慟哭・・・そして(娘。バージョン)

1 名前:和尚 投稿日:2002年12月08日(日)01時57分25秒
空板で書いてる和尚と言います。
この話はセガ・サターンであったゲームです。
それを娘。メンバーでやってみたくレス立てました。
要するにパクリです(笑)
カップリングはいちごま、いしよしです。
2 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月08日(日)02時24分19秒
キーンコーン♪カーンコーン♪キーンーコーン♪カーン♪

学校の下校を知らせるチャイム。
三学期に入り、自由登校となっていた三年の市井紗耶香はジャージ姿で学校の門を出た。
手には弓が入った袋、肩には弓道の一式が入っているバックを下げていた。
既に紗耶香は弓道で大学の推薦をとっており、受験も何もない紗耶香は学校にある弓道場で弓を引いていたのだ。
(そうだ、バス乗る前に薬局寄ってかなきゃ・・・)
紗耶香は少し歩いて薬局でシップと包帯等を買った。
そして再び、学校の前にあるバス停でバスを待った。
紗耶香の家は今では珍しく、山を越えた所に住んでいた。
夜になると寒さも厳しくなり、身体を擦り始めた。
紗耶香はバックを降ろして中から運動部で良くある学校のロゴが入った上着を着た。
3 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月08日(日)02時33分44秒
「市井先輩?」
ふと、自分の名を呼ばれたので振り返ってみる。
「後藤じゃん!久しぶりだな!!」
「弓引きに学校に来たんですか?」
「うん、一日一回引かないと調子狂うんだ。今日はスグ帰るハズだったんだけど、
後輩に指導していたら遅くなっちゃったよ」
「そうだったんですか」
「後藤は何でこんな時間に?」
「卒業式で校歌斉唱を後藤がピアノを伴奏する事になって、練習してたら遅くなったんです」
「へー後藤がかぁ・・・後藤はピアノ上手かったよな」
紗耶香は笑いながら後藤を見た。
そんな後藤は顔が少し赤くなっている。
「先輩・・・覚えててくれたんですか?」
「当たり前だろ。幼馴染なんだし」
4 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月08日(日)16時47分36秒
期待なり
5 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月08日(日)22時50分17秒
人物紹介

市井紗耶香−高校三年生。家は真希の隣。成績優秀(礼法は赤点)運動も得意。弓道部所属、全国大会三連覇の経歴を持つ。

後藤真希−高校一年生。家は大病院の一人娘。紗耶香と同じで成績優秀で運動も得意。幼い時からピアノを習っていた。

いわゆる2人は幼馴染だった。
幼いときはよく遊んだりしていたが、紗耶香が中学入学時に弓道部に入部、部活が忙しく真希と遊ぶ回数も減ってしまった。
真希も中学に入学して紗耶香と同じ弓道部に入部。だか、父に無理矢理退部させられてしまった。
その後、父には高校はレベルが高い学校へ行く様にと言われていたが、紗耶香と同じ学校に行きたかったので、
紗耶香を追って同じ高校へ入学。
しかし、入学した時は紗耶香は校内で有名になっており、真希には遠い存在となっていた。
だけど、入学式の時、真希を迎えてくれた紗耶香の笑顔は真希の心に何時までも残っていた。
そう、真希は紗耶香が好きだった。
これは絶対に知られていけない真希だけの秘密・・・
6 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月08日(日)23時57分10秒
(嬉しい・・・)
紗耶香の何気ない言葉が真希には心地良く感じてしまう。
やはり紗耶香がすきなんだなぁと思ってしまう真希だった。
「今から帰るんだろ?一緒に帰ろうよ」
「ハイ」
ブッブー♪
ブロロロー・・・
低いクラクションと共にバスが来た。
いつもはもう少し人が多いはずなのだが、時間が遅い為か、学校前からバスを乗る生徒は紗耶香と真希しかいなかった。
「よいしょっと・・・」
弓を持ってドアを通る紗耶香。
運転手は少し嫌な顔したが、紗耶香は平然な顔して入った。
後から真希が続いて乗った。
紗耶香は真希を手招きして呼び寄せ、2人掛けの窓際に真希を座らせた。
ありがとうございます・・・の意味を込めてお辞儀する真希。
続いて紗耶香もバックを床に置いて隣に座った。
7 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月09日(月)00時11分23秒
ブロロロー・・・
バスが動き出した。
バスの中は一番前に太った男の人、そして紗耶香と真希しか乗ってなかった。
(人、少なすぎ・・・)
紗耶香は思いながら真希を見た。
真希はボンヤリと前の座席を一点に見ていた。
「後藤、何ボンヤリしてんの?」
「すみません、先輩」
「『先輩』・・・・か」
「どうしたんですか?」
「イヤ、小さい頃は『いちーちゃん』って呼んでたのに、何で『先輩』って呼んでるのかなーって思ってさ」
「えっ!?だって先輩は先輩だし・・・」
「後藤からは『いちーちゃん』って呼んで欲しいよ」
紗耶香は真希の頭を撫でながら笑って言った。
真希の顔は真っ赤になってしまい、紗耶香に見つからない様に慌てて下を向いた。
8 名前:和尚 投稿日:2002年12月09日(月)00時15分37秒
名無し読者様
期待・・ありがとうございます。
頑張って更新しますので、のんびりと待っていて下さい。

メンバーでも出ない人がいますのでご了承のほどを・・・
今更言うなって!?
9 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月09日(月)15時51分58秒
このゲーム好きでした。
期待してます。
10 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月09日(月)16時58分47秒
元ネタのゲームは知らないけれど、
いちごま大好き人間なのでとても楽しみにしています。

頑張って下さい。
11 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)18時03分24秒
このゲーム好きなんで期待してます。
12 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月11日(水)19時54分21秒
ガタン
ギギーーー
バスが止まり、珍しく乗客が入って来た。
「終点まで・・・」
「・・・円」
運転手の声が聞こえた。
しかし、運転手の声が聞こえないのか乗客はもう一度聞いた。
「おいくらですか?」
「270円」
運転手の無機質な声が聞こえた。
「すみません、お札しかないのでこれで・・・」
「脇に札入れる所あるから、そこに入れて」
乗客は運転手に言われ札を入れた。
チャリン♪
乗客はおつりの小銭を取って中に入って来た。
紗耶香は誰だろうと思い、乗客を見た。
「中澤先生?」
紗耶香の声が聞こえなかったのか、中澤は俯いたまま1番後の座席の窓際に座った。
13 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月11日(水)20時02分38秒
人物紹介

中澤裕子−紗耶香と真希が通う高校の科学教師。教え方が上手く、生徒の信頼は高い。
14 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月11日(水)20時13分01秒
「ったく遅いな・・・ねーちゃん、早く金を払ってや」
文句言いながら痩せてる男が続いて中に入って来た。
「・・・・?」
紗耶香は顔を曇らせた。何故ならその男は中澤の隣に座ったからであった。
「知り合いかな?知りないじゃなかったらワザワザ隣に座らないし・・・・」
「先輩・・・先輩?」
紗耶香がブツブツ言ってたのが聞こえたのか、真希は紗耶香を呼んだ。
「ああ・・・ゴメン」
「どうしたんですか?」
「イヤ、さっき中澤先生がバスに入って来たんだけど、男の人と一緒に座っていたから可笑しいなと思って」
「中澤先生だって女性ですよ。男の人と一緒に座ることもありますよ。彼氏じゃないんですか?」
「うーん・・・」
「変な先輩」
15 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月11日(水)20時28分21秒
ガタン
信号待ちでバスが止まった。信号脇の掲示板に行方不明になっている女子高生の事が貼ってあった。
高橋愛−高校一年生、一週間前から行方不明・・・となっていた。
張り紙には行方不明当時の写真と容姿が細かく書いてあった。
「あの女の子、まだ見つかってないのか・・・」
「?」
「んー、あそこに貼ってある女の子の事。まだ見つかってないみたい」
真希は指している方向を見て、張り紙の内容を読んだ。
「ホントですね」
「もう1人行方不明になっている人がいたよな?確か郵便局の人が行方不明だったような・・・
後藤気をつけろよ」
「先輩こそ」
「市井は大丈夫。鍛え抜かれたこの腕で相手をぶっ飛ばすから」
紗耶香はおどけて真希に言った。
真希は笑いながら紗耶香を見ていた。
16 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月11日(水)20時53分19秒
キキッーーー!
前から騒音を撒き散らした車がバスに向かって走って来た。
運転手はやってくる車を避けようと慌ててハンドルを切った。
ガシャーン!!
しかし、切った方向と車が同じ方向だった為、バスと車は衝突してしまった。
「キャー!」
「後藤!!」
ぶつかった衝撃で身体が前に動いてしまった紗耶香と真希。
紗耶香は真希を自分の方へ抱き寄せ衝突から身を守った。
ドタン!!
床に叩きつけられた紗耶香は泣いている真希を見上げていた。
「いちーちゃんシッカリして!いちーちゃん!!」
(何だよ後藤・・・ちゃんと言えるじゃん)
紗耶香は真希の声を聞きながら、意識が無くなっていくのを感じていた。
17 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月11日(水)21時12分38秒
9>名無し読者様
好きでしたか・・・和尚も好きでした。
友達に無理矢理やらせ、友達もハマらせたゲームです。
期待に答えられるよう頑張ります。

10>名無し読者様。
いちごま好きですか。和尚も好きです。
市井さんのライヴ行ってから拍車が掛かってしまいまして(笑)
予定としてはスリルとサスペンスをお届けしたいなと思ってます。

11>名無しさん様。
ゲームお好きでしたか!このゲーム好きな人がたくさんいて嬉しいです。
期待ですか・・・頑張りますので宜しくお願いします。
更新はユックリですが・・・(苦笑)
18 名前:和尚 投稿日:2002年12月11日(水)21時13分39秒
自分の名前入れ忘れた・・・
19 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月11日(水)22時07分52秒
いっちごま♪いっちごま♪
20 名前:マーチ。 投稿日:2002年12月11日(水)22時49分49秒
プロローグ、とても惹きこまれました。
ゲームは全然知らないので、この先の展開が楽しみです。
がんばってください。
21 名前:プロローグ 投稿日:2002年12月14日(土)23時14分47秒
紗耶香は身体がふわふわ浮んでいる感覚を感じた。
「あんたらは?」
「えっ、あの・・・」
【誰かの声がきこえる。誰だろう?】
「ちょっと用があって、終点のバスに乗って帰ろうと思ってたのに・・・困ってたんだ」
紗耶香は誰だろうと思い、目を開けようとするが身体が重く、目が開けられない。
「そこに家があるな。誰かが住んでるなら少し休ませてもらうよう頼んでみよか?」
「それが全然ダメ。あたし達もそう思って呼び鈴押したんだけど、誰も出てこなかったんだ」
「もしかしたら廃屋かもしれへんな・・・ちょっと調べてみますわ」
「あの・・・私・・・」
不安そうに聞こえる女性の声。
誰の声か確める間もなく、紗耶香の意識は再び遠くなってしまった。
22 名前:悪夢 投稿日:2002年12月14日(土)23時32分55秒
「ああああぁっ!!!」
紗耶香の耳元で、辺りを切り裂く絶叫が響いた。
紗耶香の目の前で見知らぬ女の子がうめいている。
喉を搾り出す様な苦痛の叫びを上げている。
慌てて紗耶香は手を伸ばしたが届かない。
女の子は胸を押さえているだけだった。
「やめて、やめてよ・・・死んじゃうよぉ・・・」
紗耶香は声を掛けようとしたが、何故か口も身体も動かなかった。
「いやぁぁぁぁ!!!」
女の子は誰からから避ける様に身体を揺する。
涙を流すたびに、身体に赤い刻印が付き始めた。
【そこに誰かがいるの?女の子に何してんだ!!】
女の子は泣き続けている。
紗耶香は目の前にいる女の子を何とかしてあげたいと思っているのだが、何をしたら良いのか判らなかった。
【あたしはどうしたらいいんだ!このまま何も出来ないの?このまま・・・何も・・・何も・・・】
23 名前:和尚 投稿日:2002年12月14日(土)23時51分02秒
19>名無し読者様。
はい、いちごまです(笑)
複雑な話になりそうですが(パクりなのに)
いちごまは必ずお届けいたします。

20>マーチ。様。
コッソリと更新していたのですが見つかっちゃいました(笑)
いらっしゃいませ!
空板の方も同様、花板でも更新を頑張ります!
24 名前:始まり 投稿日:2002年12月17日(火)23時29分07秒
「あああああ!!」
自分の叫び声で目を覚ました紗耶香。
蛍光灯の眩しい明かりが目に入って来た。
見慣れない天井、そして泣き叫ぶ少女の姿はなかった。
辺りは怖い位に静まり返っていた。
自分の身体が石の様に重く、息苦しく感じた。
あの少女の叫びが今でも頭に残っているような気がした。
手の下にはゴワゴワしたシーツの感触。
泣き叫ぶ少女の夢を見たからか、紗耶香の背中とシーツの間は汗でじっとりと濡れていた。
紗耶香は起き上がると額の上から何かが落ちた。
額には冷たく濡れた感触があり、紗耶香は手で拭いた。
額から落ちた物を見ると白いハンカチだった。
紗耶香はそのハンカチを手に取った。
(これは誰のだろう?それにここは何処だ?何故あたしはこんなトコで寝ているんだろう?)
紗耶香はグラ付く頭で思い返す。
25 名前:始まり 投稿日:2002年12月17日(火)23時44分48秒
(あたしはさっきまでバスに乗っていたはず・・・確か車が飛び出してきたから、運転手がハンドルを切って・・・
でも車もバスと同じ方向にハンドルを切ったから結局ぶつかったんだっけ・・・
みんなはどうしたんだろう?・・・後藤は!?)
紗耶香はベットから降りて深呼吸をした。
埃っぽい臭いがした。長い間使われていなかった部屋なのが伺えた。
紗耶香はドアに手を掛けた。
ガチャガチャガチャ!
「鍵が掛かってる?何で?後藤はどうしたんだ!中澤先生は!?バス事故からいったいどうしたんだ!!」
ドンドンドン!!
ドアを叩いても何の返事も返ってこない。
ドコン!!
ドアを蹴っても音が大きく響いただけで辺りは静まり返っている。
「ココから出なきゃどういう事になってるか全くわからないし、部屋の中を調べてみるか・・・
手がかりがあるかもしれないし、生きてる内に頭を使えって昔の人が言ってたし・・・」
紗耶香は部屋を見渡した。
26 名前:始まり 投稿日:2002年12月18日(水)00時07分31秒
部屋の中は紗耶香が寝ていたベット、長いテーブル、洋服タンスに引き出しが三つある小さい机と簡易な洗面台。
イスは倒れていた。
ベットの上に紗耶香が着ていた上着が置いてあった。
ベットに寝かされる時に誰かが脱がしたのだろうか?紗耶香は上着を着た。
まず紗耶香が目に付いたのはタンス。タンスの前に行き、おもむろにタンスを開けた。
タンスの中は長い間放置された服が入っていた。
「この中に使える物はないかな・・・」
紗耶香は服を一つ一つ調べてみる。
白いブラウス、エプロン、奥にはスカートが入っていた。
スカートにポケットがあったのでポケットに手を入れてみる。
ポケットの中はブローチ、リボン、髪飾りぐらいしか入ってなかった。
「これって映画とか出てくるメイドさんが身に着けるヤツ?
つー事は、ココはメイド部屋?・・・もし、メイドを雇ってたら、この建物は結構大きいのかもしれない」
紗耶香はふと、服の下にポツンと置いてある懐中電灯に目が入った。
「これから必要になるかもしれないし、取っていくか」
懐中電灯を手に取ると以外に軽い事に気が付いた。
27 名前:始まり 投稿日:2002年12月18日(水)00時25分01秒
「電池が入っていないのか?」
紗耶香はフタを開けてみる。
「やっぱり入っていない・・・このままだと使えない・・何とかしないと」
紗耶香はタンスから離れて机に向かった。
引き出しを右から順に開けた。
ガラッ!
引き出しの中は白い小さい虫が這いずり回っていた。
「何かヤダなぁー」
紗耶香は気を取り直し、最後に左の引き出しを開けた・・・古い乾電池が入っていた。
「懐中電灯に入れる電池の大きさと同じみたいだし、これに電池入れたら電気が点くかも」
紗耶香は懐中電灯に電池を入れて電気が点くかどうか試してみた。
カッ!
「おっ使えるじゃん♪」
紗耶香は懐中電灯を手に取った。
28 名前:始まり 投稿日:2002年12月18日(水)00時37分09秒
「後、残っているトコと言えば・・・」
紗耶香は自分の寝ていたベットのシーツを捲ってみる。
何も怪しい所はなかった。それもそのはず、さっきまで自分が寝ていたのだから。
念の為に紗耶香はベットの下も覗いてみる。
ベットの下は暗く、中の様子は見えなかった。
「ココで懐中電灯の出番ってワケだ」
紗耶香はベットの暗がりを照らし、中を覗いた。
ベットの下には鍵が落ちてあった。
三つ葉の形をしたどこにでもありそうな鍵だった。鍵には01と刻んであった。
「ドコの鍵だか判らないけど取っておこう。もしかしたらこの部屋のドアに使えたりして・・・」
紗耶香は鍵を手に取るとドアに向かって歩き出した。
29 名前:始まり 投稿日:2002年12月18日(水)00時53分50秒
ドアの前に行き、もう一度ドアを開けてみた。
ガチャガチャガチャ・・・
ドアはやはり開かなかった。
「内側から開かないなんて、ヘンなドア・・・ダメもとでコレを・・・」
紗耶香はベットで見つけた01と刻まれている鍵を差し込んだ。
鍵がピッタリと合い、紗耶香は鍵を回し始めた。
錆が削る感覚がして鍵が重々しく回る。
ガチャッン!
「やった開いた!これで出られる!!」
紗耶香は笑顔になった。
30 名前:始まり 投稿日:2002年12月18日(水)01時21分13秒
ドアに手を掛けた時、洗面台の脇にあるタオルを見つけ、紗耶香はタオルを手にする。
「このタオル、ずっと干しっぱなしだったからガチガチだ。
何かあるかもしれないし、これも取っておくか・・・」
そして紗耶香は洗面台にある蛇口を捻ってみる。
ジャーーーーー
赤錆がこびりついた蛇口を捻ると濁った水が拭き出した。
同時に洗面台から、一匹のチョウが逃げるように舞い上がった季節外れのモンシロチョウ。
「危なかった。もう少しでチョウに水が直撃するトコだった」
こんな些細な事でもチョウにとっては生死に関わる事態になるはずだ。
紗耶香は蛇口を閉めた。
そして紗耶香はもう一度ドアに手を掛け、ひと呼吸をして重々しいドアを開けた。
31 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)05時07分37秒
今日帰ってきたら更新されてるといいな
32 名前:始まり 投稿日:2002年12月21日(土)21時14分24秒
バタン
ドアを開けると静まり返った廊下が紗耶香を出迎えた。
崩れかけた壁やコンクリートの床は凍えそうなほど冷たい空気にさらされていた。
そして辺りには誰もいなかった。
紗耶香は廊下を見渡した。血のようなシミが足元の床にこびり付いているのがわかった。
(これは血!?・・・・後藤や先生はどうしたんた!!わからない事だらけどとにかく調べてみないと)
物陰に誰かが隠れているような怪しい雰囲気を感じながら、紗耶香は廊下に足を踏み出した。
広い廊下に出た紗耶香は、左に見える大階段に向かって歩き始めた。
コツン・・・コツン・・・
辺りが静まり返っている所為か、歩くたびに足音が響く。
ふと紗耶香は右側の部屋から人の気配を感じて注意深くドアを開けた。
(いなければそれで良いけど、念の為・・・)
33 名前:始まり 投稿日:2002年12月21日(土)21時29分58秒
ガチャ・・・
ドアを開けると、コンクリートの壁やシャッター、水道、ホース等が目に入ってきた。
床の一部は広範囲にくぼんでおり、そこには排水溝がついている。
(洗車場・・・かな?)
よく見ると右側の方に、隣の部屋へ続くと思われる細い道路があった。
(あっちも見てみっか・・・)
そう思った時、道路の方から誰かの足音が聞こえてきた。
現れたのは目の細い、痩せている男性だった。
「起きたんか?」
(確かバスに乗っていたよな・・・先生の事をチラチラ見ていて不審な態度を取ってた。
何で先生はこんな人と一緒にいたんだ?
それにバスに乗ってた他の人々はどうしたんだろう?
あたしがいた部屋に鍵が掛かってたのはこの人の仕業?
・・・考えていてもしょうがないので聞いてみよう)
「あなたは誰?」
34 名前:始まり 投稿日:2002年12月21日(土)21時36分45秒
紗耶香は尋ねると、男性は紗耶香の事を値踏みするかのような視線を投げかけてきた。
「随分失礼な言い方やな。人の事を尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀というモンやないのか?」
「すみませんでした。市井紗耶香といいます」
「オレはたいせーというモンや。暫く大人しくしとったほうがええで」
35 名前:始まり 投稿日:2002年12月21日(土)21時40分25秒
人物紹介

たいせー−年齢20代後半〜30代前半。外見はヤクザみたいな格好をしているが、父は市長、母が会社経営の一人息子。
     そのせいか裏の情報には詳しい。中澤裕子と知り合いらしいが・・・
36 名前:始まり 投稿日:2002年12月21日(土)21時53分35秒
「大人しくって・・・どういうことですか?」
「今はここから動けないしな。詳しくは裕子センセに聞くんやな」
(先生がここにいる?)
良かったという気分がわくのと同時に紗耶香は見知らぬ男性に裕子の名を口にした事を違和感を覚えた。
「あのー、先生のお知り合いですか?」
「さーなー。フッフフフ・・・」
(何なんだこの人は?)
紗耶香は気になったが、今は裕子を探す事のほうが大事に思え、奇妙な男性の笑い声を聞きながら早足で廊下へと戻った。
キィィィーーーバタン
紗耶香は目の前の大階段を昇り始めた。
37 名前:和尚 投稿日:2002年12月21日(土)21時56分58秒
レスです

名無し読者様。
短いですかこれで許してください(涙)
年末で休みに入ったらドカーンと更新をしますので・・・
38 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)05時24分22秒
ドカーンに期待してます。
39 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)21時48分38秒
紗耶香は目の前の大きい階段を昇り始めた。
カツン、カツン・・・
階段をのぼっていると、上の方から足音が聞こえてきた。
紗耶香は立ち止まって身構えたところ、階段を下りてきた中澤と目があった。
「大丈夫か?」
中澤は紗耶香を見るとスグに声をかけてきた。
「先生・・・よかった、状況がわからなくて混乱していたんですよ。
とりあえず下で何を考えているのかわからない男の人と会ったんですが・・・」
「たいせーさんやな」
中澤はさらりとその男性の名前を口にした。
40 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)21時56分41秒
「あの人、先生のお知り合いですか?」
「そんなことない。ちょっと話しただけや」
「そうですか・・後、いろいろ聞きたい事があったんです。
市井はどうしてこんなトコに来ているんですか?」
「バスが事故にあったやろ?」
「はい」
「その後皆で紗耶香を運んだんよ。やめようっていう人もいたんやけど」
「市井を運ぶ事を?」
「まさか。人の家へ勝手に入るのはよくないって」
「家の人はいなかったんですか?」
「そうやな。多分空き家やと思う」
(空き家という事は・・・鍵を掛けたのは家の人じゃない!?)
41 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)22時16分48秒
「あの・・・市井がいた部屋に何故か鍵がかかっていたんですが・・・」
「えっ、そんなことしてないよ」
「でも、本当にかかっていたんです。誰がやったんでしょうか?」
「変やな・・・」
「部屋の中で鍵を見つけてどうにか出てきたんですけど」
「古そうな家やから鍵が壊れてたんとちゃう?」
「どーゆーことですか?」
「ドアを閉めた勢いで内部の鍵がおりてしまったとか」
「だったらいいんですけど」
紗耶香は何となくしっくりこない。
さっきまで気を失っていたからか、ここにいることに妙な違和感を覚えてしまっている。
「ここはどの辺ですか?」
「山の中や。事故があった場所から、少し降りたところや」
「事故・・・それであの、後藤は大丈夫でしょうか?」
「無事や。他の乗客もや」
「よかった・・・」
「フフフ、仲がええよな」
「な、何言ってんですか!?」
中澤に突然言われて慌ててしまう紗耶香。
42 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)22時29分38秒
(そりゃ、家は隣同士だったし小学校の頃はよく遊んださ。
中学に入ったら弓道で忙しくなっちゃってたまにしか会えなくなっちゃったけど・・・
後藤が中学に入学してきた時ビックリしたっけ。凄く綺麗になってたから・・・
後藤の家はオヤジさんが教育に関して厳しくて、
高校はレベルの高いトコに行けって言われていたってウチの母さんが言ってたから、
高校は違うトコに行くんだろうと思ってた。
でも、後藤がウチの高校に来た時はビックリした以上に嬉しかった。
朝練とかない時は一緒に学校行ってたし、校内で会った時は挨拶する程度・・・
後藤と一緒に行ってたトコを先生には見られていたけど、幼馴染とはいえ、遠いモンなんだよな・・・・)
「どうしたんや?」
「あ・・・」
中澤に声を掛けられ紗耶香は我に返った。
43 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)22時59分39秒
「疲れてるんやな。もう少し休むとええわ」
「大丈夫ですよ。早く帰りましょうよ」
「それが・・・まだダメなんや」
「もしかして、バスが動かなくなったとか」
紗耶香の問い掛けに中澤は頷いた。
事故にあったのは山道だし、街まではバスでもかなりの時間がかかる。
これでは確かに車がないと帰れないと紗耶香は思った。
「バスも車も動かないんよ」
「車?」
「そうや。バスが事故を起こしたのは、カーブで反対から来た車を避けたからなんや」
「そうだったんですか。突然の事でわかんなかった」
44 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)23時10分19秒
「それで車も故障してしまったんや」
「乗っていた人は・・・」
「幸い無事や。男の人と女の子が2人。みんなここに来ているよ」
「これからどうするんです?ここで夜明かしするしかないんですか」
「運転手が助けを呼びに行ってる」
「助けを?どうやって?」
「山に設置してある非常用通信ケーブルを使うそうや」
「通信ケーブル・・・」
「一時間くらいで戻ってこられるそうや」
「先生、運転手がそこに行ってから、どれくらい経ちました?」
「そろそろ一時間か」
「なら、もうスグですね」
「紗耶香、後藤に一声かけてあげてや、あんたを心配していたから」
「後藤を市井を・・・後藤はドコですか?」
「上にいるよ」
「わかりました。行ってきます」
「ほな、また後で」
紗耶香は中澤と別れ階段を昇った。
45 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)23時28分28秒
一階は明かりが廊下全体に照らされているせいか明るかった。
(電気が点いてる事は電気が生きている証拠。先生は空き家って言ってたけど、
やっぱり誰か住んでるんじゃ・・・)
紗耶香はそう思いながら歩き始めた。
左側に人が立っているのを発見した。
その人は紗耶香と目があうと話しかけて来た。
「大丈夫か?」
「あ、はい。あなたは・・・バスに乗っていた方じゃありませんよね」
「そうや。車に乗っていたんや」
「じゃあ、あなたが」
「なんや?」
「いえ、バスと車の事故について聞いていましたので・・・車に乗っていたのは、後2人でしたっけ?」
「そうや」
「一緒にいたのは女の子ですよね。・・・兄妹ですか?片方が彼女とか・・・」
「違う」
男はニコリともしなかった。むしろ迷惑そうな表情を浮かべていた。
46 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)23時33分10秒
紗耶香は自己紹介もせずにあれこれ質問した事が気に触ったのかと思った。
「挨拶もそこそこで失礼しました。私は市井紗耶香といいます」
「名前は聞いている。後藤さんの幼馴染だそうだな」
男の口調は少し柔らかくなった。
「オレは寺田だ・・・まわりから『つんく』と呼ばれている。『つんく』と呼んでくれ」
47 名前:始まり 投稿日:2002年12月31日(火)23時37分15秒
人物紹介

