったく」

 大きく後藤は頷くだけ頷いて。

「お願い」

 やっと口を開いたと思ったら。
 矢口は深々とため息をついて安倍を見つめる。

「ならなっちが説得すればいいじゃん?」

 むぅと安倍は口をへの字に曲げた。

「なっちだったら・・・・・圭織、意地になりそうだし」

「後藤が頼むのもね〜」

 のんびりと後藤が後を続ける。

「だからって何で矢口なんだよっ!!」

 声が大きかったかもしれない。

 ごん。
 ボールがリングに当たってはねる音。

 やれやれ。
 苦笑いしてボールを拾う中澤の表情が見えるようで。
 矢口も安倍に負けず劣らず、むぅと口を尖らせる。

「それに圭織、お金いるんでしょ?住む場所変えたって・・・・・」

「圭織のお父さんが悪いんっしょ?何で圭織がその責任ひっかぶる必要があるべさ」

 安倍の眼は真剣で。
 矢口は軽くため息をついて。
 膝の上で頬杖をつく。

「家族ってそんなもんじゃん、多分」
452 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:25
 どれだけ迷惑をかけられても許せる存在、それが家族なんじゃないかと。

「・・・・・・なっちはそんなの納得できない」

 真っ直ぐな瞳に。
 矢口は苦笑いを漏らす。

「ならなっちが説得すればいいじゃん」

 眼を逸らすと。
 後藤が困ったような顔をしてこっちを見ているのがわかった。

「お願いします。矢口しかいないんだべ」

 真面目な声。

「え?」

 安倍は。
 矢口に頭を下げる。

 きちんと正座して。

「ちょ、なっち・・・・・頭あげなって、そんなんして欲しいわけじゃないし、オイラっ!!」

「なっちが言ったら絶対圭織と喧嘩になっちゃうし。お願い」

 矢口の言葉を聞いているのか。
 安倍は頭を下げつづける。

「・・・・・・わかった、わかったからっ」

 責任は持たないからね。
 そのセリフをどれだけ二人は聞いていたのか。
453 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:26
 去り際。
「ごと〜もね〜、なっちに土下座されりゃ、言うこと聞くしかしょ〜がなくてさ」
 こっそり矢口に耳打ちした後藤もやっぱり苦笑い、してた。

 そんな表情もできるんだ。

 驚きはさておき。

「なら、オイラ、巻き込むなよっ」

 睨みつけたけれど。

「頑張ってね〜」

 聞いているのか聞いていないのか。
 ひらひらと手を振って体育館を出て行く後藤と安倍を見つめながら。

 矢口はがっくりと肩を落とした。

ーーーーーーーーーーー
454 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:26
「聞いてた?」

 後片付けを始めた中澤。
 手伝おうともせず、座り込んだまま動かない矢口の問いかけに。

「うん」

 あっさりと中澤は答えて。
 モップを動かしつづける。

「裕ちゃんはさ・・・・・どう思った?」

 口にして。
 矢口は思わずしかめっ面をする。
 こんなこと聞いてどうしようというのだろう。
 ただ。
 こぼれでた言葉が元に戻るはずもなく。

 中澤は一瞬驚いた表情を見せたものの。

 くすっと笑って。

「こいつに聞いてみる?」

 指差したのは、バスケットボール。
455 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:26
「はい?」

 中澤はボールを拾い上げ。
 何回かバウンドさせる。

「入ったら、説得する。入らんかったら説得しない」

 そのままぽん、と矢口に投げてよこす。

「・・・・・・・適当じゃん」

「アタシ、ようわからんもん」

 責めるような口調の矢口に。
 からからと笑ってみせた。

 うながされて、ゴール真正面に立ってみたものの。

 飯田圭織。
 はにかんだ笑顔が印象的で。
 同年代が少ない夜学で、すぐできた友達だった。
 家族。

 何をどうすればいいのか。

 いろんな言葉が心の中に渦巻いて。
 矢口は中々ボールを投げれずに。
 そんな矢口を中澤は黙って見つめていた。

 沈黙に耐えかねたのか、どうだったのか。

「わっかんね〜よっ!」

 一声叫んで矢口はボールを投げる。

 ガタン。

 ボールはリングにはじかれた。
456 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:27
「・・・・・・・・」

 無言で床に落ちたボールを眺めている矢口に。

「んで?」

 中澤は問い掛けた。

「え?」

 妙にゆっくりと中澤に視線を向ける矢口。

「・・・・・・がっかりした?ほっとした?」

「・・・・・・・・・」

「入って欲しいって思ったんやったら説得すればええやん」

 中澤は転がっているボールを拾い上げ。

 ダンダンダン。
 綺麗なドリブルから。
 レイアップシュート。

 綺麗にボールはリングをくぐった。

「だいたいな〜、どうしようか迷ってる精神状態でシュート打っても入るわけないやん。
 アタシだって自信ないわ」

 ニヤリ、と中澤は笑う。

「・・・・・騙したのかよっ!!」

「騙したなんて人聞きが悪い」
457 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 00:27
 ふてくされた表情を見せる矢口に。

「決めるんはその圭織って子やろ?その子がど〜ゆ〜結論出すにしろ、矢口は矢口のやりたいように
 やったらええやん」

 矢口の、やりたいように?

 中澤はボールを片付けて、再びモップを手にしている。

「友達ってええもんやな〜」

 独り言のように呟かれた言葉。

「裕子・・・・裕ちゃんだって、もうオイラの友達だろ?」

 中澤が寂しそうで。
 思わず口を突いて出た言葉。

 何も言わず。
 中澤は矢口を見て笑った。
 嬉しそうに。

 ドキッ。

 跳ねた心臓は気にしないでおこう。

 そんな風に思う、矢口だった。
458 名前:つかさ 投稿日:2003/12/13(土) 00:30
>>448 名無し読者さん
>やっぱり・・・やぐちゅーはいいですね〜。
それに尽きてそれに終わるって感じで(どんなやねん 笑)
いろいろ他にも読んでるけど・・・どうしてもここに戻ってくるのはなんでだろ、
ってな感じで。

のんびりまったり進んでいきます。

明日なっちの卒コンチケットとれりゃ、横浜遠征決定。
う〜む。
姐さんの歌、聴きたいな・・・・・。それだけだったり(苦笑)
459 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 01:56
姐さんの歌聴きたいですよね〜。
シングルでるらしいけど・・・たまにはカッコいい曲きいてみたいな〜。
460 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/14(日) 01:08
飯田さん‥‥どうなるんだろ‥‥
やっぱ姐さんカッケー
461 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:09
〜〜〜5〜〜〜

 手の中にはチケットが二枚。

『暇やったら、来てや』

 暇なはずないじゃん。
 生活費、稼がなきゃなんないんだよ?

 それでも。

「矢口、場所ここであってるの?」

 安倍がくるり、と矢口を振り向く。
 黙ってこくり、と矢口は頷く。
 さっきから無言になっている矢口を気遣ってなのかどうなのか。
 安倍はいつもより饒舌だ。

「でも珍しいね、矢口がこ〜ゆ〜の誘ってくるの」

「だってもらったし」

 行かなきゃ悪いじゃん。

 こっそり心の中で言い訳。
462 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:10
『最後の試合になるかもしれへんねん。来てくれる?』

 心配そうに眼を覗き込まれて。
 無茶苦茶嬉しかった。
 例えそれがチケットをさばくためだったとしても。
 何だか嬉しかったのだ。

「んで、矢口のお目当ての人は誰だい?」

 ボールの音。
 キュ、キュ、という靴の音。
 声援・・・・・・。

 体育館の中は様々な音に満ちていて。

 矢口は黙って白の六番のユニフォームを指差す。

「・・・・・どれだかわかんねっしょ、それじゃ」

 まばらな観客席の一番前に陣取って。
 安倍は苦笑い。

 声が聞こえたはずもないのに。
 不意に、中澤が観客席を見上げた。

 軽く手をあげて。

「あれ?あの人、体育館にいた人?」

 やっぱり黙って矢口は頷いた。
463 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:10
ーーーーーーーーーーー

「来てくれたんや」

 試合が終わって。

 中澤は体育館の外。
 二人を捕まえた。

「うん」

 何だか矢口は無言で。

 中澤は首を傾げるが。

「凄かったですねっ」

 脇にいた安倍が眼を輝かせながら。
 中澤に話し掛ける。

「でも負けてもうたし」

 中澤は苦笑いしながら安倍に向き合う。
「それでも、凄く・・・・・・綺麗でした」
 一生懸命な言葉。
「綺麗って・・・・・バスケに変な言葉やで」
 中澤がクスリ、と笑ったのが。
 雰囲気でわかる。
464 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:10
 僅差で迎えた終盤。
 中澤のシュートは冴えまくっていた。

 だからこそ、きつくなるマーク。

 通らないパスに苛立ちを隠せない味方チームの面々に。
『落ち着いて一本いこ〜や』
 のんびりとした声。

 僅差にまで迫ったものの。
 結局、追いつくことはなかった。

「安倍なつみって言います。なっちって呼んで下さい」

「アタシは中澤裕子。裕ちゃんって呼んでや」

 今更ながらに自己紹介しあってる二人。
 安倍がしゃべる。
 中澤が相槌をうって。

「中澤さん、今から何か予定あります?良かったらお茶でも」
 安倍から中澤への誘いは自然で。
「ミーティングあんねん・・・・・待ってもらうことになるけど・・・・・」

 そんな中。
 やっぱり矢口は何も言葉を発せずにいた。

「矢口?具合でも悪いんか?」

 中澤が矢口を気にしているのはわかりつつ。
 矢口は首をふった。

「・・・・・・・・・?」

「オイラ、これからバイトあるからっ。今日は誘ってくれてありがと」

 やっと試合が終わって初めて。
 矢口は中澤と眼を合わせる。
 きょとん、とした瞳。

「矢口?」

 安倍の不思議そうな声。

 本当は。
 もう少し、時間はあるけれど。
 何だか、今の中澤を見ていると涙がこぼれそうだった。

「ちょ・・・・・っ」

 中澤が矢口の肩を掴もうとして。
 空をきる。

「ごめんね、バイバイ」

 笑顔になれてるのかわからない。
 それでも。
 矢口は精一杯の笑顔を見せて二人に手をふった。
465 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:11
ーーーーーーーーーー

 寒空の下。
 肩を竦めてウロウロと歩き回る人影・・・・・・。
 そんなものがアパートの前にいたら、誰だって不安になるだろう。

 でも。

「・・・・・・・ゆう・・・・ちゃん?」

 バイトが終わって。
 何となく、一人の家に帰りたくなくて。
 繁華街をうろついてきた矢口は。

 慌てて見慣れた人影に、駆け寄る。

「おう・・・・・・遅かったな」

 軽く手をあげて。
 怒った様子もなく、中澤は答える。

 ただ今、夜の11時過ぎ。

「まさか試合終わってずっとここにいたの?!」

 包み込んだ中澤の手は、とても冷たかった。

「なっちとお茶して・・・・・・気になったから。家の場所教えてもらった」
 でも、コンビニとかで時間潰してたし、そんな待ってへんで」

 言い訳じみたセリフを中澤は口にするが。

 ギロリ。

 きつい矢口の眼差しに、首をすくめる。

 12月も半ばだというのに。
 中澤はマフラーもしていなければ、セーターも着てなくて。
 薄手のコート一枚。
466 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:11
「・・・・・・・ほら、入れよっ」

 中澤を部屋に引っ張り込んで。
 矢口はバタバタとお風呂を沸かす準備をして。
 手持ち無沙汰に突っ立っている中澤をとりあえずコタツに放り込んで。
 熱いお茶を中澤の前にドン、と置く。

「あったかいなぁ・・・・」

 しみじみと湯飲みを手にして呟く中澤。
 本当に何時間待たせたんだろうか?

 矢口がちらっと心配そうに中澤を見るのと。
 中澤が申し訳なさそうにこっちを見たのが一緒で。

「「・・・・・・・・」」

 何となくお互い無言になる。

「・・・・・携帯に連絡してくりゃいいじゃんよ」

「・・・・・・そうやね」

 矢口のふて腐れたような言葉。
 中澤は困ったように髪の毛をかきあげた。

「・・・・・・・・ぁ」

 そして。
 矢口は気付く。
「オイラ、携帯電源切ったままだ」
 試合見てる間だけ、切っとこうと思って。

 慌ててコートのポケットを探り出す矢口を中澤は止めた。
467 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:12
「ええよ。・・・・・・・ホンマに気になっただけやったから。大丈夫そうやし、アタシ、帰るし」

 はい?

 もう一度。
 ギロリ、と矢口は中澤を睨みつける。

 幾分、頬に赤みがさしてきたとは言っても、まだ青白い顔して。

「帰せると思ってるのかよ」

 幾分低いその呟きに。
 ん?
 中澤は首を傾げるが。

「ぐだぐだ言ってないでさっさと風呂、入って来いっ!!!」

 何だかんだと言ってる間に半分くらいお湯がたまった浴槽。

「タオルとか着替え、置いとく。あったまるまで出てくるなよ」

 びしっと鼻先に指、突きつけられて。
 コクコクと中澤は頷いた。

 中澤が風呂に入っている間。
 矢口は台所で思案顔。

 ど〜せ何も食べてないんだろうけど・・・・・・。

 何が好きなんだろ?
 ありあわせでいっか。

 そうは思いつつ。

「身体、あったまるものは作っとかなきゃね」

 誰かのためにご飯作る、なんていつぶりかな〜。

 人知れず、台所で矢口は微笑んでいた。
468 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:12
「おさき、でした〜」

 ひょこっと中澤が風呂場から頭を覗かせる。
 あったまって人心地ついたのか。
 非常にのんびりした顔つき。

「ご飯できてるから」

「ん?矢口は?」

「お風呂入ってからでい〜よ」

「んじゃ、待ってる」

 何気ないやりとりが嬉しかったり。

「こ〜ゆ〜のっていいな〜」

 コタツで向かい合わせ。

 何でこ〜なったんだ?
 疑問はあるけれど。

「裕ちゃんも一人暮らし?」

「会社の寮や」

 アタシ、片付ける。

 そのセリフに甘えたけれど・・・・・。
 危なっかしい手つきに結局矢口もお手伝い。

 ビール置いてないん?

 矢口、未成年だぞ、一応・・・・・・。

 一応かいっ!

 お約束のようなやり取りに。

 二人して、笑った。
469 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:12
「・・・・・・・裕ちゃん、明日、仕事でしょ?矢口もバイトあるし、そろそろ寝る?」

「あ、うん」

「布団、一組しかないから一緒でいいよね?」

「・・・・・・アタシ、コタツで寝る・・・・・」

 本日何度目かわからない矢口の睨みに。
 本日何度目かわからない中澤の素直な頷き。

「何でこ〜なってんやろ?」

 一緒の布団に入って。
 中澤の疑問はもっともで。

「・・・・・・・オイラの方が不思議なんだけど」

 矢口は素直に答える。

「・・・・・・・・・・そうやん」

 ムクリ、と中澤は身体を起こす。

「寒いよ」

 矢口の文句もどこ吹く風。

「なぁ・・・・・何で試合終わったあと、あんなに機嫌悪かったん?」

 暗闇の中。
 淡い豆球の光が。
 ぼんやりと部屋の中を映し出す。

 妙に真面目な中澤の眼。

 矢口は寝返りを打った。
 表情を中澤から隠してしまう。
470 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:13
「矢口?」

 そっと。
 中澤の手が矢口の頭に伸びた。

「・・・・・泣いちゃいそうだったんだよ」

 静かな、矢口の言葉。

「何で?」

 答える中澤の言葉も。
 静かで。

「最後の、試合だったんだろ?」

 矢口の髪の毛を撫でていた中澤の手の動きが、止まる。

「・・・・・・・そ〜やね」

 否定、しない言葉の潔さに。
 矢口は壁の方を向いたまま。
 布団の中、拳を握る。

「もう、体育館で裕ちゃん、見れなくなっちゃうんだな〜って」

 中澤は何も言わない。

「もう裕ちゃん、バスケできないのかな、とか」

 何かを諦める時。
 切なさとか、いろんな気持ち。
 わかる、なんて言えないけれど。

「裕子、笑ってるのに、何か、矢口が泣いちゃ悪いじゃん」

 不意に。
 背中が暖かく、なった。

 ぎゅっと。
 強く、抱きしめられているのがわかる。

 矢口のお腹に回ってきた両腕。
 なだめるように矢口はぽんぽん、と叩いた。
471 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:13
「ホンマはもっと早く決まってたんや」

 辛そうな、声音に。

「でも、アタシ、諦めきれんかった」

 あのチームで。
 もっともっと強くなりたかった。
 強くなりたいって。
 突然の解雇宣告。
 チームメイトに告げるのを待ってもらえないか、と。

「恨まれるかもしれんって思ったけど」

 懺悔のように呟かれる言葉。

「みんな、ありがとうって」

 ぎゅっと中澤の手が矢口の手を握った。
 救いを求めるかのように。

「だから、勝ちたかった。ど〜しても、勝ちたかった」

 それでも、負けた。
 最後のミーティング。
 みんな、笑ってた。

「裕子」

 矢口は中澤の言葉をさえぎる。
 ぎゅっと握られた手を握り返す。

「矢口、見てないし、わかんないから」

 泣いちゃっていいんだよ。

 言葉が、止まる。
472 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 23:14
 ・・・・・・・・・・・・。

 低い嗚咽。

 ずっと、見てきた。
 ずっと、中澤は一生懸命だった。

 バスケットゴールを見つめるひたむきな瞳に。
 自分が忘れてきたものが、あるような気がした。

 何かに対して一生懸命になること。

 欲しいものを欲しいって努力すること。

 諦めてたこと。

 頑張ったって言葉が欲しいんじゃない。

 でも。
 だけど。
 側にいたいって思った。

 一人で泣くんだろうかって。
 もしかしたら、泣けないのかもしれないって。

 安倍の。
 純粋な尊敬の眼。
 何となく。
 嫌な予感もするけれど。

 それでも。
 ここに、アナタがいる。

 それでいいって思える。
 それだけでいいから。

 濡れていくシャツもそのままに。
 矢口はやっぱりなだめるように中澤の手をぎゅっと握り締めていた。
473 名前:つかさ 投稿日:2003/12/15(月) 23:20
>>459 名無し読者さん
>たまにはカッコいい曲きいてみたいな〜。
HEROみたいな声の出し方、結構好きなんですけどね。
どうしても高音になると弱いな〜と思っちゃうのも事実だったり。
2月上旬くらいでしたっけ?
期待待ちっす^^

>>460 名無し読者さん
>飯田さん‥‥どうなるんだろ‥‥
飯田さんの「い」の字もでてこなかった今回の更新・・・・・(汗)
次回で登場予定っす。
おいしいとこ、もってくのかな〜?
まぁでも自分の中では今回の話のおいしいどこどりは飯田さんと安倍さんです(多分)

