おしまいのあと

1 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)01時04分14秒

小説書かしていただきます。
主人公は後藤さんで、その他もろもろ出てきます。
これからどうなっていくかわかりませんがなるべく早い更新を目指します。

2 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)01時11分32秒

「大事な物、何もわかってない真希なんかイラナイ。
そんな真希、嫌いだよ」

や、待って…置いてかないでよ、ねぇ、ねぇったら!


―――――――――――
――――――――
―――――

「まきぃ!起きろぉぉぉ!」
「ふ、ぁ…?」

目が覚めるとそこはいつもの部屋だった。
白い壁と天井が、昇りかけの太陽で照らされてキラキラ輝いている。

「おはよ。うなされてたから激しく起こしてみた。どうした?」

市井ちゃんが汗でべとついたあたしの額にかかる髪を掻きあげながら、言った。

3 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)01時16分30秒

「怖い夢、見た」
「こわいゆめぇ?どんな?」

ベッドから起き上がり辺りを見回す。
何のかわりもない、自分の部屋だ。

「忘れた」

ため息と一緒に言葉を吐いた。

「ふーん、そっか」

たいして興味がない、とでも言うように市井ちゃんはあたしに背を向けて部屋を出た。
市井ちゃんの'そっか'は納得の意でなく、言いたくないのならいいよ、のソレで。
あたしはそのことを充分に理解していたけれど、特に何も声をかけなかった。
4 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)01時21分07秒

もう初冬だというのに、いつになく汗でべとついた体をシャワーで軽く洗い流し、キッチンへと向かう。
目に入るは、テーブルにいっぱいに並ぶ朝食。

「何、コレ」

リビングに目をやり。
ソファーに腰掛けてつまらなそうにテレビを見ている市井ちゃんに尋ねる。

「む、何だソレ。せっかく朝ごはん作ってやっといたのに」

市井ちゃんはテレビの主電源を切ってキッチンにいるあたしに歩み寄る。
5 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)01時27分03秒

「や、びっくりした。市井ちゃんが御飯作るなんてほんと珍しいから」

ウィンナーをひとつ、手でつかんで口に運ぶ。
適度な焼き加減と温かさがおいしかった。

「昨日はだいぶお疲れだったみたいだから。4時ごろだったよね、真希戻ってきたの」
「何だ、起きてたの?市井ちゃん寝てると思ったから部屋に上げないで追い返したのに」
「ふーん。昨日は、どっち?」

チーンと音を立ててパンが焼きあがったことを知らせる。
あたしはそれをお皿に乗せてテーブルに運ぶ。
食器棚からコップを二つ取り出して、牛乳を注いだ。

6 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)01時32分40秒

「女だよ。市井ちゃんのことめっちゃしつこく聞いてた」

テーブルの隅に置いてあったジャムを市井ちゃんの手から受け取って。
いただきます、と呟く。
市井ちゃんは笑っていた。
パンを一口かじる。
カリカリに焼けたミミが、ここ最近まともな食事を取っていないおなかに染み渡った。

「お前、作ってやらなきゃ食べないのな。そんなだからガリガリになっちゃうんだよ」

市井ちゃんこそ、と言いかけてヤメタ。
市井ちゃんの体の細さは、減量とかダイエットとかから来る細さはと違うと知っているから。

7 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)01時38分02秒

「久々の御飯だからかもしれないけど、おいしいよ。市井ちゃん、料理うまいじゃん」

これくらい、料理と言えるかわからないけど。
目玉焼きやらベーコンやら、朝食の王道と言えるおかずに箸を伸ばす。

「あったりまえじゃん。あたし、家庭科だけは昔から5だったもん」
「はは、家庭科だけなのかよ」

自信満々に言う市井ちゃんの顔。
それを見てたら、笑顔が少しこみ上げてきた。
そんな笑いは久しぶりのような気がした。

三日ぶりに市井ちゃんと迎える朝は、中々幸せと言えるものだった。

8 名前:優雨 投稿日:2002年11月28日(木)14時56分18秒
も…もしかしていちごまですか??
続きがすごーく気になります。
初レスGET〜!!
9 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)21時26分58秒

「真希、今日学校?」

料理を作ってくれた市井ちゃんに代わり洗い物をしているあたしに、水の音とともに耳に入る市井ちゃんの声。

「今日は亜弥がくるんだよね。だから行かないかな」

時計に目をやると十時を少し回ったところで。
そろそろ亜弥から電話が来るころだろう。

「そっか。あたしちょっと出かけるからね。亜弥ちゃん来るなら丁度いいっしょ」
「出かける?どこ?」

聞き取りにくいので一度水道の水を止める。

「打ってくる。あーんど売ってくる」

たくし上げたトレーナーから覗く、小さな注射器の跡だらけの腕を指差した。
あぁ、とあたしは頷く。

10 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)21時33分11秒

「幻覚とかさぁ、ないの?」

学校の教材として使われる保健の教科書を思い出す。
安っぽい内容で薬物の怖さ、副作用などが長々と書き綴られている。
けれどソレに載っているような症状など、日ごろの市井ちゃんの生活で一度も見たことがない。

「加減してるからね。バカみたいにがばがば打たないから大丈夫なんだよ。
引き際も打ち時も、ちゃんとわかってるし」

プロっぽい口調で、ふふんと鼻をこすりながら言った。
何にそんなに自身を持ってるのかわからないけど。
第一薬物のプロがいてたまるかって思うけど。
調子に乗ってる市井ちゃんに、特に何も言わないでおいた。
11 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)21時38分59秒

あたしが洗い物を終えてリビングに入ったときには、市井ちゃんはもうすっかり出かける準備ができたみたいだった。
出かける、と言って立ち上がる市井ちゃんを玄関まで送る。

「行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」

きぃっとドアを開くと、冬の初めの空気とその匂いが玄関に流れ込んできた。
冬特有の、ピンと張り詰めた空気に頬がピリピリ痛むような感覚を覚える。

「外寒いから、風邪持ってこないようにね?」

市井ちゃんは笑った。
そしてありがとう、と呟いて光の中に消えた。

12 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)21時46分29秒

温かい部屋に戻ると、ソファの上で携帯が震えて音を立てていた。
亜弥だろう、と半ば確信して。
画面も見ずに通話ボタンを押した。

「もしもーし?」
『あ、まきぃー?あたしあたしー』
「あたし?誰?」

亜弥とは違う、耳につく高い声。
誰かと尋ねておきながら、もう答えはわかっていたのだけれど。

『うわっ、ちょー嫌味ぃ。わかってるくせに。矢口だよー!』
「あー、はいはい。わかったからもうちょっと小さい声で話してくれる?」

あまりにも大きな声で、受話器から耳を少し離していても五月蝿く響く。
まぁ、それがワザとやっているわけでなく真里さんの癖なのだから仕方ないと思うところもあるが。

13 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)21時51分45秒

『えへへー。ごめんごめん。そんなことよりー、真希今日学校来るの?』
「あー、ごめん。今から仕事入ってる。何で?」
『そうなんだ。圭ちゃん会いたがってるんだよね。最近まともに顔あわせてないって』

圭ちゃんの顔を思い浮かべる。
あたしを探し回ってる姿が目にはっきり浮かんでくる。
今会ったとしたら、即説教をくらうだろう。

「ごめん。今日はちょっとはずせない。でも明日は行くから」

とりあえず明日に逃げておいた。
それに亜弥との約束は譲れない。

14 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)21時58分00秒

『ん、わかった。じゃあ圭ちゃんにも一応伝えとくね。あ、それと真希に伝言』
「え?何?」
『迎えに来たよ。BY正義の使者。だってさ』
「はぁ?」

訳のわからない言葉。
次々と真里さんの口を出てあたしの耳に入っていく。

『だって真希に言っとけって言われたんだもん』
「誰に?」

少なくともあたしの知る中にそんな馬鹿な真似をする人はいない。
そう、この真里さん以外は。

『知らない。けどめっちゃ背ぇでかくて…あ、矢口から見てだけどね。きゃはは!
んでもって一年で、めちゃくちゃ綺麗で…なんかね、オーラみたいなの出てんの。
って、意味わかんねー!自分でもわかんないし!』

15 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)22時06分52秒

真里さんの声は、最後のほうは耳に入ってこなかった。
途中、ものすごく心当たりがあったから。
そして、嫌な予感が胸をよぎったから。

あたしの知る人の中でそんな馬鹿げたことを言う奴がもう一人。
確かに、いた。

『おーい!もしもしぃ?心当たりあったのー?』

漸く捕らえた、真里さんの声。

「あ、いや、ないよ。とりあえず明日行くから。圭ちゃんにもよろしく言っといて?」

心なしか、声が震えた。
そして次に体ごと震え上がる。
それが恐怖から来るものなのか、怒りなのか、あたしにはちっともわからなかったし考えようともしなかった。
ただ、迎えに来た、と言う言葉が。
あいつが発したであろうその言葉が、頭の中をぐるぐるとまわっているだけで。

『わかった。んじゃ明日ね。ばいばーい』

16 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月28日(木)22時09分24秒

あたしと人とを繋ぐものが、そこで今完全になくなった。

急に怖くなる。

しんと静まり返る部屋の中。
今まで五月蝿いと言って煙たがっていた真里さんの声を、今は必要としている自分が情けない。
けれどそんなの気にならないくらいあたしの心は乱れていた。
ただただ、人の温もりを欲していた。

17 名前:作者です 投稿日:2002年11月28日(木)22時15分10秒
更新しました。
さっそくミスを発見。

>>14の、下から2行目。
 ×んでもって一年で、めちゃくちゃ綺麗で…
        ↓
 ○んでもって二年で、めちゃくちゃ綺麗で…

でした。すみません。

>>8 優雨さん
レスありがとうございます。
いちごま…になるのでしょうか。
これからどう動いていくかによって変わります。
作者にも先がよくみえません…

以上で本日の更新終了です。
18 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月28日(木)22時19分35秒
何かすごい好きな展開になりそうなヨカーン・・・
迎えにきたってのはアイツかな?気になる〜
19 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月28日(木)22時44分49秒
いちごまになればいいなぁ
20 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月29日(金)22時38分33秒

不意に、亜弥からの着信がまだ無いことに気づく。
握っていた携帯を無造作に開いて、着信履歴を送る。
亜弥の名を探して。
三回目のコールで、プッと音がする。

『もしもしぃ?』
「…亜弥?今どこにいる?」
『もう真希さんちの目の前だけど…どーかしました?』

電話の向こうの亜弥はタクシーを降りたのか、やり取りする声が聞こえる。
もうすぐ、亜弥がここに来る。
そう思うことで心をどうにか落ち着けようとする。

21 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月29日(金)22時39分12秒

「なんでもない。じゃあ着いたらワンコして?玄関開けるから」
『はぁい。すぐ行きまーす』

電話を切ってあたしは、即玄関へと向かった。
早く誰かに触れてもらいたくてたまらない気持ちを抱えて。

数分後、手の中の携帯が短く震えて、玄関のチャイムが鳴った。
急いで鍵を回し。
顔を見る前に、抱きつく。

「うっわ!びっくりしたぁ。どーしたの、真希さん」

すぐそばに感じる亜弥の声。
髪を撫でる手のひらの温もり。
全部があたしの心を落ち着かせてくれた。

22 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月29日(金)22時39分54秒

「ごめん、いきなり」

よくよく見ると、制服姿の亜弥。
顔を上げてちょっと気まずくなって見上げると、笑い顔が目に入った。

「珍しいね、真希さんが不安になってる」

そういって玄関に足を踏み入れて、あたしの代わりに玄関の鍵を回す。
あたしは亜弥にスリッパをひとつ落として、部屋へ招いた。

23 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月29日(金)22時40分35秒

ここに亜弥がきたのは何度目になるだろう。
けれど毎回、真新しいものを見るように新鮮な目をした。
そしてまた、今日も。

「真希さんの匂いするぅ」
「そう?どっちかって言うと市井ちゃんの匂いがあたしに移ったって感じだけどね」
「あぁ、そっか。市井さんのお家だもんね、元は」

あたしと市井ちゃんのことを理解している亜弥は、ほかの人みたいにしつこく聞いたり市井ちゃんを嫉んだりしない。
だから楽でいい。

24 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月29日(金)22時41分21秒

「何か飲む?」
「あ、真希さん」

あたしの質問をするりと超えて。
亜弥はあたしの名を呼んだ。

「前払い。ハイ」

差し出された手のひらの上にある封筒。

「いくら入ってるの?」
「ん?この前多すぎるって言われたから、五万にしてきましたよ」
「そんなに、いらない。今日はあたしも会いたかったし、いらないよ」

差し出す手を押し返した。
けれど亜弥は決して引かない。

25 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月29日(金)22時42分20秒

「いいの!あたし結構、こっちの世界では有名でお金もいっぱい入ってくるんだから。
真希さんだってそーいうこと、人伝いに耳に入るんでしょう?いいから受け取ってよ」

こうなってしまうと手がつけられないことは充分承知だ。
結局いつもここであたしが折れてしまう。
仕方なく、その封筒を受け取った。

「いつもこんなにもらうのなんか割に合わないよ。こんなに貰うような事してないんだし。
亜弥ももっと、ほかの事に使いなよ、今度は」

封筒の隙間から中を覗くと、やっぱり五枚の一万円札。

「欲しいものなんかないよ。ていうか欲しいものが愛だから、こうやってお金払ってるんですぅ。
それにお金の関係くらいにしておかないと、本気になられたら真希さんだって嫌でしょ?」

「…そ、っか」

26 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月29日(金)22時43分28秒

愛が欲しい。
けれどそれが無理だから――無理だと諦めているから、こうやって偽りの愛を売り買いしてるんだ。

亜弥も、そしてあたしも。

27 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月29日(金)22時44分28秒

「全くぅ。真希さん、変なところ優しいんだから」
「優しい?あたしが?有り得ないよ」

紅茶を入れようとして缶を握ったら、亜弥にソレを奪われる。
不思議に思ってると、飲みかけの紅茶の缶があたしの前に差し出された。

「そやって自虐的な台詞吐きながら笑うのとかも、一種の優しさだと亜弥は思うんですけどねぇ」

渡された缶をそのまま手にとってゴクゴク飲み干す。
考えていた以上にのどが渇いていたようだった。

28 名前:作者 投稿日:2002年11月29日(金)22時49分40秒
更新しました。

>>18 名無し読者さん
ありがとうございます。
あいつとは…きっと予想は当たっていることでしょうと思われます。

>>19 名無し読者さん
いちごまに…なるでしょうか…?
でも作者も基本的にいちごまは大好きです。

というわけで今日の更新終了。
亜弥ちゃんの初登場でした。

29 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月30日(土)00時02分33秒
迎えに来た奴とはまさか…!?勝手に期待(w
30 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月30日(土)00時51分22秒
まつごまもいいなぁ…。
ごっちんの裏事情は一体どうなっているんだろう。今後も目が放せません。
31 名前:リエット 投稿日:2002年11月30日(土)04時36分55秒
すごく退廃的な雰囲気ですね。こういうの大好きです。
これから救いはあるのでしょうか……?
32 名前:          投稿日:2002年11月30日(土)13時05分17秒
いいですねぇ…。続き期待です。
33 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)00時22分16秒

飲み干した缶をテーブルの上に置いて。
ふぅっとひとつため息を着くと、後ろからぎゅっと抱き締められる。

「ね、しよっか。亜弥もう待てないよ」

高1とは思えないくらい程色っぽく囁いた。
その吐息が耳を掠り、身を捩る。

「ん、じゃあベッド行こ?」

そう言ったけれど。
手を引かれて行き着いた所はリビングのソファ。

「ここでしよー?」

いつもと変わらない笑顔であたしをソファに座らせる亜弥。

34 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)00時23分04秒

「冗談?」
「まさか。亜弥はいつも本気ですよ」

あたしがちょっと慌てている間にも、着々と準備は進んでいるようで。
亜弥はいつの間にかあたしの二本の足の間に身を置いていた。

「ちょ、マジで?本当にココでやんの?」
「もう黙って…」

35 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)00時23分45秒

あたしの唇に亜弥の冷たいソレが落とされる。
口付けながら、亜弥の器用な両手があたしのトレーナーをたくしあげていく。
そのまま後ろに手を回され、慣れた手つきでブラを外された。
小さく胸が揺れる。
離された唇で、亜弥は呟く。

「おっきーね…。大好き、真希さんのココ」

掠れた声が漏れて。

「ふ、ぁ…ん」

唇があたしの胸の頂を捕らえる。
母のお乳を吸う赤ん坊みたいに、あたしの胸を音を立てて貪る亜弥。
右手では空いている方の胸を弄る。
亜弥があたしを壊していく。

36 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)00時24分20秒

「ねぇ、自分で触ってみて?」

唇を離して、亜弥はそう呟いた。

「ゃ、だょ………」

いつもいつも。
あたしを困らせるようなことばかり言う。

「だーめ。ほら、ココ」

捕まったあたしの右手。
唾液で妖しく光る右の乳房に、無理矢理当てられた。

「ほら…すごい硬くなってるよ」
「ばっか…」

何度やってもこれだけは慣れない。
いつもいつも恥ずかしい。

「いーじゃないですかぁ。感じてるんでしょ、真希さん」

37 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)00時25分07秒

耳元で囁き。
それに比例するように体が疼く。
胸に当てた自分の胸を、無意識のうちにやわやわと動かす。

「んっ……」

淡い快感があたしを包んだ。

「あー、えっちぃなぁ真希さん。自分で気持ちくしてる」

「ぅるさ……」

言葉でそう強がっても体がついていかない。
もっともっと。
快感を求めて止まない、一匹の雌に戻る。

「ごめん、嘘だよ。じゃーちょっと腰上げてもらえます?」

38 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)00時26分08秒

途切れ途切れ耳に入り込んでくる亜弥の言葉。
ただ胸を弄られていただけでこんなに感じてる自分。
なにか、おかしい。
快感への欲求がいつもより強い。

「あゃ…何か、したの…?はぁっ…」

「あ、もう効いてきたぁ?ちょっとだけ、魔法の薬。ほんの少しだし、そんな強くないから大丈夫」

さっきのみほした、紅茶の缶。
あの中に何か仕込んでいたに違いない、と頭の隅で今更ながら考えた。

「ばかぁ…、んぁ……」
「あはは、ばかでぇす。はい、腰上げて?」

亜弥が腰に手を当てる。
それだけで体が反応してしまう。
どうにか少し腰を浮かすと、亜弥はあたしの穿いていたパンツと下着をいっぺんに引き落とした。


39 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)00時26分59秒

「すごぉい、びちょびちょなってる」
「ぅぁぁっ…やぁっ……」

ブラインドから差し込む明るい陽射し。
微かに入る、外の明るい笑い声。
昼間だっていうことを思い出させて、どうにか声を抑えようとするものの、飲まされた薬のせいなのか亜弥の腕のせいなのか、もうどうにもならないところまで来ていた。

「おいしそー、真希さんのココ」

にやりと笑って。
唇があたしの快感の核へと落とされた。

「んぁっ、あっ……」

ぴちゃぴちゃと水音を立てて。
器用に舌を蠢かせてあたしを攻める。

40 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)00時27分52秒

乱暴に指を突っ込まれる。
唇は離さないまま二本の指が一気に。
それでもまだ余裕のあったあたしの中に、無理矢理三本目も入れられた。
亜弥の細い指に纏わりつく肉襞。
熱いソコから溢れ出した体液が亜弥の口角を伝う。
唇を離して、ぺろりとソレを舐める仕草をする。

「っく、ふぁっ…っぁ……!」

リズム良く出し入れされる三本の指。
頂点はもう目に見えるくらい近かった。

「あやっ、も…もぉだめっ…ぃくっ…!」
「いいよぉ、いって」

顔を上げて上目遣いで見上げる亜弥が妙に色っぽくて。

「…っ、ぁ……ぅあぁぁぁ!」

そんな亜弥を見ていたら、ぎゅっと体に電気が走って。
簡単にイってしまった。

41 名前:作者 投稿日:2002年12月01日(日)00時35分49秒

>>29 名無しさん
多分あってると思いますよ。
多分…多分…。

>>30 名無し読者さん
作者は松浦も好きです(w
自分大好きなところが妙にかわいらしいですね、松浦さんは。
大半の女性はそんなことやってると同姓からは嫌われますけどね。

>>31 リエットさん
ありがとうございます。
ごっちんに救いの手を差し伸べられるのはいったいいつになることやら…
作者次第なんですけどね。

>>32          さん
ありがとうございます。
期待していただけるとうれしいです。
がんばります。


というわけでした。
今日はちょっと裏ちっくでしたね。
あんまり得意じゃないんですけど…。

今回の更新終了です。

42 名前:りゅ〜ば 投稿日:2002年12月01日(日)07時24分55秒
良かったです!(・∀・)
描写とかうまいっすね〜。
続きが気になります。更新期待!!
43 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)15時24分30秒
まつごま……イイ……はまりそう〜……
44 名前:リエット 投稿日:2002年12月01日(日)21時24分21秒
裏もイイ!
でも、普段のシリアスな展開も大好きです。
45 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)22時56分40秒

「ねぇ、初めてっていつでしたぁ?」

ぴちゃんと水滴が湯船に落ちる。
差し込む太陽が照らす、リアルな二人の肌。
その中に響く亜弥の声。

「初めて?初めてヤッた時って事?」
「うん。初めてのエッチ」

亜弥が動く。
真っ白なお湯が小さく波を立てた。

「なに、いきなり」

46 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)22時57分31秒

話したくないことだった。
今までどんな人と話をしても、ずっと避けてきたこの手の話。
できれば今回もうまく逃げたい、とは思うけれど。

「いーからぁ。いつだった、真希さんは」

どうせ亜弥が逃がしてくれるとは思っていなかった。
はぁっとため息をついて。

「中二の夏、かな」

諦めてそう言った。

「あー、じゃあ同じ頃なんだね、亜弥のが一個下だから。亜弥は中一の夏だった」

ひょうひょうと、手で水鉄砲を飛ばしながら。
亜弥は笑った。

47 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)22時58分18秒

「ていうか。何でそんな早いの?」

普通に考えて疑問に思うことだろう。
あたしも特に気にせず聞いたのに、一瞬亜弥の顔が曇る。
無理に聞き出すつもりはなかったから。

「言いたくないならいいけどさ」

小さく付け加えた。
けれどそれに首を振って。

「その頃から結構亜弥遊んでてさぁ。一時家出とかしてた時、先輩いっぱいにマワサレタ。
その時できちゃってさ、子供。手術代払ってもらった代わりに家族とは疎遠状態。それ以来会ってない」

48 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)22時59分12秒

普通の会話を楽しむようになんら変わりない笑顔であたしに寄り添い、亜弥は言った。
けれど触れ合った肌から切なさがとくとくと流れ込むようで。
同調するように、あたしの胸も痛んだ。

「なんでそんな話、あたしにしたの?」
「真希さん今日、不安そうな顔してたでしょ?何かあったのかなぁ、って思って。
真希さんが暗い過去しょってるの、分かってたし。何も話してはくれないけど。
亜弥分かるんだよね、そういうの。真希さん、亜弥に似てる」

どきっと心臓が高鳴る。
胸の辺りにくっついている亜弥に鼓動の早まりが伝わらないように努力はしてみてもどうにもならなくて。
きっとばれているだろう。
けれど亜弥は何も聞く気はないようだった。

49 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)23時00分14秒

「真希さんはさぁ、どんな時も人と距離おいてるじゃん?亜弥や市井さんは少し近くにいる気はするけど。
人を、初めから信じてない。だから亜弥は真希さんを信じられるよ」

亜弥の目を真っ直ぐ見れなかった。
なんだか心の中を見透かされた気がして。

「もう上がろうか。頭くらくらしてきちゃった」

いたたまれなくなってあたしは立ち上がり、亜弥の体も支えて立ち上がらせる。

「そんな所も、好きかな」

あはは、と独特にはにかんで。
濡れたあたしの唇に、亜弥の唇が降った。

50 名前:作者 投稿日:2002年12月01日(日)23時06分35秒

>>42 りゅ〜ばさん
ありがとうございます。
すごくうれしいです。
ちょっと短いですけど、今日はちょっと早い時間の更新でした。

>>43 名無しさん
まつごまいいですよね。
微妙に好きです、絵的に。
現実はあんまり仲良くなさそうですけどね…。

>>44 リエットさん
今日もありがとうございます。
今回はちょっと、シリアス目に。

中澤さんのannを聞きながら、今日の更新を終了します。

51 名前:リエット 投稿日:2002年12月02日(月)00時31分40秒
微妙な距離感の中にある優しさがいい感じです。
今更ながら、タイトルが気になります……。
52 名前:          投稿日:2002年12月02日(月)18時22分48秒
ここのまつごまいいですね。
最高です。
53 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月02日(月)21時44分02秒

