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銀河鉄道の夜
- 1 名前:名無しGT 投稿日:2002年12月28日(土)14時44分53秒
- 原作、宮沢賢治です。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card456.html
貼ったのは失敗だったかもしれません。一瞬で自分のショボさがばれてしまう。
原作が、また、賢治が好きな方、このスレッドはスルーして下さい。
あの空気感みたいなものはまったく表現できていません。
また、GT=galaxy train です。偉大な先生ではありません。
あ、ginga tetsudou でも同じですね。
主人公は天翔るのですが、書いてる者は地下鉄が好きなので、
始めるまで、少し下がるのを待たせていただきたいと思います。
ご協力お願いします。
よろしくお願いします。
- 2 名前:名無しGT 投稿日:2002年12月30日(月)10時08分04秒
- 地下鉄には程遠い気もしますが、始めさせていただきます。
改めてよろしくお願いします。
- 3 名前:名無しGT 投稿日:2002年12月30日(月)10時09分12秒
銀河鉄道の夜
- 4 名前:第一章 星空の下で 投稿日:2002年12月30日(月)10時11分07秒
- 梨華ちゃんが、遠くへ行ってしまう。
生まれつき抱える難病を治療するため、設備の整った病院がある土地に
引っ越すらしい。詳しくは、知らない。教えてもらえない。
私は物陰から、梨華ちゃんを乗せて走り去る車を見送った。
元気になったら、戻ってくるのかな。絶対に、戻って来てよ。
いつもより重く感じるペダルをこいだ。配達はまだ半分も終わっていない。
向かい風まで強く感じるのは、気のせいかな?涙が乾いてちょうどいいや。
夕刊を新聞受けに差し込む。明るい光の中で、幸せな夕餉を囲む家族が、
否応なしに目に映るときがある。
北の海へ漁に出たまま何年も帰ってこない父さんと、父さんを思い患って、
伏せってしまった母さん。私にもう、団欒は、戻ってこないのだろうか。
その上、梨華ちゃんまで失ってしまった。
- 5 名前:第一章 星空の下で 投稿日:2002年12月30日(月)10時12分43秒
- 梨華ちゃんのいない虚ろな日々。心の穴を、梨華ちゃんを思うことで埋める。
まるで大きな隕石が落ちた跡を、スコップ一本で整地するかのように。
学校で、直接話す機会が多かったわけじゃない。
ただ存在そのものが、梨華ちゃんがいてくれることが、大きな支えだった。
誰にも気を遣わず、じっと座っていればいい授業中は、気楽でいいけど。
午後は、眠い。教科書とノートを申し訳程度に広げ、頬杖をつく。
どうやら、理科の時間。黒板に大きな天体写真が吊るされている。
「これな。この白い帯みたいな部分。普通天の川、とか呼んでるんやけど、
これが何から出来てるか知ってる人、おるか?」
何だったっけ?一回だけ遊びに行った梨華ちゃんの家で、お父さんの図鑑、
一緒に見た。一生懸命、いろいろ教えてくれたな。
- 6 名前:第一章 星空の下で 投稿日:2002年12月30日(月)10時14分00秒
- 「おーい、吉澤?起きてるかぁ?分かったら、言うてみ?」
半分、寝てた。私の朝は早い。普通の人にとっては夜遅い、ともいえる時間。
3時には折り込みを始めるから。中澤先生も、それは知ってる。
「えっと、星、ですか?」
「正解。この白い粒々全部、太陽と同じで、自ら光を放つ星や。ちょっと
難しい言葉で、『恒星』っていうねんけど」
板書しながら、先生が説明を続ける。
答えられたことに安心したせいで、その説明は私の頭にとどまることなく、
ゆらゆらと流れていった。よかった。答えを間違ったら、クラスメートに
またからかわれるところだった。
夕刊を配る。急いで帰って、夕飯の支度。片付けて、寝て、朝刊で学校。
この繰り返し。話の合わない私は、クラスで浮いている。
いつもかばってくれた梨華ちゃんは、もう、いない。
- 7 名前:第一章 星空の下で 投稿日:2002年12月30日(月)10時15分03秒
- 放課後、楽しそうに校門を外へとくぐる同級生たちを追い越して、私は
販売所へと急いだ。今日は配達員が一人休み。私の担当軒数が少し増える。
配達を終える頃には、もう闇がそこまで迫っていた。
あ、一番星だ。あれは確か、金星、そう、宵の明星。
あの時、梨華ちゃんが教えてくれた。今、一緒に同じ星、見てるといいな。
空を仰ぎつつ、家路を急ぐ。やっぱり、いつもより遅くなってしまった。
- 8 名前:第一章 星空の下で 投稿日:2002年12月30日(月)10時16分12秒
- たどり着いた我が家の前で立ち止まり、いつも通り両手で自分の頬を叩く。
よし!母さんの前で悲しい顔しちゃいけない。
口を笑顔の形に切り取って、勢いよくドアを開ける。
「ただいまー!遅くなってごめん!って母さん!」
母さんが台所に立ったまま、私を迎えてくれた。
「そんなに驚くほどのことじゃないでしょ。今日は調子いいのよ」
母さんが、玄関で固まったままの私を促して、一緒に食卓につく。
きっとよそでは当たり前のことなのに、ものすごく幸せに感じた。
「母さん、ほんとに大丈夫なの?」
いくら無理しても、あれ以来やっぱり少し元気がない私を気遣ってる。
そんな気がする。母さんは、私の心配を否定して、笑う。
- 9 名前:第一章 星空の下で 投稿日:2002年12月30日(月)10時17分15秒
- 母さんを先に寝かせて後片付けを終え、私は窓から夜空を見上げた。
梨華ちゃんのいるところから、天の川はどんなふうに見えるのだろう。
きれいだといいな。少しでも梨華ちゃんを癒してくれていたらいい。
梨華ちゃん、早く元気になってね。
休みになったら、会いに行ってもいいよね。
- 10 名前:名無しGT 投稿日:2002年12月30日(月)10時18分19秒
- 更新終了。次回第二章です。
読んでくださってる方がおられるとして、まずはお礼を。
本当にありがとうございます。
もし、「コイツってアイツじゃねえのかよ、絶対そうだよ」なんて思われたとしたら。
どうかそのお答えは、御心のうちにお仕舞い下さい。たぶん正解ですから。
勝手ながら、切にお願い致しますです。てか、きっとバレバレですよね。
来年の目標、作風を広げる。
またもし書かせていただくとしたら、の話ですが。
すぐに完結しますので、よろしければ最後までお付き合いください。
- 11 名前:第二章 星空の中で 投稿日:2002年12月31日(火)10時02分12秒
- 配達は、いつも同じ道。一箇所だけ少し大きな交差点がある。
毎日毎日母さんや、販売所のおばさんに気をつけてって言われてる。
だから、青色が点滅していたら、止まって待つようにしていた。
その日も同じだった。
青信号にペダルを漕ぎ出す。車道を猛スピードで直進してくる車には、
もちろん気づいていた。でもその車が合図なしに左折して、私にタックル
してくることまでは、予想できなかったんだ。
車に跳ね飛ばされながら、今までのことを走馬灯のように思い出す。
母さん、ごめんね。いつも、気をつけてねって、言ってくれてたのに。
梨華ちゃん、会いに行きたかったな。いつもありがとうって、言いたかった。
スローモーションで地面が近づいてきた。母さん、梨華ちゃん・・・。
- 12 名前:第二章 星空の中で 投稿日:2002年12月31日(火)10時03分25秒
- 汽笛が聞こえる。身体が軽く振動してる。
あ・・・。私、汽車に乗ってるんだ。眠い目をこすってこじ開けた。
窓の外には、天の川?
状況を理解できないまま、光の帯に釘付けにされた。
一つ一つ、自ら光を放つ星々。
ありったけばら撒いたダイヤモンド。
あるいは世界中の蛍が集まって、ダンスパーティー。
そんな例えじゃ伝えられないほどの輝き。
「ひとみちゃん」
え、その声は・・・。
「梨華ちゃん!」
会いたかった。ずっと会いたかったんだよ。
「ひとみちゃん、お口、開いてるよ」
天の川より眩しい笑顔が、そこにあった。
- 13 名前:第二章 星空の中で 投稿日:2002年12月31日(火)10時05分31秒
- 窓際に、向かい合わせに腰掛ける。
梨華ちゃんは食い入るように窓の外を見ている。
私も同じく魅了される。梨華ちゃんの瞳に映る天の川に。
ふいに梨華ちゃんが私を見た。目が合いそうになり、照れくさくて視線を
逸らそうとしたけれど、出来なかった。
梨華ちゃんは、ただ、ニコニコ笑っている。
深呼吸を、ひとつ。思い切って、言おう。
「梨華ちゃん、隣に座っていい?」
そうすれば梨華ちゃん越しに天の川が見られる。まさに天上の眺めだ。
「天の川、見づらくなってもいいの?」
その問いに頷いて、梨華ちゃんがあけてくれた席に移動した。
「ひとみちゃん、地図、もう見た?」
理科の時間の天体写真によく似た地図。そのあちこちを指さしながら、
梨華ちゃんが説明してくれる。あの時と同じように。
汽車の揺れと、それに合わせて、微かに私に触れる梨華ちゃんの腕。
これは、夢だろうか。夢なら、覚めないでほしい。
- 14 名前:名無しGT 投稿日:2002年12月31日(火)10時06分41秒
- 更新終了。次回第三章です。
五冊目に紹介してくださった方へ。
ありがとうございました。見て下さってる方がおられることは、
とても励みになります。精進いたします。
年の瀬のお忙しいときに、お手数おかけしました。
今年も今日で終わりですね。
皆様が良いお年を迎えられますように。遠い空の下から祈ってます。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月31日(火)23時55分53秒
- もしかしてGTさんってあの人?
- 16 名前:名無し香辛料 投稿日:2003年01月01日(水)02時13分51秒
- 新年早々、読ませていただきました。
面白いです。私は銀河鉄道の夜を読んだ事がないのですが、全く違う感じのお話なんですか?
こういう『名作』といわれているものって、どうにも読めないんですよ。
何はともあれ、更新期待しています。はー、どきどきする。
>15さん
まあ、誰でもいいじゃないですか。作品を楽しみましょう。
- 17 名前:第三章 ふたご座駅 投稿日:2003年01月01日(水)10時34分04秒
- 汽車は走り続ける。天の川に沿って。
話したいことはたくさんあったはずなのに、うまく言葉にできない。
梨華ちゃんの横顔と、天の川を見る。
あるいは話したいことなんて、何もなかったのかもしれない。
「次は、ふたご座〜ふたご座〜。停車時間は小一時間です」
アナウンスが聞こえた。小一時間て!小一時間て!いい加減な汽車だな。
ゆっくり駅へ滑り込む。軽い衝撃のあと、完全に停車した。
- 18 名前:第三章 ふたご座駅 投稿日:2003年01月01日(水)10時36分31秒
- 降りてみようか、そう言って立ち上がると、ほかには誰もいないと思っていたのに、
小さな女の子が出口に向かっているのが見えた。
その子は汽車を降りてからも、少しもためらわずにまっすぐ歩いていく。
行く先の、無人の改札の向こうに、よく似た女の子が待っている。
落ち合って、並んで歩き出す背中に、思わず声をかけた。
「ねえ!」
二人がシンメトリーに振り返る。
「よかったら、案内してもらえないかな?」
今度は顔を見合わせる。駅で待っていた子が、答えてくれた。
「ええよ。ついといで」
- 19 名前:第三章 ふたご座駅 投稿日:2003年01月01日(水)10時38分17秒
- しばらく歩くと、川原に一軒の家が見え、そこへ招き入れられた。
「鳥、食べるか?」
待っていた方の子が言った。頷くと、汽車を降りた子があめ玉らしきものを
差し出してくれる。
鳥?これが鳥?思わず、梨華ちゃんと顔を見合わせた。
「それが鳥やで。空を飛んでる、鳥」
私たちの疑問を見透かしたように、先回りして答えてくれる。
「捕まえるとこ、見せたるわ」
二人が壁に掛けてある鳥打帽をかぶる。正しい使用法を見たのは初めてだ。
家を出て、トコトコ歩く二人の後を追う。川べりで立ち止まる。
「ちょっと離れてて」
その言葉に従い、2、3歩後退した。二人は少し進み、ごく水際に並んだ。
右手を空へと差し出して、左手に鳥打帽を持つ。
湧いて出たように鳥が集まってくる。差し出した右手で、その足をつかみ、
帽子の中へと放り込む。次々に二十羽も捕まえただろうか。
- 20 名前:第三章 ふたご座駅 投稿日:2003年01月01日(水)10時40分30秒
- 瞬きひとつする間に、二人が私たちのそばに戻っていた。
「ほら」
あっけにとられる私たちに、差し出される二つの帽子。さっきのあめ玉が
たくさん入っている。
「あんたらだけ、特別やで」
そう言いながら一掴みずつ、それぞれのポケットに入れてくれた。
「そろそろ汽車、出発するんちゃうか?」
あ、ほんとだ。急がなきゃ。
あめ玉の、いや鳥のお礼と別れを告げて、私たちは汽車へと戻った。
座席に落ち着いて、早速味見してみる。
やっぱり、普通のあめ玉。だけど、これは、確かに鳥。
梨華ちゃんも、同じことを考えているみたい。
「美味しいね、鳥」
なんて笑っている。顔を見合わせて、一緒に笑う。
何だか、少しだけ梨華ちゃんに近づけた気がする。
二人を乗せた汽車が、静かに走り出す。
この旅が、いっそ永遠に続けばいいのに。
- 21 名前:名無しGT 投稿日:2003年01月01日(水)10時43分27秒
- 更新。次回第四章です。
今日中にもう一度か二度、更新予定です。
新しい年がはじまりました。2003年も、
皆様にとって良い年でありますように。
>15 名無し読者様
初めてのレスポンス、ありがとうございます。励みになりました。
おそらく、正解です。ですから、お答えはどうか御心のうちに。
こんな出来そこないは、きっと二人とおりません。
もしよろしければ、今しばらくお付き合いください。
- 22 名前:名無しGT 投稿日:2003年01月01日(水)10時45分14秒
- >16 名無し香辛料様
ああ、よかった。新年早々、ほんとうにありがとうございます。
原作はもっと描写が丁寧です。が、未定稿なんですよ。
これが没後に発表されたことは、あるいは賢治にとって不本意なんじゃ
ないかな、という気もします。
出来るだけ、原作の空気を壊さない努力はしているつもりです。
1のリンク先に、いわゆる「名作」がたくさん転がっています。
自分にとっての、本当の意味での「名作」を探す作業も、楽しいですよ。
非常に、難しかった。力不足を痛感しました。すいません。
今後も力不足は続きます。二人の旅とともに。
それでもよろしければ、今しばらくお付き合いください。
- 23 名前:第四章 歌い続ける人 投稿日:2003年01月01日(水)13時03分45秒
- 汽車がまた、小一時間停車する。二人で、駅に降り立つ。
この駅には、誰もいない。降りる人もない。
「何もないねえ。汽車に戻る?」
梨華ちゃんは答えない。話しかけようとすると、さえぎられた。
「聞こえない?耳を澄ませてみて」
遠くに、歌声が聞こえる。かすかに、確かに。
二人で並んでたどった先には、天の川原で、一人ぼっちで歌う人。
私たちに気づいて、歌をやめた。
- 24 名前:第四章 歌い続ける人 投稿日:2003年01月01日(水)13時05分26秒
- 「あなたたち、どこから来たの!」
怒ってる、ってわけじゃないんだよね?こういう話し方なだけで。
「地球、ですかね?」
私が答える。これが求められている答えなのかどうか、よく分からない。
「銀河鉄道に乗って来たのね!」
「はい、そうです」
今度は、梨華ちゃんが答えてくれる。あの汽車、銀河鉄道っていうのか。
駅からずいぶん歩いたのに、途中には何もなかったし、誰とも会わなかった。
「ここには、あなたのほかに、誰かいるんですか?」
「いないんじゃない?少なくとも会ったことはないわ!」
「なぜ、歌うんですか?」
「歌いたいからよ!」
「誰も聴いてなくても?」
「誰か聴いてくれてるわよ!宇宙はでっかいのよ!愛があるのよ!」
- 25 名前:第四章 歌い続ける人 投稿日:2003年01月01日(水)13時07分35秒
- はあ。何となく頷いた私たちを、歌い人が見つめている。
「あなたたち!ボイジャーって知ってる?」
聞いたことはあるような気もするけど・・・。
曖昧に返事をすると、歌い人が説明してくれた。
無人探査機。太陽系の惑星を調査した後、それを飛び出し、宇宙の果てを目指す。
まだ見ぬ誰かへのメッセージを載せて、今も宇宙のどこかを飛び続けている。
このでっかい宇宙に、必ず受けとめてくれる者があることを信じて。
私たちはそれに追いつき、追い越したのだろうか。
それともまだ、遥か彼方を飛んでいるのだろうか。
ボイジャーに積まれた銘版のように。
まだ見ぬ受け取り手を求めて、歌い人の歌が銀河に響く。
私たちには、ちゃんと届きましたよ。だから歌を、止めないで下さい。
- 26 名前:第四章 歌い続ける人 投稿日:2003年01月01日(水)13時09分27秒
- 再び汽車が走り出す。梨華ちゃんは窓の外を見ている。そして、何かを見つける
たびにそれを指さし、反対の手を私の膝に置く。
「ひとみちゃん、ほら、あれ見て」
感心するふりをして、実はちっとも見ていなかった。
だって、全神経が、膝に集中してしまう。
このドキドキは、なぜ止まらないんだろう。
- 27 名前:名無しGT 投稿日:2003年01月01日(水)13時10分49秒
- 更新。次回第五章です。
ボイジャーが運んでいるのはCDで、銘版は、パイオニアという探査機に
乗っているらしいのですが。その辺は、どうか薄目で見逃してください。
- 28 名前:第五章 乗車券拝見 投稿日:2003年01月01日(水)13時47分40秒
- この汽車は次の駅が終点で、そこで折り返すという。
今走っている区間が、一番長い。
「検札です。切符、見せてもらえますか」
車掌さんが来た。中澤先生と同じイントネーション。
アナウンスもたぶん、この人がやっているように思う。
切符。気づいたときには、もう乗っていた。持ってるはず、ないよな。
「あのー、すいません。おいくらですか?」
「お持ちじゃないんですね。どこから乗りはった?」
どこから?それも分かんないや。えーと。
- 29 名前:第五章 乗車券拝見 投稿日:2003年01月01日(水)13時49分17秒
- 「あ、この切符、お客さんのと違いますか?」
車掌さんが、足元に落ちている切符を拾って渡してくれる。
空色の切符。行き先は「ふるさと」と書かれている。
答えあぐねている私に、車掌さんが言う。
「ええから、それもらっとき」
梨華ちゃんの、薄い桃色の切符も確認して車掌さんは去っていった。
「梨華ちゃんは、ちゃんと持ってたんだ」
「うん。色違いだけど、同じだよ」
それぞれの手のひらの中に、ふるさと行きの乗車券。
ふるさと、か。母さんごめん、ごめんね。一人ぼっちにしちゃったね。
- 30 名前:第五章 乗車券拝見 投稿日:2003年01月01日(水)13時51分01秒
- 身体の片側に、ふいに重みを感じた。
私にもたれて眠る梨華ちゃんの髪から、すごくいい匂いがする。
手、つないでもいいかな?梨華ちゃん起きちゃったりしないかな?
