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何処までも深く、深く、暗黒に
- 1 名前:青のひつじ 投稿日:2002年12月07日(土)17時51分12秒
- 紺野が主役のちょっとホラー系の小説を書こうと思います。
つまらないかもしれませんが・・・・
- 2 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月07日(土)18時02分13秒
宇宙最大のエネルギーの集合体、ブラックホール。
巨星が進化の最終段階で自身の重力のために内部崩壊を起こしてできた
とてつもなく強力な重力が支配している天体。
ブラックホールのエネルギー源は、とらえられてその中に引き込まれたガス、
星、チリであるかもしれないと考えられているの。
やがて引き込まれたガスは、ブラックホールの中を渦巻きのように旋回して下りて行くの。
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月07日(土)18時08分09秒
- ブラックホールは、吸い込まれると、そこから二度と出てくることは
できないと言われているわ。
でも、入った瞬間から足のつま先から、細胞が分解され消えて無くなって
しまうと言う説もあるの。
たとえ光であってもその中に吸い込まれてしまうから、この天体は何処までも暗黒なの。
そこで、ブラックホール (暗黒の穴) っていう名前がついたの。
私は思う、宇宙最大に恐ろしい場所はブロックホールに違いないと・・・。
- 4 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月07日(土)18時09分27秒
まどろみの中、自分のよりものすごく遠い所からそう聞こえた。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
- 5 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)18時15分51秒
- あの沼は恐い。
「ねぇ、そういえば朝の朝礼で校長先生が言ってた話し
昨日ニュースでやってたよね」
愛ちゃんが、やや声をひそめて言う。
「ああ、知ってる。先輩とか学校行く途中でマスコミの人にインタビュー
されたっていってた」
鞄に教科書を詰めながら、興味無さそうに答えるまこっちゃん。
「いいなぁ!里沙もTV写りたぁ〜い」
タレント志望の里沙ちゃんがうらやましそうに話しにのる。
- 6 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)18時17分18秒
- 6月の湿った風が吹く。
春はもうとっくに終わり、グラウンドの端に生える染井吉野も、とっくに緑に
変わっていたし、私達の制服も夏服に替わっていた。
私達の通う、奥玉女子学校は中等部と高等部に分けられていて、一学年にクラス
は12組あると言うマンモス校でもある。
三日前、小さな男の子がここの校舎裏にある沼で水死体で発見された。
- 7 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)18時19分59秒
- 「でも可哀想よね、その男の子。大体なんで6歳の子が里沙達の学校の校舎に入って
来たんだろう」
「発見された時、下半身が無くなってたんでしょ?」
心なしか愛ちゃんの声が震えている。
- 8 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)18時23分13秒
- 沼と言うのは、校舎裏にある巨大な水たまりの事だ。
最初は小さな何処にでもあるような水たまりだったが、いつになっても
乾かず、むしろ日が増すごとにどんどん大きくなり今では、不気味な真っ黒い
色をした沼になってしまったのだ。
今では 奥玉の底なし沼 と言われている。
最初見た時、背筋がゾクッとする感覚と言うのを始めて味わった。
どこまでも、どこまでも真っ暗でまさに今にも吸い込まれそうな恐怖感に
駆られた。
- 9 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)18時26分08秒
- 「あさ美はどう思う?」
「・・・・・・え?」
突然まこっちゃんに名前を呼ばれた。
「あさ美ちゃん話し聞いてた?」
私の顔をのぞき込む愛ちゃん。
「ごめん・・・あんまり・・・」
すると、まこっとゃんがいきなり吹き出した。
- 10 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)18時30分46秒
- 「ぶはっ!やだあさ美、飯田先生みたいに交信してたでしょ!?」
そう言ってまこっちゃんはお腹を抱えて笑いだした。
その横にいる愛ちゃんも里沙ちゃんも・・・。
そんなに笑わなくても・・・」
しかし、3人は私の言葉なんて聞こえて無いようだった。
笑いすぎで目に涙をためたまこっちゃんが私の方に向き直り。
「そういえばさぁ飯田先生といえば、今日の美術の時間あさ美寝てたでしょ」
「あ、うん昨日あんまり寝て無くて・・・」
「今回の美術、宿題あるの知ってる?」
「えっ嘘!知らない」
「今度授業で宇宙の絵を描くんだって、テーマはブラックホールだよ
自分で想像したブラックホールを描けばいいらしい、で、その宿題がブラックホール
の事について調べるんだってさ、まぁ、ほとんど飯田先生が授業中に語っちゃったから
あたしが教えてあげるよ」
- 11 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)18時34分42秒
- 「飯田先生ったらブラックホールの話してる途中から、目ぇどっか行っちゃってた
よねぇ」
「里沙が思うには、飯田先生の頭の中がブラックホールみたいな?」
里沙ちゃんのその言葉にまた3人大爆笑した。
そういえばブラックホールの話し、私も聞いた気がする。
- 12 名前:青いひつじ 投稿日:2002年12月07日(土)18時36分37秒
- すみません
まだ初心者なもので・・・いろいろ間違えてるとおもいます。
- 13 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時19分22秒
- 「あ、ねぇねぇ!今日も体育館行かない?」
急に愛ちゃんの声が弾む。
「はいはいはいはい!!里沙行きまぁ〜す!!吉澤先輩見にぃ」
「ヤレヤレ・・・しかたないね、あさ美。行こっか」
「うん、そだね」
吉澤先輩は高等部の2年生だ。
バレーをやっていて、学校中の人気者なのだ。
私たちはさっそく体育館へ向かう。
- 14 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時22分02秒
- 体育館ではバレー部が練習試合をやっていた。
すごい熱気だ。
ボールの音と部員のかけ声に混じり、叫び声も入っていた。
多分、吉澤先輩ファンの娘のものだと思う・・・。
「あ、後藤先輩達だ」
愛ちゃんが指をさす方向。
ギャラリーの上だ。
後藤先輩は私達に気づいたようで手を振ってくれた。
愛ちゃんが行こうと言ったので私たちもギャラリーまで小走り
した。
- 15 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時24分59秒
- ギャラリーには。
「今日は遅かったじゃん」
後藤先輩。
「見てみてぇ、よっすぃ〜が今手ぇ振ってくれたよ〜」
石川先輩。
「後藤せんぱ〜い!今ののがボールひろいましたよ」
同じクラスの亜衣ちゃん。
「よっすぃ〜かっけぇ!!キャハハハ」
この学校のOGの矢口さん。
「腰が入っとらんは吉澤は」
「ゆうちゃ〜ん、なっちにもそのおせんべいちょうだい」
「まぁ!教師がそんな事でいいのかしら安倍さん!キィィィッ!」
「かおりもせんべい食いたい〜」
- 16 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時25分47秒
- 何故か保健の中澤先生・・・。
音楽の安倍先生・・・。
英語の保田先生・・・。
美術の飯田先生・・・。
- 17 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時27分13秒
- 「きゃあああ!!!吉澤せんぱ〜い!!!」
里沙ちゃん・・・里沙ちゃんのそのツインテールが
私の顔に当たってます・・・。
「きゃあああ!!!かっこいいい!!!」
愛ちゃん・・・今愛ちゃんの指・・・
目に入った・・・・。
二人は吉澤先輩の大ファンだ。
だからこうして毎回吉澤さんを見に体育館へ行のだ。
私とまこっちゃんは二人の付添いです。
でも吉澤先輩はやっぱりかっこいいし優しいので私もまこっちゃんも
大好きだ。
- 18 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時30分12秒
- 後藤先輩達は、毎回体育館に来ていた私達4人と少しずつ親しく
なっていった。
後藤先輩と石川先輩と吉澤先輩は幼馴染みだそうだ。
後藤先輩と石川先輩は帰宅部なので、いつもこうして吉澤先輩が終わる
のを待っているのだ。
- 19 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時36分53秒
- 「高橋と新垣だっけ?あの二人元気だね。相当よっすぃ〜愛してるねぇ」
「ご、後藤先輩!?」
いきなり後藤先輩に話しかけられた私は声が裏返ってしまった。
「ふふっそんなに驚かなくてもいいじゃん」
後藤先輩はいじわるそうに言う。
「え、いえ・・・そんな事ないです」
「ふふふっ紺野っておもしろいねぇ、見てるだけでおもしろいよ」
「そ、そんな事ないですよ」
「いや、おもしろいって、まぁ紺野の友達もおもしろいけどね」
後藤先輩が視線を私の後ろへ・・・
私も後ろを振り返ると。
- 20 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時38分40秒
- 「きゃあああ!吉澤先輩が汗ふいてるぅ!もう里沙失神しそう!」
ばたんっ!
「きゃああああ!あたしも失神するぅ!」
ばたんっ!
「ちょ、ちょっと二人共〜」
愛ちゃんと里沙ちゃんの元へ駆け寄るまこっちゃん・・・。
「はははははははっ!」
大爆笑の後藤先輩と石川先輩。
- 21 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時47分18秒
- 「あーおもしろかった、あれ紺野顔固まってるよ?」
「は、はぁ」
後藤先輩は笑いすぎで顔が少し赤みがかっていた。
「ねぇ、紺野もよっすぃ〜のファンなの?」
「え?ああ、吉澤先輩は優しいですし・・・」
「ふ〜ん、みんなよっすぃ〜の事好きなんだねぇ」
後藤先輩は少しつまらなそうに、試合をしている吉澤先輩の方に目を向ける。
どうしよう・・・後藤先輩怒ったかな?
「あ、あの後藤先輩もかっこいいと思います!!」
「はぁ?」
後藤先輩は目を丸くしてキョトンとした顔をしている。
- 22 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時50分16秒
- 「いえ、あ、あのぉ」
「あっはははははは!」
後藤先輩はさっきよりも苦しそうに笑っている。
そんなに変な事言ったかな私。
「ホント紺野には笑わせてもらうよ」
今日の後藤先輩は笑いっぱなしだ。
突然後藤先輩は真顔になる。
そして私を見つめる。
「ねぇ、紺野」
「はい?」
「何でもない」
後藤先輩・・・?
- 23 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時52分58秒
- その時、亜衣ちゃんが後藤先輩の抱きついて。
「後藤せんぱ〜い!!」
「コラ、加護ぉ重いぞ」
「も〜う、後藤先輩あさ美ちゃんとばっかしゃべらないで私ともしゃべって
下さいよぉ〜」
「ちょっと!分かったから、痛いってばぁごめんね?紺野。加護うるさくて」
「あ、いえ大丈夫です」
ピーーッっと体育館中に笛の音が響く。
「「ありがとうございました!!」」
部活終了の合図。
- 24 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時55分08秒
- 後藤先輩は亜衣ちゃんと一緒に吉澤先輩の元へ向かう。
私は少し亜衣ちゃんがうらやましく思った。
かわいくて、明るくて、素直に甘えられて。
亜衣ちゃんは後藤先輩に頭を撫でられている。
私は一生あんな風にはされないだろうな。
里沙ちゃん達は吉澤さんにまた握手をせがんでいる。
吉澤先輩と同じバレー部の、ののちゃんは石川先輩に抱っこされている。
矢口先輩、今石川先輩の髪の毛引っ張ってる。
・・・・・それにしても
- 25 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)22時55分59秒
- 「吉澤もまだまだやなぁ!このアタシの若い時なんて〜」
「ゆうちゃ〜ん、なっちにもその豆大福ちょうだ〜い」
「ちょっと吉澤さん!?英語のプリント提出したの!?キィィィッ!」
「かおりも英語のプリント提出しなきゃ〜」
先生達まだいたんだ・・・。
- 26 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)23時00分02秒
- 私はなんとなくみんなの中に入れなかったので、楽しそうなみんなを
横目に帰る事にした。
体育館を出ると、ほとんど日は落ちていて、グラウンドに居たはずの
陸上部もテニス部ももう居なかった。多分バレー部が一番最後だったんだ。
空は少し曇っていて、夕方にはお決まりの何匹かのカラスも飛んでいた。
心なしか最近この街もカラスが増えた気がする。
もうすぐ夏かぁ・・・。
私が丁度、校門を出た時だった。
「あさ美ぃ〜!」
後ろからまこっちゃんが走って来る。
- 27 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)23時03分39秒
- 私の所まで追いつくと肩で息をハァハァさせながら、水くさいんだから、と
口をニッとさせて言った。
帰り道。
しばらく二人で他愛のない会話をしていた。
授業の事、ケーキのおいしいお店の事とか、今日のTVの事も・・・いろいろ。
「そういえば後藤先輩と何話しての〜?」
まこっちゃんがニタ〜っとした笑みを浮かべる。
「何って言われても・・・別に普通だよぉ」
「え〜〜、それだけじゃつまんないじゃん!もっとなんかないのぉ」
「そんな事言われたってホント普通だし」
「亜衣ちゃんがちょっと睨んでたよ?」
「え?ホントに?」
「うん、ちょっとだけだよ?傷ついた?ひょっとして」
「う〜ん、ちょっとね、でも大丈夫」
「よかった〜でもこっちも大変だったんだからぁ、里沙ちゃんと愛ちゃん」
「ああ、あの二人すごかったね?いつもにも増して!後藤先輩と石川先輩に
笑われてたよぉ」
「ホントあの二人ってミーハーなんだから」
- 28 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)23時06分29秒
- と、まこっちゃんはヤレヤレと言った感じだ。
「だよね?そうそう校舎裏の事件だって一番最初に嗅ぎつけたのあの二人だしね」
何故か私の口からこの話題が出てしまった。
「だよね?そうそう校舎裏の事件だって一番最初に嗅ぎつけたのあの二人だしね」
何故か私の口からこの話題が出てしまった。
「あ、ごめんね?まこっちゃんこういう話題興味無いもんね」
「そうだね・・・」
「ごめん、ごめん・・・」
「うん・・・」
「・・・・」
「・・・・」
- 29 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)23時08分49秒
- 会話が止まってしまった。
ひょっとして興味無いんじゃなくて、苦手だった?
怒っちゃったかなぁ、まこっちゃん。
不安に思って私はまこっちゃんの方を向く。
まこっちゃんは空を見上げていた。
「最近、カラス増えたね?」
よかった。怒ってたわけじゃなかったんだ。
「私もさっき同じ事思った・・・」
あちこちでカラスの鳴き声が空いっぱいに広がる。
「ねぇ、まこっちゃ・・・!?」
まこっちゃんはまだ空を見上げていたけど、その瞳には涙が溢れていた。
「まこっちゃん!?」
「ふふ・・・上を向いて歩こうって歌あるじゃん?やっぱ上見ただけじゃ涙
なんて止まらないね」
- 30 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)23時18分34秒
- 「まこっちゃん・・・どうして」
「校舎裏で亡くなった男の子。あたしのマンションの下の階の子だったんだ」
「・・・・っ!?」
「・・・正太郎って言うの、その子。いつもマンションの下の路上に落書きして
遊んでた・・・いつも一人だったからだからちょっと気になってて、話しかけ
たの、絵好きなの?って・・・正太郎があたしの方振り向いた時、びっくり
しちゃったぁ・・・顔、痣だらけで」
まっこちゃんの瞳から、とうとう涙が溢れ出た。
「・・・・うん」
「それでね?・・・よく正太郎としゃべるようになったの、おねぇちゃんって
なついてくれるようになったの・・・いろいろ教えてくれた、母子家庭の事も
お母さんがよく・・・正太郎を叩く事も・・・でも何もできなかった」
そこまで言うとまこっちゃんは徐々にしゃくり上げるようになる。
- 31 名前:何よりも暗いもの 投稿日:2002年12月07日(土)23時19分45秒
- 「多分・・・!!あの日も、あた、あたしに逢いに来るために・・・!!」
「まこっちゃん!!」
私は衝動的にまこっちゃんを抱きしめていた。
普段人に弱いところを見せないまこっちゃんが、その日
始めて私の前で大声を張り上げて泣いた。
カラスがさっきよりも増えている気がした。
- 32 名前:青いひつじ 投稿日:2002年12月07日(土)23時29分54秒
- 9・まこっちゃん
17・吉澤さん× 吉澤先輩○
28・同じ文章が2回も・・・
申し訳ありません
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月08日(日)09時29分22秒
- 興味深いのめっけ。
続き楽しみです、ガンガッテ。
- 34 名前:りゅ〜ば 投稿日:2002年12月08日(日)12時07分05秒
- 面白そうです!!
続き期待してます!
- 35 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時05分35秒
- その日の夜、まこっちゃんからメールが来た。
『カッコ悪いとこ見せちゃってごめん!明日もちゃんと学校行くから
心配ご無用(+_+)★おやすみ〜☆◎◆』
よかった明日ちゃんと学校行くんだ・・・正直心配してました。
私はケータイを充電機に置くと、ベットの上に寝転がった。
まこっちゃん、苦しんでたんだ。
気づけなかった・・・。
私って無力だなぁ、友達が泣いてても話しを聞いてあげる事しかできない。
何の為に私は居るんだろう?
助けてあげられるのは友達しかいないと思うから。
- 36 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時07分28秒
- そうだ、まこっちゃん里沙ちゃん達には何て言うんだろう・・・。
里沙ちゃん達が一番問題かもしれない。
何も知らない分、この話題に触れやすいに決まってるし・・・。
今のまこっちゃんにはこの話題を振れられるのはつらいし。
なんとか避けられればいいんだけど・・・。
そっかここからが私の出番なのかも。
その話題が出そうになったら、さり気なく私がカバーすればいいんだ。
それしか出来ないけど、やるだけやろう。
よし・・・完璧です。
- 37 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時08分17秒
- 気がつけば、時計は12時を回っていた。
私は目覚ましをセットすると、布団の中にもぐった。
- 38 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時09分56秒
- なんて私はついてないんでしょう。
セットした目覚ましには電池が入って無かったのです。
そういえば昨日の夜、電池の交換をしようと電池を抜いたまま
替えるのを忘れていたのです。
ある朝の紺野のつぶやき
- 39 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時10分36秒
- ・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・
・
- 40 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時11分44秒
- 「あー!あさ美遅刻ぅ!ホームルーム終わっちゃったよ?」
急いで教室に入った私を、ちょっとバカにしているみたいに言うまこっちゃん。
元気みたい・・・。
「里沙的にぃ、今日の保田先生の機嫌、激悪だから〜あさ美ちゃんついてないぃ〜みたいな」
「そうそう!『紺野さん!キィィィッ!』とか言ってたよ?」
そう言った里沙ちゃんも愛ちゃんも、なんか楽しそうだ。
- 41 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時13分35秒
- 今日に限ってついてないなぁ・・・。
保田先生怒らすとろくな事が無い。
「あ、ねぇあさ美ちゃん、あの校舎裏の沼。埋めるらしいよ」
愛ちゃんの言葉。
・・・校舎裏?しまった!まこっちゃん!?
私は恐る恐るまこっちゃんの方を向く。
- 42 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時15分15秒
- 「うん、撤去ってやつでしょ?ホームルームで言ってた」
何でもないかのように言うまこっちゃん。
あれ・・・?まこっちゃん?
- 43 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時16分59秒
- 私が見ている事に気づいたまこっちゃんは、哀しそうに笑って。
「ふふっ平気だよ・・・二人にも朝うち明けたから。友達だもん」
「里沙も、その、正太郎君の為にもあんな底なし沼早く無くなった方がいい
と思うの」
「昨日はごめんね?まこっちゃん。無神経にあんな話ししちゃって」
「いいの、ふたり共ありがとう」
- 44 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時20分12秒
- そっか、まこっちゃん話せたんだ。よかった。
でも少し寂しいのは何故だろう。
- 45 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時22分28秒
- 「早く保田先生のとこ行って、出席とってもらいなよ!」
まこっちゃんの声に今自分の置かれている状況に気づく。
そうだ!保田先生の所に行かなきゃいけないんだ。
寂しい気持ちを忘れ、今度は一気に心が重くなるのを感じた。
まだこの奥玉に来て1年くらいしかたっていないのに保田先生の評判は悪い。
厳しい事でも有名だが、それよりもあの『キィィィッ!』って言う
奇声を耳元で聞かなくてはいけないのだ。
「今行ってくる」
私は思い足取りで教室をでる。
- 46 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時22分59秒
- 後ろで、愛ちゃんが『がんばれ』とエールを送っていた。
- 47 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時24分34秒
- 職員室は、私たちの教室のすぐ隣にある。
私は職員室の扉の前で呼吸を整た。
あらかた覚悟しとかなくてはこっちの身が持たない。
私がようやく覚悟を決め、ノックしようとした次の瞬間。
「キィィィィィィィィィィィィッ!!!」
- 48 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時26分17秒
- 耳をつんざくような超音波が校内に響き渡った。
耳痛い・・・。
今のはどう考えても保田先生。
すると、すぐ隣の教室から。
「あさ美!?」
まこっちゃん達が出てきた。
「今の保田先生の声だよね!?」
「里沙てっきりあさ美ちゃんのせいで叫んでるのかと思ったけど」
「ううん!私が職員室に入ろうとしたら、いきなり聞こえて」
- 49 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時27分20秒
- 私達4人はそっと扉を少し開けた。
4人はトーテムポールのようにして中を覗いた。
中には、中澤先生、安倍先生、飯田先生、そして保田先生がいる。
何やらもめ事のようだ。
- 50 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時33分08秒
- 「い、いいい居たのよぉ!ホントに!私はちゃんと見たのよぉ!!」
相当錯乱している様子の保田先生。
今にも中澤先生に掴みかかろうとしているので、飯田先生と安倍先生が
後ろから押さえつけている。
「アホ!あんたええ大人やろ!?何ゆうてんねん!」
中澤先生も負けていない。
「二人共落ち着いて〜」
安倍先生が泣きそうに言う。
「ホントなのよ!!信じて!?居たのよ校舎裏に幽霊がぁぁ!キィィィッ!」
「あああっ!けいちゃんその奇声やめて!」
飯田先生が自分の耳を押さえながら叫ぶ。
- 51 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時34分03秒
- よくよく見ると、職員室は保田先生が暴れたせいなのか、椅子の倒れていて、
書類やテストもバラバラにばらまかれていた。
そのうちに保田先生はバランスを崩したのか、飯田先生、安倍先生を巻き込んで
一緒に倒れてしまった。
- 52 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時34分51秒
- 「ホントなのよぉ・・・」
保田先生は最後に力無くそう言ったきり、気絶してしまった。
中澤先生は大きなため息をつき、保健室に運ぶの手伝ってや、と、飯田先生
達に言った。
- 53 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時35分22秒
- そう言ったすぐ後に、何も起こらんといいけどな、と呟いていたのを
私もまこっちゃん達も聞き逃していた。
- 54 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時36分36秒
- 私はゆっくりと扉を閉めた。
愛ちゃんが視点の定まらないような瞳をして。
「すごいもん見ちゃったね・・・」
と、呟いたきり、私もみんなも放心状態だった。
そして、そのままゆっくりと教室へ戻って行った。
出席の事も忘れて・・・。
- 55 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時39分04秒
- 私はもう、ずっと窓の外を眺めている。
正確に言うと眺めていると言うより、雨のその単調な音を聞いているのだ。
教室はなんだか湿気た匂いがして、グラウンドは雨でぐちゃぐちゃ。
そう、もう梅雨の時期なのだ。
- 56 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時39分39秒
- 先生が何か言っている。
私の耳には届かないが。
- 57 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時40分24秒
- 私は今朝の保田先生達の光景が忘れられない。
保田先生が言っていた。
“校舎裏の幽霊”
- 58 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時41分28秒
- なんの事なのだろうか。
私はこの学校にもう3年通っているけど、そんな話しは聞いた事がない。
奇怪な噂と言えば、校長先生が末期ガンの疑いがあること、飯田先生が宇宙人だ
と言う事、そしていつになっても乾かない奥玉の底なし沼・・・。
- 59 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時42分39秒
- 裏校舎の幽霊・・・裏校舎の沼。
何か関係があるのだろうか。
・・・正太郎君?
――― まさか。
- 60 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時44分12秒
- 私は目線を斜め前にいるまこっちゃんに移す。
一生懸命にノートを写している。
まこっちゃんて真面目だなぁ。
私もよく人から真面目だと言われるけど、自分ではそうは思わない。
- 61 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時45分02秒
- 今度は、廊下側の一番前の席に座っている愛ちゃんに目線を移す。
愛ちゃんは、先生から吉澤先輩の写真を取り上げられていた。
授業中に写真を見るのは良くないよ・・・。
- 62 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時45分39秒
- そして、愛ちゃんの席から3番目に座っている里沙ちゃんは
自分の顔を鏡で見ながらうっとりしていた。
・・・・・・・・。
- 63 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時46分14秒
- あれ?今一瞬亜衣ちゃんと目が合った?
目が合ったと言うより・・・睨まれてた気がする。
私はふと、昨日の帰り道でまこっちゃんが言っていた事を思い出す。
- 64 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時46分59秒
- 『亜衣ちゃんがちょっと睨んでたよ?』
- 65 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時48分10秒
- 亜衣ちゃん、後藤さん好きだもんね。
私なんかが後藤さんと話すなんて、亜衣ちゃんにとってはおもしろくないかもね。
- 66 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時49分29秒
- 私はゆっくりと窓の方へ視線を戻す。
雨はさっきより強くなっていた。
気がつくと、グラウンドにさっきは無かったトラックが1台止まっている。
中から、青いビニール傘を差した、作業着のおじさん達が3人ほど出てきた。
沼の撤去作業って今日だったんだ。
- 67 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時50分00秒
- この忌まわしい事件も、まこっちゃんの悲しみも
もう終わるね。
よかったね、まっこちゃん。
- 68 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時51分27秒
- その時、私の制服のポケットが震えた。
ケータイだ。
誰だろう?
ケータイのディスプレイにはしらないメールアドレスが
映し出されていた。
私はさっそくメールを見る事にした。
「・・・・・っ!?」
後藤さん!?どうして!?
- 69 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時52分12秒
- そのメールには。
『後藤だよーん(°〜°)突然ゴメンね?
紺野のアドレス聞いてなかったから新垣脅して
ムリヤリ聞いちゃった★そんだけ。』
と言う内容だった。
- 70 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月08日(日)16時52分55秒
- 里沙ちゃんそんな事一言も言って無かったじゃない!
私は里沙ちゃんの方に少しだけ怒りの目線を向けた。
里沙ちゃんは手に鏡を持ったまま、白目向き加減で堂々と
寝ていた。
・・・見るんじゃ無かった。
- 71 名前:青いひつじ 投稿日:2002年12月08日(日)17時05分02秒
- けっこう長くなってしまいそうです。
今の所はまだ序章みたいな者です。ホラーなのですが、ちょっとした
恋愛物も加えたりします。個人的な理想では
後藤と小川の間で揺れる紺野。ってかんじにしたいので・・・。
- 72 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時40分35秒
- 私は嬉しくなって早速返信ボタンを押す。
『メールありがとうございます!
今古典の授業やってました』
・・・これでいいかな。
ちょっと短いかな。
変じゃないよね?
私は悩みながらも送信ボタンを押した。
返事はすぐに帰ってきた。
- 73 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時41分57秒
- 『古典?あ〜あの先生ウザイよね?(@_@)
てか紺野!かたいよ。かたい!もっと
フレンドリーに行こうぜぃ◎◆★』
ふれんどりー?
でも、先輩だし・・・どうしよう。
私は迷いながらも返信。
『でも、先輩ですし・・・
あ、そういえば今日寝坊しちゃって』
メールを打つ指が止まる。
ここから先、どうしよう。
まさか、保田先生の事を書くわけにはいかないよね。
- 74 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時43分38秒
- 『でも、先輩ですし・・・
あ、そういえば今日寝坊しちゃって
保田先生に耳元で叫ばれちゃいました』
送信・・・。
これでいいよね?
後藤先輩に嘘をついてしまったので、
この後、私は帰ってからも罪悪感に襲われていた。
授業中だというのに私はずっと後藤先輩とメールをしていた。
気づくと、終わりのチャイムが鳴っていた。
学級委員が号令をかける。
私はケータイを鞄の中にしまい、帰りの支度をした。
- 75 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時44分48秒
- 「あさ美ちゃん」
呼ばれた方を見ると、亜衣ちゃんが私を睨んでいた。
横には哀しそうな顔をしたののちゃんもいる。
「ウチの後藤先輩に気安く話しかけんといてくれる?」
関西弁・・・そっか奈良県出身だったっけ。
亜衣ちゃんはいつもより冷たい目をしている。
- 76 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時46分55秒
- 「大体あさ美ちゃん、自分が可愛がられてると思っとるわけ?おもしろがられ
てるだけやで?自分」
すると、ののちゃんが。
「もうやめよう・・・」
今にも消えそうな声でいうが「うるさい!黙っとき!」と、
亜衣ちゃんにきつく言われて小さくなってしまった。
そしてまた私をキッと睨んで。
「あんたなんか後藤先輩には不釣り合いや!二度と後藤先輩の前に
現れんといてくれる!」
私は何も言えず口をぱくぱくさせていた。
たしかにその通りだった。
私みたいな娘が後藤先輩とは合わない。
後藤さんのメールに浮かれていた自分
が恥ずかしくなった。
すると、目の奥が熱くなってくるのを感じた。
視界がだんだんぼやけてくる。
- 77 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時48分21秒
- そのとき
「なにやってんの。ウチらも入れてよ?」
まこっちゃんと愛ちゃんと里沙ちゃんが
恐い顔をして立っていた。
「なんやねん、あんたら!ウチはこの娘に用があるんやで!?
関係ないやん!」
「ごめんね?邪魔して。でもウチらはあんたに用があるの」
いつもより低い声のまこっちゃん。
亜衣ちゃんは少し後ずさりする。
「あんたさぁ、前々から思ってたけどあさ美に嫉妬してるんじゃ
ないの?」
- 78 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時50分06秒
- まこっちゃんの言葉に亜衣ちゃんの顔がカッと赤くなる。
「なんでウチがこんな娘に嫉妬せなあかんのや!!」
「里沙が思うには〜今声裏返ったみたいな?」
「ちびはうるさいわ!黙っとき!」
「なんですってぇ!!ムッキィ!」
「亜衣ちゃんもちびじゃん」
愛ちゃんがつっこむ。
「どーでもいいけど、ウチらの友達いじめるのやめてくんない?
大体あんたそんな事やってると、後藤先輩に本性バレるよ?」
亜衣ちゃんはギクリとした表情を浮かべる。
まこっちゃんは、してっやたりと言う表情だ。
「もう、えーわ!でもこの事一生忘れへんからなぁ!?後で後悔しても
遅いで!!行くでのの!」
亜衣ちゃんはそう言うと、ののちゃんの袖を引っ張って行ってしまった。
- 79 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時51分38秒
- 私は危うくこぼれそうになった涙をぬぐう。
「あさ美、大丈夫?」
まこっちゃんがさっきとは打って変わって、優しい声で
私に聞く。
「もう!あさ美ちゃんも言い返さなきゃ」
ちょっと悔しそうな里沙ちゃん。
「あさ美ちゃん、泣かないでよ〜」
私に抱きついてきた愛ちゃん。
みんな・・・
「みんな、ありがとう・・・」
- 80 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時52分38秒
- 「さ、気を取り直して帰るよ?」
まこっちゃんがそう言って笑う。
玄関口で亜衣ちゃんが私達の事を睨んでいたけど、
まこっちゃんが睨み返したら逃げていってしまった。
それを里沙ちゃん達は大爆笑して見ていた。
友達っていいなってつくづく思った。
帰り。駅でみんなと別れた後だった。
- 81 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時54分55秒
- 雨はまだ止んでなくて、静かな路地には雨音しか聞こえない。
私まだ亜衣ちゃんの言った言葉が頭から離れなかった。
『おもしろがられてるだけやで』
後藤先輩は私の事をおもしろがってるだけ・・・?
話しかけてくれたのも、メールをくれたのも。
そういえば、後藤先輩。
『紺野ってホントにおもしろいね』
そういう事だったんですか?
『ホント紺野には笑わせてもらうよ』
私がおもしろかっただけですか?
また泣きそうになってしまう。
私の気持ちに合わせるかのように雨はどんどん強くなる。
- 82 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時56分23秒
- その時私は背後に気配を感じた。
私の足音に重なって聞こえるもう一つの足音。
そう言えばこの気配、学校出たときから感じてた。
雨のせいで二つの足音はぴちゃぴちゃいっている。
私はただの通行人だと思うようにした。
私は自然と足を速めた。
しかし、その足も私の歩く速度に合わせて速くなる。
たまたまだが、“通り魔に注意”という看板が目に入る。
まさか、そんなドラマみたいなことが私の身に起こるはずなんて。
気のせいだよ!
私は角を曲がってみた。
やはりその足音はまだついてきている。
足をもっと速めてみた。
その足音も同じように、速度が上がる。
ついてきている ―――――
- 83 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月09日(月)13時57分42秒
- どうして私が・・・・。
言いようのない不安に駆られる。
私はとうとう走った。
もちろんその足音も同じように走る。
「待って!」
そう、待ってと叫びながら。
「あさ美ちゃん!」
そう、あさ美ちゃんと叫び―――
・・・え?
振り返るとそこには
肩で息をしているののちゃんがいた。
- 84 名前:青いひつじ 投稿日:2002年12月09日(月)17時58分04秒
- なんだかむちゃくちゃなスレットになってしまいました・・・
>名無し読者様へ
興味を持っていただいて、ありがとうございます。
もちろんがんばります
>りゅ〜ば様へ
ご期待に添えるように、がんばります。
どうぞ見守っていて下さい。
- 85 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月09日(月)23時33分48秒
- ジワジワっとうすら寒さが迫って来る感じで、面白いです。
5期メンのキャラがイイですね。特にまこっちゃんが弱さと強さがあるキャラ
って感じで。あいぼんを睨みつけるまこっちゃん、想像して思わず笑いましたw
更新、楽しみにしてます。
- 86 名前:名無し娘。 投稿日:2002年12月10日(火)01時52分33秒
- とてもおもしろそうっす!
とても期待してます。
細かい事を言うようですけど亜衣は亜依ですぞ
- 87 名前:青いひつじ 投稿日:2002年12月10日(火)17時03分27秒
「ののちゃん・・・?」
ののちゃんは息を切らしながら。
「あ、あさ美ちゃん・・・にげちゃうんだもん」
「あ、ごめん・・・誰だか分からなくて」
さすがに通り魔かと思ったとは言えなかった。
「どうしたの?」
ののちゃんは姿勢を整え、私の顔を真剣に見たかと思うと。
「ごめんなさい!!」
と、勢いよく頭を下げ、腰を90度くらいまで曲げた。
- 88 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時05分36秒
- ののちゃん・・・
「どうして・・・ののちゃんが謝らなくてもいいのに」
- 89 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時07分57秒
- 私とののちゃんは途中まで一緒に帰る事にした。
「あのね、ホントはあいぼんってじゅんすいでいい娘なんだ。でも、
でもじゅんすいで真っすぐな分しっとぶかくて負けずぎらいなんだ・・・
とくに後藤せんぱいの事になるとね」
あ、何だか分かる気がする。
ののちゃんの口調は舌っ足らずだったが、ずいぶんしっかりした事を
言っている。
私はただうなずく。
「だからほんきであさ美ちゃんの事がきらいであんな事言ったわけじゃないと
思うの。あさ美ちゃんじゃなくて、もっと他の人でも後藤せんぱいにちかづ
いただけでも同じ事したと思うし・・・たぶんわたしでも」
- 90 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時10分06秒
- 「え・・・?」
「前にかいだんから足をすべらせてケガしちゃった時があったの、そのとき
ほけんしつまでおんぶしてくれたのが後藤せんぱいで。それ、あいぼんは
見てて・・・次の日から口きいてくれなかった。でも今はなかなおりしたよ?
あ、あと後藤せんぱいはいいひとだよ!あさ美ちゃんの事おもしろがって
なんかないよ」
そっか・・・後藤先輩はいい人だもんね。
私は少しだけほっとした。
ののちゃんは言い終わると、少しだけ目を伏せた。
私は話題を変えようと思った。
- 91 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時13分03秒
- 「亜依ちゃんと仲いいんだよね?」
そう言った瞬間、ののちゃんの顔がパァッと明るくなって。
「うん!あいぼんとはね、小学校から仲よかったの。あいぼんは小5の
時に奈良からてんこうして来て、わたしと席がとなりになったその日から、
すぐなかよくなったの」
無邪気に笑うののちゃん。
ののちゃんって友達思いのいい娘だなぁ。
「小学校まで続いてたんだ。私はなんか小学校の友達はみんな別の中学
行っちゃったな」
「ふふ、わたしも他のともだちはみんな別のとこ行ったけど、あいぼんだけは
いっしょのとこ行こうって言ってくれて」
何だかその光景が私にも見えてくるような気がして、何だか
心が温かくなった。
「でも中学校にあがって、あいぼんは後藤せんぱいの事がすきになって
わたしとはあんまりあそんでくれなくなっちゃったけどね」
ののちゃんは哀しいはずなのに、また八重歯を出して笑った。
その時、ののちゃんの足が止まる。
「ここ、わたしの家なの」
- 92 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時15分11秒
- ののちゃんのさす指の方向に顔を向けると
私の大好きな物が目に入る。
ケーキ屋さん!
「ののちゃん家ってケーキ屋さんだったんだぁ」
「うん、おとうさんとおかあさんだけでやってるんだよ
わたしもいつかケーキをつくるんだ!」
「へぇ〜」
そう言ったののちゃんの顔はきらきらしていた。
もう、将来を決めた人の顔をしている。
「ねぇ、今からわたしのへやにあそびに来ない?ケーキあるよ?」
「ええっでも悪いよ」
そう言った私だけど“ケーキ”と言う言葉が私を惑わす。
「別にきにすることないよ」
「ホント悪いよぉ〜」
「そんな事いわないで〜ほら行こう!」
- 93 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時16分44秒
- ののちゃんに背中を押され私は、心の中で喜んで中に入れてもらった。
お店の中は、聞いたことのない外国の音楽が流れていて、
壁は薄いブルー。
ほのかにバニラの香りがする。
「いらっしゃいませ」
そして優しそうな女の店員さんが迎えていた。
「おかあさん、この娘ともだちのあさ美ちゃん」
え!この人おかあさんだったの!?
若いなぁ・・・。
でも、目元とか全体の雰囲気はののちゃんにそっくりだ。
- 94 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時17分37秒
- 「初めまして、紺野あさ美です」
すると、ののちゃんのおかあさんは優しそうに
微笑んで。
「あら、可愛いらしいお嬢さんじゃな〜い!
どうぞゆっくりしてってね」
「あ、はいありがとうございます」
- 95 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時20分49秒
- 私はお店の二階に通された。
ののちゃんはケーキもってくるね?
と言ってすぐ下に下りていってしまった。
ののちゃんの部屋は、お店と同じ、壁は薄い
ブルーの壁紙で、くまのプーさんのぬいぐるみ
も沢山積んであったり、そして私の部屋には無い
TVも置いてあった。
机に視線を移すと、沢山写真立てが飾られていた。
写真は全部亜依ちゃんと写っているものばかりだ。
『あいぼんは後藤せんぱいがすきになっちゃって
あんまりあそんでくれなくなっちゃったけどね』
胸に刺さるような痛みを感じた。
- 96 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時21分51秒
- 後々になって、ののちゃんの言葉一つ一つが
私にとって忘れられないものになってゆく。
この時の私には、まだ分からなかったけど・・・。
- 97 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時23分02秒
- いろいろ考えていると、部屋の扉が開く。
「あさ美ちゃんおまたせぇ〜」
ののちゃんが満面の笑みを浮かべてやって来た。
テーブルの上にいろんな種類のケーキを並べた。
「好きなものどんどんたべてね」
「え!?こんなにいいのぉ!」
「うん!」
ショートケーキ、プリンタルト、モンブランに・・・
えっとこのケーキは?その横のケーキも見たことないな?
「あさ美ちゃん?たべないの?」
気がつくとののちゃんはもうケーキをほおばっていた。
「あ、うん」
- 98 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時24分18秒
- 私は見たことのない、真っ白なスポンジに色とりどりのゼリーとピンク色
のクリームの乗ったケーキをいただく事にした。
「いただきます」
一口かじる。
・・・・・!?
