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Tokyo Killing CityV
- 1 名前:MU 投稿日:2002年12月06日(金)18時40分52秒
- 残ったメンバーで書きたいと思っていたのれすが、
どうもハロプロメンバーが主体になりそうでつ。
全く関係のない人物が主役になってしまいまつた。
少し、下がるまで待ちます。
- 2 名前:18っす。 投稿日:2002年12月06日(金)18時49分28秒
- お待ちしておりました。
- 3 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時25分05秒
- ――1――
雲ひとつない真冬の夜空に、月が妖しく輝いていた。
師走の寒風は、あたかも悲鳴に似た音を発し、
大都会のビルの谷間を吹き抜けて行く。
この寒さで川の水が震えていた。
空気が震えていた。全てが震えていた。
「助けて―――!」
少女は悲鳴を上げながら、ビルの工事現場の中を必死に逃げた。
制服はズタズタに引き裂かれ、太腿には痛々しい破瓜の血が流れている。
彼女の悲痛な叫び声は寒風に流され、どんな救世主にも届きはしなかった。
「莫迦な奴だ」
男は難なく少女に追いつき、髪を掴んで地面に引き倒す。
そして非情にも、顔面を革靴で蹴ったのである。
少女の顎は砕け、夥しい血を吐き出す。
温かい血が凍える地面に流れると、湯を撒いたように湯気を発生させた。
恐怖と激痛で声も出なくなった少女を抱えると、
男はまだコンクリートが剥き出しのビルの中へと入って行った。
やがて少女の絶叫が響き渡るが、それが他人の耳に届くことはなかった。
- 4 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時25分57秒
- ――2――
とても寒い朝だった。午前8時すぎ、和田薫は定刻通りに出勤した。
池袋警察署の刑事課の部屋では、過度の暖房で窓が汗をかいている。
和田は今日も一日、この寒空の下を歩かなくてはならない。
もう若くない和田にとって、それは少々つらいことであった。
「おはようございます」
和田の背後から声をかけてきたのは、相棒の押尾学である。
この秋から刑事課に配属され、警部補である和田が面倒をみていた。
元気のよい青年だったが、最近は疲れが出たのか、
昼食の後は居眠りばかりしている。
「おはよう! 押尾、夜更かしするんじゃないぞ」
最近の若い連中は、睡眠時間を削ってまで遊ぼうとする。
少なからず仕事に影響するのだが、本人たちに自覚はない。
しかし、和田も思い出してみれば、若い頃は同じであった。
彼は苦笑しながら押尾の肩を叩いた。
- 5 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時26分31秒
- 「和田さん、早速事件です。東池袋3丁目のビルの工事現場で、女子高生の死体が発見されました」
そう言ってきたのは、刑事課の紅一点である石井リカであった。
彼女は頭がよくて気が利くので、和田が可愛がっている。
歳は押尾の方が上であったが、刑事歴は石井の方が長いので、
彼女は彼に対し、いつも命令口調で接していた。
「押尾さん、和田さんの足手まといになっちゃだめよ」
「行くぞ、押尾」
和田は押尾の肩を叩くと、脱いだばかりのコートを持って走って行った。
- 6 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時27分20秒
- ――3――
事件現場であるビルの建設現場には、多くの警察車輌が集まっていた。
周囲には騒ぎを聞いた野次馬が群がり、異常な興奮に包まれている。
出勤時間帯ということもあり、あたりは混雑を始めていた。
和田と押尾は自転車で現場に駆けつけ、『立入禁止』と書かれたテープをくぐる。
「和田さん、早速来たね? ―――こら、そこの若いの。血痕を踏むな」
和田の顔見知りである鑑識課員は、押尾の足を指差して注意した。
赤い霜柱は、そこに血痕があうという証拠である。
だが、押尾はそれに気づかず、うっかり踏んでしまったのだ。
「すいません」
押尾は反射的に飛びのいた。
事件の状況を調査する上で、血痕の位置や量は、重要な判断材料となる。
和田は「足元に気をつけろよ」と言うと、殺害現場であるビルの中へと向かった。
押尾が続こうとすると、鑑識課員は彼を呼び止める。
- 7 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時27分58秒
- 「初めてか? ビニール袋は持ってるかい? 」
「―――いいえ」
どういった意味か解らず、押尾は首を振った。
鑑識課員は笑いながらビニール袋を差し出す。
押尾は首をかしげながら袋を受け取り、
和田に続いて建物の中へと入って行った。
「和田さん、いや、ひどいもんだね」
同じ刑事課で宿直をしていた刑事が、顔をしかめながら言った。
和田が現場に到着すると、そこは地獄だった。
ほぼ全裸の少女が横たわり、その周囲には夥しい血とともに、
彼女の内臓が散乱しているではないか。
少女の腹は裂かれてており、ぽっかりと空いた空間には、
彼女の服と思われるものが詰めこまれていた。
- 8 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時28分39秒
- 「うっ! 」
あまりにも惨たらしい光景に、押尾は思わず吐き気をもよおした。
遺留品と思われるものの中に、近くの高校の生徒手帳が入っている。
和田はビニール袋に入った生徒手帳を見ながら、被害者の少女と見比べた。
「松浦亜弥か―――本人に間違いなさそうだな。―――押尾」
和田は押尾に何かを命じようと思ったが、肝心の押尾が見当たらない。
気がつくと、押尾は建物の片隅で、ビニール袋に吐いていた。
元気の良い青年ではあったが、気が小さいので和田は不安を感じている。
事件は毎年、凶悪化しているので、押尾は刑事に向かないかもしれない。
全ては慣れなくてはいけないのだが、押尾には時間がかかるだろう。
- 9 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時29分21秒
- ――4――
「和田さん、捜査会議に出なくてもいいんですか? 」
押尾は喫茶店で、のんびりとコーヒーを飲む和田に言った。
最近の警察は組織捜査を基本としており、以前のように、
『職人』刑事による捜査は能率が悪いとされている。
赤軍派のクーデターを事前に察知した経緯から、
刑事警察においても公安警察のような捜査が基本になっていた。
末端の捜査員は、細分化されたことだけを調べればよく、
全体像は指揮官だけしか分からない。
そんな捜査を和田は嫌っていたのである。
「あんな会議なんか出る価値もないさ。義理堅いリカちゃんに任せておけばいい」
和田は余裕の表情だが、小心者の押尾は気が気ではない。
コーヒーを飲み終えると、和田はタバコに火をつけ、
携帯電話をテーブルの上に置いた。
和田にしてみれば、押尾の教育係であるため、
組織捜査に加わらなくても言い訳ができる。
つまらない捜査を押しつけられるよりも、
自分のやりたいことを優先したかった。
- 10 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時29分54秒
- 「こんなことをやっていて、犯人が捕まるんですか? 」
押尾はイライラしていた。
若いだけあって、早く犯人を捕まえたいのだろう。
だが、和田はそんな押尾を見ながら、若いときの自分に似ていると思った。
絶えずイライラしていて、強引な捜査を行ったこともあった。
「押尾、お前、血液型は? 」
「A型ですけど」
「そうか。俺はB型なんだけどな。A型やB型ってのは、進化した人類なんだそうだ」
AやBに劣性であるOは、人類の起源。つまり猿人に近い血液型とされている。
口の悪い人はO型は縄文人でA型は弥生人であると言う。
B型に関しては特異な進化の過程を辿った人類であるとされ、
新大陸原住民に多い血液型であると言われている。
「それがどうしたって言うんすか! 」
イライラしている押尾は、和田に噛みついた。
その時、テーブルに置いた携帯電話が鳴り、
和田はそれに飛びついた。
- 11 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時30分29秒
- 「リカちゃんか? そうか、分かった。ご苦労さん」
和田は電話を終えると、コートを持って立ち上がった。
すると、押尾は途端に笑顔となり、元気よく喫茶店を飛び出して行く。
二人は近所の交番に行き、そこで石井からのファックスを待った。
やがて、次々にファックスされて来る書類を、和田は一枚一枚目を通す。
「犯人はO型の変質者だ。けっこういるな」
和田はリストの中から、非力な男を削除して行く。
なぜなら、被害者である亜弥の腹は、刃物で切られたのではなく、
すさまじい力で引き裂かれていたからである。
「ロリコン野郎も外してみよう」
和田が景気よく削除して行くと、リストには21人だけとなってしまった。
これを当たれば、何かしらの情報は入ってくるに違いない。
二人は一軒一軒、虱潰しに当たって行くことにした。
- 12 名前:MU 投稿日:2002年12月10日(火)16時33分45秒
- 今日はここまででつ。
ミキティやごっつぁんも出したいでつ。
よっすぃーと愛ちゃんも出したいでつね。
- 13 名前:前スレの18です。 投稿日:2002年12月10日(火)20時20分46秒
- 相変わらずすごい内容ですね。
続き待ってマース。
- 14 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月11日(水)10時50分54秒
- あやや…・゚・(ノД`)・゚・。
でも、続き楽しみにしてます。
- 15 名前:MU 投稿日:2002年12月14日(土)19時57分28秒
- 有賀党でつ。
あやや殺してすんまそん!
こんどはミキティ殺しますでつ。
犯人、見えてこないでつね。
僕も見えてこないでつ!
