CROSS HEART
- 1 名前:tsukise 投稿日:2002年11月22日(金)22時51分53秒
- 月板、花板と書かせていただいていた者です。
今回、ごまっとう主体(!?)でCPこんごまを書かせて頂きます。
アンリアルのちょっとアンション物で、大体ハロプロメンバーは出演予定…です。
お目汚しにならないよう…努力しますっ。
・前作紹介
TEL MET(月板)
http://m-seek.net/moon/index.html#1032186355
TEL MEU(花板)
http://m-seek.net/flower/index.html#1037869529
- 2 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月22日(金)22時53分46秒
- 華やかな照明――。
豪勢な料理――。
室内を流れるクラシックに合わせて踊る、各界の有名人達――。
超有名ホテルでの極秘ディナーショーに、私達はいた。
ううん…
正確には『潜入』していた。
『――ターゲット確認』
耳に仕込んだ小型スピーカーから聞こえる、美貴の声。
それまでダンスを踊っていた私は、軽くパートナーに会釈してその場を離れる。
ちょうどその時、少し離れた場所で同じく踊っていた亜弥も私と視線を合わせると
ごく自然にパートナーと別れて壁際へと下がっていた。
『――ターゲット、現在ステージ裏にて待機中』
続けて聞こえた声に、私と亜弥は両サイドの扉からそれぞれ会場を出るとステージ裏へと
向かう。
- 3 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月22日(金)22時54分20秒
- 『美貴、扉の警備員は?』
『大丈夫。みんなすり替えた睡眠薬入りのお茶のおかげで、警備室でグッスリおねんね中』
亜弥の質問に、少しおどけたカンジで答える美貴。
ミッション中でも悪ノリするのは、美貴の悪いクセ。
「…護衛のSPは?」
『そっちはアウト。軍事訓練受けてるヤツらっぽくて効かなかったんだよね』
私の質問にも、全然悪びれた様子もなく答えてくる。
このコの場合、緊張って言葉は形をなさないんじゃないか、なんて考えてしまう。
『…で? 何人?』
『ぜんぶで3人。結構ガタイがイイみたいけど、2人なら全然問題ないっしょ?』
『アンタ、これで貸し1つだかんね?』
『わーかってるって』
亜弥の言葉に、ため息混じりに答える美貴。
結局いつも美貴はツメが甘い。
これがわざとだったら、絶対に許せないコトなんだけど美貴の場合ある種、天然だから
諦めるしか他ないんだよね。
SP3人…。
軍事訓練を受けた連中ねー…。
ま、私達の前では敵でもなんでもない。
――能力をもった私達には、ね。
- 4 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月22日(金)22時55分06秒
- 『――会場の照明が落ちた。ターゲットに接触して、すぐにミッションを遂行して』
『了解』
「了解」
美貴の指示に、亜弥と私の声が重なった。
そのまま、ステージ裏へと続く廊下を走り出す。
途中で分不相応な大人びたドレスを脱ぎ捨てると、黒のキャミソールに黒のサバイバルパンツの
ミッション服に衣装チェンジしてMフレームのサングラスで目元を隠した。
戦闘準備完了…ってトコロ。
それから裏戸口の前で立ち止まって、亜弥からの連絡を待つ。
このミッションを成功させるには、2人同時でかからないと時間的に結構厳しい。
なんせ、もう照明が落ちてるんだから1秒だって無駄にはできないんだ。
『真希』
来た。
反対側の裏戸口の前に着いたらしい。
私は、一度深呼吸をして――亜弥に告げた。
「…ゲーム、スタート」
- 5 名前:tsukise 投稿日:2002年11月22日(金)22時56分25秒
- 今回更新は、ここまでです。
短めですが、ここがちょっと区切りがいいトコロなんで(^^ゞ
とりあえず完結できるよう頑張りますので、温かい目で
みてあげてくださいませ…。
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月22日(金)23時07分57秒
- おお! ごまっとう主演は、はじめて見ます。
内容も面白そうですね、応援しまっす。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月22日(金)23時59分48秒
- 花板のスレ使えばいいのに
- 8 名前:7 投稿日:2002年11月23日(土)00時07分47秒
- と思ったら続編書く予定だったんですね
スレ汚しスマソ
- 9 名前:こんごま推進派 投稿日:2002年11月23日(土)00時11分53秒
- 新作うpお疲れ様です。
花板のスレ使ってないってことは、続編を期待していいんでしょうか?
レスでそんな事を書いていたんで、自分は続編キボヌです。
こっちではごまっとう主演みたいですね。
長編になるみたいですが、お付き合いさせていただきますので
がんかってくらはい。
- 10 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年11月23日(土)07時26分48秒
- 前作と同様に作者様に
どこまでもついて行くので
頑張って下さい。
- 11 名前:15 投稿日:2002年11月23日(土)14時56分06秒
- 向こうから早速来ました(w
どこまでもついて行きます。
前作と全然違うタイプのですね!どうなるのか楽しみです(w
そして密かにアヤミキも…(w
- 12 名前:BLUE SKY 投稿日:2002年11月23日(土)17時05分15秒
- 紺野さんがこれからどのように絡んでくるんでしょうか
前作に引き続き、期待しています
もちろん、いつかは前作の続編も
- 13 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月23日(土)21時14分03秒
- バンッ!
両サイドの扉を、同時に開いて薄暗がりの中へと突入する。
「誰だッ!」
入ってすぐのところにいたSPの一人が、私に気がついてすぐさま腰元に手を伸ばした。
その先に見えるものは黒光りした――冷たい拳銃。
でも、それを手にするより早く私はソイツに近づくと、みぞおちに鋭い膝蹴りを一発。
「ぐっ…何者だ…っ」
確実に急所にいれた。
でも、ソイツは倒れなかった。耐えたんだ。
ここらへんが一般ピープルと軍事訓練を受けたヤツとの違い。
でも、私はその情報を知っていた。
だから…続けざまに回し蹴りをソイツの顎へとクリーンヒットさせた。
「がぁッ…おん…なぁ…っ」
ドン…ッ!
巨体が背中から床に落ち、その振動で私の身体が軽く弾む。
それきりだった。
ソイツは脳震盪を起こして、目を開いたまま気を失った。
- 14 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月23日(土)21時14分42秒
- 一度肩で息をする。
その時―――鈍い、くぐもったキュンという音がスピーカー越しに聞こえた。
「亜弥?」
すぐさま反対側から突入した亜弥へと呼びかけてみる。
反応はない。
「ちょっと亜弥!」
もう一度声を張り上げて呼びかけた時、
『なによっ、今取り込んでんのよ!?』
なげやりな返事が返ってきた。
どうやら無事らしい。
きっと、出くわしたSPの一人がサイレンサー付きの拳銃で亜弥に応戦しているんだ。
…そんなおもちゃなんて、私たちには無駄なのに。
「なに?そんな一人相手に、てこずってるワケ?」
『うっさいなぁ…っ、もう片付くわよ…っ! フッ!!』
亜弥の鋭い言葉。
それに続くように、男の…多分SPの痛みに歪むような声が聞こえた。
それきり、くぐもった銃声が途絶えたトコロから見てSPを倒したらしい。
- 15 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月23日(土)21時15分30秒
- 「先、行く―――!?」
行くよ、と言いかけて背後から殺気を感じて私は動いた。
床を転がって、背後に感じる気配と間合いをとる。
同時に、私がいた場所に閃光が走る。
目を凝らしてみて、それが左手に持ったナイフの切っ先だってことが分かった。
きっとあのまま棒立ちしていたら、ちょっとした切り傷どころじゃなかったと思う。
「オマエ、ナニモノダ?」
暗がりから聞こえたのは、流暢な日本語。
外国人のSPも混ざってたらしい。
しかも…その気配からして、さっきのヤツとは格段にレベルが違う。
「アンタに名乗る名前なんてないよ」
ゆっくり立ち上がって、それだけを告げる。
途端にソイツの殺気に満ちた気配が、強くなった。
「ナラ、オマエ、シヌ」
――来るっ。
構えた瞬間、ソイツは左手にもったナイフをそのままに、右手で拳銃を構えて発砲してきた。
- 16 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月23日(土)21時16分10秒
- キュンッ キュンッ キュンッ
続けざまに撃たれる弾は、全部威嚇射撃でまったくの的外れのものばかりだった。
きっと狙いは、接近戦のナイフ。
その証拠に、どんどん私との間合いを詰めていってる。
そして、間近に来たソイツからナイフの切っ先が鋭く突き出された。
「くっ…」
私はそれを潜り抜ける。
でも、それを予測していたみたいに、ソイツは右手の銃を突きつけた。
撃たれる――ッ!
その瞬間、私は『能力』を発動させていた。
身体の中から湧き上がるような、熱いモノ。
それが全身に、疾風のオーラをまとわりつかせ、一気に鋭い風の刃となって放出させた。
「グアッ…!」
まるで鎌鼬にあったみたいに、目の前のソイツは全身に切り傷を負いながら後ろに吹っ飛んだ。
そして無残なその傷を覆い隠すように、出血が始まる。
「ガァァッ!」
そのままのけぞりながら、ソイツは拳銃とナイフをとりこぼす。
もちろん、その好機を逃すわけがない私は拳銃を手に取ると、ソイツを見下ろすように立ち
引き金を―――
- 17 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月23日(土)21時16分49秒
- 「真希ッ!」
「!!」
ビクッと身体が跳ねた。
振り返ってみて、いつのまに来たのか亜弥が厳しい表情で私を見ているのに気づく。
そして――今の、私の状況にも気づいた。
今、私は何をしようとした…?
目の前のコイツを、当然のように撃とうとしていた…?
躊躇いもなく、当たり前のように――。
そう思った途端、全身の力が抜けそうになった。
でも、目の前で痛みにうめいているソイツを見て、力を奮い起こす。
「…悪いけど、しばらく眠ってて」
言って、拳銃の角で頭部を殴りつけた。
しばらくは気を失って、動けないだろう。
「…………」
「……行くよ、まだ仕事は終わってない」
亜弥はじっとそのまま立っていた私の手から、拳銃を抜き取って遠くへ放り投げると
厳しい表情をしたままそれだけ告げた。
「……わかってる」
少しバツの悪い私は、顔を背けたままそう答えるのがやっとだったんだ。
- 18 名前:tsukise 投稿日:2002年11月23日(土)21時27分07秒
- 今回更新はここまでです。
まだちょっちプロローグ的ですが、次あたりで
紺野が出せる…といいなぁ…(^^ゞ
>>6 名無し読者さん
こまっとう主演って、ほんとにまだあんまり見かけませんね…。
結構面白いと思うんですが…。
応援レスをありがとうございますっ。完結できるよう頑張りますね。
>>8 7さん
いやいや、ちゃんと宣言していなかった私も悪いんでお気になさらず♪
とりあえず、現在続編を同時進行で考え中なんで…(^^ゞ
>>9 こんごま推進派さん
前作への続編希望、ありがとうございます♪
現在、色々考え中なんでもうしばらく時間をくださいませ(^^ゞ
ごまっとう…ほんとに長編になりそうですが完結できるよう頑張りますね。
>>10 名無し( ´Д`)ファンさん
前作に続きまして、今回も応援レスをありがとうございますっ。
結構長編になりそうなんですが、お付き合い下さると嬉しいです♪
まだ手探り状態ですが、必ず完結させますんでっ。
>>11 15さん
早速、読んでくださったみたいでありがとうございますっ!
前作とガラッと一新させた内容なんですが、お付き合い下さると嬉しいです♪
アヤミキ、いいですね♪ ちょっと考えてみますね!
>>12 BLUE SKYさん
前作に続きまして、応援レスをありがとうございますっ。
紺野との絡み…今回は結構痛めになりそうですが、お付き合い下さると嬉しいですっ。
前作の続編は、あれやこれやと結構考え中なんでもう少しお時間ください…(^^ゞ
- 19 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年11月24日(日)00時26分35秒
- 更新お疲れ様です。
前作からがらりと雰囲気が変わったので、先が読めません。
つづきが気になりまくりです。
- 20 名前:うまい棒メンタイ味 投稿日:2002年11月26日(火)15時27分38秒
- はじめまして!!
tsukiseさんの小説ははじめて読みました
ものすごく面白いというか読んでいてわくわくします
私も同じようなジャンルの作品を書いているので勉強にもなります(w
これからもがんばってください
- 21 名前:名無し蒼 投稿日:2002年11月26日(火)21時54分10秒
- ども…元15です(w
本当にガラッと雰囲気が変わりましたよね!
続きお待ちしてます♪そしてアヤミキも…(w
オイラも書き出しました。読んでみてください(w
- 22 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時31分59秒
- そのまま私と亜弥は、ステージ幕の後ろへと進み―――ターゲットを確認した。
ノースリーブの青いドレスに、映えるような茶色くてウェーブがかったロングの髪。
きっと、美人の部類に入るだろう顔立ちのターゲットの少女―――飯田圭織の姿を。
彼女は幕が上がるのに緊張しているのか、ちょっと強張った顔で前をじっと見つめていた。
「飯田圭織って、あなた?」
私の呼びかけに驚いたみたいで、勢いよくこちらに視線を向けられた。
その時、流れるように肩から落ちた髪が印象的で、彼女の職業を思い出し『なるほどなー…』
なんて思ってしまう。
「そうだけど…あなた達は一体…?」
不振そうな目。
当然だと思う。
いきなり、知らない人間にこんな場所で…大舞台の幕開けの前に声をかけてきたら誰だって
訝しい顔をするだろうから。
- 23 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時32分38秒
- 「あたし達は、あなたの妹の希美ちゃんに頼まれてココに来たの」
「ののに…?」
亜弥はそういう所をわきまえていて、警戒心を解くようにニッコリと微笑みながら私の横を
すり抜け前に出た。
彼女も、身内の名前に少し緊張が解けたみたいで、話を聞くみたいに問いかけてくる。
正直、人付き合いが苦手な私より、ここは亜弥に任せたほうがいいかもしれない。
そう思って、私は亜弥の後ろで黙って話を聞いた。
「あなたに、モデルの仕事を辞めさせてくれってね。これから舞台を踏むって時に悪いケド」
そう、彼女の職業はモデル。
その業界の中で知らないヤツはもぐりって呼ばれるぐらいのトップモデルなんだ。
今回の依頼は、その妹からのもの。
「え…?」
明らかに困惑した彼女の声。
まぁ、トップモデルまで上り詰めた彼女にいきなり辞めろなんて言ったら、当然の反応だと思う。
- 24 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時33分16秒
- 「あなた達って、ご両親を早くに亡くしていて、二人きりの姉妹なんだってね」
「そうよ…。だから…っ、だから私がののの為に働いて、お金を稼いでいい学校に進学させないとっ」
「あなたの気持ちは判る。でもね、あたしには妹さんの気持ちも痛いほど判るの」
「え…?」
亜弥だから言える言葉のような気がした。
過去に…ちょっとした出来事があった亜弥だから…。
そこで亜弥は一度、私の視線を気にするみたいに振り返ってきた。
でも、私は気にも留めないような顔で違う方向を見ながら、髪をいじる仕草をする。
…誰にでも触れられたくない過去ってあると思うから。
これが私なりの亜弥への気配り。
人一倍カンのイイ亜弥だから、そんな私の気持ちにも気づいたと思う。
少しだけ苦笑して、ターゲットの少女に向き直ったのがその証拠。
「…モデルの仕事をして、希美ちゃんをいい高校に行かせたいって気持ちはわかるけど
それ以上に、希美ちゃんはあなたと一緒に過ごす時間がほしいんだよ」
「のの…」
- 25 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時33分58秒
- 彼女の心が大きく揺らいでいるのが手に取るように判る。
頼りなさげに伏せられたまつ毛が、少し丸められた背が戸惑いを表していたから。
だから、私は背中を押すような言葉を選んで告げた。
「それに…あなたは知らないかもしれないけど、所属してる事務所、相当ヤバイ橋を渡ってる
みたいよ?」
「え…?どういうこと…?」
俯き加減だった彼女は、首をかしげながら私を見た。
私が言ってもいいんだけど、きっとどこかトゲがある言い方になるに違いない。
そう思って、私は亜弥と視線を交わしたんだ。
亜弥は『もう…』って感じでため息をつきながらも、私の言葉を続けた。
「あんまし言いたくないけど、所属モデルの多額のピンハネはもちろん…使えないって分かった
瞬間、風俗店に売られてる。どっかのこれモンの会社と繋がってるらしいし」
言って、頬に十字傷を指でかたどってみせる。
それを見ただけで、誰もがわかる表現。
もちろん、目の前の彼女も例外じゃない。
「そんな…っ」
信じられないって顔をしながら眉間に皺を寄せた。
- 26 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時34分37秒
- その反応から、本当に彼女は何も知らなかったらしい。
言い方は悪いけど、『空を飛んでいる蝶には、蟻のコトなんてわからない』ってヤツと一緒だったんだ。
でも…、蟻のことに気づいた蝶は――彼女はどうする?
決断の時だ。
「どうする? 決断するのはあなたよ?できれば希美ちゃんの為にも、この仕事辞めてほしいけど」
あくまで優しく、選択しやすいように亜弥が促した。
でも、彼女の答えを聞くのはちょっと早いみたい。
だって、私は…ううん、きっと亜弥も気づいてるだろうけど、背後に一つの気配を感じたんだから。
「それは困るなぁ…」
その気配の主が、ステージ袖から顔を出した。
私達は、ゆっくりと振り返って確認する。
ああ、この人。
今回のターゲットを知る為に調査した時、美貴の持ってきた写真に載っていた飯田圭織の所属事務所の
「平家社長…っ」
そう、この1年ワンマンでモデル界に新しい風を送り込んだとされている平家みちよ社長だ。
「護衛の3人を倒してるから、どんな凄いヤツが来たんや思たけど…ただの子供やん」
腕組みをしながら、私と亜弥にちょっと小バカにしたような視線を送りながらステージをあがってくる。
そのまま、私達の前に立つと見下ろすようなカンジで喋り始めた。
- 27 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時35分09秒
- 「カオリはうちの会社きってのトップモデルや。ここまで育てるのに苦労したし…大事な商品
なんやからなぁ。簡単には手放されへん」
「商品…?わ、私が…?」
一気に青ざめていく、彼女の顔。
きっと彼女の中では、そんな意識がなかったんだろう。
そんな彼女の表情を一度見て、それから私は平家みちよに向き直った。
こういった場合のことも、もうあらかじめ想定はしていたからどうすればいいか判ってる。
「取替えの効く商品、でしょ?」
言って、亜弥に視線を送る。
私の視線に気づいた亜弥は、微かに頷くと自然なしぐさで腰の後ろに手を当てた。
「うん…?」
「あなた、最近モデル養成学校を始めたらしいじゃない? ルックス・体系ともに抜群なコ限定の。
彼女がいなくなっても、次のトップモデルはもういるんでしょ?」
「何が言いたいん…?」
急に険しい表情になる彼女。
でも私は、少しおどけたように言葉を続ける。
- 28 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時35分50秒
- 「別に。ただ、そんな完璧なモデル資質のコが揃ってるなんて、相当色んなトコロから情報を
集めてるんだなー…って思って。例えば…ヤクザ関係とかね」
「ハッ、そんな証拠なんにもないやん」
彼女は鼻で笑ってみせる。
やっぱ、ガードは堅い…か。
なら…ひっかきまわしてやるだけ。
「もしかしてさー、そこにいた3にんのSPの拳銃なんかも、そこらへんから流してもらったの?」
「…………」
途端に彼女の顔色が変わった。
どうやらタブーの領域に触れたみたい。
「モデル一人の警護にしては、物々しいね。おかげで彼女に会うのに時間かかっちゃった」
亜弥の面白がるような声。
イイ性格してるよね、亜弥も……私も。
「もしかして…誰かから狙われたりしてるとか? それだけ恨みを買うようなことしてるってコトなんだ?」
「アンタらに何が判るんや!?」
続けて言った私の言葉に、彼女はキレた。
こういう駆け引きでは、先に感情を爆発させた方が負けなのに。
感情に翻弄された人間は、隠していた真実を曝け出してしまうから。
もちろん、彼女も同じコト。
「こういう世界では、裏のモンと繋がっとらんと生きていかれへんのや。それにウチらにとって拳銃は、
防衛武器の一つや!」
…ほら、ね。
- 29 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時36分31秒
- 「認めちゃったね」
「…? なにが?」
不思議そうな顔をしている彼女に、私は亜弥へと視線を投げかけた。
その視線を追いかけた彼女は愕然とした。
なぜなら、亜弥はイタズラを成功させた子供のように笑いながら、ある物をヒラヒラと見せていたから。
それは、今彼女が言った言葉を録音した…
「マイクロ…カセット…!?」
「ご名答」
チェックメイト。
これで彼女が私達を訴えようとしても、このテープがある限り公に裁かれるコトはない。
「…社長…」
それまで、コトの成り行きを見守っていたターゲットの少女が口を開いた。
どこまでも悲しい声で。
「カオリ…?」
「…社長。私、社長と一緒に夢を追いかけてるものだとばかり思ってました…。でも、違ったんですね。
残念です」
「や、辞めることは許さんでっ。こっちにはちゃんと契約書があるんやからなっ」
最後の悪あがきってこのコト。
彼女は胸ポケットの裏から、契約書を突き出して不敵な笑みを浮かべたんだ。
「社長…」
どこか哀れんだような少女の声。
その声を聞いて、隣に立っていた亜弥が何か言いたげな視線を私に向けてきた。
意味が分かっていた私は、ゆっくり頷く。
- 30 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時37分14秒
- きっと、これが役所の人間だったりしたらスゴスゴと身を引いたかもしれない。
でも、私達にはそんなものは関係なかった。
いわば…単なる紙切れでしかなかったんだ。
特に、亜弥の前では。
パチンッ
静寂を切り裂くように、亜弥が指を鳴らした。
その瞬間、瞳は血の色よりも濃い深紅の色に変わる。
亜弥の『能力』が、開放された証だ。
そしてその力は、契約書に形を現した。
…燃え上がる炎となって。
「熱ッ!な、なんやねんッ!」
当然、炎の熱さに契約書を持っていられるワケがなくて彼女は床に落とす。
それでも炎は意思を持ったように燃え広がり、少女を束縛するモノを灰に変えていった。
「あ…ああ…っ!」
すべてが灰となってしまった瞬間、彼女は力なくその場にくず折れた。
自分の力を慢心したことが…彼女の最大の敗因だ。
- 31 名前:ミッション・スタート 投稿日:2002年11月27日(水)17時38分11秒
- 「…所詮、素人が火遊びをすると火傷をするってコトだよ」
今度は私達が彼女を見下ろす形で、それだけ告げた。
きっと…彼女はもう立ち上がれないだろう…。
「いままでお世話になりました。さよなら…平家社長」
ターゲットの少女の言った言葉は、きらびやかで華やかな世界との決別を表してた。
そして、ステージを降りていく少女は二度と振り返るコトはなかったんだ。
「「…ゲームクリア」」
静かに私と亜弥の声が重なり、その場を後にした。
ステージ裏を去る瞬間、開幕のブザーが鳴ってカーテンが上がっていく音がしたけど
その後がどうなったのかは、結局わからなかった。
- 32 名前:tsukise 投稿日:2002年11月27日(水)17時46分56秒
- 今回更新は、ここまでです。
結局プロローグ終了まででした…。
次回から、結構核心にもっていく…予定です(^^ゞ
>>19 名無し( ´Д`)ファンさん
そうですね、前作とは一新させた内容で書いている本人も手探り状態です(^^ゞ
とりあえず、ラストまでの展望はある程度できているので完結までお付き合い
くださると嬉しいですっ。
>>20 うまい棒メンタイ味さん
こちらこそ、はじめましてです♪
小説に、嬉しいご意見をありがとうございますっ。
うまい棒メンタイ味さんも同じようなジャンルだそうですねっ。
是非、読んでみたいので場所を教えて欲しいですっ!!
>>21 名無し蒼さん
アヤミキ…色々考えていますので、もうしばらくお待ちくだされば幸いです(^^ゞ
そしてそして!ついに書き始められたのですねっ!おめでとうございます!
ではでは、早速拝見させていただきますね!これからも頑張っていきましょう!
- 33 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年11月27日(水)18時52分48秒
- 更新お疲れ様です。
あややの過去も気になるけど
今は、紺野の登場の仕方が気になり始めてます。
これからも、作者さんのペースで頑張って下さい。
- 34 名前:名無し蒼 投稿日:2002年11月27日(水)22時20分15秒
- 更新お疲れ様です
tsukiseさんレスありがとうございました!
相手はあの人だったんですね(w
そして从‘ 。‘从の過去も気になります。
あやみき期待して?待ってます♪w
お互い頑張りましょう!!
- 35 名前:読み人 投稿日:2002年11月28日(木)01時08分58秒
- おお、なにやらかっこいい(w
お気に入りに氏しときます〜
- 36 名前:うまい棒メンタイ味 投稿日:2002年12月01日(日)14時37分23秒
- あややの能力は「火」かな・・・・・
う〜ん藤本の能力も気になるなー
私の場所ですか・・・・…処女作で自慢できたものでもないんですが
それに完結もしてないし……
>>メール欄へどうぞ
- 37 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月01日(日)19時25分30秒
- お・・・おもしろい・・・
ごっつあんとあやや・・・すごい気になりますね・・^^
更新楽しみにしてます。
- 38 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
- 川o・-・)ダメです…
- 39 名前:隣のスレの作者です 投稿日:2002年12月02日(月)04時12分21秒
- ごめんなさい、間違って書き込んでしまいました…
↑何とか削除できませんか?
本当にごめんなさい。
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月02日(月)08時05分36秒
- 案内板で削除依頼すれば、消してもらえます。
- 41 名前:ミッション・クリア 投稿日:2002年12月02日(月)17時55分07秒
- 「あっ! きた!お姉ちゃんですっ!」
「ののっ!」
人目につかないように裏口から出て正面に回った私達を迎えたのは、小さな依頼人の少女。
姉である飯田圭織の姿を見るなり、全速力で駆け出して抱きついてきた。
もちろん飯田圭織も、愛しそうに抱きしめ返してる。
その表情にはもう、モデルの仕事への未練も何もないみたいだった。
前ばかり見ていると、後ろから追いかけてきている大切な何かを見失うこともある、なんて
誰かから聞いたことがあったっけ…?
まさに今までの彼女がそうだったのかもしれないね。
「お疲れ〜」
「美貴…」
ぼんやりしていた私に声をかけてきたのは、棒のついたアメをくわえながら飄々とした顔の美貴。
その手に持っていた2つのコートを、それぞれに放り投げるように渡してきた。
「…ったく、今回限りにしてよ?こんな依頼」
受け取って、あからさまに不満の声を上げたのは亜弥。
今回の依頼で一番乗り気じゃなかったのは、その亜弥だったっけ。
なぜならそれは美貴が独断で取ってきたものだったから。
- 42 名前:ミッション・クリア 投稿日:2002年12月02日(月)17時55分42秒
- いつもはインターネットのサイトで依頼を選んで取っていたんだけど、何故か今回のはたまたま
散歩がてらに出かけた公園で出会った少女の、お願い交じりの言葉を依頼として取ってきたんだ。
美貴曰く…『なんだか可哀想で放っておけなかった』らしい。
元々、子供のコトが大好きな美貴だから、多分仲良くなって身の上話でも聞いて軽い気持ちで
引き受けたんだと思う。
でも正直、そんなお願い事に振りまわされて、危険な目に遭った私と亜弥はたまったもんじゃない。
しかも…報酬は…、
「はい、報酬だよ〜ん」
「「……………」」
やけに嬉しそうな美貴の声。
どうして、こういつも美貴は私や亜弥と感じ方・捉え方が違うんだろう?なんて思ってしまう。
……もう、だいぶ慣れはしたけど。
そんなコトを考えながら、手渡された『報酬』に目を落とす。
…まぁ、子供からの依頼だしそんなものだろうとは思っていたケド…。
- 43 名前:ミッション・クリア 投稿日:2002年12月02日(月)17時56分27秒
- 「……なにコレ?」
それでもやっぱり問わずにはいられなかったっぽい亜弥が、ぶっきらぼうに言い放つ。
「なにって、報酬」
「そーじゃなくて、なんで報酬がコレなのかって訊いてんの!」
言って、亜弥は手のひらに乗った『報酬』、もとい今美貴が口に入れているアメと同じ種類の
アメを掴んで美貴に突きつけた。
そう、今回の報酬は棒つきのアメ3つだったんだ。
「そんな、だってさぁ子供からお金なんて取れる?」
「だからって、なんでよりによってコレなのよ!?アンタは、一体あたし達の苦労をなんだと思ってんのよ!」
「え〜…」
あー…頭痛い。
私は二人に一度ため息をついて、背を向けた。
いつものコトだけど、亜弥と美貴は結構言い合うコトが多い。
それが大抵、この報酬のコト。
価値観の違いってヤツ?
お金で解決する亜弥と、気持ちで解決する美貴。
…まぁ、二人とも間違ってないと思うから、あえて私はどちらにも加担せずに傍観する。
正直―――私は、報酬なんてどうでもいいし…。
ううん、本当は仕事自体どうでもいいのかもしれない。
ただ、自分の存在を確かめていたいってだけで…―――って、えっ!?
- 44 名前:ミッション・クリア 投稿日:2002年12月02日(月)17時57分02秒
- 「……!? ちょっと、亜弥…っ」
私は目の前に広がる光景に、眉をしかめながら亜弥の名を呼んだ。
でも、肝心の亜弥は…
「大体、アンタはいつもオペレートばっかして現場にいないじゃん!?」
「なによー、その代わりちゃんと下調べから誘導までやってんじゃんかっ」
まだケンカの真っ最中。
「亜弥! 美貴も!」
「「なに!!」」
少し強めに言った私の声に、やっと二人が振り向く。
そのタイミングはバッチリで、仲がいいんだか悪いんだか…なんて思ってしまった。
でも、そんなコトを言ってる場合じゃない。
「アレ…」
「…え!? なにアレ!?」
私が指差した先の光景に、やっと事態の深刻さがわかった二人の顔色が変わった。
私が指差したのは、さっき出てきたパーティー会場。
さっきまでは見るからに豪華で、大会場といえるぐらいの大きさのもの…だったはず。
- 45 名前:ミッション・クリア 投稿日:2002年12月02日(月)17時57分36秒
- でも今は、所々の窓から黒い煙が立ち上がっていて目を凝らすと燃え盛る炎が見えた。
そして、耳をつんざくような会場にいるらしい客の声。
「ちょっと亜弥…っ、アンタあそこまで凄い力を使ったの!?」
「ンなワケないでしょっ!あたしがそんなヘマなんてしないよ!」
美貴の声に、苛立ちも露に講義する亜弥。
確かに、亜弥は力を使った。自身のもつ『火』の力を。
でもそれは一瞬のコト。そばにいた私が保証する。
じゃあ何故?
「社長…っ」
会場の異変に気づいた飯田圭織も、妹から離れると隣で呆然と呟いた。
縁を切ったといっても、やっぱり心配なんだ。
「美貴」
別にそれに後押しされたワケじゃないけど、私は美貴へと自然に呼びかけていた。
この場を収められるのは、美貴だけだと思ったから。
「わかった」
やっぱり美貴も分かってたみたい。
スッと前に出ると、静かに目を閉じて精神を集中し始めたんだ。
そして瞳を開いて―――一気に力を解放させた。
- 46 名前:ミッション・クリア 投稿日:2002年12月02日(月)17時58分20秒
- 途端に、地面から湧き上がる大量の水。
それは、美貴の周りにまとわりつきながら空高く上っていき……会場まわりに一斉に落下した。
重力に逆らうことなく落ちてくる水。
それが示すものは1つ。
――― 一種のスコールだ。
ザ――――!!
きっと普通の雨なら、建物の外だけだっただろう。
でも、これは美貴の意思のこもった雨。
建物の隙間から水は入り込んでいき、遠目の私達にも中の火は徐々に鎮火していってるのが分かった。
…その分、中にいるヒト達もずぶ濡れだろうけど、命は助かるワケだし不可抗力だと思う。
―――それから約10分。
中にいるヒト達の声が静まったトコロを見ると、完全に会場の火は消えたようだった。
ただし…
「…ちょっと、美貴」
亜弥の限りなく冷ややかな声。
「な、なに?」
苦笑いを含んだ美貴が聞き返す。
「……………」
私は何も言わないで、髪をかき上げて美貴に視線を向ける。
なぜなら、
- 47 名前:ミッション・クリア 投稿日:2002年12月02日(月)17時58分54秒
- 「…なんで、あたし達まで濡れてんの?」
そう、私達は全員びしょ濡れになっていたんだ。
もちろん、飯田圭織も妹も。
会場だけに降り注いでいた筈の雨が、何故か私達のトコロまできていたんだ。
これは、明らかに美貴の計算ミス。きっと雨を降らせるのに風向を考えてなかったんだ。
おかげで私達はビショビショ…ってワケ。
「あはは〜…、美女がビジョビジョ!…なーんちゃって」
「………寒」
「アンタ…、これで貸し2つだかんね」
冷たく言い放つ亜弥。
と、その時、遠くでサイレンの音がいくつか耳に届いた。
きっと、会場の誰かが連絡したんだろう、それは救急車やパトカーの音。
「ヤバ…っ」
「そろそろココを離れよ」
美貴も亜弥も気づいたみたいで、コートを羽織ってその場を後にしようとした。
私も続こうとする。
- 48 名前:ミッション・クリア 投稿日:2002年12月02日(月)17時59分31秒
- 「あ…っ、ちょっと…っ!」
そんな私を止めるように声をかけてきたのは、飯田圭織。
多分、訊いてくるのは私達のコト。そして、これからのこと。
でも、そんな質問に答える時間も、正直…義理も私にはない。
「アンタ達も、もう帰んな」
「え…っ! でも、これから私は…」
「自分の道は、自分で作るもんだよ。それに、アンタには支えてくれる人間がいるんだし、
ゆっくり探せばいいじゃん…」
「あ…っ」
戸惑う声にも、私は振り返らずに走り出した。
そう…これからは、本人達の問題なんだ。
私達はただ、そのきっかけを作ったに過ぎない。
依頼っていう形として。
「さ、最後に! あなた達は一体誰なの…っ!?」
ホントは答えずに走り去るつもりだった。
でもその質問に、自然と私達3人は振り返って口を揃えて告げていたんだ。
「GOMATTOU…」
って。
夜の闇の中に消える瞬間、背中に妹で依頼人である少女が「ありがとう!」って叫んで
いたのを聞いたような気がした。
- 49 名前:tsukise 投稿日:2002年12月02日(月)18時10分44秒
- 今回更新はここまでです。
結局…紺野はまた次回持ち越し…ですね(^^ゞ
2つの作品の掛け持ちって結構大変で、遅れ気味で申し訳ないですっ。
次回こそはっ!
>>33 名無し( ´Д`)ファンさん
ペースダウンしている私にとっては、ありがたい感想をありがとうございますっ。
紺野の登場ですが、結構悩んでいる所だったりします(^^ゞ
なるべく期待にそうようになるようがんばりますねっ。
>>34 名無し蒼さん
そうなんです〜。相手は彼女だったんですよ♪
アヤミキ…これから結構絡みが多くなると思います。私も結構楽しみながら
書いてたりして…(^^ゞ
お互いに、更新とか大変でしょうが頑張りましょうね!また伺います!
>>35 読み人さん
かっこいいだなんて、嬉しい感想をありがとうございますっ!
これからも、頑張りますのでお付き合いくださると嬉しいです!
>>36 うまい棒メンタイ味さん
そうですね、あややは「火」そして…ミキティは予想通りだったでしょうか♪
うまい棒メンタイ味さんの作品の場所を教えて頂きましてありがとうございますっ。
早速、これから拝見させていただきますね!
>>37 ヒトシズクさん
面白いでしょうか?結構ごまっとうは手探り状態なんで嬉しい感想ですっ。
ごっちんとあやや、ここでは結構PVのイメージで書いてるんでカッコ良く
かければいいなぁなんて考えてます♪
応援レスをありがとうございますっ。
- 50 名前:tsukise 投稿日:2002年12月02日(月)18時12分30秒
- >>38 ぴけさん
いえいえ、お気になさらず〜♪
そういうこともあると思いますんで(^^ゞ
とりあえず、顎さんに削除依頼をしておきましたので♪
- 51 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年12月02日(月)20時02分37秒
- 更新お疲れ様です。
ここの三人の雰囲気かなり好きかも…。
紺野の登場も気になるし、
これからどうなっていくのかも気になるし、
気になることばかりです。
- 52 名前:ぴけ 投稿日:2002年12月03日(火)04時19分21秒
- 更新お疲れ様です。そして削除依頼ありがとうございます。
なにぶん右も左もわからないへっぽこ作者なもので…
作品面白いですね。主人公がごまっとうってのもいい感じです。
それとやはり文章を読んでて勉強になることが多いです。
- 53 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月12日(木)18時23分04秒
- 夜の賑わいをみせる繁華街。
色とりどりのネオンが彩るその表通りでは見えない、薄暗い入り組んだ建物の一角に私達の住処はあった。
多分表向きは、雑居ビルで商社会社って名だと思う。
実際は、登記した人間が架空な上に一体何を仕事としているのか判らない、一切不明の建物。
中を開けてみればなんのことはない、シンプルなマンションみたいな部屋が作られてたりする。
まさか、そんなトコロに3人の小娘が住んでるなんて誰も思いもよらないんだろうけどね。
「あ〜、疲れた〜っ!」
入り口の扉を開けて、開口一番にそう言ったのは美貴。
そのままコートを脱ぎ捨てて近くのソファーに投げると、部屋に設置してあるパソコンに向かって電源を入れた。
多分、次の依頼を探すため。
こう見えて、美貴は私達の中で一番機械に精通しているんだ。
「ちょっと美貴、自分で脱いだものぐらい、ちゃんと片付けなさいよ」
「え〜」
続けて入った亜弥は、露骨に顔をしかめて美貴のコートを手に取る。
どちらかというと、亜弥を神経質なのかもしれない。
だいたいこの部屋を片しているのは亜弥だし。
今だって、『もー…』なんていいながら、結局美貴のコートをハンガーにかけてる。
- 54 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月12日(木)18時23分58秒
- 最後に入った私は、濡れた髪を気にしながらMフレームのサングラスをテーブルに放り投げる。
それがガラス製のテーブルのせいか、やけに大きく響いて亜弥が一度こちらを向いたような気がした。
「…ふぅ…」
自然と漏れたため息。
それは今回の依頼で、ちょっと私は疲れていたから。
体力的なものじゃなくて、精神的に…。
こんな依頼は、嫌ほどこなしてきたのに今回に限って…。
そう、2人に出会って嫌ほどこなしてきたんだ。
- 55 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月12日(木)18時24分37秒
- …最初に私達が出会ったのは、1年前の台湾。
それぞれ留学って名目で、亜弥と美貴が台湾の日本人学校に通っていたんだ。
で、そこに私が転校してきて。…てのは建前で、本当は当時所属していた組織の仕事で入り
込んでいたんだっけ。
転校初日に亜弥と美貴が『よろしく〜』なんて声をかけてきたんだけど、あの時の私は仕事の
コトしか頭になくて、無視してたんだ。
それが…仕事に失敗して、…組織の人間に追われるコトになったある日の夜。
散々街中を逃げ回ったけど、連中は見失うことなく私を追いかけてきて…。
入り組んだ路地裏に逃げ込んで何人かをまいたはいいけど、結局は追い詰められてしまって、
私は覚悟を決めていたんだ。
その時、頭の上から声がして顔を上げたら、亜弥と美貴の二人が建物の鉄階段から面白そうに
私を見下ろしていたんだっけ。
『大丈夫〜?』
『助けてあげよっか?』
なんて緊張感のない声で、言いながら。
- 56 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月12日(木)18時25分10秒
- はじめは戸惑った。
だって、なんでこんなタイミングよく二人がいるのかもわからなかったし、私は普通の人間じゃ
なかったから。
でも、近づいてくる複数の足音に結局私は首を縦に振るしかなくて。
『友達一人ゲット〜、なんちゃって』
『バカ言ってないで、行くよ美貴』
『はいはい』
ふざけた言葉に大丈夫なのか心配になったのを覚えてる。
でも、追っ手が全員来たのを確かめて見据えたときの二人の瞳は、獲物を捉えた時のソレだった。
『は〜い、ココでちょっと古い問題です。上は大水、下は大火事、コレなーんだ?』
美貴が流暢な台湾語でそう言って、二人はそれぞれの力を解放したんだ。
轟音と共に頭上に大きな球状の水を集める美貴と、それを包み込むように炎を巻き上がらせる亜弥。
『…!』
信じられないものを見るように、うろたえだす追っ手。
でも、その間にも二人の力は膨れ上がっていて、炎に包まれた水がグツグツと煮えたぎるみたいに
煙を上げているのが判った。
『答えは…コレだよ!』
そして―――ソレが放たれたんだ。
激しく流れるような大洪水。
十分に熱せられたその水は、意思を持ったように追っ手達に襲い掛かって通りを飲み込んでいく。
時々あがっていた悲鳴に近い声に、かなりの熱水だったんだって判った。
上は大水…下は大火事、それは『温泉』ってコトだったんだ。
- 57 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月12日(木)18時25分44秒
- その追っ手に放った二人の能力を目の当たりにして、かなり驚いたのを覚えてる。
まさか、自分と似た人間がこんな近くにいるなんて思ってもいなかったから。
今考えれば、お互いに惹かれあっていたのかもしれない。
人間、同じ匂いの人間を求めてしまうって聞いたコトがあるし。
その後、亜弥と美貴の力を借りてその場を切り抜けて…。
なんだかんだとよくつるむ様になって…。
二人が私と同じようなことを仕事にしてたんだって知って、組織から裏切り者のレッテルを張られた
私はチームに加わったんだ。
そして今年…。
日本に帰るという二人に、一緒に来ないかって誘われるがままについてきて。
こっちに戻って3人で暮らし始めて―――今に至るってワケ。
居心地は悪くない。
悪くはない…けど…、時々不安になる。
『アンタ、このままでいいと思ってンの?』って、心のどこかでささやく自分がいて。
ああ、そっか…。
多分、この不安が疲れの原因なんだ。
時々現れる、組織にいた頃の自分に対する不安が…。
言われた事を、なんでも聞くマシンだった頃の自分の。
- 58 名前:tsukise 投稿日:2002年12月12日(木)18時33分14秒
- 今回更新は、ここまでです。
…一体、いつ紺野をだすの?ってカンジですね(^^ゞ
いえいえ、もう次回更新分にはちゃんと出ていますので…。
昨日インフルエンザにかかっている事が判明して…ショックです…(TдT)
>>51 名無し( ´Д`)ファンさん
ごまっとうの3人、いい雰囲気出せているでしょうか?
なんだかミキティで遊んでしまっているんですが、感想にホっとしました(^^ゞ
紺野の登場、次回には必ず登場しますので待って頂ければ…と思います♪
>>52 ぴけさん
削除依頼、お気になさらず〜♪私も結構初心者なんで(^^ゞ
結構、案内板やなどにアドバイスなんか載ってますよ♪
作品にも嬉しいご意見をありがとうございます♪まだまだ、未熟なんですが(^^ゞ
お互いに良いものができるよう頑張りましょうねっ。
- 59 名前:こんごま推進派 投稿日:2002年12月12日(木)18時36分56秒
- 更新お疲れ様です!リアルで読めました!
3人の出会いってこんな感じだったんですね。なんかカッコイイです!
紺野は次回持ち越しですか。かなり楽しみにしてるんで頑張ってください!
お互いに早く直せたらいいですね(笑)
- 60 名前:こんごま推進派 投稿日:2002年12月12日(木)18時37分57秒
- すいません...ageてしまいました!
本当にすいません!
- 61 名前:北都の雪 投稿日:2002年12月12日(木)18時50分09秒
- 久々に来たら新作が・・・
TEL MEとは全く違うようですがこっちも面白そう・・・
期待大です。頑張って下さい。
応援しております。
- 62 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2002年12月12日(木)21時31分52秒
- 更新お疲れ様です。
今回は、三人の出会いでしたね。次回は、紺野か…。
毎回更新が待ち遠しいです。
いつも楽しみにしているので、頑張って下さい。
- 63 名前:うまい棒メンタイ味 投稿日:2002年12月22日(日)15時43分40秒
- 後藤は「風」、
松浦は「火」、
藤本は「水」、と来ましたか
紺野も能力者なのかな?
ドキドキだぁ!!続きに期待っす!!
ところでインフルエンザですか?大変ですね
私も風邪引いてるので喉が痛くて・・・・・・・・・・・・
で、現在連載中のものを(ry メール欄へどうぞ
- 64 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時36分46秒
- 「ちょっと美貴っ、もうヘンな依頼取らないでよ?」
「…!」
亜弥の投げやりなその声に、我に返った。
止まっていた時間が動き出す。
ったく…、考え込むなんて『らしくない』…。
なんだか可笑しくて、ちょっと自嘲気味に笑って前髪をクシャリとかきあげた。
今までだって、上手くやってきたんだ。
これからだって、それは変わらない…。変わるはずがない。
自分でそう思っていれば、何も心配するコトなんてないじゃん。
…バカバカしい。
「…先、シャワー借りるから」
無理やりこじつけて、私はまだ言い合っている亜弥と美貴にそれだけ告げてバスルームに向かう。
きっと、こんな鬱々とした気持ちは濡れた身体のせいだって思ったから。
それなら、さっさと洗い流してしまいたくて…。
バスルームの扉を閉める瞬間、亜弥がやれやれってカンジの視線を向けていたような気がする。
- 65 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時37分22秒
- シャ――――
脱衣室で、手早く服を脱ぎ捨ててバスルームに入ると熱いシャワーを頭から全身にかぶる。
すべてを洗い流すみたいに。
けど…やっぱりそうはいかないのがフツーだったりするんだよね。
一人きりの空間は、嫌でも思い出したくないものを浮かび上がらせるんだ。
私の脳裏をよぎったのは…最後のSPと出くわしたあの瞬間。
咄嗟に力を放って退けたはいいけど、私の中の防衛本能はそこで止まることはなくて。
目の前の標的が完全に沈黙する事を命令したんだ。
きっとあの時、亜弥がとめなければ間違いなく私は―――。
途端に手のひらに蘇ってくる、冷たく硬い拳銃の感覚。
右手をそっと開いて目の前にかざしてみる。
当たり前だけど、それは私自身のいつもと変わらない手のひらだったりするけれど何故か
別の生き物のようにも感じられてギュッと強く握り締めた。
それでもその感覚はおさまらない。
だから…私は目の前の壁に強く叩きつけたんだ。
ダンッ!
伝わる鈍い痛み。
よく知っている感覚のはずなのに、新鮮だった。
思えば、こうやって何かに苛立ちをぶつけたりするのは久しぶりかもしれない。
…でも、だからといって気分が晴れたわけじゃなかったけど。
- 66 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時38分18秒
- 「真希」
「…っ?」
気がつくと、亜弥がスリガラス越しに背を向けて立っていた。
多分、シルエットを見る限り頭にタオルを被って無造作に髪を拭いているみたい。
「…なに?」
私はちょっと心の動揺を隠すみたいに、背を向けたまま冷たく問い返す。
いつからいたのか判らないから、私にしては珍しく慌てたんだ。
亜弥はそんな私の気持ちに気づいているのか、そうじゃないのか…軽くため息をついて
スリガラスに背を持たれかけさせた。
それから少しだけ沈黙して、何気ない口調で話しかけてきた。
「アンタさぁ、自分を見失わないようにしなよね?」
「…なんのこと?」
わかっているクセに、素直になれない私はあえてとぼけた返事をする。
それからなにもなかったみたいに、シャワーで髪を洗い始める。
どうせ、亜弥には通じないんだろうけど。
「ま、いいケド」
ほら、ね。
ちょっと笑いを含んだ口調がその証拠。
「なーんか、つまんないコトでも考えてるっぽかったからさぁ」
そのままもたれかけるのを止めると、髪をかきあげながら脱衣所の扉を開けたみたい。
- 67 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時38分59秒
- それから、出て行くかなって思ったその時、
「もうちょっと、あたしらを頼ってもいいんじゃない?アンタの場合」
なんて、投げやりに言ってきたんだ。
きっと亜弥なりの気遣い。
ヘンに馴れ合うような言葉は煩わしいだけだけど、こーゆー時の亜弥の言葉には全然
そんなカンジはしなくて、むしろ小気味いいんだ。
自然と頬が緩んでしまうのを感じながらも、私もいつも通りの返事をしてやった。
「余計な、お世話」
「言うと思った」
クスリと一度笑って出て行く亜弥。
まったく…かなわないなー…。
亜弥のあの鋭さ。ホント、美貴とは対照的。
私も結構鈍い方だったりするから、こーゆー時尚のこと際立って見えてしまう。
シャワーの蛇口を閉めて、たちのぼる湯気の中私は口元をそっと動かした。
それは、素直にいえない『ありがとう』という言葉。
形に表してみて、少しだけ気持ちがラクになった気がした。
―――もう、大丈夫。いつもの私だ。
- 68 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時39分42秒
- バスルームから出て髪を乾かし部屋に戻ると、亜弥と美貴はパソコンに向かって顔をつき合わせていた。
後ろから見ると、画面に一緒に食い入るみたいに見てるみたいで、ホント仲がいいんだかどうなんだか、
なんて思ってしまった。
そのまま、私はソファーに腰掛けて側にあった雑誌をめくる。
「これなんかいいんじゃない?『一週間前にいなくなったパパを探して』」
美貴のはしゃぐ声が聞こえる。
心底楽しんでる声だってわかるけど、多分その依頼はムリ。
「冗談やめてよ…。また子供からの依頼でしょ?しかもそんなうさんくさい」
ほらね。
亜弥の疲れたような声。
この2人ってば、本当に対照的だわ。
まぁ、とばっちりを受けたくないから、私は黙って聞いておく。
「なにがうさんくさいのよ〜、純粋なお願いじゃない…。パパが行方不明なんだよきっと」
「何バカなこと言ってんのよ…。どうせ離婚寸前の家庭かなんかで、愛人のトコロにでも行って
帰ってきてないだけでしょ」
「ひっど〜い!なんでそんな言い方しかできないワケ?」
そーゆー考え方もあるって亜弥は言いたいんだろうけど、まぁ美貴には伝わらないか…。
- 69 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時40分20秒
- 「それよりこれは?『銀行内の不正融資の証拠をつかんでください』」
「絶対ヤだ」
今度は美貴の不満の声。
「なんでよ〜」
「この依頼の銀行って、セキュリティーが厳しいし。無駄に時間を浪費したくないの」
「アンタがそれを言う?」
確かに…。
今回のコトを考えるとね。
「ちょっと、ねぇ真希は?」
美貴の問いかけ。
まったく…いつも話がこじれると私に振ってくるんだから…。
でも、私が言うのは大抵この言葉。
「2人に任せる」
「ったく…、いつもそうじゃん」
なら聞くなっての。
私は雑誌をたたんで放り投げると、サングラスをかけてコートを手に取った。
なんだかここにいると、またとばっちりを受けそうだし…退散するに限ると思って。
「どこ行くの?」
コートを羽織って扉を開けたとき、美香が椅子の背もたれにのけぞりながら聞いてきた。
「散歩、決まったら教えて」
「も〜、ヘンなのに決まってもしらないからね〜」
それは美貴が決めたら、の話でしょ…なんて心の中で悪態をつく。
そして私は、建物を後にしたんだ。
- 70 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時40分54秒
- 12月の夜は、尋常じゃないほど寒い。
コート越しに伝わるピリピリしたカンジは痛いほどだし、吐く息は白く頼りなく漂って消えている。
そんな中、私は近くの公園に足を踏み入れた。
いつも何気なしに立ち止まってぼんやりとする、そんな場所。
多分…私の中では『安らげる場所』なんだと思う。
途中で買ったコーヒー缶片手に、ベンチに腰掛ける。
ひんやりした冷たさに、なんだか心が落ち着いていくのがわかる。
そのまま、空をぼんやりと見上げたその時。
「…っ…!」
「!!…っ…!…!」
どこかで、言い合うような騒がしい声が聞こえたような気がした。
まぁ、場所が場所だし、夜ともなれば別に珍しいものでもなんでもないけど、その声がだんだん
近づいてきているみたいで、辺りを見渡してみたんだ。
そしたら、案の定…裏通りからこの公園に続く道を走ってくる人影があった。
遠目だからよくは見えない。
けど、影から見て4人だ。
- 71 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時41分38秒
- 「…っ。やめてください…っ」
今にも消え入りそうな声。
これは…女の子…?
「いいじゃん別にさ〜。それに、こんな時間に一人で歩いてると危ないよ〜?」
「そうそう、だからオレらが一緒にいてあげるって言ってんの」
「カラオケとか行こうよ。な、いいだろ?いいよな?よし、行こうぜ?」
強引な声が3つ。これは全員男の声。
ようは、よくあるパターン。
夜、たまたま通りかかった女の子を誘ってーってヤツ。
まったく…人目を考えてやれっての…。
「あのっ、離して…っ!」
腕を掴まれたらしい女の子は、必至に振り払ってこの公園の入り口をくぐり抜けてきた。
でも、所詮3人もいる男達から逃げられるワケがないんだ。
すぐさま捕まえられて壁際に追い込まれてしまったみたい。
多分、ここから私が声をかければ聞こえる距離かもしれない。
でも…私はあえて無視したんだ。
助けようなんて気持ちが浮かばないし、正直厄介事に巻き込まれたくない。
だから傍観を決め込んでいたんだ。
決め込んで…いたのに…。
- 72 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時42分17秒
- 「だ〜か〜ら〜、オレらと一緒に来りゃいいんだよっ」
詰め寄る男の声。
私はコーヒーのフタを開けて、黙って飲み始める。
「ほんとに…っ、やめてください…っ!」
泣き出しそうな女の子の声。
それでも私は、コーヒーを飲み続ける。
「来いって! なんにもできないクセに往生際が悪いんだよっ!」
ふと――コーヒーを飲むのを止めた。
なんだろう…? 心がモヤモヤする。
男達の言葉に、何か言い知れない感情がこみ上げてくるのがわかる。
「ただ言うことを聞いてれば、いいんだって!」
その言葉に…体が自然と反応していた。
もっていた缶コーヒーを握りつぶして、ゆっくりと立ち上がる。
それから、男達に歩み寄ると、静かに口を開いていたんだ。
「そのヘンでやめとけば?」
…って。
その時、女の子が向けてきた瞳が何故か印象強かったっけ。
- 73 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時42分53秒
- 「なんだぁ…?」
少女の腕を掴んでいた男が、うざったそうにこちらに振り返った。
多分、先頭に立ってわめき散らしていたコトから考えて、コイツがリーダーかなんかか…。
遠めに見ていたから判らなかったけど、なんだ…ただの中学生じゃん…。
「『そのヘンでやめとけば』って言ったの」
めんどくさいけど、もう一度同じ言葉を言ってやる。
その時リーダーっぽい男の後ろにいた、ガタイのいい男がその言葉に軽くヒューって口笛を吹いた。
ソイツの視線は、下から上まで舐めまわすみたいなカンジで、手を取るように何を考えているのかわかる。
…ったく…、最近のコドモは…。
思わず、心の中で悪態をついてしまう。
「へ〜、アンタ勇気あんね〜。それともただのムテッポーってやつ?」
少女の手を掴んでいた男も、相手が女ってコトで余裕ができたみたいに手を離してこっちに近づいてくる。
「無鉄砲かどうかは知らないけど、なんかムカついたから」
「フーン…」
残りの2人も、面白そうに私を取り囲むみたいに近づいてくる。
酒臭い息に吐き気がする。
まぁ、なんか別の匂いもあるみたいだけど。
- 74 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時43分33秒
- 「そんなコト言ってさぁ〜、ホントは仲間に入れてほしいンじゃないの〜?」
ガタイのいい男の後ろにいた中肉中性の男が、馴れ馴れしく肩に手を回してきた。
遠くで少女が『あ…っ』って呟く声が聞こえる。さっさと逃げればいいのに。
「仲間、ねー…」
うんざりした顔で、肩に置かれた手に視線を向ける。
そしてため息。
何が悲しくて、こんなコドモに肩を抱かれなきゃならないんだか…。
「素直に頼めば、仲間にいれてあげるよ〜ん」
下卑た笑いで問いかけるソイツ。
ふぅ…、もう何を言っても無駄かもしれない。
まぁ、でもとりあえず、最後に一度だけ聞いておくか…。
「もし『ヤだ』って言ったら?」
「ヤだっていえる〜?」
ガタイのいい男が鼻息荒く顔を近づけてくる。その目つきはどこか座っていて本気ってことがわかる。
しょうがない、始めますか…。
- 75 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時44分04秒
- 「そーだねー…――ヤだよ」
言ってすぐさま、肩を抱いていた男の顎を手のひらで下から強く突き上げた。
「がッ!?」
不意打ちを食らったソイツは、一度身体を宙に浮かせて背中からしたたかに倒れた。
要領さえわかっていれば、女が男を突き飛ばすことぐらい簡単にできるんだ。
「なッ! テメェッ!」
仲間を倒されていきり立ったガタイのいい男が、突進してくる。
そのまま私の襟首を掴み上げようとして―――すりぬけた。
怒りと、多分酒のせいで動きが鈍くなっていたんだ。
だから、私はすばやくソイツの背後に回りこんで、左右のわき腹に、両手で手刀を入れてやった。
「ぐはッ! がぁっ!!」
痛みに、地面に転がるソイツ。
当たり前かも。
どんなに身体を鍛えていたって、その場所は絶対に鍛えることができないトコロなんだから。
まぁ、耐えられるとしたらプロのボクサーぐらい。
- 76 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時45分11秒
- 「あ…っ! 危ない!!」
「!」
突然聞こえた、か細い声。
その声に反応して、私は振り返る。
視線の先に映ったのは、鉄パイプを振りあげたリーダー格の男。
「女ぁ!!」
頭部めがけて落ちてくる鉄パイプ。
咄嗟のことに判断が遅れてしまった私は、右手をかざして―――力を放ってしまっていたんだ。
キィィンッ! カン、カン…
鋭く響く鉄の音。
続けて聞こえたのは、地面に転がっていく音。
あー…、やってしまった。
「…あ?」
目の前の男は、何が起こったのか判らないみたいにマヌケな声で振り落とした手を見つめた。
そして…地面に視線を向ける。
そこに転がっているのは、真っ二つに分かれた鉄パイプ。
「な、なんなんだよぉ…、えぇ…? ヒっ!」
それから私と視線が交差して、信じられないものを見たみたいに後ずさる。
きっと…それはサングラス越しに見える私の瞳を見たからだ。
- 77 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時45分59秒
- 私や、亜弥・美貴は、それぞれ力を使うとしばらく瞳の色が変色するんだ。
亜弥は燃えるようなレッドに、美貴は透き通るようなブルー。そして私は…深く映えるモスグリーンに。
「なんだよ…おい…っ」
「に、逃げろ…っ!」
「ば、化け物だ!!」
口々に恐れの言葉を告げる男達。
そして、そいつらは文字通り『尻尾を巻いて逃げて』いったんだ。
再び、夜の公園に静寂が訪れる。
でも…私の心の中は、ざわめきたっていた。
それは…最後に聞いた、言葉のせい。
『ば、化け物だ!!』
私達、能力を持った者に付きまとう汚名。
聞き慣れているはずなのに、何故か今日に限って耳についたんだ。
ははっ、何を今更…。
いつものコトじゃん。それに、割って入ったときに薄々こうなるんじゃないかって判ってたのに。
ホント…私ってつくづくバカ。
思わず漏れてしまう笑み。可笑しいからじゃない、自分のバカさ加減が腹立たしいから。
- 78 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時46分30秒
- 「あ、あの…」
恐る恐るかけられた声。
それにようやく私は、もう一人の人間がいたコトを思い出す。
ああ、そうだ…。
結果的に、私はヒトを『助けた』んだっけ?
振り返って見て――― 一瞬止まってしまった。
それは目の前の彼女が、あまりにも頼りなく映ったから。
儚げに映ったから…。
- 79 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時47分02秒
- 「あ、あの…」
振り返った目の前の人は、あれだけ激しく動いた後なのに息一つ乱れていなくて。
信じられない事だけど、男の人達をたった一人で追い払ってしまったんだって今更ながら
気づいたんだ。
でも…最後に見た一瞬は一体…?
だって私の記憶が確かなら、男の人が鉄パイプで後ろから殴りかかろうとしていたんだ。
見るからに硬くて、重そうな。
けど、それはこの人に当たることはなくって…。
その代わり、凄い風が吹いたと思ったら真っ二つに分れてて。
この人も、それが当たり前みたいに見据えてた。
まるで…この人が割ったみたいに…。
そう考えた瞬間、ゾクって身体が震えて急に不安になった。
逃げていった男の人達が言ってた言葉が思い返される。
『化け物』
思い始めたら止まらなくて、姿かたちは私と同じヒトでも目の前のこの人が全くの別世界の
生き物のように見えた。
何故か今は、私を追いかけてきた男の人達よりも、むしろこの人の方が怖かった。
でも…。
- 80 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時47分49秒
- 「―――え…っ?」
背中を向けて逃げ出したい…っ。
そんな衝動がこみ上げてきた時―――私は初めて気づいたんだ。
振り返って初めて見えた、さっきまでは見えなかったその人のサングラス越しの瞳に。
深い緑色に変わったその瞳に映っていたのは―――寂しくて痛々しい孤独の影。
色んな人に拒絶されて、それを自分でも納得していて、寂しげにため息をついて俯く…そんな
人達に共通の瞳。
身体の傷じゃなくて、別の何かが痛いはずなのに、悲しいかな…それに耐えるだけの強さを
持ってしまった人達の瞳…。
それが今、目の前に立つその人にもあったんだ。
どうして…そんな表情をしてるんですか…?
訊ねたいのに声がでない…。
「あ…っ」
先に動いたのは、目の前その人の方だった。
フッと視線を逸らすと、コートの襟元を直して背を向けて歩き出したんだ。
「あっ、ま、待ってください…っ!あの…っ」
気がついたら私は呼び止めていた。
もう、怖いって気持ちはなくって、ただそんな事を考えてしまった自分に罪悪感を覚えてしまって…。
とにかく、助けてくれたお礼を言おうと思ったんだ。
- 81 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時48分25秒
- けど、追いかけようと慌てて駆け出したその時、強い風が吹き抜けて…
「あ…っ」
思わず、手に持っていたコピープリントを宙にばら撒いてしまった。
プリントは風に乗って高く舞い上がって、真っ暗な空にたくさんの白い空白を作っていく。
まるで…雪みたい…。あ、雪はもっと小さいけど。
ふと、視線を向けると目の前の人も立ち止まって散らばるプリントを見上げていた。
歩くことも忘れたみたいに。
それからその人は、一度ため息をついてゆっくりと右手を空に向かって差し出すような仕草をしたんだ。
しなやかな指が、軽く振られる。
…どこか、その姿はとても幻想的に見えた。
だって、その人が右手を差し出した瞬間、長くて綺麗な髪がフワリと広がって整った顔立ちがくっきりと
夜の闇の中でも映えるようにうつったから。
そのまま高く、形の見えない何かは空を上って意思を持ったみたいにプリントをまとめ始めた。
そして信じられないけど、呼び寄せたみたいにその人の右手にプリントが集まってきたんだ。
一枚、また一枚って。
- 82 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時49分12秒
- なんで力を使ったのか判らなかった。
ただ、空に散らばってく白い紙が…、悲しそうにそれを見つめる彼女が自然と私に行動を
とらせていたんだ。
人前でむやみに力を見せるのは、タブーだって判っていたのに…。
さっきみたいに、恐れられて…気味悪がられて、自分が傷つくだけだって判っていたのに。
手のひらに収まった紙達。
それに視線を落としてみる。
これは…何かの譜面…?
昔、少しだけピアノを弾いたことがあるから、すぐにその五線紙を見て、曲名が判った。
たしか…これは…
「オンブラ・マイ・フ…」
ソプラノ歌手が歌う、綺麗で…繊細で―――どこか悲しい曲。
何度か聴いたことがある。
けど…私はこの曲が嫌いだった。
だから、すぐさま目の前の少女に差し出す。
「あ…あの…っ」
戸惑ったみたいな少女の声。
でも、私は無感情で限りなく冷たい声で言ったんだ。
―――今の私には…人を気遣うだけの心のゆとりがなかったから。
- 83 名前:動き出す歯車 投稿日:2002年12月23日(月)17時50分11秒
- 「こんな時間に、ここらへん通んないほうがいいよ。…化け物に逢いたくなかったら」
手に集まった譜面をぶっきらぼうに手渡す。
当然のように困惑する少女。
その時、ようやくその子の顔をはっきりと見たような気がした。
どこか頼りなさそうな表情に、大きくて垂れ下がった瞳。
まだ穢れた世界を見たこともないだろう、純真なその瞳にうつっているのは当たり前のこと
だけど私だ。
何故か、映る自分の姿に嫌悪感を感じてしまって背を向けて歩き出した。
何かいいかけていたけど、結局振り返らずに。
どうせ訊かれるコトは判っていたから。
それに…よくわからないケド、このコといると調子が狂ってしまうから。
考えてみれば、これが…私と彼女――紺野との、初めてのコンタクトだったんだ。
- 84 名前:tsukise 投稿日:2002年12月23日(月)18時01分30秒
- 今回更新はここまでです。結構多かったみたいですね(^^ゞ
やっと風邪が治ったんで、テンポよく進…めれたらいいなぁ(^^ゞ
>>59 こんごま推進派さん
風邪の方は大丈夫でしょうか?温かくして早く治るといいですね(^^ゞ
3人の出会い、良かったでしょうか?何かの雑誌に書かれていたんで
そのまま代用したんです(^^ゞ
紺野は今回ギリギリで登場させましたが…いかがでしょう?(^^ゞ
>>61 北都の雪さん
応援レスの方をありがとうございます♪
そうですね『TEL ME』とは全く違う感じなんですけど、こんごまですので
また良ければ続けて読んでくれると嬉しいです♪
テストの方はどうだったのでしょう?大変でしょうが勉強、頑張ってくださいね。
>>62 名無し( ´Д`)ファンさん
いつも楽しみにだなんて、本当に嬉しいご意見をありがとうございます!
紺野、今回やっと登場させましたけれど、どんな感じでしょう…(^^ゞ
結構これから、ごっちんとの絡みが多くなるので続けて読んでくだされば…と思います(^^ゞ
>>63 うまい棒メンタイ味さん
うまい棒メンタイ味さんも風邪を引かれているそうで…大丈夫でしょうか?
今年はしつこいらしいので、早く治るといいですね…。
そして!小説、前回紹介していただいたものを読みました!それぞれのキャラが
凄く特徴を掴んでいて、面白いですね!
今回もまたこの後、拝見させていただきますね♪
- 85 名前:北都の雪 投稿日:2002年12月25日(水)23時50分34秒
- 紺野ついに登場ですか!
後藤さんかっこいいです。
どこか惹かれあう二人・・・
ああ、これを運命と言うのでしょうか。
すいません、調子に乗りました。
面白かったので。
TEL MEとの同時進行
大変でしょうが頑張ってください。
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月26日(木)22時38分35秒
- あやごまの絡みが好きです
今後の紺野さんとの絡みも楽しみ
- 87 名前:名無し蒼 投稿日:2002年12月30日(月)22時40分10秒
- こちらもお久しぶりのレスです!!
ついに紺ちゃん登場ですね…!!
人‘ 。‘人と( ´ Д `)の絡みも結構好きw
そして川VvV从と人‘ 。‘人は更に(w
更新楽しみです!来年もどうぞよろしくです。
- 88 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年01月02日(木)16時24分07秒
- 更新 お疲れ様です 動きだす歯車 全く先が読めません これからも頑張って下さい
- 89 名前:こんごま推進派 投稿日:2003年01月02日(木)18時48分46秒
- 紺野登場ですね!これからの展開に期待です!
作者さん頑張ってください!
- 90 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年01月02日(木)20時31分41秒
- おぉ!紺野でしたか・・・・
てっきり石川さんかと・・・・
先が読めませんね〜。この話大好きです♪
これからもがんばってください!
- 91 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月05日(日)16時28分57秒
- 「ただいま…」
「おっ、真希おっせーぞ〜」
「?」
戻ってきた私を待っていたのは、イスにふんぞりかえってこっちを見ている美貴と
ソファーにすわって雑誌を広げている亜弥。
「なに?」
コートを脱ぎながら美貴に寄っていく。
そしたら、パソコンの画面を見せるみたいにイスから立ち上がって場所を譲ってきた。
ワケわかんないけど、とりあえず座って画面を見る。
そこに映っていたのは、一つの依頼。
あー…なるほど。
次の依頼が決まったってコトか。
なになに…。
……………え?
「…ねぇ、これマジで引き受けたの?」
「マジもマジ、あたしと亜弥の両方の意見を取り入れたんだもん。真希言ったっしょ?『2人に
まかせる』って」
確かに言った。
でもまさか、こんな依頼を取るなんてさー…。
- 92 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月05日(日)16時29分33秒
- 目の前のディスプレイに映っている依頼メールの内容。
それは、都内で有数の私立女子中の裏口入学の真意を確認する調査ってものだった。
多分、送信場所からみて内部の人間からの依頼だと思う。
まぁ…べつに依頼内容は、ごく普通のものだし私も気にしてない。
私が気にしているのは別のこと。
それは、
「で〜、裏口入学を突き止めるなんてそんな簡単にできるワケないじゃん?だから、この中学に
転入して調べようと思うんだ」
美貴の軽い言葉。それが今一番私の気になるコトだった。
だって、今までだってこういう仕事を取ったら必ずと言っていいほど私には損な役回りしか来ないんだもん。
どうせ今回だって…
「…分担は?」
「あたしと亜弥が転入して探りを入れるから、真希はオペレートをヨロシク〜」
やっぱり…。
こんなコトだろうと思った。
以前引き受けたものでも、こうだったんだ。
亜弥と美貴がある中学の制服を調達してきて、それぞれ試着して似合う人間が入り込むって話があった
んだケド、私が着た瞬間2人の口を揃えて出たのが『却下』『論外』の言葉。
それから言われたのが『絶対中学生の体系じゃないし、こんな色気のある中学生いないから』なんて言葉。
べつに好きで、色気をだしてるんじゃないっつーの。
ってゆーか、亜弥はともかく美貴にもムリあるって…。言っても聞かないから、言わないケド。
- 93 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月05日(日)16時30分13秒
- 「わかった…。じゃあ転入の手続き、私がとってればいいんでしょ?」
「おっ、やっぱ真希は仕事が早いね〜。依頼主の人から転入届の書類をFAXで送ってもらってるから
それ見て作ってよ」
「はいはい」
どうせここで渋っても意味ないし、私はさっさと作業にとりかかる事にした。
FAXで届いた書類をパソコンで打ち直して、必要事項を書き写真を貼り付けて…印を押す。
それからバイク便ででも送れば、2日後には受理されるって寸法。
あとは、2人に任せるだけ。考えてみればここまではラクかもね。
「ねぇ、真希」
「なに?」
今度は亜弥の声。
振り向かずにパソコンに向かったまま返事だけを返す。
そしたら突然目の前に手が伸びて、サングラスをひょいっと取り外された。
あ…そういえば私…
「アンタ、外で力使ったでしょ?」
変色した瞳を凝視してくる亜弥。
どこか咎めるみたいな口調に、少しムッときた。
「え? マジで〜?ちょっと真希〜」
続けて亜弥の後ろから覗き込んでくる美貴。
「…べつにいいじゃん、誰にも迷惑かけてないし」
鉄パイプが被害者だし…心の中で付け加えて、サングラスを奪い取る。
今日何度目かの亜弥のため息。
- 94 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月05日(日)16時31分01秒
- 「力のセーブは?」
「した」
「誰かに見られた?」
「ちょっと、ね」
「…なんか、言われた?」
「…………」
言葉に詰まってしまう。
言われたコトは言われたケド、あえて亜弥や美貴の前で言う言葉じゃない気がして。
『化け物』、なんてね。
「ま、いっか…。それより書類、さっさと仕上げといてね」
黙ってしまった私に、亜弥は髪をかきあげて脱衣室へと歩いていった。
「わかってる」
他に言いたいコトはあったけど、それだけ答えて作業に戻る。
「あっ、亜弥。シャワー浴びるの?」
「そうだケド。…あ」
そこで一度ヤな顔をする亜弥。
対照的に美貴はどこか嬉しそう。あ、そっか…。
亜弥のその表情のワケ、それは美貴が何故か亜弥と一緒にお風呂に入りたがるからなんだ。
「じゃあさっ、一緒に入ろうよ」
「ヤだ」
即答だった。
「なんでよ〜、いつも一緒に入ってんじゃん〜」
「アンタが勝手に、入ってくるだけでしょ?大体、2人入るには狭いんだからー」
「いいじゃんっ、ホラっ」
「あ、ちょっと…もうっ」
「じゃね、真希」
そのまま入っていく2人に、私は振り向かずに手を振ってやる。
騒がしいのがいなくなって清々したってのが、正直な意見だったりして。
- 95 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月05日(日)16時31分32秒
- しばらくしてから、バスルームで美貴のはしゃぐ声と亜弥のうざったそうな声が聞こえてきた。
なんか、見なくてもどんな光景なのか判る。
そういや、なんだかんだ言いながら亜弥って美貴には甘い気がする。
……ま、べつにいいけど。
と、さっさと転入届を作ってしまわないと…。
プリントアウトした転入届の用紙に必要事項を書き込んで、2人の写真を貼り付ける。
1年前の台湾での写真だから、今とちょっと違うケド…まぁ証明写真ってそんなもんだし、いいか。
それからそれぞれの印を押して封筒にいれて終了。
後は、送った先の依頼主がなんとかしてくれる。
「ふぅ…」
不意に漏れるため息。
イスの背にもたれて机に足を投げ出す。
亜弥に見つかったらきっと『行儀悪い』なんていわれるだろうケド構わない。
なんか今日一日でかなり疲れている気がする。
原因はもちろんわかっている。…さっきの公園での出来事だ。
首を傾けると姿見の鏡に、自分が映っていた。
その瞳は徐々にいつもの黒茶色に戻りつつある。
- 96 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月05日(日)16時32分47秒
- 「…ホント、『化け物』だよね」
なんで私には、こんな力があるんだろう。
今まで幾度となく考えたコト。
物心ついた頃には、もうこの力は現れていて…両親はいなくて。
誰にぶつけていいのか判らない疑問を、ずっと持て余していた。
それでも一つ判っていたコト、それは―――私はフツーの人間より強くて…フツーの人間より弱いってコト。
いくら強い力をもっていても、メンタル部分はそうはいかないんだ。
ただ、亜弥や美貴っていう『仲間』がいるから、かろうじてバランスをとっているだけ。
ふと、思うコトがあった。
公園で出会ったあのコ。必死に逃げていた。
私はそれを見て『弱いコ』だなんて思ったんだ。
けど、そのコの目には強い意志があって、『離してくれ』と言い放つ勇気をもっていた。
決して『弱いコ』なんかじゃなかったんだ。
私はどう?
自分の意思で、何かしたコトがある?
- 97 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月05日(日)16時35分17秒
- 「……ん?」
何気にパソコンの画面に視線を向けると、一通のメールが飛び込んできた。
多分依頼のメール。
いつもは開いてチェックしたりするのは美貴の分担だから、さして気にもしないけど何故かこの時
私はゆっくり開いていたんだ。
現れたタイトルは、ただ一文、
――『たすけて』――
シンプルだけど、目にとまるものだった。
おもむろにダブルクリック。
どんな内容なのか気になったから。
でもそこに書かれていたのは、1つの携帯番号。ここに電話しろってこと?
「…………」
気がついたら、私は机の上にあったレシートの裏に番号を走り書きしていた。
- 98 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月05日(日)16時35分49秒
- ガチャッ
「ね〜真希ぃ」
「! なに?」
突然脱衣室から顔だけを出す美貴。
私は、少し慌てて走り書きしてレシートをポケットに突っ込んだ。
「ボディソープとってくんない? …って何慌ててんの?」
「べつに…っ、…はい」
「サンキュー…。…ヘンなの」
そのまま、首を傾げてバスルームへと消えていく美貴。
多分気づかれなかったと思う。美貴は私と似てウトいから。
一人になって、もう一度レシートを広げて見る。
「…………」
依頼を2つとった事なんて、一度だってない。
しかも、単独でなんて危険なんだ。
判ってる。判っているケド、このときの私は何かせずにはいられなかったんだ。
- 99 名前:tsukise 投稿日:2003年01月05日(日)16時49分40秒
- 今回更新はここまでです。…まとまりねぇ…(^^ゞ
とりあえず、タイトル通り2つの事柄が交差する予定デス(^^ゞ
今年も完結できるよう頑張りますので、ヨロシクお願いしますですっ。
>>85 北都の雪さん
紺野登場…やっぱり運命ですかね〜♪ごっちんカッコイイですか♪
結構、リアルのごっちんは明るかったりするんですが、ここではクールで…♪
同時進行、大変ですが応援レスに力をもらいつつ頑張りますねっ。
>>86 名無し読者さん
あやごま、実際は結構明るい絡みだったりするんでしょうがここでは
カッコ良く決めれればいいなぁと♪こんごまの絡みも、これから増えていくので
続けて読んで下さるとうれしいです♪
>>87 名無し蒼さん
こちらこそ、ご無沙汰してしまって(^^ゞ本年度もヨロシクお願いします♪
それぞれの絡み、結構好評みたいで嬉しい限りです♪あやみき、結構私も
気に入っているんで♪そしてメール欄、もちろん拝見してますよ〜♪
>>88 うまい棒メンタイ味さん
これからの展開、結構2つの事柄を同時に動かしていくので大変ですが
応援レスに元気をもらいつつ頑張りますねっ!
そしてっ、前回レス分にあった小説…倉庫落ちでしょうか?読めませんでしたト(T-T )
- 100 名前:tsukise 投稿日:2003年01月05日(日)16時50分21秒
- >>89 こんごま推進派さん
紺野登場、結構苦戦しましたがなんとか出せましたです(^^ゞ
応援レスを本当にありがとうございますっ。結構元気の素だったりしますんで♪
>>90 ヒトシズクさん
確かに、梨華ちゃんっぽい人物像になっちゃってますね〜(^^ゞ
とりあえず、紺野っぽく書けるよう頑張りますね(^^ゞ
この小説を好きだなんて、嬉しいご意見&応援レスをありがとうございます!
- 101 名前:こんごま推進派 投稿日:2003年01月08日(水)22時14分30秒
- 更新、乙です!
ちょっと来ない間に更新されてて嬉しいです!
最近、あやごま気に入ってるんで読んでて面白いッス。
作者さん、続き頑張ってください!!
- 102 名前:うまい棒メンタイ味 投稿日:2003年01月11日(土)19時26分57秒
- おおお…勝手に依頼受けちゃっていいのかな
で、紺野は能力者じゃないんですね…予想が外れた……
私の小説…おかしいな…何で見れないんだろう
花板 「Forever Kiss〜天使になった少女〜」です
お暇な時にでもどうぞ
- 103 名前:tsukise 投稿日:2003年01月13日(月)18時14分50秒
- ちょっと息切れ気味で、ストーリーが浮かばないっ!ってコトで
調子だすために、ショート・ショートを2編UPさせてもらいます(^^ゞ
もちろん、本編は必ず完結までもっていく予定なんで、大目にみてやって
くださると嬉しいですっ!
リアルで、こんごまもの。まぁ…こんなのもアリかと…(^^ゞ
- 104 名前:手を繋いで ―紺野サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時16分12秒
- ずっとずっと憧れていた人。
オーディションの時も、少しでも近づきたくて…その人の歌を精一杯歌った。
モーニング娘。に選ばれて、信じられないって気持ちと同じくらい嬉しいって思った。
だって…、それはずっとずっと好きだった、あの人に――後藤さんに1歩近づけたから。
ハローモーニングの収録前。
ぼんやりと楽屋で、他のメンバーを見ていた。
携帯をいじっている吉澤さん。備え付けのお菓子をほお張っている辻さんと加護さん。
今日着てきた服を見せている石川さん。それを『キショイ!』って何度も連呼している矢口さん。
飯田さんと安倍さん、保田さんはメイクをしながら他愛のない話をしている。
私は同期の愛ちゃん、里沙ちゃん、まこっちゃんの輪に入って学校の話をしていて、
―――あの人を見つけた。
ぼーっとした表情で、鏡の前に座って何かの曲を口ずさんでいる後藤さん。
ここじゃ遠くて聞き取れないけど、多分後藤さんの曲だと思う。
9月に卒業してから、後藤さんはとっても忙しそうで。
ミュージカルにドラマにCMに、凄くハードな日々を過ごしていて。
それでも、なんでもないみたいに『あはっ』って笑いながらこなしていくんだ。
ほんとに…凄いと思う。
- 105 名前:手を繋いで ―紺野サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時16分52秒
- 後藤さん…?
ほんとは私、後藤さんに憧れているんですよ?
『Do It!Now』で一緒にユニゾンできた時、ミュージカルで後藤さんの相手役に選ばれた時。
すっごく嬉しかったんですよ?
少しでも、後藤さんに近づけたと思って…。
でも…。
―――でも…、後藤さんはもう手の届かないところにいってしまった。
その時、何気に顔を向けた後藤さんと、ばちっと視線がぶつかった。
どうしようって、オロオロするけど。
後藤さんはへらって笑って、こっちに手を振ってくれたんだ。
私は恥ずかしくて応える事ができなかったけど、一度だけペコリと頭をさげた。
それからスタッフさんが呼びに来て、廊下を歩いているとき。
「紺野」
名前を呼ばれて振り返ると、後藤さんがいたんだ。
「あっ、なんですか…?」
「や、そんなかしこまらなくても」
可笑しそうに笑う後藤さん。
それから、軽く手が上がって
「!」
「前髪、乱れてる」
優しく撫でるように、髪を整えてくれたんだ。
「あ…っ、ありがとうございます…っ」
また頭を下げたら、後藤さんは困ったみたいに少し笑った。
- 106 名前:手を繋いで ―紺野サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時17分26秒
- 「?」
「紺野ー、もしかしてあたしのコト、怖い?」
「えっ、そんなコトないですっ」
慌てて手を振りながら否定するけど、声が大きかったみたい。
前を歩いていた矢口さんが振り返って、
「なに、ごっつぁん〜。紺野苛めてんの〜?」
って冗談交じりにからかってきたんだ。
「そ、そんなこと…っ」
「あはっ、そうだよー」
え…っ、後藤さんっ!?
否定しようとするより早く、後藤さんは笑いながらそう言って後ろから私を抱きしめて
きたんだ。
柔らかい柑橘系の香水の匂いが広がって、温かく伝わってくる体温に頬が熱くなった。
矢口さんはそれを見て「ホドホドにしろよー」って、笑い返しながら行ってしまった。
「ねー紺野。そんな緊張とかしないでよ。娘は卒業したけどあたし達って同じ『仲間』じゃん?」
耳元で聞こえた言葉。
私はそれを聞いて、はっとしたんだ。
そうだ。そうなんだ…。
壁があって。
私はどうやって壁を越えようか、いつも悩んでた。
だけど…。
だけど、壁は本当にあったの?
私がいつか越えたいって睨んでいた壁は、本当に壁だったの?
もしかしたら、ありもしない壁にぶち当たった気分になって、私はもう近づけないって思い込んで
いただけかもしれない。
後藤さんはモーニング娘。を卒業したけど、何もそれは壁ができるってことじゃないじゃない。
だってほら、手を伸ばせばすぐそこに後藤さんはいてくれてる。
楽しそうに笑って『仲間だ』って言ってくれてる。
- 107 名前:手を繋いで ―紺野サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時18分10秒
- 「後藤さん?」
「ん?なに?」
「その…」
でも、やっぱりずっと憧れている人に話すときは、勇気が必要で俯いてしまう。
そんな私に後藤さんは抱きしめていた手をほどいて、前に立って頭にポンと手をおいた。
「こーんのー、話すときはちゃんと顔をあげて元気にいわないと」
「あ…っ、はい。あのー…あのー…」
「うん?」
「…っ、手を繋いでいいですかっ?」
精一杯の勇気。
ヘンに思われたかなってゆっくり顔をあげると、後藤さんは一度意外そうな顔をして
それから優しく笑ってくれたんだ。
「はい」
「あ…っ」
目の前に差し出される手。
口では言わないけどOKの印。
でも、普通に取ることができない私は、おずおずと手をさしだしてゆっくり触れた。
「じゃ、行こっか?」
「…はいっ」
握り返される手。
繋いだ、その手から伝わってくる温かさが嬉しかった。
後藤さん?
多分、後藤さんはこれからもどんどん私の前を走っていくと思います。
でも…、でも今この時は私と一緒に歩いてくれてるって自惚れていいですか?
- 108 名前:手を繋いで ―後藤サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時18分51秒
- なーんか、自分に似てるなぁって思ってた。
ぼーっとしたトコロとか、トークがそんなに得意な方じゃなさそうなトコロとか。
でも、気になりだしたのは多分ミュージカルで一緒だった時だと思う。
一生懸命で、他のメンバーより一番早くセリフを覚えてきたりして。
あの頃から、そんなあのコを…紺野を少し好きになっていたんだろうなー…。
ハロモニの収録前。
モーニングとの共演がソロになってかなり減っていたから、メンバーに逢いたくて
あたしは楽屋に顔出しにきていたんだ。
よっすぃーや加護とか、色々嬉しそうに話してたんだけど、ちょっと疲れて離れた
あたしはぼんやりと鏡を見ながら、曲を口ずさんでいた。
今度のミュージカルで歌う、カバー曲を。
そしたら、誰かの視線を感じて。
鏡越しに探したんだ。
そして――見つけたあのコ…、紺野。
5期メンと会話しているみたいに見えるけど、その目はしっかりとあたしを見ていて
でも、鏡越しにこっちが見ていることには気づいていないみたい。
なんかその目が、すごく寂しそうで捨てられた子犬みたいだなーって思ってしまった。
うーん、どうしようか?
しばらく考えて、さりげなく紺野の方へと振り返った。
ばちっと視線がぶつかって、途端に挙動不審になる紺野。
あはっ、なんかそーゆーの見るとからかいたくなる。ってヤバイか、それは。
- 109 名前:手を繋いで ―後藤サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時19分21秒
- 軽く手を振って笑って見せると、紺野は余計慌てたみたいで顔を真っ赤にして俯いて
しまった。それから申し訳程度にペコっと頭を下げる。
あー…やりすぎたかも?
どちらかというと真面目な紺野は、こーゆーコトにも免疫が少ないみたいで。
メンバー同士で抱きついたりするのも、同期はともかく先輩だとぎこちなかったりするんだ。
あー、でも最近はタンポポとかで梨華ちゃんと絡んだりするけどフツーっぽいか?
あれ?じゃあ、なんであたしはダメなワケ?
もしかして嫌われてんのかなー…?
それとも怖がられてる? それって結構ショックなんだけど。
それからスタッフさんが呼びに来てくれて、スタジオに向かう途中の廊下。
前をヒョコヒョコ歩いている紺野を見つけて、他のメンバーがいないのを確認して、
ゆっくり後ろから近づくと声をかけた。
「紺野」
「? …あっ、なんですか…?」
ビクリと震える身体。それから背筋を伸ばしてぎこちなく返事する紺野。
「や、そんなかしこまらなくても」
思わず頬が緩んでしまいながらも、距離をつめる。
それからどーしよーか考えて、ふと見ると紺野の前髪がグシャグシャになってたんだ。
だから、そっと手を上げて
「!」
「前髪、乱れてる」
驚いたみたいに目を丸くする紺野を無視して、まっすぐな前髪を整えてあげたんだ。
- 110 名前:手を繋いで ―後藤サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時20分11秒
- 「あ…っ、ありがとうございます…っ」
恐縮したみたいに深く頭を下げてお礼を言う紺野。
うーん…この反応は、やっぱり怖がられてるっぽい?
なんか…フクザツだなー…。
思わず苦笑してしまう。
「?」
そんな私を見て、キョトンとした顔で首を傾げる紺野。
ちょっと意地悪かもしれないケド、あたしは訊ねてみた。
「紺野ー、もしかしてあたしのコト、怖い?」
「えっ、そんなコトないですっ」
即答だった。
必死に両手を振って、頭も振って。
そんな紺野を見てると、なんか嬉しい気持ちになった。
「なに、ごっつぁん〜。紺野苛めてんの〜?」
廊下の向こうから聞こえた声。
やぐっつぁんだ。からかい半分の口調で興味津々にこっちをみてる。
「そ、そんなこと…っ」
否定しようとした紺野が、なんだか可愛くてちょっと意地悪してやろうと思って
「あはっ、そうだよー」
不意打ちで紺野を後ろから抱きしめたんだ。
- 111 名前:手を繋いで ―後藤サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時20分47秒
- 思ってたよりも華奢な身体にビックリした。
モーニングにいた頃には思いもしなかった、紺野の1つ1つの仕草とか行動が
なんでか今凄く新鮮に映った。
ホラ、今だって困ったみたいに顔を赤くしながら硬直しちゃってるし。
素直に、『可愛い』って思う。
「ホドホドにしろよー」
遠くでやぐっつぁんが笑いながら言ったのが聞こえた。
その姿が完全に見えなくなってから、あたしはそっと紺野に耳打ちしたんだ。
「ねー紺野。そんな緊張とかしないでよ。娘は卒業したけどあたし達って同じ『仲間』じゃん?」
正直、そんなかしこまられると寂しいし。
心の中だけで付け加える。
その言葉に、紺野は何か考えこむみたいに俯いて。
ぼーっとしているみたいに見えて、紺野はあたしと違って色々考えていて、楽屋でも
もしかしたら何かを考えていたのかもしれないって思った。
それから緊張したみたいな声で呼びかけられた。
「後藤さん?」
「ん?なに?」
返事を返すけど、紺野はソワソワしたみたいに俯いたまま。
だから、
「こーんのー、話すときはちゃんと顔をあげて元気にいわないと」
前に回りこんで、頭にポンと手を置いて目線を合わせた。
それでも紺野は、まだ俯いたままでちょっと笑ってしまった。
- 112 名前:手を繋いで ―後藤サイド― 投稿日:2003年01月13日(月)18時21分35秒
- 「あ…っ、はい。あのー…あのー…」
「うん?」
「…っ、手を繋いでいいですかっ?」
え? 手を?
突然のコトに、あたしは意表をつかれたみたいに驚いた。
でも、紺野の恐る恐るって風な視線に、なんか私の分からないところで紺野は色々考えて
言った言葉なのかもって思ったんだ。
だから
「はい」
「あ…っ」
紺野の前に手のひらを差し出した。
これで紺野が満足するんだったらいいかって思って。
でも、紺野はおずおずとその手を握り返してきて、またまた笑ってしまったっけ。
「じゃ、行こっか?」
「…はいっ」
元気良くでた言葉に、『おっ?』って思って振り返ると紺野がうれしそうに笑ってた。
やっとみれた紺野の笑顔。
困ったみたいな笑顔なんかじゃなくて、素直に嬉しくて出た笑顔。
なんかそれを見れただけでもトクした気分になる。
ねー紺野?