「おいしい!!」
すっごくおいしい!!今までこんなケーキ食べたことないよ!?
「ほんと!?」
ののちゃんが瞳をきらきら輝かせて私を見る。
「うん!!すっごくおいしい!!」
私はあっという間にそのケーキを食べてしまった。
よし!今度からののちゃんのケーキ屋さんで
ケーキ買おう!
- 99 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時26分17秒
- と、私がそんな事を思っていると。
ののちゃんが恥ずかしそうに顔を赤らめて、もじもじ
と。
「あのね、あさ美ちゃんの食べたそのケーキ。わたしが考えたんだ」
「え!?ののちゃんが?」
「うん」
「すごい!こんなおいしいの作れるんだ!」
私の言葉にののちゃんは嬉しそうに目を細める。
しばらく二人はケーキを食べる事に没頭した。
そこで気づいた事は、ののちゃんも私と同様にかなりの食いしん坊
なのだと。
- 100 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時28分07秒
- またしばらくして。
ケーキはすべて食べ尽くしていて、私とののちゃんは食休みをしていた。
「ねぇ、あさ美ちゃんてれびみよ?」
口にクリームを付けたののちゃんはTVをつける。
しかしすぐに。
「あんまりおもしろいのやってな〜い」
と言って口をへの字に曲げてしまった。
すると突然。
「あ」
そう言ったののちゃんの顔が固まる。
私もTV画面に目を向ける。
- 101 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時29分07秒
「あさ美ちゃん、これわたしたちの学校じゃない?」
画面には奥玉女学校の校舎と・・・あの底なし沼が映し出されている。
『奥玉女学校の校舎裏で下半身が見あたらないと言うなんとも無惨な姿で
発見された青木正太郎君(6)の事件で、以前日本中を騒がせた、連続幼児
バラバラ殺人事件と何か関連するのではないかと言う事で、警視庁奥玉署は
調べを進めていました。そして、今日午後2時丁度、奥玉市在住の室井健介
容疑者(33)が連続殺人容疑で逮捕されました。取り調べでは、自分が
やったと容疑を認めているそうです。動機については黙秘しつづけています。』
- 102 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時30分14秒
- 私とののちゃんは口をぽかんと開けていた。
「あさ美ちゃん・・・すごいことになってるね?
こういうのって、てれびだけのせかいだけかと思ってた」
やっぱりののちゃんは舌っ足らずだけど、しっかりした事を言っている。
て言うことは、沼の呪いなんて始めっからなかったんだ・・・。
私の胸は再び痛んだ。
こんなに小さな子が、あんな無惨な殺され方をするなんて。
その後私は、ののちゃんとおかあさんにお礼を言い
ののちゃん家を後にした。
外はまだ雨が降っていた。
- 103 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時30分51秒
―――――――――
―――――――
―――――
―――
- 104 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時31分32秒
- 次の日の朝。
今日は遅刻もなく無事に学校へついた。
昨日はいろいろありすぎて、まだ少し疲れている。
教室に入ると相変わらず亜依ちゃんの目線が痛かった。
けど、今までと違うのは
「おはよう」
私におはようと言ってくれる娘が増えた事だ。
「おはよう、ののちゃん」
- 105 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時33分04秒
- そして―――
「おはよう、あさ美」
愛ちゃん。
「おはよう」
里沙ちゃん。
「おはよ」
そしてまこっちゃん。
今までと一緒、ずっと一緒。
・・・のはずだが、なんだかみんな元気が無い。
理由は分かっている。
- 106 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時34分59秒
- 「・・・おはよう、みんな」
私は鞄を自分の机に置くと、すぐに
まこっちゃん達の元へ駆け寄る。
「まこっちゃん、大丈夫?」
「昨日のニュース・・・見た」
やっぱり・・・。
「・・・うん」
「あたし、許せないな・・・こういう事って二度と起こっちゃ
いけないよ」
愛ちゃんが瞳に涙を溜めている。
うん、そうだね。泣かないで愛ちゃん。
「里沙達には何もできないのが現実だけど・・・」
里沙ちゃんは本当に悔しそう。
うん、何もできないね。無力だね。私たちって。
「みんなありがとう・・・優しいね、みんな」
- 107 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時36分33秒
- まこっちゃんの瞳に潤んでいる。
でも、キュッと唇を噛んで泣くまいと必死にこらえている。
うん、そうだね。みんな優しいけど、まこっちゃんも優しいね。
「みんな・・・悔しいね」
私はそれしか言えなかった。
「あのさ、思うんだよね。いつも独りぼっちで、家にはお父さん
が居なくて、唯一の肉親のお母さんには叩かれて、正太郎は
楽しい事も人が持っていて当たり前の幸せも知らないうちに、
たったの6歳で死んじゃうなんて・・・そんなの不公平だよ
、正太郎を殺した奴は捕まっても生きてるのに・・・」
まこっちゃんはそこまで言うと、こらえていた涙が零れそうに
なったのか、制服の袖で目をごしごし拭いた。
愛ちゃんも里沙ちゃんは、もう泣いている。
- 108 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時38分01秒
- 「まこっちゃん。正太郎君は今までたしかにつらかったと
思うけど、でも、最後にまこっちゃんと会えて幸せだったんじゃ
ないかな。きっとまこっちゃんとの楽しい思い出が天国に行っても
正太郎君を支えてくれてるよ」
私の頬に熱いものが流れている。
「うっ・・・ありがと・・・あさ美」
泣いている私達を、不思議そうな目で見ているクラスメート達。
その時、さすがの亜依ちゃんももう睨んではいなかった。
- 109 名前:2話 沼、撤去 投稿日:2002年12月10日(火)17時40分35秒
私はこれで終わったと思っていた。
しかし、まだ何も始まってはいなかったんだ。
- 110 名前:青いひつじ 投稿日:2002年12月10日(火)17時51分55秒
- ここで第2話終了です。
4話あたりから話しが急速に進んでいく形なので、まだ結構長いです。
なので更新はけっこう早めでいきます。
>名無し読者様へ
そう言って頂けるなんて思ってもいませんでした。
どうぞ最後までおつきあいお願いします。
>名無し娘。様へ
教えて頂いてありがとうございます。
全然未熟な者ですが、どうぞよろしくお願いします。
- 111 名前:名無し娘。 投稿日:2002年12月11日(水)21時43分36秒
- なんだよ!!ののどうなっちゃんだよ!!
ののの言葉表情一つ一つがなんか泣けてくる……
やば過ぎるほどこの小説にのめり込んでいます。
本当に面白いです。頑張って下さい。
- 112 名前:青いひつじ 投稿日:2002年12月14日(土)17時09分45秒
- >名無し娘。様へ
それは今のところ秘密ですが・・・
これからどんどん痛い展開になっていくと思われます。
読み切るのには覚悟が必要な場面も多々あるとおもいます。
最後まで見守っていただければ嬉しいです。
- 113 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時11分46秒
- 114 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時14分52秒
- 妙な噂を聞いた。
沼の撤去作業が始まってから5日たったある日。
作業員3人が行方不明になったというのだ。
そもそも沼の撤去と言ってもただ単に沼を土で埋めるだけの作業であって、
1.2日で終わると言われていた。
それが2日目の朝。
丁度、正太郎君の事件が解決した翌日事だ。
作業員の一人が校長先生に。
『沼が土を吸い込んでいる』
と告げたのだと言う。
- 115 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時16分09秒
- 多分、沼が埋まらないと言いたいのだろう。
しかし、それがどうも『普通』では無いらしい。
私の言葉ではどう表現したらいいか分からないけれど、
つまり土を液体の中に『入れる』と言う感覚では無く、大きな穴
もしくは空間に土を『落とす』 感覚。
液体に土を入れれば、液体はどろどろした、いわゆる泥になって行き
次第に水っ気をなくして行く。
空間にどんな物体を落としても、それは永遠に落ちてゆくだけで
それは何も変わらない。
あの沼に何を入れても何も変わらない。
ただ落とした土が消えて行くだけ・・・・。
- 116 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時17分02秒
- そして、噂の5日目の朝。
作業員3人はいつものように沼を訪れたが、その後、こつぜんと姿を消した。
乗ってきたトラックも機材もすべて残したまま・・・。
- 117 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時18分41秒
- 「やっばいよ!?正門の方」
図書室の窓から見える正門を見て、愛ちゃんが叫ぶ。
「朝もすごかったよね?マスコミ。」
愛ちゃんに比べて、やっぱり興味無さそうなまこっちゃん。
「いつまで居るんだろう?もう放課後なのにね」
その妙な噂を耳にしてから1週間、もうこの有様だ。
正直、私はしつこい彼らに少しうんざりしていた。
正太郎君の事件に引き続き、作業員行方不明事件についても
マスコミの報道は騒がしくなってゆく一方で。
- 118 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時19分54秒
- ワイドショーでは『奥玉の呪いの底なし沼』の話題
で溢れている。
TVをつければかならずウチの校舎や顔見知りの生徒が出てくる。
この前もしゃべっているリポーターの後ろで里沙ちゃんが
ピースしている映像を見た。
一緒に見ていたまこっちゃんと愛ちゃんは呆れていたけど。
私達は今、美術の課題をやるために図書室にいる。
- 119 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時22分22秒
- 「でもさ、やっぱり気味悪いよね?こういう話し。一応警察も動いてる
みたいだけど」
そう言いながらも楽しそうな愛ちゃん。
『宇宙の不思議』と言う本を一応開いてはいるが、まったく読んではいない
ようだ。
それを見かねたまこっちゃんは。
「ほらぁ、早く宿題終わらせちゃお?吉澤先輩見れなくなるよ?」
さすがまこっちゃん。もちろん今読んでいる本は『宇宙の相対性理論』だ。
ちなみに美術の課題というのは、次に描く絵のテーマの『ブラックホール』
を自前に調べておく、と言う事だ。
調べるだけと言うので、案外簡単な課題だと思ったけれど、
実際やるとなると面倒くさいで、なかなか進まない物だ。
- 120 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時24分03秒
- 「みんなたいへ〜ん!!」
その時、里沙ちゃんが突然叫んで立ち上がる。
「里沙、超大はっけ〜ん!!聞いて驚くなよ?おまえら」
里沙ちゃんが今手に持っているのは、宇宙もブラックホールもまったく
関係ない、新聞の縮刷版だ。
「ねぇ、里沙ちゃん?さっきから大人しいと思ってたらそんな物読んでたの?」
「も〜う、あさ美ちゃんったら。里沙は今、飯田先生より重要な事を
発見したの」
「で、里沙ちゃん、何を発見したの?」
愛ちゃんは興味津々だ。
- 121 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時27分11秒
- 「あのね、里沙の見つけたこの縮刷版。今から丁度20年前の記事が載ってる
んだけど、ちょっとこの記事読んで見てくれない?」
『昭和○○年 ×月□日
奥玉女子学校、用務員強盗殺人』
「強盗殺人・・・・?」
私の呟きに里沙ちゃんはゆっくりうなずく。
『奥玉女子学校で用務員として勤務していた畑中洋次郎さん(62)
が、今朝午前7時58分にに正門のクヌギの下で倒れているのを、登校してきた
生徒に発見されました・・・・』
- 122 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時28分29秒
- 「・・・なにこれ」
今度は愛ちゃんが呟く。
「後の調べによると、校長室の金庫から550万が盗まれてたんだって
多分、この用務員さんに見つかって、殺したんだと思うの」
「ていう事はその用務員さんの呪い?あの沼も?」
私の問いかけに勢い良く首を縦にふる里沙ちゃん。
「でも、これと沼となんの関係があるの?沼は校舎裏。用務員さんの死体は
正門でしょ?」
まこっちゃんがそう言うと里沙ちゃんはニヤリと笑みを浮かべて。
「違うんだなぁ、まこっちゃん。この学校、それから3年後に
改築してるんだよ」
- 123 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時30分18秒
- 「・・・・!?正門の場所を変えた」
愛ちゃんは元々おおきな目をさらに見開く。
「そういえば裏校舎に1本だけクヌギの木があったよね」
まこっちゃんの言葉に私もハッとする。
そう言えばあの木のすぐしたに沼が・・・・!?
「そう!ずばり里沙が思うには、人の死体のあった場所が正門なんて
縁起が悪いからわざわざ正門があった場所を裏校舎にしちゃったんだと
思うの。きっとろくな供養もしないでやったから用務員さんが怒っちゃった
のよ。きっと」
全員、ごくりと唾を飲む・・・。
「ったく、これだから子供の考える事は単純すぎるんだから」
- 124 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月14日(土)17時31分38秒
- 私達4人の後ろで、聞き慣れた(!?)声が言う。
4人はほぼ同時にそっちへ振り返る。
「「矢口さん!?」」
そう叫んだのもほぼ同時だった。
矢口さんはこの学校のOGで、現在は都内の短大に通っている。
私たちは直接お世話になった事は無かったけれど、
愛ちゃんと里沙ちゃんの吉澤先輩の追っかけという
共通点から、顔見知りになっていった。
「よ!久しぶりじゃん!おまえら」
久しぶりって・・・いつも来てますよね?この学校に。
っていうより、ちゃんと自分の学校に行ってますか・・・?
- 125 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月15日(日)01時18分41秒
- 「矢口さん・・・今日は吉澤先輩の所へは行かないんですか?」
と、まこっちゃん。
「ん?行くよ?もちろん。おいらがよっすぃ〜に逢わない日なんて
あるわけないじゃん!たまたま図書室覗いてみたらおまえらが
いたから、わざわざ足を運んでやっただけさ・・・・て来てみれば
おまえらのんきに怪談ごっこかよ!?もう中3だろ!?先輩は悲しい
よ、まじで!!」
ちなみに矢口さんはいつも怒っている。
まぁ、本気ではないと思うけど。
多分矢口さんなりの愛情表現なのかもしれない。
しかし、矢口さんの説教は続く。
- 126 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月15日(日)01時19分56秒
- 「大体ごっちんやよっすぃ〜達がおまえらくらいの時は
もうそんな物には興味しめさなかったぞ?もちろんおいらも。
あ、石川は別としてな?まぁ、元からそんなもん信じるタイプ
じゃないけどさ。あ、石川は別としてな?ったく今時中3はいつまで
たっても子供だな。昔の中学生はもっと大人だったのに・・・あ、
石川は別としてな?」
「「は、はぁ」」
この微妙な相づちも4人同時だった。
「でも、里沙的にはかなり自信あるんですよぉ。新聞のこの内容からして
今回の事件は呪いではないかと・・・」
「自分の事名前で呼ぶなよ!いつになったら直るんだよ!
ってか何が里沙的には〜・・・だよ!!そのしゃべりかたも直せよ!
いい加減!?」
矢口さん、里沙ちゃんのものまねすっごく似てます。
- 127 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月15日(日)01時21分54秒
- 「そんなぁ、これが里沙の個性なんですぅ!」
「うわぁ・・・おまえウザすぎ、ある意味石川だな」
しかし、里沙ちゃん。何か勘違いしたみたいで。
「え?石川先輩と里沙がクリソツ!?わぁ〜い!里沙感激〜」
「あ、いや・・・そう言う意味で言ったわけじゃ・・・
『ある意味』って言うフレーズちゃんと聞いてたか?
・・・うん、まぁいいや」
「里沙がポスト石川だなんて、矢口さんもお目が高いな〜
これなら吉澤先輩もゲット間違いなし?みたいな?」
里沙ちゃんの耳には何も入っていない。
- 128 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月15日(日)01時23分31秒
- 「・・・と、所でおまえら!今からよっすぃ〜の所へ大集結するぞ!」
と、里沙ちゃんを無視して、ここが図書室でもお構いなしに大声
を張り上げる矢口さん。
すると、周りの目線を気にしながらもまこっちゃんが。
「行きたい所は山々なんですけど・・・課題が」
『課題』と言う単語がでた瞬間。矢口さんは露骨に嫌な顔をする。
「課題〜!?そんなもんフケちまえよ!?なぁ?高橋」
「もちろんです!!」
気がつくと愛ちゃんは、もう本を片付けていて、体育館へ行く準備
をしている。
「でもそう言うわけには・・・」
さすがのまこっちゃんも矢口さんの勢いには勝てない様子で。
「おいおい、小川〜。おまえも固いなぁ〜もう少し
フランクに行こうよ、フランクにぃ〜!なぁ紺野」
- 129 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月15日(日)01時25分28秒
- そ、そんな事言われても・・・
「課題、3日後ですし・・・」
しかし、里沙ちゃんは愛ちゃんより張り切っていて。
「はい!はい!はい!里沙もいきま〜す!ちなにみ里沙は
いっつもフランクで〜す!ラブラブ」
「おまえはいい」
「そんな矢口さ〜ん」
私とまこっちゃんは顔を見合わせて苦笑い。
そして一つ思った事。
矢口さんは何だかんだ言って里沙ちゃんがお気に入りなのかも。
- 130 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月15日(日)01時26分49秒
- 結局、矢口さんにはかなわなくて私もまこっちゃんも
図書室を出た。
しかし、廊下を少し歩いたかなって思った時。
ふと矢口さんの足が止まる。
「そう言えば、新垣。おまえさっき沼の呪いだのなんだのって
言ってたけど、あれ、あんまりごっちん達の前で言うなよ?」
「え・・・?」
矢口さんの突然の言葉に里沙ちゃんだけでなく、私達の動きも止まる。
それに気づいた矢口さんは明らかに動揺した様子で。
「あ、いや・・・ほら!行くぞ!?」
「「は、はい・・・」」
私達は再び顔を見合わせた。
どうして後藤先輩達の前で沼の話題をしてはいけないのだろう。
頭に大きな疑問が浮かぶ。
でも、あえて追求はしなかった。
矢口さん・・・恐いし。
- 131 名前:名無し娘。 投稿日:2002年12月15日(日)03時27分36秒
- いやぁ〜マジでおもしれー!
毎回毎回おもしろいでわるいけど……言葉を知らなくてすいません。
個々のキャラがものすごく立っていると思います。
暗い雰囲気で進む中のこの日常会話が逆に怖さを引き立たせてきます。んん〜面白い。
もっとたくさんの読者がこの小説に注目しても良いと思うんだけどなぁ…
みんな読んでいてもスレ汚しになるからレスしないだけかなぁ…
- 132 名前:青いひつじ 投稿日:2002年12月15日(日)10時54分30秒
- >名無し娘。様へ
毎回こんな小説の為に、ご感想ありがとうございます。
私ももっといろんな人にこの小説を読んで頂きたいですね。
そして、読者の意見をもっと聞いてみたいので、どんどん
感想もほしいですねぇ。
名無し娘。さん、色々ご心配ありがとうございます。
- 133 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時02分16秒
体育館にはもうバレー部の姿は無かった。
「ひょっとして終わっちったか?」
矢口さんの一言が暗い体育館に響く。
「あ、矢口さぁ〜ん」
「んぁ?この高い声は・・・・」
声の方に視線をあげると石川先輩がギャラリーから手を振っている。
そこには後藤先輩や吉澤先輩、そして亜依ちゃんも居る。
ののちゃんは最近具合が悪いと言っていて、今日は学校を休んでいる。
- 134 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時04分18秒
- 「な〜んだ、よっすぃ〜達いたんじゃん」
私達は矢口さんと共にギャラリーまで小走りする。
遠くからでも亜依ちゃんが睨んでいるのが分かってたけど。
「矢口さん達じゃないっすかぁ!待ってたんスよ〜」
吉澤先輩が白い歯を見せて笑う。
「きゃあああっ吉澤先輩が笑ってるぅ!?」
「きゃあああっやっぱりかっこいい!」
完全に興奮している2名。
「おいおい、あたしが笑っちゃいけねぇかぁ?」
これには吉澤先輩も呆れている。
「そんな事ないですぅ!里沙、できれば一生吉澤先輩の
そのさわやかな笑顔が見てたいですぅ!」
「一生笑ってるのも疲れるな・・・」
「よっすぃ〜モテモテね〜」
ちょっと怒ったように言う石川先輩。
「あ、梨華ちゃん。何言ってるの、あたしには梨華ちゃんだけだよ?」
「え〜〜!後輩はかわいくないんですかぁ〜?」
ふくれっ面になる愛ちゃん。
「あ、いやそうじゃなくてさぁ、可愛いよ高橋」
- 135 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時06分51秒
- 「ずっるーい!里沙にも言って下さいよ〜そのセリフ」
「おまえはいい」
「お〜いよっすぃ〜!ここにもいるぞー?」
「や、矢口さんまで〜」
可哀想な吉澤先輩・・・。
涙目になってる。
「よ。紺野」
あ、後藤先輩。
「こんにちは」
亜依ちゃんがすぐに反応して私の事を睨んでいる気がした。
いや、多分そうだろう。恐くて見れないけど。
「あの、いつもメールありがとうございます・・・」
「別にお礼言う事ないじゃん」
「あ、それもそうですね・・・」
そう、私と後藤先輩はあの日から、毎日メールをしている。
「そういえばさぁ、昨日よっすぃ〜の家に泊まったんだけど
部屋汚いんだよね〜。まぁ、あたしの部屋も十分汚いけど」
「・・・そうなんですか」
- 136 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時09分59秒
- 「うん、ぶっちゃけあんまり掃除とかマメにやる方じゃないからさ」
「はぁ・・・」
「時々、ゴキブリとかでてくるもん。最悪だよ〜」
「え・・・ゴキブリですか」
「うん・・・紺野苦手でしょ、虫系とか」
「はい」
「そんな感じするもん。紺野って」
「はぁ・・・」
「でも正直梨華ちゃん家よりかはマシだと思うんだ」
「どうしてです・・・?」
「だってあの娘の部屋、全部ピンクよ?壁も机でさえも。目ぇ痛いもん」
「それはすごいですね・・・」
- 137 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時12分06秒
- 「うん・・・・・・」
「・・・・・・・・え?」
「・・・・てか紺野。さっきからリアクション薄すぎ、っていうより
あたしばっかしゃべってんじゃん。いつもより元気無いよ?紺野」
あれから亜依ちゃんは私には何も言ってこないけど
、まさか、亜依ちゃんの事が気になって話しずらいなんて言えない。
さっきより視線がものすごく痛い。
「・・・すいません、実は体の調子が悪くて」
「ああ、季節の変わり目は体調崩しやすいって言うしね?
そういえば辻も調子悪いって言ってたけど・・・今日は?」
「今日は休んでるみたいです・・・ね?まこっちゃん」
私はさっきから黙っているまこっちゃんがちょっと心配になった
ので話しを振ってみた。
「・・・・・」
「・・・まこっちゃん?」
「・・・え?ああ!う、うん」
- 138 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時14分02秒
- 「そうなんだ〜。そういう風邪は直りにくいって言うから
紺野も小川も気をつけな?」
「「はい」」
まこっちゃん・・・今、後藤先輩の事睨んでなかった?
・・・気のせいかな。
そうだよね?あのまこっちゃんに限ってそんな事ないよね。
「まこっちゃん・・・?」
「ん?何?」
ほら、いつもの優しいまこっちゃんの笑顔。
「ううん、何でもない」
「ふふっ何それ〜?」
「あはは、紺野と小川は仲いいねぇ」
後藤先輩が楽しそうに笑った。
すると、後藤先輩は私達の後ろの方に視線を換えた。
「そういえば加護〜」
「は、はい!」
- 139 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時15分17秒
- ちょっと離れた所にいた亜依ちゃんに後藤先輩は話しかける。
私は自然とその場を離れようと思った。
邪魔しては悪いと思ったからだ。
「加護、そう言えばあんた最近辻と一緒じゃないけど
何かあったぁ?」
亜依ちゃんは一瞬ぴくりと反応して。
「え・・・何でののの話しなんか?」
と、いつもよりトーンの低い声で言う。
亜依ちゃんのその反応に後藤先輩は少し驚いた様子
だったけど、すぐに元に戻って。
「ん〜、いや何て言うかあんた達仲いいからさぁ。
ここ2・3日一緒にいないなぁって思ってたから」
「そうですか。でも最近ののの体調よくないって聞いた
んであんまりしつこく一緒にいちゃ悪いかなって思ってたんですよ」
「あ、そうだったんだ、ならしょうがないよねぇ」
「はい・・・・」
- 140 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時17分09秒
- 一応そう言った後藤先輩だったけれど、何だか寂しそうだった。
多分、亜依ちゃんの言っている事を、嘘だと思っているのだろう。
亜依ちゃんがののちゃんに嫉妬して、二人の仲がギスギスしていた事
を後藤先輩も薄々感じているに違いないと。私は思う。
「お〜い!おまえらもう遅いから帰るぞ!?」
いつのまにか矢口さん達が、入り口の方に立っていた。
気がつくと、外はもう日が落ちていた。
「「は〜い」」
私達は急いで入り口まで走る。
そうだ、帰りにののちゃん家に寄っていこうかな。
- 141 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時19分44秒
私は学校の正門で矢口さん達と別れ、まこっちゃん達の一緒に帰ろう
と言う誘いも断り、真っ直ぐののちゃん家に向かった。
もう、6月の下旬だが日が落ちると肌寒さを多少は感じる。
やや湿気ている薄暗い路地を私は少し速めに歩く。
街灯も無く、ここら辺は夜になると結構不気味な場所だ。
自然と自分の心拍数が上がっているのを感じる。
やはり恐いんだ。
電信柱の下に枯れた花束が置いてあるのが見える。
ここを通るといつもそこに目がいってしまう。
その場所は交通事故が絶えないのだ。
しばらくして、前方に平凡な民家の中に一際目立つ、水色の小さな建物が見えてくる。
ののちゃん家だ。
明かりがついている。
少しほっとしてた。
- 142 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時20分59秒
- 私はその建物の自動ドアをくぐる。
「いらっしゃいませ」
落ち着く声だ。
「あの、この前お邪魔した、紺野といいます。
ののちゃんのお見舞いに来たんですけど・・・」
ののちゃんのお母さん。
「あら、来てくれたの?わざわざありがとうね
さぁ、上がってちょうだい」
「失礼します」
あ、なんか持ってくればよかったな・・・
私って計画性ないかも。
少し後悔しながらも2階に上がる。
階段を上がったすぐ正面にののちゃんの部屋のドアがある。
『ののの部屋』と言う可愛らしいプレートがかかっていた。
- 143 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時22分38秒
- 「ののちゃん?私、紺野ですけどぉ・・・」
「・・・あさ美ちゃん?」
「うん」
「あさ美ちゃん!きてくれたんだぁ!」
ドアの向こうからののちゃんの足音が聞こえる。
思ったより元気みたい。
ドアが開く。
「わざわざありがと、はいって?」
「おじゃまします」
ののちゃんはいつもポニーテールだったけど
今日は髪を下ろしていて少し雰囲気が違う。
何だかこっちの方が大人っぽく見えた。
「ののちゃんが学校休むなんて珍しいからちょっとビックリしちゃった」
「えへへ。ごめんね」
「ううん、それより謝るのはこっちの方。何も持ってきてないの・・・
実は」
「そんなのいいよぉ、来てくれただけでうれしいもん」
- 144 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時24分11秒
- それからしばらく私達は他愛のない話しをしていた。
「知ってる?駅前に新しいアイスクリーム屋さんができたの?」
「え?何それしらなぁい」
急に私がアイスの話題に変えると、瞳をきらきら輝かせている。
「3色アイスとか、つぶつぶアイスに、あと、8段アイスも
あるんだって!」
「8だんアイス食べたぁい!」
私達は食べ物の話しには弱い。
結構似てるのかもしれない。
「ねぇ、あさ美ちゃん。こんど一緒にそこのアイスクリーム屋さん
いこうよぉ」
「うん、行こう」
「じゃあゆびきりげんまんしよう?」
「あはは、うん、いいよ」
「「指切りげんまんウソついたらハリ千本の〜ます!
ゆびきった!」」
なんか小学生みたいで恥ずかしかったけどののちゃんは
喜んでいた。
それから映画を見る約束もして、原宿に行く約束
やお泊まり会の約束もした。
- 145 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時25分57秒
- もう、飲む針は5千本以上にもなっていた。
「それよりののちゃんの部屋ってキレイだよねぇ」
それはもっと前に言ってもいい言葉だった。
「そう?特になんもしてないよ」
と、ののちゃんは照れた風だ。
「でも私の部屋より全然キレイだよぉ、壁紙もこんな感じ
じゃないし」
改めてみると、水色の壁紙っていいなぁ・・・。
「ふふっののもお母さんもこの色すきなんだぁ」
「お店も水色だったよね」
「うん、こんど家中みずいろにしたいな」
さすがに家中はまずいよ・・・ののちゃん。
- 146 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時27分18秒
- その時、ふっと今日の後藤先輩との会話を思い出していた。
そういえば吉澤先輩の部屋の事とか言ってたなぁ。
『加護、そう言えばあんた最近辻と一緒じゃないけど
何かあったぁ?』
『ここ2・3日一緒にいないなぁって思ってたから』
突然その言葉が頭を過ぎった。
ののちゃんはどう感じているのだろうか。
机に視線が行く。
亜依ちゃんの写真・・・。
私も薄々思っていた。
たしかにここ2.3日ののちゃんと亜依ちゃんが一緒にいるのを見ないと。
やはり後藤先輩と何か関係があるのかもしれない。
少しののちゃんに聞いてみようかな・・・ううん!
そんな事できない!!
そんなのののちゃんが傷つくだけだよ!
- 147 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時29分37秒
- 私がそんな事を考えていると・・・。
「・・・あのさ」
やや曇った声が聞こえた。
ののちゃんのさっきまであった笑顔が消えている。
「・・・うん?」
「あのさ・・・あいぼんどうしてる?」
ののちゃんは少し思い詰めたような顔をしている。
何も言えない私。
「あさ美ちゃん・・・もう気づいてるよね」
何が言いたいかすぐに分かった・・・
と言うよりののちゃんはまるで私がさっき考えていた事
を読んだみたいだった。
私はただ頷く。
「あいぼんが何でおこってるかは知ってるの・・・
わたしがあいぼんのじゃましたから・・・」
少し声が震えているのが分かる。
- 148 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時32分11秒
- 「邪魔・・・?」
ののちゃんは私の目をじっとみて、ゆっくり頷く。
その大きな瞳が少し潤んでいるように見えた。
「・・・後藤先輩と遊びたがってたあいぼんにムリヤリついてこうと
したの。そしたらののは来るなって追いかえされちゃって・・・・」
「・・・・うん」
ののちゃん・・・・
「でも・・・後藤先輩があいぼんに辻と遊んであげなって言ったの。
そのあと、後藤先輩が帰ったら、おまえなんかキライだって言われて・・・
あいぼんのこと泣かせちゃったよ・・・」
「ののちゃん・・・・・」
「わたし・・・さいていだね」
どうしてそこまで亜依ちゃんの事を・・・・。
「そんな事ないよ・・・」
「ううん・・・ひどい事した・・・」
どうして自分を責めるの?何も悪くないじゃない・・・。
私は言いようのない怒りを感じた。
こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。
- 149 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時33分49秒
- ののちゃんはとうとう泣き出してしまった。
ののちゃん・・・
そんなの友達なんかじゃない。
だって亜依ちゃんはののちゃんより後藤先輩を選んだんだよ?
そんなんじゃ、ののちゃんが可哀想すぎる。
私も後藤先輩は好きだけど・・・でも今はののちゃんの方が大切だよ。
私はののちゃんの事泣かせたりしないよ?
ののちゃんには私がいる。私がいるから、だから――――
- 150 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時35分31秒
- そう言いたかった・・・・。
言えないのは、ののちゃんにとって何より
大切な人は亜依ちゃんだから・・・。
私がどんなに頑張っても亜依ちゃんにはかなわないから。
ねぇ、ののちゃん・・・ののちゃんにとって
私は何番目?
もし、亜依ちゃんより私の方が先に出会っていたら何か変わってた?
叶わない望みかもしれないけど・・・。
だって、私には亜依ちゃんの代わりは無理だもんね・・・
それくらい分かってる。
- 151 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時37分39秒
- だから―――――
「ねぇ、ののちゃんもう泣かないで・・・?」
「ごめん・・・ありがとあさ美ちゃん」
今私に出来るのは―――――
「きっと許してくれるよ・・・」
「それはムリだよ・・・大嫌いっていわれちゃったし・・・」
「一生懸命謝れば許してくれるって」
「でも・・・・すごい怒ってたよ?恐くて話しかけられないよ」
あなた事を―――――――
「・・・そっか、じゃあ・・・手紙は?」
「て・・・がみ?」
応援するだけです。
- 152 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月18日(水)23時39分45秒
- 「そう、手紙。ちょっと古いやり方だけどメールより
一生懸命書いた手紙をもらう方がうれしくない?」
「・・・そうだよね。そっか!あさ美ちゃん頭いい!」
「そんな事ないけど・・・」
「明日は学校これそうなの。だからさっそく明日わたして
みるね」
ののちゃんの瞳が輝く。
・・・これでよかったんだ。
「そうだね」
それからしばらくして、ののちゃんのお母さんに夕飯を誘われ
たけど断って帰る事にした。
なんだか心にぽっかりと穴が開いたような気がした。
外はさっきよりも寒く感じた。
- 153 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月19日(木)00時01分18秒
- おもしろいです。更新楽しみにしてます。
もやもやとした暗い予感にひきつけられます。
どうなるんだろう…
- 154 名前:名無し娘。 投稿日:2002年12月19日(木)18時04分31秒
- 後藤さんがあいぼんにののの事を聞いてからは画面をスクロールするのが怖かったよ…
でもまだ(w大丈夫だったから良かった。
実はホラーだけでなく切ない話でもあったんですね。
もしかして今回の短編集書かれましたか?いくつか思い当たるのがあります。
- 155 名前:青のひつじ 投稿日:2002年12月24日(火)15時38分40秒
- >名無し読者様
ものすごく暗い話しにしてしまったのですが
楽しみにしていただいて幸いです。
更新はもう少しで出来ると思います。
>名無し娘。様
短編集は書いてないですね〜。
思い当たる作品とは何ですか?気になりますねぇ。
実は、まだ読めてないんですよ。
- 156 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)02時50分18秒
- 「できた・・・」
あれから、あさ美ちゃんがかえったあと、ののは・・・・じゃなくて
わたしはさっそく手紙をかくことにした。
なんて書いていいのか分からなかったから、結局、朝になってやっと
できた。
手紙に集中してたから熱もさがったみたい。
でもちょっと長くなっちゃったかな?
わたしはお気にいりの水色の封筒に手紙をいれた。
なんだかあいぼんがゆるしてくれるような気がして
顔が自然とほころんでいた。
カーテンのすき間から日がさしている。
カーテンを開くと、昨日までじめじめしていた空が
今日はカラッとした真っ青な空だ。
なんだか今日は、いいことありそう。
- 157 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)02時53分01秒
- その時、扉からノックの音がきこえる。
「希美ー?入るわよー?」
お母さん。
「うん」
入ってきたお母さんは、おぼんに風邪薬とおかゆをのせて
やってきた。
まったく、心配性なんだから。
「希美、熱どう?」
「うん、もう下がってるみたい。
だから今日はがっこういくね?」
「でもまだ顔赤いわよ?一応風邪薬もってきたから
飲んでおきなさい」
「わかったからあんま心配しないでよぉ」
「またそんな事言って、ぶり返したらしらないわよ?
今日も大事をとって休んどきなさい」
「だいじょうぶだよ・・・今日はいくから」
「希美・・・」
- 158 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)02時54分50秒
- 「もーう。心配性なんだからぁ、ただのかぜだもん」
「本当に知らないわよ?とりあえず熱でも計っておきなさい」
「いいから、もう出てってよう!」
「まったく・・・・」
お母さんはブツブツいいながら部屋からでていった。
わたしはふぅっとため息をついて安心した。
なんとなく手紙の存在にきづいてほしくなかったから。
わたしはお母さんのもってきたおかゆの鍋ぶたをとる。
しろいゆげがふわっと浮き上がる。
「いただきます」
おかゆをさましながら、一口ずつくちに運ぶ。
- 159 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)02時55分53秒
- わたしは、まんなかにある梅干しをおはしで少しくずしながら、ごはんと
一緒にたべるのがすき。
おかゆはすぐに無くなった。
少し・・・というよりだいぶ物足りないけど、時計はもうすぐ8時だったので
、ハンガーにかかっている制服をはずす。
かみのけをいつも通りしばり、そしてカバンに手紙をいれる。
そしてかがみの前に立つと。
「よし、かんぺきです・・・」
・・・あれ?このセリフどっかで聞いたことあるような・・・。
まぁ、いっか。
- 160 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)02時57分30秒
「いってきま〜す!」
「ちょっと!本当に行くつもりなのー?」
お母さんが何かいっていたけど、わたしはよく聞こえなかったので
そのまま家を出た。
少し歩いたところで自然と足がとまる。
あの花・・・もう枯れてる。
電信柱のすぐ横にいつも花がそえてある。
こうつう事故があったらしい。
そこにある花は枯れるたびに、誰かがまた新しい花にとりかえてくれるらしい。
でもなぜか1・2日で枯れてしまう。
そうだ、今日がっこう終わったら花を買いにいこう。
わたしが新しいのと取り替えてあげよう。
わたしはそう思うと再びあるきだした。
- 161 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)02時58分30秒
しかし、途中でおなかがぎゅるるるってなっていた。
やっぱりおかゆだけじゃダメだぁ・・・。
でも今から家には帰れないしなぁ・・・。
かるかった足取りも少し重くなった。
お昼までもたないな・・・でもがんばろっと。
あいぼんのためだもん!