寺田−年齢は30代前半。無関心な所もありその所為で人と話すのが苦手。
   特に一方的にあれこれ話されると不機嫌な顔になる。
   頼まれ事はやってくれる良い面もあり。
   身なりがキチンとしているので雰囲気は医者か大学教授に見えるが・・・
48 名前:和尚 投稿日:2002年12月31日(火)23時43分04秒
一時中断。そろそろ年明けるので、回線が繋がらなくなりそうなので(予想)

レスです。
名無し読者様。
ドカーンと更新しています。
ドカーンと更新してもキリが良いトコないんですよ。
まだまだ序盤といったトコです。
それでも暖かく見守って下さい(泣)
49 名前:始まり 投稿日:2003年01月01日(水)02時48分44秒
「具合はもうええんか?」
「なんとか大丈夫です。少し頭がぐらぐらしますけど」
「今日は災難やったな。あんな事故が起こって」
つんくは話をするのがあまり好きでないように見受けられた。
紗耶香とそこそこ言葉を交わすとつんくは直ぐに立ち去ってしまった。
紗耶香は奥の部屋から順番に部屋を調べていった。
その部屋には『洗面所』のプレートが掛けてあった。
「ここは・・・洗面所か」
紗耶香は洗面所のドアを開けた。
50 名前:始まり 投稿日:2003年01月01日(水)02時55分23秒
ドアを開けると2人の女の子が紗耶香を見た。
「市井さん大丈夫ですか?」
「やっと目が覚めたんですか〜」
「石川と吉澤!?何でお前らがここにいるんだよ!都内の高校にいるお前らが!!」
紗耶香は驚いてしまった。ここにいるはずのない2人が目の前にいるのだから。
51 名前:始まり 投稿日:2003年01月01日(水)03時11分18秒
人物紹介

石川梨華−都内の高校に通う二年生。紗耶香と同じ弓道部所属。紗耶香とは全国大会で知り合う。紗耶香と同じ実力を持ち、前大会では二位。
     家が弓道場を開いており、幼い頃から弓道をしている。その所為か落ち着いた性格で、男子生徒から人気ある。

吉澤ひとみ−梨華と同じ高校に通う一年生。弓道は高校入学してから始めたので初心者。梨華とは先輩後輩の関係。
      サバサバした性格で女子には絶大の人気。

男子生徒から人気のある梨華は、その反対に女子生徒から嫌われていた。友達もなく一人ぼっちだった梨華・・・
ひとみはそんな梨華の境遇に関係なく先輩である梨華に接していた。ひとみのおかげで友人が出来、性格も明るくなっていった。
そして、梨華にとってひとみはもっとも側にいてほしい人となっていったのであった。
梨華はひとみが好きだと気付いたのはその時だった。
勿論、恋愛感情で・・・
52 名前:始まり 投稿日:2003年01月01日(水)03時27分00秒
「学校が創立記念日だったので、それを利用して温泉旅行に来たんす。
遅くまで遊んでいたら最終バス逃しちゃって困っていたところに、つんくさんが声かけてくれたんですよ」
「それで駅まで送ってもらうハズだったんです」
「なるほど・・・」
「それにしてもスゴイ事故でしたよね。気絶したの市井さんだけでしたよ」
「よっすぃー!」
梨華がひとみをたしなめた。
「ただ気絶したんわけじゃないのよ。真希さんかばって頭を打ったって聞いたわ」
「そうだったんだ」
「あれ?2人とも後藤のこと知ってるの?」
「今日が初対面ですけどさっきお話したんです」
「そうか・・・」
「市井さんに熱があるみたいだといって、ハンカチをしぼってました。具合はどうですか?」
「ん?大丈夫だよ。ありがとう」
「後藤さんて、市井さんと幼馴染なんですって?可愛いコですね」
ひとみがニヤニヤして紗耶香をからかった。
53 名前:始まり 投稿日:2003年01月01日(水)03時35分54秒
「バッ!・・・バカ言ってんじゃねぇ!!」
「よっすぃー!!」
梨華はひとみを怒鳴った。梨華に怒鳴られたひとみは犬みたいにシュンとなってしまった。
「すみません・・・」
ひとみの代わりに紗耶香に謝る梨華。そんな梨華に苦笑しながら言った。
「大丈夫だよ。ところでココに来て変わった事なかった?」
「へ!?」
「ウチラ以外に会わなかったか?」
「ここ、空き家じゃないんですか?」
「市井にもわからない。迎えが来るまでうろうろしない方がいいと思う」
「ふーん」
「とにかく気をつけろよ」
「はい、わかりました」
ひとみを連れ梨華はお辞儀して洗面所を出て行った。
54 名前:始まり 投稿日:2003年01月01日(水)03時47分20秒
「石川のヤツ、すごい度胸だな。片想いのヤツと旅行だなんて・・・」
紗耶香は呟いた。梨華がひとみを好きなのは紗耶香まで知っていた。
事実、何回もその事について梨華から相談を受けていたので、2人が旅行していたのに驚いたのだった。
2人が部屋を去ってから紗耶香は部屋の中を軽く見回した。目の前には割れた窓があった。
「奥は浴室かな?」
紗耶香はドアを開けた。
ギィィィィ・・・
ドアを開けると木でできた風呂やタイル張りの床が目に入ってきた。
中は誰もいなかった。
紗耶香は辺りを軽く見回し、隣の部屋に戻った。
「早く後藤を捜さないと・・・心配だ」
紗耶香は廊下へ出た。
55 名前:始まり 投稿日:2003年01月05日(日)18時56分39秒
洗面所の隣にあるトイレを覗き、人がいない事が判ると紗耶香は次の部屋に入った。
ギィィィィ・・・
紗耶香はドアをゆっくりと開けた。
「後藤!」
「先輩!」
部屋には真希が探し物をしていた。
「先輩、熱はどうですか?」
「あ、うん・・・大丈夫だと思うけど」
「でも、額が熱かったですよ。待って下さい、今体温計を・・・」
「ありがとう、気分はいいし、ホントに大丈夫だから」
「本当ですか?・・・先輩ゴメンなさい。事故の時庇ってくれて・・・」
「いや」
「ありがとうございました」
「後藤・・・『先輩』じゃなく『いちーちゃん』だろ?」
紗耶香は真希の目を見て言った。
紗耶香に見詰められているだけで、真希の胸は動悸が止まらない。
「え!?・・・でも・・・」
「市井が気を失う時、ちゃんと聞いたぞ。市井は後藤から『いちーちゃん』と呼んでほしいぞ」
「・・・・・」
「言ってくんないとこーだ」
56 名前:始まり 投稿日:2003年01月05日(日)19時17分19秒
グニィィィィ
紗耶香は真希の両方の頬を引っ張った。
「いひゃいれすひょお」
「なら『いちーちゃん』て言え!そんで敬語なし!!」
「ひゃかったひょお。ひちぃいひゃん」
「おし!」
紗耶香はニッコリ笑って真希の頬を離した。
「もう強引なんだから・・・」
真希は頬を押さえながら紗耶香に言った。
「だって、そうでもしないと後藤言ってくんないんだモノ」
「もう」
「ところで、市井のいた部屋に鍵掛けなかった?」
「まさか」
「そうだよなあ・・・誰がやったんだろ?」
「何があったの?」
「部屋に鍵が掛かってスグに出られなかったんだよ」
「そんなハズは・・・」
「この家にはどこから入ってきた?」
「地下のガレージだよ。シャッターが開いていたから・・・」
「ふーん、見てくるよ」
「後藤も行く」
「真希に案内され紗耶香は一緒にガレージに行った」
57 名前:始まり 投稿日:2003年01月05日(日)19時36分34秒
紗耶香と真希は洗車場のような場所へやって来た。左側にあるシャッターが半分ぐらい開いていた。
「ココから入って来たんだ?」
「うん。隣には壊れた車があって、またシャッターがあるの。そのシャッターの向こうが外だよ」
「ちょっと行って見ようよ」
「外、寒いよ。もう少ししたら運転手さんが来てくれると思うから・・・
熱があったんだから、中にいたほうがいいよ」
「ここって、どんなところ?」
「大きな古い屋敷。人が住んでいないように見えたよ。
いちーちゃん、聞いた事ない?
この山の中に夜な夜な人の叫びが響く廃屋があるって噂。・・・まさかここじゃないとは思うけど」
「そんな噂あったっけ?・・・ここだったら凄いよな。
ちょっと見てまわろうよ」
58 名前:始まり 投稿日:2003年01月05日(日)19時50分13秒
紗耶香はワクワクしながら真希に言った。
反対に真希は複雑な顔して紗耶香に言う。
「そういう話好きだと思った・・・」
「いや、好きとかじゃなくてさ・・・
市井がいた部屋に、現に鍵が掛けられていたわけだろ?
何かあるかもしれないじゃん。
先生は鍵が壊れていたんじゃないかって言ってたけど」
「いちーちゃん驚かさないでよぉ・・・でも、中を見てまわるのはいいよ」
「じゃあ、違う部屋から見てまわろう」
「うん」
紗耶香と真希は屋敷の中を歩く事にした。
59 名前:始まり 投稿日:2003年01月05日(日)20時08分25秒
階段の踊り場で中澤に会った。
「あ、先生」
「もう元気みたいやな」
「この建物の中を見てまわってるんです。先生知ってました?山の中の不気味な廃屋の噂・・・」
「修学旅行のたびにそんな話題が出るよなぁ。ホント、みんなそういう話が好きなんやから・・・」
好奇心旺盛なのはええけど、時と場合を考えてや。
あまりうろうろしないで、どこかの部屋で運転手を待とうや」
「はーい」
紗耶香は元気な返事をした。
「元気でええ。ホンマにもう大丈夫みたいやな。
さっきまで気絶していた人やと思えんわ。・・・よかったな後藤」
「えっ・・あの、その・・」
中澤に同意を求められた真希は口篭ってしまった。
「ふふふ、上に応接間があったやろ。ちょっと休もうか」
「応接間ってドコですか?」
「こっちの方や」
中澤に案内され紗耶香と真希は応接間に向かった。
60 名前:始まり 投稿日:2003年01月05日(日)20時32分19秒
階段を上がって左側にあるドアに案内された。
中澤がドアに手を掛けノブを回した時、ガチャガチャという音がした。
ドアに鍵が掛かっていたのだ。
「さっきは開いていたのに」
「そうなの?」
ドカン!!
「きゃ!?」
「コラ紗耶香!何でドアを蹴ってんじゃい!!」
「いや〜蹴っ飛ばしたら開くかなと思って」
笑いながら紗耶香は中澤に言った。
そんな紗耶香を中澤は頭を叩いた。
「弓道やってるくせに、何で礼法が赤点なんだ!」
「げっ!?科学教師が市井の礼法の成績知ってんの??」
「アホ!礼儀を重んじる弓道やってるアンタが礼法赤点なのは職員室でも有名やで!!」
「そうなんすか!?」
「礼法の先生が言っててなんでやろ?と思ったけど、紗耶香の行動で判ったわ!!」
中澤に言われ反論できない紗耶香。
61 名前:始まり 投稿日:2003年01月05日(日)20時48分44秒
「いちーちゃん・・・礼法赤点だったの?」
「そうだよ・・・悪いかよ?」
真希に言われた紗耶香は恥ずかしかったのであろうか顔を赤くして言った。
(いちーちゃん、ちゃっちゃい時からこーゆートコ変ってないなぁ)
真希は笑みを浮かべながら思った。
「んでさ後藤、ここが応接間?」
「ううん。応接間はドアの向こうの廊下を進んだところにあるの」
「どうして鍵がかかってるんやろ・・・」
「無降雨側から誰かが鍵を掛けたのかな?」
「よくわからんけど、ちょっと調べてみるわ。また後でな」
中澤は廊下を戻って行った。
「後藤、あそこの部屋から行ってみようよ」
紗耶香は真希がいた部屋を指差した。
「うん。行こう」
2人は部屋に向かって歩いて行った。
62 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月05日(日)22時36分21秒
やんちゃないちーちゃんとおとなしいごっちん。
いい感じですね、かなり好きです!
この先も予測不能でドキドキです。
63 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)21時39分49秒
部屋の中には梨華とひとみがいた。
部屋に入ってきた紗耶香をみたとたんひとみは開口一番に言った。
「つまんない〜」
「つまんないだけならいいけど・・・っん?」
紗耶香は奥のドアに違和感を覚え、奥のドアを見た。
ひとみが横にどいたので紗耶香は気になったドアに近づいた。
「これっすか?ウチが書いたんです」
そのドアにはひらがなで『あかずのま』と書いてあった。
「それっぽいでしょ♪」
「吉澤・・・お前ってヤツは何考えてんだ?」
「だって、退屈なんすもん」
ひとみが頬を膨らます。
「よっすぃー、そんな落書きをして・・・」
真希は圧倒されたように小さい声を上げた。
「どうかしたんですか?」
「いや、石川さコイツよく見張っててよ」
「なんでですか〜?」
「ガキか!お前は!!」
「大人ッス!」
「そういうのがガキなんだよ!」
「すみません、怒らないで下さい・・・」
紗耶香とひとみが言い合いを始めそうだったのを梨華は止めた。

64 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)21時49分22秒
「お風呂入りたい〜」
「もう、大人しくしろって」
「だってかなり経ちますよ。運転手が出かけてから」
「・・・・」
「お風呂見てこよっと」
「おい、吉澤!」
「私も失礼しますぅ」
ひとみと梨華は浴室に向かった。
「よっすぃーって元気だね」
「元気っていうか、なんというか・・・アイツは体育会系だから体力有り余ってんじゃないのか?」
「あははは」
「ところで後藤、市井この部屋調べたいんだけどいい?」
「うん。後藤も手伝うよ」
「サンキュ♪」
紗耶香と真希は部屋を調べ始めた。
部屋の中はロッキングチェアがあり、普通の部屋より広い感じがした。
65 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)21時57分47秒
ひとみが落書きしたドアを調べてみる。
「・・・これは?」
ドアノブにはたっぷりと接着剤が付着していた。
試しに動かしてみたが回る事はなかった。
「こんな事するなんて普通じゃないよな?」
「・・・・」
隣にいた真希は何て言ったらいいのかわからず無言のままだった。
(この接着剤を取り除けば『あかずのま』じゃなくなるのに・・・)
紗耶香は『あかずのま』のドアから離れた。
「この部屋には見るものないみたいだから出よう」
紗耶香は真希に声をかけこの部屋・・・広い部屋から出た。
66 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)22時07分27秒
洗面所に2人は入った。
ギィィィ・・・
ドアを開けると梨華とひとみが中に立っていた。ひとみは不満そうな顔をしていた。
「どした?」
「お湯が出ないんですよぉ」
「ボイラーが壊れているみたいなんです」
ひとみは風呂に入れなくて渋い顔をしていた。
真希はそんなひとみに話しかけた。
「よっすぃー、本当にお風呂入りたい?運転手さんがそろそろ来ると思うけど」
「でも、運転手おそいよぉ。ウチだってこんなに待ってるんだよ。
お風呂入ってる途中で来たら運転手も待っててもらわなきゃ」
「すっげーわがまま・・・」
ひとみの言葉に紗耶香は呟いた。
(しゃーねー、地下の部屋に調べた後にちょっとボイラーでも探してみるか)
「後藤、部屋出るよ」
紗耶香は後藤に声を掛けて廊下に出た。
67 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)22時20分56秒
歩きながら真希は聞いた。
「今度はどこの部屋?」
「うん。一階は全部・・・といっても行ける部屋は見たから今度は地下にある部屋を見よう」
「わかった」
2人は並んで地下に向かった。
大階段を下りてすぐ左にある部屋、洗車場に入った。
中は空気が冷たく、開いているシャッターから外の空気が流れていた。
「何を調べるの?」
紗耶香は三つある水道の上にある棚を調べ始めた。
棚の奥から、少量だが中身が入っているビンが出てきた。
貼ってあるラベルには有機系の溶剤を示す記述があった。
68 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)22時34分46秒
「溶剤って書いてあるよ。いちーちゃんプラモデル作っていた時に使っていたよね?」
「よく覚えてんな。市井がプラモデル作ってたのを・・・」
「そりゃ覚えてるよ。いちーちゃんの部屋の棚に飾ってあるの見たもの」
紗耶香は小学生からプラモデルを作るのが好きだった。今もたまに作っていたりしている。
「コレを使えばあの場所に行けるよな・・・持ってこ」
紗耶香は溶剤の入ったビンを上着のポケットに入れた。
洗車場では棚ぐらいしか調べる所がなかったのでスグに調べ終わった。
「部屋出よう」
2人は廊下に出た。
69 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)22時41分46秒
2人は紗耶香が寝ていた部屋の前にいた。
「市井、この部屋に寝ていたんだよね?」
「うん」
「グーグー寝てた?」
「そんな事ないよ!!・・・・苦しそうだった・・・」
真希の泣きそうな顔に紗耶香は思わず抱きしめた。
「ゴメンな後藤。もう言わないからそんな顔すんな」
「いちーちゃん・・・」
真希は紗耶香の突然の行動に驚きながらも安らぎを感じた。
70 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)22時57分05秒
2人は向かいの部屋に入った。
部屋の中には誰もいなく、大きな機械が不気味にたたずんでいた。
機械の後ろには鉄パイプがあり、何かのバルブがついていた。
そのパイプがついている側面の壁には、水のシミ後のようなものがあった。
「あのパイプは水道管か?水道管と点火スイッチがある事はこの機械はボイラーだな」
紗耶香は目の前にあるボイラーを見て抱いた思いを真希にぶつけた。
「後藤、あれ茶筒のお化けみたいに見えない?」
「えっ・・・どうしてそんなふうに見えるの?」
真希は笑いがかった声で答えた。
(あ、笑った。後藤の笑顔って可愛いんだよな)
紗耶香はそう思いながらボイラーの回りを調べ始めた。
左側の奥に老朽化した水道管が壊れていた。
71 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)23時16分52秒
「水道管にヒビ入ってる・・・何かで塞ぐことは出来ないかな?」
紗耶香は自分の持ち物を調べた。持ち物で水道管を直してみようと思ったのだ。
腰に挟んであったタオルを取り出し、ヒビ割れている水道管を縛ってみた。
ギュギュギュ・・・
「いちーちゃんコレで大丈夫?」
「まあ、とりあえずコレでいってみよう」
紗耶香は隣にある水道栓を捻ってみた。パイプから水が通ったような感触が伝わってきた。
しかし、暫くするときつく縛ったタオルから水が漏れてきた。
「いちーちゃん、水が漏れてるよ」
「そうだな」
「タオルじゃダメだったね。もう行こうよ」
2人は他の場所に行ってみる事にした。
72 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)23時30分26秒
その頃洗面所では・・・

「お風呂入りたいよ〜」
「ボイラーが壊れているから無理だってば」
騒いでいるひとみを梨華はなだめていた。
キィー・・・
「どうしたんや?騒いだりして」
ひとみの声が廊下まで聞こえたらしくつんくが入って来た。
「あ、つんくさん。何でも・・・」
「お風呂に入りたいんです!!」
「ちょっ、よっすぃー!」
「いーじゃん!つんくさんボイラー直してください!お願いします!!」
「は!?話がみえへんが・・・」
興奮してつんくに近寄るひとみをどうにか制して、梨華はつんくに理由を話した。
「・・わかった。オレが直してみるよ」
「ホントっすか!ありがとうございます!!」
「すみません、つんくさん」
梨華はつんくにひたすら謝った。
「ええよ、これくらい。ちょっと待っててや」
つんくは洗面所を出た。
73 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)23時39分24秒
20分後、つんくが再び洗面所に入って来た。
「直ったから、これで大丈夫やと思う」
「つんくさんありがとうございます!」
「ありがとうございました」
「オレはこれで・・・」
つんくはそれだけ言うと洗面所から出て行った。
中には梨華しひとみの2人だけ・・・
「先輩一緒に入りましょうよ♪」
「私はいいよ〜」
「いいじゃないですかぁ。1人で入ってもつまんないっす」
「『つまんない』ってよっすぃー・・・」
「先輩〜」
「もう、わかりました!私も入るわよ!!」
ひとみのお願いに負けてしまった梨華は一緒に風呂に入る事を承諾した。
74 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)23時51分02秒
背中合わせで服を脱いでいる時にひとみは梨華にニヤニヤしながら話しかけた。
「先輩は身体洗う時に最初ドコから洗います?」
「えっ、ドコって?」
「首でしょ!」
「何で言い切るの!」
「だってそんなイメージあるっす」
「じゃあ、よっすぃーはドコからなの?」
「ウチは・・・ここ!」
「きゃ!」
「あはは、驚きました?」
「んっ・・・よっすぃー!」
「先輩ってやわらか〜い」
ひとみは後ろから梨華を抱きしめながら服を捲り上げ胸を触り、
そしてスカートを捲って下着に手を入れようとした。
「やめてよぉ!」
梨華は顔を真っ赤にしながら、手の動きを止めようとする。
75 名前:始まり 投稿日:2003年01月12日(日)23時58分32秒
しかし、手の動きが梨華の性感帯を的確に捉え意識が飛びそうになってしまう。
「よっすぃー!早く止めないと運転手さんが来てお風呂は入れなくなるよ!!」
梨華は意識が飛ぶのをなんとか我慢してひとみに言った。
「あっそうだった。早くお風呂入んなきゃ♪♪」
ひとみは梨華からはなれ、服を脱ぎだした。
(よっすぃーたらあんな事すんだもん。ビックリしてドキドキが止まんないよぉ・・・
でもよっすぃーって他のコにも同じ事してんのかなぁ?)
梨華はそんな不安を隠しつつ、そして胸の動悸が治まるのをまってから服を脱ぎ始めた。
76 名前:始まり 投稿日:2003年01月13日(月)00時09分53秒
紗耶香と真希はもう一度洗車場に入った。
自分の吐く息が白く見えるのを見ていた真希は話し始めた。
「運転手さんまだかな・・・いちーちゃん、今日はこんな事になるなんて後藤思ってもみなかった」
「スゴイ事故だったよな」
「それもあるけど、別の意味でもね。今日みたいに2人だけで話すのって久しぶりでしょ。
同じ学校でもいちーちゃん部活で朝練あったりして、一緒に登校する時は時々だし、
こんなふうに長く話すのは・・・体育祭以来かな。」
いちーちゃん、リレーの時ケガしちゃったよね。覚えてる?」
「覚えてるよ。後藤が手当てしてくれたんだよな」
紗耶香はその時の事を思い出した。
77 名前:始まり 投稿日:2003年01月13日(月)00時17分29秒
(体育祭の救護係だった後藤がちょうど保健室にいて手当てをしてくれてたっけ。
競技の応援が遠くから聞こえていて、保健室だけが別空間のようだった)
「あの時はありがと」
「ううん・・・ケガだけじゃなくて、足も捻ってたでしょ。見てるだけで痛そうだった」
「ギャグみたいにハデに転んだからな。おかげでビリになったんだよな」
「でも、最初2人抜いたでしょ。早いなって思ったよ」
「あははは、サンキュ♪」
紗耶香は照れくさいのか、頭をかきながら真希に言った。
「いちーゃんそろそろ行こうよ。ここ寒いし・・・」
「うん・・・」
2人は部屋を後にした。
78 名前:始まり 投稿日:2003年01月13日(月)00時38分09秒
レスです

