sea  of  love

1 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月13日(金)01時45分15秒
久しぶりに戻って参りました。

別にちゃんとしたHNはあるんですが、
前にこちらに書かせてもらってたときとはCPも趣向も違いますんで、
ちょっと(ちょっとか?)、変えてみようと思います。

読み進んでいくうちに本来のHNに気付いてしまっても、
できれば、黙っててくださるとありがたいです。

かなり暗めのお話になるとは思いますが、
少しでも多くの方々が、このお話と私に、お付き合いしていただけますように。
2 名前:sea of love 投稿日:2002年12月13日(金)01時47分10秒
◇◇◇



『彼女の愛を狂気と呼ぶのなら、きっとあたしも、狂ってる』



◇◇◇
3 名前:sea 投稿日:2002年12月13日(金)01時48分03秒



「会わせてよう!」

扉一枚隔てただけの向こう側。

泣き叫ぶ患者が数人の看護婦に押さえ付けられている様子を思い浮かべ、
扉の前で、少女は口元だけで小さく笑った。

彼女が呼んでいるのは自分。
待ち焦がれているのも、自分だ。

それがこんなにも幸福なことだと知りながら、
無駄にした時間の、なんと多いことだろう。

大丈夫、今行くよ。
これからは、ホントにずっと一緒だから、
もう、何も不安にならなくていいよ。

あたしも、キミを、愛してる。

口の中で呟いて、少女は、ゆっくり、握ったドアノブをまわした。


4 名前:sea of love 投稿日:2002年12月13日(金)01時49分25秒
◇◇◇
5 名前:sea of love 投稿日:2002年12月13日(金)01時50分12秒
「あーあ」

窓のそばで、どんより曇る空を見上げながら、美貴は膨れっ面で呟いた。

プロモーションビデオの撮影で、今日は朝からスタジオにカンヅメ状態。

今は、セットの変更と移動で休憩中である。

よりよいものを創りたいと努力しているスタッフや監督に申し訳ないとは思いつつ、
それでも、夕方にまで撮影が長引いてしまうと、さすがにそろそろ、飽きてきた。

「……雨まで降ってきたし」

溜め息を吐き出したとき、美貴のそばに置いたままだった鞄の中でケータイが鳴った。

着信音に覚えがあったのと、
この退屈な空間が少しでも紛れる、と、思わず口元を緩めながら応対に出ると、
相手は思ったとおりに、軽快な口調で美貴を呼んだ。
6 名前:sea of love 投稿日:2002年12月13日(金)01時51分00秒
「あっ、ミキたん?」
「うん。ナイスタイミングだねぇ。ちょうど今、休憩中だったんだよ」
「うそぉ、運命的ー」

きゃらきゃらと謳うように笑った相手、亜弥に、
見えないと判っていても、美貴は口元の綻びを隠せなかった。

自他ともに認める親友の亜弥。

ふたりの仲の良さがホンモノかどうか、
周囲の自分たちを見る目には、ほんの少し疑惑の色が窺えるけれど、
美貴はそんなことには無関心だった。

まわりにどう思われていようと、まわりがどう言おうと、
亜弥も、そして美貴自身も、お互いを親友と言い切れるのだから。
7 名前:sea of love 投稿日:2002年12月13日(金)01時52分02秒
「今日はねぇ、ちょっと早く終われたんだあ」

小さな機械を通して聞こえてくる声は、甘えたような猫撫で声。

亜弥がそんな声色で電話をかけてくるときは、たいてい美貴に頼み事があるときだ。

それを承知しているので、美貴も中間のやりとりをすっとばす。

「そうなの? じゃ、なにか買って帰ろうか? あたしの家に寄るでしょ?」
「うん!」

亜弥もそのへんは心得ている。
いいの? なんて、殊勝な態度で美貴の様子を窺うこともない。

年上だから、という点を差し引いても、美貴は、自分が亜弥を甘やかしている自覚があった。

けれどそれはちっとも不愉快でも負担でもなかったし、
むしろ自分に甘えてくる亜弥のことが可愛くてたまらなかった。
8 名前:sea of love 投稿日:2002年12月13日(金)01時53分36秒
「あのねえ、おでん食べたいの」
「…おでん?」
「うん。今日、寒かったんだもん、あったかーいのが食べたい」
「判った。ちょっと遅くなるかも知れないけど、買って帰るね」
「うん! 待ってる!」

子犬の尻尾があがって走り回る姿を思い浮かべて、
美貴は思わず笑ってしまう。

通話を終了させてディスプレイを見ながら、
それでも、胸のあたりはほんのりとあったかいカンジになる。

見上げただけで気持ちが沈んでしまいそうだった雨降りの空も、
亜弥の声がそんな気持ちごと吹き飛ばしてくれた、そんな気さえした。

「セット完了でーす、準備お願いしまーす」
「あっ、はーい!」

スタッフの掛け声にも、美貴は元気よく返事した。
9 名前:sea of love 投稿日:2002年12月13日(金)01時54分34秒

――――このときはまだ、本当には理解していなかった。
彼女から向けられている視線の、その本当の意味には。


10 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月13日(金)01時55分56秒
とりあえず、ここまで。

実は見切り発進なんですが、更新は週イチをめざしますので、
お手柔らかにお願いいたします。
11 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月13日(金)03時00分22秒
ひょっとしてCPはあれでしょうか?
自分も最近この二人にズッボリ?嵌っていますので
凄く楽しみです(w
作者さんがまだ誰かわかりませんが続きお待ちしています!
12 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月13日(金)11時01分39秒
好きなCPかも!w
がんがってください
13 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月14日(土)14時20分03秒
この二人最近めちゃ好きなんで楽しみです!
気になる文がありますがどうなって行くのかな(w
14 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時37分37秒
◇◇◇
15 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時39分06秒
「ただいまぁ」
「おっかえりぃ」

まるで自分の家のようにドアを開けて入ってくる親友を出迎え、
靴を脱がれる前に相手の手荷物を受け取る。

「疲れたよぅ」

ばふ、という音と一緒にコートも脱がずにベッドに倒れこんだ亜弥を横目で見ながら、
美貴は温めておいた紅茶をカップに注いでいく。

「ミルクティーでいいよね?」
「うん」

美貴の言葉に、倒れこんだ亜弥もゆっくり起き上がってマフラーを外す。
16 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時39分59秒
先日は亜弥が早く帰宅、けれど今日は美貴が早上がり。

一緒の仕事じゃないときは、やはり同時に帰宅なんてまず有り得ないからか、
会いたさも募って、結局は自分の家ではなく、相手の家に帰ってしまう。

そしてそれは、自分だけではないことが判って、いつもいつも、嬉しくなる。

「…あのねーぇ」

語尾を間延びさせてコートを脱ぐ亜弥。
それでもまだベッドからは降りない。

カップに注いだ紅茶をベッドの前のテーブルに置いてからそのコートを受け取る。

「今日は忙しかったみたいだねー」

答えながらとりあえずハンガーにかけて振り向くと、
ベッドにいたと思った亜弥が美貴のすぐうしろに立っていた。
17 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時41分05秒
「亜弥ちゃん?」

亜弥に向き直ると同時に、ぎゅ、と抱きつかれる。

こんなときの亜弥は、理由もなく、ただ甘えたいだけなのだと美貴も気付いているから、
彼女の望むとおりに、その背中へと腕をまわして、軽く背中を撫でてやる。

ぽすぽす、と、撫でるようにやわらかく叩いて、宥める。

「…ミキたん」
「ん?」

小首を傾げて亜弥の顔を覗き込むと、亜弥の瞳がほんの少しだけ潤んで見えた。

「どしたぁ?」

美貴の背中にまわっていた亜弥の手のチカラも強くなる。
18 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時41分59秒
「…あのね」
「うん?」

親友の上目遣いは必殺だな、とぼんやり考えた美貴の思考を遮断するように、
亜弥の顔が美貴に近付いてきた。

「あゃ…」

呼ぶより早く、亜弥の唇が美貴の頬に触れてくる。

「亜弥、ちゃん?」

ふさげてのキスはよくある。

コンサートのリハーサル中だとか、空き時間だとか、
周囲の目なんかも憚らずに抱き合ったりキスしたりなんて、
他のハロプロメンバーやスタッフにしてみれば、
美貴と亜弥のじゃれあいなど、日常茶飯事に思われているだろう。
19 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時42分51秒
けれど、こんなふうにふたりきりでいる空間で、
それがたとえ頬でも、キスをされたのは初めてだった。

じゃれあいの延長ではないことは、言われなくても判った。

いくら親友だってこんなふうにキスはしない。

そんな潤んだ瞳で友達を見たりしない。

「………あの、ね」

さっきから同じ言葉ばかりを繰り返す親友に、
続ける言葉を言えないでいると察知する。

それでも美貴は、待った。

自分からは、言わなかった。
20 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時43分45秒
「あたし…、ミキたんが…」

美貴を見上げていた視線が床へと落ちる。

けれど、抱きつく腕のチカラはまだ弱まらない。

「……好き…、なの」

掠れて聞こえなかったと言いたくなってしまった意地悪な心情をおさえて、
美貴は亜弥を強く強く抱き返した。

「…み、ミキたん?」
「………あたしだって、亜弥ちゃん、好きだよ」

腕の中で戸惑いを見せる親友のカラダを抱きしめながら、美貴は呟くように声にした。
21 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時44分44秒
知っていた。
気付いていた。

亜弥の自分に向ける好意の意味に。

ふざけて交わしたキスに、彼女の不自然な熱も感じていた。

だけど、それを自分から口にしてしまえるほど、美貴は強い人間ではなかった。

もし、全部が全部、自分の都合のいい思い違いだったら、
きっともう立ち直れない。

亜弥の笑顔を見れなくなるなんて、そんな怖いことはない。
22 名前:sea of love 投稿日:2002年12月14日(土)17時45分36秒
「…ほ、んと?」

うわずる亜弥の声さえも逃がすまいと、美貴は更に腕にチカラを込めた。

「…ミキたんー」

美貴の背中にまわる熱が愛しい。

自分とは違う体温が愛しい。

これからは亜弥の持つすべてを愛していくのだと、美貴は思った。
23 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月14日(土)17時51分29秒
レスありがとうございます。


>>11
えーと。
私はこのCPを『ミキアヤ』とよんでますが、 正しい呼び方ってあるんですかね?(^^;)
私もメチャメチャ好きで、ハマっております。
楽しんでもらえるよう、頑張ります。

>>12
お好きなCPでした?(w
がんがります!

>>13
>気になる文が……
えと、たぶん、それがこのお話のキーを握ってるはずです(^^;)
ご期待に添えられるかどうか不安ですが、よろしくお願いします。
24 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月14日(土)17時55分24秒
リアルタイム!(w
作者さんもハマってますか〜自分もです。
ミキアヤなのかアヤミキなのかよくわかりませんw
どっちでもOKですけどw
どうなって行くのか楽しみです、最初の文も気にしつつ…
次回更新お待ちしております!
25 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月14日(土)23時20分15秒
みきあや大好き。
みきあや書いてくれた作者様も、大好きです(w
26 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時30分11秒
◇◇◇
27 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時31分09秒
亜弥が自分を好きだと言い、美貴がそれに応えてからは、
以前にも増して毎日が楽しくて、毎日が充実していた。

亜弥しか言わないようなワガママを言われても、
それをなんとか叶えたいと思って奔走したあとで、
結局叶えられずに落ち込んでも、満足そうに抱きついてくる。

心にもない冗談で亜弥を怒らせても、
拗ねて頬を膨らませる彼女にキスをして謝れば、
最後には美貴にしか見せない笑顔を向けてくれる。

他愛もないことが楽しくて、嬉しくて、そして、幸せだった。
28 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時32分01秒
お互いの体温を感じることがどれくらい幸せか、
息がかかるほどそばにいることがどれくらい幸せか、
そう思えるのは、そう思わせてくれるのは、
きっともう、お互い以外には誰もいない。

たとえ、誰かが自分たちを引き裂こうとしても、
屈しない想いの強さを、自分たちは持っているから。
29 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時32分41秒
「ふーじもとぉ」

独特のイントネーションで呼ばれて美貴が振り向くと、
そこには、先日ハロープロジェクトを卒業したばかりの平家みちよがいた。

「あれっ、平家さん?」
「おー。元気かぁ?」
「どーしたんですかぁ? なんでココにいるの?」

ひらひら、と手を振りながら微笑む美貴の先輩は、
美貴の問いかけには、テレたように小さく笑っただけだった。
30 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時33分24秒
今日はFS3のライブ。
それも東京公演。

現在の彼女の立場上、
どちらかと言えば無関係とも言える場所にみちよがいるということは、
それなりの理由があって来た、ということ。

しかしそれは、美貴にではなく、どうやら彼女自身の恋人に会いに来たということだろう。

みちよとその恋人の仲はハロプロ内では公認だったりするので、
美貴もみちよと親しくなった頃には、相手のノロケ話を聞かされたりしたこともあった。
31 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時34分01秒
「……おる?」
「いますよ」

少し恥ずかしそうにドアを指差すみちよに、美貴はニヤニヤしながら答えた。

「なんやねん、ニヤニヤして」
「べっつにぃ? ナイショで来たんだなーって」
「…うっさい」

頬を膨らませてテレつつも、
ひとりずつに割り振られた出演者控え室のドアに貼られた名前を確認してから、
みちよは目的の人物のドアを叩いた。
32 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時34分38秒
「えっ、平家さん?!」

みちよが消えたドアの向こうで、美貴よりひとつ年下の先輩が驚きの声を出している。

無表情で感情の読めない彼女、後藤真希の、
珍しいその声に興味が湧いた美貴もドアからひょっこり顔を覗かせた。

「ごーっちん」

そこには、本当に本当に嬉しそうに笑ってみちよの手を掴んでいる真希がいて、
見慣れない真希のその表情には美貴も少し驚いた。

「…み、美貴ちゃん?」
「……あっ、裕ちゃん」
33 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時35分20秒
美貴に気付いた真希が振り向き、それにつられて振り返ったみちよがそう言ったあと、
美貴の背後にハロプロのリーダー、中澤裕子がやってきた。

「お、なんや、みっちゃんやん。どないしたん?」

美貴や真希とは違った落ち着いた反応を見せつつも、
思いがけないみちよとの再会は裕子も嬉しいのだと、
それまで緊迫気味だった空気が途端にやわらかくなった雰囲気が物語る。

「陣中見舞いや。初日に行き損ねたからな、みんなの顔見にきてん」
「…嘘つけ。後藤に会いに来たんやろ」
「あ、バレた?」

べー、と舌を出したみちよに、真希がますます嬉しそうに笑う。
34 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時35分59秒
「や、でもマジで、みんなの顔見に来てんで?
裕ちゃんは勿論やけど、藤本も緊張しとるやろなーって」

なんとなくその輪に馴染めずにいた美貴だったけれど、
不意にみちよに話を振られて、咄嗟に答える言葉に詰まった。

「…どした? なんや、マジで緊張しとるんか?」

ちょっとからかっただけだ、と言いたそうに揺れたみちよの瞳に、
美貴は、何故か亜弥を思い出した。

『明日のミキたんも、いつも通りのミキたんでいられますように』

昨日の夜、別れ際にそう言って頬にキスしてくれた亜弥を、思い出した。
35 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時36分33秒
仕事の都合でどうしても見に来られないことを、
最後の最後まで、亜弥は悔しがっていたのだ。

「なんでもないですよぅ。緊張なんてしてないです」

にかっ、と笑ってVサインしてみせる。

裕子も真希も、そんな美貴と一緒に笑ったけれど、
みちよだけは、少し、困ったように美貴を見つめた。

―――…ヤバイ、会いたくなってきた。

そう思い始めると止まらなくなる。
36 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時37分18秒
「…ちょーっとお邪魔みたいなんで、もう行きますねー」

何気なさを装いながら真希の控え室をあとにして、
自分の控え室へと戻るなり、美貴は鞄の中に手を突っ込んでケータイを握り締める。

メールのほうがいいとは思っても、
それでももう、指はリダイアルのボタンを押していた。

耳の奥に響くようなコール音。

いつもならすぐに出なくたって気にならないのに、
会いたいと思ったら、絶対に耳に馴染んでくれない。
37 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時37分56秒
「…出てよぅ」

思わず弱気になって呟いたと同時にコール音が途切れる。

「ミキたん?」

繋がるなり聞こえた亜弥の声に、美貴は泣きそうになった。

「……亜弥ちゃぁん」
「えっ、ちょっ、なに? ミキたん?」

涙声で呼びかける美貴に、小さな機械を通した向こう側の亜弥は戸惑うしかなかった。

「どーしたのさー」
「……ゴメ…、なんか、急に亜弥ちゃんに、会いたくなっちゃって…」
「えー? どーしたの? そんなこと言うなんて、いつものミキたんらしくないよ?」
38 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時39分02秒
どうして、なんて、美貴のほうが知りたいくらいだった。

真希とみちよのやりとりを見ただけなのに。
真希の、嬉しそうな笑顔を見ただけなのに。

「………今日、終わったらそっち行っていい?」
「いいけど、たぶん、遅くなるよ?」
「いい。起きて待ってる」

いつもと立場が逆転している気がしないでもなかったけれど、
声だけじゃ足りないと感じてる自分が、確かに、存在していた。
39 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時39分50秒
◇◇
40 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時40分23秒
付き合う前から持っていた亜弥の部屋の合鍵を使って中に入り、
荷物を下ろすなり、ベッドに倒れ込むようにして横になった。

最近はずっと美貴の家に入り浸っていたせいか、
亜弥の部屋は、あまり人間が生活しているような感じがしない。

それでも、キレイに整えられているベッドのシーツにまで亜弥の匂いは染み込んでいて、
その匂いに誘われるように、美貴は目を閉じた。

と、同時に玄関のドアが開き、本来の家主の帰宅を足音で知らせる。

「ただいまー」

声が聞こえてベッドから飛び降り、玄関まで走る。
41 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時40分57秒
「ミキたん」

美貴を見て嬉しそうに笑った亜弥の息が弾んでる。

自分のために急いで帰って来てくれたことが判って、嬉しくなる。

なのに。
嬉しいのに、嬉しくてたまらないのに、切なくなるのはどうしてだろう。

美貴は、その気持ちを誤魔化すように腕を伸ばして、亜弥を抱きしめた。

「…ミキたん?」

欲しい。
欲しい。

もっと、もっと、キミを近くで感じたい。
42 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時41分31秒
「どう…」

続きの言葉を遮るように口付ける。

軽く触れて、舌先で輪郭を辿って、戸惑いが見えても、それを覆うように。

「ミキたん…」

ずれた唇から聞こえた自分の名前に全身を熱い痺れが駆け抜けていく。

「……する、の?」

唇を離して美貴を見上げる亜弥の瞳が潤んでいて、
その揺れに、ますます美貴の気持ちは拍車をかけられる。

答える代わりに、もう一度、その唇を塞いだ。
43 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時42分15秒



規則正しい寝息が意味するのは、安心。

抱き合って眠るという、むしろ不自然な体勢でいるのに、
安らかに起てている寝息で、彼女の安心を悟る。

彼女から与えられる愛情は、とても真っ直ぐだ。

一寸の淀みもなく、真摯に自分へと向けられる。

愛されていると、実感できる。
愛していると、断言できる。

自分たちは、きっと、惹かれあう運命だったのだ。

たとえ、この愛が、狂気と呼べる凶器を、隠し持っていても。


44 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時42分59秒
「それで? 淋しくなっちゃったの?」

翌朝、まだ夜が明けきらないうちから起きだした美貴に、
ベッドの上から亜弥が尋ねる。

ライブ直前になってどうして亜弥に電話したのか、
その理由を問われて、素直に昨日の出来事を話したあとの台詞だった。

「だってさぁ…」

美貴が亜弥に言い訳するのは、それほど珍しいことではない。

けれど、今朝に限って、それは言い訳とは呼べなかった。
45 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時43分41秒
「…ミキたん、結構淋しがりやだもんねえ」

ふふ、と喉の奥で笑った亜弥がベッドを抜け出してくる。

そしてそのまま、美貴の背中から抱きついてきた。

「………ミキたんのばぁか」
「なんでよぅ」

膨れっ面で振り向くと、頬に唇が当たった。

「……あのねえ、あたしのほうがずーっとずーっと悔しい思い、してるんだよ?」

唇が当たった頬を撫でながら振り向くと、亜弥はほんの少し、困ったように笑っていた。
46 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時44分24秒
「…昨日だって、見に行きたかったのに行けなかったし、
ミキたんがごっちんとか中澤さんと何喋ったかだけでも気になるのに、
なのに平家さんまで来たっていうし、
あたし以外のひとが、あたしの知らないミキたんを知ってるってだけで、それだけで悔しいのに」

言ってすぐ、顔を隠すように美貴の肩に額を押し付ける。

「………こんなの、ただのワガママだって判ってるから、言わないでおこうと思ったのに」

くぐもって聞こえた亜弥のどこか自信なさげな声は、美貴には逆に嬉しくてたまらなかった。

「…もっと、言って」
「え?」
「もっと言って。もっとワガママになって」

もっともっと、束縛して。
47 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時44分58秒
声にしなかった言葉が聞こえたように、頭を上げた亜弥は目を丸くしていた。

けれど、何かを悟ったように彼女の唇が一瞬真一文字に結ばれた。

「……じゃあ、ミキたんはあたしが好きなんだって、思わせて。あたしも、そうする」

そしてそう言うなり、亜弥は美貴の前にまわって、そのカラダを押し倒した。

エアコンが効いて暖かな室内だったので、
パジャマの上着を羽織っただけだった美貴は、カラダを守る下着は身につけてない。

それは亜弥も同様だった。

「亜弥ちゃん?」

美貴の言葉が亜弥の耳に届く前に、両手でバジャマを掴んだ亜弥が左右に広げる。

そしてそのまま、美貴の胸元に唇を寄せていく。
48 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時45分32秒
噛み付かれたような痛みを美貴が感じてすぐ、
亜弥は頭を上げてその箇所を指で辿った。

「…ミキたんも、同じトコにつけて」

美貴の胸元を滑った指が、今度は亜弥自身の胸元にのびる。

それを視線だけで追っていた美貴も、
頭の奥が甘い痺れを訴えるより早くカラダを起こし、亜弥を押し倒し返した。

「…すぐには消えないくらい、強く吸って」

奈落の底へと堕ちていく誘惑の声に逆らう気は、さらさらなかった。

求められるままに、美貴は、亜弥の胸元へと、顔を埋めた。
49 名前:sea of love 投稿日:2002年12月15日(日)23時46分12秒
――――そして、彼女の狂気が、始まる。
50 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月15日(日)23時50分46秒
レス、ありがとうございます。


>>24
ミキアヤでもアヤミキでも、もー、どっちだっていいです。
ふたりがイチャついてれば(殴)
えと、一応、ENDマークつけたら、本来のHN名乗りますんで(^^;)


>>25
………あ、コクられちゃった。
えーとえーと、つつしんでお受けいた(蹴)


次の更新のメドがたたないので、本日、一気に2話分更新してしまいますた
51 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月15日(日)23時54分07秒
わーい!またリアルタイム!(w
戻ってきてよかった…♪
はい、自分もどっちでもいいです(笑
も〜二人がイチャ(ry
何となくあの方かな〜とは思ってますがあってるか不安ですw
自分もアヤミキ書いてくれた作者さん好きです〜!(ぉぃ
次の更新マータリ待ってますんで頑張ってください
52 名前:亜依読者 投稿日:2002年12月16日(月)15時13分02秒
ぅおおぉぉ…(壊
やっとこさ、望みまくっていたミキアヤもといアヤミキ発見!
んもぅトコトンイチャついてください。
作者さんがんがってください!アイシテルヨー!(w
53 名前:亜依読者 投稿日:2002年12月16日(月)15時15分12秒
しまった!ageてしまった!
54 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時25分04秒
◇◇◇
55 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時25分48秒
「あたしのこと、好き?」

付き合いはじめてから、亜弥は眠る前は必ず美貴にそう尋ねるようになった。

ついさっきまで、
おそらく誰にも見せることなどない艶やかな表情で美貴の前で乱れておきながら、
それを聞くときだけは、幼い少女のよう。

「好きだよ」
「…どれくらい?」

いつもはそこまで言わせないのに、と思いながらも、美貴は答えた。
56 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時26分33秒
「世界中で一番」

答えて亜弥の額にキスを贈る。

ちゅ、と軽い音をたてたあとでゆっくり頭を上げると、
美貴を見つめる瞳の色は、ほんの少しだけ陰って見えた。

「……だったら、あたしのほうが、ずっとずっとミキたんのこと、好きだね」
「へ?」

見えた陰りを隠すように小さく笑って、亜弥は美貴の背中に腕をまわす。
そしてその肩先に甘えるように鼻をこすりつけた。

「あたしは、ミキたんのこと、死んでもいいくらい好きだもん」

吐息混じりの声が美貴のカラダに熱を灯す。
57 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時27分27秒
「……死ぬなんて、言わないでよ」
「ただのたとえだよ」

そう言いながらも、亜弥の自分への想いの強さを見せ付けられた気がして、
美貴はむしろ戸惑うより先に感動に打ち震えた。

決して誰かのモノにはならないだろうと思えた彼女は、
今、美貴の腕の中でまどろみへと誘われている。

ゆっくりと閉じられていく瞼にそっと唇を寄せて口付けると、
口の端が嬉しそうに持ち上がった。

「好きだよ、ミキたん」

目を閉じながら、口元の綻びを崩さずに亜弥は告げた。
58 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時28分14秒
「うん、あたしも好きだよ」
「………いつも、いつでも、あたしのことだけ、考えててね」
「うん」

束縛されることがこんなにも嬉しいなんて、胸に打つ甘さを持っているなんて、
亜弥に会うまで、美貴は知らずにいた。

そしてそれは、きっと亜弥も同じなんだと思えた。

彼女から与えられるものは、
それがどんなカタチをしていても、目には見えない悪意だったとしても、
自分にしか判らない喜びなのだと、感じた。

たとえ、ふたりに待っている結末が破滅だと言われても、
ふたりでいるならそれも至福になるのだと、思った。
59 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時28分45秒
◇◇◇
60 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時29分24秒
「あ、そうだ。これ、持ってて」

朝、出かける前に唐突に亜弥から差し出された指輪。

トップの部分だけが大きめのシルバーリング。

それは美貴が以前から欲しがっていたものだった。

「安物だけどさ」
「な、なんで?」

両手でそれを受け取ろうとして、亜弥が差し出したほうとは別の手に目がいく。

「…お揃い♪」

美貴が把握するより先に、目の前にかざされたその指輪。
61 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時30分10秒
「あたしがそばにいなくても、ミキたん、コレ見るたびにあたしのこと、思い出してくれるでしょ?」
「そんな…、別に、こんなのなくたっていつでも亜弥ちゃんのこと考えてるよ?」

美貴の言葉に、亜弥の瞳がまた少し不安気に揺れたのが判った。

どうして、彼女はそんなふうに自分を見るのだろう。

何がいけない?
何が欲しい?

言葉だけでは、触れ合うだけでは、やはり何かが足りないのだろうか。
62 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時31分07秒
「…なーんて、ホントは、結婚指輪みたいにしたかっただけー」

悪戯っぽく笑った亜弥が美貴の頬にキスをして、そのまま抱きついてきた。

「あ、亜弥ちゃん?」

思いがけなさと勢いに倒れそうになるのをなんとか耐えて、
自分の首へと巻きついてくる亜弥の腕に応えるように、
指輪を握り締めたままで、彼女の背に手をまわす。

「……あたしさぁ、ミキたんのこと、ホントに好きなんだなーって、思っちゃった、今」
「へ?」

間の抜けた返事を返してしまった美貴に、ゆっくりとカラダを離した亜弥が微笑み返す。
63 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時31分45秒
「………言ったでしょ? 死んでもいいくらい好きだって」

天使のように微笑んだ亜弥に、美貴の心臓は鷲掴みされたように痛さを訴えた。

けれどその胸の痛みは、決して苦しいものではなく。

「…死ぬなんて、言わないでよ」

まったく同じ台詞を返した美貴に、亜弥は満足そうに笑う。

「………じゃあ、ミキたんがあたしを殺してね?」
「ばっ、変なこと言わないで! なんであたしが!」

本当に、今でもナイフを持ち出してきてそう言いかねない亜弥に、
美貴は焦りながらも激しく反論した。
64 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時33分02秒
「冗談だよぅ」

ちょん、と人差し指で美貴の鼻を押して亜弥が微笑む。

その亜弥を、美貴はたまらなくなって、強く抱きしめた。

「ミキたん?」
「……変なこと言わないでさ、普通に、幸せになろうよ」

なんて安っぽい台詞だろう、と思ったけれど、それ以外に思いつかなかった。

けれど亜弥は、
まるでその言葉を待っていたかのようにゆっくりと自身の重心を美貴に預けると、
嬉しそうに、目を閉じた。

「……うん、なろう?」

問いかけのようにも聞こえた声を、美貴は、あまり深くは考えなかった。
65 名前:sea of love 投稿日:2002年12月17日(火)00時33分42秒

――――このとき、既にふたりの関係が、
たとえ少しずつでも歪み始めていることに気付いていたのは、
おそらく、亜弥だけだっただろう。
66 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月17日(火)00時35分04秒
レスありがとうございます。


>>51
>なんとなくあの方かな〜とは思ってますが…
だめ! まだ口にしないで!(w
ああ、この方にもコクられてる。
諸手を挙げてお受けい(殴)

>>52, 53
ミキアヤ。アヤミキ。
どっちが受け身でも、もう、ホントにどっちでもいいです、私。<ぉぃ
でもね、このお話では、あんまりイチャつかな(ry
うわあ、そしてまたコクられたよ、どうしよう。< どうもしません。
やっぱり、幾久しくお受けいた(蹴)


次の更新のメドがたたないとか言いながら、連日更新の嘘つき作者でした。
すんません、見切り発車だったんですが、週末の2連休で既に手元では完結しました。
ので、時間が出来たら、サクサク更新させていただきます。
あと、ageとかsageは、お気になさらずに(^−^)
67 名前:11 投稿日:2002年12月17日(火)14時21分36秒
11・24・51のものですw
最初の番号で…
>だめ! まだ口にしないで!(w
はい!だけどあってるかわかりませんので結局言えませんw
既に完結しているんですか?凄いですね〜!
それではマータリお待ちしてますw
最近の楽しみはここを読むことの11でした(w
68 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時07分42秒



「昨日は誰とどんな話、したの?」

はじめの頃は気にならなかったその問いかけは、
さすがに回数を重ねると答えることも億劫になる。

「…また?」

けれど、非難するように淋しく揺れる瞳を見せ付けられて、
思わずそう返したことを後悔させられる。

何故なら、彼女の想いを自分が受け止めきれていないと彼女に思わせてしまうと、
それを行動に表されてしまうからだ。

そしてそれは時折、言葉にならないくらいの激しさを伴い、痛みや、恥辱をも与えられる。

彼女の愛は、執着。
けれど、それは疑いようもない、真摯な愛情。

言葉も、視線も、そして安らぎさえも。

彼女から向けられる感情のすべてが、愛という名の刃物だった。


69 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時09分05秒
◇◇◇
70 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時09分45秒
美貴がそれに気付いたのは、些細なきっかけと偶然からだった。

けれどそんな偶然、起こって欲しくなかったと思った。

それがなければ、気付かなかった、と。

亜弥からもらった指輪は、仕事に支障がない限り、収録中でもずっと身につけていた。

もちろん食事中も、寝てる間も。

ただ、水につけてしまうことだけは何となく憚られて、手を洗うときや入浴時だけは外していた。

今思えば、最初にそのままシャワーでも浴びてしまえば、ずっと気付かずにいたかも知れない。

その、『機能』に。
71 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時10分34秒
「美貴ちゃん、その指輪、いつもしてるね?」

雑誌用のグラビア撮影のときは、たいていは、スタジオの隅にメイク用の鏡を設置する。

その前で美貴が毛先だけのカットをしてもらっていたとき、
スタイリストのひとりからそんなふうに言われた。

「コレね、亜弥ちゃんからもらったんですよー」
「そーなの?」
「お揃いなんです」
「そっかぁ、ホント、仲いいんだねぇ」

微笑む美貴につられるように笑った彼女の口元が、指輪を見て、また少しその度を増す。
72 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時11分15秒
「……なんですか?」

口元の綻びに、言葉にはされてない何かを感じた美貴が尋ねると、
スタイリストの彼女はまた小さく笑った。

「…なんかねえ、『ルパン』思い出しちゃった」
「? ルパンV世?」
「そう。それのね、名作中の名作ってぐらいの映画で、ヒロインがそんなカンジの指輪してるの」
「へえ…」

彼女が話す映画に思い当たっても、咄嗟には内容が判らない美貴は曖昧に返す。

「最初にそのヒロインを悪いヤツから助け出すとき、その指輪をルパンが持って来るんだけど、
本物とすりかえて、小型の隠しマイクにしちゃってるのよ。なかなかの切れ者なのよね、ルパンって」

どうやらその映画は、彼女にとっては忘れがたいのだろう、話す目も声もとても楽しげだ。
73 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時11分58秒
けれど、美貴が返答に困っていることに気付いたのか、慌てて舌を出す。

「ゴメンゴメン、知らないんだったら、面白い話じゃないね」
「え、別に、そんな」
「いい気しないよね、もらった指輪が隠しマイクみたいだって言われたら」

そんなつもりじゃなかったのにな、と思ったけれど、
彼女はもうそれ以上、その話題には触れてこなかった。

「今日の撮影、ちょっとイメージ変わってくるから、その指輪は外してもらってもいい?」
「あ、はい」

カットも終え、撮影用の衣装に着替えてから、美貴はその指輪を外して鏡のそばに置いた。

「ココに置いとくんで、見張っててくださいね?」
「はいはい」

美貴の目が覚えている、指輪の本来のカタチを見たのは、それが最後だった。
74 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時12分30秒

「きゃあ!」

災難とか事故なんてものは、ふとしたきっかけで意外と身の回りで簡単に起きる。

今回もそうだった。

撮影用の機材を荷台用のカートを使わず、男ふたりで向かい合って持ち上げて運んでいた。

けれど、どちらかが一瞬気を抜いたせいでもう一方に予想外の負担がかかり、
ただ立っている態勢でも、少しバランスを崩してしまった。

そしてそういうときは、大概タイミングが悪い。

バランスを崩した男性スタッフの横に美貴のヘアメイクをした女性がいて、
彼女の肩先に機材の角が当たってしまったのだ。

思いがけない感触に振り返った彼女の手は、
鏡の前に置かれていた彼女自身の商売道具を払い落としてしまう、という暴挙に出た。

つまり、美貴の指輪も含めたほとんどが、床に散らばったのだ。
75 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時13分28秒
どんなに気を付けていても、目に見えない足元までは注意力は及ばないことが多い。

美貴が大事にしていた指輪は、機材を運ぶ男性スタッフの足元に転がり、
そこまでは目の届かない彼の足に踏みつけられ、本来のカタチを崩してしまった。

実際に大変だったのはそのあとで、
何かを踏んだことに気付いた彼がまたバランスを崩してそのまま倒れこみ、
持っていた機材も、その重みに耐え切れず床へと叩き付けられ、
機能を果たさなくなってしまう前に、彼の足を少し傷つけてしまった。

けれど美貴にとっては、スタッフの誰かが怪我をした、ということよりも、
亜弥からもらった指輪が壊れてしまった、ということのほうが重大だった。

誰を責めるつもりもないけれど、床へと転がった壊れた指輪を手にしたとき、
デザインの崩れたその『中身』に、美貴は、茫然となった。
76 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時14分04秒
「ごめん! ごめんよ!」

しきりに謝罪する男性スタッフには、ひきつった笑顔で首を振ってみせる。

その彼の目に、いや、スタジオにいる誰の目にもそれが映るより早く、
美貴は壊れてしまった指輪を拾い上げた。

「……すい…ま、せん…、ちょっと、休憩もらって、いい…ですか?」

小刻みに震える肩をどうすることも出来ず、
壊れた指輪を誰にも見られないように両手で握り締め、呟くように声を出す。

「あ、うん! 構わないよ、少し休憩にしようか。
このへん片付いたら呼びに行くから、散歩でもしておいで?」

撮影を担当するカメラマンやスタイリスト達が美貴の様子を気遣って優しい言葉をかけてくれても、
そのすべてが、正しい言葉と気持ちで美貴には響かない。
77 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時15分26秒
スタジオを離れ、建物の外に出る。

地元の寒さとは比べ物にならないくらいなのに、
それでも、冬、と呼ばれる季節の今、屋外は寒い。

なのに、その寒さも、美貴には正しく伝わってこない。

手のひらの中に包まれている、もう、その『機能』を果たさなくなった指輪に、
どんな気持ちを向けていいのかさえ、判らなくなってくる。

さっき聞いた、彼女の言葉だけが、何度も何度も頭の奥でリピートしている。
78 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時16分58秒