紺野は気づいてないかもしれないけど、あたしはその顔がみたかったんだよ?
でも出来れば、その顔はあたしだけの前でだけ見せてほしいなー。
こんなコト言ったら、きっと困っちゃうんだろうけど、ね。
- 113 名前:tsukise 投稿日:2003年01月13日(月)18時26分47秒
- >>101 こんごま推進派さん
応援レスをありがとうございますっ。あやごま、なんかあややの方が
主導権握ってるカンジですがよいでしょうか?(^^ゞ
今回SSだったのですが、次回からはまた本編を書きますんで
ヨロシクお願いしますっ。
>>102 うまい棒メンタイ味さん
勝手に依頼をとってしまったごっちん、あやみきと別行動で結構激しく
動かす予定ですっ。紺野…能力者に…してもいいかもしれないですね〜(マテ
そして!小説の場所を教えて頂きましてありがとうございますっ!
早速、これから拝見させていただきますね!結構、うまい棒メンタイ味さんの
小説はそれぞれのキャラが好きなんですっ!
- 114 名前:こんごま推進派 投稿日:2003年01月16日(木)22時33分35秒
- 更新お疲れ様です。
リアルの短編、いい感じですね。
戸惑った感じの紺野が浮かんできました。
短編...また期待してもいいでしょうか?もちろん本編も!
- 115 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年01月19日(日)15時50分46秒
- おぉぉぉ!ごまこんっ!
リアルなのがめちゃいい!ハマってしまいました^^
やっぱり作者さんの書く話、私は好きですねぇ〜^^惚れるくらい(笑。
本編の続編楽しみに待ってます♪
短編もまた、機会があれば見せてください♪
それではがんばってくださいね!
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月23日(木)05時39分24秒
- こんごまも結構萌えるかも
- 117 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時24分49秒
- 「はぁ…」
思わず漏れてしまったため息。
ざわめきだっている教室では、全然聞こえないものだったけど。
ぼんやりと、周りを見渡すといつものクラスの風景。
もう受験のシーズンだし、勉強をしている子が多いけど結局クラスの大半はお喋りをしたりしてる。
でも私は、どの輪にも混ざらずにイスに座って頬づえをついていた。
多分、いつもの私だったら勉強とかしてるんだけど、今日ばかりは何にも浮かばなくて。
それは…昨日の公園での事が頭から離れなかったから。
たまたま塾の帰りが遅くなって、裏道を通って帰ったあの日。
変な男の人達に追いかけられて…振り払えなくて逃げ込んだ公園で逢った、あの人。
名前も知らないその人は、信じられないことだけど超能力みたいなものを持っていて。
結果的に私を助けてくれたんだ。
でも、私はお礼が言えなくて…。
それが心に引っかかっていた。
もう一度…逢えないかなぁ…なんて考えてしまう。
確かに怖かった。
瞳は緑色に変わっていたし、冷たく突き放すみたいなオーラがあったから。
でも…。
でも、それ以上に惹きつけられる『何か』がその人にはあったんだ。
もっと…あの人を知りたいって思えるぐらいの、強い『何か』が。
- 118 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時25分31秒
- 「はぁ…、お礼…ちゃんと言いたかったなぁ…」
「誰に?」
「ふぇ…っ? あっ、まこっちゃんに里沙ちゃん…っ」
いきなり声を掛けられて顔を上げると、いつの間にいたんだろう?まこっちゃんが私を
覗き込んでいたんだ。その後ろには里沙ちゃんもいる。
まこっちゃん…彼女は私のクラスで一番の友達。きょっと性格がキツイ所もあったりするけど
本当はとっても優しくて、ぼんやりする事が多い私をひっぱってくれたりするんだ。
後ろの里沙ちゃんは、クラスの中で一番小さくてみんなに可愛がられてたりする。
本人は、もっとしっかりしたいって言ってるけど、私に似て少しおっちょこちょいだったりするんだ。
「なーんか、今日はいつも以上にぼーっとしてるね、あさ美ちゃん」
無邪気に笑いながら言わないで欲しいなぁ、里沙ちゃん…。
「そんな事ないと思うけど…」
「まぁ、しっかりしてるあさ美ちゃんなんて、気持ち悪いけどね〜」
まこっちゃんまでひどいよ…。
「それよりさ、昨日貸した譜面持ってきてくれた?」
「あっ、うん。ありがとう、まこっちゃん」
言われて私は昨日コピーした譜面を差し出した。
『オンブラマイフ』――。
一度CDで聞いて気に入ったこの曲。
メロディーが透き通ってて綺麗なんだ。
たまたま、まこっちゃんが譜面を持っていて借りたんだよね。
- 119 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時26分03秒
- あ…そういえば、昨日逢ったあの人もこの曲を知ってるみたいだった。
ただ、ちょっと表情を曇らせていたみたいだけど…。
って、またあの人の事を考えてる。
なんでだろ…? 凄く気になる…。
助けてくれたから? それとも超能力に対するただの興味本位?
多分、どっちもなんだろうけど…。
「あさ美ちゃん? またぼーっとしてるよ?」
「え? あっ、ごめん…っ」
しょうがないなぁって里沙ちゃんが腰に手を当ててる。
そうだ…、ちょっと2人に訊いてみようかな…?
「あのさ…、あの、まこっちゃんと里沙ちゃんは超能力って信じる?」
「はっ? いきなり何?」
まこっちゃんの苦笑するみたいな声。里沙ちゃんも首を傾げてる。
「あの、だから…例えば風を自由に操ったりする人がいたりー…とか、そんなのあるかなぁって」
「あるわけないじゃん、そんなマンガみたいなこと〜」
「そうだよ〜、あさ美ちゃん今日はどうしちゃったの?」
バカにされちゃったみたい…。なんだか恥かしいなぁ…。
その時、
キーンコーン…
「はーい!席についてー!」
チャイムが鳴ると同時に、担任の保田先生が入ってきたんだ。
まこっちゃんと里沙ちゃんは、それを見て『じゃ、あとでね』って言って席に戻っていった。
- 120 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時26分45秒
- …って、あれ?
保田先生の後ろ…誰かいる。それも2人…?誰だろう?
私の思っていることは、みんなも思っていたみたいでヒソヒソと声があちこちが上がっていた。
「静かにっ。えー…っと、今日からしばらくみんなと一緒に勉強する事になった転校生を紹介するから」
転校生…? こんな時期に?
もうすぐ卒業が近いのに、どうしてだろう?
色々疑問はあったけど、その転校生さんが一歩前に出て頭を下げた時何も考えられなくなった。
「えーっと、藤本美貴ですっ。皆さんと一緒に勉強できるのが嬉しいでーすっ、ヨロシク!」
元気のいい声とは裏腹に、中学生とは思えないくらい綺麗な人。
背も結構高くて、ちょっと…圧巻されてしまった。
それから…
「松浦亜弥です。ヨロシク」
対照的に、ちょっと冷めたみたいな印象の人が挨拶をした。
顔は可愛いのに、なんだか勿体無い気がする。
でも、隣にいた藤本さんがその松浦さんの腕を軽く肘で小突いて何か小声で囁くと、一度大きく
ため息をついて、
「皆さんとこれから短い間ですけど、仲良く勉強したいでーすっ」
明るく笑顔でそう付け加えたんだ。
その笑顔がとっても可愛くて、みんなも見とれてしまっているみたいだった。
なんだか…凄い2人が来たなぁって思ってしまう。
- 121 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時27分25秒
- 「えーっと、それじゃあ藤本さんは高橋の隣に…、松浦さんは紺野の隣に座ってくれますか?」
「「はい」」
あれ…? なんだろう?
妙な違和感を感じた。保田先生の言葉に。
いつも敬語なんて私達生徒に使ったりしないのに、今確かに二人に向かって敬語を言った。
…気のせい…かもしれないけど…。
「紺野、高橋、手を上げて」
「あっ、はい」
促されて私は思考を中断させて、軽く手を上げた。
視線を向けると、委員長の愛ちゃんも静かに手を上げてる。
それを確認して、二人がそれぞれの席に歩いてきたんだ。
「ヨロシク」
短い、淡々とした言葉で松浦さんはそれだけ言うと着席した。
なんていうか…第一印象はちょっと冷たい感じのする人だなって思う。
凄く可愛いのに、本当に勿体無い…。
対照的に、藤本さんは愛ちゃんに向かって『あなたが委員長の高橋さんっ?これから色々
お世話になると思うけど、どーぞヨロシクっ』って言って、握手を求めてた。
戸惑いながら握手してる愛ちゃんに、ちょっと笑ってしまったっけ。
「はーい、それじゃあ授業を始めるよ」
保田先生もちょっと困ったみたいに笑いながら、1時間目の始まりを告げた。
- 122 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時28分03秒
- その一時間目の授業の時にちょっとした事が起こったんだ。
他でもない、藤本さんと愛ちゃんに。
もちろん転校してきて初日に教科書があるわけなくて、必然的に藤本さんには愛ちゃんが、
松浦さんには私が見せていたんだけど、ちょうど1時間目も中盤に差し掛かった頃、
「あっはははっ!」
「!?」
突然、教室中に大きな笑い声が響いたんだ。
当然驚いた私やクラスのみんな、それに先生の視線はその主に向けられて…またビックリした。
だって、その大きな笑い声を響かせたのは、転校生の藤本さんだったから。
こんな…堂々と授業中に、それも初めてのクラスで大笑いした転校生なんて初めてかもしれない…。
「ちょっ、藤本さん…っ静かに…っ」
隣の愛ちゃんも困りながらも笑ってるのが判る。
「だって、保田先生を『オバちゃん』なんて…っ、あっはははっ!似合いすぎっ、サイコー!」
……え゛?
なんて事を話してるの…っ。
慌てて視線を保田先生に向けると、チョークを握った手を震わせて俯いていた。
これは…多分…いや、絶対に怒って…。
「藤本さん! しごと…転校初日に、なんて事を話してるんですっ!!」
やっぱり…。
顔を真っ赤にして、保田先生は怒鳴り上げた。
それでも藤本さんは『すいませーん』って全然悪びれた感じもなく、ペロっと舌をだして謝ってる。
なんだか…凄い転校生が入ってきたなぁって、ほんと思う。
- 123 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時28分52秒
- 「…バーカ…」
隣で、頬杖をついてそれを見ていた松浦さんは、ちょっとウンザリしたみたいに呟いた。
それを聞いて思ったんだ。
もしかして、2人は知り合いなんじゃないかって。
怒っている保田先生の手前、私はちょっと小声で話しかけたんだ。
「あの…松浦さんと藤本さんって仲がいいんですね?」
「え? あ〜、ただのくされ縁だよ」
やっぱり、ちょっとウンザリしたみたいに答える松浦さん。
なんだか、さっきまで思っていた冷たいイメージが、その返事で少し和らいだ気がした。
私はそれから、もう一度愛ちゃん達を見てポツリと呟いたんだ。
「でも良かった…」
「? どうしたの?」
今度は松浦さんが小声で尋ねてくる。
「愛ちゃん…ああ、高橋さんなんですけど、彼女があんなに楽しそうに笑ってるの初めて見るから…」
何故か、自然と打ち明けていた。
なんていうか…松浦さんには、独特な雰囲気があってつい喋ってしまったんだ。
「そうなの…?」
聞き返す松浦さんの言葉は、どこか事情を話すのを促すみたいに聞こえる。
瞳も鋭く向けられているし…。
正直、こんな風に訊かれて黙っているのは無理だった。
- 124 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時29分40秒
- 「私と愛ちゃん…1年から一緒なんですけど、愛ちゃん…出会った頃あんまり笑ったりしなくて…
今でこそ冗談に笑ってくれるようになったけど…最初は…」
そう…愛ちゃんは、すっごく性格もいいし勉強だってできるし、とってもいい子なんだ。
それなのに…ちょっとした噂のせいで、全然笑ったりしなかった頃があったんだ…。
今となっても、まだ密かに流れている噂で…。
「ふーん…、あ、ねえ?なんか高橋さんのコトでヘンな噂とかあった?」
「え!?」
いきなり訊かれた言葉にビックリした。
だって今考えていた事を言われたんだから。
「紺野さんって判りやすいねー、なんかあったんだ?」
松浦さんは、ちょっと身を乗り出すみたいに意地悪く笑いながら訊ねてくる。
でも、私は躊躇った。
だって、人の悪い噂なんて伝えたくないし…愛ちゃんをまた傷つけてしまうかもしれないって思ったから。
でも、
「誰にも言わないしさ、心の中だけに留めとくからさ」
言って、真剣な眼差しを向けてくる松浦さん。
その瞳に…折れた。
きっと、松浦さんだったら大丈夫なような気がして…。
- 125 名前:2つの事象 投稿日:2003年01月25日(土)22時30分16秒
- 「その…愛ちゃん…噂でこの学校には裏口入学で入ったんだっていわれて…。そんなことないって
信じてるんですけど…それで結構嫌な思いをしたみたいで…」
そうなんだ。
愛ちゃんについて回った嫌な噂。
お父さんが貿易商で働いている愛ちゃんは、お金でこの学校に入ったんだって誰かが噂を流して…。
私は絶対そんなことないって判ってる。
だって、愛ちゃんは人一倍に努力して勉強してこの学校に入ったんだって、入学してすぐ友達になった
時に教えてくれたんだもん。
その時の嬉しそうな愛ちゃんの顔は、今でもはっきり思い出せるくらい印象強かったから。
「そっか…」
「…っ!」
呟いた松浦さんに相槌を打とうとして、ハッとした。
だって、その時の松浦さんの瞳は凄く鋭く愛ちゃんをとらえていたから。
そして…その瞳が、一瞬だけど―――紅くなったように見えたから。
- 126 名前:tsukise 投稿日:2003年01月25日(土)22時35分36秒
- 今回、更新はここまでです。
本編の続き…やっとシナリオが浮かんだんでUPします。
ここからは、ちょっちごっちんと紺野の2つ同時進行で展開ですね(^^ゞ
>>114 こんごま推進派さん
リアルの短編ね良かったでしょうか?戸惑う紺野、結構好きなんです(^^ゞ
そうですね、また機会がありましたら短編、書いてみましょうか♪
>>115 ヒトシズクさん
リアル、ハマっていただけましたか♪嬉しい限りですっ。
そしてっ、かなり嬉しいご意見、ありがとうございますっ!
また機会を見て、短編をUPさせていただきますね。
>>116 名無し読者さん
結構、萌えましたでしょうか♪書いてる方としては嬉しい意見ですね〜。
あんまし見ないカップリングなんですけど、5期ではこれが好きなんですよ〜(^^ゞ
- 127 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月26日(日)01時27分09秒
- 接触キタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━ !!!!!
更新されてると音楽を止めて読みますです、はい。
面白いです。続き期待してます。
- 128 名前:うまい棒メンタイ味 投稿日:2003年01月26日(日)15時52分53秒
- リアル短編のおもろかったっす!!
戦闘物に引かれてこれを読み始めましたが
「こんごま」にめちゃはまってしまった気がしますw
で、あやちゃん!人に見られてるときに
この人か、と疑って睨んじゃダメ!そんなんじゃすぐばれちゃうよ!!w
今回ごっちん出てなくて残念だけど
続きには大期待っす!!
- 129 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月27日(月)03時23分50秒
- クールなあやや(・∀・)イイ!!
続き期待してまっす
- 130 名前:名無し( ´Д`)ファン 投稿日:2003年02月03日(月)12時02分02秒
- こちらもお久しぶりです。
今、花板に行ってきました。
こちらも話が進んでいるようで…。
途中にあったリアルこんごまかなり良かったです。
これからも作者様のファンでありたいと思っているので
帰ってきたときはまたよろしくお願いします。それでわでわ。
- 131 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月07日(金)11時07分48秒
- 保全
- 132 名前:tsukise 投稿日:2003年02月09日(日)18時39分41秒
- …再びガス欠気味…な今日この頃。
花板の方が完結したんで、ここいらで気分を入れ替えるために
また1つ短編をUPさせてもらいます…(^^ゞ こんごまCPで紺野視点で…。
本編も考え中なので、大目に見て下さると嬉しいです(^^ゞ
- 133 名前:ワン・デイ 投稿日:2003年02月09日(日)18時42分11秒
- いつも、あなたに驚かされてる。
だってあなたは、クールに見えて全然そんなことなくって…。
むしろ、色んな所に気を配ったりしてくれているから。
そんなあなたの――後藤さんの一面が見えたとき、私は凄く身近に感じて嬉しくなるんだ。
久しぶりのオフの日。
前日に加護さんが『遊びに行こう』って誘ってくれて、愛ちゃん、それに吉澤さんも一緒に
渋谷に行くことにしたんだ。
こんなにメンバーが一緒にいて、大丈夫なのかなぁって思ったけど…。
約束の時間がお昼の1時。
その15分ぐらい前に集まる場所に私は愛ちゃんと一緒に着いたんだ。
2人とも帽子を深くかぶって。
お互いの顔を見ながら、ちょっと笑ってしまったっけ。
それから10分ぐらい経って着いたのは、加護さん。
その手にクレープがあって、一見だと普通の中学生だなぁなんて思ってしまう。
「あれ? よっすぃーはまだ来てないんだ?」
「うん、あたしら15分前に着いたんやけど、見当たらんかったし」
加護さんに答える愛ちゃん。
でも加護さんは聞いてるんだか、そうじゃないんだかクレープを頬張りながら周りを見渡してる。
私も結構食べるほうだけど、加護さんだって凄いよね…。
それからゆうに20分が経って、人の視線が気になりだした頃…、
「ごっめーん、待たせた?」
人ごみをぬって、吉澤さんが駆け寄ってきたんだ。
ジャケットっぽい黒いコートに黒い帽子。それに青みがかったメガネ…。
元々顔立ちとか、格好良い吉澤さんだから、その姿がすっごく似合ってて一瞬男の人かと
思ってしまった。
- 134 名前:ワン・デイ 投稿日:2003年02月09日(日)18時42分52秒
- 「おっそーい、よっすぃー!お腹すいちゃったじゃんかぁ〜」
あからさまに不機嫌な声をだしたのは加護さん。
…って、そんな大きな声をだしたら…っ。
周りの視線が気になって、私が加護さんに呼びかけようとした時、
「こら、加護ー。周りの人に見つかっちゃうでしょー…」
ぐりぐりと加護さんの頭を撫でるみたいに、誰かの手が差し出されたんだ。
それから吉澤さんの後ろから現われたジーンズに白いコートのその人を見て、
「後藤さん…っ!?」
今度は私が大きな声を上げてしまった。
「ちょ…っ、紺野…っ」
少し驚いたみたいに、白いニットの帽子をかぶり直して辺りを見渡す後藤さん。
けど、誰も見てないことを確認して、少し困ったみたいに私を見て「はは…」と笑ったんだ。
「す、すいません…っ」
「や、いいけどー…、気をつけようね」
「は、はい…」
なんだか恥かしくなる。
愛ちゃんも「あさ美ちゃん、自覚なさすぎやよ…」なんて言って呆れてるし…。
「あれ、でもごっちんも来るなんて知らなかったぞ?」
「あー、ウチが誘ったんだ。ごっちんもオフだって、昨日電話で喋ってる時に聞いたからさー、
一緒にどうかと思って」
加護さんが後藤さんの手を握って言うと、吉澤さんが全然悪びれた様子もなく答える。
でも、それならそれで連絡が欲しかったです…。
- 135 名前:ワン・デイ 投稿日:2003年02月09日(日)18時43分30秒
- それからみんなで、ゲームセンター・カラオケ・喫茶店を転々として…
2件目のカラオケに行こうとした時。
「…困った…」
ポツリと私は呟いた。
周りを見渡してみる。
休日って事もあって、埋め尽くしている人・人・人…。
そこには見知った顔なんかなくて…。
要するに…私は、はぐれてしまったんだ。
「どうしよう…?」
とにかく落ち着いて…、まず人の少ないところで考えよう。
きっと、愛ちゃん達も私がいないことに気がついて探しているかもしれない。
そう思って、少し開けた場所に移動して…気がつく。
携帯電話…っ。
そうだ、愛ちゃんにでも連絡しようっ。
カバンから使い慣れた携帯を取り出して、アドレスを検索しようとした…けど。
「ねぇ、君。今一人?」
「ふぇ…っ?」
顔を上げると、背の高い男の人がニコニコしてこっちを見てた。
もしかして…これってナンパ…?
「あ、あの…っ、一人じゃないです…っ」
「えー? でも、周りに誰もいないじゃん?良かったら一緒に少し話でもしない?」
どうしよう…。断って立ち去りたいけど、下手に動いたりしたらみんなとますますはぐれちゃう。
- 136 名前:ワン・デイ 投稿日:2003年02月09日(日)18時44分09秒
- 「ごめんなさい…っ、あのっ、今、人を探してるんです…っ。だから…」
「じゃあ、その人が見つかるまででもさ」
ずずいっと顔を近づけてくるその人。
少しキツイ香水の匂いが辛い…。
「…あれ? 君、どっかで見たことあるかも…?」
あ…っ、マズイ…っ。
慌てて帽子をもっと深くかぶりなおすけど、男の人はじっと覗き込んできてる。
どうしようっ、こんなところで変な噂なんて立てられたくないっ。
「えーと? どこだったっけかなぁ?」
困っている私に、再び面白そうに男の人が顔を近づけてきたその時。
「ひとみ! 何やってンだよっ」
えっ?
一際大きな声にビックリして振り返ると、黒い帽子を深くかぶった人が私に駆け寄ってきて
男の人との間に割って入ってきたんだ。
だ、誰…? 私、ひとみって名前じゃないし…。
「悪いケド、彼女、オレの連れなんだ」
「え…? あー…、そーなんだ。悪い、じゃ」
帽子の人にそう言われて、男の人はバツが悪そうに離れていった。
『ひとみ』って名前に、どうにか私だって判らなかったみたいで男の人は首を傾げていたっけ。
「ホラ、行くよ」
「えっ? あのっ」
帽子の人は短くそれだけ言うと、私の手を取って歩き出す。
ずんずんと人通りの少ない所へ歩いていくその人に、不安がこみ上げてきて…。
とにかく人違いだって言おうと思って、少し強く腕を振り払ったんだ。
- 137 名前:ワン・デイ 投稿日:2003年02月09日(日)18時44分53秒
- 「あのっ!」
「!」
ちょっとビックリしたみたいな、戸惑ったみたいなその人。
振り払った手を、呆気に取られたみたいに見てる。
ちょっと罪悪感を感じたけど、ちゃんと言わないと…っ。
「私、『ひとみ』って名前じゃありません…っ。だから、あなたの連れでもないです…っ」
私にしては強い口調。
だって、こうしてる間にも、みんなとはぐれてしまっているって思ったから。
けど…、目の前の人から返ってきたのは意外な返事だった。
「…わかんない?」
自分の顔を指差して問いかけてくる。
でも、目深にかぶった帽子に青いメガネをかけたその人の顔はよく見えなくて…。
そしたら、その人は一度大きくため息をついて、帽子とメガネを取り外したんだ。
帽子の中から流れるように落ちる、ストレートで茶色がかった長い髪。
メガネの下からは、少し目じりの下がった、でもハッキリとした瞳が現われて…。
って…あっ!
「もしかして…後藤さん…?」
「もしかしなくても、後藤さん」
ちょっと呆れたみたいな複雑な声。
それに、少し困ったみたいに笑ってる。
けど私は驚いて口をパクパクさせることしかできなかったんだ。
- 138 名前:ワン・デイ 投稿日:2003年02月09日(日)18時45分28秒
- 「ごっちーん!」
「あ…、よっすぃー、みんな」
振り返った先、どうしてか判らなかったけど後藤さんの白いニット帽を顔までかぶった
吉澤さんが、加護さんと愛ちゃんに手を引っ張られて近づいてきたんだ。
「いきなり、何すんだよぉ〜」
「や、紺野見っけたから追いかけようと思って」
「思って何?帽子とメガネ奪って走り出すかぁ?」
「や…それはー…」
へらっと笑って視線をあさっての方向に向ける後藤さん。
あ、そうだ…。後藤さんの持ってる帽子とメガネ…。
どこかで見たものだと思ってたけど、吉澤さんのだ。
「いきなり走り出すから、びっくりしましたよ。一声かけてくれればよかったのに」
「あー…、なんかみんなで行くには人が多かったからさー。ゴメンゴメン」
え…人が多かった…?
そんなはずない。だって、携帯をかけるために私は人ごみから少し離れた場所にいたし…。
そこで気づいたんだ。
もしかして後藤さんは気を使ってくれたのかもって。
ナンパされてたなんて、あんまり知られたくないことだし。
それに思ったんだ。
もしかして…後藤さんは、私が男の人に捕まってるのをみたから…。
だから、わざとみんなから離れて変装して助けてくれた…?
声色だって変えて…『オレ』って言って…。
『ひとみ』って、わざわざ名前を変えて呼んでくれたのだってバレないようにするために?
- 139 名前:ワン・デイ 投稿日:2003年02月09日(日)18時46分10秒
- 改めて後藤さんを見てみた。
後藤さんは額に汗を浮かせていて、暑そうに手でパタパタと顔をあおいでる。
と、視線がぶつかる。
私は恥かしかったけど、ははぁって笑って見せたんだ。
口で言えないありがとうの気持ちを込めて。
そしたら後藤さんは、やっぱり暑そうに手をパタパタさせてたけど『あはっ』て一緒に笑って
くれたんだ。
「なーんか、あやし〜。2人して笑っちゃってさぁー」
えっ、加護さん。
「なに?デキちゃってんの、2人は?」
吉澤さんまで、そんな面白そうに見ないでください…っ。
「いーなぁ、あさ美ちゃん」
いや、愛ちゃん、何がいいのかわかんないから…。
「ホラ、もういいじゃん。それよりカラオケ行くぞーっ」
「え〜」
「いーから、いーから」
ブーイングを飛ばす吉澤さんと加護さんの背を押して歩かせる後藤さん。
愛ちゃんも楽しそうにその後についていく。
私も続こうとしたその時、後藤さんがくるっと振り返ってそっと私の手を握ってきたんだ。
- 140 名前:ワン・デイ 投稿日:2003年02月09日(日)18時46分52秒
- 「後藤さん…?」
「こーしてれば、ヘンなのにもう捕まったりするコトも、はぐれちゃうコトもないでしょ?」
「あ、でも…っ」
言いかけたら、後藤さんはちょっと俯いてポツリと呟いたんだ。
「…いつも一緒にいられたら、あたしがなんとかしてあげられるんだケドね…」
「え…?」
「なんでもない。ホラ、行くよっ」
「あ、はい…っ」
聞き返した私にはなんにも答えなくて、後藤さんは手を握ったまま歩き出した。
後藤さんの呟き、ちゃんと聞こえてましたよ?
どういう意味で言ってくれたのか、今の私にはわからないけど、それでも私の事を
気にかけてくれたんだって事は判りましたよ?
だからってわけじゃないけど…私も後藤さんの後ろについて歩いて、ボソっと呟いたんだ。
「…私も、後藤さんといつもいっしょにいられたら嬉しいのになぁ…」
って。
恥かしいから、ハッキリ言えないけど…いつか伝わるといいなぁ、なんて思いながら。
- 141 名前:tsukise 投稿日:2003年02月09日(日)18時54分49秒
- >>127 名無し読者さん
あやや、ミキティと紺野の接触、よい感じだったでしょうか?
音楽を止めてまで読んで頂いてるとはっ、嬉しい限りですっ
次回からはまた本編UPなので、またまた読んでくださればありがたいです。
>>128 うまい棒メンタイ味さん
リアルこんごまに嬉しい感想をありがとうございますっ!
戦闘モノも好きなんですが、こういうマターリしたのも好きだったりするんです。
うまい棒メンタイ味さんの小説も期待してるんで、頑張ってくださいねっ。
>>129 名無し読者さん
実際のあややは、結構天真爛漫なカンジなんですけど、ここではクールに
行こうかと思ってるんで、感想とっても嬉しいですっ!
応援レスに励まされつつ頑張りますので、また読んでくだされば幸いですっ。
>>130 名無し( ´Д`)ファンさん
こちらでもレスをありがとうございますっ。最近更新が遅れ気味なんで
あんまり進展が少ないかもしれませんが、応援レスに励まされながら
頑張りますねっ! 名無し( ´Д`)ファンさん もお身体を大切に
改善されることをほんとにお祈りしています。
- 142 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年02月10日(月)08時18分20秒
- 更新おつかれっす またリアルこんごまですか、よかったっすよかなりごっちんがカッコよかったっす あれは紺野が惚れるのも無理はないw 続き楽しみに待ってます
- 143 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月11日(火)06時22分58秒
- リアルこんごまいいですね
ごっつあんカッコイイです。男装したごっつあんは普通の男の人より
カッコイイですからね。本編も期待してます。
- 144 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月18日(火)06時13分34秒
- 保全
- 145 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月20日(木)19時24分36秒
- ゆっくりと街の雑踏の中を歩いていく。
すれ違っていくヒト達は忙しなく歩いていくけど、あたしはその波に逆らうように。
それから1つの信号機の前で止まる。
今さっき赤に変わってしまったのか、やたらと止まっている時間を長く感じてしまう。
別に急いでるワケじゃないけど、なんとなく無意識に腕時計で時間を確認した。
午後1:10……。
多分、今頃亜弥と美貴は午後の授業に入った頃かもしれない。
上手くターゲットと接触できたのかな…?
まぁ、美貴だけなら心配だけど亜弥がいるんだ、そっちは問題ないだろうケド。
多分だけど、今回の依頼は長期戦になる。
わざわざ、『あの』亜弥が潜入なんてしたんだ。慎重に慎重を重ねる、あの亜弥が。
それだけ相手も、すぐには尻尾をだすようなヤツじゃないってコトだろう。
ま、今回のあたしは、ほぼノータッチだろうケド、ね。
信号が青に変わる。
渡り始めたヒト達にならう様に、あたしも歩き出そうとして…止まった。
音が聞こえたんだ。
- 146 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月20日(木)19時25分16秒
- ふと視線をあたりに向けて、見つけたのはあたしの真後ろにあった電気屋。
音は、ブラインドに数多く並んだテレビのモノだった。
暗い視界を遮っているサングラスを取って、その中のひとつに目を向ける。
『…昨夜起こりましたオークションシティーでの火災の原因ですが、主催者である経営者、
取締役社長の平家みちよさんによる放火の疑いが強く、現在警察の取調べを行うと共に
捜査が進められてます……。では、次の……』
放火…か。
何故か罪悪感はない。
追い詰めたのは他でもない、あたしなのに。
きっと他の人にはわからないだろう、この気持ち。
あたしの中には常に『殺らなきゃ、殺られる』って気持ちがあるんだ。
今回だってそう。
だから…何も感じない、感じなかった。
「……………」
ふと、思う。
あたし達は、いつも仕事という形で、色んなヒト達に何かを与えてきた。
けど、その代償に色んなヒト達の何かを奪っても来ている。
その何かを失ったヒトの気持ちは、一体どんななんだろう?
- 147 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月20日(木)19時25分49秒
- 「…バッカみたい」
考えて判るワケもなくって、やめた。
だってそうでしょ? あたしはまだ何も失ったことなんてないんだから。
判るはずがないんだ。ううん、判ろうとも思わない。
もう一度あたしはサングラスを掛けなおすと、点滅し始めている横断歩道を渡っていった。
1つの喫茶店の前。
洒落た外観を確認して、あたしはポケットからメモを取り出して広げる。
書いてあるのは、昨日走り書きした電話番号とココの住所。
あれからあたしは、結局電話したんだ。
衝動的にも近い気持ちで。
きっと、亜弥や美貴に知られたらバカにされるんだろうケドね…。
電話越しに出たのは、予想に反して若い女のコの声だった。
てっきり、野太い男の声が出ると思っていたあたしは、ちょっと驚いたっけ。
『もしもし…?』
「…あなた? 依頼のメールを送ってきたのは?」
『あ…っ、もしかして読んでくれたのっ!?』
「読まなきゃ連絡なんてしない」
『あ、そうよね、ゴメン』
「で、なに?」
『あ…、今は話せないんだ…。あのっ、明日時間ある?…あ、ありますか?』
「…どうすればいいの?」
『ありがとうっ! じゃあ、今から言う場所に明日の午後2時に来てくださいっ』
「……わかったから、もう少し声のトーン落としてくんない? 耳が痛い」
『あ、ごめんなさい』
…で、まぁここの喫茶店を指定されたってワケ。
印象に残っているのは、書き込み同様に切羽詰ったみたいなカンジと、耳につくぐらいの高い声。
なんだろ? あーゆーのを『アニメ声』っていうのかもしんない。
- 148 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月20日(木)19時26分28秒
- カランカラン…
「いらっしゃいませ」
喫茶店の扉を開けて、中へと入る。
外観じゃ判らなかったケド、結構奥行きがあって広さを感じた。
店内にゆっくりと流れるジャズ・ミュージック。
それから、香水のような人工的に作られた匂いじゃなくって、純粋な花の香り。
多分、ちょっとした休憩所みたいな感覚では入れないような店だと思う。
客の雰囲気も、どこかちょっと上品で、なんだかあたしの姿は場にそぐわない気さえするし。
ま、だからといって、気にするあたしでもないケド。
「あの…、お客様…?」
どこか戸惑ったみたいな店員の声。
当然かもしれない。
いきなりサングラスをかけて、黒いコートに黒い革靴の全身を黒で固めた人間が現われたら
誰だって戸惑う。
「人と待ち合わせてるから」
「あ、はぁ…」
それでも納得しないような店員をその場に残して、あたしは指定されたテーブルに向かう。
木製の床に、あたしの革靴はかなり響くみたい。
通り過ぎていく間、他の客の視線が集中してたっけ。
- 149 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月20日(木)19時26分59秒
- そして…窓際一番奥のテーブル。
昼の柔らかな陽に包まれる中、彼女はいた。
テーブルの前で立ち止まると、あたしに気がついたのかハっとしたみたいに顔を向けて
慌てたみたいに立ち上がるとペコリと頭を下げた。
「…依頼人って、あなた?」
「あっ、はい」
その返事した声は、間違いなく昨日のあの声だ。
改めて見てみると、多分女のコらしい女のコって、このコのコトを言うんじゃないかって思った。
均等の取れた顔立ちに、少し陰のあるような瞳。
けど、少し褐色された肌が暗さよりも、逆に明るさを強調しているように見える。
それに、この声。まさに『女のコ』ってカンジ。
…あれ? ちょっと待って…。
このコ、どこかで見たコトがある…?
芸能とか、そんなんじゃなくて、ちょっとした新聞記事なんかで…。
あ…もしかして?
「…あなたの名前は?」
あたしのカンが当たっているなら、彼女は…ううん、彼女の父親は確か…
「あ、あたしは『石川梨華』。…その…、父が代議士なの…」
やっぱり。
このコの父親は、政治の世界では知らないヒトはいないだろうってぐらいの有名な代議士だ。
時々、TVの取材なんかで彼女もクローズアップされるコトがあって、あたしは覚えていたんだ。
あー…、それで住所や氏名を明かさずに、あんな一文だけのメールを…。
今更ながら納得してしまう。
あたしの、初めて単独での仕事は…予想外の展開で始まってしまったみたいだった…。
- 150 名前:tsukise 投稿日:2003年02月20日(木)19時31分37秒
- 今回更新はここまでです。短ッ! スイマセン…(^^ゞ
何気に、これから展開が速くなってしまうんで、キリのいいココで区切りたいんで(^^ゞ
>>142 うまい棒メンタイ味さん
リアル短編に嬉しいご意見をありがとうございますっ。
なんとなく、男装したごっちんが書きたくて(^^ゞ カッコイイ感じが
でていたか心配でしたが、ホッとしましたです♪
>>143 名無しさん
リアル短編、なんだか息切れの時に上げちゃってスイマセンですっ(^^ゞ
カッコイイとは嬉しいご意見をありがとうございます。
本編は、これからどんどんUPしていくので続けて読んでくだされば幸いです。
- 151 名前:ウィンキー 投稿日:2003年02月20日(木)20時58分27秒
- ごっちんカッケェー!!いいですねぇ、やっぱりクールごまは。
- 152 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年02月21日(金)00時53分56秒
- おぉ!すごい、ごっちん、かっけぇ〜!
単独の仕事・・・かなり、気になります。
更新楽しみにしてます!がんばってください!
- 153 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年02月21日(金)10時56分16秒
- ごっつぁんカッケー! 全身黒ずくめのごっつぁん見てみたい! どこか「マトリックス」を彷彿とさせる。 どんな依頼なのか気になる! 更新遅くてもいいので頑張って下さい!
- 154 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月21日(金)18時02分53秒
- 更新待ってました
早速続きが気になります
- 155 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月27日(木)19時43分15秒
- 「とりあえず、座ってください」
「………」
言われたとおり、あたしは彼女と向かい合う形で席につく。
照り付ける陽の光に、ちょっと居心地の悪さを感じたけど、この際無視しておく。
「でもまさか…女の人だなんて思わなかったです」
あたしの顔をまじまじと見ながら、少しホっとしたみたいに漏らす。
まぁ、そんなもんだと思う。
今まで依頼人に逢うと、十中八九言われるから。
あたしたち3人は、いわゆる『噂』と『電子』の中でだけ存在していて実際に接触する人間は
限りなく少ない。
引き受けてる仕事が仕事だし…なにより、普通の人間ではないっていうコンプレックスが
少なからずあったりするから。
「もっと…こう、なんていうか…体格が良くて、顔にキズとかあったりする男の人かと…」
想像しすぎ…。
なんだか、絵に書いたようなお嬢様で思わずため息が漏れてしまう。
「それに…」
「ねぇ」
「あ、はい?」
「世間話はいいから、本題に入らない?」
こんな話がしたくて、ここに来たワケじゃないんだし。
第一、亜弥達が帰ってくる頃には、終わらせたいから。
- 156 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月27日(木)19時44分15秒
- 「あ…っ、スミマセン…」
「それと、敬語なんて使わなくていいから。正直、煩わしい」
「あ…うん」
申し訳なさそうに俯いてしまう彼女。
なんだか、こっちが悪いコトしてるみたいでホント居心地が悪い。
「ふふっ」
「? なに?」
突然、どこか上品に笑う彼女に問いかける。
「あ、ごめんなさい。なんか代議士の娘って目で見ないことが嬉しくて」
聞いて別に同情したってワケじゃないけど、納得はした。
なんで彼女が、こんなにもあたしの興味を示すのか判った気がしたから。
多分、彼女の周りには何かを気軽に話しかけたりする人間がいなかったんだろう。
こんな、些細な一言二言さえも。
ま…、それがこの仕事限りの関係だったとしても、ね。
「で、なに?」
「あ…うん。実は…」
話の先を促すと、彼女はイスに置いていたカバンから一枚の写真を取り出して差し出してきた。
手にとって確認する。
映っていたのは、一人の少女。
多分…あたしや彼女と同じくらいの年のコだと思う。
どこかボーイッシュなカンジがしていて、何かのスポーツでもしているのか、しっかりした体格を
している。
- 157 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月27日(木)19時45分05秒
- 「依頼っていうのは…この子『吉澤ひとみ』を探して…、薬の売りをやめさせて欲しいの」
クスリの売り…ねぇ。
なるほど。公の探偵なんかに頼めないワケだ。
代議士の娘が、クスリを売ってるコと何かしらの縁があるなんて知られたらマズイしね。
けど…いくつか訊いておきたいコトがあった。
「このコの家族は?」
こんなクスリ関係だったら本人の親が動いてもおかしくないんだし、事情は把握しておかないと。
とりあえず、当たり障りのないように訊いていく。
依頼人に深く立ち入らない、こっちに深く立ち入れさせないってのが、あたし達のルールだから。
「……今、側にはいないの」
「どういうコトか、訊いていい?」
あくまで逃げ道を作った訊き方。
言いたくなければ、それでもいいし。
ただ、ある程度の情報は欲しいからセオリー通りに訊ねてみたんだ。
そしたら、彼女は一度目を伏せて…それから静かに口を開いた。
「この子のお父さん…貿易商の取締役だったんだけど、うちのパパの仕事の関係で…その…
倒産に追い込んでしまって…。それ以来、家に戻ってきてないみたいなの」
「…………」
「私達、幼馴染でずっと一緒だったのに…そこから何かがおかしくなっちゃって…」
なるほど。
いわゆる親同士の仕事のトラブルで、子供まで巻き込んでしまったってコトか。
- 158 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月27日(木)19時46分12秒
- 「母親とかは?」
「…その事が原因で、ノイローゼになって…病院に入院してしまったみたい。それで…彼女、
夜繁華街に出て、お金のためだけに薬の仲介役を…」
「……そう」
事情は判った。
要するに、この写真のコに危険な目にあってほしくないってのが本音なんだろう。
辛い面持ち゛喋ってるのをみれば一目瞭然だ。
「じゃあ、このコを見つけて売りを辞めさせる。そういうコトでいいの?」
「あ…っ、それと…」
言いかけて、彼女は再びカバンを探り、一枚の茶封筒を差し出してきた。
「これを渡してほしいの」
「…なに?」
訊ねるように首を傾げると、開けてもいいっていうみたいに頷いた。
ゆっくりと封筒の口を開いて、中の物を取り出す。
そしたら、『弐億』と書かれた小切手がころがりでたんだ。
「ちょっと家にあった絵画を売っただけだよ」
訊く前に答えて、軽く笑ってみせる彼女。
けど、その笑顔の奥にある暗い影をあたしは見逃さなかった。
きっと、この金はそんな簡単に作れたものなんかじゃない。
彼女の何かと代償に手に入れたものだ。
だって…、最初に会ったときから気になっていたコトがあったから。
それは、彼女の腕・首元なんかに所々見えるヘビ上のアザ。
その色から、まだ新しい事が判る。
「ま…、パパに見つかってちょっと怒られたけどね」
あたしの視線に気づいた彼女が、腕のアザを隠すみたいに洋服の袖を強く引っ張って苦笑した。
- 159 名前:2つの事象 投稿日:2003年02月27日(木)19時46分57秒
- …サッパリわからなかった。
どうしてそこまで他人の為に必死になれるのか。
自分を犠牲にしてまで、誰かを助けたいだなんて思ったりするのか。
「そこまでして彼女を助けたいって思うのは、罪滅ぼしかなんか?」
それぐらいしか思い浮かばない。
けど、彼女はそんな私の言葉に静かに…少し寂しそうに笑うだけだった。
「そう思ってくれても構わないよ。ただ、彼女…このままじゃ絶対ダメになるから、救ってほしいんだ」
電話で聞いた…メールで感じた、あの切羽詰った声でそう言う彼女。
正直、不可解な依頼だと思う。
多分あたしの分野じゃないものだ。そう、きっとこれは美貴が引き受けるだろうようなモノ。
ただ…何故か彼女の想いに惹かれた。
あたしが考えもしないようなコトを彼女は考えてる。
あたしが感じたコトもないようなコトを、彼女は強く感じている。
だから…―――それに触れてみたいと思ったんだ。
「…わかった。この仕事、引き受けるよ」
「あ…っ、ありがとうっ、報酬はちゃんと払いますっ」
「だから、敬語やめてってば…」
「あ、ごめん」
思わず苦笑してしまった。
そんな風に笑ってる自分に、ちょっと驚きながら。
何か予感がした。
この依頼は、あたしの何か知らないコトを教えてくれる。そんな予感が――。
- 160 名前:tsukise 投稿日:2003年02月27日(木)19時54分54秒
- 今回更新は、ここまでです。
ホントはいわゆるバトルシーンまで行く予定だったんですが…(^^ゞ
次回更新は、なるべく早めにUPする予定です…っ。
>>151 ウィンキーさん
クールなごっちん、自分も結構すきなんですよねっ。
ウィンキーさんの書かれるごっちんも、かなりクールで好きですっ。
後ほど拝見させていただきますね。
>>152 ヒトシズクさん
カッコイイごっちんって、やっぱりいいですよね♪
今後も結構こんな感じで行きたいと思いますので、また続けて読んで
下さると嬉しい限りですっ。
>>153 うまい棒メンタイ味さん
黒ずくめのごっちん、まさにうまい棒メンタイ味さんのいう
『マトリックス』を見て書いたんで、レスにビックリしましたっ。
更新、遅れ気味ですがまた読んでくだされば幸いですっ。
>>154 名無し読者さん
更新を待っていて下さってありがとうございますっ。
これから、結構早めにUPしていくと思うんでまたまた続けて読んで
下されば…と思いますっ!
- 161 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年03月01日(土)21時22分05秒
- おぉ!更新されてる!!!
今回もごっちんがかっけぇ〜!!!
それに、梨華ちゃんの切羽詰ったカンジがよくて・・・・惚れました!!!
これからどうなるのか気になります。
頑張ってください♪応援してます!
- 162 名前:接点 投稿日:2003年03月07日(金)16時01分04秒
- タイムリミットは、亜弥達が帰ってくるだろう時間―――午後7時。
それまでに、この仕事は終わらせたい…、ううん、終わらせなきゃいけない。
長引く仕事は、美貴ならともかく、亜弥には絶対にバレる。
そしたら、バカにされるか呆れられるかのどっちかなんだ。
昨日の一件があるし、それだけは絶対に避けたい。
陽はもう傾き始めていて、この街を薄紫色に濁らせてきている。
そうなると…あたし達にとって人探はうってつけになってくるんだ。
この無法地帯となっているこの街―――新宿では、ね。
特に、今回はクスリの売りをしているコがターゲットなんだし…。
「ハ〜イ、マキ」
不意に声を掛けられて振り返る。
サングラス越しの暗い視界に映ったのは、長身に超ミニのスカートで少し色黒の女性。
カールされた髪はアップにされてて、一見だと『その店』のコに見えるかもしれない。
ま、残念ながら、その道に彼女は興味ないって以前言ってたっけ…?
「アヤカ」
この街で、あたしに声をかけてくるのなんて限られていて大抵情報屋か同業者だったりするんだケド。
今回は前者みたい。しかも、トップクラスの、ね。
- 163 名前:接点 投稿日:2003年03月07日(金)16時01分39秒
- 「なーに〜? いつ声掛けてもそっけないんだから〜。クールビューティーってカンジ?」
別に嫌味を言ってるワケじゃない。
これが彼女の挨拶みたいなモノなんだ。
だから、あたしも軽く肩をすくめてかわす。
そこで気づいた。
「…ミカは?」
そう、彼女には仲間としてもう一人、ミカっていうコがいるんだ。
外国人とのハーフで、まだ日本語の発音とかマスターしきれてないみたいだけど、アヤカに
負けず劣らずの情報能力をもっているコが。
いつもは一緒にいるのに、今日は何故かアヤカだけだった。
「あ〜あのコね〜…」
そこで、言いづらそうに首を傾けて『うーん』なんて唸るアヤカ。
「実はさ〜、別口で情報を集めてたんだけど、それがかなりヤバイものだったらしくてケガ
しちゃったんだ〜。で、今休養中〜ってワケ」
「ふーん…珍しい。アヤカ達でも失敗するんだ?」
「たまには、ね」
今度はアヤカが笑って肩をすくめる。
その表情は、それでもやっぱり少しは落ち込んだらしくて心配の色が垣間見えた。
- 164 名前:接点 投稿日:2003年03月07日(金)16時02分13秒
- 「…で、その情報だけど、どう?」
ニンマリ笑って、視線を合わせてくるアヤカ。
「んー…」
「多分ね、この情報は他のヒトだったら、あんまし関係ないものだと思うけど、マキやアヤ・ミキには
結構重要なモノだと思うよ〜?」
「あたしらには?」
「そ」
なんだろ? あたしらに関係あるコトで重要なコト…。
アヤカがこーゆー言い方するときは、大抵本当に重要なモノだったりして。
うーん…と、唸ってしまう。
「コレでいいから」
言って、アヤカは人差し指を1本立てる。
1万ね…。まぁ、妥当な線かもしれない。
「いいよ、買った」
「まいどアリ〜」
紙幣を一枚サイフから取り出すと、アヤカは茶目っけたっぷりにそれをつまんでヒラヒラさせた。
「マキってストレートだから好きだよ」
「は?」
「や〜、実は亜弥に同じコト言ったら『高い』とかって断られたんだよ〜」
…亜弥らしいって言えば、そうかもしれない。
まったく…。現実的にもホドってモノがあるのに…。
- 165 名前:接点 投稿日:2003年03月07日(金)16時02分51秒
- 「…で?」
「あ、そうそう…」
そこでアヤカは視線を鋭くさせて、あたしの耳元に小声で話し始めた。
「なんでも、マキ達の力と似たような力を持ったコがこの街にもう一人いるらしいよ?」
「え?」
「しかも超A級のコ。どんな力かは判んないんだけど、とにかく凄いらしい。…で、なんかそのコ
色んなヤツらに狙われてるっぽいよ、うん」
「…ふーん…」
超A級ってのが、どのくらい凄いものなのかよく判らなかったけど、とにかくあたしみたいな力を
もったコが近くにいる。
それだけで、少しドキっとした。
アヤカが言うんだ、それは絶対に間違いないコトなんだろう。
「たださ…問題が1つあるらしくって」
「? 何?」
珍しく歯切れの悪いアヤカに自然と眉をしかめてしまう。
そしたら、ちょっと頭をかきむしるような仕草をして困ってみせていた。
「そのコ、自分のその力のコト全然知らなくってさ。しかもちゃんと『カタチ』として覚醒してないんだよ」
カタチとして覚醒していない。
それは、いわゆる自分が普通のヒトとは違うんだってコトを自覚していないワケであって。
自分の知らないところで、大きな力が動いているっていう不安な状態なんだ。
もしかしたら…とんでもない危険が、そのコの身に降りかかるかもしれないってコト…。
- 166 名前:接点 投稿日:2003年03月07日(金)16時03分49秒
- 「ふーん…」
「『ふーん 』って…やっぱマキってばクールだね…。心配じゃないの?そのコのコト」
「なんで?」
「なんでって…」
アヤカの戸惑った声。
多分、反応の薄いあたしに困ってしまったのかもしれない。
でも、あたしは本当にそれ以外の感情は浮かばなくて。
そりゃー、自分と同じような特異な力を持ったコがいるっていうのには驚いた。
けど、所詮それはそのコ自身のコトであって、あたしには関係ない。
これから先、力に目覚めたとして、あたしや亜弥・美貴と接点があるのかって言えば怪しいモノだし。
…結局、そーゆーモノなんだ。
「それだけ? じゃ、あたしもう行くよ?」
「あ、ちょっと待ってよ」
身を翻して、そのまま去っていこうとしたあたしを、アヤカは軽く肩に手を置いて止めた。
「…なに?」
「とりあえず、そのコの名前だけでも知っときなよ」
「なんで?」
「うーん…まぁ、なんていうか…ミカのためにもさ」
「ミカ?」
「うん」
なんでここでミカの名前が出てくるのか、一瞬判らなかった。
けど、アヤカの真剣な表情に、なんだかその言葉の意味がわかったような気がした。
- 167 名前:接点 投稿日:2003年03月07日(金)16時04分57秒
- 何かの情報を得ようとして、ケガをしたミカ。
情報屋としてはトップクラスのミカがケガをしたんだ。当然、その内容もトップクラスだったワケで…。
それにくわえて、真剣にあたしに情報を売ったアヤカ。
それが結びつける結論は1つ。
…そう、初めからあたしらにこの情報を流すつもりだったんだ。
「…わかった。で?そのコの名前は?」
別に同情したワケじゃないけど、ミカの気持ちは汲んでやりたいと思った。
そしたらアヤカは、ちょっとホっとしたみたいに息を吐いて、静かに継げた。
「『コンノアサミ』って言う、中3の女のコだよ」
思えば、これが初めてあのコの存在を…紺野の存在をちゃんと認識した瞬間だったような気がする…。
- 168 名前:tsukise 投稿日:2003年03月07日(金)16時08分50秒
- 今回更新はここまでです。短い上に遅くてスイマセンっ!
や、短編の方ばっかりUPしてしまっていて(^^ゞ
次回こそバトルシーンを…(^^ゞ
>>161 ヒトシズクさん
梨華ちゃんの切羽詰ったカンジ、良かったでしょうか?
結構梨華ちゃんって絡ませるのに悩んでしまったりするのですが、
今回は清純派ということで…(^^ゞ
嬉しいご感想に励まされつつ、更新頑張りますのでヒトシズクさんも頑張ってください!
- 169 名前:ウィンキー 投稿日:2003年03月07日(金)19時06分37秒
- ついにお名前拝見!しかも自分がもってることに気付いてない
ところがよい!
- 170 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年03月08日(土)20時28分22秒
- ををを!!!
紺ちゃん登場!ますます気になります・・・続きが。
のんびりと更新待ってます!がんばってください♪
- 171 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月15日(土)06時06分17秒
- 保全
- 172 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時14分40秒
- 「そうだ…ねーアヤカ」
歩き出そうとして、あたしは1つ思いついてアヤカに振り返る。
アヤカは小首を傾げたみたいに「?」ってこっちを見てる。
「あたしのお願いも聞いてくれる?」
「なに? 高いよ?」
「1万取っといてよく言う…。サービスにしなよ」
「…ったく〜、しょーがないなー…。なに?」
「このコ、知ってる?」
言って、あたしは今回のターゲット・吉澤ひとみの写真を渡した。
ヘタに自分で探すより、餅は餅屋…アヤカから聞き出すほうが早いと思って。
「あ〜知ってるよ、このコ。クスリ売ってるコでしょ?」
やっぱり…。
なんていうか、アヤカに知らないコトなんかないんじゃないかって思うぐらい情報網広すぎない?
「このコさ、なんとアタシのコト知らなくて売ってきたんだよ? アレには笑っちったよ〜。
まだ入ったばっかなんでしょ?」
この街じゃ知らない人はモグリだという、アヤカに売ろうとするなんて…。
ホント石川梨華の友人だけあるわ。どっかズレてる。
「どこにいる?」
「この道、まっすぐ行ってみな? 目立つトコでやってるから」
ちょっとバカにしたような笑い。
ま、しょうがないよね。バレるようなトコで売りをするのはトーシロにしか出来ないしさ。
「サンキュ」
短くそれだけ答えて、あたしは言われた道をまっすぐに進んでいった。
- 173 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時15分35秒
- 無法地帯――。すべてを捨てた街。
よくそんな言われ方をするこの街だけど、裏を返せば『本能の街』なんじゃないかって時々思う。
誰かに干渉されるワケでもなく、自分の生だけを見つめて生きていく…多分、ここはそんな街。
ホラ、今だって誰かが誰かに今夜限りの馴れ合いを求めて近づいてる。
それだけの関係。
以前、亜弥に言われたことがあったっけ?
この街には『利用する者・される者』がいるって。
あたし達は、どちらに付くことも許されない立場だとも。
最後まで傍観者でなければならないんだ。呪われたこの血がその証。
ただ…一度でいいから、どちらかの立場になってみたいと思うのは、あたしのくだらない優越感
なんだろうか? それとも…背徳感?
ふと、思うんだ…。誰かに自分を委ねられたら…と。
今回の依頼主のように、誰かを心の底から強く想えたら…と。
いつか、そんな日が来るんだろうか…?
そんなコトをぼんやりと考えていて…、見つけた。
写真を覗き込んで確認。間違いない、吉澤ひとみだ。
あえてやっているんだろう、赤で固めたファッション。
けれど、その全てが…まだ完全に溶け込めていないその存在感が、逆に彼女を浮かせた人間に
している気がする。
はっきり言えば…トーシロ丸出し。
- 174 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時16分22秒
- 「…いくら?」
軽く声をかけると、少しビクっと身体を震わせて、それから慣れた風を装ってニヤっと笑って見せた。
それがまた、この街にそぐわない匂いを醸し出しているのに。
「アンタ、見かけない顔だね。初めて?」
「初めてじゃ売れないワケ?」
「ンなワケないけど? 何?どんくらい?」
「これから先、アンタが売るだろう量全部」
「はぁ?」
眉をしかめて、あたしの顔をまじまじと見つめてくる彼女。
確かに、いきなりこんなコト言われたら、誰だって考えるか。
でも、あたしは手段を選ぶ気もなくって。
ストレートに話を切り出した。
「石川梨華、知ってるよね?」
「!」
「彼女から頼まれたの。『売りをやめさせてほしい』って」
「…アンタ、なにモン?」
明らかに敵意を表した表情。
石川、というのが彼女の中の地雷だったみたい。…色んな意味で。
「関係ないじゃん、そんなの。で、どうすんの?あたしとしては、すんなり辞めてくれればそれで
いいんだけど?」
はぐらかすあたしに、ちょっとむっとしたみたいに彼女は一度睨み付けて、それからそっぽを向いた。
「悪いけど、『はい、そうですか』なんて聞けるワケないっしょ?梨華ちゃんに言われたんなら尚のコト
聞けない。アイツはあたしの家族をバラバラにしたんだから。今更、はぁ?なに言ってンの?ってカンジ」
まぁ、妥当な理由だろうと思う。
…本当のトコロはどうか知らないけど、ね。
理由なんて、後からいくらでもこじ付けできるし…。多分、彼女もそのタイプ。
- 175 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時17分13秒
- 「あたしがこんなコトしてんのだって、別に好きでやってるワケじゃない。カネが必要なんだ」
結局のトコロ、これが本音なんだろう。
すぐ金を用意したい。その為にはどうすればいいか?
コンビニのバイトじゃ物足りない。だけどクラブで働くには引っ掛かる。だったら…。
悪循環が巡り巡って、ここまで流されたってトコだろう。
「ひとみ〜? どうした?なんかトラブった?」
不意にかけられる男の声。
振り返るとそこには、多分このグループの巡回役だろう男が3人。
「べつに、なんでも…」
バツが悪そうな彼女は、もごもごとそれだけ言って俯く。
……本人がダメなら、上に話を通すのが筋ってもんか?
「あのさー?」
「ん? なんスか?」
男の1人に声を掛けると、営業スマイルで返事を返される。
「このコ、悪いけど今日限りで抜けるから」
「ちょっ、ちょっと…っ!?」
言った言葉に反応したのは、吉澤ひとみ。
とりあえず、そっちは今無視しておく。
彼女と話してもラチがあかないだろうから。強引でも、彼女には抜けてもらう。
…こっちは、遊び半分でできる仕事なんかじゃないから。
- 176 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時18分09秒
- 「おいおい、何いってンの?」
「じょーだんはよしこさん、みたいなね」
男達は、顔を見合わせて吹き出してる。
「なに?ひとみ抜けたいワケ?」
「それは…」
「今言ったじゃん、抜けたいって」
言いかける彼女を遮って笑ってみせる。
「ちょっと、待ってよ…っ!アンタさっきから…っ!」
言って襟首を掴もうとする彼女。
けれど、あたしはそれを目だけで制した。
見下すような、軽蔑するような、そんな目で。
本当の闇の中で暮らしている人間しか出せない威圧感をこめて。
それを彼女も全身で感じ取った筈。目を見開いたまま、伸ばされた腕を静かに下ろしたから。
「いー根性してんじゃん…。じゃ、まーそれなりの覚悟はあるワケだ?」
「抜けるときは、やっぱそれなりのけじめがいるだろ?」
やっぱりね…。そんな上手くいくとは思ってなかった。
男達はじわじわと近づいてきて、腕を鳴らしている。
- 177 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時18分50秒
- 「痛いのと、きもちいーの、どっちがいい? 選ばせてやるよ。もちろん…お友達も一緒にな」
最後に顔を近づけてきた男が、下卑た笑いで視線を向けてくる。
そんなコトだろーと思った。
ここら辺が、そこらにいる遊び半分のクスリ売りの悪いトコ。
吉澤ひとみなんて、少し緊張の色を出して一歩後ずさってしまってる。
しょうがない…。
「じゃ、痛いの。ただし――」
言いながら、男達と距離を少しとって、不敵に笑って見せた。
「――できるモンならね」
「うわ…っ!」
そのまま吉澤ひとみの手を取って、走り出す。
「逃がすかよっ!」
「おい! 他の連中も呼べ!」
背後でそんな声を聞きながらも振り向かずに。
とにかく、ある程度こっちの体制も整えたい。
そのためには、少し間合いが必要なんだ。
「ちょ…っ! 逃げ切れないって…!」
「いいから、裏道通るよ…!」
ぐだぐたと言い訳がましく何かを言ってる彼女に構わずに、走り抜けていく。
と、突然腕を引っ張られて…。
- 178 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時19分48秒
- 「こっち! この先が裏道だから!」
言いながら指差した先は、確かに入り組んでいるみたいに見える。
だけど、
「そっちはダメ、こっち」
それだけ言って、私は指し示した先とは反対の道へまた走り出した。
彼女も慌てたみたいに、あたしの後を追いかけるようにして付いてくる。
「ちょっ、ちょっとぉ!なんでよ!この道には詳しいンだよ!?」
「アンタのその裏道、誰に教えてもらった?」
「は? 売りを教えてくれた先輩だケド?」
「その先輩は、誰に繋がってる?」
「あ…」
ようやく理解したみたい。
結局、このコの示した先を逃げたって、追いかけてくる奴等の手の内にいるってコトに。
あたしの読みが正しいなら、絶対にその道の全ては囲まれてる。
だったら……あたしの知ってるルートに逃げ込むだけ。
や…逃げ込むだけじゃダメだ…。なら…
「このまま真っ直ぐ」
「えっ? なんで?」
「…ヤツらと縁を切りたいなら、黙ってついてきな」
「な…っ! なっまいき…」
舌打ちをしているけど、彼女は絶対についてくる。
そうしないと…ヤバいって判っているから。
だからあえて、あたしも彼女の挑発に反応しないで裏路地を走り抜けていく。
- 179 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時20分33秒
- ―――それから10分。
走りづめで息が上がったのか、彼女は両手を膝について立ち止まった。
「ねぇ…っ…、どこまで…、行くンだよ…っ。もう…、動けない…」
「…ここでいいよ」
「…え…?」
「『ここでいい』って言った」
「は? でも…ここって、ただの行き止まり…じゃんか…」
荒れた息を整える彼女を尻目に、あたしは最終確認をする。
ヤツらと決別するためには逃げるだけではダメなんだ。
こっちから、なんらかのリアクションを見せなきゃ絶対に納得しない。
屈するコトを拒むなら……やるコトは1つでしょ?
それには、四方を壁に囲まれて退路が今来た細い裏路地のみの、この場所が最適なんだ。
「チェックメイトだな〜、お二人さん」
複数の気配に振り返ると、追っ手の連中が続々と裏路地へと集まっていた。
多分…、ざっと見て10人ばかり…か。
見たカンジ、低レベルなヤツらばかりで、思わず苦笑してしまう。
――なめられたモンだなって。
「ちょっと、どうすンだよ…っ、追い詰められてンじゃないっ!」
その言葉に、あたしは男達への視線を外さないまま、一言だけを告げた。
「追い詰められたんじゃないよ。追い込んだんだ」
- 180 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時21分26秒
- 「はぁ? 何言って…」
言いかけるけど、先頭の男の一人が歩み寄ってきたコトで、彼女はあたしの背に隠れるように
一歩下がった。
「さて、覚悟はいい?お二人さん」
とうに覚悟なんて出来ているけど、その前に確認しておかなくてはいけないコトがある。
「ねぇ、1つ訊いていい?」
「何だ?」
「もし、ここにいる全員を倒したら、二度とこのコに近づかない?」
そう、今ここで危機を脱したとしても、また手出しされたんじゃ元も子もないし…。
完全に仕事をクリアしたコトにはならないんだから。
でも、男達にとっては突飛な意見だったんだろう。
仲間同士で大笑いしながら、口々に「バカじゃねーの?コイツ」なんて言い合ってる。
「いいぜ? もし、ここにいる全員を倒せたらな?」
…交渉成立。
もう、コイツらに用はない。
「忘れないでよ? その言葉」
―――戦闘、開始。
- 181 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時22分14秒
- 「オラァッ!」
身構えると同時に、路地から男が突進してくる。
けど、どう考えても分が悪いのは、そっちなんだよね。
「くっ、オマエ邪魔だって…!」
「オマエがどけよ!!」
細い路地では、2人が突っ込んでくるのがやっと。
そんなんでまともに戦えるワケないでしょ?
彼女も、やっとあたしの言ってた意味に気づいたのか「あ…」なんて言いながら納得していた。
体制を整えるか、それともこのまま進むか、男達に一瞬の迷いが生まれた。
もちろん、その好機を逃すなんてバカなコトはしない。
一気に、先頭の男に詰め寄ると、
ガスッ!
「くぅっ!!」
鋭く肘撃ちを、その懐に叩き込んでやった。
堪えるだけの気力のないソイツは、地面とまともにキスをしてくず折れる。
「…ンの、アマァ!!」
いきり立った仲間が次々と向かってくる。
けど…もう勝敗の判っているあたしは、ただ――機械的に動くだけ。
迫ってくる2人の男。怒りに満ちた目。間近に間合いを詰めて…接触。
それさえも訓練感覚で捉えるのみ。
- 182 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時23分02秒
- 「うらぁッ!」
振り上げられる腕を、その軌道に乗せて体を反らせてなんなくかわす。
「この…ッ!」
続けざまにもう一人が腕を振り上げ、多少の武道の心得があるのか、突き・薙ぎ・回し蹴りを
立て続けに繰り出すけど、それさえも受け止める必要もなくって、すべてをすんでで交わしていく。
あえて大きくは動かない。
次の行動に素早く移るため。
「…遅い」
あたしは容赦なく踏み込んでしゃがむと、足払いを食らわして地面に1人を叩きつけ、その
みぞおちに肘を落とす。
そのまま下から突き上げるように、もう1人の男の顎に拳を叩き込む。
「ぐふ…っ」
「コイツ…つえぇ…」
その目に、驚愕と憎しみの色を称えたまま、男達はその場に力なく横たわった。
「ヤロウ…、おいっ、もう抜け!殺っちまってもかまわねぇから!」
男の1人が言ったのを合図に、全員がその腰から大型のナイフを取り出した。
全て同系のモノらしくて、多分このグループ共通のモノなのかもしれない。
その刃はギラギラと獲物を求めるように黒光りしているように見えた。
もちろん、だからと言って『待って』なんて言うつもりはない。
相手がそう出るなら、こちらも容赦する義理はない。…ただ、それだけ。
- 183 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時23分54秒
- 「行けッ!」
2人の男が急接近してくる。
ナイフをもったコトで自分が強くなったとでも思ってるんだか、その口元の端が卑しくつり上がってる。
…使い慣れない武器は、ただの玩具と一緒なのに…。
そんなコトにも気づかないほど、感覚がマヒしてしまってるらしい。
「死ねぇッ!」
一閃、また一閃。
目の前を、何度もナイフの切っ先が通り過ぎていく。
けれど、明らかにトーシロなその裁き方で、あたしに当てることなんてできるワケがなくって、ただ
虚しく空を切るのみ。
「なんで…! 当たらないンだよッ!」
やっきになって振り回せば振り回すほど、自分のスキが出来ていることにさえ気づいていない。
完全に主導権はあたしに移っていた。
「…醜いね」
自然と口から言葉が漏れた。
「ああん?」
「まるでマリオネットだね。思い通りに動かなくて――」
一瞬のスキをついてナイフを潜り抜けると、背後に回りこんで死角からわき腹にキツイ手刀を叩き込む。
「あがぁぁッ!!」
そこで1人はノックダウン。
「糸が絡まって、ジ・エンド」
そのまま、もう1人の男の死角に移動して頸部にもう一撃。
一瞬のコトで対応できなかったソイツは、何も言わずにその場に沈んだ。
- 184 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時25分01秒
- 「全員で行けッ!」
「おうッ!」
残りが5人になって動きが取れるようになったのか、一斉にあたしに向かってくる。
でも、動きがとれるようになったのは、何もコイツらだけじゃない。
あたしだって同じコト。
ただ…1つだけ計算違いがあったのは――あたしには、連れが1人いたってコト。
「動くなよッ!? コイツがどうなってもいいのか?」
「…………」
振り返った先。
ターゲットの彼女が、羽交い絞めにされて、その首にナイフが突き立てられていた。
組み手をされているみたいで、その表情は苦痛に歪んでいる。
「へへ…形勢逆転、だなぁ?」
ナイフをあたしの頬に突きつけて笑みを漏らす男。
思わず歯噛みしてしまう。けど、それも一瞬のコトだった。
「手こずらせやがって…」
怒りに満ちた、その口調。
その言葉に、今度はあたしが笑みを漏らす番。
「?何、笑ってんだよ、テメー」
「や、手こずる人間なんでしょ?あたしら。だったら、呑気だなーと思って」
「はぁ?」
首を傾げる男。
それを尻目に、あたしは彼女と視線を合わせていた。
何故なら、彼女の目が何か意思をもっているのがわかったから。
多分、それを言葉にするなら…『自分のコトは、自分でなんとかできる』。
- 185 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時25分49秒
- 「ッ! 痛てぇッ!!」
案の定…、彼女は羽交い絞めにしていた男の腕に思いっきり噛み付いて、その手を振り払ったんだ。
そして、他の男達の気がそがれた瞬間、あたしは素早く頬に突きつけられていたナイフを奪い取り、
噛み付かれた男に投げつけた。
「…ひぃッ!!」
その男が二度目の悲鳴を上げたのを合図に、それを血の気が冷めるように見ていた3人はその場を
慌てて逃げ出していた。
何故なら、あたしが投げたナイフが、男の左肩に深々と突き刺さっていたから。
「追わなくていいのっ!?」
「…いい」
訊かれてあたしは、短く答えた。
去るものは追わない。あえて深入りする理由もないし、今回の仕事にヤツらの駆除は含まれていないから。
それに、痛みに苦しんでいるコイツが1人いればそれでいいんだ。
「ねぇ?」
「ヒっ!」
出血のヒドイその男は、敵意と恐怖に満ちた表情であたしを見つめた。
「約束…守ってくれるよね?」
もう声も出ないのか、コクコクと頷くのみ。
これで、今回の仕事は完了…。
あとの始末がどうなるか知ったコトじゃないけど、コイツらだってそこまでバカじゃない。
なんとかするだろう。
「…行こう」
- 186 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時26分55秒
- …もしかしたら、あたし自身どこかで油断していたのかもしれない。
それとも、単独での仕事をやり遂げたことに気が緩んでいたのかもしれない。
吉澤ひとみと背を向けて歩き出した時、その男の殺意が濃くなったことに気づくのが遅れたんだ。
「うぁああッ!!」
「!」
振り返ると、彼女にナイフを構えて突進してくる男。
肩に刺さるナイフを気にもとめないで。
…いつものあたしなら、動かなかったかもしれない。
自分を傷つけてまで、他人を助けようなんて絶対に考えたりしないから。
けど…何故かその時脳裏に、あのコのコトが浮かんだんだ。
自分を傷つけても、償いの金をかき集めた―――石川梨華が。
ザクッ!
激痛。
そして…ちぎれる様な熱い感覚が、思わず差し出した右腕に広がって…。
それを現実なんだと言わんばかりに、赤い液体が地面に落ちて――。
「ちょ、ちょっと大丈夫ッ!?」
「ク…ッ!」
彼女の声を遠くに聞きながら、あたしは地面に転がっていたナイフを手にとって
もう一度、ソイツの心臓めがけて投げつけようとした。
…けど。
- 187 名前:接点 投稿日:2003年03月24日(月)20時27分40秒
- 『真希!』
耳の奥で聞こえたのは亜弥の声。
以前、強く呼びかけられたあの声が、またあたしの行動を鈍らせて…。
フ…、亜弥のヤツ…やってくれんじゃん…。あたしを止めるなんてさ。
口元だけで笑って今度は…右腕に突き立てた。
「うがぁぁぁッ!!」
響き渡る、男の絶叫。
これで多分、もう向かってくることはできない。
「…行くよ…っ」
「えっ、けど…アンタ…ケガしたんじゃ」
「なんともない…。それより早くココを離れたほうがいい」
「あ、うん…」
何か言いたそうな彼女を促して、この場を離れたんだ。
何故か、笑いたくなってしまったっけ?
やっぱり、単独で仕事を取るなんてバカだったんじゃないかってね。
そのツケが、大きく回ってきたんだってね…。
- 188 名前:tsukise 投稿日:2003年03月24日(月)20時31分56秒
- 今回更新はここまでです。
…というか、かなり遅い更新で申し訳ない限りデス(^^ゞ
次回更新で、またまた紺野登場予定デス…。2人の接点が書ければ…いいなぁ(^^ゞ
>>169 ウィンキーさん
そうですね♪紺野はまだ自分の力に気づいてない、と。
これからどんどん、こんごま絡みを書きたいトコロなんで、また読んでくだされば
嬉しいですっ!
>>170 ヒトシズクさん
遅れ気味な更新にありがたいお言葉をありがとうございますっ!
ここらから結構2人の絡みが多くなっていくと思うので頑張りますねっ!
ヒトシズクさんの作品も、かかさず読んでますのでがんばってください!
- 189 名前:北都の雪 投稿日:2003年03月24日(月)22時05分23秒
- 大量更新お疲れ様です。
ごっつあんかっこいいですね〜。
よっす一もどうなるんですかねえ。
次回更新でいよいよ紺野が出ると言うことで、かなり楽しみにしております。
- 190 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年03月25日(火)11時05分40秒
- おお! ちょっと見ない間に大量更新されてる! 戦闘シーンすっげーかっけーっす!ごっつぁん腕大丈夫かな? そして次回再び紺野登場ですか 期待させてもらいます! 頑張って下さい!
- 191 名前:ペット 投稿日:2003年03月25日(火)12時10分12秒
- 早速きました。t.A.T.u.がBGM(謎
ごっちんかっけぇ!やっぱ、戦闘シーンのごっちんは3倍ぐらいかっけぇっすよね!
次回は紺野がまた絡んでくるのか(…わくわく)
では、お互いがんばりましょう!
- 192 名前:葵 投稿日:2003年03月25日(火)12時32分25秒
- 大量更新お疲れ様です。いやいやごっちんカッコイイ!!
頭脳派!腕、大丈夫だといいけど…。
- 193 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年03月27日(木)16時01分24秒
- 大量更新、お疲れ様です。
いや〜マジでごっちんかっけぇ〜すぎ!!!
よしこもやるときゃやりますね〜^^
これからどうなるのか楽しみです!
のんびりと待っております。がんばってください、応援してます!
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月10日(木)18時13分47秒
- 保全。
続き待ってます。
- 195 名前:接点 投稿日:2003年04月14日(月)09時45分51秒
- 駅前の通り。
あたし達は、裏通りからここまで来ると近くのベンチに座り込んだ。
ヘンに人目を避けるよりも、こうやって人ごみに紛れていた方が逆に目立たないコトを
あたしは知っているから。
「ねー?」
「…なに?」
「腕、大丈夫なの?」
顎で差してくる彼女は、それでも心配してるのか表情が曇ってる。
あれから持ってたスカーフで応急処置はしたけど、キズは思ったより深いみたいで出血は
止まってなかった。
気を緩めたら結構痛むし、正直大丈夫とは言いがたかったけど…
「…平気。それより、アンタは自分の心配でもすれば?」
ヘンに気を使われるのが煩わしくてそう言った。
「相変わらず生意気…。でもまー、そんだけ言えるなら、へーきっぽいね」
それに対して軽く鼻を鳴らす彼女は、さっきまでとは違って、年相応のコに見えた。
…っていっても、あたしと同いなんだよね。
- 196 名前:接点 投稿日:2003年04月14日(月)09時46分47秒
- 何故か、ここまで来る途中、彼女は色々と語りかけてきて。
多分、自分を覆っていた仮面を取り外したことからくる解放感からなんだろうけど、
妙に自分のコトを話してきて…。
その姿が、依頼人のあのコ…石川梨華と重なった気がした。
心を許して話せる相手がいなくて、表面上での付き合いをしてきた人間独特の話の取り方。
そんなのが、目の前の彼女にもあったんだ。
「けど…ごめん」
「? なにが?」
「そのケガ、やっぱウチのせいでもあるんだよね?」
ホラ、こんなトコもね…。
「べつに。自分で招いたミスだし、関係ない。…それより」
「うん?」
「コレ、アンタに渡してくれって」
「梨華ちゃんが?」
「そう」
コートの内ポケットから封筒を取り出すと、彼女に差し出す。
これで…あたしの仕事はおしまい。
- 197 名前:接点 投稿日:2003年04月14日(月)09時48分06秒
- 「…っ、なにコレ?」
中を開けて見た彼女は、誰からもわかるぐらい表情を変えて問いかけてくる。
ま…そうだろうと思ったけど、ね。
「こんな金で、解決しようとでも思ってるワケ…?」
そのまま破り捨てようとする彼女。
でも、その前に一言だけ言っておかないといけないかも。
別に…同情とか、そんなんじゃないけど、ただ、なんとなく言ったほうがいいと思うから。
「…どう使おうが勝手だけど」
「? なに?」
「その金を工面するために、結構あのコ無茶したっぽいよ?」
「はぁ?」
「腕、アザがあった。多分全身にもあると思う」
「…!?」
動揺。
きっと、この金を工面できたのは、石川梨華が父親に頼んだからだとでも思ってたのかもしれない。
けど…実際は違うんだ。
それを知ったからだと思う、彼女の封筒を破ろうとしていた手が止まった。
「なんで…そんな事までして…。あたしは梨華ちゃんは騙したんだって思って…」
呟く彼女。それから強く封筒を握り締めた。
ホントあたしも、なんでそこまでするのかって思う。
…っていうか、この2人のそんな感情があたしには判らない。
そこまでして、お互いを強く想う理由って何?
どうして、そんな他人の為に一生懸命になれるワケ…?
- 198 名前:接点 投稿日:2003年04月14日(月)09時48分42秒
- 「ねぇ?」
「…なに?」
「アンタ達が、そこまで相手を意識する理由ってなに?」
自然と、あたしは問いかけていた。
この仕事を引き受けた時から、感じていた疑問を。
そしたら彼女は一度、呆けたような顔をして――突然笑い出した。
…とても悲しそうに。
「あっはははっ! そっか、そーなんだよっ!」
「…? なに?」
ワケもわからず問い返すと、『あーごめんごめん』と目じりに浮かんだ涙を拭いながら
また大きく一度笑った。
それから…こういったんだ。
「失いたくない、大切なコだからなんだよ。少なくともウチは、ね」
「…? 大切な? 自分より?」
「そ。…ってゆーかさ、ホントの理由なんて判んない」
「は?」
「ヒトを好きになるのに理由なんている? それと一緒」
それってつまり、石川梨華は彼女にとって好きなヒトってコトか…。
ヒトを好きになる…というコト。
その重さが判らないあたしは、やっぱり首を傾げながらその意味を曖昧に消化した。
そう…この時のあたしには、彼女の言葉の意味を理解できていなかったんだ。
- 199 名前:接点 投稿日:2003年04月14日(月)09時49分20秒
- 「ま、あたしにはもう『大切』なんて言う資格なんてないんだけどね」
「ヒトを好きになるのに、理由はいらなくても資格なんているの?」
「え?」
「今、言ったじゃん」
何気に問いかけると、彼女は真顔に戻ってあたしの顔を見つめてきた。
あたし自身は、ホントに判らなくて訊いたのに、彼女にとっては何か大きな疑問だったみたい。
「いるワケ…ないじゃんね」
もう一度、口を開いた彼女は、さっきとはまったく違って嬉しそうな笑顔をしていた。
何かが吹っ切れた――そんなカンジ。
「ヒトを好きになったり、お互いを想いあったりするのに、理由も資格も要らない。そーだよ、
そーなんだよ。なんで、あたしはそんなコトを今まで忘れてたんだろう?」
突然大声で笑い出した彼女に、周りの人間がこっちに振り返った気がした。
けど、彼女の言葉はとまらない。
「ありがと」
「は?」
「アンタが来てくれたおかげで、もう一度梨華ちゃんを信じられる気がする」
「…ワケ判んない」
「ウチもワケ判んないけど、なんか親のコトなんかで2人の関係まで崩そうとしてたのが
バカみたいに思えてさ。だから、教えてくれたアンタに感謝」
余計、ワケが判んない。
なんでターゲットにお礼を言われてるのか…さっぱり。
ただ…1つだけ判ったのは、あたしのこの仕事は、結果オーライってコト。
そして…何故だか、ココロの中で何かが弾けた気がする。
しいて言うなら…あたしの知らなかった知識が入り込んだ…みたいな。
消化不十分だけど…ね。
何故だか、悪い気はしなかったっけ…。
- 200 名前:接点 投稿日:2003年04月14日(月)09時50分10秒
- 「…これから、梨華ちゃんに逢いに行って来るわ」
「そう」
踵を返して歩き出した彼女の背中を見送る。
そしたら、数歩進んで何かを思い出したみたに顔だけ向けて振り返って。
「なんていうかさ、アンタほんとにそっけないよねー…。顔はいいのに勿体無い」
「余計なお世話」
「…でもさ、マジ感謝してるから。それと…」
「?」
「アンタにも、いつか『大切に想えるヒト』ができるといいね」
「はぁ?」
意味が判らなくて問い返したら、彼女は予想外に優しい眼差しであたしを見てこういったんだ。
「アンタの心の闇を少しでも癒してくれるよーな、そんなヒトがきっといるから、さ。孤独なヒーロー
なんかになるなよってコト。…じゃね」
そのまま人ごみに紛れて、彼女は消えて行った。
…なんだか、亜弥と似てるかも…なんて一瞬思ってしまったっけ。
しばらくあたしは、その場でぼんやりとしていたけれど腕の痛みに我に返って一度大きく溜息をついた。
それから不意に灰色に濁った空を見上げる。
サングラス越しのその空は、それでもあたしの目にはいつもより澄んで見えた。
「大切に…想えるヒト…ねぇ?」
呟いた声は、当たり前だけど空に届く前に雑踏の声にかき消されていった。
それが可笑しいワケじゃなかったけど、あたしは口元を緩めて…また夜の闇に煙る―――
―――あたしの居るべき場所へと帰った。や…帰ろうとしたんだ。
- 201 名前:tsukise 投稿日:2003年04月14日(月)10時04分13秒
- 今回更新はここまでです。
遅い上に、短く…そしてageてしまってスイマセン…(^^ゞ
ここが一番キリがよかったんで…。
次回から、紺野登場でテンポかなり速くなる予定です♪
>>189 北都の雪さん
ごっちん、カッコ良くかけてますでしょうか♪嬉しい感想ですっ。
ひとまず、よっすぃー編はここまでです。後々登場予定ですが(^^ゞ
紺野登場は持ち越しですが、またまた読んで下されば嬉しいですっ!
>>190 うまい棒メンタイ味
戦闘シーン、かなり苦戦したんでうまい棒メンタイ味さんの感想嬉しいですっ!
ごっちんの腕のケガは、これからちょっとキーになるんで鋭い洞察力に脱帽です…。
紺野との接点は次回で申し訳ない限りですっ(^^ゞ
>>191 ペットさん
おおっ!いらっしゃいませです〜♪t.A.T.uやっぱいいですよね〜♪
戦闘モードのごっちん、カッコ良く書きたかったんですけど…これが限界です(笑
ペットさんの戦闘シーン…カッコいいですよねっ!お互い、まぢ頑張りましょうねっ!
- 202 名前:tsukise 投稿日:2003年04月14日(月)10時04分44秒
- >>192 葵さん
ここでのごっちんは頭のキレるカンジにしたかったんで、葵さんのご意見も
かなり嬉しいですっ!腕のキズ…今後に結構影響してたりして…♪
葵さんの小説もネお待ちしていますので頑張ってくださいねっ。
>>193 ヒトシズクさん
カッコいいごっちんに、やるときゃやるよっすぃー。2人の絶妙な関係を
書きたかったりしたんで、とっても感想がうれしかったりしますっ!
結構遅れ気味な更新なんですが、またフラリと見ていただければありがたいです(^^ゞ
何気にヒトシズクさんの心理描写が好きだったりするんで、そちらの更新も
頑張ってくださいねっ。
>>194 名無し読者さん
遅れ気味な更新で、申し訳ない限りです。
また続きを読んでくだされば、嬉しいですっ!
- 203 名前:葵 投稿日:2003年04月14日(月)12時22分56秒
- ま、まま待ってましたぁ!!
ごっちんのただの疑問に自分が間違っていた事に気が付くよっすぃー。
この二人はやっぱり名コンビですよね(^^ゞ
え、影響あるんですか?!マジデ?デジマ?マジデジマ?
と慣れない口調でレスさせて頂きました。では。
- 204 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月15日(火)11時02分18秒
- 一言。
おもしろいです。これからも自分のペースで頑張ってください。
- 205 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年04月15日(火)20時22分59秒
- 更新お疲れ様です!
いや〜、よっすぃ〜とごっちんの微妙な関係がどこか面白く楽しく感じました^^
あ〜青春っすねぇ〜^^ごっちんにも想える人が出来ればいいなぁと思っております^^
これからどうなるのか、そして紺ちゃんがどう関わるか楽しみにしてます♪
がんばってください♪応援してます!
- 206 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月18日(金)16時00分50秒
- HPの方から飛ばせてもらいましたけど面白いですね
続き紺野の登場を期待してるんで頑張ってください
そしてHPでは5月を楽しみにしてるんでそっちも頑張ってください
- 207 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年04月24日(木)23時28分18秒
- ごっつぁんの想える人が気になりながらも 紺野の能力も気になる今日この頃 しかも腕の傷が影響!? 続きが超気になる! これからも目が離せません 頑張って下さい
- 208 名前:接点 投稿日:2003年04月25日(金)17時53分48秒
- 一面の水。
そしてコポコポと上に上がっていく泡。
その向こう側には、私を取り囲んでいる白衣を着た女の人が2人。
あぁ…、まただ。
また、この夢。
そう、これは夢なんだ。
何度となく見てきた…。
でも、夢だとわかっていてもどうすることもできなくて。
ただ、じっと女の人達の声を聞くことしかできないんだ。
だって、身体が動かないし…視界だってぼやけてるんだもん。
『これ……本当……最後の…んやな…?』
水の向こう側で、何度となく聞いた言葉が今日も繰り返される。
聞き取りにくいのは、私を包んでいる水のせい。
でも何回か聞いていたから、ある程度わかったことがあるんだ。
今、話しながら私を見つめている人は、関西弁をしゃべっているって事。
とっても心配しているような、優しさが伝わってくるようなそんな声。
そして
『うん。……ラスト…、結局……のは…4人や…』
返事をしたのも、同じ関西弁の人。
でも…この人の声は嫌い。だって、すごく…怖いから。
楽しそうな…人の反応を楽しむような、そんな声なんだ。
『μ−001から003は……な性質が……。それ……脆弱性が……』
嫌な声の人は、すぐそばに寄ってきて私に触れてきた。
ううん、正確には私の入っている何かにガラス越しに。
『けど、この004は違う。コレはジェノバ…完全体や』
側に来たせいで、声がはっきり聞こえて…すごく嫌悪感が強くなる。
ぼやける視界の先で、その人が卑しく笑っているように見えるから。
- 209 名前:接点 投稿日:2003年04月25日(金)17時55分26秒
- 『コレ……言わん……くれへん? そのコも………ように、人間……』
向こうで、もう1人の人が怒ったように言う。
『なんで?裕ちゃんらしくないやん。大体、実験体にしたんは裕ちゃんやで?』
「裕ちゃん」…そう、それが今目の前の人に怒って言った人の名前。
『そうや…。だから……してる』
『今更、何言ってんのん? これでうちらはトップに立てるんやで?』
『アンタ……判らん……、禁忌……罪……重いか…』
『…ま、ええわ。うちはとりあえず最終手続き済ませてくるわ』
嫌な声の主は、それで私から離れて、部屋を出て行ってしまったみたい。
『ごめんな…ごめん』
代わりに「裕ちゃん」さんが、私の前に現われて、そっとガラスに触れてきた。
『アンタには、これから辛い日々が待ってる…。すべてアタシのせいや…。けどな、
みすみす見殺しにはしたくなかってん。アンタも…あのコらも…』
全然意味は判らない。
でも何か重要な事を言ってるんだっていうのは、その辛そうにも見える表情から判った。
『いつか…あのコらと逢う事があったら言っといて』
言って「裕ちゃん」さんは、近くにあった鉄のパイプ椅子を持ち上げて…振り上げた。
- 210 名前:接点 投稿日:2003年04月25日(金)17時56分21秒
- ガシャンッ!!
大きな音と一緒に、目の前の映像が一瞬乱れる。
『ク…ッ!』
飛び散るガラスの破片。
そして、「裕ちゃん」さんに降りかかる水。
それを見ながらも私の身体に、突然の落下とともに軽い衝撃が走る。
歪む視界。
関を切ったみたいに咽喉の奥からこみ上げてくる嗚咽と叫び。
それは、『うわぁん!』とか、そんなんじゃなくて赤ちゃん特有の声にならないキーの高い泣き声。
でも、それは紛れもなく私が発している泣き声。
私は―――その赤ん坊だったんだ。
びしょ濡れになりながら、私を抱きかかえてくれてる「裕ちゃん」さんは、私のその声にホっとした
みたいに一度微笑んで…こう言ったんだ。
『…うちらを殺してってな。 …頼んだで? あさ美…』
そう…最後に聞こえたのは、涙交じりのそんな声とビービーとうるさく室内に響くサイレン音。
そこで、いつも…夢は終わるんだ。
そして、今回も…。
- 211 名前:接点 投稿日:2003年04月25日(金)17時57分22秒
- ・
・
・
「…のちゃん、紺野ちゃん」
「…ん…、藤本…さん…?」
ゆっくりと視界を開くと、不思議そうに私の顔を覗き込んでいる藤本さん。
「あ、あれ…? 私、寝てました…?」
「うん、ぐっすり。…っていうか、よく眠れるよねー…、今体育の時間だよ?」
「あ、すいません…」
「いやまぁ、今日は天気もいいしね。見学者にとっては、うってつけかもねー」
可笑しそうに笑ってみせる藤本さん。
そうだ…。
私達は風邪気味で6時限目の体育の授業を見学して、木陰でみんなの様子を見ていたんだっけ?
もう春も近くて、暖かくなってきたから陽気に誘われて眠ってしまったみたい…。
は、恥かしいなぁ…。
「でも、なんか紺野ちゃんってば、難しい顔してたよ? なんか辛い夢だった?」
「え…?」
言われて、さっきまでの夢を思い出す。
辛い夢…なのかなぁ…。
多分、楽しい夢でもないとは思うけど…うーん…
「不思議な…夢…ですね」
「はい? 不思議な夢?なになに、どんな?」
藤本さん、とっても楽しそう。
こういう話、好きなのかなぁ? それともただ単にミーハーっていうのなのかも?