性描写はエロじゃないんで避けますた。
性描写がよければ、別スレたてますでつ。
- 16 名前:MU 投稿日:2002年12月14日(土)19時58分56秒
- ――5――
和田と押尾は夕方までに、リストに載った全員と対面調査したが、
全く手掛かりが掴めず、疲れ果てて池袋署に戻ってきた。
書類の整理を命じられていた石井は、手早く片づけてしまい、
二人の捜査状況を聞きにやってくる。
「どうでした? 」
和田は苦笑いしながら首を振り、廊下の自販機でコーヒーを買う。
犯人は池袋署の管轄以外に住んでいる人間かもしれない。
そうなったら、和田の単独行動は制限されてしまう。
「近くに住む奴が犯人に間違いないと思うんだがな」
亜弥を殺した犯人は、かなりの返り血を浴びているはずだ。
車で移動したとしても、血まみれの姿では、そう遠くへは行けない。
和田は事件が難航する気配を感じていた。
「まあ捜査は始まったばかりですから。それより、今夜は飲みに行きませんか? 」
石井にしてみれば、景気づけのつもりなのだろう。
彼女にも組織の一員という自覚こそあったが、
和田のような一匹狼に憧れていたのである。
その夜は、三人で居酒屋へ行き、愉快に飲んだ。
- 17 名前:MU 投稿日:2002年12月14日(土)20時00分25秒
- ――6――
夜になると雨が降り出し、普段よりも数倍暖かく感じられた。
高校3年生の美貴は、進学塾の帰りにコンビニへ立ち寄り、
大好きな菓子パンをかじりながら家路についた。
運送会社の前まで来ると、街路灯が切れかかり、点滅していた。
このところの不景気で、運送会社も午後5時を過ぎると無人になってしまう。
大きなトラックが整然と並ぶ光景は、一種異様な雰囲気が漂った。
師走の冷たい雨は遠慮なく美貴の傘を打ち、
彼女は冷たくなった手に息を吐きかける。
「えっ? 」
いきなり誰かに腕を掴まれ、美貴はトラックの陰にできた暗闇に引きこまれた。
悲鳴を上げようとした瞬間、彼女は腹を殴られて悶絶する。
大柄な男は無言で美貴を担ぐと、鍵の壊れたトラックの運転席へ入って行った。
「た―――助けて―――」
息が詰まりながらも、美貴は男に命乞いをする。
しかし、男は狭い車内で、乱暴に彼女の服を引き裂いた。
大型トラックの座席後方にあるベッドは、
大人一人がようやく横になれる広さしかない。
そこで男は美貴を陵辱するのだ。
- 18 名前:MU 投稿日:2002年12月14日(土)20時01分11秒
- 「やめてー! 」
美貴が叫ぶと男は舌を鳴らしながら、
彼女の顔面を拳で殴った。
美貴の歯は折れ、頬骨と顎の骨に亀裂が生じる。
「うるせえな。次は首をへし折るぞ」
美貴は声も上げられず、泣き出してしまった。
男が下着に手をかけると、さすがの彼女も暴れ出す。
それが気に入らなかったのか、男は残忍な仕打ちを始めた。
彼女の左腕を掴むと、座席のリクライニングを利用して、
一気にへし折ってしまう。
「あうっ! 」
鈍い音がして激痛が走った左腕を見て、
美貴は意識が遠くなって行った。
何しろ、肘が逆に曲がっていたからである。
だが、次の激痛で、彼女はすぐに正気に戻った。
今度は脛の骨がへし折られたのである。
あまりの激痛に、彼女は声も上げられなかった。
陵辱された美貴は、放心状態であった。
これまで何度か男に迫られたことはあっても、
決して体を許すことはなかった。
しかし、こんな野蛮で暴力的なことが初体験となってしまう。
これは単なる暴力に違いなかった。
- 19 名前:MU 投稿日:2002年12月14日(土)20時01分46秒
- 「さてと―――」
男は破瓜の血と放たれた精液によって潤滑油に事欠かない美貴の秘所に、
節くれだった拳を押し当てていた。
傷口に触れたのか、彼女は「うっ」と小さな声を漏らす。
「今までのは序章にすぎない。これからが楽しい時間だ」
男は一気に拳を押しこんでしまった。
次第に強くなってきた雨がトラックの屋根を叩き、
17歳の少女の断末魔の叫び声が響いた。
- 20 名前:MU 投稿日:2002年12月14日(土)20時03分24秒
- ――7――
早稲田にある押尾のアパートは安普請であり、
夏は暑くて冬は寒いというシロモノである。
この時期になると毎朝、彼はベッドの中で寒さに震えていた。
昨夜は雨が降ったので、今朝の寒さは和らいだものの、
それでも耐えがたい寒さが彼の部屋に侵入して来ている。
押尾がベッドの上で丸まっていると、いきなり携帯電話が鳴った。
「はい、押尾です。―――またですか! 」
電話の相手は和田だった。
押尾のアパートから自転車で10分くらいの場所で、
女子高生の他殺体が発見されたという。
押尾は愛車のRX―7ではなく、自転車で現地に向かった。
「おう、ここだ」
押尾を待っていた和田は、鑑識の知り合いから遺留品を受け取る。
血に染まったメロンパン、鞄、傘、生徒手帳などである。
自信のない押尾は、ポケットからビニール袋を取り出した。
- 21 名前:MU 投稿日:2002年12月14日(土)20時04分03秒
- 「藤本美貴、近所に住む高校3年生か―――」
「和田さん、現場はここですね? 」
押尾はトラックのドアを開けた。
「そこは! 」と鑑識係や和田が静止したが、
間に合わなかった。
押尾がドアを開けると、血まみれの臓器が流れ落ち、
続いて若い女の死体が地面に落ちて鈍い音をたてる。
「うげっ! 」
押尾は慌ててビニール袋を口に当て、喉を鳴らしてしまう。
驚いたのは分かるが、ちょっと刑事にしてはヤワすぎた。
「何やってんだよ。仕事のじゃますんじゃねえよ」
鑑識係員に文句を言われ、押尾は謝ることしかできない。
仕方ないので、美貴の死体にはブルーシートがかけられた。
「今回もひでえなあ。あそこから手を突っこまれて、まず内性器を掻き出されたんだな。
それから腸や内臓を掴み出されているみたいだ。―――狂ってるよな」
鑑識係員は首を振りながら、やりきれないように言った。
地獄のような苦しみを味わって死んだ美貴の表情は、
この世の全てを恨むような表情であった。
やがて、美貴の死体が運ばれて行く。
18年近くも育ててきた彼女の親のことを思うと、
気の毒でならない和田であった。
- 22 名前:13です。 投稿日:2002年12月14日(土)21時34分01秒
- 私の期待を裏切らないすごい内容。
- 23 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時28分47秒
- >>22
有賀党でつ。
カゼひいて寝込んでますた。
39度も熱が出たら、天井が回ってますた。
まだ咳が止まらないでつ。
ちょっとだけど更新しまつ。
- 24 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時30分36秒
- ――8――
和田と押尾は池袋署に戻ると、捜査の方針を考えた。
廊下にある自販機でコーヒーを買い、ベンチに座っての捜査会議である。
犯人は怪力の異常者で、被害者を犯してから殺していた。
「押尾、家出人捜索願が出ている女子高生をピックアップしろ」
「えっ? 和田さんは松浦亜弥の事件が最初ではないと思うんですか? 」
押尾が驚くのもムリはない。
凶悪犯が潜伏し、発覚していない事件まで関与しているとしたら、
これは住民にパニックが起きるほど衝撃的なことであるからだ。
「ヤツは初めての犯行じゃない。必ず過去に同じようなことをやってるよ」
警察を嘲うような犯行は、犯人が絶対的な自信を持っている証拠だ。
和田は犯人が試験的に犯行を行い、捕まらない術を学習したと思っている。
確かにそれは可能性として、充分に考えられることだった。
逆に考えれば、犯人は以前の犯行で証拠を残しているかもしれない。
和田は、そこに状況打破の可能性があると判断していた。
- 25 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時31分33秒
- 「とりあえず、管轄の届出を優先しますね」
警視庁のコンピューターにアクセスすれば、対象者は簡単に出せるが、
身近なところから攻めていくのが和田の捜査の基本だった。
押尾は数ヶ月一緒にいて、和田の捜査方針を勉強している。
二人はパソコンを使って対象者の検索を行った。
「高校生ですよね。―――8人いますよ」
「そうだな―――これとこれ、それからこいつ。こいつも対象から外そう」
和田は写真を見ながら絞りこんで行く。
犯人は清楚な感じの少女を襲っている。
派手めの少女は除外して行ったのだ。
「3人になりましたね」
「捜査開始だ」
和田と押尾は3人の少女の所在を確認しに行った。
- 26 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時32分17秒
- 捜索願が出ている3人の少女の所在を確認するには、
じつに骨の折れるような地道な捜査が必要だった。
交友関係を当たり、家出の原因を調査することから始まる。
1人の少女は妊娠しており、男と一緒に暮らしていた。
未成年であるため、少年課に引き継いで捜査を打ち切る。
また、1人の少女は風俗店で働いていることが分かり、
生活安全課に引き継いで捜査を打ち切った。
「残るは高橋愛だけですね」
押尾は全く情報が掴めない少女のデータを見た。
都立板橋高校に通う高校1年生である。
11月の下旬に失踪し、何の情報も得られていない。
「押尾、ヤツは少女の帰宅を狙って犯行に及んでいる」
「現場は自宅の近所ですか? 」
犯人は被害者が自宅に近づき、油断した瞬間を狙っている。
そのことから、犯人が愛を襲ったのだとしたら、
犯行現場は自宅周辺である可能性が高い。
- 27 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時32分54秒
- 「近所に寺の墓地があっただろう? その裏手は雑木林になってる」
バブル時代に新興の不動産屋が買収したが、この不景気で倒産し、
銀行が競売にかけたものの買い手がつかず、国有地になっていた。
夜ともなると真っ暗であり、墓地の近くの細い道路からは死角である。
こんな場所に引きずり込まれたら、目撃されることなど皆無に違いない。
「そんなに広い場所じゃありませんよね。手分けして捜索しましょう」
「ん? ああ、そうだな」
和田と押尾は、墓地の脇に車を停め、雑木林の中へと入って行った。
広い場所ではなかったが、それでも500坪はあるだろう。
落葉した木の葉は腐葉土を形成し、多くの生物に恵みを与えている。
この時期は黄褐色の落ち葉が大地を覆ってしまい、
雑木林は砂漠に朽木が林立するような雰囲気だった。
「11月に失踪したんじゃ、落ち葉に隠れてしまった可能性もあるな」
「そうですね。棒で落ち葉を払いながら行きましょう」
二人は手頃な棒を見つけ、落ち葉を突きながら捜索を始めた。
しかし、一時間経っても何の手がかりも掴めず、
陽も傾き、二人にあきらめムードが漂い始める。
風向きが変わると、押尾は妙な臭いに気づいた。
- 28 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時33分47秒
- 「和田さん、妙な臭いがしますね」
「そうか? そういえば―――これは死臭じゃないか! 」
和田は驚いて付近を探し回る。
気の小さい押尾は蒼くなりながら、
和田の近くばかりを探していた。
やがて和田が臭いの元を発見する。
「こいつだ―――」
「ひっ! 」
押尾は和田の後方に隠れるように『それ』を覗きこんだ。
