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キスの味は、マンゴープリン 2

1 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月24日(日)20時15分31秒

同じ赤板で書いていました『キスの味は、マンゴープリン』の続きです。
ラストまで引き続きよろしくお願い致します。
2 名前:ずっと 投稿日:2002年11月24日(日)20時16分20秒

「ごっちん、知ってる? 市井さんのファン、また増えたみたいだよ」

「え、なんで?」

市井が後藤を教室から連れ出したことは、あっという間に学校中に知れ渡り、
ドラマの主人公のようにかっこよかった市井にはますますファンが増え、ラブ
レターや告白が相次いでいた。

「あんなにかっこいいとこ見せられちゃ、そりゃあ惚れるでしょ」
「…」
「まっ、市井さんはごっちんに夢中だから心配ないけど」
「そんなこと…」

市井がもてるのは今に始まったことじゃないが、やっぱり心配でたまらない。
かわいい娘が市井に言い寄るシーンが次から次へと浮かんできて、後藤は深い
ため息をついた。


3 名前:ずっと 投稿日:2002年11月24日(日)20時17分21秒

帰り道、いつものように並んで歩いているふたり。
後藤の心は晴れないままで、口数が少なくなっており足取りも重い。

「後藤、どうした? なんか元気ないね」

そんな様子に気がついた市井が、いつものようにやさしい声で、やさしい言葉
をかける。

「市井ちゃんのせいだよ…」
「へっ? な、なんかした?」

思ってもいなかった後藤の言葉に、あわてて顔を覗き込む。
自分のせいと言われて、今日一日のことを瞬時に振り返ってみたが、何も心当
たりはなかった。


4 名前:ずっと 投稿日:2002年11月24日(日)20時18分18秒

「市井ちゃんが、もてすぎるから…」
「はぁっ!? なんだよそれ」

何事かと思って本気で心配していたのに、もてすぎるなんて言われて、硬く
なっていた身体が拍子抜けして一気に緩んだ。

「市井ちゃんさ、最近、告られたりした?」
「え…うん」
「やっぱりそうなんだ…」
「なんか、また急に多くなってさ…」

市井としてはぜんぜん何でもないからこそ後藤に正直に話したのだが、後藤は、
自分以外にも市井を想っている娘がいるということが、気になってしかたがな
かった。


5 名前:ずっと 投稿日:2002年11月24日(日)20時19分22秒

「だ、だれ?」
「え、だれって…いちいち報告しなきゃなんないの?」
「そういうわけじゃないけど…」

そう言いながらうつむいてしまった後藤に、市井はかばんから束になった封筒
を取り出して渡した。

「はい、今日はこれだけ」
「こ、こんなに…」

受け取ったその束は一目でラブレターとわかるもので、ずっしりと重かった。
『市井さんへ』と丁寧に書かれた文字。
市井がもてることはわかっていたが、実際にそれを目にすると、見知らぬ相手
にさえ嫉妬心を抱いてしまう。


6 名前:ずっと 投稿日:2002年11月24日(日)20時20分01秒

「あと、直接呼ばれてっていうのもあるけど…今日は二人に…あっ、もちろん、
 ちゃんと断ったからね」
「ん…」

視線を合わせようとせず、後藤が手紙の束を市井に戻す。
明らかに落ち込んでいるその様子を見て、市井も焦りだした。

「えっと…あっ、そうだ、これ…」

市井がまたかばんから、別の封筒を取り出した。
それはいつか後藤に渡そうと思って、ずっとかばんに入れていたものだった。

7 名前:ずっと 投稿日:2002年11月24日(日)20時20分39秒

「もういいよ…見たくない」

また市井への手紙だと思った後藤は、顔も上げずぼそっとつぶやく。
これ以上嫉妬している自分を見せたくなかった。

「違うって、これ、見覚えない?」
「え?」

差し出されたものはピンク色の封筒で、宛名のところには、市井さんへ≠ナ
はなく、紗耶香へ≠ニ書いてあった。

確かにどこかで見たことがある。


8 名前:ずっと 投稿日:2002年11月24日(日)20時21分21秒

「あっ!これ、矢口さんからの」

見覚えがあったそれは、後藤が初めて矢口と話をしたときに『紗耶香に渡して』
と頼まれたものだった。

「そうそう、中見てよ」

人の手紙を見るなんてとためらっていたが、市井が早くと促すので、遠慮がち
に中を開けた。
中に入っていたのは手紙ではなく、チケットのようだった。

「温泉…宿泊無料券…?」
「そう、今度の連休に行かない? やぐっちゃんからのプレゼントだし」

「えっ!ほんとに!? 市井ちゃんと二人で!?」
「うん」

「行く!ぜったい行く!」
「おし! 決定!」


9 名前:ずっと 投稿日:2002年11月24日(日)20時22分50秒

さっきまでの暗い表情がすっかり消え、いつもの元気な後藤に戻った。
券を見ながらにこにこしている後藤の顔を見て、市井はほっと胸をなでおろす。

「うちの人、大丈夫? 許してもらえそう?」
「うん、だって市井ちゃん、うちの家族からめちゃめちゃ信用されてるもん」
「へ、そうなの?」
「うん!市井ちゃんと一緒だって言ったら、何でも許してもらえるよ」

お互いの家を行き来しているうちに、それぞれの家族とも自然と仲良くなって
いた。
こういうとき、女同士だと都合がいい。

「楽しみだなあ、市井ちゃんと初旅行!」
「こらこら、そんな抱きつくなって、重たいってぇ!」

後藤は落ち込んでいたこともすっかり忘れて、市井にじゃれついていた。



10 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月24日(日)20時23分51秒

ということで、2本目のスレッドを立てさせていただきました。
前回から読んで下さっている方、初めての方、どうぞよろしく
お願いします。


11 名前:和尚 投稿日:2002年11月24日(日)21時15分08秒
というわけで早速レスします(笑)
旅行♪旅行♪初旅行〜♪♪
どうなる事になるんでしょうか?
更新非常に楽しみです。
12 名前:きいろ 投稿日:2002年11月24日(日)21時38分56秒

新スレおめでとうございます。
市井もてすぎちゃいましたか・・・
嫉妬する後藤も可愛いですね!!
続きに期待・・・
13 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月26日(火)08時17分56秒
新スレおめでとうございます。
そしてありがとうございますw

単純なごまが可愛い…w
14 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時01分33秒

「えーーっ! 温泉!? 一泊!?」
「うん」

旅行が決まった数日後、部活帰りの吉澤が後藤の家に遊びに来ていた。
石川と遊園地に行く計画を嬉しそうに話し続けた吉澤に、後藤は市井との旅行
を報告した。

「それって、つまり……だよね」
「へっ!?」

「だからさ、とうとう、ごっちんたち…」
「…やっぱり、そう思う?」

「そりゃあ、そうでしょう」
「…だよ、ね」


15 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時02分11秒

市井に旅行に誘われて有頂天に喜んだ後藤だったが、その日が近づくに連れて、
一泊ということがかなり気になっていた。

これまで、抱きしめられたり、ボタンを外されたり、さわられたりしたけど、
それ以上はなかった。
でも、一泊となればそうもいかないだろう。
それは後藤にもわかっていたのだが。


16 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時02分52秒

「市井ちゃんと、そうなるのはね…」
「うん」

「嫌じゃないけど、ちょっとこわいんだ…」
「こわいって、市井さんが?」

「市井ちゃんがこわいんじゃなくて、…その後ね、二人の間がどうなっちゃう
 のかがわかんなくてこわい……。変わっちゃうのかなぁとか、いろいろ考え
 ちゃって…」

それは、ここ何日かの間、心の中でずっと考え込んでいたことだった。

「ごっちん、かわいい…」
「もお、こんなときに、茶化さないでよ、よっすぃー」


17 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時03分35秒

「ごめんごめん。でもさ、そんな心配しなくていいんじゃない?」 
「え…」

「きっと市井さんが全部受け止めてくれるよ」
「市井ちゃんが…全部?」

「そう。ごっちんは、ごっちんらしく! 余計なことは考えない!」
「ん…ふふっ…なんか、よっすぃらしいね」

「なんだよー、なんか変なこと言った?」
「ちがうよぉ。すっごく励まされるんだ、よっすぃーの言葉って」

吉澤と話をすると、いつも安心できる自分がいる。
市井とはまた違った面で、なくてはならない存在だった。

18 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時04分12秒

「へー、よかったね、OKしてくれて」
「うん、やぐっちゃんからのプレゼント、無駄にならなくてすんだよ」

市井は矢口に旅行の報告を兼ねてお礼をしに来ていた。

「いいのかなぁ〜、高校生が〜」
「安倍さんもやぐっちゃんと行けばいいでしょ!二人っきりで!」
「バ、バカ…!なに言ってんのさ」

矢口の家に遊びに来ていた安倍が市井を冷やかしたのだが、逆に突っこまれ、
そういう展開に慣れていない安倍は慌てふためく。


19 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時04分56秒

「うわ〜、慌てちゃって、かわいい!」
「べ、べつに、慌ててなんか…あっ、なっち、お菓子取ってくるね…」

顔を赤くしながら、安倍が居間へ逃げ出した。

「ちょっと、紗耶香、なっちをいじめないでよね」
「はいはい」

矢口と安倍はあの時からつき合いだしていた。
もともと仲がよかったので、つき合ったからといってそんなに変わったことは
ないのだが。
受験生でもある二人は、矢口の家で勉強することが日課になっており、それが
デートでもあった。

20 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時05分48秒

「紗耶香さ、ごっちんとまだしてないの?」
「ぐっ…げほっ、げほっ…」

矢口の唐突な質問に市井は飲みかけていた紅茶をこぼしそうになる。

「やぐっちゃん…ストレートすぎ…」
「いいじゃん、照れる仲じゃないし」
「はあ、…そういうもんか」

そう言われてもやっぱり照れてしまい答えを濁していたら、矢口がさらに問い
ただしてきた。

「で…?どうなの?ねぇ?」
「え………まだ、だよ」

「えーっ!まじで!?」
「あのさ、そこでそんなに驚くのもどうかと思うよ…」

「だって、紗耶香、あたしのときは、速攻で押し倒してきたじゃん」
「そ、それは、…やぐっつぁん年上だし、がんばらなきゃって思って…」


21 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時06分39秒

「ふ〜ん、そうだったんだ…」

とつぜん聞こえてきたのはお菓子を持って立っている安倍の声。

「なっち!」
「安倍さん!」

二人の声が重なると同時に、やばいという目をして顔を見合わせる。
過去の二人の関係を知り尽くしている安倍とはいえ、やはり聞かれたくなかっ
た事だった。

「あのね、なっち…その、昔のことだし…」
「そ、そうですよ…安倍さん、落ち着いて…」
「ん、べつに気にしてないよ。二人のことは知ってるし」

焦りまくる二人に対し笑顔で話す安倍を見て、とりあえず安心する矢口と市井。


22 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時07分18秒

「で、紗耶香はどうしてごっちんには何もしないの?」
「へっ!?安倍さん!?素でそういうこと聞きます?」
「もうつき合って半年くらい経つよね」

思いもかけない二人からの攻撃に、市井はたじたじになる。
どうしてかと言われても…。
何度かそういう雰囲気になって、邪魔さえ入らなければそうなっていただろう
と思われることもあった。
でも、たしかにどこかで一歩引いてしまっていることも確かだった。


23 名前:ずっと 投稿日:2002年11月27日(水)21時08分02秒

「わけわかんなくなりそうで…」
「え…」
「…すごく好きなんだ。大切にしたい。だから、後藤の前で自分を失っちゃい
 そうなのが怖いのかも」
「紗耶香…」

真剣に想いを語る市井に安倍も矢口も黙りこくってしまう。

「な〜んてね……あっ、これいただき!」

安倍が持ってきてくれたお菓子を口に入れながら、市井は二人に笑いかけた。



24 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月27日(水)21時11分38秒
更新しました。 

レスありがとうございます。感謝!

>11 和尚さん
1に引き続き、読んでもらえて嬉しいです。
旅行というお約束の展開ですが…許してください。
和尚さんの方、いい感じのいちごまになってきましたね。

>12 きいろさん
1に引き続き、読んでもらえて嬉しいです。
ごっちんの嫉妬はまだ続きそうです。でも、かわいいからいいですよね。
きいろさんの方は、ごっちんがせつないですね。いちーちゃん、強すぎ…。

>13 素人○吉さん
こちらこそ、ずっとおつき合いいただいて、ありがとうございます。
嬉しいです!
次から旅行シーンに入りますので、楽しみにしていてください。
甘いいちごまが続きますよ!
                       …C:BOXな毎日
25 名前:和尚 投稿日:2002年11月27日(水)23時57分02秒
何言ってんですか!?
お約束なんてとんでもない!!楽しみにしていますよ!!!
和尚の方は市井さんが凄い事になってます(苦笑)

26 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月28日(木)07時50分55秒
とんでもないです。
こんなに素晴らしいいちごま作品に出逢えて、嬉しくて仕方がないです。
マジでマーチ。さんの作品にはいつも惹き込まれてて。
甘々ないちごまどんどん読みたいです。
27 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時43分08秒

そして旅行の日―。


「遅いぞー、後藤」
「ごめーん、寝坊しちゃった…」

待ち合わせの時間より15分遅れで駅にやって来た後藤。
まだ肩でハアハアと息をしている。

「ったく…」
「だって、ゆうべ…」
「嬉しくて眠れなかったんでしょ?」

荒い息をしながら後藤が理由を言おうとすると、市井が笑いながら言葉をはさ
んだ。

「う、うん…そう」
「ははっ、やっぱし、さっ、急ごっ!」

後藤の手をすっと握ると、ホームに向かって走り出した。


28 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時43分50秒

電車で約3時間。
海沿いにひっそりとたたずむその宿は、まさに秘湯と呼ぶのにふさわしいとこ
ろだった。

海に来たのが久しぶりだったふたりは、チェックインする前に海辺に寄り道す
ることにした。



29 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時44分45秒

「海って見てるだけで気持ちいいな〜」 
「うん、キラキラしてすっごくきれい!」

ふたりは特に何をするわけではなく、誰もいない砂浜をただ手をつないで歩いた。
潮の香りがする風とくり返す波の音がふたりの間を心地よく流れていく。
少し冷たい風さえ、今は気持ちいい。

「後藤、水着持ってきた?」
「へっ?泳ぐの?もうすぐ冬だよ」
「泳ぎはしないけど…、後藤の水着姿が見たい!」
「はっ…!?何言ってんの、市井ちゃん!!」
「いてっ、…冗談だって〜」
「もぉ!」