愛ちゃんとも、楽しそうに授業中喋ってたし。
何回か、保田先生に注意されても、関係ないみたいに…。
- 212 名前:接点 投稿日:2003年04月25日(金)17時58分22秒
- 「あのー…あのー…なんていうんだろ…。よく同じ夢を見たりするんです」
「だから、どんな?」
「うーん…、どこかの研究所みたいな所で、研究されてるような、そんな…」
「紺野ちゃんが?」
「はい」
そこで、「うーん」と腕を組んで考え込む藤本さん。
それから、ポンと1つ手を打って、
「それって…」
「はい?」
「…願望?」
「………はい?」
思わず目が点になってしまう。
でも、藤本さんは真剣そのもの。
「いろんな人にいじくりまわされたり、監禁されたりとかさぁっ、そんな趣味とかが…っ」
「…ありませんよ?」
「なーんて、口で言ってるけど潜在意識の中では…っ」
「ないです…っ!」
「またまたぁ〜、隠さなくっても…っ」
「隠してないですっ!」
「だーいじょーぶ、アタシ、そーゆーのには理解ある方だからさー」
「違いますって!!」
どうしてそういう考えにいっちゃうんですか…。
思わず頭を抱えたくなる。
藤本さんって…水みたいにとらえどころのない人かも…。
- 213 名前:接点 投稿日:2003年04月25日(金)17時59分26秒
- と、その時。
グラウンドの方で、一際高い歓声が上がって。
視線を向けると、そこには凄いスピードでハードルを走り抜けている松浦さん。
フォームも凄く綺麗で、何より全然顎が上がってない。
「うわぁ…」
思わず見とれてしまう光景。
だって、他のコースを走っている子とは、凄く差が広がっていて。
ぶっちぎりってまさにこの事。
「亜弥のヤツも、結構楽しんでんじゃん…」
ポツリと呟いて、ニヤっと笑う藤本さん。
「え?」って聞き返したら、満面の笑顔で「こっちの話」って言われたけど。
「そういえばさ…」
「はい?」
不意に話しかけられて振り返ると、ちょっと真剣な表情の藤本さん。
自然と私も顔を引き締めてしまった。
「紺野ちゃんってさー、すっごく頭イイんだよね?」
「そんなことないですよ?」
別に謙遜するとか、そんなんじゃなくて本当にそう思うから伝える。
けど、藤本さんの表情は変わらなくて、
「この学校に主席で入って、ずっと今までも学年トップらしいし」
「そう…みたいですね…」
嫌な予感がした。
次に言われる言葉への。
「もしかしてー…なんか悪いコトとかした?」
あぁ…やっぱり。
何回か言われてきた、その言葉。
まさか、初対面に近い人にまで言われるなんて思ってなかったなぁ…。
「そんな勇気、ないですね…」
いつも言われたら言い返す言葉。
ちょっと悲しくなったのは、やっぱり私ってそんな風に見えるのかなぁって思ったから…。
- 214 名前:接点 投稿日:2003年04月25日(金)18時00分50秒
- …と。
何故かその時、あの人が脳裏を掠めた。
昨日の、孤独に満ちた瞳で私を見つめてたあの人が。
あの人も…こんな気持ちになったのかなぁ…?
そうだよね…誰だって、言われたくないことを言われたら…。
思われるだけでも、私は嫌だもん。
「あー、ごめん…、なんかヤな思いさせた…?」
「いえ…、気にしてないです」
「そう?」
「はい」
気遣うみたいに言ってくれた藤本さんは、さっきまでの藤本さんだった。
その事に、ちょっとホっとしながら、またグラウンドに視線を向けたんだ。
「私…昔から記憶力だけは、いいんです」
「え?」
聞き返してくる藤本さんに、ちょっと笑顔で話を続ける。
「どんな些細な事でも、一度見たり聞いたりたら忘れないんです。自分でも、ちょっと怖くなるぐらい」
「そーなの…?」
「はい。たとえば…藤本さんが監禁とかに興味がある事とか」
「ぶっ!」
思いっきり、隣で吹き出して笑い出す藤本さん。
私も笑いながら振り返る。
「忘れてよ〜」
「無理です」
「ってかさー、なんで紺野ちゃんって敬語なの?」
「…なんででしょうね? なんだか、藤本さんって同じ年には見えなくて」
「あらら…、なんか紺野ちゃんって洞察力も鋭いのね」
「え?」
「ううん、なんでもなーい」
曖昧に笑いながら、空を見上げる藤本さんは…それでも、どこか鋭い目をしていた気がする。
そう…まるで、愛ちゃんを見つめていた松浦さんみたいに…。
そして…、昨日出会った…あの人みたいに…。
- 215 名前:接点 投稿日:2003年04月25日(金)18時01分53秒
- 「あの…、藤本さんは『超能力』って、信じますか?」
気が付いたら、問いかけていた。
何故か、まこっちゃんや里沙ちゃんとは違う答えが貰えるって確信にも似た気持ちがあって。
…多分、あの人に似た瞳が、そう思わせてたんだと思うけど。
「超能力、ねぇ?」
飄々とした感じで、肯定とも否定ともつかない返事。
その視線は、やっぱり空に向けられたまま。
「なんでそんなコト訊くの?」
「あ…、いや、あったらどんななのかなぁって思って…」
それを聞いて、ちょっと複雑そうに一度笑う藤本さん。
それから、
「超能力なんて、ないにこしたコトはないと思うよ〜?」
「え?」
「だってさぁ…」
言いながら立ち上がると、うーん、と一度伸びをして。
「化け物じゃん、そーゆーヒト達って」
「!」
全くの別人が、そこにいた。
どこまでも冷たく、凍りつくような視線でグラウンドのみんなを見ていて。
信じられない事だけど、殺意にも似たような雰囲気を感じたんだ。
「…なんて、ね。ホラ、授業終わるよ。紺野ちゃんも行こう?」
「…あ…、はい…」
振り返った藤本さんは、今の事が嘘みたいな満面な笑顔だった。
今のは…一体…なんだったんだろう…?
ただ、心臓を鷲づかみにされたような息苦しさが、ずっと続いていた。
その藤本さんの真意を知るのは、もう少し後の話…。
- 216 名前:tsukise 投稿日:2003年04月25日(金)18時15分22秒
- 今回更新はここまでです。いわゆるごっちんが動いている時の紺野ですね(^^ゞ
こっからはテンポ良くいきたいんで、なるべく早めに更新予定です♪
ちなみに、明日ごっちんファースト紺、参戦っス!(笑
前から二列目…壊れてきます(^^ゞ
>>203 葵さん
ごっちんとよっすぃーは、やっぱりイイコンビですよねっ!
自分もこの2人の掛け合いって好きなんです♪
ごっちんの腕のキズ…マジデジマってカンジで(笑
紺野との接点のカギ、みたいなものですね、ハイ。お互いに連載、頑張りましょうね♪
>>204 名無し読者さん
応援レスをありがとうございますっ!
結構不定期更新なんで、名無し読者さんのお言葉、とっても嬉しいですっ。
ハイ、自分のペースで頑張らせていただきますねっ。
また、続けて読んでいただければありがたいですっ♪
>>205 ヒトシズクさん
よっすぃーにごっちん、リアルではマブダチ状態ですが、ここではどっか距離感をおいてみたり(^^ゞ
面白いと言っていただけて嬉しい限りですっ!
ごっちんの想えるヒト…そして紺野の絡み方、サクサクっと進ませる予定なんで
続けてまた読んでいただければ嬉しいですっ!
- 217 名前:tsukise 投稿日:2003年04月25日(金)18時15分54秒
- >>206 名無し読者さん
おっと…っ、HPからお越しくださいましてありがとうございます♪
紺野との絡み…ちょっと悩むところですが頑張りますね。
5月…何気に、苦しくなってきてますが…そちらも頑張りますね♪
>>207 うまい棒メンタイ味さん
紺野の能力、結構悩むところなんですが…きっと予想もしないようなモノになるかと(^^ゞ
腕のキズの影響は、ズルズルとこの後影響していく予定だったり…♪
応援レスに励まされつつ、早めに更新させていただきますねっ。
そして、うまい棒メンタイ味さんの作品も楽しみにしていますねっ。
- 218 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月26日(土)06時08分53秒
- 面白いです。
ファースト紺、楽しんで来て下さい。
- 219 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年04月26日(土)10時52分33秒
- 更新お疲れ様です!
いや〜紺ちゃん、やっと登場ですね♪
監禁・・・ですか・・・(苦笑。藤本さん、面白いっすねぇ〜^^
そして、紺ちゃんの夢も気になる・・・・
さくさくと進められると聞いて、めちゃ喜んでおります^^
では、次回の更新も頑張って下さい!
応援しております♪
- 220 名前:うまい棒メンタイ味 投稿日:2003年04月27日(日)16時31分58秒
- 更新乙っす!
自分の小説更新がてら覗いてみたら
なーんと更新されてるではあーりませんか
藤本のぼけっとしたところとか
紺野の記憶力に笑ってます。
あと、完全体が一体誰なのかということも気になってます
後藤と紺野のセカンドコンタクトを楽しみに待っております
では、続きがんばってください!
- 221 名前:接点 投稿日:2003年05月05日(月)21時59分11秒
- やっぱり、松浦さんと藤本さんは私達とはどこか違う印象がした。
着ている制服も、持っているカバンも全て私達と同じもののはずなのに、全然雰囲気が違って。
なんだか、中学生にはとてもじゃないけど見えない…。
それに…どこか…上手く言えないけど…。
「…ん? なに?」
すぐ隣の松浦さんが、ちょっと不思議そうに視線を向けてきた。
「あ…、なんでもないです」
言ってじっと見つめていた自分が恥かしくなって、視線を前に向ける。
放課後になって。
帰ろうと思った時に、突然保田先生に呼び止められて。
松浦さんに学校を案内してあげて欲しい、って言われたんだ。
特に用事がない私は二つ返事で頷いた。
その時、愛ちゃんも藤本さんの案内を頼まれたみたいで一緒に腕を組んで廊下を出て行くのが
見えたっけ…。
なんだかあの2人、今日出逢ったばかりなのにとっても仲良しになったみたいで微笑ましいなぁ。
…どちらかというと、藤本さんのペースに愛ちゃんが巻き込まれてるっぽいけど。
それで、こうやってもう人の少なくなった校舎を松浦さんと一緒に歩いているんだ。
- 222 名前:接点 投稿日:2003年05月05日(月)21時59分55秒
- 「ここは新館で、一階に職員室とか教員室があって、他に理科実験室・家庭科室・技術室とか
専門教室があります」
「ふーん…。あ、この先?」
松浦さんが、軽く指差した先にちょうど案内板があって、紹介がされていた。
「はい、そうですね。それで…二階・三階が私達生徒達の教室になってます。各学年5クラス40人で
600人。少し上下はあっても全校生徒数はそのぐらいです」
「意外と少ないね?」
「そう…ですね。でも、そのぐらいがちょうどいいですよ?」
「どうして?」
「カフェテラスが、それぐらいでもお昼になったら混雑するんです。食べたいものが売り切れたりすると
ちょっと寂しいですから…時々でる焼きいもとかが…特に…」
「…………」
松浦さんの無言の視線。
それに、今言った事が恥かしい事なんだって気づく。
「あっ、いや、その…っ、なんでもないです…っ」
「…フ…っ、あははっ、紺野ちゃんって面白いねー…」
「え…?」
意外な反応にびっくりした。
だって、教室では全然笑ったりしなかった松浦さんが、今笑ってるんだもん。
それに、今私の事を『紺野ちゃん』って…。
なんだか…ちょっと嬉しかった。
「それで? 次はどこ?」
「あ、はい…っ、次は旧館ですね。あ、ちょっと床とか痛んでたりするんで気をつけてくださいね」
軽く前置きをして、立ち止まった先、鉄製のちょっと重い扉を押し開けて、その向こう側へと
入っていった。
- 223 名前:接点 投稿日:2003年05月05日(月)22時00分42秒
- 「へー…、木製なんだ?」
ちょっと驚いたみたいな、感心したみたいな松浦さん。
しきりに天井とか床とかを眺めてる。
「はい、なんでも前理事長の意向らしくて、この場所だけは絶対鉄骨にはしてはいけないらしいです」
「ふーん…」
「あ、でも、所々やっぱり修復の為に鉄骨が使われていますけどね」
「でも…なんか落ち着くね。こういう建物って」
「そうですね…。松浦さんは、こっちの方が好きですか?」
何気なく訊ねたんだけど、松浦さんはちょっと嬉しそうに柱に手を置いて質感を確かめて頷いた。
本当に好きみたい…。
「なんか…落ち着くかも」
「そうですね…自然っぽいですし…って、あ…」
「うん? どうしたの?」
ふと立ち止まった私に、不思議そうな松浦さん。
でも、私の耳に微かに音楽が聞こえてきて…。
これは…ピアノ? ってことは、この先の音楽室?
「ピアノの音が…」
「ピアノ? 聞こえないよ?」
「でも、確かに…。行ってみませんか?」
「あぁ…、うん」
ちょっと戸惑ったみたいな松浦さんを促して、この廊下の先の音楽室に向かっていく。
だんだんと大きくなっていく音に、やっと松浦さんも気が付いて『あ…』って声を上げていた。
綺麗な旋律…。
でも、ちょっと悲しい旋律。
知ってる…、このピアノは何回か側で聴いたことがある。
ってことは…音楽室の中に居るのは…。
- 224 名前:接点 投稿日:2003年05月05日(月)22時01分26秒
- ガタっ
「愛ちゃん…?」
静かに扉を開いて、中を覗き込む。
部屋の中央。
もう陽が大きく傾いて、その逆光の中に、やっぱり予想していた人がいた。
「あさ美ちゃん…?」
「あ、続けて…っ」
「…うん」
何故か、自分が来た事で止めて欲しくなくって大きく両手を振って促した。
愛ちゃんは、やっぱりどこか悲しそうに旋律を奏でていく。
静かに…時々激しく。
この曲は…『オンブラマイフ』だ…。
ってことは…。
曲が終わるのを待って私はピアノに近づくと、愛ちゃんにそっと話しかける。
「愛ちゃん…?」
「…うん…?」
「何か…、嫌なことあった?」
「………」
そう、愛ちゃんがこの曲を弾くときは、いつも何か辛いことがあったときなんだ。
今日だってきっとそうだ。
だって…今、逆光の中に包まれている愛ちゃんは凄く泣きそうなんだもん。
「あさ美ちゃんには敵わないね」
「うん?」
「また言われちゃった、あの事」
「あ…」
それだけで全部判った。
いつまでたっても消えることのない、愛ちゃんの噂。
「なんでかなー…、静かに暮らしたいだけなのに」
「愛ちゃん…」
フッと力が抜けたみたいに笑う愛ちゃんが痛々しくて、私は言葉に詰まってしまう。
- 225 名前:接点 投稿日:2003年05月05日(月)22時02分04秒
- ってあれ…?
「愛ちゃん? 藤本さんは?」
一緒にいたはずじゃ…?
そしたら愛ちゃんは、「あー…」なんていいながら困ったみたいに一度笑って、
「なんか『噂流してるヤツ、とっつかまえてくる!』って言って出てっちゃった」
「藤本さん…」
なんだかその光景が浮かんで、私も苦笑してしまう。
藤本さんって、結構視野が狭いっていうか…猪突猛進っていうか…凄い人だと思う。
「あのバカ…。目立つ行動は避けろって言ったのに…」
ポツリと呟かれた声。
振り返ると、松浦さんの呆れたみたいな溜息。
そっか…藤本さんと松浦さんは仲がいいんだっけ…。
でも、目立つ行動を避けるって…どういうことだろう?
「…気にしないで」
「あ…ハイ」
視線が合うと、そっけなく言われた。
なんだかやっぱり松浦さんって、不思議な人かも…。
「あ、そういえば…ひとつ訊いていい?」
「あ、はい、なんですか?」
「あなたたち2人と仲がいいのって誰がいる?」
「え?」
いきなりの質問に戸惑ってしまう。
愛ちゃんも私の顔を見つめ返して、首を傾げてしまってるし…。
とりあえず、答えた方がいいのかな…?
「えっと…里沙ちゃんとか、まこっちゃんかなぁ…」
「新垣さんと小川さんね…ありがと」
「え…? あ、はぁ…」
まただ。
また、松浦さんの人を射るみたいな視線。
一体何を考えているのかが、全然読めなくて…ちょっと怖かったりするんだ。
「あの…」
どういう意味があるのか、訊こうとしたその時。
- 226 名前:接点 投稿日:2003年05月05日(月)22時02分41秒
- バタンっ!
突然、扉がひらいて息せき切った藤本さんが入ってきたんだ。
「ったく〜〜! 保田先生もあてになんないねっ、生徒のコト全然把握してないじゃん!
大体あの豹柄のコートはなんだっての!逆に寒さ倍増じゃんかっ!」
ふ、藤本さん…?
いきなり何を…?
「美貴」
「ああん? って亜弥。なにしてんの?」
その言葉に、松浦さんはまた軽く溜息をつく。
「アンタ、あたしの話とかちゃんと聞いてないでしょ?」
「えー?ちゃんと聞いてるよー。とりあえず状況掴むために地形を覚えておけって…あ」
「アンタ、なにやってたの?」
「ははっ、ま、まーいいじゃん。ある程度判ったんだし」
「…知らないからね。真希への報告はアンタがしなよ?」
「う…わかったわよ」
状況? 報告? なんのことだかわからなくて首を傾げてしまう。
そしたら松浦さんが、そんな私に気づいたみたいで。
「なんでもないから。それと、今日はありがと。もう十分だよ」
「あ、はい…」
「愛ちゃんも、ありがとねっ。助かったよ」
「うん、どういたしまして」
挨拶もそこそこに、部屋の扉へと向かっていったんだ。
けど、その去り際に…
「あ、そーだ。お礼に1つ言っといてあげるよ」
藤本さんが振り返って、窓から見える空を眺めていったんだ。
「もうすぐ、雨がふるみたいだから、早めに帰ったほうがいーよ? じゃね」
そのまま出て行ってしまった。
雨…?
言われて愛ちゃんと空を見上げてみたけど…雲ひとつなくて。
またまた首を傾げてしまったっけ。
けど…その雨が思いもよらない出逢いを引き起こしてくれたんだ…。
あの人との…。
- 227 名前:tsukise 投稿日:2003年05月05日(月)22時09分33秒
- 今回更新はここまでです。全然テンポ悪くてスイマセン(^^ゞ
しかも中途半端…。次回こそ、セカンドコンタクトに持ち込む予定です(^^ゞ
>>218 名無し読者さん
嬉しいご感想をありがとうございますっ!
ごっちんファースト紺…最高に盛り上がってきましたので、
パワー充電しつつ頑張りますね。
>>219 ヒトシズクさん
全然、サクサクと進んでいなくて申し訳ない限りですっ(^^ゞ
紺野の夢は、これから鍵にもなっていくんでヒトシズクさんの感想が
嬉しかったり…。応援レスに励まされつつがんばりますねっ!
>>220 うまい棒メンタイ味さん
うまい棒メンタイ味さんも更新お疲れ様ですっ!
ミキティのぼけっとした性格は、とりあえず暗くなりがちな展開に
必要かと思いまして(^^ゞ セカンドコンタクトは次回持ち越しで申し訳ないですっ(^^ゞ
- 228 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年05月06日(火)12時05分23秒
- 更新お疲れ様です! 今回もミキティ発言 「豹柄のコート」に爆笑! ってかあややはあんなに思った事ペラペラ喋って良いのかな? セカンドコンタクト楽しみに待ってます ではまた!
- 229 名前:北都の雪 投稿日:2003年05月08日(木)22時47分22秒
- どーも、お久しぶりです。
更新お疲れ様です。
クールなあやや、1直線なミキスケカッコ良い!
何より次回はごっちんと紺野のセカンドコンタクトだそうで。
楽しみに待っております。
祭りも頑張ってください。
- 230 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月16日(金)08時48分26秒
- 保全
- 231 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時11分54秒
- びっくりした…。
隣に立っている愛ちゃんなんて、ポカンと口を開けてしまっている。
「……あさ美ちゃん?」
「……うん?」
「さっきまで…晴れてた…よね?」
「う、うん…」
そう、信じられないことだけど…大雨が降っていたんだ。
帰ろうと思って、学校の玄関口から一歩出た途端に気が付いて…唖然としてしまった。
「藤本さんって…エスパー?」
「ま、まさか…」
やっぱりポカンとしている愛ちゃんの言葉に苦笑してしまう。
「どうしよっか…? あさ美ちゃんは傘とか持ってる?」
「あ…ううん、でもコンビニとかに寄ればなんとかなるし」
「じゃあ…私はもうちょっと学校に残るよ」
「え?」
「図書館で調べたいものがあるから」
「そう…?」
心配げに見つめるけど、愛ちゃんは笑顔で「大丈夫だから」と言ってくれた。
その笑顔には、なんの含みもない。
本当に…大丈夫みたいだ。
「じゃあ、私は帰るね?」
「うん、また明日」
「また、明日」
カバンを頭の上に乗っけて走り去る瞬間、もう一度愛ちゃんを見たけど
元気そうに手を振ってくれていて、ほっとしたっけ。
愛ちゃんについてまわる噂…。
もう3年も経つっていうのに消えないのは何故なんだろう?
そんなことを、ふと考えてしまう。
だって、どう考えたっておかしいもん。
別に『人の噂は75日』っていうのを信じてるわけじゃないけど、それにしたって
こんなにも長く続く噂なんておかしすぎる。
…まるで…この3年間、誰かが常に側にいて言いふらしているみたいに…。
…まさか、ね。
大体、そんな事してなんのメリットがあるのか判らないし。
- 232 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時12分38秒
- そんな考えを振り切るみたいに、私はコンビニに駆け込むと透明のビニール傘を
一本買って、家路へと急いだ。
…何度通ってもなれないなぁ、家に着くまでのこの道。
ぼんやりと考えながら、足を進めていく。
私の家は、いわゆる表通りとはちょっと外れた場所にあって、しかも…治安もそんなによくない場所で。
帰るには、いつも裏通りの薄暗い道を通るしかないんだ。
こんな雨の日はとくに、その不気味な色が濃くなっていて…正直苦手で…。
「はぁ…高校生になったら…バイトしてもっといい所に住もうかなぁ…」
溜息交じりに、そんな言葉さえ出てしまう。
それから人通りの少ない路地に入ったその時。
「…?」
何が視界の端に見えた。
大きくて黒い塊が。
目をこらすと、ぎこちない動きでそれは壁際をはいずっているみたいだった。
こ、怖い…。
そんなキモチがこみ上げてきて、来た道を戻ろうとした時。
―――私は、確かに見た。
雨の中でも、ハッキリとわかる金に近い茶髪。
そして…見間違えるはずがない、特徴的な縁取りのサングラス。
黒の塊だと思っていたものが、風に揺らされて、大きくはためくコートだと教えてくれて。
「あ…っ」
思わず声が出てしまう。
だって、今目の前で怯えてしまったそれは…私が逢いたくて仕方なかった…
あの人だったから。
- 233 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時13分13秒
- 力が入らない。
視界も鈍っている。
ったく…なんでこうなっちゃうんだか…。
思わず苦笑してしまう。
今の、この状況に。
吉澤ひとみと別れたはいいけど、いつもより傷の治り具合が悪くて、こうして裏道を
よろめきながら歩いている。
そう、いつもならこの程度の傷、30分もあれば癒えていくのに…今日に限って…。
多分、それは…今アタシに向かって降り注いでくる、雨のせい。
雨の日は、必ずと言っていいほど体調が悪くなって。
いつもの力がでなくなるんだ。
理由はわからないけど…何故か、そう、『水』が苦手なんだ、アタシは。
「潜在意識ってヤツ…?」
無意識のうちに呟いて、壁に身体を預けるようにしてしゃがみこんだ。
少し…休みたくて。
「!」
けど、すぐさまアタシの全神経が警戒音を脳に指令し、立ち上がった。
すぐ後ろに、気配を感じたから。
「誰ッ!?」
「あっ、ご、ごめんなさいっ」
怪我した腕をかばうようにして、反対の手を突き出し、出ない力を出そうとして――とめた。
アタシが叫んだ途端、その気配の主がビクリと身体を震わせて、慌てたみたいに頭を下げたから。
同時に差していたビニール傘から、雫が流れるように落ちていく。
- 234 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時13分56秒
- 「アンタ…」
その顔に見覚えがあった。
たしか、このコは…そうだ、昨日の公園で出会ったコ。
追っ手ではない、そう認識してようやくアタシは腕を下へとおろし壁にもたれかかった。
「あ、あの…っ、どうかしたんですか? 具合が悪そうです…」
「…アンタには関係ない。構わず行きなよ」
「そんな…だって、凄く辛そうですよ?」
「いいから」
「けど…」
ラチがあかない。
そう思って、この場を去ろうとアタシは背を向けて歩き出した。
後ろで「あ…っ」なんて聞こえたけど、気にせずに。
力を見られた人間に二度逢うのは危険だ―――以前亜弥に言われた言葉。
一度目は気味悪がられるだけでいい。
けど、二度目はそれだけではすまない事を誰よりも知っているから。
なら、アタシがすべきコトは、ここから…このコから早く離れるコトだ。
「まっ、待ってください…っ! あのっ、私、お礼を…っ、あっ!!」
バシャバシャと水溜りを跳ねる音が聞こえて、それから続けて小さな悲鳴。
そのまま立ち去ればいいのに、アタシも振り返って見てしまって。
地面に転びそうになってる、そのコがいた。
「…っ」
何故だろう。
後になって考えれば、すごく馬鹿げたコトをしたと後悔してしまう。
ただ、この時何故か無意識のうちにアタシは、そのコに向かって手を差し出していたんだ。
「あ…っ」
逆らうことなく、そのコはアタシの腕の中に倒れこんで。
手放された傘から、降りかかる雨をよけることも忘れてその身体を支えていた。
- 235 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時14分47秒
- 「…っ」
なんだろう…?
不思議な感覚がする。
華奢な身体から伝わる柔らかな感覚に。
決してそれは、目に見えるような五感のモノじゃなくって、胸の奥に広がっていくような…
そんな奇妙な、言葉では言い表せない感覚…。
これは…この感覚は『懐かしさ』…?
わからない…。なに…?
そんな思考を遮ったのは、偶然瞼に落ちてきた雨の雫。
ハっとしたみたいに首を振って腕の中の彼女を見ると、一度息を大きく吐いた。
「……気をつけなよ」
「あっ、あっ、ご、ごめんなさいっ!!」
アタシの言葉にバッと身体を離した彼女は、またこの上ないくらい頭をさげてくる。
…と、その時、彼女の手が傷口に触れた。
「ッ!」
痛みに顔をしかめると不思議そうにアタシの腕を見て、大きく目を見開いた。
「血が…っ!ケガして…っ」
白く細い、その指がアタシの傷口に触れようと伸ばされたその時、
「触らないで…ッ!」
自分でも驚くぐらい大きな声で叫んで、後ずさってしまっていた。
多分その姿は、追い詰められた獣が歯をむき出しにして唸る姿に似ていたかもしれない。
目の前で少し怯えてしまっている彼女が、その証拠。
- 236 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時15分22秒
- 「あ…、ご、ごめんなさい…」
また…謝ってる。
「もう、行きな…」
居心地の悪さを感じて、それだけ言ってアタシは彼女の隣をすり抜ける。
そしたら、慌てたみたいに彼女は
「あっ、あの、私、この間のお礼をちゃんと言いたくて…っ!」
アタシの背中に向かって、そう言ってきたんだ。
ゆっくり振り返ると、ちょっとホっとしたみたいにはにかんで…それから今までで一番頭を
深く下げてきたんだ。
「あの時は、ありがとうございました…っ」
って。
『ありがとう…?』
言われた言葉に驚いた。
今、はっきりあたしは拒絶したのに…。触れるな、なんて言い放ったのに…。
それでも彼女は戸惑いながらも、あたしに感謝の言葉を口にしている。
なんで? なんでそんなコトされても、他人に感謝の言葉を言えるの?
気がついたら、あたしは自然と彼女に向かって手を伸ばしていた。
俯いて頭を下げている彼女に。
けど、あと少しで触れるという時に、あたしの手は止まった。
何故なら…あたしの手は―――血で汚れていたから。
―――触れてはいけない、彼女を汚してはいけない。
直感的にそう思ったんだ。
- 237 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時16分06秒
- 「あの…」
「……なに?」
恐る恐るって風な話し方に、自然に聞き返す。
それに安心したのか、彼女は落としてしまったビニール傘を拾ってアタシの上に差し出してきたんだ。
自身が濡れていることに構わずに。
「?」
「その…良かったら、うちに来てください…っ、すぐそこだから」
「いい。アンタはさっさと帰んな」
「ダメです…っ、その怪我…放っておいたら破傷風になっちゃいますよ?」
「そのうち治るから」
「そんな人、いませんよ…。お願いします。何かお礼がしたいんです」
…どうやっても彼女は解放してくれないらしい。
なんていうか…外見に似合わず頑固なのかもしれない。
この時間だし…もう亜弥達は帰ってきているかもしれないけど…。
「わかった…じゃあ、手当てだけ」
「あ、ありがとうございますっ」
「…それ、なんか違うから」
「あ、ごめんなさい」
断る理由がみつからなくて、結局はついていくことにしたんだ。
ずっと謝り続ける彼女に…何故か苦笑してしまったっけ…。
なんていうか…変わったコ。
- 238 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時16分44秒
- 「あの…、上がって下さい」
「………」
郊外マンションの1室。
目の前で扉を開いて背中で止めてる彼女を一瞥して、部屋の中へと一歩進める。
すれ違うとき、彼女が少しホっと息をついたように見えたのは気のせいじゃないと思う。
玄関口で革靴を脱いで中を見渡して、なんていうか…居心地の悪さを感じた。
女のコ独特の間取り、家具、香り。その全てが肌に合わなくて。
でも、それ以前に気になったことがあった。
「ねぇ」
「あっ、はい?」
「アンタの家族は?」
そう、彼女の部屋は1人用のもので、とてもじゃないけど親と住めるだけのスペースはない。
そしたら、彼女は少し困ったみたいに笑って扉の鍵をしめた。
「いないです…」
「?」
「私が生まれて、すぐに亡くなったって聞いてます」
「聞いている?」
「私、小学生まで施設にいたんで…その…」
「…そう」
沈黙。
明らかに、目の前の彼女が気落ちしているコトはわかる。
でも、あたしにはこんな時かけてやる言葉がわからない。
だから、ただ窓によってカーテンを開くと、その様子を眺めた。
- 239 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時17分22秒
- 暗闇に浮かび上がる、色とりどりのネオン。
男達の喧騒さえもハッキリ聞こえていて、なんとなく…彼女には不釣合いな場所だと思った。
まぁ、彼女の事情とか施設側の事情とかで、こんな場所に住むコトになったんだろうケド…。
「あ、あの…っ」
「なに?」
「傷の手当てをしないと…。だから、その、傷を見せてください」
振り返ると、いつのまにか彼女はあたしの側に立って、救急箱とバスタオルをその手に持っていた。
なんていうか…ホント居心地が悪い。
感じたことのない感覚に慣れてなくて、戸惑っている自分がいて…。そんな自分に腹が立って。
バスタオルをとりあえず頭に被ると、視線を彼女から離した。
「…いい。自分でやるから、箱貸して」
「そんな…多分無理ですよ? 片手で包帯を巻いたりなんて。遠慮しないでください」
「…………」
「そこのイスに座ってください」
釈然としないけど、ひとまず従う。
きっと亜弥なんかに見られたら、バカにされる光景。
だって、あたしが亜弥・美貴以外にこんなコトさせるなんて今まで絶対に許さなかったから。
ただ…何故か、このコなら大丈夫だと思ったんだ。
- 240 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時18分13秒
- 丁寧に腕に付着している血をガーゼで拭われて。
傷口を消毒していく。
慣れているのか、妙に手早い。
や…、べつに慣れているワケじゃないかもしれない。
何故なら、彼女の手は微かに震えていたから。
「…ねぇ」
「は、はい?」
「あたしのコト、怖いんじゃないの?」
「え…? どうしてですか?」
本当に意味が判らないで問い返してきたっぽい彼女。
てっきり、その理由だと思っていたあたしは、逆に首を傾げてしまう。
「手、震えてるから」
「あぁ…。実は私、人の手当てをするの初めてなんです」
「…ふーん…」
テレたみたいに笑う彼女に、また居心地の悪さを感じて視線を部屋の中へ彷徨わせた。
「あの…」
「ん?」
「正直言うと…初めて逢った時、怖かったです」
一瞬なんのコトかわからなかったけど、さっきの質問の答えだと判ってあたしは視線を彼女に戻す。
けど、彼女は巻いている包帯に視線を落としたまま呟くように話し始めた。
「でも…あなたは私を助けてくれました」
「…きまぐれだよ」
「それでも…、嬉しかったです」
「…………」
「だから、すごく後悔しました。『怖い』なんて思ってしまったこと…」
ゆっくり上げた瞳は不安定に揺れていた。
ずっと思い悩んでいた…それが伝わってくるように。
- 241 名前:接点 投稿日:2003年05月21日(水)16時18分51秒
- 「……気にしてないから」
「ウソです」
「…なんで?」
問い返すと、彼女は包帯を止め具で止めて、ゆっくりとそれでも戸惑いながら手をあたしの
顔に差し伸ばして…。
暗く視界を遮っているサングラスを取り外したんだ。
「目が…とっても寂しそうだから。きっとあなたは自分でも気づかないぐらい傷ついてる」
開かれた視界。
そのクリアな視界の先の彼女の顔は、純粋であどけなく…無垢なコだった。
―――暴かれた。
瞬時に脳裏に浮かんだのはそんな言葉。
押し隠し続けた、弱い自分。
それをこんな初対面にも近いコなんかに曝け出されて…。
けど…。
けど、怒りやそんな感情は驚くぐらいなかった。
ただ、やっぱりあの居心地の悪さだけが気だるく広がっていくだけ。
調子が狂う。
いつものあたしではいられなくなる。
このコといると。
- 242 名前:tsukise 投稿日:2003年05月21日(水)16時26分46秒
- 今回更新はここまでです。ビ、ビミョーです(^^ゞ
ごっちんと、あやみきのバラバラに接点をもってる紺野ってカンジで(^^ゞ
ごっちんとは結構深い接点にしていく予定で…。
>>228 うまい棒メンタイ味さん
豹柄コートは某歌番組の録画を見て思いついたもので(笑)
とりあえず、あやみきにも紺野は深く関わっていくんで、それとなくあややに暴露させてたり(^^ゞ
セカンドコンタクト…どんなカンジでしょうね(^^ゞ
>>229 北都の雪さん
祭りへの応援レスまで、ありがとうございますっ!残り二週間…頑張りますっ(^^ゞ
クールあややと、天然ミキティ、何気に気に入ってたりするんで嬉しいです♪
セカンドコンタクト…じっくり作らせてもらいますね。
- 243 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月21日(水)23時34分50秒
- ついにセカンドコンタクトですね
これから、どうなるのか楽しみです♪
- 244 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年05月23日(金)17時44分54秒
- 更新お疲れ様ですっ。セカンドコンタクトかなーりいい感じです。調子が狂った後藤がどうなるか、すっごい楽しみです。これからもお互いがんばりましょう!
- 245 名前:もらい泣き 投稿日:2003年05月29日(木)17時32分58秒
- イイ!調子がくるってしまうごとーさん
いい!
- 246 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月30日(金)00時52分47秒
- ageないで・・・
期待しちゃうからさ。
- 247 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年06月01日(日)15時35分42秒
- 更新お疲れ様です!
いや〜、いいっすねぇ〜この雰囲気。。。私、こういう雰囲気好きでして・・・^^
ごっちんと紺ちゃん、すごい気になりますね♪
あと、高橋さんの噂も・・・
のんびりと更新お待ちしています。
がんばってください♪
- 248 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月07日(土)02時44分57秒
- very berry good!
- 249 名前:接点 投稿日:2003年06月09日(月)07時56分17秒
- 「あっ、ご、ごめんなさいっ」
慌てたみたいに声を上げた彼女に、ようやくアタシは視線を外す。
その胸に浮かび上がっているのは―――動揺。
アタシらしくもなく、こんなコトで動揺してしまったんだ。
「お返ししますね…っ」
彼女もそうなのかもしれない。
困ったみたいに笑いながら、サングラスを差し出してきたから。
なんだか、彼女のキモチが手に取るように判って、苦笑してしまう。
「あのっ、良かったら食事していきませんか…?」
サングラスを受け取った瞬間、彼女は立ち上がって手をパチンと合わせてそう言った。
その目は、期待と不安が入り混じったモノで、アタシのコトを気にかけているみたい。
「悪いけど…」
「あ…、そうですよね…。ここまで来てもらうだけでも迷惑だったんですよね…」
「や、そうじゃなくて、帰らなきゃいけないから」
さすがに、これ以上ここに留まれない。
もう、亜弥も美貴も絶対に帰ってきているだろうから。
けど…。
多分、それだけが理由じゃない。
- 250 名前:接点 投稿日:2003年06月09日(月)07時57分01秒
- 「そういえばっ、もうこんな時間だったんですか…っ、ご家族の方が心配しますね」
「家族…?」
「? どうかしましたか…?」
問い返してくる彼女はどこか心配そうで、またあの感覚が蘇ってくる。
なんなの、一体?
この奇妙な感覚。
今まで、一度だって感じたことのないのに。
胸が締め付けられるみたいな、ざわつくみたいな…。
「アタシにも、家族はいないよ」
キモチを振り切るみたいに、それだけ言ってアタシは玄関口に向かった。
彼女は小さく「あっ」って言って、後ろをついてくる。
手早く革靴をはいて、彼女にバスタオルを手渡す。
「あっ、あのっ、私…何か気に障る事でも言いましたか…?」
「え…?」
「だって…、なんだか…怒ってるみたい…ですから」
泣き出しそうな顔をしている彼女。
別に、彼女が原因じゃないのに…、そんな顔されると困る。
「怒ってなんかないよ」
「そうですか…?」
それでも、悲しい表情は変わらない。
どうしてやればいいんだろう?
きっと美貴なら上手くやれるんだろうけど…アタシにはわからない。
大体、何にイラついてるのかさえもハッキリしないんだから。
- 251 名前:接点 投稿日:2003年06月09日(月)07時57分58秒
- その時、ふと腕の包帯が目に映った。
そうだ…、彼女の落ち込みを無くす事はできないかもしれないけど、伝えられる事はある。
「あの、さ」
「はい…?」
「その…」
「?」
「あり…がとう」
「え?」
「包帯」
「あ…っ」
意味が通じたらしい彼女は、一瞬にして嬉しそうに笑って見せた。
笑顔…、初めて見たような気がする。
何故か、アタシも…嬉し…
嬉しい…? 嬉しいって? なんで?
彼女が笑ったから?
どーゆーコト…? ワケわかんない…っ。
「じゃ、アタシもう行くから…っ」
説明のつかない感情にイラ立ちが募る。
早く立ち去りたくて、アタシは乱暴に扉を開いた。
- 252 名前:接点 投稿日:2003年06月09日(月)07時58分39秒
- 「あっ、あの…っ」
呼びかけられた言葉に、それでも身体が自然と止まって。
「…なに?」
そんな自分に動揺しながらも、押し隠して声色低く訊ねる。
そしたら…
「また…逢えますか?」
透き通った声が耳に届いたんだ。
さっきみたいな泣きそうな声なんかじゃない。
希望をこめた、そんな声。
彼女は、アタシに逢いたがってる…?
なんで? 力が珍しいから?
だとしたら、二度と逢ってはいけない。
けど…何故だろう?
そんな理由じゃないって、ココロのどこかで言う自分がいるんだ。
そんなコじゃないって…、信じてみても大丈夫だって。
過去の…『あんな出来事』はもう起こらないって…、そう強く言ってくれてる自分がいるんだ。
でも…確信はもてない…。だから…
「それが神様の導きならね…」
陳腐な言葉でそれだけ告げて、アタシは部屋を後にした。
- 253 名前:接点 投稿日:2003年06月09日(月)07時59分11秒
- 精一杯の自分への皮肉かもね…。
ぼんやりとそんなコトを考えてしまったっけ…。
やっぱりアタシはおかしいのかもしれない。
多分…石川梨華の依頼を受けてから…。
かけ直したサングラスの暗さに、瞬きを数回して…それから今出た扉を省みた。
表札はこんな場所だから、当然ない。
名前も知らない彼女。
また逢うコトになるだろうか…?
また逢ったら…アタシは、どうするんだろう…?
それ以前に…アタシは…また逢いたい…?
『アンタの心の闇を少しでも癒してくれるよーな、そんなヒトがきっといるから、さ。
孤独なヒーローなんかになるなよってコト』
何故か、耳の奥で、吉澤ひとみのそんな言葉が聞こえたような気がした。
- 254 名前:tsukise 投稿日:2003年06月09日(月)08時10分09秒
- 今回、更新はここまでです。短めでスイマセン…っ(^^ゞ
次回からは、また紺野視点で展開させる予定です…。
>>243 名無し読者さん
セカンドコンタクト、とりあえずここまでです♪
ちょっとずつ、ごっちんに変化が出てくる…みたいなカンジですがどうでしょう?(^^ゞ
>>244 うまい棒メンタイ味さん
かなりイイ感じでしょうかっ?ありがとうございますっ!!
うまい棒メンタイ味さんの方も、期待しつつお待ちしていますので頑張ってくださいね!
>>245 もらい泣きさん
紺野の前では調子が狂ってしまう後藤さん、イイですか♪
自分自身楽しんで書いてるんで、そう言って頂ければ嬉しいですっ!
>>247 ヒトシズクさん
いつもレスをありがとうございますっ!微妙なカンジ良いでしょうか♪
高橋の噂については、これから大詰めなんで頑張りますね♪
ヒトシズクさんの小説も赤板と一緒にお待ちしていますねっ!
>>248 名無しさん
嬉しいご感想をありがとうございますっ!
結構、更新が遅れ気味ですが、またまた読んでくだされば嬉しいです♪
- 255 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)13時34分38秒
- 惹かれあう二人がいい感じです
これからの後藤の心境の変化が楽しみです
続き、がんばってください
- 256 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年06月10日(火)22時19分34秒
- おぉぉ〜!!!更新、お疲れ様ですっ!!!
ごっち〜〜ん!!!!いや〜、ごっちん、どうしちゃったんでしょうね?(笑。
あ〜、次回がすごく楽しみです^^
ではでは、頑張ってくださいね!応援しております!!!
- 257 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時43分40秒
- 神様の導きなら…。
その言葉が、ずっと頭の中でリフレインした。
もう30分も経つけど、ずっと。
突然出逢って、突然別れて…そしてまた、突然出逢ったあの人。
運命とか、そんな言葉は信じたりしない私だけど…今回ばかりは信じてしまいそうになる。
あの人は、私に深く関わっていく人なんじゃないかって…そう思ってしまうから。
また…逢いたいなぁ…。
あの人には、迷惑かもしれないけど…、私は逢いたい。
「名前…、聞けばよかった…」
まだ微かに、あの人の残り香のついたバスタオルをじつと見つめて呟く。
なんだか…このバスタオルが、ここにいたっていう最後の証明みたいで…。
「くしゅっ! あ…そういえば私、濡れたまんまだったんだ」
今気がついた私は、いそいそとお風呂を沸かそうと思って浴室に向かう。
…と、ちょうどその時。
ピリリリッ ピリリリッ
突然鳴る携帯電話。
行きかけた足を止めて、すぐにカバンから取り出す。
その画面に浮かび上がった文字は『愛ちゃん』。
どうしたんだろう?
学校で別れて、もう結構時間が経ってるし。
- 258 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時44分29秒
- 「もしもし…?」
『………』
「愛ちゃん…?」
『………』
返事がない。
間違い電話かと思って、画面を見るけどやっぱり相手は愛ちゃんで。
だんだんと不安になってきて、もう一度呼びかけようとしら、
『……あさ美ちゃん…』
ボソボソと呟くぐらいの小さな声で呼びかけられたんだ。
「愛ちゃん? どうしたの?」
『…シッ…お願い、静かに喋って』
「え…っ? あ、うん…」
『…………』
返事を返したものの、愛ちゃんからの声はまたそこで途絶えてしまった。
でも、微かに聞こえる息遣いに、何かを言いたがってるのは明らかで。
じっと話してくれるのを待ってたんだ。
『き、きた…っ』
「え?」
切羽詰ったような押し殺したような愛ちゃんの声に、聞き返したその時。
- 259 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時45分00秒
- ≪ガシャンッ!!≫
耳をつんざくようなガラスの割れる音が、受話器越しに響き渡った。
思わず耳から携帯をはずしてしまうぐらいの。
「あ、愛ちゃんっ!?」
『や、やだ…っ! 助けてっ!あさ美ちゃんっ!!』
駆け出す音が聞こえる。きっと愛ちゃんだ。
ギシッギシッて、板のきしむような…って、もしかして!
「愛ちゃん、今どこ!?」
『と、図書館…っ!』
「わ、わかった、すぐに行くからっ!」
携帯を切る時、またガラスの割れるような音がしていた。
何が起こっているのか判らない。
でも、1つだけいえるのは愛ちゃんが凄く危ない目に逢ってるって事。
きっと、私と別れてからずっと愛ちゃんは図書館で調べ物をしていて。
何かに巻き込まれてしまったんだ。
- 260 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時45分56秒
- 時計を仰ぎ見る。
PM7:45を回ったところだ。
この時間なら、まだ外に出ても大丈夫。
慌ててイスにかけていたコートを手にとって、取るものもとりあえず外に飛び出す。
急がなきゃ…っ。
胸を締め付ける焦燥感に駆られながら、いつもの怖い路地を全力で駆け抜けた。
ただ、愛ちゃんの所へ向かうことだけを考えて。
…でも、ちょっと待って。
もし、大変なことが起こっていたとしたら?
私だけじゃ、どうにもできないかもしれない。
じゃあ、どうしよう…?
「そうだっ、まこっちゃん達に連絡しようっ」
きっと、まこっちゃんと里沙ちゃんなら、一緒に考えてくれるはず。
走る速度を落とすことなく携帯の短縮ダイヤルでまこっちゃんに連絡をいれる。
『はい? あさ美ちゃん?』
一回のコールで出たまこっちゃんは、のほほんとした声で私はさらに慌ててしまう。
- 261 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時46分35秒
- 「あ、あのねっ、まこっちゃん、大変だから来て!」
『ちょ、ちょっとあさ美ちゃん?』
「ガラスが割れる音がして! きっと何か起こってるんだよっ!」
『お、落ち着いて話してよ、誰が・どこで・どうしたの?』
冷静に問い返してくるまこっちゃんに、ようやく私は自分がおかしな事を言ってるのに
気がついて、その場に立ち止まって状況を説明したんだ。
愛ちゃんからの助けを求める電話があった事、何か大変なことが起こってるんだって事。
何度か噛んでしまったけど、まこっちゃんはちゃんと理解してくれた。
『わかった…っ、アタシもすぐに学校に向かうからっ!』
「うんっ、私も急ぐから」
『あっ! あさ美ちゃんっ!』
「えっ?」
携帯を切ろうとした瞬間に、呼び止められてもう一度耳に当てる。
『アタシが行くまで、図書館に入っちゃダメだよっ? あさ美ちゃん、危なっかしいんだから』
「う…、うん…」
…言い返せなくて、ちょっと悔しかった。
『じゃ』と言って切れた携帯を少しだけ見つめて、それから今度は里沙ちゃんに電話する。
≪ピリリリッ ピリリリッ ピリリリッ ……≫
繋がらない。
もしかしたら、携帯を置いたまま出かけてしまっている?
5回目のコールが鳴って、切ろうかと思ったその時。
- 262 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時47分25秒
- 『もしもし、あさ美ちゃん?』
「あっ、里沙ちゃんっ?」
訝しむような声の里沙ちゃんが出た。
寝ていたのか、ちょっとトーンが小さく低い。
『どうしたの?』
「あのねっ、今愛ちゃんから電話があって、何か大変な事になってるみたいなのっ!」
『大変な事?』
「うん、ガラスが割れる音がしてたし、…とにかく大変なのっ! それで私だけだと不安だから
里沙ちゃんにも来て欲しいのっ!」
『わかった、学校だね?』
「うんっ、もうまこっちゃんも向かってくれてるから」
『すぐ行くよっ』
「ありがとう」という前に電話は切れた。
私も慌ててるけど、里沙ちゃんの声も結構慌てた感じで、まこっちゃんの言葉が蘇ってきたっけ。
さあ、早く学校に行かなきゃ!
上がった息をもう一度整えて、走り出そうと一歩を踏み出す。
けど、
「あれ…? 紺野ちゃん?」
「え?」
突然、名前を呼ばれて反射的に私はキョロキョロと辺りを見渡した。
そしたら、突然背中に衝撃が襲ってきて、2,3歩前によろめいてしまったんだ。
- 263 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時48分08秒
- 「いた…って、藤本さんっ?」
「どーもー、藤本美貴です」
相変わらずの飄々とした声。なんだか脱力してしまう。
というか…
「藤本さん」
「うん?」
「重いです」
背中から抱きついた藤本さんは、全体重をかけてきていて。
身長差とか、ほとんどないから逆に辛いんですけど…?
「なっ! しっつれーだなぁっ、紺野ちゃんはっ!」
「あの、失礼でもなんでもいいですからっ。私急いでるんですっ」
わたわたと藤本さんの腕の中で動くけど、中々離してくれなくて。
逆に、もっと体重をかけるみたいに、きつく抱きしめられたんだ。
「なになに? なに急いでんの?」
「く…っ、苦しいです…っ」
「言わなきゃ、離れないよ〜?」
「い、言いますから…っ」
「はいはい」
やっと緩められる腕に、私は酸素を取り入れるように深呼吸する。
なんていうか…藤本さんは強引すぎですよぉ…。
- 264 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時48分57秒
- 「で?どーしたの? めちゃめちゃ急いでるみたいだけど」
「そうですっ! めちゃめちゃ急いでるんですっ。愛ちゃんが大変な事になってて」
「え? なに? 愛ちゃんがどうしたの?」
今日の放課後の一件があったからかもしれないけど、藤本さんはキッと鋭い視線で
私に詰め寄ってきた。その鋭さに、一瞬ひいてしまう。
「あ、あの…、さっき携帯に連絡があって、図書館で何かあったらしくて…っ」
「何かって!?」
「わ、わかりません。でもガラスの割れる音がして…助けてって…」
「助けて!?」
オウム返しする藤本さんは、それでも凄く真剣で。
ちょっと頼りになるかもって思ってしまった。
「ったく、そんな連絡きてるのに、なんでこんなトコで油売ってんのよ、紺野ちゃんは!」
「それはっ、藤本さんがいきなり…っ」
「あ、そうだっけ? やー、なんか紺野ちゃんって抱きしめたくなっちゃうんだよねー。
抱き心地とかよさそうでさー」
前言撤回。
頼りにならないかも…。
「…もう。まこっちゃんと里沙ちゃんも向かってるし、私も行きますねっ」
「あ、ちょっと待って、紺野ちゃん」
「なんですか?」
「アタシも行くよ」
「ええっ!?」
「なによ、その『ええっ!?』って声は〜」
「あ、いえ、べつに…」
だって藤本さんが来て、もし余計大変な事にでもなったら…。
- 265 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時49分37秒
- 「ねー今とんでもなく失礼なこと考えてない?」
「えぇっ!? ど、どうしてわかったんですかっ!?」
言って思わず口元を押さえる。
けど、藤本さんは別に怒ったカンジもなくって、いきなり笑い出したんだ。
「あのねー、紺野ちゃんって判りやすいんだよ〜。顔に思ってる事でてるから」
「うぅ…」
なんだか恥かしいなぁ…。
「ホラっ、とにかく行くよっ。一本の矢では折れないけど、三本の矢では折れるって
言うじゃん…ってアレ?違う?」
「それ…『一本の矢では折れてしまうけど、三本の矢では折れない』…ですよ」
「ま、まーいいからっ! とにかく多いにこしたコトはないってばっ」
だんだん、不安になってきたんですけど…。
あれ? でも、
- 266 名前:強襲 投稿日:2003年06月16日(月)09時50分37秒
- 「藤本さん、何か用事があったんじゃないんですか?」
「え? あー、いいのいいの。ちょっと同居人がケガして帰ってきてさ。薬局行く途中
だったんだけど、まー応急手当してあるし……すぐ治ると思うから」
「そうですか…?」
「さ、ホラ、行くよっ」
そう言って駆け出す藤本さんの背中を追いかけるように、私も走り出した。
その背中が、何故か頼もしく見えたっけ…。
- 267 名前:tsukise 投稿日:2003年06月16日(月)09時55分01秒
- 今回更新はここまでです。
とりあえず、ここらへんは一気に書き上げ…たいなぁと(^^ゞ
>>255 名無しさん
応援レスをありがとうごさますっ。
ごっちんと紺野…これからどんどん接点をつけていくんで
続けて読んでくださると嬉しいですっ
>>256 ヒトシズクさん
そうですね〜、ごっちんどうしちゃったんでしょうね〜(笑
とりあえず、紺野の前ではどんどんおかしくなっちゃってもらったり(笑
いつも応援レスをありがとうございますっ!
ヒトシズクさんも楽しみにしているんで、頑張ってくださいねっ
- 268 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年06月16日(月)22時38分06秒
- おぉぉおぉぉ〜!!!
高橋ぃぃぃ〜!と叫びたくなりました・・・(苦笑。
あぁ・・・どうなるんだろ・・・めちゃめちゃ気になるんですが。。。。
ってか、小川&新垣、めちゃいい奴〜^^友達っていいな、と改めて思いました。
ではでは、次回の更新楽しみにしております。頑張ってください♪
- 269 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)18時32分46秒
- 今までROMってましたがレスしてみました。
てか、お豆ー!!なんで学校って言ってないのに分かったんだよー!?
- 270 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時48分54秒
- 学校に着く頃には、雨はやんでいた。
でも、それが逆に校舎を不気味に映らせていて、一瞬ゾっとしてしまったっけ。
「あ、あれ、あさ美ちゃんじゃない?」
「あっ、あさ美ちゃんっ! …に、美貴ちゃん!?」
もう学校についていた里沙ちゃんとまこっちゃんが、ちょっと驚いたみたいに声をあげる。
そりゃそうだよね…、まさか藤本さんが一緒だなんて思ってなかっただろうし…。
「あはは〜、ついてきちゃった」
対照的に、藤本さんは楽しそう。
あの…藤本さん、キャンプに行くとかそういうんじゃないんですから、緊張感を
もってくださいよぉ…。
「そんな嬉しそうに見ないでよ、紺野ちゃん」
「…どこをどう見たらそうなるんですかぁ…」
「一人より二人、二人より三人、三人より四人でしょ?」
「…はいはい」
- 271 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時49分32秒
- とりあえず、里沙ちゃんとまこっちゃんに説明して一緒に行くことになった事を伝える。
二人とも、驚いてはいたけど別に嫌がってるようには見えなくてホっとしたっけ。
ってあれ?
「里沙ちゃん、どうしたの? なんかすっごく濡れてるよ?」
「あーこれね」
「里沙ちゃん家って、学校のすぐ近くでしょ?」
「いや、実はさぁ来る途中に車に引っ掛けられたんだよ」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫、それより愛ちゃんを探さないと」
「う、うん」
なんだか、里沙ちゃんって危なっかしいなぁ…。
まぁ、特にケガとかないんだったらいいけど…。
「じゃ、みんな揃ったんだし、図書館に向かうよっ」
まこっちゃんの言葉に、全員が頷いて校舎の中へと入っていったんだ。
- 272 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時50分13秒
- 「うわ…」
思わず声が出てしまった。
だって図書館の入り口は鍵が掛かっていて、近くの窓から中を覗いたんだけど…
…まるで、戦場跡みたいな光景だったから。
実際の戦場なんて、ビデオとかでしか見たことがないからよくは判らないけど、
多分、こんな感じだと思う。
割られた窓。
そのガラス片の上には、本棚から落ちた本の山。
湿気を含んだ生暖かい風にのって、紙独特の匂いが鼻につく。
一体…こんなことになるまで何があったの…?
「…ホラ、ンなトコで呆けてないで行くよ?」
「えっ、あ、はい…っ」
ポン、と軽く背を圧されてハっとすると、藤本さんが厳しい表情のまま中へと入っていった。
慌てて、私もまこっちゃんも里沙ちゃんも追いかける。
「愛ちゃ――んっ!」
「いたら返事してー!」
木製とは言っても、磨き上げられた床だったりするから中は凄く声が響き渡った。
雨が上がったあとだから、不気味なぐらい…。
けど、愛ちゃんからの返事はない。
- 273 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時50分47秒
- まさか、もう図書館から出て行ってしまったのかと思ったけど、私が来ることを知っていながら
帰ってしまうような事をする子じゃないって知ってるから、すぐに否定する。
きっと、愛ちゃんはどこかにいる…。
「んー…どこにいるんだろーね…」
「あ、じゃあ手分けして探さない?」
「え?」
「だって、誰かに酷い目に合わされてるかもしれないんでしょ?だったら早く探さなきゃ」
「あ、そっか…」
何気なく提案した里沙ちゃんの言葉に、私達は納得する。
確かに、こうしてる間にも愛ちゃんは大変な目にあってるかもしれないんだし…。
「よしっ。じゃー二人一組で探そっか?」
「あ、うん」
「じゃー、アタシは里沙ちゃんと。紺野ちゃんはまこっちゃんと一緒に探して」
「はい、わかりました」
藤本さんの素早い判断で私達はペアを組むと、館内の西側と東側に別れたんだ。
- 274 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時51分22秒
- この学校の図書館は、一般の人に公開していることもあって、とてつもなく広い。
部屋だって、そのジャンルジャンルに別れてあったりするし、探すには結構大変なんだ。
そんな中、私とまこっちゃんは西側で一番広い『文学書』の部屋へと入っていった。
「はぁ〜、やっぱいつ見ても、ここって大きい棚ばっかだね〜」
「うん、でもその分、すっごく為になる本ばっかりだよ?」
「あ〜、アタシはパス。あさ美ちゃんと違って、本に興味とかないから」
「うーん…面白いのになぁ…」
「おーい、愛ちゃ――んっ」
言いながら、一つ一つの棚の間をぬって探していく。
端から端まで、かなりあるからそれだけでも大変なんだけど…。
「それにしてもさ…」
「うん?」
「美貴ちゃんって不思議な子だよね」
「あー…、そうだね」
まこっちゃんの言葉に、自然と頷く。
確かに…。藤本さんって本当に普通の人とはちょっと違う気がする。
どこが? って訊かれても困るけど、なんとなく…そう、雰囲気が。
…まぁ、性格も変わってるけど。
- 275 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時52分23秒
- 「妙に大人っぽいと思ったら子供みたいに、はしゃいだりするし」
「すぐに、からかってきたりするし…」
「からかって…って、そうなの?」
「え? そうじゃない?」
「アタシはそんなコトないけど?あ、あれじゃない?あさ美ちゃんって苛めたくなるタイプだし」
「えぇ…っ?」
そ、そうなの?
なんだか…それってヤだなぁ…。
「でもね〜、アタシも時々あさ美ちゃんって苛めたくなっちゃうんだよね〜」
「ま、まこっちゃん…っ?」
「なーんか、可愛いじゃん、あさ美ちゃんってさ〜」
「……複雑だよ…」
そんな会話をしていると…。
ガコン…
「?」
遠くで物音がした。
何か…重い何かが倒れるような。
「なんだろう、今の」
「さぁ…?」
まこっちゃんと顔をつき合わせてみるけど、首を傾げるだけ。
- 276 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時53分15秒
- ガコン…ガコン…
まただ、また聞こえる。
しかも、今度ははっきりと。
聞き違いじゃなかったら、その音は私達に近づいてきている…?
「なんか、ヤな予感がするなぁ…」
まこっちゃんが心底嫌そうな顔をして本棚の間から顔を出して、背後に振り返った。
その途端、口がパックリと開けられて愕然としてしまった。
「まこっちゃん?」
「あ、あ、あさ、あさ美ちゃんっ! に、に」
「に?」
「逃げて!!」
「え?」
「本棚から出て!! 早く」
「え…?」
訳のわからない私は、ぼんやりと訊きかえす。
そしたら、まこっちゃんが「もうっ!!」と焦った声を出して、いきなり私に突進してきたんだ。
当然、私の身体はまこっちゃんに抱きしめられて壁際へと突き飛ばされる。
- 277 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時54分10秒
- 「痛…っ、ま、まこっちゃ…」
呼びかけた瞬間だった。
ガシャンッ!! ガシャン!!
すぐ後ろを、本棚がドミノ倒しの原理で次々と倒れてきたんだ。
「あ…あぁ…」
呆然と、その光景を見つめるしかできなかった。
だって、巨大な本棚は端から端までの全てを巻き込んで倒れていったんだから。
きっと…あのまま、あの場所にいたら、私の身体は押しつぶされてしまっていただろう。
そう思うと…ゾっとした。
「いてて…、あさ美ちゃん大丈夫…?」
「う、うん…まこっちゃんが助けてくれたから…」
「ったく…、だから『本棚から出て』って言ったじゃんっ!」
「ご、ごめん」
身体を離して立ち上がるまこっちゃんは、ちょっと膨れながらも私に手を差し出してくれた。
その手をとって立ち上がると、惨劇の後を信じられない物を見るみたいに見つめる。
- 278 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時54分44秒
- 「これ…明日の図書委員の人が見たら、なんていうかな…?」
「あさ美ちゃん、論点ズレてるから…」
「え? そ、そうかな?」
『あさ美ちゃんらしいけど』って言いながら、まこっちゃんは辺りを見渡した。
な、なんだか、恥かしいなぁ…。
「でも、一体誰がこんな手の込んだコトを…。ちょっとしたケガじゃ済まないじゃんか…」
『そうだね』と言いかけて、私は視界に何か光るのを見つけた。
なんだろう…?
ゆっくりと近づいて『それ』に触れてみる。
「あさ美ちゃん? どうしたの?」
「これ…、ピアノ線…っ?」
「ええっ?」
まこっちゃんが驚いた声を上げて、駆け寄ってくる。
その間に私は、ピアノ線の先を辿って…、見つけた。
「扉…。そっか…っ、まこっちゃん扉だよっ」
「扉…? なに、どーゆーコト?」
首を傾げるまこっちゃんに、私は入ってきたほうの入り口とは反対側の入り口に駆け寄って
ピアノ線の端を見せた。
- 279 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時55分15秒
- 「この扉が開くと同時に、本棚が倒れる仕組みになってたんだよ」
「え?」
「だって、ホラ、ピアノ線が本棚に引っ掛けられてるし、扉に細工がしてあるもん」
「ちょ、ちょっと待ってよ…」
今度はまこっちゃんが何かに気づいたみたいに声を上げる。
「アタシ達が入ってきたのは、反対側だよ? なのにどうして、そっちの扉が開くワケ?」
「そ、それは…」
言いかけて、驚いた。
だって、目の前の扉がゆっくりと開いて中から…
「「あ…っ」」
「あさ美ちゃん…、まこっちゃん…」
「「愛ちゃん!?」」
そう、顔面蒼白になっている愛ちゃんがいたんだから。
- 280 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時56分08秒
- 「どうして…愛ちゃんが…?」
まこっちゃんが目を丸くして訊ねる。
私はビックリしてしまって、何も言葉がでなかった。
「こっちから…誰かの声が聞こえて…だから…っ」
愛ちゃんは、何がなんだかわからないって顔をして震える声でそれだけ言った。
と、その時。
「なにっ、なにがあったの!? ……って、なんじゃこりゃー!?」
耳をつんざくような叫び声に振り返ると、私達が来た扉から里沙ちゃんと藤本さんが
駆け込んできた。
倒れてしまった本棚に、本当に驚いたみたいで、藤本さんなんて笑ってしまってる。
「ど、どうしたの? これ? って愛ちゃんっ」
里沙ちゃんが今気がついたみたいに声を上げて、駆け寄ってくる。
「ここにいたんだぁ…。もう心配させないでよ…って、どうしたの?二人とも」
「あ、いやー…」
里沙ちゃんが不思議そうに私達に訊いてくる。
でも、私とまこっちゃんはお互いに顔を見合わせて、言葉に詰まってしまった。
だって、どう説明していいのか、わからなかったから。
- 281 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時56分50秒
- この状態だけだと…どう考えても…。
そんな事絶対にないって信じてる。でも、それをどうやって伝えればいい?
「でも…これ、本当にどうしたの?」
「あ…うん。なんか、ピアノ線で仕掛けがしてあったみたいで…」
「ピアノ線?」
里沙ちゃんの問いに、まこっちゃんが私の持っているピアノ線の端を指差した。
『ちょっと貸して』と言って、私の手からピアノ線を受け取ると、何度も何度も
首を傾げながら本棚とを交互に見つめている。
「もしかして、これで倒れたの?」
「う、うん…」
「でも、一体どんな仕掛けで…?」
「そ、それは…」
思わず口ごもってしまう。
だって、一言も発さない愛ちゃんが真っ青な顔をしてビクっと身体を震わせたから。
「愛ちゃんには悪いけど…、その…この扉が開くと倒れる仕掛けになってたんだ」
「ま、まこっちゃん…っ」
それでも告げたまこっちゃんに、私は一瞬戸惑ってしまう。
- 282 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時57分37秒
- 「だって、隠したら逆にヘンじゃん。愛ちゃんを疑いたくないけど、ハッキリさせたいし」
「だ、だけど…」
「ちょっと待って…。じゃあ、この扉を開けたのは愛ちゃんなの…?」
里沙ちゃんの鋭い声に、視線が愛ちゃんに集中する。
そんな中、愛ちゃんは俯いたまま、静かに一度だけ頷いた。
「まさか…愛ちゃんが…」
「そんなはず…っ!」
里沙ちゃんに言いかけたその時、
「それはないよ」
静まり返ったホールに、一際声が響き渡った。
振りかえると、窓際にしゃがみこんでいる藤本さん。
「それってどういう…?」
「コレ見て」
まこっちゃんの問いに、藤本さんはガラス窓の一角を指差した。
その先は、誰かが割った事を証明するように、あたり一面にガラス片が飛び散っている。
「誰かが、この窓を割って入ってきたんだよ。…で、仕掛けを施した、と」
「で、でも、そんな証拠は…」
「証拠ならあるよ。足元、見てみ」
「え…?」
- 283 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時58分18秒
- 里沙ちゃんの問いを遮るみたいに言った藤本さん。
言われたとおり、床を見ると、ドロにまみれた誰かの足跡が無数広がっていたんだ。
しかも、ご丁寧にこの扉の前を何度も行き来した形跡さえある。
「これ…っ」
「どう考えても、愛ちゃんじゃないのは明らかだよね?」
「え?」
「何故なら、愛ちゃんは館内から一歩も外には出ていないんだから。見たところ、
そのピアノ線にもドロとかついてるし」
言って、藤本さんは愛ちゃんの足元を指差す。
確かに…、愛ちゃんの足元は濡れてもいなければドロさえもついていない。
ということは、この仕掛けを作るのはまず不可能に近い。
「ご、ごめん…愛ちゃん、疑ったりして…」
「あ…ううん、別にいいよ」
すぐに頭を下げるまこっちゃんに、愛ちゃんはやっと笑顔を取り戻した。
「でもまー、よくもこんな手の込んだコトをするもんだねー…。ホントに中学生?」
「え? 中学生? なんでそんな事がわかるんですか?」
「わかんない? 紺野ちゃん」
「は、はい…」
「ははっ、紺野ちゃんでもわかんないんだ〜。なんか優越感〜」
- 284 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時58分59秒
- なんだか藤本さんが、嬉しそうに見えるのは気のせい?
あの、どうでもいいですから、早く教えてください。
「足跡の形。これってさ、この学校で制定されてる靴じゃない? ホラ、今みんなが
履いてるさぁ」
「あ…っ」
「そゆこと」
「じゃ、じゃあ、もしかして愛ちゃんのウワサを流している人っていう可能性も…」
「無きにしも非ず。うーん、やっぱ紺野ちゃんってば秀才」
しゅ、秀才…。そんなんじゃないと思いますけど…。
でも…。
言われて、ハっとした。
だって、それって…かなり危険な事になってるって事でしょ?
今までは、ウワサが定期的に流されるだけだった。
でも…今回のは、明らかに愛ちゃん自身を直接狙ってきてる。
こんなの…酷いよ…。
「なんで…こんな事に…」
「んー…とりあえず、今日は帰った方がいいね。まだどこかでアタシ達を見てるかも
しんないから」
言って藤本さんは、愛ちゃんの手を取った。
一瞬泣きそうな顔になった愛ちゃんだったけど、首を振って頷いてた。
- 285 名前:強襲 投稿日:2003年06月20日(金)18時59分34秒
- 「にしてもさー、夜の校舎っていうと大抵色んな出来事に逢うモンだけど、こーゆーのは
初めてかなー」
「え? 藤本さんは、夜の校舎とかによく入るんですか?」
「まー色々ね〜」
「美貴ちゃんらしいね〜」
「あれ? まこっちゃんはそーゆーコトしないの?」
「やんないよ〜、アタシ、いいコだから〜。っていうか、他にどんなコトとかあったの?」
「そーだねー、先生と生徒の夜の密会とか?」
「よ、夜の密会…!?」
「アレ? なに、紺野ちゃん、そーゆーのに興味あるの?」
「あ、ありませんよっ!」
「とか、なんとか言って、実は…」
「ありませんってばっ!」
そんな取り止めのない会話をしながら図書館を出て行く。
それから夜の校舎を後にしたんだけど、この時私は気づいていなかったんだ。
暗く、冷たい視線が私達に向けられていることに。
- 286 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時00分20秒
- 「あのバカ…どこで何やってんだか…」
亜弥の愚痴に、パソコンのイスに座っていたアタシは軽く振り返って視線を向ける。
時刻は9:15を回ったトコロ。
アタシのケガを見て、とりあえず消毒液を買いに行くと出て行ったきりもうかなり
経つのに美貴は戻らない。
そのおかげか、もうアタシの傷は治りつつある。
…手当てもしてもらっていたし。
「…にしても真希、アンタにしては珍しくハデにやったモンだね」
「別に」
「で? 何があったワケ?」
ソファーに座って腕時計をいじりながら亜弥が訊いてきた。
まぁ、そう来るだろうと思っていたアタシは、
「なんでもない」
それだけ言って視線を外す。
何かならあったけど、説明できるコトでもないから。
- 287 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時00分56秒
- 「ま、言いたくないんだったら、訊かないけど…。そうそう…」
溜息混じりにそう言って、亜弥は立ち上がるとアタシに近づいてきた。
それから、小さなメモを差し出してくる。
「なに?」
「この四人のこと、調べて欲しいんだけど」
受け取って見ると、学校の生徒の名前だろうか?四人の名前が書かれていた。
「協力者の教師に頼んだんだけど、個人情報は引き出せられないらしいから」
「で、アタシってワケ?」
「アンタの担当でしょ、今回は」
「わかってる」
パソコンの電源を入れる。
旧式だから、立ち上がるまで時間がかかるんだけど、その間の静寂がアタシには
息苦しいモノだった。
隠し事を見透かされた子供みたいな、そんな気分。
依頼を単独で受けたコトがバレるのは、別に構わない。
あのコの家に向かった時点で、諦めてたから。
- 288 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時01分32秒
- ただ…アタシの不可解なキモチを亜弥に感づかれるのがイヤだった。
けれど…多分もうバレてる。
だからこそ…居心地が悪いんだ。
「真希」
「…なに」
「少し、ヒマでも取る?」
「はぁ?」
何を言い出すの、亜弥は。
くるっと振り返って亜弥を見るけど、その表情は真剣そのもの。
その場の空気で言ったんじゃないんだって事は明らかだった。
「いきなり何言い出すのよ?」
「別に。最近仕事を詰め過ぎたから、アタシも休みたいだけ」
「…亜弥らしくないね、その言い方」
言ってアタシは立ち上がった画面から、あるルートでネットに繋げた。
正規では絶対に潜り込む事の出来ない、国のデータバンクに。
さすがに、美貴ほどのコンピューター能力があるワケじゃないから、細心の注意を払う。
- 289 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時02分06秒
- 「らしいとか、らしくないなんて関係ないよ。それに…」
「………」
「『らしくない』っていうなら、真希、アンタの方でしょ?」
やっぱり…ね。
キーを叩く指が一瞬止まってしまう。
その一瞬さえも、亜弥は見逃さない。
「この仕事、アタシの読みが正しければ、もうカタはつく。そしたら…」
「そしたら、また新しい依頼を受ければいい」
亜弥が何かを言う前に遮る。
途端に、溜息。
「真希、アンタの『らしくない』のは別に悪いコトなんかじゃないのよ?」
「…………」
「むしろ…アンタにはいい傾向」
「なにソレ…?」
視線はディスプレイから外さない。
目的の情報まで、あと少しだ。
- 290 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時02分59秒
- 「それを考えるためにも、しばらく休業」
「冗談」
「冗談なんかじゃない。アンタは走りすぎなんだよ、少し立ち止まりな」
言って亜弥は、最後の『Enter』キーをアタシに代わって弾いた。
広がる情報の波。
普通の人間には知りえないモノばかりだ。
「…あった…」
迷うことなく、亜弥は目的のモノを探り当てて画面上に広げた。
アタシも食い入るように見つめる。
『高橋 愛』『新垣 里沙』『小川 麻琴』『紺野 あさ美』
今回のターゲットがいるのだろうか?
けど、亜弥は厳しい表情で一人一人のプロフィールを見ていくのみ。
現場にいないアタシには判らない。
だから、視線をディスプレイから外そうとしたんだ。
けど、その時何かがひっかかった。
もう一度ディスプレイを見る。
なに? 一体何がひっかかってる?
映っているのは4人の存在を表す、文字の羅列のみなのに。
- 291 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時03分41秒
- 『高橋 愛』…、しいて強く上げるモノはない。
『新垣 里沙』…、同じく特に目を惹くモノはない。
『小川 麻琴』…、彼女にいたっては、何故亜弥が調べるのかさえも判らないぐらい
しっかりした家の娘だ。
そして…『紺野 あさ美』。
まって…、紺野あさ美…? この名前、どこかで…?
紺野…、こんの…コンノ…。
「!」
思い当たった…っ。
アヤカが言ってた、同じ能力者の名前だ。
まさか、亜弥と美貴の転入した場所にいたなんて…。
「…? 真希、どうかしたの?」
「あ…」
どうしよう、言うべきなの?
彼女は能力者だ。それも追っ手のかかっている。
でも…目覚めていない。
「……なんでもない」
「? そう?」
- 292 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時04分28秒
- 気がついたら、そう答えていた。
確かに、アタシ達には凄く重要なコトかもしれない。
けど、目覚めていない彼女に対して、アタシ達は何をする?
まさか『あなたは能力者です、私達と一緒に来てください』なんて言えない。
能力者同士が接触するだけでも、リスクが伴うのだから。
ヘタをすれば、アタシ達にまで火の粉が飛ぶ。けど…。
そこまで考えて驚いた。
あの時、アヤカに言われた時には、なんの躊躇いもなく拒絶した。
けど、今のアタシはどう?
なんでこんなに悩んでるの?
「…やっぱり、このコだ」
「え…っ?」
不意に呟いた亜弥の声に、思考が止まる。
すぐさま視線の先を追って、情報を確認すると、意外な事実が示されていた。
- 293 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時04分59秒
- 「今回のターゲット、見つけたよ」
「このコが?」
「そう」
亜弥の獲物を捉えたような瞳に確信を持つ。
こういうとき、亜弥は決して判断を誤ったりしないから。
「美貴にも伝えて明日にでも、ケリをつける」
「そう」
返事を返したものの、アタシのココロは晴れなかった。
その原因を…パソコンの電源を落とすと同時に、胸の奥底に閉じ込めて沈めた。
ただ…認めたくなかったんだ。
『なにか』に……ココロを動かされ始めているコトを。
- 294 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時05分38秒
- 「くしゅんっ!」
家に帰ってリビングに上がると、いきなりくしゃみが出た。
そういや…お風呂に入ろうとしてたんだっけ…。
その足で、いそいそとお風呂を沸かす。
「今日は…色んな事があったなぁ…」
蛇口をひねって、流れる水を見ながら呟いた。
そう…今日は色んなことが、ありすぎたと思う。
松浦さん達が転校してきて…、愛ちゃんが大変な目に逢って…そして…
あの人にまた出逢った。
「ケガ…大丈夫かなぁ…」
とっても深い傷だったと思う。
出血だって止まってなかったし…、あんな応急手当しかできない自分がちょっと
情けなかったぐらい。
ふと見ると、洗濯機の上に置いたバスタオル。
あの人が…使ってくれたバスタオル。
本当に神様がいるんだったら、また逢いたいと願うのに…。
自然とあの人の顔が浮かんできて、頬がかぁって熱くなった気がした。
- 295 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時06分19秒
- 「そ、そんな事よりっ、愛ちゃんだよっ……っていうか、なんで私こんな独り言が
多いんだろ…?」
まぁ、この際それはおいといて。
さっき別れた愛ちゃんの事を思い出す。
少しは元気になってくれていたけど、それでも恐怖感は中々とれないみたいで
時々表情を曇らせてたっけ…。
無理もないか…、あんな事があったんだし…。
でも、良かった…私一人じゃなくて。
きっと一人だったら、気が動転してしまって、あの本棚の仕掛けで下敷きになって
しまっていたかもしれない。
そう考えると、まこっちゃんと里沙ちゃん、そして藤本さんに感謝しなきゃ。
まこっちゃんは、ほんとに心強いし…。
電話でも、すぐに協力してくれたし。
それに里沙ちゃんだって……。里沙ちゃん…?
なんだろう…? 何故かひっかかる。
里沙ちゃんだって、ちゃんと協力してくれたのに…。なんで…?
何が引っかかってるんだろう…?
- 296 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時06分53秒
- ♪〜♪〜
その時、リビングで携帯が鳴った。
多分、あの音はメールだ。
慌ててとりに行って確認すると、『愛ちゃん』の文字。
『今日は本当にありがとう、また明日学校で逢おうね』
気を遣ってくれたのかもしれない。そんな必要ないのに…。
愛ちゃんらしいな。
そう思いながら返信した。
『ムリしないでね。何かあったらまた連絡してよ』
自分でも簡潔だなぁって思ったけど、こんな事しか浮かばなくて。
それから携帯をテーブルに置こうとして…止まった。
携帯…電話…?
そういえば、私はまこっちゃんと里沙ちゃんに連絡したよね…。
ゆっくりその時の事を思い出す。
- 297 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時07分26秒
- 『あ、あのねっ、まこっちゃん、大変だから来て!』
『ちょ、ちょっとあさ美ちゃん?』
『ガラスが割れる音がして! きっと何か起こってるんだよっ!』
『お、落ち着いて話してよ、誰が・どこで・どうしたの?』
そう、確か私は焦ってしまっていて、まこっちゃんに落ち着くように言われたんだっけ。
それからちゃんと説明して…
『わかった…っ、アタシもすぐに学校に向かうからっ!』
『うんっ、私も急ぐから』
学校に来てくれるって言ってくれて安心したんだ。
それから里沙ちゃんに連絡を入れたんけど、中々繋がらなくて、やっと繋がったんだけど
里沙ちゃんはなんだか少し不機嫌だったような気がする。
『もしもし、あさ美ちゃん?』
『あっ、里沙ちゃんっ?』
その冷たい声に戸惑ったせいもあったかもしれないけど、また私は焦ってしまっていて…
- 298 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時08分04秒
- 『どうしたの?』
『あのねっ、今愛ちゃんから電話があって、何か大変な事になってるみたいなのっ!』
『大変な事?』
『うん、ガラスが割れる音がしてたし、…とにかく大変なのっ! それで私だけだと不安だから
里沙ちゃんにも来て欲しいのっ!』
『わかった、学校だね?』
『うんっ、もうまこっちゃんも向かってくれてるから』
『すぐ行くよっ』
やっぱりちゃんと説明しきれてなかったって、今になって恥かしくなってしまう。
でも焦ってたのは、私だけじゃなかったっけ…。里沙ちゃんもビックリしたみたいに慌てて
携帯を切ってしまってたなぁ…。
………。
ちょっと待って…。
何かおかしくない?
『うん、ガラスが割れる音がしてたし、…とにかく大変なのっ! それで私だけだと不安だから
里沙ちゃんにも来て欲しいのっ!』
『わかった、学校だね?』
『うんっ、もうまこっちゃんも向かってくれてるから』
- 299 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時08分47秒
- …私は…
『わかった、学校だね?』
学校だなんて、一言も言ってない…!?
…と、その時水の流れ出す音がした。
「あっ! いけないっ! 蛇口、開けっ放しだっ!」
慌ててお風呂場にいって、溢れかえっている水におたおたしながら蛇口を閉める。
あ…そういえば、里沙ちゃんの携帯ごしに雨音が聞こえていた気がする…。
それって、雨が降っている時間は外にいたって事だよね…?
……まさか。まさかね…?
でも、他にも思い当たるフシはたくさんあった。
校舎にいち早く来ていた里沙ちゃん。家は学校から一番近いはずなのにかなり濡れてて。
図書館で愛ちゃんを探そうって言ったとき、別れて探そうって提案したのも里沙ちゃんだった。
それが意図的なものだったとしたら…?
頭の中が混乱しそうになる。
でも、浮かび上がった疑問を拭い去ることができなくて…。
- 300 名前:見解 投稿日:2003年06月20日(金)19時09分18秒
- 「…まこっちゃんに…相談してみようかな…」
気がついたら、私はお風呂を沸かすことも忘れて携帯を握り締めていたんだ。
その後、否定して欲しい、そんな気持ちで機械的にまこっちゃんに連絡を入れたのを覚えてる。
でも、まこっちゃんからの話は、意外なものだったんだ。
『じゃ、明日ね』
「うん…」
『あさ美ちゃん。キモチは判らなくもないけど…』
「だ、大丈夫だよ。まだそうと決まった訳じゃないし…。明日次第…だよね?」
一時間、たっぷり話して…最後にしたのはそんな会話。
そう、この時私達はある事を考えたんだ。
それは私にとって…ううん、まこっちゃんにとっても、大きなカケだったのかもしれない。
- 301 名前:tsukise 投稿日:2003年06月20日(金)19時17分49秒
- >>270-300
今回更新は、ここまでです。
多分…次回で、自称(笑)高橋編は終わるかと…(^^ゞ
何気に大量UPしてしまってますね…(^^ゞ
>>268 ヒトシズクさん
いつもレスをありがとうございますっ!励みになってます本当にっ
おそらく次回で決着はつくかと…。ビ、ビミョーですが。
友達…いいですよね♪その関係は崩さないようにしたいですっ!
>>269 名無しさん
読んでくださっていたみたいで、ありがとうございますっ!
…というか、レスを読んでビックリっ!!観察力、鋭いですねっ!
というか、私の勉強不足ですね(^^ゞ これから、が、頑張りますっ!
- 302 名前:初レス読者 投稿日:2003年06月20日(金)20時12分52秒
- 今日初めて読みました!!
後藤と藤本のキャラ良いっすね〜。
コンコンの隠れた秘密が明らかになるのを楽しみに更新待ってます
- 303 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月21日(土)00時18分50秒
- スゲェー盛り上がってきてる!!
楽しみにしてます
- 304 名前:一読者 投稿日:2003年06月21日(土)00時59分26秒
- 後藤は「風」松浦は「火」藤本は「水」
超A級だという紺野の能力が気になります。
生まれる前(?)のことまで憶えている並外れた記憶力以外にも何か能力が!?
- 305 名前:葵 投稿日:2003年06月21日(土)13時06分29秒
- テスト期間中な中で、大量更新を読めて良かったです。
これからも頑張ってください。
- 306 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年06月21日(土)22時50分01秒
- あぁ・・・紺ちゃん・・・・
どーなるんですか!?!?すっごい気になるんですが・・(汗。
そして、高橋、かわいそうすぎ・・・・ホント、泣きそうになりました・・・
ではでは、次回の更新楽しみにしております!
がんばってください、応援してます♪
- 307 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時04分49秒
- その日は天気が悪くて、教室の窓から見える四角い空は、どんよりとした
曇り空で…今にも雨が降り出しそうだった。
午前中の授業は全然頭に入らなくて、ただぼんやりと時間が過ぎるのを
見ていた気がする。
ただ何度か、まこっちゃんからノートの切れ端で作ったメモが回ってきて
緊張感だけは高まっていたっけ…。
信じたい…信じたいけど、疑うには十分すぎる疑問点があったんだ。
それを確認しようと切り出したのは、その日のお昼休みの事。
「あさ美ちゃん」
「あ、まこっちゃん…」
「大丈夫? なんだか顔色が悪いよ?」
「うん…、大丈夫」
不安とか、混乱とか、そんなのが昨日からずっと積み重なっていたから、
ごちゃまぜになって顔に出てしまったんだと思う。
けど、心配げなまこっちゃんも、ちょっと顔色が良くない。
私と…同じ気持ちだったりするからかな…?
- 308 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時05分35秒
- 「まこっちゃ〜ん、紺ちゃ〜ん」
いきなり、つきぬけるような明るい声で呼ばれた。
誰か、なんて振り返らなくてもわかってしまうのが…なんだかなぁ…。
名前、略されちゃってるし…。
「藤本さん」
振り返るとやっぱり、というか藤本さん…と松浦さん?
ちょっと呆れたみたいに藤本さんを見ながら、こっちに軽く手を上げてる。
「どうしたんですか?二人とも」
「んー、あのさ、なんてゆーか…アタシ達、多分今日でお別れだと思うから
今のうちに仲良くしてくれたコに挨拶しとこうと思って」
「え? お別れ?」
「うん、また転校する事になったんだ」
藤本さんに続いて松浦さんが口を開く。
え、でも転校って…っ。
「二人とも、昨日転校してきたんじゃないですか…っ?」
そう、だって全然学校での行事らしい行事だってなんにもしてないのに…。
そんな急すぎませんか…っ?
「んー…、そうなんだけどね、こればっかりはしょうがないんだ」
「そんな…」
まこっちゃんもビックリしちゃって、口をパッカリさせちゃってる。
- 309 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時06分12秒
- 「今度は、どこに行くんですか?」
「えっ? どこに? え、えーとねー…」
「しばらく海外に行くんだ」
何故かどもってしまった藤本さんを肘で小突いて、松浦さんがニッコリ笑ってそう言った。
海外…。じゃあ、そんな気軽には逢えなくなっちゃうんだ…。
なんだかんだ言いながらも、私は藤本さん達がいなくなると思うと寂しいみたい…。
「そう…ですか…」
「ごめんね、せっかく仲良くなってたとこなのにさ」
「あ、いえ…。だって二人にも家族の事情とかあるんでしょうし…」
「…家族…かぁ。まー亜弥はともかく、アイツはなぁ〜」
「?」
「美貴」
「はいはい。ま、とにかく、今まで…ってか、昨日・今日とありがとね」
「あ、いえ。二人も元気で…」
「うん、ありがと」
あっけなかった。あまりにも。
確かに、そんなに親しいわけじゃないしベタベタしてくるような、そんな二人じゃないって
わかってはいたけど…。
上手く言えないけど…そう、事務的な感じさえしたんだ。
- 310 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時06分45秒
- 「あさ美ちゃん、そろそろ…」
「あ、うん」
呼びかけられて、私はハっとする。
そうだ、今日は特別な日なんだ。
のんびりと、これから食事をする時間なんかじゃない。
まこっちゃんに頷いて、私はカバンからある物を取り出してまこっちゃんに渡すと
その足で、ある人の席へと向かった。
そう、そのある人は…
「里沙ちゃん?」
「んー? あーまこっちゃんにあさ美ちゃん。なに?」
「ちょっと話したい事があるんだけど、いいかな?」
「え〜? これからお昼なのに?」
「ごめん、少しだけ」
「んーまーいいよ」
確かめないといけなかったんだ。どうしても昨日のことを。
そのために…私達は、一緒に教室を後にしたんだ。
出来れば…愛ちゃんに知られずに済ませたい、そう思いながら。
- 311 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時07分23秒
- 「…で? なに? 話したいことって」
誰もいない講堂では、凄くよく声が響いた。
この時間、ここで話そうって決めたのはまこっちゃん。
どんな事になったとしても、誰にも知られることはないから…。
そんな事には、なって欲しくないんだけど。
「あの、さ…」
静かに口を開いたまこっちゃんは、軽く私に視線を向けて合図する。
始めるよ――って。
「昨日のアレ…全部里沙ちゃんでしょ」
疑問詞じゃない、断定詞。
あえてそういう事で、反応を確かめるために。
「え? 何が?」
予想通りの返答。
とぼけるような、そんな感じの。
それとも、本当にわからない? ううん、そんな筈はない。
あれだけ印象的なことだったんだから、一瞬で察しがつくはずだから。
『何が?』という答えが出るわけがないんだ。
- 312 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時08分02秒
- 「とぼけてもダメだよ。それに…今まで愛ちゃんの噂を流していたのも里沙ちゃんだね?」
「噂なんてしないよ。何言ってんの、まこっちゃん」
「ううん、でも残念だけど裏はとってあるんだ」
「え?」
「愛ちゃんの噂を辿っていったら、最後にいきついたのは…」
「………」
これは本当のこと。
私やまこっちゃんが、愛ちゃんの噂を告げた人に誰に聞いたのかを訊ねて…またその人に
訊ねて…そうしてたどり着いたのが、里沙ちゃんだった。
…と、その時。
「あれ? みんな、何してるの?」
「え…っ、あ、愛ちゃん…!?」
里沙ちゃんの後ろ、入り口の扉から今まさに話していた相手、愛ちゃんが顔を覗かせたんだ。
途端に、私とまこっちゃんは戸惑ってしまう。
だって、この話は愛ちゃんには絶対内緒でするはずだったから。
すべて…静かに終わらせる予定だったから。
- 313 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時08分33秒
- 「ど、どうしてここに?」
「え? だってみんなでお昼を一緒しようと思ってたんだけど、誰もいなかったから…。
こんなとこで何してんの?」
言いながら、私達に歩み寄ってくる愛ちゃんは、首を傾げて不思議がってる。
どうしよう…?
