外側の世界

1 名前:AS 投稿日:2002年12月22日(日)05時13分19秒
『夜景の先、明後日。』
2 名前:夜景の先、明後日。 投稿日:2002年12月22日(日)05時14分18秒
 見下ろす水面が揺れて、照らされた夜景がゆうらり滲む。石川が橋から身を乗り出すようにして覗き込み、それを不安そうな目で吉澤が見つめた。そんな二人のやり取りを愛しそうに矢口が眺める。口の端に微かに笑みを浮かべ、口を開いた。
「梨華ちゃん、危ないよ」
 そうだよ、と吉澤が言葉を継ぎ足し、石川はそれに笑顔を返す。
 華奢な体がフワリと宙を舞い、二人の目の前に着地した。片足で支えられた体はバランスを崩し、両手をやじろべえのように広げながら、おっと、という声を漏らした。
「心配性だな、まりっぺは」
「まりっぺ言うな」
「ふふふ」
 二人は顔を見合わせ笑い合い、横で吉澤が複雑そうな表情をした。石川はそんな吉澤に向き直り首をかしげ、見慣れない黒髪に視線を這わせた。
「ホントに危ないから止めて」
 くすぐったそうに前髪をかきあげる。夜の街はそれでも喧騒に溢れ、紡いだ言葉は一秒後には白い息の向こうに消えていく。
「うん。ごめんね、よっすぃー?」
 吉澤は上目遣いの石川から視線を逸らし、明後日の方向を見ながら、うん、と漏らした。視界の隅にわずかに覗いた月は、夜景の輝きに埋もれ、鈍い光を放つ。
3 名前:夜景の先、明後日。 投稿日:2002年12月22日(日)05時15分07秒
「そろそろ帰ろ。さみーよ」
 とととっと、小さな体が動き出し、二人もそれに続いた。
「確かに寒いですね」
 吉澤はポケットに手を突っ込み、何度もこすり合わせている石川の手を見た。薄茶色の手は乾いた音を鳴らしながら往復を繰り返し、時折白い息が吹きかけられる。吉澤は左手をポケットから出し、石川を見つめた。それに気付いたように石川が軽く笑みを見せる。
「寒いねー」
「うん」
 外気に晒された宙ぶらりんの左手を何度か握っては開いて、その後にもう一度ポケットに入れた。車のエンジン音が響いて、それに負けないような強さで地面を踏みしめる。
「髪、似合ってんじゃん」
 唐突に石川がそんな言葉を漏らした。視線だけを吉澤に向け、もう一度両手に息を吹きかける。
「その言葉遣い、梨華ちゃんに似合わないよね」
 吉澤も視線だけを石川に向けて話す。
「なんだよー」
 石川が軽く吉澤を突き飛ばし、吉澤もそれに笑顔で、
「やめてよー、うざいー」
と、返した。矢口はいつのまにか遥か前方を歩いていて、携帯で誰かと話しているようだった。
4 名前:夜景の先、明後日。 投稿日:2002年12月22日(日)05時16分43秒
 二人の間に風が吹いた。頬を撫で、コートの裾を揺らし、染め直したばかりの黒髪も揺らした。石川も寒そうに身を縮める。
「そう言えばさ」
 吉澤は遥か前方に視線を向けた。矢口は未だに携帯を握り締めている。
「なんだよー、もったい付けるなよー」
「だから似合わないって、それ」
 石川がぷくっと頬を膨らませ、吉澤はそれに構わず言葉を続ける。
「明後日、どうするの?」
 はて、といった表情で石川が首をかしげ、少しして、ぱあっと顔を輝かせた。
「ああ、イブのことかー。一緒に過ごすような王子様もいないし、去年みたいに柴ちゃんと一緒にこたつでみかんかなー」
 そう言った石川の顔は柔らかな笑みに包まれていて、吉澤は隣りを歩く彼女にばれないように嘆息する。そして、前髪を撫でた。
5 名前:夜景の先、明後日。 投稿日:2002年12月22日(日)05時17分22秒
「もう、約束したんだ?」
「うーん、どうなんだろ。ラジオのときはそんなこと言ってくれてたけど」
 微かに翳る石川の笑みを見て、吉澤は慌てて声をかける。
「でもいいよね。プレゼント交換とかすんでしょ?」
「うん」
 石川の顔にいつもの笑顔が戻ったのを見て、吉澤は彼女から視線を切った。
――よっすぃーが一番仲いいんです。
 思い出の中の二人。黒髪の石川と、黒髪の吉澤。
「おーい、おせーぞー!」
 遠くから矢口の声が響く。電話はもう握られてはいなかった。
 吉澤はもう一度石川へと視線を向けた。何、と笑う石川の茶色い髪が風になびいた。乾いた風はそのまま吉澤の黒い髪も揺らし、遥か後方で木々を揺らした。
 矢口の小さな体が徐々に大きくなっていくのを視界に捉えながら、吉澤はもう一度前髪を掻き揚げた。
6 名前:夜景の先、明後日。 投稿日:2002年12月22日(日)05時18分49秒
『夜景の先、明後日』おしまい
7 名前:AS 投稿日:2002年12月22日(日)05時20分18秒
一作載せてみました。
どうも上手くいかないんですが、これから精進しますので、よろしくお願いします。
8 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月22日(日)11時56分22秒
いい!いいですっっ!
黒髪のよっすぃーってトコがハマりました〜♪
更新頑張ってください!
応援してますっ!
9 名前:詠人 投稿日:2002年12月22日(日)14時12分56秒
あまりにもきれいなお話で溜め息が出ました。
昼間なのにその景色が目に浮かぶようでした。
僕も応援させてもらいます。
10 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月22日(日)19時43分16秒
リアルな描写に引き込まれます
実に美しい作品ですねぇ