『隠しマイクにしてたんだよ』


79 名前:sea of love 投稿日:2002年12月19日(木)00時18分14秒
そっと、握り締めた手を、自分の意志とは無関係に震えている手を、開く。

そしてそこに、明らかに異質の性能を持っているモノを、見る。

以前、どこかで見せられたことがある。

どこで、とか、誰に、とかは、思い出せない。

けれど、視覚と脳が、それを覚えていた。

亜弥からもらった指輪。
トップの飾りが少し大きめの、けれど、美貴が欲しかった、その、指輪。

なのに、美貴の手のひらにあるのは指輪ではない。

壊れてしまったモノは、誰が見てもそれだと悟られてしまうような、盗聴器だった。
80 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月19日(木)00時21分17秒
レスありがとうございます。


>>67
一応、完結はしてますが、
途中の部分でまだ、自分の気持ちの上で少し物足りない部分があって、
そこを手直ししようかするまいかで、微妙に思案中です。
我ながら、自分の勢いがおそろしいです(w
81 名前:11 投稿日:2002年12月19日(木)18時19分55秒
手直し!でもそれでも凄いペースの速さなんで凄いですよw
自分は出来てても書けないってのがあります(w
手直ししてもマータリ待っています♪
82 名前:sea of love 投稿日:2002年12月22日(日)00時18分11秒
◇◇
83 名前:sea of love 投稿日:2002年12月22日(日)00時18分54秒
「ただいまあ」

いつも通りの声で帰宅してきた亜弥に、美貴は出迎えることをためらう。

「…ミキたん?」

ベッドに背を預けるようにしながら、それでも前屈みに膝を抱えている美貴の姿に、
さすがに亜弥も戸惑いを隠せないようだった。

「!」

けれど、亜弥が息を飲むのを空気で悟った美貴は、
彼女が目に映したモノを思いながら、ゆっくりと、俯かせていた顔を上げた。

「……壊れちゃった」

誰に言うともなく、呟くように告げる。
84 名前:sea of love 投稿日:2002年12月22日(日)00時19分37秒
「……大事に、してたのになあ」

テーブルの上に置かれた、指輪のカタチをした盗聴器。

それを指先で弾かせてから、美貴は立ち尽くしたままの亜弥を見上げた。

「………どうして?」

そのひとことに、全ての想いが凝縮される。

どうして。どうして。どうして。

美貴の視線を受けた亜弥は、こく、と小さく喉を鳴らせてから、そっと荷物を置いた。

それからいつも通りの歩調で美貴のそばまで近付いて、その背後のベッドに腰掛ける。
85 名前:sea of love 投稿日:2002年12月22日(日)00時20分25秒
「なんなの、これ」
「盗聴器」

さらり、と、なんでもないことのように、亜弥は告げた。

「それは判ってるよ!」
「…へえ、見ただけで判ったんだ?」
「前に見たことあるもん、判るよ! そうじゃなくて、なんでこんなこと…!」

腰掛けたままマフラーを外し、コートも脱いでいく。

「盗聴なんて犯罪じゃん! なんであたしのこと探るみたいな真似するの? なんで…」

なんとか冷静に話し合いたいと思っても、それでも感情は昂ぶってしまう。

なのに少しも悪びれた様子を見せない亜弥に、美貴は唇を噛みながら立ち上がった。
86 名前:sea of love 投稿日:2002年12月22日(日)00時21分12秒
「亜弥ちゃんっ?」
「…っ、好きだからじゃん!」

立ち上がった美貴は腰掛けていた亜弥より視点が上になる。

その美貴を強い眼差しで見つめた亜弥が、美貴の勢いより強い声色で叫んだ。

「…ミキたんが、好きだからだよ」

告げて、ゆっくりと視線を外す。

目線は落ちているのに、
軽く噛まれた唇で彼女の気持ちを読み取って、美貴の怒りは違う方向へと向いていく。

「そんな…、好きだからって、なんでこんなこと……」

怒っているのに。
信じてもらえてないようで悲しい想いをしたのに。
87 名前:sea of love 投稿日:2002年12月22日(日)00時22分10秒
「……ミキたんは、あたしのこと、なんでも知りたいって、思わない?」
「え?」
「………あたしは、知りたいよ。
ミキたんが誰とどんな話してるのか、どんなふうに笑うのか、
誰にどんなふうに言われてるのか、どんなふうに喋るのか、
あたしのいないところでのミキたんはどんなふうなのか、全部全部、知りたいの」

それが、亜弥の愛し方だというのだろうか。

「……どうして、そんな」
「あたしだけのミキたんでいてほしいの。ずっとずっと、あたしのことだけ、見ていてほしいの」

強い、鬱陶しいくらいの束縛。

「……見てるよ。あたし、亜弥ちゃんのことしか見てないよ」

なのに、それを嬉しく思うなんて。
88 名前:sea of love 投稿日:2002年12月22日(日)00時23分05秒
ゆっくりと、落ちていた亜弥の視線が美貴へと戻ってくる。

「好きだよ。たとえどんな亜弥ちゃんでも、あたしはもう、亜弥ちゃん以外、誰も好きにならない。
ずっとずっと、あたしは亜弥ちゃんのモノだよ?」
「ミキた…」
「亜弥ちゃんだって、あたしだけのモノなんでしょう?」

腕をのばして、抱きしめる。

美貴の腕へと伝わってくる亜弥の体温は、それだけで狂気へと誘う甘い誘惑のぬくもり。

応えてくる腕の、どこか頼りなさげな熱も、すべてが愛しい、歪んでいく感情のカタチ。
89 名前:sea of love 投稿日:2002年12月22日(日)00時24分37秒



もういっそ、狂ってしまえばいい。

ふたりでいれば、何もいらない。
何もほしいものなんてない。

お互いの体温を感じられる、カラダひとつあればいい。

堕ちろ。
堕ちてしまえ。

彼女の愛を狂気と呼ぶな。
彼女は狂ってなんかいない。

ホントに狂ってるのは、その愛を欲しがるあたしのほうだ。

彼女の愛は間違いじゃない。

間違いなんかじゃ、ない。


90 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月22日(日)00時29分17秒
レス、ありがとうございます。

>>81
初志貫徹でいきます(w
でも、手直しっていってもストーリーの変更はほとんどないんで、
ようするに、自己添削みたいなもんです。


さて、折り返し地点も越えました。
年内には完結させますんで、もうしばらく、お付き合いお願いいたしますm(_ _)m
91 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時36分30秒
◇◇◇
92 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時37分29秒
盗聴器の一件以来、美貴と亜弥の関係は、
目に見える部分でも、見えない部分でも、顕著な変化を起こし始めていた。

亜弥は、以前にも増して美貴とのプライベートの時間の共有を強いるようになった。

あれほど周囲の人間に対して人懐こかったにもかかわらず、
日に日に他人との接触を拒み始め、
仕事以外のオフタイムに笑顔を見せることも少なくなっていった。

けれど、美貴がそばにいる間は、
たとえそれが作られたものだと簡単に判ってしまうようなものでも笑顔は絶やさず、
視界に美貴を映さなくなると、ひどく怯えて名前を呼ぶようになった。

そして、毎日のように、繰り返して美貴に聞くのだ。

『あたしを残して、どこにも、行かないでね?』
93 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時38分09秒
腕の中で、微かに寝息をたてて眠る亜弥を抱きながら、
美貴は、時々自分を見失いそうになる。

このままでいいとは思えない。
なのに、このままでいいとも思ってる。

美貴の腕以外は縋るものを知らないと訴える熱の愛しさが、
美貴を至福に導くと同時に不安にも陥れた。

手放せない。
失うなんて考えられない。

けれど、だんだんと自分たちを取り巻く視野が狭まっていることへの不安も隠せない。
94 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時39分04秒
亜弥の髪を撫でるのは、もう、癖になっている。

その指の動きを自身の目で追いながら、亜弥の髪の先へと指を絡める。

閉じられた亜弥の瞼にそっと唇を押し付け、
感情の赴くままに腕にチカラをこめて抱きしめると、
急な圧迫感に眠りを妨げられた亜弥がゆっくりと目を覚ました。

「…ミキたん?」
「ごめん、起こしたね?」
「ううん…」

半覚醒のままふわりと笑って、亜弥は美貴の首筋に鼻をすり寄せてきた。

「…こうしててくれたら、大丈夫」

うっとりとした声と、背中にまわされてくる腕のチカラに、美貴の脳が甘い痺れを訴える。

けれど、そんな美貴に気付くことなく、亜弥は再び眠りへと落ちていった。
95 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時39分37秒
亜弥の体温を全身で受け止めながら、美貴もゆっくり目を伏せる。

そして、強く思う。

たとえ何が起きても、彼女に対する気持ちが変わることはない。

たとえ誰かがふたりを引き離そうとしても、
強く握り合ったこの手を離したりしない、離さない。

ならば、このまま一緒に、亜弥が望むように。

恐れることも、迷うことも、亜弥がそばにいるなら何も必要などないのだと。
96 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時40分09秒
◇◇◇
97 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時41分16秒
「……藤本?」

聞き覚えのある声に呼ばれて、美貴はゆっくり振り向いた。

そしてそこに、美貴だけでなく、亜弥も慕っているみちよを映す。

「平家さん?」

答えた美貴に、みちよは小さく苦笑いしながら右手を挙げた。

「どーしたんですか? 今日はごっちん、いませんよ?」

みちよの恋人である真希と、美貴の恋人でもある亜弥は、
明日に開幕を控えている、初のソロミュージカルの最終リハーサル真っ最中だ。

かくいう美貴も、小規模ながらも初のソロライブを目前に控えている。
98 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時42分02秒
「うん、知ってる。今日は、ちょっと、藤本に用があってな?」
「えーっ? なんですか? 浮気はダメですよう?」

珍しさに、美貴は思わず笑いながらそんなふうに返す。

けれど、表情にも口調にもいつもの軽快さを欠くみちよに、
彼女の用件が、意外と深刻そうであることを察知する。

「…えーと、ちょっとここで待っててもらえます?
今、ライブのリハの休憩中なんで、スタッフさんにもうちょっとだけ時間もらってきます」
「あ…、ゴメン、それならあとでええねん。別に、急ぎやないし」
「いいですって。ちょっとだけなら、融通もきくんですよ?」

ためらうみちよに手のひらを見せて留まらせ、
美貴は笑って音合わせのスタジオに入った。
99 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時43分01秒


「…15分くらいしかないですけど、大丈夫?」
「うん、かまへん。ゴメンな?」

ライブが目前に迫っているせいか、スタッフ間の緊張も結構著しい。

思った以上に自分には時間の拘束があることをすまなく思いながら、
みちよを外へと連れ出した。

「…寒いですねー」

室内は空調も完備されているけれど、一歩外に出てしまえば、
たとえ通路の廊下といえど、体感温度は低くなる。

ふたり並んで人気のない場所に向かいながら、
なんだか沈む雰囲気に思わず美貴は声を漏らした。
100 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時44分25秒
「…あのな?」

けれどみちよは、人通りが少なくなった途端、声をひそめて聞いてきた。

「アンタと松浦、なんかあったん?」

みちよの口から出た名前に、美貴を包んでいた空気が電流を起こす。

「…なんかって、なんですか?」

振り向いた美貴がその目に映したみちよは、少しだけ、淋しそうだった。

「…? 平家さん?」

みちよの言葉の意味も、自分に会いに来た意図も読めず、
美貴は眉をしかめながら首を傾げてみちよの続きの言葉を待った。
101 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時45分27秒
「………電話、出ぇへんねん」
「は?」
「電話だけやなくて、メール出しても返事も来ぃへん。
ケータイ変えたんかと思っても、ごっちんに聞いたら違うって言うてた。
前はしょっちゅうメールとかも来とったんやけど、
でも、最近、あのコと全然連絡つかんねん。なんかあったんか?」

みちよの心配の種の本質が美貴には判らなかった。

「なにもないですよ? すごい元気です。昨日だってあたしの家に泊まったし」

みちよの眉がほんの少し歪む。

「……そか、アンタら、付き合うてたんやな」
「はい」

迷いなく答えた美貴に、みちよの躊躇が垣間見える。
102 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時46分10秒
「………そか。うん。元気なん?」
「元気ですよ? 今頃、きっとミュージカルに必死です」
「いや、松浦のことやなくて、アンタは?」
「え?」
「藤本のほうはどうなん? あたし、松浦だけにやなくてアンタにも電話してたんやけど、
アンタとも全然繋がらんねんもん」
「えっ? そうなんですか?」

ケータイは持って来なかったので、みちよの言葉を確かめる方法は見つからない。

「…おっかしいなあ。電源は入ったままのはずだけど」

思い当たるフシが見つからずに首を傾げた美貴に、みちよはますます苦笑する。
103 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時46分43秒
「…まあ、連絡ないってことは、それだけ忙しくて毎日が充実してるってことなんやろな」
「あっ、ごめんなさい、あたしから亜弥ちゃんに聞いておきます」
「いや、かまへん。元気なんやったら、ええねん」

すいっと、みちよの手がのびてきて、そっと頭を撫でられる。

「藤本ももうすぐライブやろ? 頑張るんやで? 絶対あたしも行くから」
「はいっ」

美貴がまだまだ新人で、右も左も判らずにいた頃と変わらないみちよの扱いが嬉しい。

「松浦にも、近いうち観に行くって言うといて」
「はい」

ゆっくりと、美貴の頭から遠のいていくみちよの手を目で追っていると、
美貴を見つめるみちよの視線が、不意に強くなった。
104 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時47分40秒
「平家さん?」
「…もし、なんかあったら、アンタらふたりだけで抱え込んだらアカンで?」
「…? はい」
「行き詰まったり、迷ったりしたら、それは外に解放したらなアカン。
ふたりだけで抱え込むってことだけは、せんとってな?」

みちよの言いたいことは、やっぱり美貴には判らなかった。

「はい。ありがとうございます」

それでも、みちよから向けられているのは、
明らかに自分たちを思ってくれての好意だと判るので、美貴は笑顔で頷いた。
105 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時48分30秒
「じゃ、帰るわ」
「見てってくださいよー」
「うーん。…興味はあるけど、やめとくわ。本番、楽しみにしてるで?」

ひょい、と右手を挙げて、美貴のよく知る笑顔になる。

「ごっちんによろしくー」
「……でっかい声で言うな!」

去り際、振り向いたみちよの頬はテレたように赤かった。

それを見送って、リハーサルに戻る前に、美貴は何度か深呼吸を繰り返す。

予想外のみちよの訪問は嬉しかった。

思いがけず彼女の優しさに触れて、今日は、なんだか、いい日になりそうだと、思った。
106 名前:sea of love 投稿日:2002年12月23日(月)00時49分17秒


―――このとき、亜弥以外にはみちよだけが、ふたりの歪みに気付き始めていたのだろう。

107 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月23日(月)00時51分54秒
クリスマスという、世間では甘い時期なのにもかかわらず、暗くなる一方の展開。
それでもめげずに更新中(w
といっても、あと数回で終了予定です。
続きは明日の予定。

ではまた。
108 名前:11 投稿日:2002年12月23日(月)00時55分26秒
今回もリアルタイム!
前回もだったんですけど書き込むのを忘れてましたw
更新ペース速いですねぇ♪だけど楽しみにしているので嬉しいです。
この後どんな感じになるのかと想像しつつお待ちしております。
109 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月23日(月)07時44分07秒
久しぶりに来たら大量に更新してあって嬉しいです(w
どうなって行くのか気になります
110 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時29分52秒



時々、息苦しくなって、目を覚ます。

喉もとに圧迫感を感じて無意識に手を向けたら、自分以外の体温に触れる。

触れたらすぐにその体温は弾かれたように離れて、息苦しさからも解放される。

だけど、あたしは、目を開けたりしなかった。

目で確かめなくても、彼女の戸惑いが見える。
彼女の恐怖が見える。

彼女が何を不安がっているのか、判る。

そしてあたしは、寝言を装って、彼女の名前を、呼ぶ。


111 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時30分37秒
◇◇◇
112 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時31分11秒
亜弥のミュージカルも、美貴のソロライブも、
当初の懸念を吹き飛ばすような勢いで大成功をおさめ、
季節は、ゆっくりと、移り変わろうとしていた。

そして、その移り変わる季節のようにゆっくりと、
その狂気は、ふたりのそばまで、近付いていた。
113 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時31分54秒
「…陽射し、あったかくなってきたね」

美貴の部屋で久しぶりのオフを過ごしていた亜弥は、
窓から差し込む陽射しに誘われるようにベランダに出て、空を見上げて呟いた。

ミュージカルが済んでも、亜弥は変わらず多忙を極めている。

それは勿論美貴も同様だけれど、
亜弥の仕事量に比べれば、『多忙』とは呼べないだろう。

美貴の大好きな、以前のような屈託のない無邪気な亜弥の笑顔は、もう、時々しか見られない。

けれど、不意に向けられる淋しげな瞳の色は、日増しにその影を濃くしていた。

「そうだね。…でもまだ少し風が冷たいよ? 中に入ろ?」

亜弥の肩をそっと労わるように抱きながら、彼女の頬へキスをする。

美貴に触れられた頬を撫でて振り向いた亜弥が嬉しそうに笑ったので、美貴も、嬉しくなった。
114 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時32分30秒
「……ミキたん」
「ん?」
「……あたしのこと、好き?」
「うん、好きだよ」

一日に、何度繰り返しているか判らないその会話。

「あたしも、いつ死んでもいいくらい、ミキたんが好き」
「だから…、そんなふうに言うの、やめなよ」

美貴の反論に、亜弥はいつもほんの少しだけ悲しそうに笑う。

何を伝えたいのか。
何が伝わっていないのか。

美貴は、以前のように、亜弥の表情だけで彼女の気持ちを推し測ることも困難になっていた。
115 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時33分14秒
ハードなスケジュールをこなしていても、疲れさえ見せずにいつも健康的だったのに、
最近は少し痩せてしまった亜弥の肩を抱き寄せて、その髪に口付けるように顔を埋める。

それに応えるように、亜弥も美貴に抱きついてきた。

そしてそのまま、彼女に押し倒されるように、床へと寝転ぶ。

「………最近ね」
「うん?」

首筋にかかる亜弥の吐息を熱く感じながら、彼女のカラダの重みにも幸せを感じる。

「こうしてても、あんまりジャマされなくなったと思わない?」
「え?」
「前は、結構、ジャマするみたいに、電話とか鳴ってたじゃん」
「……ああ、そうだね」

言われて、美貴は自身のケータイを思い出す。
116 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時33分46秒
けれどすぐに違うことを思い出して吹き出した。

「そういえば、いつだったっけ?
亜弥ちゃんが拗ねてさ、あたしが必死に宥めてて、キスしてくれたら許す、とか言われてさ」
「うん、あったね」

腹の上で笑う亜弥の振動が伝わる。

「普通のキスじゃダメ、とか言って」
「そうそう」
「すっごい悩んだよ、普通じゃないキスって、どんなんやねんって」
「あははっ、なんで関西弁?」

ゆっくりと、亜弥の背に腕をまわして、その腕の中に亜弥を抱きしめる。
117 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時34分20秒
「そしたら、同時にあたしのマネージャーさんと亜弥ちゃんのマネージャーさんから鳴るんだもん」
「びっくりしたね」
「…ジャマされたなーって、ちょっと、思った」
「ふふ、あたしも」

美貴の腕に甘えてくる亜弥を、ゆっくりカラダを反転させて、
自身のカラダの下へと、閉じ込める。

見上げてくる亜弥の瞳は潤んでいた。
薄く開いた唇は、艶めいていた。

「……する?」

微笑む亜弥の誘いを、美貴が断れるワケがなかった――――。
118 名前:sea of love 投稿日:2002年12月24日(火)00時34分51秒



ベッドで眠る恋人を傍らに見ながら、放り出されている彼女のケータイに手を伸ばす。

音を起てないようにそっと開いて、ディスプレイをスクロールする。

そして、そこに表示された文字に思わず口元だけで笑った。

『メモリ登録件数 : 28件』

その数字は、芸能界で働く人間の、
まして、全国規模でのアイドルの、ケータイのメモリに登録されている件数ではない。

それを承知で、自分のケータイも拾い上げ、同じように登録件数を表示する。

『29件』

おそらく、彼女より多いこの1件も、近いうちに消去されるだろう。

口元に浮かぶ笑みは隠せないまま、けれど、幸せを噛み締めるように、
あたしはもう一度彼女の横へと、滑り込んだ。


119 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月24日(火)00時39分46秒
レスありがとうございます。


>>108
楽しみにしてくださるのは、とてもとても嬉しいです。
あともう少しですんで、もうちょっとだけ、お付き合いくださいね。

>>109
更新ペースの速さ、我ながら自慢だったり。<するな。
さてさて、今後、このふたりはどうなるんでしょうね。< ヒトゴトのように言うな。


初志貫徹の最終回まで、もうあと数回です。
呆れられないよう、頑張ります。
ではまた、近いうちに。
120 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時39分24秒



彼女の愛は狂気ですか。

だったら、あたしも、もう狂っています。


121 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時40分10秒
◇◇◇
122 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時40分50秒
薄暗くなった空間は、次第に湿気を帯びたように、ひんやりとしていく。

季節はもう春なのに、陽が沈むと、気温はやっぱりまだまだ低い。

それに倣うように服を着ているはずの自身のカラダも寒さを訴え、
閉じていた目を、ゆっくりと開く。

真っ暗だった。

けれど室内の暗さに目が慣れて、あたしの上に覆い被さる影を見る。

馬乗りになってあたしを見下ろしているのは、恋人。

もう、彼女以外の人間の存在など、考えることも億劫になってしまうくらい、
あたしにとっては、かけがえのない存在。
123 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時41分33秒
静かに、ゆるやかに、彼女が動き出す。

あたしの首へと、震えながらのびてくる腕。

なのに、どうして今更ためらうの?

もう何度も、この首にはキミの手が掛けられているのに。

あの息苦しさは、あの圧迫感は、あたしには至福の時間だったのに。

……ああ、ごめんね、見つめたままじゃ、やり辛いよね。

ごめんね、だって、キミの顔、見ていたいんだ。

どんな顔で、あたしを見つめているの?
どんなふうに、あたしを想ってくれてるの?

どんなふうに……、あたしを、殺すの?
124 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時42分03秒
「死んでもいいくらい好きって、言ったよね?」

嬉しい、その言葉の意味、ちゃんと判ってくれたんだね。

あたしの首を掴む手のチカラが強くなって、急に息が苦しくなる。

あたしは幸せな人間だね。

キミの手の体温を感じながら、キミに見守られながら、
キミの手で死ぬことができるんだもん。

「………あたしも、すぐ逝くから」

『待ってる』

ねえ、あたしの声、ちゃんと、聞こえた?

………ああ、でも、最後に、キス、したかったな。
125 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時42分36秒
そう思ったら、知らずに手がのびていた。

彼女の頬にその手が触れた瞬間、まるで電流に弾かれるように、
あたしの首を押さえつけていた手のチカラが弱くなる。

不意に呼吸が軽くなって、あたしは、きっと最後になるだろう願いを、紡ぐ。

「…キス、して」

お願いやワガママはたくさん言ったね。

だけど、いつだって叶えてくれるキミが大好きだった。
いつだってそばにいてくれたキミが、一番大好きだった。

そばにいてね。
これからもずっと、あたしを守ってね。

あたしの願いを聞き届けた彼女の唇が、あたしの熱を奪うように、口付けてくる。
126 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時43分31秒
けれど、すぐにまた追いかけてくるように首に圧迫感を感じた。
あたしは幸せな人間だ。

でもどうか、この幸せが、キミと、同じでありますように。

最後のあたしを、覚えていてくれますように。

小刻みに震える彼女の手のチカラが強くなる。

苦しいのに、ちっともイヤじゃない。

キミの体温が愛しい。

あたしは、最後のチカラを振り絞って、吸い込める
だけ息を吸い込んだ。

「……ミキ…た…、あ…い、して……る…」

最後にキミの目に映ったあたしは、ちゃんと、笑ってた?
127 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時44分49秒


――――そして、あたしの意識は、白く、濁っていった。

128 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時45分26秒
◇◇◇
129 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時46分02秒



愛しています。
愛しています。

ただ、それだけなんです。


130 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時47分02秒



キミは笑った。

あたしの前で、あたしの腕の中で。

あたしの手に、かけられながら。


131 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時48分40秒
「………亜弥、ちゃん?」

美貴は、ゆっくりと亜弥から手を離した。

ガタガタと震えながら、噛みあわずに耳に馴染まない音で歯を鳴らしながら、
今さっきまで感じていた熱をその手に思い起こす。

手のひらを見つめて、まだ残る感触を思い返す。

なんだ。

今のは、なんだ?

そばには、眠る亜弥がいて。

そして自分は、今、何を、した?
132 名前:sea 投稿日:2002年12月26日(木)23時49分52秒
「うそ、だぁ?」

震えながら声にして、眠る亜弥を見る。

違う。

亜弥は眠ってない。

殺した。

自分が、殺した。

「……なんで?」

ひとつひとつ、すべてが、最初から美貴の脳裏へと蘇ってくる。
133 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時50分32秒
狂気。
彼女の、持つ、狂気。

――――否。
狂気は、自分。

狂っていたのは、初めから、自分だった。

何度も何度も思い浮かぶ。

腕の中で微笑んだ亜弥。
拗ねて頬を膨らませる亜弥。
誰にも見せない艶やかさで美貴を誘う、少女ではない、亜弥。

そのすべてを独占したくて、そのすべてを束縛したくて。
134 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時51分07秒
「嘘だ! 嘘だよ!」

叫びながら、美貴は横たわる亜弥を揺さぶる。

「亜弥ちゃん! 目を覚まして! 起きて! 起きてよう!」

けれど、亜弥は、目を覚まさない。

意識のない人間の重さをその腕で感じ取って、美貴はますますカラダを震わせた。

「イヤ…、イヤだあ…っ!」

叫びながら、美貴はケータイを握る。

どこかへかけようとして、リダイアルを押しても、繋がるのは同じ部屋にある亜弥のケータイ。
135 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時52分28秒
「…誰か、誰か」

おぼつかないままメモリ検索をしても、表示されるのは、亜弥の番号のみ。

眉をしかめながら、今度は亜弥のケータイを手にして検索しても、結果は美貴のケータイと同様だった。

「どうして…」

記憶がフラッシュバックする。

他の誰でもない、美貴自身が、亜弥のケータイから自分以外のメモリを消去したのだ。
そしておそらく、美貴のケータイは、亜弥が。

「……なんで、どうして、…あたし…っ」

両手で頭を抱えながら、美貴はベッドに横たわる亜弥に視線を移した。

決して動かないけれど、幸せそうに微笑んで目を伏せている亜弥が、すべてを物語る。
136 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時53分07秒
忘れていた、忘れようとしていた、
自分の記憶から葬り去っていた本来の美貴自身の言動が、一気に脳裏に蘇ってくる。

脳が、覚えていた。
亜弥から渡された盗聴器のカタチを、その性能を。

何故なら、もとは自分がそれを買ったのだから。

手が、覚えていた。
亜弥の、喉のカタチを。

何故なら、何度も何度も、亜弥の首に手をかけていたのだから。

夢だと思っていたのは、
すべてが自分の見ている悪い夢だと思っていたのは、美貴だけだった。

亜弥は知っていたのだ。
知っていて、それでも自分の狂気に応えたのだ。
137 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時53分41秒
「亜弥ちゃん…!」

違う。
違う。

こんな結末を望んだんじゃない。

幸せになりたかっただけだ。
ふたりで、幸せになりたかっただけだ。
138 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時54分29秒
美貴が顔を覆ったとき、部屋の外で激しく扉を叩く音がした。

「藤本! 松浦もおるんやろ! ここ開けなさい!」

みちよだった。

美貴は慌てて立ち上がり、ふらつきながらも震える手でドアチェーンを外してドアを開けた。

「…平家さ…」
「話はあとや! 松浦どこや!?」

みちよのうしろには、真希も沈痛な面持ちで立っていた。

茫然と立ち尽くす美貴の横をすり抜け、みちよが中へと土足で上がりこむ。
139 名前:sea of love 投稿日:2002年12月26日(木)23時55分16秒
「まつ…っ!? ごっちん! 救急車呼んで!」
「えっ?」
「早く呼んで!!」
「う、うんっ」

みちよと真希のやりとりを、その場でしゃがみ込んで虚ろな目で見守る美貴。

触るな。
触るな。

湧き上がる感情を鎮めようとして、美貴は、ゆっくり立ち上がる。

けれど、ベッドに横たわったままの亜弥をもう一度目に映したとき、
湧き上がった感情は一気に冷やされた。

そしてそのまま、崩れるように床へと倒れ、意識を、手放した。
140 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月26日(木)23時56分04秒

と、いうところで、以下次号!(殴)
141 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月26日(木)23時57分01秒
またしても2話分、一気に更新。
なんでかっつーと、週末は家にいないから(w
142 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月26日(木)23時57分34秒
ネタバレ防止のため、もういっちょ。
143 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月26日(木)23時59分26秒
で、週末は留守なので、続きは明日の夜にでも更新します。
ちなみに、次回でラスト。
お待ちかね(?)の、本来のHNも名乗りますんで、お楽しみに。<みずから煽る。

ではまた。
144 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時49分38秒
◇◇◇
145 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時50分30秒
真っ白なシーツと壁のせいか、清潔感が漂う一室で、
亜弥は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

ベッドのそばには、みちよの姿がある。

「…もう起きて平気なんか?」

みちよの問いかけに、亜弥はゆっくりと頷いた。

亜弥の喉には、まだくっきりと、指の痕が痛々しさを伴わせて残っている。

主治医や事務所の人間はそれを隠そうと包帯を用意するけれど、
亜弥が頑なに隠すことを拒むので、その痕は公然と晒されていた。
146 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時51分15秒
「平家さん」
「うん?」
「ミキたんに会わせて」
「アカン」
「どうして?」
「藤本はこの病院にはおらん。アンタの知らん、もっと遠いトコにおる」

きつく諭すように、みちよは言い切った。

そのみちよに、亜弥が向き直ってそっと微笑む。

「嘘つき」

ついた嘘を即座に見抜かれて、みちよは咄嗟に声を詰まらせた。
147 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時52分01秒
「……アンタ、最初から、何もかも知ってたんか?」

話題を逸らそうとしたみちよの問いには、亜弥も静かに目を伏せる。

「…あのあと、藤本の部屋調べたら、盗聴器の受信機が見つかった。
送信元はアンタの持ってるその指輪や。前に、藤本がスタッフに壊されたのと同じやつ」

隠すように、けれどとても愛しそうに指先で指輪を撫でる亜弥に、
みちよの胸も言葉にならない痛みを訴えてくる。

「ケータイのメモリも、お互いのしか登録してへん。メールも、着信も、みんな消去済み。
…いつからそんなふうになったんや?」
「…さあ?」

呟いて、再び窓の外へと視線を投げる。
148 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時53分01秒
「なんでや? なんでもっと普通に相手を愛されへんの?」

みちよの心配は、痛いくらい判る。

彼女の言葉が、たぶん、正論なんだろう。

けれど、亜弥には、美貴がすべてなのだ。
そして、それは美貴も変わらない。

「……ねえ、平家さん」

涙声になるのを堪えて俯いたみちよに、窓の外へ視線を向けたままで呼ぶ。

「普通って、なんですか?」
「え?」
「普通って、なに?」

ゆっくりと、流れるような動作で振り向いた亜弥に、みちよは思わず息を飲んだ。

そこにいる、数か月前までは確かにあどけなさを顕著に示していた16歳の少女は、
少女の顔をしていなかった。
149 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時53分47秒
「あたし、ミキたんが好きなの。何をしても、何をされても、それは変わらないの。
ミキたんもそんなあたしを好きでいてくれてる。それは間違いなの? 何が間違ってるの?
正しいとか正しくないとか、普通だとか普通じゃないとか、そんなの誰が決めるの?」

答えに詰まるみちよを、亜弥は柔らかく微笑んで見つめ続ける。

「ミキたんは間違ってるの? じゃあ、あたしも、もう正しくなくていい」
「…松浦……」
「あたしにはミキたんがすべてなの。ミキたんがあたしの世界なの。ミキたんがあたしの」

そこで言葉を切った亜弥を、みちよは息をすることすら忘れて見つめた。

「愛のカタチなの」

『松浦亜弥』という少女を語るうえでは欠かせない笑顔は、もう、その少女の表情には、浮かばない。

けれど、それとは違う、何かを手にいれた大人の女が、そこにいた。
150 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時54分31秒
「……ミキたんに、会わせて」

その請いに、みちよは両手で顔を覆って首を振った。

そうすることしか、出来なかった。

亜弥がゆっくりと窓から離れ、そのまま、扉へと向かう。

彼女の行き先はひとつ。
けれど、決して向かわせてはならない場所。

それが判っているのに、止めなければいけないと判っているのに、
止めることは、出来なかった。

立ち上がって怒鳴ることも、行こうとする亜弥の行く手を阻むことも、
みちよには、出来なかった。
151 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時55分04秒

扉を開けたそこには真希が立っていて、亜弥も一瞬だけ怯んだけれど、
静かに差し出された手を、疑うこともなく、掴み返す。

「…ミキたん、この病院にいるんでしょ?」
「うん。連れてったげる」
「ごっちんは、平家さんみたいに、止めないの?」
「止めても、行くじゃん」

小さく笑った真希の横顔に、亜弥も微笑み返す。

「…ごっちんも、あたしやミキたんは間違ってるって、思う?」

エレベーターに乗り込む前、亜弥を担当する看護婦と擦れ違ったけれど、
真希に手を引かれていることに安心したのか、咎められることはなかった。
152 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時55分36秒
「うん、ちょっと、あたしには理解出来ない」

正直に答えた真希に思わず亜弥も吹き出す。

「でも、間違ってるかどうかも、判んない」

人通りの少ない通路を選んで歩く真希に、目には見えない真希の優しさを知る。

「それが亜弥ちゃんや美貴ちゃんの愛しかたなんだってことしか、判んない」

棟を移った先には、『精神科病棟』と表示されていて、
それを見た亜弥も、ほんの少しせつなくなる。

どうして、自分たちの愛のカタチは、
他のひとの目には異質なものにしか映らないのだろう。

これがすべてなのに。
これしか、ないのに。
153 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時56分11秒
「あの、一番奥のドアだよ」

最上階の個室。

人通りなど看護婦や主治医以外にはないだろうと思える、隔離された病棟。

「…会えるかな」
「会えるよ」

真希の呟きのような答えを聞いたあと、目的の病室から声がした。

「出して! 亜弥ちゃんに会わせて!」

殺してしまったと思っているはずの美貴が呼んでいる名前に、
彼女も、亜弥の存在を確信していることが嬉しかった。

一度だけ真希に向き直り、頷きながら微笑むと、真希も、笑った。

そして、ゆっくり、亜弥はその病室へと、足を向かわせた。
154 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時57分02秒



愛してる。
愛してるよ。

もう、他には何もいらないくらい。

狂ってる?
間違ってる?