これほど気の小さい男に、果たして刑事が務まるのだろうか。
和田の心配は押尾の気が小さいということであった。
「わだ若いな。三毛だからメスだ」
死臭の原因は、死後数週間と思われる三毛猫の死体だった。
胸をなで下ろす押尾だったが、その膝は震えている。
いい加減、押尾の臆病さに腹がたった和田は、
きつい口調で叱ってしまう。
- 29 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時34分21秒
- 「何を考えてるんだ! そんな臆病で、よく警官になろうとしたな! いいか? 」
和田が詰め寄ると、押尾は後ずさりをして行く。
警官が臆病ではいけないは、犯人に威嚇された時、
ひるんでしまうかもしれないからである。
押尾は刑事には向かない。事務屋の方が向いているだろう。
和田は押尾に転属の希望を出させるべきだと思った。
「そんなこと言ったって―――あっ! 」
押尾は何かに躓いてひっくり返った。
すると、腐敗が始まった少女の死体の上半身が、
落ち葉をかき分けて起き上がったのである。
「ぎゃあ―――――――! 」
間近で少女の変わり果てた死体を見た押尾は、
仰天のあまり失神してしまった。
全く情けない刑事もいたものだが、
それが押尾学であった。
- 30 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時36分00秒
- 和田の通報を受け、捜査本部が急行してきた。
本庁の管理官は所轄が被害者を発見したので面白くない。
和田が組織捜査を無視したことを言及してきた。
しかし、和田には押尾を教育するという大義名分があるため、
本庁からの難クセなど知ったことではなかった。
「おう、和田さん。この仏さんは、あそこに棒を突っ込まれてる。それが死因だろうな」
鑑識の『おやじさん』が少女の遺体を検死しながら言った。
場所も場所であるから、助けを求めたところで誰も来ないに違いない。
恐らく少女は地獄の苦しみに泣き叫びながら息絶えたのだろう。
少女を己の欲望の犠牲にしたあげく、殺人を楽しむという異常さは、
和田の警察官、いや人間としての常識を超越しただけでなく、
ほんとうに犯人に対して憎しみを抱いたのである。
許されるものなら、犯人を殺してしまいたい衝動にかられた。
- 31 名前:MU 投稿日:2002年12月20日(金)22時36分37秒
- 「許せねえな」
和田は何が何でも犯人を捕らえ、死刑台へ送ってやろうと思った。
だが、警察の仕事は犯人を捕まえるだけである。
起訴して求刑するのは、残念ながら検察の仕事であった。
あまりの異常性に、弁護側は精神鑑定を持ち出して来だろう。
医師が精神に異常があると判断すれば、刑事責任は問えなくなる。
犯人を追いつめた時、刃物を持って反撃してくれればいい。
そうすれば正当防衛という美名のもとに、射殺することができた。
「和田さん、押尾さんは? 」
石井が被害者の両親を連れてきた。
和田は冷静になると、両親に深く頭を下げる。
発電機のエンジン音が遠くで響き、
そのお陰で、すでに闇が降りた雑木林を照明が明るく照らしていた。
少女の死体を前に、泣き崩れる初老の父親がいた。
「リカちゃん、押尾は伸びたままだ」
和田は石井から引継ぎ、両親の対応をすることになった。
なぜなら、押尾が受けたショックを和らげるのは、
和田よりも石井の方が適任であると思われたからである。
押尾ばかりでなく、和田の怒りも収まらなかった。
普段は冷静な和田も、今回ばかりは感情的になっていた。
- 32 名前:13です。 投稿日:2002年12月21日(土)20時38分12秒
- 体調不良なのに更新、有難うございます。
- 33 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時47分29秒
- >>32
有賀党でつ。
気管支炎がひどくなって、肺炎になりかけますた。
入院する寸前だったのれすが、どうやら回復を始めているようでつ。
寝正月でリバースするでつ。
- 34 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時48分05秒
- ――9――
捜査本部では和田と押尾を傘下に置きたかったが、
部下が行方不明の死体を発見して鼻が高い署長は、
珍しく強気に出て拒否したのだった。
和田と押尾、石井の三人は署に戻り、
今後の捜査について話し合いを始める。
「和田さん、今後は何をすればいいんですか? 」
押尾は、まだ蒼い顔をしながら和田に質問する。
全く犯人が見えて来ない以上、試行錯誤するしかない。
ただし、捜査本部と同じ方法では無意味であった。
捜査本部では、目撃者の洗い出しに全力を挙げているが、
この狡猾な犯人は、決して尻尾を出さないだろう。
「もっと積極的な方法が必要だな。よし、パトロールしよう」
三人は交代で仮眠をとりながら、車でパトロールを行った。
不審な男を見かけたら、片っ端から職務質問をかけて行く。
その効果があってか、覚醒剤所持者や不法残留外国人を検挙できた。
しかし、全く犯人には結びつかず、和田と押尾は溜息ばかりついている。
- 35 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時48分51秒
- 「空振りか? ところで押尾、犯人はどうして高橋愛のあそこに棒を突っ込んだんだろうな」
「そりゃ、串刺しじゃないですかね」
「えっ?―――そうか」
和田は腕を組んで、何かを考えていた。
車を運転する押尾は、能天気に鼻歌を歌っている。
若い者は仕事を楽しもうとする傾向があった。
それは良いことではあったが、和田に理解はできない。
「押尾、刑事になること、親には相談したのか? 」
「いえ、お袋は死んじまいましたし、義父とは音信普通ですから」
押尾は幼い頃に実父を亡くしている。
しばらくして母親は年下の男性と再婚するが、
押尾とはウマが合わず、たいへんな思いをしたそうだ。
飲みに行ったとき、押尾が愚痴るように話していた。
- 36 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時49分35秒
- 「殴られたのか? 」
「ええ、とにかく義父とは合いませんでしたからね」
義父は蟲の居所が悪いと、幼い押尾を平気で殴った。
何度か救急車で運ばれたこともあり、かなり虐待されたのである。
義父に逆らえない母親は、押尾を守ることすらできなかった。
酒の席とはいえ、幼い頃の記憶を淡々と語る押尾に、
同情した石井などは涙目になっていた。
「おい、何か聞えなかったか? 」
和田は窓を開けた。
途端に冷たい空気が流れこみ、押尾は身震いしながら停車させる。
押尾がエンジンを切ると、ケンカしているような声が聞えた。
どうやら、道路脇にある月極駐車場の奥から聞えてくるようだ。
ケンカであるなら、怪我をする前に仲裁に入らないといけない。
和田はドアを開けて外へ出ようとした。
- 37 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時50分19秒
- 「やめてー! 」
若い女の悲鳴が響き、和田と押尾は現場へと走った。
和田が駆けつけてみると、駐車場の車の間で、
若い男が女性に馬乗りになっていた。
「何やってんだ! この野郎! 」
和田は若い男を突き飛ばし、倒れていた女性を抱き上げた。
若い男は驚いて逃げようとしたが、押尾に襟首を掴まれてしまう。
長身の押尾に睨まれ、若い男は泣き出してしまった。
知らせを受けて、署から石井と二人の警官がやってきた。
婦女暴行の現行犯であったため、女性警官が必要である。
石井が被害者の女性を介抱しながら、パトカーに乗せて話を聞く。
若い男は現行犯であるため、逮捕されて署に連行されて行った。
「和田さん、例の犯人ですかね? 」
「いや、違うな。犯人ならお前でも勝てるかどうか」
和田は若い男は犯人ではないと言う。
だが、押尾は不服だった。
あまりにもタイミングが良すぎる。
ここは絞りあげて供述させようと思っていた。
- 38 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時50分53秒
- 「和田さん、押尾さん。被害者の女性から供述が得られました」
被害者は市井紗耶香という近所に住む18歳の女性だった。
彼女の供述によると、逮捕された犯人は後藤ゆうきといい、
以前、つきあっていた関係だという。
どうやらヨリを戻しにやって来たゆうきと口論となり、
掴みあった拍子に倒れたようである。
「痴話喧嘩とは―――事件性はないな」
「和田さん、ゆうきは16歳です。どうしましょうか」
石井は困ったように和田に相談した。
痴話喧嘩とはいえ婦女暴行の現行犯であるため、
緊急逮捕に違法性はない。
しかも、16歳の少年が出歩く時間ではないので、
説教でもして帰宅させることにした。
- 39 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時51分45秒
- 和田と押尾が署に戻ってしばらくすると、一人の若い女性がやってきた。
彼女の名前は後藤真希といい、逮捕されたゆうきの姉である。
彼女たちの親は仕事で手が離せないため、真希が代わりに迎えに来たのだ。
押尾が対応しながら、ゆうきを取調室から連れてきた。
「書類送検になると、検察に身柄を移されるんだ。留置場に拘束されることになる」
「ええっ! そ―――それじゃ」
「婦女暴行未遂の現行犯だからな。しばらくお姉さんに会えなくなるぞ」
押尾が脅かすと、ゆうきは再び泣き出してしまう。
年上の女性と付きあっていたとはいえ、やはりまだ子供であった。
送検を本気にして声を上げて泣くゆうきを見て、
押尾は堪えきれずに吹き出してしまう。
- 40 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時52分24秒
- 「ははは―――帰っていいぞ。もうあんなことはするんじゃない。いいな? 」
ゆうきは真希に抱きついて激しく泣き出した。
気の小さい少年は、二度とこんなことはしないだろう。
押尾は真希が書いた書類で、ゆうきの頭を軽く叩く。
そのとたん、押尾は貧血を起こしたように、
倒れそうになって真希に支えられた。
「あ、ありがとう」
「いえ、だいじょうぶですか? 」
「ああ―――疲れてるのかな」
押尾は笑顔で言ったが、妙に醒めた目をしていた。
- 41 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時53分12秒
- ――10――
「それじゃ和田さん、お先に失礼します」
押尾は朝方になると、自宅へと帰って行った。
今日は非番であるため、ゆっくりしたいのだろう。
始発に乗って帰るとは、まったく因果な商売である。
ところが和田は帰ろうともせず、腕を組んで考えごとをしていた。
「どういった接点があるのか―――」
和田は殺された少女たちと犯人との間に、
どういった接点があるのか疑問に思っていた。
下校途中や塾帰りを狙われている点から、
犯人は被害者の行動を研究しているに違いない。
たまたま見かけた少女を尾行するには怪しまれる。
そうなると、顔見知りの犯行なのだろうか。
「いくら顔見知りでも、夜なら女の子は警戒するだろうにな」
盲点を狙った犯行であるのか?
その盲点を察知した犯人は、よほど親しい人間なのか?
被害者を殺すのは嗜好を満たすためのものなのか?
