非サスペンス
- 1 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時44分42秒
- 基本的に、いしよしっぽいと思います。
よろしくお願いします。
- 2 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時47分09秒
- 雪深い谷山の、廃れて鄙びた温泉街。
…まぁ、日本中、探せばいくらでもありそな温泉街。
でもって、どこかで見たことあるよな温泉街。
そんな温泉街から、バスで40分くらい山奥へ向かって走り
更に、雪山の道なき道を1時間ほどかけて歩いて登ると
ようやく見えてくるのが、客室数7つの激安温泉宿‘亜依庵’である。
大自然に囲まれた、秘湯と言えば秘湯。
ただの寂れた温泉宿と言ってしまえば、ハイ、それまでよ、な代物。
無論、TVや雑誌の『全国秘湯ベスト100!今、行くならゼッタイこの宿!!』等の
取材など、受けたことはない。
TVコマーシャルを作る、新聞の折り込みチラシを制作する、
宣伝用のホームページを立ち上げる、
‘亜依庵’は、そんな宣伝用の予算を捻出しない。
口コミだけが頼りの、細々と営業を続ける温泉宿である。
しかし何故だか、客足が途絶えることはない。
- 3 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時48分37秒
そんな温泉宿‘亜依庵’に、吉澤、石川の高校生同性バカップルが
やってきたのには、それなりの理由があった。
……激安だから。
だって高校生なんだもん。
お小遣いとバイト代足したって、そんなにお金、持ってないんだもん。
- 4 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時50分05秒
非サスペンス劇場
湯けむり殺人事件
〜ドキッ!娘。だらけの温泉に悲しく響く断末魔!?
若(?)女将の謎とは!!
全ての謎を解くきっかけは…JAR●って、何じゃろ?〜
- 5 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時50分58秒
- 吉澤はスゥ〜っと大きく息を吸った後
しっかりと眼を開けたまま、ズブズブと湯に潜った。
‘亜依庵’が誇る、高血圧・動脈硬化・貧血・慢性消化器病に良く
そして何故か恋愛にも効くという湯に、ズブズブと。
しかしどんなに深く潜ったところで、吉澤の苦労が報われることはない。
- 6 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時52分18秒
- プハッっと湯から顔を上げると、
吉澤は自分の目の前にある白いタオルを恨めしげに睨んだ。
石川の細い身体にしっかりと巻かれた、白いタオル。
「梨華ちゃん、お風呂ン中じゃ、タオル外さないといけないんだよ!」
そう叫びたいのを必死で抑えながら、
焦ってはいけないと自分に言い聞かせる吉澤は
端から見て、とてもかわいそうな女子高生である。
- 7 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時53分06秒
- 「何か、やらしいよ。よっすぃー」
そう言う石川の言葉を聞き流しながら吉澤は、8カ月前のことを思い出していた。
石川と出会った時のことを。
衝撃的であった。
…少なくても吉澤にとっては。
- 8 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時55分36秒
- 吉澤が入学した高校。入学2日目に吉澤が見た光景。
それは吉澤より1つ学年が上で、安全委員会の委員であった石川が、
吉澤たち新入生のため、セメントの渡り廊下に「止まれ」とペイントしていた姿だった。
なかなか上手くマスキングテープを貼れないで、何度も何度もやり直ししている石川に、
吉澤は一目でフォーリンラブしてしまった。
「ほっとけないから…、貸して?」
石川から半ば強引に取り上げた刷毛に、ピンクのペンキをつけて吉澤は
「あなたを好きになりました!1年M組吉澤ひとみ」と廊下に書いた。
- 9 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時57分04秒
- すぐさま、生活指導教員に大目玉を食らったピカピカの高校1年生吉澤であったが、
どれほどキツ〜ク注意を受けても、つい顔がほころぶ。それもそのはず。
「私も好きになりました。2年M組石川梨華」
吉澤の頭にあるのは、石川の愛のメッセージだけ。
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるだけ吉澤に、生活指導教員は半ば呆れ、半ば恐怖さえ覚えたものだった。
そして吉澤は入学2日目にして、すっかり学校の有名人になり
その後、2人の渡り廊下は、生徒の告白のメッカとなったとさ…。
- 10 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時58分07秒
あの頃は良かった。
ウチ、梨華ちゃんのことだけ考えてて。
梨華ちゃんもウチのことだけ考えてて…。
湯を絞ったタオルを頭の上に置きながら、吉澤は溜息をついた。
- 11 名前:名無し 投稿日:2002年12月31日(火)00時58分59秒
- おもしろそうどす。頑張って。
- 12 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)00時59分22秒
- 「よっすぃー?どうしたの?」
17歳という年齢にそぐわない色気を持つ石川が、上目遣いで吉澤の表情を窺う。
それは浴室にこもる、石川特有の甘い声と相まって、吉澤の胸を締め付ける。
梨華ちゃん、かわいすぎだよ!
でも…。ウチ、はっきり言って揺らいでる。
自分がどっちに行っていいのか分からないんだよ。
そんなこと、梨華ちゃんには言えないけどね。
- 13 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)01時01分05秒
- 一週間前、吉澤は一通の手紙を受け取った。
差出人は、吉澤が中学時代につき合っていた元カレだった。
「お互い高校が別になって自然消滅したっぽいけど、オレ達、またやり直さない?
どんだけ合コンとかやっても、ひとみ以上の女って見あたらないんだよ。
オレ、やっぱ、ひとみのこと好きなんだ」
手紙の最後には元カレのケータイ番号とメアドとが書かれてあった。
運動神経が良く、面白いことも言える、クラスの人気者だった。
元カレの誘いに、このまま身をゆだねたら、きっと楽なんだろう。
でも、何がどう楽なんだろう?
梨華ちゃんがオンナノコだから?ウチがオンナノコだから?
ん〜、よく分かんないけど、今だったらまだ引き返せるような気がする。
梨華ちゃんとはまだ何もないから…。
- 14 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)01時03分06秒
- 少し間をおいて、吉澤は両手で石川の頬を包んだ。
「梨華ちゃん…。えっと、あ〜。
あのさ?は、初めての『お泊まり』だね」
吉澤の手は、少し震えていた。
それは‘亜衣庵’が、とてつもなく寒い山奥にあるせいだけではない。
後から後から胸の底から湧いてくる、
自分でもどう扱っていいのか分からない感情に、吉澤は苛立っているのだ。
- 15 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)01時04分36秒
- 梨華ちゃんにもっと触れたい。
でもこれ以上、進むのは恐い。元カレだったら、ウチを支えてくれる?
それまで、吉澤の雪のように白い肌を、曖昧な表情で見つめていた石川が口を開いた。
「よっすぃーって最近、冷たいよね。
雪が降ってる外と同じくらい、冷たいよ?」
- 16 名前:名無し八 投稿日:2002年12月31日(火)01時09分49秒
- 今回は、ここまでです。
マイペースに進めていけたら、と思っています。
>11 名無し様
ありがとうございます。頑張りたいと思います。
反応、うれしかったです。
- 17 名前:名無し 投稿日:2002年12月31日(火)02時42分50秒
- 更新の最中にすいませんでした!!
非サスペンスって題名が好きです。
- 18 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月03日(金)16時44分39秒
- エッ!?ウチが冷たい?
ウチはこんなに悩んでるのに…。
何でそんなこと、梨華ちゃんに言われなきゃいけないの?
吉澤は一瞬言葉に詰まったが、小さく舌打ちをした後、石川に向かって悪態をついた。
「ウチが冷たいンなら、梨華ちゃんは『むしんけー』だよね」
「なっ!」
恋人からの唐突な言葉に、石川は怒りと恥ずかしさで耳まで真っ赤に染まった。
そして一旦、感情にまかせて出してしまった石川への悪口を
吉澤は止めることが出来なくなっていた。
「あ、無神経じゃないか。回りが見えてないだけ、か。
みんなからいつも変だ、変だって言われてるのに、何?そのピアス?
ブリッ子っぽいンだよ!
だから一緒にいると『おまえら男と女みたいだ』って言われるんだよ!
ま、嫌じゃないけど」
- 19 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月03日(金)16時45分53秒
- 唇をかんでうつむくだけ石川を見て、吉澤は勝利を確信した。
この喧嘩、ウチの勝ち。
吉澤は、姉さん女房を甘くみている。
亀の子より年の功、という言葉を吉澤はまだ知らないのだ。
- 20 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月03日(金)16時47分14秒
- たっぷり30秒は、うつむいていた石川が顔を上げた。
その頬には、大粒の涙が光っている。
華奢な身体に、ちょっとネガティブ思考な心。
簡単に傷ついてしまいそうな石川を、自分が泣かせてしまった…
その後悔が、吉澤の胸を急激に締め付ける。
「ご、ごめん。
ウチが言い過ぎたよ」
- 21 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月03日(金)16時48分23秒
- おろおろしながら、
でもしっかりと指で頬をつたう涙を拭ってやりながら、
吉澤は石川に優しく言った。
その途端、さっきまで涙を湯に落としていた石川の表情がパッと輝いた。
「よっすぃーが先に謝った!
よっすぃーの負け!!」
そう言って悪戯っぽく笑う石川の姿は、愛の小悪魔そのままである。
やられた…。梨華ちゃん、ウチの負けだよ。
- 22 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月03日(金)16時49分57秒
- いさぎよく心の中で負けを認めた吉澤だったが、すぐさま次の攻撃を石川に仕掛けた。
「キャッ、よっすぃー、何するの!?」
「ウチ、負けちゃったから、何かちょーだい」
「何で、負けた方に何かあげないといけないの!?」
「負けちゃったウチって、かわいそうじゃない?」
「う〜ん、わわいそう…かな?」
「でしょ?かわいそうでしょ?だったら、何かちょーだい」
いくら石川が愛の小悪魔でも、
吉澤の大きな瞳で真っ直ぐに見つめられたら、何も言い返せない。
子犬のようにまとわりついてくる吉澤に、
石川は肩をすくめて「観念しました」のポーズを見せた。
そのポーズを吉澤が見逃すはずがなく、満足したように笑みを浮かべる。
ウチ、やっぱり梨華ちゃんが好き。
- 23 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月03日(金)16時50分38秒
「梨華ちゃん…」
「よっすぃー…」
吉澤が石川に何かをしようとした、まさにその瞬間。
ガラガラガラ。
- 24 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月03日(金)16時51分12秒
「うわぁ、広〜いお風呂だべ!
なっち、感激!!」
突然、浴室の戸が開かれ、独り言にしては大きすぎる声が響いてきた。
- 25 名前:名無し八 投稿日:2003年01月03日(金)16時56分23秒
- 更新終了です。
事件未だ起きず…。
>17 名無し様
お気になさらないで下さい。っていうか、自分は気にならないです。
それより何より、早いレスポンスが嬉しかったです。
- 26 名前:名無し 投稿日:2003年01月03日(金)19時41分49秒
- 何かしようと(wワラタ
そして新キャラ!!続き楽しみです!
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月08日(水)13時59分02秒
- 続き期待しています。
- 28 名前:名無し護摩 投稿日:2003年01月09日(木)20時00分07秒
- タイトルで「サスペンスに非ず」と言い切ってしまう潔さがステキです。
宿の名前もうさんくさくて(スマソ)ナイスです。
というか、水泳大会なのかサスペンスなのか分からない、サブタイトルが個人的には
一番のツボですた。
続き期待してます。がんがってください。
- 29 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時38分35秒
- 浴室はそれまで吉澤と石川の貸し切り状態だったため、
二人の驚き様は尋常ではなかった。
まさにドキがムネムネ!とか言っている余裕は二人にはなく、
一瞬顔を見合わせた後、すぐさまお互いから離れようと必死になったが
そこはそれ、in the water 。上手く体を動かせるはずもなく…。
- 30 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時39分31秒
- バチャバチャバチャバチャ。
「あ〜、温泉では泳いだらいけないんだべ」
良いところを邪魔されたばかりでなく、
さらに怒られもした吉澤は、ほとんど泣きたい気分であった。
「ごめんなさい、ちょっとはしゃいじゃって…
あ、良い天気ですね…」
落ち込んでいる恋人の姿を視界の隅で捕らえた石川は、
事態を好転させようと必死で喋ったが…。
「なまら雪、降ってるべや」
3人が浸かっている温泉は、一面ガラス張りで開放感抜群。
- 31 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時40分33秒
- 「うわぁ…、吹雪いてる」
そう言ってポカンと窓の外を眺める吉澤に、
先ほど浴槽に入ってきた人物が口を開いた。
「外はしゃっこうそうだべ。でもこれくらいは、へーきっしょ」
「へーきって…。
あ!雪国の方ですか?
えっと、えと…」
言葉に詰まった石川に、先ほど浴槽に入ってきた人物が口を開いた。
「あ、なっちだべ、なっち。
安倍なつみ。
ここは良い温泉宿べさ〜。
女将さんも良い人だべ!
アンタら、二人ともなまらめんこいだべや」
そう言ってニコッと笑った安倍の天使のような表情に、
吉澤は胸が高鳴るのをおさえることが出来なかった。
- 32 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時43分16秒
なっちさん…、か。
か、かわいい。
バチャッ!
突然、吉澤の整った顔に、勢い良く‘亜依庵’自慢の温泉湯が掛かる。
- 33 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時44分54秒
- 「な、何すんだよ!
梨華ちゃん!!」
バシャ、バシャ、バシャッ!!!
「よっすぃーのバカ!」
「ちょっ、止めてよ。
っていうか、何でウチがバカなの?」
バシャ、バシャ、バシャッ!!!
「バカだから、バカなの!」
「え〜!?
そんなんじゃ、全然わからないよ!」
「アハハハ。二人ともかわいいべ。初々しいなぁ。
よっすぃ、恋人は大切にしないとイケナイべさ」
安倍の一言に、吉澤と石川の表情が一気に凍り付く。
- 34 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時45分40秒
ウチらがつき合ってるって、安倍さんにバレてる?
「あ、あの…、安倍さん?
ウチらのこと…」
恐る恐る吉澤が口を開く。
- 35 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時49分43秒
- いくら好きあってつき合っているといっても、吉澤と石川は同性カップル。
いくら21世紀といっても、まだまだ同性カップルへの世間の理解度は低い。
いくら吉澤と石川がバカップルといっても、それは二人の世界だけのこと。
世間に、二人がつき合っていると知られたら、どんな目で見られるか…。
友だちに、二人がつき合っていると知られたら、友だちは離れてしまうのではないか…。
この若いカップルには、いつも不安と恐怖がつきまとう。
- 36 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時50分26秒
「いろんな愛のカタチがあっていいべや。
ううん。いろんなのが存在しないと、嘘だべ」
吉澤と石川を諭すように、意外なほど真面目な声を出す安倍。
吉澤が、安倍から石川に目を移すと
石川は安倍の言葉に納得したように、静かに何度も頷いていた。
わずかに赤く染まった恋人の頬を確認して、吉澤は安堵にも似た感情を覚えた。
梨華ちゃんがウチの恋人で良かった。
- 37 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時53分16秒
- 「何、納得しとんねん!?
何、嬉しがっとんねん!?
『いろんな愛のカタチがあっていい』?
そんなん当たり前やん?」
吉澤の背後から、突然がなり声が響きわたった。
肩をびくりとさせながら吉澤が振り向くと、
そこには‘亜依庵’の女将、中澤とその娘、亜依が仁王立ちしていた。
どうやら、がなり声の持ち主は‘亜依庵’の女将、中澤らしかった。
- 38 名前:非サスペンス 投稿日:2003年01月14日(火)01時54分36秒
- 「よっすぃー、ヘタレすぎんで?
自分、ちょっと‘男’あげたらどうなん?
男湯行きぃな」
ヘラヘラと笑い顔を浮かべて、中澤の娘、亜依が言った。
ハァ?
何でウチが男湯に行かなアカンねん!?
吉澤は心の中で叫んだ。
…レディオでなら、稲葉姐さんに即注意うけそうな
そんな中途半端な関西弁イントネーションで。
- 39 名前:名無しオチョ 投稿日:2003年01月14日(火)02時03分57秒
- 更新終了です。
>26 名無し様
レスありがとうございます。
吉澤さん、本当に一体何をしようとしていたんでしょうね(w
新キャラ、これからも続々出てきたらいいんですけど…。
>27 名無し読者様
レス、励みになります。
でも今回も事件、起きないまま。今の私の心境を「ふるさと」にのせると
♪事件 起きないかも わがままな作者でごめんね Murder♪です。
>28 名無し護摩様
レスありがとうございます。
サブタイトル、お気に召していただけましたか?それは嬉しい限りです。
でも…。あのタイトル、実は私ひとりで考えた訳ではないのです!
実は協力者様がいるのです!! それはまだ誰だか言えません(謎
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月14日(火)13時33分43秒
- 自分もサブタイ、気に入りました!
座布団を3,000枚ほど差し上げたい位ですw
イイ雰囲気の石吉に天使なっちの乱入かと思いきや、今度は女将と娘。まで
参戦・・面白くなって参りました!
激安な上に効能もバッチリ、「亜依庵」、ものすご〜く行ってみたい宿ですw
ちなみに1泊2食でおいくらでしょうか?
- 41 名前:読者 投稿日:2003年01月15日(水)14時15分05秒
- 新キャラ期待
- 42 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時32分19秒
- ‘亜依庵’の主、中澤親子によって
男湯に強制送還されそうになった吉澤は、必死の抵抗を試みたのであったが…。
「男湯、言うても、女の人しかおれへんし。って言うかな。
気付いてないかもしれへんから言うとくけど
ウチは今ンとこ、レディース専門温泉やねんか。
男手…、おとーちゃんが、おれへんから…。
でも春になったら、おとーちゃん、帰ってきはるねん。
な?な?なかざーサン?」
今まで、こまっしゃくれた態度しかとらなかった亜依が、
少しだけ不安そうな口調でそう言ったとき、吉澤は抗うのを止めた。
吉澤の大きな瞳には、
中2だと聞いている亜依が、小学生くらいにしか映らなかったのだ。
何も、子供相手にむきになることはない。
- 43 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時33分51秒
- 何かおかしい…。フツー、お母さんのこと、名字で呼んだりする?