「もうそろそろ、帰ろうかなぁ…」

お風呂から上がって二人でぼーっとしていた時。
不意に、携帯をみつめた亜弥が呟く。

「何でいきなり?」

立ち上がった亜弥を見て本気だと気づく。
腕を咄嗟に掴んだ。
帰ってほしくない。
一人ぼっちの空間を想定するだけで吐き気がするほど嫌で堪らなかった。

「あれぇ、嫌なの?」

不思議そうな顔であたしを見る。
いつもと違う反応に驚いている事は容易に想像できる。
それでも――自分の鍍金が剥がれてでも、今は誰かにそばにいてほしい。
首をゆっくり縦に振った。

54 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月02日(月)21時44分48秒

「あらあら。本当に弱々な真希さんになっちゃってるよ」

やさしく微笑んで頬を撫でる亜弥の手のひら。
温かくて、そしてどこか切ない。

「でも今日はちょこっと学校顔見せに行かないと…。親呼び出しなんかにされちゃうから。
市井さん、どれくらいで戻るかなぁ?」

亜弥はやっぱり、あたしが側にいてほしいのが亜弥じゃなくてもいいことに気づいている。
それでもやさしい言葉であたしを気遣い、市井ちゃんに電話をかけてくれてるみたいだった。
いつの間に携番教え合ったのかなんて、全く知らないけれど。

55 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月02日(月)21時45分22秒

「あ、市井さん。亜弥です、こんにちは」

受話音量は最大になっているのだろうか。
受話器から静かな部屋に街のざわめきが入ってくる。

「はい、はい………。あ、どれくらいで戻ります?………そうですか、分かりましたぁ。
……え?……はい、大丈夫です。じゃあ、しつれーします。……はい、さようならぁ」

亜弥はぴっとボタンを押して携帯を閉じる。
そしてあたしの方に向きかえる。

「あと30分くらいで戻れるって、市井さん。それまでは、亜弥いますね」

56 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月02日(月)21時46分35秒

あたしの座っている横、亜弥の定位置に再び腰を下ろし、胸にぎゅっとしがみついて来た。

「あ、りがとう…」
「え、あぁ、どういたしましてぇ。市井さん心配してましたよ。真希がどうかしたのかぁ?って」

くすくす笑いながらあたしの首筋に唇を這わす。

「いいなぁ、そういう関係」

瞳を閉じて鎖骨を撫でている亜弥。
なんだかそれがほんのり気持ちよくて、体を委ねた。

「市井さんも亜弥も、こんなに真希さんのこと大事なんだよぉ?亜弥もそやって言ってくれる人、欲しい」

57 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月02日(月)21時47分32秒

きっと今話しているのは亜弥の本音だろう。
うわべだけの会話はあたしに負けず劣らず旨い亜弥だったけれど、今はそんな風に見えなかった。
そこまで分かっていても、あたしがいるよ、とは言えなかった。
たとえお世辞でもそれを言うべきなのかもしれないけど、そんなの亜弥は望んでいないし、あたし自身も嫌だ。

亜弥を愛しているのか、それとも別の感情なのか。
分からない自分が大嫌いだ。

「真希さんは少なくても二人、そんな人がいるんだから。もっと自信もっていいと、亜弥は思うんだけどなぁ…」

亜弥の声は胸から響いて心に沁みた。
じわじわと広がるシミのように。

それからは何も言葉を交わさずに、ただただぴったり亜弥によりそって市井ちゃんの帰りを待っていた。

58 名前:作者 投稿日:2002年12月02日(月)21時53分25秒
>>51 リエットさん
いつもありがとうございます。
タイトルはですねえ。
うーん…あまり深く考えないでください(w
自分でこの話を書いてて、ふとおもいついたフレーズです。

>>52          さん
最近ハマリ出しまして。
現実ではあんまり接点ないみたいですけどね。
ごまっとうくらいですか?
テレビうたばんくらいしか見てないんですけどねぇ。

今日の更新終了です。
59 名前:リエット 投稿日:2002年12月03日(火)01時17分53秒
もう、松浦さんに惚れちゃいそうです(w
すごく温かい雰囲気ですね。
60 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時05分13秒

「ただいまぁ」

どれくらいの時間が経ったのだろうか。
がちゃがちゃ音がして、市井ちゃんがリビングに姿を現した。

「あ、おかえり」
「おかえりなさぁい」

亜弥に預けていた体を離さないまま二人でそう言った。

「うわ、真希があたしの前でべたべたしてる。めずらしーい」
「あはは、今日は真希さんが切ない病だから。市井さんもよろしくです」
「余計なこと、言わなくていいのに……」

指摘されたら今までなんとも思ってなかったことも突然照れくさくなって。
亜弥から離れて立ち上がる。

61 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時06分31秒

「それにしても亜弥ちゃんも不思議な子だよね。真希のこともあたしのこともちゃんと理解して接する人なんていないと思ってた。
しかも高一でしょ?いろいろ大変なんだね、亜弥ちゃんも」

亜弥はそんな市井ちゃんの言葉に曖昧な笑みを返してソファから立ち上がる。
本心を見せない会話が得意な市井ちゃんと、話をかわすのが得意な亜弥。
かみ合わない二人の会話が、見てるあたしにはすごく滑稽に映った。

「それじゃあ、帰ります」
「あ、下まで送る」

ドアへ歩いた亜弥の後を追おうとするが、首を横に振った。

「せっかく市井さんも帰ってきたんだからいいですよ。亜弥の時間はもう終わりだよ。さようなら」

そう言い捨てて、スカートをはためかせ。
別れを告げる間もなく、笑いながらドアに吸い込まれるように消えていった。

62 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時07分01秒

「それで?」
「何が?」

市井ちゃんは羽織っていたコートを椅子の背にかけて、後ろからあたしを抱いた。

「真希ちゃんはぁ、何を寂しがってたのかなぁ?」

唇を市井ちゃんの指が伝っていく。
そして耳にふっと市井ちゃんの吐息が通った。
くすぐったくて、身を捩る。

「別になんでもないよ…」
「そっか。じゃあいいけど」

また。
何か諦めたようなそっか、を吐いた。

「市井ちゃんいつもそればっかりだよね。聞く気ないなら最初から聞かなきゃいいじゃん」

63 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時07分51秒

人が踏み入られたくないと思うところには決して入らない。
市井ちゃんのいい所。
でも逆にとれば、人の面倒なことには関わらないようにしているみたいにも感じる。
少しくらい興味を持って突っ込んできても、たまにはいいと思うのに。

「なぁに言ってんの。真希が言う気ないんじゃん。これ以上聞いてもかわされるの分かってるから聞かないんだよ。
それとも、もっと突っ込んだ話してれば、あたしに話してた?」
「………言ってた」
「ほう。じゃあ何で?いつも何にそんなに苦しんでるのか知りたいな、あたし」

あたしの顔はいつの間にか市井ちゃんの方に向きをかえられて。
真っ直ぐ見つめてくる市井ちゃんが本気で怒っているみたいで恐い。
視線を床に落とした。

「…一回目に聞かなかったから、言わないよ」

64 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時08分24秒

ぷっとあたしの頭に、怒っていたはずの市井ちゃんの噴出し笑いが降って来た。

「なに?」
「ガキみてぇ。初めから絶対言わないって言って突っ張ってればいいんだよ」

ほっぺたをきゅっと軽く引っ張る市井ちゃんはいたずらっ子みたいに笑った。

「ガキなんかじゃないもん」
「そーゆーとこもガキっぽい」

市井ちゃんはまた笑う。
そして細い腕があたしの体をまるごと捕まえる。

65 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時09分05秒

「今日の真希は何か変だね」
「なんでさ?」

背中にあったソファに押し倒されて、顔中に市井ちゃんのキスが落ちる。

「すっげー色っぽかったりぃ、ガキだったり。切ない病ってのも案外的得てるじゃん」

そのまま唇にキス。
激しく舌を絡めてくる。

「…っ…ふぅっ…」

薬の効用がまだ完全には切れていないせいなのか、市井ちゃんのキスはあたしの舌と絡み合ってどこまでも落ちていくように感じる。
深く深く求められた。

66 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時09分41秒

「真希、なんかしてる?」

唇を離して初めに、市井ちゃんはちょっと不思議そうに尋ねてきた。

「亜弥に…ちょっとだけ飲まされたみたい」
「うっそ。亜弥ちゃんもやるね。どういうルート使ってんだろう?」

皮肉に笑って急に立ち上がる。

「しないの?」

今までの空気がなかったことのように、あたしの知らない鼻歌とかを歌いながら冷蔵庫の扉を開けている。
ウーロン茶のボトルに直接口をつけている市井ちゃんの背中に声をかけた。

「ガキとなんかやりませんよーだ。あたしは忙しいんだよ」

冗談交じりに馬鹿にされたことは分かっていたけど、今は一人になってしまうことへの不安のほうが大きくて。

67 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時10分11秒

「どっか、出かけちゃうの?」

不安がにじみ出るように声が震えてしまった。
市井ちゃんは何かに気付いたみたいにはっとして、少し真剣な顔をする。
そして大丈夫、と小さく呟いた。

「今日はもう出かけないから。部屋で寝てるっす」

あたしを気遣った市井ちゃんの言葉。
漸く胸が落ち着く。

68 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月05日(木)01時10分57秒

「真希、夜はどうする?」
「今日はいいや。ちょっと疲れちゃった。出かけるのも面倒だし」

半分嘘で、半分本当。
半分の嘘は、市井ちゃんのぬくもりを感じて眠りたいって思ったから。
でも敢えて口には出さない。

「そ。あたしも今夜は家にいるから一緒に寝てやるよ。お子様真希ちゃん」

ぽすっと頭を撫でられて、その手の大きさを実感した。
あたしをこんなにも落ち着かせてくれるのは、きっと市井ちゃんしかいない。
冷蔵庫にボトルをしまって部屋に向かう市井ちゃんに、母親を追う小さな子供みたいにひたひたとついていった。

69 名前:作者 投稿日:2002年12月05日(木)01時13分59秒
>>59 リエットさん
毎回ありがとうございます。
レスもらえるとものすごくうれしいです。
ありがとうございます。


レスが少なくてちょっと悲しい…
もし見てる方いたら、なんでもいいんで一言レスを頂けると嬉しいです。
では今日の更新を終了します。
70 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月05日(木)01時27分10秒
市井さんの使い方が上手いなぁ
作品の雰囲気も好きだ
71 名前:リエット 投稿日:2002年12月05日(木)03時00分50秒
もう一度、最初から読み返しました。
序盤の電話で、かなり気になる伏線があります……。
72 名前: 投稿日:2002年12月05日(木)19時28分15秒
見てますよ!更新尊敬するくらい早いのでオジャマかなと…。
ここのムード好きですっ!頑張ってください。
73 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月06日(金)00時12分45秒

久しぶりに入る市井ちゃんの部屋。
とにかくそこは“何もない”と言う形容がよく似合う部屋で。
ベッドとソファ、小さなテーブルと、開きかけのクローゼット。
そしてこの部屋でしか吸わない、煙草のにおい。
市井ちゃんの人柄がここを見るだけで感じ取れる。

「変わらないね、この部屋も」

呟くと市井ちゃんは咳を一つ。
床に直接置いてあった灰皿をテーブルに置きかえて、あたしにクッションを投げた。

「煙草臭いでしょ。ごめん。真希、煙草吸わないんだっけね」

窓を開けようと手を伸ばす市井ちゃんを止める。

74 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月06日(金)00時13分20秒

「この匂いは平気だから、いいよ」
「この匂い?何ならだめなの?」

不思議そうに眉を顰める。
あたしも少し考えてみる。

「わっかんない」

煙草の名前なんて元々知らなかった。
ただ、鮮明に記憶しているその匂い。
市井ちゃんの吸うセブンスターとは違う。

「ふーん。まぁ、いろいろあっかんね、煙草も」

ジーンズのポケットから取り出される少し形のゆがんだ煙草。
火がつけられて、市井ちゃんの薄い唇から青白い煙が舞うのをじっと見つめる。

75 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月06日(金)00時13分54秒

「おいしいの、ソレ」
「全然。ちっともおいしくない」
「ならなんで吸うのさ」
「んー…心落ち着くから、とでも言っとくか。薬と同じようなもんだよ。でも真希は吸っちゃ駄目。体に悪いからね」

どうも矛盾した市井ちゃんの言葉を全部は理解しようとしなかった。
ただ伝わるのは、市井ちゃんは吸うけどあたしは吸っちゃいけない煙草の存在だけ。

「吸わないよ、あたしは」

あたしは、を妙に強く言った。
何を伝えたくてソレを強めたのかは自分でもよく分からないけれど。

「宜しい。んじゃ寝るかぁ。昨日ちっとも寝てないから眠くって。真希も、おいで」

76 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月06日(金)00時14分27秒

柔らかい羽毛布団に身を埋めて、布団の端を上げ手招きしている。
本当にもう大分眠くなっているようで顔がトロンとしていた。
市井ちゃんに従って布団に入る。

「うわ、市井ちゃん体冷たすぎ」
「えー?そっかな」

布団の中は人の温かさがちっとも伝わらないほど冷ややか。
市井ちゃんがその中に入っていたとは到底考えられない。

「うん。すんごい冷えっこいよ」
「んー…薬とかのせいなのかな。よく仕組みとか分からないんだけど」

77 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月06日(金)00時15分01秒

ぽりぽり頭を掻いて、さもそれが人事のように流す。
そしてそのままあたしに寄り添う。

「まぁ、お子ちゃま真希ちゃんがあったかいんだから、プラスマイナスゼロってことでいいんじゃない?」

閉じられた瞳に、ばか、と反論を一つ。
そして市井ちゃんを抱き締めた。

「おやすみ市井ちゃん」
「ん、おやすみ」

空がまだ高い太陽が、冬の空気を浮かべながら柔らかく輝いていた。

78 名前:作者 投稿日:2002年12月06日(金)00時19分27秒
>>70 名無し読者さん
レスありがとうございます。
そう言っていただけるとうれしいです。

>>71 リエットさん
ありがとうございます。
気になると言っていただけるとなんかうれしいものですね。
一つ一つ、ごっちんの秘密は解いていくつもりです。

>>72 葵さん
ありがとうございます。
レスすごくうれしいです。
作者のじこちゅーでじこまんな意見に答えてくださってありがとうございます。


今日の更新はココまでです。
79 名前:リエット 投稿日:2002年12月06日(金)02時56分01秒
市井さんの言ったタバコの定義がすごく好きです。
市井さん優しいですね。
80 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月11日(水)10時15分17秒
好きな話だなぁ・・・
後藤が主役の話ってそれだけで文句なしに惹かれるんだけど、脇役の使い方が
また上手いっすね。
個人的にはまつーらがイイ感じ。気遣いの人(byへいへいへい)だしね(w
81 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)14時48分42秒

「…ん、…った…」

途切れ途切れ耳に入り始める、市井ちゃんの声。
光は重たい瞼に遮られてまだ入ってこない。

「…んじゃ、またね。………うん、ありがと。じゃあね」

漸く開いた瞳の曇りを取るようにごしごしと掌でこすった。
電話を切ったらしい市井ちゃんはため息をついて床に座り込んでいる。

82 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)14時49分18秒

「ぃ、ちいちゃ…?」

起きたての声は、掠れて弱々しくて、自分の物とは思えないくらいだった。

「おぅ、起きた?もう六時なるよ?寝すぎっしょ」

まだぼーっとしている頭で考えてみて、四時間ほどの時間が過ぎている事に気づき驚く。

「こんなゆっくり寝たの、何か久しぶりっぽい…」
「だろ?すげぇ寝てたから起こさないでおいた」

市井ちゃんはいつの間にか火をつけていた煙草の、煙を部屋に吐き出した。

「電話?」
「あー、うん。それで起こしちゃった?」
「ううん。平気」

83 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)14時49分58秒

誰に電話だったのかは聞かなかった。
聞く必要はなかったし、関与する意味もなかったから。

「夕御飯どうする?昼も食べてないよね、真希」
「うん。でも、作るの面倒だね」
「んじゃ、コンビニでも行こうか」

市井ちゃんはテーブルの上に置いてあった財布をジーンズのポケットに突っ込み、立ち上がる。
まだ充分に吸える長さの煙草を灰皿に押し消しながら。

84 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)14時51分23秒

「あたし買って来ようか?……あ、やっぱ一緒行くか。一人じゃ寂しいし」

‘あたしが’寂しいのか、それとも‘市井ちゃんが’寂しいのか。
どちらとも取れる言い方をして笑う。

「うん、行く」

あたしも曖昧にしたまま返事を返す。
それが市井ちゃんなりの気遣いであり、それを無駄にしようとは微塵も思わない。

「んじゃ、行くか」
「うん」

自然に市井ちゃんがあたしの手に市井ちゃんのを絡めてくる。
それは自然なのではなく、市井ちゃんがそれを自然にしてくれているのだろうか。
握った冷たい手は相変わらずのものだったけれど、それもいいと思った。
あたしの体温を少しだけ分けてあげれば済む事だ。
つないだ手にぎゅっと力を込めて肌寒いドアの外へ足を踏み出した。

85 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)14時52分34秒

―――――――
―――――
―――

今何時になるだろう。
御飯を食べて、お風呂に入って、いつもより大分早くベッドに――市井ちゃんのベッドに入ってから、もう一時間くらい経つように感じる。
それはあたしの勘違いかも知れないけれど。
何十回目かの寝返りを打った。

「眠れない?」

はっとして背中の方にあった市井ちゃんの顔を見る。
寝ていると思っていた市井ちゃんの目ははっきりと開かれてあたしを見つめていた。

86 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)14時53分07秒

「起き、てたの?」
「うん。真希が寝れなそうなのずっと見てた。電気、つけようか?」
「ううん、大丈夫」

枕から頭を上げてあたしの髪を撫でてくれた。
優しい瞳。
吸い込まれそうに深くて、それでいて心を許していないような色。
その中に真っ直ぐあたしがいた。

「市井ちゃん」
「ん?」
「あたし、自分がわかんないや」

自然に口が開いていた。
市井ちゃんの目を見ていたら、話さなくちゃいけない事のように感じて。

「……どして?」

87 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)14時53分41秒

突然話し出したあたしに市井ちゃんも不思議に思ったのか一瞬目を丸くする。
けれどそれは本当に一瞬で、声を発した時はいつものような穏やかな顔だった。

「恐い。明日が恐い。どうしていいのか分からないよ。明日なんて、こなければいいのに」

市井ちゃんはあたしを優しく、ゆっくり抱きしめた。
二人分の胸の鼓動が小さく聞こえる。
重なりあって溶けていけ。
そしてこのまま消えてしまえ。
何度もそう願った。

「大丈夫だから。何にも恐い事、ないよ。ゆっくり寝よう」

ひんやりとした市井ちゃんの腕の中で、心は温かく解けていく。
恐い事がないはずはないけれど、市井ちゃんの言葉はなぜかそれを信じさせるものがあった。
しばらくはまだ眠れなかったけれど、優しい目で見つめられるうちにいつしか眠りについていた。

88 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)14時55分07秒
―――――――
―――――
―――

「いってらっしゃい。がんばってね」

久しぶりに先に出かけるあたしに母親のような言葉で見送る市井ちゃん。
と言っても始業時間はとうに過ぎていた。

「帰り、四時くらいだと思う。市井ちゃんいる?」
「ん、いると思う。気をつけてな」
「ありがと。じゃあ、いってきます」

ばたんとドアを閉めた。
暇だったから、と言って作ってくれたお弁当。
そっと触れて温かさと優しさを感じてみる。
少し曇り空の天気も和らいで感じられるくらいだった。
薄く光の差し込む街。
あたしの恐がっていた‘明日’が始まって言った。

89 名前:作者 投稿日:2002年12月11日(水)14時59分38秒
更新、少し間が空いてしまいました。

>>79 リエットさん
ありがとうございます。
優しい市井ちゃんでした。

>>80 名無し読者さん
ありごとうございます。
松浦さんは気遣いの人なんですね。
昨日ビデオで見ました、HEYHEYEY。
かわいかったです(w
どーでもいいけど作者と松浦さんは同い年です。
自分と比べると、なんか松浦さんがずいぶんしっかりして見えますね…

今日の更新終了です。

90 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月11日(水)16時56分03秒
更新待ってました!作者さんが思ったより若いと知ってビクーリ(w
先の見えない展開だあ…楽しみです。
91 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月11日(水)20時45分00秒
面白いっ!ハマりました。
ごとーさんの仕事がどんなのか気になりますね〜。あといちーさんとごとーさんの関係とか。
更新楽しみに待ってます!
92 名前:リエット 投稿日:2002年12月12日(木)07時18分25秒
後藤さんが家から出たことによって、なにか展開はあるのか…。
電話でしか出てきてない人たちも気になります。
93 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月12日(木)14時12分20秒

「ごめんね、いきなり電話して。今真希がやっと寝付いててさ」
『寝付いたなんて赤ちゃんみたいですねぇ、真希さん。あたしの方はぜんぜん平気ですよ』

くすくすと笑い声が、受話器から耳へ。
高くて優しいその声は、すべてを柔らかく変えてしまうような錯覚に陥る。

「こんなこと亜弥ちゃんにしか聞けなくて。真希の事なんだけど」

横目でベッドに眠るまきをみつめて。
安らかな顔を見て安心する。
柔らかな髪を撫でた。

『分かってました、電話が来た時から。どうしたんですか?』

大人びた声に混じり、後ろからは亜弥ちゃんを呼ぶ友達の声とざわめきが途切れ途切れ入ってくる。
どうやら向こうは街へ出かけているらしい。
そんな様子が、ずいぶん前に感じられる自分の高校時代を思い出させる。

94 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月12日(木)14時13分17秒

「忙しいのにごめんね。簡潔に話す。亜弥ちゃん、真希の事何か知らない?」
『真希さんのこと、ですか?』

こんな事を亜弥ちゃんに聞くのはルール違反だと分かっていた。
けれどボロボロになっていく真希を見続ける事などあたしにはできない。
最近はなくなっていた情緒不安定も、今日色濃く浮き出てきた気がしたのだ。

『あたしなんかよりずっと真希さんの近くにいるはずですよ、市井さん。まぁあたしも、他の人たちよりは近くにいる自信がありますけど』
「そんなこと…」

95 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月12日(木)14時14分09秒

あたしは真希の近くになんかいない。
辛い現実から逃げるための道を作っているだけであって、あたしの存在は真希にとっての‘現実’ではない。

「あたし駄目なんだ。真希を失いたくなくてつい突っ込む事恐くなっちゃって。おかしいよね、こんな関係。
一番近くにいるのに、あたしは真希の事なんにも分かっちゃいないんだよ」

笑い声を伝えようとしたけれど、上手く笑えなかった。
それのゴマカシに咳を一つ零す。

『それでも市井さんは真希さんにとって必要な人だと思いますよ?真希さんが市井さんの事大切にしてるの、すごく分かる。
確かにそれを将来的には続けられないかもしれないけど、今はそうやって真希さんを支えていくのもいいんじゃないですか?
いずれ真希さんも気づくと思います……自分がどうするべきか』

96 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月12日(木)14時14分42秒

亜弥ちゃんは、あたしなんかよりずっと上手く笑った。
独りよがりにならないようにと、あたしに相槌を求めながら。
とても上手な会話に聞こえた。

「そんなもんかな…?」
『そんなもんですよぅ』
「そ、っか…ありがとね。あ、ちょっともう一つ聞きたいんだけど」
『なんですかぁ?』

「亜弥ちゃんは?どんな重い過去をしょってるの?」

この子がただの女子高生でない事はとっくに気づいていた。
こんなに的確な判断をあたしにくれる子がただの女子高生です、なんて思えない。
第一そうなら、真希が側に置いておくはずがない。

97 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月12日(木)14時15分13秒

『あはは、ノーコメントです。真希さんには今日、すこぉしだけ話しましたけどね』

もちろんかわされるだろうとは思っていた。
けれどもう少し動揺くらいは見せるんじゃないかとも思っていた。
あまりの手際のよさに鳥肌が立つ。
この子がどれ程の傷を負ってるのかなんて、もう想像することも出来なかった。