たわいのない会話に時おり混ざる笑い声。
ふたりだけの時間がゆったりと過ぎていった。


30 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時45分22秒

「ねぇ、市井ちゃん。このまま、ずっとふたりで歩いていたいな」
「うん」
それはいつも後藤が思っていることであり、願っていることだった。

ずっとふたり。
ずっと一緒。

― 市井ちゃんもそう思ってくれてるのかな…

「ずっとって、これからずぅーっとってことだよ」
「うん」

市井の気持ちを確かめたかった。
簡単に頷く市井がなんだか少し不満だったから。


31 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時46分02秒

「ほんとにわかってる? 市井ちゃん」
顔を覗き込んで、後藤がもう一度聞いた。

「うん。ずっと一緒だよ」
「ほんとに?」

「ほんとだって…、なんだよ、信用できないの?」
「そういうわけじゃないけど…市井ちゃん、後藤から離れていきそうだし…」

「はっ? なんだよそれ?」
「だって、市井ちゃん、すごくもてるし…かわいい娘に告白されたらきっと
 そっちにいっちゃうもん。後藤のことなんかすぐ忘れてさ…」


32 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時46分42秒

市井が最近もてていることを気にしていたから、こんなことを言ってしまった
のだろうか。
言った瞬間、後悔した。

「なに言ってんだよ、後藤!」
市井の口調の意外なきつさに驚き、後藤の肩がびくっと動く。

「あっ、ごめん…」
「ううん…後藤のほうこそ、ごめんなさい…」

くだらないやきもちで市井を怒らせてしまった。
後藤は消え入りそうな声で謝ると、そのまま顔を上げられないでいた。


33 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時47分32秒

「後藤…」

あたたかい市井の手がそっと後藤の頬に触れた。

「なに不安がってるのさ?最近、おかしいよ」
「ん…後藤の勝手なやきもちなの…ごめんね」

「やきもちって…」
「いちーちゃんがいっぱい告白されてるって聞いてから…気になって仕方なく
 なって…」

後藤が不安な思いを打ち明けた。

そんなに気にしていたなんて。
市井はたまらず後藤を抱き寄せた。

34 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時48分12秒

「馬鹿だな…そんなことで」
「ん…ごめん」

「んーと、後藤に告白したときにさ、言ったじゃんか。ずっと仲良くやってい
こうって。もう忘れた?」
「…ううん、おぼえてる。忘れるわけないよ」

あの日、あの時、あの公園で、市井が後藤に言った言葉。
『後藤が好きだよ。だからつき合ってほしい』
『ずっとなかよくやっていこう』

あれからいろいろあったけど、ふたりで乗り越え大切に築いてきた。


35 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時48分46秒

「あの時と気持ちは変わってないし、これからだって変わらない」
「市井ちゃん…」

なんで確かめようとなんてしたんだろう。
いつもやさしい言葉と笑顔をくれてるのに。

「だからもう、やきもちなんて焼かなくていいから」
「うん」

笑顔で頷いた後藤を見て市井もほっとし、にっこりと笑い返した。


36 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時49分29秒

「おし、後藤、あそこの流木まで競走な!」
「へっ!?」
「よーいドン!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!ずるいよ市井ちゃん!」

笑いながら前を走る市井。
一生懸命追いかける後藤。

― ずっと着いていくよ、市井ちゃん!離れてなんかやらないからね!


37 名前:ずっと 投稿日:2002年11月30日(土)13時50分20秒

ゴールの手前で市井に追いついた後藤が、その背中に勢いよく抱きついた。

「つかまえたっ!」
「おにごっこじゃないっつーの!」
「へへへっ」

ぎゅっと抱きついていた後藤が市井に乗っかろうとしてとび上がる。

「ぐっ…重たいって、ごとー!」
「もぉ、そんなこと言わないでよぉ!重くないもん!」

「だったら、市井も反撃〜!」
「ちょっ、どこ触ってんの!市井ちゃん!!」


時間を忘れてじゃれ合うふたり。

水平線に落ち行く夕日がその無邪気な光景を見ていた。




38 名前:マーチ。 投稿日:2002年11月30日(土)13時52分35秒
更新しました。
 けっこう甘いですよね…!?
 書いているうちにわからなくなってきて…

レスありがとうございます。感謝!

>25 和尚さん
こんな感じでふたりの旅行が始まりました。
ここから先が、今てこずっています…。
白板のいちごま、かわいらしいですね。
ぜひやってもらいたい企みです!

>26 素人○吉さん
二人で手をつないで海辺を歩いたら、かなり絵になるだろうな…
などと思い浮かべながら書いていた自分…重症でしょか?
不相応なほどの言葉をいただいて、恐縮しながらも意欲がわいてきます。
ありがとうございます!


次はとうとう…
39 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月30日(土)19時38分13秒
甘甘です!
いいっすねぇ〜!
次はさらに甘そう…楽しみっす!
40 名前:素人○吉 投稿日:2002年11月30日(土)23時04分06秒
号泣。
究極のいちごま甘々…。幸せ過ぎておかしくなりそう…。
全然重症じゃないです。
それならば自分は既に氏んでますw
次回はとうとう…!?気になる!!
41 名前:和尚 投稿日:2002年12月02日(月)01時07分45秒
お互いの想いを再確認、夕日をバックに競争・・・素敵です!!
次の更新が楽しみで夜が寝られない状態になりそうです。
白板感想ありがとうございます。
妄想しすぎてしまい、作ってしまった作品です(笑)
ぜひですか?新しいスレを立ててみようかな?(苦笑)
42 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時29分06秒

「お風呂いこっか?」

「う、うん…」

海の幸をふんだんに使った夕食をお腹いっぱい味わい、部屋でくつろいでいた
時だった。
温泉旅館だからお風呂に入るのは当然のことなのだが、後藤は市井と一緒に入
ることに少なからず抵抗を感じていた。

一方の市井も実は照れくさく思っていたのだが、そんな素振りは微塵も感じさ
せないだけの余裕が少なくても後藤よりはあった。


43 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時29分50秒

「どうしたの?」
「べ、べつに…」

脱衣所でもじもじしている後藤に市井が声をかける。
後藤は下を向いたままで、意味もなくタオルをいじっていた。

「もしかして」
「えっ?」
「脱がしてほしいとか?」
「はあっ!?市井ちゃん!!」
「ははっ、冗談だって、先行ってるよ〜!」

市井が浴室へ入っていく。
湯気の中に映ったスラリとした後ろ姿に、後藤はドキドキした。

44 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時30分31秒

そこは、いくつかの湯船に分かれていて、辺り一面、白い湯気がたっていた。
ふたりはいちばん広い湯船に一緒につかった。
一度入ってしまうとその気持ちよさで、後藤もさっきまで感じていた恥ずかし
さが薄れていた。

「気持ちいいね、市井ちゃん」
「うん、最高〜」
「矢口さんに、感謝だね。今度ご馳走しようよ」
「うん、やぐっちゃんは、やっぱ焼肉だなー」

二人の間で自然に矢口の話ができるようになっていた。
いろいろあったことが、今は遠い。

その後も二人は、露天風呂やサウナなどをたっぷり満喫した。


45 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時31分13秒

部屋に戻ると、真ん中に布団が二組敷いてあった。
それを見て一瞬固まるふたり。

「なんか、照れるね…」
「う、うん……」

後藤は心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。
この部屋で、二人きり…。
覚悟はしてきたはずなのだが。

―どうしよう、やっぱりこわいかも…

急に緊張し、身体中が硬くなった。


46 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時32分16秒

市井が冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、後藤に渡す。
受け取る後藤の手が、かすかに震えていた。

「なんだかのぼせたみたい…後藤、もう寝るね」
どうしていいかわからなくなった後藤は、ボトルをテーブルの上におくと、
布団をかぶって市井に背を向けてしまった。

「大丈夫?」
市井を拒絶するかのような背中に問いかける。

「ん…のぼせただけだから平気」
小さい声で返ってきた答え。
市井はそれ以上何も言えなくなった。

「…じゃ、市井も寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい…」

部屋の電気が消え、暗闇がふたりを包んだ。



47 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時33分02秒

静まり返った部屋の中で、後藤は少しずつ落ち着きを取り戻していた。

ふたりで旅行に来て、ずっと楽しい時間を過ごしてきたのに、今、自分のせい
でそれを壊そうとしている。
このまま嘘をついて、ずっと背を向けたまま朝を迎えるなんて嫌だ。

『きっと市井さんが全部受け止めてくれるよ』

吉澤の言葉が後藤を励まし、背中を押す。

決心した後藤が身を起こして声をかけた。


48 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時33分47秒

「…市井ちゃん、起きてる?」
「ん? なに、具合い悪い?」

「ちがうの…んと、そっち、いってもいい?」
「え、…う、うん」

市井が枕もとのスタンドの電気をつけると、後藤がするすると横に入ってきた。

そして市井の腕にぎゅっと抱きついた。


49 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時34分39秒

「市井ちゃん、ごめんなさい」
「ん?なにが?」

「ほんとはね、のぼせてなんかないの」
「そうなの?」

「うん…なんかね、市井ちゃんと二人っきりで、すっごくドキドキして…
 どうしていいかわかんなくなっちゃって…こわくて…」
「そっか」

「嘘ついてごめんなさい」
「……」

ずっと仰向けのまま天井を見つめていた市井が、身体を後藤の方に向けた。

ほのかな明かりの中で、二人の目が合う。


50 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時35分22秒

「後藤が嫌がることは、しないからさ」
「え…」
「だから、そんなにおびえなくていいよ」
「市井ちゃん…」

やさしい声、やさしい笑顔。
どうして背を向けたりなんかしたんだろう。

「さっき、手が震えてたし…。市井がこわい?」
「そ、そんなことない…」
必死に首を横に振る。

市井がやさしく微笑みながら、後藤の肩に腕をまわして、そっと抱きしめた。


51 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時36分09秒

「このまま寝よ?ずっと抱きしめてるからさ。それならいいでしょ?」
「…や」
「へっ?」
「…おやすみのキス、して」

後藤が顔をあげた。
今まで見たことのないくらいの大人っぽい表情がスタンドの明かりに照らされる。

「あ、ああ…うん」
その顔にドキッとしながら、チュッとおでこにキス。

「…じゃ、おやすみ」
市井がドキドキしているのを静めるためにぎゅっと目をつぶる。
が、もっとドキドキさせるような言葉が聞こえてきた。


52 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時36分50秒

「もっと…、して…」

「えっ…もっとって…」

焦って後藤の方に顔を向けると、後藤は目を閉じて待っていた。
軽く息を吐いて鼓動を静めてから、唇にチュッと軽く触れる。

「もっと…」

目を閉じたままなおも催促する後藤に、さすがの市井も困り果てた。
理性を保つのにも限界というものがある。


53 名前:ずっと 投稿日:2002年12月05日(木)21時37分49秒

「あ、あのさ、この状況で、そういうこと…」
「だって、したいんだもん」

後藤の甘い言葉が、平静を保とうとしていた市井の気持ちをかき乱す。

「…いいの?」
「うん」

「キスだけで終わる自信、ないよ…」
「いい、よ…」

後藤の眼差しには迷いはなく、市井だけをまっすぐ見つめていた。




54 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月05日(木)21時39分27秒
更新しました。
 やっとここまで…

レスありがとうございます。感謝!

>39 名無し読者さん
やっぱり甘い二人、いいですよね。
ラストまで楽しんでもらえたら嬉しいです。

>40 素人○吉さん
全然重症じゃないですか、安心しました!?
今回も甘く熱く…。どうでしょう?

>41 和尚さん
寝られない状態を引っぱってしまいました。
もうしばらくお待ちください…!?

55 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月05日(木)22時39分25秒
しばらく見ない間に新スレが・・・。
遅ればせながら、おめでとうございます。
またいい所で切れちゃってますが(w
ずっとついて行きますので、頑張って下さい!
56 名前:syagi 投稿日:2002年12月06日(金)00時02分44秒
キャ〜(>_<)いいところで・・・続き大いに期待っす☆
57 名前:和尚 投稿日:2002年12月06日(金)01時02分21秒
マジで寝られない日々が続きそうです・・・
でも後藤さんの勇気に拍手を送ります!!
後藤さん頑張れ!市井さん頑張れ!!
マーチさま頑張れ!!
58 名前:素人○吉 投稿日:2002年12月06日(金)09時29分59秒
おいらも眠れません!
くぅ〜っ!!でもごっちん頑張ったっ!!
59 名前:きいろ 投稿日:2002年12月07日(土)19時04分40秒

大胆だなぁ・・・後藤。
市井もついに!
更新楽しみに待ってます。
60 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月08日(日)00時05分08秒
エロシーンキタ-------------。
61 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時32分03秒