っていうか、サン付けする?
あ、でも「女将修行」とかの一つ?
『お客さんの前では「女将」とお呼び!』とかって。
あの厳しそうな(と言うより、恐そうな)女将のことだから、きっとそうだ。
吉澤も石川も、
亜依が、自分の母親である中澤女将に対して
「サン付け」したことを少し訝しげに思ったが、
ふたり共、同時に勝手な理由をでっち上げ、勝手に納得してしまった。
「よっすぃー、お風呂上がりに…、ね?」
「うん。梨華ちゃん、また後で」
今生の別れを惜しむかのような情けない表情の石川に
吉澤は一言だけ残して、男湯へ去っていった。
- 44 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時44分03秒
「こらっ!
お風呂ン中で泳いじゃダメって、言ってるでしょ?」
「だって、面白いのれす!
飯田さんも一緒に泳ごう?
のの、バタフライにも挑戦したいのれす!!」
「ったく…。
ののには、かなわないよ」
バッシャン、バッシャン。
吉澤が男湯の扉を開くと、そこには一種異様な雰囲気が漂っていた。
- 45 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時44分51秒
な、何?
子供と美人なお姉さんが、お風呂ン中で泳いでる…。
しかも誰だ?アレ…。
窓にへばりついて外を見てる人…。
この温泉、変な人ばっかだ…。
でも、あの親子がやってる温泉だから…。
梨華ちゃんとの初お泊まりに‘亜依庵’を選んだのは失敗だったかな…?
吉澤は、何かを諦めた表情のまま、のろのろと男湯の湯船に向かった。
- 46 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時45分51秒
- 「一緒に遊んで欲しいのれす」
湯船に浸かった吉澤に、さっきの子供が声をかける。
子供の、少しタレ気味の、そして大きな瞳でまっすぐ見つめられると
吉澤は一瞬、自分がどんな反応を返して良いのか分からなかった。
純粋、っていうのは、こんな眼差しを持てることなんだ…。
吉澤は、子供の瞳の奥に、高校一年のまだ若い自分でさえ
とうに無くしてしまった‘子供の純真’さを感じていた。
- 47 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時47分10秒
- 「ののと遊ぶれすか?」
「のの。
無理強いしちゃダメだよ?」
「だって、あっちのお姉ちゃんは遊んでくれないのれす!
つまらないのれす!!」
子供は特に悪びれる様子もなく、
男湯の窓ガラスにへばりついて、外ばかりを見ている女性を指さした。
「のの!
人を指さしちゃダメって言ってるでしょ!!
あ、あの…。
ごめんなさいね」
外を見ていた女性が、自分のことを言われていると気づき、振り返ると
子供の連れの女性が、子供の代わりに謝った。
- 48 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時48分05秒
他に大人もいないし、二人で‘亜依庵’に来てるのかな?
二人はいとこ、とかかな?
しかし、この子、ちょっとかわいいなぁ…。
連れのお姉さん(飯田さん?)も、美人だし…。
そんなことをぼんやりと考えていた吉澤の顔の前で
子供が、手を左右に振った。
- 49 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時49分03秒
- 「このお姉ちゃん、こわれてます。
さっきから全然動いてないのれす」
「やったらダメってコトばっかり…。
辻!
もう本気で怒るよ!!」
「い、飯田さん!
ごめんなさいです。ごめんなさいです」
さっきまで太陽のような笑顔を振りまいていた辻が
飯田の一言で、今にも泣き出しそうなくらいしょんぼりとしている。
吉澤は何故だかドキリとして、落ち込んだ表情を見せる辻から、目をそらした。
- 50 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時50分10秒
- 「ごめん、かおりが言い過ぎた。
のの…。
のぼせちゃったね。もう、お風呂からあがろっか?」
「はい。
でも、ごめんなさいでした」
「フフッ。
もういいよ、のの」
肌の張りや声のトーンから、二十歳前後に見える飯田と
‘亜依庵’の中澤女将の娘、亜依と同い年くらいに見える辻は
湯船からあがった。
「今度、ちゃんと遊んだけるから〜!」
日向くさい赤ちゃんのような辻の背中に向かって、吉澤は叫んだ。
- 51 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時51分30秒
「オマエ、いいヤツだな」
という、オッス!オラ悟空のような台詞にビックリして振り返ると
吉澤のすぐ後ろには、さっきまで窓ガラスにへばりついていた女性がいた。
「ビ、ビックリした〜!
ちょっと突然、誰ですか?」
「アタシは市井だけど、
オマエ、人に名前を聞くときは自分の名前をまず名乗らないと!」
そっちこそ‘オマエ、オマエ’って連発して失敬だな、とは感じたものの
何故だか腹を立てる気にもなれず、吉澤は力無く笑ってしまった。
しかし市井はその笑顔が気に入ったのか、それから
自分が‘亜依庵’にたどり着いたいきさつを、吉澤に話し始めた。
…、吉澤が頼んでもいないのに。
- 52 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時54分04秒
市井曰く、自分は音楽の専門学生だが、最近スランプに陥り
作曲も作詞も、どうも自分の思うように進まない、という。
そこでスランプ脱出のため、ちょっとだけ厳しい環境に自分を置いてみようと思い立ち
山奥も山奥な、この‘亜依庵’に来たのだという。
「だったら、富士山の頂上を目指す!とか
小学校の塀を乗り越えて、緑色のプールでトンボの卵と寒中水泳!とか
山寺の和尚さんと、寒さ我慢大会!とかでも良かったんじゃないですか?」
「え〜。つらいのはヤだな…」
吉澤は、市井に皮肉っぽく言ってみたが
どこまでもマイペースな市井は、皮肉が分かる相手ではなかった。
- 53 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時55分24秒
寒いのはいいのか!?
というか、つらいのヤだってのは「厳しい環境に自分を置く」という
当初の目的から外れてはいないか!?
かける言葉もなく脱力している吉澤に、市井が言った。
「それに、ここ、安いし。
学割で7,220円(一泊2食つき、サ込み、税別)!
ありがたいよ、ホント」
その言葉を聞いて吉澤は、今まで感じたことのない、もの凄いムカツキが
胸の底から沸き上がってくるのを感じた。
中澤女将〜!やりやがったなァ!!
ウチが予約の電話入れたときには
『中高生特別料金にしたるわ、2人で一泊14,440円。どや、安いやろ?』って
言ってたくせに〜!
ゼンッゼン、中高生特別料金になってないじゃん!!!
- 54 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時56分24秒
- 「あっ、来た」
市井は唐突に口を開いて、大慌てで外と内風呂を隔てる窓ガラスの方へと進んでいった。
「あっ、ちょっと待って下さいよ」
‘亜依庵’の料金制に
未だ何とも割り切れない気分の吉澤も、仕方なく市井の後を追う。
市井は『オマエは来ンな!』と吐き捨てるように言い、吉澤を何度か足蹴にしたが
吉澤はひるまなかった。…、吉澤には目的があったから。
確かめたい!
誰が来たんだ?
吉澤は市井を真似て、窓ガラスにへばりつき、目を凝らして外を眺めた。
- 55 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時57分32秒
- 好奇心でワクワクしていた吉澤だったが、その目には
ただ吹雪いているとしか思えない、真横に降る雪が創る
真っ白い世界しか映らなかった。
不思議に思って、吉澤が隣りに目をやると
吉澤の視線に気が付いた市井が、ニヤリと笑った。
「あんま、見ないでよ」
市井はそう言って、少し気まずそうに、ある一点を指さした。
市井が指さす方向には、ぼんやりと灯るあかりに包まれた露天風呂が見える。
しばらく露天風呂を見ていると、いきなり湯気の向こう側から
真っ裸の少女が飛び出してきた。
「な、何!?」
- 56 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)01時59分13秒
- 声をつまらせながら、吉澤は市井に目をやり訊いたが、市井は何も答えない。
ただ憂いの表情で、少女を眺めていた。
少女は露天風呂の際に立ち、両手を大きく振りながら
こちらに向かって何かを叫んでいる。
雪の降る角度で分かる強い風と、分厚いガラス窓とで
少女の声は、吉澤にも市井にも届かない。
しかし、市井は静かに大きく頷いていた。
市井が見せたその様は吉澤にとって、少し意外な気がした。
そして吉澤はもう一度、少女を見ようと露天風呂に視線を移したが
少女はとうに引っ込んでしまった後らしく、もう人影を認めることは出来なかった。
- 57 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時00分25秒
肩まで湯に浸かり直して、吉澤は市井にもう一度訊いた。
「誰ですか?いまさっきの?」
市井は、何となく意味ありげな表情を作って、ぽつりぽつりと語りだした。
さっきの少女は、後藤真希といって地元の高校生だということ。
そして市井が‘亜依庵’に来てから今日までの3日間で、後藤になつかれたということ。
後藤のフニャッとした笑い顔を見ると、胸がギュッと締め付けられる感覚を覚えるということ。
市井がひとり暮らしをしている街へ、後藤を連れて行きたくなるということ。
多分、お互い好意を持っているということ。
一つだけ、でもとてつもない問題が、自分たちの間にはあるということ。
- 58 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時01分50秒
- 「愛があれば、問題なんて…」
同性である梨華とつき合っている吉澤は、自分に言い聞かせるように呟いた。
「バカ、か…。
愛があるから、問題なんだよ」
深々と溜息をつきながらそう言った市井に、吉澤は小さくキレた。
「ウチらだって、同性カップルなんですよ!
それをバカって!!
中学ン時の友だちに知れたらどうしよう?とか、
電車ン中でも、手ェつないでたいのに!とか
いっぱい、いっぱい悩むけど…、悩むけど
それでも梨華ちゃんが好きだから!」
一気にまくしたてる吉澤を、ポカンとしたまま見つめていた市井だったが
少し間をおいて合点がいったのか「プッ」と吹き出した。
- 59 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時02分47秒
- 「吉澤、勘違いしすぎ!面白すぎ!!
アタシが後藤に気があるって時点で、
同性カップルをバカにするなんてあり得ないし…」
「じゃ、何が問題なんですか?」
吉澤は目を丸くしながら、市井に訊いた。
「アセクシャル…。
後藤はアセクシャルなんだよ」
吉澤には、アセクシャルが何のことだか分からなかったが
楽しそうな顔をして吉澤を見ている市井が、
その表情とは裏腹にキツイ気持ちでいることは分かった。
- 60 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時03分47秒
- 「後藤と最初に会った日の夜、冗談で肩を抱こうとしたらさ?
怒りと不信感ありありの目で睨まれたよ。
んで、その直後、アセクシャルだってカムアウトされた。
後藤には、性的欲求ってもんがほとんどない…。
つらいよ。
好きな人に、触れられないんだよ?
あ〜ホント、これからどうしよう」
吉澤と市井だけのむさ苦しい男湯に、重苦しい静寂が広がった。
- 61 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時04分48秒
アセクシャルって初めて知った…。
好きな人に触れられない、なんて今まで考えたこともなかった。
梨華ちゃんに触れられなかったら、ウチ、どうなるんだろう?
っていうか、後藤さん(って言ってたっけ?)可愛かったなァ。
まぁ雪で、ほとんど見えてなかったけど…。チッ
「何か、悪かったと思う…」
「や、別に…」
気のない返事をした吉澤であったが、実際のところは
いろいろな真面目な思いと、少しの不埒な思いを巡らしていたため、
市井の声に、心臓が口から飛び出るかと思うほどドキリとしていた。
- 62 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時07分22秒
- 市井は、バチャッと手で湯をすくって顔を洗うと
独り言のように喋りだした。
「昔の映画でさ…、
職業ドラァグ歌手やってる、同性愛者のダミ声オヤジが主人公なんだけど。
そのオヤジ、仕事で悲恋歌ばっか歌ってンだけど
仕事以外の生活でも、悲しいことばっかで…。
映画の終わりにそのオヤジがさ、
オヤジにとって大切な人が残していった品々を、胸に抱くんだよね。
あれ観てさ、アタシ、思ったんだよ。
アタシが胸に抱くのは何だろう?って。
タイトルとか忘れちゃったけど、何か、悲しい映画だったよね、アレは」
市井はひとしきり喋り終わると、一人納得したのか
大きく両手を伸ばして「じゃ!」と満足そうに、男湯から出ていってしまった。
- 63 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時08分13秒
何だかよく分からない人だな、市井さんって…。
ウチもさっさとお風呂から上がって、梨華ちゃんと…。
ひっそり静かになった男湯で、一人目を瞑り
湯上がりの梨華の上気した体に思いを馳せていた吉澤は、気付けなかった。
男湯の扉がスッと開き、怪しい気配が近づいていることに…。
- 64 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時08分53秒
- 「アホか、あいつ!!」
「おわっ!ビックリした」
吉澤が声のした方に目をやると、中澤女将が厳しい表情で腕を組んでいた。
- 65 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時10分04秒
- 「あの映画は、悲しい映画ちゃうわ!
あの、あたたかさが分かへんのか、アイツは。
まだまだガキやねんな。
つか、何が『昔の映画でさ…』やん!?
私は15歳やった、ちゅうねん」
「どうでもいいですけど…、いつもいきなり登場しますよね?女将さんって」
吉澤は驚きすぎて、そう言うのがやっとだった。
「当たり前やん、私は‘亜依庵’の女将やねんで?」
中澤女将が、何を言いたいのか?と不思議な顔で吉澤を見た直後…。
- 66 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時10分36秒
「キャ〜〜〜〜〜〜〜!」
女湯の方から、悲鳴が聞こえてきた。
「梨華ちゃん!
梨華ちゃんの声だ!!」
- 67 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月03日(月)02時11分31秒
- すぐさま女湯に駆けつけた、吉澤と中澤の目の前には
洗い場に膝をつきガクガクと震えている石川と、
石川のすぐ前で、静かに横たわっている安倍の姿があった。
「い、いきなり倒れて…。
息してないよぉ」
石川が小さく呟いた。
窓の外では雪が、さらに激しさを増してきた。
- 68 名前:名無しオット 投稿日:2003年02月03日(月)02時20分09秒
- 更新終了です。
>40 名無し読者様
レス、ありがとうございます。
サブタイトルは他力本願でつけさせていただきました。
‘亜依庵’の学割料金、今回載せてみました。二人で1萬4千4百4拾圓也です。
>41 読者様
レス、ありがとうございます。
更新の間があいてしまって、申し訳ないです。もっと精進します。
新キャラ、どうだったでしょう?ドキドキ
- 69 名前:名無しオット 投稿日:2003年02月03日(月)03時07分30秒
- 書き忘れていましたが、作中出した映画は
「トーチ・ソング・トリロジー('88)」を意識しています。
- 70 名前:40 投稿日:2003年02月03日(月)12時53分10秒
- 更新されてる〜!うれしいです!
二人で1萬4千4百4拾圓円、いしよし来ましたね(ニヤ)
今回はまた豪華なキャストが登場して、更に次回に期待です。
- 71 名前:名無し 投稿日:2003年02月03日(月)13時33分08秒
- しかし面白いなぁ。
今『いしよし』の小説と言ったら「いしよし畑」かコレだな。
最高のいしよしがここで見れる気がする。
話の中の謎とかはわからんけど、いつのまにかHNが変わっているのには気付いた。
- 72 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)00時41分24秒
「ヒ・ミ・ツのお部屋だから、開けちゃダメ(はぁと」の間は
‘亜依庵’の一番奥まった場所に構えられた部屋である。
その部屋で、落ち着いた藍色の布団の上に寝かされているのは
静かに目を瞑ったまま動かない安倍。
眠り姫ってこんな感じなんだろうな…?
王子様がキスしたら、また眼を開けてくれそうなのに。
吉澤がボゥーッとそんなことを考えている横で
石川は声を殺して泣いていた。
「と、突然…。本当に突然、安倍さん、倒れちゃって。
それまで一緒に笑って、いろいろお喋りしてたのに!」
息を整えた後といっても、石川の声は極度の緊張や興奮で上擦る。
- 73 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)00時42分49秒
- 「まぁ…、あれやな。
あれや。
小川!新垣!ちょっと来て!!」
吉澤達と、安倍の布団を囲んで座っていた中澤女将が
地元の学生で、冬休みの間だけ‘亜依庵’でバイトをしている
小川と新垣を大声で呼んだ。
「何ですか?」
「女将、見て下さい!
『でっこりひょうたん島』!!」
すぐに「ヒ・ミ・ツのお部屋だから、開けちゃダメ(はぁと」の間に
駆けつけた新垣と小川は‘亜依庵’で起きた惨事をまだ知らず
無邪気に声を弾ませながら部屋に入ってきた。
小川と新垣には何の罪もないが、
隣りでカッと顔が上気していく恋人の姿を見た吉澤は
二人を軽く睨んだ。
- 74 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)00時43分39秒
- 「アンタら…。
いつも
『TPOに応じる、フレキシブルな対応。それが‘亜依庵’のサービス!』
て言うてるやん」
中澤女将からそう言われて、ハッとした小川と新垣は
今の状況を把握しようと、部屋を見回した。
部屋の中央にしかれた布団。
そこに静かに横たわっている安倍。
そして安倍を取り囲むように座っているのは、中澤女将とその娘の亜依、
ただただ泣いている石川とその肩を抱く吉澤、
それから市井と後藤。
- 75 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)00時46分05秒
- 「矢口、来てなかった?
さっき顔見たような気がしたんやけど。
新垣、ちょっと矢口探して呼んできてくれへん?
小川は夜の食事の準備始めて。
雪がひどくなってきたし、また電気止まるかもしれへん。
あっ、ろうそくと行燈の用意もしといてや。懐中電灯も」
中澤女将はおだやかな表情で冷静に、小川と新垣に指示を出す。
「ねぇ?
ヤグチさんってだれ?」
小川と新垣が部屋から去った後、
静寂に耐えきれなくなった吉澤が、亜依に訊ねた。
- 76 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)00時47分31秒
- 「矢口さん?