「そっか。じゃあもう何も聞かないでおくよ」
『ありがとう、ございまぁす』

丁寧にお礼を言われる。
はぁっと一つ溜息をついて真希に目をやると、小さいうめき声を上げてがさっと動いた。

「あ、そろそろ真希が起きちゃう。マジありがとね。これからも真希の事よろしく。あー…でも薬はほどほどにしてね?」

今度は本当に笑うことが出来た。
亜弥ちゃんも電話越しで笑って言う。

『あはは、すみません。でも案外いいですよ?市井さんも今度やってみてください?』
「はは、分かった。んじゃ、またね」
『はい、真希さんにも宜しく言って下さい』
「ん、ありがとう。じゃあね」
『はーい、失礼します』

98 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月12日(木)14時15分57秒

あっちが切ったのを確認して、あたしも通話を切るボタンを押した。
電話をクッションの上に落として溜息をつく。
真希と亜弥ちゃんは似ている。
だから側に置いておくのだ、真希は。

じゃああたしは?
なんであたしは真希の側にいるのだろう。
真希にとってなんだろう、あたしは。
何度自問自答してもまた同じところへ戻ってきてしまう。
やり切れなくなって煙草に火をつけた。

「ぃ、ちいちゃ…?」

起きたらしい真希が声をあげた。
掠れていて、酷く弱々しい。
真希がすごく弱く見えた。
そんな真希を守っていく権利は誰が持っているのだろう。
誰に持つ事を許すのだろう。
そして何が真希を苦しめ、追い詰めているのだろう。

全ての答えは、真希の中。

99 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月12日(木)14時17分01秒

「一応伝えてはおいたけど。最後はちょっと心当たりあったっぽかったよ?声震えてたし。明日は来るとも言ってた。
てゆーか、あなたはいったい誰なの?」

ついさっき知り合ったヤグチセンパイの高い声を、ついさっき買った紅茶を飲み干しながら聞く。

「あたし?ただの転校生だよ。ごっちん気づいてたかぁ。よいよい、明日楽しみだなぁ」

中庭のだだっぴろい芝生の波。
そしてごっちん。
一昨日転校してきたこの学校で唯一気に入ったモノ達。
明日になれば会える。
ごっちんに、会えるんだぁ。

「めっっっちゃ拒否るだろうなぁ、ごっちん………」
「お前、ほんと何者だよ…?」

ヤグチセンパイの不思議そうな顔を横目で見ながら笑う。

「ごっちんを大好きな、ヨシザワヒトミって者ですよ」

早く明日にならないかなぁ。

100 名前:作者 投稿日:2002年12月12日(木)14時22分44秒
>>90 名無し読者さん
ありがとうございます。
実は若い作者でした。
じゃあなんでこんな時間に更新しているのかって話ですけどね(w

>>91 ヒトシズクさん
ごっちんのお仕事は、一言で言っちゃうとウリですね。
ごっちんと市井ちゃんの関係は、そのうち…

>>92 リエットさん
ありがとうございます。
毎回レスしていただいて、とてもうれしいです。


やっと?さんの名前が出ました。
皆さん予想通りだったとおもいます(w
では今日の更新終了です。

101 名前:リエット 投稿日:2002年12月13日(金)01時03分05秒
予想通りでした(w
電話の人も出てきて、いよいよ新しい展開でしょうか。
102 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月15日(日)01時35分20秒
後藤の虚無感漂う姿がいいなあ…
続きが非常に楽しみです
103 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月15日(日)16時34分13秒
何か面白い展開ですねぇ・・・
目が離せません。
更新楽しみに待ってます!
104 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時12分17秒

十時。
広い校庭は体育の授業も入っていないらしく、人の姿はなかった。
ひろがる芝生の海に寝転んでおもいきり陽を浴びていたいと思うけれど、そうもいかない。
渋々昇降口へと向かう。

あと数十メートルで目的の昇降口、というところで、そこに佇む人影が目に入る。
制服を着ていないから生徒ではない。
あたしを待っているとするなら、心当りは一人だけだ。
どうしていいか分からなくなるから、目を合わせないように下を向いて歩いていった。

「ごとう」

すぐ側まで来たときあたしを呼ぶ声。
案の定それは聞きなれているあの人のもの。

「圭ちゃん」

さも今気付いたかのように顔を上げた。
見上げたその顔は、いつもより曇って見えた。

105 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時13分18秒

「久しぶりだね。朝からかなり待っちゃったよ。また上の先生に怒られるじゃない。たまには時間通りに来たら?」

怒りを抑えてなのか、優しく振舞っているのか、それとも素なのか。
わざとらしいくらい穏やかな声と共にあたしをみつめた。

「こんなところで待ってなくてもあたしから会いに行ったよ。またお説教されるの?」
「違うわよ。来る来ないは学校に通ってるあんたの自由だから。前からそう言ってるじゃない。
教師としては悪い見本だけどね、こんな事言ってちゃ。そんなことよりあたしは…」
「あたしは、なに?」

再び顔が曇る。
圭ちゃんが顔を曇らせるような続く言葉を、全く予想できないでいた。

「こんなとこでも何だし、保健室でも行く?授業中だしさ」

浅い溜息と共に圭ちゃんは呟いた。

106 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時14分10秒

静まった廊下に響く二人分の足音。
教師の声や談笑する生徒の声などが小さく耳に届く。

「後藤って二年何組だっけ?」

ふいに圭ちゃんが口を開く。

「二組」

特に何も付け加えることなく、聞かれた事だけを忠実に簡潔に答えた。

「そう…みっちゃんのクラスよね?楽しい?」
「別に…クラスの子とかあんまり話もしないし、行事もサボりっぱなしだし…」

口を開いてから、肩書上は教師である圭ちゃんにこんな事を言うのもまずいのかな、と考えて言葉をとめた。
でも圭ちゃんはさほど気に止めていないらしく、そう、と軽く言ってそこで会話は途切れた。
そして寂れた保健室のドアを横に動かした。

107 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時15分15秒

特別棟の一番奥、日の当たらない薄暗いこの部屋。
普通の生徒はあまり使用しない部屋で、圭ちゃんの仕事場と、一部の固定客による恰好のサボり場となっていた。
あたしももちろん、その中の一人。

「ほらー、いつまで寝てんの!二時間寝たらもう充分でしょ!教室戻る!」

圭ちゃんはカーテンの向こうに三台並ぶベッドの一番窓際で眠りの中にいた生徒をたたき起こし、保健室から追い立てた。
よくここで見る顔だったけれど学年も違うので名前は知らない。
あたしを横目で見ながら、ドアを激しく閉めて出て行った。

「全く…。あー、そういえば久しぶりだね、こうやって二人で話すの」
「…うん」

108 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時16分05秒

考えてみると一ヶ月ぶりだろうか、こうやって圭ちゃんと向き合うのは。
締められた反動で少しだけ跳ね返ったドアをゆっくり閉めて、圭ちゃんは長椅子に腰を下ろす。
窓の外では、大好きな芝生の海が輝いて呼んでいるようにみえた。

「話ってなに?」

圭ちゃんのほうを見ると、同じくあたしを真っ直ぐに見つめていた圭ちゃんと視線が交わる。

「…後藤、転校生がきたの知ってる?」
「知らない、けど…?」

知らない。
けれど心当りはある。
昨日真里さんが電話で言っていた、アイツ。

109 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時16分36秒

これからの話に、そして圭ちゃんに何が関係あるのか不思議だったけど、これから解き明かされるだろう事にいちいち反応は示さない。

「暫く来てなかったものね。一昨日から来たんだけど…後藤と同じクラスなのよ、その子」
「え………」

血の気が引くような感覚があたしを襲う。
まだアイツと決まったわけじゃないのに、いい方向へ考えようと出来ないあたしの脳を恨む。
うっすらと曖昧になっていた存在が突然色濃く浮き上がってきた。

110 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時17分25秒

「どうした?」
「え?」
「震えてる……」

そう言われて気付く。
小刻みにカタカタと上下するあたしの体。

「別、なんでも……」

止めようとしても、まるで自分の体じゃないみたいに操る事が出来ない。
どう動かしていたのかすべて忘れてしまったように。

「やっぱ、何か関係あるんだ?」

上品な茶色い髪を掻き上げて、溜息を零す。

111 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時18分16秒

「ちょうど二週間前に、編入希望で来たの。それがその編入試験は前代未聞の県内でもトップクラスの成績で合格。
そんな子がここに入りたいって言うもんだから校長は悠々編入認めて。むしろ来てくれって頼み込んじゃってさ。
それで、校長に条件突きつけたの。ここに入るから、代わりにって」
「じょう、けん…?」
「そ。ここの学校にいる後藤真希と同じクラスにさせてください、って」

どくどくと心臓の音が耳の奥に響いた。
頭がぼーっとして熱が支配してるみたいに頭がぐるぐるする。

「それでずぅっと気になってて。後藤に聞こうと思っても学校出てこないし…。
どういう知り合いなの、ヨシザワヒトミとは…?」

112 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)23時18分51秒

ヨシザワ、ヒトミ。
一番起こって欲しくなかったことが今、現実になった。
頭を支配する思い出。
思い出しちゃいけない。
あいつの声、言葉、笑顔、温もり………。

「ぃゃ…、だめぇ…」
「後藤?ちょっと、どうしたの!?後藤!!」

遠くなる圭ちゃんの声と周りの色。
逆らおうと必死にもがいてももう遅かった。
引きずり込まれるように目の前が黒に変わっていく。
―――迎えに来たよ、ごっちん。
アイツの声と、共に。

113 名前:作者 投稿日:2002年12月16日(月)23時23分06秒
>>101 リエットさん
やっぱり予想はあってたみたいで(w
そろそろ新しい展開に入っていくところだと思います、はい。

>>102 名無し読者さん
ありがとうございます。
続きが楽しみだといってもらえるのがすごくうれしいです。

>>103 ヒトシズクさん
ありがとうございます。
ところで青板でなんというお話を書いてらっしゃるんですか??
ぜひ教えてください。

いつのまにか100越えてました。
うれしい事です。
では今日の更新を終了します。
114 名前:リエット 投稿日:2002年12月17日(火)06時27分28秒
一波乱ありそうな予感。。。
過去に何があったんだろう。
115 名前: 投稿日:2002年12月17日(火)12時42分09秒
更新お疲れ様です。
ここの小説のムードいいですね!読みやすいです。
ごっちんの過去とか現在の事とかが少しずつ見え隠れしてるところがまたいい!
116 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月17日(火)17時14分21秒
おぉ!よっすぃーが・・・。ごっちんの過去が気になるところですねっ!
今日は気になって眠れないかもしれませんね・・^^;
更新頑張ってくださいね!
117 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)00時56分55秒

「ごっちーん、起きろ起きろー!」
「ん………?」

聞き覚えのある、それでいて遠い過去の声が耳に入って、うっすらと目を開けた。
寝ぼけた頭にはまだ意識が流れてこなくて、ぼぉっとその人影を見つめた。

「あー、起きた。やっほー!ごっちんおひさー!」

久しく呼ばれていなかったごっちん、と言う響きに耳を疑う。
今実感した。
アイツはこんなにもあたしの側にいた事。
そしてこんな風にほぼゼロに近い距離であたしを見下ろす事が出来るって事を。

118 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)00時58分31秒

「あ、後藤起きた?気ぃ失ったみたいだったんだけど、大丈夫?」

カーテンが開いて圭ちゃんが空間を割った。
本当に小さな、この一部分。
それでもあたしにとっては見知らぬ人の部屋にいるよりも、異空間にいるよりも居心地の悪いものだった。
今圭ちゃんの気遣いに答えている余裕はなかった。

「出てって」

あたしの発した言葉に驚きの表情を見せたのは圭ちゃんだけ。
ひとみは分かっていたんだろう、あたしがこんな反応をすると。
全て理解しながらこんな事をするんだろう。
目の前で微笑む、吉澤ひとみは。

119 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)00時59分24秒

「冷たいなぁ、久々に会ったのに。昔はいろんなことした仲じゃん?」

わざとあたしが嫌がる言葉を選んでいる。
そんなひとみの意思が嫌ってくらいに伝わる。

「関係ない。出てけ。金輪際あたしに近寄らないで」
「変わらないね、ごっちんも」

まるっきりあたしの声が聞こえないとでも言うのだろうか、柔らかく微笑む。

120 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)01時00分08秒

綺麗だった。
昔よりまた、端正な顔立ち。
睨み付けているつもりなのに、その目を真っ直ぐ見つめられない自分が醜くて汚くて。
益々嫌いになる。

「出て行かないなら、あたしが出て行くよ」

立ち上がり、この空間から逃げようとしたあたしの腕を、ひとみの細い指が軽く包んだ。

「離して」
「イヤ」

にっと笑って。
一瞬のうちにあたしの唇はひとみのそれに吸い込まれていた。

121 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)01時01分06秒

「っ………!」

突き飛ばしてやりたいけど、いつの間にか強く握られた腕がそうさせてくれない。
必死の抵抗も全て吸収されてゼロになっていく。
きゅっと閉じていたのに丁寧に舐められるうちに緩んでしまった唇を恨む。
その一瞬で舌が絡められた。

「ん、っ…ふぅ………」

深く深く。
別れていた時間を埋めるかの如く絡むひとみの味。
あたしを乱していく。

122 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)01時02分05秒

漸く緩んだ、腕を掴む手の力を見計らって、あたしはひとみを突き飛ばした。
といっても力があまり入らなくて弱々しいそれだったけれど。
離れたひとみの唇あたしのかひとみのから分からない交じり合った唾液で妖しく輝いた。

「へへ、やっぱごっちんが一番うまいね、受ける側のキス」
「ふ、ざけんな…!」

乱れた息で叫ぶ。
それを待っていたかのようにひとみは微笑んだ。
こんなに笑顔が上手い奴だったっけ、ひとみって。

「今日はこれで引いとく。明日も明後日も明々後日も、次がずぅーっとあるからね」

次が、ずっと。
あたしとひとみの、次。
そんなの存在しない。
存在して欲しくない。

123 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)01時03分04秒

「んじゃね、また会おう。保田先生も、ご迷惑おかけしましたぁ」

嫌味なくらい丁寧に挨拶をして、その小さな空間から出て行く。
廊下へと続くドアが重苦しく閉じるのを耳の浅いところで聞いて、あたしは体をベッドに落とした。

圭ちゃんに見られていた事が何より一番イヤだった。
こんな無様な自分を見られたくなんかなかった。

「後藤………」

圭ちゃんは名前を呼んだけれどその後に言葉は何も続かなかった。
心がほっとしたのを聞いて、あぁあたしも何かを恐れているんだと気付く。
唇に残るひとみの温もりをかき消すように我武者羅に制服の裾で擦る。
ひりひりと痛んだけれど心の痛みに比べたら大分軽いものだった。

124 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)01時04分07秒

ポケットから携帯を取り出し画面をみると、メールがたまっているようだった。
機械的な文字で同じような言葉羅列している。
今夜の指定のメールが主だった。
こんな気分で上手く笑える自信がないしそれを中途半端に詮索されるのはキライだったから、亜弥にだけメールを送り返して、あとは何も見ずに携帯を折り畳む。

「後藤?」

圭ちゃんは突然に声をかけた。
先程の事はまるで夢でも見ていたかのように、至って普通の声だった。

「なぁに?」

圭ちゃんの気遣いがあたしにも充分すぎるくらい伝わったので、あたしも至って普通な顔で答えた。

「この後どうする?」
「ん?授業出るよ」
「そっか…でもさ…」

続く言葉。
確信に近いものがあった。

125 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月18日(水)01時05分07秒

「吉澤もいるよ、きっと」
「分かってる。気にしないもん、大丈夫」

予想したとおりの言葉にありきたりな言葉を並べて返す。
壁にかかった時計を見ると十一時半を少し回ったところ。
午後の授業から出ればいいだろうと思い、薄い掛け布団の隙間に身を埋めた。

「午後から出る。お弁当食べてからいくから、一時くらいなったら起こしてくれる?」
「うん、分かった」

そう笑って呟き、圭ちゃんは狭いベッドルームを立ち去った。

「ごめんね」

絶対聞こえないように、掠れるくらい小さな声で呟いてみた。
誰への謝罪の言葉なのかは自分にも分からなかった。
126 名前:作者 投稿日:2002年12月18日(水)01時09分01秒
>>114 リエットさん
ありがとうございます。
後藤の過去は追々分かっていく事と思います。

>>115 葵さん
ありがとうございます。
これからも読みやすさ重点においてがんばります。

>>116 ヒトシズクさん
ありがとうございます。
小説拝見いたしました。
時間をみつけて深く読んでみたいと思います。

では今日の更新終了です。
127 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月18日(水)16時38分56秒
ゴチーンが倒れてコソーリよしこが居る事にビクーリ。
128 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年12月19日(木)09時14分31秒
ものすごく引き込まれています。
更新楽しみにしています。
129 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月21日(土)18時24分01秒

「せんせー」
「…なんだ、吉澤」
「ごっちんの近くじゃないと息が出来なくて死にそうなので席変えてくださーい」

まただ。
数式を書くのをやめて振り返った教師は、困り果てて眉間を抑える。
こんな馬鹿げた挙手はこの時間だけでもう三回目になる。

「いい加減にしてくれる?」

耐え切れなくなって低く抑えた声でニコニコ笑っているひとみに言った。

130 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月21日(土)18時24分45秒

「ごっちんはぁ、あたしが死んじゃってもいいのぉ?」

教師はもう何も言おうとしなかった。
ただひとみを見て溜息を繰り返す。

「全然いいけど」
「うっわ、ひどぉ!ごっちんに捨てられたよ、せんせー!」

あたしは真剣に‘いいよ’と言った。
教師も周りの皆も驚いた視線をあたしにぶつける中、ひとみだけが浮いた空気を発する。
話を振られた教師も呆れた顔をしていた。

131 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月21日(土)18時25分30秒

「あんたが捨てたくせに」

精一杯の嫌味をこめて送った言葉。

「あー?あ、そっか!あはは、そういやそうだねー」

本当に心からおかしそうに笑うひとみによって無様な女の執念みたく聞こえてしまった。
少しは困った表情をしてくれるかと思っていたあたしを再び奈落の底にたたきつけるみたい。
どこまであたしを格好悪くさせたらひとみは気が済むのだろう。

132 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月21日(土)18時26分09秒

「いい加減にしろ!吉澤、静かにしなさい。後藤、お前もやる気がないなら寝ているより出てっていいんだぞ!
それでなくても最近弛んでる。たまに学校に来たと思えばなんだ!」

こんなひとみでも頭はいいらしい。
校長もソレを認めているというのだから、直接には怒れないのだろう。
その分あたしに怒りが回っているのが目に見えた。
最悪の循環だ。

「え、ちょっと先生、そこでごっちん怒るのは人として間違ってるでしょ?」

おどけた様子、でも何故か強い口調でひとみは言った。
あたしを散々馬鹿にしておいて、あたしを庇う様な言葉を。

「な、本はといえばお前が………」

133 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月21日(土)18時26分39秒

はっと何かに怯え、我に返ったように教師は言葉を止める。
ひとみが鋭い刃のような視線を教師に浴びせていた。
一瞬、あたしはソレに囚われる。
何もかもそのひとみの目に奪われてしまいそうになる。
そんな自分に気付いてぎゅっと強く目を瞑った。

「悪かった……」
「ごっちんには?」

精神的に教師を追い詰めているひとみ。
睨みを利かせたまま低い声で言った。

「…後藤も、悪かったな」
「いえ、別に…」

134 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月21日(土)18時29分19秒

あたしは別に謝られる事に意味なんて感じなかった。
それでも、青ざめてあたしを見つめる教師をこれ以上攻めるつもりも無く、小さく頷いた。

「うっし!じゃあ授業続けてください?あたしはココで我慢してますから」

うって変わった明るい声。
張り詰めていた空間を切り裂いてひとみは言った。
まるで空気を操っているかのようにパチンと空気を切り替えてしまった。
どちらにしても、そんなにいい空気でない事に変わりはないけれども。

「…じゃあ、ここの問いから説明する」

生徒に背を向け、再び黒板にチョークを向けた教師はとても小さく見えた。
いつもよりずっと静かな部屋に、チョークのなる音が嫌によく響いた。

135 名前:作者 投稿日:2002年12月21日(土)18時31分53秒
>>127 名無し読者さん
ありがとうございます。
なぜよしこがいるかは次回更新で…。

>>128 名無し募集中。。。さん
ありがとうございます。
すごくうれしいお言葉ありがとうございます。

今回の更新終了です。
136 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月22日(日)01時35分30秒
ごっつぁんとよすぃ子の関係は何なんだろう…
激しく今後の展開に期待!
137 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月22日(日)16時10分15秒

「しつれーしまーす」
「はい?どうしました?…って、あなた……」

後藤が突然気を失って、取り合えずベッドへと運んだあたし。
寝顔を暫くじっと眺めていて、眉間に皺がよっているのを見て悲しくなった。
もういたたまれなくなって自分の仕事をしていたあたしの前に訪れた突然の訪問者。

「一年二組、吉澤ひとみでーす。症状はごっちん不足。って事でごっちんいますか?」

ずかずかと歩いていき、ベッドルームのカーテンを軽やかに開ける。
その目の前に後藤は横たわっている。

「ちょっとあなた…やめなさい。授業はどうしたの?」

138 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月22日(日)16時10分50秒

後藤が寝ている為あまり大きな声は出せない。
今出来る最大限の声で訴えて腕を掴むけれど、あたしの存在なんか無視するように振り切って、吉澤は後藤の頬に自分のソレを寄せた。

「ごっちん…痩せたね…」

やさしく呟いて頬を撫でる。
そして唇を重ねた。
まるで映画のワンシーンのように幻想的なその絵に、あたしは目が釘付けになっていた。
はっと気付いたのは、吉澤が顔を上げてあたしの方を挑発的な目で見ているのを感じた時だった。

「いい加減に………」
「しー!ごっちん、起きますよ?」

さっき後藤の唇に触れていた彼女自身のソレを尖らせて人差し指をあたしの前に持ってくる。

139 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月22日(日)16時11分29秒

「あんた一体何者なの……?」

頭を抱えて真希が寝ている隣のベッドに腰を下ろす。
今まで気付かなかったけれど、その吉澤はものすごく綺麗な顔立ちをしていた。
そこらの芸能人なんかと比べても引けをとらないくらい、むしろ際立つくらい端正なその顔。

「ごっちんを愛して止まない、単なる女子高生です」

売り物のような笑みを浮かべた。
この笑顔、どこかで見覚えがある。
すごく綺麗で、それでいて熱のこもっていない人形のようなその笑顔。

―――後藤の物と全く同じだった。

140 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月22日(日)16時12分10秒

「どういう知り合いなの、後藤とは」
「あー、客でした。あたしが、ごっちんの」

後藤の茶色い艶やかな髪は吉澤の手の平をさらりと流れていく。

「何も知らないんですね、ごっちんのこと。ごっちん、何も話してないみたいだ」

わざと腹を立たせているように、鼻で軽く笑って。
そしてすぐ悲しげな顔をした。

「まぁあたしが悪いんですけどね、そうなったのも。全部、全部………」
「それってどういう……!」
「静かにぃ!ごっちん起きるってば!」

吉澤が髪に隠れた顔を上げて、あたしの言葉をとめる。
やばいと感じて後藤の方を見ると、やはり目が覚めたようで虚ろな目が少しだけ開かれていた。

141 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月22日(日)16時12分40秒

「ほら起きちゃった。まぁいいか。起こしちゃおう。ごっちーん、起きろ起きろー!」

後藤の体をゆすり叫ぶ吉澤を止めようとはしなかった。

何もかも謎に包まれた吉澤のおかげで一つだけ気付いたことがある。
あたしは後藤の事何も知らない。
後藤はあたしに何も話してくれてない。

142 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月22日(日)16時13分27秒

はぁっと溜息をついて、一旦その小部屋を出た。
外側からぎゅっとカーテンを握り締めて頭を埋める。

後藤が話してくれないなら、あたしは知らないフリをする冪なんだろうか。
それとも無理にでも聞き出してどうにかしてやる冪なんだろうか。
保健教務として、幼馴染として踏み込んでよいのはどこまでなんだろう。
あたしの生きて来た中の価値観ではもう図りようが無いところまできている事に気付いていた。

もう一度大きな溜息をついてカーテンをあけ、空間に足を踏み入れる。

「あ、後藤起きた?………」

いつかあたしに話してくれることを信じて待っていていいの、後藤?