妙に・・・・長く・・・・・なってる気はしつつ。
まぁスレ容量内では終わるっしょ。
全然話の長さが読めません。
妙に二人のシーン、長くなっちゃたし(苦笑)
474 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/16(火) 01:34
こういう感じのやぐちゅー大好きです。
ビター風味って感じで(w
今日中澤さんのラジオ聞き逃した〜(泣
どっかで落として聞かなければ(w
475 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/16(火) 20:33
何気ない二人のかけあいイイ!!
姐さん、もうバスケしないんですかね……
476 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:07
〜〜〜6〜〜〜

「なんかさ〜、全然メリクリって気もしないよねぇ〜」
 安倍の、のんびりした声と。
「確かに。世の中カップルばっかり増えてるだけ。あ〜あ。ここ寒いし。心はもっと寒い!!」
 後藤ののほほんとした声。
 妙に響く、声・・・・・。

 体育館の片隅。
 誰がどこから持ち込んだのか。
 火鉢が増えた。

 ・・・・・・・・・・・・。

 相変わらずのシュート練習。
 気にはしないでおこう、とは思いつつ。

 中澤はちらり、とそっちを見る。

「ごっつぁん、クリスマスど〜してるのさ〜?」

「後藤はね〜、店の手伝い。なっちは〜?」

 居心地良さそうやね・・・・・。

 思いながら放ったシュートはリングに蹴られる。

 先週末、最後の試合が終わって。
 どうも調子がのらない。
 これから先、どうなるかもわからんのに調子いいも悪いもないんやけどな。
 ボールを手にしたまま。
 中澤は自嘲する。
477 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:07
「裕ちゃんもそんな地味なことやってないでさ〜、こっちおいでよ。暖かいよ?」

 安倍の声に。
 中澤は肩をすくめて。

「今日はあんたら二人なん?」

 火鉢の側に歩み寄った。

 気、入らんときにシュートを打っても、フォームを崩すだけ。
 残ってる100本くらいは後で公園ででも練習しよう、とは。

 勿論心の中の声で。

「やぐっつぁんはね〜、何か体調悪いんだって。早退しちゃった」

 のほほんとした後藤の声に。

「ふ〜ん」

 中澤は気のない返事。

「気になるくせに」

「何でやねん」

 素早い突っ込み。
 この、この、と。
 肘で突っついてくる安倍をかわしながら。
 中澤は憮然、とした表情を作ってみせる。

「いつも一番うるさい奴がいなかったらど〜したんかな、って普通思うやろ」

 中澤の声を聞いてるのか聞いてないのか。

「え〜、裕ちゃんってやぐっつぁん狙いなんだ?」
478 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:08
「ごっちん、気付いてなかったのかい?バレバレだよ〜」

 安倍が笑う。

 ・・・・・・・・・・・・。

 こいつら・・・・・・。

 怒鳴ってやりたい気持ちを押さえて。
 というか、怒鳴るだけの元気もなく。

 中澤は火鉢に手をかざす。

 暖かい、空気。

「だから、裕ちゃん今日は元気ないんだね〜」

「・・・・・・・・・」

 後藤の言葉に。
 中澤は無言をつらぬくが。

「裕ちゃん、お腹すいてるのかい?これ食べて元気出してよ」

 安倍が差し出してきたもの。

「・・・・・・火鉢に餅ってまたベタやなぁ・・・・・」

「あ、後藤、食べる〜」

 っつ〜かこの火鉢ど〜してん?

 三者三様のざわめき。

 まぁ。
 何だかんだといいつつ、火鉢で焼いた餅は美味しかった。
 海苔と醤油まででてきたことには驚きというか・・・・・触れないでおこう。

 こっそり思いつつ。

 今日ははやじまい、するか。
 時計を覗き込むともう九時半だった。

 中澤はコートの片づけをしようと立ち上がった。
479 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:08
 が。
 不意に、体育館の扉が開いた。

「遅いよ〜」

「何時間待たせるつもりだい?」

 こんなとこで待ち合わせすんなやっ。

 突っ込みを入れようとして。
 中澤は振り向く。

 そして、そのまま。

「え?」

 言葉を失った。

「ごめんごめん。久々にでてきたらさ、先生に捕まっちゃって」

 体育館の入り口。
 寒そうに肩をすくませながら。
 背の高い、姿。
 シルエット。
 見覚えのある、顔。

「飯田・・・・・圭織?」

「え・・・・・・裕、ちゃん?」

 思わず。
 二人とも。
 間抜けな顔をして固まる。

「・・・・・・・・元気そうやな」

 動けない飯田を前にして。
 ふっと。
 中澤が微笑んだ。

 空気が、変わった。
480 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:08
「・・・・・・・・うん」

「圭織って・・・・・圭織のことやったんや」

 中澤が飯田に近づく。
 学校、辞める辞めないで矢口が説得した子。
 だから。
 事情は何となく、わかったから。

「学校、辞めんですんだんや?」

「うん・・・・・・まだ福祉相談所とか、いろいろややこしい手続き残ってるけど」

「そっか」

 ぎゅっと。
 そのまま何も言わず。
 中澤は飯田を抱きしめた。

「・・・・・・圭織、裕ちゃんと知り合いだったんだべさ?」

 しばらく。
 何だかわけありな二人の雰囲気に飲まれて。
 傍観者になっていた後藤と安倍だったが。

 中澤が飯田を抱きしめるにいたり。

 やっと安倍が口をはさんでくる。

「昔のな。・・・・・・・もう3年くらい前か?」

 腕を解いて。
 中澤は優しい眼で飯田を見つめた。

「そ〜だね」

 照れたように飯田は、はにかむ。
481 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:09
「後藤、話見えない」

 てか、圭織もお餅、食べる?

 まだ食ってたんかいっ。

 お約束のようなやり取りと。
 妙に優しい空間。

「やってみるか?」

 不意に中澤がニヤリ、と笑う。

「圭織、あれから全然ボール触ってないよ」

「ハンディやるから」

 コート内で対峙する二人。

 三年前。
 全日本の合宿に呼ばれた高校二年生の少女がいた。
 天性の勘を持つ、ポイントガード。
 期待を裏切らない動き、将来は全日本入り確実と言われながら。
 家庭の事情、という理由で。
 バスケを辞めた。

「ずっと探してたんやで」

 バンバンバン。
 軽いドリブル。
 軽やかなステップを踏みながら。
 中澤は右へ、左へと動く。
482 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:09
「知ってた」

 久々にしては飯田の動きも軽快で。
 ぴったり中澤をマーク。

「なら、連絡してこいや」

「だって、裕ちゃん怖かったんだもん」

 ・・・・・・・・・。

 思わず絶句した中澤の手からボールが少し浮く。

 飯田は軽々とボールをカットして、今度は攻守逆転。

 飯田をマークしながら。

「ひどい言い草や・・・・・否定できんけど」

 中澤は小さく笑う。

「うん、だいぶ丸くなったんじゃない?」

 しゃべりながら。
 飯田はゴール下までボールを持ち込む。

「そら歳も食うはずや・・・・ってちゃうやろっ」

 無理な体勢から放った飯田のシュートは。
 あっさりと中澤の手にはじかれる。
483 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:10
「そんな風に笑わなかったじゃん、昔は」

 転がるボールを拾いにいこうともせず、中澤と飯田は向き合ったまま。
 中澤は髪の毛をかきあげる。

「余裕、なかったもんなぁ」

 照れくさそうに、笑った。

「実業団のチーム、廃部になるんだってね」

 飯田の言葉は唐突だった。
 うまく表情を作れなくて、中澤は眉をしかめる。

「バスケ、続けるの?」

 真っ直ぐな飯田の黒い眼。
 自分の迷ってる気持ちが見透かされそうで。
 中澤は視線をそらした。

「裕ちゃんがど〜してるのかな、ってのは新聞見て思ってたよ。・・・・・こんなとこで会うとは思って
なかったけど」

 転がってるボールに手を伸ばし。

「圭織が心配する筋合いじゃないかもしれないけどさ」

 飯田は寂しそうに笑った。
484 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:10
 中澤は飯田からボールを受け取り。
 そのままひょい、とシュート。
 見事リングのど真ん中をくぐりぬけたボール。

「・・・・・・・・どんな形でも、バスケ続けれたらいいなぁってのは思っとる」

 今後は未定や。

 くしゃっと中澤は飯田の頭を撫でる。

「圭織はもうバスケやらんのか?」

「・・・・・・・」

 困ったような表情になる飯田を見て。

「また練習付き合ってな」

 それ以上は何も言わず。
 中澤はコートの整備に取り掛かった。

ーーーーーーーーーーー
485 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:11
 中澤と会ってから。
 飯田は無言だった。

 帰り道。
 自然と。
 安倍と後藤も何となく声、かけづらくて。

「圭織、真面目に働いてるかい?」

「うん、お母さんも助かってるってさ〜。お給料そんなに出せないのが申し訳ないけどって」

 沈黙に。
 耐え切れないのは後藤も一緒だったのだろう。

 矢口がどんな風に飯田と話をしたのか。
 しばらく音信不通になった後、後藤の所に飯田から連絡があった。
『ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします』
 まだ、迷ってるような表情を見せつつ。
 それでも、後藤の親に頭を下げに来た。

「どうなることかと思ったけど、もう一ヶ月だしね〜。やっと落ち着いてきたんじゃない?」

「そうだといいけどね〜」

 相槌を打ちながら。
 安倍は前を歩く飯田の背中を見つめていた。

 飯田がバスケをやってたこと、初めて知った。
 バスケをしている姿が何だか遠くに見えた。
486 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:11
 ・・・・・・・・圭織、何考えてるんだい?

 初めて会ったのは東京で。
 同じ北海道出身ということで盛り上がった。
 飯田が家のことでもめ始めて。
 距離を感じ始めていた。
 きっと嫌われているんだろうな〜と思って。

「・・・・・・・・なっち?」

 ふと気付くと。
 飯田と後藤が立ち止まっていた。

「後藤たちこっちだから」

 飯田が心配そうに安倍を見ている。

「ごめん、ぼんやりしてたよ」

 安倍は笑ってみせる。

「また明日。・・・・・・明日、矢口休みだったら裕ちゃん誘ってお見舞いでもいこっか?」

「それい〜ね〜」

 後藤は大きく頷いて。
 飯田は・・・・・・。

「圭織、店の手伝いあるから」

 申し訳なさそうにぺこり、と安倍に頭を下げる。

「そっか・・・・・そうだよね」

 こっちこそごめん。

 気をつけてね〜。

 二人に見送られ。
 安倍の足取りは重い。
487 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:11
 後ろから、足音が聞こえてきて。

「なっち!」

 飯田が息を切らせていた。
「ごっちんのこととか、学校のこと。ありがと」
 一気に言って。
 その勢いのまま包みを差し出す。

「クリスマスにはまだ早いんだけどさ。圭織、一月から復帰ってことになると思うから。先渡しとく」

 まさかそんな言葉を聞けるとは思ってなくて。
 安倍は驚いた表情のまま固まる。

「んじゃね」

 照れくさそうに笑って。
 飯田は再び駆け出していく。

 それを眺めながら。
 安倍は嬉しそうに笑っていた。

ーーーーーーーー
488 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:12
 頭、痛い。
 気持ち、悪い。

 矢口は、ベッドの中。

 一人、うが〜となっていた。

 一人暮らしで風邪なんてひくもんじゃないな〜。
 何度も思ったことをもう一度繰り返し思って。

 ご飯、めんどくさい。

 薬、めんどくさい。

 ・・・・・・・・眠っちゃおう。

 明日になれば。
 少しはましになってるはず。

 動けないんじゃん。

 そんな心の声は無視して。
489 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:12
 悪い、夢を見ていた。
 逃げれない蟻地獄。
 もがいてももがいても、沈んでいく身体。
 頭の中、立体化したパズルがごちゃごちゃと飛び回っている感覚。

 浅い眠りの中。

 携帯が、鳴った・・・・・ような気がした。

 頭元に置いてあった携帯。
 メールが来ていた。

 内容を確認して・・・・・内容はよくわからなかったけれど。

 矢口はふらり、と立ち上がった。
490 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 23:12
 矢口のアパートの前。
 中澤は迷っていた。
 何も言わずに帰るかどうか。
 近くの公園で練習して、終わったのはもう12時まわっていた。

『やぐっつぁんはね〜、何か体調悪いんだって。早退しちゃった』

 コンビニで食べやすそうなうどん系統に、ジュース、果物の缶詰め。

 勿論明かり消えてる部屋の外。
 玄関のドアノブにひっかけて。
 メモ用紙なんて気のきいたもん持ってるわけないし。

  見舞い。玄関のとこ置いとく。無理したらあかんで。中澤

 一本のメール送信。

 早く元気な顔見せてな。

 何となく、その一文は照れくさくて送れんかった。

 ぽりぽりと頬をかいて。

 さて、ジョギングして帰るか。

 大きく伸びをして。

 静かな住宅街。
 いきなり、ガタガタガタン、という派手な音が響いて。

 先ほどまで閉まっていたドアが。
 いきなり開いた。

「・・・・・・・・っ!!」

 ドアを開けた瞬間、崩れ落ちそうな人影に、中澤は思わずダッシュ。

 崩れ落ちる前に抱きとめて。

「・・・・・・・矢口?」

 熱っぽい身体。
 苦しそうな呼吸音。

 それでも。
 矢口の腕はしっかりと中澤の服の裾を掴んでいた。
491 名前:つかさ 投稿日:2003/12/19(金) 23:20
>>474 名無し読者さん
>今日中澤さんのラジオ聞き逃した〜(泣
それ見て、あ、しまったと自分も思いました(笑)
ついでに言うなら増刊号、9時からって早いっすよね・・・ほっとんど聞けてない(苦笑)
ビター風味・・・・甘く・・・・・なんのかなぁ?
なればいいなぁとは思いつつ。
どうなるかは矢口さん次第、まだ決まってません(おい)

>>475 名無し読者さん
>何気ない二人のかけあいイイ!!
自分も書いててどんどん長くなっていく二人の会話に戸惑いつつ・・・楽しいです。
>姐さん、もうバスケしないんですかね……
本格的にやるかどうかは・・・・そこも迷ってるとこではあります(苦笑)

やっと半分くらいっす。
寒い時に寒い話・・・・はじめてかも、とか思いつつ(笑)
っつ〜か飯田さんに安倍さん・・・・当初予定してた設定とまったく違う動きして
くれまして・・・・ま、なんとなかなるか(おい)
492 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/20(土) 21:24
飯田さん問題はひとまず解決です…ね。
と、思ったら矢口さんが大変なことに!!
493 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 17:17
つかさん復活してくれてありがとう〜!!
やぐちゅーっていいです。本当に。
494 名前:つかさ 投稿日:2003/12/26(金) 07:48
仕事納めが31日ということもあり、今ごっつ忙しいのもあるんですが。
ちょっと諸事情あり(PCできる環境から離れるもので)年内更新が無理になりました。
年明け三が日くらいには更新したいと思ってます。

申し訳ありません。

年明けたらさくさくといきたいと思います。

読者の方、良いお年を〜ということで。
来年もよろしくお願いします(ぺこり)
495 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/28(日) 02:02
大人しく待ってまーす。
体に気をつけて・・・お仕事頑張って下さい。
つかささんも良いお年を〜。
496 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:07
〜〜〜7〜〜〜

「・・・・・・せっかくのクリスマスイブ・・・・・・・」

 矢口はこたつに入りながら、ぼそっと呟いて。
 眼の前で嬉しそうに缶ビールをあけている人物を睨む。

「あん?」

 テレビに視線をやっていた中澤は聞こえなかったのか、首を傾げる。

「ど〜してオイラは裕子と一緒にいるんだよっ!!」

 箸を握りしめて。
 目の前には湯豆腐がほかほかと、湯気をあげていて。
 まぁそれは百歩譲って全然構わないのだが。

「・・・・・・・・アンタが身体治さんからやろうが」

 中澤に呆れたような視線を向けられて。
 矢口は頬を膨らませる。

「オイラが悪いのかよっ!!!」

「うん」

 即答されて。
 矢口はがっくりと肩を落とす。

「だいたいなぁ、熱が38℃も9℃もあるような奴がバイト行くか?そら治らんっちゅ〜話や。
諦め」
497 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:07
 再び視線をテレビに戻した中澤の横顔は。
 怒っているのか冷たい感じ。

 ・・・・・・・・・・・・・。

 そりゃさ、確かにさ。

 寝込んだ次の日。
『は?バイト?アンタ何言うてるん?』
 起きて中澤がいるのにも驚いたけれど。
 無理矢理、中澤が止めるのも聞かずにバイト行って。
 途中でぶっ倒れて。

 ・・・・・・・・・・。

 晩、仕事終わった中澤が心配そうに見舞いに来たのに、八つ当たりしかできなくて。

 それでも。
 呆れた顔しながら、中澤は看病してくれた。

 結局あれから一週間。
 寝込み続けて。
 中澤はしゃ〜ないな、といった風に。
 仕事帰りや、自分のバスケの練習が終わって矢口の家に寄るようになっていた。

 矢口、ありがとうも言ってないのに。

 矢口が悪いのわかってるけどさ。

 素直に甘えれない気持ち。

「・・・・・・・・・気持ち悪いんか?」

 気付くと。
 箸を止めて俯いてしまっている矢口を中澤が心配そうに覗き込んでいた。

「美味しくなかったか?」
498 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:07
 矢口は、微笑む。
 最初、作ってくれたお粥はとてもお粥と呼べる代物ではなくて。
 ご飯に芯は残ってるわ、生煮えで。
 それに比べればだいぶ進歩したと言えるだろう。

 大きく首を横にぶんぶんと振る。
 中澤はほっとしたように笑って。

「でもさぁ、オイラそろそろ他のモン、食べたい」

 ここ一週間の食事。
 うどんに、雑炊に、お粥に、湯豆腐など。
 うどんでも、鍋焼きうどんに天ぷらうどんに野菜うどん・・・・・・一応気は使ってるらしいが。

「・・・・・・・・・・・・・」

 中澤は眉間に皺を寄せる。

 面白そうに矢口は中澤の表情を観察していて。
「オイラ、教えるからさ〜。切って煮込むだけじゃ料理って言わないんだよ?」
 むぅ、と中澤は拗ねた表情。

 そのままゴロン、と横になってしまう。

「・・・・・・・・なぁ矢口」

 怒らせたかな?
 首を傾げた矢口の耳に。
 ちょっと弱気な中澤の声が飛び込んでくる。

「ん?」

 なるべく優しい声を出そうとして。

 それでも。

「ここにアタシ、置いてくれへんかなぁ?」

 はい?
 耳に飛び込んできた言葉に一瞬絶句する。
499 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:08
 中澤はムクリ、と起き上がって。
「今月一杯で仕事終わりやねん。寮出てかなあかんくて・・・・・・部屋借りてもええねんけど、金かかるし、
もしかしたら次の仕事、東京じゃないかもしれんし。あかん?」
 真面目に矢口の眼を見つめる中澤。

「生活費は折半で・・・・・・いや、迷惑かける分ちょっとは余分に払ってももええし、そんなに長いことには
なれへんと思う」

 三ヶ月くらい、次の仕事決まるまで置いてくれへんかなぁ?