矢口さんは、なかざーサンの友だちやねんか。
なかざーサンがここに来て…、この温泉宿作ってから出来た
最初で最後の友だちやねん」
亜依は吉澤と目を合わせず、真っ直ぐ前を向いたまま言った。
「今、おとーちゃんがおれへんから
なかざーサンが、おとーちゃんの分も頑張ってくれてるの分かるけど
なんかあの人、キツイねん。頑張りすぎて、たまに空回りしはんねん。
まぁ泊まり客には『竹を割ったような性格がイイ!』って人気やねんけど
ふもとの温泉街組合の人らには、よく思われてないねんか。
でも矢口さんだけは、なかざーサンの友だちやねん。
一回ウチに泊まりに来はってから、なかざーサンと意気投合したみたいやな。
それから、頻繁に遊びに来はるようになってん。
あ、矢口さん看護士さんやねん」
亜依は本当は、自分と父親と母親の旅館がこれから先どうなってしまうのか
不安で胸がつぶされそうだった。
しかしそれを回りの大人に知らしめてしまうことは、
亜依のプライドが許さなかった。
だから亜依は、低く抑えた声で淡々と喋ることしか出来なかった。
- 77 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)00時48分28秒
- 「矢口さん、連れてきましたぁ!」
暗く重たい空気が支配する部屋に、一筋の明るさを運んできたのは
新垣のハキハキした声と、新垣が連れてきた金髪の小柄な女性だった。
「何、何?
どうしたの?」
警戒した表情の金髪の女性が口を開く。
「矢口、ちょっと診たってんか?」
中澤女将は静かに立ち上がり、矢口に安倍の隣りに座るよう促した。
- 78 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)00時50分41秒
- 「えっ、この人…?」
初めは笑顔さえ浮かべていた矢口の表情が
安倍を見た途端、一瞬のうちに強ばる。
そしてその様子を確かめた中澤女将が動いた。
「ちょっと…。
矢口、ちょっと」
中澤女将が今度は、矢口に立てと促す。
そして中澤女将と矢口は二人連れだって、部屋を出た。
吉澤は、何故中澤女将と矢口が出ていったのか分からず、
ただポカンと二人が出ていったドアを眺めていた。
しかし次第に「自分の恋人の前で人が死んだ」という現実が
実感として迫ってきていた。
吉澤の腕の中で石川は泣き続けている。
- 79 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)00時51分54秒
- どれくらいその状態が続いたか、吉澤がふと気が付くと
また中澤女将と矢口が部屋に戻ってきていた。
安倍の瞼を開き、眼球にペンライトをあてたり、脈をとったり。
矢口はしばらくの間せわしなく動いた後、
上着の胸ポケットからメモ帳を取り出した。
そしてメモ帳に何かを書き込みながら、小さく言った。
「も…う、しん…で…る」
- 80 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)01時03分26秒
- 吉澤は、安倍が寝かされた布団を挟んで向こう側に座っている
市井と後藤に目をやった。
吉澤の視線に気付いた市井と後藤は、同時に力無く首を横に振った。
「イヤ〜!!!」
安倍と最後まで一緒にいた石川の悲鳴が、部屋に悲しく響いた直後
まるでその悲鳴が合図のように、今まで部屋を優しく照らしていた
やわらかな間接照明がいっぺんに消えた。
- 81 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)01時04分26秒
- 「んあ?何?」
後藤がめずらしく口を開いた。
「停電やん。
うち山奥やから、吹雪いてきたらすぐ電気止まんねん。
この部屋って、どこに置いといたっけ?」
暗闇の中、ゴゾゴソと動きながら中澤女将が言った。
そのうち、部屋のどこかにセットしていたであろう懐中電灯が
部屋のある部分をピンポイントで照らし始めた…。
「止めようよ?
安倍さんの顔ばっか照らすのは…」
市井は思わず呟いた。
「そうだよ、アホ裕子。
失礼じゃん。
とにかく。
オイラが一度山下りて、ちゃんとお医者さん呼んでくるから」
- 82 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)01時05分05秒
やっとまともな人がいた。
矢口さん(とウチと梨華ちゃん)だけが、まともだ…。
矢口の、その小さな体からは想像できない
頼りがいのある一言に、吉澤の緊張はやっとほぐれてきた。
そうすると、今まで止まっていた思考が動き始める。
「ウチが行きますよ。
若いし、体力だけは自身あるッス」
力瘤を作りながら吉澤は、必要以上に明るく言った。
安倍さんはこんなことになっちゃって、可哀相だけど…
梨華ちゃんをこれ以上悲しませたくない。
吉澤は早くケリをつけたかった。
- 83 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)01時08分13秒
- 「あ、ダメ。
オイラが行く」
そう言いながら、矢口は吉澤の脇を抜けて部屋を出ていこうとした。
「何で?」
と、声をかける吉澤に
「オイラの方が看護師だから!」
と、よく意味の分からない謎の言葉を残し、矢口は‘亜依庵’を後にした。
- 84 名前:非サスペンス 投稿日:2003年02月24日(月)01時09分55秒
- 「矢口に任せといたら大丈夫やねん。
いつまでもここに居ってもしょうがない。
さ、食事でもしょうか?」
確かに、暗い部屋の中で、眼を開けない安倍を囲んでいても何も始まらない。
しかし、こんなことがあった後でご飯なんて喉を通らない。
吉澤も石川も、市井も後藤も同じように思っていた。
「スイマセ〜ン!誰かいませんか?
パトロールの途中で、吹雪かれて…。
雪が弱まるまで、雪宿りさせて貰っていいッスか?」
ひっそり静まり返った‘亜依庵’に、ふもとの温泉街ではちょいと顔な
保田巡査長・高橋巡査・紺野巡査の、おとぼけ警察トリオの声が響いた。
- 85 名前:名無しユイット 投稿日:2003年02月24日(月)01時27分06秒
- 更新終了です。
>70(40) 名無し読者様
いつも更新に間があいて、申し訳ないです。
でも読んで下さって…、有り難いです。どうもです。
‘亜依庵’の料金は、1萬4千4百4拾圓以外に考えられません(w
>71 名無し様
レス有り難うございます。
あの面白すぎる作品にはとても追いつけませんが、
ほどほどに頑張ってみたいと思います。でも最高のいしよしは…、無理かと。
あ、HNが変わっているのは、本編とは一切関係ありません。
「八」の言い方をITALIANOとかに変えているだけです。最終的には
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月24日(月)17時44分17秒
- おう!!
非サスペンスのくせに事件がおきた!!(w
それにしてもおとぼけ警察トリオ……。
さらなる事件の予感…。
- 87 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月25日(火)13時40分20秒
- 続き、楽しみにしています。
- 88 名前:名無し 投稿日:2003年02月25日(火)18時23分41秒
- 最初で最後の……。
涙が出てきました。
非サスペンスというタイトルを無視する展開、そしておとぼけ警察トリオ、事件が事件を呼びそうだ。
- 89 名前:非サスペンス 投稿日:2003年03月23日(日)21時12分17秒
- 「ちょっと。
保田さん、何でついて来るんですか?」
「そうですよ。保田さん、今日非番ですよね?」
高橋巡査の問いに、紺野巡査がまた問いを重ねる。
「うっさいわね。
アンタ達がちゃんと警ら出来てるかどうか、心配だからついてきてやってんのよ。
先輩の、優しい親心よ。
分からないの?」
「分かりません。さっぱり分かりません。
っていうか、保田さんは先輩なんですか?親なんですか?」
「非番なのに、やることがない。
保田さんイコォール no恋人。
完璧です!」
おとぼけ警察トリオの、じつに内容のない会話を一通り聞き終えた後
中澤女将は
「また…。面倒なんが来よったで」と持っていた懐中電灯をくるくると回しながら
吐き捨てるようにつぶやいた。
- 90 名前:非サスペンス 投稿日:2003年03月23日(日)21時13分38秒
事件という事件が起きないこの地域では、いたしかたないことかもしれなが
保田巡査長・高橋巡査・紺野巡査は
‘パトロール中に、ひとり暮らしの老人宅に入り浸っては、飲食し放題’
‘暇さを物語る、交番前の立派なガーデニング’
‘最近のお手柄といえば、
何故か高い木から下りられなくなっているタヌキを救出したこと’
という、 日本の未来はWow Wow Wow Wow(号泣 な税金の使い方をしていると
専ら非難囂々な「私の!ボクの!町の身近なおまわりさん」である。
しかし、ほんの一瞬、女将の懐中電灯が照らし出した亜依の顔が
暗く沈んでいることに、気づく者は誰もいない。
「また停電ね。ついてないわ、まったく。
女将、何か温かいモンでも出して?」
全ての照明が消えた‘亜依庵’のエントランスに、保田巡査長の声だけが聞こえる。
- 91 名前:非サスペンス 投稿日:2003年03月23日(日)21時14分55秒
- 「しゃーない。
小川?
ガスは生きてるやろうから、何か…。
そうやな。ココアでも入れたってんか?
あ、人数分な。じゅうよ…、あ、ちゃう。じゅうさん。じゅうさん。
13杯な。
それから…。新垣、新垣!
みんなをエントランスに集めてんか?
一カ所に集まっといた方が、暖房費も安うつくっちゅうもんや。
…あ、やっぱり私が行く。私がみんなを集めてくるわ。
新垣はエントランスにおって」
立て続けにテキパキと、バイト仲居の小川と新垣に指示を出す中澤女将だが
『暖房費も安うつく』という部分も、中澤女将の話を聞いている者には
筒抜けであることには気付いていない。
亜依は、そんな中澤女将を見て
光熱費をケチってることがバレバレやんけ!
これで客が減ったらどうするんや?と、小さな胸を痛めていた。
- 92 名前:非サスペンス 投稿日:2003年03月23日(日)21時16分30秒
「梨華ちゃん、ダイジョーブ?
寒くない?」
まだ枯れない涙で目を腫らしている石川を、
吉澤は後ろからギュッと身体ごと抱きしめる。
二人がつきあい始めて8カ月。
吉澤は、普段はお姉さんぶっている石川が、本当は弱い時もあることを知っていた。
そしてそんな時は、自分が石川の隣りに居てやらないといけないことも。
「ウチが隣りに居るからね」
吉澤が、石川の耳元で囁く。
「ん、あっ、ありがっ、と。
よ、よっすぅぃーもっ、も、コッコアッの、飲んでッ」
長い時間泣いて、横隔膜に泣き声のついた石川の声を聞いて
側にいた市井は、悶々としたものを感じ始めた。
「ねぇ、ねぇって。
後藤?
アタシも、後藤をギュウってしていい?」
- 93 名前:非サスペンス 投稿日:2003年03月23日(日)21時18分21秒
- 「ぶっ!
な、何言ってンの市井ちゃん!!
それどころじゃないでしょ」
後藤はむせりそうになりながら、市井の手を制す。
「それどころじゃなければいいの?って話だよね、後藤。
それどころじゃなければ、ギュウしていいの?」
やたらと食らいついてくる市井を一瞥してから
後藤は、吉澤と石川を見つめた。
「いいカップルだよね、実際。
この状況で、何であんなにお互いを思いやることが出来るんだろう?」
そう、後藤が小さく呟いたのを、保田巡査長は聞き逃さなかった。
- 94 名前:非サスペンス 投稿日:2003年03月23日(日)21時19分16秒
「この状況って何よ、後藤?」
保田巡査長の台詞に、皆が絶句した。
『この警察トリオが絡んでくると、何かマズイ気がする!
何でだか分からないけど、自分の本能がそう思わせる!!』
皆が一様に、そう心の中で叫んだことを、警察トリオは知る由もない。
- 95 名前:非サスペンス 投稿日:2003年03月23日(日)21時20分25秒
- 「な、何よ!
言いなさいよ、後藤!
ってかアンタ、家にちゃんと帰ってるの?
お母さんが『最近特に、家に寄りつかない』って困ってたわよ!!」
流石に皆の冷たい視線だけは辛うじて感じとり、ふくれっ面になった保田巡査長に、
後藤は
「家のことは今関係ないでしょ!
つか、ほっとけっての。おまわりなんかに、心配されたくないって。
え、何?『この状況』?
停電で真っ暗だってことだよ。
うちらは慣れてっけど、他の所から来た人たちにはビックリでしょ?」
と、しらを切った。
「……。確かに、停電にはビックリさせられるかもしれないわね。
でもね、停電で泣く人はいないでしょ?
しかも、あの子、泣き癖までついてるじゃない。
けっこうな時間、泣いてるわ。
あの子が泣いてる、本当の理由は何なの?」
石川を一点に見つめながら、
非番の保田巡査長は、警察官みたいなことをビシィィィッ!と言い放った。
やればできるよ、できるよやれば。保田巡査長、いいねっ!いいねっ!いいねっ!!
- 96 名前:非サスペンス 投稿日:2003年03月23日(日)21時20分55秒
「本当の理由は…、本当の理由は。
この‘亜依庵’で人が一人、死にはってん!
殺されたんや!!
犯人は、この人や!!!」
亜依に指さされた石川は、一瞬何がおこったか分からずに
ぽかんとした表情で、ただ亜依を見つめ返した。
- 97 名前:名無しエイト 投稿日:2003年03月23日(日)21時33分36秒
- 更新終了です。
>86 名無し読者様
レス、ありがとうございます。
本当に励みになります。
非サスペンスのタイトルに恥じぬよう、これからも精進したいと思う次第です。
>87 名無し読者様
レス、ありがとうございます。
更新が遅くなりまして、申し訳ないです。
これからは、もっとペースをあげていこう!と思っています。
>88 名無し様
レス、ありがとうございます。
お涙、ちょうだいいたしました。
愛と旅立ちの非サスペンスを、改めて志します。
- 98 名前:名無し 投稿日:2003年03月23日(日)22時40分40秒
- 人が死んでのに相談するのを躊躇ってしまう様な警察のみなさん…最高です。
- 99 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)09時51分12秒
- 更新ペース、早くなるんですか?
期待してます
- 100 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時39分49秒
- 「なっ!
何言ってンだよ!!
自分が何言ってンのか、分かってンの?ちょっと!
…り、梨華ちゃんが人を殺したりなんてできるわけないよ!」
石川の隣り、吉澤が強ばった表情で一気にまくしたてる。
皆の視線が吉澤の方に集中した。
「そやかてな、安倍さんの死体をはじめに発見したんは石川さんやん。
第一発見者なんて、真っ先に疑われる存在やん?」
元からある台詞を読んでいるかのように、亜依からは淀みなく言葉が出てくる。
「え、何?
この旅館の娘だか何だか知らないけど、コナソにでもなったつもり?」
「そんなんちゃうわ!
ウチは早う事件が解決したらエエ、と思てるだけや」
「そんなっ!
そんな思いだけで、ウチの梨華ちゃんを犯人扱いにすんな!」
しばらく黙って、吉澤と亜依のやり取りを聞いていた保田巡査長だが
どうやらこのままだといつまで経っても二人の口は塞がらない、と悟ったらしく
身を前に乗り出し、二人を身体で制しながら口を開いた。
「で、ホトケはどこ?」
- 101 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時40分45秒
「停電で良かったわ。
ホトケの顔なんてはっきり見えない方が良いのよ。
でもぼんやりとだけど分かるわ、この子、いい顔してるわ」
「ヒ・ミ・ツのお部屋だから、開けちゃダメ(はぁと」の間に
寝かされている安倍に手を合わせながら、保田巡査長が言った。
「保田巡査長は、生きてなくてもカワイコちゃんが好きなのですか?」
高橋巡査の声を、背中で聞いた保田巡査長は後ろを振り返り言った。
「だから高橋はまだまだ、なのよ。
ホトケの表情見てごらん?
優しい顔してるじゃない。
きっと、みんなから好かれてる子だったんでしょうね」
何かと胡散臭い保田巡査長だって、時にはいいことを言ってみなくなったりする。
「ハイ、完璧です!
高橋巡査はまだまだです!!
保田巡査長のタイプは、このホトケさんとは違います。
もっと、エロかわいい方がお好みなのです。
例えば、この方のような…」
紺野巡査は、石川を
「ヒ・ミ・ツのお部屋だから、開けちゃダメ(はぁと」の間に強制連行してきていた。
- 102 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時41分54秒
- 「中澤女将さぁ〜ん!
カツ丼をお願いします。
これから取り調べです、完璧です!!」
「な、何やってんの?アンタは!
まだこの人が犯人だなんて決まったわけ…」
暴走する紺野巡査から石川を解放しようとした保田巡査長は
その時はじめて石川の顔をマジマジと見た。
そして、ゴクリと生唾をのんだ。
エロかわいい石川は、保田巡査長のモロ好み顔だ。
保田巡査長の脳内には、ドッパン、ドッパンと恋の興奮物質が異常に分泌しはじめ
胸の中では、リィ〜ンゴォ〜ン、リィ〜ゴォ〜ン、ケメェ〜コォ〜ンと
自分勝手な恋の鐘が鳴り響きだした。
「…、絶対この子とヤル」
「え?
何て言ったんですか、保田巡査長?
あ、ソースカツ丼の方がイイです」
高橋巡査の声に、ハッと我に返った保田巡査長は慌てて言った。
「『絶対、この子で取り調べヤル』って言ったのよ!
女将、どっか部屋貸してちょうだい?」
「それはちょっと、おかしいよ」
それぞれが懐中電灯を持っているとはいっても
それでもほの暗い部屋の中、市井の澄んだ声が響いた。
- 103 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時48分07秒
- 「おかしいって、どういう意味よ?」
「そうですよ、一般市民は事件に口出さないで下さい!」
「ハイ、完璧です」
3人はおとぼけ警察トリオのくせに、厳しい表情で市井を睨んだ。
「だいたい、事態は把握できてきたんだけど…。
つまり。
安倍さん最期の時に現場にいたのが、そこのオネエチャン…、石川さんだっけ?
で、運がいいのか悪いのか…、アタシはよそ者だけど、本能的に感じる。
運は、とても悪かった気がする。
あ、えと。何、話してたっけ?…そう。
運がいいのか悪いのか、そこに警察がやってきた、と。
そして、今までの経緯からして何となく
第一発見者の石川さんが怪しい、ってことになってるんだ」
今、アタシはカッコイイ!そうだろ、後藤?ちゃんとアタシの晴れ姿見てる?
