恋してしまった

1 名前:オニオン 投稿日:2002年12月15日(日)14時07分24秒
短い話を何本か書かせて頂きます。
2 名前:1つ目 投稿日:2002年12月15日(日)14時08分30秒

―なかよしまでの距離―
3 名前:<prologue> 投稿日:2002年12月15日(日)14時09分24秒
恋してしまった。

この想いが報われはしないだろうってことを知っているつもりだった。
だけど、失くすことなんてできなかった。
悪あがきって言われても、少しでもいいからあなたまでの距離を縮めたかった。
もう一歩、あと一歩だけでもいいから…


4 名前:<distance 1> 投稿日:2002年12月15日(日)14時10分31秒
6月下旬


梅雨明けをもうすぐに控えた東京の空は久しぶりに晴れ渡っていた。
だから何となく、今日はいいことがあるような気がしていた。
まあ、もうすでにハロモニの収録日ということだけで、
私の心は断然弾んでいたりするんだけど。
2週間ぶりに会える。そう思うといつもより数十倍軽やかにはなうたが出た。
恋レボが頭の中を支配していく。
私とあなたが一緒に歌っていたあの頃が、心の中で鮮やかに甦っていた。

5 名前:<distance 1> 投稿日:2002年12月15日(日)14時11分25秒
「ごきげんだね、よっすぃー。」
「そうですか?」

笑顔を潰し切れずに、中途半端な顔で返事をしてしまった。

「前から思ってたんだけど、ハロモニの収録の時っていつも元気だよね?」

痛いところをついてくる。
別に他の仕事を適当にこなしているつもりはないけど、
やっぱりこの番組だけは私の中で特別なものだから、そう見えても仕方なかった。

「裕ちゃんやごっちんが一緒だから?」

正解といえば正解だけど、微妙にニュアンスが違う。

「まあ、そんなところです。」

だけど別にそれを矢口さんに言ったところでどうなる訳でもないから訂正は入れないことにした。

「裕ちゃん、もう来てるかなぁ。」

矢口さんは不意に寂しそうな顔をした。

「あ、吉澤が見てきますよ。」

もしも矢口さんが無意識のうちに中澤さんの前でそんな表情を見せたら、
また、私から中澤さんまでの距離を遠ざけてくれてしまいそうだったから。

「そう?んじゃあ、いってらっしゃーい。」

そんな私の行動を特に気にする訳でもなく、矢口さんはひらひらと手を振っていた。

6 名前:<distance 1> 投稿日:2002年12月15日(日)14時12分16秒
自分たちの楽屋を出て、隣り合っている中澤さんの楽屋へ向かおうと体の向きを変えたら、
丁度、中澤さんがやってきた。

「はようございます。」

心の準備を整える間もなく、慌てて頭を下げた。

「おはよう。何や、朝っぱらからようネジ巻けとるなぁ。」
「よ、吉澤はぜんまい仕掛けじゃないですよ。」
「分かっとるって。冗談やんか、冗談。」

あ、笑った。
この笑顔は独り占めにしてもいいよね?
私だけのものだよね?

「で、何しとんの?」
「中澤さんに会いに…。」

だめだ。普通に答えちゃったよ。

「そら、どうも。」

何が可笑しいのか分からないけど、中澤さんはずっと口許に笑みを浮かべていた。

「あーぁ。私、今日一番に会うた芸能人、吉澤やわ。ついてないなぁ。」
「…。じゃあ、吉澤はラッキーです。一番ゲットで。」

ちょっとへこみそうになったけど、頑張って切り返した。

「ええなぁ…。一家に一台吉澤ひとみって感じやわ。」
「何です?それ。」
「一緒におったら飽きんやろうなぁって。」
7 名前:<distance 1> 投稿日:2002年12月15日(日)14時13分23秒
至福だ。
まさに今、至福の時が訪れてる。
そんな言葉を聴けただけで、もう明日からの2週間、充電の必要なしって感じだよ。

「あー。よっすぃーが裕ちゃん独り占めにしてるー。」

…はい、幸せタイム終了ー。

「矢口ぃ、今日もかわいいなぁ。なっちも。」

2人の登場によって中澤さんの笑顔が私のものじゃなくなった。
矢口さんを抱きしめる。
安倍さんを抱きしめる。
私は依然としてその距離まで進めない。
私がどんなに近付こうと努力をしても、中澤さんがそれに気付き、
歩み寄ろうとしてくれない限り、その距離までいくことはできない。
だから、ただ、羨ましかった。
努力なんてしなくても、中澤さんの笑顔を手に入れてしまう2人が。

何となく、少し疎外感を感じて、3人から離れたところで見ていた。
心臓が唸りをあげる。
追い越すことなんてできない矢口さんと安倍さんの背中がやけに大きく見えて、
2人と中澤さんを同時に視界に入れるのが嫌だった。
徐々に、視線が落ちていく。
それに比例するように、心の温度も下がっていくような気がしていた。

8 名前:<distance 1> 投稿日:2002年12月15日(日)14時14分00秒
いつのまに近付いていたのか、中澤さんの手が私の前髪を掻きあげた。

「…吉澤?」
「…。」

しまった。
2人を抱きしめていた手で触られたくないって思ったら、体ごと引いてしまった。

「あっ…。
すいません…。」

気まずくて、だけどそれを払拭するような言葉が見当らなくて、
私は逃げるように楽屋へと戻った。

メンバーの何人かがこっちを見ているようだったけど、私は誰とも目を合わせず、
閉じた扉の前にうずくまった。

9 名前:<distance 1> 投稿日:2002年12月15日(日)14時14分51秒
悪循環だった。
今の私に幸せをくれるのは中澤さんだけなのに、
私から幸せを奪えるのも中澤さんだけ。
中澤さんの一挙手一投足に心は完全に操られている。
それは別に中澤さんの意思でも何でもなくて、
私の意思のようなものだったけど…。
なんて思っていたら、泣いてしまいそうだったから、
慌てて顔を上げて、前髪を掻きあげた。
フラッシュバックする。
さっきそこに触れた中澤さんのてのひらが。
目の前数センチで見た整った顔が。
――。伝えたい。
心に留めてくれなくいてもいいから、
聴いて、知ってもらいたいと思った。
正直もう、抱え切れなくなっていたから。
ふられるならふられよう。
それはそれですっきりするはずだから…。
私はそう決意した。

10 名前:<distance 2> 投稿日:2002年12月16日(月)13時29分44秒
学校から家に帰ってきて、カバンと制服を脱ぎ捨てて、
すぐに駅へと引き返して電車に駆け込んだ。

好きって気持ちを伝えようって決めたら、
ぐずぐずしてられなくなって、
何かもう、どうしても言いたくなってきていたから。

授業の内容も、いつも以上に耳に入らなくなってたし、
何の仕事の現場にいても、
頭のどこかで中澤さんの顔がちらつくようになってしまっていた。
だから、そういうこと全部のためにも早く言ってしまおうって思って、
夕方に仕事の入っていない今日をその日に決めていた。
中澤さんも確か、この時間に仕事は入っていなかったはずだから。
言うなら今日しかない、そう思った。

11 名前:<distance 2> 投稿日:2002年12月16日(月)13時30分38秒
中澤さんの家に行くのは今日で3度目。
前にきた時は2回ともメンバーの誰かと一緒だったから、
1人でっていうのは初めてだった。
しかも今日は告白というビッグイベントを抱えているから、
心臓のドキドキも倍のように感じる。

一歩。一歩。

中澤さんのマンションが近付くごとに、
頭の中を色んな思いが駆け巡っていくようになった。
玄関を開けて、微笑みかけてくれる顔や、
反対に何の用?みたいな反応を見せたり、
様々な展開を想定しては打ち消して、を繰り返す。
告白してふられたら、万が一成功だったら、
そんなシュミレーションも勝手に繰り広げられていた。
そんなことをしているうちに、目的地へと到着した。

出入り口の自動ドアの前で、一旦深呼吸をした。
ここまできて、決心が鈍ったわけじゃないけど、
もう一度だけ、自分に言い聞かせた。
今から言うんだってことを。

12 名前:<distance 2> 投稿日:2002年12月16日(月)13時31分17秒
自動ドアを潜って、管理人室のような部屋の前を横切り、
エレベーターに乗り込んだ。

二階、三階、四階…
昨日まで散々整理してたはずの言葉たちが取り留めなく頭の中を漂っていて、
中澤さんの部屋の前まできたころには、最高潮にぐちゃぐちゃになっていた。
エレベーターを降りて、再び深呼吸をして、
いらない言葉を全部頭の隅に追いやって、
必要な言葉だけを繋ぎ止めようと心掛けた。

踏みしめるように廊下を歩く。
焦るな。慌てるな。おじけづくな。
そう自分に言い聞かせながら。

13 名前:<distance 2> 投稿日:2002年12月16日(月)13時32分06秒
やけに静かな廊下に、微かに話し声が漏れ聞えていた。
男の人と女の人の声。
何を話しているのかは聞き取れないけど、
何となく、歩みを進めるごとに、近くなっている気がしていた。

すると、ひとつの部屋の扉が開いて、男の人が出てきた。

「また来るから…。」

横顔のその男の人は、中にいるらしき女の人に向かってそう言って、
こっちへと歩いてくる。

すれ違う時に、一瞬目が合ったら、驚いたような顔をされてしまった。
何でだろうって不思議に思う間もなく、その理由に辿り着いた。

さっきあの人が出てきた部屋は、今日の私の最終目的地・中澤さんの部屋だったから。

あぁ、どうしよう…。

その部屋の扉の目の前にして、呼鈴を鳴らすことも、
引き返すこともできないでいた。

言うだけ無駄だってことがもう分かっているって言うのに、
まだ諦めがつかないっていうか…。
こんな形じゃなくて、きちんと中澤さんの口から無理って聴きたかった。

14 名前:<distance 2> 投稿日:2002年12月16日(月)13時33分00秒
ゆっくりと呼鈴に手をかける。

数秒後、インターホンから中澤さんの声が聞えてきた。

『はい。』
「あの…吉澤です…。」
『え?…ちょぉ待ってや。今開けるから。』

中澤さんが目の前に現れるまでの間に、3度目の深呼吸をした。

開かれた扉から、当たり前なんだけど、見慣れた中澤さんが姿を見せた。

「どしたん?急に。」
「すいません。…迷惑でしたか?」
「…そういう訳やないけど…。」
「…話したいことがあって。」
「話したいこと?
まぁ、ええわ。とりあえず上がり。」
「あ、いえ。ここでいいです。」

逃げ出す準備、といえば聞こえが悪いけど、ふられてもなお、
その場で普通の精神状態を保っていられる自信がなかった。
だから、いつでも立ち去れるように、靴を履いたままでいたかった。

「ええの?ここで。」
「はい…。」
「…玄関ん中には入って。誰が通るか分からんから。」

中澤さんの言葉に促されて、一歩、中へ入った。
後ろで静かに扉が閉まる。

15 名前:<distance 2> 投稿日:2002年12月16日(月)13時33分58秒
「…何?話って。」
「…。
好きな人が、いるんです。」
「んー?何、恋の相談か?」
「今、吉澤の目の前にいる人が好きなんです…。」

無意味に心拍数が上がっていく。
視線が中澤さんの目を捕らえ切れない。

「…それ、本気?それとも何かの冗談?」
「…冗談に、できたらよかったんですけどね…。」

上手く笑えない。
口の端がつっているのが自分でも分かる。

「…。ごめん、私、今…。」

中澤さんの唇が躊躇う。
だから、私がその後を続けた。

「好きな人がっていうか、付き合ってる人がいるんですよね?」
「何で知って…。」
「さっき、外ですれ違ったんで…。」

中澤さんの顔に、どうしようって文字が浮かんで見えた。

16 名前:<distance 2> 投稿日:2002年12月16日(月)13時34分43秒
「…すいませんでした。手間取らせちゃって。」

おじぎをしてその場から去ろうとする私に、中澤さんは慌てて声を掛けた。

「待っ…。ちょぉ待ってって。」

半分向きを変えていた私の手をつかみ、歩みを止めさせる。

「マネージャーも、誰も知らんねんて…。
やから…その…。」
「…言わないですよ…誰にも…。」
「ほんまに…?」

ショックだった。
そんなに私のことが信じれないのだろうかってことじゃなくて、
そんなにあの男の人のことを愛してるってことが。

とどめを刺してもらっているのに、何故か、脳が逆走を始めているみたいだった。

17 名前:<distance 2> 投稿日:2002年12月16日(月)13時35分28秒
諦めてたまるか。
あんな普通のサラリーマンみたいな男に、勝てないのが悔しかった。
何がそんなに中澤さんを捕らえて離さないのかが分からなかった。

奪いたい。この手に奪い取りたい。

わずか数分の間で、私の思いは一転していた。

「ほんとに、言いませんから…。
だから…許してもらえませんか…?」
「何をな?」
「…。もう少しだけ、中澤さんのことを好きでいることを。」

もうこれ以上遠くに行かれるのは嫌だった。
ただでさえその距離を実感してるっていうのに。
だから、何とか自力で中澤さんまでの距離を縮めたかった。
そのために、まだ足掻いていたいと思った。

中澤さんは首を縦にも横にも振らなかった。
だから勝手に解釈して、まだこの恋を葬らないことにした。

18 名前:<distance 3> 投稿日:2002年12月17日(火)13時37分50秒
梅雨が明けて、世間は夏本番っていう装いだけど、
私の心は未だ梅雨明けを迎えていなかった。

諦めないって決めたのはいいけど、上手い作戦がなかなか思いつかない。
どんな手を使えば、一歩でも半歩でも近付けるのか分からなかった。

挙句に、ハロモニの現場に行くと執拗なまでに中澤さんの視線を感じるし。
まるで、誰かに告げ口しないか見張られているみたいだった。

そんなに気になるんだったら、そもそもあんな明るい時間に男を家に呼ばなきゃいいのに。
あれじゃあ、見付けてくださいって言ってるようなものだと思うよ。

もうすぐ期末テストは始まるし、何かもう、頭の中めちゃめちゃだ。


…とりあえず、整理して省いていこう。

まず、もうテストは今から足掻いても無駄だから、後回しでしょう。
で、中澤さんのハートをゲットするいい案は見付からないから…
とりあえず、この視線の解除交渉からだな。
19 名前:<distance 3> 投稿日:2002年12月17日(火)13時38分34秒
スタジオの隅っこに置かれているテーブルから席を立って、
少し離れたところから睨みをきかせている中澤さんの元へと歩を進めた。

その真剣な眼差しも美人度数2割増なんだけど…、
ちょっと、怖過ぎ。

「そんなに見つめなくても言いませんって、誰にも。」

壁に背をつけて、腕組みをして、ただまっすぐこっちを見ている中澤さん。
その正面に立って、そう言ってはみたけれど。

「…分かっとるつもりやねんけどな…。
目が勝手に吉澤のこと捉えてまうねんて。」
「…。そんなに好きなんですね、あの人のこと。」

何気なく言ったつもりだった。

「…。そうやな。」

なのに、自分でも驚くくらい中澤さんの返した言葉が刺さった。
予想できたはずなのに、それでも心に思いっきり突き刺さった。

20 名前:<distance 3> 投稿日:2002年12月17日(火)13時39分27秒
「勝てない、ですかねぇ…?」
「何に?」
「吉澤は、中澤さんを想う気持ちは誰にも負けてないつもりなんですけど、
好きって気持ちすら、あの人に勝ててないんですかねぇ…。」
「…。」
「まあ、それを決めるのは中澤さんですから…。」
「…。何が、ええん?」
「中澤さんの、ですか?」
「…。」

そうか。告ったのはいいけど、理由は言ってなかったんだっけ。

「ギュってしたら、ガシャンっていいそうなところ。」
「何?それは。」
「吉澤が知ってる人の中で一番ひとりじゃ生きていけなさそうで、
守ってあげたいって思ったってことです。」
「…喜んでええんかなぁ…。」
「もしくは、一緒に生きていきたいって思ったりなんかも。」
「そんなん、そんな真面目な顔して言われても…。」
「真面目なことは真面目に言わないと。」

呆れたらしく、中澤さんは笑みをもらす。

笑うとちょっと、少しだけ幼くみえて、普通にドキッとする。

21 名前:<distance 3> 投稿日:2002年12月17日(火)13時40分00秒
「…。好きです。」

そんなことを言葉にしたって仕方ないのに言ってしまう。

「笑ってる時も、好きです。」

って言ってる私は笑えていない。

「…。ごめん…。」
「いやです。」
「…吉澤。」
「謝られたくて中澤さんのことを好きになった訳じゃないですから。
吉澤だって謝る気はないし。」
「けど…。」
「謝らないでください。
謝られたら、この気持ち、まるごと否定されてるみたいで…。」

あの男の人以外のどんな気持ちも受け取らないって言われているみたいだった。

「…お願いしますから、その瞳に私を映してください。」
「映してるよ…。」
「じゃなくて、あの人との関係を守るためじゃなくて、
吉澤を、吉澤として…。」
「…。」

…ここは黙り込まれると困るところなのに。

22 名前:<distance 3> 投稿日:2002年12月17日(火)13時40分49秒
「…どうしたらええんよ。」
「どうされても、諦めはつきません。」

あなたとあの人の繋がりを思い知れば思い知るほど癇に障るっていうか、
力づくででも振り向かせたいって気持ちが強くなっていく。

中澤さんは小さく溜め息をついて、近くにいたスタッフの人に声を掛ける。

「まだ、時間かかりそうなんですか?」
「うーん。まだかかりそうだなぁ。」

スタッフさんはセットの上の方を見上げながら答える。

「そうですか。」

中澤さんは再び私の方に目線を戻して言う。

「照明、まだ手間取っとるみたいやから、話しよか。」

何を、かは知らない。
けど、中澤さんは確実に何かを決意し、それを私に話そうとしているらしい。

何か、私を諦めさせる秘策でも思いついたのだろうか。
23 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月18日(水)02時05分18秒
やった!なかよし!健気なよし子萌え〜。
楽しみにしてます。
24 名前:<distance 4> 投稿日:2002年12月18日(水)13時29分18秒
相変わらず、向こうではテーブルを囲んで、
矢口さんや飯田さんを中心に話が盛り上がっているらしい。
時々、甲高い笑い声が聞えてきていた。
その話し声とスタッフさん同士が話し合ったり指示を出したりしている声とで、
スタジオの中はそれなりに騒がしかった。

私と中澤さんを除いては。

「…何を、話しましょう?」

中澤さんに隣って、壁に背をつけた。

「現実を、や。」
「現実、ですか。」

いまいち先が見えない。

「とりあえず、私とあの人との出逢いからいこか。」

――。そうきたか。
確かに得策だ。
その一言でもうかなりへこんでるから、私。

25 名前:<distance 4> 投稿日:2002年12月18日(水)13時30分00秒
「名前は、堂島敬介さん。電機メーカーの社員。
歳は3つ下で今年27歳。」

やっぱり、普通のサラリーマンなんだ…。
出逢ったの、合コンとか言われたらどうしようかなぁ。
ありえるだけに…。

「友だちの友だちって感じで、名前は何となく知っとったんやけど、
初めて顔合わせたんは、去年私の誕生日祝いを、
誕生日の数日後にみんながしてくれたんやけど、
そんときが、そうやった。」

友だちの友だち。知り合いの知り合い。
…すっごいオーソドックスなパターンだ。
っていうか、それ、ある意味合コン。

26 名前:<distance 4> 投稿日:2002年12月18日(水)13時30分42秒
「顔もそこそこかっこええねんけど、
一番印象的やったんは、煙草の匂いがせへんかったってこと。
微かに香水の匂いがしてんけど、それで消してるって訳でもなくて。
煙草吸わん人っていうのが珍しかって、よう覚えてた。」

確かに珍しいけど、何か、安いなぁ。
もっとドラマチックな展開があるのかとビクビクしてたのに。

「そんなので、好きになっちゃうんですか?」

繋がらない。
それと好きとを繋げる線が見つからなかった。

「…色々あんねんけど、決定的になったんは、
最初に2人で会うた時やな。」

友だちの友だちと2人っきりで会うのかなぁ。
普通の女の人ってそうなのかなぁ?
何か、軽いなぁって思ってしまうけど。

27 名前:<distance 4> 投稿日:2002年12月18日(水)13時31分47秒
「ご飯食べにいっただけやねんけど、
帰りに送ってもらって…。」

…。いやだなぁ、こういう間って。

「『本当は、楽しかったですとか言った方がいいんでしょうけど、
ずっとドキドキしてて、そういうこと思う余裕なかったんですよね』
って、その日初めて笑った顔見せた時…。」

たぶん、本人は気が付いていないのだろうけど、
そう話す中澤さんの顔は心なし、やわらかかった。

「もっかい、会いたいなって思って…、そう言うた。」

ムカツク。
そんなことで中澤さんの心を手に入れられるなんて。
それくらい、私にだって、他の誰だってできるのに。
何でそれはあの人なんだろう。
何であの人の時だけ…。

「それから徐々に会う回数が増えてって、
秋頃、向こうから、言われて、そんで、付き合い出した。」

そんな簡単に手渡さないでよ。
焦ってるのかもしれないけど、でも、
そんなのたやすく渡し過ぎだよ。

28 名前:<distance 4> 投稿日:2002年12月18日(水)13時32分31秒
「…。そんなの聴いたぐらいじゃあ引けませんよ…。
むしろ、引くわけにはいかないって感じです。」

「…。ほな、次いこか。
次は付き合い出して初めてのデー…。」
「いい。聴きたくない。」
「聴きたくないんやったら尚更聴いてもらわんと。」

分かってない。
そんなことしたって無駄なのに。

「どんなことがあっても、変わりませんから。
吉澤は、中澤さんを好きってことは。」

中澤さんの両肩をつかんでいた。
頭にきて、少し声のボリュームが大きくなった気がしたけど、
周りの誰もこっちを見ていなかったからたぶん、雑音に紛れたんだと思う。

けど、中澤さんには確実に聞えたはず。
その目線が私を捉えたまま固まっていたから。

29 名前:オニオン 投稿日:2002年12月18日(水)13時49分45秒
>>23
初読者さんってことで、
まぁお茶でも…と愛想ふりまいとこう。
もっと萌えていけるよう頑張ります。

30 名前:<distance 5> 投稿日:2002年12月19日(木)14時20分34秒
相手にされなくなっていた。
話しても無駄、言い聞かせても無駄、そう結論を出したらしく、
中澤さんは目に見えて私を視界に入れないよう心掛けているようだった。

でも、それでも一向に構わなかった。
私も考え方を変更したから。
力づくででもって思ってたけど、そんなことしなくても、
いつか必ずチャンスは巡ってくるってことに気が付いたから。

狙うはただひとつ。
中澤さんとリーマンがケンカをする時。
恋の悩み相談なら、いくらでもする相手はいるだろうけど、
色恋沙汰ってなったら、相談相手は限られてくるはず。
2人が付き合っていることを知ってて且つ、
自分の言い分の方を正しいって言ってくれる人じゃないとだめなはず。

遅かれ早かれ、愚痴をこぼす相手に私が選ばれるっていう確信があった。
だって私は、いわば中澤さんの信者な訳なんだから。

そう考えて、とにかく、ひたすら待つことにした。
そのたった一度かもしれないチャンスを。

31 名前:<distance 6> 投稿日:2002年12月19日(木)14時21分13秒
「ひとみちゃん最近仕事が終わるとすぐ帰っちゃうよね?」

高校生活最後の夏休みに突入して数日が経ったある日、梨華ちゃんは言った。

「そう?」
「まるで大切な人ができたみたいに。」
「…。そうだね。」

けど、大切に想う人ができたのはつい最近のことじゃない。
もうずっと以前から大切に想ってた。
ただ、それが表に出始めたのが最近なだけ。

「あーぁ。ひとみちゃんを知らない男の人に取られちゃうのかぁ。」

冗談半分に梨華ちゃんは溜め息をつく。

「…ねぇ。」
「なぁに?」
「知らないの?吉澤の好きな人。」

って言った途端、回線がショートしたみたいに動き止まったから、
本当に知らないんだなって思った。

自分ではばればれだと思ってたから意外だった。
32 名前:<distance 6> 投稿日:2002年12月19日(木)14時21分43秒
「私の知ってる人なの?」

再び稼動した梨華ちゃんは、目を丸くして訊き返す。

「さぁ?」
「もぉ、教えてくれたっていいじゃない。」

きっと梨華ちゃんは夢にも思わないんだろうな。
私がいつもまっすぐ家に帰るのは、
中澤さんからの電話を当てもなく待つためだってことを。
いつ何時にも飛んでいけるように、どんな小さな予定も入れてないってことを。

梨華ちゃんの言葉をぼんやり聴きながら、そんなことを考えていた。

33 名前:<distance 7> 投稿日:2002年12月19日(木)14時22分33秒
走っていた。

星のない空の下。
あの日、計り知れない緊張と不安と僅かな期待とを抱えて歩いていた道を、
走っていた。

長期戦も覚悟してはいたけれど、できれば早くもめてくれって思ってた。
願いが通じたのか、8月に入って間もなく、待ち望んでいた電話があった。

中澤さんは一言、私の名前だけ呼んで、黙り込んだ。
体中が総毛立つ感じがした。
ざわざわってしたものが皮膚を走り抜けていく感じ。

これがラストチャンスかもしれない。
中澤さんとリーマンを別れさす、
そして、私の方へ振り向かせる、ラストチャンス。

34 名前:<distance 7> 投稿日:2002年12月19日(木)14時23分40秒
逃す訳にはいかない。
絶対私の方が中澤さんを好きなのに、あんな男の手の中にいるなんておかしい。
そんな理不尽なことってない。
だから、絶対手に入れたかった。
弱みに付け込むことも、卑怯な手を使うことも、やむを得ない。
もう、どうしても奪いたかったから。

その思いが私を走らせる。急かす。追い立てる。

一分でも一秒でも早く中澤さんの元へ、そう囁く。

マンションの自動ドアを通り抜けて、エレベーターの前で扉の上を見上げたら、
5階の所で光が点滅をしていた。

迷わず階段に回り、7階までとにかく必死で駆け上った。
もう息も切れまくりで、額には汗が滲んでるけど、気にしてるヒマはなかった。
走りすぎて痛み出した脇腹も、ギシギシいい始めた両膝も、
構ってるヒマはない。

全ては中澤さんを想うがためだから。
そう思うと、限界なんてないに等しかった。

35 名前:<distance 7> 投稿日:2002年12月19日(木)14時24分24秒
中澤さんの部屋の前に辿り着いた時にはさすがに疲れてて、
扉に手をついて体を半分預けた。
ひんやりとした扉が、上昇しっぱなしだった体温を引き下げてくれる。
それにつられて、頭の中も少し、冷静さを取り戻していた。

息をひとつ整える。

この前とは違った緊張感がある。
何日も何日も、今日がくるのを待っていたから。
ついにその時がやってきたから。
否が応にも力が入る。


左手が呼鈴を鳴らす。
扉の奥で小さくその機械音がする。

額の汗を拭って、息を吐いた。
遠くで寝ぼけたせみが、力いっぱい鳴いていた。
まだ9時を回った所だっていうのに、マンションの中は怖いくらい静かだった。
この間の時も、今日も、まるで人の気配を感じない場所だった。

36 名前:<distance 7> 投稿日:2002年12月19日(木)14時24分57秒
「…吉澤…?」

扉のすぐむこうから、直に声がした。
さっきの電話越しの声と同じようにこもった声。
元気どころか気力さえないような。

「吉澤です。」

私の言葉を合図に扉が開く。
目に飛び込んできた中澤さんの姿は思い描いてたようなものじゃなかった。

私は、怒り爆発で「もう、あんな奴知らん。」、
みたいな発言が聴けると思っていたのに、
これでもかってくらいに目を真っ赤にして落ち込んでいた。

用意してた言葉は使えない。
頭の中で用語辞典を勢いよくめくる音がする。
今、中澤さんが求めている言葉は何か、
どんぴしゃな言葉を必死で捜していた。

37 名前:<distance 7> 投稿日:2002年12月19日(木)14時25分31秒
…。いや。っていうか、何で私は呼ばれたんだろう。
今の状態だと、愚痴をこぼす相手に選ばれたって訳じゃなさそうだし。
何のために…。

どっちの答えも導き出せていないのに、両手が勝手に中澤さんを抱きしめる。
中澤さんの左手が支えていた扉が、ゆっくりと2人を閉ざしていく。

「…吉澤…。」

耳のすぐそばで中澤さんの声がする。
そんな切ない声で呼ばないで。
その哀しみとかが伝染しそうだから。

頭の中で開いていた用語辞典を閉じて、
中澤さんのための言葉じゃなくて、自分のために、
心が思った通りの言葉を伝えようって思った。

まだ、駆け引き上手になんてなれなくていい。
ただ、言いたいことも言えず、後で後悔するのはいやだったから。

38 名前:<distance 7> 投稿日:2002年12月19日(木)14時26分02秒
「…吉澤は、彼氏にはなれないです。
だから、あの人の代わりもできないですけど…。
こうして、抱きしめることはできます。
そばにいることだって、中澤さんのために飛んでくることも、
時間を作ることもできます…。
中澤さんのことを、ただ愛し続けることだって、できるんです…。」

泣きそうだった。
誰かを好きになって、こんなにも胸が痛むのって、初めてだったから。
涙がこぼれないように上を向いたら、ライトの光がぼやけて見えた。

中澤さんは何も言わない。
私は、まだいくらでも愛を囁き続けれる。

「いつも…いつだって、吉澤のこの両手は中澤さんのためだけにあるんです。
毎日、毎日、毎日…
中澤さんを好きって気持ちが、きりなく増えていくです…。
会いたいって、一目会いたいって…。」

私の腰に回されていた中澤さんの両手が、少し強く抱きしめてきた。

「…ありがとぉ…。分かったから…ちゃんと…。
吉澤の気持ち…。」

中澤さんはそう言うから、私も言葉を止めて、
ただずっと抱きしめていた。

夜が更けていく中、ただ、ずっと…。

39 名前:<distance 8> 投稿日:2002年12月20日(金)13時33分53秒
少しずつ、何かが動き始めていた。

中澤さんを見つめるこの視線を振り払うことがなくなって。
話しかければ一言なり二言なり返事が返ってきて。

――ただ、片手分くらいの距離を感じるようになっていたけれど。

私のこの気持ちは、中澤さんの許容範囲には入ることができたけど、
その代わりに、後輩という立場は完全に失われているみたいだった。

まぁ、よくいえば、恋愛対象に格上げ、
悪くいえば、赤の他人に格下げ、そんな所。

40 名前:<distance 8> 投稿日:2002年12月20日(金)13時34分34秒
分からないのは、リーマンとはどうなったかってこと。
まず、ケンカしたのは間違いないはずなんだけど、
原因不明、その後の展開も不明、中澤さんの気持ちも不明なら、
リーマンの気持ちも不明。
訊いていいものかどうか分からなくって、ずるずる月日だけが流れていってる。

恋愛のいざこざの渦中の人になんてなったこともないのに、
そう簡単に自らもめごとに両足突っ込むなんてことできる訳なかった。

やっぱり、中澤さんが話してくれる気になるなで待つしかないのかなぁ。
って言っても、話してくれるかどうかも微妙な所だけど。

41 名前:<distance 8> 投稿日:2002年12月20日(金)13時35分16秒
視界に映る中澤さんの隣りに矢口さんの姿が見えた。
何だかこんな光景もすごく久しぶりに見る気がする。

いつになったら、あれくらいの距離にいくことができるんだろう。

笑い合うこともふざけ合うこともできない。
それは前からあまり変わらないことだけど、
最近は特に、深刻な顔以外見ていない気がする。
私と話す時の中澤さんはいつも苦しそうに見えた。
私だから、見せられるのかもしれない。
私だから、そんな顔になるのかもしれない。

42 名前:<distance 8> 投稿日:2002年12月20日(金)13時35分51秒
今、中澤さんの重荷になっているのは、私の愛なのか、
それともリーマンの愛なのか、知りたかった。

あなたの心を揺らし始めたのは私の愛なんだって信じたかった。

43 名前:<distance 8> 投稿日:2002年12月20日(金)13時37分05秒
その日、収録が終わって次の仕事の現場に向かうために、
皆とテレビ局を後にした頃、ケイタイがメールを受信した。

今週、時間ある時会おうって。
それはどういう意味なんだろうって考えたけど、
深く考えすぎてドツボに嵌る前にやめた。

とりあえず、日曜日の夕方は空いてます、と返信した。

きっとその日、中澤さんとリーマンと私と、
その関係に結論が出るんだろうなって感じた。

誰にとって最善なものなのかは分からない。
けど、中澤さんの中ではもう決まったのだろう。

良くも悪くも答えはひとつ。
中澤さんだけが知っている答えはたったひとつ。

44 名前:<distance 9> 投稿日:2002年12月21日(土)15時39分02秒
テーブルの上で透明なグラスに注がれた麦茶が微かに揺れていた。

窓の外では、空がオレンジ色に染められていて。
時々風が部屋の中を駆け巡っていっていて。
目の前には中澤さんが座っていて、
何度か何かを切り出そうとしては躊躇ってを繰り返していた。

もうどれくらい時間が経ったのだろう。
グラスの中の氷が溶けて消えてしまっていた。

こういう沈黙ってあんまり慣れていないんだよねぇ…。

「…あのっ。」

私が声をかけたのと被るように、呼鈴が鳴らされた。

「……。そこで、おってな。」

立ち上がった中澤さんは一言告げて、玄関へと向かう。

今座っている位置からじゃあ玄関は見えないけれど、
その来客人が誰なのかはすぐに分かった。

45 名前:<distance 9> 投稿日:2002年12月21日(土)15時39分55秒
リーマン。

呼んだのか勝手に来たのかは知らないけど、
何か今、すごい場面に遭遇してる気がしてならないんですけど…。

あぁ、何か、リーマン声張りすぎ。
丸聞こえだけどいいのかなぁ。

「だから、俺が悪かったって謝っただろ?」

「何が?…メールで十分じゃん。」

「だから、わざわざここまで来てんじゃん。」

中澤さんが何を言っているのかは聞き取れないけど、
明らかにリーマンがケンカ腰だってことは分かる。

「もう俺ぐらいなんだから。
あんたの相手してやれるのは。」

うっわー。頭にくる。
何今の発言。自惚れ?勘違い?
何でもいいよ、もう。
中澤さんごめんなさい。黙ってられません。

心の中で中澤さんに謝罪して、玄関の方へ歩いていった。

46 名前:<distance 9> 投稿日:2002年12月21日(土)15時41分01秒
やっぱり相手はリーマンか、て私が姿を確認したのと同時くらいに、
向こうも私の姿が目に入ったらしく、呆れた声でこう言った。

「…俺よりあんな男女の方がいいっていうのかよ?」

中澤さんは振り返る所か、微動だにしない。

「…中澤さん。この人のこと、まだ好きなんですか?」
「…。」
「別に、中澤さんが誰と付き合ってもいいですけど、
ケンカしようとも、仲直りしようとも、私には関係ないことですけど、
そんな辛そうな顔してまでこの人と恋愛することないと思うから…。」

いつだったか、この人とのことを話していた頃のようなやわらかな顔を、
もう、見せられなくなったんだったら、
無理にこのリーマンと付き合うことなんてない。

「吉澤は、中澤さんにそんな顔させたりしません。
だから…。」
「…俺と別れるって言うのか?
ちょっと待てよ…。俺は…。」

リーマンはパニクってるみたいで、言葉を探しているらしい。

「…ごめん…。」

中澤さんの両手がリーマンの肩を押す。


閉まった扉が、まるで映画監督のカットの声のように思えた。

47 名前:<epilogue> 投稿日:2002年12月21日(土)15時42分20秒
いつもと同じハロモニの楽屋。
相変わらずの中澤さんは、矢口さんや安倍さん、飯田さんたちと、
他愛ない話で爆笑したりしている。

リーマンのことを完全に思い出にできるまで、まだ時間はきっと必要。

ただ、

「吉澤も混ぜてくださいよぉ。」
「えぇー、あかん。」
「うわっ、ひどいっす。」
「嘘嘘。冗談やって。」
「今日は枕を涙で濡らしながら眠りますよ…。」
「あーぁ。裕ちゃんがよっすぃ〜の乙女心を傷付けたぁ。」
「なっち。何を言うとんねん。
そんなことないって。な?吉澤。」
「大いにあります。」
「どの口が言うとんねん。」

中澤さんの両手が頬を引っ張る。

「痛いっ。痛いっすよぉ。」
「お仕置きやねんから痛くて当然。」

まだ、仲良しです、なんて言える所までは辿り着いていないけれど、
たぶん、一歩分くらいは前よりも近くなっているはずだから。

今は、それで、いっか。

48 名前:オニオン 投稿日:2002年12月21日(土)15時44分39秒
最低。
こんな幕切れは自分でも想像していませんでした。
ダメだ。
本当に本当に反省します。
49 名前:オニオン 投稿日:2002年12月21日(土)15時58分53秒
独りマイナーCP祭開催決定。

ひたすらにマイナーCPを書いていきます。
明日からこっそり始めます。

50 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)16時52分35秒
なかよし密かにすきなので頑張って下さい。
51 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月21日(土)23時03分26秒
こういう最後、キライじゃナイです。なかよしにはこんなカンジが合う気も。
にしても・・・独りマイナーCP祭り開催決定て(w
私もこっそり読みますね。
52 名前:オニオン 投稿日:2002年12月22日(日)13時39分45秒
>>50
えぇっと。
当分マイナーCP祭なので、なかよしは見れないかと思われます。
ごめんなさい。
できれば、密かに好きなCP、に
他のマイナーCPも加えて頂ければ幸いです。
>>51
こっそり読んでやってください。
独りでやるより読者さんがいた方がいいに決まってますから。
では、スタートです。
53 名前:M。 投稿日:2002年12月22日(日)13時41分13秒
最近気付いたっていうか、分かったんだけど、
たぶん私、Mなんだと思うの。

中澤さんが娘。を卒業してもう1年半?
何て言ったらいいのかな、つまり…刺激が足りないのよ。
うん、そんな感じ。

前はちょっとでも変わったことすると中澤さんがつっこんでくれてたんだけど、
今はかるぅ〜く、放置状態なのよ。
誰も構ってくれないの。

だから、何か今は、
とにかく何でもいいから中澤さんに叱られ隊!
そんな気持ちな訳なのよ。

私のその想いに気付いていないみたいで、中澤さんってば、
矢口さんや安倍さん、あと、あいぼんとかばっかり構って、
ちぃっとも私に構ってくれないだもん。
ずるいよぉ。ひどいよぉ
54 名前:M。 投稿日:2002年12月22日(日)13時42分22秒
あれ?何か、中澤さん、ずんずんこっちに向かってきてない?

「石川。何や元気ないやん。
チャーミーどこに隠しとんや?はよ出しぃや。
私、けっこうチャーミーお気に入りやねんから。」

キャー。
そんなこと言われちゃったら、出さない訳にはいかないわ。

「チャーミー石川です(はあと)。キラーン。」
「…。最後のキラーンは何?」
「チャーミー心の効果音です。」
「…あかん。全然あかんわ。」
「えぇーっ。何でですかぁ。」
「可愛げがない。」
「そんなぁ〜。」

って口では言ってるんだけど、でも、幸せ(はあと)。



55 名前:オニオン 投稿日:2002年12月22日(日)13時45分30秒
超微妙なりかゆうでした。
CPの呼び方すら分かりません。
石川一人称…恐るべし、です。
こんな感じでいきます。
56 名前:星の日。 投稿日:2002年12月23日(月)13時46分48秒
「星を採りにいこう。」

日没時間の早まった冬のある日、
安倍さんの難解な一言で星採集の幕は上がった。

テレビ局で番組の収録をしていて、その間に挟まれた休憩時間に、
半ば強引に屋上へと連れ出された。

しぶしぶついていった訳なんだけど、目の前一面に広がる空は、
やっぱり息を呑むくらい綺麗だった。
あんなに遠いのに、両手を広げればその腕の中に捕まえられそうな気さえした。

うーんって思いっきり空気を吸って振り返った安倍さんは、

「今日、流れ星が見えるんだって。
夕方、テレビで言ってたんだよねぇ。」

って言って、フェンスの方へと歩いていく。

「よっすぃ〜は向こう側に行って。」

その言葉に促され、安倍さんとは反対側のフェンスに向かって歩いた。

57 名前:星の日。 投稿日:2002年12月23日(月)13時47分35秒
たぶん、2人の間には10メートルほどの距離ができていて。
安倍さんは横向きになって、こっち側にある右手を空に差し延べた。
角度的には180°の4分の3くらいの高さ。
その姿勢のまま固まってて、仕方ないからぼんやり眺めていたら、
その内に、流れ星がそのてのひらへ吸い込まれていった。

さっき言ってた言葉は嘘でも冗談でもなく本当だったんだ。
星を採りにいくって。

再び星が流れてきて、安倍さんがギュっててのひらを握った瞬間、
絶妙なタイミングでその星がその中に収まったように見えた。

まるで、ホタルを捕まえるみたいに、そっと星を捕まえる安倍さん。

やってることは抜群に可愛いのに、その顔は真剣そのもので、
その微妙なバランスが可笑しかった。

星採集の豊作っぷりに満足したのか、
ニコニコ顔で私の方に近付いてくる。

今採った星を、ポケットに仕舞う仕草も見せたりなんかして。

58 名前:星の日。 投稿日:2002年12月23日(月)13時48分07秒
「いっぱい採れたでしょ。ほら。」

って目の前で開かれたそのてのひらには、星型のクッキーが2枚。

「星も鮮度が一番だから。
新鮮な内に食べちゃおう。」

その1枚を私に差し出した。

口の中でその星は粉々になっていって、
まるで小さな宇宙がそこに誕生しているみたいな錯覚がした。


59 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)00時59分08秒
いい!すんごい良いですよ!!
いつものなかよしも最高だけど、星の日。すんごいツボです。
60 名前:甘い日。 投稿日:2002年12月24日(火)10時24分55秒
日常の風景。

中澤さんが矢口さんをからかって遊んでいる。
言葉や態度では嫌がりながらも、どこか楽しげな矢口さん。
きっとそれは、矢口さんが中澤さんに心を許しているから。

どうしてだろう。

矢口さんの合愛を手に入れたのは私。
だから、もっと優越感とか感じていいはずなのに、
そんなに不安になることなんてないのに、
何か、いたたまれなくなる。

「も〜、やめろよぉ裕子ぉ。」

矢口さんの声で2人に視線を向けると、中澤さんがキスをしようとしていた。

私はもう条件反射で矢口さんに歩み寄り、その口を自分の手で塞いだ。

「だめっすよ。矢口さんは吉澤のなんですから。」

私がそう言うと、中澤さんの動きが止まり、
矢口さんは斜め後ろを見上げ、私の顔をまじまじと見つめてきた。

「何すか?」
「…。や…何でも…。」

何か、少し、照れてるっぽい。

61 名前:甘い日。 投稿日:2002年12月24日(火)10時25分34秒
「…私は別に吉澤でもええねんで?」

諦めるってことを知らないのか、中澤さんは矢口さんの頭越しに、
私の肩をつかみ、顔を近付けてきた。

「だめ。よっすぃ〜は矢口のなんだから。」

矢口さんはこっちに向き直り、私の頭をぐいってその小さな体に抱き寄せた。

「何やもぉ、自分ら見せつけるなぁ。」

バカップルって言い残して、中澤さんは別のターゲットを探しにいった。

それを見て、矢口さんは腕の力を緩めようとした。

「あ…。」
「ん?」
「…もう少し、このままで…。」
「…いいよ…。」

矢口さんの声が、少し上ずっているみたいだった。
きっと、私の声だって。

62 名前:敗 者。 投稿日:2002年12月24日(火)10時28分12秒
外は、雨が降っていた。

使い慣れた体育館。
何本も何本もシュートを放ったゴール。
背中に背負った4番。
歓声と溜め息の波を作り出す観客席。
解放された扉からは時折、冷たい風が駆け込んできていた。

成人式の日。
市の新人戦決勝。

いつもと同じ顔合わせ。
去年はこの対戦をベンチから見ていた。
自分たちとたったひとつしか違わない先輩たちは、
自分たちと対戦相手に力の差を見せつけ、勝利した。

63 名前:敗 者。 投稿日:2002年12月24日(火)10時28分50秒
けれど、あれから1年。

私たちは敗れた。

後半ラスト5秒。
みんなが私に託したそのボールを決める事ができなかった。

1ゴール差。
得意だったはずの3ポイント。
決まっていれば、逆転優勝だった。

悔しかった。
シュートが決まらなかった事が悔しかった。
それ以上に、自分たちは先輩たちなしじゃこんなにダメなんだって、
思い知らされた事が悔しかった。
64 名前:敗 者。 投稿日:2002年12月24日(火)10時29分37秒
外は、雨が降っていた。

少し前までの熱気が嘘みたいに、静まり返っている体育館。

響くのは私の押し殺した泣き声だけ。

「…。吉澤。」

運動場の方で、声がした。

涙でぼやけた瞳で声のする方に目をやると、
見慣れた人の姿があった。

その人はゆっくり私の方へ歩いてくる。

「…先輩…。」
「…吉澤。泣く事なんてないからさ。
吉澤たちにはまだ次があるんだから。」

先輩の指がやさしく髪を撫でる。

もうすぐ春が来て、もうすぐ先輩は卒業する。
そしたら、誰がこんなやさしい言葉をかけてくれるだろう。

「その悔しさ、忘れちゃダメだからね。」
「…はい。」
「よし、じゃあ、帰ろっか。
みんな待ってるんだからさ。」

先輩はにっこり微笑んで、来入ってきた扉の方へと引き返していく。

65 名前:敗 者。 投稿日:2002年12月24日(火)10時30分07秒
「あ…あのっ。」

私の声に少し驚き、振り返る。

「私、ずっと先輩のこと…。」
「私、吉澤のこと好きだよ。
バスケやってる時、すごく生き生きしてて。」

私には言わせてくれなかった。
私の言葉を遮ったのは、まるで、それを知っているけど知らない事にしたい、
そう言われているみたいだった。

「…雨、強くなってきてるからさぁ。」
「…。すぐ、支度します。」

先輩とは反対側の扉から出て、すぐ隣りにある部室へと駆け込んだ。

涙は未だ止まらない。

激しさを増す雨に比例して、次から次へとこぼれ出していく。

66 名前:オニオン 投稿日:2002年12月24日(火)10時31分19秒
吉飯でした。
誰が何と言おうとも
吉飯でした。
67 名前:それはある日突然の、 投稿日:2002年12月24日(火)10時34分10秒
背中を向けていた。

広い楽屋の中。
安倍はひとり、壁とにらめっこをしている。

理由はただひとつ。
そこ以外のどこを向いても視界の隅に楽しげな2人が映るから。

68 名前:それはある日突然の、 投稿日:2002年12月24日(火)10時34分55秒
矢口の事は嫌いじゃない。
可愛くて、面白くて、元気をくれて…
だけど、今の安倍には矢口を直視する力は残っていない。

吉澤の事が好きだった。
だったじゃなくて今もなお。
可愛くて、カッコ良くて、頼れて、気ぃ使いぃで…
だけど、吉澤が選んだのは安倍ではなかった。

他に気を逸らそうとしても、耳にははっきりと2人の声が聞こえていた。
心とは裏腹に、耳はその会話全てを拾おうとしているみたいに。

椅子に浅く腰掛けたまま、壁に額をつけた。
2人の事を認めたいのに認められない自分が嫌だった。
69 名前:それはある日突然の、 投稿日:2002年12月24日(火)10時35分34秒
「相変わらず吉澤好きやなぁ、なっちは。」

嫌味でも嫌がらせでもなく、ただ思った事を言っただけだったから、
安倍も別にそれを不快には感じなかった。

「裕ちゃんこそ、矢口の事…。」

額を壁につけたまま、首を半分回転させて中澤を見た。

その安倍の目に映った中澤は、どこか辛そうに微笑んでいた。
それが安倍の心を少しきゅっとさせた。


「…裕ちゃん、矢口の事好きなんだよね?」

心臓が強く鼓動を刻む。

「…。」

中澤は小さく息を吐いて答える。

「なっちや…。」

驚いたのが半分。
嬉しいのがその半分。
残りは戸惑い。

70 名前:それはある日突然の、 投稿日:2002年12月24日(火)10時36分36秒
「や…矢口は…?」
「そう見えてたんやろうな。やけど、それは嘘っていうか…。
なっちと同じ立場みたいにしとったら、
私に心開いてくれるんちゃうかなって思って…。
卑怯やったかもしれんけど、なっちの事、ほっとけんかったから…。」

だから。
安倍の心は本能でそれを感じていた。
だからさっき、胸がしめつけられていたんだ。

「私は、なっちの事が好きや。」

それはある日突然の出来事。


71 名前:オニオン 投稿日:2002年12月24日(火)10時39分47秒
>>59
多謝です。
危うく本当に独り祭になる所を救って頂きまして、
感謝しております。
他CPも気が向いたら読んでやって下さい。
72 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月24日(火)14時16分32秒
うわービックリした、最後なちゆうになったよ。
つーかイイ!やっぱり全部好き。
相変わらずこっそり読み続けますよー。
73 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月24日(火)20時28分58秒
感動・・・。
その言葉しかでません。
これからもがんばってください!
応援してます!
74 名前:純。 投稿日:2002年12月25日(水)13時16分37秒
「ねぇ、愛ちゃん。」
「うん。」
「キスしたこと、ある?」
「ななな何?!急に。」
「いーから、答えてよ。」
「…。ないよ…。」
「あたしも。」
「…。」
「でさぁ。
あたし、初めてのキスの相手は愛ちゃんがいーなぁって思ってて…。」
「…。」
「…。」
「…私も、かなぁ。」
「あぁごまかした。」
「…だって、照れるし…。」
「そんなのあたしだって心臓ばくばくだよ。」
「うそぉ。余裕っぽいよぉ…。」
「うそじゃないよ。あたし、愛ちゃんと話す時、
すごいドキドキするんだから。」
「…。じゃあ、キスしてみよぉか?」
「じゃあの意味が分かんないよ。」
「じゃあ、その意味も確かめてみよぉよ。」
「…。」

――――。



75 名前:オニオン 投稿日:2002年12月25日(水)13時22分31秒
おがたかヲタへの挑戦状でした。
もちろん負け戦です。勝てません。
もうおがたかは書きません。

>>72
イイっすか。そうですか。
おかげさまでまだまだ祭、頑張れます。
>>73
有難う御座います。
感動って…。
自分はあなたのその言葉に感動です。
76 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時11分23秒
押さえ込んでも、押さえ込んでも、決してなくなる事はない。
何か他の事を考えて、紛らわそうとしても、
心の瞳にはいつも、あんたの姿があった。

77 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時12分39秒
TV画面の向こうにおる吉澤は、いつも何か少し、
背伸びしとるみたいやった。
そらもう17やから、大人びた顔とか見せてても不思議はないねんけど、
何か、無理して吉澤ひとみやってますって気がしてるなぁって思ってた。
普段見てる吉澤はもうちょっと女のっぽさがあって、
いつもみんなより半歩くらい後ろからもの見てるっていう印象やのに、
そんなんはどこにも見当らんかった。
もしかしたら、私の知っとる吉澤っていうんが古いデータなんかもしれん。
やけど、TVの中の吉澤はやっぱり私の知っとる吉澤やなかった。

78 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時13分36秒
って、気がついたらメンバーの出とる番組見てる時は、
いつも吉澤ばっかり追うようになっとった。
もう2度とこの向こう側には行けん。
ハロモニ。とかで一緒になる事はあっても、吉澤の肩掴んで、
いつものあんたでええねんでって言ってあげることはできん。
もう、それをするんは私の役目やなくなったから。

モーニング卒業して1年半。
だいぶ、ひとりにも慣れてきとったのに、
今何でか急に あの頃に帰りたくなる事がある。
手を伸ばせば届く場所にあんたがおったあの頃に…。

79 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時16分52秒
「最近思うんだよねぇ。
ひとりぼっちの楽屋って、すっごい寂しいなぁって。」

9月の卒業以来、ごっちんはよう私の楽屋に出入りするようになってた。
特別何をするって訳でもなくて、
椅子に座って、その背もたれに頬杖ついて、溜め息をつくだけ。
今の台詞やってもう何回聞いたか分からんくらい口癖みたいに言いよるし。

80 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時17分37秒
「裕ちゃんもずっとずっとずぅっとこんな気持ちだったの?」
「…ごっちん。もう聞き飽きてるやろ?その答え。
知ってるやんか。」
「だぁってぇ…ほんっとに寂しいんだよぉ。
ここに来るたびに思うんだもん。」
「ここって、私の楽屋か?」
「違うよ。ハロモニ。の収録。」
「あぁ、他のメンバーおるからか。
疎外感ってやつやな。」
「そうそれ。ソガイカン。」
「ごっちん…。そのアクセントやったら疎外館やん。やかたやん。」

あかん。こんな所で天然炸裂されたら困るって。

「ああ〜、バカにしてるぅ。
そんなに笑う事ないじゃん。」

ごっちんは頬を膨らまして睨んできよった。

81 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時18分19秒
「ごめんごめん。あんまおもろい事言うから。」
「ゴトーは全然面白くないよ。」

って背もたれをぎゅって抱きしめて俯いてもうた。
そしたら、栗色の髪が引力に従って流れた。

「そう言や、何でごっちんっていつも髪耳にかけとん?」
「…。」

応答なしかいな。

「かわいくてええよな、それ。」
「ほんと?」

まさにガバッて感じに顔あげた。

「ほんまやって。かわいいよ、ごっちんは。」
「へへ。惚れちゃだめだよぉ、ゴトーに。」
「惚れへんよ。」
「ええ〜、なんでぇ?」
「何やねん。意味分からん切り返しせんといてや。」

82 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時19分06秒
急にごっちんは椅子の上に正座しだして、改まり出した。

「な、なんな?」

さっきあんなに怒っとったんも忘れて機嫌直ったと思たら、
今度はそんなマジメな顔しよって、何?一体…。

「耳の穴をかっぽじって聞くんだよ。」
「…。ごっちん、それ意味分かってつこてる?」
「…たぶん。」

まぁ、場面的に大差ない感じやからええけど。

「ゴトーはね、裕ちゃんの事が好きなんだよ。」
「…。」

あかん。
主制御装置の電源切ってまうとこやったわ。

83 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時19分55秒
「えーっと。
裕ちゃんもごっちんの事好きやで?」
「そーじゃないよ。
ゴトーの好きは愛してるって事なんだから。」
「…。」
「信じてないでしょ?疑ってるでしょ?
でも、ほんとだよ。
って、おーい。裕ちゃん聞いてるぅ〜?」

ごっちんのてのひらが目の前でひらひら揺れとって。
何とか魂還ってきたんやけど…。

ごっちんは無邪気な顔して笑っとるし…。
現状は把握できへんし…。

「あのな、ごっち…。」

私が言いかけた言葉を遮るように、
ごっちんは目線を逸らして、小さく小さく溜め息をついた。

「ほんとはさぁ、知ってるんだ。
裕ちゃんの好きな人…。」

心臓が大きく波打った。

84 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時20分49秒
「…。」

言葉が思いつかん。
否定するなり、余裕見せるなりせなあかんとこやのに、
そのどっちもできんかった。

「よっすぃーが好きなんだよね?」

…言うてしもた。
自分自身、絶対認めんとこうって思とったのに、
簡単に言い放たれてしもた。

「…。痛いとこ、ついてきよるな。」

笑って答える事なんかできんかった。
そんな余裕はこれっぽっちもなかった。

「けど、よっすぃーは裕ちゃんのものにはなんないよ。
よっすぃーはやぐっつぁんの事…。」

片手でごっちんの口を塞いで、もういっこの手で抱きしめた。

「…そんなん言うたら、ごっちん悪者みたいやんか…。
悪者になってもええぐらい、
好きやって思てくれてるんは分かったから…。」

85 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時21分43秒
最低や。
自分で思い知らないかん事を全部ごっちんに言わしてしもた。
最低や、私…。

「ごめんなぁ…ごっちん…。」

ごっちんの手がその口を塞いどった私の手を取り払った。

「やだよぉ…。謝んないでって…。
ゴトーが勝手に裕ちゃんの事好きになって、
困らせてるだけなんだから…。」

ごっちんはミケンに皺いっぱい寄せて、
申し訳なさそうな顔しとった。

「…ごめんな、気づいてあげれんで…。」
「…。ずっと、楽屋でひとりでいるとさぁ、すっごい寂しくて、
そしたら裕ちゃんもそうなのかなぁって思って…
それでね…少しでも、寂しくなくなればいいなぁって思って、
勝手に、押しかけてきちゃって…。」

ごっちんの視線はまだ上がってこん。

86 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時22分13秒
「迷惑だったよねぇ。ゴトーなんかじゃ楽しくならないよねぇ…。
よっすぃーの方がいいんだよねぇ。
ゴトーは、ゴトーの寂しさしか埋めらんないのに…。
ごめんね…ごめんねぇ…。」
「…そんな事ないって。嬉しかったで。
ごっちんがいつも来てくれて。」

私は一体、ごっちんをどんだけ苦しめとったんやろう。
私に計り知れるようなもんじゃなかったんやろうな…。

「また、来てや?」
「…。」

私の言葉に小さく頷いて、ごっちんは目を合わせてくれた。
けど。
87 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時22分44秒
「――。」