- 162 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時00分31秒
教室にはいった瞬間。ちょうどあいぼんと目があった。
「おはよう、あいぼん」
「・・・・・」
あいぼんは何も言ってくれなかった。
そうだ、まだ仲直りしてなかったんだっけ・・・
ついつい仲直りした気でいた。
わたしが少し落ち込んでいると、あさ美ちゃんがやってきた。
あいかわらず口をぱくぱくさせている。
「ののちゃん、本当に学校来れたんだ。体はもう
平気?」
「もうすっかり。あと、昨日あさ美ちゃんが帰ったあと、手紙
かいたんだぁ」
わたしがそう言うと、あさ美ちゃんはほんのり笑って。
「そうなんだ〜で、どんな感じ?」
- 163 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時02分24秒
- 「それは言えません」
「え〜教えてよぉ〜」
あさ美ちゃんは口をへの字にまげている。
「じゃあ、こんどおしえるね?あいぼんにわたしてから」
「約束ね」
「うん、じゃあ指切りする?」
するとあさ美ちゃんは、少し戸惑ったようすで。
「えっいいよ、そこまでしなくても。ここ学校だし」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのにぃ〜」
「別にそういうわけじゃ・・・」
わたしが口をぷくっとふくらませて言うと
あさ美ちゃんはますます口をぱくぱくさせ、戸惑っていた。
その顔がおもしろくてついつい笑っちゃいそうになる。
「ふふっ怒ってないよ」
わたしがそう言うとあさ美ちゃんはホッとした感じでほほえんだ。
- 164 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時04分14秒
- その時、またわたしのおなかがぎゅるるってなった。
「あ・・・・」
少しはずかしかった。
「ののちゃんお腹空いてるの?」
「うん・・・朝一応たべてきたんだけど」
「そっか。じゃあちょっと待ってて」
「え?ああ、うん」
するとあさ美ちゃんはスカートをひるがえして
自分のつくえまで小走りしていってしまった。
そっちを見てみると、何やらカバンのなかを探っている様子。
すると、今度はカバンをそのまま持ってこちらへ
向かおうとしている。
しかし、途中でカバンについてたミッキーのキーホルダーが落ちてしまって
拾おうとしてあたまを下げたら、隣にいた人も拾おうとしたのか
その人と頭をぶつけている。
かなり謝っている。
- 165 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時08分40秒
- 「・・・あさ美ちゃんっておもしろい」
わたしがそう呟いていると。
「ののちゃん、持ってきたよ」
「え?何を?」
あさ美ちゃんはクスと笑うとかばんから
何かを出してわたしに見せる。
「はい」
「・・・・す、酢昆布?」
「当たり!はいこれあげるね?たいして
お腹いっぱいにならないと思うけど」
あさ美ちゃん・・・わざわざわたしのために
す、酢昆布を・・・・・・・酢昆布・・・。
「う、うんありがと」
「どういたしまして」
あさ美ちゃんはまたほんのり笑う。
ののは・・・・・・じゃなかった・・・
わたしはあさ美ちゃんが声をだしておもいっきり笑ったところ
を見たことがない。
- 166 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時11分42秒
- いつも少しだけ笑う。
でもわたしはそんなあさ美ちゃんの笑った顔がすきだった。
うん、もうずっと前から。
あさ美ちゃんは気づいてないけど・・・。
「あ、先生来たみたい」
あさ美ちゃんの言葉にわたしは前の扉のほうへ目をむける。
「出席とるでぇ!はよ座り!」
中澤せんせいだ。
そういえばこのごろ保田せんせいをみないけど
どうしたんだろう。
「ののちゃん、もういくね?今日、がんばってね」
「ありがと」
今日がんばってね、か。
でもいつわたそっかな・・・手紙。
- 167 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時13分02秒
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- 168 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時14分26秒
なんだかそわそわして授業にぜんぜん集中できない。
最初は1時間目の授業がおわったらあいぼんのところにいって
手紙をわたすだけっていう計画だったけど、どうも勇気がなくて
話しかけられないでいた。
そんなことをくりかえしていたら、とうとう昼休みもおわってちゃって
、結局午後の授業にはいってしまった。
でもわたしはどうしても今日わたしたい。
別にふかい理由はないけど、ただ、はやく仲直りがしたいだけ。
でも、わたすとしたらいつにしようかな。
この時間がおわっても、もう帰りだしな・・・。
呼び出してみようとも思ったけどこんな調子じゃ来て
くれないかもしれない。
そして、わたしにもそんな勇気はないしね。
- 169 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時15分29秒
- ・・・・つくえの中に入れるのはどうだろう。
あ、でも帰っちゃうんだよね。
これじゃ読むのも明日になっちゃう。
あいぼんが帰るまえに、下駄箱のなかに入れるっていうのはどうかなぁ。
それでいいかも。そしたら家に帰ってからゆっくり見てもらえる。
そうしよ。
ふと、まどの外を見てみると、朝はあんなに晴れてたのに
今はどんよりした梅雨の空にもどっていた。
なぁ〜んか嫌なかんじ・・・。
- 170 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時16分58秒
「さん・・・辻さん?」
「ふぇ?」
いきなり名前をよばれたので、ついついまぬけな声をだしてしまった。
ドッとクラスのみんなが笑う。
「・・・?」
すると、せんせいがふぅっと、ため息をついて。
「辻さん。何度呼ばせたら気がすむの?あなた今なんの授業
だと思ってるの?今は数学よ!す・う・が・く」
「はぁ・・・?」
またみんなが笑う。
せんせいは眉毛をぴくぴくさせている。
「辻さん。あなたが今一生懸命見ている、その教科書は何?」
わたしは自分の手元をみる。
「・・・しゃかいです」
「それも逆さま」
- 171 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時18分37秒
- またみんなが笑う。
中には指をさして笑っている子もいたし、手をたたいている子もいた。
わたしは恥ずかしくなって下をむいてしまった。
でも、少しだけ目線をあいぼんのほうにむけてみた。
あいぼんはわたしの事なんて、これっぽっちも
みてなかった。
その時、丁度よく授業のおわりを告げるチャイムがなる。
わたしはホッとむねをなで下ろした。
せんせいはわたしのほうに向けていた体を、くるりと黒板のほう
にむけると。
今まで、わたしのことを笑っていたみんなも体を黒板のほうへむける。
「はい、今日はこのへんで終わりです、宿題は・・・」
せんせいは宿題の範囲をいいはじめた。
わたしはもう聞いてなかったけど・・・。
- 172 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時19分47秒
授業が終わるとみんないっせいに帰りのしたくをはじめる。
わたしはすばやく荷物をまとめると、教室をでる。
「コラ。廊下を走らない」
安倍せんせいだ。
「すいません」
少し頭を下げると、安倍せんせいは納得したようにうなずくき
角をまがっていってしまった。
それを確認すると、また走りだす。
もちろん行き先は下駄箱。
- 173 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時21分09秒
下駄箱にはまだだれもいなかった。
わたしが最初みたい・・・。
これでだれにも見られずにすむ・・・。
あいぼんの下駄箱はわたしのすぐとなり。
カバンから水色の封筒をとりだす。
両手の手のひらに封筒をはさんで。
「どうかあいぼんとまた仲良くなれますように」
と、下駄箱と封筒におがんだ。
わたしはそのまま封筒をあいぼんのくつの上にそーっと
のせる。
「よし」
「人の下駄箱に何してんの?」
- 174 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時23分44秒
- 聞きなれてるけど、いつもよりずっと冷たい声。
はっとして声のほうにふり返る。
「・・・あいぼん」
どうしてこんなに早く・・・・?
あいぼんはこちらをにらんでいる。
そして真っ直ぐにわたしの側へやってくる。
「何?ひょっとしてウチに無視されてる事
根に持って、靴でも隠そうとでも思ったん?」
冷たい表情。冷たい声。
「ちが・・・」
あいぼんはチッと舌打ちして。
「もっとはっきりしゃべったらどうなん?
あんたのそういうとこ一番ムカツクねん
今日やって授業終わるたんびにウチの目の前うろうろ
してどう言うつもりなん?もう付きまとわんといてくれる?」
- 175 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時26分10秒
- あいぼんは言い終わると大きなため息をついた。
わたしはどうしたらいいのか分からない・・・。
「ほら、何も言えへんのはやっぱり嫌がらせやな。ウチはそ〜いう
ネチネチした奴は嫌やねん」
「ち、ちがうの・・・ただ後藤せんぱいのことをあやまりたくて」
するとあいぼんはフンッと笑う。
「謝る?何を謝んねん?ウチはべつに謝られる覚えはないで?」
「でもあの時、あいぼんが泣いてたから――――」
わたしの言葉に、あいぼんはカッと目を見開いて。
「うっさいわ!泣いてなんかあらへん!
あれは関係ないんや!」
「じゃあどうして無視するの?」
「早くそこどいてくれへんか?早う帰りたいねんけど」
「言ってくれるまでどかない」
「はぁ?あんたいくつや?もう中3やろ。」
「いくつでもいいもん!ガキでもいいもん!
ただほんとのことがしりたいんだもん!」
- 176 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時28分35秒
- 自分でもビックリしてた。
だって人にこんなに怒るなんてはじめてだったから。
だからあいぼんも少しおどろいてるみたいだった。
でも、すぐにもとに戻って、今度は大きくため息をついた。
「別に理由なんてあらへん。ただあんたが嫌いなだけや!」
嫌い―――――
その言葉がでた瞬間、カッと瞳のおくがあつくなった。
一番あいぼんの口から聞きたくなかった言葉―――――
- 177 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時32分51秒
わたしは。
「・・・もう前みたいにしゃべってくれないの?」
鼻のおくもいたくなってきた。
「・・・・・」
あいぼんは何も言わないでじっとわたしを見ている。
「・・・もう前みたいに一緒にかえってくれないの?」
頭がいたい。
「・・・・・」
「・・・もう一緒に写真もとれないの?」
目がぼやけてあいぼんがよく見えない。
いったい今どんな顔でわたしを見てるの・・・?
「・・・・」
「・・・もう一緒にケーキ食べてくれないの?」
もうぜんぶ終わりなの・・・?
- 178 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時36分02秒
- 「・・・・」
「・・・ねぇ、わたしはどうすればいいの?もう二度とあいぼん
とは友達にもどれないの?」
とうとうわたしの目からこらえてたものが零れてきた。
あいぼんはまたため息うつく。
「・・・自分のこと、名前で呼ぶのやめたんやな。
まぁ、ウチはあんたのそういうガキっぽいとこもあんま好きや
なかったけど。でも結局はすぐ泣いてまうとこは何ひとつ変わって
ないねんから意味ないけどな・・・」
「・・・・知ってたよ。それくらい」
だから一生懸命なおそうとしたんだよ・・・。
少しでもあいぼんに近づくために。
「ふぅん・・・結局ののはウチにどうしてもらいたいんか?」
「・・・あいぼんは後藤せんぱいのことで怒ってるんだと思ってた
あの時、じゃましちゃったから・・・ゆるしてほしいなって思って
ここに来たの」
- 179 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時38分01秒
- 涙はなんとかひいたけど、かすかに声はふるえていた。
その時、遠くのほうから楽しそうな声が聞こえる。
そろそろ下校する生徒がやってくる。
でももうそんなことは気にならなかった。
すると。
「・・・ええで、別に」
「・・・・・・!?」
ちいさな声だったけどはっきり聞こえた。
わたしはあいぼんの言葉に耳をうたがった。
「ほんとに?」
わたしはついまぬけな声で聞き返してしまう。
「うん・・・・・・ただし、条件があるで」
- 180 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時39分26秒
あいぼんはゆっくりうなずく。
何人かの生徒がわたしとあいぼんのことを横目でチラッと
みてはとおりすぎる。
あいぼんの瞳がきらりと光った。
「・・・・校舎裏の沼、知っとるやろ?」
――――ぬま?
一瞬しんぞうがどきっとした。
あいぼん、いったい何をさせるつもりなの?
あいぼんは口もとだけで笑みをうかべる。
- 181 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2002年12月28日(土)03時40分32秒
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――――――――
―――――――
――――――
―――――
- 182 名前:青のひつじ 投稿日:2002年12月28日(土)03時42分48秒
- ・・・かなりあいぼんを悪者にしてしまいました。
ファンのかたすみません。
でもあいぼんにはちゃんと後で見せ場を作りますので・・・
お許し下さい。
- 183 名前:名無し娘。 投稿日:2002年12月28日(土)03時55分10秒
- 泣いちゃうよ〜!!
こんなの読んだら泣いちゃうよ〜!
先を想像したら泣いちゃうよ〜!!
くそっ!おもしれー!!
- 184 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)01時31分04秒
- ますます暗くなってきて、続き読むのが怖いような。
でも読みたいなー。
- 185 名前:青のひつじ 投稿日:2003年01月10日(金)16時54分51秒
- >名無し娘。様
毎度レスありがとうございます。
あまり泣かさないようがんばりますね。
>名無し読者様
毎度レスありがとうございます。
そう言っていただけるなんて嬉しいです。
- 186 名前:チップ 投稿日:2003年01月11日(土)01時01分28秒
- ホラーと聞いたその日から、ずっと読まないでおこうと思っていたんです。
思っていた、思っていたのに・・・・・
なんで読んでもうたんや〜映画のホラーとかは
全然平気なんですけど、活字でこられると弱いんです。
続きが怖い、あいぼん怖い。でも読みたい。
今日初めて読んで見事にはまってしまいました。
恐怖に慄きつつ続き待ってます、がんがって下さい。
- 187 名前:青のひつじ 投稿日:2003年01月11日(土)18時54分53秒
- >チップ様
初レスありがとうございます。
がんばりますので、これからもよろしくお願いします。
- 188 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時37分12秒
- 「いらっしゃいませ!」
てんないから元気のいいおばさんの声がひびく。
わたしは少しかんがえて、自分のすきな花を一本てにとる。
「コスモスだね?300円になります」
おばさんはわたしからお金をうけとると、かおをくしゃっとさせて笑い。
「おじょうちゃん、今時の子にしては珍しいね?花なんてわざわざ
買う子なんてもういないよ」
「は、はぁ」
そんなこと言われても、なんて言っていいかわからなかった。
- 189 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時38分32秒
- 「ありがとうございました」
わたしは足早に花屋さんからでると、まっすぐいかなくちゃいけない
ところがある。
あの電柱の場所。
今朝、がっこうに行く時、あそこに花を持っていこうと
思っていたから。
多分、わたしが添えた花もすぐに枯れてしまう。
でも、これからは自分があの場所に花をもっていこうおもう。
だって、なんとなく花が枯れたまま置いてあるなんてかわいそう
だとおもうから。
わたしは電柱の下にしゃがみこみ、枯れた花とコスモスをこうかんした。
そして、両手をあわせて『どうか天国にいってください』
とねがった。
- 190 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時40分33秒
- わたしはコトを終えると、いつもより重いカバンを
肩にかける。
そこから真っ直ぐいけばわたしの家。
だけどわたしはそこから逆方向にあるきだした。
これからまたがっこうに行かなくちゃいけない。
あの後、あいぼんがこう言った。
『今から先生に言って、視聴覚室のカギをもろうて来て。
そこにあるビデオカメラを借りるんや。ええか?誰にも
バレたらあかんで?』
そこまで言うと、今にも泣きそうなわたしに、かおを近づけて
ぶきみに笑う。
『そのカメラであの沼を録ってこい。みんなが最近騒いでる
ユーレイってヤツを録ってくるんや。もちろんウチはそんなもん信じてへん。
そのカメラに別にユーレイなんか映ってへんでもええ。
ただ、沼に行けただけでも、その勇気を買うさかい。許したるわ。
そのカメラはその証拠みたいなもんや』
わたしは震えをおさえながらゆっくりうなずいた。
- 191 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時41分56秒
- 『でも逃げたりしたら一生許さへんからな』
と、最後にはきすてるように言った。
どうしていいか分からなかったわたしだけど、
とりあえず言うとおりにすれば仲直りできると思った。
わたしだってユーレイなんかこわくない。
「辻・・・さん?」
- 192 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時45分13秒
聞きおぼえのある声に、はっとしてふりかえると、そこには
高橋さんが立っていた。高橋さんとはあんまりしゃべったことがない。
「どうしたの?帰ったんじゃないの?」
高橋さんが小首をかしげながらわたしに聞く。
「う、うん。ちょっとわすれものしちゃったから。高橋さんは?」
「あたしも忘れ物。奇遇だね」
「そうだね・・・宿題忘れたの?」
「う〜ん、そうと言えばそう。美術のレポートかな。ホラ、意味分かんない
じゃない?あれ」
「ぶらっくほーるのヤツ?」
「そうそう、だから飯田先生にヒントもらおうと思って
わざわざ家まで取りに」
「へぇ、えらいね。まじめなんだ」
「そんなことないよ。家近いし・・・辻さんは?」
「え?・・・わたしも宿題・・・かな」
- 193 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時47分24秒
- 「そう・・・・あ・・・あのさ」
「ん・・・?」
「あのさ、ちょっと見ちゃったんだけど。あのコスモス・・・」
「え?・・・うん、枯れてたから、かわいそうで」
「そっか、優しいんだね。辻さん」
「そうでもないけど・・・」
「でも、あんまりあの電柱の場所に近づかない方がいいよ
変な噂あるし・・・お花とかあんま意味ないかも」
「そうだね・・・」
「うん・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
はなしがつづかなくて、お互い少しきまずかった。
「じゃあ、あたしはコッチだから」
と、高橋さんがわたしがいく道とは逆方向の道をゆびさした。
「そうだね・・・じゃああしたね?」
「うん、明日。バイバイ辻さん」
「ばいばい」
- 194 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時49分01秒
高橋さんがいなくなってすこしホッとした。
わたしはふたたび歩きはじめる。
この角をまがったらもう、がっこうだ。
- 195 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時51分08秒
正門をくぐると、すいそうがくの演奏がきこえてきた。
音楽のことはあんまりわからないけど、これはよく運動会で
ながれる曲だ。運動会はまだずっとあとなのに。
グラウンドにはテニス部がれんしゅうしている。
ちょっと遠くのほうに、いしかわ先輩がいる。
いしかわ先輩はああみえて、しゅしょうをやっているらしい。
今は後輩をおしえてるみたい。
ふだんはよしざわ先輩や、やぐちさん
にからかわれている時とまったくちがう。
でも、わたしは知ってる。
こうはいをみている時のいしかわ先輩って、とっても優しいめをしてて
ホントに先輩みたいな感じ。
わたしはいしかわ先輩にみつからないように、少し小走りしてグラウンドを通り
過ぎた。
- 196 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時53分12秒
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- 197 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時55分16秒
「いっちにいさ〜んし・・・・あの・・・いつまでやってればいいんですか?
素振り・・・って石川先輩?」
「・・・・え?」
「石川先輩、どうしたんですか?急にボーっとしちゃって」
「ああ、ごめんね?知ってる子がいた気がしたから」
「知ってる子?・・・どこにもいないですよ」
「ん、そうだね。私の勘違いみたい」
「石川先輩疲れてるんじゃないですか?少し休みます?」
「そうねぇ、ちょっと休憩・・・・・って望月さん!その手にはのらないわよ!?
さぁ練習、練習!!」
「・・・・ちぇ」
「まったく・・・(あの子、多分辻ちゃんだった気がする・・・今日部活
どうしたんだろ)」
- 198 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)21時58分38秒
- グラウンドをとおり過ぎると、わたしはもう校舎裏にいた。
じつはここに来たのははじめてなんだ。
なんだか表とはぜんぜんちがう。
わたしはあんまり頭よくないから、こういう時、どんな言葉を
つかっていいかわからないけど、ここは空気もふんいきも
ぜんぜんちがう。どんなに晴れていても、ここに来るとくもって
いるみたい。そんな感じ。
足をふみいれてみると、土はぐっしょりぬれていた。
「あれ・・・今日雨ふったっけ・・・?」
おそるおそる、また進んでみると、なんか臭いにおいがする。
雨のひによくするにおいだ。
わたしはこわかったけど、視線をまえのほうに移してみた。
しんぞうがドキリとした。
- 199 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時00分15秒
- えほんに出てくる、まじょの住む森とかによくあるような
ぶきみな木・・・そしてそのすぐ横には・・・。
おおきな穴みたいなのがポッカリ地面にあいてる。
でも穴にみえたその部分は、水だ。ウワサに聞いたまっくろい水。
「あれが・・・・おくたまの底なしぬま」
あたまのあたりはすごく熱いのに、かたのあたりはすごく寒く
感じた。
わたしのかみの毛よりまっくろくて、絵のぐでぬったような
そんな色をした水。まちがってもあの中には入りたくないと思った。
わたしは震える足をどうにか少しずつまえへ、まえへ進める。
ぬまから1メートルくらい距離がちぢまった時、わたしは足をとめる。
- 200 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時01分54秒
- ココカラニゲダシタイ
あたまにその10文字がうかぶ。
しかし、わたしは勢いよくよこにあたまをふり、その文字を消す。
ここでにげたらあいぼんをうらぎってしまう。
そう思った。
わたしは大きくしんこきゅうをする。
そして、かたに掛けてたカバンを下におろすと、中をあけて
しちょうかく室からとっておいたビデオカメラをだす。
「・・・え〜っと」
しかし、わたしはそこで手がとまった。
「・・・どうやってつかうんだろ」
わたしは、ろくにきかいなんてつかったコトないし・・・
ホントどうしよう。
わたしは適当にめにはいったボタンをおしてみる。
「ここのボタンかな・・・・うわっなんか光った!?」
その時、ピッという音とともに、がめんに『録画』という文字がでてきた。
たぶんこれでいいのかな。
わたしはなんだかよく分からないまま、ビデオを手にし、とりあえずぬま
を写してみた。
そして少しだけぬまのまわりを歩いてみることにする。
- 201 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時03分32秒
- 「・・・・・なんかイヤな感じ・・・」
こうしてずっと、このまっくろなぬまをみていると
あたまがおかしくなりそう・・・・。
でも、わたしはしばらくずっとそうしていた。
そして――――
「なんだ・・・なにもないじゃない」
わたしはそうポツリと言ってみた。
っていうより自分にそう言いきかせただけで、かえるこうじつを
さがしていただけなのかも・・・。
そのとき、すこし強い、生ぬるいようなかぜがふいた。
- 202 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時06分23秒
わたしは片手でめくれそうになるスカートをおさえる。
その瞬間、わたしはぎょっとした。
かぜのせいでクヌギの木からいちまい葉っぱがおちる。
まるでスローもションのようにキレイにおちる葉っぱは
沼の方へ。
しかし、おちている葉っぱはくろい水面から10pほどの距離までおちると
吸いこまれるようにくろい水のなか消えていった。
ありえない―――――
葉っぱはかるいのに、あんなカンタンに沈んでいかないと思う。
わたしは頭はよくないけど、それくらい分かる。
- 203 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時08分51秒
- それにこの沼は・・・・ホントに沼なの?
何かちがう気がする・・・・。
ううん、もう分かってる。
これは水じゃない――――――!?
コレハナニ・・・?
くろいモヤみたいな固まり。
どろどろした・・・やみ。
ひかりも何もうつらない・・・
わたしは・・・・・ここから逃げたくなった。
これいじょうココにいちゃいけない気がする。
―――― もう、家にかえろう!!
しかし、ソレは許されないことだった。
- 204 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時11分28秒
- わたしの足はなにものかにひっぱられているみたいだ。
前にすすめない・・・足がだれかにつかまれてるみたい!?
いったい何――――――――!?
わたしはおもいきって足の方に顔をむける。
――――――― !?
わたしの足に、くろいモヤのような糸がぐるぐる巻きついていた。
「いやああああああああああああああああああああっ!?」
――――― わたしはどうなるの!?
――――― いったい何がおころうとしてるの!?
- 205 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時13分18秒
- わたしはそのモヤに足をとられたために、地面へ、バタンという
音をたてて、うつぶせにたおれてしまう。
ビデオカメラが地面におちてころがる。
「っいや!いや!はなして!!・・・だれか・・・だれかぁあ!!」
くろいモヤはどんどんわたしに巻きくる。
足からふとももに、そしてこし、お腹。
「ぃやぁああ・・・!いやぁあだぁぁ!!たすけてぇ!!たすけ・・・っ!?」
わたしは無性に地面を爪でひっかき、もがく。
爪がわれて、血がでてもひっかきつづける。
とうとうモヤは首からわたしのくちもとへ!
「っんぐ!?・・・んんっ!!」
―――――― 苦しい!!
――― 息が・・・できない・・・
もうわたしのからだは動けない。
そしてズズッ、ズズッという音をたてて、わたしを中へ
引きずろうとしている。
わたしは爪がわれて血まみれの手で、なおも地面に両指をたてる。
――――― 死にたくない!!
- 206 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時14分19秒
- わたしはそのモヤに足をとられたために、地面へ、バタンという
音をたてて、うつぶせにたおれてしまう。
ビデオカメラが地面におちてころがる。
「っいや!いや!はなして!!・・・だれか・・・だれかぁあ!!」
くろいモヤはどんどんわたしに巻きくる。
足からふとももに、そしてこし、お腹。
「ぃやぁああ・・・!いやぁあだぁぁ!!たすけてぇ!!たすけ・・・っ!?」
わたしは無性に地面を爪でひっかき、もがく。
爪がわれて、血がでてもひっかきつづける。
とうとうモヤは首からわたしのくちもとへ!
「っんぐ!?・・・んんっ!!」
―――――― 苦しい!!
――― 息が・・・できない・・・
もうわたしのからだは動けない。
そしてズズッ、ズズッという音をたてて、わたしを中へ
引きずろうとしている。
わたしは爪がわれて血まみれの手で、なおも地面に両指をたてる。
――――― 死にたくない!!
- 207 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時17分22秒
- 『のの!おんなじ中学いこうや』
―――――― わたしはまだやりたいコトたくさんあるのに!?
『一緒に写真とらへん?ウチ写真すきなんや』
―――――― わたしはこれで終わりなの!?
『そぉか、ののはケーキ屋になりたいんか。じゃあウチは写真家になりたいわ』
―――――― いやだよぉ・・・いやだよぉ!!
『ウチ・・・後藤先輩がすきやねん・・・変かな、ウチ』
――――― わたしが・・・のの・・・・ののがいなくなっちゃった
ら・・・お母さんは!?あのおみせは・・・!?お花はだれが
かえてくれるの!?じゃあ、あいぼんは ――――!?
- 208 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時21分03秒
ののの体のはんぶんは、もうぬまにつかっている。
沼に体がはいっていても、冷たくはなく、あたたかくもなく、
なにも温度をかんじないし、体がぬれている感覚もない。
―――― だれか助けて!おねがい!!・・・だれか!!
いやだよ・・・!!こんなのぉ!!怖い・・・怖いよぉ!!
―――――― たすけてぇ!・・・・たすけてぇ
たすけて・・・・・・・いや・・・だ・・・
やだ・・・・い・・・や・・・・・・
・・・・・
- 209 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時23分31秒
- 210 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時25分40秒
『ごめんなさい!』
『すごい!こんなおいしいの作れるんだ!』
『ねぇ、ののちゃんもう泣かないで・・・?』
『そう、手紙。ちょっと古いやり方だけどメールより
一生懸命書いた手紙をもらう方がうれしくない?』
『ののちゃん?私、紺野ですけどぉ・・・』
・・・・たす・・・けて・・・あさ美ちゃん・・・・・・・・
- 211 名前:3話 危険な遊び 投稿日:2003年01月14日(火)22時27分59秒
その時、辻希美の目の前は真っ暗になった。
最後に彼女の脳裏に浮かんだのは母親でも、加護でもなく
紺野のほんのりとした笑顔だった。
- 212 名前:青のひつじ 投稿日:2003年01月14日(火)22時36分30秒
- まず二重投稿すみません・・・。
そして辻ちゃんファン方々。もっとすみません。でも、一応どこかに救いもつくってありますので・・・・。
辻ちゃんを語りにしたので、読みにくい部分や、説明が不十分のところも多々
ありますが、後から補っていくつもりです。
3話が終わり、いよいよ4話に入ります。
やはり長いですね・・・ずっと読んでくださっている方々は少し飽きてきた
かもしれませんが。どうか事の最後まで主人公、紺野さんと共に見届けて
やって下さい。
- 213 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月14日(火)23時09分55秒
- ひらがな多用が辻ちゃんぽくってとてもイイんじゃないかと。うまいなー。
話はさらに暗ーくなってきて…だけど続きたのしみ。
- 214 名前:名無し娘。 投稿日:2003年01月14日(火)23時18分07秒
- 飽きるなんてとんでもないです。楽しみに読ませて頂きました。
わかっていた事なんけどやっぱりかなしいもんだなぁ…。
- 215 名前:青のひつじ 投稿日:2003年01月17日(金)21時14分23秒
- >名無し読者様
レスありがとうございます。
辻ちゃんぽくっていいなんて言っていただけてうれしいです。
心に残るような作品になればと思っています。
>名無し娘。様
レスありがとうございます。
やはり悲しませてしまいましたね・・・(反省
ずっと読者を飽きさせない物を書けたらなって思ってます。
- 216 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月03日(月)01時29分22秒
- 静かに怖い・・・でも続きが気になる
- 217 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月04日(火)20時10分11秒
- >名無し読者様へ
レスありがとうございます。
怖いと言って頂けてとても嬉しいです。
更新は大変遅くなりましたが、明日には必ず更新します。
- 218 名前:二等兵 投稿日:2003年02月05日(水)16時58分21秒
- 自分はホラー系あんまり好きじゃないんですが、
このお話はいいですね!すごく怖いです…夜中に
一人で読みたくないです…(笑)
これからも更新がんばってくださいね!
- 219 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月05日(水)23時14分50秒
- >二等兵様
レスありがとうございます。
そう言って頂けると、やる気が沸きます!
がんばりますので、読んでやって下さい。
- 220 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時17分57秒
- ――――――――――
―――――――――
――――――――
―――――――
――――――
- 221 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時21分38秒
「しかたないわね紺野。圭織が特別にお教えしてしんぜよう」
飯田先生は変な日本語を使いながら得意げに言う。
「はぁ」
私は美術のレポートの為に、放課後残ってまで美術室に来ている。
まぁ、私が居眠りしていたせいなんだけど。
「あさ美が居眠りしてたせいだよ〜?」
「すいません、ウチのあさ美が迷惑かけまして。ホホホホ」
どうしてまこっちゃんや里沙ちゃんまで来てるんだろ。
「失礼しまーす。高橋も教えてもらいにきましたぁ!」
突然、前の扉から愛ちゃんが息を切らしてやってきた。
「愛ちゃん、帰ったんじゃななかったのぉ?」
「違うよぉ、やりかけのレポート取りに行ってたんだよ。まったくあさ美ちゃんは
水くさいんだから」
- 222 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時22分54秒
しかし、やりかけと言ったレポート用紙には何一つ書かれてはいなかった。
「ちょっ・・・何も書いてないじゃない!?」
すかさずまこっちゃんがつっこむ。
「まぁまぁ、細かいコト気にしな〜い」
そ、そうだけど・・・。自分で言うもんじゃないよ。
結局いつもの4人で、美術室に集結してしまった。
「はいはい、いつまでぐちゃぐちゃしゃべってるの?さっさと席
に着きなさい」
「「「「は〜い」」」」
前の席に、4人そろって腰を掛ける。
- 223 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時24分05秒
- 飯田先生は、それを確認すると黒板の前に立つ。
改めてみると、飯田先生は教師よりモデルさんの方があってるかもしれない。
そう思っちゃうくらい、スタイル抜群だ。
ただ、絵の具で汚れたエプロンさえしてなければ完璧なのになぁ。
飯田先生的には、そのエプロンをしてないと、落ち着かないとか。
飯田先生は一回、コホンと咳きをすると。
- 224 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時30分50秒
- 「いい?紺野が寝てたみたいなのでカンタンに説明するわね?」
そう言って、なにやら黒板に大きな写真を貼る。
多分ブラックホールの写真。図書室で星の本を読んだ時、同じようなのが載ってた。
「この写真は、話しの内容からして分かると思うけど、ブラックホールです。
NASAのX線観測衛星から撮影されたものよ。そんなにはっきり映って
無いけど、このモヤモヤとした、宇宙の中でも一際真っ黒な物が『ブラックホール』よ」
「うわぁ、なんか名前どうりな感じ〜」
写真をみて一番に反応を示したのは里沙ちゃん。
飯田先生はその反応に気を良くしたのか、ニコリと笑う。
「ブラックホールは宇宙誕生からわずか10億年後には誕生していたの。
ブラックホールが作られるにためには、太陽数個分の質量を、直径わずか
数キロメートルの領域の中に詰め込むエネルギーが必要なの。それはブラック
ホールの密度は、非常に高いのよ?でもね、その周囲の物体に及ぼす影響力
がなければ、ブラックホールの発見はできないといわれてるの。」
- 225 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時32分22秒
- 飯田先生は中学生にはとてつもなく理解できないような、難しい事を言っている。
「よく分かんないですけど・・・とにかくすっごいエネルギーがあるんですね」
まこっちゃんも分からないみたい・・・。
「まぁ、それくらい理解してればいいわ」
と、飯田先生もさらっと言う。
「これはこの前の授業でも言ったけど、ブラックホールは入ったら二度と出て
こられない場所と言われているの。それは光さえ吸い込んでしまうっていう
くらい膨大な重力を持っているから」
「だから真っ黒なんですよね」
まこっちゃんが相づちをうつ。
「そうよ。分かってるじゃん小川。今、小川が言った通りに、ブラックホールは
日本語に直すと『暗黒の穴』って言われているのよ」
「へぇ、なんか怖いですねぇ」
今度は愛ちゃん。
「そうね。空間にいきなり真っ黒い穴があるんだからね」
「って言うことは、吸い込まれたらやっぱり死んじゃうのかなぁ」
と、里沙ちゃん。
- 226 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時34分04秒
「う〜ん。それも前の授業で言ったんだけど・・・・ってあんた達
全くヒトの話し聞いてないね!?ホントしようがないわねぇ!
たしかにそれに関する事にはいろんな説があるんだけど、入った瞬間
から足のつま先から消えてしまうっていうのが有名かしら?
まぁ、そんな所に行ける方が難しいんだけど」
と、飯田先生は最後の方でクスリと笑う。
「っていう事はまだだれもブラックホールに行った事のある人っていないんだ」
もっともな意見を言う愛ちゃん。
すると飯田先生もしばらくう〜んとうなって。
「たしかにね。さっきも出たけど、NASAのX線観測衛星やアインシュタイン
やいろんな研究者達が調査しての結果だからね。本当の所は圭織にもわからない」
そこまで言うと飯田先生は一呼吸おく。
まこっちゃん達もただ頷いてた。
「あ、あとね。ブラックホールにはこんな説もあるの。それはね、『異次元の世界へ
の入り口』っていうんだけど」
「「「「異次元?」」」」
- 227 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時35分41秒
- 4人でハモってしまった。
「異次元ってドラえもんの?」
と、里沙ちゃんの言葉に愛ちゃんは。
「それは4次元」
と、すかさずつっこむ。
「そう、なんだか非現実的って思うかもしれないけど、異次元の世界は存在するわ」
飯田先生はきっぱり言い切る。
「今私たちがいる世界は3次元。絵の世界は2次元。1次元は、点のある世界
いろんな次元が入り交じっている世界が存在するなら、それ以上の世界だって存在する
はず。ただ誰も見た事がないだけよ。新垣がさっき言ったドラえもんでも、のび太君
の机の中ってああるじゃない?」
「タイムマシーンですか?」
「そうよ紺野。あのタイムマシーンに乗っている時、周りの背景はどんな感じに変化
してた?紺野」
「えっと・・・説明するのはちょっと難しいですけど、いろんな色がぐちゃぐちゃ
混ざってる感じ・・・ですか」
「具体的に言えばそうね。あれは現実にはあり得ないでしょ?あのぐちゃぐちゃした
空間を『カオス』と言うの。『カオス』こそ異次元、もしくは4次元の世界なのでは
って言われてるのよ」
- 228 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時37分27秒
- 「へぇ、なんか難しいなぁ」
まこっちゃんはため息をついた。
「え、でもなんかおもしろそう・・・」
私はなんかその手の話しに興味がある。
「里沙的に〜あさ美ちゃんのオタク意識が目覚めた〜?みたいな」
「でも異次元の世界ってあたし達も生きられるのかな」
愛ちゃんの最後の言葉に飯田先生は、またう〜んとうなる。
「それは圭織にもわからないなぁ、まぁ、さっきも言ったけど圭織達がいる今の世界
っていろんな次元が混ざってるでしょ?そんな世界で生きられるんだから、もしかしたら
・・・・っていうのもあるかもね」
「なんか話しが深いですねぇ〜」
納得したように頷くまこっちゃん。
その時、飯田先生は自分の腕時計に目をやると。
「あ!もう7時じゃない!?あんた達早く帰りなさい!?ついつい長話しちゃったわ!?」飯田先生の声に私達もビックリして。
「まじっスか!?あ!ホントだぁ!」
- 229 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時39分08秒
- まこっちゃんも叫ぶ。
「ああ!?里沙のTVタイムが始まる!!」
「ホントだぁ!?早く帰らなきゃ!『帰ってきた!華のOL3人組シリーズ第3弾
魅惑のエステ旅行殺人事件〜一流エステティシャンを名乗る詐欺の手口〜』が始まっちゃう!?」
そんな番組あったけ・・・?もしや福井テレビ?
「とりあえず早く帰りなさい!?あ、圭織が親御さんに連絡しとこうか?」
「あ、いいです大丈夫です。ね?みんな?」
と、まこっちゃんが聞く。
「「「うん」」」
今度は3人でハモる。
「今日はホントゴメンね?圭織長話しちゃう方だからさ」
「大丈夫ですって。今日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。小川。みんなも気をつけて帰りなさい?」
「「「「はい!」」」」
正門まで見送って行くと言う飯田先生と一緒に、私達も美術室を出る。
と、丁度その時。
- 230 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時40分29秒
- 「圭織〜!!」
タイミング良く、廊下の奥の方から、安倍先生の声がした。
「な、なっち!?」
すると、安倍先生がこちらに向かって走ってくる。
「・・・・?」
私達の所までようやくたどり着くと、安倍先生は、はぁはぁと息を切らしている。
そんな安倍先生を見て、飯田先生は目をまん丸にして。
「ど、どうしたのなっち!?」
「あ、あのね?つ、辻見なかった?」
「え?辻?ううん、美術室にはこなかったけど。何かあった?」
「今ね?辻のお母さんから連絡があって、まだ家に戻ってないんだって。
でね、辻は一応風邪ひいてるから、もしかしたら途中で何かあったんじゃないかって
言ってるの」
え!?ののちゃんが!?