いずれにせよ、今回の事件は和田の常識の範疇を超えている。
和田はしばらく考えたあと、眩しい朝日を浴びながら家路についた。
- 42 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時53分58秒
- 和田が家に帰ると、娘のひとみが起きてきた。
これから彼女は学校へ行くのである。
和田の朝帰りに、ひとみは露骨に嫌な顔をした。
「ひとみ、ただいま」
「どこに行ってたのよ。朝帰りなんて―――」
3年前に死んだ母を裏切るようなことだけは、
絶対に許せないのが、この年頃の娘である。
警察官である和田の仕事は理解していても、
どうしても疑心暗鬼になってしまうのだろう。
「仕事だよ。これから学校か? 夕方は、すぐに暗くなるから気をつけるんだぞ」
まさか刑事の娘を襲うということはないだろうが、
和田は事件を思い出して娘を心配した。
鬼刑事も家に帰れば、普通の父親だったのである。
一人娘のひとみも高校2年になり、
あと数年もすれば嫁に行ってしまうだろう。
そうなった時のことを考えると、和田は淋しくて仕方ない。
- 43 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時54分33秒
- 「明日は集金があるからね。お金を用意しておいてよ」
「何の集金だよ」
「修学旅行の積立だよ! 言ったじゃん! 」
「ああ、そうだったな。うん、用意しておくよ」
和田はひとみが出かけると、風呂に入って食事をする。
そして、疲れた体を癒すため、睡眠へと入って行った。
- 44 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時55分13秒
- ――11――
真希は母親の店に忘れ物を届け、自転車に乗って家に向かっていた。
このところ、女子高生の連続殺人事件があるためか、
夜になると普段に比べて妙に人通りが少ない。
真希は手袋をしているが、寒さで手がかじかんでしまう。
信号待ちで停車すると、真希は手を擦り合わせて少しでも暖をとろうとした。
凍えるような青信号が灯ると、彼女は自転車をスタートさせる。
このあたりは人通りが極端に少なく、真希は一抹の不安を感じるが、
すでに自宅の灯りが見えており、彼女は一安心していた。
「うー、寒い」
真希が資材置き場の前にさしかかると、
いきなり何者かに引き倒されてしまった。
彼女は短く悲鳴を上げ、冷たいアスファルトの上に投げ出される。
痺れるような膝の痛みに声を上げられずにいると、
彼女を引き倒した男は容赦なく側頭部を蹴った。
- 45 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時56分04秒
- 「あうっ! 」
真希は気が遠くなったが、自分がかつがれていることは分かった。
資材置き場に張られたブルーシートは、寒風に悲鳴のような音を上げる。
乱暴にコンクリートの上に投げ落とされた真希は、
痛みに顔を歪めるものの、悲鳴を上げられる状態ではなかった。
同時に耐えがたい寒さと恐怖が、彼女の意識を支配している。
これが連続殺人犯であると悟るまで、そう時間はかからなかった。
「た―――助けて―――」
真希は小さな声で命乞いをするのが限界であった。
恐らく膝は骨折し、背骨にも損傷がありそうだ。
そして何より脳震盪によって、体が思うように動かなかった。
朦朧とする意識の中で、真希は裸にされて行くことを感じた。
「―――お願い」
真希は懸命に逃げようとするが、体に力が入らなかった。
それをよいことに、男は真希の服を引きちぎる。
こうなったら、レイプされるのは仕方ないだろう。
だが、殺されるのは絶対に回避しなければならない。
「膝は砕けてるみたいだが、念のためだ」
男は真希の足を鉄パイプで殴った。
骨の砕ける音が響き、真希の足首は粉砕する。
激痛に唸る真希に、男は平然とのしかかって行った。
- 46 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時56分45秒
- 激しい暴力で陵辱された真希は、ショックよりも生死の不安に怯えていた。
どんなことがあっても、生きてさえいれば、きっと楽しいことがあるだろう。
しかし、ここで殺されてしまったら、全てが終わってしまうのである。
あきらめたり絶望を感じた時点で、生への執着はなくなってしまうのだ。
「―――たすけて」
真希は腕の力だけで逃げようとする。
もはや彼女の足は全く機能していなかった。
死にたくないという気持ちだけで、
彼女は動かない体を動かした。
「これから楽しくなるのに―――逃げるのかよ」
男はうつ伏せになった真希の手のひらにナイフを突き刺した。
ナイフは手の甲から貫通し、凍った地面に突き刺さる。
手が固定されてしまったら、真希は逃げる術を失った。
激痛が走るものの、痛がっている暇などない。
とにかく逃げなければ、待っているのは死のみだった。
- 47 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時57分22秒
- 「死にたくない―――死にたくない」
真希は幼い頃に、山岳事故で父を亡くしている。
そんな過去があるためか、人一倍、彼女は生への執着が強かったのだ。
真希はナイフを引き抜くと、這いながら逃げようとする。
迫り来る死の恐怖から逃げるため、彼女は必死で這いまわった。
「へえ、そんなに生きていたいんだ」
男は這いまわる真希の側頭部を蹴った。
頭蓋骨が砕け、真希の左目が飛び出してしまう。
鼻血を出しながらも、真希は逃げようとする。
力尽きたとき、訪れるのは死だけであった。
「すごいね。生への執着って」
男はスコップを真希の膝に突き刺した。
彼女の下腿は切断されてしまい、血が吹き出してくる。
それでも真希は、何とかして逃げようとした。
男は真希の手足を切断して行く。
- 48 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)00時58分07秒
- 「―――死にたくない―――死にたくない」
両手足を失った真希は、体を捩ってまで逃げようとする。
すでに大量の出血で、彼女は意識低下を起こしていた。
にもかかわらず、真希は最後まで生へ執着した。
「終わりにしようね。真希ちゃん」
男は最後に真希の首を切断した。
頚動脈から大量の出血が起こり、真希は急速に意識レベルが低下する。
かろうじて視力が残る片目から見えたのは、
反射で痙攣する胴体と、散乱した自分の手足だった。
(死にたくない、死にたくない)
全ての感覚を失い、真希は生へ執着したまま、その短い生涯を閉じた。
- 49 名前:MU 投稿日:2002年12月29日(日)01時00分36秒
- 真希ちゃん殺してすんまそん!
年内には更新したいでつ。
- 50 名前:13です。 投稿日:2002年12月29日(日)20時45分54秒
- ゾクゾクしちゃうわ。
- 51 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)17時56分14秒
- 更新、お疲れ様です。
今回ので漠然となんですが、犯人が何となく分かったような気が・・
想像なんですけど・・
- 52 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)22時11分31秒
- 紅白みながらがんがってみますた。
今、飯田と矢口がラップやってます。
おっ、なっちが演歌?
12時までに更新できるか?
- 53 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時52分56秒
- ――12――
翌日、散乱した真希の死体が発見され、
和田と押尾はショックを受けてしまう。
無口で無表情なところはあったが、
真希は誰がみても美人な少女であった。
「和田さん、どうして現場に行かないんですか? 」
押尾は不思議に思って和田に尋ねた。
午前8時15分を指す時計を見ながら、
和田はリアルタイムで送られてくる、
現場の状況を詳しく説明する。
押尾が現場に行ったら、間違いなく卒倒するだろう。
それほど、今回の現場は悲惨だったのである。
- 54 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時53分41秒
- 「あの子が死んだだけじゃない。解体されてるんだ」
「うっ! 」
みるみる押尾の顔から血の気が引いて行く。
あまりに悲惨な状況に、死体を発見したタイ人作業員は、
泣きながら同僚に助けを求めたくらいである。
現場に行った石井も、鳴き声で電話をかけてきた。
- 55 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時54分31秒
- 男女間のもつれから殺人に発展してしまうケースは多い。
特に女が男を殺害する場合、メッタ刺しにしてしまう傾向がある。
力では劣る女にとってみれば、二度と生き返らないように、
必要以上に刺してしまうのだった。
だが、この殺人は、決してそういった痴情のもつれではない。
犯人は少女を陵辱し、楽しみながら殺しているのだ。
「あ、いたいた。お金を置いていってくれなかったじゃん! 」
和田に詰め寄った制服姿の女子高生は、彼の娘であるひとみだった。
いきなり目の前に娘が現れ、和田は仰天して飲んでいたコーヒーにむせる。
ひとみは無言で和田の胸ポケットから財布を抜き取ってしまう。
これには押尾も黙っていられず、ひとみの腕を掴んだ。
「何をするんだ。君は誰だ」
ひとみは押尾を睨むが、意外に男前であったため、
少し頬を赤らめながら苦笑した。
和田はひとみから財布を奪還すると、一万円札を出す。
そんな二人の姿を、押尾は唖然としながら見ていた。
- 56 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時55分20秒
- 「一万円で足りたか? 」
「いちおうね。おつりは使ってもいいでしょう? 」
「ムダなものは買うんじゃないぞ」
「うん、ありがとう。パパ」
「あうっ! パパはやめろ―――」
和田は苦笑しながら、ひとみに小さく手を振った。
ひとみは嬉しそうに手を振りながら帰って行く。
目を細める和田を、押尾は人気のないところへ引き込み、
興奮した口調で意見をした。
「和田さん、まずいですよ。女子高生に手を出すのは」
「莫迦! あれは娘だ! 」
「ええっ! あんな可愛い子が? 」
押尾にしてみれば、ひとみのように可愛い子が、
どうして和田の娘なのか不思議でならなかった。
きっと母親似なのだろうが、性格までは分からない。
- 57 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時56分55秒
- 「こんなところで何やってるんですか? 」
二人に声をかけてきたのは、現場から戻ってきた石井である。
階段の端でいかがわしいことを話しているように見えたのだろう。
和田は「何でもない」と言いながら、石井から情報を聞き出す。
そのために、彼女にコーヒーを勧めながら、廊下のベンチに腰を降ろした。
「―――あれは人間の仕業とは思えません」
石井は地獄のような悲惨な現場を思い出し、涙を零しながら話を始めた。
それほど惨たらしい現場であった。犯人は狂っている。間違いない。
- 58 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時57分31秒
- 「真希は―――最期まで諦めずに―――両足を切断されても、逃げようとしていました」
「そんな! 生きながら解体されたのか? 」
和田にとっても、それはショッキングな現実であった。
状況からすると、真希は自分の解体された体を見ながら、
失意の底で死んでいったことになるという。
何の罪もない弟思いの少女は、犯人の餌食になったのだ。
快楽殺人という曖昧な単語で片づけられてしまうのが、
和田にとっては、とても悔しかったのである。
「押尾、被害者の接点を探そう。松浦亜弥・藤本美貴・高橋愛・後藤真希。
この4人に共通する男が犯人に間違いないだろう。行くぞ」
和田は怒りに燃えていた。
どんなことがあろうと、犯人は絶対に許せない。
それは追従する押尾も同じであった。
- 59 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時58分15秒
- ――13――
和田と押尾は手分けをして、犯人を絞り出す聞きこみを行った。
和田は松浦亜弥と後藤真希の関係者から、詳しく交友関係を聞き、
押尾は藤本美貴と高橋愛の関係者から話を聞くことになった。
「刑事さん、絶対に犯人を捕まえてください。ねえちゃんの―――仇を―――」
真希に甘えていた弟のゆうきは、そう言うと俯いて泣き出した。
真希が可愛がっていたらしく、ゆうきも姉を慕っていたようだ。
この仲のよい姉弟を引き裂いた犯人は、何があっても絶対に捕まえる。
和田は心に誓った。
「押尾はちゃんとやってるかな―――」
和田は寒風が吹く目白通りを歩きながら、
弟子である押尾のことを心配していた。
押尾は駆け出しの新米刑事であり、
何よりも優しすぎるのが欠点だ。
- 60 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時58分52秒
- (押尾が署に詰めてると事件が起こらないな)
和田は機動捜査のためのスタンバイをしていた。
運良く事件現場に遭遇した目撃者から情報が入れば、
緊急出動して付近を押さえてしまうつもりだ。
そうすれば、犯人を捕まえられなくても、
何かしら不審人物の目撃情報が入るだろう。
和田は、それを狙っていたのだった。
(まさか、押尾が犯人? ―――何を莫迦なことを。押尾はA型じゃないか)
和田は一瞬、押尾が犯人ではないかと思ったが、
犯人の血液型はO型なのである。