143 名前:作者 投稿日:2002年12月22日(日)16時15分46秒
>>136 名無し読者さん
ありがとうございます。
保田さんがいたせいで襲うにも襲えなかった吉澤さんでした(w

でわ、今日の更新を終わります。
144 名前:豚馬牛 投稿日:2002年12月22日(日)16時40分51秒
なは!保田先生がいても微妙に『関係ないYO!』みたいな
よっすぃー最高。てゆーかごっちん病って…。原因もごっちん、
治療に使う薬もごっちん。すっげ!
145 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月22日(日)16時53分13秒
よしこ、大胆!!!
保田先生の行動が面白い♪
更新楽しみに待ってま〜す!
がんばってください!
146 名前:136 投稿日:2002年12月23日(月)01時27分37秒
すごく楽しみな小説で、更新されてるのがめちゃくちゃ嬉しいです。
何気に自分はやっすー視点で楽しんでます(w
147 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時26分09秒

それから一週間、何を思ったかひとみは学校へ姿を見せなくなった。
教師たちは皆驚き、不満の声を漏らしていたが親呼び出しになったり家庭訪問になったりする事は無かった。
ひとみが‘優等生’であるから。

どっちにしろあたしには関係の無い事であり来ないほうがあたしも充実した学校生活が送れるというものだ。
あたしは保健室に行くこともサボる事も休む事も無く、無事その一週間を終えた。

ただいつもと違っていたのは、市井ちゃんだった。
あたしと目をあわせようとしない気がする。
どことなく避けられている気がする。
それに夜は必ずどこかに出かけていくようになった。
一体何があったのかあたしには検討もつかなかった。

148 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時27分10秒

そんなある日。
いつもと同じように学校から家に戻る。

今日もひとみは姿を見せなかった。
教師たちがどうにかしたほうがいいと話し合っていたようであたしも一応話を聞かれた。
関係ない、と言いたかったがそんな素振りを見せるとまた後々五月蝿いので何も知らないと言い通して逃げ帰ってきたのだった。

149 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時27分54秒

「ただいまー」

ドアを開けると、珍しく市井ちゃんの靴がそこにあった。
そしてまたもう一つ、見知らぬ靴が一足。

「いちーちゃー…?」

リビングへ歩くと、誰かの甲高い声が耳を掠める。

『ん、あぁぁっ!ゃあっ………』

聞こえたのはうっすらとだったけれど市井ちゃんのモノでない事は分かった。
でも、この間までここに来ていた人の声とも違う。
モテるのをいいことに女遊びが激しい市井ちゃんのこと、また別の女の人に手を出したんだろうと簡単に予想がつく。

150 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時29分01秒

市井ちゃんが抱いてる女の声なんか聞きたくも無くて、リビングの扉をぴったり閉め切ってここ数日入れた事も無かったテレビの電源を入れる。
たいしておもしろくもない一年位前のドラマの再放送。
このドラマが放送されてたころ、あたしは何をしていただろう。
名前も知らない女優の演技をぼぉっと見つめて考える。

―――あぁ、ちょうど市井ちゃんに出会ったころだ。

寒さに震えるあたしに、手を差し伸べてくれた市井ちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。

「…あっほくさ」

なんだか自分に無性に腹が立ってがむしゃらにちチャンネルを変えていく。
しかしどこに回してもくだらないものばかり。
余ってしまった時間を無理無理つぶすような、あってもなくてもいいものなんて―まるであたしの存在みたい。
それでも他人の喘ぎ声を聞いているよりはよっぽどマシだから、興味もないけれどニュース番組にチャンネルを合わせっぱなしにしておいた。

151 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時29分37秒

「まきぃ?おーい!まーきー?」

意味も無く受信メールを過去から読み直していた時、市井ちゃんの声が耳に入る。

「あー、市井ちゃん」

ドアのほうに目をやると、ただ突っ立っている市井ちゃんがいた。
すごく久しぶりに見る気がする、市井ちゃんの正面の姿。
少し恥ずかしくて目線を首の辺りにずらした。

「終わったの?」

立ち上がって市井ちゃんに近づくと、市井ちゃんは笑った。
当たり前なそのことが随分昔のものに感じられて可笑しい。

152 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時30分15秒

「あぁ。てかテレビの音量でかすぎ。嫌がらせ?」
「はは、まぁねー」

いつもの市井ちゃんだ。
いつものっていう言い方はおかしいかもしれないけど、あたしにはそうとしか表せない。
ようやく顔を見る事が出来てあたしも笑い返すと、突然市井ちゃんの匂いがあたしを包んだ。

「なに、どうしたの?」
「駄目だ。あんな女じゃ足んない。真希しよー?今すぐしよー?」
「え、ちょっと、なにぃ?」

抱きしめていた手が緩まったと思うと、手を引かれて市井ちゃんの部屋へ強制連行。
そしていきなりふかふかのベッドに沈まされる。

153 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時31分08秒

「意味わかんない………」

あたしの脇腹をはさんで両膝をつき、見下ろしている市井ちゃんに苦笑を投げた。

「やばいんだよ最近。抱きたくてたまんない。一週間女抱きまくってきたけど、やっぱ駄目だ」

まだ制服姿だった事に今更気付く。
市井ちゃんの申し入れを断るつもりは全く無い。
早急にブレザーとカーディガンだけ脱いでベッドの下に落とした。

「なんか制服って背徳的。いいかも」

そう呟き笑う。

154 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時31分40秒

ネクタイやブラウスのボタンを解く市井ちゃんの慣れた手つきに釈然としないものを抱きながらも、早々に体を委ねた。

「ばーか」

ボタンが全部外されたところで些細な反論を一つ。
ちっとも気にしていない様子で軽く笑い流し、背中に手を回した。

「いただきまーす」
「…どうぞ召し上がれ」

あたしの胸に顔を埋めた市井ちゃんの髪をくしゃりと混ぜる。
微かに市井ちゃんの匂いがした。

155 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時32分46秒

―――――――
―――――
―――
「んっ、ぁ!はぁ…っく…ん…」
「ねぇ真希…?」

薄れ行く意識の中。
掠れた市井ちゃんの声。

「な、にぃ……ぅんっ!」
「真希にとってあたしはなに?」

市井ちゃんの指は三本。
限界まで深くあたしの中に差し入れられている。

「っちーちゃ…?…っふ、ぁぁっ…!」

少しざらついた物が太腿を這って行く。

「な、んでぇっ…んな、こと……っあぅ!」

156 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月23日(月)23時33分31秒

快感の波は容赦なくあたしを飲み込もうとするけれど必死でもがく。
市井ちゃんが伝えようとしてくれてる事、今受け止めなければならない気がしていたから。

「真希、あたし……」

切ない声を漏らしながら途端に指の動きが早まる。

「ぅあぁっ!…ゃ、だめ、…っく…ぁ…!」

全身でイク事を拒否するけれど、人間に無理な事なんて沢山ある訳で。
あたしにとっては今がその瞬間だった。

「ゃだぁ、ぁっ!んんっ…!」

きゅっと核を摘まれて、努力のかいもなくあたしの意識は消えた。
市井ちゃんの切ない顔を視界の隅で感じながら。

157 名前:作者 投稿日:2002年12月23日(月)23時39分10秒
>>144 豚馬牛さん
ありがとうございます。
ごっちん病です。
吉澤さん、重度のごっちん病です。
やばいです。

>>145 ヒトシズクさん
ありがとうございます。
保田さん弱いです。
弱々病です。
ほんともう弱ってます。

>>146 136さん
ありがとうございます。
保田さんですか。
弱々保田さんですか。
弱具合が他の篠かもしれませんね、保田さんのキャラは。

明日はイブなのに関東では雨だそうですね。
雪になればいいですけど。
それでは、更新終了です。
158 名前:作者 投稿日:2002年12月23日(月)23時40分49秒
>>157
てか他の篠って。なんですかソレ。
他の篠→楽しい ですね。
159 名前:136 投稿日:2002年12月23日(月)23時53分53秒
どうしてごっつぁんてこんなにも受けが似合うんだろう。そして萌える…
よし子の行方も気になりますが、今は今でめちゃくちゃイイ感じです。
登場人物みんなが好きになりそうな個性を持ってますね。
160 名前:リエット 投稿日:2002年12月26日(木)04時25分15秒
市井さんにも、保田さんにも、吉澤さんにすら影が見えて……。
切ないです……。
161 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時37分25秒

「ねえ、それでどう思う、矢口は」
「えー?なにがぁ?」

きゃはは、と甲高い笑い声を上げて。
あたしからしてみればちっとも読む気のしないギャル雑誌に目をやったまま答える。
あぁ、まじめに聞いてない。
その態度ですぐに理解する。
さっきから全て上の空で返事をする矢口に、そう長くないあたしの気はすぐに切れた。

「いい加減にしてくれる?」
「………ハイ」

さっきまでの態度が嘘のよう、矢口は寝転がっていたベッドにきちんと正座をしてギャル雑誌を閉じた。

162 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時38分02秒

矢口は、あたしにとっていい相談相手だった。
ただ聞いてもらうまでが大変なのだけれど。
秘密だといった事は絶対に他言しないし、後藤の数少ない友人でもある(と思う)。
この話は矢口に持ちかけるのが一番適切だと、あたしは暫く悩んで判断したのだった。

「で、どう思う?後藤と、その吉澤って子。矢口は一度吉澤と会って話してるんでしょ?」
「あーそゆことかぁ。うん、話したことある。まぁそれも後藤についてだったんだけどね」
「それも謎なのよね。うーん……」

後藤と吉澤の関係。
おそらくは以前恋人関係だったのだろう。
後藤は小さなころから男だとか女だとかの常識を超えて恋をするおかしな奴だったから、不思議は無い。
ただ後藤は何に怯えているのか。
それが謎だった。

163 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時38分40秒
「けーちゃんさぁ、後藤のこと気にしすぎじゃない?」

腕を組んで黙りこくっていた矢口が突然口を開いた。
ただ、その言葉はあたしの心を深く深く刺した。

「…どういうことよ」
「後藤にもさぁ、話したくないことの一つや二つあるんじゃないの?
まして圭ちゃんは幼馴染だったわけでしょ?昔を知ってる人に今の自分を見られるのって結構嫌だと思うんだー。
ここはひとまず距離置いてみて、遠くから見守るってのも手じゃない?
後藤ももう十七になったんだし、自分でしなきゃいけないことぐらいわかってるだろうし。圭ちゃんがそんなに突っ込む理由はないじゃん?」

かばんから取り出したクッキーの袋をあけながら、矢口はあたしにそう言った。
けれどそれが適当な感情で出されたものじゃない事は充分理解している。
だから、余計に痛かった。
図星を突かれたような気がして。

164 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時39分22秒
「後藤は、誰かが救ってあげなきゃ、いけないの」

おかしいな。
こっちを見た矢口の顔が水っぽく揺らいでる。

「ちょ、圭ちゃん?泣かないでよ、ごめん、きつく言いすぎた?」

矢口に言われて、泣いてるんだと気付いた。
何年ぶりかの涙は、あたしをどんどんかっこ悪くさせていく。
慌てた顔をしてる矢口の顔も心配そうな声を、あまり頭に入らない。

「ごめん、でも聞いて?あたしね、後藤が一番辛い時に側にいてやれなかったことがあるんだ、昔」

矢口はあたしの言ってとおりおとなしくベッドに座って、まっすぐにあたしを見た。
そしてこくこくと頷く。
165 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時40分13秒
「後藤が中学に上がる時、あたしも大学へ行って教師になる為に家を出た。
それまでの――ううん、あたしが知ってる後藤は、すごくよく笑う子でね、近所でも有名ないい子だったの。
かけっこや球技をやらせればなんでも一番、面倒見もいい、それにすごくかわいい。
あたしもそんな後藤をすごくかわいがったし、後藤も何でも話してくれた。
仲のいい姉妹みたいだねって、うちの両親も後藤の母親もいつも笑ってた」

流れる涙の所為で時々のどが詰まって、あたしをいらだたせる。
けれど矢口はあたしの言葉を、一つ一つ、丁寧に頷きながら飲み込んでくれている。
そしてそれは、あたしの気持ちも落ち着かせてくれた。
166 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時40分43秒

「一度帰ると中途半端になりそうでいやだったからそれまで一度も家に帰ってなかったんだけど、
一人の暮らしにも慣れて、まぁまぁ自分の事も出来るようになってきたから、地元に帰ってきた。
後藤は……中二の夏ね。あたしが家を出てから丸一年半ぶり。後藤に会えるのを一番待ってた。
でも、そしたら後藤は―――」

のどにつまった息を飲み込んで。
はぁっと一つ溜息を落とし、息を整えて、顔を上げた。

「―――家を、出てた。ううん、地元を出てた。町のどこを探しても、後藤はいない、いない、いない…。
後藤の母親にも、それにあたしの知らない義父って人にも何度も尋ねた。
それでも後藤がどこへ行ったか、一つもわからなかった。おかしな話でしょ?
親が、娘の居場所を知りませんなんて、簡単に言える?」

167 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時41分38秒

あの時の事を思い出すと、今でも胸の奥が締め付けられる。
見たことも無いような冷たい顔で笑う後藤の母親、それに義父。
苦しくて、切なくて、不甲斐なくて。
あれだけ家族を愛した後藤が、家族を捨てるのにどれだけの痛みを負ったのか。
それを考えるだけで、頭は割れそうに悲鳴を上げた。

「それから二年後、運命って物を始めて感じたよ。
あたしが初めて保健の副担当として就任した学校に、後藤がいたんだから。
後藤は高二にあがる所で。あたしは親任式のすんだあと、とにかく後藤を追いかけて、やっと捕まえて。
腕を掴んで振り返った後藤の顔を見た。四年ぶりの再会。
あたしは話がしたくて涙が出そうだったのに、あの子は……」

168 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時42分25秒

あの顔。
あの顔は、この前保健室で見た、吉澤と同じ顔。
昔の面影なんか一つも残っていない、冷たい笑顔。
背筋が凍った、あの時は。

「『お久しぶりです、保田さん』って。感情の一つもこもってない声で、笑顔で、あたしにそう言ったの。
後藤が壊れたこと、その時初めて気付いた。何がそこまで後藤を追い詰めたのかはわからない。
けど、家族を捨てる代わりに、自分の感情も捨てちゃったんだって、涙が出そうなくらい感じたよ」

胃がきりきり痛んで、顔が歪む。
でもこんなの、あの時の痛みに比べたら蚊に刺されたくらいのものかもしれない。
それくらいあたしは傷つき、そして後藤もそれと同じくらいか、もしくはそれ以上の痛みを受けたに違いない。
あたしが側にいてやれなかった四年間で、後藤は壊れたんだ。
あたしの所為で、全て。

169 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時42分57秒

「だからあたしは、後藤を守らなきゃいけない。後藤が必要としてなくても、あたしじゃ助けられないってわかっても、しなきゃならない。
それがあたしの償いなの。後藤を助けられる誰かが現れるまで、あたしは守る。
例え自分が傷ついたって、守らなきゃいけないの。罪は、償わなければならない。
だからあたしは、後藤と距離をおくことなんか出来ないの。
ごめんね矢口、相談しといてアドバイスに答えられなれないなんて、最低だよね。ごめんね………」

泣き声になってしまって、あとは何もいえなかった。
矢口にこんな姿を見られていることがすごく辛かったけれど、自分の意思で涙を止められない。
なんて弱い自分。

170 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月28日(土)00時43分42秒

「ごめん、圭ちゃん。矢口が軽はずみな事言ったよ。ほんと、ごめん……」

悪くない矢口にまで『ごめん』なんて重い言葉を吐かせてしまって。
矢口は悪くないって伝えたいのに、それを言葉にする事も出来ない。

強くなりたい。
切実に願っていた、あたし。
後藤を守るために。
周りに迷惑を掛けないために。

強く、なりたい。
171 名前:作者 投稿日:2002年12月28日(土)00時48分13秒
>>159 136さん
ありがとうございます。
この作品のテーマが誰も悪い奴はいないってことなので、すごくうれしいです。

>>160 リエットさん
ありがとうございます。
久々のリエットさんのレスでうれしいです(w

少し更新に間が空いてしまいました。
クリスマスでしたしね。
まぁ一応は作者も女子高生ってことで(w

きょうのこうしんしゅうりょうです。
172 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年12月29日(日)00時31分31秒
面白いです。次回更新楽しみにしています。
173 名前:136 投稿日:2002年12月29日(日)01時38分44秒
圭ちゃんかっこいいぜ!(w
それにしても、ごっちんの過去には何があったのだろう…
登場人物の思惑がそれぞれ読めなくて気になって気になって眠れ(ry
174 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月02日(木)00時24分13秒

がたんと音を立てて市井ちゃんが立ち上がる。
音を産み出すものの無い静かな部屋。
ぼーっとしていたあたしはびっくりして、一瞬体が揺れる。

「どしたの?」

ベッドの中から、カーペットの上に腰を下ろしている市井ちゃんに声を掛けた。
それは、行為が終わってから、初めて発した言葉。
何も纏っていないため、暖房が効いていても肌寒くて、掛け布団に肩までも潜った。

「ごめ、灰皿、取ろうと思ってさ」

そう言った通り、市井ちゃんは部屋の隅に追いやっていた灰皿をテーブルの上に戻して。
市井ちゃんらしくも無い下手な笑顔を見せた。

175 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月02日(木)00時24分44秒

「へんなの」

思わず、声が漏れた。

「なに?あたし?」

市井ちゃんもわかってるんだろう、自分の笑いが失敗作だったって事を。
いつもだったら、何も言わずに見逃すだろう。
けれど、今日は出来なかった。
しようと思わなかった。

「さっき、言ってたのさ、なに?」
「さっきって?」

ごまかそうと、今度は上手な笑いを。

176 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月02日(木)00時25分23秒

それでも、今日は引かない。
あんな――あんな泣き出しそうに切ない顔を見せられちゃ。

「さっき。市井ちゃんあたしに聞いたよね?あたしにとって、市井ちゃんは何かって」
「………あぁ、言ったね」
「どうして?何であんな事言ったの?」
「どうして、って……」

市井ちゃんは震えていた。
少し離れた所にいても感じ取れるくらい。
それくらい弱い顔をして、震えていた。

177 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月02日(木)00時26分04秒

触れたかったけれど、距離が悲しい。
立ち上がろうろしても足に力が集まらなかった。

「ぃ、ちーちゃん…?」

仕方なく声を掛ける。
そんな自分の声まで小さく揺れた。
市井ちゃんは近づけないあたしの代わりに、笑いながら距離を詰める。

ゆっくりゆっくり、冷たい指で頬に触れた。
そしてまた、冷たい市井ちゃんの唇と、少しだけ温度の高いあたしのそれとを重ねて。
ただ触れるだけの拙いキスは、市井ちゃんと、煙草の匂いだけを忠実に伝える。

「真希、あたし……」

離れた唇が、かすかな吐息とともに言葉を産む。
うん?と目で返事をして、市井ちゃんの表情を確かめる。

「真希の事、マジで好きかもしれない」

178 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月02日(木)00時26分48秒

ベッドの上に置かれた右手には煙草。
宙に浮いた左手にはあたしの頬。
どちらも小刻みに揺れている。
その反動で落ちそうになる煙草の灰を、第三者のようにじっと見つめている自分に気付く。

「ずっと、真希への思いから逃げてたんだ。本気になるのが、恐いから。
何も聞けなかったのも、いつも適当な返事してたのも、真希に拒否されるのが恐かったから。
あたしは――市井紗耶香って人間は、弱くて、汚くて、しょうがないんだよね」

薄い唇から穏やかに放たれる言葉を、脳が上手く飲み込んでくれない。
でも、漸く理解できたところで、何も言う事は出来なかった。
市井ちゃんはたいして吸っていない長い煙草を、灰皿に押し付けた。
鈍い煙と匂いが、市井ちゃんとあたしの間の空気を舞った。

179 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月02日(木)00時27分57秒

「あたしの事、そういう対象に見てないのは、充分知ってる。
だから気落ち、閉じ込めようとしてた………けど、もう限界。
真希の事好きすぎて、あたしが壊れそうになっちゃったよ」

ベッドから上半身だけ起こしていたあたしに、市井ちゃんの体が被さる。
感じるのは、肌に直接触れる衣服の感触と、微妙な吐息、市井ちゃんの存在。
そして、触れた手の冷たさ。

「……いい、から。これからも、真希の事話してくれなくても。
あたし何も聞かないし、無理に聞き出そうともしないし、さりげなくアピったりもしない」

胸がピリピリ痛い。
いつからこんな痛み、忘れてしまっていただろう。

180 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月02日(木)00時28分45秒

目に映る市井ちゃんの表情がゆらゆら動く。
熱い液体が、すっと、斜めに頬を流れていった。

「泣かないで真希。真希が泣く必要なんて、何もないでしょう?
もし真希が何か話してくれるなら――あたしを、必要としてくれるなら、いつでも話聞くから。
待ってるから。真希の心を受け止められるだけの強さ、持ってさ」

長い瞬きで涙を隠して、目を開けると、市井ちゃんの姿は遠くにあった。
背を向けて、ドアと向かい合っていた。

「ゃ…待って、いちーちゃ……」
「ダメ」

ふらつく足を床に落とすと、こっちを振り返らない市井ちゃんから、声があがる。
切なくて、いつも頼れる市井ちゃんの背中がすごく小さく見える。
泣いてるのかな、と思ったけど確かめるような事はしなかった。
きっとそれは、確信だったから。

「ごめん、ちょっと、外出てくるから」

ドアに消えた市井ちゃんの残像を、目を凝らして、いつまでも見つめた。

181 名前:作者 投稿日:2003年01月02日(木)00時34分54秒
>>172 名無し募集中。。。さん
ありがとうございます。
待っていただいてる間に、いつの間にか年も明けてしまいました。
今年もよろしくお願いします。

>>173 136さん
ありがとうございます。
眠れないまま新年を迎えさせてしまって大変申し訳ございません(w
今年にはごっちんの過去もわかると思います。

あけましておめでとうございます。
2003年ですね。
今年も作者とこの拙い作品を宜しくお願いします。
新年そうそう風邪を引きそうな作者よりお届けします(w

では、今年初の更新終了です。
182 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月02日(木)13時06分53秒
明けまして更新ありがとうございます!
市井ちゃんな告白に心踊りますが、このまま一筋縄じゃいかないだろうなぁ、とも
思ったり…
183 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月02日(木)22時03分40秒
うぁー市井さん切ないなぁー
184 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)00時04分58秒

このままじゃダメだ。
あたしも市井ちゃんも。
それに、亜弥も、圭ちゃんも、もちろんひとみも。

亜弥と、毎度好例のお風呂に入りながら、ぼーっと考えた。
まぁ今日はいつもと違って、ラブホの超高級なソレだけれど。

「まーきーさんっ!」
「ん…?」
「顔、真っ赤だよ?出たいなら出たいって言ってよー?なに、ぼーっとしてるんですかぁ?」

丸く大きな大理石のお風呂に張られたお湯は、亜弥の好みによって全てが泡へと変わっていた。
あたしはこの泡風呂の感触がどうも苦手だったけれど、亜弥は気に入った様子だったので何も言わず、あふれる泡を玩ぶ。

185 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)00時05分49秒

「亜弥…?」
「はぁい?」
「今日、市井ちゃんに告られた……」

隠し事をするのも嫌だったので、正直に亜弥に告げると、一瞬驚いた顔をして、でもすぐにそれをしまい込んで笑った。

「なんか、そんな気はしてたかな、亜弥は」
「は?なんで分かんの?」

あたしの頬についていたらしい泡の塊を、優しく取り除く。

「だってぇ、亜弥天使だもーん」

あたしの髪をぐしゃって撫でて、ふざけた口調。
まじめな話だったのに、何故か笑っている亜弥に腹を立てるより、むしろ不思議な気分になった。

186 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)00時06分36秒

「市井さんが、すごく真希さんのことを大事にしてるのは、気付いてたんですよ」

あたしの真剣な顔に、笑いは不必要だと気付いたのか、亜弥も真っ直ぐな目で、あたしを見た。

「何で亜弥にはいつもいつも分かっちゃうかな、あたしの周りの事」

あたしはこの間、亜弥の口から直接聞かされるまで、亜弥の事は何も知らなかった。
そして今だった、ほんの少ししか分かっていないんだろう。
それなのに、いつも亜弥はあたしの少し上を行ってる。
全部知ってて、上から見下ろされてるような感覚に囚われる。
なんか、ズルイ。

「教えて欲しいのぉ?」
「当たり前」

187 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)00時07分17秒

少し低い目線にいる亜弥。
あたしを見上げて、何かを確認するように言った。

「あーあ、聞いちゃったね、真希さん。言っちゃうよ、いいの?」

頬が両側から優しく挟まれる。
固定されたまま、亜弥とみつめ合う。
何事かよく分からないけど、亜弥の真剣な目に、あたしはこくりと縦に首を振った。

「じゃあ、言っちゃうよ?真希さんが言えって言ったんだよ?
………あたし、真希さんが好き。いつの間にか、本気になってた。
こんな事、今言ったら困らせるだけだって知ってるけど、聞きたいって言ったのは真希さんだからね?」

