ミニモレンジャー。セブン
- 1 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年01月06日(月)22時05分11秒
- 月板で書いていた者です。
続編を書かせていただきます。
この小説はオバカな話です。
年齢設定は実際とは多少違います。
前スレは以下のURLです。
http://mseek.obi.ne.jp/kako/flower/1014042663.html
http://mseek.obi.ne.jp/kako/red/1025709223.html
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/moon/1032874642
コテハンは共同のものを使いますが2人で書いてますので、
更新は遅くなるかもしれませんがご了承ください。
この小説の設定その他は以下のサイトにあります。
http://members.tripod.co.jp/honobonoA/
- 2 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月06日(月)22時08分20秒
- 「梨華ちゃんは何でやぐっつあんと一緒にいるの?」
12月の珍しいぽかぽか陽気のある日
休憩時間にミニモステージ観客席で
後藤にそんなことを聞かれた。
「え・・・。」
「いや、いつもゴトー思うんだけどー。客観的に見てると
どーして一緒にいるのかなぁ〜って。」
考えもしなかった。
一緒にいることに理由を求められることがなかったからだ。
「えっとぉ・・・好き・・・だから?」
顔を真っ赤にしながら絞り出した理由だった。
「どんなところが?」
「え・・・。」
ドンナトコロ?
ドンナトコロデショウ?
「う〜ん・・・・・・・・・引かない?」
- 3 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月06日(月)22時08分53秒
- 「引く答えなの?」
「人によっては・・・。」
「じゃあやめとく。」
「ホッ・・・。」
(エッチ・・・とか言えないし・・・。)
「でもね、優しいところかな。」
「・・・別に引かないけど?」
「あ、うん、それはもう一つの理由。」
「ああ、そう。よくわかんないけどなー、優しいって理由。
ゴトーが見てる限りでは優しくしてる時なんて
おねだりの時くらいしか思い浮かばないけど。」
「う"っ・・・ほかにもあるも〜ん!!」
「例えば?」
「・・・・・・・・・さっ、仕事仕事。」
- 4 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月06日(月)22時09分33秒
- その夜。
飼い牛『モゥ娘。』が鳴き声をあげた午後11時ごろ、
矢口と石川は銭湯『ホモゲ牛乳』の前に立っていた。
「矢口さんっ、ホモゲもこの時間だと閉まっちゃいますねー。」
矢口とゲーセンに行っていたばかりに(正確には付き合わされたばかりに)
銭湯の閉店時間を遥かに超えたころに
ホモゲ牛乳の前に立ちすくんでいた。
「しょうがねーかー、こればっかりは。」
(矢口さんが…ガンゲー全クリしてるからですよっ…もうっ…。)
自分の部屋の風呂はあまり使いたくない石川は
閉店しているホモゲ牛乳に後ろ髪を引かれたが
いたしかたなく自宅へ戻った。
自宅のある乙姫荘に戻ると、
モゥ娘。が迎えてくれた。
乙姫荘の大家がいないことをいいことに、柱に繋いで
敷地内で勝手に飼育していた。
- 5 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月06日(月)22時10分12秒
- 「おーモゥ娘。元気してるかぁ〜。」
頭をナデナデすると
「ゲップ。」
「ぐはぁぁぁぁっ!!!!!グ、グザイ!!
開口一番それかよっ!!…ヴァ〜…目がしょぼしょぼする…。」
思わず鼻をつまみながら笑ってしまう石川。
「矢口さんナメられてるんじゃないですかぁ〜?モゥ娘。に♪」
「チ、チクショウ…ま、いいさ、ひとまずモゥ娘。っ!!おまえ、これ食え。」
矢口は何かを取り出してモゥ娘。に与えてた。
「ちょっ、矢口さんっ、何食べさせてるんですかっ!!」
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月07日(火)08時10分37秒
- 2号、V3ときていきなりセブンになってるのにワラタ。
じゃなくて、この話大好きです。
三十話って長いよなぁとか思ってたのに、もう十八話ですか。
最後までしっかり付いていきますのでがんがってくらさい。
- 7 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月07日(火)23時14分58秒
- 「ん〜?キシリガム。こいつゲップクセーから。」
「矢口さんっ!!モゥ娘。は牛なんですよっ!?
そんな変なもの与えないでくださいよっ!!」
「いやいや、ガムだよ、ガム。」
「そりゃ、人にとっては平気かもしれないですけど…、牛には大丈夫かなぁ〜…。」
「おい、モゥ娘。噛んで味のなくなったやつは吐き捨てるんだぞ。」
「モ゛ォ〜〜。」
「よし、いい子だ。今日からお前は『モーニング』だ。」
「モーニングって…なんですか…?」
「意味なし。さ、家はいろ、梨華ちゃん。」
「はぁ…。」
「あ゛、フン片付けてから入るように。」
「エ゛ッ!!石川がやるんですかっ!?」
「ほかに誰がいるの?じゃよろしく。」
そういって、石川のポケットに手を突っ込んで
鮮やかにカギを抜き取ると階段をカツカツ上っていった。
- 8 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月07日(火)23時16分23秒
- 「こんな役ばっかりなんだからぁ〜…。ぐすんっ。」
矢口が部屋に入ると、アフロ犬がいつものようにまとわりつく。
適当にあしらいながら中に入って戸棚から猫缶を取り出し
それを与えた。
「アフロは食ってるときだけは静かだよなー。」
アフロをなでた後、水のろくに入ってない
水槽の中の様子をうかがった。
「お〜い…キトー、ねてんのかー?」
そう、この水槽は賞品の二つ目、
亀の『紀藤(キトー)』の住居である。
「………愛想わりぃなー、お前。」
亀のえさをふりかけのように振った後
定位置のソファーにどっかり腰をかけた。
「さて、どうしようかな…。」
「ぐすん…。なんでこうなるのぉ〜…。だってだってー
ウンチだよー…ウンチ…くさいもぉ〜ん。」
そんな愚痴を吐きながら、フンを片付ける。
正直ウシのフンなんてものは片したことがない。
ちなみに、当選翌日から放置してあるので異臭もたまらなくなっている。
- 9 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月07日(火)23時16分54秒
- 「小屋造るべきよね…。」
小屋でにおいが何とかなるなら越したことはないが…
彼女の思考回路はにおいのためか、フンを片付けさせられているせいか
少し支障をきたしているようだ。
「これでいいかな…たぶん…だいじょうぶよね…、
クサァ〜イっ、くさいよぉ〜…。ぐすん…。」
涙涙のフン処理をおこなったあと、
石川が部屋へと帰った。
「ただいまぁ〜、片付けて…あっ…。」
部屋に戻ると、シャワーの音が聞こえた。
「ひっどぉ〜い…私がウンチ一生懸命片付けてたのにぃ〜…。」
やるせない思いに駆られながらも、水道で汚れた手を洗い流す。
丹念に丹念に臭いが残らないように爪の間までよく洗った。
- 10 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月07日(火)23時17分27秒
- くんくんくん…。
「クサッ!!ううっ〜…お風呂でもう一回洗おうっと…。」
下着姿になった後、着替える下着とタオルをもって
バスルームの前に立つ。
コンコンコン。
「矢口さぁ〜ん♪一緒にはいろぉ〜♪」
「やだー、梨華ちゃんくせーから。」
「ひどーい、くさくないもぉ〜ん、手あらったもぉ〜ん。
だから一緒にはいってい〜?」
「…………。」
シャワーの音が止んだ。
- 11 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月08日(水)23時23分11秒
- 「矢口さぁん?」
すると、矢口がドアを開き外に出てきた。
「あ〜、いい湯だったー。入るんでしょ?どうぞー。」
「ええ〜っ??…ぐすん…。」
結局湯船に一人の石川さん。
「ひどいよねっ、ひどいよっ。矢口さんが片付けろって言ったのに…
一緒に入ってくれたっていいじゃないっ。あ…もしかして…。」
湯船の中でほんのりピンク(見た目ではわからないが)の頬が
また少し紅潮する。
「お楽しみはベットかなっ?キャッ♪」
浴槽をドカドカける音が鳴り響いた。
高鳴る胸を躍らせながら、体を拭いて
バスタオルを巻きつけてバスルームを出る。
すると、矢口は裸のままでソファーに座ってテレビを見ていた。
(や、やぐちさんっ、準備万端って感じなのかしらっ♪)
- 12 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月08日(水)23時23分58秒
- よくよく見てみれば何かを片手にしている。
キリソビール
しかも瓶だ。
確かに先日買い置きはしていたが。
矢口は深夜番組が面白いのかゲラゲラわらいながら
ビールをラッパ飲みしている。
「あたまわりーよ、こいつ。キャハハハハ。」
横に座った。
じっと見ていると、矢口が視線に気づく。
「ん?なに?」
ぽっと赤らんで、視線をそらして微笑む。
「飲みたいの?」
フルフルと首を振ってかわいい子演出中。
「………キショッ。」
「ええっ…。」
(もうっ…矢口さんたらぁ〜♪恥ずかしがりやさんっ♪)
そうニコニコしながら矢口の顔を見つめる。
そのニコニコに気づいた矢口であったが
そんなことは気にも留めず、テレビを消して
ビールを飲みきると、ゲップを吐いてベッドに飛び込んだ。
- 13 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月08日(水)23時24分57秒
- (なによぉ〜♪ヤる気マソマソじゃなぁ〜い♪正直じゃないんだからぁ〜♪)
横たわっている矢口に添い寝する石川。
「矢口さぁん♪」
「ん?なに?」
「何ってわけじゃないんですけどぉ〜〜。」
いじいじ。
指先で矢口の背をいじって可愛い子強調。
「ああそう…。そろそろ寝るよ。オヤスミ……んぐぅっ!?」
もうスイッチ入った。
石川はとっさに矢口の顔を向かせて強引なキスをした。
半ば強引過ぎて窒息効果が大きい。
「おやすみなんて連れないですよぉ〜♪」
「グァッハゲホッゲホッ…あのさ、ね、眠いから、明日、明日ね、ね?」
「んもうっ!昨日も一昨日もそんなこと言ってたんですよぉ〜!?」
- 14 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月08日(水)23時25分32秒
- そう、最近ご無沙汰。
「えー……そうだったっけ?」
「そうですよぉ…だ・か・らぁ〜…ねっ?」
チュッ♪チュッ♪
「はぁ…………。」
(だ、だりぃ〜…。)
「んんっ…矢口さんのオパーイ柔らか〜い♪もちもちっ…。」
モミモミモミモミ
「ふぅ……。」
(やわらかいと思われるほど大きくねぇよ…。)
「可愛いおヘソっ♪」
チュッ♪チュッ♪
- 15 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月09日(木)23時44分48秒
- 「…………。」
(…ねみぃ。)
「矢口さんっ…石川からいっていいですかぁ…ってか襲っちゃいまぁ〜すよぉ?」
「…………。」
「…矢口さん?」
「……zzz…。」
「もうっ!!なによぉっ!!」
結局何もないまま次の日になったわけで。
一般人は2連休だったため、
今日も忙しく2ケツでトイズEEへと向かっていった。
走行中は石川の愚痴が炸裂していたが
矢口はさして気にせずといった感じでやり過ごした。
- 16 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月09日(木)23時46分18秒
- 「はぁ………。」
どんよりした空気が石川の周囲に蔓延している。
これに話し掛けるのは相当の覚悟がいりそうなそんな雰囲気で
休み時間に一人ベンチに座っていた。
しばらくすると、
そんな石川の隣に加護が座った。
「あ〜〜。」
そういいながら寒空を眺めて
石川に話し掛けた。
「どないしたん?より一層幸薄そうな顔しとるよ、今日は。」
「うん…きいてくれる…?」
切実な視線が加護のほうを向く。
聞けばそう返ってくるとわかっていながらも
この視線に自分までもが不幸になりそうでしり込みしそうになった。
「う゛…ま、まぁ、えーっとえーっと。」
いまさらNOとはいえない。
「……聞くだけな…聞ぃたる…。」
- 17 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月09日(木)23時47分03秒
- すると涙ぐんで
「矢口さんがぁ〜〜〜…。」
(や、やっぱり…。)
「エッチしてくれないのぉ〜…ぐすん…。」
「さ、さよか…抱きつかれてもこまるんやけど…。」
「でね、でね、昨日の夜ねっ…。」
(人の言葉無視かいな…。)
一部始終聞いてみた。
石川にしてみればウンウン頷いてくれれば良いようだと
加護はそう思って対応する。
要するに矢口がエッチしないので欲求不満なんだということらしい。
「ねぇっ…どうしたらいいのかなぁ…。」
「さぁなぁ…、あ、ちょお待っとって。」
- 18 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月09日(木)23時47分55秒
- ベンチを離れ、楽屋へと向かっていく加護。
そして戻ってくると手には丸められた雑誌があった。
「なに…?それ…。」
「じゃんじゃじゃ〜ん。快感セックスマニュアル〜。」
いかにも怪しい雑誌だ。
なんというかC級雑誌の臭いがぷんぷんする。
裏ブ○カと一緒に並んでそうな…。
「これのなぁ〜エッチがマンネリな時は〜…
どこやったっけ…。」
パラパラとページをめくって、探す。
まともに読んだ事はないようだ。
- 19 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月09日(木)23時48分41秒
- 「これやな。これの…これ。
どうやろか?こうやって誘惑してみるのええんとちゃう?」
思わずその文面を読んで顔を真っ赤にする石川。
「やだっ、恥ずかしいよぅ…。」
「マンネリなんやろ?こんくらいのことせな、あかんて。」
「そうなのかなぁ…、一応がんばってみるけどぉ…
どこに売ってるの…?これ…。」
「どこやろか…?あー、ハチャマピッコロの中にレンタルビデオ屋あるやん?」
「えっと、『縄屋』でしょ?」
「そう、縄屋。あん中のなぁ、エロビコーナーにあったと思うわぁ。」
「く、詳しいのね…加護ちゃん。」
- 20 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月10日(金)23時16分59秒
- 「ま、まぁなぁ。思い立ったが吉日やで、梨華ちゃん。」
「そうかなっ?じゃあ、梨華ガンバルッ♪」
キッショイほどの満面の笑みと
女の子チックなガッツポーズ。
若干顎を出して闘志に燃える石川だった。
(ホッ…もう相談乗るのやめよ…めっちゃ疲れるわ…。)
縄屋。
一人で来た。
矢口を先に帰らせてココに来たのは『ある物』を購入しに来たからだ。
ここはハチャマピッコロ3Fレンタルビデオ店『縄屋』
なぜか帽子を目深にかぶって、レンズの大きい
サングラスをかけて、いかにも怪しい格好で
18禁コーナー前に立っていた。
(ど、どうしようかしら…い、勢いで来ちゃったけど…。)
年齢には問題はない。
石川梨華19歳。来年一月には20歳。
中には入れるが、男性向けが主であるこの空間には
非常に入りづらい…。
- 21 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月10日(金)23時17分35秒
- (う〜ん…どうしよう…ココは勇気を持って…。)
大きく深呼吸をしたあと、周囲を警戒しながら、
一歩ずつ歩みを進めていった。
「!!!!」
(さ、さすが…縄屋…品数豊富の縄屋…。)
※店の宣伝ではありません。
一面を埋め尽くすほどのアダルト商品。
レンタルビデオのAVはもちろん、購入品も品数勢ぞろい。
石川は加護との会話と、C級雑誌の中身を思い出していた。
(えっと…あそこのコーナーかな…。)
視線が刺さる…。
むっつり童貞が石川を見る。
(ぐすん…。我慢よっ梨華ッ!!今夜のためなの!!)
そう自分に言い聞かせながら
商品の前に立った。
(えっと…どれがいいのかな…?)
じっくり、見定めて商品をチョイス。
- 22 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月10日(金)23時18分32秒
- (これだったら…矢口さん発情してくれるかな…?)
(でも…こんなの買っていったら…淫乱だって思われちゃうかしら…。)
1050円。
(相場がわからないけど…高いのかしら…これ…。)
とにかく買うものは決めたようだ。
決めてすぐ、アダルトコーナーを抜ける。
そして、次の関門はレジ。
(ううっ…若いおにーさんバッカリじゃないっ…。
どうしよう…もう買うしかないよね…。)
顔が赤らむ。
恥ずかしい。
「あ、あの、お、おねっ、おねがいし、ます。」
ぎこちない声と手の震えが余計に店員には目立った。
店員は客の顔をみて何を思ったかわからないが
ニヤニヤしながら値段を読み上げた。
『1050円です…。』
- 23 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月10日(金)23時19分05秒
- 「あ、は…はいっ。い、千、千ご、五十円で、ですね?」
テンパってた。
何がなんだかわからないうちに
財布から諭吉を1枚出していた。
探せばちょうどで支払いが出来たのにもかかわらず。
買ってきたのは良いけれど。
(どうしよう…?ここで読むわけにはいかないよね…。)
何を買ってきたのかといえば、
C級雑誌に紹介されていた書籍。
『ハウトゥーセークス』
要はセックスマニュアル本である。
そいつを矢口に気づかれないように家に持ち帰ってきた。
難なく、夕食を食べ、風呂に入った。
難なくとは言っても、矢口は石川の
ぎこちなさには気づいていたが…。
- 24 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月11日(土)23時28分11秒
- 矢口が風呂に入った隙に、バッグの中から
『縄屋』の袋を取り出して開封した。
しかし、矢口は『カラスの行水』といわんばかりに
バスタイムが非常に短い。
「どうしようかしら…、あっ、そうだわっ♪」
脳裏に浮かんだものは石川にとって
タブー視されている『トイレに入る』事だった。
ここなら気づかれることは無いと踏んだ石川は
トイレに入った。
読み始めて、ほんの数分が経ったころだった。
矢口のカラスの行水が終わったのだ。
矢口は昨日と同様に、冷蔵庫からビール瓶を
取り出して、ラッパ呑みをする。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
何がキターなのかといえば、
久々の大型ボムの出産兆候なのである。
このタイミングを逃せば矢口に出産チャンスは
いつ巡ってくるかわからない。
3日後なのか、5日後なのか、はたまた1週間ごなのか…。
この産気が治まらないように力を緩めながら
トイレに向かうが、そこには石川が入っていたわけで。
- 25 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月11日(土)23時29分17秒
- コンコンコンコンコンコン!!!
「梨、梨華ちゃんし、しないんだよねー!?」
「しっ、しませんよっ!?」
「な、なら出てきてよ、矢口我慢できないんだよー!!」
「が、我慢ですか?でも、もうちょっと待ってください。」
「まてねぇ〜って。今すぐ!!今すぐ!!我慢できないんだよー!!」
「もうっ♪矢口さんたらぁ〜、溜まってたんですねぇ〜♪」
「そう!!溜まってたんだよっ!!だから出てきてよ!!」
「矢口さんたらぁ〜…大胆なんだからぁ〜♪」
「は、はやくっ!!もうしたいんだよっ。」
「キャッ♪」
本を閉じて、自分だけでなく彼女もしたかったのだと思い
気分が良くなった石川は、満面の笑みで矢口を迎え入れる
心の準備をしてから、トイレをあけると、
そこには鬼気迫る矢口の表情があった。
- 26 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月11日(土)23時30分01秒
- 「シネーなら入んな!!ヴォケッ!!ドケッ!!」
ドンっ、と石川を突き飛ばすと
バン!!とドアを閉めてすぐさま
トイレで矢口はうなり声を上げ始めた。
「????」
石川にはわけがわからない。
まるで鳩が豆鉄砲を食らった顔をしていた。
だが、やっと言葉の誤認を悟ったようである。
ここで、言葉の誤認を確認するまでもないのだが一応。
我慢できない→矢:ウソコ、石:性欲
溜まっていた→矢:ウソコ、石:性欲
したい→矢:ウソコ、石:エッチ
こんなもんですた。
この日、やはり石川の企て、
名づけて「Hな本を参考にエッチしましょう大作戦」(石川命名)
は失敗に終わったわけで。
そうして翌日になった。
- 27 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月11日(土)23時30分47秒
- 今日は冬休みに向けての
ミニモレンジャーショーの練習の日である。
辻加護の帰宅に合わせた出勤時間に、トイズEEに到着した二人。
一人はいつものように能天気で、
もう一人はいつも以上に色黒を強調するかのように
沈んでいた。
「やぁやぁ、おはよう諸君。元気かなぁ〜。」
「おはようじゃないわよっ!!あんた達今日も遅刻なのよっ!?」
相変わらず保田は時間に細かい。
3分遅れでも激しい稲妻を二人に落としていく。
まぁ、矢口はそんな保田の説教などまともに聞く様子は無いわけで。
「ちょっと聞いてるの!?あんたたちっ!?」
「あーい、聞いてるよぉ〜。」
「…………。」
人の話を聞いてないのは矢口だけではなかった。
正確に言えば聞く余裕も無かったというわけで。
- 28 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月12日(日)23時42分50秒
- 「もういいわよっ!!時間がもったいないからとっととはじめるわよっ!!」
「うーい。ほら、梨華ちゃん、ボケッとしてないで行くよー。」
「矢口さぁん…私のこと好きですか…?」
「何わけのわかんねーこといってんの。ほら行こう。」
「ぐすん…。」
そのまま矢口に石川は手を引かれていった。
休憩時間。
2〜3話分を終え、皆がぐったりしながら
ラーメン落ち武者へ向かっていく中、
一人、石川はベンチに座り込んでいた。
そこに昨日はどうなったのかと様子をうかがいに
加護が隣の席に座った。
「どうやった?」
「…うぇ〜〜〜ん!!!加護ちゃぁぁぁん!!!」
「ちょっ!!苦しいで!!」
「相手にしてもらえなかったぁ〜〜〜〜うぇ〜〜ん!!」
- 29 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月12日(日)23時43分31秒
- 強引に抱きつく腕を何とか振りほどきながら対応するが
いかんせん昨日以上にたちが悪い。
自分にも責が無いとはいえなくも無いが
「さ、さよか…ほ、ほなウチ腹減ったさかいな。ばいなら〜〜〜。」
慌てて逃げたひとまず逃げた。
「う〜ん…どないしたもんやろなぁ〜〜…。」
加護は落ち武者に逃げ帰って来たあと
ラーメンを啜りながら、すこし相談の代理を考えた。
(ののはあかんな、処女やし…。ヨッスィーもどうやろな…
風俗嬢やけど、こういうことにはなぁ〜…。ん?
この際、気楽に考えたらええねや、ウチがそないに本気に考えることちゃうから
遊ばんとなぁ〜〜。)
「ケケケケケっ。」
不気味な笑みを浮かべる加護。
明らかに何かいけない悪戯を考えている顔である。
(ほな、師匠はどうやろか…、おもいっきり精神論を
吹き込んでもらったらええやんか。矢口さんが精神論の通じる
人でないのはわかりきってることやしなぁケケケケッ。)
- 30 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月12日(日)23時44分13秒
- 「ししょぉ〜、ちょお、話聞いてくださいなー。」
「んぁ〜?なにぃ〜。」
そのころ相変わらず深く考え込んでいる石川の姿が
ベンチの上にあった。
(う〜ん…どうやったら矢口さんとエッチできるのかなぁ…。)
ボケーっとしていると、視界に望遠鏡が映った。
石川は何気なく、望遠鏡の元へ行くと
サイフを取り出して、コインを1枚投入した。
近くに見える遠く。
何が特にあるわけでもない風景だが
改めてこんな風にみてみたことは無い。
さまざまな人々の生活がレンズを挟んで
まるで目の前のように映った。
「ハァ〜…どうしたらいいのかなぁ〜…。」
いきなり視界が暗くなった。
「あれっ?もう時間切…。」
「へこんでたら余計逃げられちゃうんじゃない?」
視界をふさいでいたのは後藤の手だった。
- 31 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月12日(日)23時44分47秒
- 「ごっちん?」
望遠の世界から、元に戻そうとすると
「お金もったいないから、ちゃんと見てなよ。」
「あっ、うん…。」
「加護から聞いたよー?なんか欲求不満なんだって?」
「えっ…そういうことじゃなくて…。」
「冷めてるとか…そんなこと相談されたって加護が言ってたけど。」
「うん…まぁ…。」
「そうだなぁ…ゴトーは思うけどー、好きなら伝わるんじゃない?」
「…そうかな?」
「引っ込み思案なところあるからもっと強くぶつけたほうが良いと思うよ。」
「…うん。ありがと。」
「んじゃあ、またね。」
- 32 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月13日(月)21時44分41秒
- 時間切れ前に事を告げて、
後藤は去っていった。
制限時間を迎え、視界を元に戻すと
石川の心は少し晴れていた。
「がんばろっと♪」
そして夜。
ホモゲ牛乳にやってきた二人は
湯船の中でゆったりしていた。
「で…?なんでこんな風呂広いのにくっついてくるわけ?」
「えっ♪何言ってるんですかぁ〜♪いつもどおりの
梨華ちゃんじゃないですかぁ〜♪」
「へぇ…。」
「そんなスカした顔も可愛い〜♪
だぁ〜いすきぃ〜♪にゃんにゃんにゃん♪」
「う゛………なんか悪いもの食べたわけ…?」
- 33 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月13日(月)21時45分52秒
- 「何にも食べでないですよん♪あっ、今晩何が食べたぁ〜い?
矢口さんの好きなもので良いですよっ♪えっとぉ〜、
お寿司?焼肉?それとも梨華ちゃん?きゃぁぁ〜〜〜♪」
「…………ごめん。今日、自分の部屋で寝るわ。」
「ええ〜〜〜!?なんでぇ〜っ、私のこと嫌いなのぉ〜…
私は矢口さんの事愛してるのにぃ〜〜…。」
「べつに嫌いだって言ってないけど…変だよ…
なんか…キモイ。」
キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ
キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ
「こ、こんなに…がんばってるのにぃ…。」
「がんばりすぎだよ。」
結局、この日の「情熱LOVELOVE大作戦」(石川命名)
もあっけなく失敗に終わりまして、翌日も昨日同様に
どんより沈んでいる石川の姿がベンチの上にあった。
そんな石川の姿を見て
影でバカウケしている人物がいた。
- 34 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月13日(月)21時46分55秒
- 「はぁ〜…散ったかー散ったかー、さよかーさよかー
くくくくくっ…。あーほな次やなぁ。次誰にしよかー。
よっしゃ、やっぱシメは保田さんやな。あの人メッチャクチャ
やしなー。」
笑いをこらえながら、加護は保田の元に向かう。
「保田さーん、めっちゃおもろい話あんねんけどー。」
「ん?なによ?聞かせてみなさいよ。」
ボソボソボソボソ。
「なーんだ。アタシのテクニックを伝授すれば良いだけじゃないのよ。」
「そうなんですよー、梨華ちゃんに教えたってくださいなー。」
「任せときなさいよっ!!」
「あ、この話、師匠から聞いたとゆーてくださいよー。」
「ん?なんでよ?」
「まぁまぁ、ええやないですかぁ。」
「あっそ。」
- 35 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月13日(月)21時47分45秒
- そして、保田は沈む石川の元に向かった。
「石川〜、ちょっとー、聞いたわよ聞いたわよー。」
まるで中年のおばさんのような話し掛け方である。
「あ…そうですか。」
「矢口とエッチしたいのにさせてもらえないんだってね?」
「はい…。」
「そこでよっ、経験豊富なこの保田おねーさんが
相談に乗ってあげようっていうんじゃないのっ。」
「はぁ…。」
「こういうときはねっ、いやらしい下着で大胆になることなのよっ!!」
「え…、どういうことですか…?」
- 36 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)00時37分53秒
- 「たとえばねぇ…ちょっと耳貸しなさい。」
「はぁ…。」
ボソボソボソ…。
「ええっ!?そんなモノもってるんですかぁっ!?」
ゴスッ!!
「いたぁ〜い。」
「声デカイわよっ!!続きがあんだからちゃんと聞きなさいよっ!!」
ボソボソボソボソ
「でね、そうすりゃあ、矢口だってイチコロよっ。」
「イチコロって…保田さんお口酒クサイ…。」
ゴスッ!!