唇にごっちんのそれが触れた。

「ゴトーは裕ちゃんの事が好きなんだからねぇ。
忘れちゃだめなんだからぁっ。」

視界には、ぎゅって目をつぶってるごっちんの残像が映ってて、
それと被るように見えとった本物のごっちんは、
ストレートな捨て台詞を残して私の楽屋から去っていった。

88 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時23分31秒

☆★☆★☆★☆

89 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時24分39秒
私には最近の若いコの考えよる事が分からん。
…ごっちん、絶対的に何かを間違えてると思うで。
何で私は収録の合間に吉澤にこんな事訊かれなあかんの?
答えてや、ごっちん。

「ごっつぁんに告られたんすよねぇ?」

筒抜けすぎるって。
なんぼ自分らが仲良くても、それはおかしいって。
吉澤の好きな人をごっちんが知っとるって事は、
その逆もありうるっちゅうんはよう分かった。
けど、さっきやん?
今の今で報告する必要あんのか?
分からんわ…最近の若いコの事は…。

私はもう諦めて、吉澤の問い掛けに応じる事にした。

「…そうやけど…。」

あぁ、吉澤の目がキラッキラキラッキラしとるわ。

「ごっつぁんいいやつっすから、よろしくしてあげてくださいよ。
って、吉澤が言うのも何なんですけどね。」

大切な友だちなんで…って言うんは伝わってきた。
…ごっちん、これはちょっとキツイわ。

90 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月27日(金)14時26分59秒
「…。」
「…。中澤さん?」
「…けど、私が好きなんはあんたやけどな。」

今日の私は何かおかしい。
ごっちんに告られたからやろうか…。

「うわぁ。やっちまったい。
吉澤がごっつぁんの恋敵っすかぁ。」

吉澤は目ぇ大きくさして、大袈裟に額を叩く。

「…冗談、とかやないで?」

私、相当余裕ない顔しとんか、吉澤は絶句してしもた。

「…。ぇ?ぇ?え?えーっと…。」
「ごめんな、急にそんなん言われても困るわな。
忘れてくれてええよ。」
「いやっ。あのっ。そのっ。
…ありがとうございます…。」
「…別に、なんも望んでへんから。
私の方見て欲しいとか、そんなん言わんし…。
告白するつもりもほんまはなかってんけどな。」

吉澤は俯いとって、ただ一言、小さく

「ごめんなさい…。」

とだけ言うた。


ごっちんに告られて、吉澤に告って…
今日はなんか私にとってものすごい嵐の日やった…。


91 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月27日(金)16時38分44秒
面白いです!!!
なかざーさん・・・なんかしんみりしちゃいました。
複雑っすねぇ〜^^
これからも影ながら読んで応援してまーす!
がんばってくだしね!
92 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月27日(金)18時56分18秒
うわー、またビックリした。ゴハンむせちゃったよ。
こーの組み合わせ(てか展開)は新鮮・・かつ超好きだな。
好きだ。好きです。
93 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月28日(土)14時40分34秒
あの日から数日後、吉澤が家に訪ねてきた。

その理由は2択。
私が好きやって言うた事か、ごっちんが好きって言うた事か、
その2つしかなかった。
どっちにしろ次のハロモニ。の収録までに、
けりつけとこうって事なんやろうけど…。

94 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月28日(土)14時41分25秒
オレンジジュースの注がれたグラスを両手で包んで、
それに視線を留めたまま、吉澤は何か、
考え込んどるみたいに固まってしもとった。

「…手、冷えるで?」

私の方がその沈黙に耐えれんで先に言葉を発した。

「…そしたら、心のあったかい人になれますかね?」
「?
吉澤…?」
「今日、絶対吉澤は中澤さんの事傷付けちゃいますから…。」

って吉澤は何でか泣きそうな顔しとった。

「…ええよ。
私も子供やないねんから。
それに…。」

それに、吉澤に会えただけで嬉しかったりするから。
って言葉は何とか呑み込んだ。

「それに、何ですか?」
「いや、別に何もないよ…。」
「…そうっすか…。」

95 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月28日(土)14時42分02秒
吉澤は少し顔の角度を上げて、息を吸った。
その瞳が今度はきっちり私を捉える。

「…吉澤は、矢口さんの事が好きなんです。」

ここに来た理由は私が好きやって言うた事の方みたいやな…。

「って言うか…。
付き合ってるんすよ、ほんとは。」
「えっ。」

思わず声出してしもた。
予想外の展開すぎるって。

何も望んでへんって言うたけど、
心のどっかにあった期待っていうか、希望っていうか、
とにかくそういうんを全部粉々に打ち砕かれた気分やった。

…普段あんだけ愛らしい矢口が今ばっかりはとことん憎いわ…。

「吉澤は矢口さんのものですから。」
「…そっか…うん…そうやな…。
分かったわ…。」

ちょっとずつちょっとずつ実感が湧いてくる。
ほんまに、完全にふられたんやっていう事が、
徐々に心を侵していった。

「…ごめんなさい。」

96 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月28日(土)14時42分36秒
吉澤はポケットからケータイを出して、どこかに電話をしだした。

「…ごっつぁん?
…うん…頼むよ…。」

素っ気無く切って、私に話しかける。

「チェンジっす。
ちょっと、卑怯な手だったかも知れないっすけど…。」

って吉澤は立ち上がって玄関の方へ向かう。

靴を履いた吉澤が開けた扉から、入れ違いに誰かが入ってきよった。

97 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月28日(土)14時43分12秒
「…ごっちん…。」
「へへ、大正解。」
「…そら、そうやろ…。
見えてるから言うてんねんからな…。」
「…。裕ちゃん。
もう、いーから。無理しなくていーからさ…。」

私の隣りに膝を立ててしゃがんだごっちんは、
その手の中に私を抱き寄せた。

「…こうしてたら、ゴトーも顔見れないから…。」

ごっちんの言葉に引き出されたみたいに、涙が溢れてきた。

私は、私が思とる以上に吉澤の事が好きやったみたいや…。
98 名前:留まる事なく溢れていく愛情の中で 投稿日:2002年12月28日(土)14時43分49秒
「…いつか、裕ちゃんのそのいっぱいの愛情を、
ゴトーにくれたらいいのになぁ…。
ゴトー、頑張るからさぁ。」
「…人が、弱っとる時に…つけ…むなんて…ズルイ、で…。」
「泣き顔の裕ちゃんもかわいいよ。」
「人の話、聞き…なや…。
それに、さっき、見ぃひん…て…。」
「もぉ、泣くかしゃべるかどっちかにしてよぉ。」
「あんたが…きたな…手、使うから、あかん…やんか…。」
「だぁってぇ、早く裕ちゃんの心手に入れたいんだもん。」
「まだ、ごっちんの事、好きになる、て…
決まった訳…ないやんか…。」
「決まってるよぉ?
だってゴトーはこんなに裕ちゃんの事好きなんだからさぁ。」

ってごっちんはまるで猫でも抱くかのように、
いっそう力を入れて抱きしめてきた。




99 名前:オニオン 投稿日:2002年12月28日(土)14時51分20秒
>>91
後藤に喋らせたのが初だったので不安だったのですが
面白いと言って頂き、感無量です。
>>92
最近、あなたをびっくりさせる事に
力を入れている気がしてます…。
次も頑張ります。
100 名前:永久欠番。 投稿日:2002年12月28日(土)22時17分09秒
後藤は言う。

「あぁ〜あ。
もうモーニングにはゴトーの居場所はないのかぁ。」

そう彼女がぼやくここは、モーニング娘。の楽屋。

「そんだけ堂々と居といて、
居場所ないって変な日本語つかうねぇ、ごっつぁん。」
「だってぇ…。」
「あるじゃんか、居場所。」
「ほんとぉ〜?やぐっつぁん。」
「あるよ、ある。」

矢口は後藤の隣りの椅子を引いて座る。

「ごっつぁんの代わりなんていないんだからさ。
今は違っても、モーニング娘。の後藤真希は存在してた。
だから、モーニングにはごっつぁんの居場所はずっとあるよ。
誰もそこに割り込んだりしないし、それを失くそうとも思わないよ。
いつでも、こうやって帰ってきていいんだからさ。」
「やぐっつぁん…。
なんか、やぐっつぁんが年上に思えるよぉ。」
「矢口は元々年上ですぅ。」
「アハハッ。知ってるよぉ。」

「だからもう、居場所がないとか言わないでよ。」

矢口は後藤の髪を撫でながらそう呟いた。


101 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月29日(日)00時38分12秒
長編で読みたくなるよな設定!と思ってたら、続編きてビッ(ry
永久欠番。もうタイトルがすべてを語ってる。
102 名前:読者 投稿日:2002年12月30日(月)11時59分12秒
ごまゆう最高でした。
いいものをありがとうございました。(w
103 名前:たぶん罠。 投稿日:2003年01月02日(木)13時44分07秒
「高橋はさぁ、ラブリーやんりょる時、楽しいん?」

いつになく真剣な顔で中澤は問う。

「え。あ、はい。楽しいです。」

相変わらずの笑顔で高橋は答える。

「そぉかぁ…。
最近絶好調にかわいいもんなぁ、あんた。」
「そ、そうですか…。」

不意の中澤の賛辞に頬の筋肉が緩まる。

「そぉやなぁ…。例えるなら…。」
「…。」

目を合わせられはしないが、耳だけは研ぎ澄ませて聞き入る高橋。

「飼いたい、て感じやな。」
「飼いたい…ですか?」

中澤さんとひとつ屋根の下にいられるならペットでも構わない、
なんてウキウキになってきている。

「何て言うんかなぁ。
例えば、仕事から帰ってきたら駆け寄ってきて欲しい感じ?
そんで手の皮剥けるくらい、イイコイイコしたい感じやな。」

顔はマジメそのものだが、言ってる事は危険そのもの。

「…。」

考えに考えた挙句、高橋が出した答えはこれ。

「…飼われたい…です。」

それを聞いた中澤の目はキラリと光った。

「よし、決まりや。
今日、お持ち帰り決定な。」

高橋が軽はずみな自分の発言を後悔するまでアト約3時間。


104 名前:優勢劣勢 投稿日:2003年01月02日(木)13時45分53秒
「ごっちん、今日も裕ちゃんの楽屋に入り浸っとんなぁ…。」

中澤は自分の楽屋のドアを開けて、
視界に飛び込んできた後藤に溜め息混じりに話しかけた。

「だって、落ち着くんだもん。」

後藤は机に突っ伏して、視線だけを中澤の方に向ける。

可愛い子は大好き。
上目使いには弱い。
だから中澤はうかつに言ってしまった。

「ごっちんはかわいいなぁ…。」

すぐさまその言葉に反応し、起き上がる後藤。

「あー、もぉ、裕ちゃん。」
「な、何や?」
「そーゆーのあんまり突然言わないでよぉ。
ドキドキするから。」

頬を膨らませ、照れ隠しをする後藤は、
実年齢より少し幼く見える。

「…ごめん。」
「…いーけどさぁ。
ただ、ちょっと期待しちゃうから…。」

けれど。
伏し目がちにそう言う表情はどこか大人びて見える。
後ろに哀愁が見え隠れしているみたいに。
105 名前:優勢劣勢 投稿日:2003年01月02日(木)13時46分53秒
「――。
私はまだ、吉澤のこと好きやねんで?」

中澤が言い聞かせているのは後藤なのか、
それとも自分自身なのだろうか。

「知ってるよぉ。見てれば分かるし。」
「…。
ごっちんのこと、嫌いやないねんけどな…。」
「いーよ。」

いつもの後藤で微笑む。

「待ってるから。」
「…そんな気ぃ長い方やったっけ?」
「うーん…。
待てなくなったら強行手段取るから大丈夫。」

と、Vサイン。

「…それ、反則やろ。」
「違うよ。近道だよ。」

中澤の方へ歩いてくる後藤。

「ってことだから。」

そのまま中澤の正面に立ち、抱きしめた。

「…意味が分からんわ。」
「もー待てないってことだよ。」
「さっきと言うとる事違うやんか。」
「気にしない気にしない。」
「いや、気になるて…。」
「だったら、ゴトーに惚れてよ…。」

後藤の思いはひとつ。
中澤に愛されたいだけ。それだけ。

その思いが、中澤の心に少しずつ少しずつ根を広げていた。


106 名前:オニオン 投稿日:2003年01月02日(木)14時00分30秒
明けましておめでとうございます。
今年も駄文を書かせていただきます。
>>101
今日はびっくりしてもらうネタがなくて残念です。
有り得ないネタ絞り出せるよう頑張りますんで…。
>>102
今日も証拠にもなくごまゆう書いてしまいましたが。
たぶんまだ書きます。書き足りない感じなので。
107 名前:りゅ〜ば 投稿日:2003年01月03日(金)03時55分40秒
マイナーCP祭に乗り遅れた〜〜〜!!!
というわけであけましておめでとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願いします。
全部一気に読みました!どれも最高だったっす!マイナーかっけー。
でもやっぱり、星の日。がお気に入りでした。
これからも頑張って下さい!
108 名前:真夜中のdaybreak 投稿日:2003年01月06日(月)11時08分30秒
12月31日。

後藤の強引なお願いを中澤がしぶしぶ承諾し、2人は夜の道を歩いていた。

「星がキラキラしてるねぇ。」

「夜はばれにくいからいーよねぇ。」

白い息を吐きながら、後藤は楽しげに話しかける。
両手を目一杯広げて空を仰ぎ、くるくる回ってみたりしながら。

その数歩後ろを歩いている中澤は、そんな後藤の奥に吉澤の幻影を見ていた。
華やぐ街の中へと消えていく吉澤。
その隣りには、真っ白なコートを羽織った矢口の姿。
見つめ合い、言葉と笑顔を交わす2人の幻――。

109 名前:真夜中のdaybreak 投稿日:2003年01月06日(月)11時09分42秒
「裕ちゃん、寒い?
目が泳いでるけどさぁ…。」

中澤の心を読み取ったかのように、後藤は立ち止まり真剣な顔で訊いてくる。

「や、大丈夫やで。」
「…ならいーけど。」

踵を返し再び歩き始めた後藤は、
さっきと同じように他愛ない話を中澤に投げ掛けてくる。
その表情から笑顔が絶える事はない。

――そんなに私と一緒におるんが楽しいんかなぁ。

言葉にしてみると気がつく。
きっとそれもあるのだろうがそれ以上に、
中澤の寂しさを埋めてあげたい、誤魔化してあげたい、
その気持ちの方が大きいのだろうという事に。
考えてみれば、まだ一度も後藤の口から吉澤の名前を聞いていない。
矢口にもモーニング娘。の事にも触れていない。

それは、後藤の中澤に対する思いやり。
中澤に対する愛しさ。

110 名前:真夜中のdaybreak 投稿日:2003年01月06日(月)11時10分38秒
「…ごっち…。」
「あ〜。2003年になった。ほら。」

中澤の言葉を遮り、後藤はケータイのディスプレイを見せる。

「明けましておめでとーございます。」

勢いよく頭を下げる後藤につられ、中澤も慌てて応える。

「あ、お、おめでとうございます…。」
「やった。一番乗りだ。」
「…。」
「初詣はさすがに無理だよねぇ…。
じゃあ、あの星たちにお祈りしとこうっと。」

両方のてのひらを合わせ目を閉じた後藤に中澤は訊く。

「何お祈りするん?」
「もちろん、今年こそ裕ちゃんとラブラブになれますよーにって。」

祈り終えた後藤と、中澤の視線がぶつかった。

111 名前:真夜中のdaybreak 投稿日:2003年01月06日(月)11時11分21秒
「何かさ、いーことありそーなんだよね。
去年最後の仕事も、今年になった瞬間も裕ちゃんと一緒にいられるなんて、
何かありそーじゃない?」

後藤は一生懸命に笑う。
余計な負担を中澤に与えないように注意して言葉を紡ぐ。
できるだけ自然を心掛けて。

中澤は知らなかった訳じゃない。
ただ、知らないふりをしていただけ。
後藤以上に自分の事を想ってくれる人などいないであろうという事を。


「…寒いな。」
「え〜。さっき寒くないって言ってたのにぃ。」
「…。帰ろうで。」

中澤の右手が差し出される。

「…うんっ。」

後藤の左手がその手をぎゅっと握りしめる。

隣り合って歩く2人の姿は、華やいだ街の中へと消えていった。


112 名前:オニオン 投稿日:2003年01月06日(月)11時22分13秒
>>107
吉澤の活躍がない時にお越しいただいてしまいまして申し訳ないです。
きっともうすぐ吉澤出てきますよ(たぶん)。

ごまゆうはだいぶ気が済みました。
次は中澤の絡まない話でいきたいと思います。
113 名前:りゅ〜ば 投稿日:2003年01月06日(月)13時23分22秒
今回のごまゆうも良かったです。後藤さん健気だね〜。
好きな人と一緒に年を越せるっていうのは羨ましいですな。
114 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月06日(月)13時52分59秒
また気が向いた時でいいので・・・ごまゆうの続編できたらお願いします。
けっこうはまっちゃいました。(w
115 名前:夕焼け迫る街 投稿日:2003年01月11日(土)15時44分43秒
あっという間に夕日は沈んでしまう冬。
その貴重な夕焼けを何だか無性に見たくなって、吉澤は窓の外を眺めていた。

楽屋の中はいつもの如くざわついている。
加護や辻は5期メンバーと学校の話をしていて。
飯田はひとり椅子に座り、文庫本を読んでいて。
矢口はケータイで熱心にメールを打っていて。
石川と保田が微妙に噛み合わない漫才を繰り広げている。

それを気に止める事もなく、ただ夕日を見つめ続ける吉澤。
白いビルを全部オレンジ色に染めていく夕日。
街の色が少しずつ夜へと向かい始めているのを感じていた。
何となく、切なくなる。
深い溜め息が出そうになる感じ。
吉澤はその理由を知っている。
答えは単純明解。
恋をしているから。

そんな吉澤のうら悲しさを破る声がした。

「物思いにふけるよっすぃーも絵になるねぇ。」

良くも悪くも能天気な安倍の声。

116 名前:夕焼け迫る街 投稿日:2003年01月11日(土)15時45分36秒
「そぉっすかぁ?」

振り返る吉澤を少し眩しそうに見つめる安倍。
吉澤の瞳には夕焼けに染められた安倍の顔が映っている。

けれど。

「顔、赤いよ?」

と言ったのは安倍の方だった。

「…そりゃ、好きな人がこんな近くにいるんすからねぇ。」

吉澤の言葉で安倍の瞳が逸らされる。

「…顔、赤いっすよ?」

ワザトらしく吉澤は言う。

「…そりゃ、好きな人がそんな事言ってくれるからだよ。」


117 名前:オニオン 投稿日:2003年01月11日(土)15時55分13秒
あー…、なちよし調子悪いなぁ。

>>113
>>114
そんなにごまゆう普及活動してどうするんだろう、
と自分自身に訊きたい感じですが。
これからもひっそりやってくと思います。
118 名前:113 投稿日:2003年01月13日(月)12時13分23秒
なちよし良かったです!
オニオンさんのはいつも切なくていい感じです。
マイナーCP祭頑張って下さい。
119 名前:オニオン 投稿日:2003年01月14日(火)12時35分57秒
風邪で寝込んだため1日遅れましたが、
成人の日
おめでとう矢口、おめでとう自分、て事で
そろそろマイナーCPに分類されそうなやぐちゆ〜を書かせて頂きます。
>>118
今度なちよし書く時はもうちょいしっかり書こうと思うので
期待せずに待っててください。
120 名前:January 投稿日:2003年01月14日(火)12時38分12秒
昼間、晴れ着姿の新成人たちで賑っていた大通りも、
いつもの風景を取り戻した頃、その道を歩く2人の姿があった。

121 名前:January 投稿日:2003年01月14日(火)12時38分55秒
何か考え事をしながら、剥き出しの左手で上着のジッパーを弄んでいる矢口。
その隣りでそんな矢口の様子を伺うように何度か視線を向ける中澤。
車道を駈ける車のヘッドライトが矢口の白い上着を浮かび上がらせて、
その残像を中澤の瞳に映していく。
眩しくて目を細める中澤はふと思う。
最近の矢口は、デビュー当時の矢口に似てるな、と。
あの頃はまだ自分の意思を主張する事もできなくて、
乾いた笑顔を見せていた。
ただ、中澤が似ている、と思ったのはそんな姿ではなくて、
その頃周囲の人間が矢口に持っていたイメージの事。
ジャケット撮影で見る矢口の大人びた感じ。
年上のメンバーに囲まれ、大人になろうと背伸びをしていた頃の矢口。
あの頃の矢口の顔は本物ではなかった。
けれど今、中澤の隣りを歩いている矢口は本物。
知らない内に矢口は着実に大人への階段を昇っていた。
普段、加護や辻といった年下のメンバーを相手に叫んだりしている姿ばかりが
印象に残っていたけれど、もうすぐ矢口は二十歳になる。
今日、新成人となった者の1人でもある。
だから当然、顔つきも大人っぽくなっている。
その事を今改めて中澤は思い知っていた。

122 名前:January 投稿日:2003年01月14日(火)12時39分55秒
なかなか逸らされない中澤の視線に矢口は気付き、目を合わせた。

「何?そんなにジロジロ見てさぁ。」
「や…、大人になったなぁと思ってな。」
「何だよぉ、今までまだ子供だと思ってたのかよ。」

ニット帽から覗く後ろ髪を引っ張りながら中澤を見上げる。

「…そういう訳やないけど…。
もうすぐ二十歳になんねんやなぁって…。」

その中澤の言葉は何故か矢口の足を止めさせた。
2歩分前に進んだ所でそれに気付いた中澤も立ち止まる。

「矢口…?」
「…。やっと、だよ。やっと裕ちゃんと同じ20代になれる。」
「あぁ、せやな。たった半年やけどなぁ。」
「たった半年でも、矢口はその半年を大事にしたいんだよ。
また、10年先までこんな時は来ないんだからさぁ。」

矢口は顔をしかめる。

「どしたん…?」
「…裕ちゃんにとってはたかが半年なのかも知れないけど、
矢口にとっては毎年毎年、大切なものなんだよ。
だって、それまで2ケタだった歳の差が1ケタになるんだからさぁ。
矢口の勘違いだとしても、その半年だけは
裕ちゃんとの距離が近くなった気がするからすごい大事なんだよっ。」

123 名前:January 投稿日:2003年01月14日(火)12時41分17秒
中澤は29歳。矢口は19歳。
矢口がどんなに努力した所で、その差は埋められはしない。
矢口が見る風景を、感じるものを、中澤は既に経験している。
矢口が未だ触れていないものに中澤は触れている。
矢口が中澤よりも前に進む事はない。
矢口が中澤よりも大人になる事はない。
だけどもうすぐ矢口は二十歳になる。
その日から中澤が三十歳になるまでの半年は
矢口にとって魔法のような時間だった。
1センチ、1ミリ。
ほんの僅かだとしても、中澤の心に近付けたような気になれる。
それまでの半年より、これからの半年の方が中澤の事を分かってあげられる、
そんな気がする。
だから矢口にとって1月20日は、自分の誕生日という本来の意味以上に
大切な日だった。

「もっと、近付きたいよ…裕ちゃんの心に…。」

矢口はニット帽をぐっと引っ張り表情を隠す。

「…近いよ。もう十分近くにあるって。」

冷えた中澤の手が、それ以上に冷たくなっている矢口の頬に触れる。

124 名前:January 投稿日:2003年01月14日(火)12時41分56秒
「私は矢口の事好きやで。矢口は?」
「…。」
「やぐちぃ〜、答えてや、ちゃんと。」
「…。好き…だよ…。」
「なら、私の心と矢口の心は同じ気持ちやって事やろ?
つまり、めっちゃ近くにおるって事やんか。」

愛が心を引き寄せる。
矢口の心を求める中澤の心と、中澤の心を求める矢口の心。
お互いがお互いを引き寄せているから2人は近くにいる、と。

125 名前:January 投稿日:2003年01月14日(火)12時42分43秒
「歳の差はどんなに頑張っても9つ以上近くなる事はないけど、
心はなんぼでも近付けるんやで?」

矢口が思ってもみなかった事を中澤はさらりと言ってのけた。

「…もっともっともっと、近くなれるかな…?」
「それは矢口次第やわ。」

一瞬微笑んで、中澤は歩き出す。

「おめでとう、新成人。」

と呟いて。

矢口は慌てて中澤を追いかけて、片方の腕を掴む。

「…大事な半年やねんやろ?
いっぱい思い出作ろか?」
「うん。」

きっとこれからの半年は矢口にとってかけがえのない日々になるだろう。



126 名前:2時限目 投稿日:2003年01月18日(土)17時34分35秒
自慢じゃないが、数学は得意じゃない、好きでもない。
そんな後藤なのだが、3年生になってからというもの、
50分間の授業の間、一秒たりとも眠ったりしなくなった。
昨年までの後藤なら誰が起こそうとも眠りから覚める事はなかったのに。
クラス中の生徒が黒板の数式と後藤の顔を交互に見ては
不思議そうに顔をしかめている。
後藤はそんな事を気にする様子もなく正面を見つめる。
別に、黒板に並べられた問題の解答を考えている訳ではない。

――あー、裕ちゃん今日も美人だなぁ。
ここ女子校なのにスリットの入ったスカートなんか履いちゃってさぁ。
いーなぁー…幸せ――

所詮、そんな程度である。それでこそ後藤なのである。

127 名前:2時限目 投稿日:2003年01月18日(土)17時36分17秒
「後藤、そんなに答えたいんか?
しゃーないなぁ、ほな、問2は後藤な。」
「えぇっ。無理だよ無理。」
「無理やないって。私の説明ちゃんと聞いとったやろ?
やったら解けるって。」
「…。」
「…まさかあんだけ真剣な顔しとって聞いてへんかったっていうんちゃうやろなぁ?」

教卓から徐々に後藤の席の方へと歩み寄って来る中澤。

「いやぁー…そのぉ、ねぇ…。」
「解かれへんかったら宿題やからな。
みんな教えたげたらあかんよ。
自力で解くんやで。ええな?」
「鬼ぃー。」
「誰が鬼や。愛のムチや、愛のムチ。」
「うー…。
あ。裕ちゃん、今日もカワイーねー。」
「何や、その見え見えのヨイショは。」
「だからぁ、裕ちゃんに見とれて聞いてなかったんだよねぇ。アハハ。」
「アハハやあらへんわ。もぉ、ちゃんと聞きいや。
っちゅうことで代わりに問2吉澤な。」
「やった。」
「ええーっ。何でですかぁ。」
「お友達やろ?助けたり。」
「よっすぃー、よろしくねぇー。」

危機を切り抜けた後藤は再び中澤に見入る。
それが今、彼女にとって一番至福な時なのである。


128 名前:5時限目 投稿日:2003年01月18日(土)17時38分34秒
「…。裕ちゃんさぁ、お嫁に行くの諦めた方がいーんじゃない?」

午後1時半の家庭科室。
程よく暖房の効いた中、エプロン作りが行われていた。
教師である中澤も一応、見本を作ろうと奮闘している。
その姿を近くの席から見ていた後藤は、つい声を掛けてしまった。

129 名前:5時限目 投稿日:2003年01月18日(土)17時39分16秒
「何言うてんねん。行くっちゅーねん。」
「いや、だってさぁ、仮縫い出来ないようじゃ家庭科の先生失格だし、
っていうか大人の女の人失格って感じ?」
「後藤〜。言うようになったなぁ。」
「だって、後藤もう出来たんだよ?
なのにまだもたもたやってるからさぁ。」
「うっさい。裁縫は苦手やねん。」
「…。この間の調理実習の時も言ってなかったっけ?」
「揚げ足をとるなっ。うわっ。」
「えっ?」
「…刺してもた。」
「もぉ〜〜。ほんっとに、家庭科の先生失格ななだからさぁ。」
「…。って、何をしとんねんっ。」
「何って?」
「やから、その…。」
「消毒。」
「笑顔で言われてもなぁ…。」
「大丈夫だって。ゴトー別に大した菌持ってないからさぁ。」
「や、そうやのーて。」
「んー、裕ちゃんの味がする?」
「恐い。恐いて、後藤。」
「…。あんまり心配させないでよ。」
「…。はい。」


130 名前:わかぞう 投稿日:2003年01月18日(土)23時05分20秒
面白いっす!スイマセンいきなりこんな書き出しで・・・
あの、森版以前の作品を読みたいです。
できればで良いんですが宜しかったら教えていただきたいんですが・・だめでしょか?
131 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月21日(火)02時14分44秒
や、相変わらずイイなあー。
アンリアルもオモロイです。
132 名前:まだ、 投稿日:2003年01月25日(土)13時41分17秒
繋いでいた手のぬくもりを忘れるまで時間はどれくらいかかるのだろう。
重ねていた唇の感触を忘れるまで時間はどれくらい必要なのだろう。

133 名前:まだ、 投稿日:2003年01月25日(土)13時42分24秒
忘れたつもりだった思い出は、何気ない拍子に突如蘇る。

太陽が沈んでしまった街中は、一気に気温が低くなり、
人の体温を奪い取っていく。

安倍と別れて1月半。
体に纏わりつく北風が心の中まで吹き荒らしていくようか感覚を覚える中澤。
それを誤魔化すように両手をジャケットのポケットに押し込んだ。
そんな中澤の姿を数メートル後方から見ていた後藤はひとつ呼吸をして、
早足で中澤の後を追う。

「…裕ちゃん、体温低いね…。」

後藤が抱きしめたのは北風に晒されているレザージャケット。
冷たいのは中澤自身ではなく、身に纏っているそれなのに。

134 名前:まだ、 投稿日:2003年01月25日(土)13時43分19秒
まるで映画館にいるかのように、
目の前の暗がりに2人でいた頃の安倍と自分の姿が映し出された。

安倍はよく中澤の事を今の後藤のように後ろから抱きしめていた。
何も言わず、何も訊かず、ただ抱きしめていた。
安倍は一度も口にしなかった「寂しい」って言葉。
それは、中澤が言わさなかったからなのかもしれない。
今になって後悔していた。
もっとやさしくしてあげればよかった、と。

近くに居過ぎて麻痺してしまった心。
好きって事を感じ過ぎて、抱え過ぎて、お互いを見失ってしまった。
けれど、離れ離れになって、時が経過するにつれて気付く、思い知る。
自分はまだ、愛している、と。

押し殺して押し殺して、そのままゼロになればいいのにって思っていたはずなのに、
それはいともたやすく蘇る。
まだ、愛しているから。

ならば、ゼロにする必要なんてない。
繋いでいた手のぬくもりを、重ねていた唇の感触を忘れる必要なんてない。

135 名前:まだ、 投稿日:2003年01月25日(土)13時43分58秒
中澤は後藤の両手を解き、歩いた道を全部引き返す。
全力で引き返す。
ただ一言、安倍に伝えるために。

「私、なっちの事、好きやわ。」


136 名前:オニオン 投稿日:2003年01月25日(土)13時55分44秒
…うっわぁー…どうしよう…。
ちょっと考えます、色々と。
いただけない文章すぎました。
>>130
片道切符。がここでの初作品なのでそれ以前となると…
マジ処女作は某所にひっそりありますが…
なちゆう…だったなぁ…。(遠い目
>>131
今日はこんなダメダメでごめんなさい。
褒められた後っていつもグダグダになるんすよねぇ…。

137 名前:130 投稿日:2003年01月26日(日)16時35分55秒
ありがとうございました。行って来ました。やっぱ面白いです。
<中二日で帰ってきました。
ってあったので、前の所の冒頭に。こりゃ前のがあるんだ、って探したんです。
で、困りきりまして、直に聞いちゃえーと、暴挙に出た次第です。
これからも楽しみにしてます。失礼しました。
138 名前:オニオン 投稿日:2003年01月28日(火)13時45分06秒
>>137
…やっぱそっちの意味でしたか。
3つとも森に立ててたからどれ以前だろうと思って。
面白いって…あんな後悔の海で何がそう言わせたんだろう。不安です。
139 名前:オニオン 投稿日:2003年01月28日(火)13時53分08秒
PC買い換えたところで、
独りマイナーCP祭閉幕とさせて頂きます。
なかよし書きに戻ります。
待てど暮らせど誰もなかよし書いてくれないようなので
自給自足させて貰います。
需要がなくても自分のために供給します。
明日あたり再開させて頂きます。
140 名前:2つ目 投稿日:2003年01月29日(水)01時09分15秒
―ナミダ。―
141 名前:ナミダ。 投稿日:2003年01月29日(水)01時10分11秒
とめどなく溢れてくる涙を愛のカケラと呼ぶのなら、
私の流す涙全てはあなたを想う愛しさ。

「何で…泣くん?」

エアコンがコート一枚分の暖かさを作り出す部屋の中。
肌の温度とは反比例するみたいに冷たい涙が頬を滑り落ちていた。

何故、私は泣いているんだろう。

142 名前:ナミダ。 投稿日:2003年01月29日(水)01時11分07秒
二時間くらい前。
仕事が終わって家へ帰ろうと思いながらも、急に会いたくなって足はここを目指して歩き出していた。

勝手に押し掛けてきて、だけど中澤さんは嫌な顔ひとつ見せず迎え入れてくれた。

なのに、何で私は泣いているんだろう。

『今日はようモーニングがやってくるわ。
さっき矢口が来とったんやで、すぐ帰りよったけどな。』

あぁ、そうか。
中澤さんの口から矢口さんの名前を聞いたからだ。
矢口さんが自分と同じ考えを持って、しかも私より先に来ていたからだ。

「吉澤…?」

中澤さんの声は心地いい。
その声に名前を呼ばれると単純だけど幸せだなぁって思える。
だからこそ、他の人の名前なんて聞きたくない。
ましてや、一番敵いっこないって思っている相手の名前なんて…。

143 名前:ナミダ。 投稿日:2003年01月29日(水)01時11分53秒
感情表現は得意じゃない方だと思う。
言葉にすることも、顔に出すことも好きじゃないし、得意じゃない。


だからきっとこの涙は、
あなたを想う愛しさのカケラ。
あなたを想う愛しさのしずく。
愛が心から抜け出して、言葉にならない代わりに涙になって零れ落ちているんだ。

「何で…泣くん?」

それは

「…好きだから。」

144 名前:3つ目 投稿日:2003年01月29日(水)01時13分12秒
―星になりたい―
145 名前:星になりたい 投稿日:2003年01月29日(水)01時13分53秒
きっとこの想いが受け入れられることはない。
分かっている、そんなことくらいは。
けど、上手く消化してしまうこともできなくて、ただただ心の一番奥の扉の中で疼くだけ。
だからいっそ、あの空で輝く星になれれば、もうこんな切なさなど感じずにあなたを見つめ続けれるのに…。
そう思っていた。

146 名前:星になりたい 投稿日:2003年01月29日(水)01時14分51秒
別に本気で星になれればなんて思っている訳じゃない。
けれど、やはり何の気兼ねもなく気が済むまで見つめることができるのが羨ましいのか、吉澤はよく空を見上げていた。
夕方、太陽が沈みはじめ、そのオレンジの空に一番星が輝き出す頃、吉澤の視線は窓の外へと向けられていた。
メンバーは吉澤の奇行に慣れたのか、その姿に声を掛けたりはしなかった。

けれどこの日は違った。
テレビ局を出た所で、仁王立ちで星を見上げる吉澤に声を掛ける者がいた。

「吉澤…何しよんな?」

少し眩しそうに吉澤の背を見つめる中澤。
何台も並んだタクシーのライトがモールス信号のように点滅し、中澤の視覚を麻痺させていた。

「あぁ、中澤さん…。」

上を向いたまま、視線だけを中澤の方へ向ける。

147 名前:星になりたい 投稿日:2003年01月29日(水)01時15分57秒
「何や、願い事でもあるんな?
そんな熱心に星見上げて。」
「…吉澤、今、好きな人がいるんすよ。
星になれれば、思う存分見つめていられるのになぁって思って…。」

再び空へと向けられた吉澤の瞳には無数の星がちりばめられていた。

「星は夜にしか出ぇへんやん。昼間はどないする気な?」

その瞳に映る星を中澤は見つめる。

「昼間は太陽の光りが眩しいから地上から星は見えないですけど、
星の側からは見えるんすよ、確か。」
「私は…たとえちょっとの間でもええからその人の傍におって
同じ時間を共有したいって思うけどなぁ。」

微かに中澤の声のトーンが乱れた。

「…そう思う相手、いるんすか?」

だから吉澤は問いかける。

「ロマンチストの吉澤さんにはおるみたいやけどな。」

けれど中澤ははぐらかす。

吉澤の瞳が星を捉えるのを諦める。

148 名前:星になりたい 投稿日:2003年01月29日(水)01時17分02秒
きっと、この想いは受け入れられはしない。
あなたを見つめ、想いは日々深まるばかりなのに。
この想いが受け入れられることはない。

その言葉が吉澤の中を駆け巡っていく。

「…高嶺の花ですけどね。」
「なら、相手は胡蝶蘭か?」

どこか楽しげに中澤は言う。

「どっちかっていうと、岩壁に咲くタンポポ、ですかねぇ…。」

何事にもおじけづいたりしない、強くて、生命力があって、だけどどこか果敢なげな人、
それが吉澤の中における中澤の印象。

「…。石川、とか?」
「え?」
「残念やなぁ、私、吉澤のこと狙っとったのに。」

よくある冗談。
そうなんだと分かっているはずなのに吉澤の心はその言葉を嘘でもいいから受け止めたかった。

「…吉澤の方が、中澤さんのこと狙ってましたよ…。」

149 名前:星になりたい 投稿日:2003年01月29日(水)01時17分45秒
きっと、この想いが受け入れられることはない。
だからいっそあの空で輝く星になって思う存分見つめていたい、はずなのに。

「好きです。
好きなんです。」

生まれて来てしまったから。
愛のある星に生まれ、愛を告げる術を持つ人間として生まれた。
だから愛は言葉に成ってしまった。

吉澤の瞳に映るのは、今まで吉澤が一度たりとも出逢わなかった顔を見せる中澤裕子、ただひとり。

終?
150 名前:オニオン 投稿日:2003年01月29日(水)01時22分34秒
続けたいなぁという気持ちを込めて疑問形で。
151 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月29日(水)03時01分03秒
ぜひ続けて下さい。
こっそりとお待ちしています。

処女作のなちゆう読ませていただきたいいのですが、ムリですか?
152 名前:4つ目 投稿日:2003年01月29日(水)22時40分48秒
―地上―
153 名前:地上 投稿日:2003年01月29日(水)22時41分52秒
対称的な2人の表情。
眉間に皺を寄せて不安そうに中澤を見つめる吉澤。
穏やかな微笑を口元に浮かべ、そんな吉澤を見つめ返す中澤。

「…知っとるよ。」
「え…?あ、あの…。」

吉澤を横切り中澤は歩き出す。

「けど、できれば聞かんかったことにしたい。」

慌てて向きを変え、中澤の後を追う吉澤。

「な、何でですか。」

予想外の言葉に思わず中澤の腕を掴んでしまう。

「…あかんよ、私は。」
「意味が分かりません。」
「あんたが望んどるような恋愛は私にはできんから。」

中澤は振り向いて、その腕を掴んでいる吉澤の指を解いた。

154 名前:地上 投稿日:2003年01月29日(水)22時42分42秒
「…だから、意味が分からないですってば。」
「…やから、そんな恋愛がしたいんやったら石川辺りを相手にしなや。」
「吉澤は本気なんですよ?なのに…。」

吉澤は俯いてしまった。

「私はもう大人やねんで。
目が合うだけで幸せ、他には何もいらん、て思えるような年やないねんから。」
「…。」
「あんたのそれは、愛情やない。
やから聞かんかったことにする。」

そういって背を向けようとした中澤の肩に吉澤の頭が押し付けられて、
やむを得ず動作を止めた。

155 名前:地上 投稿日:2003年01月29日(水)22時43分34秒
「…違う。違います…。」
「何が違うん?」
「ずっと会えてなかったから、会いたくなって…。
あぁ、星になれば毎日見てられるんだなぁって思って…。
けど、やっぱり違います。
ここじゃないと感じれないものがありますから。
ここに在ないと、あなたの声も聞こえない。
引き止めることもできない…。」


吉澤の唇から零れ落ちた言葉たちが一旦地面に落ちて、弾んで、
中澤の耳へと飛び込んでいく。

「だから…何でもいいんで、なかったことにだけはしないでください。」

156 名前:地上 投稿日:2003年01月29日(水)22時44分18秒
「…ええよ。」

ゆっくりと吉澤の頭が起き上がってくる。

「それ、愛なんやな?」
「…はい。」
「愛してくれるんやな?」
「はい。」
「痛い事とか、辛い事とか、絶対あってしまうねんで?」
「大丈夫です。
それさえも受け止めて生きるのが人間ですから。」
「…これも、星なんかになってしもたら経験できんことやで。」

吉澤の唇に冷たい中澤の唇が触れた。


157 名前:オニオン 投稿日:2003年01月29日(水)23時09分56秒
>>151
ごめんなさい。
自分で読み返してきたのですが、無理です。
どれくらい無理かって言うと、祭作品のおがたか話くらい無理です。
びっくりするくらい無理でした。
それでも読みますか?
158 名前:オニオン 投稿日:2003年01月31日(金)16時06分09秒
今日和。
4つ同時進行で書き始めた馬鹿です。
以下、キスネタ多発地帯となる事をご了承下さい。
パラレルからです。
159 名前:5つ目 投稿日:2003年01月31日(金)16時07分16秒
―恋愛感情―
160 名前:<現在 1> 投稿日:2003年01月31日(金)16時10分07秒
「じゃあ、行ってきます。」

午前七時。
吉澤はいつものように家を出る。
高校を中退してから早9ヶ月。
バイトに出かける姿を中澤もうようやく見慣れてきていた。

「気ぃつけてな。」
「はーい。」

長袖から覗く指がひらひらと揺られ、吉澤は人波の中へと消えていく。
それから30分後、中澤も身なりを整え出勤する。
2人が出逢い、恋に落ちた場所へと。

161 名前:<過去 1> 投稿日:2003年02月01日(土)13時12分14秒
2001年7月29日。
2人は吉澤の家にいた。

まるで授業参観日のような服装の中澤。
その隣りには、青いシャツを羽織った吉澤。
お茶を出し終えてもうなす術もなく2人の前に座る吉澤の母親。
その母親のすぐ後ろのソファーには腕組みをした父親。
水を打ったような空気が漂う中、吉澤は口を開いた。

「…家を、出ます。
2人で生きていきます。」

これは相談でもなければ提案でもない。
結論であり決意である。
母親は吉澤から目を逸らし顔をしかめる。

「そんなことが許されると思っているのか?」

顔色ひとつ変えず、父親は言う。

162 名前:<過去 1> 投稿日:2003年02月01日(土)13時13分28秒
「いえ、思っていません。
けど、もう決めたんです。
誰に何と言われようとそれは覆りません。」
「お前はまだ未成年なんだぞ。
世間を甘く見ているんじゃないのか。
どうやって生活していくっていうんだ。」
「バイトします。
もう決めてきました。
今は、時給670円ですけど、きちんと働くつもりです。」
「…くだらん。
だからお前は駄目なんだ。
高校も辞めて、アルバイトだと?
戯れ言もいいかげんに…。」
「だから、これが最後です。
あなたの顔に泥を塗るのも。
もう、呆れる必要もありませんから。
もう、帰ってはきませんから。」

母親がしゃくり上げて泣いている声が微かに聞こえていた。

「…ごめん、お母さん…。」

163 名前:<過去 1> 投稿日:2003年02月01日(土)13時14分12秒
吉澤は立ち上がり、荷物を詰め込んだ2つのバッグをすくい上げた。
その横で中澤も立ち上がり、「おじゃまします。」以来の言葉を発する。

「…。吉澤を奪ってしまってすいません。
けど、私は後悔していませんから。
吉澤と出逢った事も、吉澤を好きになった事も…。
泣かしたりしませんから…。」
「…さようなら。」

家を後にする吉澤の目に涙はなかった。

「…幸せになろうな。」
「はい。」

あるのは、心の中で輝く、未来への希望だけ。

164 名前:<過去 2> 投稿日:2003年02月01日(土)13時15分07秒
2001年7月24日。
最後の終業式も終わり、放課後の教室で一人荷物を整理する吉澤に
クラスメイトの後藤が声を掛けた。

「よっすぃー…。」
「…。ごっつぁん。」
「ホントに辞めちゃうんだね…。」
「うん。」
「…けど、一生友だちだから。
イヤって言っても、よっすぃーの一番の友だちはゴトーなんだからね。
それ、忘れちゃ駄目だよ。」
「…ごっつぁん…ありがと。」

吉澤にとって唯一の親友である後藤も、何故吉澤は退学するのかは知らなかった。
学校側もそれを公表したりはしなかったし、吉澤自身が口にすることもなかった。
ただ―――

165 名前:<過去 2> 投稿日:2003年02月01日(土)13時15分59秒
「吉澤、支度できたな?」
「あ、先生。」
「…後藤。」
「…。じゃあ、よっすぃー、またね。」
「…うん。」

気付いていたのかもしれない。
何が退学への決定打になったのかは知らなくても、それには中澤が絡んでいるであろうことに。

「…ごめんな、吉澤。」
「先生。
吉澤は先生にそんな顔させるためにこうしたんじゃないんすよ。
一緒に笑っていられるように…。」
「分かっとるよ…けど。」
「大丈夫。
もう未練なんてないっすから。
先生に出逢えたってだけで、十分高校生活はいい思い出ですよ。」
「…吉澤。」
「それに明日からは『先生』じゃなくて『裕子さん』とか呼べちゃうし。」

二学期が始まればもうこの教室に吉澤の姿はない。
中澤の授業を受ける生徒の中に吉澤の姿はない。

2001年7月24日
吉澤ひとみ 高校退学。

166 名前:<過去 3> 投稿日:2003年02月03日(月)00時39分20秒
2001年7月上旬。
夕暮れの校舎。
1年5組の教室。

「…先生。」
「んー、何?」
「もし、吉澤が高校卒業する時まで別れずにいたら…。」
「別れずにおったら?」
「一緒に、暮らしませんか?」
「…。」
「…嫌ですか?」
「や…そうやないけど…。
ちょっと、驚いてな。」
「じゃあ――。」

目の奥を輝かせ見つめてくる吉澤の頭を撫でて中澤は頷く。

「ええよ。一緒に暮らそう。」
「…約束ですよ?」
「…。」

2人がキスを交わした時、何かが床に落ちた。
その音に気付き、2人は同時に音がしたドアの方に視線を向ける。

167 名前:<過去 3> 投稿日:2003年02月03日(月)00時40分32秒
「…吉澤と…中澤先生…。」

見回りにきていた隣のクラスの担任の教師。
足元には明日の朝配る予定だったであろうプリントが散乱していた。

「あっ…。
よ、吉澤が、自分が無理矢理やったんです。
先生嫌がってるのに、無理矢理.…。」

とっさにそう言った吉澤の言葉を否定しようと中澤は口を開くが吉澤がそれを遮る。

「吉澤が、悪いんです。」

中澤の視界の隅できつく握り締められた吉澤の両手が映っていた。

「…吉澤。
それなりに覚悟があって言ったんだろうな。」
「…。」
「中澤先生も生徒との距離を近付けすぎるからそんなトラブルに巻き込まれるんですよ。
…このことは、報告させて貰いますよ。
学校の風紀を守るためですから。」

プリントを拾いながらその教師は冷たく言い放つ。

「ちょっと待っ…。」
「中澤先生。
そこまで生徒をかばう必要なんてないですよ。
大丈夫、先生の地位は守れますって。」
「そうやなくて…。」

168 名前:<過去 3> 投稿日:2003年02月03日(月)00時41分45秒
職員室の方へと去っていく教師の後を追おうとする中澤の手を掴み、
後ろから抱きすくめる吉澤。

「…いかせない。」
「なっ…どしてや。
悪いんはあんたやないやんか。」
「…だって、先生、先生辞めさせられちゃうかもしれないし…。」
「あんたの方こそ、このままやと退学になりかねんのやで?」
「いいんすよ、それでも…。
先生に、先生辞められるより数百倍ましですから。」
「そんなん…私かて、吉澤のこと…。」
「…お願いだから、吉澤ひとりのせいにしてください。
お願いだから…。」
「…吉澤…。」

169 名前:<過去 3> 投稿日:2003年02月03日(月)00時42分58秒
中澤は自分の下腹部あたりで交わっている吉澤の両手にそっと触れる。

「私…どうしたらええん?
吉澤ひとりに責任かぶらして…そんなん、理不尽やんか…。」
「…だったら…一緒に暮らしましょう。
吉澤の傍に…ずっと、いてください…。」

中澤の片方の肩に吉澤の頭が預けられて。
吉澤がその言葉を渾身の力を振り絞って言ったことがうかがえた。
重労働の後のように深い溜め息をもらしてしたから。

「…私、何も損せぇへんやんか…。」
「時間…、先生の時間、一秒たりとも残さず手に入れたい…。」
「…ええの?それで。」
「…嫌ならやめます…。」
「さっき、ええよって言うたやんか。」
「…いいんすか?」
「あげる、全部あんたにあげる。
惜しいもんやなんもないから…。」

170 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月03日(月)23時07分26秒
自分は151さんじゃありませんが、
オニオンさんの処女作、是非是非読みたいです!!
なんとか、なんとか読ませて頂けないでしょうか?
171 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月04日(火)17時45分56秒
吉澤けなげだー
切なくて大好きです。
172 名前:オニオン 投稿日:2003年02月06日(木)13時40分18秒
>166 で何か変だなぁと思ったのですが、
中退したのが2年、て思ってたのにこれだと1年の時になるなぁ、と。
つじつま合わなくなるので脳内で過去編全て2002年にして
頂けるとありがたいです。
よって、>166 は2年5組で…。
すいません、ほんとに。
173 名前:オニオン 投稿日:2003年02月06日(木)13時50分41秒
>>170
…。
1.なちゆうが読みたい
2.自分の初作品て事で読みたい(自惚れ
3.何か企んでいる(失礼
3択ですね、きっと。そんな大したもんじゃないのに…。
>>171
あらすじ考えてた段階ではこんな話じゃなかったような気がしますが
そう言って貰えるならまぁ、いっか。
174 名前:<過去 4> 投稿日:2003年02月06日(木)17時03分57秒
2002年2月。

中澤がこの学校に赴任して約1ヶ月。
産休の教師の代行で来ていたのだが、その教師の退職が決まり、
来年度以降の続投が早々に決定した。

前任の教師への寂しさを感じつつも、皆おおよそそれを歓迎してくれていた。
けれどひとり、吉澤だけは全く関心がないらしく、教室の奥で頬杖をついて窓の外を眺めていた。

赴任当初から、中澤の気さくな性格もあってすぐに打ち解けた生徒の中で、
ひとり興味を示さない吉澤。
この1ヶ月間で中澤と吉澤のキョリに変化はない。
『ハジメマシテ』の挨拶を教壇から投げ掛けたあの時から全く進歩はなかった。

――こんだけ綺麗に無視されると何が何でも興味湧かしたなるなぁ。

中澤は強行手段に出ることにした。
教師の特権・個人面談と言う名の放課後拘束。
吉澤と対で話がしたいがために、自分が副担任を任されているクラスの生徒全員を巻き込み
それはやや強引に開催された。
175 名前:170 投稿日:2003年02月07日(金)00時27分11秒
えっと、オニオンさんの処女作だという事で読みたいので、
その3択だと、答えは2になりますね。
なちゆうだから読みたいとか、何か企んでいる(笑)というわけじゃないです。
オニオンさんの小説が好きだから読みたいんです。
なんとか読ませていただけないでしょうか…?お願いします。
176 名前:<過去 4> 投稿日:2003年02月07日(金)12時34分07秒
「なんっっかさぁ、中澤先生、企んでそーなんだよねぇ…。」
「何が?」
「いやー…だってさぁ、今この時期に面談なんておかしくない?」
「…珍しくまともな事言うね、ごっつぁん。」
「珍しく、て…。よっすぃーには言われたくない。」
「…まぁ、どうでもいいけどね。」
「…よっすぃーさぁ、全然中澤先生に関心ないよねぇ?
嫌いなの?」
「べつに。」
「ふ〜ん…。」

「吉澤さん。次、吉澤さんだって。」

廊下に座り込んで話していた2人に向かって、教室から出てきた生徒は呼びかける。

「ども…。」

すっくと立ち上がり、

「行ってくる。」

と一言後藤に告げて教室へと向かう吉澤。

177 名前:<過去 4> 投稿日:2003年02月07日(金)12時35分09秒
いつも通り、SHRをした数分前と変わらない教室。
一番後ろの筋の奥から2つの椅子が向き合うように置かれ、
その一方に中澤が座っていること以外は。

「よぉ来たな。待ってたで。」

その中澤はにこやかに声を掛ける。

「初めてやな、こうしてまともに話するんて。」
「…はぁ。」

中澤は真っ直ぐ吉澤を捉え、それとは反対に吉澤の視線は中澤の肩越しに窓へと向けられている。

「吉澤は後藤と仲良いんやっけ?」
「はぁ。」
「同じ中学とか?」
「や…。」
「…。何か、そっけないなぁ。
それにちらっとくらいこっち見てくれてもええんとちゃうん?」
「…。」
「……。
あんな、ちょっと不安になってきたんやけどな、
吉澤、私のこと知っとるん?」
「…知ってる、て?」
「私、初日にめっちゃ自己紹介してんけど、それ、どんくらい聞いてたんかなぁ、て思ってな。
あん時、吉澤とだけ目いっぺんも合わんかったから。」
「…。」

178 名前:<過去 4> 投稿日:2003年02月07日(金)12時35分58秒
―よく喋るなぁ、もうトシ?