どんなに押尾を疑おうにも、血液型が違うのだ。
さらに、犯人は殺人を楽しむ異常者である。
凄惨な死体を見ただけで失神してしまう押尾は、
どう頑張っても犯人のようにはなれないだろう。
- 61 名前:MU 投稿日:2002年12月31日(火)23時59分31秒
- (犯人は誰なんだ)
和田は警官になって以来、初めての難事件に直面した。
警視庁には高校生を持つ親からの苦情が殺到している。
一刻も早く犯人を逮捕しなければならない状況だ。
このまま捜査が難航すれば、再び被害者が出るだろう。
そうなる前に、和田は自らの手で犯人を逮捕したかった。
「押尾、聞きこみの方はどうだ? 俺は署に戻るぞ」
和田は片っ端からメモをしていたが、これといった当たりはなかった。
松浦亜弥と後藤真希には、何の関連性もなかったのである。
意外だと思ったのは、真面目っぽい松浦だったが、
カラオケで飲酒をして補導された過去があった。
- 62 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時00分02秒
- 署に戻った和田は、被害者である松浦亜弥と後藤真希に、
何らかの関係のある人物の中から男をピックアップし、
その氏名をノートパソコンに打ち込んで行った。
こういった4人の被害者のファイルを作り、
それを合わせて重複したのが犯人である。
「和田さん、お疲れさまです」
間もなく押尾も戻ってきて、藤本美貴と高橋愛のファイルを作成した。
和田と押尾は固唾を飲みながら、照合の重複結果を待つ。
すると、たった一人だけ、全てに重複する人物が表れた。
「後藤ゆうき! まさか、あのガキが? 」
真希の弟であるゆうきは、高橋愛とは中学校の同級生。
松浦亜弥のクラスメイトだったのである。
年上好みのゆうきは、藤本美貴にもアプローチしていた。
4人全てに重複する男は、ゆうきだけであった。
- 63 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時00分35秒
- 「重要参考人で、ゆうきを引っ張りますか? 」
押尾は鼻息が荒い。
ゆうきを締め上げて供述させるつもりだろう。
だが、和田には妙な違和感があった。
果たして、ゆうきの力で少女の腹を引き裂けるのだろうか。
あんなに甘えていた姉を、楽しみながら殺せるのだろうか。
「押尾、ゆうきが犯人だと思うか? 」
「違うんですか? 」
「あの小僧に人殺しはムリだな」
「だったら誰が―――クソッ! 」
押尾は壁を蹴っ飛ばした。
一刻も早く犯人を逮捕したい。
それは押尾も同じである。
しかし、犯人の目星はおろか、
痕跡すら発見できないのだ。
こんな調子では、犯人の逮捕など、
夢のまた夢で終わってしまいそうだ。
- 64 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時01分15秒
- 「押尾、焦ることはない。犯人は確実に追い込まれている」
和田は押尾に対する慰めで言ったのではない。
捜査が的を外しているということは、
犯人はその他の場所で蠢いているだけだ。
つまり、いつか必ず犯人に行き当たるのである。
和田は落胆する押尾に、それを言いたかったのだ。
「和田さん、犯人は誰なんです? あんなひどいことをする犯人は? 和田さん! 」
「まだ何も分からないじゃないか。焦るな」
和田は興奮する押尾を宥める。
正義感の強い押尾は、真希を美貴を亜弥を、そして愛を、
残酷にも生きながら殺した犯人が許せないのだ。
それは和田も同じだったが、感受性の強い押尾は、
人一倍、卑怯な犯人に怒りを感じていた。
- 65 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時02分30秒
- 「ほんとうに人間のしわざなんですか? もしかしてエイリアンが―――」
「ふふっ、本気で信じてるのか? エイリアンなんて」
「信じたくはありませんが、銀河系だけで数千という星が、地球と似た環境らしいじゃないですか」
人類ですら、火星に行ける寸前なのである。
もっと急激な進化を遂げた生物がいたとしたら、
太陽系から外の世界へ移動することも可能だろう。
凶暴な生物であるとしたら、人間を殺しても不思議ではない。
常識人を気取る地球人ですら、宗教や文化の違いだけで排他的になり、
まったく無意味な殺戮をくりかえしているのだ。
「お前の気持ちは分かるが、O型の人間なんだよ。犯人は」
和田は娘のひとみがO型なので、それを思い出して苦笑した。
確かにひとみは感覚的な言動が多く、縄文人を地のまま行っている。
人間という動物に限りなく近いという意味なのだが、
和田がそう言ってひとみをからかうと、いつも頬を膨らませていた。
そんなひとみが可愛いくて、和田は溺愛していたと言っても過言ではない。
片親であるため、ひとみには淋しい思いをさせたこともある。
だが、まだ和田は、我武者羅に生きている最中なのであった。
- 66 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時03分38秒
- ――14――
ゆうきは黒いレザーのパンツに皮ジャンを羽織り、皮手袋を着用した。
ベルトには3キロもある鉄パイプが挟んであり、それは間違いなく凶器である。
この鉄パイプで殴れば、一撃で殺すことだって可能だった。
「準備よし」
ゆうきは皮ジャンの襟を立て、息も凍る夜の街へと出かけて行った。
できる限り人とは会わないように、ゆうきは人通りの少ない道を選んだ。
誰かとすれ違うときは、あえて俯いて視線を逸らし、
追い求めるような目つきを悟られないようにしている。
そうでないと、かなり怪しい風貌であった。
吐く息は白く凍え、ブーツの足音は乾いている。
満天の星空は、この不気味な夜には不似合いだった。
- 67 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時04分55秒
- ひとみは修学旅行の積立金の残りで友達とカラオケを楽しみ、
ついつい夢中になっているうちに、帰りが遅くなってしまった。
普段は父親の帰りは遅いため、多少の夜遊びはOKである。
しかし、今日に限って気がついたら10時を過ぎており、
さすがに自分でもヤバイと思う時間になってしまっていた。
近年まれにみる寒さのあまり、マフラーに顔半分を埋没させ、
彼女は空気も凍るこの寒さの中、家路を急いでいたのである。
「―――寒い」
毛糸の手袋をしていても、指先は痺れるほど冷たくなっていた。
すでに外気温は氷点下になっており、乾燥した寒風が吹き抜ける。
この寒さのせいか、普段は人通りの多い道路も、今日は閑散としていた。
あと、数分だけ我慢をすれば、誰もいないだろうが、自宅へ到着できる。
そう思うあまり、自然とひとみの歩みは速くなってしまい、
後方から近づいてくる怪しい足音に気づかなかった。
- 68 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時05分36秒
- 「あぎっ! 」
その後頭部への一撃は、あまりにも強烈だった。
痺れるような痛みを感じた後、自分の意志とは正反対に、
氷のような地面に、頬を激突させていたのである。
後頭部の痛みよりも、したたか打ちつけた頬の方が痛かった。
ひとみは起き上がろうとするが、体が動くことはなかった。
「一人歩きは危ないよ」
眼球すら動かせないひとみには、黒いレザーパンツが見えた。
そこでようやく、ひとみは自分の置かれている立場を把握する。
自分は誰かに襲われ、後頭部に瀕死の重傷を負ったのだ。
意識こそしっかりしているものの、体は全く動かない。
呼吸はできていたが、声を出すことはできなかった。
- 69 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時06分15秒
- 「そこの駐車場でいいかな? 」
ひとみを殴打した男は、彼女を担いで駐車場へ移動する。
真っすぐに下がった彼女の右手は、小刻みに痙攣していた。
どうやら、こちらの手だけは、少しなら動きそうである。
ひとみはワンボックス車の陰に放り投げられた。
彼女はコートのポケットに右手をねじこみ、
普段から持っていた防犯スプレーを掴む。
これを男の顔面に噴出できれば、助かる可能性があった。
「ほんとうに可愛いな。ひとみちゃん」
男は乱暴に、ひとみの服を引き裂きはじめた。
彼女は悲鳴を上げたいほど怯えていたのだが、
体が麻痺しており、全く声を出せなかったのである。
氷点下の外気に肌が晒され、異様な白さが浮かび上がった。
「気をつけなくちゃな。ちょっと無用心だったね」
男は彼女がお気に入りで穿いている、
グリーンのストライプのパンツに手をかけた。
- 70 名前:MU 投稿日:2003年01月01日(水)00時14分50秒
- 年越しでスマソ!
明けまして、おめでとうございます。
今年もよろしくおねがいするでつ。
- 71 名前:13です。 投稿日:2003年01月01日(水)00時42分18秒
- さあ!どうなる!
- 72 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時02分22秒
- ――15――
自宅へ帰ろうとした和田は、石井に呼び止められた。
石井は不安げな顔で、電話の受話器を差し出す。
和田は一抹の不安を感じながら電話に出てみた。
「和田ですが」
『こちらは任天堂大学病院の救命救急センターです。ひとみさんは娘さんですよね』
「む―――娘がどうした?」
『大けがをして、こちらに搬送されてきたんです。すぐに来ていただけますか? 』
「はい! 任天堂大学病院ですね? 」
和田は石井に受話器を返すと、大急ぎで病院へ向かった。
石井は電話の応対をしながら、病院の関係者から詳しい状況を聞く。
ひとみが襲われたことを知った石井は、慌てて押尾に連絡した。
しかし、押尾の携帯電話にはつながらない。
「どこに行ってるのよ」
石井は困った顔で電話を切った。
- 73 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時03分21秒
- 和田が病院に駆けつけると、救命救急医が現れて容態の説明をする。
和田の心臓は張り裂けんばかりに高鳴り、全ての音声が遠くに聞こえた。
自分の娘の容態なのに、まるで他人のように感じていた。
全ては『信じたくない』という意識から来ていたのである。
「後頭部を強打されています。頭蓋骨骨折と脳挫傷によるクモ膜下出血ですね。
我々も全力は尽くしますが、部位が脳幹に近いんで、非常に危険な状態です」
「そんな! 」
和田は気が遠くなりかけ、廊下の長イスに倒れこむ。
妻に先だたれ、これで娘も逝ってしまえば、
和田はひとりぼっちになってしまう。
多少、わがままな娘であっても、いっしょにいてくれるだけで、
生きて行くための精神的な支えになっていたのだった。
- 74 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時05分04秒
- 「まだ若いですからね。そう簡単には死なせませんよ」
医師は自分に言い聞かせるように言った。
ひとみを救うことができるのは、この医師だけである。
和田はとにかく、この医師に全てを託すことしかできない。
「む―――娘を頼みます」
和田は両手を握り、震えながら医師に頭を下げた。
ひとみは後頭部の脳挫傷であるから、命が助かっても障害が残るだろう。
それが深刻な障害であった場合、和田は刑事を辞めることになる。
可愛い娘のためであれば、刑事なんか辞めてもかまわない。
だが、刑事を辞めるとなると、ひとみを襲った犯人を検挙できなくなる。
そんなことよりも、今はひとみが助かることを祈るしかなかった。
「和田さん! 」
石井と数人の警官が病院に駆けつけた。
和田は立ち上がることもできず、蒼い顔で石井を見る。
ここまで動揺する和田を見たことがない石井は、
「お嬢さんは? 」と聞くのが精一杯だった。
- 75 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時05分56秒
- 「か―――かなり危険な状態らしい―――」
取り乱す寸前の和田に、石井まで震えだしてしまう。
誰かがどこか遠くで何かを落とした音が、
病院内に反響して、その場の人間の耳に届いた。
小さな音だったが、和田は怯えるような反応を示す。
そんな和田に、警官が事件の報告を行った。
「通報者の話によると、若い男の悲鳴を聞いたそうなんです」
通報したのは、残業で帰宅が遅くなった30代のOLだった。
若い男の鳴き声を聞いたOLは、何ごとかと思い、駐車場の奥を見た。
すると、そこには皮ジャンを着た少年が顔を押さえて倒れている。
怖くなった彼女は、持っていた携帯電話で110番通報したのだが、
たまたま通りかかったアベックと一緒に、恐る恐る様子を見に行った。
「そこでお嬢さんを発見したんです」
「そいつが犯人だったのか? 」
「―――うーん、それが本人は否認してるんですよ」
警官は困った顔でため息をついた。
すると、石井が逮捕された少年について話をする。
石井も、かなり動揺していた。
- 76 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時06分35秒
- 「和田さん、その少年は、後藤ゆうきだったんです」
ゆうきはひとみの防犯スプレーを顔面に受け、
目と鼻をやられて悶絶していたのである。
逮捕されたゆうきは鉄パイプを持っており、
それでひとみを殴った可能性が高かった。
「ゆうきが犯人だったのか? 」
和田には信じられなかった。
ゆうきのように甘えん坊で非力な男が、
果たして少女の腹を裂けるのだろうか。
これまでの4人には共通の知人だったが、
ひとみとは中学も高校も違っている。
全く接点がないのだった。
「状況証拠はそろっています」
押尾の話をきいておけば良かったのか?