私は心の中で叫んだ。
「そういえば、昨日珍しく学校休んでたからね・・・心配だわ・・・
紺野達、なんか知らない?」
私達は無言で首を横に振る。
- 231 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時42分12秒
- その時。
「せ、先生・・・」
愛ちゃんが恐る恐るといった感じで、おずおずと手を挙げる。
「どした?高橋、なんか知ってる?」
「あのぉ、あたし今日辻さんにあったんですけどぉ」
「「「「まじっスか!?」」」」
私達は声をそろえて愛ちゃんを注目する。
「う、うん。レポートを家に取りに行く途中に」
「そ、それで?」
飯田先生はもともと大きな瞳をさらに大きく見開いて。
「はい。学校に向かってるみたいでぇ」
「うんうん」
安倍さんの瞳は淡い期待の色をしていた。
「えっと・・・少ししゃべって」
「それから・・・?」
私も聞き入る。
「・・・・・バイバイした」
みんなで一成にガクッと頭を下げる。
- 232 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時43分31秒
- 「なんじゃそりゃ!それだけ?」
まこっちゃんがつっこむ。
「あー、そういえば何かソワソワしてるような感じで」
「ソワソワ?」
「あとぉ・・・事故のあった電柱に、花添えてた・・・」
「・・・花?」
「うん・・・あたしが見たのはそれだけ」
「う〜ん。何だか良く分かんないけど・・・とにかく辻の様子はいつもよりおかしかった
のは確かなのね?高橋」
飯田先生の大きな瞳が愛ちゃんを見る。
それに負けじと愛ちゃんも大きな瞳で飯田先生を見返して。
「そうです」
と、はっきり答えた。
「そっか・・・とりあえずもう一回辻の家に連絡してみるね」
「う、うん分かった。じゃあ圭織はこの子達を正門まで送ってくるね?」
「うん・・・」
そう言って安倍先生はまた廊下を走って行った。
- 233 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時44分48秒
「い、飯田先生・・・ののちゃんは?」
私は押し殺すような声で飯田先生に尋ねる。
「うん・・・確かに心配ね。でも何だかんだ言ってまだ7時だしね。きっとケロっとした顔で帰ってくると思うわ。さぁ、行こっか?」
「は、はい」
「はい」
「はい・・・」
「・・・・はい」
この時は4人バラバラに返事をした。
飯田先生の言った通り、ののちゃんは気まぐれな所があるから・・・。
と、自分に言い聞かせてみた。
なんだか胸騒ぎがするのは、私の気のせいなのだろうか・・・。
- 234 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時45分28秒
- 235 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時46分43秒
「わぁ、もう真っ暗だね〜」
完全に陽が落ちている空を見て、愛ちゃんがため息まじりに叫ぶ。
校舎をでるともうすっかりあたりは真っ暗だった。
なんだか今日は風も強いみたいで4人ともスカートを片手で押さえている。
「夜道は危ないから気をつけるのよ」
と、飯田先生が手を振る。
「さよなら」
「さよ〜なら〜」
「さようなら〜」
「・・・・さようなら」
これも4人バラバラだった。
私達はそう言って飯田先生に軽くお辞儀をすると、正門出る。
4人は肩を並べて歩き出した。
- 236 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時47分20秒
――――――――――
―――――――――
――――――――
―――――――
――――――
- 237 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時48分24秒
―――― 4人が下校する1時間前 ――――
- 238 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時49分39秒
時刻はもう6時を過ぎていた。
空はさっきまでキレイなオレンジ色をしていたけど、今はキレイなネービーブルーの色を
している。
どこの部活もとっくに活動は終わっていて、もちろんテニス部だってとっくに
終わっている。
体育館はまだ、ボールの弾力のある音が響ていた。
空中に鮮やかな弧を描いて、ものすごいスピードで飛んで行く真っ白なボール。
ボールは壁に、歯切れの良い音を立ててぶつかると、そのまま何十個ものボールが散乱
している床へ何回かバウンドして転がる。
よっすぃ〜がまだサーブの練習をしているのだ。
- 239 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時50分57秒
- 私の隣に座るごっちんは、パックのコーヒー牛乳に口をつけながら。
「ねぇ〜もうよっすぃ〜終わろうよ〜」
と、ふくれっ面だ。
ごっちんの様子に気づいたのか、よっすぃ〜はやっとこちらを向いた。
「ごめんごめん。なんか納得いかなくて」
そう言って、白いはをニッとだして笑う。
こんなに汗をかいてるのに、よっすぃ〜の場合はよけいそれがさわやかに見える。
気がつくと、私たちの周りにもボールが散乱している。
「熱心だなぁ、よっすぃ〜は」
そう言って私ははため息をつく。
よっすぃ〜はそんな私を見てクスリと笑うと、バックに入っていた
タオルで汗を拭きながら、ポカリを半分くらい飲み干す。
そうすると。
「大会近いからねぇ」
と、ため息まじりに一言言って、ポカリをカバンに戻す。
- 240 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時52分29秒
- よっすぃ〜の腕には無数の痣や、膝にはテーピングがしてある。
「よっすぃ〜。怪我平気なの?」
「え?ああ。大丈夫!あたしは最強よ?これくらい日常茶飯事だし」
「あんまムリしないでよ?」
「はいはい。梨華ちゃんは心配性だなぁ」
「あはっ、さっそくラブラブ?」
ごっちんが、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、私とよっすぃ〜を交互に見る。
「バカ!何言ってんの?」
と、よっすぃ〜が軽くごっちんの頭をげんこつで叩く。
「いった〜い!よっすぃ〜がぶった〜」
しかし、まだごっちんはニヤニヤしている。
・・・てゆーかよっすぃ〜?そんなに否定しないでよ。
寂しいじゃん・・・。
私たちはしばらく他愛のない会話を楽しんでいた。
3人しかいない体育館は不気味に広くて、電気がついていても何故か暗い感じがした。
- 241 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時54分06秒
「そういえば辻は・・・?」
会話が一段落した所で、ごっちんがポツリと呟く。
すると、よっすぃ〜は困ったように頭をかいて。
「あー。どうしたんだろうね。無断で休むような娘じゃないんだけど」
私は、部活中に見た、あの後ろ姿が気になっていた。
あれは紛れもなく辻ちゃんのものだった。
それに、辻ちゃんが向かった先は・・・・・。
「梨華ちゃん?」
「・・・へ?」
よっすぃ〜の声に我に返る。
ごっちんもきょとんとした感じで私を見ている。
「どうしたの?さっきから口数すくないけど・・・いつもだったら、よっすぃ〜!とか叫んで抱きついてるじゃん」
ごっちんが抱いてる私のイメージって一体・・・・。
「うん・・・ちょっと考え事してて」
と、私は曖昧に笑う。
どうしよう。この事、言うべきかな・・・。
「そういえば辻って昨日風邪で休んでたんだっけ。多分今日も体調悪かったんじゃない?」
ごっちんの言葉に私は。
- 242 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時55分16秒
- 「うんうん。きっとそうだよぉ!早退しちゃったとかさぁ」
「そっかぁ、そうだよね。じゃあ辻にお見舞いメールでもおくろっかな」
納得したように、さっそくよっすぃ〜はバックからケータイを出す。
ちなみに私たち3人は、ケータイの機種はお揃いだ。
私がムリに頼んだんだけど。
「お!よっすぃ〜ったら、優しいじゃん」
ごっちんがいたずらっぽく言う。いつのまにかコーヒー牛乳も飲み終えているみたい。
「まぁね。あたしだって一応先輩ですから」
よっすぃ〜は早速メールを打ち始める。
私は、辻ちゃんを見かけた事を言えないでいた。
告げ口みたいな事はしたくなかったのもそうだけど、何より辻ちゃんが向かった先
を、二人には言いたく無かったし、私もなるべくその話題には触れたく無かった。
- 243 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時56分43秒
- 「梨華ちゃん?ホントどうしたの?」
ごっちんが怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「ううん、何でもない」
「そう、ならいいんだけど」
よっすぃ〜のメールを打つ、カチカチとした音が聞こえてきた。
ちょっと気まずい雰囲気が漂って来たので。
「そ、そういえばもうすぐ中間だね」
私は慌てて話しをすり替えた。
「あー、梨華ちゃんその話しはやめよう。テストとか勉強とか言うキーワード聞くと
頭痛いからさぁ」
と、ごっちんはあからさまに嫌そうに顔をしかめる。
「ええっ?そっかごっちん勉強嫌いだもんね」
しまった・・・・これは選択ミス。
でもごっちんの弱点GET。
「そういえばさぁ、紺野と辻って最近仲いいよね?」
「え?うん、でも意外な組み合わせでもないよね。・・・・て、ごっちんいきなりどうしたの?」
「んーなんとんく」
「なんとなくねぇ・・・」
私はさっきごっちんにされたように、わざと意味深に企むような笑みを作る。
「な、何、梨華ちゃん」
- 244 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時58分31秒
- ごっちんの頬が、ほんのり赤くなる。
そういえばごっちんとしゃべってて、一つ気づいた。
このごろ、ごっちんの会話にはいつも紺野が出てくる。
ふふ、もう一つ弱みGET。
「あ〜れぇ〜?」
いきなりよっすぃ〜がケータイに目線を落としたまま叫ぶ。
「どしたの、よっすぃ〜」
「辻にメール送れないんだよねぇ」
「ケータイ切ってるんじゃないの?」
「そうなのかなぁ〜」
よっすぃ〜が顔をしかめる。
ケータイのディスプレイには『送信出来ませんでした』の文字が表示されている。
「もしかしたら寝てるんじゃない?」
「そっか、そうだよね病気だし・・・」
と、よっすぃ〜は、ごっちんの言葉にあっさり納得して、ケータイをしまう。
すると、よっすぃ〜はさっと立ち上がって。
- 245 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月05日(水)23時59分50秒
- 「もう帰るっしょ?あたし着替えてくんね?」
「そだね。・・・・てか6時過ぎてんじゃん!」
私はケータイの時計を見て叫ぶ。
「あ〜よっすぃ〜が遅くまでやってるからだ〜」
ごっちんも恨めしそうによっすぃ〜を睨む。
「わりぃわりぃ、じゃあひとっ走り行ってきます!」
そう言って、バックを持って更衣室へ猛ダッシュする。
相変わらず、足も速いけど、頭の切り替えも早い。
「も〜うよっすぃ〜はぁ」
ごっちんがため息をつく。
「でもよっすぃ〜らしいじゃん。私はよっすぃ〜のそう言うトコ好きだもん」
ちょっと告白してみた。
「まぁ、好きに言ってな」
ごっちんは冷めた瞳でこちらを見ている。
「ごっちんは冷たいなぁ」
- 246 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時01分01秒
- 「だって梨華ちゃんしつこいじゃん?それにキショイじゃん?そしてウザイじゃん?」
と、ごっちんは右手の指を折りながら言う。
「そんな事ないもん!それにごっちんだって私がいないと寂しい時もあるでしょ」
「清々する」
「ひっど〜い!!」
「じょーだんだよ」
ごっちんが楽しそうに瞳を細める。
まぁ、これがいつもの私たちのやりとりです。
・・・ふと気がつくと、体育館の窓から見える空は、もう真っ暗だった。
体育館からでも、カラスの鳴き声が鮮明に聞こえる。
- 247 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時05分52秒
- 「最近ここら辺もカラス多いよね・・・」
ごっちんの呆れたようなため息。
つい最近まで一匹も居なかったカラスが、急に増えだしていると言う。
この前の前校朝礼でも話題になった。
「そうそう、私鳥嫌いだから、困ってるんだけど・・・」
「あたしなんか毎朝カラス鳴き声で目ぇさめるんだけど」
「うわぁ、それって悲惨。私は絶えられないね」
「あはっ梨華ちゃんには生き地獄かもねぇ」
「当たり前じゃない!?私怖くて学校行けないよ!」
「あはははあはっ!」
ごっちんがお腹を抱えて笑い出した。
「も〜う!笑い事じゃないよ〜!」
「だってウケるんだもん!」
ごっちんがふにゃっと笑う。
しかし、私には冗談じゃなく恐ろしい事だ。
そうなのだ。私がこの世で一番苦手な物。それは鳥だ。
別に特別な理由なんて無いけど。ただ、あの羽がバサバサ言う音が、ちょっと気色悪いだけで。
特にカラスなんて、凶暴だし、大きいし、なんか黒光りしてるし。
毎朝目覚まし代わりに、カラスなんて・・・・・イヤッ、考えるのよそ・・・。
- 248 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時06分42秒
- 「てゆーか梨華ちゃんが臆病なだけじゃん?カラスってこっちが何かしない限り、襲って
こないよ?」
「ええ〜。でも怖いよ〜。だってカラスって不吉な事が起こる前兆って言うじゃん。」
「あははっもう起こってるじゃん」
「・・・・え?」
「・・・・・・」
突然ごっちんの顔が真顔になる。会話が一瞬にして止まる。
さっきのふにゃっとした、ごっちん特有の笑みが消えていた。
- 249 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時08分31秒
「梨華ちゃんさぁ・・・」
「・・・ん?」
ごっちんの声のトーンが低い。
そして、私の顔を真剣な眼差しで見つめる。
「・・・・・・・?」
ごっちんが一呼吸置く。
「もうすぐだよね・・・」
「・・・何が?」
ごっちんが眼を伏せる。
何だか体育館の気温が2〜3度下がったような気がする。
よっすぃ〜の来る気配が無い。
ごっちんがゆっくり口を開く。
「・・・命日」
私の心臓は一気に飛び跳ねた。私が世界で一番忘れたかった事。
「・・・・・!」
忘れたいけど、忘れてはいけないコト・・・・。
一生忘れてはいけない・・・。
- 250 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時10分09秒
- 「あたしさぁ・・・怖いんだ。すごく・・・」
ごっちんの今まで私に向けられていた視線を、天井へ外す。
「・・・・・・・・」
私はごっちんの顔がみれなかった。
もしかしてごっちん・・・。
「もしかしてごっちん・・・・最近学校で話題になってる行方不明事件と、何か関係
あるって言いたいの?」
ごっちんが私の顔を再び見る。
その深い色をした瞳に、一瞬引き込まれそうになった。
ごっちんは無言で頷く。
「・・・まさか」
「そうとしか・・・考えられない」
「なっ何言ってんの!?ごっちんおかしいよ!?」
- 251 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時11分25秒
- 急に頭がカッと熱くなった。
自分では信じられないくらい大きな声を出した。ごっちんは少し驚いたように、眉毛をぴくっと動かした。
「・・・ごめん」
ごっちんがさっきより深いため息をつく。私は何を言っていいか分からなくなった。
「あたしこそごめん・・・ただ、やっぱりつらいんだ」
「・・・・・・・」
「それに・・・未だにあの日の事・・・・夢に見るんだ」
「・・・・・!?」
「・・・・今まで言えなかったんだけど」
私は無言で頷く。
ごっちんの瞳は、哀しそうに潤んでいた。
「言いたくないけど・・・あたし達、一生ここから逃れられないんだよ」
私には十分すぎるくらいのトドメだった。
残酷な響きが、私の頭にこだまする。
- 252 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時12分36秒
一生、逃れられない。
分かってる。そんな事とっくに・・・・分かってるよ、ごっちん。
「・・・・うん」
しかし、私の口から出たのは、その一言だけだった。
ごっちんが微かに鼻をすすった。
- 253 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時13分36秒
遠くで、扉の閉まる音がした。
そちらの方に視線を移すと、よっすぃ〜が神妙な顔をして立っていた。
そうだね・・・・よっすぃ〜にも、話さなきゃね。
- 254 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月06日(木)00時14分14秒
- 255 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月06日(木)00時17分44秒
- 更新遅れました!
今日はここまでです。自分的には週に1回更新の予定だったんですが・・・
後、誤字脱字目立ってますね。スイマセン。。。
気をつけます。
- 256 名前:二等兵 投稿日:2003年02月06日(木)01時27分39秒
- うおっ!更新されてるっ!んんっ!?ごっちんとチャーミーの
忌まわしい過去(!?)とは…?辻はいったい…?これからも
見逃せませんねっっ!!
- 257 名前:名無し娘。 投稿日:2003年02月06日(木)02時13分58秒
- 来ましたね…ごまこん!!自分の最も好きなCPです!
いやそんなことはどうでもイイ事です。
それぞれの過去と現実が近付いてきましたね。
こっちの学校とあっちの学校はリンクしているのかな?
- 258 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月07日(金)22時56分44秒
- >二等兵様
そう言って頂けて嬉しいです!忌まわしい過去(!?)は
もっと後で分かりますので、これからも、読んで頂ければ嬉しいですね。
これからもがんばります。
>名無し娘。様
毎回レス嬉しい限りです(喜 ごまこん好きで幸いです。
あっちの学校とは・・・・リンクするかは分からないですね。
あっちの方の更新遅れてますね・・・・(反省
- 259 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時06分12秒
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――――
- 260 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時09分46秒
- 夜は更けて、時計の針はもう12時丁度を指していた。
私はまだ机に向かっている。もうすぐ中間テストが近いから、私は苦手な英語を中心に
勉強を勧める事にした。が、いまいち集中出来ないでいた。
あれからののちゃんはどうしたんだろう・・・。
何度もメールを送ろうと思ったけど、電源を切っているのか送れない。
ののちゃんの家を訪ねて見ようかと思ったけど、あいにく、学校が終わったら
すぐに帰って来るように言われていたので、さすがに止めておいた。
しかし、それが今になっての心残りだった。
「ふわぁ・・・・」
私は両腕をピンと伸ばして、まぬけなあくびをする。
でも、少し眠くなって来たけど、眠ってしまう分けにはいかなかった。
私の通う学校は付属校なので、中3と言っても受験を心配する事は無かったが、最近
になって何故か親が口うるさくなったのと、英語の成績が落ちた事もあって、今頃になって
勉強に励むようになったのだ。
- 261 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時11分45秒
- 「なんか飲もうかな」
私は自然とのどの渇きを覚えたので、席を立つ。冷たい水でも飲めば、眠気も覚めるかな。
部屋を出て、キッチンに入る。家中の電気は消されていて、もう真っ暗だ。
もう、お母さんもお父さんも寝てしまったようで、物音一つしない。
水道の蛇口から、水が一滴落ちた。
何だかその音が妙に不気味に感じたから、私はとたんに壁のスイッチを押す。
パチパチと音を立てて、蛍光灯が明るくなる。
それと同時に私の視界も明るくなった。
ほっとした私は、冷蔵庫から1リットルのペットボトルを取り出し、コップに注ぐ。
水の冷たい感覚がのどを通って胸ら辺へ。
何だか瞳が覚めて来た気がする。・・・・よし、もう一頑張りしますか。
そう自分に気合いを入れていると。
- 262 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時12分51秒
- 居間の方から、けたたましい音が耳を通り抜ける。
「こんな時間に・・・?」
このままじゃ、お母さん達起きちゃう・・・・。
そう思うと、私はやや小走りで音のする方へ向かう。
音は、電話だった。
私は急いで受話器を取る。
「・・・もしもし、紺野ですけど」
- 263 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時13分39秒
- 264 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時15分00秒
- 私は初めて深夜の道を走る。
空にはぼんやりと月が浮かんでいる。もう、夏間近の夜道はそれほど寒さは無く、私は
普通にTシャツで外に出た。
ここら辺は、ひっそりとした民家ばかりで、その家々は、もう何処も明かりはついてなくて、寝静まっていた。なので明かりは街灯くらいだった。
しかし、不思議と怖さは無かった。
今は恐怖より、一刻も早く行かなくてはならないと言う気持ちの方が強かったからだ。
自分の荒い息使いと、速まって行く鼓動が、耳からと言うより身体の芯から響いて聞こえるようだった。
もうすぐ・・・・もうすぐ・・・・。
そういえば、お母さんに何も言わないで出て来ちゃったけど・・・大丈夫かな。
もうすぐ・・・・この角を曲がったら・・・。
多分私は、まるでマラソン選手のように走っているに違いない。
私は角を曲がる。
水色の可愛らしい建物が、私の視界に入る。
まだ、明かりがついている・・・・・・・。
- 265 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時15分40秒
電話の相手は、ののちゃんのお母さんからだった。
- 266 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時17分27秒
- 「ごめんね、こんな時間に・・・まさか来てくれるなんて思ってなかったわ」
すまなそうに、ののちゃんのお母さんは、私にお茶を持って来た。
「いいえ、友達の為ですから」
私は遠慮無くお茶頂いた。冷たいお茶が、走って熱を持った身体にスッと溶け込む。
「他に誰かに連絡したんですか・・・?」
「あなたと・・・・亜依ちゃんに」
「亜依ちゃん・・・・」
そういえば、もしかするとののちゃんが帰ってないのと何か関係があるかもしれない。
私はそう思ったけど、今はお母さんには言わない方がよさそうなので言わない事にしよう。
「・・・・12時を回ってもまだ帰って来ないの」
ののちゃんのお母さんは、やや伏し目がちに私に言う。その瞳は赤くなっていた。
「警察には・・・・?」
「一応言ったわ・・・・家出だと思ってるみたいだけど」
私たちはののちゃんの部屋に居る。
ののちゃんの部屋は昨日と全く変わらない。青い壁紙も、プーさんのぬいぐるみも、
亜依ちゃんとの写真も。
でも、この部屋に居るはずの、ののちゃんの姿が見あたらない。
- 267 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時19分23秒
「希美は家出なんてする娘じゃない・・・」
「分かってます」
お母さんが鼻をすする。
私はそんな姿を見て、胸がぎゅっと痛くなった。
その時・・・・私は少し疑問に思った。
「あ、あの・・・」
「どうかした・・・・?」
「あの、ののちゃんのお父さんって・・・」
そう、私はまだののちゃんのお父さんを見たことがない。話しには少し出て来たことがあるけど。娘が居なくなって
いるのに、姿を見せない父親なんているんだろうか。
「・・・あの娘から聞いてないの?」
お母さんは少し驚いたように眉を上げると、すぐに納得したように頷く。
「私と夫は2年前に離婚したわ」
「・・・・・え」
私は聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。
- 268 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時21分45秒
- 「原因は単なるお互いの価値観の違いって所かしら・・・・人間的にはいい人だったわ。
でも、随分・・・・離婚のせいで希美を傷つけたのは確かだわ」
私はごくりと唾を飲んだ。
ののちゃんはそんな事一言も言って無かったな・・・・。
「その時からかな・・・・・少しずつ、希美は変わったは・・・・」
「・・・・・?」
お母さんがまた鼻をすする。
「あの娘。小6になっても自分の事、ののって呼んでたのよ」
お母さんは、真っ赤な瞳をしてクスリと笑う。
私もつられて唇を緩ます。
「でも、その時をさかいに言わなくなった。少しずつ大人びてくの。あの娘」
お母さんは遠い瞳で寂しげに言う。
「それでね」
お母さんは続ける。
「最近になって、この店を継ぎたいって言い出したの」
お母さんは少し嬉しそうに、声を弾ませた。
「あ、私にも言ってました。とっても楽しそうに」
「ふふっそうなの」
「はい」
「多分、私の事を心配してるんだと思うの。私を一人にさせまいって、きっと・・・・。
あの娘、変なところで気を遣っちゃうのよ・・・」
「・・・そうですね」
- 269 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時24分22秒
- 「本当に優しい娘なの・・・・前にもね、あったのよ・・・」
「どうしたんですか・・・・?」
「あの娘が中学校に上がったばっかの頃。学校でカンニング事件があったのよ・・・
どうやら希美の友達が疑われたみたいでね・・・・案の定、希美はその娘を庇って
自分が犯人だって、みんなの前で言ったそうよ」
「・・・・・・」
「その後は予想どうりに、しばらくいじめられたわ・・・・・私は、希美がそんな事を
するはず無いって思って・・・・その友達に問いつめた。結局、犯人は希美でも、その友達でも無くて・・・・隣に座ってた悪ガキだったんだけど」
「・・・・ののちゃん」
「なんて優しい娘だろうって思った。その反面、不安になった。優しすぎるあの娘に、
とてつもなく不安になった・・・」
ののちゃんのお母さんの瞳から、何粒もの涙があふれ出た。
「・・・そんな事、ないです。ののちゃんは立派ですよ・・・」
「ありがとう・・・ありがと・・・」
お母さんは声を詰まらせながら、私に向かって何度も頭を下げた。
- 270 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時25分51秒
- 「・・・・ごめんね、あなたにこんな事べらべらしゃべっちゃって・・・」
「いいえ・・・気にしないで下さい。ののちゃんは絶対帰って来ます」
「本当にありがとう・・・まったく、希美が帰ってきたらお仕置きだわ」
そう言って、泣き笑いのような笑顔を見せる。
私も精一杯笑って見せた。
ののちゃんは、身体だって私より小さいのに、いつも笑っていたのに、いろんな物を
背負ってたんだね・・・。
私は胸が締め付けられるような感覚覚えた。
ふと、時計を見ると午前一時を回っていた。
ののちゃん・・・・・一体どうしたって言うの?
私はたまらなく不安になった。
- 271 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時27分17秒
その時。
私のスカートのポケットが震える。
ケータイのディスプレイには『非通知』と言う文字が表示されている。
「・・・・?」
いつもだったら非通知には出ない私だけど、この時ばかりは、もしかして・・・なんて言う気持ちから通話ボタンを押して、ケータイに耳を当てる。
「・・・・もしもし」
『―――――――――』
風の音?もしかして外?
「もしもし・・・?」
『――――――――』
相手は何も言わない。
相変わらず、風の音がするだけだ。
ののちゃんのお母さんが心配そうに私を見つめる。
私は思いきって。
「―――――― ののちゃん?」
- 272 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時29分14秒
- 「・・・・!?」
ののちゃんのお母さんが、目を見開く。
『・・・・・・』
しかし、何も答えない。
「あなた・・・・誰?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・学校』
「え?・・・・・」
電話はもう切れていた。
しかし、声はののちゃんの物では無かった・・・。一体誰が?
「どうしたの!?希美なの!?」
お母さんが声を上げる。
「・・・・多分、違うと思います」
学校っていったの・・・?って言う事は学校に何かあるって事?
私は立ち上がった。もともと、自分から行動するようなタイプではなかったけど、ここに来て私の何かが変わった気がする。
「私・・・・ちょっと学校行ってきます」
「ええっ大丈夫なの!?」
「はい、これでも空手やってましたから」
「そ、そうなの・・・・あ、親御さんに連絡しとくわね」
「あ!それは止めて下さい!」
「え・・・・・でも」
「大丈夫ですから」
「そう・・・・ホントにありがとうね」
「いえ、そんな事・・・」
私は、ののちゃんのお母さんにお辞儀をすると、再び走り出した。
- 273 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時31分29秒
―――――――――――
―――――――――
―――――――
―――――
- 274 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時33分28秒
私は、正門をよじ登り中へ入る。
学校は、昼間とはまったく雰囲気が違って、少し不気味さすら漂ってる。
耳には虫の鳴き声が響く。正確には、虫の鳴き声が鮮明に聞こえるくらい、静まりかえっていた。
私は、ゆっくり歩き出す。正直言って、今少し後悔していた。
殺人事件があったこの学校。行方不明事件があったこの学校。幽霊が出たってウワサされたこの学校。不気味な沼が存在するこの学校・・・・。
もしかしたら・・・私、とんでもなく危険な事をしてるの?
そう、自分に問いかけた。
しかし、もう遅い。だって、ここまで来ちゃったから。逃げられない。
- 275 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時35分11秒
- 電話の相手は何処にいるんだろう。私は辺りを見回しながら、歩き続ける。
その時、一人校庭にたたずむ人影を、私の瞳が捕らえる。
心臓が弾む。
――――――― 誰?
まさか―――――――
もしかしたら、あれが電話の相手・・・・?
すると、その人影も私の存在に気づいた様子で、こちらを振り返ったのが分かる。
どうしよう・・・・今ならまだ逃げられる・・・。
- 276 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時36分33秒
- 私の恐怖は大きくなって行く。
人影はゆっくりだが、私の方へ近づいて来る。
どうしよう・・・・こっち来ちゃう。私・・・・どうなるんだろう。
いい知れない恐怖・・・・死が迫ってくるような恐怖・・・。
人影はどんどんこちらへ向かって来る。私は勇気を振り絞って。
「の・・・ののちゃん?」
「・・・・・・・・・・」
人影は無言だ。
「あなた・・・誰?・・・どうして私を呼びだしたの」
「・・・・・・・・・・」
もっとがんばって見たけど、人影はやはり何も語らない。
「・・・・・・・・・」
どうしよう・・・これはピンチかもしれない・・・。
- 277 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時38分18秒
- しかし、逃げたかったけれど私の足はすくんで動かない。
その時、私の瞳がだんだん暗闇に慣れてきたせいか、人影がうっすらと正体を現し始めた。
紺色のプリーツスカート、半袖のセーラーと、見覚えのある服装。さらによく見ると、自分より小さい人影。 背格好、立ち姿――――――――――!?
「ののちゃん!?」
私は思いっきり叫ぶ。
しかし―――――――
「残念やな」
この声。関西訛り。
「ウチや」
月明かりに照らされたその顔は―――――――
「――――――― 亜依ちゃん」
- 278 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時39分24秒
- 私は息を飲んだ。言いたい事は沢山ある。山ほどある。でも――――――
いつも彼女は無邪気で、元気で、みんなのアイドル。でも、私が嫌いでいつも私を睨んで
いて気が強くて――――――。
しかし、今の彼女には、元気のかけらもなくて、キラキラ輝いていた瞳は生気を失って、まこっちゃん達とケンカした時のような声の張りも全くない。
いつも私を鋭い目つきで睨んでいた亜依ちゃんは、とても弱々しい瞳で私を見ている。
「どうしたの・・・?」
私は、亜依ちゃんから視線を外して聞く。何だか見ていられないくらいの、亜依ちゃんの
変わりように少し戸惑ったからだ。
「・・・・・・・・」
「ねぇ・・・ののちゃんは?その事で私を呼びだしたんでしょ?」
「・・・・・・・・」
聞き取れなかったが、亜依ちゃんは何かを呟いた。
完全に瞳が暗闇になれたのか、亜依ちゃんの青白い顔が、闇に浮かんでくる。
- 279 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時40分52秒
- なんだかゾクッとした。
「・・・なんや」
「・・・・・・・え?」
「ウチのせいなんや・・・・・・」
「・・・・!?」
外した視線を、亜依ちゃんに再び向ける。
「・・・・ウチ、後藤先輩の事・・・・好きなんや。」
「・・・・・・」
「もともと、すぐ嫉妬してまうねん・・・・自分がやっとる事、良いことやとはちっとも
思っとらん・・・・頭では分かってんねんけど、勝手に行動してまう」
瞳が潤んでいるのが分かる。声も震えている。
「ののちゃんは・・・・ののちゃんは!?」
私は勢い良く亜依ちゃんの肩をつかむ。
亜依ちゃんはか細い声で、話しを続ける。
「・・・・ヒドイ事した。ののはウチなんかとは違って・・・・とってもええ娘なんや」
ののちゃんのお母さんと、同じ事言ってる。
肩をつかんだ手が緩む。
「・・・・手紙は」
「・・・・・」
- 280 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時42分03秒
- 亜依ちゃんは黙って、スカートのポケットから水色の封筒を出して、私に差し出した。
封はまだ開けて無かった。
「ウチに、読む資格なんて無い」
そうポツリと言った。
「これは・・・亜依ちゃんが読むべきだよ。資格がどうとか・・・私は知らないよ
でも・・・これはののちゃんが亜依ちゃんに書いた物だもん」
私は封筒を亜依ちゃんの手に渡す。
「・・・・そっか」
亜依ちゃんは、水色の封筒を大事そうに開ける。
封を開けると、さらに薄目の水色の紙が4つ折りにして入っていた。
亜依ちゃんは震える手で、その紙を開く。そして一回鼻をすすった。
私はなるべく内容が見えないように、目線を暗い校舎のほうへ向けた。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
- 281 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時43分32秒
沈黙が流れる。ぼんやりとしていた月は、次第にくっきりと浮かび始めた。
風がさっきより冷たく感じる。私は何か羽織るものでも持ってくればよかったなぁと
、少し後悔した。
気がつくと、もう虫の鳴き声がやんでいる。今何時だろう・・・。
ののちゃんの家を出たのが、一時を回ってからだから・・・・多分もう2時近いに違いない。こんな遅くまで外にいるなんて初めてかも。
お母さんにバレてなきゃいいんだけど。
亜依ちゃんが、鼻をすする音が聞こえる。
泣いているのかな・・・。
手紙の内容が気にならないと言ったら嘘になる。一体ののちゃんは何て書いたんだろう。
ののちゃん・・・今頃、何やってるんだろう。
「う・・・うう」
亜依ちゃんの声が聞こえる。少し心配になって亜依ちゃんの方を振り返ると。
- 282 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時45分58秒
- 「う・・・うわあああああああああああ」
「!?」
いきなり声を張り上げて泣き崩れた。
「うう・・う・・・・」
「亜依ちゃん!?だ、大丈夫」
亜依ちゃんは首を左右に思いっきり振る。
「ウチが悪いんや!ウチが悪いんや!ウチが悪いんや!」
「お、落ち着いて!亜依ちゃん!!」
あまりにも、亜依ちゃんが狂ったように叫ぶので私は亜依ちゃんの肩を揺する。
「いやあああああっ!!ウチのせいや!!ウチのせいやあああああ!!」
「亜依ちゃんしかっりして!!しっかりしてよぉ!!」
「いややああああああ!!うわああああああああああああああ!!」
「亜依ちゃん!!!」
私は自分でも思いもよらない行動をとったのだ。そう、気がついたら、亜依ちゃんの
頬を思いっきり叩いていた。
静まりかえっていた校舎に、乾いた音が響き渡る。
- 283 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時47分53秒
- 「う・・・・・・・」
二人とも息を切らして、その場に腰をおろした。
「ご、ごめん」
私は自分のした事に驚いていた。初めて人を叩いてしまった。
「・・・・ええんや、ウチこそ・・・」
亜依ちゃんの黒目がちの瞳から、また涙があふれ出す。
「ウチは・・・・とんでも無い事、してもうた」
「・・・・ののちゃんは?」
「今日・・・ののがウチにこの手紙渡しにきたんや。でもウチはののを許さんかった」
亜依ちゃんは、目を伏せて下唇を噛む。
「ののは・・・沼へ行った」
声を押し殺すようにそう言った。
「ぬま?」
「・・・・校舎裏の」
「―――――!?」
- 284 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時49分23秒
- 「あんなウワサなんて信じて無かったんや!だから・・・だから遊び半分で、ののに沼へ
行って来たら許してやるって言ってしまったんや!!」
「じゃ・・・じゃあののちゃんは?」
「・・・・・ウチ、あの後心配になって、校舎裏へ行ってみたんや」
「・・・・・・・・」
聞きたくない・・・。
「見たんや・・・」
私は息を飲む。亜依ちゃんの声は震えている。
「ののが・・・・沼に引きづりこまれて行くのを」
そう、はっきり言った。
―――――――― 私の目の前が真っ暗になった。
- 285 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月07日(金)23時49分57秒
- 286 名前:名無し娘。 投稿日:2003年02月08日(土)01時37分35秒
- 連日の大量更新お疲れ様です。
面白い…。
しかしあいぼん…。
闇の中にも弱冠の光が見えた気もします。
これからのそれぞれの活動に( ‘д‘)しく期待!!
- 287 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月08日(土)20時18分41秒
- いろんな方向から話が動きだしたみたいで、読んでいてどきどきします。
毎回のことだけど、続きがたのしみ。
- 288 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月09日(日)00時26分03秒
- >名無し娘。様
悪者にしてしまったあいぼんですが、一応それなりのフォローをさせて
もらいました・・・(汗 更新はなるべく速めにがんばります!
>名無し読者様
4話からだんだんと話しが急速に展開していくつもりです。
楽しみと言って頂けて嬉しいです。がんばります!
- 289 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)15時46分39秒
- 290 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)15時50分09秒
- 茜色に染まった空は、何故かとっても寂しい感じがした。
「結局、来なかったねあさ美ちゃん」
夕焼けに照らされた愛が、大きな瞳でこちらを見ている。
「・・・・・・・・うん」
今日、急遽学校で全校朝礼が開かれた。そこで辻さんの失踪を聞かされた。
当然あたし達はショックだったし、あさ美が来てないのも心配になった。
亜依ちゃんも来てなかったから、多分二人共、辻さんの事を知っていたのかもしれない
って事は、大方予想できた。
あたしは落ちていた小石を蹴る。小石はころころと転がってドブに落ちた。
「まこっちゃん、わたし思うんよ」
愛の沈んだ声が耳を通る。
「うん・・・・」
「辻さんとは正直あんま話した事無かったんだ。だから結局、昨日が最後になっちゃったんだよね」
愛が空を見上げる。茜色の空にはカラスが何羽か飛んでいる。
「うん・・・」
「だから・・・なんて言うかぁ」
「うん・・・」
「なんて言うかぁ、余計心残りなんだ。あの時、わたしが何か辻さんに出来たんじゃ
ないかなぁって思う、みたいな」
「うん・・・・」
- 291 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)15時50分56秒
「・・・・・てかまこっちゃん?さっきから、うん、しか言ってないじゃん」
「うん・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・!ああ・・・ごめん」
夕焼けをボーッと眺めてたせいで、愛の話しをほとんど上の空で聞いていた。
愛はそんなあたしを見て、深いため息をつく。
「確かに、ショックだよ。あんま関わった事なかったけど、おんなじクラスの子が
行方不明なんて、普通考えられないから」
そんな愛の目をみて言う。
- 292 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)15時51分59秒
- すると、愛がいきなり足を止める。
「・・・・・?」
電柱の下に、薄ピンクのコスモスが置いてある。
カラスの鳴き声と、夕日に照らされた路地が妙に不気味に思えて来た。
「事故?」
わたしが聞くと。
「まこっちゃん知らないっけ?ここのウワサ」
「ああ、あんま興味ないし」
「そっか。この場所はね、一年くらい前から交通事故が多くって、供養にいつも誰か
花束を置いて行くんだけど何故か次に日には枯れちゃうって言うウワサ」
「へぇ、みんな好きだね、その手の話し」
ふと、コスモスの方に視線を向けて見る。枯れている様子は無い。
やっぱそんな噂なんてデマじゃないの?
「このコスモス、枯れる様子無いね」
愛があたしが思った事と同じ事を言う。
「うん・・・・全然元気じゃん」
「あの噂、まこっちゃん信じないでしょ」
「まぁ、あんまね」
- 293 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)15時53分46秒
- そう言うと愛がクスっと笑って。
「やっぱりねーまこっちゃんはクールだぁ」
「別にそんな事ないけどさぁ、なんかピンとこないってゆーか。愛は信じるタイプでしょ」「うん。でも前は信じなかったよ。ただ、その噂聞いてからちょっと興味もったのよ」
「ふ〜ん」
「・・・覚えてない?」
「え?」
「昨日辻さんの事、飯田先生達に話したじゃん?あの時、電柱の下に花添えてたって
いったよね」
「・・・・・あ」
「ここだよ」
辻さんがここにコスモスを・・・?あたしは改めてコスモスに目をやる。
やや湿気があり何処か陰りのある路地には、この可愛らしい花は不似合いだった。
「あたし思うんだけど」
愛は続ける。
「辻さんだからじゃないかって思うの」
「え・・・・?」
「この花枯れてないでしょ?辻さんって人を癒すっていうか、なんか心をキレイにしちゃうようなパワー持ってない?」
「うん・・・」
辻さんの曇りのない澄んだ瞳が、あたしの脳裏をかすめる。
くったくの無い笑顔、人を疑わない、純粋な娘。辻さんはそんな娘だ。
- 294 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)15時54分54秒
「辻さんはきっと無事だよ」
愛がいきなりぽつりと言った。
「どうして・・・?」
「・・・なんとなく、この花を見てたらそう思った」
「あたしも、そう思うよ」
ホントになんとなくだけど、あたしもそんな気がして来た。
あたしは非現実的な事って信じないけど、このコスモスが何かあたし達に教えてくれる
ような気がした。
「今日、あさ美ちゃんの家行ってみる?」
「う〜ん、今日はやめとく」
その角を左に曲がればあさ美の家。しかし。
落ち込んでいる時はなるべくそっとしといた方がいいって思ったから、そう言った。
あたしだってそこまで無神経じゃないし・・・。
そんなあたしの事を理解したのか、愛も頷いて。
「そうだね。今日はやめとこっかぁ。それじゃあね、まこっちゃん」
そう手を振りながら愛は真っ直ぐ駅に向かって歩きだした。あたしも手を振りながら右の
角を曲がった。
- 295 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)15時55分28秒
- 296 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)15時56分29秒
- あれから私はどうやって家に帰ったんだっけ・・・。
ただ、家の玄関でうずくまっている私をお母さんに見つけられて、何だか怒られた後、
気がつくとベットの上に寝転がってたんだよね。
時計はもう4時を回っている。4時と言っても朝では無く。もう夕方になっていたのだ。
そう、結局学校には行けずに、今に至るのだ。
私はふと壁にかかっている鏡に気がつく。
「・・・・ヒドイ顔」
目元は腫れていて、顔色は青。髪も当然ボサボサだ。
机の上には、私のとんでも無い状態に心配した母が何時間も前におかゆを置いてった。
しかし、まだ手をつけていない。
ふと、その横に置いてあったケータイが視界に入る。
何度か振動してた事は気づいていたけど、とても出れるような状態じゃなくて。
私はケータイを開く。
「・・・・・・あ」
メールが5件来ている。
- 297 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)16時01分00秒
- 『辻ちゃんの事・・・・今朝聞いた。あさ美知ってたんだね
あたしもすごく悲しいよ。こういう時ってなんて言ったらいいか分かんない
んだけど。元気だしなよ まこと』
『元気?・・・・・なわけないか。ゴメン。わたしもショックだったよ
みんな泣いてた・・・。まこっちゃんがすっごく心配してたよ。元気になったら
またあそば 愛』
『里沙でーす。辻さんの事、里沙も悲しかった・・・。あさ美ちゃんも辻さんと
何気に仲良かったからショックだったんだね。加護のヤツも来てなかったし・・・
元気だしてね 里沙』
『ごめん!もしかしてあたしすっごく無神経な事書いちゃった?