そう思いながら、市井はチラチラと後藤の様子を窺いながら喋った。
「そうらしいわね。
で、どこがおかしいのよ?」
市井の得意げな表情に、なんとなく不愉快な気分をおぼえた保田巡査長は
市井に先を急がせた。
- 104 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時49分15秒
- 「そう急かさないで。
おかしいってのは、こっからだって。
だっておかしいでしょ?」
含みを持たせる市井の言葉に、
吉澤と石川は、何か市井が
事件解決の糸口になるようなことを言ってくれるのではないかと
あわい期待を持ちはじめた。
「だから、何がおかしいのよ!」
「おかしいじゃん!
だってフツー、取り調べって警察署とかの取調室でやるもんでしょ?
何で、温泉宿でやるの!?」
取り調べの場所かいっ!
吉澤と石川の期待は、裏切られた。
- 105 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時50分21秒
- 「ハッ。市井、アンタ、やるわね!!
そうよ、署に帰るわよ」
そそくさと帰り支度を始めた警察トリオ。
「ヒ・ミ・ツのお部屋だから、開けちゃダメ(はぁと」全体が
イヤ〜な雰囲気に包まれた。
「んあ〜。
外、めちゃくちゃ吹雪いてるから帰れないよ。
それよりとりあえず、警察署に連絡したら?
きっと他のお巡りさんたち、2人がパトロールから帰ってこない、って心配してるよ」
後藤の言葉は、誰も口をはさむことが出来ないほど的確な言葉だった。
市井は後藤につくづく感心しながらも、自分を少し情けないと思った。
「ハッ。後藤、アンタ、やるわね!!
そうよ、署に連絡よ」
しかし、高橋巡査も紺野巡査も動かない。
「何ボーッとしてるのよ!
さっさと署に連絡!!」
保田巡査長が声をあらげてそう言っても
2人とも、困った顔をするだけで何も行動を起こさない。
「どうしたのよ?」
怪訝な顔で訊く保田巡査長に、やっと高橋巡査が口を開いた。
「無線機、忘れてきました…」
高橋巡査はきっと反省しているのだろう。遠慮がちな声だった。
- 106 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時51分10秒
- 「何やってるのよ、もう!
紺野、アンタは忘れてなんかないでしょうね?」
チッと舌打ちをし、高橋巡査に一瞥をくれたあと
保田巡査長は紺野巡査に強い調子で言った。
「ハイ、完璧です!」
「なら、連絡!」
「………」
「早く、連絡!!」
「………」
「どうしたのよ、持ってるんでしょ?無線機」
「持ってます!完璧です」
「じゃ、連絡しなさいよ」
「出来ません!」
「何言ってるの?
じゃ、アンタのその胸につけた無線機はお飾りだっての?」
「連絡、出来ません!」
「何でよ?」
「電池切れです。完璧です!」
そこにいた誰もが、不安げな表情になって深く溜息をついた。
- 107 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時52分27秒
- 「んあ〜。
電話は?」
全体的に眠たそうな雰囲気の後藤だが、頭は冴え冴えとしている。
「ダメです。
電話線、逝っちゃってます。
あ、モチロン、ケータイなんて論外。圏外です」
ロンガイ、ケンガイなんて…、小川は若いくせに年季の入ったギャグを飛ばす。
「ってか、ここ陸の孤島か…」
吉澤は思わず低く呟いた。
「確かに。
でも、明日には天候は回復するわ。
そうしたら電気も電話線も復旧する」
中澤女将の言葉に、亜依とバイト仲居の小川と新垣
そして後藤と、警察トリオの地元組が静かに頷いた。
その様子を見た吉澤、石川、市井の‘亜依庵’客組は
あぁ、明日には本当に天気が良くなるんだろうと思い、安堵感すら覚えた。
しかし。
- 108 名前:非サスペンス 投稿日:2003年04月23日(水)23時54分01秒
- 「というわけで、今夜はアタシが法律よ?
女将、取調室として一部屋用意して。
石川?
あなたには、私の取り調べを受けてもらうわ。
高橋と紺野は、誰も部屋に近づかないよう、見張り役よ!」
誰かの懐中電灯の明かりが照らし出す、
勝ち誇ったように満足げな表情を浮かべる保田を
恨めしそうに睨み付けながら、吉澤は思った。
事態はどんどん、おかしな方向に向かってってる。
でも不安が一番大きいのは梨華ちゃんのはず。
ウチがしっかり梨華ちゃんを支えてあげなくちゃ!
ウチが梨華ちゃんの無実をはらすんだ!!
とりあえず、あの保田ってオマワリ、ムカつく!!!
- 109 名前:名無し8 投稿日:2003年04月24日(木)00時00分38秒
- 更新終了です。
>98 名無し様
レス、どうもありがとうございます。
警察のみなさま、これから活躍してもらわなければ!ムフフ
>99 名無し読者様
レス、どうもありがとうございます。
ペース、全然はやくなってなくて申し訳ないです。無精な作者です。
- 110 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月08日(木)23時09分24秒
- 来た〜見つけた〜。めっちゃ好きなお話。
しかもいしよしだぁ〜!!
感涙です。感動です。応援です。
- 111 名前:名無し 投稿日:2003年05月10日(土)19時42分04秒
- ぶらぼぉー!!最高です!
いやー保田さんのあの言葉は身に沁みました。
娘。小説界の名言として語り継がれるでしょう。
そして今夜の取調べ……色々期待!!吉澤さんはその時!!
楽しみです。
- 112 名前:noname 8 投稿日:2003年06月02日(月)22時47分57秒
- 「ここにいるぜぇ!」の間に強制連行される石川の、あまりに寂しい背中は
「よっすぃ、私を助けて!」と語っているようだ。
こんなの理不尽じゃん!!
なんだって梨華ちゃんが、
あんなエロそうな顔のオマワリに取り調べさせられなきゃなんないんだよっ。
「待てよ」
いつもより声のトーンを落として、吉澤が言った。
「待たないわよ」
保田巡査長は、振り向きもせずそう言いながら
立ち止まりそうになった石川の肩に手をまわし、歩き続けた。
そのまま保田巡査長は後ろ手で、ピシャリと
「ここにいるぜぇ!」の間のふすまを閉じた。
吉澤は、ふすまの前で仁王立ちする高橋巡査と紺野巡査の、無表情な顔を睨みつけた。
「開けろよ?」
「それは出来ません。…、よね?あさみちゃん?」
「多分…、出来ないと思います。完璧です!」
「多分じゃないわよ!
開けたら殺すわよ?
高橋ぃ、紺野ぉ!」
ふすまの奥から保田巡査長の、警察らしからぬ言葉が聞こえた。
- 113 名前:noname 8 投稿日:2003年06月02日(月)22時55分30秒
- 「ンだよ、ちっくしょゥ!」
自分でも気付かないうちに、吉澤はそう叫んでいた。
「若いヤツは、血気盛んやなァ?
まぁ、落ち着きぃや」
2杯目のココアをすすりながら、冗談めかした口調で中澤女将が言った。
吉澤は、怒りで手が震えるのをおさえることが出来なかった。
「ハァ?
何だよココはっ!?」
怒りにまかせて言葉を吐きながら、
吉澤は、石川との初お泊まりに‘亜依庵’を選んだことを、心の底から後悔した。
そしてそんな吉澤に出来ることといったら、
その場に立ちつくすことだけであった。
- 114 名前:noname 8 投稿日:2003年06月02日(月)22時57分47秒
- 「あ〜ぁ。アカンで、なかざーサン?
よっすぃー、自分を見失うてはる。
こんなんじゃ、よっすぃー王子は
恋人を悪代官から奪取できまへんなぁ」
ニコッと笑って亜依がわざとらしい関西弁で言った。
梨華ちゃんの前で安倍さんがあんなことになったのは事実だ。
でも、梨華ちゃんが犯人だなんてこと、ありえるわけがない!
それなのに、梨華ちゃんが犯人だ、なんて
あのオマワリたちに言ったのは、アンタだろうがっ!
- 115 名前:noname 8 投稿日:2003年06月02日(月)23時00分20秒
- ただでさえ非常時な事態なのに、さらにワケの分からない人たちが
ワケの分からないことを言ってくる。
吉澤は怒りと困惑で、自分でも血の気が退いていくのが分かった。
もうウチ、ダメかも…。
「あきらめちゃダメだよ、よっすィ〜!
タカハシとコンノには、弱点があるんだ!!」
再起不能寸前の吉澤を救う(かもしれない)言葉を発したのは
黙っていても、寝ていても、地元女子コーセーのオピニオンリーダー・後藤だった。
- 116 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年06月02日(月)23時17分13秒
- 更新終了です。短くて、申し訳ありません。
今週の月間スローガンは『目指せ!早期完結!!』に決定しました。
>110 名無し読者様
見つけられた〜! ……って、スイマセン全然分かりません。。
レス、有り難うございます。応援、嬉しいです。どうにか頑張ります。
>111 名無し様
レス、有り難うございます。
私には、名無し様の言葉が心にしみます。
でもコレ、最高なものじゃありません。。
- 117 名前:名無し 投稿日:2003年06月03日(火)23時43分18秒
- ごっちんの発言力の大きさは兼がね噂には聞いていました。
何を言うのか楽しみ。
- 118 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時20分10秒
- あのワケわからんオマワリたちに、弱点?
少し驚いた表情のまま吉澤は、後藤の方を見やった。
「アイツらには、さんざ追いかけ回されたからね」
そう言う後藤は、何故だか少しはにかんだようであった。
何はにかんでんのさ?何やらかしてるんだよ〜。
ピアスホールが幾つもある耳たぶや、凝ったネイルアート。
停電になる前に見た後藤の容姿を思い出しながら、
警察と後藤のトムとジェリーライクな日常を合点した吉澤は、
こんなことが無ければ、後藤さんとは良い友だちになれそうなのに、と思った。
でも…、今はそれどころじゃない。
「教えて?
アイツらの弱点」
「タカハシとコンノの弱点は…」
「弱点は?」
吉澤はゴクリと唾を呑み込んだ。
「ズバリ、食べ物!
ヤスダの隙をみて、メッセージくらい伝えてくれるんじゃないかな?
んぁ〜。zzz…」
「エサ、か…」
女子高生二人のハートウォーミングな会話が弾む‘亜依庵’の外では
ただただ、雪がしんしんと降り積もっていた。
- 119 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時25分08秒
- 夜、梨華ちゃんと二人で食べようと持ってきたお菓子があったよな?
と心の中でつぶやきながら吉澤は、
梨華とスゥィートな夜を過ごすはずであった「電車の二人」の間に向かった。
そして吉澤に放置されっぱなしの、通路で寝てしまった後藤を
「ごちゃまぜラブ」の間まで運んだのは、どこからともなく現れた市井だった。
市井はごく自然に、しかし仏頂面で後藤をおぶった。
- 120 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時25分43秒
- 「ほら、ちゃんと掴まっててよ。落ちるよ?
…なんて寝てるヤツに言っても仕方ないか。
どう、後藤?
こうしてると、あったかいでしょ?
だから『触るな!』なんて言わないでよ、マジで」
独り言にしては大きな声で市井はそう言った。
市井は、後藤にその言葉が聞こえていてもかまわない
いや、むしろ自分の偽りない気持を聞いていて欲しいとさえ思っていた。
そのくせ喉元まで出かかっていた
「触れたい、触れられたい」という言葉は、何故だか必死で呑み込んだ。
数歩進むとズルッと自分の背中から落ちそうになる後藤を
そのたび、市井は「っしょっ!」と、おぶり直す。
「んぁ〜」
背中越しに聞こえてきた後藤の緊張感のない声に
市井の仏頂面は、幾分和らいだ。
市井は、懐中電灯が静かに照らし出す廊下が
真っ直ぐに、ずっと真っ直ぐに、どこまでも続いていればいいと思った。
そうしたら、後藤を永遠におぶっていられるのに、と。
- 121 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時31分28秒
- 吉澤が一人で戻ってきた「電車の二人」の間に、長い溜息が聞こえる。
「ナッチ」と「旅のお供にポキポキ☆ポッキー(いちごとみるく)」しかない…。
贅沢デコレーションのムースポッキー入れといてって言ったのにぃ〜!
あと、ベーグルぅ!
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
高橋巡査と紺野巡査への賄賂を探していた吉澤だったが
吉澤と石川、二人共有のバッグには
心トキメク(自分が食べたい)お菓子が入ってなかったようである。
もっとも、お菓子選びを石川任せにした吉澤が悪いのであるが。
しかし諦めを知らない吉澤。
勝手に石川のバッグを探ると、ナントそこからは午後の紅茶が出てきた。
何で、午後ティー?しゃきりりじゃないの!?
あぁ、あやトラ応募シールがないよ!?
梨華ちゃん、もしや!あやトラ狙い!?
ヒーチャンモ アヤトラカラハミデタ ブラジャーガ ホスィ YO
「アズィ アズィ ダン ダ ディ ダ ブ ディ ハァ
シャディパ ディ カ パ カ ディ カ クン ク〜 ア〜
ア シュ ダ バ ダ ブン ブ ドゥ ナ ダ マダ アゥ〜大人味」
- 122 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時33分26秒
- ずいぶん長い間、一人で歌っているうちに
だんだん正気が戻ってきて、さらに勇気も湧いてきた吉澤。
脳裏に、布団に寝かされた安倍を目の前に泣き叫ぶ石川の姿がよみがえる。
あの怪しすぎる保田ってオマワリに梨華ちゃんが…。
時間の余裕がない!
停電が続く暗い部屋で、吉澤はふと思い立ち、自分のバッグをまさぐった。
盲牌よろしくバッグの中身を、右手で触っていく。
これは、来る途中に駅前でもらったティッシュ。
これは、化粧バッグ。
これは、出かける前にお母さんに持たされたハンカチ。
これは、MD。
これは、…やっとあった! スケジュール帳。
あ、待って。
何か良さげなモノがある。
これ、何だっけ?
まっ、いいや。
ウチ、スケジュール帳、破るのヤなんだよな。
吉澤は「ここにいるぜぇ!」の間にいる石川へ手紙を書かこうと思ったのだ。
しかしバッグから取り出した紙を目の前に、吉澤は困り果ててしまった。
石川への愛は、とうてい言葉で書き表せるものではなかったのだ。
それでも懸命に言葉を探し、短いが、それでも心のこもった手紙を書き上げた。
- 123 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時34分03秒
りかちゃん
ベイべー 愛してるよ!!
超強くてかっけ〜!アンパンマンみたく助けてあげるから☆
つづく
もちろん続くことはない一枚限りの手紙である。
- 124 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時35分18秒
- 懐中電灯の細い光りに浮かぶ、2枚の真っ赤な紅葉がまぶしくて
吉澤は思わず目を細めた。
「アハハハ」
吉澤は目尻に涙さえ溜めて、声を立てて笑った。
「何がおかしいんですか?
石川サンに、いきなり平手打ちされたのですよ?
保田巡査長がお手洗いにたった隙に、
恋人からの手紙を渡してあげたというのに…。
しかしこの紅葉、完璧です!」
「ほやほや、完璧。…って言ってる場合ではなくて。
吉澤サン、あなた一体何を私たちに手渡したんですか?
何か紙切れを読んだ後、石川サンは顔を真っ赤にして怒りだしたんですよ?」
よく見れば、紺野巡査も高橋巡査も左頬を腫れ上がらせている。
その痛々しい形相に、流石の吉澤も笑うのをやめた。
「どうしたの?」
そう言う吉澤には、「ここにいるぜぇ!」の間で
一体なにが起こったのか、皆目検討もつかなかった。
- 125 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時36分26秒
- 「『よっすぃーのバカァ!
…決めた!!
私、ゼッタイに「ここにいるぜぇ!」の間から出ない。
って言うか、あなたたちも何でこんなモン持ってくるのよ!』
避けるまもなく…、アレはいい平手でした。
振りが速すぎて、腕の動きが見えませんでした!
完璧です」
「のぅのぅ。
これ、返事なんざや。
読みねや」
高橋巡査はスッと一枚の紙を吉澤に差し出した。
吉澤はちらりと、高橋巡査の表情をうかがって
石川からの返事を読んだ。
信じてたのに…。
好きだったのに…。
愛されてると思ってたのに…。
りか
それは、吉澤から石川へ書かれたメッセージの下に小さな文字で書かれていた。
「あっ、思い出しました!
裏がどうのこうの言ってましたね、石川さん。
完璧です!」
手紙を裏返した吉澤の顔がこわばった。
- 126 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時37分52秒
- 「ウチ、バカだ…。
ちっくしょゥ!
何だよ、これ!!
何で…、何で!!!」
「うるさいわね!
ちょっと高橋、そこのうるさいボーズをどっかに連れていきなさいよ!!」
石川がいる「ここにいるぜぇ!」の間から
トイレから戻った保田巡査長の大声が聞こえてきた。
「梨華ちゃん、違う!
これは違うんだよ!!」
叫び暴れ始めた吉澤を、高橋巡査と紺野巡査が
後ろから羽交い締めにする。
「やめろよ!
ウチは梨華ちゃんに話があるんだ!!」
「残念ね!
石川はアンタに話はないそうよ!!」
興奮した口調で叫ぶ吉澤を奈落の底に突き落とす、保田巡査長の非常な言葉。
- 127 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時38分40秒
ひとみちゃん、私を助けて!
愛してる
りか
そんな返事を心のどこかで期待していた。
- 128 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時40分14秒
- オレ達、またやり直さない?
どんだけ合コンとかやっても、
ひとみ以上の女って見あたらないんだよ。
オレ、やっぱ、ひとみのこと好きなんだ
「何で捨ててなかったんだろう、あの手紙…。
でも梨華ちゃん?
ウチ、この旅行をきっかけにしたかったんだ。
梨華ちゃんだけを見よう!って決心して帰りたかったんだよ、それは本当」
結局、石川を奪取することが出来ず
一人すごすごと帰ってきた「電車の二人」の間で
吉澤は言い訳のような独り言をつぶやいた。
もぅダメ、なのかな…。
ウチには梨華ちゃんを救えないのかな…。
吉澤は、いつの間にか小川と新垣が敷いていった布団にぺたりと座り込んだ。
悲しく二組敷かれた布団に、吉澤の涙が音もなくしみていく。
「アホか!