「いたぁ〜い〜。」
「まだ続きがあんのよっ!!聞くの聞かないのっ!?」
「き、ききますぅ〜…ぐすん…。」
「それでね、その下着着て次のポーズをとれば
男も女も関係なくイチコロなのよっ。」
「ど、どんなポーズですかっ!?」
- 37 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)00時38分29秒
- 「ちょっと待ってなさい…こうよっ。」
「…!!!!、す、すごいですよっ保田さんっ。」
「で、でしょっ。今日やってみなさいっ。」
こうして保田に教えられた方法を
しっかり体得し、保田の下着を手に帰った。
「矢口さき風呂はいるよー。」
「はーい。」
夜も深く0時前のこと。
いつものように石川宅で
矢口は先に風呂に入って行った。
シャワーの音が鳴り始めたのを確かめると
石川は紙袋の中から下着を取り出す。
「ふぅ…これ履くのね…。」
まじまじと見つめる下着
イヤラシイことこの上ないほどの鮮やかな赤。
「保田さん、こんなの持ってたけど使い先あるのかなぁ…。」
ふと思った疑問ではあるが、その指摘どおり
使ったことなんて買ってから一度も無い。
- 38 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)00時39分15秒
- 「あ、いけないっ、矢口さんのお風呂速かったんだっけ…。」
覚悟を決めて唾をごくりと飲み込むと
服を脱ぎはじめる。
その下着を足に通して身につけた。
鏡の前に立つとそのいやらしさが一目でわかる。
「きゃっ…なんてセクシーなのかしら…
保田さんじゃあ宝の持ち腐れだったのね…。」
保田は、自分では宝の持ち腐れなのだということで
石川にこの下着を渡したと良い様にとった。
「自分でいうのもなんだけど…私ってセクシー♪」
なにやら石川の中で何かが開花されている。
とても危険な妄想を頭の中でめぐらせていた。
「あっ…そんなことしている場合じゃないっ。」
風呂のドアの閉まる音が聞こえた。
- 39 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)00時40分09秒
- (急いで、ポーズとらないとっ。)
保田の指示したとおりのポーズで矢口を出迎える体制に入る石川。
そして、矢口は何も知らず洗面所のドアに手をかけた。
「梨華ちゃ〜ん、お風呂入っ……プッハハハハハハハハ。」
石川を見た瞬間の矢口の反応はそんなもんだった。
「ハハハハ…な、なにやって…んの、。」
笑いが止まらないといった感じだ。
「え……セクシーな下着でその…ポーズ…。」
「どんなポーズだよっ!!アハハハハ!!!」
「しゃちほこ…。」
- 40 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)22時11分18秒
- 「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!ヒーヒーヒーし、しぬ…笑い死ぬ
アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
顔面が真っ赤になる双方。
片方は笑いすぎて呼吸困難によるもの
もう片方はあまりの恥ずかしさに顔を赤らめたのだ。
「い、いつまでそんなポーズやってんの…アヒャヒャヒャヒャ。」
「だってぇ…矢口さんとHしたいから…一生懸命がんばったんだもぉ〜ん!!」
今度はいじけ始める石川。
それでも笑いが止まらない矢口は改めて問いただした。
「だ、だ、誰がアヒャヒャヒャヒャ…こんなの梨華ちゃんに吹き込んだわけ?」
「保田さん…。」
「アー無理。アヒャヒャヒャヒャヒャ。そりゃあ無理だわ。
圭ちゃん処女だもんよー。」
「え〜〜〜!?」
「うん。ホントホント。耳年増なんだよ。いいから、
そのしゃちほこポーズやめなよ。アヒャヒャヒャ。」
- 41 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)22時12分05秒
- その後、事の真相を問いただす矢口。
聞いてみれば最近矢口が冷たいということで
石川なりにがんばったということを矢口は聞き取る。
「そっかーごめんねー、矢口が悪かったよーごめんごめん。
最初から言えばこんなことにならなかったのにー。」
「だってぇ〜だってぇ〜…石川からじゃあ恥ずかしくていえなかったんですぅ〜。」
また泣き出しそうな石川を矢口はそっと抱きしめた。
「で、ここ何日か変な事ばっかやってたわけね。」
「はい。」
矢口は石川の携帯を手に取ると保田に電話をかけた。
「あーもしもしー圭ちゃ〜ん。だめだよーろくに使えないエロネタ
梨華ちゃんに吹き込んじゃぁ〜。」
『なによー、加護が石川にエロネタ仕込めっていってたのよー
あ、いけない。口滑っちゃった。後藤からにしておいてって言われてたっけ…。』
「なに?加護絡んでんのぉ〜?へぇ〜。」
『内緒よっ今のっ。私は頼まれたからおしえてあげたのよっ。』
「ふーん。ありがとう。じゃあ」
『ちょっ、まちなさいよっ。あんただまっ…』
プッ…。
- 42 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)22時12分46秒
- 保田との会話を早々に切り上げる。
「梨華ちゃ〜ん、黒幕わかったぞー。」
「えっ誰ですか…?」
「加護。あいつ、梨華ちゃんをからかって遊んでたみたいだぞー。」
「え〜〜っ…。ウワ〜〜ン!!!」
とうとう大泣きし始める石川を
ヨシヨシとなで続ける矢口。
「だいじょうぶ。矢口が懲らしめてやるからなー。
いい案がある。うん。さ、寂しがらせたお詫びでも…。」
結局石川の欲求不満は解消されることになりました。
- 43 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)22時13分20秒
- 翌朝。
PPPP…PPPP…PPPP…
「ん〜…。」
手を伸ばして音源を探り、停止ボタンを押す。
その後寝返りを打って、加護はいつものようにやっと目覚めた。
「ふぁ〜〜〜っぷしゅっ…おとんもう仕事にでたんかぁ〜…。」
どうやら父親はすでに家を出て仕事場に向かったようで
加護は、一人キッチンの前に向かって食パンをトースターの中に突っ込んだ。
「ん〜〜。新聞新聞。」
新聞を取りにポストへ向かうべく
サンダルを履いて、玄関のドアをあけた。
「クサッ!!!!!クサッ!!!死ぬっ!!くさっくさ〜〜〜!!」
ドアをあけると激臭がした。
なんともいえないこの臭い。
あまりにもキツ過ぎる、だがどこかで嗅いだ臭いだ。
「な、なんやねぇ〜ん…。」
鼻をつまみながらドアを開いて足を一歩踏み出すと
奇妙な感覚に襲われた。
- 44 名前:第18話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年01月15日(水)22時13分50秒
- 何か踏んだ。
黒い…いや茶色い何かを踏んだのだ。
ドアを全開にしてみるとそこには
たんまり積み上げられた土の様な泥のような山。
異臭はその山から放たれていたのだった。
なにやらその山にメッセージカードが刺してあった。
片方の手で加護はカードの端をつまみながら
カードを読んだ。
『感謝をこめて。糞をプレゼント。 石川・モーニング。』
「……ハハハ…バレてもた…。」
この後、しばらく加護はバイト先に現れなかったという。
- 45 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年01月15日(水)23時23分35秒
- 以上で第18話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして19話を開始したいと思います。
- 46 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年01月22日(水)21時51分40秒
- >>6
仮面ライダーシリーズだと、『仮面ライダーのの』とかぶることに
最近になって気づいたんで変えました。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
- 47 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月22日(水)21時52分27秒
- 「ねぇ、矢口さぁ〜ん。」
「ん?何?」
ファンヒーターが活躍する季節。
チッチッチッという音と共に炎が灯されて、
その前に冷えた足を差し出すと
芯まで温まる心地よさが堪らない。
12月も中旬にもなれば冬を過ごしているという自覚も芽生えてくる。
「あと10日ですよぉ〜。」
「10日?…何が?」
「…何ってぇ……。」
「ああ、解った解った。」
壁に貼られたカレンダーも最後の一枚。
暦ではまさに師が走る時期。
その24日のところにはもちろん
- 48 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月22日(水)21時53分03秒
- 「給料日を忘れるとは…ヤグチとしたことが…。」
「ええっ!?」
デカデカと"給料日"と書かれていた。
そこには、石川が"クリスマスイブ"と書き込む余地など無く、
それが何となく矢口の心を映し出しているような気がしてならなかった。
まぁ、金以上の優先順位を望むのが無謀と言わざるを得ないのだが。
「あっ、今日は水曜か。立ち読み立ち読み〜っ。
マルゾロ行こうよっ?」
「……。」
「おーいっ、行かないの?」
「…行きませんっ。」
「梨華ちゃんの好きな雑誌もでる日じゃ〜ん。」
「一日読まなくったって変わりませんっ!!」
「何だよー、感じ悪いなー。まぁいいわ。行ってくるから。
ついでに晩飯買ってくるからお金頂戴。」
- 49 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月22日(水)21時53分35秒
- 石川の考えてることは非常に解りやすい。
モロに顔に出るし、大根役者並の仕草を多用する。
それがワザとじゃないところがある意味凄いのだが。
矢口が右手を差し出しても、
女の子座りしたまま斜め下を虚ろな眼で見続けている。
「お金なんか……勝手に持ってってくださいっ…。」
「あ゛!?ああそう!じゃあ持ってくよっ!!」
石川の財布の場所は解っている。
グシャッと札を鷲掴みにして勢いよくドアを締めて部屋を出て行った。
訳の解らない怒りに、矢口はどんどん不機嫌になっていくのだが、
元はと言えば完全に"恋人達の最大のイベント"を忘れてしまっている
矢口の方に原因があるのだが。
「何だよ、あの野郎!くそっ!」
強いて言えば『あのアマ』かと。
ガツッ!ガツッ!ガツッ!!
いくらやってもしげるのエンジンは掛からない。
- 50 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月22日(水)21時54分06秒
- 「ゴルァ!!ゴルァ!!ゴルァ!!」
ガツッ!ガツッ!ガツッ!!
「ゴルァ!!ゴルァ!!ゴルァ!!…ハァハァハァ。」
一向に無反応なしげる。
「ツ…。ゴルァ!!ゴルァ!!ゴ……ルァ!!」
一人時間差、見事…。
ブロロロ…
ようやく回りだしたエンジンだが、
何となく、嫌々回ってるような気がしてムカついた。
冬に原チャリに乗ると
肌に突き刺さる底冷えの空気が邪魔でしょうがない。
ちょっと前から耳当てをするようにしたのだが、
これも石川に買ってもらった物。
出来れば外したい気分だが、寒さには代えられないから、
その苛立ちを蛇行運転に代えてマールゾロへ向かっていった。
- 51 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月23日(木)21時34分04秒
- 「解らないよねっ……」
部屋に独り残された…はずだが、
やはりいつものようにアフロ犬に話し掛けている。
「あたし…矢口さんの何なのかなぁ…」
「ニャーゴ。」
(ウンウン。)
ちなみに()内は石川脳内のアフロの返答である。
「これじゃ、お財布だよね…。」
「ニャーン。」
(そうだね、マッタクだよ。)
「仕送りだって無くなったのに…
矢口さんなんて…あたしのこと何も解ってないんだもんっ…何も……」
アフロ犬を抱きかかえてベッドに横たわる。
頬擦りすると、柔らかな毛がくすぐったくて涙が出そうになるから、
いっそのこと顔を埋めて、荒くなる呼吸が静まるまでそのままで居た。
- 52 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月23日(木)21時34分37秒
- 涙の跡が残るアフロ犬の身体、
もう一度胸に抱いて目を閉じようとすると携帯が鳴った。
鼻をすすって平静を装い、矢口からじゃないか、と思ってディスプレイを開く。
『もしもし、梨華ちゃん?』
「もしもし…」
幸か不幸か、矢口ではなく吉澤だったが、
どうせならこの際不満をぶち撒けてしまうことにした。
『24日暇?みんなでパーティーしようってことになったんだけど。』
「…いいっ。行かないっ。」
『やっぱそうだよねー。…えっ?何?泣いてる?』
「……。」
『なになに?泣いてちゃ解らないけど…』
「矢口さんが…矢口さんがぁ〜っ!!」
- 53 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月23日(木)21時35分17秒
- ちょうど同じ頃。
マールゾロに到着して、床にドッカリを胡座をかく。
右にはサンデーとマガジン、左にはホットの緑茶。
イライラ解消のために、普段よりも更に大きな声で
馬鹿笑いしてみた。
「アッハッハッハッハー、アッタマワリーよコイツ〜。アッハッハッハ…。」
いつもなら自然と笑えるのに、今日はそうはいかず、
漫画の中で繰り広げられる話を、どこか冷めた目で眺めることしかできずに居た。
ピリリリリッ!ピリリリリッ!
「んっ!?何だよ…。」
平日の夕方、静かなコンビニに鳴り響く着信音に反応して
不機嫌な表情を浮かべながら
ポケットを弄ると、口でアンテナを伸ばして通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『あ、矢口しゃんれすか?』
「なに?」
- 54 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月23日(木)21時35分58秒
- 『あのれすね、24日にみんなれクリスマスパーティーやるんれすが、
矢口しゃんも来るれすよね?』
「ああ…いいよ。」
『そうれすか。日曜のバイト終わりれごっちんの店に……』
いつもなら、食い物に飛びつくタイプの矢口だったが、
今日は何か引っかかった。
「でさ、何のパーティー?」
『クリスマスれすよ。忘れてたんれすか?』
「そっか、そういえばそうかもなー。」
ようやく石川が怒ってた理由が解ったような気がした。
給料日は何よりも優先されるから、他のことはすっかり忘れていたのだ。
確かに、雑誌の棚を確認すると"クリスマス特集"と銘打たれたものが並んでいる。
電話を切った矢口は、少しペースを上げて漫画を読み終わり、
さっさと店を出た。
帰ったらとりあえず謝っておこう、と思って
しげるを走らせた。
- 55 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月24日(金)20時36分01秒
- 「ただいまー。」
ドアを開けるとニャーと言いながら寄ってくるアフロ犬。
腹が減っているのか、コソビニ袋に必死に飛びついてくるから、
飼い主の名を呼んでみた。
「おーい、梨華ちゃん?アフロにご飯あげなきゃー。」
だが、返事はない。
カーテンはしっかり閉められていて、
電気もついていない。
寝ているのかと思い、ベッドのところまで行ってみたが、
そこにあったのは置手紙だけだった。
"ご飯とか勝手に食べてください。
旅に出ます。探さないでください。"
「はぁー!?」
何ともベタな文章だが、こうでもすれば少しは心配してくれると思ったのだろう。
「フザケてんじゃねーよヴァカ!!」
遂に怒りが爆発してしまった矢口。
石川の分の晩飯を、さっさとアフロ犬に差し出してしまった。
「ニャーン。」
- 56 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月24日(金)20時36分39秒
- そんで、その旅先というのが…
「ごめんね、急に泊めてもらって…。」
「ま、まぁいいけどさ。あたし今日バイトだから結局独りなんだけど。」
分担で電話をかけたのが運の尽き。
不幸なことに石川に電話した吉澤は、
その幸の薄そうな顔をした人を泊めるハメになってしまった。
「とりあえず…晩御飯食べようか?
どっか食べに行く?」
「……やだっ。」
「やだってさー……食べないわけにはいかないっしょ?
キムチならあるけど…。」
急にやって来ておいて駄々を捏ねる。
はっきりしない奴に対して
あまり気の長い方ではない吉澤としては、
これ以上はキレそうだ、と自覚するところまで来ていた。
- 57 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月24日(金)20時37分10秒
- 「あのさ、んじゃバイト行ってくるから。適当にやってて。」
「……。」
こんなに静かだったっけ、と思うくらいに
吉澤の部屋は静まり返った。
人が一人居るとは思えないほど、
吉澤がドアを開けるまでは時計の針の音だけが響き、
耳鳴りがしそうな程だった。
「なんかコワッ…。」
- 58 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月25日(土)21時44分49秒
- 「あー、サビィ!!…ん?まだ起きてるのかぁ…。」
日付が変わって午前2時前。
寒い寒いとコートの襟を立てて帰ってくると、
まだ部屋の明かりはついていた。
「あっ…おかえり……。」
何か湿っぽい。
冬は乾燥するものだが、何故か湿っぽい。
そして変なBGMも…
「…?これ、何のCD?」
「…北の国から……。」
「そ、そんなもん何処で…?」
「借りてきたの…。ルールー、ルルルルルール……」
「あ、そう…。」
「精霊流しもあるよ…。さだまさしベストだから…。」
- 59 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月25日(土)21時45分27秒
- これにはさすがにお手上げ。
だが、ここで怒鳴り声を上げても
どうせ石川は泣いてしまうだろうから、
このまま放置しておくのと、泣いた人間を処理するのを天秤にかけて、
前者を選択したのだった。
「春はしぃ〜にぃ〜まぁ〜すかぁ〜
夏はしぃ〜にぃ〜まぁ〜すかぁ〜…ふぅ…。」
何が何だか分かってないはずの石川だったが、
そんなことお構いなしでランダム再生のさだまさしを聴いて感傷的になる。
北の国からの次は防人の詩か。
とてもじゃないが耐え難い…。
「はぁ……お風呂入ってきたら?そんで寝なよ。
ウジウジしててもしょうがないっしょ?」
「…うんっ……。」
そして背筋に悪寒が走った。
少しは元気を取り戻したような顔の石川だったが、
それが逆に怖かった。
- 60 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月25日(土)21時46分00秒
- (…矢口さんとアレってことは……女は危ないってことじゃ……)
「…うふっ…。」
全身の毛という毛が逆立った。
(いやいや、あたしそんなんじゃないし…)
「お風呂入ろっか…?」
「あ、え、や、い、いいよ、あたしは後で…後で入るから……」
「独りじゃ寂しいのっ…」
「で、でもさ!!最近風呂入ってなかったから
変な物浴槽に浮くよっ!?」
それはない…なぜなら彼女は風俗嬢。
「そんなの気にしないもんっ♪もっと浮く人知ってるし…大丈夫…。」
そして、その毛穴はドバッと開き、
その寒い空気がダイレクトで体内を刺激する。
- 61 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月25日(土)21時46分35秒
- 「いやいやいや…」
「いやいやじゃなくてぇ〜…」
ひしっと腕が絡まる。
(ヤバイッ!!ヤバイッ!!ヤバイッ!!ヤバイッ!!ヤバイッ!!ヤバイッ!!)
「ふふっ……じょ」
「だーーーーっ!!」
これは正当防衛である。
身の危険を感じたから、しょうがなく一撃喰らわせたまで。
毎度毎度、失神してばかりの石川さん。
『冗談だよ』の一言を言う前にグッスリと眠りの世界に堕ちていくのだった。
- 62 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月26日(日)22時18分07秒
- 翌朝
「よっすぃー、ありがとっ。少し元気になれたような気がゴホッ!!…っするっ…。」
そんな言葉とは裏腹に、
まだミゾオチはズキズキしているが、
精神上はとりあえず少し回復したようだ。
「はぁ…。仲良くやってよ、ホントに…。」
逆に、吉澤はクタクタで
"泊めたくない人リスト"の最上位に石川の名を位置付けたことは言うまでもない。
- 63 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月26日(日)22時18分52秒
- 何となく浮気をしたがる人の気持ちが解った気がした。
まぁ石川の場合、冗談でやってみただけだが。
自分の部屋なのに何故か帰る足取りは重く、
中で寝ているであろう矢口が
果たしてどんな反応をするのか、恐怖と興味が半々だった。
そぉ〜っと開けたドアの隙間から
暖まった空気がモワッと漏れてくる。
ガチャッという閉まった音に振り向いた矢口だったが、
石川と視線を合わせることなくまた元通りのところに目を移した。
「……。」
「……。」
「ただいま…。」
「……。」
返事がない。ただの矢口のようだ。
少し目の下にクマができているようだが、
もともとキッとした目つきだから、
少しでも不機嫌になると怖い顔になってしまう矢口。
今もまさにそんな感じの表情で、
アフロ犬の毛繕いをしている。
- 64 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月26日(日)22時19分37秒
- 「にゃーん。」
「よしよし。そうだ、散歩行こっか?」
「……。」
顎の下をくすぐってから抱き上げると
さっさと出て行ってしまった。石川を完全に放置して。
「…アフロは矢口さんの味方なのね…ぐすんっ…。」
普段から些細ないざこざは絶えないが、
今回は結構深めの溝ができてしまったようだ。
矢口が石川相手に本気で怒ったのは今回が初めてかもしれない。
向こうが悪いのに、なぜか自分が悪いことをしたと思ってしまう。
そこが"矢口に弱い"石川の大きな特徴であった。
部屋に鍵をかけ、アパートの階段を下りていく。
手にはミドリガメの紀藤くん(愛称キトー)と大きな縄を持って。
行く先には木で作った小屋がある。
ここにはキトーと同じ日に家族になった、松坂牛のモゥ娘。(愛称モーニング)が住んでいて、
鼻輪にその縄を通して、小屋から出した。
「モーニングっ、行くよっ。」
背中にキトーを乗せたモーニングが
道の真ん中を歩く不思議な光景。
石川は、ついさっき歩いてきた道をまた引き返して、
"その部屋"へ向かった。
- 65 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月27日(月)21時29分25秒
- 「zzz…zzz…」
ピンポーン♪
「zzz……」
ピンポンピンポーン♪
「……」
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン♪
ガチャッ
またかYO。
そう思ったに違いない。
明らかに寝起きの様子でドアを開けたら
寝る前に見送った石川がまた立っていたのだから。
- 66 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月27日(月)21時30分21秒
- 「よっすぃ〜、うわーんっ!」
「はいはい。」
畳部屋に腰を下ろして
また石川の泣き言を聞くハメになるとは、
まさに夢にも思っていなかっただろうに。
「矢口さんが無視するんだもんっ…」
「そんなこと言ってもさー、話し合わなきゃどうにもなんないじゃない?」
物珍しくキトーを眺めていた吉澤は
畳の上を歩いていたそれを手の上に乗せてそう言った。
「だってっ…謝ろうと思ったらすぐに出て行っちゃったから…」
「それで亀連れてまた来たってわけ?」
「そうっ…モーニングも連れてきたのっ…。」
「モーニング?」
「松坂牛のモーニングだよっ…」
- 67 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月27日(月)21時31分10秒
- 「松坂ぎゅっ……!?」
まさか、と思って窓から外を眺めると、
駐車場の柵に縄を括りつけて、牛が居座っているではないか。
ついでに垣根の牡丹の木を食い荒らしている。
「ちょっとっ!!あんなとこに置いといたらマズいYO!!」
「…じゃあここに連れて来る?」
「あ゛ーっ!!もうっ!!じゃあどっか、公園でも行こうっ!!
駐車場に牛が居たら警察に連れてかれるYO!?」
バシャバシャと顔を洗って着替えると
少し歩いたところの公園まで向かった。
アスファルトを叩くコツコツという音が何とも長閑だが、
石川の顔は深刻そうである。
そして吉澤は牛のせいで、石川のせいで、困った顔をしている。
そのうちに見えてきた木製のベンチに腰掛けて
モーニングはすぐ傍の木に、キトーはベンチにチョコンと置いた。
- 68 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月28日(火)21時30分37秒
- 「矢口さんが悪いのに何であたしが悩まなきゃいけないのっ?」
「さぁ〜?」
「だってクリスマスだよっ!?」
「ええ、まぁ。」
スリスリ…
「普通忘れないよぉ…だってクリスマスだもんっ…」
「そぉだねぇ〜。」
スリスリ…
「給料日とクリスマスとどっちが大事なのっ!?」
「え〜?あたしに言われても〜。」
- 69 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月28日(火)21時31分29秒
- スリスリ…コロンッ
「あ、逝っちゃった。」
「そうだよっ!逝っちゃっ……何してるのっ?」
キトーくんの甲羅の割れ目を撫でていたら、
頭、手足、全部引っ込めて仰向けになってしまった。
自分で転がることができるなんてある意味希少な亀だが。
「え、あっ…と…職業病っていうか…」
「もうっ!真面目に聞いてよっ!!」
「はぁ。すんません。ノルマとサービスとスピード命なんで…。」
- 70 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月28日(火)21時32分22秒
- そのころ矢口は…
「ニャーン。」
「なんだよー、もっと速く歩けよー。」
アフロ犬を引き連れ、一路マールゾロへ。
矢口は自分の行動パターンを脳内検索してみたが、
散歩道というものは1件も引っかからなかったので
仕方なくここへ来た、というわけ。
"ペットお断り"と書いてあるのもお構いなしに
そのまま店内を循環して目ぼしい食べ物を探す。
「腹減ったなぁ。そういえば何も食べてなかった。」
「ニャーゴ。」
ポケットには鷲掴みにしたままの数万円。
目の前にはタラフクの食べ物、そしてアフロ犬。
「……。」
「ニャーゴ。」
- 71 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月29日(水)20時27分25秒
- 数分後、矢口はいつもの場所で座り読みを始めた。
膝の辺りには、キャットフードを満足そうに食べているアフロ犬が。
「ふむふむ……"家で恋人とマターリ過ごしたいあなたは…"っか…。」
昨日帰り際に眺めたクリスマス特集の雑誌をペラペラと捲り、
強調された文字を目で追っていく。
ササミツナマヨのおにぎり(ワッショイ)を片手に
モグモグ言いながら渇いた指で次のページを開いた。
「これでも見てマターリ汁!……ドワッ!!
見開き真っ黒じゃんか!!何だこりゃ!?騙し絵!?」
そんなことより、その真っ黒なキャンバスに散らばった米粒をどうしてくれようか。
数多に広がる星空から光を消すのは非常に困難だが、
かと言ってそのまま閉じるのは、このページが開かずのページになることを意味する。
「バ…バンチは明日でいいか…。
梨…じゃなかった、アフロ…帰るぞっ。」
- 72 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月29日(水)20時28分13秒
- コソーリと棚に戻して店を出ると、外は肌を刺すような寒さで、
霜に彩られ、白んだ景色がゆったりと流れ出す。
薄曇りの空の下、道端を歩く。
紐で繋いでいるわけではないが、アフロ犬はちゃんと矢口の足元について歩いている。
いつの間にかこんなに懐くほど、石川の部屋で過ごした時間も長くなっていた。
「アフロっ、ヤグチと梨華ちゃんとどっちが好き?」
植え込みのコンクリートブロックに腰を下ろすと、
硬く冷たい感触が伝わった。
白い息を手のひらに吐きかけて両手を擦るが、
すぐに冬の寒さが戻ってきてしまう。
抱き上げたアフロ犬は、生き物の温かさが心地よく、
しばらく離す気にはならなかった。
「ニャーン。」
だが、今まで大人しかったアフロ犬は
突然慌しく手足を動かし出した。
「ん?どうした?」
「ニャーンッ。」
駆けていくアフロ犬を追いかけて矢口も走ったが、
しばらく行ったところの公園に入っていったアフロ犬を見届けて、
一人で帰っていった。
- 73 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月29日(水)20時28分55秒
- 「ク、クッセっ!!」
自分の部屋は本当に久しぶりだった。
廃屋のような埃っぽい臭いの中を分け入って、
押入れからコタツ布団を引き出した。
「コンセントどこだっけ…。あ、あった。」
明かりも付けずに、折りたたんだ座布団を枕代わりにして横になったが、
コタツの暖かさは足元だけに止まる。
目を瞑っただけでは時間は早く進んでくれない。
寝よう寝ようと思っていても、頭の中は空っぽになってくれずに、
このところの退屈な日々が蘇ってくるだけだった。
「ふぅ……。」
ときどき携帯のバックライトを光らせて、
時刻を確認するフリをして電話帳を開く。
誰も見てないのに、大っぴらに石川の名前を見るのは気が引けて、
そんなことを繰り返しているうちに、意識は遠のいていった。
- 74 名前:名無し読者。 投稿日:2003年01月30日(木)02時21分38秒
- やぐぅ、素直になってぇ。
梨華ちゃんとやぐぅに振り回される吉澤さん、
そんなときでも仕事を忘れていないのが良いw
おもしろいなぁほんとに。
作者さん方、頑張って下さい、最後までついていきます。
- 75 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月30日(木)21時54分39秒
- それから数日は、言葉を交わすことも、目を合わせることもなく
ただただ、白々しいほど疎遠な生活を過ごした。
どこで知ったか、ほとんどのメンバーからそのことについて電話がかかってきたが、
怒ることも、話を逸らすこともしなかった。
「明日やっぱ来んほうがええんとちゃいますか?」
23日、この日も電話がかかってきた。
相手は加護。
「別にいいよ。」
相変わらず底冷えする部屋で
コタツに足を突っ込んで横になっている。
声は少し枯れているが、咳払いするのも億劫で、
最近はコンビニに行くの以外は外出もしていない。
- 76 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月30日(木)21時55分30秒
- 「いいって…矢口さん、梨華ちゃんが居なくて困らないですかぁ?」
「何が困るの?何も困らないって。」
「いや…お金、とか…。」
「金!?おい加護!別に金で付き合ってたわけじゃねーんだよ!!」
「べ、別に怒らせるつもりはっ…すんません。」
こたつの上にはミカンも灰皿もない。
ただ、あの日鷲掴みにして持ってきた石川の金が、
残り2万円ほど、寂しそうに置いてあるだけ。
なぜか声を荒げてしまった後、
何を話したのか全く覚えていない。
ただ、矢口の顔には水滴の跡が残り
気づいたら携帯は『プーップーッ』と音を立てて
床に転がっていた。
- 77 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月30日(木)21時56分21秒
- しげるの上に独り。
霜の降りたコンクリートの壁に添わせてあるしげるの荷台に、
俯いたまま座っていた。
「……。」
矢口はいつものように、まるで誰も居ないかのように、
座席に座るまで目を合わせずにいたが、
それでも逸らした視界の隅から飛び込んでくる石川は
明らかに矢口を凝視していた。
だが、会話はない。
2、3度キーを回しても掛からないエンジン。
無言で石川がセルモーターを一蹴りしたら
やっぱりいつものように回り始めた。
- 78 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月30日(木)21時57分02秒
- 背中を抜ける風を感じる。
やはり石川の掴まり方は疎である。
石川の胸の温もりはすぐそこにある。
けれども、背中との間に挟まれた冬の空気が
容赦ないまでにそれを遮断するのだった。
「……。」
「……。」
踏み切りに行く手を阻まれる。
いつもここで遮断機が下りることはなかった。
朝起きてからあれこれやってもたついているから、
今日のようにさっさと出発してしまうと
電車に遭遇してしまうのだ。
ガタンガタン…
- 79 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年01月30日(木)21時57分37秒
- 間近を横切る電車が激烈な騒音を連れてきた。
周りの音は何も聞こえなくなった、はずなのに…。
矢口は後ろを振り向こうとして止めた。
自分を呼ぶ声が聞こえたような気がしたからだ。
確かに聞こえた、聞き間違えることのない声だから
余計に振り向くのが怖くなった。
臆病者の矢口真里が頭をもたげてきた。
故郷に置き去りにしてきたはずなのに。
すぐそこを走る電車の窓を眺めていた。
遮断機が上がった後も、
残音が完全に消えるまで
もうそこにはあるはずも無い窓を眺めていた。
- 80 名前:74 投稿日:2003年01月31日(金)00時13分05秒
- コメディ調から一転してシリアスな感じに…
すごく面白いです。
無言でいるのが少し胸に苦しいです。
- 81 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年02月01日(土)23時29分41秒
- 「んぁ〜…梨華ちゃん弱いもんねぇ…。」
ショーが終わってから、吉澤だけでは物足りなかったのか、
いつもの相談役である後藤にも悩みと不満をぶちまけていた。
「矢口さんには強く言えないんだもん…何でだろう…。」
「…なんでだろーなんでだろー」
「えっ?」
「…何でもない。」
後藤は少し目を細めて
さっきの続きを少し口ずさむと
音響システムの後ろにあるポットに手を遣った。
夏場は超サウナ級の暑さを誇るこの部屋も、
冬はその逆で、痺れるような寒さだ。
だから、紙コップとインスタントコーヒー、そして熱湯が入ったポットが常備してある。
- 82 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年02月01日(土)23時30分26秒
- 「梨華ちゃんブラックだよね?」
「あー…あたしお砂糖とミルクがないと飲めないの。」
「何で?黒いからブラックもいけるでしょー?」
「もうっ!何でもそれと結び付けないでよっ!!好きでジグロじゃないんだからっ!」
結局自分の分だけ注いでまた石川の前に戻ってくる。
その顔は、熱々のコーヒーをすすっていることを差し引いても
頬を緩ませているようだった。
「好きでジグロじゃなくても、簡単にあしらえるんだからー、
好きでやぐっつぁんと一緒に居たら、もっと簡単に解決できるんじゃないの?」
「……。」
「んぁ、意味解んないこと言っちゃった?」
「えっ……」
- 83 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年02月01日(土)23時31分21秒
- 「いやぁ、最近さー、ごとーが話してても
聞いてる相手はチンプンカンプンな顔してるのね。
何でだろーね。梨華ちゃん、解決してよ。」
おどけたように言う後藤に
苦笑いしながらも純粋な感想を述べる。
「ごっちんはさ、ちょっと意味解らないくらいが丁度いいんだよ、うふふっ。」
「んぁ?酷い言い方だなー。でも正解。」
「えっ?」
「自分らしく生きろ、ってね。ごとーの信念だから。
梨華ちゃんさー、弱い弱いって思ってるからダメなんじゃない?」
- 84 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月02日(日)22時28分17秒
- 「だって…さっきごっちんだって『弱い』って言ったじゃんっ…」
「ん、んぁ…まぁ…梨華ちゃんの場合さ、弱いのと強いのは紙一重だと思うのね。
やぐっつぁんに振り回されて弱い、と思うか、
好き放題するやぐっつぁんを受け入れることができて強い、と思うか。
ほら、これっくらいの差だよ。」
そう言って2本の指でちょこっと隙間を作って見せた。
「でも…それってノート1冊分くらいあるけど?」
そのちょこっとの隙間を自分で確かめる。
たしかにノート1冊分あるのだが…。
「……。」
「……。」
- 85 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月02日(日)22時29分08秒
- 「屁理屈言うくらいならあんまり悩んでなかったんだー?
