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A MEMORY OF SUMMER '02(2)

1 名前:池田屋 投稿日:2002年12月28日(土)23時39分11秒
前スレが容量一杯になりましたので引っ越してきました。
ハロプロ改編にまつわる話。

   『A MEMORY OF SUMMER '02』

前スレ
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/yellow/1039617153/
02年7月28日までを前スレで書いています。
2 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時44分20秒


     ◇      ◇      ◇

                       安倍なつみ編(2)

3 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時45分01秒
すべてが変わったあの日から二日が経ち、
今日、夏コンのダンスレッスンで顔を合わせたけど、みんな暗かった…
カオリはそれこそ明日香が辞める直前の頃のように目の下に深いクマを作って、
眠ってないことがハッキリと顔に出ていた……

矢口の顔からは笑顔が消えた…
たまに笑っても無理して笑っているのがバレバレで、
逆にその無理した笑顔が痛々しくて、さらにみんなの気持ちを暗くしていた…

娘。たちに深い傷跡を残してあの日は去った。
モーニング娘。はどこに向かおうとしているんだろう。
私の夢はまた遠ざかったってしまったのかな…
早くしないとわたしどんどんおばさんになっちゃうよ…
4 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時46分01秒

ダンスレッスンが終わって夜集合した羽田空港のロビー、
そして北海道の帯広に向かう飛行機の中、
裕ちゃんがずーっと矢口に付きっきりだった…

前のシートから裕ちゃんと矢口の会話が聞こえてくる。

「…なあ、大丈夫なん?
 少しは寝れてるの?」

「…うん…大丈夫……
 もう落ち着いたから…」

「…無理したらアカンよ……」

「…うん」

わたしのとなりに座っていたりんねも心配そうな顔をして聞いていた。

「なっち、みんな大丈夫かな〜?」

そんなこと聞いてくるりんねも体調がすぐれなさそうだ…
5 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時47分12秒
「りんねこそ大丈夫なの? なんか顔色良くないよ」
「全然平気だよ〜。きっと光のせいだよ〜」

いつものほんわりとした返事が返ってくる。

「それに体調悪いとかそんなこと関係ないよ〜。
 みんなが牧場に来てくれるんだもん。
 張り切っちゃうよ〜」

「…そう? それならいいんだけどさ…」

泊まった帯広のホテルでもみんな静かで、早々に自分の部屋に引きあげた。
ののだけがわたしの部屋に来て騒いでいたけど、そのうち疲れてわたしのベッドで寝てしまった。

明日はハロモニの撮影で義剛さんの牧場でロケ。
ハロモニが始まって以来、初めてのロケだ。
裕ちゃんと矢口とわたし、それにごっつぁんと梨華ちゃんとよっすぃー、
辻と紺野、それとカントリー娘。の3人。
ちょっとした修学旅行みたいな雰囲気に、沈みがちだったわたしたちの気もまぎれた…
6 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時47分50秒
カーテンの隙間から覗く東京とは比べ物にならない寂しい夜景を見てふと感じる…
『ふるさと』の時…、去年の裕ちゃんの卒業の時…、そして今回。
思えば節目節目に北海道にロケに来てるなあ。
まるでその時のことを忘れないためのように……

裕ちゃんが先週小樽に行ったって言ってた。
帰ってきたら急にガラス職人になるって言い出して…
去年矢口たちが小樽で作った卒業記念のオルゴールが忘れられないのかな…
あのステンドグラスをはめ込んだオルゴール、裕ちゃん大事にしてたっけ…


『コンコン』


わたしが去年の思い出に浸りかけたその時…
ドアのノックする音が聞こえる。

「なっち、わたし〜」
「…あ、りんねか。どうしたの?」

ドアを開けるとそこにはジャージ姿のりんねがいた。
7 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時48分26秒
「うん。話したいことがあって…
 …ちょっといい?」
「別にいいけど…
 …でも、ののが中で寝てるよー。
 それでも大丈夫?」
「…うん。全然……」
「じゃあ…」

りんねを部屋の中に促す。
りんねを椅子に座らせると、わたしは空いているもう一つのベッドに座った。

「どしたの? 何かあった?」
「ううん」
「じゃあ何か相談事?」
「ううん」

あくまでもりんねはゆったりと答える…

「じゃあ何なのよー?」
「うーんとねー、思い出話したくなったから来ちゃった…」
「へ? 思い出話?」
「うん。思い出話…」

珍しいな…りんねがそんなこと言い出すなんて…
過去のことはあまり話したがらないりんねなのに…
8 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時48分56秒
「どうしちゃったの、りんね?
 今日は珍しいね…」
「うん…話したい気分なんだ〜」

「……ねーなっち、覚えてる? わたしの初ステージのこと」
「りんねの初ステージ?」
「うん…、カントリー娘。の初ステージでもあるけど…」
「…えーっと、何だっけ?」

りんねの初めてのステージ?
どこだったっけなあ…
うーん……、出てこない…

「ちょうど3年前…
 リハーサルの時、雨が降ってて、風がめちゃくちゃ強くて……」
「…ああ! 思い出した!
 あの函館の近くでやった野外コンサートだ!!」
「そう。日本海の見える小さな町だったんだよ〜」
「覚えてるよー!
 ずーっと雨降ってたのに、始まる頃になって雨があがってさー、
 ステージの裏から海に沈んでいく夕日が見れたんだよねー」
「良かったあ、覚えててくれて…」
9 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時49分26秒
「……もうあれから3年かあ…」
「うん。3年前の8月1日。
 モーニング娘。とわたしだけ…
 8人しかいなかったんだよ…あの頃の楽屋」
「りんね、めちゃめちゃ緊張してたよね。
 話しかけてもほとんど反応なくってさ。
 …懐かしいなあ」
「…そうだね。緊張してたねー…」
「今も緊張屋なのはあんまり変わってないよねー、りんねは」
「…………」
「……あれ? りんね?」

…りんねのことばが止まる……
ちょっと間が開いてりんねから返事があった。

「……あの時は姐さんと圭ちゃんと市井ちゃんにフォローしてもらって、
 なんとか歌えたんだ。3人にコーラスしてもらって……」

……

…なんでりんねがこんな話を始めたのか、やっとわたしは気がついた……
りんねの初めてのステージってことは、その2週間前にあの事件があったわけで…
だから裕ちゃんと圭ちゃんと紗耶香が急遽コーラスをやることになったわけで…

それは転換期を迎えていたわたしたちモーニング娘。にとっても忘れられない出来事だった。
10 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時50分03秒
……尋美さん。
わたしたちがまだ5人だった頃、湘南の海岸でドラマを撮影したことがある。
一気に撮り溜めするドラマで、撮影期間中ホテルに泊まるより安いからって
マンションの一室を借りた。
今でも覚えている、6畳の狭い部屋。その中に5人で寝泊まりしたんだっけ…
…そのときに隣の部屋に泊まってたのがみっちゃんと尋美さん。
年はそんなに離れていたわけじゃなくて、みっちゃんと同い年だったのかな。
長い待ち時間に話したり、食事を一緒にしたり、だんだん打ち解けていって…
矢口たち3人が入ってきてからも映画で共演したりして、
つんくさんやみっちゃんとかの仲間内を除けば、
その頃唯一「友人」と呼べる芸能人だったのかもしれない。

…そんな尋美さんの訃報が届いたのは、忘れもしないミュージックステーションで
『ふるさと』を歌って、生放送が終わった後のことだった。
新曲だと通常2回出られるはずのミュージックステーションがなぜか『ふるさと』のときは
1回だけだったからよく覚えてる…
デビューが決まり、テレビ出演が決まり、わたしたちとライブも一緒にやることになって、
カントリー娘。が順調に動きだした矢先のことだった…
11 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時50分49秒
交通事故……

信じられなかった…

明るく動物と戯れてた尋美さんがもういないなんて……

……その後、事故はデビュー直前の悲劇としてワイドショーや雑誌におもしろおかしく
取り上げられて、そのせいでもう一人のメンバーは心労で倒れて、おまけに触れられたくない
過去まで引っぱりだされてカントリー娘。を辞めることになって…、
残ったのは傷心のりんねだけだった……

…その頃のわたしたちはりんねとそんなに面識があったわけでもなく、
ただ、本当に痛々しかったのだけは覚えてる…
楽屋の片隅で一人寂しそうに座っていて……

「……ごめんね、りんね。気付かなくて…
 …あれからもう3年経つんだね。
 …三回忌か……法事は?」
「…ううん。出れなかった…
 ほら…ハローのコンサートやってたから……」
「そっか…そうだよね……
 そういえばわたしたち御葬式も出れなかったなあ…」
「…うん。
 だからね…今回こうしてみんなが牧場に来てくれるのがうれしいの。
 尋美ちゃんが最後に働いてた場所をみんなに見てもらえて…
 尋美ちゃん、モーニングとコンサートやるのをすごい楽しみにしてたから」
12 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時51分39秒
「そうだったんだ……
 ……
 ねえ、りんね。明日って牧場行くときに…その…事故の場所って通るの?」
「…うん、たぶん…通ると思う」
「…じゃあ、そのとき教えてね。
 ちゃんと覚えておきたいから…
 きちんとお別れ言いたいからさ…
 …裕ちゃんと矢口にも言っておくよ」

裕ちゃんは大丈夫だと思うけど、今の矢口に言って平気かな?
そんな不安があったけど、牧場に来ることなんてたぶんもうないと思うし…
先に裕ちゃんに相談してみよう…

「できればあの頃の人たちにはみんな来て欲しかったよぉ。
 圭ちゃんやカオリンや他の辞めていった人たちにも…」
「カオリは大分に行くって言ってたからねえ…
 圭ちゃんも島根でロケがあるし…」
「…初めてのコンサートの時に中澤さんたちにコーラスしてもらったこと
 今でも忘れられないんだ…
 本当は尋美ちゃんと梓とわたしの3人でやる予定だったコーラスをやってもらって…
 始まる前に中澤さんに言われたんだ…
 『りんねはカントリーで一人でも、モーニングのみんなが仲間なんだから頑張んなさい』って。
 あの言葉、泣きそうなくらいうれしかった…」
13 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時53分20秒
「…覚えてる。
 そのあと8人で『いきまっしょい!』やったんだよね」
「あのとき弱音は絶対吐けなかったから…
 肩ひじ張って、すごい力んで生きてるときで、
 だからモーニングの楽屋にいるときもすっごい緊張してて…」
「頑張ってたよね…あのときのりんね…
 こっちが見てるだけでつらくなるくらい……」
「今のわたしが見ても、あの頃のりんねに『もっとリラックスしていいんだよ』
 って言ってあげたくなる…
 でも…すっごい頑張ってたなあって思う……」

…りんね……
話したくなったんだろうな……
あの頃のこと…
ちょうど3年経って、わたしたちが牧場に来ることになって、
気持ちに整理がついたのかもしれない。
そう思えるくらいりんねの話す表情がリラックスしていた。
飛行機に乗ってたときは体調良くないように見えたのに…
14 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時53分51秒
「りんね…何かいい表情してるよ…
 変わったことあった?」
「うん…そうかもしれない…
 一昨日にあんな話を聞かされてさー、
 もう一回最初の頃の自分を思い出してたら、いろんなこと考えちゃって…
 自分は何のために芸能界入って来たのかなあとか、
 3人で始めた頃ってどんなことをやってたのかなあとか、
 1人のときはどうやって乗り越えてきたんだっけ?とかね…」

「それでね、わたし、来週から牧場に帰るの止めるんだー」
「…え?…それどういうこと?
 そんなことりんねの意思だけで決められるもんじゃないでしょ?」
「そうだけど…でも決めたんだ、帰らないって…
 もうあそこにやるべきことは残ってないよ。
 わたしの知ってるカントリー娘。はもうあそこにはないんだもん」

「ちょ、ちょっと待って!
 それって辞めるってこと?」
「違うよー。辞めないよー。カントリー娘。は」
「…無理だよ。そんなワガママ通るわけないでしょ!」
15 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時55分07秒
「ワガママかなあ? 
 最初と違うことやらされてるのに、それに文句言ったらワガママなのかなあ?」
「だって、大丈夫なの? 辞めさせられちゃってもいいの?」
「…うーん。
 …でもさあ、わたし今の牧場イヤなんだ。
 尋美ちゃんとかは本当に動物が好きで、それがあったからカントリー娘。になったのに、
 今はカントリー娘。であるために動物を好きでいなくちゃいけないみたいな感じなんだもん。
 似てるようだけど逆でしょー?
 牧場の雰囲気もだんだん商売重視になってきちゃっててさあ、
 初めて行った頃のわたしが好きだった牧場の雰囲気がもうないんだー」

「…それって…あさみと里ちゃんのこと言ってるの?」
「違うよお。確かにあさみとはあんまり仲良くないし、里ちゃんは動物苦手だったけど
 二人とも頑張ってる姿を知ってるから、悪くは思わない。
 でも、もうあそこはいいよ…
 あそこはわたしの帰るべき場所じゃない」
「……本当にいいの? きっとつらいよ、この先……」
16 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時55分42秒
「大丈夫だよ、わたしは。
 3年前よりつらいことなんてきっとない。
 そのつらさを一人で乗り越えてきたんだもん。
 きっと何があっても平気だよ…
 わたしは大丈夫。
 わたしはやりたいことをやるよ…」
「…りんね……」

…この日わたしはりんねとの別れを覚悟した……
すっきりとしたりんねの顔。
3年間の重圧から解放されてリラックスしてた…
これで明日、裕ちゃんとわたしと矢口が牧場に行けば
もう思い残すことはなくなるんだろう…
もしかしたら梨華ちゃんの願いが叶うのも待っていたのかもしれない。
牧場に行ってみたいっていう願い…
りんねはこの日をずっと待っていたのかも……
17 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時56分19秒
…そういえばお正月の頃に発売されたDVDでりんねが変なことを言っていたのを思い出した……

『カントリーの歴史は全部アイさがが映してて…
 アイさがのスタッフがカメラを持って牧場にいることがあたり前だったから、
 それが牧場の一つの風景になってて…
 とにかく全部映像に残ってるから、もうちょっと時間が経ったら残ってるフィルムを
 全部見直してみたいなあって思います…』

りんねはこの頃から考えていたんだ、きっと…
つらい思い出も見直せるときが来たんだね、りんね…


…りんねが辻のはだけたTシャツを直してあげている。

10人祭とおどる11でずーっと二人して辻の髪を直してあげたり、服を直してあげたり…
そんな日もいつかなくなるときが来るんだ…


「りんね、明日は牧場でいっぱい笑おうね。
 忘れられない思い出にしようね」


わたしが言うと、りんねがぱあっと微笑んでうなずいた……

18 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時56分59秒


……



……



翌日、朝早く起きたわたしたちはコント用の制服に着替えてバスに乗り込んだ。
牧場に向かうバスの中での撮影。
りんねたちカントリー娘。の3人は前の方に座ってカメラに映らないようにしている。
隣に座った矢口は北海道に来た解放感からか、少し明るさが戻ってきていた。
北海道にいる間だけでも気が晴れるといいね、矢口…

出発前、裕ちゃんに尋美さんのことを話したら大いに賛同してくれて
矢口にも言った方が良いってことになった。
たぶんみんなで牧場に来るのは最後の機会だし、この時期にあれから3年というタイミングで
ここに来れたのは何かの縁があったからでしょ…
そう裕ちゃんに言われて、矢口にも機会を見つけて話した。
今日は朝から忙しくて、その場所でバスを停めることはできなさそうだけど……

花畑牧場に向けてホテルを出発してしばらくすると『幸福駅』って看板が見えてきた。
遠めに電車みたいのが停まっているのも見える。
この辺に鉄道って通ってたっけ?
わたしの記憶にないその駅の看板が窓を通り過ぎて行く…

幸福か……
りんねも尋美さんもここをいつも通ってたんだろうな……
19 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時57分39秒

中札内村に入るとコントを撮りつつバスは進む…

「なっち! もうすぐ…」

収録の合間を見計らってりんねがわたしたちのところにやってきた。
わたしと矢口の前の席にいた裕ちゃんが急いで隣に座らせる。

「もうすこし行くと、道路の脇に一輪の花が挿してあるところがあるから…」

矢口と裕ちゃんと窓の外を食い入るようにして見た。


やがて見えてくる一輪の花…


……あっという間に過ぎ去った…

バスのシートにもたれ掛かってほんの束の間、目を瞑る…
20 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月28日(土)23時58分14秒

二度と会うことのできない尋美さん…
矢口と裕ちゃんと見たこの瞬間…
そしてそれを見届けたりんね…


ずっと忘れないように、心に大事にしまおう……


わたしたち4人の行動に他のメンバーやスタッフたちはキョトンとしている。
マネージャーさんもメイクさんも当時のことを知っている人は誰も残ってなくて、
知っているのはこの4人だけ…

それでもいい…
こうして一緒に振り返れる仲間がわたしにはいたのだから……



……



……


21 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時00分01秒
牧場に着くと収録準備が整うまで矢口と二人、散歩する。
二人とも高校生の制服着て、リュックを背負って、本当の修学旅行みたいで楽しかった。

「でっかーー!!」

義剛さんのつれてきた犬に矢口が驚いてる。

「ねー、なつみ。この犬2メートル以上あるんだってー」
「矢口よりはるかに大きいんじゃない?
 …それよりなによー? 『なつみ』って」
「いやあ、セリフのままの方が雰囲気出るかなあって思って。
 修学旅行みたいな感じがさ」
「じゃあ矢口のことは? 『矢口さん』って呼ぶ?」
「うーん…、それもなあ…
 …やっぱ『真里』でしょ!」
「えー? 『真里』ー?
 なんか恥ずかしいなあ」
「いいから。制服着てるときはそう呼んで!」
「…なんか変な感じ……」

矢口が牧場に着いたときから明るくなって良かった。
やっぱり自然って大事だなあ。
こうして人の気持ちをほぐしてくれるんだもん。
22 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時00分36秒
ののが羊のかぶりモノをしてこっちにやってきた。

「かわいいー!」

矢口が見るなり叫んでる。

「いいなあ、これ。
 こんなんだったら、おいらも着てみたいかも」

ののの…いや、ひ辻の頭を叩いて矢口は大はしゃぎ。
かわいいって言われた辻も自慢げに喜んでた。

でもののの着ぐるみは重そうで…
そのうえコントのときにわたしがNGを出しちゃって、
何回も走らせる羽目になってしまった。

「ごめんねー、のの」

わたしが声をかけても辻は息を切らしてゼェゼェ言ったまま…
23 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時01分28秒
「なつみー、しっかりしないと!」
「ゴメンゴメン、次は間違えないようにするからさあ。
 …そうだ! 真里がうまく合図してよ。
 また数を数え間違いそうになったらさ」
「うぁ!!」
「えっ? 何よ?」
「もう一回言って!」
「はぁ?」
「『真里』ってもう一回言って!」
「……スタンバイOKですー」
「ちょっとー! なつみーー」

無視無視っと……
24 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時02分04秒

写真撮影やコントの収録も順調に進み、
その後はチームに別れてゲームを収録する。
着替える前に制服姿のわたしたちを矢口がバシャバシャ写真に撮ってた。
よっしーもごっつぁんも辻もみんなすすんで映ろうとしていた。
この日が思い出になること、忘れられない日になること、みんな分かってたのかもしれない…

ニュースを撮ってた梨華ちゃんたちも合流してきて、わたしたちはお揃いの
オーバーオールに着替える。
わたしのチームは梨華ちゃんと辻と紺野とりんね。
矢口チームはごっつぁんとよっすぃーとあさみと里ちゃん。
さしずめおどる11対セクシー8といった感じ。
案の定、梨華ちゃんが
「裏切り者〜」
って、矢口チームからいびられてた。
25 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時02分47秒
最初のゲーム、長い距離走らされてツラかった。
わたし走るの得意じゃないし…
中間地点で自分のうちわを2枚揃えて持って行かなくちゃならない。
「お揃いー? わたしのうちわ見つからないよー!!」
叫んでるうちにどんどん抜かされていく…
ゲームは体調があまりすぐれない矢口と、コントの撮影で体力を使っちゃったののと、
わたしだけが残された。
けっきょく矢口が答えてわたしたちは負けちゃったんだけどね…
問題は分かってたのに…

その後のゲームではりんねがののに乳搾りを教えたり、
梨華ちゃんのバター作りを手助けしたり、
みんなにディスクの投げ方を教えたり、楽しそうに動き回っていた。

ゲームを終えたあとに協力してくれた地元の小学生たちと記念の集合写真を撮る。
私の両隣には裕ちゃんとりんね。
そして今日ここに集まったみんな…

…良かったね、りんね。
みんながこうして笑って牧場で過ごすことができて…
りんねにそう声をかけるとうれしそうにうなずいていた…
26 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時03分19秒
みんなでやったバーベキュー、矢口がおいしそうにお肉を食べてる…
わたしたちのチームは負けちゃったからお肉はない……

「のの、お肉こっそり取っちゃおう!」
「お肉食べちゃっていいの?」

ののがスタッフさんの顔を窺ってみる。
笑って急かせるスタッフさんたち。

「おいしいねー、みんな」

わたしが喋ってる隙にののがごっそりお肉を取ってきた。
りんねと紺野が急いでバーベキューの網の上に移す。

「あー、肉焼いてる!」
「シーっ!」
27 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時04分05秒
ダメだよ梨華ちゃん、声に出しちゃ!
裕ちゃんも矢口に
「あれー矢口チーム何かなくなってるよー」
って言ってたけどバレなかった。
それをいいことにののがさらに肉を取ろうとしたら義剛さんにバレちゃった。

「こらっ!辻ー!!」

義剛さんの声もかまわずにどんどんお肉を焼いていく。
なんだか楽しいな…
ホントにたわいもないことだけど。
でもこんなこと滅多にできないからうれしいんだよ。

みんなとの楽しい食事の時間はあっという間に過ぎていった……


 ・ ・

28 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時04分54秒
今日一日の撮影が終わり、7時の飛行機に乗るためにわたしたちは牧場を後にした。
薄暗い中札内のとうきび畑の中をバスは進む。
後ろを振り返ればぼんやりとした山並。
あの山を越えれば家族でバーベキューをしに行った静内や、さらにその先には室蘭がある…
……北海道の短い夏。
今ごろ室蘭は海びらきして港まつりをやってる頃だなあ…
白鳥大橋の向こうに見える花火…きれいだったなあ……


……いつの間にか窓の景色は小麦畑に。
収穫間近の小麦が穂をたらしている…
…そんな景色を見ながらわたしはぼんやりと口ずさんだ……

 ♪メモリー 夏のメモリー
  あなたと出会えたね この夏
  Ah 二人きり 夕暮れだった

…彩っぺのパートだけ歌ってそこで止めた。
ちょっと恥ずかしくなっちゃったから……
…そしたら裕ちゃんが続きを歌い出した。
29 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時05分32秒
カオリのパート…
自分のパート…

 ♪例え 他にどんな
  男の人が現れても
  Ah 大丈夫 きっと大丈夫

裕ちゃんが大丈夫と言い聞かせてたのは自分だったのかな…
わたしたちのことだったのかな…
それとも矢口に言ってたのかな…
とにかく誰かをなだめるように……そんな風にわたしには聴こえた。

裕ちゃんもそこで止めてしまった…
…ううん…わざとそこで止めたのか……
……わたしはその先を引き取った。
明日香のパート、そしてわたし……
30 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時06分03秒
 ♪いつか 淡い夢を
  邪魔する事件が起こっても
  Ah 二人して 乗り越えたいな

  もう少ししたら サヨナラだけど
  また 会えるよね

  明日もいい日である様に

  海も夏祭りも
  揃いで買ったうちわ達も
  Ah 大切な 宝物になる

  もう少ししたら サヨナラだけど
  また 会えるよね

  明日もいい日である様に
  明日もいい日である様に
           (「A MEMORY OF SUMMER '98」より)

31 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時06分35秒
すっかり暗くなった大地を見下ろしながらわたしたちは北海道を去った…
去り行く北海道を最後まで見つめていたりんね…
穏やかな顔で眠っている裕ちゃん、矢口、のの…
仲良さげに話してるごっつぁんと梨華ちゃんとよっしー…
……みんないい顔してた。


飛行機から見える雲の向こうに7月31日の太陽が沈んでいく。
忙しい毎日の中で記憶に残るいい日がある…
それが今日…
わたしはきっと忘れない…
いつまでも……


…わたしはもう一回、ココロの中でワンフレーズだけ歌った……


「……明日もいい日である様に…………」


……そしてわたしも眠りに落ちていく……


…………


……


32 名前:安倍なつみ編(2) 投稿日:2002年12月29日(日)00時07分38秒


安倍なつみ編(2)
参考資料 「ハロモニ」02.08.11放送分
     「ハロモニ」02.08.18放送分
     「CDTV」02.07.06放送分
     「モー。たいへんでした」01.04.12放送分
     「鶴瓶の家族に乾杯」02.08.31放送分
     「アイドルをさがせ!ヒストリー〜ハロプロメンバー総出演!〜」DVD
     「もうひとりの明日香」(ワニブックス)
     「ザ・テレビジョン」2002 No.36 モーニングチャンネルVOL.67

33 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時32分12秒


     ◇      ◇      ◇

                       保田圭編

34 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時33分16秒

「おっはよーございまーす」


「あ、おはようございます…」


紺野や新垣から返事はあった。
でも奥の方にいる矢口やなっちからは……
何だかみんなが暗い…

抱えてきたバッグをテーブルの上に無造作に置くとコップとお茶のペットボトルを引き寄せた。
そのとき目に入ってきた矢口の読んでた新聞の文字……

「あー、今日発表だったんだ……」

あたしのつぶやきに矢口の隣でやっぱり新聞に目を通していたなっちが顔をあげる。

「圭ちゃん、遅いよー!
 ワイドショーとか大騒ぎになってるよー」
「え、そうなの? 朝テレビ見てる時間なかったからさあ。
 昨日の島根行きで疲れちゃって…」
「新聞もほら、こんなにデカデカと出てるよ」
35 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時33分49秒
なっちが自分の読んでいた新聞を広げてあたしに見せた。
ごっつぁんやあたしの写真。
各ユニットの相関図。
今までのメンバーの変遷。
そんな記事がズラーっと並んでいる。

明日香、彩っぺ、紗耶香、裕ちゃんと同様にごっつぁんとあたしに付けられた『卒業』の二文字。
なんか実感湧かないなあ…
あたし、ホントに卒業するの?

「大変だよ今日は。
 なんてったって記者会見があるんだから…
 圭ちゃん、ちゃんとコメント考えてる?
 圭ちゃんはきっとつっこんだ質問されるよー」
「脅かさないでよー。
 そんなこと言われたってあたしもまだこの先どうなるか分からないしさあ。
 大変なのはあたしよりもごっつぁんの方でしょ…」

今日は冬に公開する映画「仔犬ダンの物語」と「ミニモニ。じゃムービーお菓子な大冒険」の
制作発表記者会見だった。
表向きはそう発表されていたけど、実質的には卒業発表の会見になるんだろう…
…コメントか…考えておかないとね……
あたしよりもごっつぁんの方に質問が集中するのは分かっていても…
36 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時34分22秒
あたしとなっちが話してる間にもメンバーはだんだんと集まり始め、次第にうるさくなっていく。
ワイドショーの話、朝に親から電話がかかってきた話、さらには昨日のロケの話、
あちこちからいろんな会話が聞こえてくる。
うるさくなった部屋からなっちが出て行くのを見るとあたしは急いで後を追った。

「なっちー!」
「んー?なにー?圭ちゃん」

あたしはそこで声のトーンを落とす。

「昨日の北海道、どうだった?」
「…どうって聞かれても…、うーん…楽しかったけど…
 とにかくいろいろあったよ…
 でも…行って良かった。
 …行けて良かった」
「…そう。それならいいけど…
 ……矢口は?
 矢口は平気だった?」
「うん…裕ちゃんがずっと付き添ってた。
 撮影のとき以外は…」
「え…、矢口、そんなにきつそうだったの?」
「そういうわけでもないよ。
 牧場着いたら楽しそうに笑ってたし。
 どっちかっていうと二人で慰め合ってたってのかな…
 ほら、裕ちゃんはみっちゃんのことがあったから。
 矢口を側に置いておきたかったんでしょ…」
「…ああ…そっか、そうだね……」
37 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時34分59秒
「…なっちは?」
「へっ? わたし?」
「うん。なっちは大丈夫なの?」
「わたしはあんま変わんないよ…
 みんなみたいに直接的なショックがあったわけじゃないし。
 なっちはみんなが卒業していくのを見守るよ…
 モーニング娘。が変わっていくのを見守るよ…
 必要がなくなるときまで……」
「…なっちは相変わらず強いなあ。
 あたしにはとても真似できそうにないよ…
 今週矢口の顔、見るのすらつらくてさ……」
「…強いわけじゃない。
 強がってるようにみせたいの…
 だって、わたしよりつらい人がいっぱいいるのに…
 そんな人たちが弱いところを必死に見せまいと頑張ってるのに、
 わたしがヘコんでなんかいらんないでしょ。
 やっぱ走り続けてないとね…」
「…なーんか惚れちゃいそうなこと言ってるなあ」
「ヘヘ。惚れんなよー、ケメ子」

照れ笑いしながらなっちがあたしの肩を軽く叩いてきた。
やっぱこの人にはかなわないな…
なっちは自分のこと今でも弱い弱いって言ってるけど、
もう他の誰よりも、誰もかなわないくらい強いよ…
これ以上強くなってどうする気でいるのよ?
38 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時36分17秒
「…あ、よしこもそうなろうとしてるのか……」
「え?」
「……ああ、いや…よっすぃーは何を聞いても涙を流さなかったからさ……
 あたしとごっつぁんに『プッチモニは任してくれ』なんて言ってきてさ、
 本当はあのコも矢口と同じくらいショックなはずなのに元気に振る舞おうとしてて…
 強い自分でありたいんだろうなあって……」
「…圭ちゃんやごっつぁんに気持ち良く卒業していってもらいたいんでしょ、あのコは…
 裕ちゃんのときに心残りができちゃったから、今度はそうならないように気張ってるんでしょ…」
「…あったね、そんなこと…」
39 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時36分58秒
…裕ちゃんの卒業間近までよっすぃーは仲良くすることができなかった。
裕ちゃんはあの頃の頑張ってないよっすぃーが好きじゃなかったし、
よっすぃーもそんな裕ちゃんが苦手なのがありありと見えて……
そんな関係が変わったのは「モーたい」の撮影で下関に行ったとき。
二人して新しい水族館のためにフグを捕りに行かされて、
裕ちゃん魚苦手だったから、よっすぃーが頑張って…、
…なんか、それをきっかけにして仲良くなって東京に帰ってきた。
…でもそのあとの北海道ロケのとき、みんなが卒業記念に裕ちゃんとのプライベートの
ツーショットの写真を用意するなか、よっすぃーだけツーショットの写真がなくて…
そのことをよっすぃーは後々まで後悔していた。
今度はそんなことがないように、思い残すことがないようにしたいんだろう…きっと……


「おはようございまーす」


…遠くの方からごっつぁんの声が聞こえてくる。

足音が聞こえて廊下の曲り角からごっつぁんの姿が現れた。
顔には汗の雫が浮かび上がり、慌てて来たのが窺える。
40 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時37分30秒
「まだ大丈夫だよ、ごっつぁん」
「あ、なっち……ヤバかったよ今日はー。
 大慌てで仕度してギリギリ。もうダメかと思ったー」
「大丈夫だよ、今日はみんなそんな感じだから。
 みんなほとんど昨日は最終便の飛行機だったからねー。
 疲れ残ってるでしょ」