これからも応援しますです!
11 名前:AS 投稿日:2002年12月23日(月)12時25分24秒
『どっちが幸せですか?』
12 名前:どっちが幸せですか? 投稿日:2002年12月23日(月)12時28分45秒
 ハロモニの収録が終わった夕方のこと。
 石川は楽屋の真ん中で甲高い声を張り上げていた。
「収録でのこと、嘘だよね?」
「センスが悪いって言われたこと?」
「うん」
 吉澤はチラリと着替え終わった石川の服を見やり、軽く息を吐いた。そして、石川にはばれないようにこっそりと笑みを浮かべる。
「んー、そぅだなぁー。全部が悪いって事はないかなぁ」
「でしょ?」
 吉澤の間延びした声に、石川も嬉々とした瞳で答える。
 楽屋の端のほうで新垣が「オソロの収録だー」と言いながら慌てて荷物をまとめていた。吉澤は何気ない風に壁時計に視線を這わせる。十六時四十五分。後十五分で収録は始まる。吉澤には、入り込めない時間。
「ピアスは可愛かった」
「……よっすぃー!」
 ちょっとー、と甲高い声をさらに裏返らせて、吉澤に詰め寄る。高橋や小川が堪えるように体を震わせているのとは対照的に、矢口は大きな声で笑っていた。
13 名前:どっちが幸せですか? 投稿日:2002年12月23日(月)12時29分34秒
「石川さん、そろそろオソロですよ」
 紺野が二人の間に割って入るようにして言う。その言葉で、石川が我に返った。化粧台まで掛けていき、未だに笑いが収まらない様子の矢口を軽く睨むと、広げっぱなしの化粧品をまとめてポーチに掻き入れた。微かに表情を崩しながらその様子を見守る吉澤の視線が、紺野の視線と交わった。紺野はしばらくした後、勢いよく視線を切る。
「お待たせー。あ、そうだ。紺野は私の服装どう思う?」
 石川はいたずらっぽく笑いながら、上着の袖を掴んでくるりと回ってみせる。遠くで、キショ! という声が聞こえた。紺野は少しだけためらった後、一瞬だけ吉澤に挑戦的な視線を投げかけ、
「私は石川さんの服装、凄くいいと思いますよ!」
と、微笑みながら言った。
「でしょー? でしょでしょ?」
 ほらねーよっすぃー、と尖った顎を突き出しながら斜めに見上げる。紺野は少しだけためらった後、言葉を続けた。
「そのピアスはそんなに好きじゃなかったです。石川さんが選んだものの方がいいと思います」
「ほんとにぃー? お世辞とかじゃなく?」
「はい、完璧です!」
「あはははは、何が完璧なの。紺野は面白いねぇ」
14 名前:どっちが幸せですか? 投稿日:2002年12月23日(月)12時30分07秒
 ひとしきり笑った後、石川は優しく柴田から貰ったピアスを撫で、目を細めて微笑んだ。
「柴ちゃんったら、センスないんだから」
 その言葉と愛しげな微笑みに、吉澤はたまらずに視線を逸らす。もう一度壁時計が目に入った。時計の針は、十分だけ進んでいた。
「石川さん、もうこんな時間ですよ」
 吉澤が口を開きかけたとき、紺野がそれよりも早く言葉を紡いだ。石川も時計を見やり、やばい、と叫び声を上げた。
「紺野いくぞー! 今日はセンスの悪い柴ちゃんを説教だ!」
「はいっ!」
 石川の張り切りに呼応するように、紺野は大きく声を張り上げた。楽屋から口々に、頑張って来いよー、という応援が飛ぶ。そんな中、一瞬だけ紺野の視線がピアスへと行ったのを吉澤は見た。そうして、紺野は一瞬だけ唇を強くかんで、また元の笑顔に戻った。
15 名前:どっちが幸せですか? 投稿日:2002年12月23日(月)12時30分40秒
 二人がいなくなった後、テーブルの上にオソロの台本が置きっぱなしになっているのに吉澤が気付いた。一瞬追いかけようとして、止めた。
「台本って、向こうに置いてありますよね」
「台本? ああ、ああ。圭織がやってた頃は置いてあったけどね」
 少しだけ複雑な表情を見せながら、飯田が答える。じゃあ届けなくていいや、と独り言のように呟いて、吉澤は台本を再びテーブルの上に置いた。
 少しして、誰かの時計のアラームがなった。十七時。吉澤には入り込めない時間が始まった。それでも、吉澤の口からは溜め息は漏れない。ペラペラと台本をめくると、自然と「紺野」という文字が目に止まった。そして、「柴田」という文字。
――そのピアスはそんなに好きじゃなかったです。石川さんが選んだものの方がいいと思います
 ためらいがちにそう言った紺野。吉澤は、石川のピアスを見たときの紺野の表情を思い出した。吉澤が入り込めない時間の中で今ごろ、新垣と石川と、そして、紺野と柴田が顔を合わせている。
16 名前:AS 投稿日:2002年12月23日(月)12時40分24秒
『どっちが幸せですか?』おしまい
17 名前:AS 投稿日:2002年12月23日(月)12時41分09秒
皆様、ありがとうございます! こんなにレスをいただけるとは思っていませんでした。