 ・・・・・・・・だからそこで土下座すんなって・・・・・・・。

 矢口はため息をつく。

「1Kだよ?」

「背に腹は変えれんっ」

「・・・・・・・・・・断って欲しいんだ?」

 慌ててぷるぷると首を横に振る中澤がおもしろくて。
 小さく矢口は笑う。

「もし矢口が誰か連れ込むときは言ってくれればどっかで泊まってくるし」

 ばこっ。

「嫌味かよっ」

「殴ってから突っ込むなやっ」

 何だと〜。
 殴られたお返しとばかりに矢口は中澤の頬をつかむ。
「やぐひ、ひたい・・・・・・ひたいって」
500 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:08
 お互い、クスリ、と笑いあった。

「・・・・・・・んで、どうかな?」

 真剣な顔つきになる中澤。

「・・・・・・・ここで矢口が断ったらど〜なるわけ?」

 答えは決まってるけど、ちょっと意地悪。
 不意に。
 中澤が真顔になった。

「・・・・・・京都に戻るか・・・・・・そやな、こっちで家借りるか・・・・・・まぁ一旦実家には戻ることになる
やろうね」

 ちょっと唇の端をあげて。
 笑おうとして、中澤は失敗する。

「こっちで矢口の学校のバスケ部のコーチ一月一杯までっつ〜のも決まってるねん。もしホンマに
迷惑なんやったらそれまででもええし・・・・・アカン?」

 情けない表情。
 でも。
 その視線は真っ直ぐだ。

「・・・・・・・・矢口だって、生活ちょっとは楽になるやろ?無茶なバイトせんでも良くなるやろうし」

 不意に柔らかく微笑まれて。

 あ。

 矢口は不意に思い出す。
501 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:09
 クリスマス、正月ってのは稼ぎ時なんだよ〜。

 無理にバイト行こうとして、止める中澤に向かって口走った言葉。

 裕ちゃんにはわかんないよっ。

 その時。
 自分がどんな眼をしていたのか。
 どんな口調だったのか。

 わからないけれど。

 何だかその時。
 中澤は寂しそうな眼をして。
 引き止める腕を止めたっけ。

「・・・・・・・・裕子」

 もしかして。
 もしかしなくても。
 あの時のあのセリフ。
 気にしてる?

 急に黙り込んでしまった矢口。

「お互いにとってプラスやん。情けは人のためにならずって言うやろ?・・・・・ホンマ、頼む。お願いします」

 そんな矢口に気付いているのかいないのか。
 中澤の態度はあくまでも低姿勢。

「絶対矢口には迷惑かけんからっ」

 必死な口調に。
502 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:09
 ・・・・・・・・・・・・。

 矢口の頬が緩んだ。

「いいよ、迷惑かけても」

 え?

 ちょっと驚いた顔になる中澤に向かって。

「同居人になるんだろ?気使ってもらっても楽しくないしさ。オイラも迷惑かけることあるだろうし。
今回みたいにさ。だからさ、え〜と」

 矢口はぺこり、と中澤に向かって頭をさげた。

「オイラこそよろしくお願いします」

 ゆっくりと。
 中澤の顔に笑みが広がって。

 差し出された、手。

「ありがと。こっちこそよろしく」

 照れくさそうに笑った顔に。
 矢口も照れくさそうに笑い返した。

「やば、もうこんな時間や」

 不意に中澤が時計を見て。
 慌てて帰り支度を始める。
503 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:09
「泊まってけばいいじゃん?」

 てっきりそのつもりだと思っていた矢口は不思議そうな顔をするが。

「仕事やっちゅ〜ねん。明日早出やし。片付けは置いといてくれればアタシ明日するし」

 ぽりぽりと頬をかき。
 中澤は立ち上がる。

「・・・・・・もう熱さがったし、大丈夫だよ」

 見送ろうと矢口も立ち上がるが。

「ええよ」

 あっさりと中澤は首を振って。

「鍵、ポスト入れとく」

 ちょっと照れたような顔で・・・・・・。
 ん?
 何で照れた表情なんだ?

 矢口が疑問に思う間もなく。
 風のように中澤は立ち去っていった。

 何故中澤が照れたような顔してたのか。
 次の日、久々のバイトに出かけようとした矢口は。
 玄関先に置かれている見慣れない紙袋を見つけて。
 カードには。
『メリークリスマス あんまり心配かけんなや 裕子』
 中に入っていたのは毛糸の薄いクリーム色のマフラーに手袋。

 ・・・・・・・・・・してやられた。

「普通に渡せよな〜」
504 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:10
 でも。
 中澤らしいと。
 玄関先、矢口は笑みを漏らす。

「やば、遅刻しちゃう」

 余裕を持ってたはずなのに。
 バタバタと駆け出す羽目になったのは、矢口の首に巻かれたマフラーと手袋のせい。

 クリスマスは大好き。
 キラキラ光るイルミネーション。
 街行くカップルは増えるけど・・・・・・。
 ワクワク、心浮き立つ気持ち。
 誰かにプレゼント。
 喜んでくれるかな、とか、ドキドキする気持ち。
 超不安なんだけど、超楽しい。

 ・・・・・・・・寂しさが、薄れる気がして。

 クリスマスなのに予定なかったのかよ?

 悪かったな。

 昨日。
 憎まれ口叩いたら、こつん、と頭の上に拳骨がふってきた。

 ありがとう、とか。
 そんなセリフ、素直に言えなかったけれど。
 きっと裕ちゃんが来てくれなかったら、矢口泣いちゃってたような気がする。

 本当に暇だったから来たのかもしれない、なんて。
 あんまり思わない。
 凄く、疲れた顔、してた。
505 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 23:10
 大人な思いやりと優しさ。

 居心地いい空間。

『矢口だって、生活ちょっとは楽になるやろ?無茶なバイトせんでも良くなるやろうし』

 そう言われた時。
 同情されたような気がして。
 嫌だった。

 矢口は一人でもちゃんとできるよ。

 天邪鬼な気持ちが湧き出してきて。

 でも気付いたんだ。
 心配されて当たり前だよなって。

 そして。
 何だか嬉しかった。

 甘え方を覚えるよ。

 憎まれ口じゃなくて、ありがとうって。
 いつかちゃんと伝えたいな。
506 名前:つかさ 投稿日:2004/01/03(土) 23:18
>>492 名無し読者さん
>飯田さん問題はひとまず解決です…ね。
はい、ひとまず・・・・ですね(笑)飯田さんにはもう一働きしてもらいます。

>>493 名無し読者さん
>やぐちゅーっていいです。本当に。
そうですね。今日のハロモニで絡みがあって嬉しかったっす。
欲を言えば着物姿の姐さんも見てみたかった・・・・。

>>495 名無し読者さん
>体に気をつけて・・・お仕事頑張って下さい。
どうして年末ってこんなに忙しいんだろう・・・と思いつつ。
去年はまだもうちょっと時間とれたんですが。
とりあえず頑張りました(苦笑)

明けましておめでとうございます。
今年もまた〜りと更新していければなと思ってますんで。
ただもしかしたら3月くらいに引越しの可能性があります。
どうなるかはわかりませんが・・・

今年もやぐちゅーまっしぐらで突き進んでいきたいものです(笑)
507 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/04(日) 00:54
あけましておめでとうございます。
今年もやぐちゅー患者をよろしくお願いします。
お年玉の更新だ〜!!
ぜひやぐちゅーまっしぐらで突き進んでください。(w

えっ・・・一緒に住んじゃうのですね。ますます楽しみです。
508 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:13
〜〜〜8〜〜〜

 年末。
 バタバタと慌しく時間が過ぎていく。
 結局中澤の引越しは年明けしょっぱな、ということになり。

「裕子、引越しの準備どうよ?手伝いに行こうか?」

 クリスマス前後バイトを休んでしまった手前、人手が少なくなる年末年始。
 矢口のスケジュールはかなり過密状態にはなっていたのだが。

 比較的早く終わったバイト帰り。

 矢口は中澤に電話していた。

「いや、ええよ。だいたいは終わったし。なっちも手伝いに来てくれててん」

 柔らかいトーンの関西弁。
 やっぱり好きだなぁと思いつつ。
 意外な人物の名前を聞いた気がして矢口は首を傾げた。

「なっち?」

「うん」

 変わろか?

 なんて。
 あっさりと中澤は言って。

「矢口〜?お疲れ」

 聞きなれた声。

「・・・・・・・・・あけましておめでと〜」

 何で裕ちゃんとこいるの?

 思わずその言葉は飲み込んで。
 矢口はありきたりな新年の挨拶を口にする。

「そ〜だったよ。あけましておめでと、今年もよろしくね」

 きっとにっこり笑ってるのだろう。
509 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:13
 何やねん、アタシにはそんな挨拶せんかったくせに。

 受話器越しに聞こえる中澤の不満そうな声とか。

 心がざわつくのがわかって。
 矢口はぎゅっと携帯を握りしめる。

「もう身体、大丈夫かい?」

「あ、うん。も〜全然絶好調っ」

「そりゃ良かったべさ」

 小さく笑う声。

「矢口?」

 不意に。
 電話の相手が中澤にチェンジされた。

「なっち来てるんだったら大丈夫だよね、うん。オイラ明日も早いし今日はさっさと帰って寝るよ。
裕子は今日はそっちに泊まるんだろ?」

「え?まぁ・・・・・そのつもりやけど」

「うん、ならい〜や。あんまりなっちこきつかったら駄目だよ〜」

「そんなんするかっちゅ〜ねん」

 中澤の笑い混じりの返答に。

「・・・・・・また連絡入れるよ。ちょっとオイラ忙しいから。んじゃね〜」
510 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:14
 え?
 そんな声が聞こえたような聞こえなかったような。

 速攻で切ってしまった携帯を見つめ。
 な、なんだ?
 戸惑う、気持ち。

 後でフォローの電話いれとこ。

 小さく矢口はため息をついた。

 何でこんなに動揺してるのかわからないけど。

 気分転換して帰るか。
 真っ直ぐ家に帰ろうとしていた足は。
 そのまま。
 繁華街の方に向いた。

ーーーーーーーーーーー
511 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:14
 夜十時をまわって。

 矢口はいきつけのバーを出た。

 ・・・・・・酔えなかった、な。

 基本的にお酒には弱くて。
 ちょっとだけでも、いい気分になれるはずで。

 ふ〜。

 軽くため息をついて。

 矢口は携帯を取り出した。

 コール音三回で。

「もしもし」

 つながるライン。

「矢口?」

「うん、そ〜だよ」

 少しの沈黙。

「さっき何かあったんか?」

 心配そうな声に。

「別に・・・・・何も。裕ちゃんこそちゃんと準備進んでる?」
512 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:15
 話題を変える。

「おう・・・・・・明後日には引き払えそうやわ」

 あえて深く追求してこない中澤。

「そっか。・・・・・筋肉痛とかなってるんじゃないの?」

「一応これでもスポーツ選手なんやけど」

「・・・・・そういやそうだった」

「忘れてたんかいっ」

 笑いあう。
 うん。
 いつも通りしゃべれてんじゃん。

「そ〜いや荷物、こっちに送らなくて大丈夫なの?」

「服くらいやろ?後は全部預かってもらったり処分したし。それに矢口の部屋にアタシの荷物入れたら
寝るとこなくなりそうやん。矢口はちっこいからいいやろうけどな」

「・・・・・・・裕子の寝るとこ、ベランダね」

「わ、ちょ、冗談やって」

「冗談に決まってるだろ〜が」
513 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:15
「・・・・・・・・・性格悪いで・・・・・・」

「やっぱベランダっ」

 冗談みたいなかけあい。
 心がざわついたことなんて忘れて。

 外にいること、ばれたら怒られそうで。
 ちょっと路地に入ってしゃべっていた矢口の耳に。
 いきなり。

 パァ〜〜〜ン。

 車のクラクションの音が飛び込んできた。

 表通りで誰かが鳴らしたのだろう。

 げ。

 思わず、黙り込む。

「ん、んじゃ、またね・・・・・・・」

「・・・・・・・ちょっと待った」

 先ほどまでの声から、1トーン下がった中澤の声が。
 携帯から響いてくる。

「アンタ今、何処おんねん?家ちゃうんか?」
514 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:16
「・・・・・・・あ、いや・・・・・・・喉渇いたからちょっとコンビニまで・・・・・・・」

「んで、その出先のコンビニでアタシに電話せなって思ったって?・・・・・・・・そんなん信じると思って
んか?」

 ・・・・・・・・・・・・。

 思わず。
 誰だよ、クラクションなんか鳴らしたのっ。
 心の中で罵声を浴びせる。

「何処おんねん?」

 静かな・・・・・怒りがびんびん伝わってくる声に。
 矢口が居場所を言わされたのは勿論で。

 きっかり15分後。

「このアホっ!!!」

 中澤はすっ飛んできた。

「病み上がりってわかってんか?」

 プレゼントのマフラーをもう一度。
 きっちりぐるぐる巻きにしながら。

「アンタ酒飲んでるな?」
515 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:16
 ぎろっと睨まれて。

「あ、いや、え〜と・・・・・・」

「・・・・・・身体、冷えとるやん」

 頬に手を当てられた。

「ごめん」

 そう言ったきり。
 落ちつかなく視線をさまよわせる矢口に。
 ふぅっと。
 中澤はため息をつき。

「明日はアタシの家から行き」

 強引に矢口の手をとって歩き出す。

 どうやってこんなに早く来れたんだろう、という疑問は。
 大通りにかなり乱暴に駐車されてる車によって解決したんだけれど。

 中澤の住む寮にたどり着いた時。

「・・・・・・・姐さんっ!!!アタシの車・・・・・・無事なんでしょうねっ!!!」

 寒空の下、駐車場をウロウロとさまよう不審者・・・・・もとい、中澤の同僚。
516 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:16
 借りてきた、と言ったその言葉はどうやら。
 強奪した、とも言えるらしく。

「あぁ良かった・・・・無事や・・・・・」

「当たり前やろ〜、それよりありがとな、助かったわ」

 車から降りて。
 何事もなかったような中澤に。

「まだ二年もローン残ってるんですからねっ。何かあったらど〜してくれるんですかっ!!」

 噛み付く同僚・・・・・。

「形あるものはいつか壊れるんや、だから眼に見えないもの、大切にしよ〜な〜」

 のほほんとのたまう中澤にがっくり肩を落とす同僚。

 見事な漫才に。
 あっけにとられていた矢口。
 その同僚が前、試合を観に行った時のチームメイトだと気付き名前を思い出したのは。
 しばらくしてからで。
 その名前は平家みちよという・・・・・・。

ーーーーーーーーーーー
517 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:16
「んで?」

 雑然とダンボール箱がいっぱいの部屋。

 汚くてごめんな〜、などというセリフを。
 中澤が言うはずもなく。

 お風呂に放り込まれて、これでもかっていうくらい着込まされて。
 矢口の目の前にあるのは暖かいポタージュスープ。
 インスタントなのだが。

「・・・・・・・・いや、え〜と、あの」

 困ったような矢口を前にして。
 中澤は髪の毛をかきあげる。

「アタシも遊びに行くなっつってるわけやないで?でも明日もバイトやろ?忙しいんやろ?
矢口、酒なんてあんま飲めへんやろ?病み上がりやろ?おかし〜やん」

 真っ直ぐな瞳に。
 矢口は俯く。

「何かあったんか?」

 心配そうな眼。

「それとも・・・・・・アタシと住むの、嫌か?」
518 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:17
 へ?
 不安そうな声。

 矢口は慌てて顔をあげる。

 そのままぶんぶんと勢いよく首を横に振る。

「そんなんじゃないよ、そうじゃなくて・・・・・・ただ」

 ただ、何なんだろう。
 黙って矢口はカップを手の中でいじる。

「・・・・・・・・なっちと裕ちゃんってさ。仲いいんだ?」

「はい?」

 きょとんと。
 不思議そうな表情に。

「何か妬けちゃったんだよ」

 知らない間に。
 自分だけ取り残されたような気分。
 もやもやとした気持ちはきっとそう。
 あんまり気付きたくなかったし。
 ましてや言うつもりもなかったけどさ。

 むぅ、と。
 拗ねたような矢口。

「・・・・・・そ〜ゆ〜ことだから」

 その顔は、赤い。

「・・・・・・・」
519 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:17
 中澤はそんな矢口をしばらく黙って見つめて。
 すっと、矢口の横に移動する。

「一個だけ聞いてええ?」

 ん?
 頬に手を添えられて。
 上を向かされて。
 何だ?

「どっちに妬いたん?」

 え、え、え?

 クエスチョンマークが飛び回る頭の中。

 眼を瞑る間もなく。
 中澤の唇が。
 矢口の唇をふさいだ。

 時間にして一秒、もしくは二秒。

 一瞬触れて。
 あっという間に離れた。

「ま、どっちに妬いてても構わんけど」

 いたずらっぽい眼の中に。
 驚いたまんま固まってる自分の姿。

「矢口、女同士の恋愛ってあかんと思う?」

 そのままとんでもないことを言い出す中澤に。
 やっぱり矢口はフリーズ状態。
520 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:18
「アタシ、別にどっちでも構わん主義やから、矢口やったらいつでもOKやで?」

 ・・・・・・・・・え〜と。

 とりあえず。

 バコ。

「・・・・・・アンタなぁ・・・・・・」

 頭殴られて。
 中澤は苦笑い。

「いたいけな年下からかって遊ぶんじゃね〜よ、裕子の馬鹿っ!!」

 何が起こったのかやっと理解できて。
 顔が赤いままなのは、驚いたからっ。
 それ以外あるはずない。

 ずるずるとお尻を移動させて中澤から距離をとる。

 威嚇するように中澤を睨みつける矢口だが。

「可愛いな〜」

 ・・・・・・・・・その言葉にますます顔を赤くする。

「まぁ、覚えといてや。んでもって、明後日からよろしくな」

 う?
521 名前: 投稿日:2004/01/04(日) 23:18
 あぁそうじゃん、一緒に住むんじゃんっ!!!