ごめんね・・・・ただ元気になってほしかっただけなんだ・・・
まこと』
- 298 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)16時01分33秒
『元気になったらまたガッコおいで
マキ』
- 299 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)16時03分05秒
- 後藤先輩まで・・・。
・・・・・・・・みんな、私の事心配してくれてるんだ。
ありがとう。
まっこちゃんはなかなか私からのメールが返って来なかったのを気にしたのか、
あやまりのメールまで送っている。
後藤先輩はたったの一言だったけど、余計な事を書いて私を傷つけまいと思って
くれてるのが分かる。
愛ちゃん、最後『あそば』になってる。『あそぼ』って書こうとしたんだね。
里沙ちゃんも珍しく気を遣ってくれてる・・・。
なんだか、罪悪感がこみ上げてきた。
私はそれぞれのメールに返信すると、またベットに横たわる。
ののちゃんは一体どうなってしまったんだろう。
あの時、亜依ちゃんの言葉――――――――――
- 300 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)16時04分34秒
- 『見たんや、ののが・・・・沼に引きづりこまれて行くのを』
沼―――――――
一体あの沼に何があるって言うの・・・・。
もし、ののちゃんがあの沼に行ってなければ。
『・・・そっか、じゃあ・・・手紙は?』
『そう、手紙。ちょっと古いやり方だけどメールより
一生懸命書いた手紙をもらう方がうれしくない?』
そもそもこれが始まりだったのかな・・・・。
あの日、ののちゃんに言ってしまった軽はずみな言葉が、私の脳裏を駆けめぐる。
あんな事言わなければののちゃんは今頃、あの無邪気な笑みを浮かべて私の隣にいた
かもしれない。
- 301 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)16時05分45秒
- 『ねぇ、あさ美ちゃん。こんど一緒にそこのアイスクリーム屋さん
いこうよ』
『じゃあゆびきりげんまんしよう?』
約束、どうなるんだろうね。
私のせいだね。ののちゃん、ごめんね・・・・ごめんね。
私の視界がぼやけてきた。
瞼を閉じたら、涙が零れ出た。ああ、あんなに泣いたのにまだ水分残ってたんだぁ。
亜依ちゃんの事を話す時の、やや伏し目がちで曇った声の、ののちゃん。
ケーキを食べるときの、嬉しそうに目を細めるののちゃん。
自分の夢を語る時の、輝いた瞳で私を見るののちゃん。
褒められて、頬を赤めて照れ笑いを浮かべるののちゃん。
私と話す時、いつも無邪気にはしゃぐののちゃん。
私は今まで見たののちゃんの表情を思い浮かべていた。
もう、その一つ一つの顔を見ることが出来ないのかな・・・・。
涙が一粒、また一粒零れ落ちる。
- 302 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)16時08分34秒
- その時、また私のケータイが震えた。私はゆっくりケータイに手を伸ばす・・・・。
まこっちゃんかな。そう思ってディスプレイに目をやる。
「・・・・・・・!?」
私はケータイのディスプレイに表示されている文字に驚愕する。
まこっちゃんじゃなかった・・・・。
ディスプレイには『のの』と表示されていた。
私は震える指で、メールを開けた。
『たすけて』
メールにはただ一言、そう書いてあった。
「どういう事・・・」
いたずら?そうとしか考えられない。でも、誰がなんの為に・・・。
しかし、これはののちゃんのアドレスだ・・・。
誰かがののちゃんのケータイを使っている。亜依ちゃん・・・・?でも、違う気がする。
一体どういう事――――――!?
もう、涙は引いていた。
- 303 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月16日(日)16時09分08秒
・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
- 304 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月16日(日)16時10分58秒
- なんだか文章がヘタになってる・・・・・。
とりあえず更新終了です。ここら辺は速めにやっときたい所です。
- 305 名前:名無し娘。 投稿日:2003年02月16日(日)18時38分00秒
- なんだなんだなんだ!!
一体どうなるんだ!
しかし上手いですね、メールを間違えるところとか。
これからも期待です。
- 306 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月16日(日)19時52分29秒
- メールが怖いじゃねーか(涙
- 307 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月16日(日)21時35分37秒
- >名無し娘。様
レスありがとうございます。
さぁ、どうなるんでしょうか(笑 ちょっと予定していた展開と変えてみました。
>名無しさん様
レスありがとうございます。
メールはちょっと意味深な感じにしてみました。(笑
- 308 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時41分18秒
- 309 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時43分20秒
- 最近ちらほらとセミの声が耳を通る。
カレンダーはもう7月に変わっていて、肌にあたる風はもうあったかい。
外に出れば、夏の日差しが容赦なく照りつけ、もう丸焦げ状態だ。
しかし、一番つらいのは冷房の無いこの風通しの悪い教室で、一日中お勉強。
中はちょっとしたサウナだ。そう、もう夏は始まっているのだ。
あれから・・・・と言ってもまだ一週間。しかし、クラスのみんなは結構冷たいようで、
ののちゃんのいない教室に早くも慣れてしまったようだった。
- 310 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時44分46秒
- 警察の決死の捜査にも関わらず、ののちゃんの行方はまだ分からない。
ののちゃんのお母さんは、店を閉めてしまったのか、あの青い建物にはもう明かりは
ついていなかったし、家を訪ねても誰も出なかった。
私はあの日一日休んだだけで、次の日すぐに登校した。もしかしたら自分は結構薄情な
ヤツなのかもしれないと思ったら、少し切なくなった。
もしかしたら、亜依ちゃんの方がよっぽどマシなのかもしれない。
亜依ちゃんは、まだ学校へ来ない。
「あさ美ぃ!美術室行かない!?」
まこっちゃんが教室の扉の前で、叫んでいる。
「うん」
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
- 311 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時46分24秒
「ひんやりして気持ちー!」
愛ちゃんが、机に頬を当ててホントに気持ち良さそうにニヤける。
「ここは里沙達の穴場スポットね」
里沙ちゃんは机の上に腰掛けて、足をぶらぶらさせている。
「ホント、風が気持ちいい」
まこっちゃんは窓辺で風に当たっている。
私は一番前の席に腰をかける。4人ともバラバラの位置にいる。
最近フキョーとかいうので、この学校もお金が無いらしい。
だから冷暖房なんて言う設備は無かった。
しかし、何故か職員室と図書室には冷暖房は完備してあったので、夏はみんな図書室に入り浸っている。
そのせいで、いつも図書室は生徒で超満員。
しかし、丁度良く、美術室と言う涼しい場所を見つけた。
美術室にも冷暖房は無いけれど、風通しも良くて日があんまり当たらないから、丁度良い
涼しさなんだ。
ちなみにこの場所を見つけたのは、情報家の里沙ちゃんである。
- 312 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時47分29秒
- 私はポケットに入れておいたケータイを取り出す。
メールの受信ボックスから、あるメールを開ける。
『たすけて』
痛々しい文字がディスプレイに表示される。
あの日、ののちゃんが残した最後のメール。しっかり保護をかけている。
しかし、メールはあれっきり来ない。どんなに返信しても、ディスプレイには
『送信できませんでした』の文字が虚しく表示されるだけだった。
もっとも、ホントにののちゃんからのメールだったのかは知らないけど、なんか信じて
ないと希望がなくなってしまうからだ。
でも、時々思う・・・いや、いつも思う。
もしこれが本当だったら・・・って。ホントにののちゃんからのメールだったら、私は
どうしたらいいだろう。もう、遅いのかもしれないけど、もしかしたら何処かにいて
苦しんでいるのかもしれない。だから『たすけて』って。
そう考えていると、胸がすっごく痛いんだ。
- 313 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時48分35秒
- 「あさ美」
呼ばれた方に視線をやると、窓辺にいたはずのまこっちゃんが、いつのまにか、私のすぐ
横に立っていた。
「まだ、そのメール気になる?」
ものすごく優しい声でまこっちゃんが聞く。
「・・・うん」
「そっか」
まこっちゃんが私の隣に腰を掛ける。
「私ね、多分このメールいたずらだと思うけど、何か信じてないとダメなんだ」
「うん」
「もし、このメールがホントなら私、ののちゃんの事助けに行くよ」
「うん、そうだね」
「あの日、亜依ちゃんが言ってたの・・・・」
私はハッとして口をつぐんだ。そうだ、この事、まこっちゃん達に言って無かったっけ。「亜依ちゃん・・・?逢ったの?」
まこっちゃんが神妙な顔をする。
いつの間にか、愛ちゃんと里沙ちゃんも側に来ていた。
どうしよう・・・・コレって言うべき?
- 314 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時49分43秒
『見たんや、ののが・・・・沼に引きづりこまれて行くのを』
どうしてこの言葉を思い出さなかったんだろ・・・・。
・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
あの日の亜依ちゃんの言葉――――――――
ののちゃんのメール―――――――――
ののちゃんはあの沼の底。
- 315 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時50分30秒
- まさか――――――沼の中でメールをしたの?
ありえない・・・・。
それに、沼の中にひきずり込まれたら、普通人は死んでしまう・・・。
「あさ美!?」
まこっちゃんの叫び声に我に返る。
すると、私の口が勝手に動き出した。
「ののちゃんが沼に・・・・」
「・・・・・・・え?」
すべてを話していた。
あの日の夜。ののちゃんのお母さんから連絡が来た事や、学校で亜依ちゃんと逢った事。
そして、その時の会話の内容も全部―――――――。
- 316 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時51分46秒
- 「・・・・・そんな事があったの」
愛ちゃんがぽつりと言う。
「あさ美。ダメじゃん、そんな危険な事一人でしちゃ。ウチらに連絡してくれれば
一緒に行ったのに」
と、まこっちゃんが私の頭をなでながら微笑む。
「でも、夜遅かったから」
「平気だよ、里沙達は友の為なら何時だって飛んで行きますからね」
里沙ちゃんが、えっへんと言った感じに腕組みをする。
私はその姿に苦笑した。
「さてと、どうしよっか」
まこっちゃんも腕を組む。
「里沙、前々からあの沼は怪しいと思ってたの。でも加護さんが言うには
辻さんが引きずり込まれていたって・・・・怪奇現象だわ」
「あたしはそう言った話しは信じるタイプじゃないけど、あさ美は嘘なんてつかないし、
加護さんもからかってるようには見えないしね・・・・」
まこっちゃんがう〜んっとうなる。
「わたし、なんとなく辻さんが何処かにいるような気がしてたの」
突然愛ちゃんが突然立ち上がる。
- 317 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時54分49秒
- 「・・・・え?」
「ここで飯田先生とブラックホールの授業したの覚えてる?」
3人は愛ちゃんの方に顔を向けたまま頷く。
「辻さんは異次元の世界に行ったのかも!」
「「「はぁ?」」」
3人の声がハモる。
「なんて言うかさぁ、あの沼ってわたし屋上からしか見たこと無いんだけど、真っ黒じゃない?
ブラックホールに似てない?」
「「「・・・・・」」」
「飯田先生も異次元の世界は存在するって言ってたし、そもそもブラックホール
はなんでも吸い込むって言うから、多分辻さんも吸い込まれたんだよ」
「・・・・うん、分かった。愛、もう分かったから」
まこっちゃんが愛ちゃんの肩を叩く。
「愛ちゃんはまだ夢みる少女なのねぇ」
里沙ちゃんもため息をつく。
「なんでよ、みんな信じてないでしょ!?」
愛ちゃんがふくれっ面になる。
- 318 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時56分05秒
- 「確かに、辻さんの事も非現実的だけど、そこまでは絶対ありえないでしょ」
まこっちゃんはやれやれと言った感じだ。
「じゃあ、辻さんはどうやってメールしたの?」
「まだののちゃんの物って決まったわけじゃないよ・・・」
「あさ美ちゃんまで〜」
「でも、里沙的にぃ。あの沼と辻さんの事件は密接だと思うの」
と、里沙ちゃんが特徴的な眉をぴくっと動かす。
「そんな事、誰だって分かるよ!」
愛ちゃんが叫ぶ。
「まぁまぁ、愛ちゃん落ち着いて」
まこっちゃんが愛ちゃんをなだめている。
私は・・・・・・。
「あ、あのね、私ののちゃんを探す!」
「「「え?」」」
3にんが同時に振り返る。
「なんとなくだけど、可能性が無いわけじゃないと思うから」
「「「・・・・・」」」
「だからあの沼の事についてもっと調べてみようかなって思うんだけど」
- 319 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時56分35秒
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
- 320 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時58分18秒
- 里沙ちゃんが黒板にチョークを当てる。
まこっちゃん、愛ちゃん、私の順で前の席に腰を掛けている。
「これから、今まで起きた一連の出来事を振り返ってみたいと思います」
すると、飯田先生をまねているのか、里沙ちゃんがコホンと咳きをする。
そして、黒板にその1と書く。
「その1、沼について。里沙の情報によると、沼はもとは単なる水たまりであったわけで」
1の後ろに『水たまり』と書く。
「その2、沼が出来たのは?。前に図書室で古新聞読んだの覚えてる?」
里沙ちゃんが目だけで私達を見回す。全員、ただうなずく。
「20年前、この学校で用務員さんが殺されています。里沙的には、すべてはその用務員
さんの呪いだと思うの」
そして、『水たまり』の下に20年前に出来たと書こうと・・・・
「ちょっと待って」
愛ちゃんがいきなり手を挙げる。
- 321 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)16時59分39秒
- 「はい、高橋さん」
「ねぇ、里沙ちゃん。沼が出来たのそんな昔じゃないよ」
「え?」
みんなの視線が一成に愛ちゃんに向けられる。
「今思い出したんだけど、今の高等部の先輩達が中等部だったときに、だんだんと
出来たらしい・・・だから多分4・5年くらい前じゃないかと」
「ちょっ・・・愛ちゃんそれを早く言いなさいよ!?里沙恥書いたじゃん!」
そう言って里沙ちゃんは、書きかけた文字を急いで消す。
「って言う事はさぁ、その用務員さんの霊のしわざって事も無くない?20年前ならその
空白の15年間はなんなの?」
まこっちゃんが頬杖をつきながら眠そうに言う。
「う〜ん、どうなんだろ。そこまで情報ないなぁ・・・じゃあとりあえず保留かな」
そう言って、里沙ちゃんは、『4・5年前に出来た(ほりゅう)』と書いた。
「保留くらい感じで書こうぜ、里沙〜」
まこっちゃんが呆れたようにつっこむ。里沙ちゃんはえへへと笑ってごまかす。
- 322 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)17時00分59秒
「それじゃあ、次言ってみよう。その2、事件発生。事件1正太郎君・・・」
しかし、里沙ちゃんはちょっとだけしまったと言う顔をしてまこっちゃんを見る。
「べ、別にいいって」
まこっちゃんが慌てて言う。
里沙ちゃん、まこっちゃんに気を遣わせてどうすんの・・・。
「こ、コホン。そして、沼の撤去工事の作業員3名」
チョークの音が静かな美術室に響く。
「・・・そして今、辻さん行方不明・・・・と」
- 323 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)17時02分06秒
これまでの起きた出来事
その1沼について
元は単なる『みずたまり』→次第に大きくなる→沼に
20年前の用務員さんの呪いによって出来た(里沙的考え)
実際は4・5年前に出来た(愛情報)保留。
その2一連の事件
1正太郎君 (でも犯人捕まった)
2保田先生がユーレイ目撃(多分用務員の霊)
3沼の撤去作業員3名行方不明
4辻さん、行方不明→加護さんの目撃談あり
- 324 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)17時02分58秒
「よし。大体これくらいかな・・・」
と、愛ちゃんがチョークを置く。結局途中で里沙ちゃんと交代する事になったのだ。
「ねぇ〜なんで里沙じゃダメなの〜」
里沙ちゃんがふくれっ面で足をぶらぶらさせる。
「愛の方が、ちゃんとまとめられてんじゃん。感じもちゃんと書けるし」
「まぁ、まぁ・・・」
あんまり言ったら里沙ちゃん泣いちゃうって。
「まとめたはいいけど、これからどうするの?」
愛ちゃんの言葉にみんながう〜んと考え込む。
私は黒板に視線を移す。この中で手がかりになりそうなのは・・・。
- 325 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)17時03分45秒
- 2保田先生がユーレイ目撃
そう、あれは私が学校遅刻した日。職員室に保田先生を訪ねに言ったんだっけ。
『ホントなのよ!!信じて!?居たのよ校舎裏に幽霊がぁぁ!キィィィッ!』
職員室の中で暴れる保田先生。それをなだめる飯田先生、安倍先生、中澤先生・・・。
それから保田先生は学校へは来ていない。
- 326 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)17時05分15秒
- 「ねぇ、みんなぁ」
3人は一成に私の方へ顔を向ける。
「保田先生がユーレイ目撃ってあるでしょ?その事、ちょっと調べてみたいんだけど」
「いいけど、でもどうやって?」
愛ちゃんが目を丸くする。
「うん。保田先生の家に行って直接聞いてもいいし、あの時職員室にいた飯田先生か安倍先生か中澤先生
に聞いてみてもいいかなって」
「そうだね!そうしよっか!?なんか本格的な捜査って感じになってきたね!」
ミーハーな里沙ちゃんの瞳が輝く。
すると、まこっちゃんが。
「コラ、遊びに行くんじゃないぞ。言っとくけど、あたしらはもしかしたらすっごい危険
な事しようとしてるのかもよ?犠牲者の中にあたしらの名前がこれから入るかもしれない
んだから。別にあんな噂は信じるつもりないけど、もっと慎重にやった方がいいって」
みんなまこっちゃんを見ている。まこっちゃんも私達を真剣な眼差しで見ている。
そう、これから私達だけの危険な物語が始まるんだ。
- 327 名前:4話 水色の封筒 投稿日:2003年02月19日(水)17時05分53秒
- もう、誰も犠牲者は出さない。ののちゃんや他の人達も私達が助ける。
「さぁ、みなさん行きますか?」
まこっちゃんがニヤリと口元を曲げる。
「よっしゃ!」
愛ちゃんが気合いを入れている。
「イエス!」
里沙ちゃんがガッツポーズ。
「みんな!早く行こうよ!」
―――――
――――――――
―――――――――――
- 328 名前:名無し娘。 投稿日:2003年02月19日(水)17時14分07秒
- 思わずリアルタイムで読んでしまった。
進め!5期探偵団!!
これからの展開に禿げしく期待!!
- 329 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月19日(水)17時26分22秒
- >名無し娘。様
さっそくレスありがとうございます!
お〜リアルタイムでしたか。これからまガンバリマス。
と、意気込んどいて、さっそく重大ミス!!
「4話 水色の封筒」になってましたが、
308から「5話 消えた者、残された者」です。さっそくスミマセン(泣
- 330 名前:チップ 投稿日:2003年02月19日(水)18時22分40秒
- 怖くて怖くて震えてたんですけど、五期メンのキャラに助けられました。
なんか色々気になるし、早くののを助けて〜って感じで
もう何を言っていいのやら、頭グチャグチャですけど続き楽しみにしてます。
- 331 名前:ななし読者 投稿日:2003年02月19日(水)20時05分00秒
- 5期メン揃っての行動は頼りなさそうだけど楽しそう。
でも、年長組(後藤先輩とか)の事情も気になる…
- 332 名前:青のひつじ 投稿日:2003年02月28日(金)22時38分40秒
- >チップ様
レスありがとうございます!
助けられるかは5期メンしだいって感じですねぇ。
>ななし読者様
レスありがとうございます!
確かに頼りなさそう・・・。(苦笑
- 333 名前:青のひつじ 投稿日:2003年03月11日(火)17時45分36秒
- う〜ん、更新あとちょっと待っていて下さい。
勝手な事言ってすいません。物語のラストを変更しようと
思っていますので一週間ほど時間を下さい。ホントすいません・・・。
- 334 名前:名無し娘。 投稿日:2003年03月11日(火)18時14分33秒
- いや気長にどうぞ。
読者としても青のひつじさんの満足のゆく作品が読みたいです。
マターリお待ちします。
- 335 名前:青のひつじ 投稿日:2003年03月17日(月)18時15分20秒
- >名無し娘。様
そう言って頂けると嬉しいです。ホントありがとうございます。
ようやく更新が出来そうですので、マターリお待ち下さい。
- 336 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月17日(月)23時43分44秒
- 「は?圭ちゃんがどうかしたの?」
職員室を訪ねると、長椅子に腰掛けた安倍先生と、デスクに頭を伏せている飯田先生が
いた。丁度その二人しかいないからこれは絶好のチャンスかもしれない。
と、思っていたら、なんの前置きもなく里沙ちゃんが唐突に本題を切り出した。
「だから、保田先生の行方ですって!」
「はぁ?」
安倍先生は眉をひそめて小首を傾げる。里沙ちゃんの声が大きいので、飯田先生も
伏せていた頭を上げてキョトンとしていた。
これにはまこっちゃんも怒る気を無くしているようで。
「保田先生ユーレイに取り憑かれたんですよねぇ!」
「ちょっ・・・里沙ちゃん!そんな事誰も言ってない」
「え?そうだったけ?」
人の話全然聞いてない・・・・。
「え・・・あんた達誰から聞いたのそんな事」
飯田先生が瞳をまん丸くして私達を見る.
「・・・あ」
私達はお互い顔を見合わせて、しまったと言うような顔をした。
「あんた達、立ち聞きしてたね」
そんな様子に気づいた安倍先生が少し睨むような目つきでこちらを見やる。
- 337 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月17日(月)23時45分27秒
- 「私達、沼の事調べてるんです。今度の科学の時間で身近にある水分の性質と、社会の調べ
学習の地域のさまざまな情報って言う課題で、私達、この学校の噂について調べようと思ってたんです。
立ち聞きなんかしてすいませんでした。これも学習の一環なんです」
と、あのまこっちゃんが有りもしない嘘までついて頭を下げたのだ。
いつもだったら、一人暴走する里沙ちゃんを横目にしらけたような表情を浮かべて、早く
終わりにしてよと言っているのに。
「なぁ〜んだ。そう言う事だったの」
飯田先生と安倍先生はまんまとまこっちゃんの嘘に引っかかってしまった。
「それで噂の真相を解き明かしに来たってわけ」
そう言って飯田先生はマグカップのコーヒーに口をつける。
「そうなんです!あの日保田先生の身になにがあったんですか!」
愛ちゃんがまるでテレビの司会のような口調で言う。
さすがのまこっちゃんも苦笑いだ。先生二人はしばらくう〜んとうなる。
「何て言うか・・・4人が職員室で見た通りだと思う」
「え・・・」
- 338 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月17日(月)23時46分44秒
- 安倍先生がさらりと言う。飯田先生も力一杯頷く。
「圭織も圭ちゃんが騒いでた事しか分からないの・・・。
あの時圭ちゃんに何聞いてもユーレイを見た・・・しか言ってくれないし」
「なっちもそう。でもあの真面目な圭ちゃんが嘘なんかつくはず無いから・・・
信じたいんだけど」
「保田先生は確かにユーレイを?それっておじさんのユーレイだったんですか?」
「おじさん?ううん。ユーレイがどんなだったかは言ってなかったね」
「そうですか・・・・」
私が少し沈みかけていると、今度は里沙ちゃんが。
「保田先生の電話番号とかメルアドとか知ってますか?」
「ああ・・・・圭織も一応連絡してみたんだけど、つながらなくてね」
「う〜ん・・・・」
珍しく里沙ちゃんまでが悩むような格好でうなる。早くも捜査は難航してしまった。
いや・・・・早すぎるかもしれない。
- 339 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月17日(月)23時48分15秒
- 「それじゃあ、校舎裏の沼の事について聞きたいんですけど・・・」
見かねた愛ちゃんが質問を変えてみた。
「あの沼が出来た時、何か変わった事ありませんでした?」
「ああ・・・圭織達がこの学校に赴任してきた時にはもうあったわね。
だからそう言う事は分かんないなぁ・・・って圭織達はあんたらが入学
してくるのと同時に来たのよ」
「そ、そうだったんですか」
「失礼ね。覚えてないの?」
飯田先生が不機嫌そうに顔をしかめる。
って言う事は飯田先生と安倍先生はこの学校に来てまだ3年。
保田先生は1年目。知るわけないのは確かかも。
「なっちも最初あの沼見たときびっくりしたなぁ。飲み込まれるかと思ったもん」
「そうそう。普通沼って言ったら緑色って感じじゃん?完璧真っ黒なんだもん。
なんだかブラックホールみたいね」
ブラックホール・・・・。
- 340 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月17日(月)23時49分40秒
「そういえばもう3年も経つんだ・・・時が経つのは早いねぇ」
飯田先生は遠くを見るような瞳になる。
「そうそう。なっちもまだ若くてさぁ・・・」
「ねぇ、あさ美。もう行こっか」
突然肩を叩かれて振り返ると、扉の前に3人共立っていた。
私は頷くと、昔話を始め出した二人を後に、職員室を出た。
「ちょ・・・ちょっとあんた達。聞きたい事聞いたら帰るんかい!」
後ろから飯田先生達が叫ぶ。私達は軽くお辞儀をすると、その場から急いで離れた。
- 341 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月17日(月)23時50分17秒
- 342 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月17日(月)23時51分23秒
- 太陽の光が大分弱まってきた。グラウンドからはそれでも部活に励むかけ声が響いている。
ひんやりとした廊下には、私たちの足音だけが無造作に聞こえるだけで、後は何も聞こえなくて、異様な静けさを放っている。
私はさっきから心の奥底から感じる違和感と格闘していた。違和感の意味はもう分かっているけど。
「あんま収穫無かったね・・・」
愛ちゃんがボソッと言う。その言葉に私たちは頷く。
「まぁまぁ・・・そんな簡単に行くわけないし。まだ始まったばっかじゃん」
「・・・まこっちゃん」
「ねぇ、次何処行く?」
里沙ちゃんが珍しく静に聞く。
「やっぱ・・・中澤先生でしょ。なんか知ってそうじゃん?」
まこっちゃんが、そんな里沙ちゃんに少し驚きながら言う。
「そうだね。中澤先生って確か8年もこの学校にいるんでしょ?」
「歳も歳だしねぇ」
大人しいと思った里沙ちゃんが、おなじみの失礼発言を繰り出す。
- 343 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時00分56秒
- 「あんた怒られるよ」
まこっちゃんの顔が少し青ざめる。なぜなら中澤先生にとって年齢と結婚と言うキーワードは禁句なのだ。
それを昔間違って使ってしまった生徒がいるらしいけどその子がどうなったかは誰も知らない。
「あさ美?」
さっきからボーッとしていた私の顔を、不思議そうな表情
で覗きこむまこっちゃん。
「へ?」
「へ?じゃないよ。さっきから静だなって思ったら。
こんな時にボーッとしないでよ」
「ああ、ごめんね」
「別に怒ってないよけど・・・
なんか思いあたる事があったらウチらにも教えてよ」
そう言うと、愛ちゃんと里沙ちゃんもこちらに視線を向ける。
私の抱いている違和感と疑問・・・・。
もしかしたら3人共同じ事を思っているかもしれない。
「なんか変じゃない?」
私の事を、3人が瞬きせずじっと見つめる。
- 344 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時03分05秒
「飯田先生も安倍先生も何も知らなかった。私達も何も知らないから今情報を集めてる。
ヘタしたら中澤先生も何も知らない可能性だってあるわけじゃない・・・」
学校と言う場所は常に嘘、本当、限らずにいろんな噂が飛び交う場所。
誰もが知っていたり、信憑性の高い噂であればもちろんの事。
私達や先生達が沼について知っている事と言えば、水たまりから巨大化した真っ黒な沼。
と、それだけだ。
普通そこから、有りもしない、もしくは元あった話しがデフォルメされたような噂くらい
立つ物だ。
真っ黒な沼に、相次ぐ行方不明者。騒いでいるのはマスコミだけ・・・。
これだけ怪談ちっくな良い材料が揃っていると言うのに、私達の学校では
その話題をまるで避けているかのように、誰も触れないし、誰も疑問に思わない。
変を通り越て異常じゃないのかな・・・。
- 345 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時05分24秒
- 「おかしいって思わない?私達、もう中3だよ。こんなにこの学校にいるのに噂すら聞かないじゃない」
「そういえば・・・あたしが先輩から聞いたのも、沼がいつ出来たかくらいで、行方不明の事とか誰も言わなかったな・・・」
愛ちゃんが思い出すような口調で言った。
「この情報通の里沙でさえ知らないし・・・・」
里沙ちゃんは口をへの字に曲げる。
「知ってるといえば『奥玉の底なし沼』って言う名前だけだったね」
まこっちゃんも納得したように呟く。
「それに私たち、この事にもっと前から気づいても良かったって思うの」
「あたし・・・あさ美に言われるまで気づかなかった」
「あたしも」
「里沙も」
- 346 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時06分39秒
もしかしたら、これは私が想像しているよりも、もっと大変な事が
起こっているのかもしれない。ひょっとしたら私達がこの学校に来るもっと、ずっと前から。
「急ごう」
私たちは保健室に向かう。
中澤先生がきっと何かを知っていてくれる事を願って。
- 347 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時07分43秒
―――――――
―――――
―――
- 348 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時09分12秒
- 「石川先輩・・・・?」
「え?」
急に愛ちゃんが小走りしていた足を止めて、ぽつりと呟いた。
愛ちゃんは少し目を細めて、遠くを見るような目つきで廊下の先を見つめる。
制服のリボンが赤だ。明らかに高等部の制服で、背格好や栗色の髪の毛は、石川先輩の
物に違い無かった。
「どうして中等部の校舎に・・・・?」
「ねぇ・・・」
里沙ちゃんが後ろから私の肩を軽く叩く。
「石川先輩なら何か知ってるんじゃない?5年前は確か中1だよ」
すると、まこっちゃんが。
「あたしも先輩に聞こうって思ってたけど・・・今は止めときなよ。辻さんの事件から
石川先輩って2・3日学校来てなかったし。矢口さんが言ってた事忘れたの?
前、図書室行った時、あんまり後藤先輩とかの前で話すなって言われて・・・・」
そう言いかけてまこっちゃんの口が止まる。
私達もまこっちゃんを見る。
- 349 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時12分15秒
『あんまりごっちん達の前で言うなよ?』
図書室を出る時に、ふいに矢口さんから出た一言。
あの時は、一瞬気になっただけでなんも疑問にも思わなかった。
ごっちん達・・・・。もちろん石川先輩や吉澤先輩も例外じゃ無くて。
「どうする・・・・?」
愛ちゃんが眉をひそめながら、私の顔を見る。
「行くしか、ないよ」
私の口から自然とこの一言が出た。自分でも意外だった。
前の私だったらここで尻込みているはずだったのに。
全員が頷く。廊下の先で立ったまま動かない石川先輩に
視線を移すと、やや小走りに石川先輩に近づいた。
- 350 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時15分05秒
- 私たちが1メートルくらい近づいても、石川先輩は気づいていない様子だった。
「あの・・・」
後ろから声を掛けて見ると。石川先輩はゆっくり私の方を振り返る。
その時、私たちは息を飲んだ。
石川先輩はののちゃんの行方不明を知って、3日ほど学校へ来なかった。
そして、今日久しぶりにあった石川先輩は、あまりにも一週間前とは違った。
酷く痩せていて、深い目の下のくま。澄んでいたあの綺麗な瞳は生気を失っていた。
「石川先輩・・・」
ゆらりと石川先輩は、身体をこちらに向けた。
私より前にいた愛ちゃんが一歩後ろへ下がる。
「・・・・久しぶりね。何処に行くの?」
- 351 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時17分33秒
- 高くて、いつも吉澤先輩の名前を呼ぶとき、矢口さんからうるさいと言われる
くらいの明る過ぎるトーンだった声は。今は力無く息だけのしゃがれた声に変わっていた。
「あ、はい・・・保健室へ」
まこっちゃんの声は、はっきり怯えていた。
「そう・・・。でも中澤先生帰ったみたいよ。さっき校門出るの見たから」
「そうですか・・・・・あの、大丈夫ですか?」
「え?何が・・・?」
「あ、いえ・・・声とかいろいろ」
石川先輩は口元を少し緩めて、ふっと笑った。
いつもの石川先輩だったらその笑みはとても可愛い物に違いなかったけど、今の石川先輩
はとても不気味に見えた。
「心配してくれるのね・・・・ちょっと風邪ひいただけだから」
「む、ムリしない方がいいと思います・・・・」
愛ちゃんの声が少し裏返った。
- 352 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時19分21秒
- 「ありがとう・・・」
力の無い目を細めると、すぐに無表情に変わる。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・今日は、部活無いんですか?」
なかなか本題に切り出せない。
「うん、金曜は休みなの」
「そうですか・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
気まずい雰囲気が全体的に漂っている。私はまこっちゃんの方に視線を向けると・・・
まこっちゃんが少し涙目になっている事が発覚した。
私はごくりと息を飲んで、とりあえず話しを続けようと思った。
- 353 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時21分20秒
- 「と、所で・・・石川先輩。どうして中等部の校舎に?」
私が何気無く言った言葉に、石川先輩の何処か視点の定まらない瞳が、キッと私の目を捕らえた。
それを同時に私の心臓が跳ね上がる。
「あ、その・・・・」
私は口をぱくぱくとさせる。
「・・・・どうして?」
「え?」
「わたしがここにいちゃ行けないかな」
明らかに石川先輩の声のトーンが下がっている。
「いえ・・・そう言う意味じゃないです」
これは聞けない・・・・。聞ける状況じゃない。
誰もがそう思っていた時。里沙ちゃんがまた、やってくれた。
「沼の事知ってますよね」
「――――――!?」
- 354 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時22分51秒
- 彼女は日本1空気の読めない娘に違いない。
小声でヤバイって、と、まこっちゃんが里沙ちゃんの腕を引っ張る。
しかし、里沙ちゃんは同時無い。
「里沙達いろいろ調べてるんです。辻さんの事とか、社会の地域の事とか
理科で沼の実験したり、中澤先生探したりとかいろいろ」
しかも、まこっちゃんのついた嘘とごちゃ混ぜになって、分けわからなくなってる・・・。
止めようとしていたまこっちゃんも、愛ちゃんも、私も、怖くて身動きが取れなくなって
、ただ、淡々としゃべる里沙ちゃんの横顔を呆然と見ていた。
「石川先輩、5年前は中1でしたよね。何か知ってると思って聞きに来たんです」
空気が明らかにシンと冷たくなった。もしかしたら私達の周りだけかもしれない。
さっきと違う温度差に少し身震いした。
「・・・・・」
言い終わった里沙ちゃんの横顔が少し青ざめ始めた。私たちは恐る恐る視線を上げた。
- 355 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時24分11秒
- 石川先輩の今にも死にそうな瞳を、はっと見開き、らんらんとギラつきを見せる。
私たちは震える足をようやく一歩下げた。
しかし、後ずさりした私たちに、ゆっくり一歩近づく。
石川先輩の肩は小刻みに震え、顔はさっきよりもさらに青ざめている。
「す、すいません・・・」
ようやく状況を把握したらしい里沙ちゃんが謝ってみるが、もう遅い。
「そんな事・・・知らないわよ」
「はい・・・?」
「わたしがそんな事知るわけないじゃない!!!」
耳を突き破るくらい甲高い声で叫ぶと、そのまま私達の元を走り去ってしまった。
里沙ちゃんは目を見開いたまま固まっている。
「里沙ちゃん・・・・」
肩を揺すると、開いたままの目が瞬きする。
- 356 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時25分07秒
- 「バカ」
まこっちゃんが冷たく呟く。
「石川先輩、なんかおかしかったね・・・」
「やっぱり聞かない方が良かったかも」
愛ちゃんがそう言って里沙ちゃんを睨む。里沙ちゃんはバツが悪そうに肩をすぼめる。
「・・・・中澤先生いないって言ってたし。どうしよっか」
まこっちゃんがため息混じりに言う。
廊下の窓にちらりと目線を上げると、グラウンドで活動していた陸上部が、もう片づけを始めていた。
「今日は、帰ろっか」
私がぽつりと呟くと、みんなゆっくり頷いた。
- 357 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時25分47秒
- 358 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時27分02秒
- 「「「ありがとうございました!!!」」」
夕焼け空の下、汗にまみれた部員達が、大声で終わりのあいさつをする。
風が、まるですすり泣くような音を立てて吹く度、グラウンドの小石がころころと転がる。
スポーツタオル片手に、他愛の無い会話をしながら、ぞろぞろとその場を後にする部員達の横を、肩をすくめて歩く私たち。
「結局満足な情報は無かったね」
愛ちゃんはまだ石川先輩の恐怖が残っているのか、目の視点が定まらない。
「でも、やっぱり石川先輩なんか知ってるみたいだったよ」
里沙ちゃんも今日は大人しい。
「聞くに聞けないじゃん。すっごい動揺してたし」
まこっちゃんが案外一番怖がっていたかもしれない。
「また、明日ね・・・」
とてもじゃないけど石川先輩にもう一度聞けるような度胸は無い。
こうなったら後藤先輩か吉澤先輩に聞くべきだけど―――――。
もし、ホントに触れてはいけない事だったら、後藤先輩は私の事をどう思うんだろう。
- 359 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時28分48秒
- 私たちが校門を出ようとした時。
「ちょっと待ったぁー!!」
私たちの背後から誰かが叫んでいる。4人ほぼ同時に振り返った。
安倍先生が校舎の出入り口から走ってくる。
それにしても、安倍先生ってよく走るなぁ・・・。
ようやく私たちの所までたどり着くと、安倍先生は息を弾ませながら、メモのような物
を私に手渡す。
私は首を傾げながら、そのメモ用紙を開く。
すると・・・。
「コレ・・・」
「圭ちゃんの家の住所」
私達の脳裏に大きな希望の色がわき出て来る。
「いいんですか?」
「あたりまえっしょ。可愛い生徒だからね」
「すいませんわざわざ」
まこっちゃんが軽く頭を下げる。
「いいって。それじゃあ日曜にでも行ってみな」
そう言って安倍先生はひまわりのように笑った。
「はい!」
「は〜い!」
「はい」
「は、はい」
- 360 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時30分04秒
- 「ふふっそれじゃあ気をつけて帰るのよ?」
そう言って、安倍先生は私たちをぐるりと見回すと、またにっこり笑って
それじゃあと軽く手を振って行ってしまった。
「あべ先最高・・・・」
里沙ちゃん、あべ先って・・・?
「とりあえず、保田先生に期待ってトコかな」
「でもさ、まこっちゃん。また石川先輩みたいにキレたらどうするの」
愛ちゃんがもっともな事を言う。実際保田先生は、怒るとかなり怖いワケだけど。
「その時はその時でしょ」
そう言って、まこっちゃんはさわやかに笑った。
「じゃあ日曜どうしよっか?」
「もちろん行くよ」
愛ちゃんが白い歯をニッと出して笑みを作る。
オレンジ色に染まったアスファルトには、4つの影がゆらゆらと映っていた。
- 361 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月18日(火)00時31分32秒
- ・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
- 362 名前:青のひつじ 投稿日:2003年03月18日(火)00時34分19秒
- 更新遅れて迷惑かけました。
遅れた割には出来が悪い・・・。う〜ん、もっとがんばります。
- 363 名前:名無し娘。 投稿日:2003年03月18日(火)19時39分39秒
- あべ先(w
どんどん謎が沼の様に深まって行きますね。
続きが凄い楽しみです。
- 364 名前:ななし読者 投稿日:2003年03月18日(火)22時13分25秒
- 話は少しずつ絡みあってきてるけど、まだ全体像ははっきりとは見えてこないというか…
前にも何度かあった、夕焼け空の下を4人が下校していくとこの描写がいいっすね
- 365 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月20日(木)13時54分26秒
- 更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!
沼とごまいしよしとの関係が気になる今日この頃。
- 366 名前:青のひつじ 投稿日:2003年03月21日(金)14時45分43秒
- >名無し娘。様
レスありがとうございます!
すべての真相が明らかになるのは、まだもうちょっと
先ですね(w
>ななし読者様
レスありがとうございます!
何気無く書いてたんですが、誉めてもらえるなんて
思ってなかったです。(喜
>名無し読者様
レスありがとうございます!