静かに寝息をたてる梨華ちゃんの手に、そっと手を伸ばす。
眠っているはずなのに、握り返してくれる。
梨華ちゃんの細い指を、じっと見つめる。
こんなに近くにいるのは、きっと、初めてだと思う。
たどり着く先がどんな場所でも。
梨華ちゃんと一緒なら、それでいい。ただ、それだけでいい。
- 31 名前:名無しGT 投稿日:2003年01月01日(水)13時52分40秒
- 更新終了。次回最終章です。
- 32 名前:最終章 また会う日まで 投稿日:2003年01月02日(木)10時28分01秒
- 「ひとみちゃん、終点だよ」
そっと、揺り起こされる。少しだけまどろんでいたみたいだ。
梨華ちゃんの寝顔を見ていたくて、出来るだけ起きていた。
体力には自信があるけれど、さすがに疲れが出てしまったらしい。
降り立った終点の駅は、天の川がひときわ輝く、そんな場所。
梨華ちゃんから、一歩遅れて歩く。梨華ちゃん、疲れた?後姿に元気がない。
休もうか、と声をかけようとすると、突然梨華ちゃんが立ち止まり、振り返って、
天の川を背にして私を見つめた。
「ひとみちゃん、あのね」
どうしたんだろう。うつむいて言葉を捜しているみたい。梨華ちゃん?
再び潤んだ瞳が、私を映す。唇が、迷いながら開く。
「今日から、ね。ここが、私のふるさとなの」
「どういう、意味?ここで、二人で暮らせるの?」
眉根を寄せて、梨華ちゃんがゆっくり首を横に振る。
「私だけが、暮らすの。ひとみちゃんは、汽車で戻るの」
戻る?戻るって、地球へ?私一人で?
- 33 名前:最終章 また会う日まで 投稿日:2003年01月02日(木)10時29分12秒
- 「一生懸命生きた人が天国に行くとき、ね」
天国?天国ってどういうこと?
「神様が一つだけ願いを叶えてくれるの」
分からない、分からないよ。
「それでね、お願いしたの。ひとみちゃんに会わせて下さいって」
梨華ちゃん、分からない、分からないってば。
「待ってるから。ここでずっと待ってる」
ここで、お別れなの?イヤだ、そんなのヤだよ。やっと会えたのに。
「イヤだ。一緒にいたい。ずっとずっと・・・」
梨華ちゃんのそばにいたい。声にならなかった。
「ひとみちゃんは、戻らなきゃだめ」
何も言えず、ただ梨華ちゃんを見つめた。
梨華ちゃんが、私の頬をつたう涙を拭う。確かなぬくもりがそこにある。
天国に行っちゃうなんて、嘘だ。ねえ嘘なんでしょ?
- 34 名前:最終章 また会う日まで 投稿日:2003年01月02日(木)10時30分53秒
- 「泣かないで」
梨華ちゃんが抱きしめてくれた。きつくきつく抱きしめてくれた。
「また、会えるから。ね?」
離れたくない。離したくない。このままずっと抱き合っていたい。
でも、そんな我がままで梨華ちゃんを困らせたくない。だから。
忘れないように。また会える日まで、このぬくもりを忘れないように。
私は梨華ちゃんを確かめる。梨華ちゃんで私をいっぱいにする。
涙は止まらなかったけど、懸命に声を振り絞った。
「梨華ちゃん、好き」
梨華ちゃんの声も、いつの間にか震えてる。
「ひとみちゃん・・・・・・・・・・・・大好き!」
折れてしまいそうに儚い梨華ちゃんを壊さないように、けれど夢中で
抱きしめた。梨華ちゃん!梨華ちゃん!梨華ちゃん!
いつか、その日が来たら。神様にお願い聞いてもらえるように。
「梨華ちゃんに、会わせてください」って言えるように。
一生懸命生きてく。梨華ちゃん、だから、待ってて。
- 35 名前:最終章 また会う日まで 投稿日:2003年01月02日(木)10時32分25秒
- 汽車が動き出す。つないでいた手が、離れる。
私一人を乗せた汽車が、梨華ちゃんから遠ざかる。
窓から身を乗り出して、天の川に溶けていく梨華ちゃんに懸命に手を振った。
また、会える。絶対に会える。だから待ってて、待ってて梨華ちゃん。
やがて梨華ちゃんが星の間に見えなくなり、私はさっきまで梨華ちゃんが
座っていた席にへたりこんだ。そして泣き疲れ、いつしか深い眠りに落ちた。
ふと、目が覚める。もう汽車の中じゃないみたいだ。家でもない。
病院、だよな。目覚めた私に気づかない母さんの背中に、声をかけた。
「母さん、寝てなくて大丈夫なの?」
弾かれたように振り返った母さんの、見開いた目から大粒の涙がこぼれた。
- 36 名前:最終章 また会う日まで 投稿日:2003年01月02日(木)10時33分51秒
- 不思議なことに、ケガはなかった。身体のどこにも異常はなかった。
ただ、何日間か、私は眠り続けていたらしい。私を眠らせる要因が不明だから、
あるいは最悪の事態も考えておくようにと、医師は言ったそうだ。
夢、だったのかな?でも、それにしては梨華ちゃんをすごくリアルに思い出せる。
検査検査の数日が過ぎ、あさって、退院できることになった。
「明日、中澤先生が来て下さるって。何か欲しいものないか、聞いて下さいって
おっしゃってるんだけど、ある?」
私の答えに、首をかしげ、何度も確認してから、母さんは病室を出て行った。
やっぱり頭を打ったんじゃないかしら、と思っているに違いない。
- 37 名前:最終章 また会う日まで 投稿日:2003年01月02日(木)10時35分14秒
- 翌日、中澤先生が、ピンクの風船を片手に病室に来てくれた。
「これ、お見舞い。てっきり食べ物かなんか、リクエストされると思てたわ」
「ありがとうございます。恥ずかしかったでしょ?」
ベッドのパイプにそれをくくりつけながら、先生が言った。
「かなり。まあでも、可愛い教え子のためやからな」
腰掛けて、私を見つめる先生の目は、少し涙ぐんでいる。
「先生。心配かけて、ごめんなさい」
何度も頷いて、涙を指先で拭い、先生はしばらく泣き続けた。
私はまだ、何も聞かされてないけど。
先生は、たぶん、可愛い教え子を、亡くしたばかりなんだよな。
- 38 名前:最終章 また会う日まで 投稿日:2003年01月02日(木)10時36分10秒
- 「それ、なんや?」
立ち直った先生が、私の枕元の定期入れを指さす。空色の切符が入れてある。
「これは・・・」
梨華ちゃんとの旅が、夢じゃなかった証拠。上着のポケットに入っていた。
「お守り、です」
「交通安全のか?」
先生と二人で、しばらく笑い合う。
元気そうでよかった、そう言って先生は私の頭を撫でてくれた。
梨華ちゃんと、しばしのお別れ。なのに泣いてばかりで挨拶できなかった。
「先生。さよならは英語で『Good−bye』ですよね?」
指で空に文字を書いて、綴りを確認する。
「そう。でも、もう一度会いたいときは『So Long』」
先生が同じようにして教えてくれる。また会いたい。あの星空の中で。
- 39 名前:最終章 また会う日まで 投稿日:2003年01月02日(木)10時37分25秒
- 中澤先生を見送り、星が出るのを待って、私はもらったお見舞いを片手に
屋上へと昇った。梨華ちゃんの好きな色の風船に、手紙をつける。
『梨華ちゃん!So Long!また会う日まで!』
天の川を仰ぐ。そっと手を離す。天まで届け!届いてくれ!
明日から、いつもと同じ、でもいつもと違う一日が始まる。
私は、声を限りに叫んだ。梨華ちゃんまで聞こえるように。
「よーし、明日からもがんばって、いきまっしょ〜い!!」
< 銀河鉄道の夜 了 >
- 40 名前:あとがき? 投稿日:2003年01月02日(木)10時39分25秒
- 完結しました。何も起こらない上に何も「しない」、そんなつまらない妄想に
最後までお付き合いくださった方、改めてお礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
個人的に、読んでいただきたかった方がお一人、いらっしゃいました。
最終章で、懸命に考えられたであろうセリフ、点の数まで無断借用しました。
すいませんでした。お世話になりました。ありがとうございました。
イメージを壊さないよう、私の微力の限りを尽くしたつもりなのですが、
いかがでしたでしょうか?ほんとうにごめんなさい。
もし、私が必要以上にアタフタしていた理由をわかっていただけましたら、
肩の荷がおりる思いです。残してくれて、ありがとうね。
- 41 名前:あとがき? 投稿日:2003年01月02日(木)10時40分27秒
- それから、最後の「さよならは・・・」のくだりは、内海に面した土地で
野球をする少年たちを描いた映画からの借用です。もちろんこちらも無断。
また、「空色の切符」「ふるさと行きの乗車券」というフレーズは、先日、
紅白に初出場した御大の「ホームにて」という曲から借用。言うまでもなく、
無断。
このスレッドの半分(以上、だな)は、パクリで出来ています。原作も
ありますし。そのあたりは、ぬるく見逃していただけたら、大変嬉しいです。
- 42 名前:あとがき? 投稿日:2003年01月02日(木)10時41分24秒
- 別人になりすます手も、もちろんあったのですが。あえて分かる方には分かって
いただけるように、当初のスタイルを貫きました。
前作を好きでいて下さった方への、せめてものお詫びの気持ちです。
お伝えできていれば幸いに存じます。本当に申し訳ありませんでした。
前回は、ふと目にしたものを読むうちに、何かが憑依した、そんな感じで
書くことが出来ましたが、今回は自らネタを探しました。
おかげで、普通に小説が読めなくなってしまいましたが、それも、また、よし。
- 43 名前:あとがき? 投稿日:2003年01月02日(木)10時42分13秒
- きっと再び、私は書こうとするのでしょう。
それがいつかなのか、まだ分かりませんが、そんな気がします。
とりあえず、全く関係ない設定のごく短いものを、お借りしているスレッド
を使い切るぐらいには、ものしてみようと考えています。
そのときが来ましたら、また、よろしくお願いします。
- 44 名前:あとがき? 投稿日:2003年01月02日(木)10時43分20秒
- 生きるということは、銀河鉄道への乗車の順番待ちで。
その間をどう過ごすかで、乗り込んだ汽車の行き先も決まるのでしょう。
自省しながら、そんなことを思いました。
では、本日は、とりあえずこれにて失礼いたします。
お付き合いくださった皆さま、本当にありがとうございました。
もし、GTよ、誉めてつかわす、というような奇特な御仁がおられましたら、
お手数ですが何か書き込んで下されば幸いです。もちろんお叱りの言葉も。
皆様にとって、2003年もすばらしい年でありますように。
そして娘。さんたちが、今年も変わらず輝き続けますように。
賢治と、読んでくださった皆様と、管理人様に、多謝。
名無しGT
- 45 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月02日(木)16時22分48秒
- えーと、自分の語彙不足が悲しいのですが、おもしろかったです。
願いを叶えてもらえるような生き方をしてきていないなぁなどと思ったり。
前作を含め楽しんでいます。次回作まったりと待たせていただきます。
- 46 名前:名無し香辛料 投稿日:2003年01月03日(金)02時55分23秒
- あああ、なんとなく分かっていた最後なのにやっぱり悲しい…。
俺も最期は梨華ちゃんを力イッパイ抱き締めてえよおおおお
…変態は置いといて。
この作品も大好きです。あの部分読んだ瞬間、体温が2度程上がりました。
あれからこんな発想なんて…ただただ驚きです。
大変光栄です。ありがとうございました。
次回作も、期待しています。大ファンですので!(w
- 47 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月08日(水)01時02分57秒
- すごく引き込まれました。
優しい温もりに抱かれてるような、せつないけど心地良い感覚・・
あれ?っと思いながら読んでおりましたが、最後のあとがき?で分かりました。
私が一生ついて行くと決めた、敬愛するあの作家さんに間違いない!と。
変わってないですね、安心いたしました。
まったりのんびりで良いので、是非次回作も期待しております。
- 48 名前:川の流れのように 投稿日:2003年01月19日(日)14時20分38秒
『 梨華ちゃんへ。
梨華ちゃん、元気?そっちはどう?寒くない?楽しい?