「じゃあ、後藤からキスしてよ」

「え、…う、うん」

後藤が身を乗り出して、市井の顔を見下ろすような体勢になった。
洗い立ての長いサラサラの髪が揺れて、市井の頬をくすぐる。

その髪を耳にかけて、ゆっくり顔を近づけ、そっと唇を重ねる。
やわらかく、やさしく、何度も何度も。


62 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時32分51秒

市井はキスを受けとめながら、後藤の浴衣の帯を解き、胸元を開いていく。
そのまま浴衣を滑らすと、肩から背中へと肌があらわになっていった。

びくっとして身を起こそうとする後藤を引き寄せて、背中に手を回しホックを
はずす。
浴衣と一緒にそれを取り払うと、後藤の裸体が白く浮き上がった。


「綺麗だな…」


「恥ずかしいよ…」



63 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時33分58秒

市井が体勢を入れ替え、後藤を見下ろすようになった。

潤んだ目で自分を見つめている後藤は少し震えていて、市井はこのまま続けて
いいものか躊躇してしまう。
自分の気持ちだけを押しつけるのは絶対に嫌だった。

「だいじょうぶ…?やっぱ、やめとく?」
「…ううん」

首を横に振りながら市井の手をぎゅっと握る。
その手はやっぱり少し震えていた。

「無理しなくていいよ、焦ることないし…」
「…やめちゃ、やだ…」

その必死な表情がやけに色っぽく映り、しばらく後藤の目を見つめていた市井
が我慢できなくなったかのように、唇を重ね合わせた。

そして触れるだけのやさしいキスを何度も繰り返し、いつのまにか後藤の震え
も止まっていた。

64 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時34分41秒

「ん…っ」

後藤を求めて市井のキスが深くなる。
お互いの想いを確かめ合うように、深く熱く絡め合っていった。

市井の唇がそのまま首筋へ移り、同時に肩を抱いていた手が胸に移ると、やさ
しく包み込むようにゆっくりと動き出す。

「…んっ…はぁっ…っ…」

艶っぽい吐息に後押しされ、鎖骨をなぞって胸にくちづけると、後藤の身体が
びくんと跳ねた。


65 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時35分20秒

「ごとぉ……」

「あっ…んっ…やぁ…っ」

その甘い声にかき乱されたのか、思わず胸元に強く吸い付いてしまい、後藤が
声を上げた。

「んっ!…痛っ…」
「あっ、ごめん…つい…」
「…うん……だいじょうぶ、だよ」

ふいに目が合ったふたりは、照れ隠しに小さく笑う。


66 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時36分02秒

「跡ついたかも…、ごめん」
「市井ちゃん、わざと?」
「ち、ちがうって、無意識っていうか、夢中で…」
「え…」

言った方も言われた方も照れてしまい、火照ったからだがさらに熱くなる。

「ついてたら、ちょっと嬉しいかも…」
「えっ…そう?」
「市井ちゃんのシルシだもん」
「……」

にこっと笑った顔が可愛くて、愛しくて。
その溢れる想いをぶつけるように、抱きしめ、そしてくちづける。

「好きだよ、後藤…もう、止まんない…」
「ん…好きっ…市井ちゃん…」

67 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時36分44秒

見惚れてしまうほどの綺麗な身体。
市井はその身体中を唇と指先で触れていった。

「…市井ちゃん…後藤ね、おかしくなりそ…っ…」

後藤の甘い吐息が、見たこともない色っぽい表情が、市井の心を掻き立てて、
どうしようもなく次を求めていく。

「市井も、おかしくなりそうだ……」
「市井ちゃん…んっ…っ」

そして市井の手が脇腹を撫でながら下へ下りていった。


68 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時37分19秒

「…あっ…だめっ…待って…」

「後藤、力抜いて……」

「…やぁ、…恥ずかしいよ……っ」

「大丈夫だから…」

「んっ…!…市井ちゃん……っ!」

熱い想いと激しい情欲が、ふたりの理性を完全に崩していった。


69 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時38分05秒

「市井ちゃん……すきっ…だいすきっ…」

シーツを握り締めている後藤の手に、だんだんと力が入っていく。

「市井も…すきだよ…だから、後藤がぜんぶ、ほしい…」

「ん…はぁっ…ぜんぶ、市井ちゃんのものだよ…っ」

重なり合った身体がひとつに溶ける。


「…もう、…あ……んっ!!」

全身に広がった大きな波。


シーツのしわがゆっくりと緩んでいった。




70 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時38分43秒

「落ち着いた?」

「ん…」

まくらに顔をうずめて、後藤が大きく息を吐く。
激しい息遣いがようやくおさまると、市井の方に身体を向けてうっすらと笑み
を浮かべた。

汗で額にくっついている髪が妙に艶めかしい。
市井がその髪をすっと指先ですくった。


71 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時39分20秒

「んーと、…どう、だった?」
「えっ…?どうって…」
「嫌じゃなかったかなって…なんか、市井もわけわかんなくなったし…」

心配そうな顔をして、じっと後藤を見つめる市井。
そのやさしい眼差しと語り口に、後藤は胸がいっぱいになった。

「嫌なわけないよ、市井ちゃん」
「そう?」

後藤がにっこり笑い、手を伸ばして市井の頬を撫でた。
心配そうにしているその顔が、なぜだかとても可愛いらしく思えてきて。

「…なんかね、市井ちゃんにいっぱい愛されたって感じがするよ」
「そっか。うん、いっぱい愛したよ、後藤」

そう言うと市井は、まだ火照っている後藤の頬にチュッとキスをした。


72 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時40分03秒

「市井ちゃん、して…」
後藤が市井の腕に触れながら恥ずかしそうにつぶやいた。

「へっ?…いいの?もう一回しても」
身を乗り出して後藤の顔を覗き込む。

「えっ!?…ち、ちがうよ!何言ってんの、そうじゃなくて、うでまくら!」
「へっ!?…あ、ああ…、うでまくら」

「もぉ、市井ちゃん、何考えてんの!」
「だ、だって、してって言うからさぁ…」

自分の勘違いに照れながら、枕の替わりに腕を通して後藤をぎゅっと抱き寄せる。

「これでいい?」
「うん…ありがと」

あたたかい腕に包まれて、市井のやさしさを肌で感じる。
満たされた思いをかみ締めて、後藤がそっと目を閉じた。


73 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時41分52秒

「ほんとはね、こわかったんだ…変わっちゃうんじゃないかって思って…」
「変わるって、市井が?」
「市井ちゃんがっていうより、ふたりの間が…」

はじめて聞く、後藤の不安だった。
そんな心配をしていたなんて。
余計に愛しさが増してきて、市井は抱きしめている力を強くした。

「…で?どう?」
「えっ?」
「変わった?ふたりの間ってやつ」
「ううん、変わらない…あっ、でも、もっと好きになったかも!」
「そっか、市井も同じだよ」

後藤の髪を指に絡めながらゆっくりと頭を撫でる。
後藤の不安がすべて消えるようにと。




74 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時42分53秒

「まだドキドキしてるよ…すごく」
後藤が目を閉じたままつぶやいた。

「どれどれ」
髪を触っていた手が、おもむろに後藤の胸に移動する。

「ちょっ、市井ちゃん!」

バチンッ

「いってぇー!」


「もぉ!市井ちゃん、えっちぃよ!」
「いいじゃんかぁ、いまさら」
「よくない!」

頬を膨らませて真っ赤になっている後藤。
そんなところも可愛くてたまらない市井。


75 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時43分33秒

「ははっ、わかったって。んじゃ、もう寝よっか。明日早いし」

そう言いながら市井が枕元のスタンドのスイッチに手を伸ばすと、後藤がその
手をつかんで止めた。

「でも…」
「なに?どうかした?」
「なんかね、寝るのがもったいないよ、せっかく市井ちゃんと一緒なのに…」

こんなに幸せな時間だから。
こんなに満ち足りた空間だから。
1分1秒でも長くふたりで共有していたい。


76 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時44分41秒

「後藤…大丈夫だよ、これからもずっと一緒なんだからさ」
「市井ちゃん…」
「だから寝よ、おやすみ」

おでこにチュッとおやすみのキス。

「うん…おやすみ、市井ちゃん。夢でも一緒だからね!」
「ははっ、変な夢はやだからなぁ。出演拒否するぞ〜」
「もぉ!」


ふたりの長かった一日が終わる。


それはずっと忘れることのない、特別な一日。





77 名前:ずっと 投稿日:2002年12月09日(月)19時45分36秒


そしてこれからも、


ふたりは、ずっと一緒で、ずっとなかよしで、ずっと―。





  〜お・わ・り〜



78 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月09日(月)19時46分57秒

 『キスの味は、マンゴープリン』   終わり

途中で切ろうかとも思ったのですが、一気にラストまで更新しました。
これにて、『キスの味は、マンゴープリン』完結です。


レスありがとうございます。感謝!

>55 名無し読者さん
何度かレスをいただいている方ですよね、ありがとうございます。
ここまでついてきてくださって嬉しいです!
何とか完結できました。いかがだったでしょうか?

>56 syagiさん
最後は切らずに一気に更新しました。
期待にこたえられたでしょうか。
レスありがとうございます。

79 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月09日(月)19時47分39秒
>57 和尚さん
これでやっと眠れますか!?
毎回感想をいただいて、励まされました。
どうもありがとうございました。

>58 素人○吉さん
二人の物語…終わりました。
ラストもいろいろ迷いましたが、こんな感じに落ち着いて…。
たくさんの感想と励まし、どうもありがとうございました。

>59 きいろさん
きいろさんには感想などいただきまして、とても励みになりました。
どうもありがとうございました。

>60 名無しさん
満足いくようなシーンになったでしょうか?
未熟者なのでこのくらいでご勘弁を。
80 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月09日(月)19時48分40秒
最後になりましたが、4ヶ月に渡り、読んでくださった方、レスをくださった方、
本当にありがとうございました。感謝の気持ちでいっぱいです。

もしよければ感想などを一言でもかまわないでいただけると嬉しいのですが。
次への糧にしたいと思うので…わがままな作者ですいません。

残りのスレは無駄にしないように使いたいと思っています。


それでは。


81 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月09日(月)21時49分46秒
市井ちゃんおめでとう、後藤おめでとう。
そしてマーチ。さん、完結おめでとうございます。
この寒い日に暖かさをもらいました。ありがとうございます。
スレもいっぱい残ってますし、次も期待していいですか?(w
青板の方も楽しみにしてますので、頑張って下さい。
82 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月09日(月)23時54分43秒
いちごま好きとしてはこれからも書いていってほしいです。
頑張ってください!!
83 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月10日(火)08時10分41秒
お疲れ様でした。青板&新作も期待しております。


84 名前:和尚 投稿日:2002年12月10日(火)22時33分00秒
マーチさまお疲れ様でした。
市井さんの後藤さんへの優しさ、
後藤さんの市井さんへの想いが溢れまくって・・・ご馳走様でした。
次回作楽しみに待ってます。


85 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月11日(水)13時06分56秒
お疲れさまでした。
甘いいちごまひさびさに見た気がする。いちごま好きなんでこれからも
がんばってください。青版&新作も期待してます
86 名前:きいろ 投稿日:2002年12月11日(水)16時12分59秒

完結おつかれさまです。
影ながらずっと応援していました・・・
いちごま可愛いっすね。やっぱり。
そして、マーチさんのいちごまが大好きです!!
新作の方も期待しながら待ってます
87 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月12日(木)01時27分28秒
とても良かったです。おつかれさまでした。
いちごま幸せにね。いしよしもなちまりも幸せにね。
88 名前:syagi 投稿日:2002年12月12日(木)18時45分28秒
完結お疲れさまでした〜m(_ _)m
なんか最後まで甘くてこっちまで照れちゃいました(笑)
次回作も甘甘でおねがいします☆
89 名前:素人○吉 投稿日:2002年12月13日(金)15時26分09秒
マーチ。さん、先ずは何より、
『キスの味はマンゴープリン』完結おめでとうございます。
てか、あれからもう四ヶ月も経ってるんですね。早い!
はじめてマーチ。さんの作品を見た時、
こんなにも奇麗な文で共感出来るいちごまがあったのか、と衝撃と覚えたのを記憶しています。
素晴らしい作品をありがとうございます。

次の作品も期待して待ってます。
90 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月18日(水)23時00分15秒
みなさん、レスありがとうございます。
たくさんの言葉をいただいて感激しました。

>81 名無し読者さん
レスありがとうございます。
ちょうど寒い日に…そうでしたね。いちごまの甘さで暖かくなってもらえてよかったです。
残りのレスは無駄にしませんので、待っててください。(言い切って大丈夫か!?)
青の方も読んでくれているんですね、がんばります。

>82 名無し読者さん
レスありがとうございます。
いちごまは一番好きなCPなのでこれからも書いていきたいです。
そのときはまた、のぞいてやってください。

>83 名無し読者さん
レスありがとうございます。
青の方も読んでくれているんですね、期待に添えるよう、がんばります。
ねぎらいの言葉、感謝します。
91 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月18日(水)23時01分14秒
>84 和尚さん
レスありがとうございます。
二人の想い、やさしさが伝わったのなら、書き手として嬉しい限りです。
次回作は構想中、なかなかまとまらなくて…ん〜。

>85 名無し読者さん
レスありがとうございます。
甘いいちごま久しぶり…なのでしょうか。気に入ってもらえてよかったです。
甘いのは大好きなので、また書きたいと思っています。

>86 きいろさん
レスありがとうございます。
ここで書いた二人は子どもっぽくなってしまったのですが、
そんなふうに言ってもらえると、とても嬉しいです。
92 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月18日(水)23時02分08秒
>87 名無し読者さん
レスありがとうございます。
よかったと言ってもらえると、ほんとに嬉しいです。
みんな幸せに…それが一番!

>88 syagiさん
レスありがとうございます。
読んでて照れましたか、書いてても照れました。
甘いいちごま、やっぱりいいですよね!

>89 素人○吉さん
最初の頃、素人さんに綺麗な文と言われてすごく嬉しかったのを今でも覚えています。
お世辞でも十分励まされました!
読んでいる方に共感してもらえれば、書き手としては何よりです。
たくさんのレス、本当にありがとうございました!
93 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月18日(水)23時03分19秒
こんなに読んでくれている方がいたなんて、びっくりしました。
それで、嬉しくなって、調子にのって、…ちょっとだけ続きを書いちゃいました。
終わり、なんて言っておいて…。
おまけ≠ュらいの感じですので…、かるく楽しんでもらえれば…。

94 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時04分26秒

カーテンの隙間から、うららかな朝の光が入り込む。

先に目を覚ましたのは市井だった。
ふと横を向くと、すやすやと眠っている後藤がいる。

「…ったく、寝顔までかわいいんだな」

眠っているその顔は健やかで、あどけない。
市井は飽きることなくその寝顔を見つめていた。


95 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時05分18秒

「ん…んん…」

しばらくたって、後藤が陽射しの眩しさに顔をしかめながら声を漏らした。
ぼんやりと目を開け瞬きをくり返しているが、まだ状況はわかっていないようだ。
そんな後藤を見て、市井が笑いながらおでこを突っつく。

「おはよう」
「…ん…なに…」

まだ半分寝ぼけているようで、後藤の反応は薄い。
市井はその頬をふにゃっと指で摘んだ。

「お〜い、朝だぞ〜」
「…へっ……市井ちゃん…!?」
「やっと起きたか」

市井の存在に気づき、瞬時に目が覚める。
びっくりして身体を起こしたが、すぐに自分が何も身に付けていないことに気
づき、あわててまた布団に潜り込んだ。


96 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時06分10秒

「あっ…、お、おはよう…市井ちゃん」
「おはよう、後藤」

それは後藤の密やかな夢だった。
朝一番に顔を見て、一番に『おはよう』と声をかける人が市井であること。
その夢がかなって、にやにやしている後藤に、市井もつられてにやけてしまう。

「な〜に、にやけてんだよ」
「市井ちゃんだって、にやけてるよぉ」

「いや、それは、後藤が幸せそうな顔してるからさ」
「だって幸せなんだもーん!」

「ははっ、そりゃよかった」
「へへへっ」

とろけるような笑顔を市井に向けると、身体をぴったり寄せてくっついてきた。


97 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時07分23秒

「な、なんだよっ…そんなにくっつかなくても…」
「市井ちゃんこそ、そんなに逃げないでよぉ」
「や、だってさ…朝から…」
「ねぇ、市井ちゃん。人の肌ってさ、すべすべで、ふわふわなんだね」
「へ…?」

市井の動揺などまるで気がつかない後藤が、突然市井の腕を触り、頬を寄せる。
市井はドキドキしながら、その仕草を見つめていた。

「初めて知ったよ、なんか、すごく気持ちいい」
「…そう?」

後藤が目を閉じて、その腕を唇でゆっくりとなぞっていく。
手の甲から肘を通って肩へ。

その表情がやけに色っぽくて、されるがままになっていた市井も黙ってはいら
れなくなった。


98 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時08分18秒

がばっと後藤に覆い被さり、上から熱い視線で見下ろす。
突然のことに、後藤は目をぱちぱちさせた。

「な、なに?市井ちゃん…」
「…しよっか」
「えっ!?」

市井がぐっと顔を近づける。

「おはようのキス」
「へ?キス…あ、うん」
「あっ、もしかしてちがうこと考えた?」
「そ、そんなことな…」

言い終わらないうちに、市井の唇が重なった。


99 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時09分12秒

それはおはようのキス≠ニは思えないほど激しくて、後藤はびっくりしなが
らも夢中で応えていた。
そして唇が首筋に移ってくるのと同時に、当然のように市井の手が胸に下りて
きた。