なっちが言った後にちらっとあたしの方を見た。

「あ! なんで今あたしの方、見たのよー?
 あたしは全然疲れてませんよー。
 若いんだから!!」
「さっきと言ってること違うよー
 『疲れたー』ってさっきは言ってたくせにー」
「言ってないよー、そんなこと」
「どう思う、ごっつぁん?
 このケメ子の言い草」
「いや、若いって思うのは自由でしょ」

ごっつぁんが少しニヤけた…
41 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時38分16秒
「ちょっとー、ごっつぁん!
 その笑いは許さないわよー!!
 あたし本気で若いんだからー」
「はいはい。分かった分かった。
 分かったからそろそろ部屋に戻るよ」

なっちとごっつぁん二人に両脇を抱えられて連れていかれた…
うぅ…あたしだって若いのにー…
この2人は反則だよぉ……


 ・ ・

42 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時38分47秒
ホテルに移動しての記者会見、会場に入る順番で並んだ。
前列の最後はあたし。
前にいるごっつぁんがものすごく緊張してた。
カメラもそんなごっつぁんを追ってて、
…あたしのことを映すことなんてないんだろうな。
卒業するのは同じ立場なのに……

ちょっとした嫉妬心。
でも自分でも納得してることだから…
あたしは歌で自分を見せることができればいい、
自分にしかできないことをやればいい。
そうやってここまで来たんだから…

全員が席につくとさっそく会見が始まる。
最初はつんくさんがあたしたちの出演する映画についてのコメントや
今回の改編についてのコメントをざっと喋った。
それが終わるとあたしたちの番。
会場にずらりと並んだ取材陣とカメラの列…
いっせいにあたし達の方に注目が集まる。

…さっそくごっつぁんが質問を受けて答えていた。
43 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時39分34秒
「『ああ…モーニング娘。脱退…卒業なのか。これから一人か…』
 って思ったらちょっと寂しい気持ちもあるんですけど……」

ごっつぁんの緊張した声。
でも、比較的落ち着いてるのかな……
まだ卒業に対してはあたしと同じで実感がないんだろうな…

「……新しいキッズとのユニットはですね、きっと…
 もっともっとすごいユニットにしていきたいなぁと
 今からすごいワクワクしているんですが……
 やっぱり、ミニモニ。が今すごく、大丈夫かなってすごい不安なんですけども…
 それを見守っていきつつ…ライバルとして頑張って行きたいと思うので、
 皆さん、新しいユニットも応援してください。よろしくお願いします」

…矢口のコメントを聞いているのがつらかった。
自分の感情を押し殺して…本当に言いたいことも言えず…
建て前だけのコメント……
きっと会場にいる誰もが矢口が本心を喋ってるなんて思わなかっただろう…

よっすぃー、石川共に二人らしいコメントだった…
タンポポとプッチモニをつらい立場で受け継ぐ二人だけど
辞めていくメンバーのためにも頑張りたいっていう気持ちが出てた…
44 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時40分07秒
突然あたしに突拍子もない質問が飛んでくる。

「結婚っていう訳じゃないですよね?」

「ハァ!?」

そんなことあるわけないでしょ!
メンバーも会場の人たちも大笑いしてる。
だいたい、そんなことしたら裕ちゃんに怒られちゃうよ。
『またあたしより先に結婚しやがって』って…
…それでもしつこく聞いてくる。

「結婚という訳では……」

「ないですねぇ……」

あたしはきっぱりと答えた。
…ああ、もうそんなに聞くんだったら本当に結婚してやろうかな…
相手を探すのが先だけどさ……
あたしへの質問はさらに続く…
45 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時40分37秒
「卒業までにメンバーとどんな思い出を作りたいですか?」

「そうですね…、ちょうど今週からツアーが始まるんですけど、
 合間にみんなで一緒に花火したいねって話をしてて…
 『花火をやらして下さい』っていうお願いは、スタッフさんにちょこっとしましたね」

ごっつぁんとはこのツアーで最後だから、
あたしにとっても最後の夏のツアーだから、思い出に残ることをしたい。
せめて花火くらいはみんなでやったっていう思い出を残したい…


質問は順番に回り、各メンバーのコメントが聞こえてくる…
なっちやカオリはさすがで極力メンバーに涙を誘わせないようにコメントしてた。
…でもだんだんみんなも気持ちが入ってきてしまって……
高橋の次の辻のコメントはめちゃくちゃだった…
そして加護と矢口とよっすぃーのコメント……
46 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時42分24秒
「はい……。はい。あのぉ……びっくりしました。
 でも、花火もやって…一緒に遊園地行って…
 一緒にご飯食べて……あと…………はい」

「いっつも加護は、ごっちんにばっかり、ひっついて、ひっついていて……
 いつも金魚のフンだと言われてまして……
 で、これからはいなくなって……。加護が金魚に……フフっ……
 ごめんなさい。えっとぉ、色んなことを教えてもらったり……
 保田さんには、あのぉ、おばちゃんおばちゃんとか言って……ごめんなさい。
 ごっちんはもう少ししか時間がないんですけども、いっぱい思い出を作り……たいと……思います」

「…圭ちゃんの落ち込んでいる姿を見たりとか…
 ごっつぁんがソロでやってる時とか……すごい…こう手が震えてたりして…
 しっかりしてるように見えて、まだ16歳なんだなあってところがたくさんあって……
 たぶん今一番不安なのは、二人だと思うんですけど……
 モーニング娘。としても、ごっつぁん、圭ちゃんがいなくなって、
 すごい頑張らなきゃいけない時だし……
 二人にとっても一人でやっていく……
 すごい良いスタートを切って欲しいなあと応援している気持ちで一杯なんですが……」
47 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時43分01秒
「圭ちゃんと、ごっつぁんは一緒にプッチモニでやってきて…
 すごい思い出がたくさんあって…でも二人から色々と教えてもらって……
 なので『プッチモニは任してくれ』っていう風に言ってます。
 あと、やっぱ卒業して一緒に歌を歌えなくなっちゃうのは寂しいんですけど、
 ハロープロジェクトの中では一緒なんで、
 これからも一緒に色んなお仕事をしていきたいと思います」

……あたしは思わず涙をこぼした…
辻の気持ちの整理のついていない支離滅裂な言葉。
加護のユーモアを交えていても気持ちのいっぱいつまった言葉。
矢口のあたしやごっつぁんを思いやってくれる言葉。
よっすぃーの気丈夫な言葉。
みんなの言葉があたしの心に届いた……
…それはみんなも一緒だったみたいで、みんなの鼻をすする音が聞こえてきた……
隣に座っているごっつぁんの涙を拭っている姿も目の端の方に見えた…
48 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時43分43秒
「あのぉ……何て言っていいか分からないんですけども。
 いっつも13人で一緒にいて、それが2人もいなくなるってのは寂しいんですけども……
 後藤さんとか保田さん……が……うん…………」

最後の小川のコメント。
あたしの後ろに座っていた小川からの声がとぎれる。
ごっつぁんと二人して振り向くと、小川が顔をくちゃくちゃにして大泣きしてた……

『小川、頑張れ』

ごっつぁんと共に小川に優しく微笑みかける…
小川は軽くうなずくと懸命にコメントを続けた…

「卒業するまでに……
 …楽しい思い出を作れればいいなって思ってます」

……うん…よく頑張った…小川……
…あんたにプッチモニを託すんだから頑張りなさい!
プッチモニの取り柄は元気で明るいことなんだから、
早く立ち直って笑顔を見せるんだよ、小川……
49 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時45分06秒

小川がまだ泣き顔を見せたままあたしたちは立ち位置を変えて集合写真の撮影。
目がうるんだままのコもいたし、涙の痕が残ってしまっているコもいた…
…キッズのメンバーたちも撮影で壇上にでてきたけど、そんなの関係ない。
ここはあたしたちモーニング娘。のステージ。
あたしとごっつぁんの卒業記者会見。
…こんな子供たちに主役の座は譲らない。
あたしには自分の力でここに立っているプライドがある。
みんなそう思ったのか、あたしたちは必死に笑顔を作りカメラに向かった……


 ・ ・

50 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時45分51秒
記者会見が終わってカメラや記者さんたちが引き上げると、
あたしたちはその場所を使ってMUSIX用のコメント撮り。
それも済んであたしたちの今日の仕事は終わる。
みんなが着替えてる中、辻に声をかけるなっちの声が聞こえてきた。

「のの、明日のインタビューはしっかりやりなさいよ」
「…うん。分かってるよぉ」

あー、辻は明日がインタビューの日か…
能地さんのインタビュー、こんなときに当たるなんて辻も運がないな…
そんなことを考えていると、いつものあのかん高い声が聞こえてきた。

「わたしも明日インタビューなんですぅ。
 何を話していいのか困っちゃいますよねぇ」

また石川か…。思わず笑ってしまった。
ホントにタイミング良く、いつもまあ……
我慢できずに横から口を出した。
51 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時46分22秒
「石川は心配しなくてもいいでしょ、別に。
 あんたはいつも通りそのまんまやりなさいよ。
 それに誰も心配してないからイチイチ言わなくていいよ」
「ちょっと!保田さ〜ん、それどういう意味ー?」

石川がわたしの腕にまとわりついてくる。

「こらっ、ベタベタさわるな。暑っ苦しいから離れろー」
「イヤですよー。
 どういう意味だか言ってくれるまで離れませんからね」
「だから、誰も石川のことなんか心配してないって言ってんの!」
「あぁ、ひどいなあ。わたし拗ねちゃおう」

そう言って手をイジイジさせている。
あ…、なっちと辻が石川を見て引いている…
あたしも苦笑するしかなかった。

…でもね、石川。
あんた、もうそれくらい強くなったってことなんだよ。
いちいち心配されなくても平気なくらい強くなったんだよ。
だから、あんたにはこんなことも言えるようになったんだからね。
もう少し自信持ちなさいよ、あたしよりも恵まれたもんいっぱい持ってるんだから。
52 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時46分54秒
「なっちも今日はこれで終わりでしょ?」

まだ隣でいじいじしている石川をしり目になっちに訊ねた。

「ううん。ラジオ録りが残ってるよ…
 ほら、今回の改編を受けてのコメントっていうの?
 それをちょっと録らないといけないんだよね…」
「あー、大変だねえ、そりゃあ……」
「そうでもないよ…、カオリも録るし。
 ……大変なのは矢口でしょ……
 今晩2時間生放送なんだから……」

あたしたちのいる場所とは反対の、ごっつぁんや加護の近くで着替えている矢口に目をやった。
黒のランニングにオーバーオールに着替えて黙々と荷物の整理をしている矢口…
矢口はこの後、生放送か……
つらいな…………
53 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時47分26秒
「……あの、わたし聞いてます!
 安倍さんのラジオも、矢口さんのラジオも。
 …だから頑張ってください」
「ありがと…梨華ちゃん……」

早々に着替え終わったなっちが石川に声をかけられつつ部屋を出ていった。
なっちもカオリも矢口も今日こんな状態でラジオ録りか……
あたしもちゃんと聞き遂げないとなあ。
3人が何を話すのか、何を言うのか、
それを聞くのが、みんなを置いて卒業するあたしのせめてもの責任だよね……


 ・ ・

54 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時48分21秒
みんなと別れてタクシーに乗り込み、いつも通りに携帯の着信履歴とメールの確認をする。

……あ、紗耶香……!!

着信に残った紗耶香の名前のところであたしは無意識に発信ボタンを押していた。

3回、4回と続く呼び出し音。
諦めかけて切ろうとした時、紗耶香の声が携帯電話の向こうに聞こえた。

「なにー? 圭ちゃん」
「何って、紗耶香が何か用あってかけてきたんでしょ?」
「やだなあ、聞いてないのー?留守電」
「あー、聞いてないや。ゴメン……
 そんで、何?」
「そんなにたいしたことじゃないけど…
 …和田さんが『頑張れよ!』って」
「何それ?」
「昨日さ、和田さんと会ったときに伝言頼まれちゃって。
 まあそれだけなんだけど…」
「和田さんが? 何だかなあ……」
「あたしに言わせたかったんじゃないの? 圭ちゃんに…
 いろいろあったんでしょ?今日もさ……」
55 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時48分54秒
「そりゃあ、まあね…
 今日もくたくただよ…精神的に……
 参るね、ここんところ毎日毎日…」
「……後藤は?」
「んー、ごっつぁんはまだ卒業する実感がまだないみたいで、
 いつもとあんま変わんないかな。
 さすがに今日は記者会見で泣いてたけど…」
「後藤のことだからまた直前になって大泣きするんじゃないの?
 初ライブやあたしの卒業のときみたいに……」
「どうだろねえ…
 あのコ、前にも増して自分の気持ちを他人に知られるの
 嫌がるようになったからさ、どこまで堪えるかな……」
「ふーん……」

「…………そういえば、
 なんで和田さんがあんたに伝言なんか頼んでんのよ?」
「昨日会ったって言ってんじゃん」

相変わらずぶっきらぼうな答え方…
このせいで最初の頃生意気だって怒られてたのにまだ直す気ないのか……
56 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時51分18秒
「ほら、昨日ソニンとより子。ちゃんと一緒のライブに出たからさ、
 和田さんも来てたってわけ。きくちさんの主催だしね」
「そっか……そういやソニン、戻ってきたんだっけ…」
「和田さんも無茶させるよねー。いきなりソニンにギター持たせてんの。
 でも、なんかあたしよりサマになっててさー、悔しいんだよー」
「へぇ、ソニンもギター使うんだ…
 …で、どうなのよ? 紗耶香の方は?」
「えー、何が?」
「…だから…ソニンや和田さんのことより、あんたの方はうまくいってんの?」
「…………」
「…いや、言いたくないなら別にいいけど」
「……んー…、あんま良くないかな……」
「そうなんだ……」
「明日もMステ出るんだけどさ、座りトークなしの1曲目になっちゃった。
 何しろ売れてないからね…CDが……」
「…………」
「いや、いいよ、別に圭ちゃんが気にしなくても……
 あたしにはひとまず歌える場所があるから。
 今度の曲は自分で作詞したし、少しづつだけど辞めるときの理由だった
 シンガーソングライターになるって夢もかないつつあるし、
 今はこれでいいよ…」
57 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時51分52秒
歌える場所か……
来年の春、あたしはどうなってるんだろう。
女優もやってみたいって言ったけど、一番肝心なのはやっぱり歌。
もう一回一緒に歌いたいって言ったこと紗耶香は覚えてるかな…

「ねえ、紗耶香、前にさ…」
「うん?」
「…………あ、やっぱいいわ」
「なんだよぉ」

…やめよう。今言うべきことじゃない…
あたしにも紗耶香にももう少し時間が必要だよね。
そのときが来れば自然ともう一度やれる…
…きっとそうなる日がくる…

「…あのさ、今日これから時間があったら矢口のラジオ聴いてあげて。
 矢口が一番つらいときだから……
 精一杯頑張ってる矢口を見届けて欲しいんだ、同期として。
 矢口がモーニングに残ることになる唯一の2期生だから……」

最後にそれを伝えて紗耶香との電話を切った。
紗耶香と次に会えるのはいつかな……

58 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時52分30秒
マンションの近くでタクシーを降り、コンビニでちょっと買い物。
コンビニを出ると頬に冷たいものが当たる…

…あ、雨か……
遠くの方で雷鳴も聞こえてくる。

…頭の中に浮かんだワンフレーズ。

 ♪コンビニ寄って立ち読みすりゃ雨が降ってきた

紗耶香との武道館での最後…
…あのときもみんな泣いていた。

カオリがそんなみんなを「みんなの目から雨降ってた」って表現したっけ…
今日もみんなの目から雨か…

あたしはポツポツと降ってくる雨を見上げてそんなことを思っていた……



 ・ ・


59 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時53分02秒
9時20分すぎ。
リビングに置いてあるコンポの電源を入れてラジオのチューナーを文化放送に合わせる。
聴こえてくる島谷ひとみさんの声。
雷はさらに近付いてきて、ときどき落ちる雷に電波も乱れがち。
あたしはクッションを抱えて絨毯に座り込むと、冷蔵庫から取り出してきた缶ビールを開けた。
一口飲んで壁にもたれかかる…

…やがて聴こえてくるなっちの声。


  みなさんこんばんは。モーニング娘。の安倍なつみです。
  みなさんお聞きの通り圭ちゃんとごっつぁんの卒業、
  そして他にも新しいタンポポ、プッチモニ、ミニモニ。の発表がありましたけども
  ハロープロジェクトいっぱいいますが、一人一人これからも前向きに頑張っていきますので
  みなさん応援よろしくお願いします。
  …圭ちゃんとごっつぁんの卒業を聞いたときには…なっちはさみしい気持ちもありましたけど、
  また新しい気持ちでスタートして頑張っていきたいと思います。
  これからもモーニング娘。はどんどん前向きにパワーアップしていきますので
  みなさんついてきてくださいね!
  よろしくお願いします。
60 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時53分48秒
ここがなっちの言ってた今日収録って部分か…
無難にまとめたなあって思って聴いてたら、声のトーンが一変した。

あれ…この声……?

なっち、なんで泣いてんの?

…なんで泣いた後の声?

ハタチまでもう少しという話をしているなっちの声が震えている。
話し方も少しヤケ気味…

これ、いつ録ったんだろう……
月曜? 火曜?

なっちめ、また黙ってたな…
…もう! いっつも肝心なことは何にも言わないんだから…
また自分の中だけにしまいこんで……
リスナーにプライベートな話するくらいだったら、
あたしたちにも少しは話しなさいよ!
そうやってなっちは溜め込んでいくんだから……
61 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時54分22秒
…ラジオからはパパパパパフィの収録やセカンド写真集の頃にバリ島に行ったときの
懐かしい話が聴こえてくる。
なっちは紗耶香とマッサージに行ったときのことを話していた。

あのときあたし一人の部屋が恐くてカオリと一緒の部屋にしてもらったんだよなあ。
でもカオリはタンポポの仕事の都合で一日早く帰っちゃって、寂しかったっけ…

あたしがなっちにつられて昔を思い出している間にもラジオは進んでいく…


  ……なっちの推薦曲をおかけしたいと思うんですけども、
  やっぱり夏ということで…夏といえば花火ですね……
  聴いてください。モーニング娘。で『せんこう花火』。


……せんこう花火。
なっちが歌ってあたしと紗耶香がコーラスをいれた曲。
その歌をなっちが推薦曲でかけている…

花火か…
昼間の記者会見で花火がやりたいってちょうど言ったよね。
本当ならライブの合間やスタッフさんがいるところじゃなくて、
あたしたちだけでやりたい…
昔やった富良野の花火みたいに家族も交えて。
なっちもあのときの花火が忘れらんないのかな……
62 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時55分11秒

……窓に打ちつける雨の音が激しくなっている。
なっちの番組が終わるとカーテンを開けてちらっと外を覗いてみた。
雷の光が目に飛び込んで、その直後にものすごい音がした。
びっくりして思わず飛び跳ねてしまった。

雷雲がちょうど真上を通過中…
なんか、あたしたちハロプロも似たような感じか…
嵐のまっただ中だもんね……


矢口のラジオを聴こうと思ってニッポン放送に変えたけどやってない。
ちょっとー、野球ってどういうことよー!
こんな試合より矢口の放送しなさいよー!
あたしは手元にあったクッションをコンポに向かって投げ付けた。

いつまでたっても放送が始まらないことにイライラしながら、
テレビのチャンネルを意味もなく変えたり、
立ち上がって冷蔵庫を開けに行って何も取らずに戻ってきたり…
63 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時55分47秒
10時半を過ぎるとようやく矢口の声が聴こえてきた。
あたしは雷で乱れがちな音声に耳を澄ませた。


  9月23日にごっつぁんがモーニング娘。を卒業ということでですね…
  とりあえずもうビックリしました。
  こんなに近い卒業っていうのはたぶん初めてじゃないかな…
  ごっつぁんはたぶん一番不安ですよ、きっと。
  ああ見えても16歳じゃないですか。
  裕ちゃんでさえ緊張してたし不安もたくさんある中、卒業していったんですよね…
  …ごっつぁんはたぶんそれ以上にもっともっと緊張して、
  この先の不安を感じながら卒業していくんじゃないかなと思います…
  …でもね、新しいことも出来るし、自分のやりたかった歌を一人で歌ったりとか、
  ウチらは応援するしかないんですけども…
  初めて聞いたときはものすごくショックでしたね。
  可愛い面も大人っぽい面も全部知ってて、まあ兄弟みたいなもんだったので、
  家族の一人がアメリカかどこかへ行っちゃうような気分ですよ。
  …でもハロプロとしてもこれから一緒だし、会う機会もたくさんあると思うから
  そのときは思い出話に花を咲かせようと思います…
64 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時57分01秒

最初はごっつぁんの話。
初めてごっつぁんの話を聞いたときはショックを受けていた矢口だったけど、
ごっつぁんのソロ志向ってのは元々みんな分かってたから、何日か経つうちに徐々に慣れて…
ある程度気持ちの整理はついたのかもしれない。
週刊誌とかに不仲説を書かれたこともあったけど、実際は二人は仲良かった…
ごっつぁんが入った頃はなっちも含めてよく3人で遊びに行ってたみたいだし。
4期メンバーが入ってからは見守る立場に変わって…
本当に妹がどこかに行くような気持ちなんだろうな…

…ラジオからはごっつぁんの新曲が流れてくる。
CMがあけると再び矢口の声。
65 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時57分44秒

  長年やってきたタンポポを…卒業するのはやっぱりさみしいね…
  ミニモニ。もそうだけど…タンポポはね、やっぱり長いもん。
  …モーニングのユニットの中で一番長いユニットで…
  おいらがデビューした年から始まったユニットだったんでねぇ……
  やっぱり聞かされたときは「うぇー!!」って驚きと
  「はぁー、そうなんだ…」っていう感じもあったんですけど、
  …なんかね…、彩っぺがいた頃から、カオリと矢口と3人でやって、
  彩っぺが抜けて、途中から加護ちゃんと石川が入り、
  4人でタンポポとして……いっぱいCDも出したしね……
  あのCDは今度から誰が歌うのさー!!
  どうするのさー!!
  って感じなんですけど、…でも新しいタンポポを心から応援していきたいと思っています。
66 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時59分16秒
  ……まあね、ホントにさみしい気持ちなんですけども…
  …あのミニモニ。も…まだ先のことなんですけども映画が始まりますし、
  お正月には公開されるのでその映画も見てくださいね…
  …あの…たぶん矢口さんがミニモニ。でいる最後のお仕事になるんじゃないかなと思います……
  ……あの…………一気に両方卒業っていうのはね……
  ……ヤバいね……
  寂しい……ホントに…………
  なんかもう、どうしようっていう……
  …卒業も悲しいことの一つなんですけど、このユニット話もですね、
  矢口にとってはかなり衝撃的なことだったんですが……
  ……あの……でもね…………新ユニットがあるから……
  …あの…わたしは、そのハロープロジェクトキッズの子たちと新しいユニットを作って… 
  …リーダーとしてですね責任を持って、一つのユニットを作り上げていきたいと思うので
  みなさんそちらの方を楽しみにしていてください……
  …………
  ……あのーちょっとね、最近涙腺弱くてですね、
  たぶんおばちゃんになってきた証拠ですね…
67 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月29日(日)23時59分48秒
  ……あのー…なんて言うんだろ…新しいことも始まるっていう期待はあるんですけども…
  やっぱり寂しい方が今一番大きく来てますね……
  …心の中に……
  …あとはですね、来年の春に圭ちゃんが卒業するということで、
  2期生が一人になってしまうという寂しさもあるし、
  後はですね、モーニング娘。が来年の春、11人になって……頑張り時ですよ。
  おいらも上から3番目になり、お姉さんチームとしてですね、
  圭ちゃんが安心して卒業していけるようなモーニング娘。を見せてあげたいですね。
  きっとそういう頑張ってるモーニング娘。を見て圭ちゃんもね、頑張れると思うので
  お互い励ましあいながら頑張りたいなと思っています。
  …まあ、でもですね、来年の春まで時間もあるらしいので……
  …あの……ね…いろいろあるし……
  モーニング娘。、それまでどんどんどんどん頑張っていきたいと思うので
  ……圭ちゃんとごっつぁんがいる13人のモーニング娘。、
  まだ時間がありますのでみなさん応援してください。
68 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時01分05秒

……矢口が泣いてた……

…泣きながら必死に喋ってた……

あたしにも気をつかって、仕事のことも気にして…
本当は泣き崩れたかったはずなのに……

自分の意思とは何も関係なく引き離されるタンポポ…
矢口にとってどれだけショックだったんだろう……
覚悟を決めてたあたしですら衝撃を受けたのに…

…矢口の泣きながら喋っていた声が耳に残って離れない……


…………


ラジオからは今の雰囲気とかけ離れたミニモニ。の曲…
でも…矢口はこれすらも手放さなければならない……


矢口のつらさを考えると、あたしは普通でいられなかった…
69 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時01分45秒

……矢口…………


……ゴメン…あんたを一人残して……


何があっても3人で一緒にいようって約束したのに……


…………


……

70 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時02分21秒
  紗耶香が卒業して、圭ちゃんが卒業して、3人で入ってきた2期生がですね、
  一人になってしまうわけなんですけども…
  まあ、でも圭ちゃんが卒業するまではまだ半年くらいあって…
  やっぱりね、一番最初から一緒だったメンバーが卒業してっちゃうってのは、
  …どうなんだろ……すごく不安ですね。
  圭ちゃんとかとはいろんな話もするし…
  あと落ち込んでるときとかに相談に乗ってもらったりしたのが圭ちゃんだったので…
  その相手はこれからどうなるんだろう……
  …でもその点はですね……圭ちゃんとかに頼らないで、
  矢口が他のメンバーの相談にのってあげたりとか、
  責任を持ってモーニング娘。をまとめていかなきゃいけないって点ではですね、
  圭ちゃんの卒業は矢口にとってはものすごく強くなれる機会なんじゃないかなと思います。
  ……来年ハタチの矢口さんはですね、下のメンバーなんかの面倒をどうやって見て、
  どうやってまとめていけばいいのかを考えつつ、
  圭ちゃんの卒業の日まで頑張っていきたいと思います。
71 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時02分55秒
  おいらのラジオに圭ちゃんまだ来てくれたことないので、
  卒業の日までに圭ちゃんが『おじゃまします』って、
  みなさんの前に出てくれる日をみなさん楽しみにしていてください。
  たぶん出てくれると思います。
  ねー?

  不安はありますけども、圭ちゃんが抜ける日まで2期生として下の子たちを
  ぐいぐい引っぱっていきたいと思います。
  カオリとなっちも心強いし、大丈夫だと思います……
  …あの…みなさん心配しないでくださいね……

72 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時03分38秒
……うん……

…きっと、行くよ……

ううん…無理矢理にでもニッポン放送まで押しかけるから……

「おじゃまします」って突然入ってビックリさせてやるから…

…矢口の願い、絶対叶えるよ……

…今は何も言えないけど…、見守ることしかできないけど…

あんたのことちゃんと見てるから……

だから…今は…頑張って、矢口……


…………



……


…まったく場違いだった藤本のコーナーが終わるとカオリの声が聴こえてきた。
カオリも今日録るって言ってた……
…みんなつらいことやってる……
あたしだけがこうしてラジオを聴いている。
当事者のあたしが……
矢口、なっち、カオリの3人に少し後ろめたさを感じた…
73 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時14分10秒

  今回いろいろと御心配、そしてお騒がせしています、リーダーの飯田圭織です。
  突然のことでね、リスナーのみなさんをびっくりさせちゃったと思いますが…
  わたしがその話を聞いたのはですね、矢口と同じときに聞いて、
  確かにびっくりはしたんですけども、正直言いまして、何度も何度も
  繰り返し繰り返し変化してきたから、ショックをあまり感じなくなってきたかも……
  っていう感じですかね…
  …やっぱり、わたしがリーダーなので、あたしが落ち込んでいてもね
  残るメンバーも可哀想だし、旅立っていくメンバーも気持ち良く、
  自分の力を信じてね、強く旅立って欲しいので、わたしはね、笑顔で、
  元気に送りだしてあげたいなあと思っています。
74 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時14分42秒
  矢口と一緒にタンポポを卒業することになったんですけども、
  タンポポはですね、わたしを作り上げてきてくれた場所、私自身も成長できる場所となったのでね
  卒業するのはものすごくさみしいんですけども、新しく入るメンバーにもわたしと同じように
  いろんなものを学んで欲しいし、わたしもですねもっともっと成長できるように、
  飯田圭織自身も頑張っていきたいと思っています。


カオリ、早口だった…
本心で喋ってないときはいっつもそう。
言いたいこといっぱいあるはずなのに、言葉にしたいこといっぱいあるはずなのに、
カオリは与えられた言葉をそのままに喋った。
気持ちを込めなかったのはカオリのせめてもの抵抗なんだろう…
いま口にしていることが本心じゃないよって、リスナーに伝えたいんだろう…

カオリがどれだけタンポポを大切にしてきたか、みんな知ってるよ。
あたしたちプッチモニに負けたときどれだけ悔しがってたか、
自分達の歌う歌にどれだけ誇りを持ってたか、みんな分かってるよ……
カオリの本当に言いたいことはそんなことじゃないよね…
口にしなくてもきっと…、みんな分かってくれるよ、カオリ……
75 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時15分33秒

…………


……


矢口が雷の話をしている。
雷はお台場の方まで行ったらしい…

あたしの部屋のカーテンの向こうではすっかり雨はあがって、雷の光はもう見えない。
窓を開けると8月の熱気と共に雨上がりの匂いが流れ込んでくる。

でも…矢口はまだ嵐の中……雷雨の中、放送を続けている……
それがなんだか矢口の置かれた境遇とダブって見えて……
76 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時16分27秒

……スピーカーからはエンディングのドリカムの歌…
幾分か元気を取り戻した矢口の声……


  あとつんくさんを責めないでくださいね。
  つんくさんが悪いわけではありませんからね、みなさん。


…………!

…あのコ、最後の最後にホンネを言っちゃった……

寂しいってことは言ったけど、悪いとか責めるとかそんな言葉はずっと避けてきたのに……
なんとか前向きな言葉だけで乗り切れてきたのに……
こんな『何かが悪い』ことを意識した言い方なんて……

また怒られなければいいんだけど……
今の矢口に怒られたことをバネにする力が残っているのかどうか、
それがあたしはすごく不安だった…
いつもの矢口なら怒られてもそれを見返してやろうって気持ちがいつもあったから…
77 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時17分07秒

…エンディングにかかっていたドリカムの歌が聴こえなくなるとメールの着信音が鳴った。
紗耶香からのメール…

『明日のMステ見ててよ。
 オープニングで「2」って3回出すから』

…そっけない……
けど…紗耶香らしい…
あたしたち2期メン<3>人のことか…
「2」ってピースにしか見えないじゃん…
なによ、それ……

そんなことに気を使う紗耶香が微笑ましかった。
紗耶香、前からそういうの好きだよね……

きっと矢口にも同じメールを送ったはず。
矢口はどう受け止めるかな……
あたしたち3人の絆をまだ大切に思っていてくれるかな……
78 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時18分32秒
きっと明日会えば、矢口は笑っているんだろう…
いつもと変わらない笑顔で。
…でも、本当は違う。
いつもと変わらない笑顔でいるために自分を犠牲にしている……
みんなに余計な心配をかけさせたくないために…

あたしにはまだ半年の時間があるし、プッチの終わりも覚悟できていた。
ごっつぁんもそれは同じだったと思う。
なっちやカオリはショックだっただろうけど、あの二人はマイペースを守れるから……
4期や5期のコたちはショックとかいう前に、新しい環境を受け入れることで精一杯だろう…
でも矢口は何がショックで、何が起こったのかをすべて理解した上で
自分に無理をかけるに決まってる……


…あたしは何をしたらいいんだろう……

卒業までの半年間、何をしたらみんなに恩返しできる?