今日から日記代わりに、梨華ちゃんに手紙を書こうと思うんだ。
毎日じゃないけど、何かあったときに。何もなくても書くかもしれないけど。
梨華ちゃん、どっかで見てくれてるよね?
あのね、今日、退院してから初めて学校へ行ったんだ。
「おはよう!」って大声で言ったら、みんなびっくりした顔してたよ。
梨華ちゃんがいない学校なんて、って思ってたけど、自分次第なんだよね。
「あんたも悪いねんで」って中澤先生が言ってた意味が、何か今、わかるよ。
- 49 名前:川の流れのように 投稿日:2003年01月19日(日)14時21分32秒
- そうだ。あれから母さんが、ものすごく元気になってさ。
母さんも、たぶんわかってたと思うんだ。ただ「きっかけ」がなかっただけで。
梨華ちゃん、うちの父さん、近くにいない?もしいたら、よろしくね。
昨日、梨華ちゃんの家にも行ってきたよ。
一回しか会ったことないのに、お父さん、私のこと覚えててくれたんだ。
「ずいぶんと大きな目の子だなあ」と思ったら、「ひとみ」っていう名前
だったから、印象に残ってたんだって。
梨華ちゃんの写真一枚、もらった。大事にするね。
- 50 名前:川の流れのように 投稿日:2003年01月19日(日)14時22分33秒
- お父さんに梨華ちゃんのこと、たくさん話したかったけど、なんか、うまく
言えなかったよ。胸がいっぱいっていうか、なんか、ね。
落ち着いたら、また行って、お父さんに梨華ちゃんのこと聞かせてあげようと
思ってる。あんまり学校で話すことなかったけど、いつも見てたから。
だから、今度は大丈夫、きっと大丈夫。お父さん、喜んでくれると思う。
明日も、朝早いんだ。配達も今日からがんばってる。
車に気をつけて、配るね。へへ。
梨華ちゃんも、元気でね。では、また。
ひとみ 』
- 51 名前:川の流れのように 投稿日:2003年01月19日(日)14時23分35秒
- ノートを閉じて、いつものように星空を仰いだ。
梨華ちゃんや父さん、鳥を獲る二人、歌う人たちが、この空のどこかで、今日も
変わらず暮らしている。銀河鉄道もきっと走っているだろう。
足元の細く長い道は、梨華ちゃんへ続く一本道。地図はない。
見えない先の方で、でこぼこだったり曲がりくねったりしているかもしれない。
それでも往く。この道の終わりに、梨華ちゃんが待ってるから。
迷ったって、きっと大丈夫だ。眩しい笑顔が、必ず行く手を照らしてくれる。
- 52 名前:名無しGT 投稿日:2003年01月19日(日)14時24分41秒
- 更新終了。このタイトルで続きます。
梨華ちゃん、誕生日おめでとう。良い一年をと祈っています。
どうしても今日更新したかった。次まで間があくと思います。
>45 名無し読者様
面白い、自分にとってこれ以上の誉め言葉はありません。ありがとうございます。
私も全然出来ていません。が、この世に生まれて来た者は、選ばれし者であり、
果たさなければならない役割を必ず持っているのだと、最近になって思うように
なりました。与えられた役割を探し、果たそうと努力することは、選ばれし者に
課せられた義務なのではないか。これからでも遅くないはずです。少なくとも、
私よりは(たぶん)。一緒にがんばりましょう。
- 53 名前:名無しGT 投稿日:2003年01月19日(日)14時25分20秒
- >46 名無し香辛料様
この世に生まれてきた者に、生まれてきた瞬間から平等に約束されていること。
それはその命の終わりだけなんですよね。ですが、あまりにも早すぎる。
私も悲しかった。本意ではありませんでした。
再び、力不足を嘆くはめになりました。ごめんなさい。そして今回もありがとう。
何となくですが、「ポジティブ」という彼女の口癖を自分なりに変換してみたくて、
私は、拙い嘘っぱち文に手を染めたのではないか、と思ったりしました。
またお力をお借りしなければならない時が来るはずですので、よろしくお願いします。
で、常々思っていたのですが、最後の行は、大不安のタイプミスですよね?
- 54 名前:名無しGT 投稿日:2003年01月19日(日)14時26分17秒
- >47 名無し読者様
ついてきちゃ、ダメですよほ。私の後を歩かれたら、道をあやまりますから。
よければ、並んで歩いていただけますか?隣、空いてます。空いてます空いてます。
もしまた間違えそうになったら、叱ってください。お願いします。
私の愚行を許して下さった皆様のおかげで、また書くことができました。
ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
- 55 名前:名無しGT 投稿日:2003年01月19日(日)14時27分04秒
- 『「出会い」とは、決して偶然ではないのだ。でなければどうして、「出会い」が、
ひとりの人間の転機と成り得よう。』(宮本輝「命の器」より)
銀河鉄道に乗る、という特殊な経験を共有せずとも。
やはり出会いとは偶然ではないのだ、と思う事柄が、最近多くなりました。
歳をとるのも悪くないです。
関係ない設定で、とあとがき?で申し上げましたが、撤回いたします。
やっぱり、再会させてあげたい。短い、は変わりません。
よろしければ、今しばらくお付き合いください。
- 56 名前:47 投稿日:2003年01月19日(日)18時25分05秒
- 梨華ちゃんの誕生日にピッタリな、素敵な内容でした。
更新、お疲れ様です。
自分も生まれて来た限りは、きっと何かの役割とか居場所があるんじゃないかなぁ
って思うんです。かく言う自分自身、まだ探してる旅の途中なんですが・・
旅の途中でこんなに素敵な作品に出会えると、感謝の気持ちを一層強く持てます。
>隣、空いてます
最高のお言葉です!うれし泣きしそうです!
ふつつかものですが、おそばに置いてやって下さい、旦那様w
また読めることが出来て、本当に嬉しいです。
- 57 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月01日(土)11時56分23秒
- >56 名無し読者様
誉めていただきまして、ありがとうございます。
私もまだまだ途中です。いい歳してフラフラと根無し草で、お恥ずかしい限りです。
きっと、誰もがみな、旅の途中で。
寄り道が多いほど、さまざまな事象と出会え、楽しめるのではないか。
そんな気がする今日この頃です。
私のような愚か者が隣席させていただいて、よろしいのでしょうか?
是非、よろしくお願いします。一緒に幸せになりましょう。
- 58 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月01日(土)11時57分21秒
- 読んで下さっている皆様に、一つだけお願いがあります。
話の途中で違う話を挿入するわがままを、お許しいただきたいのです。
今回の二分割は、私には非常な衝撃でした。
自分なりに消化してからでなければ、何もかもが先へ進まない。
で、消化する方法がこれかい!とお思いの向きもありますでしょうが。
イタイマジヲタがここにも一人、そんな薄目で見逃していただければ幸いです。
- 59 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)11時58分51秒
- あるところに、一つのバスケットボールチームがありました。
そのチームは、今、大人気のリーグの牽引車的存在です。
そのリーグは、春と秋、全国の大きな会場で試合をします。正月と夏にはオールスター戦。
入場料収入のみならず、関連グッズの売り上げ、テレビの放映権料なども、リーグやチーム
の運営に多大な影響を及ぼすことは、言うまでもありません。
ひと頃は隆盛を誇り、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったチームの人気に、ほんの少し翳りが
見えはじめました。監督たちは増えすぎた選手の数と、それに伴う経費の増加もろもろに、
頭を悩ませていました。そうして、連日踊る会議の末、ある一つの案が採用されました。
- 60 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時00分25秒
- 早速選手たちが集められ、提案が実行に移されます。
選手らを前に、監督が発表します。悪役を背負わされるこの人も気の毒です。
「えー、正直、16人は多い。これでは全員が実戦経験積むのは難しい。練習のために
練習してるんとちゃうからな」
だったら、最初っからむやみに選手増やすんじゃねーよ。
中にはこんなふうに考えている選手もいますが、とりあえず黙っています。
下手なことを言うと、「あ、オマエはもう解説者でやっていけるから、引退な。
来月の誕生日、引退試合やから」なんて宣告されかねないからです。
「さて、そこでや。全員に試合経験を積んでもらうために、チームを二つに分けます」
- 61 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時01分57秒
- 2チームの組み分けが発表されました。バランスよく分けたとのコメント付きで。
皆の疑問を代表して、キャプテンが尋ねます。
「紅白試合、するんですか?」
監督が答えます。
「練習のための練習やない、言うたやろ。秋のリーグから二つのチームを別々にエントリー
します。つまり、敵として戦ってもらいます」
「それまでの間は?」
「とりあえずそのままです。それから、オールスター戦では一つのチームに戻ります」
「とりあえずそのまま」といわれたところで。ギクシャクしないほうがおかしいのです。
「そのまま」でいられるわけはありません。
敵同士、優勝を争う。リーグ戦の会場は別々。順位、観客動員数、グッズの売り上げ・・・。
結果が数字で示される残酷さは、若くてもプロである選手たちが、一番よく知っているのです。
- 62 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時03分37秒
- 選手たちは、戸惑いながらもこの決定を受け入れざるをえません。
もう決まってしまったことだから。甘受するか、チームを辞めるか、選択肢は多くないのです。
ただ、純粋にバスケットボールがしたい。
ベテランや中堅の域に差し掛かった選手たちの中には、監督や、もっと上の人たちが、
自分たちのその気持ちをうまく利用していることに気づいている者もいます。
でも、プレスリリースむけのコメントでは、笑顔で前向きなことを言ってお茶を濁します。
それもこれも全部、大好きなバスケを続けるため、そして愛するチームのためです。
愛するチームのため、か。二つに引き裂かれてしまったチームを、変わらずに愛し続ける
ことは、出来るのだろうか。誰もがそんな思いを秘めていることでしょう。
入団が決まったばかりの選手たちは、ほんとうに訳がわからないことでしょう。
- 63 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時05分07秒
- 「今からチームごとに写真撮るから、着替えて再集合な」
春に引退が決まっている一人を除いて、全員のろのろとその指示に従いました。
国民的人気、なんて言われた頃の勢いはいまや失われつつある。
そこそこ経験のある選手たちは皆、それをうすうす感じ取っています。
でも、一日に2試合も3試合も組まれる試合や、厳しい練習をこなすのに精一杯で、
だからってどうすることも出来ないでいたのでした。
「もっとがんばらなきゃ、勝ち続けられない」
わかってはいても、これ以上がんばることなんてどうやっても出来ないのです。
いわゆる、話題作り。これもその一環です。すでにこの手の方便には慣れつつあった
選手たちでしたが、まさか敵同士で戦わなければならない日が来るとは。
こうやってセンセーショナルに衆目を集めることでしか、人気チームであり続ける術は
ないのでしょうか。
もはや個々のプレーや、試合運びそのもので、世間様の目を惹きつけておくことは、
不可能なのでしょうか。
- 64 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時06分28秒
- 戸惑いをプロ意識で封じ込め、無事に撮影は終了。流れ解散となりました。
ある者は平静を装い、ある者は戸惑いを隠せず、つまりは全員が困惑しながら、それぞれ
家路につきます。最後まで控え室に残ったのは、二人。
動こうとしない梨華ちゃんのカバンを持って、ヨッスィーが立ち上がりました。
「別々のチームになっちゃったけど」
ヨッスィーはうつむく梨華ちゃんを覗き込んで言いました。
「一緒に帰ろうよ。ね?」
力なく梨華ちゃんが立ち上がりました。胸中相複雑なまま、二人並んで、部屋を出ます。
- 65 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時07分31秒
- 「敵同士なんて、ヤダな」
「オールスターは同じチームじゃん」
そんなこと、何の慰めにもならないことは、お互いよくわかっています。
もちろん、プロである以上は。
これまでだって、それぞれがライバルでした。
でも、同じチームでポジション争いをすることと、敵味方に別れて勝敗を争うことでは、
本質的に意味が違うのです。夢を追い続けるためには、こんなにやり切れない思いをも、
飲み込まなければならないのでしょうか。
- 66 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時08分42秒
- そもそもこのチームは、入団テストに惜しくも不合格だった5人でスタートしました。
一旦は夢を諦め、日常へ戻っていた5人が再召集され、ある条件が告げられます。
デビュー戦、といっても前座ですが、そのチケットを、課せられた枚数売り切ったら、
試合させてやる。途方もない枚数でした。でも、5人はくじけませんでした。
テレビ局のバックアップもありました。運も味方しました。
そうしてそんな過酷な状況を、5人は乗り切り、リーグ加入を果たしたのです。
初出場では、堅実なプレイで、そこそこの成績を残しました。
選手を3人増やし、そのことで選手間の確執などもありながらも、徐々に結束を固くし、
ついには優勝。そのとき8人は一つになって、抱き合って喜んだといいます。
その後も、通好みの渋い試合運びで、好成績をおさめ続けたのでした。
- 67 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時09分53秒
- ところが。ちょっとしたベンチの采配ミスで、最下位に転落。
そして、急遽、戦力を補強。このとき、入団したての新人をエース格に抜擢しました。
スタイルを転換し、観客を意識した派手なプレイで勝ち進み、再び首位へと返り咲いたのです。
そして連覇。破竹の、とは、当時のチームの勢いを表すために存在する言葉でした。
二人はそんな、チームがまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃に、4期生として入団したのです。
軽い気持ちで受けたテストに。
あれよあれよといううちに合格してしまい。
普通の女の子が、いきなり人気チームの一員に。
- 68 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時11分02秒
- 厳しい練習、いきなりの試合出場、世間のひがみややっかみ、ねたみそねみ・・・。
さまざまなプレッシャーを、同期で励ましあい、先輩やコーチに支えられ、そしてなにより
自らの涙ぐましい努力ではねのけて、二人は今、こうしてここにいるのでした。
「ツジカゴも、別れちゃったね」
「うん」
「大丈夫かな?あの二人」
「あとで、電話してみるよ」
辻、加護、この二人もまた4期生です。
自分たちも同じ状況に置かれているのに、年若いツジカゴの心配までしてあげられる。
新人だった頃からすれば、二人ともたくましくなりました。
同期の、歳の近い二人どうしをバラバラにする。これが、監督の言うバランスなのだとしたら、
少しばかり安易な気もします。でも決定は決定。どうしようもないのです。
トップを走り続けるためには、きっとさまざまな犠牲が必要なのでしょう。
- 69 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時12分16秒
- ため息を呑み込んで、ヨッスィーが言いました。
「でも、まだ、半年も先のことなんだよね」
「うん。そうだね」
二人は、入団してから、今までのことを思い返しました。
よくよく考えてみれば。
メンバーが、半年も安定していたなんて時期のほうが、珍しいようなチームなのです。
チーム本体のメンバーのことだけじゃなく、これまでもいろんなことがありました。
決定はいつも突然伝えられて。
入団してすぐ選抜チームに入らされたり、いきなりレンタル移籍させられたり、他のチーム
とメンバーをシャッフルして試合させられたり・・・。
そのたび、辛かったり、悲しかったり、悩んだり。でも、何とか結果を残してきた。
「まだまだ、何が起こるか、分かんないよ」
「うん。そうだね」
「今までだって、何が起きても、みんなで何とかしてきたじゃん」
「うん。そうだね」
- 70 名前:Don’t worry Be Happy! 投稿日:2003年02月01日(土)12時14分13秒
- たとえ、チームが別でも。
同じ、バスケを愛する仲間なことには、変わりないから。
結果がどう出たってそんなの、関係ない。
私たちは、全力で、プレイするだけ。
ヨッスィーが右手を高く掲げました。梨華ちゃんがそれに左手を合わせて、ハイタッチ。
そのまま、手をつないで、二人はゆっくり歩いていきます。
さっきより少しだけ、確かな足取りで。
この先どんなことが起きても。大丈夫、きっと大丈夫です。
だから。
みんなも、シャチョーさんも。
あなたも、私も。
モーニング娘。も。
Don’t worry Be Happy!