んぁー、損しちゃったな。この後用事あるから早く行かなきゃ。んじゃ。」
もう8時前だった。
雪は降ってないけどクリスマスイブ。
「ごっちん…あたしも行っていい…?」
「ダメー。」
「だってっ…矢口さんも居るんでしょ?」
部屋を出る寸前で引き返した後藤。
椅子に掛けっ放しのレザージャケットに袖を通して
もう一度石川の方を見て笑った。
「解んないよー。やぐっつぁんは好き勝手する人だから、あはは。」
- 86 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月03日(月)21時35分47秒
- その頃、だるま(後藤の母親の営む居酒屋)では、
「おばしゃーん!!つくね3皿とネギマ5皿追加れーす!!!」
「酒もないわよっ!!生中5つ追加ねっ!!」
「おばはーん!!トリ唐も5皿追加ー!!」
「イカソーメンとブリ照りもカモンナッ!!」
大騒ぎですっかり出来上がった4人と
「……モグモグ。」
普通に食事する1人。
- 87 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月03日(月)21時36分29秒
- 「何れなっちしゃんといいらしゃんは来なかったんれすかね?
ついでに平家しゃんもいないれす。」
「あの2人は今週から休み貰って北海道に帰るって言ってたわよっ!
ついでのみっちゃんはお父さんの看病してんのよっ!!
ついででもやることはあるのよ、一応。」
「そ、そうれすか…。」
「…モグモグ。」
多分、何故パーティー(というか飲み会)をやってるのか
すっかり忘れてる4人と、その理由によって罪悪感を覚えている1人。
「北海道なぁ。寒いやろなぁ、あっちは。彼氏も居らんと余計に寒いわな、アヒャヒャ!」
「シッ!あいぼん!」
「あっ……」
「…モグモグ……ん?」
「ゴクゴクゴク…プハーッ!!みんなイッキタイムだYO!!」
「ん、あ、そしたらウチもイったろか!?」
「加護の次は辻よっ!!」
無理矢理盛り上げる4人と、それに気づいて余計に盛り下がる1人。
何につけても、矢口がここに居る理由はなかった。
でも、理由がないから言い訳できる、逃げることができるのだった。
- 88 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月03日(月)21時38分57秒
- 「んぁー、てめーらうるさい、あはは。」
「てめーらとは何れすか!!はいっ、次は真希しゃんの番れすよー!!!」
矢口は知っている。
後藤は石川と話をしていて遅くなったことを。
イッキイッキイッキイッキ!!!
「プハーッ。ちょっとトイレね。」
立ったままビールを飲み干し、
そのままトイレへ、と去っていく後藤に
矢口も偶然を装って付いていった。
入り口で待っている時間は長く感じるし、
他のメンバーがやって来ないか、という恐怖も感じなければならなかった。
「あっ、ごっつぁん…」
「何やってんの、こんな所で?」
「いや、ごっつぁんに…」
「そうじゃなくて。帰らなくていいの?ってこと。」
「……。」
- 89 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月04日(火)22時38分37秒
- 何の変哲も無い自分の部屋。
ピンクに彩られた部屋の所々に、
矢口の趣味が混ざっている。
トイズEEからは歩いて帰ってきた。
東三商店街は、ここぞとばかりに街を華やかに彩らせ、
途中、マールゾロに寄って晩御飯を買おうとすると、
こんな時に限って何故かケーキやシャンパンが目に付いて
敢えてそれから視線をずらす。
でも、ずらした所にはカップルが居たりして
何を見ても思い浮かぶ彼女の姿。
結局サンドイッチを買って帰ってきた。
でもまだ手をつけていない。
タマゴサンドをちぎってアフロ犬にあげ、
ハムレタスサンドはテーブルに置いたまま。
「はぁ…。」
- 90 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月04日(火)22時39分32秒
- 9時…10時…11時……
何をするでもなく、ただソファーに座って
定まらない視点でテレビを見つめている。
時々出る溜息は生暖かく、
目の前にぼんやりと浮かんではいつの間にか消えていく。
俯くと、くたびれた髪の毛が顔に掛かって、
それが矢口をオーバーラップさせる。
いつも振り回されてばかりだけど、もしかしたらそれが幸せなのかもしれない、と。
その存在は、何事にも代えられない。
矢口が好きなら、彼女の振る舞い一つ一つも含めて好きなはず。
目の前を塞いだ髪の毛を掻き分けた。
僅かに残る昨日のシャンプーの残り香が鼻をくすぐり、
顔を上げて笑った。
「よしっ、お風呂入ってこようっと。」
矢口はワガママではなく、自分がワガママだったのかもしれない。
籠の中の鳥だった石川は
自由奔放な彼女に惹かれていた。
だから何かを強要するのは間違いだったのだ。
彼女の心のどこかに自分が存在していれば、
きっと矢口だって……。
- 91 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月04日(火)22時40分29秒
- 無数の水滴が飛び散る音が部屋にも漏れてきたころ、
矢口はゆっくりとしげるに乗って帰路に着いていた。
座席の下には、さっき気晴らしにパチンコに寄って
獲った景品が隠れている。
「……やっぱ梨華ちゃん怒ってるよなぁ…。」
10秒おきくらいに街灯の下を走る。
今夜は一層寒さが堪えて、
本当は早く帰りたかった。
本当は石川が好きだった。
本当のヤグチを……
キーッと錆びたしげるのスタンドが音を立てた。
もう、階段を上がれば石川が居る部屋。
帰りに寄ったマールゾロの袋と、パチンコの景品を持って
ゆっくりと近づいていって、目の前で止まった。
- 92 名前:名無し読者。 投稿日:2003年02月04日(火)23時40分50秒
- ドキドキ…。
やぐ頑張れやぐ。
いしもうちっと待ていし。
- 93 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月05日(水)20時42分15秒
- 「寒いかな…?でも寒いの好きっぽいし……やるか…。」
景品は、サンタクロースの衣装だった。
寒いけど暖かい。
ズボンの裾と袖が余って、ダボダボしているけど、
白ヒゲを付ければ矢口サンタの完成。
「でもなぁ…滑ったらますます険悪だぞ…?」
そんなこと言うのは照れ隠しの証拠。
一応サンタのくせに、いや煙突などないのだから
しょうがないと言えばしょうがないが、
しばらく使ってなかった合鍵を差し込み
音がしないように慎重に回すと
あの"トイレの匂い"がしてきた。
胸が高鳴り、近づいてきたアフロ犬を抱えて胸に押し付けた。
派手な泥棒のように忍び足でリビングに向かったが、
そこには誰もいない。
でもすぐに気づいた。
ピチッピチッという水の弾ける音が
バスルームの方から聞こえてきたから。
- 94 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月05日(水)20時43分02秒
- 少し隠れたところで出てくるのを待つ。
シャワーの音が消えても、なかなか出てこない。
ガチャッ
せっかく隠れていたのに
すぐに目が合った。
「……。」
「……。」
「矢口さんっ……」
「よ、ようっ…」
サンタの格好なのに
まるで矢口そのもの。
『サンタさんだよ〜』の一言も言えないほど
石川の顔は真面目だった。
- 95 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月05日(水)20時43分50秒
- 「矢口さん…ごめんなさいっ…」
「えっ、ご、ごめんって…それはヤグチのほうが…」
バスタオル一枚。
というか、すでに肌蹴て落ちてしまったが。
きっと、付けヒゲがチクチクしているだろうけど、
石川は抱きついて離れなかった。
「矢口さんは…悪くないんです…
ずっと今までの通りでいいんです…」
「あ、あのさ…とりあえず服着ないと風邪引くから、ね?
それと…ケーキとシャンパン買ってきたから…。」
「ニャーン。」
外は今年一番の寒さ。
今は降ってなくても、そのうち雪が舞い降りるだろう。
時計の針は11時50分を示している。
10分間のクリスマスイブを
以前のようにくだらないこと言いながらケーキとシャンパンで過ごした2人だった。
- 96 名前:第19話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月05日(水)20時44分59秒
- 一方
ミニモスタッフ面々はだるまから退散したが、
彼女と後藤だけは残っていた。
店の片づけを済まして、後藤は彼女に話しかけた。
「圭ちゃーん。」
「…なによっ、あんまり大声出さないでっ…おえっぷっ。」
「ちゃんとお代払ってよねー、今回こそは。」
「……。」
「黙ってないで、お代。4万2500円。」
後藤が手のひらを差し出すと、
保田は少し手を見つめて、その手を掴み
後藤を引き寄せた。
「な、なにっ!?」
「…しょうがないわねっ…あんた、ウチのマンションに来なさいっ。
身体で払ってあげるわよっ。アヒャヒャ!!!」
「んぁっ!!!」
メリークリスマス。
- 97 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年02月05日(水)20時46分01秒
- 以上で第19話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして20話を開始したいと思います。
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月06日(木)00時07分48秒
- >>96
どうせならこの前の700万も請求すりゃいいのに・・・と言ってみるテスト
- 99 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年02月12日(水)22時12分56秒
- >>74、>>92
正反対の二人なんで、すれ違いも生暖かく見守ってあげてください。
>>98
一応あの金は簡易金庫に入ってるんで、
取り返そうと思えばできないことはないんですけどね
(ヤッスーが持ち逃げしてなければw)。
- 100 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月12日(水)22時14分30秒
- ほとんど毎日同じように、コタツに入ってテレビを眺めていると、
世の中の流れに少し遅れて飛び乗ることになる。
冬だということに気づいていても、
まさか今日で今年も終わりとは思っていなかった矢口と石川。
「ふぃ〜…今年も終わりだねぇ〜〜〜…。ズズズズズ…。」
「緑茶のおいしい季節ですよねぇ〜………。」
「みかんもおいしい季節だよー…ん〜〜甘い…。」
パンを焼いただけの朝食を終えてコタツでマターリ。
ポットからドボドボと出てくる98度の熱湯を茶葉に通して、
しみじみと2人は語り出す。
「今日で仕事納めだねぇ〜…。」
「そうですねぇ〜…気がついたら大晦日ですもんねぇ。」
- 101 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月12日(水)22時15分17秒
- 「今年は赤組の勝ちかなぁ〜…。」
「さぁ…小林幸子しか見ものがないというか…。」
「まぁねぇ〜〜…。スッペ…。」
少し酸っぱめのミカンに当たったのか、
顔をしょぼしょぼさせる矢口。
せっかく付けたエアコンも、効き始める前に
出勤時間がどんどん近づいてくる。
「今日で今年の仕事納めなんですねぇ…。」
「大晦日にバイト。なんだろうね。ハハハハ…。」
外の空気は、ガラス一枚隔てても分かるくらい澄んでいる。
痺れるような寒さは身体に堪える代わりに、
年末には無くてはならない調味料でもあった。
- 102 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月12日(水)22時15分51秒
- 「矢口さんっ、帰りにお餅買っていきましょっ。」
「あー雑煮食いたい。お年玉もらいたい。頂戴。」
「ダメッ。もうすぐ20歳ですよ、いいかげんもらう年じゃないですよっ。」
「そうかぁ…。そうだよなぁ…ババァになったよねー、ウチ等。」
「早いですよっ、まだまだ気分はピチピチ♪」
「へぇ…。」
なかなか出られないコタツに踏ん切りをつけて、
ようやく腰をあげた二人。
と思ったらまたコタツに足を突っ込む矢口。
「やっぱ寒い。おコタはいいなぁ。」
「あっ、お雑煮食べたいんなら石川が作ってあげますよ。」
「(〜゚听)イラネ」
- 103 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月12日(水)22時16分41秒
- 朝からやたら顔艶がよさそうな石川と
朝から少し疲れた顔をする矢口。
冬休み期間に入ってからというもの
毎日ミニモレンジャー。ショーで、一日2公演。
それも、股から敵の顔めがけて投げられるミニモXを1日2回。
正直、最近痛みのあまりガニマタで歩いている。
この冬休みというのは、投げられる矢口とそれを受ける吉澤には試練の日々だった。
年が明けても、また続くショー。
そりゃあ矢口も気分的に急に老け込むというもの。
いくら陰鬱になっていても、時とは訪れる。
石川が時計を確かめればすでに出かける時間。
「さっ、矢口さん。仕事納めに行きましょッ♪」
「ふぅ…いくかぁ。…股イテェなぁ…これで不感症になったらどうすんだよ…。」
「大丈夫ですよ♪今んところ感度に変化はないようですし♪」
「ああそう。」
矢口の目には石川が物凄く憎たらしく映った。
- 104 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月13日(木)22時35分08秒
- 玄関を出ると、寒さが一層感じられる。
ジャンパーを着たちっちゃいのと、ピンクのダッフルコートの黒いのは
いつものようにしげるにまたがり、出かける。
冷たい風が顔を突き刺す。
その冷たさが、二人の距離を狭めさせ、
石川は小さな背中にぎゅっと抱きついた。
「初めて…二人で年越ですね…。」
そうつぶやいてはみるが、矢口には聞こえない。
「なんか言ったぁ〜〜???」
「何にも言ってませんよっ♪」
「いい日にしたいよね〜〜。終わりよければ全てよし、ってさ。」
「…はぁいっ♪」
ギュッ。
小さな背中はとても温かく感じた。
- 105 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月13日(木)22時36分40秒
- 「あんた達ねっ!!終わりよければ全てよし、って言葉知らないのっ!?」
派手に着飾った商店街を抜け、
真っ赤な鼻で白い息を吐きながらトイズEEの階段を駆け上がった数秒後。
恐らくは、今年200回以上響き渡った怒号が
今朝もまた矢口と石川に浴びせかけられる。
「おはよー圭ちゃ〜ん。」
「おはようじゃないわよっ!!今年最後だって言うのに
あんた達また遅刻じゃないっ!!!」
「まぁまぁ、来年からちゃんとするから〜。」
「絶対忘れるじゃないっ!!終わりよければ……」
- 106 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月13日(木)22時37分26秒
- 「分かった分かった。それさっきも聞いたから。
終わりもダメならイッテヨシでしょ?
あ、加護!ヤグチにもホットコーヒーちょーだーい!!」
「あいぼん、あたしにも〜!!」
鬼の警告も右から左。
二人はさっさと保田の脇を抜けていってしまった。
「それだからダメだっつってんでしょ!!あーくそっ!!
後藤!!あんたね!!今頃平気な顔してノコノコやってきてんじゃないわよっ!!」
「んぁ〜…だって…眠いんだもん…。寒いし…。
加護ぉ〜、コーヒー。」
新たに最強の遅刻王(冬季限定)・後藤が現れたことで
もはやライフワークと化した雷落しは、この日も行われたのだった。
- 107 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月14日(金)21時46分55秒
- がんばってぇ〜いきまっしょおおおおいい!!!
そんな掛け声で今日も始まるミニモレンジャーショー。
年内最後の今日の公演。
全く表記は無いが、チャーミーお姉さんは冬服で現れる。
世間が不況の煽りを受けようが受けまいが、トイズEEは年中無休で不況なため
チャーミーに与えられる衣装などなく、私服での登場なのだ。
つまり、ピンクのダッフルコートを着た黒いオネーチャンがマイクを持って現れるのだ。
「こんにちは〜、ちびっこのみんなー♪今日はミニモレンジャー。ショーを見に来てくれて
どうもありがとう♪チャーミーお姉さんよっ♪」
冬休みというのに、いや冬休みだから夏以上に客足は少ない、と思ったら甘い。
そんな要素がまるでアリの糞に思えるような振る舞いをし始めた黒い人が一人居た。
「さぁっ♪ちびっこのみんな、チャーミーお姉さんといっしょに歌いましょ♪」
- 108 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月14日(金)21時47分37秒
- はてさて、この奇行が何故始まったのか?
夏休みでミニモレンジャー役の加護の特技がショーに採用されていたが(第一話参照)、
この冬休みの台本決めの際、
自分の特技を使って欲しいと石川が猛抗議をしたため、
保田が折れた形で採用になったのである。
その際に、"牛の糞の恐怖"が少なからず作用したことを付け加えておかねばならない。
そしてこの、題して『チャーミーお姉さんと歌いましょ。』は、
ミニモスタッフ達の間で"怪奇ラップ音"と呼ばれているのだった。
「ミュージックっ♪スタートっ♪」
その台詞が放たれるや否や、ミニモスタッフは舞台裏で全員耳栓を装着する。
後藤と保田はヘッドフォンをも外すのだから、ある意味職務妨害の騒音には違いない。
後藤のボタンひとつで何が流れてくるかといえば、
子供向けのショーなのにもかかわらず、エンヤなのだ。
ここで歌い始めたのは映画『冷静と情熱のあいだ』で使われたアノ曲。
石川曰く、子供たちに癒しを、ということらしい。
- 109 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月14日(金)21時48分21秒
- 「うぃーうぃーおーえーあーえーおー。」
エンヤの歌……らしい。
「いいいおーおえあお〜。」
多分、違う…。
一体何を歌っているのか、エンヤと野猿を間違えてもこんな歌にはならないのだが。
映画で聞いただけの曲を歌詞も分からずに、
歌っているつもりになっている彼女はある意味スゴイ。
ひとしきり、歌い終わると一言。
「ご清聴ありがとう、次は何を一緒に歌おうかな?」
一緒じゃないじゃん。
まぁ、時計の針が止まったようなゲートボール帰りのような
じいさんが一人、彼女に拍手を送っていたようである。
- 110 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月15日(土)22時08分33秒
- こんな歌をまた歌われてはかなわんとばかりに、
怪人ひとみカラスがステージに現れる。
「下手な歌唄うなカー、バカカー!?」
「きゃっ?なによぉ〜素敵な歌だったでしょぉ〜?」
どこが…?という目線を冷ややかに送るひとみカラスに、
台本どおりではあるがふくれっ面をするチャーミー。
「どこがカー!?お客悶絶してたカー!!ステージ裏で
耳栓みんなしてたカー!!お客が悲惨カー!!」
もう、年末、今年最後のステージとあって、思い切って
アドリブをかますひとみカラス。
「えっ…そうなの…?」
「そんなことよりっ!!見ての通り怪人カー!!少しは
『キャー』とか『イヤー』とか言うカー!!」
「……えっと…キャー!!怪人よー!!こわ〜〜い!!」
- 111 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月15日(土)22時09分08秒
- あまりにも怪人とは程遠い衣装のひとみカラスであるがゆえに
石川の大根役者ぶりが余計に加速する。
「そうだカー!!もっと悲鳴を上げるカー!!」
「……。」
「……?」
少しの静寂が場を支配した。
そして、困った顔をした石川がその空気を切り裂くかのように言葉を吐いた。
「えっと……何だったっけ、ヨッスィー…次の台詞。」
最悪だ。
大根な上に台詞を忘れている。
「もうっ!!『助けてー!!ミニモレンジャー!!』だカー!!バカー!!」
「あ、…ごめん。キャーー!!助けてぇ〜〜ミニモレンジャ〜〜。」
すると、流れ出すのは新テーマソング『げんき印の大盛りソング(黒衣装とジャリ抜き)』
そのテーマソングがサビに差し掛かる頃、3人は現れる。
- 112 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月15日(土)22時09分50秒
- 「トウッ!!」
「タァッ!!」
「オリャア!!」
勢い良く登場すると3人でいつもの決めポーズ。
「「「三人揃ってぇ〜、150cm以下戦隊ミニモレンジャー。カッカッ。ドッカ〜ン!!」」」
ポーズも決まったところで、辻が台詞を喋りだす。
「リーダー、一言いうことがあるんれすよ!」
「何だ?ののたーん。」
「今日の怪人より、このお姉さんのほうが敵じゃないれすか!?」
「そうやでリーダー、このお姉さん、冬休み中ずぅ〜っとヘタクソな
歌唄い続けて、もう、かなわんわぁ〜。」
あまりのアドリブに少し焦る矢口。
どうやら辻加護はひそひそと事前に打ち合わせしていたようである。
- 113 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月15日(土)22時10分28秒
- 「え゛っ…台本通…ま、まぁ、そうだなっ!!アノ声は公害だっ。
ののたーんとアイボーンの言うとおりだ。うんうん。」
「ってことでぇ〜、リーダー。大掃除も兼ねて、
"壊れきったレディオ"もやっつけてしまうのはどうれすかね?」
「う〜ん…まぁいいだろうっ!!ヨシこいっ!!」
「え゛っ!?何で石川もなんですかぁ〜!?あ…。」
劇中で自分の名前を明かす阿呆はただ一人。
やっちゃったよぉ〜と苦い顔する後ろの黒い着ぐるみ。
最後のショーはそんな中、終盤へと向かう。
- 114 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月16日(日)23時21分12秒
- 矢口が覚悟を決めて、手を水平にあげると
その脇に辻加護が立ち
二人で『よいしょっ。』など言いながら矢口を担ぎ上げる。
片腕で片足を支え、もう片手で肩あたりを支える。
丁度、矢口が空中で大の字になるように二人が支えると
必殺技『ミニモX』の準備が完了する。
「いくでぇののっ!!」
「オーケーなのれす。」
「「必殺ミニモエ〜〜〜ックスゥ〜〜!!!」」
戦慄の瞬間。
矢口を担いだ二人は助走をつけて
石川に向かってそれを放ろうとする。
無論、台本外のことであるから石川は逃げようとするが
それを黒い着ぐるみひとみカラスが羽交い絞めにして
押さえつけた。
- 115 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月16日(日)23時22分00秒
- 「(ああ…神様…石川は罪な女なのね…。)」
「(梨華ちゃんを盾にすれば少しはダメージは軽いはず…。)」
「(これが今年最後のミニモX…あーオイラ生きてますように…)」
投げられる者、盾にする者、盾にされる者
それぞれの思いがこの瞬間に交錯した。
放られた瞬間がとても長く
『マトリックス』並みの空間の流動が起きているかのような
時間に感じられた。
「ヅッ!!!」
「グエッ!!」
「ゴハッ!!」
3人が重なるように倒れる。
ぶつかった人、ぶつけられた人。
結果として石川と矢口の下敷きとなった吉澤であったが
石川の体重の加算を考えても、直撃よりは幾分衝撃が少なかった。
とはいっても、二人が圧し掛かった状態なのだから相当なものなのであるが。
- 116 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月16日(日)23時22分47秒
- 一番大変だったのはやはり、お股イタイイタイの矢口さん。
しきりに股間を抑えながら飛び起きてスースー言っている(男性ではありません)。
「リーダー!!性悪女とひとみカラスをやっつけたのれす!!」
いつから性悪女になったの?と思いつつゲホゲホ息を吐く石川。
「よ、よし…地球の…平和を守ったな…イテテテ…。
オマ●コに口ばしが刺さった……。」
「リーダー!!今年最後のポーズ行こうやぁ〜。」
子供相手のショーで性器名を口にした主人公は、
股間の痛み抑えつつ、ピンピンしている二人と
何とか息を合わせてポーズをとる。
「「「150cm以下戦隊ミニモレンジャー。カッカッ。ドッカ〜ン!!!」」」
そしてお決まりの爆破音が流れショーは幕を閉じた。
- 117 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月17日(月)21時35分29秒
- 「あんたらっ!!ちょっと何なのよっ、あのアドリブはっ!?」
開口一発、ステージ裏に待ち構えていた保田の第一声。
「しらないよー辻加護とヨッスィーに聞いてよぉ〜ヤグチ知らねーもんよぉ〜。」
矢口はまだ股が痛いようで、股間を抑えつつ不機嫌に保田の横を過ぎていく。
「辻っ!!加護っ!!あんた達ちょっと説明しなさいよっ!!」
「みんなの総意を代表したまでやんなぁ、ののぉ〜?」
「そうれすよねぇ〜。オバしゃんは血圧あがると氏ぬれすよっ。」
そう軽く保田をあしらいながら辻加護も楽屋に戻っていく。
無論、大ダメージな石川と吉澤に尋問を行える状態でもないのは
わかりきっていることなので。
「ふぅ…まったく、今年最後だからって…んまぁ、良くやってきてくれたのは
間違いないわね…。」
保田はタバコ『峰』を吹かしながら、休日のことを考えていた。
- 118 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月17日(月)21時36分15秒
- 「年始バーゲンセールが新年最初のバーゲン戦線なのに
何でウチは三日まで休みなのかしら…。売る気無いわね…。」
年始から三日間が休みなのは少しありがたいが、
他のデパートにはありえない年始休業に不安感を覚える。
「さて…明日も行こうかしらね…。ん〜どうしようかしら。」
保田は携帯を持ちながら、ゴロゴロしているスタッフ達を見て
「あんた達、今日バイト終わった後どうすんのよ?」
「寝正月ー。」「TVみるなぁ。」「うーん。わからないれす。」
「んぁ〜、寝るかもぉ〜。」「筋トレっす。」
「矢口さんと一緒です…。」
「つまり暇人の引き篭もりね、分かったわ。夜、呼び出すから出かける準備しておきなさい。
今日は終了。解散。んじゃ。」
そう言い放って、携帯電話を耳にあてながら、とっとと保田は去っていった。
「なんなんれすかね?オバしゃん。」
「さぁなぁ…ようわからん…。」
「何考えてるんですかね…。」
「さぁ〜?圭ちゃん謎が多いから。」
「んぁ〜もう帰ろー。」
そうして、年末バイト最終日はあっけなく終了するのだった。
- 119 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月17日(月)21時36分58秒
- 「矢口さんっ、今日は紅白見せてくださいッ。」
「何言ってるわけ?レコ大にボンバイエでしょう。出演者大した奴いないじゃん。
キミ、ミルコ並の左ハイキックでKOしちゃうよ?」
「いいんですっ、たとえ企画が古臭くても、安いギャラで出演者いなくてもっ、
日本放送協会を今日は見る日なんですっ!!」
「うーん。しょうがねぇなぁ。いつもヤグチがチャンネル独占してるしなぁ、
よし、ヤグチはビデオ録画するか。」
「うふっ♪スキッ♪」
「キモッ。」
家に帰った石川さんと矢口さん。
何で揉めていたかと言えば、今日のチャンネル権争い。
争っても関係が気まずくならない最近の二人、非常に順調だ。
「あ−その前にそば買ってこようよ、梨華ちゃん。まだ紅白には間に合うよ。」
「そうですねっ、ちょっと買ってきましょッ♪どん兵衛で。」
「どん兵衛かよぉ〜。」
また二人は、家を出てコンビニに向かいますた。
- 120 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月18日(火)23時18分55秒
- 一方。
「加護ちゃん家、初めて入ったYO〜。狭いねぇ。」
「ヨッスィーが大きいんれすよ。」
「せやなぁ。まぁ、今4人六畳にいてるし、狭いのも当たり前やで。」
「んぁ〜…眠いのにぃ〜…。何でごとーも居なくちゃいけないのぉ〜。」
「まぁ、いいじゃないれすか、どうせオバしゃんから呼び出し食らうんれすから
今から集まっておいても良いのれす。」
そう、石川・矢口と保田を抜いた、他のスタッフたちは加護の家に集まっていた。
たわいも無い雑談で盛り上がれる彼女たちは、青春真っ只中なのだろう。
そして時刻は19:30を迎えようとしていた。
「ごとーの寝る場所空けて〜……ホワワ…」
「6畳で無理言うなれす。」
- 121 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月18日(火)23時19分50秒
- 石川の部屋にて。
「梨華ちゃぁ〜ん、紅白始まったよー。」
「ちょっと待ってくださぁ〜い。今持っていきますぅ〜。」
何を持ってくるかといえば、すき焼き鍋のようである。
冬らしいメニューに鍋の香りを嗅ぐ矢口。
「これ、砂糖と塩まちがってないよねー。」
「間違ってませんよぉ〜…。あれっ?」
「ん?どしたぁ?」
石川の視線を追って、画面を注視する。
すると、赤組一番手の女の子がバックダンサーを率いて歌い踊っていた。
「……。」
「……。」
- 122 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月18日(火)23時20分32秒
- 「あのバックで踊ってる子達、誰かに似てますよねぇ〜…。」
「ん〜?あー、黒いのとか、太いのとか誰かに似ている気がする。」
「ですよねぇ…誰に似てるかちょっと思い出せないんですけど…。」
「んまぁ、NHKは構成が古いからねぇ、デジャヴなんじゃない?」
「そ、そうかもしれないですよね、そうですよねっ♪あはっ♪」
同時刻、加護宅にて。
こちらも同様に、紅白を見入っていた。
「なんや?なんか、誰かに似てる子達が後ろで踊っとるなぁ。」
「そうれすねぇ…なんか髪束ねてる子可愛いれす。」
「チッげーYO、タッパの高いコがかわいいYO!!」
「zzzz…。」
「ちゃうわボケッ!!あの前髪7:3分けのコが一番やん。決まりやんか!」
「そんなこと無いれすよぉ〜!!」
「あーわかってないねー、少しオトナな、あの子がかわいいYO!!」
「んぁ〜…どっちでもいいよぉ〜…寝かせてよぉ〜…。」
世界に3人、そっくりな人が居ると言いますが。
「デカいコ、衣装の腹んとこから肉がはみ出とるで。」
- 123 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月19日(水)22時58分55秒
- そして鍋をつつきながら紅白を見る矢口・石川は
しばらく和やかに紅白を見ていたが、
あるテレビに映った女の子について論議が始まった。
「あのぉ〜、今だけチャンネルレコ大にしません?なんかこのコむかつくんですけど…。」
「え?なんでよ?カワイイじゃんか〜。なんて名前なんだろう…。」
「どこがですかぁ〜?めちゃくちゃブリッコじゃないですかぁ〜、
なにがホォ〜リデ〜なんだかワケわかんないじゃないですかッ。」
「そうかい?かわいいと思うけどなぁ…。あ、チャンネル変えんなよー、
これじゃあレコ大ザッピング状態じゃねぇかよぉ。」
「いいんですっ、鍋冷めちゃいますよっ!!バカッ。」
「バカッってなんだよー。変だぞー梨華ちゃん。…でも誰かに似てたよなぁ。」
「ええ。あのコ見ると、すごいムカツクんですよっ、どこかの誰かさんと
同じ雰囲気もってましたッ。あー気分悪いっ。」
不機嫌な石川をなだめるのは、また面倒だなぁと思う矢口だった。
- 124 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月19日(水)22時59分29秒
- 行ったり来たり。
同時刻、松浦邸。
「きゃぁ〜♪カワイイ〜♪妹にしたいくらいカワイイ〜♪」
紅白を大画面で、彼女は一緒に踊っていた。
「誰ぇ〜?このコぉ〜♪可愛くって他人とは思えない〜♪」
大きな声援を画面に送る彼女だった。
そして、時は21時を迎えようとしていた頃の加護家。
こちらも続けて、紅白に見入っていた。
「なんやぞろぞろ居るなぁ〜このグループ…。」
「そうれすね…10人以上いるんれすかね?」
「なんて名前のグループなんだYO。」
「zzzzz……。」
「あー見忘れたれす。なんて名前れすかね?」
「ん?あ、最初のコの後ろで踊っとったコが居るでぇ〜、
7:3分けのコカワイイなぁ〜ホンマ。」
「ん?何いってるんれすか。八重歯がかわいい、この髪まとめてる子れすよ。」
「ちげーYO、白くてタッパの2番目に高いこのコだYO。」
「んぁ〜…ごとーは興味ないよぉ〜…寝かせてよぉ〜…。」
- 125 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月19日(水)23時00分51秒
- 同時刻、石川の部屋にて。
「おいっ、このコなんて名前だよ、この一番小さいコ!!