マーチ。様
やんちゃないちーちゃんは学校でもごっちんの前でもこんな感じです。
だからごっちんはいちーちゃんが好きなんでしょう。
(いちーちゃんは気付いてないでしょうが・・・)
これからの展開は・・・甘くないですよ(微笑)
79 名前:和尚 投稿日:2003年01月13日(月)02時03分11秒
また自分の名前入れ忘れた・・・
80 名前:マーチ。 投稿日:2003年01月13日(月)21時22分36秒
いい感じになっているのに、甘くないとは。
困難が待っているのでしょうか…。
まだまだ謎が多い…、続き待ってます。
81 名前:始まり 投稿日:2003年01月19日(日)13時29分48秒
洗面所に前に来た時、梨華とひとみの声が聞こえてきた。
「あ〜気持ちよかったぁ〜。つんくさんのおかげですよね」
「よっすぃーったら、あんなにゴシゴシ洗って・・・肌痛くないの?」
「温水摩擦なんですよ。気持ちいいんですから」
「そんな療法あったかな・・・」
「・・・石川達風呂に入れたみたいだな」
「うん」
(つんくさんのおかげだと言ってたけど、あの人がボイラーを直したのかな?)
紗耶香はドアを開けようとした。
それと同時に梨華とひとみが出てきた。
「あっ、ウチらお風呂入っちゃいましたよ。シャワーも使えたし」
「よっすぃーはホントにお風呂好きなんです」
「そういえば温泉旅行に来たんだよね?」
真希が言うと少し照れた様に梨華は頷いた。
「あの、失礼します」
2人は廊下の向こうへ歩いて行った。
82 名前:始まり 投稿日:2003年01月19日(日)13時42分42秒
入れ違いに洗面所に入った紗耶香と真希。
洗面所は脱衣所と兼用していたが、それを踏まえてもその部屋の広いこと。
この建物には一体どんな人がいたのだろうか?紗耶香はそう思いながら割れたドアを見た。
中は浴室になっていた。
「覗いてみるか・・・」
紗耶香はドアを開けて浴室に進んだ。
浴室は広く、右の壁にシャワー、左手に広い湯船、奥に鏡、そして棚があり、
棚には小さい観葉植物が置いてあった。
「後藤、一緒にお風呂入ろっか?」
「・・・・」
真希は顔を赤くして紗耶香の顔をジッと見つめた。
「ゴメン、冗談冗談」
紗耶香は苦笑しながら真希に謝った。
「冗談なんだ・・・」
真希は紗耶香に聞こえないように呟いた。
83 名前:始まり 投稿日:2003年01月19日(日)13時53分47秒
「何か言ったか?」
しかし、紗耶香の耳は呟きが聞こえたらしく真希に聞いた。
「ううん!何でもないよ!!」
真希は頭をブンブン横に振りながら紗耶香に言った。
「ヘンなヤツだな・・・」
紗耶香は怪訝な顔して真希に言うと浴室を調べ始めた。
壁に設置してあるシャワーを見ると紗耶香は元栓を捻った。
シャーーーー
勢いよく温水が飛び出した。
暖かく、肌に気持ちいい温度のシャワーが流れている。
「フム・・・なぁ後藤、固いビンのフタを開ける時って暖めれば緩むんだっけ?」
「そうだよ」
後藤から聞いた紗耶香は上着のポケットに入っている溶剤入りのビンを取り出した。
フタが固くて、紗耶香は何度も開けようとしたのだが出来なかったのだ。
ビンを温水にあてがい、フタが温まるのを待った。
84 名前:始まり 投稿日:2003年01月19日(日)14時00分15秒
五分後、紗耶香は温まったビンのフタに抵抗を加えた。
ゆるい抵抗と共にビンのフタはスルリと回った。
(これで溶剤を使えることが出来る)
シャワーの元栓を戻し、お湯を止めた。
「溶剤が使えるようになったから、吉澤が落書きしたあの部屋に行ってみよう」
ビンを振りながら真希に言った。
85 名前:始まり 投稿日:2003年01月19日(日)14時16分37秒
2人はロッキングチェアーが並べられた部屋・・・ひとみがドアに落書きした部屋に戻って来た。
(それにしても広い部屋だ。あたしの部屋の二倍以上はあるぞ)
「いちーちゃん」
「何?」
「この部屋にいた人って、美術に関係ある人かな?石膏とか絵画がたくさんあるし」
「そういえば・・・」
紗耶香は真希に言われて改めて部屋を見渡した。
「普通の家にはないし、芸術家が住んでたのかもしれないな」
「そうだね・・・ねっ、いちーちゃんドアノブにこびりついてる接着剤を剥がそうよ」
「そうだった。忘れるトコだったよ」
紗耶香と真希はあかずのまと書かれたドアの前に行った。
「やるぞ」
溶剤は残り少なかったので、接着剤がついている場所に慎重にかけていかないと途中で無くなる恐れがあった。
紗耶香は持っていた溶剤をノブ周りに流し込んだ。
86 名前:始まり 投稿日:2003年01月19日(日)14時29分04秒
ノブと金具の接合部分をよく見ながら溶剤を少しずつ、まんべんなくかけていく・・・
そうして、接着剤を溶かしたところ、溶剤が無くなった。
「いちーちゃん溶剤が無くなっちゃったね」
「でも、ギリギリで間に合ったよ。これでこのドアを開けることが出来るよ」
紗耶香はドアノブに手を掛けようとした。その時、誰かが部屋の中に入ってきた。
「紗耶香、後藤!」
「「先生!?」」
「よかった、ここにいたんやな」
「どしたんですか、そんなに慌てて?」
「・・・ちょっと来てや。大変な事になったんよ。ここにいるのは危険や!」
「えっ・・・どうかしたんですか?」
「ええから一緒に来いちゅーとんのや!!説明するから!!」
紗耶香と真希に言う間も与えず、中澤はサッサと歩き出した。
慌てて2人も中澤の後について歩いた。
87 名前:始まり 投稿日:2003年01月19日(日)14時37分25秒
階段の踊り場で中澤は理由を話し始めた。
「下の階で、異様な臭いが漂ってる部屋を見たか?実はな、あそこに男性の・・・遺体があったんや!」
「ええっ!?ちょっと待ってくださいよ!急な話で実感わかないんですけど」
「あの・・・よく出来た作り物とか、そういうものではないんですか?」
中澤の突然の言葉に紗耶香と真希は信じられなかった。
「いや・・そうじゃないと思うわ。とにかく一度外に出ないと!!」
88 名前:和尚 投稿日:2003年01月19日(日)14時50分28秒
マーチ。様
困難が始まりました(まだ小さいけど)
これからもっと大きな困難が始まります。
まだまだこれからですよ。
89 名前:始まり 投稿日:2003年01月26日(日)19時39分37秒
紗耶香達は階段を下り、遺体があったという部屋の前までやって来た。
「他の人も呼んだ方がええよな。あっ、石川さんと吉澤さんには声をかけたんよ。
ガレージの方へ来てって言うておいたから」
中澤は青い顔をしていた。
(でも、ホントにこんなトコにあるのかなぁ?)
「あの、この中を少しだけ確めてもいいですか?」
「いちーちゃん本気!?」
「うん。昔から自分の目で確めないと気がすまないんだ」
「それは知ってるけど、何もこんな時まで・・・」
真希は紗耶香の上着の裾を掴んだ。
「あまり薦められんが、それで納得できるならええわ。右の方にあるロッカーを開けえ」
「はい」
「あそこは最初鍵がかかってたのに。一体誰が開けたんや・・・
確認したらすぐに戻って来いよ。後藤は一緒に来なさい」
「わかりました」
中澤はそう言うと、真希を連れてガレージの方へ行った。
90 名前:始まり 投稿日:2003年01月26日(日)20時03分22秒
紗耶香は目の前のドアを開け、遺体があったという部屋を覗いた。
キィーーー
部屋は壁紙が剥がれ、むき出しとなった壁。左側にドラム缶、小さいダンボール、
壊れている棚の隣にロッカーがあり、奥には弓矢が飾ってあった。
「先生は右のロッカーの中と言ってたよな・・・」
ガチャ!
「どわあ!!」
紗耶香はロッカーを開け、目の前の光景が現実である事を瞬時に悟った。
刺激臭のある腐臭が鼻を突く。
遺体の服装と肩にかけている鞄、帽子【〒】マークを見て、
2人目の行方不明者・・・郵便局員だとわかった。
「行方不明になってた人がどうしてこんなトコに押し込まれてんだ?」
今にも死の絶叫をあげそうな表情をした遺体を紗耶香は調べ始めた。
「左のこめかみから血が流れている他は傷はなし・・一撃で殺されたか」
段々胸が悪くなるような思いを抱えながら紗耶香はロッカーを閉めた。
バタン
「先生のところへ戻るか」
紗耶香は部屋を後にした。
91 名前:始まり 投稿日:2003年01月26日(日)20時11分42秒
ドアを開けると、何故か中澤が1人で立っていた。
「先生?後藤はどうしました?」
「石川さんと吉澤さんが来たから、一緒にガレージの方へ行ってもらうようにしたわ。
これから他の人呼んで来るから紗耶香もガレージの方へ」
中澤が言った時だった。
「ちょっと、どうしたん!?何、これ・・・」
ガレージの方からひとみの声が聞こえてきた。
「何かあったんだ!先生、行きましょう!!」
紗耶香達は慌ててドアの方へ進んだ。
92 名前:始まり 投稿日:2003年01月26日(日)20時28分40秒
「よっすぃー、大きな声を出さない方がいいよ。誰がどこで何を聞いているかわからないでしょう?」
「先輩、怖いこと言うのやめて下さいよ。誰が聞いて何するって言うんですか」
ギィィィー
ドアを開けると真希達が俯いている姿が目に入ってきた。
「どうしてこんな事に・・・?」
「あっ、先生、いちーちゃん!」
真希は紗耶香達に気付くとすぐに声をかけてきた。
「なした後藤!」
「シャッターに鍵がかかっていて、出られなくなっているの!」
「ええっ?」
「何度か押し上げようとしたんですけど、上手くいかないんです」
「ホンマに出られないんか?どこかに鍵はないんか?」
「古いシャッターだから、力づくで開けることできない?」
紗耶香はそう言いシャッターを動かそうとしたが、上手くいかなかった。
「何で、どうゆう事?」
ひとみが喉から絞り出すような声を上げる。
「皆、落ちつくんや。残りの人達に声かけよ」
「は、はい」
「どうしたらええか、良く考えんと・・・」
93 名前:閉じ込められた人達 投稿日:2003年01月26日(日)20時46分16秒
紗耶香達は急いで皆を呼んで、階段状の広い部屋・・・ロッキングチェアーがある部屋に集まった。
紗耶香は皆に話しかけた。
「皆さんはこの屋敷に来てから危ない目にあってませんか?」
「今までは特に何もありませんでした。こんな事になるなんて・・・」
「ウチも何ともなかったです。いろいろ歩き回ったんですけど」
「他の方はどうですか?」
「・・・・」
他の人達は黙り込んでいる。
「誰もいないようですね」
「よくわからんな。何故、そんな事言うんや?」
つんくは一方的に話しかけられているのが気に入らないのか、不機嫌な声で紗耶香に言った。
「そうや、何をそんなに慌ててるんや。なあ、裕子先生」
たいせーが突然中澤に話をふった。
紗耶香では話にならないと思ったのだろうか・・・
「この街で、郵便配達員が行方不明になったニュースはご存知ですよね。
実はさっき、それらしい格好をした人が・・・ロッカーの中に閉じ込められていたんです」
「はぁ?裕子先生、そりゃ本当なんか?」
「・・・はい」
「どうしたこんな事になったんでしょう?」
梨華の問いかけに紗耶香は答えた。
94 名前:閉じ込められた人達 投稿日:2003年01月26日(日)21時02分54秒
「わからない・・・けれど、遺体には故意に付けられたような傷があった。
もしかしたら、あの人は誰かに殺されたのかもしれない」
「なんやと?」
「どうしよう?いちーちゃん」
「警察に電話しないと。でも、電話は無いし、携帯も圏外になってる。おまけに出口も塞がれてるから」
「出口が?」
「一刻も早くここから出て、警察に連絡しなきゃ・・・」
「冗談やないで、なあ、裕子先生!」
(こいつ・・・さっきから先生、先生ってうるさいな)
「たいせーさん、落ち着いて下さい!」
「出口が塞がれてる!?オレは知らんで!!」
「どうか抑えて、ここは皆で協力を!」
紗耶香は騒ぐたいせーをどうにか沈めようとしている。
「運転手はどうした!何をやっているんや!!」
たいせーに言われ紗耶香は運転手の事を思い出した。
95 名前:閉じ込められた人達 投稿日:2003年01月26日(日)21時15分47秒
(そうだ、運転手・・・あの人が早く助けを読んでくれれば)
「こうなったら、オレにも考えがあるぞ」
「えっ、何ですか?」
「オレはオレの好きにする」
「どういう意味ですか?」
「ここは可愛い子が多いしな」
たいせーは舐め回す様な視線で真希達を見始める。
「いや・・・」
真希はその視線に耐えられず紗耶香の背中に隠れた。
「やめて下さい、たいせーさん!」
「あんたもキレイや。なぁ、裕子先生・・・」
たいせーはそう言いながら泥がついた靴を絨毯に這わせた。
「いい加減にしろ」
暫く黙っていたつんくが突然冷たい調子で言い放った。
「・・・・」
たいせーが一瞬押し黙る。
「ウチ、こんな人と一緒にいられません!」
「・・・・」
「ウチら、もう行きますから。先輩行きましょう」
ひとみは黙っていた梨華を連れて部屋を出て行った。
96 名前:閉じ込められた人達 投稿日:2003年01月26日(日)21時31分04秒
「ふん・・・」
たいせーは鼻を鳴らすと、顔をゆがめながら出て行く。
「いちーちゃん、後3人足りない人がいるんだけど・・・」
「えっ!?」
「ハタケさん?」
「バスに乗ってた人」
「金髪の女の子ともう1人って・・・」
「どうしてここに来たか、詳しい話は聞いてないの」
「捜して見るよ」
つんくが言った。続けて紗耶香も言った。
「市井も捜すから」
「そうやな、いろいろあたってみよか」
紗耶香達は部屋を出る事にした。
97 名前:始まり 投稿日:2003年01月26日(日)21時46分07秒
紗耶香は真希の顔色が悪くなった様に見えた。
「後藤、大丈夫か?顔色が・・・」
「大丈夫だよ。それより屋敷の中を調べないと」
気丈に振舞おうとする真希。
しかし、ここで無理をさせられないと思った紗耶香は中澤に提案した。
「・・・先生、後藤と一緒にいてくれますか?」
「えっ」
「市井、いろいろ見てきます。どこかの部屋にいて下さい」
「・・・・」
「大丈夫ですよ、ちゃんと気をつけますから」
「・・・わかった。じゃあここの部屋にいるわ」
「ありがといちーちゃん」
「他の部屋を見てくるから」
紗耶香は真希の頭をポンポンと叩きながら優しく言った。
「つんくさん、今後何か気付いた事あったら、どんな事でも教えて下さい」
「ああ・・・」
つんくは厳しい表情でゆっくり頷いた。
「まずは鍵がかかっているドアを開けたほうがええな。
応接間のほうにまた行く事が出来れば、誰かと会えるんじゃないだろうか?
後藤さん、向こうへ続くドアを開けたら迎えに行くからそれまで休んでくれ」
つんくは中澤に軽く会釈し、廊下を歩いて行った。
そして、真希と中澤はさっきいた部屋に戻った。
98 名前:あかずの間に・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)22時01分26秒
1人になった紗耶香はつんくが言った言葉を考えた。
(鍵がかかってるドア・・・だとしたら、まず最初に接着剤で固められたドアを開けてみよう。
開けられるようにしたんだし)
紗耶香は真希と中澤がいる部屋に入った。部屋に入ると中澤がさりげなく言った。
「この部屋、生活感があるよなぁ」
「・・・そういえば確かに」
「手作りっぽいショールがあるよ。誰かが編んだのかなぁ?」
こんな会話をしていると未だに会えない屋敷の主は温和そうな人ではないか?
この屋敷の所有者は、事件と無関係なのだろうか?
考えるだけわからなくなるが、やはり屋敷の中を調べてみる必要があると紗耶香は思った。
99 名前:あかずの間に・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)22時12分41秒
「あの、ちょっとこの部屋の中を調べてもいいですか?」
「ええよ」
2人は脇に避けてくれた。
「あっ」
部屋を調べようとした時、中澤が声を上げた。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもないわ」
「言って下さい。何があったんですか?」
「・・・・・」
真希も気になるようで、紗耶香の顔を物いいたげに見ている。
「言わない方がええとおもうよ」
「ますます気になります」
「・・・・・・」
「実は・・・」
「実は?」
「明日の小テストプリントをバスに置き忘れたんや」
「・・・・・」
「その事を思い出しただけや」
「そ、そうですか」
「スマンな、気にさせて」
「いえ・・・」
紗耶香は苦笑しながら再び部屋を調べ始めた。
100 名前:あかずの間に・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)22時21分13秒
あかずの間に続くドア付近にあるクローゼットに目をやった。
さっき紗耶香がクローゼットを見た時は何も無かったはず・・・
それなのに現在クローゼットの取っ手はロープで頑丈にくくられていた。
(いったい誰がこんな事を・・・?)
中にはよっぽと見られて困るものが入っているのだろうか?
紗耶香は手でロープを解こうとしたが、しっかりと結んである為ロープは解けなかった。
(こりゃ、ロープを切らないとダメだな)
紗耶香は踵を返し、あかずのまと書かれているドアに手を掛けた。
(この変ったドアを開けるのは多少気が引けるけど・・・)
紗耶香はあかずの間のドアを開けた。
101 名前:あかずの間に・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)22時38分21秒
ギィィィーー
中はあかずの間という雰囲気ではなく、洋服ダンスベットに机がある普通の部屋だった。
壁や床には多少の汚れがあるが手入れは行われていたらしく、このままでも十分に使えそうな部屋にも思えた。
紗耶香は部屋の中を調べ始めた。最初に今にも取れそうな洋服ダンスの取っ手を慎重に引いた。
しかし、虫除け薬品の異臭が微かに漂うだけで何も入っていなかった。
二段目の引き出しには酸性の液体でも拭取ったのであろうか、ボロボロの布切れが数枚あっただけ。
102 名前:あかずの間に・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)22時44分48秒
「うーん、たいしたモノ入ってないな〜」
紗耶香は身体を伸ばしながら呟いた。
ふと、ベットの脇にある小さい鏡に目を向けた。鏡の下に何かが置いてあるのが見えた。
「何だろ?」
紗耶香は手を伸ばして鏡の下に置いてある物を取った。
「鍵だ」
鍵を見てみると、握りの部分に02という刻印があるのがわかった。
「鍵があるという事は開かないドアがあるという事。だとしたら・・・」
紗耶香は02の鍵をポケットに入れた。
そして、あらかた部屋を調べた紗耶香は真希と中澤がいる部屋に戻った。
103 名前:あかずの間に・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)22時54分17秒
ガチャ・・・
「あっ、いちーちゃんどうだった?」
「ん、タンスとかベットとかあって普通の部屋だったよ」
「そうなんだ・・・」
「後藤、辛いなら奥のベットで休むか?」
真希の身体を心配する紗耶香。真希は微かに笑って首を横に振った。
「そっか・・・」
「あんたら何2人の世界作ってん?」
中澤は2人を見ながらニヤニヤしている。
「後藤の顔色が心配しているだけっすよ」
「ふぅ〜ん」
更にニヤニヤしている中澤に紗耶香は何故か焦ってしまっている。
「先生、ちゃんと一緒にいてくださいよ。後、後藤にヘンな事言わないで下さい」
紗耶香は中澤に念を押すと部屋を出て行った。
104 名前:ドアを開けて・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)23時17分13秒
紗耶香は鍵がかかっているドアの前にいた。
もう一度、ドアノブを捻った。
ガチャガチャ・・・
やはり鍵がかかっており、紗耶香自信不快な気分を感じただけで終わった。
ドア自体は硬い材木でシッカリと作られており、
叩き潰す事などできそうにないのは紗耶香の蹴りで実証ずみだった。
(市井のカンが正しければこの鍵はここに使う鍵に違いない)
紗耶香は02の刻印のある鍵を鍵穴に入れた。
カチャ・・・
鍵が回り、閉ざされたドアが開かれた。
「あ、ここ開いたんですね」
後ろからひとみに声を掛けられた。隣には梨華がいる。
「ああ、これから調べてみようと・・・」
「へー」
ひとみは開いたドアの奥に入ろうとした。
「待てって、危ないかもしれないだろ?」
「この先は行った事ありますよ。最初開いていたし」
(そんなドアが閉まっていたから危ないんだよ)
紗耶香の思っていた事がわかったのか、梨華が言った。
105 名前:ドアを開けて・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)23時27分00秒
「気をつけますから。女の人があと2人見つからないんです。それから男の人も・・・」
「市井も探すから、あまりむやみに歩き回らない方がいいんじゃないか?石川、いない人の行方に心あたりある?」
「ここに来てスグにハタケさんはつんくさんと何か話していましたけど・・・」
「その後はわからない?」
梨華は黙って頷いた。
「わかった。気をつけてな」
「はい」
梨華はひとみと共にドアの奥へ進んで行った。
「どうしたんや?」
紗耶香達の話を聞こえたんだろうか、廊下の向こうからつんくがやって来た。
「ここの鍵を見つけて、ドアを・・・」
「そのドアはもう開いたのか?じゃあ、後藤さん達に伝えないとな」
「そうですね」
「市井さん、一緒に行こう」
紗耶香とつんくは真希と中澤がいる部屋へ向かった。
106 名前:ドアを開けて・・・ 投稿日:2003年02月01日(土)23時56分48秒
ガチャ・・・
つんくが部屋に入り、続いて紗耶香が部屋に入った。
「すぐそこのドアの鍵を開けました。これから向こうに行ってみようと思います」
「本当ですか?」
「後藤、気分はどう?」
「ありがとういちーちゃん。もう大丈夫だよ」
真希は紗耶香の手をギュッと握った。
「それは良かった」
紗耶香は笑って真希を見た。
一瞬だけ2人の間にあたたかい空気が流れた。
「いい雰囲気を壊してスマンが、後藤向こうに行くよ」
中澤は真希に声をかけた。
「は、はい」
中澤は真希を連れて部屋を出て行った。紗耶香もつんくと一緒に部屋を出て行った。
107 名前:ドアを開けて・・・ 投稿日:2003年02月02日(日)00時06分37秒
廊下を歩いている時に紗耶香は思い出した。
「そういえば、つんくさんはハタケさんと一緒にいたって聞いたんですけど」
「そうや。この屋敷に来た時少し話をしたんやけど、あれからどこへ行ったのかわからへんのや。
彼は身体の具合が悪いみたいやから、オレも心配しているんやが・・・」
「ハタケさん達はドコへ行ってしまったんでしょう?」
そこまで話した時、後ろから誰かの足音が聞こえてきた。
「全く困ったモンやなぁ」
近寄って来たのはたいせーだった。
「困ったって、何がですか?」
「だってほら、女の子も2人ばかりいなくなってるやないか。
あの男がどこかに連れ込んで、エエことでもしちゃってなければええけど」
108 名前:ドアを開けて・・・ 投稿日:2003年02月02日(日)00時14分28秒
「はあ?」
「2人とも可愛い子やったから・・・ああ〜心配や。
特にほら・・・あのおさげのコ。あのコはええよなぁ、おしとやかで。
金髪のコはちょっと気が強いか?でも子猫ちゃんがミャアミャア言ってるぐらいにしか聞こえんがなぁ・・・
本当に心配や。ハタケっていう男は見るからにヘンな感じのヤツやったから」
「・・・・・まさか、そんなわけないやろ?よく知らない相手の事を悪く言うのはどうかと思いますが」
「これは失礼」
つんくに非難され、たいせーはつまらなそうに去って行く。
「また後でな」
つんくは不愉快になったのか、苦い顔しながら先に廊下を歩いて行った。
109 名前:2人の女の子 投稿日:2003年02月02日(日)00時34分20秒
紗耶香はドアを開けた廊下を歩いていた。
ドアの向こうから誰かの話し声が聞こえてきた。
「真里様、ちょっとこの部屋で待っていて頂けませんか?」
「何でよ圭織?」
「ここが本当に空き家になっているのかを確めたいんです」
「こんだけボロボロなんだから、みんな引越ししたに違いないよ」
「ええ、そうなんですが・・・」
「まぁ、どうしてもっていうなら良いけど」
「はい・・・では行ってきます」
110 名前:2人の女の子 投稿日:2003年02月02日(日)00時44分50秒
ギィーー
眼鏡をかけた女の人が出て来た。
「あ、あの・・・」
「何でしょう?」
「市井達と一緒にここへ入って来た方ですか?」
「え、ええ」
「良かった。無事だったんですね」
「えっ?」
「市井紗耶香といいます。実は大変な事がありまして」
「飯田圭織です・・・大変な事って何ですか?」
「実は市井達が入って来たガレージのシャッターが、いつの間にか閉められていて・・・
鍵が掛けられて、外に出られなくなってしまったんです」
「えっ、そうなんですか?
でも、そんなに大変な事ではない様な気がするんですが・・・。
人気のない山の中とはいえ、もう夜も遅いですし、鍵を見つけた誰かが、気を利かせてかけただけなんじゃないでしょうか?」
「いや、そうじゃなくて」
「ガレージですよね?ちょっと見てきます。もしかしたら鍵はシャッターの近くなどにあるかもしれませんし」
「飯田さん!」
圭織は紗耶香が来た方向に向かって走って行った。
111 名前:2人の女の子 投稿日:2003年02月02日(日)00時49分39秒
ギィーー
同時に目の前にあるドアを開ける音がした。
「なあに騒がしいよ」
紗耶香より背の低い女のコが不機嫌そうな顔して出て来た。
学校の制服らしく、緑のセーラー服でチェックのミニのスカート姿だ。
(真希が言っていた金髪の女のコとは彼女の事か?)
112 名前:2人の女の子 投稿日:2003年02月02日(日)00時56分31秒
人物紹介