そんなの、もう、どうでもいいよ。

キミがいないなら、生きてくことさえ、無意味だもの。

ずっとずっと、一緒にいようよ。

キミがいてくれたら、死ぬことさえ、怖くないんだ。

ずっとずっと、そばにいてよ。


155 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時57分50秒
ドアを開けて、そこに数人の看護婦に取り押さえられている美貴を見つけて、
亜弥は、美貴にしか見せない笑顔で、微笑んだ。

「ミキたん、あたしのこと、好き?」

告げて手を差し延べた亜弥の目に映った美貴が、
突然の亜弥の出現に戸惑う看護婦の隙をついて、ベッドから飛び降りてきた。

そして、差し出された亜弥の手を掴んで、
亜弥にしか見せないとびきりの笑顔で頷く。

繋いだ手のぬくもりを閉じ込めるように強く握り締めて、ふたりは、部屋を飛び出した。
156 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時58分29秒
◇◇◇


『この愛を狂気と呼ぶのなら、もう、他に何も知りたいことなんて、ない』


◇◇◇
157 名前:sea of love 投稿日:2002年12月27日(金)21時59分03秒

――――――END
158 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月27日(金)21時59分58秒
はい、以上で『sea of love』は終了です。
期間としては短かったんですが、
最後までお付き合いしていただいて、ありがとうございました。

実は私、藤本さんも松浦さんも、最近までほとんど眼中にありませんでした。
ですが、後藤さん目当てで見た『ごまっとう』関連の番組で、
公共の電波を使って仲の良さを暴露するふたりに、
なんつーか、渾身の一撃、みたいなものを喰らいまして(w

妄想が趣味の人間にとって、こんなオイシイ奴らはいない、と(w
パソに向かって書き始めたらすんげースピードでひとつ仕上がって。
で、そのまま勢いづいてこんなイタイ話まで出来上がってしまいました(^^;)
現実のふたりは、この小説とは180度違いますけどね(w
(友人に録音してもらったラジオ、その内容にぶっ飛びました)

個人的には、書き急ぎすぎた部分は否めないですけども、
結構気に入ってる作品になりました。< またしても自画自賛。
159 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月27日(金)22時00分43秒
さて、私のHNですが。

『みちごま』作者、と言えば、おそらくココ(seek)では、私ぐらいでしょうか?
本当のHNは「瑞希」といいます。
前は花板や雪板、金板で書いてましたが、ほとんどマイナーCPばかりで、
ある意味目立ってたかも知れませんね(w

で、どうしてHNを変えていたか、と申しますと、
別に深い意味はないんですよ(殴)

ただ、しばらく地下に潜る、とか言いながら3ヶ月で出戻ってきたし、
更にはイチオシCPじゃないし、まして、娘。小説ぢゃないし。
(気付いてますよね? 登場人物は、誰一人、『娘。』じゃないんです)
こんなんで、娘。小説書き、なんて呼ばれるのは、なんだか申し訳なくて。

ですが、書き手のワガママが出てしまって、
自分としては気に入ってるだけに、
たくさんの人に読んでもらって、どう感じたのか知りたくて、投稿しました。

ので、思ったコトとか、どんどん感想として寄せていただくと、
(勿論、指摘でも批評でもなんでも)嬉しく思います。
160 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月27日(金)22時01分16秒
それと。
カミングアウトついでに、もうひとつ。

白板での『作者フリー短編用スレ 二集目』で、
『強情なくちびる』というタイトルで「みきあや」を書いたのも私です。
よかったら、そちらも読んでやってください。
161 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2002年12月27日(金)22時01分53秒
そして最後に。

「もう『みちごま』は書かないの?」「seekには戻ってこないの?」
という質問をされたい方が、もしいらっしゃいましたら。

答えは、NO、と、きっぱり、申し上げておきます。

いずれ、また何かの機会で戻ることがあると思います。
そのときは、今回のようにHNを隠すことはしませんので。
でも、そのときまで、またしばし傍観者に徹します。

長い言い訳と雑談にまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

ではまた。
162 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月27日(金)22時09分11秒
オモシロカタデス
163 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月27日(金)22時27分30秒
完結お疲れ様です。
毎回の更新を待ち遠しく読ませて頂きました。
最初は全部が藤本視点なのかと思っていたので、
やられたって感じでした。
不条理な世界を不条理とは思わせず、美しく淡々と
巧く書いているな、と感心致しました。
また次回作を楽しみにしております。


164 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
165 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
166 名前:チップ 投稿日:2002年12月28日(土)01時08分01秒
完結お疲れ様です。
最近某サイトの影響でアヤミキにはまりまして
この話を読んで更に好きになりました。
よって、遅ればせながら作者さんも好きです。
本来のCPの方も今から読みたいと思います♪
これからも頑張って下さいませ。
167 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月28日(土)02時16分57秒
今、一気に読みました。
あやみき・・・あるイミどんな『娘。小説』よりもリアルに感じてしまいそうな気もします・・娘。ヲタの自分には。
っていうかハマるかも。
168 名前:名無し蒼 投稿日:2002年12月28日(土)02時28分47秒
11こと名無し蒼れす。
作者さんでしたか〜、小説読んだことありました!
CPも予想してた通りでした♪自分も嫌いじゃなく好きな方なのでw
そしてフリーの方もとは!これにはビックリw

アヤミキは自分も最初は全然何も想像していなかったんですよね、
だけど、ごまっとうが切っ掛けであの二人の公共の電波などに影響されました…(w
娘。小説…ではないですがとてもリアルに感じよかったです(何か上手く言えませんが。
これからもどっかで会いましたらよろしくです!そして読みますw
169 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月28日(土)07時43分13秒
すげーよかったです。
170 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月28日(土)16時14分44秒
ずっと毎日楽しみに読ませていただいてました。
最初は自分も藤本の人称だと思っていたところが松浦だったとは、気付きもしませんでした。
色々考えさせられる話でした。
どうか、これから2人が、たとえどんな形であろうと幸せになってくれるように、祈るばかりです。
以上、みきあやヲタからでした。
…作者様、気が向いたらでいいので、またみきあや書いてくださいね・゚・(ノД`)・゚・。
171 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月04日(土)23時08分19秒
超最高でした。
みきあやでこういうのが読みたかった!!って感じで。
はまりました〜。
172 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月04日(土)23時22分37秒
たくさんのレス、ありがとうございます。

>>162
感想、ありがとうございます。
その一言が、すごく嬉しいです。

>>163
感想、ありがとうございます。
実は、ココに公表する前に友人に読んでもらって、そのときにも言ったのですが、
最初の一文を誰の台詞なのかと思わせるか、そこにこの話のポイントがかかっていたので、
騙す、という表現は語弊がありますが、
『やられた』って、思わせられたのは、正直、心でガッツポーズです(w

>>166
感想、ありがとうございます。
某サイト、というのも気になりますが(w
この話で『あやみき』『みきあや』(もうどっちでもいいっす。/笑)が好きになった、と言ってもらえるなら、
とてもとても嬉しいです。
(ってか、またコクられてる〜♪ わーいわーいわー(蹴))
…ちなみに、本来推してるCPの小説を書いたスレは花板倉庫です。<宣伝。

>>167
感想、ありがとうございます。
何も考えずにハマりましょう、『あやみき』に!
きっときっと、楽しい今が、更に楽しくなると思いますよ(w
173 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月04日(土)23時23分44秒
>>168
感想、ありがとうございます。
ってか、読みましたよ、白板フリーでの『あやみき』!
私には書けない初々しさがたまらんです(* ̄m ̄*)・・・ムフ
連載のほうも、がんがってください。

>>169
感想、ありがとうございます。
一言だけってのは、逆に、すんごい凝縮された感じがして、ちょっとテレくさいですね。

>>170
感想、ありがとうございます。
『あやみき』の新作は……(^^;)
そうですね、気が向いたら、また帰ってきます。
そのときは『あやみき』になるか、『みちごま』になるかは、ちょっと予測不可能ですけど(^^;)

>>171
感想、ありがとうございます。
お気に召していただけたようで、書き手としては嬉しい悲鳴です。
現実のふたりは、なんかもう、バカップルですけどね(w
174 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月04日(土)23時25分17秒
えっとですね、>>170さんのメール欄でご指摘いただいたんですけども、
やっぱりちょっと、書き急ぎすぎたみたいですね。
ので、ちょこっと補足。


○ 藤本は何故、盗聴器を買ったのか?

盗聴器の使用目的を考えたら自然かな、と思ってたんですけども、
松浦が、自身の盗聴器つきの指輪を藤本に渡す前に先にそのことに気付いていた、
というのが、実は裏設定としてありました。
つまり、購入は、松浦よりも藤本のほうが先、ということです。
それに気付いていながら、そのことに藤本自身が無自覚であることを利用して、
先に松浦のほうが狂ってると思わせた、と。
まったく同じモノを購入して、自分のほうが狂気の持ち主なんだと藤本に思わせるために。
最後の平家の『最初から何もかも知ってたんか?』が、伏線のつもりだったんですけど、
文才のなさで、うまく伝わらなかったみたいですね、精進します。
175 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月04日(土)23時26分08秒
言い訳ですが、書いた量と仕上がるまでの時間の早さを考えると、
その早さがこの話の荒さにも繋がっているとも思います。

それでも、面白かった、という感想は、素直に嬉しかったです。
読んで頂いて、ありがとうございました。
これからも頑張りますんで、生温い目で見守っててやってください(w


それではまた。
176 名前:名無し蒼 投稿日:2003年01月05日(日)01時25分41秒
レスありがとうございます。
初々しいですか?w
こうゆうの書き慣れてないのでそれはそれで嬉しいですw
マータリ自分も頑張ります、また書きましたら読みますね!
そして説明どうもです。なんとなく想像していたけどあってたかな?
って感じでした。これからも頑張ってください。
177 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月05日(日)03時37分51秒
あやみきって初めて読んだんですけど、カップリング関係なく面白かったです。
なんか萌え。微妙にリアルさが漂っていて、どんどん読みたくなってく感が最高でした。
また是非、作者さんの松浦藤本作品を読んでみたいです。
178 名前:170 投稿日:2003年01月05日(日)10時50分43秒
連載は終わったというのに、わざわざ自分の質問のためにお答えいただいてごめんなさい。
馬鹿な私は、作者様の解説を読んでやっと分かりました。
わざわざお手数をおかけしてすいませんでした。

ここのみきあや?あやみき?大好きでした。
純粋に、面白かったです。どうもありがとうございました!
179 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月11日(土)23時52分58秒
「今終わったから、今からそっち行くねー」

仕事終わりで、そのまま彼女は電話一本寄越しただけで当然のように家にやって来た。

いつものように部屋でくつろいで、あたしの部屋なのに我が物顔でベッドに寝転んで、
その下であたしはクッションを抱えてテレビに向かってる。

彼女の顔を見られない態勢は、正直不安で好きじゃない。

だけど、それを口にしてしまうのも、何だか悔しい。
180 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月11日(土)23時55分00秒
家に来るなり見始めたDVDは、もうそろそろ佳境ってところ。

「あ、そういえばさ」

いつもだったらもっと何か喋りながらなのにな、なんて、
テレビから出てる音声以外の沈黙がイヤになって振り向いたら、
ホントにホントに安心しきった顔で、彼女は眠っていた。

それを見た途端に、あたしの肩から一気にチカラが抜けてしまう。

「…って、マジですかー?」

抱えていたクッションを横に置いて、ベッドの淵に手を掛けてそーっと覗き込んでも反応なし。

無防備な寝顔が見れるのは、あたしだけの特権だよね?
181 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月11日(土)23時56分14秒
すうすうと、聞こえてくる軽やかな寝息が、彼女のあたしへの信頼度を伝えてくる。

「…可愛い顔しちゃって」

ぽつん、と呟いて、そっとそっと、指先で彼女の頬に触れてみた。

すると、ほんの少しだけ、不快そうに眉根が寄せられて、
でもすぐにまた、軽やかな寝息が戻ってくる。

「ぅおーい、亜弥ちゃーん?」

あまり大きくはない声でそんなふうに呼んでも、彼女は目覚めない。

同じ空間にいるのに、なんだかあたしひとりが取り残されてるみたいで、
彼女の寝顔はめちゃくちゃ可愛いのに、胸の奥は、なんだか淋しくなっていく。
182 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月11日(土)23時59分47秒
「起きろ、ばかー。あたしを無視するなー」

それでも、心の底から起きて欲しいとは、あまり思わなかった。

淋しくも思うけれど、今の彼女の時間は、あたしだけが独占してるようにも思えて。

「…起きないとちゅーするよー」

言いながら、もう一度指先で彼女の頬を突付いてみた。

今度はさっきよりも幾らかチカラをこめて、ほんの少し、撫でるように。

起きないことを確認して、あたしは、ゆっくり、彼女の頬に唇を寄せた。

ドキドキと、心臓は痛いくらい鳴っていて。

だけど、触れたい衝動を抑えきれずに唇を押し付けた直後。
183 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月12日(日)00時01分19秒
「…なーんだ」

耳のすぐそばで、明らかに落胆した声がして、あたしは慌てて上体を起こした。

そしてそこに、悪戯っぽく笑ってあたしの心臓を鷲掴みした年下の天使を見る。

「唇じゃないんだぁ」
「おっ、起きて……」

焦って言葉を切ったあたしに、彼女はまた笑って見せる。

「最初から寝てないよ?」
「ずる…っ!」
「寝てると思ってキスしたくせに」

ちっとも責めてない口調で言い返す彼女に、あたしは反論する言葉を奪われる。
184 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月12日(日)00時02分22秒
「…美貴たん、忘れたの?」
「…?」
「美貴たんが、あたしのクリスマスプレゼントなんでしょ?」

そう言って笑った彼女の言葉の意味が判って、一気に顔が熱くなる。

「あ、れは…っ」
「プレゼントとしてもらったからには、大事にするよ?」

どこか他人行儀な口調がカラダの芯を熱くする。

彼女は、どう言えばあたしが逆らえなくなるかを、ホントは知ってるんだ。

「…お返しは、いらない?」

ベッドに横たわったままで手を伸ばしてくる。
185 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月12日(日)00時03分33秒
その手のひらが包み込むようにあたしの頬に触れて、
指先の冷たさが、ほんの少しだけ、あたしを冷静にさせる。

「いる」

首を動かせて彼女の手のひらに唇を押し付ける。

「じゃあ、大事にしてね?」
「うん」
「ずっとだよ?」
「うん」
「心変わりは、許さないから」
「…そっちこそ」

あたしの頬に触れる彼女の手を重ねるように掴んで、そのまま手首に唇を滑らせた。
186 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月12日(日)00時04分32秒
「亜弥ちゃんの全部が、あたしのものだよ」
「…なら、美貴たんの全部も、あたしのものだからね?」

見詰め合って、思わず吹き出した。

それからそっと、彼女の額にあたしの額を押し付けた。

「ちゃんとキスしてよ」
「するから、目閉じなよ」
「やだ。また違うとこにする気でしょ」
「信用ないなー」

くすくす笑い合いながら、お互い目を開けたままで、唇を重ねる。
187 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月12日(日)00時06分28秒
重ねた唇を、先に舌で歯を割ってきたのは、彼女のほう。

あたしに掴まれたままの手首を取り返して、
抱きつくようにあたしの背中へとまわしてくる。

深くなるキスなのに、まだ目を開いたまま見詰め合う、
その淫らな空気に頭の奥が痺れ始める。


あたしを包むこの体温のすべてが、未来永劫あたしのものだと願いを込めて、
カラダを起こしてきた彼女の背に腕をまわしながら、あたしはゆっくり、目を閉じた。
188 名前:DIVE INTO MY HERAT 投稿日:2003年01月12日(日)00時08分18秒




――――――END
189 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月12日(日)00時09分25秒
レス、ありがとうございます。


>>176
書き慣れてない、とのことですが、数をこなしていくに上手になるよ、と、
以前助言を頂いたので、お互い、頑張りましょう。
何事も、日々、精進です。<…偉そうですね、すいません。

>>177
感想、ありがとうございます。
そう言っていただけると、本当に嬉しいです。

>>178
>連載は終わったというのに、わざわざ自分の質問のためにお答えいただいてごめんなさい。
いえいえ、お気になさらず(^−^)
どんな感想でも疑問でも、書き手には貴重な意見となりますし、今後の参考にもなりますので。
190 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月12日(日)00時11分34秒
今回の更新は、半分以上は勢いです。
個人的には、やっと、今回のことも前向きに考えられるようになりました。
いろんな情報や噂が飛び交う中でも、
私は私の気持ちで応援していくつもりですし、正直、今は楽しみでもあります。
拙いながらも、小説を書きつづけていくコトで、その気持ちを表せたらな、とも思っています。



ではまた。
191 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月14日(火)06時12分19秒
あやみき(・∀・)イイ!!

ミキティのことかな?自分の中ではまだまだ複雑です。
192 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月21日(火)23時19分38秒
あんまり長くなることはないと思いますが、またちょっと、連載始めます。

痛くないです。
だからって、甘くもないです。
でもってやっぱり見切り発車です。

………だってだって、真っ黒い藤本さんが書きたくなったんだよーぅ。

多くは語りますまい。
ではどうぞ。
193 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月21日(火)23時21分25秒
「…ふわぁ」

思わず漏れた欠伸に、亜弥は右手で軽く口を覆った。

「デッカイ欠伸やなあ」

亜弥の隣に座った裕子に呆れたように笑いながら言われて、思わず亜弥も姿勢を正す。

「…す、すいません」
「寝てへんの?」

優しい口調に戻った裕子に亜弥も笑顔になった。

「ちゃんと寝ましたよ」
「そっか? 寝不足とちゃうの?」
「昨日は美貴たんトコに泊まったんです。…結構遅くまで…、その、喋ってて」
194 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月21日(火)23時22分53秒
少なからず言葉尻を濁しながらもそんなふうに答える亜弥に、裕子はまた呆れ顔になった。

「そら、同情の余地なしやな。今日はハロコンの打ち合わせなん知ってたはずやろ。もっとプロ意識持ちなさい」

最後はぴしりと先輩の威厳で言い放ち、そのまま視線を前へと向けてしまった。

これは裕子なりの『注意』である。

決して彼女を怒らせたワケでも不快にさせたワケでもない。

亜弥もそれを判っているから、素直に頷いた。

「…はい、すいませんでした」

静かに告げると、目は前に向けたままで、裕子が亜弥の頭を撫でる。

その手はいつもと変わりない優しさで、亜弥も素直に反省する。
195 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月21日(火)23時25分10秒
けれど、横から感じる視線に、それまで和んでいた空気が一変した。

勿論、それは亜弥だけが感じたもので、裕子自身には何の変化もない。

ゆっくりと横を向いて、目線だけで自分に向けられている視線の主を探した。

そしてすぐに、その相手を見つける。

会議用の簡易な長テーブル6つを長方形型に付け合わせた机の、
亜弥が座っている斜め向かい側に、相手は座っていた。

頬杖をつき、じっと亜弥を見ている。

亜弥に欠伸をさせてしまうほど、夜の時間を長く過ごした相手、美貴だ。

まっすぐ亜弥を見つめる美貴の視線は冷たかった。

どこか冷徹とも見える冷めた眼差しに、亜弥のカラダでは違った熱と不安とが呼び覚まされていく。
196 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月21日(火)23時26分18秒
不意に、美貴の口元がニヤリと綻んだ。

その視線と微笑みがひどく甘美で艶やかで、鎮まったはずの熱が、密かにまた火を灯す。

眠れなかったのではない。
眠らせてもらえなかったのだ。

昨夜は何故か執拗に責めたてられて、美貴の腕の中で、何度果てたか数え切れない。

今朝も早いのにと訴えても、聞き入れてはもらえなかった。

なのに、亜弥を寝不足にさせた本人は少しも悪びれた様子がなく、
あれほど焦らすように責めては啼かせ、
このカラダを貪ったとは思えないような静かな目で亜弥を見ている。
197 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月21日(火)23時26分54秒
「…でも、せやったらなんで今日は藤本と離れて座ってんの?」

当然とも言える質問を裕子から投げられ、亜弥は思わず大きく肩を揺らせてしまった。

「…別に、なんとなく、ですけど」

いつもいつも、それこそ空き時間はふたり一緒にいるのを見慣れられているぶん、
こんなふうにたとえ少しでも距離を置いているのは、誰が見たって不自然だ。

それは勿論、亜弥自身も承知していた。

けれど、朝、打ち合わせ場所にくるなり、美貴が亜弥の耳元で囁いたのだ。

『亜弥ちゃんはあっちに座りなよ』

そう言って、美貴はさっさと空いている椅子に座ってしまった。

そして無言のオーラで、近付くことを許さないと告げられた。
198 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月21日(火)23時27分36秒
初めは何か怒らせたのかも知れないと思ったけれど、
それでも、そばに座るよりも少し離れて美貴の顔を眺めることが出来るのはある意味新鮮にも感じて、
亜弥はあまり疑問も不安も抱かずに、今座っている椅子に腰を降ろしたのである。

「ケンカ?」
「違いますよぅ」

言い訳するように言って美貴に手を振って見せると、美貴もいつもの笑顔で振り返してきた。

そして、だんだんとその打ち合わせ場所にも人が集まり始め、
空いていた椅子が少しずつ埋まり始めていく。

なつみや真里が来たことで、裕子の意識も亜弥から少し遠のいた、そのときだった。
199 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月21日(火)23時28分28秒
また視線を感じた亜弥が美貴を見ると、
さっきのような冷たい目で頬杖をつきながら亜弥を見つめていた。

怯えを隠せず不安気に亜弥が眉尻を下げると、美貴は、小さく口元だけで笑って見せた。

そして、亜弥が安心の溜め息を漏らすよりも早く、薄く開かれた唇から、ちらり、と赤い舌を覗かせた。

――――― …美貴、たん?

亜弥が喉の奥で呟いたと同時に、美貴の舌が、ぺろりと自身の上唇を舐めたのが見えた。

途端、亜弥の背中を熱い何かが滑り落ちる。

………美貴の、『悪戯』が始まろうとしていた。
200 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月21日(火)23時31分21秒
とりあえず、今回はここまでです。

次回は、まだちょっとメドたたないんで、週末くらいには…、と考えてますが、
あまり期待しないでください。
201 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月21日(火)23時33分04秒
レス、ありがとうございます。


>>191
あやみき、自分でもまさかこんなにハマるとは思ってもみませんでした(w
前の私のレスぶんは、藤本さんのことです。
私はもう落ち着きました。その中で6期が決定したので、さして動揺はないですね。
藤本さんを好きな気持ちは薄らぐどころかどんどん深みに………。
202 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月21日(火)23時34分31秒
図らずも藤本さんの肩書きに『娘。』がついたので、
私自身も、『娘。小説書き』に逆戻りになったんですねえ、などと呟いてみる。


ではまた次回。
203 名前:チップ 投稿日:2003年01月22日(水)01時50分06秒
おぉっ!ちょうど黒ミキが読みたいなぁと思っていたところに黒ミキが!
まさか私の為に?(誤)
自由奔放そうなあややが振り回されるのっていいですね。
続き楽しみにしとりやす♪
204 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月22日(水)10時39分13秒
新作あやみきキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
やばいほどツボっす。
205 名前:名無し蒼 投稿日:2003年01月22日(水)11時12分56秒
ども!久しぶりに来たらあの後と今更新されてたんですねw
はい、次第に書いていくとやっぱり前と違うなぁって感じするんで
頑張って上手くなって行こうと思います!

新作…うぅむ今度はどんなのになるんでしょうw楽しみです。
…確かに、みきてぃ入ったから娘。小説になるんですよね?(w
206 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月23日(木)13時35分37秒
黒ミキ(・∀・)イイ!!
続き期待。
207 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時08分45秒
不自然でない程度に開かれた唇から見える美貴の赤い舌は、
見ているものに淫らな想像をさせる。

けれどそれは、美貴自身の中に潜在するモノを知り得る人間だけが気付く淫猥さだ。

そして亜弥は、それを知る数少ない人間のひとりでもある。

――――― …何、考えてるの。

予測不可能な美貴の笑顔に、それでも、よからぬコトを考えていることは察知出来て、
亜弥の全身が見えない不安で覆い尽くされる。
208 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時10分00秒
それに気付いているのか、美貴は満足そうに小さく笑って、
頬杖をついている右手の指先を自身の唇に押し付けた。

カタチのいい中指が、美貴自身の上唇を押し上げて歯を見せる。

見えた白い歯に挟まれるようにして覗かせている舌の赤が際立ち、
美貴の本意が見えない亜弥に不安だけを植え付けていく。

そして、唐突に、その舌がぺろりと美貴の中指を舐めた。

途端、スイッチが入ったように亜弥の全身に電流が走る。

美貴の、あの舌の動きを、亜弥は知っている。

昨夜、亜弥のカラダを責め尽くし、舐め尽くした、その………。
209 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時11分01秒
――――― う、わ…。

声にはならない悲鳴が亜弥を包む。

舐め上げた指先を、今度はゆっくり口の中へと、含ませる。

――――― …ちょ、…待って…。

声にならない制止の言葉は、当然美貴には届かない。

どくどく、と、早鐘と呼ぶには不釣り合いなまでに脈打つ自身の心音と、
それに従うように熱くなっていくカラダの芯。

美貴が自身の指先を舐めた、たったそれだけのことで、
亜弥の脳裏と全身には、昨夜の行為が思い起こされていた。
210 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時12分07秒
何故か執拗に責めたて、何度言葉でやめてと訴えても、
正直な亜弥のカラダは美貴の指や唇を受け入れて、結局は昇りつめてしまっていた。

そして最後には満足そうに微笑んで、美貴が亜弥の耳元で尋ねるのだ。

『キモチ良かったんでしょ?』

どんなにヒドイ仕打ちを受けても、
結果的にそれが亜弥にとっては快感へと変わり、疑いようのない愛情と欲望へとすりかわる。

美貴もそれを承知で尋ねるから、少々タチが悪いとは思うけれど。

美貴の舌の動きを見ていられず、亜弥は思わず俯いてしまった。

けれど、密かにカラダの芯で、
アタマの奥のほうで灯り始めた快楽へと誘う火は、消え去りはしなかった。
211 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時12分58秒
じんじんと、亜弥の腰のあたりが痺れはじめる。

足の奥のほうが、淫らな熱を放ち始める。

それを堪えきれず、亜弥はそっと、目だけで美貴を見た。

――――― !?

美貴は、中指だけでなく人差し指まで使って、覗いている自身の赤い舌先を挟み込んでいた。

たったそれだけなのに、
激しさを伴わせて伝わってくるその卑猥さ、その淫乱さ、そして、その、妖しいまでの、艶。

美貴の潜在するモノを知らない人間ならば、
決して気付くことのない、彼女の中に隠れているケモノの本質。

亜弥の全身は、その一瞬で、亜弥の目にしか見えないケモノの色と淫らな熱で、覆われた。
212 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時13分49秒
熱くなっていくカラダの芯に倣うように、
頬にまでその熱が帯びてきているのが亜弥自身にも判る。

火照って赤くなっているであろう自分の顔を、
美貴以外の誰かに見られるワケにはいかない。

本当は、美貴にだって見られるのは恥ずかしい。

何故なら、この部屋にいる人間の中で美貴だけが亜弥の本当の状態に気付いているからだ。

そうさせたのは自分自身だと、美貴の口元はどこか満足気に笑っている。
213 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時14分23秒
亜弥はもう一度目を伏せて俯いた。

けれど、目を伏せる前に見た美貴の赤い舌は、淫らな色彩として亜弥の瞼に灼きついている。

目を閉じても浮かぶそれは、
他に何も見えない亜弥から逆に逃げ場を奪い、芯に灯った淫らな熱を膨張させていく。

小刻みに震えながらも、亜弥は深く息を吐き出しながら、そっと目を開けた。

そして今度は、誰にも気付かれないように人差し指の指先だけを口の中へと含んでいる美貴が映った。

勿論、まっすぐに亜弥を見つめながら。
214 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時15分07秒
――――― …なんで……?

声にならない亜弥の問いかけに気付いたのか、美貴の眉がぴくりと動いた。

――――― …ひどいよ、美貴たん。

じくじくと、亜弥のカラダの芯が疼きだす。

すると美貴は少し怒った様子で口の中に含んでいた指で自身の歯を開き、
ゆっくりと、再び赤い舌を覗かせてきた。

――――― …も、…やめてよぉ。

半分涙目で訴えても、亜弥の目に映る美貴からは一向にそれを止める雰囲気が見られない。

それどころか、徐々にエスカレートしているようにさえ感じられる。
215 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時15分44秒
亜弥の足の間で淫らな熱を放ち始めた本能。

その意味。

自身では抑えられない、動物的な欲望。

それに堪えきれなくなって思わず膝を擦りあわせると、
見届けた美貴の口元がまた満足そうに綻んだのが見えた。

喉の奥が熱くなる。

さっき水分補給したばかりなのに、もう潤いを失くしたように、ヒリヒリする感じがした。

美貴から目を離せない亜弥に気付いたのか、
口元を綻ばせたまま、美貴はゆっくりと、
軽く出して見せている舌の輪郭を指先で辿るように撫でた。
216 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時16分26秒
たったそれだけなのに、緩く弧を描いた舌の動きに、
亜弥の背筋を熱い何かが駆け下りていく。

「………っ」

ずくん、と、響くような痺れが亜弥の腰に落ちてきた。

舌と指と唇の動きだけで、亜弥が隠している本能を暴かれているような気分になる。

けれど、それなのに美貴に逆らえない自分が、亜弥も実は嫌いではなかった。

美貴の本心がホンキで見えないワケではなかったし、
美貴がそんな『悪戯』を仕掛けるのも、逆に彼女の愛情にさえ感じてしまうから。

――――― …あたしも、末期だわ。

喉元の、更にもっと奥のほうで自嘲気味に唱え、美貴を見つめる。
217 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時17分05秒
頬杖をついている美貴の右手の指と唇、そして、視線。

それに実は視姦されているなんて、
この部屋にいる誰も気付いていないだろう。

その空気がまた更に亜弥を卑猥な世界へと導く。

『堕ちる』という言葉を、亜弥は改めて、自身の脳裏に思い浮かべた。
218 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月25日(土)18時17分52秒
レス、ありがとうございます。


>>203
>まさか私の為に?(誤)
( ̄∀ ̄)+
実はそうなんで…(殴)<相方から『嘘つくな!』と速攻のツッコミ。

>>204
>キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
実はコレ、自分のスレでやられるの、夢だったんですよねぇ(w

>>205
ども!(w
>新作…うぅむ今度はどんなのになるんでしょうw
えぃとですねぃ、恐らく、私が今まで書いたどの小説よりもエロくなるかと(w

>>206
イイっすか?(^^;)
がんがりますです。
219 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月25日(土)18時19分26秒
………ああもう、真っ黒い藤本さんが書きたかっただけのはずが、
この先は、自分で恥ずかしいくらいのエロい展開になりそうなヨカーン…。<自分を煽るヤツ。


次回は、火曜日くらいに……(^^;)
220 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月25日(土)18時20分37秒
すんません、
>>218 の名前欄間違えてしまいますた。<凹
221 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月26日(日)12時57分59秒
(^▽^)<エロカモンナ!
すんげぇすんげぇ楽しみにしてまってます(w
222 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月27日(月)03時36分59秒
エロエロな展開
(;´Д`)ハァハァしながら待ってます
223 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月28日(火)12時53分10秒
(・∀・)イイ!
224 名前:チップ 投稿日:2003年01月28日(火)18時21分56秒
あぁ〜やっぱり私の為に(再誤)・・・嘘でもいいんです!
ミキアヤがこの世にある限り、黒ミキは地球を救うんでしょうな。(なんのこっちゃ)
ミキティのエロパワー楽しみにしてます。


225 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時03分29秒
美貴の指先が、ゆっくりと、彼女自身の口内へと差し込まれていく。

その動きは亜弥に身震いを起こさせるほど淫乱な色彩を放っていた。

「……っ」

息を飲んだ亜弥のカラダがほんの僅かに揺れた。

けれど、まだ誰も亜弥の変化に気付いた様子はない。

口の中へと埋まる美貴の指に、亜弥は、
無意識に自身のカラダを撫でる美貴の指を想像していた。

いや、撫でるだけではなく、辱めるように自身のカラダの内へと埋め込まれていく美貴の指を。
226 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時04分09秒
触れられてもいないのに、じんじんと痺れていく自身に、亜弥は小刻みに震えた。

足の奥で放っている淫らな熱を美貴以外の誰かに気付かれてしまいそうで、
けれど、あからさまに言葉にはできないその背徳感が、逆に亜弥の理性を煽るかのように。

両膝をそっと擦り合わせながら、
いやらしい熱を解き放とうとしている自身の本能に辛うじてブレーキをかける。

しかし、口内へと差し込んだ指をそっと引き、唾液で鈍く艶めく指先を亜弥に向けた美貴は、
素直になることが快感への近道だとでも教えるかのように艶やかに微笑んでいた。
227 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時04分46秒
――――― …や…だ、……もぅ…。

亜弥の状態に気付いていながら意地悪く微笑む美貴が亜弥にはたまらなかった。

欲しい、という正直な願いが亜弥の脳裏を駆け巡る。

今すぐ、あの指であの唇で、自分を掻き乱して欲しい、と。

ゆっくりと、再び口内に指を押し込んだ美貴。
それに倣うように亜弥のカラダも淫らな熱が駆け抜けていく。

自身の指を吸い付くように舐めて、ますます冷ややかに微笑む美貴が美しくさえ見えた。
228 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時05分40秒
引き出した指が、また唾液で濡れている。

その唾液が、足の奥で放たれている動物的な欲求を示す蜜の鈍い艶に見えて、
亜弥は思わずぎゅっと目を閉じた。

と、同時に、亜弥のカラダが今までで一番大きく震えた。

自分自身で頂点が近いことを察知して、堪えきれず、細くて長い、けれど甘い吐息を吐き出す。

しかしその呼吸は、すぐ隣にいた裕子にも届いてしまうほど、ハッキリしていて………。

「…松浦? どーした?」

心配、というよりは不審気なその声色に、亜弥は自我を保つ余裕もなく、机に崩れた。
229 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時08分12秒
「…なんでも、ないです」

その声と吐息に、隠されている甘い何かを悟らない人間がいるだろうか。

ましてカンのいい裕子が聞き逃すとも思えなかったけれど、
それでも、気付かないで欲しいと、一縷の望みを持って。

「松浦…?」

額を机に押し付けているので、裕子の表情は声で推し測るしかない。

けれど、どんな顔付きでいるのかは、亜弥にも容易く想像出来た。

きっと、眉根を寄せて訝しげに自分を見下ろして、
まさか、と思いながら今にも手を伸ばそうとしている。

そんな予想が、今度は亜弥を違う不安へと駆り立てた。
230 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時08分50秒
今の状態で誰かに触れられて、理性を保ったままそれに受け答えなんて出来るだろうか。

美貴以外に触れて欲しい人間なんていない。

それは紛れもない本心だけれど、アタマとカラダは一対のようで、
現実はそうでもないことを亜弥は知っていた。

全身に痺れるような甘い電気を走らせている今、
触れられただけで理性を手放してしまいそうになる自分に、亜弥はひどく怯えた。
231 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時09分24秒
いやだ。
いやだ。

誰も触れないで。

誰にも触れられたくない。

美貴以外の、誰にも。
232 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時10分00秒
「大丈夫?」

そんな言葉と一緒に亜弥の肩を抱いてきた手の熱。

伝わってくる身に覚えのあるその熱に、亜弥は安堵の溜め息を漏らしながら頷いた。

「…なんや、具合悪いんか?」
「ちょっと外の空気吸いに行こうよ」

裕子の言葉を無視して美貴が亜弥に告げる。

ゆっくり立ち上がり、重心の半分以上を美貴に預けながら、全身に響く痺れを堪えて亜弥は歩き出す。

「すいません、ちょっと出てきます」

部屋を出る前に美貴が裕子に振り返る。

少し顎を引いた裕子に美貴が浮かべて見せた微笑みは、裕子の背筋にも冷たい何かを滑らせた。

そして、静かに部屋を出て行く。
233 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月28日(火)23時10分37秒
「…なんや、アイツ」

気配が消えてから裕子は呟いた。

10以上も年下の後輩に確かに怯えを見せてしまった自分を取り繕うように息を吐きながら、
亜弥に触れる寸前に、美貴によって振り払われた自身の手を見つめた。

「………露骨なヤツ」
――――― 触んなって、全身で言いよった。

口の中だけで呟いて、裕子はもう一度深く、溜め息をついた。
234 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月28日(火)23時11分18秒
レスありがとうございます。

>>221
( ̄∀ ̄)+
でも、今回の更新はあんまりエロくなかったですよね(^^;)

>>222
>(;´Д`)ハァハァしながら待ってます
まさか、自スレでこんなレスがつくとは…(感激)

>>223
(/∇\*)きゃ。
……あ、相方が遠くで静かに微笑みながら100tハンマー持ってるのが見えます。
相変わらず力持ちさんです。<激違

>>224
だからぁ、嘘ぢゃないですってば(w
…あっ、嘘です、ごめんなさい。< 相方に睨まれた
235 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月28日(火)23時13分03秒
おそるべしあやみき。
あとは自己添削を残すのみ。

ので、添削終わったらサクサク更新します。
236 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月28日(火)23時13分41秒

いろいろあったみたいですが、
朝の芸能ニュースで知ったとき、私は失笑しか浮かびませんでした、ごめんなさい。
だってカタチが変わるだけで、気持ちはもう決まってるんだもん。

ではまた、近いうちに。
237 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月29日(水)02時32分34秒
早く続きを… 
238 名前:名梨 投稿日:2003年01月29日(水)14時18分29秒
ぅわお。
身もだえしながら交信お待ちしております。
239 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時00分37秒
腰にまわる美貴の手が周囲には気付かれないような微妙さで動いて、
無駄に亜弥の欲望と本能とをかきたてる。

美貴がそんなふうに自分を支えているのはわざとだとも読めて悔しささえ浮かぶけれど、
それでも、自身が放つ淫らな熱を鎮めてくれるのは美貴しかいないとも判っているから、
亜弥も強くは抵抗出来ない。
240 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時01分10秒
「…ね、どっちがいい?」