〜fin〜
- 71 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月01日(土)12時16分32秒
- 完結です。ありがとうございました。
まだ、見てくれてるかな?
名無し香辛料さん。
(0^〜^)<Don’t worry!
( ^▽^)<BE HAPPY!
きっとだいじょうぶですよ。信じましょう。
次回は「川の流れのように」の続きを更新するつもりです。
何事もなければ。なければ。
ほんとうにすいませんでした。よろしければいましばらくお付き合いください。
- 72 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月01日(土)15時50分49秒
- こんにちは。
一作目からずっと読ませていただいてましたが、はじめてレスします。
ほんとに、今回の分割については私も、びっくり!を通りこして呆れてしまったのだけど。
このお話を読んで、溜飲が下がる思いがしました。ネット上のあちこちで、今回の件についてたくさんの人達が意見を述べているけれど、こんな風に、振り回される娘。さんたちの立場にたって書かれたものは、ほとんどなかったように思うので。
どっちの組が勝ち組だとか負け組だとか、そんな事とは関係なく。
作品中の娘。さんたちのように、実際の娘。さんたちががんばり続ける限り、なんらかの形で、私も娘。さんたちを応援していこうと思います。
作者さんの作品からは、私もいつも元気をもらっています。
声高に「がんばるぞー!」と叫ぶようなのではなくて、なんかこう、気持ちの奥の方から暖かい力がじわじわ湧いてくるような。
いろいろあったようですが、大丈夫。作者さんは、伝えたい事はきちんと作品を通して伝えられる人なんだと思います。
私には、影ながら応援することしかできないけれど。
モーニング娘。も。
名無しGTさんも。
Don’t worry Be Happy!
です。
- 73 名前:56 投稿日:2003年02月01日(土)22時18分06秒
- 新作完結、お疲れ様でした。
名無しGTさんのおかげでまたひとつ、素敵な寄り道が出来ました。
今、最高にHappyな気持ちでいっぱいです。
ありがとうございます。
>Don’t worry Be Happy!
最初にこのフレーズを見て、実は某ドラマを思い出しました。
(不器用なふたりが結ばれる物語でした)
生きて行くことは、イイことも思い通りじゃないこともある、限りない
日常を積み重ねて行くものかもしれません。
だからこそ、その時その時を慈しんで進んで行きたい・・
自分は娘。達に元気をもらって、こんな素敵な作品にめぐり会えました。
そのことに今この瞬間、幸せを噛み締めています。
次回更新、まったりお待ちしております。
- 74 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月12日(水)03時26分10秒
- そう、あれは、初めて、梨華ちゃんに会いに行った日だった。
梨華ちゃんのお父さんが書いてくれた地図を頼りに、一歩づつ、梨華ちゃんへの
道程を辿って。
梨華ちゃん、元気だった?はおかしいか。
えーと、私も母さんも、すごい元気だよ。
なかなか会いに来られなくて、ゴメン。
自転車だと、すごい時間かかるんだよ。
来月から就職するから、バスで来るね。
そうしたら、もっとしょっちゅう会えると思う。
「あれ、吉澤やん。ちょうどよかった」
「中澤先生!」
夢中で梨華ちゃんに話しかけていて、気配に全く気づかなかった。
梨華ちゃんに会うついでに、私にも用があったらしい。
お茶でも飲もうや、と誘われ、ついて行った。
- 75 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月12日(水)03時27分29秒
- 「何ですか、用って」
先生が取り出したのは、数冊のパンフレット。
「進学せえへんかな、と思って」
先生の説明を受け売りすると。
夜間大学というものがあって、仕事しながら大学に行くことが出来るらしい。
これから準備しても、確実に現役から一年遅れるけれど、そこではどうって
ことない差で、むしろ若い方。
そして、私の家の収入なら、申請すれば学費は安いだろう、とのこと。
何気なく、目の前に並んだパンフレットの一冊を手に取ると、先生が言った。
「そこ、私の母校。ええで、夜学も。どや?」
- 76 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月12日(水)03時28分54秒
- そして、今日。あれから、一年と少し。先生の母校の、合格発表の日。
受験番号は、1444番。なかなか幸先いい。
掲示板の前に立つ。一年間、我ながらよくがんばった。悔いはない。
・
・
・
1435
1438
1440
1442
・・・あった。あったよ。1444。
やったぜこのヤロー!ノリノリだぜー!
母さんと、先生と、梨華ちゃんに、早速報告しなきゃ。
すれ違う人たちが怪訝そうに振り返るほど、私の足取りは軽かった。
自然とスキップなんかしていたかもしれない。
- 77 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月12日(水)03時29分56秒
- 梨華ちゃん。
何だかよく分からないけど、私、大学生になるみたい。
母さん、先生。
力になってくれて、ありがとう。みんなのおかげで、合格したよ。
春から、忙しくなるかも。よ〜し、ますますがんばっていきまっしょい!
- 78 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月12日(水)03時31分42秒
- 更新終了です。あと3回の予定です。
>72 名無し読者様。
丁寧なご感想、ありがとうございます。
誰よりも振り回され、誰よりも分割が淋しいのは、きっと娘。さんたちなん
だろうなあ、なんて思っているうちに筆が進んでいました。
飢餓感を煽るのは有効な戦略ではあるのでしょうが、できれば、せめてシングルは
両A面で、差が付かないかたちで、なんて思ったりしながら。
娘。さんや私たちは、おそらくこれからも振り回され続けるのでしょう。
私には応援することしかできないのなら、それを一生懸命やろう、と思います。
前作については、本当に申し訳ありませんでした。
今後ともよろしくお願いいたします。
名無し読者さんも、
(0^〜^)<Don’t worry!
( ^▽^)<BE HAPPY!
- 79 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月12日(水)03時32分51秒
- >73 名無し読者様
「長期休暇」というドラマでしょうか?
少しでもお力になれたようであれば本望です。
私も、娘。さんたちの姿や皆様の励ましに元気をもらって、書くことができています。
いつもありがとうございます。
すべて思い通りにことが運んだら、それはそれでつまらないんでしょうね。
ですが、悲しいことや辛いことは、一つでも少ない方がいい。
名無し読者様が、( ^▽^)<ハッピー!であられますように。
今後ともよろしくお願いします。
- 80 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月12日(水)03時33分38秒
- 受験生の方、おられるでしょうか?
おられたとして、少しだけ説教じみたことを。
今、あなたが結果だと思われている状況は、本当は通過点です。
最終的に大事なのは、どこに属するか、ではなく、そこで何を為すか。
そして、試験直前に重要なことは、一夜漬けよりも体調管理。
で、それより何より。今こんなの読んでちゃ、ダメです。ダメですよ。
悔いのないようにがんばって下さい。陰ながら応援してます。
- 81 名前:73 投稿日:2003年02月13日(木)01時13分31秒
- 更新、お疲れ様でした。
今日ここへお邪魔してちょっと驚きました。
と言いますのも実は私自身、とある資格試験を目指して、先週から勉強を
始めたばかりだったのです。偶然か、このお話の中の吉澤さんと同じ・・
もう運命だと思い込むことにしましたw
机に向かって勉強するなんて10年以上やっていなかったことで、自分の選んだ
道とはいえ、さすがに己の頭の堅さに嫌気が差しておりましたが、名無しGT
さんにまたしても元気を分けていただいた次第です。
学ぶべき道や時機はひとつではないということ、今実感しているところです。
追伸:ドラマ、ビンゴですw
- 82 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月13日(木)20時45分39秒
- 月に一度は、梨華ちゃんに会いに行く。この道を、何度通っただろう。
もう数え切れない。雨の日も晴れの日も雪の日もあった。
「お先に失礼しまーす!」
仕事を終えると、自転車に飛び乗って爆走して講義に滑り込む。
2コマ受けて、サークル活動。帰りは日付が変わる頃。
そんな日々の合間をぬって、梨華ちゃんといろんな話をした。
梨華ちゃん、もう卒業なんだよ。早かったなー。
もう一回最初からやれっていわれたら、絶対ヤだけど。
梨華ちゃんには、愚痴ばっか言ってた気がする。ごめんね。
- 83 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月13日(木)20時47分01秒
- 石畳をゆっくり歩いていると、背後から小さな足音が聞こえた。
私を追い越してすぐ、ポテッと転ぶ。ありゃりゃりゃ。
「のの!走るなって言っただろう」
お父さんらしき人の声が聞こえて、不規則な足音が追いかけてきた。
お父さんが追いつく前に、転んだ子を起こして、泥をはらう。
「痛くない痛くない、ね」
謝り、礼を述べてくれるお父さんに「ののちゃん」を引き渡した。
目的地はきっと同じ。自然と並んで歩く。
- 84 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月13日(木)20時48分17秒
- 「ののちゃんは、いくつ?」
「しゃんしゃい」
指は4本出ているけれど、きっと3歳なんだろう。
歩きながら、ののちゃんのお父さんが途切れ途切れに教えてくれる。
ののちゃんは。事故で、お母さんを亡くしたらしい。
お父さんは、片足に後遺症を残して生き残ったという。
梨華ちゃんから数区画むこうで、ののちゃんのお母さんは眠る。
ここからでも、読み取れる墓碑銘。私と、そう変わらない享年。
お母さんの前で無邪気にはしゃぐののちゃんを、直視できない。
そっと、心の中で手を合わせた。あの星空の中で、幸せでありますように。
- 85 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月13日(木)20時49分14秒
- 梨華ちゃん。
私ね、もうすぐ先生になるんだよ。そう、学校の先生。
九州って四国にある県、って言ってた私が。アメリカ大統領をソビエトって言った私が。
笑っちゃうよね。
今から楽しみなんだ。一緒にバレーとかしたいな、なんて。がんばるよ。応援しててね。
- 86 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月13日(木)20時50分49秒
- 更新終了です。
>81 名無し読者様
住宅街の中のコンビニエンスストアって、真夜中、閑散としていることが多いですよね。
「いっそ夜中は閉めればいいのに、意味ないじゃん」なんて思ったりします。
ですが実際に店名どおりの営業時間にしてしまうと、無関係なはずの昼間の売り上げが
明らかに減少してしまうのだそうです。
「サインコサイン何になる〜」とは大昔の歌にある言葉ですが、何の役にも立たなさそうな
知識も、コンビニでいえば真夜中の営業時間のごとく、生きていくことに間接的に影響して
いるのだと思います。
資格取得のための勉強もまた然り。実務上関係のなさそうな知識も、いつかきっと意味を
持つはずです。一生懸命って、とてもカッコいいことですよ。
などと偉そうに書き連ねてしまいまい、申し訳ありません。
陰ながら応援させていただきますので、気分転換に、また覗いて下さい。
- 87 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月13日(木)20時51分57秒
- 全くこの話とは無関係なのですが。そして設定の無理さ加減を言い訳するつもりも
ないのですが。私の友人で「勧善懲悪」を「完全超悪」と答えた人間が今、小学校で
国語も教えています。そんなもんです。
あっという間に卒業しました。こんな調子で最後まで。
よろしければいましばらくお付き合い下さい。
- 88 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)04時52分32秒
- あの日のことを、今も時々思い出す。
この頃見かけないな、そう思ってふと、ののちゃんのお母さんの方を見た。
少し荒れてるみたいだから、掃除してあげよう、と思いながら近づく。
視界に入ったのは、ついこの間、増えている墓碑銘。お父さん、だよな。
・・・ののちゃんは、今どうしているんだろう。一人ぼっちなんだろうか?
数日間思い悩んだ末、私はののちゃんの行き先を調べてみた。
親戚の家で、元気に暮らしていてくれたらいい。
それさえ確認できれば。何も心配ないとわかれば、それでいい。
- 89 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)04時54分29秒
- 思ったより簡単に、ののちゃんの行方がわかった。
いくつも電車を乗り継いだ先で、ののちゃんはひとり膝を抱えてうずくまっていた。
この子の往く道は、雨でぬかるんでいる。
この子には、傘が必要だ。私に今、何が出来る?
「ののちゃん、よかったら、うち来る?」
ののちゃんの唇から八重歯が覗く。
後に施設の先生に聞いたことだけれど、この時、彼女の笑顔を初めて見たそうだ。
二人で家に帰り、驚く母に事情を話す。その日は同じ布団で一緒に寝た。
- 90 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)04時55分28秒
- 数ヵ月後、複雑な手続きを経て、希美は正式に私の妹となった。
少し、歳の離れた妹。希美の行く手に晴れ間が見えるまで。
そのぬかるんだ道が乾くまで。この子の傘に、私はなりたい。
そんなふうに思ったっけ。カッケーじゃん、我ながら。
まるで昨日のことのようだけれど、もう、一昔も前のことなんだ。
今夜は、家族三人で、最後の晩餐。
もちろん、これからも三人で食事することはきっとあるだろうけど、でも最後。
- 91 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)04時56分59秒
- それぞれに話したいことはあるはずなのに、誰も何も言い出さない。
おかずもとりたてて豪華なわけじゃない。
いつも通りの、でもいつもと少しだけ違う、夕食。
ねえ、のの。私、あなたに降る雨をちゃんと防いでた?
私のほうが助けられてばっかだった気がするよ。
ねえ、のの。私、これからも、あなたのお姉ちゃんでいていいよね?
- 92 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)04時57分53秒
- 梨華ちゃん。
明日ね、希美がお嫁に行くんだよ。あんなに小さかったのに、ねえ。
施設のすみっこで、みんなの誘いに首を振って、膝抱えて座ってた姿、
今でも時々思い出すんだ。ほんと、いつの間に、って感じだよね。
え、私?忙しくて、忘れてた。いい人に会えたら、いつか、ね。
- 93 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月14日(金)04時59分30秒
- 更新終了です。
次回(明日のつもりですが)で終わりますので、
いましばらくお付き合い下さい。
- 94 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月14日(金)10時48分47秒
- 仕事中に読ませて頂いて大変なことになってしまいました。
淡々と流れているようでとっても心に染みるのです。
いつまでもお付き合いさせていただきます。
- 95 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月14日(金)19時55分01秒
- >94 名無し読者様
ありがとうございます。
毎回毎回、何の山も谷なく終わってしまう自分の筆力を「どないやねん」
と思っておりましたので、何より嬉しいお褒めの言葉でした。
この話は、今回をもちまして完結してしまう上、次について何のプロットも
ないのですが、やる気だけはありますので、また何かを垂れ流すと思います。
よろしければ、そのときもまたお付き合い下さい。
- 96 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)19時55分58秒
- 『 梨華ちゃんへ。
あれから、ずいぶん遠くまで来たよ。
母さんを見送って、梨華ちゃんのお父さんとお母さんも見送って、
中澤先生や、教え子の何人かまで見送って。
そして、今日、連れ合いを見送った。
遅い結婚だったのに、すごく大事にしてもらったなあ、なんて、すごい
感謝してるんだ。
梨華ちゃんのことも、もちろん知ってるよ。もし会ったら、よろしくね。
でも、あの旅のことは、今でも誰にも内緒だけど。
- 97 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)19時56分55秒
- そろそろ、私の番かなぁなんて、このごろ時々思う。
私、一生懸命生きたよね。神様、お願い、聞いてくれるよね。
梨華ちゃんに会えるの楽しみだけど、ちょっとヤだな。
だって、私だけこんなにおばあちゃんになっちゃって、梨華ちゃんは
あのときのままなんて、ずるいよー。
ま、いっか。私のこと、見間違えないでね。
ずいぶん待たせちゃったけど、きっともうすぐだから。
もう少しだけ、待ってて。
ひとみ 』
- 98 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)19時57分54秒
- ◇
おばあちゃんの遺品を整理していたら、ボロボロのノートが何冊も見つかった。
「梨華ちゃん」っていう人への手紙みたいな文章が、たくさん書かれている。
おばあちゃんが、まだ学校へ行ってたころから、ずっと。最後の日付は亡くなる
3日前。気になるけど、読まないでおこう。読んじゃいけない気がする。
一番古いノートに、色あせた写真がはさまってた。文字さえ判読できない、
空色の小さな紙と一緒に。この人が「梨華ちゃん」なのかな?