可愛くねぇ〜?かわいいよなぁ!?」
「そのコも可愛いですけどぉ〜、ちょっと色黒なコのほうが可愛いですよぉ〜♪」
「んなこたぁない。色黒はアイドルにとって致命的だ。」
「なんでですかぁ〜そんなこと無いですよぉ〜。可愛いしスタイルよさそうじゃないですかぁ〜。」
「あーだめ。やっぱヤグチはこのちっちゃいコがいい。」
「…このグループなんて名前なんですかね?」
「見てねぇのかよ!!ヤグチも分かんねぇ。アハハ、まぁいいんだよ。
紅白なんて知らねー奴が多いんだから。」
「そ、そうですよねっ♪あ、もうそろそろ九時ですね。もういいですよっ、矢口さんの
見たい番組見ていいです♪なんかもういいやって思っちゃいました♪」
「あ、そう?じゃあボンバイエー見るぞー。」
そして、石川は何に満足したのか分からないが
チャンネル権を矢口に譲った。
- 126 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月19日(水)23時01分27秒
- 時は過ぎ、時刻は23時30分になった頃、
石川の携帯が鳴り出した。
着信:ケメコ
「ん?矢口さん、保田さんからかかって来ましたよー。」
「あーボブちゃん可愛いなぁ、ツエーし…。ん?出てみてよ。」
「はい♪保田さーん、遅いですよぉ♪」
電話に出ると、別に保田を待っていたわけでもなくそう言う石川。
『ちょっと、紅白見てたら可愛い子がいたから見てたのよっ。』
「でしょっ?黒いコとか可愛かったですよねぇ。」
『はぁっ?何言ってんのあんた。口にホクロのあった可愛いコの事言ってんのよっ!!』
「そんなコ居ましたっけ?」
『居たわよっ!!そんな事どうでもいいのよっ!!あんた達っ、トイズEEの駐車場
今すぐ来なさい、いいわねッ!!早くこないと、血みるわよっ!!』
- 127 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月19日(水)23時02分21秒
- 「えっ、なんでですかっ!?」
『いいから来なさいっ!!辻加護達にはもう召集かけてあるわっ!!あんた達も
早く来なさいよっ!!』
「あ、はぁ…。あ、でもどこに…」
一通り言いたいことを言い終えると保田は電話を一方的に切った。
「ん〜?圭ちゃん何だってぇ〜?」
「さぁ〜…早くトイズ駐車場に来いとしか…。」
「全く…圭ちゃんいつも自分本位なんだから…。
ヤグチ達はいつも迷惑だよ…。」
それはあなたも一緒です。
そう言いたかった石川であったが、後が怖いので
コートを着て、出かける準備を始める。
矢口もしょうがねぇな、と渋々ジャンパーを着た。
- 128 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月20日(木)21時55分36秒
- トイズEEの駐車場に言われた通りやってくると
先に辻加護たちが集まっていた。
「おーい。おまたせー。」
「矢口さ〜ん、ケメコ来てねぇっスYO。」
「何やってんだぁ〜、人呼んでおいてぇ〜。」
辺りを見回してみても保田の姿は無かった。
ある物といえば、普通自動車数台と、背筋を丸めてポケットに手を突っ込むメンバー、
そして何故かバス、だった。
「う〜ん…なんか聞こえない?」
「へ?聞こえないれすよ。」
よくよく、耳を澄ましてみると
「ぉ〜ぃ。」
- 129 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月20日(木)21時56分24秒
- 「ん!?なんか聞こえましたよ?」
「…やっぱ幻聴だわ。帰ろうぜー、ケメコ来てねぇし。」
矢口のその一言に釣られるように
目の前にあったバスのドアが勢いよく開き、人が出てきた。
「帰るんじゃないわよっ!!矢口!!あんたさっきあたしと目が合ったじゃないのっ!!
少し開いた窓の隙間から目が合ったでしょっ!!」
「合ったから帰ろうと思ったんだけどさ。」
しかし何故バスなのか。
さっぱり保田の考えが読めないメンバー達は困惑気味。
「待ってたわよー、寒いからぁ、バスの中にいたのよー。」
「なんだよー、ウチら寒い中待ってたっつーのに。で、なんなわけ、
このバス。」
- 130 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月20日(木)21時57分05秒
- 「借りてきたのよ、今日はウチ等全員で初詣行くのよ。いいでしょっ。」
え〜…ダルイ。
「そんな声そろえて言わなくったっていいでしょうがっ!!
とにかく付き合いなさいよっ!!車も借りちゃったんだから!!」
「借りちゃったって…ってかこんなバス運転できるの?圭ちゃんは。」
「フッフッフッ…それがどっこい…。」
おそらくそれを待っていましたと言わんばかりの笑みを湛えて
保田はポケットに手を突っ込み何かを取り出そうとしていた。
そのとき、しばらく寒くて口を閉ざしていた後藤から言葉が放たれる。
「圭ちゃん、大型免許取ったんだよー。」
「へぇ〜…。」
「あっ、ちょっと、後藤!?何で言うのよあんたっ!!
アタシが今から免許見せようって時にっ!!!」
良い所を持っていかれ、
今更免許を見せびらかすのも格好が悪い、と
保田は出そうとしていたものを元に戻した。
- 131 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月21日(金)23時41分20秒
- 「まったくアタシが今から免許証見せても二番煎じじゃないのよっ。
大体、何で後藤が言っちゃうのよ。確かに後藤には前に言っていたけど。
まぁいいわっ、とっとと乗りなさいっ。初詣いくわよっ!!
…ってもう乗り込んでんじゃないのっ!!」
下を向いてブツクサ言っている間に、全員がすでに乗り込んでいますた。
バスとは言っても、小型。
7人で行くのだからワゴンか何かにすればよかったものを、
大型免許を見せびらかしたいが為に借りたバスは、
その目的を果たすことなく、ただの移動手段に成り下がるのであった。
「狭いれすねぇ〜、エチケット袋がないのれす。」
「おばちゃ〜ん、お菓子とかでーへんのー?」
「カラオケくらいあるっスよねー!?」
「窓開かねー、なんかクセー!!これゲロの跡だよー。ウエッ。」
「べつに7人なのにバスなんて借りなくても…。」
「んぁ…寝づらい…。」
- 132 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月21日(金)23時42分05秒
- 散々な言われようだ。
自腹切って借りてきたというのに。
しかしながら、別に頼んでもいないことを勝手に企画して
実行している保田に責があるともいえるが…。
「うるさいわねぇっ!!文句言うとニャンギラスの刑にするわよっ!!!」
最終奥義ニャンギラスの刑。
保田がこの技を出すとき、すべての生物が恐れおののくという恐怖の技。
かつてそれを受けた某大学付属守衛さん(45歳)は、そのとき
あまりの衝撃に2時間余り、断続的に嘔吐し続け、生命の危機に陥ったという。
『ニャンギラスの刑』という言葉に皆が嫌な汗を流し、息を飲んで沈黙した。
「わかったら良いのよっ!!あんまり怒らせるんじゃないわよっ!?」
はぁい…。
「よろしい。さ、出発よ。」
- 133 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月21日(金)23時42分52秒
- そしてバスは動き出す。
どこへ連れて行かれるか分からぬ赤い靴の女の子達。
バスに揺られて30分。
言うまでもなく、車中では演歌と軍歌がたっぷり詰まったカセットが流れていたのだが、
それを聴いているものは運転手以外に誰も居なかった。
「兄弟ぶぅねぇはぁ〜オレと兄貴のよぉ〜〜♪」
保田当人は、マイコレクションカセットにノリノリだったが。
まず最初についた先といえば、
「着いたわよー!!とっとと降りなさい。」
言われるがままに降りてみるとそこには神社が目の前にあった。
目の前に広がるのは神社と鳥居。
そして初詣参拝の人々の波。
- 134 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月22日(土)21時17分17秒
- 「うわ〜い、甘酒配ってるのれすー。ののにくらしゃぁ〜い!!」
何の疑いも持たないかのように
神社へと消えていく辻加護。
「どこだよーここぉ〜。」
「…んぁ〜…ここ生姜神社だよー。」
地元に詳しい後藤がそこが何であるかを述べる。
「生姜神社って…しょーがねぇ神社だなぁ。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「んぁ〜…なんかわからないけど、そういう名前なんだよー。」
「……突っ込んでよ。」
- 135 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月22日(土)21時17分57秒
- 「とにかく参拝よっ。きた意味無いでしょうがッ。」
「そうですねっ、矢口さんっおみくじ引きましょっ♪」
「えー、金もってねぇよー。」
「どうで、私のおごりなんだからいいのいいのっ♪」
もう神社DEデートモードに入った石川は矢口の腕をつかんで
強引に境内に入っていった。
境内に入ると、人でそれなりに賑わっている。
配られた甘酒は寒い身体を温めた。
「いいっすねー、甘酒。」
「のの、もう4杯飲んだれすよ。亜依しゃんは6杯飲んでいるれす。」
「ガブ飲みは良くないわよっ!?わかった!?他の人の分もあるんだから
少しは遠慮をしなさいよっ!!」
「ん〜?7杯目やでぇ〜。」
「まぁ、タダなんだからいいっしょー。うめー。」
「矢口さぁ〜ん、早くおみくじ引きましょうよぉ〜。」
- 136 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月22日(土)21時18分31秒
- 時刻はすでに新年を向かえていた。
にぎやかな中にぎやかな連中が境内の中を進む。
最初に向かったのはおみくじ売り場。
「さぁっ♪おみくじ引きましょ、おみくじっ♪」
おみくじに一番テンションが高かったのは石川。
最も女の子女の子している石川は、こういう占い系が大好きである。
まずテンションの高い石川が先陣を切って
バイトで雇われているであろう巫女さんから、おみくじ箱を受け取ると
「おねがぁ〜い、フラッシュッ♪」
そう言いながら、シャッフルを好きなだけ行って
一本の棒を箱口から引き出した。
「えっと…22番?」
番号を巫女に伝えると、巫女の背後にある番号の付けられた引き出しの中から
22番を選び出して紙を取り出すと、石川の手に渡る。
- 137 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月25日(火)18時22分29秒
- 凶
「いやぁ〜っ…ぐすん。お産難しいですってぇ…。」
「ダメダメだなぁ。ヨシ梨華ちゃん、お金頂戴。次は矢口だ。」
続けて矢口が引いたのは45番。
吉
「ビミョォ〜…これ微妙だなぁ…。健康怪我に注意かよぉ〜…もうグタグタだって…。」
次々に新年を占うミニモスタッフ達がおみくじを引いていく。
保田(中吉)吉澤(凶)辻(大凶)加護(大吉)後藤(吉)
「ヨシッ、まぁまぁねっ。こんなもんよ。でも、仕事転職ありになってるわ…。
結婚無しとか…あんまり良くない中吉ね…。」
「なんすかー健康肥満に注意ってヤバッ。」
うんうん。
「みんな、なんすかーっ!?えーやばいっすYOやばいっすYO。はいはい。」
「受験、難ありれすよっ!?なんなんれすかっ、全く新年初めっから不吉れす。」
「ウチ悪いところないわぁ〜、ただ結婚がなぁ…相手に注意って。」
「んぁ〜、探し人遠方に居る…みんなどこに居るんだよぉ〜。」
それぞれ現在でも状態がカブっているようで、
このおみくじの信憑性は高いようである。
- 138 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月25日(火)18時23分18秒
- 暗い場所に沢山の人の気配を感じると、
それだけである種異様な感覚に陥る。
境内の方には、より多くのライトが照らされており、
その下には、光に群がる虫のように
大量の人が集まっていた。
「さっ、お参りして帰るわよっ!寒いしっ。」
「んぁ…寒いのが嫌なら来なきゃいいのに。」
「何か言ったっ!?ってかあんたどこ行ってたのよっ!?」
「ずっとここに居たってば。」
「辻ーっ!!すぐに甘酒飲みに行くんじゃないわよっ!!」
大家族のお母さんのような振る舞いの保田は、
そろそろ帰りたくなっていた。
もっと風情ある初詣風景を頭に描いて、バスも借りたに違いない。
思った通りに事が運ばないから、保田のホクロはブルブルと苛立ちに震えていた、かもしれない。
- 139 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月26日(水)22時41分45秒
- 「お参り終わったら帰るわよっ!!点呼!!」
……。
「おばちゃん、何でそんなにイライラしとんの?」
「イライラするわよっ!!もっとあたしの言うこと聞きなさいよっ!!」
「保田さ〜ん、矢口さんがいませ〜んっ。」
「また矢口かっ!!むきーーーっ!!!矢口!!!!」
その頃矢口は…
「こういう時だけ、ちっちゃくて良かったって思うよ、クククッ…。
あ、100円みっけ。」
人で溢れる賽銭箱周辺。
自分の適度な背丈に満足気な矢口は、
目を瞑って祈る人たちを他所に、地面を這って小銭を集めていた。
そんな矢口へ迫る人影…。
とは言っても矢口の居る場所は人影ばかりなのだが。
- 140 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月26日(水)22時42分22秒
- 「チックショー、不況はどこも同じだなぁー。おっ・・・500円み〜〜・・・
ん?誰だー、そこは賽銭箱じゃな……」
賽銭箱を外した小銭がキャッチできるように
わざわざパーカーを着てきたというのに、
それを掴んで思いっきり引っ張る不届き者が居る。
しかし、振り向いた矢口はそのまま固まった。
「ヤーグーチー……」
しばらくの沈黙の後、神社に似つかわしくない怒声が
辺り一面に響き渡った。
もちろんその声は、少し離れたところに集合していた他のメンバーにも聞こえ、
「矢口さぁ〜ん!!」
「大丈夫っすかぁ〜?」
全員が駆け寄ってくる。
人群れを掻き分けて見たものは、ニャンギラスの刑を受刑した矢口の、
瀕死の形相だった。
- 141 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月27日(木)23時46分03秒
- 「や、や……」
「保田大明神……」
まるで打ち合わせていたかのように
後藤と吉澤が同じセリフを呟くと、
周りに居た参拝者は、全員保田に向かって手を合わせた。
「チッ……何でこんな時間なのに赤信号に引っかからなくちゃいけないのよっ!くそっ!!」
散々イライラを募らせた保田。
一方、ニャンギラスが直撃した矢口は、
真っ青な顔をして二列目の座席で何か譫言を繰り返し発しながらグッタリしていた。
そんな矢口の様子を見る後藤と石川。
「・・・オペラグ・・・オペラ・・・ラグラ・・・ラス・・・。」
「矢口さんっ?何ですかっ?」
「んぁ〜、しっかし氏にそうな顔してるねー。」
何事でもないようにそう言う後藤だが、
矢口を挟んで向こう側に座る石川は、相変わらずのオーバーな表現で困っている。
- 142 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年02月27日(木)23時46分49秒
- 「氏にそうって…そんなこと言わないでよぉ…困ったなぁ…。
このまま起きなかったらどうしようっ…。」
「生きてるでしょ、ほら、腕が動いてる。」
少し笑みを漏らして、動く矢口の腕を眺めていた後藤だったが、
その矢口の様子と共に、だんだん顔が強張っていく。
「…ん、んぁ?」
恐らく無意識なのだろう。
だけども、矢口の両手は確実に、
自分の衣類を脱ぎにかかっていた。
そして、もう一列後ろの最後列。
「おばちゃーん!!もうちょっと優しく運転したってー!!」
聞こえているのかいないのか、
それでもとりあえず加護はそう叫んだ。
「ううっ……不覚れす…。飲みすぎれ気持ち悪くなってしまったのれす…。うえっぷっ…。」
「酔いどれ受験生カッケー!」
「カッケくないわ!!」
- 143 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年03月01日(土)22時47分13秒
- 気持ち悪そうな辻のことなどお構いなし。
保田は少し荒れたアスファルトをかなりのスピードで突っ走る。
そうすると、紛いなりにもバスなので
揺れが波のように後部座席へ迫ってくる。
「のの…大丈夫か?」
「……ダメぽれす。う゛・・・。」
既に喉元が酸っぱそうな顔。
辻は若干急ぎ気味でカバンを開けて、一つの袋を取り出した。
「何これ?」
不思議そうな加護と吉澤は、説明を聞いて口をポカンと空けることになる。
「…甘酒れす。家れ飲もうと思って持ってきたんれす…。も、もう奥の手・・・れすよ・・・う゛っっ・・・。」
矢口の賽銭盗みにも匹敵するアホらしさだ、と
呆れた二人は、同時に一つ前の席から強烈なアニメ声を聞いた。
「矢口さんっ!!もう心配しましたよぉ!!」
「……ああ…頭ガンガンする…。って何で全裸なんだ?」
- 144 名前:第20話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年03月01日(土)22時47分45秒
- 汚いので省略して書くと、
矢口は服を探そうと後ろを振り向いた。
その目の前で辻は、甘酒の入った袋に"ソレ"を吐き出した。
矢口は、まだニャンギラスの後遺症が残っていた。
そして矢口もまた、貰い"ソレ"をしてしまった。
レンタカー返却時。
「あいつら…お菓子の袋置きっぱなしにしていったわねっ…ん?」
車内を最終確認して回る保田は、
一つの袋を見つけて少し考えた。
「……はっ!!辻か…。あいつ甘酒持って帰ってきて
そのまま忘れてったわねっ!!」
帰ったら、鍋で温め直して
正月番組でも見ながら飲むつもり、のようだった。
「スパイシィィィィィィィィィィィ!!!!!」
終わり。
- 145 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年03月01日(土)22時52分38秒
- 以上で20話、第2章の終了です。
これからほのぼのエースは1ヶ月以上のお休みをいただきます。
ご愛読の皆様に申し訳ございませんが、しばしお待ちください。
再開時に当スレ生存の場合、当スレで更新を再開します。
- 146 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月14日(金)18時23分37秒
- 笑ったよ。
一ヶ月以上かぁ…。
まぁ、まったりマッテルヨ。
- 147 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月20日(木)21時58分41秒
- 復活待ちほぜむ
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)22時14分00秒
- 再度復活待ちほぜむ
- 149 名前:ほのぼのエース 投稿日:2003年04月01日(火)12時37分24秒
- お待たせいたしました。
今夜よりミニモレンジャーを再開したいと思います。
- 150 名前:名無し 投稿日:2003年04月01日(火)13時10分13秒
- 待ってました!
- 151 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年04月01日(火)19時19分44秒
- >>146
当初の予定ですと、1ヶ月以上要すると思ったのですが
なんとか1ヶ月で予定のストック量ができました。
>>147-148,>>150
お待たせいたしました。
保全ありがとうございました。
ただいまより150cm以下戦隊ミニモレンジャーを再開します。
- 152 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月01日(火)19時21分07秒
- 「……寒っ!!!」
その日、目が覚めた矢口は3秒後に全身を激しく震わせて飛び起きた。
何せ真冬に全裸で寝ているのだから寒いのは当たり前だが、
今日はいつもとは少し違った。
起きたての脳をフル回転させて
周りの状況を判断する。
ひとまず自分はすっ裸、鳥肌立ちまくり。
周りに自分の服が散乱。
そしてもう一人が…
「くそっ…股で掛け布団挟んでやがる…。」
石川が、脚の間に掛け布団を挟んで寝ていた。
それだけならいいのだが、ベッドの端に向かって転がっていったのか、
ミノムシのようになって眠っている。
しかも、寝言の合間によがり声をあげているではないか。
- 153 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月01日(火)19時21分49秒
- 「んっ…あんっ♪ダメったらぁ〜…ダメぇ〜〜…Zzz…。」
「何気持ち良さそうに寝てやがんだ…他人が寒い思いしてるってのに…ゴルァ!!!」
そのミノを剥ぎ取ろうと全力で引っ張るが、
普段は非力極まりないその人なのに、やたらガードが固い。
股の筋肉だけ非常に発達してたら凄く嫌だけども、どうやらそれも一因らしい。
「逝っちゃらめぇ〜…梨華も逝くのぉ〜…Zzz…。」
「…もういいよ、くそっ。」
すっかり目が覚めてしまった矢口。
せっかくヌクヌクと布団に包まって二度寝を楽しもうと思っていたのに、
一人の強欲女のせいでパーだ、と思ったようだ。
全て自分にも当てはまるというのに。
「うう…、服着て寝るようにすっかな…でも寝心地が…まぁいいや。」
- 154 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月01日(火)19時22分19秒
- さっさと着替えて顔を洗う。
水もやっぱり冷たい。
頭に過ぎるのは、一面に積もった雪景色。
昨日の夜に見たテレビの雪という予報から、ガラにもなく
(というか、そう見えないだけで実際は女の子らしいところもある"はず"なのだが)
胸をときめかせて、顔を拭うタオルも柔らかく感じた。
薄暗い部屋は、まだカーテンで閉ざされていた。
綺麗な景色は開けるまでのお楽しみだなんて、ちょっと憎い演出である。
いつもなら、石川が先に起きているから、
寝ぼけたまま、ただ何となく雪を目にするだけだっただろう。
今日だから特別に、布団を独り占めして眠る石川を許してやろうと思った。
- 155 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月02日(水)22時02分30秒
- 「ガー…ガー…グゴッ!!……ガー…」
許すのをやめた。
「睡眠時無呼吸症候群だな、こりゃ。
そういやいつも先に寝て後に起きるからなぁ…。
できれば見たくなかった光景だ…。」
もちろん、石川が本来は3秒で寝る人で、
いつも矢口のイビキのせいでなかなか寝られない、ということを
本人は知る由もないのだが。
矢口は呆れるように鼻を鳴らし
まぁいいか、と頭を切り替えた。
きっと石川の前では、これから見れるであろう銀色の世界の感想を
『わぁー…綺麗だなぁ…』なんて言えないだろうから、
どうせなら今言ってやろう、と。
少し窓を開けて、手すりに積もった僅かな雪を集めて
ミニ雪ダルマでも作ってやろう、と。
サァーッという小気味いい音と共に視界が開けた。
矢口の想像通りなキモチイイ太陽光と照り返す光と銀色の世界がそこには…
- 156 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月02日(水)22時03分14秒
- 「何じゃこりゃ!!!!」
待ってなかった。
「ありえねぇ〜〜…。」
積もりすぎ。
マッドサイエンティストの作った怪しい薬をかけられて巨大化したミルフィーユと
見間違えることはないし、ここが綿花の採集ピーク時の農園というわけでもないわけで、
ここが標高何千メートルで、雲を見下ろしているわけでもなかった。
ここは豪雪地帯か、と思わせるほどの厚みで、
もはや可愛く喜べるような代物ではなかった。
- 157 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月02日(水)22時04分09秒
- 「富良野か…ここは…。」
少し現実逃避したくなるような景色が広がる。
「ル〜ルルルルルル〜ル〜ルルルルルルル〜…。
キタキツネや〜い…こっちゃこーい…。じゃねぇっ。」
我に返った矢口はひとまず石川を起こすことにした。
「おいっ!!梨華ちゃん!!すげぇよ外!!!」
「…んんっ…ダメっ、朝から…もう元気なんだからぁっ……」
「チッ。」
早くも今年一番の舌打ちと自負できるほど、
乾いた空気に響き渡った。
- 158 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月03日(木)17時44分55秒
- 外に出てみると、改めて異常な積もり方だと気づく。
これだけ降られてしまうと、雪に可愛らしさを感じることは難しい。
雪国経験がない矢口は今になってそう思ったのだった。
「これ歩けんのかな…。…何?」
ふてくされた顔が矢口を見ていた。
「酷いですよっ……もっと他に起こし方があるじゃないですかっ…。」
「だってよー、布団引っ張っても、叫んでも起きないんだぜ?」
「だからって、グルグル巻きにして紐で縛らなくてもいいじゃないですかっ!!