不意に、亜弥の耳元で美貴は囁いた。

声色には、意地悪さがまだ含まれている。

「…な、にが?」
「トイレと楽屋。どっちにする?」

途端、亜弥は耳まで真っ赤になった。

「ふふっ、かーわいい♪」

返す言葉が咄嗟に見つからない。

美貴の言わんとしていることがよく判って、羞恥心だけが煽られていく。
241 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時01分46秒
「トイレは鍵かかるけど狭いよねえ?
いつ誰が来るかも判んないし、声だって聞かれちゃうかも知れないし」
「…な…、…なに…」
「でも楽屋もさぁ、今日はいろんな人が来てるし、ふたりっきりじゃないもんねえ?」

美貴の言う通りだった。

総メンバーが40名を越す今、
ハロープロジェクトのコンサートの打ち合わせのため、といっても、
個々に楽屋を割り振られることはない。

娘。は全員でひとつ、もしくはふたつ。

それ以外のメンバーは、たいていは少人数のユニットとソロで活動している何人か、
もしくはユニット同士、ということが暗黙の了解になっていた。

亜弥の全身を駆け巡っている熱い本能を早く鎮めて欲しいのに、
ふたりきりになるための、その場所がないのだ。
242 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時02分19秒
「ね、どっちがいい?」

亜弥を支えながらも意地悪く微笑む美貴は、どこか楽しそうだ。

「…そんな…、…ひどいよ、美貴たん」
「ひどい? なんで? あたし、何もしてないじゃん」

しれっ、と言い放ってぷいっと顔を背ける。

けれど、腰を撫でる手の動きは止まることを知らないかのように忙しなく這い続けている。

勿論、微妙な刺激を与えるだけで激しさはなく、
緩く快感に溺れさせられている状態の亜弥にとっては、堪えるのも限界に近付きつつある。

「あたしは別に、このまま打ち合わせに戻ってもいいんだけど?」
「ひど…っ」

同じ言葉を叫ぼうとして、また腰のあたりを撫でられた。
243 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時02分53秒
「……っ!」

声にならない悲鳴とともに膝がチカラを失くす。

「いいの? ガマン出来るの?」

くすくすと喉の奥で笑って告げる美貴の妖しい美しさが亜弥の理性を喰い荒らし始めた。

そして、ゆっくりと、本能の塊へと変貌させていく。

「…どうする? いっそのこと、ココでやっちゃう?」

人通りは少ないと言っても、亜弥と美貴がいる場所は往来のある廊下である。

「そんな…っ!」
「だったら言いなよ、どこがいいか」
244 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時03分27秒
言い放った言葉の威圧感。
有無を言わせない圧倒的なまでの『征服者』の瞳。

そして、その瞳に捕らわれたのは。

「ん?」

微笑まれ、見つめ返す亜弥のカラダがまた熱を帯びていく。

決して逆らうことを許さない、逆らえない、逆らおうとも思わない、恋人の。
245 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時04分13秒
口の端を上げて意地悪く微笑む美貴から目を逸らし、
震える自身のカラダを堪えながら、亜弥は小さく、呟いた。

「……この、先の…、トイレに…、しよう?」
「へえ? トイレでいいの? 誰が来ても知らないよ?」
「…たぶん、大丈夫だと、思う…。前に中澤さんが…、あんまり人来ないって、言ってた…」

亜弥の言葉を聞き届けた美貴の口元が、また、何かを企むように小さく綻んだ。
246 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時05分39秒
裕子に聞いたことのある場所の化粧室は言葉通りに人通りの少ない場所で、
支えながら連れて来られた亜弥は安堵し、
美貴はと言えば、少し、悪戯心を削がれたような複雑な顔付きをしていた。

それでも入る前に一度周囲を見回し、中にも誰がいないことを確認してから、
美貴は適度に広い個室に亜弥を連れ込んだ。

便座の蓋が閉じられているのを確認して、亜弥ではなく、自らが腰を降ろす。

いきなり離されたことで自身のチカラで立っていられなかった亜弥は、
重心を壁に預けるようにして凭れてから、細い息を吐き出した。
247 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時06分11秒
「…どうしたの?」

座った美貴が上体を前屈みにしながら正面に立っている亜弥を見上げる。

口元には、意地悪そうな笑みを浮かべたまま。

「……み、き…、た…」
「うん?」

ニヤニヤ笑う美貴の笑みが亜弥にはたまらなくなってくる。

亜弥の状態を知りながら焦らす美貴の本意が見えなくなってきて、
次第に亜弥も不安になってくる。
248 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時06分42秒
「なん…で……」
「なにが?」

おそらく、こんな間接的な言葉でははぐらかされるだけだ。

亜弥もそれを悟って、ぎゅ、と目を閉じながら乱れる呼吸を堪えて意を決する。

「…なんで…、触って、くんないの?」
「どこに?」

頭に血が昇る。

それを言えと言うのか。
それを言わせたいのか。
249 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時07分29秒
「………じ、焦らさないで、よぉ…」

限界が近い。

凭れながら、がくがくと膝が震えだす。

自身のチカラだけでは、もう立っていられなくなる。

早く触って欲しい。
早く、この熱を鎮めて欲しい。

美貴の、唇で。
250 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時08分01秒
「…も…、やだ……」

辛うじてそれだけが声になった亜弥の、閉じられていた目尻から涙が零れる。

それを見た美貴の口元が、さすがに戸惑いを見せて引き締まった。

「…早、く……、してよぉ…」

理性を吹き飛ばした亜弥が涙声で呟いたとき、
美貴の手が、そっと亜弥の膝より少し上の部分に触れてきた。

少し薄手のジャージの生地は、美貴の指の感触をしっかりと亜弥の肌に伝えた。
251 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時08分35秒
「…あ…っ」

短く、悲鳴が漏れる。

亜弥は咄嗟に上を向いて両手で自身の口を覆い隠した。

美貴の指先が、そろりそろりと、まるで線を辿るように上へと這い上がっていく。

「…んっ、んんっ」

足の付け根辺りまで辿り着いてようやく、美貴は立ち上がった。

そしてそのまま、亜弥に顔を近づけて、その耳元に息を吹きかける。

「…んっ!」

少しずつ上へと這い上がり、口を押さえている亜弥の両手を掴んで自身の首へと回させる。
252 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時09分06秒
「…捕まってなよ」

耳元で囁くと、また更に激しく亜弥のカラダが揺らいだ。

ジャージの腰の部分まで手を這わせてから、一気にその中へと手を差し込んで、
淫らな熱を放っている亜弥の足の間を目指す。

そして美貴の指先は難なく亜弥の中心を捕らえ、
小刻みに震える亜弥の求める何かを、確信する。

「………すごい、ここまでガマンしたんだ?」

美貴の言葉に亜弥の顔はますます朱色を帯びていく。

首のうしろにまわる亜弥の手にも、チカラが入った。
253 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時09分42秒
「欲しいの?」

うんうん、と、何度も頭を上下させる亜弥が愛しくなって、
けれど、擡げてくる虐待心を無視することも出来ず。

「どうして欲しい?」

知りながら、敢えて尋ねてしまう自分の意地の悪さも愚かさも、気付いてはいるけれど。

「………舐め、て…」

焦らしたつもりでも返答が早いと、相手の状況が極限に近いことが判る。

美貴は、そっと亜弥のカラダを支えるように壁から離して、
さっきまで自分が座っていた便座に亜弥を座らせた。

そしてゆっくりと床に膝をつく。
254 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時10分19秒
「………美貴たん…、そんなトコ足ついたら、汚い、よ……?」
「別にいい」

短く答えて、亜弥の穿いていたものを、隙をついて全部一気に引き摺り下ろした。

「ひゃ…っ!」

思わず外気に触れたせいか、亜弥のカラダが震える。

美貴の目の前で小さく丸くなった亜弥にますますイジメたい気持ちが煽られていく。

「…足、開きなよ」

胸の奥で湧き上がる感情を隠すように、美貴は冷淡な声色で言い放った。
255 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月30日(木)23時11分02秒
………て、まだ引っ張るんか!!!(殴)
256 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月30日(木)23時12分22秒
Σ( ̄□ ̄;)
しまった、また>>255 の名前欄間違えた。
レスありがとうございます

>>237
ふふふ、まだ焦らします(殴)

>>238
身もだえ………。(想像中)


257 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月30日(木)23時12分55秒
そんな私の別名は
焦らし寸止めの瑞希です。<内輪ウケ

ではまた、次回。
258 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月30日(木)23時15分24秒
>「………じ、焦らさないで、よぉ…」

ぁゃゃの言葉は、読者の言葉でもあります(w
259 名前:名無し蒼 投稿日:2003年01月30日(木)23時28分08秒
…またまた久しぶりに来たら更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
258さんの言う通りw
あややの言葉は(ry
毎回、みきあやドキドキさせられますなぁw
だから作者さん大好き(ry
260 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月31日(金)14時10分45秒
ヽ(`Д´)ノ ウワアアアン  また寸止めだよ!!
261 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月31日(金)15時20分12秒
一気読みしたのに寸止め。
蛇の生殺しのよう。

は、はやく.....つ....づ....き......を......。
262 名前:名梨 投稿日:2003年01月31日(金)16時36分27秒
(身もだえ中…)
早く楽にさせてください(w
263 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時28分24秒
美貴の言葉に素直に従おうとしても、
羞恥の抜けきらない思考のせいで動きが緩慢になる。

それに気付いたのか、
ほんの少しだけ開いた亜弥の膝を掴むと、美貴はそのまま強く押し広げた。

「あ!」
「何、今更恥ずかしがってんの?」

美貴の言葉は正論だろうか。

確かに、回数で言えば、
亜弥の年齢では多いと思われるくらい、美貴とは何度もカラダを重ねている。

けれど、それはいつだって自分たちの家のベッドの上で、
こんなふうに誰が来るかも判らないような場所で、誰に声を聞かれるか判らないような場所で、
美貴の手によって快楽へ導かれるのは、初めてだったのだ。
264 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時29分57秒
「よく見えないなあ」

ぽつりと呟いて、美貴が亜弥の足の間へと顔を沈めていく。

「へえ…」

嬉しそうな声が聞こえて、亜弥の羞恥心が加速づいていく。

背中にある貯水タンクに重心を預けながら、浅く早くなっていく自身の呼吸を耳に届ける。

くちゅ、と、湿った水音に亜弥の全身に電気が走った。

「…くあっ!」

思いがけず大きな声が響き、亜弥も咄嗟に両手で口を覆った。
265 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時31分37秒
「…すごいよ、亜弥ちゃん。溢れてるよ」

言いながら、美貴の指が亜弥の蜜を掬い取る。

「やだ…、も…、はや、く…!」

亜弥のして欲しいことを知りながらまだ焦らす美貴に、亜弥は哀願するように告げた。

「だーめ」

なのに、返って来た美貴の答えは至極淡々としていた。

「簡単にイカせちゃったら、つまんないじゃん」
266 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時32分11秒
悪戯にもほどがある、とはよく言うけれど、
美貴のこの行為は、果たしてただの『悪戯』なのだろうか。

「ど…して……?」

がくがくと震えだす腰を堪えることも出来ず、
亜弥は美貴から目を逸らして上を向いたまま涙目で訴えた。

「可愛いから」

ずくん、と、その告白が亜弥を更に快感へと導く。

極限が近いのに、そこに辿り着けないもどかしさに息だけが荒さを増していく。
267 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時32分55秒
「亜弥ちゃん、知らないでしょう?
えっちするときの亜弥ちゃん、すっごいエロい顔してあたしのこと見るんだよ」
「そ…、んなの…っ」
「知らないよね。あたししか、知らないんだよね」

美貴の指に掬い取られた亜弥の蜜が、ニヤリと笑った美貴によって亜弥の目前に晒される。

「…見える? 亜弥ちゃんの、だよ」

鈍く艶めく不透明な雫は、それだけで亜弥を羞恥の塊にする。

「…も、…やだ、…よぉ…」

真っ赤になって、両手で顔を覆う。

「ちゃんと…、してよぉ」
268 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時33分45秒
これが美貴の愛情だというのなら、甘んじて受け入れよう。

それが先に恋に落ちた人間の義務だと言うなら、どんなことでも受け入れられる。

美貴が望むなら、どんなに恥ずかしいことだって、口に出して言えるほど。

けれど、亜弥を見つめる美貴の目には、
なんだか違う要素も含まれているようで、それは亜弥を不安に陥れる。

「………こんなの、やだ…」

愛されているはずなのに、それは、なんだか。

「…やだよぅ…」

試されている、ようで。

「……許してよぅ」

切なげな吐息とともに発せられた言葉に、
美貴の胸では、それまでとは違う感情の波が打ち寄せた。
269 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時34分43秒
「……欲しいって、言いなよ」

指先で、亜弥の足の付け根を辿る。

「あ…っ!」

全身が快感の電気を放つ今の亜弥には、
美貴のそんな些細な指の感触にも過剰に反応してしまう。

「あたしが欲しいって、言いなよ」

言い切る強さと対照的な声音の弱さ。

それに気付いて、亜弥はぎゅっと目を閉じ、唇を噛み締めた。

「……言ってよ」

美貴が息を吸い込んだのが目を閉じていても空気で判った。
270 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時35分43秒
「…ねえ、亜弥ちゃん」

次第に弱くなっていく声色に、亜弥は自身のカラダからゆるりと緊張を解いた。

そして、噛み締めていた唇を薄く開いて、請われるままに、
けれど決して嘘ではない本心を、告げる。

「………ちょう、だい」

熱を伴う吐息と一緒に出た言葉に、美貴の強張っていた表情がほんの少しだけ和らいだ。

美貴が細く、けれど長めに息を吐き出したのが判って、亜弥もそっと閉じていた目を開く。

「……美貴たんが、欲しい、の…」

小刻みな呼吸で告げた瞬間、美貴の指が亜弥の足の間で放たれている熱へと伸びてきた。
271 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時37分07秒
「ん…っ!」
「………ごめん」

床に膝をついたまま、上体を起こした美貴が亜弥の耳元に顔を近づけて囁いた。

そしてゆっくり、耳を舐め上げて、吐息をその穴へと吹き込む。

「んんっ」

油断したその隙をつかれ、美貴の指が亜弥を貫く。

「く…、んっ!」

一気に挿し込まれても、
淫らな蜜が溢れていた亜弥はそれを大きな抵抗もなく受け入れていた。
272 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時38分11秒
痛みがなかったワケではない。

けれど、それに打ち勝つ快感が亜弥の思考を飲み込むように襲いかかってきていた。

「あ…っ、んっ、ああ!」
「…ダメだよ、亜弥ちゃん、声、聞かれる…」

耳元にかかる美貴の吐息が亜弥を痺れさせる。

「あたしの肩、噛んでいいから」

更に奥へと沈み込んでくる感覚に亜弥の思考はショート寸前になっていた。

美貴の優しげな声だけが、ぐるぐるとまわり始める。

目に見えた場所に、声を漏らすまいと必死で噛み付いた。
273 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時39分12秒
「ん…、うぅっ、…んっ!」

美貴の指の動きの激しさが亜弥から思考を奪う。

耳を滑る美貴の舌の感触がまた更に極限に近づける。

「…亜弥、ちゃん」
「う…、…ん、ん…っっ!」

その日初めて聞いた美貴の優しい声に、
亜弥は自分のカラダが放つ熱のすべてを、解放した。
274 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時39分58秒

ほんの数秒だけ、亜弥は美貴の肩先を噛んだまま、ぐったりして自身の重心を手放す。

けれどすぐに思い直して美貴から離れ、
美貴の顔色を窺うより先に彼女の服の襟ぐりを広げた。

そしてそこに、亜弥の歯型を見つけてカラダが熱くなる。

「……ごめ…」

言うより早くその傷を舐めると、美貴のカラダが大きく震えるように揺らいだ。

「そんなの、しなくていいから」

突き放すように言い放ち、再びカラダを下げた美貴が亜弥の膝を掴んで広げる。

そしてゆっくり、蜜が零れている足の間へと顔を埋めた。
275 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時40分45秒
「え、美貴た…? …ひゃうっ」

ザラリとした感触に、鎮まったはずの痺れと熱が再び火を灯そうとしている。

「…や、…なん、で? …み…、あ……っ、あ…っ!」
「じっとして」

突き放すようでいながら、愛情を感じる冷たさに亜弥のカラダも震えた。

蜜を舐め取る美貴の舌の動きは言葉以上に優しく、背筋をぞくぞくとした感覚が滑っていく。

「ん…、ん、あ…」

漏れ聞こえる自分の声が艶やかに聞こえ、再び恥ずかしさも訪れる。

「…亜弥ちゃん、えっちだね」
「………?」
276 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時41分26秒
乱れる自身の呼吸を抑えられないまま美貴を見下ろすと、
顔を上げた美貴の唇が鈍く光っていた。

「キレイにしようと思ってんのに、どんどん溢れてくるよ。そんなにイイの?」

意地悪く微笑む美貴の妖艶な美しさは、亜弥のカラダをますます本能の湖に溺れさせる。

頬を赤くしながらもこくりと頷くと、亜弥の目に映る美貴は至極嬉しそうに口元を綻ばせた。

「じゃあ、正直な亜弥ちゃんに、ご褒美あげるね?」
「え…?」

美貴の言葉の意味が判らず眉根を寄せると、
美貴は亜弥が身構えるより早く、再び足の間に顔を埋めた。

「…っ、あっ!」
277 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時41分57秒
ぴちゃ、という柔らかな水音のあと、
亜弥の膝に添えられていた美貴の手が、大腿を撫でながら蜜の入口へと移動してきた。

「………舐めてもらうほうがイイんでしょ?」

指先で入口をそっと広げながら美貴は告げた。

「…ほら、また溢れてきた」

言葉での凌辱には慣れたつもりでいたのに、
飾らない言葉に亜弥の頬だけでなくカラダにも朱が広がる。

「くあっ」

ずり落ちそうになるカラダを支えるように背中に当たる貯水タンクの淵に手を掛け、
声を漏らすまいともう片方の手で口を覆う。

「いいコだね。………そんな声、誰にも聞かせちゃダメだよ?」
278 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時42分30秒
美貴の甘い声が耳に届いてすぐ、亜弥のカラダには再び快感という名の電流が走った。

「ん…っ、んぅ!」

舌が沈んでくるのが響くように伝わってくる。

ザラリとした独特の質感が亜弥の思考を再び攫いにやってくる。

「んっ、んっ、んんっ」

唇と舌とで器用に蕾を挟み込み、
腰を震わせた亜弥に満足したようにゆっくりと舌先を奥へ沈める。

亜弥のカラダのどの部分が敏感に感じ取るかを熟知している美貴の舌は、
昨夜の出来事を思い起こさせた。

美貴の腕の中で、何度も果てた自分自身を。
279 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年01月31日(金)23時43分18秒
「ん…、ふ…、んぅ」

亜弥のカラダに初めて『触れた』のは美貴だった。

そして、もう美貴以外の誰にも触れて欲しいとも、亜弥は思っていない。

どんなに淫らな熱も、屈辱的な行為も、羞恥心を煽るだけの言葉も、
相手が美貴だからこそ、受け入れられるのだ。

恋しいひととカラダを重ねることは決して咎められる行為ではないのだと、
美貴が、教えてくれたのだから。

「んっ、んぁっ!」

亜弥の中心で理性をも掻き乱そうとする美貴に自身のすべてを預けて、
亜弥は、自我の望むままに再び頂点へと、昇りつめた。
280 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月31日(金)23時44分48秒




………えーと、皆さん、ラクになれましたかあ? (蹴)
(耳に手を当てて返事を待つヤツ)
281 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月31日(金)23時45分22秒
レスありがとうございます。

>>258
どうも私、焦らすのが好きみたいで…(殴)

>>259
(/∇\*)きゃ、またコクられちゃった♪

>>260
えっ、また? またってコトは、前々回から引き続きってコトですか?(^^;)
それだったらすいません(^^;)<何故謝る。

>>261
い、生きてますかあ!?

>>262
………(またまた想像中)。
(´ρ`)< 何考えてたんだ。
282 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年01月31日(金)23時45分52秒
次は日曜の夜か、遅くても月曜には更新します。
ちなみに、次回で最終回です。

ではまた。
283 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月01日(土)00時27分01秒


  最  高  で  す  。


284 名前:チップ 投稿日:2003年02月01日(土)01時01分20秒
もうなんと言っていいのやら、
 ありがとうございました。

マナー部が落ち着いて見れないよぅ・・・(なんでチューを嫌がるんだ、ミキティ)
285 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月01日(土)14時13分41秒
はじめまして。一気読みしちゃいました。イイ!
みきあや小説探していて作者様の小説を発見しました。みきあや初体験です。
ハァハァ。。。娘内の某有名CPよりもこっちのほうが好きになっちゃいましたよ。
286 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月01日(土)15時12分48秒
末永くよろし(ry

最高れす…!!!メル欄もうけますたw
マナー部なんでこっちで放送しないんだよ…と小一時間w
287 名前:名梨 投稿日:2003年02月01日(土)17時13分48秒
やっとラクになれますたw
でも出血多量です(鼻血

マナー部、こっちでもまったく放送してなくて困り果てております。
288 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時44分26秒
口元の雫を手の甲で拭った美貴が上体を起こして亜弥を支えると、
その美貴の肩に再び凭れるように重心を預けながら、亜弥も行為後の余韻に浸る。

浅くて早い呼吸が美貴の耳にも甘いものとして届き、
そっと抱き返しながら、美貴は亜弥の首筋に唇を滑らせた。

不意に触れてきた感触に思わず亜弥が身を捩ると、
亜弥の背中にまわる美貴の手にチカラが入る。

「…美貴たん?」
「亜弥ちゃんの、キレイにしなきゃ」

美貴の言わんとしていることが判って、亜弥は一瞬で頬を染める。
289 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時45分02秒
「だ、だいじょぶ、自分でする」

自分を抱きしめている美貴の肩を軽く押して、脱がされたジャージに手を伸ばす。

空いた手でトイレットペーパーを掴むと、まだ少し足は従来の感覚ではないけれど、
それを悟られないようにゆっくり立ち上がって美貴に背を向けた。

「………エロいなぁ」

身支度を整えた亜弥の背中に美貴が告げる。

その声色はいつもの美貴のものだったけれど、
発せられた言葉に亜弥はドキリとしてそっと顔だけで振り向いた。
290 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時46分01秒
「脱がした服を目の前で着込まれるって、シチュエーションがやらしいよね。
なんか、すごくイケナイコトしてる気分だよ」

その言葉は、何故か亜弥の心をほんの少し傷付けた。

咄嗟に返す言葉に詰まる亜弥に、美貴が再び顔を近づけてくる。

「…ま、そんな亜弥ちゃん、あたししか知らなくていいって意味だけど」

亜弥が嬉しくなる言葉を紡いで、その頬に唇を押し付ける。

「戻ろう。そろそろみんな、揃う頃だよ」

美貴の唇の感触を確認するように、亜弥は美貴が触れた自身の頬を撫でる。

そんな亜弥に構わず、
さっさと個室のドアを空けて目前の洗面台で手を洗う美貴の背中を見ながら、
亜弥はそっと息を吐いた。
291 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時46分39秒
美貴の本意が見えなくて、悲しくなる。

亜弥のカラダを覆っていた淫らな熱は確かに解放されたけれど、
今度は違う何かに覆われていく気がして、胸の奥が痛くなる。

――――― …美貴たん。

亜弥の数歩前を歩く美貴の背中にそっと喉の奥で呼びかける。

――――― …あたしのこと、好き、だよね?

聞くのが怖くて、亜弥はぎゅ、と唇を噛んだ。

すると、まるで亜弥の声が聞こえたかのように、ゆっくりと美貴が振り向く。
292 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時47分20秒
「…なんで離れて歩いてんの?」

少し怒ったような口調に思わず亜弥は肩を竦ませた。

冷たく見つめられて、足が動かなくなる。

「どしたの?」
「………美貴た……」
「ん?」
「美貴たん…」
「だから、なに?」

今日は、まだ一度も唇へのキスをもらっていないことを思い出して、
ますます悲しくなっていく。
293 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時48分03秒
「……っ」

俯いて、熱くなる目頭を隠すように両手で顔を覆うと、美貴はぎょっとしたように顎を引いた。

けれど、亜弥の言いたいことは、判ったようだった。

下唇を軽く噛んで細く息を吐き出すと、亜弥の元まで静かに歩み寄って、
顔を覆っている亜弥の両手首をそれぞれ掴まえる。

「…バカ」
――――― 何、疑ってんの?

喉の奥で呟いて、零れ落ちそうな亜弥の目尻の涙を唇で拭い取る。

その唇の熱は、亜弥の大好きな、優しい熱で。
294 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時48分36秒
「…ほら、行くよ」

掴まえた亜弥の手を握り締めて、美貴は振り向くこともしないで、また歩調を早めていく。

けれど、繋がれた彼女の手から伝わる熱は、
その甘さだけで、亜弥の不安を静かに溶かしていく。

「………あのね、美貴たん」
「ん?」
「あの…、聞いても、怒らない?」
「内容によっては怒る」
「じゃ…」
「けど、言わなかったらもっと怒る」

前を向いたままキッパリ言われて、逃げ道がなくなる。
295 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時49分16秒
「……あの…、なんで…、あんなこと、したの…?」
「亜弥ちゃんが中澤さんに触らせたから」

言われることに予測がついていたのか、美貴の返答は素早かった。

「へ?」
「……っ、あたし以外の誰かに頭撫でられて喜ぶな、バカ」

どこか拗ねた口振りでの美貴の答えに、亜弥は唖然となってしまった。

今、亜弥の目の前にいる人物と、さっきあれほど自分を羞恥の塊にさせた人物と、
同じ人物とはとても思えなかった。

「…亜弥ちゃんが思う以上に、あたしは独占欲が強いんだよ」

掴んだ亜弥の手を、ぎゅっ、と強く握り締める。
296 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時49分53秒
「……ね、ねえ、それって、ひょっとして…、ヤキモチ?」

的を得た正解を告げられた美貴の顔が一瞬で赤らむ。

「うるさい、バカ」

言うなり、振り向いた美貴が亜弥の鼻に噛み付く。

思いがけなさに肩を竦ませた亜弥に、美貴はそのまま口付けた。

「………あたしの言ってること、判った?」
「…うん」

離れていく唇を名残惜しげに見つめながら、亜弥は頷いた。

「あたし以外の誰にも、触らせちゃ、ダメだよ」
「うん」
297 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時50分29秒
微笑んでもう一度頷いたとき、
打ち合わせ場所となっている部屋の扉が内側から開き、中から圭織が姿を見せた。

「あっ、いたいた、おーい、松浦、藤本!」

ふたりが立っていた場所からまだ少し離れた場所から手を振られ、
亜弥と美貴は揃って振り向いた。

「打ち合わせ始まるよー! 早く戻ってこーい!」
「すっ、すいませーん」
「すぐ行きますー!」

揃って答え、ふたりは互いの顔を見合わせながら笑うと、
手を繋いだまま、元いた部屋へと戻った。
298 名前:ヌードと愛情 投稿日:2003年02月03日(月)23時51分37秒
◇ 後日談 ◇


果たして、美貴の独占欲に満ちた子供のような願いがそのまま守られたかというと、
勿論、そんな無理なワガママが叶えられることはなく。

ハロプロのメンバーだけでなくスタッフ達にまで無意識に頭を撫でられている亜弥を見かけるたび、
美貴が亜弥に『悪戯』を仕掛けるようになったのは、言うまでもない。







――― end ―――
299 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年02月03日(月)23時53分10秒
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
以上で『ヌードと愛情』、別名『真っ黒い藤本さん』(殴)は、終了です。


先にレス返しを。
レス、ありがとうございます。

>>283
そんなストレートに言われたらテレますがな!(w

>>284
いえいえ、どういたしまして。
…って、エロ書いてお礼言われるのって…(w

>>285
一気読み!? 最初からですか?
でしたら、さぞ最初と今回との人物の性格のギャップに戸惑われたことでしょう(蹴)
いやいや、ありがたいです、ありがとうございますm(_ _)m

>>286
不束者ですが、こちらこ(撲殺) <ちなみに、いつも殴るのは相方が…(w

>>287
しゅ、出血多量て…(w
そろそろ、おさまってますよね? < ぉぃ


私の住む地方も『マナー部』は見れません。
でも先日、相方から録画ビデオを強奪してきました。秋に拉致られた仕返しです。<激違
5分もないのに内容は薄っぺらくて濃いです。<どっちや。
ハロモニ。のコントが傑作選でDVDになるなら、『ことミック』もDVD化してほしいなあ。
勿論全編ノーカット、収録裏側、NG集、キス事件のその後、とかも込みで。
300 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年02月03日(月)23時54分22秒
さて。ここから先はレス流しを含めた雑談です。興味のない方はすっ飛ばしてください。

今回の『真っ黒い藤本さん』(笑)を書こうと思ったきっかけは、かなりサイテ−です。
もともと私が書く藤本さんはどーもネガになってしまって、
ホンモノとはかなり違うなあ、ま、いっか、所詮妄想だし。
とか、聞くひとによっちゃ雰囲気ブチ壊すようなこと考えてたんですが、
そんなときに6期決定の放送があって、そのときの藤本さんを見て、思いついたのが今回のお話です。
我ながら、勢いとか妄想って、素晴らしいけれども恐ろしいです(w
(ちなみに『sea of love』は、松浦さんの『The 美学』の最後の1フレーズがきっかけで。
あの歌詞読んだ次の瞬間、ラストシーンが浮かんだという、裏話も暴露(w)

私は、真っ黒い藤本さんも真っ白い藤本さんもブチの入った藤本さん(笑)も大好きです。
んが。
相方には、『(前振りしたほど)真っ黒くないやん』と言われて、
さすがにちょっと内容に自分自身の甘さが出たのは否めないですね。
というか、相方の底知れなさを痛感しました(w
何を期待してたんだ、キミは(w
……今度実践しちゃるから(殴)
301 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年02月03日(月)23時55分26秒
冗談と雑談はさておき。

次回作、というか、なんというか、次回更新は全くの未定、というか、何もありません(w
自分としては、まだまだ書き足りない気持ちはあるので、
何かしら機会があったりネタが浮かべばまた戻ってきます。

長々とお付き合いくださり、ありがとうございました。
では、また。
302 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月03日(月)23時59分10秒
  最  高  で  す  

感動をありがとう。
あやみき、サイコ―。作者さんマンセー。
303 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月04日(火)01時11分13秒
ホントに面白かったです。
最後はにやけっぱなしでした。
ありがとうございます。
304 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月05日(水)16時01分33秒
川o・-・)b<GOODでした。
    
305 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月06日(木)03時35分09秒
こ、こちらこそ不束で…(ry

 最 高 れ し た。

また書いてくださいw 作者さんの亜弥美貴は凄く好きです♪
そして末永く…(ry
306 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月07日(金)02時55分54秒
すげぇよかったです。
早いお戻りを期待してます。
307 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年03月04日(火)23時06分20秒
レス、ありがとうございます。


>>302
感想ありがとうございます。
ストレートな感想で、めっちゃテレますが(w

>>303
感想ありがとうございます。
>最後はにやけっぱなしでした。
私もニヤけながら書いてました。<危険。

>>304
(●´―`●)ありがとうだべさ。

>>305
感想ありがとうございます。
いえいえ、こちらこそ未熟で若輩者ですが(殴)
>また書いてくださいw
たはは(^^;) エロいのをですか?(蹴)

>>306
感想、ありがとうございます。
このスレももうちょっと残ってるし、有効に使わせていただきますです、ハイ。
308 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年03月04日(火)23時07分32秒
んと、新作のほう、他板ですが、はじめました。
よろしければ、また覗いてみてやってください。


http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/wind/1046185987


ちなみに、このスレももう少し容量が残ってますので、
リアルの「あやみき」(藤本×松浦)で、短編とか出来たら載せようと思ってます。

が、予定は未定ですんで、何も浮かばないかも知れません。
ので、無闇に保全とかのレスはしないでいただけると、
ぷ、プレッシャーにもならないので……モゴモゴ

ワガママですいません。
では。
309 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月05日(土)01時19分59秒
一応ほぜん
310 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月18日(金)17時54分49秒
遅ればせながら、今このスレを知って「sea of love」一気に読ませていただきました。
めちゃくちゃ良かったです。
自分は元々あやみきが好きで、色々他にも読ませていただいているんですが
こういう雰囲気は初めてでした。
序盤から中盤に至っては、テレビで拝見する松浦さんとは全くキャラが違い、
それでも、読んでいくうちに作者様の筆力によって、リアル松浦さんと小説の中の松浦さんが
ガッチリハマり、なんとも言えない新しい発見が出来ました。
そして最後の大どんでん返しで、目からウロコを落とされました(w
不謹慎ながら、美少女二人堕ちていく姿は美しいですね。
文章力が素晴らしいので、その場の緊張感や情景が目の前に浮かびました。
途中何度もドキドキしながら一気に読ませていただきました。
よい作品をありがとうございました。
311 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月30日(水)16時22分59秒
待ってます。
312 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月30日(水)23時05分59秒
>>311 
板違い?
313 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時38分24秒
「そろそろ衣装着てくださーい」
「はーい」

衣装替えのための楽屋。

今日はもうすぐ収録自体が終わってしまう『マナー部』の撮影。

そして今、主役(?)の美貴と亜弥のふたりは衣装替えの真っ最中。

何故か着替えは密室でふたりっきりなので、この空間を利用して、
イチャイチャしまくってるのは言うまでもないのだけれど。
314 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時48分01秒
「今日は天使かー♪」

亜弥の前で衣装を広げて見せた美貴がにこやかに微笑む。

「ほんとだー、なんか懐かしいねー」

『マナー部』の全身ともいうべきコント番組での出来事を思い返して、
美貴も亜弥もくすくすと笑いを浮かべた。

そして、お互いがお互いの肌に触れたり着替えの邪魔をしたりしつつも、
天使の衣装を身に纏ったあとで、美貴が何かに気付いた。
315 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時49分30秒
「あれ? こっちにはデビルの衣装があるよ?」
「へ?」

天使の衣装が掛けられていたすぐそばに、白い天使の衣装とは対照的な黒い衣装があった。
これまたご丁寧に、先の尖った尻尾付き。

「…亜弥ちゃん、台本、見た?」
「ううん、実は今日のはまだ見てない」

番組の構成上か、はたまた演出者の個人的嗜好なのか、
毎回、衣装はどれもお揃いが用意されている。

それなのに、天使も悪魔も2着ずつ並んでいたのが、今回は何故か不自然のようにも見えた。
316 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時50分22秒
「………天使、でいいんだよねえ?」
「たぶん…、台本ないから、ちょっと判らないけど…」

亜弥が不安そうに返事したとき、スタッフのひとりがドアをノックした。

「はーい?」
「着替えられましたー?」
「や、もうちょっとー」

美貴が答えると、ドアの向こうのまだ若そうな女性の声が少し軽やかになった。

「今日のは対(つい)になってるんで、間違えないでくださいねー」
「えっ? …あっ、はーい!」

そう答えたあと、ドアの向こうに人の気配がしなくなった。

そして、美貴と亜弥は顔を見合わせる。
317 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時51分10秒
「…やっぱ、天使と悪魔、ってシチュエーション?」
「…みたいだね」

亜弥が苦笑いして告げ、美貴も思わず眉尻を下げた。

「あちゃー、着替えなきゃ」
「…でも、どっちがデビル?」

美貴の質問に、亜弥も思わず返事に詰まった。

「…えーと、美貴たんじゃない?」
「なんでさー!」
「だってさ、なんか、そういうイメージじゃん。美貴たん、イジメっこっぽいし」
「なにー!」
318 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時52分08秒
亜弥のイヤミのない口調に、美貴も笑いながら反論して、腕をのばして亜弥の腰をくすぐる。

「わわっ、やっ、もー、く…、くすぐったいってぇ」
「2着あるんだから、どっちもデビルやるってことでしょ、もー」

腰をくすぐった腕をするりとそのまま背中へとまわして正面から抱き合う体勢をとると、
亜弥は満足そうに微笑んで美貴の頬に唇を寄せた。

「…けど、今日はどっちがどっちなんだろ?」
「どっちも撮るんじゃない? ふたつ並んでるし」
「じゃ、ジャンケンで決めよ? 負けたほうが着替えるの」
「判った。最初はグーね!」

そういうことは、大抵は言い出したほうが負ける、というのが不思議な摂理。
319 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時52分57秒
「はーい、亜弥ちゃんの負けー」
「…むぅ」

出したグーの手を唇を尖らせながら思わず睨む亜弥の耳元に、
美貴が嬉しそうにはしゃいだ声を出す。

「ほら、さっさと着替えなきゃ。みんな待ってるよー」

美貴の含み笑いが気になりつつも、亜弥は渋々ながらも着替え始めた。

しかし、お互いの裸なんてもう見飽きるぐらい見ているのに、
こんな風に自分だけが着替える、という行為がなんだか気恥ずかしくて、
亜弥は美貴の視線から逃げるように背を向けた。

すると。
320 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時53分47秒
「…なんでそっち向くのさー」