- 99 名前:川の流れのように 投稿日:2003年02月14日(金)19時59分38秒
- 『 おばあちゃんへ。
おばあちゃん、元気?はおかしいか。
そっちはどうですか?寒くない?楽しい?
おじいちゃんや、おばあちゃんのお母さんやお父さんには会えた?
そして、「梨華ちゃん」にも。みんながいるから、きっと淋しくないよね。
おばあちゃん、よく言ってたよね。「一生懸命生きた人が天国に行くとき、神様が
一つだけ願いをかなえてくれる」って。おばあちゃんの願いって、何だったのかな?
きっとかなえてもらったよね。
私も、神様に願いをかなえてもらえるように、がんばってみるよ。
おばあちゃん、その日が来るまで、私のこと忘れないで待っててね。
それじゃ、また。
亜依 』
< 川の流れのように 了 >
- 100 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月14日(金)20時02分12秒
- とりあえず完結です。
川の流れは、無事に海へとたどり着いたのかどうか。
自分では評価しかねます。強引に付け替え工事をしたような気もしますし。
皆様との、偶然ではない出会いに感謝しつつ。
『So Long!また会う日まで!』
再会の折には、この20レス余りで何十年かを終わらせてしまうような、
こらえ性のない書き手を、どうかまたよろしくお願いします。
- 101 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月14日(金)20時06分24秒
- お付き合いくださった皆様、ほんとうにありがとうございました。
一生懸命生きた亡き人が、皆、星空の中で幸せでありますように。
- 102 名前:名無し香辛料 投稿日:2003年02月14日(金)22時16分39秒
- 完結お疲れ様でした。
いやーもー、あのタイミングでののを出すのはズルいですよ〜。
もうどうしたらいいのか判んなくなっちゃいます(w
ともかく、今作品でも大変楽しませていただきました。
嗚呼のんたんのんたん…指四本でも三歳…お嫁に…お嫁に…(←物凄く弱い)
ただ後半の時代の流れは、もうちょっとじっくり読んでみたかったかもしれません。
そして、『Don’t worry Be Happy! 』
んん〜。正直、読んでて私は辛くなってしまいました。
でも目の前の娘。さん達が精一杯やっているならばいい、と考えています。
ちょっとまだうまく思いは伝えられないのですが…。
うん。何があっても私は『モーニング娘。』さんが好きです。
次回作、のんびりお待ちしています。お疲れ様でした。
- 103 名前:81 投稿日:2003年02月15日(土)01時03分39秒
- 完結、お疲れ様でした。
読み進むうち、ヤバイくらいに涙が出ちゃって来ちゃってます。
今、頭の中に「I WISH」が何故か流れてます。
あの曲の偉大さを今になって実感している、今日この頃です。
ののちゃんのくだりには私もヤラレましたw
私の勝手な妄想ですが、モーニング娘。の「傘」的存在って、実は吉澤
さんが向いてるんじゃないかなぁって思うんです。
大きくて広くて温かい傘じゃないかと。
それから素敵な言葉、どうもありがとうございました。
私の勝手な戯言にいつもお付き合い下さって、本当に感激です。
しばらくゆっくりお休みになられて、また何か、素敵な人生の寄り道を
させていただければ、最高にハッピ〜です。
いつまでも隣りでピッタリ付いて行きますのでw
- 104 名前:あのね、ののね。 投稿日:2003年02月23日(日)15時17分27秒
- お姉ちゃんに、聞いてみたことがある。
「どうして、あのとき、私を連れて帰ってくれたの?」
すれ違う程度の他人だったはずなのに、どうして?
「離れて心配してるより、一緒にいたかったから」
どうして?どうして心配してくれるの?
「当たり前じゃん、んなの」
お姉ちゃんはこともなげに言った。
そして、ののだって何でついてきたんだよー、そう言って笑った。
なんでついてったんだろう。お母さんの前で出会ったんだから、きっと
だいじょうぶだ、そう思ったんだ。
- 105 名前:あのね、ののね。 投稿日:2003年02月23日(日)15時18分32秒
- 初めて会った日の私のマネを、お姉ちゃんはよくしてた。
「しゃんしゃい」
私は小さすぎたから、覚えていないのに。
「あのね、ののね」
あとは何を言ってるんだか全然わからなかったとか。
少し大きくなってから、梨華ちゃんの話をしてくれたことは、覚えてる。
すごく大事な友達なんだよ。そう言って、長い間空を見てたね。
- 106 名前:あのね、ののね。 投稿日:2003年02月23日(日)15時19分38秒
- 出会いは覚えていないけど、初めてこの家に来た日のことは、今もはっきり
思い出せる。
お母さんが作ってくれたご飯を、三人で食べて。
二人で、ずっとお風呂で遊んでて、後がつかえてる!ってお母さんに叱られて。
それから、お姉ちゃんと手をつないで寝たこと。
強く握ったら、握り返してくれたこと。
今日からひとりじゃないんだって思ったら涙が勝手に出てきて、お姉ちゃんが
抱きしめてあやしてくれたこと。
「ずっと、ここにいていいからね」
何度も何度もそう言ってくれたこと。
今も忘れてないよ、お姉ちゃん。
- 107 名前:あのね、ののね。 投稿日:2003年02月23日(日)15時21分19秒
- 私が嫁ぐ前の日も、一緒に寝てくれたね。
話したいことあったのに、何も言えなかった。
「帰ってきちゃダメだけど、でも、帰ってきてもいいから」
なんてお姉ちゃん、意味わかんないよ。
でも、お姉ちゃんの妹でよかったって、そう思った。
また勝手に涙が出てきて、お姉ちゃんがやっぱりあやしてくれて。
「何かあったらすぐ帰ってこよう」
なんて、お姉ちゃんの腕の中で思った。
でも、少しくらい喧嘩とかしたけど、私、今までもこれからも幸せだよ。
きっと、帰る場所があるって思えるから、少しぐらい辛くても平気だったんだ。
- 108 名前:あのね、ののね。 投稿日:2003年02月23日(日)15時22分50秒
- そう、お姉ちゃんが、背の高い男の人をうちに連れてきて。
「あのね、マコね」
親の私にもわからないうちの子の言葉を、うんうん頷いて聞いてる、そんな人。
お姉ちゃんは、マコとのの、似すぎだって、クスクス笑ってた。
私に、お兄さんができたあの日。
こんなに小さい時から、私のこと見ててくれたのは、この世にお姉ちゃんひとり
しかいないんだ、って改めて感謝した。ありがとう、お姉ちゃん。
お姉ちゃんにも遅い春が来て、私、すごく嬉しかったよ。
でも、お姉ちゃんが、今まで見たことないような顔で笑ってて、少し悔しかった。
少し、少しだけだよ。ほんのちょっとだけ。ほとんど嬉しかったんだよ。
- 109 名前:あのね、ののね。 投稿日:2003年02月23日(日)15時24分50秒
- お姉ちゃん、子ども、たくさん欲しかったでしょ。一人しか出来なかったね。
未熟児で、あんまり丈夫じゃなくて、お姉ちゃんはもちろん私にまで大変な思い
をさせたあの子がさ。ほら、今、来てくれた人に代表で挨拶してるよ。
大きくなっちゃって。なんてもう中学生の子どもがいるんだから当然なんだけど。
独身のときは、教え子みんなが私の子どもだから、なんて言ってたけど。
でも正直、私はお姉ちゃんの生徒がうらやましかった。
こんなに愛してもらって、心配してもらっていいなあ、なんて。
今日もたくさん来てくれてるよ。みんなすごい立派になってる。
あ、あの子、すごいやんちゃでいつもお姉ちゃん困らせてた子でしょ?
一番に来てた。通夜に間に合わなくてすいませんって泣いてたよ。
もういい加減白髪の方が多いくらいなのにね。
今ね、自分と同じやんちゃな子を雇って、資格取らせたりしてるって。
先生のおかげです、ってまた泣くの。もらい泣きしちゃったよ。
- 110 名前:あのね、ののね。 投稿日:2003年02月23日(日)15時26分35秒
- お母さんが、あっけなく旅立った日。
お姉ちゃんは泣かなかった。そして、グシグシ泣いてる私に言ってくれた。
「母さんは、星空の中で幸せになれるから、だいじょうぶ」
「星になるんじゃなくて?」
「違うの。星空で、みんなが待ってるの。だから淋しくないの」
まるで、見てきたように言ってたね。
でも、すべて一段落したあと、お姉ちゃんは一人で泣いてた。
お姉ちゃんがいつもより小さく見えて、声をかけられなかった。
そのあと、誰を見送ったときも、お姉ちゃんは変わらなかった。
でも、お兄さんのときは。
「出会いより別れの方が多くなるって、辛いね」
って。一言だけ、こぼしてたっけ。
- 111 名前:あのね、ののね。 投稿日:2003年02月23日(日)15時27分47秒
- お姉ちゃん。
やっと別れのない世界へ行けるね。
お姉ちゃん。
やっと梨華ちゃんに会えるね。
お姉ちゃん。
お姉ちゃんも今、星空の中で幸せなのかなあ。
お姉ちゃん。
今までほんとにありがとう。
お姉ちゃん。ありがとう。ありがとう。ありがとう。
< あのね、ののね。 了 >
- 112 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月23日(日)15時29分40秒
- >102 名無し香辛料様
いつもありがとうございます。
お叱りを受けて、というわけではなく、自分でも「40年以上ぶっ飛ばすのかよ」
と思っておりまして、このような形でそれを表してみました。
とはいえ、不十分なことには変わりないのですが、どうか薄目で見逃してください。
『Don’t worry〜』については、この件に関して、名無し香辛料さんが、
大変お気落としなご様子も気にかかっておりましたので、少しでもお役に立てたと
すれば、大変嬉しく思います。この程度のご恩返ししか出来ずに申し訳ないです。
また、書こうと思っています。今後ともよろしくお願いします。
- 113 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月23日(日)15時30分40秒
- >103 名無し読者様
(0^〜^)ノ□ <ハイ、ハンカチ。涙拭いてね〜。
娘。さんたちがうんと大人になって。たとえば再結成なんてことがあったとして。
そのときは是非「I WISH」を歌ってほしいな、なんて思います。
いろんな経験を積んでゆけば、あの歌が違う意味に聞こえるときが来るでしょう。
この歌の頃からすれば、吉澤さんはじめ、ほんとに4期は頼もしくなりましたね。
それぞれが、それぞれの傘として。支えあってますます成長してほしい。
誰一人、もう欠けることなく。というのが私の勝手な妄想でございます。
また、書くつもりですので、気分転換にでも覗いてみてください。
今後ともよろしくお願いします。
- 114 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月23日(日)15時31分29秒
- 最初のあとがきで、「関係ない設定で」などと言っておきながらここまで引っ張って
しまいました。お察しの通り、新しい設定が思いつかないのですね。
お付き合いくださっている皆様、ありがとうございます。
世に妄想の種は尽きまじ。読んで下さっている方がおられる限り、なんとか頑張ってみます。
またお会いできる日を楽しみに。再見!
- 115 名前:名無しGT 投稿日:2003年02月23日(日)18時47分01秒
- 五冊目見て来てくださった皆様。
ちっともいしよしじゃなくてすみません。
- 116 名前:103 投稿日:2003年02月23日(日)23時05分06秒
- 「あのね、ののね」、完結お疲れ様でした。
よっすぃ〜、ハンカチありがとう。でもまたしても涙が止まりません(泣)
ののちゃんはモーニング娘。のアイデンテティーと言いますか、彼女の持つ
無垢な感性は、この先ずっと変わらずにいて欲しいって思います。
「I WISH」がいつまでも永遠のナンバーとなりますように。
名無しGTさんの世界観が自分には本当にしっくり来ます。
この表現は適切ではないかもしれませんが・・
この先どんな作品を送り出して下さるのか、楽しみに待たせていただきます。
- 117 名前:名無しGT 投稿日:2003年03月04日(火)00時45分45秒
- >116 名無し読者様
いつもありがとうございます。「I WISH」は、私も、ずいぶん時間が経ってから
好きな曲になりました。芸能界という特殊な世界で大人になってゆく、中澤さんを
除く娘。さんたち皆の幸せを、心から願って止みません。
蛇足ですが、中澤さんの幸せを願わないわけじゃなく、彼女はきっと大丈夫。
というような私の価値観は、現実世界を「上手く」泳ぐには向いていないようです。
ですが、こんな自分が嫌いじゃないのも、皆様が支えてくださるおかげです。
下手なりになんとか溺れずにいるのも、皆様の優しさ有らばこそ。
名無し読者様が幸せであられますように。心から願って止みません。
厳密には新作ではないのですが、こんなん出ました。
よろしければ皆様、また、お付き合いよろしくお願いします。
- 118 名前:WITH 投稿日:2003年03月04日(火)00時48分02秒
WITH
- 119 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)00時50分28秒
- 3ヶ月か。早かったな。
「なっちが怪我したから、今日から3ヶ月小児科応援な」
「誰がですか?」
「あんたやあんた。違うヤツ行かせるのにあんたに言うてどないすんねん」
でも、内科だってまだおぼつかないのに・・・いきなり違う科に行けって
言われたって・・・。そんな戸惑いが、顔に表れているらしい。
中澤先生が不敵に笑っている。
「吉澤」
「あ、はい。わかってます。医師免許は一種類だけです」
ええ修行のチャンスやで、そう言われて訳も分からず送り出された。
子どもは、嫌いじゃない。むしろ大好きだ。
だからこそ、小児科を選ばなかった。
神様は時として、意地悪で残酷だから。
医者である前に人間として、耐えられない悲しみが待っているような、
そんな気がしたから。
迷いに迷って、進む道を決めた日のことを、今も思い出す。
逃げるんじゃない、そうじゃない。あのときはそう思ったけれど、子どもが
好きだからこそ、立ち向かうべきだったのかもしれない。
「医者は、医者やで。何医者もない。歯医者じゃないだけや」
中澤先生はいつもそう言ってる。確かにその通りなんだけれど、その通り
じゃない現実もある。だからこそ迷ったわけで。
- 120 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)00時52分41秒
- そんなことを考えているうち、小児科にたどり着いた。
平家先生を訪ねるようにって言われたけど、どこだろう。
「あのー、すいません」
すれ違うナースを何気なく呼び止めて、フリーズしてしまった。
大輪の花を宿したような瞳に、吸い込まれそうになる。
「先生?」
えーと、何聞きたかったんだっけ?