「…あっ……ちょ、ちょっと、待って…」
「ん…なに?」

市井がいったん身体を離し、後藤を見つめた。
後藤の顔は真っ赤になっていて、息も上がっていた。

「…おはようのキス、じゃなかったの?」
「そうだけど……だめ?」

後藤を求めている目。
ゆうべのやさしかった目と同じ。


100 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時10分07秒

「だめじゃないよ…しよっ」

そう言って市井の首に手をまわし抱き寄せる。
お互いを求め合う気持ちはおんなじで、止めることなどもうできなかった。


「ごとぉ…」

「…ん…あっ…っ」

市井の唇が胸へおりていき、後藤がたまらず声を漏らす。

熱いシーンが続くかと思われたその時、市井が突然身体を起こした。


101 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時11分08秒

「やばい!チェックアウトの時間…」
市井の視線が枕元の時計に移った。

「…ちょっとくらい遅れても大丈夫だよぉ」
後藤が不満そうな声を出しながら、ぐいっと市井の顔を自分の方に向けた。

「え…それは…まずいでしょ、やっぱ…起きて支度しなきゃさ…」
「だめっ」
起き上がろうとする市井を後藤はぎゅっと抱きしめて離そうとしない。


102 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時12分12秒

「ちょっ…」
「まだこのままでいたい、起きちゃだめ…」
「後藤…」

耳元で囁かれ、胸の鼓動の激しさが増す。

「もう少し…、いいでしょ?」
「うん…」

見つめ合い、抱きしめ合い、そして深く求め合う。

再開された熱いシーンは、もう少し≠ナ終わるはずはなくて―。




103 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時13分22秒

ふたりが旅館を出たのは、結局お昼近くになっていた。

「怒られちゃったじゃんか…」
「市井ちゃんのせいでしょう」

二人は駅へ向かって歩く道すがら、チェックアウトの時間に遅れたことを言い
合っていた。

「後藤が離してくれなかったからでしょ!」
「市井ちゃんがやめなかったからじゃん!」
「やめれるわけないって、無理なこと言うなよ!」

それは周りに誰もいないからとはいえ、かなり恥ずかしい言い合い。

「なんで無理なの?」
「なんでって…んなこと言えるか!」
「あはっ、市井ちゃん、照れてるー!」
「あっ、こら、やめろっ。突っつくなー」
「へへへっ」

でも、結局じゃれ合ってるだけのふたりだった。


104 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時14分30秒

「ね、市井ちゃん。もう一回海に行こうよ。すぐ帰らなくてもいいでしょ?」
「んー、そうだな。ちよっと遊んでいくか!」

きのうの浜辺までは歩いてすぐ。
天気もいいことだし散歩でも、と市井が思ったその時―。

「じゃ、海まで競走ね。よーいドン!」

いきなり後藤が走り出した。
きのうとはまるで逆の展開。


105 名前:そして、ふたりの朝 投稿日:2002年12月18日(水)23時15分37秒

「へっ!?ちょっ、ずるいぞ、ごとー!フライングじゃんかー!」
「へへっ、きのうのお返しだよぉ!」

笑いながら前を走る後藤。
一生懸命追いかける市井。


きっとふたりはいつまでもこんな関係。


ずっと変わらず、ずっと―。




 〜お・わ・り〜




106 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月18日(水)23時17分07秒

以上、おまけでした。
(ここのいちごまって、書きやすい…完結したことちょっと後悔!?)
107 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月18日(水)23時19分22秒
いちごま新作を≠ニいうレスをいただいたのですが、その前に、この番外編として
さやまりをちょこっと書こうかなと思っています。(いちごま好きの方、すいません)
よろしければまた、おつき合いください。

それではまた。




108 名前:素人○吉 投稿日:2002年12月19日(木)08時57分56秒
・゚・(ノД`)・゚・。んあー。
朝っぱらから泣かされた…幸せ過ぎて……。
109 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月19日(木)16時49分48秒
甘いっすね〜!サイコー
さやまりも楽しみです!
110 名前:和尚 投稿日:2002年12月20日(金)01時20分19秒
何か後藤さんが少し大人になった様な感じがします。
2人がスッゴク仲良くて、読んでる方も暖かかったです。
妄想のしすぎで鼻血が止まりません。

更新待ってます。
111 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)15時55分47秒
甘いおまけ、ありがとうございます。
おまけでも番外編でも、どんどん書いて下さい。
スレはいっぱい残ってるし、書いてくれなきゃ困ります(w
さやまりも楽しみにしてます。頑張って下さい。
112 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月24日(火)00時36分25秒
レスありがとうございます。感謝!

>108  素人○吉さん
朝に読むには甘すぎましたね。
泣けるほど幸せな感じが伝わってよかったです!

>109  名無し読者さん
甘いのがお好きですか?
さやまり、もうすぐスタートしますので、待っていてください。

>110 和尚さん
言われてみればそうかもしれません。
と言っても、まだまだここのいちごまは子どもっぽいのですが。

>111 名無し読者さん
お言葉に甘えて、また余計なものを書いてしまいました。
ほんと、計画性が無いですね。
さやまりも必ず始めますので待っていてください。
113 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月24日(火)00時37分59秒
えっと、クリスマスイヴに合わせてどうしても書きたくなって、また予告していた
さやまりを抜かして、なちまりといちごまの番外編を書いちゃいました。
無計画ですいません。
話はどっちも短いです、とっても。もしよければ、読んでやってください。

では、始めます。
114 名前:ツリーにはトナカイ 投稿日:2002年12月24日(火)00時39分53秒

「なっち〜、それ取って」
「はいよ」
「ちがうちがう、それじゃなくて、トナカイ」
「はいはい」

安倍はいつものように学校が終わると矢口の家に来ていた。
いつもなら、テーブルの上に参考書を広げ二人で受験勉強に励むところなのだが、今日は
なんてったって特別な日。クリスマスイヴだ。
この日だけは受験のことを忘れて、パーッとクリスマスパーティをしようと前々から二人
で決めていたのだった。
115 名前:ツリーにはトナカイ 投稿日:2002年12月24日(火)00時41分57秒

「よし、こんなもんでしょ!」
「おっ!いいねぇ、かわいいよぉ」

決して大きくはないクリスマスツリーに二人で飾り付け。
わいわい言いながらやっと出来上がったときには、二人ともお腹がぺこぺこ
になっていた。

「じゃ、カンパイしよっ、なっち」
「うん!あっ、ろうそくは?きのう買ったやつ」
「あっ、そうだった。って、なっち〜、ろうそくじゃなくてキャンドルって
 言ってよぉ」
「どっちだって同じっしょ!」
「…まぁ、なっちらしいけども」

矢口が赤と緑のキャンドルを紙袋から取り出し、テーブルに置いて火をつけた。
そのタイミングに合わせ、安倍が部屋の電気を消す。
ほの暗い炎の明かりは、思った以上にムード満点だ。

「なっちぃ、早くおいでよ」
「うん」

手招きした矢口の隣にぴたっとくっついて座り、顔を見合わせる。
くすっと笑ってしまったのは、お互いになんとなく恥ずかしかったから。


116 名前:ツリーにはトナカイ 投稿日:2002年12月24日(火)00時43分42秒
「メリークリスマス!なっち」
「メリークリスマス!やぐち」

コツンとグラスを合わせて二人が口にしたのは、きれいなロゼカラーのシャン
パン。
まじめな学生生活を送っている二人にとっては、初めてのアルコールだった。

「ん〜、おいしい!」
「ぐっ…なっちはダメだ〜」
「なんで〜、こんなにおいしいのに。はい、飲んで飲んで…」
「いや、だめ、喉があっつくてさぁ…」

しきりに進める矢口だったが、安倍はグラス半分ほど飲んだだけで顔から首
まで真っ赤になっており、いくら矢口に注がれようとも、もう飲める様子で
はなかった。

「せっかくのイヴなんだから、飲もうよぉ」
「だって、今だってなっち、心臓ばくばくなんだよ。これ以上はとっても無理!」

安倍が両手で自分の顔をあおいだ。
すでに目はとろんとしていて身体はふにゃふにゃ。


117 名前:ツリーにはトナカイ 投稿日:2002年12月24日(火)00時44分53秒

「でも、酔ったなっち、初めて見た。かわいい…」
「ほぇっ…やぐち?何言って…」

矢口の手がすっと安倍の頬に触れた。

「あっついね、なっち」
「だから、酔ってるんだってば…」

ただでさえドキドキしていた心臓がさらに激しく打つ。

「キスしよう」
「えっ!?……ちょっ…やぐち…」

アルコールの力がそうさせたのか、安倍の酔って熱くなっている唇にそっと
矢口が重ねていった。



118 名前:ツリーにはトナカイ 投稿日:2002年12月24日(火)00時46分09秒

つき合い出して3ヶ月たつ二人たが、これが二度目のキスだった。
一度目は気持ちを確認しあったとき。
放課後の誰もいない教室で、ほんの一瞬触れるくらいのキスをドキドキしな
がら交した。

ほぼ毎日一緒にいるというのに友達の延長の雰囲気が抜け切らない二人は、
それからずっとお互いにきっかけを探り合っていたのだった。

119 名前:ツリーにはトナカイ 投稿日:2002年12月24日(火)00時47分15秒

「やぐ…ち…」
「なっち…好き…」

溢れる想いは止まらなくて、涙となって伝えようとする。

「どした?なんで泣く?」
「ん…なっちがいてくれてよかったなって…」
「そんなんで泣かないでよぉ…なっちだって」
「ほんと…ありがとね、なっち…ありがと…」

市井と別れたときも、自暴自棄になって好きでもない男とつき合ったときも、
安倍のおかげで救われた。安倍の笑顔に癒されてきた。
そして、いつのまにか矢口にとって安倍は一番大切な存在になっていた。


120 名前:ツリーにはトナカイ 投稿日:2002年12月24日(火)00時48分24秒

「やぐち…もういいから。ねっ、ほら、涙拭いて」
「うん…」
「なっちも、やぐちが好きだよ。なんかいつも一緒で照れくさくて言えなか
 ったけど…」
「なっち…」
「もう一回、…しよう」
「なっち…ん…」

今度は安倍から矢口の唇に重ね合わせた。
そして一度顔をはなして見つめあった後、唇をはさむようなキスをくり返す。


121 名前:ツリーにはトナカイ 投稿日:2002年12月24日(火)00時50分02秒

「…好きっ…んっ…」
「やぐちも…」

キャンドルの炎のように二人のハートが熱く燃えて、キスはだんだん深くな
っていく。

やがてその炎が映し出す二人の影がぴったりと重なり合って、そしてゆっく
りと倒れていった―。


♪HAPPY MERRY CHRISTMAS♪



〜お・わ・り〜




122 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)00時51分25秒

「いちーちゃん、それとって」
「ん?これ?」
「ちがっ、それじゃなくて、サンタさん」
「あっ、こっちか。はい」

今日はクリスマスイヴ。
後藤は市井の部屋にあるツリーの飾り付けをしていた。
市井にしてみれば飾りなんて適当に乗せればいいというくらいのものなのだ
が、後藤にとってはそうではない。
たくさんある飾りをひとつずつ手にとっては真剣に悩んでいる。
そのため1時間たった今も、なかなかツリーは完成しないでいた。


123 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)00時52分40秒

「まだ〜?はやくカンパイしよっ」
「だめだよぉ。このサンタさんと星を飾んなきゃ」
「……」

一度言い出したら市井が何を言っても無駄なことは、これまでつき合ってき
た中で実証済み。
市井はシャンパンが入っているグラスを目の前にしながら、ひたすら待つし
かなかった。

― しっかし、かわいいな。あんなことに真剣になっちゃって。

サンタと星の飾りを手にしながらレイアウトをいろいろ試行錯誤しているそ
の姿は、市井にとってはどうしようもなく可愛いらしい仕草に映るらしい。
このまま黙って見ているのもいいか、なんて思ってしまうほどだった。


124 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)00時53分43秒

「よし!これでオッケー!できたよぉ、いちーちゃん」
「おっ!いいっすねぇ、そのレイアウトはごとーにしかできない!すばらしい!」
「もぉ、いちーちゃん、ごとーのことバカにしてるでしょ!?」
「いやいや、まさか、バカになんて」
「むぅっ…ぜったいバカにしてる、その言い方」

ちょっとからかったつもりだったのに、意外にも後藤が拗ねてしまい市井は焦った。
となりに座らせて頭を撫でて機嫌をとるが、なかなか許してくれない。


125 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)00時54分45秒

「ごめんごめん、そんな怒るなって」
「だって、いちーちゃん…せっかくごとーが飾ったのに…」
「だから、ごめん。でも、バカになんてしてないから。っていうかごとーの
 ことさ…」
「ん?ごとーのこと…?」
「うん……」
「なに?」
「…いや、かわいいなって……ずっと見てた…」

正直な気持ちを白状させられて、市井は照れて真っ赤になる。
後藤も市井の言葉に、嬉しさと恥ずかしさで顔が火照ってきた。
かわいいなんて直接言われたことは、これが初めてかもしれない。

126 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)00時56分32秒

「そ、そんなお世辞言ったって、ダメなんだからぁ…」

後藤が市井の首に腕をまわしてぎゅっと抱きつき、甘えるように首筋に顔を
うずめた。
言葉とは裏腹なその態度に、市井は小さく笑みを浮かべながら背中に手をま
わした。

「どうしたら、許してくれる?」
「…わかってるくせに、いじわる」

甘えたような声が耳をくすぐる。
市井は真っ赤になっている後藤の頬にチュッとキスをした。

「これで許してくれる?」
「…いい、よ」
「なんだか、不満そうだな」
「そんなことないもん」

微笑み合ったふたりはそっと目を閉じて、そして唇を重ねた。


127 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)00時57分20秒

「…んっ?…ごとぉ……」

市井が離れようとしているのに後藤がキスやめない。
それどころか、どんどん深いものにしていく。

「…ちょっ…ごとぉ……」

市井の言葉など耳に入らないのか、深く激しくキスをくり返す。
後藤の方がこんなに積極的なのは初めてだった。

128 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)00時58分15秒

「…どうしたんだよ、…びっくりするじゃんか」

やっと離れた後藤は目を潤ませながら市井を見つめる。

「わかんないけど…、いちーちゃんを全部ごとーのものにしたかったの…」
「……」

言葉の出ない市井。
後藤の方も自然と口から出た自分の言葉に驚き戸惑っているようだ。

静まり返ってしまった時間がやけに長く感じる。
市井は大きく息を吐いて、そしてテーブルの上にあったシャンパンを一気に
飲み干した。


129 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)00時59分09秒

「いちーちゃん!?」
「ったく…、まだ……ないのに」
「えっ?」
「まだカンパイもしてないのに、そういう…」
「え、あっ…」

後藤の背中に市井の腕がまわされて、そしてゆっくり押し倒されていく。
見つめる視線はいつもより熱くて、さっきまで積極的だった後藤もただ市井
を見上げているだけ。
そのぼーっとしている後藤の顔に、市井が徐々に近づいていく。
息がかかるくらいの近い距離。