少し拗ねた口振りの声がして、亜弥は顔だけで振り向いた。

「なんでって…」

言い訳しようとして、その唇が不意に塞がれる。

「…こっち見て脱いでよ、全部さ」
「!」

放れた唇が意地悪く綻んだのが見えて、亜弥のカラダが羞恥で染まった。

背後から抱きしめられて、
ほぼ下着だけの状態になっている亜弥の素肌に美貴の体温が直接伝わってくる。
321 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時54分33秒
「…あれれ? どーしたの?」

亜弥の腹の辺りで組まれた両手が外され、
美貴のカタチのいい指がゆっくりと胸元へと這い上がっていく。

「…ちょ、美貴たんっ」
「ん?」
「なに、ちょっ…、どこ触って…」
「着替えを手伝ってあげようとしてんじゃん」

亜弥の耳元に届く美貴の声色は明らかに意地悪な雰囲気を孕んでいて、
けれども、自身のカラダを這う指は、ひどく優しく、そして淫らで。

「…そん、な、触り…方、された、ら…っ」

ブラを強引に上へとずらして現れた亜弥のふくよかな胸の尖端に、美貴は指の腹を強く押し付けた。
322 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時55分25秒
「ひあっ」
「…やらしーなあ、亜弥ちゃん」

膝の感覚がなくなり、亜弥がバランスを失うように足元から崩れると、
美貴もそれを支えながら床へと膝を付いた。

背中ごと美貴に重心を預け、乱れ始める自身の呼吸を聞く。

「……あ…、あ…っ」
「コレぐらいでダウン?」
「…あ…っ、…み、美貴たんが…、上手なんだ、よぅ…、…あんっ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん?」

ふふっ、と喉の奥で含み笑いをした美貴に意識を向けたとき、
亜弥の胸を撫でていた美貴の右手がするりと、
小刻みに震えながら膝頭を擦り合わせていた亜弥の太腿へと伸びてきた。
323 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時56分08秒
「…ほら、足開いて」
「…ん…」

美貴の言葉に素直に従って、亜弥は静かに足を開いて、美貴の指を待つ。

「あー、もう、こんなに濡らして」
「…誰の…、せい、よ…っ」

下着の上から軽く擦っただけで指先に蜜の感触が伝わり、
嬉しさを隠せずに、美貴は静かに、中へと指を押し込んだ。

「…あ、あぁ…」

受け入れた亜弥のカラダが一瞬強張り、
けれどすぐに、深く息を吐き出しながら、更に奥へと飲み込もうとする。
324 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時57分01秒
「…イイ?」
「う、ん……っ! …あっ」

更に指をもう一本加えて奥へと突き上げると、
美貴の肩に乗せられていた亜弥の頭が大きく傾いだ。

「…や、あ…っ、い…、たい、よぅ…」
「すぐ慣れるよ」
「やだ…、や…、美貴たん…っ」

言葉とは裏腹に、もっと奥へと誘い込まれるように、美貴の指は飲み込まれていく。

「…欲しがってるじゃん」

亜弥の乱れる小刻みな吐息と、それに呼応するように響く淫らな蜜の音。
325 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時57分46秒
「…ほら、まだまだ入るよ」
「ああっ!」

潤いをなくしはじめた自身の唇をぺろりと舐めてから目の前に見える亜弥の耳に噛み付くと、
亜弥のカラダが弾かれるように震え、喉と背中が弓形にしなる。

「…イイんでしょ?」
「あっ、あっ」
「亜弥ちゃん?」
「あ…っ、…だ、め! …イ…、あ…っ、…イク…っ!」

頂点へ昇りつめる言葉とともに一段とカラダを強張らせた亜弥が、
大きく息を吐き出してゆっくりと美貴の腕の中へと堕ちてくる。

呼吸の乱れはそのままに、甘えるように美貴の腕へと頬を擦り寄せると、
美貴も愛しいという感情を伝えるように、亜弥のカラダを強く抱きしめた。
326 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時58分56秒
「……やっば、逆だと思うけど」
「何が?」

美貴の腕に頬を擦り寄せながらも、
どこか反発するように告げた亜弥に答えながら、その彼女の額や頬に口付けていく。

「衣装だよ。美貴たん、やっぱりイジメっこだ」
「違うよ、天国見せてあげたんじゃん?」

さらりと出た悪意なき言葉に、亜弥も思わず声をなくした。

「………オヤジですか、アナタは」

ぽつりと呟いた言葉に美貴はまた意地悪く微笑んで。

「天使の衣装を着た悪魔って、ところかな?」
327 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)21時59分36秒
美貴の言葉に苦笑いしながらゆっくりと離れて、用意されていた悪魔の衣装に手を伸ばす。

見守る美貴の視線に少なからずの羞恥を感じながら静かに身に着けた黒い衣装は、
そのまま、亜弥の悪戯心にも火を付けた。

「…今度は、あたしがイジメる番?」
「…ばぁか」

ごつん、と、痛くないゲンコツを額に喰らう。

「じゃ、天使の羽をもぎ取って、地獄に落としてやるー」

がおー、と両手を挙げて掴みかかろうとする亜弥を、美貴が何かを伝えるように微笑み返す。
328 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)22時00分19秒
「…美貴たん?」
「…地獄だけじゃなくてさ、堕ちるとこまで、ふたりで堕ちていこうよ」

美貴の妖しげな微笑みに亜弥が言葉をなくして息を飲んだとき、再度、ドアをノックされた。

「そろそろ、お願いしまーす」
「はーい、行きまーす」

硬直気味の亜弥に構わず答えた美貴が、その言葉とともにゆっくり立ち上がる。

そのままドアまで歩いて、言葉を発せず目だけで美貴を追っていた亜弥に静かに振り向いた。
329 名前:heaven or not heaven 投稿日:2003年05月11日(日)22時01分25秒
「…行こう?」

笑顔で差し出される手は、天使のものだろうか、それとも悪魔のものだろうか。

たとえ行き着く先が天国でも地獄でも。

アナタと一緒なら、どこでも構わない。

「うん!」

軽やかな声で頷くと、差し出された美貴の手を、亜弥は強く握り締めた。






――――――― end
330 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年05月11日(日)22時02分25秒


妄想とは、時に、素晴らしいけれども、
時に恐るべき産物を生み出すような気がしまつ。

ああ、もうこのスレを使うことなどないと思っていたのに(笑)
331 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年05月11日(日)22時03分30秒
レス、ありがとうございます。

>>309
書かないかも知れないのに、
保全していただけるなんて、私はなんて幸せモノなんでしょう(°Å)

>>310
>美少女二人堕ちていく姿は美しいですね。
私はたぶん、心の根っこが歪んでるんですね(w
ので、堕ちていく過程ほど背徳感に満ちていて、排他的で、破滅的で、
けれども、美しいものはないと思ったりもするんです。
(それがすべてとは言いませんが)
こんなふうに言っていただけて、とてもとても、嬉しかったです。

>>311
ageられ(ry

>>312
そう、なのかな?(^^;)
332 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年05月11日(日)22時04分32秒
私の住む地方では『マナー部』は放送されてなかったので、
天使と悪魔の回は画像でしか知りません。
ので、詳しくは判らないので、実際と違ってても大目に見てやってくださいね(^^;)

というワケでココはsage更新。
気付く人は、果たして何人いらっしゃるでしょうか? なーんて。

つーか、風板、引っ張ってねぇで、とっとと更新しろよ、ゴルァ!
とか、言わないで下さいね(^^;)

ではまた。
次回があれば(殴)
333 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)20時11分24秒
はてなアンテナに登録していてよかった(喜
天使と悪魔。最高です。

みきあや、大好きです。
風板の方も頑張ってください。楽しみにしてます。
334 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)23時36分21秒
チェックしておいて良かった。
作者様今回も最高です(;´Д`)ハァハァ

>「衣装だよ。美貴たん、やっぱりイジメっこだ」
>「違うよ、天国見せてあげたんじゃん?」

エロ(表現悪くてすいません)の中にも、テンポよくちりばめられている、
こういう作者様のハイセンスな所がめちゃくちゃ好きです。巧いなぁ。
なんとなくオシャレな仏蘭西映画を垣間見た感じでした。
335 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月10日(火)01時17分06秒
保全します
336 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月10日(木)00時46分37秒
hozen
337 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月03日(日)19時32分12秒
338 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時50分38秒
「…ねぇ、たん」

最近の彼女は、なんでかあたしをそう呼ぶ。

最初はどうにも戸惑ってしまったその呼ばれ方も、
彼女自身の束縛の現れなんだってことが今はもう判ってる。

それを重荷に思うどころか嬉しく思ってるなんて、ホント、末期症状もいいところ。

「んー?」

ふたり並んでベッドに凭れて、テレビを見てる。

いつも通りの態勢。
いつも通りの空気。

なのになんでか彼女は、心ココにあらず、みたいな?
339 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時51分25秒
「どした?」

呼んでおきながら目線は前に向けたままでいる彼女。

その顔を下から覗き込むようにして見ると、
ちらりと一瞬目線をくれただけで、すぐにまた、テレビを見てしまった。

彼女の目がテレビ画面を映してないことが判るから、勿論、怒ったりなんてしない。

「…あのさ、その…、…たんは…、………、なったとき、どー、する?」
「へ?」

肝心なところが聞き取れなくて、あたしは間の抜けた声を出した。
340 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時52分31秒
いつもハキハキ、うるさいぐらい喋るくせに、
結構真剣な話題のとき、そしてそれがあたしたちにとってかなり大切なことだったりしたとき、
彼女はこんなふうに言葉尻を濁すみたいに声が小さくなる。

たぶんこれは、彼女なりの不安をあたしに提示していると感じていいんだと思う。

そしてその不安を、あたしに取り除いて欲しいと思ってるってことも。

「…ごめん、よく聞こえなかった。もっかい」

あたしから目は逸らしたまま、彼女の顔が少し赤くなる。

赤くなるってことは、恥ずかしい、という意味に解釈される。

つまり、ひょっとしなくても、性的な意味合いを含んだ何かを聞いたんだろう。

純情な彼女。
あたしと違って、たぶん、根っこが真っ直ぐなんだろな。
341 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時53分17秒
「…だから、その………、し…、したく、なったら」

おお。
直球ストレート。

「……それって、あたしと?」
「あっ、当たり前じゃん! たんのバカ!」

真っ赤になってあたしに振り向いた彼女の唇を素早く奪う。

ほんの一瞬だけ触れて、すぐに離れて。

「したいって、言うよ」
「…え?」
「亜弥ちゃんに、そう言う。キスしたいとか、えっちしたいとか」

言葉を紡がれる前にもう一度唇を塞ぐ。

そしてそのまま、勢いに任せて押し倒した。
342 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時54分15秒
唇の淵をゆっくり吸い上げながら辿って、舌先を薄く開いた唇の中へと差し込む。

「…うそつき…、言う前に…、してるじゃん」
「タイミングの問題でしょ?」

答えて、ちゅ、ちゅ、と、静かな、けれど確かな音をたてながら、
軽く触れるだけのキスを何度も何度も繰り返す。

「…それは、そうなんだけど。そうじゃ、なくて…」

触れるだけのキスの合間を縫って、彼女があたしの髪の中に手を差し込んでくる。

その手や指の感触が心地好くて、あたしはゆっくり瞼を伏せて、されるがままになった。

「……あたしだって、たんがそばにいたら、ちゃんと言うよ。…でも、そうじゃなくて」
「…うん?」
「………そばに、いないときに…、そうなったら、どうする?」
343 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時55分12秒
目を閉じたまま彼女の言葉を脳内で反芻したあたしは、意味を理解して目を開けた。

目前には、あたしから微妙に視線を外して顔を赤らめてる彼女。

「………ひとりでしたの?」
「…っ、バカ!」

がつん! って、拳で殴られた。

「いったぁいっ!」

殴られた頭を両手で抱えて起き上がると、彼女もかなり憤慨したように起き上がった。
344 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時55分51秒
「信じらんない! なんてこと言うのよ! デリカシーなさすぎ!」
「だからって殴るかな!? それもグーで!」
「たんが悪いんじゃん!」
「話振ったのそっちじゃんか!」

言いながら、何となく。

「そんなふうに言ってない!」
「あたしはそんなふうに聞こえたんだよ!」

ヤバイって、アタマのどこかでブレーキかけたりもしたけど。

「要するにさぁ!」

何となく、引くに引けない空気になって。
345 名前:feel 投稿日:2003年08月22日(金)23時56分28秒
「したいって思ったんでしょ? それもあたしがそばにいないときにさ!」

彼女があたしの勢いに顎を引いたのも判ったけど。

「で、ひとりでしたんじゃないの? 自分の指でさ、あたしにされてるって考えながらさ!」

あたしを見る彼女の目の奥に、怯えのような何かが、見えた気もしたけど。

「…それとも何? 他の誰かにしてもらったとか言うわけ?」

これ以上言ったらダメだって、ちゃんとアタマの奥では理解してるのに。

「ああそっか、それなら手っ取り早いよね!
亜弥ちゃんが『お願い』とか言えば誰でも喜んで引き受けるだろうし!」

それが失言以外の何物でもないと悟ったのは、音になってから。
346 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時57分08秒
目の前の彼女が、ひどく哀しそうにあたしを見つめて、ゆっくり唇を噛んで。

思わず口を覆ったあたしに、彼女は細く息を吐き出してから、
何かを追い払うようにあたしから目を逸らして、静かにベッドの中に潜り込んだ。

「…あ…」

全身を覆うようにタオルケットを頭の上まで引き上げて、その中で小さく丸くなる。

手を伸ばしかけて咄嗟に躊躇したあたしの目に、小さくなった彼女の小刻みに震えだす姿が映った。

「…! ごめん!」

ためらった手をすぐに彼女に伸ばして、タオルケットを引っ張ったけれど、
逆らうチカラは思っていたよりも強くて、なかなか顔を見せてくれない彼女に焦りが生まれる。
347 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時58分01秒
泣かせるつもりじゃなかった。
そんなつもりは全然なかったのに。

「ごめん、ごめんね、亜弥ちゃん。…お願いだから顔見せて」

それでも、チカラはなかなか緩めてくれない。

「…亜弥ちゃん」

ベッドの上で小さく丸くなった彼女の頭に、タオルケットの上から唇を押し付けた。

「ごめん、言い過ぎた」

ゆっくり、そっと、腕をまわして。
348 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時58分40秒
「本気で言ったんじゃないよ。そんなこと、思ってないから」

強張っていた彼女のカラダから次第に緊張が解けていくのが判って、
あたしはゆっくり、タオルケットを彼女から引き剥がした。

ほんの少しだけ抵抗は見せたけれど、それでも顔を見せてくれた彼女にホッとする。

俯いたまま、まだ肩を震わせている彼女に胸が痛くなって思わず強く抱きしめると、
腕の中で、ささやかだけれど、小さな反抗に遭った。

「…ごめん」

抱きしめながら、耳元に唇を押し付ける。

「ごめんね」

耳に口付けて、頬へ口付けて、そのまま額へと滑る。

涙の浮かぶ、目尻に唇を落として。
349 名前:feel me 投稿日:2003年08月22日(金)23時59分16秒
「…っ…、く…、…ぅー…」
「ごめん。泣かないで」
「……たんの、バカ…っ」
「うん、ごめん」
「……あ、あた、し、…っ、たん、にしか、言わない、よ…っ」

しゃくりあげる彼女がたまらなく愛しくなって、抱きしめる腕のチカラを強める。

「たんしか…、好きじゃ、ないのに…っ、ほ、他のひとなんて、ど…、でも、いいのに…っ」
「うん…」

言いながら、しっかりとあたしの背中に回されてくる彼女の手が嬉しかった。

彼女の目尻にまた浮かんできた雫を舐め取って、ゆっくりと重心を彼女にかけていく。

ベッドの上に、当然のように横たえられた彼女が、困ったようにあたしを見上げてきた。
350 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時00分00秒
「…ごめんね。あたし、ケダモノだからさ」

苦笑いして告げると、涙混じりの彼女がますます困った顔付きで見つめてきた。

「………泣いてる亜弥ちゃん見てたら、したくなっちゃった」

答えを聞くより先に唇を塞いだ。

唇を舐めて、戸惑って顎を引く彼女を追いかけて、強張って閉じられた歯を舌でこじ開けて。

「ん…っ」

あたしの肩を押し返そうとする彼女の手のチカラ。

たぶん、彼女自身も戸惑いの中にいる。

肩を押してる彼女の手首を掴まえて、その手のひらにキスをする。

指の根に舌を滑らせると、びくりと大きめにカラダが揺れた。
351 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時00分46秒
「美貴たん…?」
「…好きだよ」

精一杯の気持ちを込めて囁くと、肩を押していた手から徐々にチカラが緩んでいくのが判って、
嬉しくなったあたしは彼女の唇をもう一度塞いだ。

「……亜弥ちゃん」

耳元でも囁いて、甘く噛んでその穴へと舌を突っ込む。

「…ん…っ!」

手首を掴んだ手で、彼女の着ているノースリーブの前開きのシャツのボタンに手を掛けた。

ゆっくりと、ひとつずつ丁寧に外して中へと滑り込ませ、胸を撫でる。

下着の上からなのに、彼女の反応はとても顕著で。
352 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時01分32秒
「…フロント?」

こくりと頷いた彼女を見て、胸を撫でた手で前側にあるブラのホックを外して、窮屈そうな胸を解放する。

ボタンをすべて外し終えたシャツを両手で掴んで左右に広げ、
あたしの目の前に晒されている彼女の胸に顔を埋めると、
ほんの少しだけ、彼女のカラダが強張ったのが判った。

「……いや?」

胸に舌を滑らせる前に、視線だけを向けて聞くと、目が合った彼女は一瞬だけ迷って、首を振った。

それを見届けて、あたしは胸の尖端を口の中へと含んだ。
353 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時02分16秒
「ん…っ、あ…っ」

勃ち上がるそれに軽く歯を起てる。

舌と歯で挟んで、転がすように舐め上げる。

「…あ…、んぁ…っ」

何度も吸いあげて。
何度も噛み付いて。

胸のふくらみの頂上が、あたしの唾液で鈍い色を放って艶めくまで。

「……み…、あっ、…美貴、た…っ、あ!」

自分でも、いつも以上に胸を責めてる自覚はあった。

容易く下腹部へ手を伸ばすことにためらいを感じていたことも否めない。
354 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時02分57秒
「…や…、も…っ、……なん…で…、んっ」
「…イヤ?」

胸を舌と唇で滑りながら目線すら向けないで尋ねると、
あたしの背中に回されていた彼女の手が、ぎゅ、とあたしのシャツを掴んだのが伝わってきた。

「………イヤなら、やめる、けど」

名残惜しそうに胸の尖端に軽く唇を押し付けると、彼女のカラダが小刻みに震えた。

「たんの…、意地悪…っ」

それが了承の合図だと判って、もう一度、勃ち上がるそれを口の中へと含む。

「……っ、…わ、かってる、くせに…っ」

彼女の言葉を聞き届けて、あたしは、潤いをなくしかけた自身の唇を舐めた。
355 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時03分38秒
上体を少し起こし、両手で彼女が穿いていたショートパンツと下着とを同時に引き下ろすと、
羞恥で無意識に膝を合わせた彼女の足首を捕まえる。

目を閉じ、頬を僅かに染め、唇を引き結んでいる彼女を見下ろしながら、
掴んだ足首を外側からに掴み変え、少しずつ左右へと押し広げる。

「…っ」

膝の内側に唇を押し付けて、彼女の中心へと落ちるように滑ると、
彼女のカラダがそれに合わせるように強張っていくのが読み取れた。

中心へと辿り着くなり、
あたしはためらいも前触れも感じさせないまま、何の準備も与えないまま、舌を押し込んだ。
356 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時04分12秒
「ぅあ…っ! …あっ、あ…っ、あんっ、あ…っ!」

淫らな水音に合わせるように彼女の口から発せられる甘い吐息が、
あたしの中に僅かに残っていた理性を吹き飛ばす。

貪るように舌で中を掻き乱し、その動きに合わせるように彼女の腰も震える。

「んっ、ん! ぁあ…っ」

足首を抑えていた手を外して、足の内側をゆっくり撫でながら中心に向かう。

押し込んだ舌を抜き、それに替わるように押し込もうとして入口で一度動きを止めると、
彼女のカラダに違う緊張が走ったのが判った。
357 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時04分49秒
「…挿れるよ?」

返事は返ってこない。

それでも気に留めず、あたしはゆっくり、彼女の中へと指を挿し入れた。

「ぅん…っ! く…ふ…、ぁ…、あぁ…」

漏れてくる淫猥な声音はあたししか知らない。
快楽に満たされて色づく頬の淫らさも、あたししか知らない。

「あ…っ、んっ、ん…っ、ぅ…あ…っ」

誰にもやらない。
誰にも触らせるもんか。
358 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時05分24秒
「…亜弥ちゃん」

呼びながら、更に奥へ。

「…あ…っ、…ふっ、…んんっ!」
「亜弥ちゃん、好きだよ」

あたしの声に彼女のカラダの震えが一際激しくなった。

「…っ、あっ、は…ぁっ、……っ、あっ、…も…、や…、あっ!」

指先を締め付ける感覚があたしの脳へと刺激を訴える。

「……んっ、ああっ! …美貴たん……っ!」

あたしの肩を掴んでいた手のチカラが強くなって、肩先に、爪の感触も感じて。

カラダから緊張が溶けていくように、彼女はゆっくりと、しならせた白いカラダをベッドに沈めた。
359 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時06分03秒
「…大丈夫?」

上体を起こし、閉じられた目尻に薄く涙を滲ませながら浅い呼吸を繰り返すその唇にキスを落とす。

「うん、へーき…」

あたしの唇を受けた彼女がゆっくり目を開けて、頬を染めながら頷いた。

「…気持ちよかった?」
「………うん」

更に頬を朱に染めながら、それでも確かに頷く。

その瞼にそっと唇を寄せ、彼女の背に腕を回して引っ張り起こした。

息苦しくない程度に腕にチカラを込めて抱きしめ、髪にも口付ける。
360 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時06分43秒
「………たん、ホントに、ケダモノ」

行為後の気恥ずかしさもあるのだろう、そう言いながらも、非難の声は少しも不快さを伝えてこない。

「亜弥ちゃんの前だけね」

もう一度目尻に口付け、視線の高さはさほど変わらないのに上目遣いに見つめると、彼女の口元は柔らかく綻んだ。

「……泣かせてごめん」
「…もういい、許す」

答えた唇があたしの唇を塞いで、その熱を伝えてくる。

そして、唐突に、あたしの中で起き出してくる意地悪な感情。
361 名前:feel me 投稿日:2003年08月23日(土)00時07分35秒
「………で、聞いてもいいかな」
「? 何を?」

ごろごろと喉を鳴らせて甘える猫みたいにあたしの肩に額をすり寄せる彼女の髪を撫でながら、
あたしは、自身の指先で鼻のアタマをそっと撫でた。

「……結局のところ、ひとりでしたの?」

それまで確かに流れていた甘い空気を吹き飛ばすように、
彼女のゲンコツがあたしの脳天に綺麗にヒットしたのは、言うまでもない…、かな。





―――――― end
362 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年08月23日(土)00時08分27秒


妄想。
それは、私にとってなくてはならないもの。<氏。
あちらの板が止まったままなので、今回もsage更新。
363 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年08月23日(土)00時09分05秒
レス、ありがとうございます。

>>333
…アンテナですか。
だったら今回もやっぱsageとこう…(殴)

>>334
エロ書いたのに褒められると、なんかテレますね、ありがとうございます。
甘くするつもりでも、結局はエロになってしまうんですよね、このふたりって(蹴)

>>335-337
保全の書き込み、ありがとうございます。
364 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003年08月23日(土)00時09分37秒
さてさて。
こちらは本当に息抜きのエロスレですな(w
よく考えたら、このふたりでエロばっか書いてる気がする………。
……欲求不(ry

風板のほうも、そろそろ動き出さなくてはなりません。<まったくだ。
んが、マターリやっていきます。
このスレもまだ少し余ってますが、無闇に保全とか、しないでくださいませね(^^;)

ではまた。
次回があれば。
365 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月23日(土)03時33分07秒
ふふふ
見つけてしまたよ
なぜなら毎日このスレをチェックしているから<うざがらないで
短編おもしろかったです
エロ美貴イイ!
366 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月23日(土)09時47分53秒
新作お疲れ様です。
同じく毎日チェックしてました(ニヤリッ
レス数が違っていたのを見てキターと声を出してしまいました(w
最高の一言。
序盤の心理的合戦から始まり、細かいエロ描写がたまらんですハァハァ。
うまい感想言えないんですが、ここのあやみきが一番好きです。
367 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月24日(日)11時07分54秒
あぁ、最高。
あやみきってエロも似合うんですね。
なんだかエロでも美しいと言うか甘いと言うか。
作者さんうまいです。
368 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月26日(火)02時02分51秒
こんな不健康な生活をしてるからこそ見つけられました。
まさかまた更新されてるとは、思ってもみませんでしたよ。
もう、悶えまくりました。読んでてニヤける顔を抑えることは不可能でした。
藤本さんがアホで、松浦さんがかわいすぎて、どうしようもありません。
あちらの更新をお待ちしつつ、こちらの更新も期待してみたりして…。
369 名前:ほわ 投稿日:2003年08月26日(火)17時44分11秒
一番上から一気読みしますた(・∀・)
エロ(・∀・)イイ!!
370 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/26(金) 01:18
hozen
371 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/12(日) 02:51
また短編キボンヌ!
372 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/13(木) 13:33
373 名前:マイキ− 投稿日:2003/11/30(日) 14:13
亜弥美貴マンセ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
亜弥美貴の恋にH(・∀・)イイ!!
作者サン書くの上手ですねぇ。楽しませてもらいました〜♪
374 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:19
「さて、何番でしょう?」

少し舌足らずな希美の、期待感に満ちた声が目を閉じていた亜弥の耳に届く。

と、同時に、近くにいる美貴の気配も呆れた雰囲気を孕んだのが判った。

「もういいの? 答えても」
「いいよ。…って、判ったの?」
「うん。2番」
「えー! すごい!」
「嘘だろぉ、鼻先に指先で触っただけだぞ?」
「それも、5人だよ?」
375 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:19
希美の驚きの声のあと、真里が感心を含めた声で答え、ひとみも声音を張り上げて続ける。

感嘆、というより、むしろ尊敬にも似た空気は、椅子に腰掛けた亜弥をぐるりと取り囲んでいた全員の間に生まれた。

「もう目隠し外していいですか?」
「いいよ」

真里の答えに、亜弥はゆっくりアイマスクを外した。

そして、すぐに視界に美貴をいれた。

ほんの少し、テレくさそうに笑う美貴を。

「じゃ、約束なんで、美貴たん借りまーす」
「15分だけだぞー」
「はーい」

間延びしてるのに、ちっとも憎めない愛らしい声で答えた亜弥が美貴の腕を掴んで連れ出す。
376 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:20
照明の当たらないところは薄暗さのある倉庫のようなスタジオを抜け出して一度は外に出たものの、
亜弥は美貴の手を掴んだまま、別の建物の中に向かう。

「…どこ行くの?」
「誰にも見られないところ」
「って、どこ」

手を引かれながら、思わず苦笑した美貴に、亜弥はくるりと振り向いて笑った。

「中の、衣裳部屋。今、誰もいないもん」

詳しいね、と言いかけて、そこで、以前、周囲の目から隠れてこっそり会った場所だと思い出す。

「…鍵、かかるし」

前を向いた亜弥の耳が赤くなったのを、美貴は見逃さなかった。
377 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:20

今年のシャッフルのPV撮影は、
時間やスタッフこそ微妙に違えど、撮影場所は3組とも同じ敷地内の建物内で行われた。

去年に引き続き大所帯のチームになった美貴のもとへ、
今年は最小人数のチームとなった亜弥がやってきたのは、ちょうど休憩時間になったとき。

SALT5の衣装のままで、亜弥がひょっこり顔を覗かせたのだ。

「…あのぅ、美貴たん、借りてっていいですかあ?」

ちょこん、と首を傾げ、上目遣いでスタッフに申し出ると、彼らは鼻の下を存分に伸ばして頷いた。

けれど、それに気付いた美貴が亜弥の手をとろうとしたとき、横から希美が悪戯好きする笑顔で割り込んできた。
378 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:21
「ダメだよ、美貴ちゃん、11WATERだもん」
「え、辻ちゃん?」

まさか阻止されると思わなかったのか、亜弥も美貴も、揃って希美を見た。

「美貴ちゃん連れてくなら、ゲームしようよ」
「へ?」

にや、と笑った希美が口にしたのは、とんでもない条件のゲームだった。
379 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:21
「……つまり、5人にあたしの鼻を撫でてもらって、そのなかの誰が美貴たんか当てればいいんだね?」

希美が言い出したゲームを真面目に聞いていた亜弥が簡潔にまとめると、希美も満足そうに大きく頷いた。

「そういうこと」

希美のはしゃいだ声が奥にいた別のメンバーにも届き、面白そうな展開に全員がのってきて、
いつしか亜弥は椅子に座らされて、全員に取り囲まれていた。

「じゃ、松浦、これつけて」

真里がどこからともなくアイマスクを持ってきて亜弥に差し出す。
380 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:21
亜弥は何のためらいもなくそれを受け取り、
つける前に、周囲の勢いに終始口を挟めずにいた美貴をチラリと見た。

目が合って、ふわりと微笑んで、ゆっくり目を閉じる。

「松浦、カン良さそうだし、匂いフェチだからなー。
空気の動きとかで感付かれそうだし、触ったら、みんなでとりあえず今の場所から動くこと」
「えー、なんですか、それー」

不満そうな声は漏らすものの、自信ありげな口元の綻びは隠せない。

それを見て、美貴も不思議と安心する。

亜弥が、決して自分に気付かないワケないと。

そうして、結果は―――――。
381 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:21

「でも、よく判ったよね、あたしって」
「愛のチカラってやつだよ」

けろりと言って、亜弥が繋いだ手にチカラを込める。

そうされて愛しさが増し、美貴は繋いだ手を離して両腕を広げた。

「…おいで?」

呼ぶように誘うと、嬉しそうに笑って飛びついてきた。

その亜弥をしっかりと抱きとめながら、薄暗い倉庫の壁に背中を預ける。
382 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:22
「…えへへ」
「なに?」
「美貴たんの匂いだぁ」

ぐりぐりと額を美貴の肩に押し付け、うっとりした声で告げられて思わず呆れてしまった。

「ってか、あたし自身だし」
「んふふ、幸せ」

ぎゅ、と美貴の腰に回った亜弥の手にチカラがこもる。

嬉しい仕草に愛しさが加速づき、
美貴は思わず亜弥の衣装でもある、後ろ前を逆にして被られている帽子のつばの部分を背後から引っ張った。
383 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:22
引かれた亜弥の顔がその流れに逆らわずに持ち上がる。

そして、幸せな匂いから引き離されたことが不本意だと言いたげに、
ちょっと怒ったように歪められている唇にキスをする。

「…ん…」

舌先だけでそっと唇を舐め、誘導する。

薄く開かれた唇の隙間を割って、まだ閉じられている歯をこじ開ける。

「ふ、ぅ…」

漏れ聞こえてくる亜弥の吐息に淫らな熱が孕むまで、美貴はじっくりと、亜弥の口内を舌だけで探る。
384 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:22
「……ふ、んぅ…」

ゆっくりと離れ、美貴の腰に回っていたはずの亜弥の手がいつのまにか首のうしろへ回っていることに気付き、
美貴は亜弥にも判るようにはっきりと口元をゆるませた。

「……さて、残った時間で、どこまで出来るかな?」
「…ッ、美貴たん、の、えっち…」
「…キライじゃないくせに」

喉の奥でだけ笑って亜弥の頬に唇を寄せ、ゆっくり亜弥の背中を撫でる。

「……意地悪」
「…何度も言うけど、亜弥ちゃんにだけね?」

耳元で囁き、静かに息を吹きかけて顔を上げる。
385 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:23
「…美貴たん、大好き…」
「うん、知ってる」

笑いながら答えて、
嬉しいことばかり告げるその唇を塞ごうと顔を近づけたそのとき、美貴の腰の辺りで何かか震えた。

「えっ、なにっ?」

慌てて亜弥から離れて震える何かを服の上から触ると、
手に覚えのある大きさのそれに美貴は咄嗟に舌打ちをした。

「…矢口さんだな、…んにゃろ」

美貴が着ていた真っ赤なジャケットの裏側に仕込まれていたのは、美貴のケータイ。

止まることなく震え続けて自己主張するその小さな塊を手にすると、サブディスプレイには、思った通りの名前。
386 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:23
「……もしもし?」

応対に出た言葉は、聞いた誰もが不機嫌と判る声。

「あっはっは! すっげ不機嫌な声!」

なのに相手は悪びれた様子も窺わせずに笑っていた。

「なんだよ、邪魔すんなって?」
「…判ってるじゃないですか。切りますね」
「わっ、バカ! もう時間だっての! 親切に知らせてやったんだぞ、感謝しろ」
「…もう? …じゃ、1時間延長で」
「アホか、カラオケボックスじゃないっての」

真里の言葉に、美貴は顕著なまでに残念そうな顔をした。

「早く戻って来い。加護も松浦のこと、迎えに来てるしさ」
「…はーい」
387 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:23
渋々、と容易に判断のつく声で頷いて通話を切り、唇を尖らせながら美貴は亜弥に振り向いた。

「…矢口さん?」
「うん…。時間だって。加護ちゃんが亜弥ちゃんのこと、迎えに来てるってさ」
「…そっかぁ…。15分なんて、あっというまだね」

しゅん、と眉と一緒に肩も下げた亜弥の声も残念そうな響きを持っていて、
美貴は思わずそのカラダを抱き寄せる。

「……美貴たん?」
「…とっと終わらせて、とっとと帰ろ?」

抱き寄せられた態勢のまま、亜弥は小さく笑いを漏らす。

笑われたことが何だかバカにされたようで美貴が亜弥から離れると、
それを待っていたように亜弥が美貴の唇を掠め取る。

「…亜弥、ちゃん?」
「……とっとと終わらせて、とっとと帰って…、目一杯、イチャイチャ、しよ?」
388 名前:power of love 投稿日:2003/12/11(木) 20:25
美貴の言葉の続きをあっさりと、けれど的確に言葉にした亜弥の口元が幸せそうに綻ぶ。

それを見て美貴の口元も自然と綻んでいく。

「…うん」

頷き、もう一度亜弥の唇に触れようとして、またケータイが急かすように震えた。

けれどそれには一瞬目を向けただけで、応対には出ないまま、ふたりはそっと、触れ合うだけのキスをする。

「…じゃ、先に終わったほうが長引いたほうのお願いを聞く、ってことで」

唇が離れると同時に亜弥がニヤリと笑い、意味を理解した美貴も、不敵な笑みを浮かべて頷いた。



――――― SALT5と11WATERのどちらが先に撮影を終えるかは、神のみぞ知る。




END
389 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003/12/11(木) 20:26






あっちが遅々として進まないので、自分に息抜きのつもりで書いたら、
サクサク仕上がってしまった……。
これっていったい……(殴)

ネタ的には旬をとうの昔に過ぎてますね…。
大変申し訳!
390 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003/12/11(木) 20:26
レス、ありがとうございます。

>>365
>毎日このスレをチェックしているから
ま、毎日!?Σ( ̄▽ ̄*)
嬉しいお言葉、ありがとうございます(°Å)
じゃ、今回もsageときますね(殴)

>>366
>同じく毎日チェックしてました(ニヤリッ
ああっ、アナタも!?
一番好き、だなんて、身に余る光栄です、ありがとうございます。

>>367
ただエロいだけってのは、なんか愛がなくてイヤなんで、
エロくても甘くて、愛があるモノを書ければいいな、と、日々思っております。
<…何か間違ってる気もしないではないですが。

>>368
私、美貴ヲタなんですけど、藤本さんの視点で書くからか、松浦さんが可愛くて可愛くて仕方ないんです。
これって、ホントは美貴ヲタじゃなくて亜弥ヲタってことですかね?<聞くな。
でも、可愛いって言うてもらえるの、すげぃ嬉しいです。ありがとうございます。

>>369
一気読み! ありがとうございます。
でも今回はエロくなかったですね(w
微エロでも萌えていただけるかな?(^^;)

>>371
短編、書いてみますた。
お気に召していただけると嬉しいのですが(^^;)

>>373
純愛なふたりも萌え萌えなんですけどねぇ〜(殴)
それもこれも、藤本さんや松浦さんの存在がエロいのが(蹴)<責任転嫁すな。

>>370
>>372
保全、ありがとうございますm(_ _)m
391 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003/12/11(木) 20:26
というわけで、今回もsage更新してしまいました。
実際の撮影場所がどんなところかは想像なんで、
もし間違いとか、現実との食い違いとかがあっても、見逃してやってくださいませ。
……所詮は妄想の産物ですしね。<身も蓋もねぇ…


次回はまったくもって未定!