不安げにまこっちゃんに視線を向けると、まこっちゃんはしばらく考えて
「愛ちゃん」
「うん?」
「今から、何があっても口出さずにただ黙って見ていてくれない?」
「え? なんで?」
「なんでも」
「あ、うん…いいけど…」
そう言って、納得させたんだ。
ちょっと困ったみたいに私達と里沙ちゃんを見比べていたけど。
「里沙ちゃん」
「…なに?」
「正直に答えて。昨日のアレも…里沙ちゃんなんでしょ?」
「え…っ! まこっちゃん!?」
- 314 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時09分03秒
- 愛ちゃんが戸惑った声をだす。
そりゃそうかもしれない。
いきなり自分の話題がきたんだから。
でも、その疑問の声をまこっちゃんは目で制した。
「あのさ、なんの根拠があるわけ? いくらまこっちゃんでも許さないよ?」
里沙ちゃんは、ちょっと困ったみたいに笑いながら問いかけてきた。
その表情は、いつもの里沙ちゃんだ。
決心が揺らぐ…でも、確かめなきゃいけないんだ。
「昨日…私が携帯で電話したよね?」
「あーうん、そうだね」
「愛ちゃんが大変だから、一緒に来てって」
「うん」
「あの時、私『学校に来て』なんて一言も言わなかった。けど、里沙ちゃんは
どこに行けばいいのかわかってた」
「………」
「これって…、その…どういうことかなって…」
思わず口ごもってしまう。
こういうのはハッキリ言わないとダメだってわかってるのに。
- 315 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時09分40秒
- 「あれ? あさ美ちゃん、言ってなかった? 学校って。あたしはそう聞いたよ絶対」
『絶対』という返事に、戸惑ってしまう。
記憶力には自信のある私だけど、それさえも不安なってしまう言葉だから。
もし、本当は『学校』だと言っていたかもしれない?
慌ててて忘れてしまっている…?
そんな風に、疑問がグルグル回転し始めて…。
でも。
「あさ美ちゃんの記憶力が人並みはずれているのは、里沙ちゃんも知ってるよね?」
そう言って私の手をギュッと握ってくれたのは、まこっちゃん。
『信じてるから』。そんな気持ちがつたわるみたいに強く。
……嬉しかった。
「……。まぁ、そういう事にしたとして、なんであたしが愛ちゃんを学校で襲ったって
言い切れるワケ?」
里沙ちゃんの、語気が荒くなったように感じた。
その目が鋭くなってきてる気もする。
でも、だからといって止めるわけにはいかない。
- 316 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時10分15秒
- 「里沙ちゃん、学校には一番早くついたんだよね? まこっちゃんから聞いたよ」
「それが何?」
「それなのに、あんなに濡れてたし」
「だから、それは車にかけられたって言ったじゃん」
「だったら、全身に…しかも頭までかかるのはおかしいよ」
足がすくみそうだった。
でも言わなきゃ…、その使命感だけで言葉を続けたんだ。
震えるその手を、まこっちゃんが強く握り返してくれてるし。
「だって、だって、車がかけたとしても、角度とかでどこかは濡れてなかったりするでしょ?」
「例外もあるよ」
「そうだけど…」
「あーもー、じゃあさっ、証拠とかあんの? あたしが襲ったんだっていう」
イラだちも露にした里沙ちゃんがそう言った。
その言葉に、ドキっとした。
だってそこから先は…。
「…あるよ」
「まこっちゃん…」
不安になって、まこっちゃんを見るけど…その顔は自信に満ちていた。
だったら…私も信じるしかない。
- 317 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時10分55秒
- 「これ、なんだかわかる?」
まこっちゃんが、取り出したのは教室で渡した一本のビデオテープ。
「なに?」
「うちの学校ってさ、結構セキュリティーとかって厳しくしてあったんだね」
「だから、なに?」
話の読めない里沙ちゃんは、眉をひそめていい放った。
それに対して、まこっちゃんが一度溜息をついてみせる。
「図書館。防犯ビデオが設置されてるって知ってた?」
「…え…?」
里沙ちゃんの顔色が変わった。
ハッキリとわかるぐらい。
「あれだけ大きいんだもん、当然だよね? 特に夜ともなると無人になるしさ」
「……それで?」
「そこに、愛ちゃんと…誰かが映っていた」
「…………」
「誰だか、わかるよね?」
これが今回の大きな賭け。
私も、まこっちゃんも…平常を装っているけど…実は緊張していたんだ。
ここで里沙ちゃんがどう反応するかで、攻守逆転するっていうところだから。
- 318 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時11分28秒
- それは、今示したビデオテープ。
本当は中身は、私が以前録画した『ドラえもん』なんだ。
大体、学校の防犯ビデオが生徒に公開されるなんて、絶対にありえないんだ。
だから…これは最後の切り札だった。
「……………」
静寂が講堂を包み込む。
遠くのほうで、廊下を駆け抜ける生徒の笑い声が響いていた。
そして…次の瞬間。
「…くっ…あははっ」
里沙ちゃんが突然笑い出したんだ。
心底愉快に。
「里沙…ちゃん…?」
困ったみたいに愛ちゃんが声をかけると、それを見てまた笑い出した。
「あっはははっ! そっかぁ〜、バレちゃったかぁ〜残念」
「里沙ちゃん…」
「そうだよ、あたしだよ? 昨日のも、今までの愛ちゃんの噂も、ぜ〜んぶあたし」
私や、まこっちゃんが望んでいた答え。
そう…望んでいた答えの筈なのに…凄く泣きたくなった。
- 319 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時12分06秒
- 「友達じゃない…っ それなのに…どうして…」
「うるさいよっ!!」
「!!」
初めて聞く里沙ちゃんの荒っぽい怒鳴り声に、私は頭を金槌で殴られたような気分になった。
憎々しげに鋭くして睨み詰めるその目が、全てを否定している。
友人としての関係を、きっぱり拒絶している。
「友達なんて、ほんとに思ってんの?だとしたら、底なしのお人よしだね、バカみたい」
「え…?」
「弱い人間が群れて、仲良しこよしを演じちゃってさぁ、虫唾が走る…っ!」
どこまでも冷たい目だった。
これが本当に、あんなに仲良く笑い合っていた里沙ちゃんなんだろうか、と思うほど。
「結局人間って一人なんだよ。口ではなんとでも言えるよねぇ、『友達』『親友』『仲間』。
でも、どうせ利用してるだけでしょ? こうやって友達友達って言うのもわずかな間だけで
自分に都合がいいからなんでしょ!?」
「そんなコトないよっ!」
「そんなことあるんだよっ!!」
まこっちゃんが一歩踏み出して首を大きく振るけど、里沙ちゃんはそれさえも否定する。
そのまま俯く里沙ちゃんの肩は小刻みに揺れていた。
- 320 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時12分52秒
- 「結局…ひとりぼっち…。あたしはいつだって、ひとりぼっち」
「里沙ちゃん…」
「なのに…」
強い意志がそこにあった。
憎しみ、哀しみ、苦しみ、そんなあらゆる感情をこめた意思が、上げられたその瞳に。
きっと背中に冷たいものが走ったのは、私だけじゃないと思う。
この場にいる、まこっちゃんも…愛ちゃんもきっと。
「なんで愛ちゃんだけが…いつもいい思いばっかするのよ…っ!」
「え…」
ゆっくりと里沙ちゃんは、こっちに向かって歩き出す。
ううん、愛ちゃんに向かって。
「同じ環境に育って、同じモノを見ていたのに…それなのに里親は愛ちゃんを選んで…っ」
「里…親……? どういうこと…?」
私がゆっくり聞き返すけど、里沙ちゃんには届かない。
代わりに愛ちゃんが、大きく目を見開いて左右にゆっくり首を振り出した。
「許せなかった…っ、いつまでも一緒だって言ったのに、その里親を受け入れた愛ちゃんが!
許せなかった!手紙を出しても返事を返してくれなかった愛ちゃんが…!」
- 321 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時13分31秒
- 里沙ちゃんの言ってる言葉は私にはわからない。
けど、愛ちゃんと里沙ちゃんは、昔から何か…つながりがあったの…?
「愛ちゃん、どういうことなの…?」
まこっちゃんも同じように思ったのかもしれない。
愛ちゃんに振り返って、尋ねている。
でも当の愛ちゃんは、里沙ちゃんに向かって大きく首を振るだけ。
「覚えてる…? 入学式の日。クラスが一緒になって、名前の順で愛ちゃんが前、あたしが
後ろ。あたし…愛ちゃんに声をかけたよね? 新垣里沙です、ヨロシクって。あれさ…
あたしなりの最後のカケだったんだよ?」
歩いてくる里沙ちゃんとの距離がどんどんと縮まっていく。
「あたしの事を覚えていてくれたんなら…許そうって。けど…愛ちゃんは…」
言葉を止めた里沙ちゃが、ポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。
「り、里沙ちゃん…っ!」
思わず声を出して、私もまこっちゃんも顔色を変える。
だって、里沙ちゃんの手に握られていたのは、冷たく不気味に輝いている工作用の
ナイフだったから。
- 322 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時14分33秒
- 「…覚えてるよ」
「!」
「『初めまして、高橋愛です。これからヨロシクね』。そう言ったよね」
「そう、覚えてたんだ…」
「忘れるワケないよ」
凛と響く愛ちゃんの声。
その表情に、何かを悟ったみたいなものが見えた気がした。
一瞬、愛ちゃんの言葉に止まった里沙ちゃんだけど、やっぱりあの冷たい目のままで
ナイフを胸元まで持ち上げた。
「…あたしの事は、忘れちゃってたのにね…っ」
「違うよ!!」
「違わない!! 愛ちゃんは全部を忘れて、今ここにいるんでしょ!? こうして、学校で
友達を作って…あたしの事を忘れて…! だからっ!!」
「だから、復讐してやろうって思ったの?」
声は別の所から聞こえた。
ちょうど里沙ちゃんの後ろ、講堂の入り口から。
視線を向けて驚いた。
- 323 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時15分20秒
- 「ふ、藤本さんに松浦さん…!?」
そう、私やまこっちゃんの視線の先には、何もかもを判っているような目をして立っている
二人がいたんだから。
「亜弥の予想、当たったね。ってか、薄々アタシも気づいてたけど」
「はいはい…」
「でも、紺ちゃん達に先をこされちゃうなんてねー」
不敵に笑みを浮かべる藤本さんは、ゆっくりと私達に近づいてきた。
途端に反応したのは里沙ちゃん。
「こっ、来ないでよっ!」
その手に持った、ナイフを藤本さんに振りかざすようにして振り向く。
本気だ――握り締めた手の強さが、それをあらわしている。
けど…。
「そんなおもちゃ、振り回したら自分が危ないだけだよ」
全然ひるむこともしないで、藤本さんは里沙ちゃんと距離を詰めていく。
1歩、また1歩と。
そして、ついに目の前に立つ。
- 324 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時16分00秒
- 「来ないでって言ってるでしょ!?」
「!? あ、危ないっ!!」
思わず叫んだ。
だって、里沙ちゃんがそのナイフを藤本さんに向かって振り上げたから。
でも。
ナイフは空を切るだけだった。
信じられないけど、藤本さんはそのナイフを軽く肩を動かしただけでかわしたんだ。
そして、そのまま里沙ちゃんの手首を取る。
「!!」
当の振り上げた里沙ちゃんが一番動揺していた。
私だって、一瞬の事で事態が把握できていない。
「だから、言ったじゃん。自分が危ないだけだって…」
ゾっとした。
だって、室内の電気に照らされて冷たい光を放っているナイフの切っ先よりも
藤本さんの声の方が、鋭利な刃物のように冷たく響いたから。
「美貴」
そんな不気味な空間を破ったのは、講堂に響き渡る松浦さんの声。
- 325 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時16分30秒
- 「わかってるって…」
おどけたような声とともに、藤本さんが里沙ちゃんの腕を放した。
と、同時にナイフが床に転がっていく。
…一瞬だけど、里沙ちゃんの手首に残ったアザがみえたような気がした。
「…ちょっと、昔話でもしようか?」
「昔…話…?」
「うん」
こんな時に何を言い出すんだろうって思った。
でも、松浦さんの表情は真剣で…。
私も、ううん、誰も茶化したりすることなんてできなかったんだ。
「ある幼児施設での話」
「やめて…」
押し殺したような里沙ちゃんの声が微かに聞こえた。
でも、話は続けられる。
「昔、そう今から13年も前。ある施設に凄く仲のいい女の子2人がいたの」
「やめてって、言ってるでしょっ!?」
キン、と鼓膜を震わすような高い声を上げて、里沙ちゃんは松浦さんに向かって
走り出した。
けど…。
- 326 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時17分12秒
- 「亜弥には触れさせない」
目の前に立ちふさがったのは藤本さん。
里沙ちゃんは顔を強張らせて後ずさり、手首を押さえる仕草をした。
…やっぱり、さっきのアザは藤本さんの握力でついたものだったんだ。
「……それは仲のいい2人だった。きっと傍から見れば本当の姉妹に見えるぐらい」
コツコツと松浦さんが近づいてくるたびに、講堂の床が響いた。
それが緊張感を高まらせているみたいだった。
「けど、そんな二人の関係はある時期を境に…最悪になったんだ」
「え…?」
まこっちゃんが首を傾げると、松浦さんがゆっくりと顔を上げて立ち止まった。
「2人のうちの1人を引き取りたいと、申し出を出した人がいたの。当時一番景気の
良かった貿易商トップの夫妻が」
「里親…?」
「そう」
里沙ちゃんの言葉が、思い返される。
愛ちゃんに向かって言っていた言葉が。
ということは…、この話は…。
- 327 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時17分55秒
- 「二人は離れ離れになって、皮肉だけど…心さえも離れてしまったんだ」
「きっと金持ちになびいたんだって見えたんだろうね」
その時、松浦さんも藤本さんも軽く耳に触れる仕草をした。
良く見ると、小さな何かが耳についてる。
それから何かが聞こえているのかもしれない。
「…わかった…。もう終わるから」
そう言って、反応していたから多分、誰かと連絡を取っているみたい。
「憎んでいたんだね、その子の事。職員がどれだけその子との別れの痛みを
癒そうとしても、頑なに拒んでいたみたいだし…」
「カワイさ余って、なんとやら…ってコトかな」
「あの…さ」
戸惑ったみたいにまこっちゃんが一歩前に出た。
松浦さんも藤本さんも、軽く視線を向けて話の続きを促してる。
それにホっとしたみたいに、まこっちゃんは言葉を続けた。
「その二人って…もしかして…」
一番の疑問。
多分、思っている通りの事だと思うけど、まこっちゃんも確認せずにはいられなかったみたい。
- 328 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時18分56秒
- 「…施設に残ったその女の子が、職員にいつも言っていた言葉があったんだ」
ゆっくりとそこで一度目を伏せる松浦さん。
でも、もう一度開かれた瞳は、しっかりと私とまこっちゃんの後ろに向けられていた。
その先には…愛ちゃん。
「『絶対に、愛ちゃんを許さない』」
判っていたことなのに、冷たい何かが全身を駆け巡った気がした。
それと同時に、疑問ばかりが頭に浮かぶ。
何故? どうして、そこまで憎む事ができるんだろうって。
それだけ仲良しだったのに、たったそれだけの事で、そんな感情が浮かんだりするの?
別れの痛みが、そこまで歪んだ気持ちを生み出してしまうものなの…?
そんなの……凄く…悲しいと思う。
「その後、その女の子は元財閥の家に引き取られて、ずっと別れてしまった女の子…
高橋さんの行方を追った。…そして、この学校へ入学を知って、自分も強引に入学」
「…で、復讐劇が始まったってコト。 でしょ? 里沙ちゃん」
藤本さんの問いかけに、里沙ちゃんは苦々しく睨み返した。
- 329 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時19分34秒
- 「だったら、なんだっていうのよ? 別にアナタ達には関係ないじゃん」
「それがそうはいかないんだよね〜、これも仕事に関係あるコトだし。それに…」
またゆっくりと里沙ちゃんに近づくと、人差し指でその肩を軽く小突いた。
「もうコレ、犯罪だから」
言った瞬間、里沙ちゃんが動いた。
藤本さんの襟首を掴んで、強く押したんだ。
「あ…っ! ふ、藤本さん…っ!」
思わず駆け出そうとして――誰かの腕に止められた。
それは、いつのまにいたのか隣に立っていた松浦さん。
その顔は、少し寂しそうに笑っていた…と思う。
「大丈夫だから」
「で、でも…っ」
「ほら」
言われて視線を戻すと、信じられない光景があったんだ。
掴みかかった里沙ちゃんの腕を軽くひねって逃れると、そのまま床に押さえつけるように
組み伏した。
まさに、一瞬の出来事で、口をパクパクさせてしまう。
- 330 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時20分14秒
- 「あたし、頑張った…! 頑張って、頑張って…なのに…いつだって…。誰もあたしの事を
判ってくれないんだ…っ」
「里沙ちゃん……」
泣き崩れる里沙ちゃんは、呪文のように繰り返し言いながら拳を握り締めた。
それが…頑ななココロを表しているみたいで、居たたまれなくなる。
でも…
「…アナタは『頑張った』気になってるだけだよ」
「ふ、藤本さん…?」
里沙ちゃんから離れて立った藤本さんは、哀れんだようなそんな表情は見せず、
ただ静かに…どこか悲しげに口を開いた。
「誰もあたしの事を判ってくれない…? 当然だよ、だってアナタが誰のことも
わかろうとしてないんだから」
「ちょっと、美貴ちゃん…っ!」
まこっちゃんが腕を取って止める。
藤本さんは、やっぱり悲しそうに里沙ちゃんを見つめるだけだった。
- 331 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時20分55秒
- 「高橋さんはね…、あなたが思ってるような生活を送ってたワケじゃない」
「…え…?」
続けられた松浦さんの言葉に、涙で濡れた顔をあげる里沙ちゃん。
もちろん、私もまこっちゃんも。
ただ愛ちゃんは、ハっとしたみたいに顔を上げて…それでもまた俯いた。
「里親に引き取られてからすぐ、彼女の父親の事業が失敗して会社はトップから
一気に最下位に。母親はそれが原因でノイローゼになって病院に」
「うそ…」
「ウソなんかじゃない。まだ幼い彼女が取り立てに逢うのを恐れて父親は海外へ
連れて行った…。けど、その地での生活だって、決して楽じゃなかったはずよ」
「………」
「環境、世襲、差別…」
「もう…いいよ」
そこまで聞いていた愛ちゃんが、泣き出しそうな笑みで松浦さんを制した。
それから里沙ちゃんへと近づき、その場にしゃがみ込む。
- 332 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時21分52秒
- 「愛…ちゃん…?」
「覚えてるよね? 入学式での最初の一言」
「…う…ん…」
「あの時ね、ホントは里沙ちゃんだってわかってた。わかってたけど『初めまして』
しか言えなかったんだ」
「どうして…?」
寂しそうだった。
寂しい瞳が、見つめあっていた。
同じぐらいの孤独の影をそれにさして。
「だって、里沙ちゃんは一番の親友だったもん。アタシなんかと一緒にいたら迷惑かかる。
アタシなんかと知り合いなんだって判ったら、きっと辛い目に逢うもん」
「愛…ちゃん…?」
「里沙ちゃんが、元財閥の家に引き取られたんだって施設の先生から教えてもらった時
『ああ、絶対に迷惑かけちゃいけない』って、思った。だから…手紙も返さなかった」
「そ、そんなこと…っ」
里沙ちゃんが愛ちゃんの腕をとるけど、愛ちゃんはゆっくり首をかぶりふった。
「けど、それが逆に里沙ちゃんを苦しめてたんだね…ごめん」
「愛ちゃん…」
里沙ちゃんの目から涙が止め処なく零れ落ちていく。
けど、それはさっきまでの憎しみの涙なんかじゃない。
- 333 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時22分36秒
- 「こんなアタシだけど…まだほんの少しでも『友達』だって、認めてくれるんなら…
許してくれないかな…?それとも…まだ許せないなら…」
愛ちゃんの手に、いつの間に拾ったのかナイフがあった。
それをゆっくりと里沙ちゃんに握らせる。
「愛ちゃん…!?」
「ちょっと…!!」
私やまこっちゃんの声にも反応せずに、その握らせた手を両手で包み込んで
自分の咽喉元へと持っていく。
「里沙ちゃんなら…いいよ」
愛ちゃんの頼りない言葉。
でも、その目はしっかりと里沙ちゃんを捉えている。
本気だった。
本気で、自分の全てを委ねていた。
「里沙ちゃん、愛ちゃんもやめて…っ!」
「美貴ちゃん、止めてよ!!」
呼びかけたところで、誰も動かなかった。
じっと、その先を見守ることしかできなかったんだ。
- 334 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時23分23秒
- 講堂が静寂に包まれる。
それから…里沙ちゃんがその手に力を込めて……―――
「っ!!」
キィィン カン カン…
―――ナイフを遠くへ投げ捨てた。
「っく…ごめん…愛ちゃん…ごめん…っ」
「里沙ちゃん…」
里沙ちゃんは、そのまま声にならない声で力いっぱい愛ちゃんの身体を抱きしめた。
「あたし…っ、ただ羨ましかった…っ…愛ちゃんが…っ。それだけなのに…こんな事して…」
「もういいから…。もう、そんなのどうだっていいから」
「また…やり直せる?」
「また、やり直そう?」
里沙ちゃんの言葉に、愛ちゃんはそう言って背に手を回して抱きしめ返した。
長い時を経て、やっと再会できた二人には色んな出来事があったけど…。
けど、またこうやって心を通わせる事ができた。
ただ…、その事が私は凄く嬉しかった。
友達…、それって簡単に無くなってしまう関係なんかじゃない。
お互いを心のどこがで、ずっとずっと想いあっていれば、いつだって分かり合えるんだ。
だってほら…、今目の前にいる二人がその証明でしょ?
- 335 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時24分12秒
- 「ちょっとー、アタシ達の事忘れてない〜?」
突然二人に向かって声をかけたのは、まこっちゃん。
呆れたような顔をして、私の肩に手を回してる。
戸惑ってる私に、ウインクを1つくれて…それを合図に、私も二人に笑って見せた。
「そ、そうだよぉ、二人だけの世界に入っちゃってさぁ。私達も『友達』でしょ?」
精一杯おどけてみせる。
その姿がおかしかったのか、愛ちゃんは吹き出してしまった。
失礼だなぁ…。
「あははっ、ごめん忘れてた」
「ちょっとぉ〜」
「…けど、もちろん二人も友達だって事、忘れてないよ? ねぇ、里沙ちゃん?」
「あ…」
愛ちゃんに言われて、里沙ちゃんは申し訳なさそうな顔をした。
きっと、私達に言った言葉を気にしてるんだ。
そっと、まこっちゃんに視線を向けると同じ事を考えてたみたい。
しょうがないなぁって表情を一度して、里沙ちゃんに向かって歩いていったから。
「な〜に〜っ! 愛ちゃんとはラブラブできても、アタシ達とはできないのぉ〜?」
「ま、まこっちゃん…」
- 336 名前:友達 投稿日:2003年07月03日(木)20時24分55秒
- そのまま後ろから里沙ちゃんを抱きしめるまこっちゃん。
いきなりの事で、びっくりしてるけど、ちょっと嬉しそう。
だから、私も里沙ちゃんに向かって笑いかけたんだ。
「そうだよぉ、私達ともラブラブしようよぉ〜」
「あさ美ちゃんまで…」
その顔は、いつもの教室で笑い合ってたあの顔。
それが…とても嬉しかった。
「…人を羨ましいって思う事は、誰だってあるよ?」
「あさ美ちゃん…?」
「でもさ、それって自分を信じてあげてないって事じゃない?そんなの、悲しいよ」
自然と言葉が溢れてた。
別に、里沙ちゃんに説教しようとか、そんな事考えて言ってるわけじゃない。
ただ…自分自身も、思った事があるから。
里沙ちゃんのように、羨んだりした事があるから。
だから、伝えたかったんだ。
「戦う相手は、『自分』なんだよ」
愛ちゃんが、まこっちゃんが…そして里沙ちゃんが、笑って頷いてくれた。
そう…戦う相手は、いつだって『自分』なんだよ。
いつだって。
- 337 名前:tsukise 投稿日:2003年07月03日(木)20時34分52秒
- >>307-336
今回更新はここまでです…。ってか大量すぎですね(^^ゞ
とりあえず、高橋編は終了です…。
>>302 初レス読者さん
後藤&藤本のキャラ、実際では考えられないんですが良いでしょうか♪
紺野の隠れた秘密…これからどんどん出していきますので、続けて
読んでくださると、とっても嬉しいですっ!!
>>303 名無しさん
そうですねっ!盛り上がってます…っ!自分の中でも(ぉ
楽しみにしてくださっているだなんて、ありがとうございますっ!
応援レスに励まされつつ頑張りますねっ。
>>304 一読者さん
超A級の紺野の能力、次回から突っ込んで書いていきますね♪
並外れた記憶力が鍵になりつつも、とんでもない能力になる予定だったり(^^ゞ
「地」…実は最初はそうだったりしたんで、レスに驚いちゃいましたっ。
- 338 名前:tsukise 投稿日:2003年07月03日(木)20時35分52秒
- >>305 葵さん
テスト期間中だったのですね、お疲れ様ですっ!!
最近大量更新ばっかりですね(^^ゞ ってか不定期すぎでスイマセンっ(^^ゞ
葵さんの作品もお待ちしていますので、頑張ってくださいねっ
>>306 ヒトシズクさん
高橋…こうなっちゃいましたっ!(笑 あんまりダーク過ぎる展開には
したくなかったんで(^^ゞ こんな形があってもいいかなぁと…。
更新の度に、ヒトシズクさんの作品もチェックしていますので
お互いにがんばりましょうねっ!!
- 339 名前:tsukiseファンクラブ名誉会長 投稿日:2003年07月03日(木)20時40分20秒
- リ、リアルゲーット!!まこっちゃんりりすぃー…
- 340 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年07月04日(金)18時19分02秒
- うぁぁぁ・・・・
すっごい悲しいけどいいお話。。。もう、泣きまくりっすよ(苦笑。
泣いた後に「友情」って?と考えさせられました。
高橋・新垣・小川・紺野の4人がまた、あたらしい友情に結ばれて、よかったと本気で思いました。
では、次回の更新楽しみにしております!
お互い頑張りましょう(笑。
- 341 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月14日(月)19時56分55秒
- ほぜん
- 342 名前:友達 投稿日:2003年07月16日(水)22時17分35秒
- 「…いくよ、美貴」
「あ、うん。これでこの仕事も終わりだね〜」
「あっ! ま、待ってくださいっ!!」
私達の様子を見ていた松浦さんと藤本さんが、扉から出て行こうとしたところで
私は慌てて立ち上がって、呼び止めていた。
だって…、訊きたい事がたくさんあったから…。
「なに〜?」
返事を返して振り返ったのは藤本さん。
松浦さんは、そのまま出て行こうとしていたみたいだけど、藤本さんにつられるみたいに
振り返ったんだ。
「あの…訊いてもいいですか? あなた達の事…。それに今回の事…」
私が問うと、藤本さんが数歩前に進み出た。
さっきまでの冷たい雰囲気はない。
ただ…とらえどころのない笑みで、敵なのか味方なのか、危険なのかそうでないのか
まったくわからない感じがしていた。
「知らないほうが、いい事だってあるんだよ?」
「そ、それでも…知りたいんです…」
戸惑いながらそう言うと、藤本さんは心底不思議そうに首を傾げて、それから松浦さんに
視線を送った。
それを受けた松浦さんが、今度は私の前に立つ。
みんなが…ただじっと見ていた。
- 343 名前:友達 投稿日:2003年07月16日(水)22時18分12秒
- 「アタシ達は…、この学校の関係者に雇われた…探偵みたいなものよ」
「探偵…さん?」
「そう、この学校に裏口入学の事実があったかを確かめるためにね」
言われた瞬間、後ろで里沙ちゃんが小さく声を上げたのがわかった。
それだけですべてが判った。
なんで松浦さん達が、私達の関係を知りたがっていたのか。
藤本さんが、あんなに愛ちゃんの噂を気にしていたのか…。
すべて…今の事実を確かめるために…。
じゃ、じゃあ…。
「こ、この事を…、伝えてしまうんですか…?」
「…………」
「亜弥…」
藤本さんも、不安げに尋ねる。
多分、その様子からいつも主導権を握っているのは、松浦さんなんだ。
「………伝えるよ」
「え…っ」
その答えに、続けて私は言葉を言おうとしたけど、それより早く松浦さんは
背を向けて歩き出して、こういったんだ。
「『裏口入学の事実なんて、なかった』ってね……」
「あ…」
「行くよ、美貴」
「あはっ、はいはい〜」
- 344 名前:友達 投稿日:2003年07月16日(水)22時18分52秒
- 扉の向こうに消えていく瞬間、藤本さんが私達に向かって軽くウインクをしていた。
『大丈夫だから』…そんな言葉を伝えるみたいに。
それを見て、やっと…私はその場にへなへなと座り込んだんだ。
「あ、あさ美ちゃんっ!?」
駆け寄ってきてくれたのは、まこっちゃん。
凄く心配そうな顔をして、抱きとめてくれてる。
なんだか、その表情がとっても可笑しくて頬が緩んでしまったっけ。
「ははぁ…っ、どうしたんだろ…なんか、急に力が抜けちゃった…」
「あさ美ちゃん…」
「ほんとはさ、何もかもダメになっちゃうんじゃないかって心配してたんだ。愛ちゃん達も、
私達の関係も。でも…良かったぁ…」
「あさ美ちゃん、頑張ったもんね」
「ううん、そんなことないよ。みんなが、ほんのちょっと優しくなれたからだよ…きっと」
目の前のまこっちゃんは、私の頭を撫でてくれた。
幼い子供をあやすみたいな、そんな仕草だったけど、とても心地よかった。
この時、もう午後の授業を知らせるチャイムは鳴っていたんだけど私達の耳には
届いていなかったんだ。
当然、授業に遅れた私達は先生に大目玉を貰ってしまうことになったっけ…。
そして…その授業から――――松浦さんと藤本さんの姿は、もうなかった…。
- 345 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時19分37秒
- 亜弥・美貴への通信を終えると、アタシは小型スピーカーをポケットに突っ込んで
部屋を後にした。
通信した内容は、高橋愛と新垣里沙が同じ施設にいたという裏づけと、その時の
様子が記された資料の一部。
きっと、これで亜弥達の仕事は終わっただろう。
そして…アタシはもう1つの仕事を終えるためにある場所に向かう。
それは、昨日単独で片付けた石川梨華の依頼。
報告は多分、ターゲットだった吉澤ひとみからもう受けてると思うけど、報酬の
受け渡しがまだだったから。
本当は、そんなモノどうでもいいんだけど。
街の交差点を、人の波に乗って歩いていく。
と、その時、1つの店のショーケースが目に留まった。
中にはマネキンが色とりどりの衣装を身にまとって飾られている。
そういえば…もう春が近いんだ。
肌に当たる風がもう柔らかく、それを教えてくれている。
なのに、アタシはそぐわぬ黒一色。
立場上当然の格好なのかもしれないけど…。
- 346 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時20分17秒
- たまに…思うんだ。
普通の人間として、普通の家庭に生まれ育っていたなら、どうなっていただろう、と。
何が普通なのかは判らないけれど、少なくともこんな血にまみれるような体験はしない。
きっと、服装に気をつかい、人との出逢いを楽しみ…。
「…行こう」
そんなコトを考える自分が可笑しく思えて、足早にアタシは歩き出した。
ありえない―――、そう強く思ったから。
…何故か…身にまとった黒のコートが重かった。
- 347 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時20分57秒
- カランカラン…
指定された喫茶店は2度目だけど、やっぱりどこか場違いな気分だった。
それでも店員はアタシの顔を覚えていたのか、軽く会釈して窓際の席を促したんだ。
その視線の先には、軽く手を上げている石川梨華。
席に着くと、幾分柔らかい表情をしている彼女。
理由は判ってる。
…この仕事が成功したから。
「今回は、ありがとう」
「別に…。その様子だと、上手くいったみたいだね」
「うん…っ。あ、それで、これが報酬のお金」
「報酬はいらない」
「え…っ?」
「けど…代わりに教えて欲しいコトがあるの」
「な、なに?」
差し出した封筒とアタシを見比べて、それから緊張した面持ちで訊ねてきた。
そう…アタシには、報酬なんてどうでも良かった。
それよりも、訊きたいことがあったから。
それは…理解できない、二人のキモチ。
- 348 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時21分32秒
- 「吉澤ひとみを…どう思う?」
「え? どうって…?」
「…昨日、あなたに逢いに行かなかった?」
「あ、うん…来てくれたよ」
思い出したのか、彼女は嬉しそうに微笑む。
「その時、どう思った?」
「え…? あ…、凄く嬉しかったよ。まさか逢いに来てくれるなんて思わなかったから」
「逢いに来るはずがないと思っていたから、だから嬉しかった?」
アタシのそんな問いに、彼女は静かに首を振った。
それから、正面からアタシを見据えて…やっぱり笑顔でいったんだ。
「ひとみちゃんだから…ひとみちゃんが来てくれたから嬉しかった」
「…………」
「凄く逢いたいって、思ってた。だから…嬉しかったんだと思う」
「…そう」
「あなたにはないの? そんな風に逢いたいって思う人が」
切り替えして問われた言葉に、一瞬詰まってしまう。
逢いたい…人。
そんな人、いるワケ…。
言いかけて、脳裏によぎる1人の少女。
真っ直ぐな瞳で私を見ていた。ちょっと頼りないカンジがしてて…でも自分を強く
持っていた…そんなあのコが。
- 349 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時22分08秒
- 逢い…たいの? 私は、あのコに…。
なんで? あんなにも、理解できないキモチにさせられるのに?
「わかんない」
「え…?」
気づいたら、そう答えていた。
それからまた蘇ってくる、苛立ちにも似たキモチ。
「逢いたいかなんて、わかんない。ただ…イライラする」
「イライラ?」
「あのコの事を考えると、今まで感じたこともない感覚がして…そんな自分にイライラする」
「そう…なんだ」
石川梨華は、一度意外そうな表情でアタシを見て、それからニッコリ笑ったんだ。
柔らかな、包み込むみたいな瞳で。
「そのイライラは、決して悪い事じゃないと思う」
「?」
「自分の中で、納得しようとしてるんだよ」
「何を?」
「それは……私が言うことじゃないと思う。自分で気づかなきゃ」
「…ワケわかんない…」
プイっと顔を窓の外へと背けた。
アタシが知らないコトを、石川梨華は知っている。
だから…アタシは報酬の代わりにそれを教えてもらうつもりだったんだ。
なのに、自分で気づかなくてはならない、なんて言って…。
- 350 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時22分48秒
- 「あなたって不思議な人だね」
「…?」
言われた言葉に顔を戻すと、彼女は紅茶に口をつけて上品に笑った。
「ひとみちゃんから聞いたけど、すっごく強いんだってね。男の人を何人も倒しちゃった
らしいし。それに知識も豊富で、普通の人が判らない事をいっぱい知ってる」
「…………」
「でも…」
一度、口ごもる彼女。
なんだか言葉に困っているみたい。
アタシはゆっくり瞬きをして、話の先を促す。
そしたら、紅茶を皿に置いて言ったんだ。
「あなたは…普通の人が知ってる事をなんにも知らない。気を悪くしないでほしいんだけど…
まるで……『機械』みたい」
「機械…」
何故だろう…。
心のどこかで、言われるような気がしていた。
『機械』という言葉を。
それはきっと、過去からの因縁みたいなモノだったから。
- 351 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時23分28秒
- 『人の心を捨てろ、そんな物は無用の産物だ』
『お前は、人を狩るだけのマシーンなんだ』
『命令だけを聞いていろ、マシーンならマシーンらしくな』
亜弥達と出逢う前、嫌ほど聞いた言葉。
生まれた頃から聞いていれば…忘れられるはずがない。
幼い頃から、軍事訓練だけを施されて。
それだけに適した身体にされて…頭脳を学習させられて…。
そう…気がついた時には、私はただ人を狩るだけの機械になってたんだ。
「…ぇ…、ねぇ…っ」
「…っ。なに?」
「大丈夫? 顔が真っ青だよ?」
言われてアタシは手の甲で、額を拭った。
じめっとした感覚に、アタシは汗をかいていたんだと気づく。
忘れ去りたい過去なのに…忘れ去れない過去なのか…。
- 352 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時24分01秒
- 「…大丈夫。それと、もういい」
「え?」
「アタシが欲しい答えは、アナタからじゃ得られないみたいだから」
そう言って、テーブルの伝票をとって席を立つ。
「あっ、待ってっ!」
「…なに?」
慌てたみたいに呼び止めた彼女に振り返ると、ちょっとホっとしたみたいに笑って
ゆっくりアタシの前に立ったんだ。
「本当に、今回のことはありがとう」
「…仕事だから」
「それと…、あなたのその相手への苛立つ気持ちは、とっても大事なものだよ?」
「?」
「きっと、あなたにとってその子は…かけがえのないモノなのかも。それを知らせる
合図みたいなものかな」
「かけがえのない…モノ?」
「今は判らなくても、いつかきっと判ると思う。……がんばって」
がんばって。
その一言が、あのコといた時に感じた居心地の悪さを蘇らせた。
でも……そんなに不快ではなかったっけ。
- 353 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時24分44秒
- 喫茶店を出ると、ぼんやりと当てもなく歩き出す。
その間も頭の中に浮かぶのは、あのコのコト。
今思えば、アタシにとっては初めて仕事以外に接触した人間だったかもしれない。
しかも二度も逢って…、その二度目は…。
ふと視線を落とすと、自分の腕に巻かれた包帯。
もうキズなんて、とっくに癒えていたけれど、何故かはずすのが躊躇われたんだ。
「…逢いたい…のかな…?」
頼りなさげな瞳が、すぐにでも思い出せる。
透き通るような白い肌で、ふっくらとした頬が特徴的だった。
口調はおっとりしていて…小さくてもアタシの耳には心地良く届いた声。
考えるのは、そんなコトばかり。
「でも…逢わないほうがいい」
だって、アタシは――能力者だから。
普通のヒトとは相容れぬモノ。深く関わりをもってはいけないんだ。
- 354 名前:機械 投稿日:2003年07月16日(水)22時25分46秒
- それでも…気がついたら、アタシはあの場所に向かっていたんだ。
初めてあのコと出逢った、あの場所に。
「神なんて信じてないけど…さ」
思わず苦笑してしまう。
だって、こうしてこの場所のベンチに座るのは…結局、あのコに逢いたいから。
判ってしまったんだ。
どれだけ、理解できないキモチにさせられても…あのコにアタシは逢いたがってるんだって。
- 355 名前:tsukise 投稿日:2003年07月16日(水)22時31分52秒
- >>342-354
今回、更新はここまでです。
…ビミョーに気だるい感じてせすね…次回は紺野を巻き込んでバトルへ…
の予定です(^^ゞ
>>339 tsukiseファンクラブ名誉会長さん
ファ、ファンクラブっ!(驚
うぁ〜…嬉しいような、恥かしいような…ありがとうございますっ
小川は結構、これからも紺野と絡んで頻繁に出す予定だったり♪
続けて読んでくだされば嬉しいですっ
>>340 ヒトシズクさん
結構友情モノって、ダラダラと停滞しちゃうトコロだったりして
心配だったんですが、ご感想に少しホっとしてたり(^^ゞ
やっぱり、このメンバーには仲良くしてもらいたいという
個人的な感情が入ってしまいましたです(^^ゞ
>>341 名無しさん
保全、ありがとうございますっ。
遅れ気味で申し訳ないです…っ(・・;)
- 356 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年07月16日(水)22時52分55秒
- おぉぉぉ〜!!!!
と、叫んでしまいました(笑。
とうとう!ですね^^
そして、松浦さんの意外な優しさ(?)が、何故かすごく爽やかに感じました!
あの4人が、また1つになったことをようやく実感し、この関係が今後、壊れなければ
いいなぁーと、思いました^^
では、次回の更新楽しみにしております!!!
頑張ってください、応援しております♪
- 357 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月16日(水)23時07分46秒
- あやや、いいやつだ...
そして次回は紺野を巻き込んでのバトルですか!?
紺野の力が明らかになるんですか!?
楽しみにしてます、がんばってください!!
- 358 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時02分47秒
- すべての授業が終わると、みんながみんな、それぞれに今後の予定に頬をほころばせて
カバンを手に教室を去っていく。
そんな中、私はまこっちゃんと愛ちゃん、そして里沙ちゃんと一緒にいたんだ。
「ねぇ、これから駅前のマックに寄り道していかない?」
提案してくれたのは、まこっちゃん。
こうして私達の間で、ムードメーカーになってくれてるんだ、いつも。
でも、それに愛ちゃんと里沙ちゃんが申し訳ない顔をした。
「ごめん、今日は……里沙ちゃんと帰りたいんだ」
「ほんと、ごめんだけど…」
愛ちゃんに続いて里沙ちゃんがオーバーなくらい、眉をハの字にして謝る。
そっか…そうだよね…。
やっと二人とも、本当に仲良しさんになれたんだもんね…。
まこっちゃんもすぐに判ったのか、ニッコリ笑って軽く両手を振ったんだ。
「そんな謝んないでよ〜。いいよ? じゃあ、この次は一緒に行こうね?」
「うん、麻琴ありがとう」
「でも、今度はあたし達ともラブラブしてよ〜?」
「も〜まこっちゃんってば〜」
- 359 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時03分36秒
- やっぱり、まこっちゃんって凄いと思う。
だって、こうやって冗談めかして場を和ましたりしてくれて…。
結構、私もみんなも、まこっちゃんに救われてるのかもしれないって思ったんだ。
それから、何度もこっちを気にしながら、愛ちゃんと里沙ちゃんは教室を出て行ったんだ。
ここらへんが、すっごく責任感が強い愛ちゃん達らしいなぁって思ってしまったっけ。
「じゃあ…あたし達も帰ろっか?」
「あ、うん」
そのまま、まこっちゃんが私の手をとって、教室を後にする。
「でも、ほんと良かったね」
「え?」
「愛ちゃんと里沙ちゃん」
「あ、うん…っ」
帰り道、まこっちゃんがそう言ってきて、私も頷いた。
心のどこかでは、ほんとにもうダメなんじゃないかって思ってた。
だって、ずっとずっと里沙ちゃんは愛ちゃんの事を…その…良く思ってなかったみたいだったから。
でも、ちゃんと判りあえた。
きっと、今頃一緒に仲良く今までの事とかしゃべってるはずだし。
- 360 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時04分14秒
- 「…あさ美ちゃんが、頑張ったからね」
「そ、そんなこんないよぉっ、だって、助けてくれたのはまこっちゃんだし…藤本さん達だって…」
「あさ美ちゃん」
「え…?」
突然声色がかわったまこっちゃんに顔を向けると、立ち止まってちょっと真剣な目で私を見てたんだ。
私もつられて立ち止まってしまう。
「あさ美ちゃんはさ、すっごく頑張ってると思う」
「まこっちゃん…?」
「もっと自信を持ちなよ。せっかく頑張ってるのに、いつもそれが誰かの影に隠れちゃってるよ」
「そ、そうかな…? でも、別にそれでもいいと思って…」
「よくないよっ」
いきなり張り上げられた声に、びくんと身体が震えた。
それからまこっちゃんをみると、俯いて肩を震わせていて…すごく怒ってたんだ。
「まこっちゃん…?」
「あたしは…っ、心配なんだよ…っ」
「え…?」
「あさ美ちゃんは、ドジでぼーっとしてて、人の話をあんまし聞かなくてトロい時があって…」
「えーと…?」
- 361 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時04分55秒
- 言いたいことが判らなくて、困ったみたいに笑ってしまう。
でも、まこっちゃんは凄く真剣に続けてこういったんだ。
「でもっ! 人一倍頑張ってる…っ! なのに…いつだって誰かの為に無茶ばっかりして」
「まこっちゃん…」
「いつか…あさ美ちゃんが、誰かの為に大変な目に逢っちゃうんじゃないかって…そんな
気持ちになっちゃうんだよ…っ」
心配…してくれてるんだ…。
すごく嬉しかった。
こんなにも、私の事を考えてくれる友達がいるって判って。
いつだって…私は一人だったから…。
……今は、違うんだって確信に似た気持ちが胸にこみ上げてきて…。
「大丈夫だよ、まこっちゃん」
「あさ美ちゃん…」
すっごく心配気に私を見ているまこっちゃんの手をとって、私は笑って見せた。
「私、そんなにいい人なんかじゃないよ? 自分だって大切だし」
「じゃあ、約束して?」
「え…?」
「自分を辛い目に逢わせてまで、誰かを助けようと思わないで」
「まこっちゃん…」
真剣だった。
ゆっくりと、差し出された右手の小指が震えていた。
きっとまこっちゃんなりの、私への精一杯の気遣い。
「…うん、約束するよ」
それに自分の小指を絡ませて、微笑む。
まこっちゃんはホっとしてくれたみたいで、やっと笑い返してくれたんだ。
「よしっ。じゃあ、もし何かあったら、真っ先にアタシに連絡してねっ!」
「…うんっ」
この約束が…まさか、まこっちゃんを苦しめてしまうなんて、私には全然判ってなかったんだ…。
- 362 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時05分40秒
- それから、ちょうどまこっちゃんの家と私の家との別れ道で別れてから。
ゆっくり、今日の事を考えながら家路を歩いていたんだ。
たくさんの事があった。昨日の夜から。
愛ちゃんの電話、事件。そして里沙ちゃんとの和解。
藤本さん達の意外な事実…。
でも…それでも一番強く残っているのは…何故かあの人にもう一度あった事。
そして今になって浮かび上がる、いくつもの疑問。
どうして、あそこにいたのか。
どうして、あんなにも深い傷をおっていたのか…。
…大丈夫…なのか。
「神様が本当にいればなぁ…」
もう一度逢わせてくださいって、お願いするのに。
その時、ふと思ったんだ。
初めて出会ったあの公園。
私を助けてくれた、あの場所。
もし…あの近くに、あの人が住んでいるなら、また逢えるかもしれないって。
- 363 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時06分11秒
- 「…っ」
思い始めたらとまらなかった。
もう私の足は、あの公園に向かって歩き始めていて…。
ただ、本当に逢いたかった。
友達に逢おうっていうのとは、また別の気持ちで。
この気持ちがどういうものなのか、まだちゃんとはわからないけど…なんとなくわかる。
多分…まこっちゃんや、愛ちゃん達に持っているものとは全然違うもの。
ほら、今こうして足早歩いているのが…胸を強く打つ鼓動がその証拠。
同性なのに、そんな気持ちがあるのかは判らなかったけど、否定できないこの気持ちは
どうしようもないんだ。
そして、公園の入り口に着いたとき…今までで一番鼓動が跳ね上がったんだ。
だって…視線のまっすぐ先のベンチに…
あの人が座っていたから。
- 364 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時06分52秒
- 信じられなかった。
まさか、こんなコトが起こるなんて…。
だってそうでしょ?
公園の入り口付近に…視界の先に、逢いたかった…彼女の姿があったんだから。
アタシの姿を見つけた彼女は、嬉しそうに…本当に嬉しそうにアタシに歩み寄ってくる。
ただ、アタシはそれをじっと見つめるコトしかできなかった。
あまりにも…驚いてしまって…。
「あの…っ、と、隣、いいですか?」
目の前に来て、声をかけられたコトにも気づかなかった。
それだけ…現実感がなかったんだ。
「えっと…あの…?」
それでも、困ったみたいな泣き出しそうな表情に我に返って曖昧に頷く。
「あ…うん……」
「…良かった…」
たった、それだけのコトなのに彼女は心底嬉しそうな顔をする。
その表情に、またあのイラ立ちが蘇ってきた気がした。
なんで?
石川梨華には感じなかったのに、彼女だけ…?
『合図』…石川梨華は、そう言っていた。
でも、どんな? かけがえのないものって何?
- 365 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時07分32秒
- 「あ、あのっ」
「……なに?」
呼びかけられた言葉に、思考が停止する。
全神経が、彼女に集中している。嫌でもわかった。
「け、怪我は大丈夫ですか?」
心配…していたんだ?
その瞳が頼りなさげに伏せられている。
何故か…胸が鳴った。
「…平気。なんともない」
「そうですか…? でも、血が滲んでますよ?」
「? あぁ…もう止まってるから」
「も、もしかして、昨日から包帯替えてないんですか?」
「うん」
「ダ、ダメですよっ、ちゃんと綺麗にしないとばい菌が…っ」
どこか必死になる彼女が…可笑しかった。
そのままカバンを漁って、何かを探し始める彼女。
しばらくして出てきたのは、消毒液と包帯とガーゼ。
…いつも、もち歩いているのだろうか?
- 366 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時08分16秒
- 「傷口、見せてください」
「や…、ホントにもう大丈夫だから」
「ダメです、大変な事になってからでは遅いんですよ?」
「あ…」
制止するアタシに構わず、彼女がゆっくりとアタシの腕をとって包帯を外しに掛かる。
昨日と違って、どこか強気な彼女にアタシはただ戸惑った。
そして気づく。
……触れられているのに、拒むキモチが起こらない。
それどころか、触れられているのに……安心してる?
どうして…?
「…あれ?」
包帯を外した彼女の、ちょっと驚いた声にアタシは視線を腕に向ける。
能力者としては当然だけど、キズはもうなかった。
そのコトが不思議だったんだろう、彼女はペタペタとアタシの腕を触り続けてる。
「……くすぐったいんだけど?」
「あっ、ごめんなさいっ。で、でも…怪我が…」
「だから、なんともないって言ったじゃん」
「…………」
呆けてしまっている彼女。
当たり前かもね。
あんなにも深手だったのに、次の日にはキズ1つなくなってるんだから。
- 367 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時09分06秒
- …気味悪い――化け物。
言われる言葉を考えて、アタシはそっぽを向く。
けど…。
彼女から返ってきた言葉は、違ったんだ。
「良かったぁ…」
…え…?
一瞬、言われた言葉がわからなくて彼女の顔を見つめる。
そしたら、にっこり笑ってたんだ。
そこに含まれていたのは、純粋な安心の気持ち。
「私、心配してたんです。もっと酷いことになってたらどうしようって。だからもし出逢えたらの
時を考えて、いつもは持ったりしない包帯とか持ち歩いて…あぁ、本当に良かった…」
正直…、嬉し…かった。
アタシのコトを彼女が心配していたというコトが。
「…そう……」
「はい…っ」
それでも、戸惑うキモチの方が大きくて、曖昧に返事をするしかできなかった。
でも…、代わらず彼女は笑ってくれたんだ。
- 368 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時09分57秒
- 「また…」
「?」
「また、逢えましたね」
汚れた包帯をカバンにしまいながら言う彼女。
やっぱり…彼女も覚えていたんだ。昨日の言葉。
『神様の導きなら』、そう言ったアタシの言葉を。
「私、神様ってあんまり信じたりしないんです。でも…今回ばかりは信じちゃいましたよ」
「…そう…」
「そう、なんです。もう、これは…その…」
「運命、かも?」
「そんなストレートに…って、えっ!?」
彼女の言葉を続けて言うと、面白いぐらいに彼女は驚いて見せた。
それから、顔を真っ赤にして口をパクパクしてしまっている。
「フッ…」
「あ…、わ、笑わないでくださいよぉ…うぅ…」
不思議だった。
だって、今アタシは笑ってるんだから。
今までなら、ありえないのに。
それでも…イヤなカンジはしなかったっけ…。
あのイラ立ちも…今はないし。
- 369 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時10分36秒
- 「あっ、あのっ」
「…なに?」
「名前…訊いてもいいですか?」
名前…。
そういえば、言ってなかった。
それに…彼女の名前も知らない。
「アタシは…後藤真希」
「後藤…真希さん」
「そう」
かみ締めるみたいに、俯いて呟く彼女。
それからパッと顔を上げて、微笑みかけてきたんだ。
柔らかい笑顔で。
「とってもいい名前ですね」
初めて言われた。そんなコト。
だからかもしれないけど、胸の奥でトクンと大きな音がした気がした。
名前なんて、自分を相手に認識させる、ただそれだけのモノだと思っていたから。
- 370 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時11分15秒
- 「…アンタは?」
ごく自然に訊いていた。
自分でも驚くぐらい。
だって、アタシが名前を覚えるなんて仕事上の事や、自分に利と思える人物しかないから。
けど、知りたいと思った。
彼女のコトを、少しでも。
「あっ、私はですね…」
「…見つけた」
声は、別の場所からした。
そう、ちょうどこの公園の入り口付近から。
途端にアタシの神経は研ぎ澄まされて、すぐに視線を向ける。
そこにいたのは、2人の女。
一人は穏やかな笑みを浮かべているけど…その目はこちらを捉えて離さない。
そして、もう一人は金髪で小柄なコ。おどけたみたいに頭の後ろに手を組んでいる。
一瞬で、アタシには判った。
――――敵だ、って。
- 371 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時11分56秒
- 「…なんか用?」
アタシが自然と立ち上がって、まだよくわからないって顔をして困っている彼女の前に立つ。
すると、小柄の女の方がニヤニヤと笑いながら歩み寄ってきたんだ。
「アンタに用はないんだよねー」
「?」
「どっちかっつーと、用があるのは後ろのカワイコちゃん」
「え…? 私、ですか?」
呼ばれた彼女は、戸惑ったみたいに自分を指差してゆっくり立ち上がった。
小柄の女は「そうそう♪」なんて言いながら、アタシをすり抜けようとする。
…けど、自然とアタシは立ちふさがっていた。
危険だ―――、本能的にそれを感じ取ったから。
「用ならアタシが聞くよ」
「だーかーらー、アンタには用はないんだってぇ」
「ヤグチ」
「わかってるよー、けどなんかしつこそうだもん、このコ」
不機嫌を露にした『ヤグチ』と呼ばれた女が、後ろに振り返ってもう一人に言う。
やれやれって、困ったように笑いながら近づいてくるその女は、あくまでも温和な空気をくずさない。
- 372 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時12分30秒
- 「あのさ、あんまし関係ない人を巻き込みたくないんだ? 判ってくれないかな?」
本当に申し訳なさそうに言うけど、アタシの中の警告音を消えない。
こんな時のアタシの勘は、絶対にはずれたりなんかしないんだ。
「悪いけど、そうもいかない。アタシもまだこのコには用があるから」
「え? そうなんですか?」
後ろでそんな素っ頓狂な声が聞こえたけど、この際おいておく。
「どうしても?」
「どうしても」
困ったみたいに、もう一度笑う女。
その間も、脳内では目まぐるしくアタシはこの後の展開を計算しはじめる。
…来る? なら、今この状況は不利かもしれない。
相手の力量が読めない分、彼女を守りながら戦うなんて…。
…待って。
なんで…『守る』?
どうして…彼女を守らなくてはならない?
- 373 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時13分14秒
- 「? なっち?」
思考を止めたのは、ヤグチと呼ばれた女の声。
多分、『なっち』とは後ろの女のことなんだろう。
その呼びかけに、「あぁ」なんて言いながら、笑っていたから。
「なに、笑ってんの?」
眉をしかめて問いかけると、「ごめんごめん」って言いながらまた笑った。
「面白いコだなぁって」
「面白い…?」
「だってあなた、なんでその子を守りたいのか判ってないんでしょ?」
「!?」
言われた言葉に驚いた。
それは今まさに考えていたコトだったから。
まさか…、この女…
「その、まさか。人の心が読めちゃうんだ。後藤真希さん?」
「…っ」
信じられないことだけど、全ての言葉がそれを証明している。
アタシと形は違えど、同じ能力者…っ。
途端に、アタシの脳内は全ての思考を停止する。
どれだけ考えても…彼女には勝てないだろうから。
- 374 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時13分45秒
- 「そうなるね、あなたは勝てないよ」
「……。でも、それでも彼女を渡すワケにはいかない」
「どうして?」
「『危険』だと思うから」
「そうかな? じゃあ、訊くけど…」
言いながら、彼女は一歩前に出てアタシの後ろに視線を投げかけた。
「そのコが『紺野あさ美』なんだって言っても?」
紺野…あさ美…?
…っ!?
まさか、そんな…っ
振り返ると、きょとんとしてアタシ達を見ている彼女。
それでもアタシの視線に気づいて、
「あ、はい、紺野あさ美です」
そう言ったんだ。
それだけで、全てを理解する。
――――超A級の能力者。
――――まだ目覚めていなくて、追っ手がかかっている。
このコが…?本当に…?
- 375 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時14分31秒
- 「…そんな子が、あなたと一緒にいていいのかな?」
「く…」
確かに…。
このコにも、そしてアタシにも危険が及ぶのは必至だ…。
でも、だからといって…
「追っ手のアンタ達に任せたとして、どうにかなるの?」
「そうだね。でも少なくとも、その子が危険に逢う確率は減るよ?」
あくまで口調は変わらずに話す女に、思わず歯噛みしてしまう。
だって、それは正論だから。
多分、その口ぶりから見て後ろには大きな組織がある。
それに比べてアタシには、亜弥と美貴の二人だけ…。
そう…アタシといて、彼女は危険から解放されるなんて保障はどこにもない。
きっと、逆だ。
でも…。
「紺野」
「は、はいっ!?」
ゆっくり振り返って、初めて彼女の名を呼ぶ。
いきなり名前を呼ばれて驚いたのか、紺野は瞬きを何回がした。
- 376 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時15分18秒
- 「アタシを…信じてくれる?」
「え…?」
単なるアタシのエゴだ。
そんな状況でも彼女を…紺野を渡したくないという。
「ちょっとぉ〜、オイラ達は無視なワケ〜?」
「ヤグチ、いいから」
「だってさぁ…。別に取って食べたりなんかしないのにぃ…」
その声に、紺野は困ったみたいにアタシ達を見比べた。
それから、頼りなさげにアタシの顔を見て…いったんだ。
「後藤さんは…私を助けてくれました…だから…」
「信じます」
何故だろう…。
言われた瞬間、凄く力が溢れ返ってくるように感じたんだ。
多分、『勇気が湧く』ってこんなカンジ。
- 377 名前:機械 投稿日:2003年07月18日(金)17時15分52秒
- 「交渉決裂…かな?」
なっちと呼ばれた女が、残念そうに笑った。
それが、少し寂しそうにも見えた…気がする。
でも、次の瞬間。
「ヤグチ」
鋭い声が響き渡った。
「あいよ」
返事を返した『ヤグチ』は、一度ペロっと唇を舐めると、一気にアタシとの間合いを詰めてきた。
「!?」
「アンタ、スピード重視型?」
「なによ、ソレ…っ」
言いながら、アタシは『ヤグチ』から突き出された拳をかわして、紺野の腕をとる。
「あ…っ!」
「アタシから離れないで。いい?」
「は、はいっ」
紺野は素直に頷くと、アタシの手を力強く握り返してきた。
この手は…離さない。
自分に言い聞かせて、二人と対峙する。
- 378 名前:tsukise 投稿日:2003年07月18日(金)17時20分43秒
- >>358-377
今回更新はここまでです。
ごっちんが黒髪に戻していた事に、ビックリ!(^^ゞ
似合って…る…んでいいんですが(^^ゞ
>>356 ヒトシズクさん
松浦さんの意外な優しさ、よかったでしょうか♪
とりあえず、あんまり冷たいヒトにはしたくなかったんで(^^ゞ
そして、ついにっ!紺野さんの話に…っ!
書くほうも楽しかったりして(^^ゞ
>>357 名無しさん
松浦さん、さりげにいい人を演出してみたり、です(^^ゞ
紺野を巻き込んでのバトルは、次回になってしまいましたけど
続けて読んで下さるとうれしいですっ
- 379 名前:tsukiseファンクラブ名誉会長 投稿日:2003年07月18日(金)17時27分54秒
- 更新速度上がっていて感謝です。紺野さん守る後藤さんイイ!
黒髪にしたんですか?一昨年の春以来ですね…。ドラマかな?
リアルゲッツ!頑張ってください。
- 380 名前:つみ 投稿日:2003年07月18日(金)18時02分18秒
- 今、この小説が一番の注目作品ですね。
紺野の能力も楽しみです。
- 381 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年07月18日(金)22時30分12秒
- おぉぉぉ〜!!!
遂に紺野さんのお話突入っすね^^
新しい2人組みも登場して早くもソワソワしてしまいますねぇ〜
紺ちゃんを守るごっちん、カッケーっすね^^v
黒髪にしていたんですねぇ〜、このお話のイメージに合ってますね♪
では、次回の更新を楽しみにしております♪
がんばってください!
- 382 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月18日(金)22時33分53秒
- 前作から読ませて頂いてます。
話も少しずつ動き出してきましたね〜。
なっち&矢口コンビが敵側ですか。
当に強敵って感じでいい感じにはまってる感じがします。
続きに激しく期待しております!!
- 383 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月19日(土)00時12分06秒
- いやー、盛り上がってきましたねー!
- 384 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時43分13秒
- 少しずつ…間合いを取っていく。
紺野をその背に隠して。
分は、明らかにアタシの方が悪かった。
でも、だからといって、すべてを放り出すワケにはいかない。
「実践慣れは、してる方なんだ?」
ヤグチが腰に手をついて感心するように笑った。
…妙に鼻につく言い方だけど、この際無視する。
ここで、何かを考えるのは相手の思うツボだから。
そう、じっとアタシを捉えている『なっち』の。
「じゃー…、お手並み拝見と行こうかな?アンタが何モンなのか判んないし」
ピョンピョン、と二度その場で軽く弾んでから―――ヤグチが地を蹴った。
予想していたよりも、速い…っ。
アタシは来るであろう攻撃を、受けるために構える。
刹那、
バシィッ!!
その身体に見合わないくらいの強い拳が、アタシのガードした腕に打たれた。
- 385 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時43分55秒
- 「くッ!」
わずかにバランスが崩れる。
一瞬生まれたそのスキを見逃すはずがなく、ヤグチが続けざまに回し蹴りを放ってきた。
が、大振りな上に体格のせいで浅いその攻撃を、紺野の身体を支えながら後ろへ跳んで避ける。
当然、ガラあきになったヤグチの背中に、アタシは手刀を入れてやった。
「あいてっ!」
張り詰める空気には、似つかわしくない情けない声を上げてヤグチはよろめく。
「なんだよ〜…、コイツ結構強いかもじゃん…っ」
背中を押さえながら抗議するけど、ダメージは少ないだろう。
だって、今のアタシは紺野を庇っていて、十分に力を発揮できる状態でないから。
「しょーがないなぁ…時間ももったいないし、なっちみたくオイラも力、使っちゃうかな?」
ニヤリと笑った姿に、ゾクリとした。
獲物を狩る、ケモノのような瞳だったから。
「後藤さん…」
「大丈夫、心配いらないから」
背後から不安げな声をあげる紺野に、声だけで返事する。
絶対、守り通す。そのキモチだけで。
- 386 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時44分42秒
- 「いくよッ!」
言って再びヤグチが地を蹴る。
そしてアタシは、軌道を読んで避けるように右に―――
「ヤグチ、右に!」
「!?」
「あいよっ!!」
遮られたのは、『なっち』の言葉。
くッ、またココロを…っ!
思ったときには遅かった。
紺野に向かってヤグチの手が伸びていたんだ。
「っ!」
「つっかま〜えたっと」
間一髪、紺野を庇うようにしてアタシが腕を差し出したが、その腕をしっかりと掴まれる。
信じられない腕力だった。
「アンタは耐えられるかもしんないケド、後ろのカワイコちゃんはどうかな?」
「なに…?」
「人間ってさぁ、身体の70%が水でできてるんだよね〜?」
「…?」
「ここで問題♪ 水を通す、強いモノってなーんだ?」
- 387 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時45分28秒
- アタシには言ってる意味が判らなかった。
けど…、
「…? 電気ですか?」
後ろでそう言ったのは紺野。
その声にハッとする。
電気…!?
アタシは耐えれるかもしれないけど、紺野がどうかはわからない!?
それって…っ!!
「ピンポーン!」
ヤグチの瞳が黄色に変色する直前、アタシは繋いでいた紺野の手を離した。
瞬間、全身を衝撃が走る。
ビシィィィッ!!
「んあぁぁっ!!」
凄まじい騒音。
激しく痙攣する身体。
つかまれた腕の部分から、白い煙と電光がほとばしっているのがわかった。
気が遠くなるような感覚が断続的に襲ってきて、視界は定まらずに霞がかり…。
- 388 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時46分13秒
- 「…!」
「後藤さんっ!!」
数秒間の放電のあとヤグチが手を離し、アタシは立っていられずガックリと片膝をついた。
たとえ、身体を鍛えていたとしても、アタシも生身の人間であることに変わりないんだ。
そんなアタシに、すぐさま紺野が側で膝をついて顔を覗き込んでくる。
「手、離しちゃったか…。でも良く耐えたね〜、初めてだよそんなヤツ。すごいねアンタ」
近くにいるのに遠くで聞こえるヤグチの声に、アタシは荒い息を整えながら気丈に睨みつける。
「く…ッ」
それでも身体のあちこちに襲い掛かってきた痛みに、顔をゆがめてしまう。
思った以上にダメージが大きい。
ヤグチの能力、それはきっと雷系統のモノだ。
今もまだ、その手のひらから電光がほとばしっている…。
く…っ、油断していた。
けど、まだ動ける。試合続行だ。
- 389 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時46分55秒
- 「やめといた方がいいんじゃない?」
そんな風に声をかけてきたのは『なっち』
呆れたみたいな顔からして、またアタシのココロを読んでるんだろう。
だったら…。
…―――だったら、判るでしょ?
「…あくまで、戦うつもりなんだね」
静かに言う『なっち』に、アタシはようやく立ち上がって正面から見据える。
どんな風に映ったのだろう…?
彼女は、また、あの寂しそうな目で溜息をついた。
「ヤグチ、お願い」
「いいの? なっち…」
「…仕事だから」
「……判った」
すぐさま繰り出される拳。
けど、アタシは紺野を引っ張って、それをかわして後退していく。
- 390 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時47分36秒
- 「紺野…っ」
「は、はいっ」
「少しだけ下がってな…っ、すぐ片付くっ」
「だ、大丈夫なんですか?」
「こんな相手、なんともない」
「そうじゃなくて…後藤さんの身体の事です…っ」
こんな時まで、アタシの心配をする紺野に自然と頬が緩むのが判った。
自分の方が大変なクセして…。
「大丈夫」
「…わかりました…」
それでも心配そうに見ながら、アタシから少し離れた位置へとずれていく紺野。
これで、力を出せる。
「言ってくれるねー」
再びヤグチが迫ってくる。
けど、アタシはやっと調子を取り戻して、全ての攻撃を受け流していく。
「やっぱ、アンタスピード重視型だね」
「さっきから、ワケわかんない…っ」
言ってアタシはヤグチの足を払う。
気を取られていたヤグチは「うおっ」なんて声を上げて、地面に倒れた。
続けて拳を落とす。
…が、
「ヤグチ、来るよ!」
『なっち』の声に反応して、それを地面を転がって間一髪かわすヤグチ。
くっ…やり辛い。
- 391 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時48分32秒
- 攻防に次ぐ攻防。
それでも2対1での戦い、それも能力者同士のせいでアタシの形勢が悪くなり始めていた。
肉弾戦と心理戦、二つを制すなんて…ムチャなんだ。
けど…それは起こった。
偶然に――いや、必然だったのかも―――。
「そろそろ、終わりにしよっか?」
「は…?」
「あのコと離れたのが、運のツキだね」
ワケが判らずに問い返すと、ヤグチがニッコリ笑ってそして手を見当違いの方向へ突き出したんだ。
その視線を追って…愕然とした。
「紺野ッ!!」
「え…?」
「逃げて!!」
「遅いよ!」
キョトンとしている紺野に呼びかけたと同時に、ヤグチの腕が光り、差し出された先にいた紺野に
向かって、屈折した稲妻が襲った。
ビシィッ!!
「!?」
紺野の身体がビクン、と軽くその場で跳ねる。
声にならない声。
そして、全身に絡みつくような電光。
「紺野ッ!?」
そして、数秒後…その場に倒れそうになった瞬間、『なっち』が回り込みその身体を支えた。
- 392 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時49分16秒
- 「悪いね、アンタの相手より、あのコを連れて帰るのが最優先事項なんだ」
呆然と立ち尽くしているアタシの前を通り過ぎていくヤグチ。
ただ…それが、壊れた白黒のネガフィルムのようにカクカクとアタシの視界には映った。
「悪く思わないでよね〜」
ドクン…。
鼓動が聞こえる。ハッキリと。
ドクン…。
神経が、これ以上にないくらい研ぎ澄まされてる。
「こ…んの……」
「? なんか言った?」
ドクン… ドクン… ドクン…。
身体が焼けるように熱い…。
「こん…を………せ」
「はぁ? なに〜?」
ドクンッ!
「紺野を、離せ」
―――そこで『アタシ』の意識は、何かによって支配された。
- 393 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時50分06秒
- ドォンッ!!
爆発音が一度その場に大きく響き渡る。
と、同時に爆風が公園内を突き抜けていく。次々と。
――アタシを中心として。
視界の端で木々が悲鳴を上げるみたいに暴れているのが判った。
地面の砂でさえ、土煙となって舞い上がる。
そう…大気全体が揺らいでいたんだ。
「うわッ! な、なんだよッ! これぇッ!?」
側にいたヤグチが顔を覆うようにして、後退していく。
その後ろでは、信じられないものを見るような表情をしている『なっち』。
けど、アタシの視線はただ1つに集中していたんだ。
ぐったりと、『なっち』の腕の中で気を失っている紺野に。
「…紺野を、離せ」
もう一度言って、アタシは腕を突き出す。
そこに…感情なんてなかった。
- 394 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時50分45秒
- スパンッ!
…一瞬。
本当に一瞬の出来事だった。
アタシの腕から放たれた、風の槍が『なっち』の左肩を貫いていたんだ。
「え…?」
何が起こったのか判っていない様子で『なっち』は呆然と目を見開き…そしてその肩に
視線を落とし―――絶叫した。
「あぁぁッ!!」
「なっちッ!?」
ヤグチが焦った声を上げて、『なっち』へと駆け寄っていく。
…が、アタシはそれを読んでいた。
「行かせない」
「!? ど、どけよッ!」
目の前に素早く移動すると、その道を塞ぐ。
当然、ヤグチは拳を振り上げてくる。
それを、あたしは受ける必要もなく、ことごとくかわしていく。
- 395 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時51分34秒
- 「アンタ…ッ! さっきと全然…ッ」
恐怖が見えた。
ヤグチのその表情に。
でも――アタシは何も感じない。
ただ、頭にあったのは『殺らなければ』という強固な意志だけ。
「くッ!!」
大振りに振り上げられる拳。
当然、それをかわす。
そして、生まれたスキをついて…アタシは渾身の力を込めてその脇腹に拳を叩き込んだ。
バキッ!!
「ぐぅッ!! うぅ…ぁ…ッ」
これほどまでに凄い音がするのかというような音を立てて、ヤグチはその場に呻いて沈んだ。
それを静かに見下ろす。
「ぐ…ぁ…ッ…ぅ…ッ」
…しばらくは動けないだろう。
確認するようにして、アタシは紺野の元へと歩いていく。
- 396 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時52分27秒
- 全身を包む風のオーラはとどまる事を知らず、まだ荒れ狂っている。
けど、そんなコトは全然気にならなかった。
ただ、紺野が無事なら、なにもかもがどうでも良かったんだ。
「う、動かないでッ!」
「…………」
一瞬、その場で立ち止まった。
『なっち』が血を流している左手で紺野を支えたまま、腰元から銃のようなモノを取り出して、
アタシに向けたんだ。
けど…その手は、震えている。
それが、ケガの痛みからくるモノなのか、はたまた別の理由なのか、どっちにしろそんな
状態でアタシを打つなんて到底ムリだろう。
アタシは冷静に、ゆっくりとまた歩き出した。決して慌てたりしない。
理由は明らかだから。
「アンタは勝てないよ」
そうだった。
この状態で、どうにかなるモノなら、必死にあがいて証明してほしいぐらい。
- 397 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時53分10秒
- 「…紺野を、離せ」
「く…っ」
目の前に立ち、もう一度だけ言って、アタシは紺野に向けて手を差し伸ばした。
と、その瞬間。
パンッ!!
乾いた音が響いた。
そして、次にガラス片が飛び散る音。
「あ、あたしは、本気だよ?」
『なっち』が、発砲したんだ。
その弾は照準なんてされてなくて、全くの的外れだったけど、それでもアタシの
瞳を覆っていたサングラスをフッ飛ばしたんだ。
クリアになる視界。
その先には、怯えているのに、その瞳に強い意志をやどらせた『なっち』の姿。
きっと、いつものアタシなら躊躇ったかもしれない。
けど、今のアタシには―――感情がなかった。
- 398 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時53分42秒
- 「…アタシも本気だよ」
紺野に向けていた手を『なっち』の胸元へ向けて、なんの躊躇もなくアタシは力を放った。
ドンッ!
「んぐっ!」
紺野を残して、後ろへと跳ぶ『なっち』の身体。
アタシの力は衝撃波となって、フッ飛ばしていたんだ。
そのまま地面に転がって咳き込んでいるのを見ると…生きているみたいだ。
それを一瞥して、アタシは自分の腕に倒れこんできた紺野に視線を向ける。
…大丈夫、目立ったケガはない。
少しだけ安堵感が広がり、アタシを覆っていたオーラが解けた。
(少しだけ…待ってて)
心の中で呟くと、紺野の身体を抱きかかえて近くのベンチへと連れていった。
そしてもう一度、コートをはためかせて二人に振り返る。
――アイツらを、このままにしておくワケにはいかなかったから…。
- 399 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時54分17秒
- 目の前が暗い…。
気がついて、最初に感じたのはそれだった。
一体…何が起こったんだろう…?
頭の芯が、妙にビリビリしているけど、それは一体なんなんだろう?
考えようとして、自分がまだ目を閉じたままだというのを思い出して、ゆっくりと開いた。
暗い、暗い空が広がっていた。
もう一度、瞬きをしてみる。
景色は変わらなかった。
「う…痛…」
身体を起こすと、頭痛が突然襲ってくる。
どうしてだろう…? 私は、何があったっけ…?
それに、今は何時なんだろう…?
そういえば、後藤さんの姿を見つけて…おしゃべりをしていて…そして。
そう、突然二人の女の人に声をかけられて…。
襲われたんだ…っ。
やっと鮮明に、状況を思い出し始める。
- 400 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時55分01秒
- 『アタシを…信じてくれる?』
そうだ、後藤さんはそう言って私を守ってくれていて…でも、いきなり私は攻撃されて
気を失って…っ!
ご、後藤さんはっ!?
バっと、起き上がって辺りを見渡す。
散々な有様だった。
木々はなぎ倒されていて…街灯の電気さえも割れてしまっていたんだ。
それにだんだん不安が押し寄せてくる。
「後藤さん…? 後藤さんっ!」
呼んでみるけど、返事はない。
もしかして、私を残してどこかへ行ってしまった…?
ううん、そんな筈はないっ。
だって、そんな事をする人じゃない…きっと。
じゃあ、どこに…?
ゆっくりと真っ暗な公園の中を、目を凝らして見てみる。
…と、そこに黒い影が2つ。
- 401 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時55分46秒
- まさか後藤さん…っ?
急いで駆け寄って―――絶句した。
確かに後藤さんがいた。
でも…その目の前では、膝をついてガックリとうな垂れている小柄の女の人がいたんだ。
所々ケガをしているみたいで、動けないみたい。
さっきまででは考えられない光景に、目を白黒させてしまう。
でも…一番驚いたのが、後藤さんの瞳。
サングラスは外されていて、深い緑色に変わっていて…超能力を使ったんだって事を証明していた。
そして…その瞳は無機質で、何も映されてはいないように見えたんだ。
正直…怖いとさえ思った。
その時、気づいたんだ。
小柄な女の人の後ろに、樹にもたれかかるようにして気を失っているもう一人の人がいる事に。
その人も…凄くケガをしているみたいだった。
…まさか…後藤さんが…?
そんな疑問が浮かび上がった、その時。
- 402 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時56分30秒
- 「終わり、だね。―――サヨナラ」
静かに後藤さんは、そう言ったんだ。
なんの感情もこもらない声で。
そして、ゆっくりと腕があげられて、小柄の女の人の頭にかざして…
「…っ!」
気がついたときには、私は駆け出していた。
嫌な予感がしたんだ。
凄く…。
後藤さんの手が淡い緑に輝いていく。
そして、何かを発しようとした瞬間、
「やめてくださいっ! 後藤さん!!」
「!?」
私は両手を広げて、後藤さんと小柄な女の人の間に立ちふさがっていた。
そうしないといけないって思ったから。
何か、とんでもない事を後藤さんはしてしまうような、そんな気がしたから…っ。
- 403 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時57分20秒
- 「紺野…?」
「もう、やめてください…っ。こんなにも酷いケガをしているじゃないですか…っ」
言って、振り返るとぐったりとした表情で女の人が顔をあげたんだ。
その目は、とても苦しそうだった…。
思わず息を飲んでしまう光景。
「けど、殺らなきゃ殺られる」
「っ!? な、なんて事言うんですか…っ」
「アタシ達みたいな人間は、生きるか死ぬかなんだ」
「そんな事ないですっ!!」
「!」
自分でも驚くぐらい、声を張り上げていた。
だって…凄く悲しかったから。
後藤さんの口から、そんな言葉を聞くなんて思ってなかったから。
「なんで、そんな悲しい事を言うんですか…? 後藤さんは間違ってます…っ」
「紺野…?」
「誰も、誰かの命を奪う権利なんてない筈です…っ。こんなの…酷すぎますよ…っ」
「……命を…奪う権利…」
「それに…自分を卑下するような言い方はやめてください…」
「………」
- 404 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時58分13秒
- ぼんやりと焦点のあってない目で私を見ていた後藤さんに、微かな変化があった。
戸惑い――、多分そんな感情だと思う。
何度か瞬きをして、ためらいがちに伸ばされた腕が下がっていったから。
私は、その手を優しく握り締めて、自分の胸元へと持っていく。
触れた瞬間、後藤さんの身体がびくん、と震えていた。
「…わかりますか? 私の心臓の音」
「………うん」
「一生懸命、こうやって動いてる。頑張って生きるために」
伝えたかった、どうしても。
後藤さんに、これから先、こんな悲しいことを考えて欲しくなかったから。
「後藤さん、あなたの中にも同じ鼓動があるんです」
「………うん」
「みんな生きるために、一生懸命なんです。だから…もう悲しいことを言わないでください」
泣きそうになった。
それがどうしてなのかは判らなかったけど、ただ…泣きそうになったんだ。
思わず俯いてしまう。
そしたら…その頬に、ゆっくりと手が添えられたんだ。
- 405 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)20時59分09秒
- 「え…?」
顔を上げると、切なそうに私を見つめている後藤さん。
「…泣かないで」
とても…優しい声だった。
深い深い緑色の瞳は不安定に揺れていて、凄く心配してくれてるんだって判る。
「後藤さん…」
「もう、大丈夫だから。…いつもの『アタシ』だから」
「…………はい」
言ってる意味は良くは判らなかったけど、でもなんとなくだけど判ったんだ。
今、目の前で困ったみたいに笑ってくれてる後藤さんは、さっきの後藤さんとは違うって。
だから…私は、静かに頷いて笑ったんだ。
「…アタシを止めた人間なんて…2人目だよ……」
「え?」
「なんでもない」
呟いた言葉は聞き取れなかった。
- 406 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)21時00分00秒
- それから後藤さんは、小柄な女の人の前に膝をついて目線をあわせたんだ。
「…誰の命令かは知らないけど――紺野には手を出すコトは許さない」
「後藤さん…」
胸が締め付けられるような気持ちだった。
嬉しいような、切ないような。
「く…っ…、アンタは何も判ってない」
苦しそうに、それでもその人は言葉を続けた。
「? どういうコト?」
「そのコの重要性を…。きっとオイラ達より強いヤツが…来るコトになる」
え…っ。
途端に、背中に冷たいものが走った。
胸の鼓動が高鳴り、咽喉の辺りまでどくん、と血液が流れる感覚が伝わるような、
そんな感じさえこみ上げてきて…。
「その時、オイラ達に渡さなかったコト、後悔するよ…」
鋭く見あげられて、私は言葉を失った。
でも…。
- 407 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)21時00分47秒
- 「後悔なんてしない。誰が来ても、紺野は守る」
そう言って、ぎゅっと後藤さんは私の手を握り締めてくれたんだ。
強く。
瞬間、不安な気持ちが嘘のように晴れていくのが判った。
「……せいぜい、頑張ってみな…く…っ」
それだけ告げると、小柄な女の人はヨロヨロと立ち上がって奥の女の人を抱えて
公園を後にした。
「後藤さん…」
呼びかけると、ゆっくり立ち上がって…それからもう一度手を強く握り締めてくれたんだ。
「…紺野、もう一度だけ訊くよ」
「え…? あ、はい」
いきなり何を言うんだろうと思って、首を傾げてしまう。
でも、後藤さんは真剣な表情を崩すことなく、じっと私の目を見つめた。
- 408 名前:機械 投稿日:2003年07月21日(月)21時01分37秒
- 「…アタシを信じてくれる?」
二度目の質問。
きっと、この質問には大きな意味がある。
これから先の私の事とか…後藤さんの事とか…。
でも…私の中では、もう答えは決まっていたんだ。
後藤さんに…助けてもらったあの時から…もう。
「…はい、信じます」
この決断が、本当に私のこれからを大きく揺るがすことになるなんて…予想もできなかったんだ。
- 409 名前:tsukise 投稿日:2003年07月21日(月)21時11分08秒
- >>384-408
今回更新はここまでです。大量すぎな上に…バテてたり…(^^ゞ
もっと突っ込んで書かなきゃならないんですけどね…うぅ…
>>379 tsukiseファンクラブ名誉会長さん
更新速度、微妙な感じですが、この調子で続け…たいです(^^ゞ
ごっちんはこれからも、紺野を守って奮闘してもらう予定ですっ!
黒髪なごっちん、ちょっと幼くなったみたいでかわいいですよね♪
ド、ドラマっ!! だと嬉しいですねっ!
>>380 つみさん
注目作品だなんて、嬉しい言葉をありがとうございますっ!
紺野の能力は、次回に持ち越しになってしまいましたけれど、
とんでもないものにしようかと…(^^ゞ
>>381 ヒトシズクさん
紺野編に突入です〜っ!…といっても、何故かごっちん話が多いですが(^^ゞ
なっち&矢口は実は重要だったり…っ!紺野を守るごっちんが
かっこよく書けてるか心配ですが、レスに喜びつつ頑張りますねっ!
- 410 名前:tsukise 投稿日:2003年07月21日(月)21時11分45秒
>>382 名無しさん
前作から読んでいただいているみたいで、ありがとうございますっ!
そうですね、これからどんどん核心の話に入っていく予定です♪
なっち&矢口は、かなりの強力なキャラになるといいんですが…。
応援レスに励まされつつ頑張りますっ!
>>383 名無しさん
そうですねっ! これからどんどん盛り上げてい…きたいなぁ…(^^ゞ
とりあえず、ごっちんと紺野に色々絡んでもらおうかと思ってたりっ!
またまた続けて読んでくださると嬉しいですっ!
- 411 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年07月21日(月)21時28分19秒
- リアルタイムGet's!!ごっちん激カッコイイっす! バトルの描写も細かく描かれてて矢口の電流がごっちんに流れる所なんか鳥肌立っちゃいましたよ! 紺野の能力を気にしつつ次回更新も楽しみに待ってます! 頑張って下さい。
- 412 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年07月21日(月)22時39分38秒
- おぉぉぉぉ〜!!!
紺ちゃんの言葉に胸がぐっとなりました。。。
ごっちんが何故かいつもよりかっけぇ〜く感じたのと、とても優しく感じました♪
矢口&なっちの次に来る、すごい奴とは!?って感じですねぇ〜
では、次回の更新楽しみにしております!
頑張ってください♪
- 413 名前:つみ 投稿日:2003年07月21日(月)23時22分51秒
- すげえですね〜!!
ごっつあんがキレましたね〜
ひょっとしてかつてごっつあんをとめたというのは・・・?
次回の更新待ってます。
- 414 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月31日(木)18時55分45秒
- ほぜん
- 415 名前:んあ 投稿日:2003年08月02日(土)00時20分15秒
- \ヽ ぶ り ん こ 保 全 隊 見 参 や で! //
\ヽ 極悪なのれす! //
, -ー- 、 , -ー- 、
∋0.ノハヾ.0∈ @.ノノハヾ.@
( ▼D▼) ( ▼д▼)
("O┬O ("O┬O
(( ())`J())-)) ())`J())-)) キコキコ
\ヽ よ っ し ゃ 次 の 保 全 ま で 待 機や ! //
\ヽ 極悪なのれす! //
, -ー- 、 , -ー- 、
∋0ノノハヾ0∈ @ノノノハヾ@
(... . . ) (... . . )
(... . . つ (:. . . つ
(( (()-(()`J(() (()-(()`J(() キコキコ
- 416 名前:ku_su 投稿日:2003年08月02日(土)04時43分09秒
- いいですね〜!!
サイトも拝見しています。
頑張ってください♪
- 417 名前:再会 投稿日:2003年08月02日(土)22時22分06秒
- ゆっくりと、夜が更けても賑わしい道を自分の家に向かって歩いていく。
その後ろをすぐ、後藤さんが何も言わずについてきてくれてる。
ちょっと…というか、結構治安のよくない私の家までの道のりを心配しての行動。
でも…きっと、それだけが理由じゃない。
公園を離れるときに後藤さんとした会話が、その証拠だと思う。
『紺野、アンタはね……』
『? 私は…なんですか?』
『アンタは…そう、狙われてるんだ。色んなヤツラから』
言いかけた言葉は飲み込まれて、別の…そんな言葉が告げられた。
きっと、後藤さんは私の知らない何かを知ってる。
でも…何故か私にそれを教えてはくれない…。
それがちょっとした疎外感を感じてしまって…今は、こうして黙って歩いているんだ…。
…話してくれればいいのに…。
それとも何か言えない理由があるのかな…?
- 418 名前:再会 投稿日:2003年08月02日(土)22時22分41秒
- 「紺野」
「ひゃいっ!?」
「?」
「あ、いえ、なんですか?」
突然呼ばれて、考え事をしていた私はとんでもない声を上げてしまって恥かしくなる。
でも、後藤さんは、それに一度首を傾げただけで私との距離を縮めてきた。
「別の場所を通ろう」
「え…? で、でも、この道をまっすぐ行けばもうすぐそこですよ?」
「わかってる」
じゃあ、どうしてですか?
そう言いかけて、飲み込んだ。
後藤さんの視線が、くるっと辺りを一周したから。
まだ深い緑になっているその瞳に浮かんでいるのは、『警戒』。
「…わかりました。後藤さんに任せます」
「うん」
私は後藤さんを信じると言った。
だったら、どんな時でも後藤さんを…この人を信じよう。
- 419 名前:再会 投稿日:2003年08月02日(土)22時23分28秒
- 「裏道に入るよ。ついてきて」
「は、はい」
足早に近くの細道に入っていく後藤さんの背を追いかける。
薄暗い道は、それでもくっきりと後藤さんの影を映し出していて見失うことはなかった。
ずんずんと進んでいく。
まさか自分の家の近くに、こんな入り組んだ場所があったのかってぐらい細い道を。
そして、1つの曲がり角に差し掛かった瞬間、
「紺野…」
「はい? って、えっ!?」
突然後藤さんが振り返って、私の身体を抱き寄せた。
いきなりの事で、私は、ばたばたと腕の中でもがいてしまう。
「ご、後藤さん…っ!? い、いきなりなんですかっ!?」
「シ…ッ、飛ぶよ」
「え?」
聞き返した次の瞬間、私と後藤さんを包み込むみたいに風が円を描いて巻き上がった。
あたたかい…、そんな風だった気がする。
そのまま、私は後藤さんに抱かれる形で宙に浮き上がった。
- 420 名前:再会 投稿日:2003年08月02日(土)22時24分10秒
- 「と、飛んでる…っ!? 飛んでますっ!」
それだけしか言えない私に、後藤さんは一度口元を緩めたみたいに見えた。
でも、すぐに厳しい表情に変わって、足元をにらみつけたんだ。
その視線の先を追って…見つけた。
黒いコートに身を包んだ3人の女の人。
キョロキョロと辺りを見渡していて、明らかに行動が怪しい。
「あれっ!? 確か、ここを曲がったよね?」
「ちょっと、まいちゃん…見失ったの?」
「そんな事言ったって…、みうなは?見なかった?」
「や、見てないですよー…、後ろを通ってたんですから」
「まいったなぁ…尾行失敗なんて報告できないよぉ…?」
「あさみから言ってよ」
「え〜…」
あ、まさか…っ。
「もしかして、あの…私達の跡を…?」
「うん。多分…さっきのヤツ等の仲間」
「どうしてですか?」
「勘」
「へ? 勘…ですか?」
- 421 名前:再会 投稿日:2003年08月02日(土)22時25分00秒
- 意外だった。
後藤さんの口から、そんな言葉が出るなんて。
もっと、何かしっかりした理由があると思ったから。
でも、その疑問が顔に出てしまったのか、後藤さんはじっと私を見つめてきた。
その瞳に、どきっとしてしまう。
「勘っていうのは、経験と理論に裏付けられた立派な才能なんだよ」
どこまでも真剣だった。
信じて疑わない、そんな感じの。
「これは…家のほうも押さえられてるかもしれない」
「え…」
言われた言葉に、不安になる。
家まで…来ているかもしれない…?
そんな…。どうすれば…いいんだろう。
「ウチに行こう」
「えっ!?」
驚いて見あげると、優しい目で私を見ている後藤さん。
心配の色が浮かんでいて…私の事を考えてくれてるんだって凄く伝わってきた。
で、でも…、
- 422 名前:再会 投稿日:2003年08月02日(土)22時25分41秒
- 「そ、そんな迷惑じゃないですかっ?」
「全然」
「ご家族の方とかにも…」
「家族はいないって前に言わなかった?それに、多分二人ならなんともない」
「二人?」
「同居人」
「じゃ、じゃあ、なおさら…っ」
「紺野」
押し問答が続いて、ちょっと溜息をつきながら後藤さんは少し呆れた顔をした。
「気を遣いすぎだよ。もっと自分の事も考えな。それに…」
「…?」
「アタシはアンタを守るって決めたんだ。だから、このまま帰せない」
「ご、後藤さん…っ」
顔から火がでそうだった。
心臓だってバクバクしてる。
だって…すっごく真剣に、でもサラっととんでもない事をいわれたんだもん…。
そこまで言われたら…断れないですよ…。
- 423 名前:再会 投稿日:2003年08月02日(土)22時26分27秒
- 「うぅ…あの…じゃあ、お邪魔じゃなければ…その…」
「うん、そのほうがアタシも安心する」
「あ、ありがとう…ございます…」
多分、他の人から見たらおかしな光景。
宙に浮かんで、家に来るとか、来ないとか…。
危ない状態なんだから、こんな事考えちゃいけないんだろうけど…、ちょっと…
嬉しかったんだ。
その後、後藤さんの家まで行ったんだけど、そこで私は思いがけない再会をする事になったんだ。
同居人の二人の、あの人達と…。
- 424 名前:tsukise 投稿日:2003年08月02日(土)22時38分06秒
- >>417-426
今回更新はここまでです。
紺野の力、発動は次回持ち越しですね…(^^ゞ
とりあえず、ごまっとう3人が集結予定です…(^^ゞ
>>411 名前 : うまい棒メンタイ味さん
バトルシーン、結構悩んでいたんですが、うまい棒メンタイ味さんの感想にほっとしました♪
矢口の電撃…自分も気に入ってたりして(^^ゞ
紺野の能力は、近々発動させる予定ですので、またまた読んで下されば嬉しいですっ!