矢口真里−高校二年生。矢口コンツェルンの令嬢。資産家の令嬢にしては珍しく人当たりの良い性格の持ち主。
     自分の身長の事と理不尽な事を言われるとキレてしまう。
     父親は外国で仕事をしている為、大きな屋敷で母親とメイド達と一緒に暮らしている。
     特に圭織とは仲が良い。

飯田圭織−年齢不詳。真里の屋敷に仕えているメイド。ひかえめで大人しい性格の持ち主。
     料理が得意。近眼で黒ブチ眼鏡をかけている。
     メイドという立場上、いつも真里の身を案じている。
113 名前:2人の女の子 投稿日:2003年02月02日(日)01時04分03秒
「ゴメン。ええっと、市井紗耶香っていうんだけど・・・」
「アンタ気絶してた人でしょ?もう運転手が来たの?」
「いや、まだなんだ。そろそろだと思うけど」
「そう・・・」
真里はがっかりしたように言った。
紗耶香は次第に焦りが出てくるようになっていた。
(運転手は何をやっているんだ?こんな場所にいつまでもいたら、無事ではすまない気がする・・・
あの遺体の事も彼女に話さないと)
「あのさ」
「なに?」
「実はこの屋敷・・・」
「さっきの話なら聞こえたよ」
紗耶香と圭織が廊下で話していた事を真里は聞いていたらしい。
「シャッターが閉まっていたって話だよね。まだ続きがあるんだ」
「ちょっと構わないでくれる?」
「あっ、ちょっと待っ・・・!」
真里は走ってどこかへ行ってしまった。
114 名前:洗車場で 投稿日:2003年02月09日(日)20時33分32秒
「ったく、人の話を聞けよな!」
紗耶香は圭織と真里の後を追って地下へ向かった。
洗車場の前に来た時だった。
「いやああっ!」
突然、中から悲鳴が聞こえてきた。
「あの声は飯田さんの・・・ど、どうかしたんですか!」
紗耶香は慌てて部屋の中に入った。
中では圭織が途方にくれた顔をして自分の服をながめていた。
(何だ、あの黒い汚れは・・・?)
「どうしたんですか?」
「あっあの、シャッターの鍵を探そうとして棚を見ていたら油の缶を倒してしまって・・・」
圭織の服は油まみれになっている。
「な、なーんだ。いきなり悲鳴が聞こえてきたから、ビックリしましたよ。誰かに襲われたんじゃないかって」
「・・・・」
「それにしても眼鏡も割れてるじゃないですか」
「しょうがありません。私の不注意ですから」
「外してて大丈夫ですか?結構度が入ってるみたいですけど」
圭織は眼鏡を拾い上げて言った。
「ここからだとあなたの顔がぼやけます。でも、何がどこにあるかはわかりますから」
圭織は微笑み、急ぎ足で洗車場を出て行った。
(あの服、着替えた方が良いよな・・・どっかに服が置いてあったような・・・?」
紗耶香は思いながら部屋を出た。
115 名前:手に取った服は・・・ 投稿日:2003年02月09日(日)20時50分03秒
服を油まみれにしてしまった圭織が廊下をうろうろ歩いていた。
「あっ、飯田さん」
紗耶香は声をかけたが、圭織は軽く会釈をし、急いでどこかへ行ってしまった。
あんな状態ではやはり動きにくそうに思える。
「何かいい着替えがあればいいんだけど・・・思い出した♪アレがあった♪♪」
紗耶香は廊下をスタスタと歩いて行った。
着いた場所は最初に自分か寝ていた部屋だった。
ガチャ・・・
紗耶香は部屋に入り、一目散に部屋にある洋服タンスを開けた。
ギィーー
扉を開けるとまわりの空気が揺れ、埃臭いのが鼻についた。
そして、目の前にはメイド服が掛けてあった。
(この服を飯田さんに渡してみようか?ちょっと変った格好になっちゃうけど油まみれの服よかマシかなぁ?)
紗耶香はいろいろ考えたが、とりあえずメイド服を持って行くことにした。
「渡すだけ渡して、後の判断は飯田さんに任せよう。
もし、着替えられるような服があったら、そっちを着てもらえばいいんだし」
紗耶香はタンスの扉を閉めて部屋を出た。
116 名前:洗車場で2 投稿日:2003年02月09日(日)21時00分19秒
ザーーー
紗耶香は大階段に向かって歩いていた時、洗車場から水が流れる音が聞こえてきた。
何の気なしに、冷たい鉄のドアを開け、中を確めた。
水道の近くで、男の人が背中を丸めて手を洗っていた。
まくったコートから、男の腕が一部変色しているのが見えた。
痣なのだろうか?遠目だったのでよくわからなかった。
(・・・あの長い髪は、バスに乗っていた男の人か?)
キュッ
男は紗耶香の気配に気付くと、蛇口を閉めて、少し慌てたようにその腕を下ろした。
「あ、あの・・・もしかしてハタケさんですか?」
「・・・だ、だったら何だよ?お前な・・いきなりぶしつけじゃないのか?そ、それにジロジロみるな。
俺は・・・ひ、人に見られるのが嫌いなんだ。大抵は・・・い、いい視線じゃないからな」
117 名前:洗車場で2 投稿日:2003年02月09日(日)21時06分37秒
人物紹介

ハタケ−人嫌いなので、人に見られるのが大嫌い。いつも具合が悪く咳をしている。
    実は頭が良く、外科のインターンをしている。
    腕に痣のようなものがあるが・・・
118 名前:洗車場で2 投稿日:2003年02月09日(日)21時32分15秒
「あっ・・・失礼しました。そんなつもりじゃなかったんですか・・・。あのっ、市井紗耶香といいます。
ハタケさん、今までどこに行ってたんですか?随分探してたんですよ。みんな心配して・・・」
「お、お前には関係ないだろう。それに・・・な、何が心配だよ。わざとらしい。
俺はそ、そういう偽善的な言葉が、だ、大嫌いなんだよ」
咳をしながら話すハタケはここから出て行こうとした。
119 名前:洗車場で2 投稿日:2003年02月09日(日)21時43分16秒
「あっ、ちょっと待ってください!実は屋敷の中で大変な事が起きたんです。
もう、お気づきかもしれませんが、そこのシャッターに鍵がかけられていて、外に出られなくなっているんですよ。
おまけにこの屋敷には、嘘のような話なんですが、行方不明者の遺体があったんです。
遺体には誰かに殺されたような傷がついていました。早くここから出ないと大変な事になるんじゃないかと」
「・・はあ?お、お前・・な、何を言ってるんだ?妙な空想癖があ、あるんじゃないのか?
い、いきなりそんな事言われても・・・」
紗耶香がそこまで言ってからハタケは急に声色を落とし、探るように言葉をつむいだ。
「・・・・お、おい、今の・・・う、嘘じゃないだろうな?」
「本当です。だからハタケさんも気をつけて下さい」
「・・・・・」
ハタケはそれ以上語らず、ふらりと部屋を出て行ってしまった。紗耶香も続いて廊下へ歩みを進めた。
120 名前:メイド服 投稿日:2003年02月09日(日)21時51分20秒
カツンカツンカツン・・・
階段を上がっていると、圭織が上から歩いてきた。
「あっ、飯田さん。ちょうど良かった」
「はい・・・なんでしょう?」
「さっき、服が汚れちゃったでしょう。今、これを・・・」
紗耶香は、近くの部屋で見つけたメイド服を差し出した。
「着替えを探したんです。もし良かったら」
「あ・・・」
圭織は溜息交じりの声を発し、暫く紗耶香の手元を見つめた。
「ここにあったものなんですけど・・・やっぱ気味悪いですか?」
「い、いえ」
圭織は少し躊躇した後、丁寧に服を受け取った。
「ありがとうございました」
礼を述べると圭織は軽く会釈し、2階へ戻って行った。
121 名前:ドアの前で 投稿日:2003年02月09日(日)22時02分17秒
奥の廊下に続くドアの前につんくが立っていた。
「あっ、ここにいたんですか?」
「何だ?」
つんくは話しかけられたのが嫌なのか、不機嫌な顔をした。
「さっき言ってた残りの3人に会えたんです。皆無事でした」
「そうか・・・」
「でも、あんまり話することが出来なかったんですけど」
紗耶香は申し訳なさそうにつんくに話した。
しかし、つんくは何か考え込んでいる。
「どうかしたんですか?」
「よかったら、少し歩かへんか?」
「いいですけど・・・なんですか?」
「少し話したいだけや」
つんくは紗耶香の隣に並び、開けたドア・・・奥の廊下へ歩き始めた。
122 名前:応接間で!? 投稿日:2003年02月09日(日)22時19分43秒
紗耶香とつんくは無言で廊下を歩いている。
2人で話すわけでもなくただ無言で歩いている・・・。
(・・・こーゆー雰囲気苦手なんだよな)
紗耶香は眉間にシワを寄せていた。
「ん、どないしたんや?具合が悪いんか?」
紗耶香の顔を見てつんくが話しかけた。どうやら具合が悪いと思ったらしい。
「いっ、いえ何でもないです!」
紗耶香は慌てて答えた。
苦笑いしている時ふと右側にドアがあるのを見つけた。
『応接間はドアの向こうの廊下を進んだトコにあるの・・・』
真希の言葉が頭をかすめた。
(ここが応接間かな?)
紗耶香はドアノブを回してみた。しかし、固い感触に押し戻され、開けることが出来なかった。
(鍵がかかってる・・・中に誰がいるのか?)
物音を立てないようにドアに近付いた。
(鍵穴からのぞいたら中の様子がわかるかも・・・犯人がいて、人を殺している!・・・なんてことはないか)
紗耶香は恐る恐る鍵穴をのぞき込んだ。
(・・・・飯田さん!?)
紗耶香は声をあげそうになって、慌てて口を閉じた。
123 名前:あの・・・紗耶香さん、つんくさん!? 投稿日:2003年02月09日(日)22時36分56秒
圭織はジーパンに手を掛け、それを脱ごうとしてゆっくりし腰を揺らめかしていた。
(飯田さん、下着黒だ!おっとな〜♪)
透けるような白い肌、圭織が服を脱ぐ仕種はやけに無防備で危うく見えた。
薄ぼんやりとした明かりに、圭織の艶やかな肌がさらされている。
圭織の服が滑り落ちる音が聞こえてくる気がした。
(・・・市井が男だったら・・・って何考えてんだ!)
紗耶香は覗くのを止めた。
「何見てんのや?」
突然、後ろから声を掛けられ紗耶香の身体は硬直してしまった。
ゆっくりと振り返ると紗耶香に声を掛けたのはつんくであった。
「いえ、何でもないです。行きましょう!」
紗耶香はつんくの背中を押しながら奥の廊下に進もうとした。
「何があったんや?オレにも見せてみい」
つんくは踵を返し、ドアの前に進んだ。
「あのー、見ないほうがいいですよ」
「訳わからんな。もし、何があったらどうするんや?」
つんくは鍵穴を覗きながら紗耶香に言った。
「・・・・・」
つんくは無言で立ち上がり紗耶香を見た。
「言ったでしょ・・・お互い黙ってましょうよ」
つんくは複雑な顔して頷くと再び廊下へ歩いて行った。
124 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月10日(月)01時09分37秒
まったくパクリっていうのも・・・
このゲーム好きなだけに違ったオリジナリティを出して欲しい・・・
125 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月26日(水)08時07分09秒
どっちでも良いです。
続きお待ちしてます。
126 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)23時19分31秒
最初にパクリだってちゃんと言ってるし別にいいと思います。
更新、期待しています。
127 名前:和尚 投稿日:2003年03月05日(水)23時25分47秒
レスです。

124>>名無し読者様
う〜ん。おっしゃる通りです。
オリジナリティ・・・頑張って出してみようと思います。
大部分はパクリですが(苦笑)

125>>名無し読者様
どっちでも(笑)
続き頑張って書こうと思います。

126>>名無し読者様
気付いたら約一ヶ月・・・
更新したいと思います。
久々なので性格変わってたらどうしよう(笑)
128 名前:ずばり! 投稿日:2003年03月05日(水)23時31分10秒
「後藤さぁ、紗耶香の事が好きやろ?」
「・・・・・・!!」
ロッキングチェアーの部屋で紗耶香を待っている中澤と真希。
中澤は退屈だったのか、真希に話しかけてみた。
案の定、真希の顔は一瞬の内に真っ赤になった。
「先生!突然何言ってんですか!!私がいちーちゃんを好きなんて・・・・」
「校内で紗耶香といる時の後藤の幸せそうな表情、
事故で紗耶香が後藤を庇って気を失った時の後藤の泣きそうな表情等、探せばいくらでも出てくるで」
中澤は笑いながら真希に言った。
「告白しようとは思わんの?」
中澤の一言で真希の顔は曇ってしまった。
「告白しようとは思いません。告白しちゃったら今までの関係が崩れてしまいそうで・・・・
後藤はいちーちゃんの側にいられればそれでいいんです」
「後藤らしい考えやな・・・でもな、ずっと一緒とは限らんやろ?」
中澤は遠回しに紗耶香の進路の事を言った。
129 名前:ずばり! 投稿日:2003年03月05日(水)23時32分59秒
紗耶香の進路先は弓道に力を入れている東京の大学だった。
当然、真希も紗耶香の進路先の事は知っていた。
紗耶香は家を出て、一人暮らしする事も、一緒にいられる時間あと僅かだと言う事も・・・・
「はい・・・」
「だったら、今まで胸にためていた想いを紗耶香に言うのも悪くないと思うよ」
「でも告白しちゃったら、いちーちゃん変っちゃうかも・・・・」
「紗耶香はそんなヤツじゃない事は後藤が1番知ってるんじゃないの?」
「はい」
真希はポツリと言った。
「その前に、ここを無事に出ないとな。出口を捜そか」
「ここで待ってるって、いちーちゃんに言ったじゃないですか」
「まーまー、ここで待ってるより、出口探した方が見つかる確率高くなるから。
それに気分転換した方がええよ」
中澤は真希を連れて部屋を出た。

130 名前:タンスに入ってた物 投稿日:2003年03月05日(水)23時35分17秒
紗耶香はロッキングチェアーが置いてある部屋に戻って来た。
「あれ、先生と後藤がいない・・・どこ行ったんだ?」
紗耶香はあかずの間のドアを開け部屋を覗いた。
「いない・・・トイレでも行ったのかな?」
紗耶香はそう思いながらクローゼットの前に立った。
そして、ポケットからカッターを取り出し、縄の上にカッターを押し当て何度も動かした。
「か・・固いな」
少しずつロープが切れてゆく。
「あと少しで・・・切れるぅ・・・あ゛っ!」
バキッ
力任せに縄を切ってしまい、カッターが折れてしまったが、どうにか縄を切ることが出来た。
ギィーー
紗耶香はクローゼットを開けた。
「・・・金庫ぉ!?」
131 名前:タンスに入ってた物 投稿日:2003年03月05日(水)23時36分11秒
クローゼットの中には金庫が入っていた。
金庫のタイプは両端にレバー、真ん中に三つのボタン(真ん中にENTERの文字がある)がある。
端のボタンを押してENTERを押すとレバーが降りる仕組みになっている。
そして、金庫には当然のように鍵がかかっていた。
「この中には何が入ってるんだろう?」
中身に興味があった紗耶香だが、何回ボタンを押せばいいのかわからないので、とりあえずクローゼットを閉めた。
「・・・う〜ん、これからどうしようかな・・・」
紗耶香は頭を掻きながら廊下へ出た。
132 名前:気合注入! 投稿日:2003年03月05日(水)23時40分13秒
「う〜ん、飯田さんがいた部屋に行きたいけど、まだ着替えていたらヤバイしなぁ・・・地下に行くか」
紗耶香は地下に行く階段を下りた。
カツン、カツン、カツン
あるドアの前で紗耶香は止まった。
「この部屋、調べてないんだよね」
部屋に入るのを躊躇している。その部屋とはロッカーの中に郵便局員がいる部屋だった。
「もしかしたら、手がかりがあるかもしれないし。ようはロッカーを開けなきゃいいんだよ!」
紗耶香は自分自身を納得してドアを開けた。
133 名前:ハタケさん 投稿日:2003年03月05日(水)23時42分38秒
ギィーーー
中に入ると、中にいたハタケと目があった。
ハタケは紗耶香を見ると、うっとおしそうに目を細めた。
(何故、そんな目でみるんだろ?)
紗耶香は気を取り直してハタケに聞いてみる。
「腕をどうかしたんですか?あなたが手を洗っていた時にみてしまったんです」
「お、お前には関係ない。ひ・・・人の事なんてどうだっていいだろ?
それより、じ、自分の心配をしろよ。
心配したって、ど、どうにもならないこともあるけどな」
「どういう意味ですか?」
「こ、言葉どおりだ。と、とにかく、お、俺のことはかまうな。ゴホッ、ゴホッい、行け・・・」
「・・・・・・」
「ゴホッ・・お、お前が行かないなら・・・お、俺が出て行くコボッ、ゴホッ」
苦しそうに咳き込みながらハタケは部屋を出て行ってしまった。
134 名前:ダンボールの中には 投稿日:2003年03月05日(水)23時45分27秒
「咳してるど、大丈夫なんかな?」
ハタケがいなくなった部屋で1人思う紗耶香。
紗耶香は部屋を調べ始める。
ダンボールが置いてあったので、紗耶香は開けてみた。
ダンボールの中は古びた保証書が入っており、手に取ってよく調べた。
表には役に立ちそうな記述はなかったが、保証書を裏返してみると、隅の方に【左3 右2】と小さく走り書きがしてあった。
「左3、右2・・・か・・・なんだろこの番号は?とりあえず覚えておくか」
135 名前:弓と矢 投稿日:2003年03月05日(水)23時48分26秒
紗耶香は何気にコンクリートの床を見た。床の一角に、木目が顔をのぞかせている。
その上にあった布をめくると床に扉がついているのがわかった。
床の扉に近づいた。よく見ると扉に留め金がありそれが開いていた。
「あぶねぇ、知らないで乗ったら落ちるトコだった」
紗耶香は留め金を閉めた。これで乗っても大丈夫な筈。
そして次に紗耶香は弓矢が立てかけられている壁を見た。
よく見ると矢じりの部分に赤黒い汚れが付着している。
「この赤黒いのって血か!?取っておこうと思っていたけど・・・」
紗耶香は少し考えたが、結局弓矢を取ることに決めた。
誰かが以前、これを使ったと思うと紗耶香の出した手が少し緊張する。
木でできた柄は、なぜだかほんのりと暖かい感じがした。
136 名前:弓と矢 投稿日:2003年03月05日(水)23時49分53秒
「弓矢を取ったけど、どうやって持って行こう?」
弓矢を手に取ってながめた。
「なんかここに線があるぞ」
弓を左右に引っ張った。
パキパキパキ
「これ、折りたたみ式なのか!?ということはこっちも?」
続けて矢を左右に引っ張った。
パキパキパキ
あっという間に弓矢が折りたたまれ小さくなった。
「これで持ち運びしやすいぞ」
紗耶香は折りたたんだ弓矢を上着の内ポケットに入れた。
「この部屋にもう用はないぞ!」
やはり、死体が側にあると思うと怖いのか、紗耶香は駆け足で部屋を出た。