みんなの犠牲に見合ったものをあたしは返してあげることができるんだろうか……

79 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時19分05秒

なっちやカオリや裕ちゃん……

…明日香・彩っぺ・紗耶香…そして矢口……

みんなの声になって聞こえてきた……



   走り続ければいい
  
   それがモーニング娘。なんだから 



…そう、あたしは走り続ければいい。


走り続けている姿を見せることがみんなへの恩返し…


走り続けるのがモーニング娘。なんだよね、みんな……



……



……


80 名前:保田圭編 投稿日:2002年12月30日(月)00時20分28秒


保田圭編
参考資料 「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.08.01放送分
     「安倍なつみのエアモニ。」02.08.01放送分
     「中澤裕子のオールナイトニッポンサンデースーパー」02.08.04放送分
     「モー。たいへんでした」01.04.12放送分
     「MUSIX!」02.08.06放送分
     「ミュージックステーション」02.08.02放送分
     「後藤真希ファイナル特番」02.09.22放送
     「モーニング娘。×つんく♂」ソニーマガジンズ
     「モーニング娘。ダンシング ラブ サイト 春」DVD
     GIRL POP FACTORY 02 02.07.31

81 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時21分08秒


     ◇      ◇      ◇

                       飯田圭織編(3)

82 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時21分52秒

  ハッピーバースデー
  飯田さんも21ですね(笑)
  でもおばちゃんて呼ぶのはたまーにだけにします。
  これからもいろいろ相談にのってくださいね。
  今度おもしろいマンガがあったら貸してくださいな。
  汚い字ですみません。
  それでは、チャーオー。
          飯田さんのかわいい妹、石川梨華より


  編集長へ
  ちゅっ! ねえ、笑って。
  お誕生日おめでとうございます。
  運命で出会って約2年ちょっと、
  いっつも変なギャグばっかりで困ってしまいます。
  でもそんな飯田さんが好き。
  21さいの誕生日本当におめでとうございます。
        これからもプリチィーな加護をよろしくね。

83 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時22分46秒
OH-SO-ROの収録中に渡された手紙。
2人とも1本目の収録が終わった後に書いたんだろうなあ。
石川はその後にインタビューが待っていたから急いで書き上げたみたい。
加護はあたしが来るまでの間、暇を持て余していたみたいで、
自分とあたしの似顔絵まで書き添えてあった。

昨日の記者会見があってのラジオ収録。
石川と加護だけでやった1本目、石川が苦労して喋っている姿が想像できた。
2本目の収録、本当はあたしと矢口と加護の3人でやる予定だったけど…、
矢口は昨日のラジオでボロボロだったらしいから、
…大事をとって休ませるらしい。

あたしの誕生日まではまだ1週間あったけれど、
収録のスタジオでは加護がケーキを作ってきてくれたり、お寿司が用意されていたり…
うれしかったな…こんなときだから、なおさら…
最後は加護といつまでも『恋をしちゃいました』を歌おうねって約束して……
84 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時23分32秒

ラジオの収録が早めに終わったから、あたしは今まで行こう行こうと思いながら、
ついに今日まで行くことがなかった松田聖子さんのライブに行くことにした。
TBSのスタジオを出てタクシーに飛び乗ると、大急ぎで運転手さんに武道館まで行ってもらう。
昨日と一緒で東京の空は雷が鳴っている。
昨日みたいな大雨にならなければいいけど…

初めて一人で見に行くコンサート。
どこから入っていいのか分からなくて迷った。
紗耶香のラストの時や24時間テレビの時は全部案内されてたから…
入ったときはすでに何曲か終わってしまった後だった…
85 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時24分05秒

聖子さんかわいいなあ…


武道館のステージで歌って踊る聖子さん…


途中SAYAKAちゃんも登場したりして…


あたしは聖子さんのステージに見惚れていた。
小さい頃からずっと…、札幌にいたときからずっと憧れていた聖子さん。
あたしもこうやって武道館のステージに一人で立って歌える日が来るのかな…
母親になっても、いくつになっても、歌を歌い続けていたい…

そんな淡い夢を抱いてステージを見ていた。
あたしの失いかけてるものがそこにはあったから…
86 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時24分45秒
コンサートが終わると人目につかないように武道館を後にして、
すぐ側の公園を一人ぶらついた。
なんか一人で歩きたい気分だった…

緑の隙間から見えるぼんやりと明るい武道館のタマネギ…

初めて見たとき感動したっけ、なっちと一緒に…
みっちゃんのデビューライブのときに見上げた武道館と
今こうして見ている武道館は何も変わらないのに
あたしたちだけが変わっていく…
モーニング娘。もみっちゃんも、そしてタンポポも…
みんなみんな変わっていく…


…ねえ、彩っぺ。

あたし約束守れなかったよ。

彩っぺと約束したのに…

彩っぺを感動させるような歌を矢口と二人、歌い続けるって約束したのに……

87 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時25分54秒
先週の土曜日、彩っぺが久しぶりにハローのコンサート会場に顔を見せてくれたけど
タンポポが歌う機会はなかった。
あたしはそれが恥ずかしくて、情けなくて…
タンポポの歌ってる姿をとうとう彩っぺに見せられなくなったことが
後ろめたくてどうしようもなかった。

彩っぺは相変わらずで、子供連れのクセにルーズソックス履いてきたりして、
無頓着でゴージャス彩っぺそのままだったけど…
彩っぺが気にしない素振りを見せてても、やっぱりあたしは気にしてしまう。
裕ちゃんやみっちゃんも交えて話してる最中にも、あたしの心はどこかズキズキしていた。
いつ彩っぺにタンポポのことを言われるんじゃないかと思って…
彩っぺがそんなことを言うわけないって分かっていても、やっぱりあたしの心は傷んだ…

そしてその翌日、あの発表……
ついにあたしからタンポポがなくなる…
あたしたちが大事に育ててきたタンポポが……

紺野や新垣とこれからどうやって接したらいいの?
石川になんて声をかけたらいいの?
88 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時26分34秒

……彩っぺ、あたしたちタンポポを咲かせられなかった。


彩っぺがくれた水や光、生かせなかった。


…タンポポ枯らせちゃったよ…、彩っぺ……


彩っぺ……あたし…どうしたらいい?



独りたたずむ公園の中…


いつしか降り出した雨にタマネギが霞んで見えた……



 ・ ・


 ・

89 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時27分14秒

今日も朝から暑い。

昨日、聖子さんのコンサートから帰ってきた後、
いつものようにキャンバスに向かったまま朝を迎えた。
今日は広島での野外コンサート。
体調のことを考えればこんなことじゃいけないんだろうけど、寝不足は慣れてるから。
1,2時間寝ればなんとかなる…
それに移動中でも寝れるし…

空港で会ったメンバーたち、やっぱり矢口の体調が悪そうだった。
あたし以上に目の下にクマを作って…
サングラスをかけてみんなに心配かけさせまいとしてたけど、
たまにはずしたちょっとの間だけでも、矢口の心労が顔に出ていることはすぐにみんなに分かった。
この暑さの中、矢口も少しは手を抜けばいいけど、
全力でライブをやらないと気が済まないコだから…
自分の体調が悪いと分かったら逆に無理するに決まってる。
ただでさえ矢口は小さい体をみんなの動きと合わせるために激しく動かしているし…
あたしは矢口の体力が持つか心配だった。
90 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時27分58秒

広島に向かう途中不安に思っていたそんな危惧が、現実のものとなる…
そんなことになってほしくないと思っていたのに…


アンコール前の『恋のダンスサイト』が終わって、一旦ステージ裏に引き上げる中、
矢口が圭ちゃんに支えられるようにして戻ってきた。
圭ちゃんがしきりに矢口に声をかけてるけど、矢口は息も絶え絶えだった。
汗びっしょりで、圭ちゃんに支えられてやっと立ってるような感じだった。

ステージから降りたのを確認してホッとした矢口…

……その矢口の顔色が急激に悪くなったと思ったら、
圭ちゃんの腕をすり抜けてそのまま床に崩れ落ちた……
91 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時28分51秒

「…っ!! やぐちーーっ!!」


ステージ裏に響き渡る圭ちゃんの声。

…矢口の体が…小さな小さな体が…床に横たわっている……

あたしは突然のことに体がすくんで動かなかった。

コンサートスタッフが急いで駆け寄ってきて圭ちゃんと一緒に矢口を抱えて運んでいく…

時間にすれば引き上げてきてからほんの1分足らずの出来事…

あたしはその光景をボーっと、外の世界の事のように見ていた……

…………

……立ちすくでいたあたしに後ろからかかる声…


「カオリ…、着替えて準備しないと…」

92 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時29分39秒

…なっち……


「…だって矢口が…矢口が倒れたんだよ!!」

「でもアンコールが…」

「そんなの後回しでしょ!! 矢口が…矢口が……
 あたしの目の前で倒れて、そのまま起き上がらないで……
 …圭ちゃんに運ばれて……」

「…カオリ、冷静になって。
 矢口は大丈夫だから……ちゃんと意識もあるし…」

「だって…」

「紺野がケガしたときみたいに冷静に対応しないと…
 あのときも収録に戻らせたのはわたしたちなんだから……」
93 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時30分58秒
……アタマでは分かってた。
去年うたばんの収録のとき、溝に落ちてケガをした紺野に意識があるのを確認すると、
その場はスタッフに任せて、メンバーたちをすぐに収録に戻らせたのはあたしたちだ…
動揺してる5期メンバーたちを収録に戻したのはあたし。
タカさんはそんなあたしたちのプロ根性を誉めてくれたけど、本当はつらかった。
倒れてるメンバーを他の人に任せてその場を去ることが…
ましてや今回倒れたのは矢口だ…

倒れた理由も…体調が悪い理由も…
みんな分かってるじゃない!
なんで矢口がこんなことになってるかみんな分かってるでしょ!
あたし、そんな矢口を放っておけないよ……

「アンコール待ってるお客さんがいっぱいいるんだよ…」
94 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時31分39秒
…分かってる。
分かっていても、なっちの言葉に素直にうなずくことができなかった…
反発すら覚えていた。
それこそあのときの5期メンバーたちが感じたのと同じように……
人としての命の価値と、芸能人としての命の価値…
芸能人として判断を下したなっちも、あたしもイヤだった。
そんなことを口にするようになった自分を心の底で嫌っていた…


「カオリ! 行くよ」

突然圭ちゃんに背中を押されてようやくあたしの足が動く。
圭ちゃんも無理して矢口の側を離れてきたんだろう。
顔に苦渋の色が満ちていた。
それでもアンコールのために戻ってきた圭ちゃん…
95 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時32分33秒
あたしがここで看病の道を選んでも矢口はきっと怒るだろう…
歌えるのに歌わなかったらきっと矢口はあたしを怒り、悲しむに違いない。
圭ちゃんもきっと同じように考えて戻ってきた…
圭ちゃんの表情を見たらそう思えた…

あたしたち年上メンバー3人、悲壮な覚悟で控え室に向かう。

扉を開けると心配そうにあたしたちを見るメンバーたち。
あたしは極力普通のトーンでみんなに言った。

「はい! みんな着替え終わったらさっさと行くよー!」

言いながらあたしも着替え始める。

「矢口は大丈夫だから。
 自分達のステージだってことを忘れずに、しっかりとやりなさいよー!」

圭ちゃんが一言添えた。
不安そうな顔をしながらもアンコールの支度を始めるみんな…

壁越しにお客さんの「アンコール」の声が聞こえてくる…
この暑い中、10分近く続いている「アンコール」のかけ声。
この期待に答えなくちゃならない…
それがライブを大事にしてきたモーニング娘。なんだから……
96 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時33分27秒

…矢口が欠けたままあたしたちはステージに戻る。

一人ずつのMC。
矢口のいないことに気付いたファンのコたちがざわつき始めた。
あたしたちは構わずにMCを続ける。
MC明けの『本気で熱いテーマソング』も何も説明せずにそのまま乗り切った。
直前にした打ち合わせ通り矢口のパートは急遽なっちが引き継いで…


ラスト曲の『でっかい宇宙に愛がある』で矢口が戻ってきた。
ふらふらになりながら列の端にさりげなく加わったけど…
メンバーたちみんな矢口が歌えるのかどうか、心配そうだった。
矢口は大丈夫って合図してたけど、顔は真っ青のまま…

それでもオケは鳴り始め、あたしたちは歌い出す。
97 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時34分13秒
矢口は朦朧としながら懸命に歌ってた…
矢口が大好きなこの歌を…


 ♪誰かを責めるより
  涙を流すより
  自分を愛してあげようよ〜


この瞬間なぜだかあたし、涙ぐんでいた…

……あれ?……なんで?

ぼやける視界が意外だった…

あ…!
98 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時34分56秒
…みんなに評判の良くなかったこの曲。
とりわけあたしたち年上メンバーに評判が悪かった中で、
矢口だけがこの曲を大好きだと言っていた。
その理由が今なんとなく分かった気がした…
矢口が無理してこの曲に出てきたわけも……

矢口、この曲の歌詞に自分を映してたんだ…
あたしたちはこの曲が抽象的な大きな存在を対象にしてたのがイヤだった。
適当に宇宙とか地球って言葉が使われてるのが大っ嫌いだった。
でも矢口は…
矢口はもっと小さく、自分自身のことで考えてたんだ…


 ♪どんなすごい奴も
  孤独は寂しいの?
  笑ったなら楽しいの〜
           (「でっかい宇宙に愛がある」より)
99 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時35分36秒
最後の方、マイクを持つことすらつらくなっていた矢口を横から圭ちゃんが支えていた。
圭ちゃんが矢口の腕を支えてあげて、なんとか口にマイクを当てていた…

曲が終わるとお客さんへの挨拶もそこそこに矢口は圭ちゃんと舞台袖に引いていく。
あたしたちはステージの端から端まで回ってファンのみんなに最後のご挨拶。
…どうにかして終わることができた。
ちょっとホッとした気持ちもあったけど、充実感が得られるにはほど遠いライブだった。
楽しいって思えるライブではなかった…

…控え室に戻ってくると、やっぱり矢口と圭ちゃんは戻ってない。
どこかもっとちゃんと休めるところに連れて行ったんだろう…
スタッフさんたちの内、かなりの人数が消えていた。

楽屋に取り残されたあたしたち。
4期メンバーや5期メンバーは矢口のことが心配というよりも
矢口の最後のステージに圧倒されるものがあったみたいで、みんな黙ってしまっていた…
100 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時36分11秒
「覚えておきな…
 昔は1時間しか睡眠時間もらえない時とかでも、ライブはきっちりやってたんだから。
 ドクターストップがかからない限り、何があっても、オケが止まろうがなんだろうが
 最後まで歌い上げるのがあたしたちの信条だったんだから。
 歌をそれだけ大切にしてきたんだから…」

あたしの言葉に5期メンバーたちはただうなずくだけだった…
いつかこのコたちも分かるときが来る。
歌の大切さ、ファンの大切さを。
今みたいに恵まれてる環境では知り得ないけど、
本当の苦境に立たされたとき、あたしの言っていたことを思い出してね…
…あたしの後輩たち……
101 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時36分50秒

…外では救急車を呼ぶほどまで大騒ぎになっていた…

それでも少し寝かされて休憩を取った矢口はなんとか持ち直し、
みんなに笑顔を振りまいている…

そんな矢口を見ていたらあたしも泣いてなんかいられない。

絶対に矢口の前で涙を流すのはやめよう…

それがあのコへのせめてものいたわり……



飯田圭織、21歳まであと5日。


泣くまいと誓った広島の夜……


102 名前:飯田圭織編(3) 投稿日:2002年12月30日(月)00時37分47秒


飯田圭織編(2)
参考資料 「タンポポ編集部 OH-SO-RO!」02.08.13放送分
     「タンポポ編集部 OH-SO-RO!」02.09.03放送分
     「飯田圭織の今夜も交信中」02.08.22放送分

103 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)00時57分59秒


     ◇      ◇      ◇

                       矢口真里編(4)-1

104 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)00時58分40秒

「矢口さん! 今晩よろしくお願いしますね」

「あー! ソニンちゃん、久しぶりー!!
 戻ってきたんだー!」

「はい!おかげさまでー」

MUSIX!のクイズの収録前。
ソニンちゃんから数カ月ぶりの挨拶をされた。
ソニンちゃんの後ろには和田さんがニヤついて立っている。

「今晩って何かあったっけ?」
「はい。新曲持って矢口さんのラジオにお邪魔しますから」
「あー、そうなんだー。
 直前の打ち合わせまで知らされないこともあるからさあ、
 全然知らなかったよー」

そこまで言うと待ってましたとばかりに和田さんが話に入ってきた。
105 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)00時59分14秒
「違う違う。
 まだ決まってないから。
 強引におまえのラジオに行くから、今日」
「えー! 大丈夫なんですかー?」
「平気平気。
 だからおまえも何か気の利いたコメント考えとけよ。
 新曲の宣伝で行くんだから」
「コメントー?
 まあ、いいですけどー…
 そんな簡単にわたしのラジオ出れるんですかね?
 ああ、いや、自惚れとかそういうことじゃなくて…
 けっこうゲストとか立て込んでるみたいで」
「問題ねえって。
 明日のより子。のオールナイトニッポンの打ち合わせも兼ねて行くんだし。
 顔見知り多いしな。まあ、何とかなんだろ」
「え! より子。ちゃんオールナイトニッポンやるんですか?
 早いっすねー…」
「ドットコムの方な。
 明日より子。のドラマの放送が9時からあって、そのあと1時から」

さらっと言う和田さんだったけど、ここまでこぎ着けるには
相当苦労があったに違いない。
今年の春先にはマイナスの状態だったんだから…
106 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時00分04秒
「すごいですねー。
 ソニンちゃんは新曲でより子。ちゃんはドラマ化とラジオですか?」
「もう忙しくて忙しくて。
 ここ1週間ソニンとより子。のスケジュール、満杯でなー。
 今日だって天王洲とお台場行ったり来たりで死にそうだよ、ホント…
 メシ食ってる時間もねえもん」

そういえば少し和田さんやつれた気がする。
ミュージカルで会ったとき痩せたなあとは思ってたけど、
こうして見るとあれからさらに疲れてるような…


「おはようございまーす」


カオリが収録用の衣装に着替えてやって来た。
今日はカオリの誕生日。
今日の収録メンバーはわたしとカオリと圭ちゃんとごっつぁんだけっていう
少人数だったけど、ほんのささやかなお祝いをしようって決めていた。
107 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時00分42秒
「飯田ー、この前サンキューな。
 より子。へのコメント」
「あー、いえ…」
「何かやったの?カオリ」
「うん。『とくダネ』でより子。ちゃんの特集を組むっていって
 あたしのところにコメント取りに来たの」
「へぇ…。カオリのところにねぇ…」

わたしはちょっと嫉妬したのかもしれない。
わたしには来ないような仕事だったこと。
カオリがミュージシャンと呼ばれる人たちと付き合いがあること。
そして何より…明日香の友達とカオリが友達なこと…

「和田さーん、今度はより子。ちゃんもオールナイトニッポン連れて来てくださいよー。
 裕ちゃんのところやカオリのところには連れてって、
 なんでおいらのところには連れてこないんですかー?」
「いや…まあ、今度な……そのうち連れてくから。
 今日はとにかくソニンのコト頼むわ」
「それはもちろんですけどぉ…」
108 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時01分14秒

「矢口のところに連れて行って下着の話でもされたらかなわんから、
 連れて行かんとちゃうの?」

「裕ちゃん!?」

何でか知らないけど裕ちゃんが、突然わたしの後ろに立っている。
いるのがさも当然と言わんばかりの態度で…

「なんで裕ちゃんがいるの!
 裕ちゃんの収録、2本目でしょ?」

裕ちゃんの出るクイズの収録は2本目なのに、なんでこんなに早くスタジオ入りしてんのさ?
109 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時01分44秒
「今日はなー、あたしもこことお台場を行ったり来たりなんよ。
 時間の取れるときにちゃっちゃと歌収録とか済まさんと…
 あんたたちが1本目撮ってるときにあたしが歌収録すんのよ。
 そんで、あたしがクイズ撮ってるときはソニンちゃんが歌収録」
「そうなの? なんか今日はみんな忙しいねえ…
 フジで特番の収録でもあんの?」
「ちゃうちゃう。
 今日はなー、テレビじゃなくてライブ。
 フジの7階で野外ライブやるんよ。
 ソニンちゃんもあたしもそれに出んの」
「フジの7階って、あの屋上の風のめちゃ強いところ?
 あんなところでやるの?」
「そうや。
 夏っぽくてエエやろ?
 それに今日は紗耶香も来るんよ」
「紗耶香もかあ……」

先週のミュージックステーション、
ビデオで見たら本当に紗耶香ったらピースサインを3回出してた。
あの日届いたメールの約束通り…
わたしにそんなに気を使わなくていいのに。
紗耶香だって苦労してるんだから……
110 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時02分19秒
「何か伝えとこか?紗耶香に」

裕ちゃんの問いかけにわたしは首を振る。
あのあとわたし、メール返さなかった。
何て打ったらいいのかも分からず…、
考えがまとまらなくて、そのまま今日まできちゃった…

「うん…いいや。
 それより頑張ってね、裕ちゃんも」
「ん? なんや?いきなり…」
「聞いたよ…ラジオの話。放送事故直前だったんでしょ?」

日曜日の裕ちゃんのラジオ…
わたしの話をして、タンポポの話をして、プッチモニの話をして…
最後にみっちゃんの話をしているときに、ついに裕ちゃんが泣き崩れて
話せなくなったってことを耳にした……
111 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時03分00秒
「あー、なんやその話か…
 それならもう気にせんといて。
 …もう怒ることもないわ、アホらし過ぎて…
 なんて言うのかな…人間さ、怒りが達すると泣きに入るよね…分かる、これ?
 …もう今じゃ怒りすら超えて、ある意味無感動?みたいな…
 だからもう泣かへんよ」
「ちょっと裕ちゃん、リアルすぎる話やめてよ。
 せっかくあたしの誕生日なんだから今日は楽しくいってよね」
「…ああ、ゴメンゴメン。ついな…」

感情が昂り始めた裕ちゃんをカオリが慰めてた。
わたしも裕ちゃんみたいにストレートに言えたらなあ…
いくらか気が楽になるかもしれないのに……

 ・ ・

 ・

112 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時11分54秒
ソニンちゃんがゲストの回と、裕ちゃんがゲストの回のクイズを撮り終わるとひと休み。
裕ちゃんは収録が終わると急いでお台場に出発していった。

「カオリ! ちょっとこっち来て!」

圭ちゃんが収録を終えて楽屋に戻ろうとしているカオリを呼び止める。
準備しておいた部屋に、ごっつぁんとわたしでカオリを引っぱり込んだ。
部屋に飾り付けも何にもできなかったけど…、小さいケーキだったけど…
カオリへのわたしたちのささやかなお祝い。
大きいロウソクが2本と小さいロウソクが1本…

「「「カオリ、誕生日おめでとう!!」」」

3人で『ハッピーバースデー』をカオリに歌ってあげる。
歌い終わるとカオリがうれしそうにロウソクの炎を吹き消した。

「ありがとね、みんな」

ケーキをテーブルの上に置くと、3人それぞれカオリにプレゼントを渡した。
わたしのプレゼント…ケーキ型のキャンドル…
今カオリが火を消したケーキとそっくりな形のキャンドル。
…カオリ、開けたらビックリするかなあ?
113 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時12分37秒
「これでカオリもあたしと同い年だねえ」
「4ヶ月だけでしょー、同い年なのは」
「あたしにとっちゃその4ヶ月がデカいんだから。
 これでおばちゃんネタがカオリにもいくし」
「いいよー、12月になったら前よりもっと『おばちゃん』って言ってあげるから」

カオリと圭ちゃんがしょーもないことで張り合っている。
それを見たごっつぁんが笑いながらきっつーい一言。

「まあ、あたしから見れば二人ともおばちゃんだけどね」

「「ちょっと、ごっつぁーん!!」」

二人、息ぴったりにごっつぁんにツっこんだ。

わたしはそれが可笑しくて…、思いっきり笑い転げてた。
カオリも圭ちゃんもごっつぁんも、みんな笑ってた。

 ・

114 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時13分11秒
「カオリ、この後空いてるの?」
「ゴメン、ちょっと用あって……」
「…ふーん……」

圭ちゃんがカオリに聞いてたけど、カオリの用事って…?
この誕生日に……
そこいらへんはお互いに聞かないことにしてるけどさ…

「矢口は?」
「おいらはこのあとまだ収録あるよ…DJマリーの」

『うーん…』と渋い顔した圭ちゃんがごっつぁんの方を見る。

「あたし? あたしはこれから歌とトーク収録だよー」

「いったい何なのよー?」

焦れたわたしは我慢できなくなって圭ちゃんに尋ねた。

「…時間あったらでいいんだけど……」
「うん」
「……フジテレビ行ってみない?」
「…え? フジって…裕ちゃんと紗耶香が出てるライブってこと?」
「…そう」
115 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時13分55秒
ごっつぁんと顔を見合わせてしまった…
今、紗耶香に面と向かって会うのは正直ためらいがある。
どんな顔をして会ったらいいのか…
ごっつぁんも同じようなもんなんだろう。
わたしと一緒で複雑な顔をしていた…
そんなわたしたちを見て圭ちゃんは、バレバレの気遣い…

「いや、いいんだ。時間ないの分かってたし。
 あたしもどうしても行きたいってわけじゃないから…」

…収録の終わったカオリと圭ちゃんとはそこで別れた。
圭ちゃんはきっとフジに行く…
一人じゃ行かないようなことを言ってたけど…
116 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時14分32秒
DJマリーを撮り終えて楽屋に引き上げる途中、
新曲のピンクの衣装に着替えたごっつぁんとすれ違った。
…リハがちょうど終わったところかな?

「ごっつぁん、どうすんの?
 終わったらフジ行く?」
「えー…、そんなこと聞かれてもなあ……」
「圭ちゃん絶対行ってるよ、あの調子だと…」
「うーん…、でもあたし、歌の後にもトーク収録があるから。
 キャイーンさんとのトークがさあ…
 どっちにしろ行くのは無理っぽいよ」
「そっかー…おいらどうしようかなあ」
「…………
 ……行ってきたら?」
「え?」

あれ?ごっつぁん、直前まで行かないことに同意してたような感じだったのに…
117 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時15分05秒
「いやあ、なんか今ふっと思った。
 あたしさあ、MUSIX!の収録ってあともう1回来て終わりなんだよね…
 だからなんか後悔しないようにしておきたいっていうか…
 これでやぐっつぁんに行くこと薦めなかったら、後で後悔しそうだなあとか、
 今突然思ったんだよね」
「もう1回で終わりなの?
 えー! そんなの聞いてないよぉ…」
「あたしもさあ、レギュラーだったのにはずれちゃうんだなぁとか考えたら
 ちょっとやっぱ寂しいなあとか思ったよ…」
「…そりゃあ寂しいよ。
 だって、ずーっと毎週のように通ってたんだもん…」
「…あたしの寂しい話はいいからさ、
 とにかく行ってきなよ、やぐっつぁん。
 いちーちゃんも、やぐっつぁんが行けばきっと喜ぶよ」
118 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時16分00秒
寂しさを振り払うようにごっつぁんはわたしに言う。
『いちーちゃん』か……懐かしい響き……
紗耶香に甘えてばかりだったごっつぁんが、今はこうしてわたしを諭すまでに強くなった。
ごっつぁんが大泣きしてた、あの武道館……
紗耶香と同じようにごっつぁんもモーニング娘。を旅立っていく……

「行ってこようかな…
 ごっつぁんがそう言うんだったら」

わたしが言うと、ごっつぁんはうれしそうに「へへ」と笑った…
いつもの照れが入った笑い方……


 ・ ・


 ・

119 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時19分23秒
天王洲を出る前に圭ちゃんにメールをしたら、池広場で待ってるからって…
あんな人通りの多いところで待ってて平気なの?
…疑問を抱きながらもタクシーを降りるとホントに圭ちゃんがフジテレビの噴水の前に立っている。
帽子を被って、サングラスをかけて……かなり目立つ…
近付いていって回りに気付かれないようにそーっと声をかけた。

「……圭ちゃん…」
「おー!矢口。ようやく来たかー」
「ちょっとー、圭ちゃん、なんでこんなところで待ち合わせなのよ…」
「あー、ゴメンね。先に謝っておくわ。
 来てもらって悪いんだけど、紗耶香と裕ちゃんの歌、もう終わっちゃった」
「えーー!! そんなー!!
 わざわざ急いで来たのにー……」
「ゴメンゴメン。
 あとちょーっと早く着けば裕ちゃんのには間に合ってたんだけどさ」
「それじゃー来た意味ないよー。
 せっかくごっつぁんの分まで見ようと思って来たのにー!」
「最後にさ…、9時くらいにもう一回紗耶香と裕ちゃん出てくるから。
 それまで、いいトコに連れてくから、それで機嫌直してよ、ね?」

圭ちゃんがわたしに手を合わせて謝っている…
いいトコねえ…
120 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時20分17秒
「…しょうがないなあ。
 終わっちゃったんじゃしょうがないよ。
 おいらが来るのが遅かったのがいけないんだし」
「お詫びにいいトコ連れてくからさ、いいトコ」
「なんでそんなに『いいトコ』連発してんの?
 なんか不安だなあ…
 『ドッキリ』とかじゃないでしょーね?」

圭ちゃんが『大丈夫、大丈夫』って言いながら、
あたしの両肩を後ろから押してくる。

「え、ちょっと、歩いていくの?」

圭ちゃんはうなずきもせず、どんどん押してくる。
それにつられてどんどん歩かされて…
関係者しか入れないようなフジテレビの裏の方へ…
121 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時30分13秒
「圭ちゃん、どこまで行くのよ?
 こんなとこ入ってきちゃっていいの?」
「うん。パスは持ってるから」
「いや、そういうことじゃなくてさあ…」
「ほら、着いたよ!!」

圭ちゃんが機材の搬入口みたいな大きな扉の前で立ち止まる。
灰色に塗られたの鉄の扉を重たそうに開いてわたしをその中に押し込んだ…

入ってすぐに気付く、そこに漂う香ばしい匂い…

…………

…………焼肉?

……

…目に飛び込んでくる漢字。

……叙々苑?