「・・・・・・矢口に手、出すの禁止だかんな」

「・・・・・・なるべく努力するわ」

「マジでベランダに寝かすかんなっ!!!」

「できるもんならやってみぃ」

 ニヤニヤと人の悪い笑みに。
 これからの生活に一抹の不安を覚えつつ。

「矢口、明日早いんやろ?ほら、おいで」

 一緒に寝ることに拒否感は覚えない。

 でも、まぁ。

「手、出したらもう口きかないかんなっ」

「はいはい」

 大人の余裕の笑み。
 いつか。
 壊してやる。

 暖かい腕の中。
 まどろみの中。

「好きやで」

 そんな声が聞こえたような聞こえなかったような。

 矢口は穏やかな眠りに落ちていった。
522 名前:つかさ 投稿日:2004/01/04(日) 23:25
>>507 名無し読者さん
>えっ・・・一緒に住んじゃうのですね。ますます楽しみです。
一緒に住む前に・・・・ちょっと一波乱。
姐さん積極的だな〜(我ながら他人事)

久々に姐さん、積極的。
ん〜、でも矢口さん、反応うすっ。
まぁおいおい・・・・(本当かよ 笑)

辻加護びっくりしましたね。なんか・・・卒業慣れしていくな〜。
矢口さん・・・ちゃんと泣いてまた全開の笑顔、見せてください。
523 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/05(月) 15:00
告白キターーーー!!
姐さん……手、出しちゃえ(笑
524 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2004/01/07(水) 02:48
同居生活キター!
これからも、こっそり拝見させて頂きます
525 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:52
〜〜〜9〜〜〜

「裕子っ。起きろ。朝だぞ」

 二人暮らしが始まって。
 意外なくらい二人の生活はうまくいってる。
 楽だな〜というのが矢口の感想で。
 中澤はの料理の腕もあがった。

「う〜」

 中澤の寝起きの悪さも初めて知った。

「・・・・・・コーヒー冷めるぞ、もお」

 ぺちぺちと頬を叩く。

「ん・・・・・おはよ」

 やっと中澤は眼をあけるが。

 ・・・・・・・・・・怖いって。

 どう見ても睨んでるようにしか見えない目つき。
 矢口はため息をつく。

「起きたね?んじゃ矢口、もう行くからな?戸締りちゃんとしといてよ?」

「・・・・・・・うん」

 告白らしきもの、をしたはずの中澤だったが。
 あれ以来、特に矢口を意識したような言動をすることもなく。
 バスケの練習と就職活動にいそしんでいる。

「んじゃ、学校でねっ」

 バタバタと。
 慌しい足音だけ残して矢口は出て行く。

「ん〜」

 とりあえず、シャワーでも浴びるか、と。
 中澤は起き上がり。
 コキコキと首をまわす。
526 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:53
『誕生日?』

 昨日の晩。
 びっくりしたように矢口はこっち見つめてきた。

 そんなに驚くようなことかぁ?と思いつつ。
 コクリと中澤は頷いた。

『明日、矢口、誕生日やろ?やから』

 安倍に教えてもらった。
 ご飯でも食べに行かん?
 そのセリフはあっさりと矢口にさえぎられる。

『別にいいよ。プレゼントもいらないかんな?』

 妙に威圧的だった視線。

 首を傾げた中澤に。

『いらないから』

 もう一度きっぱりはっきりくっきり、中澤が頷くまで念を押されて。

 シャワーを浴びながら、中澤はん〜と大きく伸びをする。
527 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:53
 矢口が煎れてくれたコーヒーを飲んで。
 ジョギング。
 近くの大き目の公園で。

「おはよ〜」

「おう、早いな」

 飯田が待っていた。

 肩を並べて一緒に走る。

 特に何を話す事もないが。

 中澤が誘ったわけではない。
 朝、その公園で走ってる。
 偶然、その話をしただけで。
 次の日から飯田もその公園に顔を出すようになった。

 初めて一緒に走って。
 飯田にペースをあわせようともせずに走る中澤に、飯田は息も乱さずについてきた。

 多分、一人でずっとトレーニングしてきたんだろう、と。

 何を言うわけでもなく、わかった。

 5キロ走りきって。
 温まった身体。
 芝生の上、二人で寝転がる。

「何かあった?」

 不意に飯田が問い掛けてきた。

 ・・・・・・・・・。

 飯田にはこ〜ゆ〜ところがある。
 妙に、聡い、というか。
 ひらめき、というか。
528 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:53
 一緒にプレーしてた時。
 どうしてお前はそんなとこにいるんだ?
 不思議なポジションに不意に飯田がいることがあった。
 ポイントガードは普通、そこにおらんやろ?
 でも、そ〜ゆ〜時に限って。
 絶好のボールがそこに飛んで。
 何度も試合の悪い空気を断ち切るプレーを見せ付けられた。
 あまりの不思議さに、一度尋ねてみたところ。
『ボールが呼んでるんだよ』
 ・・・・・・実に参考にならない答えだった。

 中澤は小さく思い出し笑いをする。

 こっちを見てくる黒い眼。
 相変わらず何を考えてるのかいまいち掴みきれないけど。

「矢口な、今日誕生日やん」

 こくり、と頷く頭。

「プレゼントいらん、っつ〜んや。・・・・・・何でやろなって思って」

 昨日から。
 何故だか頭を離れない。
 ・・・・・・・・矢口が、寂しそうな眼を、してたから。

「前のクリスマスプレゼント、そんなに趣味悪かったかな〜」

 中澤は飯田から眼をそらして。
 髪の毛をかきあげた。

 薄いクリーム色のマフラーに手袋。

 絶対似合うって思って。
 結構身につけてくれてるそれは、やっぱり良く似合ってる。
 ・・・・・・・・・欲目かもしれんけど。

「裕ちゃん、鈍感だね」
529 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:54
 ・・・・・・アンタには言われたくない。

 ジロリ、と中澤は飯田を睨みつける。

「あれ、やっぱり裕ちゃんからだったんだ」

 納得したように飯田は頷いて。

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 沈黙が二人の間に落ちる。

 中澤は頭をかしかしとかく。

「・・・・・・・一人で納得せんといてくれるか?」

 ぽつり、と呟いて。
 でも。
 答えを求める様子もなく、ストレッチ運動を始めた。

「矢口、あれ凄く大事にしてたからさ」

 飯田はじっと中澤を見つめて。
 そのまま同じようにストレッチ運動を始める。

「なら何で?」

 中澤は不意に動きを止めた。
 真面目な表情。

「アタシからのプレゼントが嫌やっていうわけやないんよな?」

 微妙に揺れ動く、視線。

 飯田は笑いを噛み殺して。
 真面目な表情になった。

「怖いんだよ」
530 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:54
 不思議そうな中澤の視線を真っ直ぐに受け止めて。

「矢口もさ・・・・・圭織もそうだったけど」

 甘え方、なんて教えてもらわなかった。
 家族、なんていまだにわからない。

「甘えたら自分が弱くなっちゃう気がして。だから素直になれないんだよ」

 戸惑いを浮かべる中澤に向かって。

「新しい仕事、見つかったら矢口のとこから出て行くんでしょ?」

 結局は、多分、そういうこと。
 また捨てられるのなら。
 その存在に甘えたくはない。

「・・・・・・・・・アホかい」

 くしゃり、と中澤は髪の毛をかきあげた。

「同じ道をずっと歩けるはずなんてないやろうが・・・・・・・人間っつ〜のは所詮一人や」

 強い瞳に。
 飯田は俯く。

「だからアンタは三年前、アタシに何も言わんかったんか?」

 無言が肯定の印。

 ふわり。
 ちょっと冷たい。
 でも暖かい腕が飯田を包み込む。

「人間は所詮一人やけど。支えあって生きてくもんやろ・・・・・・なっちがアンタのことどれだけ心配
してたかわかってるか?」

 飯田の方が背は高い。
 それでも。
 包み込まれる感覚。
531 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:55
「アタシも待ってた。同じチームでプレーはできんかもしれんけど。違う形かもしれんけど。
・・・・・・・・だから今、こうやってんのが嬉しいねんで」

 優しい言葉。
 飯田はやっぱり黙ってる。

「手に入れる前からなくすこと考えてどうすんねん。ホンマはアンタもわかってんのやろ?
だからこうやってここに来てるんやろうが」

 ぽんぽん、と飯田の頭を叩いて。
 中澤は身体を離す。

 泣きそうな顔して。
 飯田はじっと中澤の顔を見つめ。

「ケーキ買っとこっか」

 えへへ。
 顔をくしゃくしゃにして、笑った。

 その日の晩。
 相変わらずの体育館だったけれど。
 クラッカーにケーキにプレゼント。

 いらないって言ったじゃんっ!

 そう叫ぶ矢口に。

 アタシからちゃうもん。みんなからやもん。

 ぬけぬけとそう言って笑った中澤に。
 矢口は笑顔を見せた。

 誰だって。
 一人は嫌だから。
532 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:55
ーーーーーーーーーーーーーーー

「疲れた〜」

「やぐっつぁん、爆睡してたね〜」

 笑い混じりの後藤の声に。
 矢口はむくり、と身体を起こす。

「だって眠かったんだもん・・・・・ごっつぁん、ノート借してっ」

「・・・・・・・・ごと〜にそれ聞く?」

「自分で言うなよ・・・・・」

 ため息をつきながら。
 矢口はぐるっと教室を見渡す。

 飯田と安倍が楽しそうにしゃべってるのを見て。
 何となく顔がほころぶのが自分でもわかった。

「圭織、ノート借してっ」

 たまに交信している時もあるが。
 飯田のノートは比較的、まともだ。
 ま、あくまでも。
 意識があればの話だが・・・・・・。

 んでもって。

「ごめん」
533 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:55
 飯田の情けない表情を見て、矢口は肩を落とした。

「何だよ〜、久々にガッコ来て交信してりゃ世話ないじゃん〜」

 飯田なら確実、と思ってただけに。
 ふて腐れたセリフ。
 そんな矢口をじっと飯田は見つめて。

「ねぇ矢口。最近裕ちゃん、元気なくない?」

 不意に問い掛けられた質問に。
 矢口は首をかしげる。

「そぉ?・・・・・・ど〜かした?」

 本当に不思議そうな表情になってる矢口。

「矢口も気付いてないの・・・・・・・何か裕ちゃんのオーラが弱ってる気がして・・・・・・」

 そのまま。
 黙りこむ飯田を見て。
 矢口と安倍は顔を見合わせた。

「「?」」

 まぁ結論としては。
 良くわからなかったりするのだが。

「心配なら体育館行ってみよ〜よ〜」

 のほほんとした後藤の声に。
 ふむ。
 四者四様のうなずき。

「お前ら授業出んと何処行くんだ〜〜っ!!!」

 後ろから追っかけてくる教師の声は何のその。
 とりあえず。
 中澤が体育館に来るのも今月が最後。
 寂しく思ってるのはみんな、一緒だから。
534 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:56
 こっそり忍び込んだ体育館では。
 バスケ部の声が響いている。

「な〜んか凄いね〜」

「大会、近いって言ってたよ〜」

 こそこそそんな風に囁きながら。
 練習風景を眺める四人。

 コートの中には十人の選手。
 どうやらミニゲームの最中らしい。

 指示を出す中澤の動きに変な感じはうけない。

 矢口は黙って中澤を凝視する。

 真剣な表情。
 いいプレイが決まると、見せる笑顔。

「普通じゃん?」

 後藤が飯田に問い掛けるが。

 体育館に入ってから。
 飯田は一言もしゃべってない。
 ただじっと中澤を見つめている。

「・・・・・・・・・・・」

 矢口は黙ってチラリ、と飯田を見上げ。

「・・・・・・・・・・」

 再び中澤に視線を戻す。

「一月でコーチ終わりだから、元気なく見えるんじゃないの〜?」
 のんびりした後藤の声に。
 なっちが追随する。
「そ〜だね。・・・・・・・なっちも寂しいべ」
535 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:56
 飯田はちらり、とそんな二人を見て。

「矢口、わかる?」

 初めて、言葉を発す。

「・・・・・・・何となく」

 きょとん、とする後藤と安倍。
 二人に説明しようとする気はないのか。

「ならいいや」

 飯田はきびすを返す。

「なっち、ごっちん。帰るよ」

「え〜い〜じゃん。どうせ戻っても怒られるだけだしさ」

「なっち寒いべさっ。倉庫行って火鉢使おうよ〜」

 駄々をこねる二人に。
 飯田は苦笑いで。
 矢口は相変わらずじっと中澤を見つめて・・・・・睨みつけてる、と言った方が正しいかもしれない。

 丁度その時。
 練習が終わった。
 ホイッスルの合図とともに。

「んじゃ今日の練習は終わり。片付けやって帰り〜。今日はミーティングなしや」

「「「ありがとうございましたっ!!!」」」

 礼儀正しい声が響く。

「ちょ、矢口まだ駄目だって」

 終わりの声が聞こえた瞬間に、駆け出そうとした矢口を飯田は長い腕のリーチの勝利。
 矢口の首根っこを押さえる。
536 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:56
「なっちもごっちんも手伝うっ!!」

「「はい??」」

 仲良く二人首を傾げながら。
 とりあえず、暴れる矢口を押さえつける。
 小さい身体のどこからこんな力が出てくるのか。
 意外と矢口の力は強くて。

 バタバタ上で騒いでるうちに、どうやらバスケ部員も撤収したらしい。
 下からのんびりした声がかかる。

「あんたらな〜、一応まだ授業中やろ?そんなとこで何やってるん?」

 コートの上からこっちを見上げてくる視線。
 三人の腕の力が緩む。

「あ、こら矢口っ!」

 するり、と羽交い絞めにされてた腕から逃れて。
 矢口が向かうのは。

「裕子」

「・・・・・・・・・はい」

 矢口の勢いに押され。
 コートの上、中澤はちょっと引き気味。
 そんな様子に構うはずもなく。
 矢口はボールを差し出した。

「・・・・・・・・・・」

 じっとそれを見つめ。
 中澤は矢口に視線をやる。

「シュート、打ってよ」
537 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:57
 喧嘩腰の口調に。
 中澤は困ったように笑う。
 矢口はボールを押し付けた。

「・・・・・・・一本だけやで」

 何を言っても聞く気がないくらいの矢口の勢いに。

 矢口に続いてコートに降りてきた三人に笑ってみせて。

 中澤はぽんぽん、とボールを弾ませて、そのままフリースローの位置にボールを持ち込む。

 ゆっくりとボールを持ち上げ。
 眼を細める。
 視線の先はバスケットゴール。
 すっとかがむ膝に。
 伸びる腕。
 今まで何万回ときっと繰り返してきただろうそのフォームに狂いはないはずで。
 息詰まる静寂の中。
 ボールが腕からはなたれた。

 ボールの行き先なんか見なくてもわかる。

 わかるようになった。

 矢口は中澤がシュートをはなった瞬間、動く。

 ボールがネットを揺らした時。
 もう矢口は中澤と対峙、していた。

「・・・・・・・・・・・」

 シュートの感覚の名残を惜しむかのようにボールの軌跡を眼で追っていた中澤は。
 矢口が目の前に来てもなお。
 揺れるネットから視線を外そうとしなかった。
538 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:57
「いつからだよ?」

 主語も述語も一切すっ飛ばして。
 単刀直入な、言葉に。
 中澤は表情を動かそうともしない。

「病院、行ってるんだろうな?」

 きつい口調。
 中澤はやっぱり黙ったままで。

「・・・・・・・ごと〜、よくわかんなかったけど。裕ちゃん怪我、してるの?」

 のほほんとした声が、沈黙を破る。

「・・・・・・ひじだろ?」

 向き合ったまま。
 きつい眼差し。
 視線を動かさないまま矢口は答えた。

 そして。
 ひじ、という単語を聞いて。
 中澤はやっと表情を動かした。

「下手な医者よりアンタの方が怖いわ」

 ぽんぽん、と矢口の頭を叩いて。
 苦笑いを浮かべたまま。

「病院は行っとるよ。・・・・・・・・結構前から痛みはあってんけど」

 肩をすくめて。
 淡々と中澤は言葉をつむぐ。

 別に大したことではないかのように。

「何で言わなかったんだよ?」

 問い詰める矢口の声に。

「言ってどうにかなるんか?」
539 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:57
 用意されてたかのような答え。
 矢口の顔がゆがむ。

「・・・・・・アタシの問題やし。矢口には」

 そこまで言いかけて。
 中澤は言葉を止めた。

「裕子のアホっ!!」

 中澤を見上げる矢口の瞳に浮かぶ、涙。

「もういいよ、勝手にすればいいんだ」

 体育館から飛び出していく矢口を。
 止めることもできず、見送って。

 安倍が中澤をこづく。

「言い過ぎだよ、裕ちゃん」

 中澤は俯いた。

「追っかけないんだ」

 結構裕ちゃんって冷たいよね。

 便乗する飯田に。

「やぐっつぁん、泣いてたね」

 追い打ちをかける後藤。

 ・・・・・・・・・・・・・。

「あんたらこそ追いかけへんのかいっ!!!」

 アタシのことど〜こ〜言える筋合いちゃうちゃうか?

 逆ギレした中澤。
 しっかしマイペースな三人組にきくはずもなく。

「やぐっつぁんが追いかけてきて欲しいの後藤じゃないはずだし」

「そ〜そ〜、泣かせた本人がやっぱ責任とるべきっしょ。そう思うべ?」
540 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:58
「だいたい圭織たちがフォローするだろうって考えてる段階で裕ちゃんはねぇ・・・・・・」

 延々続きそうな飯田の説教に。
 中澤はがしがしと髪の毛をかきあげて。

「も〜え〜わ」

 言い捨てて。
 走り出す。

「「「頑張ってね〜」」」

 アイツら、いつかしめたる・・・・・・。

 靴を履くのももどかしく。
 体育館の扉を開けて。

 何処おんねんっ。

 見えた涙に焦る気持ち。

「・・・・・・・・アホ裕子」

 後ろから聞こえてきた声に。
 がく。
 中澤はこけそうになる。

「・・・・・・・」

 体育館の外。
 丁度扉に隠れる位置。
 ひっそりと矢口はたたずんでいた。
541 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:58
「・・・・・・・・・・」

 いきなりすぎて。
 中澤は思わず無言。

「・・・・・・・何か言えよ」

 矢口はゆっくりと中澤に近づく。
 手を、伸ばす。

「そんな顔するんだったら最初から言うなよな〜」

 頬に手を伸ばして。

「・・・・・やぐひ、ひたい」

 むに。
 思いっきりつねる。

「結構傷ついた」

 つねった手はそのままで。
 矢口はぽす、と中澤の肩に顔を埋める。

「・・・・・・・・ごめん」

 中澤は頬から矢口の手をとる。
 冷たさに。
 そのまま矢口の手を握り締め。
 中澤だってそう体温高い方ではないんだけれど。

 まぁたった一つ。
 矢口が泣いてなかったので、安心しつつ。

 ぎゅっと矢口の身体を抱きしめた。

「ホンマになってまいそうで嫌やってん」

 腕の中。
 矢口が小さく身じろぎする。
 矢口が何か言う前に。
 これだけは言っておきたい。
542 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:58
 中澤は眼を閉じた。

「誰かに言ったら。ホンマにもうあかんのかなぁって、そう思いそうで」

 同情とか。
 そんな慰めの言葉が欲しかったわけでもなく。
 気休めの言葉もいらなかった。

「手術することになりそうやねん」

 矢口は何も言わず。
 じっと中澤の言葉に聞き入ってる。

「・・・・・・・その結果がどうなるかわかるまで黙っとこうかな、なんて思ってたわけで」

 そこで一旦中澤は言葉を止める。

「ごめんな」

 小さい謝罪の言葉。

 何だか泣きそうな気分で。
 矢口はやっと中澤の肩から顔をあげた。

「手術の時、矢口に何て言う気だったんだよ?」

 どんな言い訳・・・・・・嘘で誤魔化そうとしてた?