>>412 ヒトシズクさん
いつもレスをありがとうございますっ!!
紺野には、とりあえずごっちんの支えになって欲しいなぁと思って♪
ごっちんが優しいのは、紺野限定で…なんて(爆)
矢口&なっちの次の刺客…結構強い人がくる予定です…っ
>>413 つみさん
ごっちんがキレると、怖いっていうイメージを出したかったんで感想嬉しいです♪
ごっちんを止めたかつての人…ご期待に添えるでしょうか…?
徐々に明らかにしていくんで、また読んで下されば嬉しいですっ!
- 425 名前:tsukise 投稿日:2003年08月02日(土)22時38分44秒
- >>414 名無しさん
保全をたりがとうございます(^^ゞ
>>415 んあさん
おぉっ! ぶりんこの二人で保全されててビックリっ!
そして、ありがとうございます、更新、遅れ気味で申し訳ない限りです(^^ゞ
416 ku_suさん
応援レスをありがとうございますっ!
そして、サイトへの訪問も感謝しています♪
ちょっと更新が遅れていたりするんですが、また読んで頂ければ幸いです♪
- 426 名前:つみ 投稿日:2003年08月03日(日)00時07分13秒
- あの二人と紺野が再会っすか〜!!
これから4人の奇妙な?同居生活が始まるんすかね〜?
- 427 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年08月03日(日)01時42分33秒
- おおお!! 紺野があの二人と再会ですね。 いったいこれからどうなることやら気になります。 って言うか個人的には>>24で言ってた亜弥の過去が気になってます
- 428 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月03日(日)18時40分22秒
- 続きがすごい楽しみです。あのふたりと再会ですか。
ますます楽しみです。作者さんがんばってください。
- 429 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月03日(日)19時02分50秒
- 更新かと思うじゃん。上げるなよ。>428
- 430 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月03日(日)23時41分57秒
- いや〜ごっちん優し過ぎっっっ!!!(爆
しかもその優しさが紺ちゃん限定となると・・・^^
そして、とうとうあの2人と再会を果たしますね^^v
いや〜これからどうなるのか、楽しみです!
では、次回の更新も気長にまったりと待っております♪
頑張ってください、応援してますので!
P・S サイトを作ってらっしゃると聞いたのですが、教えて頂けないでしょうか?
- 431 名前:林火 投稿日:2003年08月07日(木)10時16分28秒
- こんにちは、林火です。こっちのほうでは、初めてです。
この後も、すごく楽しみなので、これからも、頑張ってください
- 432 名前:つみ 投稿日:2003年08月16日(土)19時10分52秒
- むう・・・
ごまこん不足だな・・・
- 433 名前:再会 投稿日:2003年08月19日(火)22時45分35秒
- 「な、なんでぇ〜!?」
鼓膜をビリビリさせるくらいの大声に、思わず身をすくめてしまった。
それから、反射的に後藤さんの背に隠れてしまう。
だって…今、私の視線の先には、これ以上にないくらい目を見開いてあんぐり口を開けている
昨日までの…ううん、正確には今日まで一緒だったクラスメイトがいたんだから。
そう、突然いなくなってしまった…、藤本さんと松浦さんが。
本当は、私の方が「なんで?」って訊きたいぐらいなんですけど…?
「ちょっとぉ〜っ、なんで紺ちゃんと真希が一緒にいるのよ?ってか、なんでここにいるワケ?
なになに、なんでよ〜?」
「美貴、うるさい」
制したのは松浦さん。
軽く首の後ろを掻きながら、溜息交じりに私と後藤さんを交互に見てる。
何かを考えあぐねいている、そんな感じ。
「とりあえず…紺野ちゃん、お風呂に入ってきたら?」
「へ? あ…」
首を傾げると、松浦さんの視線はじっと私の服を見ていて。
それは、さっきまでの事ですごく汚れてしまっていたんだ。
- 434 名前:再会 投稿日:2003年08月19日(火)22時46分07秒
- 「あ〜、亜弥って神経質だもんね〜。部屋が汚れたら、た〜いへんってコト?」
「美貴、案内してあげて」
「はいは〜い、紺ちゃん、こっち」
藤本さんが手招きをしてくれるけど、正直悪くて…、
「で、でも、その、迷惑なんじゃ…」
「そんなこと気にしてどうすんの〜?ってか、多分ね、そのままでいた方が迷惑」
「えっ、あ、そうですよね…っ、じ、じゃあ…その…」
チラリと後藤さんの顔を見あげる。
その視線にきづいたのか、後藤さんは何にも言わなかったけど一度口元を緩めて
頷いてくれたんだ。
『行きなよ』、そう言うみたいに。
ガチャッと奥の扉を開いて、藤本さんが「どうぞ」と招きいれてくれる。
素直にその先へ進んで、驚いた。
だって外観は普通の雑居ビルなのに、全然中は違っていて…なんというか生活感が溢れていて…。
目の前の脱衣所だって、改装したみたいな雰囲気があるけど、全然圧迫感とか感じないし。
普通のマンション…って感じかもしれない。
- 435 名前:再会 投稿日:2003年08月19日(火)22時46分44秒
- 「えっと、ユニットバスの使い方は判るよね? んじゃ、バスタオルはそこの棚に置いてるヤツを
使って?」
「あ、はい…」
「で、着替えた物は洗濯籠に入れといて。とりあえず、後で着る物を持ってくるから」
「あっ、すいません…」
「やっぱ紺ちゃんの体型から考えて、亜弥の服がいいかなぁ…?あ、でも真希がフリーサイズの
服を持ってたっけ?」
「あ、あのっ!」
「え? なに?」
藤本さんのマシンガントークを遮って、呼びかける。
だって、このままだと訊きたい事の1つも訊けないような気がして。
ちゃんと、訊いておきたいことがたくさんあるから…。
「えと…その…藤本さんや、松浦さんは後藤さんと一体どんな…」
「ストーップ」
「へ…っ?」
訊きかけて、突然藤本さんが手でバッテンを作って止めた。
あまりの勢いのよさに、私は目をパチパチと何度かしばたたかせてしまう。
「あんね、色々疑問とかってあると思うけど、今はとりあえずお風呂に入ってて」
「は、はぁ…でも…」
「多分さ、出てきた頃にはちゃんと説明できるようになってると思うからさ…。っていうか、
今回のコト、アタシも全然判ってないから、訊かれても答えらんないんだ」
「あ…そうですか…」
- 436 名前:再会 投稿日:2003年08月19日(火)22時47分23秒
- 言われて納得する。
そうだよね…、ここに来た時、藤本さんは本当にビックリしてたっけ。
それなのに訊かれても、困っちゃうよね…。
「…でも、まさか真希がこんな風に誰かを連れてくるなんてね〜」
「え?」
「うーん…、真希ってさ、あんま他人に興味をもったりとかしないんだ。だから紺ちゃんを
連れてきて…正直ビックリ…って、これも後でね。とりあえず入って? 亜弥が気にするから」
軽くウィンクをして、話を終わらせてしまう藤本さん。
なんだか…不安になってしまうなぁ…。
やっぱり、いきなりついてきちゃって迷惑だったんじゃないかなって…。
「だーいじょーぶ、誰も迷惑だなんて思ってないからさ」
「えっ!? ど、どうして…っ」
「なんでわかったかって? だってさぁ〜、紺ちゃんってば顔に書いてあるんだもん〜。
『私なんかが、ここにいていいんでしょうか〜?』って。もう眉なんてハの字だし」
うぅ…そんなに判りやすいのかなぁ…私って。
なんだか恥かしくて俯いてしまう。
- 437 名前:再会 投稿日:2003年08月19日(火)22時48分06秒
- 「気が滅入ってんだったら、一緒に入って慰めてあげよっか?」
「えぇっ!?」
びっくりして顔を上げると、なんの含みもない笑顔を向けている藤本さん。
けど…、その満面の笑顔が…藤本さんの場合、逆に怪しい気がする。
それに、一緒にって事は…、その…っ、えぇ…っ?
あぁ…なんか、顔が熱いよぉ…っ。
気がついたら私は、首と両手を大きく左右に振っていた。
「い、いいですっ!! 大丈夫ですっ!」
「な〜んでぇ〜? ミキが隅々までキレイにしてあげるよ〜?」
す、隅々って…っ!
や、やだ…っ。
「ま、間に合ってますっ!」
「そう?残念。 亜弥だったら、なんだかんだ言いながらも許してくれるのに」
心底残念そうにいる藤本さんだけど、やっぱり遠慮します…っ。
だって、そんな…恥かしいじゃないですかぁ…。
…というか、松浦さんは許してくれるって…。
………………。
はっ! や、やめようっ! 深く考えないでおこうっ。
すっごく、ほっぺたが熱いもん…っ。
- 438 名前:再会 投稿日:2003年08月19日(火)22時48分44秒
- 「じ、じゃあ、お風呂…借りますね?」
「はいは〜い、じゃあ、ゆ〜っくり温まって。着替えは持ってきとくから」
『あはは〜』なんて大きく笑いながら、藤本さんはヒラヒラと手をふると、そのまま部屋を
出て行く。
もしかして…またからかわれたんですか…私?もう…。
なんだか、藤本さんと話していると、どこまでが真剣でどこからが冗談なのか判らないです…。
はぁ…。
「とりあえず…入ろう…かな?」
このまま、こうしていても仕方ないし…松浦さん達の厚意に感謝して使わせてもらおう。
そう思って、いそいそと服を脱ぐと、綺麗にたたんで洗濯籠に入れる。
やっぱり…礼儀は大切だしね、うん。
と、その時。
向かいにあった洗面台の鏡に、自分の姿が映った。
いつもより、ちょっと疲れた顔をしているけど…いつもの私の顔・身体…って、あ…っ。
「腕に…アザが…」
パっと見ただけでも判るぐらいの、浅黒いアザ。
元々、肌の色が白いほうだから、それがくっきりと浮かび上がっているのが判ったんだと思う。
いつついたのか考えてみて、すぐに思い当たった。
- 439 名前:再会 投稿日:2003年08月19日(火)22時49分16秒
- 『アタシから離れないで。いい?』
ぐっと、後藤さんが私の腕を引き寄せて守ってくれた、あの時だ…。
その細い腕のどこに、そんな力があるんだろうってぐらい力強かったっけ…。
「後藤さん…」
改めてアザに触れて思い出して…トクンと胸が鳴った。
私を守ると言ってくれた後藤さんの真剣な瞳。
泣きそうになった私の頬に、そっと触れてくれた優しい感触。
考えればきりがないくらい浮かんでは消えていく、後藤さんの一挙一動。
その全てが、全部私に向けられていたんだって思うと、凄く嬉しくて…。
嬉しい…? あれ…? 嬉しくて、こんなにもドキドキしてるの…?
違う…このドキドキは…。
「もしかして私…後藤さんの事が…?」
女の子同士なのに、こんな気持ちはおかしいかもしれない。
でも、胸のドキドキが…後藤さんの事を考えるだけで熱くなっていく頬が全てを
物語っていたんだ。
だから…もう否定なんてできなかった。
そう…後藤さんが、私にとって誰よりも特別で大切な人なんだって。
気づいて…しまったんだ。
- 440 名前:tsukise 投稿日:2003年08月19日(火)23時00分10秒
- >>433-439 今回更新は、ここまでです。
遅い上に少なめでスイマセンっ!とりあえず、次回更新は早めにしたいですっ!
亜弥を活躍させ…たいなぁと思いつつ(^^ゞ
>>426 つみさん
はい♪ とりあえず、あの二人との再会シーンです〜♪
そして、ちょっと紺野にごっちんへの気持ちの変化を持たせたり(^^ゞ
4人の奇妙な同居生活、次回にはUPさせる予定です〜♪
>>427 うまい棒メンタイ味さん
紺野と、あやみき両者との再会はこんなカンジで(^^ゞ
とりあえず、次回にまた突っ込んで書く予定だったり♪
はいっ!もちろん亜弥の過去話はこれから、どんどん書いていきますので
またまた読んで頂ければ嬉しいですっ!
>>428 名無しさん
楽しみにしていただきまして、ありがとうございますっ!
二人との再会、まだちょっと簡単な感じですが、どんどん突っ込んでいくんで
続けて読んで下さると嬉しいですっ!
- 441 名前:tsukise 投稿日:2003年08月19日(火)23時00分47秒
- >>430 ヒトシズク
はい〜♪ごっちんが優しいのは、紺野限定ですっ(爆
いつも応援レスをありがとうございますっ!励みです〜っ!
そして、HPサイトへも来てくださってありがとうございますっ!!
ヒトシズクさんのカキコにかなり嬉しかったりっ!!
>>431 林火さん
どうもっ!HPサイトでは、お世話になっていますっ!!
結構遅れ気味な更新なんですが、こちらの方もフラっと立ち寄って
見ていただければ嬉しいですっ!
>>432 つみさん
ごまこん不足…実は私もなんですよね…(笑
どんどん広がって欲しいCPだったりするんですが…マイナーなんですかね(^^ゞ
うぅ…負けずに頑張って更新させてもらいますので宜しくですっ!
- 442 名前:つみ 投稿日:2003年08月19日(火)23時55分40秒
- 更新きましたね^^
紺野とあやみきが再会して、紺野は自分の気持ちに
気づいてしまったんですね〜^^
- 443 名前:再会 投稿日:2003年08月20日(水)08時33分40秒
- [紺ちゃん、お風呂に入ったよ〜」
美貴の笑いを含んだ声に、アタシと亜弥の視線が向く。
それに気がついて、美貴は『あ〜』なんて言いながらまた笑って。
「紺ちゃんに『一緒に入る?』って言ったら、顔を真っ赤にしちゃってさぁ〜、
可愛いのなんのって。今時、あんなにスレてないのも珍しくない?」
…ったく…、悪ノリしすぎ…。
多分、亜弥も同じ事を考えたんだろう、軽く首を振りながら溜息をついてる。
「…それは、おいといて」
でも、すぐに声色を変えてアタシを正面から見据えた。
「説明ぐらいは、してくれるんでしょ?」
言われると思ってた。
一般の人間を、ココに連れてくることはタブーだったから。アタシ達には危険なコトだし。
けど、紺野は…違う。
ちゃんと、そのコトを伝えなければならない…か。
じっとアタシの言葉を待っている亜弥に、一度瞬きで頷いてアタシはソファーに腰掛けた。
- 444 名前:再会 投稿日:2003年08月20日(水)08時34分27秒
- 「この依頼の前に請け負った仕事、覚えてる?」
「あ〜、ミキがとった、のんちゃんとそのお姉さんの?」
「そう」
美貴が答えながら、パソコンの前のイスに座る。
「…その日の夜、散歩に出かけて…紺野に逢った」
「あ、じゃあ、外で力を使って帰ってきたのって、もしかして…紺ちゃん絡み?」
ちょっとバツが悪くて、アタシは曖昧に頷く。
不用意に使っちゃいけないって判ってたのに…使ってしまったから。
「その時は、男たちに絡まれていて…なんとなく」
「へぇ〜、真希が助けてやったんだ? めっずらしいコトもあるもんだねぇ」
「で? それと連れ帰ってきたのと、どういう関係があるワケ?」
美貴のからかい口調をを遮って訊いてくる亜弥。
その真剣な物言いに、アタシは話を核心へともっていく。
「それから何度か紺野と逢う機会があって…今日、アタシらと同じような能力者に
いきなり襲われた」
「襲われたって…っ?」
「同じ能力者…!? 確かなの?」
「間違いない。この目で確かに見た」
それに…不覚にも攻撃を食らってしまったし。
- 445 名前:再会 投稿日:2003年08月20日(水)08時35分02秒
- 能力者、という言葉に美貴も亜弥も顔色が変わった。
当然かもしれない。
だって、自分達以外の能力者がこんな近くにいるなんて知らなかったんだから。
アタシだって驚いた。
けど、この話には続きがある。もっと驚く…。
「ソイツらの目的は……アタシじゃなかった」
「え…?」
「紺野を、狙ってたんだ。きっとアタシがその場にいなかったら、どっかに連れて
いかれてたと思う」
「どういう事…? ……! まさか…」
まだ『?』マークを頭のうえに回している美貴と対照的に、亜弥は信じられないって
顔をする亜弥。
アタシは肯定するように一度頷いて告げたんだ。
「紺野も、アタシらと同じ能力者なんだ」
驚いたように美貴が息を飲むのがわかった。
亜弥だって、眉をしかめて戸惑っている。
- 446 名前:再会 投稿日:2003年08月20日(水)08時35分33秒
- 「…まだ覚醒はしていない。けど、だからこそ狙われたのかもしれない」
「え?」
「アヤカからもらった情報だけど、どうやら紺野はとんでもない能力を持ったコらしい」
「とんでもない能力?」
「それがどんなものなのかは判らない。けど追っ手がかなりかかってるらしいから、
普通の能力者じゃないと思う」
憶測だけど…きっと計り知れない能力だ。
アタシ達のように、ちゃんと形として現われるものじゃないかもしれないし…。
ふと、無垢な…紺野の笑顔が浮かんで…、少し胸が痛んだ気がした。
「紺野は、その事実を知らない。だから…アタシは紺野をヤツらに渡したくなかった」
これは本当にアタシのエゴかもしれない。
でも…凄くイヤな予感がしたんだ。ヤツら渡しちゃいけないって…思わせるぐらい。
「どうして?」
美貴の探るような声に、アタシは思っていることを素直に口にする。
ヤツらと対峙した時に、強く思ったコトを。
きっと…亜弥達なら判ってくれると思って。
- 447 名前:再会 投稿日:2003年08月20日(水)08時36分10秒
- 「目覚めていないなら…普通の人間として過ごして欲しいから…。紺野には」
そう…。
アタシ達は、一度でもその能力を使えば…もう戻れない。
日常という世界に。
その能力を使うたびに、何かを1つずつ捨てていくコトになるだろうから。
そんな風に紺野には、なってほしくないんだ。
普通に学校に行き、普通に友人と遊び、普通に恋をする…。
能力者になっては手に入れられないだろうそんな些細なコトを、大切にしてほしいんだ。
そのためなら、アタシは…。
思ってみて、またあの妙な感覚が胸に広がる。
どうしてこんなにも紺野のコトを気にかけてしまうんだろうって。
そこまでして守りたいのは、なんでだろう…って。
初めて、感じるそれがアタシには理解できない。
「…わかった」
亜弥の返事に、ハっと顔をあげると、しょうがないっていうように溜息をついていた。
- 448 名前:再会 投稿日:2003年08月20日(水)08時36分46秒
- 「そこまで真希が言うなら、しばらくココに紺野ちゃんを置くコトを許してあげる。美貴もいい?」
「もとより、アタシは反対なんかしてないし。楽しければOKだよ。けど紺ちゃんがねぇ…」
「ありが…」
「ただし」
遮るように言葉を続けた亜弥は、強い口調とは裏腹に少し不安げな表情をしていた。
こんな亜弥は…久しぶりにみる。
「紺野ちゃんのコトは真希、アンタが責任を持つコト。どんな時でも」
あぁ…そうか。
亜弥のその表情の意味が判った気がする。
守ることの難しさ、それを亜弥は痛いぐらい知っているから。
守りきれなかった大切な人が…いたから。
「…うん」
アタシは大丈夫。
絶対に、守り通してみせる。
それを亜弥に伝えたくて、しっかり頷いた。
亜弥には、伝わっただろう…、軽く口元が緩んで『約束だかんね』というように笑顔を
向けれられたから。
- 449 名前:再会 投稿日:2003年08月20日(水)08時37分22秒
- 「…じゃあ、この話は終わり。それより美貴、アンタ着替えを持っていってあげて」
「あ、そうだった。じゃー真希のフリーの服を借りるよ?」
それだけ言うと、了解もなしに美貴はアタシの部屋へと入っていった。
相変わらずなマイペースに苦笑してしまう。
「…でも、なんとなく判ったよ」
「?」
二人だけになって、亜弥が呟きながら向かいのソファーに座った。
意味が判らなくて、アタシは首を傾げてしまう。
「真希の変化の理由」
「…どういうコト?」
続けて言われた言葉に、やっぱりアタシは判らずに問いかけた。
- 450 名前:再会 投稿日:2003年08月20日(水)08時38分19秒
- アタシの変化と、今の会話と何が関係あるの?
ワケわかんない。
けど、そんなアタシに亜弥は苦笑している。
「今は判らなくても、そのうち判るよ。アンタもさ、『人間』なんだから」
「……人間」
「そう、人間」
どこまでも優しく繰り返された言葉に、トクンと胸の鼓動が聞こえた気がした。
…こうして、アタシを『アタシ』として認めてくれる亜弥の言葉は、いつもどこか
安らぎを与えてくれるんだ。
そして…深い意味をもつ。
でも、やっぱり理解できないこの気持ちを、アタシはテーブルにあったペットボトルの
水を飲んで濁したんだ。
- 451 名前:tsukise 投稿日:2003年08月20日(水)08時43分03秒
- >>443-450
今回更新はここまでです。
二日連続での更新は、久しぶり…ですね(^^ゞ
このペースで…いきたいなぁ…と思ってみたり(笑
>>442 つみさん
自分の気持ちに気づかないごっちんと、自分の気持ちに気づいた紺野の
微妙な関係をつくってみたり(^^ゞ
ゆっくりと二人の距離が縮まっていけば、いいなぁと…(笑
あやみきとの絡みもどんどん入れていく予定ですので、またまた読んで
下さると嬉しいですっ。
- 452 名前:つみ 投稿日:2003年08月20日(水)09時54分53秒
- もう更新っすか〜^^
なんかあややの過去がブラックな
感じがしますね。
そして4人の共同生活!
- 453 名前:林火 投稿日:2003年08月20日(水)13時37分58秒
- お久しぶりの更新です。いよいよごっちんと紺野が一緒に生活するようになって、
面白くなりました。紺野の能力も気になりますが、後紺も気になりますので、
今後が、楽しみです。
- 454 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月20日(水)14時21分42秒
- きゃぁぁぁ〜〜〜〜!!!!(謎
2日連続の更新お疲れ様ですっ!!!
いや〜やっと、あやや&みきてぃに会いましたねぇ〜^^
さて、これから?・・とめちゃ気になります♪
それと、あややの守りきれなかった人・・・と言うのも・・・
謎が1つ解ければ1つ増えていく・・・とこんな感じがしますね^^
では次回の更新楽しみに待っています!
- 455 名前:ゆう 投稿日:2003年08月22日(金)02時04分23秒
- 初めまして。
いや〜。ここのあやみき、好きです。
でも、こんごまの方が好きです。
ってかこの小説が好きです。
次回更新待ってます。でわ。
- 456 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時17分50秒
- 「これからヨロシクね」
お風呂から上がって最初に言われたのは、松浦さんのそんな言葉だった。
よく意味が判らなくて、後藤さんを探したんだけど部屋にはどこにもいなくて…。
「あ、真希なら、ちょっと出てる〜」
「あ、そうなんですか…」
藤本さんが気がついたみたいで呼びかけてくれたんだ。
どうしてかな…後藤さんがいないってだけで、凄く不安になってしまう。
やっぱり私…。
「すぐ帰ってくるよ、そんな残念そうにしなくても」
「えっ!? そ、そんな事ないですっ」
か、顔にまた出てしまったみたい…っ。
や、やだなぁ、いつも藤本さんにそういう所ばっかり見られてるような気がする…。
「紺野ちゃん、とりあえず座って。ちゃんと説明するから」
「あ、はい…」
ソファーに座って、前の席を促している松浦さんに頷いて私は恐る恐る腰掛けた。
それを見て、藤本さんがパソコンの前のイスに座ったままスーっとこちらに移動してくる。
な、なんだか、二人に見られると凄く緊張するんですけど…。
- 457 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時18分24秒
- 「まず…、紺野ちゃんには、しばらくここで一緒に暮らしてもらうことになったんだ」
「えぇっ!? そ、そんな悪いですっ、いいですよっ!」
「まぁ聞いて」
「は、はい…?」
突然の事に驚いてしまうけど、松浦さんの真剣な表情は変わらなくて何か理由が
あるんだった事はすぐに判ったんだ。
「紺野ちゃんの家…今、真希が見に行ってるんだけど…多分、追ってたヤツらに
押さえられてる可能性のほうが高いの」
「え…っ」
そういえば、そんな事を後藤さんも言っていた。
私は、色んな人達に狙われているんだって事も。
でも、どうして…そんな、私なんかを…。
「…でね、こうしてまた逢ったのも何かの縁だし、落ち着くまでここにいれば?って
話してたんだよ」
藤本さんが思考を遮るみたいに顔を近づけてきた。
でも、やっぱり疑問は消えなくて…。
- 458 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時19分00秒
- 「あの…」
「うん?なに?」
「どうして私が、その…狙われてるんでしょうか…?」
「それは…」
言葉に詰まってしまう藤本さん。
それから、松浦さんに視線を向けて何かを訴えてる。
松浦さんは、それに気づいたんだろうけど、私に視線を向けたままで話を続けたんだ。
「それはアタシ達にもわからないの。ただ、クラスメイトだったコがそんな危ない事に
なってるなんて心配じゃない? それに、真希とも知り合いみたいだし」
「そうそう…っ、だからね、ここにいれば少しは安全でしょ?」
「はぁ…」
なんだか釈然としないなぁ…。
二人の…ううん、三人の気持ちは凄く嬉しい。
だって事実、私は後藤さんに今日助けられたんだし…。
でも、理由も判らずに襲われて、ここにきて…そしてしばらくここにいるだなんて…。
混乱してきそうになる。
「紺野ちゃん」
「え? はい?」
「…知らなくてもいい事っていうのが、この世の中にはたくさんあるんだよ」
「あ…」
前にも一度松浦さんに言われた言葉だ…。でも、それで確信する。
- 459 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時19分42秒
- やっぱり…みんな私が襲われた理由とか知ってるんだ…。
けど、言わないわけは…知らないほうが私にはいいと思ったから…?
後藤さんも…そう思って言わなかったのかな…。
だったら…信じるしか…ないよね。
「わかりました…。あの、これからお願いします…っ」
「うん」
ちょっとホっとしたのか、藤本さんは口元を緩めていた。
「…で、ここからが言っておかなきゃいけないんだけど」
「はい?」
「紺野ちゃん…、真希の力については知ってるんだよね?」
「あ…、はい。その…風を自由に使えるんですよね…?」
ここ何日かで、何度も見てきたから。
今でもちょっと信じられない気持ちの方が大きいけど、事実だから信じるより他なくて。
「うん。で…アタシや美貴にもその力があるの」
「ええっ!?」
「美貴」
「はいはい」
- 460 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時20分24秒
- 驚いている間に、藤本さんが一本のロウソクをテーブルの上に立てた。
「見てて」
言われて私はロウソクを凝視する。
その向こう側で、松浦さんがじっと先端の部分を見つめているのがわかった。
そして、
パチンッ
大きく指を鳴らした瞬間…、そのロウソクに火がついたんだ。
いきなりの事で私は身体をビクっと震わせてしまう。
「火…、火がつきました…っ!」
「あっははっ! いい反応だよ、紺ちゃん」
あまりにもマヌケな言葉だったけど、それしか言えなくて。
そしたら案の定吹き出して笑う藤本さん。
ほんと…笑い上戸だなぁ…なんて思ってしまうぐらい。
「これがアタシの力」
「じゃあ…火を?」
「うん。で…」
そのまま視線を藤本さんへ向ける松浦さん。
「OK」と軽く頷いた藤本さんは、人差し指を一度軽く上げてから、スっとロウソクの先端を
指差した。
- 461 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時21分01秒
- ジュ…
その瞬間、音を立てて消えるロウソクの火。
ううん、一瞬だけど私には見えた。
天井から、水滴が1滴ロウソクの先端に落ちたんだ。
「あ…っ」
反射的に天井を見上げてしまうけど、そこには全然変わったところはなくって。
「あっはははっ! やっぱいい反応してくれるね〜紺ちゃん。雨漏りなんてしてないから」
また笑われてしまった。
うぅ…恥かしいなぁ。
でも…え、じゃあ今のは…。
「もしかして藤本さんが…?」
「そ。いつでもどんな時でも水を作り出すことができる。それがミキの力」
「はぁ…凄い…ですね…。って、あ…」
「うん?」
「二人とも、瞳の色が…」
「あ〜」
改めて見て判る変化。
松浦さんの瞳は深紅の色に…藤本さんの瞳は蒼く変色してる。
そういえば…後藤さんも深い緑色に変わっていたけど…。
- 462 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時21分44秒
- 「ミキ達はね、力を使うと瞳の色が変わっちゃうんだ。いつもはコンタクトとかで隠して
るんだけどね」
「そうなんですか…」
「まぁ、しばらく経つと元に戻るから」
「あ、はい…」
きっと、まこっちゃん達に言っても信じてもらえないだろうなぁ。
こんな近くに、超能力者さんがいるなんて。
ぼんやりと、そんなどうでもいい事が頭の中をよぎったっけ…。
「それで…これからの生活の事なんだけど」
「あ、はい」
松浦さんが、藤本さんとの会話が終わったのを確認して話し始めた。
そっか…これからここで暮らすんだし、ちゃんと聞かないと。
「炊事・洗濯・掃除は当番制。それ以外は各自気がつく範囲でなんとかするコト」
「はい」
「で…仕事については……紺野ちゃんは自宅待機していて」
「仕事…って、あ…っ、探偵さんですか?」
「うん…まぁ、それに似た感じのモノ」
「?」
言葉を濁す松浦さんに、首を傾げてしまう。
似た感じ…? 探偵以外に何かあるのかなぁ…?
- 463 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時22分30秒
- 「あんね、ミキ達3人はどんな危険なコトだって見返りがそれなりにあればなんだって
やるんだよ」
「え…? 危険な事…ですか?」
「そう。例えば国家機密に抵触するようなコトもするし、あきらかに犯罪に加担する
モノだって請け負ったりする」
「えぇ…っ!?」
そんなことをしてるなんて知らなかったから、動揺してしまう。
だって、それってバレたら…大変なコトだし…。
「けどね…これだけは判ってて」
「え?」
「『正義』って言葉は、人の数だけあるんだよ。それぞれに信じる『正義』が」
「どういうこと…ですか?」
「何が正しくて、何が間違ってるかなんて、本当は誰にも判ってないんだってコトだよ
だから、ミキ達は…どんな仕事でも引き受けるの」
「はぁ…」
よく判らなかった…。
でも、真剣な藤本さんな表情から…少なくとも3人は間違ったことをしているんじゃないって
事だけは理解できたんだ。
- 464 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時23分11秒
- 「じゃ、とりあえず今日はここまで」
「あ…はい」
「紺野ちゃんの部屋は、明日にでも作るから…今日は美貴の部屋で一緒に寝てくれる?」
「えぇっ!?」
藤本さんと一緒に…って大丈夫なんですか…!?
すっごく不安になって、藤本さんを見ると明らかに不服そうな顔。
「なに、その返事はぁ〜」
「あ、いや、藤本さんと一緒で嬉しいなぁって…」
「ふーん、そう? じゃあ、手厚〜く歓迎しなきゃねぇ?」
「…嘘です、凄く不安になりました」
「ったく、そんなコトだろうと思ったよっ! 誰もとって食べたりしないってばー」
「はい…」
「あ、それとも真希の部屋の方がいい?」
「えっ!?」
ドクン、と胸が跳ね上がった。
後藤さんの部屋に…っ。そ、そんなの恥かしくて…っ。
なんにも言えなくて、口をパクパクしてしまう。
- 465 名前:再会 投稿日:2003年08月22日(金)12時23分55秒
- 「何? 真希は苦手?」
「そ、そんな事ないです…っ」
「あー…でも、その様子じゃリラックスして寝るなんて無理っぽいね。じゃーやっぱ
ミキの部屋においで」
「あ、はい…」
ホっとしたような、残念なような…複雑な気分です…。
でも、後藤さんの部屋…ちょっと興味があった気がする。
気がつくともう12時は回っていて、藤本さんの部屋に入ると促してくれたベッドに
入って…すぐに眠りについたんだ。
けど…それはすごく浅い眠りだったっけ…。
- 466 名前:組織 投稿日:2003年08月22日(金)12時25分49秒
- 案の定…というか、紺野の部屋は散々な状態だった。
原型らしい原型をとどめてる場所は、どこにもない。
革靴はそのままに、一歩部屋に上がってくるっと見渡してみる。
今日の朝食だったのか、崩れて傾いているテーブルにかろうじてコップに入った
牛乳が揺れていた。
ハンガーにかけられていただろう制服は、無残にも引き裂かれて床に散らばって
いるし…。
「紺野…」
こんなトコ…彼女に…紺野には見せなくて良かった。
きっと、心に深い傷を負ったコトだろう。
もう、この部屋は引き払わせたほうがいいかもしれない。
「それにしても…」
まさか、追っ手がここまでやるとは思ってなかった。
こんな、無計画とも思える行動を。それとも何か計画があってやった…?
だとしたら、どんな計画…?
- 467 名前:組織 投稿日:2003年08月22日(金)12時26分27秒
- 先刻やりあった『なっち』と『ヤグチ』の行動を思い出す。
『ヤグチ』はともかく、『なっち』はどちらかというと、頭脳派だ。
精神力系の能力から考えて、多分間違いない。
そんな彼女が所属する組織…考えなしに、こんなコトをしたとは思えない。
考えろ…。
こんなコトをするとどうなる?
まず、騒ぎになるのは目に見えてる。公共機関が動くのは必然だし…。
…もしかして…騒ぎを大きくするのが目的?
何のために…?
普通に考えるのは、誰かに…知らしめるため…?
だとして、一体誰に…?
……ダメだ、まだフラグがたたない。情報が少なすぎる。
とりあえず、ここにいても何も解決はできなさそう。
いったん亜弥達の元へと帰ろう。
紺野のコトも心配だし…。
そう思って、玄関へと振り返った、その時。
- 468 名前:組織 投稿日:2003年08月22日(金)12時27分01秒
- 「動くな…」
「!?」
誰…!? 背後に誰かがいる。
全く気配を感じなかったのに…っ。
それとも、油断した…?
「誰…っ」
「喋るな」
「ぐ…っ」
「指、一本を動かしても殺す」
く…っ。腕を押さえ込まれて、動けない。
しかも、咽喉元に鋭いナイフ…。動きたくても、これじゃムリだ…。
しくった…っ。
「私の質問に、YESかNOで答えろ」
「…く…っ」
とりあえず、今は言うことをきくしかない。
チャンスは必ず訪れる…それまでの辛抱だ。
- 469 名前:組織 投稿日:2003年08月22日(金)12時27分43秒
- 「紺野あさ美を知っているな?」
「…YES」
くると思ったこの質問。
確認してくるような言葉だけど、アタシからすれば明らかにコイツは紺野を狙っているんだと
決定付ける言葉だ。
「…なら、紺野あさ美の能力が何か知っているか?」
「…NO」
能力者であることは知っている。
けど、その能力がどんなものなのかはわからない。
その返事に、ソイツは一瞬考え込むように言葉をきった。
何かを図りかねている…そんなカンジだ。
「……なら、イナバを知っているか?」
「…?」
イナバ…? 誰かの名前だろうか? それとも何かの…?
「知っているか?」
強くナイフを首筋に押さえつけられる。
考え込む隙さえも与えないつもりだ。
- 470 名前:組織 投稿日:2003年08月22日(金)12時28分25秒
- 「…NO」
一瞬迷った。
こういう時の駆け引きは、嘘をも入れないと自分の身が危うくなるから。
けど、同時に思ったんだ。
殺そうと思う人間が、これほどまでに回りくどいやりかたをするだろうか?
否。
なら…、コイツの目的はアタシを殺すコトではない。
今の答えにも、『そうか、知らないのか』というような気配さえ感じたから。
「最後に言う。…紺野あさ美から手を引け」
「…!」
手を引け…だって?
その言葉には瞬時に反応できなかった。
そんなコトできるワケがないじゃない。
アタシはあのコを守ると決めたんだから。
「手を引け…っ」
もう一度言われた言葉に、アタシは軽く歯噛みをして底知れぬ怒りを抑える。
けど、気づいたときには言い放っていたんだ。
- 471 名前:組織 投稿日:2003年08月22日(金)12時29分02秒
- 「…NO…っ!」
「っ!」
ソイツの殺気が濃くなる。
来る…!?
「…ふ…、あはは…、いい度胸してんじゃん、アンタ」
「どうも…」
来ると思った攻撃はなく、代わりに心底おかしそうな声で笑うソイツ。
今なら、仕掛けられる。
「いいよ…、なら今は解放してあげる」
「それは…どうもっ!」
「っ!?」
言ってアタシは、ソイツの手首を押さえ込む。
不意を疲れたソイツは、一瞬あせったようにアタシの身体を思いっきり突き飛ばした。
ドン…!
「くっ」
たまらずよろめく。
その隙が勝負の分かれ目だった。
振り返った時、もうソイツの姿はなかったんだ。
信じられないことだけど、僅か2、3秒で逃げられてしまった…。
その後をただ、虚しく荒らされた部屋に静寂が訪れるだけ…。
- 472 名前:組織 投稿日:2003年08月22日(金)12時29分43秒
- 「くそ…っ!」
奪い取ったナイフを、無意識に床へと突き刺す。
完敗だった。アタシが…っ!
もしかしたら気が緩んでいたのかもしれない。
けど、ああも簡単に背後を取られるなんて…っ。
だも、だからこそ判ったコトもあった。
襲ったヤツの正体。
殺気を立たせた瞬間に感じ取った気配と、逃げ去る時一瞬見えた顔。
それはアタシと紺野の跡を尾けていた…、たしか『まい』と呼ばれた女だ。
背格好からしても間違いない。
- 473 名前:組織 投稿日:2003年08月22日(金)12時30分14秒
- そしてもう1つ。
アタシは『まい』から…いや『まい』や『なっち』達が所属する組織から、まだ完全に
敵として判断されていないというコト。
もし、敵だと判断されていたのだとしたら、悔しいけど、さっきの間に3回は殺されてる。
鍵となるのは、やっぱり……紺野の存在。
一体、紺野にはどんな秘密があるというの?
超A級といわれる能力に関係してるのは判る。
でも、一体…?
気がかりなのは、『イナバ』という言葉。
「…これは、本格的に探りを入れる必要がある、か…」
苦々しく呟いた言葉は、散々な有様となった部屋に響いて消えた。
- 474 名前:tsukise 投稿日:2003年08月22日(金)12時38分52秒
- >>456-473 今回更新はここまでです。
微妙にペースダウンしちゃってますね(^^ゞ
とりあえず、どんどん紺野とごっちんを絡ませたいなぁと…思ったり(^^ゞ
>>452 つみさん
あややの過去…そうですね、結構ダークな感じかもしれないです。
そのうち突っ込んで書く予定だったり(^^ゞ
それぞれの過去にもどんどん触れていこうかと…。
>>453 林火さん
ハイ、4人の共同生活が始まることになりましたですっ(^^
ごっちんと紺野は、どんどん絡んでいく予定なので
続けて読んで下されば、嬉しい限りですっ!!
- 475 名前:tsukise 投稿日:2003年08月22日(金)12時39分22秒
- >>454 ヒトシズクさん
2日連続更新…結構無謀だったような気が…(爆
あやみきと紺野の絡みは、どちらかというと賑やかな感じに
なりそうだったり♪
あややの過去…結構痛めですが、突っ込んでこれから書かせて
いただきますねっ!いつもレスをありがとうございますっ!!
>>455 ゆう
感想&応援レスをありがとうございますっ!!
ここのあやみきはどちらかというと、あややの方がしっかりしてるカンジですが
気に入って頂けて嬉しいです〜♪こんごまは、どんどん絡ませますので
これからも読んでくださると嬉しい限りですっ!!
- 476 名前:つみ 投稿日:2003年08月22日(金)12時41分44秒
- 更新待ってました!!
『イナバ』というのはまさか紺野の夢に出てくる・・・?!
・・・まあしがない想像っすけどね・・・
- 477 名前:林火 投稿日:2003年08月22日(金)14時30分21秒
- こんにちは、林火です。
またまた、謎が増えてきました。『イナバ』と紺野の関係や、謎の組織などが、いろいろ出てきます
すごく楽しみなので、これからもがんばってください。
- 478 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月22日(金)22時32分25秒
- きゃー!!!!
すっごいシリアスな感じになってきてますねぇ〜♪
色々と人が出てきて、面白くなりそうっすね^^
そして、とうとう紺ちゃんと3人の共同生活が始まるんですね〜
こちらも目が離せませんっ!
では、次回の更新楽しみに待っております!
頑張ってください〜
- 479 名前:片霧 カイト 投稿日:2003年08月24日(日)17時26分07秒
- こんにちは、片霧カイトです。
ずーっと読ませていただいてたのですが、レスするのは初めてです。
こういったアクションシーンが含まれてるお話は大好きなのでこれからも頑張って下さい!!
もちろん紺野とごっちんの同棲生活(爆)も期待してます!
- 480 名前:組織 投稿日:2003年08月28日(木)20時53分15秒
- なるべく早く情報を手に入れる方法。
やっぱりそれは、スペシャリストに任せるコトだろう。
だからアタシは今、裏の繁華街の通りを歩いていく。
真夜中ともなると、一層の賑わいを見せるこの街はアタシ達に似たようなヤツには
一番動きやすい。
よほどの考えが浅いヤツしか、誰かに声をかけたりなんて絶対にしないし。
みんなそれぞれに意味もなく時間を過ごしているように見えるけど、実はちゃんと
理由があるから。
そして、アタシにも。
「アヤカ」
壁と壁の間で腕を組みながら、視線をあちこちに飛ばしていた彼女を見つけて
アタシは歩み寄る。
「あれ? マキじゃない〜。何、どうしたのよ」
いつでも変わらないテンションに、肩をすくめて見せてアタシは本題に入る。
世間話をするために、ここに来たワケじゃないから。
- 481 名前:組織 投稿日:2003年08月28日(木)20時53分55秒
- 「調べて欲しいことがあるんだけど?」
「なるほど、ビジネスの相談ね。…なに?」
「『イナバ』についての、できる限りの情報」
「『イナバ』…? 名前?会社名?場所?」
「判らない。でも確かなのは、アタシや亜弥・美貴の力に少なくとも関係しているはず」
「ふ〜ん…」
それだけ聞いて、アヤカは顎に手を当てて軽く考える仕草をしてみせた。
アヤカ達とのビジネスは、いつもこんなカンジ…。
依頼をもってきて、それが何かアヤカ達の興味を惹くモノであれば引き受けてくれる。
いわば…アタシ達『GOMATTOU』と一緒のようなモノか…。
「…OK、イイよ。お得意さんだしね、マキ達は」
しばらくして、アヤカはオーバーリアクションで両手を広げた。
それを確認して、アタシはコートのポケットから一枚の小切手を取り出した。
「何? 珍しく前払いなんだ、今回は?」
「まぁ…ね」
アタシの勘が正しければ、この依頼はかなり危険なモノだから。
アヤカもその意図に気づいたのか、一度渋い表情をしてからその小切手を受け取った。
額を見て、驚いてる。多分、情報収集としての仕事にしては破格だったから。
- 482 名前:組織 投稿日:2003年08月28日(木)20時54分36秒
- 「マキ…これって…」
「そう、マジでヤバい仕事」
「…………」
「断るなら今のうちだけど?」
無理強いはしない。
個人的な依頼でもあるから。
けどアヤカは不敵に笑って、その小切手を羽織っているジャケットの内ポケットにしまった。
「冗談。最近ヒマだったしね、いい運動」
「…判った。2日後にまた来る」
「2日間か〜人使いが荒いネ〜。OK、頼られましょう?」
「あー…それと」
「何? まだあるの?」
「この間貰った情報、覚えてる?ミカが持ってきたヤツ」
「あ〜、超A級の能力者?」
「そう、それだけど…。『ある組織が保護した』って、裏に流しててくんない?」
「それは構わないけど…? うーん…」
「ありがと。じゃ、ヨロシク」
まだ何かいいだけなアヤカを残して、アタシはその場を離れた。
訊きたいコトは判ってる。保護した組織はアタシ達なのかってコトと…何故そんな情報を
流す必要があるのかってコト。
けど訊いてこないのは、それがアタシ達の関係を長く取り持つためのルールだから。
訊きたいけど、訊かない。そんなルール。
- 483 名前:組織 投稿日:2003年08月28日(木)20時55分19秒
- 多分アヤカなら半日もすれば、情報は裏へと知れ渡るだろう。
これで、紺野が危険に遭遇する機会はグンと減る。
何故なら不特定の組織に攻撃をしかけるコトの危険性は、誰もが知っているから。
ヘタに別の組織に手を出すと痛い目を見るだけじゃすまない、そういう暗黙の了解が裏にはあるんだ。
ただ例外は…1つの組織。
…あそこだけは要注意だ…。
思ってみて、さっきの出来事を思い出してギリッと唇を噛んだ。
油断した自分への苛立ち。
今までなら、あんなコトなかったのに…っ。
…理由は判っているんだ…。
あの日からアタシはおかしいって。石川梨華の依頼を受けてから…。
いや、もしかしたらそれ以前…あのコに、紺野に逢ってたらおかしいのかもしれない。
…どちらにしても、もう二度とあんなミスは許されない。
じゃなきゃ…紺野を守れないから。
…守りたいんだ。絶対に。
- 484 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)20時56分35秒
- 眠れなかった。瞼を閉じてもすぐに開いてしまうくらい。
環境が大きく変わったからっていうのもあったけど、それ以上に…不安だらけだったから。
これから私は、どうなるんだろう?
なんでこんな事になったんだろう?
私の何がいけなかったんだろう…?
答えの見つからない疑問ばかりが、とりとめもなく浮かんでは消える。
「藤本さん?」
「スー…スー…」
やっぱり眠っちゃってるか…。
そうだよね、時計を見たらもう2時半だもん。
私は、そろそろとベッドから抜け出すとゆっくりリビングへの扉を開けた。
誰もいなくて、真っ暗な部屋。
なんだか…一人っていうのを感じて心細くなってしまう…。
それから手探りで電気のボタンを探し当ててスイッチを入れる。
明るくなる視界だけど、気分はそうはいかなくて…ゆっくりとソファーに座ると両膝を抱え込んで
そこに顔をうずめた。
- 485 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)20時57分22秒
- そういえば、何かの本で読んだことあったっけ…。
泣いたら楽になるって…。
このまま泣いたら…楽になるかな…?
今の私の気持ちも、楽になるのかな…?
思ったのと、それが行動に移るのに時間はかからなかったんだ。
目の奥がジンジンして…じわっと涙が溢れてきて、ズボンの膝元を濡らして…。
けど…。
ガタン
「っ!」
玄関の扉が一度音を立てて、反射的に私は顔を向ける。
その視線の先には…、扉を開いたまま、ちょっと驚いたみたいな顔をしている後藤さんがいたんだ。
「あ…、お、おかえりなさ…い」
「……ただいま」
戸惑いながらもそう言うと、後藤さんは扉を閉めて小さく答えてくれたんだ。
ちょっと嬉しい気持ちになったけど、すぐにハッとする。
い、今、私泣いて…っ。
そんな所を見られてしまうなんて…っ。
慌てて涙を拭って膝を下ろすと、へへっと笑ってみせるけど…後藤さんは何にも言わずにコートを
脱いで向かいのソファーにゆっくりと腰掛けたんだ。
自然と見つめあうみたいな形になって困ってしまう。
- 486 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)20時58分08秒
- 「…眠れないの?」
「ふぇっ!? あ…っ、その……はい…」
「当然か…」
言って後藤さんはゆっくり立ち上がると、キッチンへと行ってしまう。
「あ、あの…っ」
「ココアでいい?」
「へ?」
「身体、あったまるよ。それに落ち着くかも」
「あ…はい」
後藤さんって…いつも唐突で不思議な人だなぁ…。
でも、全然迷惑な感じはしないし…むしろちょっとした優しさが見えたりして嬉しいかもしれない。
多分今も…気を遣ってくれたんだと思うから。
「ハイ」
「あ、ありがとうございます…っ」
戻ってきて差し出されたマグカップをそっと受け取る。
立ち上った湯気に、甘い香りが混ざってどこかホッとするのがわかった。
それからそっと一口飲むと、全身に温かさが伝わって…自然と落ち着けたんだ。
- 487 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)20時58分51秒
- 「美味しい…」
「そう? 良かった」
そう言って後藤さんもココアを口に含んだんだ。
しばらくの沈黙。
でも、全然息苦しいものじゃなくって…やっぱりどこか安心できる感じがしたのは気のせいじゃない。
後藤さんが側にいるっていうだけで、こんなにも気持ちが楽になるなんて…やっぱり私は、この人が
好きなんだって実感してしまう。
「やっぱり不安?」
「え…?」
「いきなり理由も聞かされずに、こんなトコロに連れてこられて」
「あ…」
やっぱり…後藤さんには判ってたんだ。
眠れない理由とか、そんなのが。
まぁ、泣いていたら誰だって判っちゃうのかもしれないけど…。
「そ、そんな事…っ」
ないです、って言いたかった。後藤さんに心配かけたくなくて。
けど…優しく向けられる視線に何も言えなくなって…言えなくなって…。
- 488 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)21時00分14秒
- 止まったはずの涙が、またじわりと浮かび上がって…思いっきり俯いてしまったんだ。
零れ落ちた涙は…そのままココアに落ちて溶けていった。
「…っ…く…っ」
「紺野…」
こんな私、困りますよね…?
守ってくれるって言ってくれた後藤さんを信じているのに、それでもやっぱりどこか
信じきれてなくて…。
けど…。
「いいよ?」
「…え…?」
「泣きな?辛いんでしょ?それに言って?辛いこと全部。ちゃんとアタシ聞くから」
後藤さんは私を責めなかった。
ううん、それどころかそれが当たり前なんだよって手を差し伸べて頭を軽く撫でてくれたんだ。
だから、もう止まらなかった。
「こ…怖いんです…っ。だって…私、普通の子だし…ヒクっ…だって私…なんにもしてないのに…っ」
「うん」
「後藤さんの事、信じてるって言ったのに…やっぱり…怖くて…っ…ヒクっ…怖い…怖いんです」
「うん」
情けなく嗚咽しながら、途切れ途切れに言葉を吐き出していく。
ずっと我慢していた不安とか、そんなのが一気に溢れ返ってきて…。
後藤さんの前なのにって思ったけど…けど、同時に思ったんだ。
後藤さんの前だから、全部話してしまいたい…って。
- 489 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)21時00分58秒
- 後藤さんは、じっとあの優しい眼差しで相槌を打ってくれていたんだ。
嫌な顔ひとつせずに。
「紺野…」
ひとしきり泣いて、やっと少し落ち着いたとき、後藤さんがゆっくり立ち上がると私の隣に腰掛けたんだ。
それから、少し戸惑ったみたいに手を上げて…私の肩を引き寄せてくれて。
自然と後藤さんの胸に顔をうずめる形になって、胸がドキン、と大きく高鳴ったんだ。
「ご、後藤さん…?」
「…約束するよ」
「え?」
「絶対に紺野は守ってみせるから」
「あ…」
「それと…不安な時とか怖い時は、いつでもアタシを呼んで?どこにいても、どんな時でも駆けつけるから」
ぎゅっと、強く抱きしめられて頬が熱くなっていくのがわかる。
それと同時に、すごく胸の内から暖かくなっていくような感覚が広がって…また涙が零れた。
「あり…がとう…ございます…っ…」
けど、今度は悲しくて流れる涙じゃなくって…嬉しいから。
- 490 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)21時01分50秒
- 「そうだ…紺野、いいモノ見せてあげようか?」
「え…?」
突然言われた言葉に顔を上げると、少し楽しそうにしている後藤さん。
いいモノってなんだろう?
首を傾げていると、ゆっくりと立ち上がって手を差し伸ばされて…。
よくわからないけど握り返したんだ。
「ついてきて」
「あ、はい」
どこに行くんだろう…?
後藤さんは、本当に楽しそうに部屋の奥の階段を上っていって…。
ひとつの扉の前で立ち止まると、一度私に振り返ってからその扉を開けた。
「わぁ…っ」
その先に広がる光景に、思わず声を出してしまう。
だってそこは屋上で…、目の前に夜のネオンに照らされた街がキレイに映っていたから。
もう3時になるのに、全然街の灯は落ちてなくて…凄くキレイに。
「これだけで驚いちゃダメだよ」
「え…?」
返事を返すと、後藤さんは口元を緩めながら私の後ろに立って。
- 491 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)21時02分33秒
- 「手、前に差し出して」
「え? あ、こう…ですか?」
「うん」
言われたとおりに両手を前に差し出すと、後藤さんが後ろからその手に自分の手を
重ねるみたいに伸ばしてきたんだ。
「ご、後藤さん…っ?」
「力…抜いて」
「え…っ、は、はい…」
驚いて返事を返すけど、後藤さんは指を絡めてきて…。
そ、その…っ、凄く恥かしいんですけど…っ。
背後に感じる暖かい感覚に、どうしていいのか判らなくなってぎゅっと目をつぶってしまう。
と、その瞬間。
ヒュッ…
柔らかい風が辺りを包んだのが判った。
後藤さんの…力だ…。
こうして目を閉じていると、凄く優しくて力強いのがよくわかる。
後藤さんらしい…そんな風。
「紺野? 目、開けてみな?」
「あ…はい…。 …あぁっ」
言葉がでなかった。
だって、さっきとは全然比べ物にならないくらい街の灯がたくさんあって…。
どこまでも続くその灯の果てが見えなかったんだ。
- 492 名前:信頼すべき人 投稿日:2003年08月28日(木)21時03分30秒
- 「凄いです…っ、こんなの初めて見ました…」
「だろうね。あ、足元は見ないほうがいいかもよ?」
「へ? …って、ひゃあっ!!」
じ、地面がないですっ!! というか、さっきまでいた屋上はどこですかっ!?
ぜ、全然見えなくて…思わずぎゅっと後藤さんの手を握り締めてしまう。
「だから見ないほうがいいって言ったのに」
「だ、だって…っ、見るなって言われれば見たくなるのが人間の心理じゃないですかぁっ」
「紺野、言ってるコトがムチャクチャ」
「うぅっ、後藤さんは意地悪ですっ」
「あは、紺野限定…かもね」
「そんな限定、嬉しくないですよぉ…っ」
そんな会話をしながら、気づいたんだ。
私…元気になってるって。
さっきの不安とかが嘘みたいに…。
きっと…後藤さんのおかげで…。
もう、怖くなんてない。
だって私には、こんなにも思ってくれてる人が側にいるって判ったから。
それに、こんな大きな街の灯を見てると、私が不安に思ってたことなんて、凄くちっぽけな
ものに見えたんだ。
その後、部屋に戻ってぐっすり眠れたのは言うまでもなかったんだ。
- 493 名前:tsukise 投稿日:2003年08月28日(木)21時12分32秒
- >>480-492
今回更新はここまでです。次回からは急展開にさせる予定で…(^^ゞ
紺野とごっちんの危機ってカンジになればいいなぁ…と
>>476 つみさん
『イナバ』…想像通りになりますでしょうか…?
というか、もう関西弁で夢に出てきた人物は2人いたって時点で
バレバレなんですけどね(^^ゞ
>>477 林火さん
『イナバ』と紺野の関係、謎の組織…全ては紺野の夢が鍵…かも(^^ゞ
急転直下の展開になっていく予定なんで続けて読んでくだされば嬉しいですっ
応援レス、ありがとうございますっ!!
>>478 ヒトシズクさん
はい♪今回は、ちょっとブレイクって感じでしたが、どんどんシリアス路線に
行く予定だったり♪ 紺野と3人の奇妙な共同生活…一体どうなるコトやら(マテ
毎度の応援レスに励まされつつ、頑張りますねっ!
- 494 名前:tsukise 投稿日:2003年08月28日(木)21時13分24秒
- >>479 片霧カイトさん
おおっ!片霧さんまで読んでくださっていたとはっ!嬉しいです♪
紺野とびっちんの同棲(!?)生活は、甘々とはいかないみたいですが、どんどん
絡ませていくよていなんで、またまた読んでくださればと思います♪
私も片霧さんの小説、楽しみにしてますので頑張ってくださいねっ
- 495 名前:つみ 投稿日:2003年08月28日(木)21時34分14秒
- 風の力を有効利用してますね^^
『イナバ』のことがそろそろわかりますかね。
- 496 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月28日(木)22時39分14秒
- きゃー!!!!
ごっちんが・・・ごっちんが!!!!(おい。
紺野限定のごっちんの優しさがすごい伝わってきて・・・
それにアヤカが動き出したし・・・(w
これからどうなるのかな?
と、わくわくしてしまいますね!!!
次回の更新楽しみにしています♪
頑張ってください!
- 497 名前:みっくす 投稿日:2003年08月31日(日)14時24分25秒
- はじめまして。
一気に読ませていただきました。
こんごま、一番好きなCPです。
あと、みきてぃもあややもでてきてますし。
ごまっとう押しとしてはたまらないです。
今後の更新楽しみにしてます。
- 498 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:48
- 閉められたシャッターの隙間から入り込んでくる陽の光で、一日が始まった。
慣れないベッドだったけど、疲れはないし…。
まずまず、気持ちいい目覚めだと思う。
うーん、と一度大きく伸び。
身体の節々がポキポキといって、頭の中がすっきりしていく。
…これから先のことなんて、なんにも判らないけど、けど大丈夫。
私には、後藤さんがついてくれてる。
心の中で呟いて、やっと私はベッドから降りてリビングへの扉を開けたんだ。
「おはよう…ございます」
恐る恐る顔を出して言うと…
「…おはよ、紺野」
キッチンから、ひょっこり顔を出して返事を返してくれる後藤さん。
その変わらない優しい視線に、自然と頬が緩んでしまって…ちょっと恥かしくなってしまったっけ。
- 499 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:49
- 「もうすぐ朝食が出来るから、顔洗ってきな?」
「え?」
「今日の当番、アタシなんだ」
「そうなんですか?」
返事の代わりに、後藤さんは手に持ったフライパンを掲げてみせてくれた。
香ばしいベーコンの焼ける匂いが漂ってきて、生唾を飲み込んでしまう。
「あ、紺野ちゃん。ちょうどいい所に」
「え? あ、松浦さん。おはようございます」
「うん、おはよう」
ちょうど部屋から出てきた松浦さんは、返事を返しながら大きな紙袋を差し出してきた。
「はい」
「なんですか?」
「制服。昨日のは、汚れてるからアタシのを使って」
「えっ!? い、いいんですか?」
「うん。っていうか、もうあの学校の生徒じゃないからアタシ」
「あ…」
そういえば、そっか…。
松浦さんたちは私の学校に、お仕事として来てたんだもんね…。
じゃあもう、必要ないんだ。
- 500 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:49
- 「あと、ちょっと大事な話があるんだけど…食事の時にでも話すか…」
「はぁ…」
「とりあえず、身支度を整えておいで」
「あ、はい」
大事な話…。なんだろう?
きっと、また大変な事なんだろうけど…。
ちょっと気分が滅入ってしまいそうになりながら、私は洗面所へと歩いていったんだ。
「あっ、おっはよ〜っ、紺ちゃん」
「お、おはようございます…」
入っていきなり、元気な声で挨拶を交わす藤本さん。
藤本さんの場合、静かな時ってないんじゃないかなぁ…なんて思ってしまう。
「そうそう、歯ブラシは新しいのを出しておいたから、それを使って? タオルは棚のを」
「あ、はい」
言われた歯ブラシを手にとって…そのまま藤本さんを見て驚いた。
- 501 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:49
- 「ちょっ、藤本さんっ、何してるんですか?」
「何って、服脱いでんだけど?」
「そうじゃなくて、なんで脱いでるんですかって事ですっ」
「あ〜ミキ、朝風呂しなきゃ一日が始まんないだよね〜」
「そ、そうなんですか…?」
Tシャツで短パン姿の藤本さんは、あっけらかんと言い放って、さも当然のようにしてる。
で、でも、いきなり脱いだら驚くじゃないですか…。
その、恥かしいって気持ちはないのかなぁ…?
「真希もさっき入ってたし」
「後藤さんも?」
「うん。真希ってああ見えて超低血圧でさ〜、だから朝風呂で体調を整えてんだよ」
「へぇ…」
そうなんだ…?
全然そんな風には見えないけど…、なんとなく微笑ましい…かも。
凄くしっかりしてるみたいに見えるから。
- 502 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:50
- 「なに? 紺ちゃんも一緒に入る?」
「け、結構ですっ」
「そんな、テレなくてもいいのに」
「藤本さんがオープンすぎるんですっ!」
「そっかな〜?」
なるべく見ないようにして、私は歯を磨き始める。
藤本さんは、そんな私を見て笑いながらお風呂場に入っていった。
それからしばらくして、シャワーの流れる音と楽しそうな鼻歌が聞こえた。
…藤本さんって、やっぱり変わってるなぁ…。
女の子同士だけど、恥かしいって気持ちは少しぐらいあってもおかしくないのに…。
というか…こんな生活に私は慣れなきゃいけないんだよね…?
はぁ…朝なのに、ちょっと疲れた気分になってしまったっけ…。
- 503 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:50
- 「…で、大事な話なんだけど」
「あ、はい」
食卓に4人でついて…といっても、リビングのソファーにガラスのテーブルなんだけど。
朝食をつまみながら、松浦さんが話をきりだしてきたんだ。
「まず…紺野ちゃんが今まで住んでたアパートだけど、引き払ってもらうから」
「えぇっ!? どうしてですかっ?」
びっくりするけど、松浦さんは表情1つ変えないで一度後藤さんに視線を向ける。
後藤さんは、視線に気づいてるんだろうけど何にもいわないで黙々と食事をとってる。
「昨日、言ったよね? 紺野ちゃんは狙われてるって」
「あ…はい」
「あそこにいたら、これまで以上に危険な目に逢うから」
「そう…ですか…」
確かに…昨日の事もあるし。
正直、あそこに一人で住むのは怖いなぁって思ってたけど…。
- 504 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:51
- 「あ、じゃあ、今日荷物を取りにいってもいいですか? 制服とか着替えとか…」
「それは…。諦めてくれないかな」
「え…? どうしてですか…?」
「何度も言うようだけど、紺野ちゃんの周りはホントに危険なんだよ。不用意に近づくのも
やめたほうがいいんだ」
「でも…」
「新しい物を買えばいいから。制服もアタシのを着ればいいよ」
「…わかりました…」
なんだか腑に落ちないけど、どうしてもあのアパートには行かせてくれないみたい。
それだけ、心配してくれてるって事だし、これ以上困らせたくないから曖昧に頷いたんだ。
「よしっ!じゃーさ、今日紺ちゃんが帰ってきたらショッピングに出かけよっか!」
藤本さんが、トーストを手に持って元気良く私の肩を叩いてきた。
なんていうか、どんなときでも明るいよね、藤本さんって…。
でも、今はその明るさが気分を紛らわせてくれて心地良かった。
- 505 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:51
- 「あれ? でも、藤本さんと松浦さんって海外に転校するって言ってませんでした?」
「紺ちゃん、記憶力いいねー…、けどそれウソだから。ってか、中学生っていうのも
全部ウソだし」
「えぇっ? じゃ、じゃあ、藤本さん達って本当はいくつなんですか?」
「あー、言ってなかったもんね。ミキが18・真希が17・亜弥が16だよ」
「そ、そうなんですか…」
そりゃあ、中学生に見えないわけだ…。
だって、高校生並みのスタイルだったし…、なんとなく納得…かも。
けど、後藤さんと松浦さんが藤本さんより年下だったっていうのは意外かも。
二人とも凄く落ち着いてるし…しっかりしてるし…。
「紺ちゃん、あのね…そのジト目でアタシを見てる時点で、何を考えてるのか判るから」
「ふぇっ!? や、その…っ、なんでもないですっ」
「ったく…」
藤本さんは面白くなさげに、トーストを口の中に放り込んだ。
ご、ごめんなさい。
- 506 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:52
- 「紺野」
「は、はいっ!」
後藤さんに呼ばれて、思いっきり返事を返してしまう。
藤本さんも松浦さんもビックリしたみたいで、一瞬止まってしまって恥かしかった。
けど後藤さんに呼ばれると、どきっとしてしまうんだ。
「な、なんですか?」
「いや…、食べないと時間ないんじゃないって?」
「へっ、あっ!」
言われて腕時計に視線を落とす。
7:45分過ぎ!?
8:30に始まるから、もうそろそろ家をでないと間に合わない…っ!
アパートからそんなに離れてないこの場所だけど、それでも学校からは結構離れてしまってるから。
「い、急ぎますっ!ごめんなさいっ」
「や、別に怒ってるワケじゃないから…」
ちょっと戸惑ったみたいにしてる後藤さんに頭を下げて、トーストとお皿に乗った目玉焼きと
ベーコンを急いで口に入れる。
あ…美味しい…。
焼き方とか、すごく上手いし…目玉焼きの黄身だってトロっとした半熟で…。
今度…後藤さんに料理を教えてもらおうかな…?
って、今はそれどころじゃなかったんだっ。
- 507 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:52
- 残りのサラダを口に入れて、牛乳を飲む。
ちょっと急ぎすぎて、お腹に響いたけど、うん、全部食べれた。
残すなんてもったいなくて。
「ごちそうさまでしたっ」
「うん…。急いで食べてたみたいだけど、大丈夫?」
「か、完璧ですっ」
言った瞬間、藤本さんが隣で吹き出した。
「『完璧』って、あっははっ!確かに、口の周りに牛乳の後つけてるし、完璧だね〜っ」
「えぇっ!? つ、ついてますか!?」
「くっきり、はっきり」
そう言って、可笑しそうに笑いながらティッシュを差し出してくれたのは松浦さん。
うぅ…後藤さんまで笑ってるし…。
全然、完璧じゃないかも…。
「じゃ、行こっか」
「え?」
ゆっくり立ち上がって、コートを着込む後藤さんにキョトンとしてしまう。
行こう…って…、え?
- 508 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:52
- 「学校まで、一緒に行くよ」
「えぇっ!? 一緒にですか?」
「うん。ここらへん、治安が良くないから。それに…ちょっと心配だしね」
「あ…」
そっか…、やっぱり気にしてくれてるんだ、昨日の事。
じゃあ、お言葉に甘えた方がいい…よね。
「お〜お〜、真希やっさしいじゃん」
「明日は大雪かもね」
藤本さんと松浦さんは、相変わらず朝食をつまみながらニヤニヤと笑ってる。
な、なんだか…複雑です。
後藤さんも、なんだか居心地悪そうにしてるし…。
「じ、じゃあ…その、お願いします」
「…うん。美貴、あとお願い」
「ハイハイ〜。いってらっしゃ〜い。学生の本分を、まっとーしておいで〜」
「は、はぁ」
外に出て扉が閉まるまで、藤本さんは楽しそうに手を振っていたっけ。
- 509 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:53
- 一歩外に出ると、夜の賑わいを見せていた街が今は嘘のように静まり返っていた。
まぁ…、朝からあんな感じだと逆にびっくりしちゃうんだけど。
後藤さんを見ると、建物の隙間から差し込む陽の光に眩しそうに目を細めてる。
あ…そういえば、いつもしてるサングラス…どうしたんだろ…?
昨日気がついたら、もうかけてなかった気がする。
もしかして…公園で落としちゃったのかな…?
「後藤さん?」
「なに?」
「あの…いつもしてるサングラス、どうしたんですか?」
「あー…、昨日……なくしたんだ」
「そうなんですか」
「ヘン?」
「そんな事ないです。むしろスッキリしてます」
「そう?」
「だって後藤さん、凄くきれいな瞳をしてるから…いつも隠しててもったいないなぁって
思ってたんです」
「そう…? あり…がと」
困ったみたいに笑う後藤さん。
それを見て気づいたんだ。
なんか恥かしい事を言っちゃったのかもって。
で、でも…ホントにそう思ったから…。
- 510 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:53
- 「とにかく…、行こう」
「あ、はい…っ」
足早に歩いていく後藤さんの後ろをついて歩いていく。
真っ黒のコートは、朝の街には凄く映えて…一緒に歩くのがちょっと気が引けたっけ。
「ねぇ」
「は、はい?」
「なんで後ろ歩いてんの?」
「え…、べ、別に理由はないんですけど…」
「隣、歩きなよ」
「え?」
「なんか落ち着かない」
「あっ、ごめんなさい」
謝ると、後藤さんは足を止めて、くるっと振り返った。
明らかに不満顔。
えっと…? 何か悪い事してしまいました…?
- 511 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:53
- 「紺野、言っとくよ」
「は、はい…」
「アタシはね、紺野と対等でいたいんだ。確かに住んでた環境とか違くてすぐには
そんなコトできないかもしんない」
「はぁ…」
「それに……アタシのコト、怖いかもしんないけど」
「そんなことないですっ!!」
思わず大声で否定していた。
だって、後藤さんがとても寂しい目をしていたから。
後藤さんは、私の言葉に驚いたみたいに目を見開いて、それからゆっくり瞬きをした。
「だったら尚更、遠慮とかしないで。なんか…ココがモヤモヤする」
言って後藤さんは、自分の胸元を親指で小突いてみせる。
凄く真剣だった。
気を遣って言ってるんじゃなくて、本心でそれを望んでる。
それが伝わってきて…なんだか、胸が熱くなった気がしたんだ。
- 512 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:54
- 守る・守られるの関係じゃなくて、対等に話せる関係。
それを許してもらえたような気がして、嬉しかった。
だから…
「…はいっ」
私は返事を返して、後藤さんの隣に並んだんだ。
見あげれば、優しい瞳の後藤さん。
あ…なんだか、わかった気がする。
後藤さんのサングラスの理由。
感情が読みにくい後藤さんだけど、その瞳だけは正直で何を感じているのかが判って…。
だからあえて隠してるのかなって。
勝手な考えだけど、そう思ったんだ。
「あ、もうここまででいいです」
「そう?」
あと200mで学校への大通りになるっていう所で、私は後藤さんを止めた。
なんとなく、学校のみんなには後藤さんの事を内緒にしておきたくて。
- 513 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:54
- 「ありがとうございました」
「うん。あ…これ、渡しとく」
「え?」
手渡されたのは、一枚のメモと小さな機械。
「アタシや美貴・亜弥の携帯番号と、小型スピーカー。スピーカーは耳にはめるだけで
マイクの役割もしてくれるから。緊急の時には使って」
「あ、はい。わかりました」
「じゃ、学校が終わったら連絡を」
「はい」
軽く手を振って、私は学校へと歩いていく。
校門の手前で振り返ると、まだ後藤さんはさっきの場所にいて、じっと見守っていてくれたんだ。
- 514 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:54
- 『そんなことないですっ!!』
…か。
驚いたけど、嬉しかった…かも。
そんなコトを考えながら家に戻ると、亜弥・美貴に昨日の紺野の自宅での出来事を報告する。
背後を取られたことに、美貴が面白そうに笑ったのが気に食わなかったけど、現状を的確に
伝えたんだ。アヤカに動いてもらったコトも。
そして…
「相手の情報ができるだけ欲しい」
その言葉で、美貴がパソコンの前へと座ったんだ。
こういった情報収集は、得意分野だから。
- 515 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:55
- 「始めるよ」
美貴が今までとは全く違う鋭い声で、パソコンを立ち上げるとキータッチに入った。
アタシと亜弥は、両サイドからディスプレイを覗き込む。
映し出されているのは、一般公開されているなんの変哲もない内閣調査室のサイト。
けれど、美貴がカタカタと何かを打ち込んだ瞬間、画面にポップアップが幾つも浮かび上がってくる。
その全てを確認して、特定のものにアクセス。
何回かの画面の点滅の末、ホストに繋がった。
「まずは国のデータバンクと直通完了…か」
亜弥の言葉に、美貴の返事はない。
それだけ集中してるってコト。
そこから何重にもかけられたプロテクトをかいくぐって、国の情報機関のそれぞれの部門へアクセスする。
ここまでで10秒。
早いか遅いかで言えば、間違いなく早い。
美貴にしか出来ない芸当だと思う。
「この段階で逆探知されたらアウトだね〜」
キーを弾く手はそのままに、美貴がニヤリと笑って見せた。
余裕が出てきたってコトか…。なら、目的地まではもうすぐ。
- 516 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:55
- 「どのくらいの経由を行ってるの?」
アタシの問いに、美貴は「ん〜」と軽くうねった。
「まー内閣情報調査室の一般ホストから、監視機構を通って公安に入り込んでる」
「官房から総務省…で、法務省か。タライ回しされてる情報って所?」
「まーね、日本のお役所ってそんなモンでしょ?」
肩をすくめてみせる美貴は楽しそう。
こういうコトにかけると、美貴って天才的だからね…。
「けど…、奥深い情報はお互いに伏せてる」
「そ。けど、日本人はポーカーには向いてない。ジョーカーを隠そうとすればするほど逆に
ボロが出てしまう」
亜弥の言葉にもおどけ半分。
その間にも、何度も画面に現われるプロテクトを的確なPASSコードを打ち込んで潜り込んでいく。
「それにあやかっているのが、アタシらか」
「進入に気づかれたら、5秒でアウトだけどね。ま、気づかれなきゃ一日だって繋いでおける」
「それほど甘くはないだろうけど」
「そゆこと。…おっ、出たよ」
- 517 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:55
- 強く美貴が『Enter』キーを弾いた瞬間、情報部門のデータベースが開いた。
アタシ達の目的の場所であり……国の中枢を担う場所。
まさか一般の人間が、生まれて死ぬまでこんな場所で監視されてるなんて思わないんだろうな…。
「politics…international problem…person…nature…、人物だから、『person』か」
選択画面に英字で記された『人物』のカテゴリーを開く。
自動的に、検索画面に移って「Whom are you looking for?」という文字が現われる。
ここからが本番だ…。
「で? 誰だっけ?」
「ヤグチ」
「『ヤグチ』?苗字?」
「わかんない。多分苗字だと思うけど」
「OK」
さすがに『なっち』ではヒットしないだろう。
だから、多分ヒットするだろう『ヤグチ』を検索する。
もしかしたら、『なっち』につながる情報もあるかもしれないし…。
『Yaguchi or Yaguci or Yaguti』
あらゆる可能性を考えて、美貴が入力する。
そして、『Enter』。
けど…。
- 518 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:56
- 「うわ…っ、これは…」
苦虫を潰したみたいな声をあげる美貴。
亜弥も渋い顔で、溜息をついてる。
何故なら…
該当件数…約1320万件。
「真希ぃ〜」
「わかってる。そこから絞り込む」
考えろ。ヤグチに関する事を。
…待って。あの地域にいたって事は、都内にいるのは確かなはず。
それに身体的特徴があったっけ…?
「美貴。そのうち都内在住者で性別は女、身長が150以下」
「OK」
これで随分絞れるはず。特に…身長でね。厚底を履いていたけれどきっとそのぐらいだろう。
「……お〜」
該当件数2件。
それを見て、美貴はアタシの返事を待たずに画面上に個人データを引き出した。
- 519 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:56
- 一枚目…違う。
確かに女だけど…プロフィールを見なくても明らかに初老の顔写真で違うと判る。
という事は。
「美貴、次」
「はいはい」
「…………」
「どう?」
「…ビンゴ、コイツだ」
広がった画面の写真。金髪に黒目がちな瞳。間違えるはずがない、ヤグチだ。
全身に痺れた感覚が蘇ってきた気がする。
「矢口真里…20歳。東京都…ってなに、コレぇっ?」
素っ頓狂な美貴の声を聞きながら、アタシも亜弥も少なからず驚いた。
だって、国の管理する個人データなのに…肝心な箇所は全て黒塗りにされていて…、
要は『抹消』されていたんだ。
「それだけ…公にはできない何かがあるってことね…」
亜弥が画面を睨みつけたまま呟く。
- 520 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:57
- 公にはできない理由。能力者であるコトもひとつの理由かもしれない。
けれど、それだけでここまで国の力を動かすことができる? 個人で。
…や、それとも後ろについている組織が、それだけの力をもったトコロだから…?
「美貴」
「なに?」
「もう1つお願い」
「うん?」
「まい・あさみ・みうな。多分…苗字じゃなく名前。あと矢口と同じで東京都在住の性別女」
「OK」
アタシの予想が当たっているなら、この三人もきっと…。
「みうなでヒット。まぁ関連性であとの二人も出た…けどさぁ…」
表示された画面を見て納得。
やっぱりね、抹消済…か。
これは…お手上げ…かな。
「んー…、なんか腑に落ちないな〜…」
「? 何が」
問い返すとしばらく「うーん」と唸ってから、美貴がクルっとイスを回転させてアタシと亜弥を交互に見た。
- 521 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:57
- 「国のデータバンクでしょ? 一般公開されてるワケじゃないんだし、職員の誰に見られても
いいようにされてるのが普通でしょ? なのに抹消されてる」
「…つまり、どういうこと?」
「つまりさぁ…一般の職員には伏せておかなきゃならない情報ってワケでしょ?…ならもっと上の
階級職のアクセスレベルで介入すれば、もしかしたら…」
そこまで言って、アタシと亜弥は理解する。
アクセスレベルは、データベースを閲覧する為に国の職員全員にその階級によって割り当てられたもの。
今アタシ達が見ているものが通常レベルだとすると、それ以上のレベルで介入すれば末梢された
情報も見る事が可能ってコト。
けど…そのためには…
「IDとPASS、どうすんの?」
それがなきゃ、元も子もない。
けど、美貴はそんな疑問なんて問題ないとでもいうようにニカっと笑ってみせる。
「ミキを、そんじょそこいらのハッカーと一緒にしないで欲しいんだけど?」
言って、イスに座りなおすとパソコンに向かって、素早く打ち込みを始めた。
- 522 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:57
- カタカタという音だけが、部屋に響いて。
アタシや亜弥には判らない、文字の羅列が並んでいく。
素早い、そのキータッチに目が追いつかない。
「出るよ…、メモって…」
心底楽しそうな声を上げながら、美貴の打ち込みは続く。
アタシは亜弥に視線で合図して、差し出されたペンとメモの切れ端を受け取る。
「IDは『RinneToda』。PASSが『H』……%…じゃなくって、『e』…『l』『l』『o』…」
「『Hello』…?』
「『Hello!Project』…ハロープロジェクト…っ」
美貴はPASSの解読を終えて、打ち込みを終了する。
と、同時に、背もたれに思いっきり身体をのけぞらせた。
「っあ〜〜っ! 疲れるぅっ!! こんなのヒサブリだよ」
「やるじゃん、ま、これで貸し1つチャラだね」
「え〜っ! なんでぇっ! これって2つ分ぐらい働いてない?」
「アンタの専門分野でしょ? できて当然」
「亜弥、フツーにムカツク」
ふてくされる美貴に、亜弥はおかしそうに笑って肩をポンと叩く。
それを見ながら、アタシはメモった紙を見つめる。
- 523 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:58
- トダリンネ…。この人物がどんな人なのかはわからない。
政治的に名も明かされない管理職の人だから、おそらく、これからだって判らないだろうけど、
この件に関しては、利用させてもらうことに感謝しなきゃならないかもね。
「…じゃ、早速で悪いけど美貴、アクセスお願い」
「真希もフツーにムカツク」
それでもメモを手にとって、打ち込みをまた始める美貴。
先程のカテゴリー画面に戻って、ID認証とPASS画面に移行する。
「さてはて、どれほどの階級なのかは見てのお楽しみってトコロか」
軽く舌なめずりをして、IDとPASSを入れた。
その瞬間、画面に映った文字に驚いた。
『Level all clear!!』
「オールクリア…!? なに、この人何者なの?」
「ミキも初めてみた…」
亜弥の質問に答えになってない答えをする美貴。
美貴もどんな人物なのか判ってなかったみたい…。
- 524 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:58
- けど…、オールクリアなんて。
まさか全ての情報を手にすることができるモノだったとは…。
きっと階級でいえば…この国の中心部分に当たる内閣の裏で働く人なんだろう…。
「…とにかく、今は情報を検索する方が先だよ。美貴、続けて」
「…OK。じゃ、今までの4人のデータを開くよ」
まだ驚きの隠せない美貴だったけど、時間はお世辞にもたっぷりあるとは言えない。
促がして、4人の情報を検索にかけさせる。
「…出たよ。まさにパーフェクト」
言葉どおりの画面。
黒塗りにされていた箇所が、すべて解除されてビッシリと書きこまれている。
略歴からすべて。
「ん…? この箇所は…?」
4人のデータの中で、引っかかる部位を見つけて亜弥が指差した。
それは…現在の4人が居住している場所。
全て同じ場所なんだ。
けど…
- 525 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:58
- 「NAKAZAWA LABORATORY…?『ナカザワ研究所』?」
「はぁ? 研究所に住んでんの? この4人。職員かなんか?」
「それはないでしょ、みうなって子は紺野ちゃんと同じ中3なんだから」
亜弥の言うとおり、中学生が研究所の職員なんて、ごく稀にしか考えられない。
となると…4人の関連性からみて…
「だとしたら…『能力者』を集めている組織の場所ってコトか…」
「何してるトコなんだろ?」
「きっとアタシ達と変わらないコトを仕事としてると思う。矢口と一緒にいたヤツが
紺野を連れて行くことを『仕事』だと言ってたから」
「けど…規模は断然ミキ達より大きいね…」
確かに…。総居住者数が50と書かれているから。
その全員が全員、能力者とは限らないけど、それでも強力な組織だろう。
「ここの研究所の責任者、出る?」
「やってみる」
建物の名前から、検索をする。
トップクラスのIDだからだろうけど、一発でヒット。
- 526 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:59
- 「中澤…裕子?」
プロフィールが開く。
と、同時に不思議な現象が起きた。
備考欄に、次々と項目が浮かび上がってきたんだ。
「なに?」
「シークレットにされてる情報だよ。このIDの人と同じクラスの人しか見れないものが
追加されてるんだと思う」
「ふーん…」
多分、美貴の言うとおり。
何故なら、追加項目の先頭に『Level 6 over』『Level 7 over』と書かれているから。
「『7歳で【Hello!Project】メンバーとなり研究に貢献。考案されたμシリーズの逃亡加担
により資格剥奪、永久追放とされる。ジェノバμ-004を保護されたとの未確認情報を……』」
と、そこで警告音が大きく鳴り響いた。
画面に『ERROR!!』のポップアップがあがる。
- 527 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:59
- 「まずッ! 見つかったッ!」
慌てて美貴がシャットダウンにかかる。
それでも、騒がしい警告音は止まらない。
このままじゃ…っ!
そう思った瞬間、
バチン!
いきなり画面がブラックアウトした。
「えっ!? って亜弥!?」
事態が判ってない美貴が視線を向けた先、いつのまにか亜弥が部屋の隅に行き…、
コンセントを抜いていた。
「ま、非常事態だし」
「そ、そーゆー問題じゃないでしょぉ〜っ!」
「けど、ログはとってるんでしょ?」
「まー、大丈夫だとは思うけどさぁ…、今度からはやめてよね〜」
「今度があればね」
『も〜』なんて言いながらも、美貴も少しは安心したみたい。
まぁ、ここを突き止められるほうが危ないからね…。
- 528 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 11:59
- 「…で? 真希はこれからどうすんの?」
「………」
もう一度コンセントを繋いで、亜弥がゆっくりとアタシに向かってくる。
「別に、どうも」
「ウソばっかり。何も考えてない人間が、そんな獲物を捉えたような目をしないよ」
「………」
バレてる…か。
そりゃ、調べて終わり…なんて軽いコトは、はなからしないしね…。
「今日にでも、研究所に潜入するつもり?」
「まぁ、ね」
「アタシは反対」
亜弥は、パソコンをまた立ち上げて、ログを確認している美貴を一度見て言葉を続けた。
美貴は、判ってるんだろうけど反応しない。
- 529 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 12:00
- 「危険すぎる」
「は…っ、亜弥がそんなコト言うなんてね。今までだって、こんなコト何度もあったじゃん」
「そういう意味じゃない」
「…? じゃあなに?」
「今までの『仕事』は、命の駆け引きがあったとしても勝算もあった。けど、今回のは
無謀すぎるって言ってんのよ」
言ってるコトは間違ってない。
正しすぎて、言葉に詰まってしまうぐらい。
けど…、引き下がれないんだ。これだけは。
「なに? 勝ち目がない勝負は怖い?」
「……怖いよ」
意外な亜弥の一言。
そして一度溜息をついて、アタシを見つめてくる。
それがアタシの中の緊張を呼び起こす。
- 530 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 12:00
- 「今の真希が、何をするのか判らなくて怖い」
え…? アタシが…?
言われて初めて、自分が冷静な判断を失いつつあるコトに気づく。
そうだ…。自分は今、ただ潜入して相手の思惑を知ることだけを考えてた。
手順も、方法もなんにも考えずに。
相手は、どれほどの力量をもっているのかも判っていないのに…。
「…ごめん」
なんて言っていいのか判らなくて、口をついて出たのはそんな言葉。
その返事に、亜弥は苦笑したみたいだった。
「焦るキモチは判る。…紺野ちゃんが、心配なんでしょ?」
「…わかんない」
「ま、いいけど…。…で? 美貴、どうなの?」
亜弥の呼びかけに、美貴がクルっとイスを回転させて親指を立てた。
- 531 名前:信頼すべき人 投稿日:2003/09/09(火) 12:00
- 「まっかせなさい♪ 明日には、研究所の潜入ルートを解析できるよ」
「え…っ?」
潜入ルート…?
言われた言葉に、アタシはハっとして亜弥を見つめた。
「止めても無駄なんでしょ? なら、万全な状態で潜入するしかないじゃん。
真希、アンタとアタシが潜入、美貴がアシスト。それでいい?」
してやられた…。
どれだけこの二人と一緒にいるんだ、アタシは。
こんな風になるって、少し考えればわかるじゃん…。
それだけ、焦ってたってコトか。
「OK」
やっと冷静に戻ったアタシは、不敵に笑って返事を返したんだ。
- 532 名前:tsukise 投稿日:2003/09/09(火) 12:09
- >>498-531
今回更新はここまでです。た、大量すぎですね(^^ゞ
更新まで、結構時間がかかってしまいました(^^ゞ
管理人様、サイト移転お疲れ様です。
>>495 つみさん
風の力で空を飛ぶ…となると、現実離れしてるように見えてしまわないか
心配だったりしましたが、レスに一安心です(^^ゞ
『イナバ』については、次回持ち越しですがかなりインパクト強くする予定です♪
>>496 ヒトシズクさん
紺野限定の優しさ&ちょっち意地悪だったり(ぇ
アヤカもどんどん活躍してもらう予定で…そろそろミカちゃんも出したかったり…(^^ゞ
停滞気味な展開ですが…レスに励まされつつ頑張りますっ!
>>497 みっくすさん
嬉しいご感想をありがとうございますっ!
こんごま推しなんで、みっくすさんの感想、凄く嬉しいです♪
ごまっとうで、結構アクション多目ですが、続けて読んで下さるとありがたいですっ!
- 533 名前:つみ 投稿日:2003/09/09(火) 17:00
- ハッカー全開ですね。
研究所に殴りこみですか!楽しみにしてます!
- 534 名前:ヒトシズク 投稿日:2003/09/09(火) 22:35
- うわぁぁぁ
何かすっごいっすねぇ〜
仕事をするミキティが何気にかっこよくて惚れそうです(笑
研究所へ行くんですね〜今からわくわくしてます♪
では、次回も頑張ってくださいね♪
- 535 名前:みっくす 投稿日:2003/09/10(水) 05:12
- なんか、みきてぃかっこい〜ですね。
いよいよ、殴り込みですね。
たのしみにまってます。
- 536 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/09/10(水) 14:31
- 更新お疲れ様です。読ませていただきました。
ミキティかっけーっすね!
紺野をからかってるときとのギャップがいいです!
次はいよいよ突入ですか? アクションシーンも楽しみにしてます。
頑張って下さい〜!
- 537 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/10(水) 21:06
- 上げるのやめようよ…。
- 538 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/17(水) 21:50
- ほぜん
- 539 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/22(月) 19:59
- 「あさ美ちゃん〜おはよ〜」
「え? あ、おはよ〜愛ちゃん」
教室に入ると、すぐに愛ちゃんが挨拶してくれた。
その隣には、里沙ちゃん。
今日は一緒に、学校に来たのかな?
なんだか、ちょっと嬉しいかも。
けど、そう思ったのも束の間。
突然、愛ちゃんと里沙ちゃんがニヤニヤと笑いながら私に近づいてきたんだ。
「な、なに?」
異様な二人に思わずたじろいでしまう。
「あさ美ちゃん…」
「は、はい?」
「……あのカッコイイ女の人は誰?」
「へっ?」
言われて一瞬、良く判らなかった。
そんな私に、里沙ちゃんが「も〜」って言いながら詰め寄ってくる。
- 540 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/22(月) 20:00
- 「さっき、一緒にいたじゃん〜。ほら、真っ黒なコートを着ててすっごく美人なあの人!」
「あ……」
やっと判った。
後藤さんの事だ。
いつのまにか、二人に見られてしまっていたみたい。
「えっとぉ〜…そのぉ…」
内緒にしておきたかったのになぁ…。…なんとなく。
けど、今の二人の好奇心に満ちた表情を見たら…無理みたい。
「後藤さん…っていうんだ」
「後藤さん? なに? あさ美ちゃんとはどんな関係なの?」
「へっ!?」
ど、どんな関係って…。
うん…と…?
「ズバリ、付き合ってたり?」
「つ、付き合って!?」
- 541 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/22(月) 20:00
- 思わず、声が裏返った。
付き合うって、そんな…っ。
そんな風になれたらなぁ…とは一瞬思ったりしたけど、今の私の状況からして、
きっと後藤さんは、私をそんな対象として見てないと思う…。
ただ…「守る」っていう対象にしか見てくれてないんだろうなぁ…。
「そ、そんなんじゃないよ。その…いろいろあって、今お世話になってる人なんだ」
「そうなの? なんかあさ美ちゃんは、それだけじゃないって顔だったけど〜?」
「そ、そんなことないよ、うん」
後藤さんといる時の私って、そんな風に見えちゃうんだ…?
ちょっと気をつけたほうがいいかなぁ…。
後藤さんに迷惑がられたら立ち直れないし…。
- 542 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/22(月) 20:00
- 「ん〜なんか色々問題があるみたいだねぇ?」
「え?」
「あさ美ちゃん、私達はいつでも協力するから何かあったらいいなよ?」
「はい?」
「とぼけちゃってぇ。あのね、今のあさ美ちゃんの表情ね『好きなんだけど…』って
いうような難しい乙女の表情だよ?」
お、乙女って…。里沙ちゃん、あなたいくつ?
でも、そんな顔にでちゃうのかなぁ?