なに弱気になっとんねん!!
それじゃ立派な王子様になられへんで!?」
あぁ、また来やがった!ちょっと慣れたぞ!?
と思いながらも吉澤が声のした方に振り向くと
そこにはやはり想像したとおり、中澤女将が仁王立ちしていた。
- 129 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時41分54秒
- 「ちょっと拒否られたからって、それでもうお終いなん?
アンタの恋心って、そんなもんなん?
アンタの愛って、そんなに弱いん?
石川はアンタに助けてもらいたいって思ってんで。
石川はアンタのこと、信じたいって思ってんで」
「そんなこと言われても…」
中澤女将の叱咤に、吉澤は下を向いたまま半端な言葉を返すことしかできなかった。
「…惚れた相手は、とことん信じなアカンねん」
中澤女将の、いつになく真面目な声に、吉澤は頭を上げた。
「自分の恋人は人殺しなんてしてない、って信じてるんやろ?」
無言で頷く吉澤に、中澤女将は言葉を続けた。
「やったら、自分の力で解決せな、な?
石川を救えるのはアンタだけや」
中澤女将はそれ以上何も言わず「電車の二人」の間から出ていった。
- 130 名前:非サスペンス 投稿日:2003年06月20日(金)02時43分27秒
「ウォ〜、やる!
ウチ、ゼッタイ梨華ちゃんを助ける!!」
勉強も、部活も。今まで何事も、
中途半端なところで片付けてしまおうとしてきた自分と決別しよう!
と吉澤は奮い立った。
石川のためにも、自分のためにも、二人のこれからのためにも。
吉澤の孤独な闘いが始まった。
- 131 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年06月20日(金)02時49分09秒
- 更新終了です。
>117 名無し様
レス、有り難うございます。
あんなこと言いました。
後藤さんの発言力はうわさ通り…イヤ、うわさのSEXY GUYでしたでしょうか?
- 132 名前:名無し 投稿日:2003年06月20日(金)22時13分38秒
- やはりここに出てくる人達揃いも揃って少しずつ何処か間違えているな。
- 133 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時40分58秒
- 「何もしてないってば!」
「ホントに〜!?
いちーちゃん、信じられないなァ…」
「信じてよ。
このアタシがさぁ、寝てるヤツに手なんてだすと思う?」
「うん、思う」
「後藤…、即答ね。
もうちょっと考えて返事してよ」
こんなやり取りが扉の向こうから聞こえてきて
吉澤はなんとなく入りづらかったが、
聞こえないふりをして扉をノックした。
市井の部屋「ごちゃまぜラブ」の間では
部屋の隅に置かれた行燈がぼんやりと灯っていた。
- 134 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時42分15秒
- 二組並んで敷かれた布団の片方に、
市井と後藤がペタンと座っているのがぼんやりと見える。
「あの…。
ちょっと訊きたいんですけど…」
吉澤の改まった言葉に、
市井はいかにもめんどくさそうにふりかえる。
「あ?
今、取り込んでんだけど?」
不機嫌な声で低くつぶやくの市井を、
強く睨むような視線で後藤が制す。
「いちーちゃんっ!
何?
なんかあった?
とりあえず、座ったら?」
優しく笑いながら、吉澤の座るスペースを開けてくれる後藤を見て、
吉澤はやっぱり、後藤とはいい友だちになれそうだと思った。
- 135 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時43分03秒
- 「ウチ、梨華ちゃんを助けたくて。
梨華ちゃん、優しいんです。本当に。
学校でも、先輩には可愛がられて、後輩からは慕われて…。
ウチ…、ウチ、情けないこといっぱいするのに
全然梨華ちゃんはそんなこと気にせずいてくれる、っていうか
いっつも優しく包んでくれる、っていうか…。
とにかく。
梨華ちゃんが、安倍さんを殺したりするわけないんです!」
吉澤は喋っているうちに熱いものがこみ上げてきた。
市井と後藤は、吉澤が興奮していくさまを静かに眺めていた。
「で、吉澤は石川の無実を証明したいワケね?」
ひととおり吉澤の話を聞き終えてから、市井がふんふんと頷きながら言った。
「それに、ヤスダの魔の手から梨華ちゃんを取り返さないとね?」
後藤が言葉を継ぐ。
「王子様ってヤツ?」
市井の冷やかし半分の言葉に、
吉澤は照れ隠しの笑みを浮かべることしかできなかった。
話題をかえたい吉澤は、二人に質問を始めた。
「安倍さんについてなんですけど…。
何か知ってること、ありませんか?」
行燈のやわらかな光りが、静かに揺れる。
- 136 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時43分40秒
- 「んぁ〜?
後藤は知らないなぁ。
ここの温泉入るときに、2・3回すれ違ったことがあるくらい」
一人で訊きこみを始めたは良いが
出鼻から有力な情報が得られなかった吉澤は、がっくりとうなだれた。
吉澤の少し気が抜けた様子を悟った後藤が、市井に向かって声を出す。
しょげた吉澤への、後藤なりの気遣いだ。
「いちーちゃんは?
いちーちゃんは何か、知ってることとか気付いたことない?」
市井は少し黙った後、弱々しく笑って言った。
「何も…」
市井の言動を不審げに見つめていた後藤の表情がこわばっていく。
「いちーちゃんの嘘つき!
『何も』ってことはないでしょ!?
昨日、いちーちゃん言ってたじゃん!?」
語気荒く迫る後藤に、ひるむ市井。
- 137 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時44分21秒
- 「『さっき浴場に、めっちゃカワイイ子がいた〜』って
デレデレしながら言ってたじゃん!
アレって、安倍さんのことでしょ!!
いちーちゃん、いつもヘラヘラして。
真面目に答えてよ!」
市井はまた少し黙った後、
全ての謎が解けたように「あっ!」と小さく声を出した。
「後藤、やきもち妬いてる?
ダイジョーブだって。
アタシは後藤だけだから…」
しばしの静寂が「ごちゃまぜラブ」の間を包んだ。
数秒後、静寂を破ったのは後藤だった。
後藤は怒りに顔を歪ませながら、しぼり出すような口調で言った。
「そんなの…、ウソじゃん」
吉澤は本能的に、このままではこの二人の修羅場に巻き込まれるかも…?
と感じ始めた。
- 138 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時44分55秒
- 「ウソじゃないって…。信じられない?
…大体、最初に懐いてきたのはそっちじゃん?」
ため息まじりに言う市井に、後藤がすぐさま言葉を返す。
「だって!だって、いちーちゃん!!
…いちーちゃん優しかったから。
『行くとこ無かったら、アタシと一緒に温泉でも入ろう!』って。
あの時は気付かなかっただけだよ。
いちーちゃんが、ただのエロだって」
市井は両手で、そっぽを向いてしまった後藤の頬を
覆うように包んだ。
慌てて市井の手を払いのけようとする後藤。
「は、はなして!」
そう言う後藤の声は、
吉澤には、かすかに震えているように感じられた。
しかし市井は両手を、後藤の頬からはなそうとはしない。
そして少しの間微笑みを浮かべた後、市井は喋り始めた。
「このまま後藤に触れていたい。
アセクシャルだかなんだかは、今は無視る。
だから、この手ははなさない。
後藤、聞いて?」
吉澤は二人のやり取りを聞いて、忘れていたことを思い出した。
後藤は性的欲求が無い・薄い、アセクシャルなのだ。
- 139 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時45分42秒
- 「あ、あの…」
吉澤は言いにくそうに口を開いた。
「なに?」
言葉を遮られた市井が、うらめしそうに吉澤を睨む。
「あのウチ、ここにいてもいいんでしょ…」
あきらかに、自分はこの場の異物であると感じた吉澤だったが、
吉澤が言い終わるより早く市井の返事が返ってきた。
「いて。
吉澤も聞いてて」
そう言って市井は、ハァーっと長く静かにため息をついた。
決心した何かを吐き出す前の儀式のようなため息だった。
吉澤は視線を後藤にやった。
行燈のオレンジ色に染まった後藤は
不安と期待がないまぜになったような表情をしていると吉澤は思った。
- 140 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時46分13秒
- 「後藤。
あのさ、アタシ明日帰るわ。
バイトもあるし…」
その言葉を聞いた途端、
後藤は自分の身体を絶えず流れているはずの血が一瞬のうちに停まり、
次の刹那にはその血が、重力に従い下へ下へと落ちていくような感覚に襲われた。
そして自分を襲ったひどい動揺が、
市井を心から愛している気持ちの表れだと気付くのに
そう時間はかからなかった。
後藤の瞳からは涙がとめどなく溢れていたから。
「いっ、行かないで。
いちーちゃん、行かないでよ」
確かに後藤は、3日前に会ったときから市井に対して好意は持っていた。
しかし、どこまでもマイペースに進んでいく市井に
どうしようもなく惹かれていたとは、自分でも気付いていなかった。
- 141 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時47分20秒
- 市井は、後藤の頬をつたう涙を指で拭ってから言った。
「最後まで聞いて。
アタシさぁ、音楽がやりたくて、やりたくて専門学校に入ったんだけど。
トモダチできたり、遊んだりしてるうちに、見えなくなったんだよね…。
ってか、感じなくなった、っていうか。
何が楽しい?何がイヤ?何が愛おしい?
そんなのが分かんなかったら、曲なんて出来ないんだよね。
で、逃げた。
……、後藤聞いてる?」
吉澤が後藤の方をうかがうと
後藤は市井から顔をそむけ、ただ静かに布団の上に熱い滴を垂らしていた。
「いちーちゃんと離れたくない」
吉澤には後藤の言葉が聞き取れなかった。
「逃げてここに来たら、後藤がいた。
『見つけた!』って思ったよ。
後藤を見た後では、世界が違って見えた。
頭ン中に音楽が溢れ出した。
……、無性に曲が作りたくなった。
でも後藤が側にいないと作れない」
底冷えのする夜だったが、
吉澤は不思議と自分の身体や心が温まっていくのに気が付いた。
- 142 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月04日(金)23時48分17秒
- 「後藤、一緒に来て?」
後藤はもう泣いておらず、真面目な表情で言った。
「でも高校が…。
それに後藤はいちーちゃんと……、とか出来ないかもしれないよ?」
「ま、とりあえずは冬休みの間だけってことで。
後は、うーん。どうしようかな?」
市井はつい笑いながら言った。
「どうしようね?」
後藤にも笑顔が戻った。
そして一人蚊帳の外の吉澤は、
二人のラヴラヴぶりに嫉妬さえおぼえ始めていた。
梨華ちゃんさえいたら、いちごまなんかに負けないのにぃニィ!
梨華ちゃんさえ!!
ハッ、梨華ちゃん!?
やっと石川救出捜査活動中だったことを思い出した吉澤は
一人静かにバカップル部屋を去った。
「ごちゃまぜラブ」の間では、有力な情報が一切得られなかった…。
よしっ、次は「NON STOP」の間だ!
- 143 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年07月04日(金)23時51分10秒
- 更新終了です。
>132 名無し様
レス、有り難うございます。
そうなんです。登場人物、揃いも揃って少しずつ何処か間違えているので
全体的にみたら、もうズレズレで…。これから、どうしよう!?
- 144 名前:名無し 投稿日:2003年07月05日(土)22時24分26秒
- NON STOPの間でも大した事は聞けやしないと思いますが……。
それよりいしよしはどうしたぁぁぁーー!!と叫びだしたい今日この頃です。
- 145 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)18時43分54秒
- hozen
- 146 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月31日(木)11時07分35秒
この子の笑顔を見ていると、ゆるくリラックスできるのはなんでだろう?
吉澤は、はにかんだような笑顔を見せる辻を、まじまじと見つめた。
少し垂れた大きな瞳と八重歯が印象的な少女。
万人の心を和ませるような辻の笑顔とは対照に、その隣には
冷たい視線を吉澤に向ける、ムスッとした表情の飯田がいた。
「NON STOP」の間は、吉澤が男湯で遭遇した二人連れ、飯田と辻の部屋だ。
- 147 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月31日(木)11時08分10秒
- 「で、なにさ?
なにが知りたいわけさ?」
飯田は吉澤を睨み付けながら言った。
「さっさとここから出てって!」そんな言葉が聞こえてくるようだ。
冷たい美人!うひょー、カッケー!!
ウチ、この人の犬になりたい。ワンワン
など思いつつも、飯田の高圧的な態度に、吉澤は面食らっていた。
飯田さんってこんな性格だっけ?
男湯で会ったときは、もっと優しいイメージだったんだけど…?
それにこの子も…。もっとはしゃいでるイメージが…。
久々に探偵モードに入った吉澤が、探るような目つきで飯田を睨み返して言った。
「あの…。安倍さんについてなんですが。
知ってることとかあったら、何でもいいんで教えてくれませんか?」
その言葉に、飯田の目がかすかに泳ぐ。
- 148 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月31日(木)11時08分59秒
- 今まで頑なな表情を崩さなかった飯田が一瞬、秘かに慌てたように
吉澤には思えた。
「あの、何でもいいんです。
ウチには梨華ちゃんが安倍さんを殺したなんて思えない!
何かがあるハズなんです。
梨華ちゃんを助けなくちゃ」
一気にまくしたてる吉澤を、深みのある眼差しで一瞥した後
飯田は言った。
「知らないわよ、なにも。
私たちだって昨日来たばかりだしさ。
明日天気が回復したら、チェックアウトする予定よ。
ね、のの?」
「ハイ!
遊園地に行くのれす!!
のの、まだ遊園地に行ったことがないから
飯田さんが連れていってくれるんです」
飯田の言葉にこっくりと頷いた後、辻は言った。
うぅっ、この子かわいい。
飼い慣らされてるなー。
いいなー。ウチも飼われた〜い。バウバウ。
辻のノン・ノン・ノノノン・ノーンストップな笑顔に
無意識のうちにほだされてしまった吉澤は、
お人好し兄ちゃんモードになってしまった。
あーぁ、吉澤よ。今しがたの探偵モードはどうしたのさ?
- 149 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月31日(木)11時09分42秒
- 「へー、いいな遊園地。
ウチも行きたいなー。もちろん梨華ちゃんと!
それで観覧車に乗るんだァ…。
ふふっ、ふっ。エヘヘ。
……あっ、ダメだよ梨華ちゃん。
まだ、てっぺんに着いてないじゃん。
えっ?じらしてないって…」
桃色妄想の世界に旅立ってしまった吉澤を、
口を半開きに、ボーっと眺める辻。
飯田はとっさに、教育上あまりによくない状況と判断し
辻を後ろから目隠しした。
「だーれだ?」
「飯田さんれす!
いいかおりがします。
それに、手があったかいのれす。
だから飯田さんの手です。
…ののにお母さんがいたら、きっとこんなれすね」
「んっ、梨華ちゃん、梨華ちゃん、梨華ちゃん。
まだいいじゃん。まだ大丈夫だよ。まだ隣からは見えないよ。
まだ…、ママ…?お母さん…。
お母さんいない?」
声のトーンの落ちた辻の言葉に
やっとのことで、現実の世界へおかえりなさーいした吉澤。
ドキッとして吉澤が飯田に視線を向けると、飯田は慌てて目をそらした。
- 150 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月31日(木)11時10分16秒
- 「ねぇ。
ここの女将の娘。と同い年くらいだよね?
中2とか中3とかだよね?
まだ遊園地、行ったことない?」
ようやくラブバカ一代だった頭が覚醒しはじめた吉澤は
事件を解く手がかりになるかも!?と、辻に問いかけた。
しかし、無防備で弱い赤ちゃんのような辻に強い口調では迫れず
なるだけ優しくさりげなく言った。
「の、ののが住んでるところは超田舎なので、遊園地ないのれすっ!」
恥じらいながらギクシャク動く辻に、吉澤は保護本能をくすぐられまくり…。
「そっかー。
遊園地、楽しいよ。
ブルーフォールは乗るべきだね。雨振る前にね!
あっ、田舎ってどこ?」
答えを促すように辻に微笑みかける吉澤。
「ここよりずっとずっと寒いれす」
辻は困った顔をして、それだけ言うと
右手の拳を唇の端から端まで動かした。
吉澤には、それが「お口にチャック」のポーズだとは分からなかった…。
あー、吉澤よ。
君は今、痛恨のミスをしちゃったかも?
- 151 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月31日(木)11時10分49秒
- 「ここは雪が少ないよね、のの?
明日は山を下りて、遊園地だよ」
黙り込んでしまった辻をなだめるように飯田が言った。
「ハイッ!」
辻の顔がパッと輝いた。
吉澤はその様子を見て、つくづく飯田の辻マスターぶりに感心した。
「さぁ、もう私たちは寝るから、出ていってくれないかな?
なっちって人については、何も知らないからさ。
ここにいたって時間の無駄じゃない?」
時間の無駄!?
そう言われればそうだ。
「NON STOP」の間にも事件の鍵はなかったか。拍子抜け。
でも、何か引っかかるものがあったような気もするけど…。
- 152 名前:非サスペンス 投稿日:2003年07月31日(木)11時11分22秒
- 吉澤は他の者なら拭いきれないであろう幾つかの疑問を、胸の中に放置して
「NON STOP」の間を後にした。
そして、停電と夜更けの静寂が支配する、長い廊下を一人歩いた。
「『ごちゃまぜラブ』の間は、ごちゃまぜバカップルでしょー?
『NON STOP』の間は、ノン・ノン・ノノノン遊園地二人連れでしょー?
手がかりゼロじゃん!
次、どこ行こうか…。
あーぁ、愛しいあの人、晩ごはん、何食べたんだろう?」
頭の中を整理しながら独りごちる吉澤は
誰かに後をつけられているとは、露程も感じなていなかった。
- 153 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年07月31日(木)11時18分14秒
- 更新終了です。
>144 名無し様
レス、有り難うございます。
そうですよね。石川さん囚われの身だから、いしよしにならないですよね。
細かなところは全然考えずに進めているので、気付きませんでした…。
ダメじゃん、自分!ということで今回は頑張ってみたようなみてないような。
>145 名無しさん様
あぁっ!お手数おかけしました。申し訳ございません。
自分の尻をたたいて、早期更新!とは思っているんですけど…。
ぐうたら性格なもので、本当にスミマセン。
- 154 名前:名無し 投稿日:2003年07月31日(木)16時33分18秒
- わらたーー!!!