>>8 ヒトシズク様
ありがとうございます!
黒髪の吉澤さん、自分もビックリしました。
以前とは同じ髪の色に、それでも時は流れているんだなーと感じたりもして。
今回は黒髪は出てきませんが、よろしければ読んでやってください。

>>9 詠人様
ありがとうございます!
夜中に書いた話を昼間に読んでいただくと言う時間差、面白いですよね。
自分は景色が見えるように努力をしただけで、核心は何も描写していません。
それをきれいと思っていただけるのは、きっと詠人さんの見ている世界がきれいだからなんでしょうね。

>>10
ありがとうございます!
リアルといっていただけて、本当に嬉しいです。
美しいと思っていただけるのはきっと……って、詠人様へのレスと同じになっちゃいますね(w
応援に応えられるよう、精一杯頑張らせていただきます。
18 名前:詠人 投稿日:2002年12月23日(月)14時42分56秒
まるで自分がその楽屋の何処かにいて
この目で見ているかのような気がしました。
それぞれの想い交錯の描かれ方も鮮やかで
次作への期待が否が応でも高まってしまいます。

19 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月23日(月)18時50分23秒
いろんな想いが交差しているお話好きです!
まさに私好みの話で嬉しいです!
作者さんの作品は風景が見えてくるようで夜に見るのが好きで夜に繰り返し見てます♪
次作楽しみに待ってます!
がんばってください!
20 名前:AS 投稿日:2002年12月25日(水)18時13分10秒
『カチリと鳴って、ハートが揺れた。』
21 名前:カチリと鳴って、ハートが揺れた。 投稿日:2002年12月25日(水)18時14分27秒
 大通りに、信号に阻まれた車が長い列を作る。ボンネットの上照らされた光が、吉澤の視界を侵した。
 今日は珍しく陽射しが強い。吉澤は肌色の帽子を目元が隠れるくらいまで深く被りながら、左手に付けた時計へと本日何度目かの視線を這わせた。そして、軽く溜め息をつく。もたれかかるように左足を掛けていたガードレールが、鈍い音を立てて揺れた。
「ごめん、待たせちゃった」
 後ろから押し殺したような囁き声が聞こえて、吉澤は慌てて振り返る。一瞬だけ条件反射のように零れ出た笑顔を、振り返る最中に不機嫌なものへと作り変えた。
「梨華ちゃん、遅い」
「ごめーん」
 石川は舌を少しだけ出しながら片目を瞑る。吉澤はその仕草から目を逸らすようにして、別にいーけどさぁ、と石川に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「え、何?」
「ゆるさねーよって言ったの!」
 吉澤は蹴るようにしてもたれかけていた体を起こす。その衝撃でガードレールがギシギシとよりいっそう鈍い音を立てる。
22 名前:カチリと鳴って、ハートが揺れた。 投稿日:2002年12月25日(水)18時14分59秒
「だから、ごめんってー」
 自分を待たずに歩き出した吉澤を追いかけながら、石川は喧騒の中でもよく通る高い声を張り上げた。吉澤は辺りの視線が自分たちに集まっているのを感じながら、歩みを止めなかった。帽子をさらに深く被る。
「ねぇー、ねぇってば」
 息を切らせながら横歩きで付いてくる石川。肩を必死に揺する彼女の帽子を自分と同じように、押し付けるようにして深く被せた。そして、ううっという呻き声を上げる彼女の耳元で、
「ばれるよ」
と、呟いた。息を呑む音が聞こえる。
「ゴメン……」