これじゃ、最近聞かなくなった"体育倉庫マットグルグル巻き事件"と一緒じゃないですかぁっ!!」
- 159 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月03日(木)17時45分41秒
- 「聞かないだけで揉み消されてるんだよ、きっと。
事件は会議室で起きてるんじゃなぁい!現場で起きてるんだ!!ってね。」
「映画で2が出るらしいですよ。」
「マジでっ!?青島ぁ〜〜!!…ま、でも、その前に『青の炎』見たいんだけどね。
ヒロインのコがさ、これまたカワイ…」
「却下、嫌です。」
「チッ…。」
そして、今年二番の舌打ちが乾いた空気に響き渡った。
そんなことよりも、と足元を確認してウロウロと歩いてみるが、
底のすり減ったスニーカーではどうも覚束ない。
一方の石川は早速コケているし。
- 160 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月03日(木)17時46分15秒
- 「これ…雪の厚いとこ選んで歩かないとキツイなぁ…。」
「そうですねぇ……しげるも無理ですしね…。」
しげるは冷たそうに雪を背負っていつもの場所に停めてある。
たとえ雪をどかしても、まともな使い方も整備もしていないしげるのエンジンが
この寒さに耐えられるかも分からないし、
普通に考えて、道がこの状態ではとてもじゃないが何十キロも出すことはできない。
「スノーモービルに改造すっか。」
どうやって?という疑問は石川が回答。
「無理でしょ、矢口さんそんな技量ないし、材料ないし。」
「あっ!そうか…どうするよ、今から歩いていったら確実に遅刻だよ?」
「そうですよねぇ…」
- 161 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月04日(金)18時47分12秒
- この際、雪が積もってなくても遅刻の時間だ、というのは抜きにして、
石川にとって、こういう些細なことでも矢口と一体感を覚えて幸せになれるのだから、
一緒に悩んでみるのもまた一興。
毎晩矢口に一体感を迫っているのも、この際抜きにして。
「とりあえず保田さんに電話しましょうかっ?」
「ああ、そうだねー。頼むわ。」
空は深いねずみ色をしている。
この様子じゃ、明日の朝になっても全部溶けているかどうかは分からない。
石川が電話している間、
そんなお天道様のご機嫌を伺いながら、新雪をザクザクと歩いては、
不慣れな感触に楽しみを見出していた。
- 162 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月04日(金)18時47分47秒
- 「保田さぁ〜ん、スゴイ雪ですねぇ〜。」
『そーね、遅れるわよ、歩いていくからね。』
「あたし達も遅れまぁ〜す♪」
『アンタ嬉しそうねぇ〜…。』
「地ですよぉ地。」
『なんか朝から、そんなアンタの声聞くとムカツクわ。』
「そんなぁ〜。じゃあ、とにかく私たちも遅れますんでぇ〜♪」
両方とも話したくなかったかのように電話を早く切り上げて
矢口に結果を告げる。
「矢口さ〜んっ。保田さんも歩きで行くから遅れるって言ってましたっ。
不機嫌そうでしたけどねっ。」
「生理かなんかでしょ。まぁ、ウチらも歩きで行くかぁ、仕方ねぇ。」
- 163 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月04日(金)18時48分21秒
- ポケットに突っ込んだ指がかじかむほど寒いのに、
不思議とそれが不快ではない。
手袋でもしてくればよかったけど、
それよりも素手とポケットの組み合わせの方が乙に思えたのだった。
「ボークらーの町にぃー、今年も雪が降るーっ♪」
「矢口さんって案外女の子らしいところあるんですねっ。」
「白いゆーきがーっ、ん?何で?」
商店街に入ると、軒先の雪かきをする人たちが、
ガヤガヤと話しながら腰をかがめている。
いつもと違う風景。
たまになら、こんなのもいいかもしれないが、
どこを見ても白いのは少し寂しい気もする。
- 164 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月05日(土)13時10分10秒
- 「え、やっ…やっぱ何でもないですっ♪」
「はぁー?マジでキショイなぁ。やめてくれよー、そういうの。」
「"マジで"とか言わないでくださいよぉっ!
もうっ、結構気にしてるんですからねっ…。」
その割にはいつも嬉しそうな顔をするから、
矢口も特に気にすることはない。
石川をいじり続けて1年以上のキャリア、
そこら辺のシーソーの操縦は心得ているのだった。
「これさぁ…食べたくならない?」
「いいえ、別に。」
「ほらっ、大根おろし。」
「普通そんなモノ想像しませんよぉ〜。」
「ボケたんだよ、素で返しやがって、ツマンネー女ッ。
しっかし、うまそうだなぁマジで。やっぱカキ氷だよなっ。」
- 165 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月05日(土)13時10分49秒
- 坂の途中でしゃがみ込んだ矢口は、
目を細めて、積もった雪を少し手に乗せた。
氷大好きな矢口にとっては、無垢な雪というのはおいしそうに映るのだろうか。
すぐさまシロップを要求したが、石川も反射的に否定した。
「夢がないなぁ、梨華ちゃんは。
この雪が全部イチゴシロップのかかったカキ氷だったらどんだけ素晴らしいか…。
メロンも捨てがたいし、いや、やっぱブルーハワイか…?いやミルクなんて…。」
「(女の子らしいんじゃなくて、子供っぽいのかっ…)」
「何だよ、マジでー。言いたいことあるならハッキリ言えってー。」
「何でもないですよっ…キャッ!!」
しゃがんでいた石川が立ち上がろうとした瞬間、
厚めのブーツはツルッと滑り、見事なフォームで転んでいく。
- 166 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月05日(土)13時11分19秒
- 「あっ……」
正に、藁をも掴む思いで触れた手のひらに精一杯の力を込めた。
少し小さくて、36℃の体温が滲む手は、
倒れる寸前の身体をゆっくり引き戻してくれた。
「危ねぇなぁ〜…」
「…ゴメンなさいっ。」
すぐに離れたその手。
空いた自分の手のやり場に困って、
コートについた雪を払ってみた。
薄っすら残った水滴が、コートの細やかな毛並みの上で踊って、落ちた。
- 167 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月06日(日)21時04分30秒
- 「いいけどさ。」
矢口は敢えて視線を外しているような感じで、
さっさと先を行ってしまう。
また元通りにポケットに手を突っ込んで、
首を少し屈めて寒そうにして。
金髪が白銀に映える。
「矢口さぁ〜んっ♪」
「うあっ!!」
後ろから追いかけて抱きついたら、
一緒にコケた。
雪がクッションとなって痛いという感覚はなく、
コケたというのに石川はすごく嬉しそうだ。
「何だよー、ったく…。ん?何だ、あれ…?」
- 168 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月06日(日)21時05分16秒
- 矢口が指す方向を見ると
そこは、いつもは畑の場所であるが、その中に明らかに
異なるモノが存在した。
「犬神家の一族…?」
「どう見ても逆立ちじゃねーよな…刺さってるよな…。」
「え…ええ…。」
ここで火曜サスペンスにならないのがこの小説。
明らかに人間が逆さに雪の中刺さっていても
「びっくり人間の練習だな。あれ。」
「ダッチワイフのポイ捨てかもしれませんよ。」
「そっかそっか。」
「さ、いきましょっ♪」
そう流す二人。この後テレビで大騒ぎになることは
全く分からない二人だった。
- 169 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月06日(日)21時06分27秒
- 「矢口さん、手つなぎましょうよぉ〜っ♪」
「ヤダ、またコケる。」
「そんなこと言わないでぇ〜♪ねっ?ねっ?ねっ?」
あまりにもギラギラした目線なので精神的に追い込まれる。
「お願い〜っ♪」
「ッ…しょーがねーなぁー、手ぇ〜出せよっ!!」
案外、黒い手は暖かかった。
- 170 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月07日(月)09時07分18秒
- また、とぼとぼと歩いていと、矢口の耳に何かが聞こえてくる。
「ん…?何か聞こえるよ。」
アスファルトと平行に視線を走らせた先から、
何やら先ほど矢口が叫んでいたのと同じような叫び声が聞こえてくる。
徐々に大きくなってくるそれは、
どうも長い坂の上の方から発せられていたようだ。
「ぅぉぉぉぉぉおおおおっ!!!!」
正体を知って、それほど驚くことでもなかった。
ありそうなシチュエーション。
こんな日でもいつもの自転車で、
いや、自転車と共に滑り落ちてくる吉澤だった。
- 171 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月07日(月)09時08分14秒
- 「ヒューヒュー!!熱いYO!!雪も溶けちゃうYO!!」
「……。」
「……。」
「YOおおおおおぉぉぉぉぉぉ……」
滑り台で遊ぶ子供のような顔しながら、
彼女はわけのわからない冷やかして消えていく。
そして今度は坂の下の方から雄たけびのようなものが聞こえてくるのだった。
「なんだろうね、アレは。」
「さぁ…変ですよね、よっすぃーって。」
「相手する気にもなれなかったよ。」
「ですよねぇ…アッタマコワレてるんですよ、最近。」
- 172 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月07日(月)09時08分50秒
- 「あのさぁ……見てておもったんだけど、よっすぃーって、歩けないんじゃないよね?」
「…でもいつも自転車ですよっ?」
「うーん…」
『うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』という声が
すぐ横をドップラー効果を伴って過ぎ去っていく。
とは言っても、物凄い回転数のタイヤに、
極僅かな速度という何とも間抜けな光景に、
矢口も石川も文字通り凍ったように眺めることしかできなかった。
- 173 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月08日(火)22時35分19秒
- 「あのサドル、物凄く気持ちいいんじゃないですかねぇ…?
何か突起物がついてるとか…振動してるとか。」
「エロい想像しかできねーのかよ、マジで!!」
「だから"マジで"とか言わないでくださいって…」
「はいはい。」
気がつけば、さっきのドキドキ感はすっかりフォーマットされ、
石川は、『よっしゃー!!上り切ったぜ!!!…ん?…止まらねー!!!』
と叫んで消えていった吉澤には見えないように睨み付けた。
グアッシャァンン!!!
「当たったな。」
「そのようで…。」
- 174 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月08日(火)22時36分06秒
- 坂を越えて駅前まで来ても、相変わらず雪は積もっていて、
普段からそれほど大きくない街も、いつも以上に人が疎ら。
道は車の通った跡だけ黒く、横断歩道は艶やかに光る。
でもそんな違和感を違和感とさせないのが矢口であった。
「これさー、誰も居なかったらどうするよ?」
「誰も居ないって、ショーのメンバーが、ですかぁ?」
「そうっ。帰ろっか、引き返して。」
「ダメですってばぁ!さっき保田さんに"遅れて行く"って電話しちゃったんですからっ。」
金のこと以外は常にまっさらな脳だから、
何を見ても違和感は生じないのか。
人通りが少ない=メンバーも来てない
なるほど、分かりやすい。
分かりやすいけど、その考えはハズレだった。
答えはすでにわかっていたはずなのに。
- 175 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月08日(火)22時37分10秒
- 「あーー!!!」
「ど、どうしたんですかっ!?」
「靴濡れてきた…。」
「石川はずいぶん前からですよっ!!」
「おんぶ…。」
「イヤッ。」
「だっこ…。」
「イーヤーでーすっ!!」
「チッ…。」
今年三番の舌打ちが乾いた空気に響き渡った。
- 176 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月09日(水)21時32分49秒
- 歩くこと2、30分。
石川の部屋以外、久しぶりにいつもと同じ景色を見た。
非常階段の手前の駐輪場は剥き出しのコンクリートで、
はしゃぐのが恥ずかしいキザな男の子のような佇まい。
「あ、そっか…」
「どうしたんですかぁ?」
そこには自転車が一台停めてあった。
いつもは横に辻の自転車も置いてあるが、
今日は駐輪場を独り占めで
ちょっと満足気な笑みを浮かべているのが想像できる。
「少なくともよっすぃーは来てるってことか。」
絶妙の滑りやすさを見せる金属の段を
しっかり体重を掛けて登っていくと、
やっぱり雪は珍しかった。
- 177 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月09日(水)21時33分28秒
- 「…何やってんだ?」
「雪合戦…じゃないですか?」
屋上に出ると途端に視界は開け、
目の前10メートル辺りを雪玉が飛び交っていた。
ちょっと確信的な目で矢口の様子を窺う石川は、
目尻に僅かな力がこもった矢口を見て力が抜けた。
身長差マイナス10センチ程でもすぐ分かるような、
胸をときめかせた顔だった。
(やっぱりね……)
石川の存在を全く無にして、
その戦場へと駆け出していく。
軍へ召集されていく夫を見守るような気分。
実際そんな大層なことではないが。
- 178 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月09日(水)21時34分59秒
- そんな矢口が行き着いた先はクレープ屋だった。
「ヤグチ!ちょうどいいところに来たべさ!!」
「こっちの方が劣勢っぽかったからさ。
ヤグチに任せとけっての。圭ちゃんは来てないね?もちろん。」
「来てたらやってないっしょ。」
「そりゃそうだ。で、何でこうなってんの?」
モナー軍の安倍と飯田が語るには、
開店前の生地の下ごしらえをしているところに
突然雪玉の攻撃を受けたのだとか。
相手の基地はすぐそこにあった。
デカい"かまくら"だ。
飯田は、安倍がキレると非常に危険な存在であることを唯一知っている人間だから、
こっちも投げ返して、無邪気な雪合戦であるように見せかけたのだとか。
- 179 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月10日(木)22時59分46秒
- かまくら軍の基地には、前面に3つの穴が空いていて、
そこから信じられない程のコントロールとスピードの球が飛んでくるらしい。
そして向こうのスローガンは"モナー屋ヲ破壊セヨ"。
どうやらガチンコで倒しにきているようだ。動機は不明だが。
「なるほど。辻とよっすぃーとごっつぁんだな。あいつら力だけは強いからなぁ。
あっ、おいっ!梨華ちゃんもこっちに来いって!!」
「あっ♪はぁ〜〜い♪」
軍の体制を整えるため、雑用係の石川を召集。
いよいよ全面戦争に突入である。
- 180 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月10日(木)23時00分21秒
- 「んぁー、向こうにやぐっつぁんと梨華ちゃんが入ったみたい。」
「あいぼん、どうするれすか!?」
知能犯、加護亜依を参謀隊長兼雪玉作りに擁し、
かまくら軍は万全の体制で戦いに臨んでいる。
矢口の予想した通り、射撃隊は
"人間魚雷"吉澤ひとみ、"殺人医師"辻希美、"東洋の神秘"ザ・グレート・後藤真希の3人。
ニックネームには特に意味がないが、
とにかくその3人の攻撃能力はずば抜けていて、
更にかまくら内は暖かいことも手伝って、
かまくら軍は優勢に戦いを進めていた。
「矢口さんかぁ…ヤバい人が来よったな…。
うしっ。仕方ない、あれ使おか。」
ニヤリと歯を見せて、カバンを弄ると、
また雪玉を作り始めた。
が、しまったという顔をしてガサゴソと慌て始める。
- 181 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月10日(木)23時01分02秒
- 「しもた…置いてきてもた…。」
一方のモナー軍もまた、作戦を練って実行に移そうとしていた。
「だからぁ…こうやって、こうやって…わかった?」
「何となく。」
「解ったべさ。」
「何の話してるんですかぁ?石川も交ぜてくださいよぉ。」
「ん?……でさぁ…ごにょごにょ…」
運動は得意ではない。
自分でも分かっているが、避けるだけのドッジボールを
心底から楽しいと思ったことはなかった石川。
このとき少し頭を過ぎったのは、
控え室に入って温かいお茶でも飲もうかなぁ、だった。
- 182 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月11日(金)17時14分37秒
- 「あのぉ〜…あたしそろそろ控え室入ってますねっ…」
「コレは、こう。微妙なバランスがね…。」
「ストーブの前でぇ〜…お茶とか…いいじゃないですかぁ〜…趣きがあって…」
「…そうそうっ、あんまり強く握るとダメだから…」
「居ても居なくても同じみたいなんでっ…」
辞めると言いながらもなかなかその場を去らない石川は、
もちろん引き止められるのを待っているわけだが。
- 183 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月11日(金)17時15分09秒
- 「なんかねっ、石川って昔からこういう遊びが苦手で…
いつもお人形さんで遊んでたり、おままごとしたりしてっ…
だから、そのっ、不健康といえば不健康な子供だったのかもしれないですけどっ…
あっ、でも日焼けじゃないんですけど地黒なんですよねっ…
それは関係ないんですけどっ……」
長々と無意味な発言を繰り返す石川さん。
自分が半端者ではない、という主張をしているのだろうか。
しかしこれだけ大っぴらにやってしまっては、サブリミナル効果は期待できそうにない。
「で、テレビゲームとかも親がダメって言うからやらせてもらえなくてぇ…
だから矢口さんと対戦してもいつも負けてばっかりなんですけどっ…
でも、でも一生懸命練習して上手くなりますんでっ…」
- 184 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月11日(金)17時15分45秒
- いつしか運動と関係ない方に逸れていった話だったが、
ここで、ようやくと言うべきか、矢口が声をかけてくれた。
「わかったわかった。そんなことばっかり言ってるから
ガキに『ウジ虫に似てる』とか言われるんだよ、分かった?
ほら、梨華ちゃん仕事だっ。」
「キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!」
「食品売り場でケチャップ買ってきて。」
「ケチャップですねっ!?了解っ♪
めちゃめちゃ張り切って買ってきますよぉっ♪」
「いや、普通に買ってくればいいから。」
なるほど。おままごとして遊んだ石川に買い物に行かせるのは、
ある意味正解だった。
ただ、そのどんくささが故に、スキップした足を滑らせて転び、
かまくら軍の集中砲火を受けたことを付け加えておく。
- 185 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月12日(土)14時34分38秒
- 「まったく…大丈夫かなぁ…アイツは…。」
「しっかしヤグチ達はいつもアツアツだべなぁ。」
「ん?そーでもねーよ。」
「でもクリスマス前にケンカしたんでしょ?」
「はぁっ!?何でカオリがそんなこと知ってるんだよ!?」
「いや…なんでだろー…なんでだろー…ナハッナハッ……。」
ちょうど、それと時を同じくして加護も買い物へ走る。
ヤグチは"自称・元天才"の脳みそですぐに容疑者を突き止めた。
「加護ぉぉぉぉ!!!!」
その雪玉は、相手のお株を奪うような強烈さだった。
完璧な精度と高速度を兼ね備えていたのだ。
ドキャッ!!
- 186 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月12日(土)14時35分23秒
- 「ぐあああ〜〜!!!」
背中に的中しただけとは思えない音と共に悲鳴をあげ、悶え転がる加護。
「い…石入れたやろ〜〜!!」
「入ってネーヨ!!そんな小ズルイ事するかっ!!このっ女・前田忠明がっ!!」
実際、矢口の投げた『雪玉』は極限に押し固めた、とてつもない硬さの『氷玉』だった。
2発目、3発目と的確な氷玉は執拗に加護を襲う。
「アカン…早よ…行かな…ここに居ったら逝ってまう…。」
- 187 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月12日(土)14時35分54秒
- 数分後、石川と加護はほぼ同時に戻ってきた。
二人とも、手には小さな買い物袋を提げているが、
ダッシュの加護とは対照的に
石川はやっぱりスキップしていた。
そしてまたしても集中砲火を浴びていた。
「もうっ♪何であたしばっかり当てられるのっ?
ヤんなっちゃうっ♪」
今更『こいつはMに違いない』なんて気づくほど
付き合いが浅いわけではない矢口だったが、
散々ボコされても笑顔で帰ってくる石川を見て、
少しだけ寒気がした。
- 188 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月13日(日)17時55分41秒
- 「ああ、おかえり。ケチャップ、買ってきた?」
「買ってきましたよぉっ。ほら、業務用の特大サイズっ!
石川のオゴリですからっ♪」
「石川、それさぁ、気合の入れ所間違ってるよ。」
飯田のツッコミが珍しく的確にヒットしたところで、
遂に新兵器の生産にこぎつけた。
ただし、業務用のデカさが仇となり、
かなり手間取ったことは否めないが。
その新兵器というのは、威力は全く変わらない。
むしろ相手を挑発する効果があるのだが、
それでも何故か自信満々の矢口と、
その矢口に説得された安倍、飯田。
- 189 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月13日(日)17時56分18秒
- 「よっしゃー!ケチャップ爆弾投入!!」
下手な鉄砲数打ちゃ当たる。
そういうわけで大量生産したケチャップ爆弾を
とにかく投げまくったモナー軍は
運良くかまくらの穴にいくつか命中し、目を細めて喜んだ。
『うわっ!!なんだYOこれ!!』
『ケチャップれす!!』
『んぁ〜…血糊みたいでカコイイ。…なんじゃコリァーーーー!!!』
『ジーパン!!大丈夫かっ!?』
『かぁちゃん…死にたくねぇよー死にたくねぇよー!!』
『ジーパーン!!!』
- 190 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月13日(日)17時56分57秒
- 『がくっ。』
『…ハイ、お疲れ。』
『オツカレ。』『お疲れれす。』
効いたのか効いてないのかは分からないが、
『太陽にほえろ』のパクリなのかよく分からないし、
後藤がジーパン刑事を満足そうに演じていたのかも分からないが、
とりあえず当たったことは確かであった。
そんな感じで数十発投げただろうか。
かまくら軍の兵士に当たったと思われるのは10発くらいだが、
でも無邪気に楽しむモナー軍。
よくよく考えれば、もう全員いい歳である。
- 191 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月14日(月)20時20分02秒
- 「ケチャップ爆弾成功だな、うししっ。」
「悪い顔になってるべさ。」
しかし、向こうからふっかけてきた戦争だけあって、
簡単に怯む相手ではない。
「もっと作りますかっ?」
「おおっ、どんどん作っちゃってっ。
ケチャップ余らせても使い道ないっしょ?」
士気高まるモナー軍を他所に、
かまくら軍は黙々と対抗兵器を導入していた。
先ほど加護が買い物に行ったのもそのため。
非常に効果的で、命中率は"恐らく"100%。
「…ん?」
- 192 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月14日(月)20時20分50秒
- 総力を挙げてケチャップを注いでいた矢口は、
ある物に気づいた。
ちょうど、モナー軍の屋台とかまくらの真ん中辺りに
極めて無意味に転がっている雪玉。
だが、それは普通の雪玉ではなかった。
「あれって…万札じゃね?」
「どれだべ?」
「……。」
「……。」
そう言ったきり、安倍は何も言わなかった。
嫌な汗と、静かに唾が飲み込まれた。
しかしそれが逆に、『一万円である』と語っているようなもので、
矢口も察して話題を逸らした。
- 193 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月14日(月)20時21分30秒
- 「あー、チビりそう。ちょっとトイレ行ってくる。」
「なっちもトイレだべ。なっち最近、生理で大変だべさー、もう
漏れちゃいそうだべ、量が多くて。」
「…へ、へぇ〜…奇遇だね。矢口も生理でさぁ〜つらいよねぇ〜。」
「ヤグチ…マネしたんじゃないべか?」
「そんなわけ……あっ!!あっちにも一万円がっ!!」
「はっ!!どこだべっ!?」
キョロキョロと見回したときには、
すでに矢口は姿をくらましていた。
物凄い瞬発力の矢口と、物凄く騙されやすい安倍。
「くくくっ!!ウソだぴょ〜ん!!諭吉っつぁんはいただきだ!!
ブバッ!!!」
- 194 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月15日(火)21時33分00秒
- 野生の動物でも捕まえるかのような作戦に
まんまとハマった矢口は、
その雪玉を拾い上げた瞬間に顔面に数発、被弾した。
ただ、どうも様子がおかしい。
どうやらかまくら軍も、赤い混入玉を開発、実用したようであるが、
それはケチャップなんて生易しいものではなかった。
「いててっ!!!目が痛ぇ!!!FUCK OFF!!!
あいつらタバスコ入れやがった!!」
加護が調達してきたのはタバスコだった。
それは、矢口の怒りを爆発させるのに充分なものだったが、
何故かそれほどご乱心でもない様子。
「矢口さん大丈夫ですかぁっ!?」
「ま、まぁ…まぁいいさ。一万円を手に入れたから。
オイラ達、一日働きまくっても一万円も稼げねぇんだぜ?
"これ"との引き替えならタバスコでも……」
"これ"は一万のことだった。
ただし、おもちゃ銀行券を改造した"一万あいぼん"だが。
- 195 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月15日(火)21時34分00秒
- 「…ぶっ殺す。あったまきた。」
矢口に金銭に関するシャレは通用しない。
さっきまでの和んだ空気はどこへやら。
目が笑ってない。
「おい、黒い奴。さっさとスウェーデン産の世界最悪の臭さの魚の缶詰と
ロケット花火買ってこい。」
「黒い奴ってっ…そんな言い方しないでくださいよぉ…」
「うっせーな、てめーもヤっちまってもいいんだぞ!?
早く買ってこい!!ヴォケ!!暗視スコープもだぞ!!今すぐニダ!!」
「……はいっ。」
「イシカワ ネガチブハダメダゾ ポジテブポジテブ…ニダーーーー!!」
参加してるというよりも
すっかりパシリの石川さん。
タバスコ玉の被弾に耐えながら、
やっとの思いで買い物から戻ってきても
『暗視スコープはありませんでした』
と伝えればまたそれでどやされる。
- 196 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月16日(水)21時29分05秒
- 普通にこんな寂れたデパートなんかにはあるわけもないし、
普通には手に入らない品物なわけで。
「チッ!まぁいいわ。
イモ!!さっき言った通りだぞ!!わかったな!?」
偉大なる将軍様、矢口真里の指揮により、モナー軍は危険な道を歩むことになるのだが、
どの世界にも規律を重んじる役割があるというものだ。
「ハイルマリー!!」
「ハイルマリー!!」
「ハイルマリィ……。」
「マリーマンセー!!」
「マリーマンセー!!」
「マリーマンセェ…。」
矢口に命令されて、せっせと缶詰の魚入り雪玉を作る安倍、飯田、そして石川。
それを点検する矢口。
その視線は、他の場所には全く向いていなかったのが、
最悪のシナリオの序章だった。
- 197 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月16日(水)21時30分15秒
- 「あんた達何してんのよっ!?近くで殺人事件起きてるってのに、何よ、その玉っ!!
いい年こいて雪遊びなんかしてんじゃないわよっ!!」
いつの間にか到着していたのは、鬼の保田。
違和感ビンビンのかまくらに近づき、
かまくら軍の4人を怒鳴りつけている。
それはごもっともだ。
客がいないから遊びたくなるのはわかるが、
ショーをやっていなければ給料泥棒である。
というより、いつも給料泥棒だが。
保田の怒りは収まらず、今度は発射口の方に回って怒鳴る。唾を飛ばして怒鳴る。
すごい汗飛ばして怒鳴る、アルコール臭を発して怒鳴る。
ということは、発射口のところに保田のケツが位置することを意味していた。
「鈍くせぇな、お前らはよぉ!!さっさとやれっつーの!!