それにしてもキャラクターが味がある。
かなり萌えた。
次回も楽しく待たせて頂く候。
- 155 名前:非サスペンス 投稿日:2003年08月18日(月)00時39分22秒
- 「こそこそと…」
突然、廊下に声が響いた。
吉澤はハッとしたが、その声がどこから聞こえてきたのか、よく分からなかった。
暗い廊下を探るように、吉澤がキョロキョロと辺りを見回していると
「ハッカーよろしくゴリックスを嗅ぎまわしているのはオマエか!?」
と背後から声をかけられた。
吉澤は、ドキリとして後ろを振り向いた。
- 156 名前:非サスペンス 投稿日:2003年08月18日(月)00時40分51秒
- 「ハァ〜〜〜〜〜〜〜」
一瞬でもドキリとした自分が情けなくなった吉澤は
長い長い溜息をついた。
吉澤の目の前には、顔の半分はあろうかと思われる
真っ黒デカモニ。サイズサングラスをかけた亜依が、腕組みをして立っていた。
「ただでさえ停電で暗いのに…。
そんなタモさんサングラスかけてたんじゃ
何も見えないでしょ?」
亜依の愛らしい姿に、笑いがこみ上げてきて仕方ない吉澤。
「うるさい!
赤を飲むか?青を飲むか?」
吉澤に差し出された亜依の左手には、
赤と青のジェリービーンズが乗せられていた。
- 157 名前:非サスペンス 投稿日:2003年08月18日(月)00時42分01秒
- 「え、何?
赤?青?
あっ、分かった!」
合点がいった吉澤は、言葉を続けた。
「赤い方で、10歳年をとって
青い方で、10歳若返るんだよね!」
自信たっぷりに言い切る吉澤に
サングラスの向こう、亜依の血の気が退いた。
「おっさんやな、ジブン…。
赤と青言うたら、今の時代、カゴリックスやん!
で、どっち選ぶん?
青を選んだら、そのままや。
赤を選んだら、亜依庵の正体をのぞかせてやろう」
- 158 名前:非サスペンス 投稿日:2003年08月18日(月)00時43分30秒
よくもこうストレートに…。
亜依庵の正体バラしちゃっていいのかなぁ。
っていうか、亜依庵の正体が
梨華ちゃんを助けることにつながるのかなぁ。
吉澤はそう思いもしたが、
今までに事件を解く手がかりをつかみ損ねてきたため
やっと巡ってきた幸運を逃さないように、即答した。
「赤、赤!赤選ぶ。
亜依庵の正体って?」
もう藁にもすがる思いだった。
気が付けば吉澤は、必死の形相で
亜依の肩を強く揺さぶった。
「アタタタ、痛いって!」
亜依が痛がっているのにも気付かず
吉澤は、亜依の肩を揺さぶり続けた。
肩の振動に連動して、
亜依のサングラスは少しずつ、ずれていく。
- 159 名前:非サスペンス 投稿日:2003年08月18日(月)00時45分05秒
- 吉澤は息をのんだ。
サングラスの奥、亜依の瞳は
暗がりの中でも分かるほど、赤く腫れ上がっていたのだ。
涙?
泣いてたのを隠すために、タモさんサングラス?
あれやこれやと考えを巡らしている吉澤と目があったとたん、
亜依はその場に座りこんで泣き出してしまった。
「よっすぃー、助けて!
ウチ、どうしたらいいか分からん。
なかざーサン…、なかざーサンは安倍さんを殺してないやんな!?」
- 160 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年08月18日(月)00時47分08秒
- 更新終了です。
>154 名無し様
レス、有り難うございます。
いつものごとく、待たせて申し訳ありません。
しかもちょっと気を抜いたら、いしよしが出てきません。
- 161 名前:名無し 投稿日:2003年08月18日(月)10時37分06秒
- どっちのネタも瞬時に浮かんでしまった俺はオサーンかも…。
それにしても亜依庵ってそう意味だったのかぁぁーーー!!!
続き楽しみです。
>しかもちょっと気を抜いたら、いしよしが出てきません。
このレスもうけたw
気にしないでマターリ書いて下さい。
- 162 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)22時51分38秒
- 吉澤はひとまず亜依を「電車の二人」の間に連れてきた。
亜依を布団の上に座らせ、
その傍らに懐中電灯を無造作に置きながら
吉澤は優しく声をかけた。
「なんか、こういうのって修学旅行みたいじゃない?
就寝時間が過ぎてからさ、懐中電灯の灯りの中で
好きな子とかの話するの」
さっきから黙ったまま、何も話そうとしない亜依に
吉澤は何か声をかけてやりたかったのだ。
しかし、亜依からの返事はない。
明らかに何か、いつもとは違う様子の亜依に対して
どうしたらいいものか、吉澤がほとほと弱ってきたころ
亜依が、観念したように口を開いた。
「ウチな、‘亜依庵’の正体を喋るって言うたやん?」
- 163 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)22時52分36秒
- 亜依は吉澤に、にじり寄り
吉澤の瞳をじっと見つめた。
「よっすぃーなら、ウチを助けてくれるやんな?」
えっ?や、助けるのは梨華ちゃんですが…。
と、少し戸惑ったものの、元来お人好しな性格の吉澤は
うん、うん!と、大きく首を立てに振ってしまった。
「なかざーサン、ホンマに様子がおかしいねん。
それも昨日から。
何や、旅館中をウロウロしてるし
コソコソ客室を見回ってるみたいやし…」
吉澤は思わず、あっと声を出した。
ことある毎に、背後から現れた中澤女将の記憶が甦ったからだ。
- 164 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)22時53分18秒
- 「いつもは、あんな風じゃないの?」
「いつもは、あんなん違う!
‘亜依庵’は、これでも大人の隠れ家的宿ってことで
評価が高いんやで!?」
吉澤は、うなだれるような姿勢で
亜依の話を聞いていた。
いつもは違う…。
いつもだったら、あんな現れ方はしない…。
いつもの時に来ていたら、梨華ちゃんと…。
亜依は、よっすぃーに任せて大丈夫なんかな?という思いで
燃え尽きて灰のようになってしまった吉澤の顔を盗み見た。
- 165 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)22時54分30秒
- 「よっすぃー、聞いてる?
それで‘亜依庵’は
お客様のプライベートはちゃんと確保してるんや…。
確保してるハズなんや…。
やのに、なかざーサン。
何で安倍さんと…。
ヒソヒソ話なんかして!」
吉澤は、顔を上げた。
停電した部屋は暗くて、いくら目が慣れてきたからといっても
亜依の細かな表情までは見てとれなかったが、語気の荒さから
焦りや怒りのような感情を、吉澤は読みとった。
「安倍さんと、中澤女将は何か繋がりがあるの?
前にも安倍さんは‘亜依庵’に泊まりにきたことはある?」
「知らん。
でも安倍さんが泊まりにきたことはない。
今回が初めてや」
ゆっくり深呼吸してから、亜依は吉澤の質問に答えた。
- 166 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)23時01分48秒
- 気丈な亜依の態度に、逆に亜依の心細さを感じた吉澤は
何も言わずに亜依を抱きしめた。
「大丈夫だから。
ウチが助けるから。
梨華ちゃんと、梨華ちゃんと、梨華ちゃんを」
亜依は、一瞬吉澤を信じきってしまいそうになった自分を
心の中で戒めた。
「冗談だって。
今、ウチのこと、不安に思ったでしょ?
もう任せてよ!」
空元気だった。
こんな事件に巻き込まれてしまって、
自分だって心細いんだということを悟られまいと
吉澤は、亜依をいっそう力強く抱きしめた。
- 167 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)23時31分30秒
- 「安倍さんはあんなことになったし、
なかざーサンは、何や変やし。
‘亜依庵’はどうなるんやろう?
なかざーサン、安倍さんと関係ないやんな?な?
…おとーちゃんが、おってくれたら」
亜依が小さく付け加えた言葉に
吉澤は反応した。
「そういえば、お父さんがいないって言ってたけど
お父さんは?」
亜依は吉澤の言葉に、心臓を鷲掴みされているような気分になった。
答えずに済むものなら、答えたくなかった。
しかし聡明な亜依は、自分が答えなくては
なにもかも進んでいかないことを知っていた。
- 168 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)23時41分30秒
- 「おとーちゃんは…、服役中やねん。
刑務所の中。
脱サラして‘亜依庵’建てるのを急いでしもたんやな。
『無理な借金しおって』って、ふもとの人たちは言うてはる。
借金、取り立てる人…、ウチのガッコウにまで来はってん。
それに、おとーちゃん怒って。その人、殴って。
今、刑務所や」
け、刑務所!?
話が重いような…!
淡々と喋る亜依と、ふと目があった吉澤は
この小さい子供に自分の気持ちを全部見透かされた気がして
恥ずかしくなった。
- 169 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)23時42分23秒
- 亜依は別段気にも留めず、少し早口で喋り続けた。
「おかーちゃんは…、ホントのおかーちゃんは
今どこにいてはるのか、知らへん。
ウチんとこの親、3年前に離婚しはってん。
なかざーサンがいてはるのに、ホントのおかーちゃんの
居場所なんか、ウチは聞かれへん。
おとーちゃんにもウチにも、ようしてくれてる。
あっ。
なかざーサンは、おとーちゃんの新しいお嫁さんやねんか。
なかざーサンは、幸せなんかな?
おとーちゃんは服役中やし、
こんなに大きい連れ子はおるし、
ふもとの人には陰口たたかれてるし。
なかざーサン、幸せなんかな?」
吉澤は自分の気持が穏やかになってきているのが不思議だった。
あたたかいものに、心が包まれているような気分だ。
そして自分でも気付かないうちに、口を開いていた。
- 170 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)23時52分38秒
- 「女将のこと、好きなんだね?」
だまって頷く亜依を見て、吉澤は決心した。
「女将には、きっと何か事情があるんだよ。
大丈夫。あの女将が、人殺しなんかするわけないよ。
もちろん梨華ちゃんだって」
そう言って、吉澤は立ち上がった。
不思議そうに吉澤を見あげる亜依に向かって
吉澤はニコッと微笑んだ。
「ちょっと『ここにいるぜぇ!』の間に行ってくる。
梨華ちゃんを取り返してくるね。
だって梨華ちゃんが、安倍さんを殺してなんかないから!」
証拠はゼロだし、変態オマワリはいるし。
見通しは暗いけど、行くしかない!
梨華ちゃん、今助けるからね。
吉澤は「ここにいるぜぇ!」の間に向かって、一人、部屋を出た。
- 171 名前:婆金_noname8 投稿日:2003年09月07日(日)23時56分40秒
- 更新終了です。
>161 名無し様
レス、有り難うございます。
いつになったら、完結できるのか?頑張ってみたいです。
いしよし…。頑張ってみたいです。
- 172 名前:名無し 投稿日:2003年09月08日(月)20時42分12秒
- 人それぞれのストーリーがあって楽しいです。
ついに吉澤さん禁断の間につっこむのですね。楽しみです。
作者さんのペースでゆっくり頑張ってください。
いしよしはホント気にしないで(w
- 173 名前:非サスペンス 投稿日:2003/10/05(日) 16:35
- トクン、トクン。
「ここにいるぜぇ!」の間近くの、真っ暗な廊下に
膝を抱え込むように座った吉澤は、
自分の意志に反して大きく鳴る心臓音に驚いた。
こんなに心臓が高鳴るなんて…。
ウチは…、焦ってるのかな?
まさか、あんな言葉なんて信じないけど…。
「ここにいるぜぇ!」の間に向かった吉澤は
部屋の前で番をしている高橋巡査と紺野巡査の話し声を聞いてしまったのだ。
- 174 名前:非サスペンス 投稿日:2003/10/05(日) 16:36
-
「のうのう、保田巡査長は今夜、石川さんを喰うと思う?」
「そうですね…。石川さんは保田巡査長のモロ好みなので、危ないですね」
「ホント、あの人は若くて可愛い娘。さんが好きやざ…」
「この前なんか寝言で
『これからこの界隈の娘。は全員、私が大人にしてあげるわよ!』
って、言ってましたからねー」
吉澤は、ぶんぶんと首を振った。
「ダメだ…。
やっぱり、どうにかしなきゃ!」
一人意を決した吉澤は、
静かに立ち上がり、ある場所に向かって歩を進めた。
- 175 名前:非サスペンス 投稿日:2003/10/05(日) 16:38
-
ハァー。もう、何かサイアク。
せっかくよっすぃーと、お泊まりデートだったのに…。
変なお巡りさん…、保田さん?に、セクハラまがいのことされちゃうし。
肩抱かれて、耳元で「今夜、イイよね?」なんて囁かれたなんて
絶対よっすぃーに言えない…。
でも…。
よっすぃー、元カレからもらった手紙なんか持ってくるし…。
よっすぃーのバカ!
本気で好きだって言ったじゃん
どんな事だってするよ
悪いとこがあったら教えて?
ねえ?ねえ?
なによ!
人が真剣に話してるのに
電源切ってよ。
私の気持ち知ってて口説いたんでしょ?
そうよね?好きなのよね?
そうギュッっとして抱きしめてよ〜!
でも…。
安倍さん…。
本当に私、知らない。
どうなっちゃってんだろう?
それに保田さんは、何だか急にいなくなっちゃったし。
部屋の前にいたお巡りさん達に呼ばれたみたいだけど…。
- 176 名前:非サスペンス 投稿日:2003/10/05(日) 16:39
-
ずっと、ずーっと出番のなかった石川は
今までのうっぷんをはらすように、いろんなことを一気に思った。
- 177 名前:非サスペンス 投稿日:2003/10/05(日) 16:40
- 保田巡査長は出ていったが「ここにいるぜぇ!」の間には、
何故か布団は一組しか敷かれてない。
石川は、一時でもやっと保田巡査長から解放された安堵感から
ゴロンと、その布団の上に横たわった。
「あーぁ。
よっすぃー、早く助けにきてよ…。
私、もう待てないよ?」
ふくれっ面の石川が独り言ちた。
「待たせた?
ちょっと時間がかかっちゃった。
…ごめん。
えーっと。
ギュッとして抱きしめたらいいの?」
- 178 名前:非サスペンス 投稿日:2003/10/05(日) 16:42
- 聞き覚えのある、あたたかな声に、石川が慌てて振り向くと
両開きのふすまを開き、そこから自分を覗いている吉澤を発見した。
「ここにいるぜぇ!」の間に置かれた行燈が
吉澤の照れ笑いを浮かび上がらせる。
「よっすぃー!
………ずるい」
マッハで飛び起きた石川が、吉澤の胸に飛びつく。
- 179 名前:非サスペンス 投稿日:2003/10/05(日) 16:43
-
「梨華ちゃん、好きだよ。
でもなんで、ずるいの?」
石川を抱く手にギュッと力を込めながら、吉澤が聞いた。
「だって、よっすぃー、ヘラヘラ笑ってても格好いいから…。
それに、なんかタイミング良すぎだよ?」
「王子様みたい?」
「…うん。
王子様みたい」
再会の喜びを確かめ合うように、石川と吉澤はきつく抱き合った。
- 180 名前:婆金_noname8 投稿日:2003/10/05(日) 16:45
- 更新終了です。
>172 名無し様
レス、有り難うございます。
やっと、やっといしよしです。
何とか完結したいです。
- 181 名前:名無し 投稿日:2003/10/05(日) 23:45
- 石川さん出番が来て良かったね…。
そ、そして、いしよしキタ━(゚∀゚)━!!
ゆっくり頑張ってください。
- 182 名前:Silence 投稿日:2003/10/19(日) 14:10
- 更新お疲れ様です。
密かに毎回楽しませてもらってます。いしよしが久に来たんで
うれしかったです。ぶちゃけ事件のことを忘れつつありました(w
- 183 名前:非サスペンス 投稿日:2003/11/03(月) 16:43
- しばらく吉澤を体いっぱい感じていた石川だが
ふと、一つの疑問が頭を過ぎる。
そして吉澤から体を離し、その問いを投げかける。
「よっすぃー?
どうやって、この部屋に入れたの?
保田さんはどこにいったの?」
もう少しの間、石川を抱きしめていたかった吉澤は
石川に体を離されて、少しゴキゲン斜めになった。
が、次の瞬間、天才的な考えを思いつき
早速その考えを石川にぶつけてみた。
「チュウしてくれたら、タネあかしするよ?」
「え〜、チュウとひき換え?」
暗い部屋の中で、石川の顔が曇る。
「チュウする?
しないと、教えてあげない」
悪戯っぽく言う吉澤に、石川は観念した。
暗くて寒いはずの部屋が、
石川もに吉澤にも
あったかくて、明るい部屋に感じられた。
- 184 名前:非サスペンス 投稿日:2003/11/03(月) 16:47
- 「…えーと。
だからね、見張りのオマワリ二人をまた餌づけしようと思ってね…」
吉澤は餌づけ用の食料を探しに‘亜依庵’の厨房に行き
そこで見聞きしたことを、石川に説明した。
「何か料理を作りながらね、バイトの子二人が喋ってたんだよねー。
やっぱ、喋ることってコイバナしかないよねー?
でもビックリしたよ!
いやー、やるねー。紺野巡査だっけ?
バイトの小川って子はね、あの紺野巡査のことが好きなんだって!!」
他人のことなのに、とてつもなく興奮して喋る吉澤に
石川は笑いがこみ上げてきて仕方がなかった。
そして吉澤がいてくれるだけで、今までの緊張が解ける気がして不思議だった。
「だからね、餌づけ作戦は変更。
何も持たずに『ここにいるぜぇ!』の間の前まで帰ってきて
紺野巡査に、耳打ちしてやったんだ。
そしたら、紺野巡査も小川のことを好きみたいで…。
『小川の気持ちを教えてやったんだから、言うこと聞け!』ってね!」
- 185 名前:非サスペンス 投稿日:2003/11/03(月) 16:48
- 得意げに言う吉澤に、
かすかに溜息をつきながら石川が質問する。
「紺野巡査に何を頼んだの?