「よっしゃ、ほんだら吉澤が私について知っとる事、5つ挙げてみぃ。
挙げれたら解放したる。つまらなそーやからな。
けど、言えんかったらとことん教え込んだる。」
「…ほんとに言うんすか?」
「当たり前やんか。」
「…。
中澤裕子さん。28歳。…。」
「…おーい、よしざわさーん。
2つ?2つて。
あんた私に興味なさすぎやろ。
オバさんウザーイ、とか思っとんのかぁ?」

中澤はわざと少し怒った表情をして吉澤の顔を下から覗き込む。

初めて2人の視線が双方向でぶつかった。

「…。」

それは吉澤が初めて中澤の顔をきちんと捉えた時でもあった。

「…否定せん、て事はほんまにウザがられてんのか、私…。
うわ、ちょっとヘコむわ。」

179 名前:<過去 4> 投稿日:2003年02月07日(金)12時36分46秒
――ヤバイ。この人、めちゃくちゃ美人じゃん。

「吉澤ぁ、応答せぇ。
面談やのに私ひとりで喋ってるやんかぁ。」
「…。
ど、独身。彼氏なし。京都出身。」

ガタンッと勢いよく吉澤は立ち上がった。

「えっ?あっ…さっきのんの続き?」

つられて中澤の視線も引き上げられる。

「5つ、言いましたから…。失礼します。さよなら。」
「えっ、ちょっ待ちぃな。」

慌てて教室を出ようとする吉澤を慌てて中澤も追う。
30人いるクラスの生徒のうち、29人をカムフラージュとして巻き込んでまで決行した
吉澤との面談をそう簡単に終了にはできなかった。

180 名前:オニオン 投稿日:2003年02月07日(金)12時45分03秒
>>175
う〜ん…。考え中です。
181 名前:<過去 4> 投稿日:2003年02月07日(金)22時59分44秒
吉澤が扉に手をかけようとするよりほんの一瞬早く、中澤の手がその手首を掴んだ。

「…。」
「…。」

「…私、何かした?
何でそんなに嫌がられなあかんの?」
「…。」
「吉澤が口数少ない方やっていうんは知ってる。けど…。」

「…次の子、待ってますよ。」

振り返り口を開く吉澤の表情は入室してきた時と全く同じ。
吉澤の心の扉はいくらも開かれていない。

「構わん。
私はあんたと話がしたかっただけやし。」
「な、何言って…。」
「たぶんな、このクラスで一番の問題児はあんたやねん。
そら、授業はきちんと聞いてるし、遅刻も欠席もせんし、
そういう面では優秀やけどな、けど、
精神面で言えば一番問題児やと思う。
自分のことも話さん、人のことも興味ない。
それで、こういう風に言われるんも好かんのやと思う。
多少ウザイって思われても、それでも私は吉澤のこと知りたいし、理解したいと思てる。」
「…。」
「…私と話するん嫌か?」
「…。」

182 名前:<過去 4> 投稿日:2003年02月07日(金)23時00分31秒
たぷりと躊躇った後、吉澤は首を横に振る。

―何や、かわいい顔もできんねんやんか。

「よかった。
空振りするかと思てドキドキやってんから。」
「…手、放して貰えませんか?」
「うーん…。
せっかく掴んだからもうちょい持っとこうかと思ってんけどなぁ。」
「…せっかく、て…。」

その理由に呆れて吉澤は思わず苦笑する。

「いーねぇ、何や、ちゃんと笑えるんやんか。」

中澤は嬉しそうに微笑む。

「…。」
「照れてんの?」
「…。」
「見惚れてんの?」
「…。」
「よしざわぁ?」
「…………。
そうっすね…。」


183 名前:<過去 4> 投稿日:2003年02月07日(金)23時01分17秒
この日をきっかけに2人のキョリは少しずつ近付き始めることになる。

中澤の思惑を通り越し、それが2人の未来に影響を与えるまでに到ることを
2人が知るのはまだ少し先の話。


184 名前:<過去 5> 投稿日:2003年02月07日(金)23時02分04秒
2002年1月。

「えーっと。
今月から産休に入られた市橋先生に代わって、
このクラスの副担任と現国を担当させて貰います。
中澤裕子です、よろしく。」


2人が出逢った瞬間。

185 名前:―恋愛感情― 投稿日:2003年02月07日(金)23時04分07秒
  
   終
186 名前:オニオン 投稿日:2003年02月07日(金)23時07分52秒
超中途半端なのは分かってるんですけど終ということで。
過去6もあることにはあるんすけど
そこまで遡ることもないかなと思って。
187 名前:170 投稿日:2003年02月08日(土)00時59分56秒
……もしかして私、オニオンさんに余計なプレッシャーを
与えてしまっているのでしょうか?
ごめんなさい。そんなつもりじゃなくて、ただ読みたかったんです。
あまり気が乗らないっていうなら、無理にとは言いません。
本当にごめんなさい。……でも読みたいです〜。
188 名前:オニオン 投稿日:2003年02月08日(土)17時38分20秒
>>151
>>187
別にいいっすよぉ。ちょっと手間取ってただけですから。
けど、1レスものなのになぁ…
きっとお2人は後悔先に立たずの意味を体感するでしょうけど…。
189 名前:考えるヒト。 投稿日:2003年02月08日(土)17時39分38秒
さっきから、メイクルームのイスに腰かけたきり微動だにしない中澤を見つけた安倍。
数分ほど様子をうかがっていたが、全く動く気配がないので、声をかけてみることにした。
「裕ちゃん、頭使いすぎるとパンクしちゃうよ。」
現に、体の方に神経回ってないみたいだし、と。
「ウチが考え事しよったらアカン言うん?」
わざとムッとした表情をして安倍の方を見た。
「んー...。」
と、眉間にシワを一瞬寄せて、
「じゃあ、なっちの頭も貸してあげる。2人で考えれば答えも早く出るかもしれないし。うん、そうしよう。」
中澤の隣のイスをひいて座りながら安倍は無邪気にそう言った。
「そうやなくて...、なっちには答え出されへんよ。」
困った様に苦笑する。
「どうして?」
「どうしてって...。」
口ごもる中澤。
その顔を不思議そうに覗き込む安倍。
「...何でウチはこないになっちの事が好きなんやろうって考えてただけやから。」
なんて真顔で言うし。
「うわっ。裕ちゃん、それ、すごい殺し文句だべさ。」
両手で真っ赤になった顔をかくす安倍。
中澤は「せやから言うたのに。」と、その頭をなでて笑っていた。



190 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月08日(土)21時45分17秒
なんか、中澤さんかわいいですね。
オニオンさんの話 好きです。
かげながら読ませていただきます。がんばってください。
191 名前:6つ目 投稿日:2003年02月08日(土)23時40分06秒
―危脆―
192 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時40分59秒
閉じ込めてしまいたかった

あなたをこの心の檻の中

もう誰の目にも触れぬよう

閉じ込めてしまいたかった

193 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時41分53秒
中澤への愛を抑えきれなくなっていた吉澤。
その心の中で渦を巻くものは、もう既に「愛情」の域を超えていた。
「愛情」というよりもむしろ憎悪にも似た感情へと変貌を遂げていた。

194 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時42分37秒
手に入れたい

あなたの全てを手に入れたい

私だけのものにしたい

195 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時43分26秒
自分では制御できなくなっていたその想いを胸に抱え込んだまま、
吉澤は中澤に声をかけた。

「あの、中澤さん。」

平静を装い、極力「普通」に。

「何や?吉澤。」

目の前で中澤の綺麗な髪が揺れる。
その瞳が吉澤だけを捉える。

それだけで狂い出しそうな心を、暴走しそうな心を隠して
「いつもの吉澤」で話をする。

196 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時44分12秒
「…話したいことがあるんですけど…、
今日、夜空いてませんか?」
「うーん、別に用はないで。」
「じゃあ、お家に伺ってもいいですか?」
「ええよ。」

「ほな、また後でな。」と微笑んで去っていく中澤に吉澤も笑顔で手を振っていた。
その表情とは裏腹に、心で溢れている純粋なはずの想いとは裏腹に、
吉澤の脳の中で、嘲笑している吉澤がいた。

197 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時45分15秒
その夜、吉澤は中澤の部屋を訪れた。

「どしたん、上がらんの?」

吉澤は靴を脱いで、一歩玄関へと踏み込む。
それを見て中澤は向きを変え、

「何もないけど、お茶でもええかなぁ…。」

と、問い掛けてくる。

「…。」
「吉澤?」

「…好きだったんです、ずっと。
中澤さんのことが。」

唐突な吉澤の告白に一瞬言葉を失う中澤。

198 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時46分07秒
「え…あ…ごめん、私…。」
「矢口さん。」
「っ、知って…。」
「けど、矢口さんはあなたのものにはならないですよ。
少し、卑怯だったかもしれないですけど、
色々な手を使って「好き」って言わせましたから。」
「な、何言うて…。」
「好きなんですよ、中澤さんのことが。
もう、どうにかなりそうなくらいに。」

もう既に「どうにかなって」しまっていると言っても過言ではない。

「私は…吉澤のことそんな風には…。」
「――。
もう、決まってるんです。」
「…何が?」
「もう、この物語の結末は決まってるんです。
吉澤は、あなたを手に入れる、て…。」

199 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時46分52秒

不意にキスをする。

「…や…ちょっ…。」

拒む中澤の両肩を掴み、そのまま壁へと押さえ付ける。

「っ…。」
「何でですか?
さっき、せっかく矢口さんの唇に触れといてあげたのに。」
「なっ…。」
「せめてものお詫びですよ。」
「…何が…。」
「だって、吉澤はあなたの全てを手に入れるんすから…。」

200 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時47分53秒
無理矢理唇を中澤のそれに押し付け、そのまま目の粗いセーターと白いシャツをたくしあげる。
中澤の両手が何度となく吉澤の体を押し戻そうと抵抗する。
けれど、吉澤は止まらない。
暴れる中澤の掌が、時には吉澤の頬を張っても。
それをものともせず、逆に床へと押し倒す。

ひとつになんてなれない。
そんなことくらい知っている。
けれど吉澤の細胞は麻痺しているから、こうすることで心は満たされるものだと思い込んでいた。
だから、中澤が脅えた瞳をしていたところで、吉澤が罪悪感を覚える、などということはなかった。

201 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時48分45秒
「何で…こんなこと…するん…。」

意地でも声を上げない中澤。
ただ、泣いていた。

「もう、他に方法はないんです。
あなたを吉澤のものにするためには、他に方法がないんですよ…。」

――――――――――――

―――――――――

――――――

―――
202 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時49分30秒
愛したいんだ 愛されないとしても

壊れてしまそうなんだ だから壊してしまうんだ

もう何もかもをめちゃくちゃにしてしまいたい

あなたを そして自分自身を

203 名前:危脆 投稿日:2003年02月08日(土)23時50分39秒
吉澤は朝が来るまで ずっと 何度も 絶えることなく
中澤を抱いていた。


マネージャーからの電話を受け、仕事へと向かうために中澤の部屋を後にする吉澤。

気を失ってしまった中澤がひとり、玄関に転がる朝――

204 名前:オニオン 投稿日:2003年02月08日(土)23時52分37秒
>>190
ごめんなさい。
たぶんきっとあなたの好きな話ではないものを上げてしまって。
205 名前:オニオン 投稿日:2003年02月08日(土)23時54分03秒
挙句にまだ続く予定だっていうのは
知らせない方が良かったのかも。。。
206 名前:オニオン 投稿日:2003年02月08日(土)23時57分56秒
ちょっと吉澤さん黒だったかなぁ。。。
207 名前:170 投稿日:2003年02月09日(日)01時27分12秒
ありがとうございますありがとうございます。
オニオンさんが結構しぶっていたので、そんなにヒドイのかと
密かに思っていたのですが(ごめんなさい)全然そんなことなくて、
逆にすごい良かったです。後悔どころか、大満足です。
やっぱり自分にはオニオンさんの小説は相性バッチリみたいです。
あと、吉澤ものすごい黒だったと思います。(笑)
208 名前:7つ目 投稿日:2003年02月09日(日)15時59分59秒
―防備―
209 名前:防備 投稿日:2003年02月09日(日)16時00分44秒
矢口は中澤のことが好きだった。
けれど矢口も中澤もお互いが本当に好き合っていることは知らなかった。
2人ともお互いの本当の気持ちを知りたくて、だけど知ってしまうことが恐くて
その想いを言葉にすることができないでいた。

そして、そのことに2人よりも早く気が付いてしまったのが吉澤。

中澤が自分の方を見てくれてはいないことは知っていた。
けれど矢口までもがまさか中澤のことを愛しているとは思っていなかった。
だから吉澤は手を下すことにした。

最悪の事態を防ぐため、そのためには仕方ないことだった。
万が一、中澤が矢口の告白しても、それに矢口が頷かないように…

210 名前:防備 投稿日:2003年02月09日(日)16時01分34秒

「矢口さーん、吉澤じゃ駄目っすかぁ?」

「矢口さんってほんっっっとにカワイイっすよねぇ。」

「マジ、惚れそーですよぉ。」

「近くにいるのは吉澤なんすけどねぇ。」

「好きっすよ。」


そうそう時間はかからなかった。
きっと矢口自身、揺れていたのだろう。
好きと言うこともできず、好きと訊くこともできず、
不安だけが押し寄せてくるから。

だから、好きだと言ってくれる吉澤の方へと心はあっさり傾いてしまったのだろう。

211 名前:防備 投稿日:2003年02月09日(日)16時02分11秒
仕方ないんだ

そうしないとあなたを手に入れられはしないから

仕方ないんだ

そう 仕方のないこと

あなたのために仕方なくこうしただけなんだ

212 名前:防備 投稿日:2003年02月09日(日)16時02分44秒
愛のない行為は罪だ、と言うのかな

けど、これは愛だから

あなたへの愛だから

213 名前:防備 投稿日:2003年02月09日(日)16時03分39秒
白いシーツを掴んで、吉澤の名前を呼ぶ矢口。
何度も 何度も 何度も…

吉澤は微笑っていた。
心が甲高い声を上げて笑っている。

これでもう、矢口の心は中澤の方へとはなびかないだろうから。

こみ上げてくる喜びを抑えられはしなかった。

214 名前:防備 投稿日:2003年02月09日(日)16時04分25秒
何度となく抱いて 抱いて 抱いて
忘れられなくさせる。依存させる。
もう、中澤のことを考える暇を与えないように。
思い出すことさえないように。


「誰のことが一番好きですか?」

「…よっすぃー…。」

笑いが止まらない。
吉澤の口許は緩み続ける。

そう、全ては中澤を手に入れるために。


215 名前:オニオン 投稿日:2003年02月09日(日)16時06分27秒
危脆の少し前って感じです。
…まぁ、愛はナイフって言いますし(何?
216 名前:オニオン 投稿日:2003年02月09日(日)16時09分24秒
>>207
満足と言って頂けて幸いです。
それにしても、なっち…萌えな(殴
217 名前:オニオン 投稿日:2003年02月09日(日)16時10分39秒
今日も今日とて吉澤さんは黒ですが。。。
218 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月09日(日)21時33分16秒
いやー、でも結構黒い吉澤も良いです。むしろ好きです。
219 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月09日(日)22時10分11秒
最初から読ませていただきやした。
短編を読んで、稲垣足穂を思い出しました。
作品の雰囲気がとても好きです。
続き期待してます。
220 名前:オニオン 投稿日:2003年02月11日(火)01時50分04秒
ここから二手に分かれます。
まずはハッピーエンドから。
221 名前:8つ目 投稿日:2003年02月11日(火)01時51分55秒
[happy end ver.]

―中情―
222 名前:8つ目 投稿日:2003年02月11日(火)01時52分46秒
吉澤の言う通りにするようになっていた中澤。

吉澤も初めはそれでいいと思っていた。
けれど、そのうちに疑問が生じる。
これは、今目の前にいるこの人は、自分がかつて愛した中澤ではないのではないだろうか、と。

223 名前:中情 投稿日:2003年02月11日(火)01時53分43秒
笑って ねぇ

どうして笑ってくれないの

私が好きだったあなたは

こんなあなたじゃなかったはずなのに

224 名前:中情 投稿日:2003年02月11日(火)01時54分26秒
涙が零れていた。

ベッドの上で中澤にまたがり、涙する吉澤。

「…何でっ…。」

何故、どうしてこんなことになったのだろう。

「…あんたが…吉澤がそう望んだんやんか…。」

ヨシザワ ガ ソウ ノゾンダ…?

225 名前:中情 投稿日:2003年02月11日(火)01時55分03秒
喉の奥で逆流してくるものを感じる。
気分が悪い。吐きそうになる。
視界がめまぐるしく揺れる。
中澤の言葉が頭の中を掻き混ぜる。
混乱する。

「…だって…中澤さんが…吉澤のこと、見てくれないから…だから…。」

「そんな暇、与えてくれんかったやんか…。
好きやって言うたその日に…あんな――。」

「…だって…。」
「…だって、はもうええ…。」

「…中澤さんが…好きで…けど、矢口さんのことばっかり考えてて…
何か…心の中、もやもやしたのがたちこめてきて…それで…
だったら…手に入れてしまえばいいんだって…そう、思って…。」

226 名前:中情 投稿日:2003年02月11日(火)01時56分07秒
溢れる涙を気にとめることもなく、右手で作った拳がベッドを叩く。

ドンッ  ドンッ  ドンッ
ギシッ  ギシッ  ギシッ

徐々に徐々に強く、大きくなっていくその音。

「よ…しざわ…?」

中澤の両手が吉澤のその手を止めさせる。

吉澤の心の平衡感覚、ゼロ。

「私のこと、好きか?」
「…すき…す…。
な…ざわさんのこと…すき…す…。」

「せやったら、もうええよ。」

中澤は体を起こし、吉澤を抱きしめる。

「ちゃんと、始めよ。」
「…ハジメル…?」

「…好きやで、私も。
だから、な?」
「…。」

涙が止まらなかった。


227 名前:9つ目 投稿日:2003年02月11日(火)01時57分43秒
[happy end ver.]

――side:N――

―感応―
228 名前:感応 投稿日:2003年02月11日(火)01時58分26秒
人を想いすぎると 心は壊れてしまうんだ
愛は心を突き破り 全てを手に入れようとする

229 名前:感応 投稿日:2003年02月11日(火)01時59分10秒
もうどうしようもなく堕ちていく吉澤を見ていた。
中澤はそれが自分への愛故の姿なんだと知っている。

自分が愛してあげることができれば、吉澤は楽になれるのだろうか。
自分の存在が吉澤をこうさせてしまったのではないだろうか。
だとすれば、自分が救ってあげなくて、誰が吉澤を救えるというのか。
そう思い始めていた。
230 名前:感応 投稿日:2003年02月11日(火)01時59分51秒
何もかもを奪われた気分だった。
自分のことも。矢口のことも。
許せないと思った。
そのはずだった。
けれど、誰しもが吉澤のように変形した愛を抱く可能性はある。
中澤もいつか、吉澤のようになっていたのかもしれない。
きっと誰かが手を差し伸べなければならなくて。
中澤は、それは役目なのではないかと考えていた。

231 名前:感応 投稿日:2003年02月11日(火)02時00分37秒
馬鹿やとは自分でも思てる
けど、元の吉澤に戻したかった

吉澤のそれが 愛なんかは知らん

私のこれが 愛なんかも知らん

それは今 問題やないから

232 名前:感応 投稿日:2003年02月11日(火)02時01分11秒
きっと今なら間に合うはず。

まだ間に合うはず。

まだ吉澤は吉澤のはず。

吉澤が心を捨てる前に…

233 名前:感応 投稿日:2003年02月11日(火)02時01分51秒
「私のこと、好きか?」

「せやったら、もうええよ。」

「ちゃんと、始めよ。」

「好きやで、私も。」



嘘でも本当でもない。
ただ、吉澤を救いたかっただけ。


234 名前:オニオン 投稿日:2003年02月11日(火)02時04分25秒
「危脆」
「防備」
「中情」
「感応」

―happy end ver. fin.―


235 名前:10個目 投稿日:2003年02月11日(火)02時05分47秒
[bad  end  ver.]

―拘囚―
236 名前:拘囚 投稿日:2003年02月11日(火)02時06分55秒
何処にも逃げられやしない

あなたはもう囚われの身なんだから

これからは  ずっと  ずっと

私のものでいるしかないんだから
237 名前:拘囚 投稿日:2003年02月11日(火)02時07分42秒
「中澤さん。」

吉澤はノックもせずに中澤の楽屋のドアを開け、
外開きのその扉に体の半分を預けるようにしてもたれかかる。

開放されたままの扉。
通り過ぎる人は皆、少し不思議そうに視線を向けていく。

238 名前:拘囚 投稿日:2003年02月11日(火)02時08分39秒
「退屈そうですね。
矢口さんたちのコーナー、撮り始まったばかりですから
まだ出番まで当分ありそうですね。」

「吉澤も暇してるんすよねぇ。
遊んでくれませんか。」

慌てて中澤は楽屋を出ようとする。
けれど吉澤が見す見す行かせる訳もない。
左腕一本であっさりと中澤は捕らえられてしまう。
右肩に置かれた左手に力が入れられ、吉澤の方へと引き寄せられる。

「駄目っすよ、勝手なことしちゃぁ。
…言うこと聞いてくれないと、このまましちゃいますよ?」

吉澤の唇が中澤の首筋を滑る。

「…ゃっ…。」

「吉澤は別にどっちでもいいんですよ?」
「……閉めて…。」
「――。
初めから素直になればこんな手間取らなかったのに。」

扉を支えていた右手を放す。
蝶番独特の音が小さく響き、楽屋は閉ざされる。

239 名前:拘囚 投稿日:2003年02月11日(火)02時09分19秒
中澤は悲しげな表情を浮かべ、俯いたまま、
両腕を吉澤の首に絡ませる。

中澤が身に纏う皺一本ない赤いスーツが、吉澤の脳に刺激を与える。

240 名前:拘囚 投稿日:2003年02月11日(火)02時10分01秒
そうだね まるであなたは一輪の薔薇のよう

そう 私のためだけに咲く花

そう思えば その棘すらも美しい

241 名前:拘囚 投稿日:2003年02月11日(火)02時10分47秒
頭じゃない。心じゃない。
もっと別の何かが吉澤を突き動かす。
それは欲望に似たもの。
かつて愛情だったもの。

乱された赤い花びらから覗く白い柔肌を、
まるで自分の体内へと取り込むかのように貪り頬張る吉澤。


242 名前:11個目 投稿日:2003年02月11日(火)02時11分54秒
[bad  end  ver.]

―奈落―
243 名前:奈落 投稿日:2003年02月11日(火)02時12分35秒
矢口の、匂いがした。

吉澤の着てるもんからなんか、
それとも吉澤自身からなんかは分からん。
けど、矢口の匂いがした。

244 名前:奈落 投稿日:2003年02月11日(火)02時13分09秒
矢口…何でこんな奴に抱かれるん?

吉澤…何であんたは矢口を抱くん?

そんで、何でその足で私の元へきて、私を求めるん?

245 名前:奈落 投稿日:2003年02月11日(火)02時13分43秒

「…矢口…。」

吉澤から薫る匂いが、中澤の脳内に幻影を造り上げる。
何よりも、誰よりも大切な矢口の幻影を。

246 名前:奈落 投稿日:2003年02月11日(火)02時14分17秒
いいよ  それでも

あなたが私の中に誰を見ようと

それは大した問題じゃない

247 名前:奈落 投稿日:2003年02月11日(火)02時14分53秒
中澤が誰を想っていようが、その心を誰に差し出そうが、
その身体を抱けるのは吉澤だけだから。

248 名前:奈落 投稿日:2003年02月11日(火)02時15分39秒
矢口…矢口…矢口…

どうして  何で

もっと早く伝えてしまわんかったんやろう…

そうしてれば

矢口が吉澤に抱かれることもなかったかもしれんのに

そうしてれば

私が吉澤とこんなことする必要なかったかもしれんのに

矢口…矢口…矢口…

249 名前:奈落 投稿日:2003年02月11日(火)02時16分30秒
もう  還れはしないんだ

あなたはもう 還れはしない

私ももう 還れやしない




大丈夫  きっと大丈夫

そのうちに 諦めもつくはずだから

まるで 本来こうあるべきだったかのように思えるはずだから

あなたも 私も 弱い生き物だから

250 名前:奈落 投稿日:2003年02月11日(火)02時17分04秒
「愛してますよ、中澤さん。」

愛してる、本当に――?


251 名前:オニオン 投稿日:2003年02月11日(火)02時18分41秒
「危脆」
「防備」
「拘囚」
「奈落」

―bad end ver. fin.―
252 名前:オニオン 投稿日:2003年02月11日(火)02時24分06秒
>>218
萌えれるかどうかは別としても
吉澤さん、黒似合うなぁと軽く感心しました。
またいつか、機会があれば黒吉書くかもしれません。
>>219
あなたが期待してるとか言うから調子に乗って
バッドエンドバージョンを用意するという
ピュアぶりを発揮したのは秘密の方向で…。
253 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月11日(火)22時58分25秒
あわわわ。久しぶりに来てみたらこんなコトになっていた。
ドッキリしました。
アレ読みたいです、アレ。アレの過去6。
是非。
254 名前:12個目 投稿日:2003年02月13日(木)23時48分11秒
―2/13―
255 名前:2/13 投稿日:2003年02月13日(木)23時49分18秒
2月13日、緊急事態発生。

「吉澤、先言うとくけど明日私チョコレートあげんで。」

油断していた。
あまりにも毎日が平和で幸福過ぎたため、吉澤はすぐそこまで迫っているバレンタインデーに
こんな展開が待っていようとは想像もしていなかった。

「なっ…何でですかっ!?」
「だって、バレンタインデーって『年に一度、女の子が好きな人に想いを伝えられる日』やろ?」
「そうっすよ。」
「せやったら私には必要ないし。
私が好きなん知とるやろ。」

ソファーで隣り合っている中澤は平然と受け答えをする。

「いや、でも聞き飽きるってことはないっすから…。」

付き合い始めて初めてのバレンタインデーを普通の一日としてカウントしたくない吉澤は食い下がる。

256 名前:2/13 投稿日:2003年02月13日(木)23時51分04秒
「何言うても無駄やで。
私はその行事には参加せぇへんからな。」
「え〜〜。
チョコレート欲しい、好きって言われたい、そして照れたいのにぃ〜。」
「うっさい。もう決めてんから。」
「う〜〜。
でも、明日現場で会うスタッフさんには配るんすよねぇ?
なのに吉澤にはなしっすかぁ?
恋人と書いてヨシザワ、吉澤と書いてコイビトなのにぃ。
悲しいよー。」

顔を近付け、捨て犬バージョンを披露する。
けれど。

「私からは諦め。
ええやん。明日吉澤はそこいらへんの男よりいっぱいチョコ貰って、
いっぱい好きやって言うて貰えんねんから。」

折れる気配は一向になし。

「何すか。
もしかして吉澤がモテるのが気に食わなくてそんな意地悪言ってんすか?
オトナ気なーい。」
「何とでも言え。」
「…こうやって愛は冷めていくんすね。」

吉澤はソファーの上で無理矢理体育座りをして落ち込んで見せる。

257 名前:2/13 投稿日:2003年02月13日(木)23時55分08秒
「人の話を聞きな。
十分私があんたの事好きなん分かってんねんからええやん、てことや言うとんねん。
全然冷めてへんっちゅうねん。」
「だったら明日もちょちょいと言ってくれればいいのに。」
「イヤ。
明日は言わん。絶対言わん。」
「え〜〜。」
「ほら、もう日付変わってまうで。
お家帰りぃな。」

ごねる吉澤の肩を叩き、中澤は立ち上がろうとする。

「ヤ。」

吉澤はその手を引っ張り中澤を自分の腕の中に収める。

「こらっ、吉澤。」
「…。」

258 名前:2/13 投稿日:2003年02月13日(木)23時59分58秒
暫くそのままでいると時計が12時を回り、短い機械音がそれを2人に知らせた。
259 名前:2/13 投稿日:2003年02月14日(金)00時00分58秒
「…好きです。」

中澤を抱きしめていた腕の力を緩め、その顔を覗き込む。

「バレンタインには参加して貰います。」
「…やから…。」
「いいっすよ、チョコくれなくて。
けど、吉澤も持ってないんで…。
恋がいつもチョコレートみたいに甘い口溶けだったらいいのに、
てことで甘い口付けを。」

――。

「…阿呆。」
「…そうっすね。」

「………好きやで。」

260 名前:オニオン 投稿日:2003年02月14日(金)00時04分22秒
>>253
アレっすか…。
う〜ん…保留で。他にも読みたい人いたら書きます(自演可
こんなことにってどれがそう言わせたのだろう…。
261 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月14日(金)15時58分17秒
久しぶりに覗かせてもらいました。そして萌えましたw
オニオンさんの描く吉はどれもイイっすねぇ〜
黒も素直な吉も好きです。
オニオンさんのおかげでなかよしにハマリました。

自分も253さんに賛成!
是非「恋愛感情」の過去6、読みたいです。(出来れば続編も希望です)
あ、ちなみに自演じゃないですよw
262 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月15日(土)16時03分33秒
(0^〜^)ノ<読みたいでっす
263 名前:13個目 投稿日:2003年02月15日(土)23時02分02秒
―前途遼遠―
264 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時03分04秒
・零・

2002年9月22日。
後藤真希の卒業特番が生放送されたその直後。
後藤は中澤に告白した。

「裕ちゃんのことが好きだよ。」

265 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時04分00秒
・壱・

気付いていた。
後藤と中澤が付き合っているであろうことに。
ずっと見ていたから。ずっと想っていたから。
その瞳は誰を映し、誰の瞳に映りたがるのかを知っていた。
ずっと、好きだったから。

後藤のいなくなった楽屋。
吉澤は鏡に映る自分を睨みつけ、もうここにはいない彼女への敗北感に襲われていた。

―ずるいよ、ごっちん…、ずるいよ…。

「…よっすぃー…。」
「…あ、安倍さん…。」

声に気付き視線を自分から少し左へスライドさせると、
自分以上に難しげな表情を浮かべている安倍の顔が鏡に映っていた。

「…大丈夫?」
「何が、ですか?」
「…好きなんだよね…?」
「…。」
「…なっちはさぁ、よっすぃーのそんな暗い顔、見たくないんだ…。」

安倍は服の裾をぎゅっと握り、鏡の中の吉澤と目を合わせる。

266 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時04分48秒
「…一番に、なれなくてもいいからさ、二番でもいいからさ…
よっすぃーのそばに、いさせて…。」
「…安倍、さん…。」
「好きになってくれなくてもいいから、なっちは、よっすぃーのそばにいたい…。
よっすぃーが好きだから…。」

やさしい手が差し伸べられる。
恋に破れた、好きと言う間もなく悲しい結末を迎えたこの恋心を知りながら、
それでも彼女は手を差し伸べる。
砂漠の中を彷徨い歩く中で出遭うオアシスのような言葉。
この手を取ってしまえば、楽になれるのかもしれない。
人知れず泣くことも、もうなくなるのかもしれない。
吉澤の心は安倍のやさしさの中へと埋もれてしまいたい衝動に駆られ始める。


『なっちは天使』
確かにその通りだな、と吉澤は思った。
もうどうしようもなく廃れてしまおうとしていた心に風を吹き込ませ、
光を射し込ませ、水を注いでくれる。
きっと、こんな人を好きになれば幸せになれるのだろうなと思わせてくれる人。

267 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時05分31秒
「…付き合いましょうか?」

安倍の告白から数日が過ぎ、彼女のぬくもりを痛いほど感じていた。
彼女のために、自分にとっても、これが最善なんだと思えた。
だから、そう言ったのは吉澤の方。

「い…いいの?」
「駄目っすか?」
「ううん、全然。
ありがと…。」

これで解放されるんだ。
終わりにすることもできず、心を埋め尽くしていただけの恋心から。
そう思ったから、本当にそう思ったから、吉澤が安倍に見せた微笑は嘘なんかじゃなかった。

268 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時06分07秒

△▼△▼△

269 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時06分51秒
現実はそんなに甘いものではなかった。
これからは安倍のことだけを想い、そして愛していこうと決めたはずなのに、
心はそれを許してはくれなかった。

270 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時07分48秒
夢は、幸福なはずの日々を否定する。

中澤と楽しげに笑い合う後藤。
夢の中では為す術なんてない。
ただその二人の姿を、遠くから、けれど鮮明に捉え続ける瞳。

二人が重ねる唇。
夢の中の自分が泣いている。
これは夢なんだと思いながらも胸が締め付けられる。
心が泣き喚いている。

夢の中の中澤が「吉澤。」と呼ぶ。
年齢を感じさせない柔らかな微笑み。
少しだけ、何かを企んでいるような、いたずらっぽい微笑み。
夢の中の自分が勝手に思い知る、
自分の心をこんなにも浮かれさせられるのは彼女の存在だけなんだと
勝手に思い知る。
耳障りのいい中澤の声が現実へと引き戻す。
その心の中に住んでいるのは自分なんだと言うかのように。

いつも、そうだ。 
中澤が夢に現れるようになってからというもの、朝、吉澤が目覚めると
いつも枕は濡れていた。
これっぽっちも愛は衰えていない。
愛しくて愛しくて愛しくて…愛が涙となって溢れていた。

「――駄目じゃん、全然。」

271 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時08分31秒

△▼△▼△

272 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時09分13秒
風が少しだけ強い日。
長袖を二枚重ね着している両手をポケットに突っ込みたくなるような日。
中澤とも後藤とも安倍とも顔を合わせなければいけない日。

テレビ局の廊下の突き当たりで、無造作に積まれたダンボールに包囲されながら、
吉澤は安倍に告げる。

「…やっぱ、無理、でした…。
安倍さん、やさしくて、こんな吉澤のこと好きって言ってくれて…
けど、安倍さんがやさしければやさしいだけ、誤魔化せられなくなってくんすよ、
中澤さんへの気持ちを…。」
「…よっすぃー…。」
「勝手なのは分かってます。けど…。
やっぱり、安倍さんとは付き合えないです…すいません。」
「っう…。」

安倍の瞳から涙が溢れていく。
引力に逆らうことなく次々床へと落下していく。

「…。」

何も言えない。
そんな言葉を持ち合わせてなんかない。
今吉澤が掛けるどんな言葉も、この涙を増大させることはできたとしても、
止めることなんてできないだろうから。
273 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時10分02秒
ただ見つめることしかできない吉澤。
ただ泣くことしかできない安倍。
そんな二人を偶然視界に収めてしまった一人の通行人。
すぐそこで立ち止まった足音に気付き、視線を向ける吉澤。

「吉澤…あんた何なっち泣かして…。」

慌てて安倍の元へと駆け寄り、その髪に触れようとした時、
中澤の手を安倍が振り払った。

「・・・なっち・・・?」

訳も分からず拒絶され、たじろぐ中澤。
安倍はまだ涙を堪え切れずに、けれど走り去ろうとする。

「…ごめっ…。」

このまま安倍を放っておける訳もなく、中澤は後を追い駆けようとする。
けれど中澤の手を掴み、吉澤はそれを阻止する。
274 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時10分40秒
「…行かないでください。」
「けどっ、なっち泣いて…。」
「行かないでっ。」

「…好きでした。
 ずっと…中澤さんのことが…。」

前触れもなくそう言われ、なかなか理解できないでいる中澤に吉澤はキスをした。

「…すいません…。
その唇がごっちんのものだって分かってるんですけど…。
忘れてください……。」

275 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時11分21秒

△▼△▼△

276 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時12分08秒
あれ以来、後藤と一緒にいるというのに、ふとした瞬間に思い出される吉澤の顔。

―あの日、あの時、何故か、あぁ、人は誰かを好きになるとこんな顔するんやなぁって思った。

中澤は別に何も悪くない。
たまたま泣いている安倍を目撃し、拒絶され、吉澤に告白され、一方的にキスをされた。
言わばあの日の一番の被害者なのだから。
なのに、後藤への罪悪感に襲われている。
その罪悪感に完全に支配される前に、後藤を抱きしめる。

―…揺れて、るんか…?私、揺れてんのか…?
 触れてへんかったら不安で…このままやと吉澤の方にぐらついてしまいそうで不安なんか…?

「ごっちん…好きやで…好きやで…。」
「何?急に。
いつもあんまり言ってくんないのにさぁ。」
「…好きや。」

何度となく唱えるのは、自分に言い聞かせるためだったのかもしれない。

277 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時12分47秒
・弐・

後藤はモーニング娘。の楽屋に乱入していた。
場所はテレビ朝日。
後藤の今日のスケジュールにはない。
つまり、仕事の合間にわざわざやってきた、ということ。

「誰か裕ちゃんに手ぇ出したでしょう?」

後藤の突然の訪問ということだけでも十分驚いていたメンバーは、
その後藤から発せられた言葉により、更に唖然とする。
その中で一人だけ、一瞬驚いたものの、ゆっくりと手を上げる者がいた。

「…自分、かな。」

それを見て、後藤は吉澤の正面へとつき歩いていく。

「裕ちゃんはゴトーの恋人なんだから。
よっすぃーにも譲らないんだからっ。」

言ってやった、という表情をして、後藤は楽屋を後にする。
たったそれだけ、そのたった一言を言うためにやってきたのだ。

「何、あれ…?」
「裕ちゃんはゴトーの恋人なんだから、かぁ。」
「知らなかったよねぇ。」
「ほんとほんと。」

278 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時13分28秒
―譲らない、か。
 何か、正面からそう言われると足掻きたくなるんだよねぇ。
 ほんとはもう諦めようかなって思い始めてたのにさぁ。
 ごっちん、何で火に油注ぎにきちゃったんだろう。

吉澤は苦笑する。

「よっすぃー。裕ちゃんのこと好きなの?
だったら頑張ってね。」
「……。
もしかしてごっちんのこと好きなんすか?」
「…。」

頷いたりはしなかった。
けれど吉澤はそれを肯定と受け取った。

279 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時14分03秒

△▼△▼△

280 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時14分49秒
その夜。

「ごっちん。今日モーニングのとこ乱入したんやってなぁ。
かおりからメールきたで。」
「駄目だよ。」
「んー?何がな。」
「これからもずっとゴトーのことだけ見ててくれないとヤだからね。」
「…見てるよ?」
「…よっすぃーのこと、好きになっちゃヤだからね…。」

後藤の両手がギュッと中澤を抱きしめる。
やさしく抱き返す中澤。

―大丈夫。きっとあんまり突然のことやったから、ちょっと動揺しただけや。
 大丈夫。私が好きなんはごっちんだけ…今までも、これからも…。

「ごっちん…。しよか?」

―刻み込ませて。私ん中に後藤真希って存在を。
 もう他のもん何も見えんようになるくらいに…。

281 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時15分32秒
・参・

第二ラウンドがやってきた。
吉澤の告白から二週間。
中澤は結局安倍が泣いていた理由を知らないでいた。

「裕ちゃーん、久しぶりぃ。」

そんなことを考える間もなく、後藤に声を掛けられる。

「何言うてんねん。一昨日会うたばっかりやんか。」
「でも久しぶりなの、ゴトー的には。」

オーバーなくらい、体当たりでもするかのように抱きつてくる。

中澤も分かっている。
後藤は自分と中澤のことを吉澤に見せつけようとしていることくらいは。
だから、それに便乗する。

「…会いたかったで。」
「ゴトーもだよ。」

―大丈夫。こんな愛しいやんか。

282 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時16分13秒
当然の如く、スタジオでいちゃつく二人の姿は簡単に吉澤の目に飛び込んでくる。
わざとだとは分かっていながらも邪魔をしたくなる。
そう思うと勝手に踏み出そうとしていた吉澤を、矢口が制す。

「…矢口が、いってくるよ。」

吉澤の返事を待たず、二人の元へと向かう。

間もなくしてその姿は中澤の視界へと進入する。

「うぉぉっ、矢口やんけーっ。
今日もめっちゃかわいいなぁ。」

間髪入れず、「ごめん、ごっちん。タイムな。」と、後藤の腕を解き矢口を羽交い絞めにする。

「相変わらずウサギみたいな抱き心地やなぁ。」

矢口は知っている。
中澤は自分を見かけた途端にこうしてくることを。
そして自分が、後藤が唯一焼餅を焼く相手であるということも。

複雑だった。
こうして中澤の腕の中にいる間は後藤に嫉妬されている。
けれどその当の本人は後藤に嫉妬して貰える中澤に嫉妬しているのだから。
矢口にとって何の得にもなりはしない。

283 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時16分48秒
「もぉ、裕ちゃん。
いつまでやぐっつぁんに抱きついてるのぉ。
ゴトーは?ねぇ、裕ちゃぁん。」
「ごめんごめん。矢口があんまかわいいもんやから、つい、な。」
「えぇーーっ。
ゴトーはかわいくないって言うのぉ。」
「そんなん言うてへんやんか。」

後藤は色々な表情を見せる。
多種多様に表情をくるくる変え、惜し気もなく見せる。
あぁ、かわいいなぁって思う。
けれどそれは矢口のためのものじゃない。
中澤のためだけに零れるもの…。

284 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時17分31秒

△▼△▼△

285 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時18分07秒
スタジオでの「ごっちん」ぶりに反して、帰りのタクシーの中で後藤は黙り込んでいた。
中澤が家に誘ったところまではいつも通りだった。
けれど、テレビ局を出たところで急に頭を垂れ、表情が一変した。

その原因は矢口のことなのか、それとも吉澤のことなのか、中澤には分からない。
とにかく、目も合わせてくれず、怒っているらしいことだけが確かだった。

そのまま、中澤の住むマンションへと辿り着いた。
タクシーから降りた後藤は、立ち尽くし微動だにしない。

「…ごっちん?」

―泣いて、る…?

「え、あ、ごっちん?どないしたんや?
泣かんといてやぁ。な?な?ごっちん。」

溜め息をつくように息をする音以外立てず、直立不動で泣いている後藤を抱きしめて、
背中をそっと叩いてあげる。

286 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時18分58秒
「っく…うっ…。」

じんわりと胸の奥がずきずきと痛み出す。
ピアノ線のようなものが心をがんじがらめにするみたいに、引き千切られそうにぎゅっとなる。

「…ごめんな、ごめんなぁ…。」

「…ゴトーは、さ…そんな、ツヨ、クな…んだよ…?
不安に、だって…なる…。だから…。」

後藤がしゃくり上げる度、大きく打つ鼓動が、中澤の胸へと伝わってくる。

「ほんまに好きなんはごっちんだけや。
ごっちんだけが大切なんや。
ごっちんだけが私のこと好きでおってくれたら、他に何もいらん。」

一生、手放したくはない。
これからもずっとずっとそばにいたい、そばにいて欲しい…。

287 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時19分29秒

△▼△▼△

288 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時20分10秒
吉澤は自分の部屋の中、ベッドに寝転がり天井を見上げていた。

今頃、後藤と一緒にいるであろうことが容易に想像できる中澤のことを想いながら。

好きでした、と告げることでもういっぱいいっぱいで、けれど、
指でなぞる唇は未だ熱を帯びているように思える。
まだ、感触が残っている。
忘れてくださいと言ったのは吉澤の方。
けれど、忘れられはしない。
例えそれがどんな事態を引き起こそうとも、後には引けない。
仮に、この先後藤との仲が悪化するのだとしても諦められはしない。
例え、後藤のその気持ちが中澤にとって一番幸せなものなんだとしても、
もうどう足掻いても無駄なんだとしても、やめることなんてできない。

吉澤は知っている。
それが好きってことなんだ、てことを。

289 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時20分52秒
・四・

中澤のケータイが着信を知らせるために揺れている。

後藤のケータイが着信を知らせるために揺れている。

「…はい。」

中澤が出た電話の相手は吉澤。

「…んぁ。もしもーし…。」

後藤が出た電話の相手は矢口。

『話したいことが…。』

二人はそう告げる。
時計の針がもう明日を刻もうかという頃。

その電話から数十分後、吉澤は中澤の家へ、矢口は後藤の家へとやってきた。

毎日、今日も、忙しいスケジュールのはずなのに、
その疲労も顧ず足を運ぶほどの話、と言うのだろうか。
とりあえず二人はその労をねぎらう。

290 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時21分38秒
中澤は吉澤の言う「話」が何なのかを察していた。
確か、ではないが、その予測のせいで上手く笑うことができないでいる。

後藤は矢口が中澤のことできたんだと思い込んでいた。
矢口は後藤が自分の想いなど気付いていないであろうことを知っていた。
それだけに、半端でない緊張に襲われていた。

291 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時22分32秒
「…私、ごっちんと付き合ってんねんで?
私が好きなんはごっちんなんやからな。」

吉澤が口を開く前に忠告する。

意気込み十分できたはずの吉澤も、頭ごなしにきっぱりそう言われるとさすがに辛い。

「…好きなんすよね。うん、ごっちんのこと、好きなんすよね…。
どれくらい、好きですか?」
「どれくらいて…、掛け替えない存在や。」
「”ごっちんなしじゃ生きていけない”?」
「…せや。」
「…それが、好きってことっすよね?」

少し左右に揺れていた吉澤の瞳が中澤の瞳をきっちりと捉えて止まる。

「自分勝手なのは分かってるんすよ。
けど、吉澤だって中澤さんのことが好きなんです。
吉澤だって中澤さんのいない生活なんて考えられないんです。
好きって気持ちは平等っすよねぇ…?
なのに、吉澤のこの気持ちは報われることもなくって、
中澤さんじゃないと駄目なのに、それさえも許してはくれないんすよねぇ…。」

吉澤はこみ上げてくる悲しみを堪えるように奥歯を噛みしめる。

292 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時23分09秒
「ごっちんが、楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに笑う度、胸が締め付けられて、
代われるものなら代わりたいって…。
ごっちんの代替でいいから、そこにいきたい、いたいって…。
もう、嫌いになろうって思っても、中澤さんのいいとこしか思い出せなくて、
勝手に、好きって気持ちが大きくなってって…。
好きです。好きなんです…。」

吉澤は頭を抱え込んで、玄関の扉にもたれかかる。
視線が徐々に落ちていき、それにつられるように体も沈んでいって、
そしてその場にうずくまる。

293 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時23分54秒
「珍しーよね?
やぐっつぁんがゴトーん家にくるなんてさ。」
「…。」
「もぉ、何で黙り込むのぉ?やぐっつぁん。」

矢口の顔を覗き込む。

「…ごっちん、幸せ?」
「え?…う、うん…。」
「矢口はさ、全然幸せじゃないんだ…。」
「…ゴトーが裕ちゃん取っちゃったから?
そーだよね、やぐっつぁん裕ちゃんのこ…。」
「ごっちんが、好きだよ。
矢口はごっちんのことが好きなんだよね…。」
「…やぐっつぁん…?」
「ごめんね?裕子と二人でいるとこ、邪魔ばっかしてさぁ。
裕子が矢口にやさしいの知ってて、わざとあんなことしてごめんね…。
けど、矢口はごっちんのこと、好きで…。
裕子が羨ましかった。」
「…ごめん…。」
「矢口の方こそ、ごめん…。」
「やぐっつぁんのこと好きだよ。
けど、裕ちゃん以上にはなんないんだ…。」
「…うん。」

後藤はやさしく矢口を抱きしめる。

「ごめんね、やぐっつぁん…ごめん…。」

294 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時24分58秒
―好きって気持ちは平等、か…。
 確かにあんたの言う通りやな。
 片思いって全然ええことないやん…。
 やのに、人を愛さずにはおれんのよなぁ。

「…。吉澤ぁ。大丈夫か?」

中澤はいつもの自分を思い出しながら、吉澤の頭を撫でてやる。
きっと、やさしさなんてものは、今は迷惑にしかならないだろうけど、
それでも、吉澤の気持ちがよく分かるから。
これは、一人間としての思いやりだから。

「…嫌いって言ってください…。
中澤さん、やさしすぎるんすよぉ。
だから吉澤みたいに勘違いに惚れる人間出てきちゃうんすよ。
嫌いって言ってくださいよぉ。
傷付けてくださいよ…も、楽になりたい…。」

「嘘は、つかれへんよ。」

また、だ。
心が揺れ始めている。
今まで、特に吉澤のことを意識する、ということなどなかったはずなのに、
心がざわつき始めている。

295 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時25分45秒
「何でもいいから…傷付けてくださいよぉ…。
中澤さんっ…。」


―あぁ、そうか。やっと分かったわ。
 私もいつか、こんな科白言うたことあったわ。
 あの頃の自分に、今の吉澤が似てるんやわ…。

恋愛なんて得意な方じゃなくって、いつも、結構辛い思いばかりをして、
そんな、少しだけ過去の自分に。

「…ありがとうな、吉澤。」

もしも、後藤が好きだと言う前に吉澤が中澤に愛を告げていたなら、
何かが変わっていたのだろうか。
もしかしたら、今ここでこんな風に苦しんでいるのは吉澤ではなく、
後藤の方だったのかもしれない、のだろうか。
けれどそれはもしもの話。
後藤は吉澤よりも先に好きだと言った。
中澤はそれを受け入れた。
事実は一つだけしか存在しない。

「…馬鹿っすね、吉澤。
振られてるっていうのに、中澤さんのこと、好きになってよかったって思ってるなんて…。」

「――。ありがとう。」

296 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時26分21秒

△▼△▼△

297 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時27分08秒
中澤の家を後にした吉澤は、矢口の電話を掛ける。

「…見事、玉砕っす。」
『…矢口も、だよ…。』
「けど…好きになってよかったって思える人なんで…。」
『うん…。矢口も、ごっちんを好きになったこと、後悔してないよ。』
「…失恋パーティーでもしますか?」
『いーねぇ。今何処?』
「んー、東京。」
『よっすぃー…相変わらずだねぇ。』
「ども。ほんとはそっち向かってるんすよねぇ。」
『マジで?矢口もそっち向かってるとこだよ。』
「そぉなんすか。奇遇ですねぇ。」
『…。泣くなよぉ〜。』
「泣いてないっすよぉ。」

キミを、好きでよかった。
胸を張って言えるよ。
やさしくて、たった一人だけを愛する、真っ直ぐなキミを好きになってよかった。

298 名前:ZENTO−RYOEN 投稿日:2003年02月15日(土)23時27分47秒
・五・

後藤は矢口に告白されたことを中澤に告げる。
中澤も吉澤に告白されたことを報告する。

「…裕ちゃん。」
「んー?」
「帰ってきてくれてありがとう。」
「ごっちんも、な。」
「ま、ね。」
「…ただいま、ごっちん。」
「…おかえり、裕ちゃん。」

299 名前:―前途遼遠ー 投稿日:2003年02月15日(土)23時28分28秒
300 名前:オニオン 投稿日:2003年02月15日(土)23時30分37秒
正確にいえばなかよしではなかったのですが、
よし→なかを主軸に書いてたつもりなので
なかよしカウントにしました。
301 名前:オニオン 投稿日:2003年02月15日(土)23時34分33秒
>>261
なかよしにはまったと言って頂き光栄です。
今回のは。。。微妙ですが。
>>262
わざわざ自演ありがとうございます。
やっぱ書くべきなんですね…。
責任取らないっすよ、予想に反する内容でも。


302 名前:オニオン 投稿日:2003年02月15日(土)23時35分52秒
(僕の書く続編って良かったことって一度もなかったような…)
なので、過去6だけ頑張って書かせて貰います。
303 名前:オニオン 投稿日:2003年02月15日(土)23時53分05秒
しまった。「僕」って書いちゃってる。。。
逝ってきます。探さないでください。。。
304 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月17日(月)13時55分00秒
探します、探しますよどこまでも!
帰ってきて下さい!!
前途遼遠、良かったです。こういうなかよしもありかと。

305 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月19日(水)20時04分52秒
((((0^〜^)<作者さぁ〜〜ん  ←ぴたクリ

私たちは何も見なかったコトにするので帰って来てください。

                       
306 名前:オニオン 投稿日:2003年02月22日(土)13時44分34秒
たっだいまぁ…(右見て左見て)。
気分は親と同居してる人の朝帰りです。
なので、sage
307 名前:5つ目 投稿日:2003年02月22日(土)13時47分03秒
―恋愛感情― 
  続き
308 名前:<過去 6> 投稿日:2003年02月22日(土)13時47分59秒
SIDE:N

中澤は幸運にも、大学を卒業してすぐに、教師の職を手に入れることができた。
その間に一度転勤も経験した。
その転勤した先は、私立の男子校で、詰襟のホックはもちろん、
第二ボタンまで開けているような高校。
つまり、あまり素行のいい学校ではなかった。

「先生ぇ、今日はスカートじゃないんすねぇ。
もっと俺らにサービスしてくださいよぉ。」
「ほんまやな。
男ばっかのとこ押し込められてんのやから、網タイくらい履いて貰わんとやりきれんわ。」
「っつーか、いっぺんやらせろや。
減るもんやないんやし。」
「ヒューッ。タカの告白出たぁ〜。」
「なら、その次俺な。」
「俺も。やれるもんはやっとかんと。」

授業中だというのにこの有り様。

309 名前:<過去 6> 投稿日:2003年02月22日(土)13時48分56秒
落書きだらけの教科書を広げているのはまだマシな方。
机に足を乗せて、後ろの席の生徒とメールの見せ合いをする者。
ボタン全開で赤シャツを着て、茶髪にピアスでセクハラ発言を多用する者。
とりあえず興味があるのは胸元だけという生徒もいる。

「あんたら、私の授業真面目に受ける気ないんな?
進級できんで。」

「そしたら体で単位稼ぐしぃ〜?」
「ハハハッ、マジそれ最高ー。」
「「「カラダ、カラダ、カラダ、カラダ…」」」

”くだらん。”

わずか一年の勤務で、中澤はあっさりと退職願を出した。
桜の花が咲く、2000年の春のことだった。

310 名前:<過去 6> 投稿日:2003年02月22日(土)13時49分47秒
SIDE:Y

心は腐っていた。
自分のことに関心のない父親。
父親に何も言えない母親。
父親の引いたレールの上をただ歩いていく兄。
そんな窮屈な、温もりなどひとかけらもない環境で育った吉澤の心は
深い眠りに落ちていた。

いつしか、自分も兄のように、定められた道を、先の見える道を歩くようになるのでは
ないかとさえ思い始めていた。

311 名前:<過去 6> 投稿日:2003年02月22日(土)13時50分31秒
「よっすぃー、帰りにマック寄ってこーよぉ。」
「あー…ごめん、ごっちん。」
「何、今日も塾ぅ?」
「んー、ごめん。」

後藤は気にしていた。
近頃、特に吉澤の視線が下の方に向いていることを。

ただでさえ人付き合いが上手い方ではないのに、今まで以上に分厚い壁で
仕切られているような感じがした。

後藤を残し、吉澤は教室を出る。

312 名前:<過去 6> 投稿日:2003年02月22日(土)13時51分25秒
「…好きで通ってる訳じゃないんだけどね…。」

他に術がなかった。
体裁を気にする父親の視界になるべく入らないようにするには
これしか方法が見当たらなかった。

もう、どうでもよかった。
将来に希望など持っていないから。
行けと言うのならこの道を行くのもいいのかもしれないと思っていた。

諦めたつもりだった。
けれどどこかで期待していた。
自分の心を救い出してくれる者の存在を。

吉澤が中澤に出逢うまで後約6ヶ月。


313 名前:オニオン 投稿日:2003年02月22日(土)13時54分19秒
>>304
>>305
ごめんなさいごめんなさい。
一週間も自分見失ってて、それでこんな話しか書けなくて。
ちゃんとやります。次はきっと。
314 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月22日(土)19時10分45秒
おかえりなさーい。
これからも楽しみにしてます。
315 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月22日(土)20時39分55秒
お帰りなさ〜ぃ。
たまにゃ朝帰りもいいもんです。(・・・意味が違う)
316 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月25日(火)13時43分03秒
おかえりなさい・・ってかsageで帰ってきてたのかw
つづき!つづき!
↑せかしすぎ。
317 名前:14個目 投稿日:2003年02月26日(水)01時52分54秒
―融化―
318 名前:融化 投稿日:2003年02月26日(水)01時53分51秒
真夜中。

中澤の家を出る時、いつも吉澤は中澤を抱きしめる。

中澤の体温に支配されながら、

「もっと、一緒にいたいなぁ…。」

と、寂しげに、名残惜しげに吉澤は呟く。

「そんなこと言わんとってや。
私やって離れたないんやから。」
「…すいません。」

心の中で自分を説得し、両手を放す。

「おやすみなさい…。」

軽くキスをして、扉の外へ消えていく吉澤。

中澤の鼓動が、激しく暴れ始める。

―ヨシザワ。ヨシザワ。ヨシザワ…
ズット コノテニ ダイテタイ―

319 名前:融化 投稿日:2003年02月26日(水)01時54分39秒
数日後。

午前一時を回った頃、吉澤のケータイが軽やかなメロディーを奏でた。

「はい。」
「…吉澤…会いたい…。」

力ない中澤の声。
もう眠りかけていた体を奮い起こし、慌てて着替えて家を出る吉澤。

大通りへと出て、タクシーを拾った直後に、雨がぱらつき始めた。
その雨は勢力を強め、前を行く車のテールライトがぼやけて見えるくらいに
激しく窓を叩きつけてきた。

中澤のマンションの近くでタクシーを降り、走る。
雨に濡れた黒髪がいっそう黒いツヤを持ち、重たげな色へと変わっていく。

320 名前:融化 投稿日:2003年02月26日(水)01時55分19秒
「中澤さん。吉澤です。」

インターホン越しに、息を切らしながら吉澤がそう告げると、すぐに扉が開かれて、
吉澤の姿をその目に捉えた瞬間、中澤はその体を抱きしめた。

「えっ、あ、あのっ。
吉澤、濡れてるんで、服、中澤さんの服も濡れちゃいますよ…?」

吉澤の注意も中澤の耳には入らない。

「吉澤…好きや…吉澤…。」

その代わりに、何度となく吉澤の名を呼ぶ。

「…大丈夫。ここにいますよ。ここにいますから。」

――――。
321 名前:融化 投稿日:2003年02月26日(水)01時56分02秒
そして、朝がやってくる。
二人を再び引き離す朝が。

吉澤はいつものように、玄関で中澤のことを抱きしめる。

「私、いつも思うんや。
死ぬ時は、ここで死にたいって。
吉澤の腕ん中で…。」
「吉澤残してですか?」
「あんたのおらん世界でや生きてかれへんから。
あんたのおる世界で、あんたの腕ん中で死にたい。」

中澤からキスをする。
長い長いキス。

中澤は思う。
このまま溶けて混ざり合って、ひとつになれればいいのに、と。


322 名前:オニオン 投稿日:2003年02月26日(水)02時00分33秒
…黒中をね、書きたかったんすよ。
ほら、なかよしの黒担当って吉澤じゃないっすか。
だから…
無理。中澤さんピュアだから。(痛っ
駄目だね、うん、分かってますよ。
反省ついでにお蔵出しを。
初の元ネタ有り作品。と言っても短歌ですが。
想像と言う名の妄想で書き上げたものです。
323 名前:15個目 投稿日:2003年02月26日(水)02時01分12秒
―ヒツジ―
324 名前:ヒツジ 投稿日:2003年02月26日(水)02時02分06秒
「吉澤ぁ、もう起きなあかんよ。」

せっかく心地良く眠っていたっていうのに朝は駆け足でやってくる。
そりゃぁ、こうやって揺り起こしてくれる中澤さんの存在は有難いし、幸せなんだけどさぁ…
もうちょっと眠ってたいよ。

「…うーん…。」
「もぉ、だらしないなぁ。」

ぐずぐずしてると中澤さんの手がぺちぺちと気のない音を立てて額を小突いてきていた。
仕方なく薄目を開けてると、思っていた以上に顔が近くにあって。
ふんわりとした中澤さんの匂いが鼻をくすぐってきた。
昨日と同じ匂い。
たぶんシャンプーのだったと思うけど…その匂いが蘇えらせる。
この腕の中にいた中澤さんの顔を。声を。感触を。

あれからまだ何時間かしか経っていないっていうのに、中澤さんはこんなさわやかな顔して、
勝手にスイッチ切り替えちゃってて、何だかなぁって思う。

325 名前:ヒツジ 投稿日:2003年02月26日(水)02時02分48秒
「ほんまに起きんと間に合わへんよ?」

分かってますってば。
けど、けど、あとちょっとだけ…。
私は手を伸ばして中澤さんの羽織っているカーディガンの襟元を引き寄せた。

「ちょっ、こらっ吉澤。」

昨夜数えた羊の群がぴょんぴょんと飛び跳ねて、
朝日の向こうへと帰っていってる。
けど、私は高い柵を作って羊たちを捕まえる。
まだ終わらないで。
あと少しだけ覚めないで。
もう少しだけこの幸せな時を続けさせて。
あと少し、ほんの少しだけでいいから――


326 名前:16個目 投稿日:2003年02月26日(水)02時03分25秒
―きっと君は知らない―
327 名前:きっと君は知らない 投稿日:2003年02月26日(水)02時04分26秒
目が覚めたら見慣れた天井が目に入ってきた。
カーテンの向こうに光はなくて、たぶんまだ真夜中っていうことがうかがえた。
とりあえず現状を把握しようとベッドから起き上がったら、頭がずきずきした。
あぁ、そういえば昨日飲んでたんやったっけ。
あかんなぁ、気が許せる人と飲んでたらついついペース上げてまうねんから…
反省しよう…。
―って、私、誰と飲んで…。