和田はゆうきを釈放してしまったので、
なぜ、もっと締め上げなかったのか後悔してしまう。
押尾に任せて締め上げていれば、供述したかもしれない。
自分の判断ミスが、ひとみをこんなめに遭わせてしまった。
そう思うと、和田は悔しくてならなかった。
- 77 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時07分15秒
- 「和田さん、これから緊急手術を行います」
医師は手術着を着ながら、和田に同意書を書かせる。
当然、開頭手術になるのだから、かなり難しいものになるだろう。
手術の最中に容態が急変することはないだろうが、
どこまで処置できるかが最大のポイントになりそうだ。
「脳幹部付近に出血がありそうですね。カテーテルと一緒に行う手術になります」
つまり、血管の内外から処置をする手術だそうだ。
それだけ事態は深刻だったのである。
あまりにも損傷がひどい場合は、処置のしようがない。
そうなったら、ひとみは死を待たなくてはならなかった。
「先生、よろしくお願いします! 」
和田は医師に手を合わせた。
もう、頼れるのは、医師しかいないのだ。
そこで石井が見たのは、自信を持った刑事ではなく、
藁をもすがる一人の気の毒な父親であった。
- 78 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時08分01秒
- ――16――
こういった状況になると、石井にとって頼りになるのは、やはり押尾しかいなかった。
石井は病院の外へ出ると、押尾の携帯電話を何度も呼び出してみる。
何度も呼び出したおかげで、ようやく押尾に電話が通じたのだった。
「どうしたの? 」
「もう! のん気なんだから! 和田さんの娘さんが襲われたの」
「ええっ! 」
「署に行って。ゆうきが逮捕されたから」
「あのガキ、やっぱり犯人だったんだな。それで、娘さんの容態は? 」
「重態よ。今、緊急手術をしてる。あたしは病院につめてるからね」
石井は和田に代わって、慣れない押尾に指示を出した。
- 79 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時08分48秒
- 池袋署に連行されたゆうきは、捜査本部の刑事から尋問を受けていた。
現行犯逮捕されたのだから、何を言ってもムダではあったが、
なぜかゆうきは、泣きながら無実を主張していたのである。
「ほんとうですよ。妙な気配がしたから、駐車場の奥に行ってみたんです。
そうしたら、黒づくめの男が立ってて、女の子が倒れていました」
ゆうきの供述によると、その男は彼を蹴って、そのまま逃走したという。
すぐに起き上がったゆうきだったが、男は闇に消えて行ったので、
倒れている女子高生を抱き起こしたというのだ。
その時に、彼女が持っていた防犯スプレーを顔に受けたのだという。
「お前の話は、できすぎなんだよ。だいたい、何で夜に出歩いたりしてたんだ? 」
「姉ちゃんの―――仇を討つため―――」
ゆうきは拳を握りしめ、信念を持って言った。
そんなことを警察が信じるわけがない。
事実、捜査本部では重要容疑者逮捕ということで、
裏づけ捜査に入っていたのである。
- 80 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時10分57秒
- ゆうきへの尋問も一段落ついたころ、押尾がやってきた。
これまでのゆうきの供述を聞いた押尾は、尋問させてくれるように頼みこむ。
捜査本部では、裏づけが取れしだい、ゆうきを再逮捕する予定なので、
本庁の刑事を随伴させての尋問を許可したのだった。
「ゆうき、お前を釈放したのは間違ってたな」
「信じてくださいよ。俺はあの子を助けたんですよ」
「お前の言うことを信じるなら、犯人の顔は見たんだろうな」
「それが―――暗かったし。でも、特徴は覚えてますよ。背は押尾さんくらいで―――」
「もういい! 莫迦なヤツだ」
押尾はゆうきを冷たい目で見ていた。
- 81 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時11分43秒
- ――17――
手術室のドアが開き、執刀を終えた医師が出てきた。
2時間にも及ぶ手術を終え、医師は疲れを隠せない。
医師を見つけた和田は、駆け寄って手術の様子を聞いた。
「手術は成功しましたよ。問題は障害ですが、命は助かりそうですね」
医師の言葉に、和田は体の力が抜けていった。
どんな障害が残ろうと、生きてさえいてくれればいい。
和田は倒れそうになって石井に支えられた。
「最悪は下半身が不随になるかもしれません。検査をしてみないと分かりませんが」
「いいんです―――生きてさえいてくれれば」
和田には、そう言うのが精一杯だった。
最愛の娘を救ってくれた医師に、
どんな謝辞を言っても足りないだろう。
和田は医師が神に見えていた。
- 82 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時12分36秒
- 集中治療室に運ばれるひとみを見た和田は、
彼女の幼いころを思い出していた。
屈託のない笑顔で甘えていたひとみ。
下半身不随なんかどうでもいい。
いや、そうなってくれた方が、
また自分を必要にしてくれる。
一瞬だけ、そんな考えが浮かぶが、
和田は首を振って払拭した。
「良かった―――良かったですね。ひとみちゃんが助かって」
石井は笑顔で和田に言った。
和田は声を詰まらせながら「ありがとう」と言う。
そこへ看護師がやってきて、ひとみの状況の説明をはじめた。
「負傷したのは後頭部ですね。それと、倒れたときに右の頬を打っています。
腰と膝に少しだけ打撲傷がありましたが、他はありませんでした」
- 83 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時13分17秒
- 「その―――乱暴は―――」
「大丈夫です。服は引き裂かれていましたけど、レイプされた形跡はありません」
中年の主任看護師が自信を持って言うと、和田も一安心だった。
これでレイプされていたとしたら、精神的なショックが大きすぎる。
回復に時間がかかるだろうし、ひとみが治療を拒否する可能性もあった。
「何とお礼を申し上げてよいか―――」
「お礼なんていりません。和田さんは刑事さんですよね。一刻も早く犯人を捕まえてください」
看護師は和田を励ますように言った。
こういった被害者家族のフォローも、
看護師の重要な仕事なのである。
冷たい感じの病院内が、なぜか暖かく感じられた。
- 84 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時14分04秒
- 誰もいないロビーの長イスに座り、和田と石井は喜びを分かち合っていた。
普段、飲み慣れているコーヒーも、今日は一段と美味く感じられる。
和田は冷静になるにつれ、犯人への激しい憎しみが沸き起こってきた。
「しかし、ゆうきが犯人だとは思えないんだがな」
「そうですよね。あの子に殺人なんてできるんでしょうか」
和田はゆうきの供述を石井から聞き、腕を組んで考えこんだ。
あと2時間もすれば始発電車が動き出す時刻である。
夜明け頃が一番寒いのだが、病院内は徹底した温度管理がされているので、
全く寒いといった感覚はなかった。
「リカちゃん、ゆうきの血液型は? 」
「それが―――A型なんです」
犯人の残した体液では、血液型はO型であった。
そうなると、ゆうきも犯人ではないのだろうか。
捜査本部では共犯がいる疑いもあるとして、
ゆうきの犯人説を支持していたのである。
和田は何か引っかかるものを感じ、
通りかかった若い看護師に聞いてみた。
- 85 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時14分51秒
- 「すまないが、精神科の先生はいるかい? 」
「申し訳ありませんが、私は他の病院から研修で来ているんです。よく分かりません」
その看護師のネームプレートには『保田圭』と書いてあった。
和田が残念そうな顔をしていると、保田は笑顔で話しかける。
「私は精神科の専門病院に勤務しています。何か知りたいことがあるんですか? 」
和田は人名や詳細を伏せながら、現実に臨床例があるのか聞いてみた。
保田にしてみれば医師ではないので、あまり詳しいことは分からない。
それでも、非力な若者が凶暴化することはあると断言した。
「もし詳しく知りたいのなら、鶯谷病院の夏先生を訪ねられたらいかがですか? 」
夏医師は女医でありながら、精神医学界では一目おかれた存在らしい。
特に、多重人格障害においては、深く研究しているらしい。
和田は病院に石井を残し、始発で鶯谷病院へ向かった。
- 86 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時15分37秒
- ――18――
「ああ、刑事さんですね? 保田から話は聞いています」
夏医師は、この鶯谷病院の医師であり、たまたま宿直だったようだ。
徘徊する老人の生活リズムに合わせ、夏医師は5時頃にも巡回する。
その巡回が終わった直後であるため、面会に応じてくれたのだった。
「人間の筋肉は、かなりの力がでるんですよ。普段は脳がリミッターをかけています」
人間の筋肉は、骨を動かすものであるため、あまり強い力を発揮すると骨折してしまう。
そのために、普段は半分ていどの力しか出せないようになっていた。
その中で、少しでも力を発揮するため、人間は鍛えたりするのである。
「ですが、何かの拍子でリミッタ―が外れると、倍以上の力を出すことができます」
火事場のクソ力と言われるのが、その臨床例だという。
小柄な女性が100キロもある男を抱き上げたりできる。
それを奇跡という人は多いが、医学的な裏づけがあるのだ。
- 87 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時17分14秒
- 「これは、催眠術によって引き出すことが可能だと言われています。
悪霊にとり憑かれた人が、恐ろしい力を発揮するというのも、自己催眠で説明がつきます」
夏医師の話は、とても分かりやすかった。
やがて、話は夏医師の得意分野でもある、
多重人格障害へと移行して行く。
さすがに得意分野ともなると、夏医師は雄弁となった。
「多重人格障害とは、一人の体の中に、いくつもの違う人格が共存している状態をいいます。
具体的には分かりづらいと思いますが、頭がひとつで体がいくつもある奇形の逆です」
夏医師は図に書いて、詳しく説明してくれた。
それは素人である和田が聞いても分かりやすい。
ボケ老人を相手にしているせいか、
夏医師の話は、とても分かりやすかった。
- 88 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時17分44秒
- 「多重人格障害の原因はいくつかありますが、幼児期の虐待が多いようですね」
多重人格障害が女性に多いのは、男性に比べ、
性的虐待を受けるケースが多いからであるらしい。
子供は守ってもらう存在であるのにもかかわらず、
保護者から虐待されたとなると、逃げ場がなくなってしまう。
習慣的に虐待を受けていると、痛い思いをしているのは、
自分ではないという意識によって自我を保とうとするのだ。
やがて、虐待を受けている人格と、それを冷静にみつめる人格が、
いつの間にか分裂してしまうのである。
「これまでに、二十、三十といった人格が現れたケースもあります」
虐待によって二重人格となった人は『分業化』を始めるという。
つまり、喜怒哀楽を別個の人格として形成して行くのである。
人間の中の残忍な部分を独占した人格を持っていれば、