137 名前:ひらめき 投稿日:2003年03月05日(水)23時51分37秒
(これ以上他の部屋にはいけないし、これからどうしよう)
紗耶香は階段の踊り場で考えていた。
(2階に上がる階段はあったけど、一部屋しかいけなかったし。
やっぱ、あのドアの鍵を開けないことには先に進めないな)
『あのドア』を思い出す紗耶香。
つんくと一緒に歩いていた時、左側に鍵のかかったドアがあった。
先に進める廊下が気になり、鍵のかかってるドアは後回しにしていたのだ。
(ドアは開かないし、他の部屋は調べたし・・・)
紗耶香は消去法で一つ一つ自分でやった事を消していく。
「金庫か・・・」
紗耶香は金庫を思い出した。
「でもなぁ、開けるボタンの回数わかんな・・・・あっ!」
頭の隅の方で【左3 右2】の番号を思い出した。
「これを押せば金庫が開くかも・・・いや違ってたら・・・えーい、とにかくやってみる価値ありだ」
紗耶香はロッキングチェアーの部屋に向かった。
138 名前:中身 投稿日:2003年03月05日(水)23時53分51秒
ガチャ・・・
紗耶香はクローゼットの中から金庫を取り出し、テーブルの上に置いた。
「まず左3・・・」
ガチャン、ガチャン、ガチャン・・・・ガチャン
左のボタンを三回押し、ENTERを押した。
カチッ
左のレバーが降りた。
「おっし、次は右を2と・・・」
ガチャン、ガチャン・・・ガチャン
次に紗耶香は右のボタンを二回押して、ENTERを押した。
カチッ
「右のレバーも降りたぞ。これで金庫が開く」
紗耶香はフタを開け、中をのぞき込んだ。
金庫の中には鍵が一つだけポツンと置いてあった。鍵の握り部分には、04という刻印がついていた。
「多分、この鍵は『あのドア』に使うことが出来る・・・・ハズ」
紗耶香は鍵を握り締めた。
そんな事を言っていると、ドアの音が聞こえてきた。
現れたのはたいせーだった。
139 名前: 投稿日:2003年03月05日(水)23時55分46秒
「どうしたんや?」
「いえ、別に・・・」
身体から湧き上がる警戒心を感じつつ紗耶香は言った。
「・・・・・・」
何の用があるわけでもなく、たいせーは部屋から出て行こうとしなかった。
「あの、失礼します」
紗耶香が無視して部屋を出ようとした時、たいせーはゆっくりと口を開いた。
「おっ、この病院は・・・」
たいせーは、棚の上に置かれている薬袋を見ていたようだった。
薬袋の書いてある名前は滲んでいて読めなかったが、病院名は○△□病院と書いてあった。
(○△□病院、どっかで聞いたことあるような・・・)
「この病院がどうかしたんですか?」
「ん、なんや、あんた知らんのか?ここの病院は経営がかなり悪化しているらしんや。
あまり知られていないことやが、いろんな悪い噂もある。
病気になってもここへは行かん方がええかもしれん」
(いかにも噂話が好きそうな言い方)
紗耶香は噂話が嫌いだったので、無表情な顔をして聞いていた。
「その話、どこで知ったんですか?」
「秘密や・・・」
たいせーはもったいつけるように言うと、ふらりと部屋を出て行った。
140 名前:よっすぃーの考え 投稿日:2003年03月05日(水)23時58分56秒
少し前・・・・・
梨華とひとみは二階の階段へ続く廊下を歩いていた。
「全然出口が見つかんないですね」
「うん・・・」
ひとみの問いかけに梨華はただ頷くしか出来なかった。
この廃屋は部屋に窓はなく、窓があるのは地下から1階に上がる階段の踊り場だった。
屋敷の玄関に続くと思われるドアは鍵がかかっていたのか、押しても開かなかったのだ。
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん・・・」
「頷いてばっかですね」
「だって、この家に死体があって、もしかしたらここに犯人がいるって思うとだんだん怖くなってきちゃって・・・
他の出口も見つからないし」
「先輩ネガティブになってますよ」
「あのね、こんな状態でポジティブになれないよ!・・・・ゴメン怒鳴っちゃって」
「いえ、誰だってそうなりますよ。
先輩、ウチ思うんですよ。こーゆー時こそポジティブになった方がイイって」
ひとみの言葉に梨華は唖然とした顔をした。
141 名前:よっすぃーの考え 投稿日:2003年03月06日(木)00時01分07秒
「あっ、バカにしてる〜。
つまり、ここでネガティブになっちゃうと出来る事も出来なくなるって事です」
「『出来る事も出来なくなる』?」
「そう、ネガティブになったら、ウチらを閉じ込めた犯人の思うつぼです。
必ずここを出るという『信念』をもって行動しましょう!」
ひとみは梨華に熱く語る。
「そうね・・・頑張ろ!絶対にここを出よう!!」
梨華は笑ってひとみに言った。
目の前に階段が見えたので梨華とひとみは階段を上がる。
「それに何かあっても先輩は大丈夫ですよ」
「よっすぃー何で言い切れるの?」
梨華は苦笑しながらひとみに言った。
「だって、先輩はウチが守るから」
「えっ・・・・・え・・・え・・・えっ!?」
ひとみの言葉に梨華は驚いて階段を踏み外してしまい身体が後ろに倒れそうになった。
(いけない!!)
梨華は懸命に身体を前に向けるがうまく出来ない。
「あっ・・・あっ・・・」
梨華の身体が完全に後ろに倒れてしまった。
142 名前:アクシデント! 投稿日:2003年03月06日(木)00時04分58秒
「きゃあ〜〜〜!!!!」
「先輩!!」
グッ!
階段から落ちる寸前に梨華の腕を掴んだひとみは抱きしめた。
バタバタ、バタン!
「どうした!大丈夫・・・」
梨華の悲鳴と大きな音に聞き、駆けつけた紗耶香は一瞬言葉が出なかった。
2人とも身体が重なり合って紗耶香に向けて下着が見えていたからだ。
「ゴ・・・ゴメ・・・」
梨華なにか言おうと呻いている。
「大丈夫っす。なんとも・・・あっ」
ひとみが紗耶香に気づく。だけど梨華が乗っている為、すぐには起きられなかった。
「なにがあったんだ?」
紗耶香は二人に話しかけた。
「私が階段から落ちて・・・よっすぃーがかばってくれたんです」
階段から落ちた梨華は痛そうだったが、庇ったひとみも相当痛そうだ。
143 名前:アクシデント! 投稿日:2003年03月06日(木)00時06分17秒
「ゴメンネ、よっすぃー!」
「これくらい、大丈夫」
「そのままじゃ苦しいだろ・・・起き上がれるか?」
梨華がお尻を動かした。その時一瞬、ひとみが痛そうな顔をした。
「ん・・・」
梨華ひとみはどうにか立ち上がった。
「歩ける・・・?」
「近くの部屋で休んだら?付き合おうか」
「こんなの、何ともないっす」
「しかし」
「大丈夫ですから・・・」
ひとみはこの話は終わらせたかった。
「よっすぃー、どこかで休もう」
「は、はい」
「失礼します」
2人はふらつく足取り、地下階段の方へ行こうとした。
「石川」
紗耶香は梨華を呼びよせた。
144 名前:気付いた紗耶香 投稿日:2003年03月06日(木)00時07分53秒
ふらつく足取りで、紗耶香の側に来た。
「何ですか?」
「吉澤ケガしてるぞ」
「えっ!?」
「ホラ、これ・・・」
紗耶香は上着のポケットから紙袋を出し、ガサゴソとなにかを取り出した。
「シップと包帯・・・」
「家帰る前に薬局寄ったんだ。これで手当てしてやんな」
「ありがとうございます」
梨華は紗耶香からシップと包帯を受け取るとひとみの後を追った。
145 名前:ひとみの想い 投稿日:2003年03月06日(木)00時09分52秒
ひとみは1階トイレで服をはだけて、痛みを発する箇所を見ていた。
「うわぁ、青くなってるよ」
右腕の上腕部が青く腫れていた。
ひとみは右腕を前後左右動かし、回してみた。
「痛っ・・・回すのは無理みたいだ」
ひとみはフゥと息を吐いた。
ギィーー
「誰!」
ひとみは音のする方へ顔を向けた。
「先輩・・・」
ドアの所に泣きそうな顔をした梨華が立っていた。
梨華はひとみの側に歩み寄った。
「よっすぃーゴメンネ。あたしがドジったから・・・」
「大丈夫ですよ。こんなケガ軽いモンですよ」
「ダメ!ちょっと見せて」
梨華はひとみの腕を取って手に持っていたシップを青く腫れている箇所に貼り、包帯を巻き始めた。
146 名前:ひとみの想い 投稿日:2003年03月06日(木)00時10分42秒
「このシップと包帯は?」
「市井さんが持ってたの。これで手当てしてやれって」
「市井さんにはバレてたんですね」
ひとみは苦笑して梨華に言った。
包帯を巻き終わって、ひとみは着ていた服を直した。
「先輩ありがとうございました」
「ううん、私の方こそ庇ってくれてありがとうだよ。よっすぃーのおかげでケガしなかったもん」
「だって、ウチ言いましたよ。先輩の事守るって」
「・・・・・・・・」
ひとみは笑顔で梨華に言った。そんな梨華はひとみの笑顔が眩しくて顔が赤くなった。
147 名前:125 投稿日:2003年03月10日(月)05時56分17秒
どっちでもって言ったのは、
どちらになるにしても楽しみにしてますって事で。
ともかく更新されたこと嬉しいです。
頑張ってくださいね。
148 名前:和尚 投稿日:2003年04月02日(水)00時47分57秒
レスです。
125様。
嬉しいお言葉ありがとうございます。
更新遅くなってすみませんでした!
久しぶりに更新するので、市井さんの性格がわかってるかも知れませんが(苦笑)
喜んでくれたら幸いです。
149 名前:サブタイ考えるのメンドクなったので、統一します 投稿日:2003年04月02日(水)00時59分43秒
その頃紗耶香は・・・・
1階の左手にある鍵がかかっているドアの前にいた。
ガチャガチャガチャ・・・・
ドアノブを捻ってたが、ドアを開けることはできなかった。
「開いてないのはわかってたけど、何で回しちゃうんだろう・・・習性ってヤツ?」
紗耶香は言いながらポケットに入れていた04の刻印が入った鍵を鍵穴に差し込んだ。
カチャ
鍵は抵抗なく回った。
「おっし!」
「何をされているんですか?」
「え?今ここの鍵を開けて・・・」
不意に声を掛けられ紗耶香は振り向いた。
メイド服を着て立っている女性の姿を見て、紗耶香は唖然としてしまった。
(矢口と一緒にいるのは・・・・!?)
「飯田圭織です」
メイド服を着た圭織は、軽い溜息をついてそう言った。
(えっ、飯田さん!?・・・・メイド服を着ていると、別人に見えるなあ)
圭織はメイド服に身を包み、両手を美しく前にそろえている。
「あの、市井がこんなことを言うのもなんだけど・・・・。その服着にくくないですか?」
「どうしてでしょう?」
何のことかわからないというように圭織が問いかけてくる。
150 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時02分59秒
「だって、そういう服って普段着るようなものじゃないっすよね」
「・・・・・」
圭織は一瞬の間を置いてさりげなく言った。
「私、もともとメイドですから」
「!?」
「真里様のお屋敷で働いています」
「あっ、そうだったんですか・・・失礼しました」
「一緒に住んでんの」
(メイドがいる屋敷なんて随分広いんだろうな・・・。
でも普通、メイドだからって、この廃屋にあったメイド服一式を完璧に身につけるか?)
紗耶香は圭織と真里をジロジロ見てしまった。
「なに?」
「いや、なんでもない」
「・・・・・」
真里は紗耶香を不審そうに見ている。
151 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時04分26秒
(・・・今日が初対面だし、いきなりこんな屋敷で、
見ず知らずの人間と、夜の時間を過ごさなきゃいけないんだし。
考えてみりゃ、警戒されるのはしょうがない。
とりあえず、今の状況について、きちんと伝えないと)
「・・・・」
真里は相変わらず紗耶香を睨んでいる。そして、一言呟いた。
「行こうっと」
紗耶香が口を開く前に、真里は走って行ってしまった。
「あっ・・・お待ちください」
圭織も、すぐに真里を追いかけて行く。
「おーい・・・・。まずい、2人には、まだ死体のことを話してない・・・。
この状況じゃ、この先何が起こるかわからない」
紗耶香は2人の後を追いかけた。
152 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時06分24秒
階段に向かう途中、奥の廊下からなにか言い争うような声が聞こえてきた。
「何だぁ?」
廊下の向こうで梨華が怒っていた。
「一緒にいるのは飯田さんと・・・たいせー?」
「何なんですか、やめて下さい!」
「オレが何か?圭織ちゃんの服について尋ねただけや」
「・・・・・」
「じゃあ何で・・・!」
「ん・・何や?」
「触るんですか!!」
「嫌やなぁ〜、あんた、意識しすぎとちゃう?」
「!?」
「オレにとって、圭織ちゃんは妹みたいなもんや」
「いい加減なこといって、ごまかさないで下さい!!」
「石川さん、どうかこらえて下さい。これ以上の言い争いは・・・」
「そんな触るなんてなあ」
「・・・・」
「梨華ちゃんはいやらしい子やなあ」
「・・・・!」
梨華は怒りで震えていた。
153 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時07分31秒
「だいたい・・・」
「あんた何やってんの?」
これ以上好き勝手な事言われる前に紗耶香は威圧的に声をかけた。
たいせーは言いかけた言葉を飲み込みこんだ。
「おお、なんかトイレに行きたくなった」
たいせーはつまらない言い訳で話をごまかす。
「ほな、圭織ちゃん、梨華ちゃん」
「・・・・・」
「圭織ちゃん、眼鏡が似合っていたのになぁ」
去り際にそんなことをブツブツもらし、名残惜しそうに去って行った。
梨華はたいせーの背中を睨みつけた後、紗耶香の方を向いた。
「市井さん、ありがとうございました」
「いや、大丈夫だった?」
「はい・・・」
梨華の言葉に続いて圭織が黙って頷く。
圭織がうなずいた後、身体をソワソワし始めた。
「あの・・・私は真里様の所に行かなくては」
「そうですか。あの一緒に行きますか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
紗耶香と梨華にお辞儀をし、圭織は去って行った。
「私も行きます」
「おう、気をつけろよ」
「はい」
梨華も向こうの方に歩いて行った。
154 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時09分00秒
「さて、あの二人を探さないと・・・・」
紗耶香は手っ取り早く、近くの部屋から探すことにした。
最初にロッキングチェアーの部屋のドアを開ける。
ギィーーー
部屋の中には圭織が1人でただずんていた。
「あれ、矢口は?」
「考えたい事があると、地下に行かれました・・・私はここで待ってる様にと」
「そうですか」
紗耶香は圭織に、今までのいきさつを話した。
「え〜と、実は今まで言いそびれていたんですが、大事な話があるんです。
ガレージのシャッターが閉められていた・・・・っていう話の続きなんですが」
「・・・・・」
「いつのまにか閉まっていたのは、シャッターだけじゃないんです。
廊下にあったドアや、市井が気絶して寝かされた部屋にもなぜか鍵がかけられていて」
「そんな、一体誰が・・・?」
「わかりません。ここの住人がいるのか、誰かが勝手にやっているのか。
しかも、最近行方不明になったと言われている郵便局員の死体がこの屋敷から見つかったんです」
155 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時09分54秒
「ええっ!!・・・・・そんな、見間違いじゃないんですか?」
「本当です。しかも死体には、誰かに殺されたような傷がついていました」
「し・・・信じられません」
「もし、今後、何かあったら知らせてほしいんです」
「は、はいわかりました」
紗耶香は何となく疑問に思っていたことを尋ねた。
「矢口は訛りが入ってませんが、飯田さんは少しありますよね」
圭織は、少しくらい表情を見せて言った。
「私の出身は東京ではありませんので・・・」
「じゃあドコなんですか?」
「あっ、そういえばここで不思議なもの見つけたんです」
圭織は話をはぐらかし、紗耶香の隣にきて、テーブルの上を指差した。
(なんか話をはぐらかされたような気がする・・・)
「なんですか?」
「パズルです。
上に何か書かれているような気がするんですが・・・」
紗耶香はテーブルの上を見た。
(15パズル・・・。ん?パズルの上に鍵がついてる)
156 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時12分38秒
「飯田さん、この鍵は?」
「さあ・・・」
「なんかパズルの上に書いてあるんすけど・・・」
「真里様と私が来た時にはテーブルの上に置いてありましたので・・・」
「ふーん」
紗耶香は壁に描かれている絵画どパズルを見合わせ、何を思ったかパズルを逆さまにしてピースをテーブルの上にバラした。
「!?」
「いちいちスライドさせてパズルを作るのも時間が掛かりますし、
こうした方が時間短縮になると思って。
それに、このパズルの絵と壁に掛かってる絵が同じみたいなので、見ながらやれば2〜3分で終わりますから」
紗耶香は絵画とパズルを見比べながらパズルを組み合わせていく。
「ほいっと♪え〜と『ロッカー』か・・・・ロッカーねぇ」
紗耶香は鍵をポケットに閉まった。
ふと視線を感じた紗耶香は圭織を見た。
(この人大人しいよなぁ。大人しい人って人と接する時、損するんだよなぁ・・・
後藤も大人しいけど、この人は後藤より大人しいかも・・・)
「あの、どうされたんですか?」
ボーと紗耶香は圭織を見ていたので、どうしたんだろうと話しかけた圭織。
157 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時14分19秒
「あ、いえ何でもありません。ところで飯田さんちょっと聞いていいですか?」
「なんですか?」
「さっきの事なんですけど、どうしてたいせーさんに絡まれても大人しくしていたんですか?
石川は飯田さんがたいせーさんに触られたと言って怒ってたけど。
嫌じゃなかったんですか?」
「たいせーさんには背中を撫でられただけでしたので、黙っていてもそれ以上の事はされないと思っていました。
あの人は人をからかうような事をいいますが、相手の反応を楽しんでいるように見えましたので・・・。
だから黙っているのが良いかと思いました。
私は・・・人が何言おうと気にしませんから」
「気にしないなんて本当っすか?
何か凄い事を聞いているような気が・・・」
「人は口だけでもなんとでも言えますから、だから言葉には重みみたいなのを感じられないんです。
誰かと話す時はいつも言葉の裏にある気持ちを考えてしまって・・・・こんなふうになったのはいつ頃なのかは覚えてません。
でも、真里様は別です。
あの人の言う事は心で思っている事そのままなんです」
158 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時14分56秒
「プッ・・・・た確かに。矢口はストレートみたいだし」
紗耶香は圭織が言っていた事が的を得ていたので笑ってしまった。
「す、すみません。笑っちゃダメですよね。
でも、世の中捨てたモンじゃないですよ。矢口の他にもストレートな人いますよ絶対」
圭織は何も答えず優しい微笑を浮かべている。
「それじゃ、市井は行きますので。そうだ、矢口に会ったら圭織さんのトコにいる様に言っときます」
「はい」
紗耶香は部屋を出た。
「とりあえず、地下に行ってみっか」
紗耶香は地下に行く為に大階段に向かった。

159 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時15分26秒
カツン・・・
「ん、洗車場から音が聞こえたぞ」
紗耶香は洗車場のドアを開けた。
空けた瞬間、中にいた人は紗耶香の顔を見た。その人物は真里だった。
「なに?」
「なにって、随分ご機嫌斜めじゃん?」
「機嫌も悪くなるよ。シャッターも鍵が掛かって出られないし・・・・」
「そりゃそうだ・・・。あのさ、圭織さんにも言ったけど聞いてくれないか?」
「な、なによ」
「この屋敷のロッカーから行方不明者の死体が出てきたんだ」
「は!?」
「この町の郵便局員なんだ。最近ニュースでも放送されている」
「あ・・・」
ニュースを見て知っていたのだろうか、真里の身体が震え始めた。
「ばーか!あたしがそんなの信じると思ってんの?」
「はい!?」
「人のこと脅かすなんて悪い趣味してる!」
「驚かすなんて、この話しマジだってば!」
「人の生き死にを冗談にするなんて最低!」
真里に言われて紗耶香はカチーンときた。
160 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年04月02日(水)01時16分46秒
「んだと!こっちだってそんな事冗談で言わないぞ!」
「最低!最低!最低!!」
「いい加減な事を言うな!このチビ!!」
紗耶香が真里に向かって怒鳴った。真里は怒りを抑えながら水道の所まで歩いて行った。
「チビだって・・・・人の気にしている事いうヤツはこうしてやる!!」
真里は水道に付いているホースを紗耶香に向け、蛇口を捻った。
水が勢いよく、紗耶香に向かってきた。
「げっ!なにすんだよ!!」
紗耶香は水を避けながら真里に怒鳴った。
反対に真里は笑いながらホースを紗耶香に向けて笑っている。
「あたしに冗談言って、身長の事を言うからだよ!!」
バシャ!
「うわっ、冷て!」
避けそこなってしまい、足に水が掛かってしまった。
「これくらいにしといてあげるよ」
紗耶香に水が掛かったのを満足したのか、真里は洗車場を後にした。
「ちっきしょ、矢口のヤツ・・・」
紗耶香は濡れたジャージの裾を持って絞りながら呟いた。
161 名前:和尚 投稿日:2003年04月02日(水)01時17分46秒
隠します
162 名前:和尚 投稿日:2003年04月02日(水)01時18分21秒
もう一個
163 名前:和尚 投稿日:2003年04月02日(水)01時19分40秒
更にもう一個
164 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月17日(木)07時26分25秒
気にはなりません、全然イイです(^^)
楽しみに待ってますので、続き頑張ってください♪
165 名前:和尚 投稿日:2003年05月31日(土)03時49分50秒
>>164名無し読者様
大変お待たせしています。申し訳ありません。
進行の流れを書いたものがなくなってしまい捜してました。
結局見つかってませんが、放置はしません。
とりあえず、少量のストックがありますのでそれを出していこうと・・・

情けないのでochiでいきます。
166 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年05月31日(土)03時51分36秒
排水溝がつまっているのか真里が水を撒いた水が全然減らなかった。
「矢口のヤツ〜今度見かけたら絶対にガツンと言ってやる」
紗耶香はブツブツ言いながら洗車場を後にした。
167 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年05月31日(土)03時52分30秒
「足が冷たくて凍えそうだ」
濡れた裾をシッカリ絞ったつもりでも乾いたわけではないので、足元から寒さが入り込んでくる。
「ったく、靴までも濡れちゃったよ」
さすがに靴を濡れたまま歩きたくないので、靴をどうにかしたいと思っていた。
「濡れた靴の中を乾かすには丸めた新聞紙を入れるといいと、みのさんが言ってたっけ?どうにかしたいなー」
腕を組んで考え始めた。
「そうだ、あの部屋にシーツがあったはずだからそれを使おっと。新聞じゃないけど代用できるだろ」
紗耶香はロッキングチェアーの部屋へ向かった。

168 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年05月31日(土)03時53分57秒
ガチャ・・・・
「あ、こんなトコにいた!・・・・矢口どうした?」
紗耶香は部屋の中にいた渋い顔をした真里に問い掛けた。
「あかずの間だって・・・なんなのこの家は?」
「それ?ああ吉澤が書いたんだよ」
「吉澤って?」
「矢口よりか背がうんと高くて、男っぽいんだけど女の子に絶大の人気がある・・・この屋敷に来ているコだよ」
「あの子がやったの?子供っぽいコだな〜」
(子供っぽいコって言ったら矢口だって・・・・)
「今なんか考えたでしょ?」
真里に言われてドキっとする紗耶香。
「えっ、何も考えてないよ」
慌てて返事するが、紗耶香が何を考えていたのは一目瞭然に真里には判ってしまった。
「何か・・・・ムカツク」
「・・・・・・・」
「気分悪い」
真里は部屋を出ようとした。
169 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年05月31日(土)03時55分00秒
「ちょっと待てよ。1人で歩くのは危ないからさ、誰かと一緒にいた方がいいってば」
「また、さっきと同じ事言って」
「マジだって、実際にうちらココに閉じ込められているじゃん。
これって、何か目的があってこうしているワケだろ?だから絶対危なくないと言い切れないぞ」
「う・・・・・ん」
紗耶香の言葉に真里は部屋から出ようかどうか躊躇し始めた。
「それにここにいた飯田さんがいないけど、捜しに行くんだろ?見つかるまで一緒にいるからさ」
「見つかるまでだかんね」
心なしかホッとしたような感じて真里は部屋を出ようとした。

カサ

「ん、何だコレ?」
真里の制服のポケットから紙片が落ちたので紗耶香が拾った。
「落としたぞ」
「あっ、ありがと」
紗耶香から紙を受け取る真里。
「何か書いてあるの?」
「コレ?」
真里はう〜んと考えている。
170 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年05月31日(土)03時55分56秒
「この紙さっき拾ったんだけど、なんだろうなぁ〜と思って」
「ちょっと見せてよ」
真里から紙を受け取り見てみる
『応接間に行け』
「なんだこりゃ?」
「これし書いてないんだモノ。考えちゃってさ〜」
「考える前に応接間に行ってみればいいじゃん」
真里に紙を渡しながら紗耶香は言った。
「そりゃそうだけど・・・・」
「フーン・・・・」
「な、何だよお〜・・・」
紗耶香は含み笑いしながら真里を見た。
「怖いんだろ?」
「な、何言ってんの!あ、あたしに怖いモノなんてあるワケ・・・!」
真里は虚勢を張って言っているが、紗耶香にはバレバレであった。
「1人だと危ないから応接間にも付き合ってやるよ」
「・・・・ありがとう」
紗耶香と真里は部屋を出て行った。

171 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年05月31日(土)03時56分51秒
「広い応接間だなぁ」
ドアを開けた瞬間、溜息の様に出てしまった。
大きいソファが3つコの字型に置かれ、置くには柱時計、右奥には暖房、反対に左奥には暖炉があった。
「そう?ウチの家よか狭いけど」
平然と言う真里に紗耶香は目が点になってしまった。
(ひゃ〜金持ちは言う事が違うよ・・・でもこの部屋、暖房があって暖炉があるなんて変なの。
でも、暖炉がある部屋ってこういうモノなのか?・・・)
「あ、そういえば!」
「な、なんだよ突然!?」
ボーっとしていた紗耶香に真里は思い出したように声を上げた。
「あんたと会う前に圭織と一緒にココに居たんだけど、その時変なモノ見たんだ」
「変なモノって?」
「ちょっとこっち来てよ」
真里に連れてこられ、紗耶香は暖房の前に来た。
「暖房のじゃん。この暖房が変なモノなん?」
「コレを見てよ」
真里は暖房の右上にあるパネルをパカッと開いた。
暖房の温度調節みたいだが、上に黒いマスの様なものが有り、その下は横3列、縦5列に並んでいる1〜15までの数字のボタン、
下にはENTERのボタン。そして右側に赤い字で25℃、そしてその下に小さいマスが2つあった。
172 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年05月31日(土)03時58分10秒
「この25℃の数字が気になるんだよねー」
「ふーん・・・」
紗耶香はピッポッパと押し始めた。
(ボタンを押すと上の黒いマスに数字が出るのか。
4つ押した後にENTERのボタンは押すんだろうな・・・ん〜4つ・・・4つで25、4つで25・・・・)
紗耶香は考えながらボタンを押し続けている。
何気にフト真里を見た。真里は考えている様な素振りを見せる。
(やっぱ、圭織さんがいないから心配なんだろな。いつも一緒にいる様な感じだったし・・・あれ?)
紗耶香はパネルを見て驚いた。
1〜15までの数字のボタンの内、4、5、11、12を無意識に押したのだが、それが数字の2になっていたのだ。
(なるほど・・・ただ数字を作るんじゃなくて、消去法で数字を作るのね)
紗耶香はENTERのボタンを押した。
カチッと音がしたと同時に小さい2つのマスの左側が緑色に光った。
紗耶香はニヤリと笑うと先程と同じ様に5、6、10、11のボタンを押して数字の5を作り、ENTERのボタンを押した。
カチッと音が鳴り、更に暖房器具のフタが開き中から何かが転げ落ちた。
173 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年05月31日(土)03時59分03秒
「なにか転がったよ」
真里が素早くしゃがんで手を伸ばした。
しかし掴みそこない、その『なにか』はコロコロと転がって行った。
真里は思わず四つんばいで追いかける。
「随分転が・・・・・!?」
紗耶香は目が点になってしまっている。
それもそのはず、真里が四つんばいで『なにか』を追い掛けているが、その真里後ろ姿が紗耶香から丸見えなのだ。
丸見えという事は・・・・そう真里の下着姿が丸見えなのだ。
「ピンク・・・」
紗耶香の言葉でビクッと真里の身体が硬直した。
真里は立ち上がって、スタスタと歩いて『何か』を拾った。
そして『何か』を持って紗耶香の側に近づいた。
「はい♪」
「サンキュ・・・・・いてぇぇぇぇぇぇ!!」
紗耶香に『何か』を渡した瞬間、真里は紗耶香の足を踏んだのだった。
174 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)09時02分32秒
hozemu
175 名前:和尚 投稿日:2003年06月26日(木)19時34分23秒
174>>名無しさん様
hozemu ありがとうございます。
やっと更新できる量になりましたので更新します。
176 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時37分19秒
「なにすんだよ!」
「下着見るなんて最低!」
「んなモノ、見たくて見たんじゃないわい!お前が見せてんじゃん!!」
「最低!最低!!最低!!!」
「確かに見たのは悪かった!足を踏む理由もわかる!!
だけどな人を『最低』とか決め付けんな!」
「最低なヤツを最低と言ってどこが悪い!」
「てめーその傲慢な態度とってると、後で痛い目に合うぞ!」
「傲慢…?」
「意味も知らねーのか!?そん位知っとかないと高校卒業できねーぞ!」
 紗耶香に言われ怒ったのか、真里は無言のまま応接間から出て行った。
「ったく、なんなんだアイツは!」
 紗耶香も怒りながらジタバタしていた。
177 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時39分29秒
ジタバタしてスッキリしたのか紗耶香はふと考えた。
(やっぱ、こーゆーのは黙っといた方が良かったのかも…。
市井スグ思った事を言っちゃうからなぁ〜。それで後藤にも怒られた事あったっけ)
紗耶香は『何か』で頭を掻きながら思った。
ちなみに『何か』とはプラスドライバーであった。
「矢口に謝ろう!」
紗耶香はドライバーを上着のポケットに入れ、真里の後を追って応接間を出た。