お待たせしました。もうちょっと早いペースで
書きたい所ですね(反省
- 367 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月21日(金)23時20分46秒
―――――
――――――――
――――――――――
―――――――――――――
- 368 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月21日(金)23時22分25秒
「あさ美、あんたちゃんと勉強してるの?最近、またフラフラ遊んでるでしょ」
私が鮭の切り身にハシをつけた所で、急にお母さんがそう話しを切り出した。
居間ではジャージ姿のお父さんが、野球中継に熱中していてそんな事には気づかない。
「そんな事ないよ。お母さんが私が勉強してるトコ見たことないだけじゃん」
「じゃあ、この間の英語はなんだったの?いくらエスカレーター式だからって気を抜かないでちょうだい」
そう言って、私の茶碗にごはんをよそう。
「・・・ちょっと、少ないんじゃない」
そう言うと、お母さんはごはんをよそう手を止め、今度はよそったごはんを半分も減らしてしまった。
「減らしてなんて言ってないじゃん」
「あんた最近食べ過ぎよ。ほっとくとお母さんみたいになるわよ」
すると、お母さんは自分のお腹をぽんと叩いた。私もつられて自分のお腹の肉を、少しつねってみた。
「・・・やっぱいらないや」
- 369 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月21日(金)23時23分05秒
- 370 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月21日(金)23時25分11秒
そろそろ模様替えでもしようかな。
自分の部屋に戻ると、まだ物足りなさが残るお腹をさすりながら、デスクの席に腰を下ろす。
やや殺風景なこの部屋を私はあんまり好きになれない。
休日にでも、片付けをして小物でも揃えようかと思ったけど、その日になって面倒になってしまう。
そう言う自分の性格も好きじゃないけど。
ふと、自分のデスクの上に目をやると、教科書や参考書が無造作に置かれていた。
浅いため息を漏らし、私は手前に置いてある単語ドリルを開く。
自分でも分かっていた。英語だけでは無く、どの教科も徐々に点を落としていっている事に。
まさに右肩下がりな状態だった。
ののちゃんがいなくなってから、最近、何もかもに集中出来ないでいる。
沼の事とか、後藤先輩の事、ののちゃんからのメールとか・・・・
さまざまな事が私の頭の中を駆けめぐっているのだ。
- 371 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月21日(金)23時26分15秒
その時、ケータイの着メロが鳴り響く。私は席を立つと、ベットの上に転がっている
ケータイを拾う。
ディスプレイには『後藤先輩』の文字。
今度はゆっくりベットに腰掛ける。
『ハロー!元気してる?ごとーは今かなりヒマしてる(>_<)』
私は後藤先輩のメールにクスリと笑うと、返信ボタンを押す。
『元気です!(*^_^*)私もヒマだったりします(笑)』
返信した後、そのままベットに横たわる。
- 372 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月21日(金)23時28分44秒
- 後藤先輩と初めて逢ったのは中1の頃。
吉澤先輩に一目惚れした愛ちゃんと里沙ちゃんに、体育館に行こうと誘われて、吉澤先輩
を見に行った。
そう、その時後藤先輩と初めて逢ったのだ。
校則の厳しいこの学校で、あの頃は唯一の金髪で、最初は怖い人だと思ってた。
しかし、何回か体育館へ通っていると、笑った顔とか亜依ちゃんを見る優しい瞳とか
石川先輩をからかう時の口調とか、ずっと見ている内にどんどん後藤先輩に近づきたいと思うようになっていった。
多分、それが始まりだったのかな。
私はもう一回、ケータイのディスプレイに視線を移す。
後藤先輩からの返事を待つ間、何故か私は後藤先輩のメールを何度も読み返してしまう。
そもそも私は後藤先輩をどう思っているんだろう。
憧れとか尊敬とか・・・・・好きとか。
- 373 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年03月21日(金)23時30分40秒
- 一回瞼を閉じる。何考えてるんだろ。私。
ののちゃんやまこっちゃんに対する好きと、後藤先輩に対する好きが明らかに違う事に
気づいて無い分けじゃない。
ケータイのディスプレイの画面が変わると同時に着メロも鳴る。
『ラッキー★じゃあしばらく話そっか(~o~)』
その後、3時間も後藤先輩とメールした。明日の事もすっかり忘れて。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
- 374 名前:青のひつじ 投稿日:2003年03月21日(金)23時31分47秒
- ほんの少しだけ更新です
- 375 名前:名無し娘。 投稿日:2003年03月22日(土)00時05分29秒
- こんごま!こんごま!!
ワッショイ!!!
- 376 名前:青のひつじ 投稿日:2003年04月05日(土)15時30分01秒
- >名無し娘。様
一応ほのかにこんごまシーン入れといた
方がいいかなって思いましたので(w
- 377 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月05日(土)15時31分10秒
目を覚ます度に、今までの事が嘘のように思えてくる。すべて夢の出来事だったんやと。
しかし、その幸せな錯覚は泡のようにすぐに消えていってしまう。
押し寄せて来る罪悪感と後悔の渦がふつふつとわき上がって行くようやった。
カーテンを半分開けると、強い光が差し込み一瞬目を閉じてまたカーテンを閉める。
時計の針は1時を回っていた。ベットから出ると、そのまま扉の方へ足を進める。
ドアノブを握りゆっくりそれを回すと、少しだけ扉を開ける。
すると、床にサンドイッチとサラダが乗っているおぼんがぽつんと置かれていた。
扉を開けてそっと手を伸ばす。
- 378 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月05日(土)15時31分55秒
- おとんが置いてくれた不格好なサンドイッチを一口かじり、その場に座り込む。
「痛っ」
床に沢山転がっている破片の一部がお尻に当たる。心の中で舌打ちすると、その破片を一つずつ拾う。
割れたレンズと引きちぎられたフイルムはもう元には戻らない。
それらをかき集めると、ベットの横に置いてある水色のゴミ箱にすべて捨てる。
でも、フイルムだけは机の一番下の引き出しに入れておいた。
・・・こんな事をしている場合やないな。今日は外に出なあかんのやったけ。
- 379 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月05日(土)15時33分26秒
- 「亜依・・・おまえ外出て平気なんか」
居間を通ると、丁度おとんが台所で皿を洗っとった。
物音に気づいたのか、おとんはすぐにウチのいるほうに顔を向けた。
「ん。ちょっと行ってくるだけやから。心配せんといて」
「そうか」
そう言ってまた皿洗いを始めた。
前から思っとったんやけど、おとんのエプロン姿はちょっとキショイわ。
玄関で靴に履き替えてると、後ろからまたおとんがやって来た。
「何?」
少し冷たい口調で聞いてみた。
するとおとんはウチと目を合わさないで、きょろきょろとしながら。
「今晩、何食いたい?」
と、わざわざここまで追って来て聞かんでもええような事を聞いてきた。
ウチは少し呆れながらも、考えるような顔をすると。
「なんでもええ」
「そうか・・・じゃあ久しぶりにすき焼きでも食うか」
「・・・うん」
- 380 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月05日(土)15時34分06秒
外に出るなり、もわっとした暑さがウチの身体をつつんだ。
乾いたアスファルトは何処までも続きそうで、その上をウチ一人が歩いている。
昼頃だと言うのに住宅街はひっそりとしていて、少し異様な雰囲気が漂っているように感じた。
外へ出て一分もしない内に、額には汗がじんわりとわき出ていたから、右手でその汗をぬぐう。
ここじゃないけど、近くの公園からセミの鳴き声が微かに耳を掠める。
もうそんな時期なんやなぁ・・・。
- 381 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月05日(土)15時35分35秒
- そのきっかけと言うと。
後ろの席の男子がウチの方言をからかって来て、そいつととっくみ合いのケンカになった時。
クラスの誰かが先生を呼んで来て場は収まったけど、そいつは自分が最初にケンカ売って来た
くせに、ウチがいきなり殴ってきたと言い張った。
見ていたハズの周りのヤツも、どうやらそいつはこのクラスのガキ代将だったみたいで、
みんなそいつの味方になった。
どうしたら良いのか分からなくなったウチは、恥ずかしい事にみんなの前に泣いてしまった。
その時、泣いているウチを押しのけて、先生に向かってウチの無実を証明しようと
したのがののやった。気が弱いくせに今にも泣きそうな細い声で、一生懸命説明してた。
しかし、二人対クラス全員ではやっぱり結果は分かっている。
結局ウチとののは居残りさせられて、その後しばらくクラスから爪弾き状態になった。
しかし、おかげでののとウチは誰にも負けないくらい仲が良くなったんや。
- 382 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月05日(土)15時37分18秒
やがて住宅街を抜けて、広い十字路へ出る。
その十字路をそのまままっすぐ通ると、セミの鳴き声もはっきり聞こえてくる。
この辺では公園といったらここしか無い。
公園の周りには木々が沢山生い茂っていて、おじいさんも午後の散歩と森林浴にやって来る。
今日は風が強いのか、葉っぱが大きくざわめいた。
さっきから赤いスコップで砂を掘っている小さな子が、ウチの事を物珍しそうな顔で
見とったけど、気にしないようにした。
公園を抜けると、今度は小さな赤い鳥居が見えて来る。
いつもは何処か不気味で、物音一つしないこの神社。
でも夏になると縁日をやったり大晦日や元旦に人で溢れかえったりするようなごく平凡な神社だ。
ウチとののは学校帰りにはほとんど毎日ここに寄って、くだらない話しをして、夕方には
家に帰っていた。
境内や剥げかけた朱塗りの社殿も、そんな立派なもんやなくて、こぢんまりとした物だった。
だから特別なイベントが無いかぎり誰も訪れる事は無かったから、ウチらの秘密基地
だったんや。
- 383 名前:青のひつじ 投稿日:2003年04月05日(土)15時38分43秒
- 中途半端な所で止めてしまいましたが更新続きます。
- 384 名前:名無し娘。 投稿日:2003年04月05日(土)21時37分19秒
- うわぁ〜〜ん!泣ける…。
続き楽しみです。
- 385 名前:青のひつじ 投稿日:2003年04月22日(火)15時46分09秒
- >名無し娘。様
中途半端ですみません。(反省
- 386 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)15時50分55秒
6年生になった冬。ののと二人で一週間遅れの初詣をここでやったんや。
ウチは水筒に甘酒を入れて来て、ののはお菓子と焼き餅を持ってきた。
確かののの持ってきた焼き餅は、とうに冷め切っててカチカチに固くなってたから、食べれなかった
んやっけ。あん時もよう涙目になって「あいぼんごめん」って何度もゆうてたな。
その後、石段の上に腰掛けて、甘酒とコアラのマーチを二人で分け合って食べた。
その日、ウチはマフラーを忘れて来たから、ののの水色のマフラーを二人で首に巻いてたんや。
冬なのに、何故かいつもより暖かく感じたな。
神社を出ると、学校へ続く大きな坂道に入る。
道幅の広い坂道は車一台も通らない。だから灰色のアスファルトには
相変わらずウチの影一つしか映らない。
真横にはまた静まりかえった住宅が建ち並ぶ。
ここは人口が他の町に比べて少ないみたいやな。
さっきから視界の先に、坂の上の方から蜃気楼のような物がゆらゆらと浮かんで見えた。
- 387 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)15時52分20秒
- この町にいる学生と言えば、ほとんどがこの坂を通るんや。でもののだけは違った。
小学校を卒業と共に、店を引っ越したからや。
昔、歯医者の下でやっていたケーキ屋は、次第においしいと評判になり、
大きな土地を買えるくらいまでになったからや。
ウチもののん家のケーキは好きやで。今もな。
だから中学へはののと一緒に登校できひんようになってしまった。
最初はむっちゃ寂しかったんやけど・・・。
そう、ウチがそんな時に後藤先輩に出会ったんや。この坂道で。
- 388 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)15時56分32秒
- 入学して約1ヶ月経った頃、桜の花は散り、すべての樹は深い緑に包まれていた。
その日は空も今日みたいに真っ青だったけど、風は涼しくて、太陽の光はまだ弱い方やったな。
とっくに登校時間は過ぎていて、人生始めての大遅刻をしてしまった。
長い坂道を猛ダッシュしている途中。やはり体力に限界があったのか、急いで家を出たから
朝ごはんを食べるのを忘れたせいなのか、結局中途半端な場所で止まってしまった。
額から汗が零れ落ちるのをぬぐう。アスファルトに落ちた汗は黒いシミを作った。
大分息が上がり身体の体温が上がっているのを感じる。
ウチは大きく息を吐くと、また歩きだそうとした。
――――もう諦めたほうがいいんじゃん?
背後からそんな声が聞こえた。冷たい声だけど何処か優しさがこもっているようなそんな声が。
声のほうに振り返ると、ウチより1メートル後ろに立っている、茶髪の人。
こんなウチだけど正直一瞬怖かったわ。
その人はふっと笑みを作ると、ウチの方へ近寄って来て。
- 389 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)15時57分59秒
――――もう遅いって。ゆっくり行った方がマシだよ。今日はいつもより暑いしさぁ
唖然としているウチに向かって余裕の笑みを見せるこの人こそ、後藤先輩だ。
結局、ウチは急ぐのをやめて、後藤先輩と一緒にゆっくり学校へ向かった。
何をしゃべったかはよく思い出せないけど、きっと楽しかった。
それから、学校で後藤先輩を見かける度に目で追うようになっていったんや。
「はぁー」
坂を上りきると、あの日と同じように額も前髪も汗でぐっしょりだった。
背中に汗が伝う感覚も分かった。
すっかり息は上がっていたけど、そのまま足を進める。
- 390 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)15時59分30秒
- もう校舎は見えて来ていた。
吹奏楽は今日も部活をやっているのか、楽器の音色があちこちに飛び交って聞こえる。
そういえば夏はコンクールがあるんだっけ。
古びたマンションの角を曲がると、もう正門は見えていた。
少し、足を速めてみた。急がなあかんから。
いつからだっけな。ののの事を「邪魔」やと思うようになってしまったのは。
思えば後藤先輩との出会いが、ののとの溝を作る事になるなんて、思いもしなかったけど。
中学に入ってののはバレー部に入った。元々ののは運動神経だけは良くて、小学校の時も
普段目立たないののが、運動会や球技大会では大スターやった。
ウチは正直ののほど運動は得意やなくてバレー部には入らなかった。
でも後藤先輩と逢ってからは部活に入ろうとも思わなくなった。何故なら、後藤先輩は
帰宅部だったから。
- 391 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)16時01分38秒
- そこには後藤先輩と石川先輩がいた。
ウチの事に気づいた後藤先輩は、涼しげに笑うと手招きしてウチを呼んだ。
最初はののを見るために来たんやけど、いつの間にかコートでサーブを打つののの事より
後藤先輩の横顔に目がいっていた。
多分、その時はののの事を忘れとったかもしれん。
試合終了の笛が鳴り、部員達は挨拶をすますとネットの片づけを始めた。
その間に、ののがウチを見つけた。
目をまん丸くして後藤先輩とウチの方へ駆け寄って来くると。
ウチはののが気になって見に来てしまったと正直に言う事にした。しかし、ちょっと恥ずかしそうに
八重歯をだして笑っただけだった。すると、すぐに不思議そうな顔で後藤先輩とウチの顔を
交互に見やったから、後藤先輩の事をののに話し、ののを後藤先輩に紹介した。
その時、後藤先輩がののに見せた笑顔が、ウチを見ている時の物とは違う気がしたんや。
後藤先輩はののの頭に手を置いてかわいいと言う。ののはいつものようにふにゃっとした笑顔を見せると、
ますます後藤先輩は喜んだ。
- 392 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)16時02分37秒
始めて「嫉妬」と言う感情を知った。
それから確かに、ののとの溝が少しづつ出来つつあったんや。
- 393 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)16時04分57秒
- 乾いた風が吹く。
ウチは正門をくぐると、一呼吸置いた。
校舎の周りに生える、緑の葉っぱを茂らせた染井吉野が大きくざわめき、不良達が捨ててったであろう
空き缶がカラカラっと音を立てて転がっている。
一歩一歩、地面を踏みしめるように歩く。
グラウンドには誰一人いなくて、多分部活は吹奏楽だけやったんやな。
それからと言うもの。バレー部のある日は欠かさず体育館へ通い、ののの誘いを断って、
後藤先輩達のカラオケに着いて行ったり、後藤先輩の口からののの名前を聞く度に
不機嫌になったり、次第にののに変な八つ当たりをしたり、つまらない嫉妬で、
本当に大切な物に気づかなくなっていた。
そのせいで、ののを散々傷つけて失う事になった。
今までホントすまんかった。
だからのの。ウチ、ののを助けに行くで。
今すぐに行くから待っとれよ。
また一緒に遊ぼうや・・・。
- 394 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)16時05分31秒
- だだっ広いグラウンドを一人歩き、テニス部の部室を横切り、校舎の裏へ足を進めた。
湿った空気が鼻を掠めたが、空だけはカラッと青だけが広がっている。
あ、おとん。やっぱすき焼き食べれそうにないや。
- 395 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月22日(火)16時06分52秒
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- 396 名前:青のひつじ 投稿日:2003年04月22日(火)16時07分47秒
- やっと加護編終了
- 397 名前:名無し娘。 投稿日:2003年04月22日(火)21時43分29秒
- がんばれあいぼん!!
無事に帰ってきてすき焼きを食える事を願っています。
- 398 名前:さすらい読者 投稿日:2003年04月23日(水)21時33分38秒
- どうも、初めてです!毎回楽しませてもらっています。これから完結までついていくっす!
- 399 名前:ななし読者 投稿日:2003年04月23日(水)23時24分24秒
- うーん、せつないぞ、加護ちゃん…
しかしほんと、この沼はいったい何なんだろう、と思ってしまう
- 400 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月24日(木)21時01分26秒
- いかん!
なんかマズイ展開の予感が・・・
あいぼんがん枯れ!!
- 401 名前:青のひつじ 投稿日:2003年04月24日(木)21時47分50秒
- >名無し娘。様
もちろん食べさせてあげたい(笑
次とそのまた次の更新でこのスレは終わりそうです
- 402 名前:青のひつじ 投稿日:2003年04月24日(木)21時53分53秒
- >さすらい読者様
初めまして!レスありがとうございます!
どうぞこんな小説でよければ完結までお供願います
>ななし読者様
ちょっと痛い展開にしてしまいました(汗
さて、沼の謎はいつ解けるんでしょうか
>名無し読者様
応援ありがとうございます
あいぼんの健闘を祈ります!
- 403 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時19分07秒
「あさ美、そもそもあんたから言い出したんだからね」
「ごめんなさい」
「あさ美ちゃん、待ち合わせは11時だよね」
「ごめんなさい」
「あさ美ちゃん、里沙、一時間以上待たされたの初めてなの」
「ごめんなさい」
昨日の夜。後藤先輩からのメールに浮かれていた私は、ついつい苦手なハズの夜更かしを
してしまい、結局約束の時間になるまで起きられなかった為、今に至る。
私にしては珍しく、朝ごはんを抜いてしまったので、お腹は鳴りっぱなしで、おまけに猛
ダッシュしてきた私を待ちかまえていたのは、すっかり怒りに震えてしまっているこの3人だった。
さっきから、腕組みをしながら恨めしそうな目で私を見ている。
駅前のロータリーは人通りが多いので、道行く人々はそんな私たちのやりとりを
ちらちらと伺っているようだ。
「ほんっとにごめんなさい」
私が思いっきり念を込めて何度も頭を下げていると、まこっちゃん達は一回顔を見合わせて。
「ふふっ許してやろう」と、やっとの思いで許してくれた。
- 404 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時24分10秒
- 「で、里沙は場所とかよく分かんないんだけど」
「えっと・・・」
私はポケットから、昨日帰る途中に安倍先生から手渡されたメモを取り出す。
「駅からそう遠くはないと思う」
そうポツリと言うと、横からまこっちゃんが貸してみ?と言ってメモを見る。
「・・・う〜と、この地図だと分かりづらいなぁ、多分駅の裏側の道を行くんだね」
そう言って、まこっちゃんは駅の隣のパン屋の脇にある道を指さす。
私達はその指の先に見える場所へ歩み始める。
「ねぇ、コレ終わったらなんか食べに行こうよ」
「あさ美もうお腹減ったの?」
「朝ごはん食べなかったの」
駅前の人混みが嘘のように、一気に人だかりは消え、何処か空虚漂うような狭い路地に入った。
「この町に小さい頃からいたけど、こんな道に入るの始めてかも」
愛ちゃんが辺りをキョロキョロと見回しながら、ため息混じりに言う。
空は青く晴れ渡っていたが、ここは建物の影になり太陽の日差しはまったく
当たらなくて、湿った空気が肌を掠める。
- 405 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時28分53秒
- しばらくぽつぽつと他愛の無い会話をしていたが、段々みんな口数が減って行った。
次第に一つ一つと、いかがわしい店が顔を出し始めたからだ。
「愛の滴」「セーラー娘。」「キャバレー・里中」
ピカピカと電球の光る看板の横で、黒いベストとポマードでガチガチに固めたオールバックの
呼び込みらしき人が、私達を訝しげな目で見ている。
まだ12時前だと言うのに、もう店は開いているようだ。
私達は身を寄せ合うように肩を窄めて歩く。
途中、アロハシャツを着た茶髪でパーマを掛けている、出っ歯の若い男の人が
ニヤニヤとしながら私達に近づいて来た。
「よぉ、おチビちゃん達。バイトしない?」
「いえ・・・中学生ですから」
まこっちゃんが精一杯の勇気を出して震えた声で返した。
「中学生大歓迎だよ?ウチの店はそう言う店なんだよねぇ。ってか君達メチャメチャ可愛くね?
絶対ウチの店で人気でるよ」
そう言って黄色くなった前歯をニッと出した。
- 406 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時30分11秒
- 「ホントいいですから!」
「そんなに怒るなよ〜。金ほしいからこんな所ほっつき歩いてるんだろ?」
「うるせぇんだよ!?こっちはあんたら暇人と違って忙しんだよっ!!」
まこっちゃんが大きな声を出すと、私達の腕を引っ張り、逃げるよ、と言って走り出した。
「おい!ふざけんなよ!」
男の人が何やら叫んでいた。
まこっちゃんに袖を引っ張られながら、私たちは随分走った。
「ね、ねぇ。保田先生ってホントにこんな所に住んでるの?」
泣き出しそうな顔をした愛ちゃんが、息を切らせながら言う。
「里沙マジで怖いんですけど」
「わたしもだよ」
「全く・・・とんだ災難よ」
まこっちゃんは呼吸を取り戻すと、ぶつぶつと言いながらメモを開く。
赤鉛筆で丸く印しのついた場所が保田先生の自宅のようで、パチンコ店の裏側に位置していた。
- 407 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時31分50秒
- 「パチンコ店か・・・ここら辺にあるはずだけど」
辺りは雑居ビルが建ち並んでいて、静けさだけがが立ちこめているだけで、パチンコ店の
賑やかな音は全くしない。
その時、里沙ちゃんが何かに気づいたように大きな声を上げる。
「もしかして・・・!?あの角にある建物じゃない!?」
「え・・・」
一成に指さす方を見やると、寂れた看板に『パチンコ』とあって、あちこちにヒビの入った
古い建物で、店内は誰もいないように見えた。
「・・・あの裏、だよね」
私達は恐る恐る歩みを進めた。
寂れたパチンコ店の裏に、同じくここの見窄らし気な風景とマッチしている、黒い染みや
ヒビの沢山入った古めかしい雑居ビル。
扉の横には『保田不動産』と書かれている看板が目に入る。
「ここでいいんだぁ」
「ねぇどうする?入る?」
愛ちゃんが声を潜めて私の服の裾をぎゅっと掴んだ。
「入ってみよ」
私たちはぐっと息を飲むと、扉をゆっくり開ける。
- 408 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時33分29秒
- 「誰かいますかぁ・・・」
まこっちゃんが申し訳なさそうな声で、中の主を呼ぶ。
しかし、少なくとも私たちの視界には、家の主と言うべき人物は見あたらなくて、
中はがらんとしていた。
「誰もいないね」
里沙ちゃんの言葉を合図に、みんな一成に足を踏み入れる。
辺りをぐるりと見渡すと、何故か違和感を感じた。
10畳くらいの部屋で、部屋の隅にデスクと黒い革張りの社長椅子に、同じく革の客用ソファ。
窓の前に立派な観葉植物。でも、なんかおかしい。
「ここって不動産屋じゃないの?」
まこっちゃんの疑問は、まさに私の引っかかっていた事と一致した。
不動産屋は家やマンションを売る場なのに、部屋の見取り図がプリントされたチラシなど
が、よく窓ガラスにぎっしりと張られているハズなのに、そう言った物が一切無いのだ。
- 409 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時34分57秒
「もしや、お引っ越し?」
愛ちゃんがポツリと言う。まこっちゃんは。
「まさかぁ、学校になんにも言わないで?」
「どうだろう・・・・」
その時。
「みんな、ここ出た方が良くない?」
里沙ちゃんが、やや焦ったような口調でみんなの方を振り返る。
「え?」
「・・・ここ不動産屋じゃないかも」
「なんでよ?」
「保田不動産なんて名前だけで、実名は保田組って言うんじゃない?」
「はぁ?」
まこっちゃんが呆れたように口をぽかんと開ける。
しかし、その顔は数秒後に恐れの表情に変わる。
「見てよ」
- 410 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時36分02秒
里沙ちゃんの目線をたどると、壁に『保田組へようこそ!』と一見フレンドリーな
標語を迫力のある太い字体で書かれている、世にも恐ろしい掛け軸が飾ってあった。
「あ、分かった。部屋借りようと思って来た人たちが一回入ると、借りるまで
二度と出て来れないと言う、地獄の不動産屋じゃないの?」
と、まるで危険を察知してない様子でケロッとした口調で言う。
「その名も保田不動産改め、保田組」
と、野太い男らしき人物の声が背後で・・・・・!?
「―――――――ッ!?」
- 411 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時36分34秒
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
- 412 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時39分15秒
「里沙ずっと変だと思ってたのよ。こんな何も無い場所で、しかも潰れたパチンコ店の
裏に立ってるビルに不動産屋なんて」
今さら嘆いている里沙ちゃん。
結局、私たちは部屋の2回の個室に通され、長い革張りのソファに4人ピッタリくっついて
腰掛けている。
普段なら心地よいハズのふかふかのソファも、今の私たちにはそんな事を感じとっている
余裕は無い。
出入り口の前には4人の、いかにもって言う風貌をした黒服の男の人達が並んで
いて、私の正面には、先ほど背後から声をかけてきた主が座っていた。
黒いスーツに身を待とい、白髪交じりの髪をオールバックにし、右頬には何でやられた
のか物恐ろしい傷跡があった。
「お嬢さん達、見たところ中学生だね?ここに一体なんのようだい?部屋を借りに来たようには
見えないけれど」
男の人は優しい笑みを浮かべながら、ゆっくりとした口調で話す。しかし、それが一番
怖い。
- 413 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時40分27秒
- 「あ・・・・」
まこっちゃんが掠れた声を出す。
その時。
「うをぉら!!諸星さんがわざわざ聞いて下さってんだろうがぁ!!何黙っとるんじゃあ
!!!」
後ろにいた黒服の一人がいきなり叫び出した。
私たちはビクンと肩を震わせ、お互いに抱き合った。
「まぁまぁ、落ち着けタケ。こっちはまだ子供だぞ?そう力むな」
諸星さんと呼ばれたこの人はあくまでも優しそうに話す。里沙ちゃんがグスと鼻を鳴らした。
「あ・・・の。私たち保田先生を訪ねてここまで来たんです」
まこっちゃんがほぼ涙声でなんとか声を出した。
「保田先生・・・?圭お嬢様の事か?」
その時、諸星さんは明らかに動揺した様子で、さっき私たちにいきなり怒鳴ってきた
タケと言う人もサッと引き下がった。
「圭お嬢様・・・?」
- 414 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時41分40秒
- 私の言葉に諸星さんはゆっくり頷く。
「もしや、圭お嬢様の御生徒様で?」
「は、はぁ・・・」
すると、諸星さんはいきなりさっと立ち上がる。
「この大馬鹿野郎共めぇ!!早くこの方達に茶をお出しするんだぁ!!」
優しかった顔を鬼のような形相に変え、子分達に命令し出した。
私達はそのいきなりの代わりように、寿命が3年縮んだ気がしたが。
そしてその鬼の形相は、タケと呼ばれた人に向き帰った。
すると、タケさんはひっと言う、短い叫び声を上げて。
「さ、先ほどのご無礼を、ゆ、ゆる・・・・!!」
パニック状態のようで噛みまくっている。そしてまこっちゃんに向かって土下座を決めた。
しかし。鬼は。
「貴様ぁー!!!謝って済まされるもんかぁぁあぁ!!!指を出せ!!!指をぉ!!!」
なんと何処で隠し持っていたのか、ご立派な日本刀を取り出し、鞘を抜いた。
「うひっ!?」
驚いた愛ちゃんが私の身体に抱きつく。
まこっちゃんは放心状態で目をぱっちりと開けたまま固まっている。
「うわぁああぁあああ!!お許しくださぁぁあい!!」
泣き叫ぶタケさんの両腕を、他の3人が捕まえる。
- 415 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時42分29秒
- 「あ、あのぉ!!わ、わわわ私達全然気にしてませんからぁ!!!」
私の叫びに、諸星さんは。
「何を言っておられるのですかぁ!?コイツはあなた様方にとんでもない卑劣なご無礼を!!」
「いえいえいえ!!そ、そんな事ないです!!だから止めてくださぁい!!」
こんなやり取りが30分続いた・・・。
もう21世紀だよねぇ?
こんな事やってる人たち、ホントにいたんだぁ・・・・。
- 416 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時44分05秒
結局タケさんはどうにか助かり、諸星さんも落ち着きを取り戻した。
諸星さんの話しでは、保田先生は保田組を率いる保田誠一郎さんの一人娘。
で、その組は主に不動産と、地上げ?や、輸入輸出関係の仕事もやっているらしい。
この辺り周辺のお店も、すべて保田組が関係しているらしいんだけど、私にはよく分からない。
そして保田先生本人は今買い物に出ていていないと言う。
後、10分程度で帰ってくるらしいんだけど。
「ねぇ、あさ美。まだ食べるの?」
呆れたような口調のまこっちゃん。
「だって、もったいないし・・・」
- 417 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時46分09秒
- あの後、私達は違う部屋へ通され、今は豪華なヒョウの絨毯が引かれ、透明のガラスで
出来た大きなテーブルとふかふかのソファのある、さっきの部屋の何倍もの広さの豪華な部屋にいる。
なのに、この部屋に私達を通すなり、諸星さんとタケさんは「見窄らしい部屋で申し訳ない」
と土下座で謝って来た。
そして今度、新宿にある本社へ招待するから今はこれで勘弁してくれとまで言われたけど、
正直それこそ勘弁だった。
しかし、今はそんな恐怖心はすっかり忘れてしまっている。
なぜならテーブルには食べたことの無いようなご馳走にお菓子が沢山。
私、今日ここに来て良かったかも。
「みんなは食べないの?」
見れば、全員お箸が動いている形跡が無い。
「・・・あさ美ちゃんの図太い神経がうらやましい」
愛ちゃんの顔はまだ青ざめていた。
すると、扉が勢いよく開く音がした。
私達は一成に音の方へ振り返ると、黒いスーツ軍団がぞろぞろと入って来た。
- 418 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時47分20秒
「なっ!?何?何なのよ!?」
「む!?ふごっ!?」
里沙ちゃんが声を上げる。私もビックリした拍子に、口に入れていた
お肉をのどに詰まらせてしまう。
スーツ軍団はキチッと横一列に並ぶと。諸星さんも入って来て。
「お待たせいたしました。圭お嬢様が帰っていらっしゃいました」
と、丁寧にお辞儀をする。
スーツ軍団の中にタケさんも整列していたが、顔中青あざだらけで口元には血が滲んでいた。
きっと、私達をこの部屋に通した後、諸星さんに散々殴られたんだ・・・
あ、指は助かっているみたい。
その時、奥の方から。
「ちょっと!?何回も言ってるでしょ!?人がスーパーから帰って来ただけでそこまで
大袈裟にしないでよ!!恥ずかしいじゃない!!」
と、懐かしいヒステリック声が聞こえて来る。
「保田先生!?」
- 419 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年04月24日(木)22時48分06秒
―――――――
――――――
―――――
- 420 名前:名無し娘。 投稿日:2003年04月25日(金)22時31分40秒
- さすがです。おけいさん……。
それにしても凄い展開だ。次スレでも応援させて頂きます。
- 421 名前:青のひつじ 投稿日:2003年04月29日(火)13時20分55秒
- >名無し娘。様
ちょっとおけいさんだけ特殊にしたかったので(笑
次スレでの応援も、ぜひよろしくお願いします
- 422 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時31分35秒
―――――――
――――――
―――――
- 423 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時33分49秒
- 「ちょっと・・・話しづらいじゃない!出てってよ!」
こんな雑居ビルの何処にここまでの人数を納める広さがあるのか、私達のいる部屋の
7割を黒ずくめの集団が密集していた。
そんな黒ずくめの集団に、保田先生はあからさまに訝しげな表情を浮かべて、ヒステリック
に叫ぶ。
でも・・・と言いかけた諸星さんをキッと睨み付ける保田先生。諸星さんは渋々と集団を
部屋から追いやって、自分も私達に頭を下げると部屋を後にした。
買い物袋を椅子の下に置くと、保田先生は吐息をつき、どっしりと腰をかけた。
学校に居るときのインテリ風でいかにも教育者と言った感じの保田先生は何処にも無く、
きつくまとめ上げた髪型は、今は下ろしていて、服装は紺のスーツからラフなTシャツ
とジーンズでキメていた。
私達は暫しそのギャップに目を奪われている。
そんな私達にイライラした様子の保田先生は、軽く舌打ちをついて面倒くさそうに
訪ねた。
- 424 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時35分20秒
- 「で?一体こんな所まで来て私になんの用かしら?」
口調はいつもの気取った感じのままだったけど。
「私達、調べ事をしてて・・・と、沼の事についてです」
私の言葉に保田先生の顔が一瞬引きつった気がした。
私は続ける。
「最初に謝っと来ます。ごめんなさい。・・・実は、保田先生が学校に来なくなってしまう
前に、職員室での事見てしまったんです」
まこっちゃんは黙っている。愛ちゃんは黒ずくめの集団に完全にビビッてしまっていた
のか、未だに放心状態が抜けていない。対照的に里沙ちゃんはもう眠いのか、大きな口を開けて
あくびをしている。
「その時に先生が言ってた・・・ユーレイって言うのを教えてほしいんです」
保田先生は私を一回チラリと見ると、すぐに視線を外した。
部屋中に緊張が走った気がする。
- 425 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時39分24秒
- 「見てたのね・・・カッコ悪いわ、あたし」
そう言って側に置かれていたコーヒーを一口すすった。
「って事はやっぱりユーレイを見たんですね!」
まこっちゃんが身を乗り出して訊く。
「あなたたち一体何を調べるつもりなの?」
まこっちゃんの質問には答えず、今度は保田先生が訪ねて来た。
大きなギラギラとした瞳が、私とまこっちゃんを映している。
「あの沼で、今起こっている事件をご存じですか?」
「・・・行方不明とかの?」
「はい」
「あたし、最近学校とは連絡取ってないからくわしくは知らないけど」
「の・・・辻希美の行方が分からないんです」
すると、保田先生が表情に始めて感情が表れた。
「辻さん!?」
黙って頷く私達を、驚きとショックを隠しきれない様子で見ている。
授業中、何処かピントのずれた発言の多いののちゃんと、保田先生の絶妙?なつっこみ
は一時はクラスの名物だった。生真面目で厳しそうな保田先生だけれど、今思えば
十分な愛情表現であって、きっとののちゃんを可愛がっていたんだ。
- 426 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時41分05秒
- 保田先生は目をきょろきょろとさせ、動揺を隠せないようだ。
しかし、すぐに悲しそうに目を伏せると、ぽつりと言う。
「ねぇ紺野。沼と辻さんがなんか関係があるの?」
「まだ私達もよく分かりませんが、多分、辻さんは沼に」
そう言って言葉を止めた。
保田先生はそう、と力無く言う。
「だから私達で辻さんを助けたいんです」
すると、保田先生はふっと軽く笑う。
「あの時は錯乱してたからあまりその時の状況は覚えて無いわね。あたしホラー系とかホント苦手なの。
だから正直ユーレイを本当に見たかどうかは自信ないのよ」
「そうですか・・・・」
「でも先生、どうして裏校なんかにいたんです?」
今度はまこっちゃんが訪ねた。
「・・・・やっぱり、ちょっと気になったのよ」
「へぇ・・・」
保田先生って案外野次馬気質なんだ。
「でも保田先生沼を見たんですよねぇ?なんともなかったんですか?」
- 427 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時42分30秒
- 「沼には近づいてないわ。その前にユーレイらしきもん見ちゃったから。さっきも言ったけど
記憶が曖昧なのよ」
さすがに困ったように眉をひそめた。
「じゃあなるべく思い出せる所は無いですか?たとえば特徴とかユーレイのいた位置とか」
「う〜ん・・・」
そう言って唸って、視線を下げた。
やっぱりダメかな。私も少しずつ弱気になってきていた。
「女の子だったかしら」
「え?」
「そう・・・確かあなた達くらいの子だったわ」
「そ、そんなぁ」
一気に眠気の吹っ飛んだらしい里沙ちゃんが抜けた声を発する。
そう、里沙ちゃんの推理は全く持って違っていた。
結局、用務員の亡霊では無かったんだ。
じゃあ、一体・・・・?
- 428 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時44分20秒
「ごめんね。やっぱりそれくらいしか思い出せないわ」
「そうですか・・・・」
それ以上聞けそうに無い様子に、少しがっかりしてしまった。
やがて沈黙が訪れ、何を話していいか分からなくなる。
焦ってしまい、いつもの癖である口をぱくぱくする動作が出ないよう、キュッと口を結ぶ。
そんな時。
「あの・・・ちょっとつかぬ事を聞いてよろしいですかぁ」
愛ちゃんは要約放心状態から抜けたようだ。でも、この緊迫した状況にはとても似つかわ
しいとは思えない、呑気な声でそう訪ねたんだ。
保田先生もちょっと拍子抜けした様子。
「いいけど、何?」
「保田先生の家のご職業って」
「ああ・・・ごめんね驚かせちゃって、まぁ世に言うヤクザって所かしら。ただちゃんと
不動産の方もやってるのよ」
と、あまりにもあけすけな言い方に、私達もただ、たじろぐばかりで。
「ってことは保田先生って極道の娘。なんですよね」
「まぁ、ね」
「でもどうして教師なんかに。極道の方達ってお金持ちなんですよね」
里沙ちゃんの質問に、少し照れたように笑みを浮かべる保田先生は、そうねぇと
一言呟いた。
- 429 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時46分43秒
- 「ホラ、あたしって怖そうってよく言われてるでしょ?それにあまり好かれて無かった
し。自分でも向いて無いって分かってたわ」
返答に困っている私達を気にせず、そのまま続ける。
「元々自分の家の職業はあまり好きになれなかった。ヤクザって言うのはね、人様から
理不尽な理由取っつけて金をむしり取って生きてるのよ。今でも数多くの人たちがあたし
達みたいな職殻の奴らに苦しめられてるの。でもね、ヤクザだって人の子なのよ。
時々罪悪感に駆られて辞めて行く奴らも少なくない。あたし、ふと思ったんだ。
自分もこれから父親の後を継がなきゃいけない、そんなの惨めじゃない。
こんなあたしにだって情はあるのよ」
そこまで言って、もう冷め切っているであろうコーヒーカップに口をつける。
質問した愛ちゃんは黙って保田先生を見ていた。
「教師はあたしの小さい頃からの夢だった。英語は小さい頃から父が外国へ商談に行く度
について行ってたから自然と身に付いたの。
だから割とすんなり大学入って見事教師資格も取れた」
- 430 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時48分10秒
- 「そうだったんですか・・・・でも学校にはどうして行かなくなったんですか?
やっぱりユーレイ?」
私がそう言うと、保田先生はごほんと席ばらいをして。
「そんな分けないでしょ・・・いや、少しはそうだったかもしれないけど。父が病気で
倒れてからこっちの方の仕事もやってるのよ」
「はぁ、学校にはいつ頃戻れそうですか?」
すると、少し考えとような表情をし、また沈黙を作る。
しばらくして。
「・・・そうねぇ、かなり休んでるし。もうクビかしら?」
「え!そんなぁ」
「ふふ、しょうがないわよ。って、あんた達、こんな所にいるのが見つかったら大変よ
さっさと帰りなさい」
「でも・・・」
「あたしの事はいいの。今諸星を呼ぶわ」
いつも学校では見せない、ニッコリと微笑んだ表情。
保田先生は席を立つと、部屋を出ていった。私達もいそいそと荷物をまとめる。
- 431 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時48分49秒
「あ、辻さんの事、よろしくね」
扉から顔をひょっこりと出して最後にそう言った。
「「「「は、はい!!」」」」
―――――
―――――――――
――――――――――――――
- 432 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時51分29秒
- 時刻はもう1時を回っていた。
諸星さんの黒のベンツで、駅まで送ってもらった私達は、そのまま近くのファーストフード
に入った。お昼のピークでもあって店内はお客で満杯だったけど、なんとか席を確保出来た。
そんな時、バリューセットを頬張っている私の耳に、まこっちゃんの呆れ声が聞こえる。
「ねぇ、さっき保田先生ん家食べたばっかだよね」
「え・・・」
見れば、ハンバーガーをくわえているのは私一人で、他の3人はジュース1個だけだった。
「あさ美、食べに来てるんじゃないんだから」
そう言って大きなため息をついた。
- 433 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時53分04秒
- 「それよりさぁ、保田先生の見たユーレイって女の子だったんでしょ?