リビングへのドアを開けたら、その答えは転がっとった。

328 名前:きっと君は知らない 投稿日:2003年02月26日(水)02時05分33秒
「……吉澤やん。」

そら、そうやわな。
私、今あんたと付き合っとるんやし、私をベッドに運べるよーな力持ちは
あんたぐらいなもんやしな。

二人掛けのソファーで窮屈そうに眠る吉澤の寝顔を、せっかくやから
ちょっと拝ませて貰うことにした。

「…。」

…あかん。どないしよう。
スヤスヤ眠るって、たぶんこーゆーこと言うんやろうな。
やばいわ。めっちゃかわいい…。
前髪、睫毛に触っとるから、目蓋ピクピクしよるし。

「…自分、やっぱり天才的やわ、ほんまに。」

あかんなぁ…。
こんなん見てしもたら、大事にせななって思ってまうやん。
嫌いになられたない。手放したない。
…けど、ほんまは吉澤の全てを手に入れたいって思てる自分がおる。
ごめんな、こんな人で。
けど、大事にするから、今日だけは、夢ん中で抱かせて。
そうでもせんと、私このままやと壊れそうやから。


329 名前:オニオン 投稿日:2003年02月26日(水)02時13分33秒
元ネタは「みだれ髪 チョコレート語訳」のとある短歌でした。

>>314
今回は楽しんでいただけたでしょうか…
訊くのも無駄な気がしますが。すいません。
>>315
えーっと。上手いのりツッコミが思い付きませんでした。
せっかくのってくれたのに…次こそはっ。(何か違う気が…
>>316
せかされて書きました。
ヘッドラインから入れば気付かない、というのを狙ったのに
気付かれちゃぁ意味ないじゃん…。

結論。もっとしっかりやれ、自分。
330 名前:オニオン 投稿日:2003年02月28日(金)04時34分39秒
今日の一言。
これは放置プレイなんだと思うことにしよう。
331 名前:17個目 投稿日:2003年02月28日(金)04時35分29秒
―言葉―
332 名前:言葉 投稿日:2003年02月28日(金)04時36分23秒
「中澤さん、好きです。」
「何やねんな、その突発的告白は。」
「好きです。」
「いや、分かったから。」
「ほんとに分かりましたか?」
「分かったって。」
「…。
好きです。愛してます。」
「よしざわぁ〜。他に言うことないんか?
それはもう分かった言うてるやろ。」
「…ないっす。
一番伝えたいことは、吉澤は中澤さんをめちゃめちゃ好きですってことですから。」
「そんだけ言うたら嘘っぽいで?」
「けど、いつ言えなくなるか分からないじゃないっすか。
明日突然言葉を失うかもしれないし。」
「何や、今日は発想もえらいとっぴやなぁ。」
「だから、いつそうなってもいいように、言える時にいっぱい言っておかないと。」
「…。
もし、そうなったら、吉澤の分まであたしが言うてあげるで…。」
「…え?あ、そ、すか…。」
「うん。言うたげるから。」

333 名前:オニオン 投稿日:2003年02月28日(金)04時38分05秒
SSS(スーパー・ショート・ショート)でした。
334 名前:18個目 投稿日:2003年03月01日(土)18時02分30秒
―言葉 U―
335 名前:言葉 U 投稿日:2003年03月01日(土)18時03分27秒
「吉澤。」
「はい。」
「元気か?」
「…。ええ、そこそこに。
って、何かそれ訊かれるの久しぶりな気がします。」
「…だって、訊く機会減った訳やし。」
「…。」
「それに最近元気そうやったし。
まぁ、たまに空元気っぽい時もあったけどな。」
「あ、ばれてました?」
「ばればれ。」
「そっかぁ…。」
「何か、あったりとかするん?」
「んー…あると言えばあるんすけど、ないと言えばないんすよねぇ…。」
「どっちやねんな。」
「ぱっと見はないんすけど、内面的には大有りっす。」
「…。
恋でもしてんのかぁ?」
「…恋煩いなんすかねぇ…。」
「嘘。ほんまになん?」
「吉澤は、吉澤としてはですね。」
「うん。」
「自分で言うのも何なんすけど、カッコイイ吉澤でいたいんすよ、基本的に。」
「うん。」
「けど、中澤さんは言ってくれるじゃないっすか、カワイイって…。」
「うん。吉澤はカワイイよ。」
「別に、誰に言われてもあんまりピンとこないって言うか、それなら
カッケーって言われる方が好きなんすよ。
でも、中澤さんにそう言われると、嬉しいって言うか…ドキッてなるんすよ、心臓が。」

336 名前:言葉 U 投稿日:2003年03月01日(土)18時06分05秒
「無理してるつもりはないんすけど、もしかしたらカッコイイ吉澤でいたいってことに関して
無理してるのかもしれなくて…。
けど、中澤さんの前ではありのままの自分でいられるって思ってるのかもしれないんすよ。」
「…。
あたしは別に吉澤が無理してるからとかそういうんやないと思うで。
たぶんな、みんな、テレビ見てる人とか、こう言うたらあれやけど、
吉澤の表面しか見てないと思うねん。
けど、あたしはちゃんと見てるつもり。吉澤の内面を見てるつもりやから。
だから、同じ吉澤でもあたしから見るとカワイく見えるだけやと思う。」
「…何か、告白大会みたいっすね、今。」
「人が真面目に言いよるのに勝手にイベント扱いしてからに。」
「あ、すいません。つい、ね、テレがですね、うん、その…。」
「そうやな。
そーゆうタイプやもんな、吉澤は。」
「…。」
「…いつも、ちゃんと見てるから。
いつでも元気な吉澤見せて。」
「はい。」
「ほな、またな。」
「はい。」

337 名前:言葉 U 投稿日:2003年03月01日(土)18時07分03秒
――。

知ってますよ、今のが愛の告白とかじゃなくて、吉澤を励ますための手段だってこと。
けど、きっと中澤さんは知らないんだろうな。
私の方は、愛の告白のつもりだったってことを。

338 名前:19個目 投稿日:2003年03月08日(土)03時37分34秒
―恋愛行為―
339 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時38分27秒
華やかな夜の街。
ネオンの光が目を眩ませ、達者な誘い文句が正常さを奪い去っていく通りを歩いている中澤。
目的地はその街に軒を連ねている「find」という店。
「find」は、女のホストが女を接待する店。
つまり、男装の麗人板ホストクラブ、といったところ。
その店で働く平家に会いにきたのだが、

「あ〜、ごめん、裕ちゃん。
今ちょっとどーしても手、空かんのよぉ。」

と、一蹴されてしまった。

怒りを通り越し、溜め息すら出なくなった中澤。
その背中越しに申し訳なさそうに声をかける者が一人。

「あの、お取り込み中のところ、申し訳ないんですけど…
通らせて貰えないっすか…?」
「あ、よっすぃー。
ごめんな、どうぞどうぞ。」

平家は中澤の肩を掴み、4分の1回転させて、吉澤を中へと通す。

340 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時39分06秒
「!
よっすぃー、今上がりなん?」
「え、あ、はい。」
「真っ直ぐお家帰る?」
「帰りますけど…?」

平家は口の端を上げてニヤリと笑う。

「なら、裕ちゃん家まで送ったって。」
「な、何言ってるんすか?!」
「何言いよんな?!」

二人はほぼ同時に驚きの声を上げた。

「仕事終わったら絶対行きますから。
家で大人しく待っといてくださいって。
で、カワイイ裕ちゃんをこんな夜道一人で帰らすのは心許ないから
よっすぃーが送っていく。決定。よろしくな、よっすぃー。」

と、勝手にことの成り行きを決め、平家はさっさとフロアーへと戻っていった。
341 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時39分46秒
「…。」
「…。」

二人とも暫し呆然としていたが、先に諦めがついた吉澤が口を開いた。

「…。
仕方ないんで送っていきますよ。
ちょっと着替えてくるんで待っててください。」

吉澤はそう言うと、ネクタイを緩めながら奥の部屋へと消えていく。

342 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時40分37秒
間もなくして、スーツからカジュアルな服装に着替え終えた吉澤が姿を見せた。

「じゃあ、行きましょうか。」

黄色いリュックを背負った吉澤は、あっという間もなく夜の闇の中へと消えていこうとしている。
それを見て中澤も慌てて吉澤の後を追う。

「…家、歩いて行ける距離っすか?」
「え。
あ〜…行けんことはないかなぁ。」
「そうっすか。
じゃあ、歩いていきましょうか。
曲がり角だけ言ってください。」

規則正しくアスファルトを踏み締める音を奏でながら吉澤は歩いていく。
中澤は何だかそれが面白くない。
確かに今出逢ったばっかりで、そうそう話すこともないだろうが、
そんなに無機質に隣に並ばれても困る。
他人同然の自分を送ってくれる、ということを差っ引いたとしても。

343 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時41分18秒
「そういやさっき、外から帰ってきたみたいやけど、
ホストじゃないん?」
「…。
呼び込み、です。」
「呼び込みかぁ…。
こんな寒い中スーツだけでか、大変やなぁ。」
「…。
金稼ぐ、てそういうもんでしょ。」
「…。
あ、そうや。
名前何て言うん?
私は中澤裕子って言うんやけど。」
「…。
吉澤、です。」

一度たりとも目線を合わせない吉澤。
その態度が中澤の神経を逆撫で始めていた。

344 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時41分56秒
「何や、さっきから素っ気ないなぁ。」
「…。」
「みっちゃんとおった時はそこら辺におりそうな普通のこに見えてたのに。」
「…。
次、右っすか?左っすか?」
「…。」

中澤は心の中で溜め息をついた。

「…右。」

何を言っても無駄だと判断を下した。
それからは必要最低限の会話しか交わされなかった。

345 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時42分48秒
そして無事に中澤の家へと辿り着いた。

玄関の門に手を掛けた中澤は、思い留まり振り返った。

「…。ありがと。送ってくれて。」

親の教育のたまものか、感謝の弁を述べずにはいられなかった。

それを受けて吉澤は急にさわやかを装い、返事をする。

「ほんとはお茶でもご馳走になりたいところですけど
後が恐いんでやめときます。
おやすみなさい。」

まるで何度となく使い古した科白のように、さらりと口にした。

346 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時43分23秒
――――――
347 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時44分11秒
数日後。

「…。
ほんまに呼び込みしてるんやなぁ。」

OLですっていう服装の中澤は、物珍しげに吉澤を見回す。

「…何すか、今日は。」

仕事中だからか、吉澤の表情がこの間よりも少し柔らかかった。

「観賞しにきたに決まってるやん。」

勝ち誇っているようにも取れる顔で中澤は微笑む。

「な、何してるん?裕ちゃん。」

するとそこに、丁度平家が通りかかった。

348 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時44分53秒
「あ、みっちゃん。
何やえらい遅いやん。
重役出勤かぁ?」

と、中澤。

「おはようございます。」

と、吉澤。

平家は軽く吉澤に挨拶を返し、中澤の方を見て、わざと馬鹿にしたような言い方で返事をした。

「違いますぅ。
ちょっと用があったんですぅ。」
「何その言い方。
カワイくないわぁ。」

中澤もそれに対し、わざと嫌そうな顔をして応える。
そんな二人のやり取りを直視してしまった吉澤は、堪えきれず笑ってしまった。

「くっ…。
仲いいんですね。」

349 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時45分47秒
「「よくないわ。」」

勿論、同時に反論する。

「くはっ…。」

二人の反応がツボに入ったらしく、またしても吹き出す。

「…。もうええ。いってくるわ。」
「いってらっしゃーい。」

平家はもう返す言葉も無く、諦めて店の方へと踵を返して歩き始めた。
それをしばし見送り、中澤は吉澤に話しかける。

「…。
ほな、私も帰ろか。」
「あれ?
マジで自分のこと見にきただけなんすか?」
「だから、そう言うてるやんか。」
「…絶対何かのついでだと思ってたのに…。」
「私、何でほぼ初対面やいうのに
そんな信用ないキャラに仕立て上げられてるんやろう…。」

あからさまに肩を落として呟く。

350 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時46分33秒
「あ、すいません。
あ〜…それと…。」
「ん?」
「…ありがとうございます。」
「…。」
「やっぱ、寂しいんすよ。ここに独りぼっちって。
そりゃ、ナンパまがいの勧誘してますけどね。
声かけても、かけられることって滅多にないっすから。」

手に持ったビラに視線を落として、少し照れ臭そうに吉澤は言う。

「…。
何か、見た目よりカワイイ性格してるんやなぁ。」

以前会ったのは偽者で、まるでそれとは別人、といった印象だった。

351 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時47分13秒
「…そんなこと、ないっすよ。」

吉澤の顔つきが変わる。
平家の登場という思わぬ展開があったためか、少し素の自分を出し過ぎた、と思ったのだろう。
ゆっくりと、その心のトビラが閉ざされていくのを中澤は感じていた。

「また、きてもええ?」
「…。
できればお店の方にお願いします。
自分の時給アップがかかってるんで。」

中澤の精一杯の言葉も、吉澤の営業用コメントに阻まれてしまった。

352 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時47分45秒
――――――
353 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時48分27秒
数時間後。
平家の家へとやってきた中澤はさっきから一向に進展のない問い掛けを
何度となく平家に投げ掛けていた。

「…。
なあ、裕ちゃん。」
「何〜?」
「それ、ほんまに私が答えんとあきませんの?」
「だって、自分じゃ分からんし。」
「…。」
「で、どうなん、これは。
教えてや〜、みっちゃん。」

挙句に、シラフのはずだというのに、たちの悪い酔っ払いのように絡み始める始末。

354 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時49分08秒
「…も〜、分かった分かった分かりました。
ほな、さっき言うたこと全部最初っから言うてください。」
「えー…やから、気になんねん。
冷たかったり、穏やかやったり、でもやっぱり冷たくて、人として間違ってると思うねん、あの性格。
けど、何か気になる。
けど、私は一目惚れするような人間じゃないねん、絶対に。
けど、気になる。いや、そんなはずないねんけどな。」

まるでメビウスの輪に嵌ってしまったかのような、難しい顔をして平家の方を見つめる中澤。
その様子が可笑しく思え、平家は「しょうがないなぁ」といった感じで答える。

「あんな、恋愛なんて頭で考えてするもんと違うんやから。
自分に言い訳考え始めてる時点で、それはもうスキやってことやと思いますよ。」

その言葉に、きょとんとした表情を浮かべる中澤。

355 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時50分01秒
「恋です、それはもう恋なんですよ、裕ちゃん。」

何故か平家はやさしくにっこりと微笑む。

「…ほんまに?」
「さあ?
それは裕ちゃんが一番よう分かってると思いますけど?」

中澤の心の中で風が吹き始める。
ざわざわと揺らし始める。

「…。
みっちゃん。
まだおるかな?あそこに。」
「んー、まだぎりぎりおるんとちゃいますかねぇ。」
「…行ってくるわ、私。」

立ち上がった中澤は慌しくコートとバッグを掴み、平家の家を飛び出した。

356 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時51分21秒
ハイヒールが、思うように進ませてはくれない。
バッグが腕をふる度前後に揺れて、バランスを奪おうとする。
暗い長い夜の道が、たった今決めたばかりの決意を不安へ変えようとする。

それにたじろぐことなく、何とかネオンの見えるところまでやってくる。

外界とは一線を画する独特の街並みへと突入した。
そして、その視界に、数時間前と同じ吉澤を捉える。

中澤は歩む速度を緩め、ゆっくりと息を整えながら吉澤の元へと近付く。

「……。
吉澤。」

その背中に声をかける。

「…あ。」

呼ばれて振り返った吉澤は本気で驚いたらしく、一歩後退した。

「何、してんすか。」

本日二度目のこの科白。

357 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時52分19秒
「私、どう言うたらええんか自分でもよお分からんのやけどな、
…吉澤のこと、好きでもええ?」
「は?」
「やから、何か分からんけど、好きらしいねん。
ええん?それともあかんの?」

言ってしまってもう後には引けなくなったからだろうか、
中澤は強気に詰め寄る。

「いや…けど、今日会ったのが二度目っすよ?
正気になった方がいいんじゃな…。」
「残念ながら、めっちゃ正気やっちゅうねん。」
「けどっ…。」
「ええやん、別に好きでおるくらい。」
「…じゃあ、別に訊かなくてもいいじゃないっすか。」
「あ。そうか。
ほな、勝手に好きでおるわ。」

それを聞いて安心したらしく今きた道を引き返えそうとした中澤は、
何かを思い出したように足を止めた。

358 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月08日(土)03時53分12秒
「好きや、吉澤のこと。」

思い知らされた、中澤の想いを。
吉澤は、そして中澤自身も――


359 名前:オニオン 投稿日:2003年03月08日(土)03時55分16秒
いるのかいないのかも分からないどちらか様に
とりあえず謝っとこう。
更新できず、ごめんなさい。
樹海を迷走してました。
360 名前:オニオン 投稿日:2003年03月08日(土)03時57分01秒
ぶっちゃけ、サイドストーリーありまくり。
後藤とか安倍とか矢口とか平家とか…
けど、まぁいいや。心の赴きに任せよう。
361 名前:オニオン 投稿日:2003年03月08日(土)03時59分16秒
♪だぁれもいないスレ〜
作者ひとりでsage続けまぁすぅ〜

…寝よう。
362 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)13時11分29秒
ちゃんと人いますよー。
他の作者さんなら一週間更新ないの結構普通なのに
オニオンさんが一週間更新ないと何かあったんだろうか?
と思ってしまう自分は完璧にオニオン中毒ですw
363 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)15時21分35秒
なぜかは分からないけどオニオン読者は隠れてしまう性質を持っているらしい。
かく言う私もその中の一人なわけで。
樹海からの帰還、おめでとうございます。
めでたいついでに、ありまくるサイドストーリーも読ませてくださいな。
364 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)19時20分48秒
同じく。ずーっと、こっそり読み続けてます。
そんで毎回毎回、続きが気になるっちゅーねん、って終わり方に
思いっきり釣られてたり。
つづき、つづき!
365 名前:恋愛行為―H― 投稿日:2003年03月09日(日)07時06分33秒
いつ、それを知ったのだろう。
その胸に募る感情が恋心であると…

366 名前:恋愛行為―H― 投稿日:2003年03月09日(日)07時07分47秒
友だちの友だち。
ごく普通に出逢った二人は、ごく普通に仲良くなっていった。
東京で知り合った関西人。
その貴重さが二人の距離が早く縮まる手助けをしたのかもしれない。
だからといって何か特別な交流があった訳ではない。
買い物に出掛けたり、食事をしたり、時たま仕事の愚痴を零したりもする、そんな友だちだった。

「スーツ着てても、女言葉遣わんでも、
みっちゃんはみっちゃんやんか。」

いつだったか、中澤は平家にそう言ったことがあった。
OLの中澤と、ホストの平家。
一般的な生活をしている中澤から見れば、自分の仕事は理解できないものではないだろうかと
不安に思っていた平家が、

「私の仕事、人から見たら信じられんって思うようなもんなんやろうなぁ。」

と呟いた時に、柔らかな微笑みを携えた彼女はそう口にした。

367 名前:恋愛行為―H― 投稿日:2003年03月09日(日)07時08分37秒
あの日以来、その言葉がどれだけ平家のことを支えていただろうか。
そして、それは今日まで続いていた。
いつの間にか、感謝や安堵といった感情は、愛情へと変化を遂げはしたが。

けれど、それを告げる時は一度たりともないと思っていた。
自分の存在する世界では、女同士の恋愛なんて何十通りも転がっている。
けれど彼女は普通の女の人だから。
平家は、ゆっくりとその感情を麻痺させ、蒸散させようとしていた。
中澤が吉澤に出逢うまでは。
何年も近くにいた平家の想いを知る訳もない中澤の心を、
出逢ってわずか一日の吉澤に奪われてしまった。

368 名前:恋愛行為―H― 投稿日:2003年03月09日(日)07時09分25秒
「…裕ちゃん。」
「ん?
何や、みっちゃん。」
「…。」

これまでと何ら変わることなく平家の家へとやってきている中澤。
今までと変わらず友だちのふりをしていようと思っていたはずなのに、
平家はその背中を抱きしめた。

「…どしたん?」


少し振り向いた中澤の髪が、頬をくすぐる。
まるで、心の中でくすぶる恋心を煽るかのような甘い香りがする。

369 名前:恋愛行為―H― 投稿日:2003年03月09日(日)07時10分10秒
「私…裕ちゃんのこと、好きやねん。」

抱きしめた中澤の体温が、何だか涙腺を刺激する。
いつも、中澤は暖かい。
春の太陽のようにぽかぽかしている。
けれど、その温もりは、平家へとは向けられはしない。

「みっちゃん…。」

中澤は何も答えなかった。
けれど、それは明確だった。

きっと、最初で最後になるだろう。
きっとこの先、平家がその想いを口にすることはない。

平家もそれを感じていた。
だから、今だけは、あと少しだけ、この背中を放したくはなかった。

370 名前:オニオン 投稿日:2003年03月09日(日)07時10分59秒
恋愛行為―H―



371 名前:恋愛行為―M― 投稿日:2003年03月09日(日)07時12分17秒
矢口真里。
大手証券会社の取締役を務める父親を持つ。
彼女は産まれた瞬間から、地位と名声と富とを手にしていた、筋金入りのお嬢様。

そんな矢口が今最も嵌っているのが「find」の人気No.1ホストの後藤だった。

372 名前:恋愛行為―M― 投稿日:2003年03月09日(日)07時13分01秒
後藤は矢口とは対称的な生い立ちを背負っていた。
幼い頃に両親を亡くし、施設の中で十数年の歳月を暮らし、
愛情や裕福さとは無縁の生活を送っていた。
そして、十六歳の時、意を決して園を出た。
体ひとつで彼女はこの世界へ足を踏み入れた。
二年間の雑用から抜け出し、自力でトップの座へと登りつめた後藤。
矢口のみならず、彼女の放つ独特のオーラに魅了されている女性は多い。

373 名前:恋愛行為―M― 投稿日:2003年03月09日(日)07時14分03秒
「矢口さん、お待たせ致しました。
後藤です。」

きらびやかな内装に、勝るとも劣らない笑顔で矢口のテーブルへとやってきた後藤。

「指名、多いみたいだね?」
「おかげさまで。
けど、矢口さんが一番ひいきにして頂いてますから、
ほんと、矢口さんのおかげで生活させて貰ってるって感じですよ。」
「そんなことないよ。」
「いえ、ほんとにそう思ってますよ。」

矢口の微笑みと、後藤の微笑みが絡み合う。

374 名前:恋愛行為―M― 投稿日:2003年03月09日(日)07時14分57秒
「…あ、そーだ。
前に欲しいって言ってた時計…。」

バッグの中を探り始めた矢口。

「はい、プレゼント。」
「え。
いーんですか?」
「いーよいーよ。
そんなに高くないし。」
「…うー、じゃあ、頂きます。
ほんと、ありがとうございます。」

100点満点をたたき出せるであろう極上の営業用スマイル。
心の中とは裏腹の。

そして交わされる、果てのない、空想恋愛用語の数々。
「愛してる」なんて、寝言ででも言える、そんな感覚の。
ホストはそれを上手く見え隠れさせながら接客をする。
客はそれを知りながらも知らない素振りで流される。
それが一番ラクにこの世界を楽しめる方法。
けれど、世間知らずのお嬢様は、そんなことを知りはしなかった。

375 名前:恋愛行為―M― 投稿日:2003年03月09日(日)07時15分43秒
一時の幻想時間が終わり、店を出る矢口を後藤は外まで送る。

扉を潜った矢口はまだ、夢の中にいるらしい。

「ごっちん、やっぱりそこら辺の男なんかよりカッコイイね…。」
「そうですか?
それはどうも。」
「…矢口、ごっちんみたいな恋人が欲しいよ。」
「光栄ですね。」
「…矢口と、付き合ってくれない?」
「…。」
「矢口は本気だよ?」

後藤は顔に浮かべていた営業用の表情を取り払い、冷めた目で矢口を見る。

376 名前:恋愛行為―M― 投稿日:2003年03月09日(日)07時16分31秒
「…あのさ、これはね、ビジネスなんだよ。
ゴトーは矢口さんにユメを提供する。
その代わりに矢口さんはゴトーに投資する。
ただそれだけの関係なんだよね。
勘違いしないでくれる?」

そう言うと、スーツの襟元を正し、店の中へと戻っていく。

「っごっちんっ…。」

矢口が叫ぶと、閉ざされていく扉の奥から、後藤の声がした。

「ゴトーと矢口さんじゃ、住んでる世界が違い過ぎるんだよ。」

377 名前:オニオン 投稿日:2003年03月09日(日)07時17分08秒
恋愛行為―M―


378 名前:恋愛行為―A― 投稿日:2003年03月09日(日)07時17分53秒
誰も彼女のことを知らない。
安倍なつみ。
それ以上でもそれ以下でもなく、ただ彼女は安倍なつみという女の人、それだけ。

379 名前:恋愛行為―A― 投稿日:2003年03月09日(日)07時19分00秒
一九九七年四月。
安倍は高校へと入学した。
その時、同じクラスに飯田もいた。
誰にでも気軽に声をかける飯田は、例にもれることなく安倍にも声をかける。
波長が合うのか、すぐに二人は同じグループの中で行動をともにするようになった。
穏やかに続く日々。
ずっと、そんな日が続いていくのだと思っていた。
けれど、二年生になって数ヶ月後、飯田の口から突然告げれた
この日々の終わりを知らせる言葉。

「私ね、高校辞めようと思ってるんだ。」

それは本当に突然と呼ぶに相応しいものだった。
昨日まで、いや、ついさっきまでいつもと同じように過ごしていたはずなのに、
五時間目が終わった直後、真面目な顔をした飯田がそう言った。

380 名前:恋愛行為―A― 投稿日:2003年03月09日(日)07時20分05秒
「な、何言ってるの?かおり。
冗談だよね?」

よく理解できず、安倍は飯田の肩を掴み、揺らす。

「だって、せっかく二年になったのにさぁ。
何で、急に…。」
「急に…ううん、急にじゃないんだよ。
もう、ずっと考えていたことで、答えが出たのが最近ってだけ。」
「何、するの…?
高校辞めてまで、やりたいこと、あるの?」
「…ごめんね、なっち。
今は、言えないんだ…。」

飯田の視線が逸らされる。

「…一緒に、修学旅行いきたいのに、体育祭も、文化祭も、
一緒に卒業したいよぉ…かおりぃ…。」
「…ごめん。」

381 名前:恋愛行為―A― 投稿日:2003年03月09日(日)07時20分55秒
夏はまだ始まったばかりだというのに、その夏を騒ぎ合う友だちは、
もう、安倍の隣にはいなかった。

新学期が始まる頃、空っぽの机から、飯田のネームプレートは取り外されている。

382 名前:恋愛行為―A― 投稿日:2003年03月09日(日)07時22分06秒
そんな二人が再会を果たすのは、三年以上の月日が経過してからだった。

大学生になった安倍が、サークルの仲間たちと朝まで騒ぎ明かし、
もうすぐ日が昇る道を歩いていた時のことだった。

新聞配達の自転車とすれ違いながら近付いてくる人。
あの日以来、会うことはなかったとは言え、忘れるはずがないその顔。

「…かおり…?」

恐る恐る声をかける。
自分の名を呼ばれ顔を上げた飯田は、安倍をその瞳に捉え、立ち止まった。

「っ…。」
「かおりだよね?
久しぶりだねぇ。覚えてる?私のこと。」

歩み寄る安倍に困惑する飯田。
そんな飯田に追い討ちをかける者が登場する。

383 名前:恋愛行為―A― 投稿日:2003年03月09日(日)07時23分02秒
「あれ?かおり。まだ帰ってなかったんや。
っと、新しいお客さん?
ハジメマシテですよね?
私も同じ店でホストやってるんですよ。」
「…ホスト?」
「何や、知らんの?
キンキラキンのお店で、イー男が接待するっていうんを。」
「…知ってる、けど…。」
「ウチの店はその女バージョン。
お客さんもホストも女ばっかりの店やねん。」
「っちょっ、みっちゃんっ。」

ようやく我に返った飯田は平家を制したが、もう後の祭りだった。
すると平家はそそくさと姿を消す。

「…何で…?
ねぇ、何でそんなことしてるの?
そんなことのために高校辞めたの?
卒業してからじゃダメだったの?
ねぇ、かおり、かおり…。」
「…なっちには、関係ない。」

それだけを告げて、飯田は逃げるようにその場から走り去った。

384 名前:恋愛行為―A― 投稿日:2003年03月09日(日)07時23分52秒
それから、安倍が「find」に姿を見せるようになる。
彼女は何も語らない。
ただ、飯田を指名して、自分の隣に座らせる。
数十分の間、二人は会話を交わすことはない。

誰も彼女のことを知らない。
安倍なつみということ以外は。
何故彼女がここに通うようになったのか、
何故彼女がいつも飯田を指名するのか、それを知る者はない。

飯田ですら、知りえない。
彼女は、失われた高校生活を埋めたいのか、それとも友情を取り戻したいのか、
はたまたそのどちらでもないのか。
知っているのは安倍自身のみ。

385 名前:オニオン 投稿日:2003年03月09日(日)07時25分02秒
恋愛行為―A―


386 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月09日(日)07時26分04秒
「…楽しいっすか?こんなの見てて。」

人の往来が途絶えたのを見て、吉澤は中澤に声をかけた。

中澤は時間が空くと必ずここへやってきて、少し離れた所から
呼び込みをしている吉澤の姿を見るようになっていた。

「んー、まあまあ、やな。」
「…。」

それだけ懸命に見てて、そのコメントか、と呆れ気味の吉澤。

387 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月09日(日)07時26分54秒
「なあ、吉澤の恋愛対象って、男?それとも女?
みっちゃんは、好きになった人が男やろうと女やろうと
別に関係ないって言うんやけどなぁ。」
「…ノーコメント。」
「何でよぉ。
私の一世一代の質問を〜。」
「…邪魔っす、仕事の。」

再び流れ始めた人の波を見つめながら、
シッシッと手で追い払う仕草をされてしまう。

「…ええよ。
目の保養にごっちん拝んでこよーっと。
あーぁ、ごっちんに惚れればよかったわ。
こんな冷たい奴やなくて。」
「ご勝手に。」

中澤は数歩歩いたところで立ち止まる。

388 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月09日(日)07時27分52秒
「…何で引き止めんのよ?」
「…何で引き止めるんすか?」
「私が吉澤のこと好きやって知ってんねんから、
ちょっとはサービスしてもええんとちゃうん?」
「…だったら店にいってごっちん拝んで貰った方が自分の生活潤うんで
そうして貰いたいっすよ。」
「…ムカツク。」
「…。」
「好きや、アホウ。」

カツカツと吉澤に歩み寄り、抱きしめた。

389 名前:恋愛行為 投稿日:2003年03月09日(日)07時28分56秒
「意味分かんないっす。
それに、営業妨害っすよ。」
「憎さ余って可愛さ百倍やわ。
カワイすぎ。」
「…違うから、それ。」
「…。
こうしとってもじゃれよるようにしか見えんのやろうなぁ。
…どうしたら吉澤の恋愛対象に入れるん?」
「…。」
「ズルイわ…。
私だけ、恋愛対象の範囲狭なって、
吉澤しか見えんようになってるんやから…。」


「――。
もう、入ってますよ。」


390 名前:オニオン 投稿日:2003年03月09日(日)07時31分00秒
サイドストーリー三つUPしました。
それだけだと、あまりにもあんまりなので続編も一つ追加。
一日でこんなに書けるとは思わなかった…。
391 名前:オニオン 投稿日:2003年03月09日(日)07時35分52秒
>>362
自分も、4日目を過ぎたあたりから不安に襲われます。
今、もしかして放置の疑い掛けられてるんじゃないかと
ドッキドキになって。
>>363
いいんすか?っていうかもう書いちゃいましたが。
いや〜、自分は今、中澤×○○が書きたい気分だったので
何か、スッキリしました。
>>364
こっそりさんは、自分が「独りで地味ぃにやっていこう」
と決意すると釣れるみたいで…。
なかよしの続きも書きましたので、こっそりどうぞ。
392 名前:オニオン 投稿日:2003年03月09日(日)07時38分04秒
100も200も300も、そして400も
自分で踏んでしまう予感。

393 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月10日(月)14時00分31秒
おお!イイ!最後のなかよし、超ツボですた。
こっそりなんて読んでられっか!
と思いつつ、次回も楽しみにしてます。
394 名前:20個目 投稿日:2003年03月14日(金)06時00分16秒
―ニワトリとタマゴ。―
395 名前:ニワトリとタマゴ。 投稿日:2003年03月14日(金)06時01分27秒
吉澤は中澤の楽屋に入り浸り、何やら難しげな顔をして本を読んでいた。

さっきから一向にページがめくられた気配がない。
どうやら今開いているページの何かしらが引っ掛かるらしい。

「吉澤〜。
さっきから訝しげな顔してどないしたんや?」

中澤もファッション雑誌を眺めてはいたが、吉澤のことが気になって
ちらちらと見ていたのだが、しびれをきらして声をかけた。

「…ん〜…別に、何もないっす。」
「…。」

「別に」「何もない」はずがない。
突っ込む気力すら出ない中澤は、深い溜め息をついて、吉澤の方へと歩いていく。

396 名前:ニワトリとタマゴ。 投稿日:2003年03月14日(金)06時02分27秒
「吉澤はポーカーフェースとは一生無縁やろうなぁ。」

中澤が頭を撫でてあげると、ようやく吉澤の視線は本から逸らされ中澤を捉えた。

「…ニワトリが先なのか、それともタマゴが先なのか…
どっちっすかねぇ?」
「…。」

時々、吉澤は不思議なことを言う。
中澤もそれは重々承知しているはずなのだが、すぐに返事をすることはできなかった。

「…え?
まさか、そんなこと真剣に考えよったん?」
「はい。」

真っ直ぐと中澤を見つめる眼差しは真剣そのもの。

397 名前:ニワトリとタマゴ。 投稿日:2003年03月14日(金)06時03分09秒
「…こんなこと言うたら何なんやけどな。」
「何すか?」
「そんなん神様にしか分からんと思うで。」
「…。」
「…せっかく考えよるとこ、オトナな意見で悪いんやけどな。」
「…そっか…。
あ、じゃあ。」
「んー?」

吉澤はすぐ隣にある中澤の腹部を抱き寄せて呟く。

「吉澤が中澤さんを好きなのと、中澤さんが吉澤を好きなのはどっちが先?」
「…。」
「それなら答はあるでしょ?」
「何やぁ。
吉澤さんは今、答が欲しいお年頃なんか?」
「…茶化す…。」
「あ〜、ごめんごめん。違うって。
そんなつもりはないねんで。」

中澤の懐に埋めていた顔を上げ、中澤を見上げる。

398 名前:ニワトリとタマゴ。 投稿日:2003年03月14日(金)06時04分04秒
「何でそんなこと知りたいん?
吉澤の方から告ってきたから?
私の気持ち量りたいから?」
「違っ。
別に信じてないって訳じゃないんすよ。
ただ…吉澤はずっと中澤さんのこと好きだったんで、片思い期間ってすっごい辛くて…
吉澤がそう思ってた時、中澤さんも同じだったのかなぁって思って…。」
「…せやなぁ…。
吉澤がなっちとか石川と話してて笑顔見せるだけで、ええなぁって思ってたで。」
「嘘、マジっすか?
初耳っすよ、それ。」
「そらそうやろ。初めて言うたからな。」

中澤は少し照れ臭そうに微笑む。

「…言ってくれないと分かんないっすよ…。
中澤さん、吉澤により矢口さんにの方がいっぱい好きって言ってそうだし…。」
「矢口に言うんとは別物やんか。」
「分かってますけど、けど、聞きたいんです。」
「…。
好きやで。」
「…。久々。
やっぱ、いいっす。照れる。」

再び顔を逸らす吉澤。

「…私は、吉澤のもんやで。」

返事をしない代わりに、中澤を抱く腕に力を入れた。

399 名前:ニワトリとタマゴ。 投稿日:2003年03月14日(金)06時05分16秒
「あ。
さっきのの答になるか分からんけど…。
ニワトリはタマゴがないと存在せえへん。
タマゴはニワトリがおらんと存在せえへん。
やから、どっちが先とかやなくて、どちもあって初めてお互いが存在するんとちゃう?」
「んー…よく分かんないっす…。」

「…なら、私がニワトリな。そんで吉澤がタマゴ。
私はこうやって吉澤を温めてあげるための存在。
吉澤は私に慈しみの心を与えてくれる存在。」
「…いつくしみぃ?」
「愛しさ、かな。
…分かる?」
「…何となく。
んー…ニワトリが先っぽいなぁ。」
「…それでもどっちが先かは答を出す気なんやな…。」
「いや、ただ、愛されたいって気持ちって、愛してくれる人がいて初めて
生まれるものだと思うから。
じゃあ、愛してくれるニワトリが先かなぁ、と。」
「なるほど。」
「ってことで、吉澤はもうちょっとこのままタマゴでいたいです。」
「…もうちょっと、ニワトリでおってあげるわ。」


400 名前:オニオン 投稿日:2003年03月14日(金)06時08分00秒
なかよし20作品目で400を踏む。
何かちょっといい感じ。(自分だけ?
401 名前:オニオン 投稿日:2003年03月14日(金)06時09分25秒
>>393
イイ!って。
その一言、何気にすっげー嬉しいんすけど。
頑張ろう。頑張っていこう。(決意表明?
402 名前:オニオン 投稿日:2003年03月14日(金)06時11分22秒
まだ100レス近くあるのに
次スレの構想練ってる自分は間違ってますか?
そんな暇あるんだったら更新速度上げろと…。
403 名前:261 投稿日:2003年03月14日(金)11時56分30秒
ちょい遠ざかってる間にこんなに更新されてたんすね。
更新、お疲れ様です。と今更ながら言ってみるw
過去6続編、書いて下さったのですね。
うれしいです。何かイイなぁ、この世界・・
もうすっかり、なかよしワールドにドップリハマってます。
抜けられません・・

「恋愛行為」、すごく好きです。
後藤さん視点も読んでみたい・・なんて思ったりしてますw
404 名前:オニオン 投稿日:2003年03月21日(金)01時51分54秒
>>403
了解。
ただ…、Mの続きになったんすけど…
違うなぁ…。
機会があればもう少し過去の後藤視点を行きたいなぁと思います。
405 名前:恋愛行為―M― 投稿日:2003年03月21日(金)01時53分54秒
あれから数分後、ロッカーにいたら、よっすぃーに声をかけられた。

「…ごっちん。」
「よっすぃー、何してんの?呼び込みは?」
「休憩中。」
「…勝手に、でしょ。」
「ま、ね。
…よかったの?アレで。」
「――何が。」
「ごっちん、矢口さんのこと好きだと思ってたのに。」

よっすぃーは、微笑む訳でも不思議がる訳でもなくそう言ってきた。

「…盗み聞きなんて悪趣味だよ。」
「仕方ないじゃん。持ち場、外なんだもん。」
「…。
好きなんかじゃないよ。」

そう、好きなんかじゃない。

「そーなんだ?
結構特別扱いしてるっぽいって聞いてたんだけどなぁ。」
「…。
特別扱いねぇ…、してるよ?
矢口さんはお得意様だからね。」

ゴトーがそう言うと、よっすぃーはちょっとだけ嫌そうな顔をした。
406 名前:恋愛行為―M― 投稿日:2003年03月21日(金)01時55分13秒
「…吉澤はさ、ごっちんが誰を好きなのか知らないけど、
たぶん、矢口さんを好きになった方がごっちんは幸せになれる気がしてさ…。
あ。別にごっちんの好きな人がダメって訳じゃなくて、ほら、他のお客さんだと
引け目感じて、ちゃんと恋愛しなさそうだから…。
矢口さんは、人対人で恋愛してくれそーじゃん?」

一瞬、よっすぃーはゴトーの好きな人を知ってるんじゃないのって思っちゃった。

「何?自分の恋愛が上手くいき出したからって、今度はゴトーの恋愛を
心配してくれてるの?」
「あ〜違うよぉ。
別にそーゆー訳じゃないって。」
「…ま、いーけどね。
―じゃぁ、ゴトー、フロアーに戻るから。」
「あ、うん。
吉澤も寒空の下に帰るよ。」

笑顔で手を振って出ていくよっすぃー…。
……その笑顔、裕ちゃんのおかげなのかなぁ。

「後藤。二番テーブルご指名ー。」
「あ、はい。
すぐ行きます。」

きっと、知らないんだろうなぁ。


「お待たせしました、後藤です。」


ゴトーが好きなのは―――


407 名前:オニオン 投稿日:2003年03月21日(金)01時59分08秒
最後、本当はまだ二行あったんすけど、はしょりました。
次回更新は――、今月中にあと二回以上はしたいなぁと。
408 名前:21個目。 投稿日:2003年03月22日(土)00時51分28秒
―キーパーソン。―
409 名前:キーパーソン。 投稿日:2003年03月22日(土)00時52分11秒
吉澤には悩みの種がひとつある。

「辻さぁ、中澤さんに懐き過ぎなんじゃない?」
「だって、好きなんだもん。」

辻希美。彼女がその根源。
堂々と「好き」なんて口にしてしまえる所も気に食わない。
そして、中澤が辻に構うのも悩みやストレスを増長させている。

「辻〜っ。
裕ちゃんと遊ぼーで。」
「はーい。」
「何して遊ぼか?」
「んと、じゃあ、げーのーじんしりとりがいいれす。」
「分かった。ほな、辻からな。」
「えーと、つじのぞみ。」
「み…みそらひばり。」
「りぃ〜…うーん…。」

考え込む辻を、柔らかい表情で見守る中澤。
少し離れた所で椅子に座り、チラチラと見ていた吉澤の心の中のストレス指数が
レッドゾーンに突入した。

410 名前:キーパーソン。 投稿日:2003年03月22日(土)00時53分07秒
「あ〜〜…。」

膝にうつ伏せて視界から二人の姿を消し去った。

「…ムカツクなぁ。」

別に言葉にするつもりはなかった。
心の中での独り言のつもりだったのだが、声に出してしまっていた。

「何がな?吉澤。」
「えっ?」

ビクッとして頭を起こすと、さっきまで辻と戯れていたはずの中澤が吉澤の背後に立っていた。

「あ…辻と遊んでたんじゃ…」
「加護に奪われてしもた。」

まいったわ、と苦笑する中澤を見上げる吉澤の頭の中で、ネガティブ回路が顔を出し始めていた。

「…仕方ないから吉澤と話してくれてるんすか?」
「そんなこと言うてないやん。
何その悲しげな顔は。胸痛むやんか。」

中澤の指が吉澤の髪を撫でる。

411 名前:キーパーソン。 投稿日:2003年03月22日(土)00時53分57秒
「…吉澤のことも、もっと構ってくださいよ。」

いつもは中澤よりも少し上にある吉澤の視線が、今日は下から注がれていて、
何だか普段よりも幼く思える。

「どないしたん?
吉澤、そんな寂しがりややったっけ?」
「――。
ただのヤキモチっすよ…。」

中澤の指をすり抜け、俯いてしまった。

「よしざ…」

声をかけようとした中澤の言葉を遮る者が現れた。

「なかざわさん。」

辻加護、コンビで登場。

「え、あ、何や?」

この上ないくらいの笑顔を見せながら、加護は控えめに、ピトッと中澤の背中に触れる。

「オニゴッコ。」

と言って二人は逃げ出した。

412 名前:キーパーソン。 投稿日:2003年03月22日(土)00時54分47秒
「こらっ、ずるいで二人とも。」

中澤は慌てて追い駆けようとしたが、思い留まり吉澤の肩に触れる。

「…?」
「はい、よっさんが鬼な。」

ばっちり目を合わせて中澤は微笑む。

「えっ。
いや、吉澤は参加してないっすよ。」
「あかん。追い駆けといで。」
「え〜〜〜。」

そんな気分ではないのだが、中澤の言い付けとあらば仕方ない、と、しぶしぶ立ち上がる。

「あ、廊下は走るん禁止やで。」
「はいはい。」

中澤はまるで新婚の玄関先の風景のように「いってらっしゃい」と手を振る。

参加すると決まったからには負ける訳にはいかない。
吉澤は迷わず辻の後を追う。

413 名前:キーパーソン。 投稿日:2003年03月22日(土)00時55分21秒
一方、辻と加護はなかなか鬼が追ってこないので、せっかく逃げた道を後戻りしていた。

「あっ、よっすぃーだよ。」
「ほんまや。」
「…よっすぃー、オニなのかなぁ?」
「…逃げる?」
「だね。」

二人は二手に分かれて、廊下を進む。
走ってはダメ。ということは、スタンスの広い吉澤の方が有利な訳で、あっという間に辻は
吉澤の射程圏内に入ってしまった。

414 名前:キーパーソン。 投稿日:2003年03月22日(土)00時56分15秒
自動販売機の脇の長椅子を挟み、臨戦態勢。

「辻ぃ。
中澤さんに甘えるなよぉ。」
「…何だよ、よっすぃーこそぉ。」
「いーの、吉澤は。」
「ずるいぞ。
よっすぃーはりかちゃんにでも甘えなよぉ。」
「いや。」
「じゃあ、辻もヤ。」
「…辻には矢口さんがいるじゃん。」
「やぐちさんとなかざわさんは別だもん。」

右へ左へお互いをけん制しながら、何故か中澤争奪戦が始まっていた。

「よっすぃーは別になかざわさんのこと好きじゃないでしょ?」
「…。」
「だったらいーじゃん、辻が甘えても。」
「――好きだよ。
そんなの好きに決まってんじゃん。
じゃないとこんなこと言わないよ。」

吉澤がむきになってそう言うと辻はそれまでの刃向かうような表情を収め、ニカッと微笑んだ。

415 名前:キーパーソン。 投稿日:2003年03月22日(土)00時57分17秒
「な、何笑ってんの。」
「へへ、やっと言ったね。」
「何が?」
「なかざわさんがよく言ってたから。
よっすぃーにきらわれてるのかなぁって。」
「…。」
「だから、ちょっとからかってみちゃった。」

屈託なく笑う辻の視線が、どことなく自分を通り越して、別の何かを捉えているような気がして
吉澤は振り返った。

「ありがとーな、辻。
まさか愛の告白まで聞けるとは思わんかったわ。」
「いやいやいやいや…。
あ。でも、また辻とあそんでくださいよぉ。」
「分かってるって。いっぱい遊ぼーな。」
「やった。」

スキップで帰っていく辻の姿を見届けて、中澤は吉澤の方を見た。

416 名前:キーパーソン。 投稿日:2003年03月22日(土)00時58分15秒
「効果、バツグンにあったみたいやな。」
「…辻効果っすか?」
「そうそう、辻効果。」
「…あの、中澤さんは…。」
「んー?」

顔を赤らめて中澤を見つめる。

「…内緒。」
「うわっ、ずるいっすよ。」
「…。」

中澤は吉澤の顔を覗き込み、

「まだ分からんの?」

と、一言。


417 名前:オニオン 投稿日:2003年03月22日(土)00時59分46秒
キャラ立て間違ってる気がしないでもない。
418 名前:オニオン 投稿日:2003年03月22日(土)01時00分45秒
ちょっと辻加護が絡んだだけで
自然とほのぼのテイストに。
419 名前:オニオン 投稿日:2003年03月22日(土)01時03分06秒
っていうか、ゆうののはアリだと思う。
420 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月23日(日)13時33分16秒
ゆうのの ありですね!!
ほのぼの感がいいです。
421 名前:403 投稿日:2003年03月25日(火)14時31分04秒
うわぁ〜い、また更新されてる〜!
「恋愛行為ーMー」、そう来ましたか・・
いいですねぇ、後藤さん視点。
残り2行は何だったのかと妄想してますが、この終わり方もいいかなと。
好きな感じです。

「キーパーソン」、ほのぼのまったり出来ましたw
アリですね、ゆうのの。何気に策士風・ののがイイです。
次回更新も楽しみにしてます。
422 名前:22個目。 投稿日:2003年03月31日(月)01時06分38秒
―Lost―
423 名前:Lost 投稿日:2003年03月31日(月)01時07分48秒
暮れていく街の景色を眺めていた。
車の匂いが微かに残るあなたの肩に寄り添って、オレンジ色の中へと消えていく
街を見ていた。

やがて、暗い闇が窓の外全てを支配して、輝く星とネオンの光だけしか見えなくなった。
薄いカーテン越しにそんな夜景を背負いながらあなたを抱いていた。
いつまで続くのかなんて分からないあなたとの幸せを思いながら。

「…吉澤。どうかしたん?」
「…え?
あ、いえ、何も。」

例え、愛した分だけ愛されはしないんだとしても、私は私の全てをあなたにあげたい。
私はそれ以外の愛し方なんて知らないから。

――――――――――
――――――――
――――――
――――
424 名前:Lost 投稿日:2003年03月31日(月)01時09分09秒
明けていく街の景色を眺めているあなたの横顔を見ていた。
いつも、眠ったふりをしながら見ていた。

けれど、今日は何だかいつもと違った。
あなたがついた溜め息ひとつが窓に当たって砕け散ったみたいに思えた。

次、目を開けた時には、もう隣りにあなたはいない、そんな気さえした。

「…。」

あなたは何か言いたそうに私の方を見つめていた。


例え、愛した分だけ愛される訳じゃないとしても、愛しさに勝るものなんて
ないって、私はそう信じたかった。

――――
――――――
――――――――
――――――――――

425 名前:Lost 投稿日:2003年03月31日(月)01時09分46秒
ケータイの着信音で目が覚めた。
「ゴメン。」の文字が潜むメールの着信音で―――


426 名前:オニオン 投稿日:2003年03月31日(月)01時11分47秒
>>420
有難うございます。
>>421
有難うございます。
427 名前:オニオン 投稿日:2003年03月31日(月)01時15分56秒
勝手なのですが、今回の更新で「恋してしまった」スレ、
終了とさせて頂きます。
理由は主に二つ。
一つ目は、HP開設。
二つ目は、自分の小説の作り方に疑問を感じたので、その改善のため。
(作り方を変えると、今までのように週一くらいのペースでの更新は
望めないので)
428 名前:オニオン 投稿日:2003年03月31日(月)01時17分06秒
以上です。
撤収。
429 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月31日(月)01時39分38秒
て、てっしゅー、て。
待って〜〜、じゃなくてHPのリンクは張りに来てくださいね。是非。いや絶対。
ホントに終了?ほげー。
今までありがとうございました。本当に楽しかったです。
このスレがあったからこそ、っていう出来事も色々あったんですよ(何なのかはヒミツ)。
またこっそり、読ませてくださいね。
430 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月31日(月)13時17分18秒
撤収ですか。
今まですごく楽しく読ませてもらっていたので残念ですが、
またどこかでオニオンさんの小説読めるの待ってます。
HPができたら教えてくださいねー。
431 名前:オニオン 投稿日:2003年05月04日(日)04時44分52秒
お久しぶりです。
>>429
>>430
一月以上何の返事もせず、申し訳ありませんでした。
行って頂ければ分かると思うのですが、3/31の時点で
もうすでにオープンしてたんです。(すいません)
リンク貼るのはどうかなぁと躊躇っていたのですが、
一応貼っておきます。
ttp://plusminus0.hp.infoseek.co.jp です。

えっと、レス数緩和で750までとなったので、
近々ここでの連載を再開しようと思っています。
やめると言ったり再開すると言ったり自分勝手で申し訳ありません。
432 名前:オニオン 投稿日:2003年05月04日(日)14時20分49秒
見切り発車。
(そうでもしないと完結しなさそうにつき)

「彼女の願い。」
433 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)14時21分32秒
二〇〇二年秋。
ごっちんがモーニング娘。を卒業した後、最初のシングルが発売される時で、あのこらにとって
忙しい時期やったと思う。
秋っぽいトーンのチェックの衣装を纏ったなっちが、あんな事言うたんは。

434 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)14時22分06秒
「あのね、裕ちゃん」

その日はハロモニ。の収録日で、モーニングの皆は新曲のスタジオ撮りのために一足先に
スタジオ入りをしてて、私はたまたま新曲を聴いた事がなかったから、それを見学しようと
思って、皆の後についてスタジオに入っとった。
それで、いつもより真剣な顔したなっちが、こそこそと私の方に歩いてきて、声をかけたんや。
435 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)14時22分49秒
「モーニング娘。、解散させるから」

生まれて初めて聞く言葉やった。
モーニング娘。もそろそろ解散やろ?とか、来年あたりやばいんと違うか、とか、そんなんは散々
聞いてきたけど、解散させる、なんて言葉を聞くんは初めてやった。

「…な、何言うてんねん…?なっち…」

しかもそれは想定でも相談でも意見でも希望でもなくて、つまり、決定事項の通達、やった。

「ごめんね、裕ちゃん」

なっちの目は本気やった。
ほんまに、本当に、そんな事をするっていうんか?なっち。
私には理由が分からんかった。
今までもこれからも、なっちはモーニング娘。の顔やったはずやのに、そのなっちが解散させる
って言うた。
それはたぶん、事務所やつんくさんたちの科白やなくて、なっちの意思なんやって事を何故か
私は確信する事が出来た――。

436 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)14時23分28秒
×―――×
437 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月04日(日)22時12分41秒
再開ですか、嬉しいです!!
でも、いきなり解散ですか・・・(苦笑
どうなるか、すごい楽しみです!!
438 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時47分32秒
私が、あの日なっちが言うた言葉が冗談なんかでは済まされんものやったんやと知る時が迫っとった。

ごっちんが卒業してから初の曲やから、ファンの子らは意地でもこの曲を一位にするはずやと思ってた。
そこそこノリのええ曲やし、相当なライバルがおらん限り一位はいけるはずの曲やと思てた。
けど、十一月十一日付けのオリコンチャートでの結果を知って、私は心底驚いた。

初動枚数35070枚の六位。
一位はT.M.Revolutionさんの曲やった。

十万枚いかんどころの騒ぎやない。
三万枚。初動でこれだけしか売れんかったって事は、来週、再来週、どんだけしか売れんって事なんやろうか。

明らかに何かがおかしかった。
―たぶん、何かがあったんやろう、何かが。
そんで、その何かには絶対なっちが絡んでるはずや、そう思った。
439 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時48分14秒
私は慌ててなっちの携帯に電話をかけた。
一回…二回…呼び出し音がやけに耳につく。

『もしもし、裕ちゃん?』
「な、なっち」
『んー、どうしたんだべさぁ』
「あ、あんな。
 新曲の、モーニング娘。の新曲の順位、知ってるか?」
『あぁ、知ってるよぉ。
 それがどうかしたの?』
「どうかしたのやないで。
 こっちこそ、どうかしたんかって聞きたいくらいやわ」
『…裕ちゃん、今日、夜、時間ある?
 会って話がしたいんだけどさぁ…』
「…ええよ、そうしよ。
 私も聞きたい事、収拾つかんくらいあるからな」
『そう。じゃぁ、夜行く前に電話かメールするから』
「ああ…分かったわ…」

440 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時48分53秒
電話を切る手が震えとったんに気付く。
なっちは、いつの間にあんな冷静な声して話すようになってたんやろうか。
その潔い声が、あんまりにも後を引かんから、余計に何か嫌な感じというか、
不安が的中しそうな感じがした。

441 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時49分44秒
その夜。

なっちからのメールが届いたんは、私が思ってたよりも早い時間にやった。

  今終わったから、これから裕ちゃんの家に
  向かうけど大丈夫? なっち

午後九時。
そのメールに返信をしてから数十分後、マンションのインターホンを押す音がした。
受話器を取って、エントランスへの自動ドアを開けるからと告げる。
小さい画面に映るなっちはいつもの笑顔で微笑んでるんが分かる。
これから話合われるであろう事柄とは正反対のもののようなその笑顔。
今日ばっかりは、それを可愛いと思う事は出来んかった。

442 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時50分29秒
間もなくして、玄関のチャイムが鳴る。
開けた扉の先に、白いパーカーのなっち。

「おっすぅ」
「お、オッス…」
「お邪魔しまーす」
「あ、うん」

私を横切って奥へと上がるなっち。
最近はなかったとは言え、ちょっと前はよくうちにきとったから、躊躇いなくリビングへと
歩んでいく。
その小さな背中を見ながら、人一倍小さい心で何を考え、何を溜めてるんやろうか、
と一人思っんよったら、なっちが振り返って不思議そうに首をかしげた。

「―何でもないよ。
 何か飲むやろ?
 今、お茶しかないけど、かまん?」
「うん。
 何でもいいよ」
443 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時51分04秒
冷蔵庫に手をかけようとして、思い止まる。
だいぶ寒なってきたからって買った未開封の緑茶のパックを思い出したから。

「あったかいんがええやろ?
 もう夜冷え込んできてるし…」
「裕ちゃんは?」
「私?
 私もあったかいんがええけど」
「じゃぁなっちもあったかいのでいいよ」
「そうか」
「うん」

444 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時51分43秒
なっちは大人しくソファーに座ってて、私が持つヤカンに水が注がれる音だけが部屋ん中に響いてる。
それをコンロにかけながら、この後、なっちに何から訊いたらええんか、と考えを巡らせる。
あの日の言葉の真意。
この新曲の異変。
今日、きた訳。
そう言えば、私も近いうちにちゃんと話しせな、とは思ってたけど、今日誘ったのは私やない、
なっちの方からやったはずや。
何か、なっちも話あるんやろうか…。

「…ちゃん、ねぇ、裕ちゃんってばぁ」
「…え?
 あ、あぁ、何や、なっち?」
「お湯、沸騰しまくりだよ?
 さっきからずっとピーピーピーピー言ってるのに全然気付かないんだもん」
「あっ、ほんまや。
 ごめんなぁ」

慌てて火を止めて、ティーパックの入ったカップにお湯を注いだ。
なっちがそれを両手に持ってさっきまで座っとったソファーの方へと運んでいく。
445 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時52分19秒
「気ぃ付けてや、手。
 やけどしたら嫌やで」
「大丈夫、大丈夫」

コトッとテーブルに無事置かれる音がしたんを聞き届けて、手に持ったままやったヤカンを
コンロの上へと戻して自分もなっちのおる方へと向かった。

なっちの隣に座って、ちらっと覗き見てみる。
両手でカップを包んで、左手の人差し指でティーパックの糸を押さえ付けて、
何度か息を吹きかけてゆっくり口へと運ぶ。
心なし、どこか遠くを見つめてるような気がしたけど、やっぱりいつものなっちがここにはおる。

446 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時53分00秒
「…何?
 そんなに見つめられるとテレるべさぁ」
「あ。ごめんごめん…」
「……ねぇ」
「ん?」
「なっちに訊きたい事、あるんでしょ?」
「……」

すぐに決心する事が出来んで、手にしてたお茶を一口飲んだ。

447 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時53分51秒
「こないだ、言うてたやんか…?
 その、モーニング娘。、解散、させる、て…。
 あれ、どういう意味なん?
 なっちにとって、モーニング娘。って大事なもんやと思っててんけど、
 何か、嫌な事でもあったん?」
「…なっちはね、裕ちゃんの事、好きだよ」
「…?」
「圭織の事も好きだし、彩っぺの事も好き。
 明日香の事も好きだし、モーニング娘。やってるなっちの事も好き。
 …ねぇ、裕ちゃん。
 裕ちゃんはさぁ、モーニング娘。が大好きだって言ってくれてたよね?
 今、裕ちゃんの好きなモーニング娘。、ここにある?」

私の大好きなモーニング娘。がここにあるかって?
それ、どういう意味や…なっち…。
448 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時54分48秒
「なっち…裕ちゃんなぁ、なっちの言うてる意味がよう分からんのよ…。
 今、モーニング娘。はここにおるやんか?
 どうしたんや…?なぁ…」
「…あのね、なっちは、歌手になりたかったんだぁ」
「…今、やってる、やん…?」
「ううん。
 えっとね…。
 なっちはね、アイドルになりたかった訳じゃないんだ。
 歌手になりたかったの」
「…」
「最初の頃はさぁ、それでも良かったっていうかさ。
 辛い事、一杯あったけど、唄う事楽しかったし、
 それにデビューしたての頃って、私たちも、応援してくれてる人たちも、
 スタッフの人も、こんな風になるなんて予想してなったじゃない?
 だから、ほんと毎日必死にレッスンしたりしてたよね。
 だって、なっちたち、アイドルじゃなかったもん。
 んー…アイドルだったかもしれないけど、今とはやっぱ全然別ものだったと思うんだ」

なっちはカーテンの閉まった窓の方を見つめて言葉を紡ぐ。
その横顔が寂しげで、私は相槌を打つ事しか出来んようになってた。
449 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時56分15秒
「ごっちんが加入したあたりからだよねぇ、Love マシーンが出たあたり…。
 あの頃からさぁ、何か、「国民的アイドルグループ」って言われ始めて、
 歌とか、それまでのとは方向性っていうか、誰に向けてのものなのかっていうのが
 変わったと思うんだ。
 ふるさとでさ、もうモーニングは終わったとかって言われてたけど、
 なっちはね、その後の、Love マシーンがすごくヒットした後に何かの雑誌で見た
 記事の事がずっと引っ掛かってたんだ…。
 モーニング娘。は歌手から国民的アイドル、つまりお茶の間アイドルに落ちたって。
 あの時はよく分かんなかったんだけどさ、最近、その意味が分かってきだして…」

…返す言葉なんか、持ち合わせてなかった。
私の辞書に、なっちを救えるであろう言葉なんか登録されてなかった。

450 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時57分02秒
「きっともう、前みたいなとこには戻れないんだよね…。
 このまま、この先ずっと、どこに向かうのか分かんないまま、
 走ってくのは、辛いよ…。
 だからね、なっちのワガママかもしれないけど、モーニング娘。を解散させようって
 そう、思ったんだ…」

そこまで言うと、なっちはゆっくり溜め息をついた。
目元にはうっすらと涙が滲んどった。
それで、なっちが一人でどんだけ悩んで出した結論なんかって事を十分窺い知れた。

451 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時58分03秒
もし、もしもまだ、今私がモーニング娘。の一員やったら、何かが変わってたやろうか。
もう少し早く、なっちの話を聞いてあげれとったやろか?