第一陣に着火するからな!!どんどん作れよ!!サボってたら頃すぞゴルァ!!」
人使いの荒い工場長みたいな感じの矢口は、
ポケットからジッポーを取り出してカチャッと響かせる。
- 198 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月16日(水)21時30分47秒
- シュババババ…
気づいた。
社長が来ていたことに気づいた人使いの荒い工場長。
「お、お、おまえら!!火を消せ!!!消せーーーー!!!」
「マリー閣下いかがなさいましたべかっ!?…!?…1抜けたー。」
「2抜けたっしょー!!!圭織しらなーい。」
「3抜けまぁ〜す…。」
「う、裏切りものっ!!ゴルァ!!逃げんなっ!!」
工場作業員はそそくさと逃げ、
導火線の動きがとてもスローに感じる。
社長は、肩書きをひとつ増やすことになった。
世界一臭い尻を持つ女
- 199 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月16日(水)21時32分34秒
- 慰めにもならない粉雪が舞い散り始めた。
真っ白な世界は再び蘇り、
屋上というキャンパスは、鮮血で印象派のような絵画で彩られた。
矢口は普段の自分を取り戻した。
あれほど悪い矢口を見ることはもうないだろう。
「あ…圭ちゃん…オハヨ、ど、どうしたの?悪いんだけどー…
矢口は…もうそろそろ帰えろっかな…。ヤダナァ〜なんでそんなに怖い顔してんのさー…。」
その時、確かに二人の関係は蛇ににらまれた蛙だった…
「保田家最終奥義ッ!!!スーパーニャンギラス!!!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアオエェェェェェェェェェェェッッッッ!!!!」
ただ、本人にはあまりその辺りの事に関しての記憶がない。
ひとつだけ覚えているのは、技を繰り出したあとの
保田は怖いほどに冷静に笑っていた、ということだけだった。
- 200 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年04月16日(水)21時33分52秒
- 以上で第21話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして22話を開始したいと思います。
- 201 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月22日(火)19時05分56秒
- 楽しく読ませて頂いております。
矢口と石川が好きなので、もっともっと親密になってくれることを
祈ってます。
- 202 名前:第21話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月23日(水)20時06分43秒
- >>201
レスありがとうございます。
今後の矢口と石川の進展をお楽しみください。
- 203 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月23日(水)20時09分53秒
- ここ最近、何故か当日になって知らされる休業日がある。
家がトイズEEから近ければいいのだが、
矢口と石川の場合、大きな遅刻を防ぐためには
そういう人たちよりも早く出発しなければならない。
だから大概は、しげるに乗ってる状態で休業の電話が入るのであった。
翌日がそんな状態になるとは思ってないこの日は月曜日。
やっぱりこの日も5分遅刻して到着すると、
いつものように保田の怒声が降り注ぎ、
いつものように、あとは最後の後藤を待つだけだった。
「ごっちんは来ないわよっ。」
「ん?何で?」
「さぁ?何か、日本海に釣りに行くとか抜かしてたけど。
ったく、まぁいいわよっ。あのこは一応マジメにやってるから。
それに比べてあんた達は一年中5分遅刻よっ!!
バカじゃないのっ!?5×365=1825分遅刻してるってことなのよっ!!!
ムキーッ!!!」
- 204 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月23日(水)20時10分48秒
- 「はいはい、分かったからさっさとミーティングしよ。」
保田が『1825分ぶん減俸よっ!!』と言い出す前に
さっさと進めてしまったほうが得策だ。
この職場、『先輩、減俸の連続で逆にお金を納めないといけませんね』
というこち亀的展開が実際に起こりそうなところなのだから。
後ろで石川は、1825分が何時間なのかを指折り計算しているが、
そんなもん計算しなくていいんだよ、と平気な顔で止めさせた。
「ミーティングはまだよっ。」
テーブルの指定席に座って、早速上半身を伏せた矢口。
いつもこうやって、聞いているのかいないのか
ミーティングの時間をボケーっと過ごすのだが、
今日はまだその時間ではない、と保田は言う。
- 205 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月23日(水)20時11分37秒
- 「何でー、もうみんな居るじゃん。」
「まだよっ!ごっちんが1週間も居ないから、短期のバイト雇ったのよっ!!」
時間はもう9時15分。
バイト初日で15分遅刻してくるとは…
「大物だなぁ、おいっ。いきなり遅刻かよっ!ギャハハハ!!!」
と、小物の大物がそう言った直後、
ようやく控え室の錆びかけたドアが開いた。
「遅いわよっ!!9時集合なのに今何時だと思ってんのよっ!?
8時55分までには来なきゃダメじゃないのよっ!!!」
まるで矢口と石川に怒っているような言い方だが、
その烈火の如き叱責に、新人はビビッってほっぺたが垂れてしまった。
- 206 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月25日(金)00時08分58秒
- 「はっ…す、すいません…。」
「分かればいいのよっ…ってその松葉杖はどうしたのよっ?」
「あのっ…ホントは6時に来てたんですけど…
階段から転げ落ちちゃって……手術してきました…。」
ほっぺたは昔から垂れていたようだが、
脚にギブスを付けたのはさっきのことだった。
そして、加護と辻は何やら見合ったまま
眉間に皺を寄せて考え出す。
「どうしたんだYO?」
「話し掛けてくれるなれす……うー…」
「そうやで、よっすぃーちょっと黙っといて。んー…」
「ガーン!!……そうやって親を避けるようになるんだね…反抗期なんて嫌いだーー!!」
「訳わかんねーこと言ってんじゃねーのれす。」
「ただあのコをどっかで見かけた顔やなぁ、って……」
- 207 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月25日(金)00時09分40秒
- どっかで見た顔だった。
金魚に似てる、とかそういうことじゃなくて、
加護も辻もどっかで見ている顔だった。
「手術ってねっ…大丈夫なわけっ!?」
「完璧です。」
「完璧じゃないじゃないのよっ!!
…まぁいいわ。自己紹介して頂戴っ!」
「あっ、あのっ……松工大付属3年の…
紺野あさ美ですっ……頑張りますっ…。」
はっ!とする加護と、ぐっ!と依然考え顔の辻。
- 208 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月25日(金)00時10分42秒
- 「隣のクラスの……」
「隣のクラスの…誰れすか?
はっ!!長距離走が速い人れす!!」
体育は9教科の中で一番自信がある辻だったが、
一度だけ苦汁を舐めた授業がある。
ソフトボール投げも(62メートル)、50メートル走も(5秒4)、
走り幅跳びも(6メートル20)、バレーボールもソフトボールも跳び箱も、
全てにおいて男子顔負けの運動能力を誇る辻が
ただ一度、女子に敗北を喫した。
それが、紺野に負けた長距離走だった。
もちろん悔しがった辻は『周回遅れだと思って追い抜かなかったんれす』
と苦しい言い訳に終始した。
「…隣のクラス以外にも何かあった気がすんねんけどな…う〜ん…。」
そして紺野には、もうひとつ知られざる実績があった。
- 209 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月25日(金)22時26分36秒
- 「あ、思い出した、長距離だけやなくて、いつもテストでののとか亜弥ちゃんの
すぐ下の順位やったで、確か。」
辻と松浦がブッチギルのがもはや当たり前になっている
彼女たちの学年の定期テストだが(加護もある意味ブッチギリの成績だが)、
実は紺野はそのトップ2人のすぐ下に、常に位置づけていた。
ということは、だ。
「ってことは……今はののよりも上の順位ってことらないれすか……」
ということ。
「じゃ、こっちから紹介していくわよっ!!
右から矢口、石川、辻……」
と、保田の紹介の途中で辻が突然席を立ち、
紺野の方につかつかと近づいていく。
- 210 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月25日(金)22時27分32秒
- 「辻希美れす。先輩としてひとつアロバイスがあるのれす…。」
「アドバイスですかっ…?お願いします…。」
「テストれののより下の順位を取るのれす。
簡単なことれしょ?ぐひひひっ…痛っ!!」
「バカなこと言ってんじゃないわよっ!!
ってあんたもメモ取らなくていいのよ、そんなことはっ!!」
「辻さんよりも下の順位を……えっ?あ、すいません…。」
これは頭が痛い。
鈍臭そうなのが入ったなぁ、と
矢口は机に肩肘ついてホッペを支え、
タバコを咥えて火をつけた。
- 211 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月25日(金)22時28分02秒
- (大丈夫ですかね?あのコで…。)
(ボタン押すだけっつってもあれじゃマズいっスよ…。)
(仕方ねーよ。圭ちゃんが雇ったんだし。)
モクモクと煙立ち込めるのは非学生の3人の真上。
そんなに心配するようなことではなさそうだが、
必ずしも、そういうわけにはいかなかった。
サッと両手を開き、両足は肩幅よりも広く取る。
太陽はキラリとニヤついているが、まだ寒いこの季節、
汗をかくほどの気温でもない。
けど、汗をかいている。
もう数十回行われているこの儀式には
慣れというものはないようだ。
「…いくぞっ!ミ、ミニモXだ〜っ!!」
- 212 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月26日(土)19時53分44秒
- 何でこんなことをしなくちゃいけないのか?
客も居ないというのに。絶対赤ちゃん産めない身体になってるよ。
そう諦めているはずなのに、辻と加護に持ち上げられる度に、
こう、何というか、緊張して胃の底辺がムズ痒くなるのだった。
キュッと痛むというかなんというか…。
「シャヴィッ!!!」
「モルフェオッ!!!」
効果音に隠れたところで、いつもこういう類の悲鳴が発せられている。
技を出した方は、身体の中心部を下から上へ駆け抜ける
強烈な痛みと、陰部に残る硬質な感触に堪らず叫ぶ。
技を喰らった方は、下敷きになった挙句、相手の股間で着ぐるみの呼吸穴を塞がれ、
悶絶したまま意識は薄らいでいく。
- 213 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月26日(土)19時54分30秒
- というか、そんな説明はある意味どうでもいいのだが、
効果音が出なかった。
「…ウグッ……ハァハァ…な、何で音がねぇんだよっ……」
矢口の上半身がガクッと崩れ落ちると、
ようやくドーンという爆発音が、チンケなスピーカーから流れた。
「す、すいませんでしたっ……あのっ、メモ帳で確認してたらっ…
そのっ…タイミングを失ったというかっ……」
「「うっ……」」
カンカンで音響室に怒鳴り込んだ矢口と保田だったが、
あまりの弱気な対応に拍子抜けして何も言えなかった。
オドオドと黒目がちな瞳が訴えかけるのだ、
すいませんすいませんすいません、と。
- 214 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月26日(土)19時55分13秒
- いつもなら男勝りのやり取りを交わすミニモレンジャー。の
ショーの面々だが、どうも紺野にはその空気が通用しないようだ。
(圭ちゃん、ビシッと言わなきゃダメだろ?)
(何か分かんないけど言えないのよっ!!)
(なんでだよっ!いつもオイラにどれだけの罵声浴びせてると思ってんだよっ!!)
(すいませんすいませんすいませんすいません…。)
「「うおっ!!」」
「ひそひそ話に入ってくんだよっ!!ひそひその意味がねぇだろっ!!」
「す、すいません。ごめんなさいっ!!」
「どうしたらいいもんかしら…。」
- 215 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月27日(日)21時45分01秒
- 新入りだから、というわけではなさそう。
現に矢口は初日から怒鳴られまくって、
帰ってからボロアパートの砂壁を蹴り付けたことがあるほど
(壁も壊れたが、矢口の右足の指もしばらく動かせなくなった)。
仕方ない、と保田はひとつ深呼吸し、
少し胸を張って紺野を見据えた。
「あのねっ……あたし達だってプライド持ってやってんのよっ!!
いくらタダ見なのに客が居ないからってねっ、ナメてんじゃないわよっ!!」
- 216 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月27日(日)21時45分38秒
- そんな頃、始発に乗って一人旅に出発した後藤は、
目的地に到着した電車から慌てて出てきた。
「んぁー、あぶねー…。」
車中、暇を持て余して寝ても時間が余りそうだ、と
大量のマンガをカバンに詰め込んで出てきたのだ。
が、あまりにマンガに熱中しすぎて
停車時間が終わる寸前に到着したことに気づく有様。
そして、先ほどになって着替えを持ってくるのを忘れたことに気づいた。
「まいったな〜…安い服でも買おかなぁ…
それにしてもワカメが……プッ!やっぱジャンプは一昔前までだなー…んぁ。」
"すごいよマサルさん"を全巻読み終えての一言だった。
いわゆる痺れる寒さに、唯一持参してきたコートを深々と羽織って、
辺りの景色を見回してみる。
駅は風が吹きさらし、駅員と自分しか居ない。
駅前、なんて概念は無く、安い服を売ってそうなデパートもない。
- 217 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月27日(日)21時48分53秒
- 「んぁ〜……んー…」
ぼーっと立ち尽くしてもどうにかなるわけでもなく、
凝った首をコキコキ、右へ左へと鳴らし終えると、
とりあえず船に乗せてもらうことになっている船長の家に向かうことにした。
事前に電話で頼むくらいの周到さなのに、
何故着替えの服を忘れてくるのか、自分でも疑問に思うくらいだろう。
行く途中に作業着の問屋があったので寄った。
何よりはあったほうがマシと、
「やる気、イッツイージー、ワークマソー♪」
なんて鼻歌混じりに。
とりあえず普通に着れそうなものを幾つか買ってまた歩く。
右手に見えていた海が視界から外れて数分、
黒ずんだ電柱にくくり付けられた住所札と
手のひらに一枚握ったメモの住所がようやく一致した。
- 218 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月28日(月)23時19分34秒
- 「んぁ、ここかぁ…。」
長閑な田舎風景にポツポツと佇む家のうちのひとつ、
広い庭がついた2階建ての和風住宅のインターホンを
ポツッと押すと、しばらくして中からテンションの高いオジサンが出てきた。
「ぬぉ〜!待ってたっぺよ〜!!お姉ちゃんかい、船に乗せて欲しいっつーのはぁ!?」
「あ、はい、そうです。」
「めんずらすぃのぉ〜、若ぇおなごがぁ。釣り好きだっぺかぁ?」
「え、あ……一応、趣味というか…。」
「そぉだなぁ〜、そういう顔しとるでのぉ〜。」
「???」
- 219 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月28日(月)23時20分10秒
- 昼休み、安倍と飯田も合流して
いつものようにラーメンをすする。
「しっかし…何かペースが狂うんだよなぁ。」
矢口は麺を4、5本ずつくらいすすり、テレビを見る。
もう平家も『伸びるからさっさと食え』と言う気も失せたようだ。
「矢口さんほどのマイペース人間がですかぁ?」
「うっせーよっ。…一生懸命過ぎて空回りする人間なら知ってるんだけど、
それとはまた違うんだよなぁ。」
隣のおちょぼ口に向かってチクチクと突き刺すが、
当の石川は口の中のスープを喉に通してから少し咳払い。
「お言葉ですが矢口さんっ。石川梨華、一生懸命で空回りなんてしてないですよっ!
まだまだ余力を残してますからっ。こんなもんじゃありませんよっ!」
- 220 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月28日(月)23時21分21秒
- 誇らしげにそうは言ったものの、
「余力残してんじゃないわよっ!!
全力でやりなさいよっ!!」
それが空回りの証明だった。
紺野はカウンターの一番隅で黙々と食事をしている。
朝はあんなこと言って意地悪くしていた辻だったが、
なんだかんだ言って気を遣っている。
「こんちゃん、そんなに気にするこたぁねーのれす。
いつもグラグラなんれすから。」
「グラグラて。グダグダやろ。」
「グラグラ。」
「グダグダ。」
「ダラダラ。」
「ララララ。」
「プッ…。」
「分かっててそういうこと言うんじゃねーれす!!」
- 221 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月29日(火)23時05分58秒
- 「……ズズッ。」
「…おーい、聞いてるんれすかー?」
「…ジュルッ。えっ!?」
気を遣っている、のだが
紺野は全然気にしていないのか、
先ほど追加したチャーハンと餃子を前にして
キラキラと目を輝かせていた。
「ののの言うことなんか聞いてへんで。」
「ま、まぁいいんれすけどね…。独り言れすよ、独り言。」
- 222 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月29日(火)23時06分49秒
- 「ん…んぁ〜……気持ち悪い…」
プカプカと、は浮かばない船。
天気はいいのだが、やたら風が強くて
船は大波に揺られてまるで忍者屋敷。
後藤は、表情こそ変わらないものの、
明らかに脂汗が噴き出している。
「んぁうっぷっ……あー…」
懐かしいサザエさんのエンディングを見るかのような声を漏らしながらも、
一応竿を上下に揺らして、イカがかかるのをひたすら待つ。
「釣れな〜い……んぁ〜……!?」
竿がしなった、ような気がした。
けれども、船も視界も揺れているから
イマイチ確信が持てない。
釣堀ならいつも難なく魚を釣り上げる後藤だったが、
船釣りは初体験で、感覚が微妙にわからなかった。
「釣れてんのかな……ギコギコ…」
深い青色の中からキラリと光る影。
徐々に大きくなって、光も色鮮やかになってくる。
「んぁっ!釣れた〜釣れブバッ!!」
墨を顔射された。
「んぁ〜…目が痛いよぉ…苦いよぉ〜…。」
- 223 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月30日(水)22時11分13秒
- 「い、いくぞっ!ミニモXだ〜っ!!」
「ドラガン!!」
「ジャイッチ!!」
……ドカーン!!
「ミニモXだ〜っ!!」
「ズヴォニミール!!」
「ボバン!!」
…ドカーン!!
「ミ、ミニモXだ〜っ……」
「ズラタン!!」
「イブラヒモヴィ…」
ドカーン!!
といった具合に、効果音のタイミングも徐々に合ってきたのだが、
その頃にはもう1週間が経とうとしていた。
- 224 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月30日(水)22時11分46秒
- 「紺野も慣れてきたみたいっスね。」
「ああ……まぁ、でも今日で終わりだからなぁ。
どうせならごっつぁん帰ってきても雇っとけばいいのにさ。
いつも人数足りなくなったらなっちとかカオリとか借りてくるんだから。」
「金がないのよっ、カネが!」
ショー直後の矢口と吉澤の指定席、
控え室の隅っこでそんな会話していると、保田が近づいてきて
至極現実的に否定する。
さすが唯一の正社員。
「金なぁ……」
矢口も金が欲しかった。
じゃなくて、ひとついいアイデアがあった。
そこは、最近忙しそうで
特に昼間なんかはミニモメンバーが全員押し寄せては
店主一人であたふたと働いている、すぐ隣の店。
- 225 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年04月30日(水)22時12分20秒
- 「みっちゃんとこに雇ってもらえば?
あそこ、そろそろ一人じゃやりきれないと思うんだけど。」
「そんなこと言ってもねぇ……あたしにそういうこと言う権限ないしっ。」
「まぁねぇ…。」
「あ、でも平家さんバイト欲しいって言ってましたYO。」
- 226 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月02日(金)16時34分34秒
- ポカポカ陽気。
船長のオジサンの家の庭を借りて
並べておいたイカがしっかり乾いている。
「こんだけあればお店でも出せるなぁ、んぁ。」
結局あれ以降、入れ食い状態で
合計何匹釣ったかも分からないくらい。
実は、半分以上は箱に詰めて
昨日家に送っておいたのだが、まだ持ち帰るには結構な量が残っている。
「んぁ〜……これ、おみやげじゃないけど、持って帰れそうにないんで。」
「なんだぁ〜、優しいのぉ〜!最近の若い子はみんな冷たいと思っとったけどぉ〜!」
「んはは。……そういうわけじゃないですけど…。
じゃ……お世話になりましたー。」
「おいよっ!またいつでも来いよ〜!」
スルメが大量に入ったカバンを手に、
田舎道を歩く。
保田に無理言って来た甲斐があった。
「電車で沢山食べてもまだ残るなぁ〜。クチャクチャ。」
もう食ってた。
- 227 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月02日(金)16時35分20秒
- 翌週、いつも通りにショーは行われ、
いつも通りに昼飯は落ち武者でラーメンを。
「ん?なんだ?みっちゃ〜ん!!」
「なんや矢口?」
「麺がノビノビなんだけど。繁盛して天狗になってんじゃないの?ギャハハ!!」
『ちゃうわっ!』と唾を飛ばしながら言うと、
ちょうど店の奥から紺野が出てきた。
「すいませんっ……あの、メモ見てたら茹ですぎました。」
「あれっ?紺野、ギプスは?」
ふと矢口が見れば紺野はギプスなどしていなかった。
それどころか、松葉杖さえもなければ、包帯も無く、ただ平然と歩いていた。
「…あ…えっと…えっと…。」
何かとてつもなく嫌な汗が紺野の額に浮かぶ。
「あっ!?みなさんっ!!あれ見てくださいっ!!
テツandトモの青い方が居ますっ!!」
ど、どこっ!?
- 228 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月02日(金)16時35分57秒
- このとき、ギプスに気づいたのは矢口のみだった。
アホウな奴らが自分の指差す方向を向いているわずかな時間に
どこから取り出したのかわからないが、ギプスと松葉杖を装備した。
「あ…ごめんなさい…バナナマンの変な頭の方でした。」
なぁ〜んだ。
振り向き戻ると、いつのまにかギプスに松葉な紺野が立っていた。
「矢口さん、さっき私のギプスが何とかって言ってましたけど…?」
「ん??あれっ??」
「どーしたのよ、矢口。」
「いやあ…確かに…あれっ…おっかしいなぁ…。」
「何言ってんのよ!?アンタボケたのっ?」
- 229 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月02日(金)16時36分33秒
- 首を傾げる矢口に内心ほっとする紺野だったが…
一番気づかれたくない人物に気づかれた。
「ん?…紺野っ。」
「どうしましたか…保田さん。」
「アンタ、確かギプス右足だったわよね…。」
「えっ…あっ…あーーーあんなところにアホの坂田に似た元議員がホームレスしてるぅっ!!」
ええっ!?
「…だまされないわよ。アンタ。」
川o・∀・)<アヒャ。
- 230 名前:第22話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月02日(金)16時37分04秒
- 一部省略。
紺野は幸い、かどうかは分からないが、
落ち武者でバイトとしてやることに決定した。
茹ですぎの麺も、やっぱり1週間くらいすると
ちょうどいい加減になり、平家は今までよりも楽をすることに成功したのだった。
前後するが、先週の終わり。
後藤は久方ぶりの自宅に懐かしい香りを、
いや、特有の臭いを感じて、顔をしかめた。
そして間違いに気づく。
宛名を"後藤真希"にして送ったために、
母親はダンボールを開けずに後藤の部屋に置きっぱなしにしていたのだ。
だから
「イカ臭すぎ……」
鼻がひん曲がるほどの悪臭が、部屋中に染み付いていた。
- 231 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年05月02日(金)16時38分09秒
- 以上で第22話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして23話を開始したいと思います。
- 232 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月08日(木)19時39分08秒
- 毎回楽しい話をありがとうございます。
強烈な新キャラも登場し、またひと波乱ありそうなヨカーン…。
- 233 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年05月09日(金)19時38分18秒
- >>232
ありがとうございます。
紺野はこれから、サブメンバーとして活躍する予定です。
これから23話更新を始めます。
お楽しみください。
- 234 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月09日(金)19時40分04秒
- すぅ〜…。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
街中で肌の黒い彼女が、
ある日、寒空の下そんな叫び声を上げた。
そのカナキリ声に耳を押さえることを余儀なくされる
その場半径100mの一般人。
これは完全な騒音問題であるし、ある意味殺人的だ。
話は戻って、何が『なんじゃこりゃぁぁ』なのかといえば
石川梨華と書かれた通帳が原因のようだ。
その通帳を見る石川の顔がどんどんと困っていく。
「どうしよう…今月残り10日もあるのに…3000円しか使えないなんて…。」
後先考えず、使ってきた結果、とうとう石川の通帳から5桁の数字さえも消えた。
まぁ、後先考えず使わせたちっちゃいのは今頃家でぐっすり就寝中のはずである。
「こまったなぁ…どうしたらいいんだろう。こんなお金ですごしたこと無いよぉ〜。」
- 235 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月09日(金)19時40分34秒
- 寝ても覚めても、ここのところ気になるのは自分の財政。
矢口というヒモを飼っているのは無論負担になるわけで、
彼女が要因で80%程度は石川の貯蓄を消化しただろう。
「正直に言おうかな…矢口さんに…。いつまでも消費癖付けさせてちゃだめだもんね♪」
人の鼓膜を破壊した後、小さいガッツポーズを作って
石川は自宅へ戻っていった。
「ただいまぁ〜……。」
「……。」
金食い虫、石つぶしはそんな石川の憂鬱など気づくわけも無く
どうやら起きたらしく、暇つぶしにプレステに興じていた。
- 236 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月09日(金)19時41分11秒
- 「ただいまぁ〜。」
「……。」
「矢口さーん?石川が帰ったんですよぉ〜?お帰りの一つくらい
言ってくれたっていいじゃないですかっ!バカッ。」
「ん〜〜…おかえりー。」
まったくをもって、聞く耳もたず
適当な相槌のように返事をする。
そんな態度に(いつもの態度なのだが)、
この日の石川はブチギレた。
「なんなのよぉ〜バカッバカッバカッ!!!」
- 237 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月10日(土)12時34分43秒
- カバンを振り回し、何度もカバンで矢口を叩く。
コレにはたまらず、プレステを中断し、
わけのわからない状態ながらも、防御に回った。
「ちょっ、ちょっと、梨華ちゃんおちついて、おちついて!!どーしたのっ!!」
145cmが必死に155cmを抑えようとする。
「バカッバカッバカッバカッ!!!」
なおも暴れる155cmは145cmにはなかなか抑えられず
頭を何度も叩かれた。
ひ弱なくせに意外と強く、痛みがじんわりとひろがる。
「マジおちつけって、どーしたんだよっ!!」
「何にも知らないくせにっ!!バカッバカッバカッバカッ……」
- 238 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月10日(土)12時35分17秒
- 止まった、と思ったら
「……グスッ…うえぇぇぇぇぇぇ〜〜〜ん!!!」
今度はいきなり泣き出した。
泣き出したかと思ったら、膝から崩れてさらに大きな声をあげた。
「うえぇぇぇぇぇぇぇん!!!!えぇぇぇぇぇぇん!!!……」
わけがわからない矢口。
それはそうだ、矢口にしてみたら
適当な返事をしたら殴られ暴れられ、ついでに大泣きされている。
大抵の男でもこんな感じの女の子は扱いづらいもので、
同性でありながらヒモの矢口には対処の仕方がすぐにはわからなかった。
- 239 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月10日(土)12時35分54秒
- 「よーしよーし、イイコだ。イイコだ。」
ひとまず、頭を撫で続けて、落ち着くのを待った。
頭を撫でるだけで、いい大人の石川が落ち着くわけなど
「…ぐすっ……ずずっ…。」
あったわけで、
いつもはしないとびっきりのスマイルを浮かべて
何があったのか問いただしてみた。
「どーしたー梨華ちゃーん?いってみれぇ〜。」
「だってぇ〜…じゅるじゅる…もう3000円なのぉ〜…うぇ〜〜…。」
また泣きそうになるので、強く抱きしめる。
ガキのお守り以上に大変だ。
「なにが3000円なんだよぉ〜?ん〜?矢口に素直に話してみなー?」
「……もう今月使えるお金3000円しかないのぉ〜…。」
「まぢっすか。」
- 240 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月12日(月)00時28分59秒
- 思わずカレンダーを見上げて今日を確認する。
あと10日。
(キッツィなぁ……。無駄遣いしすぎたかなぁ…。)
無駄遣いもいいところである。
自分がヒモとしてやってきたことが回想される。
パチンコ、競馬、ゲームetc...
その結果出た答えは…
「んまぁ、楽勝っしょ。」
「楽勝じゃないですよぉ〜〜〜。」
「だってー、ヤグチ1ヶ月を1万で過ごした事あるし。」
- 241 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月12日(月)00時29分33秒
- それは一人暮らしであったからこそ可能だったわけで。
ましてや二人暮し、あと10日で3000円。
だいぶキッツイのは目に見えていた。
「ハァ…。」
石川は、そうため息をつくとテレビに目をやった。
やらせたのはちょうど流れていた消費者金融のCMだった。
「借りよっかなぁ…。」
「ダメだ、梨華ちゃん。ダメ人間の第一歩だ。ほのぼのレ●クなんて
ダメだ。ほら、ウチら仲間に借りればいいじゃん。」
「そーですよね。ほのぼのレ●クはダメですよねっ。じゃあ、ヨッスィーに電話をかけてみます。」
「ダメだ、梨華ちゃん。こういうのは直接行った方が効果あるんだよ。」
「そうなんですか…?」
- 242 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月12日(月)00時30分32秒
- 「梨華ちゃんはわかってないなー、借金のハウトゥーを。
まぁー、まかせて着いて来なって。」
その言葉はどうも信用できないが、金など借りたことの無い石川は
その言葉を信じるほか無かった。
さっそく行動に移すことにした矢口は、ピンで前髪を留めると、
赤いサインペンを取り出し、額に何かを書き込んでいる。
「…何やってるんですか…?」
「見てわかんない?」
「…はぁ…。」
- 243 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月12日(月)18時49分24秒
- 「傷を作ってんだよ。傷。」
「傷?」
「まぁ、まかせとけって。ヨシ、これでOK。いこう梨華ちゃん。」
ツカツカとアパートの階段を降り、しげるの元へ向かう。
いつものように、しげるにケリを入れるが動かない。
「あ…、ガス切れてたんだっけ…。」
「じゃあ、どうしましょうか…。」
「押してガス屋に…。」
「お金ないですよ…。」
「……。」
「……。」
「歩いていくか…。」
「それしかないですね…。」
「健康のためってことで。」
「そーですねっ…健康のためってことで。」
- 244 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月12日(月)18時49分54秒
- 資源は大切にではないが、金も無い今
とぼとぼと健康のためという建前で歩いていくことに。
吉澤のアパートはそれほど遠くも無い。
少し古そうなアパートにたどり着くと、
表札も何も無い部屋のインターホンを鳴らす。
職業柄、勧誘やストーカー対策として部屋には表札をつけない
というのが吉澤の弁らしいが。
ピンポーン
ピンポーン
「誰だYO…、これからバイトだっていうのに…。」
どうせ新聞の勧誘か何かだろうと思いながら、
のぞき穴をのぞいてみる。
(ゲッ…梨華ちゃんと矢口さんだ…。)
不吉な予感がする吉澤。
二人そろって、アポなしで現れるとくれば
ミニモスタッフたちは誰でもそう思うと言う。
- 245 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月13日(火)18時05分49秒
- 「どうする…あの二人が来るって相当なことだYO…。」
しかし、刻一刻とバイトの時間は迫っている
正直に用があるから帰ってくれといって
帰ってくれる奴らでもない。
逃げ場を確認してみるが…そんな場所など
窓を開けて見ても壁が広がるだけで、全く無かった。
またどっかりと座り込んで打開策を練る。
そんな時、外から大きな声が聞こえてくる。
『ピンクのカーテンのリカちゃぁ〜〜〜ん!!