…何、ここ?
フジテレビの中でしょ?
122 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時30分43秒
セットだかなんだか分からないけれど、
「料理の鉄人」みたいな厨房と「叙々苑」って書かれた看板がそこには並んでいる。
テーブルにイス、かなり簡易な作りだったけどお店みたいに見える。
天井が高くて雰囲気は違うけど…
しかもけっこうな人の数…中には本当にお肉を食べてる人までいた。

圭ちゃんを振り返って聞いてしまった。

「どこ? ここ?」
「叙々苑」

圭ちゃんが笑って答えてる。


「矢口ーー!!」


来た…! いつものあの声……

「裕ちゃんまでいるのー?」

裕ちゃんはわたしの目の前まで来ると、お皿に盛られたお肉を箸で一切れつまんで
あたしの口に持ってくる。
123 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時32分08秒
「ほら、あーん」

思わず口を開けてお肉を食べてしまった…
…口の中の広がるお肉の味を楽しみながら聞いてみた叙々苑の謎。

「なんでこんなところに叙々苑があんのさー?」

圭ちゃんと裕ちゃんが代わる代わる答えてくれたところによると…
夏休みの間、臨時に叙々苑がフジテレビの池広場に屋台を出店してるとか。
で、今日はそれを利用して閉店した後にここに屋台の道具を運び込んで
ライブの打ち上げに使う腹づもりらしい。
わざわざ本店からお肉はおろかコックさんまで連れてきて…
ここまでやるか?ふつう…
まあテレビ局だからこんなのすぐに用意できるんだろうけど。
それにあの遊び好きのきくちさんが主催だし……
辻のためにファミレスまで貸し切る人だしね…
124 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時32分57秒
「裕ちゃん、お酒飲んでないでしょうね?
 まだ1曲残ってるんでしょ?」
「あー、もう、かろうじて我慢してる。
 お肉もなんとか…
 一切れだけつまんじゃったけど…」
「裕ちゃーん…、歌う前に油モンはよくないよ…」
「分かっとるよー…でも一切れくらいエエやんか。
 圭ちゃんだって同じ立場やったら絶対一切れくらい食うとるって。
 もう…わざわざ7階から降りて来たのに冷たいわー、ホンマ…」

圭ちゃんに咎められていじけて見せる裕ちゃん。
でも途中でコロっと表情を変えると…

「まあ、ええわ。
 こんなバカやってゆっくりもしとられへんし。
 ここの本番はライブ終わってからやしな。
 そんとき思いっきり飲んだるわ。
 …あー、あれやろ? 矢口は今日ニッポン放送でラジオやろ?」
「うん。そうだけど」
「ま、ここで腹ごしらえでもしてきぃや、圭ちゃんと。
 ここならギリギリまでいられるやろ?
 あたし、もう戻らなあかんねん」

そう言って裕ちゃんは持っていたお皿をわたしに渡すと小走りで去っていく。
裕ちゃんホントにわたしに会いに来ただけか…
125 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時33分48秒
「裕ちゃーん! あとで見に行くからねー!!」

わたしが叫ぶと裕ちゃんは後ろ向きに手を振って返してくれた。


裕ちゃんが歌う9時まであと40分くらい。
そんなに時間はないけど焼肉の誘惑には勝てず、圭ちゃんと一緒に焼肉をほお張る。
圭ちゃんに『んまいんまい』言いながら食べてたら誰かに肩を叩かれた。
振り向くとあたしの頬に食い込む指…
こんな子供みたいなイタズラするのって…

「…はやかー!!」

…口に入ったお肉と頬に突き刺さった指とでうまくしゃべれなかったけど、
そこにはまぎれもない紗耶香の姿が……

「おっす!矢口っ!」

左手を軽くおでこに持っていって、軽い感じでする挨拶。
変わってないなあ…

「紗耶香、何やってんのよ! こんなとこ来てていいの?」
「うん、風が強くてさー。
 機材が倒れちゃったんだよね。
 そんで遅れてんの」

風で髪が乱れた後頭部を掻きながら話す紗耶香。
その軽い口調にわたしの複雑な思いも幾分かほぐれた。
126 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時34分32秒
「紗耶香…、この前ありがとね……」
「え、何がー?」

そう言いながら圭ちゃんのお皿からお肉をつまみ取ろうとして、
圭ちゃんに手をはたかれている…

「あんた、これから歌うんでしょ!」
「いいじゃんよー、一切れくらい。
 ねー?矢口」
「あ…あのさ…この前のMステのこと…」
「あー、いいって、あたしが好きで勝手にやったんだし」
「…あ、うん……でも、うれしかったよ、紗耶香…
 それだけは言っておきたくて…」
「いいって、いいって」

手をわたしに向かってひらひらとさせながら、
今度はわたしのお皿からお肉をひとつまみ…

「紗耶香ーー!!」

圭ちゃんが咎める前に紗耶香は歩き出し、上を向きながら肉をのどに流し込んでいる…
127 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時35分19秒
「ほんじゃーね」

紗耶香の後ろ姿にわたしは声をかけた。

「紗耶香!あのさ…今日迷ってたおいらがここに来たのは
 ごっつぁんに言われたからなんだ。
 …ごっつぁんも紗耶香に言いたいこといっぱいあるけど
 きっとうまく言えなくて悩んでる…
 あんな風に見えても強がってるだけだから、ごっつぁんは……」

…紗耶香は立ち止まると、今度はおもむろに圭ちゃんのお皿に手を伸ばし
またお肉を取ってのどに流し込んだ……

「…じゃあ、行ってくる」

お肉を噛みしめながら紗耶香が去っていく……


「まったく…、何しに来たんだか…あのコ……」

そう言いながらも圭ちゃんはうれしそうだった。
わたしもなんだかうれしい
素直に紗耶香へ言葉が出てきたことに…
ごっつぁんのことを少しでも伝えられたことに……
128 名前:矢口真里編(4)-1 投稿日:2002年12月30日(月)01時36分23秒

時間ぎりぎりまでお腹いっぱい食べて、7階に上がるとものすごい風が吹いていた。
マイクが風の音を拾うくらいの強い風。
昔『抱いてHOLD ON ME!』を歌ったときくらいの強い風。
あのときは冬だったから鼻水が凍りそうなくらい寒かった…
そんな中、今日は紗耶香と裕ちゃん、そしてソニンちゃんやともえちゃんまで歌ってた…
わたしが今まで聴いたことがなかった『この素晴らしい愛をもう一度』って曲を
坂崎さんのギターにのせて…

わたしのタイムリミットが来る。
紗耶香や裕ちゃんにもう一回会えないまま、わたしはその場を後にした。
圭ちゃんはそのまま残って二人とあの焼肉会場に戻るんだろうけど…
これから2時間の生放送、今日ばかりはラジオがあることを恨めしく思った。
先週でさえ、そこまでは思わなかったのに…

オールナイトニッポンのスタジオに入ったのが本番30分前。
小走りでスタジオに入ったら、焼肉のせいもあってお腹が痛くなってきた。

うぅー、死にそう……

生まれて初めて死にそう……

あ、またリスナーから投書がくる、こんなこと言ったら……


129 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時37分32秒


     ◇      ◇      ◇

                       矢口真里編(4)-2

130 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時38分03秒
仙台でのコンサートのリハーサル。
1曲終わったあとに、りんねがなっちのところに急いで近付いてきて聞いてた。

「なっち、体調悪いの?」
「そんなことないよー。なんで?」
「だってモニターで見てたら、なっちの顔真っ白なんだもん」
「いや違うってりんね…
 りんねの顔も充分白いって」
「えー? わたし体調悪くないよー」

なっちは手を伸ばしてりんねの頬をこするとその指先をりんねに見せた。

「日焼け止め塗り過ぎ!!」
「あー! そっかあー」

相変わらずボケボケなりんね。
なんかりんねが牧場に戻ってないとかそんなことを石川が言ってたけど…
体調不良じゃないってことはなんなんだろう…
…そんなことを思いつつも自分自身、今日のコンサートを乗り切れるか不安だった。
かなり体調が戻ってきたとはいえ、この暑さ、この陽射し…
先週みたいに倒れちゃったらどうしよう……
131 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時38分46秒

リハーサルが終わり、控え室に戻ってかき氷を食べようとしたら、
すでにかき氷機の前に行列が出来ている。
まあ、並んじゃう原因は分かってるんだけど…

「こらー、加護ー、早くしろー!」

あたしが言っても、かき氷機の回りで高橋や新垣と一緒に
キャーキャー言いながら作ってるから全然聞こえてない。
またシロップのかけ合わせとかしてるんだろう、まったく…

「もう、いいや。氷のまんま食べてこようっと」

つぶやいたら、ミカちゃんがわたしを気の毒そうな目で見てた。

控え室に戻って冷凍庫から氷をひとかけら。
体の中に冷たさが染み込んでいくのが気持ちいい。
もう1個つまんだわたしの横ではなっちと辻が扇風機の取り合いをしてた。

「ちょっと、ののー! 自分の方ばかりに向けないでよー!」
「ふぇ? だって暑いんだもーん。あちーーー!!」

辻が舌を出して扇風機に向かって叫んでる。
なっちは構わずに自分の方にくるりと向け直した。
するとまた自分の方に向ける辻…
そんな二人がなんだか見てて微笑ましかった。
132 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時39分19秒
「今日はなっち念入りにリハやってたねー」
「えー? そうかなあ?」
「またまたー、隠しちゃって。
 誕生日だから気合い入っちゃってるんでしょ?」
「うん、まあちょっとはさ…」

なっちももう21歳。
カオリと違って全然21には見えないけど、
制服着ればまだまだ高校生に見えるけど、
わたしよりも年上なんだよなあ。
なっちとカオリと圭ちゃんはもう3人でお酒を飲んだりできるのに、
わたしだけ置いてけぼり…
実際はあの3人で集まって飲むことなんてないのは分かってても、
MUSIX!のBARのコーナーにわたしだけ呼ばれなかったり、
うたばんであの3人が別格に扱われているのが、わたしは寂しかった。
あと一つ年上だったらなんとか3人と一緒にしてもらえたかもしれないのに…


 ・ ・

133 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時39分50秒
8月10日の仙台。
異常なくらい暑かった。
40℃近い気温、ステージ上は照明の熱も手伝ってさらに暑い…

コンサートは順調に進みアンコール前の『恋のダンスサイト』。
先週みたいにふらふらにならないように何とか気を張っていた。
曲ももう少しで終わる。
ごっつぁんが「こーいーのーダーンースーサーイートーー」って歌っていた……

ああ…ようやく一休みできる……

……ちょっと気を抜いた瞬間、
わたしの視界が歪んだ……

カオリのびっくりした表情と斜めに見えた立ち姿。
それがわたしの見た最後の記憶だった…


…………


…………


……

134 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時43分43秒
…うっすら目を開けると…カオリとなっちと圭ちゃんの声、
それにスタッフさんたちの声も何人か…、
わたしの耳にぼんやりと聞こえてきた…

…わたし寝かされてる……
そのことに気が付いた…

学校の保健室みたいな白い天井と薄暗い蛍光灯の明かり。
横目に仕切りのカーテンみたいなものも見えた…

…わたしどれくらい寝かされていたんだろう?

外の静寂さからいってコンサートがもう終わってしまったことは分かった…

…起きようとしたけど体がいうことをきかない。

…仕方がないからみんなが話す声に耳を傾けていた……
135 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時45分11秒
「夜は12人でやるしかないね…。矢口はこの状態じゃ無理でしょ……」
「でもさーなっち、今さら全部のパート割り直してる時間なんてないよ…
 ダンスはそのまんまでいいとしても歌のパート割りが……」
「大丈夫でしょ。わたしたち3人で分ければさ……
 ね、カオリ?」
「うーん…、娘。とタンポポはそれでなんとかなるかもしれないけど、ミニモニ。がねー…
 口パクでやってるからさあ、矢口なしじゃ変なことになるよ。
 今さらののとあいぼんに生歌でやれて言っても無理な話だし……」
「じゃあミニモニ。は全部ナシ?」
「…でもミニモニ。削ると小さい子たち…
 ミニモニ。目当てで来てる子がいっぱいいるから…」

3人が真剣に話す声…
わたしは聴いてて胸が裂けるような思いがした。
わたしのせいで…わたしのせいで……
みんなに迷惑かけてる……


「…おいら、できるよ……」


カーテン越しに声をかけた…

すると…カーテンがレールを滑り、窓からの陽射しが白い布団の上に差し込んだ…
わたしの顔の真上に圭ちゃんの顔が覗く…
136 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時45分52秒
「矢口! 気付いたの?」

「あー…うん……おいら、どのくらいここで寝てた?
 …次のライブまであとどれくらいある?」

「まだ2時間くらいあるよ…次の回までに…」

「…じゃあ大丈夫だよ。回復するって。
 おいらやれるよ、次の回」

「そんなこと言ったって、あんたちょっと前にステージの上で倒れたんだよ。
 これ以上無理してもしょうがないでしょ。
 またあんた倒れるよ…」

「大丈夫だって。夜だし…
 少しは気温も下がるでしょ?」

言いながら起き上がろうとしたけど、やっぱりダメだった…
圭ちゃんに手伝ってもらってやっとベッドの上に起こしてもらった。

部屋を見渡すと、そこにはわたしを見つめるなっちとカオリの心配そうな顔…

「…おいらが倒れたあとどうなったの…?」

3人から返事はなかった。

「ねえ、聞かせてよ…どうなったのか…」

カオリが重々しく口を開く…
137 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時46分58秒
「…あたしの真横で倒れて…、
 あたし、矢口が転んだだけだと思ったから起こそうとしたんだけど、
 矢口が全然自分から起きてくる力がなくて……、
 呆然としてたら、下手からスタッフの人たちが出てきて矢口のこと運んでいった…」
「…その後は?」
「…先週と一緒。動揺してるメンバーをなだめて、パート変更決めて…
 あとはMCとかはいつも通りに…」
「会場の反応は? 何にも問題なかった?」
「…分かんない。あたしたちも台本通りに進めるので精一杯だったから。
 会場の反応までいちいち気を配ってなんていらんなかったよ…」
「それで、今までおいらはここに寝かされてたってわけか…」

『でっかい宇宙に愛がある』も歌えず、お客さんに挨拶も出来ず、
中途半端に終わらせちゃったってことか…
それになっちの誕生日だったのにこんなことになっちゃって……

「ゴメンね、なっち。…それにカオリも…
 せっかくの誕生日のコンサートを台無しにしちゃって。
 今週はスタミナつけたりして体調には気を使ってたんだけど…」

「いいよ別に…、気にしなくて。
 …それより次の回、どうするか結論出さないと……」

「やるよ、おいら」
138 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時47分47秒
スタッフさんにも向き直して言った。

「やりますからね。出ますよ、わたし」

「矢口…、あんた少しは自分の体、大事にしなさいよー。
 無理する必要ないでしょー!」

「…あるよ。
 ここで頑張らないでどうすんの?
 ここでおいらが次に出なかったら、ファンはやっぱりなって思うよ。
 わたしたちに対して夢も希望もなくなるよ。
 そんなこと思わせちゃったらモーニング娘。失格でしょ?」

「でもさ…」

「圭ちゃんだって、なっちだって、カオリだって、
 おいらと同じ立場だったら、絶対に『出る』って言うよ。
 歌える機会を自分から放棄するわけないでしょ?みんなさ…」

「…………」

みんな歌が大事なのは分かってたから…
ステージが大事だって分かってたから…
139 名前:矢口真里編(4)-2 投稿日:2002年12月30日(月)01時49分23秒

結局2回目のライブはミニモニ。の『アイーン!ダンスの唄』と
アンコールの『本気で熱いテーマソング』を減らすことを条件に参加を許された。
わたしは最後までこの2曲を減らされることに抵抗したけど、
なっち・カオリ・圭ちゃんの3人もこの2曲を削らなければ
わたしの参加を認めないって言ったから……

2回目の夜公演が終わって…、結果的に2曲削ったことは正解だったんだろう。
わたしたちが2回目のことで話し合ってる最中に、雷雨があったことや
夜になって気温が下がったことも理由だったけど、
どうにかわたしは倒れることなく夜公演を乗り切ることが出来た。

ただ…、わざわざ仙台まで足を運んでくれたお客さんたちには申し訳なくて……
しかも今日はなっちの誕生日、夏休みでもあったし、
全国各地から遠征してきたような人が多かった…
それなのにわたしのせいで、コンサートは台無しになってしまって…

メンバーは気にするなって言ってくれたし、
なっちのファンもなっちの誕生日を祝えたことだけで満足できたみたいだったけど、
わたしの心は晴れなかった…

歌をきちんと歌いきれなかったこと…
自己管理ができなかったこと…

そんな自分がイヤだった…

140 名前:矢口真里編(4)-3 投稿日:2002年12月30日(月)01時50分00秒


     ◇      ◇      ◇

                       矢口真里編(4)-3

141 名前:矢口真里編(4)-3 投稿日:2002年12月30日(月)01時50分30秒

…またあの子供たちがスタジオにやってきた。

24時間テレビを3日後に控えた今日、
わたしたちはいつものスタジオでハロモニの収録。
ゲームの1本目、ハロプロキッズの子たちがチョロチョロと
スタジオをうろついていてメチャクチャ目障りだった。
それはこの子供たちを見るたびに思う…
ゲームも玉入れや風船割りなんていう、こんなの放送してていいの?って内容で…
裕ちゃんもボソッと
「なんか、ホント夏休み企画って感じ」
ってイヤミを言ってたし。
なっちが映画の撮影に行ってていなかったから、
わたしにチームリーダー役が回ってきたらどうしようって思ってたけど、
今回は辻加護に回って何とか難を逃れた…
142 名前:矢口真里編(4)-3 投稿日:2002年12月30日(月)01時51分56秒

子供たちとの収録が終わると続けて2本目の収録。
収録の準備の合間に石川に聞かれた。

「あれ? いつもの黒いマイナスイオンリングどうしたんですか?
 珍しいですね、付けてないなんて」
「…あー、あれね…
 付けててもいいことなかったから…
 2回も倒れちゃったし…
 なんか、どうでもよくなって外しちゃった。
 …気分転換にもなると思って」
「…そうなんですか……」
「おまえが暗くなるなよー」
「だってぇ…」
「いいんだよ、近い内に外そうと思ってたから。
 なっちとの話の手前、付けてただけで…
 丁度いいきっかけになったよ」
「…………」

それ以上話は続かない。
続けたくもなかったから、早々と辻にちょっかいを出して遊ぶことにした。
石川もそれにのっかってハシャいでいる。
気持ちの切り替えの早さはもうわたしよりも遥かに早い石川だった…
143 名前:矢口真里編(4)-3 投稿日:2002年12月30日(月)01時52分41秒

2本目は味覚を試されるゲームだった。
目隠しをしていろんな食べ物を食べさせられて…
クラッカーの上に乗せられた食べ物を当てるゲーム、
豆腐とキムチが乗っかってるのに、紺野がイチジクとザクロで迷ってた。
しかも、もう一つの答えがマーガリン!
さんざん迷ってて答えを決めないから、ちょっと注意する。

「紺野、早くしなさいよ」

そしたら裕ちゃんがさらに一言。

「どっちでもいいよ!
 どっちみち違うから。
 知らないよこんな味音痴!」

うわっ、裕ちゃんきっつー。
紺野も言われてぽかーんと口を開けてしまった。
問題が終わった後に裕ちゃんが紺野に聞いてた。
144 名前:矢口真里編(4)-3 投稿日:2002年12月30日(月)01時53分13秒
「どれがマーガリンで、どれがザクロだって思ったの?」

紺野は自分の回答がかなりショックだったみたい。
自分がただの大喰らいで味覚がないことが…
これからはもっとちゃんと味わって食べますって決心してた。
マジメに答えてる紺野を見て裕ちゃんは大笑いしてたけど。

勝利チームへの御褒美で出てきたミラクルフルーツにはみんなビックリ!
それを食べるとレモンがミカンみたいな味がするようになって…
加護や紺野はそれが面白かったらしく収録が終わった後もずーっと食べてた。
辻なんかエンディングを撮ってるのも構わずにずーっと…
番組の途中で「お前はキッズ以下だな!」って言ってやったけど
辻は全然気にしてなかった。
最近はなっちの言うことじゃないと聞かないんだから…
145 名前:矢口真里編(4)-3 投稿日:2002年12月30日(月)01時53分44秒
3本目の収録はプッチモニのラスト…
圭ちゃんたち3人がプッチモニの衣装に着替えてスタジオに入ってきた。
発表されてからまだ2週間しか経ってないのに、
この2週間あっという間だったのに、
プッチモニはもう最後を迎えなければならない。
これが電波にのる放送の最後の収録…

変声機を使って声だけで圭ちゃんを当てるゲームで
プッチモニとしての最後の意地を3人に見せつけられた。
ごっつぁんとよっすぃーは8人の出題者の中から
一発で声を出した圭ちゃんを当てた。
よっすぃーがそのワケを説明する。

「5番がね、出だしに『はいっ』って言ったの」
「あたしわざと『はいっ』ってつけたんだよ」
「圭ちゃん、ラジオとかね、絶対『はいっ』って最初に言うから…」
「クセなんだよー『はいっ』って言うの」

3人でやってきたラジオがあったから…、
わたしたちに見抜けないクセを知ってたんだ…
やられちゃったな、3人に…
146 名前:矢口真里編(4)-3 投稿日:2002年12月30日(月)01時54分39秒
…最後に裕ちゃんが聞いていた。
3人それぞれにとってプッチモニとは何だったのか、
どういう場所だったのか…

「自分にとって本当に自分を大きく変えられた場所だったから…
 すごく大切なところだった…」

圭ちゃん、話し終わると大きく息をはいてた。
いっぱいいっぱいだったんだね…

「モーニング娘。で全然出来なかったことをー…
 プッチモニで年齢に合った後藤をみんなに見せることができてー、
 …自分を自己主張できるようになったところ……
 すごい居心地の良かった場所でした…」

ごっつぁんの話のまとまりのなさが、かえってプッチモニへの思いの大きさが分かり…
教育係の紗耶香と、プロとしての意識を教わった圭ちゃんと、
後から入って娘。の中での親友になったよっすぃー。
プッチモニで得た人間関係には思い出がいっぱいあるよね?ごっつぁん。

「今までのプッチモニを、胸においてー……
 新しいプッチモニだけど今までやってきたことを忘れないで、
 元気なプッチモニを残してやっていきたいなって思います」
147 名前:矢口真里編(4)-3 投稿日:2002年12月30日(月)01時55分16秒
よっすぃーが限界だった。
今まで一滴の涙も見せずに、常に笑顔で乗り切ってきたよっすぃーが
圭ちゃんとごっつぁんのコメント、自分への励ましの言葉を聞いて…

それ以上話したら泣いてしまうと思ったんだろう。
裕ちゃんがよっすぃーの言葉を遮るように
「みんな期待してるからね」
って言って、それ以上よっすぃーに話させないようにして…

収録のOKの合図が出ると裕ちゃんがよっすぃーの両肩を優しく包んでる…

「よぉ、頑張ったな。最後まで泣かんと…」

「……はい…」

二人の姿を見ていたら…わたしが泣きそうになった……
切なくて、切なくて……
隣にいた石川も同じような表情で見ていた…

これからこの先どんどんごっつぁんの卒業に向けた番組が増えていく。
そしてわたしもタンポポとしての収録が最後になる日も近付いてくる…
…たぶんダメだ…わたし……
よっすぃーみたいに泣くのを我慢するなんてできない、きっと……


148 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)01時56分28秒


     ◇      ◇      ◇

                       矢口真里編(4)-4

149 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)01時57分05秒

「矢口! 元気ー?」
「あー、紗耶香。今来たのー?」
「おう!ちょっと前にね」

言いながら紗耶香がキョロキョロと回りを見てる。
誰かを探すように…

「……後藤は?」

やっぱ、ごっつぁんか…

いつものMUSIX!のクイズの収録。
紗耶香のユニットは今日の1本目の収録に参加することになっていた。

「ごっつぁんなら今ドラマのロケに行ってるよー。
 2本目には帰ってくる予定だけど」
「…ふーん、まいっか……」
「何が?」
「いや…今日は会わない方がかえって良かったか…」
「何なのよー!」
「内緒なんだけどさあ…」

紗耶香はそう言うと回りを窺って声を潜める。
150 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)01時58分28秒
「後藤の卒業特番やること決まったでしょ?テレ東の。
 あれにあたし出れることになったから。
 シークレットゲストで」
「マジで? よくOK出たねえ。
 今まで番組中の会話すら許されなかったのに」
「ほら、この前の焼肉のとき。
 矢口は出らんなかったけど、あのとき和田さんもきくちさんもいてさ、
 それに裕ちゃん付きのスタッフさんたちもいっぱいいたから…
 なんとか後藤とあたしのけじめを9月23日までにつけたいって言ったら
 無理してねじ込んでやるって言ってもらって…」
「…そんで、出れるんだ?」
「そうみたいね。
 あのとき裕ちゃんも圭ちゃんもかなりけしかけてくれたからさあ…
 まあ今さらあたしがモーニングと一緒のステージに立つのも恥ずかしいんだけど、
 でもこれが最後の機会だからねえ…」
「恥ずかしいなんてことないよ。
 本当だったら紗耶香が立ってなきゃいけないステージなんだから……」
151 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)01時59分05秒
「いやあ、今さらさあ…
 特に4期のコたちとは顔合わせづらいし。
 今日だって石川と吉澤と一緒でしょ?
 やりづらいんだよねー、トシも近くて」
「ツいてないねー紗耶香。
 よりによって今日はおいら以外誰も残ってないもん、昔のメンバー」

なっちはエンジェルハーツのドラマロケ。
カオリと圭ちゃんは映画撮影。
ごっつぁんはなっちと途中まで一緒で、MUSIX!の2本目だけ参加。
さらに今日はエンジェルハーツのチアリーディングの大会があって、
そのせいで年少組がごっそりそちらに行ってしまっていた。
だから残ったのはわたしと石川とよっすぃーだけなんだけど…
152 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)01時59分40秒
「紗耶香ぁ…ごっつぁんのときに出れるんだったら
 来年の圭ちゃんのときもどうにかならないの?
 圭ちゃんだってずーっと待ってるのに」
「分っかんないよー、そんなこと。
 この先どうなるか知れたもんじゃないしさー。
 案外あたしと圭ちゃんでユニット組まされたりするかもよ」
「えー! そんなのズルいよー!
 二人が組んでるときにおいらは子供のお守なわけー!?」
「例えばだって。
 矢口だっていきなり子供たちとのユニット解消されて
 新しいユニット組まされたりするかもよ」
「そんなもんかなあ?」
「そんなもんだって。
 だいたいなんであたしが今ユニット組んでると思ってんのよ?」
「ちょっと紗耶香…」
「…いや、今はもうわだかまりないからいいんだけどねー」

本当はソロでやりたかったのに、一人でやりたかったのに、
ユニットを組まされた紗耶香…
本心ではどんな思いで今の活動をしているのか…
それは圭ちゃんにすら話したことはなさそうだった。
153 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時00分22秒
「あたしさあ、来週ライブで旭川行くから、
 時間あったらあそこに寄ってみようと思って」
「あそこ?」
「ふるさと」
「ああ…」
「ま、時間あったらっていうか…ライブが終わっちゃえばヒマなんだけどさ」
「そんなこと言うなよー…」
「とにかくもう一回あそこに行ってこようと思って。
 あたしが復帰してきたときに最初に歌ったのも、
 モーニングを辞める前にいろいろ考えるきっかけをくれたのも、
 やっぱ『ふるさと』だからさ…」
154 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時01分02秒
明日香が辞める直前から『ふるさと』を経て『ラブマ』までの濃密な時間。
タンポポのアルバムを作って、
モーニングのアルバムを作って、
海外にPVや写真集の撮影に行ったり、
タンポポで単独のライブをやったり、
そして歌番組には『真夏の光線』や『ふるさと』で出たり…
もう過ぎ去った思い出だけど、やっぱり紗耶香も大事にしている思い出…
『ふるさと』を歌ってた頃にはごっつぁんとの出会いもあった…

「紗耶香、本当はわたしたちと歌……」

…それ以上言えなかった。
聞いてしまったら紗耶香はウソを言うしかなくなる…
わたしのせいで紗耶香にウソをつかせるようなことしたくない。
ココロの中で分かり合ってればいいことだよね…

 ・ ・

155 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時01分50秒
2本目のMUSIX!の収録が終わると石川とよっすぃーと一緒に
急いで竹芝のホテルインターコンチネンタルに移動した。
これからごっつぁんのMUSIX!最後の収録。
ごっつぁんはわたしたちがここで待っていることは全然知らない。
なっちがドラマの収録と偽ってここまで連れてくるはずだった。

なっちとごっつぁんがスタッフさんたちをいっぱい引き連れてやってくると…
なっちがドラマ仕立てでドッキリを仕掛けて…
ごっつぁんにスペシャル番組の収録であることを告げた。
ワゴンから飛び出すわたしたち3人。
でも石川とよっすぃーとじゃ足の速さが違う…
わたしだけどんどん置いていかれて…

「ちょっと待ってよー!」

わたしがごっつぁんのところに着いたときには、
石川とよっすぃーの突然の登場に驚いたごっつぁんがすでに泣いていた。

「なにー? 何なのよー?」
「いいからごっつぁんこっち来てー」
156 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時03分29秒
わたしはごっつぁんの手を引いて桟橋の方まで連れていく。
片方にはごっつぁんの手、もう片方にはなっちの手、
こんなこと滅多にないなあ…
なんだかうれしい…

桟橋に停泊している船にわたしたちが乗り込むと、すぐに船は動きだす。
ごっつぁんの最終回スペシャルだっていうのに取れる時間はごくわずか…
すべてを駆け足で移動する大急ぎのロケだった…

わたしたちの乗った船は2階立てのそんなに大きくない船だったけど…
その2階に上がると東京湾の鮮やかな夜景がわたしたちを迎えてくれた。

品川や新橋あたりの高層ビルの明り。
レインボーブリッジやフジテレビを始めとするお台場のイルミネーション。
それに雲一つない夜空に浮かぶ満月。

「きれー!!」
「すごーい!!」

みんな口々に叫んでた。

暑さの残る東京の夜…
強い海風と潮の香りがわたしたちを吹き抜けて…
それもまた気持ち良かった…
157 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時04分06秒
さっそくごっつぁんと石川とよっすぃーがタイタニックを真似て遊んでる。
そんな3人を置いて、なっちと一緒にわたしは下の階に降りた。
これからなっちに最後のことばを書いてもらわなくちゃ…

「なっち、寄せ書き書いてね、ごっつぁんへの。
 さっきおいらと石川とよっすぃーは書いたから。
 あとはなっちだけだよ」

スタッフさんから色紙とペンを受け取るとなっちに手渡す。
わたしは何を書くか思案してるなっちを横目に
みんなが書いた内容をじーっと読んでいた…

  ごっちん LOVE
  大すきー ごっちんといるとなぜか落ち着くのよ
  同じ空気が流れてるからかしら?
  また一緒にたこたこーーって踊ろうね(笑)
  応援してるわ!!         よっすぃーより。

  ごっちんのマイペースなトコロ大好きよ。
  これからもマイペースに後藤真希でいてネ。
  いつまでも応援してるよ
  ごっちんならできるさ!!
  信じてるよ。          かおりより
158 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時04分52秒
そしてわたしはといえば…

  ごっつぁんへ
  モーニング娘。として、一緒に過ごした3年間
  本当に楽しかったよ!! ありがとうごっつぁん!
  これから一人で大変だと思うケド、いつまでも
  みんなの憧れでいて下さい! がんばれ!
  ごっつぁんの無邪気な笑顔が大スキだよ。
  その笑顔を忘れないでネ。   矢口!