その瞳が一瞬私の左胸に落ちて、質問より先に答えをくれた。
「あ、平家先生なら、あちらの部屋におられますよ」
我に返って、同じく左胸の名札を確認する。石川さん、か。
「今日から、よろしくお願いします」
「あ、はい、こちらこそ」
軽く会釈なんかして、教えてもらった部屋の扉を目指す。
ドキドキしてるのは、きっと今日が初日だからだ。きっとそうだ。
平家先生に一通りの説明を受け、朝礼でスタッフに紹介される。
あ、石川さんだ。居並ぶ数人のナースの中で一人だけその笑顔が
浮かび上がって見えるのは、名前を知っているからだ。きっとそうだ。
私は主に外来を手伝う。シフト表をもらって、真っ先に石川さんと一緒に
仕事する日を確認したのも、名前を知っているからだ。きっとそうだ。
- 121 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)01時00分18秒
- 今日こそ誘おう。今日こそは。同じシフトの日は朝からそう決意する。
はぁ〜、なんでこんなに気合をいれないと誘えないんだろう。
3ヶ月なんて、あっという間に過ぎてしまった。
今日で、最後の日。同じ病院にいるとはいえ、もうあまり会うことも
なくなるだろう。今日こそ誘おう、今日こそは。・・・今日こそは。
「・・・石川さん」
「えっ、あ、はい」
えーっと。まずは挨拶挨拶。
「三ヶ月間、お世話になりました。いろいろフォローしてもらって。
おかげで何とか乗り切れました。ありがとうございました」
普通に言えた、よな。
「いえ、こちらこそお世話になりました。あの、お疲れ様でした」
とんでもないです。で、本題。
- 122 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)01時02分11秒
- 「あの、石川さんは、今夜お暇じゃないですか?」
石川さん、固まってる。ダメか。遅かったか。
「あ、予定、ありますよね。土曜日ですもんね」
「いえ、あの暇です。空いてます空いてます」
え、マジデジマ?よっしゃ、押せ〜!
「・・・、もしよかったら、お世話になった御礼に一緒に食事でも、って
思ったんですけど・・・」
あの瞳を見開いて、石川さんは黙って何度も頷いている。
「6時でいいですか?」
確かめて待ち合わせ場所を伝えても、やっぱり頷いている。
いいや、否定じゃない。
「じゃ、あとでね」
時は満ちた。ん?私は、なぜこんなに張り切っているんだろう。
ナースと一緒に、食事するだけだっちゅうに。
- 123 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)01時03分22秒
- 待ち合わせ場所に30分前について、読みかけの本なんぞ開いてみる。
目は、習慣で活字を追う。けれど、脳までは届いてこない。
矢口さんの店に行くしかないよな。
行ったことないけど、だいじょうぶだと思う。
矢口さんはああ見えてとても繊細な人で。だから接客に向いてるし、
向いていない。でも、胃を悪くして病院に来る回数は減ったな。
いい傾向だ。病院なんて開院休業が一番いい。
うー、寒い。室内にすればよかった。違う、早く来すぎだよ。
私は、ポケットの中のカイロを握り締めた。
ドキドキしながら、誰かを待つのなんて、久しぶりだ。
「すいません、お待たせして」
待ち人現る。私はさらにカイロを強く握る。
「ううん、全然。お腹、空かせてきてくれた?」
笑顔で頷く石川さん。鼓動が早まったのは、なぜだろう。
「好き嫌いとか、ある?」
「いえ、特にないです」
「そう、よかった」
少し遅れて付いてきてくれる石川さんに、歩調を合わせる。
実は地図でしか確認してないから、道がわからないんだけど、少しくらい
迷っても構わない。ずっと隣を歩けるのなら、たどり着かなくてもいい
ぐらいだ。
- 124 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)01時04分59秒
- 幸か不幸か、行く手に看板が見えてきた。
『RISTRANTE M』
すげーかっけー店じゃん。
「ここなんですよ」
来たことないけど。そう告げられた石川さんの顔に一瞬戸惑いが浮かぶ。
だいじょうぶ、きっとだいじょうぶだから。心配しないで。
「よっすぃ〜!やっと来てくれたんだぁ!」
一歩店内に入ったとたんに矢口さんの声がした。
「矢口、ずっと待ってたんだよぉ〜」
矢口さんが抱きついてくる。
あははは、ゴメンなさい。でも一人で来るような店じゃないでしょ?
「ちょっと矢口さん、いいんですか、そんな大きな声出して。ほかのお客さんの
スープが波立ちますよ?」
さりげなく体を離しながら、聞いたことのあるセリフを言ってみた。
「まだどなたもいらしてませーん」
そりゃ、そうでしょうよ。いたら素で恥ずかしいよ。
矢口さんが、私越しに石川さんを覗く。
「いらっしゃいませ〜」
即座にまた私に隠れる。
「なになによっすぃ〜、彼女連れ〜?可愛い人じゃん」
小声で言っても石川さんに筒抜けなんだよ。わざとでしょ?
「何言ってんすか矢口さん。お腹減ってんすよ、二人とも」
「は〜い」
- 125 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)01時06分24秒
- 石川さんを促して、矢口さんの後を追い、ようやく席に着く。
料理は任せてくれるというので、矢口さんと適当に相談して決めた。
といっても私もほとんど矢口さんに任せたのだけれど。
「ゆっくりしてってね〜、よっすぃ〜に、石川さん」
小さく手を振りながら、弾むように矢口さんは去っていった。
知ってる人がいる店でよかった。矢口さんありがとう。
「元患者さんなんですよ、矢口さん。絶対来てね、って何度も言われてて。
でも、連れ、いないと、ひとりじゃねぇ」
予定ないって言ってたけど、最後だから無理してくれたのかもしれない。
「すいません、つき合わせちゃって」
「よかったんですか?私なんかが相手で」
「石川さん、が、よかったんです。石川さん、と、来たかったんです」
冗談めかしたけれど、本心だった。
「またぁ〜」
やっぱり、その笑顔に、しばし引き込まれてしまう。
笑顔が大事なのは、ナースも医者も同じ。
病気を治すのは、医者じゃなくて患者さん自身だから。
私たちは、手伝うだけ。誰だってにこやかな協力者に心を許すだろう。
石川さんの笑顔は、いつも私を初心に戻してくれた。
- 126 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)01時07分32秒
- お皿を二つ、小さな矢口さんが運んで来てくれる。
一幅の絵のような、鮮やかな前菜。おいしそうだ。
空腹は、最高のソース。そして、きっと好きな人も。
そうだよな、やっぱりそうなんだ。好きなんだよ、石川さんが。
友達以上の感情が、すでに芽生えてしまっている。
だけど、二人きりで食事するなんて、きっと最後だろう。
だから今夜を、存分に楽しもう。
たとえ届かぬ思いでも、せめてこの一瞬が永遠であるように。
- 127 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)01時08分45秒
- 矢口さんに見送られて店を後にする。
石川さんが隣を歩いているだけで、目に映る見慣れた景色が、新鮮に映る。
このまま道路がねじれて、メビウスの輪のようにならないものか。
送っていくよ、と、永遠を数分伸ばして、自分の家を通り越した。
他愛無い話をしながら、公園を横切る。音もなく枯葉が降ってくる。
石川さんといた秋が、もうすぐ終わってしまう。
「先生」
「ん?」
「先生のポケット、何が入ってるんですか?」
何って、なんで?
「いつも、手を、グーにして入れてるじゃないですか。だから何か・・・」
「ああ、・・・よく見てるんだね」
私は思わず立ち止まった。
誰かに指摘されるのも、誰かに話すのも、初めてだ。
「あっためてるだけですよ、手を」
握手の形で右手を差し出すと、石川さんはそれを握ってくれた。
冷えている指先。ずっとこうして暖めてあげたい。
だけど、それは、きっと私の役割じゃない。
だから、早く送り届けてあげよう。誰かが帰りを待つ家に。
はたまた、誰かの帰りを待つ家に。そっと手を離し、歩き出す。
- 128 名前:第一章 万里の道を越えて 投稿日:2003年03月04日(火)01時10分11秒
- 「病院に来るのは、病気の人ですよね」
「はい」
「誰しも不安なわけですよ」
「はい」
「冷たい手より、あったかい手で触られた方が、少しは安心すると思うんですよ、
患者さん。だから、コレ」
カイロを掴んだままの手をポケットから出した。
ほんとうはこのまま手渡してあげたいけど、わざとらしいよな。
「未熟者だから、こんなことしか出来ないけど、せめて、ね?」
恥ずかしさを笑ってごまかして、石川さんから視線を逸らし、前を見て歩く。
いつの間にか、隣の足音がフェードアウトしている。
「どうしたの?石川さん?」
「いえ、なんでもないです。」
それならいいんだけど。でも、ものすごく複雑な顔してるけど、
何か変なこと言ったかな?だいじょうぶなんだよね。
再び並んで歩き出した私たちの頭上で、三日月が笑っていた。
- 129 名前:名無しGT 投稿日:2003年03月04日(火)01時11分45秒
- えーと、唐突にはじまった感は否めないですよね。
黄板倉庫か、もしくは「ナース石川企画」でGoogle検索してトップにくるページ
(こちらは整形済みです)に、「空の手のひらの中」という話がありまして。
それの、裏側の話が、この「WITH」です。
黙ってて下さい、なんて言いながらこんなことしてゴメンなさい。
あーもうほんとにゴメンなさい。許してください。
次回第二章です。ほんとにごめんなさい。
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月04日(火)03時53分14秒
- あなたの書くお話を楽しみにしてる人は、きっとたくさんいます。私の他にも。
だからそんなに謝らないで〜。(^^;
- 131 名前:名無しi 投稿日:2003年03月04日(火)11時19分28秒
- うわー、すげぇうれしい。
また素敵な物語が読めることを作者様にマジ感謝。
ありがとう。ありがとう。
- 132 名前:116 投稿日:2003年03月04日(火)13時35分09秒
- 新作(と私は思ってます)、始まりましたね。
更新、お疲れ様です。
ついに、ついに・・カミングアウトされましたかw
あの作品は本当に大好きなので、いつの日か続編を・・なんて勝手なことを
願っていたのですが、まさかまた読めることになるとは・・
うれしいです。
今度は吉澤先生視点のアナザー・ストーリー、これまた素敵ですね。
実は私、このお話の中の中澤先生の密かなファンでもありますw
「空の手のひらの中」と「銀河鉄道の夜」。
どちらの作品も大いなる自然の中に人は生かされている・・そんなことを
実感させられますね。
次回更新ものんびりとお待ちしております。
- 133 名前:第二章 二隻(にそう)の舟 投稿日:2003年03月04日(火)21時28分00秒
- 行く先に石川さんのアパートが見えてきた。
何の変哲もない、でも石川さんが暮らしているとわかったとたん、私の中で
とてつもなく変哲のある趣へと変わった、アパート。
少しずつ、今宵が終わりに近づいていく。この思い、打ち明けてしまおうか。
「言っちゃえよ」「おやめなさ〜い」
歩を運ぶごとに、心の中で、悪魔と天使が言い争う。
結局悪魔が勝ったのは、酒のせい。楽しくて、飲みすぎたから。
いや、違う。ただ、伝えたいんだ。万里の道を越えて、出会えたんだから。
「あの、ね、石川さん」
「はい?」
「その、酒の勢い借りて言うわけじゃないんですけど・・・」
やっぱやめとこう。こんなこと言われたって迷惑なだけだよ。
いや、でも、もう一緒に仕事することもないだろうし。
迷う私の背中を、枯葉を運んで過ぎてゆく風が押した。
「えっと、好き、なんですよ、石川さんのことが。あの、つまり、変な意味で」
「へっ?」
- 134 名前:第二章 二隻の舟 投稿日:2003年03月04日(火)21時29分46秒
- 固まってしまった石川さんに、一気に言い訳をまくし立てる。
「ごめんなさい、びっくりしたよね。あの、気にしないで。ただ、伝えたかった
だけだから。もう、あんまり会えなくなるし、だから、あの、好きだって、ただ
言っておきたかっただけなんですよ。だから、あの、忘れて下さい」
やっぱり、言わない方がよかったかもしれない。
言わなければ、少なくとも友達ではいられたはずだ。
「何をどうしようとか、別に何も思ってないですから。だから今言ったことは
本当に忘れてください。でも、あの、もし嫌じゃなければ、また時々、ご飯、
誘っていいですか?あの、他の人も一緒で」
やっと頷いてくれた。混乱させてゴメン。ゴメンね。
ドアの中に消える石川さんに手を振って、後悔を道づれに、歩くこと数分。
家にたどり着く。風呂入ろう。そして全てを水に・・・、流せないよな。
仕方ない。もう取り消せないし・・・。はぁーーーーーーー。
シャワーを浴びて、苦い思いを枕に、無理矢理眠る。
今夜の夢見は、きっとものすごく悪いだろう。
- 135 名前:第二章 二隻の舟 投稿日:2003年03月04日(火)21時31分38秒
- 眩しい太陽が恨めしい。すべてが夢だった、なんてことがあるはずもなく、
普通に朝が来た。ポケットに、矢口さんの店の領収書と、冷たくなった
カイロ。まとめてくずかごに捨て、新しいカイロの封を切る。
行かなきゃ。今日から内科オンリー。平常営業。
顔さえ合わさなければ、あとは時間が解決してくれるだろう。
このまま時間が経てば、石川さんに負わせたのはかすり傷ですむ。
だけど、好きなことには変わりはない。たぶん、いくつ季節が過ぎても。
いつか時がきたら、謝ろう。
「あのときは変なこと言って、ゴメン」って。
3ヶ月前と変わらず出勤すると、早速仕事が降ってきた。
「小児科でナース倒れたって。あんた行ってきて。顔売れてるしな」
えーとあの、いや、はいわかりました。行ってきます。
昨日元気そうだったし、石川さんじゃないだろう。だいじょうぶ。
教えられた部屋のドアを開けると、一番会いたくて、一番会いたくない
人が、ベッドに寝かされていた。
「倒れたの、石川さん、だったんだ?」
- 136 名前:第二章 二隻の舟 投稿日:2003年03月04日(火)21時33分55秒
- とりあえず、診察。平常営業。触診。診察だよ、診察。
熱は少し高いけれど、どこも腫れていないし、たぶん心配ないだろう。
「もしかして、昨日から辛かったの?ごめんね、無理に誘ったりして」
何か言いたげな石川さんを、抱き起こす。ちょっと失礼します。
聴診。心拍数が、発熱を差し引いても以上に高い。
何でだ?あれ?私がおかしいのか?
手首で脈拍をとってみる。やっぱり早すぎる。
「先生。先生が触ってるから、だからだよ」
「え?何?」
やっと聞き取れるほどの小さな声。
「先生が好きだから、ドキドキしてる」
びっくりする私のそれに触れた石川さんの唇は、熱で乾いていた。
今起こっていることを、そのまま理解していいんだろうか?