それに、高橋巡査は?
高橋巡査もいなくなっちゃったみたいだけど…?」
石川の問いに、
待ってました!とばかりに、鼻息も荒く、吉澤が答える。
「紺野巡査と、高橋巡査に
ちょっとの間、保田を温泉にでも連れていってくれ!って頼んだの」
気持ちがのってきたのか、吉澤はいきなり
石川のほっぺにチュウをした。
吉澤の不意打ちに、全身の力が抜ける気がした石川だったが
ここでメロメロになってしまっては、話が進まない。
頑張って、ごまかし笑いを浮かべながら
吉澤に話を進めるよう、促した。
- 186 名前:非サスペンス 投稿日:2003/11/03(月) 16:50
- 「あ、えーと。なんだっけ?
そーか、そーか。
高橋巡査ね。
えーと、高橋巡査に向かってね?
ちょいと生意気っぽい青年風に
粋なステップでUp Side Downしながら
『Oh!心が痛むというのかい?
うーん、Baby それは恋…。
恋煩いさ。
きっと、僕と出会ったから
君は恋をしたんだね。
さあ、もう大丈夫。
僕はここにいるよ。
おいで、踊ろう!』
って言ったら、目がハートになって
すぐに協力してくれたよ?」
石川はとうとう、へなへなと力無く、その場に座り込んでしまった。
あの技を使ったのね?
あれはもう使っちゃダメだって言ったのに〜。
全然悪びれた様子もないし。
…よっすぃーのバカ。
- 187 名前:非サスペンス 投稿日:2003/11/03(月) 16:53
- 吉澤が高橋巡査に施した技というのは
吉澤達のクラスの、今年の文化祭の出し物のことだ。
体育館の即席ステージの上で
男役の吉澤を中心に、十数人のクラスメイトが歌い踊る。
しかも吹奏楽部ビッグバンドの生演奏付き。
明るくて、ちょっぴりおかなしな行動癖のある吉澤は、クラスの人気者だ。
いや、クラスのみならず
他の生徒から抜きん出た運動神経と、少年さを微妙に加味する美少女ッぷりで
一年生ながら、学校中の人気者だ。
そんな吉澤が、舞台の上で
一度バチーンッとウィンクすれば
数十人の女生徒が一斉に魂を抜かれてしまう。
二度バチーンッ、バチーンッとウィンクすれば
十数人の女生徒はその場でとろけて、バッタバッタと倒れてしまう。
大変な危険を伴う、という理由で
三度バチーンッ、バチーンッ、バチーンッとウィンクするのは
クラス担当の教員によって阻止された。
- 188 名前:非サスペンス 投稿日:2003/11/03(月) 16:57
- そんなわけで、常日頃から人気の高い吉澤ではあったが、文化祭後はまた格別。
告られる、告られる、また告られるの日々。
他校の女子数人から、プチストークされるなんてことも。
喉元過ぎれば熱さ忘れる、で
文化祭による一過性のブームは過ぎてしまったが
それでも吉澤の人気レベルはアップした。
石川が、ヤキモチを焼くのは至極当然なことで
吉澤に対して、男役禁止令を出していたのだ。
目を輝かせて「うん!判った!!」と
元気よく頷いてみせた吉澤だったが、
すっかり禁止令のことなど忘れてしまったようだ。
「梨華ちゃん、何落ち込んでんの?
座ってる暇はないよ。
この部屋から逃げて!」
忘れん坊な吉澤が、いつになく真剣な態度を見せるので
石川はおもわずドキッとしてしまう。
- 189 名前:非サスペンス 投稿日:2003/11/03(月) 16:58
- 「なにボーっとしてるの?早く!」
そう言いながら手を取る吉澤に、石川は不安になって尋ねた。
「そんなことして、大丈夫?
見つからない?」
吉澤はニカッと笑って、答えた。
「大丈夫!
ウチが梨華ちゃんの身代わりになって、ここに残るから!!
梨華ちゃんだけが、逃げて?」
石川の頭の中に‘?’の山ができる。
「え?
何言ってるの?
身代わりって?
いくら停電だって、そんなのすぐにバレるじゃん?
それに、私一人で逃げろって言われても…。
どこに逃げたらいいのか分かんないよ!」
- 190 名前:非サスペンス 投稿日:2003/11/03(月) 16:59
- 吉澤は不安がる石川を抱きしめながら答えた。
「保田は美少女が好きなんだ。
美少女臭さえしてたら、多少の変化なんて気付かないハズだから。
ウチが梨華ちゃんの代わりに、ここに残るね。
保田に手を出されても、逆にウチの腕力でねじ伏せてやるから!
それから、梨華ちゃんはどっかの部屋に逃げて?
…あ、中澤女将の動きが怪しいっぽいから気を付けて。
さ、アイツらがいつ戻ってくるか分からない。
早く行って!」
石川は
何となく分かるような分からないような、吉澤の説明を受け
背中を押されるように半強制的に「ここにいるぜぇ!」の間から脱出した。
- 191 名前:婆金_noname8 投稿日:2003/11/03(月) 17:04
- 更新終了です。
>181 名無し様
レス、有り難うございます。
待たせてゴメンね、石川さん。
やっと終わりに近づいてきたかもしれません。
>182 Silence様
レス、有り難うございます。
早速いしよしは、はなればなれに…。スミマセンスミマセン
そして事件のことは、誰よりも自分が忘れている自信があります!
- 192 名前:名無し 投稿日:2003/11/03(月) 20:05
- むひー。激甘の練乳を飲ませれたみたいな、いしよしっぷり。
最高です。
美少女臭かぎてー
- 193 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/08(月) 22:27
- 急に一人になった石川は、困惑し、途方に暮れた。
「一体、何がどうなってんの?
私の目の前で、いきなり安倍さんが倒れてそのまま…。
…よっすぃー、何か手がかりつかんだのかなー?」
ボソッとこぼした独り言が
‘亜依庵’の、ひんやり冷たく暗い廊下に
悲しいくらい静かに響く。
あぁ!
早くどこかの部屋に入ろう!!
不安になってきた石川は、
行燈だか懐中電灯のほの暗い灯りが漏れている
最寄りの部屋に飛び込んだ。
「す、すいません!
ここに入ってもイイですか?」
- 194 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/08(月) 22:28
- 突然の訪問者に対しての反応は、三者三様だった。
黙って、疑い深げな眼差しを石川に向けていたのは飯田。
何故だか、照れくさそうに笑いながら石川を眺めていたのは辻。
「『入ってもイイですか?』って、自分、もう入っとるやん?」
と関西系ツッコミを入れたのは、中澤女将の娘。亜依だった。
あぁ!
中澤女将の動きが怪しいから気をつけろ、って
よっすぃーに言われてたんだ!!
どうしよう?
いきなり、中澤女将の娘。がいるよぅ〜。
石川は「NON STOP」の間に入っていた。
- 195 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/08(月) 22:29
- すっかり思い詰めた様子の石川を見て、辻が動いた。
「元気のないおねーちゃん、名前なんて言うですか?
辻は、辻です!
元気いっぱいです!!
みんな友達です!!!」
「あ、あぁ。
私?
私は、梨華。
石川梨華よ」
辻の圧倒的な無邪気さを前に、石川はそう言って
自分でもよく分からないごまかし笑いを浮かべるのが精一杯だった。
- 196 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/09(火) 23:48
- 「はい」
いつの間に入れたのだろうか?
飯田が、熱いお茶を石川に差し出した。
停電の続く部屋の中でもかまわず遊ぶ辻と亜依を
石川と飯田は、だまって見守っていた。
歳の近い辻と亜依は、すっかり意気投合したようで
「あいぼん」「のの」と、お互いを呼び合っている。
- 197 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/09(火) 23:50
- 懐中電灯を、顔の真下から照らして「昭和チックなオバケだぞ〜」とか
言い合っては、そのつど笑い倒れている。
そんな二人を、目を細くして眺めていたのは飯田だ。
「辻を守るのは私。
私には責任があるんだ」
座布団2枚分離れて座る石川は、聞き耳をたてたが
飯田の独り言をはっきり聞くことが出来なかった。
だけどその代わりに、じっと見つめた飯田の顔は
まるで母親のような眼差しを辻に送っていた。
石川はその眼差しに、どうしてだか気がひけ息をのんだ。
…なんか、ヘン?
- 198 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/09(火) 23:51
- だが石川の緊張は、長くは続かない。
辻と亜依の、屈託のない笑い声。
そして温かなお茶。
否が応でも、今までの緊張がときほぐれていく。
「ふぁ〜」
大きなあくびが止まらなくなってきた。
ヤバイ。
私、寝ちゃいそう。
まだ何も分かってないのに!
よっすぃーだって、危険な保田さんの部屋にいるし…。
でも………、も、う、ダメ…か …も
- 199 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/09(火) 23:52
- 『寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ』
そればかりを自分に言い聞かせていた石川だが
未だかつて体験したこと無いほどの睡魔が襲う。
遠ざかる石川の意識の中で、愛しの吉澤と、何故だか保田のアップが
交互に脳裏を過ぎる。
吉澤のアップがくれば、安心して眠りそうになるが
保田のアップがくれば、ハッとして少しうつつに戻る。
そんな夢うつつの、うつつの時
「バシッ」と音がした気がした。
ほとんど閉じていた、重い重い瞼をどうにか数ミリ持ち上げると
辻と亜依が、笑い転げた拍子に障子を蹴破ったようだ。
- 200 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/09(火) 23:52
- なんだ、障子が破れただけか…。
ごめん、よっすぃー。
一生懸命頑張ってくれたようだけど、
何もかもが空振りだったみたい。
私、明日になったら、本当に捕まっちゃうかな?
結構良い温泉宿だったのにね‘亜依庵’。
ホラ、バイトの二人かな?
まだ働いてるよ。
お膳持っててるのかな?
…なんか、ヘン?
そう言えば、お腹空いた〜。
私もお客だっての、何か食べさせてよ〜。
でも寝ちゃうよ〜。
破れた障子の向こうに、ぼんやり見える人影を確かめた直後
石川の力が一気に抜けた。
石川、ご就寝。
- 201 名前:婆金_noname8 投稿日:2003/12/09(火) 23:55
- 更新終了です。
>192 名無し様
レス、有り難うございます。
いしよしを書けて良かったです。
そしてそれを楽しんでいただけたのなら、本望です。
有り難うございます。
美少女臭、嗅ぎたい!
- 202 名前:名無し 投稿日:2003/12/10(水) 12:53
- どうなるんだろう……楽しみ
- 203 名前:sai 投稿日:2003/12/14(日) 16:19
- あら、石川さん寝ちゃった。人影って誰だろ〜?
- 204 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:16
- 布団の中で目を覚ました石川は、
ぽかんと口を開いて目の前で起きていることを眺めていた。
そしてそれが、さっきまで見ていた夢の続きではなく
現実だと分かるまでには、少しの時間が必要だった。
石川は、布団の上で起きあがり
何か少しでも情報を得ようと、辺りを見回した。
雪が、ようやくやんだようだ。
障子越しでも、部屋に差し込んでくる朝日が眩しい。
テレビもついている。
誰かが言っていたとおり、停電も直ったみたいだ。
この調子なら、電話も生き返っていることだろう。
辻が泣いている。
そして石川の目の前で、
飯田が保田巡査長に手錠をかけられ、部屋の外へ連れ出されようとしている。
- 205 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:17
- だんだんと覚醒していくにつれ、ことの重大さに気付く石川の血の気が退いていく。
がっくりとうなだれる飯田の姿に、石川は息が詰まりそうになった。
飯田さんが犯人?
飯田さんが安倍さんを?
でも、そんな風にはみえないのに…。
…なんか、ヘン?
なんかヘンなのよ!
寝起きの、まだよく働かない頭に苛つきながら
石川は自分の頭をかいた。
「飯田さんを連れて行くなー!!!」
泣きながらではあるが、いつもの辻には似合わない厳しい表情で
辻が、保田巡査長を睨み付ける。
- 206 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:20
- 「どきなさいよ」
両手を広げて飯田の連行を阻止しようとする辻を
保田巡査長は片手で払いのける。
ちょうど石川の布団の上に、よろけた辻は叫んだ。
「お姉ちゃん、飯田さんを助けて!」
…辻は、藁をもつかむ勢いだったのだろう。
石川は考えた。
一体、何がどうなったのかよく分からないけど
飯田が捕まえられた、ということは私の疑いははれたみたい。
それなのに飯田を助けるということは、また自分に疑いがかかるんじゃ…?
ううん。
私、安倍さんになにもやってないんだし。
この子、こんなに一生懸命頼んでんだし。
私が助けてあげなきゃ!
「ふんっ。
そんな小娘。に何が出来るっていうわけ?
無理ね」
石川の意志が固まった刹那、保田巡査長が捨て台詞を吐いて部屋を出ていく。
- 207 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:20
-
なによ!
私がちょっとかわいいからって。
人がやる気になってる時に、何もその気持ちをそぐこと言わなくたっていいじゃん!
頬を紅潮させながら
石川は「絶対、この人、ギャフンと言わせてやる!」と決意を固めた。
「ホラッ!
泣いてないで、行こう!!」
石川は泣きやまない辻の手を取って、立ち上がる。
「行くって、どこにですか?」
尋ねる辻に
「とにかく、このイジワルお巡りさんについて行くのよ!」
石川は、ニコッと笑って答えた。
- 208 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:21
- エントランスでは高橋巡査と紺野巡査が、飯田を両脇から支えていた。
中澤女将と亜依の他、後藤と市井もエントランスに集まってきていた。
誰かがたりないような…?
…朝からいろいろあって、
石川は愛しいあの人の存在を忘れかけていたようだ。
「寝過ごした!」
ドタバタドタバタと足音をたてて、エントランスに遅れてきたのは
もちろん、石川の王子様。
ハァハァと、王子様は大慌てで呼吸を整えようとしてる王子様を見て
石川はハッとした。
そして石川はそのまま吉澤に近づいて、吉澤の顔をじっと見つめた。
見る間に吉澤の顔が赤くなる。
梨華ちゃん…。
そんな、朝から…?
何を考えているのか分からないが、モジモジしているだけの吉澤は
自分に向けられている石川が、笑いを噛みしめている表情をしているなんて
露ほども思っていなかった。
- 209 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:22
- 「…よっすぃー」
「梨華ちゃん…」
「よっすぃーのこと、今までも王子様だと思ってたけど…。
よっすぃーって、本当に王子様だったんだね」
「え?
梨華ちゃん、何言ってるの?」
「だって、おでこにホラ。
『にく』って書いてあるよ?
キン肉星の王子様でしょ?」
「え?
梨華ちゃん、何言ってるの?」
そんな高校生カップルの若々しい会話を、苦々しい顔で見ていた人物が、
あきらめ気味に口を開いた。
「ちがいますよ、石川さん。
残念ですが、吉澤は王子ではありません」
自分をキッと睨み付けてくる石川に、余裕の表情で微笑み返しながら
紺野巡査が、吉澤のおでこを指さす。
- 210 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:23
- 「ホラ、ちゃんと見て下さい。
吉澤さんのおでこに書かれている文字は『にく』。
漢字の『肉』ではありません。
因みに書いたのは、もちろん保田さんです」
いかにも残念そうに、首を振る紺野巡査。
その意味を全て理解した石川は、涙さえ流しながら
吉澤が王子様でなかったことをくやしがった。
吉澤は、そんな石川の肩を優しくポンポンとたたいて
「何がどうなってンのか分かんないけど、梨華ちゃん泣かないで?」と
声をかけた。
石川は、吉澤の優しさに改めて惚れ直し、涙を拭った。
「そうだね。
よっすぃーが、キン肉星の王子様じゃなくて、ミートくんだったとしても
私にとっては王子様だから!
王子様みたいな人 やさしくて
見た目はへなちょこリンだけど 王子様みたいな人
って思ってることいわないでおけないよ?」
「梨華ちゃん…」
「よっすぃー!」
- 211 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:24
- ひしと抱き合う二人の脇を、わざと通りながら
「あーぁ、邪魔だ。邪魔だ。
まったく朝から何やってんのかしら!?」
と、保田巡査長が言う。
「お邪魔は、保田巡査長では?」と、一斉に皆思ったが
それは各人、胸にしまっておくことにした。
「どきなさいよ!
容疑者の身柄を交番に移送よ!!」
寝坊してしまった吉澤は、そこで初めて飯田の姿を確認した。
「何?
どうなってんの?
ウチが寝てる間にどうなったの?
まさか飯田さんが、安倍さんを?」
「私も分からないの。
…私も寝ちゃってたから」
「今朝早く、本部から電話で連絡があったわ。
犯人は飯田よ!」
困惑して顔を見合わす吉澤と石川に、勝ち誇ったように保田巡査長が口を開く。
「そんな!
飯田さんは犯人じゃない!!」
「じゃあ、誰が犯人だっていうのよ!?」
不信感ありありにくってかかる吉澤に、保田巡査長が問う。
- 212 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:25
- 「えっ?
誰って。
それは分からないけど、とにかく飯田さんは犯人じゃない!」
吉澤は少し勢いが弱くなりつつも、必死にくらいつく。
「何で、飯田が犯人じゃないって言い切れるのよ?」
余裕の表情さえ浮かべて保田巡査長が言う。
「何でって言われても…。
…とにかく飯田さんはいい人だから犯人じゃないよ!
だから飯田さんを放せ!!」
そんな押し問答チックな会話を聞き流しながら
石川は少し別な思いを巡らせていた。
私も飯田さんは犯人じゃないと思う。
飯田さんが犯人って決めつけるのは…なんか、ヘン?
そうよ、なんかがヘンなのよ。
もぅ〜、なにがヘンなんだろう?
それさえ分かれば、飯田さんを助けられるのに!