あっちの更新をお待ちの方には大変申し訳。
今しばらく、お待ちくださいませ。<ここで言うな。
では!<逃走
392 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/11(木) 22:05
(・∀・)イイ!
あっちも楽しみに待ってます。
393 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/12(金) 00:06
更新キター
2番乗りかな?
今回は甘々エロですな
たまらんです
394 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/12(金) 10:00
昨日初めてこのスレを読んで、更新に出会えるとはなんか運命が...
この二人いいですよね〜
作者さんのファンになりましたこれからも楽しみにしています
(・∀・)イイヨイイヨー
395 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 01:30
だからやっぱりにやけてしまうんですって!
かわいいかわいい二人ともかわいい。
美少女二人…たまらんな。
396 名前:ベル 投稿日:2003/12/17(水) 15:57
甘々エロいいです!!!
397 名前:んあ 投稿日:2003/12/24(水) 00:13
こっちもエロくていい・・・
398 名前:マイキ− 投稿日:2004/01/02(金) 14:23
更新乙です。 
(゚∀゚)イイ!!こういう甘々エロも萌えてしまいまつ。w 
399 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 07:19
保全
400 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/16(月) 14:04
こっちは更新こないかな?
401 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 07:27
いつ見てもいいですね。
402 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 01:57
作者さんの新作あやみきを見たいです。
403 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:31
「…っ、たんのバカ! もういいよ!」

電話の向こうでそう叫んで、彼女は強引に、あたしの返事も待たずに通話を切った。

突然通話の切れたケータイを見ながら、あたしはまた、溜め息をつく。

いつだって仲良し。
いつだってラブラブ。

誰がそう言いだしたか、あたしたちは周囲からそんなふうに言われてる。

勿論間違いはないし、否定もしないけど、それでも、時には喧嘩だってする。

他人が聞けばくだらない嫉妬だとかヤキモチだとか、きっかけはそんなことでも、当人にはすごく大事なこと。

そして、怒らせるのは、たいてい、あたし。
404 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:32
「………まーた、やっちゃったなあ」

仕事終わりで、おやすみを言いたくて電話をしたのに、
心細さに揺れている彼女の気持ちをからかうように、心にもない言葉で傷つけて。

誰に向かって言うともなく吐き出した言葉は、
もう他のメンバーが誰もいなくなった楽屋の壁に当たってあたし自身に返って来て、
あたし自身を包むそれがあたしを追い込んで、
それを振り払うことも出来ず、誤魔化すようにして、あたしは指先で自分の鼻のアタマを撫でた。

あたしとふたりきりで会う時間は以前より格段に減っていて、
知り合った頃よりもお互いに許されている自由な時間も限られてきて、
そんな中でも、周囲に『誰か』がいて、そこでの空気に馴染み始めているあたしが、
彼女の不安を更に掻き立てていることは、知っている。
405 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:32
今の居場所の居心地は、とても好くて。

『ひとり』だった頃とは全然違う、
感じることのなかった安心感のような、連帯感の漂う居場所に、あたし自身も、少し、甘えていた。

甘えて、彼女の感じている不安に気付いていながら、どこかで曖昧に受け止めていたのかも、知れない。

今は彼女といても、彼女を不安にさせるだけ。
彼女を怒らせてばかり。

そんなこと、本当は望んでなんかいないのに。

「……亜弥ちゃん…」

通話の切られたケータイに向かって呼びかけても、手のひらの小さな金属は何も応えない。
406 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:32
視線を変えて、壁に掛けられている時計に目を移す。

時間はもう夜中になろうとしていて、明日だって仕事はあるし、
まっすぐ帰らないと、明日の仕事に差し障ることぐらい判ってる。

それでもやっぱり彼女を会いたい気持ちは生まれて、
彼女はきっともう、拗ねながら、ひょっとしたら泣きながら眠りについているだろうけど、
彼女の家に向かっても、きっと彼女はあたしを快く迎え入れてはくれないんだろうけれど、だけど、彼女に、会いたくて。

喧嘩しても、泣かしても、意地悪しても。

他に、どんなに居心地のいい場所があっても。

彼女だけが、あたしの、特別だから。

唇を噛みながら、あたしは荷物を持って、急いで楽屋を出た。
407 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:33
タクシーを飛ばして、目的地の近くで降りてから、彼女の家まで全力で走る。

もう季節はもうすぐ春だけれど、深夜の屋外はひんやりとしていて、吐き出す息が暗闇でも見えるほどに、まだ白かった。

インターホンを鳴らすのはなんだか非常識な気もして、
同時に、おそらくもう寝ているであろう彼女を起こすのも憚られて、持っていた合鍵でそっと鍵を開けて部屋の中に入る。

玄関先からでも様子の窺えるリビングはまだ煌々と明かりが照らされていて、テレビの電源も付けられたままだった。

まだ起きているのかと、それでも足音を忍ばせながら奥へと進むと、彼女は少し目を泣き腫らした様子で、ソファで眠り込んでいた。

一緒に買い物に出かけたとき、手持ち無沙汰の状態でテレビを見るときに手頃な大きさだから、と、
あたしが選んであげたクッションを抱きかかえながら。
408 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:34
「………亜弥ちゃん…」

呟くように告げて静かに近付き、彼女の隣に腰を下ろす。

「…起きて。こんなところで寝たら風邪引いちゃうよ…?」

起こすのは忍びなかったけれど、体調を崩させるわけにもいかなくてそっと肩を揺らすと、彼女の瞼が震えた。

「………美貴、たん…?」
「うん」

答えたと同時に、彼女の口元がほわ、と綻んで、ゆっくりと両手をあたしに伸ばして首に抱きついてきた。

「……ゆ、め…?」

きゅ、と、幾らか頼りなさげに抱きつく腕のチカラがあたしの胸を熱くする。
409 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:34
「…本物みたい………。…夢…でも、いいや…」
「夢じゃないよ」
「……うそだぁ…。だって、たん…、明日も、仕事で……、会えないって…、言った……」

さっき自分が言った言葉をそのまま繰り返されて、意識の半分を手放している彼女のカラダを、
覚醒を促すつもりはないので、弱々しいながらもしっかりと抱きしめる。

「……たんの、匂いだぁ……」

抱きしめるあたしの服の袖を、彼女の手が掴まえる。

まだ夢だと思っている彼女に愛しさが込み上げて、鼻の奥がつーんとなった。

涙が出そうなくらい、言葉にならないくらい彼女が愛しくて、手放せない自分にまた気付く。

「亜弥ちゃん……」

頬に出来ている乾いた涙の筋。

それを撫でながら、目尻に口付ける。
410 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:34
ごめんね。
いつも素直になれなくてごめん。

ごめんね。
いつも意地悪ばかり言ってごめん。

ごめんね。
こんなに、こんなに大好きで、本当に、ごめん。

だって、本当に、大好きだから。

なのに、いつも言えなくて、ごめんね。

今夜はこのまま、キミを抱きしめていてあげる。

だからこれを夢だと思ったまま、幸せに眠りについてくれればいい。
411 名前:キミのそばにいる 投稿日:2004/04/11(日) 19:35
「……好きだよ?」
「うん…、知ってるよ…?」

寝ぼけ眼の彼女の瞼にキスを落とし、抱きしめる腕のチカラを強める。

朝がきたら、彼女はあたしがここにいることに、驚きながら目を覚ますんだろう。

そのとき、あたしはまた、彼女を少し傷つける言葉を言うかも知れないけれど。

今はただ、嫌なことや悲しいことは忘れて、何も考えないで。

あたしのこの気持ちは、間違いなくキミだけに向けられていて、キミの気持ちも、間違いなく、あたしに届いているから。

だから今は。


「…おやすみ」


いい夢を―――――。





………………… END
412 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/04/11(日) 19:36
相変わらずのsage更新です。
ていうか、ワケわかんねえよ!なんじゃ、この話は!(ノ ̄□ ̄)ノ ~~┻━┻  


>>392-402

レス、ありがとうございます。
4ヶ月ぶりの更新ですね…。
今回、全然エロくないですが、読者さんの暇潰し程度になれれば……。



ずーっと放置しとったんで、倉庫逝きになるかなあ、とか、ちょっと思ってたんですが(殴)
ありがたやありがたや……。
………久々にみきあやを書いた気がします。
書きたい気持ちはあるんですが、如何せん、気力がついてきません…。
うううう。・゚・(ノд`)・゚・。
今度はいつ更新出来るかなあ(遠い目)。

では。
413 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 21:33
更新キタ━从‘ 。‘从━!!。作者さんありがとうございます。
414 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 18:04
待ってたかいがあった…
瑞希さんの文章すごい好きなんで嬉しいです。
ありがとうございますー!!
415 名前:名無しベーグル。 投稿日:2004/04/12(月) 18:34
スランプみたいだったんで心配していました。
瑞希さんのペースでまた更新して下さいね。影ながら応援しています。
瑞希さんの描くみきあやが大好きなんで…。今回の短編も凄く良かったです。
416 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/19(月) 02:07
胸がきゅうっと切なくなると同時に、温かい気持ちになりました。
やっぱり作者さんのお話はすばらしい。ありがとう。
417 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/04/30(金) 23:01
先にレス返しを。

>>413
こちらこそ、読んでいただいて、ありがとうございますm(_ _)m

>>414
ま、待っていただいてたんですか…(°Å)
文章が好きって言ってもらえると、本当に本当に嬉しいです、ありがとうございます。

>>415
ありがとうございます、ありがとうございます。
スランプというと、なんだか恐れ多いんですけども、煮詰まってたのも事実なので…(^^;)
自分のペースで、のんびり書いていきます。

>>416
ありがとうございます。
温かいって言われると、なんだかテレくさいですね(/∇\*)(殴)
418 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/04/30(金) 23:02
えーと、更新はまったくもって不定期の連載を始めます。
勿論、みきあや(リアル)で。


では、どうぞ。
419 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:03




大好きって言葉では足りない。

愛してるって言葉は、なんだか安っぽくて嘘くさい。

どっちの言葉も本当だけど、でも全然違う気がするよ。

でも、じゃあどうやって、キミにこの気持ちを伝えればいいのかな?



420 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:04



◇◇◇


421 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:04
「たんのほっぺー」

つん、と、人差し指で美貴の右頬を突いて、亜弥がくすくす笑い出す。

ソファに座る美貴の膝の上に、横向きで座っている亜弥の腰に腕をまわしながら、美貴は上目遣いで唇を尖らせる。

「なーにすんだよぅ」
「たん、可愛いー」

突付かれた頬を膨らませ、茶目っ気を含んで反論すると、
亜弥の表情に浮かぶ笑顔がますます彩りを鮮やかにしていく。

「ちゅう」

言葉にも出して、亜弥が美貴に顔を近づける。

日常となったその行為を違和なく同じそれで受け止め、美貴のほうから先に歯を割る。
422 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:05
ゆっくり態勢を変え、横抱きにしていた亜弥をソファに沈めると、
唇を離したときには亜弥のほうが美貴を見上げる態勢になっていて、
それはどうやら亜弥には計算外だったのか、さっき美貴がしていたように唇を尖らせ、眉根を寄せていた。

「…えっち」
「誘ったの、そっち」

あしらうように答えて、もう一度唇を重ねる。

すると今度は亜弥のほうから舌を差し入れてきた。

意外でもなんでもないそれは、美貴の次への行動の誘導にもなる。

舌先で亜弥の唇を舐めたあと、唇だけで顔の輪郭を辿る。

いつのまにか美貴の背にまわされていた亜弥の手に少しチカラが入った。
423 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:05
「……好きだよ、亜弥ちゃん」

口元に戻ってキスを繰り返し、耳元に滑って囁くと、ぴく、と僅かに亜弥のカラダが震えた。

「…あたしのほうが、好きだもん……」

少しひねくれ気味の答えもいつものもので、
美貴は口元を綻ばせながら、もう一度、少し呼吸の乱れ始めた亜弥の唇を塞いだ。



――――― けれど美貴は、自身の中に眠る、本当の感情に、まだ、気付いていない。
424 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:05



◇◇◇


425 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:06



『キミの気持ちがどれくらい本物で強いものなのか、確かめたいって思うのは、いけないことかな?』


426 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:06



◇◇◇


427 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:06
「…ちょっと、さすがにそれは、マズイんでない?」

美貴の隣で、美貴が持ちかけた話をはじめは興味深そうに聞いていたひとみが眉をしかめる。

「そう?」
「うん。てか、あたし自身も誤解されちゃうじゃん?」
「いいじゃん、ちょっとくらい。よっちゃんは『みんなのよっすぃー』なんだからさ」
「意味が違うでしょ」

はー、と幾らか深めの溜め息を吐き出したひとみが、そのままの勢いで、前屈みだった重心を椅子の背凭れに移す。

「そんなん、いっくら松浦だって、傷付くよ?」
「………だろうね」
「単にヤキモチ妬かせたいだけってんなら、やめたほうがいいよ」
428 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:06
そんなんじゃない。

美貴は口の中だけで反論した。

声にはならなかった。

自分でも、何故そんなことをしようと思ったか、よく判ってなかった。

ただ、亜弥の気持ちを確かめたい、そう思っただけだった。
429 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:07
自身でも理解し得ないそれに戸惑い、表情をなくしていく美貴を見ていたひとみがまた深く溜め息を吐き出す。

「…とにかく辞退するよ。たとえジョークって判ってても、たとえ唇じゃなくたって、
松浦の前で美貴ちゃんとキスなんて、出来ましぇーん」

語尾を幾らか冗談めかし、ひとみが肩を竦めながら椅子から立ちあがる。

「てことで、あたしももう帰るよ、お疲れさーん」

と、美貴の返事を聞く前に、そのまま美貴をひとり残して出て行ってしまった。

「…来るもの拒まずのくせに、こういうところはカタイんだから」

断られたことを心のどこかで安堵し、頭の隅でガッカリしながら、美貴は閉じられたドアを見つめつつ文句を言った。
430 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:07
今日は、珍しくテレビの収録日が亜弥と一緒になった。

ゲストが多い番組の都合上、自分より前の出演者の収録が滞りなく済めば次へはスムーズに引継ぎとなるが、
司会者たちが妙に盛り上がったり、逆に出演者が盛り下がったりしてしまった場合は、
ゲストの格に合わせてそれなりにフォローが入ることもあり、
予測不可な構成のせいで、出演者は自然と一日拘束されることになる。

そのぶん、収録が早く済めばそれだけ早く仕事が終わり、予定外のオフになる、ということにもなるのだが。

そして今、『モーニング娘。』の収録は終えたけれど、『松浦亜弥』は収録の真っ最中である。

司会者が亜弥を気に入っていることもあり、収録はまだ少し長引きそうだ。
431 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:07
収録日が同じだったことで、自然と、先に終わったほうがあとの人間を待つことになっていたけれど、
ひとりきりで楽屋で待つのもなんだか物悲しくて、
予想外にも半日弱もあるしっかりしたオフが出来たことで、
食事や買い物に繰り出すメンバーの中から、ひとみを呼びつけた。

ひとみは、メンバー内で美貴が唯一、肩肘張らずに接することの出来る相手だった。

美貴の内面に深く踏み込まず、そしてひとみの内面にも深く踏み込ませない。

人間関係の中で美貴がもっとも得意とする距離。

例外は、亜弥だけだ。
432 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:08
美貴の尊大な呼びつけにもひとみは嫌な顔ひとつ付き合ってくれたが、
人付き合いのいい彼女にも、さすがに許容範囲があるらしい。

亜弥がどんな顔をして見せるか知りたいから、
亜弥が来るのを見計らって、どこにでもいいからキスしてみてほしい、という美貴の提案は即座に却下された。

考えれば、美貴の提案を快諾する人間など皆無だろう。

亜弥が美貴だけを一途に好いているのは周知の事実だし、美貴もそれは否定しない。

勿論美貴だって、性別なんか飛び越えて亜弥のことを好きでいる。

亜弥が、トモダチとしてじゃなく美貴を好きだと告げた、あの日から。

いや、亜弥が切り出す、ずっとずっと前から。
433 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:08
でも、いつからか、美貴の心の中に、アタマの中に、
白く濁ったような不透明さで纏わりつく、違和感のようなものが生まれていた。

それは、亜弥といるときには感じないのに、
亜弥はいないけれど賑やかさが漂う空間や、亜弥を想いながらひとりでいるときに顕著になる。

うまく言葉には出来ないのは、美貴自身がその感情を持て余しているからでもある。

ただそれらが、不安だとか、淋しさだとか、そういったありふれた感情でないことだけは、判っていた。

「……なーんだろなあ…」

溜め息と一緒に天井に向かって吐き出された言葉がなんだか不快な響きで跳ね返る。

曖昧な言葉にしても明確な答えは生まれないのに、美貴の溜め息は日毎にその濃さを増していく。
434 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:08
「………面倒くさ…」

ぽつりと、何気なく音になった自身の声で、美貴の脳裏に閃光が走る。

天井に向けていた視線を下ろし、美貴が座っている真向かいにある、メイク用の鏡に映る自身を見る。

そこにいる見慣れたはずの顔が、知らない誰かに見えた。

「…面倒くさい……」

言葉を呟いて、今度は心臓が跳ねた。

手のひらで自身の口を覆い、脳裏だけで反芻して、今度はカラダが震えた。

曖昧で不確かだったものの答えが、美貴の中ではっきりとカタチになる。
435 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:09
けれど俄かには美貴にも理解出来なかった。

だって、好きな気持ちに嘘はない。

いつだって顔を見ていたいし、そばにいたいし、触れていたいし、抱きしめていたい。

その気持ちに濁りも偽りもないのに、音になった言葉も確かな感情だなんて。

「…なにそれ」

自問自答しても、新しく生まれた疑問の答えはすぐには出ない。

苛立ちが生じて、美貴は唇を噛みながら近くの椅子を蹴飛ばした。
436 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:09
がしゃん! と、耳障りな音が室内に響き、思っていたよりも大きな音がしてしまったことに舌打ちしながら、
倒した椅子を起こすために美貴が立ち上がったとき、部屋の外側から、聞きなれたノックがした。

「…美貴たん?」

部屋の中からの返事も聞かず、様子を窺うようにそうっとドアが開き、亜弥がひょっこりと顔だけを覗かせた。

「なんか今、すごい音したけど?」

不安そうな声に、美貴は慌てて倒れている椅子を起こす。

「な…っ、なんでもないよ。立とうとしたら、椅子にぶつかって倒れちゃって」
「ふうん…?」

不思議そうに首を傾げながら、亜弥が部屋の中へとカラダを滑り込ませてくる。
437 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:09
「…収録、終わったの?」
「うん。ごめんね、遅くなっちゃって」
「いいよ。さっきまでよっちゃんと喋ってたし、そんなに退屈でもなかった」

ひとみの名前を出したとき、亜弥の口元が少し歪んでいくのが判った。

美貴は、亜弥があまり、ひとみと仲良くしていることを快く思ってないことを知っている。

それはひとみに限らず、
美貴の周囲に当たり前のように位置付けられているメンバー全員に向けられていることも知っている。

亜弥自身がはっきりそう言葉にもしたし、そのときの亜弥を言葉で表現するなら、
態度や雰囲気からでも容易に感じ取れるくらい、明らかな『不愉快』を前面に出してくるから。

けれど美貴は、それに対してあまり強く反論をしたことはなかった。

たいてい、聞き分けない、どうすることも出来ないワガママを漏らす恋人を、適当にあしらうだけだった。
438 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:21
「……そっか、吉澤さんも、いたんだ」
「うん」

今日もまたそうなるんだろうと、表情には見せないまでも、気持ちの上では少し身構えていた美貴だったけれど、
珍しくそれだけで話題を終わらせようとした亜弥には少し顎を引いてしまう程度の意外さを感じた。

しかし、だからといって何も聞かれないうちからフォローするのは、
逆に気にしないでいようとしている亜弥にも失礼な気がして、美貴も敢えて何も言わない。

「……それより、このあとどうする? どっか行く? それとも美貴んち来る? 」

それならその態度と胸中を尊重してやろうと、美貴は何気なさを装いながらさりげなく提案する。

すると、少し落ち気味だった亜弥の視線がぱっと上がった。

その瞳の奥には、まだ少し、抑圧が窺えたけれど。
439 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:22
「…んー、おなか空いちゃった。先にゴハン食べに行こうよ」

亜弥が抱いている嫉妬。

それを感じ取って嬉しくなるなんて、どうかしているだろうか。
そこに亜弥の自分への想いの強さを感じ取るなんて、間違っているんだろうか。

「お、そだね。じゃあね、美貴、焼き肉食べたいな」
「言うと思った! 昼間っからそんなの食べたら胃がもたれるから却下」
「えー。いーじゃん」
「やだったらやだ。それより、この前、中澤さんから美味しいパスタ屋さんがあるって教わったから、そこ行こうよ」

そして、亜弥が他意なく発した固有名詞に毛が逆立つ自分は、やはり、どこか、おかしいんだろうか。
440 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/04/30(金) 23:23
「うん、いいよ」

亜弥は鎮めたそれを、美貴もまた、同じように、自身の中だけで抑圧する。

それも、確かに嫉妬という感情を表情に乗せた亜弥とは違い、亜弥自身には一瞬の隙すら見せないままに。

亜弥が現れるまで確かに漂っていた、不透明で、けれども確かに存在する『何か』に気付かないフリで。

まるでそれらすべてを払拭するように。



――――― そして、均衡は、崩れる。
441 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/04/30(金) 23:24





今日はここまで。
煽り文句が、読者さんにとって、ケッ、みたいな展開になりませんように。<祈。

で、見事に、毎度ながらに、見切り発車です。
更新の遅い自分を追い込むつもりで、といつも言っておりますが、
追い込むどころか、四方八方から追い詰められてる感満載です、既に(泣)。

このスレの容量内でおさまるとは思うのですが、
風板みたいな長期放置も否めないくらい、次はいつ更新できるのか明言できません。
ただ書きたい欲求だけに忠実な、怠惰な作者ですけれども、また、お付き合いいただけると嬉しいです。


ではまた。
442 名前:名無しさん 投稿日:2004/05/02(日) 02:24
発見しました
次回更新楽しみに待っております
443 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/02(日) 17:52
新作キタ━━━━━(゚(゚∀(゚∀゚(☆∀☆)゚∀゚)∀゚)゚)━━━━━!!
黒美貴イイヨイイヨー
あ、無理せず瑞希さんのペースで進めてくださいね。
次回更新マターリお待ちしております
444 名前:イーグルボーイ 投稿日:2004/05/11(火) 17:14
はぁ〜、この小説を読むと心が和みます。
マイペースで更新どうぞよろしくです。
445 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/31(月) 00:33
作者さん、頑張ってください。
次回更新が楽しみです。
446 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:05



◇◇◇



447 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:06
テレビの収録で珍しく一緒になった真希の楽屋へ行こう、と、
亜依やひとみに誘われるままに足を運んだ先では、真希がひとり、つまらなさそうに台本を眺めていた。

本当に眺めているだけだったらしく、美貴たちの出現にはあっさり台本を放り投げてしまった。

しかし、ひとみと亜依は、自分たちが美貴を誘ったくせに、
美貴や真希にはお構いなしで唐突ににらめっこを始めてしまった。

そんなふたりには混じらないながらも、時折、
ふたりがアイドルにあるまじき表情や顔をするたびに真希も腹を抱えて笑っていた。

美貴はというと、そんなひとみたちの輪にはどうにも馴染めず、
だからと言って自分たちの楽屋に戻ろうとすると、ひとみも亜依もどうしてか許してはくれず、
あまりの居心地の悪さに不愉快が顕著に表情に乗ってしまっていた。
448 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:06
所在無く立ち尽くす美貴に、
そのすぐそばの椅子に座ったままただ笑っているだけだった真希が不意に声を掛けてきた。

「…そーいや、昨日、まっつーからメールきてさ」

ぴり、と、空気が震えたように感じたのは美貴だけだろうか。

「…うん。なんて?」
「あっ、たいしたことじゃないんだけどさ」

美貴の声音をどう解釈したのか、真希が苦笑しながら顔の前で手を振ってみせる。

「新曲いいねー、とか、そういうの。もうすぐライブだねーとか…。うん、ホント、普通の」

真希の口調は言い訳みたいで、だけど、
お世辞にもボキャブラリーが豊富とは言えない真希からそんな言葉が出るからこそ、
逆に疚しさがないことを伝えてきた。
449 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:06
「あー、うん、いいよね、ごっちんの新曲。美貴も好き」
「…そぉ?」
「うん」

美貴の言葉に真希が照れくさそうにふにゃりと笑う。

「…でね、まっつーが、今度、美貴ちゃんとよっすぃーとあいぼんとあたしと、カラオケ行こーって、言ってきたんだけどさ」
「うん、いいね」
「いいの?」
「いいよ。なんで?」
「………邪魔じゃん?」
「? 何が?」
「や、美貴ちゃんたち、ふたりきりで会いたいとか、思わない? オフとかさ、滅多に重なんないって言ってたしさ」
450 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:07
貴重なオフだからこそふたりきりで過ごしたい。

そう思うのは間違いでも嘘でもないけれど、
それは周囲にも感じ取られてしまうほど、顕著に美貴の顔に出ているのだろうか。

いや、むしろそれは亜弥のほうか。

「………別に? 本当にふたりで会いたかったら、断るし」
「そう? ホント?」
「うん。いいよ。行こうよ、今度…て、みんなの予定がいつ合うかってカンジだけどさ」

言葉と一緒に真希を見下ろすと、真希もゆっくり美貴を見上げる。

それからにっこりと微笑んで頷いた。

「それもそうだねえ」
「美貴ら、売れっ子だもんねえ」

美貴の言葉に真希の表情がまた少し崩れる。
451 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:07
そんなふたりのやりとりが視界に入ったのか、自身の指を口の中に突っ込んで横に広げていたひとみが振り返る。

「んあー」

ひとみの情けない声につられて、耳を引っ張っていた亜依も振り向く。

「何笑ってんの?」
「あいぼんたち、ブサイクだねって」

にひひ、と笑いながら目を細めて告げた真希に、亜依がパッと手を離す。

「ぶ、ぶさいくちゃうもん。よっすぃーのほうがぶさいくやもん」
「にゃにおぅ」
452 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:07
ぷう、と頬を膨らませた後輩と、それには心外だと言いたそうな同い年の後輩のやりとりに真希が更に破顔する。

ぺしぺし、なんて音が聞こえそうな様子でひとみが亜依の頭を上から撫でるように叩き、
それを嫌うように少し唇を尖らせた亜依がひとみの手を振り払い、真希は笑いながらそんなふたりを眺める。

3人の関係図がそこに見えて、美貴はまた少し、居心地悪くなる。

馴染めない。

馴染みたい、と思ったわけではないけれど、こんな空気は余計に疎外感を感じさせる。

果たして、自分はここにいていい存在なのか、と。

そして、無意識に、亜弥に会いたくなる。
453 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:07
それでもそれは表面に出さないように、曖昧に笑って3人を眺めていると、不意に亜依と目が合った。

「ん?」

見つめてくる亜依の視線に首を傾げながら反応すると、亜依が少し困ったように笑って見せた。

「………美貴ちゃんは、ウチらとおっても、楽しくないかなあ?」
「へ?」
「…やっぱり、亜弥ちゃんとおるほうが楽しい?」
「う…ぇ?」

曖昧な返事になってしまった。

直視出来ずに視線を外すと、そこにはひとみが苦笑しながら亜依を見ていて、
そこでようやく、ひとみと亜依がどうして、真希のところへ来るために自分を誘ったのかが理解出来た。
454 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:08
「…あいぼーん」

ぺし、と、また軽く、ひとみが亜依の頭を撫でるように叩く。

「………ごめん」

何に対しての謝罪か美貴には判らなかった。

むしろ謝罪すべきは自分ではないか。

モーニング娘。の藤本美貴、という肩書きになってから随分たつのに、
亜弥からも、ひとみや、他のメンバーとの親密さを誤解されたり嫉妬されたりしているのに、
美貴自身がそのことについてあまり深く考えてなかった。

今やっと、自分が周囲から、多かれ少なかれ気遣われていたことを思い知らされる。
455 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:08
伏せられている亜依の瞼が美貴の心の琴線に触れる。

人間としての理性と、正常な感情だと受け止められる意志が動いて、言葉が生まれた。

「…楽しいよ?」

だから、その言葉は嘘ではなかった。

「そりゃさ、亜弥ちゃんといるのも楽しいけど、みんなと楽しくやってけたら、それはそれで絶対楽しいじゃん?」

だけど、言いながら、やっぱり嘘だと美貴は思った。

亜弥の名前を出した時点で、それらはすべて嘘になる。
456 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:08
亜弥以上はない。
亜弥より上回る存在はない。

その感情は、美貴にとっては至極自然なのに、けれど時々、ひどく、面倒な感情になる。

面倒、という言葉が美貴の中に生まれて以来、その言葉はひどく美貴自身を戸惑わせていた。

何故ならそれは、恋人に対して持つような感情ではないと感じていたからだ。

好きな人間に対してそんな感情を抱くなんて、果たしてそんなことが有り得るのだろうか。

ひょっとして自分は、亜弥に対して、全く別の気持ちを抱いているんじゃないだろうか。

亜弥が自分を好きだと伝えてくる強い言葉や感情に流されて、
亜弥を好きだという気持ちに内包されて見えないだけで、本当は……。
457 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:09
「……美貴ちゃん?」

黙り込んでしまった美貴を不安そうに覗き込んできた亜依に、美貴はハッとして落としていた目線を上げる。

今、自分が考えていたことに悪寒が走った。

「…あ、なんでもない、なんでもない」

答えても、まだ少し困ったようにひとみの服の裾を掴んでいる亜依や、口元を苦笑い気味に歪めているひとみや、
美貴のすぐ隣で美貴を見上げている真希の見透かすような目線にいたたまれなくなる。

「……えーと、ごめんね」

他にどう言えばいいか判らず、美貴は言った。

その美貴に亜依がそっと近付いてくる。
458 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:09
「…美貴ちゃん、ウチらのこと、嫌いじゃないやんな?」
「もちろん」
「じゃ、もっともっと、いっぱい喋ろな?
もっともっと、美貴ちゃんやごっちんや亜弥ちゃんたちと、楽しいことしよな?」
「うん、そうだね。いっぱい遊ぼ? いっぱいいっぱい」

あんまり真摯に見つめてくる亜依に、
美貴も自身の中に生まれた黒い渦のような疑問から目を逸らし、緊張を弱める。

「…ねーねー、あいぼん。どうでもいいけど、今、あたしの名前、言った?」
「言ってない」

ひとみが冗談めかすように美貴たちの間に入ってくると、亜依はすかさず突き放すように吐き捨てた。

「べつに、よっすぃーはいらん」
「にゃにおぅ!」

がおー!と両手を挙げたひとみに、亜依は舌を出して美貴の背後に隠れた。
459 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/06(日) 23:09
手を叩いてケタケタと笑い声をあげる真希と一緒になって笑いながら、
美貴は自身の行動を幾つか顧みて反省する。

自分を気遣ってくれる仲間がいる、という今の状態に感謝して、
そしてそんな仲間をもっと大事にしなければ、という思いが強くなる。

けれど、亜弥に対する気持ちに些細だけれど疑問が生まれたことからは、わざと目を背けた。
460 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/06/06(日) 23:10





少しだけですが、更新しました。
結局、5月は更新できませんでした、すいません、ごめんなさい。<ぺこぺこ。
461 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/06/06(日) 23:11
レス、ありがとうございます。

>>442
み、見つかってしまいました…(苦笑)
こんな作品を楽しみにしていただけるなんて、恐縮です(°Å)

>>443
黒いかどうか、書いてる自分でも判断しかねますが(殴)
更新速度はおそらくこれぐらいになるかと思います(何
なにとぞ、お許しください。

>>444
な、和みますか?(^^;)
なにとぞ、なにとぞお許しください。

>>445
ありがとうございます。頑張ります。
462 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/06/06(日) 23:11
関西圏も梅雨入りいたしました。
夏本番に向けて、皆様、体調管理にはくれぐれもお気をつけくださいませ。

ではまた。
463 名前:絶詠 投稿日:2004/06/07(月) 21:28
にょっ!?新作だぁ♪しかも1番のり♪
ぃやはや…瑞希サマの文章にはいつも驚かされます。
松浦さん出演してないのに、あやみき絡めで…。
…なんと言うか圧倒されたよぅな感覚です。
瑞希さま、頑張って下さいね★
464 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/10(木) 23:57
赤鼻さんのこの独特の世界観を久しぶりに見る事ができてとても嬉しいです。
465 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:50



◇◇◇


466 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:51
生まれた感情の芽に一度でも気付いてしまえば、自身の意志とは無関係に考えは進み、
自身で気付くこともないまま、知らずにそれは育っていくものだ、ということを、美貴は知らなかった。

いや、知らないふりを、気付かないふりをしようとしていたのかも知れない。

考えようとしなくても無意識に感情の意志が働いて、
いつしかその芽はどんどん大きく膨らんで、
その芽の根を張らせている美貴でさえも止められないほどのスピードで加速を続け、
芽は葉を繁らせ、どんなに強靭で鋭い斧でも切り落とすことすら困難なほどの大樹に育つ。

育っていく茎を見ないように、葉が覆い繁っていく音を聞こえないように誤魔化しながらも、
美貴の中でそれは確実に成長を続けた。

そしてそれは、いつしか美貴が自身で隠しきれないほどに育ちきり、
これ以上は誰に対しても、…そう、当事者本人に対しても隠すのが無理だと美貴が判断したとき、
それはふたりの別れを意味した。
467 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:51
「………もっかい、言って?」

亜弥の震えた声音は、歪んでいる口元に比例したように微かに震えていた。

仕事終わりに亜弥から届いたメールはいつもと同じだったのに、
美貴の気持ちはもうそこ以外には向かわなくて、電話一本だけで、美貴は亜弥の家に向かった。

時間が遅いことを承知で、明日の亜弥が早朝からロケが控えていたことも承知でやってきた美貴を、
おそらく亜弥は泊まると思っていたのだろう、玄関先で立ち尽くしたままの美貴を、亜弥は困惑した面持ちで見つめた。

そして、亜弥から目を逸らすことなく告げた言葉に、大きな瞳が更に大きく見開かれて、揺れたのが判った。

直視することが息苦しいほどのその光景は、美貴の心とカラダをひどく揺さぶるけれど、
発した言葉をなかったことにするには、自身の気持ちも声も、淀みがなさすぎた。

美貴をまっすぐ見据える瞳の奥が、今の事態を飲み込むのに必死な様子を窺わせている。
468 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:51
「別れたい」

詰まることなく、一度目に発した言葉を、一度目と同じ声色で告げた。

始まりは、こんなふうに『別れ』が訪れることを予想もしなかった。

幸せで。

そんな言葉では語り尽くせないと思うのに、それ以外の言葉で言い表せることは不可能なくらい、幸せで。

これ以上の幸せなんてきっと、後にも先にも有り得ないと思った。そう信じて疑わなかった。

美貴も、そして亜弥も。

けれど、美貴の中で芽吹いた種は日毎に美貴の内面を覆い尽くし、やがてひとつの結論に達し、美貴に決意を生ませる。

ふたりではいられない、という決意を。
469 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:52
美貴の二度目の別れの言葉を聞き届け、亜弥は僅かに唇を噛んで、そしてゆっくりと、俯いた。

「………どうしてって…、聞いてもいいよね?」

俯かれたせいで表情は判らなかったけれど、震える声と小刻みに揺れる肩が亜弥の今の状態を教える。

「………あたしのこと、キライになった?」

聞かれるであろう疑問に、答えを用意していた自分に虫唾が走る。

「ううん。好きだよ」
「……なら、どうして?」

美貴の答えは予測がついていたのか、それとも嫌われることはないという自信があったのか。
470 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:52
「………好きだけど、一緒にいると、疲れる」

その言葉が、いつも自分といたがった亜弥をどんなふうに傷つけるかを美貴も考えなかったワケじゃない。

けれど他に、美貴の気持ちに近くて、亜弥に何の説明もなく伝わるような適切な言葉はないように思えたのだ。

「…そ、か……」

それだけで納得しろというのは酷だと美貴も判っていた。

亜弥が今、自分に対して負い目や罪悪感を感じているだろうことも、手にとるように判った。

「…ごめん」

謝るのは卑怯だろうか。

亜弥の手を離そうとしているのに、
謝れば、その手を離したくないと願っている亜弥を逆に追い込むだろうと気付いているのに。
471 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:52
「………あたしといるより、吉澤さんといるほうがいい…?」
「え…?」