 今までで一番落ち込んだ様子で、石川が目を伏せた。吉澤はそろりと手を伸ばすと、誰にもばれないような自然さで石川の右手を取った。
23 名前:カチリと鳴って、ハートが揺れた。 投稿日:2002年12月25日(水)18時16分32秒
「いいよ、行こう」
 優しく微笑みかける吉澤の言葉に、うん、と頷きかけた石川は、そこでピタリと歩みを止める。
「どうしたの?」
 吉澤が体を少しかがめ、立ち止まった石川の顔を下から覗き見る。
「矢口さんは?」
「あ」
 吉澤は咄嗟に、右ポケットに忍ばせていた携帯の画面を見る。
――よっすぃー、おいっす! おいら今日は気を利かせて行かないであげるから、梨華ちゃんと上手くやりなよ!
 溜め息が漏れた。石川の顔に視線を動かし、また携帯に戻した。
「えと……、なんか急用が出来たらしいよ」
「へー、そうなんだ」
「うん、そうみたい」
「……」
 少しだけ間があいて、吉澤はコホンと咳払いをする。えええとどうしよっか。不自然に声がどもった。
「うーん、元々今日は矢口さんの主催だからね」
 頭を悩める吉澤に、石川が心配そうな視線を投げかける。信号が青に変わったらしく、車がいっせいに動き出した。
24 名前:カチリと鳴って、ハートが揺れた。 投稿日:2002年12月25日(水)18時17分08秒
「今日は止めよっか?」
「え?」
 石川の言葉に、吉澤は声を漏らした。「矢口さんのバカ!」というメールを返信すると、大丈夫大丈夫、と言って笑顔を見せた。握った左手に少しだけ力を込めて、再び歩き出す。
「そうだね、せっかくだしね」
 石川も笑顔を返す。それを満足そうに見た後、吉澤は少しだけ首をかしげた。茶色の髪が緩やかに揺れた。
「梨華ちゃん、香水変えた?」
「え、なんで?」
「いや、なんかいつもと香りが違うかなーって」
「……今日は香水付けてないけど」
 吉澤は一瞬だけ目を大きく開いて、それから今度は、逆に細くした。不思議そうに横を向く石川の耳元で、ハート型の銀のピアスが小さな金属音を鳴らした。握っていた左手が離れる。吉澤の右ポケットで、携帯が振動音を鳴らした。
25 名前:カチリと鳴って、ハートが揺れた。 投稿日:2002年12月25日(水)18時17分46秒
「あ、ごめん、なんでもない」
 吉澤が微かに笑みを見せると、石川も安心したように笑った。吉澤は再び前を向き、それを見た石川も前を向く。
 その隙に、キスをした。
「……よっすぃ?」
 目をまん丸に開いて、石川がその場で固まる。吉澤はゴメンと呟いて、来た道と逆の方へ走った。
 しばらく走って、車の渋滞も見えなくなって、吉澤はようやく立ち止まった。パーカーのポケットから携帯を取り出し、新着のメールを見る。
――バカってなんだよ、バカって!
 吉澤は再び先程と同じ文面を打ち、送信ボタンを押しかけて止めた。代わりに「ゴメン」と打ったメールを石川に送る。
 道路を車が気持ちよさそうに走り抜けていく。この通りは渋滞していないようだった。
 吉澤はもう一度ガードレールに寄りかかると、大きく息を吐いた。走ってきたせいか、心臓が強い鼓動を打ち鳴らす。耳元で金属音が聞こえた。いつまでも鳴り止まない二つの音のどちらが大きいのか、吉澤にはもう見当もつかなかった。
26 名前:AS 投稿日:2002年12月25日(水)18時19分11秒
『カチリと鳴って、ハートが揺れた。』 おしまい
27 名前:AS 投稿日:2002年12月25日(水)18時29分25秒
いつまでも中身が無いままだったらどうしよう、と内心ドキドキしてたり(w