居ないのーー!?ピンクのカーテンのリカちゃぁ〜〜ん。」
近所迷惑となりそうな大きな声で、源氏名を叫ばれている。
これにはたまらず、立ち上がる吉澤。
- 246 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月13日(火)18時06分36秒
- 「はぁ…丁重に帰っていただくとするか…。」
観念した吉澤は、重い足取りで
ドアノブの鍵を開け、顔を出した。
「なんすか?今日はどーしたんすか?」
そんな吉澤の第一声に、
石川は『嫌そうな顔してるなぁ…。』と思った。
「ヨッスィー、3万貸して。」
矢口はその言葉を吐いたと同時に
吉澤の視界から消えた。
驚くほどのスピードで土下座していたのだ。
冷たいコンクリートに頭を擦り続ける。
「何も言わずに貸してッ!!」
- 247 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月13日(火)18時07分06秒
- 何度もその言葉を先ほどと同じくらいの大きさで吐き出す矢口。
「ちょっ…ヤメ…。」
『ちょっと、やめてくださいよ。』と言おうとした時、土下座と同じスピードで
元通りに立ち上がる矢口。
前髪を上げて、先ほど作ったサインペンの偽傷をみせて
「ほらっ!!おでこ擦りむいちゃった!!3万円貸して!!」
急な出来事だけに、怪しさが募った吉澤は矢口の額に触れてみた。
色が落ちた。
「これ……何スか?」
次第に嫌な汗をかき始める矢口と、
『やっぱり…』という苦い顔をする石川。
「な、何でもない…あ、この事忘れちゃっていいからっ!!バイバーイ!!」
そう言いながら逃げ出した矢口。
- 248 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月14日(水)22時06分16秒
- 「なんなわけ…?」
「ごめんね…また来るから。」
申し訳なさそうな石川もそう言って矢口後を追い、去っていった。
「また来るのかYO…、何だったんだ……、ヤベッ!!バイトだYO!!」
吉澤はこのところ、ミニモレンジャーの仕事が休みになることが多いから、
余計に夜のバイトを入れていた。
「SHIT!!」
まさかの失敗に余程悔しそうな矢口だが
『その偽キズがなかったら貸してもらえたかもしれないのに…。』
と、冷静に思う石川。
- 249 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月14日(水)22時07分02秒
- 「やっぱニセキズ作戦はダメだったかぁ〜…。」
「そりゃあそうですよ…『まかせとけ』がコレなんて…。」
「まっ、まだ一人目、一人目。次いこう、次。」
そして歩くこと十数分。
矢口たちは後藤家の前に来ていた。
「ごっちん貸してくれますかね?」
「貸してくれるでしょ。だって700万当ててから
競馬通いしてるって話しだし、圭ちゃんが言うには
ハズレたところを見たことがないって事だから期待は出来るよ。」
「またキズ作戦ですか…?」
「だめ…?」
- 250 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月14日(水)22時08分12秒
- 「ダメ。」
あまりに冷静に、なおかつ怖い顔で言うので、観念する矢口。
「わかったわかった、フツーにやるよ、フツーに貸してって。」
そう言いながら、後藤家のインターホンをプッシュ。
わずかに聞こえてくるインターホンが何度も鳴った。
しかし、何度押しても家のものはでてこない。
「いねーのかなぁ〜おっかしいなぁ〜。」
「お母さんはお店の準備ですよね、この時間。」
「あれっ…今日はもしかして…。」
少し気がかりなことがあって、おもわずポケットの携帯で
日にちを確認した。
- 251 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月15日(木)23時40分48秒
- 「SHIT!!!!」
「どうしたんですか…?」
「今日G1の日だっ!!やられたっ!!」
「そりゃあ、居ないですよね…、そうすると保田さんも居ませんね…。」
これで、保田、吉澤、後藤と金有り組が消えた。
高校生組は3万などもっていないのは明らかだし、
矢口にも少なからずプライドというものがある。
クレープ屋のバイトオンリーの生計を立てている飯田、安倍も
給料前であるから、持っているわけがない。
- 252 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月15日(木)23時41分39秒
- 「みっちゃんはオヤジさんの入院費の捻出で大変だもんな…。」
「そーですねぇ…苦労人ですもんね。」
「…だからといってアイツには氏んでも借りたくねぇしな…。」
頭に浮かんだ市井をすぐさま100tハンマーで殺した。
「そしたら…やっぱあのコかなぁ、いくぞっ。」
「えっ…どこにですかっ。ちょっと待ってくださいよぉ〜矢口さぁ〜ん。」
最後に思いついた人しか3万円を借りることは出来ないという結果が
矢口の頭の中からでてきた。
急がば回れ。
この言葉に忠実に誰とも言わず、石川を連れてその人物の家に向かった。
- 253 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月15日(木)23時43分06秒
- 「イヤァァ〜!!!ゼッタイイヤッ!!嫌だもん!!絶対イヤッ!!」
その回答が石川の口から出てくるのは矢口は分かってた。
しかし何とかなだめようとする矢口。
「まーそーゆーなよ。借りるのも返すのも矢口がやるしさー。」
「嫌ですッ!!ゼッタイやめたほうがいいですよ!!ケチだし、
物凄いケチだし、と言うか石川はイヤですよ!!あんな人からもし借りれたとしても
そんなお金でごはん食べたくありません!!これならほのぼのレ●クの方がマシです!!
私今すぐほのぼのレ●クで借りて来ますよっ!!」
「ほのぼのレ●クよりア●ムの方が近くにあるけど。」
何が石川をそこまで言わせるのか、
それは目の前にある豪邸の表札が教えてくれた。
- 254 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月16日(金)17時53分49秒
- ______________
___|___|___|___|_
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|___|__| 松 |_|___|__
_|___|_| 浦 |__|___|_
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- 255 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月16日(金)17時54分39秒
- 「まーまー、そんな毛嫌いしないでさっ。ねっ。利子ナシで借りれるんだから。
いくらケチでも貸し借りには応じてくれるっしょ。」
「嫌なものは嫌です。」
そんな揉め事をここで起こしている場合ではないと思った矢口は
嫌がる石川を振り払いインターホンを押した。
それにあわせて、何も聞かないようにする石川。
声も聞きたくないといったような態度である。
しばらくすると、メイドらしい人物がインターホンに出た。
「あのー、亜弥ちゃんいますかー?オイラぁ〜〜矢口って言いますけどーー。」
『しばらくお待ちください。』
とても嫌そうな石川の視線を無視しながら、
松浦が出るのを待った。
- 256 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月16日(金)17時57分23秒
- 『はぁ〜い♪どーしたんですかぁ〜♪矢口さぁ〜ん♪』
能天気な声が、小さなスピーカーから聞こえてきた。
突然に金の話をするのはマズイと思った矢口は
探り程度に様子をうかがってみる。
「いやぁ〜〜いい天気だよねー。」
『え〜〜?そうですかぁ〜〜?もうすぐ雨になるそうですよ♪』
「ん?ま、まぁそうかもね。亜弥ちゃん今日はなんかいい事あったの?」
『どうしてですかぁ〜?』
「いやー今日は何かいいことあったのかなってほど、明るいからさ。
何かなかったとしても、その太陽のような明るさが亜弥ちゃんの良さなんだろうけど。」
『でしょぉ〜♪でもホントにいいことあったんですよぉ〜♪』
(ヨシッ。ヨイショ作戦成功だっ!!)
「で、何がいい事あったの?きかせてよぉ〜。」
- 257 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月17日(土)00時50分05秒
- 『株ですよっ♪380万儲けちゃったんですッ♪ドルも40万もうけてぇ〜
ユーロも20万程度儲けちゃって♪まぁ〜、安いものですよねっ♪小遣い程度ですけど♪』
ゴクッ…。
矢口は思わず唾を飲み込んだ。
今しかない。絶好のチャンス。
そう決断した矢口は本題に入った。
「あのねー、今日は用があって来たんだよー。」
『そうでしたねっ♪で、どうしたんですかぁ〜♪』
「あのさ、突然で悪いんだけどお金貸して…」
プツッ。
「あれっ。ちょっと亜弥ちゃ〜〜ん!?」
- 258 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月17日(土)00時51分48秒
- その後、何度インターホンを押しても反応はなかった。
「F**K!!JESUS!!」
怒りを交えながら、先ほどのことを石川に説明すると、
石川は『やっぱり』という安堵して嬉しそうな顔をした。
矢口は鉄格子にツバを吐きかけて、トボトボと帰路に着く。
すると、松浦の言ったとおりに泣きそうな空はとうとう泣き始めた。
「アハハ…ウチらツいてないね…。世の中400万稼いでも小遣いとしか
思わねーやつもいるのにさ…ぐすっ…。」
涙は雨と混じっていった。
- 259 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月17日(土)00時52分27秒
- 「金がないほうが幸せなのかもしれないですよっ。
そこのマツキヨで安い食べ物でも買い込みましょッ♪
10日もたせればいいですよ♪後は省エネでねっ♪」
「…だねっ…♪」
「ヨシヨシ。」
今度は逆にナデナデされますた。
結局のところ、マツキヨでカップラーメソを
3ダース、合計3000円購入した。
その帰り道、二人はカップラーメソの入ったダンボールを二人で担ぎながら、あるく。
- 260 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月18日(日)20時20分32秒
- 「梨華ちゃん、ごめんねー、矢口のせいでさー
お金なくなっちゃったね…。借りることも出来なかったし…。」
「いいんですよっ♪別に石川はどうも思ってないです♪
それに矢口さんのお世話するの好きだし…。だってぇ〜…
矢口さんがチュキって言うかぁ〜…もうっ♪」
ポッっと顔が赤らむ石川。
大雨の中、いい雰囲気があたりに漂いだす。
が、
「それはどうかと思う…。」
思いっきり嫌そうな顔をする矢口。
- 261 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月18日(日)20時21分23秒
- 「なんでですかぁ〜!??」
「そう、それだよ。うちらはそれで仲良くやってきゃあいいんじゃん?」
「……ですよねっ♪ウフフフフッ♪」
そんなとき、喫茶『さやか』に差し掛かったところで足が止まった。
ぐううううううぅぅぅぅ…。
ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる…。
「ハッ!?何の音だっ!?怪獣タノキントリオの鳴き声かッ!?」
「気っ!!気をつけてくださいよっ!!トシちゃんが一番強いですから!!」
「ど、どこに隠れてやがるぅ………は…腹減った…。」
「はい…。」
- 262 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月18日(日)20時22分24秒
- 意味不明なアクションをしても、空腹が収まるわけではない。
腹を抱えてうずくまる矢口。
そういえば、今日は何も食べていなかったのだ。
「いいなぁ…カツカレーが久しぶりに食いたい…。」
店の中を恨めしそうに眺める二人。
「一昨日食べたじゃないですか…。」
「み、水だけ。雰囲気だけでいいから休もうよ…。」
「そうですね…水だけもらいましょうか…。」
二人を迎えるかのように、店内は暖かく、
眼鏡をかけていれば、すぐに曇ってしまうような温度差があった。
- 263 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月19日(月)21時17分02秒
- 二人が入ると、店主のおばさんが驚いた顔をした。
ずぶ濡れの見慣れた女の子が入ってきたのだから。
手際のよい、おばさんはすぐに店の奥から
新しいタオルを取り出して、二人に渡した。
「「ありがとうございます。」」
「どーせ、こんな雨なのに原付で来たんでしょ?」
と、いつもと変らない笑顔が今日はやけに温かく感じた。
少し申し訳なさそうに店の入り口辺りの席に座る二人。
何せ水だけなのだから。
しばらくすると、またいつものように店主のおばさんは水を運んできた。
「今夜は何にするの?カツカレーとサンドイッチ?」
いつもは朝に来ている。
今は夜、珍しく夜に来たのだから尋ねるだろう。
だが水だけとは…。
- 264 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月19日(月)21時17分37秒
- 「ごめんなさい。」
「ごめんなさい…。」
いきなり謝られて困る店主。
なにごとかと首をかしげた。
「今日は、水だけで…すいません。」
「お金なくて…。」
そう言うと、店主のおばさんは笑い飛ばした。
「そう。じゃあ、ゆっくり温まっていってね。」
そう言って笑顔でおばさんは戻っていった。
「イイ人だなぁ…ホント…。」
「ですよねぇ…ぐすっ…。」
「泣くなよぉ〜…、矢口も泣い…」
- 265 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月19日(月)21時19分16秒
- 矢口の視線が何かに捉われた。
再び店主が矢口たちの元にやってきたのだ。
カツカレーとサンドイッチを持って。
「ハイ。」
そう言いながら置かれるカツカレーとサンドイッチとスープ。
「あのっ……。」
「いいのよ。ターダ、サービス。その代わり全部食べて温まって帰りなさいよ。」
「あ……ありがとうごじゃいますっ!!!」
「ありがとうごじゃいます…。」
- 266 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月20日(火)22時29分25秒
- 深く頭を下げたのはしばらくなかった。
これほど嬉しく、感謝の思いの礼は初めてだったのかもしれない。
そんな二人を見て、手を振りながらニガワライで店主は厨房に戻っていった。
嬉しくて涙が止まらない。
座っていつものようにカツカレーにかぶりついた。
「ウメェ〜なぁ…ちくしょー…。」
「ですねぇ…なぁ〜みだぁ〜とまらなくてもぉ〜昔のように叱ってマイマーダァ〜…。」
「下手な歌…唄うなよっ…ぐすっ…。」
「だってぇ〜…そう言う気分なんだもぉ〜ん…ずずっ…。」
「しょっぺーなぁ…。」
「矢口さん…涙と一緒に食べてるからですよぉ〜…。」
「梨華ちゃんも人のこといえねぇじゃんかぁ〜〜…。」
「…そうですね…しょっぱいです…このサンドイッチ。」
- 267 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月20日(火)22時30分19秒
- そんな感動をしながら、味わって食べていると
バットタイミングなヤツが帰宅してきた。
「ただいまぁ〜…つかれたよー。お母さんメシ…
ゲッ!!なんでオメーが夜に居るんだよっ!!」
そう、矢口を見た途端とてつもない嫌悪感たっぷりな顔をした市井だった。
「このバカ娘のお母さんとは思えんな。」
「うっさいんだよ!!氏ね!!」
「……うめぇなぁ〜…。」
「オイ!かかってこいよ!!ゴルァ!!いつもの元気はどーした!!
濡れすぎで元気ねーか?この一寸野郎がっ!!」
「……。」
この後、市井は何度も矢口を挑発するが
それには一切反応しなかった。
あまりに調子の狂った市井は
「チッ!!この低脳サルがっ!!」
と、吐き捨てて、市井は去っていった。
- 268 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月21日(水)19時24分40秒
- そんな様子を傍目で見ていた石川は
すこし矢口を見直していた。
「矢口さん、今日はヤケに大人ですね。」
「…いいから食えよ、こんな時にアイツの相手なんかできるかよ。」
「ですよね。」
今日は珍しく場をわきまえられたようである。
二人は、食事を終えた後、十分に温まってから
最後に店主に頭を下げて帰った。
もちろん、家に帰るまでにまたずぶ濡れになったのは言うまでもないが。
家に帰ってからすぐ、二人一緒にシャワーを浴びる。
風邪を引いてしまえば、シャワー代より金がかかる。
シャワー代も、より節約するために二人で一緒に浴びた。
- 269 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月21日(水)19時25分22秒
- 「もぉっ!!なんだよー、梨華ちゃん変なトコさわんなよー、
この…どエロがっ。」
「いいじゃないですかぁ〜♪ねぇ〜、いいでしょぉ〜?」
「あー?体力の無駄遣いは避ける。ンじゃ、先出るわ。」
「えっ…ちょっとぉ〜矢口さぁ〜ん!?もうっ!!」
そう言って、先に出た矢口であったが
少し嬉しそうな顔をしている。
(オバサンのおかげでウチらもなんかイイ感じだな。)
「早く出ろよー、省エネだぞー。」
「はぁ〜い。もうちょっとぉ髪の毛流してからぁ〜。」
- 270 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月21日(水)19時25分56秒
- その日以来、いろいろな方法で省エネを試みた。
コンセントごと電源をぬいたり、いろいろ節電を図ったようである。
1日2食弱の同じラーメン(生メンタイプ)をすすりスープまで飲んだ。
しかしながら、そんな節電していても限界は来るわけで。
3日後のことだった。
これからしばらくバイトがある。
昼食は賄ってもらえるという、計算上1日3食、食える計算となったのだ。
今日は二人で徒歩出勤である。
このところしげるの出番は全くない。
いつものように、ミニモレンジャーショーをこなした。
そしていよいよメシ時に。
矢口と石川は久しぶりのラーメン以外のものが
食べられると意気揚揚にラーメン落ち武者に。
注文予定はチャーハン、コレを二人は狙っていた。
- 271 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月22日(木)15時34分56秒
- しかし久しぶりにラーメン落ち武者に行くと少し変っていた。
『ラーメン専門店 落ち武者 』
看板が安い作りではあるが変わっているのだ。
「どういうことだ…?」
「さぁ…?」
まさかと言う思いを抱えながら店に入る。
「おーきたんかぁ〜みんなー、1週間ぶりかぁ〜?
ちょお、痩せたんちゃうの、ヤグチと梨華ちゃん。」
「みっちゃん、チャーハン!!」
「平家さんっ!!チャーハン!!」
先陣を切って矢口と石川が鬼気迫る顔でチャーハンを注文した。
「あー、あれ見てみあれ。」
平家はオタマでなにやら後ろの方向を指している。
なにを…?という顔をしながら振り向くと
- 272 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月22日(木)15時35分30秒
- 『当店はラーメン以外のメニューを廃止しました。
ご了承の程よろしくお願いいたします。 店主。』
- 273 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月22日(木)15時36分37秒
- 「「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」」
「な、せやからラーメンでええか?」
「い…いやだー!!もういやだー!!!ラーメンなんか食えるかぁ!!!」
この出来事で矢口の頭の中で何かが吹っ切れた。
そして石川は力なく膝から崩れた。
矢口の視線が鋭くなった。何かを探すかのように。
そして狙ったターゲットは、後藤だった。
「ご、ごとうさんっ!!!3万円貸して下せぇ!!」
吉澤のアパート前でした土下座など比にならないほどの
とてつもないスピードでの土下座に後藤はビクついた。
「んぁ…いいけど…、怖いよやぐっつあん…。」
「ホント!?」
顔をあげた瞬間
矢口を見ていた全員が唖然とした。
- 274 名前:第23話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月22日(木)15時37分20秒
- 「…どーしたの?」
何がなんだかわからないと言った顔をする矢口。
「矢口さん…おでこ…。」
「おでこ?」
そういわれて額に手を当ててみた。
ヌルッ。
手のひらは真っ赤に染まっていた。
「なんじゃこりゃああああああああああああああああ!!!!」
そういったまま矢口は白目向いて倒れた。
土下座は怪我のないように正しく行いましょう。
結局3万借りても、返済した後ラーメンの生活が二人を待っていたのだが。
- 275 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年05月22日(木)15時38分22秒
- 以上で第23話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして24話を開始したいと思います。
- 276 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月28日(水)21時06分33秒
- 矢口と石川の距離が少しずつ接近していく様子に
思わずにんまりとしてしまいます。
これからも楽しいお話、期待しております。
- 277 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年05月30日(金)20時10分02秒
- >>276
ありがとうございます。
よく分からない、二人の関係ですが
温かく見守ってください。
- 278 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月30日(金)20時11分08秒
- 「ねぇ矢口さ〜んっ……」
「ん?……あっ!ちょっ、ズリーぞ!」
「あたし達の誕生日も過ぎちゃいましたね〜っ……
やった〜っ!矢口さんに勝ちましたよっ!!いぇ〜!!」
「勝ちましたじゃねーよ、ったく!
即死コンボなんかいつから出せるようになったんだよっ!!
もう一回。まだ1勝1敗だから。」
「石川だっていつまでも易々と負けるわけにはいきませんからっ。」
「(´・∀・`)ヘー オイラを本気にさせるとは……って」
- 279 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月30日(金)20時11分41秒
- 格ゲーに勤しむ金曜日の朝。
今日は突然の休みで、
朝っぱらから保田の電話で起こされても
やることがなくて、一日中ゲームをすることに決めた二人。
ミルク7割のコーヒーを一口含んで、
本気対戦用のキャラに変更しようとした矢口が、止まった。
「誕生日…?」
「ええ、誕生日。過ぎちゃいました…けど…。」
ワナワナと小さい躯が震え出す。
ゲームのコントローラーはポトリと床に落ち、
珍しく金髪を手櫛で梳かし始めた。
「あっ、あのっ、あたしも今日起きてから気づいたんですよっ!!
だから、あの、もっと早く言えって言われても困……」
「誰からもプレゼント貰ってないし、祝って貰ってない?みたいな?」
- 280 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月30日(金)20時12分20秒
- 何故か笑顔だった。
今時流行らないギャル風の言い草で、
顔もそんな感じに作っている。
が、化粧はしていないから
おばちゃんと言えばおばちゃん。
「じゃねーよ!!ゴルァ!!何だコレ!!
産まれてくるなってことかよ!!ああっ!?」
「そ、そんなぁ、あたしに言わないでくださいよぉ〜…。」
キッと顔を強張らせ、それっきりテレビ画面を注視したまま
石川の方すら向かなかった。
- 281 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月31日(土)21時10分35秒
- 「いいよ。どうせプレゼントくれとか言っても誰もくれねーから。
ここは健気に振舞ったほうが得策ってことさ。
うしっ!勝負!」
石川に何もさせないうちに秒殺したことは
言うまでもない事実である。
「圭ちゃんおはよー。」
「ん〜…おは…!???」
土曜日の朝8時40分。
朝一番のコーヒーを飲みながらタバコを吸い、
スポーツ新聞を隅々まで読み渡していた保田は
目ん玉引ん剥いて、椅子から転げ落ちそうになった。
- 282 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月31日(土)21時11分13秒
- 「や、や、や……」
「や、や、何だよ?矢口だよ。」
「や、やぐ……えー!?あんた何考えてんのよっ!?
まだ8時40分よ!?」
「何だよ、だって9時集合じゃん。」
二人のやり取りに石川は笑い出さんばかりの顔で
後ろから眺めている。
「あんたっ、マジでどうしたのよっ!?」
ペタリと額に手を当ててみたが、
正に平熱36度。
どちらかといえば自分の方が熱い。
動転した保田は、何故か矢口と石川に
自らコーヒーを振舞って、パイプ椅子を引いて座らせた。
- 283 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年05月31日(土)21時11分59秒
- 「だからどうもしてねぇって。」
「ねーっ、遅刻しないのが当たり前ですよねーっ。」
「そういうこと。」
「うーむ……給料前借したいの?」
「んなわけないじゃんねー。」
「そうですよぉ〜。」
「おっかしいわねぇ…。」
当然だ、と胸を張って同調する石川を見て、
尚更保田は頭を抱えて、
吸っていたタバコを灰皿に小刻みに叩きつけた。
- 284 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月01日(日)16時43分44秒
- 「マジっスか!?」
「なんでやのっ!?」
「なんで矢口しゃんがっ!?」
「んぁ〜早いねぇ〜」
後からやってきた皆が、
そういう風に同じリアクションで目を丸くした。
「だから当然だっつーのっ。」
その度に矢口はそう言い張り、
石川はプッと噴き出すのを堪える。
何か、悪ガキが突然親の手伝いをするようになって、
強がっているような、そんな雰囲気が矢口にあって、
無性に可愛いのだろう。
「矢口さんっ、いくら当然でも、今までが今までですから無理ですよぉっ。」
「そーかなぁ…。うーん。」
「かわいっ♪」
「グヘッ!!首を絞めるな!首をっ!!」
- 285 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月01日(日)16時44分26秒
- 客は、まずまずの入りだ。
とは言っても7、8人しか居ないが、
それでもミニモレンジャー。ショーにとっては
『今日は入ってるなぁ』という感覚だろう。
実際のところ、キャパシティが何人か、なんて
怖くて誰も数えてないのだが。
「ちびっこのみんなー、やぐーちゃんがこんな怪獣倒しちゃうぞーっ。」
ありえないセリフだった。
皆がギョッと驚き、加護に至っては
「んなあほなぁ〜!!」
などと、吉本新喜劇並のオーバーリアクションでぶっコケている。
(矢口さん、遂に頭オカシクなったんちゃうか?)