いつもの営業スマイルをばっちり向けられて、あたしにそう告げた亜弥。
でも、それは何故か儚くて、枯れかけた花みたいに見えた。
亜弥の笑顔が完璧な作り物だって気付いたのは、いつ頃だっただろう。

188 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)00時07分52秒

頭の中はもう真っ白で、ただ亜弥の顔がリアルに悲しい笑みを浮かべている。

「亜弥、あ、たし………」
「すとーっぷ!分かってるから、言わないで。
忘れて、やっぱり。言わない冪だったね、ごめんね、ほんと」

取り繕うような亜弥の声にも、何も反応できない。
顔さえ真っ直ぐ見れない。
弱い自分が嫌でたまらない。

「でも、あたし…亜弥の事嫌いじゃないからね、大切なんだよ?
市井ちゃんも同じくらい大切で、あの、愛してるとかはやっぱわかんないけど…。
ただ、とにかく好きだから。大事だから。…あー、もう何言ってんだろ、あたし」

下を向くと、お湯と泡に塗れた髪も一緒に垂れ下がる。
うっとおしくて、がむしゃらに掻きあげる。

189 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)00時08分28秒

伝えたい事の半分も言葉に出来ていない。
もどかしくて、この喉を掻き毟りたい。
あたしの心を誰かに代弁してもらえたら、それはどんなに楽な事だろう。

「でも、あたし、話すから。亜弥にも市井ちゃんにも、ちゃんと話す。
言わなきゃいけないって、分かってる。だからもうちょっと待って?
返事も、今は出来ない。自分自身何にも分かってないから。
だけど、その時は…あたしが話す気になった時は、聞いてね?お願い、します」

一生懸命、今のダメな自分に出来る限り伝えたけれど、それはどれだけ伝わったのだろう。
独り善がりになっていないか不安はあったけど、亜弥はあたしにキスをして。

「ありがとう」

優しく言ってくれたのが、すごく心に響いた。
そして、市井ちゃんとも、ものすごく話をしたくなった。

190 名前:作者 投稿日:2003年01月06日(月)00時13分51秒
>>182 名無し読者さん
あけましておめでとうです。
市井ちゃんな告白でした。
でも現実の市井ちゃんて、よくキャラがつかめないです。

>>183 名無し読者さん
はい、あけました!
市井ちゃん切ないです。
でも今回はまつーらさんも微妙に、ね。

ではでは、今日の更新終了です。

191 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月06日(月)07時18分49秒
すごい展開になってきましたね。更にやっすーとよすぃこはどう絡んでくるのやら。
ドキがムネムネします。
192 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003年01月06日(月)09時17分55秒
この話大好きです。
つづきが早く見たい〜。
193 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)14時59分54秒

久しぶりに朝早く正門の前に立つ。
といっても、今日は早すぎた。
冷たく重苦しい校門は、外気の冷たさまでを味方につけて、あたし睨むようにぴったりと閉じられている。
そりゃあそうだ。
朝、七時半という時間にこんなところに立っているあたしが悪い。
当たり前のことに気付かなかった自分がちょっとばからしくて、そのまま底に座り込んだ。

なぜこんな時間にこんなところに立っているか。
理由は二つあった。
亜弥といる空気が、言葉という逃げ場を連れ去って、妙に重い空気になってしまったから。
もう一つは、こんな時間に帰って市井ちゃんの顔を見るのが何か気恥ずかしかったから。

194 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時01分07秒

ふと、携帯の電源を切りっぱなしにしていたのを思い出して、電源を入れてみる。
問い合わせをしてみるとやっぱりメールがいくつか溜まっていたようで、マナーモードにしてあった携帯が、
張り詰めた周りの空気も一緒に揺らしていく。

新着メール五通のうち、一通。
市井ちゃんからのメールが、真っ先に目に入る。
開いてみると、市井ちゃんらしい几帳面な言葉の並びで、昨日の事を謝る内容が書かれていた。
時刻は三時ちょっととの表示。
きっと、昨夜眠れずに過ごしたに違いない。

195 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時01分51秒

心が、痛い。
市井ちゃんが、市井ちゃんの笑顔が、言葉が。
あたしを追い詰める。
たくさんの人を傷つけてるって事が、あたしをもっと駄目にする。
結局、あたしは何も変わっていないんだ。

ごめんなさい、市井ちゃん。
そして、亜弥。
圭ちゃん。
今まで傷つけた、たくさんの人。

あたしは、決めた。
全部話そうと。
市井ちゃんに、亜弥に、圭ちゃんに、あたしの過去を話そうと。
心に決めた。
もう、決めていた。

196 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時02分28秒




市井ちゃん、今日は暇?
改めて話したいことがあるんだ。
亜弥と、あたしの幼馴染の圭ちゃんもうちに呼ぼうと思ってる。
だから、市井ちゃんもうちで待っててくれる?
学校終わったらすぐに帰るね。
昨日は連絡できなくてごめん。
         
              真希




197 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時03分02秒

メールを、打った。
打ったものの、手が震えて送信ボタンが押せない。
送ってしまったらもう後戻りできない。
そんな自分の弱さが悔しいから、文章を読み返す事もせずに、目を瞑って一つ、送信ボタンを押した。
短い沈黙。
ぴっと、送信完了の画面に切り替わったのを一瞬見て、切るボタンを連打した。
後悔はもうこれ以上したくなかったから。

198 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時03分46秒

溜息を一つついて携帯をポケットに突っ込む。
微かに見た、携帯の表示では、時刻はまだ八時にもなっていなかった。
これからどうしてよう、なんて考えていた時。

「あれぇ、ごっちん、何してるのぉ?」

突然、今一番聞きたくない声があたしの体に降ってきた。
振り返らなくても分かる。
ひとみ独特の、‘ごっちん’っていう響き。

「こっち来んな」

近づいてくる気配を背中に感じて。
わぁ、っていうふざけた声。
それを聞くのも、嫌だ。

199 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時04分39秒

「じゃあ、行かないですよ。ねぇ、何でこんな早く来てんの?」
「あんたには関係ないでしょ?」
「あんただってぇ。切ねーなぁ。前みたいに呼んでよ、ひとみって。ねぇごっちん?」

楽しそうに話すひとみに、無性に腹が立って、気をとられて。
近づいて来る様子になんて気付かなかった。
いつの間にかひとみは、あたしの真後ろに体を寄せていた。
それでもあたしは、振り返らない。

「やめ、ろ……」

顔を見ずに、拒否する。
目を合わせたくなかった。

「っふ………?」

突然、柔らかい温もりがあたしを包む。
それをひとみの体だと判断するのは、少し時間がかかった。

200 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時05分21秒

気付いたからには、必死でそれを拒否する。
ひとみの独特な匂いと、抱きしめる力と同じくらい優しい香水の匂い。
二つが綺麗に調和して、最良のバランスを保っている。
あたしが、大好きだった、大嫌いな匂い。

「ゃめて……!」

後ろから抱き付いているひとみの顔はひとつも見れなかった。
ただ身体の震えだけが鮮明に伝わる。
まるで捨て犬のように、かたかたと、全身から。

「会いたかった。ずっとこうやって抱き締めたかった」

201 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時06分05秒

小さくリズムを刻むひとみの腕、胸、身体。
ソレがあたしの体全体に伝わる。
寒さの所為だと、あたしは思った。
思う事にした。
そうでもなきゃ、やってられない。

「よく言う…自分で捨てたんでしょ?
昨日、それを認めたじゃん。あたしを困らせる事ばっかりして」

精一杯の強がり。
声が少しゆれたのも、ひとみの体が震えている所為に出来るだろうか。

いつの間にか、あたしの体から抵抗という言葉はなくなっていた。
もう少し、この温もりが欲しい。
ひとみの側にいるときだけ‘生’を実感できた、昔のあたしを思い出して。
目覚め始めたいけない思いに蓋を出来ず、状況に流されそうになる、意思が弱いあたしの悪い癖。

202 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時06分39秒

「あ……」

その時。
ポケットの中の携帯が震えた。
ひとみに流されそうになっていた事への罪悪感もあって、ぱっとひとみを押しのける。

「ごめんね」

小さく呟いたひとみの声は、早朝の空気と調和せずに、くっきりと後を引く。

「なにが?」

メールを開きながら尋ねるけれど、開いたメールの内容なんて頭にちっとも入ってこなくて。
ただ分かるのは、それが市井ちゃんからの返事だっていう事。
文章は、まるで何処かに穴が開いてるみたいに、綺麗に抜けて言った。

「だから、ごめん…」
「だからって…答えになってないよ」

203 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時07分28秒

そういえば、あたしまだ、ひとみの顔を見ていない。
どんな顔して喋っているんだろう、今、ひとみは。
そう、ぼーっと考えたら、腕をぐっと引かれる。

「ゎっ…!」

あたしはひとみと向き合った。
向き合わされた。

「あたしを見てよ」
「やめて…」
「見てよ、ホラ」

顔はしっかりひとみの両手に固定され、少し高い位置にあるその顔を直視。
そのままじっと動かない。
ひとみも、あたしも。
十秒、二十秒、三十秒――。
メールを読まなきゃっていう考えも、いつの間にか消えた。

204 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時08分04秒

「ひ、とみ?」

空間に耐え切れなくなって、名を呼ぶ。
驚いたような顔をして、その後すぐに微笑む。

「名前。やっと呼んでくれた」
「あ……」

恥ずかしくなって、ずっと合わせたいた視線を少しおろして、首の辺りにやった。
細く、白い首が、柔らかそうに制服から覗く。
何だか、微妙な感覚。
言葉で表せないような。
何だろう、この気持ち。

「ごっちん?なに見てんの?」
「え?」
「首とか、胸とか。ヤリたいの、あたしと?」
「なっ…!」

先程までの空気と一転して、昨日と同じ砕けた口調。
突然の変化に驚くまもなく、抱きすくめられる。

「ごっちん前から好きだったもんね。あたしの、首とか」

205 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時08分39秒

前。

そういわれてやっと目が覚めた。
なに考えてるんだ。
あたしの目の前にいるのは、感動の再会を果たした恋人なんかじゃない。
あたしを捨てた張本人だ。
どん底に突き落とした奴だ。
何を今更、流されそうになってたんだろう。

「離して」

きっぱり言い放った。
一瞬のあたしの変わり様に、ひとみも驚いたのだろう。
抱いていた手が緩められた。

206 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時09分13秒

「好きだったよ、ひとみの体。首とか、柔らかい胸とか、温もりとか。
でももう好きじゃない。昔は昔でしょ?
もう、ひとみに生きる意味を求めてた頃のあたしじゃない。いい加減にして」

凛とした胸の痛みは、痛くなるばかり。
あたしはまだ、犯している間違いがあるのだろうか?
まだ、道を踏み外そうとしているのだろうか?

「ごっちん、あたし――」
「おー、ずいぶん早いな、後藤。珍しすぎだなぁ」

ひとみが、何か口を開こうとした時、突然重い校門の向こうから声がした。

207 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時10分06秒

「平家せんせー…?」

独特な、訛りの混じった微妙な標準語。
振り向くと、やっぱりそこには、あたしの担任、平家先生の姿。

「お、吉澤もいる。なんや、久しぶりやな、吉澤。二人でなにしてん?」
「早くついちゃったから、ちょっとごっちんと話してたんですよ。
早くあけてくださいよー。寒くて、凍えそうなんですから」

空気を変える事に関しては天下一品のひとみの言葉を、平家先生は疑わなかったのだろう。

「仲えぇなぁ」

小さく笑って、重たい門を動かしていった。

208 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月06日(月)15時10分55秒

「あー、後藤?」
「はい?」

地面に置きっぱなしだったかばんを掴み、校門をくぐると、平家先生は言った。

「圭ちゃんが、話したいって言ぅてた。もう保健室や思うから、言って来たら?」
「あー…わかった。ありがとうございます」

職員室内で一番歳が近く、家も近い二人だから、今日もいっしょにきて、圭ちゃんが何か話したのだろう。
お礼を言って、その場を駆けていく。
平家先生の言葉は、今のあたしにとって最もありがたい物だった。
これから授業が始まるまで、ひとみと一緒にいられるはずも無かったから。
背中にひとみの視線は突き刺さるけれど、平家先生に頭を下げて、気にせず走った。

209 名前:作者 投稿日:2003年01月06日(月)15時14分47秒
>>191 名無し読者さん
どきがむねむね。
土器が胸胸。
なんかすごいいい響きですね(w
そういえば、どきがむねむね、中学校の英語の先生の口癖でした。

>>192 名無し募集中。。。さん
ありがとうございます。
早めの更新です。
出来る時に、コツコツと更新していきます。

では本日の更新終了です。
210 名前:リエット 投稿日:2003年01月06日(月)18時58分28秒
少し読めてないうちにとんでもない展開に…。
後藤さんの過去も気になるし、これからの気持ちの推移も気になります。
レスが出来ないときも応援していますので、これからも頑張ってください。
211 名前:191 投稿日:2003年01月07日(火)00時37分28秒
思ったよりも更新が早くて嬉しいです。
主な登場人物も自分の好きなメンバーばかりだし…
ごっちんの告白が気になります。
212 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)09時15分03秒
なんかごまがかわいいなあ・・・
213 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月07日(火)16時31分14秒

「圭ちゃん!」
「うわぁ!ちょっと、びっくりさせないでよ!」

暖房が回り始めた音がごうごうと響く。
さらに、古臭いストーブに火をつけようとしていた圭ちゃんは、突然、しかもこんな早い時間に現れたあたしに驚いているようだった。

「平家先生が、圭ちゃんが呼んでたって言って…」
「あぁ。別に、呼んではいないわよ。とにかく話がしたいって言っただけ。
全く、みっちゃんたらお節介焼きだから………」

ぶつぶつ文句を零しながら、保健室を忙しなく歩き回る。

214 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月07日(火)16時31分45秒

奥のほうから重そうに運んできた、箱の中から漂う、知らない薬品の匂いが鼻につく。
思い切りその匂いを吸い込んで、言葉と一緒に吐き出す。

「あたしも、話があるんだけど、圭ちゃんに」

少しの緊張、そして迷い。
薬品の匂いは、それをどうにか拭い去ってくれた。

「……なに?」

圭ちゃんの顔にも、戸惑いの色が見え隠れする。

215 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月07日(火)16時32分35秒

「今日、学校が終わったらうちに来てくれる?他に、あと二人、来るんだけど」

そういってから、市井ちゃんからメールが届いていた事を思い出して。
ポケットに手を差し入れて、携帯を取り出す。

「わかったけど、あたし後藤の家知らないから…付いてってもいいかな?」
「あー、そっか。じゃあ、四時くらいに、正門で待ってる」
「ん、わかった。あ、あたしちょっと職員室行って来る。…火、ちょっと見てて?」

頷く前に、圭ちゃんはドアの向こうに消えた。
はぁ、と溜息を吐いてメールを開くと、わかった、とたった四文字の言葉がそこに浮かび上がる。
メールを打つのが上手い市井ちゃんらしからぬそれに少し驚きながらも、何か納得するところがあった。
そして、市井ちゃんに当てたのとほぼ同じ内容のメールを、亜弥にも送った。

漸く登校してきたらしい、幾人かの生徒の声が、乾いた校舎に響き始めた。

216 名前:作者 投稿日:2003年01月07日(火)16時36分51秒
>>210 リエットさん
ありがとうございます。
ほんとにいつもレスいただいて感謝しております。

>>211 191さん
ありがとうございます。
明日から新学期でまた忙しくなるので、できるときにとっとと更新していきます。

>>212 名無し読者さん
ありがとうございます。
素直になれない意地っ張りなうちのごっちんを、
かわいいっていってもらえるのはすごくうれしいです。

とりあえずココで更新終了ですが、夜にまた来るかもしれません。
217 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)23時37分15秒
次回更新でいよいよ核心に迫るのかな?
なんにせよ、それぞれの抱えているモノが深そうで、とても気になります。
218 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月08日(水)17時39分53秒
無茶苦茶気になるなあ〜。
意外とあややが鍵を握る存在になったりとか…(ワクワク
219 名前:ラブごま 投稿日:2003年01月08日(水)19時45分02秒
強いようで実は脆そうなごっちん萌え〜と言いつつ、シリアスな展開が好きです(w
まだ出てきていないメンバーもいるようですが、矢張り気になるのは謎なよしこさん…
220 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時48分33秒

「何が目的?」

走り去ったごっちんの後姿が完全に見えなくなった頃。
平家先生は、重たそうに口を開いた。

「何が、ですか?」
「わかってるくせに。悪趣味」

そっちこそ、相当悪趣味な笑みを浮かべて。
まぁ、確かにわかっているのだから、平家先生の言葉を否定はできないけれど。

「後藤のこと。決まっとるやろ?」
「あー、はいはい」

さも、今知ったとでも言うように、ワザとらしく言った。
平家先生は、はっ、と鼻で笑う。

221 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時49分16秒

「目的なんかありませんよ。ただ、ごっちんが欲しいだけ」

地面に直接置いていた鞄を手に取り、埃を払う真似をする。
ついていたマスコットやら、ファスナーやらが、かちゃかちゃと軽い音を立てる。

「後藤を傷つけるような奴には、あげられへんよ?大事な友達の、大事な人らしいからな」

人がよさそうな笑いを浮かべながら、口調は大分重かった。
有無を言わさぬ、絶対的な指示。
まさに先生、とでも言うべきだろうか。

「ごっちんってぇ、結構、味方が多いんですよねぇ。
普通に見て、めちゃくちゃ敵作りそうな性格してるのに」
「当たり前や。あんな素直じゃなくて意地っ張りな子、可愛いと思わないはずない」

222 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時49分47秒

やっぱり、深いところは何も変わってない。
愛想は人一倍ないくせに、何故か人を引き付ける力を持っている。

「そんなとこが、好きなんですけどねぇ」

小さく小さく、呟いた。

「え?なに?」
「何でもないですよぉ。ごっちんに会えたことだし、今日はもう帰ろうかなぁ。
じゃーね、先生。気が向いたら、また明日も会いましょう?」
「あ、おいよしざわぁ!授業でぇへんのかぁ!?よしざわ〜!」

あ、そういえば担任だっけ、平家先生。
とか、場違いな事を今更考えながら、ごっちんが消えた逆の方向に走った。
寒空の中、馬鹿みたいに、強く強く、地面を蹴って。

223 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時50分24秒





ごまま<一休み一休み。



224 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時51分26秒

遂に来た、この日。
あたしはもう、一日中落ち着いていられなかった。
だって、あたしがずっと待ち望んでた事。
後藤が、話してくれるって言ってくれた、そんな日に、落ち着いてなんかいられる筈がない。

「…けーいちゃん!…圭坊!…けめぴょん!…おーい、保田けーい!!」
「なっ、なにぃ!?」
「なに、やあらへん!!さっきから何回呼んだと思ってる?七回やで、なーなーかーいー!」

隣できゃんきゃん噛み付いてくるみっちゃんには悪いけど、今、まともなあたしでいられなくて。
フォローを入れる事も突っ込む事も出来なくて、ごめん、とだけ小さく言って、また自分の殻に戻ろうと思った。

225 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時52分03秒

「後藤か?」

突然、あまりにも的を得すぎている、みっちゃんの言葉。
思わず耳を疑い、顔をまじまじと見た。
めったに見せないような、真面目な顔付き。
その澄んだ瞳の中に、真っ直ぐ、あたしがいる。

「参ったなぁ。何でみっちゃんにはお見通しなんだろう。
そうだよ、後藤のこと。でもお願い、今はこれ以上聞かないで?」

うっとおしい髪を手の平で攫って、あたしもまっすぐ瞳の中にみっちゃんを映す。
そうでないと、失礼な気がしたから。

「そか。じゃ、何も聞かないでおくわ」
「……ありがと、ごめんね」

それを最後に、みっちゃんは職員室を後にした。
化学の担当らしく、真っ白な白衣を靡かせて歩く後姿は、あたしなんかよりずっと大人な女性に見えた。

226 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時52分50秒

「あー、矢口にも何か言っておかないとなぁ」

ふと、頭に浮かんだ矢口の顔。
改めて考えてみて、あたしは結構たくさんの人に迷惑をかけているんだと思い知る。
ごめんねって、あたしが迷惑かけている人、皆に言いたい。

後藤が今、どれだけの勇気をだして、あたしと、また他の後藤の深いかかわりのある人に話してくれようとしているのか。
容易に想像できる。
それがまた、ものすごく重いものだということ。
話すために、後藤もたくさんの傷を負うと言うこと。

それを全て聞き入れられるほどの勇気が、今のあたしにあるのだろうか。
弱さを断ち切りたい。
強い自分に、今こそなりたい。

227 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時53分58秒



( ´ Д `)<ひとやすみ。



228 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時54分52秒

「メール、来た……?」
『はい、来ましたよ』
「そ、だよね…。どうしよう……」
『どうしようって、真希さんが話してくれるんだから、喜ぶべきじゃないですかぁ』

弱気なあたしに、ちょっときつめな亜弥ちゃんの声が降る。
でも、そんな亜弥ちゃんの声も、心なしか震えていた。

『あたしは、この日が来るのずっと待ってたんです。市井さんだって同じでしょ?』
「そう、だけどさぁ」

そんな声に励まされているあたしが、なんか虚しくて悔しかった。
亜弥ちゃんにも、何かいい言葉をかけてあげたいと思うのに、何も見つからない。


229 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時55分34秒

『あ、そういえば。亜弥も昨日、真希さんに告ったんですよ』
「はぁぁぁ!?」

突然何を言い出すかと思えば、そんな大告白をしでかしてくれた。
‘亜弥も’っていう言葉のニュアンスで、あたしが告ったのもバレテんだなぁ、とちょっと恥ずかしくなる。
真希が喋ったんだろうけど、真希のあの性格のこと、内容まで話したとは思わないけど、何かちょっと胸がドキドキするから不思議だ。

「どうだったの?」
『オッケーされてたら、今日こんな風に、皆集めて話そうなんていわないと思いません?』
「あ、はは……」

230 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時56分08秒

笑うに笑えない言葉。
きっと今亜弥ちゃんも、あたしと同じような状況なんだろう。
同じ痛みを、何個も年下の子が抱えてるのに、この子は強いんだよなぁ、とちょっと自分が情けない。

『とにかく、四時くらいでしたよね?そっち、行きますから』

とは言っても、痛みを感じるのに変わりは無いんだろう。
感情を隠すのが上手な亜弥ちゃんが、今日はどこか下手くそだったから。
今、あたしもそうなんだろうけど。

「ん、わかった。じゃあ、また四時に」
『はい、じゃあまた』

231 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月09日(木)00時56分59秒

通話を切って、溜息。
暖房をつけるのを忘れていたこの部屋は、酷く冷えて、乾燥している。
それが余計、あたしの心をがさがさにしていく。
不安でいっぱいな、温もりを待つだけの人形が一つ、取り残されてしまった感じ。

「…っくしょー……」

悲痛な言葉を口ずさむしか出来ない。
弱い弱い、あたし。

232 名前:作者 投稿日:2003年01月09日(木)01時01分25秒
>>217 名無し読者さん
ありがとうございます。
次回の次回くらいかもしれません、核心は(汗

>>218 名無し読者さん
ありがとうございます。
あやや。
あやややや。

>>219 ラブごまさん
ありがとうございます。
よしこさんは、やっと出てきたと思ったらまたどっかいっちゃいました(w

夜更新するかもとかいって、結局出来ませんでした。
なんて間抜けなんでしょう、作者。
すみませんでした。

では、今日の更新終わりです。
233 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月09日(木)09時22分58秒
なんか、圭ちゃんて本当に妹思いだなあ…いや、妹じゃないけど(w
いい人が出てくると相対して危険人物が際立ちますね。
吉澤嬢はいずこ…
234 名前:ラブごま 投稿日:2003年01月09日(木)22時38分45秒
作者さん、引っ張りますね〜(w
開始当初から甘々なシーンなどないのに、何故か異様にごまに萌えてしまふ…
自分の観点は変かもしれません;
235 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月09日(木)23時21分09秒
最近作者タンの更新ペースが快調で嬉しいです。(別に急かしてるわけじゃないれす)
様々な人間模様が交錯して、これからどうなっていくのかな・・・
個人的にはあややを応援していたり。
236 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時17分25秒

始業のチャイムが鳴っても、ひとみは教室に姿を現さなかった。
二時間目が化学だったから、なんとなく平家先生の方を見ていたら、何かを取り繕うように、あのまま帰ってしまった、と言った。
怒っている風に見せて、それは何かを確実に隠す素振りだったのは、なんとなくわかった。