藤本さんにも、からかわれちゃうし…。
「えっと、ありがとう。でも大丈夫だから」
「まぁ、そうあさ美ちゃんがいうなら…。あっ!それとね、この事麻琴には言わない方が
いいよ?」
「え? どうして?」
「あさ美ちゃん、気づいてないの!?」
- 543 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/22(月) 20:01
- 里沙ちゃんの呆れたような顔。
愛ちゃんは、困ったみたいに笑ってるし…。
でも、なんでまこっちゃんには内緒にしておかなければならないのかがわかんないもん。
「麻琴…つくづく報われないねぇ…」
「そうだねぇ…」
「?」
「とにかく、麻琴の事を思うなら内緒にしておきな?…相手があんなカッコイイ人なら、ショックも
大きいと思うし」
「えっと…うん…」
よくわからないけど、それがまこっちゃんのためならそうしようかな…?
と、その時。
「おはよ〜」
「あ、まこっちゃん…。おはよう」
- 544 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/22(月) 20:01
- 教室の扉をくぐって、まこっちゃんが笑顔で挨拶をしてくれたんだ。
愛ちゃんと里沙ちゃんは、私に『内緒だよ?』と念押しをするみたいに、両サイドからジロっと
睨んでから、自分達の席に戻っていっちゃった。
…そこまで息がそろうと、なんだか怖いよ二人とも…。
「あの二人、どうしたの?」
「えっと、どうしたんだろうね?」
まこっちゃんの問いにも、私は困ったみたいに笑って答えるしかなかった。
それからすぐ、始業のベルがなって、私の退屈で長い一日が始まったんだ。
- 545 名前:tsukise 投稿日:2003/09/22(月) 20:03
- >>539-544
今回更新はここまでです。
み、短い上に遅くて申し訳ないです(^^ゞ
次回からは、もうちょっとペースアップ…したいなぁと(^^ゞ
>>533 つみさん
ハッキングって文字で表すと大変なんだと思ったり(^^ゞ
研究所への殴りこみは、次回持ち越しになっちゃいましたけど
バトルモード全開でいく予定ですっ♪
>>534 ヒトシズクさん
仕事をするミキティは、やっぱり一味違うというトコロを書けて良かったです♪
いつも、ちょっとどこかおふざけモードが入ってるトコロばっかりなんで(^^ゞ
研究所に行くところから、どんどん話を進ませていくよていだったり♪
>>535 みっくすさん
ミキティのカッコイイ姿がかけてよかったです♪
たまには、やるときはやる、ということで(^^ゞ
殴りこみシーンは、ちょっとリリングに行けたらなぁと思ってます♪
- 546 名前:tsukise 投稿日:2003/09/22(月) 20:03
- >>536 片霧 カイトさん
紺野をからかっている時のミキティと、仕事をしている時のミキティは
全然違うんだというのを書きたかったので、感想とても嬉しいです♪
次回は、バトルシーン満載で行く予定なので期待に添えると…いいなぁと(^^ゞ
>>538 名無し読者さん
保全、ありがとうございます(^^ゞ
- 547 名前:つみ 投稿日:2003/09/22(月) 22:11
- おがーさんも報われないですね・・・
紺野さんはやはりまったりがいいっすね!
- 548 名前:みっくす 投稿日:2003/09/23(火) 07:39
- 更新おつかれです。
うん、やっぱり紺ちゃんはまったりがいいです。
次回のバトルシーン期待してます。
- 549 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/09/24(水) 23:32
- 読ませていただきました!
紺野さんまったりしてますね。ホントに「日常」って感じで。
でも嵐の前の静けさなんですかね? バトルシーンも期待してます。
- 550 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:56
- ガシャンッ!!
突然のガラスの割れる音に、アタシは自室のベッドから飛び起きる。
それからすぐさま、枕元に潜ませておいた銃を取り、セーフティーを解除。
力は…なるべくなら使いたくないから。
弾数は…12発。十分だ。
ゆっくりと…慎重に、リビングへの扉を開く。
「!」
その瞬間。
驚きに声が出そうになったけど、かろうじてとどめた。
こんな時、微かな物音だけでも命取りになるから。
落ち着け…感情に流されるな。状況を確認しろ。
言い聞かせて一度深呼吸をして…驚きの原因をもう一度見る。
散々な有様になったリビングの床に、ぐったりとうつ伏せで横たわる…美貴がいた。
- 551 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:57
- フローリングに流れる血が、見える。
アタシは、壁を背に周囲へ何度か銃口を向け、誰もいないコトを確認して美貴にゆっくり触れた。
まだ温かいし、息もある。
傷は…よかった、そんなに深くはない。
「う…真希…?」
「美貴、喋んないで…」
今手当てをするから…と言いかけたその時、アタシの腕を美貴が強く掴んできた。
「紺ちゃんが…ヤツらに…攫われて…っ」
「紺野が…っ!?」
問い返すと同時に…
ガシャンッ!!
再び響き渡る、ガラスの砕け散る音。これは…キッチンからだ…!
ひとまず美貴が『アタシは大丈夫だから』と頷いたのを見て、アタシはキッチンへと歩を進める。
手に握り締めた銃に力を込めて。
- 552 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:57
- ―――気配を感じる。
先日、アタシに電撃を喰らわしてくれた…矢口の。
すり足で壁に背をつけて、キッチンを覗き込む。
やっぱり、矢口がいた。
紺野の両手を後ろから締め上げて、窓の外をうかがっている。
きっと、そこから脱出するつもりなんだ。
―――そうは、いかない。絶対に…アンタは……
次の瞬間、アタシはキッチンに踏み込もうとして…、いきなり後ろから引き止められた。
「!」
咄嗟のことに、銃口をソイツの額にピタリとつけて―――止まる。
「アタシだよ」
「亜弥」
両手を挙げて溜息をつく亜弥に、アタシも銃口を下ろす。
- 553 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:57
- 「真希、冷静に」
「アタシは冷静だよ」
「――ならいいけど。じゃあ……この状況を打破する方法、考えるよ」
「…OK」
本当はすぐにでもキッチンに飛び込んで、矢口を倒したかった。
けど…今の亜弥には逆らえない何かがあったんだ。
「紺野ちゃんを助ける事を最優先に」
「…うん」
そうだ…今は、矢口より紺野だ。
ハ…っ、全然冷静じゃないじゃん、アタシ。思わず笑ってしまう。
「アタシの力でアイツの退路を塞ぐ。そしたら真希、アンタは威嚇射撃をしながら接近、
紺野ちゃんを助ける。――いい、アイツは捕らえるのよ?」
「わかった」
念をおされてしまったら、頷くしかないじゃん。
そして亜弥は、深呼吸して瞼を軽く閉じた。
- 554 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:57
- 「いくよ、1…2…」
「3!」
まず亜弥がキッチンに飛び出す。
「チッ!」
すぐ、その気配に気づいたのか、矢口が振り返って右手を強く前に出した。
ビシィィ!!
放たれる電撃。
それを、反射的に床を転がってかわす亜弥。
矢口の電撃が、その後を追いキッチン用具を次々となぎ倒していく。
「くっ!」
かろうじて逃れた亜弥は、冷蔵庫を盾に様子を伺うしかなかった。
何かきっかけがあれば…。
思わず歯噛みしたその時、アタシの足元に転がってくる蒸留水の入ったペットボトル。
- 555 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:58
- 一瞬の虚をつく行動さえとれればそれでいい。
なら…。
「悪いけど、このコは貰ってくよ」
矢口のその言葉に、アタシは足元のペットボトルを拾い、迷うことなく矢口の頭上に投げつけた。
そして、キッチンに踏み込む。
「アンタ…ッ!」
気づいた矢口は、アタシに向けて右手を再び差し出す……が遅い。
アタシは照準を矢口の頭上から落ちていくペットボトルへ向けて…発砲した。
パシンッ!!
ヒット。
ペットボトルは破裂し辺りに水を撒き散らしていく。もちろん矢口自身にも。
「うあっ!!」
不意を突かれた矢口は、降り注ぐ水にひるんで二、三歩よろめいた。
この好機を逃すはずはない。
- 556 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:58
- 「亜弥!」
「わかってる!!」
返事の代わりに、亜弥が両手を突きだす。
それに反応するように、矢口のすぐ後ろの窓につるされたカーテンが燃え上がった。
いける…っ。
確信を持って、アタシは銃口を矢口に突きつけながら距離を詰めようとした…が。
ここで誤算があった。
矢口の手にはまだ…あのコがいたコト。
「来るな! このコが、どうなってもいいワケ?」
「っ!」
水にまだ目をしばたたかせながらも、矢口はグッと紺野の身体に後ろから抱きついた。
途端にアタシの足が止まる。
「今、オイラが力を使ったらどうなるかなぁ? 二人とも水に濡れてるし…。オイラは耐えれるけど?」
「………やってみな」
「真希…っ!」
亜弥が後ろから止める声が聞こえた。
けど、引けない。
- 557 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:58
- 「…アンタが力を使うより先に…アンタを撃つ」
「…………」
沈黙。
ただ、矢口の背後でカーテンがボロボロと燃えくずとなって舞っていた。
その火は、どんどん壁へと侵蝕していっている。
このまま、無傷で紺野を連れ出すことは物理的に不可能だ。
「…OK、わかった。この場は手を引くよ」
先に動いたのは矢口だった。きっと矢口自身も、そう考えたんだろう。
紺野の身体に回していた手を解いていったから。
そして、解放するだろうと思った瞬間、
「ただし、オイラは逃がしてもらうよ!」
「あ…っ!」
ドンッ!
矢口が強く紺野をアタシの方へと突き飛ばしてきたんだ。
- 558 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:59
- くっ! はかられた…!
咄嗟のことに、アタシは銃の照準を矢口から一瞬逸らしてしまう。
けど…気づいた時には…ううん、逃げる矢口の背を見たその時、身体が自然と動いていた。
以前体感した…、あのスローモーションのような映像。
向かってくる紺野が…見えなかった。
何かを叫んでいる亜弥の声が聞こえなかった。
ただ―――矢口の姿しか捉えていなかった。
殺らなければ…。
昔…随分昔に味わった感覚が、鮮明に蘇ってくる。
慣れ親しんだ死神の手が、アタシの背を押した……気がしたんだ。
殺らなければ、殺られる…。
ただ、それだけ。
ただ…それだけ。
そして…引き金が―――引かれた。
- 559 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:59
- パンッ!!
「きゃ…ッ!?」
紺野が左肩を抑えて、その場に倒れるのが視界の端に映った。
その向こうで、矢口が床にくず折れたのが判る。
手ごたえは十分、確実に急所に入れた。
達成感はない。ただぼんやりと、その場に立つだけ。
…と、次の瞬間、辺りの風景が暗転していく。
ぐにゃり、と歪みながら。
ただ、耳の奥で、美貴の声を聞いた気がする。
『ゲームオーバー』
と。
- 560 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 20:59
- 『真希、アンタねぇ…』
心底呆れ返った亜弥の声に、やっとアタシは『目』を開く。
その視界の先に、アタシの両側を挟むようにソファーに座っている亜弥と美貴がいた。
部屋は、どこにも争った形跡なんてない。
もちろん、亜弥も美貴も無傷だし、アタシも銃なんて持っていない。
ましてや、紺野はこの時間、まだ学校で授業をうけてるだろう。
だって今のは…
「バーチャル訓練なのに、相手殺しちゃダメっしょ〜。しかも紺ちゃんにまでケガさせてぇ…」
そう、ただの訓練だ。
ただし、実践さながらの。
軽くアタシは首をひねって、頭から目元までを覆っていた機械を外す。
「かすり傷だよ」
「そーゆー問題じゃなくて」
アタシの反応にも、美貴は『ダメだ、こりゃ』と天井を仰いだ。
それからカタカタ、とノートパソコンにデータを打ち込んでいく。
- 561 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 21:00
- 「…にしてもさぁ、リアル過ぎない? この機械」
「あったり前じゃん、リアルじゃないと訓練になんないでしょ?しかも被験者には現実なのか
そうじゃないのか判らない作りになってるし」
自慢げに応える美貴に、肩をすくめてしまう。
確かに、実践と変わらない感触だったけど、危うく訓練だってコトを忘れるトコロだった。
ったく…、その技術には脱帽するよ…マジで。
「真希」
「ん?」
呼ばれて振り返ると、厳しい表情でアタシを睨んでいる亜弥。
あー…、まいった…。きっとまた色々言われるんだ。
『じゃあね〜』なんて言いながら、美貴は面白そうに自分の部屋に退散していっちゃうし…。
- 562 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 21:00
- 「なに…?」
諦めモード全開で、アタシはソファーに深く座り直す。
亜弥も、アタシとの距離を縮めてきた。
「アンタ、アタシの言ったコト判ってんの?」
「…なんだっけ?」
わざと、とぼけてみせる。
けど、今日の亜弥は溜息をついて終わり、というワケにはいかないみたい。
「紺野ちゃんを助けるコトが最優先だったハズよ?それに、敵は捕えるコトってのも言った」
「そう…だったかもね」
「で? アンタがやったコトは何?」
「あぁもうっ!悪かった!ゴメン、スイマセン!これでいい!?」
先にキレたアタシは、怒りに任せて言い放つ。
まるで説教を食らうコドモじゃん…っ!
苛立ちは、尖ったナイフのように亜弥に向ける視線に繋がってしまう。
けど、亜弥はひるまなかった。
- 563 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 21:00
- 「全くよくないッ!」
「っ!」
「アンタ、人の命をなんだと思ってんの? 敵を殺したのもそうだけど、あれが現実社会で、
もし、紺野ちゃんがかすり傷程度で済まなかったらどうしたの!?」
「…ッ! それ…はっ!」
「守りたいんじゃなかったの!?」
決定打だった。
アタシの負け。
亜弥の言うことは、全て正論だ。
守りたいと言いながら、紺野を危険にさらして…さらには傷まで負わせた。
今更ながら、その事実に血の気が引いてしまう。
もし、あれが本当にかすり傷じゃなかったら?
矢口に当たらず、紺野に…直接当たっていたとしたら…?
…怖かった。
自分が。
自分自身のココロが。
矛盾したココロが。
- 564 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 21:01
- 「…少し反省しな」
亜弥はそれだけ言って立ち上がると、自分の部屋へと向かっていった。
そして、扉が閉まる直前、
「…あの場合、紺野ちゃんの肩越しに相手の足を狙うものよ」
それだけ告げて行ってしまった。
…こんなんで、本当に紺野を守れんのかな…?
思わず顔を両手で覆ってしまう。
その手が、酷く冷たくて…緊張していることを嫌が応にも思い知らされた気分になった。
『誰も、誰かの命を奪う権利なんてない筈です…っ』
紺野が以前言ってた言葉。
それが今、大きくアタシに圧し掛かってきてる。
まだ…アタシには、命の重さが判っていないんだ、きっと。
- 565 名前:日常・非日常 投稿日:2003/09/28(日) 21:01
- 「……美貴、聞いてたんでしょ?」
アタシが呼びかけると、「ん〜?」なんて言いながら部屋の扉を開く美貴。
「お願いがあるんだけど」
「なに?」
今出来ることは、今やらないといけない気がする。
頭を使ってダメなら…やることは1つでしょ?
「もう一度、訓練させて」
「そー言うと思ってた、いいよ、とことん付き合ったげる」
ニカッと笑う美貴に苦笑しながら、アタシはもう一度大きな機械を頭から被った。
少しでも…自分を変えていきたくて。
- 566 名前:tsukise 投稿日:2003/09/28(日) 21:03
- >>550-565
今回更新はここまでです。
バトル…というかバーチャルバトル、というか(^^ゞ
とりあえず、紺野が学校に行ってる間の、ごまっとうという事で(^^ゞ
>>547 つみさん
まったり紺野…というか鈍感な紺野ですがどうでしょう?(^^ゞ
小川には、何故か苦労が似合ってしまうなぁと思いながら書いてたり(笑
や、でもキメる所はキメてもらう予定ですので(笑
- 567 名前:tsukise 投稿日:2003/09/28(日) 21:03
- >>548 みっくすさん
どこか、ぼーっとしてる紺野なのでこれもアリかなぁと(^^ゞ
バトルシーン…仮想世界のモノでしたけど…いかがでしょう?
まだまだどんどんバトらせていくので、続けて読んで下されば嬉しいですっ
>>549 片霧 カイトさん
自分のことに疎い紺野って、結構楽しいなぁと思いつつ(^^ゞ
紺野の日常と、3人の日常がどんどん重なっていく予定だったり(ぉ
バトルシーンはまだまだ放出していく予定なので、またまた読んで下されば
嬉しいですっ!
- 568 名前:みっくす 投稿日:2003/09/28(日) 22:42
- 更新おつかれさまです。
いや〜興奮してしまいました。
仮想世界だったんですね。
次回楽しみにまってます。
- 569 名前:つみ 投稿日:2003/09/29(月) 00:05
- すごい技術力^^
最初はハラハラドキドキ見てましたけど
バーチャルでよかった・・・
- 570 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/10/01(水) 00:48
- 更新お疲れ様です。
なるほど、そういう展開でしたか。ハラハラしながら読んでました。
これからのバトルシーンも期待してますので頑張って下さい!
- 571 名前:ヒトシズク 投稿日:2003/10/02(木) 22:41
- くぅぅー!!!
あれがゲームだとは・・・(汗
思わず私も本物の世界かと思ってしまいました。
さて、これからごっちんがどう動くか、楽しみです♪
では、大変でしょうが更新など頑張ってください!
- 572 名前:林火 投稿日:2003/10/04(土) 09:34
- こんにちは、林火です。
バトルが、本物かと、思いました。これからの更新も期待してますので頑張ってください
- 573 名前:名無し太郎 投稿日:2003/10/04(土) 11:30
- レスはsageで書きましょうよ…(泣)期待しちゃうから
更新お疲れさまです
毎回良い感じのスピード感が面白いっすねー
ごっちんカッコよすぎ。紺野かわいすぎ。
続きが楽しみです
- 574 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:32
- 午後3:20分。
やっと、長い一日の授業が終わって、教室が賑やかになる。
帰りにどこかに寄ろう、とか、そんな風に喋ってるクラスメートが大半。
なんだか、そんなところを見てると、昨夜の出来事が嘘みたい。
「あさ美ちゃん」
「え? あ、まこっちゃん」
「今日帰り、どこか寄っていかない?」
「あ…」
誘われて、今朝の後藤さんの言葉を思い出す。
確か、終わったら連絡をしてくれって事だった。
それってやっぱり…危ないからさっさと家に帰って来いって事なんだよね…?
それに、部屋を作るって言ってくれてたし…。
「ご、ごめん、まこっちゃん…あの今日は早く帰らないとダメなんだ」
「何? なんかあったの?」
「えっ? あ、その…何かがあったってほどの事じゃなくて…えっと…」
なんていえばいいんだろ?
まこっちゃんを巻き込むわけにはいかないし。
それに、朝後藤さんの事をまこっちゃんには言っちゃダメだって愛ちゃんと里沙ちゃんに
言われたし…
- 575 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:32
- 「あさ美ちゃん? 何か困ったことがあるんだったら言って?なんでもするよ?」
「あっ、そ、そんなんじゃないよっ。でも、今日はちょっと…」
「そう…なんだ? わかった。じゃあまた今度ね」
「う、うん。ごめんなさい」
「謝んないでよ〜。でも、ホントなんかあったら相談してよ?」
「ありがとう、じゃあ…行くね」
「うん、バイバイ」
まこっちゃんは、それ以上何も聞かないでくれた。
多分…気を遣ってくれたんだろうな…。
ごめんね、まこっちゃん。
ちゃんと説明できるようになったら、一番に話すよ。
ちょっと罪悪感を感じたけど、私は校舎を後にして携帯を取り出す。
それからある番号を押す。
それは、今朝教えてもらった後藤さんの携帯番号。
- 576 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:32
- 初めてかけるから、ちょっとドキドキしてしまったっけ。
けど…
『もっしー?誰?返答次第によっては…痛い目に逢ってもらうけどぉ〜?』
あれ? この声は後藤さんじゃない。
「あれ…? 後藤さん…じゃないですよね?」
『え? その声は紺ちゃん? なんだ、この番号って紺ちゃんだったんだ?』
「あ、あの…?」
藤本さん?
で、でも、この番号は後藤さんのはずなんだけど…?
『あー、迎えだね? 今からアタシが行くからそこで待ってて』
「えっ、でも…」
『真希さぁ、いま眠っちゃってるんだ、神経使いすぎて』
「え?」
『とりあえず、今からダッシュで行くから校門の前で待ってて』
「あ、はぁ…」
返事を待たずに切れた携帯を思わず見つめてしまう。
神経を使いすぎて眠ってる…? どういうことだろう?
何か大変なことでもあったのかな…。
後藤さんって…結構なんにも言わない分、自分で抱え込んでしまうタイプみたいだし…。
それから10分。
本当にダッシュをしながら現われた藤本さんに驚きつつも、私は家へと帰ったんだ。
その間に何度後藤さんの事を聞いても、藤本さんは『名誉の負傷』としか教えてくれなかったっけ。
- 577 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:33
- バタン。
家に着くと、真っ先に視界に飛び込んできたのはソファーで眠っている後藤さん。
きゅっと小さく丸まって、ピクリとも動かずに眠ってしまっている。
「どうしたんですか? 後藤さん」
「まー…だから、名誉の負傷?」
「わかりませんよ…その意味…」
「そのうち判るよ。多分」
藤本さんはニカッと笑うと、私の頭をポンポンと叩いた。
「あー、じゃあちょっと真希を起こしてくれる?アタシは亜弥を呼んでくるから」
「えっ? あ、はい」
「フライパン叩くのが一番効果的な起こし方だよ〜」
「はい?」
そのまま奥の部屋へと消えていく藤本さん。
今の言葉は一体…?
フライパンって…そんな大きな音を出さないとダメなんですか?
とりあえずそっと、ソファーに座って後藤さんの顔を覗き込む。
規則正しく聞こえる寝息が、眠りの深いことを教えてくれる。
そんなに…疲れてるのかなぁ…?
- 578 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:33
- 「後藤さん…?」
無反応。
…というか、いきなり反応されてもちょっとびっくりしちゃうんだけど。
って、あっ。
「んー…」
寝言と一緒に後藤さんは猫のように丸めていた身体を、もう一度ぎゅっと小さくして腕で
抱きしめたんだ。
何かから、自分を守るみたいに。
なんだか…小さな子供みたい。
不謹慎だけど、そんな事を思ってしまったっけ。
「後藤さん…? あの…おきてください?」
ゆさゆさと身体を揺さぶってみる。
でも、やっぱり後藤さんは目を覚ます様子もなくって。
やっぱり…フライパン…?
や、そんな…ダメだよね…うん。
- 579 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:34
- 「ご、後藤さぁーん」
今度は強く揺さぶってみる。
と、その瞬間、ゆっくりと後藤さんが起き上がった。
「後藤さん? お、おはようございます」
マヌケだけど、そんな言葉しか浮かばなくて一応言ってみる。
けど、後藤さんは焦点の逢わない目で、じっと私の顔を凝視して…
「…うん…」
「ご、後藤さん? …って、えぇっ!?」
いきなり私に倒れこんできたんだ。
驚いてもう一度顔を覗き込むと………後藤さんは寝ていた。
そ、そういえば、朝藤本さんが後藤さんは超低血圧だって言ってたような…。
でも、それにしても、ここまでくると酷くないですか…?
抱きつかれる形になってて…正直恥かしいですし…。
- 580 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:34
- 「さってと、じゃ、行くよ〜…って、何ラブラブしてるワケ?」
「ちっ、違いますっ!!」
準備を終えて奥の部屋から出てきた藤本さんが、ニヤニヤしながらからかってくる。
途端に私は顔が熱くなって…っ。後藤さんを離そうとした…んだけど、やっぱり全体重を
かけられていて離れられなくてジタバタしてしまう。
「藤本さん…っ、見てないで後藤さんをなんとかしてくださいっ」
「え〜、なんか楽しそうだし」
「た、楽しくなんて…っ! ひゃ…っ!!」
「おっ」
藤本さんに気を取られた瞬間、また後藤さんのバランスが崩れて私にのしかかってくる。
支えきれなかった私は、押し倒される形でソファーに沈んだ。
「うぅ…ゃ…っ」
「おぉ〜」
首筋に触れる後藤さんの吐息に、力が抜けてしまう。
そんな姿をみて、藤本さんは更に面白そうな声をだして…。
は、早く助けてくださいよぉ…っ!
- 581 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:34
- 「このまま放っておいたら、どこまでいくんだろ?」
「ふ、藤本さ…ぁ…っ!」
「おーおー、イイ感じだねぇ」
「な、何がイイ感じなんですか!? くぅ…っ!」
と、その時。
「何、やってんの」
どこまでも冷ややかな声が、藤本さんの後ろから聞こえた。
その声に顔を向けると…どアップの後藤さん。
あ、後藤さんの向こう側だから見えないんだ…っ。は、恥かしい…っ。
でも、この声は…松浦さんだ…っ。
「ま、松浦さん…っ! た、助けてくださ…ぁ…ぅ…!」
「…まったく、何を騒いでるんだと思ったら…美貴、ふざけすぎ」
「やー、だってなんか紺ちゃんは真希のコトが苦手っぽいみたいだからさぁ、この機会に
仲良くなってくれたらって思って」
に、苦手なんて…っ!
というか、この状況でどうやって、仲良くなるんですか…っ。
- 582 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:34
- 「ホラ、真希を起こすよ」
「はいはい」
松浦さんの言葉に、藤本さんは「面白かったのに」なんて言いながら後藤さんの身体を
私から離してくれた。
はぁ…凄く恥かしかった…。あんなに至近距離で後藤さんを見たことなんてなかったから…。
……なんとなく、首筋に手を当ててしまう。
「何? 紺ちゃん、感じちゃった?」
「なっ!?」
「あはは〜、冗談冗談」
藤本さん…そういう所だけちゃんと見てるのやめてください…っ。
感じてなんて……。………。
はっ、や、やめよう。
「真希〜っ!!起きろ〜っ!!」
「……ん…、なに…?」
大音量で後藤さんを揺さぶる藤本さんに、全然目を覚ます感じのなかった後藤さんが
ようやく目を開いた。
す…凄いなぁ…。やっぱり同居しているだけのことはあるかも…。
- 583 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:35
- 「…これから、紺野ちゃんの部屋の家具とか必要品を買いに行くんだから、用意しな?」
「あー…うん、はいはい…」
何度か瞬きをして、藤本さんの姿を確認すると後藤さんはやっと立ち上がってヨロヨロと
コートを手に取った。
だ、大丈夫なのかなぁ?
「さ、いくよ、紺野ちゃん」
「あ、はいっ」
呼ばれて立ち上がったその時。
「あっ! 危ないっ!」
ガン…ッ
後藤さんが、目の前の扉で頭をぶつけていた。
や、やっぱりまだ目が覚めていないんじゃ…?
- 584 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:35
- 「ご、後藤さん…?」
「あー…うん、大丈夫…うん…」
全然大丈夫そうに見えないんですけど…?
「いつものことだから気にしなくていいよ。そのうちちゃんと目がさめるから」
「は、はぁ…」
「じゃ、レッツ・ゴー」
「あー…うん、れっつごぉー」
ご、後藤さん…?
そんな、なんだか後藤さんの意外な一面に笑ってしまいそうになったっけ…。
それから、後藤さんがちゃんと目覚めたのは、お店で1時間もたってからだったんだ。
- 585 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:35
- 「うわぁ…」
思わず漏れてしまった声に、隣にいた藤本さん達が笑った。
でも…それだけ圧巻だったんだ。
私達が来たのは、この地域では一番の大きさを誇るショッピングモール。
ここにくれば、揃わないものはないんだっていうキャッチコピーが売りになってるんだ。
まだ、一度も私は来たことがなかったから、凄くびっくりした。
「じゃあ、とりあえずすぐ必要な服から見ていこうか?」
「あっ、ハイ…でも、私お金がそんなに…、高い所は」
「あー、それは気にしないで」
「え?」
言って、藤本さんがサイフから一枚のカードを取り出した。
…って、そのカード…色が金色…っ!?
「じゃーんっ!ごーるどかーどぉっ!」
「み、見れば判りますけどっ、えぇ!? どうして!?」
「フッ…イイ女には謎が多いのよ、紺ちゃん」
「や、意味判んないんですけど…?」
- 586 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:35
- でも、謎が多いのは確かですよね…。
藤本さんが一番…。
「まー、とにかくお金の心配はしなくていいから、どんどん買っちゃって?」
「えぇっ!?」
「とりあえず、このショッピングモールを丸々買える分のお金はあるからさ」
ど、どれだけですか…それって…。
し、信じられないです…。
「ホラホラっ! 行くよ〜っ」
「あぁ…っ」
くらっと眩暈がしているのに、藤本さんは構わず私の手をとって手当たり次第に
お店へと入っていったんだ。
- 587 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:36
- それからたっぷり2時間後。
「これなんかどうよ〜? フッカフカの羽毛ベッド!」
「あ、あの…藤本さん…」
「寝心地いいしさぁ〜、寒いこの時期を乗り越えるのにもってこいだし」
「ふ、藤本さんっ」
「え? なに〜?」
やっと私の声に反応してくれた藤本さんだけど、まだその身体はベッドの上に乗って
柔らかさを確認するみたいに、バタバタと手足を動かしている。
藤本さんって…どこにいても藤本さんなんですね…はぁ…。
って、そうじゃなくてっ。
「い、いいんですか…? さっきから、とっても高そうな家具ばっかり選んでますけど」
そう、一番の心配事。
それは、さっきから選ぶ家具がとんでもなく高いものばっかりだということ。
洋服だけだって、見たこともない値段になっていたのに…。
ちゃんと計算してるのか不安になっちゃって…。
けど、藤本さんはそれに対して軽く手を振ってきたんだ。
- 588 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:36
- 「あ〜いーのいーの。好きなもの選んじゃって? ミキ達のおごりだから」
「お、おごりって…」
こんな大きなものをたくさん奢るって…どうなんですか!?
確かに…今の私のお金じゃとても手がだせないけど…家に住まわせてもらってるだけで
ありがたいのに…凄く申し訳ない気が…。
「紺野ちゃん、まだ気にしてるの?」
「あ…松浦さん…だって…その…」
ポン、と後ろから肩を叩いて笑顔を向けてくれたのは松浦さん。
さっきから、藤本さんが選んだ家具の伝票をチェックしていて、ここでもしっかりしてるところを
みせてくれて…藤本さんと大違い…。
「あのね…、紺野ちゃんはこれから一緒に暮らす…いわば『家族』なんだから気にするコト
ないんだよ。お金だって全然心配するコトないんだし」
「そういわれても…洋服だって、たくさん買ってもらっちゃったし…申し訳なくて…」
「…ふぅ…、じゃ、こうしよう」
「え?」
「紺野ちゃんがいつか働くようになって、収入が入るようになったら何か恩返しをしてもらう」
「あ…」
「これでどう?」
「は、はい…っ、頑張りますっ」
「いや、働けるようになってからの話だからね」
「はいっ」
- 589 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:36
- 松浦さんの言葉は、私の気持ちを幾分楽にしてくれた。
だって、いつか返すんだって思えば今はその目標を作ってるんだって考えられるし。
…でも、全額返すのはきっとたくさんの年月がかかるだろうなぁ…。
あれ? そういえば…
「あの、後藤さんは…?」
「あぁ、真希?」
さっきから姿が見えない。
選んでくれてるのは、藤本さんと松浦さんだし…。
「真希なら…、ちゃんと側にいるよ?」
「え?」
「紺野ちゃんが危なくなったら、すぐ来てくれるから」
「すぐって…」
「………不器用なんだから」
「え…?」
松浦さんはそれだけ言って、遠くに視線を投げた。
その時の、しょうがないなぁって、そんな表情がとても印象深かった。
- 590 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:36
- 「試してみる?」
「?」
言われて振り返ると、藤本さんが楽しそうに隣に立ってる大きなオブジェを軽くノックした。
コンコン、と響くそれはとっても硬いっていうのが判る。
でも、試すって? どうやるんですか?
訊ねようとした、その時。
「うりゃっ」
「!?」
突然藤本さんが、それをを私に向けて押し倒した。
重力に逆らうことなく倒れてくるオブジェ。
私は…あまりに唐突な事に動けず…迫ってくる巨体に押しつぶされ……
ガコン…ッ
なかった。
「…なにやってんのよ」
最初に聞こえたのは、呆れたみたいな後藤さんの声。
それからゆっくり顔を上げると、すんでのところで私の前に出てオブジェを支えてくれていた。
- 591 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:37
- 「ご、後藤さん…」
「ケガはない?」
「あ、はい…っ」
私の返事に溜息を一度ついて、後藤さんはもとの位置へとオブジェを移動させた。
「ホラ、ね、ちゃんと側で見守ってくれてるから」
「あ…」
藤本さんが軽く笑ってくれて、私はちょっと嬉しくなったんだ。
いつでも後藤さんが見守ってくれてることに。
でも…。
「後藤さん」
「…なに?」
「せっかく一緒にいるんですから、みんなで選びましょうよ」
「…………」
「その…一緒にいてほしいです…」
「……わかった…」
困ったみたいな後藤さん。
でも、どこかに行っちゃう事はなくって、それからは一緒に家具をえらんでくれたんだ。
本当に、せっかく一緒にいるんだから…同じものをみたかったんだ。
だって、後藤さんは『対等』な関係を許してくれたから。だから。
- 592 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:37
- それから、ある程度を選んでそろそろ帰ろうっていう時。
『只今より、タイムセールスを行います。どなた様のお越しもお待ちしています』
「タイムセールスですか…」
「まぁ、アタシらには関係ない……って、うわっ!!」
藤本さんが声を上げたと同時に、どこから湧いてきたのか、人の波が突然押し寄せてきたんだ。
ちょうど、私達を押していく形になって…。
「ちょっ! こ、紺ちゃんっ!どこっ!」
「あっ…こ、ここに…って、あぁっ!」
気がついたときには、どこにも後藤さん達の姿はなかった。
慌ててキョロキョロするけど、人の波が目の前で行き来していてよく見えないし…。
どうしよう…本当にはぐれてしまった…。
連絡をとりたいけど、ちょうど家具を手にとって選ぶために荷物を藤本さんに渡してしまって
いたから携帯がないし…。
困ったなぁ…。
- 593 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:37
- 思わず溜息をついて、隣にあったショーケースを見上げる。
その中には、『今年の最新モデル』っていう札がついたサングラス。
ちょっと縁の所が下に曲がっていて、カッコイイ形…って、あっ。
このサングラス、後藤さんがつけてたやつだ…っ。
すごく特徴的だったし似合ってたから、覚えてる。
そういえば後藤さん…朝訊いたとき、失くしたって言ってた…。
………。
後藤さん…喜んでくれる…かな?
思ったときには、私は制服のポケットからサイフを取り出して中身を確かめていた。
…うん…今月と来月、欲しいものを我慢すれば…なんとか…。
「あの…っ、スイマセンっ」
「はい、なんでしょう?」
「こ、このサングラスなんですけど…」
「こちらですね、少々お待ちください」
近くにいた店員のお姉さんは、すぐにショーケースから取り出して近くのレジで包装を
してくれた。
私にはわからないけど、すごいブランド名がついてるみたいで丁寧に丁寧に包んでくれていて
ちょっと気後れしてしまったっけ。
- 594 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:37
- 「お会計のほう、宜しいでしょうか?」
「あ…っ、ハイっ」
提示された値段に、やっぱりびっくりしたけど、後藤さんが喜んでくれるかもしれないって
思ったら、全然気にならなかったんだ。
「ありがとうございました」
「あ…、どうも…」
おつりと差し出された袋を手にとって、ペコリとおじぎする。
あとは…後藤さん達と合流して…これを渡せば…。
そう思って、もう一度辺りを見渡したその時。
見知った顔を見つけた。
自慢とか、そんなんじゃないけど、私は人よりちょっと記憶力が良くって大抵の事なら覚えてる。
嬉しかった事も、その逆も。
今回は…後者だった。
その相手に気づかれたくなくて移動しようとしたけど…
- 595 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:38
- 「あれぇ〜?」
運悪く、見つかってしまったみたい…。
その男の人はシルバーのアクセサリーをたくさん身体につけて、ロック歌手が着るような服装をしていて。
隣には、ちょっとハデな格好をした女の人。
女の人には初めて逢うけど、この男の人には…とても困った記憶がある。
後藤さんと初めて逢った、あの公園で声をかけてきた男の人のうちの一人。
鉄パイプを振りかざしてた、あの人だ。
「なに? キミもここに買い物〜? 奇遇じゃん」
う…、ちょっと…お酒臭い…。
思わず顔をしかめてしまうけど、男の人はさらに顔を近づけてくる。
「ねぇ、なに?このコ?知り合い?」
「この間、夜一人は危険だから一緒に遊びに行こうって誘ってやったんだ。誘って欲しそうだったし〜」
「ちっ、違いますっ、私誘って欲しそうになんか…っ」
否定するけど、男の人は「いいって、いいって〜」なんて言いながら笑ってる。
女の人も、私の反応に吹き出してて…凄く困ってしまう。
うぅ…やだ…。
- 596 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:38
- 「なに?一人?なら、俺らと遊ぶ?」
「けっ、結構ですっ」
ずいっと顔を覗き込んで笑っている男の人に、あとずさりながらはっきり断る。
また、そんな私が可笑しいのか女の人は笑ってる。
「今日は化け物も出なさそうだしさぁ、いいじゃん、俺らと来いって〜」
……化け…物…?
その言葉に止まる。
化け物って…どういうこと…?
「なに〜?化け物って?」
「この間話したじゃん、変な女がさぁ、いきなり妙な術かなんか使って俺らを脅してきたって」
「あ〜、真っ黒の服で死神か化け物だ〜とかって言ってたやつ?」
「そーそー」
女の人に答える男の人は、とても楽しそうに喋ってる。
- 597 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:38
- 今、言ってる人は…間違いなく後藤さんの事だ…。
それが判った瞬間…言い知れない感情が胸の奥からこみ上げてくるのが判った。
「ありゃ〜絶対この世のものじゃないね、あぁ。日本政府は何やってんだかね〜、あんな
化け物をのさばらせといてさぁ」
何度も言われる言葉に、もう我慢できなくなってた。
さっきまでの、怖いって気持ちが嘘みたいに。
「『化け物』だなんて言わないでくださいっ!」
気がついたら、大声で叫んでいた。その手に持った袋を握り締めて。
だって…凄く頭が、かぁって熱くなって…これ以上後藤さんの悪口を言われるのが
耐えられなかったから。
「あなたに一体、後藤さんの何が判るっていうんですか!?後藤さんがどれだけ
優しい人とか、そんなのも知らないくせに…っ!」
目の前で、男の人と女の人はポカンと私を見つめている。
鳩が豆鉄砲をうたれて…っていうのは、こういうことかもしれない。
- 598 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:39
- 次第に、私の周りに人だかりが出来始めていた。
止めなきゃ…。
こんな所で、問題なんか起こしたら後藤さん達に迷惑がかかっちゃう…。
けど…。
「ハ…ッ、ごとー?なに?お前も化け物の仲間なの?やっぱ、あんな化け物なんかと知り合いに
なると、感化されちまうんだ? ハハッ」
ハっと我に返った男の人が、女の人の視線を気にしながらヘラヘラと笑って詰め寄ってきた。
それから、「なぁ?」とか「どうなんだよ?」なんて言いながら、私の肩を指先で小突きだした。
完全に嘗められているみたい…。
その様子に、周りで見ていた人達も他人を装って次々と足早に歩いていく。
結局…誰も争いごとに巻き込まれたくないから。
「許せないです…っ!」
「へぇ〜、なに? 許せなかったらどうなワケ? なぁ、おい?」
ぐりぐりと頭を手で押さえつけられる。
「…っ!」
たまりかねて、私は男の人の手首を素早く掴んで、にらみ返した。
…我慢にも、限界があった。
その瞬間、
- 599 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:39
- 「紺野!」
誰の声だろうって思うぐらい厳しい声が響いた。
振り返ったその先には、
「後藤さん…」
黒いコートの裾を広がらせながら、人の波をすり抜けて私の方に駆け寄ってきてくれたんだ。
その後ろには、荷物を両手に持った藤本さんの姿も見える。
それから、すぐ隣には、お店の店長さんらしきを連れてこっちに向かって来てる松浦さん。
「ち…っ、お、おい、行くぜ」
さすがにこれだけ集まってくると、粋がっていた男の人も戦意を喪失したのか私の腕を
振り払って女の人を連れて人ごみに紛れて消えていった。
最後まで私は、その後姿をじっと捉えていた。
それだけ…悔しかったから。
「大丈夫ですか? 何か問題でも?」
「…もう、大丈夫みたいです。ありがとうございます」
お店の人の不安そうな声に、返事を返したのは松浦さん。
やっぱりこの事態に気づいて、一番有効的な事をしてくれていたんだ。
なんだか…自分の行動が恥かしくなってしまった。
- 600 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:39
- 感情的になって、結局……こうして後藤さん達に迷惑をかけてしまって…。
「うーん…真希、あとヨロシク」
「アタシ達は、休憩所にいるから」
「…わかった」
藤本さんと松浦さんは、一度だけ私に視線を向けて微笑んでくれると、そのまま離れて
いってしまった。
残った後藤さんは、一度髪をかきあげてから溜息をついた。
やっぱり…怒られる…?
勝手な行動して…、迷惑かけて…。
「紺野」
「はい……」
顔が見られなかった。
自分のした事が恥かしくて…悲しくて…。
「まさかあんなコトになってるとは思わなかった」
「そ…それ…は…」
絶対に後藤さんは怒ってる…。
思った瞬間、泣きそうになった。
でも…
- 601 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:40
- 「ふ…はは…」
「…え…?」
恐る恐る顔を上げると、後藤さんは口元に拳をつけて笑っていた。
心底おかしそうに。
「ご、後藤さん…?」
「紺野も、あんな風に怒ったりするんだね…あはっ…」
「え…あの…」
「あの男の顔見た? 彼女の前だからって粋がってたけど、最後紺野にマジびびってたよ?」
「えっと…」
思わぬ言葉に、私は戸惑うしかなくって。
けど、後藤さんはやっぱり可笑しそうに笑ってたんだ。
「あー…久しぶりに笑った」
それからひとしきり笑ってから、ゆっくりと私の頭をくしゃっとなで上げてきた。
その瞳は…いつもの優しいあの瞳。
私が大好きな後藤さんの瞳。
- 602 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:40
- 「紺野」
「は…はい……って、あっ」
一瞬、何が起こったのか判らなかった。
フっと柔らかい風が吹いたと思うと、視界が真っ暗になって…。
けど、身体を暖かく包み込んでくれる感覚に、私はやっと後藤さんに抱き寄せられた事に
気づいたんだ。
「ごと…っ」
「…とう…」
「え…?」
言われた言葉が聞き取れなくて聞き返すと、後藤さんはもう一度耳元で囁くみたいに
言ってくれたんだ。
「…アタシの名誉を守ってくれて、ありがとう」
って。
- 603 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/10(金) 17:41
- 言われた瞬間、涙が出そうだった。
伝わっていた…、私の気持ちは後藤さんに。
ちゃんと…後藤さんは私の事を判ってくれてた…。
「怖かったでしょ? 大丈夫?」
「だ…っ、だいじょ…ぶ…で…っ」
「あはっ、涙もろいんだから…。いいよ?誰も見てないし…アタシがいるから」
もう言葉はでなかった。
ただぎゅっと後藤さんに抱きついて涙を堪えるだけ。
ただ、嬉しかったんだ。
私なんかが…後藤さんを守れたってことが…。
そのことが本当に嬉しくて…胸が張り裂けそうで。
こんなにも、好きな人から自分が認めてもらえることが嬉しいだなんて思わなかったんだ。
- 604 名前:tsukise 投稿日:2003/10/10(金) 17:42
- >>574-623
今回更新はここまでです。大量UPな上にマターリでスイマセンm(__)m
何気に、ごっちんが髪を切ってびっくりしてたり…(^^ゞ
うーん…髪…切らせたほうがいいのかなぁ…と思いつつ(^^ゞ
>>568 みっくすさん
バトルシーンに興奮してみてくださったみたいで嬉しいです♪
仮想世界でのばとるが現実になる日も…近い…かも?
いつも応援レスをありがとうございますっ。
>>569 つみさん
ミキティは、とりあえず機械に精通しているというところを見せたくて(^^
結構バトルシーンは手探りなところがあったりするんで心配なんですが
つみさんのレス、とっても嬉しいですっ。
- 605 名前:tsukise 投稿日:2003/10/10(金) 17:42
- >>570 片霧 カイトさん
バーチャルでの展開でしたけれど、これからどんどん危険な目に…?
今回はまったりな感じなんですが、次回はまたスピード感が出るように
出来ればなぁ…と思ったり。いつも応援レスをありがとうございますっ
>>571 ヒトシズクさん
ゲームでのバトルシーン、結構悩みながら書いたんですが好評みたいで
嬉しい限りですっ!これからのごっちん…どんどん紺野に…?(ぇ
ヒトシズクさんも大変でしょうが、応援していますので頑張ってくださいねっ!
>>572 林火さん
結構、ゲーム感覚で書いちゃうとウソっぽんなってしまうんで頑張ったんですが
嬉しいご意見をいただけて、ありがたいですっ!
応援レスに励まされつつ頑張りますねっ
>>573 名無し太郎さん
sage指示、すいませんっ、ありがとうございますm(__)m
スピード感があると言っていただいて、ありがとうございますっ!
紺野は、これからもどんどん可愛く…ごっちんはカッコ良く…したいです(マテ
更新が遅れ気味ですが、また良ければ見てやってくださると嬉しいですっ
- 606 名前:伊央 投稿日:2003/10/10(金) 18:25
- 初レスです!
更新イエーイ!
寝ぼけごっちんに押し倒され、慌てる紺ちゃんの姿が
目に浮かぶ〜…イイ!!
そしてツボにハマったゴールドカード(笑)
今後も期待してますよ〜!!
- 607 名前:つみ 投稿日:2003/10/10(金) 19:36
- フライパンを叩かないと起きないなんて・・・(w
そんな眠ったごとーさんに押し倒されて感じてるこんちゃんかわいい^^
ショッピングモールを丸ごと買える金って・・・
相変わらずイイ女には謎が多いですねぇ〜^^
- 608 名前:ヒトシズク 投稿日:2003/10/10(金) 22:29
- うわぁぁぁぁ〜
マジで最後の方頬が緩みっぱなしだったんですが(笑
ショッピングモール・・・私に買ってください、と心の中で呟いたのは内緒で。
そして、藤本さん&松浦さんのいいトコ(?)が分かりましたし♪
では、次回の更新楽しみにしております!
色々と大変でしょうが頑張ってください♪
- 609 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/10/12(日) 00:06
- 更新お疲れ様です。
今回はみんないろいろと大活躍でしたね。
特に紺ちゃんは微笑ましかったり、かっこよかったりと。
次回も楽しみにしてます。
- 610 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 17:56
- 綺麗に塗装し直した部屋。
新しい家具。
その全てが、全部これから新しい記憶を作っていく。
そんな中、この部屋の主である紺野は…ベッドに沈んで安らかな寝息をたてていた。
「紺野…?」
「ん…」
呼びかけてみても、眠りが深いのか一度寝返りをうってまた規則正しい寝息をたててる。
きっと…今日だけで、色んな事をしたから疲れたのかもしれない。
まぁ、それでも…環境が変わっても、こうして安心して眠ってくれてるのはありがたいんだけどね。
「ごとー…さん…」
「…? アタシ?」
不意に言われた寝言に、ちょっと驚いた。
どちらかというと、紺野はアタシを苦手としているみたいに思えたから。
いつも気を遣っているような…そんなカンジで。
- 611 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 17:57
- それが今、無意識のうちでアタシを呼んでくれてる。
なんか…胸が温かくなるような…そんな言い知れない感覚が広がって…。
気がついたら、紺野の頭を軽く撫でていた。
サラサラの黒髪は、指の間を流れるみたいにして…心地良い。
紺野も嫌がる素振りはなくって、むしろその表情は…嬉しそう?
なんか…アタシも…嬉し…。
「おー…、なんか〜…ラブラブ?」
「…っ、美貴?」
振り返ると、いつの間にいたのか美貴が扉に寄りかかるみたいにしてアタシ達をニヤニヤと見ていた。
…正直、バツが悪い。
「や〜、最初は真希も紺ちゃんも全然仲よさそうに見えなかったけど、何?そーゆー風にしてるトコ
みると、お似合いじゃん?」
「…勝手に言ってな」
「もしかして、照れてる?」
「付き合ってらんない…」
「あ〜冗談だってばぁっ、マジになんないでよ〜」
…ホントは、美貴の言葉に少しドキっとした。
何故かは判らないけど。
- 612 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 17:57
- だけど、この説明のつかない感情、だんだん…自分の中で判り始めている。
ただ…最後のピースが見つからなくて…まだ…ちゃんとした答えは出せていないんだ。
石川梨華の『自分で見つけなくては』…今ならなんとなく、その言葉の理由がわかる気がする。
このキモチは…とても大切なモノらしいから自分で手に入れなくては納得も出来ない…多分、
そう言いたかったんだと思う。
「そういや、紺ちゃんからなんか貰ったんでしょ? なんだったの?」
「…サングラス」
「え? あー、この間失くしたヤツと同じ?」
「そう。覚えてたみたい」
「んー…、紺ちゃんって記憶力だけはいいよね〜…。もしかして能力に何か関係あるのかもしんないね」
「…多分…ね」
嫌が応にも現実に引き戻される一言。
そうだ、紺野は能力者なんだ…。
追っ手もかかってて…。
- 613 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 17:58
- 「…守ろうね」
「美貴…?」
「こんないいコ、危険にさらしたくないじゃん」
「…うん」
アタシのキモチをそのまま言葉にした美貴に、相槌をうった。
うん…、紺野は絶対に守ってみせるんだ。
たとえ、自分がどうなってもこのコだけは。
「なんか、いきなり妹ができたみたいだよね〜」
「そう…かもね」
「おっ、なに? それ以上の感情でもあるワケ?」
「バカ」
茶化す美貴に溜息をついた、その時。
「真希! 美貴!!」
突然の亜弥の緊迫したみたいな声が響いた。
アタシは美貴と顔を見合わせて、急いで亜弥の元へと向かう。
- 614 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 17:58
- 部屋から出て、一番最初に目に飛び込んできたのは玄関口にしゃがみこんでいる亜弥。
頬には、かすかだけど血がついてる…っ?
「亜弥…っ!?」
助けを求めるような視線を向けられて駆け寄ると、亜弥は誰かをその腕に抱いていた。
傍目から見ても判るぐらいの、危険な出血量。
ぐったりと俯いていて、意識もないみたいで…。
…ちょっと待って…っ。
少し焼けた肌の色。ウェーブがかったキレイな髪…。
っ!?
もしかして、彼女は…っ。
「アヤカ!?」
見間違えるはずがない彼女の変わり果てた姿に、目を丸くしてしまう。
一体何があったっていうの…!? 昨夜はこんなじゃなかったのに…っ。
- 615 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 17:58
- 「どうしたの!? アヤカは…っ」
「わかんない…っ。いきなり扉を叩かれて開いたら倒れこんできて…っ」
「とにかく手当てしなきゃだよ! 真希、亜弥と一緒にソファーに寝かせて!」
「わかった…っ!」
美貴に言われて、アタシは亜弥と両脇からアヤカの身体を抱える。
自然と床に落ちる黒みを帯びた赤い液体。
遠くからでは判らなかったけど、これは…相当酷い目にあったみたい…。
一体誰が…。
「…ぅ…、マキ…」
「アヤカ…っ」
「sorry…しくっちゃった…」
「今は喋んないで…っ」
弱々しく口を開こうとするアヤカを制して、ソファーに横たわらせる。
今は、このキズをどうにかするのが先決だから。
アヤカは、アタシ達と違って能力者なんかじゃない。
だからもちろん、自然治癒なんてできないんだ。
なんとか…しないと…っ。
- 616 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 17:59
- 「真希、どう…?」
「待って…」
ひとまず、一番キズが深い腹部を覗き込む。
…うん、内臓を思ったより傷つけてはいない…。これなら縫合して様子を見れば…。
出血こそ酷いけど、なんとかなりそう。
「亜弥、美貴、アタシの指示に従ってくれる?」
「もちろん。だってこんな時の対処は真希しかできないじゃん」
美貴がさも当然のように、グっと親指を立ててくる。
その横で、亜弥が真剣な眼差しで頷いた。
…皮肉なもんだね…。
こんなトコロで、幼い頃に叩き込まれた軍事訓練の一環が役立つなんてさ…。
そんな自分に苦笑してしまう。
「美貴、奥の部屋の医療棚からモルヒネと縫合針を持ってきて。糸も針と一緒にあるはず。
出血が酷いから輸血をしたいところだけど、あいにくないし…代わりに点滴を…っ、あっ注射器も!」
「OK」
「亜弥は湯を大量に沸かして持ってきて、アヤカの身体を常に温めてて。あとゴム手袋と
サラのはさみを何本か火にあぶして…っ」
「わかった…っ!」
- 617 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 18:00
- 指示を出して、アタシは手首につけていたゴムで髪を後ろで1つに束ねる。
それからそっと浅く呼吸を繰り返しているアヤカの額に触れると、汗をかいているハズなのに酷く冷たい。
…これは…手こずるかもね…。
「真希」
呼ばれて顔を上げると、亜弥の厳しい瞳。
…気配で、反対側にいる美貴もこっちを見ているのがわかった。
「…なに?」
一瞬の沈黙。
それから僅かに不安げな視線が向けられた。
…亜弥の、ふと垣間見せる本当のココロ。
本当にどうしようもなくなった時にだけ、こんな表情を見せるんだ。
けど、それも次の瞬間には微塵も残さずに押し隠して…言われた言葉は
- 618 名前:日常・非日常 投稿日:2003/10/26(日) 18:00
- 「…任せるよ?」
…ったく。
アタシも結構不器用な方だとは認めるけど、亜弥も負けないぐらい不器用だよ。
伝えたい言葉は、そんなんじゃないんでしょ?ホントはさ。
でも…ちゃんと伝わったから。
「…アタシを誰だと思ってんのよ」
フっと口元を緩めて見せると、やっと安心したのか亜弥はきっちんへと消えていった。
後ろで優しく漏れる溜息が聞こえて、美貴も笑っていたのが判った。
それから3時間…。
恐ろしく長い時の流れを感じながら、アタシは1つの命を引き止めたんだ。
術後…真っ赤に染まった自分の手にゾっとしてしまったっけ…。
- 619 名前:tsukise 投稿日:2003/10/26(日) 18:03
- >>610-618
今回更新はここまでです。み、短めでスイマセン(^^ゞ
キリがいいのがココだったので…。
次回から、どんどん核心に進ませていく予定デス…
>>606 伊央さん
応援レスをありがとうございますっ♪
寝ぼけたごっちんは、ちょっとやそっとでは起きないということで
紺野にオロオロしてもらったり(笑
ゴールドカード、自分で書いてて笑ってましたが(ぇ
ちょっと遅れ気味な更新ですが、またまた読んで下さればありがたいですっ。
>>607 つみさん
超低血圧のごっちんと紺野の一コマ、楽しんで頂けたみたいで(笑
リアルでも、ごっちんは低血圧っぽいので取り入れてみたんですが、
思いのほか、楽しい方向に…(マテ
ミキティの謎…それは多分深海のように底知れぬモノだったり?(笑
これからもどんどん謎の部分を出していくので、ヨロシクですっ
- 620 名前:tsukise 投稿日:2003/10/26(日) 18:03
- >>608 ヒトシズクさん
ショッピングモール、ハイ私も欲しいなぁと思ったり(爆
最後のほう、何気に私も気に入っている一コマだったので感想嬉しいです♪
ミキティ&あややの、ちょっとした優しさ…出てるといいなぁ…と思いつつ(ぉ
ヒトシズクさんも、色々大変だと思いますが頑張っていきましょうねっ
>>609 片霧 カイト
応援レスをありがとうございますっ
そうですね♪みんなそれぞれに活躍させれてよかったです〜♪
こう、紺野が押し倒されたり、タンカを切ってみたり…(爆
ちょっと、今回紺野はお休みなんですけどまだまだ活躍せればいいなぁと♪
カイトさんの更新も楽しみにしていますので、頑張ってくださいねっ
- 621 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/26(日) 19:37
- いよいよ動き出すのですね。楽しみです。
藤本がかっこよい。ツボです (^-^)
これからもかっこよい藤本を見せてくださいね
- 622 名前:つみ 投稿日:2003/10/26(日) 20:53
- ごとーさんかっけーっす!!
自分の気持ちに気づき始めてきてるのかな?
いよいよ核心に近づいてきてるみたいなんで楽しみにこれからも待ってます!
- 623 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 21:16
- tsukiseさんが何気に理数系だったことが判明!!
カッケーごっちん!!
- 624 名前:みっくす 投稿日:2003/10/26(日) 23:00
- 今回のごっちんかっこい〜っす。
物語もいよいよ核心になってきましたね。
アヤカをやったのはやっぱりイナバなのかな。
- 625 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/10/27(月) 16:44
- 更新お疲れ様です。
急展開ですね……ごっちんの隠れた一面も見えてきたようですし。
次回も目がはなせません。頑張って下さい!
- 626 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:56
- 「マキ、アヤ、ミキ…thanks」
やっと話せる状態には戻ったアヤカが、ソファーから力ない笑みでそう言った。
完全には程遠いけど、まぁ…危険は回避できた…かな?
「ま、ここで死なれちゃ目覚め悪いしね…」
「アハッ、そのためにここまで来たんだけどネー…って、痛つー…」
「バチが当たったんだよ」
「oh…sorry〜」
亜弥と美貴に突っ込まれて、アヤカはオーバーに頭を下げて笑って見せた。
ま、こんだけ冗談が言えれば問題ないか…。
「でも、さすがマキだネ、プロ並みじゃん?」
「まぁ…ね」
…出来れば、その話題には触れたくないんだけど…。
思い出したくない過去でもあるから。
- 627 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:56
- 「あっ、そうそう、今さっきミカに連絡を入れたからすぐ来…」
バタンッ!!
「アヤカちゃんっ!? どうしたの!? 死んじゃったの!? オーマイガッ! why!?」
「…ると思う…よ」
突然の乱入者に、多分気を遣ってくれたんだろう美貴の言葉もフェードアウトしていく。
…ってゆーか、勝手に殺さないで欲しいんだけど…?
なんか、アタシの努力も形無しじゃん…。
溜息混じりに、アタシは髪をとめていたゴムを外した。
「ミカ、アタシなら生きてるんだケド?」
「Oh!! アヤカちゃん!イキナリ電話もらってビクったんだよ!?」
「いきなりでビクったのはアタシ達の方なんだけど…?ノックぐらいしよーよ…」
美貴の小さな突込みもミカには届いてないみたい。
今やっと治療が終わったばっかのアヤカの身体をバンバン叩いてるし…。
- 628 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:57
- 「ねぇ、それより聞いていい? 今回のコト」
「あ…」
集中力を使い果たしたアタシは、苛立ちも露にアヤカに呼びかけた。
それにアヤカは、ミカをひっぺがして真剣な表情に変わる。
「OK…アタシも早くマキに報告したかったんだ」
「…それって、つまり…」
「Yes、『イナバ』について」
「…!」
思わず、そこにいた誰もが一瞬で顔つきを変える。
…アタシが依頼した『イナバ』の情報。
まさか…アヤカのケガは『イナバ』に関係している…?
疑問が顔に出てしまったのか、アヤカはアタシに向かって一度大きく頷いた。
その瞬間、無意識に紺野の部屋の扉に視線を向けてしまった。
何故か…イヤな予感がしたんだ。
紺野に何か深く関係している…そんな予感。
- 629 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:57
- 「…マキに言われて、アタシはすぐに色んなブローカーから聞き込んで、
ある場所を突き止めたの」
「ある場所…?」
「そう…そこが『稲葉製薬会社』」
「製薬会社…? そこがアタシが言った『イナバ』なの?」
「間違いないよ。臨床試験をしているトコロに潜り込んで気づいたんだけど、
そこはただの製薬会社じゃなかったから」
「…? どういうこと?」
そこで一度言葉を区切るアヤカ。
言いづらい何かがあるのか、視線をさまよわせたりしてる。
「言って。なに?」
「う…ん、驚かないで聞いてね。その製薬会社、表向きはもちろん薬剤師達が
色んな臨床試験や遺伝子治療を研究してたりするんだけど…」
言いかけたその時、
「待って」
遮るように、厳しい表情で口元に人差し指を立てる亜弥。
不思議に思って振り向くと、ゆっくりと足音を忍ばせて玄関口へと向かっていく。
そこで気づいた。
…扉の向こう…、誰かいる。
- 630 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:57
- 「…アヤカ…尾けられたね」
「what…?」
それだけ言うと、亜弥は扉の取っ手をゆっくり握って一呼吸おいて…勢い良く開いた。
「きゃ…っ!」
「ひゃっ!」
そんな声を上げて、床になだれ込むみたいに倒れこんだのは二つの影。
情けなく折り重なるように倒れて、頭を押さえ込んでしまってる。
この二人は…?
「あっ、あっ、ごめんなさい…っ」
「えっ? えっ?」
上に重なるように倒れていた、ちょっとつり目がちなコは、立ち上がって何度も
頭を下げてきて、下にいたコはまだ状況をつかめてないのか、ポカンとした表情で
微動だにしない。
どう見ても…招かれざる客…だよね…。
- 631 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:58
- 「アナタ達…いったい何者?」
「えっ!? えっと…あの…さゆ…っ!」
「あ…うん…っ」
亜弥の問いに、つり目がちなコが座り込んでいたコに呼びかけ、
「う…っ、動かないで下さい!」
「下さい!」
勢い良く言い放って、腰元から短銃を取り出して身構えてきた。
…本当なら、ここで緊迫した空気が流れるんだろうけど…。
「ねぇ」
「う…っ、動かないで下さいってば…!」
「そうじゃなくて…、その銃セーフティーが解除されてないよ?」
「え…? えぇ…っ!? 絵里っ! ど、どこだっけ…!?」
「ど、どこって聞かれても…っ」
慌てて、銃をオタオタと操る二人。
なんか…素人だよね、明らかにさぁ…。
- 632 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:58
- そのスキをついて、亜弥が背後に回りこむと一気に二人の腕を締め上げた。
「あっ、い、痛い…っ!」
「やっ! もう…っ、絵里のせいだよ〜! ちゃんと、れいなに使い方を聞いて
おかないからぁ…っ」
「だ、だって、れいなって私の事、子ども扱いするんだもん…っ」
『絵里』と『さゆ』ねぇ…。
情けない声を上げている二人から転がり落ちた短銃を拾うと、アタシはゆっくり
二人に近づいた。
どんな理由かわかんないけど、アヤカの跡を尾けていたのは確かみたいだから。
事情ぐらいは、説明してもらわないと…。
「ねぇ…もう一度訊くよ? アンタ達は何者?」
「あ…えっと…通りすがりの通行人です…っていうのはダメですか?」
「もちろん信じない」
「ですよね…。あっ、痛っ!」
「正直に言いな? 今アタシ達、殺気立ってるから何するかわかんないよ?」
グっと二人の腕を強く締め上げながら亜弥が呟く。
と、同時に、アタシも奪った短銃のセーフティーを解除してスライドを一度引いた。
ガシャン、となる金属音と、ただならない雰囲気に、二人は異常なくらい反応して
怯えた声を上げた。
- 633 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:59
- 「い、言いますっ! 私達、貴子さんの所から来たんですっ」
「跡を追いかけろって言われて…っ、居場所を突き止めるまで帰ってくるなって
言われたから…っ」
『帰ってくるな』って…、見失っていたりしたらどうしたんだろう?
というか…それってなんだか二人は………。
亜弥も同じコトを思ったのかもしれない。
訝しむみたいに、アタシに視線を送ってきたから。
「アツコ…!?」
そんな思考を遮るみたいに、驚いた声を出したのはアヤカ。
「? アヤカ、知ってんの?」
美貴が軽く尋ねるけど、アヤカは切羽詰ったみたいな表情をした。
それから一度何かを言いかけ、俯くとゆっくり口を開いたんだ。
「今話してた、『稲葉製薬会社』の会長の名前だよ」
「え…っ」
「話、元に戻すけど…その製薬会社、表向きは薬の開発って言ったよね?」
「あ…うん」
「けど、その裏では…――能力者を造ってるっぽいんだよ」
「!?」
…声が出なかった。
能力者を造る…だって…? そんなコトができるワケ…っ。
だってそれは、人としての禁忌を犯しているってコトだし。
- 634 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:59
- 「じゃ、じゃあ、ちょっと待って!」
美貴も珍しく動揺してしまっているのか、声が上ずってる。
「もしかして、アンタ達も能力者なの!?」
「あ…っ」
亜弥に捕えられてる二人に駆け寄る美貴。
けど、二人は顔をあわせると、寂しげに首を横に振った。
「私達は…失敗作なんだそうです」
「失敗作…?」
「能力が開花しなかったんです」
「そう…」
美貴のホっとしたみたいな、泣き出しそうな曖昧な表情。
多分、能力を持たずして生まれた命への安心と…、能力者を造っているという
現実を突きつけられたから。
もっと言うなら…、もしかしたら…――アタシ達も、造られた――…?
- 635 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 12:59
- そんなハズはない…っ!
だってアタシには、この二人のように能力者が集まった場所で生まれた形跡はないし。
能力が現われたのだって、誰かに何かをされてってワケでもないはず。
気づいた頃には、もうあったから…っ。
そう、気づいた頃には、アタシは一人だった。
自分に言い聞かせて、冷静さを保つ。
こんなコトで、自分を見失うワケにはいかないから。
「けど、能力者を造ってるとして、どうするつもりなの…?」
「それは…わからない。けど、少なくともマキ達のような人間が4人はそこにいた」
「4人も…!?」
「…なのに、稲葉貴子は紺野あさ美を捜し求めてる」
「…一体、どういうコト…?」
「それだけ紺野あさ美が、凄い力を持っているってコトかな…?」
ワケがわかんなくなって、捕えた二人を見る。
その視線に気づいたんだろうけど、二人は『何も知りませんよ?』と訴えるように
首を振るだけ。
もしかしたら、能力がある・ないで格付けがされているのかもしれない。
いわゆる、異端者には内部の情報さえも伝わらない、そんなカンジ…。
…だから…こんな風に、捨て駒のような扱いをしたり…。
- 636 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:00
- 「ねぇ、アンタ達は他に何か知ってるコトはないの?」
「え…あ…、特には…」
「そう…」
「あっ、でも…」
「なに?」
「関係あるかどうか判らないんですけど、貴子さんが『ターゲットがナカザワ・ラボに
行った時はもういい』って言ってました」
「中澤研究所…!?」
出てきた言葉に、また驚いた。
矢口達のグループが集まっているとされる、中澤研究所。
そして…能力者を造ってるとされる稲葉製薬会社。
この二つは…ううん、中澤裕子と稲葉貴子は何か関係がある…?
「とりあえず、情報を整理してみる?」
亜弥が美貴に二人を任せると、ゆっくり向かいのソファーに腰をかけて、手近な用紙と
ペンを取り出した。
アタシや、アヤカ達はその紙を覗き込む。
- 637 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:00
- 「まず…、能力者を造っているっていう『稲葉』。そして能力者を集めているという『中澤』。
この二つがどんな関係があるにしろ、どこかで繋がってるワケよね?」
クセのある文字で、それぞれの名前を書き込むと四角で囲み、一本の線で繋げる。
確かに…中澤研究所にいるとされる里田まいが、稲葉のコトを訊ねていたコトから
間違いないと思う。
「そして、何らかのチカラを持った『紺野あさ美』をイナバは狙ってる。間違いないヨ?
アタシが前に情報を仕入れたのも、イナバの内部からだから」
ミカが静かにそう言って、稲葉の文字を指差した。
確かミカは、その情報を得てケガを負ったんだっけ…。
なんだか、今回のアヤカのキズといい…相当稲葉はガードが固いみたい…。
それだけ紺野のコトが、トップシークレットってコトか。
「同じく、中澤研究所も何らかの理由で紺野を狙ってる…」
言ってアタシもコツコツと中澤の文字の上を指で叩いた。
矢口達との接触の発端は紺野だったから。
あの場にアタシがいなければ、紺野は本当に連れ去られてたんだろう。
「そして…その紺野ちゃんは、今アタシ達の元に」
『稲葉』と『中澤』から伸ばした矢印の先に、『GOMATTOU』の文字を書いて四角で
囲む亜弥。
ちょうどそれは、トライアングルでできたカンジ。
- 638 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:00
- 「サイアクなパターンだね…」
「…確かに」
紙に書かれた勢力図を見て、苦笑するしかなかった。
一方は、矢口のように能力を使いこなす者達を集めた、謎の研究所。
かたや一方は、好戦的で能力者を造ってるとされる製薬会社。
…で、アタシらはというと、いわゆるアウトローの集団。
勝ち目なんて考えるのもバカらしいぐらい。
「とりあえず、どうする? このまま被害者になって終わり、なーんてミキはヤだよ?」
拗ねたみたいな言い方をして、口を尖らせる美貴。
ってゆーか、その言葉って裏を返せば『行動あるのみ』って言ってるようなもんじゃん…。
「確かに…こんな、やられっ放しで黙ってるなんてアタシ達らしくないね」
亜弥まで…。
ったく…、どうしても『やる』つもりなんだ?
勝算が全く見えないのに。
「美貴はともかく…亜弥はもっとデジタルに物事を考えられると思ってた」
「なら降りる?」
紺野を、どちらかに引き渡すとか、そんなコトは毛頭考えてなかった。
なら、やるコトは決まってんじゃん。
- 639 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:01
- 「冗談でしょ? …今度はアタシ達のターンだよ。 美貴!すぐに研究所のマップを
今から行くよ」
「りょーかい!」
「亜弥は準備を」
「任せて」
今できるコトはすべてやる。
なら、とにかくお互いの情報を手に入れなくては。
何を目的としていて、紺野を探すのか。
そして、…アタシ達能力者との関係。
ガードが固い稲葉がダメなら中澤へ。
「なんか、今は稲葉の追っ手よりマキ達の方が怖いネ〜」
「フッ、褒め言葉と取っておくよ。それよりミカ、この場は任せられる?」
「sure.任せて。けど、あの二人はどうするの?」
言われて解放された二人を見る。
戸惑ったような、情けない目が二つ。
…なんか、初めて出会った時の紺野を思い出すかも。
- 640 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:01
- 「アンタ達…この場所、忘れられる?」
「えっ、あ…っ、はいっ、ここをこう行って…あそこを曲がるから…大丈夫ですっ」
……。
全然大丈夫じゃないと思うのは、アタシだけ?
美貴に視線を向けると、天井を見上げて『お手上げ』というジェスチャーをしていた。
亜弥も首を二・三度振って、それからアタシの方に振り返った。
「どうすんの?」
「どうするって…、アタシに聞かないでよ」
「真希が発端でしょ?」
そういうコト言う?
確かにアヤカに依頼したのはアタシだけどさぁ…どうなの、それ?
「あ、あの…私達…ヒドイ目に合わされたりとか…しちゃうんですか?」
「してほしいの?」
「いっ、いえっ、してほしくないですっ」
なんか反応も紺野っぽくて、笑ってしまう。
- 641 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:01
- …と、その時、コートの袖が捲れ上がったトコロに目が止まった。
ん…?
浅黒い斑点模様…?
…っ、これって…っ?
「あ…っ!」
気づいた時には、その腕を掴んで袖を捲り上げていた。
何事かと思った美貴も、パソコンを操作しながらも振り返ってる。
確認してみて…やっぱり思ったとおり…。
多分、もう一人も…。
「…いつから?」
「…ぁ…、その…もう、ずっと昔から…です」
つり目がちな彼女の、か細く消え入りそうな声。
その腕も細く…けど、至るところについた浅黒い斑点模様はクッキリと浮かび上がっていた。
これは…間違いなく殴打傷だ。
新しいものもあれば、かなり昔につけられただろう消えないほどのものもあって…色んな
想像をさせる。
アタシの勘だと、きっとどれも当たってると思う…。
何故、腕を締め上げたとき、あんなに怯えたのか判った気がした。
- 642 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:02
- 「真希…、それって」
「うん」
返事だけで理解した美貴が、信じられないって顔をして中空を睨みつけた。
こういうコトには人一倍敏感だから…。
…どうする?
別にアタシには関係ないコトだし、厄介なコトになるかもしれないし。
無関係を装うのが一番得策だ。
だけど…なんか…ひっかかる。
今までなら感じもしなかったのに、なんか…ひっかかるんだ。
このままにしていいのか?って。
このキモチは…そう、紺野を助けたあの夜のキモチに似ている。
何の能力も持たない彼女達―――ただ言うことを聞いていた何もできない自分。
使い捨てのような扱い―――捨て駒だった自分。
アタシには、亜弥と美貴がいてくれた。
けど、きっと彼女達には…居場所さえ…。
- 643 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:02
- 「…ここにいる?」
「え…?」
キョトンとした目で見あげてくるそのコ。
聞こえなかった?
「ここにいる?って訊いたの」
「えぇ…っ、でも私達…っ」
「っつーか、いろ」
「はい!?」
続けていったのは美貴。
多分、さっきのを見てしまったから、黙ってられなかったんだろう。
「このまま帰すワケにもいかないし、帰っても特にするコトがないんだったらさぁ、
ここにいて役に立ってくんない?」
「そ、そんなぁ…。私達、ホントに何もできませんよ…?」
「なーんで〜、できるコトあるじゃん」
「え?」
パソコンからプリンターを作動させてこっちに来た美貴は、二人の前に立って腰に手を当てた。
威張ったみたいに見せてるんだろう。
なんか…似合わないなぁって思ったけど、黙っておく。
- 644 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:02
- 「食事を朝・昼・晩と食べて、見たトコロ学生ってカンジだし学校に行ってもらって…」
「え…?学校に…?」
意外な言葉だったんだろう、二人は困惑したみたいに顔を見合わせてる。
まぁ、そうだよね…今までの彼女達の処遇では考えられないか。『普通』の生活が。
しかも、敵と思ってた人間がこんなコト言ってんだもんね…。
けど、やっぱこーゆーのには美貴の方が慣れてるみたい。
二人の肩にポン、と手をおいて、励ますみたいにニッと笑って告げたんだ。
「とりあえず、その身体のキズ、治してよ♪」
多分、美貴は優しく微笑んでみせたんだろう。
けど、ごめん、なんか二人が逆に怯えてるみたいに見えるんだけど?
特に、『さゆ』と呼ばれた方。美貴が話してる間、一度も瞬きしてなかったと思うのは気のせい?
ヘンに美貴ってオーラが出る時があるからなー…。
はぁ…しかたないなー…。
アタシ、人を励ましたりするの苦手なんだけど?
いつもはこーゆーの、亜弥がなんとかしてくれるんだけど、今準備してるし…。
- 645 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:03
- 「誰も取って食べたりなんてしないよ。それに、『何もできない』なんて言うもんじゃないよ」
「え?」
「アンタ達は、今ちゃんと『生きている』。なら、きっと何かやるべきコトがあるはずでしょ?」
「やるべき事…ですか?」
そう、たとえどんな人間でも必ずある。アタシはそう思ってる。
だから、アタシは今『ここ』にいるんだし。
このコ達にも、そーゆーの見つけて欲しいかも。
誰かに与えられる人生なんて、辛いだけじゃん…?
「生きている限り、誰だってそーゆーのがあるもんなんだよ。だから…ここでアタシ達と
それを見つけてみない?」
「そうそう♪ 正直言うと、アタシ達もそれを探している最中なんだよ。まぁ、真希はそれを
見つけたっぽいけどね〜」
「は…?」
美貴に言われて、怪訝に振り返ってしまう。
けど、美貴は「べつに〜」なんて言って、軽く首を振った。
…意味わかんない。
- 646 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:03
- 「…とにかく。強要はしないけど…どうする?」
とはいえ、内心ここで『帰る』って言われても困るんだけどね…。
しばらく二人は戸惑ったみたいに考えていたけど、何か答えが出たみたいでゆっくり
頷きあって…言ったんだ。
「あの…っ、よろしくお願いしますっ、亀井絵里です」
「お願いします…っ、道重さゆみです」
大きく下げられる頭。
これって、OKってコトだよね?
美貴も嬉しそうに笑ってるし…。
「あ…でも…」
「? なに?」
「…れいな…大丈夫かなって…」
「れいな?」
「あ、私達の友達なんですけど、凄く強い子で…でも寂しがり屋なんです…」
「能力者?」
「はい、私達と違って…ほんとに凄く強いんです…」
能力者か…。
まぁ、どっちにしても、稲葉の中にいるならいつか出会うことになる…か。
なら、ヘンに不安がらせるのもマズイか。
- 647 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:03
- 「そのうち…逢える」
「え?」
「心配とかしなくても、多分また逢えると思う」
「そう…ですよね」
まだ不安そうにしている亀井の頭を、ポンと軽く叩いてやった。
なんか、上手い言葉が見つかんなくて。
そしたら、急に顔を赤くして俯いてしまって…。
「ま〜き〜、もう罪深いんだから〜♪」
「はぁ? 美貴、何言ってんの?」
「その無意識の行動が罪だって言ってんの」
「?」
何? こーゆーのは励ましになんないの? よくわかんない。
紺野は嬉しそうにしてくれたんだけど…?
やっぱ、アタシには励ますのとかは向いてないのかもしんない。
「あ、ミキ、プリント終わったみたいだヨ?」
「お、サンキュ〜」
不意にかけられたミカの声に、美貴がプリンターから一枚の用紙を取ってこちらに来る。
- 648 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:04
- 「出たよ、真希」
差し出された用紙には、研究所の内部の地理が事細かに書かれていた。
……。うん、少しばかりセキュリティーレベルは高いけど、アタシらならなんとかなる。
「真希、こっちも出来たよ」
亜弥が奥の部屋から現われ、合金製のアタッシュケースを放り投げてきた。
これで…準備完了ってトコロだね。
「OK、ちょっと待ってて…」
行く前に…一目だけ見て行きたい。
亜弥も美貴も気づいたのか、何にも言わずに軽く手を上げて応えた。
ガチャ…
真っ暗の部屋に、電気も点けずに入る。
静かに…目覚めさせないように。
…というか、あれだけのコトがあっても起きてないんだから、大丈夫だと思うけどね。
- 649 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:04
- 「紺野…」
やっぱりグッスリ眠っている紺野は、規則正しい寝息を立てている。
どこか幸せそうな寝顔に、なんか頬が緩んでしまったっけ。
それからその頭を、そっと撫でて…小さく耳元に囁いたんだ。
紺野だけに届くように。
『行ってくるよ』って。
きっと紺野が目覚める頃には戻ってくるから。
そう、心の中だけで呟いて、上着に引っ掛けておいたサングラスをかける。
紺野がくれたサングラスを。
「行くよ、真希」
ゆっくりと開いた扉の向こうで、亜弥がそっと呼びかけてきた。
その声でキモチを引き締める。
ここからは、感情で動いてはいけないから。
「わかってる。…美貴、オペレート、ヨロシク」
「まっかせなさい」
インカムをつけて、ウインクをする美貴。
下調べが完璧ではないし…頼りにしてるよ…。
「亜弥、…遅れないでよ?」
「そっちこそ」
不敵な笑みの亜弥。
多分アタシも同じ表情をしてると思う。
- 650 名前:邂逅 投稿日:2003/10/29(水) 13:04
- 「それと…亀井、道重」
「はっ、はいっ」
「なんですか…っ?」
「いざという時は…紺野を守って」
「紺野…さん?」
「この部屋の主」
「え…っ、でもっ、私達がそんな重要な事を頼まれていいんですか…っ?」
「二人なら大丈夫」
…だと思う。
亀井はともかく、道重になんか不安を感じたけど、この際目をつぶろう。
…まぁ、いざとなったら美貴もいてくれるワケだし…。
「じゃあ…」
部屋の中に視線を向ける。
全員が…アタシの一言を待っていた。
「―――行くよ」
その言葉で今、邂逅の扉が開かれた。
ううん、もしかしたら…もう巻き込まれていたのかもしれない。
紺野に逢ったあの夜から…。
―――運命っていう波に。
- 651 名前:tsukise 投稿日:2003/10/29(水) 13:07
- >>626-650
今回更新はここまでです。
次回はちょっとバトルモード全開になる予定…です。
話も核心へ…?
>>621 名無しさん
今回は徐々に明らかになっていく関係ってカンジで、
まだエンジンがかかってない状態でスイマセンっ(汗
次回はかなり話を進ませる予定ですっ
もちろんミキティもカッコ良くキメさせるつもりなので
続けて読んで下されば嬉しいですっ
>>622 つみさん
ごっちん、かっこよく出来たみたいで嬉しい限りですっ♪
そうですね…薄々…気づき始めているトコロでしょうか?(^^
次回から、どんどん紺野のコトなど突っ込んで書いてく予定ですっ!
応援レス、いつもありがとうございますっ!
- 652 名前:tsukise 投稿日:2003/10/29(水) 13:07
- >>623 名無し読者さん
いやはや、恥ずかしながらおっしゃる通り理数系だったりしますっ。
鋭い洞察力にビックリしてしまいましたです(^^ゞ
次回もどんどん、ごまっとうの三人をカッコよく書けるように頑張りますねっ
>>624 みっくすさん
ごっちんはやっぱりカッコ良くってカンジですよねっ
感想レスが、かなり嬉しかったりします〜♪
イナバについてはまだまだ謎が多いですが、どんどん解明させていく
予定なんで、またまた読んで下されば嬉しい限りですっ。
>>片霧 カイトさん
とんとん拍子で話が展開しているので、自分的に拙くなってないか
心配なんですが、レスをみてホッとしております〜(笑
結構不定期な更新になってしまってますが応援レスに励まされつつ
頑張りますねっ!片霧さんも頑張ってくださいねっ
- 653 名前:つみ 投稿日:2003/10/29(水) 15:32
- 核心に迫ってきましたね!!
いよいよGOMATTOUの本領発揮ですか!
最近住人が増えてきてますね^^
次回の更新をがんばって待ってます!
- 654 名前:名無し 投稿日:2003/10/29(水) 18:16
- いよいよ…って感じですね!
バトルシーンに期待して待ってます!!!
- 655 名前:みっくす 投稿日:2003/10/30(木) 07:49
- いよいよですね。
なんかかなり興奮してきました。
がんばえれGOMATTOU
- 656 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/10/30(木) 14:05
- 更新お疲れ様です。
いよいよ動き出した模様ですね。楽しみです!
新キャラもとてもいい感じ! もう1人も期待大です。
個人的に最近キてるんで……そっちも楽しみにしてます!
- 657 名前:ヒトシズク 投稿日:2003/10/30(木) 16:06
- おぉぉぉぉー!!!!
大量更新おつかれさまですっ!
とうとう、来ますね〜何かワクワクしちゃいますね〜(マテ
新キャラ登場にマジで嬉しくて喜びの舞を踊ったことは内緒っす(笑
では、次回の更新楽しみにしております♪
tusukiseさんも頑張ってくださいね☆
- 658 名前:センリ 投稿日:2003/11/03(月) 21:46
- 初レス!!はまっちゃいました〜^^)後藤さんのクールなキャラが最高です
ヨ。顔がゆるみっぱなしでした・・・。頑張ってください☆
- 659 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:38
- 「結構立派なトコロじゃん…」
亜弥が草むらに身を隠しながらポツリと漏らした。
目の前には目的の研究所。
「職員数が50ってあったから、もっと少じんまりしているのかと思ったけど…、
まぁ、『謎の組織』っていうには十分すぎる敷地じゃない?」
「うん…」
外観は、そこらにある研究所とたいして変わらないように見える。
飾り気のない、鉄筋コンクリートの白い箱。そんなカンジ。
けど、中身は全くの別物ってコトか…。
それ以前に、街の外れにある研究所ってだけで十分怪しいけどね。
『亜弥、真希、聞こえる?』
耳に仕込んだ小型スピーカーから、美貴の声が届いた。
「聞こえてるよ」
『OK、じゃ…とりあえずアタッシュを開けて、インカムにつけかえて」
「? なんで?」
『中は、なんか受信妨害されてるっぽいから有線じゃムリなんだよ』
「わかった」
- 660 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:38
- ま、当然か。
これだけの建物だしね…。
言われて、アタシはアタッシュを開けると美貴特製のインカムを取り出して、亜弥に1つを渡す。
普通のインカムなら、音声を拾って伝えるだけなんだけど、これは周囲の映像まで拾えるって
いう優れもの…。
ただ、ツメの甘い美貴らしく、赤外線をつけていないから暗闇の中では意味を持たないんだけど…。
『今、二人がいる位置はちょうど正面入り口の反対側だから、目の前の塀を乗り越えれば
すぐ裏口があるハズ。そこから進入するよ』
「じゃアタシの力で行く?」
『あ、それダメ』
「? なんで?」
高さがある塀だし、風の力を使って中に入ったほうがいいのに?
『力は極力使わないようにしてよ。もしかしたら能力を感知する人が中にいるとも
限んないんだし。見つかったら厄介でしょ?』
「あー…、わかった」
一理ある、か。
秘密を探りに来て、秘密をバラしてちゃ元も子もないもんね。
- 661 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:38
- 「真希…あそこ」
「え?」
くいっくいっ、と袖口を掴んできた亜弥に視線を向けると、塀の上を見上げている。
なに? と思って凝視すると…、そこには監視カメラらしきもの。
『あ、ちなみに監視カメラがあるから、パァ〜っと壊しちゃってね』
「言うの遅いよ」
『え〜』
ったく。
ここからの距離は約20m…。
普通に能力を使えないなら…撃ち落すしかないじゃん。
「亜弥、出して」
「うん」
アタシの言葉に、亜弥はアタッシュを探って黒光する部品を次々と取り出して
組み立て始めた。
M16A2カスタム…アメリカ軍でも採用されているアサルトライフル…。
まぁ、アタシらに勝手がいいように改造はしたけど。
ヘンに凝ったライフルだと足が付きやすいし、大量生産型のコレを狙撃には使ってる。
使うのは、いつもアタシだったりするけど。
- 662 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:39
- 「…できたよ」
「サンキュ」
組み立て終わったライフルを受け取って、スコープを覗き込む。
監視カメラは、当然作動中。
一発でしとめる…。
「行くよ…」
「いつでも」
告げると同時に、監視カメラへ照準を正確に合わせる。
外れるかも…なんて微塵も思わなかった。
当てて当たり前だから。
一度息を潜めて――引き金を引く。
キュンッ! …ガシャンッ!
――ヒット。
くぐもった音が響いて、それから遠くでガラス片の飛び散る音がした。
確かめるまでもなく、今がチャンスだ。
- 663 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:39
- それを合図に亜弥が草むらを駆け出して、建物の壁へ素早く背をつける。
そして一度辺りを見渡してから、こっちに手を上げてきた。
準備OK…か。
よし…!
ライフルを素早く分解してアタッシュに詰め込み地を蹴ると、一気に駆け出す。
体制を低くしスピードを上げて、待ち構えている亜弥へ向かって一直線に。
あと数メートルという時、亜弥が待っていましたとばかりに両方の手の平を組んで
同じく体制を低くすると差し出してきた。
アタシはスピードを緩めることなく、その手に足をかける。
「フッ!」
次の瞬間、亜弥の押し上げる力を受け高く跳び上がり、浮遊感に身体を任せる。
わずかな滞空時間。
そのまま地と空を交互に見ながら、アタシは塀の内側へと着地した。
美貴の言った通り、すぐ目の前には電子パス付きの裏口。
それを確認して、アタシは持っていたワイヤーを塀の向こうに投げつけた。
その先を、手近な木へ縛りつけ…。
数秒で、亜弥は塀を乗り越えてきて合流する。
- 664 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:39
- 「美貴」
『はいはい、じゃ扉を開けて入りましょうか?』
「パスワードキーは?」
亜弥の問いに美貴が『ちょっと待って』と言葉を止めた。
きっとインカムからの映像で暗号を解いてるんだろう。
『このタイプは…んーと…【1973619】で開くよ』
「OK」
素早く電卓を弾くようにパスを入力する。
ピー、という電子音とともに、赤くともっていた部分が緑に変わる。
続けて、ガシャン、と一度大きく扉が鳴った。
中に入ると、外気の寒さと打って変わって暖かい風が吹きぬけた。
今の格好だと暑いぐらい。
『とりあえず、その通路をまっすぐ突っ切っちゃって。目的地は最奥の部屋だから』
「わかった…」
周囲に警戒しつつ、アタシ達は目的の部屋へと進んでいく。
ただでさえ、黒ずくめなアタシ達は目立ってしまうだろうから、その足も自然と
早くなっていたっけ。
- 665 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:40
- その途中、色んな部屋を覗いてみるけれど、研究員だろう人達がマウス実験を
しているだけで、これといって紺野に関係するようなコトはなにもなかったんだ。
…何故、紺野は狙われているんだろう…?
その開花していない能力って、一体なに?
全ての疑問は、ここに繋がっていると思うけど…イマイチつかめない。
「…っ、真希」
「? なに」
「見て」
「?」
亜弥に引き止められて、アタシは足を止めると1つの部屋の中をそっと覗く。
そして…驚いた。
「…じゃあ、この問題がわかる人?」
『はいっ!』
「じゃあ、嗣永さん」
「はい」
まるで学校のワンシーン。15人の子供と、教師のような女の人がいるし…。
部屋は、教室さながらのつくりになっていて…黒板には授業の内容だろう、
国語の一文が綴られていて…そこだけ空間が違っていたんだ。
- 666 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:40
- これは…なに?
けど、もっと驚いたコト。
それは…、このコ達も全員能力者だったんだ。
じっと見ていて気がついたけど、あ、ホラ。
今教師の人が黒板に背を向けているその隙に…この部屋の一番うしろに座っている
生徒が消しゴムを宙に浮かせて…
「あいたっ!」
教師の後頭部にクリーンヒット。
「だっ! 誰ですかっ! この時間は力を使っちゃダメって言ったでしょっ」
「あははっ! 石井先生が怒ったぁっ!」
「〜〜〜っ!菅谷さんっ!」
「だって愛理ちゃんが『やって』って言ったから」
「ちょっと、言わないでよぉ」
「鈴木さんも! あとで二人には教室の掃除をしてもらいますよ!」
『あはははっ』
……この空間は、なに?
っつーか、なんでこんな子供の能力者まで集めてるワケ…?
「どういうことなの…?」
「真希がわかんないのに、アタシがわかるわけないじゃん…」
亜弥も、ちょっと困惑してるみたい。
- 667 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:40
- …でも、その目は優しい。
妹を見守る姉のような、そんなカンジ。
きっと…こんな世界を、何度か夢見たことがあったからだと思う。
能力者も、蔑視されるコトなく過ごせる世界を。
亜弥は…能力者であっても『人間』なんだと強く想っているから。
生まれついての、この力で不幸になっていくヒトが多い中、今目の前で
繰り広げられている出来事は、亜弥の…ううん、もしかしたら能力者全員の
『夢』…みたいなモノだから。
…アタシも、こんな世界にいれば…もっと変わっていた…かな?