>>18 詠人様
ありがとうございます!
この目で見ているかのような、というのは自分が書きたい部分だったりするので、
そう言っていただけると、凄く嬉しいです。
今回の感情表現、曖昧な部分が多く拙いですが、気に入っていただければ幸いです。

>>19 ヒトシズク様
ありがとうございます!
今日は夕方に書いてみました(w
一応話的には続いているつもりですので(現在過去は入り混じりながらですが)
これからも交差していく気持ちを読んでいただけるように頑張ります!
風景はただ描くだけじゃなくて、そこから何かを感じていただけるように精進したいと思います。
28 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月26日(木)13時44分23秒
タイトルも、描写もすげー好きです。
こっそり読み続けますよ。
29 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月26日(木)17時56分18秒
良スレ発見。
水面にぴちゃんと雫が落ちて波紋がじんわり広がっていくような。
静の中の動というか。
期待してます。
30 名前:詠人 投稿日:2002年12月27日(金)12時50分12秒
読めば読むほど深くなるというか。
吉澤の心だけじゃなくて石川の心も
揺れているのではないだろうか、と
勝手に思ってしまっています。
31 名前:AS 投稿日:2002年12月29日(日)22時39分55秒
『それは幻だと言い聞かせた。』
32 名前:それは幻だと言い聞かせた。 投稿日:2002年12月29日(日)22時41分02秒
「りーかちゃん、おまたせっ!」
 茶色のショルダーバックを右肩にかけた柴田が、石川の楽屋へ現れた。石川はそれを見て、遅いよ、と笑う。二人でなにやら話をしていたらしい紺野と新垣も顔を上げる。
「あ、二人ともお疲れ」
「お疲れ様でーす」
 二人に気付いた柴田が笑顔で左手を振った。それに笑顔で応える新垣とは対照的に、紺野は手元にある、既に使い終わったオソロの台本に視線を落としている。
「紺野ちゃん?」
「あ、お疲れ様です」
 首を傾げる柴田に、紺野は慌てて笑顔を見せた。
「じゃあ、そろそろいこっか」
 石川は足元に置いてあったバックを手にとり、柴田を促す。しかし、柴田はまだ何かを気にしているらしく、その眼差しは石川に注がれなかった。
33 名前:それは幻だと言い聞かせた。 投稿日:2002年12月29日(日)22時41分40秒
「紺野ちゃんたち、これからどうするの?」
 柴田の視線は紺野へ。しかし、紺野は困ったように微笑むだけで、少しだけ開いた口を持て余す。
「これから、愛ちゃんと、まこっちゃんと、四人でお祝いするんです」
 新垣が慌てたように口を開く。ね、と紺野に向かって笑いかけ、それから柴田にも同じように笑って見せると、柴田はようやく表情を崩した。
「年頃の女の子四人がクリスマスイブに集まってお祝いなんて、ちょっと悲しすぎない?」
 先程までとは一転、悪戯な笑みを浮かべる柴田に対し、新垣はぷくっと頬を膨らませる。
「柴田さんには言われたくないですよー」
「あらら、それもそうか」
 ひとしきり笑いあった後、石川と柴田は帰路についた。
34 名前:それは幻だと言い聞かせた。 投稿日:2002年12月29日(日)22時42分27秒
 イブの夜は、至るところ光に覆われている。葉を全て落とした街路樹、巨大デパートの渡り通路、駅前に立ち並ぶビルの山。その全てが柴田の目には眩しく映った。ふうっと寂しげに溜め息をついて、石川に向け微笑む。