そんな風なメッセージが、カオリが描いたごっつぁんの似顔絵を中心に
ズラーっと並んでいた。
みんなの空き時間に回しつつ、ちょこちょこと書いていったもの…
なっちがペンを持って書き始めようとしたけど、手を止めた。

「ちょっと矢口ー、見ないでよー。
 恥ずかしいんだからさー」
「見てないよー。
 他の人のを読んでるんだよー」
「いいからー、あっち行っててよぉ」

なっちは大きな色紙を抱え込むようにして後ろを向いてしまう。

「いいよーだ。どうせあとで覗いてやるからー」

そう言ってなっちの側から離れた。
159 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時05分32秒
2階に上がると、ごっつぁんと石川とよっすぃーの後ろ姿が見える。
船の舳先で手すりにもたれ掛かり…
3人で夜景を見ながら話す姿が寂しく目に映った。
あの3人だけの時間もあとわずか…
邪魔しちゃ悪いと思って、一人で遠ざかっていくレインボーブリッジを眺めていた…

「なーに黄昏れてるんだよ!」

なっちに色紙で軽く頭を叩かれる。

「ほら、書き終わったよ。
 これどうすんのさ?」

差し出す色紙を受け取りながら、そっとなっちの書いたところを読んだ…
ブルーとピンクのサインペンで書いたかわいい字…

  ドラマのトキはだましちゃってごめんよー
  これから先いろんなコトがあると思うけど、
  自分を信じてファイトだよー!
  淋しくなったら帰ってくるといいさ。
  LOVEだべさ         なちみより
160 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時06分27秒
……『帰ってくる』か…
なっちはずーっとみんなが帰ってくるのを待っている。
みんなが帰ってくる場所を守っている。
…でも帰ってきた人はまだ誰もいない。
いつまでなっちは待ち続けるのか…
わたしにはとてもなっちの真似は出来そうになかった…
その寂しさに耐えられる自信がなかった…

「なっち…この前も言ったけど…
 おいらのこと置いてかないでよ…
 おいらも一緒に待ち続けるからさ……」

「……やめようよ今日は、そんな話…」

「……そうだね…」

船のエンジンが止まり、水をかき分ける音だけが聞こえてくる。
ほんの数十分の船の旅…
汽笛が旅の終わりを告げていた…

161 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時07分11秒
船が日の出埠頭に戻るとわたしたちはさっきのホテルに逆戻り。
これからみんなで野外バーベキュー。
ホテルからコックさんたちまで呼んでなかなか本格的。
会場にはチアリーディングの大会を終えて、ようやく駒沢体育館から
戻ってきた年下チームも合流しているはずだった…

「お腹空いたーー!」

わたしたちが着くなり辻と加護が代わる代わる叫んでる。
聞けば、大会が終わったあと着替えとメイクと打ち合わせとで
昼前から何も口に入れてないんだとか。

「早くバーベキューしようよー!!」
「ごっちんが来てからね」

駄々をこねる辻をなっちがなだめている。
ごっつぁんはまたドッキリを仕掛けられるために後から来ることになっていて…

ごっつぁんの乗ったバスが着くと、ごっつぁんはアイマスクをつけたまま
手を引かれて降りてきた。
ごっつぁんがアイマスクをはずすと同時にわたしたちは一斉にクラッカーを鳴らす。
それをきっかけにバーベキューが始まった。
カオリと圭ちゃんも遅れながらもなんとか合流でき、13人全員が揃う。
162 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時08分00秒
13人全員での初めてのバーベキュー…
そして花火…
もう少し時間があればいいのに…
バーベキューを始めてからたった4,50分で9時をまわってしまった。
メンバーの年齢上、テレビカメラは回せないし、
わたしもニッポン放送に向かわなくちゃならない…
まだみんなが食べてる中、わたしはバーベキューの会場を離れる。

「矢口さんの分まで食べとくよー」

加護の声が聞こえてきたから言い返してやろうと思ったけど、
なっちと圭ちゃんがわたしに早く行けって、手で合図する…

「いいよーだ。今日はRAG FAIRと会えるから。
 見てろよー加護ー!!
 おまえの芸なんか及ばないくらいのボイパの達人になってやるんだから」
「はいはい頑張ってくださいねー」

加護がお肉をつまんだ箸ごと手を振っていた。
くっそー、なんだってこうお肉とオールナイトニッポンは相性が悪いのかなあ。
巡り合わせに恵まれてないっていうか…
しかもゲストが来るのに服に染みついた炭と火薬のイヤな臭い…
向こうに着いたら着替えなきゃダメだな、こりゃ……
163 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時08分43秒


 ・ ・


 ・


ラジオの収録が終わって、RAG FAIRの土屋さんとおっくんに
「来週の横浜アリーナよろしくお願いします」
なんて挨拶をして別れると、マネージャーさんに1枚のCDを手渡された。
「これ明日のラジオの収録で使うから、一通り聴いてきて」
そう言って手渡された黄色いジャケットのCD。

「あ…、タンポポ…
 …出来たんですね……」

ジャケットには今まで出したシングルの写真がずらりと並んでいた。
『ラストキッス』と『王子様と雪の夜』の写真が大きく載せられて…
わたしの昔の写真…彩っぺの写真まで載っている…

フジテレビの玄関で帰りのタクシーに乗るとCDの封を開ける。
ケースの中の黄色一色のCD…
わたしはそのCDをさっそくウォークマンにセットした。
164 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時09分32秒
耳に流れてくる『乙女 パスタに感動』。
今でもコンサートで歌うこの曲…
CDを久しぶりに聴いたらみんな声が若かった。
石川なんか今よりももっとヘタクソで…

クルマがレインボーブリッジを渡る頃には曲も
『恋をしちゃいました!』に変わり……

橋を渡りながら外の景色に目をやった。
みんなでバーベキューをした波打ち際のホテル。
それに船でのクルージング…
数時間前に船の中からわたしは一人この橋を眺めていた…
その橋をまた一人寂しく渡っていく…

そんなことを考えていたら急にせつなくなって…
『恋をしちゃいました』をレコーディングしながら泣いたことを思い出して…
…今も泣きそうになったから…曲をとばした…

ヘッドホンからは『Motto』や『聖なる鐘がひびく夜』が流れてくる…
CDのブックレットに視線を落とせばそこには昔のわたしたちの姿。
富士山やサンフランシスコにまで行って撮った写真。
真っ赤なルージュを塗りたくり、濃いアイシャドウ…
アーティスト気取りだったわたしたち……
165 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時11分12秒
……『I&YOU&I&YOU&I』…
わたしたちが最後にレコーディングした曲。
カオリが言ってたっけ、5人で歌ってるみたいだって…
…今なら分かるよ…その意味……
あの3人の頃があって、寂しかった2人の頃があって、
そして悩んだ4人の頃…
それらすべてがあってタンポポなんだ。
ずーっと成長してきたわたしたちがあったから最後にこの曲にたどり着いたんだ…
彩っぺが水や光になってくれたから今のわたしたちがある…
わたしたちがいるから水や光も意味があった……

曲は最後の『たんぽぽ』のグランドシンフォニックバージョン……

…カオリが言ってた『約束』って……
あの改編を聞かされた日に『あたしは約束を守れない』って言ってた意味……
…わたし、今それにようやく気が付いた。
166 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時11分49秒
カオリと2人でいい歌を歌って、感動で人を泣かす…
歌を大事にするタンポポを続けていく……

そんな約束を彩っぺが辞めるときに
わたしたち3人で交わした…

だから彩っぺは『あたしは水や光になる』って言って……

カオリはその約束をずーっと忘れずに、片時も忘れずに今日まで来たんだ…
石川と加護が入ってきたときに泣くまで悩んだカオリ…
そして今『約束を守れない』って悩んでいて…
他人には弱いところを見せまいとするカオリだったけど……
きっとこのことが引っかかっていたんだ……

それに石川と加護……
カオリとわたしに受け入れてもらえない中、
2人なりに精一杯無理して大人ぶって……
歌えないことに苦しみながらも必死にレコーディングについてきて……
167 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時13分31秒

イヤホンから聴こえてくる『たんぽぽ』……

カオリ…

わたし…

石川…

加護…

そして彩っぺ…

5人の声が重なり合い『たんぽぽ』を作り出す……


タンポポの4年間が…

タンポポの4年間の歴史がぎゅっと詰まって…

4年の間にあったいろいろなこと……

たくさんの思い出が蘇ってきて…………

…………

……涙を一粒流したら……

……そのあと止まらなくなった。

止めどもなく涙が溢れて……
168 名前:矢口真里編(4)-4 投稿日:2002年12月30日(月)02時14分31秒

   どこにだって ある花だけど
   世界中に夢を運ぶわ
   どこにだって 咲く花みたく
   たとえ悲しくたって 大丈夫
   信じ合い支え合って
   希望に変えていくわ
   たんぽぽの様に 強く

   どこにだって ある花だけど
   風が吹いても負けないのよ
   どこにだって 咲く花みたく
   強い雨が降っても 大丈夫
   ちょっぴり「弱気」だって
   あるかもしれないけど
   たんぽぽの様に 光れ
           (「たんぽぽ(Grand Symphonic Version)」より)


……やだよ……

わたしこのままタンポポを終わらせたくない……

わたし、もっと歌っていたいよ……

わたしが大好きだったタンポポを…………


169 名前:矢口真里編(4) 投稿日:2002年12月30日(月)02時16分29秒


矢口真里編(4)
参考資料 「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.08.08放送分
     「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.08.15放送分
     「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.08.22放送分
     「中澤裕子のオールナイトニッポンサンデースーパー」02.08.04放送分
     「安倍なつみのエアモニ。」02.08.15放送分
     「ハロモニ」02.08.25放送分
     「ハロモニ」02.09.01放送分
     「ハロモニ」02.09.08放送分
     「ハロモニ」02.09.15放送分
     「MUSIX!」02.08.20放送分
     「MUSIX!」02.08.27放送分
     「MUSIX!」02.09.10放送分
     「MUSIX!」02.09.17放送分
     「MUSIX!」02.09.24放送分
     「後藤真希ファイナル特番」02.09.22放送
     フォーク・デイズSP ともえちゃんフォークジャンボリー 02.08.08
     「CD HITS!」10月号


170 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)14時26分21秒
新スレ&大量更新お疲れさまです。
やっと続きが読めそうですね(w
楽しみに待ってますので、頑張って下さい。
黄板にしたのは、タンポポ色だからなのかなぁ。
171 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)19時57分01秒
池田屋さんはスタッフですか!?と思うくらいリアルですね。
タンポポ+安倍以外のメンバーでの視点は書かれないのでしょうか。
172 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時15分54秒


     ◇      ◇      ◇

                       石川梨華編(2)-1

173 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時16分47秒

飯田さんも矢口さんもあいぼんもいないレコーディング…

知らない間に、
なりたくもなかったのに、
いつの間にかわたしがリーダー…

「石川がしっかりしなくちゃダメでしょ!
 紺野や新垣のお手本になるのは石川しかいないんだから!」

マネージャーさんにそんな風に言われても……
わたしの回りにはいつも飯田さんや矢口さんがいて、
ハロプロで動くときは中澤さんがいて、
カントリーで出るときにはりんねさんがいて、
いっつも誰か助けてくれる人がいた。
見本となってくれる人が近くにいた…
174 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時17分30秒
わたしが紺野や新垣に歌を教えるの?
昔、飯田さんと矢口さんに教わったみたいに?
そんなの無理だよ……
わたし、人に教えられる歌の技術なんて持ってない。
教えるほど上手くないことなんて、自分が一番よく分かってるよ…

「しばっちゃん、わたしにリーダーなんてやっぱり無理だよぉ」
「大丈夫だよ。頑張りなって。
 ちゃんとサポートしてあげるからさ」
「そんなこといっても自信ないよぉ…
 わたしが石黒さんや飯田さんのあとなんか継げるわけないでしょー」
「怒られるよー、そんな弱音吐いてると。
 飯田さんや矢口さんに」
「だってぇ…」
175 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時18分03秒
飯田さんと矢口さんのタンポポへの思い…
今までずーっとタンポポのファンでいてくれた人たちの気持ち…
今までにタンポポが残してきた楽曲…
わたし自身も新しいタンポポを受け入れられない気持ちが強かった。
…なんでわたしだけ一人残されて、ファンからは批判的な目に晒される
このユニットを続けなくちゃならないの?
わたしだって文句を言いたいのに…
なんでタンポポを変えなくちゃならないの?
なんで飯田さんと矢口さんがタンポポを辞めなくちゃならないの?
二人の気持ちをわたしは痛いほど知っている……

注意するところがあればすぐに教えてもらえたレコーディング…
でももう誰も注意をしてくれる人はいない…
わたしに強く言ってくれる人たちはもういない……


 ・ ・


 ・

176 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時18分46秒
「1998年11月。モーニング娘。初ユニットととして、
 石黒彩・飯田圭織・矢口真里の3人で結成されたタンポポが誕生。
 美しいハーモニーを特徴とするそのユニットはこの曲でデビューを果たした。
 タンポポで『ラストキッス』」

飯田さんの曲紹介で始まった今日のラジオ。
飯田さんと矢口さんとわたし。
3人でやるラジオは久しぶり。
ここ最近はほとんどがわたしと誰かの2人のラジオだったから…
今日のラジオはセカンドアルバムの発売記念として、
1時間ぶっ続けでタンポポのことだけを話すことになっていて…
…でも本当はさよなら企画だって分かってた。
ラジオのスタッフさんたちがわたしたちのことを考えて
この企画を用意してくれたんだ…

「わたしたちのタンポポへの思い、受け止めてください」
「タンポポについてはいろいろと語りたいことがあるので、
 今夜全部出しちゃいたいと思います」

飯田さんと矢口さんの言葉にわたしも続けた。

「先輩2人に今のうちに思いっきり甘えておこうと思います」

タンポポのメンバーとして甘えられるのはもう少しの時間しか残されていないから…
一緒に歌えるのもあとわずかだから…
177 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時20分53秒
…収録が始まるとさっそく2人が『ラストキッス』と『Motto』の頃の思い出を話してた。

「15歳だったからねー、このとき。
 おいらは思いっきし背伸びしてた感じ。曲が大人っぽいから」
「今よりも、もっと忙しかったよね。睡眠時間平均で2,3時間だったもん」
「今だから言えるけど、そのときはホントヤバかったね。いっぱいいっぱいで」
「3人ともよく泣いてたよね」
「…だって…モーニング娘。としてもデビューした年だし、
 その年にタンポポもデビューだったから何もかもが初めてで、
 まだおいらもカオリと彩っぺに慣れてない頃でさ…」
「歌もさ…、コーラスとかハモリとかも全部自分たちでやってて……
 ホントに自分たちしか頼るものはないって感じでね…
 キツかったよー、あの頃は…」
「でもさ、ラストキッスのジャケット撮影で富士山に登ったじゃない?
 夜中に出発して5時にメイクっていう無茶苦茶なロケで…
 そのときにみんなで支え合って立たないと立てない場所で撮影して、
 そこから徐々に仲良くなってったって感じだよね」
178 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時21分26秒
「サンフランシスコにもPV撮りに行ったよね。
 大変だったよねー、時差ボケで…
 会話がちょっとでも途切れるとみんなカクンって寝ちゃうんだよー。
 地下鉄の中で2分とかしかないのにあたし曝睡したりして…」

わたしが入る前…
同い年だーって、テレビで福田さんを見ていた頃……
裏ではそんな大変なことになってるなんて思いもしなかった。

「テレビで見てる側だったから…。真っ赤な口紅がすごい印象に残ってますよー」
「今の方が幼い感じがするよね、おいらたち。
 昔の方が大人ぶってた。
 でもそれがなんか今の自分たちにつながってんじゃないかなあって思う…」
「まあね、この頃のタンポポがあってこそ今のタンポポがある……
 あの頃の努力は実ったのかな…?」
「実ったよ……彩っぺも聴いてるかな?」
「あたし言ったんだ、この前電話して。
 アルバムに彩っぺの声も入ってるよーって。
 すごい言うの恐かったんだけどさ…
 そしたら 『あー、そー。まじ、超うれしー』って相変わらず脳天気でさ……
 しかも電話の奥で子供が泣いてんの」
179 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時22分04秒
何回か会ったことのある石黒さん。
いつも子供がいるとは思えない派手なカッコで若々しくて…
飯田さんと本当の姉妹のようにいつも話してて……
…でも…当然と言えば当然なんだけど、
決してわたしたちには気軽に話しかけてくるようなことはしなかった。
わたしたち4期メンバーにはあきらかに壁を張っているのが分かった…

「彩っぺが卒業したときカオリはどんな心境だった?」
「タンポポで一緒にいる分さ、近かったから…
 つらいことも一緒に乗り越えたりして、
 3人でいろんなこと相談したりして。
 今だから言えるけど、3人で乗り越えてきた分こだわりがあったから、
 追加されるって聞かされたときはものすごいショックだったね……
 でも一緒に活動していくうちにさ、
 前のタンポポにはない良さも発見できたりもしたよ」
「『恋しちゃ』を出す頃にはぜんぜん普通だったよね。
 ラジオとかで一緒になる機会が多かったから。
 いろんな話ができたじゃない? いろいろぶつけられたっていうか…
 だからその頃にはもう一つのユニットとして成り立ってたよね」
180 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時22分38秒
そう言われてうれしかった。
ずーっと加護と二人、どこか引け目があって……
タンポポの一人して認められてるかどうか不安だった時期が長かったから…
石黒さんがいた頃のタンポポが心に引っかかっていたから…

…飯田さんが「裏話」と前置きして話し出す。

「タンポポはねー、ユニットが決まったときにはまだみんなに内緒だったんだー。
 みんなでリハーサルしてるときに和田さんに『飯田、ちょっと』って呼ばれて
 クルマでいきなり連れていかれてさ、着いたところがレコーディングスタジオだったの。
 …そしたらつんくさんがいて、突然『今からこの歌を歌ってみぃ』って言われて、
 それが『ラストキッス』だったの。
 そのときはそれがどういうことなのか分からなかったんだけどねー」
「その後だね、おいらと紗耶香と圭ちゃんでオーディションやったのは…
 正直あのときはつらかったな…いきなり二人のところに入れって言われて…
 どうしようかと思ったもん」
「あたしもどうしようかと思ったねー、あのときは。
 いきなり入ってくるって言われたから…」
181 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時23分14秒
本当は飯田さんと石黒さんだけだったタンポポ…
いきなり入れられた矢口さんの気持ちは、
わたしが入れられたときと似たような気持ちだったのかな…
だから飯田さんよりも早くわたしのことを受け入れてくれたのかな…

「矢口さんはミニモニも活動し始めるじゃないですか?
 それで、タンポポとモーニングとミニモニと3つ掛け持ちしてて、
 タンポポって自分の中で他の2つとは何が違いました?」
「なんていうのかな……自分を育ててくれた場所だと思う…タンポポは。
 1曲1曲リリースするたびにすごいハードルが高かったから…
 それを乗り越えようっていうのが…自分との葛藤で……
 それでどんどん大きくなれた気がして…
 タンポポがなかったら今のミニモニはないと思う」

…スタジオには『誕生日の朝』が聴こえてくる。

「…ちょっと『誕生日の朝』はせつない…」

矢口さんが胸の当たりを押さえていた…
服をギュッと掴んで…
182 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時24分09秒
「好きです、わたし。この曲…」
「ホント?」
「はい!」
「これは矢口の…16歳の誕生日にレコーディングしたんだよね?」
「そう…しかも誕生日の朝。
 だからね、ケーキを用意してくれて…すごいなんかいい誕生日だった…
 しかもこのいい曲が流れてる中でね…
 最高だったね……
 でも『誕生日の朝』はせつないなあ……
 さっきかかってた『聖なる鐘がひびく夜』もそうだけど…」
「思い出がいっぱいつまってるもんね…」
「そう…もう語りきれないくらい……
 …昔ね、タンポポだけでちょっとしたライブをやったことがあるのよ。
 5曲くらい歌ってね、『誕生日の朝』も歌って、すごい感動したのよー。
 初めてライブが出来たっていう達成感と、
 曲を聴いてもらったっていう満足感みたいなものがあって…
 またいつかやりたいと思ってたんだけどなあ……」
「…そうだね……思ってたね…」
「なんか楽しかったなあ…」
「あたしたち、その頃は振り付けとかも自分で付けてたよね?」
「そうだねー」

それはわたし聞いたことなかった。
そんな話わたしにしてくれたこと今までなかったのに…
183 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時24分49秒
「本当ですか?」
「あのねー、『誕生日の朝』のときは振り付けの先生がいなくて
 おいらたちが自分で考えて決めたんだよねー」
「今だったら絶対考えらんないですよね?」
「そう。…だからね、自分たちでやりきったっていう達成感があったんだと思う」

矢口さんの誇らしげな顔。
そんな風に人に誇れるライブ、わたしにもいつかやれるときが来るのかな…
4人になってから1回だけタンポポだけのイベントをやったことがあるけど
あのときは入ってからそんなに経ってなくて、ガチガチに緊張してたから…
ほとんど何やったか覚えてないや…

…そのたった1回だけのイベントに歌った『わたしの顔』が流れてきた。
矢口さんにわたしのことも聞かれる…
184 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時25分23秒
「タンポポは出来る前から某テレビ番組で毎週欠かさず見てたんですよ…」
「ホントにー?」
「ずーっと見てたんですよ。
 だからまさか自分がこんな大人っぽいユニットに入るなんて思ってもみなくて…」
「じゃあ初めて入ったときはどんな気持ちだった?」
「武道館のコンサートが終わった後にマネージャーさんに呼ばれて、
 加護と一緒にタンポポに決まったからなって言われて、
 明日レコーディングだからってMDをいきなり渡されて…」
「うん…わたしたちもその日に聞いた。石川と加護が入るって」
「飯田さんが泣いてるのを見て、『ハァ…責任重大だなあ』って……
 やっと武道館が終わってほっとしているときに…」
「そうだねえ。石川たちもいきなりだったんだよねえ…」
「プレッシャーとかがすごくて…
 でも覚えているのが、『乙パス』のレコーディングのときに
 すごい丁寧に矢口さんと飯田さんに教わったんですよ」
「そんなことあったっけ?」

あーもう矢口さんったら忘れちゃってる…
そんなに印象に残らないことだったのかなあ?
わたしにとってはものすごい記憶に残ってることなのに。
…でも飯田さんは覚えててくれたみたい。
185 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時25分56秒
「教えたよね? リズムの取り方とかさ」
「そうですよー。それで『すごい優しいお姉さんだー』とか思ったりして」
「絶対ありえへんわ、そんなこと」

飯田さんが笑ってる。
わたしも負けじと言い返した。

「最初だけですよー! 印象良かったのは。
 ……でもコンサートとかでうまく歌えなくて、それが自分でもメチャクチャ悔しくて、
 どうしたら上手く歌えるんだろうって悩んだ時期がありましたねー」
「そのときはプレッシャーで歌が出てこなかったんだと思うよ。
 今は肩のチカラを抜いて歌ってるから、ちゃんとまとまってる感じはするもん、
 おいらが聴いてても」
「上手くなったよねー」
「なった、なった」
「良かったー! どうしようかと思ってたんですよ」

「「いや、うちらもどうしようかと思ってたよ!!」」

そんなぁー、二人して息ぴったりに言わなくてもいいじゃないですかぁ…
台本があるわけじゃないのに、なんでそんなに声がそろってるんですかぁ?
186 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時26分31秒
「あたしと矢口でいっつも顔見合わせてたもん。
 これからどうなっちゃうんだろうって」
「加護と頑張ろうねって言ってたんですけど、
 加護ともそんなに仲良かったわけじゃないんですよ。
 お互い無理してたし…、ぶつかることもよくあったんですよ…」
「えー? 加護と?」
「はい…めちゃめちゃありましたよ。わたし喧嘩で負けたんです」
「加護はその頃なんか強かったもんねー」
「ある意味あたしより強かったよね」
「今はそんなことないんでしょ?」
「うん。今はお互い支え合って強くなってこれたかなあって…」
「石川は大人になったよ、最初よりずっと」

飯田さんがしみじみと言ってくれた。
矢口さんもうなずいてくれる…
187 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時27分08秒
「なりましたか?
 …わたしにとってこのラジオがすごく大きかったんです。
 最初の頃、自分の気持ちをうまく伝えることが出来なくて…
 台本を見てばっかりで……
 ラジオって一緒にやってる人の顔を見ながら話すじゃないですか?
 それなのにずーっとわたしは下を向いてたから、話がなかなか噛み合わなくて…」
「最初の頃、困ってたもんね。
 覚えてるよ…『入っていけないんです』っておいらのところに相談に来たこと…」
「でもそれでネガティブ石川って言われるようになったんですよね。
 それから『ポジティブになる』ってしつこく自分にこの番組で言うようになって…
 それ以来ホントに強くなれた気がします」
「今考えると人格変わったよねー。表情も」

うん…たぶん別人だと自分でも思う。
こうして飯田さんや矢口さんと向き合って、
素直に言葉が出てくるなんて考えもしなかったもん…
あの頃はラジオが怖くて怖くてしかたなかったもん…
188 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時27分58秒
「あの頃自分のことをこんなに喋らない人なのかなって思ってました…
 こんなに笑わなかったっけって…」
「今じゃもう『ネガティブ』って聞いてもピンとこないねー」
「自分でもピンとこなくなりました」

矢口さんが真剣な面持ちで、自分にも納得させるようにつぶやく。

「いろいろ考えることができたから…きっと強くなれたんだよ…」

飯田さんが暗くなりかけた雰囲気を明るくしようとして…

「でも気付けばさあ、あんなにバラバラだった4人も
 今では普通にライブで歌ってても気持ちいいもんね、4人の声が」

「そこにたどり着くまでのね…いろんな気持ちがあるんだよ、それぞれのね…」
189 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時28分48秒
矢口さんの言葉が胸に響いて…
矢口さんと飯田さんがたどってきた道…
わたしとあいぼんがたどってきた道…
それぞれみんな違うけど、今こうして4人で活動して…
その活動がかけがえのない宝物になりつつある…
少なくともわたしはそう思ってた。
歌を大事にする気持ちもライブを大切にする気持ちも
みんなタンポポで教わったから……

わたしがカントリー娘。に助っ人にいかされても
『ザ☆ピース』のときにメインで頑張れたのも、
みんなタンポポで教わったことが基礎になってたから…


番組の最後で飯田さんが書いてきた詩を詠んだ。
タンポポのベストアルバムにちなんで「ベスト」がテーマ…
飯田さんがゆっくりと読み始める……
190 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時29分43秒

  「ベスト」

  タンポポ
  どこにだってある花だけど 風が吹いても負けないのよ

  タンポポ
  不安でいっぱいだったわたしたちは
  ただ がむしゃらに歌ってたよね

  ときにはつらくても ときにはぶつかりあっても
  どんなときも歌ってたよね

  気がつくとあんなに小さかったわたしたちは
  世界中のどこにもない 大きな4つのタンポポとして歌っていた

  あんなにばらばらだった歌声も
  いつの間にか4人でひとつの歌になって
  気持ちよーく歌ってたね

  気がつくと たくさんの喜び たくさんの笑顔
  たくさんの思い出を4人で築いてきたね

  そしてこれからは4つのタンポポが 1つずつ輝くための旅立ち
  たとえ悲しくても
  わたしたちは乗り越えてきたんだから大丈夫

  いつでも強く いつでも優しく

  タンポポのように光れ

191 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時30分49秒
「…昨日の夜2時くらいに書いたんだけどどうかなあ?
 …………あれ? 矢口? 石川?」

「……やめてよー、もー!
 寂しくなるでしょー!
 …ちょ……石川……?」

……わたし喋れなくて…二人に向かって『待って』って手で合図した……

ずっと我慢してきたのに…
二人に弱いところを見せまいとして…
強くなったところを見せようとしてたのに…

駄目だった…
最後の最後で我慢しきれなかった…

わたしの意思に逆らって涙がぼろぼろ流れだす。

なにか話そうとしても声が出てこない…
192 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時31分35秒
下を向いてしまったわたしの耳に飯田さんと矢口さんのラジオを進行する声が届いた。

わたしをフォローしてくれた二人…
わたしが泣いてることには触れないで番組をシメに持っていってくれた…

「忙しい中で、つらいこととか楽しいこととか
 ホントにいっぱいあったねー。
 でもそうやって大きくなってきたあたしたちだからさ、
 一人一人輝いていこうよ」

「そうだね。頑張っていこう」

「それでは今夜最後の曲をお聴きください。
 タンポポとして初めてウィークリーチャートで
 ナンバーワンに輝いたこの曲です」

「「「王子様と雪の夜」」」

わたし、最後の曲紹介だけみんなと一緒になんとか言えた…

そこで一旦録音が切られて、すぐに次の録音にいくはずが……
193 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時32分29秒
「石川ー、大丈夫か?」

矢口さんが声をかけてくれる…

「……あの……すみませんでした……最後…
 …何にも言えなくなっちゃって……」

「…いいって。
 気にすんなって。
 おいらだって散々泣いてきたんだから…」

「石川さー、最初にあたしたちに甘えるって言ってたじゃん。
 だから、いいんじゃない?
 今日くらいあたしたちを頼ってもさ…」

「……だって、わたし……
 これから一人で引っぱっていかなきゃいけないのに…
 強くならなきゃいけないのに……」

「石川」

「…はい」

「強いだけがタンポポじゃない。
 優しいのもタンポポなんだよ。
 …最後くらいあたしたちに甘えなさいよ」
194 名前:石川梨華編(2)-1 投稿日:2002年12月31日(火)05時33分25秒



飯田さんのその言葉を聞いたら、また涙が溢れ出る…

…………

「カオリー…
 また泣かすようなこと言ってどうすんのさー」

「ゴメンゴメン。
 あたしが甘えて欲しかっただけだから」

……



…わたしが泣き止むのを待って録音再開。
エンディングでみんなで叫んだ。

「タンポポの好きなところは全部だー! 飯田圭織と」
「タンポポの好きなところは全部だーー! 矢口真里と」
「タンポポの好きなところは全部だーーー! 石川梨華」


「「「タンポポでした!!」」」


わたしが甘えられるのもあとわずかな時間…
その終わりが刻々と近付いてくる……


195 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時34分03秒


     ◇      ◇      ◇

                       石川梨華編(2)-2

196 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時34分44秒

「ババァ、いま何刻だ!」

生放送で…しかもNHKでそんなことを言わされて…
でも、みんなけっこう面白がってやっていたけど……

その翌日、普段ならダンスレッスンとかで使うテレビ東京のスタジオ、
そこにハロプロニュースのセットが組まれてた。
今日は収録が立て込んでて、普段のスタジオがいっぱいで…

ハロプロニュースの1本目。
タンポポのアルバム発売の告知が入ってた。

「最後のこの曲には卒業した石黒彩さんの声も入っています」

高橋が『たんぽぽ』のグランドシンフォニックバージョンの説明をしてて…
わたし我慢できなくて中澤さんに話しかけた。
197 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時35分22秒
「わたし最初石黒さんの声が入ってるって知らなかったんですよ。
 それで聴いたら石黒さんの声も流れてきて、ビックリしましたよぉ。
 静かなメロディーに5人の声がハーモニーを奏でているんだもん…」
「なんかあんたが言うとウソくさいよね」
「うぅー、ホントですって」
「あー! でも、矢口も号泣したって言ってたね。
 タクシーの中で聴いて泣いたって…帰るときに…」
「…え…? そうだったんですか……」