紺野のキモチ…少しは判るようになっていたのかな…?
「あれ? こんなところで何やってんですか?」
「「!?」」
不意にかけられる声。
慌ててアタシ達は、振り返って相手を確認する。
ちょっと驚いたみたいな、ここの研究員だと思う。
- 668 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:40
- 「…あれ…? あなた達、見かけない顔ですよねぇ…? もしかして…」
異様な雰囲気を察したのか、相手は戸惑ったみたいにアタシ達を見て…
「しっ! 侵入者…っ ッ!?」
その声を上げる瞬間、亜弥はソイツの口元を左手で素早く押さえると、右手拳を
鳩尾に叩き込んだ。
ソイツは一度、顔を歪ませて呻くと…ゆっくりと床にくず折れる。
「ボヤボヤしてるヒマはないね」
「だね」
軽く返事をして、アタシ達はまた通路を駆け出した。
その後ろで、倒れたヤツが誰かに連絡を取っていたけれど、アタシ達の視界には
入っていなかったんだ。
「美貴、どこに向かえばいいの?」
『んっと…、その先の曲がり角を右。それからまっすぐ進んだ先の部屋が目的の
中澤裕子の部屋だよ』
「OK」
曲がり角を右…それからまっすぐ。
電光に照らされて、隠れる場所もないから長居は無用。
急いで、亜弥と駆け抜けるけど…曲がり角を曲がった瞬間。
- 669 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:41
- 『館内放送――侵入者アリ。PSI者は直ちに侵入者を捕獲してください』
『ヤバっ』
「マズイね…っ」
「けど、引き返せないっしょ」
PSI者…ってコトは、追っ手は能力者…!?
いよいよ事態はマズイ方向に傾いている。
さっさと、済ませないと…っ。
と、曲がり角を曲がると、早速追っ手らしいヤツ。
その顔に見覚えがあった。
確か…アタシと紺野を追いかけていた3人のうち一人…あさみっていったっけ?
警棒を持って、待ち構えている。
「止まりなさいっ!」
…って言われて止まるヤツがどこにいんの。
アタシは亜弥に視線を向けると、軽く合図した。
亜弥が頷いたのを見て、アタシは先に相手に向かっていく。
その後ろに亜弥が続く。
ちょうど、それはアタシが亜弥を隠す形となって、相手の視界にはアタシだけが
映っているハズ。
- 670 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:41
- 「ちょ、ちょっと…止まりなさいって…!」
「悪いけど、そうもいかないんだよっ」
相手のギリギリ前で立ち止まって、意識をアタシに向ける。
「あっ、くっ!」
当然相手は、どうしていいのか判らないまま警棒を振り上げてくる。
それを腕でガードして受け止めている間に、
「…ぐっ!」
アタシの後ろにいた亜弥が跳躍して、相手の背後に回ると頸部に手刀を入れた。
もちろん亜弥の姿を捉えることが出来なかった相手は、床に沈む。
一瞬のことに、きっと自分が倒れたことにも気づかなかっただろう。
『どこだっ!? ちょっと、アンタ達は向こう側を探しな!』
『はいっ』
通りの向こうでは、そんな声が聞こえる。
その声からして、ざっと4、5人はいるっぽい…?
これは…身を隠すしかないか。
部屋まではあと少しだけど…仕方ない。
- 671 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:42
- 「亜弥、こっち!」
「うん…!」
手近な部屋を見つけて、ドアロックを素早く解除するとその中に身を隠す。
さすがに、大人数をこんな狭い場所で相手にはできないし…。
それに…矢口レベルの能力者がきたら、それこそ厄介だから…。
『いた!?』
『いえっ、どこにもっ』
『けど、ここにあさみが倒れてるし、まだ近くにいるかもしれないっ、追いかけるよ!』
『はいっ』
遠ざかっていく足音。
そして静寂が辺りを包んで、やっとアタシ達は安堵の溜息を漏らす。
「これは…ちょっと足止めくらうね」
「しょうがないでしょ」
「…で?ここは…?」
「わかんないけど…人の気配はしないし安全ぽい?」
- 672 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:42
- 真っ暗闇の中、亜弥はそれだけ応えて歩き出した。
アタシもそれに続いて歩き出す。
確かに…人の気配はしない。
しないけど…なんだろう…? 何か圧迫感を感じるんだ。
「美貴、ここは何?」
『さぁ…? 地図にも書かれていない場所だから…なんか目に付く物とかない?』
「目に付く物ったって…」
亜弥はまだ目が暗闇に慣れていないのか、足元がおぼつかないみたい。
とりあえず、アタシはかけていたサングラスを上着にひっかけて、何度か辺りを見渡す。
暗闇が少し遠のいた視界の先には…形容しがたい装置みたいな物があった。
「…なに? これ…」
「? 真希、なんか見つけたの?」
亜弥が声だけで返事を返してくる。
アタシは、何も言わず…それに触れた。
「よくわかんないけど…人一人が入れるぐらいのカプセルがある」
『はぁ? カプセル?』
素っ頓狂な美貴の声。
けど、他に言い方がないんだ。
こう…上部のガラス部分から中を覗き込むけど、中にはなにもなくって筒状になってるだけみたい。
- 673 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:42
- 「日サロの装置みたいな」
『日サロ? でも、ここってそんな研究所じゃないっしょ?』
「そうだけど…」
言いながら、他に何かないか触ってみるけど特に何もなくて。
「真希…それ…なに?」
亜弥の困惑した声に振り向く。
そしたら、亜弥には珍しく唖然とした表情でアタシの後ろを見つめていた。
なに…って、何が?
…視線の先を追って、何もいえなくなった。
だって、目の前には今見ていたカプセルから伸びるチューブみたいなものが、
触手のように幾つも分かれながら、この部屋の中心部分のバカでかい装置に繋がっていたから。
しかも…中に液体が入っていて…。
その色に…見覚えがあった。
黒味を帯びているけど、紅いこれは…
- 674 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/09(日) 12:43
- 「これは…血液…!?」
そう…大量の血だ。
ざっと30人分ぐらいは、あると思う…。
その装置に手を触れようとしたその時。
「セキュリティーが甘いんかなぁ…それとも相手が大物なんかなっと」
パチン
関西弁のセリフと共に部屋に入ってきた人間が、電気のスイッチを点けた。
咄嗟のことに判断が遅れたアタシ達は…
「…………。誰や、アンタら」
見事に見つかった。
- 675 名前:tsukise 投稿日:2003/11/09(日) 12:45
- >>659-674
今回更新はここまでです。
か、核心にあんま触れてないですね…(汗
ひとまず…次回はあの方登場ですっ
>>653 つみさん
核心への話は次回持ち越しとなってしまいましたが、徐々に
それぞれの内部事情が見えてきた…というところで(^^ゞ
どんどん住人が増えていて、ちょっとキャラ立ちに大変だったりしますが
応援レスに励まされつつ頑張りますねっ
>>654 名無しさん
今回はバトルらしいバトルができなくい申し訳ないですっ(^^ゞ
けど、これからどんどん盛り込んでいく予定なんで続けて読んで
下されば嬉しいですっ(^^ゞ
>>655 みっくすさん
応援レスをありがとうございますっ
今回更新では、本領発揮はできませんでしたけれど
次回もバトらせていく予定なのでヨロシクです<(_ _)>
- 676 名前:tsukise 投稿日:2003/11/09(日) 12:45
- >>656 片霧 カイトさん
あわわっ、あんまり動かしきれてなくて申し訳ない限りですっ(^^ゞ
次回こそはっ!が、頑張りますねっ!
ちなみにカイトさんは、6期のもう一人が最近キテるそうですね♪
ご期待に添えれる登場が出来るようど、努力させていただきますねっ!
>>657 ヒトシズクさん
今回も大量更新っ…なワリに消化不十分で申し訳ないですっ(^^ゞ
新キャラ登場に、嬉しい反応をしてくださったみたいでっ!(笑
これからも、どんどん活躍させていけたらなぁ…と(ぉ
ヒトシズクさんの方も、もちろんチェックしていますので頑張ってくださいね!
>>658 センリさん
嬉しいご感想を頂きましてありがとうございますっ!
ごっちんは、クールなのが似合いますよねっ!かっこ可愛いですしっ
応援レスに励まされつつ頑張りますので、続けて読んで下されば
嬉しい限りですっ
- 677 名前:つみ 投稿日:2003/11/09(日) 14:21
- 遂に始まりましたね!
やはりあの方でしょうね・・・
いよいよ核心にせまることがわかりそうでドキドキしながら
待ってます!
- 678 名前:名も無き読者 投稿日:2003/11/09(日) 14:24
- 3人ともカッケー!
次回も期待してます(w
- 679 名前:みっくす 投稿日:2003/11/09(日) 23:02
- ついにはじまりましたね。
他に誰かでてくるのかな?
バトルシーン楽しみにしてます。
- 680 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/11/11(火) 19:00
- はじまったみたいですね。
3人が3人ともかっこよくて素晴らしいです。
そして物語もだんだんと核心に迫っているみたいで。
次回も楽しみに待っています。
- 681 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:33
- どうする…っ!? 姿を見られた。
このままだと追っ手を呼ばれてしまう…っ。
「亜弥っ!やるよ!」
「しょうがないなぁっ、もうっ!」
亜弥に呼びかけて、アタシは右手を相手に差し出し力を放つ……つもりだった。
けど、
「!? 出ないっ!?」
その手の平からは、何の反応もなかったんだ。
亜弥の方に振り向くけど、同じみたいで戸惑ってる。
な、なんで…っ!?
「生憎やけど、この部屋で能力は使われへんよ。すべて無効化されるように
造った場所やから」
「!?」
疑問に答えるみたいに、目の前の女性が言う。
能力が使えない…!? 瞳の変色反応は出てるのに…っ。
なら…っ。
- 682 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:34
- 「くっ!」
アタシは素早くコートの中に潜ませておいた短銃を取り出す。
そして、照準を彼女に合わせると発砲した。
全く同じタイミングで、亜弥も腰元のナイフを投げつける。
けど…。
キィン!
「!? シールド!?」
その女性とアタシ達の間に、見えない壁が立ちふさがって攻撃をすべて
跳ね返してきたんだ。
「一応…この建物の中では、アタシに対する攻撃の全てを受けつけへんよ?
まぁ、最高責任者やからね」
「最高責任者…? ってことは、アンタが…」
「中澤裕子やけど?」
まさか、ターゲットに見つかるなんて…っ。
しかも八方塞りってこのコトじゃん。
- 683 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:34
- 戸惑っているアタシらとは対照的に、彼女は困ったみたいに首の後ろを
かきながら着ている白衣の襟元を正す。
それから、もう一度アタシらを見つめて
「アンタらは…。……?」
―――眉をひそめた。
そして次の瞬間、何かに気づいたような驚いたようなそんな表情が広がっていく。
「その瞳…まさかアンタら…」
「…? なに?」
アタシらが…なに?
っていうか、アタシらのコトを知ってるカンジ…?
と、その時。
ピ――という電子音が、部屋に響き渡った。
アタシと亜弥は身構えるけど、彼女は「あぁ…」と軽く声を上げて、扉横の
インターフォンのスイッチを押したんだ。
内部通信…?
- 684 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:34
- 「アタシやけど?」
≪あっ、裕ちゃん? その部屋に侵入者はいない?≫
フォン越しのこの声…っ、『なっち』の声だ…。
マズい…、今ここにいるのがバレるときっと捕えられる…っ。
アタシは亜弥に視線を向けて、肉弾戦に持ち込む合図を送る。
きっと亜弥も同じことを考えてたんだろう、すぐに頷いて獲物を捉えたような
視線で彼女を見据えた。
行くしかないか…っ。
そう思った時。
「……ここにはおらんよ。別の所探して」
…えっ?
なんで…っ?
予想外の言葉に、アタシも亜弥も止まる。
- 685 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:35
- ≪わかったっ、もし不審者を見つけたらすぐに呼んでよっ≫
「わかってるて」
そこで通信は切れた。
それから彼女は、アタシ達に振り返って肩をすくめて笑ってみせる。
「…どういうコト? なんでアタシらのコトかばうのよ?」
当然の疑問をぶつける。
けど、彼女はその疑問に答える事無く、アタシらの横をすり抜け背を向けるとカプセル状の
機械に触れ始めた。
研究者特有の自作品への愛着心なのか、その手つきは優しくて…
アタシの中の、形の見えない苛立ちを呼び起こすのには十分だったんだ。
けど、その一瞬の感情の変化を読み取ったらしい亜弥が、アタシの前に出て制してきた。
『自制心』――、口パクで伝えてきた言葉に、少しだけ…冷静さを取り戻せた気がする。
…ったく。付き合いが長いってのも考えモンかもね…。
- 686 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:35
- 「答えなよ」
「…その前に…」
「…?」
「その前に、μ-……いや、紺野あさ美を保護した組織っていうのはアンタらか?」
紺野…? なんで今ここで、あのコの名前が出るの?
っていうか、どうして判った…?
「どうなん?」
一瞬ためらった。
隠すべきか、どうなのか。
けど矢口達と接触した時点で、いずれ彼女の耳にも届くことになるだろう。
なら、ヘタに隠すのは得策じゃない…。
「だったら何?」
「………そうか」
アタシの返事に、彼女はカプセルの窓を見つめながら苦笑したみたいだった。
全く意図が読めない…。
「…やっぱり、出逢うんが定めやったんかなぁ…」
「…? なに? どういうコト?」
言われた意味が判らなくて聞き返すけど、彼女は、くるっと振り返って一度笑い
「なんでもない」とだけ言って、中央の装置に向かっていった。
- 687 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:35
- このままじゃラチがあかない…。
今は、少しでも情報が必要なんだ。
彼女が責任者なら、聞きださなくてはならない。
何を目的としているのかを。
「…アンタが矢口達能力者を使って、紺野を狙っていたコトは知ってる」
「ふーん」
「なんで、紺野を狙うワケ?」
問いかけても、彼女は装置を検査しているのか興味なさげにアタシらを一瞥する。
それから
「なんでやろなぁ〜? 紺野って可愛いからかなぁ? 手元に置いておきたいなぁって
思うんよ」
上手くかわされた。
しかも、挑発混じりに。
けど、挑発だと判っていて、わざわざ乗るような真似はしない。
- 688 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:35
- 「この研究所は、何をやっているの?子供の能力者まで集めて」
「あ〜見たんか?そうやなぁ…国語、算数、理科、社会とか。日本の未来に
ついて勉強してるんや」
「あのコ達の能力で手に入れる未来の勉強?」
『…亜弥…っ』
珍しく…亜弥が語気を荒げて続けて問いかけていた。
その瞳は、微かに怒りの色を称えている。
能力者が利用される世界…それが許せないからだろう…。
けど、今はそれを議論する場じゃない。
アタシは軽く亜弥に首を振ってたしなめる。
納得できないのか、何かを言いかけていたけど。
「この装置はなんなの?」
「これは安眠装置や。人間の血液の循環を管理して、いい夢をぐっすり見れるように
してくれる」
…ダメだ…役者が違いすぎる。
きっと、このまま疑問をぶつけても欲しい返事は得られないだろう。
アタシは亜弥や美貴と違って、こーゆーのには向いてないし…今の亜弥には
期待できないだろうから…。
- 689 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:36
- …でも。
ちょっと待って…。
もしかしたら。
……最後の賭けに出てみるか…。
「…アンタと稲葉との関係は何?」
「……」
――ビンゴ。
彼女の表情が変わった。
驚いたみたいな、けれど感心したみたいな曖昧な表情でアタシらを凝視してきたから。
「…そこまで辿りついてるんか」
手ごたえはあった。
彼女の周りに張っていた突き離すようなオーラが、一瞬にして解かれたのが判る。
「戦友や…、いや、戦友やった」
戦友だった…?
稲葉貴子と彼女が…?
きっと、彼女の様子から見てその言葉に偽りはない。
だとすると、一体なんの『戦友』なの?
- 690 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:36
- 「それってどういう……」
言いかけるけど、
ピ―――
再び鳴るインターフォン。
彼女が、ゆっくり近づいてまたスイッチを押すと同時に、キーの高い音が響いた。
≪ちょっと裕ちゃん!その部屋に裕ちゃん以外の生体反応が2つあるけど!?≫
「あー…」
あの声は、矢口だ。
切羽詰まったカンジからして、相当焦ってるみたい。
どうやら、バレちゃったみたい。
≪いいっ!?今から向かうからっ! おいっ!誰かは知らないけど覚悟してろよ!≫
ブチッ!
一方的にインターフォンは切れた。
なんか矢口って、一直線なヤツなのかも。
- 691 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:37
- 「タイムアップやな。…そこのカプセルの後ろに非常用の戸口がある。そこから逃げ」
苦笑しながらも、彼女はカプセルの後ろを指差した。
侵入者に逃げ道を教えるなんて…。
「なんで? なんで逃がしてくれるの?」
「ええから行き」
亜弥の問いにも、彼女は笑みを浮かべながら背を押してきたんだ。
その顔に、最初の高圧的な雰囲気はなかった。
『亜弥、真希、今は一旦引きな!』
「…わかった」
美貴の言葉に、うなずく。
それから亜弥がまず戸口を出、アタシが追おうとした直前、彼女はぐっと
一度アタシの腕を掴んで引き寄せてきた。
振り返ると、初めて見た優しい眼差し…。
- 692 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/12(水) 16:37
- 「後藤らに…今はまだ紺野を預けておくわ。しっかり守ったって」
「っ! アンタなんでアタシの名前…っ」
≪裕ちゃんを助けるのが先決だからね!≫
「来たみたいやな…っ、もう行き…!」
「……わかった」
結局…彼女が一体何者なのか…ちゃんと判らなかった。
ただ…彼女はアタシらの敵ではない…、そんなカンジがしたんだ。
「裕ちゃんっ!? 大丈夫っ!?」
「アタシは、なんともない」
「本当にっ!? 誰かいたんでしょ!?」
「まぁな…。それより矢口」
「なに?」
「ちょっと、風向きが変わりそうやわ…」
「はぁ?」
「とりあえず、なっちらを呼んでアタシの部屋に来て」
「あー、うん、わかった」
「……シナリオが…狂い始めたなぁ…。どう出るんや?あっちゃん」
- 693 名前:tsukise 投稿日:2003/11/12(水) 16:40
- >>681-692
今回更新はここまでです。
何気に、紺野が出てないなぁ…と思いつつ(^^ゞ
というか、色んな人間模様が交差する予感…(ぇ
>>677 つみさん
ハイ、あの方登場ですっ!やっぱりあの方なしには
ハロプロは語れないですよねっ!(^^
これから、どんどん展開が速くなっていく予定だったり…。
いつもレスをありがとうございますっ
>>678 名も無き読者さん
3人の動向、カッコ良くかけてますでしょうか?
ごまっとうのイメージが『カッコイイ』なんでご感想、嬉しいです♪
応援レスに励まされつつがんばりますねっ。
- 694 名前:tsukise 投稿日:2003/11/12(水) 16:40
- >>679 みっくすさん
ハイ、ついに核心へと入っていく話になりましたですっ!
のわりに展開が遅いし、バトルシーンが少なめでスイマセンっ(^^ゞ
でも、これからどんどん増えていく予定ですっ
嬉しいレスをありがとうございますですっ!
>>680 片霧 カイトさん
3人のキャラがそれぞれ潰れないようになっているか…
ちょっと心配なのですが、レスに元気をもらって頑張りますねっ
何気に、紺野の出番が少ないなぁと思いつつ…(マテ
カイトさんの小説も注目していますので頑張ってくださいね!
- 695 名前:つみ 投稿日:2003/11/12(水) 18:02
- おぉぉ〜!!!
なんか凄いことになってきましたね〜^^
謎が少しづつ明らかになってきて見てるこっちはドキドキもんですよ!
次回までまったりと待ってます!
- 696 名前:どくしゃZ 投稿日:2003/11/12(水) 20:44
- 更新キター!
先日は作者様のサイトへの書き込みにレスしてくださって
ありがとうございました。
いやーそれにしても面白いです。紺野ちゃんに秘められたものが何なのか?
いつか覚醒してしまうのか?ごまっとうは?中澤は?
いつもドキドキ、時々萌え萌えしておりますw
ではまた次回の更新楽しみにしております。
- 697 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/12(水) 21:56
- >>696
あんまりここでサイトの事とか書かない方がいいのでは…
- 698 名前:みっくす 投稿日:2003/11/12(水) 22:43
- なんか関係が複雑になってきましたね。
はたして裕ちゃんは見方なのでしょうか?
あっちはごまっとうのことを既に知っている?
う〜〜んどうなんだろう。
次回を楽しみにまってます。
- 699 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/11/14(金) 01:40
- 更新お疲れ様です。
なにやらまたミステリアスな新キャラ(?)が登場でおもしろくなってまいりましたね。
次回の更新も楽しみです。
それとそろそろ紺野も(強制終了
- 700 名前:林火 投稿日:2003/11/15(土) 10:31
- こんにちは、久しぶりの書き込みです。
なんか、すごい事になっていて、おもしろいです。でも、紺野の出番が少ないのは、
少し気になりますが、更新頑張ってください。
- 701 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 15:46
- 読みながらこぶしを握り締めてしまうくらい、よかったです。
放置気味の紺野さんの活躍も期待しています。
それと、よっすぃ〜編の後、吉澤は後々も登場予定といっていたけど・・・
作者様が忘れていない事を願います。
- 702 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/21(金) 15:16
- 戻ると同時に、アタシはソファーに腰掛けて両手を額の前で組んだ。
わからないコトだらけだった。
すべてが、誰かの手で仕組まれているような、そんな嫌悪感さえしてくる。
中澤裕子――、一体彼女は何者なの?
稲葉との関係は? 紺野を狙う目的は? 何故…アタシ達を知っている?
「あの…」
「…っ。あ…なに?」
気がつくとアタシは考え込んでしまっていたみたい。
亀井が、どこか心配げな表情で見つめてるのにも気づかなかったから。
「あ、あの〜…コーヒー煎れたんでどうですか?」
「あー…ありがと」
「松浦さんにも、もってきたんですけど…」
「……、亜弥のはいいよ」
「…はい」
飲める状態じゃないだろうから。
- 703 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/21(金) 15:16
- 自宅に戻った途端、亜弥は何も言わずに部屋に篭ってしまったんだ。
色んなコトがありすぎて、整理がつかないんだろう。
一番の原因は…多分子供の能力者が集められていたから…。
「ったく、湿っぽいなぁっ!一度や二度や三度の失敗ぐらいでクヨクヨすんなよ〜」
「あっ…」
亀井がキッチンへ持って行こうとしたマグカップを、美貴が奪い取って口を付ける。
そのまま、硬直してしまっている亀井の頭をポンポンと叩いてアタシの前の
ソファーに腰掛けた。
一度や二度とかって…。
ったく…。
「アタシ達に、失敗は許されないハズだけど?」
「固いコトはいいっこなし」
「美貴は緩すぎるんだよ…」
「まぁまぁっ、亜弥は後でアタシがなんとかするし♪それより…」
コーヒーを一気に飲み干す美貴。
それから、一度舌なめずりをしてアタシを正面から見据えた。
- 704 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/21(金) 15:17
- 「部屋、どーする?」
「は?」
「だから〜、亀井ちゃんと道重ちゃんの部屋」
「あー…」
言われて思いだした。
そっか、彼女達もここで暮らすんだ…。
そういや、紺野にまだ言ってないんだけどなぁ…。
「あっ、私達の事だったら気にしないで下さい。床でも玄関でも寝れますから」
亀井が慌てたみたいに手をふってくる。
キッチンで洗い物をしていたらしい道重も、手を拭きながら無言で頷いた。
「や、それはフツーにマズイっしょ…。ってか、そんなとこで寝てたの!?」
「あ…その…まぁ」
「はぁっ!?何考えてんの稲葉ってヤツ!?」
美貴は少しキレたみたいに、マグカップをテーブルに叩き付けた。
でも確かに…床や玄関って…そーとー酷い扱いだったってコトか…。
能力がある、ない…それだけなのに。
どっちかっていうと、能力があるほうが…その立場になってもおかしくないのに。
- 705 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/21(金) 15:17
- 「あっきれた…っ。じゃ、今日はミキの部屋を使いな?ミキは亜弥のトコロに行くから」
「えっ!? そんな…っ、悪いですよ!」
「悪くない!! 何? ミキの言うことがきけないの?」
おいおい、脅してどーすんのよ…。
ほら、亀井も道重も小さくなって、遠慮気味に首をふっちゃってる。
しょうがないなぁ…。
「いいから使いな? 明日には残ってる物置部屋をキレイに片すから」
「あ…はい…」
「むー…、なに?亀井ちゃんはミキが言ってもきかないのに、真希の言うことは
きいちゃうんだ?」
「そんなこと…ないですけどー…」
「ま、いいや…。とりあえず難しい話は明日ってコトで。もう休みな」
「あ…はい、おやすみなさい」
亀井がペコリとお辞儀して、続くみたいに道重も頭を下げた。
それから、おずおずと美貴の部屋に入っていく。
なんか…そんなに恐縮しなくてもいいのに。
- 706 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/21(金) 15:17
- 「あ、そういや、ミカとアヤカは帰ってったよ?『これ以上貸しは作れない』って」
「あんなケガで大丈夫なワケ?」
「ま、そこは腐ってもプロだし。『なんかあったら、また駆け込む』だって」
「フっ、そんだけ言えるなら大丈夫か」
「そゆコト」
そこで美貴はコーヒーの残りを流し込む。
「…じゃ、そろそろミキはお姫様の機嫌をとりにいくよ」
「うん、ヨロシク。…なんか亜弥、まだ『妹』のコト気にしてるみたいだから」
言った言葉に、美貴が渋い表情でこちらを見た。
その瞳には、多分アタシは映っていない。
遠い記憶を掘り起こして思い出している、そんな瞳だったから。
「…亜依ちゃんか…」
「多分、研究所で見かけた子供達を重ね合わせたんだと思う」
「…生きてれば…14歳か」
- 707 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/21(金) 15:17
- 亜依…そう、それが亜弥の義妹の名前。
守れなかった…命。
能力があるがために…巻き込まれた命。
そして…アタシに紺野を守れと言った一番の原因。
きっと亜弥の精神的な脆さは、そのコトがネックになってるんだと思う。
いつもは冷静で合理主義者な亜弥だけど、ちょっとした事…そう、例えば
今日みたいに小さな子供が絡んだりすると、信じられないぐらい弱さがでてくるんだ。
ホントのトコロ、実際にアタシはそのコに逢ったコトはない。
けど、二人と組んでしばらくした頃、亜弥が話してくれたんだ…。
多分、請け負った仕事の関係でアルコールが入っていたからだと思うけど。
あの日は…したたかに亜弥が酔っていたのを覚えてる。
ま、仕事がら、未成年でしょ?ってのはいいっこなし。
でも、その事件が亜弥と美貴との出会いだったコトを知ったんだっけ。
- 708 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/21(金) 15:18
- 「…とにかく亜弥はなんとかするよ。真希も今日はもう寝なよね」
「うん…、おやすみ」
「はいは〜い」
アタシの思考を遮るみたいに軽く返事を返して立ち上がる美貴だけど、その
表情はどこか優しい。
こんな時、美貴はアタシより年上なんだって感じるかも…なんて言ったら怒られるか。
閉じていく亜弥の部屋の扉の向こうで、ベッドに膝を抱え込んで俯いている亜弥が
微かに見えたっけ…。
拭いきれない過去…そんなのが亜弥にもあるんだって実感した瞬間だった。
「さてと…アタシも、休むか…」
ソファーからゆっくり立ち上がる。
そして自室に……と、その前に…。
そのままアタシは、1つの部屋の扉を軽くノックした。
当然だけど、返事はない。
- 709 名前:正しさの定義 投稿日:2003/11/21(金) 15:18
- ガチャ…
静かに、音を立てないよう中に入って…この部屋の主に視線を向けた。
やっぱりグッスリ眠っているみたいで、アタシには気づいてないみたい。
そう…紺野は。
「紺野…」
額に触れて、前髪をすくってみる。
ちょっとくすぐったいのか、紺野は一度眉間にシワを寄せて身をよじった。
そのあどけない姿に、頬が自然と緩んでしまうかも…。
それから、そっと手のひらを握ってみる。
柔らかく、暖かい感触…。
その伝わるぬくもりが優しくて、なんか…癒される気分。
「絶対に…紺野だけは守るよ…?」
まったく掴めなかった紺野のコト。
そして、まったく判らないアタシ達のこれから。
不安だらけだけど…、アタシを信じると言ってくれた紺野は絶対に裏切ったりしない。
そう強く思いながら…アタシは無意識のうちに、握った紺野の手の甲に軽く唇を
這わせていた。
亜弥への…一抹の不安を抱えながら。
- 710 名前:tsukise 投稿日:2003/11/21(金) 15:19
- >>702-709
今回更新はここまでです。
とりあえず、次回からは怒涛の展開にさせる予定だったり。
どんどん謎になっていたところを明かせれば…と思っています。
ただ…更新が、遅れてしまう可能性が高いのでマターリお待ち頂ければ…と
思います(汗
>>695 つみさん
ドキドキしながら見ていただけたみたいで嬉しいですっ♪
色んなところで複雑に絡んでしまっているみたいなので
そろそろ収拾させる予定です♪
不定期更新ですが、マターリお待ち頂ければ幸いですっ(汗
>>696 どくしゃZさん
紺野に秘められたもの…多分、次回で明らかになる予定だったり(ぉ
覚醒の可能性や、それぞれの関係も早いうちに明らかにさせるつもりなので
またまた続けて読んでいただければ、嬉しい限りですっ
- 711 名前:tsukise 投稿日:2003/11/21(金) 15:19
- >>697 名無し読者
あぁっ、ご指摘スイマセンっ、ありがとうございますっ(汗
>>698 みっくすさん
そうですね(汗 どんどん複雑になりつつある人間関係ですが、
きっと次回で、それぞれの立場などが明らかになる…と思います(マテ
裕ちゃんは、一番達観したキャラにしたかったので、みっくすさんの
ご感想が嬉しかったり♪応援レスに励まされつつ頑張りますねっ
>>699 片霧 カイトさん
あははっ(笑 ホントに紺野放置気味ですよね(爆
いやいや、次回は彼女もきっと活躍する…と思います(激マテ
新キャラ…実は全ての事を知っているのも彼女…かも?(ぇ
更新速度、かなり落ちてますが…が、がんがりますね(笑
- 712 名前:tsukise 投稿日:2003/11/21(金) 15:20
- >>700 林火さん
紺野…出番少ないですね〜(笑 いやいや、ホントに次回は活躍させる…予定です(ぇ
色んな事象が重なっていますが、全ては1つの事に繋がっていくつもりなので
またまたお暇な時にでも、フラリと立ち寄って読んで頂ければ嬉しいです♪
>>701 名無し読者さん
とっても嬉しいご感想をありがとうございますっ!(感涙
作者として『よかった』って言ってもらえるだけで、幸せなんで♪
放置気味な紺野(笑 そうですね、次回はきっと活躍する…と思いますので(ぇ
そしてよっすぃーですが、もちろん忘れてませんよ♪
ただ、能力者同士の話には絡め辛いので、別の所で重要な役割を持ってもらおうかと…(ぉ
…というのも、自分が絡めるメンバーを増やしたのがまずかったワケですが(汗
- 713 名前:つみ 投稿日:2003/11/21(金) 16:43
- まつーらさんの過去にはそんなことがね・・・
それにしてもここは大家族のようになってきてますね〜
紺野さん寝すぎじゃない・・(w
- 714 名前:みっくす 投稿日:2003/11/21(金) 18:18
- それぞれの色々な思いが交差しているようですね。
なんか精神力の勝負にもなってきそうな感じ?
あややはしっかり立ち直ってくれるのかなぁ?
次回楽しみにしてます。
- 715 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/11/28(金) 18:31
- なんか新入りの二人がほのぼのと微笑ましくていいですね。
あとミキティとごっちんがお姉さんしてるのも。
もう一人の登場にかなり期待なんですが、とりあえずそろそろ紺野を……
次回も楽しみにしています。
- 716 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:46
- 自分の手から、暖かい何かが流れ込んでくるのを感じた。
とても暖かくて、心地良い何かが…。
それが何かは判らなかったけれど、なんだかホっとしたっけ…。
「ん…朝…?」
ゆっくりと瞼を開く。
最初に目に飛び込んできたのは、見慣れない天井。
そして…眩しいぐらいの陽の光。
ちょうど、カーテンの隙間から光が差し込んでいたみたい…。
それから身体を起こして、一度大きく伸びをする。
「ん〜〜〜っ」
うん、昨日の疲れはウソみたいにない。
自分ではぐっすり眠れたほうだと思う。
「…よし、がんばろっ」
トン、と床に下りて気合を入れる。
これから、ここで後藤さん達と一緒に暮らすんだ。
元気に…頑張らないと、変な心配なんてかけたくないし…っ。
- 717 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:47
- 「おはよう…ございます…?」
言いながら、恐る恐るリビングへの扉を開くけど、そこには誰もいなくて。
とりあえず、私は顔を洗いに洗面所に向かう。
ガチャ
「…あ、おはよう紺野」
………。
ジャスト3秒、私は硬直。
そして…
「ごっ! ごとっ! おはっ!えぇっ!? ごっ、ごめんなさいっ!!」
バタンっ!
慌てて私は今開けた扉を思いっきり閉めた。
と、同時に、自分の頬が赤くなっていくのがわかる。
は、恥かしいよぉ〜〜っ!
だっ、だって、今…っ。
ご、後藤さんがバスタオル一枚で…っ! えぇっ!?
うぁー…っ、そういえば後藤さんは朝風呂するって言ってたっけ…。
うー…。
ばっちりとはいかないけど、その…見てしまった…。
ど、どうしよう…。
- 718 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:47
- 「…紺野?」
「ひゃいっ!?」
ゆっくり背後で開く扉と、後藤さんの声にまた心臓が飛び出すぐらいビックリする。
けど、後藤さんはなんにも思ってないみたいにキョトンとして、アタシを見てる。
「? 顔、洗いに来たんじゃないの?」
「あっ、そ、そうですけど…っ、でも後藤さんが…あの…」
「アタシならもう終わって着替えるだけだし、気にしないで洗いな」
む、無理です…。
こうやって一緒にいるだけで、ドキドキしてしょうがないのに…そんな…、
後藤さんが生着替えしてる所で顔なんて洗えないですよぉ…。
でも、そんな事言えるワケもなくって、私は両手を大きく振って遠慮する。
「いっ、いいですっ、あのっ、松浦さんとか起こしてきますっ!」
なんとか、この空気を変えたくて、私は洗顔道具を持ったまま松浦さんの部屋に
向かった。
この家の人達って…みんな、そんなオープンなのかなぁ…。
藤本さんもそうだったし…はぁ…心臓に悪いよ。
そんな事を思いながら、松浦さんの部屋をノックして…
「あ…っ、紺野。ちょっと待って…!」
ちょっと焦ったような後藤さんに止められた。
けど、すでにドアノブに手をかけていた私は、…ドアを開いて中に顔を入れていた。
- 719 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:47
- ………そこでまた、硬直。
「んー…? だれぇ…? 真希?」
中にいたのはベッドで眠る松浦さん……と、何故か寄り添って寝ていたらしい藤本さん。
しかも…床には、2人の服がちらばっていて…ちらばっていて……。
「あー…なんだ、紺ちゃんかぁ〜おっはー。亜弥はミキが起こすからいいよ〜」
裸の藤本さんが手を振っていた。
「ご…」
「ご…?」
「ごめんなさいっ!!」
バタン!
私はそれだけ言って、扉を思いっきり閉めた。
これって…えっと…やっぱり…そういうことなんだよね…?
藤本さんと松浦さんって…えぇっ!?
えー…っ!?えー…っ!?うぁー…っ!!
「紺野…、平気?」
「ふぇっ!? やっ、私全然平気ですよっ!? はいっ!問題ナッシングです!」
声をかけてくれた後藤さんにも、動揺しちゃってまともに返事ができなかった。
そんな私に、後藤さんは苦笑してしまっていた。
「あの二人…そーゆーコトだから」
「うぃ…」
そーゆーこと…ですか…うぅ…。
顔が熱くて、後藤さんの顔をちゃんと見れない。
- 720 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:48
- と、その時。
「あの…後藤さん?」
「あー…おはよう」
「おはようございます。あの…もしかしてこの人が?」
「そう、紺野」
私の様子を伺うみたいにして、2人の女の子が藤本さんの部屋から顔を出した。
えっと…誰…?
「あー、紹介する。今日から一緒に住む事になった、亀井と道重」
「えっ? そうなんですか?」
「うん、まー…昨日色々あってね…」
「はぁ…」
後藤さんは私の疑問に答えるみたいに二人を紹介してくれた。
2人も、ペコリとお辞儀をして挨拶をしてくれる。
私が知らない間に、何かあったのかもしれない。
けど、まぁ、私だって居候させてもらってるんだし反対できるワケもなくって。
「えっと…紺野あさ美です。ヨロシクね?」
「あっ、亀井絵里ですっ、こちらこそヨロシクお願いしますっ」
「道重さゆみです、お願いします…っ」
右手を差し出して、それぞれと握手した。
うん、2人ともなんか優しそうなコで仲良くできる気がする。
- 721 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:48
- 「あっ、それで後藤さん…っ、私達は何をしたらいいですかっ?」
「え?」
「だ、だって、私達、後藤さん達に拾ってもらったみたいなものだし…そのっ、
後藤さんの力になりたいんですっ」
言ったのは亀井さん。
その一生懸命な話し方に、後藤さんは珍しく一瞬困った顔をしたように見えた。
でも、
「そんな気に負うことなんてないよ。ここは変なルールなんてないんだし…
適当にくつろぎな」
「えっ、でも…っ」
「っつーか、とりあえず亀井も道重も身体の傷を治さなきゃね」
そう言って後藤さんは笑いながら、2人の頭をポンと軽く叩いた。
それを見て…なんか…、胸がモヤモヤした。
だって、なんていうか…後藤さんの表情が凄く優しいように見えたし…。
それに…亀井さんが後藤さんを見る目…なんか…ちょっと…。
「? 紺野? どうした?」
「ふぇっ!?」
「恐い顔してる」
「えっ!? そうですか?」
や、やだな…なんか顔にでちゃったみたい。
後藤さんは、ちょっと不安そうに私を見つめていた。
- 722 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:49
- 「なっ、なんでもないです…、私、あの…当番なんで朝食作りますね…」
こんな変な自分を見られたくなくて、私はパっと背を向けるとキッチンに向かって
歩き出した。
だって…今気づいたけど、これって…嫉妬してるって事かもしれないんだもん。
後藤さんにそんなの知られたくない…っ。
けど
「あっ、紺野…っ」
突然、後藤さんにぎゅっと腕を捕まれたんだ。
自然と私は振り返る形になって…目が合う。
その視線の先の後藤さんは…私の行動に戸惑ったような、困惑したみたいな
表情をしていた。
けどそれは亀井さんに向けていた表情とは、また違う…どこか真摯な表情。
ちょっと…どきっとした。
「後藤さん…?」
「あー…えっと…」
言葉に詰まる後藤さんは、なんだか私を咄嗟に引き止めてしまったみたい。
でも、そのことが嬉しかった。
私のことを、気にかけてくれたような気がして。
- 723 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:49
- 「その…朝食、楽しみにしてる」
出てきたのはそんな言葉。
きっと、他の人が聞いたら首を傾げてしまうような言葉かもしれないけど、私には
十分だったんだ。
だって私になにかを言おうとして、考えて考えて、やっと出た言葉だったから。
「はい…っ」
だから、私はにっこり笑って返事をしたんだ。
後藤さんも、ホっとしたみたいに笑ってくれてる。
「…って何〜? 朝からラブラブしちゃってんの〜?」
「!? ふ、藤本さんっ!?」
振り返ると、扉を半分まで開いて顔だけだしている藤本さん。
ちょっとニヤニヤしていて…なんか、ヤです、その目…。
「ったく、見せ付けないでよね〜? しかもなんか火花バチバチ〜ってカンジだし?」
「? 何言ってんの美貴」
「はぁ…真希ってさぁ、かーなーりニブいよねぇ…」
「?」
「ま、いいけど、それよりもうすぐ亜弥も起きると思うし、朝食ヨロシクね〜」
「あっ、ハイ」
色々突っこみたい所はあったけど、とりあえず私は返事をしてキッチンに向かう。
なんか、恥かしくて後藤さんの顔をまともに見れなかったから…っ。
ただ、すれ違い様、亀井さんがじっと私の方を見ていたように気がしたっけ…。
- 724 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:49
- それから松浦さんも起きて、6人で食事を取った。
その最中、昨夜色んな事が起きたんだって知ったけど、みんな詳しくは教えて
くれなかったんだ。
後藤さんに尋ねても…『紺野は知らなくてもいいコトなんだよ』なんて言って
曖昧にはぐらかされたし…。
でも…なんとなく気づいてたんだ。
みんな、こんなに必死になってくれてるのは…全部私が絡んでいるからなんだって。
私を守ると言ってくれた後藤さん。
それはきっと、私の知らないところでも何かしら助けてくれていて…。
胸が…痛かった。
一体私には、何があるんだろう?って。
こうやって…守られているだけで、いいのかな…って。
「…ちゃん? 紺ちゃん?」
「え…っ? あっ、なんですか?」
考え込んでしまっていたみたい。
藤本さんが呼んでいることにも気づかなかった。
「や、そろそろ学校に行かないと」
「え? あっ、ホントだっ!?」
「あははっ、食器の片付けてとかはしとくから、真希連れて行っておいで」
「え…?」
「なんかあったらマズイから」
「あ、はぁ…」
なんだか、その言葉が重かった。
- 725 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:50
- 「じゃ、ミキは亜弥と一緒に亀井ちゃん達の部屋を作っておくから」
「うん、行ってくる」
軽く手を上げて、アタシは紺野と自宅を後にした。
天気は、まぁ晴れ。
ただ、季節が季節だから、肌寒いけど。
「今日は…寒いですね」
「うん…、冬…だしね」
「そうですね…」
気のせいかもしれないけど…どこか、紺野は元気がないように見えた。
どこか俯き加減に歩いているし、口数も少ない。
「紺野?」
「はい?」
「なんか…悩み事とかあんの?」
「え…っ?」
当たりみたい。
なんか紺野って隠し事とかはヘタみたいだね。
顔にすぐ出ちゃうみたいだし。
- 726 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:50
- 「アタシでよければ聞くって、前に言ったよね?」
「あ…」
アタシが紺野の首に巻かれたマフラーを調えながら言うと、困ったみたいな顔をする。
でも、いくら待っても紺野は、それ以上口を開かなかった。
アタシにも…言えない?
そう訊ねたかった。
けど、きっと紺野は困ってしまうだろうから…黙ってアタシは歩きだす。
信頼…ないのかな?
ふとそんな事を考えてしまう。
まぁ、でもそれも当然なのかもしれないなぁ…なんて思ってしまう。
だって、紺野は何故自分がこんなに狙われているのかを知りたがっているのに
アタシはそれを隠しているし。
それに…守ると言っておきながら、危険にさらしたりした。
紺野のために良かれと思ってやったことが、全て裏目に出てる気がしてならないんだ。
中澤研究所へ行ったときも、結局は何も掴めなかったし。
何を目的とし、何故能力者を集め…何故あんな装置を作っているのか。
全てが謎。
こんなんで、信頼してもらうことの方がムリなのかもしれない。
けど…『信じる』と言ってくれたあの言葉。
それだけが、アタシの支えなんだよ…。
きっと、紺野を失ったらアタシは…。
- 727 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:50
- 「…さん…、後藤さん?」
「え? あ、なに?」
「もうすぐ学校ですよ? だからここでいいです」
「あー…うん」
気づくともう、学校の校門が見えていた。
紺野は、ちょっと心配げにアタシを見てる。
「どうか…したんですか?」
「…なんでもないよ? 行っておいで」
「あ、はい…。 ……あっ、あのっ、後藤さんっ」
歩き出した紺野だけど、数歩進んだところでアタシに振り返って声を上げた。
アタシは「うん?」と言いながら、もう一度紺野との距離を縮める。
「あの…、その…」
「なに…?」
いいあぐねいている紺野に、なるべく優しく問いかけてやる。
すると、モゴモゴとしていた紺野が、意を決したみたいにばっと顔を上げた。
「後藤さんは…っ、私のせいで大変な目に逢ってるんじゃないんですか?」
「は…?」
一瞬言葉がでなかった。
紺野が悩んでいたことは、アタシが思っていたものとは全然違うものだったから。
アタシのコトで…悩んでいたの?
- 728 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:51
- 「そんなことないよ?」
「ほんとですか? だって、なんだか…」
辛そうなその表情に胸が締め付けられた。
「紺野…」
本当にそんなことないんだ、そう伝えようとしたその時。
「あれ? あさ美ちゃん? おはよ〜」
「えっ? あ…まこっちゃん…?」
誰だろう? 紺野の知り合い?
アタシの姿を訝しむみたいな見ながら、一人の少女が紺野に近づいた。
紺野の表情が、ぱっと変わる。
「えっと…誰?」
「あ…」
しまった、っていうような紺野の声。
それから、どうしようか考えて…アタシをそのコに紹介した。
- 729 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:51
- 「えっと…後藤さんっていうんだ」
「ふーん…、なんで一緒にいるの?」
「あ、その…今、お世話になってる人で…」
「お世話?」
いちいちアタシの方を見る、そのコの視線が鋭かった。
…なんでアタシが、そんな目で見られなきゃなんないんだか…。
けど、まぁ、このコがいるならもう大丈夫か…。
「紺野」
「あっ、はい…っ?」
「話は帰ってからしよう。アタシはもう行くよ。終わったら連絡を」
「あ…はい…」
どこか寂しそうな笑顔。
でも、この場で話をするのはムリっぽいし…。
そう思って、背を向けた瞬間。
- 730 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:51
- 「!?」
殺気を感じた。
しかも、1人なんかじゃない…。
これは…4人!?
…近くにいる。
「後藤さん…?」
「下がってな…っ」
「えっ? あ、はい…っ」
ただならない雰囲気を読み取ったのか、紺野は隣のコを連れて少し下がった。
アタシがあたりに視線を向ける。
と…、その気配の主達が現れた。
「こんにちは、紺野さん」
優雅にそういったのは、真ん中にいたメガネをかけた女。
その両サイドには、鍛えられた身体が傍目からでも判る露出の高い女と男勝りな女。
そして、その3人の後ろにハーフな顔立ちをした女。
- 731 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:52
- 明らかに…敵だ。
その威圧的な視線が何よりの証拠。
「単刀直入で悪いけど、アタシ達と一緒に来てくれないかな?」
「えっ、えっ…?」
ニッコリ微笑むメガネの女は、アタシなんか眼中にないように紺野へ話し続けた。
完全になめられてる…。
「悪いけど、紺野は行かせないよ」
アタシが紺野の前に立ち言うと4人はクスクスと笑った。
「あー、なんだ、保護した組織って中澤ラボのコトじゃなかったんだ?」
「じゃ、問題ないね」
「悪いけど、アンタに用はないんだ。どいてくんない」
勝手言ってくれるじゃん。
けど、ハイ、そうですか、なんてどくことはできない。
「そうはいかない。紺野はアンタ達みたいに得体のしれないヤツらに渡せないからね」
「あくまで邪魔するつもりなんだ?」
「そうなるかな?」
「なら…」
- 732 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:52
- メガネの女が一度、くっとメガネをずりあげて…
「やっちゃいなっ、ひと、マサエ」
言った瞬間、両サイドの2人が地を蹴って、あたしに向かってきた。
咄嗟のことに、アタシは反応が遅れる。
けど、露出の高い女の拳を沿って避け…そして、続けて男勝りの女の繰り出した
蹴りを、両手でガートして受けた。
ガッ!!
「クッ…!」
なんて力…っ。数歩あとずさってしまう。
このアタシがおされてるなんて…っ。
「ひゃ…っ」
「!? 紺…っ」
「あさ美ちゃんっ! 大丈夫!?」
ふとアタシが呼びかける前に、クラスメートっぽい、そのコが紺野を守るように
身体を引き寄せるのがわかった。
「あ…うん、ありがと、まこっちゃん」
…なんか…、ムカついた。
- 733 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:52
- けど、今は彼女がいてくれる方が好都合だ。
ヘタに一般人の前で大きな事はできないハズだろうから。
もちろん…力を使ったりするコトだって同じコト。
なら…不本意だけど、今は紺野を守ってもらおう。
「な〜んだ、あんまたいしたコトないじゃん」
「ホント、拍子抜け」
露出の激しい女と男勝りな女が、くすくす笑いながら軽く両手を上げるような仕草をした。
思いっきりなめられてるみたい。
「ひともマサエも、油断しないでよ。こんなコだって一応能力者でしょ?」
「判ってるけどさぁ〜、なんか殺りがいがないじゃん」
メガネをかけた女が二人に呼びかけながら、やれやれって表情をした。
一番リーダー格なのかもしれない。
「ねぇ、あゆみ。アンタが殺りなよ。こんなのにアタシの力使いたくないし」
「ったく、判ったよ。じゃ、捕まえて」
「OK」
最後に、ただ黙ってアタシ達を見ていた女に呼びかけてる。
ソイツは、さして興味も持っていないみたいにアタシを見て、それから全員に合図した。
- 734 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:53
- 「行くよ!」
瞬間、4人が一斉にアタシに向かってくる。
1対4。
どう考えてても、アタシに不利なのは目に見えてる。
「考え事してると、すぐにイっちゃうよ?」
『ひと』と呼ばれた女が、アタシの背後に回って耳打ちをする。
ハッとして振り返った次の瞬間、繰り出される回し蹴り。
「くっ!」
アタシは間一髪、それをしゃがんで回避する。
「イくなんて、ひとってば過激〜♪」
続けて『マサエ』が、コートの中からサバイバルナイフを取り出して切りかかってくる。
アタシはその攻撃を、すんでのところでバク転をしてかわす。
けど、
「痛ッ」
よけきれずに、右足に鋭く刃がつき立てられた。
ジーンズの裂けた部分から、赤い液体が飛び散る。
クッ…少し深く入ったか…っ。
「後藤さんっ!」
「来るな!」
「っ!」
「来ちゃダメ…!」
クラスメートの腕を振り払って、アタシの元へ来ようとした紺野を制す。
ここで、紺野が来たらヤツらの思うツボじゃん…。
今は、ヘタに手を出せない一般人と一緒にいる方が得策なんだ。
- 735 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:53
- 「賢明だね。思ったより頭は使えるみたいじゃん」
メガネの女が面白そうに笑う。
気に食わない…っ。
「怒った顔も素敵だね」
「余計なお世話」
「どこまで、そんな強がりが通用するかな?」
「…試してみれば?」
言いながらアタシは軽くその場で弾んでみせた。ダメージは少ないってアピール
するように。
ヒューと口笛を吹いて面白がる、メガネの女。
けど、その目は殺意で満ち溢れてる。
マズイ…かもしれない。
このままじゃ、紺野を守ることなんて…。
そこまで考えて、アタシは癪だけど…ヤツらに気づかれないよう耳に仕込んでいる
スピーカーに触れた。
- 736 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:53
- 『おっ、真希? 何?』
聞こえてきたのは美貴の声。
能天気な声に脱力してしまいそうになる。
けど、とりあえず今の状況を伝えなくては。
「ねぇ…アンタ達の目的は、紺野を連れ去ることなの?」
わざと状況説明するように、ヤツらに問いかける。
その声を聞いて、スピーカーの向こうの美貴が押し黙った。
アタシの意図に気づいてくれたみたい。
「ま、そーゆーコトかな?」
「4人で来るってコトは、相当力を入れてるってカンジだね?」
「別に〜。たまたま動けるのがアタシらだけだったってコトだけど?」
「しかも、学校まで来るなんて、切羽詰まってるカンジ?」
「さぁね、アタシらは貴子さんの命令で動いてるだけだし」
…こんなモンか。
『真希、すぐ行く』
スピーカーから聞こえたのは、亜弥のそんな声。
これで10分もすれば、二人が来てくれる。
3対4なら…なんとかできるかもしれない。
あとは…亜弥達が来るまで、この場を乗り切るだけ。
- 737 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:53
- 「おしゃべりはここまでだよ。そろそろケリをつけたいし」
「あ、それより村っち、あっちのコはどうすんの?」
あっちのコ…それは紺野の隣で不安げにこっちを眺めている、クラスメートのコトだ。
興味もないのか、メガネの女は視線を向ける事無く軽く答えた。
「紺野さん以外は、別にどうでもいいよ」
「じゃ、姿を見られたワケだし…殺っちゃってもいいよね?」
「どーぞ」
言ったが早いか、『マサエ』がそのコに向かって駆け出した。
軌道がアタシには読めた。
相手と間合いをつめ、紺野を避けるように背後に回り――しとめる。
けど、アタシにはどうでも良かった。
紺野さえ守れれば。
そう、どうでもいい…はずだった。
けど。
「ま、まこっちゃんっ、危ないっ!!」
紺野の切羽詰まった声。
そして、両手を前に突き出して、そのコを思い切り突き飛ばす。
と、同時に、さっきまでいたその場所に『マサエ』が攻撃するために突き出した手がすり抜けた。
- 738 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:54
- 「お…っ? へー…やるじゃん、紺野さんって。それとも、このコ、そんなに大事なコなの?」
「えっ? あっ、ま、まこっちゃんは友達なんですっ!」
必死になっていった言葉。
『友達』
何…? それ?
友達…それって大切なものなの?
アタシにとって、亜弥と美貴みたいなものなの?
わからない…。
けど…そのコも助けないと、紺野が悲しむ。
それだけは判った。
なら、アタシがしなきゃならないのは…紺野もそのコも助けることだ。
「友達かぁ…。でもごめんね〜」
「え…?」
「アタシらの姿を見られちゃったし、このコは殺っちゃわないとダメなんだ〜」
「え…っ!?」
『マサエ』の目が鋭く変わる。
そして、鋭く手を振り上げ、絶句しているそのコに向けて振り下ろし…。
「やっ、やめてくださいっ!!」
紺野の声が発されると同時に、アタシは駆け出していた。
- 739 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:54
- ガッ!!
直後、全身に響くような衝撃が走る。
けど…間一髪、アタシはそのコ前に出て腕でガートして攻撃を止めた。
「へー…。アンタも邪魔するんだね」
面白そうに笑いながら、『マサエ』が言う。
アタシはそれを、睨み返すだけ。
邪魔…かどうかなんて関係なかった。
ただ、紺野が望むから、守る。…ただ、それだけ。
「あ…、あ…」
「下がってな…」
アタシの後ろが呆然としている、そのコに言う。
そのコはコクコクと頷くと、数歩後ろへ下がった。
それを紺野が追う。
「後藤さん…っ、ありがとうございます…」
「それは、ちゃんと助かってから言って」
「は、はい…っ」
2人が下がるまで、アタシは『マサエ』の腕を止める。
ただ、それだけのコトなのに…信じられないぐらいの力だった。
きっとアタシより…『マサエ』の方が…体力は上回っているんだろう…。
- 740 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:54
- 「意外と人間くさい部分もあるんだね、002って」
「…? なんのコト?」
「ま、いいんだけど。けど…その甘さが命取りだね」
「は?」
聞き返した瞬間。
「!? くっ!!」
一斉に残りの三人が、死角からアタシの身体を押さえ込んで捕えられてしまった。
三人がかりの力に手足の自由が奪われて…いくらアタシでも動けない…っ。
くっ、しくった…っ!
「チェックメイト。 これがホントに002の姿なの?弱すぎる。平和ボケしたんじゃない?」
「002…? さっきから何よ、それ…っ」
「知る必要はないよ、だってアナタはこれから地獄の苦しみを味わいながら
死んでいくんだから」
「?」
言って、『あゆみ』は笑みを浮かべながら、アタシの額に手をかざしてきたんだ。
「…っ!? ぐっ!」
キィィィ――…ン!
直後、鋭い痛みが脳に直接響く。
な、なに…!? 頭が…割れる…っ!!
「あぁぁっ!!」
熱く、熱を持った何かが…中に流れ込んでくるのが判る。
視界がボヤけてきて定まらない…っ。
- 741 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:55
- 「後藤さん…っ! は、離して、まこっちゃんっ」
「ダメだよっ! あさ美ちゃん、危ないからっ!」
遠くで紺野の声と、それを制する声。
紺野…っ、そうだ、アタシは紺野を守らなきゃ…っ!
けど…、動けな…!
全身の力が抜けていく。
そして、そのまま意識を手放してしまいそうになった瞬間…
「真希!!」
「…亜…弥…?」
タン! タン! タン!
鋭い音と共に、ヤツらが離れアタシの身体が解放された。
ガックリとその場に倒れそうになったところを、力強く引っ張られる。
その主を見て、安堵した。
「美貴…?」
「よく耐えたね、無事?」
「紺野は、傷1つない…」
「バカ、真希が、だよ」
美貴は一度苦笑して、アタシの腕を肩に回して抱えた。
少しだけ楽になった頭を振って、辺りを見回してみる。
- 742 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:55
- するとアタシを庇うように亜弥が前に立ち、短銃を前方に向けていた。
多分、不意を突かれたんだろう。
4人は、ちょっと面白くなさげにアタシ達と対峙している。
「001に003…、何?なんかの同窓会でもやってんの?」
「001…003…? なんのこと?」
「知らないなら別にいいけど。けど…目的は果たさせてもらうよ」
「そうはいかない」
亜弥が、右手を相手に差し出す。
…っ、力を使う気だ。
「亜弥…っ」
「なに?」
振り向く亜弥に、アタシは視線だけで紺野の方を示した。
その隣には、クラスメート。亜弥の持ってる短銃に怯えてるように見える。
一般人の前で力は…。
言いたい事に気づいた亜弥は腕を下ろし、一度舌打ちをしてヤツらに視線を戻した。
- 743 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:55
- 「揃いも揃って甘いね、アンタ達」
「…どういうこと?」
可笑しそうに笑う『ひと』と『マサエ』。
亜弥が問いかけても、「ホントにわかんないの?」とでも言うように冷笑してる。
「答え、教えてあげるよ」
そういって二人の脇をすり抜け前に出たのはメガネの女。
彼女は、じっとアタシ達を見て…、それから後ろの紺野達に視線を向けた。
何を…考えている…?
「力ってのはね…」
スっと、彼女が地面に右手をつける。
次の瞬間、何が起こったのか判らなかった。
いや――理解できなかった。
ガガガッ
そんな微かな音と、地面のゆれを感じるや否や…目の前の3人が一斉に
動いていたんだ。
こちらが、反応を示すより早く。
- 744 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:55
- 「んぐっ!?」
「ま、まこっちゃん!?」
最初に聞こえたのは真後ろにいた、紺野とクラスメートの短い悲鳴。
そして、続けざまに…
「うっ!」
「ッ!?」
亜弥と美貴の、小さなうめき声。
そして、地面に叩きつけられるアタシ達。
一瞬――本当に一瞬だった。
だから全てが理解できなかった。
ただ、視界に映ったのは、メガネの女が地に触れたと同時に、背後の地面が
盛り上がり紺野のクラスメートの腹部を殴りつけていたということ。
それはまるで、地面からいきなり岩が現われたような形。当然そのコは倒れこむ。
きっと…彼女は地の力を扱うことができるんだ。
気づいた瞬間、アタシらには3つの選択肢があった。
紺野の元へ駆け寄るか、自分たちのガードをするか…そして攻撃を仕掛けるか。
けど、迷ったために、0になった。
結果、飛び出してきた3人に背後をとられて、地面に叩きつけられたんだ。
すかさず、3人はアタシらの腕を組み伏す。
- 745 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:56
- 「…力だと認識される前に使えば、力ではなくなるんだよ」
「ぐぅ…っ!」
完敗だった。
圧倒的な力の差が、いや、チームワークの差がそこにあったんだ。
「あゆみ。2人にもやっちゃいな」
「OK」
言うや否や、『あゆみ』と呼ばれた女がアタシにやった要領で、亜弥と美貴の
頭に手をかざす。
「うぁ…ッ!」
「クッ!!」
苦痛に歪む2人の表情。
けど、アタシは動くこともできない…っ。
何故か、ぼうっと頭の芯が霞んで思うように身体がうごかないんだ。
「弱いね…。これがホントにμシリーズなの?」
μ…? さっきから何言ってんの…コイツら…?
ダメだ…なんか強烈な眠気が…。
「ま、いいや。目的は紺野あさ美を連れて帰ることだし」
まずい…っ、このままだと紺野が…。
- 746 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:56
- 「ハイ、終わり」
「ご苦労さん。じゃ、行くよ?」
「OK」
亜弥、美貴に何かを施した『あゆみ』が立ち上がる。
と、同時に解放されるアタシ達。
けれど…立ち上がることさえできなかった。
きっと、亜弥も美貴もアタシと同じように…身体が思うように動かないんだ。
苦い表情でうずくまってる。
「さて、紺野あさ美さん」
「あ…ぁ…」
クラスメートの身体を支えながらも、怯えている紺野の姿が見える。
今にも泣き出しそうな顔…。
「別に、痛い目に合わせようとか思ってるワケじゃないんだよ?」
「ただ、ちょこっと一緒に来て欲しいんだけど?」
やめて…、紺野に触れないで…っ。
くっ、アタシの身体…、動いてよ…っ。
「あ…その…」
「大丈夫、うちのボスって結構優しいから」
ウソだ…っ、そんなのウソに決まってる。
このまま行かせるワケには行かない…っ。
- 747 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:56
- 「く…っ、紺…野…」
力を奮い起こせ…っ。
紺野を守るんでしょう!?
ゆっくり…アタシは立ち上がる。
眩暈が酷い。視界だってどんどん濁っていってる。
けど、助けなきゃ…っ。
「紺野さんが来てくれたら…、みんなをラクにしてあげてもいいよ?」
「ほ、本当ですか…?」
「もちろん」
ンなワケないでしょ…っ。
頭を大きく振る。
けど、紺野には届かない。
と、その視界に光るモノがあった。
ビール瓶のカケラ…。
これなら…。
アタシはワラにもすがる思いで、それに手を伸ばし…握りつぶした。
「く…っ!」
激痛。地面に広がる深紅の水。
それと共に戻ってくる、身体の感覚。
まだ相変わらずの眠気は、断続的に襲ってくるけど…――動けるッ。
- 748 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:57
- 「紺…野から…、離れろ…ッ!」
もうなりふり構っていられなかった。
差し出した両手から、ありったけの力を放って4人にぶつける。
ゴォォォッ!
「!? 避けろっ!」
瞬間、轟音と共に突き抜けていくカマイタチ。
それは地面をえぐり、周辺の壁を崩して消えた。
「くっ! まだそんな力が…!?」
「腐ってもμシリーズってワケ?」
悪態をつきながら後退する4人。
そのスキをついて、アタシは紺野の目の前に立ち両手を広げる。
「絶対に…紺野は渡さない…っ」
「後藤さん…っ」
背後で、紺野が戸惑ったような声を上げていた。
そんな声でも…何故かアタシには勇気になったんだ。
守れる――そんな気がしてくる。
- 749 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:57
- 「亜弥…! 美貴…! まだ動けるんでしょ?」
アタシの呼びかけに、2人はフラフラと立ち上がる。
限界なのは目に見えてた。けど、立ち上がったんだ。
「…当たり前じゃん…」
「真希だけに…いいカッコ…させてたまるかっての…」
…その言葉が4人を威圧するのは十分だった。
今のアタシの力を見たんだ。
2人がまだ力を出せてもおかしくない…そう思うハズ。
「どうする、村っち…」
「アイツらの本気は…アタシらでは…」
不安げな『ひと』と『マサエ』の声。
けど、リーダーらしいメガネの女は、気丈に言い放った。
「ここまで来て下がれないでしょ? あゆみの力が効いてるんだし…行くよ」
来る…か。
なら…死ぬ気で行くしかないね…。
そう苦笑したその時。
- 750 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:57
- 「苦戦してるみたいじゃん?」
「!?」
どこからともなくいきなり聞こえた声に、アタシは視線を辺りに向ける。
あの声…聞き覚えがある…っ。
たしか…っ。
「行くよっ、みんな!」
『了解っ!』
掛け声とともに、アタシの周りに3人の人間が跳躍して着地してきた。
全員…見覚えがあった。
コイツら…、中澤研究所にいた『あさみ』達だ。
それを確認して、―――見つけた。
ちょうど校門前の民家の屋根の上。
不敵な笑みを浮かべながら、矢口が立っていたんだ。
「なに…? どういうつもり…?」
亜弥も身体を傾がせながらも、睨んで問いかける。
けど、それに答えることもなく矢口が素早くアタシ達の前に降り立つ。
そして…4人と対峙したんだ。
- 751 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:57
- 「やぐっつぁん…、あくまで敵側につくんだ?」
先に口を開いたのは、4人の方だった。
メガネの女が、苦々しい表情で問いかけたんだ。
…なに? この4人と面識があるの…?
「敵…か。村っちがそう思ってるんだったら、そーゆーコトになるかな」
「………」
「求めてるものは、一緒なのにね。残念だよ」
「…だったら…っ!」
言いかける彼女だけど、矢口がゆっくり首を振って否定する。
そこに、何か強い意志があった。
「…今日はオイラに免じて、引いてくんない?」
「……わかった。いくよ、みんな」
「村っち…!」
背を向けて歩いていくメガネの女。
それを慌てて、残りのヤツらが追いかけていく。
決定権を持っているのは、あのメガネの女らしい…。
- 752 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:58
- けど、そんなことより今は…。
「…どういうつもり?」
アタシはよろめく身体をかろうじて支えつつ、矢口に問いかける。
彼女達は、中澤裕子の下についている。
中澤裕子が敵ではないカンジがしたとしても、本当にそうだとは思いがたい。
いや…そもそも、中澤裕子の目的がわからない限り敵・味方の判断はできないんだ。
それなのに、結果的にアタシらは『助けられた』んだ。
「ま、予定が狂ったってトコロかな?」
「予定…?」
「そ。アンタ達っていう不確定要素が絡んだことによって、シナリオが大きく変わったの」
「どういう意味よ…?」
「アンタ達は、少なくともオイラ達にとって敵じゃなくなったってコト」
「…?」
全然意味が判らない。
予定だの…シナリオだの…。
ただ、中澤裕子は、アタシらを敵ではないと認識した…ということらしい。
だから、こうやって手を貸したりもする…ということか…。
- 753 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:58
- 「それより…アンタ達、まさか柴ちゃんの攻撃食らったの?」
「……だったら、なに?」
言った瞬間、その場にいた連中の顔色が変わった。
「やぐっつぁん、マズイよ…っ、見たところかなり深いトコまで侵食されてる…っ」
「中澤さんの所に早く…っ」
言ったのは…確か…里田まい。それとあさみ…?
侵食ってなに…?
問いかけようとして…激しい眠気が襲い掛かった。
たまらず、膝をつく。
「後藤さん…っ!しっかりしてください…っ!」
側で紺野の声がした。
ゆっくり視線を向けると、アタシの血で汚れた手をとって泣きそうな顔をしている。
そんな顔…しないでよ。
それに、汚れるよ。アタシなんかに触れなくていいのに。
声に出したいのに出ない。
- 754 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:58
- 「あっちの2人も限界っぽいし、急ごう!」
声に振り返ると、亜弥と美貴も同じようにぐったりと地面に伏していた。
その様子だと、アタシより酷いみたいだ。
あさみ・里田まいが、それぞれ肩を貸して持ち上げてる。
「あと、そこの一般人も。一応姿とか見られちゃったしね。紺野、今日は学校はお休みして
もらうよ?」
「え…? あ、はい…?」
「みうな、お願い」
最後の矢口の言葉は、紺野のクラスメートに向けられたもの。
能力を食らってから、ずっと気を失ってしまってるみたい。
『はい』と返事をして、みうなが持ち上げた。
「よし、みんな行くよ」
言って、矢口が『そっちお願い』と紺野に指示をだして、一緒にアタシの身体を支え上げた。
「どこに…行くつもり…? アンタ達の目的は…」
「助かりたかったら、黙ってな」
「別に、アンタ達の力なんて…っ」
「…このコが悲しむよ?」
- 755 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/04(木) 19:58
- このコ…?
ふと、見ると…紺野が目に涙をいっぱい溜めて唇を噛んでいた。
なんで…そんな表情してるの…?
アタシの…せい?
「ごめんなさい…ごめんなさい…後藤さん…やっぱりみんな、私のせいで…」
聞こえてきた搾り出すみたいな紺野の声に、何も言えなくなる。
違うよ、これはアタシが勝手に…。
自分を責めないでよ…。
アタシまで…辛い。
「わかったら、黙って言うとおりにしてな?悪いようにはしないから」
「………わかった」
こうして、アタシらは矢口達に連れられて…中澤研究所へと向かうことになったんだ。
- 756 名前:tsukise 投稿日:2003/12/04(木) 20:00
- >>716-755
今回更新はここまでです。
大量更新な上に中途半端で申し訳ないですっ(^^ゞ
とりあえず、次回は、紺野とごっちんがついに…!?
>>713 つみさん
本当に大家族のようになっていまってますね(汗
紺野は寝すぎですし(ニガワラ
とりあえず、これからどんどん話が展開していくんてね続けて呼んで
下さればありがたいですっ(汗
- 757 名前:tsukise 投稿日:2003/12/04(木) 20:00
- >>714 みっくすさん
本当に色んな人の色んな想いが交差していますね。
精神的な勝負…なんとなく、今回はごっちんと紺野が強かったりしますが
どうでしょう…?
ごまっとう3人の精神的な勝負は次回に持越しですが…はたして…?
>>715 片霧 カイトさん
新入り2人、何気に私自身も気に入っていたり(笑
もちろんもう一人も、インパクト強く出せればいいなぁとおもっていたり♪
今回、紺野の出番は少しでしたが、次回は大活躍のよていですっ♪
応援レスに励まされつつ、がんばりますねっ!
- 758 名前:つみ 投稿日:2003/12/04(木) 20:36
- 大量更新お疲れ様です!
ほのぼのと読んでいたら急にねぇ〜・・・
ごまっとうも少し謎がわかってきましたね^^
ごまこんファイト!
- 759 名前:みっくす 投稿日:2003/12/04(木) 22:41
- う〜〜ん、新たな謎がでてきましたね。
はたして裕ちゃんとは手を組むことになるのかな?
あと、泣くな、頑張れ紺ちゃん。
- 760 名前:どくしゃZ 投稿日:2003/12/06(土) 02:22
- 大量更新お疲れさまで〜す。
またまた新たな展開ですな!
毎回ドキドキ、萌え萌えw
紺ちゃんが覚醒するのはいつなんだろう?
>>697様、作者様
ご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません・・・m(__)m
- 761 名前:rio 投稿日:2003/12/07(日) 20:48
- うきゃー!!すっ・・すごすぎです!!ごとーさん・・・しっかりと紺野さんのこと
守っちゃってますネ!カッコよかったです><!!
これからも頑張ってください!応援してます。
- 762 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/09(火) 22:26
- あやみきのそーゆーコトな関係に激萌えなわけですが・・・
- 763 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/12/10(水) 00:48
- 更新お疲れ様です〜!
ほのぼのとしてたり(いろんなところで火花散ってはいますが)、
白熱していたりと、本当に読んでて楽しいです。
しかもけっこう意外な展開に……。次回も楽しみに待っています。
- 764 名前:青羅 投稿日:2003/12/12(金) 19:33
- ごまっとうの三人カッコイイです!!
話もカナリ面白いしサイコ―です!!
続き頑張ってください!!楽しみにしてます!!
- 765 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:50
- 「どうしたんや…!?」
矢口達に担がれたまま、アタシ達は中澤研究所につれてこられて。
すぐに入り口で待っていた中澤裕子がアタシ達に駆け寄ってきたんだ。
「柴ちゃんに、やられたんだ…っ。結構もう深いとトコまで入ってるっぽい!」
「柴田に…。わかった、ほんならすぐに奥の研究室に連れてって寝かせて」
「わかった」
素早く返事を返すと、再び矢口たちが歩き出し、奥の部屋へと入っていく。
夕べは裏口から入ったから判らなかったけれど、かなりの広い施設みたいだった。
清潔感を漂わせていて…およそ、『研究所』というイメージがないくらい。
「…く…っ」
「ご、後藤さんっ、大丈夫ですか?」
フラっとめまいを覚えると同時に、すぐ横で紺野の声が聞こえる。
そこでハっとした。
中澤裕子は、紺野を狙っているんだっていうことを。
理由はどうあれ助けてくれたことには感謝はする。
でも、まだ侮ることはできないんだ。
- 766 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:50
- 「こっちだよ」
矢口の誘導で、一つの部屋に入っていく。
そこには、たくさんの機材が置いてあり、正面には大きなモニターがあった。
そして…診療台のようなものの上に寝かされるアタシ達。
もう、意識はハッキリとはしていない。
ただ、手のひらにのこる傷のおかげで保っていられるだけで。
亜弥と美貴は、もうすでにどこか焦点の合わない目で、中空を見上げていたし。
「よっしゃ、ほんならなんとか、やれるだけやってみよか」
ガシャ、と扉を開けて入ってきた中澤裕子と『なっち』と呼ばれていた女が、素早く
アタシ達3人の額に何かのパッチを取り付けようとする。
瞬間、アタシの中の防衛本能が働いた。
パシン!
鋭く、伸ばされた手を跳ね除ける。
その様子に、誰もが驚いたようにこちらを見た。
紺野さえも、ビックリしたみたいに見てる。
- 767 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:50
- 「触ら…ないで…っ」
「………」
一瞬の沈黙。
ちょっと、驚いたみたいにアタシを見ている中澤裕子。
でも、それも一瞬のことで、何かを悟ったような目でアタシを見つめてきた。
その瞳の深さに、威圧されてしまう。
「…別にアンタを傷つけたりなんかせえへん」
「………」
「そのままでおると大変なことになるで?」
「…別に…アンタの…力なんて…!」
「アホ、アンタの身体は、アンタだけのモンとちゃうやろ? 紺野が泣くで?」
「…っ…」
言われて言葉に押し黙ってしまう。
気配で、隣の紺野が困惑しているのに気づいたから…。
- 768 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:51
- 「裕ちゃん! こっちの二人はもう限界だよ!」
「!?」
矢口の呼びかけに、中澤裕子はアタシをとりあえずそのままにして、亜弥と
美貴の下へと駆け寄っていった。
重い頭を傾けて見ると、二人はぐったりとして瞼を閉じようとしていたんだ。
きっと、アタシと同じように酷い眠気に襲われて…。
「アカンか…っ。ええか! 藤本、松浦!よう聞き!今から起こることは現実やない!
ただの夢の中の世界や!何も信じたらアカンよ!」
「…ぅ…夢…?」
「そうや! アタシを信用しい! 絶対信じたらアカン!」
「………」
その言葉が届いたかどうかは判らないけれど、亜弥も美貴もガックリとうな垂れるように
眠りの世界へと落ちていった。
夢の中…? どういうこと?
ダメだ… 考えたいけど…アタシも眠い…。
- 769 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:51
- 鉛のように身体が重い。
瞼だってアタシの意思とは関係なく下がっていく…。
「後藤さんっ! 後藤さん!!」
紺野の声も、覗き込んでくる顔も…もうブレて…見えなく…。
『…後藤! アンタも同じや! 何も信じたらアカン…!』
最後に聞こえたのは、切羽詰ったような中澤裕子の、そんな言葉だった気がする。
- 770 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:51
- 「矢口、アンタどう思う?」
「結構侵食されてたから…ヤバイかもしんないよ」
「そんな…」
目の前の人達は、後藤さんの額に機材をつけながら話していた。
この部屋にいるみんなも、厳しい表情で見守っている。
「あの…っ! 後藤さん達はどうしちゃったんですか…っ!?」
ただならないそんな空気に耐え切れなくなって、私は白衣を着た人に訊ねる。
その人は、目の前の大きなモニターを見ながら一度ため息をつき…ゆっくり
私に振り返った。
そこで気づく。
…あれ? 私…この人…知ってる…?
どこかで見たことがある…。
それも遠い過去なんかじゃなくって、もっと最近に…。
誰…だっけ…?
けど、それを思い出そうとする意識を、その人が口を開いてさえぎった。
- 771 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:52
- 「この三人は…過去の悪夢の中に行ってしまったんや」
「過去の…悪夢?」
「そう…柴田の能力を受けたんやったら間違いない」
「どういうことですか…?」
よく意味がつかめない。
過去の悪夢って…いったい…?
すると、白衣の人は一度言葉を切って、私の顔をまじまじと見つめてきた。
ちょっときつめの目が…怖い。
「まさか…こんな形で再会するとはなぁ…変な巡り合わせやね…」
「え…?」
再会…?
じゃあ、私はやっぱりこの人と会ったことがある…。
どこで…。
って、あっ! 思い出した!
この人…!
「もしかして…あなたは私を水の中から出した『裕ちゃん』さん!?」
「は?」
「あ、えっと…その…赤ちゃんの頃の私が何かの水の中に入っていたのを、
こう…イスで、割って…出してくれませんでした…?」
- 772 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:52
- 確か、夢の中にいつも出てくる人、その人と酷似してる…っ。
ちょっと外見は大人っぽくなってるけど、記憶の中の『裕ちゃんさん』とこの人の
瞳はまったく一緒だったんだ。
私のその言葉に、その人は驚いたように一度目を丸くして、それからフッと笑った。
「さすが、ズバ抜けた記憶力やね。驚いたわ」
「あ、じゃあ…やっぱり」
「そうや、多分アンタが言うてる『裕ちゃんさん』はアタシや。…紹介が遅れたね、
アタシはこの研究所の責任者、中澤裕子や」
「中澤…さん」
言って、中澤さんは右手を差し出してきた。
私は、ちょっと戸惑ったけど、とりあえず握り返す。
「…で、あそこのモニターの前でキーボードを叩いてるんが『安倍なつみ』。そこの
ちっこいのが『矢口真里』」
「ちっこいって言うな!アホ裕子」
「はいはい」
安倍さんに矢口さん…。
前に逢ったときは、後藤さんと…。
- 773 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:52
- 「あの時はゴメンね、こっちにも色々事情があったんだよ」
「え…っ!? 私、何も言ってないですけど…」
「あ、ゴメン、反応しちゃった」
いきなりで私はビックリするけど、安倍さんはペロっと舌を出して笑う。
そしたら、中澤さんが「あ〜」なんて言いながら、首の後ろを軽くかいた。
「なっちは、精神感応能力者…いわゆる『テレパス』なんや」
「テレパス…?」
「人のココロが読めるんや」
「あ…」
そういえば、後藤さんと戦っていた時にそんなコトを言っていた。
「で、あそこの3人が左から、『あさみ』『まい』『みうな』」
ペコリと揃って頭を下げてくる3人に、私も慌てて頭を下げる。
「あの3人は、『状態変化』の能力を持ってる」
「状態…変化?」
「そう。『固体』『液体』『気体』にそれぞれ変化できるんや」
「えっ?」
びっくりして3人を見ると、何かを合図し合って…次の瞬間。
- 774 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:53
- 「えぇっ!?」
音もなく3人の姿が消えた。
「あれが『気体』の状態や。今、この部屋の至る所に3人の意識が飛んでる」
「そ、そうなんですか…」
部屋の至る所にって…なんだか考えると不思議かも…。
だって、それって透明人間にもなったような感じだと思うし…。
そんな事を考えていると、3人がもといた場所に戻った。
「で、矢口は…もう知ってるね?」
「あ、はい…電気…ですよね」
この間、身をもって体験したし…。
なんだか、全身に痺れるような痛みが走った気がする。
「ま、発電所代わりにもなる便利なヤツやな」
「ムカツク言い方だなぁ…っ」
「まぁまぁ…。ほんで本題に戻ろか?」
「あっ、はい…。あの後藤さん達は…?」
スっと、中澤さんの表情が変わった。
緊張を走らせたような、それでいて、何もかもを理解しているような達観した眼差しに。
- 775 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:53
- 「後藤も、藤本も松浦も、さっき言ったように過去の悪夢に行った。早く言えば…
深い眠りの中で、3人の心のキズになってるものを悪夢として見せられているってこと」
「え…っ、じゃあ早く起こさなきゃ…!」
「ムリやろな」
「ど、どうしてですか?」
「人に悪夢を見せる柴田の力で、外からどうやっても起きひんようにされてるんよ」
「じゃ、じゃあ、どうすればいいんですか?」
「………」
そこで一度沈黙してしまう中澤さん。
ほかの人達も、厳しい表情をしたまま誰も口を開こうとしなくて…。
自然と嫌な考えが浮かんでしまう。
「中澤さん…っ」
「…この3人が、それぞれの過去のキズと向かい合って…克服できれば、ちゃんと
目が覚める」
「……もし、克服できなかったら…どうなるんですか…?」
「その時は………もう、目覚めることはない」
「!?」
『目覚めることはない』=『死』だって事は、みんなの反応ですぐにわかった。
- 776 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:53
- 死ぬ…。後藤さん達が…死ぬ…!?
他でもない、私のせいで…後藤さん達が…!?
『絶対に守るから』
耳の奥から離れない後藤さんの声。
その声も、もう聞くことができなくなる…!?
ううん、それ以前に…私を見てくれることも…なくなる…。
「ぁ…」
怖くなった。
身体がガクガクと震えて、全身の力がなくなっていくのが判る。
もう…後藤さん達がいない世界なんて、考えられないのに…。
『紺野ちゃん』
松浦さんも。
『紺ちゃん』
藤本さんだって。
『…紺野』
…後藤さんも…。
- 777 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:54
- ………。
そう、もう考えられないんだ…っ。
「っ! どうにかできないんですか!? このまま黙って見てるしかないんですか!?」
気がついたら、中澤さんに詰め寄っていた。
どんなことでも、できることならすべてやりたいから。
それで、もし、助かるんだったら…、何だって…!
「紺野…」
安倍さんの悲しそうな視線が遠くにあった。
きっと、私のココロの中を読んだからなんだろう…。
「悪いけど…こればっかりはどうにもならん。神のみぞ…知る」
「そんな…」
けど、無情にも言われたのは…そんな言葉だった。
「あさ美ちゃん…」
愕然としてしまう私を見て取ったのか、いつのまにか意識を取り戻し側にいた
まこっちゃんが私の肩に手を置いた。
『しょうがないよ』…そんな風に。
- 778 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:54
- でも…っ、でも!!
「…待って…。『神のみぞ知る』…?」
思わず涙が零れそうになったその時、中澤さんが何かを思い出したみたいに呟いた。
それから考え込むみたいに顎に手を当てて、その場を行ったり来たりして…、
最後に私を凝視する。
「…?」
「もしかしたら…なんとか出来るかもしれへんで?」
「え…っ?」
私を含め、そこにいた全員が驚いた表情をした。
後藤さん達を助けられる…!?
どういうこと…!?
「紺野」
「は、はい…」
「この3人を助けたい?」
「も、もちろんです…っ」
言うと、中澤さんはポンと一度肩をたたいて、ニッコリする。
「紺野なら、3人を助けられるかもしれへんよ?」
「えぇっ!? ど、どういうことなんですか?」
「簡単なコトや。 これから、この3人の精神世界に紺野が入って…」
「…アンタが3人を助けるんや」
- 779 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:54
- 一体、何を言われたのかよくわからなかった。
けど、そのあとすぐに安倍さん達が「ちょっと待って」と止める言葉を発して、
すごいことを言われたんだって気づく。
「裕ちゃん、それは危険すぎるよ…!」
「このまま放っておいても危険や」
「でも、また一人巻き込むなんて…」
安倍さんは、中澤さんに歩み寄ってそう言う。
続くように、矢口さんも中澤さんの前に立った。
「大体、普通の人間には、そんなの無理じゃん…っ」
でも、中澤さんはそこで不敵に笑っていってみせたんだ。
「そう…『普通の人間』やったらな」
「裕ちゃん…っ」
それからまだ何か言いたげにしている安倍さん達を追い払って、私の前に立つ。
- 780 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:54
- 「どうする? 紺野。どっちでもアタシやったらええで。3人を助けるか…それとも」
「…そんなの、助け…っ」
「よう考えや?たしかにアンタは3人を助けることができる。けど一歩間違えば
アンタも巻き添えを食らって、死んでしまうんやで?」
「え…?」
「人間、夢の中で死んでしまったら…現実でも死んでしまう」
「あ……」
息を飲んだ。
夢の中で死んでしまえば…現実でも死んでしまう…。
もう、こうしてここに立っている自分はいなくなってしまう…。
こ、怖い…と思う。
でも…。
でも…っ、後藤さん達はいつでも私を守ってくれてた。
それこそ、自分達が傷ついてしまうのも構わずに…。
ふと見ると、まだ血に濡れた後藤さんの手のひら…。
他でもない、私を助けるためにつけた傷…。
何度も…何度も…自分の危険も顧みず…私のために。
- 781 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:55
- そんな後藤さんと、もう話せなくなるんだったら…私はもう死んだも同然だよ…。
一生、後悔しながら生きていく事になるんだきっと。
だったら…もう答えは決まってる。
「それでも……私は、後藤さん達を助けたいです…っ」
もう迷いなんてなかった。
ただ、後藤さんを…みんなを助けたい。
それだけでいい。
「そうか…判っ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
中澤さんの返事を遮ったのは、まこっちゃんだった。
ぐっと私の両肩をつかんで、ぐるっと自分の方に身体を向かせて…。
真剣に見つめてる。
「なんで、そんな危険にあさ美ちゃんが付き合う必要があるの!?お世話に
なってるって言ってたけど、命をかけるほどのことなの!?」
「ま、まこっちゃん…」
「あさ美ちゃんは、被害者なんだよ!? そんな、よく判らない事に巻き込まれる
ことないんだよ!?」
- 782 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:55
- 痛いほど私の事を心配してくれてるって判るから…だから辛かった。
確かに他の人からみたら、私はただの被害者かもしれない…。
こんな風に危険にさらされるなんておかしいって思うかもしれない。
でも…でもね…?
「まこっちゃん…私、どうしても助けたいの…っ」
「約束…したよね?」
「え…?」
「『自分を辛い目に逢わせてまで、誰かを助けようと思わないで』って」
「あ…」
「お願い、あさ美ちゃん…考え直して」
すがるようなまこっちゃんの視線に、何にも言えなくなる。
確かに約束した。指きりまでした。
守るって思ってた。思ってたよ?
でも…。
「………ごめん」
「あさ美…ちゃん?」
私は、まこっちゃんの手を自然におろすと、後藤さんの側へと歩み寄った。
- 783 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:55
- 後藤さんは…ピクリとも動かず…静かに瞼を閉じている。
綺麗にも映るその顔が、今はただ悲しくて…悲しくて…。
そっと、まだ傷の残る手を両手で握ったんだ。
「…どうしても…助けたい…」
「………」
「大切な…人なんだ」
失いたくない…大切な…。
もう、後藤さんがいないだなんて考えられないから…。
「…………わかったよ…」
振り返ると、まこっちゃんは泣き出しそうな顔で、それでもしょうがないって笑っていた。
「ごめんね…ごめん…」
「いいよ…もう。でも、ちゃんと戻ってくるんだよ?」
「…うん…っ」
- 784 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:56
- 力強く頷いて、私は中澤さんの方を見た。
じっと腕を込んで、見守っていた中澤さんは苦笑しているみたいだった。
「ええか?」
「…はい、お願いします」
「よっしゃ」
不安はあった。
私にできるのかどうかとか。
ちゃんと後藤さん達に会えるのかどうかとか。
この選択か正しかったのかさえわからない。
でも…それを考えるのは…やめた。
今、できる事は、すべてやる。
ただ、それだけのような気がしたから。
- 785 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:56
- 「ええか? 説明するから、よう聞いときや」
「はい」
診療台に横になり額に脳波をトレースする機械を取り付けられながら、私は頷く。
その中澤さん越しには、同じように機械をつけて私の横に並んで寝てる後藤さん達。
「誰の過去に行くかは判らん。波長が合った人の所に自動的に飛ぶようになってるから」
「はい」
「3人以外には、アンタの存在は確認できひん。他の人には、いわゆる透明人間のように
なってるはずや。見えもせえへんし、触れることもできひん」
「あ、はい…」
会話の間にも、モニターに向かいながら安倍さんがせわしなく何かを打ち込んでる。
他のみんなも、見守るように私達の会話をきいていた。
「3人は過去の悪夢に飛ばされたんや。けど、それが『ただの夢』なんやって理解
できたら、多分目覚める事ができるはず」
「じゃあ私は、『ここは過去の夢なんです』って言えばいいんですね」
「そうや。それと…危険を感じたら、すぐに逃げるんや。脳波の乱れを感知したら
すぐ引き戻すから」
「…わかりました」
「よっしゃ、健闘を祈る」
「はい…」
- 786 名前:正しさの定義 投稿日:2003/12/19(金) 10:56
- 言って中澤さんは、くしゃくしゃっと頭を撫でてくれた。
自然と緊張感が飛んでいくのがわかったっけ…。
「…よし、裕ちゃん、準備出来たよ?」
「わかった。 ……ほんなら、行くで紺野」
「…はい」
安倍さんに頷くと、中澤さんが私の腕に注射器を立てた。
中身は『睡眠剤』。
同じ状態でないとトレースが出来ないから…。
チクっとした、感覚の後…数秒後にすぐ眠気が襲い掛かってきた。
「…がんばれ、紺野」
矢口さんの声。
それからみんなの見守る視線を受けながら…私は瞼を閉じた。
絶対に…みんなを…後藤さんを助けるんだって強く思って…。
- 787 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:57
- 眩しい…っ。
その真っ白な世界に思わず目を手で覆ってしまう。
けど、それも数秒の事で、景色がはっきりし始めたのを感じて私は…
…ゆっくりと瞼を開いた。
「…ここは…?」
最初に飛び込んできた世界は、ジメジメとした真っ暗な路地裏。
道端で座り込んで、お酒を飲んでいる男の人たち。
そして…ケンカをしている人。
お世辞にも、いい環境だなんて言えなかった。
でも、ここに来たって事は、この近くに3人のうちの誰がいるっていうわけで…。
「とにかく探さなきゃ…っ」
そう、まずは誰なのかを確認しないと、どうしようもない。
ここにいたって何にも解決できないし、まずは大きな通りにでよう。
「それにしても…ここ、どこなんだろ…?」
歩きながら、辺りを見渡してみる。
すれ違う人達の特徴は、なんだか私が知っている日本人のそれとも似つかないし
建物だって簡素な石造りで、とてもじゃないけど近代的な空気を感じない。
そして何より、近くで交わされてる言葉。
- 788 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:57
- 「日本語じゃ…ないよね…」
どこかまくしたてるような口調で、イントネーションだって聞いたことがないし…。
幸いだったのは、3人にしか私の存在が判らないって事かもしれない。
だって、こんな見知ら場所に一人で飛び込んでいたらきっと、大変な目に逢った
だろうから。
ちょっと不安になりながらも、大きな通りにでたその時。
ドンッ!