どうする?振り出しに戻ったみたいだけど」
そんな私とまこっちゃんのやりとりを横目に、里沙ちゃんが半場諦めたような顔をして頬杖をつく。
「女の子が死んだなんて話し、今まで聞いた事無いし」
と、愛ちゃんも言う。
「・・・やっぱり石川先輩に聞いてみる?」
「それ無理っぽくない?」
里沙ちゃんの言葉に、まこっちゃんが首を横に振りながら応える。
「あの時の様子からしてヤバイって。聞くならもうちょっと待った方がよくない?
慎重にやらないと、今度こそ石川先輩学校来なくなっちゃう」
「そっか・・・」
と、里沙ちゃんはしょんぼりと俯いた。
「もう一回図書室行ってみる?何か事件記事とかあるかもしれないし」
「あ、ソレ無理。里沙がくまなく探したけど用務員の事件しか無かったよ」
と、愛ちゃんの質問に空かさず返す。
みんな困ったように眉をひそめ、しばらく沈黙が続いた。
後ろの席に座っている女子高生が高らかに笑っている。
- 434 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時54分16秒
- 「そういえば・・・保田先生、いつもと違ったね」
急に、私がさっき思っていた事と同じ事を、まこっちゃんが呟いた。
どうやら会議は一時中断のようだ。
「里沙もそう思った。髪型とか服装とか」
「わたしも。雰囲気もキツイ感じが無かったし」
里沙ちゃんも愛ちゃんもそう言った。
「でも一番驚いたのは・・・」
私が確信を言いかける。
「「「「ヤクザ」」」」
みんなの声が揃う。横のテーブルのおじさんがビクッと肩を震わし、辺りをキョロキョロ
見回していた。
「あたしもビックリ。あれって学校に内緒なんでしょ?」
里沙ちゃんが横の人にかまわず大きな声で話す。
「うんうん。・・・でも先生クビになるかもって言ってたけど」
愛ちゃんが最後の部分だけやや声を沈めた。
「里沙達で校長先生を説得するのは?」
「そんな事したら万が一家の事がバレたらどうするのよ」
まこっちゃんがもっともな事を言う。
それは私も思った。
「確実にクビだよ」
- 435 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時55分30秒
私がそう言うと、なんだか不穏な空気が漂った。
横のテーブルのおじさんがそそくさと片づけを始め、席を立って行った。
新しい情報は聞けたけど、今日はなんだかうまく行かない日だと、そう思った。
その時、私の鞄からケータイの震える音がした。
誰からだろう――――
急いでケータイを取り出し、開けてみると。
ディスプレイには
『のの』
- 436 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時56分33秒
- 「・・・・・・!」
ののちゃんからのメッセージだ!!
「あさ美?」
見る見る内に青ざめて行く私を、心配そうに見つめる3人。
私はディスプレイから顔を上げると。
「ののちゃんから」
その言葉に全員の顔色が一瞬で変わる。
恐る恐るメールを開けた。
『あいぼんをたすけて』
- 437 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時57分31秒
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
- 438 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)20時58分50秒
- いきなり全員で席を立ち、トレーもそのまま片づけずに店を飛び出した私達。
突然席を立ったせいで、驚いたらしい後ろの席の女子高生達が、何あの子ら?と
怪訝な様子で言っていた事に気づいていたけど無視した。
行き先はもう分かっていた。
私達は全速力で、通り慣れている道のりを行く。
そんな様子を、通行人が時々不思議そうに振り返る。
人通りが減ると、今度は見慣れた住宅街へ入った。
もう真夏と言っても過言じゃないような気温の中を、走って行くのは
結構つらいハズだが、今の私達にはどうでも良かったんだ。
しばらくして、吹奏楽部の奏でるうまくも無くヘタでも無いメロディーが聞こえて来る。
そう思ったらすぐに校門が見えて来た。
- 439 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)21時00分31秒
- その時、先頭を走っていたまこっちゃんが校門をくぐるなりいきなり止まった。
「ちょっと待ってっ!」
「まこっちゃん何してんの!?速く行かなきゃ!!」
愛ちゃんの悲鳴にも似た声がグラウンドにこだまする。
「待って!」
そう言って指を前方に差した。
グラウンドの奥のテニス部部室のほんの少し後ろ。
薄黒い煙がもくもくと立ちこめているのが見える。
「―――――――!!」
それを見た瞬間、私の身体は動いていた。
「あさ美!!行っちゃダメぇっ!!」
まっこちゃんの叫び声は、もう聞こえていなかった。
駆けつけた私を、煙は一瞬にして包み込み、目の前が全く見えなくなった。
一体何処から?
もしかしてこの中に亜依ちゃんが?
そんなことを考えながら尚も前へ進む。煙の饐えた匂いが鼻を掠める。
その時、前方から掠れたような呻き声が聞こえた。
私は思わず「亜依ちゃん!?」と叫んだ。
- 440 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)21時02分50秒
- すると、
「――――こっちへ来たらあかん!!」
「亜依ちゃん!?こんな所で何してるの!?」
「ののを・・・・ッ、ののを助けるんや!!」
「―――――――!?」
ののちゃんを!?どうやって!?
「あさ美ぃ!!」
後ろから私を追って来たらしいまこっちゃん達の声が聞こえた。
「あかんって!!みんな早う戻りぃっ!!!」
「ダメだよ!!亜依ちゃんも一緒に!!」
私は手探りで亜依ちゃんを探そうとした。
すると、右手が何かを掴んだ。
「いたたたたたたっ!!」
どうやらあのお団子頭の片方のようだ。
「アホ!!痛いわ!!ええか!?助けるのはウチの役目なんや!!ウチのせいでこうなったんや
から、責任は取るわ!!助けられんかったらそれはそれでええ!!
犠牲者はウチで最後や!!」
「何言ってるの!!ののちゃんは喜ばないよ!?後藤先輩だって・・・!!」
その時、私の冷たい右手に温もりを感じた。
- 441 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)21時04分12秒
- 「ウチ気づいたんや!多分・・・・後藤先輩の事は好きやったけど、後藤先輩と仲良うなる
ののを見たくなかっただけやったんや!それを後藤先輩が取られたくないんだって
ウチが勝手に勘違いしおっただけや!!」
「・・・・・・!」
「なぁ、頼むわ・・・あさ美ちゃん。ウチを行かせてくれへんか」
「・・・・・・・・・」
「お願いや」
亜依ちゃんはそう言うと、私の左手に何かを握らせた。
「もうここへ来たらあかんで?」
「亜依ちゃ・・・」
その時、私の右手からは温もりが消えた。
―――――――あの時は、ごめんな。
- 442 名前:第5話 消えてゆく者、残された者 投稿日:2003年05月01日(木)21時05分33秒
- 「あ、あさ美・・・・」
黒い煙は一瞬にして消えた。
私の目の前には真っ黒い沼と、枯れた見窄らしい木だけが不気味に揺れていた。
後ろにいたまこっちゃん達が放心状態で一点を見つめている。
ふと、左手に握っていた物に気づいた。
水色のルーズリーフ。
私の握力のせいで、すでにくしゃくしゃになっている。
そして、4つ折り上のソレを震える指でゆっくり開けてみた。
『ごめんね。それから、友達でいてくれてありがとう
のの』
何十行もあるルーズリーフの真ん中に、小さな字でそれだけ書いてあった。
私の瞳に涙が溢れた。
続
- 443 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月01日(木)21時06分45秒
- 444 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月01日(木)21時10分14秒
- ここまでご愛読して頂いた読者様方、本当にありがとうございます。
このスレはまだ要領は残っていますが、後藤達の過去編を書くに当たって、足りなくなって
しまって中途半端にスレを変えるのを恐れたのでここまででお終いにしました。
なのでもう次スレをたてたいなと思っています。
本当にお手数おかけします。
しかし、どうもまだ書けそうで勿体ないので、前に書いた短いお話を更新してもよろしい
でしょうか?・・・なんて(笑)。多分その更新で大分使い切れると思います(多分)
いえ!待たせません!絶対に!明日か明後日には全部出来た話を更新したいと思ってます。
勿論約束します!・・・・そして、引き続き読んで頂けたら嬉しい限りです。
本編の方も大体出来上がっていますので、すぐにスレを立てられると思います
わがままスイマセン。 最後に今までの誤字脱字もすいません。
- 445 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月01日(木)22時12分39秒
- うわぁー・・・!失敗!
さっきこの後も短編更新と書いてしまったんですが、出来上がっていた
短編もどうやら結構長いみたいで、数えたら要領ギリギリでした!(泣
ホントスイマセン!次スレの最後に余ったら更新したいと思います。
なのでこのスレはこれで終わりです。何度もすいません。
新スレ出来るだけすぐ立てます。ああ、恥ずかしい・・・
- 446 名前:名無し娘。 投稿日:2003年05月01日(木)22時55分34秒
- うわぁぁーー!!なんてとこで終わらすんだ!
続きが楽しみすぎる!!
新スレでも頑張ってください!!
- 447 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月02日(金)02時00分08秒
- 容量って750スレ、320KBまで増量されましたよ?
知ってました?
- 448 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月02日(金)14時36分51秒
- ぐおおおおっ!!早く続きが読みたいッ!!
- 449 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月02日(金)14時39分01秒
- >名無し娘。様
毎度応援ありがとうございます!(嬉泣
新スレもがんばります!
>名無し読者様
え!!!そうだったんですか!?って思い、久しぶりに案内板
見にいきました。マメに見にいってれば良かった・・・。
ありがとうございます。それでは短編の方、更新させて頂ます(笑
- 450 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月02日(金)14時48分50秒
- >名無し読者様
レスありがとうございます!
がんばって書きますんで、これからもぜひご愛読願います。
- 451 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月02日(金)23時22分07秒
- すっげぇーイイ!!
ついていきます♪
- 452 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月03日(土)12時24分54秒
- >名無し読者様
レスありがとうございます!
そう言ってもらえて嬉しい限りです(喜
- 453 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月03日(土)12時25分40秒
- 454 名前: 投稿日:2003年05月03日(土)12時28分05秒
-
『振り返れば××がいる』
- 455 名前: 投稿日:2003年05月03日(土)12時29分50秒
- 「あのね小川先輩。ぶっちゃけるんだけど」
右斜め前に座っているのは、中一の癖に髪の毛を茶髪に染め上げた、いかにも
ヤンキー臭を漂わせている少女、田中れいなが関口一番にそう切り出した。
学校帰りにいつも寄るファーストフードには、今日は何故か小川達だけで、空手の試合
の近い紺野を除くお馴染みの5人は、お店の中心席を陣取っていた。
今日も好きなタレントのスキャンダルや、先生の噂とか、ごく普通の女の子がするような
他愛の無い会話になるハズだった。
- 456 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時32分51秒
- 「まこっちゃん。落ち着いて聞いてほしいけんど」
麻琴の正面に座るのは、2年前に福井から東京へ引っ越してきた、高橋愛。
しかし、未だに訛りは抜けない。
「まこっちゃん、ご愁傷様」
右隣でつまらなそうに鼻をほじくっているのは新垣里沙。こう見えて社長令嬢らしいが、
財布の中身は438円だ。
「小川先輩・・・・」
左隣で心配そうにしている美少女は、学年のアイドル、亀井絵里。実は、腰を痛めている
為、背中には大きなサロンパスを張っているらしい。
その場にいる全員が、かぼちゃの煮物にはやたらうるさい小川麻琴を、正確には小川の
背後らへんをしきりに視線を向けている。
「何よ・・・みんなして」
恐る恐ると言った感じの小川に、田中が細い目を余計細くしながら、やや声を潜めて言う。
「小川先輩・・・ぶっちゃけて言うんですけど。あんたヤバイっすよ」
「あんたって・・・先輩に向かって!」
「しーーーっ!」
高橋が横から入ってくる。
店内のスピーカーから聞き覚えのある音楽が流れてくる。今人気絶頂アイドルが歌っている
曲だが、このがらんとした店内には、その明るい調は余計虚しく感じさせるだけだった。
- 457 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時34分33秒
- 「大きな声だしたらいかん!襲われるでぇ!」
と、高橋が大きな目をぎょろりとさせながら、大きな声で叫ぶ。
「まこっちゃん。今から里沙が指を指す方角を見て」
太い眉毛をピクリと動かしながらささやく。小川は何をどうしたらいいのか分からなかったが、
とりあえずその眉毛の言う通りにした。
「ええ・・・・う、うん」
新垣がゆっくりと右の一指し指をつきだし、腕を上げる。
小川達はその指に合わせて、ゆっくりと背後を振り返った。
しかし。
- 458 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時36分49秒
- 「何も無いじゃん」
小川は期待していたのを裏切られたように、拍子抜けした声を上げる。
振り返った先には特に目立った物は無くて。
あるのは、ガラッとした誰も座ってはいない規則的に並べられた無数のテーブル。その先
の、指紋一つ無いピカピカに磨き上げられた窓ガラスの奥に、すでに暗くなりかけている
空と、『英会話』とデフォルメされた文字で書かれている看板のビルが見えるだけだった。
「バカ!よ〜っく見て。一番奥の左端の席」
新垣の言う通りに視線をそちらの方に向けてみるが、やはりただ、観葉植物が申し訳なさ
そうにちょこんと立っているだけだった。
「植物?」
「違いますよ。その影をよ〜っく目を凝らして観てください」
亀井の言葉に、よ〜っく目を凝らして観る。
その時、観葉植物の大きな葉っぱの影に、うっすらと人影が浮かぶのを見てしまった。
「な、何あれ・・・!?ユーレイ?」
- 459 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時38分12秒
- 小川は初めて身の毛がよだつ思いをした。
よくよく観てみると、その人影は何やらうごめいている。
そして、テーブルの上に置いてある、Sサイズの紙コップとハンバーガーのくしゃくしゃ
になった包みの間に置いてある、ポテトの包み(推定Sサイズ)から長細いポテトを
一本、真っ白い弱々しい指が捕らえては、もぐもぐ・・・・・。
「ってユーレイが飯喰うかぁ!?」
「飯じゃなくてポテトですよ」
と、亀井もテーブルの真ん中に置いてあるポテトを一本口の中に放り込む。
「誰もユーレイなんて言ってないわさぁ」
高橋もきょとんとした顔で小川を見る。
- 460 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時40分13秒
- 「てかあんたさっき襲われるとか言ってなかったぁ?」
「ってゆーかまこっちゃん。ホントに知らなかったんだぁ。あいかわらず超鈍感ね」
「何?なんなの?どういう事」
「あの娘と小川先輩。ウチらの間じゃ超ゆーめいですよ?」
「田中ぁ、あんたなんか知ってんの?」
「知ってるもなにも。ウチ、あの娘とおんなじクラスですよ」
「ってことは生きた人間?」
「そうですよ」
「で、一体その娘とあたしがどう有名なわけ?」
小川が身を乗り出し、耳を傾ける。
「あの娘、道重さんって娘なんですけど。存在感がやたら無くて」
確かに・・・・あんだけ目ぇこらして見ても、なかなか見つからないなんて
とんでもない存在感の無さだ。と、小川は心の中で田中の話に始めて共感する。
「休み時間も一人でいるタイプなんですよ」
亀井も田中の話にうんうんと頷き会話に入る。冷房の効きすぎのせいで店内は肌寒い。
田中は腕をさすりながら続ける。
「でぇ、最近ってゆーかぁ、ここ2・3ヶ月かな。小川先輩の後ろに良く人影が見える
ようになったんですけど。ウチも最初はビックリで、もしかしたら・・・・って思ってたら
道重さんだったんですよ」
- 461 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時41分10秒
- 「そうそう、あたしも最近まこっちゃんの後ろに何かいるなぁって思っとったらその娘やったんやわ」
「最初は里沙も、偶然かなって思ってたんだけど、どぉーも毎度毎度その道重って娘見るからさぁ」
「きっと・・・・小川先輩の事好きなんですよ。だってすっごい見てるし」
小川は目をパチクリとさせて首を傾げると、一瞬考えるような顔つきになり、ポツリと零す。
「てゆーか・・・・あたしモテてんの?」
すると、4人は一瞬顔を見合わせてから、小川に視線を戻して力いっぱい頷いた。
まじで・・・?てか、何でまたあたし?
あたし好かれる覚え無いんですけど?ってゆーかみちしげって誰?
小川の頭の中は?がぐるぐると周り続け、相当困惑している状態だ。
- 462 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時43分50秒
「ちょっと!あんた達!?」
その時、いきなり頭上からドスの効いた声が響く。その瞬間、小川の思考が止まる。
「うわっ保田さん!」
あからさまに不機嫌そうな顔で、腕を組みながら仁王立ちしている。
保田圭は、似合わないチェックの赤いリボンに、黄色の三角帽子。紺のミニのタイトスカ
ートとベストを着込んでいた。ここのファーストフードの制服だ。そう、保田はここの店長
なのだ。この頃ネットにハマり込んでいるらしく、昨日も夜遅くまでやっていたのか、
目には酷いクマが出来ていて、それはそれは恐ろしい顔面に成り果てていた。
「またあんた達ね!毎回毎回、ポテト(M)とジュース(L)一杯にストロー5本で、3
時間も粘らないでちょうだい!!ウチだって経営つらいんだから!」
保田はぎらぎらした目をつり上がらせて、いつものように怖い顔をして怒る。
人通りもまばらな路地に、ポツンと立っているこの店は普段から客入りは悪かったのだ。
- 463 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時46分34秒
「え〜里沙達学生だしぃ、お金無いんですぅ」
「口答えしないの!ってかもう6時じゃない!?中学生は門限守りなさい!!」
「「「「「え〜〜!!」」」」」
「え〜じゃないの!さぁ〜帰った帰った!」
「ケチケチばばぁ」
「何か言ったか田中ぁ!?」
「・・・い、いいえ」
怒りながら保田は「今度はポテトはLにしときなさい!」と捨てぜりふ残して去って
行った。
なんだかんだ言っても保田は優しい人なのだ。だから当の本人達は決して保田を嫌いじゃ
ない。むしろこういう遣り取りを楽しんでいるくらいだ。
- 464 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時50分05秒
- 「さぁ〜てと、もう帰りますかぁ」
新垣が大口を開けてあくびをする。
「ちょっとくらい手で隠すとかしましょうよ。新垣先輩」
亀井が堂々とあくびをかます里沙に恥ずかしそうに言う。
ところで・・・・あの娘は?
小川はハッとして店の奥の方に視線をやる。
観葉植物の影にはもう何の影も見あたらなくて、何処から吹いている風なのか、葉っぱが
うっすらと揺れている。
「いつの間に・・・?」
高橋が恐ろしげに呟く。
「やっぱ影の薄さは天下一品?って感じ」
田中も残りのジュースをすすりながら言う。小川がそんな田中をキッと睨んで。
「ってゆーかおまえ金払ったか?」
「あああー!!誰よ!片づけないでそのままで行ったのぉ!?ここはファミレスじゃないのよ!?」
保田の怒鳴り声が、がらりとした店内に響き渡る。
道重の座っていたテーブルには、ジュースもハンバーガーの包みもポテトのパックも
そのままだった。
「結構そそっかしいタイプなんだ・・・・・」
呆気に取られている小川が、生気の無い声でそう呟いた。
- 465 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時50分50秒
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――――――――
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- 466 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時54分41秒
いつもと同じように、小川は母親に行って来ますも言わないで家を出た。
途中で、ヤクルトおばさん(ヤクルト配達のおばさん。小川はそう呼んでいる)
には軽くあいさつして、ジョギングしてるおじいさん(と言うより歩いてる)をさっさと
追い越して、お決まりの通学路を行く。何処までも続きそうなアスファルトには、小川の他に
もちらほらと制服姿の生徒達が淡々と歩いていて、道の端には朝っぱらから、ゴミ袋
片手に、世間話に華を咲かせているおばさん達がいる。空はあまりはっきりしない青空
だったが、(雨は多分降らないだろう)と、小川は思った。
学校が近くなると、次第に生徒達の賑やかな声が聞こえてきた。
「おはようございまーす」
学校の正門前には、先生達が何やら灰色のファイルに書き込みをしながら立っている。
(また挨拶表とか言うくだらない物か・・・)
「おはよう、小川」
「おはようございます」
正門をくぐる小川に、担任の安倍がにっこりと笑って、軽やかな口調で挨拶をする。
この笑顔の事を『ひまわりみたい』と言うのだろうか。
- 467 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時57分37秒
- 「おっはよ、まこっちゃん」
後ろから突然肩を叩かれて小川の身体が一瞬ビクリと弾むが、すぐにその訛りで
誰だか分かった。
「愛、おはよ」
「ふふふふ・・・」
突然高橋が笑い始める。そんな高橋に小川はぎょっとして。
「は?どうしたの?キショイんだけど」
「まこっちゃん、やっぱ気づかないんやね」
「え?」
高橋が口だけで『う・し・ろ』と言った。小川はその時、昨日の事をようやく思い出した。
(まさか―――)
案の定、小川から3メートルほど後ろに彼女が歩いていた。
視力はあまりよく無い小川なので、目が合ったかは分からなかったが。
「・・・・道重」
トボトボと歩いている、やや俯き加減の道重は暗い不のオーラを放っていて、朝のさわやかな
雰囲気とはかなり不似合いだった。
- 468 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時58分54秒
- 「ぐ、偶然じゃない」
どうしてもそう思いたい小川だったが、この声は確実に裏返っていた。
「そぉ〜かなぁ〜?」
高橋が意味深な笑みを浮かべて小川を見やる。
「やめてよ〜愛!大体普通あたしなんかつけ回すかぁ?」
と、まるで自分に言い聞かせるように嘆いた。
しかし、小川の願いは無惨に砕かれる事になる。
- 469 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)12時59分35秒
- 470 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時02分51秒
- 「ね?着いて来てるって言ったでしょ?」
新垣がさも面白そうに笑みを浮かべながら、小川に耳打ちする。
昼休み。大分外は気温も上がり始めた季節。
が、小川達の住む町も、不景気の風当たりが強く、この学校には冷暖房の設置してある
教室は職員室か特別教室、そして今いる図書室くらいだった。なので図書室は授業の合間
合間には、ひたすらオアシスを求める生徒で群れあがるのだ。勿論小川達もその中の一組である。
「ああ、来てる来てる」
高橋が興味津々に新垣の視線を追う。
図書室の扉の前には、『図書室のマナー』と言う張り紙が張ってあり、その一文に
『1・騒がない』と表記してあるが、そんなのおかまい無しと言った様子で、周りの生徒らは高
らかな笑い声を上げたり、本をボール代わりに投げたりして遊ぶ者や、いびきを立てて堂々
と居眠りする者など、悲惨な状態だった。
そんな中、一際物静かで真っ暗な不のオーラを漂わせている者が出口付近に一名。
それに気づいた小川は、深い吐息を吐く。
一体自分が何故、見ず知らずの少女にマークされなければいけないんだろう。と、少し
憂鬱な気分になった。
- 471 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時05分10秒
- 「みんな一体何言ってるの?」
『空手一筋番長』と迫力満点の文字で書かている表紙の漫画を読みふけっていた
紺野あさ美が、要約場の空気を読んだようで、今更不振顔。
紺野は昨日いなかったのと、小川と対を張るくらいの鈍感さの為、まだ道重の存在を知らない。
「でもあの娘、外見はあさ美にそっくりやなぁ」
高橋が呑気に言う。
その言葉に紺野が反応し、高橋の目線を追い、道重たる人物を捜そうと試みるが、
なかなか至難の技だ。
「なぁ・・・・」
小川が力無い声を出す。が、小川には少しだけ疑問があった。
「なぁ、田中ぁ。道重って子には友達とかいないわけ?」
この位の年齢の子は、とにかく仲間と連むのを好むはずだ。
なのに道重は、昨日の話しでは休み時間も一人でいるタイプと聞き、朝の登校もやはり
一人で、そして今ここにいる時も周りに誰かいる様子が無い。
どんなに暗い子であっても、その類の友達はかならずいる筈だ。
そんな小川の疑問に、さっきからあんぱんを頬張っている田中はう〜んと軽く唸り。
- 472 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時06分35秒
- と、その前に、『図書室のマナー』によると『2・飲食禁止』らしい。
「同じクラスやってもう3ヶ月経ちますけど、まだ誰ともしゃべっている所は多分見て
ないですねぇ・・・てゆーか見ない」
「典型的な根暗だね」
「何々?まこっちゃん何だかんだ言って気になってる?」
新垣が軽薄な口調で小川をはやし立てる。
が、何故かその言葉に小川より先に紺野が振り返った。
「なっ、何言ってんの?ただ聞いただけじゃん」
小川も慌てて弁解する。
紺野のいる方角から、何やら物恐ろしい空気が漂って来るからだ。
「ふぅん」
新垣がそんな小川に意味深な目線を送った。
- 473 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時07分46秒
- 「さぁてと、これからどうしよっかな・・・」
そう言って、小川は机に頭を伏せた。
その次の時間の体育でも、やはり3階の窓からグラウンドを覗く道重を発見し、帰り道も
振り返れば道重。次の日の学校でも、何度か気配を感じ、気になったあげく振り返れば
道重。挙げ句の果てに、授業中の居眠りの夢にまで道重。やっとの想いで目覚めたら、怒り
に震える飯田の顔のアップ。日常のすべてが道重、道重、道重・・・・。
そして何日も道重地獄が続く。(本当はもっと前からあったが)
「ってゆーかコレって・・・・ストーカーじゃあああああんっ!!!」
不況だが平和な町に、今日も小川の悲鳴がこだまする。
- 474 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時08分29秒
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――――――――――
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- 475 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時27分20秒
グラウンドには大きなバスケットゴールが立っている。
そもそもバスケは体育館でプレーするものだが、部活の方は試合が近くなるとバレー部と
体育館の取り合いになる為、解決策にグラウンドにゴールを立てるのはどうかと言う意見
があった。前にも書いたが、ここの町も不況の荒波に飲めれた為に、たかが公立中学なん
かの為にお金など出せる余裕が無い。
しかし、2年前の卒業生達がカンパしあい、この立派なバスケットゴールを買ったのだと
言う。そんな涙無くしては語れないような物語がこのゴールには詰まっているのだ。
透き通った青空に、オレンジ色の真新しいバスケットボールが、美しい弧を描く。
そしてそのままボールはリングに音も無く落ちる。
一瞬沈黙になり、ゆっくりと地面にバウンドし、やがて転がった。
- 476 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時29分49秒
- 「れいな!ナイッシュ!」
少女達の元気の良い歓声がたちまち田中を包む。
辺りには青いゼッケンと赤いゼッケンの集団が走り回っている。
校舎の時計はすでに12時を指していたが、どうも試合が接戦の為、長引いている様子。そう、4時間目の体育はすでに終わっても良い筈だ。
なのに、熱血体育教師の中澤はまだ続けようと言った感じで。
- 477 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時31分00秒
笛が鳴ると、少女達が一成に駆け出す。
ボールを持った青ゼッケンの三つ編み少女が、赤ゼッケンの少女達に囲まれ、あたふたと
している。もう少しでボールが奪われそうだ。
その時。
「幸江ぇ!!コッチ空いてるぞぉーっ!!」
幸江と呼ばれた三つ編みの瞳に、希望の光が浮かぶ。
遠くの方で、同じく青ゼッケンをつけた田中が両手を振っている。
幸江はおもいっきりボールを高く振り投げた。
赤ゼッケン達が一成にそちらを振り返る。
その様子に、他の青ゼッケンがまたもや感動の歓声を上げた。
見事ボールをキャッチした田中は、振り向き様に猛スピードで地面を蹴る。
そして、田中の動きを阻止しようとする赤ゼッケン達をどんどん追い越して行った。
田中は他の成績はとんでも無く悲惨な物だが、体育の実技だけは昔から好成績なのだ。
赤ゼッケン達の顔色がどんどん青ざめる。
後、一点でこちらの勝利の筈だったのに・・・。と。
しかし、そんな田中の目の前に一人の赤ゼッケンが立ちふさがった。
- 478 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時31分42秒
- 「――――――!?」
亀井だ。
その瞬間、赤ゼッケンから安堵の表情が伺えられる。
そして何故か、その試合を見ていた先輩達から「可愛い」とか「がんばれ」など黄色い声
援まで響く。亀井は入学した時からアイドル的存在なのだ。
そして勿論、田中と並ぶほどの運動神経の持ち主であり、他の成績もかなり良い。
- 479 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時36分54秒
- 「ちょっとどきなさいよ絵里」
その声援にムッとしたような感じの田中。
「ボールくれたらどいてあげる」
余裕の笑みを浮かべている亀井。
「ダメに決まってんじゃん、ホラさっさとどく」
「どいたら試合にならないでしょ」
「ボールあげたって試合になりません。お互い様」
何やら言い争いを始めた2人を、不思議そうな表情で見つめる生徒達。
中澤もそれに気づき、監督席から立ち上がる。
さらに顔を近づけて睨み合う2人。
実はこの2人、根本的な所は似ているのかもしれない。
「言っとくけど、今回こそウチのチームは勝つんだから」
亀井のチームはまだ0勝3敗なのだ。
田中はその言葉にほくそ笑むと。
「速くどかないと、あんた後悔するよ?」
「は?何言ってるの?さっさとボール寄こしなさいよ」
なかなか引かない田中の様子に、半場イライラしたよな口調になる。
しかし、今度は田中が余裕の笑みを作り、続ける。
- 480 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時41分17秒
- 「あたし知ってんだぁ。あんたの弱点」
「フッ・・・そんな事言って何も知らないんでしょ?」
亀井が鼻で笑う。
「知ってるよ?あんたが腰に爆弾抱えてる事」
「え?」
亀井の顔色が一瞬にして変わる。
「着替えん時、超ぉ〜見たく無いんだけど、いきなりあたしの麗しい瞳にあんたが入って
来ただけなんだけどさぁ、そん時、丸見えだったよ?サロンパス」
「何処が麗しいんだよ!つーか私を汚いもん呼ばわりしないでよ!」
サロンパスより田中の言い方に腹を立てる亀井は、つい大きな声を発する。
「そーれーと♪」
自分が首位に立った事を察知すると、さらに調子に乗ったような田中が鼻歌混じりに言う。
「何よ」
「この前、ウチにあんたのお母さんが来て、ウチのお母さんとしゃべってんの聞いたんだけどぉ
・・・腰の理由」
「・・・なっ!?ち、ちょっと待ってよ!それは無し!!」
亀井が目を見開き、おもわず裏返ったような声を出す。
相当焦っているであろう敵のリアクションに、田中がニヤリと口元を緩ませ。
- 481 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時42分07秒
- 「キャプテン翼の・・・・」
「ぎゃあああああああああああああああっ!!!!」
亀井の悲痛に満ちた悲鳴がグラウンドにいる者達を騒然とさせた。
近くにいた田中は思わず耳を塞ぎ、ボールを地面に落としてしまう。
「なになに聞こえなかった」
ギャラリーからはそんな声が聞こえる。
中澤は喧嘩を止める所か、面白そうに野次馬連中に混ざっていた。
- 482 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時44分14秒
しかし、亀井は。
「よっ・・・よくも言ったわねぇ!?あたしだって、あたしだって知ってんのよ!?」
等々、私からあたしになった亀井。もう涙目になっているが。
「な、何よ?」
さすがに亀井の変わりように驚いているらしい田中だが、あくまで冷静を装う。
他の全員も唖然とした様子。
「あんただってあんただって、小学校の時の・・・!あんたのあだ名知ってるんだから!!」
「―――――――ッ!?」
その以外な言葉に一同に緊張が走った。
田中の顔色が一気に青ざめる。逆に亀井の顔は真っ赤だったが。
「分かったごめん、謝る。マジでごめん」
手のひらを返したように田中は亀井に謝るが、完璧にキレてしまっている相手には通用
しない。それどころかさらに火に油を注いでしまったようだ。
「絶対っ許さないっ!!言ってやる!!」
「いや・・・ちょっとマジでヤバイからぁ・・・!!」
- 483 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時45分24秒
- 狼狽える田中の様子に、逆転首位に立った亀井は少し落ち着きを取り戻して、
今度は何か企むような悪魔の笑みを作る。
「小2の時の担任の先生が、結婚して学校辞めるって言う時に書いた作文の最後に・・・」
「わぁあああっ!!やめてやめて!!」
田中が取り乱して亀井の口を塞ごうとするが、かわされる。まだ、落としたボールは転がったままだ。
「『さようなら』って書こうとして間違えて『さよおなら・・・」
「ちょっと早く試合やろうよ!?みんなぁ!?」
田中の叫びも虚しく、その場にいる全員が亀井の話に耳を傾ける。
「クラス全員大爆笑・・・それ以来あだ名は・・・」
「うっぎゃあああああああああああああああああああああっ!!!!」
- 484 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時46分28秒
- 今度は田中が死のような大絶叫を放った。
ちなみにそのとんでもなく恥ずかしいらしいあだ名は、その後2年間ほど田中に付きまとった言う。
亀井は顔をしかめて耳を塞ぐ。
しかしすぐに勝ち誇ったような顔になり、うずくまる田中を見下ろす。
「ふ・・・哀れな娘」
すると、その一言に反応した田中は勢い良く立ち上がる。
「言ってくれたわねぇ・・・」
そう言って恨めしそうに亀井を睨む。
「あんたこそ・・・」
どうやら泥沼の争いはまだ続きそうだ。
それを察知したのか、他の生徒達はほとんど呆れていて、次々とゼッケンを脱いで
その場を後にする。
風が、友情の証の筈のバスケットゴールを虚しく揺らす。
気がつけば、地面にはまだ睨み合っている田中と亀井の二つの影だけが映っていた。
- 485 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)13時46分58秒
- ――――――
――――――――――――
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- 486 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月03日(土)13時48分21秒
- うう・・・・sageで行こうと思ったらageてしまった。
ちょっと一休み
- 487 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時08分46秒
- 「なんか一年生楽しそう」
紺野がお気に入りのかつお梅にぎりを頬張りながら、満足げに言う。
場面変わって、こちらはお弁当タイムのまっただ中。
田中と亀井の争いにも気づかず、4階の窓からそれらを呑気に眺めている。
「うっげぇ、体育まだやってるよ」
ご愁傷様と、新垣が両手を合わせる。
「中澤先生も厳しいよなぁ」
高橋もそう言ってメロンパンをひとかじり。
生徒達のお昼の時間は、自由な所で食べても良いと言う事で、皆、教室や廊下、屋上など
いろんな場所で食べている。
小川達一行は教室が縄張りのようだ。さすがにこれだけしかいない人数
だと、日頃騒がしい筈のこの教室も物静かな物だ。
ふわりとカーテンがなびく。
そんな中、小川だけが遠い目で何処か一点を見つめているのに、紺野が気づく。
- 488 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時10分39秒
- 「・・・まこっちゃん?」
「うへ?」
紺野の問いかけに、つい間抜けな声を出してしまい慌てて口元を塞ぐ。
そんな小川の様子に、全員が不振顔だ。
しかし、小川はすぐにまた窓の外に目を移してしまう。
小川の瞳には、校庭の隅に一人制服で腰掛ける道重の姿が映っていた。
心なしか少し寂しそうにも見えた。
「体調悪いのかな」
小川がポツリと呟く。
高橋は首を傾げて、小川の視線を追う。
すると、すぐに分かったように口元を緩めた。
「ふぅん、何だかんだ言ってまこっちゃんも満更でもなかったんやのぉ」
「は?な、何言ってんの!?ただ・・・物思いにふけってただけよ!」
「まこっちゃんが物思い!?あははははっ!」
新垣が腹を抱えて大爆笑。
- 489 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時13分16秒
- 「失礼ね!?」
小川は顔を真っ赤にして怒り出す。
紺野は今の会話でなんとなく事を理解したようで、慌てて窓の外に視線を運ぶ。
しかし、グラウンドにいた生徒達はぞろぞろと帰り始めていて、肝心の道重を人影が隠
して見れなかった。
さらに続ける高橋。
「でもおかしんでない?あんなに存在感無いランキングで上位張るような娘っ子をすぐに
見つけるなんて」
「え・・・いや、その」
その言葉に小川はたじろぐばかりで。
「ええっ!?何?何?」
紺野は小川と高橋を交互に見る。
「そんな分けないじゃん!あたしは道重にはことごとく迷惑してんの!」
やけくそになり思いっきり叫ぶ小川。
- 490 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時16分07秒
- そんな様子に紺野は少し安堵の表情を浮かべ、高橋と新垣は顔を見合わせる。
「じゃあさ、なんでハッキリ本人に言わないの?」
新垣が目をパチクリさせながら言う。
そう、後輩なのだから遠慮しないでハッキリと言ってしまえば、相手ももう寄って
来ない筈だ。なのに小川は未だに何も出来ないでいる。
「やっぱり怖いじゃん・・・」
と、気の強そうな外見には似合わないほど萎縮した様子の小川。
「でもそう言うのってちゃんと言っとかないとラチがあかんよ?」
「うん・・・まぁ」
ああ言う大人しいタイプは怒らせると怖いと言うのと、自分をつけ回すだけで他に何も
してこないと言う事や、やたら刺激しあうのもお互いの為に良くない。と言うのが小川の
考えだったが。
「まこっちゃんだらしな〜い」
新垣が挑発するような口調で言う。
「そうだよまこっちゃん。やってみるだけやってみなよ」
紺野が肩をぽんと叩く。
「迷ってる暇なんかないんよ」
高橋も。
「・・・・・う〜、うん。言ってみる」
悩んだあげくそう言った物の、何処か気が進まない心境だった。
- 491 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時16分48秒
- ――――――
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- 492 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時21分13秒
それは6限目が終わった時、突然やってきた。
「さいあく・・・・」
異変に気づいたのは丁度5限目が終わって、生徒達が次の授業の用意をしていた時。
さっきまで晴れ渡っていたハッキリとした空が、どんよりと厚い灰色の雲に覆われ
、辺りは湿気を放っていた。
その時は小川も「ちょっとは降るかな」と、ある程度の予測はしていた。が、最後まで
もってくれるとも信じていた。
しかし、お空はそんなか弱き乙女の淡い期待をあっさり裏切ったのだ。
6限目に入り、美術の飯田がお決まりの電波トーク(!?)に華を咲かせていた時、
窓ガラスに無数の水滴がついている事に気がついた。小川がはっとして窓の外に視線をやると、
さっきまで一年が体育をしていた時のカラッとしたグランドは何処にも無くて・・・・。
「今に至ると言うわけ・・・」
「何独り言言ってんの?」
- 493 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時22分25秒
- ふと、振り返ればそこに新垣が不思議そうな顔をしながら立っているのに気づく。
もう帰りの支度が出来ているのか、もう鞄を肩に背負っている。
どうやら他の生徒もちらほらと帰り始めているようだ。
「里沙・・・・ねぇ、傘もってない?」
「あ〜持ってないねぇ・・・ってゆーか雨降ってんじゃん!?」
と、今初めて気づいたようで、驚愕の表情を浮かべた。
「・・・・あんた馬鹿でしょ」
「あ、そうそう。まこっちゃんに用があって来たんだ。なんか安倍先生が呼んでた」
「安倍先生が・・・?」
- 494 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時23分11秒
- 495 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時24分51秒
- 不運と言うのは二重、三重にも重なって起きる物だ。
と、小川は確信した。
職員室に入るなり、安倍先生はいつものようにひまわりのような笑顔で出迎えてくれた。
しかし、その笑顔はその日は何処か迫力の様な物を感じた。
「小川ぁ、班の子達から苦情来てるべさ?」
「は?」
小川は何のことだか分からないようで、小首を傾げる。
「掃除当番、今週3回連続でサボってるらしいべぇなぁ?」
その一言で、小川は「ヤバイ」と言う表情になってしまった。
昔から感情が表情に表れやすいタイプだったが。
しかし、普通ならここは怒って凄みを効かせる場所だが、口調はいつもより優しく、そして
いつもより笑顔のドル数が高いようだ。
そうなのだ。こういう時の安倍はかなり怒っている様で。
「罰として今日から来週の金曜まで、小川一人で教室掃除だべ♪」
決まって天使の笑顔で、とんでもない罰を下すのだ。
横のデスクに座っていた飯田がニヤリと笑う。
小川、力無く嘆く。
「そんなぁ・・・」
- 496 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時26分06秒
- 「まこっちゃんがんばってなぁ〜」
教室の扉から顔だけ出した高橋が、楽しそうに手を振る。
「小川先輩ドンマ〜イ!」
「がんばってくださ〜い!」
いつの間に仲直りしたような、田中と亀井。
あれから雨が降り出すまで、争っていたらしいが。
「ごめん・・・私今日空手の稽古があって」
紺野がすまなそうに眉を下げた。
どうやら皆、それぞれの理由があるらしく、先に帰ると言うのだ。
ちなみに小川達意外は、すでに下校してしまったようで。
「まこっちゃん」
すると、珍しく新垣が深刻な表情を浮かべ、小川の前へ立つ。
「新垣?」
何事かと、さすがの小川も新垣の意外な表情に戸惑う。
- 497 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時26分48秒
「・・・・・」
「・・・・?」
しかし新垣は。
「ぶわっくしょん!」
「汚っ!」
「ごっめーん!?我慢してたら出ちゃった!ついた?」
「死ね!さっさと帰れ!」
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- 498 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時29分37秒
- 小川が掃除を終えて、荷物をまとめる頃にはもう25分も掛かっていた。
「あ〜酷くなってるよ〜」
校舎の入り口に出るなり、小川は憮然とした様子で嘆いた。
止む気もさらさら無い土砂降りの天を仰ぎ、その場にしゃがみ込む。
グラウンドは雨でぐしゃぐしゃで、遠くの方は薄い霧がかかってるようだ。
ふいにポケットからケータイを取り出すと、時刻を確認する。
デジタルの数字は丁度『4:30』を表示していた。このまま待っていたら夜中になっても
帰れそうにないと想った小川は、意を決したように立ち上がる。
(いいや、どうせ帰るんだし。家に帰ったら暖かいお風呂に入って冷たいジュースでも飲もう!)