ひとみが、何を考えているのか、もうなにもわからなかった。
というか、元々、何もわかっていなかったんだけれど。
考えても無駄な事を考え続けるのは性に合わない。
とりあえず、今目の前にある問題――皆に何から話したら良いのか、それを解決しなければならない。

と思っていたのに、いつのまにか終業の時間になってしまっていて。
ぼーっと、正門に佇んで、圭ちゃんを待っているところだった。

237 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時17分59秒

「ごめん、ちょい遅れた」
「あー、平気…」

暫く前から視界に入っていたはずの圭ちゃんなのに、突然眼前に現れた気がして、少し驚いた。
携帯の画面に表示される、何処か冷たいデジタル時計と、圭ちゃんの顔を交互に見つめる。
三時半。
ここから家までは、電車に少し揺られて二十分程度。
大体、四時くらいには着けるだろう。
ちょうどいい、時間帯。
そうなればなったで、今更緊張して、このまま時間が止まってほしいなどという非現実的なことを考えている自分を、自分の中で殺した。

「じゃ、行こっか」

やっぱりまだ、少しだけ重い足を動かした。

238 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時18分37秒

「本当に、いいの?」
「え?」

目的の駅の二駅前を知らせる車内アナウンスが止んだ時、今まで黙っていた圭ちゃんが口を開いた。

「あたしなんかが、後藤の大事な話聞いちゃっても、いいの?
後藤、後々後悔するんじゃない?そんなの、嫌だからさ、あたしとしても」

自分を卑下するような、圭ちゃんの言葉。
胸を掻き乱す。

239 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時19分43秒

圭ちゃんに、こんな悲しい事をいわせてる自分が、最低。
下手に自虐的な笑いが、すごく切ない。

「やめてよ、そんな顔でそんな事言うの。
圭ちゃん、あたしみたいに作り笑い上手くないんだから。
見てるこっちが苦しいくらいだよ」

感情を押し殺して、いつものように上手く笑って見せた。
記憶のアルバムに残ってる、昔、圭ちゃん見せたような笑いが出来てるんだろうか。

圭ちゃんはそれから、ごめん、と呟いて、それからは何の言葉も発しなかった。
あたしとしても、今は胸中を悟られたくなかったので、それが楽だった。

240 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時20分18秒

「ここ?」
「うん」

あたしと、市井ちゃんの部屋の扉の前。
圭ちゃんは何かを確認するように尋ねて、あたしを見る。

「鍵、開けるね」

小さく頷く。
そしてその大きな瞳で、じっと鍵穴を見ていた。

241 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時21分45秒

ドアを開けると、見慣れた亜弥のローファーと、市井ちゃんのお気に入りのスニーカー。
几帳面に並んであたしを出迎えるそれは、心をゆっくりと解きほぐしていく。

「どーぞ」
「あ、ありがとう」

鍵を閉めて、靴を脱いで。
先にあった二足の靴と同じように、靴を整えておく。
圭ちゃんにスリッパを落として、部屋に招き入れた。

242 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時22分50秒

「散らかってるけど、ごめん。あんまり気にしないで?」

と言っても、几帳面な市井ちゃんがかなりマメに掃除をしているし、あたしも必要最低限のものしか置いていないから散らかりようが無いんだけど。

「後藤の部屋の汚さにはもう充分慣れてるから、大丈夫よ」

優しくはにかんで、それはきっとあたしを和ませようとしている圭ちゃんの心遣い。
柔らかくて、温かい。

もう大丈夫。
気持ちに、整理がついた。

ぎゅっと、リビングへ続くドアノブを握り締める。
目を閉じて、深呼吸を二回。
三回目に大きく息を吸ったのと一緒に、ドアを握る手に力を込めて。

「遅くなって、ごめん」

そして息を吐くのと一緒に、言葉も吐き出した。

243 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時23分34秒

「あ、おかえり」
「おじゃましてまーす、真希さん」

ソファで肩を並べて寄り添っている二人に、何となくいつもと違う何かを感じたけれど、
今言う事でもないと思ったから、心の奥に流した。
後ろにいる圭ちゃんに、二回目の手招き。
部屋に足を踏み入れた圭ちゃんも、それを見た市井ちゃんも亜弥も、特に変わった様子は見せなかった。
見せなかっただけかもしれないけど。

「あたしの幼馴染で、今は高校の保健の先生の、圭ちゃん……保田、圭さん。
こっちは、あたしを置いてくれてる、市井、紗耶香さんと、あたしの大事なお客さんの、松浦亜弥」

とりあえず、それぞれに紹介とかして間を繋いでみる。
三人はかなり適当に頭を下げあって、一瞬顔を見合わせた。

244 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時24分21秒

――そろそろ本題に入ったほうが良いんだろうか。
――こういうこと話す時は、あたしの部屋に入れた方がいいのだろうか。
――何から、話し始めればいいんだろうか。

いろんなことに気が向いてしまって、頭が上手く回らない。
当たり前のことさえ、当たり前に考えられなくなってしまう。

「真希」

市井ちゃんがふと、名前を呼んだ。

245 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時25分22秒

顔を上げて見た、市井ちゃんの顔。
あたしを呼ぶ声も、みつめる表情も、すごく久しぶりのような気がしてしまうのは、あたしの気のせいだろう。

「保田さん、座らせてあげなよ。それと、とにかく真希も座れば?あたし紅茶煎れてくるね」
「あ……ゴメン、あたしも手伝う」

キッチンへ足を進める市井ちゃんの背中を追って。

「圭ちゃん、そこ、腰掛けといていいよ」

適当にスペースの開いてる所を指さして、溜息を吐いた。

246 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時26分17秒

結局は、あたしが一番緊張してる。
胸が高鳴る、とかの緊張じゃなくて、ただ曖昧な不安が募るばかり。
過去を他人に打ち明ける、という、普通の人にとってはあまりに普通なその行動が後ろめたく感じられるのは、やっぱりあたしの過去が汚いからなんだろうか。

「真希?ちょっと、ごめんね」
「あ、ごめん……!」

ボーっとしていたら、市井ちゃんが細い通路を通るのを邪魔していたみたいで。
そかももう四人前の紅茶の準備は終わってしまっている。
ただ、邪魔になってただけみたいだ。

「しっかりしなよ?皆、真希の言葉を待ってたんだから」

247 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月12日(日)01時26分54秒

市井ちゃんは、だから頑張ってよ、と最後に付け加えて、紅茶をトレーに乗せて運んでいく。
何もしてなかったあたしなのに、市井ちゃんの後ろにすごすごついていった。

運んだ紅茶をテーブルに降ろして、どうぞ、と。
独特のハーブの香りが鼻の奥につんと響く。
瞳をゆっくり閉じて、ただ、その香りだけを感じてみる。
おなかの中から洗い流してくれるような心地いい感覚。

すっと息を吸い込んだ。


「あたしの、過去を話す」

248 名前:作者 投稿日:2003年01月12日(日)01時34分05秒
>>233 名無し読者さん
圭ちゃんはひたすらごっちんを心配する役が何故か似合うのが不思議です。
そして吉澤さんとごとうさんはちょっと影がある役が似合う気がするのです(w

>>234 ラブごまさん
今回もまだ秘密は出てきませんでした。
そしてまた次回も…。
どんどん引っ張ります(w

>>235 名無し読者さん
ありがとうございます。
最近忙しくなってきちゃったんですが、暇をみてちょこちょこ更新します。
あやや、好きです(w

後藤さん、話すとか言ってますけど、次回更新ではまだ話し出しません(汗
では、今日の更新は終わりです。
249 名前:ラブごま 投稿日:2003年01月13日(月)03時07分18秒
作者さんの思惑通りに引っ張られて踊らされてる気がします(w
部屋に集まった面々と、これからの展開を考えるとワクワクしっぱなしです。
ごっちん、がんばれ〜
250 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月13日(月)18時17分06秒

「なんかさー、緊張するよね。てかあたしが緊張してどうすんだって感じだけど」
「………」
「微妙だねー、あたし達」
「………」
「何やってんだろうね。ライバルのはずなのに」
「………」
「うんとかすんとか言ってよ」
「…すん」
「………」
「ごめんなさい…」
「いや、別に…」

何やってるんだろう、本当に。

251 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月13日(月)18時17分57秒

時間より一時間程早く来た亜弥ちゃん。
不思議に思いながらも、部屋に上げたら、何故か突然涙を流し始めた。
どうしていいか分からずに、ソファに座らせ、肩を抱いて。
そうしているうちに三十分ほどが過ぎていた。

そして、今に至る。

252 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月13日(月)18時18分51秒

「迷惑ばっかりかけて、ごめんなさい」

よく聞いていないと聞き取れないくらい小さな声で言った。
まだ涙で潤んでいる瞳には、何を映しているのか、遠い目をしている。
切ないその表情に、少しだけ心が揺れた。

「いや、全然。むしろそれのが嬉しいよ、頼られてる感じがして。
真希はちっとも弱みを見せないからね。悔しくて」

笑って頭を撫でてやると、漸く少しだけ笑顔を見せた。
やっと乾き始めた涙の訳を聞くような、無神経な事はしないでおこうと思った。

253 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月13日(月)18時19分35秒

「いいよ、ココ、よっかかってて。少し休んでなよ」

肩を指して、照れ隠しに首を軽く動かす。
亜弥ちゃんは柔らかく、微笑んだ。

「ありがとう、ございます」

無理に閉じられた瞳から、隠していた最後の一滴の涙がこぼれて、あたしの手の甲に滲む。
何かソレが愛しくて、ずっと乾かないままにしておきたかった。
でも叶うはずもなく、すぐに消えた。
少しだけ溜息を吐いて、あたしも目を閉じる。
真希の帰りを待ちながら。

254 名前:作者 投稿日:2003年01月13日(月)18時21分28秒
>>249 ラブごまさん
ありがとうございます。
そしてまた次回も、ごっちんは話し出しません(汗
どうしましょう、これ(w

短いんですが、ココまでです。
来れれば、今日の夜にも来るかもしれません。

では更新終了です。
255 名前:ラブごま 投稿日:2003年01月13日(月)20時25分11秒
市井ちゃんとあやゃのやり取り、和やかでイイ感じなのですが……
これが嵐の前の静けさのように感じるのは何故でしょう(ワラ
256 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月14日(火)01時01分21秒
更新乙です。ここのまつーらさんは可愛いですねえ。
とても好きな話なので、更新がマメで嬉しいです。
257 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月14日(火)01時24分21秒

「やめてよ、そんな顔でそんな事言うの。
圭ちゃん、あたしみたいに作り笑い上手くないんだから。
見てるこっちが苦しいくらいだよ」

その後、売り物のような笑顔を浮かべたのは、おそらくわざとだろう。
こんなにも美しく、こんなにも儚く、こんなにも悲しい笑顔が存在してしまう事が悲しかった。
そして存在させてしまった、自分も嫌だった。

苦しいのはこっちだよ。
そんな顔してる後藤、もう見たくない。
あの、再会した日から、何度願ったかわからない。

258 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月14日(火)01時25分08秒

早く後藤を救う誰かが現れてくれればいいのに。
遠い日の後藤の笑顔が胸を突き抜けて、頭に響く。
あの、綺麗な笑顔は今、後藤のモノじゃなくなってる。
心からの笑いを、昔見せたおひさまのような笑いを、どうかもう一度教えてあげて。

誰か、後藤を助けてあげて。

あたしには出来ない事を、存在するかも分からない誰かに求めるのは、存分に悲しい事だった。

259 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月14日(火)01時25分42秒

だけど。
誰も、誰かの代わりに離れない。
後藤の心の隙間を作った奴の変わりになる事も出来ないし、救世主になる事も出来ない。
あたしに出来る事は、ただただ願うだけ。
現れるのを、馬鹿みたいに待っているだけ。

後藤がまた、あたしに最高の笑顔を見せてくれたらきっと、あたしも笑えるから。
素直に笑って、後藤を受け止めてあげるから。

誰か、後藤を救ってください。

260 名前:作者 投稿日:2003年01月14日(火)01時28分53秒
>>255 ラブごまさん
そうですねぇ。
嵐が、吹き荒れるんですかねぇ。
きっと、大型だと思います(w

>>256 名無し読者さん
ありがとうございます。
早く早くをモットーにしてきたんですが、
今、書き溜めた分が終わりそうで焦っております(汗

約束どおり夜来れました。
明日はテストだって言うのに………。

では、今日はココまでです。
261 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月14日(火)06時42分55秒
あやごまの絡み目当てで読んでましたが
全体の話にもハマリました
続き待ってます
262 名前:ラブごま 投稿日:2003年01月14日(火)23時15分21秒
何だかみんな切なくて好きだなぁ…
引っ張られようが何だろうが、自分は作者さんについていきます!w
263 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月15日(水)09時23分52秒
ごっちんの告白の内容が何なのか、色々考えてしまいます…
気・に・な・る!(W
264 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月17日(金)00時12分20秒
市井の使い方が上手いなぁ…というか、ここの市井さんが好きです。
後藤がひねくれていてそれがまた可愛い。
265 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月18日(土)22時23分52秒
ぎゃふん。ハマッた…
266 名前:ヲタヲタQ 投稿日:2003年01月19日(日)22時26分02秒
娘。の今後には期待していないけど、この小説にはめっちゃ期待してます!
まだ出番のないメンバーもいますが、あやごま好きなもので(w
267 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月20日(月)00時24分08秒

あたしの悪夢の始まりは、中学二年の夏だった。

圭ちゃんとは昔からずっと仲良しだったけれど、大学に通うために家を出ちゃってたよね。
だから、あたしは誰にも相談できなかった。
こんな事いったら、圭ちゃんを苦しめるだけだと分かるけど。
けど、それでも。
圭ちゃんが側にいてくれたら、あたしは今、どうなっていたかな?

268 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時25分21秒

「ただいまー…」

夜十時。
あたしは、自宅の玄関を押した。
今日は最近覚えた夜遊びもせず、まぁ、少し遅いけれど、ちゃんと家に戻ってきた。

鍵は開けっ放し。
結構無用心な話だけれど、うちにとってはごく普通、と言っていい事だ。
ただ普通じゃなかったのは、いつも玄関に散らばっているはずの靴がやけに少ない、という事だった。
皆、帰ってないのだろうか。
遅くに、どうして。
少しの疑問を抱きながらも、薄暗い廊下を歩いて、電気のついていないリビングへ足を入れる。

269 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時26分14秒

「おう、おかえり」

体がビクっと震えた。
誰もいないと思っていたその部屋の中から聞こえた声。
暗くて、姿はどこにあるか断定できないけど、声は確かに、義父の物だった。

「た、ただいま……」

二人で話したことなど、一年余りすごした中で皆無。
まともに顔を合わせる事もなく、ただ形式上の‘家族’だった義父。
どうしていいか分からずに、もう一度同じ言葉を使ってしまった。

「電気つけてくれ、電気」
「あ、ごめん……」

二、三歩近づくと、お酒臭さと、いつまでも慣れない、珍しい煙草の匂いが鼻に衝く。
入り口付近の電気のスイッチを手探りで捜し求め、言われた通り電気を灯す。
溢れた光は、暗闇に馴染んでいたあたしの目を強く刺激して、思わず目を瞑った。

270 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時26分55秒

「お母さんは?」

漸く光に慣れて、あたしは口を開く。
話す事もないような、微妙な間柄の二人を取り残して行った家族を、正直少し恨む。

「あぁ、町内会の旅行。聞いてなかったのか」
「…ふーん。お姉ちゃんと、ユウキは?」
「二人とも、友達のとこじゃないか?連絡ないからな」
「そ、か……」

話しながらも、さっきからニタニタとした笑顔を浮かべてあたしを見ている義父に、憤りと多少の恐怖を感じた。
街の、援交目当てのオヤジなんかと、何等変わりない。
酔っ払い特有の潤んだ瞳と、怪しい笑い。
こんな肩の出た服なんか着てるんじゃなかった、と恐怖から少し後悔するが、もう遅い。

271 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時27分48秒

「今日は、帰り早かったんだな。最近いつも遅いのに」

突然に立ち上がり、あたしに一歩、近づく。

「う、ん」

答える言葉が上手く浮かばなくて、ただ返事だけを返す。
一歩、また一歩。
あたしとの距離が縮まる。
酔っ払っていてふらつく足を押してまで、一歩、一歩。
間が、ゼロに限りなく近づく。

「真希は、イイ女になったよなぁ」

全身を舐め回すようなその目つき。
恐い。
その、負の感情だけが、あたしを支配していく。

272 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時28分38秒

なんとなく――今、義父が何を目的にしてあたしに近づくのか、恐怖に見え隠れしながらも姿を現し始めた。
胸の奥がざわざわする。

「なぁ、彼氏とかいないのかぁ?」
「いないよ、そんなの。あたし、部屋戻るから……っ……!」

背を、向けかけた時。
腕を掴む手に力が込められて。
あたしはいつの間にか天井を見ていて、背中には冷たい床の感触。
それは一瞬だったけど、周りがゆっくり動いて見えた。

「ゃ、何すんのぉ…!」
「いいだろ、血ぃ繋がってないんだし。一回くらいいいだろ?」

273 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時29分18秒

床の冷たさ、二の腕に触れる指、顔にかかる少し荒い吐息。
吐き気がするほど気持ち悪いのに、何かに取り憑かれたように、全身に力が入らない。
恐怖が、体全体を支配してしまった。
こんなことされるのは、もちろん初めてで。
どうしていいかわからずに、震えて縮こまるしか、為す術はなかった。

「やだよぉ、やめてっ…!」
「静かにしてろよ…。おとなしくしてれば、すぐ済むから…」

荒れた息に混じり聞こえる声は、あたしを抉る様に傷つける。
気持ち悪い、助けて、誰か――。

274 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時30分47秒
───────────────
──────────


「初めてだったのか」

床に広がる、くすんだ赤を見つめる。
汚くて、憎々しい。
無性に悔しくて、落ちていたタオルで我武者羅にそれを擦り取る。
人間のキタナサを証明してるみたいに、赤く輝くソレを、とにかく早く消したくて。

「生理、来なかったら早めに言えよ?手術代くらいは、出さないとなぁ」

今更そんな猫撫で声を使われても、憎しみが募るばかり。
漸く元の床に戻った時、悲しい痛みの所為で不自由な下半身に鞭打つように立ち上がった。

「あたし、部屋いるから」

275 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時31分30秒

血塗れのタオルだけ掴んで、リビングを出た。
こんな汚れた部屋には一秒たりとも居たくない。
煙草の匂いを部屋中に撒き散らして笑う、義父の顔を見ようともせず、階段を踏みしめるように上った。

ドアを閉めた瞬間、体の力が抜け気って、あたしはその場にしゃがみこんだ。

「…っく…ぅ……」

涙が溢れて止まらない、という経験を、十三にして初めて知った。

276 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月20日(月)00時32分15秒

処女を失ってる友達は、所謂不良と呼ばれるグループとつるんでる所為か、あたしの周りに何人かいた。
けれど、普通の女の子のように、それを遠い存在に感じながら、少し憧れを抱いていた。
でもそれは、最悪の形であたしに降りかかった。
出来る事なら、消してしまいたい。
流れる涙で、過去も流してしまいたい。

「ぃ、たい、よぉ……っ…」

酷く痛む下腹部が、そんな事ムリだと嘲笑う。
余計、涙が零れた。
何も考えられなくなるくらい、泣いて泣いて泣いて。
血が、確実にあたしの中を流れていた血が、夜の部屋に醜く輝いていた。

277 名前:作者 投稿日:2003年01月20日(月)00時42分31秒
>>261 名無し読者さん
ありがとうございます。
待って頂いてるのに、更新遅くなってすみませんでした。

>>262 ラブごまさん
ありがとうございます。
なんだか暗くて重いところに突入してきましたが、ついて来てください(w

>>263 名無し読者さん
やっと、少しだけ過去が出てきました。
薄暗い話ですみません…

>>264 名無し読者さん
ありがとうございます。
作者も市井さんにはちょっと感情はいっちゃってるんで(w
そう言っていただけると嬉しいです。

>>265 名無し読者さん
ぎゃふん。ありがとうございます(w

>>266 ヲタヲタQさん
新メンバー決まったんですか!?
娘関係のテレビを全く見てないもので。
とりあえず作者は、
後藤さんと吉澤さんと保田さんとまつーらさん藤本さんの今後に期待しています(w
我ながらすごい組合せだけど…。

風邪ひいて、更新遅れてしまいました。
多レス感謝です。

ではでは、今日の更新終了です。
278 名前:ラブごま 投稿日:2003年01月20日(月)16時40分15秒
うぅむ。痛いっすね。
しかしこれだけで終わらないような(嫌な)予感もするのは、自分の考えすぎでしょうか。
そして、この重い場の中にいないアノ人も激しく気になります。
279 名前:265 投稿日:2003年01月20日(月)19時09分55秒
あー、何となくいやーな予感はしていましたが。
今の後藤のようになっていく過程が決して明るいものであるはずがないのは分かっている
のですけれども、やっぱり痛いです。ぎゃふん。
280 名前:ヲタヲタQ 投稿日:2003年01月21日(火)07時12分31秒
朝っぱらから微妙に鬱な気分に…(w
何だか有無を言わさずはまらせられてしまった気がします。
( ´ `)がんばってくらさい
281 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月21日(火)20時44分16秒
痛い痛い。
でも痛い切ないのが好きなのです。期待っす。
282 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月21日(火)22時47分09秒
銀板って回転速いのかな?更新に気付かなかったよ。
段々物語が核心に迫ってる感じで、早くも続きが楽しみです。
学生だと更新が大変でしょうが、頑張ってください!
283 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月25日(土)12時42分40秒

あれから一週間半が過ぎた。

あたしの生理はいつもと同じようにやってきた。
いつも疎ましく思っていたソレを、こんなにも心待ちにしたのは初めてで。
やっと、心の痞えが少し取れて、漸く普通の生活が戻ってきた。

そう、思っていた。

284 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月25日(土)12時43分12秒

あの忌まわしい日から大分時間が経った。
数えるなら、大体一ヶ月くらいだろうか。
そんな日の、朝。

「よぅ」

あたしが部屋のドアを開けると、その隙間に見えた、義父の姿。

「…っ……」

一瞬の恐怖を感じて、ドアを素早く閉めようとするが、義父はもっと早く行動に出て。
足をドアの隙間に挟んで、閉めさせまいとする。
どうして今ドアを開けたのか、と。
とてつもない後悔が体中を襲う。

285 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月25日(土)12時43分50秒

あの日以来、義父とは一度も話していなかった。
元来、あたしと義父の仲はそう良くなかったので、当たり前の光景であったろう。
顔をあわせても何も言わず、話しかける様子も、言い訳する様子もない。

もう、あれで全て終わったんだ。

ほっとして、普通の生活へ戻ろうとしていたあたし。
けれど今、目の前であの日と同じ様に笑う義父を見て、それが間違いだったと、はっきり気付かされた。

286 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月25日(土)12時44分36秒

「なぁに、恐がってるんだよ」

体を部屋の中に無理矢理こじ入れて、後ろ手ではドアを閉め、鍵をかける音が聞こえる。
夏休みのため、遅く起きだしたあたし。
当然、家の者は既に出かけているようだった。
残されたのは、二人。
あたしと、義父だけ。
やばい。
迫あがるその思いは、あたしの恐怖を余計に募らせる。

「汚ねぇ部屋だな、女の癖に」

一歩ずつ後ずさるあたしに対し、その分近づいて来る姿。
もう嫌だ。
あんな思いをするのは、沢山だ。
後ろへ、後ろへと逃げるうちに、もうベッドの淵に足が触れてしまう。
逃げ場は、もうない。

287 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月25日(土)12時45分27秒

「やぁっ……!」

瞬きをした瞬間に、体はベッドに沈んでいた。
いつも寝起きしてるそこなのに、感じたことのないような感触を伝える。

「生理、きてたみたいだな」
「なっ…!」

かぁっと顔が熱くなる。
何もかもこの人に見透かされた気がして、恐くて、恥ずかしくて。
体は小刻みに震え始めた。

「親なんだ、それくらい知ってて当然だろ」
「ぃ、やだぁ!」

笑って言葉を漏らしながら、あたしの着ていた服のボタンを外そうと手を伸ばす。
その体を押し退けようとしても、高々中学生の女なんかの力じゃどうにもならない。

288 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月25日(土)12時46分20秒

「あれで、終わりだと思ってただろう?
そんな事、あると思ったら大間違いだ。世の中、そんなに甘くない」

生暖かく、ざらついた舌が首筋を伝う。
ぞくっと、背筋を何かが通る。

「ぃゃ…、ゃめ、てぇ……!」

何でだろう、抵抗する力は弱まっていくばかり。
力が体中から逃げていくようだった。
それは気持ちいい、とかもっとほしい、とかの思いなんかでは決してない。
きっと、拒絶が、諦めに変わった瞬間。
あたしはもう、終わったんだって、思った瞬間だったから。
穿いていたジャージを剥ぎ取られた時にはもう、抵抗はゼロに等しかった。