この前はそんなこと言ってなかったのに…
でも…分からないや……
ここのところ矢口さん、泣いてばかりだったから……

「あたしねえ、タンポポの『たんぽぽ』って本当に大好きな曲なんだけどさー、
 石川、ちゃんと歌えてるのー? 大丈夫なん?」
「歌ってますよぉ。このチャーミーな声を生かして」
「なにがチャーミーや。またひどい音が入ってるんとちゃうの?」
「いやあ、声はうぃうぃしいですけどね」
「何やて?」
「初々しい声が入ってますから、アルバムには」
「あんた『初々しい』も言えんのかい?
 それでホントに大丈夫なんかねえ…」
「もー、大丈夫ですよぉ」
198 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時36分18秒
……その後、収録は順調に進み…
と、いきたいところだったけど、実際はそんなうまくいかなかった。
わたしNGばかり出しちゃって…
4本目の最初でも長いセリフが上手く言えなくて…
この4本目のハロプロニュースがこのセットでの最後の収録。
そのことも影響してたのかもしれない。
このセットで1年間やってきて、中澤さんには本当に鍛えられたから…
最初はまともに話すことすら出来なかったのに、
今ではアドリブも冗談も中澤さんと気軽に交わしてる…
そのセットとも今日でお別れ…

1本目の収録ではベストアルバムの話をしてたのに、
4本目では新しいタンポポの告知をしていた。
それがなんかとっても不思議な感覚で…
今までのタンポポと別れるのは寂しい。
でも新しいタンポポは頑張らなくちゃいけない。
…今までのタンポポで教わったことを受け継いで。
でも、受け継ごうとすると今までのタンポポへの気持ちが思い出されて…
わたしの心の中でいろんな気持ちが混ざりあっていた…
199 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時37分09秒
「今後のタンポポはどうしていきたいの?」
「現タンポポではわたししか残ってないわけじゃないですか…」
「そこいらへんどうなのよ?」
「決まった以上ね、わたしも頑張っていきたくて…
 すごいプレッシャーなんですけど……
 ……飯田さんや矢口さんに頑張れって言ってもらって…
 …頑張んなきゃなぁって思ってて。
 寂しいのは確かなんですけど…
 そんなこと言ってらんないじゃないですか」

自分でもよく分からなくて、中澤さんに向かって夢中で喋ってたら
中澤さんに両頬を持たれて前に向かって首をひねられた…

「…カメラ見ような……」

「…あ、すいません……」

カメラも見ずにわたしったら何やってたんだろう。
ちょっと感情的になっちゃって……
…中澤さんに気付かれないように気持ちを切り替えなきゃ…
200 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時37分56秒
「ここ最近の石川、おかしいよ。
 大丈夫か?石川ー」
「いやあ、そうですかぁ? 全然普通ですよぉ」
「そう言ってる声が、普通とちゃうけどな」
「じゃあこんな感じですかね?」

NHKで昨日やったことを思い出して低い声を出してみた。

「ババァ、いま何刻だ!!」

「石川さん…、『ババァ』って誰のことを言ってるのかしら?」
「…いやそんな、中澤さんのことだなんて言ってませんよぉ」
「なんか傷付くわね、その言葉」
「アハ、アハハハハ…」
「笑って済ますなやー。
 もうエエわ…
 ラブリー終わらせてくれる?」
「…やっほー!」
「あんた、またそれかいっ」

改編前の最後のハロプロニュースだってのに、
こんな適当に終わっちゃうんですかぁ……
201 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時38分41秒
ハロプロニュースが終わると制服に着替えてハロモニ劇場のセットに向かった。
ごっちんとのキスシーンがちょっと照れくさかったり、
よっすぃーと飯田さんのアドリブがおかしかったりして…
特によっすぃーがUFOを見た人を演じたときのアドリブは最高で
収録中なのにごっちんと一緒にげらげら笑っちゃった。

最後にみんな集まって、今までのハロモニ劇場を振り返ったりして…
このバス停のセットとも今日でお別れ。
このセットで1年間、みんないろんなことやってきたから…
お婆さんになったり、幼稚園児になったり、不良役をやってみたり…

「このセットには楽しい思い出しか残ってないなあ」

つぶやいたのは保田さんだったのかな?
みんな「そうだね」ってうなずくばかりだった…

高橋と紺野と一緒に撮ったモー娘。通信。
このメンバー構成めずらしかったけど、
今日は安倍さんがまた映画の収録でいなかったから…
これだと安倍さん1ヶ月以上ハロモニに出てないことになるんだけど、
それで平気なのかなぁ?
202 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時39分26秒
……ごっちんの卒業阻止スペシャルを撮り終えると
飯田さん・矢口さん・あいぼんとタンポポの黄色い衣装に着替える。
これからタンポポスペシャルの収録…
スタジオで着る最後のこの衣装…
これが終われば…次に着るときは赤い衣装に変わっている。
飯田さんたちは、その赤い衣装すら着ることを許されない…
みんなそのことが分かってたから、着替えててしんみりしちゃって…

タンポポに関する勝ち抜きクイズのとき、めずらしく本気で矢口さんがキれていた。
紺野が場の雰囲気も何にも読まないで、真っ先にクイズに答えてしまって…
矢口さんだって1問くらい答えてから敗退したかったはずなのに…

「おまえ遠慮しろよ、ちょっとは」

最後は笑いながら言ってたけど、本当はかなり怒ってた。
わたしの横に下がってきてからもぶつぶつ言って…
203 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時40分09秒
クイズが終わる頃には時間があまり残ってなくて…
プッチモニのときにはやった、中澤さんとのコメントのやりとりなんかは
時間の都合上、取り止めになってしまった。
でも、わたしたちには最後の収録があったから……
スタッフさんたちからの最後の最高のプレゼント……

『恋をしちゃいました』

改編を聞かされてからずーっと4人で…、
もう1回でいいから歌いたいねって言ってた曲。
この曲が4人がまとまるきっかけをくれた…
それを今日、現タンポポ最後の歌収録で歌わせてもらえる。
この日の為に空き時間を使って歌の練習をしたり、振り付けの確認をしたり、
最後の最後に本当に愛情を持ってこの曲に取り組むことが出来たと思う。

歌う前にテレビとしての最後のコメントを撮った…
4人、わたしから順番に……
204 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時41分36秒
「わたしはタンポポに加入してからもう2年以上経つんですけど、
 ホントにタンポポではいろいろ学べたし、成長できたので、
 これからもタンポポの良さを受け継いで頑張っていきたいと思います」

「加護は今年で卒業してしまうんですけども、
 これからも新タンポポを真似したりするし、
 またみんなで何年かたっても4人集まって歌いましょう」

「約4年間みなさん応援して頂きまして本当にありがとうございました。
 今日はみんなの大好きな『乙女 パスタに感動』と
 『恋をしちゃいました!』を歌うんですが……
 今からキュンとしてます……かなりヤバいです…
 あの…みなさんに…あの…素敵な歌を届けたいと思うので…
 これからのタンポポを応援すると同時に、
 今日のタンポポをみなさんの心の中にしまっておいてください」

「あたし自身も、矢口自身も…、加護自身も、石川自身も、
 一人一人がすごく音楽に対して愛情を持っていられて
 意欲的に取り組めるようになったグループだと思います。
 …そして歌う喜びを教えてくれました、このユニットが…
 ここで教わった音楽の愛というものを最後に歌いたいなと思います」
205 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時42分43秒
矢口さんと飯田さんのコメントを聞いてたらまた悲しくなって……
隣にいた加護も、時おり手を目に持っていくのが見えた…

歌う前に4人で集まって気合いを入れ直す。

…そして流れ始めるイントロ…、『乙女 パスタに感動』……
久しぶりにスタッフさんに向かって傘を投げて…

……そして『恋をしちゃいました』。

きっと最後の、2度と歌うことのない『恋しちゃ』。

でもわたし、歌い終わるまで笑顔でいようと思って…
…そう誓って歌ってた。
この曲にふさわしような笑顔でいたかった……


 ・ ・


 ・ 

206 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時43分26秒
…いつも使ってる13人用の大きめの楽屋。
4人で楽屋に戻ってくると笑いながら矢口さんが話す。

「ヤバかったよー。途中で声が震えちゃってさー」
「加護もダメでしたよぉ。ヤバかったです」
「最近、矢口、涙腺弱過ぎー」
「わたし、おばちゃんになってきたのかなあ。
 ホント駄目だね、最近」
「おばちゃんーー」

加護が矢口さんの前に顔を持っていって、変な顔をしてた。
もう加護は「おばちゃん」って言いたくって仕方ないから。
中澤さんがいないときはいっつも誰かしらをおばちゃんって呼んでいる。

「なんだよぉ、お茶もうないじゃん。
 誰だよー!こんなからっぽのペットボトルばっかり置いときやがってー。
 捨ててけよなー」

矢口さんが空のペットボトルを机に叩き付けながら文句を言ってる。
ぶつくさ言いながらもゴミ箱に捨てに行くのが矢口さんらしいんだけど…
207 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時44分02秒
「辻でしょー、どうせ。
 なっちがいないから、今日は収録中もだらしなかったじゃない?」
「いつにも増してねー。
 今日はよっすぃーにくっついてたけどさー、
 よっすぃー自身が最近ますますワイルドになってるからねぇ」
「あーでも、あたしも何か飲みたい…
 なんか買ってこようかな…
 …あ、そうだ! 石川行ってきてよ」

飯田さんがわたしに向かって言ってきた。
わたし平然とうなずいた…

「いいですよ」
「え? いや、冗談だよ。
 自分で行くって」
「いやぁ、行きますよぉ。
 なんでも言ってくださいよ。買ってきますから」
「じゃあ、おいらタコ焼きね」
「はい。タコ焼きですね?」
「…いや、違うって石川! 少しは拒めよー」
「だって使いっぱがうれしいんですよぉ」
「…おかしいよ、石川」
「おかしくないですよぉ。
 使われてるのがうれしいんですからぁ」
「やっぱ、おかしいって。
 石川みたいなこと思わないって、普通」
208 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時44分41秒
矢口さんはそう言うけれど…
…うん、ずっとそれが続くんだったらイヤかもしれない。
でも、こうして2人に言われるのもあと少しの時間だったから…
タンポポが終わればこんな風に4人で集まることなんてもうないから……

「加護はねー、いちごアイスーー!!」

「ちょっとー、あいぼんは自分で行きなさいよねー」
「ぶーー、なんでよー! いいじゃん、ついでに買ってくれたってー!」
「じゃあ、あいぼん一緒に行こうよー」
「えー? 面倒くさいなあ」
「いいじゃん、行こうよぉ」
「しょうがないなあ。よしっ、行ってやるかー、梨華ちゃんのために」
「何なのー、エラそうにぃ。もぉー」

「じゃあ、行ってきますね」

加護の手を引きつつ、飯田さんと矢口さんに何が欲しいか聞く。
2人はわたしの質問に呆気にとられてて…
…でも、わたしと加護が楽屋から出ていくときには笑って見てた。
ずーっと見守っててくれた2人がそこに変わらずにいた…
209 名前:石川梨華編(2)-2 投稿日:2002年12月31日(火)05時45分23秒


もうすぐわたしが見守る側になる……

…新しいタンポポへの期待とプレッシャー…

わたしに負わされた重い責任…

それに今までのファンの人たちの反応…

不安なことはいっぱいだったけど、
わたしの前にはそれらを乗り越えてきた人たちがいた…

わたしも負けてらんないなあ。

いつか追いついてみせるんだから。

そして、もう一度…きっといつか一緒に歌うんだから……

そのときまで頑張り続けよう!


そのうち何かが見えてくるよね……


……きっと…………


210 名前:石川梨華編(2) 投稿日:2002年12月31日(火)05時46分06秒


石川梨華編(2)
参考資料 「タンポポ編集部 OH-SO-RO!」02.09.03放送分
     「まるごと大全集100%モーニング娘。」02.08.27放送
     「ハロモニ」02.09.08放送分
     「ハロモニ」02.09.15放送分
     「ハロモニ」02.09.22放送分
     「ハロモニ」02.09.29放送分
     「モーニング娘。通信」02.09.17放送分


211 名前:池田屋 投稿日:2002年12月31日(火)05時49分23秒
今回からようやく新規更新です。
この先はそんなに長くなりません。
今回の石川編(2)も含めて今までの話の現実への結び付けとでも言いましょうか。
テレビに映らなかったものを記録として残しておきたい、、、

>>170 名無し読者さん
いつもありがとうございます。
お見事(w 黄板にこだわったのはタンポポ色だからです。
この話はやっぱりこの色の板で書くべきかなと。

>>171 名無し読者さん
リアルと言っていただけるのがうれしいです。
言われてみて、タンポポ+安倍って気付きました。
ラジオからの話が多いので、どうしてもそうなってしまいますね。
後藤編を望む声は多いんですが、今のところ情報が少なすぎて、、、
212 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月02日(木)20時21分02秒
2人の卒業に対して表に感情をあまりださない吉澤さん編も
できたら見てみたいです。
213 名前:池田屋 投稿日:2003年01月03日(金)01時53分09秒
>>212 名無し読者さん
後藤と同じ理由でまだ吉澤編はきついですねー。
まだ書くのは先のことになりそうです。
214 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時54分23秒


     ◇      ◇      ◇

                       安倍なつみ編(3)

215 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時54分56秒

「なっちー、何買うか決まった?」

「えー? まだ決まんないよぉ」

出発前のホテルの売店で何を買うか悩む圭ちゃんとわたし。
昨日サッカーのスタジアムみたいなところでライブをやって、
そのまま名古屋のホテルに泊まって、今日新幹線で東京に戻ることになっていた。
東京に戻ったらそのまま圭ちゃんとテレビの収録へ…
藤井さんの『Best Hit TV』に圭ちゃんと一緒に出るんだけど、
おみやげに何を買うかなかなか決まらなくて…
216 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時55分51秒
ごっつぁんの卒業やユニット改編を聞かされてから1ヶ月あまり…
みんなそれぞれの立場で受け止めて、徐々にそのことを受け入れつつあった。
矢口みたいにモロに影響を受けちゃったコもいれば、
カオリみたいに強く振る舞ってるメンバーもいて…
考え方はメンバーそれぞれ違ったけど…、
でも、みんなモーニング娘。って何なのかなって考えるきっかけになったと思う。
今までがむしゃらに突っ走って、回りが見えなくなりそうなときもあったから…
自分たちの目標……自分たちの夢……わたしは忘れずにいたい。
忘れてしまったら、わたしの中のモーニング娘。は終わりだから……

ごっつぁんはあれからもメンバーに多くを語ることはしなかった。
淡々と仕事をこなし、ドラマ出演も決まったりして…
時間があるときは相変わらずよっしーや加護とふざけあって遊んでいた。
そんないつもと変わらないごっつぁんの姿を見ることができた…
217 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時56分30秒
5期メンバーたちは、やっぱりいまだに4人で固まってることが多くて、
今回のごっつぁんのことや改編のことをどう思っているのか、
わたしと話すことはなかったけど…本心ではどう思っているんだろう?
卒業の意味、ぽっかりと心に空く大きな穴…
そのことに気がつくのはメンバーが卒業近くなってから…
まだ経験したことのないあのコたちはその苦しみを知らない。
今回その苦しみが一番ツラいのは4期のコたちなのかな…
…苦しみを乗り越えても何も見えないことがある。
ぽっかりと穴が空いたままになってしまうこともある。
わたしはそのことをよく知っている……

わたしはみんなを見守るだけ…
見守って、みんなが帰ってくるのを待ち続ける……
それにはわたし自身が強くいなくちゃ……
218 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時57分07秒

「なっち! これでよくない?」
「えー?」

圭ちゃんがわたしに見せたもの…

「名古屋名物びっくりみそかつ!?
 これ持っていくのー?」
「うん。ダメかなあ?」
「いや、いいけどさー。見栄えがねー…」
「だって、これおいしくない?
 それに保存もけっこうきくみたいだし」
「うーん…まあ、いいか。時間もないし…
 じゃあ、これ買っていこう」

時間がないから焦ってこれに決めちゃったけど、いいのかなあ?
ちょっと疑問に思ったけど、マネージャーさんに言って
びっくりみそかつの手配をしてもらった。
219 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時57分50秒
出発前、ロビーに集まると新垣の顔色がやっぱり優れない。
先週からスケジュールにはかなり無理があったから…
石川と長野でライブやって、東京フレンドパークの収録をして、
それにNHKの生放送や新しいポッキーのCMの撮影。
さすがに新垣は過労がたたったのか、土曜日の赤穂でのライブの朝、
風邪をひいて高熱を出してしまった。
なんとかその日のライブをやりおえて、翌日には熱が下がったものの…

「里沙ちゃん、大丈夫なの?」

紺野が心配そうに聞いている。
…いや、紺野はいっつも心配そうに聞いてるか…
ホントよく分からないコ…
本気で心配してるのかな?

「珍しいよねー、新垣が風邪ひくなんて。
 モーニングに入ってから今まで風邪ひいたことなんてなかったでしょ?」

わたしも心配して尋ねると新垣が慌てて返事をしてきた。
いつも強がっていたい新垣だったから…
220 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時58分26秒
「もう全然平気ですから。
 元気モリモリですよー」
「あんまり無理しない方がいいよー。
 明日から学校も行かなくちゃいけないんでしょ?」
「でもタンポポのダンスレッスンも始まるんですよー。
 頑張らなくちゃいけないですよねー」
「うーん…頑張るのはいいことだけどねー、
 でも、たまには休んで、自分を見つめ直すことも必要だよ」

わたしがそう言ったら、新垣が不思議そうな顔をしてた。
まだ新垣は「頑張ること」が目標だから分からないかな…

「風邪にはねえ、ハチミツレモンがいいってよ。
 何でかっていうとね……」

矢口がいきなり風邪について解説しだす。
また誰かから小耳にはさんできたな。
221 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時59分04秒
「矢口ー、今度はどこから聞いてきたのよ?」
「ホントだってばー! 雑誌で読んだんだから」
「効くのは知ってるけどさあ、矢口が言うとなんかウソくさいんだよー」
「えー? どこがウソくさいのよぉ…」
「この前新垣から聞いちゃったもんね。ね? 新垣!
 ラジオの…」
「…あー! はい。話しましたねえ」
「お墓参りにいった日の夜におばあちゃんが体の中に乗り移ってきたんでしょ?」
「ちょっとー、それはホントの話だってばぁ。ウソじゃないよー!」
「ふーん…」
「なっち信じてないでしょ?」
「信じるよぉ。矢口がそう言うならさ」

疑わしい目つきで言ったら、矢口が拗ねちゃった。

「あーもうウソでいいです、ウソで。ホントなのにぃ」
「クサるな、クサるな、矢口。」

圭ちゃんが矢口の肩を叩いてなだめてる。
でも圭ちゃんも全然信用してなさそうに見えて…
それを見て矢口がまた拗ねてた…
222 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)01時59分58秒
「あのー、保田さん」
「はい?」
「税金って詳しいですか?」
「はあ?」

突然の小川の質問に圭ちゃんが戸惑っている。
なんなの?このコ。いきなり税金なんて聞き出して…

「なに? 税金って…そんなこと聞かれてもねえ…」
「夏休みの宿題、まだ終わってないんですよー。
 明日出さなきゃいけないのに…
 税についてレポートを書きなさいって言われてて、
 でも全然分からないんですよー…」
「えー? あたしだって詳しくないよぉー。
 全部、事務所任せだし…」

そう言って圭ちゃんがわたしと矢口の方を見たので、
思いっきり首を振った。
わたしだって全然知らないよぉ。
矢口が圭ちゃんにスタッフさんたちの方を指差してみせた。
223 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時00分45秒
「小川ー、あたしたちじゃなくて、
 スタッフさんたちのところに行って聞いてきなよ。
 あたしたちより全然詳しいからさー」
「…じゃあ、そうします」

小川は走ってマネージャーさんたちのところに行ってしまった…
圭ちゃんが髪をかき上げながら言う。

「あたしたちに聞かれてもさあ…」
「困るよね」

苦し紛れにわたしも続けた。

「ダメだよぉ。夏休みの宿題は自分でやらないと。
 …新垣も自分でやらなくちゃダメだよー」
「あー、はい…」

圭ちゃんと矢口とわたし…
3人で顔を見合わせて苦笑い。
宿題なんてやらなかったなあ……


 ・ ・

224 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時01分43秒
「なによー、ののったら!」
「…何叫んでんのよ、なっち」
「だってさー、ののがこんなメール送ってくるんだよー」

圭ちゃんにののから送られてきたメールを見せる。

「『あたしがソフトを持ってくから、
 DVD見るやつはギズモが持ってきてね』って何これ?
 意味分かんないだけど」
「いやさあ、ののと約束してたのさ、ずーっと前から。
 コンサートのバス移動の時に『火垂るの墓』を見ようって。
 でも、なかなか機会がなくてねー。
 してさー、来週が最後じゃない? 夏コンの地方の公演って。
 『これを逃すとしばらく見れないね』って話してて、
 『じゃあ来週見よう』って、さっきの新幹線の中で話してたのよ。
 それなのにあのコったらわたしに重たい方を持ってこさせようとして…」
「…まあ意味は分かったけどさあ、
 この『ギズモ』っていうのは何なわけ?」
「あー、わたし最近あのコに『ギズモ』って呼ばれてんの」
「はぁ…、ハロプロの巨頭も辻にかかっちゃ形無しだね。
 松浦でさえ恐がって近付いて来ないのに」
「なーに言ってんだよー。
 松浦や藤本が近付いて来ないのはお互いさまでしょー」
「…あたしたちってそんなに怖いのかなあ……」
225 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時02分30秒
さっき松浦がわたしと圭ちゃんの楽屋に挨拶に来たけど、
一言挨拶を済ませると逃げるように去っていってしまった。
まあ、わたしと圭ちゃんだけじゃ無理もないか…

「なっちさあ、最近辻と仲良すぎない?」
「うーん、まあ確かに仲いいねえ」
「気をつけなさいよー、あんまりのめり込み過ぎないように。
 辻とだっていつか別れるときが来るんだから」
「大丈夫だよぉ。
 ののはかわいい妹って感じだから。
 ライバルとか尊敬とか、そういう感じじゃないからさ…」
「なっちはいいけどさあ、辻がつらいんじゃないの?
 いざ別れるってなった時…」
「…でも別れるときが来るからって自分で付き合いを制限しちゃってたんじゃ、
 それもなんか寂しくない?
 圭ちゃんだって辞めるまであと半年なのに思い出作んなきゃもったいないよ…
 ……わたし、みんなが辞めていった頃のことすごいよく覚えてるもん…」
「そうかもしれないけど、
 …難しいよ…その境界線って……
 ……みんなきっと悩んできたんだろうなあ。
 ごっつぁんなんか今がちょうどその時期か……」
226 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時03分49秒
確かにどこまで付き合うか、その境界線は難しいかもしれない…
わたしたちには突然の別れもあれば、別れると思ってても
ずーっと一緒だったメンバーもいる。
でもこの先のことなんてわたしたちには分からないし…
今は自然の流れに任せよう、わたしは……

『Best Hit TV』の収録には松浦も含め、ソニンやしばちゃん、
ZONEの4人まで参加していた。
収録が始まるとさっそく「びっくりみそかつ」で藤井さんにイジられた。
やっぱりそうなるよね…
予想通りの展開にわたしは笑いが込み上げてきて我慢できなかったけど、
買ったのは圭ちゃんだけのせいにされてしまって…
まあ圭ちゃんはそれで笑いがとれてたからOKだったみたい。
227 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時04分35秒
収録中、ZONEのMIYUちゃんの年齢を聞いてビックリした。
年齢を聞いたとき思わず
「えー!! 14歳なのー!?」
ってつぶやいてしまった。
去年の『secret base』って曲、わたし大好きだったのに、
あれを歌ってたときは13歳だったわけかあ…
そのMIYUちゃんが藤井さんや貴理子さんに「老け顔」って言われてて……

グループのメインボーカルを務めるくらいの歌唱力に老け顔と14歳…
…あのコの顔がちらっと思い浮かんだ…
いつか戻ってくるはずのあのコの顔が…
228 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時05分26秒

収録が終わると和田さんに呼び止められた。

「お久しぶりです」

わたしが会うのはホント久々だったから…
ミュージカルのときにチラッと見かけたけど
そのときは時間がなくて、目の片隅に和田さんの姿を認めただけだったから。
わたしは圭ちゃんや紗耶香やカオリみたいに、プライベートでは和田さんと親交ないし。
ずーっと和田さんには厳しくされてきたから…
和田さんが辞めるときまでずっと…
その厳しさに今では感謝してるけど、
やっぱり圭ちゃんたちみたいには付き合えないな…

「おまえのところにあいつから連絡いってないか?」
「はい? あいつって誰ですか?」
「…福田だよ、福田」
「へ? 明日香ですか?
 そりゃまあ最近は連絡ときどきしてますけど」
「あいつ何か言ってなかったか?
 何か決めたとか…何をやりたいとか…」
「いえ、まだ決めたってところには……
 …でも、なんで和田さんがそんなこと気にしてるんですか?」
「……そりゃまあ、これでも元マネージャーだからな。
 かつて付いてた人間をそりゃあ気にするわな…」
229 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時06分10秒
そう言って引き笑いをする和田さんだった。
ホントにそう思ってるのかなあ…
相変わらずウソ臭いんだから…
そんなわたしの訝し気な表情も気にせず和田さんは話を続ける。

「なあ、おまえから23日の横浜アリーナ誘ってみたらどうだ?
 あいつも気分転換にゃいいかもしれんし」
「来ますかねえ?
 去年の裕ちゃんのときと違って、今回はごっつぁんですよ。
 何にも関係ないと思うんですけど…
 そう言う和田さんは23日来ないんですか?
 大変ですね、ここんところ忙しそうで…」
「いや、行くに決まってんだろ23日。それに22日も。
 21日からより子。をニューヨークに行かせちゃってるから時間はあるんだよ」
「ニューヨーク?」
「ちょこっと音楽の勉強させにな…」

和田さんとニューヨーク…
あんまりいい思い出ないなあ、その二つが結びつくと…
本当に勉強になるのかどうか……
230 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時07分02秒
「それと…、たぶん福田はおまえが誘わないと中澤あたりが誘うぞ、きっと。
 まあそれでいいんなら、いいがな…」

あーあ…見透かされてるか…
結局はわたしが連絡しちゃうんだよね…
認めるのもなんか悔しかったから精一杯無理をして返事をしておいた。

「時間があったら連絡しておきますよ」

23日まであと3週間…
ごっつぁんとの別れはもうすぐそこにせまっている。
3年間一緒にやってきたごっつぁんの卒業。

回りから散々言われたライバル関係…
明日香のときもそうだった。
わたしと仲が悪いとか、もっとひどいときはわたしが追い出したとか、
言いたい放題言われ続けた…
きっと今度も同じように言われるんだろう……

……でも…ごっつぁんには本当にいろんなものを貰った……
ごっつぁんが入ってきてから抱えたいろんな悩み…挫折…心の葛藤…迷い…
それを乗り越えてわたしは成長できた。
今もこうしてモーニング娘。として走り続けることができた…
231 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時07分52秒
3年間横で歌い続けたごっつぁんがもうすぐいなくなる。
またわたしの隣には誰もいなくなる。
……次?
…もう次はない…
モーニング娘。に憧れて入ってきたコたちはライバルにはならない。
明日香もごっつぁんも別にモーニング娘。になりたかったわけじゃないから…
目標は違うところにあったからライバルとして尊敬できた…
でも…もうそんな志しを抱いて入ってくるコはもういない……

23日には矢口たちのユニットの卒業もある。
そしてりんね…
りんねと一緒にツアーを回るのもおそらく今月で最後…
みんな夢半ばにして去ってゆく……
わたしの夢も半分まで叶った。
いつになったら夢は全部叶うんだろう……

23日のライブは、完成度を上げて…きっちりとやって…
最高のステージになるようにしなくっちゃ。

それが送り出すわたしたちの最後にできること……

それがみんなの夢の欠片…………


232 名前:安倍なつみ編(3) 投稿日:2003年01月03日(金)02時08分50秒


安倍なつみ編(3)
参考資料 「安倍なつみのエアモニ。」02.08.22放送分
     「安倍なつみのエアモニ。」02.09.12放送分
     「安倍なつみのエアモニ。」02.09.26放送分
     「Matthew's Best Hit TVスペシャル」02.10.03放送分
     「Matthew's Best Hit TV」02.10.09放送分
     「ハロモニ」02.10.13放送分
     「ハロモニ」02.10.20放送分
     より子。ライブ LOVE & MUSIC 02.10.05


233 名前:矢口真里編(5) 投稿日:2003年01月03日(金)02時09分51秒


     ◇      ◇      ◇

                       矢口真里編(5)-1

234 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時11分02秒

 ♪さっそくMorning Callして
  行こうよ あの空の彼方まで
  心の翼大きく広げ
  あなたにMorning Callして
  目覚めた朝の窓 青い空
  Good Morning はばたこうよ
           (「Good Morning」より)


SHIBUYA-AXでの裕ちゃんのソロコンサート。
裕ちゃんが一人で『Good Morning』を歌っていた。
ファーストライブで一番最初に8人で歌った曲…
そう…わたしたちがモーニング娘。のライブで無数に歌ってきた中で、
一番初めに歌った曲。
ステージで初めてスポットライトを浴びて歌った曲。
ここからそう遠くない渋谷公会堂…
あの日あの場所からモーニング娘。のライブは始まった…
235 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時11分41秒
当時の8人のメンバー全員の名前…
あのライブで着ていた衣装の話…
そしてファーストライブにかけていた娘。たちの思い…
歌う前にあの頃の思い出を『東京美人』のBGMに乗せて裕ちゃんが語っていた。

あのステージに飛び出す直前、どれだけ緊張していたか…
どれだけあのステージがうれしかったか…
裕ちゃんがしんみりと語って…
2階席にいるわたしたちにも直接語りかけて……
うれしくて2階席から身を乗り出して手を振ったら、
1階にいるお客さんたちに一斉に振り向かれてしまった。

…裕ちゃんが歌う『Good Morning』を聴いていたらなぜだか勝手に涙が出てきた…
裕ちゃんが今でもこの曲を歌い続けてくれてるのはうれしいのに、
…でもこの曲を一人で歌ってる姿がせつなくて……
今すぐにでも飛び出していって裕ちゃんの横でハモってあげたくて…
それが出来ないわたし…、歯痒かった。
『Good Morning』も『Memory 青春の光』も、『抱いてHOLD ON ME!』すら
取り上げられたわたしたち。
今年の夏はついに『サマーナイトタウン』も『真夏の光線』もなくなった…
こうして裕ちゃんみたいに一人にならないと昔の曲は歌えないのかな…
それを考えたら…とても寂しかった……
236 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時12分15秒
今日の裕ちゃんのコンサート、みんなそれぞれ忙しくて
来たがってたのにほとんどのメンバーが来れなかった。
娘。からはわたしとカオリとよっすぃーと小川と高橋だけ。
それにみっちゃんと貴子さん。
メロンから斉藤さんと村田さんと大谷さん。それと石井ちゃん。
それだけのメンバーしか集れなかった…