その他の人格は虫も殺さない優しいものになるだろう。
- 89 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時18分19秒
- 「最も危険なのは、その人の本質が凶暴であった場合なんですよ」
多くの従属的人格は、あまり学習性がないらしい。
つまり、都合のいい部分での人格であるため、
余計なことは無視してしまうのである。
だが、支配的人格が狡猾に学習して行くと、
普段は決して表に現れず、都合のいい人格を使うようになるのだ。
「ジキル博士とハイド氏のようですね」
「ええ、そういった人に限って、普段はとてもいい人なんですよ」
夏医師の話で、ゆうきにも犯行が可能であることが分かった。
しかし、ひとつだけ、どうしても納得できない問題がある。
ゆうきはA型なのに、被害者の体内から検出された体液はO型だ。
そんなことが実際にあるのだろうか。
- 90 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時18分59秒
- 「刑事さんは、アンドレ・チカティーロを知っていますか? 」
和田が首を振ると、夏医師は詳しく話を始めた。
アンドレ・チカティーロはロシアの殺人鬼である。
警察ではチカティーロを逮捕するまで多くの時間を費やした。
なぜなら、当時、抗原反応しか試せなかったため、
被害者の体内から検出された体液はAB型であり、
チカティーロの血液型はA型だったからである。
「そんなことが現実にあったんですか! 」
「ええ、これは実際に起こった事件ですね。
場合によっては、A型やB型の人でも、精液が抗原反応しない。
つまり、O型となることもありえます」
「ええっ! A型がO型になるんですか! 」
血液型とはA抗体がある人をA型。B抗体がある人をB型としている。
そして両方の抗体がある人がAB型で、抗体がない人はO型なのだ。
しかし、実際の血液は遺伝子型で形成されており、
A型の人でもO型の遺伝子を含んでいる場合が多いのである。
死亡した真希がO型であったのだから、ゆうきもO型の遺伝子を持っている可能性が高い。
DNA鑑定をすれば間違いないのだろうが、結果が出るまでには時間がかかった。
- 91 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時19分32秒
- 「A型やB型の人がO型と出る場合の方が、圧倒的に多いと思われますね」
これは和田の常識を覆す情報であった。
抗原反応しかなかった時代、血液型を証拠に処刑された人もいる。
その人たちは、果たしてほんとうに犯人だったのだろうか。
確かに血液型と体液が一致しない人間など、ごく少数の人間である。
しかし、そういった人が冤罪で死んで行った可能性は、
全くなかったとは言えないのだった。
「ありがとうございます。とても参考になりました」
和田は長身の夏医師に礼を言うと、全てが凍りついた外へ出て行った。
病院内では切っておいた携帯電話の電源を入れると、新着メールがある。
さっそくチェックしてみると、相手は石井であった。
『ひとみちゃんの意識が戻りました。午後には一般病棟に移って検査だそうです』
和田は大急ぎで、ひとみのいる病院に向かった。
- 92 名前:MU 投稿日:2003年01月05日(日)17時25分17秒
- 最後の正月休み、がんがって更新しますた。
次の更新で終わるかもしれないでつ。
もう、犯人はわかりましたでつね。
あと、一人だけ女の人が殺されますでつ。
- 93 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時46分29秒
- ――19――
ひとみは意識こそ回復したが、まだ何も喋れる状態ではなかった。
思ったより軽傷ではあったものの、脳挫傷という状態には変わりない。
だが、彼女の驚異的な体力に、執刀した医師も驚いている。
自発呼吸ができるので、ICUにいる必要もなくなったのだ。
しかし、病院に搬送された段階では、一刻を争う状態であった。
ひとみに意識はありそうだったが、誰も確認しなかったのである。
後頭部が砕ける重傷であれば、意識の有無など確認しない。
「驚きましたね。まさか、こんなに早く意識が回復するなんて」
執刀した医師は自分でも嬉しそうに、
ガラス越しに見えるひとみへ微笑みかけた。
問題は、彼女がどの程度回復したかである。
ひとみが犯人を目撃していたとすれば、
その証言は何よりも重要なものであった。
- 94 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時47分10秒
- 「話はできますか? 」
「まだ早いですね。娘さんは、かなりのショックを受けていますし」
「いつになったら話ができるんですか? 」
和田は一刻も早く、犯人の目撃情報が欲しかった。
このまま放置すれば、犯人は再び殺人を楽しむだろう。
これ以上、絶対に被害者は出したくない。
そのためには、ひとみから証言を得なくてはならなかった。
しかし、医師は難しそうに腕を組んだ。
和田は最悪を想定して、震えながら医師の言葉を待つ。
このまま植物状態になってしまうのか?
- 95 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時47分45秒
- 「普通に話せるようになるには、かなりリハビリが必要でしょうね」
ひとみは左半身に麻痺が表れていた。
早い段階で緊急手術を行っていたので、
リハビリ次第では社会復帰も可能である。
だが和田は、どうしても最悪のことを考えてしまった。
「まさか、植物状態になるなんてことは? 」
「和田さん、もう大丈夫ですよ。思ったより軽傷だったんです」
和田は石井に話をさせようと思った。
やはりレイプされる寸前だったのだから、
男である自分はまずいと思ったのである。
和田に指示され、石井は白衣とマスクをして面会するが、
ひとみは質問に答えることができなかった。
- 96 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時48分22秒
- 和田はロビーでコーヒーを飲みながら、真剣な顔で考えていた。
昨夜は一睡もしていない石井は、睡魔に襲われて居眠りをしている。
和田はコーヒーを飲み干すと、居眠りをしている石井を起こした。
「署に戻って、ゆうきを締め上げてみる。リカちゃんは、ひとみを頼む」
「はい、諒解しました」
和田はひとみの意識が回復したのをネタに、
逮捕されてるゆうきを締め上げるつもりだ。
言い逃れができない状態に持って行き、
真相を探ろうと考えたのである。
これは和田にとっても勝負だった。
リスクの多い作戦だったが、背に腹はかえられない。
恐らく、これで犯人が確定するだろう。
和田は疲れた体を引きずって池袋署へ向かった。
- 97 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時50分09秒
- ――20――
池袋署に戻った和田は、捜査本部に断って、拘留中であるゆうきの尋問をしようとした。
捜査本部に行ってそのことを告げると、未明から押尾が尋問中であるという。
ゆうきと押尾がいるのなら、それこそちょうどいい。和田は取調室へと入って行った。
しかし、そこに押尾の姿はなく、本庁の刑事とゆうきがイスに座っている。
「―――どうした? 」
和田が刑事の肩に触れると、イスから転げ落ちてしまう。
慌てた和田が脈を調べると、すでに死亡しているのがわかった。
ゆうきも首をへし折られて死んでおり、和田は驚いて署員に知らせる。
続々と署員が駆けつける中で、和田は押尾が犯人であることを悟った。
おそらく、押尾はゆうきに感づかれ、殺したものと思われる。
和田は駆けつけた上司をみつけると、命令口調で怒鳴った。
「課長! 拳銃をくれ! ―――ひとみが危ない! 」
和田は第一発見者であるため、捜査本部に連行されそうになったが、
捜査課長から拳銃を奪い取ると、ひとみがいる病院へ走って行った。
- 98 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時50分48秒
- その頃、ゆうきを殺した押尾は順天堂大学病院に来ていた。
受付でひとみの部屋を聞き出し、5階へとやって来る。
ひとみは検査を受けてから、この病室に戻ってくるのだろう。
病室の前には石井がおり、イスに座って居眠りをしていた。
「リカちゃん、ひとみちゃんは? 」
押尾が声をかけると、石井は眠そうに目を擦りながら、
ひとみが順調に回復している旨を告げた。
頼りになる押尾が現れ、石井は笑顔になっている。
そんな石井を押尾は労わるように接した。
「病院が休憩する場所を用意してくれたよ。交代しよう」
押尾は眠そうな石井を連れて、エレベーターに乗って地下へ向かった。
疲労と睡眠不足で、石井は誰かに交代してほしかったのである。
そんな時に押尾が現れ、彼女はとても喜んでいたのだった。
押尾は薄暗い北東の角へやってくると、スロープ横の部屋へ入って行く。
その部屋には狭いベッドが置いてあり、線香の臭いがしみついていた。
- 99 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時51分32秒
- 「ここって―――」
「そうだよ、リカちゃん。霊安室さ」
驚いて目を見開いた石井の顔面に、押尾のパンチがヒットした。
顎の関節と歯をやられ、石井は激痛の中で意識が遠くなる。
すると押尾は石井をかつぎ上げ、小さなベッドに降ろすと、
乱暴に彼女の洋服を引き裂き始めた。
「―――押尾さん―――こんなことしなくても、あたしは―――」
「俺に惚れてたんだろ? でも、それじゃ楽しめないじゃないか」
「まさか! ―――そんな」
押尾はこれから、ひとみを襲うつもりである。
したがって、石井をレイプしようとはせず、
ただ殺すことだけを楽しもうとしていた。
高橋愛を串刺しにし、松浦亜弥と藤本美貴の内臓を掻き出した。
後藤真希に至っては解体しており、今となっては、
どうやって石井を殺すことを楽しむかが問題である。
血を見ると興奮するが、内臓には飽きてしまっていた。
- 100 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時52分15秒
- 「ははははは―――燃えてみるかい? 」
押尾は『焼き殺す』という楽しみ方を選んだのである。
ポケットからオーデコロンを取り出し、石井に振りかけた。
そしてライターで火をつけると、オーデコロンが燃え上がる。
熱さと痛みで石井が悲鳴を上げそうになると、
押尾は彼女の首を締めて声を出させないようにした。
オーデコロンが燃えつきると、石井の肌に醜いヤケドが残る。
「ううう―――何てことを―――」
石井が想いをよせていた押尾は、冷酷な殺人鬼だった。
彼女にとっては、体の痛みより精神的なショックの方が大きい。
あの虫も殺さない押尾は、虚像にすぎなかったのである。
石井はひどく落胆してしまい、つらそうに泣き始めた。
「今度は髪を燃やしてやるよ」
押尾が石井の髪にオーデコロンを振りかけると、
これにはさすがの彼女も暴れ出した。
若い女にとって命でもある髪を燃やされたら、
いくら何でもたまらなかったのである。
だが、石井がいくら抵抗したところで、
リミッタ―の外れた押尾の力にはかなわなかった。
- 101 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時53分04秒
- 「は―――離して! 髪だけは! 」
「邪魔な手だな」
そう言うと、押尾は石井の両手を、一気にへし折ってしまったのである。