178 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時41分41秒
「矢口、ドコに行ったんだ?」
キョロキョロしながら真里を捜す紗耶香。
「おっ、いた!」
階段の踊り場でウロウロしている真里を見つけた。
「矢口!」
「!?……何だアンタか…」
紗耶香の顔を見た真里はとたんに不機嫌の顔になった。
そんなことは構わずに紗耶香は真里の前に行った。
「な、何よ…」
「さっきはゴメン!良く考えたら市井が悪かった!!」
「えっ…?」
「あーゆー時は見ないのが当然なのに市井の配慮が足らなかった。
本当にゴメンなさい!!」
ガバッと頭を下げる紗耶香に真里は笑ってしまった。
「もういいよ…」
「でも!」
「矢口が言ってんだから良いの。市井さん」
「紗耶香でいいよ」
「わかった。ねっ、紗耶香って学校でモテるでしょ?」
真里は笑いながら紗耶香に聞いた。
179 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時42分39秒
「そんなん分かんないよ。自分じゃ考えたことないし……」
「絶対にモテると矢口は思ったネ!」
紗耶香は自分では思っていなかったが、紗耶香の性格、ルックス、
そして『全国大会三連覇』という肩書きがあり、全校生徒から人気があったのだ。
「そんな事より、飯田さんが心配しているから飯田さんのトコへ行った方がいいよ」
「圭織のトコ?」
「あのね…」



紗耶香は圭織に話した事を真里も伝えた。そして真里は顔を強張らせた。
「ホントなの?」
「ああ、市井も確認した。だから1人だと危ないから飯田さんと一緒に居た方が良いよ」
「そうだね…圭織と一緒に居るよ。それで紗耶香悪いんだけど……」
「いいよ。飯田さんのトコまで送っていくよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
紗耶香は真里を圭織がいるロッキングチェアーのある部屋まで送って行った。
圭織は深々と頭を下げ、紗耶香にお礼を言うと真里と一緒に部屋に入った。

180 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時44分55秒
「さ、調べられる部屋は全部調べたし、これからどうしようかな〜」
紗耶香は腕を組みながら洗車場の前まで歩いてきた。
すると洗車場の中からボソボソと話し声が聞こえてきた。

後藤さんの趣味はピアノなんだ。いい家庭でそだてられたんやね

「つんくさん?後藤と話しているのか?」

ご両親は優しい?…きっとかなり可愛がられているんやろうね
可愛がられているというかどうなんでしょう……?
どうって?
母はそうでもないですけど、父は教育に関しては厳しいですね
それは後藤さんの為やとオレは思うで
そうですか?
尚更、無事に帰らんとな。ご両親は絶対に心配しとるよ

(なんかいい雰囲気だな)
思った瞬間に紗耶香の胸がズキッと痛み出した。
(何で胸が痛くなるんだ!?)
胸に手を当て痛みの理由を考える紗耶香。しかし、何度も考えても理由が見つからない……。
181 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時47分42秒
ガチャ…
「あっ、いちーちゃん」
部屋から裕子と真希が出てきた。
(先生も一緒だったんだ…)
裕子も一緒にいたのでホッとしている紗耶香。
(ん!?なんで市井ホッとしてんだ??)
紗耶香は眉間にシワを寄せながら考えている。
「いちーちゃん、どうしたの?」
真希に言われ紗耶香はハッとした。
「なんでもないよ。それよか気分は大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「そうか……」
「何度も言ってるけど、2人の世界作ってるで」
裕子は茶化す様に紗耶香に言った。紗耶香は慌てて叫んだ。
「先生!」
「スマン、スマン。ところでそっちはどうや?」
「今のトコは何の進展もありません」
「そうか、こっちもや……。焦ったら出られるものも出られへん、冷静に尚且つ迅速に行動しようや」
「はい」
「よし、後藤行くで」
「はい。いちーちゃん後で」
真希は紗耶香に言うと裕子の後を歩いて行った。
ガチャ…
2人の後を見ているとつんくが洗車場から出てきた。
つんくは紗耶香に何も言わず、そのまま大階段の方へ歩いて行った。
182 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時49分15秒
応接間にいた梨華とひとみはソファに座っていた。
「全部のドアに鍵が掛かってて開かないね……」
梨華は憔悴した面持ちでひとみに言った。
鍵が掛かっていないドアもあったのだが、そのドアを開けても行き止まりというのが殆どだった。
「ホラ先輩、そんな顔しないで絶対出られると思わないと…」
「一生懸命捜したよ!でも捜しても、捜しても見つからなかった!」
梨華はひとみに向かって怒鳴った。そんな梨華をひとみは守る様に抱きしめた。
「よっすぃー!?」
ひとみに抱きしめられている梨華の顔は赤くなってしまった。
「先輩…焦らないで…。絶対出られますから…」
「よっすぃー……」
「一緒に力をあわせて頑張りましょう」
ひとみは笑顔で梨華に言った。
「よっすぃーって不思議な人」
「えっ、何でですか?」
「よっすぃーの笑顔を見ると安心する…」
「そうですかぁ♪」
ひとみは嬉しそうに返事をした。
183 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時50分41秒
「あっ、そうだ♪」
「どうしたの?」
「ホラ、今日の昼間に雑貨屋に寄ったでしょ。そん時に吉澤コレを買ったんです」
ひとみは上着のポケットから小さい紙袋を取り出した。
「先輩に似合うだろうと思って…。コレ付けてくれませんか?」
「何買ったの?」
「まぁ、開けてみて下さいよ」
ひとみは梨華に紙袋を渡した。梨華は紙袋の中から『コレ』を取り出した。
「可愛い…」
『コレ』とはピンクのリボンであった。
「わたしにくれるの?」
「先輩の為に買ったんですよ」
ひとみは笑って言った。
「ありがとう早速付けてみるね」
梨華はおろしてある髪を1つに束ねて上にあげ、ピンクのリボンで結わいた。
そして、飛び出している短い毛を持っていたヘアピンでさした。
ガチャ……
突然応接間のドアが開いた。
184 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時52分11秒
「あれ…石川と吉澤だったんか」
「市井さん、どうしたんですか?」
「前の廊下歩いていたから話し声が聞こえたから誰だろうと思って覗いてみたんだ」
「そうだったんですか」
「ところで石川、髪形変えてどうしたん?」
「えっ?」
「ポニーテールにしてるじゃん」
「よっすぃーがリボンプレゼントしてくれたんですよ」
梨華は嬉しそうに紗耶香に言った。
「へー……。でもさ、旅行に来てんだからリボンを買うのはどうかなぁ…」
「いいじゃないですか!先輩に似合うと思ってかったんですから!!似合いませんか!!!」
怒鳴っていたひとみを紗耶香は手で制した。
「コラ、そこまで言ってない。吉澤が石川の為に買ったんだから似合わないわけないだろう?」
紗耶香はニヤリと笑って梨華を見た。
185 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時53分09秒
「……………」
梨華は頬を赤くして口元を押さえた。
それを知らないひとみは胸を張って紗耶香に言った。
「当然です!」
ダッ!
バタン!!
ひとみがそう言った瞬間に梨華は応接間から出て行ってしまった。
「何で!?」
ひとみは呆然となっていた。
「テレたんだろうよ……。そんな事より彼女を1人になすんなよ危ないぞ」
「そうだった!市井さん失礼します!!」
ひとみは挨拶するとスグに部屋を出て行った。
バタバタバタバタ……!
「まったく、早くくっついちゃえばいいのに……」
2人を見た紗耶香は苦笑しながら言った。
186 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時54分05秒
バタバタバタ!
梨華は応接間から一気に大階段を下りて地下へ行く。
そして右側から2番目の部屋、ボイラーのある部屋に入った。
ゴオオオオオオオーーという大きな音が部屋全体に響き渡る。
梨華は息を整えながら先程の紗耶香とひとみの会話を思い出していた。
【〜吉澤が石川の為に買ったんだから似合わないわけないだろう?】
【当然です!】
(よっすぃーが私の為に買ってくれた……お世話になっているから買ってくれたと思うけど……
でも嬉しいな…)
微笑みながらリボンをさわる…それだけでも梨華の心は十分に満たされた。
そして、落ち着いてきたのか部屋を出ようとした。
「なにかしら?」
梨華はドアの奥に鈍く光るモノを見つけた。手にとって見るとそれは小さな鍵であった。
「普通のドアの鍵とは違うわ。何かに使えるかもしれないわね」
梨華は鍵をポケットに入れた。
「よっすぃーが心配してるわね」
梨華は部屋を出た。
187 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時55分18秒
地下は静まり返っている。
梨華は大階段に向かって歩き始めた。
(シーンとして怖い……早くよっすぃーの所に戻ろう…)
カツン…カツン…カツン…
バタン…
(えっ!?)
歩いていた梨華の動きが止まった。後ろからドアが閉まる音がしたのだ。
シーン……
後ろに誰かがいるはずなのに歩く音がしない。梨華は恐々と声を出した。
「よっすぃー?」
梨華が呼びかけても返事は返ってこない。変りに足音が聞こえてきた。
カツン…カツン…
梨華は怖くなりその場から走り出した。
188 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時56分50秒
タッタタタタタ……
そして目の前にあった部屋に飛び込んだ。
目の前に水たまりが広がる。梨華が飛び込んだ部屋は洗車場だった。
梨華はそのまま奥の部屋に走りこんだ。
まわって壁に背中を付けた瞬間、梨華はガコンとバランスを崩した。
「キャッ!」
梨華はバランスを崩した拍子に座ってしまった。
「何!?」
ガタガタガタ!
足を動かそうと左足を動かす梨華。しかし左足は溝にハマってしまって動かない。
「ど…どうしよう…」
梨華の身体がブルブルと震え、目に涙が浮かべている。
「こ、怖い…」
人間は恐怖でいろんな事を考えてしまう…。
そう、例えばこんな時に人殺しの人が来たらどうしようとか…。
ギィー……
(ヒ!?)
ドアを開ける音がしたので梨華は驚いてしまった。
(一体誰?よっすぃーだったら一声かけるハズなのに……)
189 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年06月26日(木)19時58分19秒
コツン…コツン…
足音が洗車場を回っている。梨華は声を立てない様に手を口元に当てた。
(こないで…こないでよ!)
梨華は懸命に祈った。しかし祈りは届かなかったのだろうか?
ガチャ…と再びドアを開ける音がしたのだ。
(…………!?)
梨華は声にならない悲鳴を上げた。身体の震えも先程から止まらない。
………………
話し声がボソボソと聞こえてくる。
(誰なんだろう…もしかしたら犯人は2人なのかしら…)
梨華はいろんな事を考えていた。
するとツン、コツンと1人分の足音が聞こえ、そしてバタンとドアの閉まる音。
(1人出て行った…でも、あと1人いる…。その1人がココに来たら…)
梨華は息を潜め、少しでも動かないようにとピッタリと両膝に顔をつけた。
コツン…コツン…
(こっちに来る!?イヤッ来ないで!!)
しかし、願っていても足音は確実に梨華の所へ向かっている……。
コツン…コツン…コツン…
(よっすぃー助けて!!)
190 名前:和尚 投稿日:2003年06月26日(木)19時59分30秒
更新終了
191 名前:マーチ。 投稿日:2003年06月27日(金)06時20分49秒
お〜、いいところで!気になる〜
市井ちゃんのごまに対する気持ちも気になる〜
がんばってください!
192 名前:和尚 投稿日:2003年07月02日(水)12時43分54秒
レスです
マーチ。様
ちょっと狙って気になる所で切ってみました(笑)
レスがあると気合が入りますね。
これからもよろしくお願いします。
193 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時45分05秒
「誰かいるの?」
と言いながら顔を出した人物は紗耶香だった。
「市井さぁ〜ん」
梨華は紗耶香の顔を見てヘナヘナと力が抜けてしまった。
「石川、ここにいたのか。吉澤が心配して走り回っているぞ」
紗耶香は座っている梨華の前に手を差し出した。
「ホラッ立てよ。吉澤のトコまで送ってやるから」
「立てません…」
「何で?」
「溝に足が挟まって抜けないんです」
「ありゃ!」
梨華が言われ紗耶香はようやく気が付いた。
足首まで挟まっていて、足が動かせない状態であったのを・・・・
194 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時46分59秒
「う〜ん、助けを呼んで来ようか?」
「イヤです〜。一人にしないで下さい〜」
梨華は涙をためて紗耶香を見ている。
それはそうであろう。あんな怖い事は二度と味わいたくないのだから……。
「しょうがねーなー。市井がどうにかして外してみっから」
「ありがとうございます!」
紗耶香は挟んである梨華の足を見てみる。
「格子にスッカリ嵌ってるな…。
無理に動かすのはヤバイから、格子を固定してあるネジを外した方がいいな」
紗耶香は屈んで試しに手でネジを回してみる。
ギチギチ固く、ネジは回らない。
「市井さん…回らないに決まっているじゃないですか…」
「その位分かってるよ。ただやりたかっただけ」
「市井さん……」
「まーまー」
紗耶香は立ち上がりキョロキョロと辺りを見渡した。
195 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時48分27秒
「何でキョロキョロしてるんですか?」
「ん〜?この部屋始めて来たからさ、どんなのがあるんだろうと思って」
洗車場の奥には重そうな木箱がドカッと積んであり、
英語の印字が印刷されたダンボールが部屋の両脇に2つずつ積んであった。
その手前に油の臭いがする空のタンクが2つ、
そして梨華の右隣に中型の変形したダンボール、その隣に埃の被ったタイヤが置いてあった。
紗耶香がお気楽に部屋を物色しているのを見て不安が募る。
(市井さん大丈夫かしら…?
結局このままになって…もしかしたら私一生このままなんじゃないかしら!?)
梨華の考えは悪い方向にいっている。
「おっ、良いモノ見っけ♪」
紗耶香の言葉に梨華は俯いていた顔を上げた。
「それ…何ですか?」
「電動ドライバーだよ」
手にした電動ドライバーを梨華の足が嵌っている格子のネジにはめてみた。
「ピッタシ♪」
「あの…『ピッタシ♪』と言っても電動ですからコンセントを入れないと…
それにこの部屋にコンセントがないですよ」
「あるよ」
紗耶香のキッパリと言葉に驚く梨華。
「ど、どこにあるんですか!」
「それは分からない」
196 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時49分55秒
「………………」
「黙るなよ。石川の右斜め後ろに備え付けてあるのは多分…」
紗耶香は備え付けてあるモノの扉をパチッと開けた。
「やっぱり…」
「何ですか?」
「ヒューズボックスだよ。これがあるって事は電気が通ってる事だろ?
で、電気が通るって事は…?」
「事は?」
「この部屋にコンセントがあるって事!……ヒューズが1本切れてっけど」
紗耶香は苦笑しながら言った。
(やっぱり市井さんって頼りにならない!!)
梨華は涙をためながら思った。
「石川、頭に付けてるヘアピン1本くれる?」
紗耶香に言われ無言でヘアピンを渡した。
「サンキュ」
紗耶香はヘアピンをパチッと切れたヒューズに挟んだ。
そしてバチンっと切れてあったスイッチを入れる。
197 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時51分04秒
「これで電気が通ったはず」
紗耶香はキョロキョロと見渡すとタイヤの前に立った。
「ここが怪しい……ぐっ…重い…」
ズズ…ズズズ……と紗耶香はタイヤを少しずつ少しずつ動かし始めた。
思ったよりタイヤが汚れていたので、紗耶香の手にタイヤの跡が付いてしまった。
「ゲッ、汚れた」
と手をパンパンと叩く。そして紗耶香はタイヤがあった場所を覗いた。
そこには四角い箱が壁に設置してあり、その箱四方にはネジが止められている。
「このネジ山は+か…」
紗耶香は上着のポケットから+ドライバーを取り出しネジをゆるめた。
キュコキュコキュコ……
パカン
四角い箱の蓋を外した紗耶香はニヤリと笑った。
198 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時53分24秒
「ビンコ♪」
「えっ、どうしたんですか?」
「あったよ差込口が」
「ホントですか!」
そう四角い箱の中はコンセントの差込口だったのだ。
紗耶香は電動ドライバーのコンセントを差込口に入れ、スイッチを入れる。
ギュィィィィィィィ
電動ドライバーが動き出す。
「石川、これからネジを外すけど、振動で挟まっている足に響くと思うが我慢しろよ」
梨華はコクリと頷いた。
紗耶香は電動ドライバーを格子を止めているネジに嵌めた。
ギュィィィィィィン
「ッ!!」
振動で梨華の足に痛みが走った。
ガキンッ!
「外れた…今度は反対側…」
紗耶香は反対側に付いているネジも電動ドライバーを当てる。
ギュィィィィィィン
ガキンッ!
「あうっ!!」
格子が外れた衝撃で梨華は短い悲鳴を上げた。
199 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時54分55秒
「よし!外れた!!」
格子が外れた事を確認して、紗耶香は電動ドライバーのスイッチを切った。
靴下から血がうっすらと滲んでいるのが分かった。
「血が出てるな」
紗耶香は痛そうな顔して梨華の顔を見た。
「あっ、大丈夫ですよ……痛っ!」
梨華は立ち上がろうとしたが、痛みの為にフラついてしまった。
ガシッ
フラついた梨華の身体を支えた紗耶香。
「ゆっくり…ゆっくり立ってごらん」
「は、はい」
梨華はゆっくりと立ち上がった。
やはり足の痛みの為、梨華の顔が少し歪む。
「う〜ん…足を捻ったかもしれないな」
紗耶香は着ていた上着を脱いで木箱の上に敷くと梨華をその上に座らせた。
「足出して」
「……………」
「スカートの中覗かないから安心しろって!」
紗耶香は苦笑ながら言った。
そんな紗耶香に笑った梨華は靴下を脱いで足を出した。
200 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時56分20秒
「うひゃ〜」
紗耶香は痛そうな顔して梨華の足を見た。
梨華の足首は傷ついてうっすらと血が出ていたのであった。
「ちと触るから、痛かったら言えよ」
「はい」
紗耶香は梨華の足を触った。
「ここは?」
「大丈夫です」
「んじゃここは?」
「平気です」
「……ここ」
「痛っ!」
「フム……軽い捻挫だな。でも捻挫といってもバカに出来ないから……」
紗耶香は予め出してあった。紙袋の中から消毒液とバンドエイドを取り出した。
「市井さんの上着って、何でも入ってるんですね」
「オイオイ、ドラ○もんじゃないんだからさぁ〜。消毒すんぞ」
紗耶香は笑いながら傷ついた足に消毒液を吹きかけた。
「イタタタ!」
「え〜と、ハンカチハンカチ……」
「あのコレを」
「サンキュ」
梨華からポケットティッシュを受け取って、傷に触らない様に拭いた。
そしてその上にバンドエイドを貼った。
「シップもあるけど貼るかい?」
「イエ、動くと邪魔になるので…」
「そっか」
「市井さん……」
「ん?」
「ありがとうございました」
「気にすんなよ」
紗耶香は二カッと笑った。
201 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時57分57秒
(最初は市井さんを疑いの目で見てたけど、
市井さんがおどけて言うのは私を怖がらせない様にしてくれてたんだ……)
「石川?」
「えっ!?何でもありません!」
「だったらいいんだけど」
「そうだ!あの私こんな鍵を拾ったんですよ」
梨華は上着のポケットから拾った鍵を渡した。
「何かの役に立つかもしれないな。ありがとな」
「いえ、私の方がお礼を言うべきです」
「あの格子の事か?気にすんなってば。
石川にもしもの事があったら吉澤に殺されちゃうよ」
「何、言ってんですか!よっすぃーは私の事なんか……」
「そんな事ないよ。市井から見たら可能性あると思うぞ」
「そうですかぁ?」
弱々しく返事する梨華。
202 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)12時59分13秒
ガチャ
突然ドアの開ける音がした。ドアの開ける音で梨華は顔をあげる。
コツン…コツン…
足音が紗耶香達に向かってやって来る。
ザッ…
紗耶香達の前に現れた人物はハタケだった。
「チッ」
ハタケは紗耶香を見た瞬間に舌打ちをする。
そして直ぐに梨華を見ると呟く様に話しかけた。
「あ、足は大丈夫か?」
「は、はい」
「じ、自分で動かせるか?」
「なんとか…大丈夫です」
(何でこの人は私がケガした事を知っているのかしら?)
梨華は紗耶香の後ろにおずおずと隠れ始める。
「足を掴んで…グリグリと動かせるか?」
ハタケの迫力に梨華は頷く事しか出来ない。
「こっ、骨折だったら皮膚の色が変るからな」
「ありがとうございます…・あっ、あの詳しいですね」
「…………」
203 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)13時00分27秒
ガチャ
タッタタタ……
「こんなトコにいたんですか〜」
騒がしくやって来たのは……ひとみであった。
「いきなり走って行かないで下さいよ。心配しちゃいましたよ」
「ゴメンネ」
「あれ、足どうしたんですか?」
「ちょっと捻っちゃって……」
「え!!大丈夫なんですか!!!」
「うん、後で詳しく話すから」
梨華はひとみの側に寄った。
「市井さん、本当にありがとうございました」
「何度も言うとテレるからやめてくれ」
紗耶香は梨華の前に掌を出して制しながら言った。
「フフフ……よっすぃー行こう」
「は、はい」
「それでは失礼します」
「おう、また後でな」
梨華とひとみは洗車場を後にした。
204 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月02日(水)13時03分02秒
大階段を上がっている梨華とひとみ。
足を捻った為か、梨華は一段一段ゆっくりと上がっている。
そんな梨華を支えながら一緒にゆっくりと階段を上がるひとみ。
「足は大丈夫ですか?」
「ちょっと捻っただけだから歩くのには問題ないよ」
「だったら良いんですけど……それにしてもどうして足を?」
「あのね……」
梨華はボイラーの部屋で鍵を拾った事、謎の足音が聞こえて梨華は怖くて逃げた事、
洗車場の奥に逃げてしまい格子に足を挟んでしまった事、
紗耶香が格子を外して助けてくれた事などひとみに話した。
「……………」
「どうしたの?」
「何か悔しいなって思って」
「何で悔しいの?」
「先輩を助けたのが市井さんだったから……。ウチが先輩を助けたかった……」
「よっすぃー!?」
ひとみの言葉に梨華は驚きを隠せなかった。
その瞬間、紗耶香が梨華に言った言葉を思い出した。

≪市井から見たら可能性あると思うぞ≫

205 名前:和尚 投稿日:2003年07月02日(水)13時04分11秒
更新終了
206 名前:マーチ。 投稿日:2003年07月03日(木)21時21分09秒
お、いい雰囲気〜
それにしてもここのいちーちゃんは行動は大胆で、さりげなく
やさしさを見せて…かなりタイプです!
207 名前:和尚 投稿日:2003年07月10日(木)20時46分00秒
レスです
マーチ。様
いい雰囲気・・・嬉しいお言葉ありがとうございます。
サスペンスなので(自分では思ってます)
二人の間だけでもいい雰囲気にをモットーにしています。
いちーさんタイプですか(笑)
行動が大胆で弓道やっている人とは思えません(爆笑)
でもそんないちーさんにもこんな事があったのです・・・