130 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)01時00分32秒

「いちーは、ごとーのものだよ。いつだってごとーから目が離せないし、
 ごとーの言葉ひとつでめちゃめちゃドキドキしてるんだから」
「いちーちゃん…ほんとに?」
「悔しいけど、ほんと」

照れ笑いを浮かべながら、おでことまぶたに軽くキス。
くすぐったそうに首をすくめる後藤だが、その表情は嬉しくてたまらない
という感じだ。


131 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)01時01分36秒

「ごとーもね、いちーちゃんのものだよ」
「…ほんと?」
後藤が頷きながら市井の手をとり自分の頬に置いた。

「うん、こうしてね、いちーちゃんに触れられるただけで、ごとーは身体中
 が熱くなって、いちーちゃんしか見えなくなるんだもん」
「…ごとー」

たしかに頬に置かれた手には、後藤の熱さが伝わってきて。
市井はその手で後藤の艶っぽい唇をなぞり、そして髪を梳くように撫でた。


132 名前:ツリーにはサンタさん 投稿日:2002年12月24日(火)01時02分28秒

「もっと触れたい…、ごとぉ…いい…?」

「ん…いちーちゃんのものだから、いちーちゃんの好きにして…」


ふたりで過ごす初めてのクリスマスイヴ。
それはケーキより甘くて、キャンドルより熱い、スペシャルな日―。


♪HAPPY MERRY CHRISTMAS♪



〜お・わ・り〜




133 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月24日(火)01時03分47秒

こんな感じで、クリスマスイヴ特別?番外編、終了です。
(なちまり初めて書きました。かなり好きかも…)

134 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月24日(火)01時04分44秒
でも、あまりクリスマスって雰囲気、出せなかったような…
プレゼントの交換も無いし…(書き終わって気づいた)
あと、中途半端で切り過ぎ!?(力量が無いんです…お許しを)
135 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月24日(火)01時05分33秒
読んでくださった方へ

  ♪HAPPY MERRY CHRISTMAS♪


それではまた。
136 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)23時59分58秒
それぞれのイヴの過ごし方がいい!
137 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月25日(水)14時23分21秒
あいかわらず甘いいちごま。
うれしいです。
続きが気になるー!
138 名前:和尚 投稿日:2002年12月25日(水)17時55分08秒
なちまりもいーですね。
初々しくてホンワカとさせられます。
今後の関係が気になる二人です。

最近積極的な後藤さん。
後藤さんに翻弄されつつ受け止める市井さん。
お互いがお互いの事を心から好きというのが感じます。
まさしくケーキより甘く、キャンドルより熱い二人だなと納得しちゃいました。




139 名前:素人○吉 投稿日:2002年12月28日(土)00時55分44秒
ごめんなさい……。
やっぱりいちごまが氏ぬほど好きだと再確認させられました……。

だってなちまり読んだあとにいちごまが来て泣きそになったんだもん!
あまーいいちごまをありがとうございます!
140 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時42分20秒

ゴンゴン―


コンビニの雑誌を立ち読みしていた市井がその音で顔を上げた。
ガラスの向こうでにっこり笑っている待ち人は、顔を真っ赤にし、ハァハァと
白い息をしている。

市井は手にしていた雑誌を元の場所に戻すと、足早に外へ向かった。


141 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時43分03秒

「早かったね」
「うん、こんなに走ったの、中学校のマラソン大会以来かも…」
「ははっ、いい記録でそうだな」
「もぉ…!」

笑いながら二人が歩き出す。
行き先は、近くの神社だ。


142 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時43分44秒

一年の最後の日が、あと1時間弱で終わろうとしている。

大晦日の今日、二人はそれぞれの家族と一緒に過ごした。
特に後藤家は、大掃除、お正月の準備、紅白歌合戦を見てから初詣、というよ
うに、この日は一日中家族で過ごすことが恒例となっていたのだが、そこを後
藤が『初詣だけはいちーちゃんと行かせて』と頼み込んで、今やっと会えたの
だった。


143 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時44分55秒

「よかった、まにあって…」
「ん…?」

つながれている手にぎゅっと力がこもる。
後藤が立ち止まって、市井の方を見た。


「誕生日おめでとう!いちーちゃん」
「あ、うん。ありがと」

そう、後藤がどうしても今日市井に会いたかったのは、今日が市井の誕生日だ
からだ。
おめでとう≠ニいう言葉だけは、どうしても直接顔を見て言いたかったのだ。


144 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時46分11秒

「でも、プレゼントね、間に合わなかったの…。ごめんね、いちーちゃん」
「え?」

「帽子、編んでたんだ。がんばったんだけど、完成できなくて。今日、渡した
 かったんだけど…ごめんね」
「ごとー…」

ほんとにすまなそうな顔をして謝る後藤を見て、市井は胸が熱くなった。

いつもいつも後藤にはあたたかいものをもらってばかり。
自分は後藤に…ちゃんと同じようにあげているのだろうか。



145 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時47分14秒

「どうかした?いちーちゃん」

黙ってしまった市井を心配そうにのぞき込む。

「ごとー…」
「え?あっ…」

肩をつかまれたかと思うと、そのまま市井の腕の中に引き込まれ包まれる。
突然のことに戸惑って何も言えないでいると、市井の声が耳元で聞こえてきた。


146 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時48分04秒

「ありがとう、ごとー。最高の誕生日だよ」
「え…」
「ごとーとさ、こうして一緒にいるってことが最高に幸せなんだ」
「いちーちゃん…」

市井の顔を見ようとして後藤が少し身体を離そうとするが、市井は強く抱きし
めたまま緩めようとしない。
ますます力を込め、そして言葉を続けた。


147 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時49分08秒

「こんなに幸せもらって…、いちーはさ…いちーはごとーに…」
「いちーちゃん…?」
「ごとーに…」

言葉につまった市井をフォローするかのように後藤が続けた。

「ちゃんともらってるよ、たっくさん」
「え…?」

市井の腕の力がすっと緩む。
そして二人が顔を見合わせた瞬間、後藤がチュッと軽くふれた。

「やさしさも、あたたかさも、しあわせも、いっぱいもらってる」
「ごとー…」

後藤の言葉に感極まって、胸に熱いものが込み上げる。
それを必死に堪えていると、後藤がまたチュッとキスをした。

「キスもいっぱいもらってるしね!」

そう言って満面の笑顔を向けられたから、市井も笑い返すしかない。


148 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時50分22秒

でも、なんとなく悔しくなった市井は顔をぐっと近づけていって―。

「キスだけでいいの?」
「へ…?」

突然せまられ、どぎまぎする後藤。
形勢は一気に逆転していた。

「もっと、あげたいんだけどなぁ、夜は長いし」
「な、なに言って…そんなの…」
後藤が恥ずかしそうに目を逸らす。

「そんな顔されると、尚更そそられるし」
「……」

真っ赤になった後藤の頬にチュッとキス。


149 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時51分12秒

「行こっか」
「え…?ど、どこに?」
「どこって、神社」
「…神社?」
「うん」

初詣という本来の目的を思い出して、ああ≠ニ納得する後藤。

「あっ、もしかして違うとこ考えてた?」
「そ、そんなことないもん!もぉ、いちーちゃんのイジワル!」

逃げる市井を後藤が拳を上げて追いかける。
傍から見ればねイチャイチャしているようにしか見えないのだが。


150 名前:最高の誕生日 投稿日:2002年12月31日(火)00時52分02秒

「ははっ、ごめんごめん。さっ、行こっ!」
市井が手を差し出した。

「うん!」
後藤がその手をしっかりと握る。


神社までの長い道のり。
仲良く手をつないで歩きながら、二人は新しい年を迎えた。


♪Happy Birthday and Happy New Year♪



〜お・わ・り〜
151 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月31日(火)00時53分07秒

誕生日特別?番外編終了です。

いちーちゃんの誕生日ということで、またまた書いてしまいました。
突然思い立ったので急仕上げで申し訳ないのですが…。
自己満足です、はい。 『いちーちゃん、おめでと〜!!』
152 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月31日(火)00時54分35秒

レスありがとうございます。感謝!

>136 名無し読者さん
それぞれの違い、出てましたか?よかったです。
基本はどっちも甘いですが。
誕生日もやっぱりあまく!

>137 名無し読者さん
作者の願望でクリスマスはますます甘く。
続きは…、たしかに気になりますよね。
想像してください。
153 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月31日(火)00時56分33秒

>138 和尚さん
そうですね、なぜか積極的になっている…、今回のも。
このままだと、いちーちゃんが負けてしまう!?
なちまりは好きなので、一度書きたかったんです。
今後の関係は…今後も仲良くやっていくでしょう。

>139 素人○吉さん
いちごまへの愛を再確認!!
クリスマスにあわせて急いで仕上げたのですが、
楽しんでもらえてよかったです。
誕生日編も急仕上げで短いですが…どーぞ!



では、みなさん、よいお年を!




154 名前:和尚 投稿日:2002年12月31日(火)21時30分21秒
誕生日編、二人の想いが素敵すぎて心が温かくなりました。
いい年を迎える事ができそうです。
ありがとうございました。
155 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月01日(水)17時55分53秒
新年早々の甘いいちごま、よかったです。
続編希望!
156 名前:素人○吉 投稿日:2003年01月03日(金)12時30分08秒
遅れたーっ(><)
けれど、実際大晦日はふたり一緒に過ごしたんだろうなぁ、とドキドキしたり。
今年もマーチ。さんの作品にしっかりついていきたいと思います。
157 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月08日(水)19時42分16秒
番外編『初恋』
さやまりです。
158 名前:初恋 投稿日:2003年01月08日(水)19時43分24秒

春、4月。
桜の花びらがヒラヒラと舞い散る中、市井紗耶香は文武両道で有名な私立の女
子高に入学した。

紺のベストにチェックのスカート。
真新しいその制服は、細身の市井によく似合っている。


159 名前:初恋 投稿日:2003年01月08日(水)19時44分23秒

「紗耶香はやっぱりソフトボール部?」
「うん、もちろん。圭ちゃんは?決めたの?」

圭ちゃんと呼ばれたのは保田圭。
市井の中学時代からの友達で、何でも話せる間柄だ。

「んー、吹奏楽部にしようかなって思ってる。ちよっと興味あったんだよね」
「へー、そうなんだ」

新入生である二人は、放課後、校内や中庭を歩き回りながら、どこの部に入部
するかを話していた。
どうやら市井は中学時代から活躍していたソフトボール部に、保田は楽器に興
味を持っていたことから吹奏楽部に決めたようだ。


160 名前:初恋 投稿日:2003年01月08日(水)19時45分15秒

「でもさ、部活が始まったら、あんまり遊べなくなるなぁ、圭ちゃんとも」
「なによ〜、寂しいの?」

保田がからかいながら腕を組む。

「寂しいのは圭ちゃんでしょ〜?」
「な〜に言ってんのよ、あたしは…」

そう言いかけたところで、誰かの声が後方から聞こえてきた。


161 名前:初恋 投稿日:2003年01月08日(水)19時46分12秒

「あの、市井さん…」
「えっ?」

呼ばれて振り向くと、そこには一人のかわいらしい娘が立っていた。
緊張しているのか、顔を真っ赤にして俯いている。

「ちよっと、いいですか…、時間…」
「え、ああ、うん…えっと…」

市井がしどろもどろになりながら保田に視線を向けた。

「あっ、じゃあ、あたし先行くわ。またね、紗耶香」
「えっ、ちよっと、圭ちゃん…!」

この先の展開を悟った保田が、気を利かしてその場を立ち去る。
中学時代から何度も経験してきたことなので慣れたものだった。


162 名前:初恋 投稿日:2003年01月08日(水)19時47分08秒

「ずっと好きでした、市井さんが」

そのかわいい娘は、真剣な面持ちで市井に告白した。
中学の頃からずっと好きだったこと。
市井を追ってこの高校に入ったこと。

入学してまもなく2週間。
これで何人目だろうか。
市井は、同学年の娘はもちろん、先輩からもたくさん声をかけられていた。


163 名前:初恋 投稿日:2003年01月08日(水)19時48分04秒

「そんなふうに想ってくれるのは嬉しいけど、ごめん」

こうして断った回数も数知れない。

別に同性同士に偏見を持っているわけではない。
むしろ、かっこいい先輩に憧れたり、かわいい娘を見てドキッとすることが
度々あるくらいだった。

でも、市井はまだ恋をするという気持ちを知らない。
ときめくような出会いを経験したことがなかった


164 名前:初恋 投稿日:2003年01月08日(水)19時49分38秒

「圭ちゃーん、ちょっと待ってよー!」

市井が先を歩いている保田を追いかける。
気がついた保田がやれやれという顔で立ち止まった。

「終わったの?告白タイムは」
「ん…」
「かわいい娘だったのに、また断ったんだ」
「だって、べつに、会ったばっかだし、好きとか言われてもさ…」
「会って、話して、ドキッとしなかった?」
「…しない」
「そっか…」

中学時代からボーイッシュでかっこよかった市井は、校内ナンバーワンと
言われるような女子生徒にも好かれ、男子たちからはいつも羨ましがられ
たものだった。

でも、市井の心を射止めた人はまだいない。


165 名前:初恋 投稿日:2003年01月08日(水)19時50分36秒

「じゃ、市井はこれから入部届出してくるよ」
「うん、それじゃ、また明日」
「バイバイ、圭ちゃん」

手を振りながら走っていく市井の姿は、さわやかでかっこいい。

そんな市井をずっと見てきた保田はふと思う。
市井が好きになる人って、どんな人なのだろうと―。



166 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月08日(水)19時53分03秒
更新しました。
次から矢口さん登場します。

レスありがとうございます。感謝!