けど、それはもしもの話。

「…時間が、ないんだ…。
 もうすぐ、手遅れになっちゃうんだよ…。
 ねぇ、裕ちゃん。
 だからさ、なっちに、手、貸してくれない?
 ねぇ、裕ちゃん…」
「…私に、何が出来るって言うん?」
「大丈夫。きっと…。
 なっち一人でね、頑張ってみたんだけど、やっぱりちょっときびしいんだ。
 ほんとは、「ここにいるぜぇ!」の順位、十位以下にしかたったんだけど、
 流石に無理だったみたいなんだよねぇ」
「…やっぱり、あれ、なっちが…」

どうやってそんな事出来たって言うんや。
CDショップへの出荷数とかは制限するんは難しいやろうし、
第一、全国に店や気ぃ遠なるくらいある訳やし。
452 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時58分49秒
「うん」
「ど、どうやって、そんな事…」
「…大した事はしてないよぉ。
 ただ、ちょっと…。
 ファンレターくれる人に返事、書くっしょ?
 その時にさぁ今度の新曲買わないでってお願いしただけ。
 理由もちゃんと書いたよ?
 モーニング娘。を解散させたいからって」
「そ、そんな事して大丈夫なん?
 だって、もしバレたら解散どころか、なっちの首、切られるかもしれんのに…」
「うん。
 なっちもね、ちょっと不安だったんだけど、たぶん大丈夫だと思うんだ。
 だって、こうして今まだバレてない訳じゃない?
 それに、初動枚数も確実に減ってるし」
「そうやけど…」
「…あのね。
 やっぱり、一人じゃどうしようもないと思うから。
 だったら出来るだけ沢山の人に手を貸して貰った方がいいんじゃないかなぁって。
 それに、ある日突然より、事前に言っておくべきじゃないかなぁってさぁ。
 そりゃぁ世間一般的にはある日突然、になるだろうけど」
「…この手、貸して欲しいん…?」
「うん…」
「…私が、なっちの頼み、断れる訳ないやんか…」
「…ありがと、裕ちゃん」
453 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月04日(日)23時59分45秒
何となく、何となくやけど、なっちのファンの子等が何でなっちの頼みを聞き入れたんかが分かる気がした。

それと。
たぶん皆、心のどっかで思ってた事やったから、手伝われへん、とは言えんかったんやろう。
なっちの言う通り、今のモーニング娘。がどこへ向かうんかは、私らには分からん。見えんって事。
けど、けどな、なっち。

「あんなぁ、さっき、言うてたやん?
 裕ちゃんの大好きなモーニング娘。はここにある?って」
「うん」
「まだ、あるよ。
 私の好きなモーニング娘。は、ここに」
「…」
「なっち。
 あんたは私の好きなモーニング娘。や。
 ここに、まだあるよ…まだ…」

複雑そうな顔を浮かべとるなっちを、構わず抱きしめた。
―今、私の腕ん中におるんは、私が好きなモーニング娘。や。
なっちと、圭織と、矢口と、圭ちゃん…。
あの頃のモーニング娘。はまだ、ここにはおるよ…。
454 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月05日(月)00時00分20秒
×―――×
455 名前:オニオン 投稿日:2003年05月05日(月)00時04分24秒
>>437
速攻レス、有難うございます。
本気で嬉しいです。(w
再開を歓迎して頂き、光栄です。
ちょっと今までのとは違う感じですが、
ちゃんと完結出来るよう頑張ります。
456 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月05日(月)14時46分02秒
再開ばんざいから。
オニオンさんがなっちゅーですか?
すごく楽しみです。
457 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月05日(月)19時32分09秒
ほんと今までとは違う感じですね。
この2人、娘がどうなってくのか・・・
更新楽しみに待ってます。
458 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時16分42秒
そして、二〇〇三年一月二十八日。
この秋、モーニング娘。は二分割される、と公表された。
あの夜、なっちが言うとった「時間がない」が指してたんは、これのことやったんやろう。
モーニング娘。が二分割されれば、解散は難しい。
どっちかだけが解散して、どっちかが残る可能性の方が高なるからな…。
確かに、時間がないらしい。

そんな中、発売される事になった曲が「ひょっこりひょうたん島」。
幸か不幸か、初動枚数を抑える事は前回の曲よりも安易に出来そうな。

あの日からもう三ヶ月近くが経つ。
なっちと私だけの力で何人、どれくらいの人を動かせるんか、検討もつかんかった。
なっちがやってたように、私も出来る限りの人間にモーニングの曲を買わんようにって
頼み込んでるけど、まだそれから新曲の発売がなかったから、実際今、
どんな規模のものになってるんか、想像もつかんかった。
459 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時17分16秒
その想定不可能な「モーニング娘。解散」の動員数を、もっと分からんようにしたんが、
圭織。

テレビで、秋の二分割のニュースを知った数日後、携帯に着信があった。

何度か鳴ってたみたいやけど、出られん事を知ってメールに切り替わっとった。

  明日の収録の時にちょっと話しない?
  なっちの事、知ってるんでしょ?
  かおりもね、言わなきゃいけない事
  あるから。    かおり

圭織が言う明日の収録っていうんはハロモニ。の事やろう。
なっちの事、か。
…圭織は、私とは置かれと立場が違う。
あのこは、どんな回答を持ってるんやろうか。
今一番なっちの傍におって、一番なっちの事を分かってあげられてるはずの圭織。
手を貸す?それとも――
460 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時17分58秒
あかん、やめよ。
考えても答や出ぇへんわ。
そもそも圭織の考えよる事自体私はよう把握出来てないんやから。

  ええよ。何でも聞いてあげるで。
  収録の前でも後でも構わんから
  楽屋きてくれたらええから。
   裕ちゃんより。

送信を押したメールが、まるで迷いの中におる今の私の心みたいに
少し躊躇うように時間をかけて送信された。

あぁ、今日ははよ帰ってとっとと寝よ。
その方が自分のためやわ、たぶん。
461 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時18分36秒
翌日。

昨日、はよ寝たんはええけど、結局眠りが浅かったらしく、朝早くに目が覚めてしもた。
時計を見たら、まだ七時。
予定よりも一時間早く目覚めてしまって、けど、もう一度寝るんには時間が短すぎるから
ぼちぼちと用意をしよったんやけど、やっぱり全ての支度が整ったんも一時間早くなってしまった。

このまま家におってもする事ないし、それにもしかしたら圭織、先に来とるかもしれんし、と
思って、家を出る時間も一時間前倒しして出発した。

462 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時19分08秒
テレビ局に着いた頃、タイミング良く圭織からメールが届いた。
どうやら圭織はもうすでに来てるらしい。

携帯をポケットに仕舞って、いつも通り、モーニング娘。と隣り合っとる自分の楽屋へと向かった。
廊下を進んで、目的地が近付くにつれて、賑やかな声が耳に届き出した。
辻加護のコンビは今日も絶好調らしいなぁ。
誰が静まらせるんやろうか、ほんまに。

ふと、思った。
もし、モーニング娘。を解散させる事に成功したら、もうこんな日常は日常じゃなくなんねんなぁ…って。
辻や加護に突進される事も、そんな二人を見つけて慌てて矢口が駆けて来るんも、
それをなっちや圭織、圭ちゃんらが呆れ気味に笑いながら眺めてる姿も、
そんで、相手にしようとせん私に飽きたら、いっつも新たな標的にされる吉澤の困った顔も、
そんな吉澤の腕掴んで、無駄に抵抗する石川も…。
時々、気まぐれに優しい顔を見せる辻が、紺野や新垣引き連れてやって来て、
私に差し出す右手の中の飴も、ちょっとたじろぎながら近付いてくる小川の命懸けのモノマネも、
だいぶ慣れてくれた高橋が話してくれる他愛ない話題も、全部、消えてしまうんやなぁって。
463 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時19分45秒
――。
その、この日常と、なっちの願い。
それを天秤にかけたら、どっちに傾くんやろうか。
ずっと、ずっと一緒に頑張って来たなっちと、なっちたちとの出逢いによって繋がってるこの日常。
どっちの方が大切かなんて、決められるやろうか。
両方、掛け替えなんてないものやのに、どっちかのために、どっちかを犠牲にせないかん。
答、出せるんか…?

「…邪魔」
「…うわぁっ。
 びっくりしたぁ。
 いきなり声かけんといてやぁ」

いつの間にかモーニング娘。の楽屋の前で立ち止まってしまってたらしい。
振り返ると、そこには矢口がおった。
464 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時20分39秒
「いきなりじゃないし。
 ちょっと観察してみたんだけど動かなさそうだったから
 仕方なしに声かけたんだよ。
 全然いきなりじゃねーよ」

…ん?何か…。

「どうしたんや?
 元気ない事ないか?」
「えっ?
 ど、どうして?!」
「そんな驚く事ないやんか。
 矢口の事やったら何でも分かるで」
「アホ。
 そーじゃなくてさぁ…」
「…そんな顔して見上げられたら、否でも分かってまうわ。
 あんたがその表情で私の事見てる時って言うたら、
 何か言い辛いけど聞いて欲しい事がある時やんか」
「…」
「…まぁ、えーけどな。
 あ、なぁ、圭織、呼んで来てくれへんか?
 お話の先約があったんやったわ」
「…分かった」

…矢口も、知ってるんやろうな、たぶん。
465 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時21分17秒
「おはよう、裕ちゃん」
「あ、おはようさん」
「早かったねぇ」
「まぁな。
 何かはよ目ぇ覚めてしもたんよ」
「ふぅん…」
「私の楽屋、行こか?」
「うん、そだね」

圭織の出した答を聞くために―
466 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時21分48秒
圭織は、椅子に座ってからすぐに口を開いた。

「カオリはね、なっちがああ言った時にさぁ
 何か、ホッとしたんだよねぇ…」

ほっと、した…。

「もうこれ以上大事なもの失くさなくていいんだなぁって」
「…大事なもん、か…」
「うん。大事なもの」

なんて、圭織は微笑ってみせた。

「何かね、誰かに決められて、無理矢理解散させられるのは嫌だけど
 なっちにならいいかなっていうかさ。
 オリメンの誰かがそう言うなら、それがなっちじゃなかったとしても
 きっとカオリは賛成したと思う。
 カオリ、そういうの思ってても言えないタイプだしさ」

確かに圭織の性格、立場から考えれば言い出し辛いやろうなぁ。
467 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時22分31秒
「…裕ちゃんは、どうするの?」
「え、あ、私?
 …そら、手貸すよ。
 貸さん理由が見当たらへんからなぁ」
「そっかぁ…。
 …ねぇ、何か、不思議だと思わない?」
「ん。何がや?」
「だってさぁ…なっちも裕ちゃんもカオリもモーニング娘。が出来るって聞いた時、
 まだチャンスがあるんだって知ってさぁ、すごい喜んだでしょ?
 けど、今度は皆でそのモーニング娘。を終わりにしようとしてる。
 何か変な感じだよねぇ」

圭織は小さく肩を揺らして自虐気味に笑う。

「けど、これが最善だと思うよ。
 他の方法じゃ、きっとダメなんだよ。
 誰の指示でも、どんな理由でもさ、きっと納得出来ないよ。
 カオリたちも、メンバーも、ファンの人たちも…」
「…まぁ、そうやな…」

最善。
正解かどうかは分からん。
けど、この選択が最善、か。
ほんまにそうである事を願うわ…。
468 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時23分25秒
「…裕ちゃん」

急に声のトーンが変わった事に気付く。

「裕ちゃんは、今のモーニング娘。、好き?」
「…」

カオリもなっちと同じ事訊くねんやなぁ。
相変わらず、似てるなぁ。

「…まだ、大丈夫や。
 あんたら二人がおるモーニング娘。やもん。
 好きやで」
「…ん、ありがと」
「…やから、まだ胸張って好きやって言えるうちに終わらそ。
 秋になってもまだ、好きやって言えるかどうか、正直私には分からんから」
「うん…カオリも、その自信、あんまりないから…」
「…それまでに終わったらええな…」
「そだね…」

複雑やけど、仕方ない。
モーニング娘。を解散させても、やからと言うて私らの記憶から消えてしまう訳やないねんから
って、その想いだけが私の支えになっとる。
469 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時24分02秒
「…じゃあ、帰るね。 
 何か隣騒がしいみたいだからさ」
「あ、あぁ。そうやな」


――圭織もなっちの意見にのってる。
これで3人。
何となく、ぼんやりとではあるけど、いけそうな気がした。
何の根拠も確信もないけど、そう感じた。
470 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月06日(火)16時24分35秒
×―――×
471 名前:オニオン 投稿日:2003年05月06日(火)16時31分26秒
さぁ、迷走してまいりました。(笑えません

>>456
再開したんのはいいのですが、自分も結末が楽しみです。(ヲイ
果たしてこれはなっちゅー…なのだろうか…

>>457
今までと同じなのは結局中澤さんダイスキって事だけかも。(w
まぁ、自分はそれだけで十分なのですが。
472 名前:オニオン 投稿日:2003年05月06日(火)16時33分00秒
ちょっと流します。
473 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時02分13秒
収録の間、矢口が何度となく私の方に視線を向けてるんを感じてた。
―それは、別に構わんっていうか、ええんやけど。
問題はその矢口をちらちらちらちら見よる吉澤らや。

矢口だけやったら例え参加したないって言われても何とかなるかもしれんけど、
4期は別や。
あの娘らはモーニング娘。がなくなったら相当困るはずやから。

…あぁ、私、損な役回りやなぁ…。
まぁ、しゃーないわな。
なっちのためやもんなぁ。
ほんま私も相変わらずなっちに甘いんやから。
474 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時02分52秒
収録が終わって、とりあえず吉澤らに声をかけた。

「吉澤。石川。加護と辻も」

いきなり声をかけたから四人ともが驚いたような怯えたような顔をして立ち止まった。

「あ…はい…」

石川が返事をする。

「今、時間ある?」
「えっと…」

四人は目を合わせてそんでスタジオから出ようとしとったなっちと矢口の方を見た。
475 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時04分01秒
「…なっちに何か言いたい事あるみたいやけど
 それについては私が引き受けるで」
「え…」

石川と吉澤の顔が曇った。
加護と辻は何で?って顔して私を見てる。

「…悪いな。
 私もなっちの味方やねん」

四人ともの視線が足元に落ちていく。

「…なぁ、自分らの気持ち、聞かせてくれん?」
「…」

優に一分は躊躇った後、吉澤が口を開いた。

「…分かりました」
476 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時05分33秒
同じ話を圭織としてた私の楽屋に四人を迎え入れて椅子に座らせた。
ただ、さっきと違うんは、もう訊かんでもこの娘らの答は分かってる事。
私らが守りたい「あの頃のモーニング娘。」の括りにこの娘らは存在せぇへんって事。

石川の事も吉澤の事も加護の事も辻の事も嫌いやない。好きや。
けど、もうすでに、この四人が加入した当時すでに
私らが大好きやと言えるモーニング娘。じゃなくなりつつあったから。
なっちが大切にしてるモーニング娘。と、そうやないモーニング娘。、
その二つにしか分類出来んのやとしたら、この娘らのおるモーニング娘。は
確実に後者やった。
477 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時06分04秒
「あんたらは、今モーニング娘。がなくなったら困るんやんなぁ?」
「困ります。
 困るって言うか…」

吉澤は口ごもる。

「…正直、そうなったら、どこへ向かっていけばいいのか分からないんです。
 一人じゃ番組纏める事も出来ないし、気の利いたコメントも言えない。
 やっぱまだ、皆がいるから出来る事ばっかりで、
 一人で出来る事ってすぐには思いつかない程度なんですよ…。
 まだ、肩書きって訳じゃないっすけど、まだ、必要なんです。
 モーニング娘。が」

478 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時06分48秒
「…安倍さんや飯田さんは、歌手になりたくて、アサヤンのオーディションを受けてるじゃないですか?
 その、中澤さんも…。
 けど、あたしたちは、歌手っていうより、モーニング娘。になりたくてオーディション受けてる部分が大きくて。
 確かに、あたしたちの勝手な意見なのは分かってるんですけど、けど、
 モーニング娘。でいる事が、今のあたしの夢で…、
 「モーニング娘。の石川梨華」だから頑張れる事が一杯あるんですよぉ。
 きっと、普通に芸能人になってたらやらないだろうなって事も、
 あたしはモーニング娘。のメンバーなんだから。
 だから、頑張ろうって思えるんです」
479 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時07分22秒
「加護は、安倍さんの言う事に、反対するつもりはないんです。
 安倍さんスキなんで、安倍さんのしたい事のジャマしたくはないんですよぉ。
 けど、ただ、加護は、もっと、もうちょっとみんなと一緒にいたいんです。
 秋の分割も、人数減っちゃうからヤなんですけどぉ、
 解散しちゃったら、減るんじゃなくて、なくなっちゃうじゃないですかぁ…。
 加護は、そんなのヤなんです。
 だって、さみしい…そんなの…」

480 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時08分00秒
「なかざわさん」

辻は、私の名前を呼んだ。

「ん。
 何や?辻」
「辻も、あべさんスキなんれすけど、いっこだけ、スキじゃないところがあるんれすよぉ」

そんな、泣きそうな顔して言わんといてや。
なぁ、辻ぃ…。

「あべさんはスキじゃないのかもしれないですけど、
 辻は、今のモーニング娘。がスキなんれす。
 なのに、あべさんはそれを知らないんれすよ。
 そこがスキじゃないです」
「…。
 ごめんなぁ、辻ぃ…。
 なっちもな、知らん訳じゃないと思うねん。
 あの娘はそんな娘やないからさ…」

腕の中に抱きしめた辻は小さい。
とても、とても小さかった。

まだ十五歳のこの娘には、現実離れしすぎてるんやろうなぁ…今突きつけられてるもんが。

481 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時08分40秒
その小さな体が小刻みに震えてるんが伝わってくる。

「辻は、皆の事、大好きやねんよな?
 まだ、離れたないねんよな?
 一杯、色んな事したいんよな?
 今みたいな日々がずっと続いて欲しいんやんな?
 思い出にするんやなくて、まだ、新しい記憶を一杯作って行きたいんやんなぁ?
 …なぁ、辻ぃ…」

目の前がぼやけて見えた。
辻の涙が伝染したみたいに、私の目からもそれが溢れて来てたからやった。

「…ぅくっ…なんで、なかざわさんが…なくんれすかぁ…。
 なかざわさ…は、モ、ニング娘。、なくなって、ほしいんでしょ…ぉ…」

背中で辻の手が力を入れて服を掴んでくるんが分かる。

482 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時09分19秒
辻の事も、好きやった。
よう笑いかけてくれる娘やったから。
楽しい事があると、必ず報告しに来てくれる娘やった。
まだこの歳やと、毎日新しい発見があるんやろうなぁ…。
何を話してくれる時も、キラキラした瞳を見せてくれてたもんなぁ。

「なぁ…辻ぃ…分かったげて、お願いやからさぁ…。
 辻にも何かやれとか言わんから、ただ、なっちの事、許してあげてやぁ。
 近くにおるんやから、私の変わりに、なっちの事、見ててあげてや…。
 辻…」

肩に触れとる辻の頭が無理矢理押し付けられる。
押し付けて、引いて、また押し付ける…。
溢れて来る涙が悔しいんかもしれん。
483 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時09分57秒
「…のの…」

加護が、そんな辻の片方の腕を引っ張った。

顔を上げたら、他の三人も泣いとった。

きっと、分かってるんやと思う。
頭では分かってても、心がそれに追いついていかんのやろう…。

この娘らは、私が思てるより、もっと大人なんやろうから。
なっちの手を取る事はないとしても、きっとその現実を受け止める事が出来るだけの
大人になってるんやと思う。


こんな時に何でか、皆の成長を感じる。
何か、それは、ちょっとだけ、切ない事やなと、思った。


―――――
484 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時10分41秒
どれくらいかそのままでおると、辻が久しぶりに顔を上げて私を見た。

「…も、だいじょーぶなんで…」

ズズッて鼻を啜る。
目、赤いのに、にこって笑う。

私が辻から手を放したら、吉澤が辻を引き取った。
二回だけ、軽く頭を弾むように撫でて、手を繋いだ。

「…邪魔は、さすがにしませんんから…。
 一応、吉澤たちも安倍さんの仲間ですから」

吉澤がそう言うたら、四人ともが一斉に頭を下げて、楽屋を後にしようとした。

…。

「…なぁ」

私の声に全員の動きが止まる。
485 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時11分15秒
「別に、吉澤のその言葉、信じん訳やないねんけどな。
 これだけ、忘れんといて欲しいねんや」
「…何、ですか?」

「…。
 なっちがおったから、モーニング娘。は誕生したんやと思う。
 きっと、他の四人ともがおっても、なっちがおらんかったら、
 あの日、モーニング娘。が生まれる事はなかったと思うんや。
 それ、忘れんといてな…」

「…はい」
「うん…」

今度こそ、背中を向けて、石川の手がドアのノブにかかった。
けど、何でかそれを回そうとはせんで、何か躊躇んよるみたいやった。

「…石か」
「中澤さん」
「えっ、な、何や?」

石川は振り返る。
その目と、目が合うた。

486 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時12分03秒
「中澤さんがいなくても、モーニング娘。は生まれなかったと思いますよ…。
 だって、中澤さんはモーニング娘。に必要でしたから…」

照れ臭そうに微笑う石川のその顔が目蓋に焼きついたまま、
四人は今度こそほんまに楽屋から出て行った。


―なぁ、石川ぁ…そんな一撃必殺な殺し文句、一体どこで習って来たんや…?
そんなん、今まで一度も言うた事なかったやんか…。
かなんなぁ…、ほんまに、かなんわ…ほんまに…。
487 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時12分46秒
胸が、痛かった。

解散させる、手を貸すって決めたのに、あの娘らの顔見よったら、
ほんまに何が、どれが正解かや分からんなぁって感じた。

488 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時13分24秒
×―――×
489 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時14分04秒
490 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月08日(木)00時14分36秒
491 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時01分11秒
目に焼きついたあの娘らの顔を拭う事も出来んまま、オリコンの発表の前日になってしもた。
夕方に仕事が全部終わってしもて、とりあえず事務所に顔を出す事にした。
事務所には数人の社員さんがおるだけで、まぁいつも通り、閑散としとった。
軽く挨拶をして、マネージャーの机の上にあるファンレターの入った紙袋を手に取った。
何の気なしにぼんやりと中を見ると、赤い封筒らしきもんの角がちらっと見えてた。

何や気合の入った手紙やなぁと思いながらそれを取り出してみる。
そしたら今度は郵便番号の上に、速達の文字。赤に赤で書いてるからまた見えにくいの何のって。
ファンレターを速達で送る奴なんておるんや、て可笑しくて笑えた。
492 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時01分48秒
速達で送るファンレターの内容や一体どんなもんやろうか、と気になって、
机の上にあるペーパーナイフで封を切って見る事にした。

マネージャーの椅子に座りながら、中から便箋を取り出す。
真っ赤な封筒の割に、白い無機質な便箋が顔を出した。

そこには、前略という文字も、いや、むしろ本文なんて見あたらんかった。
ただ、私の名前が一番上に書かれてて、三行あけて何かのアドレスが書かれてあった。
そのまた三行あけた所に「名無しさん@22」という不思議な文字。
それ以外何にも書かれてなかった。

普段やったら何かのいたずらやろうって思ってたとこやと思う。
けど、私は何となくそれが気になって、家に帰ってから、パソコンを立ち上げて
そのアドレスにアクセスしてみる事にした。
493 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時02分26秒
家についてすぐに、鞄と紙袋をソファーに置いて、パソコンの電源を入れた。
立ち上がりを待ってる間にエアコンを入れて、コートを脱いでハンガーにかけた。

それから、パソコンの前に戻って、ネットに繋いで、アドレスを入力する。
エンターを押して開いた場所は、どうやらどっかの掲示板のようやった。

何となく、まだ二十九の私に向かって三十路や言いよったとこに似てた。
たぶん、それと同じようなとこにあるスレッドの一つなんやろう。
…に、しても。

【本気】モーニング娘。を解散させる訳だが【マジ】

さぁ、何やろうか、このタイトルは。

494 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時03分15秒
1 名前:名無し募集中。。。 03/02/18 06:12
   これって漏れだけがドッキリ企画に嵌められた訳じゃないよな?
   とりあえず不安だから点呼とるぞ。
   なっちにファンレター出したら解散の手助けせがまれたヤシ手上げろー
   ノ
2 名前:名無し募集中。。。 03/02/18 07:31
   ノ
3 名前:名無し募集中。。。 03/02/18 07:46
   ノ
4 名前:名無し募集中。。。 03/02/18 08:00
   ノ
    。
    。
    。
22名前:名無し募集中。。。 03/02/18 13:46
   ノ
   俺も中澤の方


…こんなんあったんか…知らんかったわ。
っていうか、ネットやで?不味くないか?
誰が見よるか分からんいうのに、危険な事してくれはるやんか。
495 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時04分06秒
読み進んでいくうちに、内容は真剣な相談事になっていってた。
どうしたらもっと人数増やせるか、とか、他に何か出来る事はないか、とか、
それは何か私らが考えてるんと同じで、不思議な感じがした。
   
名前も顔も知らん誰かが、たった一通の手紙を信じてくれて、協力してくれようとしてる。
お互い知り合いでもない誰かが、まるで誓い合うみたいにその意思表示をし合ってる。
発売日当日の書き込みから、半信半疑っちゅうか、ほんまに買わんぞ、買うなよ、っていう
不安を隠せんで確認し合う様子が窺い知れた。

何か、訊いてみたいなぁと思った。
どうしてこの人らはそうも私らに協力してくれてるんやろうかって。

けど、何となく、手紙をくれた22の名無しさんのおかげで、それは訊かんでも分かるような気がした。
何となくやけどな。
496 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時05分29秒
翌日。
朝のワイドショーで読まれた新聞の三面記事の内容に私は言葉を失くした。

蝶ネクタイのその人は、いつもの演劇染みた声で、その記事を読む。

記事のタイトルは、「モーニング娘。解散か?!」

口に運ぼうとしとったパンを手に持ったまま、その一言一句に聞き入った。
497 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時06分08秒
「この後、シングルランキングはお伝えするんですけど、それに関連して。
 三月三日付けのオリコンシングルチャートでモーニング娘。の新曲、
 先週の水曜日に発売されたひょっこりひょうたん島がですねぇ初登場で十位に入っていない事が
 明らかになったんです。それをうけての記事なんですけど。スポニチです。
 前回のここにいるぜぇ!に引き続き、二曲連続でモーニング娘。としての初動売り上げ枚数が
 過去最低記録を更新する結果となる事が明らかになった。
 後藤真希卒業によるダメージは所属事務所、レコード会社が考えるよりも多大なものであった事が伺える。 
 それに加え、この春の保田圭の卒業、そして秋の二分割と立て続けに大幅な改革が取り決められ、
 ファンの不信感を煽ってしまった事も大きく影響していると思われる。
 デビュー当時から囁かれていた解散説が六年目にしていよいよ現実味を帯びてきたと言えるだろう。
 秋の二分割を前に解散も十分ありえる。
 と、記事では纏めています」
498 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時06分48秒
なっちから解散の手助けをするよう頼まれて以降、第三者の口から解散って言葉を聞いたんは初めてやった。
今までは解散かって言われるたびにそんな事あるかいってむかついてたはずやっていうのに、
現金なんか知らん、そんな事は頭に浮かんでこんかった。
ただ、喜ぶ気にもならんかったっていうか、何か、記号を聞いてるみたいやった。
例えば、毎朝マネージャーが述べる一日のスケジュールを聞くような、そんな風に、
その言葉はすっと耳に入ってきた。

何とも言えん感じに包まれとったら、テーブルにあるテレビのリモコンの横で携帯が鳴った。
五秒ほどメロディーを奏でて切れる。メールを受信したらしい。
…まぁ、着信音で誰からかは想像ついたけど、メールの送信者は、なっちやった。
499 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時07分20秒
  会いたい

何て簡潔な。
思わず笑ってしもた。
 
  ちょっと夜遅くなってもええ?
  仕事終わりでなっちの家行くから

了解と書かれたメールを読んで、携帯を鞄の中に押し込んだ。
パンとコーヒーを食べ終えて間もなく家を出る。

肌寒いだけの外気が、ちょっとだけ清清しく感じたんは気のせいやなかったと思う。

500 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時08分00秒
昼を過ぎた頃、マネージャーの携帯に頻繁に電話がかかってくるようになっとった。
モーニングの新曲の事で、少なからず影響があるんかもしれんなぁ。
なんて、どこか他人事のように、携帯を取りながら遠ざかるマネージャーの姿を眺めよった。

そんな私を廊下ですれ違う人がちらっと見て横切っていく。
どうやら昼の番組でも取り扱われてるらしく、興味深いんやろう、何か言いたそうな、
訊きたそうな顔してるわ。

そんなんは別に好きにせぇって感じやったんやけど、さすがに夕方頃までそれが続くと
だんだん嫌気がさしてきて、出番以外は楽屋に引きこもりがちになってしまった。

501 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時08分37秒
表向きとしては直接関係のない私がこんなんやから、当の本人たちはさぞ仕事し辛いやろうなぁ。
…何か頭にくるような事言われてなかったらええけど。
矢口はたぶんまだ不安定やろうから食って掛かるかもしれんし、吉澤や圭ちゃんあたりも
意外とぷっつりいってまいそうやからなぁ…そんで圭織も止めなさそうやし…。
…それはそれで見ものやろうけどな。

そんな風に思いを巡らせよったら、徐々に蓄積されていってたいらいらも緩和されていった。

私にとって彼女らは結構偉大な力を持ってるんやなぁって実感した。
まぁ、それを言うてはやらんけど。
502 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時09分12秒
仕事が全部終わった後、朝の約束通り私はなっちの家に足を運んだ。

たぶん結構なスケジュールやったんやろう、なっちの十八番のはずの笑顔にも
ちょっと疲れが見えとった。
それでも可愛さは損なわれてなかったけど。

「…誰かに、何か言われたりせぇへんかった?」
「んー?
 まぁ、大丈夫だったよ」
「そうか…」

目の前に差し出された紅茶にお礼を言うて、口をつけた。
冷たい体にあったかいもんを入れたからもんやからおなかん中まで落ちていくんを手に取るように感じれた。
503 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時09分53秒
「…今朝ね、テレビでやってたでしょ?
 あれ見ててさぁ、何か分からんないんだけどさぁ
 不安になってきたんだぁ。
 順位、十一位だったらしいんだけど、これでほんとに事務所の人が
 モーニングを解散させる気になってくれるのかなぁって。
 もしかしたらまた新しい何かを始めて、存続させ続けるのかもしれないなぁって思って、
 そしたら、すごい不安になったんだ…。
 もう、これ以上、なっちたちの知らないモーニング娘。になって欲しくないの。
 もう、ヤだよ…」

504 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時10分28秒
抱きしめてた。
今にも泣きそうな顔しとったから。
この、なっちを抱きしめる腕に自信はなかったけど、私もまだ、大丈夫やなんて言うてあげる確信は
なかったけど、思うより先にそうしてた。

「…最近ね…新曲を歌番組で歌ったり、コンサートのリハが始まったりしててさぁ
 何か、衣装着て、マイク持って、歌うたびに、思い出しちゃうんだ…。
 裕ちゃんがいた頃を…」

軽く抱き返しながら、なっちは言う。

505 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時11分37秒
「なっちはさぁ、あのコンサート会場で聞く大きい波みたいな歓声が好きだったんだ。
 あの場所にいる時だけは、その波の中に飲み込まれてもいいって気がして…。
 目閉じたら、熱気みたいなのが体中に纏わりついてきて、何か、夏の日にクーラーの
 きいた部屋から外に出る時みたいな。
 けどさ、けど、もう聞こえないの。
 もう分かんないんだよ、裕ちゃん…。
 なっちたちはね、ずっと必死に歌を歌ってきた。
 いい歌をいっぱい、たくさんの人に聞いてもらいたいってそう思って歌い続けてきたのにさぁ、
 もう、よく分からないよ。
 なっちたちが分からないんだから、応援してくれてるファンの人も分かんなくなってきてるんだろーね。
 この前のコンサートでね、それ、感じちゃったんだ。
 何かさぁ、その不安をかき消すみたいにして、皆叫ぶんだ。
 なっちの名前を圭織の名前を…皆の名前をさ…」

506 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時12分17秒
なっちの言葉を聞いてたはずが、いつの間にか私までトリップしてしてた。

――もう還れないあの風景。
後ろ振り返ったら九人の可愛い仲間たちの全開の笑顔があって、それは
ガンバレ、ガンバロウってそう言うてくれてるみたいな感覚がして、
緊張しぃなはずやのに、何でか大丈夫や、そう思えたんよなぁ…。

507 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時13分03秒
「今度のコンサートも、そうなのかもしれないってそう思うとさ、
 体がね、震えてくるんだ…。
 出来れば、コンサート始まる前に終わらせたかったけど、やっぱり、ほら…
 圭ちゃんの事、ちゃんと送り出してあげたいから、このコンサートだけは、
 何としても成功させたくて…」

そこまで話すと、なっちの頭がゆっくり私の肩に沈んできた。
それで私もトリップから引き戻されて、頭の中で今言うてたなっちの言葉が回り出した。

「…最後まで、見てるから。
 なっちの事、ずっと見てるから、頑張るんやで?
 コンサートでは、まだまだモーニング娘。はいけるって教えてあげなあかんよ。
 失速し出したから終わるんやない、まだいけるけど、終わるんやって、教えてあげなあかんよ」
「…ん」

508 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時13分58秒

帰り際になっちは、ありがとうって言うた―

509 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月14日(水)16時14分34秒
×―――×
510 名前:オニオン 投稿日:2003年05月14日(水)16時15分23秒
夜にもう一回更新したいです。
それで終わればいいなぁと。
511 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時47分58秒
あれから約二ヶ月。
コンサートの合間を縫って、モーニング娘。は新曲を歌いにMステに出演する。
泣きそうな顔してたあの日以来、仕事以外でなっちと接する機会がなかったから、
今どんな具合なんか私にはよう分からんかった。

けど、その答はあっけなく知らされる事になる。
今日、四月十八日の、このMステで。

512 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時48分32秒
「次はモーニング娘。でーす」
「よろしくお願いします」
「早い間隔で出すなぁ。この前のから二ヶ月くらいじゃないか?」
「そうですね」
「あ、そーいやモー娘。解散説出てるけど本人たち的にはどうよ?」

タモリさん、言いよった。

「えっとですねぇ」

圭織、何て答えるんや?

「今、コンサートやってるんですけどぉ、その、圭ちゃんの卒業公演になる…」
「あぁ、そういやコンサート中か」
「はい。で、…」

圭織。

「これがラストシングルなんですよ。
 で、TV出演もこれが最後です。
 レギュラーのとか、もう撮り終ってるのがあるので、放送上はまだいくつかあるんですけど、
 今やってるコンサートが終わったら解散なんですよぉ」
513 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時49分20秒
圭織が飲み込んだんやろう言葉を、にこやかな表情でなっちが続けた。

「ハハハ。
 冗談上手くなったなぁ」
「冗談かどうかは、そのうちすぐに分かりますよ?」

四期・五期の娘らが俯いてるんに気が付く。
そしたら客席から叫ばれる「ええーっ」っていう声も聞こえてきた。
矢口と圭ちゃんはただ真っ直ぐになっちとタモリさんの方を見とった。
圭織が一個溜め息ついたんが分かった。
なっちのマイクを握る手の甲に少し筋が立ってるんが見えた。

「…あ。えっと…モーニング娘。のみなさん、歌のスタンバイの方を…」
「はい」

カメラからはけていく時、微かにカメラの端っこで映った、なっちの手が矢口の肩を抱いたんが。
それが、何か、さっきのどの言葉よりも重たく感じて、何か、切なかった。
514 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時50分15秒
もう一度あなたに会いたい 今すぐここに来て欲しい
でも、わかってる 一緒にいるだけで幸せだった
さよなら・・・


――圭ちゃんがモーニング娘。でいられるうちに出すラストシングル、そのはずやったんやけどな。
みんなの、ラストシングルになってしもたな…。

なっち、圭織、圭ちゃん、矢口…。
足掛け六年、よう頑張ったな。
ちゃんとここまでいつも全力で走ってきたな。
泣いたり、衝突したり、距離置こうとしたり、近付いたり…
一杯、色んな事あったけど、モーニング娘。はずっと走ってた。
あんたたちが、前見て走ってたからやんなぁ。

有難う。
有難うな―

515 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時51分00秒
CMに入った後も、ずっと聞こえてる気がしてた。
いや、気のせいなんかやなかったと思う。

だって、あの娘らは、こっち側に向かって歌ってたから。
このテレビ画面のこっち側におる数えきれんファンのみんなに向かって歌ってたから。

耳に残った、というよりも、耳が記憶した、が正しいんかもしれん。
それくらい、あの娘らはしっかり自分らの立場を見極めて、それを遂行したんや。

この歌が、みんなの心の奥にちゃんと届くようにって。


そしてこの曲は、五月五日付のオリコンシングルチャートで一位を獲得する事になる―

516 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時52分15秒
×―――×
517 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時53分38秒
二〇〇三年五月五日


「ラスト、だね」
「そうだね」
「これ終わったら、どうするの?」
「んー、とりあえず記者会見が待ってるんじゃない?」
「そうじゃなくてさ…」
「うん。
 歌、歌ってくよ。自分のために」
「自分のために…」
「そ。
 なっち自身が歌いたい歌を歌うの」
「いいね」
「圭織も、やりたい事やればいいよ。
 もう誰の世話も焼かなくていいし、自分のために人生生きなきゃ損だよ」
「…うん」

「―そろそろ、いっこか?」
「いこう」
518 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時54分40秒
なっちの予想に反して、公演終了後の記者会見はなかった。
その代わりに、午後九時を回った頃、各メディアにファックスが届いたらしい。
それは翌朝の番組で蝶ネクタイの人が言うたんで知った事やけど。

――――


                                       5月5日
 マスコミ関係者各位

 本日二〇〇三年五月五日を持ちましてモーニング娘。は解散致しました。
 それに伴い、ハロープロジェクトも解散となりました。
 なお、アップフロントエージェンシーは変わらず活動します事を合わせてご
 報告させて頂きます。
 長い間モーニング娘。及びハロープロジェクトにご声援有難う御座いました。
 心より御礼申し上げます。
 
                                  UFAスタッフ一同


519 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時55分25秒
終わったんやな。

なっち、あんたの願い、叶ったで。

みんなが叶えてくれたんやで。

これから、どうするんや?

ほんまの歌手に、なるんやろ?

私も、あんたのファンのみんなも、待ってるで。

また、歌を歌うあんたの姿を見れる日がくるんをな。

520 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時56分05秒
×―――×
521 名前:彼女の願い。 投稿日:2003年05月16日(金)04時56分47秒
お仕舞い
522 名前:オニオン 投稿日:2003年05月16日(金)04時59分18秒
終了。
元々は中澤さんに「っしゃ、解散や」
って言わせたいがために書き始めたのに
それを言わられなかった。
凄い不完全燃焼。
自分が今まで書いた中で一番長編だったのに。
溜め息出まくり…
523 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月18日(日)20時08分33秒
なんか複雑な感じですね・・・
すごい切ないです、次回作楽しみにしてます。
524 名前:気持ち 投稿日:2003年05月22日(木)01時33分50秒
楽屋のドアをノックする音がした。
もうすぐスタジオ入る時間やったから、こんな時間に珍しいなぁと思いながら返事したら、
音も立てんとドアがゆっくり開いて、何かちょっと俯き加減の吉澤が入ってきた。

525 名前:気持ち 投稿日:2003年05月22日(木)01時34分31秒
って思ったら、いきなりその場にしゃがみ込んでしもた。

「…よ、吉ざ…」
「寂しい」
「は?」
「…。
 この頃中澤さんと一緒の仕事ほとんどないからただでさえ凹み気味なのに
 今日みたいに一緒の仕事でも中澤さん、ごっちんばっかり構ってるんすもん。
 吉澤も相手して欲しいのに…。寂しいっすよぉ…」

額を押し当ててる両足を両手でぎゅって抱きしめてそう言う。

いつもの吉澤とは違う、幼いその仕草が可愛くてしゃぁない。
やから椅子から立ち上がってその吉澤のとこまで近付いていった。

526 名前:気持ち 投稿日:2003年05月22日(木)01時35分10秒
「…もっとはよ言うてくれたらええのに」
「…イヤっす」

こもった声が妙に切ない。

「…ひねくれとんなぁ」

意味もなく心臓が早くなっていくような感じがしてき出してる。

「…そもそも、焼餅自体が曲がってる感情っすよね…。
 中澤さんは別に吉澤のものじゃないっすもんね…」

そう言うて顔を上げた吉澤と、丁度その正面に着いた私の視線が交わった。

…。
527 名前:気持ち 投稿日:2003年05月22日(木)01時35分54秒
「そんなん、私やって…。
 吉澤のその目に他の誰が映るんもイヤやで?
 ズルイわ。
 そんな顔で見つめられて何とも思わん人やおらんで。
 ズルイわ…」

私はその場に膝をついて、目の前におる吉澤を抱きしめた。
好きやから?
正直、そんなん分からん。
けど。

528 名前:気持ち 投稿日:2003年05月22日(木)01時36分32秒
「…中澤、さん…」
「…ごめんな」
「…何についてのごめんですか?」
「…分からん…」
「…じゃあ、吉澤も、この気持ち、自分の中に溜め込んでてごめんなさい」
「……」
「中澤さん。
 好きです、愛してます」

そう告げた吉澤の唇が、何も返してあげれん私の唇に重なった。



529 名前:オニオン 投稿日:2003年05月22日(木)01時38分29秒
>>523
人がいた記念になかよしを。
何のオチもございませんがプレゼントです。

530 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月24日(土)19時09分14秒
>>529
ありがとうございます(笑
なんとなく好きです、こんな感じ。
焼餅やく吉澤さんがいいですね〜
531 名前:歌を、歌おう 投稿日:2003年05月27日(火)06時56分40秒
歌う事が、少し、辛く感じるようになっていた。

今まできっと、楽しいとかそんな事考えてる暇なんてなくて
ただ必死に歌っていたから気付かなかっただけなのかもしれない。

私、本当に歌いたいのかな…?

「吉澤ぁ、何難しい顔しとんねんな」

あぁ、しまった。
今中澤さんちにきてるんだった。

「いえ、何もないっすよ」
「…どうやら吉澤は私を怒らせたいらしいな…」
「え、いや…」

だって、歌うのが仕事なのにこんな事考えてるって知ったら
そっちの方が説教くらいそうなんすもん。

「言うたら楽になる事もあるで?」
532 名前:歌を、歌おう 投稿日:2003年05月27日(火)06時57分15秒
…それ、そのふわっとした顔して頭撫でるの反則っすよ。

「…じゃあ…」
「ん」
「訊きますけど」
「うん」
「中澤さんは、歌う事、スキですか?」
「…歌う、事…?
 うん、スキやで?」

そう答えるだろうなって事は分かってた。

「じゃあ、今までもこれからも歌いたくないって思う事はないっすか?」
「あらへんよ。
 歌えんようになったらその時点で私はほぼ、私やなくなってしまうやんか」
「…」

中澤さんじゃなくなる…。
533 名前:歌を、歌おう 投稿日:2003年05月27日(火)06時57分56秒
「私の体は、歌うためのものやから」

真っ直ぐな瞳でそう言う。

「…歌、歌いたくないん?」

投げ掛けられたそれは、詰問ではなかった。
例えばそう、心配事のような。

「…何のために、歌えばいいっすか…?
 アイもコイもユメもキボウも、
 それが何なのかをほんとに知ってる自信なんてないのに…。
 何を、伝えられるって言うんすか…?」

これっぽっちの人生で、これっぽっちの私が、一体誰に何を伝えられる?
534 名前:歌を、歌おう 投稿日:2003年05月27日(火)06時58分48秒
私は、歌手失格なのかもしれない。

そう、思い始めていた時だった。
中澤さんが言葉の手を差し伸べたのは。

「無理して歌う事ない。
 疲れたんなら一度休めばええ。
 けど、きっとあんたは歌いたくなるから。
 この世界から歌が消えたら、きっとつまらんようになると思うで?
 私も、吉澤も、みんな歌なしでは生きていけんねん。
 って言うたら大袈裟かもしれんけど。
 あんたのココん中、歌うっていうプログラムはもう組み込まれてるから」

中澤さんはそう言って私の左胸を指差す。

「それでも無理やったら、教えてあげるから。
 思い出さしてあげるから、私が。
 歌を歌えるって事がどんだけスバラシイ事なんかを」
535 名前:歌を、歌おう 投稿日:2003年05月27日(火)06時59分26秒
思い出していた。
ほんの少し前まで近くで見ていた聞いていた中澤さんの歌を、そして歌う姿を。

…私は、知っている。

歌を歌う中澤さんがどれほど綺麗なのかを。
どれだけ幸せそうなのかを。
536 名前:歌を、歌おう 投稿日:2003年05月27日(火)07時00分05秒
「…中澤さん」
「何や?」
「…吉澤、まだ、いけます…」
「せやな…」


537 名前:オニオン 投稿日:2003年05月27日(火)07時01分22秒
中澤さんはきっと何よりも歌う事が好きなんだと思うんです。
ってことで
>>530
まだいてくれた記念にもういっちょなかよし。
538 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月27日(火)14時26分11秒
中澤さんカッコイイですね、歌が好きなんだなーってスゴイ思います。
それと、ガンバレ吉澤〜(笑
539 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時04分59秒
ハロモニの収録日には、スタジオに入る前に中澤さんの楽屋を訪れるのが習慣になっていた。
今日もいつも通り、その習慣を実行しようとしていた。
いつも同じじゃつまらないかなって思ったから、驚かせようって、ノックをせずにドアを開けた。
けど、いつもの指定席、開いた扉の正面の椅子には中澤さんの姿はなくて、それよりもちょっと右、
備え付けの流しの所でその姿を発見した。

手にはお茶だか清涼飲料水だかのペットボトルを持っていて、その中身を
排水溝へと流していた。

「…」

その横顔はとても険しくて、私は一瞬言葉を失った。
540 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時05分34秒
「…あ…」

間もなくして私に気が付いた中澤さんは、驚いたような顔をして私を見た。
けれどその顔の中には驚きのほかに苦しさのようなものが滲んでいるようだった。

「…調子、悪いんすか?」
「ん、いや、そんな事ないで」

嘘、か…。
んー…、何で「恋人吉澤」にまで強がるんだろう。
…。

「そう、ですか」

私は今閉まったばかりの扉のノブに手をかけた。
541 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時06分21秒
「あー、何か吉澤、頼りにされてないんですねぇ。
 そっかぁ。じゃあ、中澤さんは吉澤なしでも全然平気なんすよねぇ。
 心配とかされるともう超迷惑でウザイって感じなんですよね?
 分かった。分かりました。
 じゃあもう吉澤が中澤さんの事キライになれるまで二人きりになるのはやめましょうね」

そう言ってドアを開けようとすると、向けた背中越しに声がした。

「えっ、ちょっと…」

勿論私も本気で出て行くつもりなんてなかったから、ノブを掴む私の手は
慌てて駆けてきた中澤さんの手に簡単に制された。

「…」

その手は、熱い。
542 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時07分08秒
「…行かんといて…」

すぐ後ろで声がする。
そして、私のその背中に体を預けるようにして中澤さんは抱きしめてきた。

「…ごめん。
 私が悪かったから…謝るから、キライになるとか、そーゆー事、言わんとってって…」

今にも消え入りそうな掠れた声。

「…私な…私の悪い癖やねん…。
 もう大人なんやからって自分に言い聞かして、全部、言いたい事とか
 知って欲しい事とか、そんなん、飲み込んでしまうんよ…」
「…知ってます」

知ってる、そんな事くらい。
543 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時07分52秒
「ほんでな、そーやって吉澤がわざわざ、体ん中に溜め込んだもん、
 外に出そうとしてくれるやんか…?
 それが何か、情けなくてな…」

中澤さんは、あまり私に強さも弱さも見せてはくれない。

「…分かりましたから。
 だから大人しく座ってて下さい。
 マネージャーさんに言って…」

まだ言い終えていないのに、私を抱く腕に力が入れられて、そこで言葉は
ぷっつりと切れてしまった。
544 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時08分31秒
「…おって…一緒におって…」
「…。
 最初からそれくらい素直だと可愛いのに」

一度、弱さ、というか中澤さん自身が自分らしくないと思っているような姿を見せたからか、
今まで聞いた事もないような科白を貰ってしまった。

「すぐ戻りますから。
 一人にさせないですから。
 ちょっとだけ待ってて下さいよ、ね?」

諭すようにそう言って髪を撫でると、それまで肩に触れていただけの頭が
沈むように押し付けられてきた。

「吉澤は、ちょっと賑やかすぎるくらいの中澤さんの方がスキなんで…。
 ―中澤さん、吉澤の事スキですか?」
「…ん…」

微かに、肯定ととれる返事が聞こえる。
545 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時09分13秒
「じゃあ、吉澤のために、無理しないで下さい。
 ちょっとでも疲れたなぁって思ったら言って下さい。
 そっちの方が嬉しいっす。
 こんな風に、中澤さんの事察するのだけが得意になっても虚しいっすから…」

体を捩って中澤さんの顔を今日初めて正面から捉え、キスをした。

「…とりあえず、解熱剤ないか聞いてきます。
 最悪、病院に直行で点滴っすよ?
 キレーな腕に針とか刺されるんすよぉ。
 うあ、考えただけでヤだなぁ…」

重たく聞こえないように少しおどけてぼやきながら楽屋を出た。
546 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時09分55秒


――。

廊下を早足で歩いていると、徐々に胸を襲ってくる痛みを感じる。

「はあ…、やばい…。
 胸、苦しい…。
 何か、スキすぎて伝染しそうだ…」
547 名前:恋愛絶頂 投稿日:2003年05月28日(水)14時10分40秒
お仕舞い
548 名前:オニオン 投稿日:2003年05月28日(水)14時12分16秒
ほんとは『愛、たけなわ』ってタイトルにしようかと思ったけど
自分の美的センスに反するので却下。
>>538
吉澤に頑張って貰ってみました。
あんまり頑張れてない気もしますが…。
549 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月28日(水)16時27分01秒
弱気な中澤さん可愛いです。
それにしても、吉澤さんは中澤さんのことになると結構イッパイイッパイですね(笑
550 名前:始まりは終わり 投稿日:2003年05月30日(金)05時01分37秒
「デビュー、決まったんだって?」
「あ、はい…」

通いなれた養成所の待合室で荷造りをしてるよっすぃーに声をかけた。
よっすぃーとは入った時期が同じで、レッスンが終わった後、よく一緒にマックに行ったり
ゲームセンターに行ったりして遊んでたんだよね…。

「に、しては暗い顔してるね」
「そうですか…」
「…東京、かぁ。
 遠くなっちゃうね」
「…そうですね」
「…。
 あ〜もお、ほら、いつまでそんな辛気臭い顔してるんだよぉ。
 歌、歌うんでしょ?夢、叶ったんじゃないの?
 胸張ろうよ、顔上げて、笑ってよ、ね?」

じゃないとなっちの方が泣いちゃいそうだよ…。
551 名前:始まりは終わり 投稿日:2003年05月30日(金)05時02分12秒
「…出来ないっすよ…」
「…何で…?」

よっすぃーはなっちの肩に頭を沈めてきた。

「…安倍さんのいない生活なんて、考えられないですよ。
 何で、何でそんなに…吉澤の中に依存してくるんすか…」
「…」
「安倍さんが…、好きです」
552 名前:始まりは終わり 投稿日:2003年05月30日(金)05時02分52秒
――あぁ、どうしよう。
なっちの方こそ、よっすぃーのいない毎日を一人で生きてく自信なんてないよ。
…なっちとよっすぃーは二人でひとつなんだよ?
支え合って初めて真っ直ぐ歩いていけるのに。
なのに、もうすぐお別れの時がやってきちゃうんだ…。

「…なっちもだよ」

ねぇ、許して。
間違いだなんて事はちゃんと分かってるんだよ。
けど、なっちにはね、よっすぃーが必要なんだ。

明日になったら忘れるから。
だから、この重ねた唇の事を、なっちとよっすぃーの秘密にさせて。
お願いだから――


553 名前:最愛なる君 投稿日:2003年05月30日(金)05時03分44秒
煙草の煙が、冷たい夜の風の中に消えたら、少し肩を竦めて
コートのポケットに両手を無造作に押し込んで歩き出す私の愛しい人。

私の視線に気付いて、二本目の煙草をくわえたまま、口の端を上げて微笑んでくれる。

「どしたん?」
「や、何でも…」
「何やねんな。
 何でも言うてや?私と吉澤の仲やんか」

煙草を細い指で外して、真剣な顔でそう訊いてくる。

「ほんとに何でもないですから。
 ちょっと…見とれてただけですよ」
「…なら、ええけど」
554 名前:最愛なる君 投稿日:2003年05月30日(金)05時04分19秒
言える訳ない。
もうすぐこの街から私はいなくなるんだって事を。
何も言わず、何も伝えず、私はもうすぐ逃げ出すんだ。
愛してやまないあなたを置いて、私は普通の社会へと引き返すんだ。

この愛を殺して、何食わぬ顔をして、あなたに勝るものなど何ひとつない男の人を
愛するふりをして生きていくんだ。

…愛してるから。
この愛があなたの重荷になる前に私からサヨナラする事を、許して…。



555 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時05分35秒
夕日が沈みきった頃、仕事前のロッカー室で吉澤と後藤は着替えをしていた。