208 名前:和尚 投稿日:2003年07月10日(木)20時47分07秒
ピィーン……パチッ、ピィーン……パチッ
紗耶香は梨華からもらった小さい鍵を指で弾きながら応接間に向かって歩いていた。
「この鍵ドコのだろう?それが分かれば行動範囲が広がるのに……あれ?」
紗耶香は左側のドアを見て立ち止まる。
「そういえば、市井このドアの鍵を開けたのにまだ入ってないなぁ……。
他の人はこのドア開けたのかな?市井が鍵を開けてから時間は経ってるし…。
他の人が入ってたら何か言うハズだし…」
考えてもキリがないので紗耶香はドアを開けることにした。
209 名前:和尚 投稿日:2003年07月10日(木)20時49分28秒
ガチャ……
ドアを開けると左側にドアが2つ、
奥は鉄格子みたいなのがあり、その先へは行けないようになってた。
紗耶香は手前にあるドアを手に取った。
「開ける時ってドキドキするよなぁ、特にどんな部屋か分からない場合は……」
ガチャ
慎重にドアを開けた。
部屋の中は机の上にパソコン、本棚があり、奥にはベットが置いてあった。
本棚には心理学講座、無意識の心理図、心理の構造…と心理関係に関する本ばかり並んでいた。
紗耶香は机の前に行き、指で机を触ってみた。
「埃が付着してない……。という事はここの部屋は頻繁に使用している事になるな」
頭を掻きながら紗耶香は考える。
パソコンの脇には医療関係の事件や裁判を扱った本が開かれてあった。
210 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月10日(木)20時50分36秒
「何でこんな本が……ん?このパソコン使えるかな?」
紗耶香はパソコンの電源を入れた。
「ありゃ、全然分からない画面だ……ん、なんだこれ『削除されたデータを復活』……?
え〜と『削除されたデータのうち、ハードディスク上に残っているものは復活させる事が出来ます。
既に上書きされていた場合はその断片を拾って……』まっ、とにかくやってみっか」
読むのに飽きた紗耶香は項目にしたがって削除されたデータを復活させた。
暫く待ってみると画面に新聞記事が現れた。
病院火災、患者重体、駅前にある○△□病院の火事について書かれたものだった。
「○△□病院…!?あの部屋にあった薬袋に書いてあった病院名も○△□病院だ……。
この屋敷に住んでいた誰かがこの病院に通っていたとしたらこーゆー記事は見逃せないハズ」
ここ最近ニュースで病院の不正、誤診等が騒がれている世の中、
病院に通っている人達は気が気でないだろうと母と話し合ったのを紗耶香は思い出した。
211 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月10日(木)20時51分59秒
そして、不意にたいせーの言葉を思い出す。
【ここの病院は経営がかなり悪化しているらしんや。
         あまり知られていないことやが、いろんな悪い噂もある。
                       病気になってもここへは行かん方がええかもしれん】
紗耶香はたいせーの話を消す様に頭を振ってパソコン画面をじっと見つめた。
「病院火災、患者重体、入院中の少女行方不明、負傷者多数で疑惑の声も上がっている…か。
たいせーの話を鵜呑みするわけじゃないけど、この病院はやばいかもしれないな」
その後、カタカタとパソコンを操作してみるが他にめぼしい情報は入ってなかった。
紗耶香はパソコンのスイッチを切った。
「ヤバイモノを見ちゃったかもしれない……」
紗耶香の中で何かが繋がりそうな感じがした。が、あえてしないようにした。
嫌な考えが頭に付いてしまうと出来る事も出来なくなってしまうのを体験していたからであった。
212 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月10日(木)20時53分18秒
紗耶香は弓道を始めた中学時代から初心者にもかかわらず、
部内の中では群を抜いて的中率が良かった。
市の大会、県大会、全国大会とトントン拍子に出場してはいたものの、
全国大会では入賞はできない成績だった。
紗耶香は癖で競技中(この一本がもし当たらなかったら……)という考えをしてしまい、
その考えをした後で弓を引くと必ず的を外してしまうからであった。
大会終了後、塞ぎ込んでいた紗耶香に真希は話しかけた。
213 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月10日(木)20時55分15秒
【お疲れ様でした】
【……後藤】
【カッコよかったですよ】
【カッコよくないよ。中学最後なのにさ、また入賞できなかったよ】
【先輩……】
【市井さぁ他の人には言わなかったんだけど、
競技中に変な事考えちゃうんだよ。『当たらなかったらどうしよう』ってさ。
んで、その後で弓引くと外しちゃうんだ。しかも後一歩って時に必ず……】
【……先輩】
【あははは……バカだよな〜自分でプレッシャーかけちゃうなんてさ〜】
【先輩】
【ん?】
214 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月10日(木)20時56分17秒
【またこういう時があったら、今度は後藤の顔を思い出したらどうです?】
【へ?】
【後藤の顔を思い出せばプレッシャーなんて忘れちゃう……かなと思ったんですけど、
後藤、変な事言いました!ごめんなさい!忘れてください!!】
【……後藤】
【は、はい】
【励ましてくれてありがとな。元気出たよ】
それ以来、紗耶香は競技中には真希の顔を思い出す様にし、
その結果全国大会三連覇という偉業を成し遂げたのだった。
でもこれは紗耶香だけの秘密……。
215 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月10日(木)20時57分17秒
紗耶香はパソコンのある部屋を出て隣の部屋の前に立った。
ドアには木で作られたクマのプレートが飾ってあった。
「当然の様に鍵は掛かっているっと……。プレートの文字は擦れていて読めないな。
まぁ、クマのプレートなんて女の子の部屋だと思うけど……」
紗耶香は奥に見えていた鉄格子に向かって歩いて行った。
216 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月10日(木)20時58分48秒
「これってエレベーターか?」
紗耶香が鉄格子だと思ったのはエレベーターのアコーディオンカーテンだったのだ。
「すげーなー!この屋敷が広いからって、エレベーターがあるのは始めて見たぞ」
取り合えず、ボタンを押して扉を開けようとした。
カチ……カチカチカチカチ
「んだよ、扉は手動かよ!?」
紗耶香は手で扉を開けようとした。扉に手をかけた瞬間に右側に赤く光っているランプに目に付いた。
「停止の位置に赤いランプが光ってる……って事は動かないのか?
でも上に鍵穴があるな…これに合う鍵があればエレベーターが使えるな。
案外この鍵がそうだったりして」
紗耶香は笑いながら梨華から渡された小さい鍵を鍵穴に刺し込んだ。
鍵はすんなり入って運転の位置に緑色のランプが付いた。
「驚いた入っちゃったよ!」
目が点になってしまった紗耶香。
「石川が持ってた鍵はこの鍵だったのか。これでエレベーターは使えるけどどうすっか……」
暫く考えても結果は1つしかなかった。
「やっぱ行くしかないだろ!」
紗耶香は扉を開けてエレベーターの中に入った。
217 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003年07月10日(木)21時00分07秒
グラグラ
「おお〜」
エレベーターに乗ると思ったより振動が走った。
扉の右側にB1、1、2階と示したボタンがあったので紗耶香は2階へ行くボタンを押した。
ゴォーーーー
チン♪
「着いたな」
紗耶香はエレベーターから降りようとした。
しかし紗耶香が降りようとした瞬間、奇妙な音が聞こえてきた。
ゴォーーーー
チン♪
「何だ〜!?」
突然押してもいないボタンが点灯した。しかしエレベーターが動く事は無かった。
そして、点灯していたボタンが消えた。
パチパチと紗耶香は1階のボタンを押してみる。
反応が無く、エレベーターは止まったままだった。
「どうしよう…
でも、エレベーターがあるって事はモーターがあるハズだから修理すれば大丈夫だと思うけど。
市井に修理できるかねぇ?
このまま立ち往生してると後藤が心配しそうだし……、
モーターを見て無理だったらつんくさんに直して貰おう」
思いながら紗耶香はエレベーターを降りた。
218 名前:和尚 投稿日:2003年07月10日(木)21時02分44秒
更新終了
219 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月14日(月)23時48分46秒
まだ謎が多いね
楽しみです
220 名前:マーチ。 投稿日:2003年07月15日(火)20時20分26秒
更新されてる〜
いちごまシーンがあってうれしい!
いちーちゃんを先輩って呼ぶのもいいですね。
221 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月20日(水)19時29分55秒
続き待ってるよー。
222 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/29(月) 02:07
今日一気に読んだんですけど、すごくおもしろいです!なんといっても市井さん達のキャラがいいですねぇ♪
続き待ってます☆
223 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/03(金) 06:50
まだ?
224 名前:和尚 投稿日:2003/10/12(日) 16:56
お久しぶりでございます。和尚です。
ストックが十分に出来ましたので、それを一気に更新したいと思います(え?)

まずはレス

名無しさん様
謎はまだまだ多いですよ。更新遅れましたが宜しかったらこれからもお願いします。

マーチ。様
更新がかなり遅れましてすみません。これからも遅れる事間違いないでしょう。
ごとーさんは・・・こんな状態です。

名無しさん様
おまたせしました。続きです。キリのいいトコまで大量更新です。

名無し読者様
一気に読んだんですか(苦笑)ありがとうございます。
一気に読むと「なんだこりゃ!」と思う事があると思いますが、笑って許してください。

名無し読者様
お待たせしました。ご覧下さい。
225 名前:和尚 投稿日:2003/10/12(日) 16:57
「………………」
「………………」
応接間で休んでいた梨華とひとみ。
お互いに気になっているのに会話は無かった。
「あれ?何だろう…・」
ひとみは棚の上に何かが置いてあるのを見つけて向かって歩き出した。
「よっすぃーどうしたの?」
「さっきここに来た時に無かったのに、棚の上にこんなのがあったんです」
ひとみは棚の上に置いてあった『モノ』を持って来た。
「これなんですけど……」
「鳥……?」
ひとみが梨華に見せたのは木で作ってある青い羽の鳥だった。
「何か書いてあるよ」
「ドコですか?」
「ホラここに…」
「なになに……バードカンパニー…1230?」
「こういうのって時計に出てきそうじゃない?」
「……思い出した!バードカンパニー!!」
ひとみが大声を出したので梨華はビクついてしまった。
「ど、どうしたの!?」
「いやぁ〜『バードカンパ二―』ってどっかで聞いた事あるなぁって思ってたんですが思い出しました!」
「凄いよっすぃー!で何なの『バードーカンパニー』って?」
「時計会社の名前なんですよ。
ウチのじいちゃんが時計が好きで、その中でも『バードカンパニー』のことを一番話してくれたんです」
「そうなんだ」
「はい、この青い羽の鳥は柱時計に付いているモノですよ」
「じゃあさっきはここに無かったのに何でここにあるのかしら?」
梨華の疑問にひとみは考え込んだ。
「先輩、この鳥の巣を探しませんか?」
「巣って…柱時計?」
「はい」
「そうだね……案外これがキッカケになってここから出られるかもしれないね」
「先輩行きましょう!」
ひとみは梨華の手を繋いで応接間から出て行った。
ひとみに繋がれた瞬間、梨華は嬉しさとドキドキ胸がいっぱいだった。
226 名前:和尚 投稿日:2003/10/12(日) 16:59
その頃…
2階にいた紗耶香は周囲に気を配りながら壁伝いにそって慎重に歩いて行く。
1階と同様に壁伝いに電気が付いておりボンヤリと明るかった。
左側には部屋らしくドアがあった。
少し歩くと薄暗く存在している階段を見つけた。
「フウ……」
紗耶香はゆっくりと息を吐き階段を上がって行った。
227 名前:和尚 投稿日:2003/10/12(日) 17:00
「んだよ、行き止まりか!?……と思ったら奥に続いていた」
紗耶香は頭を掻きながら奥に向かって歩いて行った。
だが奥にはドアがあるだけだった。
そのドアは他のドアと違い使われていないように感じた。
カチャ……
ゆっくりとドアを開ける紗耶香が見たモノは…
部屋の奥で見たことのない女の子が俯いている姿だった。
窓から入ってくる月の光の中、女の子は淋しそうに子犬を抱いていた。
女の子は水色の薄い上着に青いパジャマという服装、髪はストレートでポニーテールをしていた。
(何でパジャマなんだ?今は冬だそ寒くないのか?
いや、その前にパジャマという事は彼女はここに住んでいるのか?
でも、ここは人は住んでいないハズだったし、彼女1人で住んでいるとは思えないし
だったら彼女は誘拐されてここに閉じ込められているのか?)
紗耶香は考えるだけ考えた。
しかし、当然のコトながら考えても判らないので、紗耶香は彼女…少女に話しかけるコトにした。
周辺を見回して人がいない事を確認する。
「あのー」
少女はビクッと驚き、不安な瞳で紗耶香をジッと見ていた
「突然話しかけてゴメンネ。え〜と市井紗耶香っていうんだけど……」
「………」
タッ!
「あっ!?待って……」
紗耶香はひき止めようとしたが少女は怯えた様に駆け出して部屋を出て行ってしまった。
「行っちゃったよ……」
228 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:01
人物紹介
彼女 ― 真冬なのにパジャマ姿で屋敷にいる不思議な少女。八重歯が少し見える。
     人見知り気味なのか話しかけると逃げて行ってしまう。
いつも子犬を抱いているので子犬には心を開いているらしい。
229 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:02
紗耶香はスグに追いかけて行こうとしたが、少女がいた部屋が気になりその部屋に入った。
カタン…
部屋の中は小さな洋服ダンス、イス、棚など置いてあって、隅には神を筒状に丸めたものが数本挿し
てあった。
紗耶香は人差し指をツーとイスになぞってみた。人差し指にそって跡が残る。
今まで調べてきた部屋と違いこの部屋は使われていないことが判った。
(物置みたいだな…だったら何か使えるモノがあるかもしれない)
紗耶香はゴソゴソと探し始めた。
探し始めて五分後……
探した結果、紗耶香が手にしたモノはペンチだった。
(力入れたら壊れそうな感じだけど無いよりマシか)
紗耶香はペンチを壊さない様に上着のポケットに入れた。
「いろんなモノポケットに入れてるから上着が重くなってきた」
少しヨロヨロして部屋を出て行った。
230 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:03
(エレベーターのモーターってどこにあるんだろう……)
紗耶香は階段を下りて2階の廊下を歩き始める。
すると目の前に先ほど部屋にいた少女が子犬を抱いて廊下で佇んでいた。
やはり彼女は寂しそうな表情をしている。
紗耶香は彼女に警戒心を出させない様に明るく話しかけた。
「あのさ、さっきは驚かせてゴメン……」
「……………」
タッ…
「あっ待って少し話を……」
タッタタタタタ…………
少女は怯えた様に走り去ってしまった。
「市井ってそんな怖い顔していたのか?」
紗耶香は自己嫌悪に陥ってしまった。
231 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:03
「これでも市井学校じゃ人気あるのに……」
ブツブツ言いながら紗耶香は階段を下りて右のドアを開けた。
「うわっ生臭い!」
思わず鼻を摘んでしまう紗耶香。
その部屋には事務用の机と小さい観葉植物それに水槽が二つあって、水槽の中にはテレビでしか
見たことがない魚が泳いでいた。
「この魚は…ピラニアだ。しかも臭いの元はこのピラニアかよ!」
思わずピラニアにビシッと突っ込んでしまう紗耶香。
気を取り直して部屋をザッと調べてみた。
「ん!?」
調べていく内に紗耶香はおかしい所に気が付いた。
「全体的に埃が被っているのに、餌が置いてあるこの棚だけ全然埃が無い。
というコトは誰かがピラニアに餌をあげている=この屋敷に犯人がいるっていうコトか!?」
嫌な考えを浮かべつつ紗耶香は更に部屋を調べた。
上段の机の引き出しに手を掛けた。が、引き出しが硬くて開けられない。
ガッ!
紗耶香は足を机に引っ掛けて思いっきり引き出しを開けた。
ガラッ!!
「ドワッ!」
カシャン
紗耶香は勢いあまってひっくり返ってしまった。
「イタタタタ」
頭を振りながら起き上がる。
引き出しの中は熱帯魚の餌と透明なケースが入ってあった。
「何だろ?」
紗耶香は透明なケースを手に取った。
ケースの中はコインが一枚入っていた。本物の金みたく色合いがとても綺麗に見えた。
「記念コインみたいだ……もらっとこ」
紗耶香はジャージのポケットに記念コインを入れた。
232 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:04
「後はここだけか」
紗耶香は溜息交じりで言った。
2階で行けるトコまで歩いたが、行けた場所は水槽のある部屋と狭い物置部屋だけで、
その他は鍵が掛かっていたりして行けなかったのだ。
ガチャ……
部屋は正面と左端に石膏像と布が掛かっているイーゼルと鹿の剥製、
キャンバスが数枚重ねて壁に立てかけてあった。
「!?」
紗耶香は思わず部屋中を見回した。
部屋に入った瞬間に何かの気配を感じたからだ。
「誰もいるわけないよな。市井がエレベーターで上った時に故障しちゃったんだし誰もいないハズ」
紗耶香は汗を拭いながら呟いた。そして右の壁にペダルが付いてるのを発見した。
調べてみると手で回すタイプのペダルだった。
見るとペダルに付いている菅は天井まで伸びていた。
「回してみるか……」
紗耶香はペダルを回し始めた。
ジコジコジコジコ……
「結構力入るな」
少しずつペダルが回る感触を確めながら紗耶香はペダルを回し続けた。
ガシャン!
ガガガガガガ!!!!
天井についていたのであろう扉が開き、中から梯子が下りてきた。
「おっし!距離的と位置的に近いし、もしかしたらモーターがあるかもしんないぞ」
紗耶香は梯子を上り始めた。
233 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:05
一歩一歩足を踏みしめるほどに梯子から発する足音が聞こえる。
途中、上の方にある通路が見えた。どうやら板張りの通路らしい。
梯子を上り紗耶香の目に飛び込んできたのは……壁だった。
上がったスグ左側にドアがあり、右側は置くに続く通路が見えた。
「行ってみっか」
2、3m歩いただけで行き止まりとなったが、右側に鉄のドアがあった。
今まで見た中でこの鉄のドアだけが異質な雰囲気を放っている。
当然の様にドアには鍵が掛かっており開けることは出来ない。
「鉄のドアに小窓が付いてる…監禁する為のモノ?」
小窓に付いている赤錆が血みたいな形になっていて紗耶香はそう感じたのだった。
「コレ開けたら中に人がいたりして」
トントン
軽くドアを叩く紗耶香。
…………
中から返事がない。小窓はこちら側から開けるコトが出来たので紗耶香は小窓を開けてみた。
キィ……
部屋の中は壊れかけたベット、脇に大きな箱、右側に丸い取っ手が付いた鎖が3本釣り下がっており、
その下には壊れかけている小さいイスがあった。
「やっぱ監禁部屋だ。誘拐した人をここに閉じ込めておくのかも……」
パタン
紗耶香は持っていた小窓を離してその場を離れた。
234 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:05
「さて、ラストはこの部屋だけど、
この部屋になかったら……鍵が付いてるドアを全部壊すしかないなぁ〜」
いろんな事がありすぎて大胆な言葉を言ってしまう紗耶香。
ガチャ、ガチャ
「んで、ドアが開かないっと」
紗耶香は屈んで鍵穴を調べた。普通の鍵穴と違い、−の線が1本あるだけだった。
(−ドライバーか何かがあれば開けられそうだ)
しかし、ドライバーはプラスしかない。
(そうだ♪)
紗耶香はジャージのポケットからコインを出した。
コインはピラニアがいる水槽の部屋から手に入れたモノ。
コインをドアの−に合わせる。ピッタリとはまり、コインを回して縦にした。
カチャ
鍵が開く音がした。
(鍵がコレだから外からでも閉められるようにしたんだな)
紗耶香はドアを開け中に入った。
235 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:07
部屋の正面に、真っ黒な大きな機械があった。
機械の下から金属で編みこんだ太いロープが顔を覗かせいてた。
どうやら、この機械がエレベーターを巻き上げるモーターらしい。
奥には机が置いてあり、左側には調節パネルの様なモノがあった。
紗耶香はパネルに書いてある文字を見た。
(どうやらコレがエレベーターの電源か…ありゃ、OFFになってんじゃん。誰かが操作したのか?)
電源のレバーを降ろそうと手を出すと、ふいに誰かの視線を感じた。
!?
紗耶香が振り向くと子犬を抱えた少女がドアの影にいた。
警戒心残っている瞳で紗耶香をじっと見つめている。
(どーしよー、この格好のまま話しかけたら、また逃げちゃうかな?
その前に『ここで何してるの?』って聞かれたら、何て答えたらいいんだろう?)
とグルグル迷っていると少女が何か言いたそうにしていた。
やっぱ聞かれるのだろうか?と紗耶香は思い、自分から話しかけようとしたその時……
「うわっちゃ!!」
パネルに置いていた指をレバーに思いっきり挟んでしまったのだ。
少女はビクッと驚き、身体を震わせてた。
紗耶香は指の痛みを我慢して少女に近づいたが、何も言わぬまま走り去ってしまった。
(追いかけて話した方が良かったかな?でも怖がっているし、これ以上したらもっと怖がるかも。
それに怖がっているのはあのコも何らかの被害があってるのかもしれない。
だったら無理に話すより、こっちに悪意がないコトを示した方がいい様な気がする)
紗耶香はドアから目を離し機械に目を移した。
(エレベーターを動かさないと)
エレベーターの電源をONにした。
236 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:07
指が痛いので見てみると、指の皮が切れてしまっていた。
(痛い……バンドエイドは石川に全部使っちゃったからな)
紗耶香は切れた人差し指を庇いつつ、
地下1階、1階、2階と全ての階にエレベーターが行くように電源を入れた。
(これでエレベーターが動くはず)
モーター音が聞こえ始める。どうやらエレベーターが無事に動き始めたようだ。
んーっと言いながら身体を伸ばして疲れた身体をほぐす紗耶香。
コトン…
ドアの外で何か物音がした。
紗耶香はクルッとドアの方へ振り向いた。が、誰もいない……。
(気のせいか……)
コキコキと肩を鳴らしながら部屋を見渡し始めた。
部屋の隅にすすが付いた鉄の棒が落ちてあった。
手にとってみると、それは先の方が腐食したバールだった。
(錆びてるけど使い道があるかもしれないし、持っていた方がイイかも)
紗耶香はバールを持って行く事に決めた。
そして、机の上にフロッピーが置いてあるのを見つけた。
(パソコンで見られるかもしれないな、可能性があるモノは持っていこう)
フロッピーをポケットに入れた。
一通り部屋を調べ終わり、紗耶香はこの部屋を出ようとドアノブを捻ろうとした。
「アタッ!」
切れている指のコトを忘れドアを捻ってしまったのだった。
「こーゆーの『踏んだり蹴ったり』って言うのかな」
紗耶香はブツブツ言いながらドアを開けた。
237 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:08
「何か置いてあるぞ」
紗耶香はドアの側に白い小箱を見つけた。
手に取って振ってみる。
カサカサカサ
小箱を開けると中にはバンドエイドが入っていた。
(部屋に入る時は無かったハズなのに…?)
「ん?」
紗耶香はレバーに指を挟んで大声を上げた時に走っていった少女を思い出した。
(もしかしたらあのコがバンドエイドを!?)
心の中で『ありがとうございます』と言い、傷ついた指にバンドエイドを貼った。
(さてエレベーターも直ったし、早いトコ下に行かないと。何も起きてなきゃいいんだけど)
紗耶香は階段を下り2階へ戻った。
238 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:09
エレベーター正面にあるドアに向かった。
ドアはカードで開くタイプの電子ロックのドアだったのだが、
手元にカードがなかったので電子ロックドアを開けることが出来なかった。
「どうやったら開けるコトが出来るかな?
カードを通すトコの脇にボタンがあったから番号を入力すれば開けるコトが出来るけど」
ハッーと溜息を付く紗耶香。
「何千…何万通りになるけど。時間が掛かりすぎる……」
言い終わったと同時に問題の電子ロックのドアの前に着いた。
「あれ?」
紗耶香は声を出してしまった。誰もいないと思っていたドアの前に人がいたからだ。
「石川と吉澤じゃないか、どうしたんだ?」
「「市井さん」」
紗耶香に声をかけられ2人は振り向いた。
「えと、話せば長いんですけど……」
2人は応接間にあった鳥の木彫りのコト、その木彫りが柱時計についていたコト、
賞状がたくさんあった部屋の奥の部屋に時計がたくさん置いてあり、
その中でも一番大きい柱時計に木彫りの鳥を設置し、
左右に出ていた紐を引っ張っていたらカードが出てきたコト、
1階のエレベーター前まで行き、カードをどの様に使えば良いのか話し合っていたら
エレベーターが動き始めたのでそのエレベーターに乗り、2階まで上がって、
電子ロックのドア前に来たコトを話した。
「なるほど…で、これからそのドアをそのカードで開けようとしたってワケね」
「はい」
「助かった〜」
安堵の言葉に梨華とひとみは目を丸くした。
239 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:10
「えっ、どうしたんですか?」
「お前らがここに来る前にこの階で足止めくっちゃってさ、
とりあえず止まったエレベーターを動くようにして、調べられる部屋を調べていたんだけど、
このドアの手がかりだけは見つからなかったんだ。
番号を入力するのは判っていたけど、数字を入力しなくちゃと思ったら……」
「ウンザリしますね」
ひとみは引きつった顔をしながら言った。
「そう!2人がカードを見つけたお蔭で助かったよ!!」
「っても、まだ試してませんよ」
「あれっ!?」
思わずコケてしまった紗耶香。
「試してみますから待って下さい」
そう言って梨華は手に持っていたカードを電子ロックのドアに通した。
ピーー
ガチャン!
カードが認識されロックされていたドアが開いた。
「開きましたよ」
「ひゃ〜嬉しいな〜♪市井今まででこんなに嬉しかった事なかったよ♪♪」
ガシッと梨華の手を握る紗耶香にひとみはムッとした顔をする。
「おっとゴメンゴメン」
慌てて手を離す紗耶香にひとみは冷たく言い放った。
「いちーさん、ごっちんと離れて良いんですか?」
「えっ!?後藤は先生と一緒にいるハズだけど?」
「それがごっちんとハグれたみたいで、中澤先生探してましたよ」
梨華に言われて紗耶香は顔色を変えた。
「マジか!?」
「はいウチラもごっちんを探してんですけど」
「市井はエレベーターから下に行くから石川達はこの先を探して!」
紗耶香は梨華とひとみに言うと急いでエレベーターで1階に戻った。
240 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:10
急いで戻った紗耶香を見た梨華とひとみ。
「市井さん、凄かったですね」
「うん、あんなに慌ててる市井さん見たことないよ」
「なんやかんや言いつつ、市井さんごっちんのコト気になってんですよ」
ひとみはヤッパリという顔で梨華に言った。
「羨ましい…」
「先輩?」
口から出た言葉に梨華は驚いてしまった。
「ヤダ!何言ってんだろ!!」
顔が段々と赤くなっていく梨華。
(バカバカバカ!こんな大変な時なのに私ったら何言ってんだろ!?)
頭がだんだんとパニックになっていく梨華に対しひとみは今まで見たことがない真剣な顔して言った。
「ウチも……先輩のコト…気になってますよ……」
「よっすぃー!?」
辺りは物音1つなくシーンと静まり返っている。
そして、ひとみの発した言葉によって梨華の心臓は大きく鼓動している。
しかしその直後、ひとみはいつもの笑顔で梨華に言った。
「だって、先輩危なっかしいんだもん♪」
「よっすぃー!?」
「アハハハ驚きました?先輩行きましょう。ごっちんを探さないと」
ひとみは笑いながら歩き出した。
(そうよね…よっすぃーは私なんか好きじゃないよね…危なっかしいから一緒にいるだけなんだよね…)
梨華は久しぶりにネガティブになってしまった。
しかしひとみの方も……
(ぐわぁ〜ウチって至上最大のバカだ!折角先輩に言ったのに何でそんなコト言ってんだ!?)
自分が思ったよりヘタレだったのに気付き、梨華には見えないトコでひとみは自分自身の罰として
頭をポカポカ叩いていた。
241 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:11
紗耶香は慌しくエレベーター降りてスグに走り出した。
「紗耶香!」
「先生!?」
ちょうど曲がり角で裕子と出会った。紗耶香はスグに真希の事を聞く。
「先生!後藤は後藤はどうしたんですか!!」
「その前に紗耶香はドコに行ってたんや?それに手に持ってるのは何や?」
「エレベーターに乗って2階に行ったんですけど、動かなくなっちゃって…。
エレベーターを直すまで上の階にいたんです。
で、これはモーターの側にあったので、何かに使えるかと思って持ってきました」
「そうか……実はな後藤がいないんや」
「石川と吉澤から聞きました!そんで先生から事情を聞こうと……」
「スマンな…。手分けして2階を調べていたら、はぐれてしまったんや」
「2階のどの辺ですか?」
「階段近くに部屋があったろ、あの辺や」
「階段近く……あの部屋か」
紗耶香は賞状がたくさんある部屋を思い浮かべた。
(後藤に何事も無けりゃいいんだけど……)
「………紗耶香どうした?」
俯いている紗耶香を裕子は呼びかける。
「いえ何でもありません。先生、市井も一緒に行きますから一緒に後藤を捜しましょう!」
「よっしゃ!」
「まず、この部屋から行きましょう」
紗耶香はスグ脇にあるドアを指差した。
242 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:12