289 名前:後藤、過去 投稿日:2003年01月25日(土)12時47分10秒

「お前も所詮、こんなもんだよ。
諦めちまえば簡単だってことに、今気付いたんだ。
わかるか、真希。お前にも小汚い血が、流れてんだよ」

悲しいもので、義父から言われた言葉であたしは目覚めた。
あぁ、あたしも汚かったんだ。
そう気付いてしまったから。

この日、あたしの懐かしい‘子供’の時代は終わり、新しい‘大人’の世界に飛び込んだ。
狂気で、体が燃えた。

290 名前:作者 投稿日:2003年01月25日(土)12時56分01秒
>>278 ラブごまさん
ありがとうございます。
なんだかどんどん痛くなって行っちゃいますね(w

>>279 265さん
痛くしちゃってごめんなさいぎゃふん(w

>>280 ヲタヲタQさん
またまた鬱な気分にさせちゃってすみません。
これからもよろしくです。

>>281 名無し読者さん
ありがとうございます。
作者も痛い切ないのが好きなので、これから益々痛く切なくなっていくと思いますので(w

>>282 名無し読者さん
ありがとうございます。
作者も銀板の早いペースについていこうとがんばっております。

また更新に間があいてしまいまして(汗
学生らしく、学校行事に燃えてました(w
これからまた早くしていこうtろ思いますので、よろしくお願いします。
では今日の更新終了。
291 名前:ラブごま 投稿日:2003年01月26日(日)23時42分15秒
痛いんだろうな、きっと痛いだろうなと思いながらもついつい読んでしまうあたり、
完全にこの小説にどっぷりはまってしまったことを思い知らされます(w
とりあえず、この先も覚悟して待ち構えてますので、よろしくです。
292 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月28日(火)17時06分57秒
ここからごっちんは変わってしまったのか・・・
今後どうなるのか、ビビリながらも楽しみに待ってます。
293 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月29日(水)01時04分26秒
密かに毎回ROMってます。
作者たんがんがれ〜
294 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月30日(木)20時08分07秒
痛い話好きです。
更新を楽しみに待ってます。
295 名前:後藤、過去 投稿日:2003年02月01日(土)23時27分12秒

それ以来、毎日のように求められた。

あたしは、嫌だと思う感情を捨てた。
静かにしていればすぐに終わるし、避妊だってしてくれた。
甘えていればいい生活がしていられる。
自分から擦り寄ろうものなら、以前が嘘みたいに優しくしてくれる――。

友達にも、体を許した。
失うものもなく、もう終わったあたしに、これから先なんてないと思ったから。
こんな、野良猫のような生活にも、まぁ慣れてきた頃だった。

296 名前:後藤、過去 投稿日:2003年02月01日(土)23時27分44秒

出かけようと思って、部屋のクローゼットをずらす。

「あれ…?」

穿こうと思っていた、スカートが見当たらない。
暫くその辺りを探してみたが、やはりどこにもない。
仕方ないので、母に尋ねようと思い、頭を掻きながら階段を下る。

297 名前:後藤、過去 投稿日:2003年02月01日(土)23時28分37秒

リビングのドアを開けると、奥の椅子に、母は座っていた。

「お母さん、あたしのスカート知んない?」
「…………」

返事が返らない。
聞こえないのだろうか。
こんな近い距離で、それは有り得ないと思うのだが。
分厚いカタログをめくる手は動いているのに、まるで、あたしの声なんて端からないみたいな反応。

「お母さん?」

近づいて、肩に触れる。
顔を覗き込むようにして、表情を窺う。

298 名前:後藤、過去 投稿日:2003年02月01日(土)23時29分28秒

「お、かぁさん……」

冷たかった。
まるで表情がなくなっていた。
これが、これが実の娘を見る目だろうか。
心臓が締め付けられた。
肩に乗せた手はいつの間にか払い除けられていて、ぶらんと、悲しく宙を舞っていた。

「なに、なんなの、いったい……」
「泥棒猫」

一瞬走ったその言葉に、どんな意味が込められているか。
高々十四年分の脳みそでも、一瞬にして理解出来た。
唇が急速に乾く。

299 名前:後藤、過去 投稿日:2003年02月01日(土)23時30分12秒

「あたしが、知らなかったとでも思ってるの?
毎晩毎晩、何考えてんだよ!?あたしに、嫌がらせのつもり?
どんな手使ったの?節操ないにも、程があるんじゃないの!?」

突然、爆発したように、次から次へと汚い言葉があたしに吐かれる。
恋人を寝取られて、憎悪を露にする女は、醜いものだと、小さな頃見たドラマで知った。
そして、そこにいつもの母の面影はなく、ただ醜い、一人の女になっていた。

「こんな子、産まなきゃよかった!今まで育てなければよかった!
裏切られるなんて、思ってもみなったよ、真希!」

だんっとテーブルを叩く音が空間を割る。
怒りが顕著に現れている。
第三者であるかのように、母の顔を傍観していた。

300 名前:後藤、過去 投稿日:2003年02月01日(土)23時30分55秒

所詮女はいつまでも女で。
子供を産んだって‘母親’にはなれやしないのか。

話したい事はたくさんあったし、誤解もたくさん解きたいことがある。
けれど、話しても結局は何の意味もなく、全ての怒りがあたしに向いている今、余計に酷くなる事は目に見えていた。

だから、だからあたしは――。

301 名前:後藤、過去 投稿日:2003年02月01日(土)23時31分41秒

「出て行くよ」
「……?」
「出て行く。あたしの事、もう忘れちゃっていい。
キライになっちゃっていいよ」

何故か笑えてきた。
きっと、上手く笑えていた。

もう、駄目なんだ。
義父があたしに触れたあの時から、この家族は崩壊へのカウントダウンが始まっていた。
胸を掻き毟るような痛みが一つにまとまって、すっと頬を零れ落ちていく。

302 名前:後藤、過去 投稿日:2003年02月01日(土)23時32分38秒

「ごめんね。あたしがいたせいで、家族を壊しちゃったんだよね。
ごめん、ほんとに、ごめん。さよなら、お母さん」

置きっぱなしにしていた財布と携帯を掴んで、走った。
涙が視界を濁らせて、じれったくて悔しい。

もう二度と、戻らない、戻れない。
これが、家族を壊した、あたしの償いなんだろう。
一人で生きて行こうと誓った。
暑い暑い、十四歳の夏の日。

303 名前:作者 投稿日:2003年02月01日(土)23時38分36秒
>>291 ラブごまさん
いつもお早いレスをありがとうございます。
ますます痛くなっていきますが、よろしくお願いします。

>>292 名無し読者さん
ありがとうございます。
楽しみにしていただけて、うれしいです。

>>293 名無し読者さん
ROMりながらも、レスありがとうございます。
がんばります。

>>294 名無し読者さん
ありがとうございます。
更新遅くなっちゃって、ごめんなさい。

気付けば一週間たってしまっていました。
毎日が三十時間あれば幸せなんですけどね…。
更新遅れてすみませんでした(汗

では、今日の更新終了します。
304 名前:ラブごま 投稿日:2003年02月02日(日)12時35分43秒
こんな過去があっちゃそらヒネクレもしますわな、それも14歳…
今後ごっちんがどこへ行くのか、救いはあるのか、マターリお待ちしています。
305 名前:リエット 投稿日:2003年02月07日(金)15時36分38秒
過去が重いですね……。
これから恐らく吉澤さんのことにもつながっていくのだとは思いますが、
凄く悲しいです。
306 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月19日(水)02時36分06秒
続きが気になります。。。
307 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月23日(日)17時27分29秒
更新待ってます
308 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月26日(水)20時20分01秒
続きを激しく求めております!!
よっすぃーとの行方が気になる〜!
309 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月14日(金)09時04分12秒
春休みになったら更新されるのかな?
310 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)18時50分10秒
待つよほ
311 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月03日(木)15時44分37秒
続きが気なる〜☆☆
312 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月03日(木)20時35分57秒
あやごま少ないから貴重な小説なんだよ〜
313 名前:後藤 過去 投稿日:2003年04月13日(日)02時31分14秒

「あんたも物好きやなぁ」
「何が?」
「高一て、青春真っ只中やろ?そんな時期、女相手、に体売って」

ベッドに突っ伏したあたしに、煙草を蒸かしながら声をかけた、裕ちゃん――中澤裕子。
出会って、二年くらいが経っていた。
お金も、行く当てもなかったあたしに、ウリっていう仕事を教えてくれた人。
何をしてるか、とか家庭はどんなのか、とかは、何も知らない。
だけど、かなりのお金が手の中にあるって事だけは、薄々感じ取れていた。
出会って以来、大体月に二、三回のペースで裕ちゃんの許に通っていた。

314 名前:後藤 過去 投稿日:2003年04月13日(日)02時32分26秒

「青春なんて、いらないし」
「好きな人とか、親友とか、そーゆう年相応な大事なものとか、あらへんの?」

軽く言い捨てたのに、それでもまだ深くまで入り込もうとする。
時々、こんな不思議な行動を裕ちゃんはする。
あたしが嫌がって、拒絶するのを知っているのに、わざとそうやって聞く。

「信じてないし、分からないからさ。大事なものっていうのが」

ベッドの下に散らばる服を掻き集めて、ゆっくり体を通していく。
裕ちゃんの反応を、そうして待っていた。
裕ちゃんのことは嫌いではないけれど、詮索される事は、誰からでも嫌いだった。

315 名前:後藤 過去 投稿日:2003年04月13日(日)02時33分43秒

「ごめん、聞きすぎた」

こうしてまた今日も、裕ちゃんはわざと自分を傷つける。
そして、きっとあたしより細い腕に、ぎゅっと抱き寄せられた。
不安定な時、決まってこんな風にする。

「いいよ、別に」

最近、上手くなった作り笑い。
腕の中で自身の抵抗をなくすと、裕ちゃんは優しく笑った。

316 名前:後藤 過去 投稿日:2003年04月13日(日)02時34分46秒

「上手くなったな、笑顔も」
「ん、おかげ様で」

すべすべの肌に手を通して、鼻の先にキスを落とす。
びっくりするくらい細い二の腕を軽く掴んだ。

夜なのに蒸し暑い空気は、どうやら今夜もあたしを寝かしてはくれないらしい。

317 名前:作者 投稿日:2003年04月13日(日)02時37分46秒
別にsage進行な訳じゃないんですが、
久々の更新のくせに量が半端なく少ないので、自分への苛立ちのつもりで。
近々また更新します。
レス返しはその時にします。
たくさんのレス、ありがとうございます。
318 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)11時22分47秒
更新待ってました!
でもってなかざーさん待ってました!(w
作者さんマターリ頑張ってね。応援してるから。
319 名前:リエット 投稿日:2003年04月15日(火)01時40分05秒
お帰りなさい。
ずっと楽しみに待ってました。
飼育で一、二を争うくらいに更新が待ち同しい話なので、復活嬉しいです。
320 名前:ラブごま 投稿日:2003年05月01日(木)15時16分42秒
いつまででも待ってますよー。
321 名前:後藤、過去  投稿日:2003年05月05日(月)14時33分51秒

「後藤真希て、あんた?」

街をフラフラと歩くあたしに、今日もまた見知らぬ声。
こういうのは慣れている。
誰かがあたしを紹介したか、噂で聞いたか。
だから、いつものように振り替える。

「そう、ですけど」

あたしより少し高い位置、その声の主の顔があった。

322 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時34分54秒

振り返って一瞬、あたしの背筋に何かが走る。
身を焦がすような焦燥。
あたしを書き立てる何か。
ぞくぞくして、絡んでしまった視線をそらせない。

「裕ちゃんに聞いたよ。へー、綺麗だね」

全身を舐めるように見られて、体が粟立つ。
体を走るこの感情に、まだ簡単には名前を付けられずにいる。
心が、欲しがっている感覚。

「そ、んな事…。そっちだって、相当……」
「あぁ、ありがとう」

あぁ、‘同業者’だ、とすぐに気付く。
慣れたその仮面のような笑顔は、いつものあたしを見ているようだった。

323 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時35分39秒

彼女の姿は、立ち所に消滅していく煙に、よく似ていた。
そしてまた、あたしにも。

だから求めた。
全てが、全てを、求めていた。

「あたし吉澤ひとみ、てんだ。同い年で、高一。
あたし、あんた気に入ったんだけど。ヒトメボレ。どう、今から」

強い風が二人の間を通った。

安っぽくて嫌になるけど、俗に言う一目惚れっていう言葉を二人の間に当てはめると、
やけに都合よく事が進む気がする。
何も言わずに頷き、今夜客にする予定だった人への言い訳を、早々と考えた。

324 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時36分12秒



あたしの人生を大きく変える出会いになると、この時もう気付いていたのかもしれない。


325 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時37分48秒


               ◇

326 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時38分21秒

「じゃあ、やっぱりひとみもウリやってんだね」
「うん、まぁ。…てか、やっぱりって?」
「見たら直ぐ分かるよ、それくらい」

行為の後。
広いベッドに二人、潜っていた。
少し肌寒いと感じていた空気が、今では暑苦しくて、肩を掛け布団から出す。
大きく息を吐いて目を開ける一瞬で、唇が軽く触れた。

327 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時38分56秒

「それで」

呟くと、ひとみは目で返事をする。

「なんであたし、買ったの?」
「あぁ。裕ちゃんが」

少し間を置いて、ひとみが言葉を繋ぐ。

「お前に似た奴がいる、て」
「裕ちゃんが?そんな事言ったの?」

少し意外に思って、体を起こす。
ひとみは薄く笑い、ベッド横の硝子のテーブルに手を伸ばし、煙草を一本摘み出す。

328 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時39分47秒

「なに?」
「ん?」
「煙草、なに?」
「あぁ。ピース、ての。知ってる?」
「んー、名前だけ」

吸う?とあたしにソレを向けるけど、黙って首を横に振った。

「へえ、吸わないんだ。なんか意外」

シュッという摩擦音と共に広がる、鼻に衝く匂い。

「なんか…変な匂い。甘臭い」
「甘臭い、って。だからいいんじゃん」
「……。…やっぱ、変」

言葉を吐いてベッドに突っ伏すと、煙草を灰皿の淵に置いたひとみが、あたしに覆い被さる。
さっきの煙草より、自然な甘い匂いがして、こっちのが好きだ、無意識に思った。
ベトついた肌同士がぶつかって、何ともいえない気分になる。

329 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時40分43秒

「ね、このまんま、バイバイ?」
「…ん?」

耳元で揺れる、囁きのような声。
くすぐったくて目を薄める。

「明日とかないの?」
「あ、した?」
「もお。鈍感だね。だから、また会えないの、て事」

あたしの髪を細い指に巻いて、クサイ台詞を表情一つ変えずに言ってのけるひとみに、少し腹が立つ。

330 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時41分20秒

「明日も会いたい訳?」

顔を枕に押し付けて呟くと、篭った声が、いじけた子供のソレのように響いて、恥ずかしくなった。
ひとみは少し噴出したように笑い、背中に手を這わせてくる。
あたしは息を吐いて、顔を上げる。

「ほんと、何かいつものあたし見てるみたいで、笑える」
「…意味不明」

本当はあたしも思っていた。
あたしとひとみは、何か根本的な所から似ている気がしていた。
目が合ったその瞬間から、感じていた。

331 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時42分08秒

「あたしは、明日も会いたいな。
……てか、こんな事言うのあたしのキャラじゃなくて恥ずかしいんだけど」

ぶっきらぼうに言って、照れ隠しにか、再び煙草を手にとって深く吸い込む。
吐き出すと、二人の間に薄紫の煙が走り、すぐに消えた。

「別、いいよ。そっちが会いたいんなら」
「ふん、素直じゃないね」
「別に。素直に言ってるもん」
「うっわ。マジで根っから素直じゃないね」

手元で揺れる、煙草の火がチラつく。
何回か瞬きを繰り返して、今度は、ひとみの顔を捉える。

「ま、いっか。素直になるのって、傷つくのよりずっと難しいし」

332 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時42分46秒

大して吸わないうちに短くなった煙草を灰皿に押し付けて、あたしの隣に身を埋める。
あたしの背中に耳をピッタリ付けて、だから、と呟く。

「あたしには真希が必要で、真希にはあたしが必要なのかな」

体の中をぐるぐると声が駆け巡っていく。
あたしが言いたい沢山の事が、その短い言葉に集約されている気がした。
何だか、少しだけ嬉しくなる。

「そう、かも」
「あれぇ、素直じゃん」

333 名前:後藤、過去 投稿日:2003年05月05日(月)14時44分19秒

頬を人差し指で突付かれ、含んだ笑いを向けられて。
かなり恥ずかしいけれど、敢えて無視を決め込んだ。

「…素直なごっちんが、めっさプリティー」
「や、ごっちんって。きっしょいから」

あたしが恥ずかしがってるのを充分に理解して、ひとみはワザと恥ずかしい言葉を。
ありがとうの代わりに、バカ、と褒め言葉をあげた。

「じゃ、明日も会おうね」

髪を撫でられて、また唇に、軽いキス。
やけに心が落ち着く。
甘い匂いの中で、頭までふにゃふにゃになっていくようだった。
いっそ溶けてしまえ、と本気で思った。
334 名前:作者 投稿日:2003年05月05日(月)14時51分44秒
>>318 名無し読者さん
応援ありがとうございます。
中澤さんを待たれてたとは驚きですた(w

>>319 リエットさん
嬉しきお言葉をありがとうございます。
お待たせしてしまってすみません。

>>320 ラブごまさん
大変お待たせしてしまいました。
これからは、なるべく早い更新を……(汗

圭ちゃん卒業記念、という事で更新しました。
おそったれ更新になってますが、これからもヨロシクお願いします。
335 名前:335 投稿日:2003年05月05日(月)15時11分04秒
更新おつかれさまです。
すげーうれしいです。

初レスですが、ずっと読んでました。
いまさらなんですけど、>>89によると、作者さん、むちゃくちゃお若いんですよね…。
それでこんな小説書けるんだもんなあ…すげえなあ…。もう、読んでてこっちが人間としての自信なくす。

吉澤、こんな感じだったんですか。切ないな。
さて、登場人物たちは救われるのか。
というか、この物語での「救い」ってなんだ?
ということですよね。

続き、楽しみにしてます。
336 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月31日(土)11時05分29秒
337 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)23時40分42秒
338 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月15日(日)13時42分18秒
339 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月29日(火)21時14分18秒
保全
340 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月21日(木)00時03分18秒
341 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時28分23秒

くだらないヒトメボレから始まったあたし達の付き合いは、耐えることなく続いた。
そしていつしか一緒に暮らしだし、その中でいつしか時も、出会った春から、冬へと変わった。

深いところを求め合う事をしないあたし達は、くだらない会話と体の関係を楽しみ、ただそれだけだった。
それでも互いに互いを求め合い、やっと見つけた安堵の場所はそこだった。

あたしは愛なんて信じないけど、それでもやっぱり、ひとみという存在は必要だったのだ。

342 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時29分47秒

そんな関係を続けながらも、あたしは、しばしば裕ちゃんとも会っていた。

「それが愛なんやないの?
それに、ひとみはあんたを愛してるかもしれへんよ?」

ひとみとの関係を聞かれて嘘を吐く事もなくありのままを伝えたあたしに、からかう様に裕ちゃんは言った。
あたしはそれを、馬鹿じゃないの、と鼻で笑い飛ばし、裕ちゃんは少し悲しげな目をした。

343 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時31分17秒

あたしは愛なんて信じない。
愛なんて、ない。
所詮愛なんて欲望を満たすための言い訳にしか過ぎない。

頑ななあたしの心は愛なんて甘い響きを受け入れず、ある意味自虐的な程にそれを拒否し続ける。
そうすることで、自我を守る。

ひとみがあたしをどう思っているかなんて、そんな状態で聞く気にもならない。

344 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時32分17秒

               ◇
345 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時33分17秒

「ごっちん」
「ん?」
「ごっちん、あたしの事好きになった?」

ベッドの上、並んで寝転がる。
何度も繰り返された情景。
そして、何度も繰り返された言葉。
ひとみはあたしと体を重ねるたび、馬鹿みたいに同じ言葉を連ねた。

「わかんない」
「いつ好きになる?」
「わかんない」
「そっか」
「うん」

346 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時33分59秒

くだらなかった。
ひとみの声はいつもほわんほわんと頭を巡って、心地よいとは到底思えなかった。
それでもあたしは、繰り返されるこんな言葉を嫌いではない。
その愚かさも、嫌ではなかった。

時間を刻む事を忘れてしまったこの部屋の時計は、あたしの観念まで流していきそうで、少し恐い。
流れる時は確実に存在すると知っていながら、つい、この場所の永遠を願ってしまう。
そしてやっぱり、自分は愚かだと自嘲する。

347 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時35分52秒

「んじゃさー。ごっちんはさ、これでいいと思ってる?」

突然。
いつもと違う空気が流れた。

「は?これで、て?」
「だからさぁ。こんな中途半端でいいのかな、うちらの関係」

怒っているわけでもない。
悲しむわけでも、哀れむわけでもない。
感情はこれといって感じられない、思いついたことをそのまま伝えたような無垢な声に、余計あたしは不穏なものを感じた。
是が非でも瞳を見つめてくるひとみの話法を、今始めて恐いと思った。

348 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時36分36秒

「中途半端って……だって、今までずっとこれで来たじゃん、あたし達」

恐いのに、逸らせない視線。
なぜだか少し顔と声が引きつる。

「これからもずっと?それでいいの?」

計算ずくのずるい目をしながら、無邪気に質問を重ねる子供のようでもあった。
本当のひとみなんて、今まで一度も出会って事はないんじゃないか、と頭をかすめる疑問。

「いい、んじゃないの?あたしはいいと、思ってる」

下唇を噛んだ。
何にも感じなかった。
ただひとみの目を見ていた。

349 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時38分14秒

「そっかぁ?なら、いっか」

ふっと、何かが通り過ぎたように、空気が変わった。
体中を脱力感が襲って、ひとみはあたしから目を逸らす。
悟られないように、小さく溜息を吐いた。

「あたしもう寝るわ。ごっちんは?」
「あ、うん。あたしも寝る」
「ん。オヤスミ」

‘オヤスミ’を返すタイミングを忘れて、それきりその場は、何の音もしなくなった。
自分の心臓の音がとくとくと頭に直接響いて、寝返りを打って布擦れの音を立てるのすら嫌になるくらいだった。

こんな時くらい、時を刻んで、音を頂戴よ。
暗闇で息を潜める時計を、顔が引きつるくらいに睨みつけた。

350 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時39分18秒


               ◇

351 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時40分04秒

あたしたち、どこで間違えた?
へたくそで不器用なりに、それなりの生活を送ってきた。
何が違った?
どこで、穴あけちゃった?