「・・・・・・・・・大阪の方で就職の面接がある、とか・・・・・・」

 言葉を濁す中澤。

 どす。

 結構いい音がした。

「・・・・・・・・まともに入ったって・・・・・」

 鳩尾に。
 ストレートパンチ。

「オイラがそ〜ゆ〜ことしたら怒るくせにっ!!!」
543 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:59
 叫んで。
 うずくまった中澤の胸倉を矢口はつかんで。
 そのまま引き上げる。

「アホっ!!!」

 同じくらいの目線。
 噛み付くように。
 キスを、した。

 眼を真ん丸にさせて。

 驚いた顔なんて知らない。

「そんな嘘までついてオイラに言いたくなかったのかよ・・・・・・」

 抱きつくと。
 バランスを崩して。
 そのまま二人、コンクリートの上に崩れこむ。

「アホ・・・・・アホ」

 嗚咽。

 震える肩。
 中澤はなだめるように叩いた。

「・・・・・ごめんなぁ」

 ぎゅっと。
 抱きしめる。

「・・・・・アホ」

 赤い眼をさせて。
544 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 23:59
 腕の中。
 愛しくて。
 愛しくて。

「矢口・・・・・・・」

 言いかけた言葉は。

「体育館の前でラブシーンしないで欲しいべさ・・・・・・・」

 ドアが開く音に。
 聞こえてきた声。

「「・・・・・・・・・・」」

 矢口が慌てて中澤の腕の中から逃げ出す。

「・・・・・・・・・あんたら・・・・・・・」

 そのままの体勢で。
 中澤の恨めしげな視線をものともせず。

「そろそろ授業終わるからさぁ。鞄取りに戻ろうかなって」

 後藤の悪びれない表情。

「寒かったべ〜」

 手をすり合わせて安倍。

「・・・・・・・・良かったね」

 飯田のセリフに複雑な表情で、中澤は応える。

「ど〜せならもうちょっと後で邪魔しろっちゅ〜ねん」

 一瞬だけの表情。
 笑って立ち上がった。
545 名前: 投稿日:2004/01/14(水) 00:00
「矢口も教室戻るんやろ?」

 こっちに背をむけたまま。
 頬をぺちぺちと叩いている矢口に。
 中澤は声をかける。

「う〜」

 まだ眼はちょっとだけ赤くて。
 顔も赤い。

「邪魔しないよ〜?やぐっつぁんの鞄、預かっとくし」

 ・・・・・・・・・・・。

「いいよ、矢口も一緒に戻るよ」

 矢口は中澤をちらり、と見て。
 もう歩き始めてる三人をちらっと確認して。
 トコトコと戻ってくる。

「・・・・・・・裕子がしんどい時に気付いてあげれなくて、オイラの方こそごめん」
546 名前: 投稿日:2004/01/14(水) 00:00
 告げられた言葉。

 中澤が返事をする間もなく。

「待てよ〜っ!!」

 矢口は三人を追って走っていってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・」

 思わず唖然として。
 先ほどキスされた唇を撫でて。

「あ〜〜ったく」

 中澤は笑う。

 何もまだ始まってない。
 でも。
 何かが確実に変わり始めていた。
547 名前:つかさ 投稿日:2004/01/14(水) 00:05
>>523 名無し読者さん
>姐さん……手、出しちゃえ(笑
今度は矢口さんから・・・・でもムードなさすぎ(笑)

>>524 やぐちゅー中毒者セーラムさん
>これからも、こっそり拝見させて頂きます
こっそりとと言わず・・・・息抜きにまた来てください。
そう同居であって・・・同棲ではないんですね。
微妙な言葉の違い・・・いつになったら同棲になるのやら(苦笑)

っつ〜か終わらない・・・・・(ため息)
どうしてこうワンシーンが長くなるんだ?
どうしてこうキャラが勝手に動くんだ?
激しく不安に思いつつ。
まぁ・・・・頑張ります(苦笑)
548 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/14(水) 01:46
ワンシーン、ワンシーン大好きです。長いの大歓迎〜(w
キャラが動くなんてカッコイイ〜(w
私が読みたい感覚のやぐちゅーを・・・つかささんが提供してくれるのは何ででしょう?
いつも不思議でしょうがないです。(w
549 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/14(水) 23:15
飯田さんの不思議少女っぷりが面白いです。
前回とは真逆で、矢口さん積極的で(笑
550 名前:名無し読者。 投稿日:2004/01/16(金) 10:31
本当にツボです。
551 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:36
〜〜〜10〜〜〜

 中澤と暮らすようになって。
 だいたい晩御飯は中澤が作るようになった。

 学校から帰るとご飯ができてるってのはまぁ、それなりに。

 今まで矢口に馴染みがなかった分、ちょっぴり照れくさくて。
 そして、嬉しかったのだが。

 一日降り続いた雨に。

 矢口は傘を差しながら鬱陶しそうに空を見上げる。

 そして。
 自分のアパート。
 自分の部屋の窓を眺めて。
 軽くため息をついた。

 ガチャリ。

 電気もつけずに。
 窓の側、膝をかかえて外を眺めてる・・・・・影。

「な〜にやってんだよ?」

 いきなり部屋の電気をつけると。
 驚いたように中澤がこっちを振り向く。

「あぁ・・・・・・お帰り」

 気、つけへんかった。

 薄く笑うその顔は精彩を欠いている。
552 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:36
「・・・・・・・・ご飯、できてるで」

 何事もなかったかのように立ち上がって。
 それでも。
 わかる、異変。

 最近の中澤はおかしい。

「・・・・・・・・寒かったやろ?」

 心、ここにあらずなせリフ。
 その証拠に。
 中澤は矢口を見ようとも、しない。

「こら、アホ裕子」

 いい加減、我慢の限界で。
 矢口はコートも脱がないまま。
 台所にたつ中澤のもとに歩み寄る。

「・・・・・・・・何や?」

 けして矢口の眼を見ようとしないその態度。

「・・・・・・・・・」

 ぐい、と。
 矢口は無理矢理中澤の首をひっぱって。
 自分の方を向かせる。

 見つめ合う。

「・・・・・・・・・・・・」

 矢口の強引な態度にいつもだったら怒る中澤が。
 今は、何も言わない。
 その瞳の奥にあるものが何なのか。

「何も言わなくていいから、今からオイラの質問にはいかいいえで答えてよ」

 触れたら、壊れそうなもろさ。
553 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:37
「・・・・・・・・・」

「嘘ついてもわかるからな?答えたくなかったら答えなくていいから」

 怯えに。

 矢口の口調が柔らかくなる。

「わかった?」

 こくり、と頷いた小さな肯定。

 満足そうに矢口は笑ってみせる。
 安心させるために。

「病院行くって言ってたよね?」

 確か一週間くらい前の話。
 そして。
 そこくらいからだったと思う。
 中澤の様子がおかしくなったのは。

「・・・・・・・・・・・・」

 動揺したように、揺れる瞳。

「手術前の検査、だったよね?」

 表情を読み取られまいとするように、中澤は眼を閉じた。

「そんなに悪かった?」

 答えがないのは肯定の印。
 誰が言ったかは知らないけれど。
 凄く言い得てる、と思う。

「だから最近元気ないんだよな?」

 答えは求めてない、矢口の質問の羅列。

「もういい」

 不意に、中澤が矢口の言葉をさえぎった。
554 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:37
 拒絶するように、背けられた顔。

 矢口は思わず黙りこんだ。

 中澤がそのことに触れて欲しくないってのは何となく、わかっていた。
 だから、触れなかった。
 答えを出すのは中澤だと思っていた。
 でも。

「オイラには心配する権利すらないのかよ」

 何も話してくれない中澤に。

 何事もなかったかのようにふるまおうとするその態度に。

「・・・・・・・・何で何も話してくれないんだよ」

 中澤はやっぱり黙ったままだった。

「・・・・・・・・・・・・」

 しばらくの沈黙のあと。

「アタシ、出て行くわ」

 はい?
 唐突な、結論。

 思わず唖然として。

「・・・・・な、馬鹿言ってんじゃ・・・・・・・っ!!」
555 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:37
 言葉が止まる。
 続かない。

「矢口にしんどい思いさせたくないし」

 都合のいい言葉。
 思わず怒りで頭が白くなる。

「裕子が考えてるのは自分のことばっかじゃんっ!!」

 しまった。

 傷ついたような眼差しに。
 思わず言葉を失うが。
 声に出てしまった言葉は、もう戻らない。

 それでも。
 中澤は怒らなかった。
「・・・・・・・・・頭、冷やしてくるわ」
 呟いて。

 バタン。

 部屋のドアが開いて、閉まる音。

 やけに大きく聞こえた。

 何で何も言ってくれないんだよ。

 拳握り締めて。

「オイラ、何も間違ったこと言ってないじゃん・・・・・・裕子のアホ」

 辛そうに呟く矢口の鼻に。
 こげた匂い。
556 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:38
『今日はシチュー作っといてよ〜』

『・・・・・・唐突やなぁ・・・・・昨日は肉食べたいっつってたやん』

『いいのっ。起きたらシチューの気分だったんだいっ』

 朝のやりとりが頭に浮かんでくる。

『寒いしさ〜。裕ちゃんだって喰いたいだろ?』

『だからそんな言葉遣いしなって』

 ぽかり、と頭こづかれながら。

 何でこ〜なったんだ?

 無意識にガスコンロに近づいて。
 火を、消す。

 ぼたぼたぼた。

 頬を伝う冷たい感触。

 あれ?

 何で・・・・・・オイラ、泣いてるんだろう。
557 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:38
 泣いていいのは裕子のはずなのに。

 ・・・・・・・・裕子のはず、なのに。
 何でオイラ、あんな言い方しかできなかったんだろう。

 唐突に湧き上がってきた強い、気持ち。

 裕子はいつだって。
 オイラの気持ちの負担、取り除く言い方、してくれてたのに。

「・・・・・・っ」

 部屋を飛び出そうとして。
 気付く。

 中澤のコートも傘も。
 そのままで。

 雨は、降り続いている。

 中澤の心の動揺を現しているかのように。
 残された、モノに。

 もう迷うことなく。
 矢口は部屋を飛び出していった。

ーーーーーーーーーー
558 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:38
 近くの大き目の公園。
 バスケットゴールを見上げて。
 中澤は佇んでいた。

「裕子っ!!!」

 一直線に。
 矢口は中澤に駆け寄った。

 え?

 驚いたような表情に構いもせず。

 スピードを緩めることもせず。
 そのまま矢口は中澤に突っ込む。

「ちょ、ちょ・・・・・・・」

 ぐらり、とかしぐ中澤の身体。

 何とかひっくり返ることだけは避けて。

「この馬鹿、アホ、間抜けっ。何考えてんだよっ!!!」

 そのまま罵詈雑言の嵐。

「・・・・・・・・・・あの・・・・・・・・矢口?」

 恐る恐る問い掛けた中澤の言葉に反応しようともせず。

 びしょ濡れになってしまった中澤の身体に。
 コートをかける。
 傘もささずに走ってきたせいで。
 だいぶ濡れてるが。
 何もしないよりましだろう。

 そのまま、手に持っているだけだった傘を開いて。

 中澤の頭の上に。

 もうこれ以上、濡れなくてすむように。
559 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:39
「もうオイラのこと、ガキ扱いさせないからなっ!」

「・・・・・・・・・はい?」

 まったくもって。
 わけがわかりません。

 ぽか〜んと。
 中澤は矢口を眺めて。

「心配かけんな」

 低く呟かれた言葉。
 真剣な眼差し。

 中澤は息をのんだ。

「矢口・・・・・・」

 恐々と。
 差し出された手が。
 そっと矢口の頬を包み込む。

「本当になってもいいじゃん」

 中澤は、黙る。

『誰かに言ったら。ホンマにもうあかんのかなぁって、そう思いそうで』

「泣けよ、アホ」

 怒ったように見上げてくる眼差しに。

「無理して全部自分一人で抱え込もうとするなよなぁ」

 呆れたような、怒ったような口調に。
 中澤は口をへの字にする。
560 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:39
「だって」

 自分より小さな肩。
 低い位置にある肩。

 中澤は頭をおとした。

「矢口、アタシがバスケしてるとこが好きなんやろ?」

 じんわりと。
 温もりが伝わってくる。

「・・・・・・・・・・は?」

「だって、矢口言うたやんっ」

 駄々っ子のように。

「フォームが綺麗やって。だからアタシに興味持ってくれたんやろ?」

 中澤が顔をあげる。
 矢口と視線を合わせて。
 への字に結ばれてた口元がゆるんだと思ったら。
 ぽろぽろと零れだしてくる、涙。

「アタシがバスケできへんくなってもうたら・・・・・・・・」

 あまりのセリフに。
 気の利いた言葉が見つからない。

「バスケなくなったら、アタシもう何もないもん。バスケできへんくなったら何やりたいかもわかれ
へん」

 堰を切ったように溢れ出す、言葉の数々。

「大人のふりして笑ってな、強がってなかったら、ホンマの気持ち言うたら矢口、ひくやろ?」

 何だと?

「最初から凄い好きやった」

 涙声で。
 震える声で。
561 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:40
「冗談ぽくキスしたんもあ〜ゆ〜言い方しかできんかったけど。矢口やったらいつでもOKなんじゃなくて」

 −−−−−矢口やなきゃ嫌やって言いたかった−−−−−

 一瞬。
 何を言われたかわからずに。
 矢口はフリーズする。

「・・・・・・・でも矢口はちゃうんやろ?だから、我慢しようって思った。バスケしてるアタシを矢口が
そ〜ゆ〜意味じゃなくても好きやって言ってくれるんやったらそれでいいって思おうとした」

 雨が強くなる。

 傘を叩く、強い音にかきけされそうなほど。
 中澤の声は、弱い。
 その瞳からこぼれる涙は止まる気配もない。

「矢口からキスしてくれて、嬉しかった。でもバスケできんアタシでも同じようにしてくれるか不安やった。
でもそんなん言うても矢口困らせるだけやってわかってたし。だから何も言えへんかった」

 一つ大きくしゃくりあげて。
 中澤は矢口の頬から手を離して。
 眼をごしごしとこする。

「ゆ〜こ・・・・・・」

 そっと今度は矢口が手を伸ばす。
 中澤の頬に触れると。
 びくっと中澤は身体を強張らせ。
 切なそうに、笑う。

「ごめんな」

 ぽんぽん、と矢口の頭を叩いて。

「ちょっとすっきりした」

 柔らかい、笑みを浮かべてみせる中澤は。
 何だかんだ言っても。
 やっぱり大人なんだと、思う。
562 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:40
「・・・・・・・・・オイラ」

 自然と口を突いて出てきた。

「オイラ、裕子がバスケしてるから好きなんじゃないよ」

 意外なほど心の中は穏やかで。

「バスケしててもしてなくても、そ〜ゆ〜の関係なく、さ」

 中澤の頬に当てた手。

「バスケできなくなったとしても裕子は裕子じゃん。オイラにとってそれは変わらないし」

 ・・・・・・・・・・。

「え、と。あの、その、さ」

 妙に気恥ずかしい気持ち。
 ん?
 中澤の表情が微妙に変わる。
563 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:40
「その・・・・・・えと」

「矢口・・・・・アンタ、真っ赤になってんで?」

 口ごもる矢口の表情から何を読み取ったのか。
 中澤は意地悪そうな笑みを浮かべる。

「・・・・・・・・・な、何だよ〜裕子の方こそさっきまでびーびー泣いてたくせにっ」

「な・・・・・アンタそれは言わんお約束やろっ」

「オイラそんな約束なんかした覚えないもんねっ!」

「だからなぁ・・・・・・・」

 顔を見合わせて。
 お互い、吹き出した。

「まだまだガキやねぇ」

 しみじみ呟かれて。

 さっきまで言おうとしてたこと。

「裕ちゃんだってガキじゃん。オイラよ〜っくわかった」

「あ、今本気で実感込めて言ったやろっ」

「だってホントじゃん。何か違うって言えるのかよっ」

 こんな風に憎まれ口叩いて。
 笑いあう。
564 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:41
 と。
 その時。

 バシャバシャバシャっ!!!

 水音・・・・・・・水音?