そして小川は鞄で頭を庇いながら歩き始めた。地面には無数の足跡がついている。
2階にある職員室しか明かりのついていない校舎は、もう生徒は小川くらいしか残って居なかった様だ。
それを考えると自然と足が速まる。
- 499 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時30分43秒
- すると、校門の前に誰か立っているのが視界に入る。小川の心臓が一瞬跳ね上がった。
ぼんやりと赤い傘が見える。
辺りは、雨のシトシトと言う音しか聞こえない。
小川にはもう分かっていた。その後ろ姿が何者なのか。
その瞬間、昼休みでの会話を思い出していた。
『じゃあさ、なんでハッキリ本人に言わないの?』
『でもそう言うのってちゃんと言っとかないとラチがあかんよ?』
『迷ってる暇なんかないんよ』
- 500 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時31分55秒
- ゴクリと唾を飲む。
(そうだ、このままじゃラチがあかない)
そう自分に言い聞かせた。
「道重――――」
赤い傘がピクリと動く。そして傘は恐る恐ると言う感じでゆっくり振り向いた。
振り返り、声の主に気づいた道重は表情を凍り付かせた。が、すぐにいつもの無表情に戻る。
「あなたが、道重?」
一回確認の為に慎重な様子で訪ねる。道重はただ頷いた。
そしてすぐに顔を俯かせて、傘を両手でぎゅっと握る。
その時小川は一瞬(可愛い・・・)と想ってしまったが、軽く頭を振り、本題に入ろうと考える。
- 501 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時34分57秒
「あのさ。気のせいだったら悪いんだけど、あたしの後ろにいつもいるよね」
小川はなるべく刺激しないよう言葉を選んだ。こんなに頭を使って話すのは初めてだと、
つくづく思った。妙に傘を弾く雨の音がリアルに聞こえる。
「・・・あ」
微かだったが道重の口から声が漏れる。
「いや、あたしも気のせいだと思ったよ?でもみんながさ、良からぬ事を噂してるみたい
で。そっち的にもそう言う風に思われるの嫌でしょ?だからあんまあたしに近づかない方
がいいと思うの」
「・・・・・・・」
道重は黙って地面に目線を落としている。相変わらず表情は無かった。
小川ももう何を言って良いのかが分からなかったが、黙ったままの彼女に少々苛ついても
いた。
「あのね?何か言ってくれないとこっちは分からないんだ。あたしの間違いだったら謝るし、
そうじゃないんだったら、止めて」
自分でも最後のフレーズは冷たすぎたかなと、後悔してしまったが。
- 502 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時36分27秒
- 「あ・・・ごめん。ちょっときつかったよね。ごめん。でも、正直怖かったんだ。
あなたの事。やっぱりあんまり良い気持ちはしないよ。誰でも」
なるべく言葉のトゲを抜いた。小川はそう思い少し落ち着いた。
「―――――――。」
「え?」
道重の口元が微かに動いたが、雨の音が急に強くなったせいで、うまく聞き取れなかった。
すると、道重が初めて表情を見せた。
「え!?ちょっとっ・・・!」
道重は傘を放り投げ、そのまま走って行ってしまった。
走る道重の背中をただ呆然と見つめる小川。しばらくその場に
突っ立ったまま、一歩も動けなくなった。と言うより、本人もどうしたら良いか分からなかった。
地面には開かれた赤い傘と、閉じたまま転がっている青い傘があった。
(もしかしてあたしの為?)
道重の見せた表情はとても悲痛に満ちた悲しいものだった。
- 503 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)17時37分08秒
- ―――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
- 504 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時24分40秒
- その日。小川にとってはムカツクほど晴れ渡った空で、大きな入道雲が我が物顔に漂っている。
グラウンドからは生徒達の清々しい歓声が聞こえる。
小川は頬杖をつきながら、先生の単調な声をただ聞き流しているだけで、すべてが上の空
だった。暖かい日差しがカーテンをすり抜けて、教室を照らす。
何も書かれていない小川の真っ白なノートは、そんなカーテンと一緒に柔らかい風にめくれている。
それでも気にせず、ただただ日の光を浴びて走り回る生徒達に視線を送っていた。
「あー、だりぃ・・・」
と、呟いていると。
「お・が・わ、今なんか言ったかしら?」
「・・・・あ」
「そんなにピカソが嫌いかしら?」
美術教師の飯田先生が両手を腰に当てながら、小川を見下ろしている。
顔は綺麗だが、今は不機嫌そうに眉をひそめていた。
(しまった・・・・声に出てたよ)
そんな小川を教室の生徒達がケラケラと笑っていた。
- 505 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時25分47秒
- あれから道重は小川の背後には現れなくなったと言う。
勿論、振り返ってもごく普通の景色があるだけで、どんなに目を凝らしても暗いオーラを
放っていた少女の影は何処にも無かった。
田中の話によると、学校にはきちんと登校しているらしいが。
「まこっちゃーん!図書室行こ!」
授業が終わり、扉の前で紺野がさわやかな笑みを浮かべ小川を呼ぶ。
「おう!」
(そうだ、日常が戻ったんだ。いつもの)
図書室はいつものように生徒達で群がっていて、冷房の近くは特に人気だ。
いつもの指定席を確保すると、6人は他愛の無い会話を始めた。
- 506 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時26分25秒
- 「でね?里沙がそのオヤジにね・・・」
小川は図書室の出口付近に目線を送るが、4人組の生徒が楽しげに騒いでいるだけで。
「マジですかぁ?それ?」
「ホントすごかぁ〜」
正直、後悔していないと言ったら嘘になる。小川はもう気づいていたのだ。
こうやって自然に目が彼女を捜している事に。
「で、オヤジはもうカンカンでさ」
「ダメだよ里沙ちゃん」
小川は忘れられない。最後に見せた道重の表情を。
(あたしが傷つけた?)
あの後から今まで、そう何度も自分に問いかけていた。
「えー可哀想。ね?小川先輩」
- 507 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時28分06秒
- ――――――あのね?何か言ってくれないとこっちは分からないんだ。あたしの間違い
だったら謝るし、そうじゃないんだったら、止めて
(今思うと、気をつけたつもりでも結構酷かったな)
「小川先輩?」
あの雨の日に言ってしまった事が、脳裏に焼き付いて離れなくなった。
風景も雨の音も全部――――――。
「お〜いせんぱ〜い!」
(いなくなって初めて気づくか・・・・寂しいのは否定出来ない。
じゃあ、あたしは道重の事を・・・?無い無い!絶対無い!それに女の子だし!)
そう考えてしまった瞬間、我に返り、小川は思いっきり頭を横に振る。
「エラ」
そして田中の首を両腕で絞める。
- 508 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時31分36秒
- 「あたたたたたたたっ!聞こえてるじゃないですかぁ!」
「ま、まこっちゃんストップやわ!田中ちゃんの顔が土色に変化しとる!」
「あ、ごめ〜ん効き過ぎた?」
小川がおどけたような顔を作り、田中の顔を除き込む。
田中は苦しそうに咳きを数回すると。
「効き過ぎたも何も一瞬花畑見えたんですけど!?」
「すっご〜い臨死体験!?」
と、亀井がわざとらしく声を上げる。多分、グラウンドでのひと騒動の事をまだ根に持っている様だ。
しかし、田中は無視した。
「最近小川先輩おかしいですよ?話しかけても上の空って感じだし」
「特に、道重さんがいなくなってから」
新垣が「道重」の所を強調して言う。
隣の高橋も大きく頷いている。紺野はただ小川を見つめていた。
「別に。ただ、身体の調子が悪いだけだもん」
小川はしどろもどろになりながら、新垣の問いにやっと答える。
しかし、新垣はいたずらっ子のような目つきで「ふぅん」と鼻で言う。
- 509 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時33分09秒
- 「何よ」
「別に〜。でもまこっちゃん、里沙から言わせてもらえば無理な強がりがよした方がいいよん」
「本当は気になっとるんやろ?」
高橋もさもおかしそうに笑いながらそう言う。
「そうなの?」
何故か寂しそうに眉を下げて、情けない声を露わにする紺野。
「・・・確かに気にならないって言ったら嘘になるけどぉ」
おずおずと言ったその言葉は他の5人にとっては衝撃発言だ。
特に紺野は。
「――――ッ!?」
「え?紺野先輩?」
亀井が心配そうに一気に青ざめた紺野のをのぞき込む。
「「やっぱりね〜」」
高橋と新垣は楽しそうに声を揃える。
そんな皆の反応に戸惑いながら小川は続ける。
「誤解しないでよ!?好きみたいじゃん!」
が、自分で言った瞬間。好きなのか?と自分にも問いていた。
だが紺野の方は安心したようで、肩を落ち着かせた。
前の扉が開き、また数人の生徒達が入って来た。
- 510 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時40分28秒
- 「あの言わなかったんですけど」
突然、珍しく黙りこくっていた田中が口を開く。
あまりにも真剣な顔をするので全員田中に視線を向ける。
「道重さん、引っ越すんですよ」
「「「「「まじっ!?」」」」」
「そんな事で嘘つかないですよ」
そう言っていちご牛乳のパックに口をつける。扉の『図書室のー』の張り紙が寂しく揺れた。
「で、いつなの?」
新垣が訪ねる。
「3日後ですよ」
「「「「「まじっ!?」」」」」
「だからそんなことで嘘つかないですよ」
田中が飽き飽きと言った感じで溜息をつき、ポッキーの袋を開けた。
彼女にとってはもはやルールなんて関係ないのだ。
- 511 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時42分00秒
- 「どうすんのまこっちゃん」
新垣が。
「後悔しない?」
高橋が。
「話でもしたらいいと思います」
亀井も。
「・・・少しなら逢っていいよ」
そして紺野。
「何よ、みんなして・・・あたし別に」
小川はそんな皆を一瞥すると、もごもごと言い返す。
「ま、小川先輩次第っすよ」
田中はおいしそうにポッキーを頬張る。
そんな田中の一言に一同は納得し、小川からあ視線を外す。
「ね、里沙ちゃん。話の続き聞きたいな」
「あ〜あれね。何処まで話たっけ」
紺野の言葉に新垣が面倒くさそうに頭をかきながらぼやく。
まだ悩んでいるような小川を無視し、また他愛の無い会話を始めた。
- 512 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時42分54秒
- 小川の頭の中は、道重の顔と今までの出来事がぐるぐると旋回していた。
すると、堪忍袋の緒が切れたらしい図書委員が、田中の耳を引っ張る。
うめく田中。周りは爆笑の渦に。
あの日雨の中、道重が傘をぎゅっと握ったまま地面に視線を落としている風景や、窓から
観た、一人気の木陰で腰掛ける道重の姿。
図書委員に激を飛ばされポッキーを没収された田中を、周りが慰めている。
亀井はまだ笑っていたが。
「ごめん、あたしちょっと行ってくる」
突然立ち上がった小川は、皆の方も見ずに、そう言った。
そして人混みをかき分けて、そのまま図書室を出ていった。
- 513 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)19時43分29秒
- 「やっと行ったか・・・」
高橋が溜息混じりに言う。
「ね、本当に道重さん引っ越すの?」
紺野の疑問に田中は、もう機嫌を直したように軽薄な調子で言う。
「だ〜か〜ら〜そんな事で嘘つきませんってば」
「怪しいなぁ」
亀井はそんな田中に疑惑の視線を送っていた。
――――
―――――――――
――――――――――――――
- 514 名前:名無し娘。 投稿日:2003年05月03日(土)20時06分32秒
- おいおい!かなり面白いじゃないですか!
こっち系の話も書けたんですね!(w
続き凄い楽しみです。
- 515 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月03日(土)20時18分32秒
- >名無し娘。様
さっそくありがとうございます!
まだまだ更新続きます。
- 516 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時30分17秒
外は晴れだと言うのに、昼休みの廊下は生徒達の遊び場状態だった。
廊下の片隅で立ち話をする子達や、廊下を走らないと言う標語の前を平気で走り回ったり
している。勿論、小川もその中の一人だったが。
田中と同じクラスである道重の教室も1−Cなのは明らかなので、すぐに何処に行けば
いいかは分かった。しかし、いざ教室にたどり着いて中を覗くと、この教室には2・3人
ほど生徒がいるだけで、どんなに目を凝らしてもそれらしき人物は見あたらなかった。
ふと、廊下の一角で数人の女生徒が輪を作って話込んでいる。
小川は何か聞けるかもしれないと言う淡い期待から、その中の一番背の高い少女に話かけた。
「あの、ちょっといいかな」
「は?」
いきなり話かけられたので、少女は一瞬訝しげな表情を浮かべたが、すぐに先輩と分かり
顔色を変えた。
- 517 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時31分46秒
- 「ここの教室の子でしょ?道重って子知らないかな」
そんな小川の問いに、目を点にして。
「え・・・そんな子いたっけ?」
と、横にいたやや太めの少女に話を振る。
が、さぁと言い首を傾げた。
小川はダメかぁと少し諦めかけた。
すると、中でも一番背の低い少女が、意地悪そうに笑みを作り。
「あ〜、もしかしてあのやたら暗い子?」
「え?」
その言葉を合図に、全員同じように意地の悪い表情になり。
「あ〜いたね、そんな子」
「いたいた、思い出せないけど」
「あのちょっと不気味な子でしょ?先輩、あんな子になんの用ですか?」
「あの子なら昼休みいっつもいないですよ〜なんか余計キモイっすよね」
「あははっそれキッツー!」
小川は性根の悪いその少女達を殴ってやりたいと強く思い、作った拳を震わせた。
そして。
- 518 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時32分37秒
- 「・・・いい加減にしろよ」
先輩の余りの変わりように、一瞬ギクリとする少女達。
「道重はなぁ、おまえらみたいな奴らがいるから心閉ざしたんじゃねぇのか!?
あんま好き勝手言ってっとこのあたしが許さねぇぞ!!」
この前観た不良少年物の映画で覚えた悪い言葉を使って、目の前の後輩をビビらせている
小川。少女達だけで無く回りの生徒達も目をまん丸くしている。
何故か自分が言われた事のように痛む胸を押さえながら、その場を後にした。
探す宛が無くなり、小川はただ廊下を歩く。
校舎の時計は、もうすぐ休み時間の終わりを告げようとしている。
ふと、小川の脳裏に1年生の体育の風景が浮かび上がった。
グラウンドの隅に生える、小さな木。その下にちょこんと座っている・・・。
(もしかして)
そう思い、小川の足は自然と校舎の外へ向いていた。
- 519 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時33分53秒
外に出ると、少し強めな太陽の光が、一気に小川に向かって降り注いだ。
あまりの眩しさに目を閉じる。
カラッと晴れた陽気に、グラウンドで遊ぶ活発な生徒達の歓声が辺りに響く。学校周辺は
住宅街なのでよく苦情がくるらしいが。
生徒達は、バトミントンをしたり、中学生にもなって鬼ごっこをしたり、バレーをした
りとさまざまだったが、そんな眩しい世界から離れてしまったような、誰からも気にさ
れない一本の樹の木陰に、一人の少女がぽつんと辺りを眺めている。
小川は一目でその少女が誰なのか分かった。木漏れ日が彼女の顔を明らかにしていたからだ。
風になびく髪を押さえ、小川はその少女に近づく。
- 520 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時34分48秒
- 「道重――――」
そう呼ばれた少女は、声の主の方へゆっくり顔を上げた。
目と目が合った瞬間、小川は不安になった。
道重は自分の事を、今どう思っているのか、多分怒っているだろうとも思った。
しかし、彼女はもう俯いて地面は見てい無かった。
ただ、哀しそうな瞳で、小川を見つめているだけだったが。
道重の元へ一歩一歩近づくと。
「隣座っていいかな」
小川の言葉に一瞬ためらったようだが、黙って頷いた。
その合図に従い、ゆっくりと道重の隣に腰掛けて、一息つく。
他の生徒達は皆駆け回って遊んでいると言うのに、じっと木陰で座っている
2人組はかなりおかしな風景だ。
座って見たものの、何を話ていいか分からなくて、しばらく沈黙が続く。
が、もうすぐで昼休みが終わってしまう事を恐れ、内心は焦っていた。
そう、今がチャンスなのだ。
- 521 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時36分00秒
- 「と、この前はごめ―――」
散々悩んだ挙げ句、小川がやっとそう切り出した時だった。
「羨ましかったの」
小さな声だったが、今度は小川の耳にもちゃんと届いていた。
小川は少し驚いたが、心の中で「へっ!?」と叫んだ。
「先輩は、わたしとは違って、いつもみんなの中心にいて明るくて眩しくて、
周りの風景が鮮やかでした」
まるで詩のような表現に、小川はただ耳を傾けるだけだった。
風が2人の前髪を揺らす。道重の瞳は遠くを観ていた。
「わたししゃべるの得意じゃないし、自分から話かける勇気も無いし、最初はみんな話かけて
くれたけど、今じゃ存在も忘れてるみたいで・・・」
その時、チャイムの音がグラウンドや校舎に鳴り響いた。
その音の合図で、グラウンドにいる生徒達がぞくぞくと校舎へ戻って行く。
道重はかまわず続ける。
「でも、田中さんは今でも時々話かけてくれる。おはようとか何気ない言葉でも
わたし嬉しかったし・・・でもあまり返せないけど」
そう言って哀しそうに眉をひそめる。
- 522 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時36分32秒
- (田中か、そういえばあいつが教えてくれたんだっけ)
「前に田中さんと話てる、先輩みました。それから気になって自然と目で追ってた・・・
でも先輩が迷惑してる事に全然気づかなくって」
(そっか・・・この子寂しかったんだ。なのにあたしは・・・)
小川は心の中でそうぼやいた。
- 523 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時37分10秒
- 「ずっと話たかったんです。でも暗い子は嫌われるし、煙たがられる」
「・・・そんな」
『そんな事ない』と言をうとした時、とっさに口をつぐんだ。
自分は彼女の事を引いた目で見てたんじゃないの?
自分は彼女の事をストーカーだって言ったじゃない
自分は彼女の事を迷惑だって思ってたじゃん
そんなあたしが彼女を慰める資格なんか無い。
さっき廊下で逢った、道重を侮辱した奴らとあたしは同じなんだ。
なのにあたしは今自分のしたこと棚に上げてた。
あたし、サイテーだ――――
- 524 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時38分08秒
- 「ごめん」
小川の瞳に自然と涙が溢れて来た。
いきなり頭を下げられ少し驚いた様子の道重。
すでにグラウンドには2人しか残っていなかった。
「謝らないで・・・勇気の無い、ただかまってもらうのを待ってるだけの自分が悪いから」
唇を噛みしめている小川の頭が、ふっと暖かい感触を感じた。
道重の手が優しく撫でている。
「道重――――」
―――――
―――――――――――
――――――――――――――――――
- 525 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時38分51秒
- この日、小川は初めて目覚ましより早く起きた。
黄色のカーテンを開き、朝日を部屋へ入れる。すると、一気に清々しい風が通り抜けて行く。
小川は気持ち良さ気に伸びをし、眠った身体を起こそうと試みる。
すると、さっさと制服に着替え準備を整えた。
「いってきます」
「あ、いってらっしゃ・・・て麻琴?」
普段はぎりぎりの時間に仏頂面で無言のまま家を出ていく娘が、今日は妙に晴れ晴れとしているのに
驚きを隠せない母。
- 526 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時44分29秒
- 小川はいつも歩く道とは逆方向に歩き出した。
途中で新聞配達の人に軽くお辞儀をし、いつも初めは後ろ姿から目に入る、ランニングの
おじぃさんは今回は正面からご対面だ。やがて見慣れない公園に差し掛かる。
柔らかい風が、辺りの木々を緩やかに揺らす。ベンチに座るおじさんが鳩に餌をやって
いるのが、小川からの距離でも伺える。餌をまく度、鳩達が何処からか飛んで来ておじさん
の周りに群がって行く。しかし、その様子をずっと観ていたら、止まっていたバイク
にぶつかりそうになったが。
公園を通り過ぎると、今度は小川の住む住宅街よりずっとおしゃれで立派な高級住宅街に
入る。小川はふと、ケータイの時計に目をやる。
(まだ大丈夫)
ある家からパジャマを着たおじさんが、ゴミ袋を持ってあたふたしながら出てきた。
小川はそれを見て、自然と口元が緩む。空と雲はまるで絵の具を塗ったみたいにはっきりと
した色合いで、街全体を包み込んでいる。(なんか手に届きそう―――――)
そんな気がしていた。
- 527 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時45分44秒
- すると、小川の目の前に、煉瓦作りの英国風な建物が目に入る。
念入りに手入れされているであろう花壇に、立派な塀。
(ここ・・・?いい家のお嬢さんなんだ)
心の中で羨むような溜息をついた。
小川はそんな家にちょっと戸惑いを感じたが、意を決して恐る恐るとチャイムを押す。
ちょっとして、真っ白な扉がゆっくり開くのが分かった。
申し訳なさそうな、おぼつかない足取りのローファーが、一番最初に視界に入る。
俯き加減の少女が恥ずかしそうに、鞄を両手でしっかり抱いて出てきた。
- 528 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時47分19秒
- 「遅いぞコラ、先輩待たせんな」
小川の言葉に少女少し頬を染めた。
ん、じゃ行くよ。と言い、少女の手を取った。すると、一瞬びくりと身体を強ばら
せたのが分かる。
「嫌?」
少女をのぞき込む。少女は癖であろう上目遣いで小川を一瞥すると、首を横に振り、
嬉しそうに瞳を細めた。小川は初めて彼女の笑顔を見て、少し感動を憶える。
「よし、行きますか。さゆみちゃん」
小川麻琴はしっかりと手を握ると、道重さゆみもしっかり握り返した。
(そうだ。田中のヤツ一回絞めとかなきゃな。何が引っ越しだよ!
家新築しただけじゃねぇか!?あの後思いっきり恥かいたんだぞ!)
- 529 名前:振り返れば××がいる 投稿日:2003年05月03日(土)21時50分23秒
- ―――ホントに引っ越しちゃうの!?
あたしがあんな酷い事言ったからでしょ!?ホントにごめんね!
だから引っ越しなんて今からでも取りやめにしちゃいなよ!!
毎日送り向かいするから!!だから・・・あたしと一緒にいてよ!?
(てあの樹の下で泣きながらそう叫んだんだ・・・)
その後小川は学校で、田中を絞める前に何故か紺野に絞められたそうな。
FIN
- 530 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月03日(土)21時53分26秒
- おがこんファンごめんなさい
短編終了しました。本編の方もがんばります。
- 531 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月04日(日)00時16分03秒
- さすがは作者さんだ…
めちゃよかったです!!これからも頑張ってください!
- 532 名前:名無し娘。 投稿日:2003年05月04日(日)01時13分01秒
- おう!!
途中でレスしてしまってすいませんでした。
うーん、面白かった。
もし続きがあったら読んで見たいです。
- 533 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月05日(月)01時10分10秒
- 素直に楽しい♪
なんか甘酸っぱい感じがしてヨカタ!
本編とのギャップがまた、なんともいえん♪
- 534 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月06日(火)11時49分26秒
- >名無し読者様
さすがだなんて・・・(照
もちろん!ガンバリマス!
>名無し娘。様
いえいえ、いつでもレス願います(笑
続編も一応考えてます
>名無し読者様
そう言って頂けて嬉しいです
確かにこのスレとの雰囲気とは違いますね(笑
- 535 名前:青のひつじ 投稿日:2003年05月06日(火)20時16分40秒
- まだ全然余っているので、「振り返れば〜」の
続編出来たらコッチに更新しようと思います
- 536 名前:ななし読者 投稿日:2003年05月27日(火)23時30分14秒
- こういう雰囲気も良いっすね。
小川さん、良い先輩だ(w
続編もたのしみにしてます。
- 537 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月11日(水)23時15分22秒
- そろそろ心配になってきた・・・保全
- 538 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時42分48秒
- >ななし読者様
レスありがとうございます。
たまにはこう言う感じの話もいいかなって思いました。
>名無しさん様
ご迷惑かけてすいません。そしてありがとうございます。
こちらの方の続編はもう少し待って頂ければ幸いです。
- 539 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)13時45分18秒
気が付けば隣に××がいる
- 540 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)13時47分15秒
辺りの静寂を打ち破るかのように、夕暮れにお決まりのカラス達の鳴き声が響く中。薄暗
くなった路地裏には、もう誰一人通行人は居なかった。いや、もともと昼だろうとこの道
を通る者は少ないのだが。
ただ、あるとすれば寂れて起きっぱなしになったマウンテンバイクと、即席であろう紫の
薄い布で作られた幌だけだった。その幌は薄暗い中ぼんやりと明かりが灯っていて、余計
不気味さを演出している。
そこへ一人の髪の長い少女が、おどろおどろとやって来た。幌の前まで来ると中へ入るの
をためらっているようで、幌の周りをただただうろついている。
すると。
『中へ入りなさい』
と、しゃがれていたが芯の通った声が聞こえた。突然の声に少女は一瞬ビクリと肩を震わ
せたが、一回深呼吸をして意を決したように幌を捲った。
- 541 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)13時51分39秒
- 『いらっしゃい。迷える子羊よ』
と、今時テレビドラマでさえ言わないような古くさい決まり文句に、少女は少し笑いそう
になったが一生懸命堪えた。
黒のローブを身にまとい、机の上には青い水晶。ちらりと見える尖った鼻はまるでおとぎ
話に出てくるような魔女そのものだ。少女はその姿に圧倒されたように唾をごくりと飲む。
そんな少女を一瞥すると、魔女は不気味に口を開く。
『おまえの言いたい事は分かっておる』
その言葉に心臓が大きく弾む。魔女は少女のその様子に不気味な笑みを浮かべると。
『さては恋じゃろ?』
「いえ違います」
少女は間を置く事をせず、あっさりと否定した。魔女は一回咳払いをする。
『悩みを言え』
と、ふて腐れたようにそう言い捨てる。
「あの・・・わたす、最近友人関係で悩んでいるんだすけどぉ」
少女は目を伏せ、ゆっくりと話す。やや訛りの抜けないおかしな標準語に魔女は、じろり
と少女の顔を睨んだ。
「前までは女子グループでは珍しいくらい仲良かったんだす・・・だども、最近妙に
不協和音って言う奴ですかぁ?なんか歩調があわなくってぇ」
『ほう、不協和音』
- 542 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)13時55分48秒
「はい。一個年下の亀井ちゃんと田中は昔からの幼馴染みなんですけど、最近顔合わすた
んびに、お互いの古傷のえぐり合いで大喧嘩・・・そうそうここだけの話なんですけどぉ。
田中は外見は今時のぎゃるって感じなんだども、パンツはまだキキララで、亀井ちゃんは
去年“ホリプロスカウトキャラバン”で書類の時点で落選だったらしいんです。この前は
その話題で喧嘩になったんだすよ」
『うぐっ・・・・それで』
魔女はあまりの馬鹿らしさに危うく笑いそうになったが、なんとか冷静を装った。
出来れば少女の、訳の分からない日本語を一刻も早く止めてほしかったが、面白そうなの
で聞いてやることにした。
- 543 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)13時57分11秒
- 「それで後、新垣って子がいるんだすけどぉ、その子はいつも突拍子の無い事ばっかり
・・・て、いつもの事なんでどうでも良いだす。そう、それよりわたすが一番気がかり
なのは紺野あさ美って言う子なんだす!あの子はいつもは温厚で、でもどっか抜けてて
憎めないそんな良い子なんだすけど、ここ最近機嫌がMAXに悪うてしょうがないんだす!
この前も教室の扉を素手で壊して、いつも大食いなのに、そのいつもより何倍も食べるよう
になってしまったんだす!止めようと思っても紺野ちゃん空手習ってるから怖くて・・・・」
怯える少女の話を最後まで聞くと、魔女は大きく頷いて。
『その紺野とやらがそうなってしまったのに何か心辺りはないのか?』
魔女の問いに、少女は少し考えるような顔をすると。
「実は・・・多いにあるんだす」
- 544 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)13時57分41秒
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- 545 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)13時59分43秒
- 「さーゆーみん♪」
「・・・・はい♪」
夏も過ぎて、大分外の気温は過ごしやすい物に変わっていた。
しかし、彼女達の縄張りは相変わらず図書室で、図書委員のストレスも極度に溜まってい
た昼下がり。しかし、相変わらずなのはそれだけで、彼女達の周りの環境は大分変わって
いたのだ。皆さんは憶えているだろうか。
数ヶ月前、小川麻琴はごく平凡に育ち、悩みも何もないようなお気楽少女だった。
が、そんなお気楽少女の目の前に、暗くて静かな台風がやって来た。その台風こと、道重
さゆみは友達がいない事から、自分と対照的な小川に憧れ付きまとっていたのだ。
最初は怖がっていた小川だが、時は経ち、現在―――――。
「ちょっとお二人さん。夏はとおに過ぎてるわよ?」
最新刊の漫画本『頑固一徹、お父さん道』を捲りながら、呆れ気味に2人を見ていた
新垣里沙が溜まりかねて口を開く。
「そうやわ。周りも見てるだすよ?」
訛りの抜けないまま夏休みを過ごしきってしまったような高橋愛も溜息をつく。(自分で
は標準語だと思ってる)
- 546 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時01分54秒
- 「さーゆーみん♪」
「・・・・はい♪」
小川と道重はもう48回もそのフレーズを繰り返している。一体何がしたいのかは不明で
ある。そう、小川は今現在、道重に首っ丈なのだ。いつの間にか「道重」→「さゆみ」→
「さゆみん」と呼び名もコロコロと変わっていった。
図書室にはその4人と、泣きはらしたような顔をしている図書委員に、本をボール代わり
にフットボールを繰り広げる5人組の生徒や、堂々とお菓子を広げる3人グループがいた。
高橋は、今いない3人の指定席に心配そうにちらりと視線を送る。
田中、亀井、はもう3日も図書室には来なかった。紺野に至ってはもう一週間以上も来て
いない。紺野とは教室は一緒だが、相変わらず機嫌が悪く、田中と亀井は一人ずつなら以
前と同じように話せるが、2人一緒だと喧嘩を始めてしまう。高橋は机に顔を俯せると、
静に溜息をついた。新垣はそんな友人の様子を知ってか知らずかただ黙って高橋を見ていた。
「へぶしっ!!・・・あー、季節の変わり目って風邪引きやすいってホントだったんだぁ」
やっぱり知らないようだ。
- 547 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時03分39秒
- 「さーゆーみん♪」
「・・・・はい♪」
その時。図書室の扉が乱暴に音を立てて開いた。その場にいる全員が一丸にそちらを振り
返る。『空手一筋番長』全38巻を片手に持った紺野あさ美が、づかづかと足音を立てて
現れた。
「あ!あさ美じゃん!お・ひ・さ!」
幸せの絶頂である小川は、まったく空気が読めずに機嫌の悪い紺野に大きく手を振った。
紺野はそちらをキッと睨むと、ポケットからある物を取り出し一気に振りかざした。
その瞬間。小川の頬が何かを掠ったような感覚を憶える。鋭い音が小川の背後から響いた。
恐る恐る小川は振り返ってみると、壁に律儀にも『紺野あさ美』と小さく名前の書かれた
シャーペンが深く刺さっているではないか。
奇跡的に頬に傷は無かったが、小川の顔からは見る見る内に血の気が引いていった。
それは周囲の人間も同じだったが。
紺野はそれを確かめると、無表情に受け付けのテーブルに『空手一筋番長』全38巻を
置いて出ていった。図書委員がへなへなとその場にへたれこんでしまっている。
「あたしなんか気に障るような事したっけ?」
未だに状況の掴めない鈍感な小川に、高橋は口の動きだけで「馬鹿」と言ってやった。
- 548 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時04分29秒
- (全く。まこっちゃんは何もわかっとらん)
そう心の中で愚痴を言った。
だらしなく道重に頬を撫でてもらっている小川の鼻の下は延びっぱなしで、その鼻の穴に
新垣がふざけて指を入れようとしている。
高橋は本気で心配している自分を哀れんだ。
「さーゆーみん♪」
「・・・・はい♪」
50回達成。
- 549 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時04分59秒
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- 550 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時13分09秒
- 「いらっしゃいませ」
無愛想に接客をする店員が、カゴ一杯にパンやらお握りやらを積んでレジへやって来た
紺野を、訝しげな表情で見つめていた。しかし紺野は特に気に留める様子も無く、おば
さん臭いがま口を手に、会計を待っている。
「・・・2300円です」
がま口を開けて見てみるが、なんと中には2134円しか入って無かった。紺野はそれを確認
すると渋々とあんパンと鱈子握りを取り出して、店員に返した。
「コレいいです」
店員はそう言う紺野を一瞥すると、無愛想に頷くだけだった。
(何この店員・・・)
さすがの紺野も店員の態度に少々怒りを憶えたが、いきなり他人に鉄拳をかますわけにも行かないので我慢した。
「ありがとうございました・・・」
- 551 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時16分17秒
コンビニを後にした紺野は、すぐに家へ帰る気がしなかったので、そのまま夜道をふらふ
らと散歩する事にした。普通ならこの年頃の少女が無防備に夜道を出歩くのは危険なのだ
ろうが、幸いにもここら辺は特に事件が起こることは皆無に近く、不良と呼ばれている厄
介な者共も、暗くなれば大人しく家に帰ってしまうと言うなんとも不思議で平和過ぎる町
なのだ。しかし、結局は空手をマスターしている紺野に絡んで来るような者は哀れとしか
言いようが無いが。
星一つ無い空にぽつんと浮かぶさえ渡った白月が、すでに陽が落ちて肌寒さを漂わせ始め
た町を静に照らしている。大きく膨れたビニール袋を片手に、月の光に照らされた自分の
影をぼんやりと見つめながら、何処か懐かしみのある民家通りをぽつぽつと歩いて行く。
朝になれば電柱の下のゴミ置き場の前に、早々と世間話に花を咲かせるおばさん達がいて、
昼になれば同じ所に黒猫が寝息を立てている。夜になると誰一人この道を通らなかったが、
紺野は不思議と怖いとは思わなくて、どちらかと言うとこの場所は夜の方が合っていると
思っていた。
- 552 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時21分21秒
- 秋に相応しい乾いた風が紺野の前髪を揺らし、同時にビニール袋のかさついた音も聞こえて
来た。紺野は先程買った、バニラヨーグルトを思い出しふいにお腹を鳴らしてしまう。
ここから自宅まで18分だったが、我慢出来ないようで、ふと、帰路の途中にある“キリ
ン公園”にでも行ってみようかと思った。気づまりな家より、紺野にとって一番落ち着
くあの場所が良いのだ。
民家通りの途中の角っこに位置する、昼間でも誰も遊んでいない寂れた公園は、キリン
の形に作られた滑り台が特徴的でみんなからは“キリン公園”と呼ばれていて、本当の
名前は誰も知らない。その滑り台は肝心の滑る部分が錆びていたり、少々鉄板が歪んで
いる為、滑れないのだ。
ちょっと前に小川達と一緒にここで人生を語った事を今でも鮮
明に覚えていた。あの時、小川は一人で“かぼちゃの煮付け”について熱く語りみんな
を呆れさせていた事を思いだし少し口元が緩みそうになった。ただ、呆れていたのは高
橋と亀井だけで、新垣と田中はすでに寝息を立てていて、真面目に聞いていたのは紺野
だけだったのだ。食べる事は人一倍好きだが、特にかぼちゃが好物と言う分けでは無か
った。
- 553 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時24分36秒
- ただ、顔が赤くなるまで必死に熱弁する小川の横顔を見ているのが好きだったんだ。と、
紺野は脳にある記憶を一つ一つ丁寧に引き出して、懐かしそうに目を細めた。自分をまる
で追って来ているような月は、無表情に紺野の顔を照らし出す。
座ると機械的な音を響かせるブランコに視線を持って行くと、何故か椅子の部分が取り外
されていて座れない状態だった。
(いつの間に?)
そう疑問に思ったが、大分古かったのを思うと仕方ないかったのかも知
れない。ブランコを諦めメッキの剥げたベンチに腰掛けた。
さっそく袋からお待ちかねのバニラヨーグルトを取り出すと、プラスチックのスプーンで
その真っ白なヨーグルトをすくった。口に広がる甘いミルクの味と仄かに香るバニラが見
事にマッチしていて、紺野は先刻感じていた孤独感は何処かへ吹っ飛んだ気がした。
すべて完食し終えると、ベンチの隣に置いてあるゴミ箱へ、それらを投げ入れた。
公園の真ん中にそびえ立つ大時計の針は、もう8時10分を指していた。
しかし、紺野は対して気にする事は無く、すぐに時計から視線を外してしまう。
- 554 名前:気が付けば隣に××がいる 投稿日:2003年06月27日(金)14時25分46秒
(どうせ帰ったって勉強の話しかしないんだ。私の親は)
そう心の中でぼやきながら、軽く溜息をつくと視線を上げた。
公園の入り口付近に立つ、時折点滅する街灯にぼんやりと照らされる寂しそうな砂場が見
える。
(そういえばまこっちゃん。道重さんと図書室いたなぁ)
ゆっくりと瞼を閉じて、今日の昼の出来事を振り返る。
実は紺野はまだ道重の存在を正確に捉えていない。相変わらず紺野の視界に入らないのだ。
ただ、図書室で小川の隣に座る彼女を少しだけ見たのを憶えている。
はっきり見た分けでは無いが、整った顔立ちをしていた。そんな彼女に少なからず嫉妬心
を憶えている。
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