「痛…っ」
「…気をつけな」
「あっ、ご、ごめんなさいっ!」
ちょうど角を曲がるときに人とぶつかってしまったんだ。
あわてて私は頭を下げる。
けど相手の人は、特に気にした様子もなくって着ていたコートの襟を正すと歩き出した。
はぁ…考え事をして歩くのはよくないかも…。
とにかく、今は3人の誰かを見つけなきゃ…っ。
- 789 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:58
- …って、ちょっと待って。
今、私誰とぶつかった…?
3人以外には、私の存在を確認できないんだよね…?
ましてや、ぶつかったりすることだってできないはず…っ!?
「!?」
急いで今ぶつかった人の方を振り返る。
その人は、もう随分歩いてしまっていたけれど、その雰囲気に見覚えがあった。
全然今と背格好も違うけど、さっきの透き通ったような声は…っ。
「松浦さんっ!!」
「…っ!?」
呼んだ瞬間、ぎょっとしたみたいに振り返るその人。
僅かに変色した瞳が、紅く燃えているのが判る。
やっぱり…、松浦さんだ…っ。
「あの…っ! 松浦さん…っ!!」
もう一度呼びかけて、駆け寄ろうとするけど、
- 790 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:58
- 「黙れ…!」
「!?」
それより早く、私のすぐそばに駆け寄った松浦さんに手首を取られて壁へと
たたきつけられた。
信じられないぐらいの痛みが背中に、手首に走る。
「まっ、松浦さん…っ、痛い…!」
「アンタ…何? 殺されたいの?」
「え…っ!?」
「アタシにまとわりつくな…! その姿をもう一度見たら、殺すよ」
「!?」
心臓を鷲づかみにするような視線に、背筋が凍った。
こんな松浦さんの表情…見たことない。
けど、そこで確信する。
今、目の前にいる松浦さんは、私の知ってる松浦さんじゃない。
ううん、それ以前に…私の事を忘れてしまっている…!?
中澤さんは、『3人は過去の悪夢に飛ばされた』って言ってた…。
ということは…私の認識ができても、私と一緒にいた記憶はない過去ということなの…?
そんな…っ。
じゃあ、どうやってこれが『過去の夢』なんだって伝えればいいの…!?
- 791 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:58
- 「ま、松浦さん…っ」
「消えな…!」
ドン!
「あ…っ」
突き放される身体。
思わずよろめいてしまうけど、なんとか姿勢を立て直す。
と、とにかく、伝えなくちゃ!
「松浦さん!! この世界は過去の夢なんです! 現実じゃないんです!!」
「……………」
歩き出していた松浦さんは、私の言葉に一度立ち止まる。
「お願いしますっ!目を覚ましてください!」
けど…。
再び歩き出して、路地を曲がって行ってしまった。
「松浦さ…!」
駆け出して、追いかけるけど…そこにはもう姿はなかったんだ。
- 792 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:59
- 「どうしたらいいんだろ……?」
思わず情けない声を出してしまう。
今になって、これが夢なんだと認識させる事の大変さがわかったんだ。
だって、松浦さんには『今ここにいる瞬間』が『現実』であって、私という存在の方が
『夢』のようなものなんだろうから…。
何を言っても届かないような気がした…。
「…ううんっ! そんなことないっ! 絶対に伝えて連れ帰らなきゃ!!」
そうだ…っ、後悔とかしてる場合じゃないんだ。
とにかく今できる事は、すべてやらなきゃっ!
もしかしたら、後藤さんも藤本さんもこの近くにいるかもしれないんだし…!
そう思って、ぐっと拳を握り締める。
…と、その瞬間。
「え…!?」
周りの風景がぐにゃりとゆがみだした。
軽いめまいが、全身を襲う。
- 793 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:59
- 「う…っ」
続けて眩しい光の洪水。
耐えられなくて、私は瞼を閉じる。
そして…もう一度瞼を開くと…―――見知らぬ世界に繋がっていた。
「こ、ここは…? またどこ…?」
さっきまでいた所とは全然違う。
鉄でできた壁、パイプが剥き出しになっているけどしっかりした天井…。
そして…私にだって判るぐらい、高度な技術で作られたんだろう装置の数々が
目の前にあった。
「どういうことなんだろう…?」
いきなりこんな場所に飛ばされた感じがする。
まるで何かに引っ張られるかのように…。
あっ、もしかして…ここに、後藤さんか藤本さんかがいるのかも…!?
中澤さんは誰の所に飛ぶのか判らないって言ってたし…。
松浦さんの事も心配だけど、とりあえず探さなきゃ…っ。
そう思って、目の前の廊下を歩いていく。
- 794 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:59
- 不思議と、誰ともすれ違うことはなかった。
こう…、こんなにも大きな建物なんだし、誰かとすれ違ってもいいはずなのに…。
そんな事を考えていて…一つの部屋に行き着く。
大きくて頑丈な扉に閉ざされた部屋に…。
「ど、どうやって入ったらいいのかな…?」
鍵なんて持ってないし…。
うーん…。
考えながらノブに触れて…――
ガチャン
…開いた…っ!?
「えっ? えぇっ?」
なんかとんでもなく悪いことをしてしまった時みたいな気持ちになってしまう。
だ、だって私、なんにもしてないのに…っ。
あ、でも、もしかして鍵は開いていた…?
と、とりあえず、中に入ろう。
- 795 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 10:59
- 「失礼…します…?」
言いながら恐る恐る入ってみる。
そこは、特に何があるわけでもなくって、ただ椅子とテーブルが向かいの
大きな窓ガラスに向けられているだけだった。
ちょっと…拍子抜けしてしまう。
誰も…いないのかな…?
きょろきょろとしてみるけど、誰もいなくって。
とりあえず、椅子に腰掛けてガラスの向こう側に視線を向ける。
近づいてみて判ったけど窓だと思っていたけど、これ…向こうの部屋とこちらを
隔てるただのガラスだ…。
…と、そこで気がついた。
ガラスの向こう側…誰かいる…っ。
たくさんの機械に囲まれて、中央の大きなモニターと睨めっこしてる…。
待って…あの人、知ってる…っ。
ちょっと勝気な瞳に、小柄な体型。
あ…っ!
- 796 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:00
- 「藤本さん!」
そうだ間違いないっ。
あれは藤本さんだっ!
慌てて私は椅子から立ち上がると、ガラスをドンドンと叩く。
「藤本さんっ! 藤本さんっ!!」
けど、呼んでも呼んでも、藤本さんは気づく気配すらない。
ただ、黙々とモニターに移ったロボットみたいな画像に何かを語りかけてる。
「聞こえて…ないの…?」
叩く手を止めて、私はじっと藤本さんを見つめた。
目の前にいる藤本さんは、私が知ってる藤本さんよりちょっと幼く見えるけど
画面に向けてる笑顔は変わらない。
そう…藤本さんは笑顔だった。
悪夢の中にいる筈なのに…いったいどういうことなんだろう…?
少し状況を把握した方がいいのかもしれない…。
そう思って、私はもう一度椅子に座りなおしたんだ。
するとガラス越しに聞こえてくる…藤本さんの声。
- 797 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:00
- 『アンタとも長い付き合いだよね…ゆきどん』
[そうだね、ミキ。ミキがここに来たのは…まだ赤ん坊だったっけ]
『うん、この研究所に引き取られてゆきどんに育ててもらって。いわばお母さんみたいなモン?』
[失礼ね〜っ、まだアタシはそんな年取ってないわよっ]
『人工知能に年齢なんてあんの〜?』
[数えで…にじゅう…って、ほっといてよっ。…けど、ミキはホントいいコに育ったね]
『ゆきどんのおかげ…。こんな風にコンピューターに精通したのもゆきどんがいたから』
[…でも、やっぱり人間の子供は人間のお母さんに育ててもらわなきゃならなかったんだよ…]
『今更何言ってんのよ〜、アタシ全然後悔してないよ?っつーか逆』
[え?]
『ゆきどんには感謝してもしたりないくらい』
[ミキ…]
『時には母親として、時にはお姉ちゃんとして…それに時には…友達として、ミキが
ひとりぼっちでも寂しくないようにいつも一緒にいてくれた』
[うん……]
『こんな…化け物のミキでも…』
[ミキ…! なんてこと言うのよっ!]
『だって…っ!みんなミキのコト研究材料としか見てなかったじゃん!だって…!
みんなミキのコトを腫れ物に触るみたいな目で見てたじゃん…!』
[ミキ…]
『だから…ミキをゆきどんに押し付けて、ここに閉じ込めたんでしょ?』
[違…っ]
『いいのっ。だってそのおかげで、ゆきどんと逢えたんだから…』
- 798 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:00
- よく話が見えなかった。
けど…なんとなくわかる。
ここは…過去、藤本さんが育った場所なんだって。
きっと、生まれた頃から能力は形を現していて…この研究所に引き取られて…。
その能力の危険性から、人工知能をもったコンピューターさんに育てられた…んだと思う。
閉鎖された空間で、頼れるのはそのコンピューターさんだけで…。
否が応にも…自分が他の人と違うんだって見せ付けられる生活は…、藤本さんの中で
すごく深いキズになってたのかもしれない…。
前に学校で…超能力について訊ねた時の藤本さんの返事は…、この事があったから…。
だから、あんな事をいったのかもしれない…。
『あの…、藤本さんは『超能力』って、信じますか?』
『超能力、ねぇ?なんでそんなコト訊くの?』
『あ…、いや、あったらどんななのかなぁって思って…』
『超能力なんて、ないにこしたコトはないと思うよ〜?』
『え?』
『だってさぁ…』
『化け物じゃん、そーゆーヒト達って』
あの時の殺意にも似た雰囲気は…きっと人間としての生を許された私たちへの羨望。
笑顔の下に、いつも隠していた本心だったのかもしれない。
- 799 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:01
- けど…これが悪夢なの…?
何か…違う…気がする…。
二人の雰囲気からして…もっと違う何かが、これから起こるような…。
そう思ったその時、
ピ――――!!
けたたましく鳴り響くエラー音。
それを受けて藤本さんが、食い入るようにモニターの端を見てる。
私もちょっと体制的に苦しいけど覗いてみて…何かの文字が浮かんでいるのがわかった。
なんだろう…? えっと…ハッ…キング…? ハッキング!?
[はじまったね]
『そりゃ、ここの研究所を壊滅させようとしてんだもん。研究員を捕らえただけじゃ
納得しないんでしょ』
[ミキ…何度も言うようだけど…]
『ストップ、その言葉は聞き飽きたよ。ミキは最後までゆきどんと戦うって言ったじゃん』
[…わかった…]
戦う…。
その言葉を聞いて、理解できた。
多分…ここは誰かに狙われて…潰されようとしてるんだって。
だから、全てを壊してしまおうと…。
でも、そのコンピューターさんは藤本さんの大切な『人』だから。
- 800 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:01
- …でも、これが『過去の悪夢だ』っていうなら…結果は……。
[ミキ…最後にお願いがあるの]
『…なに?』
[もし…]
『うん…?』
[もし、アタシがすべてを侵食されたら……アタシを壊して?]
『はぁ!? ンなコトできるワケないじゃん!』
藤本さんは、怒りも露に画面に向かって怒鳴った。
けど、画面の人は…じっと藤本さんを見据えて動かない。
[…お願い…。誰かに侵食されて壊されるぐらいなら…ミキに壊されたい]
『ヤだよ、そんなの…っ! っつーか侵食なんて絶対させない!』
[ミキ…。 …あっ!]
『え?』
[介入が始まった…っ。プロテクトが…外れていく…っ!]
『OK! アタシもはじめるよっ!』
言ったが早いか、藤本さんは部屋中にあるキーに指を走らせる。
信じられない速さだった…。
- 801 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:01
- モニターの前にあったキーボートを叩いたかと思うと、すぐ後ろの端末のキーボードを弾く。
それが終われば、右に控えていたノートパソコンのキーボードに手を伸ばす。
しかも全部、ブラインドタッチで。
まさに…神業…っていう言い方が正しいかもしれない。
『ダミープロテクトを走らせたけどどう?』
[ダメ…、向こうもそう甘くはないみたい]
『じゃ、ウィルスを飛ばすよ。ミキ開発のとっておき』
口を動かしつつも、その手は全くとまらない。
CD−Rを素早く入れて、ファイルを読みこんでる。
すぐに、モニター上にアップロードされた様子が浮かんで藤本さんは厳しくそれを見守ってる。
『どう…っ?』
[うん…相手のボードに入ったけど、きっと足止め程度にしかならないよ]
『ったく…!』
舌打ちしながらも、ハッキングへの攻撃を続ける藤本さん。
…と、その時モニターの画面がブレた。
『ゆきどん!?』
[あ…ヤバいかも…っ]
『え!?』
[中枢に入ってきた…っ、たぶん…もう…]
『やだ、冗談やめてよっ! ミキがこんなにやってるのに!?』
[ミキ…]
そこで画面の人は、しょうがないよっていうように寂しく笑って見せた。
- 802 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:01
- [向こうはね…100人体制でハッキングを掛けてきてるんだ…]
『…!?』
絶句して、キーを弾く手を止める藤本さん。
それから信じられないって顔で、モニターを見つめてる。
[しょうがないよ、この会社のホストコンピューターてあるアタシを破壊しなきゃ
事実上、この研究所を乗っ取ることはできないんだし…]
『なんで! どうして…!? ゆきどんはなんにもしてないよ!?』
[けど、セキュリティーの管理はすべてアタシの意思とは関係なく働いてしまう。
ここの研究員じゃないって認識すれば、攻撃してしまう…そんなコンピューターだから]
『でも…!』
その時、モニター上の粒子が、エラー音と一緒に端の方から赤く染まり始めた。
画面の人は、悲しそうにその様子を見てる。
[ミキ…]
『…、やだよ…っ!?』
何かを伝えるような画面の人の呼びかけに、藤本さんは大きく首をふる。
拒絶するように、何度も大きく…。
- 803 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:02
- [お願い…っ、データを盗まれて、アタシが壊れた後知らないところで悪用されるのが
嫌なんだよ…っ]
『けど、できないよぉっ!』
そこで私は理解した。
画面の人が…藤本さんに『自分を壊してくれ』って言ってるんだって。
ほかの誰でもない、藤本さんに…。
[お願い、ミキ!]
『やだ!!』
静まり返る部屋。
ただ、侵食されていくエラー音だけが不気味に響いていく。
…ずっと、藤本さんを育ててくれたコンピューターさん。
どんな時でも一緒にいて、ずっと支えてきてくれて…。
きっと…お母さんのように。
それを壊さなきゃ…ううん、殺さなきゃならないなんて…。
これが…藤本さんの『過去の悪夢』だったんだ…。
- 804 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:02
- [く…! あぁ…! 壊れる…!!]
『ゆきどん!?』
悲痛な声にモニターを見ると、赤い侵食を示す粒子がもう画面を覆いつくそうと
していたんだ。
画面の人の表情が歪んでいくのがわかる。
『……ゆきどん…っ』
うつむく藤本さん。
その手は、ぎゅっと強く握り締められていて…。
唇がかみ締められている。
[お願い…! ミキ! もう…!]
『くっ!!』
呼びかけに、藤本さんは再びノートパソコンのキーをはじき出した。
その手が震えていた。
そして…その頬には…涙が伝っていた。
- 805 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:02
- 『ゆきどん…?』
何かを打ち込み終わったのか、藤本さんは流れる涙もそのままに
モニターに向かって顔をあげる。
[なに…?]
『今まで…楽しかったよ?』
[……アタシもだよ、ミキ]
声が震えていた。
でも…その顔には笑顔があった。
悲しい笑顔が。
『…っ…、ば…ばいばい』
[うん…バイバイ…]
言って、藤本さんは…
そっと右手を伸ばし――――『Enter』キーを鋭く弾いた。
カシャン!
瞬間、激しく点滅するモニター。
そして、真っ白に光ったと思うと…ブチン、と大きな音を立てて…画面がブラックアウトした。
全てが…無に帰った瞬間…ううん、藤本さんが…無に返した瞬間だった。
これが―――藤本さんにとっての…心のキズだったんだ…。
- 806 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:03
- 『くっ…うぅっ! …っ…』
…藤本さんは膝をくず折ると泣き崩れた。
何度も何度も地面を拳で叩いて…腕から血がでても尚…。
そんな姿を…見ていられなくて、私は目を背けてしまいそうになる。
でも…それじゃダメなんだ…。
ちゃんと藤本さんの過去を理解して…そして連れて帰らなきゃ…っ。
「藤本さん! 藤本さん!」
ドン! ドン! ドン!
私はもう一度立ち上がって、窓を何度も叩く。
もうこんな悲しい想いを続けさせたくなかったから。
「藤本さん!!」
けど、藤本さんが私に気づく様子はまったくない。
こうなったら…。
- 807 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:03
- 私はとりあえず何か固いものを探して、辺りに視線を向ける。
でも、あいにくこれというものがなくって…って、ちょっとまって。
「このイス!」
そうだ!私が今まで座っていたパイプイス。
これならきっと!
思ったが早いか、私はイスを折りたたむと、ぐっと力を入れて持ち上げて…
思いっきり窓に向かって、投げ飛ばした。
ガシャーンッ!!
瞬間、辺りに飛び散るガラス片。
衝撃に、私は一度尻餅をついて頭を覆う。
幸い、破片はすべて中へと落ちたみたいだった。
「…誰?」
あまりの音に、藤本さんも気がついたのかフラフラと立ち上がって訝しげに
こちらを見つめた。
- 808 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:03
- 「あっ、わたっ、私ですっ! 紺野ですっ!」
「紺野…?」
慌てて立ち上がって言うけど、正直不安だった。
藤本さんも松浦さんのように私の事が判らなかったら…?
八方塞りになっちゃう…。
「紺野…ちゃん…?」
「は、はい…」
記憶の糸をたどる様に藤本さんは、眉をしかめて頭をふる。
やっぱり…ダメ…?
そう思ったその時、
「紺ちゃん…っ、紺ちゃんなの!? え…? なんでここに!?」
「藤本さんっ、私が判るんですかっ?」
「判るも何も、そんな情けない目をしたコなんて紺ちゃんかいないじゃん」
「情けない…って…」
そりゃタレ目だとか、まこっちゃん達に言われた事があるけど…なんか複雑です。
って今は、それ所じゃなかった。
ちゃんと伝えなくちゃ。
- 809 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:04
- 「藤本さんっ、ここは…この世界は過去なんです」
「…はい?」
「や、あの、だから…ここはですね…」
う、うまく説明できないなぁ。
でも、とりあえず藤本さんに現状を説明した。
この世界は…柴田さんっていう人の力で作られた過去の悪夢の中なんだって事。
それから、本当の藤本さんは今ずっと眠り続けている事。
そして…ここから抜け出せなくては…このままここで…死んでしまう事。
何度か話の途中で、きついツッコミが入ってたけどちゃんと説明できたと思う。
「そう…なんだ。これは…いわゆるミキの心のキズってコトか…」
「まぁ…そういう事かもしれないです」
「そっか…」
言って藤本さんは手のキズを舐めて、もう一度モニターの前に歩いていった。
私も追いかけるみたいに、割れた窓から中に入る。
- 810 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:04
- 「驚いた?」
「え?」
「ミキ、機械に育てられたんだ」
「あ…」
藤本さんは、愛しそうにモニターの前の機械に触れる。
それは、さっきまで動いていたコンピューターさん。
藤本さんの…お母さん…ううん、友達って言い方のほうが正しいかも。
「この後さ、ミキはここを抜け出して…コンピューターを使って色んな仕事をして…
それなりに暮らしてたんだ」
「そう…ですか」
「うん…誰も信じられなくなってしまってたけどね」
「藤本さん…」
自分の全てだった人を…色んな人達が攻撃して…そして自分の手で壊して…。
そんな事になったら…信じられなくなるのも当然かもしれない…。
でもっ、
「でもっ、そんな悲しいキモチ…きっとコンピューターさんは望んでませんよ?」
「そうかな…?」
「きっと藤本さんには、幸せになってほしいって思ったはずですよ…」
「もう…今となっては判んないけどね」
- 811 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:04
- そう言って、寂しく笑って私に振り返る藤本さん。
その笑顔に、私はなんにもいえなくなった。
こればっかりは…藤本さんの中で納得するしかないから…。
と…その時、モニターの前の電子キーボードが点滅していることに気づいた。
「あの…藤本さん、あそこ…なんですか?」
「え? あ…、なに…?」
気づいた藤本さんが、ゆっくりと歩み寄って調べ…そのキーを軽く弾いた。
ザ―――
すると突然、モニターに砂嵐が映って…数秒後真っ暗になった。
「な、なんでしょう…?」
「待って…、なんか文字が…」
言われて凝視すると、画面の真ん中に白い文字がぎこちなく入力されていくのが判った。
スペルで…なんだろう…?
英語が苦手な私には、よく判らないけど…全ての文字が並ぶと藤本さんが驚いた表情に
変わったんだ。
- 812 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:05
- 『Those who believe are surely saved in when.』
「藤本さん…? どういう意味なんですか、これ…?」
「そんな…まさか…、なんでぇ…?こんな言葉、いつ残したのよ、ゆきどん…」
「藤本さん?」
呼んでもしばらく藤本さんは、答えなかった。
ただ…唇をかみ締めて…、熱いしずくをその頬に流したんだ。
「これはね…、『信じるものは、いつか必ず救われるよ』って意味なんだよ…」
「え…? じゃ、じゃあ…っ」
「うん…。紺ちゃんの言ったとおり…、ゆきどんはミキの事を想ってくれてたんだ」
泣きながら、それでも藤本さんは嬉しそうに笑った。
きっと…本当の過去では、この言葉を知ることができなかったんだろう…。
でも、こうやって時は違っても知ることができた。
だからもう…この過去は、悪夢なんかじゃないですよね…?
- 813 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:05
- 「紺ちゃん…、ミキはもう大丈夫だよ」
「はい…」
「そういや、亜弥と真希は?」
「後藤さんはまだ判らないんですけど…松浦さんなら逢いました」
「大丈夫そう?」
「それが…」
言っていいものか迷ったけど、藤本さんだし状況をとりあえず説明した。
今とは全然別人のようだったこととか…私の事を忘れてしまっている事とか…。
ちょっと前に逢ったとか。
しばらく「うーん…」と唸りながら話を聞いていた藤本さんだけど、何か思い当たったのか
ポン、と軽く手を一度たたいた。
「その亜弥の過去…もしかしたらミキと繋がるかもしんない」
「え!? どういうことですか!?」
「…見てれば判るよ」
「?」
言ってる意味がわからなかったけど…見てればって…。
- 814 名前:涙 投稿日:2003/12/19(金) 11:05
- 「紺ちゃんは…、黙って亜弥の過去を見てていいよ?」
「えっ!?でも、それじゃ…」
「ミキに任せなさいって。なんとかしてあげるから」
「え…、あ、はぁ…」
不安要素『大』なんですけど…。
本当に任せていいんですね…?
なんだかんだ言って、藤本さんは松浦さんと…アレだし…。
「わかりました…」
曖昧にうなづく。
と、突然、ぐにゃりと歪みだす視界。
あ…これ…まただ。
じゃあ、きっと、誰かの過去に…。
「紺ちゃん…っ 紺…」
私に呼びかける藤本さんの声が、どんどん遠くになっていくのを感じながら
私はゆっくりと意識を手放したんだ。
- 815 名前:tsukise 投稿日:2003/12/19(金) 11:07
- >>765-814
今回更新はここまでです。
遅れ気味な更新の分、た、大量すぎで申し訳ないですっ(汗
ごっちんの過去まではいけなかったですが…ミキティ編ってカンジで(汗
>>758 つみさん
ほのぼのとしていた所から、一転ってカンジですいません(苦笑
とりあえず、ここらへんが1つの山場ってカンジにしたいんで(ぉ
ごまっとうの謎…徐々に見え始めてきましたでしょうか?
ごっちんはダウン中ですが、代わりに紺野に頑張ってもらいますね(笑
>>759 みっくすさん
謎が謎を呼んじゃって、大きくなっちゃってますね(汗
とりあえず、ここから全ての謎明かしにかかる予定ですっ♪
紺野…、ここが一番の頑張りどころですし、泣くな!ってカンジですね(笑
- 816 名前:tsukise 投稿日:2003/12/19(金) 11:07
- >>760 どくしゃZさん
ハイ、新しい展開に進んでますが、いつもドキドキして読んで
くださってるなんて、ありがとうございますっ!!
紺野の覚醒…きっと、それは遠くない未来…?ですかね(マテ
それと、全然迷惑ではないですから気になさらないでくださいね♪
>>761 rioさん
ハイッ! ごっちんにはどんどん紺野を守ってもらっちゃってます!(笑
カッコいいですかっ!嬉しいご感想をありがとうございますっ!!
これからもカッコ良く書けるよう、応援レスに励まされつつ頑張りますね!
>>762 名無し読者さん
実は私も、あやみきが大好きなんですよ〜っ!
萌えて頂けて嬉しいです〜♪ まだこれからも絡ませていく予定なんで
よければまた、フラっと立ち寄って読んで頂けると嬉しいです♪
- 817 名前:tsukise 投稿日:2003/12/19(金) 11:07
- >>763 片霧 カイトさん
そうですね〜、色んな所で、色んな火花が散ってたりしますが(爆
楽しんでいただけて嬉しい限りです〜っ♪
ここから、ちょっとダークな展開になりそうなんですが、またまた
読んでくだされば、ありがたいですっ!
>>764 青羅さん
私のイメージのごまっとうが『カッコいい』なんで、ご感想嬉しいですっ!
結構展開的に、自分の趣味がでまくりなんですが、応援レスに
励まされつつ頑張りますねっ♪ありがとうございますっ!
- 818 名前:伊央 投稿日:2003/12/19(金) 11:23
- リアルタイムー!
月瀬さぁぁーん!(叫
…はっ!また叫んでしまった!(汗
やっと中澤組のメンバーがでましたね。気になってたんですよぉ〜。
そして藤紺ですねぇ〜いいなぁ〜♪いいなぁ〜♪(ぇ
しかし紺野も大胆ですねぇ。
イス投げ飛ばすって…(汗
次はごっちんとあややですよねっ!期待してますっ!!
- 819 名前:つみ 投稿日:2003/12/19(金) 11:37
- すげぇ・・・!
と叫びました!大量更新お疲れ様です。
何か凄い事になってきましたね〜。これからが凄く楽しみです!
こんこんファイト!
- 820 名前:みっくす 投稿日:2003/12/19(金) 21:02
- 大量更新おつかれさまです。
紺ちゃんの謎は徐々にとけつつありますね。
なんかほんとに精神力の戦いの感じになってきましたね。
次回も楽しみにしてます。
- 821 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/19(金) 21:46
- こう来ますか…
予想もしてなかった展開に期待が膨らみます。
次も期待してます!
- 822 名前:青羅 投稿日:2003/12/19(金) 21:50
- ミキティの過去辛いですね〜。
お母さんでもありお姉さんでもあり友達でもあるのに、
自分で壊してしまう事になるなんて。
でも紺野さんにきずいてくれて良かったです!!
ミキティカッコ良かったです!!
作者さん頑張ってください応援しています!!
- 823 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/19(金) 22:19
- ↑青羅さん
ネタばれレスはダメですよ〜
あと感想はsageで。
- 824 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/12/20(土) 00:09
- 大量更新お疲れ様です。一気に読ませていただきました。
すごいですね。今まで活躍が遠のいていたぶん(笑)の大活躍。
次回はどっちでしょう? おそらく……
楽しみに待っています。頑張って下さい。
- 825 名前:星龍 投稿日:2003/12/20(土) 14:30
- 面白くていっきに読みました。
松浦さんの過去が気になります!!
作者さん頑張ってくださいね!!
- 826 名前:tsukise 投稿日:2003/12/23(火) 07:42
- 自己保全させていただきます。
- 827 名前:ヒトシズク 投稿日:2003/12/29(月) 19:44
- くわぁ・・・・
大量更新お疲れ様ですっ!!!
思わず涙が・・・(汗。
みんなの過去がこれからどうなるのか気になりますね。
まったりとお待ちしていますので、更新頑張ってくださいね^^
- 828 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:05
- 再び目を開くと…見たことがある風景が広がっていた。
暗く、ジメジメした路地裏。
闇の中に身を潜めているらしい人達。
これ…たしか…松浦さんの所だ。
そう…ちょうど藤本さんの意識に飛ぶ前のあの場所…。
じゃあ、まだこの近くに松浦さんはいる…? 探さなきゃ…っ。
まとわりつくなって言われたけど、それでもやっぱりこのままにしては
おけないから…っ。
「…どこ…いったんだろう…?」
カツカツと響く学校の制定靴の音が気になる。
3人以外の誰にも見えないんだって判っていても…なんとなく怖いから…。
「うーん…こっち…?」
辺りを見渡しながら、松浦さんが曲がっていった方に進んでいく。
もう全然判らなかったけど、なんとなく。
- 829 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:05
- 「うぁ…」
一歩進みだすと…そこはまるで…廃墟だった。
閑散とした通りだし…人通りが多いとは言えなくて…その代わり路上に
寝転がっている人や、お酒を煽っている人が一杯いて…。
私が暮らしていた場所とは、かけはなれた所だっんだ。
その異様な空気に尻込みしてしまいそうになる…。
自然と足早になりながら、細い通りを出ようとした時―――見つけた。
「―――! ――!!」
「――!!」
暗闇に近い、その場所で浅黒い肌をした男の人が、松浦さんに……追い詰められていた。
何をしゃべっているのかここからじゃわからないけど、何か必死に男の人が
松浦さんに向かって訴えかけているみたいに見える。
でも、松浦さんは表情一つ変えないで、壁際に男の人を追い込んでいってる。
「―――!!」
自分の後ろに道がないことを悟った男の人が、何か大きく叫んだと思うと、
突然、松浦さんの前に土下座するのが見えた。
- 830 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:05
- …一体、何が起こっているのか判らない…。
せめて、話でも聞ければ…っ。
そう思って、辺りを見渡して……少し近づいた先に、ドラム缶がつまれているのが
見えた。
あそこなら、聞こえるかもしれない。
思ったのと、行動にでるのは一緒で、松浦さんに気づかれないように駆け出し、
私は身を隠した。
うん…、さっきより近くなったおかげで、ちゃんと聞こえる…。
「たっ、頼む…っ! 見逃してくれっ!!」
「そういうワケにはいかないんだよね、アンタほどの多額の賞金首はいないし」
「か、金か!? だ、だったら賞金の倍額払う!」
「残念だけど、今のアンタにそれは期待できないね。身なりもボロボロだし」
「く…っ」
「悪いね、これもビジネスだから」
「こんな小娘の賞金稼ぎに…っ」
賞金首…?
ビジネス…?
なんだか、香港映画でも見ている気分だった。
でも、目の前の状況を整理すると…松浦さんは賞金稼ぎをお仕事にしていて…
今、その賞金がかかった人を捕まえた…そういうことなのかもしれない…。
信じられないくらいの、私が知ってる松浦さんとのギャップ…。
けど、目の前の松浦さんは、確かに松浦さんで……あ…っ!!
- 831 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:06
- 「くそっ!! こんな所で捕まってたまるかっ!!」
言って男の人は、いきなり松浦さんに突進した。
危ないっ!!
そう思ったけど…。
「このぉッ!!」
伸ばされる男の人の手。
けれど、
ス…ッ
それを受けとめることもなく、身体を軽く引いてよける松浦さん。
それから、
ガスッ!!
「ぐっ!? うぅ…っ!?」
すれ違いざまに、鋭い膝蹴りをそのお腹に叩き込んだんだ。
思わず男の人は、お腹を押さえて背を丸める。
それを予想していたのか、松浦さんは両方の手の平を組むと…
- 832 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:06
- ドンッ!!
「うがぁ…っ」
…容赦なく、その背にたたき付けた。
耐えられなかった男の人は、膝を折って…地面に崩れ落ちる。
一瞬…の出来事だった。
後藤さんも強いって思ってたけど、松浦さんも負けず劣らずの強さで…
正直…驚いたっけ…。
「小娘だからって甘く見るからだよ。アタシだって…生きるためには必死なのよ」
一瞥して、コートのポケットから携帯を取り出すとどこかに連絡を取り始める松浦さん。
「…もしもし? 例の賞金首を捕らえたわ。すぐに来て。場所は…」
手馴れた感じからみて…きっとこんな風に仕事をし始めたのは長いんだと思う。
こんな異国で…、しかもこんな危険な…。これが松浦さんの過去だったんだ…。
って、あっ!!
- 833 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:07
- 「…のやろぉ…っ、殺してやる……っ」
地面に倒れた男の人…っ。
その手にナイフをもって…っ!
松浦さんはまだ気づいていない…っ。
どうしよう! 教えたほうが…!
で、でも…っ。
そんな迷いを浮かべている間に、もうその男の人はゆらりと立ち上がって…
「くそアマ…!! 死ねぇっ!!」
腰にナイフを構えて、再び松浦さんに駆け出していた。
「!」
電話に気を取られていた松浦さんは、一瞬判断が遅れて…、
シュッ!!
「クッ!!」
携帯を持っていた腕を、鋭い切っ先が軽く裂いた。
- 834 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:07
- その手から離れ、地面を転がる携帯。空中に軽く弧を描くように散る鮮血。
思わず目を覆ってしまいそうになったその時。
私は見たんだ。
松浦さんの瞳が―――紅く変わった瞬間を。
「往生際が悪いよ…っ!」
言って、まだ血の流れる手を男の人に向ける。
私には判った。―――今の松浦さんに近づいてはいけないって。
「うるせぇッ!!」
でも…残念なだけど…、目の前の男の人には、それが判っていなかった。
結果…
ボン!
「熱ッ!? な、なんだ!?」
持っていたナイフを、反射的に手放す男の人。
地面に転がったそのナイフは、すごく熱をもっているようで…刃の部分が
朱色に変色していた。
- 835 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:07
- 「聞き分けのないコには、お仕置きが必要だね…」
ナイフを奪っても尚、松浦さんは手を下ろさなかった。
容赦なく…続けて超能力を―――浴びせたんだ。
「ヒっ!? なっ、なんだ!? 腕に…っ!?」
発火する炎。
それは、男の人の指先から両腕に広がり、まるで意思をもったかのように
飛び火していく。
「あぁぁっ!?たっ、助けてくれっ!!」
響き渡る戸惑いの声。その場をバタバタと転がる男の人。
けれど、炎は勢いを止めない。
形を持っていた腕を、黒く染め…崩れ落として…。
ダメ…っ、これ以上は見れない…っ。
「ア゛ァ―――ッ!!!」
絶叫。
耐えられなくて私は、耳を押さえて目をぎゅっとつぶってしまう。
けど…鼻を突き刺すような焦げる匂いが…全て物語っていたんだ。
- 836 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:07
- 「ぁ…あ……」
放心したような男の人の声…。
見たくない…見たくないけど。
恐る恐る…顔をあげて覗き見る。
「…っ!」
…見なければ良かったと、心底思った。
男の人の両腕は…肩から文字通り『なくなって』いたんだ。
「信じられないって顔だね」
「あ…ぁ…ぅ…」
ずいっと松浦さんは、両膝を突いてだらしなく口を開いて天を仰いでいる
男の人に近づくと、顔色一つ変えないでそう言った。
信じられない…というより、何が起きたのかわかってないっていう方が
正確だと思う。
でも、男の人の反応なんてどうでも良かったのか、松浦さんは自分の腕の血を
舐め取る仕草をして、地面に転がった携帯を取りにいった。
- 837 名前:涙 投稿日:2003/12/30(火) 20:08
- 「…もしもし? ……問題ない、さっさと来て」
乱暴にそれだけ告げて…携帯を切る。
パチン、と折りたたまれた携帯の音がやけに大きく響いたっけ…。
「ば……化け物…」
「…………」
呟くように男の人が言った言葉に私はハっとする。
また、松浦さんがとんでもないことをしてしまうんじゃないかって思って。
でも…松浦さんは、その言葉にただ冷笑した。
『それがなに?』っていうみたいに。
「…アンタにとってのナイフが、アタシには『火』だった、ただそれだけだよ」
最後に言い放った言葉は…どこか自分自身に言い聞かせているみたいに…
私には思えたんだ。
- 838 名前:tsukise 投稿日:2003/12/30(火) 20:09
- >>828-837 今回更新はここまでです。
ミキティから続く…ということであややですが…ぜ、全然ちゃんと
触れてなくて申し訳なかったり…(汗
や、次回は、怒涛な展開にさせる予定です…(ぉ
>>818 伊央さん
リアルタイムゲットですかっ!うわぁ…ありがとうございますっ!
中澤組のメンバーは、あんなカンジです〜♪どうしてもなっちと
矢口は一緒にしたかったんですよね、実は(ぉ
今回はあやや編前半って感じですが、続けて読んでくださると嬉しいですっ♪
>>819 つみさん
大量更新が多くて、申し訳ない限りですが、
いつも嬉しいご感想をありがとうございますっ!
結構、色んな展開になっちゃってますが…これからも紺野に
頑張ってもらう予定ですので、良ければまた読んであげて下さいませ♪
- 839 名前:tsukise 投稿日:2003/12/30(火) 20:09
- >>820 みっくすさん
紺野の謎…そうですね、結構前回でピンと来られた方も…?(ぉ
精神世界での話なだけに、ちょっと疲れる部分もあるかと思いますが
応援レスに励まされつつ頑張りますので、続けて読んでくだされば
幸いですっ
>>821 名も無き読者さん
結構、紺野の活躍がなかったみたいなんで、こんな方向になって
しまいましたです…(^^ヾ
期待を裏切ることがないよう、ど、努力させていただきますねっ
応援レス、ありがとうございますっ
>>822 青羅さん
ミキティの過去…色んな意味で凄くしたかったので感想が
ちょっと嬉しかったデスっ♪何気に、ミキティは飄々としていながらも、
やる時はやるってカンジがいいなぁと思ったり…。
応援れすに励まされつつ、これからも頑張りますねっ。
- 840 名前:tsukise 投稿日:2003/12/30(火) 20:09
- >>824 片霧 カイトさん
あはっ、大量更新で申し訳ない限りですっ(^^ヾ
そうですね、結構紺野が活躍できていなかったのでここで挽回を…(ぉ
今回は、彼女の過去となっていますが…やっつけ仕事にならないよう
頑張らせていただきますね(苦笑
>>825 星龍さん
嬉しいご感想をありがとうございますっ!
松浦さんの過去、まだ出だし部分って感じですが続けてUpしていく
予定ですので、また読んでくだされば、ありがたいですっ
応援レスに励まされつつ、頑張りますねっ
>>827 ヒトシズクさん
いやいや、大量更新で申し訳ない限りだったり(汗
今話のタイトルが『涙』だけに…ちょっとキツくなりそうですが
3者3様に…が、頑張りますねっ!
何気に、空板復活…かなり嬉しいですっ!!
- 841 名前:ヒトシズク 投稿日:2003/12/30(火) 20:27
- あややっ・・・
うわぁぁ、何かすごいことになってますねー・・・
毎回tsukiseさんの文章力に圧倒されてばっかりです^^
では、次回の更新をマッタリとお待ちしております♪
ご無理をしない程度に頑張ってくださいませ〜
- 842 名前:星龍 投稿日:2003/12/30(火) 21:50
- 松浦さんの過去にびっくりしました。
松浦さんの過去が明らかになっていくのが楽しみです
頑張ってください楽しみにしています!!
tsukiseさんの書く話大好きです!!
- 843 名前:つみ 投稿日:2003/12/30(火) 22:14
- えらいことになってきましたね〜。
松浦さんはやはりブラックな過去をお持ちになっているようで・・・
一度名前が出てきたあの子もでてくるんでしょうねやっぱり。
来年も楽しみにしてます!
- 844 名前:みっくす 投稿日:2004/01/01(木) 12:44
- なんかあややを連れ戻すのたいへんそうですね。
紺ちゃんの精神はもつのでしょうかね。
次回も楽しみにしております。
- 845 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/01/02(金) 15:44
- あけましておめでとうございます!
だんだんとすごいことになってきましたねぇ。紺野は大丈夫なんでしょうか?
でも迫力があってすごいです。
次回も楽しみにしてます〜!
- 846 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:21
- 「…報酬だ」
「サンキュ」
あれからしばらくたって、松浦さんの元へときた黒ずくめの男の人達が、
捕らえた人を確認すると、松浦さんに白い封筒を渡した。
見た感じだと、きっと…賞金首さんを探していた人達だと思う。
「…ちょっと少ないんじゃない?」
封筒の中身を見ていた松浦さんが、不満げに漏らす。
その額がどのくらいかなんて、遠くて私にはわからなかったけど多分私じゃ
計り知れないぐらいの額なんだと思うけど…。
でも、男の人達の真ん中にいた人が、軽く鼻を鳴らして見せたんだ。
「両腕のない賞金首なんて、このぐらいが妥当だろうよ。最近取引相手から
『キズものは困る』って言われてんだ。もらえるだけでもありがたいと思え」
「…フン…」
面白くなさそうな松浦さん。
それでもコートのポケットに封筒をいれて、その場を後にするように歩き出したんだ。
「なんか新しい情報が入ったら連絡して。大物限定でね」
「……あぁ」
なんで…。
なんで、松浦さんはそんなにお金を必要としているんだろう?
その背を見つめながら思った。
- 847 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:21
- だって、普通にお金を稼ごうと思ったらバイトでもできるだろうし…。
まぁ…街のイメージ的に…ちゃんとした所を探すのは難しそうだけど、それでも
こんな仕事をするのはヘンだと思うし…。
他に何か理由がある…?
たくさんのお金を集める理由が…?
「……とにかく…松浦さんを追いかけてみよう」
見つかったりなんかしたら、きっと凄く怒られるっていうのはわかってたけれど
このまま、何にも知らないで藤本さんに任せるだけっていうのは…なんだか
釈然としないから…。
そう思って駆け出そうとしたとき…。
聞こえたんだ。
すれ違いざま、男の人達の意味深な会話を。
「…ボス。アイツ…マジでヤバイっスよ…?ここ最近、アイツが絡んだ賞金首は
大抵どっかに火傷を負ってますし…そのせいで引渡しの額も減ってます」
「わかってる…。そろそろ…引き際だ。…ヤツの後を尾けろ」
「はい…」
何故か…気になる会話だった。
- 848 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:21
- 松浦さんの後を尾けて行き着いた先は……寂れた白い建物だった。
さっきまでのジメジメした裏通りから抜けて表通りの所にあるんだけど、
やっぱり、人気はほとんどなくて…閑散としている場所だった。
…って、ちょっと待って?
今気がついたけど、その白い建物の屋上…何かが立ってる。
あれは…盾のような形の中に十字の彫刻…。
あっ、ここ…『病院』だ…。
え? でも、どうして松浦さんが病院に…?
そんな事を考えているうちに、松浦さんは割れた入り口の扉から中に入っていって
しまった。
お、追いかけなきゃ…っ。
カタン…
中に入って…病院独特のツンと刺すようなエタノールの匂いに顔をしかめた。
ちょっと…私が知っている病院とは違うみたい…。
なんていうか…衛生的に不安な感じが…。
- 849 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:22
- 「亜弥ちゃん」
え? 松浦さん?
名前を呼んでいる方に振り返って…、見つけた。
白い服に、白いキャップの女の人…。看護婦さん…かな?
「どうも」
軽く会釈をしている松浦さんを見ると、知り合いみたい…。
「今日は亜依ちゃん、気分がいいみたいよ?」
「そうですか、妹がお世話になってます」
「いいのよ。なんか、娘みたいで可愛いし」
妹…? え? 松浦さんに妹がいたの?
亜依さん…っていうんだ…? どんな人なんだろう?
「先生は、いますか?」
「ええ、診察室でカルテを見てるわよ」
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて進んでいく松浦さんを追いかける。
- 850 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:22
- たどり着いた先は、言われた診療室。
さすがに、松浦さんと同じ空間には入れないからカーテインで仕切られた隣の
部屋で話を聞く。
そこには、看護婦さんが一人いたけど…やっぱり私の姿が見えていないみたいで
ちょっとホットしたっけ。
「やぁ、亜弥ちゃん、今日は?」
「今月の亜依の入院費に治療費…それから足りない手術費の足しを持ってきたんで」
「…そうか…。じゃあ、預かっておくよ」
「はい」
カサカサという音がする。
多分、封筒を差し出したんじゃないかな…。
「すまないね…、できる限りの事をしてあげたいのは山々なんだが…ここは見ての
通り…医療器具だって古く…」
「いえ、手術を引き受けてくれる病院を紹介して頂いた上に、手術までの間ここに入院
させてもらっているだけで十分です」
「そうかい…」
「それで…亜依の具合はどうなんですか?」
探るような松浦さんの声は、心底心配しているっていうのが伝わってくる。
それは、この世界に来て…初めて垣間見れた松浦さんの本心のような気がした。
- 851 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:22
- 「う…ん…、あまり思わしくはない」
「…そう…ですか」
「出来れば、すぐにでもオペを勧めたいぐらいだ。今は抗がん剤が効いてはいるが…」
「わかりました…。費用はなんとかします」
カタン、という音が響く。
イスから立ち上がったみたい。
「亜弥ちゃん」
「はい?」
「…無理だけはしないようにね」
「……亜依ほどには」
言って、扉が開き…しまる音が聞こえた。
部屋を出て行ったみたい。
お、追いかけよう。
そう思った時。
「…先生? あの子の妹さんって…亜依ちゃんのことですか?」
私の疑問が、そのまま言葉となって誰かが尋ねていた。
自然と足が止まって聞き耳を立ててしまう。
- 852 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:22
- 「ああ…、君は亜弥ちゃんに会うのは初めてだったね」
「ええ…。でも亜依ちゃんなら知ってます。いつも明るい子ですよね」
「うん…」
ちょっと、声が聞き取りにくい…。
って、あ、もう松浦さんはいないんだし部屋を移動しても大丈夫なんだ…。
思って私は、ゆっくりと二人の声のする部屋へ入っていった。
初老の白衣を着た男の人…多分この人がお医者さん…。
その人が、一つの茶封筒から黒いフィルムを取りだすとホワイトボードに
突き刺して、電気を入れた。
映し出されたのは…誰かのX線写真…、レントゲンフィルムだ。
「これは…」
「ああ…」
看護婦さんの息を飲んだ声に、半テンポ遅れて頷くお医者さん。
それから、その指が写真の胸の辺りにある、白い管のような塊を指差した。
「先天性の心疾患だ。しかも…進行が早く、ガン細胞になりつつある」
「そんな…っ、まだ12歳ですよ?」
「もう12歳だよ。この病気は普通、幼児期に発見されてオペをすれば普通の
人間と同じような生活ができる。…が、この子も亜弥ちゃんも…孤児院で
暮らしていたんだ。……発見が遅すぎた」
「じゃあ…」
「いや、まだ望みはある。しかしそのオペをするには多額の金が必要なんだ」
- 853 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:23
- …なんとなくわかった。
松浦さんが、あんな仕事をしている理由。
どうしても助けたい命があるから…だから。
自分がどんなに危険になったって構わないから、たくさんのお金を集めようと…。
時間が…あまりないから。
「でも…亜依ちゃんとあの子は…」
「うん、戸籍上は赤の他人だ」
えっ? 赤の他人…!?
じゃ、じゃあ…どうして松浦さんはそこまで?
看護婦さんも思ったみたい。私と同じような顔でお医者さんを見ていたから。
「…きっと、亜依ちゃんの明るさが亜弥ちゃんの救いになっているんじゃないかな?」
「それだけで、こんなに必死にお金を集めたりできるものなのですか?」
「君、私達には『それだけ』のことでも、彼女達には『それだけ』で十分なのだよ。
ましてや、二人は孤児…共鳴するところがあってもおかしくはない」
「実際はどうかわからんがね」と付け加えて、お医者さんはレントゲン写真を袋に
入れてしまった。
- 854 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:23
- 松浦さんも…孤児だったんだ…私と同じように。
なんだか意外で、驚いた。
でも、考えてみれば私は松浦さんの事も…藤本さんの事も…そして後藤さんの事も
なんにも知らないんだ。
見かけが結構大雑把だったからって、いつも明るい人だって勝手に判断していた
藤本さんでさえ、ビックリするような過去があったんだ。
だから…松浦さんもイメージしていたものと違う部分が出てきてもおかしくはない…。
でも、だったら、私に今出来ることはちゃんと松浦さんの事を知って、連れ戻すこと。
藤本さんがなんとかするって言ってくれたけど…やっぱり知る権利ぐらいはあると
思うし。
よし…っ、松浦さんを追いかけようっ。
そう決心して、駆け出そうとしたその時。
―――近くの窓から見える黒い影が、かすかに揺れた。
松浦さんを追いかけなきゃって思ったけど…そっちも気になって…。
好奇心に勝てなかった私は、窓際に近づいた。
そして…見つけたんだ。
- 855 名前:涙 投稿日:2004/01/12(月) 18:23
- あの暗い路地裏で、松浦さんの後を尾けるように言われた男の人を。
ポケットから携帯を取り出して、どこかに連絡してる。
「…わかりましたよ、ボス。やつは義理の妹の為に資金を作っているみたいです」
聞こえたのはそんな声。
口元に張り付いた笑顔が、ちょっと怖かった。
何か、良くないことを考えているような…そんな感じがして…。
「…はい…、どうやらその義妹がやつのアキレス腱かと…」
電話口からかすかに漏れて聞こえる声も、どこか楽しそうに笑っているみたいだった。
「…はい、わかりました…。やつがここを出たら…―――かっ攫ってきます」
かっ攫う…?
誰?なんて考えるのは愚問だった。
話の流れから見て…明らかに松浦さんの義妹さんのことだ…っ。
た、大変だっ!
松浦さんに知らせなきゃ…!
藤本さんは何もしなくていいって言ったけど…っ、やっばり放っておけないっ!
気がついたら私は慌てて、松浦さんの後を追っていた。
なんとなく……この松浦さんの過去のキズの正体の原因が――わかり始めていたから。
- 856 名前:tsukise 投稿日:2004/01/12(月) 18:24
- >>846-855
今回更新はここまでです。
新年明けて一発目が、まだ核心に触れてなくて申し訳ないデス(汗
虎視眈々と動くもの…って感じですかね…?
次回こそ…あやや編は完結…させたいですね(マテ
>>841 ヒトシズクさん
はい…あやや、なんだか大変なことになっちゃってます(ぇ
書いてるほうも大変だったりするんですが、ヒトシズクさんの
無理をしない程度に〜という言葉にありがたく甘えさせて
頂きつつ頑張りますねっ!
>>842 星龍さん
松浦さんの過去…色んなハプニングがあったりで書いてる
方も不安な展開なのですが星龍さんのご感想を励みに
頑張らせていただきますねっ!大好きなんて…嬉しい
ご感想ねありがとうございますっ!
- 857 名前:tsukise 投稿日:2004/01/12(月) 18:24
- >>843 つみさん
新年明けて一発目もダークなカンジで申し訳ないですっ(汗
ハイ、ちょっと大変なことになっちゃってますね(苦笑
一度名前の出たあの子は、次回持ち越しですが、多分
期待を裏切らない活躍かと…? こちらこそ本年もおねがいしますです(平伏
>>844 みっくすさん
あややの連れ戻しは、ミキティとは違って一筋縄ではいかないようで…(マテ
紺野的にはとても辛い状況かもしれないですね (汗
でもでも、ここが頑張り時なので、もうちょっと紺野には頑張って
乗り越えてもらうしか…っ(ぉ 毎回レスをありがとうございますっ(平伏
>>845 片霧 カイトさん
こちらこそあけましておめでとうございますっ!かなり遅いですが(苦笑
ハイ、もう松浦さんからどんどん厳しい状況になっていってますです(汗
でもでも、まだ『あの人』までたどり着いていないので、ここは頑張って
乗り越えてもらうしか…っ(ぉ
応援レスに励まされつつ頑張りますねっ!ありがとうございますっ
- 858 名前:星龍 投稿日:2004/01/12(月) 19:35
- 松浦さんの過去いろいろ大変なんですね・・・。
でもとてもおもしろいです!!
頑張ってください!!!
- 859 名前:みっくす 投稿日:2004/01/12(月) 20:38
- う〜ん、ホントにたいへんそうですね。
紺ちゃんの行動によっては未来が変わってしまうのでは?
次回も楽しみにまってます。
- 860 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/01/12(月) 20:53
- 初めまして。今日の15時に見つけて、一気に読みました。凄く面白い。こんこんの活躍、期待してます。
- 861 名前:つみ 投稿日:2004/01/13(火) 01:25
- 大変な事態になってますね〜
早くしないと・・・
急げこんこん!
- 862 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/01/14(水) 17:31
- 更新お疲れ様です。
だんだん松浦編も佳境になってきましたねぇ。
どうなることやらハラハラしっぱなしです。紺ちゃん頑張れ!
続き期待しています。頑張ってください!
- 863 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:11
- 病院内を見渡しながら、私はどんどん駆け抜けていく。
けど…どこにも松浦さんの姿はなかったんだ。
ずっと前に部屋を出て行ってしまったにしても、そんな遠くには行ってないと思ったんだけど…。
それとも、どこかの部屋に入ってしまった…?
義妹さんの所とか…。
どうしよう…。
そんな事を考えながら、開放された手近な部屋の中へとりあえず入ってみる。
そしたら、視線の先のベッドに…一人の女の子が横たわっていたんだ。
髪をアップにして左右にお団子をつくるみたいにしていて可愛い…。
黒目がちな瞳は、じっと窓の外に向けられているけど、どこか楽しそうで。
でも、ちょっと顔色は良くなくて、嫌が応にも病院の中なんだって確認させられる。
そうだ…名前…っ。
どこにいるのかは判らないけど、その義妹さんの名前を確認してそこにいれば、きっと
松浦さんに逢えるはず…っ。
確か『亜依』さんだったよね…。
思い当たって、目の前の子の名札を探す。
そして枕元のちょうどベッドの柵になっているところに―――見つけたんだ。
- 864 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:11
- 『加護 亜依 殿』
加護…亜依…。亜依っ!
もしかしてこの子が…っ!
そう思ったその時。
「何やってんのよ…!」
「え…っ? あ…っ!松浦さんっ」
すぐ背後から聞こえた声に振り返ると、その手にリンゴをもった松浦さんが立っていたんだ。
…その目は、射るように私を睨みつけてて…ちょっとたじろいでしまう。
でも…
「あ、亜弥ちゃん、リンゴもってきてくれたんだ」
「……うん。亜依、リンゴ好きでしょ?」
「うんっ、食べたいっ」
「ちょっと待っててくれる?」
「うんっ」
義妹さん…亜依さんが話しかけてきたことに気づくと、打って変わって笑顔を向けたんだ。
それは…今まででもあんまり見たことのない、とても優しい笑顔。
こんな表情もするんだ…なんて思ってしまうほどの。
- 865 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:12
- でも、それもほんの僅かな時間で、松浦さんは私の腕を掴むと『来な…』って言いながら
廊下へと引きずり出してきたんだ。
それから壁際に追い込まれる私の身体。
その目は、さっきの射るみたいなもので…どうやら…松浦さんは、凄く怒っているみたい…。
「…二度と現れるなって言ったはずだけど?」
「あ、あの…っ、ごっ、ごめんなさいっ! でもっ!」
「でも、もなにもない…っ!」
語気が荒くなって、私は少し身体を震わせてしまう。
でも、ここで引いたらいけないんだ…っ。
ちゃんと伝えないと大変なことになっちゃう気がするから…っ。
「松浦さん、聞いてください…っ!大変なんですっ!」
「アンタの大変事に巻き込まれるいわれはないよ」
「で、でも…! 本当に…!」
「しつこいなぁ! もうアタシ達に関わらないで!」
「あ…っ!」
言って、松浦さんは有無も言わさず背を向けたんだ。
追いかけようとするけど…
バタン!
亜依さんの病室の扉を目の前で閉められて…。
結局伝えられなかった…。
- 866 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:12
- 「松浦さん…」
私は…しばらく扉を見つめて、それからトボトボと廊下を歩き出す。
大変な事が起ころうとしてるのに…。
絶対松浦さんにとって、大切なことなのに…。
もしかしたら…この過去に深く関係することかもしれないのに…
………。
やっぱり諦められないよ…!
そう思って、私はもう一度扉の前までもどる。
けど、きっと今中に入ってもちゃんと松浦さんは聞いてくれないだろうな…。
それに亜依さんには私の姿は見えないわけだし…逆に迷惑になるのも目に見えてる。
「…だったら…ここで待つしかないか…」
ポツリと呟いて、私は仕方なく廊下に背をつけて松浦さんが出てくるのを待つ事にしたんだ。
しばらくして…中からは楽しそうな笑い声が響いてきた。
あれは…一緒にいた亜依さんの声だ。
元気なその声は、会話まで廊下に響かせていく。
- 867 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:12
- 「亜弥ちゃん、今日はなんのバイトだったの?」
「んー? あ〜、今日はね酒屋さんの手伝いだったの」
「え〜っ、亜弥ちゃん未成年じゃんっ、そんなことしていーのぉ?」
「いーのいーの、バレなきゃオッケー」
「あ、じゃあ、あたしがお巡りさんにバラしちゃお〜。お巡りさぁ〜ん!」
「コ〜ラ!」
「あははっ!」
聞こえてきたのはそんな会話。
いつもの松浦さんからじゃ考えられないぐらい楽しそうで…ちょっと驚いたかも。
藤本さんと一緒にいる時も、そりゃあ楽しそうではあったけど…、なんていうか
今は凄く優しい感じで。
…これが、本当の松浦さんの姿なんじゃないかなって思ったんだ。
それを自然と引き出しているのは、亜依さんの力なのかな…やっぱり。
だって、さっきから凄く屈託のない笑い声が聞こえてるんだもん。
看護婦さんたちが『明るい子』って言ってたから、それはきっと誰に対しても
裏表がなくって…。
松浦さんにとって…亜依さんだけが信じられる人なんだって自然とわかったんだ。
でも…そんな亜依さんにも松浦さんは仕事の事を言ってないんだ…。
酒屋さんで手伝い…なんてまったく違うことを言って…。
確かに本当の事を言えるわけがないけど。
- 868 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:13
- …きっと…亜依さんに変な気を使って欲しくないから…なんだろうな…。
まさか亜依さんの医療費を稼ぐために危険な仕事をしてるなんて知ったら…。
でも…。
「亜弥ちゃん…、あのね、その仕事のことなんだけど…」
「うん? なに?」
さっきまでの笑い声を潜ませて訊ねる亜依さん。
聞き返す松浦さんに、亜依さんは一瞬口を開きかけたけど…すぐに押し黙って、
それから笑顔を浮かべたみたいだった。
「…ううんっ、なんでもない。りんご、早く食べたいな〜」
「…。わかってるって。ちょっと待ってて」
扉の窓からそっと覗くと松浦さんは、一瞬じっと亜依さんを見つめて、でも何も
言うことなく流しの方へと消えていったんだ。
その背中を…ちょっと寂しそうに見つめている亜依さん。
- 869 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:13
- その瞳に…遠い所に大事なものがあって…でも、手を伸ばしてもそれは届かない…
そんな感覚が伝わってきたような気がする…。
それで思ったんだ。
もしかしたら…亜依さんは、松浦さんがやっている仕事の事を…実は知っている
んじゃないかって…。
でも、それは他でもない自分の為だってことも知っているから、何もいえなくて…。
そんな仕事をしている松浦さんを止めたいけど、止めれなくて…。
ただ笑顔を向けることしかできなくて…。
―――まるで、私を守るって言ってくれた後藤さんと同じように…。
小さな胸のうちに…押し込んだ想いがあるんじゃないかって。
そんなことを思ったんだ。
- 870 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:13
- それからしばらく、二人の楽しげな会話を聞いていて。
「さて、と。じゃあ、アタシはそろそろ行くけど、いいコにしてるんだよ?」
そんな松浦さんの声が聞こえたんだ。
「もぉ〜、亜弥ちゃん子ども扱いしすぎ」
「だって子供じゃん」
「むー。じゃあ、あたしから見たら亜弥ちゃんはおばさんだね」
「なっ、ひどいなぁ〜」
「おばさん、おばさんっ」
「まったく〜、子供はもう寝なさい」
「へへっ、また来てね」
「うん、また来るから」
最後まで楽しげな二人の会話に、ちょっと頬が緩んでしまう。
でも…大変なことが起ころうとしているのは変わりない。
この二人の会話を守るためにも、ちゃんと伝えなきゃ…っ。
ガラ…
「松浦さんっ」
「! …まだいたの?」
出てきた松浦さんは、一度私の顔をみて驚いたみたいだった。
多分、今の私が必死すぎるぐらい必死な顔だったからだと思う。
でも、そんなことはどうでもいいんだ。
- 871 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:14
- 「あのっ、聞いてくださいっ!」
「…うるさいなぁ…アタシ、ヒマじゃないんだよ」
「あ…っ」
私の脇をすり抜けて歩き出す松浦さん。
本当に聞く気がないみたい…。
でも、これだけは伝えないと…っ!
そう思って私は慌てて松浦さんの後を追ったんだ。
「お願いしますっ!聞いてくださいっ!これは松浦さんに関係することなんですっ」
「…………」
無言。
ただ廊下に響く足早な靴音。
私のほうに振り返ってもくれない。
「本当に大変な事が起ころうとしてるんです!松浦さんに…!いえ…」
「………」
無関心を装っている松浦さん。
でも…。
- 872 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:14
- 「松浦さんもだけど…亜依さんにっ!」
「…!? 亜依!?」
亜依さん、という名前に、松浦さんは目を見開いて振り返った。
『どういうこと?』その目が私に訴えかけてる。
やっと聞いてくれる体勢になった松浦さんに、私は言葉を続けようとして…
ガシャ――ンッ!!
『やだ…ッ!! た、助けて!! 亜弥ちゃん!!』
「!?」
「亜依!?」
はるか遠くなってしまった亜依さんの病室から、ガラス片の飛び散る音と
悲鳴が聞こえたんだ。
弾かれたように、顔を見合わせると私も松浦さんも病室へと駆け戻る。
まさか…、まさか…っ
- 873 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:14
- 嫌な思いが頭をよぎる。
回避したかった、その思いが。
でも…
「亜依!? …っ!」
目の前に広がっていたのは、引っ掻き回されたベッドに、割られた窓。
そして、無残にも床にちらばってしまった…松浦さんが剥いてあげたんだろうリンゴだった。
この部屋の主である亜依さんの姿は―――どこにもなくって。
結局…私は間に合わなかったんだ…。
- 874 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:15
- その30分後の事だった。
静かに松浦さんの携帯が鳴ったんだ。
「…はい」
『妹は預かってる』
「…要求は?」
『…一時間後に、街の中央の廃工場へ来い』
「判った」
絶対に罠だって…私にだって判った。
だから、必死になって止めたけれど…松浦さんは一歩も引かなかったんだ。
何度も何度も『ここは過去なんだ』って言っても…。
そして今、廃工場で…男の人達と向かい合ってる。
- 875 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:15
- 「ついてくるなって言ったのに」
「だ、だって…っ、心配で…私のせいでもあるし…」
ちゃんと説得できなくて、結局はこうやって亜依さんを危険な目に逢わせてしまったから…。
なんとかできないかと思って、私はついてきたんだ。
そんな私に松浦さんは、ちょっと溜息を漏らしてそれから男の人達に視線を向けた。
「…亜依は?」
「ここにいるぜ」
松浦さんの問いに、答えるように男の人達の真ん中にいた『ボス』って人が顎ですぐ
横を指した。
すると、体格のいい男の人に腕を後ろで掴まれた亜依さんが引っぱられるようにして
姿を現したんだ。
「亜弥ちゃん…!」
「亜依…っ、無事!?」
「ご覧の通り無事だよ」
返事をしたのは『ボス』。
松浦さんと亜依さんを交互に見て、面白そうに笑ってる。
- 876 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:15
- 「まさか、お前のアキレス腱がこんな子供だったとはなぁ…」
「…亜依を放して」
「あぁ、いいとも。ただし…」
そこで一度言葉を区切る。
そのちょっとした間に、威圧感を感じた…。
そして…言葉が続けられたんだ。
「お前がおとなしく殺されてくれればな」
言った瞬間、後ろに控えていた3人の男の人が拳銃を取り出して、松浦さんに向けたんだ。
その様子に、松浦さんは歯噛みしている。
でも、ゆっくりと右手を差し出し……
「おっと! 変な魔法は使うなよ? こっちには人質がいるんだからな?」
「っ! い、痛っ!」
悟った『ボス』が、亜依さんを捕らえている男の人に合図したんだ。
途端にぎゅっと腕をしめあげたみたいで、顔をしかめる亜依さん。
「! やめてよっ! 亜依に手を出さないで…っ」
「利口な選択だ」
右手を下ろし松浦さんが懇願すると、『ボス』が手を上げて制する。
- 877 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:16
- 凄く卑怯なやり方に、憤りさえ感じてしまう。
でも、ここで何かしたくても私には何も出来なくて…ただ見てるしかなかったんだ。
今、変に松浦さんに声でもかけたら危ない気がして…。
「まぁ、悪く思わんでくれ」
言って、自分の懐から拳銃を出して松浦さんに向ける『ボス』。
その口元に張り付いた笑みが、腹立たしい。
「これも…ビジネスだよ…亜弥」
動くことの出来ない松浦さん。
その視線は、気丈にもじっと拳銃を睨み付けたまま。
そして、その引き金が引かれようとした瞬間――
「はな…っ、放して、よ!!」
「っ!? い、痛ぇっ!!」
「!? なんだ!?」
突然上がった声に視線を向けると亜依さんが、捕まえていた男の人の向うズネを
思いっきりかかとで蹴飛ばして、腕をすりぬけていたんだ。
一瞬それる『ボス』の銃口。
その機を見逃すはずもなく、松浦さんは力を放ったんだ。
- 878 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:16
- 「うわっ!?」
「ボス!!」
腕の袖口を燃やし、その手から拳銃を取りこぼさせ
「亜依!」
「亜弥ちゃんっ!」
意識がそっちに向いている間に、亜依さんに向かってかけだしたんだ。
…でも…、それは早すぎた。
そう、安心するには、あまりにも早すぎたんだ。
「危ない…! 松浦さん!!」
慌てて叫ぶけど…遅かった。
亜依さんの後ろにいた3人の男のうち、一人が―――松浦さん達に向かって発砲したんだ。
くしくも、それは…亜依さんが松浦さんの伸ばされた手に飛び込む…瞬間だった。
パン!
乾いた音。
次いで、飛び散る赤い液体。
それは…――亜依さんの背中から左胸を、貫通していた。
- 879 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:16
- そして…その身体は、重力に逆らうことなく伸ばされていた松浦さんの腕の中に
沈んでいく。
「あ…亜依…? 亜依!?」
身体を受け止めた松浦さんは、一瞬何が起こったのか判ってない顔で腕の中を見て、
自分の手のひらを染める深紅の色に――顔色を変えた。
「亜依!? しっかりして!!」
「亜弥ちゃん…けほっ! けほっ!」
激しく咳き込むと、今起こったことが本当だということを知らせるように鮮血がほとばしる。
私が見ても判るぐらい…酷い出血だった。
「しゃべっちゃダメ! すぐに助けるから!!」
それでも松浦さんは、なんとか出血を止めようと胸元にぐっと手を押さえつけた。
でも…後から後から、溢れる液体は無常にも松浦さんの手を濡らしていくだけだったんだ。
「亜弥ちゃん…?」
「なに!?」
かすれたような声で、亜依さんはそっと松浦さんの頬に手を伸ばした。
それから、何もかもを受け入れたような瞳で松浦さんを見た。
今にも泣き出しそうな顔をしながら、松浦さんも亜依さんを見つめてる。
- 880 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:17
- 「ごめんね、亜弥ちゃん…いつも亜依のせいで」
「何言ってんのよ!? 大丈夫、助かるから!!」
「ううん、ダメだから…もう、亜依はダメだって知ってるから…だからもう亜弥ちゃんの
お荷物になりたくないよ」
「お荷物なんかじゃない!! 亜依は…亜依はアタシの…!!」
松浦さんは首を大きく振りながら懇願する。
でも…亜依さんは、ただ笑顔を向けるだけ。
やっぱり…松浦さんの仕事の事とか…全部知ってたんだ…。
「ありがとう…でも、もういいから…。もう亜弥ちゃんは、亜弥ちゃんのことだけ考えて?」
言った途端、激しく再び咳き込む亜依さん。
その度に、赤い鮮血が吐き出されて服を汚していく。
「やだ…! やめてよ亜依!!しっかりして!!」
「楽しかったよ? 血が繋がってなくても亜弥ちゃんは亜依のたった一人のお姉ちゃんだよ」
松浦さんの声を無視して、必死に笑顔を向けている亜依さん。
どうしても伝えたい言葉が……そこにあったんだ。
- 881 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:17
- 「亜依!やめてよ!アタシ、亜依がいつも笑っていてくれたからっ!だから頑張れたのに!」
「大好き…、大好きだよ…。あぁ…もう…聞こえないけど聞いて?亜依は亜弥ちゃんが大好きだよ?」
「亜依…亜依…っ!」
「亜依の分まで…生きてね…」
松浦さんの意思とは裏腹に、閉じられていく亜依さんの瞼。
そして……、その頬に当てられていた手が――
――力なく地面に落ちた。
その顔に笑みを称えたまま…。
「亜依…? ウソ…でしょ…!? 亜依っ! 起きてよぉ!! いやぁ――ッ!!」
絶叫。
…そして、溢れ出る涙。
自分の無力感に打ちひしがれるみたいな…そんな痛い声が、私の中にまで届いてくる。
苦しくて、逃げ出したくなるような感覚。
でも、身体は…松浦さんを前に動かなかったんだ。ううん…動けなかった。
小さな小さな…亜依さんの身体を自分の胸にぎゅっとおしつけて…。
外見を憚らず、声にならない声をあげて…。
そんな松浦さんが、私の心を貫いて離さなかったから。
- 882 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:17
- 手術を控えていたのに…。
病気が治る可能性があったのに…っ。
それなのに…っ。
「くそ…っ、おいっ! 全員で殺っちまえ!!」
その場の時間を動かしたのは、そんな不躾な声。
服の袖に気を取られていた『ボス』だ。
そして、そこにいた男の人達が一斉に松浦さんに銃口を向ける。
そうだ…っ、まだ全てが終わったわけじゃないんだ…っ。
「まつ……!?」
慌てて呼びかけようとして―――息を飲んでしまった。
だって、松浦さんの瞳の色が今までにないぐらい、紅く燃え盛っていたから。
憎しみ…嫌悪…殺意…そんなあらゆる感情が、その瞳に宿っているような、そんな
感覚さえしてくる。
でも、それは間違いなく気のせいなんかじゃない。
- 883 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:18
- 「許さない…っ、絶対に許さない!」
その言葉が発せられた瞬間。
ドォォンッ!!
一気に力が『爆発』した。
一瞬にして辺り一面に燃え上がる炎。
それは、工場の天井までを瞬時に焦がし、激しい熱気を周囲に飛び散らせたんだ。
荒れ狂う意思をもったその炎は、とどまる事を知らなくて、その場にある全ての物を
飲み込んでいく。
「うぁ…っ!」
圧倒的な、炎の力。
それに気圧されて、たまらず私は顔を抑えて数歩下がってしまう。
「なっ!? なんだ!?」
「怯むな!! ヤツを殺せ!!」
男の人達も戸惑ったように周囲を見渡し…それでも松浦さんへ発砲した。
けど…
キィン! キィン! キィン!
ことごとく弾かれる弾薬。
よく見ると松浦さんの前の空間が揺らいでる。
炎の熱で出来た膜が、盾になって守っているんだ。
- 884 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:18
- 「ヒ…ッ、化け物だ…っ! に、逃げろ…っ!」
恐れをなした男の人達が、武器を捨てて入り口に駆け出していく。
でも…もちろん、それを松浦さんが見逃すはずもなくって。
「逃がさない…っ、絶対にアンタ達は許さないから…!」
スっと、右手を差し出す。
その瞬間、入り口の扉に炎が着火した。
「うわっ!?」
ガシャン!!
扉は、すぐに炎に巻かれて崩れ落ちた。
それは、男の人達の退路を奪う形になって…。
「もう…逃がさない」
「うぁ…た、助けてくれ…っ! 頼むっ! 金はいくらでも出す!!」
「もう、アタシに金なんて必要ない。…そして、アンタ達も必要ない」
「たっ!頼むっ! 悪かった!! 助けてくれ!!」
「『助けて』? そう言った亜依に…アンタは何をした?」
「あ…ぁ…っ」
力が―――放たれた。
絶叫は全て炎にかき消されて聞こえなかったけど…多分…男の人達は全員…。
- 885 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:18
- 「松浦さん…」
「…まだいたの?」
呼びかけると、松浦さんは濁った瞳で私を見た。
それから、右手を差し出し炎をかき分けると…入り口までの一本の道を作ってくれたんだ。
「行きな。ここはじきに火の海になるよ」
「あ…」
それだけ言って、松浦さんはその手に抱いた亜依さんをもう一度抱きしめた。
私はゆっくりと、その道を歩こうとして…立ち止まる。
待って…。行きなって言ってくれたけど…。
松浦さんは…?
「松浦さんは、どうするんですか? 早く行かないと…っ、危ないですよ!」
言うと、静かに松浦さんは首を振った。
「アタシは…いい。紺野ちゃんだけ行きな…」
「いいって…! 何言ってるんですか! それじゃ…このまま…!」
ふと視線を向けると、工場の裏手が炎の圧力に耐え切れずに崩れ落ちてるのが見えた。
もう…本当に、ここは危ない…!
でも、松浦さんは信じられないことを言ったんだ。
- 886 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:19
- 「このまま…アタシはここで亜依といる」
「えっ!?」
「亜依がいないなら、アタシが生きてる意味なんてないんだ」
「………」
「亜依を殺したのもアタシなんだ…、これから後悔していくなら、ここで死ぬよ」
「………っ!」
パン!!
気がついたら…
「っ!?」
私は松浦さんの頬を叩いていた。
「あっ! ご、ごめんなさいっ!」
ハっと我に返って、私は頭を下げる。
でも…でもっ。
「でもっ、松浦さんは間違ってます! なんでそんな悲しい事言うんですか!」
「………」
「亜依さんは最後、なんて言ってたんですか!?『一緒に死んでほしい』なんて
言いましたか!? ちがう! そんなこと言ってない!!『生きて』って…っ!
そう言ったじゃないですか!!笑顔で…『生きて』って…っ」
「………」
松浦さんは叩かれた頬もそのままに、動こうとしない。
でも、このままにはしておけないから…っ、だから…
- 887 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:19
- 「行きましょう!私、強引ですけど、絶対に松浦さんをここで死なせたりしませんから!」
「ぁ…っ」
ぐっと、松浦さんの腕を掴んで歩き出す。
炎を避けた道を。
亜依さんをその手に抱いた松浦さんは、糸の切れた人形のようにフラフラしていたけど、
私の後をついてきてくれたんだ。
ただ、負けて欲しくなかった。
心の傷に。
死んでしまいたくなるようなそんな辛い過去でも、松浦さんは確かに『今』生きているから。
生きることを諦めて欲しくなかったんだ。
- 888 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:19
- …工場の外に出ると、松浦さんは何かに取り付かれたみたいに地面を掘り返し始めたんだ。
それが意味することがわかって、私も手伝おうとしたんだけど…松浦さんに制された。
それから、そこへ…亜依さんの身体を横たえ…埋めたんだ。
そこに静かに手を合わせる松浦さんは…どんなことを感じているんだろう。
ただ…紅く煌々と光っていた憎しみの色は…もう欠片も残っていなかった。
そして、立ち上がると…私の姿を無視して――街の方へと消えてしまったんだ。
- 889 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:20
- それからの松浦さんは…見ていられないくらい…酷い状態だった。
夜の街を、当てもなく歩いて…誰かと肩が触れればすぐに喧嘩をしてお金を奪い取る。
そのお金で、食べ物でも衣服でもなく、ただどこのメーカーともつかない酒瓶を買って
路地裏で浴びるように飲んで…そして朝を待つ。
光が瞼を焼き付けると、安心したように…そのまま夜まで眠る。
そんな日々の繰り返し。
まるで…野良猫のような…悲しい一日。
何度も声をかけようかと思った。
もうやめてくださいって…そんな事をしても…亜依さんは戻ってこないんだって。
けど…今は何を言っても無駄なような気がして…。
だから…、ただ最悪の状態が起きないように、こうやって見守るだけ…。
いつまで、そんな日を見つめてきたんだろう…。
―――その日が訪れたんだ。
- 890 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:20
- 何度目かの深い闇に包まれた夜。
やっぱり松浦さんは、ぼんやりとした視線で路地裏をフラフラと歩いていた。
その前を遮る、3人のアラブ系の男の人達。
どの人も…すごく嫌な目をしている。
なんていうか…『そういう目』で、舐めるみたいに松浦さんを見ている気がしたんだ。
「Hey、チャイニーズ…、お前、が、アヤ・マツウラか?」
ニヤニヤと笑いながら、その内の一人が片言の日本語で話しかけた。
けど、松浦さんは何も言わず、そのまま通り抜けようとする。
それを別の男の人が肩をつかんで制した。
「Wait、Wait、お前、に、Money、かかってる」
「…だから何?」
どうでもいい。興味ない。
何が起こってようと知ったことじゃない。
松浦さんの荒涼とした瞳がそれを語っていた。
- 891 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:20
- 男の人達にはどう映ったんだろう?
どうだったとしても、松浦さんのつぶやきに心底可笑しそうに笑っている姿を見ると
とてもじゃないけど、いい事を考えているようには見えない。
しばらくそうして笑っていた男の人が、笑いを止めて…こう告げた。
「悪い、が、ここで、お前、死ぬ」
言った瞬間。
ヒュン!!
鋭い一閃が走った。
男の人達がナイフを取り出したんだ。
「クッ!」
間一髪、松浦さんはそれをかわす…けど。
「!?」
踏ん張るために差し出した足が、ガクンとくず折れた。
見ると、膝がガクガクと震えてしまっている。
きっと…今まで飲んだお酒のせいだ…っ。
- 892 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:20
- 「Checkmate!! ハッハー!!」
危ない…!!
叫ぼうと思ったその時。
「Hey! It's here!!」
流暢な英語が聞こえたと思った瞬間、頭上から大量の水が流れ落ちてきたんだ。
「What!!」
全身に滝のようにその水を受けて、うろたえる男の人達。
そのスキをついて、誰かが松浦さんの腕をひっぱって路地を駆け出した。
慌てて、私もその後を追いかける。
そして気づいたんだ。
あの水…、それにあの声。
きっと…あの人だ…。
- 893 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:21
- どれぐらい走ったんだろう…。
いくら精神世界だっていっても、感覚は現実と変わらなくて息が思いっきり上がってしまう。
もう限界だと思ったその時…、やっと目の前を走っていた二人が立ち止まったんだ。
「ハァ…っ、ハァ…っ、ここまで来りゃー大丈夫っしょ…ハァ…」
先を走ってた、あの人が膝に手をついて息を整える。
その勝気な瞳…、肩口に届くか届かないかぐらいの髪…。
やっぱり…。
「藤本さん…」
思わず呟くけど、藤本さんは一度こちらに視線を向けただけで松浦さんに向き直った。
『黙って見てな』っていうみたいに。
「随分、飲んだみたいだね」
「………アンタ…誰よ」
「『あの時』は、こんなに飲んでなかったんじゃない?」
松浦さんの問いにも、藤本さんは反応せずに言葉を続ける。
『あの時』…? いつのことなんだろう…?
あ…っ、もしかして…本当の過去の時…?
じゃあ…二人はこの時知り合った…?
だから、藤本さんは『重なるかもしれない』って言ったんだ…。
- 894 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:21
- 「確かあの時は…1週間禁断症状に苛まれてたね」
「……さ…い…っ」
「またアンタは…あの時の苦痛を繰り返すの? 亜依ちゃんの死と同じように」
「うるさいっ!!」
いきなりの叫び声に、びくっと私の身体が震えた。
こんな感情に翻弄された松浦さんを見るのは、初めてだったから…。
けど、藤本さんは顔色一つ変えずに松浦さんを見つめている。
「なに? あの時みたいにアタシとやろうっての?」
「うるさい!うるさい!」
頭を大きく振って、松浦さんは拳を握り締めて藤本さんへと飛びかかった。
その腕は、どんどん赤く輝いている。そして…瞳も。
「やれやれ…」
一度ため息をつくと藤本さんもまた、拳を握り締めて松浦さんを迎え撃つ。
もちろん…その瞳は蒼く変色していた。
- 895 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:21
- バシン!!
鋭い音が当たりに響く。
松浦さんの炎をまとった拳が、藤本さんに伸ばされたんだ。
けど、それをなんなく水を称えた手のひらで受け止めてる藤本さん。
「クッ!」
続けて拳を繰り出すけど、ひらりとかわされる。
それでも、松浦さんは引かない。
一心不乱に、ただ拳を振り回すだけ。
その様子が…ただ、私には悲しかった。
だって…どちらの痛みも判るから。
松浦さんの愛する人を、目の前で失った痛み。
その喪失感は、とても大きくて…悲しみで心が潰されないように…ただ身体を
痛めつけることしかできなくて…。
藤本さんの愛する人を、その手で殺めてしまわなくてはならなかった痛み。
押し寄せる罪悪感は絶対に消えることはなくって、ただそれを誰かを救う事で
自分も救われたいと願っていて…。
どちらも…自分のエゴを満たすためだけに戦ってるんだ。
それが…酷く悲しかった。
- 896 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:22
- けど…これは『過去』なんだ。
なら、結末を知っている藤本さんはきっと…。
「亜弥!!」
「うあぁぁっ!!」
地を蹴り、ありったけの炎をその手に集めて藤本さんに向かっていく松浦さん。
同じように、その手に大量の水を集めて待ち構える藤本さん。
…次で決まる。
私にも判った。
そして…、その2つの力が…―――激突した。
ドォォォンッ!!
すさまじい轟音。
ゆれる大気。
そして…一瞬視界が真っ白になった。
- 897 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:22
- 「ぅ…?」
ゆっくりと瞼を開く。
あたり一面が熱い蒸気に包まれていているのがわかった。
二人の力が…、きっと作り上げたんだと思う。
その視界の先で…二人を見つけた。
ガックリと地面に四つん這いになってうな垂れている松浦さんと、その目の前で
立ち、じっと松浦さんを見つめている藤本さん。
「亜弥…」
先に口を開いたのは藤本さんだった。
そっと、膝をつくと手を伸ばして松浦さんの肩において…。
「もう…いいでしょ?」
「……………」
「もう…過去に囚われるのは、終わりにしよう…?」
「………っ…く…っ」
震えだす松浦さんの身体。
地面にはポタポタと熱いしずくが落ちていた。
- 898 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:22
- 「アンタが亜依ちゃんの事を、ずっとずっと悔やんでるのは判ってる。今でも自分を
責め続けてるってのも」
「美…貴……っ…」
「きっと…『このままここで朽ちてもいい』なんてバカなコト考えたりしてたんでしょ?
だからわざと紺ちゃんにも気づかないフリしたり…」
え…フリ…?
あっ! そういえば…っ。火の海に囲まれたあの工場で…松浦さんは…。
『アタシは…いい。紺野ちゃんだけ行きな…』
そう言ってた。
じゃあ…松浦さんは、あの時にはもう私の事を判っていたんだ…?
ただ…自分は、この過去の世界で死のうなんて考えていたから…だからわざと
私に気づかないフリして…私だけでも帰そうとして…。
「でも、もう自分を傷つけるのはやめな。亜依ちゃんはどうやっても戻ってこないし
…亜弥を責めたりもしない」
「う…っ…く…ぅ…っ」
そっと藤本さんは、松浦さんの頭を抱き寄せた。
やさしく…愛おしむように。
- 899 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:23
- 「それに亜弥…アンタ、この時ミキと誓ったよね?…亜依ちゃんの分まで生きるって」
「う…ん…っ」
ぎゅっと松浦さんの腕が、藤本さんの背に回った。
強く…ただ、強く。
「立ち止まってもいいよ。時には泣いたっていい。けど、生きるんだっていったよね?」
「うん…っ…」
涙に濡れた瞳が、じっと藤本さんを見つめた。
「辛い過去だったかもしれない。でもね、絶対にここでは最後はミキに出会って亜弥は
元気になるんだ。そりゃ今の亜弥は弱い…弱くて脆い。でも…心はまっすぐで…強い。
だから…絶対元気になれる。そうでしょ?」
「っく…ん…っ…うん…っ」
…そっと私は、二人に背を向けた。
今…、この空間を穢したくなかったから。
- 900 名前:涙 投稿日:2004/01/17(土) 23:23
- 「いつも一緒にいるから、だからいっぱい泣いたら、帰ろう?みんなのとこに。
もう…こんな夢をくり返し見ないでいいんだよ。亜弥も…ミキも」
「うん…っ、ごめん…美貴…っ」
「ごめんじゃないっしょ?」
「…っ…あ、ありがとう…っ」
「うん…」
もう…大丈夫。
二人は、戻れる。
私はそう確信して…―――瞼を閉じた。
そのまま意識を手放す時…松浦さんの『あの時助けてくれてありがとう、紺野ちゃん』
という言葉が聞こえた気がする…。
あの時っていうのは…多分あの工場でのことかな…?
だとしたら…嬉しい。
こんな私でも、松浦さんを助けることができたんだから…。
次の瞬間、空間がゆがんでいくのがわかった。
ここではない、どこかに繋がっていくのが…。
きっとそれは…あの人の――後藤さんの過去へと続く道。
- 901 名前:tsukise 投稿日:2004/01/17(土) 23:24
- >>863-900
今回更新はここまでです…。
あやや編終了〜…って、そろそろ次スレ立てなきゃですね(汗
多分、次スレでラストまでいけると思われっ!(ぉ
紺野が平手…実際じゃ考えられないですね(ニガワラ
>>858 星龍さん
あやや編の過去は、こんなカンジになってしまいましたが…(汗
おもしろいと言って頂きましてっ!もう励みになってますっ!
遅れ気味な更新ですが、またまた読んで頂ければ嬉しいですっ♪
>>859 みっくすさん
ホントに大変な展開でしたが、紺野の行動はこんなカンジで(ぉ
彼女らしいといえば彼女らしい…と思ったのですが…(笑
これからも彼女の行動に四苦八苦しつつ頑張りますので
続けて読んで下されば嬉しい限りですっ!
- 902 名前:tsukise 投稿日:2004/01/17(土) 23:25
- >>860 娘。よっすいー好きさん
一気に読んで下さったみたいで、ありがとうございますっ!
面白いという、とても嬉しいご感想まで頂きましてっ!!
これからも紺野に頑張って活躍してもらう予定ですので
またフラリと立ち寄って読んで頂ければ嬉しいですっ♪
>>861 つみさん
はい、大変な事態になってましたが…あやや編はこんな感じで…。
あっちに走ったり、こっちに走ったりと大変な紺野でしたが
これからも急いでもらう予定だったり…(汗
感想レスをありがとうございますっ!
>>862 片霧 カイトさん
あやや編…ひとまずこんなカンジでしたが…書いてる方も
紺野達と一緒にテンパってしまってました(爆
これからも、あの方の過去で大変な目に逢うかと思いますが
このまま紺野に頑張ってもらう予定です!(鬼
応援レスをありがとうございますっ!
- 903 名前:つみ 投稿日:2004/01/18(日) 00:24
- 大量更新おつかれさまでした!
いや〜つながりましたね〜♪
あいぼんがかわいくて切なかったです・・・
まつーらさんはいつわかってたんでしょうねぇ〜
次回はやはり・・・
楽しみに待ってます!
- 904 名前:みっくす 投稿日:2004/01/18(日) 00:43
- 更新おつかれさまです。
この世界でみんな過去を精算してしまうのかな。
術にかかったことが逆によかった?
次回も楽しみにまってます。
- 905 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/01/18(日) 04:55
- 大量更新乙です。あややとミキティの出会いがあんな感じだったとは(笑)『あの人』もこの調子で助けてほしいな
- 906 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/18(日) 15:35
- 更新お疲れ様です
うーん、山場ですね〜
ハラハラしつつ見ております
さて、あの人はどうなるんでしょう・・・?
- 907 名前:受験生君 投稿日:2004/01/18(日) 19:39
- 今回の更新を見て、センター試験を受けてる身としては、
なんかしらんけどやってやろう!って気になれました。
松浦さんが本当に藤本さんより年下に見えた…。初めて…。
こんなこと言ったら藤本さんに怒られるかな?
- 908 名前:星龍 投稿日:2004/01/18(日) 20:12
- とてもハラハラしました!!
紺野さん頑張りましたね!!『あの人』の過去気になります。
作者さん頑張ってください。
応援してますよ!
- 909 名前:名無し読者79 投稿日:2004/01/18(日) 20:28
- 始めてレスつけさせていただきます。
最高です。前作を読み、後紺にハマリ…。
ストーリーが最高です。次回のごっちん編楽しみにしています。
- 910 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/01/18(日) 23:31
- 更新お疲れ様です!
痛いですね……なんとなく予想はしていたけどこんな過去だったとは……。
でも紺野もやるときはやりますね!
次も頑張れ!
ということで次回も期待してます!
- 911 名前:ヒトシズク 投稿日:2004/01/19(月) 22:58
- おぉ!大量更新お疲れ様ですっ!!!
もう、何か辛さや悲しさもあるんですがそれを超えて今がある、と言うことに感動しました!
次回はあの人ですかぁ。。。
どうなることやら?と思いながらまったりとお待ちしております♪
では頑張り過ぎない程度に頑張ってくださいませ^^
- 912 名前:ku_su 投稿日:2004/01/23(金) 17:10
- お疲れ様です。
次は後藤の過去ですか?
後紺が久しぶりに出てきそうなので楽しみに待ってます。
- 913 名前:レオ 投稿日:2004/01/23(金) 20:47
- 初めまして!!!
今全部読ませていただきました〜。
文だけなのにかなり興奮しました!!
特にバトルシーンがすごすぎです!!!
これからの展開が予測できないので楽しみです。
他の能力者の出現にも期待しています。
- 914 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/23(金) 23:31
- だれだよ!ageたのは!
- 915 名前:林火 投稿日:2004/01/24(土) 09:55
- こんにちは、お久しぶりの書き込みです。
松浦さんの過去が終わって、残りは後藤さんだけです。どんなのか気になります。
次の更新も期待しています。
- 916 名前:せりな 投稿日:2004/01/24(土) 15:32
- ochi
- 917 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 22:41
- コテハン読者多杉
- 918 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:27
- 容量的に厳しくなってきましたので新スレを立てさせて頂きました。
同板ですが、どうぞよろしくお願いします。
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/sky/1075285577/
- 919 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 21:24
- にゅにゅ
- 920 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:06
- ( ^▽^)ノ
- 921 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/13(金) 00:19
- 落とします。
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