小さくて、どこで引っ掛けたかわからないような小さな穴も、放っておけば致命傷。
あたしは忘れてた。
そんな簡単な事にも気付いていなかった。
広がっていく穴を、見てみないフリをしていた。

それがあるとき。


パチンと、割れた。


352 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時41分44秒

「言ってくれなきゃわかんなくない?」

朝から具合が悪かった。
夕方裕ちゃんと会う約束をしていて、出掛けに玄関先でめまいを起こした。
熱を測ってみたら、九度を超えていた。

ただ頭が少し重いくらいで、こんなに酷いとは思っていなかったのだ。
というのは、ただの言い訳だろうか。
ひとみはあたしの寝ているベッドの横にかがみこみ、溜息をついた。

「何強がってんだか。ダメっぽいなら言えばいいじゃん。ごっちんはいつも変なとこ強がるし。
なに?あたしじゃ頼りなかった?そんな、裕ちゃんと逢いたかった?」
「もぉやめてよ」

繰り返されるお小言と呼ばれる類の言葉は、頭に不快に響く。
神経の細い線を、ガリガリ削られていくように。
苦しい、気持ち悪い。

はぁはぁ、荒い息が自然に漏れる。
353 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時42分45秒

かすれる声でまた、精一杯の強がり。

「こ、いう事は、ひとみと関係ない。範囲外でしょ?」

さほど意味を持たないはずだった。
あたしには、度を越えない程度の嫌味のつもりだった。
それがどういうわけか、ひとみには違う響き方をしたらしい。

「んだよ、それ」

いつも腹立たしいくらいすべてを冗談で流し、怒りの表情なんてかけらすら見せなかったひとみ。
それが何か、いつもと違う。

「なんだよって、言われても」

余計に頭がぐるぐるして、何も考えられなくなる。
言葉をどうやって作って、発していたかすら思い出せなくなったみたいだった。
周りの世界がアタシを中心に、ひとみをぐるり囲んで巻き込んで、あざ笑うように回る回る回る―――。

354 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時43分55秒

「結局ダメか」

そのうちに、沈黙をひとみが破った。
嫌な語調を持つその言葉、回らない頭で漸く追いつく。

「どういうこと?」
「結局上手くいかなかったね。悪くなる一方、一緒いても。
せっかく、裕ちゃんからごっちんを託されたのに、ごっちんが変わる気ないなら何やっても無理だぁ」

カラカラ、遠くで音がする。
空回った言葉と思いが、カラカラ、乾いて擦れてる。
頭ん中、かちわったら今、乾いた小石がぱらぱら落ちてくる。

「ひとみは…誰、なんなの…?」
「あたしはだから、何でも屋。人から頼まれたこと、殺し以外はなんでもする。
いい仕事。犯罪まがいな事は、自分の意思で断ればいい。なのに、やけに儲かる。
つまり、それで――それでアタシは今、裕ちゃんからの依頼でここにいる」

355 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時45分15秒

初めて聞いた、ひとみ自身のこと。
本当の声は、聞いたことないように不思議で、重くて、冷たくて。
がたがた、熱があるってこともあるかもしれないけれど、体が震えだした。

「うちが、依頼達成出来なかったの初めてだ。すごいねやっぱ、ごっちんは。
でもさ、いい加減にして欲しい。あたしが何言っても、ごっちんの心には届いてなくて。
わざと鍵締めて、あたしを無理矢理排除して。裕ちゃんに対しても、そう。誰に対しても同じ」

ひとみは体を少し浮かして、ポケットから煙草をだした。
火を付けて、煙が広がる様を、あたしは初めて綺麗だと思った。
放たれる独特の匂いは甘くて、でも頭がくらくらするくらい重くて、それは大概ひとみとあたしによく似ていた。

356 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時46分33秒

「終わりにしよう。大事なもの、何にも分かってない。
そんな人とだらだら付き合っていけるほど、あたし気長いヤツじゃないんだ」

ぽつん、カーペットに、布団に雨が、灰皿に煙草の灰が降った。
それは本当に心の雨なんじゃないかと思うくらい自然な、あたしの、ひとみの涙。
涙の理由なんてお互い何も要らなかった。
ひとみの発する言葉一つ一つに、なぜだろう、涙が出ては止まらなかった。

「ぶっ壊れちゃえ、真希なんか」

久しぶりな感じがする、真希という響き。
それだけで、高ぶる思いが決壊ぎりぎり。
自分の感情と言う感情がすべてひとみに向かってしまいそうで、でもやめた。
ゆっくり、頷いた。
いっそ、ぶっ壊して欲しかった。
もう二度とひとみと逢わなくていい。
逢いたくもない。

そしてもし再会したなら、その時こそあたしがぶっ壊れた、ぶっ壊れる時だと、かすんだ頭で思った。

357 名前:後藤 過去 投稿日:2003年09月06日(土)00時47分37秒

「あたしはきっと変わる。だから真希は変わらないで」

呟きのおわり、最後のキス。
冷たかった。
言葉の意味はわからなくて、でもきっとそれでいいんだと思う。



ひとみはあたしの前から姿を消した。
煙草の匂いを、この部屋に染み付かせたままで。
358 名前:作者 投稿日:2003年09月06日(土)00時49分56秒
なんだか久しぶりの交信すぎて、改行やら区切りだのの文章のカンが狂ってしまいました。
ほんと久しぶりです、ごめんなさい。
有限実行できないあたしは弱虫さんでした。
359 名前:さくしゃ 投稿日:2003年09月06日(土)00時55分44秒
>>335 335さん
レスありがとうございます。今更ですが返させていただいております。
若いなりの拙い脳みそ振り絞って、こんな暗い話かいてます。
こんなあたしのせいで自信なくさないで下さいな(w
実はあたしこそがくだらない人間なんですから。

>>336-340 名無しさん
保全ありがとうございます。
倉庫落ちしなかったのも、ほんと皆さんのおかげです。

360 名前:作者 投稿日:2003年09月06日(土)00時56分41秒
今日の交信終了です。
次こそはきっと、なるべく早い速度で。
361 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月06日(土)01時56分40秒
4ヶ月ぶりに更新されてる!!
今日は良い一日だった・・・。
362 名前:335 投稿日:2003年09月06日(土)16時04分03秒
よかった…更新されてる。
作者さん、ありがとう。無理のない範囲で、完結まで頑張ってください。
マターリついていきます。
363 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月08日(月)00時59分53秒
更 新 あ り が と う !
364 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/13(土) 01:23
びっくりした。こんな作品があったなんて!
久しぶりに全板見てみてみようって思って良かったぁ…。
お久しぶりの更新みたいですね。頑張ってください。これからも読みます!
365 名前:後藤 過去 投稿日:2003/09/14(日) 00:32

ぶつけ様のない怒りを、あたしはぶつけてはいけないところにぶつけてしまった。
後悔は全く意味のないことだと知っているし、その今更な後悔の念や、その時の精神状態の悪さなんかで情状酌量されるのもまっぴらごめんだ。
だけどこれだけは、どんなに悩んでも悩み足りない。
頭がつぶれるまで考えつくしても、まだ全然足りない。
いつになっても忘れられない。

ごめんね、裕ちゃん。

366 名前:後藤 過去 投稿日:2003/09/14(日) 00:34

               ◇

367 名前:後藤 過去 投稿日:2003/09/14(日) 00:36
「最低」

熱も下がりきらないうちに、あたしは結局裕ちゃんのところにいた。
当初の目的とあまりにもはずれていて、すべてが夢のように思える程だった。

「裕ちゃん、あたしのことなんだと思ってんの?金払ってまであたしなんか弄んで、なに楽しいの?」

一瞬、はっとした表情を浮かべて、すぐに唇を噛んだ。

「…聞いたんか、吉澤の、こと?」

何かに対して腹を立てているようだった。
それはきっと、口外禁止だった約束を破った‘吉澤’に対してだった。
何故かまた新たな怒りが、ふつ、と沸いた。
368 名前:後藤 過去 投稿日:2003/09/14(日) 00:37
「そうだよ。全部ひとみから。で?だったら何?」
「契約違反や!あいつ…なんで!」
「そんなこと、今関係ないじゃん。何で?何でそんな事したの?そんな事する権利、何で裕ちゃんにあるの?」

ふつふつ、怒りの種が生まれる。
何も考えられなかった。
ただ次から次へと生まれる怒りを、どうしたらいいかわからなくて、吐き出すように裕ちゃんを睨んだ。
裕ちゃんは、何も答えなかった。
369 名前:後藤 過去 投稿日:2003/09/14(日) 00:38
「ひとみがあたしの事なんかどうでもよかったって知ってて、いろんな事言って、楽しんでたんだ」
「ちゃう!そんなんやない!これだけは、信じてくれへんか」
「ずっと騙されてて、今更信じろなんて、絶対無理だ」

冷静に振舞えば振舞うほど、怒りとは違う、何かが沸いてくる。
何だろう、これはまるで。

「後藤、ちゃう、だから、あたしはただ――」
「いい、もういい!やめて、もう」
370 名前:後藤 過去 投稿日:2003/09/14(日) 00:40
あたしを支配する感情は、恥だった。
そしてこの怒りは、ほかでもない、自分への怒り。
過去の痛みを知りながら、また簡単に人を信じかけていた直後、裏切られた、自分への虚しさ。
今すぐに体を切り刻みたいほどの恥ずかしさと、怒りと、虚しさとが、まだ微かに残る熱と入り混じって、体中を気だるく襲う。
そしてそれを受け入れられず、現実を投げ出し、耳をふさぐ。
ぐるぐると何かが、頭を駆け巡る。

「最低だよ!みんな最低。ひとみも、裕ちゃんも、あたしも、みんな死ねばいいんだ!
大っ嫌い、今一番、裕ちゃんが嫌いだ!最低!最悪!死ねよ、みんな、死んじゃえよぉっ!」
371 名前:後藤 過去 投稿日:2003/09/14(日) 00:42
裕ちゃんはきっと泣いていた。
裕ちゃんは人に見せるほど強くないし、むしろ一番に自分を追い詰めてしまう弱い人だって言う事は分かっていた。
こんな事を言ったら裕ちゃんは一番自分を責めてしまうと知りながら、止められなかった。

「あたしはもう、一生、裕ちゃんにもひとみにも、それから本当の自分にも会わない。
一生誰も信じない。感謝するよ、過去を忘れるなって、また思い知らされた。
あたしには誰もいないのにね。何をあたしは、馬鹿なことしてたんだろうね」

自嘲気味に言ったら、吐き気がするほど後悔した。
裕ちゃんの顔は、最初から最後まで真っ直ぐには見れなかった。

「後藤…ごめん……ほんまに、悪かったと思っとる…」
「バイバイ、裕ちゃん。もう会わない」

最後だけ、穏やかにそう言って、その部屋を出た。
372 名前:作者 投稿日:2003/09/14(日) 00:50
飼育新しくなってなんとなく目に入る感じが違うので、おっかなびっくり交信しました(w
373 名前:作者 投稿日:2003/09/14(日) 00:50
>>361 名無しさん
四ヶ月も待っていてくれたなんて、本当にありがたいです。
見捨てないでいてくれてありがとうございます。
>>362 335さん
ありがとうございます。
どうにか完結はさせたいので、それまでまたよろしくお願いします。
>>363 名無しさん
こちらこそ、ありがとうございます(w
>>364 名無し読者さん
こんな重くて苦い小説を最初から読んでくれてありがとうございます。
374 名前:作者 投稿日:2003/09/14(日) 00:52
sageで交信しようかと思っていたのに、舞い上がってすっかり忘れてしまいました。
いまさらsageても遅いですか。そうですか。
今日の交信終了です。
375 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/14(日) 23:53
ま た ま た あ り が と う !
376 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/03(金) 00:08
分類板で紹介されているのを見て飛んできました。
作者さん、凄いです。ツボです。めっちゃ面白いです。
何気にここの後藤さん。自分のイメージにピッタリだったり(w
痛すぎる後藤さんの過去を誰が救ってあげられるのでしょうか?
作者様のペースで更新を期待しながら待っております。

もちろん 正 座 して(w

頑張って下さい!
377 名前:後藤 過去 投稿日:2003/10/13(月) 01:39
『真希は知ってるかなって思って。あー、やっぱ、何にも聞いてないっぽいね。
うん、話すよちゃんと。落ち着いて聞いて?あのね、おととい、裕ちゃん、死んだ』

電話越しに聞こえる声は、それはそれは現実味のないものだった。
378 名前:後藤 過去 投稿日:2003/10/13(月) 01:40
「は?なんで?意味わかんないよ」
『圭織も昨日聞いたんだ。なんでも、ずっと病気だったみたいだよ。あたし達はなにも知らなかったよね。
そんなとこも裕ちゃんらしいとか思うけど。一週間くらい前かなぁ?急に具合悪くなったらしくて。それでおとといだって。
急すぎるよねほんと。葬儀はしないみたい。親戚、知り合い、いないみたいだし』

落ち着いた口調で、電話の相手――数多く裕ちゃんがあたしに紹介してくれた‘客’の一人だ――はたくさんのことを告げた。
あたしは、きっと馬鹿みたいに、口をぽかんとあけて、脳みそが言葉を飲み込むのを待っていた。
379 名前:後藤 過去 投稿日:2003/10/13(月) 01:41
死んだ?裕ちゃんが?
いつ?おととい?一週間くらい前から悪化して?ずっと病気で?
なんで?どうして?

あたしは一週間と三日前のあの日、裕ちゃんに、何をした?何を言った?

『後藤は、裕ちゃんが人一倍気にかけてたから子だから。最近見てないねってみんな行ってたし、心配なって』

380 名前:後藤 過去 投稿日:2003/10/13(月) 01:43
何を心配したのかは知らないけど、あたしはこの通り、一人でぴんぴん生きてます。
人の病気を悪化させるほどの最低な言葉を降らせて、それでいて今までそんなこと露知らずに生きてました。
あんなに大事にしてくれていた存在を、最後の最後で切り裂き、ズタズタにして、
しかもその人を、最低の悪人のように仕立て上げた言葉で捲くし立てました。

生きてました。
死んでしまいました。

あたしのせいで。
あなたは。
自分を恨みながら。あたしを恨みながら。
381 名前:後藤 過去 投稿日:2003/10/13(月) 01:44
気が狂った。
自分でも分かった。
狂って行くのが分かった。

「ふぁ、はは、ははは!」

笑っていた。
あたしはただただ、産まれたばかりの子供が泣くように、笑い方も忘れ、ただ身を委ねて笑った。

『…後藤…ちょっと、どうしたの…?ショックなのは分かるけど――』

まだ声を伝えてくる携帯をブツリと切った。
もうそれ以上鳴ることはなかった。
382 名前:後藤 過去 投稿日:2003/10/13(月) 01:45
完全な無が部屋を包む。
響くあたしの笑い声、震える音、がちがち重なり合い音を立てる奥歯。

「はははははは!ぁは、っはぁっ、はっ……!う、ぁ……!うはぁ、ははは……」

吐き気が襲って、トイレに駆け込み、それでも笑った。
咳き込みながら、笑った。
383 名前:後藤 過去 投稿日:2003/10/13(月) 01:46
いっそこのまま狂いたかった。
それでもいつしかあたしは現実に引き戻され、そして思い出してはまた、狂った。
繰り返すうちに、それが当たり前になった。
いつの間にか、「狂っているただの人」になった。
考える事も拒否しているうちに、「毎日が死なない為に過ごす日」になった。
384 名前:後藤 過去 投稿日:2003/10/13(月) 01:47
大事なものに気付いた。
愛をもらったり、あげたりが全てなんだと気付いた。
大事にされたり、したりが全てなんだと気付いた。
嘘をつかれたり、ついたりが全てなんだと気付いた。

気付いた頃には、もう誰も、いない。

あたしは、もう、一人で。
ずっと、今も、これからも、一人で。

残ったのは、寂しい感情ばかり。
これからあたしは、どうやって生きていったらいいんですか、ねぇ、誰か、教えてください。

ねぇ、誰か。
385 名前:作者 投稿日:2003/10/13(月) 01:49
お話が暗くて、こっちまで気が狂いそう。
386 名前:作者 投稿日:2003/10/13(月) 01:53
>>375
こ ち ら こ そ あ り が と う !

>>376 
分類版でてましたか?紹介してくださった方、ありがとうございます。
そして飛んできてわざわざ読んでくださってありがとうございます。
作者のペースがただの堕落にならないように気をつけます。
387 名前:作者 投稿日:2003/10/13(月) 01:53
交信終了。
388 名前:335 投稿日:2003/10/13(月) 02:00
更新ありがとう。
重い上にも重いですねえ…まさかこんな展開だったとは。
でも後藤以外もみんな重いからなあ。
暗いの大好き。この先もじっくり楽しませてください。
389 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/13(月) 07:48
本 当 に あ り が と う !
390 名前:モテごまlove 投稿日:2003/10/31(金) 11:48
暗いですね〜。
でも、ごっちん負けんなよ。

あやごまになることを願う
391 名前:从‘ 。‘从 投稿日:从‘ 。‘从
从‘ 。‘从
392 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/31(金) 21:20
今回も苦しいっすね…。
更新お疲れ様です。
次回も期待してまっております。
393 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:15
住んでいた家を引き払った。
だってそこは、裕ちゃんが勝手に借りてきて勝手にお金を払っていた部屋だから。


行く当てもないあたしは、とりあえずまた人を渡り歩く。
そしていつしか、女だけじゃなく、男にもカラダを売ったりしてみた。
病気と妊娠にだけ気をつければそんなに悪いものじゃない。
あたしを求めるんじゃなくカラダを求めてくれる。
女の人は他にもいろいろ求めるから、逐一面倒くさい、時もある。
生きていけるだけのお金と場所だけが、今は必要だった。

そう思っていたあたしは、なぜだろう、面白いほどよく売れた。
394 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:17
「綺麗な子だね、マキちゃんは」

人は口々にそんな事を言った。

―――そんなことない、あたしくらいのなんかどこにでもいるよ
謙虚だと褒められた。

―――ありがとう
素直だと褒められた。

―――お姉さんだって綺麗じゃん
   おじさんだって、昔はもてたんじゃないの?
いい子だと褒められた。

本当の答えなんか、どこにもない。
あたしは人からの判断によって成り立っている。
自分でどう思うかは別として、そう言われてかわいがられるのは都合のいいことだった。

395 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:18
一回五万。
それがあたしの値段。
高いと言う人もいるけれどそれ以下は嫌だというと大抵の人は了承した。
あたしは、あたしの値段を、あたし自身で決めて、そうして生きた。
それ以上も、以下もない。
そんな人間。



長くても二時間かそこらで、行為自体は終わる。
そしてそのためだけに必死になってあたしを買い求め、真っ当に働いて作った金を注ぎ込み、ニセモノの幸せを感じている。
それを虚しいとは思わないし、自分が間違っているとも到底思わない。

数多にある生きていく手段の中で、あたしはこれを選んだだけなんだ。
396 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:19
               ◇
397 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:20
今年一番の冷え込みだった。
眠らない街でも、こんな日は人も疎らになる。
なんだか人をさがすのも電話をかけるのも面倒になった。
ため息をついて、駅の改札辺りになんとなく腰を下ろした。

空を見上げると、雲も無く空気はいつになく澄んでいるのに、やっぱり星は見えない。
この世に生まれて、頭上いっぱいに広がる星を、あたしは見たことがない。
無駄に明るいこの東京の空は、そのせいで、本来の明るさを失ってしまった。
だからきっと、その下に暮らす人間達も淀んでいくんだろう。

目を閉じて想像する。
見たことの無い、淀みのない真っ青な空。一面星が散りばめられた夜空。
もう戻ってこない、この街の過去の栄光、宝物。
398 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:21
そうしてふと目をあけると、知らない人の顔があった。

「な、なに!?」
「あー、生きてる。全然動かないから、ちょっとびっくりしたぁ」

女の子だった。
同い年か、もっと年下か。
もしこんなあたしにまだ判断力が残っているなら、その子は大分可愛い顔の部類に入ると思う。
夜の街には不調和なくらい、整った綺麗さだった。

「後藤真希さんでしょ?」

突拍子もなく出されたあたしの名前。
知らない人に名を知られているのはこの世界ではよくある事だけれど、まさかこの子まであたしの客になるのかと思ったらなんだか信じられなくて、不信感を抱いた。
そしてその子はあたしの考えを読むかのように、先回りして口を開く。

「あー、違いますよ?あたし、頭ヘンな子じゃないです。
後藤さんと同じ高校に通ってる人が知り合いにいて、写真見せてもらったことあるから。
意外なところで人気あるんじゃないですか?後藤さんみたいな人は」
399 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:21
話の内容までは頭が回らなかった。
ただ、まるで感情の篭らないその笑顔だけが、あたし全体を捕らえて、こびりつく。
気分が悪い。
だってそれはあたしのであり、そしてまたもう一つよく似ていた。
ただのかわいい中学生や高校生なんかじゃない。

「その笑い方、やめて。感情ないのは分かったから、変に笑わないでよ。同業?何か用?」

どうでもよくなって、苛立ちすら隠さずに言い切る。
その子は驚いた顔をして、初めて感情を見せた。

「あらー、びっくり。初対面でそんなに読み取られたのは初めてです。さすがですねぇ」
「意味わかんないし。で、何か用?あたし今から、行くとこ探さなきゃならないんだけど」

400 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:23
いい加減寒さが限界で、バッグのファスナーを下げるのも手が悴んで動かない。
顔を見てるのが嫌で目を逸らすのに、その先に納まる物が何もないからあたしは余計苛立つ。

「そんな、怒らないで下さい。あたしは、あなたといろいろ話がしたいんです。
行くところないなら、あたしのところ、来てください。お金ならあるんで」

衝動的に目線をあげて、目が合う。
何か、分からない何かに、焼き尽くされそうだった。
黒い太陽のように、不穏な光を放っていた。

あたしはなぜだか、頷いていた。
401 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:24
「ここ、あんたんち?」
「はい、あたしのうちです」

広い。
一人暮らしの中学、高校生かそこらの子に住める家じゃない。
それからやたらに物がある。
白っぽい大きなソファに、勿体無いくらい大きな冷蔵庫、アルミ素材に統一された棚、淡いピンクがところどころに小物として散る。
そしてコルクボードに貼り付けられた、見知らぬ人々の無数の笑顔。

「広いね」

それだけ言った。
言いたくないなら続けないだろうし、言いたいなら話すだろう。
貼り付けられた写真の中の一人と目が合って、その明るい瞳に本当のアナタはいるのかと、思わず問いかけたくなった。
これが今の子のノリなんだろうし、あたしも昔はそうだったんだろうけど、なんだか遠すぎて、現実味が沸かない。

「広すぎて困りますよ。中学生ですよ、あたし。ナニやってんだかって感じですよね」

その、理由はやっぱり言わなかった。
あたしも聞かなかった。
402 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:27
「で、その中学生があたしに何の用なの?一応、一回五万てことになってんだけど。
用事によってはこのまま帰ってもいいし。とっとと済まそうよ」

なんとなく薄っぺらい、この部屋。
そこにこの子はうまく調和していて、とても嫌な気分。
テーブルに置きっ放しになっているイチゴのガラスコップが、なんだか乾いてあたしを見ていた。

「一回五万、かぁ。んじゃ、一晩お願いします」

持っていたバッグを開いて高そうな財布をあけ、そして五枚、それはもうただの紙のように意味をなくして、あたしの前に出された。
この仕事やってから初めて、言い知れない漠然とした不安があった。

「なんで、そんな。あんたあたしに何して欲しいの?意味分かってやってる?五万とか、一晩とか」
「意味は分かる。五万、稼ぐために必死になる人たちもいるだろうね。
その、大きなお金で、あたしは、あなたを一晩買いたい。そうでしょう?何か間違ってますか?」
「そうだけど、それは。一晩、何がしたいの?非生産的な、中学生と高校生の女同士で?」
「中学生とか高校生とか関係ありますか?女同士とか、なんなんですか?
いいんです、そんなの何でも。とりあえず一晩、あなたが欲しいです」
403 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:27
きっと壊れてた。
あたしも、その子も。
考える事を放棄したら、人はきっと誰もこうなる。
行き着いたあたし達は、こうなった。
ただそれだけ。

「いいよ。とりあえず、よろしく」

笑った顔は、やっぱりどうしても、見れない。
404 名前:後藤 過去 投稿日:2003/11/30(日) 04:28
その子は松浦亜弥だと言った。
親はいるけど、ほぼ勘当状態だと言った。
だから中学は行かないでもう二年になると言った。
でも今は勉強もしていてそこそこになったから、とりあえず高校にはどうにか入るつもりだとも言った。

濃いようで薄い話を、さも大事そうに話すのが亜弥は得意で、それを穏やかに聞くのがあたしは得意だった。
あたしは人間として、一人の人間として、松浦亜弥が、すごく好きになった。

それからあたしと亜弥の、濃いようで薄い関係が進んで行った。
405 名前:作者 投稿日:2003/11/30(日) 04:29
市井さんが、芸能人を、やめちゃってから、初の更新。
406 名前:作者 投稿日:2003/11/30(日) 04:34
>>388 335さん
重いですね。ほんともうどうしようもないくらいです。
ちょっと、あまりに重過ぎるんじゃないか感が漂っている今日この頃です。

>>389 名無し読者さん
いえいえこちらこそ 本 当 に あ り が と う ! ございます。

>>390 モテごまloveさん
とりあえずあやや登場させて見ました。

>>392 名無し読者さん
ありがとうございます。いつも更新遅くて申し訳ないです。

407 名前:作者 投稿日:2003/11/30(日) 04:35
こんな時間に。
更新終了。
408 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/04(木) 23:01
ありごとう
409 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/09(火) 11:41
楽しみに待ってます
410 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/11(木) 01:36
おー、更新されてたのか
やっぱ、ここのあやごまはイイな
411 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/20(土) 19:42
オイラは、いつまでも待ってます。
めっちゃ期待してるっす。作者さん、頑張って下さい。
412 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/23(金) 00:34
保全
413 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/03(水) 18:30
市井ちゃん妊娠しちゃったけど作者さん頑張って!!

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