予期しなかった名前が亜弥の口から出たことに美貴も思わず眉根を寄せたけれど、
亜弥にそう感じさせるような誤解を生ませていたことは否定出来なかった。

事実、そこに恋愛感情などなくても、ひとみといるほうが気楽だったのだし。

「………まあ、ね」

曖昧に濁したつもりでも、今の亜弥には美貴の真意を推し測ることなど無理だった。
472 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:53
「…そか」

同じ言葉を繰り返し、一呼吸置いて、亜弥は頭を上げた。

「判った。美貴たんがそう言うなら、仕方ないよね」

それが強がりの言葉と気付けないような、鈍い人間ではない。

「…ごめん」

もう一度謝ったとき、亜弥は薄く口元に笑みをつくりながら首を振った。

その笑顔はあまりにも儚げで、そしてあまりにも、哀しかった。
473 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:53
直視できず、美貴はとうとう、視線を落とした。

別れを告げる側ならば、目を背けることは、決して、許されないことだとも感じていたのに。

「………トモダチ、だよね?」

目を逸らした美貴に亜弥が震える声で告げる。

「え?」

咄嗟に顔を上げた美貴の目には、泣くまいとして震えながら微笑む亜弥が映る。
474 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:53
「…別れても、トモダチだよね?」
「………うん」

以前のようには、戻れないと知っていて。

「…たまに電話とか、メールとか、してもいい?」
「…うん、いいよ」

そんなことを言いながらも、きっと亜弥からは何も寄越してこないと判っていて。

「遊びにも行こうね」
「うん」

今、出来ないことを出来ないと言うほうが本当の優しさなのに。

果たされない約束は、ただの欺瞞と偽善でしかないのに。
475 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:54

沈黙がふたりを包む。

これ以上自分がここにいることのほうが、より亜弥を傷つけるのだと気付いて、美貴は一歩、後退さる。

「…じゃあ、美貴…」
「美貴たん」

呼び止める亜弥の声が強くて、ドアノブに伸ばした手を引き戻す。

「………最後に、キスして、って言ったら、怒る?」

最後、と言葉にされて、美貴の背中を言葉にしがたい気持ち悪さが滑り落ちた。

「…恋人の、キス」

美貴を見つめる亜弥の目は今にも涙が溢れ出しそうに潤んでいる。

それはひどく美貴の胸を掻き乱し、自分の言葉が亜弥にとってどれほど大きな意味を持つのかを思い知らされる。
476 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:54
「…いいよ」

亜弥の願いに応えようとするそれは、きっと、優しさなんかじゃない。

一歩引いた足を進め、亜弥に歩み寄って頬へ手を伸ばす。

別れたいと思ったくせに、触れたいと思うこの衝動は罪だと、美貴は思った。

微動だにせず美貴の手を待つ亜弥の頬に触れ、親指で亜弥の唇を撫で、
ほんの僅かに肩を揺らせた亜弥に更に一歩距離を詰めて、美貴はゆっくり、顔を近づけた。
477 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:54
触れる寸前まで、亜弥の顔を見ていた。

そして亜弥も、美貴の顔を見つめていた。

このまま、何もかも奪ってしまえれば、何か変わっただろうか。

美貴の中に芽吹いた種も、切り落とすことすら困難な大樹も、なかったことには出来ないのだろうか。

別れを告げたのに、自分がそう望んだくせに、後悔しているのは、何故だ。

けれどもう、引き返せなかった。

最後のキスが、ふたりの心を引き離そうとしている。
478 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:54
唇が重なり、亜弥のほうから舌を絡めてくる。

口の中を探る亜弥の舌は、何を求めているのだろうか。

美貴もそれに応えながら、自身の中にある葛藤に目隠しをする。

唇を離すことが、それが合図なら、このままずっと、触れたままでいたい。

この熱が真実。
この痛みがすべて。

このまま、どうして溶け合えないんだろう。

このまま、ふたりの呼吸が止まればいい。

ふたりの気持ちは同じなのに、同じはずなのに、何が違ってしまったんだろう。
479 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:55
「…ふ……ぅ…」

漏れた亜弥の吐息に、飛んでいた美貴の理性と意識が戻ってくる。

名残惜しい熱から飛びのくように離れ、美貴はそのまま亜弥の顔も見ないでドアノブを握った。

「…バイバイ、美貴たん」

背中で聞いた亜弥の声はひどく強く聞こえた。

「………バイバイ…っ」

振り切るように言い放ち、美貴はドアを開けるなり駆け出した。
480 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:55
全身を包むたとえようのない喪失感。

手放したのは美貴のほうなのに、突き放されたような気分だった。

後悔していた。

それしか今の美貴の脳裏にはなかった。

けれど、もう他に、亜弥と別れるより他に、どうすることも、思い浮かばなかった。
481 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/06/27(日) 15:55
通りがかったタクシーを捕まえ、勢い良く乗り込んで行き先を告げて、シートに深々とカラダを預ける。

指で唇を撫で、リアルに感触の残る亜弥の唇の熱を思い返す。

終わったのだ、と、自身に言い聞かせた。

これで、美貴のなかに生まれて育った大樹も、あとは朽ちていくだけだ。

そのために払った代償は大きかったけれど、
これしか方法はなかったのだと、これでよかったのだと必死に自分に言い聞かせた。




――――― これですべて終わったのだと、美貴だけが、思っていた。
482 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/06/27(日) 15:56




こんな時間に更新してみました。

自分で言うのもどうかと思うのですが、冒頭の甘さはどこへいったのでしょう(殴)
なんだか雰囲気がかなーり暗くなってますが、まだ(ry
483 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/06/27(日) 15:57
レスありがとうございます。

>>463
…そういえば、前回更新時は松浦さん、出てませんでしたね。<言われて気付いた。
でもあの、『サマ』は、勘弁してやってください。

>>464
独特…、ですか?(^^;)
そんなこと言われたの初めてかも知れません、ありがたいです。
書き手冥利に尽きます、頑張ります。
484 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/06/27(日) 15:57
諸事情で、毎年、夏は更新がいつも以上に滞りがちになります。
もし、7月に2度更新できたら、ほめてやってください(殴)

ではまた。
485 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/28(月) 23:16
あうう・・・痛い。・゚・(ノД`)・゚・。
何で?どうして?って気持ちで胸がいっぱいです。
486 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:06


◇◇◇
487 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:07
「藤本美貴―!!!!」

フルネームで叫びながら、ひとみが収録スタジオへ続く廊下を走る。

その声は怒気を孕んでいて、普段は温和なはずのひとみのその様子に振り返る人が大多数だった。

当の本人である美貴は既にスタジオ入りしていて廊下の喧騒には気付かなかったので、
鼻息も荒く駆け込んできたひとみに首根っこを掴まれてスタジオの外へと引きずり出されたときも、
周囲の様子がひどく困惑を浮かべていたことに眉根を寄せるしかなかった。

「な、なに? なんなの?」

走ってきたせいでまだ息を乱しているひとみをやや見上げる態勢で、
美貴は不愉快を顕著にその表情にのせて言った。
488 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:07
「…ま、松浦と別れたって、マジ?」

ひとみの言葉に美貴は一瞬眉根と口元を歪めただけで、深々と溜め息をついた。

「………早いねぇ。もう知ってんの?」

亜弥に別れを告げてから今日で3日目。

そのことについて、美貴はまだ誰にも話していなかった。

話すきっかけがなかった、というのが理由だが、
別れたことをいちいち触れ回るのもどうかと感じてもいたからだった。

「……マジかよ…」
「うん。3日前にね。亜弥ちゃんから聞いたの?」

その情報が当事者以外の耳に届いてる、ということは、自分が誰にも話してない以上、話した人間は限られる。
489 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:07
「…聞いたっつーか、なんつーか」
「なに?」
「……さっき、そこで松浦に会って」

どく、と美貴の心音が跳ねる。

亜弥の顔や名前はテレビや雑誌で毎日のように見かけるけれど、
本物の『松浦亜弥』との接触は、亜弥と別れてからは、たとえニアミスでも今日が初めてだったからだ。

「……『美貴たんのことよろしく』とか言うから、どういうことかと思って」

美貴が亜弥に別れを告げたのは、美貴の気持ちが亜弥からひとみに向いたからだと、
あのときの美貴の言葉を、亜弥はそう解釈してしまったのだろう。
490 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:08
「………確認しますが」
「うん?」
「…ワタクシ、吉澤ひとみは、いつから藤本美貴さんとお付き合いしてるんでしょうか?」
「美貴、よっちゃんとお付き合いなんかしてたっけ?」

悪びれた様子のない美貴に、ひとみはがっくりと項垂れた。

「………松浦はそう思ってるじゃん、なんて言ったんだよ」

ひとみの疑問口調は、美貴からその答えを期待しているものではなかった。

それよりむしろ、亜弥との別離の理由を知りたそうにしているのが空気で読み取れた。
491 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:08
「……悪いけど、今はその話、したくないから」
「そんなんで納得できねえよ!」

ひとみの声音は大きくそして乱暴で、ふたりは一斉に周囲から注目を浴びる。

好奇に満ちたその視線は居心地の悪いものでしかなく、美貴は苦笑しながらひとみの肩を叩いた。

「…そのうち話すから」

曖昧に濁すように言ってもう一度ひとみの肩を叩いたとき、遠くに亜弥の姿を見た。

今の美貴とひとみの様子をどう解釈したのか、美貴と目が合った亜弥が少し口元を歪ませながら笑った。

そしてそのまま、ゆっくりと美貴たちに近付いてくる。
492 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:08
「けど…っ!」

ひとみが更に言及しようと美貴に向き直ったとき、
ひとみの視界にも亜弥が入ったことで、ひとみは口を噤むしかなくなる。

「やっほー」

手を振る仕草は以前と何ら変わることのない、愛想のいいもので。

「おふたりさん、注目ですよ?」
「…うん、ごめん」

苦笑いする美貴とは対照的に、亜弥は既に『松浦亜弥』になっていて、
人懐こい笑顔を浮かべているくせに、誰も寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。
493 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:09
「…ケンカ?」

亜弥の心配そうな声色に美貴は笑って首を振る。

「違うよ。美貴が勝手によっちゃん怒らせたの」
「そなの? ダメじゃん」
「うん。いま、謝ってたとこ」

ちらりと視線をひとみに向けると、亜弥の視線を受けているひとみが居心地悪そうに身を捩ったのが見えた。

「仲良くしなきゃ」
「うん」

亜弥と話すことに緊張しているのを、亜弥にだけは悟られたくなかった。
494 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:09
「松浦―?」
「はぁーい」

さっき、亜弥がいた方向から呼び声がして、亜弥は返事とともに振り向いた。

「じゃ、あたし、行くね。美貴たんたちも頑張って」
「うん、亜弥ちゃんも」

いつものように元気良く駆け出していく亜弥の後ろ姿を見えなくなるまで見送ってから、
おそらく、事態のほとんどを飲み込めていないひとみに振り向いた。

「……マジで、別れたの? あれで?」
「全然普通だよね、美貴も亜弥ちゃんも」

ひとみの疑問をなぞるように美貴が言うと、眉間にしわを寄せながら、ひとみは美貴を見つめた。
495 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:09
「…嘘でしょ?」
「マジですよ。美貴と亜弥ちゃん、3日前に別れたの」

おどけたように肩を竦めながら美貴は言った。

「…で、亜弥ちゃん、美貴はよっちゃんと付き合ってると思ってるんじゃないかな」
「…っ、だからっ、なんでそーなってんのさ!」

冗談じゃないよ、と言いたげなひとみの口振りに美貴は苦笑するしかなかった。

「…だって美貴、亜弥ちゃんといるより、よっちゃんたちといるほうがラクなんだもん」
「な…っ、そ、そんなこと言ったの? 松浦に?」
「うん」

そろそろ収録が始まるのだろう、準備にあたっていたスタッフの動きが慌しくなり始めている。

その様子をぼんやり眺めながら、美貴はあっさり頷いた。
496 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:10
「…なん…、なんなの、それ…。美貴ちゃん、あたしのこと好きなワケじゃないでしょ?」
「好きだよー? よっちゃん、オモシロイもん」
「…それは恋愛感情じゃないでしょーが」
「当ったり前じゃん」
「だったらなんで松浦に誤解させるようなこと…っ!」

ひとみはそこで言葉を切った。

微笑みながら自分を見ている美貴の目の奥が、確かに、揺れたのを見てしまったから。
497 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:10
「…ごめんね」

それは何に対しての謝罪なのか、と、ひとみは問えなかった。

亜弥に、自分との関係を誤解させたままでいることなのか。
そしてそれを訂正しないでいることなのか。
それとも別れた理由を話さないでいることなのか。

なにより、それはひとみに向けられている謝罪の言葉なのか。

ひとみの脳裏を過ぎっていく疑問符はすべて、今の美貴から答えを得られるものではなかった。

口元は微笑んでいるくせに淋しげに揺れる、少しも笑っていない瞳の奥。

それはさっき、美貴との別離を話して聞かせた亜弥の目の色とまったく同じだった。

物言いたげにいるくせに、自分からは決して吐き出そうとしない、意志。
498 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/07/17(土) 00:10
「……わかったよ」

それ以外の言葉を見つけられず、ひとみは深く息を吐き出しながら姿勢を正す。

そしてゆっくり、美貴の肩を抱くように腕をまわした。

「……行こう、そろそろ収録はじまる」
「うん」

ひとみに促されるようにして歩き出す美貴の笑顔に胸が痛んだ。

心がないように思えてしまったからだ。

美貴と別れたことを告げた亜弥が『自分』を隠してしまったと感じたように、
美貴もまた、『自分』を自らの内側へ閉じ込めてしまったのだと、ひとみは感じた。

ふたりの間に何があったのかは判らない。

けれど、ふたりを導くには自分にはチカラが足りないのだということを、ひとみは思い知ったのだった。
499 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/07/17(土) 00:13



少しだけですが、更新しました。


レス、ありがとうございます。

>>485
す、すいませんすいませんすいません。


気が付けば7月は半分も終わってますね、すいません。
もし、ホントに今月中にもっかい更新出来たら、褒めてやってください、お願いします。

ではまた。
500 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/17(土) 17:45
痛いんだけどやっぱり見てしまう・・・何て罪な家政婦マジック。
501 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:01



◇◇◇


502 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:02
美貴と亜弥が別れてから1週間が過ぎたけれど、
当事者とひとみの3人を除いた周囲はまだ、その事実を知らなかった。

口止めしたわけではなかったけれど、ひとみは他人のプライベートを言い触らすような人間ではないので、
美貴の知らないところで亜弥との破局が誰かの耳に入り、
予期せず興味本位で蒸し返されるようなこともなく、痛くない腹を探られずに済んでいた。

けれど、今のまま、周囲に曖昧なままで何事もなく日々が過ぎていくことも有り得ず、
そしてそれはあっさりと、美貴の前に、やってきた。
503 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:02
「…ちょっと、いっかな?」

テレビ収録で真希と一緒になったとき、
大抵の空き時間はソロとして割り振られた楽屋で仮眠をとって過ごすか、
あるいはひとみや亜依の来訪を受けているだけの真希が、
珍しくモーニング娘。の楽屋までやってきて美貴を手招いたとき、
それは普段とは何かが違うことが起きたのだということを、周囲に知らしめた。

呼ばれた当人である美貴は、真希の雰囲気と表情から状況を察知して咄嗟にひとみに振り返った。

美貴と目が合ったひとみは困惑をその顔に顕著に載せながら、潔白を訴えるように首を振っている。
504 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:02
「なになに、ごっつぁん。深刻そうじゃん?」

真里が少しおどけた口調でからかったけれど、真希は口元を薄く綻ばせただけで、ゆっくりと踵を返した。

その様子で更に雰囲気が不穏になる。

美貴は幾らか深めに息を吐き出すと、読んでいた雑誌をそばにいた梨華に渡し、ゆっくりと立ち上がった。

「…すぐ戻ります」

部屋の奥のほうに座っていた圭織と真里に向かって告げ、
入り口付近で心配そうに美貴を見上げている亜依の頭を軽く撫でてから、美貴は楽屋を出た。
505 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:03
楽屋を出た廊下の少し先を真希が歩いていて、ドアの閉じた音で少しだけ振り返る。

その目に美貴を映し、すぐに前へ向き直った真希を美貴は早足で追いかけた。

無言のまま、ふたりは建物の屋上へ続く、人通りの少なそうな非常階段の踊り場で足を止めた。

あまり楽屋から離れてしまうのは好ましくないけれど、人目につく場所を避けているのが判って、
真希の話が周囲には聞かれたくない内容であること、そしてそれが自分の思っている話であると確信する。

階段の手摺りにもたれた真希が、一度深く息を吐いた。

「………遠まわしな言い方とか苦手だから、率直に聞くよ」

うん、と美貴が頷くより早く、真希は続けた。
506 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:03
「…もしかして、まっつーと別れた?」
「うん」

美貴の答えは予想の範疇だったのだろう、聞くなり、真希はますます深く息を吐いた。

しかし、どうして? と、疑問の言葉が続くと思っていた美貴の予想を裏切るように、
真希は無造作に前髪をかきあげて美貴を見た。

見つめただけ、だった。

射るようなものでも蔑むようなものでもないくせに、美貴に少なからず怯えを思わせて。
507 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:03
「………なに?」

声では強く返しながらも、その目の強さにたじろぐように美貴は一歩後退さった。

「亜弥ちゃんから聞いたの?」

無言の訴えが、それまで何を問われても黙秘を通すつもりでいた美貴の感情の蓋を揺らしにかかる。

美貴を見つめたまま真希は首を左右に振った。

「よっちゃん?」
「違う」

ひとみの潔白を晴らすためだけに口を開いた真希。

「よしこは、こういうこと、絶対漏らさない。知ってるでしょ?」
508 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:04
美貴の知らない絆を見せ付けられた気がして、思い当たる原因のない悔しさに唇を噛んだとき、
それまで美貴を見つめていた真希の目の強さが目に見えて弱くなったのが判った。

美貴から目線を落とし、また前髪をかきあげる。

「…美貴ちゃんだって、まっつーのほうからこんなこと言うわけないって、判ってるでしょ」

がし、と心臓を鷲掴みされた気分だった。

確かに、一番最初に事態を知ったひとみにしたって亜弥のほうから直接別れた、と聞かされたワケじゃない。

亜弥がひとみに美貴を託すような言い方をしたから、言葉の意味を把握しようとしたひとみが聞き出したに過ぎない。

お互いのお互いに向ける感情は、
たとえそこに恋愛感情はあってもなくても、見えない強い信頼の絆があるのだと言われた気がして、
そこから目を背けようとしていた美貴に痛烈な後悔と衝撃を与えた。
509 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:04
「……様子がおかしかったから、まさかと、思ってたのに」

真希の口調から、つい最近、ひょっとしたら昨日ぐらいに、亜弥と会ったか話をしたのだということが伝わってきた。

けれど、やっばり真希は、『どうして?』とは尋ねない。

「………亜弥ちゃんに、会ったの?」
「昨日、ね。取材が重なってて」
「…様子、おかしかったって、どんなふうに?」

美貴から幾らか視線を外していた真希の視線が上がる。

目が合うと、そこには意識しなくても簡単に気付けるほどの怒りが見えた。

「………美貴ちゃんが、それ聞くの?」

思わず美貴は口を噤んで俯いた。

真希の言わんとしたことは、その一言だけで鮮明かつ明確だった。
510 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:04
「まっつーから聞いたワケじゃない。でも、まっつー、いつもと違ってた。美貴ちゃんの話、全然しなかった」

別れから1週間。

亜弥との別離によって朽ちていくはずだった美貴の胸の奥で育った大樹は、まだ、その兆候を見せない。

育ちきり、これ以上は無理だと判断して朽ちていく手段を選んだはずなのに、まだ、美貴の胸の奥にある。

ともすれば、更にその成長を続けようとしている。

「…あたし、バカだけどさ、まっつーが美貴ちゃんの話をしないのは、
そのことには触れられたくないからだってことぐらい、判る」

ぎゅう、と、美貴の胸が締め付けられる。

この痛みは、なんだ。
511 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:04
「触れられたくないってことは、話したくないってことで、でも、何かあったんだっていうのも、判る」

真希が話そうとしている続きの言葉が読める。

気持ちが悪い。

読めるのに、いや、読めるから。

「たとえば美貴ちゃんとの間で何かあったんだとして、
もしまっつーのほうが悪かったんだとしたら、まっつーはそれを言うと思う。
どうやって謝ればいいか、どうやって仲直りすればいいか」

どうして、真希が。

「なのに、何も言わない。だとしたら、美貴ちゃんがまっつーに何か言ったか、したとしか、考えられない」

どうして真希が、亜弥を、語るのだ。

その口で亜弥を語るくせに、どうしてその口で美貴を責めない?
512 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:05
「……ごっちんには、判んないよ」

美貴の抱える痛みなど。

言葉に出来るならいっそ吐き出しているだろう。

亜弥といると苦しい。

そばにいたいのに、苦しくて息が出来なくなりそうで、自分が自分じゃなくなりそうな気がする。

亜弥は美貴を、美貴でさえも知らない違う誰かにする。

それはひどく怖くて信じられない事態だ。

美貴なのに美貴じゃない。

亜弥といるときの自分は、醜い生物にしかならない。

それを本人が認められない。
513 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:05
「………後悔、してるの?」

真希の声は、どこか憐れんでいるような響きを持っていた。

「しない」

きっぱりと言い放ち、落としていた視線を真希へと向ける。

亜弥と別れてから、亜弥のことで自分自身にも嘘をつくのは、これで何度目だろう。

何度目だろう、と思う時点で、数えられないくらいなのだというのに。

「美貴は亜弥ちゃんと別れた。そのことに後悔はないし、これでよかったって、思ってる。美貴、今、すごいラクだもん」
514 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:05
美貴の言葉を聞き届けた真希の目に、ようやく軽蔑の色が窺えた。

それまで、非難される立場にいながらもどこか憐れまれているような気がしていた美貴は、
自分をただ静かに見つめていた真希が、それがたとえ明確な言葉でなく視線だけだったとしても、
やっと美貴を責めてくれたことに、どこか満足に似たような感覚を覚えていた。

揺らぎの見えない美貴の口調に、まっすぐ美貴の目を捉えていた真希はゆっくりと視線を外し、細く溜め息も吐いた。

「…判ったよ」

そう言いながらも、そこに納得がないことは明白だった。

「けど、あたし、ふたりのこと放っとけないから」

力強くそう続けた真希の言葉が、それをより強烈に美貴に伝えてくる。
515 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:05
「…ごっちん……?」
「美貴ちゃんは構うなって思うかも知れないけどさ、でもやっぱ、放っとけないよ」

口元を和らげて言い切った真希に、美貴はただ、言葉を失くす。

亜弥と美貴の破局など、突き詰めてしまえば真希には関係のないことなのに。

「…どうして…、そんなこと…」

そろそろ真希の出番なのだろうか、遠くで、真希を呼んでいるような声が聞こえた。

聞こえたらしい真希が意識を一瞬そちらに向けて、そっと息を吐いた。

けれどそれは、諦めの溜め息ではなくて。

「…呼んでるから、行くよ。またね」
516 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:06
真希を呼ぶ声がだんだん近付いてきて、
真希は勢いをつけるようにして、カラダの重心を幾らか預けていた手摺りから離れた。

はっきりとした言葉にはならなかったけれど、
それでも疑問を投げていた美貴の横を、何も答えずにすり抜けて行こうとする。

「…ごっちん…っ」

思わず真希の手を掴んでしまった美貴に、真希は、自分の腕を掴んでいる美貴の手を撫でて、やんわりと解いた。

そして。

「あたし、諦め悪いんだ」

軽く撫でるように美貴の肩を叩いたあと、短いけれどはっきりとした意志を持って告げると、
真希は美貴をそこに残したまま、真希を探している声に向かって歩き出していた。
517 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:06
振り向くことが出来ず、半ば茫然としていた美貴の背後で真希の声がする。

けれどそれはもう遠くになっていて、会話までは聞こえてこない。

真希の言葉が、見えないけれどはっきりとした意志が、
亜弥と別れてからもなお育とうとする大樹の一枝を切り落とした。

でもそれはほんの一瞬だけで、切り落とされた枝はもう、別の葉で覆い隠されようとしている。

「……なんだよ、もう」

誰に向けるともなく呟いて、美貴はさっきまで真希がもたれていた手摺りにゆっくりと重心を預けた。

どうして真希は、いや、ひとみも、あんなに優しいのだろう。

どうして、諦めてくれないのだろう。

その理由を知っていて、けれど美貴は考えないように思考を遮断するように目を伏せる。
518 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/08/13(金) 09:06
数秒間目を閉じて、今度は静かに息を吐き出しながら目を開けた。

勢いをつけて手摺りからカラダを起こし、一歩階段に踏み出る。

真希が呼ばれた、ということは、自分たちもそろそろ出番だ。

楽屋に戻ればおそらくいろんな空気が美貴を取り巻くだろう。

真里や圭織はきっと美貴の心中を察してくれるだろうけれど、
亜依や希美は、ひょっとしたらしつこく問い正すかも知れない。

それに対していつも通りに振る舞わなければならないことを思って、美貴は軽く唇を噛む。

責めない真希の瞳に、何も告げないひとみの優しさに、揺らごうとする自身の決意。

それらを振り払うように頭を振って、美貴は楽屋に向かって階段を駆け下りた。
519 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/08/13(金) 09:08
更新しました。
約一ヶ月ぶり……、ううう……_| ̄|○

遅くなってしまって申し訳ありませんでした。
書いてすぐの投稿なので、一応自分で読み直してはいますが、
誤字脱字があっても、見逃してやっていただけると……ゴホゴホ

ちなみに、時間設定は今年の春頃、と思っていただけるとありがたいです。
<Wのふたりがまだ在籍してますので。


レス、ありがとうございます。

>>500
見ていただいてるのに、すいません、まだもう少し痛くなる予定なのです……。
…でも、家政婦マジックって(苦笑)。


更新速度は遅いのに更新量は少なくて申し訳ありません。
ちまちまですが、それでも書いてはおりますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

ではまた。
520 名前:絶詠 投稿日:2004/08/13(金) 17:03
更新ハケーン!!いや…何というか続きが気になります…。
よっすぃ&ごっちんの優しさに涙しながらみさせて頂いてます。
いやはや更新速度などお気になさらず!マイペースで頑張って下さい♪♪
それでは!
521 名前:七氏 投稿日:2004/08/13(金) 20:19
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
切ねぇなあ・・・・・
522 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:25


◇◇◇
523 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:25
亜弥と別れてからも忙しさに変わりはない。

従来の仕事に加え、夏には亜依と希美が揃って卒業してしまうため、
それに向けての企画や取材も増えて何かと慌しい。

けれど、分刻みの忙しさの中にいると、考える、ということをしなくていいので、それはむしろ美貴には救いだった。

何故なら、ふと、時間に余裕が出来ると、自身のなかでゆらゆらと育っている大樹に気付かされるからだ。

あとは朽ちていくだけだったはずの、名前の付けられない、
美貴自身のなかにありながら美貴にとっては不要であるはずの大樹。

消えてなくなるどころか、朽ちることも成長が止まることもなく、ゆっくりと、
けれど確実な大きさと重さと強さで育っている。

予期せぬ空白の時間は、美貴にそれを思い出させる。

そして思い出せば思い出したぶんだけ、それは育っていくのだ。
524 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:25
「美っ貴ちゃん」

卒業が決まってから、というわけではないが、
元来の人懐こさを更にパワーアップさせた面持ちで亜依が美貴に歩み寄る。

空き時間は、こんなふうに亜依や希美、
もしくは美貴よりは明らかに年下のメンバーと一緒に過ごすことが多くなった。

それは周囲に美貴の印象と心証を良くする光景として映り、状況は美貴が望む以上にいい方面へと向かっていて、
美貴の様子を遠目ながらも幾らか不安そうに眺めていた圭織や真里に、
意図せず安堵の溜め息をつかせることにもなった。
525 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:25
「おぅ、なんでぃ」

どうやら悪戯を企んでいるらしいと判ったので、呼びかけに同じ含みで返事する。

「あのねぇ、あっちのスタジオ、今、亜弥ちゃんがいるねんて。ちょーっと、覗きに行かん?」
「え…?」

事情を知らない、というのは、時に残酷だ。

「最近、ウチらのこととかで忙しかったし、美貴ちゃん、亜弥ちゃんになかなか会えへんかったやろ?」
「……あー…、まあ、ね」
「な? 行かん?」
「…や、でも、邪魔とかしたらさ…」
「そんなん、行ってみて、忙しそうやったら戻ってきたらええやん」
526 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:26
スタジオ収録の空き時間、出番のないメンバーは誰もが時間を持て余している。

ただ、それぞれに時間の潰し方は心得ていて、どうやら今日は美貴と亜依だけが、時間配分を誤ってしまったようだ。

年下メンバーと一緒にいることで気分を紛らわせていた美貴にとって、
その年下メンバーのほとんどが収録に向かっている今、美貴の相手をしてくれそうなのは亜依しかいないのだ。

ここで断るのはむしろ不自然だろう。

誤魔化すのは容易だし、強く拒めば深く追及もされないだろうが、何かと過敏になっている今の時期、
たとえ自己保身といわれようと、亜弥との破局を周囲に知られるのは、できれば避けていたい。

断られるとは微塵も思っていない亜依の目にほんの少し疑念が見えて、美貴は仕方ないな、と言いたげに息を吐く。
527 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:26
「…判った、行こう」
「やったっ」

溜め息混じりに答えた美貴だったけれど、
嬉しそうに笑った亜依に手を掴まれ、その勢いのままに椅子から引っ張り上げられる。

とりあえず、誰かが楽屋に戻ってきたとき心配されないようにと走り書きしたメモを残し、
美貴たちは亜弥がいると思われるスタジオへと向かった。
528 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:26

「お、いるいる」

スタジオの出入り口からひょっこりと頭だけを覗かせて中を窺い、亜依が楽しそうな声を漏らす。

どうやら何かの撮影中らしい。

カメラのフラッシュやシャッターをきる音、表情を誘導する話し声が、まだ中を見ていない美貴にも聞こえてきた。

「…あ、あれ? ごっちんもいてる…」

ぎくり、と美貴の胸が鳴る。

亜依の口から出た思いがけない名前に、
おそるおそる亜依の肩越しに中を覗くと、スタジオの中央付近に人集まりが見えた。

そして、そこからさほど離れてない場所に用意されている待機用の簡易椅子に真希が座っている。

亜弥の姿は美貴の位置からはよく見えないが、真剣な表情で撮影風景を見ている真希に美貴の心が震える。
529 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:27
「…珍し…」

予想外の人間がいたことには、亜依も驚きを隠せないようだった。

「あ、休憩みたい」

亜依が言ってすぐ、美貴の視界にも亜弥の姿が映った。

幾らか疲れた雰囲気を表情にも乗せながら、真希のいる場所へとまっすぐ向かう。

そんなに長い間会ってなかったワケでもないのに、美貴の目に映った亜弥は、知らない誰かのようだった。

椅子に座った亜弥の表情が見える。

代わりに、亜弥が戻ってきたことで姿勢を変えた真希の表情が見えなくなってしまったけれど。
530 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:27
「…なんやろ、なんか、深刻っぽい…」

声を掛けようとした亜依も、会話は聞こえなくてもふたりの様子があまり楽しげでないことは感じたようだ。

美貴の胸の奥ではイヤなざわめきが生まれる。

そのとき、肩を竦めながら元気なく俯いてしまった亜弥に向かって真希がなにか言ったのか、
ふっと一瞬の間を置いて亜弥の肩が揺れる。

そしてその次の瞬間には腹を抱えて笑った亜弥がいて、それを見て、
今度はさっきとは違うざわめきが美貴の胸の奥のほうを震わせはじめた。

見たくない、と、思った。

自分以外の誰かに、自分の知らないところであんなふうに楽しそうに笑っている亜弥なんて。
531 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:27
「あ、なんや、そうでもないみたい」

ホッとしたような亜依の声も何だか遠くなっていく。

美貴は、亜弥と真希のふたりから目が離せなくなっていた。

「…? 美貴ちゃん?」

真希の発した言葉はよほど亜弥のツボだったのか、
笑いの止まらない亜弥に、美貴の中で不愉快極まりないざわめきが煽られていく。

感情の沸点が近いことに気付きながらも、その感情の名前を、美貴は認めたくなかった。

認めてしまうのは間違っていると思った。

何故なら、この事態を招いたのは美貴自身であり、そして、美貴自身が望んだはずの結果だから。
532 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:28
これ以上見ていたくなかった。

けれど、目が離せなかった。

沸点に近付いている感情の爆発は目前だった。

見られたくない。
気付かれたくない。
認めたくない。

感情が噴き出してしまう前に、誰かに気付かれてしまう前に、
早くこの場を去らなければいけないと頭の奥では警告の信号がうるさいくらい鳴っている。

なのに、些細なきっかけで溢れ出ることが目に見えている感情を止める術を、美貴は今、見つけられない。
533 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:28
「…美貴ちゃん?」

遠くのほうで亜依の声に呼ばれた気がした。
空気も動いた気がした。

それとほぼ同時に、美貴の目に、真希に頭を撫でられる亜弥の姿が映る。

不意に触れられたのに臆することもなく。

撫でられて、まるで鮮やかな花のように、
けれどどこか意志の強さを思わせるような誇らしさを纏って微笑んだ、亜弥が。
534 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:28


――――― 亜弥ちゃん!



535 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:28
声にならなかった叫びは、引き止めておきたかった美貴の感情をそのまま先へと促す。

どろりと、吐き気をもよおす感覚で、美貴の口の奥のほうに広がる、何か。

きもちわるい。
きもちわるい。
きもちわるい。

「…………わ…な……」

認めたくない感情が、誰もが認めても美貴だけは認めてはならないと思っていた感情の堰が切れる。

吐き出してはならないと思っていた言葉が、待っていたように美貴の口の奥のほうから這い出てくる。
536 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:29
ダメだ。
無理だ。
ダメだ。
無理だ。

何がダメで、何が無理なのか、美貴にはもう区別も判断も出来ない。

ただひとつ、心の底から、全てを押し退けて這い上がり、湧き上がってきた、その言葉を紡ぐ以外は。

「…っ、気安く触るなっ!!」

美貴の声は、それだけで周囲の騒がしさを静めてしまうほどきれいに響き渡った。
537 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:29
湧き上がった感情が声という音になり、美貴を取り巻く空気が一瞬で肌に痛い緊張と不快感とを連れて来る。

美貴の視界に、ただひとつだけ映っていた亜弥が弾かれたように振り返った。

美貴の世界が動いたのはそのときだった。

驚きに満ちた目で自分を見つめている亜弥に、美貴はやっと我に返る。

慌てて周囲を見渡し、スタジオ中の視線を浴びていることを悟り、
そして、美貴の傍らに立っている亜依の、ひどく怯えた顔をその目に映した。

自分が今発したばかり言葉を脳内で反芻し、自分に今まさに触れようとしていた亜依の宙に浮いた腕の行方に気付く。
538 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:30
咄嗟に美貴は手で口を覆い、今にも泣き出してしまいそうな亜依に向き直ったけれど、
弁解の言葉がすぐには出てこなかった。

「ち…ちが…っ、そうじゃなくて…っ」

ようやくそれだけが声になったけれど、亜依に美貴の胸中など判るはずもなく、
腕を宙に浮かせたまま、亜依は表情を怯えから悲しみへと変えていく。

「あいぼん…っ」

誤解を解こうと美貴が一歩踏み出したとき、駆け寄ってきた真希が背後から包み込むように亜依を抱きしめた。

「…あいぼん?」

優しく響く頭上からの声に、亜依はますます表情を崩し、そのまま真希の胸へと泣き崩れていく。
539 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:30
声もなく泣き出した亜依を抱きとめ、その髪を柔らかく撫でてやりながら、真希は美貴へと視線を投げかける。

その視線には確かに怒りが込められ、そしてそれ以上に軽蔑の色を含んでいた。

無言で見つめてくるその目の強さは、美貴から言葉を奪うのに少しの時間も必要としなかった。

「…ご、め……」
「誰に向かって言ったの」

遮るように言われたのは、疑問符のない問いかけだった。

真希に見つめられ、視線を泳がせた美貴のカラダが咄嗟に強張る。

「今の、あいぼんに向かって言ったんじゃないよね? だったら、誰に向かって言ったの」
540 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:30
判っていて聞くのは疑問じゃない。

真希は、美貴が答えられないことを承知で聞いている。

答えなど、とうに感付いているくせに。

真希たちから視線を逸らし、更にその向こうにいる亜弥を見ると、
亜弥は半ば茫然と、しかし、その目にははっきりと美貴を映して立ち尽くしていた。

見られたかも知れない。
気付かれたかも知れない。

真希の言葉に、何も言い返せず動揺した自分を。
亜弥の視線に、うろたえながらも喜んでしまった自分を。

美貴は、きゅ、と唇を噛んだ。

そしてそのまま、真希の問いには答えないままで、くるりと踵を返した。
541 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/08(水) 22:30
「待ちなよ!」

引き止められても、美貴は振り向かなかった。

振り向かないまま、その場から逃げるように走り去った。

呼び止める言葉でありながら、真希の声色には美貴を引きとめようとする意志は感じられなかった。
だから逃げた。

今は逃がしてくれるのだと判ったから。

美貴のその背中に向かって真希が叫ぶ。

「あたし、絶対認めないからね!」

それが、本当は美貴を許す言葉だと知っているかのように。
542 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/09/08(水) 22:31




更新しました。
またしても約一ヶ月ぶり…、遅筆で申し訳ありません…orz



レス、ありがとうございます。

>>520
よっすぃーさんとごっちんさんは、私の中では、
優しくっておとぼけで、でもオトコマエ、な、キャラなのです。
でも、ちぃーと、かっこよく書きすぎてるなあ(^^;)

>>521
キテタ━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━!!!!!
…あ、いや、すいません、やってみたかったんです(殴)
ええとええと……、すいませんすいませんすいません。



なんとか終わりも見えてきました。<…でもまだ遠く感じるのはどうしてだろう。
折り返しも、脳内で考えてるぶんでは(いつのまにやら)すぎておりますが、
次の更新時期もやっぱり未定です。すいません。ご容赦願いますです。

ではまた。
543 名前:名無し読者 投稿日:2004/09/10(金) 12:33
もう1ヶ月タッテタ━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━?????