 誰かが猛然と。
 公園に走りこんできたのが見えた。

「「・・・・・・・・・・・・」」

 まだ雨は降り続いてるが。
 傘もささず。
 とりあえず走ってきてみた、っぽい感じで。

「・・・・・・・・圭織・・・・・・・?」

 ぜいぜいと息を切らせながら。
 飯田は二人の前で足を止める。

 一つ傘の中から。
 飯田を見つめる二種類の視線。

「・・・・・・どうしたん?」

 何でこんな時間に飯田がこんなところに姿を現したのか。
 さっぱりわからなくて。
 中澤はきょとん、と首を傾げて。
 矢口はちょっとバツの悪そうな顔。

「うん・・・・・・・店、やっと一段落ついてさ・・・・・・え〜と、ちょっと筋トレでもと思って」

 どうやらまともに全力疾走してきたらしく。
 膝に手を置いて。
 肩で息をしながら。
 飯田は二人を見上げる。
565 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:41
「はい?」

 中澤の不思議そうな視線。
 まったく意にも介さない様子で。
 飯田は繋がれた二人の手を見て。

「うん、良かった」

 笑う。

「・・・・・・・圭織、ごめん」

 申し訳なさそうな矢口の声に。
 飯田は首を横に振った。

「筋トレだし。・・・・・・んじゃ、帰るね」

「ちょ・・・・・・」

 制止の声をあげた中澤に。

「裕ちゃん、あんまり矢口泣かせたら駄目だよ?もうびっくりして心臓止まりそうだったんだから」

 一時間ほど前。
『裕ちゃんのいそうな場所、心当たりない?』
 切羽詰った一本の電話。
 この公園の場所を教えるとすぐに切れた。

 何かあったんだ、とすぐわかったけど。
 丁度店も混み始めて。
 すぐに抜け出せなかった。
566 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:42
「・・・・・・・・・こら、矢口」

「だって裕ちゃん携帯も持たずに飛び出しちゃうんだもん」

「だからっつって・・・・・・・」

 じゃれあいはじめる二人に。
 やっぱり飯田は安心した様子で。

「あ、そうだ」

 去り際。
 飯田が中澤の方を振り向く。

「裕ちゃん、今度の日曜、暇だったら朝10時にここ来てよ」

 それだけ告げて。
 飯田はそのまま走り出してしまう。

「「・・・・・・・・・・・・」」

 その後姿を二人で眺めて。

 中澤はぽりぽりと頬をかいた。

 ぎゅっと繋がれた手。

「出ていかないよね?」

 呟かれた言葉に。
 黙って中澤は自分より頭一つ小さい矢口を見つめる。

 飯田が走り去って行った公園の入り口を真っ直ぐに見つめて。
 矢口が何を考えているのか・・・・・・・・。

 中澤は小さくため息をついた。
567 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:42
「襲うで?」

「なんでそ〜なるんだよっ!!」

 がう、と矢口が吠える。

 睨み付けるように見上げてきた視線。
 ちょっと潤んで見えるのは気のせいか。

「好きやもん」

 真面目に返すと。

 矢口の顔はみるみるうちに赤くなる。

「キスしてええ?」

「だからそ〜じゃないだろっ!」

 何でやねん。
 不満顔の中澤に。

「裕子がバスケできなくなっても別に裕子がオイラのとこ出て行く必要ないから」

 矢口ははっきりと言い切った。

「オイラそんなの関係ないから」

 中澤は眼を細めた。
 見上げてくる真剣な瞳の力に。

「裕子がこれからどうしたい、とか何がやりたいとかさ。すぐ決める必要なんてないと思うし。
ゆっくり見つけていけばいいじゃん。・・・・・・・え、とその」

 矢口は俯く。

「オイラのそばで、さ」

 照れくさそうな声音。
568 名前: 投稿日:2004/01/16(金) 23:42
「・・・・・・・・・矢口」

 大切なものを扱うように。
 そっと抱き寄せられた。

 と思ったら。

 ぺろり。

 耳を舐められた、と気付くのに少々時間がかかって。

「ば・・・・・何すんだよっ!!!」

 俯いてた顔をあげると。
 そのまま、かすめとられるように。
 軽いキス。

「強行突破」

 ニヤリ、と笑う顔に。
 この一週間の憂鬱そうな感じは見受けられない。

「・・・・・・・裕子、今日ベランダで寝るの決定っ!!!」

「なんでそうなんねんっ!!」

 照れくさくて照れくさくてしょうがなくて。
 うが〜となりながら見上げた中澤の顔は。
 幸せそうに笑っていて。

 矢口は何だか、畜生、と悔しくなる。

「オイラまだシチュー食べてない。・・・・・・・・ほら、帰るぞ」

 ぐい、と手をひくと。

「はいはい」

 きっと。
 ガキやなぁ、と思って笑ってるんだろう。

 見なくてもわかる。

 どんな形でも。
 側にいて欲しいって思った。

 きっとそれだけが真実。
569 名前:つかさ 投稿日:2004/01/16(金) 23:53
>>548 名無し読者 さん
>ワンシーン、ワンシーン大好きです。長いの大歓迎〜(w
もう書いてるほうがドキドキハラハラ・・・・いつまでお前らいちゃついてんねんっ!
と突っ込みいれたくなりつつ・・・・(笑)

>>549 名無し読者
>飯田さんの不思議少女っぷりが面白いです。
自分も何だか書きやすく・・・ってか。今回のはちょいお邪魔虫ですけど(笑)
>前回とは真逆で、矢口さん積極的で(笑
そして再び姐さん積極的・・・・こんだけ姐さんが積極的なのを書いたの
初めてかも・・・ある意味凄い(笑)

>>550 名無し読者。
>本当にツボです。
ありがとうございます・・・・どこがツボなんか自分ではわかんないんですが。
楽しんでください。

っつ〜ことで更新しました。
書いててもう・・・・甘すぎて・・・・なんでこんなに甘いんだ?というか。
やりとり一つ一つに本当に蹴りいれたくなりつつ。
今回のは下手なエロシーン入れるより恥ずかしかった(苦笑)

そして本当に・・・・ちゃんとこのスレで終わるんでしょうかね〜、この話・・・・。
もうやけくそなんですけど・・・・結構。
まぁ終盤にはさしかかってきてはいるんですが。
だいたいの方向性は変わってないんですが。
・・・・・めっちゃ不安・・・・(遠い眼)
570 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/17(土) 00:53
このスレで終わらなかったら・・・新スレたてましょう〜!!!(w
と勝手なことを言ってみる(w
終わらなくてもいいでーす。
571 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/17(土) 15:39
積極的でもやっぱり姐さんはへタレだなーw
膝を故障して、もうバスケしなくなっちゃうんですかね……
572 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:08
〜〜〜11〜〜〜

 朝。
 目が覚めると。

「・・・・・・・おはよう」

 中澤が先に起きてた。

 ・・・・・・・・・・・。

 久々の日曜の休み。
 二度寝するかと。
 もう一度ベッドに意識が沈み込もうとして。

 違和感。

 というか。

「何で起きてるのっ?!」

 一瞬で眼が覚めた。

「・・・・・・・失礼なやっちゃな」

 台所で。
 中澤は苦笑い、して。

 ベッドの脇に歩いてくる。

「ちょお夢見悪くてな。走ってくるわ。朝ご飯作っといたし、疲れてるやろ?もうちょっと寝とき」

 起き上がった矢口に笑いかけて。
 曖昧な、笑み。
573 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:09
 昨日の晩。
 中澤が寝苦しそうにしていたのは知っていた。
 うなされていて、一度、起こした。
 そこから矢口は寝たけれど。
 もしかしたら、中澤は寝付けなかったのかもしれない。

 ちょっと心配そうな表情になった矢口を見て。

「大丈夫や」

 くしゃ、と中澤は矢口の頭を撫でた。

「矢口も朝、公園来るか?」

 え?

 矢口は不思議そうな顔で中澤を見上げる。

「朝10時に来いって前圭織言ってたやん」

 いたずらっぽい笑み。

「ごっちんとかなっちとかも来るみたいやねん・・・・・・何するんかはようわからんけど」

「そうなんだ」

 矢口は頷く。

 中澤が学校のコーチに来なくなって。
 後藤たちが不満そうにしてたのは知ってた。
『裕ちゃんつれてきてよ〜』
 なんて。
 無茶なこと言って騒いでた。
『いいじゃん、矢口の保護者みたいなもんだべ〜』
『送り迎えしてもらえばいいじゃん、やぐっつぁんちっこいしさ、危ないって』
 矢口に頭はたかれて。
 渋々口をつぐんだ二人だったけれど。
574 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:09
 自然、笑みが漏れる。

「弁当、みんなで食べよかって話しやし・・・・・・矢口、よろしくな」

 はい?

「・・・・・・・・・いきなり言うな、アホ」

 こづこうとしたら中澤はその拳をさっさと避けて。

「最近ご飯作るのアタシばっかやん・・・・・・っつ〜ことで期待してんで」

 そのまま。
 ちゅっとキスされて。

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 矢口は上目遣いで中澤を伺う。

「・・・・・・・・・もっとちゃんとしてよ」

 ぎゅっと矢口は中澤の服の裾をつかんで。

 次に落ちてきたキスは。

「・・・・・・・ん・・・・・・・」
575 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:09
 柔らかくて。
 長めのお互いを確認するような。

 キスが終わっても。

 しばらく二人抱き合ったまま。

「・・・・・・・何か、朝から襲ってまいそうやな・・・・・・・・」

 耳元で呟かれたセリフは。
 色っぽさとかムードとか。
 かけらもないもので。

 矢口は思わず吹き出す。

「アホ。・・・・・・・・ほら、もう行かなきゃヤバイだろ?」

 はいはい。

 腕を突っ張られて。
 中澤は矢口の身体から離れる。

「んじゃ、また後でな」

「うん。お弁当、期待しててよ」

 にっこり笑うと。
 中澤は照れくさそうに笑って。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 何気ない風景が。
 日常になっていく。

 そのことが嬉しくて。
576 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:10
 それでも。

 中澤のひじの手術はもう一ヶ月後に迫っていた。

 成功率は10%前後。

 どうなるんやろうなぁ。

 他人事みたいに笑ってる中澤は。
 以前のように、触れたら壊れそうな。
 そんなもろさは見せなくなったけれど。

 たまに。
 どうしようもない感情を持て余すように。
 涙をこぼすことがある。

 何もできない無力さや。
 大事なものを無くす、怖さ。
 そういうものを乗り越えて。
 人が大きくなっていくならば。

 その前に。
 立ち止まり、臆病になり。
 立ちすくむのは当然なのだろう。

 矢口がいてくれて良かった。

 嬉しそうに笑う中澤は。
 本当にそう思ってるのかって。
 突っ込みを入れたくなるほど、普通だけれど。

 人が人にできることは。
 何もないのかもしれない。

 でも。
 側にいてくれる人がいることで。
 支えようとする人がいることで。
 人と関ることで。

 強くなれる。

 そんな気が、するから・・・・・・・。
577 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:10
「・・・・・・・・よし」

 中澤が出かけていって。
 しばらくベッドでうだうだしていた矢口は。
 頬を自分でぴしゃっと叩く。

「たまには好きなもの、作ってやるか」

 きっとその笑顔に。
 嘘はない。

ーーーーーーーーーーーーーーー
578 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:11
 そして。
 公園で。
 妙に多い人だかりを不思議に思いながら。
 きっちり10時前に姿を現した矢口を。
 飯田が拉致した。
 諦めきったように何故かゼッケンをつけてる中澤の横に並ばされて。

 何だ?
 と思う暇もなく。

「今から試合、やるからね」

 びしっと指を突きつけられて。

「やるからには勝つよっ!!!」

 妙にテンションが高い飯田に。

「はぁ・・・・・・・・・」

 こめかみを押さえて。
 ため息しかつかない中澤に。

「・・・・・・・・・全然、話、見えないんだけど」

「ストリートバスケの大会があんねんて。・・・・・・・今からな」

「ふ〜ん・・・・・・・はい?」

 思わず。
 着せられたゼッケンを引っ張る。
579 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:11
「・・・・・・・・・・あのさぁ。もしかしてもしかしなくても・・・・・・・・」

「アタシと矢口とごっちんとなっちと圭織でエントリーしたらしいで」

 ・・・・・・・・・・・・。

「あのさぁ・・・・・・・」

「ごっちんとなっちは寝坊したらしいで・・・・・・・どっちにしろなっちは運動神経切れてるらしいなぁ」

 ため息まじりで。
 そして。
 ついでのように。

「アタシも右腕使われへんねん・・・・・ドクターストップかかっててな」

 頭、痛くなってきた。

 でも。
 その前に。

「圭織っ!!!」

 とりあえず何か言わなきゃ気がすまない。
 矢口の怒声が響き渡る、が。

「矢口。やる前から諦めてちゃ駄目だよ」

 飯田は極めて真面目だ。
 思わず、脱力感。
580 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:11
「いや、そ〜ゆ〜問題じゃねぇだろ」

 右腕使えない元実業団プレーヤー。
 まぁこれは百歩譲ってよしとして。
 全日本に選ばれたかもしれない・・・・・ブランクはあるにしろ、やる気だけは全開のポイントガード。
 まぁこれも大丈夫だろう。
 そして。
 ここからが肝心。
 バスケ経験がなくて。
 まぁ多少は中澤の練習に付き合ってシュート練習くらいはやったことはあるけれど。
 初心者に毛が生えた程度・・・・・・・何より。
 この身長の低さはいかんともしがたい・・・・・・というか致命的じゃないのか?

「シュートは圭織が打つから。裕ちゃんの怪我、とりあえず走れない、動けないじゃないでしょ?
なら大丈夫、圭織がフォローするから。矢口は・・・・・・・・」

 誰に向かって話しているのか。
 妙に焦点があってない視線の先には誰もいない・・・・・・。

「うん、矢口はちょこまかしといてくれればいいよ、圭織、頑張るしっ!!」

 一人でガッツポーズ。

 というか。
 それより。

「ちょこまかって何だよっ!!!期待してないなら矢口巻き込むなよっ!!」

 ぜいぜい。
 息を切らす矢口に。

「あんな、矢口」

 ぽそっと傍らから声がかかる。

「聞いてへんみたいやから、怒るだけ無駄やと思うで?」
581 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:11
 ・・・・・・・・・・・・・・。

 ちらっと矢口が飯田に視線をやると。

 一人、ウォーミングアップを始めている飯田がいた。

 ・・・・・・・・・・・・。

「圭織の思考回路がど〜なってこ〜なったかアタシにもわからんけど、な」

 不意に。
 中澤が矢口の顔を覗き込んできて。

「一つだけ圭織のセリフには賛成や」

 不敵に笑う。

「やるからには勝つで」

 ・・・・・・・・・超やる気じゃん、この人も。

 限りない頭痛を覚えながら。

「参加チームは整列してください〜」

 スピーカーから流れてきた声に。
 矢口はがっくりと肩を落とした。

ーーーーーーーーーーーーー
582 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:12
「まぁ、健闘した方じゃん?」

「う〜〜〜」

 中澤の機嫌はかなり悪い。

「途中からごっつぁん来てくれてさぁ。何とか試合にはなったじゃん」

「負けたら意味ないやん」

 ぶつぶつ文句を言いながら。
 料理してる矢口の脇からつまみ食い。

「あ、こら」

「お腹すいたんやも〜ん」

 ビールを片手に。
 似合いすぎるほど似合いすぎてるその姿に、思わず矢口は苦笑い。

「でもさ、な〜んかやっぱり裕ちゃんってバスケ巧いんだね〜」

 結局、試合は二回戦敗退。

 しかし・・・・・・・実戦経験から離れてるとは言え。
 かなりハンディがあるとは言え。
 中澤と飯田は凄かった。
 左腕一本で、矢口のコントロール定まらないパスを受けて。
 左腕一本でドリブル・・・・・簡単にゴール下までボールを持ち込むキープ力。
 ついでに飯田の孤軍奮闘振りも凄まじく。
 シュート決定率80%くらいなわけで。

「やっぱりシュートできんかったんは痛かった」
583 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:12
 矢口の賛辞を聞いてるのか聞いていないのか。
 ぶつぶつと中澤は机の上に紙なんか広げて。
 10円玉やら100円玉を人に見立てて、試合のシュミレーションをしてる。

「ここで一本外から決まってればなぁ。う〜ん、アタシもまだまだやなぁ」

 何がまだまだなのか。
 延々と続きそうな中澤一人の反省会。

「いい加減、手伝えよ」

 ぽかり、と。
 だいたい準備ができてもまだ机の前から離れようとしない中澤の頭の上に拳骨が落ちる。

「うん」

 ちょっと不満気な表情させながら。
 中澤は台所に向かうが。

「もうほとんどできてるやん」

「うん、後は煮込むだけ」

 にっこりと見上げられて。

「確信犯やん・・・・・・まぁええわ。後片付けやっとく」

 おでんがことこと鍋の中で踊ってる。

「っつ〜か、矢口、初試合、ど〜やった?」

 何気なく尋ねられ。
 ふむ、と矢口は考え込む。

「・・・・・・・・ん〜、矢口はやっぱり見てる方が楽しかったかな」
584 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:12
「そうなん?」

 中澤の意外そうな表情に。
 矢口は小さく笑う。

「裕ちゃんが久しぶりにすっごい気持ちよさそうだったから。楽しそうだったからさ。うん、何かそれで
満足って感じ」

「・・・・・・・ふ〜ん」

 ちょっと照れくさそうな中澤の声に。
 ん?
 何だか恥ずかしいことを言ってしまった気がして。

「何だよ〜」

 矢口はぽかぽかと洗い物をしてる中澤を後ろから叩く。

「ちょっ、危ないって。アタシ何も言うてへんやんっ」

 焦った中澤の声を聞きながら。

「裕子が変なこと言わせるからだろっ!」

「妙な八つ当たり、しなっ!!」

 言いながら。
 中澤は笑う。

 何だか幸せだな〜とか思ったり、してたのだが。

 後ろからぽかぽかと中澤を叩いていた矢口は。
 そのまま中澤の背中に顔をうずめてしまう。
 中澤のお腹あたりに回されてきた腕、に。
 ん?
 戸惑う、気持ち。
585 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:13
「どした?」

 とりあえず、スポンジ置いて。
 手を外して。
 身体を反転させる。

「ん〜〜」

 それでも。
 やっぱり矢口は中澤に顔を見せることに抵抗するかのように。
 中澤の胸のあたりに顔をうずめてくる。

「矢口?」

 髪の毛を撫でると。

「でも、な〜んかさ。裕ちゃん、遠くに感じた」

 ぽつり、とこぼれ出た矢口からの言葉。

 小さな大会、と言えど。
 中澤を知ってる選手は多かった。

『中澤・・・・・・裕子さんですよね?』

 握手してください、サインしてください。

 結局最後までシュートを打たなかった中澤に。

 怪我されてるんですか?
586 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:13
 などと。

 試合のギャラリーが言っていたのを矢口は聞いていた。

「有名人なんじゃん」

 拗ねたような口調に。
 思わず中澤から笑いが漏れる。

「何だよ、何笑ってんだよっ!」

 敏感に反応して。
 がうっと矢口が吠える。

「何ヤキモチ妬いてるねん」

 やっと中澤と眼を合わせた矢口の頬を中澤は両手ではさみこむ。

「バスケしてなかったらアタシ、ただの普通の人間やで?」

「だけどさぁ・・・・・・・」

 納得いかないような眼で中澤を見つめる矢口。

「もし手術成功してさ・・・・・・・またバスケできるようになったら・・・・・・・・・」

 中澤の眼が細くなる。

「きっともっとどんどん遠い人になっちゃうのかなって」

 矢口は俯く。
 困ったように中澤は笑って。

「アタシ、やっぱりバスケ好きやねん」
587 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:13
 矢口は頷く。

「何か・・・・・不安とかいっぱいあってんけど。アタシ、バスケで一番になりたいねん」

 黙っている矢口に。

「矢口は何で一番になりたい?」

 優しい眼差し。
 俯いてた矢口が顔をあげると。
 柔らかく、中澤が微笑んでいた。

「見つからんかったらさ。見つければええやん。・・・・・・・アタシの側で、な」

 不器用なウィンク。

 思わず矢口は笑う。

「あ、笑うなや・・・・・・アホ」

 拗ねたような眼差しに。
 安心感を覚えて。

「それよりもうそろそろええんちゃうん?裕ちゃんお腹すいたで〜」

 急に甘えた声を出す中澤。

「ん〜?そろそろ大丈夫かな〜。ってか裕子、食い意地張りすぎだって」

「ええやん、矢口作るご飯、美味いねんもん」

 無邪気な笑顔に。

 もうちょっとオイラ、裕子にご飯作ってあげよう。

 矢口は反省したりなんかしてみて。
 そんなこんなで。
 夜は更けていく。

ーーーーーーーーーーー
588 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:14
 結局。
 中澤は後藤と飯田とで。
 その後もストリートバスケの試合にちょこちょこと出場していた。

 ごっちん、結構うまくなってんで。

 シュートを打てないことにかなりフラストレーションは感じているようだったが。

 中澤から一時期の不安定さは消えて。
 笑顔が増えたことに、矢口は安心していた。

 もし手術失敗しても、アタシ、バスケは辞めへんと思うわ。

 開き直り、とかそんなんじゃなく。
 中澤は笑顔を見せる。

 バスケで食べていけんでも、こ〜ゆ〜風にバスケできればそれでええし。
 違う形でバスケで一番になったるねん。

 屈託なくそう言えるようになった中澤は。

 きっと何かを乗り越えたのだろう。

 それでも。

「裕子、眠れないの?」

 入院を明日に控えて。
 隣りで寝ている中澤は何度も寝返りを打っている。

「あ〜も〜あかん」

 むくり、と中澤は起き上がった。

「ごめん、アタシ今日こたつで寝るわ。矢口、明日早いんやろ?多分アタシ、寝付かれへんと思うし」

 がしがしと髪の毛をかきあげて。
 諦めの境地。
 さっさとベッドから降りようとする中澤の腕を。
 矢口は掴む。

「いいよ・・・・・・オイラも起きてる」
589 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:14
 引き寄せて。
 胸に頭をうずめる。

 トクン、トクン、と。
 脈打つ心臓・・・・・・ちょっと、早い?