「なによぉー」
 先程の新垣のような膨れっ面に、柴田の笑みがより楽しげなものに変わる。その半分が、東京の夜景の色に染められていた。
「せっかくのイブなのに、女の子二人の寂しい夜なんだなって思ったの」
「まあまあ、柴ちゃん。元気だせよー」
 満面の笑みを浮かべながら、石川が柴田の背中をバシバシと叩いた。
「ちょっとー! この間のラジオ収録で、寂しい寂しい言ってたくせに」
「え。……あれはぁ」
 柴田の反撃に、石川は軽く俯く。その耳元で銀の光が揺れた。
「あ、付けててくれたんだ」
 そう言って笑う柴田を上目遣いで見つめる。
「センス悪いけど、一緒にいるときくらい付けてあげないとね」
「ちょっと、なんだよそれー!」
35 名前:それは幻だと言い聞かせた。 投稿日:2002年12月29日(日)22時43分08秒
 柴田が肘でつついて、石川がふらふらと脇道に逸れていく。その手を柴田が取って、自分のもとへ引き寄せた。柴田に引かれた石川は、そのまま倒れこむように柴田に覆い被さった。斜めから照らされた影が重なってしまうほどに、二つの顔が近づく。
「梨華ちゃん、しっかりしてよー」
「……っ」
 石川が先に視線を逸らした。
「梨華……ちゃん?」
 なんでもないの、と言いながら体を離すと、乱れたコートを整える。そして、少しだけ遠くを見つめ、右手の人差し指で自分の唇に触れた。
 師走の風に髪をたなびかせ、石川が佇む。イルミネーションに隠され申し訳なさそうに輝く街灯の光に濡れていた。柴田はぼうっとその姿を見つめ、それから街灯を見上げた。雪がスローモションのように舞い降りて、二人の周りに白い花を咲かせた。
「梨華ちゃん」
 もう一度呼びかける。石川は微かな微笑を浮かべ、
「行こう」
 と言った。背中が離れていく。
「うん」
 柴田は歩みを速め、三歩あった距離を詰める。隣りに並んだとき、石川はいつもの石川だった。
36 名前:それは幻だと言い聞かせた。 投稿日:2002年12月29日(日)22時44分15秒
「今日はローストチキンを作るぞー!」
「キッチン汚れるから、嫌なんじゃなかったの?」
「柴ちゃんがお掃除担当ね」
「ちょっとー!」
 石川がスキップをしながら、夜の帳の向こうへと背中を遠ざけていく。柴田は、先程石川がしたのと同じように自分の唇をなぞってみた。するりと唇をすり抜けた所で、石川が後ろを振り向いた。
「柴ちゃん、早く!」
「はいはい」
 石川が前を向いた隙に、柴田はもう一度指を口元へと滑らせた。そして、首を傾げる。
「柴ちゃん!」
「わーかったってば!」
 叫ぶようにして、柴田は石川の下へ駆けて行く。その十数秒の内に、柴田の脳裏に先程の光景が浮かび上がった。
 白に包まれ、寂しげな光に浮かぶ妖精のような――。
 追いついた石川は、やはり先程と同じくいつもの石川だった。妖精の幻影は、柴田の意識のはるか彼方へと飛び立って行った。柴田は空を見上げた。寒天には星が冷たく輝く。白雪はもう視界には捉えられなかった。
37 名前:AS 投稿日:2002年12月29日(日)22時46分59秒
『それは幻だと言い聞かせた。』 おしまい
38 名前:AS 投稿日:2002年12月29日(日)22時59分15秒
皆様、レスありがとうございます!

>>28
ありがとうございます!
タイトル誉めてもらえたー、と密かに喜んでいたりします(w
中身で伝えられないからタイトルで、と少し情けない事情もあるのですが……。
これからもよろしくお願いします!