請われるまま抱きしめると、石川さんは全身を私に預けてくれた。
だいじょうぶ、これなら、絶対にすぐに熱は下がる。
大事なことは、患者さんに信用してもらうこと。
中澤先生から何度も何度もそう言われ続けている。
とりあえず、石川さんを寝かせて、電話で柴田さんに指示を出す。
あとは眠って休んでいればいいだけだから、任せてしまおう。
- 137 名前:第二章 二隻の舟 投稿日:2003年03月04日(火)21時35分46秒
- 日付が変わる少し前、仕事を終えた。石川さんが寝ている部屋へ向かう。
今夜はずっと付き添ってあげるつもりだった。その告白に関わらず。
もちろん、石川さんであるかどうかにも関わらず。嘘じゃないよ。
だって、目が覚めたときに一人だったら、心細いだろうから。
ベッドの脇の、ソファに横になる。少し、仮眠しよう。
浅い眠りの中で、夢を見た。
月夜の海に漕ぎ出していく、二隻の舟。
木っ端同然の頼りない舟が、それでも力強く海を渡ってゆく。
物音に起き上がる。石川さんが目を覚ましたらしい。
額に触れる。平熱、あっても37℃ちょいってとこか。
「よかった、だいぶん熱下がったね」
「すいません迷惑かけて。あの今、何時ですか?」
もらい物のタグホイヤーが、私の左手首で1時55分を指している。
「2時かな。たまたま当直だったから、気にしないで」
「恥ずかしいです。プロ失格ですよね」
ううん、そんなこと、ないよ。
「たまにはゆっくり休むのもいいじゃない。いつも一生懸命なんだし」
一生懸命で、いつも笑顔。これって凄いことだよ。時々、空回りもしてるけど。
- 138 名前:第二章 二隻の舟 投稿日:2003年03月04日(火)21時38分16秒
- 「何か飲み物持ってくるから、その間にもう一回着替えてて」
そう言って立ち上がりかけると、石川さんの頬が、みるみる朱に染まった。
薄暗がりでも見て取れるぐらいに。今考えていること、大体わかる。
「着替えさせたのは、柴田さんだから、だいじょうぶだよ」
そう言い残し、あからさまに安心しているであろう姿を想像しながら、
自販機のコーナーへ向かう。にやけてしまう私は、悪趣味を自覚する。
ドアの前で、唇を引き結んでから、部屋に入った。
少しずつ水分を補給する石川さん。幻じゃないことを信じたい。
今朝の出来事は夢じゃなかった、そう断定することにしよう。
「出来るだけここにいるから、安心して朝まで寝ればいいよ」
静かに、石川さんが横たわる。未だ朱を残す、その頬に触れる。
潤いを戻した唇も捨てがたかったけれど、私はそっと額に口づけた。
閉じられた瞳と、穏やかな呼吸。眠り姫を起こすわけにはいかない。
今夜も同じく、夜空で月が笑っている。
あの二隻の舟を照らしているのも、同じ月。
二つの舟は、目指した場所へとたどり着けただろうか。
- 139 名前:名無しGT 投稿日:2003年03月04日(火)21時42分08秒
- >130 名無し読者様
ありがとうございます。必要以上に謝ったら罰金、ということに
していただけると、すぐに矢口さんの店に行けると思いますです。
楽しみにしてくださってる方に、今度こそ恥じることのないよう、
精進します。よろしければ今しばらくお付き合い下さい。
>131 名無しi様
こちらこそありがとう。ありがとう。ございます。
またお気に召していただけるかどうか、自信はないですが、完結まで
よろしければ今しばらくお付き合い下さい。
>132 名無し読者様
ありがとうございます。
すでにバレバレだったかとは思いますが、これを出さない限り、皆様に
ご恩をお返しすることは出来ないかと思いまして。
そんなふうに誉めていただけるほどのたいした筆じゃありませんが、
完結まで努力は惜しまないつもりです。
どうか変わらぬお付き合いのほどをお願いいたします。
次回第三章です。おそらく明日ではないような気がします。
皆様本当にありがとうございます。思いがけず高い評価を頂いた表の話に
負けないものになるよう、努力しますので、よろしければ完結まで
お付き合い下さい。
- 140 名前:第三章 砂漠の雨 投稿日:2003年03月05日(水)19時11分27秒
- 石川さん、元気になったかな?あれ以来、会えない日が続いてる。
私、休み、なんだよ、明日。今夜は、ヒサブリに飲もうと思うんだ。
だから、いつもは行かない、酒類を置くコンビニに立ち寄った。
ワインがいいな。あの日を、一緒に食事した日を思いながら飲もう。
レジへと振り返ったとき、石川さんが入ってくるのが見えて、とっさに隠れた。
他意はない。何を買うのか見てみたかった、それだけ。
カゴを片手に、迷わず飲み物のコーナーに向かう。
2リットルのウーロン茶。乳製品のコーナーで牛乳。
卵。それから細々したもの。最後に、雑誌の前で迷う。
ねえ、重いでしょ、そのカゴ。だって完全に買い物の順番、間違ってるよ。
待ってね、今持ってあげるから。それからゆっくり、雑誌、見ればいいよ。
笑いをこらえながら、石川さんが持ち替えようとするカゴの取っ手を掴んだ。
- 141 名前:第三章 砂漠の雨 投稿日:2003年03月05日(水)19時15分07秒
- 「先生!?」
「ココ、よく来るの?」
石川さんは、混乱しながら、あのときの礼を述べてくれる。
「中澤先生に聞いたよ。わざわざありがとうね。お菓子、みんな喜んでた。
すっかりよくなった?」
出張から帰ったら、すでに私の分はなかったってことは、内緒にしておこう。
内科にはピラニアがいっぱい。辻とか、辻とか、・・・辻とか。
「はい、本当にありがとうございました。あの、カゴ・・・」
あ、重そうだから、持ってあげる。デカイから、力あるんだ。
- 142 名前:第三章 砂漠の雨 投稿日:2003年03月05日(水)19時16分54秒
- 「先生は、いつもココですか?」
「ん、いや。明日休みだから、ちょっと飲もうかな、なんて」
誘ってみようか。うちに来ない?一緒にどう?何て言えば一番いいだろう。
「一人で?」
「うん。いつも行くトコは、お酒置いてないんですよ」
今度からいつもココに来ようかな。まあ来るな。いや、そうじゃなくて。
「石川さんは、明日早いの?」
「いえ、休みなんです」
休みなんだ。偶然か?いや、運命でしょう。そう、Destiny。
「そっか。もしよかったら・・・、一緒にうちで飲みませんか?」
笑顔で頷いてくれた石川さんに安堵して、重い荷物を石川さんの家まで
運ぶことにする。手なんかつないで歩いたりして。
今夜は、きっと楽しい夜になる。そんな気がする、帰り道。
- 143 名前:第三章 砂漠の雨 投稿日:2003年03月05日(水)19時18分20秒
- リビングの二人を、緩やかな時の流れが包んでくれる。
少しずつ少しずつ、会えなかった時間が埋まってゆく。
ねえ、石川さんは、どうしてた?
「がんばって生きてた?」
匂い立つ髪に触れる。石川さんが、ふいにうつむく。
「うん。会いたかった」
儚い肩を抱き寄せて、その瞳からあふれる涙を拭う。
私も、すごく、会いたかったよ。
ゴメン、ちゃんと連絡すればよかったね。
ねえ、泣かないで。会えなかった分、今夜はずっと・・・。
「泊まって、行く?」
一緒に、過ごそう。
- 144 名前:第三章 砂漠の雨 投稿日:2003年03月05日(水)19時20分21秒
- 背中に回された腕に力がこもって、石川さんが黙って頷いた。
しなやかな肢体を抱き上げる。一瞬にして、石川さんが強張るのがわかる。
どうすればいいんだろう?
石川さんは、はっきり怯えている。
もしかして、そんなつもりじゃなかったのかもしれない。
私は・・・。私はただ、石川さんを抱きしめたい。
それなら許されるだろうか?拒まれてもいい。触れたい。触れていたい。
不安そうに横たわる石川さんをそっと抱きしめて、柔らかな髪を撫でる。
そんなに、怖がらないで。石川さんの嫌がること、したりしないよ。
原始、人間は二人で一人で。その組み合わせは、男女、男男、女女。
そして今も、かつて自分の半身だった人を捜し求めているという。
腕の中の石川さんがこんなに愛しいのは、かつて二人で一人だったから。
錯覚でもいい、好きだ。欲しい。けれど、今夜はこのままでいい。
頬に触れ、そう言うと、石川さんの唇が動いた。
この間とは違う、その瞳と同じ潤いをたたえた唇。
「梨華、です」
- 145 名前:第三章 砂漠の雨 投稿日:2003年03月05日(水)19時22分18秒
- 何が起こったのかを、私は理解した。
夢中で抱きしめて、名前を呼ぶ。そっと口づける。深く口づける。
触れ合った場所から、二人が一つに溶ければいいのに。
だって梨華ちゃん以外に、何もいらない。
私は、旅をする。次第に艶を増す、梨華ちゃんの声に導かれるまま。
豊かな裾野を持つ山の頂。茜さす雲の上。風そよぐ草原。
泉湧くオアシス。木漏れ日あふれる森の中。暗くて深い海の底。
時に地を這い、時に海を駆け、時に空を舞う。
私は、乾いていた。梨華ちゃんに乾いていた。
砂漠の雨のように、梨華ちゃんが私に染み渡る。
やがて、まもなくの旅の終わりを、梨華ちゃんが示す。
そして、着陸成功。給水完了。
- 146 名前:第三章 砂漠の雨 投稿日:2003年03月05日(水)19時23分56秒
- 心地よい疲れと、立ちのぼる梨華ちゃんの匂い。
押し寄せる眠気に勝てず、梨華ちゃんを置いてまどろんでしまった。
また、同じ夢を見る。
月夜の海に浮かぶ二隻の舟。二つの舟を物理的につなぐものはない。
互いの意思のみを拠り所に、並んで同じ陸を目指す。
乗り組んでいるのは、誰と誰なのか。二隻の舟が水平線に溶けてゆく。
短い眠りから醒めると、私は梨華ちゃんの腕の中にいた。
ゴメンね、一人にして。ありがと。よく寝れたよ。
もう一度、梨華ちゃんを腕にする。腕の中で、つぶやき声がする。
「先生、疲れたよね?」
ん?いや、そんなことないこともないけど、どうした?
二人きりなのに、内緒話のように小さな声が、私を再び旅へといざなう。
私たちは、また、旅をする。二人で旅をする。
今度は、流れてゆく風景を楽しんだりしながら。
私は、探していた。梨華ちゃんを探していた。
やっと、見つけた。だから絶対に、離さない。離さないから。
- 147 名前:名無しGT 投稿日:2003年03月05日(水)19時30分57秒
- 更新終了です。今日できちゃいました。
次回、第四章。今度こそ明日じゃないかもしれない、と思います。
- 148 名前:132 投稿日:2003年03月05日(水)23時39分33秒
- 更新、お疲れ様でした。
石川さんは波間に漂い、先生は旅をする・・
とても美しくて素晴らしい表現だなぁって思いました。
展開は分かってるのに、でもすごく新鮮な感覚です。
ところどころに小ネタが仕込んであったり(w
次回更新、まったりとお待ちしてます。
- 149 名前:第四章 HALF 投稿日:2003年03月06日(木)18時44分51秒
- カーテンの隙間から差し込む朝の日差しが、二人を起こした。
「ねえ、どっか出かけようよ。すごい天気いいよ」
まだ眠そうな梨華ちゃんが飛び起きる。デート日和だもん、ね。
準備してもらったから、と言って後片付けを引き受けてくれた梨華ちゃんを
待ちながら、昨日買った情報誌をチェックする。
戻ってきた梨華ちゃんが、向かい合わせに座る。
えーと、それだと一緒に本、見づらいと思うんだけど。
梨華ちゃんは、本じゃなく私を見ているけれど、気づかないふりをした。
「吉澤先生って、二人いるの?」
「いや、一人だよ」
なぜだろう、ものすごくイヤな予感がするのは。
「ふ〜ん」
何?どしたの?ねえ?
「じゃあ、看護婦さんのおしり撫でたりするエロ旦那って、先生なんだ」
「え!」
なんでそんなこと、知ってるんだよ・・・。
「誰と誰押し倒したの?」
「・・・・・・・柴田か?柴田だな?余計なこと言ったヤツは」
しぃーばぁーたぁー。あのとき任せるんじゃなかった。
- 150 名前:第四章 HALF 投稿日:2003年03月06日(木)18時45分53秒
- 「せ〜んせっ!」
肩を叩かれて、無意識にすばやく正座していた。
「してないよ!」
正確に言うと、してたんだけど。
「梨華ちゃんに会ってからは、してない」
ねえ、信じて。
「何をしてないの?」
「何もしてない」
「ほんと?」
ほんとほんとほんと。
梨華ちゃんはうつむいてこぶしを握りしめている。
「怒ってる?」
そのまま黙って頷く。
「ねえ、どうしたら、許してもらえる?」
心なしか、小刻みに震えているようにも見える。
「じゃあ、世界のジョーク、やって」
なんだ・・・。笑い、こらえてたのか。
「もしかしてからかってるのかぁ〜?」
梨華ちゃんをつかまえようとした両手がさえぎられ、私の胸に
梨華ちゃんがなだれ込んできた。
受けとめて、そのまま床へと押し倒される。
- 151 名前:第四章 HALF 投稿日:2003年03月06日(木)18時47分58秒
- 「せっかくカッコつけてたのに、柴田のヤツ・・・」
「エロ旦那って言ったのは、中澤先生」
なぬぅ〜。中澤先生まで・・・。
いや、まあ身から出た錆なんだけどね。
梨華ちゃんが胸元でクスクス笑っている。
私は、陽光を照り返して輝くその髪を梳く。
梨華ちゃんが、私をよじ登ってきた。
耳元で、鈴の音のような声がする。
「どんな先生でも、好きだよ」
「ありがとう」
「だから、私の前では我慢したり、無理したり、しないで」
出会うまで、どうやって生きてきたのか、忘れちゃったよ。
「うん。・・・あの、ごめんね」
「本当に、怒ってないから」
梨華ちゃんしか、いらない。言葉の代わりに抱きしめる。
- 152 名前:第四章 HALF 投稿日:2003年03月06日(木)18時49分17秒
- 大昔、ね。
「私は、梨華ちゃんの半分、だったと思うんだ」
思い上がりで神の怒りを買うまで、人は二人で一人の形をしていた。
能力を半分にするため二つに離され、人は皆、今もなおその半身を捜して、
彷徨っているという。
「プラトン?」
「うん。『饗宴』だったかな」
だってさ、そうとでも思わないことにはさ。
「こんなに梨華ちゃんを好きな理由に、説明がつかないんだよ」
梨華ちゃんが、またクスクス笑う。
「先生」
「はい」
「言ってて、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいです」
耳元でまた、鈴が鳴る。
だいじょうぶ、恥ずかしいことではないです。
「だって私も、そう思ってるから」
抱きしめる腕に力をこめる。梨華ちゃんの向こう、窓越しに見える
青い空。この空の下を、手を握って歩こうか。なんならローマまで。
梨華ちゃんには、きっと太陽が似合うよ。
触れ合う唇にありったけの思いを乗せて、私は梨華ちゃんに愛をそそぐ。
梨華ちゃんを、私で満たしたい。
私が、梨華ちゃんで満たされているのと同じように。
- 153 名前:名無しGT 投稿日:2003年03月06日(木)18時51分29秒
- 更新終了。今日もできちゃいました。
>148 名無し読者様
いや、直接表現する力がないだけなので、気に入っていただけたようなら
幸いです。ありがとうございます。
そして実は、小ネタを思いついたときが一番イキイキしてたりします。
この後も同じニオイしかしないのですが、もうしばらくお付き合い下さい。
よろしくお願いします。
次回、第五章です。
ここを書き終えてしまったことを淋しいと思うのは、
恥ずかしいことではないです。たぶん。
- 154 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月06日(木)21時12分48秒
- 第四章はきらきらの陽射しの中の二人が見えてきて、
読んでいてとても気持ちがいいのです。
他の章も好きなんですけどね。
- 155 名前:第五章 永久欠番 投稿日:2003年03月07日(金)07時01分41秒
- 「ローリエがない!」
買い物の成果とキッチンにあるものを確認しながら、梨華ちゃんが言った。
久しぶりに休日が重なって、シチューを作ろう、っていう話になって。
そんなに料理上手じゃないのに、変に完璧主義な梨華ちゃんの機嫌を
損ねないように、私は一人でスーパーに戻る。
ローリエなんて、入れても入れなくても同じだよ、なんて一切思ってない。
そんなこと全然、思ってもいない。
帰りがけ、商店街の小さな本屋に、アイツが読みたがっていた本を
見つけた。たぶん、このローリエの出番は、もう少し先だろう。
本を届けてから帰っても、きっと充分間に合う。
一定時間義務付けられた仰臥位を忠実に守って、アイツは天井を見ていた。
さっき調達した本で、その視線を遮ってやる。
ものすごく喜んでくれた。こっちまで嬉しくなるぐらい。
「一日、5ページずつしか読んじゃだめだかんな」
「えー、少ないよお」
「だーめ。少しずつ大事に読むのもいいもんだよ」
「・・・サディスト」
「そうだよ。知らなかった?」
- 156 名前:第五章 永久欠番 投稿日:2003年03月07日(金)07時03分03秒
- お母さんが運んできた昼食を汐に、私は部屋を辞した。
一気に読ませてやりたい。でも医者として、それは出来ない。
時として、読書さえアイツには毒になるから。
いったいどうすることが一番アイツのためになるのか、私はときどき
わからなくなる。
遅ーい!なんてちょっと怒られたけど、事情を話したらすぐにわかって
くれたし、予想通り、この葉っぱの出番はまだまだ先だった。
作って、煮込んでしてたら、何だかお腹いっぱいになって。
これは明日一緒に食べよう、なんてその夜はお茶漬けを食べて。
何もかも、いつもと変わりない一日だった。
昨日はおまえ、けっこう元気だったじゃねーかよ。
なのに今夜、あっけなく遠くへ行ってしまった。
- 157 名前:第五章 永久欠番 投稿日:2003年03月07日(金)07時04分22秒
- 気休めにしかならないようなことを、考えてみる。
ご家族がみんな、間に合ってよかった。
別れ際に意識が戻って、さよならを言えた。
病院、嫌いじゃないって言ってくれた。
それから、それから・・・。
ねえ、生まれてきてよかったって思うこと、あった?