「オイラだってさぁ、明日からしばらく一人じゃん。ちょっと寂しかったりする」

「ちょっとだけかい」

 笑い声。

 でも抵抗も見せずに。
 中澤はそのまま矢口を腕の中にすっぽり抱き込んで。

「子守唄でも歌おっか?」

 馬鹿にしているのか、していないのか。

 むっとして矢口は顔をあげて。

 そのまま中澤の首元めがけて頭突きしてみる・・・・・・・。

「・・・・・・・だから、何でやねん」

 痛がるそぶりも見せず。
 やっぱり、くすくす笑いがふってきて。

 しばらく沈黙。

 心地いい、沈黙。

「・・・・・・・裕ちゃんって意外と淡白だったりする?」

 いきなり。
 中澤がむせる。
590 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:14
「ちょ・・・・・・何やってんだよ」

「いや、唾が気管に・・・・・ってかアンタ、なんちゅうこと聞いてくるねん」

 動揺まるだしの声。

 そんなに変なこと聞いたかなぁ?

 矢口は首を傾げて。

「結局、襲うで、とか言ってても裕ちゃん、オイラに手、出してこなかったじゃん」

 キスは、した。
 いっぱいして。
 でも、その先になると。
 中澤は一切そういう意味で矢口に触れなかった。

「まぁオイラもちゃんと言ってなかったんだけどさ」

 照れくさい、とか恥ずかしい、とか。

 そんな感情の方が先に立ってしまって。

 でも。
 わかれよなぁ、とか。
 そういう風に思うのも、事実。

「淡白なはずないやろ?」

 やっと言い返してきた中澤に。
 矢口は起き上がって。
 そのまま、中澤の上に馬乗りになる。

「淡白じゃないなら・・・・・・へタレ」

 頭の中、クエスチョンマークが飛び交っているかのような。
 きょとん、とした表情に。

「オイラ、裕子のこと・・・・・・・好きだよ」

 静かな、告白。

「責任、取れよなぁ」

 手を伸ばして、頬を撫でる。

 暗がりの中。
 中澤の驚いたような表情に、思わず笑ってしまう。
591 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:15
「約束してよ。ちゃんと矢口のとこ、戻ってくるって」

 何度も頬を撫でる。
 その温かさに。
 何だか、涙がこぼれそうで。

 いつのまにか、心の中に。
 入り込んできた、気持ち。

「離れろっつっても離れてやんないから。覚えとけよ」

 ぴん、と鼻の頭をはじいて。

 矢口はそのままごろん、と中澤の横に転がる。

 途端に伸びてきた腕。

 え?と思う暇もなく。

 強く、抱きしめられた。

「・・・・・・・・・・何で今言うねん」

 不服そうな声に。
 やっぱり笑いが込み上げる。

「結構、拷問やってんからな」

「うん、知ってた」

 ・・・・・・・・・・・・・。
592 名前: 投稿日:2004/01/20(火) 23:15
 中澤が、唸る。

「今、手ぇ出したら怒るよなぁ・・・・・・・?」

「当たり前だろうが」

「・・・・・・・・・いろいろ考えて手ぇ出せへんかったアタシ、アホやん・・・・・・・」

「今頃気付いたの?」

 ・・・・・・・・・・・・・。

 照れくささも加わり。
 憎まれ口全開の矢口だが。

「でも・・・・・・今、めっちゃ幸せや」

 ぽつり、と耳元に落ちてきた言葉に、眼を閉じる。

「明日、バイト終わったら速攻で行くからさ」

「・・・・・うん」

 不安そうな声に。
 今度は矢口が中澤をぎゅっと抱きしめる。

「人事尽くして天命を待つ、だろ?」

「・・・・・・・そやね」

 そのまま。
 朝まで。
 何だかんだと。
 いろんなことを話しつづけた二人だった。
593 名前:つかさ 投稿日:2004/01/20(火) 23:23
>>570 名無し読者さん
>このスレで終わらなかったら・・・新スレたてましょう〜!!!(w
ホントやばいですね・・・・(汗)まぁぎりぎりまであがいてみます。
多分、後三シーンで終わる・・・・予定。

>>571 名無し読者さん
>積極的でもやっぱり姐さんはへタレだなーw
今回もへタレ全開でw
>膝を故障して、もうバスケしなくなっちゃうんですかね……
すいません、ひじなんです・・・(滝汗)
バスケするかしないかは・・・・う〜ん(悩)
ここまできてもまだ迷ってます(苦笑)
ハッピーエンドにするかバッドエンド(ってほどでもないけど)にするか・・・(悩)

っつ〜かかなり・・・・文章が荒いな、と前回の分とか読み直して反省し。
反省しつつ今回のも・・・・(汗)
ちょっとゆっくり更新にするかも、です。
っつ〜か、どう動くかまったく予想つかない飯田さん・・・・本当に。
なっちの出番、全部喰っちゃったよ(苦笑)

とりあえず、間に合いました。
矢口さん、誕生日おめでとうございます。
来週のANN楽しみにしてます。是非なっちと号泣トークを繰り広げてください(何か違 笑)
594 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/22(木) 00:41
イチャイチャ甘々な2人……ィィ!!(笑
飯田さんの暴走っぷりはツボです、やっぱり面白い。
595 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/22(木) 19:30
バットでもハッピーでも・・・中澤さんと矢口さんが仲良しならオールOKです(w
文章が荒いなんてとんでもないです。

後、3シーンって・・・寂しいです(泣
596 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/27(火) 00:26
ワクワク〜!!
597 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:43
〜〜〜12〜〜〜

 小春日和。

「矢口〜、ペース速すぎやってっ!!!」

 近くの河原。
 自転車を漕ぐ矢口に、走る中澤。

 手術からもうかれこれ一ヶ月が過ぎようとしていた。

 冬の寒さも終わりに近づき。
 暖かい空気が身体を包み始めた、頃。

「ん?速かった?」

 ついつい気持ち良くなって。
 飛ばしてしまったらしい。

「速かった?ってアンタ・・・・・・・殺す気か?」

 本気できつかったらしい。

 中澤は膝に手をつき。
 荒い息のまま、矢口を見上げて睨みつけてくる。

「・・・・・・ふむ」

 手に持ったストップウォッチのタイムを見ると。
 確かに。

「新記録だね♪」

 にゃはっと誤魔化すように笑ってみる。

「・・・・・・・・・・・ちょい休憩や」

 何を言っても無駄だと悟ったのか。
 あまりのしんどさにそれ以上しゃべる気力を無くしたのか。
598 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:44
 中澤は河原の土手に下りて行く。

「いい天気やなぁ〜」

 ごろん、と横になって。

「裕子、汚れるぞ?」

「今更やって。矢口もやってみぃや。気持ちいいで?」

「やだよ、今日の服、お気になんだかんな」

 それでも。
 中澤に見習って空を見上げると。

 雲ひとつない、快晴。

 ペットボトルの水を手渡すと、中澤はごくごくと実に美味しそうにそれを飲み干して。

 ゆったりと流れる時間。

「・・・・・・・・ねぇ裕ちゃん」

 不意に。
 矢口が中澤を呼ぶ。
 真面目な声音。

「ん〜?」

 生返事をして起き上がって。
 中澤は矢口を見つめる。

「退院して、ど〜して圭織たちに会わないのさ?」

 実にもっともな疑問。

 リハビリも含め、一週間に及んだ入院中、勿論見舞いに来てくれた飯田たち。
 元チームメイトたちとも。

 退院してから、一切中澤は連絡を取ろうとしてなかった。

 ぽりぽりと中澤は頬をかき。

「何か照れくさいねんもん」
599 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:44
 そっぽを向く。

 何度も、繰り返された会話。

「オイラが学校でどんだけ質問責めにあってんのかわかってんのかよ」

 中澤はうまく矢口の恨みがましい視線から眼をそらせて。

「だって・・・・・なぁ」

「だいたいさ、何が『3時間くらいで終わる簡単な手術や』だよ。ICUなんて入ってんじゃね〜よっ!」

 座り込んでる中澤の後ろから。
 矢口はヘッドロックかます。

「痛い、痛いってっ。そんなんアタシのせいちゃうやんっ!!」

 バイトを終わらせて。
 速攻で病院にたどり着いた矢口を迎えたのは。

『中澤さんの身内の方ですか?』

 難しい顔をした医者、だった。

 部分麻酔だけで終わる手術のはずが。
 中澤はどうも極度に麻酔が効きにくい体質だったらしく。
 全身麻酔に切り替えての手術・・・・・・なんたらかんたら、と。

 不安を煽るだけ煽ってくれる説明のあげく。

 心配で眠れない夜を過ごして。

 バイトも休んで朝一で向かった病院。

『おはよ〜さん』

 実に天下泰平な顔をして。

『アタシ、麻酔効きにくい体質やったわ、そういや。すっかり忘れてた』

 忘れるなよ、そんな大切なことっ!!!
600 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:44
 突っ込みを入れる間もなく。
 安心感の方がかってしまって。
 そのまま大号泣してしまったことは・・・・・・・。

「矢口の方が恥ずかしかったよっ!!」

 そのままぎりぎりと中澤の首を締め上げる。

「マジ、ギブっ。ギブっ。ごめん、アタシが悪かったからっ!!!」

 走ったから、の荒い息ではなく。
 別の意味ではぁはぁぜいぜい、と。
 荒い息をつく中澤を矢口は苦笑いしながら見下ろす。

「まぁいいや・・・・・・ちゃんとお礼はさせてもらうから」

 ん?

 どうも。
 何か嫌な予感を覚えて。

 中澤はちらっと矢口の様子を窺う。

「ほら、休憩終わり。さっさと行くよ〜」

 目的地の河原の公園。

 ロードワークついでにピクニックしよ〜よ〜。

 甘えた声に逆らえなかったわけだが。

「置いてくぞ?」

 極上の笑顔の矢口。

「・・・・・・・・ちょ、待って〜や」

 慌てて。
 走り始めながらも。

 中澤は何か嫌な予感がしていた・・・・・・・・・。
601 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:45
ーーーーーーーーーーー

 目的地。

「・・・・・・・・・・・・・」

 そこにそろっている面子を見た瞬間、中澤はぴたり、と足を止めた。

「・・・・・・・・矢口ぃ」

 恨めしそうな声に。

「な〜に?」

 矢口の声は極めて機嫌が良さそうだ。

「アタシ、聞いてへんねんけど」

「うん、言ってないもん」

 ぴょこん、と矢口は自転車から降りると。

「連れてきたよ〜」

 河原の公園に大きく手を振る。

 にっこりと勢ぞろいしてる顔ぶれは。
 飯田に安倍に後藤。
 笑顔が怖い、と思うのは。
 しょうがないことなのか。

 中澤は少しひきつった笑みを浮かべる。
602 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:45
「「「裕ちゃん、久しぶり」」」

 重なる声に。

「おう。久しぶりやな」

 諦めたように肩を竦めて。

 中澤は河原に向かってゆっくりと歩き出す。

 あぁ、開き直っちゃったよ。

 一瞬の表情の変化に。
 矢口は横でクスリ、と笑いを漏らして。

「連れてきたよ〜」

 明るい声を出して。

 整備されてるとはとても言いがたい石ころだらけのコート。
 破れてつぎはぎだらけのバスケットゴール。

 最近の中澤のお気に入りの練習場所だった。

『今のアタシにはぴったりやん』

 リハビリと称して。

 街灯の下。
 矢口が戻ってこない中澤を迎えに来ると。
603 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:45
 実に楽しそうにボールと戯れる、中澤がいた。

 前みたいな成功率ではないけれど。

 シュートを打つ中澤の表情は。

 いくらリングにボールが蹴られても。

 嬉しそうだった。

「ちょ、だから悪かったってば。そんなムキになって追っかけんでもえ〜やろ〜っ!!!」

 中澤の切羽詰った叫び声。

 ふと気付けば。

 矢口を除いた三人は。
 いつの間にか、河原で鬼ごっこをしてる。
 あえて違いをあげるなら……。
 鬼が三人いるってことくらい、か。

 もう一度矢口はクスリ、と笑みを漏らして。

「矢口も混ぜろ〜っ!!!」

 逃げ回る中澤に向かってダッシュ、していった。

 とりあえず、成功した中澤のひじの手術。
 それでも。
『元のように動くかどうかはわかりません。これからのリハビリ次第です』
 医者のセリフに。
 中澤は黙って頷いていた。

 病院のリハビリルーム。

 黙々と汗を流す中澤を。
 何度も矢口は見に行った。
604 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:46
 心配だから、というのは建て前で。

 真剣な表情に。
 真剣な空気に。

 初めて会ったときと。
 変わらない、モノを感じた。

 何かに向き合う真剣さ。

 追いつづけるモノを持つ大切さに。

 夢を叶える為の努力の大切さに。

 やっと気付けたような気が、した。

ーーーーーーーーーーーーー
605 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:46
「も〜、みんなアホっしょ」

 散々走り回って。

 先にダウンしたのは勿論……安倍に矢口。

 それから軽く三十分は中澤たちの追いかけっこは続いて。

 さすがに呆れた視線を二人して向けてみるものの。

 一向に、その視線に気付く気配がない三人……。

「何であんなに体力が有り余ってるんだか・・・・・裕ちゃん、一応5,6キロ走ってたはずなんだけどなぁ」

「捕まったらヤバイべさ?」

「そりゃそうだ」

 キャハハハ、と二人で笑いあって。

「お弁当の準備しとく?」

「そ〜だね」

 実に普通の会話。
 助けろや、とか。
 捕まえるの手伝ってよ、とか。
 まぁそんな風な声が聞こえたような聞こえてないような。

 のんびりとレザーシート広げて。

 お弁当も広げてみて。

 どうやって三人をストップさせようか?

 そんな風にお互い思案顔で見詰め合ったとき。

「ちょ、危ないってっ!!」

「うわ、邪魔っ!!」

「お弁当〜っ」

 三者三様の叫びが聞こえてきたと思ったら。

 安倍と矢口のところに突っ込んでくる塊・・・・・。
606 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:46
 勿論。
 突っ込んできたらただじゃ済まさない。
 朝からお弁当作りにいそしんでた二人のキツイ視線が飛んだことは言うまではなく。

 その視線が怖かったことも当然あるだろうが。

 反射神経だけはいいのか。

 まぁさすがに。

「痛い……ってか、圭織、どきっ!重いやん!」

「裕ちゃんが逃げるからっしょ?!」

「アンタが本気出したら馬鹿力なんよぅわかってるからやろ〜がっ!」

「後藤のお弁当〜」

「だから、ごっちんも人の上でくつろぐんやないっ!」

 中澤を下敷きに。
 レザーシート脇に転がる三人。
 当然のことながら。
 矢口、安倍、後藤が作ったお弁当は無事で。

 まぁそれでも。
 どこにそんな元気があるのか。

「あ、思い出した。そうじゃん、裕ちゃんひどいよ〜、何で後藤たちに連絡してくれないのさ〜」

「だからそれは……」

「・・・・・・・・」

「圭織、無言で首締めるな、殺す気かいっ!!」

「ごと〜も締める〜」

「何でそうなんねんってマジで苦しいって!!」

 バンバン、と中澤の手が草の上を叩く。
 どうやらギブアップの意を示してるようだが。

「ここであったが百年目っ!」

「いや、圭織、アタシら百年もあってないわけちゃうやんっ!」

「ごと〜、裕ちゃんにシュートの仕方教えて欲しかった・・・・」

「これから教えたるやんっ!」
607 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:47
 いつまでも終わりそうにない・・・・・というか。
 これ以上お弁当の横で暴れられると充分迷惑だ、というか。

「「いい加減におとなしくしなさいっ!!!」」

 安倍と矢口の怒鳴り声。

 渋々中澤からどく飯田と後藤・・・・と苦しそうにぜいぜいと荒い息を吐く中澤はまだ起き上がれそうにない。

「も〜二人とも、泥だらけだべさ。あっち行って手、洗ってきて。ほら、ご飯にしよ?」

 にっこりと安倍が笑う。
 しかしそれに反して決して笑ってない視線に。
 後藤と飯田はこくこくと頷き。

「ほら、裕ちゃんも……って生きてる?」

 その傍らで、矢口は中澤の横にちょこん、と腰をおろし。
 目の前で手をひらひらとふってみる。

「・・・・・アイツらちったぁ手加減しろって・・・・マジ」

 中澤はごほごほと咳き込む。

「ったくしゃぁねぇな〜」

 矢口は中澤の身体を起こしてやり。
 背中についた泥をぽんぽん、とはたいてやる。

「裕ちゃん、はい、水」

 タイミングよく安倍が中澤に水を差し出し。

「ありがとさん。なっちは優しいなぁ・・・・」

 水を飲み干して。
 中澤は言いかけた言葉を途中で止める。

 ん?

 首を傾げる。
 どうも嫌な予感がしてるらしいが。

「なっちね、裕ちゃんのために美味しいお弁当作ってきたの」

 やっぱり笑顔を崩さずに。
 安倍が指差した先には。
 赤い物体が、てんこもり。
608 名前: 投稿日:2004/01/30(金) 23:47
「・・・・・・・・・・」

 泣きそうな表情になってる中澤にこっそりと。

「ど〜しても教えてくれってさぁ・・・・・バナナじゃないだけまだマシだろ?」

 申し訳なさそうな表情を作ろうとして。
 矢口は、思わずそのまま笑ってしまう。

「いい加減、偏食は良くないって。まぁ、頑張れ」

 がっくりと肩を落として。

 泣きそうな表情のままそれを完食した中澤。

 身をもって。
 不義理の代償を体験したせいか。

 その日の晩。

 連絡をとっていなかった友人たちにメールなり、電話をしている姿を見て。

 怒られている姿を見ながら。

 少しだけほっとした気持ちを矢口は感じていた。

 リハビリを始めて。
 頑なにみんなと連絡を取ろうとしてない中澤を見て。
 ちょっと・・・・・いや。
 だいぶ心配だったから。

 このまま、いなくなったらどうしよう?

 順調に回復してるらしいけれど。

 下手なプレイ見せられへんやん。

 そんな天邪鬼なセリフ。
 負けず嫌いは充分よくわかった。

 でも。
 みんな、心配してるんだよ?