>154 和尚さん
今回、いちごまではありませんが…よければのぞいてください。
作者フリー短編集にもレスをいただき、ありがとうございました。

>155 名無し読者さん
続編ですか…さやまり編が終わったら考えますね。
レスありがとうございました。

>156 素人○吉さん
今回、いちごまではありませんが…
なぜか書いてみたくなって…よければのぞいてください。

同板の作者フリー短編用スレにちょこっと書かせてもらいました。
『キミを待つ』というタイトルのいちごまです。
167 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月09日(木)18時01分46秒
さやまり待ってました!!
矢口さん登場楽しみです。
168 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月09日(木)23時15分34秒
さやまり始まりましたね〜。
楽しみにしてますので、頑張って下さい!
いちごまはマターリ待ってます。
来月はバレンタインもありますしね(w
169 名前:和尚 投稿日:2003年01月09日(木)23時35分05秒
市井さん、モテモテですなぁ(笑)
そんな市井さんが恋に落ちる瞬間が楽しみです。
更新楽しみに待ってます。

作者フリー・・・やっぱりマーチ。さまでしたか!
読んでる時に「この作品、マーチ。さまに似てるなぁ・・・」って思ってたんですよ。
でも、間違ったら恥ずかしいので名前は書かなかったんですけど(苦笑)
170 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月10日(金)05時46分31秒
保田は矢口より年下なのか(w
171 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月10日(金)11時10分03秒
さやまり楽しみでした!
ごまには悪いけど(w
172 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時17分03秒

月が変わり、さわやかな風が舞う季節。
市井は大会に向けて練習に励む毎日を送っていた。
もともと運動神経がいい上に、人一倍練習熱心。
めきめき力をつけ、1年生ながら春季大会のレギュラーの座をつかんだ。
入部して間もないにもかかわらず、先輩からも頼りにされるほどの存在になっ
ていた。

練習中のグランドの周りはいつも騒がしい。
市井めあての女の子が毎日のようにやって来て、キャーキャー黄色い声援を送
っているからだ。
元々もてていた市井だが、噂が噂を呼んで市井のファンは日に日に増えていった。


173 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時18分03秒

その黄色い声援は試合になると倍増した。

『3番 セカンド 市井』
アナウンス後の声援はまた一段と大きい。

この日は春季大会の地区予選、準決勝。
1点ビハインドのまま9回の裏を迎え、1アウト2塁の場面で市井に打順が回
ってきた。

大きな歓声の中、緊張した面持ちでバッターボックスへ向かう。
いくら市井でもこの場面では荷が重いのだろう、バットを持つ手が少し震えて
いた。
174 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時19分20秒

市井の登場で歓声がわき上がる3塁側のスタンド。
その中から一際大きな声援が響き渡ったのは、市井がバッターボックスに入る
直前だった。

「いちいーっ! がんばれーーっ!!」

あまりの声の大きさに思わず振り返った市井が、その方向へ視線を向ける。
そこにいたのは、威勢良くこぶしを振り回している小柄な女の子だった。

― ははっ、元気な娘だなぁ。一人だけめっちゃ目立ってるよ!
思わず笑みがこぼれ、緊張で強張っていた顔が緩む。
これまでもたくさん応援の声は聞こえてきたが、こんなにストレートに届いた
のは初めてだった。

― よしっ、がんばるぞっ
その声援に応えるべく気合いを入れ直す市井。
バッターボックスで構える姿は闘志がみなぎっていて、さっきまで緊張で震え
ていたのが嘘のようだ。

175 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時21分00秒

ツーストライクワンボールからの4球目。
甘く入ってきた高めの直球を市井は見事センター前に打ち返し、タイムリー
ヒット。
ベンチもスタンドも大騒ぎだ。


セカンドベース上に立つ市井が、滑り込んだときについた土をほろいながら、
視線をスタンドに向ける。
たくさんの女子高生で埋め尽くされている中、さっきの女の子とばっちり目が
合った。
その瞬間、市井の顔が綻ぶ。

― あの声援のおかげで打てたよ、ありがとう!

市井が小さくガッツポーズを向けると、その娘もにっこり笑いながら大きく手
を振った。

176 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時22分05秒

劇的な逆転勝ちだった。
盛り上がった部員たちは、試合後、行きつけのお好み焼き屋さんで祝勝会。
部員以外にも応援に来ていた生徒たちが何人か参加した。

その何人かの中に、あの小柄な女の子がいることに市井が気づく。
― あっ、あの娘だ!近くで見ると本当にちっちゃいなぁ…

「大谷先輩、あそこにいる背の小さい人、誰っすか?」

市井が声をかけたのは、たまたま近くにいた2年生の先輩だ。

「あー、矢口だよ。うちのクラスの矢口真里」
「うちのクラス…って、えっ、年上だったのか!?」

見た目から年上だとは思っていなかった市井は驚いて声を上げた。

177 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時23分00秒

「なになに〜? 市井の好みはああいうタイプなのか〜?」

珍しく市井が関心を示しているのを見て、大谷がからかいながらつっこんできた。

「そっ、そんなんじゃないっすよ! さっき、スタンドで応援してくれたから、
その…、誰なのかなって…べっ、別に、好みとか…そういう…」

どんどんしどろもどろになっていく市井。
なんでこんなに必死に弁解しているのか、自分でもよくわからなかった。
178 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時24分11秒

「わかったわかった、そんなにむきにならなくていいって!」
「べ、べつに…むきになんて…」
「矢口〜! ちょっとこっちに来て…」
「へっ!?ちょ、先輩!!」

市井があわてて大谷の口を抑えようとしたときにはもうすでに遅く、気づけば
隣に矢口が来ていた。

「なにー? 呼んだー?」
「ああ、こいつ市井紗耶香。知ってるよね」
「うん、もちろん!今日大活躍だったじゃん!」
「そうそう、うちの期待の星なんだよね。かわいがってやってよ」

そう一方的に言ったかと思うと、そのまま大谷は違うテーブルへ行ってしまった。
179 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時25分19秒

「ちょっ、ちよっと、先輩!」

背中に呼びかけても戻ってきてくれるはずはなく、そこに市井と矢口だけが取
り残されてしまった。
急に二人きりにされ、頭を掻きながらおろおろする市井。
矢口に聞こえてしまうのではないかと心配になるほど心臓がドキドキして、顔
が真っ赤だ。

そんな余裕のない市井を見て、矢口がくすくすと笑う。

「どうしたの? 試合のときと随分ちがうね」
「は、はあ…」

返事さえもまともにできないほどの緊張。
もちろん顔も見ることができず、あやふやに視線を泳がせてしまう。


180 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時26分31秒

「なんだよお、テンション低いじゃん。今日のヒーローでしょ!」
「そ、それは…、先輩のおかげです。えっと、応援、ありがとうございました」

それだけ言うのも精いっぱい。
市井は顔を真っ赤にしながら頭を下げた。

「あっ、やっぱりあのときの聞こえてたんだ!?ごめんね、大っきな声で呼び
 捨てにしちゃって」
「いいっすよ。先輩ですから。なんて呼ばれようと」
「そお?じゃあ、名前で呼んじゃおうっと。紗耶香!かっこよかったよ!」
「えっ、…あっ、ありがとうございます」

紗耶香と呼ばれた瞬間、胸が大きくドキンと鳴った。
名前なんて友達に呼ばれ慣れているはずなのに、矢口の声が頭から離れない
181 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時27分31秒

「決勝戦もがんばってよ! ホームラン打て!」
「は、はい、がんばります。あっ、決勝も来てくれるんですか?」

それは来て欲しいという言葉と同じ意味だとは気づかずに、市井は目を輝かせ
て矢口を見た。

「んー、それが来週はちょっと行けないんだよね」
「そう…、ですか」

声のトーンが急に下がる。
あからさまにがっかりする市井を見て、矢口がまたくすくすと笑った。
182 名前:初恋 投稿日:2003年01月13日(月)20時28分48秒

「なに〜、矢口に応援してもらいたいの?」
「えっ…は、はい。先輩が来てくれたら、今日みたいに打てるような気がして」

「嬉しいこといってくれるね。じゃあ、勝ったらお祝いしてあげる!」
「へ?お祝い?」

「うん、矢口の行きつけのお店に連れてってあげるよ!」
「ほ、ほんとですか?」

「とっておきの所だよ!二人で行こっ!」
「は、はい…市井、がんばります!」

まるで自分を特別に扱ってくれたかのような言葉が嬉しくてたまらない。
そのとき矢口に向けた市井の笑顔は最高のものだった。


そんな二人の様子を遠くから先輩たちがにやにやしながらを見ていた。


183 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月13日(月)20時30分15秒
更新しました。

レスありがとうございます。感謝!

>167 名無し読者さん
待っててくれた方がいたなんて感激です。
意欲がわきました。

>168 名無し読者さん
さやまり待っていてくれたんですかー、がんばります。
バレンタイン…そうですね、考えておかなくては。

>169 和尚さん
市井ちゃんはかっこよくてモテモテです!基本です!?
でも、案外簡単に矢口さんにおちてしまいました。
作者フリー…ぱれるとは…

>170 名無し読者さん
はい、年齢設定は軽く見過ごしてやってください。

>171 名無し読者さん
さやまり、楽しんでもらえるようにがんばります。
ごまはまた出てくると思うので今回はお休み。
184 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月13日(月)20時45分44秒
なんだか市井ちゃん、かわいいなぁ。
続き楽しみにしてますので、頑張って下さい!
でも、青板の方も気になる(w
185 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時29分29秒

「市井〜、きのうどうだった〜?」

翌日の放課後のこと。
練習が始まる前、先輩の大谷が意味ありげに擦り寄ってきた。

「えっ? なんですか?」

なんのことかはすぐにわかったのだが、市井はとりあえずとぼけることに。

「またまた〜、先輩をはぐらかそうとするなんて、いい度胸じゃん」
「べ、べつに、そんなつもりは…」

と言いながらはぐらかそうとする市井。
でもやっぱり先輩にはかなわなかった。

「矢口とどうなったって、聞いてんだよー!」
「ぐぇっっ…」

突然、羽交い絞めにされ技をかけられる。
先輩には絶対服従の運動部。
市井が観念して喋りだした。
186 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時31分13秒
「…痛いっす、先輩…。別に、どうもなってないです、ほんとに。ただ…」
「ただ?」
「えっと…今度の試合に勝ったら、…お祝いを…んと…ふたり…」

はっきりしない市井に、大谷がまた大きい声を出した。

「はっきり言えー!」
「は、はいっ!今度勝ったら、お祝いしようって、約束しました!」

市井の背筋がピンと伸びる。
187 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時31分55秒

「お祝い?」
「はい…」
「二人で?」
「は、はい…」
「やるじゃんか、市井!」

大谷が市井の背中をバシッと思い切り叩いた。

「…っく…痛いっす…先輩…」

背中をさする市井に、大谷は声をひそめて話し出した。
188 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時32分56秒

「矢口さ、可愛いし賢いし、1年の時からすごくもてたんだけど、ずっと断っ
 てるんだ…だれともつき合ってないんだよ…」
「…そうなんですか」

市井も神妙な顔つきに。

「なんか訳ありなのかなって、うちら心配してたんだ。うん、だから市井!
 おまえ、がんばれ!」

言いながらバシッとまた思いっきり市井の背中を叩いた。

「痛っ…え、ええ!?がんばれって…」
「矢口が好きなんだろう?」
「へ?…なんで…そんな…」

ストレートな質問に言葉がつまる。
でも、すぐに否定できないことがもう…。
 
189 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時33分52秒
「だって、誘われて嬉しかったんだろ?」
「えっ…」

嬉しい…?
誘われたときの自分は…、そうだ…たしかに…。

「はっきりしろ!矢口が気になってるだろ?」
「は、はい…」

迫力に負けたわけでは決してない。
きっと、それが本心。


大谷がにんまりとして顔でよしよしと頷いた。



190 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時34分36秒

「とうとう落ちたか、紗耶香も」
「やっぱ、そうなのかな…」

その日、部活を終えた市井は保田の家に来ていた。
混沌としたこの自分の気持をどうにかしたいと思ったとき、保田の顔が浮かん
できたのだった。

「まさか一目惚れするとはね」
「あっ、…そういうことになるのか」
「それも、年上って…ほんと、あんたには驚かされるわ」
「ん…自分でも驚いてる…」


191 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時35分19秒

ほんとに驚いていた。
会ったばかりでまだ何もわからない人のことをまさか自分が…。

でも、目を閉じれば浮かんでくるのは彼女のことばかり。

スタンドでこぶしを振り回していた元気のいい彼女。
だれよりも大きな声で応援してくれた彼女。
紗耶香≠ニ名前を呼んでくれた彼女。
とっておきの店に連れてってあげると約束してくれた彼女。

たった一日しか会っていないのに、彼女のいろんな表情が浮かんでくる。
そして、思い浮かべるたびに、胸がどきどきしている自分がいる。
こんな経験は初めてだった。


192 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時36分09秒

「つき合ってる人がいない今がチャンスだね。告るしかない!」
「ええっ!無理だよ…そんな…」

「なんでよ?」
「だって…、ただ一緒にいるだけですっごくドキドキして…。告白なんて、
 絶対無理!」

何でも起用にこなしてしまう市井がここまで弱気なのは珍しい。
頭を抱えている市井を見て、保田は思わず笑ってしまった。


193 名前:初恋 投稿日:2003年01月16日(木)21時37分12秒

「なっ!笑うことないじゃんかー、ひどいよ、圭ちゃん」
「いや、ごめんごめん。まっ、とりあえず決勝戦を勝つことね。二人でお祝い
 ってのを実現しなきゃ」
「うん、それはもちろん頑張るよ!」

市井の中にめばえた熱い想い。

その想いを伝える日は、まもなくやってくる―。


194 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月16日(木)21時38分22秒
更新しました。

レスありがとうございます。感謝!