読むのが少し辛くなるほど鮮明に、その光景が目に浮かびました。
いつも作者様の表現力と文章力には心を惹きつけられます。
次回更新も楽しみにしています。
544 名前:読み屋 投稿日:2004/09/10(金) 20:45
これは痛い・・・。

それにしても情景描写がうまいですなぁ
545 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/13(月) 17:55
このもどかしさがなんとも言えない位

ハァ━━━━*´д`━━━━ン


546 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:02
そろそろ美貴たちも収録がはじまる。

収録スタジオにいた他のメンバーたちがそれを伝えに楽屋に戻ってきてるかも知れない。

仕事に穴を開けるなと、マネージャーだけでなく、圭織や真里からもいつも言われている。

早く戻らないとメンバーに迷惑がかかる。

判っていても、美貴は動けなかった。

動こうという意志が働かなかった。
547 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:02
人気のない、誰もいない衣裳部屋。

今日の収録で使われる衣装が全て出払ったあと、その部屋はただの倉庫にしかならない。

部屋の奥に小さな換気用の窓があるだけで室外の明かりなどほとんど差し込まないその部屋は、
照明を灯さなければ、ただの薄暗い、肌心地の良くない湿気を漂わせるだけの密室だ。

美貴がソロでなくなってから、この部屋を亜弥との短い逢瀬に何度使ったか知れない。

なのに亜弥がいないだけで、気持ちを通じ合わせた相手がいないだけで、
こんなにも今の美貴に居心地の悪い場所になるとは思いもよらなかった。

けれど、ついさっきの出来事で予想以上に昂ぶってしまったキモチが落ち着くまで、
誰にも会わずにいられる場所が、誰にも気付かれずに隠れていられる場所が、他に思いつかない。

美貴は静かに息を吐くと、内側から鍵を掛けて、膝を抱えて丸くなった。

静かで薄暗いその室内は、目を閉じなくても鮮明に先ほどの光景を美貴の脳裏に思い起こさせる。
548 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:03
膝を抱えた腕に無意識にチカラがはいる。

全身を駆け巡っているのは、認めたくなくても、それ以外の名前を教えない感情だった。

今更だと知っている。

痛いくらい、泣きたくなるくらい、それが今の自分が言葉にしてはいけないことだと判っている。

美貴自身の中で育つ大樹を早く消したくて、
それを消す方法は亜弥と別れるしかないのだと、そうする以外、他に手段はないとしか思えなくて、
毎日毎日訪れる居心地の悪さと、オトナである故に吐き出せないコドモのような感情に耐えられなくて、
自身にとってのみの居心地の良さを取り戻すためだけに下した決断。

あの日、耐え切れずに亜弥に別れを告げ、亜弥がそれに了承したその瞬間、大樹はそこで成長を止めた。

それですべて終わったのだと思ったし、確かに終わりを告げたのだとも思った。
549 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:03
しかしその次の瞬間、それは今まで美貴が思っていた感情とはまったく違う意味を持って、再び成長しはじめた。

今までとは比べものにならないくらいの速度で。

その名前と意味を認めるわけにはいかなかった。

決めたのは美貴だから。

その決断で亜弥を傷つけたのだから。

なのに。

「……亜弥、ちゃん…」

別れてから今まで、ひとりでいるときは呟くことすらしなかった名前だった。

何もしなくても一番に思いつくその名前は、
平穏を取り戻したはずの美貴を、見えない内側から侵食していくだけだから。
550 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:03
「亜弥ちゃぁん……」

その名前を思い出すと胸が苦しくなった。
その名前を音にすると目頭が熱くなった。

それがどんな意味を表すのか、気付いてないワケじゃなかった。

気付かないようにしていた。
見ないようにしていた。

でも、もう逃げ場所がない。

自分自身に嘘をつくことが、こんなにも苦しいことなのだと、やっと美貴にも判った。

「……ここに…、きて、よぉ……」

けれど、美貴の声は誰にも届かない。

その望みは、許されない。
551 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:04




しばらくして気持ちが鎮まると、ゆっくり立ち上がって衣裳部屋を出る。

幸いにも近くに人はおらず、美貴は幾らか駆け足で楽屋に戻った。

楽屋のドアの前で一度深呼吸し、これから自分がしなければならないことを考える。

まず、誰よりも先に亜依に謝罪しなくてはならない。

亜依には何の関係もない。

むしろ、日頃の美貴を気遣って、
美貴がひとりにならないように、グループの輪からはみ出さないようにしてくれていた。

亜弥との破局は知らなくても、美貴の様子がいつもと違うことは、
心のどこかで無意識に感じ取られていたのだろう。

目を閉じなくても思い返される亜依の悲しげに歪んだ顔が胸の奥を痛くする。

きつく唇を噛み、深く息を吐き出してから、勢いよくドアを開けた。
552 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:04
「遅れてすいませんっ」

ドアを開けるなり言って頭を下げると、中の空気が幾らかザワついたのが肌で判った。

自身の先ほどの失態は、おそらくどのメンバーにももう知られているだろう。

そう思って息が少し苦しくなったとき、

「美貴ちゃんっ」

部屋の奥のほうから亜依の声がした。

咄嗟に頭を上げると同時に、駆け寄ってきた亜依のカラダが美貴にぶつかった。

そしてそのまま美貴にしがみ着く。
553 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:04
「あ…、あいぼん、さっきは、その…」

ちゃんと決めてきたのに、誰より何より先に、亜依に謝ると決めてきたのに。

「ごめん、ごめんな、美貴ちゃん…っ」
「……え…?」

ぎゅぅぅ、と、美貴の背中に回る亜依の腕のチカラが強くなる。

「ウチ、なにも知らんで…。美貴ちゃん、すごい悩んでたなんて、知らんかってん、ごめん、ごめんなさ…っ」

亜依の言葉の意味が把握出来ず、亜依を受け止めながら頭を上げた瞬間、美貴のカラダが強張った。

視線の先には、おそらくさっきまでそこに亜依が座っていたと思われる椅子があり、
そしてそれに向かって膝をついて座っている真希の姿があったからだ。

他のメンバーは、そのふたりを囲むように立っていたと思われる。
554 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:05
誰もが美貴を見ていた。

向けられる視線に侮蔑の色彩は感じられない。

むしろ、憐れまれているような雰囲気に美貴は呼吸を忘れた。

美貴と目が合った真希がゆっくりと立ち上がる。

そしてそのまま美貴たちに近付いてきた。

「…あいぼんのこと、許してやってよ」
「……ごっちん…?」

何を言われても、たとえ罵られても甘んじて受け入れるつもりで唇を噛んだ美貴に対し、
真希はそれ以上は何も言わず、ただ美貴の肩を優しく撫でただけで、楽屋を出て行ってしまった。

状況が飲めず、美貴はひとみへと視線を投げた。

しかし、美貴と目が合ったひとみも、痛そうな面持ちでただ美貴を見つめるだけで。
555 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:05
「……どういう、こと…?」

自分にしがみ着いたまま、涙を堪えるようにカラダを震わせている亜依の肩を掴む。

「……あいぼん、ごっちんに何言われたの?」
「…み、美貴ちゃん、…今、亜弥ちゃんと、気まずいんやって…。喧嘩、みたいになってて…、それで」

泣くのを堪えているせいか、吐き出す言葉が痛々しく途切れる。

「…な、仲直り…、しようとしてたんやって…。でもそれ、ウチが…」
「それは違うって、ごっちん言ったろ? あいぼんのせいじゃないよって」

亜依の言葉を遮るように続けたのはひとみだった。

美貴にしがみ着きながら、涙を堪えた顔で亜依がひとみに振り返る。

美貴を見ていたひとみの視線が亜依へと移り、宥めようとしているのか、表情も柔らかくなる。

「…タイミングが悪かっただけだって言ってたじゃんか。美貴ちゃんだって、怒ってないよ」
556 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:05
美貴は言葉を失う。

ずるいと思った。
ただそれだけしか脳裏に言葉として浮かばなかった。

本当は、美貴が一番責められなくちゃいけないはずなのに、一言も責めようとしない。

真希も、ひとみも、そして、亜弥も。

ずるいずるいずるい。

どうして認めないと言いながら、強く責めないの。
どうして責めないくせに、強く突き放すの。
どうして突き放すくせに、逃げ道を残してくれないの。
557 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:06
目の奥が熱くなって、美貴はたまらなくなって亜依を抱きしめた。

まるで縋りつくように、しがみ着くように。

知ってる。
判ってる。

それらがすべて美貴のせいで、美貴のためであること。

これが彼女たちの優しさなのだということ。

言葉にしないで、ただ、背中を押し出すだけの。

器用なのか不器用なのか判らないけれど、けれど確かに伝わってくる感情の波。

「…み、美貴ちゃん…?」

美貴の耳のすぐそばに、戸惑っているような亜依の声が聞こえた。

それすらも、美貴の背中を押してくれている気になる。
558 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/09/26(日) 15:06
「………ごめん…、ごめん、なさい…」
「美貴ちゃ…」
「…許して……」

許してください。
彼女を傷つけてしまったことを。

許してください。
彼女から逃げようとした自分を。

許してください。
それでも、彼女を好きな自分を。

許されますか。
許してもらえますか。

傷つけても、逃げようとしても、それでも彼女に愛されたいと思う愚かな自分でも。

「……亜弥、ちゃ…」

うわごとのような響きでその名を告げたあと、美貴の意識はそこで途絶えた。
559 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/09/26(日) 15:08




更新しました。
またしても書いてすぐの投稿なので、誤字脱字は脳内変換でお願いいたします。ぺこり。
次で終われそうです。たぶん。<弱気。


レス、ありがとうございます。

>>543
9月中に2回更新ヤッタ━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━!!!!!
ふざけすぎました、すんませんすんませんすんません。
>読むのが少し辛くなるほど鮮明に、その光景が目に浮かびました。
ホントですか?いやー、嬉しいなあ、書き手冥利に尽きます。

>>544
ありがとうございます。
情景描写とか、褒められるとホント嬉しいです。
自分としては、わかり辛いかなあ、なんて思ってたりすると、余計です。
ラストまでもうちょい。頑張ります。

>>545
も、もどかしいっすよね(^^;)
我ながら、引っ張りすぎな気もします。相方にも言われちゃったし(苦笑)。


さて、うまくいけば次回でエンドマークがつけられそうです。うまくいけば、ですが(殴)。
なるべく早くに更新できるよう、頑張ります。

ではまた。
560 名前:名無し読者 投稿日:2004/09/26(日) 21:01
(作者様)=○)Д゚)・:ウゴフッ

これはこれは続きが気になって夜も眠れませんね
でも、焦らずゆっくり更新してくださいね。ナルベクハヤク・・・
561 名前:読み屋 投稿日:2004/09/27(月) 01:44
もうね、涙無しには見られない
目が霞んで、読むのが辛い・・・。

加護とミキティのこのやりとりが鮮明に浮かび上がります
特に最後のミキティが謝るシーンでわたくしは一人呟きました
「よくやった、よくやったミキティ」
っと。
562 名前:読み屋 投稿日:2004/09/27(月) 01:47
ネタばれ防止
563 名前:読み屋 投稿日:2004/09/27(月) 01:48
もいっちょ









お騒がせしてすみませんでしたm(_ _)m
564 名前:ZpT8ZEbM 投稿日:2004/10/02(土) 17:00
がふぅ(吐血)


……待ってます
565 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/10/18(月) 22:30
更新の前に、先に返レスを。

レスありがとうございます。

>>560
お待たせしましたでしょうか、なるべく早く、ということでしたので、
頑張って完結させてみました。ウソです、ごめんなさい(殴)。

>>561-563
うあー、だいじょうぶでしょうか?(^^;)
美貴さん、頑張りました、はい。

>>564
Σ( ̄□ ̄;)
だ、誰か、救急車―!


では更新します。
予告どおり、今回で完結です。
566 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:30
美貴が覚醒したとき、そこは見慣れない天井だった。

ぼんやりする中でゆっくり横たわっていた自身の上体を起こし、
そこがこの建物内のロビー近くにある救護室であることに気付く。

美貴が寝ていたベッドは薄いグリーンのカーテンで仕切られていたが、
そのカーテンの向こうに人の気配がして、
そしてその気配が美貴のよく知る人間のものであることにも気付いて咄嗟に息を飲む。
567 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:31
「…それで? まっつー、どうするの」

聞き慣れた声が美貴の動きを封じる。

なんてタイミングだろう。

そう思わずにはいられないくらいだったけれど、美貴は声を出して自身の覚醒を知らせることが出来なかった。

ここが救護室で、更に部屋にある気配が自分のほかにはふたつしか感じられないことから、
倒れた自分がここに運ばれてから幾らか時間が過ぎているのだということは推測できた。

おそらく、メンバーたちは美貴不在の中で、収録出来得る部分を昇華せざるを得ない状況になっているのだろう。

同時に、真希のどこか穏やかな声色で、
美貴が倒れたことに関して周囲が落ち着けるほどの時間が過ぎたのであろうということも判った。
568 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:31
「どうって?」
「これから、美貴ちゃんと」
「どうもしないよ?」

亜弥の言葉に、僅かに室内の空気が震えた。

「どうもしない。あたしは今まで通り美貴たんのことが好きで、美貴たんだってあたしを好き。何も変わらない」
「すごい自信だね。別れようって言われたんじゃなかったっけ?」

真希が苦笑したのが伝わってきた。

「うん。でも、たんは今でもあたしのことが好きだよ。ごっちんだって言ってくれたじゃん」
「さっきあたしがそう言ったときは信じなかったじゃん」
「あはは、そうだったね」

軽い笑い声を起てたあと、少しだけ沈黙が続いた。

亜弥の言葉に間違いはなかったけれど、
そこまで自信たっぷりに言い切ってしまう亜弥の根拠が知りたくて、美貴は息をひそめる。
569 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:31
「……ねー、ごっちん」
「ん?」
「あたし、たんがあたしに別れようって言ったとき、なんでたんに何も言わなかったか、判る?」
「え?」
「あ…、理由とかは聞いたよ? あたしといると疲れるって言われたしさ」
「…うん」

頷いた真希の声を少し低く感じたのは、美貴が亜弥に向けて言った言葉に真希が怒っているからだろう。

「あたしもさ、もしたんに別れたいって言われたら、
きっと泣いて喚いて、ジタバタして、たんに縋って別れたくないっ、て言うと思ってた」

正直それは美貴も思っていた。

キライになったワケでなく、一緒にいるのが疲れるという理由だけであんなにもあっさりと引き下がられたことに、
少なからず肩透かしを喰らってもいた。

もしもあのとき、亜弥が泣いて縋ってくれていたら、こんなことにはならなかったのではないかとさえ思ったこともあった。
570 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:32
「でも、言えなかった」
「…よしこのこと?」
「ううん」

小さな衝撃が走る。

美貴が、ひとみに対して心変わりしたと思い込んでの納得ではなかったというのか。

「……ホントは、あたしも、疲れてたの」
「え…?」
「疲れてた。たんと付き合ってくことに」
「…なん……」

真希が言葉を飲んだように美貴も息を飲む。

それは、真希だけでなく、美貴も予想だにしなかった言葉だったから。
571 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:32
「いいかげん、たんのまわりにいる人に対して嫉妬したり、それに対して自己嫌悪したり、
たんを困らせるようなこと言ってどんどん嫌な自分になってくのにすごい不安とか感じててさ、
このまま、もしたんがいなくなったら、あたしどうなっちゃうんだろ、とか、そんなことも考えてさ、
たんに会えないでいるとすごい淋しくて切なかったりもしたけど、でもどっかで疲れてる自分も感じてた」

自嘲気味な笑いを含みながら話しているけれど、亜弥が話している言葉はどこか虚ろな響きを持っていた。

「あたしがあたしじゃなくなってくみたいで、すごい怖いっていうか……、
今考えたら、すごくバカみたいだなって思えるんだけど」
「そんなことは……っ」
「だから、美貴たんがあのとき、あたしと一緒にいることに疲れたって言ったとき、
すごい、ホントにすごい傷付いたし悲しかったけど、でも同時に、心のどこかでホッとしたの。
ああ、じゃああたし、もう美貴たんのこと考えすぎて壊れたりしないって」

なんてことだ。

「もう、これで終わるんだ、って…」

美貴が感じていたのと同じようなことを亜弥も感じていただなんて。
572 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:32
「……それにさ、吉澤さんといるほうがラクだって言われて、
だったらあたしも、ごっちんといるときはラクに呼吸してたなあ、とか思ったりもしたの」
「まっつー……」
「でもね、でも、たんがそう言って、納得したつぎの瞬間にはもう後悔してた。
トモダチでいようなんて綺麗ごと言ってさ、未練たらしく結局最後は縋ったんだよ」

恋人として最後に交わしたあのキスの熱が再び美貴の唇に蘇ってくる。

「…たんってね、喜怒哀楽はハッキリしてるくせに、ああ見えてすごく恋愛には奥手なんだよね」

何かを思い出すように声には小さな笑いが含まれていて、でもそれは、ちっとも不快ではなくて。

「さっき、そのこと思い出した」
「………さっき、って、さっき?」
「うん、あいぼんが泣いちゃったときのこと」

亜依を泣かせてしまったことをまた思い出して、けれど彼女の純粋な優しさが美貴の琴線に触れて、自然と胸が痛む。
573 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:33
「使わなくなったモノとかさ、自分でいらないって決めて捨てるくせに、あとで決まってその行方を探すひとなの」
「…まっつーはモノじゃないじゃん」
「そうなんだけどさ」

ふふ、と軽い笑い声も聞こえて、美貴は自身の着ていた服の胸元をぎゅっと握り締めた。

「自分で捨てたからさ、やっぱり捨てなきゃ良かった、やっぱり必要だった、って言えないひとだったなあ、ってさ」
「……そんなの、自分勝手なだけじゃんか」
「でもあたし、そういうたんも好きなんだもん」

それは真希から言葉を奪うには何よりも強いチカラを持つ言葉。

「さっきごっちんに、誰に向かって言ったのって言われて逃げたたんを見て、大丈夫、って思えた。
まだたんは、ちゃんとあたしのこと好きだ、って。自分でもすごい自信だなって思うけど、でも…」

そこで言葉を切って、亜弥が深く息を吸い込んだのが判った。

「それがあたしだからさ」

今、美貴は、亜弥がどんな顔で、どんな空気を纏ってそれを言ったか容易く想像出来た。

痛み出す胸が、自分がどれほど亜弥に甘やかされた空間にいたかを思い知らせるようだった。
574 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:33
「あたし、今なら判るの。たんはあたしから逃げようとしてあたしと別れたかったんじゃなくて、
あたしを好きでいることに追い詰められてる自分自身から逃げようとしてたんだってことが」

美貴がやっと気付いたことを、同じように亜弥も感じて見抜いていた。

少し考えれば答えの出る迷いだった。
ありふれた答えしか持たない迷いだった。

だからこそ気付かなかった、気付けなかった答え。

「疲れてたのはあたしにじゃない、あたしを想う、美貴たん自身の気持ちの重さ。
あたしが美貴たんに対して感じてた、あたし自身の気持ちの重さと同じ」

胸を締め付けようとする痛みが全身へと伝わる。

目に見える傷を作ることのない痛みなのに、いや、見えないからこそ、溢れ出るものがある。

胸を抑えながら美貴はぎゅっと強く目を閉じた。

痛みによって悲鳴をあげる、溢れ出るものを誤魔化すように。
575 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:33
「……まっつーの言いたいこと、あたしには、よくわかんない」

真希の言葉は諦めのようにも聞こえるが、声からはうっすらと羨望さえ感じられた。

「いいの。美貴たんの気持ちはあたしにしか判らないし、あたしの気持ちも、美貴たんにしか判らないから」

悠然と微笑を浮かべているであろう亜弥の姿が、きつく目を閉じた美貴の脳裏に思い起こされる。

「あたしたちだけが、判ればいいことだから」

離れようとしても、決して離れられない。

一時の迷いで手を離しても、そのぬくもりが離れた瞬間、
自分にとってその体温がどれほど重要で大切であるかを思い知らされる。

誰も代わりにはなれない。
誰も代わりには出来ない。

誰かを代わりにしようと思ったことなどないけれど。
576 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:33
美貴の目尻から零れた雫が頬を伝ってシーツの上に落ちる。

真っ白なシーツの上に出来たその染みは静かにその存在を知らせ、次々と零れ落ちる雫によって更に広がっていく。

染み込んでいくそれは、美貴のカラダにココロに、ゆったりと浸透していく亜弥の言葉や体温のようだった。

「ごめんね、ごっちん」
「…なんであやまるのさ」
「こんな、どうしようもないあたしたちで、ごめんね」

ごめんなさい。

亜弥に続くように、美貴も声には出さないままで真希に謝罪した。

まわりがどんなに自分たちを思って気遣ってくれても、本当の意味でお互いのココロに響いてくるのはお互いの声だけだ。

美貴は亜弥の、亜弥は美貴の言葉しかココロに響かないし、聞こえないのだ。

美貴たちの関係は、きっと、他のひとたちには理解出来ない。
577 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:34
ふうっ、と、長めの溜め息が聞こえて、室内の空気が動いたのが伝わる。
溜め息の主は真希だ。

ゆっくりとした動作で立ち上がり、美貴のいるベッドのほうへ近付いてくるのが判る。

薄いグリーンのカーテンの向こうに人影が出来て、
美貴は、涙を止めることも出来ないまま、カーテンが開かれるのを待った。

気遣うように静かに、カーテンは開かれた。

上半身は起こしていてもまだベッドにいる美貴は、僅かに中が覗ける程度だけカーテンを開けた真希と目が合って、息を飲む。

美貴が起きていたことを亜弥に告げるだろうと思って、咄嗟に泣き顔を見られたくなくて顔を覆ったけれど、
真希は美貴の予想に反して小さく息を吐き出しただけだった。
578 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:34
「…たん、まだ寝てる?」

カーテンは少し開かれただけだから、亜弥からは美貴の、美貴からは亜弥の姿を確認することは出来ない。

「…うん」

亜弥の言葉に顔を覆いながらも肩を震わせた美貴の心中を察したのか、真希はそんなふうにウソをついた。

けれどまだ、カーテンの隙間から美貴を窺うように見つめている。

「……ね、まっつー。ひとつだけ、聞いてもいいかな」
「うん、なに?」

止めたくても止まらない涙を何度も何度も手で拭っている美貴を真摯に見つめながら、真希は言った。
579 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:34
「もし、美貴ちゃんが、まっつーの言葉を認めなかったら、どうするの?」
「え?」
「誰がどう見ても、美貴ちゃんは今でもまっつーのことが好きだよ。
でもさ、でももし肝心の美貴ちゃん本人がそれを認めなかったら、まっつー、どうするの?」

真希の問いかけは有り得ないことじゃなかった。

美貴にしたって、たとえ亜弥を手放せない存在だと強く痛感していても、
今更、自分から傷付けた相手にそう簡単に許されるとは思っていない。

亜弥なら美貴が亜弥につけた傷を笑顔で見逃してくれるだろうけれど、
だからといって何の躊躇もなく許されてはいけないと思った。

美貴の覚醒に亜弥が気付いてない今は、
まだ完全には美貴のことを許してはいない真希の視線を真正面から受け止めることが、ひとつの償いのような気がした。
580 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:35
「…ねえ、ごっちん、さっきあたしが言ったこと、覚えてる?」

真希の問いには答えないまま、亜弥が軽やかな口調で真希に問い返す。

「……さっきって?」
「たんは、自分からいらないって捨てても、あとで絶対その行方を探すって」
「…ああ、うん」

真希の視線を受け止めようと、美貴が溢れる涙を拭いながらゆっくり顔を上げる。

「あれね、続きがあるの」
「続き?」
「たんは自分からは捨てたモノに対してやっぱり必要だったって言わないけど、
でも、捨てたモノの行方を探して、結局取り戻すんだよ」
「え?」
「誰にも気付かれないようにあとでこっそり拾いに行くの。一度捨てて、でもまた拾ったモノは、二度と手放さないんだよ」
581 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:35
嬉しそうに話す亜弥の声を聞きながら、前に一度、
捨てたはずのモノが再び元の場所に戻っていたことに気付いた亜弥に、それを追及されたことがあるのを思い出した。

あのときは自分のしたことがひどくみっともなくて恥ずかしくて何もなかったフリをしたけれど、
亜弥は何故かすんなり納得して、それ以降は美貴が捨てたモノを再び拾ってきても口出しするようなことはなかった。

ただ時折、捨てたはずのモノが元の場所に戻っていたのを確認して、満足気に笑ったのを見たことがある。

「たんは、あたしのこと捨てた。でも、絶対まだ、あたしのことが好きだよ。
でも自分からはそれを言えない。あたしからだって、それは言えないの。言っちゃいけないの。
だったら、あたしはただ、黙ってたんがあたしをもっかい拾いに来るのを待ってればいいの」

美貴への気持ちと、美貴からの気持ちを迷いなく信じるその潔いまでの自信。

美貴の目からは、また涙が零れ落ちていく。

適わない。
なにがあっても、なにを言われても、亜弥のその自信はもう二度と揺らぐことはない。
582 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:35
「……もし、拾いに来なかったら?」

真希の声には幾らか呆れた様子も窺えたけれど、
それでもやっぱりどこか羨望に似た何かを含んでいるように美貴は感じた。

そしてその真希に対して、亜弥はきっと、ゆったりとその可愛らしい顔に微笑みを乗せている。

「拾いに来るまで待つだけだよ。そう遠くない未来だもん」

その言葉を聞き届け、美貴は今、自分が亜弥の顔を見ていないことをひどく口惜しく思う。

そしてその顔を見ているであろう真希をひどく憎らしく思った。

美貴と亜弥とを見比べた真希が、ふーっ、とまた長く息を吐き出した。

「……やってらんない」

そしてそのつぎの瞬間、美貴がそうだと気付くより早く、シャッ、と軽快な音がしてカーテンが開かれた。
583 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:35
途端にグリーンの視界が開かれ、涙で潤んでしまっている美貴の目に、
椅子に座ってこちらを驚いたように目を見開きながら見ている亜弥の姿が映る。

「…たん、起きて、たの?」

一瞬の驚きのあと、亜弥の表情がだんだんと柔らかく優しく、綺麗になっていく。

美貴の胸が自然と高鳴る。

「ホント、まっつーたちのことをバカップルって言うんだ。呆れてものが言えないよ」

やれやれ、と両肩を竦めながら、真希はそのまま出入り口へと向かう。

「ご、ごっちん…っ」

思わず呼び止めてしまった美貴だけれど、
真希は振り返ることなく肩越しに手をひらひらと振って見せただけで、静かに出て行ってしまった。
584 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:36
ふたりきりにされて、沈黙に包まれる。

亜弥を手放すことなど出来ないことを痛いくらい知っても、やはり美貴からそれを告げるのは勇気がいった。

泣き顔を見られることもひどく恥ずかしくて俯いたままでいると、
亜弥がゆっくり椅子から立ち上がり、美貴のいるベッドのほうへと歩み寄ってきた。

「美貴たん」

耳に馴染んだはずの声なのに、ひどく懐かしく感じて美貴のカラダが震える。

「…あんまり、心配、させないでね」

ベッドに腰掛けた亜弥が、そっと手をのばして美貴の頬を撫でながら言った。

頬に触れた体温が美貴の全身に電流を流す。

きゅ、と唇を噛んで、感情が赴くままに美貴は亜弥を抱きしめた。
585 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:36
「………ひ、拾った」
「え?」
「…いらないと思ったけど、でも、やっぱり必要なの。ないとダメなの。だから、また、拾うの」

美貴の言葉を聞いた亜弥のカラダがほんの少しだけ強張ったけれど、
すぐに緊張は解かれて美貴の腕に応えるように背中へと腕がまわされた。

「…うん」
「ずっとずっとそばに置いとく。どこにも行かないように、誰にも奪られないように、ずっとずっと美貴のそばに置いとくの」
「うん」
「どこにも行っちゃダメ」
「うん」
「美貴のとこにいて」
「うん」
「美貴のことだけ、好きでいて」
「当たり前でしょ。今更何言ってんの」

いつもの口調で答えた亜弥が、美貴の耳元で拗ねたように頬を膨らませる。

恋しくて恋しくて、もう一度触れたくてたまらなかったぬくもりが美貴を包む。
586 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:36
亜弥と付き合っていくことで、美貴にしか判らなかった名前の判らなかった大樹の名前も今なら判る。

あれは、自分でも防ぎようのない、どう誤魔化していいか判らない『独占欲』という名を持っていた。

そばにいればいるだけ美貴の亜弥への執着は育つから、その大樹も成長を続けた。
断ち切ることも、枯らす術も美貴は知らなかったから。

そして亜弥を傷つけ、手放したことでそれは確かに成長を止めたけれど、
『独占欲』は『後悔』へと名を変え、成長のスピードを速めた。

『後悔』は、いつまでも続く。どこまでも育つ。
自身がそれを昇華出来ずに持て余す限り。

一度は捨ててしまったものをもう一度手に入れた今、美貴は、誰の心の中にも『独占欲』が存在することを知った。
美貴だけでなく、亜弥の心の中にも存在していたのだと。

どちらの大樹も、今はもう美貴の中に存在しない。
亜弥の清らかで潔い自信がそれらを払拭してしまったから。

そして今は、また新たな種が芽吹こうとしている。
587 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:37
「たん?」

涙で顔はぐしゃぐしゃになってしまっているのに、美貴を見つめる亜弥はとても嬉しそうだった。

「………亜弥ちゃんのことが、好き」

突然の告白に亜弥は目を見開く。

「言葉じゃ言い切れないくらい好き。ホントだよ?」

目を見開いたまま美貴の言葉を聞き届け、それからゆるりと瞼を伏せた亜弥が美貴の肩に額を押し付ける。

「…ねえ、どうしたらいい? どうしたら美貴のこの気持ち、亜弥ちゃんに伝わる?」

鼻先をくすぐる亜弥の髪の匂いの中に気持ちよく漂いながらも、
美貴はまだどこか不安そうに亜弥の着ている服を握り締めて言った。

「美貴、亜弥ちゃんに、許してもらえる?」

声色に怯えが窺えて、亜弥はきつく美貴を抱き返した。
588 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:37
「たんがあたしのそばにいてくれるだけで、たんの気持ち、ちゃーんと伝わるよ?
それでいいの。それで全部許せるよ。なにがあっても、たんがあたしのそばにいてくれたら、それでいいんだよ」

そうっと亜弥からカラダを離し、
少し俯き加減になっている亜弥の顔を下から覗き込んで、美貴は少し戸惑いながらも笑った。

「泣かないで、亜弥ちゃん」

亜弥の目尻に浮かぶ涙を指で拭い取りながら美貴が言うと、亜弥もまた、苦笑しながら美貴の目尻の涙を指で拭った。

「じゃ、たんももう泣かないで」

互いに顔を見合わせて、どちらからとなく笑いが零れる。

息がかかるほど顔を寄せ合い、額を押し付けあって。
589 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:37
「…たん、キスして?」
「え?」
「恋人のキス」

亜弥の言葉に含まれているのが、先日のものだと気付かないほど美貴は鈍くない。

「……恋人の?」
「うん、最初のキス」

答えて、美貴の鼻先に唇を押し付ける。

「…最初って、美貴たち、もうどれくらいしたと思ってるのさー」
「いいの。たんとのキスは、いつだって初めてなの。あたしにとっては、それぐらい神聖なの」
「なにそれ」

ぷー、と頬を膨らませた亜弥に笑いながら、美貴が亜弥の唇を掠め取る。
590 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:38
「…っ、たん!」
「……いいよ、何回でもしようよ、『最初のキス』」
「たん?」
「美貴、もう誰ともキスしないもん。亜弥ちゃんとしかしない。だったら、ずーっと亜弥ちゃんが『最初』ってことだよ」

途端、美貴の目前で亜弥がポカン、と口を開けた。

亜弥の様子に自分の言った言葉の意味を改めて考えて、そこに勿論ウソはないけれど、だからこそ余計に恥ずかしくなった。

「……たん、キザだよ」
「うるさい」

テレ隠しにぶっきらぼうに言った美貴に亜弥が嬉しそうに飛びついてきた。

抱きつかれたことで伝わってくるそのぬくもり。

美貴は今更ながら、自分が知らないだけで、気付かなかっただけで、どれほどその体温に癒されていたのかを思い知る。
591 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:38
美貴は思う。

自分たちはまだまだ未熟だから。
オトナの顔をしていても、自分自身の感情ですら持て余すほどには、まだまだコドモだから。

きっとまた、同じようなところで自分たちは躓くかも知れない。
似たようなことで躓いて、転んで、また傷つけあうことがあるかも知れない。

それでも、今、自分たちを確かに癒している体温を失くすことなど出来ないと知っていたなら、
躓いたところから何度でも立ち上がってやり直せるのだと。

心から、そう思えた。
592 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:38
「ウソ、たん、可愛い」

にゃはは、と、無邪気な笑顔で笑っている亜弥が美貴を見ている。

失えない、ただひとつの存在。

「じゃーあー、素直なたんにー、ご褒美をあげまーす」

冗談めかして近付いてくる亜弥の顔。

美貴は口元を綻ばせ、そっと目を伏せながら、亜弥の唇の熱を待った。






―――――――― END
593 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:39

594 名前:LOVE PHANTOM 投稿日:2004/10/18(月) 22:39

595 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2004/10/18(月) 22:39
以上で『LOVE PHANTOM』終了です。
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございます。

思っていたより長くなってしまって(書き始めたときは500レス内で終われると思ってました…)、
更新速度も遅くて本当に申し訳ありませんでした。

内容は、個人的には結構気に入ってるんですが、
途中何度か文章構成に迷ってしまったので、ところどころ、書き直したい部分とかがあるのが悔やまれます…うう。

で、えーと、新作、というか、次回というか、まったくもって予想がつきません。
とうぶん、このスレでの更新はないかと思われますが、
まだ少し容量もありますし、また何か書けそうになったら、書きたいと思います。
そのときは、もしかしたらミキアヤじゃないかも知れません。
でもこのスレ、一応ミキアヤオンリーだったからなあ…。ううむ。

感想などありましたら、よろしくお願いします。
ではまたいつか。
596 名前:no name 投稿日:2004/10/19(火) 20:31
面白かったです!!
次回もあやみきを期待してます、すいません…。
597 名前:名無し飼育 投稿日:2004/10/19(火) 21:28
完結お疲れ様です。
よかったー。
描写などもドキドキしながら読んでおり、
続きはどうなるんだろうと待ってました。
また次の作品楽しみにしています。
598 名前:ZpT8ZEbM 投稿日:2004/10/19(火) 22:47

(´Д`*萌


………ため息しかでません。
東京都指定のゴミ袋(大)が4つほど膨らみました。色に例えるならピンク。さんきぅ作者サマ。
599 名前:絶詠 投稿日:2004/10/20(水) 21:58
完結お疲れ様ですー!!
更新のたびに「え?え?」と思わせられましたが…。
でもこの終わり方はかなり私好みなんで幸せでした♪♪
瑞希さん、ありがとうございました!
600 名前:名無し読者 投稿日:2004/10/22(金) 11:00
完結お疲れ様です!
こんなクリティーの高いミキアヤを読む事ができて幸せです。
ラストの二人のやりとりには感動すら憶えました。
自分はミキアヤバカなものでミキアヤオンリーの方が嬉しいっすw

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