ねえ、もっと私に出来ること、なかった?
神様。意地悪すんなよ。なんでだよ。なんでアイツが・・・。
「今日は、もう、帰り」
中澤先生に促され、家に帰るアイツを見送ってから、家路につく。
神様お得意の気まぐれに、さすがの中澤先生も沈んでいる。
耐えられない悲しみに、確かに何医者もなかった。
なんで、今日は、こんなに家が近いんだろう。
立ち直る暇なんて全くなかった。なんで、なんで・・・。
梨華ちゃんには、こんな姿、見せたくないな。
でも今一番そばにいてほしいのも、梨華ちゃんなんだ。
- 158 名前:第五章 永久欠番 投稿日:2003年03月07日(金)07時05分44秒
- アパートの前で、灯りのついた我が窓を見上げる。
ドアを開けた後のことは、あまりよく覚えていない。
梨華ちゃんの顔を見たとたん、あふれそうになった涙を、懸命に
こらえて、でも、こらえ切れなくて。
梨華ちゃんに叱られながら、ご飯を食べて。
悲しくたって、空腹は覚える。そして明日は待ってくれない。
シャワーを浴びて、梨華ちゃんに膝枕してもらいながら。
ぼんやりアイツの、私への最後の言葉を思い出していた。
苦しい息の下で、途切れ途切れに。
「先生ゴメン。約束破っちゃった」
あの本の7ページ目にはさまれた栞が、アイツの言いたかったことを示す。
「先生、ありがとう。先生に会えてよかった」
そして、最後の最後まで懸命に闘って、静かに息を引き取った。
- 159 名前:第五章 永久欠番 投稿日:2003年03月07日(金)07時06分33秒
- 私を気遣ってくれる、梨華ちゃんの手のぬくもりを感じる。
一度も、好きな人と過ごす夜のないまま、逝ってしまったアイツ。
「梨華ちゃん、ごめんね」
「そんなこと言うと、ほんとに怒るよ」
「うん、ごめん・・・あ」
安らかだったその顔は、きっとおまえの来し方を現している。
やい、神様とやら。私の大事な弟を可愛がらなかったら、承知しねえぞ。
- 160 名前:名無しGT 投稿日:2003年03月07日(金)07時09分48秒
- 更新終了です。
かけがえのある人なんて、きっと、いません。
人は、永久欠番。
>154 名無し読者様
ですよね。なんて言ってみたりして。すみません。
この場面、本当に好きなんです。ひとつ残念なのは、書いているのが
自分であるということ。伝えきれていない気がしてしまいまして。
お褒めのお言葉、ありがとうございます。
もうしばらくおつきあいよろしくお願いします。
次回、完結。おそらく今夜中にお届けできると思います。
- 161 名前:最終章 WITH 投稿日:2003年03月07日(金)21時05分32秒
- 遅くなっちゃって、ゴメ、えーっとこの場合は、いいんだよな。
謝らなくてもいいのにゴメンって言ったら、怒られちゃうんだよ。
遅くなっちゃって、ゴメン。どうしても一緒に来たい人がいたからさ。
隣にいる人、知ってるでしょ。小児科の、石川梨華さん。
えーっと、まあ、そういうことだから。よろしく。
梨華ちゃんを紹介してから、あの本のあらすじを聞かせてやった。
そっちに行くとき、持ってってあげるよ。
忘れなかったら、だけど。まあ、気長に待ってて。
そっちにも、こんな可愛い子、いる?まあ、そう簡単にはいないよな。
でも、きっとどこかでおまえを待ってる人がいるよ。いつか必ず見つかる。
だって、出会いも別れも、空の手のひらの中にあるんだ。
神様はきっと、これ以上おまえに意地悪したりしない。
- 162 名前:最終章 WITH 投稿日:2003年03月07日(金)21時06分44秒
- 丘を越え、海へと、時折冷たい風が吹きおろす。
北風が、妬いているのかもしれない。
そんなことしたって、よけいくっつくだけなのに。
「寒いけど少し、海、見て行こうか」
丘を中腹まで下り、背中から梨華ちゃんを包んで座った。
風よ、吹け。見せつけてやる。
どんな力を持ってしても、二人を分かつことは出来ないんだって。
頬を寄せ、海を見る。二隻の舟が溶けていったのと同じ、水平線。
あの舟は、今頃この海のどこにいるのだろう。
二隻とも、無事でいるだろうか。
- 163 名前:最終章 WITH 投稿日:2003年03月07日(金)21時07分30秒
- 辺りを見回す。よし、誰もいないみたい。
「ねえ、梨華ちゃん。キスしていい?」
いいよね?
「ダメ」
んあ、ダメなのか。・・・なんで?
「だって・・・」
ほんの少し私のほうに顔を傾けながら、梨華ちゃんが言う。
「たまには、奪ってほしいから」
よぉし。渾身の力で、私は梨華ちゃんを抱き上げた。
丘の上のアイツを見上げる。心配なんて、しなくていいからなー!
悪いけど、おまいはそこでじっと待ってれ。
おまえの分まで、私が幸せになる。
おまえの分まで、私が梨華ちゃんを幸せにする。
- 164 名前:最終章 WITH 投稿日:2003年03月07日(金)21時08分46秒
- 一つになりたい、なんて思ったけれど、やっぱヤだ。
だってそんなことしたら、キスが出来なくなる。
二隻の舟で月夜の海を渡るのは、きっと私と、梨華ちゃん。
私の首につかまって、アイツを見ている梨華ちゃんの名前を呼ぶ。
初めての夜以来の、呼び捨て。
梨華ちゃんが怯んだ隙に、その唇を掠め取る。
「へへ、やった」
作戦大成功。私の勝ち。ちょっと悔しそうな梨華ちゃんと、並んで立つ。
もう一度、丘を見上げる。そのうち、そっちでダブルデートしよう。
百年以内には、必ず実現するさ。だから、待ってて。
- 165 名前:最終章 WITH 投稿日:2003年03月07日(金)21時10分18秒
- 視線が交わる。
抱き寄せて、口づける。
口づけて、抱きしめる。
こみあげる愛しさに、抗うことができない。
「ねえ、梨華ちゃん」
強く抱きしめる。一つじゃないから、こうして抱きあうことができる。
「ほんとうは今、ここで押し倒したいけど」
さすがにそういうわけには、いかないから。
「大急ぎで家に帰って、続き、しよう」
ヨーイ、ドン!手をつないで、走る。走りながら、思う。
何があっても、この手を離さない、離したくない。
だって梨華ちゃんといると、幸せなんだ。
辛くても淋しくても悲しくても、幸せ。ねえ、わかる?
ひとりでも生きていける。それも、それなりに楽しいだろう。
けれど、ひとりぼっちで笑うのは、難しいよ。だから。
WITH その後に、梨華ちゃんの名前、綴っても、いい?
< WITH 〜the other side of SORATE〜 END >
- 166 名前:With? 投稿日:2003年03月07日(金)21時11分53秒
- 完結しました。
同じニオイしか漂わない妄想に、最後までお付き合いくださった皆様、
ほんとうにありがとうございます。心より感謝申し上げます。
例によって、ネタ元報告なのですが、これまた例によってパクリ倒し。
タイトル、各章タイトルすべて、既出の御大の曲からフレーズを拝借。
「with」「二隻の舟」という曲からは、イメージも。
あの曲はいったいどこまで売れ続けるんでしょうね。ほんと、スゴイ。
「空の手のひらの中」という話に、長い長いあとがきをつけたのは、
もう二度と書くことはないし、書けないだろう、だから、逃げよう。
そう思ったからでした。
なのに、拙いながら、性懲りもなく私は書き続けています。
まず、自分自身が書きたいから。
- 167 名前:With? 投稿日:2003年03月07日(金)21時12分49秒
- そして。
私の愚行を許し、さらに励まして下さった皆様に。
私に呼びかけ、全裸で踊って下さった社長に。
何とか、出来得る限りのご恩返しをしたいから。
これですべてお返しできたとは、露ほども思っていません。
少し休んで、また書かせていただくつもりでいます。
よろしければ、また、お付き合いください。
これまで励まして下さった方も、見守っていて下さった方も。
お手すきでしたら、何か一言書き込んでいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
またお会いできる日まで、皆様が幸せでありますように。
So Long!
名無しGTこと
名無し空手
- 168 名前:名無し香辛料 投稿日:2003年03月07日(金)22時22分43秒
- 今作品もまた素晴らしかったです。
ずーっとニヤニヤが止まらないといった感じです。
こんな恋をわたくしもしたいという感じです(w
あったかいですよね、空手家さんのお話はどれも。
だから出てくる人物もみんなあったかい。石川さんの柔らかい顔が目に浮かびます。
これからも空手家さんの物語の中で(まあ勿論現実でも)彼女達を幸せにしてやってください。
また、読みたいです。気長に待ってますよ(^▽^)
- 169 名前:72 & 130 投稿日:2003年03月08日(土)00時23分32秒
- 完結おめでとうございます。+お疲れさまでした。
同じニオイしか・・・だなんて。
いいんです。私達みんな、そのニオイに誘われて作者様のスレッドに来てるんですから。
私はこのあったかいニオイが大好きです。
作者様が書き続けているかぎり、またニオイにつられてふらふらと現れますので。
これからも楽しみに&気長に待ってます。
- 170 名前:148 投稿日:2003年03月08日(土)00時25分21秒
- 完結、お疲れ様でした。
吉澤先生サイドでもいろんな想いがあったのですね。
同じニオイ・・この二人ならば全く問題無しです。むしろ大歓迎です。
本当にひとつひとつの言葉がキラキラしていますよね。
ぐっと惹き込まれてしまう・・やっぱり名無し空手さんの世界観が好きです。
これからもぴったり横に張り付いておりますので、隣席をキープさせて下さい。
まずはゆっくりとお休み下さい。
そして、また次回作を楽しみに待つ日々が何と愛しいことか・・
本当にお疲れ様でした。
- 171 名前:169 投稿日:2003年03月08日(土)16時08分28秒
- ご、ごめんなさい。
上げてしまいました。。。m(__)m
- 172 名前:名無し空手 投稿日:2003年04月12日(土)18時17分06秒
- まずはお礼を。
>168 名無し香辛料様
いつもありがとうございます。
「あったかい」というお褒めの言葉をよくいただくのですが、
自分では、機械の不具合を報告するような、味気ない文だな、
なんて思っているので、とても嬉しいです。
これもすべて本物の娘。さんの輝きあってこそ。ありがたいことです。
信仰を持つ知り合いが、「神は、その人が乗り越えられない試練を与えたりしない」
と言ってました。目の前に横たわる難題は、是即ち自らを磨く糧であると。
そうして何かを乗り越えた先に、きっと素晴らしい出会いが待っている。
私は神を持たない身ですが、来し方を振り返ると、当たっている気がします。
若さと石川さんを支えに、今を生きる。その先には、きっと輝くビュテホースター。
これからもどうかよろしくお願いします。
- 173 名前:名無し空手 投稿日:2003年04月12日(土)18時18分14秒
- >169・171 名無し読者様
ありがとうございます。
上げ下げに関しては、お気になさらないで下さい。恥ずかしいだけですので。
読み返すと、いつも思うんですよ。同じニオイしかしないなあ、って。
でも、炊き立てのご飯の匂いに、多くの日本人が夜毎、安らぎを感じるように、
私の中の妄想を、飽きが来ることのない努力を重ねつつ、お届けできたら
なあ、なんて開き直ってみることにしました。
これからもどうぞよろしくお願いします。
>170 名無し読者様
ありがとうございます。
本物の石川さん、吉澤さんを思い浮かべながら、少ない語彙をフル回転させて、
言葉を選んでいます。ですから、そう言っていただけると、嬉しいですね。
そもそも、ジャケ写のキャスティングの妙から私の妄想が始まったわけで。
石川さんがナースだったら、どちらの話もありえず、こうして皆様とお会いする
こともなかった。このことは、何者かに感謝せざるをえません。
隣は相変わらず空きっぱなしですので、これからもどうぞよろしくお願いします。
- 174 名前:名無し空手 投稿日:2003年04月12日(土)18時19分17秒
- イタイ話で恐縮なのですが。
なんというか、このナースなキャスティングに未だ囚われの身でして。
解けない捕縄ならば、いっそ身を任せてみよう。
この一ヶ月で、そう結論付けました。
まだ漠然と脳内にアイデアのみが漂っている感じなのですが、
とりあえず、予告。
- 175 名前:『オサヴリオ〜愛は待ってくれない〜(仮題・大幅変更予定)』 投稿日:2003年04月12日(土)18時21分38秒
- 中澤先生が一人旅立ってから、どれくらいになるだろう。
梨華ちゃんと出会ってからの時間と、ほぼリンクするわけで。
あれから、小さないさかいは人並みにあったけれど、ずっと幸せに
過ごしてこられた。
そんな感慨に浸る宵の口。電話のベルに覚醒させられる。
・・・悪い知らせじゃなきゃいいんだけど。
「もしもし。中澤です」
「ああ。ご無沙汰してます。お元気でした?」
・・・・・・悪い知らせじゃなきゃいいんだけど。
- 176 名前:『オサヴリオ〜愛は待ってくれない〜(仮題・大幅変更予定)』 投稿日:2003年04月12日(土)18時25分59秒
- 「よっさん。アタシな、結婚すんねん、幼なじみと」
「中澤先生。4月1日はもう終わりましたよ」
「ネタとちゃうわ。マジレスや」
「オペ、成功したんですね。よかったよかった」
「オペってなんやねん、オペって」
「いや、こっちの話です」
「で、や。あんたをやな、後任に推薦したいわけや」
「え・・・・・・・?ええ!」
「まあ、今すぐちゅうわけやないし、考えといて」
「はあ」
「ちなみにな・・・。ナースも一人、半年後に定年やねん」
ふたりで、相談してみて。またかけるわ。
立ち尽くす私を残して、中澤先生からの電話は切れた。
- 177 名前:名無し空手 投稿日:2003年04月12日(土)18時27分14秒
- 一話完結で、細々と営業する形を今のところ考えています。
本編のお届けは、もう少し先に、新スレで。
というわけで、とりあえずこのスレッドはこれにて終了です。
読んでくださった皆さん、管理人様、お世話になりました。
どうもありがとうございました。
- 178 名前:名無し空手 投稿日:2003年04月12日(土)22時40分20秒
- 一番大切なことを、言い忘れました。
吉澤さん、生まれてきてくれて、ありがとう。
誕生日、おめでとう!
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