>184 名無し読者さん
そうですね、かなり初々しいいちーちゃんです。
矢口さんの前ではとくに。
青の方、もう少しお待ちください。
両方読んでもらえて嬉しいです。
195 名前:和尚 投稿日:2003年01月17日(金)11時53分04秒
大谷先輩に羽交い絞めされる市井さんが面白いッス。
弱気な市井さんも見てて新鮮♪
保田さんとシンクロしてしまいました(笑)

続きが楽しみです。
196 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)18時51分36秒

「カンパーイ!」

市井の実力なのか、矢口のパワーなのか。
決勝戦で、市井は見事にホームランを打った。
そして、約束どおりその日の夜、矢口の行きつけの店に連れてってもらうこと
ができたのだった。

そこは矢口の親戚が経営している店で、焼肉屋とは思えない洒落た構えと内装
をしていた。
客層も若いカップルが断然多い。
そのカップルのひとつに、矢口と市井の姿があった。


197 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)18時52分38秒

焼肉を頬張りながら、二人は試合の話題で盛り上がっていた。
まるで以前からの友達のようにすっかり打ち解けており会話もはずむ。

「それにしてもすごいじゃんかぁ、紗耶香。ほんとにホームラン打つなんてさ!」
「先輩のおかげですよー。お祝いしてもらうために、がんばったっす!」
「よしよし、よくやった!」

矢口が市井の頭をくしゃくしゃと撫でた。
矢口にしては何でもないことでも市井にしてみればそうではない。
触れられた瞬間、心臓がドキンと鳴って身体が固まってしまった。

198 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)18時53分49秒

「どうしたの?ぼーっとして。あっ、もしかして疲れてる?誘って悪かったかな?」
「そ、そんなことないです!全然疲れてないし、誘ってくれてすごく嬉しいし…
 先輩と話したかったし…」

矢口の勘違いをあわてて否定する市井の顔は真っ赤だ。
そんな市井を見て、矢口がくすくす笑った。

「紗耶香、かわいい…」
「へっ?先輩、もう酔ったんですか?」

お祝いだからといって、1杯だけビールを飲んでいた。
すでに矢口の頬はほんのりと赤い。
199 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)18時55分16秒

「紗耶香こそ、酔ったでしょ!?顔が赤いぞ〜!」

そう言いながら、市井の頬を両手ではさむように触れた。
確かに赤くなってるけど、それはアルコールのせいなんかじゃない。
市井の頬は、矢口の手のひらの中でますます赤くなる。

「せ、先輩!肉、こげますよ!肉!早く食べなきゃ…」
「あっ、ほんとだ」

頬から消えてしまった矢口のぬくもり。
ほっとしたけど残念でもあって、なんとも複雑な思いの市井だった。
200 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)18時56分31秒

これ以上食べられないというくらいたくさん食べ、これ以上楽しかった時間は
最近無いというくらい楽しい時間を過ごし、二人が店を出たときにはすっかり
暗くなっていた。

まんまるい月が輝いている帰り道を二人で並んで歩く。
酔って火照った頬に、夜風が気持ちよかった。

「でも、残念だなあ。先輩に見てもらいたかったですよ、ホームラン!」
市井がバットを振る真似をしながら言った。

「うん、見たかったぁ!」
矢口も同じようにバットを振る真似をした。

「遊びに行ってたんですか?」

それは深い意味は無く、話の流れで自然に出た言葉だった。
まさかあんな答えが返ってくるとは夢にも思わずに。


201 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)18時58分07秒

「んー、矢口ね、今日、デートだったんだ」
「えっ…!」

唐突に出たデートという言葉に、市井は息を飲んだ。
立ち止まったその場所から一歩も動けなかった。

そんな市井に柔らかな微笑みを向けながら、矢口がぽつりぽつりと語りだした。

「最初で最後のだけど、ね…」
「えっ…?」

「ふられちゃった、今日」
「………」

「入学したときからね、裕ちゃん、じゃなかった中澤先生が好きだったんだ…」
「えっ!?先生を…?」

好きな人がいたという事実だけでも十分ショックだったのに、その相手が教師
だとは。
目を丸くしている市井に、矢口は語り続ける。


202 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)18時59分28秒

「去年は担任だったから毎日会えて、それだけでよかった。でも2年になって
 からはなかなか会えなくなって、想いが募っちゃってさ…」

誰ともつき合わないんじゃなかった。
先輩には、ちゃんと好きな人がいた。

「それで、告白したんですか?それが今日?」
「うん…勇気振り絞ったんだけど、ふられちゃった…かわいい生徒以上には思
 えないって…」

目を伏せて黙ってしまった矢口。
市井はどうしていいかわからず、ただじっとその横顔を見つめていた。
気の利いた言葉をかけられない自分に歯がゆさを感じながら。  


203 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)19時01分23秒

「あっ、ごめん。お祝いの日にこんな暗い話。矢口、酔ったのかな…」
「い、いえ…こっちこそ、そんな日にお祝いしてもらって…すいません」
「そうじゃないよ。こんな日だから、紗耶香と一緒でよかった。ほんとに、
 ありがとね」

矢口が市井に微笑みかける。
月明かりに照らされたその笑顔はどこかせつなくて、市井は息が詰まりそうに
なった。

「そんな心配そうな顔しなくていいよ。矢口は大丈夫だから!」

明るい声、明るい笑顔。
けれどそれは作られたもの。
無理をしていることが市井にはわかってしまう。

―先輩こそ、そんな笑顔やめてください!

「先輩…」
「ん?なに?」

市井の方を見てにこっと笑いかける矢口。
が、市井は真剣な表情を崩さなかった。
204 名前:初恋 投稿日:2003年01月17日(金)19時02分40秒

「…こういうとき、なんて言ったらいいのかわかんなくて…、自分が情けない
 です。先輩を元気にしたいのに…先輩の笑顔を本物にしたいのに…」

矢口を見つめるまっすぐな瞳。
その瞳に吸い込まれるかのように、矢口が少し背伸びをしながら市井の首に腕
をまわしてぎゅっと抱きついた。

「えっ…あ、あの…」

「紗耶香…なにも言わなくていいよ。言葉はいらないから…」


明るい月の光が重なり合った二人の影を映し出す。
一つになったその影はいつまでも離れることはなかった。



205 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月17日(金)19時04分46秒
更新しました。

レスありがとうございます。感謝!

>195 和尚さん
弱気ないちーちゃんは確かに新鮮。
でも、やるときゃやります!
次はビシッと決めてくれるはず。


次で『初恋』は終わります。

206 名前:和尚 投稿日:2003年01月18日(土)13時48分33秒
矢口さんの為に一生懸命になってる市井さんカッコイイッス。
そんな一生懸命になってる市井さんに矢口さんは惚れたんでしょうね。
矢口さんの重い過去でちょっとホロっときました。
207 名前:初恋 投稿日:2003年01月19日(日)22時03分18秒

どのくらいそうしていたのだろうか。
矢口は市井の胸に顔をうずめて目を閉じ、市井は突然のことに何も反応できず
立ちすくんでいた。

「あの…、先輩…?」
「もう少し、このままでいさせて…」
「…は、はい」

柔らかな感触とほのかな香りが市井を刺激する。
行き場のなかった手がためらいがちに背中に回った。


208 名前:初恋 投稿日:2003年01月19日(日)22時04分25秒

「紗耶香の心臓、すっごくドキドキしてるよ…」
「え、それは…こういう状況、初めてで…」

「そうなんだ。意外だな、もてるのに」
「そんなこと、ないですよ」

「うそつき、たくさん告られてるんでしょ?かっこいい1年生がいるって、
 みんな噂してたよ」
「…いや…そんな…」

「もう、離れてほしい?」
「…い、いえ」

背中にまわしている腕に力がこもる。
矢口への想いが確かなものへと形を成していった。

「もっと、強く…」
「はい…」

そのまま二人はずっとお互いのぬくもりを感じていた。

209 名前:初恋 投稿日:2003年01月19日(日)22時05分27秒

「ありがと。紗耶香から元気もらっちゃった」

矢口がゆっくりと身体を離し、市井に笑顔を向ける。
今度は心から笑っている顔だった。

「また、矢口が弱ったとき、お願いしようかな」
「こんなんでいいなら、いつでも言ってください」

照れくさそうに、市井が前髪をかき上げた。

「ふふっ、紗耶香って、ほんと、かっこいいね」
「へっ…」

「それにやさしいし…」
「そんなこと…」

「矢口、惚れちゃいそう」
「えっ……」

それはきっと軽い冗談。
冗談だとわかっていても、胸のドキドキは激しくなり、汗がにじんでくる。
210 名前:初恋 投稿日:2003年01月19日(日)22時06分26秒

「好きになってもいい?」
「………」

それもきっと冗談なのだろう。
それでも見上げたその目が何よりも澄んでいたから、触れたいという思いが湧
きあがる。

「先輩……」

市井の右手が矢口を求めて動く。
その瞬間、矢口がくるりと背を向けた。

「あはっ、ごめんごめん。紗耶香のファンに殺されちゃうね」


211 名前:初恋 投稿日:2003年01月19日(日)22時07分26秒

「………いい、ですよ」

「え?」

「好きになってください…」

背中を向けていたから、言えたのかもしれない。

「市井は、先輩が、好きです」


飾らない素直な言葉は、矢口へ向かって真っ直ぐに届けられた。


212 名前:初恋 投稿日:2003年01月19日(日)22時08分31秒

「えっ……」

矢口が驚いて振り返ろうとしたそのとき、ふわっと後ろからやさしく包まれた。

「こんな日に言うべきことじゃないって、わかってるけど…」
「ちょ、ちょっと、紗耶香…」

「だめですか…市井じゃ」
「……冗談…でしょ?」

腕の中の温かさは本気だということがわかる。
市井が真剣だということはその表情でわかる。
それでも―。

市井がどんなに人気があるか知っていたし。
ましてや教師に振られた話を語った後に告白だなんて。
どうしても本気で受け止めることができなかった。


213 名前:初恋 投稿日:2003年01月19日(日)22時09分36秒

「冗談に聞こえました?」
「…ううん、聞こえないけど、そうとしか思えなくて」

市井が抱きしめていた腕を解いて、矢口を振り向かせて真っ直ぐ見つめた。

「冗談なんかじゃないのに…どうしたら、本気にしてもらえるのかな」
「どうしたらって…だって、矢口たち、知り合ったばっかりだよ。お互い何も
 知らないし…」
「そんなの、これから分かり合っていけばいい…」

熱い想いを伝える術を知らなくて、ただぎゅっと抱きしめる。

「…矢口のどこが好き?」
「え…んーと、市井を元気にしてくれるところ」
「それは逆だよ。紗耶香が矢口を元気にしてくれたんじゃん」
「じゃあ、お互いに必要な存在ということで!」

市井がおどけたように笑いかけると、矢口もにっこり笑った。


214 名前:初恋 投稿日:2003年01月19日(日)22時11分04秒

「矢口でいいの?」
「先輩じゃなきゃだめです!」

「紗耶香、もてるじゃん?」
「先輩以外にもてたって、うれしくないです!」

「そばに、いてくれるの?」
「ずっといます!」

「そんなこと言われたら、矢口、本気になるよ?」
「だから本気だって言って…!」

矢口の唇が触れた。
目を閉じる間もない一瞬のキス。


突然はじまった恋だった。


それが市井紗耶香の初めての恋―。



 〜お・わ・り〜



215 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月19日(日)22時12分14秒

更新しました。
さやまり番外編『初恋』終わりです。

レスありがとうございます。感謝!

>206 和尚さん
最後はかっこよく決めたいちーちゃんでした。
微妙に年上の矢口さんにリードされながらですが…。
いちごまじゃないのに読んでくださって嬉しいです。
216 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月19日(日)22時13分27秒

これからは青の方を進めていこうと思います。(更新遅れ気味…)

最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。


それでは。
217 名前:和尚 投稿日:2003年01月20日(月)00時04分55秒
更新お疲れ様でした。
少年のような市井さんを少しずつ受け止めていく矢口さん。
市井さんと接する矢口さん大人だわ♪
今はお友達になってしまったけど、
矢口さんと接する時の市井さんはこんな感じなんでしょうね(笑)

218 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月20日(月)20時06分36秒
番外編完結、お疲れ様でした。
ちょっと背伸びしてる市井ちゃんが可愛いですね〜。
マーチ。さんのお話は、心が暖まります。
次作も期待してます。スレもまだ残ってますしね(w
青の方もマターリお待ちしてますので、頑張って下さい。
219 名前:マーチ。 投稿日:2003年02月13日(木)19時39分45秒
レスありがとうございます!感謝!

>217 和尚さん
遅くなりましたが、レスありがとうございます。
いちーちゃんの少年ぽさ、伝わりましたか。
これを書いてわかったこと。
さやまりは好きだけどやっぱり…

>218 名無し読者さん
遅くなりましたが、レスありがとうございます。
心が暖まるなんて、嬉しすぎます。
ご期待に応えられるかわかりませんが、いちごま書きました。
またまた季節ネタです。
220 名前:マーチ。 投稿日:2003年02月13日(木)19時40分40秒

いちごまバレンタイン編です。


221 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時41分49秒

その日、学校から早めに帰宅した二人は、試験に備えて後藤の部屋で勉強して
いた。
学年末に差し掛かり、普段はのんびりしている後藤もさすがに本気。

テーブルには参考書や問題集、ノートなどが所狭しと広げられ、その合間合間
にお菓子や飲み物が置かれている。

普段は賑やかな音楽を流しているコンポも今日は一休み。

二人は向かい合わせに座り、真剣な面持ちでペンを走らせていた。



222 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時42分54秒

しばらくたって、市井がウーロン茶のペットボトルに手を伸ばした。
飲みながらふと後藤の方へ眼を向けると、後藤は頬杖をつきながらノートにす
らすらと答えを書き込んでいる。
いつもならそろそろ居眠りをしているころなのに、今日はそんな素振りはまっ
たくない。

随分真剣じゃんか、ごとー。
そんな顔、あんまり見たことないぞぉ。

後藤の気を引きたくなった市井は、持っていたペットボトルをわざと大きな音
をたてて置いてみた。

ドンー



223 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時43分50秒

後藤は特に気にすることもなく、数学の問題を解き続ける。
ちょっとでも眼が合うことを期待していた市井は不満顔。

なんだよ、無視かよ。
そんなに集中してんのかぁ。

市井の頭の中は目の前の数学の問題ではなく、だんだん後藤で占められ始めて
いた。
普段めったに見られない真剣な表情が色っぽく映って、ちょっとドキドキして
きたりもして…。