「よっすぃーはもう裕ちゃんとやったの?」
「な、何言って…」

紫色の上着を羽織り、時計をつけながら後藤はそんな事を訊いてきた。

「まだなんだ?」
「…っていうか別に付き合ってないし」
「へえ〜、まぁだ踏ん切りついてないんだ?
 そんな事してるとどっかの誰かに持ってかれちゃうよ?」
「…どういう意味?」
「まぁ、別にゴトーには関係ないけどさぁ」

言いたい事は言ったという感じに吉澤を残してフロアーへと向かう後藤。
一人置き去りにされた吉澤も不可思議そうに首を傾げながら店の外へと向かった。
556 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時06分10秒
店を出て500メートル程行った所で顔を上げると、視界にはいつもと同じように
彼女の姿が飛び込んできた。

「遅い」
「…ちょっとごっちんと話してたんすよ。
 それにまだ時間じゃないし」
「そうなん?
 けどいつももうこの時間やったらおるやんか」
「…」

それはそっちがいるからです、と言いたいところだけど口にはしない。

吉澤は本来、店が開いてから1時間後からの仕事なのだが、
中澤がここにくる目的が自分と知った以上、あまり遅い時間まで
こんな街にいて欲しくはなかったから店が開くと同時に始めるようにしてる。

勿論それも言いはしない事ではあるけれど。
557 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時06分43秒
「…まぁええわ、許したる。
 今日も無事会えた訳やし」
「…許しを請う事なんて何もした覚えないんすけど…」
「あ。
 そういや上、脱いだんや?」
「…」

人の話を聞け、と一度心の中で突っ込みを入れてから話を合わせる。

「…暑いっすからね」
「これからずっとそれ?」
「え?
 …まぁ、半袖は着ないっすから当分こんな感じですけど…
 それが何か?」
「いや、三つ揃はちょ〜っとだけ七五三に見えたてたけど
 それはカッコイイなぁと」

と言って中澤は吉澤の姿を上から下まで見回す。
558 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時07分39秒
「…褒めても何も出ませんよ」
「えぇーっ、出してやぁ。
 っていうかいい加減付き合おうで、な?」
「……また何の脈絡もない事を…」
「もぉ、あんたが言うてくれんからごっちんが言うんやわ」
「な、何をですか?」
「アイシテルって」
「は?」

停止しかけた脳を何とか再起動させて考えると、さっき後藤が言っていた科白が思い出された。
それに、以前矢口の事を振ったという事実も。

「ええわ。
 ごっちんに言うてもーらおっ」
559 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時08分15秒
踵を返し、中澤は店の方へと歩き始めてしまった。
その姿を呆然と眺めながら吉澤は呟く。

「…どっかの誰かって…自分の事じゃん、ごっちん…」

◇◇◇
560 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時08分45秒
翌日。

待てど暮らせど中澤はやってこない。

吉澤はあからさまにテンションの落ちている自分自身を自虐気味に笑い、
そんな自分を納得させる理由付けを捜していた。

平日金曜だから?
けれど今までだってそんな事お構いなしにきていたのだからそんなのは理由にはならない。
何か気に障るような事をした?
特にこれと言って普段と変わった事なんてなかったはず。
561 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時09分29秒
結局いくら考えても納得のいく答など見付かりはしなかった。

仕事を終えた吉澤は肩を落としながら店へと戻った。
ロッカーに入って椅子に腰掛けたきり動こうとしない。
どうやら今の吉澤には着替える気力も残っていないらしい。

「どしたん?そんな浮かない顔して」

そんな吉澤に声をかけたのは中澤と同じイントネーションで話をする平家。

「…別に何でもないですよ」

力なく答える吉澤に後ろから顔を近づけ、耳打ちをする。
562 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時10分02秒
「昨日、ごっちん、何やえらい裕ちゃんに迫っとったで?」

その言葉に即座に反応し、ばっと振り向く。
吉澤の単純ぶりに平家は苦笑した。

「よっすぃーって、好きなもんを素直に好きって言えんで、
 けど、好きなもんは絶対手に入れたいっていうめっちゃ矛盾した性格やんか?」
「…」

この店にきてから何かと世話を焼いてくれている彼女はよく吉澤の事を理解している。
それ故にその言葉は吉澤の痛い所をついていた。

「その欲しいもん、めっちゃ目の前にあるんやで。
 しかも向こうは手出してんのに。
 後はよっすぃーがちょっと手ぇ伸ばしたらええだけやのに
 そんな躊躇ったらあかんよ」
563 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時10分40秒
「――平家さん、損な性格っすね」
「…自覚してるわ、それ」

あーぁ、言われてしもた、と嘆くようなふりをして微笑する平家。

「…ありがとうございます」

吉澤は立ち上がり、自虐的ではない笑顔を見せた。
564 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時11分19秒
服を着替え終えて、ロッカーから黄色のリュックを引っ張り出し、
その扉の内側の鏡に映る自分と目を合わせる。

「…もう、怖気付くなよな…」

背負ったリュック越しに平家の「頑張りや」という声が聞こえた。

それに押されるようにして吉澤は中澤の家へ続く道を歩き始めた。
565 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時12分01秒
真っ暗な夜の闇が吉澤を包んでいた。

午前4時前の街中でひとり立ち尽くす吉澤。

「…。
 っしまったぁ…。
 こんな時間にきても起きてる保障なんてないじゃん。
 っていうか寝てる可能性の方がめちゃめちゃ多いじゃんか。
 馬鹿か、自分…」

目の前には、以前一度だけきたことのある中澤の家。
つけっぱなしのライトが、郵便受けに書かれた「中澤」の文字を映えさせる。
566 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時12分39秒
「…中澤、裕子…」

彼女の名を口にしてみる。
果たして自分は今まで何度彼女の名前を呼んだだろうか、と。
一瞬たりともその名を忘れる事などなかったというのに、
吉澤はそれを口にした記憶がなかった。

「…。
 今度会う時は、ちゃんと名前呼ぼう」

吉澤は門前の段差に座り、夜が明けるのを待つ事にした。
567 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時13分13秒
腰を下ろしてから数十分。
控えめなエンジン音を立てていくつかの新聞配達のバイクが
目の前の道を駆けていく時間になって、
少しだけ空が水色に近い色へと変化を遂げていた。

長袖のシャツ一枚だけを身に着けて浴びる風は、冷たかった。
真夜中に纏わりついてきたどんな風よりも冷たく感じていた。
中澤の事を想う事だけに明け渡した脳の中がガンガンと音を立て始めて、
それすらままならなくさせる。
568 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時14分00秒
行きを見届けたバイクがさっきとは反対方向から再びその道を横切るのを見送ると、
頭の斜め上で光を放っていたはずのライトが消えた。

空はもう十分明るい。
犬の散歩やジョギングをする人の姿もちらほらと見え始めている。
その人達が視線を向けてくるのを感じながら、吉澤はゆっくりと門の内側、つまり玄関の方に顔を向けた。

ライトが消された、という事はすぐそこで誰かがスイッチを切った、という事だから。
それはつまり十中八九、外に新聞を取りに出てくる前触れのはずだから。
569 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時14分35秒
中澤が出てくるとは限らない。
こんな立派な一軒家に未婚のOLが一人で住んでいるはずはないから。

けれど、それでも吉澤はその扉の向こうから姿を見せるのは中澤だと信じていた。

――。

静かにドアの開く音がする。
570 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時15分06秒
「……。
 吉澤…」

先に名を呼んだのは中澤の方だった。

吉澤は、目の前に現れた中澤に目を、心ごと奪われてしまっていたから。

「何、してるん?」

パジャマ用と思わしきTシャツの上に、長袖のシャツを羽織った中澤は
驚いたような顔をして吉澤の元へ駆け寄ってきた。

「…ちょっと、待ち伏せ、ですかね…」

頬が冷え切って、上手くは笑えなかった。
571 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時15分56秒
「…昨日、何できてくれなかったんですか?」

何よりも訊きたかった事を言葉にした。

「…」

その言葉を聞いた中澤の顔が下へと俯いてしまった。

「…ごめん」
「…。
 ごっちんと、何かあったんですか?」

体の節々を余す所なく風が吹き抜けていったせいなのか、吉澤の声は冷静なものだった。
572 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時16分43秒

「…」

黙り込んでしまい、何も答えようとしない中澤の顔を覗きこむようにして声をかける。

「…別に、何言っても驚きませんから。
 だから、答えてください。
 お願いします。
 知りたいんです」

懇願するような吉澤に押され、中澤は重い口を開いた。

「…。
 キス、された…」
「…」
573 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時17分25秒
「…たぶん、私にも落ち度があったと思うし…。
 っていうか、あったから…」
「それで?」
「…だって、私は吉澤の事好きやって言っときながら他の人とキスして…。
 どんな顔して吉澤に会うたらええんか分からんかったんやもん…」
「…気まずくて、こなかったんだ?」

吉澤は、二人を隔てていた門戸を開き、一歩、中澤の方へと近付いた。

「…だったら尚更きてくれれば良かったのに」

そう告げた後、その唇は中澤の唇に不器用に押し付けられた。
574 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時18分10秒
数秒ですぐに開放された中澤の唇は、切なげに呟く。

「…冷たい…。
 いつからここにおったんよ…」

気遣いのような叱るような言葉を言いながら、その体は吉澤の体を覆う。

「…いいんす。
 これは、今まで言わなかった罰ですから」

吉澤は微笑んだ後、真剣な顔になった。
575 名前:恋愛行為 投稿日:2003年05月30日(金)05時18分55秒
「好きです。中澤さんの事」

初めて口にした想い。
初めて口にした名前。
思っていた以上に、どちらも真っ直ぐに言葉に出来た。

「…ありがとう」
「…いいっすか?
 こんな奴ですけど」
「十分や…。
 吉澤がええんやから」
「…ありがとうございます」

――それから、二人の体は同じ体温程にまるまで離れる事はなかった。

576 名前:オニオン 投稿日:2003年05月30日(金)05時20分47秒
>>549
ええ。
吉澤は中澤さんを中心に、日々暮らしてますから。(w
577 名前:オニオン 投稿日:2003年05月30日(金)05時22分21秒
>>550-552 「始まりは終わり」 なちよし
>>553-554 「最愛なる君」   なかよし

この二つは「サヨナラ」をテーマに書きました。
578 名前:オニオン 投稿日:2003年05月30日(金)05時25分19秒
>>555-575 「恋愛行為」 なかよし

久々のなかよし長め。
好評かどうかは別として、結構気に入ってる方なので
続き書けてよかった。
579 名前:TAKU 投稿日:2003年05月30日(金)06時29分36秒
うわぁぁ〜!!!
待ってました!「恋愛行為」♪
オニオンさんの書くなかよしは大好きなので、ちょっと小躍りしてしまいましたよ(笑)
今までROMってばかりだったのですが、勇気を出してレスしてみました。
やっと、よっすぃーが気持ちを言えて良かったです。
最初は、ごっちんの好きな人=よっすぃーかと思ってたのですが裕ちゃんでしたか!
ごっちんにキスされてよっすぃーに逢えない弱い裕ちゃん、最高です!
オニオンさんの作品は勉強になりますよ!
これからも、なかよしを書き続けてください!!
580 名前:自然消滅 投稿日:2003年06月03日(火)16時25分46秒
…もうどれくらいだろう。
朝からずーっと電話が繋がらない。
メールをしても、一応返事は返ってくるけど、かなり、素っ気ない。

一体私が何をしたっていうんだろう。
毎日、顔から火が出そうになるのを堪えて愛してますって打ってるっていうのに。
そんな恥ずかしい目に合わされてその挙句にこの仕打ち。
…もう勘弁してくださいってば。
何か気に障ったんだったら謝りますから。
メールがウザイなら回数減らしますから。
だから理由を教えてくださいよぉ中澤さん…。
581 名前:自然消滅 投稿日:2003年06月03日(火)16時26分19秒
◇◇◇

そんな最低最悪な気分のまま、仕事から帰ってきて、何もやる気にならなくて
ベッドに仰向けに寝転がった。

右手にはとりあえずケータイを持ってるけど。
たぶん今日は待ってても無駄なんだろうなぁって思うけど、それでも何かメールが届くかもしれない。
そう思うと電源を切ってしまう事は出来なかった。

代わり映えのしない天井を見つめる事、数十分。
待っていた、けれど確信なんてなかった中澤さんからのメールを受信した事を告げるメロディーが
右手の中から流れてきた。
582 名前:自然消滅 投稿日:2003年06月03日(火)16時26分56秒
慌てて体を起こしてメールを開く。
今日初めて中澤さんの方から送られてきたメール。
私のメールに対する事じゃなくて、中澤さん発の言葉。

  起きてる?5分後に電話するから
  起きてたらとって。 中澤

素っ気なさは変わらない。
けど、今までのと違うのは電話するって部分。
今日一日取る気配も鳴らしてくれる気配もなかったのに、何故かそう書いてあった。

5分。
この5分がどれだけ待ち遠しいか。
もう速攻でかけたい感じだったけど、せっかく中澤さんの方からかけてくれるって言ってるんだから
今日初めてケータイを鳴らしてくれるんだから、我慢して待つ事にした。
583 名前:自然消滅 投稿日:2003年06月03日(火)16時27分26秒
――。

そして、5分後。
メールにあったとおり、中澤さん専用の着メロが流れ出した。

「っもしもし」
「吉澤?」
「はい」
「まだ起きてたんやなぁ」

私はすごく高揚してきてるっていうのに、中澤さんの声はのほほんとしてた。

「…何でずっと電話取ってくれなかったんですか?」

ただでさえ毎日中澤さん不足気味だっていうのに。
584 名前:自然消滅 投稿日:2003年06月03日(火)16時28分38秒
「声、聞きたいって思ってたのに…」
「いや、私も吉澤の声聞きたかったんやで?
 けどな、こう、一杯一杯まで我慢してから聞くと、より一層幸福感を得られるんちゃうかなぁって。
 何て言うん?
 お風呂上りのビールみたいな?
 いや、それ以上なにんやけどな」

嬉しくてにやけそうだった。
でも。

「そんなの中澤さんの都合じゃないっすかぁ。
 吉澤はずぅ〜っと声聞きたくてオカシくなりそうだったんすから」
「うん、せやな、ごめんな」
585 名前:自然消滅 投稿日:2003年06月03日(火)16時29分10秒
…そんな素直に謝られても困る。
そんな風に言われたら許すしかないじゃん…。

「…いいっすけど、別に…」

何か怒ってた訳じゃないって分かった訳だし。

「…吉澤」
「あ、はい」
「好きやで」
「なっ…」

何言い出すんだ、この人はっ。

「愛してる。
 吉澤は?」

うぁ、言わす気なんだ…。
メールで見るだけじゃ飽き足らず、今度は言わせる気なんだ…。
586 名前:自然消滅 投稿日:2003年06月03日(火)16時29分54秒
「答えてや…」
「…………」
「…」
「好き、です」
「うん。ありがとう」

…言葉にすると実感する。
私、ほんとに中澤さんが好きなんだなぁって。

「…。
 世界中の何よりも、誰よりも、愛してます」
「うん」

一度口にしてしまえば、後はもう容易い。
何だって言えそうな気になってくる。
587 名前:自然消滅 投稿日:2003年06月03日(火)16時30分49秒
「だから、一日中でも、ずっと中澤さんの声、聞いてたいんで…」
「うん」
「電話、取ってくださいよ…」
「うん、取る。
 それにかけるしな」
「…はい」
「…ほな、遅くにごめんな」
「いえ…」
「おやすみ」
「おやすみなさい…」

名残惜しげに切られたケータイを握りしめたまま、空いている方の手を
心臓の上に置いてみる。

さっきまでここで充満していた不安や刺々しい感情はどこかにいってしまったらしい。

―さぁ、明日も頑張ろう。
そう、思える。

588 名前:オニオン 投稿日:2003年06月03日(火)16時34分06秒
>>579
楽しんでいただけたでしょうか?
後藤の好きな人は一応、やぐごま書いた時点から決まってたんですけど、
まぁ、二行はしょったのはどっちか分からなくするためだったりしたんで。
恋愛行為、思いついたらまた行きますんで。
589 名前:大切 投稿日:2003年06月09日(月)02時29分23秒
例えば。
仕事から帰ってきた夜の部屋。
誰もいない部屋の電気を自分でつける時。

例えば。
テレビの中でたくさんの笑い声がしてる時。

例えば。
学校帰り。
自分だけが同じ制服を着たみんなとは違う方向へ向かう電車に乗っている時。

自分はこの世界にひとりぼっちなんじゃないのかなぁって思ってしまう。

そんな事、前は思った事なかったのに。
モーニング娘。になって、芸能人になってからそういう意識が芽生えたというか
強くなった気がする。
590 名前:大切 投稿日:2003年06月09日(月)02時29分54秒
激しく揺れ動き続ける波の中にいて、押されたり、引っ張られたりもするけど、
その激流の中にいる事に何かしらの存在意義を見出してしまっているんだろう、と思う。
だから、こんな静かでこんな穏やかな瞬間を期せずして手にしてしまうと
戸惑ってしまう。

しいて言えば「必要とされたい症候群」、もしくは「暇恐怖症」って感じ。

普通に女子高生やってたらきっとこんな事感じる事なんてなかったんだろうなぁ。

まぁ、けど。

――。

ケータイが震える。
メールを受信したらしい。
591 名前:大切 投稿日:2003年06月09日(月)02時30分32秒
  よっさん生きてる?私は寂しくて死にそうやわ。
  今日は何が何でも会いにいくから。覚悟せえよ。
  中澤

普通に女子高生してたらこんな風にこんなメールを受信する事もなかっただろうから。

  まだ生きてますよ。そんなヤワじゃないっすから。
  けど、待ってます。 吉澤

送信ボタンを押して、切り離されたメールの内容ごとこんな気持ちも切り捨ててしまおう、
そう思った。
592 名前:大切 投稿日:2003年06月09日(月)02時31分07秒
大丈夫。
人間なんてほとんどが生まれてきた時はひとりぼっちだったんだから。
人間はどんな環境に放り込まれてもだいたいそれに順応して生きていける生き物なんだから。

だから大丈夫。
だーれもいない訳じゃないんだし。
ただ、話し相手がいないだけ。
向かいに座るどこのかよく分からない制服の子も、落ち込んだ風な背広のオジサンも、
同じ電車に乗っている。
これをひとりぼっちとは言わない。
大丈夫。
全然、大丈夫。

私は何度も心の中でそう唱えて自分に言い聞かそうとしてた。
593 名前:大切 投稿日:2003年06月09日(月)02時31分38秒
けれど、折り返された中澤さんからのメールが、それを否定した。
と言うか、「私」を肯定した。

  ヤワやと思てたんやけどなあ、違ったんか。けど
  私は吉澤おらんとアカンわ。もう吉澤不足でおか
  しくなりそうや。会いたい。 中澤

ねぇ。
どこかで私の事見てるんすか?
テレパシーとか使えるんすか?
何でそんな、今一番欲しかった言葉を、そんなあっさり言ってくれちゃうんすか?
594 名前:大切 投稿日:2003年06月09日(月)02時32分11秒
あなたからの「会いたい」はもう、私にとって魔法みたいなものだから。
存在意義も存在理由も存在価値もあるって言ってくれてるみたいで、
私にとってあなたは、何よりも影響力のある人で、何よりも大切な人。
だから、そう言われると自惚れそうになる。
あなたもそんな風に私の事を必要としてくれているのだろうかって。

車内アナウンスが、目的地の名前を告げる。
もうすぐ到着するらしい。
595 名前:大切 投稿日:2003年06月09日(月)02時32分49秒
私はメールに返信をして、ケータイをカバンの中に仕舞った。

緩やかに流れていく景色が、ホームの画へと切り替わる。

電車を降りて、改札を潜って、雑踏の中へ飛び込む。

ここに私の居場所はないけれど、この先に居場所があるかどうかは分からないけれど、
それでも私はひとりぼっちじゃないらしいから。

私には、あなたがいる。

それだけで十分だと思えるなんて、単純かもしれない。
けど、私にとってあなたはどんなモノよりも確かなもので、
あなたが私を必要としてくれているというのは、この上ない贅沢だと思う。


596 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)22時45分01秒
必要なものをくれる人がいる。
よっすぃー、贅沢っす。
597 名前:雷鳴。 投稿日:2003年06月24日(火)14時18分57秒
梅雨に入り、雨の日が続いていた。
吉澤が家に来たこの日もやっぱり雨やった。
しとしと降ってただけやったはずが、夜が深くなったら激しさを増して降りしきるようになった。

「うあ…強くなってきましたねぇ…」

窓の外に目ぇやりながら不安げな顔で呟いた。

「…なぁ」
「う…はい」
「もしかして…雷苦手、とか?」
「……」

抱きしめとったクッションに顔沈めて動かんようになってしもた。
598 名前:雷鳴。 投稿日:2003年06月24日(火)14時20分08秒
「…おーい、ひとみちゃーん」
「……く」
「ん?」

何か言うてる?

「…反則っすよ…それ…」

ちらっとだけ向けられた目線のと、ちょっと赤くなってるんが分かる頬。

「何?もしかして照れてる?
 何やそれだけ反応出来れば雷や大した事ないやろ?」
599 名前:雷鳴。 投稿日:2003年06月24日(火)14時21分04秒
っていいよるそばから外で光って、吉澤は悲鳴を上げる。

「うあっ」

…。

なんやろうなぁ…。
よっさん、女の子やろ?やのに何で「うあっ」なん?
普通、「キャーッ」とかやんか?

「…そんな恐いん?
 私は梅雨結構好きなんやけどなぁ。
 紫陽花に落ちてるしずくとか綺麗やんか」

何言うても届かんみたいやな、今の吉澤には。
600 名前:雷鳴。 投稿日:2003年06月24日(火)14時22分12秒
「よっさん怯えすぎ。
 落ちへんって」

って言うても両手で耳塞いで何か知らん「あぁ〜〜〜〜」て、ずっと言いよる。

「…。
 アホウ」

その両手を剥ぎ取ったら自然と目線が上がってくる。

「な、何す…」
「そんなんしても効果ないやろ?」

怯えてる顔に口付ける。
何かまるで私が恐がらせてるみたいでちょっと複雑ではあるけども。
601 名前:雷鳴。 投稿日:2003年06月24日(火)14時23分13秒
「…見せつけたろか?
 あんたの大っ嫌いな雷に」
「何を、すか?」

問いかけられた言葉ごと飲み込むようにもう一回…。

「決まってるやん。
 私らのラブラブぶり」
「…。
 中澤さんって、時々意味分かんないっすよねぇ…」
「…分かりなさい」

軽く頭突きを一発。

「…勉強します…」

602 名前:オニオン 投稿日:2003年06月24日(火)14時26分47秒
>>596
贅沢っすよねぇ。
自分もそう思います。

何気に600越え。
603 名前:深呼吸する曜日 投稿日:2003年06月26日(木)06時46分43秒
裕ちゃんと付き合いだして最初のオフの日は、月曜日だった。
世の中みーんなが忙しそうな月曜日。

あの日、裕ちゃんと二人で家の中でずっといて、特にこれと言って何もしなかったんだけど
何か、幸せだった。
だって、横見たら裕ちゃんがいるんだよ?
ちょっと手を動かしたら触れれる距離に裕ちゃんがいる。
なーんにもない一日だったけど、あの日の事思い出すと今でもにやけちゃう。

だからって訳じゃないけど、ううん、だから、かな。
毎週月曜日はちょこっとでもいいから息抜きするようにしてる。
「毎日気ぃ張ってたらしんどいやろ?
 せやから私に会う時くらい気ぃ抜いてええからな?」
あの言葉のおかげ。
そばにはいなくても、裕ちゃんの声がしそうな気がするんだよね、何かさ、月曜日って。
「なっちー、息抜きせな壊れてまうでぇ」ってさ。
604 名前:深呼吸する曜日 投稿日:2003年06月26日(木)06時47分15秒
今日は久しぶりに空が青い。
ちょっと、いい事ありそーな感じ。

その空の青を見上げて、思いっきり息を吸い込んだ。
体が宙に浮くんじゃないのってくらい、一杯吸い込んだ。

「なっちぃ、何やってるんだよぉ。
 置いてくぞぉ」
「あ〜分かってるって。
 今いくよぉ」

エンジン音のする移動用の車に向かって走る。
矢口がぶんぶん手を振って呼び込んで、急かしてくる。
605 名前:深呼吸する曜日 投稿日:2003年06月26日(木)06時47分51秒
なっちが乗ったらすぐに発車した車の中で、ケータイを覗いてみたら、
裕ちゃんからメールを受信してた。

  空が青いな。

何て事ないメッセージ。
けど、それが嬉しいんだよ。

同じ空を見上げてたんだね。
この青い空を同じ街の違う場所で裕ちゃんも見上げてた。
なっちにとっての息抜きする曜日は、裕ちゃんにとっても同じ意味を持ってる曜日なんだよね?
606 名前:深呼吸する曜日 投稿日:2003年06月26日(木)06時48分28秒
深呼吸する曜日。
あの日知った裕ちゃんの匂いがするような気がする曜日。


607 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月28日(土)22時47分50秒
こういう雰囲気すごい好きです。
ほのぼのというか爽やかというか、スゲーいい感じです(笑
608 名前:長靴をはいた犬 投稿日:2003年06月29日(日)02時46分38秒
呼鈴が鳴り、玄関を開けると目に飛び込んできた吉澤の姿に
中澤は出掛かっていた言葉を飲み込んでしまった。

「こんにちわっす」

当人の方はというと、そんな中澤の驚きを気にする訳でもなく
暢気に挨拶を交わしてくる。

「…吉澤…?」

中澤は吉澤の出で立ちを上から下まで眺め、それはそれは深い溜め息をついた。

「何、その格好…」
「何って…」

吉澤は不思議そうに首を傾げる。

「いや、やから…」
609 名前:長靴をはいた犬 投稿日:2003年06月29日(日)02時47分26秒
まず最初に呆れたのは、屋内だというのにさされた傘。
真黄色のそれが目に眩しい。

だぼだぼのTシャツ。
もうひとつ目線を下げれば7分丈のズボンの裾から僅かに素肌が覗いている。

極めつけはその足元。
きっと皆、小学校高学年になる頃にははかなくなるであろう長靴。
下ろし立てと思われるピカピカの青い長靴。

「…どうしたいんよ、それは…」

何度となく自分の姿を見回す中澤の言葉に吉澤は当然のように答える。
610 名前:長靴をはいた犬 投稿日:2003年06月29日(日)02時48分48秒
「プリチーアピール」
「くはっ」

あまりに予想だにしなかった回答に思わず吹き出す。

「…な、何や、まだよっさんにもそんな可愛げあったんやなぁ」
「あ、ひどっ」

崩顔したまま発せられた言葉にショックの色を隠せない。

「嘘々。
 それより入らんの?」

小首を傾げるその仕草に心を奪われながらも、今日来た初志を貫徹するべく
吉澤は告げる。

「…デート、しません?」

急に声のトーンを落ち着かせそう問われ、中澤は一瞬言葉を失くした。

「…。
 小学生と?」

けれど、心のドキドキを悟られないようにわざとそんな風に言ってしまう。
611 名前:長靴をはいた犬 投稿日:2003年06月29日(日)02時50分12秒
「違いますよぉ。
 吉澤、もう18っすよ?18。
 もう立派なオトナなんですからね」

念を押すため、とも取れるキス。

「…なんでこんなとこでするんよ…」

顔を少し赤くし、目を逸らす中澤。
怒ったような、照れたような横顔に、何故だか幸福を感じる。

「まあいいじゃないっすか。
 それよりデート、しましょうよ。
 たまには外でいちゃつきたいんすよぉ」

頬を膨らませ、それこそ小学生のように駄々をこねてみる。
612 名前:長靴をはいた犬 投稿日:2003年06月29日(日)02時51分40秒
「…。
 分かった。
 戸締りするからちょっと待ってて」

意外とすんなり了承した中澤の姿が部屋の奥へと消えていくのを吉澤は眺めながら
「やった」と、しみじみ呟いてしまっていた。

間もなくして戻ってきた中澤が、靴をはき、扉の外へと出た。
そこで吉澤はふと疑問を抱いた。

「…あの…、傘…」

鍵をかけた中澤は振り向き、真顔で答える。

「いちゃつくんやろ?」

「…」

思わずその体を抱きしめる吉澤。
613 名前:長靴をはいた犬 投稿日:2003年06月29日(日)02時52分48秒
「ん?どしたん?」
「カワイイっす。
 やばいなぁ、やばいっすよ、それ」

何を褒められているのか今一よく分かっていない中澤は適当に相槌を打ち
その腕から逃れる。

「はいはい。
 分かったから。行くで」
「…ケチ」

少し不服そうにぼやく。

「はいはい」

呆れ気味に微笑み、てのひらを差し出す。
単純な吉澤はそれが嬉しくて、あっという間に笑顔になる。
614 名前:長靴をはいた犬 投稿日:2003年06月29日(日)02時53分52秒
「へへ…」

ぎゅっと手を握り、自分のそれより僅かに高い体温を感じ、照れ臭そうに笑う。

エレベーターまでの道を歩く吉澤の足元から響く音。
物珍しいその音。
雨の日にしか聞けない、キュッキュッという独特の摩擦音。

自分よりも背の高い年下の少女が奏でるその音を聞きながら
中澤は小さく、吉澤に気付かれないように、小さく笑みを零した。

615 名前:オニオン 投稿日:2003年06月29日(日)02時55分49秒
>>607
ありがとうございます。
久しぶりに人がいて嬉しかったので(苦笑
なかよしを。

軽くラストスパート。
616 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月01日(火)15時19分20秒
おおお…カワイイ!よっち〜。
ついついニヤケてしまった。
久しぶりに来てみました。もう600!?すげー。
ラストスパート、がんがってください。
617 名前:人生初 投稿日:2003年07月04日(金)05時47分24秒
午後7時を回った頃、近所のスーパーに買い物に行くのが習慣になっていた。
週に2.3回。
まあ大抵は特売の広告が入る水曜日、それと日曜。たまに金曜。
いわゆるオツカイ、な訳なんだけど…。

最初はほんとに嫌々だったオツカイ。
弟が高校に上がった事に関係があるんだろうけど、この春からお母さんが
パートに出た事がきっかけだった。
昼前から暗くなるまで働いてる。
だからお母さんが帰ってくる頃だともうスーパーの特売品は売り切れてしまってるからって
帰宅部の自分にその役が回ってきた。
618 名前:人生初 投稿日:2003年07月04日(金)05時48分09秒
一応受験生なんだけどなぁって思いながら渋々行ってたんだけど、
ある日、いつものように並んだレジにいたパートっぽいお姉さんに一目ぼれしてしまってから、
自分でも呆れるくらい、あからさまに態度が変わった。
まぁ、あんまり笑えない話だけど。

で、このままパートのお姉さんと買い物客っていうのは何だかなぁって思って、
今日、正に今日、行動を起こす決意をした。

吉澤ひとみ18歳。
今日こそ勇気を出してナンパしますっ!

…って買い物カゴ片手に力んでる場合じゃなかった。
619 名前:人生初 投稿日:2003年07月04日(金)05時48分49秒
「いらっしゃいませー」

この人の口から聞いた事のある言葉3つの内の一個が投げ掛けられる。
微妙にこの辺の人じゃないっぽいイントネーションが耳に長く残る感じがして、
結構好き。

「1229円になります」

っと、見とれてた。

「1300円お預かりします。
 71円のお返しです。ありがとうございました」

これ。
この両手でレシートとお釣が差し出されるの、これがいいんだよねぇ。
他のパートの人だと片手で渡すんだけど、この人は違うんだよねぇ。
高ポイントって感じ。
620 名前:人生初 投稿日:2003年07月04日(金)05時49分35秒
一旦レジを抜けて、買ったものを袋に詰める。
で、途中で手を止めてもっかいあのお姉さんの方に近付く。

「あの…、すいません。
 袋、もう一個もらえませんか?」
「あ、はい。すいません」
「いえ…」

「どうぞ」

とりあえず営業用スマイルを食らわされる。
けど、それくらいじゃあたじろぐ訳にはいかない。

そのビニールの袋を受け取って、幸い誰も並んでいないレジ台に裏返して広げた。
621 名前:人生初 投稿日:2003年07月04日(金)05時50分27秒
びっくりした顔のお姉さんに「マジックないですか?」って訊いたら
思ってたより落ち着いた声で返事をされてしまった。

「あ…あります…」

そのマジックでビニール袋一杯にメルアドと名前を書いた。
もう目一杯大きく。

「これ、自分のメルアドです。
 気が向いたらメールください。
 気が向かなくてもお願いします」

流石にボーゼンとしてるお姉さんにマジックと一緒に強引に手渡して、
途中だった袋詰めを再開して店を出た。

ちょっとだけ、街にはびこってる軟派なお兄さんたちを尊敬した夕暮れ時だった。

622 名前:ギブ アンド テイク ? 投稿日:2003年07月04日(金)05時51分41秒
真夜中の道の上で、月の明かりに照らされるあなたを見ていた。

台風が迫ってきているらしくて、時々、強い風があなたをさらっていこうとする。
そのたびあなたは肩口の髪を押さえて、ぼやいたりする。

その、あなたの言うところの、くだらない一言一言が、すごく、愛しい。

なんてちょっと詩人ぶってたら、いつの間にか、お別れポイントまで来てしまっていた。

「…ここまででええよ…」

いつもと同じように、大通りまでもうすぐってところで中澤さんはそう言って
寂しそうな笑顔をくれる。

寂しいんだったら、言わなきゃいいのに。
言うんだったら、そんな顔、しないでくださいよ…。
623 名前:ギブ アンド テイク ? 投稿日:2003年07月04日(金)05時52分49秒
中澤さんは素直なのかそうじゃないのかよく分からないヒト。
だから、中澤さんの分まで口にする。

「あ゛ーー…まだ離れたくないっす」

わざと、顔をしかめてそう言う。
そしたら中澤さんは何でか「ありがとう」って言って抱きしめてくれる。

それが心地良くて、理由なんてよく分からないけど、また、口にする。
寂しい。一緒にいたい。離したくない。って。

私のその科白と、中澤さんの「ありがとう」が発せられるまでのほんの僅かな瞬間に、
ほんとに一瞬、中澤さんが見せる、照れてるような笑顔が好きだから。

少なくともその瞬間だけは、中澤さんに惚れてもらえてるんだろうなって自惚れられるから。

624 名前:オニオン 投稿日:2003年07月04日(金)05時54分25秒
>>616
よかった。
書いてる自分だけがニヤケてるのかと思ってたから。
もう600で、もうお仕舞いで御座います。
625 名前:オニオン 投稿日:2003年07月04日(金)05時59分07秒
思惑通り引越し警報が発令しましたので、
今回の更新分で無事終了と相成りました。
今まで読んでくださった方(単数形?)、ありがとうございました。
626 名前:オニオン 投稿日:2003年07月04日(金)06時00分07秒
撤収。
627 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月04日(金)22時23分16秒
単数じゃないですよー
読んでたけど毎回は書き込んでませんでした、すいません。
勝手ですが、次、待ってていいですか?
628 名前:オニオン 投稿日:2003年07月11日(金)07時46分18秒
>>627
次の約束は微妙に出来ないですけど
そう言って貰えると大変嬉しいです。
わざわざレスをくださり有難う御座いました。
629 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月11日(月)18時14分28秒
630 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月06日(土)16時41分05秒
631 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月06日(土)23時31分21秒
632 名前:オニオン 投稿日:2003/09/25(木) 06:10
保全有難う御座いました。
たぶん次スレのURL待ちだったのだろうとは思うのですが、
再びレス数が伸びたので恥ずかしながら帰ってまいりました。
なかよしも書いてはいるのですが先に書きあがった中藤から。
独りぼっちでもやっていくさ。
633 名前:愛される 投稿日:2003/09/25(木) 06:11
白い、いわゆる石川さん系の衣装を着て、本番が始まるのを待っていた。
正直、こうゆう衣装は好きじゃない。
だから私は少し不機嫌だった。

そこにやってきたこの人。
物凄くタイミングの悪い人だ、と思った。

「何やふじもっちゃん、えらいふりふりひらひらな服着てるなぁ」

今一番言われたくない事を言われて睨んでしまった事を否定はしない。
なのにこの人はそんな私を見ても、笑ったりするんだ。

「ふじもっちゃんは華があるからそんなんも似合うなぁ。いいねぇ」

ん?
中澤さんは椅子を引いて私の隣に座ってしまった。

…。

「あの、矢口さんとか安倍さんのところに行かないんですか?」

素朴な疑問だった。
自分で言うのも何だけど私はあまり中澤さんに気に入られてる訳じゃないはずだから。
634 名前:愛される 投稿日:2003/09/25(木) 06:11
「うーん…。
 ふじもっちゃんが隣におったら嫌やって言うなら行くけど…」

なのにこの人は悪びれもせずそう答える。

「…いえ、別に…そうゆう訳じゃ…」

私は何だか分からないけど恥ずかしくなって口の中でもごもごと意味の分からない言い訳をするのがやっとだった。
そうしたらまた隣で中澤さんが笑ったような気がした。

「…私な、結構ふじもっちゃんの事信頼してるんやで?」

一瞬、何を言ってるのか分からなかった。

「歌、上手いし、キャラも面白いし…。
 これから一杯大変な事あると思うけど、おとめ組の事、支えてって欲しいって思ってる」

目が合ったけど、中澤さんの瞳に映っているのは私じゃなくて、その奥にある、いやもしかしたら手前かもしれないけど、
モーニング娘。自体のような気がした。

そう言えば中澤さん、モー娘。の事大好きなんだっけ。

「まぁ、そんなん私が言う事でもないねんけどな」

中澤さんは苦笑するけど。

裏口入学みたいな形でモー娘。に入ったけど、それでもこの人はその私の事を自分の大好きなモーニング娘。の一員であると認めてくれているんだ。
この人に気に入ってもらう事の出来なかった藤本美貴は、そんな安易な理由でこの人に認められてしまうんだ。

私は今ようやく知ったのかもしれない。
モーニング娘。になる、という事がどんな事なのかを。


635 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/25(木) 22:47
お帰りなさい!もっと読めるわけですね。よし。
なんかほんとにありそうな話で。
裕ちゃんは、モーニング娘。をすっごく愛してたと思います。今は分かんないけど。
娘。が続くためにも、同じ位に愛情持ってて欲しいな、今のメンバーに。
って読んで思いました。身勝手だけど。でも、今の状況じゃ難しいのかな。


636 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/25(木) 22:54
すいません、sageたはずなのにageちゃいました。あれ?
637 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/25(木) 23:28
>>636
言っとくけど半角でsage
638 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/29(月) 20:23
中藤とは珍しい。
なんだか、実際にありそうな話で良かったです。
なかよしも楽しみです。
639 名前:カノジョ。 投稿日:2003/09/30(火) 02:54
初めて聞いた恋人の寝言は、ちょっと心臓に悪いものだった。

あたしと彼女が付き合い始めてかれこれ三ヶ月。
そこそこラブラブなもんだと思っていた。
けど、寝息を立てる彼女の口から出たのは知らない女の人の名前だった。
640 名前:カノジョ。 投稿日:2003/09/30(火) 02:54
+++

毎日、同じ電車で乗り合わせる彼女に一目惚れをしたのは桜咲く春の事だった。
通学時間、つまり通勤時間のはずだから回りの男の人も女の人もスーツ姿の人が多くて
けれど彼女はちょっとした余所行き、そんな印象の服装だった。
だから回りからは少し浮いて見えたのも事実。
それに加えてすごく馴染んでいるように見えた金髪に感心したのも事実。
けど、あたしが最も見惚れたのは、その横顔にだった。
世の中こんな美人な人がいるんだなぁって思って、美術館で絵画を見るみたいに観賞しちゃうくらい、綺麗だった。

それから春の終わりまであたしはほぼ毎日、彼女の横顔を見つめていた。
その日々はそれなりに幸せなもので、彼女を見れた日のあたしは自分でも分かるくらいゴキゲンだった。
けどそれだけじゃ物足りなく感じるようになったのは、そうだな、夏のせいかもしれない。
花火に海にお祭、目白押しのイベントにそそのかされてしまったんだと自分に言い訳した。

そして、あたしよりも二駅前で降りる彼女の姿を、初めて追いかけた。
641 名前:カノジョ。 投稿日:2003/09/30(火) 02:55
「あのっ」

今思えば不粋な声の掛け方で。

「そのっ、金髪のお姉さんっ」

だけどそんな言葉でも彼女を呼び止める事は出来た。

不思議そうに振り返った彼女の目と初めて目線がぶつかった。
あの感覚、背中に電流が流れるような感覚をあたしはきっと一生忘れないし、もう二度と経験しないと思う。

「あの…」

大きく息を吸って、覚悟を決めた。

「お姉さん、女子高生と恋をしませんか?」

あたしの告白を聞いた彼女は、ぱっと見のちょっときつそうな目元を取り払って、笑った。

「何や、けったいな子やなぁ」

初めて耳にした彼女の声は、イメージ通り低めで、イメージとは違う独特のイントネーションを持っていた。
変な女子高生に絡まれたと思ってるらしく苦笑しながら、それでもこんな言葉が発せられた。

「じゃあとりあえずお知り合いになろうな?」

その時は時間もなかったしとにかく彼女がそう言ってくれたのが嬉しくて頷いた。
名前を教え合って、ケータイのメアドを交換してあたしは慌しく電車に舞い戻った。
642 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/30(火) 02:55
+++

初めてのメールの内容は、とてつもなくくだらないものだったと思う。
確か、緊張しまくり、とか、言わなくていい事ばかり書いて送った気がする。
それでも彼女からの返信はあたしを嬉しくさせるもので、その他愛ない一言一言がすごく心を有頂天にさせた。

何度目のメールかは覚えていないけど、会う事を持ちかけてきたのは彼女の方からだった。
その一文は今でも覚えてる。
「明日の暇潰しの相手になってくれん?」
なんて、身も蓋もない誘い文句だった。
それでも嬉しかった。
気味悪がられてる訳じゃない事が分かっただけでも。
643 名前:カノジョ。 投稿日:2003/09/30(火) 02:56
初めての待ち合わせ。
不安だったのは、彼女は制服姿じゃなくてもあたしの事を判別出来るのかという事。
毎日電車の中で顔を合わせるけど、あたしは彼女の事をいつも見ていたけれど、彼女があたしの事をどの程度識別出来るのか
検討もつかなかったから。

正直に言えば、彼女よりも先に着くようにわざと早めに家を出ていた。
あたしはどんな人込みの中でも彼女を見つける自信があったけど、彼女もあたしを見つけてくれるだろうかって、試してた。

少しぐずっているような空をぼんやりと見上げていたらすぐそこで足音がひとつ止まったのが分かった。

「早いなぁ。
 私も結構はよ出たつもりやったんやけどな」

彼女に視線を向けた。
そしたら、彼女の後ろに、今彼女が歩いてきたのであろう道が見えた気がした。
一杯人が歩いてるっていうのに、真っ直ぐに、あたしの足元まで赤い絨毯がひかれていたみたいな錯覚。
それは、彼女が迷う事なくあたしを見つけてくれた証拠だって思っても、いいよね?

顔を上げて彼女と視線がぶつかる。
自分でも顔が緩んでるのが分かった。
そんなあたしを見て、彼女はふわりと笑った。
644 名前:オニオン 投稿日:2003/09/30(火) 03:02
>>635
お待ち頂いてたようで光栄です。
中澤さんの娘。への愛は∞です。
きっと現メンもされを察せるはず。
希望的観測っぽいけど。
>>637
お手数かけまして。
>>638
書いてる自分も珍しいなぁと思いながらでした。
なかよし、いっときました。

続きは今から書くので早ければ朝までにいけるかも、です。
645 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 03:21
こっそり更新するの反則!
つーか気づいてない自分がアホですた、はい。

にしてもヤバイ。何ですかこの2人。
なかよしに萌えるのがすっごい久しぶりな気がして嬉しいです。
続きもお待ちしております。



646 名前:名無し読者。 投稿日:2003/10/13(月) 02:30
更新見っけ〜(w
待ってました。
藤中もGOODでした。なにげにこの組み合わせ好きです。
647 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/20(月) 02:50
「いこか」

その表情のまま差し出されたてのひらを取って歩き出したら冗談でも何でもなく、街の景色自体がふわりと揺れたように思えた。
幸せな風が吹き抜けていったみたいに。

彼女と歩いた町並みはいつもと同じなのにどこか違って見えて。
ドラマや小説ではよくそう聞くけど、実際本当にそう思えたのはこの時が初めてだった。

彼女がいる、それだけでこんなにもこの目から見える世界が変わって見えるだなんて思わなかった。
彼女へのこの恋心を忘れない限り、この景色も忘れないだろう。
648 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/20(月) 02:50
暇潰し相手に選ばれたあたしは、彼女と色んな店を回った。
お互いひらひらの服は似合わないねなんて笑ったり。
マグカップを恋人と揃えて買うのは邪道だと言う彼女の顔がやけに真剣だったり。
時々硝子越しに目が合ってあたしは苦笑して彼女はそれを楽しそうに目を細めて見ていたり。
繋いだ手を放すのが、やけに恐く思える瞬間があったり。

あたしはとっくに彼女に惚れてしまっていた自覚はあるけれど、
こうして一緒に時を過ごす中で、もっと、以前にも増して、好きという気持ちが大きくなっていっている事を感じた。
649 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/20(月) 02:51
「吉澤さん、どこら辺に住んでる?」

彼女がそう訊いてきたのは、影の伸び出した夕暮れ時。
あたしと同い年くらいの女の子達で溢れているファミレスで普段よりも少しだけ早い晩御飯を食べている時だった。

「暗いし、送っていくから」
「え、いや、けど…」

どちらかといえば暗い夜道をひとりで歩かせるのが危険なのは彼女の方だと思う。
650 名前:オニオン 投稿日:2003/10/20(月) 02:55
>>645
なかよしヲタの数が減少しないよう底の方で頑張りますw
短くてごめんなさい…

>>646
わーい。見付かったぁ(夜中なのでテンション高めで
藤本さん×中澤さんCPはなかよしに似てるんだ、と自分に言い聞かせたら書けましたw

次回は…今月中に完結しろ、と希望的観測。
651 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/21(火) 00:49
待ってます。
なかよしやっぱりいいですね〜。
652 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/31(金) 04:24
けど結局押し切られる形になって彼女に送ってもらう事になってしまった。

彼女が降りるはずの駅を越えて、あたしの住む街に降り立つ。

アスファルトを踏む音が静かに響く。
それに同調するようにして、彼女の肩が揺れる。
初めはそれが愛しくて、あたしもそれに倣うようにして揺れていたけど。
徐々にそうはいかなくなった。
冷たい風が、彼女の息遣いをやけにダイレクトにあたしの耳に届けてくるから。
繋いでいるてのひらはお互いの体温を分け合っているはずなのに、彼女のてのひらの温度ばかりが冷たくなっていく気がして、
それはまるで彼女があたしの事を好きじゃなくて、そのくせあたしは焦げる程に彼女を好きなんだ、と
思い知らしてくるようだったから。
あたしの右腕から彼女の左腕までの数センチの距離が、やけにもどかしく思えた。

ひとつ、ふたつ、信号を曲がり角を曲がる。
家が、近付く。
このてのひらをもうすぐ放さなきゃいけないんだって、頭の中でもうひとりの自分が呟く。
653 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/31(金) 04:24
「…吉澤さん?」
「え、あ…」
「どうかしたん?」

彼女の瞳が近付く。
髪が流れる。
繋いだてのひらを彼女が、少しだけ強く握る。

足が止まっていた。
あたしの目には彼女しかいなかった。

彼女はあたしを覗き込む。
首を傾げて覗き込む。

あたしの左手が勝手に、あたしの命令も聞かずに、彼女の肩を抱いていた。
そのまま、ふたりの纏うものよりも冷たいであろうコンクリートの壁に彼女を押し付けていた。

不思議そうに、驚いたように見つめてくる。
654 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/31(金) 04:24
彼女の左手があたしの右手を放そうとする。
あたしの右手は彼女の左手をきつく握り締める。

目を閉じる事も忘れて、というか、それに向ける神経が余っていなかった。
彼女の瞳を見つめるだけで精一杯だったから。
そして、そのまま、彼女の唇を奪った。
体中を彼女で一杯にしたくて、何度も、何度も口付けた。
655 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/31(金) 04:25
何度目で、かは記憶にないけど、彼女の目と視線が交わった。
さっきと同じような目の色をしていた。

「…どうしたん?」

声も、同じ。

「…だって」
「うん…?」
「中澤さん、この前言ったじゃないですか?
 とりあえずお知り合いになろう、て」
「…ああ。最初…」
「知り合い、友達、恋人、ていう手順を追わなきゃいけないのだとしたら、とてつもなく面倒臭いなぁって思って。
 だから、だったら、こうした方が手っ取り早いんじゃないかって、思ったから」

何故か余裕がないのはあたしの方で、彼女は涼しい顔をしていた。
656 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/31(金) 04:25
「…体だけが欲しいん?」
「とりあえず、体が欲しいんです」

彼女は何故かそんな事を訊いてきて、何故かあたしはこんなにも飢えていた。
けど、それとは裏腹に、あたしは女の人と寝た事はなかった。

彼女は微笑んでいた。
すぐそこには、あたしの家が見えていた。

彼女はあたしを抱きしめる。

「知らんの?やり方」
「…」
「せやったら、私が教えてあげてもええんやけど…。
 現時点では私はあんたとそーゆー事する気はないから」
657 名前:カノジョ。 投稿日:2003/10/31(金) 04:26
顔を押し付けられていた彼女の胸から伝わる心臓の規則正しい鼓動が、何だか切なかったのを覚えている。

――。
その、あなたにやり方教えてくれた人がこれっすか?
誰だよ、みちよって。また気高そうな名前じゃんか。
658 名前:オニオン 投稿日:2003/10/31(金) 04:28
>>651
有難ございます。
お蔭様で更新できました。

で、続くのかなー続けられるのかなー(苦笑)
659 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/02(日) 01:54
続きます(断言
いくらでもお待ちします。
お願いします。
「なかよし」と「ごまゆう」なぜか大好きなんですが・・・超マイナーなんですよね?
オニオンさん・・・めちゃくちゃ感謝してます〜!!
黄色板も・・・密かに楽しみにしてます。やぐちゅーも好きだったり(W
660 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:52
コーヒーの匂いがぷんぷんと漂う職員室の中、背中合わせに座る中澤先生が声をかけてきた。

「最近、うちの柴田に懐かれてるらしいやん?」

勿論、先生の手にもコーヒーカップが握られている。

「あー…まぁ、そうですねぇ」
「むらっち、て呼ばれてるんやって?」

先生は椅子を近づけてきて、口許に笑みを浮かべながら楽しそうに訊いてくる。

「…今日は『めぐちゃん』に変わってましたけど」

あんまり特定の生徒と仲良くしないように、て校長先生だったか教頭先生だったかに釘を刺された事があるんだよねぇ…。
守れてないなぁ、私。

「…なぁ、村田先生」
「はい」
「難しい年頃やねん。
 相手してあげるんに多少疲れる事もあるかもしれんけど、根気よぉ付き合ったってな」
661 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:52
…。
あぁ、中澤先生が、先生の顔、してる。

「…先生って、先生だったんですねぇ」
「はい?」
「あ、気にしないでください。
 ちょっと、嬉しかっただけですから」

始業を告げるチャイムがスピーカーから鳴り響く。
それに被さるようにして先生の声がする。

「むらっちさん、よぉ分からん人やなぁ相変わらず」

いつものお得意のポーカーフェイスの一環ではなくて、ふ、と、笑った。

「行くで?
 授業始まる」
「は、はい」

不覚にも、その顔に、この中澤先生を相手にドキッとしてしまった。
662 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:53
その気持ちを少し引きずったままふたつの授業をこなして、13時前、やっとお昼休みに入ってくれた。
中澤先生はいつもお昼を食堂で食べるはずだから顔を合わせなくてすみそう。
申し訳ないけど今ちょっと会いたくないです…。
だって、ドキ、ですよ?ドキッ。

うぁあ、駄目だぁ。
考えるのよそう。
それよりお昼だお昼。

「いただきまぁす」

と、パンにかじりついたところで、頭上から可笑しそうに笑う声が降ってきた。
663 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:53
「むらっち、今日もクリームパン?好きだねぇ」
「…何よぉ。いいでしょ、別に」
「うん、まあいいんだけどね。
 ただもうちょっと血となり骨となり、なものを食べて欲しいなぁと思うだけだから」
「…考えとく」
「そう?ありがと」
「ひとみんは食堂?」
「ううん、お弁当」
「さすが料理人だねぇ」
「あたしはただの保健医よ」
「知ってるよぉ。
 だけど美味しいんだもん、ひとみんの手料理は」
「はいはい、ありがとう。
 また食べにきてね」
「うん。また食べさせてもらいます」
「じゃあね」
「うぃー」
664 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:53
今日も大谷先生と食べるのかなぁ。
いいねぇ。若い者は。

なんてひとり隠居生活イン縁側、な感じになっていたら、ひとみんとすれ違うようにして入ってきた人の姿に驚いてしまった。
手には白い紙袋。
それを机の上に置いて、中からなにやら取り出しているらしいがさがさという音。

「…。
 中澤先生が、お弁当…」
「なんや村田先生。
 急に呟くなや、怖いわ」
「あ、すいません。
 珍しかったので、つい…」

うわぁうわぁどうしよう。
665 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:53
なんてひとりで慌てふためいていると、微笑まれてしまった。
その顔のまま、中澤先生は自分の口の端を指差して、
「ここ、クリームついてる。コドモか?キミは」
と、指摘を受けてしまった。

「う、す、すいません…」

思いっきり滅入りながらそのクリームを拭っていると、不思議な単語が降ってくる。

「可愛いけどな」

相変わらずの笑顔は、やっぱりいつものポーカーフェイスの一環のそれなのかなぁ…。
そんな思考を停止させたのは、中澤先生が開いたお弁当箱の中身だった。
666 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:53
「…。
 すごい、まともですねぇ…。
 先生が作ったんですか?」

思ったままを口にしてしまって、とんでもない失言をした気がしたけどもう手遅れ。
ふかーくふかぁく反省します、はい。申し訳ありません。見くびってました。

「……」
「…なんで黙るのでしょうか、先生?」
「…。
 もらった、んや。
 もらったからには、食べな失礼、やんか…?」

おぉ?!
何でかは分からないけどこんな弱々しい中澤先生を見るのは珍しい。

「へぇ。
 誰にですか?」
「うっさい。
 関係ないやろ」
「やましい事があるんですかぁ?」
667 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:54
私もしつこいなぁ、とは思いつつも、その理由には自分でも思い当たる節があるから知らないふりをする事にした。

「…ない、て」
「あ。
 今目逸らしました?」
「ちゃう、て。ほんまに」
「へぇ。へぇー……」
「…」
「いいですねぇ、おモテになって」

…そっかー。
中澤先生、美人だもんねぇ。モテモテだねぇ。

「…村田先生こそ、モテてるやん。
 言うてたで?外見と中身のギャップが素敵、て」
「えぇーっ。
 ギャップなんてないのに…。
 見たままよ、て、今度言っておかないと…」
「無駄や無駄…」
668 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:54
呆れた声に被さるようにしてぎしっと、椅子が軋む音がした。

「…?」
「いっつもそんなん食べてるんな?
 栄養偏るで」

コン、といい音がして私の机にトマトジュースが置かれた。

うわぁ、やっさしーい、て、確か苦手でしたよね?トマト…。

「先生こそ、偏ってますよ。
 好き嫌いなんてしてたら…」
「私はええの。
 村田先生、体弱いやろ?
 もっと自分の事労わったりな」

そう言うと先生は、職員室の奥へと消えていった。
たぶん、お茶でも汲みに行ったのだろう。
669 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/09(日) 04:54
そう言えば柴田さんが言ってたっけ。
中澤先生は口が上手いって。
それは、私も同感だけど、でも、分かってるはずなのに、なんだろう。
にやけてしまうのは…。
670 名前:オニオン 投稿日:2003/11/09(日) 04:57
>>659
申し訳ない、色々と(汗
あっちは近いうちに必ず…

と言う訳で、自分の今嵌ってる中村(中澤さん×村田さん)です。
飼育初か?w
――続けっ
671 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/13(木) 13:28
すんげえおもしろいっていうかスキです
すげーオニオンさんすげーよ
672 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 17:20
+++

清掃時間の終わり、教室に入ると、待ち構えていたように柴田に声を掛けられた。

「先生、昨日むらっちとお昼食べたって本当ですか?」

この子はまたどっからそんな情報を入手してくるんか知りたいもんやわ。

「いや?
 ただ普通に食べてただけやで。
 まぁ、席が背中合わせやから…」
「いつも食堂なんじゃないんですか?」

…人の話は最後まで聞こうな。
673 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 17:20
「たまたまです。たまたま。
 というか、柴田。自分どこで村田先生と接触してるん?
 あなたに国語を教えているのは確かこの私のはずやんか?」
「国研に先生のおつかいに行った時です。初めてお話したのは」

…誰や。この子を学級委員長にしたんは。
……私か。

「先生」
「ん?」
「むらっちの事、あたしから奪わないでくださいよ」

ほんまにええんか?うちのクラス。この子が委員長で。心配になってきた…。

「…奪いませんって。
 何や柴田、奪われそうなん?自信ないん?」
「――先生、キライ」
「ありがと。私は好きやで」
674 名前:オニオン 投稿日:2003/11/15(土) 17:21
>>671
有難うです。
マイナーCPならまかせてください(大口を叩いてみる)

短いけど、続きはたぶん今夜。
675 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:21
+++

それは、突然訪れた。
そう。例えば夕立のように。
いや、実際降ってきてるんだけど…。
傘、持ってこなかった自分がいけないんだけど。
もう反省しても遅い。
空は真暗だし、そうそう止む気配もない感じだし。

私はいい。自業自得なので。
けど…何故か隣で中澤先生も自分と格闘中なご様子。
傘、持ってるのに。
676 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:21
「……。
 村田先生」
「えっ、はい」
「…電車、よな?」
「…はい」
「…」

な、なんでしょう。その間は。

「…入ってく?」
「……えぇーっ」

と、しまった。
慌てて口押さえたけど…その顔、やっぱり手遅れですよね。はい。すいません。
677 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:21
「不服か?」
「あ、いえ…」
「私かて、また柴田にどやされるんかと思うと…あれやけど。
 …ほっとけんし」

困った顔。
先生は、こんなに表情豊かな人だったっけ?