帰りのタクシーの中、一緒にコンサートに来たカオリと話す。

「カオリだったらどんなソロコンサートやりたい?」
「そうだなあ…、あたしだったら絶対に踊らない。
 …歌だけのしっとりとしたライブをしたいかも」
「へぇー、踊らないんだ?」
「そりゃあさ、踊ってもいいけど、あたし一人で踊ってたら
 絶対にお客さん笑っちゃうでしょ?」
「そりゃあそうね」

カオリが一人で踊って歌う姿は確かにサマにならなくて笑えそう。
ちょっと笑いながら言ったらカオリも聞いてきた。
237 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時13分10秒
「そう言う矢口はどうなのよー!
 どんなライブする気でいるわけ?」
「えー? おいら?
 おいらはね……、個性のあるライブをやりたいかな」
「よく分かんないよ、それ」
「とにかくねー、個性的で楽しいライブをやりたいの。
 来たお客さんとかがみんな笑っていられるようなライブを」
「あー、なんとなく分かった。
 矢口らしいわ、そういうの」

せつない曲は好きだけど…
やっぱりわたしはみんなが笑って帰れるようなライブにしたいな。
悲しいライブはもう散々やってきたもん……


 ・ ・


 ・

238 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時14分01秒
9月8日、長崎。
夏コンサートの野外ライブ最後の日。
その本番前…

スタッフさんにちょっかいを出している辻。
ケータリングのコーナーをじーっと見つめて食べるのを我慢している小川。
『Mr. Moonlight』の出だしを何度も練習している新垣。
プリクラを見せ合っている紺野と高橋。

いつもと変わらない楽屋がそこにあるように思えた。
…でも、一部のメンバーはすでに感じ始めていたのかもしれない。
9月23日に近付くことへの実感……
一人でいることが多くなった年上メンバーたち。
妙に明るく振る舞う石川やよっすぃーや加護。
みんな徐々に意識し始めている…
239 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時14分45秒
圭ちゃんと相談して、
メイクをしているごっつぁんに、一緒に声をかけた。
今日がごっつぁん最後の野外ライブだったから…

「ごっつぁん、頑張ってね!」

そしたらごっつぁん驚いてた。
首をちょっと傾げながら髪をいじって、
照れ笑いしつつ、驚いたことの言い訳をする…

「いつもと違う風に言われたから、なんかこっちもドキッてしちゃったよ。
 なんだろ…、やっぱ普通にいこうよぉ」

ごっつぁんもそろそろ卒業を意識してるなあ…
だってもう…テレビ収録はほとんど残ってないし…
娘。としてのライブもあと数えるほど……

タンポポが歌う前、カオリがお客さんたちに挨拶をした。

「わたしたちタンポポにとって最後の野外です。応援してください」

カオリがそんなこと言うから…
そんな泣かせるようなこと言うから…
わたし『王子様と雪の夜』で泣きそうになってしまって……
歌がめちゃくちゃになってしまった。
240 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時15分28秒
この日はごっつぁんも…
会場のごっちんコールを聞いて、卒業の会見のとき以来…
あのとき以来初めて涙を見せた。
圭ちゃんとわたしのかけた言葉で逆に意識しちゃったかな……

…ライブが終わると、わたしたちはすぐにバスに乗り込み移動する。
明日、すぐに飛行機に乗れるように、
急いで東京に戻れるように、今日中に福岡まで移動しておかなくちゃならない。
食事もせずに2時間とちょっとの移動。
まだまだ暑さの残る中、それも快晴の中野外ライブをやった体にはちょっとこたえる。

バスに乗り込むとなっちと辻が二人でDVDを見始めた。
聞こえてくる節子の声…
『火垂るの墓』か…
またこんなときに暗い映画を……
しかも…寝ている人もいて、音を出しているのが悪いと思ったのか
二人は途中から毛布を被ってその中で見ていた。

「暑くないのかねえ、あの二人?」

隣に座ってたカオリに声をかけても返ってこない。
耳にヘッドホンをつけて、CDを聞いてるカオリ…
カオリ、いっつもウォークマン聴いてると気付かないんだから…
241 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時16分12秒
「カオリー! また氣志團でも聞いてるの?」

さっきより大きい声で聞いてみた。

「え? なに?」

ヘッドホンを外すカオリ…

「また氣志團でも聞いてるのか?って言ったのよー」
「あー、違う違う。最近、聴いてないから」
「へぇー、そうなんだ。ずーっと氣志團だったのにね」
「そんなことないよぉ。違うのも聴いてたって。
 …でもね、今はずーっと一枚のアルバムを聴いてるんだー」

そう言うとカオリはCDウォークマンの蓋を開いてわたしに見せた。

ゆっくりと開く蓋から見える、その忘れることのない…
忘れることの出来ない黄色一色のCD……

「タンポポ…」
「…うん。あたしこのCD貰ってからずーっとこれ聴いてる…
 移動のときはね、これしか聴いてないんだー」
「……でも、それで寂しくならない?
 おいらそのCD聴いてると胸が苦しくなってくるんだけど…」
「だって、いい曲ばっかじゃん。
 聴かないともったいないよ。
 あたしたちが残してきたもんなんだから…」
「はー…おいらには真似できないよ、それ。
 涙で枯れ果てて、きっとおいらの体なくなっちゃうね」
242 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時16分56秒
わたしにはあのアルバムは強烈すぎて…
そんな何回も何回も聴けないよ。
『恋しちゃ』や『誕生日の朝』や『たんぽぽ』のイントロ聴くだけで
じわっときちゃうのに…
カオリはもう見つめ直せる段階に入ってるのかな…

…そのままわたしたちは疲れもあって寝てしまう。
バスが福岡市内に着く頃に目覚めると、
なっちと辻がまだDVDを見ていた。
二人だけ寝もしないで、よく見てられるよ…
普段だったら真っ先に寝てしまうなっちと飽きっぽい辻がよく続くなあ…

ホテルに着くとマネージャーさんから外出禁止って言われた。
そんなあ…、今日は外で食べようって圭ちゃんと話してたのに…
夜遅いからホテルでの食事にしなさいって…

「どうすんのー?圭ちゃん」
「こりゃ困ったね…、予想外で…」
「ごっつぁんと食事出来るの、たぶん今日が最後の機会だよ…」
「分かってるよー!
 ……よし! あたしが話をつけてくる」
「おー!」
243 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時17分42秒
やっぱ、こういうときは頼りになるなあ、圭ちゃん。
今晩の食事…地方で最後の食事だったから、圭ちゃんと話し合って、
メンバー全員誘って外に出かけようって決めていた。
きっと横浜アリーナのときには偉い人とかいっぱい来てて
食事に出かけてる時間なんて取れないだろうからって…
圭ちゃん、こういうみんなでやるイベントって敬遠してたはずなのに
なぜか今回は乗り気で…
自分から言い出したのなんて初めてじゃないかな…

「条件付きだけどOKだってよ!」
「条件付き?」
「うん、年上チームだけなら良いって。
 さすがに10時半過ぎてるからねー、
 中学生組にはOK出さないね…」
「…うーん…まあ、しょうがないか…時間も時間だし…
 じゃあ決まったんならさっさと行こっ!」

圭ちゃんと手分けしてメンバーをメールで呼び出したけど、
なっちだけがやってこない。
時間がないからなっちの部屋まで行って呼び出すと……
244 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時18分19秒
「…ゴメン、たぶんわたし持ちそうにない…」
「…え?」
「…ほら、バスの中で寝てこなかったから。
 たぶんこのまま行ったら途中で落ちる…」
「えー!? じゃあ行かないのー!?
 ごっつぁんと最後だよー!!」

そりゃあなっちが夜弱いのは知ってるけどさあ…
徹夜出来ない体質って知ってるけどさあ……
それに今日も朝早かったのは分かってるけどー…

「無理してでも行こうよー!なっちー!!」
「ゴメン、ホントに勘弁して」
「でもさあ…」

わたしはムクれて、不機嫌な声を出してみせる。
実際なっちが行かないことにちょっと腹を立ててたし…

「もういいよぉ、6人で行ってくるから」

わたしが行きかけたそのとき……

「……矢口!
 …ちょっと待って…」
「なによぉ」
「……あのさ…、誰にも言わないで欲しいんだけどさ……
 …あー、やっぱ…どうしよぉ……」
「用ないなら行くよー」
245 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時19分10秒
そしたらなっちに腕を掴まれて部屋の中に引っぱり込まれた。
急なことになんかドキドキする…
なるたけ冷静に…、まだ怒ったフリをして言った。

「何?」

…何かの決意を持って言おうとしているなっち。
いや、ちょっと困るよ、そんな……わたしノーマルだし…

「……あのね、わたし今晩先約があるんだ…」

……なんだ……一気に気が抜けた。
ちょっと期待してた自分が恥ずかしい…

「先約? だって、ここ福岡だよ。
 そんな都合よく待ち合わせなんか……
 …あー! 辻か! 辻とでもご飯食べる約束したんでしょ?」
「……違うんだ…」
「じゃあ誰なのよー?
 あんま聞かない方がいいの?これって…」
「…ホントに誰にも言わないでね」
「う…うん…」

こんなところまで来て先約だなんて……
もしかしてスタッフさんの誰か?
そこまで秘密にしてるなんて……
246 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時19分47秒
「……このあとさ…りんねと食事に行く約束してるんだ…」
「なんだあ、りんねか」
「なんだってことないでしょ?」
「だってりんねでしょ?
 なんでそんなに秘密にしておくことがあるのよ?
 いいじゃん、それだったらりんねも一緒に行こうよ」
「…だって、そっちはごっつぁんのお別れパーティーも兼ねてるんでしょ?
 そこにりんねを連れて行くのはね…」
「なんでかなあ…りんねだっていたっておかしくないじゃん。
 それとも二人で行かなきゃいけない理由でもあるの?」
「うん」
「え?」

なっちにうなずかれて、わたし戸惑った。
まさか『うん』て言うとは思ってなかったから…

「理由は聞かせてくれないんでしょ?どうせ…」
「ゴメン…今は言えない……」
「…うん、分かった。
 ひとまず正直に話してくれたことには感謝する……
 …でも、もし気が向いたらこっちにも顔出してね…」
「うん…
 ゴメン、矢口…」
「…謝るんだったらわたしじゃなくて、ごっつぁんにしてよ。
 ごっつぁんとの最後の食事だったんだから…」
「…そうだね……謝っとくよ、後で…」
247 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時20分35秒
なっちの部屋のドアを閉めるとき、なっちが少し寂しそうだった…
なっちは来たくなくて来ないわけじゃない…
それは分かったけど…
……それ以上考えるのは止めた。
今はごっつぁんとの食事を楽しむことだけに集中しよう…

「あれ? なっちは?」

ロビーに戻ると圭ちゃんにさっそく聞かれる。

「うん…眠くてダメだって。
 ここに来るまでずーっと辻とDVD見てたから、もう限界だってさ」
「…ふーん……まあ、しょうがないか…
 なっちのことだからねえ……」
「よし、じゃあ行こう! もうこんな時間だよ」

カオリの言葉に時計を見ればもう11時過ぎ。
これから夕飯ってのもちょっとヘビーかも……

マネージャーさんが用意してくれたお店、
居酒屋さんって表現であってるのかな…
とにかく掘りごたつにみたいな席に座って、
なんでもメニューがあるような、そんなお店だった。
時間も時間だったし、それくらいしか開いているお店がなかったって…
もちろんそんなお店にわたしたちだけで入るわけにもいかなくて、
スタッフさんたちもいれてけっこうな大人数で行ったんだけど…
248 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時21分20秒
「かんぱーい!!」

ウーロン茶とジュースだけの乾杯。
圭ちゃんにはお酒飲んでもいいよって言ったけど、
「あんたたちと同じテーブルにお酒があったらまずいでしょ」
って気を使ってくれて、カオリ共々、ウーロン茶を頼んでた。

カオリ・圭ちゃん・ごっつぁん・石川・よっすぃー、そしてわたし。
6人で囲んだテーブル。
そういえば、この6人がこうして集まることなんて初めてかも。
何よりごっつぁんと一緒にお店に入るなんて、いつ以来だろう?

「昔さあ、ごっつぁんと一緒に博多でラーメン食べたことあったよねー」
「あーあったね、なっちと3人でさあ、並んだよね」
「懐かしいなあ。あのときのラーメン屋ってまだ残ってるかなあ?」

そんなたわいない思い出話をきっかけに、超盛り上がった。
ごっつぁんが入ってきた頃のこと。
彩っぺが卒業していった頃のこと。
石川とよっすぃーが入った頃のこと。
そして裕ちゃんの卒業やごく最近のミュージカルのことまで…

みんなおかしいように喋りまくった。
楽しかった思い出も、悲しかった思い出も…
今だから話せる話もいっぱいあった。
今こうして仲良くなったからこそ話せる話が…
249 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時22分14秒
……いつの間にか時計の針は12時を回る。

9月9日…

この日は娘。にとって、ごっつぁんにとって特別な日。
ごっつぁんが『LOVEマシーン』でデビューして3周年の記念日。

「ごっつぁん、おめでとう!
 横浜アリーナ頑張ろうね」

あらためて乾杯して、みんなでごっつぁんのデビュー記念日を祝ってあげた。

本当は9月9日はわたしたちが『抱いてHOLD ON ME!』を発売して、
その週にオリコンの初1位をとった栄光の日の始まりでもあるんだけど、
そのことは胸の内でそっと自分に祝ってあげる…
カオリも圭ちゃんもそのことには触れないでいた……

「石川ー、このヒレ肉食べちゃっていいよ。
 おいらもういいから」
「えー、でもぉ」
「いいよ、石川が食べたいって言ったから頼んだんだし」
「えー、だって脂身が多いんだもーん」
「その脂身のところもおいしいと思うよ、きっと」
250 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時22分55秒
遠慮してるのかと思って気を使って言ってやったのに、
石川ったら圭ちゃんに向かって
「ねぇ、脂身食べてぇ」
だって……
なんなんだよ、その猫なで声は……
さっきも隣り合わせたよっすぃーに向かって変なこと言ってたし。
「いやーん、よっすぃー足こすりつけないでぇ」
よっすぃーに思いっきり
「そんなことしてねぇよ!」
って言い返されてたけど……

「石川。ホント気持ち悪い。キショい!」

カオリがスパっと言い切った。
わたしもそれにのっかって続ける。
「おまえ、酒飲んだだろー。おかしいよー、絶対!」
「いや違うね、だって石川ここんところずっとこんな感じだもん。
 変すぎ、石川」
「梨華ちゃーん、キショいのはこれから直した方がいいよー」

みんなに言われて踏んだり蹴ったりの石川…
それでも石川、変なテンションで笑ってた…

「なによぉ、みんなしてぇ。ぷんぷん」
251 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時24分00秒
なんだろう…
みんな寂しかったことが、石川がいることで紛れたかもしれない。
石川もそれを意識していたのかもしれない…
あのコは泣きそうになると笑ってごまかすって、わたしはよく知っている…

ごっつぁんのぼそっと言った一言。

「『恋のダンスサイト』の『あっなんだ』のセリフとかさあ、
 『I WISH』の初めと最後は誰が歌っていくんだろうね」

最後の方…やっぱりしんみりしてきてしまった…
パートの受け継ぎ…
チャンスではあるんだけど、それは悲しみの先にあるものだったから…
ましてや『I WISH』はごっつぁんと4期メンバーのためのような歌…
ごっつぁん、最後に『I WISH』歌いたいのかな…
…でもそれは叶わぬ夢なんだろう。
わたしだって歌いたい曲いっぱいあるのに……
252 名前:矢口真里編(5)-1 投稿日:2003年01月03日(金)02時24分39秒
最後にごっつぁんが
「とにかくさ、残り2週間を娘。として思いっきり楽しみたいと思う」
って明るく言ってくれて良かった。
思いっきり楽しんで、いつか今日のことも思い出話にして楽しく話そうよ。
ごっつぁんとはときどきしか会えなくなるけどさ…

ホテルに戻ってきて、自分の部屋に戻る途中…
りんねを見かけて思わず柱の影に隠れてしまった。
真っ赤に泣き腫らした目…
なっちは…もう部屋に戻ったのかな…
2人の間に何があるのか知らないけれど…
あんまりいいことが起こらなそうなことは分かった…
これ以上、何か起こるのはもうやめてほしい……

横浜アリーナまであと2週間、最後の野外ライブの夜が終わっていく……


253 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月03日(金)14時56分15秒
新年早々、大量更新お疲れさまです。
やっぱりタンポポ色なんですね。あれは感動しました。
今年は娘。達にとってどんな1年になるんでしょうね。
市井ちゃんにも何とか生き延びて欲しいです・・・。
池田屋さんもマイペースで頑張って下さい。
254 名前:1111 投稿日:2003年01月04日(土)00時50分00秒
お疲れ様&明けおめです。
長崎事件はそう考えましたか・・・。
しっかし、この時期の話はやはりしんみりしてしまいますね。
と思っていると、そろそろ圭ちゃんが(涙)

今年もがんばってください。
255 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)01時54分06秒


     ◇      ◇      ◇

                       矢口真里編(5)-2

256 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)01時54分51秒

TBSでうたばんの収録…
わたしのタンポポとしての最後の出演…
新しいタンポポ4人にエールを送るかたちでの出演…

この番組にはデビューしたときから本当にお世話になってきた。
テレビを見てたらわたしたちがいじめられてるようにしか
見えなかったのかもしれないけど、この番組のスタッフさんたち、
みんなタンポポを愛してくれていた。
出演するたびにいろんな特別企画を用意してくれたりして…
257 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)01時55分27秒
彩っぺのいた頃のVTR、そして石川たちが入ってからのVTR…
思い出のシーンを全部流してくれた。
本当は新しいタンポポとしてのうたばん出演だったのに、
まるでわたしたちのために番組を作ってくれたような感じだった。
最後には『たんぽぽ』まで流してくれて…
わたし涙を堪えるのに必死だった。
ここで涙を流したくなかったから…
紺野や新垣やしばっちゃんの前で涙は見せたくなかったから……

楽屋に戻ってくると写真を撮った。
石川としばっちゃんとわたしの3人…
タンポポを受け継いでいく2人との写真。
2人はタンポポの新しい衣装を着てるのに、わたしは私服。
それがちょっと悲しかった……
258 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)01時56分12秒
うたばんが終わると、そのままラジオの収録に移る。
本当に最後の…
タンポポとしてメッセージを伝えられるのは本当に最後の機会。
これが終わればもうわたしはタンポポとしてのテレビやラジオ収録はない……
最後の最後にタンポポが4人全員揃ってラジオ収録に臨む……

「とにかく4人で楽しくやりたいですね」
「石川ホントに思ってるのかよー」
「いや…ホントに楽しみましょうね」

石川が最初からもうおかしかった。
さっきのうたばん収録からずっと…
最後ってことで緊張が極限状態までいっちゃってる石川…

収録が始まるとさっそくタンポポそのものへ話がいき、
カオリがみんなに質問する。
「みんなが心に残ってる曲は?」
「まずおいらは『恋しちゃ』が好きかな」
わたしが言ったら他の3人ともいっせいに揃えて競うように言う。

「「「わたしも好き」」」
259 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)01時56分42秒
みんなやっぱりこの曲が好き。
それが確認できてうれしかった。
「あの曲、仮歌でもらったときに、おいら感動して泣いたもん」
わたしが言ったら加護が
「この前も泣いてたよねー」
だって。まあ確かにこの前のハロモニのときはウルってしちゃったなあ…
「この曲みんな着メロにしてますよね」
…そう。石川の言う通り、この曲を4人ともメールの着信音にしてた。
それくらいいっつも身近にあった曲……

カオリがしみじみとこのラジオを振り返っていた……
「こうやってさあ、4人とか3人とか、2人だったりもしたけど、
 面と向かって話す時間ってあたしたちってあんまりなかったりするじゃん。
 毎日一緒にいるけどいっつも仕事したりしてるから。
 だからこのラジオってじっくり話せる場でもあったよね」
「あとはね、笑い声がずっと途切れなかった番組だと思う…
 おいらずっと笑ってた気がするもん」
「加護はね、顔が痛くなりましたよ。笑い過ぎて」
260 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)01時57分27秒
そのあと石川が続けたけど支離滅裂だった…
「このタンポポのラジオがあったから、
 自分と正面から向き合って強くなろうとか思えたし…
 あー、生きててよかったなあって…」
「生きてて良かった!?」
「はい…あの…もしモーニング娘。に入ってなかったら
 普通の女子高生として誰にも見られてないわけじゃないですか?
 でもこうやって……あれ? なんでみんな笑ってるの? スタッフの人まで…」

石川の言ってること、全然意味が分からなかった…
でもその姿がいじらしくて、入ってきた頃の石川を思い起こさせて…
わたしたちを含めみんな笑ってた。
笑いすぎてちょっとかわいそうだったから助け舟を出してあげる。
「それだけ大きなものだったってことだよね」
そしたらカオリが
「これからは新メンバーとかしばちゃんの悩みも聞いてあげなよ」
って……

石川がもう泣きそうになってた…
違う…石川はもう始まる前から泣いているのと一緒だったから…
そんな石川をカオリがなだめていた。
261 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時00分03秒
「もう!暗い番組にはならないようにね。ネガティブにはならないように…
 ……でも、キショキショってあたしたち散々石川に言ってたでしょ?
 あれで石川はきっとどんどん強くなっていったよね……」
「言ってたねー。
 あれのせいでおいらよく言われたもん。
 『石川さんをいじめないでください』って」
「でもずっと聴いててくれた人たちは分かってくれたよね。
 あたしたちがホントにいじめてたのかどうか…」

それを聞いても石川、やっぱり言葉にならなかった…
泣くのをごまかそうとして笑ってしまって…

「笑ってんのか泣いてんのか分からないよ、石川ー」

ずーっと笑い泣きを続けている石川…
それを見てカオリがあの言葉を石川に向かって言い放つ…

「キショっ、キショっ、おまえキショっ!」

「ホント温かくて…ありがとうございます…」

…そんな石川にわたしたちは最後メッセージを贈った。
石川が泣いちゃうことは分かってたけど…
どうしても伝えておかなければいけなかったから…
262 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時01分31秒
「石川の一番いいところは努力をちゃんとするってこと。
 うちらが昔から見てても『あー石川頑張ってるなあ』っていうのが伝わってきたから。
 今回一人で残される立場としてすごい不安だと思うんだけど…
 石川もまだまだ分からないことがたくさんあると思うけど
 石川なりにちょっとずつでも教えてあげられたら、
 素敵なユニットになるんじゃないかなと思います。
 …あとは…あんまり頑張りすぎず…肩のチカラを抜いて、
 自然に歌ってって欲しいなあって思います……」

…目の前で石川が泣き崩れる……
目の前で手で顔を覆ってしまって…

「石川さん!…石川さん!」

「はい…」

「石川さん!」

「はい…」

何回呼んでも『はい』しか言えなくて…

「まだほらね、終わりまで時間があるから…頑張って!」
263 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時02分10秒
石川が泣き止むのを待って今度は加護からのメッセージ…

「梨華ちゃんとは一緒にオーディションもやって、受かって…
 帰りとかも一緒に帰って…あと、なんだろ…
 タンポポで一緒になって…楽しかったです。
 ……そんなにねえ、矢口さんみたいにかっこいいこと言えないから
 あんまり分かんないんだけど……あの…頑張ってください」
「ありがとう、あいぼん」
「あの…またどっかで歌いましょう」
「ね」
「やろうね」

石川と加護の2人のやりとりが微笑ましかった。
今日で4期生の2人も離れ離れになってしまう…
1人はタンポポへ、1人はミニモニへ……

カオリは詩につづって石川へのラストメッセージとした…
264 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時02分47秒

  「夢のつづき…」

  楽しい時間はとっても贅沢で
  そのときが当たりまえのように思ってた
  今 二度とこのときが来ないと思えば
  今までの時間がすごく楽しかったことに気づいた

  たくさんの楽しかった時間
  タンポポのいろんなことば
  電波を通じてのみんなのことば
  一つ一つがこのココロの中で楽しいできごととして残っている

  ずっと忘れない

  贅沢なわたしはずっと楽しい時間を一人占めしたいけど
  みんなが楽しくなってほしいから
  みんなに楽しみを分けてあげたいから
  ぜひこの楽しみを受け継いでいってほしい
  この贅沢な喜びを続けていってください

265 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時03分23秒
「タンポポをやってるときはさ、当たりまえのように思ってたの。
 でも今、もうないんだって…次からないんだって思ったら、
 喧嘩したこととか、怒ったりしたこととか、
 全部ひっくるめて楽しかったなあって思ったんだ…
 だから、もうね…続けていくことは出来なくなっちゃったけど…
 こういう楽しい思い、そんな思い出を…
 ぜひそれを受け継いでいってほしいなって思います」

「おいらもさ…ホントに後悔したこともないし…、
 素敵な時間を過ごせてきたなって…今すごい実感してる……」

「誇りに思うよあたしは。
 CDを聴きながらね…
 タンポポ良かったってね……
 どうだい?みんな……
 ……みんな泣いちゃったね…」

カオリ以外のみんながもう泣いてた…
もちろんわたしも…我慢できなくて……
苦し紛れに加護に話を振った…
「タンポポのことどう思う?」
「…好き!」
「好きって気持ちが一番だよ」
カオリがしんみりと心を込めて言う…
266 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時03分59秒
その先はほとんどカオリが進行をとってくれた…
もうわたし普通に進行できなかったから…

「石川? もう大丈夫?」
「…………はい!」
「じゃあ、石川…
 最後に……受け継ぎのことばをあたしたちにちょうだい」

石川が鼻をすすりながら、涙を拭きながら必死に話す…

「……タンポポっていう存在が自分の中でホントにすごい大きくて…
 このラジオも…やるたびに……
 …最初は喋るのがあまり得意じゃないし…好きじゃなくて…、
 ラジオが嫌いなときもあったんですよ、正直。
 『あー明日ラジオだー』とか……
 でもホントに…この最後の……ラジオの日には…
 もう自信を持って楽しみでしょうがないラジオって思えるようになったから……
 ……ホントにありがとうございました……」
「強くなったよ、石川。今度はその強さをさ今度は下のコにあげなきゃ」
「……はい…」
267 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時04分34秒
みんなが泣いている中、カオリが最後の誓いを読み上げた…


「一つ、タンポポであることに誇りを持つこと」


この誓い…本当に誇りに思った…
今までやってきたこと…残してきたものを誇れる気がして……

「……これは胸を張って言えるね。
 おいら本当にタンポポをやってて良かったって思うもん。
 『なくなっちゃうのは寂しいね』って言ってくれたり、
 『心からありがとう』って言ってくれたりする人がたくさんいて…
 おいらは本当にタンポポに支えられた部分もあったし、
 強くしてくれた部分もたくさんあって……
 この4人で…彩っぺもいれて5人で…
 タンポポやってきて本当に良かったなって思います…」
268 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時05分28秒
わたしたちのタンポポの最後のメッセージ…
…それはやっぱりカオリに譲った。
カオリがいてこそのタンポポだったから…
結成のときからの…一番初めからのメンバーだったから…

「タンポポはものすごい大好き…
 歌をホントに歌ってると思って…
 メンバー愛っていうのもすごく感じて…
 あたしが人間としても大きくなれたグループ。
 そして応援してくれてるみんなの愛もものすごく感じたグループ。
 あたしは一生『タンポポですっ!!』って言い張っていこうかなと思います。
 『違うよ、あんた卒業したでしょ』って言われても
 『タンポポですっ!!』って言っていこうと思います。
 みんな一生忘れないでくださいこのタンポポを……」
269 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時06分37秒
…そして収録は終わりに……

「次のタンポポに期待することは、愛だ!LOVEだ!飯田圭織と」
「次のタンポポに期待することは、とにかく歌を大切に歌い続けてください 矢口真里と」
「次のタンポポに期待することは、全部! 加護亜依と」
「次のタンポポは3人の気持ち…
 そして7つの誓いを目標に頑張りたいタンポポにするぞ 石川梨華」

「「「「タンポポでした!!」」」」

全員で言い終わった後カオリが続ける…そしてわたしも…

「ここで1代目と2代目のタンポポからみなさんへ最後のプレゼントです」
「わたしたち今のタンポポ4人、そして初代タンポポから彩っぺの歌声も入っています…
 タンポポで『たんぽぽ』」
「グランドシンフォニックバージョンです」

スタジオに『たんぽぽ』の荘厳なオーケストラの音が響き渡る中…
わたし号泣してた。
もうこれで最後…
来週からはこのスタジオにも来ることはなくなる。
歌だって…歌えるのはあと横浜アリーナのステージだけ…
悲しくて寂しくてどうしようもなかった……
270 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時07分39秒
最後にラジオ内企画、タンポポ編集部としてのメッセージ…
でも、みんな感情が入り過ぎてて、業務報告なのか
リスナーへのメッセージなのかよく分からなかった…
カオリから順番にわたし、加護って続けて…

「愛をどうもありがとう」

「本当に長い間応援してくださってありがとうございました。
 本当にタンポポの曲が好きで、タンポポのメンバーが好きで
 頑張ってきた矢口なんですけども…
 ……すごく曲を大切に…みなさんこれからも聴いていってほしいなって思います……」

「モーニング娘。になって…すぐタンポポに入らせてもらって…
 9月23日までタンポポなんですけども…えと……えとー……楽しい2年間でした。
 ラジオも変なことばかり言ってたんですけど応援してくれてありがとうございました……」

「飯田さん、矢口さん、そしてあいぼん。
 本当にお疲れさまでした…」
271 名前:矢口真里編(5)-2 投稿日:2003年01月05日(日)02時08分31秒
カオリが最後の最後にヒトコト言った……


「ありがとね、みんな」


わたしたちのタンポポが…

3人でやったタンポポが…

2人でやったタンポポが…

4人でやったタンポポが終わっていく…

すべての思い出とともに……

みんなの心の深く深くに思い出となって、タンポポが終わっていく…………


272 名前:池田屋 投稿日:2003年01月05日(日)02時11分00秒
>>253 名無し読者さん
市井はどうなるんでしょうね、、、
今の状況だとやっすー・後藤と組むことはなさそうだし、
(幾分かやっすーには可能性がありそうだけど)
CCの活動はファンの方には申し訳ないけど、ホントにそのファンの方だけにしか
認知されてないし、到底ベストな活動とは個人的には思えません。
市井が何をもって良しとするかは判然としませんが、
それが見えてきたときが市井が上昇するきっかけになるのではないかと思います。
見せられる場があるうちにきっかけを掴んで欲しいのですが、、、