すさまじい激痛に声も出ない石井をよそに、押尾は彼女の髪に火を放った。
石井の髪はコロンのアルコールを吸収しており、一気に燃え上がってしまう。
押尾は石井が声を出せないように、こんどは彼女の腹を殴った。
床に転げ落ちて悶絶する石井に、押尾は嬉しそうにコロンを振りかける。
やがて、石井は痙攣を始めた。ヤケドによるショック症状である。
「のんびりもしてられないからな」
押尾はオーデコロンのキャップを壊し、石井の体中に振りかけた。
大量のアルコールに引火し、炎は天井近くまで達してしまう。
彼女はしばらく痙攣していたが、ついに動かなくなってしまった。
激しい炎の中では、彼女の顔面や頭部の皮下脂肪が沸騰している。
耐えがたい臭気の中、押尾は嬉しそうに石井が焼け死ぬのを満喫した。
- 102 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時53分55秒
- ――21――
石井を焼き殺した押尾は、ひとみの部屋へ向かった。
考えることは、ひとみをレイプしたあと、どうやって殺すか。
今の押尾には、どうやって楽しむかしかなかったのである。
ひとみの部屋を開けると、そこには疲れた後姿の男が座っていた。
「押尾、もう終わりにしろ」
その男は、やはり和田であった。
和田は立ち上がると、悲しそうに振り向く。
ひとみは順調に回復しているらしいが、
証言の可不可を知らない押尾は、
この場に及んで悪あがきを始めたのである。
押尾を可愛がっている和田であれば、
ごまかすことも可能かもしれない。
「和田さん、どうしたんです? リカちゃんと一緒じゃないんですか? 」
和田はため息をつくと、誰もいないベッドに座った。
個室である以上、ここにひとみはいないことが判明する。
そうなったら押尾にとって、この部屋にいる意味がなかった。
- 103 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時55分47秒
- 「リカちゃんを殺したのか? 」
「何を言ってるんですか? 」
押尾は和田に微笑みかける。
そんな演技でさえ、和田は悲しく思った。
こんな憎むべき犯罪を行った犯人ではあっても、
押尾は可愛い後輩に間違いないのである。
誰が悪いわけでもない。押尾は障害を持っているのだ。
「押尾、お前には障害があるんだ。しっかり治療しようじゃないか」
和田はポケットから手錠を取り出した。
その手錠が金属音をたてると、押尾は本性をむき出しにする。
これ以上、和田に何を言ったところで、絶対に疑いを持ち続けるだろう。
それならば、和田にこの場で死んでもらい、ひとみを探した方がいい。
「けっ、てめえは騙せないみたいだな」
押尾は和田を睨んだ。その目には戦慄するほどの憎悪がある。
和田の知る押尾は、決して先輩に逆らうような性格ではなかった。
だが、今の押尾こそが、まぎれもない彼の本性なのである。
和田は正面から押尾を見つめ、あくまで冷静だった。
- 104 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時56分35秒
- 「お前は幼い頃の虐待が原因で、精神障害を起こしてしまったんだ」
「よく調べたな。教えてもらおうか。なぜ俺だと分かった? 」
和田が押尾を疑い始めたのは、かなり以前のことであった。
高橋愛が発見された雑木林を捜索する時、来たこともないのに、
「そんなに広くはない」と言ったことに起因している。
高橋愛の性器に棒が突き刺さっていたことに関しても、
写真すら見ていない押尾が「串刺し」と断言したのだった。
「それでも犯人はO型の変質者だと思ってたよ」
今朝、和田は夏医師に話を聞き、
何としてもゆうきに自白をしてほしかった。
なぜなら、ゆうきが自白をしなければ、
犯人は押尾以外に考えられなかったからである。
それは和田にとって、あまりにも悲しい現実だった。
- 105 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時57分17秒
- 「お前はひとみを襲ったとき、ゆうきに目撃されたんだよな」
押尾がゆうきを殺すことは簡単だったに違いない。
しかし、押尾はゆうきを殺そうとしなかった。
それは、ゆうきを警察に逮捕させるためだったのである。
押尾は楽しみを中断させたゆうきに殺意を覚えるが、
とっさに、全ての罪を背負ってもらうことにした。
だが、押尾は詰めに失敗し、自ら墓穴を掘ってしまう。
警察の捜査事情に精通する押尾であれば、
検挙されずに、どこまでも逃げることもできる。
それこそ、日本のハンニバル博士になれるかもしれない。
「油断したな押尾。ゆうきは感づいたんだよな。尋問中に」
押尾は油断していたのか、つい、ゆうきに言ってしまった。
「あの時のお前は震えて―――いや、だから―――」
その失言に全てを察知したゆうきが震えだすと、
押尾は仕方なく同席していた捜査員の首をへし折った。
それから怯えて腰を抜かすゆうきを殺したのである。
もちろん、そんなことは和田が知る由もなかったが、
押尾がゆうきを殺害した理由は、そこにあったのだ。
- 106 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時57分54秒
- 「いい子ちゃんの学君か? あいつはドジだからな」
押尾は吐き捨てるように、和田の知る人格を罵った。
お人よしで正義感が強く、小心者の押尾はいない。
そこにいるのは、狡猾で凶暴、残酷な押尾だった。
和田はため息をつくと、ゆっくり押尾に近づいて行く。
「後藤真希とひとみの接点。それはお前に会っている点だよな。
松浦亜弥にも補導歴がある。どこかでお前と会っていたんだろう」
「そうさ。高橋愛は帰りのバスで何度か見かけた。藤本美貴は家が近所だったのさ! 」
押尾は和田につかみかかると、腕をねじ上げて首をしめた。
リミッターが外れた押尾の力のため、和田は片手で持ち上げられてしまう。
押尾がその気になれば、和田は一瞬のうちに殺されてしまうに違いない。
和田は必死に抵抗するが、押尾から逃げることはできなかった。
「ひとみはどこだ? 」
「―――言うわけないだろう。俺は父親だぞ」
「だったら死ねよ」
押尾が和田の喉を握りつぶそうとした。
だが、その直前。
和田は拳銃を引き抜き、押尾の額に銃口を押しつけて2発撃った。
- 107 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)20時59分32秒
- ――22――
数ヵ月後、満開の桜並木の下に和田とひとみの姿があった。
さすがに若いだけあって、ひとみは驚異的な早さで回復し、
多少、足を引きずるものの、歩行には支障がないほどになっている。
それでも彼女は和田に腕に抱きついていた。
「お父さん、仕事決まった? 」
あの事件は犯人死亡のまま解決した。
だが、病院内での発砲の責任を取らされ、
和田は自主退職することになったのである。
夏医師がかけあったが、ついに認められなかった。
- 108 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)21時00分10秒
- 「すまないな。この不景気で、どこも人が余ってるんだよ」
犯人を殺したのだから、和田は被害者の遺族に感謝された。
彼の引責退職を知った松浦家や藤本家では、就職の世話をすると言っていたし、
特に、二人の子供を殺された後藤家では、和田に店を任せたいとまで言っている。
しかし、和田はそんな誘いを全て断っていた。
なぜなら、和田は少女たちの復讐のために押尾を撃ったのではない。
ひとみを守るために撃ったのだ。
そして、押尾を救うために。
「しょうがねーなー。あたしがバイトで食わせてやるよ」
「一緒にバイトしようか? 」
- 109 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)21時02分00秒
- そんな二人を車の中から監視する4人の男たちがいた。
4人のうち3人は外国人であり、車のナンバーから大使館職員と思われる。
男たちは今回の結果に、計画を断念するかどうか考えていた。
「灯台下暗しだと思ったんだが、日本の警察は優秀だからな」
「優秀じゃありません。必要以上の力を持っているだけです」
「そうだな。そんなに優秀な男には見えない」
男たちは某国の軍関係者であった。
敵国の国力を低下させるために考えたのが、
出生率を低下させることである。
そのためには、若い女を減らせばいい。
彼らは日本で『実験』を行っていたのだ。
- 110 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)21時02分39秒
- 「多重人格を植えつけることは簡単だ。問題は、その後だな」
「検体か計画に問題があったのでは? 」
彼らにしてみれば、あれだけ狡猾に殺人を楽しんだ押尾が、
最後の最後で、あんなドジを踏むとは信じられなかった。
『試作品』である押尾の失敗は、関係者に衝撃を与える。
何が原因であったのか、彼らは押尾の行動をチェックしていた。
「完全ではなかったようだな。どうやらヤツは、良心が残っていたみたいだ」
「良心? そんなサムライ精神が残っていたとはな」
押尾が最後に墓穴を掘ったのは、人格が完全に分離していなかったのと、
彼自身の良心が、そういった言動をとらせたものと思われた。
それは押尾の心の叫びだったのだが、この4人には関係がない。
実験が順調に進めば、計画は実践され、莫大な利益が生まれる。
そのためには、早い段階で結果を出さなくてはいけなかった。
ゆえに、不完全な押尾を送りこみ『失敗』したのである。
彼らにとっては商売だったが、その実験のために多くの人間が死んだ。
- 111 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)21時03分13秒
- 「計算では、千人の検体を送りこめば、5万〜10万人の女を殺します」
人口が1千万人ていどの国であれば、未婚の若い女性ばかりを殺すため、
結果的に若い男があぶれることになってしまう。
当然、性犯罪が激増し、さらに出生率が低下して行くだろう。
継続的に検体を送りこんで行けば、30年で人口は20パーセントも減る。
30年後の生産人口が激減してしまえば、国力は大幅にダウンしてしまう。
さらに検体を敵国から調達すると、人的損害は考えなくてよかった。
「改良の余地はあるといえ、たった4人しか殺せないとは」
「私は子宮を食い荒らす原虫の方へ移行すべきだと思うが」
「まだ3体残ってる。実験を続けてみようじゃないか」
4人の男たちを乗せた車は、その場から走り去って行った。
春の柔らかな日差しに輝く満開の桜の下を。
END
- 112 名前:MU 投稿日:2003年01月07日(火)21時18分55秒
- こんな駄作を最後まで読んでくれて有賀党でつ。
インフルエンザらしくて、まだ完治してないのれす。
病院に行ったら、B型肝炎とHIVの検査を勧められますた。
これで『Tokyo Killing City』は終わりでつ。
1作目は「復讐」2作目は「狂気」3作目は「快楽」をテーマにしてみますた。
3作目は「愛情」にしたかったけど、向いてないのでグロ系になってしまいますた。
1作目の完成度に比べ、2作目、3作目と、みごとに落ちて行きまふ。
稲葉貴子・平家みちよ・つんく♂・中澤裕子・矢口真里・安倍なつみ
新垣里沙・辻希美・小川麻琴・石川梨華
松浦亜弥・藤本美貴・高橋愛・後藤真希・ゆうき・石井リカ
――――――――――――――――――――――――――――――――合掌!
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