>>29
ありがとうございます!
静かな水面のような日常を描くことが、これからも中心になるとは思いますが、
その中でも確かに動いているもの、というのを表していけたらなーと思っております。
期待に応えられるように頑張ります!

>>30 詠人様
ありがとうございます!
唯一の全編登場キャラ、ということで石川さんの存在が目立っておりますが、
今回は少し石川さんに踏み込めたかな、と思っています。
読んでくださるたびに、新たな発見のあるような小説を書きたいです。
39 名前:ヒトシズク 投稿日:2002年12月30日(月)11時48分37秒
ほぉ・・・
すごいですね。すごすぎて声が出ません^^
もう、目の前に風景が広がるようで・・・・
柴ちゃんと梨華ちゃんが目の前にいるような感じです^^
これからもがんばってください!
もぅ、この話好きすぎて目が離せません♪
40 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)12時20分06秒
う〜ん、いつもながらにうっとりとさしていただきました。
微妙な感情の変化が浮かんできますね〜♪
41 名前:AS 投稿日:2003年01月02日(木)02時31分14秒
『言葉にしなきゃ伝わらない?』
42 名前:言葉にしなきゃ伝わらない? 投稿日:2003年01月02日(木)02時33分35秒
 イブ夜更け。テレビをつけるでもなく、石川はソファーに腰掛け、宙を見上げた。テレビから流れる笑い声を気にする風でもなく、ただぼんやりと時を過ごす。窓の外には夜景の揺らぎが拡がり、聖なる祭りは終わりを見せない。
 彷徨わせていた視線をキッチンの方に向けたとき、玄関の呼び鈴が鳴った。真夜中のざわめきの中でも一際確かなその音は、石川を条件反射的にソファーから立たせる。
 沓脱ぎに足を踏み入れれないように体を伸ばし、玄関の扉を押し開けると、数時間前に約束した柴田の笑顔が覗いた。
「お待たせー」
 真っ赤な服に身を包み、ハッピークリスマスー、と言いながら部屋に入る柴田を、石川は微笑みながら迎えた。
「柴ちゃん、遅すぎない?」
「ごめーん。ちょっとこれ、準備してて」
 そう言って、肌色の紙袋を取り出し、居間のテーブルに置く。
「何これ?」
 柴田は、石川の質問には答えず、キッチンへと向かう。蛇口を捻り、夜に冷やされた冷水で手を洗いながら口を開いた。
43 名前:言葉にしなきゃ伝わらない? 投稿日:2003年01月02日(木)02時34分37秒
「まあまあ、後のお楽しみね」
 子供をあやすような口調で言うと、石川はぷくっと頬を膨らます。柴田は、濡れた手をタオルで拭くと、その頬に指を差し入れた。
「そんな顔してないで、梨華ちゃんも手伝って」
 石川は、はーい、と精一杯の低音で言って、先程の柴田と同じように蛇口を捻り、流れる水に両手を浸した。