>>254 1111さん
お久です(w
本来自分が考える長崎事件にはりんねは絡んでません。
睡魔に勝てなかった、あるいは翌日の仕事を優先したのが真相だと思ってます。
小説からりんねの件を省けばそれになりますね。
273 名前:池田屋 投稿日:2003年01月05日(日)02時16分03秒
長崎事件の推論について詳しく書くと……
コンサートのバス移動が2時間ほどあったときに辻とDVDを見たと言っているのですが
夏コンでその可能性がある移動は
9/7ないし8 熊本→長崎
9/8 長崎→福岡
しかありません。実際そのことを話したエアモニも9月12日放送分です。
この区間をバス移動したことはありませんが、熊本-長崎は2時間じゃきついのかな?
しかも大概娘。たちはコンサ会場には当日入りしてくるから熊本→長崎も考えにくい。
これからライブをやりに行くってときにDVDを見るとは思えません。
そうすると9/8の長崎→福岡移動の時でほぼ間違いないと。
福岡に移動したことはカオリが9月17日放送分のOH-SO-ROで言っています。
また、「遅い時間だった」「食事してる最中に0時をまわった」等の
発言から考えても福岡に移動したのは確実です。
274 名前:池田屋 投稿日:2003年01月05日(日)02時16分48秒
それを踏まえた上で9月8日のスケジュールを組み立て直すと
朝、バス移動(熊本→長崎)
到着後リハーサル
野外ライブ(昼・夜)
バス移動(長崎→福岡)
打ち上げ(年長組6人)
翌日朝イチの飛行機で羽田へ(福岡に移動する理由はこれしか考えられません。
長崎始発飛行機とは1時間程度の差があります。中学生組の登校もありますしね)
となり、相当キツイ強行軍になりますね。
寝ないとダメななっちが長崎→福岡移動中に睡眠をとってないとしたら
まずその先の打ち上げ参加はキツイかなと考えました。
もちろん小説通りにりんねと食事に行ってたら、それはそれで泣けます(w
275 名前:池田屋 投稿日:2003年01月05日(日)02時22分31秒
もう一つだけネタ明かし。
今回のうたばんとOH-SO-ROの収録はたぶん逆。
本当はOH-SO-ROが先でうたばんが後。収録は9月10日。
ザ・テレビジョンに写ってる写真を見ればうたばんの時の衣装を着た矢口と石川が
目を腫らしているのが分かります。
うたばんを見ててもそれはなんとなく分かりますね。

あと矢口編2回分でおしまいです。
横浜アリーナのことはダラダラと書いてもしょうがないので。
後藤ファイナル特番とDVDを見れば、充分かと思います。
映像を超える文章を自分が書けるとも思えませんし。
急に終わるのもあれなので、事前に告知しておきます。
276 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時40分44秒


     ◇      ◇      ◇

                       矢口真里編(5)-3

277 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時41分39秒

9月22日。
横浜アリーナ。
ごっつぁんとのモーニング娘。の活動も今日と明日だけ…
…そしてタンポポもプッチモニも……

今日は1回公演だけで、残りの時間はごっつぁんの卒業番組を
横浜アリーナから生でTV中継することになっていた。
裕ちゃんが来て司会をしてくれて…
278 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時42分13秒
昔の映像がいっぱい流れてた。
わたしがデビューした頃の映像。
『抱いてHOLD ON ME!』で1位を取ったときの映像。
そしてごっつぁんが入ってから…
『LOVEマシーン』を初披露したときや、
ごっつぁんと紗耶香の練習風景まで…
今はもう見ることのできないASAYANの懐かしい映像が流れてた…

わたしたちをデビューからずーっと追ってきたASAYANのカメラが側から消えたとき、
彩っぺが去り…和田さんが去り…紗耶香が去っていった。
…でもそれとは引き換えに石川や加護たち4期メンバーとの出会いもあった。
最初は入ってくることに抵抗のあった4期メンバーたちも、
今日こうしてごっつぁんとの別れを一緒に悲しむかけがえのないメンバーとなっている…
279 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時42分46秒

番組も終了間際。
1ヶ月近く秘密にしてきたあのこと…
ごっつぁんの心残り…
2年前紗耶香と武道館で交わしたあの約束。


「絶対戻ってくるんだからね」

「おう!戻ってくるよ!」


そう言って二人で泣いて抱き合って交わした約束。
泣き止むことのなかったあの時のごっつぁん…
その約束が果たされるときが来た。

紗耶香がごっつぁんへの誕生日ケーキを持ってステージに上がってくる…
280 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時43分25秒
一緒に歌うことは出来ないけど…
最後の最後に紗耶香はモーニング娘。後藤真希と同じステージに上がることができた。
ごっつぁんのところに戻ってくることができた…
ずっとジャマされ続けて叶わなかった約束。
それが今日という日に叶った…

…そしたらごっつぁん、それまでずーっと涙を堪えてたのに…
堪えきれなくなって…、感極まってしまって……
とうとうごっつぁんの目から涙がこぼれ落ちた…
…それがみんなへ伝わって…みんな泣いてしまう…

そのままラストの『I WISH』。
ごっつぁんが歌いたいって言ってた曲。
自分がモーニング娘。であることを感じられた曲。
コンサートでは歌えなかったけど、
今日このステージでこの曲を久しぶりに歌う…
…希望が叶って良かったね……ごっつぁん。

歌い出し、ごっつぁんと加護が手をしっかりとつないでいた…
まるで加護が「ひとりぼっち」になることを嫌がるように手を離さず…
この二人、この日までずっとお揃いの黄色いミサンガを腕に付けていた。
その付けた腕同士をしっかりと握り合って……
281 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時44分04秒
歌い終わった後、カメラに向かって最後のメッセージを伝えたごっつぁんに
裕ちゃんが声をかける…

「よく頑張りました…
 先に卒業して自分が今こういう気持ちになるって…すごい不思議なんだけど…
 わたしは今メンバーとして一緒に仕事してるわけじゃないのに、
 …すごい寂しい……
 でも…これからは一人で頑張っていくごっつぁんの気持ちはみんな応援してるし、
 わたしも応援してるし…みんな仲間だし……
 明日見に来れないんだけど……応援してるから……
 …頑張って……」

ごっつぁんの成長を見守ってきた裕ちゃん…
モーニング娘。をずっと見守ってきた裕ちゃんだったからこそ言葉に重みがあった…

そう、ごっつぁん…
みんな応援してるよ……

頑張れって…………


 ・ ・

282 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時44分40秒
その翌日。
横浜アリーナ最終日。
とうとうこの日を迎える。

ラスト本番前、緊張でみんなじっとしていられなかった。
叫んだり、走ったり…
なんとかして緊張をごまかそうとしていた。
会場から聞こえてくるごっちんコール…
その声の大きさがなおさらわたしたちの緊張を高めていた。

この13人で歌うのは最後。
これから歌うすべての曲…、次からはごっつぁんはいない。
『Do it! Now』も『そうだ! We're ALIVE』も、
誰かがパートを引き継いでごっつぁんの声はもう聞けなくなる……
そう思ったら1曲1曲とても大切に思えた。
283 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時45分12秒
…コンサートは『恋レボ』『いきまっしょい!』と続き、
なっちが5期メンバーたちと『男友達』を歌うと…
いよいよタンポポの最後……
ステージの裏で輪になって気合いを入れる…

「これがわたしたち2代目タンポポの最後だから…
 …しっかりと歌って、お客さんに笑顔を見せて、
 最後までタンポポとしての誇りを持って歌い終えよう」

…カオリの言葉にみんな無言でうなずいて、
なっちたちがMCをやっているステージに飛び出していく。
まだ照明の当たっていない4本のスタンドマイク…
その4本のスタンドマイクの前に構えるわたしたち……

「みんなー!盛り上がっていこうねー!!」

なっちのお客さんへのかけ声が聞こえるといったんステージの照明が落ちて真っ暗に…

…さあ、いよいよだ。
タンポポのラストステージ…
何があってもこれが最後……
284 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時45分51秒
…スタンドマイクに手をやって、ゆっくりと目を開けたその瞬間だった。

…色とりどりだった会場のサイリウムが一斉に黄色に変わっていく。

横浜アリーナの広い会場、そのすべてが黄色に変わっていく…

アリーナ席から、2階席…バックスタンドまですべて…

横浜アリーナが黄色で染まっていく……



「タンポポがいっぱいだよ…」



カオリが叫んだ……

……そう……横浜アリーナにタンポポが咲いている……

…タンポポが満開になって…まるでタンポポ畑のように……
285 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時46分34秒
「この4人で歌うタンポポは、ここ横浜アリーナ…
 この1回で最後になっちゃうんだけど……
 歌う喜びを教えてくれたタンポポ…
 最後に…………愛をこめて歌いたいと思います」


『乙女 パスタに感動』と『王子様と雪の夜』

タンポポ最後の時間が流れていく……

わたしたちが4年間やってきたこと…無駄じゃなかった。

今ここにこうして無数のタンポポが咲き乱れている。

わたしたち枯らさなかったんだ…タンポポを……

わたしたちがやってきたことが実を結んで花が咲いている…

タンポポを大事にしてきた気持ち…歌への思い…

みんなに届いてた。

…そしてその気持ちは何倍にもなって…ううん…何千倍、何万倍にもなって返ってきた。

そのことがうれしくてうれしくて……

でもそんなタンポポが終わってしまうのが悲しくて……


最後の歌を歌いながらこの幻想的な時間が過ぎていく。

このタンポポ畑を目に焼きつけて…記憶に焼きつけて…

ずっと誇りにしていこう。

大好きだったタンポポを…………


286 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時47分21秒

歌い終わってステージ裏に下がって来て…
石川が泣きながらわたしとカオリに言ってきた…

「飯田さん、矢口さん、タンポポありがとうございました…」

「これからも頑張れよ!石川」

二人で石川を励ます…
これでタンポポの先輩としての役目は最後…
伝えることは全部石川に伝えた…

あとは任せたよ…石川……

……涙のあとを拭いて急いでミニモニ。の衣装に着替え、
ステージをいっぱい走り回って楽屋へ戻って来ると…
『ザ☆ピース』用の衣装に着替え終わったなっちが真剣にモニターを見てた。
…めずらしい。なっちが『色っぽい女』を真剣に見てるなんて……
いつもカントリー娘。と石川の曲なんて見向きもしなかったのに。
それが今日はモニターに食い入るように見ていた…
287 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時48分05秒
……ごっつぁんの『赤い日記帳』…
聴いててまたウルっときた…
この歌をどう歌っていいか迷っていたごっつぁんはもういなくて、
堂々と自分の曲にして歌ってた……
今月見た裕ちゃんのソロとはまた違った『赤い日記帳』。
歌詞の通りごっつぁんの誕生日で別れを迎える…

「今日はわたしの17回目の誕生日です。
 たぶん絶対忘れらんない誕生日になりました…
 これからは…明日からは…ソロになっていくけど、
 いつまでも変わらず応援していてください。
 そしてモーニング娘。もこれからもずっと愛していってください」

ごっつぁんがコメントすると最後の『手を握って歩きたい』が始まる…

 ♪愛してる 素敵な人
  素敵な家族 素敵な兄弟
  ありがとう 素敵な思い出
  出会ったみんな ありがとう

みんなのところを周りながらごっつぁんが歌っていた。
……まるでわたしたちに歌うように…
家族同然だったわたしたちに歌うように……
一人一人目を見つめて…心を込めて…
288 名前:矢口真里編(5)-3 投稿日:2003年01月05日(日)23時48分49秒
ごっつぁんとの別れ…
今日で一緒に歌うのは最後なのに、
本当に最後まで実感がなかった。
本当に明日からごっつぁんがいなくなるのかどうか…
明日になってもごっつぁんが普通に一緒にいるような気さえしてた…

……今日のライブ。

一生忘れない。

13人で歌った『Do it! Now』…

タンポポ畑…

わたしの大好きな『でっかい宇宙に愛がある』…

そしてごっつぁんと歌ったラスト…

みんなみんな楽しかった。

最高のライブだった……


289 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時06分57秒


     ◇      ◇      ◇

                       矢口真里編(5)-4

290 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時07分32秒

心地よい秋風と澄み渡る青空。
10月に入るとそれまでの暑さが嘘のように一気に涼しくなった。
暑かった夏が一瞬にして去っていった気がした…

「もう勘弁してほしいよねー。
 体痛くてさー、あんな激しくやらされたら……」

となりで蟻の進路を邪魔しながらぼやいている圭ちゃん。
アスファルトの隙間から這い出して来る蟻たち…
…ここに来るのは久しぶりだった。
圭ちゃんから卒業の話を聞かされて以来…

ごっつぁんがいなくなってから12人で出す新曲。
ダンスがメチャクチャきつかった。
今までにないくらいハードで、
1曲終わるとみんな汗だくでぜぇぜぇ言っていた。
特に今日のダンスレッスンなんて、あの曲を何回も踊らされて…
いくら涼しくなったとはいえ、もう限界で…
気分転換も兼ねて外の風に当たりたくなって、
こうしていつもの場所に圭ちゃんと二人して出てきた。
291 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時08分06秒
数カ月前に圭ちゃんにここで卒業の話を聞かされたときより、
あの頃より今はずっと圭ちゃんと親しくなれた気がする。
それまでは現場で顔を合わして話をするだけだったのに、
今では映画や食事に一緒に行ったり、圭ちゃんの家に遊びに行ったりして…
それこそ初めて会った頃のような付き合いをしていた。
メンバー同士で遊ぶなんてしばらくしてなかったのに…
最近ではたまーに石川も付いてきたりして。
この夏に起こったいろんな出来事がみんなの関係に
微妙な変化を与えているのは確かだった…

「ずるいよー!二人とも。なっちにも声かけてよねー」

なっちがぐでーっと手足を伸ばしながら歩いて来ると
なっちの指定席だったコンクリートのブロックに腰かける。

「だってさー、辻と一緒にダンスレッスン続けてたじゃん。
 邪魔しちゃ悪いかなあと思って」
「無理無理。あのコと同じペースで練習なんて出来ないって。
 首の筋肉とか痛くって。
 ののは梨華ちゃんや小川と一緒にまだ踊ってるけどね」
「はぁー、よく続くわ…あの激しいダンスを……
 こっちは少しセーブしないと続かないってのに…」
圭ちゃんがまたぼやいてた…
292 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時09分16秒
「どうなるんだろうねー、これから。
 『Do it! Now』で少しは昔の路線に戻ったかと思ったのに。
 新曲を来年の夏に踊るかと思うと、おいらゾッとするんだけど…
 あれやったらまた倒れちゃうよ」
「来年の夏ねえ…
 わたしたち誰も残ってなかったりして」
「なっちー! 縁起でもないこと言わないでよー」
「何が起こるか分かんないよー、この先。
 ごっつぁんだってあんなことになるなんて誰も予想してなかったでしょ?」
「そりゃまあそうだけどさ…」

ごっつぁんと松浦と藤本がユニットを組むって聞かされたときは驚いた。
もちろんそれは賛同や肯定を意味する驚きではなく、
拒否や否定に近い驚きだったんだけど……
ごっつぁんに卒業してソロになることを『おめでとう』って言って送り出してから
一月もしないうちにそんな話を聞かされるなんて。
わたしたちのあの時の言葉は何だったんだろうとか思えて…
事務所のやり方には憤りを感じずにはいられなかった。
293 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時10分24秒
ごっつぁんだって…
ごっつぁんだって、横浜アリーナのときにはそのことはもう知っていたわけで、
みんなにそのことを隠しておくのがどんなにつらかったことか…
みんなに『おめでとう』って言われるのがどんなに複雑な気持ちだったか…
わたしにはあの3人が組むことになった裏の事情なんて分からないけれど、
ごっつぁんもまた苦労を一人で背負い込んでいることだけは察しがついた……

……そうだ! もう1個思い出した!
横浜アリーナの後に起こったわたしたちの身近な変化…

「なっち、りんねのこと知ってたでしょ?」
「えー? 何が?」
「またとぼけちゃってー、りんねが辞めること知ってたでしょ?」
「あー…うん……知ってたよ……」
「なんでそんな大事なこと言わないのよぉ。
 りんねも横浜アリーナが最後だったんでしょ?
 それなのに何にもなく終わっちゃって…」
「だって、りんねがみんなには言わないでくれって…
 みんなには心配かけさせたくないって。
 ひっそりと幕を降ろしたいからって…
 それにハロモニの牧場ロケで一区切りついたって言ってたし…」
294 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時11分18秒
「……そうは言うけどさー、石川とかすごいショックだったみたいだよ…
 タンポポに次いでまた先輩を失ってさあ、実質的に石川に2つもユニットの
 責任が押しつけられることになって…
 おいらでさえ2つってわけじゃなかったのに」
「あたしは石川なら大丈夫だと思うよ。
 石川はすぐ立ち直れるでしょ? 切り替えの早いコだから」

……うーん…圭ちゃんの言う通りかもしれないけど…
ここまで石川の負担が大きいと…
大丈夫かなあ石川……

「…それよりもあたしが心配なのは加護だよ。
 ごっつぁんの卒業のショックから立ち直ってんのかどうか…」
「加護ちゃんボロボロに泣いてたもんねえ…
 コンサート終わったあと……」
「あのときさあ、少し泣き止んだ後に加護に言われたんだ。
 『矢口さんが辞めるときは1年前くらいに言ってくださいね』って。
 ……ごっつぁんが突然いなくなることが相当ショックだったみたいだね…」
295 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時11分52秒
また辞めるなんて言い出さなければいいけど。
去年の暮れくらいはそれで一騒動あって……
でも、今回は大丈夫なのかな…
もしそんなことしたら、一番悲しむのはごっつぁんだって分かってるし、
ごっつぁんのためにもここでくじけてらんないってのは加護も分かってるよね…

「大丈夫だよ、加護も。
 それにこれからは加護にミニモニ。を引っぱっていってもらわなくちゃいけないんだし、
 ショックを受けてる場合じゃないよ実際……」
「…そっか…矢口のミニモニ。の活動もあと少しなんだよね…」
「それだけじゃないよ圭ちゃん。
 りんねはあと一回イベントに出たら終わりだし、
 来月にはみっちゃんの卒業もあるし、
 年が明けたら圭ちゃん自身だって卒業でしょ……」

なっちの言葉にドキッとした。
そうなんだよね…来年の春には圭ちゃんも卒業するんだった…
それはもう変わらないことなのに、つい忘れそうになってる自分がいた。
296 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時12分30秒
「あたしはまだ全然実感ないけどなあ。
 自分が辞めることに関しては」
「…でも寂しくなるね…
 これからどんどん減っていくんだよ。
 おいらたちの昔を知ってる人がさ…」
「矢口…」

わたしの名前をつぶやいた後、
なっちはふと顔を上げ、スタジオの方を見やると
思いついたようにわたしに言う。

「でもさ、減っていく分、わたしたちを分かってくれる人も増えたよ。
 少なくとも寂しいことだけじゃなかったよ……ほら」

そう言って指差す方向を見ると……

「そうだね…
 寂しいことだけじゃなかったね…」

わたしもつぶやいた。
297 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時13分08秒
…石川と辻がつっ突き合いながらこっちに向かってくる。
途中から辻は走り出してなっちのところに飛びついた。
石川は小走りでその後を追いかけてきて…
「もうスタジオの中、暑くてたまんないんですよぉ」
そのキショい喋り方がおかしくて、みんな爆笑した。
「わたし、おかしいこと言ってませんよぉ」
さらにまた爆笑。
まあ、たしかに変なことは言ってないけどねー。
石川が喋るとみんなで笑うのはお約束だからさ…

「まだみんなレッスンしてんの?」
圭ちゃんが聞く。
「5期メンバーはまだやってましたよ」
「ふーん…頑張るねえ…」
圭ちゃんが感心とばかりに指であごをさすった…

まだあのコたちは追いつくのに必死。
追いつかれないようにわたしたちも逃げているから、
なかなか追いつけないのは当たり前なんだけど…
でも、徐々に成果の出てきているコもいるような気がする。
それに…全員1年前とは比べ物にならないくらいの成長を遂げたことは
誰の目にも明らかだった。
まだまだ追いつくのには時間がかかりそうだけど、
わたしもそっと見守っていこう…
なっちやカオリと一緒に……
298 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時13分45秒
……目の前ではなっちと辻がじゃれ合って、
圭ちゃんと石川がお互いの悪口を言い合って…
その両方にちょっかいを出すわたし。

…穏やかな時間が過ぎていく……

こんな普通の時間、いつ以来だろう。

泣きもせず、
怒りもせず、
悲しみもせず、
このメンバーでいることに疑問も持たず、
ただただ会話が自然と流れていく娘。たち…
去年の『ザ☆ピース』を歌ってた頃がこんな感じだったような気がする…

去年の夏は穏やかだった…

でも、今年は……
299 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時14分16秒
ごっつぁんの卒業。

そういえば、ごっつぁんが入ってきた年の夏も激動の夏だった。
あの夏と同じような…、いや、それ以上の激動の中でごっつぁんは
娘。から卒業していった。
激動の中入ってきて、激動の中出ていったごっつぁん…

嵐を呼ぶ女。

なぜかそんなフレーズが思い浮かんだ。
ごっつぁんに言ったら一笑されて終わっちゃうんだろう…

「あたしそんな女じゃないよ。
 嵐なんて呼べるわけないじゃん」

迷惑そうに言うごっつぁんの姿が想像できた…
…そう…想像の中にいるごっつぁん……
…もう今は話しかけたくても近くにはいない。
普段はクールに見せてても、時折見せるフニャっとした笑顔…
急に年相応に見えるその笑顔、可愛かったよ。
妹みたいに思えてたんだ……
300 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時14分47秒

…みっちゃんとりんねの卒業。

ハロープロジェクトの古株の二人…

わたしが入ったときにいた6人の先輩のうちの一人だったみっちゃん。
ファーストコンサートも、
明日香と彩っぺ、それに紗耶香と裕ちゃんの卒業コンサートも、
この前のごっつぁんとタンポポとプッチモニのラストも
全部みっちゃんは見守っててくれた…
ハロプロの中でも一、二を争うほど歌を愛していたみっちゃん…
娘。に置いていかれても、歌う場を与えられなくても、
とにかく歌を大事にしていた。
わたし、みっちゃんの歌にはとうとう追いつけなかったかな…
ちゃんとみっちゃんの卒業は見届けるから…
わたしたちをずーっと見守っててくれたように……
301 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時15分22秒
最後まで寡黙だったりんね。
自分のことは語らず…気を強く張って……
9月23日の横浜アリーナ、りんねも最後のはずだったのに
みんなに何も言わなかった…
わたしたちもユニットの最後やごっつぁんの卒業に気をとられてて、
気付いてあげられなかった。
でも…りんねもみんなに気付かれないようにしてたんだと思う。
人一倍悲しみと別れの気持ちには敏感なりんねだったから…
自分のことで泣かれるのがイヤだったんだよね、りんね……

……りんねに会えること…
もしかしたら、もうないのかもしれない。
最後に言ってあげたかった……

「りんね、おつかれさま。
 幸せになってね。
 あと、牧場楽しかったよ」
302 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時16分22秒
そしてタンポポ。
タンポポがなくなることに泣いてばかりいたわたし。
…もちろん今でもタンポポを失ったことは寂しい……
できることならずっと続けたかった。
こんな切ない思いなんてしたくなかった。
そう思っているけど……
あの横浜アリーナのタンポポ畑……
タンポポが起こした奇跡……
タンポポを愛してくれたすべての人がくれた最高のプレゼント。
あのプレゼントがある限り、
わたしの心の中に咲いたタンポポは絶対に枯れることはない…
そしていつまでもいつまでも咲き続ける。
カオリも石川も加護も…そしてあの場にいたすべての人の心の中に……


本当にいろんなことがあった今年の夏。
ミュージカル
『Do it! Now』
ハロプロ改編
牧場ロケ
涙の記者会見
コンサートでの昏倒
DJ修行
24時間テレビ
福岡の夜
…そして横浜アリーナ。
あっという間に過ぎていった。
楽しいことも悲しいことも思い出となって……
303 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時17分05秒

くつろぐ5人の中を秋の爽やかな風が通り過ぎていく。
みんなの髪が風にそよいで少し揺れた…
…髪を押さえる辻の手。
伸びた爪には薄紫のマニキュア…
春先には爪切りの必要のない辻だったのに…
一夏が終わり少しづつ辻も大人に近付いていく。

「あー! みんな来たよー!」

辻が髪を押さえていた手を離して指差した。

ボクシングのマネをしながら遊んでる加護とよっすぃー。
楽しそうに話してる小川と高橋と新垣。
ぼーっとしてる紺野。
そんなみんなを引っぱって、引率の先生気取りのカオリ。
固まってこっちにやってくる…
304 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時17分54秒

12人の娘。たち。


2002年の夏が過ぎ…

モーニング娘。は12人。

ここにいるみんなで作った思い出。

もちろん裕ちゃんも明日香も彩っぺも紗耶香も、

…そしてごっつぁんも。

モーニング娘。の歩み…

モーニング娘。の思い出。

すべてが結びついて今ここにいる12人のモーニング娘。を作っている…
305 名前:矢口真里編(5)-4 投稿日:2003年01月06日(月)23時18分45秒
今年の夏に起こったこと…

それもいつしか笑って振り返る日が来るんだろう…

思い出話として笑える日が来るんだろう…

でも…今年の夏……

わたし、一生忘れないと思う。

他の記憶が薄れていっても、今年の夏は絶対に忘れない。

モーニング娘。のみんなのために…

タンポポのために…

そして矢口真里、わたし自身のために……



2002年の夏の思い出。



2002年の夏が終わる…………




             A MEMORY OF SUMMER '02







                           〜 おしまい 〜



306 名前:矢口真里編(5) 投稿日:2003年01月06日(月)23時19分29秒


矢口真里編(5)
参考資料 「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.09.05放送分
     「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.09.12放送分
     「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.09.26放送分
     「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.11.01放送分
     「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.11.08放送分
     「中澤裕子のオールナイトニッポンサンデースーパー」02.09.08放送分
     「中澤裕子のオールナイトニッポンサンデースーパー」02.09.29放送分
     「安倍なつみのエアモニ。」02.09.12放送分
     「安倍なつみのエアモニ。」02.09.26放送分
     「タンポポ編集部 OH-SO-RO!」02.09.17放送分
     「ハロモニ」02.09.29放送分
     「うたばん」02.09.26放送分
     「後藤真希ファイナル特番」02.09.22放送
     「ASAYAN」01.05.28放送分
     「GiRL POP」11月号 2002 No.58
     「ザ・テレビジョン」2002 No.43 モーニングチャンネルVOL.74
     中澤裕子トーク&ライブ 紳士はミニがお好き! 02.09.03


307 名前:池田屋 投稿日:2003年01月06日(月)23時20分39秒

あとがき

『回帰(改訂)』を書き終えてから資料の整理を始めたのが8月の半ば頃。
8月の末くらいから書き始めてようやく書き終えることができました。
書き始めの頃はタンポポ畑があるなんてことも予想できず、
涙のOH-SO-ROや後藤特番への市井登場も知らず、
こんなエンディングになるなんて思ってもみませんでした。
最初から読んでた方は知ってらっしゃると思いますが、
始めた当初は牧場に行ってそこで書き終える予定でしたからね。
この作品、9月末をメドに書き上げるつもりが、延びに延びて
年を越えてしまいました。
スレの移転をくらったり、dat落ちしたり、
いろいろと挫折しそうになりましたが、なんとか完結です。
HPも作ってしまったりして、ホント、大変でしたね、、、

途中、『モーニング娘。×つんく♂』、夏先生の本の発売、
02年を振り返っての娘。たちの話なんかがメチャクチャ怖かったです。
当然内容は発売されなければ分からないわけで、妄想が崩れてしまうのがとにかく怖かった。
幸い、保田の脱退理由も、牧場ロケの印象深さも、辻の様変わりも
妄想通りで良かったです。
308 名前:池田屋 投稿日:2003年01月06日(月)23時21分13秒
話のメインをハロプロ改編に置いている以上、矢口の話が多くなるのは
読んでくださったみなさんもご理解いただけると思います。
それとは逆にもう一方の改編の主人公である後藤の話が少ないことに
不満のある方もいらっしゃるかもしれません。
娘。にとって後藤とは何者だったんでしょうね?
小説の中にも書いたように娘。に激震をもたらして、
そしてまた激震とともに去っていく後藤、、、
さらに、ごまっとうの結成。
書いているうちに解答が見つかるかとも思いましたが、
逆にさらなる迷宮に迷いこんでしまいました。
自分の後藤への認識が固まるのはまだまだ先になるものと思われます。

他にも福田の去就、『Do it! Now』の謎、飯田のタンポポラスト等
描ききれてない部分が多々あります。
飯田のタンポポ畑を見た夜のエピソードはとてもいいんですよね。
それはまたいずれ機会があれば、外伝という形にでもして書いてみようかと思います。
今はまだ資料の出待ちってことにでもしておいてください。
309 名前:池田屋 投稿日:2003年01月06日(月)23時22分11秒
ずーっとこの改編の半年間を書いてきて思ったこと。
それは、今いるメンバーが『モーニング娘。』なんだということ。
旧メンヲタを自認する池田屋ですが、やっと4期メンや5期メンを
素直に受け入れられる気持ちになれたかもしれません。
以前は無理して悪く言わないようにしていたところもあったので、、、
まあ、5期メンに対してはまだ少しそんなところがあるかもしれませんが。
でも書く前よりずっと好きになりました。どのメンバーも。
それと、矢口はこの半年間、1ヶ月で1つずつ年をとったくらい
一気に老けた気がします(笑
話す内容といい、考え方といい、容姿もね。

それでは、
辻が安倍のことを「なっち」と呼ぶ日、
石川が矢口のことを「真里っぺ」と呼ぶ日、
そんなことを期待しつつ、この辺で終わろうかと思います。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
またいつか書いたときにはよろしくお願いいたします。

                           池田屋
310 名前:ダンサー 投稿日:2003年01月07日(火)02時29分16秒
こんなすばらしい作品を読ませていただきありがとうございました。
一人一人の切ない心境、とてもリアルに伝わってきました。
辻のここ最近の成長ぶりもこのような理由からなのではないでしょうか?
そんな気がします。
今回のことで12人がよりまとまった気がします。
新メンバーが入ってもいろいろ悩み成長していって欲しいです。
特に4期5期には。
言いたいことの十分の一も言えませんでしたが、
最後に本当にありがとうございました。
PS更新スピードの速さには驚きました。
311 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)03時37分03秒
つーか石川は矢口の事まりっぺって良く呼ぶけどな
312 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)03時57分20秒
冗談でしか呼ぶことはないよ>知ったか読者さん
313 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)11時52分55秒
お疲れ様です。
またネタができましたね。
フジモト…
314 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)15時10分26秒
2chのスレの頃から読ませていただいていました。
dat落ちしたときはかなりシクシクでしたが、こうやって最後まで
読むことが出来て幸せです。
すっごい良かったです。

ただ、一点だけ気になったのが、 矢口真里編(5)-4 で
ごっつぁんと松浦と藤本がユニットを組むって聞かされたときは驚いた。
とありますけど、矢口真里編(3)のプリントにすでにごまっとうは
書いてありましたよね?
#プリントのごまっとう、2ch連載時にもありましたっけ?
# ログ残してなくてちゃんと覚えてないんですが…
315 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)16時35分09秒
>>312
からかい半分だけど呼んでるじゃん
316 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)22時37分47秒
>>312
冗談半分とは言え仕事外でも使ってるんだし使ってるで良いんじゃないの?
317 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月10日(金)00時27分31秒
警報でてるけど書きます!
すごい勢いで最初から読みました。脱稿お疲れ様です。
なんか微妙に切なく、寂しいのですが現ハロプロでそれぞれがガンバっている姿を
見て、何だか慰められます。
それぞれの心理描写に泣かされました。。。
318 名前:霧の向こうに咲き誇る華 投稿日:2003年01月24日(金)01時19分48秒
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