224 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時45分08秒

やばい、なに考えてんだろ、勉強中に…。

市井が雑念を払うかのように自分の頭を2、3度叩き、問題集を開きなおした。
そしてそれに集中しようとしたのだがダメで、どうしても後藤を見てしまう。

うっ、いまの仕草めっちゃかわいい…。
ちょっとやばいかも…

サラサラの長い髪を耳にかけ、ちょっと眉間にしわを寄せながら問題を解くそ
の姿に、とうとう市井は我慢できなくなった。


225 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時46分07秒

「ん〜、疲れたなぁ…。ちょっと休憩しよ?」

市井が大きく伸びをしながら声をかけるが後藤は手を置かず視線もノートから
離れない。

「ごとーはもう少し…いちーちゃん、休んでていいよ」
「…」

まさか断られるとは思わなかったのか、市井は驚いたように後藤をじっと見つ
めた。
けれど、後藤の手は止まることはない。
市井の衝動もおさまらない。


226 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時47分13秒

「ねっ…」
「なに?飲み物ならここにあるだけだよ」

顔を上げずに後藤が答える。

「違うよ」
「え、じゃあなに?」

ノートに式を書きながら答える。
市井と違ってかなり集中しているようだ。

「あのさ…」
「ん…」

「こっち…、おいでよ」
「ん…、えっ…!?」

さすがに驚いたのか、ピタッと手の動きが止まった。
そして顔を上げた瞬間二人の眼が合うと、お互いに照れくさいのか、すぐに視
線を外した。

227 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時48分45秒

「な、なに言って…勉強中だよ」
「だから、休憩しようって」

「やっ」
「なんで?」

「だって、今いちーちゃんと休憩したら勉強時間なくなりそうだもん」
「なっ…」

市井は言い返すことができなかった。
自分のよこしまな思いを見透かされたのだから。

228 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時49分47秒

「来ないなら…、こっちからいくぞぉ!」
「え、ちょ…」

四つん這いになってにじり寄る市井。
見透かされた恥ずかしさを紛らすためか、テンションが高い。

「ごとー、ゲットー!」
「ちょっと、いちーちゃん!」

肩を抱き、そのまま勢いで押し倒す。
唇を寄せるが、後藤はいつものように眼を閉じてくれない。

まさか無理やり襲うわけにもいかず、すでにトレーナーの中に入り込んでいた
右手をそろそろと引いた。


229 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時50分52秒

「…だめ…?」
「だめ」

「どうしても?」
「だめ、今日は。明日…」

「明日?そんなに今日は勉強したいの?」
「ちがうよ!」

どうして今日はダメで明日はいいのかわからず聞き返した市井に、後藤は強く
否定した。
そして身体を起こすと市井をじっと見つめた。

「いちーちゃん、明日何の日だ?」
「へっ…!?」
「だから明日!」
「いや…、突然明日って言われてもさ…」

訳がわからず返答できない市井。
首を傾げながら考えていると、壁に貼ってあるカレンダーが目に入った。
あしたの日付を見ると大きくハートマークが描いてある。


230 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時51分48秒

「あっ、バレンタインデー…」
「…」

やっと理解して呟いた市井に、後藤は小さくため息をつきながら苦笑い。

「ん?なに?」
「あ、うん…いちーちゃんらしいなって、その無関心ぶりが」

世間の女子高生は明日の決戦に備えて大騒ぎだというのに。
思ってたとおりとはいえ全く眼中にないところが市井らしくて、後藤は妙に納
得してしまった。

「いや、別に無関心って訳じゃ…」
「だから明日、ね!?明日は特別な日だから」
「ん…」

腕をつかまれ、にっこり笑顔を向けられると市井はお手上げだ。
今日は我慢するかと自分をなだめるしかない。


231 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時52分54秒

「いちーちゃん、去年はいくつチョコもらったの?」

市井の手を握りながら後藤が聞いた。

「へ?去年?なんでそんなこと知りたいの?」
「ん…、たぶんたくさんもらってそうだからさ。ごとーも今から心の準備して
 おこうと思って。あっ、矢口さんからのは別ね」

市井はしばらく考え込み、そしてぽつりと答えた。

「3つ…かな」
「え…3つ?」

意外に少なくて喜んだのもつかの間…。

「紙袋、3つ分」
「うっ…すごい…」

ある程度予想していたとはいえ、その予想以上の多さに驚きを隠せない。
いったい今年はどのくらいになるのだろう。


232 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時54分01秒

「そのチョコどうしたの?全部食べたの?」
「ん…たぶん…」

自分がもらったチョコだというのにたぶんとは…。
しかも眼をきょろきょろさせて、かなり挙動不審だ。

「たぶんってどういう……あっ、わかった!友達に配ったんでしょ!?食べき
れないからとか言って。そういう男の子いたんだよねー、中学のとき」

後藤が責めるような眼をしたので、市井はあせって否定した。
チョコの行方はそんなところではなく…。

233 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時54分49秒

「ち、ちがうよ!そんなことしてないって!」
「じゃあ…」

「没収されたんだって」
「へ?没収?先生に?」

「いや…、やぐっちゃんに」
「え…?」

真っ赤になりながら頭を掻いて下を向く市井。
矢口に主導権を握られていたことを後藤に知られるのが恥ずかしいようだ。


234 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時55分38秒

そんな市井がとても可愛く見えた後藤は、笑いながらチュッと頬にキス。

「な、なんだよ…」
「いちーちゃん、可愛い!ごとーも没収しようかなあ!?」

市井の肩に頭を乗せながら、甘えた声を出す。

「…いいよ」

一呼吸置いて、市井が答えた。
冗談っぽい後藤に対して、市井の顔は真顔だった。


235 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時56分27秒

「え、やだなあ、冗談だよー」

あわてて身体を離して市井の顔を見る。
その真剣な表情にドキッとする後藤。

「ごとーがくれるんならさ、それだけあればいいし。あとはいらない」
「いちーちゃん…」

ときどきこうして嬉しい言葉をくれるからたまらない。
胸が熱くなった後藤は、市井の首に腕をまわしてぎゅっと抱きついた。
市井も背中に手をまわして、そっと力をこめる。


236 名前:明日も… 投稿日:2003年02月13日(木)19時57分38秒

「やっぱり、さっきの取り消す」
「へっ…?」
「今日…、いいよ…」

耳元をくすぐる低い声に、市井の心拍数が上がる。

「あ…でも…、えっと、明日…」
「明日も…だよ?」
「う、うん…」

ゆっくりと傾いて、二人の唇が重なる。

バレンタイン前日から、チョコが溶けてしまうほどアツアツの二人だった。



〜お・わ・り〜


237 名前:マーチ。 投稿日:2003年02月13日(木)19時59分32秒

いちごまバレンタイン編『明日も…』でした。


当日編も書こうかな…


238 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月13日(木)21時48分35秒
一足早いバレンタイン編、楽しませてもらいました。
最近青板の方が厳しいので、久しぶりに甘々で嬉しいです。
当日編も期待していいんですか?(w
239 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月13日(木)22時09分00秒
当日編期待です
240 名前:和尚 投稿日:2003年02月14日(金)17時43分00秒
更新ありがとうございます。
あいかわらず甘いお二人。読んでいるうちに顔が喜んでしまいます。
後藤さんと付き合ってても少年ぽさは変りませんの〜(笑)

んで、今日は当日ですが・・・(笑)
241 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時25分03秒

市井からメールが届いたのは、ちょうど後藤がお弁当を食べ終わった時だった。

『今すぐ教材室集合』

教材室…?
あっ、あの部屋か…。

教材室とは三階の奥の方にあり、使われなくなった資料や古い教科書などが置
いてある物置のような部屋だ。
前に一度市井と一緒に行き、いいムードに流れながらも中澤先生に邪魔された
ことがあった。
後藤の顔がポッと赤くなったのは、そのときのことを思い出したからだ。

「どしたー、ごっちん?市井さん?」
「ん?あっ…、ちょっと、行ってくるね」
「え…行くって、おーい、ごっちーん」

訳がわからずポカーンとしている吉澤に手を振って、後藤が教室を後にした。


242 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時26分05秒

「いちーちゃん…?」

そっと教材室の戸を開け、足を踏み入れる。
電気がついていないので薄暗い。
恐る恐る進んでいくと奥のほうから声が聞こえた。

「お〜い、こっち、こっち」

声のする方へ行くと、窓際の壁にもたれて座っている市井がいた。

「うっす」
「どうしたの?こんなところで」

言いながら後藤も隣に座る。
市井がミルクティの缶を開けて、ホイと手渡した。


243 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時26分56秒

「ちょっと、避難してた」
「避難…?」

「今年の1年生、すごいんだよ。チョコ受け取るだけじゃ済まないんだって」
「済まないって…?」

「急に抱きついてきたり、…キスしてとか言うし」
「ええっ!?したの!?」

思わず大きな声を出す後藤。
持っていた缶を床に落としそうになって、市井があわてて押さえた。


244 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時27分41秒

「してないよ!するわけないじゃん!」
「ほんと?」
「…ほ、ほんとだって」
「……」

一瞬の間を後藤は逃さなかった。
市井の眼をじっと覗き込む。

「な、なんだよ…、見るなよ…」
「そのあわてぶり、あやし過ぎなんだけど」
「え…いや…べつに…あわててなんて…」

いちーちゃん、嘘が下手だなぁ、まったくもう…


245 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時28分31秒

「いちーちゃん」
「は、はい」

冷静な声が逆に怖く聞こえたようで、市井は素で返事をしてしまう。

「ほんとはなんかあったでしょ」
「え…」

「怒んないから言って」
「…」

「言わないと怒るよ」
「…えっと、キス、された…」

小さな声だったが、後藤にはとてつもなく大きな衝撃。


246 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時29分25秒

「ええっ…ほ、ほんとに…?」

後藤は信じられないという顔で市井を見た。
でも市井はごめんと頭を下げている。
信じたくないけれど現実と受け止めるほかはない。

「避け切れなかったんだ…ごめん」
「…」

後藤は何も言わず下を向いたまま。
まだ頭の中が真っ白で、市井の言葉も耳に入らない。

「振り向いた瞬間でさ…。名前呼ばれたら普通振り向くじゃん」
「…」

反応がないと返って怖いもの。
困って焦って、とりあえず一生懸命弁明するしかない。


247 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時30分31秒

「あっ、でも、ちょっと触れただけだよ。うん、ほんの一瞬だから」
「一瞬でも嫌だよ…」

後藤が顔を上げた。
眼にはうっすら光るものが。

「ごとー、泣くなよぉ。ごめんって」
「…ッ…ウッ…」

こんな風に泣かれるのは久しぶりだ。
市井も泣きたくなるほど困り果てる。
248 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時31分15秒

「ごとぉ…」
「…ごめん…いちーちゃん…ッ…泣くつもりはなかったんだけど…」

市井からハンカチを受け取り、涙を拭く。

「…」
「なんかびっくりして…、ショックで涙出ちゃった…」

「ごとー…」
「ごめんね、泣いたりして」

市井がそっと肩を抱いた。
後藤が落ち着くようにやさしく包み込む。


249 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時32分05秒

「あ、もしかして、それでここにいるの?」
「うん。不意打ちは避けようないし…、ここにいれば安全かなって」

言いながら、市井がなにやらごそごそと取り出して見せる。

「あっ、食べてたんだ?」
「うん、めっちゃうまいよ」

市井が半分かじり、残りを後藤の口に入れた。

「おいしい!」
「ははっ、自分で言うか!」
「だって、ほんとにおいしいもん。もう一個ちょうだい!」
「嫌だよ、いちーの無くなるじゃんか」
「ケチ〜」
「なんだと〜」
250 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時33分52秒

それは後藤が市井のために作ったチョコレート。
市井が誰かからもらう前にあげたい、一番に渡したいと思った後藤が、かなり
早い市井の登校時刻に間に合うように早起きし、渡したのだった。

「これ食べてたらさ、ごとーに会いたくなって…。それでメールしちゃったりして…」
「…そうだったんだ、へへっ」

「急に呼び出して悪かったけど…」
「そんなことないよぉ。ごとーも、会いたかったもん。メール、すごく嬉しかった」

「ごとー…」
「…いちーちゃん、好き…」


251 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時34分52秒

市井が後藤の肩に手を置き、ゆっくりと近づいていく。
でも二人の唇が重なろうとした瞬間、なぜか突然後藤が手で阻止。

「な、なんで…?」
「まだ聞いてなかった」
「はっ!?なにを?後でいいじゃん」

市井が後藤の手をよけてキスしようとするが、後藤がまたかわす。

「なんだよぉ…」
「だれ?」
「なにが?」
「いちーちゃんとキスした人だよ、だれか聞いてなかった」
「あ…やっぱ、聞くんだ…」
「あたりまえだよ、だれ?」

せっかくのいいムードが…
がっくり肩を落とす市井。

252 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時36分09秒

「………と…き」

観念したように後藤の耳元で小さくつぶやいたその名前は、後藤と同じクラス
の娘だった。

「ええっ!?」
「あ、なに、知り合い?」
「同じクラスだよ、前からいちーちゃんをちょうだいって言ってたんだ」
「へ…?そうだったの…」
「もう、あいつ〜…許せない!いちーちゃん、じゃあね」
「え…、おい、ごとー!」

後藤があっという間に駆け出して行った。
市井の声さえ耳に入らないで。

253 名前:ビター風味 投稿日:2003年02月14日(金)19時37分03秒

「ごとー…、行っちゃうのかよぉ…」

取り残された市井がさびしそうにぼそっとつぶやいた。

「バレンタインデーって、やっかいな日だな…」

チョコをひとつ取り出し、口の中に放りこむ。
さっきよりビターな風味が口いっぱいに広がった。



〜お・わ・り〜


254 名前:マーチ。 投稿日:2003年02月14日(金)19時39分38秒

いちごまバレンタイン当日編『ビター風味』でした。

期待という言葉に励まされ書いたのですが、
こんな終わり方でごめんなさい!


255 名前:マーチ。 投稿日:2003年02月14日(金)19時41分34秒
レスありがとうございます。感謝!

>238 名無し読者さん
楽しんでもらえて嬉しいです。
そうですね、青が辛い分、こっちは楽しく甘く。
でも当日編はこんな形に…。

>239 名無し読者さん
当日編、期待していただいたのにこんなんですいません。

>240 和尚さん
当日編は甘くしたかったはずなのに…。
いちーちゃんが一人のまま終わってしまいました。


それでは。
256 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月15日(土)22時35分07秒
連日更新お疲れです。
楽しませていただきました!
257 名前:和尚 投稿日:2003年02月16日(日)00時49分26秒
いえいえ、逆にこーゆーバレンタインも有りだと思います。
市井さん嘘つくの下手すぎ・・・(笑)
後藤さんも段々強気になってるし・・・これから楽しみの2人です。

市井さんがキスされちゃった人に思い当たったんですが・・・(笑)
258 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月18日(火)20時18分32秒
バレンタイン編、楽しませてもらいました。
市井ちゃん、すっかり尻にひかれてる?(w
甘いお話をありがとうございました!
259 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月24日(月)19時48分04秒
市井ちゃんにキスしちゃった人と後藤のバトルが読みたい(w
260 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月22日(土)01時29分24秒
「………と…き」って
「ふじもとみき」っすか?
261 名前:マーチ。 投稿日:2003年03月28日(金)00時59分22秒
更新はまだですがとりあえず…
レスありがとうございます!(遅くなってすいません)

>256 名無し読者さん
楽しんでもらえて嬉しいです。
本当はもっと甘くしたかったのですがこうなりました。

>257 和尚さん
ほんとに…、いつのまにか後藤さん、強くなってます。
楽しみの二人…なんでしょうか!?
キスしちゃった人は自分勝手なイメージで抜擢?しました。どうでしょ?

>258 名無し読者さん
楽しんでもらえて嬉しいです。
なぜか後藤さんが強くなっちゃって、市井ちゃん負けてますね!?
そんな関係もいいかなと。
262 名前:マーチ。 投稿日:2003年03月28日(金)01時01分47秒
続きです。

>259 名無し読者さん
バトルですか!?ん〜難しい…
一応それっぽいものを書いてみようと思いますがあまり期待は…すいません。

>260 名無し読者さん
正解です。
新キャラとして登場させたいと思ってます。


藤本さんを絡めた話に取り組み中。
出来上がるか微妙ですが…がんばります。

というわけで、しばらくお待ちいただければありがたいです。

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