「…て、あれ?
 中澤先生、バイクなんじゃあ…」
「雨の日は乗らんのよ。
 やから、駅からバス」
678 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:22
先生とバス。
すごく不釣合いな感じ。
バイクとかで風切って走ってるのはイメージ通りなんだけど、
バスって。曲がる度に揺れて、それに為す術なく同調して揺れる、なんてイメージじゃないなぁ。
嫌いそう。何となく。

「で、入ってく?それとも他当たる?」
「…。
 いいんですか?」
「ええって言うてるやろ」

ちょっとだけ、怒った顔。

「……」

ああ。そっか。そうなんだ。
先生は、ちっともポーカーフェイスなんかじゃないのかもしれない。
そりゃあ、他の先生方に比べればそうかもしれないけど。
ただ、今までただ同じ学校で教師してます、ていう感じだったから、
それ以上でもそれ以下でもなかったから、そう感じてただけなんだ。
679 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:22
でも、今の私は。
先生のことが気になり出していて、目が勝手に先生を追うようになっているから。
前よりも断然、よく、見える。

―これは、もう恋になってしまっているのかもしれない。

「…入れて、ください」

私の言葉に先生は小さく笑って、そして、藍色の傘が、ふたりの上に咲いた。
680 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:22
傘が雨を弾く度、心拍数が上がっていく感じがした。
視界じゃ、眩しく、めまぐるしく、光が行き交っているっていうのに、
この傘が他の全てを遮断して、私と中澤先生、ふたりぽっちの密室を作り上げているような感じ。

「――村田先生、そっち、濡れてるで?」

先生の声が聞こえて、ふと我に返ると、目が合った先生は苦笑して、傘を私の方に少し、傾けてくれた。

「…あ。ほんとだぁ」
「何?気付いてなかったん?
 ほんまに村田先生はおもろいなぁ」
681 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:22
その顔にドキドキしている事を悟られそうで、慌てて言葉を捜した。

「せ、先生だって、濡れちゃってますよ。
 …すいません。
 私が、不精して傘持ってこなかったから…」
「あほぅ。
 どんだけネガティブやねんな」

笑う。すごく、自然に。ふわっと。

それに見とれそうになっていると、先生は、傘の位置は変えずに、持つ手だけを、左から右に持ち替えて、
空いた左手で、私の右手を引っ張った。
肩と肩とが、触れ合う。
682 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:23
触れているはずの感触があまり感じられなくて、私の指先はかじかんでいるんだと知った。
先生の指先もおんなじなんだと知った。

こんな時、隣にいるのが友達や恋人なら、くだらない言葉のひとつやふたつ、私でも言えるはずだと思う。
だけど、今隣にいる中澤先生は私にとって、前者でも後者でもないから、言葉が見付からない。
それは、先生も同じなのかもしれない。
683 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:23
「…。
 駅まで、もうちょっとやし。
 嫌でも我慢しなさい」

先生は、生徒相手に言うような口調でたしなめる。
それは、強がりで、優しさなのかもしれないって、そう、思いたい。
だから―

「ヤじゃ、ない、です」
「…」

私がそう言うと、先生は私を少し見つめて、それから。

「よろしい」

なんて、微笑んだ。
684 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/15(土) 21:23
続けっ
685 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:07
+++

「めぐちゃんの背中、ピリピリ言ってるね」

国研にある私の席に座って、柴田さんはそんな事を言った。

棚の中で資料を探していた手を止めて振り返ると、頬杖をついた柴田さんと目が合う。

「…中澤先生は、やめた方がいいですよ」

本来、その言葉に少なからずダメージを受けるのは言われた私の方のはずなのに、言った本人の方が切なそうな顔をしていた。

「何言ってるの?」
「…めぐちゃんは、嘘つくの下手なんだから」

はぐらかそうとした私の言葉に被さるようにして、非難の声と顔を貰ってしまう。
686 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:07
「――それに、中澤先生には」

そう言いかけた柴田さんの言葉の出所を、私は慌てて手で塞いだ。

「…それは、直接中澤先生の口から聞けばいい事だし、聞かなくても、いい事なの」

視線をぐらつかせて、俯かれる。

「……めぐちゃん」
「ん?」
「…時間が、ないの」

その言葉が指すものが何なのかよく分からなかった。

「―あたし、後3ヶ月ちょっとで卒業しちゃうんだもん」
687 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:08
根気よく付き合ってあげるように中澤先生から言われた。
だけど私は先生ほど器用ではない。
こんな時、先生なら、優しさをあげても、心はしっかり自分で繋ぎ止めておけるんだろうけど…。

「…ありがとうね?
 柴田さんみたいに、真っ直ぐなの、悪くないと思うよ…」

私は優しさも心も、どちらも彼女には差し出せない。
―こんな科白、私は、ズルイ大人だ。

柴田さんの横に立って、その頭に手を置く。
柴田さんは顔を上げずに、私の腰元を抱きしめた。

「――まだ、後3ヶ月ある。
 諦めないから、まだ…」

それはさっきと同じような科白で、だけど、それとは真逆の意味を持っている。

「――うん…」

そんな柴田さんが少し羨ましくもあった。
688 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:08
+++

自分の足音を聞きながら、マンションの階段を昇っていた。
外はもう、真暗。
街灯と同じような、オレンジ色の照明に照らされながら階段を昇り切って、フロアに出る。
顔を上げると、見慣れた制服に、見慣れた横顔が私の部屋の前にあった。

「――藤本?」

呼びかけると、微笑んでピースをされた。

「どうかしたん?」

一歩一歩近付く。
校章の入った鞄に、ヘアゴムが外されて重力に操られるように流れる髪。
どこか、歳相応以上の艶を感じてしまう。
689 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:09
「先生と一緒に、ご飯食べたいなぁって…」

鞄を持ってるのと反対の手がビニール袋を見せる。

「…急に?」
「…駄目でしたか?」
「そうやないけど…」

鍵を開けて、中へ招き入れる。
カチャッとドアが閉まった後、静まり返った部屋に藤本の小さい笑いが漏れた。
振り返ったら、照れたような顔が見えた。
690 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:10
「――ほんとは」
「うん?」
「嫉妬、でした」

はにかむように、ふにゃっと笑う。

「嫉妬?」
「…柴っちゃんから、その、聞いて…。
 村田先生と一緒にお弁当食べてたって…」
「あー…。
 けど、そん時私が食べてたん、藤本の作ってくれたお弁当やったんやけど?」
「そーなんですけど…何か、いーなぁって…」
691 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:10
普段教室の中じゃあれだけ大人ぶった顔して、あんまりクラスにも馴染もうとせんくせに、
私には惜しげもなくこんな顔を見せてくる。こんな科白を言う。

それが結構可愛くて仕方なかったりする私は、藤本のてのひらでええように転がされてるんかもしれん。
それでも全然、構わんけど。

「…何作るん?」
「水炊き…」
「…ええなぁ」
「ほんとですか?良かったぁ。
 じゃあ、すぐ作りますから」
「うん」

急に元気良くなって、ばたばたと台所へ向かう。
692 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:10
―なんで、こんなに愛しいんやろか、ほんまに。

「…藤本」
「はい」

振り返った笑顔に、唇を重ねた。

693 名前: 投稿日:2003/11/23(日) 03:11
流しちゃおう。
694 名前: 投稿日:2003/11/23(日) 03:11
無意味に。
695 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/11/23(日) 03:11

―続けっ。
696 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/23(日) 23:59
中村かぁ〜と読んでたら中藤もあるとは……
マイナーCPのオンパレードですごい面白いです。
697 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/01(月) 05:00
夕暮れ出した校舎の外を気にしながら、誰もいなくなった教室に入った。
もう皆帰った後だろうなぁと思っていたのに、あたしの鞄の他にもう一個、机の上で寂しそうに主人を待っている鞄があった。

「あれー?美貴ちゃんがいる。
 何してるの?」
「委員会があったから。
 学期に一度の、ね。
 そっちは?」
「んー…むらっちのとこ」
「村田先生、ねぇ…」
「やっぱり気になるんだ?」
「ん、いや、別に」
698 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/01(月) 05:01
相変わらず、人の顔色読むの得意だなぁ…。

「…で、柴っちゃんは?」
「ん?」
「勝てない勝負?それとも勝機がある試合?」
「あははー…。
 うーん…負け戦、なんだけどね?
 あれだけ色仕掛けしてるっていうのに全然普通の生徒扱いだよ。
 切なーいなぁー…っと」

ぼすっ、と空気の膨張するみたいな音を立てて柴っちゃんはあたしに抱きついてくる。
699 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/01(月) 05:01
「…。
 珍しいね?弱気なんて、さ」
「…たまにはねぇ…」
「いつもそうだとこっちは楽なんだけどなぁ。
 検討してみてくれないかなぁ?」
「……善処するぅ」
「そんじゃ、期待しないで待ってるよ」
「ひどーい…」

しばらくそのまま沈黙が続いて、不意に顔を上げた柴っちゃんは、首を傾げながら、訊いてくる。
700 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/01(月) 05:01

「一緒に帰る?」
「あー、いいよ」

グラウンドの方からは、ホイッスルの音が小さく聴こえている。
さっきまで同じ教室にいた下級生ふたりが、廊下の外の通路を帰っていっている。

「じゃあ、鍵返してくるから」
「うん」
701 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/01(月) 05:03
次でラストっ
702 名前:オニオン 投稿日:2003/12/01(月) 05:04
>>696
有難うです。
ほんとマイナーだらけだねぇこのスレ。(人事みたいに
703 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:18
暗い廊下の突き当たりで、職員室だけが光を持っていて、目に眩しいくらいだった。

「失礼しまーす…」

カラカラと軽い音を立てながらドアを開ける。
教頭先生と目が合う。
何かやっぱ苦手、ここ…。

さりげなく目を逸らして壁の方へ向く。
出席簿、エアコンのスイッチ、その隣に鍵を吊って、手を引っ込めようとしたら、名前を呼ばれた。
704 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:18
「藤本、何してるん?」

その声に、顔が緩みそうだったのを抑えて、振り返る。

「最後だったんで、鍵を…」
「あぁ…。ご苦労さん」

なのに先生は、こんな風に微笑んでしまう。
なんか、ずるい。

そう思っていると、足元をひんやりとした風が掠めた。
なんとなく開いたドアの方を見ると、柴っちゃんの想い人、村田先生だった。
恐ろしくタイミングがいい。

村田先生はたぶん、知らない。
中澤先生とあたしが付き合っている事。
だけど、あたしは知ってる。
村田先生が中澤先生を好きな事。

さあ、どうしよう――
705 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:19
見かけた事があるようなないような…、たぶん、中澤先生のクラスの生徒さんであろうとは思うその子と目が合って、
一秒足らずでその子は私から視線を逸らし、先生に声をかけた。

「柴っちゃん待たせてるし、帰りますんで」
「ん、気ぃつけてな」
「はぁい」

その子は先生に、それと私にも会釈をして、外へと出た。
706 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:19
そういえば、今言ってた柴っちゃん、て、柴田さんの事、だよね?きっと。
なんか、ほっとするなぁ。
クラスに馴染んでないのかなぁとも思ってたけど、仲良い子、いるんじゃん。
そっかぁ…。

――て、ね。まさか。
決め付けは、良くない、よね…。
とは思いながらも、先生の顔を見てしまう。


先生は私の視線に気付く気配もなく、閉じられたドアを見つめている。
707 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:19
「…。
 先生、そろそろ会議始まりますよ」
「…あー、そうやなぁ」

独り言みたいに呟いて、微笑む。
その、私に向けられた笑顔が、どこかポーカーフェイスの一環のものに思えて、
さっき打ち消したはずのものが、私の中で確信に変わってしまおうとしていた。

ドアに向けられていた先生の顔には、無防備そうな笑顔が浮かんでいたから。
708 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:19
―残念。
知らなくてもいい事なんだって、思ってたはずなのに。
知る必要、なかったんだけど、なぁ…。
709 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:20
不覚にも溜め息が出てしまったけど、仕方ない。
けど。
先生が幸せそうに見えて。
それが何故か嬉しかったから、気付かなかった事にしようと思う。

私も、そのうちあんな風に笑う事が出来るかなぁ――。

「―村田先生?」

今度は私の方が現実に呼び戻される側になってしまっていた。

「あ、はい」

慌てて足を踏み出す。
710 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:20
もう少しだけ、心の中に隠しておこう。
この恋心を。
それと、ふと、柴田さんの顔が浮かんでしまった事を。
711 名前:ハッピーディズ。 投稿日:2003/12/13(土) 03:20

終われっ
712 名前:つじつま。 投稿日:2003/12/13(土) 03:20
みっちゃんが卒業してから、彼女の愚痴の捌け口は、私になってた。
最初の頃は、彼女自身が自分の中に溜め込んでおけんようになった際で私に零しに来てたはずが、
いつの間にか些細な事さえも、聞いてあげるようになってた。
つまり、頻度が著しく高くなってしまったという事。
713 名前:つじつま。 投稿日:2003/12/13(土) 03:21
私が卒業してから、矢口とも前みたいには会えんようになって、独りでおる事が増え出してた頃、
彼女と会う回数が増え出してて、いつの間にか一番懐いてくれてるんは彼女になってた。
714 名前:つじつま。 投稿日:2003/12/13(土) 03:21
新曲の衣装にちょっと似てるようなセーターを纏った彼女は、ごく自然に私の家のソファーに座っている。
彼女の口から出てくるんは専らメロン絡みの事やった。
村田の話がその大半を占めてて、後は、斉藤への嫉妬、とか。
私の目に映る彼女はそんな、表情豊かで、ちょっと感情の起伏が激しいようなオコサマやった。

それを聞いてるんは、悪くない、と言うか。
まぁ、微笑ましく思ってた。

だから私は極力聞き役に徹するようにしてた。
715 名前:つじつま。 投稿日:2003/12/13(土) 03:21
「寒かったやろ?
 体温め、な」

紅茶を差し出すと、きょとん、とした顔。
差し出されたそれに、じゃなく、たぶん今脳内にある考え事がまとまらん、とか、そんな理由なんやろうと思う。
聞き役の私は、彼女に言葉を催促するような科白は飲み込んで、曖昧に笑って、隣に座る。

彼女は一口口をつけてカップをテーブルに置くと、しばらくじーっと私を見た後、重たそうに目蓋を閉じて、
その頭を私の肩口に寄せた。

「…ん?」
「…。
 えへへ、なんか、疲れちゃいました」

苦笑する声が聞こえた。
716 名前:つじつま。 投稿日:2003/12/13(土) 03:21
「…もう、そんなん考えるん、やめたら?
 どうせ残るんは、好きって気持ちだけやで。
 ――言うたら…?」

聞き役失格やな、こんな科白言うなんて。
言うた傍から少し後悔した。

けど、それが最善やと思ったんは事実やし。
彼女の口から、そう明言された訳やないけど、彼女が村田を好きなんは、確かなはずやし。
斉藤に嫉妬してるんも、事実なはずやし。
717 名前:つじつま。 投稿日:2003/12/13(土) 03:21
頭を起こした彼女は、そんな私の心の声をかっ飛ばすように、予想外の言葉を投げ付けて来た。

「それは、もう来るなって意味ですか?」
「…はい?」
「…あたしが、それを口実に、ここに来てるのに気付いての事、ですよね?」

それはどこか告白めいた言葉のように聞こえた。

「―いいえ…。
 今、知りました、が…」
「えっ」

私の返事に、彼女の方も驚く。
718 名前:つじつま。 投稿日:2003/12/13(土) 03:22
「…中澤さんの、バカぁ…」
「な、何やねん。
 そんなん、気付く訳ないやろ…」
「…。
 そうですよね…中澤さん鈍感だから…」

バカ呼ばわりされた上に、まるで全面的に私が悪いみたいな言い方をされたら黙ってもおれんから、
仕方ないから、言う羽目になる、訳、やな…。

「…そーやけど、そーやなくて。
 私やって、余裕ゼロな状態やねん。
 気付く余裕やある訳ないやんか」
719 名前:つじつま。 投稿日:2003/12/13(土) 03:22
私の言葉に彼女の瞬きが止まる。

「あ、え、と…。
 それは…」
「告白のつもり、やったけど…?」
「う…ありがとうござい、ます…」
「…えーと…。
 んじゃ、よろしく、かなぁ…?」

手を差し出してみる。

そのてのひらを見ながら、彼女ははにかみ、笑う。

「こ、こちらこそ…」

720 名前:駆け足のサンタクロース 投稿日:2003/12/13(土) 03:22
十二月に入った途端、世の中全部、クリスマス一色になる。
大きなツリーがあちこちに立ってたり、普通の家の壁さえも、装飾されてきらきらと目に眩しい程輝く。
挙句、カップルがやけに目に付くようになったり、正直、この季節、めっちゃ寂しい。
夏とか、バレンタインなんかよりも。
721 名前:駆け足のサンタクロース 投稿日:2003/12/13(土) 03:22
そんな私に、この子は何でかラブラブハイテンションなメールを送りつけてくる。
そのトドメは、この子らしいと言うかなんと言うか…、相変わらずの内容のメールやった。

  クリスマスイブはあたしが予約しますからね。
  もうしましたよ。約束ですからね。

予約って言うもんには確認が必要やって事をこの子は知らんのやろうか…。
722 名前:駆け足のサンタクロース 投稿日:2003/12/13(土) 03:23
そのメールから数日後に、事務所でばったりと出くわしてしまった。

私を見つけると、急に笑顔全開になって、駆け寄ってくる。

「もうすぐ来るって聞いたんで。
 待ち伏せてみましたぁ」
「…何か用なん?」
「いえいえ。
 ちょっとお届けものを」
「お届けもの?」

その返しを待ってたみたいな顔。

「今、中澤さんが一番欲しいものですよぉ」
「…。
 彼氏?」
「違いますよー」

冗談ばっかりぃ、と言わんばかりに笑われる。
全然、本気で言うたはずなんやけどな。
723 名前:駆け足のサンタクロース 投稿日:2003/12/13(土) 03:23
「失礼しまぁす」

腑に落ちんでおる私はお構いないな感じに、そんな言葉が聞こえて、考える間もなく
その腕の中に収められてしまった。

「ちょっ、斉藤?」
「ぬくもりを提供中ー」

て、腕に力を入れるなやな。

「わ、分かったから。
 な?みんな見てるし、離してぇや」

懇願すると、意外にあっさりと解放される。
けど。
724 名前:駆け足のサンタクロース 投稿日:2003/12/13(土) 03:23
「イブには愛も提供しますから。
 お楽しみにぃ」

その言葉にはオマケにウィンクと投げキッスがついてきた。

とんだサンタクロースに目ぇつけられたもんやわ…。


725 名前:私の瞳には星と君だけが映っていた 投稿日:2003/12/13(土) 03:24
冷え切った道の上、星を気にしながら歩いていた。
大谷の背中は、さっきから黙りこくったまま。
時々、思い出したみたいに私を振り返って立ち止まってまた、歩き出す。

冬の夜は、コートとマフラーだけでは凌ぎ切れそうにもなくて、思わず首を竦めて俯いた。
そのまま何歩か歩いてると、アスファルトだけを映してたはずの視界に、急に揃えられた足元が飛び込んできた。

あ、と思う間もなく、顔を上げるんと同時にぶつかってしまった。
726 名前:私の瞳には星と君だけが映っていた 投稿日:2003/12/13(土) 03:24
「ご、ごめ…」

寒さのせいか何なんか、やけに真面目な顔。
小さな、小さな溜め息。

相変わらず無言のまま、てのひらだけが、捉えられた。

大谷が歩き出すから私も、引かれるようにして、歩き出す。
目を見てみると、大谷の目には、星しか映ってなかった。

仕方なく、私も星を見上げる。
それを待ってたみたいに、言葉が降ってきた。

「…離したく、なくなるから、我慢しようと思ってたのに…」
727 名前:私の瞳には星と君だけが映っていた 投稿日:2003/12/13(土) 03:24
大谷はカッコ悪い自分をあんまり好きじゃないらしいけど、こーゆーのも、
カッコ悪いなぁって思ってるんかもしれんけど、十分、カッコええのに。
カッコ悪くても、全然、ええのに。

たぶん、知らんのやろうなぁって思う。
そんなとこも、好きなんやって事。
728 名前:私の瞳には星と君だけが映っていた 投稿日:2003/12/13(土) 03:24
「…何か、照れるなぁ。
 あんな沢山の星に見られてると、なぁ…」

横顔は無口。
けど、それも分かってるし。
それに、それを崩す方法も、知ってるし。
729 名前:私の瞳には星と君だけが映っていた 投稿日:2003/12/13(土) 03:24
私の方をこれっぽっちも見ようともせんその横顔に、勝手に、キスをする。

「――。
 全然、照れてなんかないじゃないですか」

一気に赤面して、非難の声。
けど、分かってない。
その顔も、好きなんやから、私は。

「…じゃあ、照れさせて…?」
「…いいですよ…」


730 名前:オニオン 投稿日:2003/12/13(土) 03:25
そんな訳で中澤さんのメロン総当りでしたw
731 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 03:25
732 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 03:26
――
733 名前: 投稿日:2003/12/13(土) 03:26
―――
734 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 12:52
いいっ!!
すんげーいいっ!!
めちゃめちゃいいっ!! 
735 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 23:27
メロン総当り最高!
柴中が一番好きです。
736 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/14(日) 08:59
メロンも中澤さんも好きなんで面白かったです
村柴もあって幸せです!
737 名前:相思相愛。 投稿日:2003/12/17(水) 02:50
整った顔と、バランスの悪い言葉。
どうしてもっと他の言葉を選べないんだろうって思う。

「さいとーさん、最近太りました?」

人の二の腕をぽよんぽよんさせながらそういう科白を言うのはやめなさい。

「…美貴ちゃん、すごい失礼…」
「えぇー、何でですかぁ。褒めてるのに」
738 名前:相思相愛。 投稿日:2003/12/17(水) 02:50
反省知らずの美貴ちゃんは右手の二の腕だけでは飽き足りないのか、空いている方の手であたしの腰を抱いて、
挙句、顎を肩に乗っけてくる。

「…どこがよ」
「抱き心地満足度指数が二割増に」

だから、ちょっとは悪びれなさいってば。
そんな科白、まるであたしは美貴ちゃんを満足させるためだけに存在してるみたいじゃない。
739 名前:相思相愛。 投稿日:2003/12/17(水) 02:51
あたしの気持ちを察する事もなく、美貴ちゃんは、あたしの膨れっ面の頬をさっきまで二の腕を弾ませていた指で突っついてくる。

「さいとーさんって演技で怒った方が迫力ありますよねぇ。
 それ、全然怖くないですよぉ」

…この子はもう、ほんとに癪に障るんだから。

「そんな事より、ちょっとはあたしが怒ってる理由を考えてよね」
「ええー…」

ぼす、と、にぶーい音がして、気が付けば、美貴ちゃんの右腕の先と左腕の先があたしの体の前で合流していた。
740 名前:相思相愛。 投稿日:2003/12/17(水) 02:51
「美貴が可愛いから?」
「…」
「違いますよねぇ。
 うん。分かってます」

で、何でこの子はそれだけ可愛い顔して、自信ないんだろう。
不思議すぎ。

「…もぉ、いいよ。
 どうせ分からないんでしょ?」

かく言うあたしは、性格的にも可愛くない女だ。

「…。
 分かりません、けど…。
 あの…」
「ん?」
741 名前:相思相愛。 投稿日:2003/12/17(水) 02:51
「何か気に障ったのなら、謝ります、から…。
 だから、美貴の事、呆れないでください。
 さいとーさんは、美貴にとって、何て言うか、その、安心出来る人、だから…」

あたしにこんな科白、勿体無いなぁって思う。

「うん。ありがとーね?」

あたしが頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑う。
結局、あたしがこの子に甘いのがいけないんだろうなぁとは気付いてるけど…。
美貴ちゃんのいいように扱われてるんだろうっていう自覚もあるけど。
だからって、すぐにその、あたしの二の腕をぽよぽよするのはやめなさいってば。

742 名前:ひとりじめ。 投稿日:2003/12/17(水) 02:51
マサオと楽しそうに話をしているひとみちゃんを背中で気にしながら、めぐちゃんの言葉に頷いている。
めぐちゃんがあたしに好意を持ってるっていうのは知ってた。
忘れようもない。
だって、それを聞いたのはひとみちゃんの口からだったから。

マサオがひとみちゃんに好意を持ってるって事は知ってる。
たぶん、気付いていないのはひとみちゃん自身くらいだろうし。
743 名前:ひとりじめ。 投稿日:2003/12/17(水) 02:52
だけど、と思う。
それもこれもあたしには関係ないって。

「ん?あゆみ?」

適当な相槌を打つのをやめて立ち上がったあたしにめぐちゃんの不思議そうな声が掛けられる。
けど、それに振り返る事なく、ふたりの方へ向かって行く。

こっちを向いていたマサオが、めぐちゃんと同じような顔をして同じような言葉を言ってくる。

「何?どした?」

それに釣られるようにひとみちゃんが振り返ろうとする。
だけどそれを待ってもいられないから、目が合う前にあたしの腕の中に収めた。
744 名前:ひとりじめ。 投稿日:2003/12/17(水) 02:52
「…あゆみ?」
「…」
「どうしたの?気分でも悪いの?」

心配そうな声。
その声の持つ温度が好き。

「…だめ、だからね」
「何が?」
「ひとみちゃんはあたしのなんだから」
「なっ」

あたしの科白にマサオが言葉を詰まらせた。
あたしの宣戦布告にか、それともマサオがひとみちゃんを好きなんだって気付かれている事にか、
とにかく、マサオは焦った仕草を見せている。
745 名前:ひとりじめ。 投稿日:2003/12/17(水) 02:52
「可愛い事言うねぇ、あゆみ」

ひとみちゃんはやっぱりまだ分かってないのか、そんな事を暢気に言う。

「だって、ほんとの事だもん」

腕に力を入れたら、ひとみちゃんは可笑しそうに声を漏らした。

「ありがと。
 あたしでいいならいくらでも持ってって、て感じ?」
「全部、持ってく」

これっぽっちも、誰にもあげないんだから。

746 名前:日々、恋に落ちて 投稿日:2003/12/17(水) 02:52
彼女を見上げるあたし。
こんな時にだけ純情ぶるつもりもないけど。
肉付きの悪い腕と、やさしい言葉はこんなにもいつもの彼女なのに、その目に宿るものは
何故そんなにあたしを惹き付けるんだろうって思う。
逸らせない。逸らさせない。そんな引力を感じる。
今更、離れてって言われてもお断りだけど、当然。
もう、以前のような関係には戻れないだろうし。
だったら、もう、前に進むだけ。他に選択肢なんていらない。
747 名前:日々、恋に落ちて 投稿日:2003/12/17(水) 02:53
「…ひとみん」
「な、に」
「今、考え事してたでしょ?
 駄目だよ。
 罰としてあたしの名前、100回呼ぶ事」
「何よ、それ」
「だから、罰だって」
「罰になってないよ?」
「いーの。
 あたしが喜べればそれで」
「いつも呼んでるでしょ?」
「もっと呼んで欲しいの」
「わがままだね」
「ひとみんの愛がそうさせるから仕方ない」
748 名前:日々、恋に落ちて 投稿日:2003/12/17(水) 02:53
彼女の口許は柔らかく笑っていたけど、声は笑っていなかった。
めぐみはあたしに、年上っぽい所を見せたいらしいけど、この程度で余裕がなくなるようじゃまだまだだと思う。
だけどそんな余裕のない子供っぽさを見れるのが、あたしは嬉しい。
彼女を見上げている時のあたしはいつも、彼女のてのひらの上で戯れているだけのコドモだから。

もしもこれが、彼女があたしに見せる飴と鞭の使い分けの一環だとしても、それはそれでいいと思う。

749 名前:いい日。 投稿日:2003/12/17(水) 02:53
朝。
いつもと同じように乗り込んだ移動車の中で、隣に座っていたマサオがポケットから小さい紙袋を取り出して、
あたしに差し出してきた。

「何?」
「…さぁ?」

答になってない言葉を返される。

「…開けていい?」
「ん」

テープを剥がして中を見ると、どう見ても、見間違えようもなく、指輪が入っていた。

「…えっと、クリスマスプレゼント、とか?」

早いけど、フライングしまくりだけど、ぎりぎりセーフな範囲、だと思うよ、うん。
750 名前:いい日。 投稿日:2003/12/17(水) 02:53
「ん、いや…」

…マサオ。
もうあんた次何かの機会に特技は何ですかって訊かれたらお茶を濁す事って書きなさい。
しょーがない。
あんまり好きじゃないけどこれが一番手っ取り早い方法だし。

「…。
 もしかして、手切れ金ならぬ手切れ品?」

別に付き合ってる訳じゃないけど。

「違うって」

明らかに声のトーンが変わった。

「ピアス、見に行ってたんだよ。
 そしたら、それ、見かけて、さ…。
 似合うと、思ったから。
 …それだけ」
751 名前:いい日。 投稿日:2003/12/17(水) 02:54

「…マサオ」
「何」
「好き」
「あっそ」

愛の告白とは受け取って貰えないけど、あたしもそれがいつもの事になってしまっている。

「…ねぇ、自慢してきてもいい?」

後ろで楽しげに話をしているふたりを見返りながら訊いてみる。
だって、マサオはあたしに好意を持ってそうしてる訳じゃないって分かってても、
浮き足立つから仕方ない。
752 名前:いい日。 投稿日:2003/12/17(水) 02:54
「よせって。
 バカじゃないの」
「分かった。
 それとなく自慢してくる」
「同じだって」

立ち上がろうとしたあたしの腕にマサオの腕が伸びてきて制する。

「だって」
「だって、何」
「じゃあ誰に言えばいいのよ。
 この喜びをあたしは誰に言えばいい?
 もーねぇ、言いたくてうずうずしてるの、ほんとに」
753 名前:いい日。 投稿日:2003/12/17(水) 02:54
眉間に皺を寄せて考えてる顔。
ひとつ溜め息をついて、腕を、あたしのそれごと引っ張った。

「…私が聞く、から」
「…いくらでも?」
「いくらでも」
「分かった。そーする」

別に付き合ってる訳じゃないけど、たぶん、知ってるよね?
それが恋愛感情なんだって事は知らないとしても、あたしにとってマサオは特別な存在なんだって事。


754 名前:オニオン 投稿日:2003/12/17(水) 02:58
>>734
何か凄い褒められてるw
>>735
まだまだいきますよ、メロンw
>>736
村柴メインで書きたいよ村柴。

レス、多謝です。

755 名前:オニオン 投稿日:2003/12/17(水) 02:59
そんな訳で斉藤さんのメロン総当り+α
756 名前:オニオン 投稿日:2003/12/17(水) 02:59
我ながらぐだぐだだー
757 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 03:18
+α、人様の手によるものには初めてお目にかかりました…感動
ひたすらに自給自足の日々が終わりを告げた今日は記念日♪
メロン内だと村斉が一番好きなので、それも嬉しかったです
758 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/18(木) 04:20
すごいいいです!作者さんの書かれるメロンはみんなかわいくて最高ですね
読んでて幸せな気持ちになりました
759 名前:ふたつのてのひら 投稿日:2003/12/24(水) 07:22
冬の日。
てのひらを握り締めている。
右手も左手も、きつく、強く握りこぶしを作って北風に晒す。

この北風だけが覚えているから。
この北風だけが教えてくれるから。
きみのてのひらの温もりを。
ポケットに押し込んだら、すり抜けられるかもしれないから。
760 名前:ふたつのてのひら 投稿日:2003/12/24(水) 07:22
「あゆみちゃん、何してるの?凍死実験?」

声に気付いて振り返ると、少し口許を緩めためぐちゃんの顔があった。

「しょうがないなぁ。一役買っちゃう?」

そんな言葉を言いながらめぐちゃんは両手を伸ばしてあたしの両頬に引っ付けた。

「ひゃぁっ」
「雪女になってしまえぇ」
「めぐちゃんの方がよっぽど…」
「なんだとぉ。
 よぉし、歯をくいしばれぇ」
761 名前:ふたつのてのひら 投稿日:2003/12/24(水) 07:23
首を竦めながら抗議しようとしているあたしの言葉に、めぐちゃんの声が被さる。
右手のてのひらをぐーにして構えて、左手であたしの肩を軽く掴む。

ほんとに叩かれるって訳じゃないって分かってるから、言われるまま歯を食い縛ってみる。

微かに風を切る音の後、頬に触れたのは四角くて熱を持つもの。
めぐちゃんは目でそれを受け取るように言ってきて、そのまま視線を前へと向けた。

「ひとみんとマサオくんはもう行っちゃったのかい?」
「え、あ、うん」
「あゆみちゃんは村田さんのことを待っていてくれたんだ?」
「え?…ううん。別に」
「がぁーん」

めぐちゃんはわざとらしく頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
あたしはてのひらを差し出す。

「駄目だって。
 車、行っちゃうから。ほら早く」
762 名前:ふたつのてのひら 投稿日:2003/12/24(水) 07:23
きみは知っているだろうか。
あたしがこのてのひらを差し出す相手は未だにきみだけなんだってこと。
763 名前:ふたつのてのひら 投稿日:2003/12/24(水) 07:23
「すまないねぇ、ばぁさんや」

てのひらが重なる。

「誰がばぁさんよぉ」
「あぁやだやだ…怒ると埃が立つって言うのにねぇ…」
「もぉ。
 めぐちゃん、そのキャラやめなよ」
「ん…」

ある程度満足した後だったのか、途端にめぐちゃんはその顔を引っ込めていつもの年上の笑顔をした。

「急ごう」


764 名前:オニオン 投稿日:2003/12/24(水) 07:29
>>757
自分も自給自足から解放されたいから是非教えて(ry
村斉は自分の中でも今ちょっときてますw
>>758
可愛いだなんて…有り難いお言葉を。
たぶんそれは今自分がメロンを溺愛してるからですねw

ぐだぐだだけどまだまだメロン
765 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 22:47
HP突然だったのでびっくりしました。(残念〜泣!!
気が向いたら...なかよし&ゆうごまも書いて下さい〜。
ここは大丈夫ですよね?
766 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 00:31
悪くない。
けれどいつかちゃんとこの関係に答を出さなきゃいけないって知っている。

ひとみんは好きと言ってくれる。
私の心も決まっている。
だけど何故かそれを言葉にするのは躊躇われる。
767 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 00:32
「ただいまー…。
 て、ふたりは?」

軽やかにドアが開いて、ひとみんは周りを見回しながら入ってくる。

「…むらっちはもう撮影入った。
 あゆみんはその見学」
「ひとりでお留守番してたんだ?
 可哀想にねぇ」
「…別に子供じゃないんだから」
768 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 00:32
しっかし、あゆみんも頑張るなぁ。
ふられたって言って、泣いてたのに。
むらっちは、どう思っているんだろう。

「相変わらずだねぇ。
 マサオもむらもあゆみも」
「ひとみんも」

鏡に映るひとみんの指先が私の髪の中に挿し込まれようとしているのが見えて、
左右に頭を振ってそれを嫌う。

「…ケチ」

ひとみんは不服そうに唇を尖らせて、隣の椅子を引いて座る。
769 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 00:32

付き合って、別れて、足掻いて、突き放せなくて…。
目まぐるしいねぇ…あちらさんは。

それに比べて――

770 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 00:32
もうどれくらいこんな風だっけ?
いつまでこの関係が続くんだろうって、時々思う。
ひとみんはこのままでいいと思っているのだろうか。
私は?
私が言わない限り、この関係はこの関係のまま…?
771 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 00:33
「…なぁに?」

私の視線に気付いてこっちを見る。

「ん…いや…」

視線を逸らすと、鏡に私を見ているひとみんの横顔が映っていた。

辛い、なぁ。
いつも、私が目を逸らした後、そんな顔させてたんだ?
きつい、なぁ。
心臓、痛い、なぁ。
772 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 00:33
躊躇ってしまうのは何故だろうか。
それは、たぶん、怖いんだ。
好きだと告げてしまえばひとみんは私の事を今までみたいに求めてはくれなくなるんじゃないかって。
私は、好きと言わないくせに、ずっとずっと、好きと言われたいんだ。
ずっとずっと、束縛されていたいんだ。
773 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 00:33

「……ひとみん」
「うん」

弾むような声が心臓を更に走らせてくる。

「…ずっと、好きでいてくれる?」

774 名前:オニオン 投稿日:2003/12/27(土) 00:35
>>765
う…メロン熱が鎮火したら考えます…(目線逸らしつつ)
ここは1000まで行くぞーオー。

そんな訳でオーソドックスな斉大。
To be continued.
775 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 18:37
最高のバッドタイミングで部屋に戻ってきたあゆみんの登場によって
答を訊けもせずうやむやなまま撮影終了を迎えてしまった。

口の中だけで何度も溜め息をついて、部屋を後にした。
小さくあゆみんの声がしていて、もっと微かにむらっちの相槌が聞こえていて
無言のひとみんの足音が他のそれに重なって聞こえてくる。
776 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 18:38
目の前の扉の向こうでは、エレベーターが静かに唸りながら上がってくる音。

「…」

一歩後ろに引いて、向きを変える。

「マサオ?」
「…あー…。
 階段でいく…」

3人とも何か言いたげに振り返ったけど追い駆けてくるような足音もなく、階段に足を落とした。
こつん、こつん、なんて、寂しげな自分の靴音に気付いて思わず苦笑した。

ひとつ階を降りた頃、駆け足の足音が響いてきた。
私がひとつ踏む度ふたつ、少しずつ少しずつ大きくなりながらやってくる。
777 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 18:38
振り返る。
目が合う。
困ったようにも見える顔。

「何?」

もう無理だろうとは思いながらも出来るだけの冷静な声を心掛けて訊く。

「…」

ひとみんの方が、大きく息をした。

「…いいの?」
「…何が?」
778 名前:愛されるための愛 投稿日:2003/12/27(土) 18:38
「…ずっと、好きでいて、いいの?」
「……」

強がりも、冗談めいた言葉も、胸の中の一番奥へと押しやる。

「ずっと、好きでいて欲しい」
「うん。いる。ずっと好きでいる」

779 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:37
終わりにしようって思ってたのになぁ。
もうこの気持ち、来年に持ち越さないようにしようって思って、だから
自分にけじめつけようと思って、会いに、きたのに…。

こんな時間にどこ行ったのよ、めぐちゃん。
ごっちんの紅白も、ビデオで我慢して、会いに、きたんだよ?
780 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:37
テレビからは、聞き慣れた歌が聞こえていた。
今年何度となく聞いた歌が聞こえていた。

取り替えたばかりのはずの照明が何故かほの暗く思えた。
膝を抱えて座る私に、頬杖をつく中澤さん。
いつだったかこんな風に過ごせる日がくることを夢見ていた時もあったはずなのに
どこか胸に刺さるような、どこか風が吹き抜けていくような感覚。
781 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:38
冷えた扉の向こう側は怖いくらい静か。
足音も笑い声もテレビの音もエアコンの音もしない。
何ひとつ聞こえてはこなくて、めぐちゃんはここにはいないぞって、あたしに主張してくるようだった。
782 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:38
中澤さんに倣うようにしてビールを呷る。
口の中、喉の道一杯に、苦い味が広がっていくのを堪えながらその奥へと流し込む。
体温はいくらか上昇していくけど、部屋一杯に充満する冷たい空気を一掃する力なんてない。
783 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:38
ほんとは、いきなりきてびっくりさせるつもりだったけど、それは諦めることにして
自分の現状と心情とは正反対に明るくメールを打ったっていうのに、その返事すら未だなし。
784 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:38
「…むらっち」

ぼんやりとテレビを捉えたまま、唇だけが私を見据えているように投げ掛けられた私の名前。
視線を向けて返事のかわりにする。

グラスを掴む指先の力が少しだけ強くなったように見えた。
785 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:39
寒いけど少し無理したスカートが、妙に恥ずかしく思えた。
終わりにしようって決めたくせにそれでもなおあたしは、めぐちゃんに
やさしい言葉を期待していたんだって自覚してしまったから。

握りっぱなしだったケータイより冷たくなってしまっていたてのひらをそれごと上着のポケットに押し込んで、空を見た。
雲が左右に揺れているように思えた。
月がその波に攫われていくように思えた。
786 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:39

「来年は、ここにきたらあかんよ」

テレビでは白組の優勝が決まったことを紅組のアナウンサーさんが明るい声で嘆いていた。

「…私のこと、嫌いになりましたか?」

赤みの帯びた顔の、目許に、口許に、笑顔を浮かべて小さくその頭は左右に振られる。
787 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:39
「あゆみ」

あたしに被さってくるように伸びたふたつの影。
それに伴うようにして、あたしの名前が聞こえた。

顔を上げると、苦笑するひとみんに、困った顔のマサオ。
788 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:39
「あんたはあっちにおりなさい」

フィナーレを迎えているテレビに視線を戻して、真剣な声。

「…私はちょっとしんどいけど、あんたはあっちにおりなさい」

それはどこか、ずっと昔、先生に言われた、宿題をちゃんとしてくるように、という響きに似ていた。
789 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:39
返事をする猶予も与えられずあたしはあっという間にふたりに腕を掴まれて、引き上げられた。
膝が少し軋むような感じがした。

「行くわよ」

オドオドするあたしに構う様子も見せずに、ふたりはあたしを引きずって歩き出す。
790 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:40
中澤さんはまたビールを呷って、溜め息をついた。
言葉よりも重く、重くのしかかってくるような沈黙。
791 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:40
「ひとりで年を越そうだなんて気じゃないでしょうね?まさか」

ひとみんは時々、あたしのお姉ちゃんになりたがる。

「さんにんで飲み明かしたいらしいよ」

マサオは時々、あたしとひとみんの保護者になりたがる。

「わ、分かったから、ちょっと待ってって。
 自分で歩くから。前、前向きたい」

ふたりの足が止まる。
792 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:40

涙が流れ出してきた。
悔しさなのか切なさなのかそれとも愛しさなのかもっと別の何かなのかそれは分からないけど
泣けてきてしまった。
793 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:40
ひとみんが左手を差し出す。
マサオが右手を差し出す。
あたしは両手でそのふたつのてのひらを取る。

「未成年にお酒飲ませちゃいけないんだよー」

声が掠れていたことは、気付かなかったことにした。
あたしもひとみんもマサオも。
794 名前:決意 投稿日:2004/01/02(金) 06:40
最後にしよう。
こんな年越しなんて。



795 名前:オニオン 投稿日:2004/01/02(金) 06:43
明けましておめでとう御座います。
このスレ二度目のお正月ですがお気になさらず…(汗
今年の抱負はメロン記念日っていう祝日が(ry

そんな感じで中澤さん+メロン総出
796 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/05(月) 00:23
……好きですw
797 名前:スキダイスキ 投稿日:2004/01/13(火) 05:12
「ぜんざいを作ろうと思ってさ」

めぐちゃんは楽しそうな顔でそう言った。

「あぁ、もうすぐ鏡開きだから?」
「んー。
 そういう訳でもないけどねぇ。
 何か急に食べたくなって。作りたくなってさぁ」
「ぜんざいって、難しかったっけ?作るの」
「ん、や。失敗しないもの、らしい」
「ふーん…」
「でさ。
 昨日の夜から小豆、水に浸してるんだ。
 今日、いよいよ火にかけれるんだよねぇ」

目が細められて、その顔からも声からも、あぁ楽しみにしてるんだなぁって感じられた。
そんなめぐちゃんを見てると、何だかあたしの方までうきうきしてくる。

「上手く出来るといいね」
「うん」
798 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:12
次の日のめぐちゃんは、そわそわしてた。
こんな風に目的、というか、この後の予定みたいなものを心待ちにしてるっていう感じのめぐちゃんを
見るのは久しぶりな気がする。

「めぐちゃん。
 昨日、どうだった?」
「ん、あ。
 うん、さすがだった」
「どうさすがだったのよぉ?」
「失敗しない、の謳い文句は伊達じゃないって感じに」
「それはそれは何よりです」
「柴田くん、何か変だぞぉ…」
「普通だよー?」

結局めぐちゃんは最後まで小春日和な顔をしてた。
799 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:12
太陽はどっぷりと沈んでしまったけどまだそんなに深い時間じゃなくて、これから何をしようかなぁって思いながら
見慣れてしまった自分の部屋を見渡してみた。

エアコンを入れて何となく布団の上で丸まってぼんやりしていると、不意に呼鈴の音が響いた。
800 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:13
玄関を開けるとそこには寒気に晒されて真っ赤になった頬のめぐちゃん。
手提げ鞄なんて、仕事場には持ってきてなかった、と思う。
一度帰ってからここにきたんだろう。

「どうしたの?」

中に招き入れながら素朴な疑問を投げ掛ける。

「うん。
 何かさぁ、お鍋の蓋を開けたら柴田くんの顔が見えたんだよねぇ」
801 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:13
頭の上にハテナマークを飛ばしていると、手提げ鞄が目の前にずいっと差し出された。

「だから、持ってきた」

微かに甘そうな匂いがする。

「…もしかして、ぜんざい?」
「もしかしなくてもぜんざい」

にこって微笑んで、コンロ借りるよ、て台所の方へ歩いて行ってしまった。
802 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:13
火にかけたお鍋の中を気にしながら、真剣な顔でお餅を焼くめぐちゃん、ていうのには何か笑える。

「めぐちゃん、お椀ここ置いとくね」
「あーうん、ありがと」

お餅を焦がさない程度に焼けた事が嬉しかったのか、鼻歌なんかが聞こえていたのに、
それはあたしがスプーンを差し出した所で停止した。
803 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:13
「…え」
「え?」
「お箸でしょ、普通」
「ええー、スプーンだよ」
「食べ難いよぉスプーンなんて」
「お箸の方が食べ難いって」
「…」
「…」
「…。
 何か今ものすごぉく無意味な小競り合いをしてる気がする…」
「…あたしも…」

スプーンの入っていた引き出しをもう一度開けて、お箸も二人分取り出す。

「平和的解決」
「平和主義」
804 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:14
「いただきます」
「いただきまぁす」

いつもスプーンで食べてるって言うのに、それよりもお箸を手に、お餅を挟んでいる自分に呆れてしまう。
けど、めぐちゃんもスプーンで小豆をすくっているのが見えた。

「ん?」
「ううん」

少し、あたしがめぐちゃんを好きな理由が分かったような気がした。


805 名前:単純。 投稿日:2004/01/13(火) 05:14
匂いだけはいっちょ前にいい感じに漂わせて、むらっちは真剣な顔でホットケーキを作製中。
まぁ、食べれればなんでもいいんだけどさ。
どうなんだろーね…そのめちゃくちゃうすーいホットケーキって。
牛乳入れすぎ。
というか叩きすぎ。
お皿の方が分厚いんじゃないの?村田さん。
806 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 05:14
まぁ、努力は買ってあげるけど。
たぶんそれ、むらっちなりの苦肉の策なんだろうし?
焦がさないようにってことに気ぃ遣いすぎると中までちゃんと火が通ってなくて、
ちゃんと火を通すのに気ぃ遣いすぎると今度は焦げ焦げになっちゃう。みたいな?
で、じゃあきつね色になったイコール中にも火がちゃんと通ってマス、てことにするには平べったくすればいい…?
不思議な人だなぁ…ほんと。

っていうか、まじで叩きすぎですって。
807 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 05:15
「出来たー」

最後の一枚を焼き終えたむらっちは振り返って微笑む。

「おなか空いたー」

自分に言い聞かせるように言ってみる。
おなかが空いてるんだ、あたしは。大丈夫。何でも美味しいって。大丈夫。

「緑茶しかないけど…まぁいいよね?」
「あーうん、いいよ」

ホットケーキのお皿の隣に紅茶用と思わしきカップに入った緑茶が並べられる。

「…。
 いただきます」
808 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 05:15
色は思いのほかいい感じ。
さすが苦肉の策。
だけど作ったのはなんと言っても天下無敵の村田さん。
気を抜いたら負けだ。

「…」
「…。
 どう?マサオくん」

……油っぽい、正直…。
言っていいのかなぁ…駄目なのかなぁ…。
809 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 05:15
返事を出来ずにいると、むらっちも一口口にした。
一方の眉毛が綺麗にぴくりと上がった。

「……。
 油っぽい…」
「…」

やっぱり…。

「…まぁ、けど」
「ん?」
「また次頑張ればいいんじゃないでしょーか」
「…うん。そーだねぇ…」

こうして、次の約束を交わせるから、まぁ、いいかなぁと思う。


810 名前:ささくれ 投稿日:2004/01/13(火) 05:16
車から降りると、強い風の中だった。
空を見上げると、雲が駆け足で去っていくのが見える。

「…むら、飛んで行きそう…」

独り言のつもりだったはずが、すぐ後ろにむらがいたらしく肩を抱きしめられてしまった。

「…。
 あたしはあんたの錘な訳?」
「ん、いや。
 どうせ飛んで行くならひとみんとがいいなぁと思いまして」
「…あゆみに怒られるわよ?」
「マサオくんにもねぇ」
「巻き添えを食うんだ?あたし」
「いいじゃん。
 仲良くしましょ、たまには」
「……何か、あった?」
「…べっつにぃー…」
「まぁ、いいけどさ…」
811 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 05:16
時々、思う。
ほんとはあたしはこの人に惹かれているんじゃないかって。

時々、思う。
ほんとはこの人も、あたしの事を求めているんじゃないかって。
812 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 05:16
「こらぁ。
 どこいってるのー?還ってきてぇ。
 まぁたマサオくんの事考えてたんでしょー。
 悲しいねぇ。村田さんは悲しいよ」

駄々をこねる子供みたいにわざとらしくそう言って、自分の腕ごとあたしの体を揺する。


そうじゃない、と、言ってみたい、けど。
813 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 05:16
「うん…。ごめんねぇ」
「何よぉ。見せつけぇ?」
「…そっちこそ、ラブラブなんでしょう?」
「んー」

微笑みは、幸せの証なのかそれとも曖昧にあしらう仕草なのか、訊く勇気なんてあるはずもなくて――。



814 名前: 投稿日:2004/01/13(火) 05:17
平家さんが帰国してから、初めて会った。
会いたいって言われたのは私だけで、少し、胸が高鳴ったって言うのに、
開口一番出てきた言葉にその全てを壊されてしまう。

「柴っちゃん、元気にしてる?」

私はとことん可哀想な女だ、と、心の中で自分に溜め息をつく。

「―えぇ、元気ですよ。とても」
「そうか。
 で、どうなん?」
「…何がですか?」
「もぉ。
 やから、柴っちゃんとやんか」
「……はい?」
815 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:17
私が首を傾げると、平家さんも同じように首を傾げた。

「…あれ?
 付き合うてなかったっけ?」
「…いいえ」
「そうやったっけー…」

平家さんは、そうかそうか、と呟いて、どこか満足そうに口許に笑みを携える。

成る程。
私は牽制されにきたのか。
敵情視察ってやつですか?
816 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:17
「心配いりませんよ。
 私は別に柴田くんとは何でもないですから。
 平家さんのこと、尊敬してるし、嫌いなはずはまさかないと思いますし…」
「…むらっち。
 今さ、誰の話してる?」
「え?
 誰って、柴田くんの…」
「ちゃうって。
 あたしが気にしてるんはあんたの方」
817 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:17
「は?」

思考が追いつかなくて、被せるミノもなくて頭に浮かんだままを声にしてしまった。

「鈍いとこは相変わらずみたいやなぁ」

柔らかく微笑まれて、その顔に見とれてしまって、心臓だけは正直に速度を上げていて、
何故か何かに急き立てられるような感じがして、考えるよりも先に、言葉が出た。

「す、好きです。
 あの、私、平家さんのこと、好きです」
「何や、えらいせっかちにもなってんやなぁ」

伸びてきたてのひらに頭のてっぺんを撫でられる。
自分の心臓の音に押し潰されそうで、平家さんがどんな顔をしてるのかさえよく分からなかったけど、
そのてのひらの優しさが、何となくそれを教えてくれているように感じた。


818 名前:オニオン 投稿日:2004/01/13(火) 05:19
>>796
有難うです。
もっと(ry
819 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:20
村田さんのメロン総当り二回戦+α
820 名前:- 投稿日:2004/01/13(火) 05:21
きっと三回戦もやるぞーw
821 名前:私の居場所 投稿日:2004/01/17(土) 22:10
歌手になるんだって言い始めたのは、もう十年以上も前の事。
あの頃に比べれば、一歩くらいは踏み出したと言えるだろうけど、現状に変わりはなし、と
言ってしまえるくらいなのも事実。
822 名前:- 投稿日:2004/01/17(土) 22:11
「おはようございます」

受付の扉を開けて、いつものように笑ってみる。

「おはよう」
「おはよー」
「前の子、今日お休みだからもう中澤先生空いてるよ」
「あ、はぁい」

台紙に出席の判を押して、出席票にも印を貰う。

「柴田さん、今度の発表会出るんだっけ?」
「いえ…。
 まだ決めてないんです…」
「そっかぁ。
 ん、まぁまだ時間あるし、ゆっくり考えればいいから」
「…はい」
823 名前:- 投稿日:2004/01/17(土) 22:11
出席票をポケットに仕舞って、同じ扉から外へ出る。
小さく音を立てて閉じた扉に背中を押し付けた。

発表会、かぁ…。
もう、三度出たんだよねぇ。
だけど、未だここからは抜け出せない。
同じオーディションで入った藤本さんはもうデビューしたっていうのに。

「…駄目だ。
 弱気だなぁ最近。気をつけよう…」

一呼吸置いて、さっきの扉とは別の、レッスン場への扉に手を掛けたら、瞬間、内側から開いた。
824 名前:- 投稿日:2004/01/17(土) 22:11
「柴田、何してるん?
 むらっちが来てる言うてたのに、なかなか入ってこうへんからどしたんかと思ったで」
「す、すいません」

条件反射で頭を下げると、軽やかな笑い声が聞こえて、その頭を撫でられてしまった。

「そんな謝る事やないやろ。
 始めるで?」
「はい」

背中を向けて歩き出した先生を追うように、靴を脱いでスリッパに履き替える。
待合室に鞄を置いて、奥の硝子戸の個室へと入った。
もうひとつの部屋では、矢口さんが既に発声練習を始めていた。
825 名前:- 投稿日:2004/01/17(土) 22:11
「閉めてや」
「はい」
「発声練習からな」
「はい」

ピアノの音。
微かに聞こえていた有線の音も、矢口さんの声も、聞こえなくさせる。

「ララララッララッララッラー」
「ララララッララッララッラー」

ひとつ、音階が上がる。
826 名前:- 投稿日:2004/01/17(土) 22:11
正面の壁一面の鏡に映るあたしは楽しそうじゃない。
いつから、歌う事がこんな、義務感の上にあるような感じになったんだろう。
歌手になるって言って、フリーターになったはずなのに、今のあたしはここにいながらも
何の目的もなくその日暮らしをしている人と何ら変わらない人間になってしまっている…。

ひとつ、音階が上がる。
827 名前:- 投稿日:2004/01/17(土) 22:12
歌いたい。
だけど今のあたしにその資格はあるだろうか。
歌いたい。
歌い続けたい。
その気持ちは嘘じゃないはず。
嘘じゃないって信じたい。
いつからこんな風に、嘘じゃないって、言い聞かせるようになったんだっけ?
いつから、あたしはあたしに自信がなくなったんだろう。

ひとつ、音階が上がる――
828 名前:- 投稿日:2004/01/20(火) 02:53
15分間の発声練習が終わると、課題曲の練習。

「練習してきた?」
「…一応は…」

譜面台の上で、発声練習用の楽譜と課題曲の楽譜を入れ替える。

「まず一回歌ってみよか」
「はい」
829 名前:- 投稿日:2004/01/20(火) 02:53
先生は、歌い方に少し特徴がある。
言葉の始まり、歌い出しは特に。

あたしがそれに気付いたのは、二年程前、テープに録った自分の歌声を聞いていた時だった。

あたしの歌い方は、いつの間にか変わっていた。
正確に言えば、先生の歌うように、それをなぞるように歌っていた。

それはもしかしたら、答だったのかもしれない。
あたしは、歌手にはなれないって言う――
830 名前:- 投稿日:2004/01/20(火) 02:54
「柴田」
「え、あ、はいっ」
「気ぃ抜けてるで?
 何や、調子悪いんな?」

リモコンでCDを止めながら、先生は言う。
こんな時の先生は、優しい顔をしていたりする。

「いえ…そんなことないです」

あたしの言葉に先生は溜め息をついて、鍵盤に指をかける。

「…頭から、確認してみよか」
「…はい」
831 名前:- 投稿日:2004/01/20(火) 02:54
重く、重く圧し掛かる。
旋律も、自分の呼吸音さえも。

先生の声に引き込まれていくあたしの声。
先生の声に同調していくあたしの声――
832 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:39
「有難う御座いました」

頭を下げて、待合室へと出た。
正面にあるホワイトボードには、各地にあるこの教室の出身者の活動報告のプリントが貼り出されていて、
それを見る度に、思う。

あたしは、ここに彼女たちのように、デビュー速報を貼り出して貰いたいがために頑張っているんだっけ?と。
あたしが見つめる先にあるものなんてそんな、こんなちっぽけなものだっただろうかって。
833 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:39
「柴田さん」
「―は、はい」

呼ばれて振り返ると、受付の村田さんが、椅子に座ったままの体勢で壁から顔を覗かせていた。

「ちょっとちょっと」

穏やかな声と、てのひらに呼び込まれて近付くと、握りこぶしの右手が差し出される。

「ん。
 手、出して」
「手?」

訳も分からないまま差し出したてのひらに、個別に包装されたクッキーが三枚。

「平家先生、この間北海道に行ってて。
 そのお土産のおすそ分けー」
「あ、有難う御座います」
834 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:39
受け取ったクッキーをポケットに仕舞うと、後ろから声がした。

「何やむらっち。
 餌付けしとんな?」

独特の、笑顔。
一段上から見ているような、大人の顔。

「違いますよぉ。
 媚を売ってるんです」
「そっちの方がよぉないと思うで」

先生と村田さん、それに奥にいるもう一人の受付の人、斉藤さんも笑っていた。
何となく、ここでのこんな空気が苦手に思える。
835 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:39
「あの、あたし電車の時間あるから帰ります。
 お疲れ様でした」
「あ。
 お疲れ様ー」
「お疲れ」

お辞儀をして踵を返す。
逃げてる、に近いんだけどそれを感じ取られないようにゆっくりと長机に近付いて鞄を掬って下駄箱へと進む。

真っ白な扉、真っ白な壁。
その廊下の突き当たりにある不自然なくらい真っ赤な色をしているエレベータに乗り込む。
中は、廊下よりもひんやりとしていて、それが頭の中を彷徨っている色々なものを考える力を停止させてくれるみたいだった。
836 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:40
ビルから一歩外へ出ると、もう空は真っ暗闇に変わっていた。
横断歩道を一本渡って駅まで駆ける。
自分で作り出す風を受けて、頭の中を冷やし続ける。
こんな顔とこんな気持ちで帰ったら、きっとお母さんには見透かされてしまうだろうから。
837 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:40
切符を買って改札を潜る。
その度に思い出す。
友達の一人と交わした会話を。

――あゆみさー、それもう定期にした方がいいんじゃないの?
――うん…けど、何ていうか、そんなに長く通う気満々ですっていうのも、ね。

あの時のあたしは、こんなに長く通うつもりも、そんな予想もしていなかった。
838 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:40
「…柴田さん」

不意に名前を呼ばれて、自分がホームにちゃんと辿り着いていたことに気が付いた。

「あ…。
 矢口さん」

今あたし、どんな顔してただろうって気にしながら慌てて笑顔を作った。

「…柴田さんさぁ」
「は、はい」
「声、きつそうだよね?最近…」
「…え?」
「何ていうかさ、楽しくなさそうっていうか…。
 とにかく、今までとちょっと違う感じがする」
「そう、ですか…」

声にまで出ていたんだろうか。
だとしたら、とっくに中澤先生も気付いてしまっているのかもしれない。
839 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:40
「……。
 中澤先生と、上手くいってない?」
「…」

ドキッとした。
先生の事は嫌いじゃない。
先生にも、嫌われてるとは思ってない。
なのに。

「矢口はさぁ、先生と上手くいかない時があって、今の先生に変えてもらったんだよねぇ」
「そうなんですか?」

全然、そんな風には見えなかったから、あたしは驚いてしまった。
840 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:41
「うん。
 そーゆーのは、よくある事だよ。
 それに、先生変わると、やっぱり随分違うよ」
「……」

何も返せないでいたらそのうちアナウンスが聞こえてきた。

「あー…んじゃ、電車きたから。
 …その、勝手にべらべら喋ってごめんね。
 バイバイ」
「お、お疲れ様です」

矢口さんを見送ると、すぐにあたしの乗る電車も入ってきた。
背広とブレザーの波を待って、乗り込む。
841 名前:- 投稿日:2004/02/02(月) 04:41
扉が閉まると、徐々にむあっとした空気に飲み込まれ出す。
外が寒かっただけ、ぼーっとなる。

窓の外は一層真暗だ。
高校三年の頃から通っていたから、その時していたバイト終わりでも間に合うように、
レッスンはいつもその日のラストにしてもらっていた。
バイトは変えたのに、結局ボイトレの時間は変更しないままになっている。

去年の今頃は、駅を降りて自転車で家へ帰る道を、歌いながら行くのがお気に入りだったっけ――。
842 名前:- 投稿日:2004/02/10(火) 01:54
きつそう、か――。

ベッドに寝転がって天井を見上げる。
そこに浮かぶのは先生の顔と、矢口さんの科白。
それと、教室の鏡に映るあたしの顔。

楽譜なんて見なくても、先生の求めてる回答に辿り着けるようになったあたし。
その代わり、先生の求めている以外の回答を見つけられなくなったあたし。

今のままじゃ駄目なんだって分かってるつもり。
だけどどうしたらいいのか分からない。

きつそうに見えているのは、逃げ出したくなっている信号――?
843 名前:- 投稿日:2004/02/10(火) 01:54
自分でそう思ったくせに、妙にどきどきしてきてしまって慌てて体を起こした。

「…あ、もうこんな時間…。
 寝ないと…バイト遅れちゃう…」

口に出して言う事もないんだけど、自分に言い聞かせるようにわざと口に出す。
テレビの上の目覚しをセットして、カレンダーで明日の担当を確認する。
明日は日曜日。
小さい子が多いだろうからいつもより仕事が増える事は予想出来るし覚悟していくけど
それよりも憂鬱にさせるのは、もうひとつの悩みの種を携えている人に会わなくちゃいけないからだった。
844 名前:- 投稿日:2004/02/10(火) 01:54


まだ明け切っていない街を、自転車で走る。
半袖の作業着の上に同じく作業用のジャンパーを羽織っただけじゃ凌げる寒さに限界がある。
でもロッカーに行って着替える、なんて時間はないし、今より五分でも十分でも早く起きるのはきついから
仕方なしにカイロひとつで自分を誤魔化してスーパーへ向かう。

夏だったらもう太陽が暑いくらい照り出している時間だっていうのに、この季節の空にはまだうっすらと月の姿が見えている。
845 名前:- 投稿日:2004/02/10(火) 01:55
「あゆみちゃん」

ぼんやりと斜め上の空を見上げていると、バイクが隣に並んだ。

「おはよう」

と手を振られる。

「あ。おはよう」

そのまま、従業員通路を下って、自転車を止めた。

「まいちゃん、今日出勤だったっけ?」
「んー?
 違うけど、保田さんの代わりー」
「…別の仕事入ったんだ?」
「みたいだねぇ」
846 名前:- 投稿日:2004/02/10(火) 01:55
カードでドアを開けて中へ入る。
ガードマンさん、いつも背中向けてるけどいいのかなぁそれで…。

「おはようございまーす」
「おはようございます」

まいちゃんと目を合わせて首を傾げる。

「物騒だねぇ」
「だねぇ」

蛍光灯が薄暗く照らす通路を歩いて、自分達のコーナーへと向かう。
847 名前:- 投稿日:2004/02/22(日) 23:13
タイムカードを打って、いつものようにダスターをかけにフロアへ出る。
家を出るのが少し早かったりする日は、まだ電気が点いていない事もある。
今日はどうやらその日らしい。
食料品コーナーで冷蔵庫の明かりが怪しげ光を放っているだけだった。
848 名前:- 投稿日:2004/02/22(日) 23:14
スニーカーがキュッと音を立てる。
長い長い通路を延々とダスターかけするのももう慣れてきてしまった。
楽しい、とまではいかなくても、辛い、と思う事は少なくなってきてる。
けど――
849 名前:- 投稿日:2004/02/22(日) 23:14
あの人から言われた言葉を思い出す度、何かが違う気がしてる。
ここにいるあたし、ボイトレ教室にいるあたし、どっちも本物って呼ぶには躊躇われる。
今のあたし、どこにいるあたしも偽者みたいだ。


本物のあたしを、見失ってるんだろう、きっと。
850 名前:- 投稿日:2004/02/22(日) 23:14
――柴田さん。うちの社員にならない?
もううちに来てから一年以上になるし、会社としてもその方が助かるし、柴田さんにとっても悪い話じゃないと思うんだけど…。
考えといてもらえないかな?――

右手に夢?
左手に現実?