石川は、心の底から沸き上がる違和感に引っかかっていた。
そんな時、石川の前を
亜依庵のバイト、小川と新垣がお膳を持って通り過ぎていった。
「あっ!」
その光景に思わず声をあげた石川は、不思議そうにこちらを見ている亜依に訊ねた。
- 213 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:25
- 「さっき!
さっき、バイトの人が通ったよね?」
「そら、エントランスは廊下も兼ねてるから、通りもするわ。
そやけど、それが何か?」
亜依は思いがけない言葉を聞いたように、まじまじと石川をみつめた。
だが石川は、亜依などまるでいないかのように
一人で、うんうんと頷き始めた。
「ちょっとアンタ、なんやの?」
たまりかねた中澤女将が口を開いた。
石川は背中がゾクゾクとするのを感じていた。
謎は全て解けた。
- 214 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:26
- 「謎が、謎が解けたんです。
辻ちゃん?
飯田さんは犯人じゃないよ?」
特有の人一倍甲高い声で石川が辻に喋りかける。
「ちょっと、石川まで何を言うの!?
だから飯田が犯人じゃなきゃ、誰が犯人だってのよ!?」
その質問待ってました!と口元だけで笑って、石川が喋りだす。
「いいですか?
みなさん、静かに私についてきて下さい」
石川は唇の前に人差し指を立てて、しーっとジェスチャーをしながら、一同を
「ヒ・ミ・ツのお部屋だから、開けちゃダメ(はぁと」の間の前まで連れてきた。
「よっすぃー、隣りに来て?」
石川はヒソヒソ声で吉澤を隣りに呼び、しっかりとその手を握った。
「じゃあ、みなさん。
今から、謎を解きます。
というか、そもそも犯人なんていないんです。」
スゥーッと深呼吸した後、石川は思いっきり
「ヒ・ミ・ツのお部屋だから、開けちゃダメ(はぁと」の間の引き戸を開けた。
- 215 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:27
- 「安倍さんは死んでなんかないんです!!!」
布団の上であくびをしていた安倍が、石川の大声に驚いて振り向く。
「びっくりしたべ!
死ぬかと思った〜!!」
いきなり元気な姿を見せる安倍に、一瞬息をのんだのは飯田だった。
「生きてたの?
せっかく…、せっかく全てうまくいきかけてたのに」
力無く言う飯田に、安倍が声をかける。
「本当に死んでた方が良かった?
アイタ!
辻ちゃん、探したべ〜?」
辻は何度も「生きててよかったです!生きててよかったです!!」と叫び
安倍にボディアタックをきれいに決めた。
- 216 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:29
- 釈然としない吉澤と後藤と市井が、石川に訊く。
「何で安倍さんが死んでないって分かったの?
辻ちゃんは安倍さんと知り合いなの?
っていうかさ、昨日から一体何があったの?」
「私、昨日の夜、あっ、寝る直前なんですけど
ものすごいお腹すいたんですよね。
安倍さんが私の目の前で倒れて、保田さんの部屋に連れて行かれたりして
そりゃあ、初めは食欲無かったんですけど。
でも、よっすぃーに助けてもらって
保田さんの部屋を出たら、安心感からか、すごくお腹すいて。
でも眠たくて…。
で、眠りに落ちる瞬間に、バイトの二人がお膳を持って歩いてるのを見たんです。
『あー、私もご飯食べたいなぁ』って、思いながら二人を見てたんですけど
その様子が、何かちょっとヘンだったんです」
石川はそこで一旦句切って、少し笑って見せた。
- 217 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:29
- 「昨日は、何がヘンだったのか分からなかったけど…。
私が昨日眠ってしまった部屋から見たら、二人が向かってた方に客室は
「ヒ・ミ・ツのお部屋だから、開けちゃダメ(はぁと」の間しかないんです。
そう、バイトの二人は、お腹がすいた安倍さんに食事を届けに行ってたんです。
さっきは、きっとそのお膳を下げに行ってたんでしょうね?」
「で、昨日から、一体何が起きてたの?」
得意げな顔の石川に、後藤が訊ねる。
「う…!
それは分かりません」
そう言って石川は、居心地が悪そうに目をそらした。
「しゃーないな…。
音便に済まそう思うてたけど。
こっから先は私が説明したるわ」
めんどくさそうに中澤女将が、石川の説明を継いだ。
- 218 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:30
- 「安倍さんと飯田さんは、同じ児童施設で働いとんねん。
まぁ安倍さんは正職員、飯田さんはバイトっていう違いはあんねんけど」
フゥーッと息を吐き、中澤女将は吉澤、石川、後藤、亜依の顔を順番に眺めた。
「もう察してるやろうけど。
…辻は赤ちゃんの頃から、その施設で育ってる。
…辻はおとんの顔も、おかんの顔も知らへん」
中澤女将は、いつになく真剣に何か考えながら
言葉を選んで喋っているようだ。
それが辻を気遣ってのことだと、誰もが悟っている。
少し間をあけて、また中澤女将が口を開く。
- 219 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:31
- 「飯田さん。
全部、安倍さんから聞いたわ。
辻は、アンタが小学生の頃、近所の公園で見つけはったんやな?
アンタが見つけて、アンタの両親と一緒に警察へ届けたって。
アンタ…ずっと、辻のことが心配やってんやんな?
そやから辻のおる施設を調べだして、そこでバイト始めたんやな。
それが辻が年齢的に、あと数年で施設を出えへんとアカンって分かったから
無断で辻を施設から連れ出したんやな?
…自分で辻を育てようとしたんやな?」
天を仰ぐように、顔を上に向けたままの飯田は
辻の前で涙を見せないように必死だった。
- 220 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:33
- 「そやけどな、アンタ?
いくら、自分の実の子供のように思うてても
黙って施設から連れてきたら、そらアカン。
大学生言うたかかて、もう大人や。
分かるやろ?
実の親ちゃうから、辻を育てたらアカンとか言うとんとちゃうで?
親には…、子供を守る責任があんねん。
それが子供を、こんな不安定な状態にしてどないすんねん!」
「飯田さんを悪く言うな!」
くぎを差すような強い中澤女将の口調に、
飯田が怒られていると勘違いした辻が、反論する。
- 221 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:33
- 「飯田さんは、いい人です!!
辻が…、辻が飯田さんと一緒にいたかったから
飯田さんに頼んで、ここに連れてきてもらったんです!!!
飯田さんは悪くない!
ごめんなさい、悪いのは辻です。
悪いのは辻です。
飯田さんの手錠を外して、辻にかけて下さい」
「辻!
いつも、嘘は言っちゃダメだって言ってるでしょ?」
辻が見た飯田の頬には一筋の涙が光っていた。
- 222 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:34
- 「辻ちゃん…。
分かってるから。なっち、全部分かってるから。
なっちと一緒に施設へ帰ろう?
ごめんね。
なっち、施設の所長さんたちに頼まれて
飯田と辻ちゃんを探しに来たんだ?
でも、2人の楽しそうな姿を見たら…。
2人が一日でも一緒に居られたらなって思ってさ。
だからなっち、自分の存在を秘密にしようと思ったんだけど
昨日、男湯に入ろうとしたら飯田に見つかってさ。
それで、どうしようかな?って思って、ここの女将さんに相談して…。
どうせ吹雪で山から下りられないし
一日だけ、なっちが死んだっていう、一芝居うつことになったんだべ。
なっちがいなかったら、2人とも自由に過ごせるかな?って思ったべさ」
照れ笑いかごまかし笑いか分からない笑みを浮かべる安倍に
皆一様に「相談する相手、間違ってる!」と、心の中でツッコんだ。
- 223 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:34
- 「でも警察の人は来ちゃうし、よっすぃーは大騒ぎするし
朝になったら、施設が直接警察に連絡入れてることが発覚するし…。
あーぁ!
作戦コードネーム
『なっちは2度死ぬべ、じゃなくて。
ドキッ!娘。だらけの温泉に悲しく響く断末魔!?
若(?)女将の謎とは!!
全ての謎を解くきっかけは…JAR●って、何じゃろ?』は失敗だべさ」
安倍はそう言って、ニコッと笑った。
- 224 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:35
-
全てが嵐のように過ぎていった。
亜依は玄関に立ち、安倍に手を引かれて‘亜依庵’を出ていく辻の後ろ姿を見送った。
そして、辻の姿が見えなくなるまで、力の限り手を振った。
「せっかく仲良うなったのに、残念やったな」
亜依の隣で2人を見送っていた中澤女将は、そう言って亜依の肩を抱き寄せる。
「雪があがったゆうたかて、まだ寒いなぁ?
今度はあったかい時季に、また来てもらおな?
さ、エントランスに入ろう」
中澤女将が、辻を促すように微笑む。
- 225 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:38
- エントランスでは、帰り支度を済ませた市井・後藤、吉澤・石川が
ふかふかのソファーに座ってくつろいでいた。
「おとぼけ警察トリオも、飯田さんを連れて山を下りたし
安倍さんも辻ちゃん連れて山を下りたし
ウチらもそろそろ行こうか、後藤?」
市井は後藤へ手を伸ばしながら言った。
「うん。
あ、ねぇ、いちーちゃん。
昨日からのことで犯人がいたとしたらさ、飯田さんだったのかな?
飯田さん、交番に連れて行かれたでしょ?
大丈夫かな?」
不安が、後藤の胸を過ぎる。
「大丈夫だよ!
安倍さん、施設に戻ったら飯田さんを起訴しないように
他の職員達を説得するって言ってたし」
市井はそう言いながら更に手を伸ばして、後藤と手を繋ごうとする。
「そうだね。
じゃあ、いちーちゃん、派手に行くべ!」
後藤は立ち上がって、市井の差し出す手を無視る。
- 226 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:38
- 「梨華ちゃん、ゴメンね?」
吉澤は不安げな表情になって、石川に喋りかけた。
「ん?
何のこと?」
石川はいかにも楽しそうに、口元に笑みを浮かべて吉澤に訊く。
「え?
何のこと、って。
えーと、中学ン時のカレシの手紙…」
すっかり思いつめた様子の吉澤が唇を噛みしめる。
「お泊まりデートに、前のカレシからもらった手紙を持ってくるなんて、
もうよっすぃーなんて知らない!」
石川は、そっぽを向いた。
「ごめんなさい」
情けないほど惨めな声を出す吉澤は、しゅんと小さくなってしまった。
「知らないなんてウソだよ?
昨日は、保田さんから助けてくれてありがとう。
すっごい嬉しかったよ?」
悪戯っぽい表情をやめて、石川は吉澤に素直な感謝の気持ちを伝えた。
- 227 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:39
- 「そや、そや。
きっと全てはうまくいくんや。
人間、一回くらい失敗してもいいんや」
いきなり始まった、若(?)女将の人生説教に
吉澤も石川も市井も後藤も亜依も「長引きそう〜」と
内心がっくりとうなだれたが、
不思議と「やめてくれ」という気分にもならず
気付いたら、ご静聴する空気になってしまっていた。
「失敗しても、やり直すチャンスは、ちゃんとあんねん。
そら、失敗で無くした信頼を取り戻すのは容易じゃないかもしれん。
でもちゃんとやり直せる。
しんどかったら、まわりの人が支えてやったらええねん。
吉澤、石川?
市井、後藤?
お互いに支え合っていったらええ」
ここまでくると、皆おとなしく頷きながら、中澤女将の有り難い説教を聞いていた。
- 228 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:39
- 「私は、おとーちゃんのこと好きやねんか。
めっちゃ好きやねん。
でも、一人でおとーちゃんを支えることは出来へんかもしれん。
一緒に…、私と一緒におとーちゃん支えて欲しいねん。
ええ?」
そう言われた亜依には、いつも気丈な中澤女将がどことなく気弱に見えた。
それは少し意外な気持ちもしたが、
亜依はこの際ずっと言いたかった言葉を、思い切って口に出してみることにした。
「ええで、おかん」
「おかんって、おかんって!
初めて…。
頑張れる。私、頑張れる。
おかんやから…」
声を震わせながら、やっとのことで喋る中澤女将。
ダンナの連れ子から、初めてお母さん扱いされて号泣だなんて、
もっすごい昭和チック!
端で見ている吉澤・石川、市井・後藤も
ハンケチで涙を拭っている。
- 229 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:40
- 「本当のおかーちゃんの住所、いつでも聞いてな?」
「うん、まぁ、今度聞くわ」
亜依は、おかんと言ったことにまだ照れていて
中澤女将の言葉には、おとなしく答えただけだった。
「春には、3人で一緒にご飯食べよな?
あと少ししたら、おとーちゃん帰ってくんで」
中澤女将が亜依の耳元で呟くと
亜依は中澤女将にすがりついて「おかん!おかん!」と泣きじゃくった。
「いちーちゃん、今のうちに行こう?」
聞こえるか聞こえないかくらいの小声でそう言って
後藤が市井の袖を引っぱる。
- 230 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:41
- 静かに席を立つ2人に気付いた石川が、「あっ」席を立とうとしたが
後藤に制止される。
「ホラ、後藤、ガッコーあるのに、いちーちゃんについてくじゃん?
中澤女将にあれこれ言われない方がいいんだよね?」
後藤は、少しばつが悪そうに石川に耳打ちする。
合点した石川はソファーに座り直し、中澤女将と亜依を背中に
‘亜依庵’を出ていく市井と後藤を目だけで見送った。
ふと隣を見ると、目にも留まらぬ早業で
吉澤がすやすやと眠り込んでいた。
「よっすぃー。
昨日、大変だったもんね?
眠いよね?」
石川は自分が着ていたピンクのコートを、そっと吉澤に掛けてやった。
「市井と後藤は、行ったか…」
- 231 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:41
- 突然の言葉に、石川がドキッとして後ろを振り向くと
そこには中澤女将が立っていた。
しかし、目を赤く腫らした中澤女将の姿に石川は
だんだん胸の中にあたたかいものが広がっていくのを感じた。
「市井と後藤は早う行った方が良かった。
でもアンタら2人は違う。
もう一泊していき?
料金も2日で一人、¥1,444にしたるわ!
寝てる王子様起こして、お風呂に入ってきいや?
ウチんとこの温泉は恋愛に効くって、秘かに噂があんねんで。
お風呂あがりには、ここらでとれる食材で作る
‘亜依庵’特製の料理を用意したる!
その代わり、また来てな?
親連れて!」
「そうや、親連れて来てな?
人数倍増!料金倍増!!」
亜依が笑顔で、中澤女将に続く。
- 232 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:42
-
「えへへ。
やっと2人っきりになれたね」
チャポーン
「もうっ、よっすぃー。
目が何だかやらしいよ?」
チャポーン
「ふへへ。
だって、2人しかいないんだよ?
お風呂貸し切りだねー!」
チャポーン
「そうだね、昨日のやり直ししよ?」
チャポーン
「うん!
梨華ちゃん…。
チュッ」
ピン・チャポー
「よっすぃー…。
チュッ」
チャポーン
- 233 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:43
- 「あ、でもさー梨華ちゃん。
不思議だよね?」
チャポーン
「何が?」
ピン・チャポー
「だって、矢口さんだっけ?看護士。
本当の看護士だよね?
あの人、安倍さんをみて『もうしんでる』って言ってたのに」
チャポーン
「そう言えば、そうだよね…」
チャポーン
「オイラ『もう死んでる』なんて言ってないよ。
シャーペン使ってたから『もう芯出る』って言っただけだよ」
チャポーン
- 234 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:43
- 「ヒィィィィィ!
いつの間に?」
チャポーン
「初めからいたよ?
潜ってたから気付かなかったかな?」
ピン・チャポー
「まさか!?」
チャポーン
- 235 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:44
- 「チュウだけかよ!?」
「市井ちゃん…。
後藤たちはまだ何にも…なのに」
「どこかにカワイコちゃんはいないかしら?」
「交番、戻ったんちゃうんか!」
「おかん、今日も非番らしいで?
ったく暇なオマワリやな」
チャポーン
- 236 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 00:46
- 「わー!わー!
やっぱりみんないる!!」
「よっすぃー、よっすぃー
落ち着いて?」
「だって、梨華ちゃん
チュウ見られたんだよ?
チュウ、チュウ、チュウ!」
それを最後の言葉に、大量の鼻血を噴射しながら気を失った吉澤。
「キャー!!!」
温泉宿に響く、石川の声。
「今度は吉澤が殺された〜!
殺人事件よ!!」
「もぅっ、保田さん!
よっすぃーは死んでません!!
勝手に殺人事件をでっち上げないで下さい」
今日も今日とて平和な激安温泉宿‘亜依庵’である。
- 237 名前:非サスペンス 投稿日:2003/12/24(水) 01:00
- 非サスペンス劇場
湯けむり殺人事件
〜ドキッ!娘。だらけの温泉に悲しく響く断末魔!?
若(?)女将の謎とは!!
全ての謎を解くきっかけは…JAR●って、何じゃろ?〜
了
■ Special Thank's ■
ごまべーぐる様
birdmen様
- 238 名前:婆金_noname8 投稿日:2003/12/24(水) 01:07
- 終了です。
お目汚し、失礼いたしました。
読んで下さった方、本当に有り難うございました。
>202 名無し様
レス、有り難うございます。
いつも更新が遅くてすみませんでした。
ずっと読んで下さって、心の励みになっていました。
感謝しています。
>203 sai様
レス、有り難うございます。
謎は解けたでしょうか?心配です。
こんな話でスイマセン、スイマセン。
少しでも楽しんでいただけたら、本望です。
- 239 名前:婆金_noname8 投稿日:2003/12/24(水) 01:13
- この作品のサブタイトルは
ごまべーぐる様・birdmen様のご協力を得てつけました。
本当にありがとう!
最後に、先にも書きましたが
読んで下さった全ての方、本当に本当にありがとう!
- 240 名前:名無し 投稿日:2003/12/24(水) 17:21
- 中澤女将とあいぼんのやりとりはめちゃイケの藤本家を思い出しました。
タイトル通りで安心しました。とても楽しくて幸せなお話でした。
脱稿お疲れ様でした。
- 241 名前:sai 投稿日:2003/12/27(土) 12:15
- タイトル通りの結末でしたね(w 小ネタとか入ってて
かなり楽しませてもらいました。完結お疲れさまでした。
Converted by dat2html.pl 0.1