「後藤いるか!!」
紗耶香は勢い良くドアを開けた。紗耶香が言ってた『この部屋』とはパソコンが置いてある部屋だった。
「いないな…」
「そうですね…では他の部屋を……あっ、そうだ!」
「ど、どうしたんや?」
突然大声を出した紗耶香に驚く裕子。
「実はモーター室の机にコレが置いてあったんですよ」
ゴソゴソとポケットからフロッピーを出した。
「一緒に見ませんか?」
「そうやな」
フロッピーを入れ、授業で習ったパソコン操作を思い出す。
ピッピピピピヒ………パッ!
フロッピーには英文のファイル、それから文字がグチャグチャにならんだモノが出た。
「これは起動ディスクみたいやな」
「そういえば先生も同じようなヤツ持ってましたよね」
「そうや」
裕子はフロッピーを取り出してからパソコンの電源を切り、
再びフロッピーを入れてからパソコンの電源を入れた。
「何か出てきたようや」
裕子に言われ紗耶香は画面を見た。
画面に浮んだのは科学に関する問題だった。
243 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:54
試験管の中に鉄片が入っています。この中にある液体を入れると鉄片は浮んできます。
さて、その液体はどれでしょう?

硫酸
炭酸水
食塩水
アルコール
水銀
アンモニア
この中にはない
244 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:55
「これは?」
「解かないとダメっていうモノなんでしょうね」
「紗耶香解いてみ?」
「市井が!?」
「そうや、この問題はちょうど授業でやったハズや。私の授業を聞いていたら解けるやろ?」 
「それはそうですけど……」
紗耶香は引きつった笑顔で裕子を見た。
(やべっ、寝てたから全然聞いてないよ!?)
「はよ答え」
「わかってますよ〜」
紗耶香は人差し指を頭に当てて考え始めた。
(同じクラスのコから聞いた話だと、授業中に面白い答えを言ったヤツがいたらしく爆笑があったと。
その後、先生が『良く聞いとけ!鉄片を浮かすには……』って言いながらハリセンを叩いたって。
ちきしょー!ちゃんと聞いとけば良かったぁ〜。え〜い、カンでいったる!!)
「水銀です」
「………ファイナルアンサー?」
ガクッと思わずコケてしまう紗耶香。
「せっ…先生!?」
「冗談や冗談。そう正解は水銀や、よく覚えたな偉いぞ」
裕子の笑顔を見て心苦しくなった紗耶香は心の中で謝罪した。
「入力するで」
「はい」
『水銀』と入力して少し待つ。
グィーン、ガチャ
入力したコトによって、CDドライブが開いた。
「何か乗ってる」
CDを乗せるトレーの上に小さい鍵が置いてあった。
「何の鍵でしょう?」
「さあ、使えるトコがあるかもしれん。持っていき」
裕子に促された紗耶香は鍵を取り、そしてCDドライブを閉じた
「ふぃ〜」
何故かドッと汗が吹き出る紗耶香。
汗を手で拭いながら、フロッピーの取り出しボタンを押した。
ガシュ
フロッピーが勢い付けて出てきた。
フロッピーを手に取り再びポケットに入れた。
「ドコの鍵やろな?」
手に持っていた小さな鍵をみつめて裕子は言った。
「調べてみます」
「先生、廊下に出ましょう」
「そやな」
紗耶香と裕子は部屋を出ることにした。
245 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:56
再びエレベーターに乗り、2階に来た紗耶香と裕子。
電子ロックのドアで立ち止まった。
「このドアけったいなモンが付いてるな」
「電子ロックですよ。このドアは石川達が開けたくれたハズです」
紗耶香は電子ロックのドアに手を掛けた。
キィー…
ドアが開き奥に続く廊下が見えていた。
「ほう…」
感心したように裕子は頷いた。
「じゃあ行きましょうか」
ゆっくりと慎重に歩き始める紗耶香と裕子。
しかし、数m歩いた時に裕子は立ち止まった。
「先生?」
「ちょっと足が痛くなって……」
「少し休みますか?」
「大丈夫や」
そう言いながら少し慌てたように歩き始め裕子はドンドン先に行ってしまった。
そんな裕子を追いかける紗耶香。
裕子はそのまま、誰かから逃げるように近くにあった大きなホールへ入り込んだ。
「先生、大丈夫ですか」
裕子は息を切らしながら俯く。
「先生……?」
「スマン……段々…焦ってきちゃってね…」
「この状態ですか?」
「そうや」
裕子の言葉も一理ある。屋敷に閉じ込められ、行方不明だった郵便局員が死体になって発見、
普通の人だったら平常心でいられるハズが無い。
246 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:57
「しょうがないですよ。市井なんかここにいる人全員の中で滅茶苦茶焦ってますよ」
紗耶香はニッコリ笑って裕子に言った。
「ありがとう…紗耶香は優しいな」
「『優しい』って言わないで下さい。そんなコト言われると『優しい』と言われたい為に
行動しているみたいで嫌なんですよ」
「……プッ」
「何笑ってんですか?」
「あまりにも素直で真直ぐだから思わず噴出してしもうたわ。
なんか後藤が……」
「え!?何言ったんですか?」
裕子の言葉が聞き取れず紗耶香は聞き返した。
「何でもないわ、もう大丈夫だから行こうか」
裕子はそう言って歩き出そうとしたが廊下の方をみて驚いた表情をみせた。
そして、焦った様子で話し出した。
「紗耶香」
「何ですか」
「少し気になるコトがあったんや。ここから別行動をとりたいけどええか?」
「えっ!?」
「スマンな」
何かを思いついたのか、裕子は走って出て行ってしまった。
「どうしたんだ?」
紗耶香は不審に思い廊下に戻った。
廊下に出ると不気味に笑顔を浮かべているたいせーと目が合った。
「ヘッヘヘヘ……」
たいせーは意味深に笑うと廊下の向うへ歩いて行った。
「何なんだあの人は……?」
紗耶香はたいせーの態度を不快な感じで見ていた。
247 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 17:58
再び1人になった紗耶香は廊下を歩き始めた。
「なんだったんだろうあの人は?」
廊下で不気味に笑っているたいせーの顔を思い浮かべる紗耶香。
ガッシャーン!!!
前方から突然ガラスの割れる音がした。ハッとなった紗耶香はスグに音がした場所へ向かった。
「ここか?」
部屋は廊下を少し歩いた突き当たりの部屋。
電子ロックを空けてから紗耶香がまだ行ってない部屋だった。
「この部屋だよな」
ギィ……
紗耶香は慎重にゆっくりとドアを開けた。
紗耶香が部屋に入ると、真希が床で倒れているのが見えた。
「後藤!?」
突然の事で頭がパニックになる紗耶香。スグに真希の側に寄って抱き起こした。
「後藤どうした!?しっかりして!!…………この臭い!?」
真希の制服が濡れていた。そして濡れている制服から刺激臭が漂っているのを感じた。
真希の周辺を見ると割れた薬品のビンが散乱していたのだ。
割れたビンのラベルには何も書かれていない。
「後藤はこの臭いで気絶したのか!?いや、とりあえず起こさないと!!」
紗耶香は懸命に真希を起こす。しかし真希は起きなかった。
「だめだ完全に気を失ってる。この状態を何とかしないと……
それに後藤に掛かっている薬品がヤバイものだとしたら!?」
近くの棚を見るといくつかの薬品が倒れていた。
紗耶香の目に止まったモノ、それは『硫酸』と書かれていたビンだっだ。
「えっ!硫酸だって!?……オイ!起きろよ後藤!!」
真希の身体を揺すってみるがやはり意識は戻らなかった。
「硫酸じゃないにしても、皮膚に対して有害な薬品だったら後藤の身体が傷つく恐れがあるよな」
紗耶香は意を決して真希の制服に手を掛ける。そして制服のボタンを外し始めた。
ブレザーとベストを外し胸元に付いているリボンも外した。
真希の首筋には薬品の掛かっている様子はなかった。
しかし、薬品はブラウスとスカートにも染み付いていた。
248 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:00
「仕方ない、ブラウスとスカートも脱がしてみるか」
紗耶香はもう一度真希の身体に手を掛けた。
ブラウスを脱がせる度に真希の身体に触れてしまう紗耶香。
真希の柔らかい身体の感触が紗耶香の胸にドッキンと大きく鼓動する。
(何ドキドキしてんだよ!?後藤だぞ!幼馴染の後藤だぞ!!小さい頃から知ってる後藤だぞ!!!)
そんな葛藤の中、やっとの思いで真希のブラウスとスカートを脱がせた。下着姿になった真希。
「……………」
大人の……成熟した真希の身体を見た紗耶香は顔を真っ赤にしていた。
「スーハースーハー」
数回深く呼吸をして何とか落ち着きを取り戻す。
(おしっ、身体に薬品が付いてないか確認だ。まずは上半身……)
胸の谷間に目をやる紗耶香。
「うっ……」
「後藤!後藤!!」
真希は苦しそうに呼吸を繰り返すだけ。紗耶香は真希の頬を軽く叩いた。
「うっ……だ…れ…?」
「良かった、大丈夫か?」
真希の瞳はぼうっとしている。
気が付いたばかりで状況がつかめないのだろう。真希は暫く紗耶香の方を見たまま瞬きを繰り返した。
249 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:01
「後藤、具合は…」
「……………」
「後藤?」
「いちーちゃ?」
一瞬の躊躇いの後、真希は紗耶香の腕に掛かっている制服を見つめた。
「これはな…」
説明しようとする紗耶香に真希は制服を掴んで後ろを向いた。
「いちーちゃん後藤に何したの!?」
「何をしたのって……」
「で、出てって!!」
「えっ!?」
「ヤダっ、出てってよ!!」
「これはあの……」
「出てって!!!」
(こんな状況じゃ何を言ってもダメだろうな……)
「ゴメンな」
紗耶香はひとまず廊下に出た…
といってもあんな状態の真希を残してどこかに行くわけにもいかなかった。
(踏んだり蹴ったりってこのコトかなぁー)
溜息をついて俯いた時床の上に紙が落ちているコトに気がついた。
「これってウチの学校の名簿じゃないか!?」
手に取ってみてみると公立○○高等学校2年A組と書いてあり、しかも真希の名前に印が付いている。
(いつの間にこんなモノが?それにどうして後藤の名前に印が付いているんだ!?)
『謎解きをしてみろ!』という挑戦を叩きつけられたみたいに感じた紗耶香は名簿の紙を破り捨てた。





暫くドアの前で待ったが、真希は出てこなかった。
(少しだけ様子を見るか?)
紗耶香はドアノブをそっと捻ってみた。
ガチャ……
ドアは開かず、どうやら部屋の中から鍵をかけているみたいだった。
(後藤を傷付けちゃったかな?)
真希に嫌われたという想いを感じながら紗耶香は天井を見つめた。
(こんなコトになっちゃって…コレからどうしたらいいんだろう?)
紗耶香はバールをズルズルと引きずりながらエレベーターに向かって歩き始めた。
250 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:01
ガァァァァァァーー!
エレベーターで2階に付いた紗耶香はトボトボとエレベーターを降りた。
真希を助けた為とはいえ、傷つけたコトには変らない…その事が紗耶香の心がしめていた。
「紗耶香」
04の鍵で開けたドアの所で紗耶香は裕子に呼ばれた。
「先生……気になっていたコトは終ったんですか?」
「う、うん終った。それにしてもどうしたんや?紗耶香がこんな落ち込んでるトコ始めてみたで」
「そうですか……」
「何か調子狂うなぁ。ところで後藤は見つかったか?
紗耶香と分かれた後も捜してるんだけどまだ見つかってないんよ」
真希の話題が出て紗耶香はドキッとした。
真希は紗耶香が服を脱がした所為で上の部屋で閉じこもってしまっている。
「えっ…と…」
「どうしたんや?」
「後藤は見つけました……」
「どこにいたんや!?」
「2階の部屋です。何でそんなところにいたのかはわからないですけど」
「どの辺?」
「エレベーターを降りてまっすぐ行った……」
紗耶香は真希がいた部屋の場所を教えた。
「わかった、行ってみるわ」
「せっ、先生!」
「何や?」
「後藤の様子が妙かもしれないけど、お願いします」
「妙って…何かあったんか?」
「ちょっと、後藤に悪いことをしてしまって……」
「悪いこと?」
「はい…」
「わかった、理由は後で聞くことにするわ」
裕子は微笑みながらエレベーターの方へ歩いて行った。
251 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:02
「まったく、圭織はどこ行ったんだろう」
真里は怒りながら地下を歩いていた。カツンカツンと歩く度に足音が響いている。
「この部屋がアイツが言ってた『死体がある部屋』か……」
アイツというのは紗耶香のコトである。
「フンッ!もしこの部屋に死体があったとしても、わざわざ見るバカはいないよね〜」
紗耶香は大階段を上り1階へ向かった。
階段の踊り場に付いた時だった。
ガッシッ!!
!?
真里はイキナリ羽交い絞めにされたのだ。
「なっ!?…・ウグッ!!」
口も手で押さえられてしまっているので、大声を出したくても声が出ない。
「ウ〜!!!!!」
所詮うめき声を上げても誰も真里が危機に陥っているコトは気付きもしない。
ジタバタと身体を動かしても、真里の身体は小さいのでやるだけ無駄だった。
腕にチクリと痛みが走ったとたん真里の身体は動きが鈍くなった。
そのままロープで縛られ、真里を連れて移動を始める。
(身体が動かない!?何で!?どうして!?)
今まで経験したことがない恐怖……真里の瞳から涙が出てきた。
(もしかして矢口は殺されちゃうの!?ヤダ!誰か助けてよ!!!)
「う…うう……」
真里は懸命に声を出そうとするが、上手く声を出す事が出来なかった。
252 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:03
バタン!
カツカツカツ………
ギィーーー
ドサッ!
真里は四角い箱の中に押し込められた。
力を振り絞って身体を動かすが、相変わらず身体は動かなかった。
ガタンガタン!
(な、なに!?)
ガンガンガン!!!
ガンガンガン!!!
真里の頭上から大きな音がしているので、目を動かした。
!?
目が点になったまま、顔が固まってしまった。大きな音は板を打ち付けていた音だったのだ。
真里の頭上には板が有り、自分では出られない様に念入りに板を重ねて打ち付けられていた。
そして2つの蛇口が見えた。
(まさか…まさか……まさか……!?)
真里の『まさか』は当たっていた。
キュッ……ジャーー!
2つの蛇口を捻り水を出し始めた。真里のいる場所に水が溜まり始めた。
(水を止めてよ!)
キュッキュッキュッキュッキュッ………ガコン!
キュッキュッキュッ……グッグッグッグッ…バチン!
カッカッ……バタン!
水か流れる音と共にドアが閉まる音が聞こえた。
水は冷たく、既に真里の身体の感覚がなくなってきた。
(何で矢口がこんな目に合うの?こんなんだったらあの時……)
真里の意識はここで途切れた。
253 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:03
少し前……
裕子は紗耶香が言っていた部屋の前にいた。
「紗耶香が言ってた部屋はここか?紗耶香がいうにはこの部屋に後藤がいるハズ」
トントン……
「後藤いるか?先生やで〜」
「先生……」
「いったいどうしたんや?さっき紗耶香に会ったんやけど、えらい落ち込んでたで」
「……いちーちゃん落ち込んでいたんですか?」
裕子から紗耶香が落ち込んでいると聞いて驚く真希。
「そや、ドア越しでエエからワケ教えてくれるか?」
「………………」
「後藤?」
「先生少しの間一人にしてくれませんか?」
「何でや?」
真希から意外な願いにも優しく返事する裕子。
「少し考えたいコトがあって……」
「何かあったのか知らんがコレだけは言える。紗耶香は後藤には嫌な思いをさせるヤツじゃない」
「………はい」
「わかってんならそれでええ。先生は行くから」
「ごめんなさい……」
「そのくらいエエよ」
裕子はドアに向かって微笑みこの場を離れた。
「いちーちゃん……」
再び1人になった真希は紗耶香の名を呟いた。
どんな想いで紗耶香の名を呟いたのか、真希自身もわからなかった……
254 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:04
そして今……
「あ〜あ、このバール捨てちゃおうかな?持つのもイヤになってきたし」
紗耶香はトボトボと1階の廊下を歩いていた。
応接間の前まで来た時、廊下の向こう側から影が揺らいだ。
タッタタタタタ…・・
走り方が慌てている感じが見受けられた。
「あれは……ハタケさん?」
紗耶香は走ってくるハタケに声をかけた。
「ハタケさんどうしたんですか?」
「…………」
ハタケは紗耶香を無視して通り抜けて行った。
「……??」
頭を捻りながら歩き始めた。
タッタタタタタ……
近くの部屋の中から誰かが慌てて走ってくるような音が聞こえた。
「何だ?どの部屋だろ?」
ガチャガチャガチャ!!
音を立てているのは洗面所からだった。音の主はドアノブをドアの内側から急いで回す。
(ドアが開いたら『バーン!』て顔面を強打しそうな気がする)
紗耶香は廊下の隅に隠れた。
(何かあったんかな?物凄く焦ってる様な感じだし……誰なんだろ?)
ガチャ!!
ドアが開き部屋から慌てて出てきた人、それは圭織だった。
(へ!?)
青い顔をした圭織は紗耶香に気がつかないまま走り去ってしまった。
(いったいその部屋で何があったんだろう?)
紗耶香は圭織が去った後、洗面所へ入って行った。
255 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:05

「特に変ったトコはないみたいだけど……」
ジャーーー
「ん?何か風呂場の方から音がするけど何だ?」
紗耶香は風呂場のドアを開けてヒョイと覗き込んだ。
「矢口!!」
紗耶香が見たものは真里が湯船に閉じ込められている真里の姿だった。
ご丁寧湯船のフタは釘で打ち付けられ、2つある蛇口は壊され水は勢いよく流れている状態だった。
「矢口!矢口!!」
紗耶香は持っていたバールを置いて大声で真里の名を呼んだ。
しかし真里の身体はピクリとも動かなかった。
水面は肩まで来ていて、このままだと湯船に水が溢れるのも時間の問題だった。
「まずは水を止めないと!!」
紗耶香は2つの蛇口を見た。
1つは取っ手がない状態。
もう1つは取っ手は付いているが針金でグルグル巻きにされ固定されていた。
「まずは針金を切らないと!」
上着のポケットからペンチを取り出した。
「このペンチ壊れそうだけど慎重にやれば…」
蛇口に付いた針金にペンチをあてる。
ガチッ!
針金は思ったより硬く、ペンチが一気に壊れそうだった。
紗耶香は慎重に針金を傷をつけていった。
256 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:05
ゴリゴリゴリゴリ…………
何度も何度もペンチに力を入れ、針金が弱くなってきたところで一気に力を入れた。
バチン!
「よっしゃ切れた!!」
ペンチを放り投げ、グルグルに巻かれてあった針金をほどき蛇口を止めた。
「あと一個!」
紗耶香は風呂場を見渡した。が、真里を助けるのに使えそうなモノは見当たらなかった。
(やべぇ…このままだと矢口が助からなくなる。一旦風呂場から離れるか!?)
考えてる間にも水はドンドン湯船に溜まっていく。
(迷ってるヒマは無い!即実行だ!!)
「矢口!すぐ戻るから頑張れ!!」
紗耶香は風呂場から出て行った。
257 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:06
洗面所で使えるモノを探す紗耶香。
「どれだ!どれが使えそうか!」
風呂場から聞こえてくる水の音が紗耶香を焦らせる。
紗耶香はふと洗面台にある水道が目に付いた。
「この取っ手、風呂場にあるヤツと一緒じゃないか?」
取っ手を捻ってみたが、水は出てこなかった。
そのまま取っ手を何度か回してみる。すると取っ手から伝わる感触がなくなってきた。
「いいぞ…このまま…」
紗耶香はそのまま回し続け、取っ手を外ずした。
そして、その取っ手を持ったまま紗耶香は急いで風呂場に戻った。
258 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:07
「矢口!大丈夫か!!」
紗耶香は湯船に近づいた。真里はグッタリとしていた。
水が出ている蛇口が1つになったとはいえ、勢いをつけて水は流れていた。
このままでいると真里は助からない!
紗耶香は急いで取れた取っ手を付いていない蛇口に取り付けた。
「BINGO!」
ピッタリと合った蛇口を閉めに掛かる。
キュッキュッキュッキュッ…
水はようやく止まった。
「フゥー」
額に吹き出ていた汗を拭い溜息を付く。
「後は板を外すだけだ……」
紗耶香は湯船を除いた。
板は真里の存在を判らなくしているかの如く、大きくクロスに打ち付けられていた。
打ち付けられている釘自体も根深く突き刺さっていた。
「よっと……」
紗耶香は置いたバールを持ってきて、
クロスに打ち付けられている板の釘の部分に押し当て引っかくように動かしてみた。
ミシミシミシミシ…
「思いっきり釘が刺さってるからな……矢口後少しだから待ってろ」
根気よく、ゆっくりと釘を引っかき続けていく。
隙間ができ、バールを差込み、テコの原理で板と釘を外した。
「もう一枚…」
一枚目と同様に板を外した。
クロスしていた板が外れ、真里を出せるスペースが出来た。
真里を助けるのに使用したバールは釘を引っ掛ける先の部分が割れてしまい使えなくなった。
「腐食してたし、これ以上使うのは無理だな」
紗耶香はその場にバールを捨て置き、そして真里を湯船から引き上げてロープを解いた。
259 名前:慟哭・・・そして(娘。バージョン) 投稿日:2003/10/12(日) 18:07
真里はグッタリしていて、目が覚めなかった。
紗耶香は真里の腕を手に取った。
思った以上に身体は冷え切っていたが、脈があったのを感じた。
「大丈夫か?」
「…………」
苦しいらしく、上を見上げたまま息を吐いている。
「そっとしとくか」
「…矢口」
「ん?」
「もう……ダメかと…思った……」
「話は後、この場を離れよう。嫌だろうけどさ、市井につかまってな」
紗耶香に起こされた真里は素直に肩につかまり身体を寄せてきた。
「あったかい……」
真里は弱々しく呟いた。
(真冬に水そりゃ冷たいよな。冷たい身体だし、どっか休めるトコで矢口を休ませないと)
真里の身体を支えながら紗耶香は風呂場から離れた。
260 名前:和尚 投稿日:2003/10/12(日) 18:08
更新終了。
キリのいいトコまで書き上がるまでお待ちください。
261 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 18:48
更新されていたんですね♪待っていました。
それにしても矢口さんあぶなかったなぁ・・・
262 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 00:30
保全

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