 時計の針は午前二時。柴田はそれを見やった後、ふうと溜め息をつき石川に笑いかけた。
「完成だね」
「うん」
 台所には、シチューにローストチキン。それを居間へと運びながら、石川が柴田に声をかける。
「結局なんだったの?」
「ん?」
「だからぁ、紙袋」
 石川の視線が、テーブルの上にある紙袋に注がれる。柴田は紙袋をテーブルからどかすと、ローストチキンの乗った大きな白皿を真ん中に配置した。石川も両手に持ったシチューをテーブルの上に乗せる。
「ああ、これね」
 柴田は口元だけで笑って見せると、がさごそと紙袋に右手を入れる。そして、一つの白い楕円を取り出した。
44 名前:言葉にしなきゃ伝わらない? 投稿日:2003年01月02日(木)02時36分19秒
「じゃーん、ゆでたまごー」
「ええー……?」
「なによお、その顔」
「だってぇ……」
 再び頬を膨らませる石川の前で、柴田はゆで卵の殻をむく。そのまま半分ほど口に入れた。
「ほら、おいしいよ」
 もごもごと口を動かしながら残った半分を石川に差し出した。はい、と塩もつけてやる。石川はじいっと目の前の白と黄色を見つめた後、歯でついばむようにして少しだけ口の中に入れる。
「ちょっとー、梨華ちゃん」
 柴田の声に、わかったよう、と言いながら、残り全てほうばった。そして、おいしい、と言う代わりに
「上手く出来てんじゃん」
と言って笑った。
45 名前:言葉にしなきゃ伝わらない? 投稿日:2003年01月02日(木)02時38分29秒
「それにしてもさぁ、ゆでたまご好きなのって、私じゃなくてよっすぃーじゃん」
「えーそうだったっけ?」
 口を尖らせながら言う石川に、柴田も軽い口調で返す。しかし、柴田の目に映った石川は、笑顔を浮かべてはいなかった。柴田はテーブルの向かいに座った石川の顔を、下から覗きこむようにして眉をひそめた。
「どうした、梨華ちゃん」
「え? あ、何でもない」
 まるで、そんな柴田に今気付いたかのように、石川が言葉を返す。
「何でもないことない」
 そう言うと、柴田は石川の髪に手を触れた。手櫛を通すようにして頭を撫でてやる。そしてもう一度言葉を促すと、石川はポツリポツリとながら言葉を紡いだ。
「よっすぃーにね、キスされたの」
「え……?」
「昨日のお昼に、突然」
「そっ…か」
46 名前:言葉にしなきゃ伝わらない? 投稿日:2003年01月02日(木)02時39分35秒
 柴田がたどたどしく言葉を返す。目を逸らした柴田とは対称的に、石川は柴田の瞳を真っ直ぐ見つめる。そして石川は目を伏せると指を唇にそっと添えた。柴田は再び見上げるようにして石川へと視線を戻す。柴田の瞳に、数時間前の光景が映った。銀の光に濡れた少女の幻影。
「あ……でも、よかったじゃん。いつも、よっすぃーよっすぃーって――」
 そこまで言って、柴田は口をつぐんだ。射抜くような視線に、体を強張らせる。そのまま時間だけが流れた。
 しばらくの沈黙の後、石川が言葉を漏らす。
「今日はクリスマスなんだよ?」
 そして、湯気の消えたシチューを口に含む。柴田も場を繋ぐようにシチューに口をつけた。それでも時間の流れは遅くて、柴田は辺りに視線を巡らせる。テーブルの端の石川の携帯が目に入った。揺れることの無い携帯が不思議と柴田の心を揺らした。
 柴田の視線が一周して、再び石川の視線と絡まりあう。今度は、どちらも視線を逸らさない。次第に、二人の距離が近づいていって――
 時間が、止まった。
47 名前:AS 投稿日:2003年01月02日(木)02時41分58秒
『言葉にしなきゃ伝わらない?』 おしまい
48 名前:AS 投稿日:2003年01月02日(木)02時54分51秒
あけましておめでとうございます。
今年もよろしければ読んでやってください。

>>39 ヒトシズク様
あけましておめでとうございます^^
もう一度、石川さんと柴田さんの話です。
今回も、目の前にいるような感じで読んでいただけたでしょうか……?
そろそろ大詰め(の予定)です。
今年も頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします。

>>40
あけましておめでとうございます!
いつも読んでくださっているようで、感謝です。
今回も前回の世界観を引きずっております。
そして、感情が大分はっきり書かれちゃったかな、と思います。
これからも、石川さんの活躍、お楽しみください(w
49 名前:詠人 投稿日:2003年01月02日(木)13時05分50秒
吉澤がここにいたらどう思うんだろう、
そう思うと切なくて。
作者さんの書かれるお話のそういう切なさが好きです。
50 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年01月02日(木)20時05分04秒
なんか切ないですね・・・
よっすぃーがいたらどうするんでしょうね・・・
正月ボケのままぼーっと考えさせられました^^
今回も風景が目の前に現れるカンジで^−^v
切ない話が好きなので切ない話を多く書かれる作者さん好きです♪
これからもがんばってください!
応援してます♪
51 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月29日(水)12時32分05秒
お願いします。
52 名前:読者 投稿日:2003年02月14日(金)03時56分16秒
文章が綺麗で読みやすいです
期待
53 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月14日(金)21時25分34秒
54 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月15日(火)03時40分31秒
待ってます…
55 名前:名無し 投稿日:2003年06月18日(水)23時55分29秒
ほぜむ
56 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月04日(金)00時52分06秒
57 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月13日(水)11時33分23秒
hozen
58 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/16(木) 02:29
ほ〜
59 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/22(土) 04:14
ぜ〜

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