「あゆみちゃん?」
「っ、え、うん?」

いつの間にかまいちゃんが機械を押してフロアへと出てきていた。

「…最近、よく意識飛んでるよねー」

くすくすと笑いながらまいちゃんは言うけれど。
851 名前:- 投稿日:2004/02/22(日) 23:28
「…ねぇ、まいちゃん」
「ん?」

からかうような笑顔を引っ込めて、やさしい顔であたしの顔を覗き込んでくる。
こんな時のまいちゃんの顔は何故か、どこか年上っぽさがある。

「今、何してる時が一番楽しい?」

顔を上げて前を向く。
だから今度はあたしの方がまいちゃんの横顔を窺う。

「ここにいる時、かなぁ…」

口の端を上げて、目じりを下げて、そんな風に答をくれた。
852 名前:- 投稿日:2004/02/24(火) 00:05
朝早くに起きて、夜も早くに寝て、寒くても暑くても同じ時間に同じように出勤して、
お客さんに声を掛けられたり、知り合いに声を掛けられたり、
休日出勤なんてしょっちゅうで、十日連続出勤とかもざらで、人手が足りないと他のところにも出港させられて、
だけど失敗しても注意はされるけど頭ごなしに怒られたりはしなくて、歓迎会好きで、
何故か毎日誰かしらが休憩時間になると缶コーヒーを奢ってくれて、色んな話をして、色んな話を聞いてくれて、
ここの居心地の良さは、あたしだって分かってる、知ってる。
853 名前:- 投稿日:2004/02/24(火) 00:06
「あゆみちゃん、急がないと。今日九時開店だよ」
「あ、うん。分かってる」

まいちゃんの声に急かされて、ダスターがけを再開する。
後ろで機械のスイッチが入れられて、低い機械音が足元に響いてきた。
そういえばいつの間にか、フロア中の電気が点いている。
影ばかりだった足元で、照明の光が反射して長くのびていた――
854 名前:- 投稿日:2004/02/24(火) 00:06


がこん、と肘がぶつかった。
スリッパが絨毯の上に転がった。

「ご、ごめんなさいっ」
「いや、こっちこそごめん」

少し低めの声。
目が合う。

「おはよう」
「お、はようございます」

今日も相変わらず掴めない人だ、大谷さんという人は。
855 名前:- 投稿日:2004/02/24(火) 00:06
「――ん。
 あれ?平家先生いないんですか?」

ぼーっとしてるあたしの横を通り抜けて大谷さんは、右側の個室を覗いて、
足はそのままに体だけを引いて受付を覗き込んで声をかけている。

「―――」

村田さんか斉藤さんが何か言っているみたいだけどよく聞き取れはしなかった。
856 名前:- 投稿日:2004/02/24(火) 00:07
ちらりと先生の姿を確認する。
先生はまだあたしがきた事には気付いていないみたいで、何か楽譜みたいなのに視線を巡らせている。

大谷さんの後ろを横切って、左の個室へ向かおうとしていると、村田さんに声をかけられた。

「あ、そうだ。柴田さん」
「は、はい」
「今日、この後忙しい?」
「あー…いえ、特には何も…」
「じゃあ悪いけどちょっと話、いいかなぁ?」
「はい…」
「ん、ありがと」

思考が追いつく前に、約束を取り付けられてしまっていた。
857 名前:- 投稿日:2004/02/24(火) 00:43
もう一度踏み出した足は、ガチャリ、という扉の開く音で停止した。
先生に似たイントネーションの人。

「大谷さんきてたんや。ごめんな。
 ちょっと自販行ってたんよ」
「いえ、大丈夫です」

会釈をして、前を向く。
話し声も有線の音も、全部を呑み込むように息を呑んで、個室のドアを開ける。

「おはようございます」
「おはよう」
「…。
 調子は?」
「―普通…です」
858 名前:- 投稿日:2004/02/24(火) 00:43
楽譜を開く。
鏡に映る自分と目が合う。

「―ほな、発声練習からな」
「はい」

ピアノが鳴り始める。

「ララララッララッララッラー」

「ララララッララッララッラー」

ひとつ、音階が上がる。
859 名前:- 投稿日:2004/02/24(火) 00:44
頭の中を真っ白にして。
何も何もないキャンバスに、ただ音符だけを乗せる事が出来たら、どんなに、どんなにいいだろう。

「ララララッララッララッラー」

「ララララッララッララッラー」


ひとつ、音階が上がる――
860 名前:- 投稿日:2004/02/29(日) 02:15
ひとつ下の階にある喫茶店で、村田さんと向き合って紅茶を啜っている。
窓の外では街路樹が寒そうに揺れている。
あたし達のほかには、たぶんこのビルに入っている会社で働いているんだろうと思われる背広姿の男の人が三人いるだけだった。

タイミングを探すように揺れていた視線が村田さん自身の手元のカップで止まって、
吐き出された息と共に、言葉が紡がれた。

「…あのね、柴田さん」
「はい…」
「最近、調子、良くないみたいだよね…?」

何度目だっけなぁ…この科白。

「ほら、その、ずっと中澤先生だったでしょ?
 だから、気分かえるって意味で、一時的に他の先生に受け持ってもらうとか…」

困った顔をさせているのはあたし、なのだろうか。
861 名前:- 投稿日:2004/02/29(日) 02:15
「あ。何か、悩み事とかあるんだったら、あたしでよければ聞くし…」

顔を上げる。
だけどすぐにまた自信なさ気に視線を落とす。

「――村田さんは、どうしてここの受付をやってるんですか?」
「え、あたし?」
「はい」
「あたしは…うん…。
 ずぅっと前はね、あたしも柴田さんみたいにここに通ってたんだよね。
 二年…三年近く通ってたのかな。
 なかなかこう、出口が見当たらないっていうか…一杯、同期の人にも後から入った子にも追い抜かされて。
 そんな時、いつも受付のお姉さんがね、温かい言葉くれて励ましてくれたんだよねぇ…。
 そのうちに、あたしもあの人みたいに、同じように夢を追ってる人の支えになれたらいいなぁって思うようになって…」

照れ臭そうに笑った。
862 名前:- 投稿日:2004/02/29(日) 02:15
「――あたしは」
「うん?」
「よく、分からないんです。
 歌う事が好きなあたしも、ここにいるあたしも、スーパーで掃除の仕事してるあたしも、
 本当のあたしってものとズレてる気がするんです。
 今のあたしにはたぶん、確かなものがないんです…」
「…これから見つければ、いいんじゃないのかな…?
 柴田さんまだ若いんだし、今は見えなくてもきっといつか見え」
「あたしは。
 そんなに器用じゃないんです。
 このままだと…窒息するかもしれない」

あたしは、泣き出しそうな顔をしていたのかもしれない。
村田さんが、言いかけた言葉を飲み込んだのが分かった。
863 名前:- 投稿日:2004/02/29(日) 02:16

――それからあたしは、三ヶ月の休学届けを出した。
迫っていた発表会も出ない事にした。
864 名前:- 投稿日:2004/02/29(日) 02:16
有り余った時間。
持て余してもまだ余りある。
白紙だらけの午後の予定。
明日も明後日もその次も――
865 名前:- 投稿日:2004/02/29(日) 02:16


あっという間に、桜の季節が終わろうとしていた。
生い茂った緑が太陽に向かって手を伸ばしている。

すっかり色合いが変わってしまった町並みを見上げながら、いつもの雑居ビルに足を踏み入れる。
狭いエレベータに、狭い廊下。
もしまたここにくる日があるとしたらそれはいつになるだろうか。

受付のドアを開ける。

「おはようございます」

右側で斉藤さんが、左側で村田さんが目を見開いてあたしを見る。
866 名前:- 投稿日:2004/02/29(日) 02:16
「おはよう。
 久しぶりだね」
「おはよー」

ふたりとも、にっこりと微笑む。

「あの」
「ん?」
「あたし、辞めます」

絵に描いたように、ピタリと空気が止まった。
867 名前:- 投稿日:2004/02/29(日) 02:17
「また歌いたくなったら、その時また歌えばいいんじゃないかなぁって思ったんです。
 今は、その時じゃないんだと思うんですよね」

歌う事から遠ざかって、だけどあたしの中でどうしても歌いたいっていう欲求は生まれてこなかった。
あたしには歌しかないって言うのなら、きっといつかまた時は訪れるはずだから。

「今までお世話になりました」

一礼をして、外へ出る。
まだ、窓から覗く空は明るい。
いつかあたしの行く手にも、こんな風に光は差し込むだろうか。
それはまだ分からないけれど。
その時は、そこがあたしの居場所になるのだろう。


868 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:40
彼女は時々、視界に映るもの全てを排除するかのように天井を仰ぐ。
眼鏡を外して、膝の上で両方のてのひらを絡ませて、ひとりきりの世界へ行くかのように。
溜め息が風に消えるみたいに、彼女ごと消えてしまいそうであたしは視線を上げて彼女を見る。

整った横顔。
それからは何も感じ取れはしなかった。

たぶん、あたしが隣にいる事も忘れてしまっているんだろう。
869 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:40
「…」

話しかけたい衝動。
ここにあたしがいるのよって主張したい衝動。
だけどあたしは言葉を飲み込む。いつもそう。

彼女に聞こえないように小さく溜め息を吐いて、ケータイに視線を戻す。
その小さな画面の中に楽しい事なんてこれっぽっちもなくて、ただそれでもここから動きたくはなかったから
目的もないままケータイと睨めっこしているあたし。
870 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:41
「…。
 ひとみん」

視線は上を捉えたままに、呼びかけられる。

「な、何?」

彼女があたしの名前を呼ぶだけでどきどきする。

「今、何か言いかけた?」

ゆっくりとあたしを視界に収める。

「ど、して…?」

伸びてくる右手。
思わずぎゅっと目を閉じると、微かに笑い声が聞こえた。
871 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:41
そのてのひらはあたしの髪にそっと触れて、彼女の視線もその髪の先を見ていた。

「…ん。
 そんな気がしただけ」

こんな時、彼女の笑顔はとても果敢ないもののように思えて、胸の深いところがぎゅってなる。

「…気のせい、よ」

ぐらつく視線を手繰り寄せるみたいにして、顔を覗き込まれる。
872 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:41
卑怯だなぁって自分でも思う。
私は彼女よりも大人なんだよって顔をして、彼女の様子を窺ってばかりいるから。
本当は知っている。
彼女の気持ちも、私の気持ちも。
だけど言わないし、訊かない。
困った顔を見るのが好きなのかもしれない。
他にも理由はあって、それはそんな安易に片付けられるものじゃないけど。

「…じゃあそういうことにしとく」

体を引いて、てのひらも引っ込める。
873 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:41
こんなままじゃあ永遠に現状は変わらないんだろうなぁ。
二十三にもなるって言うのに、愛より恋がしたいんですって言ってるみたいで、自分で馬鹿らしくなったりもする。
恋なんて、それを自覚したその瞬間が一番幸せな時で、その後は苦しいとか切ないとか、そんな事の方が多いはずなのに。
そう、知ってるはずなのに…。
――不器用なのかも、私。

嫌な結論に至ってしまった。
彼女に心の中を見透かされてしまったって訳じゃないけど、何となく落ち着かなくて、テーブルの上に置いた眼鏡に手を伸ばす。
874 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:41
ふと視線に入った彼女は、椅子の上で器用に膝を抱えていた。
ふたつ折りのケータイは開かれたままだけど、視線は頭ごとその膝の上に伏せられている。

「…ひとみん、どーかした…?」

ぴくりともしない。

「…おーい、斉藤さーん」

出来るだけ能天気な声で呼びかけてみる。
だけどそれでも反応はなし。

「メロン記念日のセクシー担当斉藤ひと」
「むらっち」

篭った声だったけど、確かに私の名前が聞こえた。
遮られた言葉はもう言えはしなかった。
875 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:42
顔が上げられて、だけどその目は私ではなくケータイでもなく、真正面のベランダへと続く窓を捉えていた。

「あたし、たぶんむらっちの事が好き」

攻撃的な、だけど不安定とも取れる声。

「…。
 村田さんもひとみんを好きですよ?」

キミが聞きたいのはこんな科白じゃないんだって分かってるのに、私の口からはこんな科白しか出てこない。
好きだなんて言葉を聞けるとは思ってなかったけど、彼女の方がよっぽど、言うつもりはなかったはずだと思う。
だから、こんな返事をする私に抗議の言葉のひとつやふたつ飛んでくるものだと思ったのに。

「…そうだね…」

その言葉は、沈黙よりも溜め息よりも、重かった。
876 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:42
思っていた通りの返事をされて、悲しい反面、彼女らしいと思ってしまう。

「どれくらい好き?」

酷く曖昧な問い掛け。

「…。
 絶対的に、かなぁ」

涼しげに微笑むのは、卑怯すぎる。
敵わないことを思い知らされるだけだから。
877 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:42
「でも。
 絶対的に、マサオの事もあゆみの事も好きでしょ」
「人類皆兄弟ですから。
 細大漏れる事なく好きですよ、ええ…」

あたしの隣に座って返事してるのは、紛れもなくメロン記念日メルヘン担当村田めぐみで、
だけどあたしが好きなのは、そのもっと外側の、もしくはもっともっと奥に潜んでいる村田めぐみという女の人。
彼女が好きだと言ってるのは、メロン記念日セクシー担当斉藤瞳であって、ここにいるあたしではない。

「…あたしは、むらっちとキスがしたんだと思う」
878 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:42
左手が、きつめに肩を掴んできた。
引き寄せられて、その肩口あたりに彼女の顔が近付けられる。

「そーゆー意味よ」

囁く声はひどく熱を帯びているように聞こえて、それまでどうにか静めていた心臓が、弾けるように大きく跳ねた。
怒っているようにも取れる顔の彼女と目が合って、彼女の体は椅子の上に戻った。

「…それは、私に、無理矢理チューしろこのヤロー、と言ってるのですか?」
「言ってないわよ。
 あたしが好きなのは今ここにいるむらっちじゃないから」

言葉の節々に棘があるように感じられるのは、私に非があるからだろう。
879 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:42
自分の心臓の痛みも、彼女の痛みも抑えられる術といえばもう、ひとつしか残っていない。
だけど私は、それを素直に実行出来るほど真っ直ぐな人間ではない。

「…私が好きなのは、今ここにいるひとみんだよ」

眼鏡のレンズは防波堤だろうか。
彼女の愛を遮断する、というよりも、私の愛を堰き止める役目を持った防波堤。
一度氾濫してしまえばきっと抑える事なんて出来なくなるだろうから…。

「…この先、もう言わないかもしれないけどさぁ」
「…ん」
「好きだよ。ちゃんと、好きだから」
880 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:43
余裕がないのは、どちらも同じだっただろうか。

腕を伸ばして彼女を抱きしめる。
きつくきつく抱きしめる。
彼女の匂いも、体温も、呼吸も、私の中に閉じ込めてしまいたくて、それが叶わぬならせめて
その全てが私のそれと交じり合ってそのままゼロか無限になればいいのにって思いながら。
881 名前:waver 投稿日:2004/03/03(水) 06:43
キスをしなかったのは、私にいくらか余裕が残っていたからだろうか。
それとも、これっぽっちも残ってはいなかったからだろうか。

背中に回された彼女の腕から伝わる、おおよそ言葉では表しきれない熱を感じながら、私は静かに瞳を閉じた。



882 名前:オニオン 投稿日:2004/03/03(水) 06:43
毎度の事ながらぐだぐだ。
883 名前:オニオン 投稿日:2004/03/03(水) 06:43
だけど久々にage
884 名前:オニオン 投稿日:2004/03/03(水) 06:43
村田さんおたおめって事で。
885 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/04(木) 01:30
生まれ年は同じなんですよねぇ、2人…
やっぱりメロンではこの組合せが一番好きです
886 名前:Several seconds 投稿日:2004/04/03(土) 19:59
鳴り響くのは警鐘。
眼前を突っ切っていく電車が間延びした色を残している。
風がふたりを煽る。
もう朝のラッシュは過ぎ去っていて、ふたりの隣に人の姿はない。
ただ太陽が街の所々に影を作っているだけ。
無邪気に陽気な日差しがアスファルトを焦がすかのように影を落としているだけ。
887 名前:Several seconds 投稿日:2004/04/03(土) 19:59
「…中澤さん」

聞こえ難そうに眉間に皺を寄せる。
顔を近づけて耳を澄ませる。

「――――」

やはり聞こえはしないらしい。
少し困った風に微苦笑しそれから私の手を取った。

ギュっと握られた手。
ひんやりとしている手。
相変わらずそれに慣れそうにもなくて、心音が加速していく。
888 名前:Several seconds 投稿日:2004/04/03(土) 20:00
風が止んで、静けさが戻り、遮断機が上がる。
一歩、彼女が歩みを進める。
私もそれに倣って歩き始める。

「さっき、何言うてたん?」

不意に横顔が問い掛けてくる。

「あ、えっと…。
 また今度でいいです…」

だってまだその手は私の手を離さずにいてくれているから。


889 名前:オニオン 投稿日:2004/04/03(土) 20:02
中藤のはずだったのだが…。

>>885
いいですよねぇ。
自分も今それが一押しです。
890 名前:下り坂を上る日 投稿日:2004/05/01(土) 03:37
緩やかに続く坂道を踏み締めながら駆け上ってくる。
いつもの帰り道、下っていくあたしは彼女とすれ違う。
名前は、知ってる。
同じ大学に通っているはずの大谷さん。
だけど学内で会った事は未だない。
あたしが知ってる彼女はパーカーを頭まで被って、やけに苦しそうな顔をして坂道を上ってくる人。

今年に入ってから毎日のようにすれ違うようになった。
――彼女は、何のために走ってるんだろう。
891 名前:下り坂を上る日 投稿日:2004/05/01(土) 03:37
毎日、毎日、桜が散り終えてしまっても、緑のゲートを潜りながら彼女は駆けてくる。
肩で息をする。
乱れた呼吸が聴こえてくる。

そして、すれ違う一瞬。

熱。
熱を持った風。

揺れていたのは、彼女の体だけだった?
彼女の周りの空気だけだった?

その答を捜すみたいにして、あたしは振り返る。
小さな足音と、遠ざかる息遣いと、もうどこにも残っていない熱。
坂を上り終えて足元から見えなくなっていく後ろ姿。

見送って、何となく溜め息をついて、あたしは帰る足を再開させる。
892 名前:下り坂を上る日 投稿日:2004/05/01(土) 03:37
まるで電車やバスのように、同じ時刻にすれ違う彼女とあたし。
まるで、待ち合わせに急ぐみたいにして、同じ時刻にここを通るあたし。
もう、始まっているのかもしれない。
893 名前:下り坂を上る日 投稿日:2004/05/01(土) 03:38
今日もまた、彼女の姿が見えてくる。
一歩、一歩。
距離が近付くたびに感じる。
揺れているのを。

大きくなってくるその姿はあたしの目にはしっかりと映っているけれど。
同じように、彼女の目にもあたしは映っているのだろうか。

ジャッ、チャッ、タッ、ジャッ―――

砂利混じりの道を駆け上がってくる。
暮れ出そうとしてる空の下。
スカイブルーに灰色が混ざり始めて、不思議な表情をする空の下。
今日も彼女とすれ違う。
894 名前:下り坂を上る日 投稿日:2004/05/01(土) 03:38
彼女が放つ風を手繰るようにして振り返る。
いつものように当然のように、見えるのは後ろ姿だけ。
いつも振り返るのはあたしだ。

――なんか、悔しくない?

脳が悔しいって呟いた。そんな気がした。

あたしは踵を返して、走り出した。
ぐんぐん坂道を上っていく彼女の背中を追いかけるように。
少しヒールのある靴が、思うように走らせてはくれない。
だから。

「―大谷雅恵っ」

この声が葉桜の並木道を駆け上っていくようにと、そう願って、叫んだ。

少し俯き加減だった頭が、ぴくりと上がって、振り返った。
離れる一方だった彼女とあたしとの距離が、やっと止まった。
895 名前:下り坂を上る日 投稿日:2004/05/01(土) 03:38
なに?と訊くみたいに、首を傾げる。
これだけ離れてると、表情は読めない。

「あたしの事、知ってる?」

別に、知らなくてもいいと思った。
とりあえず、彼女の目にあたしが映っている事を確認出来ればそれで。

「…さいとーひとみ」

ぼそっとそう聞こえて、それからすぐに、彼女の足はまた走り始めた。

「……何、よ、知ってるんじゃない」

向きを変えて、坂道を下る。
一歩進むたび、次の一歩が出るのが早くなる。
下り坂に背を押されるようにして、あたしは駆け出していた。

896 名前:白に塗る黒 投稿日:2004/05/26(水) 04:40
いつも私の中に闇はある。
笑う時も泣く時も小さな闇はずっと私の中で息を潜めている。
だからその闇が肥大して私を覆い尽くそうとしているかどうかなんて事、
到底自分では判断出来ない事だと思う。

「村田ー、何してるん?そんなとこで」
「あ。中澤さん。
 いえいえ、何もしてませんよ」

ドアノブに掛けっ放しだった手を押してドアを開ける。
たぶん私は上手く笑えていると思う。

「まさか延々引きよったんやないやろうなぁ」
「そんな事ある訳ないじゃないですかぁ」
「ほんまかー?」

わざとらしく顔を覗き込まれる。
こんな時の中澤さんは、何て言うか、人懐っこい笑みを浮かべている。
897 名前:白に塗る黒 投稿日:2004/05/26(水) 04:40
そう思ったのが先だっただろうか。
心の奥で小さく、金属同士がぶつかるような甲高い音が響き始めて、それは少しずつ大きくなって、
気が付けばそれに急き立てられるようにして私は手を伸ばしていた。

握った手首は芯がなくて、ちょっと力を入れれば折れるんだろうなと言う感じ。

「ん?」

振り払う訳でも顔を顰める訳でもなく、ただ、ほんの少し眉毛を上げて首を傾げる。

「…」

開きかけた口は、一体何を伝えようとしていたんだろう。

「何や?」

柔らかな口調が耳に溶ける。
898 名前:白に塗る黒 投稿日:2004/05/26(水) 04:41
自分が壊れてしまいそうな時、或いは既に壊れてしまっている時、
目の前に綺麗なものがあるとそれを呑み込んでしまいたくなるのはどうしてなんだろうか。
そんな事を考えながら、繋がっている手を引いてその体を引き寄せた。

もう一方の手もこの人に触れたがっていて、その意に反する事なく抱きしめる。
誰も迎え入れる事なくドアは閉まっていく。

「…村田?」

腕に力を込める。
戸惑うような声がする度に。

「どーした?」

右腕に左腕に力を込める。

「…」

中澤さんは小さく溜め息を吐いて、抱きしめ返してきた。
気付かない、だろうか。
私の腕は体は、あなたを丸呑みしてしまおうとしている事に。

899 名前:夏ソーダ 投稿日:2004/07/05(月) 13:16
「あつい」
「言わなくても分かってるから」

ひとみんは服の裾をぱたぱたとさせながら呆れたようにそう言う。
そー言えば昔はさぁこんな暑い日は決まってふたりで近所の駄菓子屋さんに行ってアイス買って食べてたなぁ。
五十円のソーダアイス。
棒が二本で、真ん中でふたつに割って食べるやつ。
あの、シャリッともサクッとも違う音と食感が好きだったなぁ。
――。
だったじゃないな、たぶん。今も好きだと思う、絶対。

「――ひとみん」
「んー?」
「駄菓子屋行こーよ」
「へえ?」
「いーから」

じっと顔を見てくるひとみんの腕を掴んで引っ張り上げて、そのまますたすた家を出る。
900 名前:夏ソーダ 投稿日:2004/07/05(月) 13:16
「ちょっと、むらっ」

なんて声が聞こえても気にしちゃあいけない。

路地をいくつか曲がりくねって歩くと、あの頃と同じ場所にまだ在る駄菓子屋さんへと出る。

「うわー…なっつかしいー」
「うん、懐かしいねぇ」

高校生の頃まではたまにきたりもしていたけど、卒業して就職してからは全くこないようになっていたから。

「でも何で急にここにきたくなった訳?」
「うぅんと。
 あれですよ、あれ。
 懐古、懐古」
「懐古、ねぇ…」
901 名前:夏ソーダ 投稿日:2004/07/05(月) 13:17
納得出来てないって顔してるひとみんをそのままに、店に入ってすぐの所にある冷蔵庫からソーダアイスを一袋取って奥へと進む。
いつもここに座っていたおばあちゃんはいなかった。
代わりに、エプロンをつけた、私のお母さんくらいの女の人が座っている。

「これください」
「はい。百円ね」
「っと…」

ポケットに手を突っ込んで、直に入っているお金を取り合えず全部引っ張り出して手を開いて見る。

「あったあった」

百円玉を差し出すと、ありがとうございましたって言われて、何か、こちらこそって思ってオウム返ししてしまった。
そうしたらその人は少しだけ不思議そうに微笑った。
902 名前:夏ソーダ 投稿日:2004/07/05(月) 13:17
「ひとみん」
「こら、人を置いていくなー」
「ごめんなさーい」
「…あ」
「あ、うん。これ買ってた」

値段は変わってしまったけど、あの頃と同じ水色の袋に入ったソーダアイス。
両手を使って袋の上から真ん中で半分こして、それから開けて一方を取り出して半分入ったままの袋をひとみんにあげた。

「ん」
「――うん、ありがと…」
「いいえー」

袋から出して口へと運ぶのを見て、私もかじってみる。
サクッでもシャリッでもない音がした。相変わらず。
それにこの味、すごい懐かしい。

「おいしいねぇ」
「うん」
903 名前:夏ソーダ 投稿日:2004/07/05(月) 13:17
ふと思った。
宝石飴のソーダ味を凍らせたらきっとこんな風な味になるんだろうなぁって。
駄菓子屋さんで手に入るソーダ味は足並み揃えたソーダ味なんだと思う。

「ふふっ…」
「んー?」

ひとりそんな事を考えていたら、急にひとみんが笑みを漏らした。

「いや、ちょっとね。
 むらが小さい頃のむらに見えたの」

こんくらいの、と言って、ひとみんは自分の腰上くらいにてのひらを下向きに出した。

「おおっ。おおおっ」

そう言われてひとみんを見たら、私の方も同じように見えた。

「私も、私も」
「そう。うん。ね」
「うん」

904 名前:さや 投稿日:2004/07/07(水) 23:56
おぉ!!更新されてる!!メロン、いいですね〜。
私はマサオ推しなんですけどオニオンさんのせいで(笑)
皆好きんなちゃったじゃないですか!!
これからもひっそり応援させてもらいますね。

…ワガママを言うようですが…もしよかったら
また、なかよしが読みたいです。

気が早いですが次スレにもついて行きますので頑張って下さい!!
905 名前:全ては君のてのひらの中に。 投稿日:2004/08/02(月) 09:46
オレンジ色の太陽を見た。
夕焼けの空じゃなくて、昇り始めた朝日を。

なんて、私ひとりその景色に感動してて、隣りでは中澤さんが眠たそうに欠伸をしているところだった。
お互いが引き摺り歩くサンダルの音を聴きながら、何となく、何となく手を伸ばしてみる。
あんなこじんまりとして、掴めそうじゃん?ほら。

「無理無理」

なのに中澤さんは呆れた声で笑う。

「無理じゃないですよ」

はいはい、と空返事をしながら今度は背筋を伸ばす仕草。

「ほらっ、捕まえましたよ」

私はてのひらを握り締める。

「アホ」

なんて言いながらも、道を挟んだ向こう側に昇ろうとしている太陽へと視線を向けてくれる。
だけど中澤さんの目に太陽は映らない。
だってさっき、雲が攫っていったから。
906 名前:全ては君のてのひらの中に。 投稿日:2004/08/02(月) 09:46
「ね、今、この手の中にあるんですよ、太陽。
 ほんとですよ」

自分のこぶしを中澤さんの目の前にかざす。手の甲が見えるようにして。
もうすぐ、雲が切れそうだ。

「あー、羽ばたいていっちゃいましたよ、太陽さん」

タイミングを見計らいながら開いたてのひらをひらひらと振ってバイバイしてみる。

「――あんた、アホやろ」
「今更何を言ってるんですか」

誇らしげに返してみる。

「―まぁ、えーけどな。
 そんで?」
「はい?」
「あんたのてのひらん中には他に何があるん?」
「他にですか?
 うーん…そーですねぇ…」

私がどんな答を返すのか、試すような期待してるような顔をして中澤さんは口許に笑みを浮かべている。

「輝ける未来とかです」
「なるほど。そうか」
「ええ」
「ん。ええんとちゃうん」
「なので」
「んー?」
「手を繋ぎましょう」


907 名前:オニオン 投稿日:2004/08/02(月) 09:49
>>904
有難う御座います。
次スレは今のところ立てる気がないのでこのスレが見納めかもです。
ついでに言えば、なかよしもこれで見納めかも(ry
全然なかよしっぽくならなかったけどねOTL
908 名前:さや 投稿日:2004/08/02(月) 11:15
そうですか〜…残念です。
リクのなかよし、ありがとうございました!
最後まで頑張ってください。
909 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/03(火) 02:14
どうやら1年以上ぶりのレスですお久しぶりです。
すごく良かった。
勝手ながら、吉澤さんや誰かのてのひらにあるであろうモノを思ってぐっときて(ry
910 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/10(火) 01:50
えぇ〜っ!次スレの予定はナシですか……。
正直、すごく残念です。
オニオンさんの小説は読んでると心がほわっと
暖かくなるからすごい好きなんです。
最後までついていきます!
911 名前:讃岐の名無し 投稿日:2004/08/15(日) 21:51
久し振りのなかよし良かった。
俺も貴方の小説読むと心が
暖かくなる。
最後まで頑張って下さい。
912 名前:或いはこの手の中に。 投稿日:2004/11/16(火) 21:01
手を繋ぎたいって思うのに、わたしの右手は弱虫だ。
君の袖口睨んで結局引き返してくるだけ。
浮かんでは消去する言い訳。
「寒いね」なんて一言で触れてしまえればどんなに楽だろうか。
913 名前:或いはこの手の中に。 投稿日:2004/11/16(火) 21:01
「むらっち遅い」
「やぐっちゃんが速いんだと思います」
「いーや、むらっちが遅いのー」
「違うよ。
 やぐっちゃん小回りきくから速いんだよ」
「なにをー」
「なにもー」

そう返すと君は溜め息をひとつ漏らしてわたしを見上げた。

「もーさー」
「んー?」
「やぐちの後頭部ばっかり見ててもつまらないっしょ」

なんて言ってる君の方がよっぽどつまらなさそうなんだから。
914 名前:或いはこの手の中に。 投稿日:2004/11/16(火) 21:02
「ん、そんな事ございませんわよ。
 後頭部にだってやぐっちゃんらしさを感じますからねぇ、えぇ」
「…やぐちはつまらないよー。
 むらっち見えないんだもん」

やっぱり。
でもそんな理由なら嬉しい、単純に、うん。

「そお?」

君の前へと一歩大きく踏み出す。

「思う存分見てくださいな」

両手を腰にあてて胸を張ってみる。
915 名前:或いはこの手の中に。 投稿日:2004/11/16(火) 21:02
「むしろ近すぎて喉しか見えないし」
「いいじゃありませんか。
 滅多にみられませんよーお客さん」
「やぐちにとってはそーでもないの。
 どっちかって言うとつむじの方が滅多に見れない」

それでもわたしの喉元をぼんやりと見ながらそんな風に呟く。

「つむじねぇ…。
 残念ながらそこには村田さんの乙女の神秘が隠されているから見せられはしないのよねぇ」
「何だよそれ。
 まぁそんなに見たい訳じゃないからいーけど」
「え。
 もっとがっつこうよぉ」
「いや、そんなに興味ないし」
「そんな!
 興味の切れ目が愛想の切れ目って言うし。
 そうなのね、もうわたしには付き合う愛想がないって事なのね」
「何もかも間違ってるから!
 それ、お金の切れ目が縁の切れ目だし。
 やぐちの方が愛想切らす訳ないし」

なんて。真剣な顔で言ってくれる。
916 名前:或いはこの手の中に。 投稿日:2004/11/16(火) 21:02
「むらっちはさぁ」
「うん?」
「もっと自信持つべきだよ」
「自信?」
「そう」
「何の?」
「あーもぉ、だからさぁ…」

君は眉間に皺を寄せて子供のように口を尖らせる。

「ここにいるって事の、だよ」
「…ここにいるって事の、ねぇ…」

ここ、かぁ。
さて、どこでしょうかねぇ…。
917 名前:或いはこの手の中に。 投稿日:2004/11/16(火) 21:02
「…むらっち、ここってどこ?って顔してる…」
「おわっ、バレてますのこと?」
「…うん」
「いや、その、暫しお待ちを…。
 もうすぐ答に行き着く予定なのよ」
「嘘ばっか」

何故か君は苦笑した。

「ここって言うのは、ここ」

君の左手がわたしの右手を引き寄せる。
そのまま小さな体が歩き出すものだから向かい合っていた体が自然と同じ方向を向く。
918 名前:或いはこの手の中に。 投稿日:2004/11/16(火) 21:03
「やぐちのとなり」

至極当然のように。

「ね。
 だってさ、ほら、やぐちとむらっちがもし同じクラスだったらたぶん出席番号前後だったと思うし」
「そうね、素敵に意味不明だわ」
「えー、そんな事ないってー」
「そんな事あるけど、まぁ、いっかぁ」

何だか君らしい科白だから。

「っははー」
「ん?」
「繋いじゃったー、手」

きゅって音がしたんじゃないかと思った。
繋がっている手に君が少し力を込めた音が。

「あ、うん…」
「何だよーそれー。
 ちょっとどきどきしたんだから」
「そっかぁ…。
 奇遇だね。わたしはほっとしてる」
「どこが奇遇なのさ」
「秘密ですよ、そんなの」


919 名前:オニオン 投稿日:2004/11/16(火) 21:05
色んな事をリハビリ中…。

>>908
いえいえ、こちらこそ有難う御座います。
頑張りますとも、ええ。
>>909
誰か存じませんがお久しぶりです。
ぐっとくるのは恥ずかしい事じゃないです。
>>910
有難う御座います。
よし、ついてこい!(キャラおかしい
>>911
あなたもお久しぶりなおかん。
うん、頑張ります。
920 名前:オニオン 投稿日:2004/11/16(火) 21:06
921 名前:オニオン 投稿日:2004/11/16(火) 21:06
922 名前:ケロポン 投稿日:2004/11/19(金) 14:20
オニオンさんの作品、ずっと読み続けたいです。頑張って下さい。
923 名前:讃岐の名無し 投稿日:2004/11/21(日) 00:56
お久し振りです。今回も良かったです。
924 名前:910 投稿日:2004/11/25(木) 14:26
最近いろんな事があって落ち込んだりしたけど
やっぱりオニオンさんの小説は和む〜。幸せです!
ついていく事を許可されたので
どこまでだってついていっちゃいますからね!
925 名前:呑み込まれる 投稿日:2004/12/15(水) 21:15
どんより、どんより、ふらつくように空を漂う雲がわたしなら、わたしがいる事にも気付かないで空を真っ黒に覆い尽くしてしまう夜が中澤さんだ、と思う。
星さえも居場所を失くすような存在感。
その手の中に捕らわれてしまうと、誰にも見つけて貰えないような錯覚さえする。

「村田、なにしてるん?」

コートのポケットに両手を突っ込んで寒そうに肩をちぢこめた中澤さんが振り返ってわたしの名を呼ぶ。


「あ、すいません。
 ちょっと見とれてました」

そう言って小さく駆け寄る。
926 名前:呑み込まれる 投稿日:2004/12/15(水) 21:15
「私に?」
「空に、です」
「なんや、つまらん」
「そうですかぁ?
 でも、中澤さんに似てるなぁって思いながらなんですけどねぇ」
「…どう喜べって?
 誰が夜の帝王やねん」
「言ってないです、言ってません」
「罰として今日はあんたの奢りな」
「ええー。
 …じゃあひとり五百円以内で…」
「小学生の遠足のおやつやないねんから…」
「駄菓子五百円分は結構な量になりますよぉ」
「誰もそんな事訊いてへんし」

呆れたような溜め息を携えた笑みを浮かべる。

「まぁええわ。
 寒いしはよ行こうで」
「はぁい」

そう言えば時々、どこか遠くへ行ってしまいたい時がある。
そんな日は、この人の腕の中で眠る事にしようか。


927 名前:落ち葉 投稿日:2004/12/15(水) 21:16
そよぐような北風に吹かれて、力ない色をした木の葉が大地のベッドへと誘われていく。
両手では受け止めきれない程の木の葉が次から次へと長い眠りへと向かう。

「柴田くん?」
「ん、あ、ごめん、ぼーっとしてたかも」
「珍しいね」
「そうかなぁ?」
「うん。わたしといる時、柴田くんいつもギラギラしてるから」
「えー、あたしー?」
「そ、そ」
「そんな事ないはずだけどなぁ…」
「はず、つもり、は当てにならないもんなんだよ」

指先が髪を撫でる。
928 名前:落ち葉 投稿日:2004/12/15(水) 21:16
「んー…あたしもめぐちゃんのベッドで眠るー」

抱きしめながら体重をかける。

「うぉあ、柴田くん?
 と言うか、あたしもって何?もって」
「あー…気にしないで、うん」
「いや、そう言われると気になるのが人間の性ってものでしてねぇ…」
「じゃあいーよ。
 ずっと気にしてて。あたしは寝るから。
 おやすみ、めぐちゃん」
「こんな時間に?
 じゃなくて、この体勢で?冗談じゃなくて?」
「めぐちゃん、うるさい」
「…君って子は…。
 分かりましたよ。
 村田さんはあなたのベッドとなり枕となり物思いに更ける事にしますわ」
「そうしてー」
「はいはい。
 おやすみなさい」

929 名前:遠い至近距離 投稿日:2004/12/15(水) 21:16
「あたしの事だけ見てよ」とはどう言う意味だろうか。
私の意志に関係なく目には無数のひとみん以外のものが映るって言うのに。
ひとみんも好き。
あゆみちゃんも好き。
マサオくんも好き。
ごっちゃんも好き。
中澤さんも好き。
それではいけないのだろうか。
…ふぅ。
あったま痛い、かも。
930 名前:遠い至近距離 投稿日:2004/12/15(水) 21:16
ガチャッと机に鍵が置かれた音でひとみんがきた事に気が付いた。
この寒い中、膝上スカートだなんて女の子は大変だなぁと彼女を見ているといつも人事のようにそう思う。

「なーに人の足じっと見てる訳?」

首を傾けて私の顔を覗き込んで、こう、まるでひとみんの方が優位に立っているかのような表情。

「ん、気合入ってるなぁと思って」
「まぁねー。
 いつも気合は満タンよ」
「それはそれは…何よりですわ、ええ」
「何よ、どうでもよさげ?」

うんって言ったら怒るだろうなぁ。
けど私もそこまで馬鹿じゃない。
931 名前:遠い至近距離 投稿日:2004/12/15(水) 21:17
「そうじゃないけど」
「けど?」

訊き返されて私がちょっと困った顔をすると、彼女の方も同じような表情をした。

「まぁ、いいじゃん」

椅子に座ったまま、彼女の腰を抱きしめる。

「…またそれだ。
 むらはいつもそうやってこう、はぐらかすよね」
「悪い子だねぇ」
「ほんとよ」
「だったら、分かっててはぐらかされてるひとみんも同罪」

珍しく彼女は、悲しそうな顔で私を見下ろしていた。

932 名前:見上げる 投稿日:2004/12/15(水) 21:17
「いつもあんたは頑張ってるなぁ」
と言う中澤さんはやさしい顔をしているから好き。
じゃあそれ以外は?と訊かれてもきっとそれ以外も好きと答えるんだけど。
だけど、だからと言って中澤さんの全てが好きって訳じゃあない。
たぶんそう言ったら「ならどこが嫌いなん?」なんて余裕ありありの顔で訊いてくるんだと思う。
それはあんまり好きじゃない、かな。
どうやってもこの年の差は埋められないって分かっているけど、そういう顔されちゃうと目の当たりにするみたいで何か、ちょっと。て思

う。

「なーに言ってんのさー埋められないなら縮めちゃえー。
 それも無理なら引きずってでも近付けちゃばいいじゃん」

人事だからか天然なのかそんな事を言ってたのはめぐちゃんだ。

確かに、この距離が嫌いで、埋まらないかなぁって思う事がある。
だけどあたしはほんとに埋めたいのかな。
ほんとはこのままなびくようにしてる方がいいのかもしれない。

「あんた見てると私も頑張らないかんなぁって思うんよ」
中澤さんはそんな風に言うけど。
違う。
頑張ってるのは中澤さんの方で、あたしはただその背中を追いかけてるだけ。
中澤さんが走るからあたしも走ってるだけ。

そう。
あたしはただずっと走って、ずっと追いかけていたいんだ。
あなたを。


933 名前:正対 投稿日:2004/12/15(水) 21:17
「中澤さん、あたしの事好きですか?」

なんてダイレクトで無駄のない問いなんだろう、と思った。
私はそんな風に訊く事は出来んから。
この子の仲良しさんなら、好きですよね、なんて決め付けで自信たっぷりに訊くんやろうけど。
どっちがええかなんて比べるつもりはない。
比べるもんじゃないやろうし。

ただ私は、私へと向けられたこの子の問いに嘘や濁りのない答を返すだけ。

「好きやで」

何度、何人に言っただろうか。
毎回、今言ったこの好きが一番やと思ってはいる。
ただ――。

「知ってまぁす」

藤本は右手を挙げてわざとらしく声のトーンを上げてそう返す。
これはこの子なりの照れ隠し。
934 名前:正対 投稿日:2004/12/15(水) 21:18
「そうか。
 私も知ってるで。
 あんたが私を好きやって」
「えー、あたしまだそんな事言ってませんよー」
「うん、せやな。聞いてはないな。
 けど、知ってるもんはしょーがない」
「えー。
 中澤さんもう大人なんですからそこは知らないふりとかしましょうよ」
「それは出来んよ。
 大人はな、あんたが思ってるよりずっと余裕のない生きもんやねん。
 私は知ってしまった。
 見栄や強がりや、誰かのためって言いながらほんとは自分のためな事がどんなに無意味なものか」
「…」
「と、ごめんごめん。
 ついちょっと真剣に語ってしもたな。
 聞き流してええから。な」
「……」
「…藤本?」

手を伸ばしかけたら、その目がやけに真っ直ぐ私を捉えてきた。

「中澤さん」
「ん?」
「好きです」


935 名前:若葉と積雪 投稿日:2004/12/15(水) 21:18
春の訪れを冬の終わりを嘆くように振る雪のようだ、と思う。
やわらかく舞い散る雪のようにあたしに触れるその指先は。
言葉では強気なくせに、変なところで躊躇うのはあたしに似てるようで笑えるのだけれど。

「柴っちゃん、何笑ってるのーちょっとぉ」
「笑ってないよー」
「じゃあにやけて」
「ない、ない」
「…じゃああたしがにやける」
「いやいや、意味分かんないよねぇ?」
「いーのいーの。
 一緒にいられてそれだけで頬の筋肉緩むーって事でいーの」
「どうかしたの?
 そんな可愛い事言うなんて」
「柴っちゃん、それ失礼」
「褒めてるのに」
「はあ、どこが?」
「あたしにはない感じが」
「…よく分かんないです」

顔丸ごと全部が頭の上にでっかいハテナマークを飛ばしてるような表情を作ってる。
936 名前:若葉と積雪 投稿日:2004/12/15(水) 21:18
「そうだなぁ…。
 例えば。あー触りたいなぁって思ったらあたしは前から抱きしめるけど、みきちゃんは後ろから抱きしめると思うの。
 そーゆーこと」
「…もっと分かんないんですけど」
「だから、あたしが左手ならみきちゃんは右手」
「…分かったって事にしておきます…」
「今なんで目逸らしたの?ねぇ、ちょっと」
「ソンナコトナイデス」
「何で急にカタコトになるのよ」
「…柴っちゃん、時々村田さんみたいな事言うよね」
「ありがとう」
「褒めてないです」
「知ってます」
「でも別に、悪くないと思います」
「ありがとう」
「褒めました」
「知ってます」

937 名前:±0 投稿日:2004/12/15(水) 21:19
「あたしね、いつも心配なの、ひとみんのこと」

メイクを落としながら、だったかな、あゆみがそんな事を言ってたのは。
心配されてるうちが花って言ってたのは誰だったっけ。
それなら今のあたしには花がない。
それどころか、つぼみもなければ水を吸い上げる根もないのかもしれない。
て、言うよりも根を張る大地がないが的確なのかもしれない。
あるとすれば、ここに何があったかを示すネームプレートくらい。

「四番ピッチャー柴田に代わりまして、代打大谷、代打大谷」
「…なにそれ」
「聞いたとおりですけど?
 ピンチヒッターってやつですよ」
「何の?」
「…恋の?」
「…熱でもあるの?」
「人並み程度には」
「…話になんない、かも」
「あ、ひどい。
 これでもマサオくんなりに心配してるのになぁ」

心配、かぁ…。
938 名前:±0 投稿日:2004/12/15(水) 21:19
「あたしは心配して欲しかった訳じゃない。
 それより好きって言って欲しかっただけ」
「好きだよ」
「あんたじゃなくて」
「うん。
 けど今ひとみんにそう言えるのマサオくんしかいないみたいだからさぁ、ま、我慢してくださいよ」
「…損な性格」
「ひとみんこそ。
 言ってくれるまで自分からは言わずに待ってたなんて、十分損する性格だと思うけど?」
「…たまには得したいもんだわ」
「そうねぇ、それはマサオくんには無理ですねぇ。
 何たってマサオくんも損な性格らしいですから」
「なんだ、つまんない」
「だけど、どうでしょう。
 損をさせない、くらいなら出来るんじゃないでしょうかね」
「曖昧」
「そりゃあねぇ。
 やってみなきゃー分かんないってね」
「何を?」
「何でも」
「何でも…かんでも」
「そうそう、何でもかんでも。
 だってひとみんは何もしなかったじゃない?
 だったら今度はその逆、とにかくやってみようって言うのも悪くないと思うけど?」
「…まぁ、悪くはないわね」
「なら決まり。
 代打大谷、バッターボックスに入ります」
「見逃し三振なんてやめてよ」
「勿論。
 どうせ三振ならフルスイングで空振りするよ」
「…打つ気ないでしょ」
「それが意外とあるのよこれがまた」

答えたマサオの顔がやけに自信ありげだったから、ちょっとだけ信じてみたくなった。
そんな気にさせられた。


939 名前:キラキラ 投稿日:2004/12/15(水) 21:20
好き、と言う感情は、自分とは全く違う色を持つ人か、自分と似た色を持ちながらもその中にはない色も持ち合わせている人に対して抱き

がちだ、と思う。
斉藤さんは前者。
あたしとは異なる色を持つ人。
例えるなら、あやちゃんと少し似てるような色。
だから惹かれた?違う。だけど、それでも、惹かれたんだ、きっと。

「難しい顔だねぇ」

頬杖をつくあたしの向かい側で斉藤さんはあたしの真似をして頬杖をついた。

「あ、すみません」
「んー謝んなくていいんだけどねぇ」

斉藤さんの笑う時の顔は独特だと思う。
キラキラしてる。
くるくる表情は変わるのにいつもキラキラしてる。
何て言うか、万華鏡みたいに。

「みきちゃん。
 若いうちからそんな顔してるとここんとこに皺作っちゃうよ」

自分の眉間を二回、とんとんと指差す。
940 名前:キラキラ 投稿日:2004/12/15(水) 21:20
「…すみません」
「今日はすみませんしか言わない日?」

困った風に笑う時もキラキラ。

「そんな訳じゃ…」
「じゃあとりあえず笑おっか」

ふふふでもへへへでもはははでもなく、キラキラ、キラキラ。

「ね?」

頷いて斉藤さんに倣って笑ってみる。
あたしはキラキラしてますか?
ねぇ、斉藤さん。

「よし、いい顔」

そう言って頭を撫でてくれる斉藤さんの顔は、やっぱり、キラキラ。
あたしはたぶんそのキラキラが好き。

941 名前:オニオン 投稿日:2004/12/15(水) 21:26
>>922
有難う御座います。
そう言って貰えると嬉しいですね。
>>923
有難う御座います。
毎度そう言って貰えるよう頑張んなきゃいけないんですけどね。
>>924
有難う御座います。
自分の書いたもんなんぞで幸せ感じて貰えるならいくらでも、と言いたいところですね。
942 名前:オニオン 投稿日:2004/12/15(水) 21:29
けどまあ脳内補完にも限界があるとようやっと知り始めまして(遅
そんな訳でこのスレはこれでお仕舞い。
自分もちょっと一休みします。
二年も長々お付き合い頂き有難う御座いました。
943 名前:オニオン 投稿日:2004/12/15(水) 21:33
次スレの予定はないですがそのうちきっと立てるんだと思いますたぶん
944 名前:ケロポン 投稿日:2004/12/19(日) 09:45
きっと立てて下さい。
その時を待ってます。
お疲れ様、そしてありがとうございました。
945 名前:名無し§ 投稿日:2004/12/19(日) 10:49
また立てて下さいね。
お疲れさまでした。
またいつかなかよし書い(ry
946 名前:讃岐の名無し 投稿日:2004/12/22(水) 20:57
お疲れ様でした。
二年間ありがとう御座いました。
また帰ってくるの待ってます。

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