 バスケできなくても、裕子は裕子じゃん。

 臆病になってる気持ち、ちょっとは後押しできたかなぁ、なんて。

 自惚れるのは。

 ありがとな。

 一日が終わって。
 照れたように笑った。
 中澤の笑顔が答えのような気が、した。 
609 名前:つかさ 投稿日:2004/01/31(土) 00:06
>>594 名無し読者さん
>イチャイチャ甘々な2人……ィィ!!(笑
・・・・・こんなに甘くなるはずではなかった(苦笑)
暴走姐さんと暴走矢口さんは誰にも止められない。しみじみと実感したり・・・(笑)

>>595 名無し読者さん
>バットでもハッピーでも・・・中澤さんと矢口さんが仲良しならオールOKです(w
はい。仲良しでいくはずです・・・・やや語尾が弱い(笑)

>>596 名無し読者さん
楽しんでいただけたでしょうか?

とりあえず、あっち向いてもこっち向いても暴走しまくりな人たちばっかりで(苦笑)
続きはそんなに待たせないかと。
週末には必ずってか、週明けたらちょっと忙しかったり。
まぁラストスパート頑張ります。
610 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:17
〜〜〜13〜〜〜

「裕ちゃん、ちょっといいかな?」

 初めて矢口と中澤が後藤の店に食べに来た。
 中澤の場合、飲みに来た、と言った方が正しいかもしれないが。

 一杯やってご機嫌な中澤に。
 飯田が話し掛けたのはだいぶ店もすいてからで。

「ん〜?いいで」

 あっさりと立ち上がった中澤の表情からは何も読み取れなかったが。

 少しだけ、真面目になった眼の光に。

 ん?

 同じように手伝ってたらしい後藤と矢口の眼が、合った。

 行くしかないよね?

「ちょっとごめんな」

 そんな言葉だけ残して。
 二人して、店の暖簾をくぐるのを見送って。

 うん。

 よし。

 アイコンタクト。

 矢口と後藤は二人の後を追いかけた。
611 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:18
ーーーーーーーーーー

 妙に真面目な、雰囲気。

 呼び出したくせに。
 飯田は中々会話の口火を切ろうとしない。

 中澤は気にした風もなく。

 そんな飯田を面白そうに眺めていて・・・・・・。

「そういや、なっちとはどうなってん?」

 きょとん、と。
 飯田が中澤を驚いたように見つめて。

「最近、仲良さそうやん?」

 ニヤリ、と意地悪く中澤は笑ってみたりなんかして、いる。

「・・・・・・・・普通だよ」

 そっぽを向く飯田の表情からは何も読み取れないが。

「ふ〜ん」

 あっさりと中澤は追求を止めた。

 再び、沈黙。
 飯田は何かを切り出そうとして。
 何度もためらって。

 今度は中澤も何も助け舟を出そうともしなくて。

 やっぱり、沈黙。

「・・・・・・・あのさ」
612 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:18
「うん」

 やっと話し始めた飯田の言葉。
 小さく中澤は頷いて。
 言葉の続きを待っているようだ。

「裕ちゃんは・・・・・・良かったの?」

 主語も何もない。
 それでも、中澤はわかったようで。

 苦笑い。

「アタシは紹介させてもらっただけやし?」

 大きな身体を小さくさせてる飯田に向かって。

「条件、結構良かったやろ?一年、頑張ってみる価値はあると思うで?」

「でもっ・・・・」

 飯田は中澤を見つめた。
 大きな眼が。
 真っ直ぐに中澤を射抜く。

『どうかな?ウチのチームに来て貰えないか?』

 手術が終わって。
 リハビリも順調で。
 就職活動していた中澤に一番に声をかけてきてくれた実業団チーム。
613 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:19
『もしひじの調子が、と言うのであれば、コーチ待遇も考えてる』

 最高の提示に。
 最大の配慮もしてもらって。

 それでも中澤は首を縦にふらなかった。

『そういや、前に全日本候補になった飯田圭織、覚えてはります?』

 残念がるスカウトに。

『一回会ってみますか?』

 飯田を紹介したのは中澤だった。

「高校卒業まで一年待ってくれるって話やったやろ?」

 どんな風に話を通したのか。
 スカウトの条件提示は、試合での実績がほとんどない飯田にとっても充分配慮がなされたものだった。

『今の段階では正式な話と受け取ってもらっては困るんですが。飯田さんのご家庭の事情も調べさせて
頂きました。こちらも慈善事業ではないので、企業にとってマイナスイメージは困ります』

 言うべきことは言われた。

『調べた結果、飯田さんが父親の戸籍から籍を抜いたというのも確認させてもらいました。それに
関して、きっちりと法的に無関係だと証明できればこちらとしても問題ないと思ってます』

 そして。

『三年前の段階でウチの会社としては飯田さんにも興味は持ってました・・・・・いろいろ複雑な事情
があったのもわかりました。それも踏まえた上で今回、お話させてもらってます』
614 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:19
 きちんと対等な目線で話すスカウトの人に。

『これから一年。学校の休みの時で結構なので、ウチのチームの練習に参加していただいて、それに
応じて来年、もし良かったら是非契約させて頂きたいと思ってます』

 悪印象はなかった。

「一応、ストリートバスケの試合も何回か見学してもらったんや」

 柔らかい眼差しで中澤は飯田を見つめていた。

「もう一回表舞台で勝負しようや」

 強い、言葉。
 強い、視線。

 動じることなく、飯田はその視線を受け止めた。

「裕ちゃんは・・・・・・・」

 飯田にとって、その話を受けることに何のためらいもなかったけれど。
 気になったのは。

 その話を断った、中澤の真意。

「アタシは今回は、こっちでチーム探してるからなぁ」

 困ったように中澤は肩をすくめた。

 その企業が中澤に提示した条件。
 中澤にとって不服はないものだったけれど。
 たった一つだけ。

 実業団チームの本拠地が北海道にあること。

 それだけがネックだった。

「今回アタシが話し断ったのと、圭織に話がいったのは全く無関係やと思ってくれてええ。今年の補強
に関してはまた他の人当たるってスカウトの人も言ってたし」
615 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:19
「・・・・・・・・矢口がいるから?」

 滑らかに話しつづけていた中澤は。
 飯田の言葉に。
 ぴたっと口を閉ざして。

 不自然な沈黙が、答えになっている。

 中澤は小さくため息をついた。

「違う、とは言えんわなぁ」

 髪の毛をかきあげて。
 そのまま腕を組んで。
 考え込む。

「矢口、怒るんじゃないの?」

 至極まっとうな飯田の意見。

「怒るやろなぁ」

 相槌を打ちながら。
 弱気な視線。

 でも。

「後悔してないんでしょ?」

「そうやねん・・・・・・」

 ちらっと飯田と中澤は目線を合わせて。
 笑った。
616 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:20
「まぁ、これから先なんてわからんけど」

 中澤は大きくのびをする。

「行こうな、オリンピック」

 親指を立てた中澤に。

「やるからにはとことん勝たないとね」

 当たり前のように返す飯田に。

「当たり前やろ」

 ニヤリ、と笑いあった。

 ・・・・・・・・・・・・・・その傍らで。

「やぐっつぁん、駄目だってっ!!」

「う〜、うが〜、うがっ」

 必死になって矢口の口を手で押さえる後藤の姿があった。

ーーーーーーーーーーー
617 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:20
 とりあえず。
 後藤が何とか矢口をなだめすかして。
 もう一度店の暖簾をくぐったのはそれから三十分以上たってからで。

 店に戻っていた中澤は。
 二人がいないのに気付いていないはずもないのだが。

 カウンター席。
 何も変わったことなどなかったかのように。

「圭織、これ美味いな〜」

 飯田を相手にやっぱりご機嫌だった。

「・・・・・・・・・・」

 無言で。

 矢口はそれを睨みつける。

「・・・・・・・矢口、遅かったな」

 我、関せず。

 そんな中澤の態度に。

「ちょ、アンタ何・・・・・・」

 一瞬の隙。
 矢口は中澤がちびりちびりと飲んでいたグラスを一気にあけようとして。

「・・・・・うげっ・・・・・・まずぅ」

 とりあえず飲み干してはみたものの。
 何だか、喉が焼けるように熱いのと。
 苦さ。
618 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:21
 矢口は顔をしかめた。

「・・・・・・・・・何やっとんねん」

 慌てて中澤は矢口から空のコップを取り上げる。

「何で何も話してくれないんだよぅ」

 一気に襲ってきた気持ち悪さ。
 怒鳴ってやろうと思ってたのに。
 矢口の口からこぼれた言葉は。
 弱々しかった。

 飯田との会話。
 聞かれてたことはわかっていたけれど。

 あまりにもストレートな矢口の追求に。

 中澤は。

「矢口には関係ない・・・・・・・アタシの問題や」

 口に出して。
 しまった、と思う。

 前にも一度、同じような状況があったなぁ、なんて。

 冷静に思い出したりなんかして。

 でも。
 前回と今回じゃ、事情が違う。

 中澤にとって。
 全然違う問題で。
619 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:21
「・・・・・・・・・馬鹿っ!!」

 頬に鈍い痛みを感じて。

 矢口はそのまま店を飛び出して行く。

 こんなとこまで前と一緒やなくてもええやん。

 心の中で愚痴ってみても始まらない。

「ごめん、勘定つけといてっ!!」

 唖然としている飯田と後藤。
 何かを言われる前に。
 何も言わせる暇も与えず。

 中澤は二人分の荷物をひっつかみ。
 矢口の後を追いかけた。

 当然。

 矢口が中澤を待っているはずもなく。

 店を飛び出した中澤が見たのは。
 2,30メートル先を走る・・・・・・走ってるつもり、の矢口だったり。

「・・・・・・・・・ったくっ」

 さきほど一気のみした冷酒が効いているのか。
 矢口の足取りはおぼつかない。

 危ないやん。

 そうさせた原因が自分だと。
 わかりすぎるくらいわかっているけれど。

「待てやっ」

 話くらい聞いてくれたっていいのではないかと。

 中澤は猛然とダッシュする。
620 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:22
「離せよっ」

「離さんっ」

 あっという間に追いついた、矢口の背中。

 抵抗する弱い力と。
 おぼつかない矢口の足元。

 ぐらっと二人の力の均衡が崩れた・・・・・・・。

「・・・・・・・っ痛ぅ〜」

 とっさにかばった矢口と右ひじ。

 でも。
 腕の中の温もりだけは。
 絶対手放さない。

 中澤はぎゅっと。
 矢口を抱きしめる腕に力を込める。

「話、聞いてや」

 胸元に。
 頭をうずめて。
 動かない、相手。

 ぎゅっと握りしめられた服の裾。

「アタシ、迷えへんかったし、悩みもせんかったんや。だから違うねん。矢口が考えてるようなこと
じゃないねん」

 やっと。
 矢口が中澤の胸元から顔をあげた。

 戸惑ったような表情に。
621 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:22
 安心したように中澤は笑う。

「話、聞いてくれる?」

 小さな頷きに。
 やっぱり。
 中澤はぎゅっと矢口を抱きしめる腕に力を込めた。

「苦しいって」

 そんな声も。
 やっぱり嬉しくて。
 結局。

「いい加減、離せっ!!」

 頭殴られるまで続いたのだけれど。

ーーーーーーーーー
622 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:22
 不自然なほどの沈黙。

「ほら」

 中澤は矢口に自動販売機で買ったポカリスウェットを手渡す。

 人通りの少ない通りのベンチ。
 二人して、腰掛けて。

「北海道の実業団チームで。アタシがこっちでプレイしてる時から結構声はかけてもらってたんや」

 一気に半分ほどポカリを飲み干して。
 ふぅっと大きく矢口は息をつく。

「・・・・・・どんだけ条件良くても最初から断るつもりやったよ」

 え?

 矢口がそっと隣りにいる中澤の様子を窺うと。
 困ったような、照れくさそうな。
 中澤は矢口と視線を合わそうとしなかった。

「アタシにとっての最低条件は、矢口の側にいれることやから、別に惜しいとも思わんかったし」

 ぶっきらぼうな声音。

「ただ、ストリートバスケにも結構いい選手、いるんや。だからその紹介も兼ねて会った。それだけやから」

「・・・・・・・・・・・・バスケは裕子の夢なんだろ?」

 足かせに、なりたくない。
 離れたくはない、けれど。

 矢口の想い。

「バスケってな、結構メンタル面もでかいんや」

 不意に。
 中澤は立ち上がる。

「アタシなぁ。結構、心配症やねん」

 話がどうつながるのか。

 矢口は首を傾げる。

「アタシが、矢口と離れたくないねん。絶対心配で心配でバスケどころやなくなるねん」

 自信たっぷりに。
 中澤は矢口の方を振り向く。
623 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:23
「バスケで一番になるのはアタシの中で絶対やけど」

 そのまま笑顔を見せる。

「やけど、それには矢口が必要やって。・・・・・・・バスケだけがアタシの夢やないねんな、これが」

「・・・・・・・アホじゃないの?」

 街灯に照らされて。
 影になった中澤の表情。
 でも。

「も〜、最大級のアホ」

 矢口は中澤の胸に飛び込んだ。

 すっぽりと包まれる、感覚。

「なら、矢口もアホや」

 っちゅ〜か、人の話、もうちょっと聞いてや。

 クスクス笑う、声に。

 安堵感。

「オイラの夢にさ」

 まだ、見つかってないけれど。

「裕子はいるよ。だからさ」


 ーーーーーーーーーお互いがお互いの夢になろうーーーーーーーーー。


 そんな幸せな関係が。
 あってもいいんじゃないか。

 現実の厳しさに。
 くじけそうになったとしても。
 そこに。
 なりたい自分がいるなら。
 胸を張りたい相手がいるなら。

 きっとそれが夢になる。
624 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:23
〜〜〜14〜〜〜

 それから半年後。

「も〜ちょっと、聞いてよっ!!!」

 後藤の店に。
 矢口の姿があった。

 春から近場の実業団チームでバスケを始めた中澤。

 それにともなって、もうちょっと広いマンションに引っ越した二人。

 学校、遠くなっちゃった。

 会社、ちょっと遠いなぁ。

 そんな想いも裏腹に。
 甘い生活が待っていると思いきや。

「また遠征行っちゃったよ〜っ!!!」

 叫ぶ矢口を宥める後藤と飯田。
 扱いも手慣れたものだ。

 遠征に、合宿。

 あまり家にいない・・・・・というか。
 帰って来れないのは重々わかってはいるが。

「オイラ、そんなの聞いてないっ!」

 膨れっ面で。
 まぁでも。
 それはそれで幸せそうだけれど。
625 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:23
「そう言えば圭織、来週から一ヶ月北海道なんだよね?」

 後藤が飯田に尋ねる。

「まぁね〜。何か合同合宿みたい・・・・・・裕ちゃんも来るって言ってた」

「・・・・・・・何だと?」

 カウンターで突っ伏してた矢口がむくり、と顔をあげる。

「オイラそんなの聞いてないってか・・・・・・そしたら、来月もいないのかよぉ」

 ふむ。
 困ったように飯田は笑う。

「そういや矢口、進路希望、出した?」

 手っ取り早く話題を変えるのが得策、と踏んだらしい。

「うん。栄養士の資格とれるとこでスポーツアドバザーになるの勉強できるとこ、探し中だいっ」

 Vサインを出して。
 さんざん愚痴ってたのが嘘のように。
 影響を与えた人物なんてわかりすぎるほどわかって。

 飯田と後藤は笑みを漏らす。

「ごっつぁんはど〜よ?」

「後藤は料理の専門学校かな〜」

「圭織は聞いてくれないの?」

「「聞くまでもないじゃん〜」」

 他愛もないおしゃべりに。

「なっちはど〜すんのかなぁ?」

「北海道の大学に行きたいって」

 意味ありげに後藤が飯田に視線を送る。
626 名前: 投稿日:2004/01/31(土) 23:24
「ふ〜ん?」

 ニヤリ、と意味深に矢口と後藤は笑って。

「関係ないじゃん」

 ぷい、とそっぽを向く飯田の顔は。
 照れたように赤くなってたり、する。

 きっと。
 前を向いて歩きつづける限り。
 そこに、なりたい自分や。
 夢がある。
 それはきっと。
 当たり前のこと、なのだろう。

                                 【END】
627 名前:つかさ 投稿日:2004/01/31(土) 23:33
終了っす。
容量内で終わって一安心。

次はもう一本のスレに移動します。
今後作の予定は未定・・・・なんですが、某所作品の番外編(いちごま)と短編一個を考えてます。

このスレはこれで終了です。
読んでくださった人、レスくれた人、本当にありがとうございました。
628 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/01(日) 01:12
完結お疲れ様でした〜!!
心温まるやぐちゅーをありがとうございました〜!!!

もう一方のスレ楽しみにお待ちしてます。(w
629 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/02(月) 01:08
いいものありがとうございました。
こんなに沈んでるので・・・更新に気が付きませんで(苦笑
他スレ楽しみに待ってます。
630 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/02(月) 01:30
完結お疲れ様でした、お互いがお互いの夢‥‥‥ステキです。
『夢』つかささんの話を読んでたら考えさせられるなーて思ったりして。
しかし、いつの間にか飯田さんとなっちがこんなことになってたなんてw
631 名前:つかさ 投稿日:2004/02/02(月) 01:53
とりあえず、レス返しだけでもっつ〜か。

まぁ。
こだわりをもって。
やぐちゅーメインの方はage更新してきました。
そして。こだわりをもって今回のはsage更新にしたっつ〜か(苦笑)

自分の書くものに自信をなくした一年でもありました。
書きたい気持ちとプレッシャー(そんな大層な書き手でもないけど)
いろんなことがあって。
age更新が怖いって気持ちが凄く今、あります。
やぐちゅーだから読んでくれるんだろうか?
そんな気持ちでもう一本のスレを立てました。
作者名がつかさじゃなくて、誰かが読んでくれるのだろうか、と。
結局やぐちゅーしか書けないから自爆してんすけど・・・・・(苦笑)

話の中身にムラがあったっつ〜反省点しかないのがこのスレであったりします。
だからこそ、思い入れがあったりするんですが。
がむしゃらに、書けてたことが懐かしくあったり。

もう一本のスレが終わったら、しばらく書かないと思います。
SEEK撤退宣言したのがこのスレなんで・・・・・いろいろ複雑な思いはありますが。
本当に。
ありがとうございました。
632 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/02(月) 19:42
撤退しちゃイヤ!
633 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/02(月) 23:55
本当にお疲れ様でした。
やぐちゅーでなくても・・・つかささんの書く心模様が好きです。

もう一本のスレ楽しみにしてます。
そして又気が向いて・・・書きたくなられたら・・・戻って来てください。
いつまででも待ってます。(プレッシャーをあたえてる訳ではありませんのであしからず)
つかささんの文章が好きなのです。


いつでも、何年か後でもいいので・・・気が向いたら・・・・
超短編でもいいのでごまゆー書いて下さい。
つかささんの書くごまゆーが読んでみたい〜!!
一生のお願いです。





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