(ミニモXのやりすぎれすかね…ある意味ヤリマンれす。)
誰もが訝しがっているのもお構いなしに、
満面の作り笑いでコゲアソパソマソにマジ蹴りを食らわしている。
なんせ、コゲアソパソマソが片足押さえてピョンピョンと飛び跳ねているのだから、
異様な光景と言うしかない。
そして、執拗なローキック攻撃は続く。
- 286 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月02日(月)21時30分05秒
- 「あちゃーっ!!」
「痛ぁっ!!!矢口さんマジ痛っス!!」
着ぐるみ越しに中身の悲鳴が聞こえてくるが、
攻撃の手、いや足を緩めない。
「よっしゃー!やぐーちゃん必殺の左ハイキックだー!!」
自分の遥か上にあるコゲアソパソマソの頭には届かなかったが、
肩辺りに見事にヒット。
しかもやたら勢いをつけて蹴ったから
ステージから転落して、コンクリートに頭を打ち付けて
コゲアソパソマソは失神してしまった。
- 287 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月02日(月)21時30分48秒
- 「今がチャンスだっ!!ミニモXいくぞーっ!!」
「わ、わかったでーっ…。」
「…あーい。」
「ゴメンよぉ、よっすぃー。仕方なかったんだよぉっ。
こう、ショーのリアリティを追求するとさ、
やっぱそういう、地味な攻撃も必要だなぁ、って思って。
んで、ほら、ステージ落ちたらねー、畳み掛けなきゃだしさー。
痛かった?どこ?ここ?ほら、オイラが湿布貼ってあげるから。」
「はぁ…どうも、すんません…。」
逆に謝ってしまった吉澤。
「辻ぃ、加護ぉ、なかなかいい動きしてたじゃんかぁ。
どうよ?ヤグチ重くなかった?4*kgだからなぁ…
もうちょい痩せるわ。そうすりゃミニモXもやりやすくなるだろうし。」
- 288 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月02日(月)21時31分39秒
- 「どっちかっていうと…」
「こっちが痩せる番れすけど…」
恐縮な辻と加護。
「いやぁ〜、ごっつぁん相変わらずいいタイミングで音鳴らすねぇ。
やりやすいっていうかさ、気持ちいいよね。
いくら感謝しても足りないくらい。うーむ。職人。」
「ん、んぁ…どうしたの?」
悪夢を見ているような後藤。
肩を叩かれ、メチャクチャスマイルなもんだから
口角がヒクヒク言うほど怯えていた。
- 289 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月03日(火)23時10分14秒
- 「梨華ちゃ〜ん、いつも地黒って言ってゴメンねぇ。
よく見てみたらオイラのほうが黒かったよ。」
「逆にイヤミに聞こえますよっ!!」
やりすぎの矢口に口を尖らせて
激しく否定する。
初めこそは健気と呼べるものだったが、
もはや裏があることはバレているだろう。
メッキは脆くも剥がれ出しているのは、矢口以外の誰もが分かっているところである。
「マジでー?だってこれ、素だよ?」
「あたしにまで嘘つかないでくださいっ。」
「…そうか、そうだな。梨華ちゃんに嘘ついてもしょうがない…。
ごめんなさい。やっぱり梨華ちゃんのほうが遥かに黒いです。
黒すぎて夜は見分けはつかないし、昼でも陰に入れば居るのかどうか…」
- 290 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月03日(火)23時10分49秒
- ゴスッ。
「バカッ。」
「スンマセン。」
そして、夕方になって、冬でも温かい二人乗り。
石川のコートの袖の、ワサワサとした感触が腰に絡み付いて
互いの温もりを交換している気分。
「なんだろねー…」
「何がですかぁー!?」
ブワーッと前髪を立ち上げたまま、風を切って突き進む。
冬になって、目がショボショボするから、
とサングラスをかけて乗るようになった矢口だが、
目の前はそんなに色づいて見えるものではなかった。
狙ったようにエンジンブレーキのみで停止した公園の入り口。
「どうしたんですかっ?」
「ん?いやっ……しるこでも飲みながら、たまには公園で話すのもいいかなーって。」
「しるこですか…。」
- 291 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月04日(水)21時20分22秒
- 冷えた木のベンチがジーンズとスカート越しに伝わって、硬い。
落ち着かないのは二人とも同じで、
改まって隣に座るなんてことはほとんどなかった。
「梨華ちゃんさー、辻とか加護とか、誰でもいいけど…
誰かの誕生日って知ってる?」
「誕生日ですか……知らないです。」
「だよね。そんなもんだよ。」
シャカシャカとしるこの缶を振って、タブを起こす。
小さいサイズの缶はタブが硬くて、
力を入れた親指の爪が弾くと、縁に赤紫色の汁が溜まった。
「誰もオイラ達の誕生日知らないのにさ、
健気なフリしても無駄だったね。ちくしょう。」
- 292 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月04日(水)21時23分23秒
- 一気に飲み干すと、特有の粉っぽさが喉元に溜まって、
思わず咳き込んだ。
その後は恒例の、中に残った小豆の粒を吸い取る番だ。
「矢口さ〜ん…」
「ん?」
「プレゼント欲しいなら、素直にそう言ったほうがよかったんじゃないですかね…?」
「あー、そうかもね。もう今更どうでもいいけど。」
「練習してみたらどうですか?」
「何を?」
上着のポケットに両手を突っ込んで、
靴の先で地面をトントンと小突く矢口。
そして石川もまた、両手をポケットに突っ込んで、
こちらは足で砂を弄ってモジモジ。
- 293 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月04日(水)21時24分25秒
- 「プレゼント欲しい、って……言ってみたらどうですかっ…?」
いくら鈍感な矢口でも、とうとう分かった。
分かった瞬間に、仕草は石川と全く同じものになって、俯いた。
「別にいいよっ。…うしっ!帰るぞー!」
サッと立ち上がって、しげるに向かって歩いていく。
石川はいつも、矢口の背中ばかり見ていて
それが嬉しいときもあり、悲しいときもある。
もちろん矢口の照れ隠しだということは分かっている。
でも、いつまでも照れるような関係じゃ嫌なのだ。
- 294 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月05日(木)23時30分48秒
- コタツは、スイッチを入れてもすぐに言うことを聞かない怠け者だ。
「はぁ…どうしよっか?」
テレビをつけても、いつも通りのプログラムで放送され、
気がつかなければ普通の日だった。
「何か、晩御飯作りますねっ……。」
石川は、さっき脚を入れたばかりで
まだ温まってないコタツからさっさと抜け出してキッチンへ向かおうとした。
「あー…オイラが作るよ。」
「えっ?…矢口さんが、ですか?」
「うん。」
「…どうしたんですか?」
「別にー。」
小走りに石川の背中を追いかけ、
首の付け根を掴んでコリコリと解してみる。
しっとりした髪が優しく手の甲を撫で付ける。
- 295 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月05日(木)23時31分25秒
- 「まぁ、任せとけって。」
とは言ったものの、冷蔵庫には微妙に余った材料群が
少し元気なさそうに横たわっているだけ。
「大丈夫ですかーっ?」
リビングの方から、心配そうな石川の声が飛んでくるが、
これでは強がる余地もない。
「あのさー」
「はーい?」
「モーニング、食べちゃおっか?」
「ダメですよっ!!!」
- 296 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月06日(金)22時19分23秒
- 数十分後、
矢口はダシを取っていた。
どうやら冷蔵庫の余り物をぶち込んで鍋にするらしいが、
それにしても、と石川は首を傾げていた。
わざわざスーパーまで行って、余った鶏の骨を頼み込んでまでしてもらってきたのだ。
一日の平均生活スペース約4畳の矢口が、である。
「なんだろぉ…逆に気持ち悪いよぉ…」
コタツ+テレビという定番のくつろぎタイムを過ごしていても、
足元はそわそわと擦り合わせて落ち着かない。
「おしっ!出来たぞーっ!」
と言って持ってきたのが、鍋に入った鶏がらダシ。
透き通っていて、表面に張られた油の膜がキラキラと光っている。
- 297 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月06日(金)22時20分00秒
- 「凄いですね、矢口さんっ。毎日料理してくださいよぉっ。」
「何でよ。メンドイからヤだよ。
練習させてあげてるんだよ?毎日。
梨華ちゃんの料理が"あまりにも"だから。」
あとは、ぶつ切りにした野菜やら、
賞味期限が切れたベーコンやらを入れて煮込む。
鍋というよりは、ファミレスにある、おかわり自由のスープみたいなものが完成。
キャベツの芯も細かく刻んであるという仕事の細かさだ。
「あのさぁ。」
「はい…。」
どれもこれも、理由があった。
矢口は姿勢を正して咳払い。
- 298 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月06日(金)22時22分07秒
- 「えっと…。」
「はい…。」
そして伏目がちに石川の方を向いて、ようやく言った。
「プレゼント……くれ。」
思えば、初めて石川に向かって、
素直で少し恥ずかしい想いを伝えたような気がする。
「プレゼント、ですか……」
用意してあったのにもったいぶるのか、
それとも他に何か、渋る理由があるのか。
さっきから暖房が効いた部屋でコートを着たままという
不自然極まりない格好で座っていた石川は、
やっぱりまたポケットに手を突っ込んだ。
- 299 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月07日(土)19時15分35秒
- 「あのぉ……そんな、大した物じゃないですし、
何ていうか、あの、香水なんですけどっ…」
サッと矢口の懐に差し出して、半ば強引に受け取らせる。
ラッピングを剥がすと、淡いピンク色の瓶に入った
いかにも可愛らしい香水が。
「ありがと…。」
「分かりましたよっ、矢口さんが料理してる間に…。」
「えっ?」
「あたしがプレゼント用意しちゃって、
矢口さん何も用意してなかったから……」
「ああ…まぁ……。」
「なんか、そういうつもりじゃなかったけど…
でも嬉しかったですっ…。」
- 300 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月07日(土)19時16分42秒
- 溢れ出した笑顔を口元に湛えて、
目の前のスープに口をつける石川に、
矢口は切り出してみた。
出会ってからもう1年以上経つのに、
こんなことを言うのは少しどころか、かなりこっ恥ずかしい。
「んとね……好きなのはそうだけど…
それよりも、何か…一緒に居てくれてよかった、っていうか…。」
「ブッ!!ちょっ、どうしたんですかっ!?」
「まぁ、いいから…聞いてよ…。」
「は、はい…。」
いつもなら立場が逆で、矢口が茶化して石川が神妙な顔をするのだが、
今日の、いや今の矢口はそれなりに真剣な顔をしていた。
- 301 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月07日(土)19時27分55秒
- 「その……知らないかもしんないけど、
前はさ、こういう性格じゃなくて…もっと暗くて…」
噴き出したスープを拭き取りながら聞いていた石川だったが、
その話が予想以上に真面目な内容で、
台拭きを動かす手も申し訳なさそうに、さっさと引っ込めた。
「ホントは不安だったんだよね……
こっち出てきてもアテはないし、目的もないし…。」
「そうだったんですか……」
残念ながら、石川はこういう場面に気の利いたことを言える人ではなかった。
ただ頷いて相槌を打つ、でもそれだけで充分だったのかもしれない。
話を聞いてくれるだけで、矢口は救われたに違いないのだから。
「梨華ちゃんが居なかったら…たぶん引き篭もりになってて…
今でもそうだけどさっ。そんで、たぶん、誕生日も気づかなかったんじゃないかなって。」
- 302 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月08日(日)17時19分52秒
- 矢口が抱えていた小さな瓶を、優しく剥がし取る。
いつの間にか、後ろには石川が回ってきていて、
首に纏った柔肌が矢口の頬を温める。
グラスの蓋がコトリと音を立ててテーブルに横たわると、
石川は自分の手首に香水を振り掛け、そのまま矢口の横首に撫で付けた。
爽やかな涼しさと恥ずかしい温かさ。
「矢口さん、もしかしたらこういう匂い嫌いかもしれないですけど……」
「ううん…ありがと…。」
そのまま、いつもの朝のように
矢口の小さな肩に顔を埋めた。
「あたし…いつも矢口さんの後ろばっかり追いかけてるから…
だから、こうやって矢口さんの匂いを、いつも感じていたいんです…
やっぱりあたしも……矢口さんが一緒に居てくれるだけで嬉しい……。」
- 303 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月08日(日)17時20分31秒
- 正対した。ゆっくり目を開けた石川の顔が、
落ち着かせてくれて心強くて、愛らしくて。
「キス……いい?」
「ふふっ……矢口さんからしてくれるのって、すごい久しぶり…」
「なんかねぇ…こういうの、あんまり得意じゃないから…」
「今は大丈夫なんですかっ…?」
「そういうこと言うと……止めちゃうぞっ…?」
「いじわる…」
ピンポーン♪
インターホンが鳴った頃には
二人はもちろん床に寝そべってチョメチョメモードに入っていた。
- 304 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月08日(日)17時21分32秒
- 「出なくていいの?」
「だってっ…今くらいいいですよ…」
「じゃ、いっか。」
また別な香りのする首筋にキスをすると
少し切なそうな声が漏れる。
「カワイイ声だよ…梨華ちゃん…。」
「やだっ…そんなまと…んっ…。」
裸体に伝わる床の冷たさが心地がよい。
また、温かい身体を交えると快感が相乗効果になった。
- 305 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月09日(月)18時29分13秒
- 「あっ…んっ…んんっ…。」
「いつもよりすごい…梨華ちゃんのアソコ。」
「やだぁ…恥ずかしいよぉ…んはぁっ…。」
ピンポーン♪
眉間に皺を寄せ、玄関の扉を睨みつける二人。
久しぶりの"愛し合う"セックルだというのに、
そういうときに限って邪魔が入るのは、自然の摂理なのである。
オパイを揉んでいた手も、モゾモゾしていた手も、
突然の停止にやり場を失い、渋々フローリングに押し付けた。
ピンポーン♪
三度目。
仕方ない、と何時に無く不機嫌な顔をした石川が
脱いだばかりの服を適当に着て、玄関のドアを開けた。
- 306 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月09日(月)18時29分49秒
- 誕生日おめでとーーっ!!!!
クラッカーが弾ける音がそこら中に響き、
見覚えのあり過ぎるメンバーが、問答無用で上がりこんできた。
「あんた達ねぇ、やることないからって
バカみたいにヤリまくってたらオカシクなるわよっ!?」
矢口がまだ裸だったために保田には即バレ、
でももう開き直っていた。
「だってさー、仕方ねーじゃん。」
「そういうと思って、これっ!健太のチキンとケーキ買ってきたでっ!!」
「わざわざゲイバーの店長にお願いして"ドンピン"も持ってきたのよっ!!」
キタ━━━━━(〜゚◇゚〜)(゚▽゚)━━━━━!!!!
「まったく…のの達はそんなハクジョーモンじゃねーれすよ。」
遅れて入ってきた後藤と吉澤。
ギャリギャリと騒々しく持ち込んできたのは…
- 307 名前:第24話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月09日(月)18時30分58秒
- 「んぁー、重いー。これ、ビール半ダース。箱ごとあげるよ。」
「みんな……ありがとぉ……」
感極まる矢口と石川。
20年の人生で、これほどまでに仲間の存在がありがたく思えたことはなかった。
かくして、この夜は飲み明かし、食べ明かし、
寝不足で目の下にクマができ、前戯まででオアズケを食らった身体は疼き、
片付けは面倒でイライラし、タバコ臭くて窓全開で寒く、
そんな状態でハードなショーをこなさなければならない
という状況に陥ったのである。
「んでさ、よっすぃーはなんでその格好なの?」
「えっ!?そりゃぁ〜、矢口さんと梨華ちゃんの誕生日のために」
「ために?」
「店から借りてきたんスよ〜っ!!」
「サンタの衣装を?」
「ええっ。」
「クリスマスでもないのに?」
「……ハッ!!!」
終わり。
- 308 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年06月09日(月)18時32分07秒
- 以上で第24話終了です。
1週間休みをいただいた後、
返レスをして25話を開始したいと思います。
- 309 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月12日(木)00時24分07秒
- 面白いだけに、
そろそろラストスパートなのが・・・さびしい・・・
でも面白いですw
- 310 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年06月16日(月)19時37分45秒
- >>309
ありがとうございます。
あと6話、どうぞお楽しみください。
- 311 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月16日(月)19時38分39秒
- とても乾燥した寒空の下、石川はまた通帳と
にらめっこをしながら東三商店街を歩いていた。
もちろん、気になることといえば残高。
「節約しているのになぁ…なんで残るのこれだけなのっ…?」
普通に、石川は二人暮しをしたことが無く、
節約しても二人分のバイト代でどれくらい生活できるのか、
そういう感覚が分からなかった。
白いため息が何度も吐き出される。
不況下の日本経済という荒波に溺れるサラリーマンと同様に、
石川もまた俯いたまま歩いていた。
「どうしようかなぁ〜…、やっぱり風俗かなぁ…。
でもイヤッ。お嫁にも行ってないのにッ。梨華ダメよっ!!」
独り言の多い人というのは、すれ違う人の注目を浴びることになるわけで、
それでも当人は気がついてないようで…。
「はぁ…帰ろ…。」
しばらく止まっていた足は、自宅へと向かい歩き出す。
- 312 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月16日(月)19時39分53秒
- 「ぶっ…!!」
前を見てないものだから
何かが飛んできても避けきれず、顔面を覆われた。
「何よもうっ!!」
ソレを取り払って眺めると、どうやら小さな紙だった様子。
何かの絵と番号の書き込まれた小さな紙。
「宝くじ…?」
まじまじ見つめると、まだ引き換え期間中のものらしい。
「どうせハズレだから飛んでくるのよね…。」
そう思って捨てようとするが、ふと手が止まった。
(当たってるかどうかだけでも見てから捨てても遅くはないわよね♪)
その思いが彼女から捨てるという行為を止めさせたのだった。
「一応…持って行ってみるだけよ。持って行ってみるだけなんだから…。」
何に言い聞かせようとしているのかわからないが
そう呟きながら、宝くじ販売所へ向かった。
- 313 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月17日(火)18時07分30秒
- 『10万円ですね。おめでとうございます。』
「えっ…そ、そうなんですか。」
(ど、どうしよう…当たってた…。)
『銀行の方でお引き替えになってください。』
「は、はぁ…どうも…。」
銀行の、嫌味な落ち着きようをする空気も、
今日はなんだかリッチな気分を演出してくれる。
そして、清楚を装って実は乱れているであろう銀行員が
目の前で現金を数えている。
今の自分は喉から手が出るほどお金が欲しい状態である。
しかしながら、これを受け取ればネコババなわけである。
必死に脳内で黒い悪魔と黒い天使が戦い続けているが
結局のところ…
(ゲッツ!!)
黒い悪魔に負けて、今10人の諭吉を手にしていた。
「どーしよう…これがあれば、生活が助かるのよね…。」
- 314 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月17日(火)18時08分19秒
- ここで思い浮かぶは、矢口のこと。
10万円手に入れたと告げてみたらどうなるだろうと
仮想イメージが浮かぶ。
――――――
『ヤグチさ〜ん10万円当たっちゃったぁ〜。』
『マジでッ!?よこせよっ!!』
『だめっ!!ちょっと、だめだってばぁ!!』
『うるせぇ!!これでパチスロすんだよっ!!』
『そんなぁ〜…ぐすっ…。』
そしてスッカラカーンで帰ってくる矢口。
『負けちゃったよー梨華ちゃーん。』
――――――
「ダメね。ゼッタイ言えない…。黙ってよっと。」
まるでギャンブル狂のダメ亭主を抱えた妻のような妄想だが、
実は非常に現実的なものであった。
- 315 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月18日(水)18時22分36秒
- そして当然の如く、秘密裏のうちに生活費に当てることに決定した。
すでに頭の中には罪の意識が全くなくなっていた。
「さてっ♪久しぶりにお買い物っと♪」
サイフに諭吉を入れると、
意気揚揚とスーパーに向かった。
久しぶりに食料を買い込むことが出来て、
というよりも買い物という行為が出来て笑顔満面な石川だった。
大きなビニール袋をぶら下げて
疲れる帰路もニコニコしながら歩いた。
アパートにたどり着くと、モーニング(牛)の水と
餌を補給して、階段を上る。
施錠のカチャリと言う音も気分よく聞こえた。
「ただいまぁ〜〜っ♪」
いつも帰宅の際ただいまと言うのだが
返事してもらったことは無い。
それでもいつものようにそう言うと
石川は靴を脱いで部屋に入った。
- 316 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月18日(水)18時25分43秒
- やはり今日もゲームに興じていた矢口。
石川の存在に気がつくと目をちらりとやって
「おかえりー…げほっげほっ…うーダリイ〜な〜身体…。
ズズッ…。」
いつになく、咳き混じりで返事をした。
声も枯れ気味で、辛そうに。
「風邪ですかぁ〜?鼻すすらないで下さいよぉ〜。」
「だって…垂れて来るんだもんよぉ〜…ズズッ…。飲んでくれる?」
そう言うと、石川はティッシュを数枚取り
矢口の鼻に当てた。
言われなくとも分かる。
ティッシュで鼻をつままれたら、チーンと鼻をかむのだ。
(風邪引いたのかなぁ矢口さん。)
「矢口さん風邪っぽいですねぇ…。」
ゲームの邪魔にならないように視界に入らぬように
矢口の額に手を当てた。
「微熱があるっぽいですね…。」
さっき買ってきた買い物袋を覗き込んだら、
ちょうど、雑炊が出来そうな感じだった。
- 317 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月20日(金)18時50分18秒
- 「矢口さん、今日雑炊にしましょ。今の時期は気をつけたほうがいいですから♪」
「…うん…。」
「ものっ…ゲホッゲホッ…すっごい甘いんですけど…。」
石川特製雑炊は甘かった。
物凄い甘かった。
気遣いまでは優良点を与えられる石川だったが
いかんせん不得手なジャンル。
矢口も矢口で、やたらハリキる石川に任せてしまったのだが、
その考えまでもが甘かったようだ。
「ごめんなさぁ〜い…だってぇ〜だってぇ〜〜…。」
いつでも必死に言い訳する。
矢口は、幸か不幸か絡んでいられるような体調じゃなかったから、
さっさと休もう、と決めたのだった。
「あ〜、もういい…寝る。」
そう告げて、ノソノソと早めにベッドに入ると、
やはり3秒後には深い眠りについた。
「がんばったのになぁ〜…はぁ…。」
- 318 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月20日(金)18時51分38秒
- 少し様子を見ると、寝苦しそうな表情が浮かんでいた。
服を脱ぐ気力が無かったのか、寒気がしたのか
今日はジャージを着たまま寝息を立てている。
「矢口さん…ぐっすり寝たら大丈夫よね…。」
少し心配しながら、石川も早めに床に就いた。
翌日。
いつもと同じ時間に、いつものように目覚める石川。
「ん〜…きもちいいなぁ〜…。」
両手を高く突き上げて、大きな欠伸をかいた。
隣からの大きなイビキを聞きながら、
暖かいベットを抜け出して、いつものようにポストへ向かって新聞を取り出してくる。
「ブッシュもブッシュよねぇ…ってかブッシュって誰かしら?」
世間でどんなに大事だとしても
身の回りの出来事の方が今は大事である。
「矢口さん起こさなきゃ…。」
- 319 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月22日(日)16時08分49秒
- 完全に羽毛布団に包まった彼女を起こそうと試みる。
いつものように抵抗があるものだと踏んで
身を構えながら起こしにかかった。
「やーぐーちさん、朝ですよぉ〜。やーぐーちーさぁ〜ん。」
ユサユサと揺する。
石川の細腕が矢口の身体をデカい麺棒のようにゴロゴロと。
そうすると、いつもなら手が伸びてきて石川の首を絞めようとするのだが…
「あれっ…。」
反応が無かった。
そういえば先程まで聞こえていたイビキが聞こえない。
石川はそおっと羽毛布団を剥がしていった。
「矢口さんっ!?」
いつもの幸せそうな眠り顔はそこには無く
ただ苦しそうに、真っ赤な顔が横を向いていた。
「矢口さんっ!!大丈夫ですかッ!?矢口さんっ!!」
その大きな声に、薄目を開ける矢口。
少し肩を揺らして、体内の毒素を出すような呼吸をした。
- 320 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月22日(日)16時09分30秒
- 「あったま…いてぇ…ぼーっとする…。」
見るからに熱を帯びた矢口の額に手を当ててみると、
風呂くらいの温度は感じられる。
「矢口さん、昨日より熱いですよ…。」
「う〜…あったまイテェもん…。」
「ひとまず今日は矢口さんバイト休んだほうがいいですよっ。」
「…え〜…だいじょうぶだよ…。ヤグ…ゲホッゲホッ。」
「ダメじゃないですかッ。もういいですっ、保田さんに連絡しておきますねっ。」
有無を言わせず、石川は保田に電話をかけた。
『何よっ?』
「あのっ、矢口さんが風邪引いちゃったみたいで…
休ませたいと思うんですけど…ダメですか?」
『アンタは!?』
「えっ…私は…イ、イキます…。」
『あ、そう。よく安静にするようにいいなさいよっ!!』
「ありがとうございます。」
- 321 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月23日(月)18時34分35秒
- そうして電話を切った。
しかし、いつもながら朝の保田は機嫌が悪い。
さすがに、自分も心配なので休むとは言えなかった。
しかも、金銭苦であるから、二人揃って休むことが
出来ないことが石川の頭にはあった。
石川は薬箱から冷えピタを取り出して
真っ赤な顔をした矢口の額に張り付けた。
そして、枕もとに"10.5秒チャージ"の上田印ゼリィと
風邪薬、ペットボトル2本分の水、冷えピタの替えを置いた。
「矢口さんっ、石川、バイトに行ってきますね。安静にしていてね。」
そう言って、両手で赤いほっぺを押さえると、そこにキスをした。
すると薄目を開けた矢口がもぞもぞと布団の中から手を伸ばすと、
石川のスカートの裾を掴んだ。
「いっちゃらめぇ〜、寂しいよぉ〜…。」
いつに無く甘える矢口に気持ちが揺らぎそうになったが
ひと呼吸してから諭す。
「だーめっ、矢口さん。心配だしぃ〜…居てあげたいんだけどぉ〜
お金稼がないと生活できないでしょ?ねっ。」
- 322 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月23日(月)18時35分08秒
- そう言って、優しく矢口の手を解いた。
「…ゲホッ…早く…帰ってきてねぇ〜…。」
あまりに甘えた矢口に、
「カワイ〜♪」
と、もう一度キスをした。
「あんま……キスすんなって…伝染るよ……」
「ほっぺくらいいいじゃないですかっ♪」
「やだ……梨華ちゃんの…キショイのが伝染ったら困る…げほっ…」
口元に皺を寄せて苦笑する矢口が無性にかわいい。
弱さに惹かれるのは卑怯なのかもしれないが、
石川は踏ん切りをつけて背を向ける。
「じゃあ、行ってくるね、ムリしちゃだめですよっ。」
「……うん…。」
- 323 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月24日(火)17時09分47秒
- まるで母娘の会話のような会話を終え、
石川はしげるのキーとバッグを持って、
アパートを出た。
一人でまたがるシートは思っていた以上に大きく、
ハンドルを握ると胸がドキドキ。
石川梨華、実は原付免許試験に不合格になったことがあり、
諦めたおかげで無免許である。
だけど、いつも後ろから覗き見ている矢口の真似をするように、
ブレーキを握りながらアクセルを回してみる。
「キャァァァァァ!!!!!!」
回しすぎてしげるだけウィリーしながら先に進んでいってしまった。
最近は金の使いすぎを気にして、朝食を抜くことが多い石川だが、
まーるぞろでの立ち読みはもはや習慣。
最初は悪い気がしながらだったのが
今では何の抵抗もなく雑誌を捲っては時計を見、また雑誌を捲る。
それが朝の恒例だ。
でも、一人で立ち読みは何か寂しい。
いくら小さいとはいえ、視界の横隅に映る人影が安心感をもたらしてくれていた。
- 324 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月24日(火)17時15分28秒
- そこが、ただの蛍光灯の光で照らされているだけというのは、
立ち読みする石川を落ち着かせてはくれなかった。
落ち着かせてはくれな……
「んっ?」
こんな時間に、その場所で立ち読みする人は珍しい。
なぜなら石川のすぐ横はエロ本コーナーなのだから。
「あっ……」
「げっ……」
まーるぞろでは見かけたことが無い、
市井紗耶香その人は、まさにエロ本を手に取ろうとするところを石川に見られて、
慌ててその横の週刊誌に持ち替えた。
「な、なんだよっ…。」
「いえ…別に…。」
(市井さんってエロ本とか読むんだ……しかもエロマンガの方だった…。
矢口さんにチクったらデカシタって褒められるかもっ…うふっ♪)
「何でニヤニヤしてんのさっ!エロ本なんて読んでないわよっ!」
「そんなこと言ってないじゃないですかっ…」
- 325 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月25日(水)00時07分00秒
- 読んでないことは確かだが、読もうとしていたことも確かだった。
こうして、次回以降矢口に言われる悪口の筆頭が"ムッツリスケベ"になることが決定したのだ。
「チビはどうしたのよ?氏んだ?」
「氏んでませんっ!ただ…ちょっと風邪引いちゃっただけですからっ。
い、市井さんこそこんな所で何やってるんですかっ、珍しい…。」
通い詰めのコンビニを"こんな所"呼ばわり。
「何ってっ…別にっ。朝飯買ってバイトに逝くだけさっ。」
そう言って、平気な顔を装って去っていく。
それを石川は目線で追いながら、途中で目に入った時計を見て
慌てて店外に飛び出した。
「やばっ!!また遅刻しちゃ〜うっ!!」
ポケットというポケットを弄ってキーを探すが、
もうどこにあるのか思い出すことができないほどテンパっていた。
「おいっ!待ちなっ!」
- 326 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月25日(水)00時08分17秒
- セリフのようなその言葉に耳を傾け、
まーるぞろの入り口に目を向けると、
エロ本読書未遂のショートカットが叫んでいた。
「あっ、カバン……」
「あんたバッグ忘れてよく出発できるな…。」
「どうもすいませんっ……」
矢口大好き石川さんの中では
市井は嫌な奴というイメージが固定されていたのだが、
どうやらこのおかげでそれは少し和らいだようだ。
「あと、これっ!」
11を円で囲んだロゴの入った透明な袋が
ザッと目の前に差し出される。
「チビ猿でも一応客は客だから…。
働いて金稼いでうちの店で使えってこと。解ったっ!?」
リポビタソDが2本。
石川が袋を握った瞬間に
市井はさっさと歩いていってしまった。
「あっ、市井さーんっ!」
- 327 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月26日(木)00時37分46秒
- 歩いていっても、原チャリならすぐに追いつける。
だが市井は、石川が隣に来たのに気づいて
虫を嫌がるような顔で無視している。
「よかったら乗っていきませんか…?
歩いていくより楽だし、速いですよぉ。
あたしも何回か歩いていったことがあるんですけど、
もう、着いたころには足が棒になってて仕事どころじゃ…」
「あたしはいつも歩いて逝ってんのっ!
ほっといてくんないっ!?」
「いやぁ〜、でもスクーターがあったら
乗っていきたいんじゃないんですかぁ?」
「うっさい!!さっさと消えな!!」
どこまでもポジティブ、というか勘違いする石川。
よっぽどリポビタソDが好意的に思えたのだろう。
執拗に誘いかけている。
「ほらぁ〜、市井さんって実は素直じゃないだけでぇ、
ね、エロ本も恥ずかしくて読めないような……」
- 328 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月26日(木)00時38分35秒
- "エロ本"という単語が発せられた瞬間、
市井は舌打ちして立ち止まり、
いかにも嫌そうにしげるに乗った。
「はいはい解った解りましたっ!!
さっさと出発してくれるっ!?ムダ口叩いてる暇ないのよっ!!」
「は〜いっ!出発しんこ〜っ!!」
と高らかに宣言した瞬間にぶっコケた。
その後も数回コケて、その度に市井は怒鳴り、
石川は徐々に凹んでいったが、
何はともあれ歩いていくよりは早く着いたようだ。
『ありがとさん』とぶっきら棒な言葉を残して
市井は駅前で降りていってしまったが、
石川は、何か良いことをしたような気分に浸って満足気。
だが、やっぱり今日も遅刻だった。
「ごめんなさぁ〜い…また遅れちゃいました…。」
事務所の扉をいいわけ混じりに開いた。
「あ…れっ…?」
「おはよう。」
そこには一人、ブラインドの隙間から外を
眺めながらコーヒーを飲む保田が居た。
- 329 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月27日(金)02時17分27秒
- 「あれ…どうしたんですか…?誰もいないみたいですけど…。」
その質問に、ハァッ…とため息をついてから、石川の方を向いて答えた。
「みんなインフルエンザらしいわよ。」
「え゛っ…じゃあ…?」
「二人だけよ。今日。」
驚いた。
確かに今年のインフルエンザは異常に流行っていると
ニュースで聞いていたが…。
「えっと…今日は…?」
「やるわよ、もちろん。二人だけでもね。」
「ちぇっ。」
「何よっその、ちぇってのはっ。」
「い…いえ、なんでもないです…。」
元気な子供が学校に登校して、学級閉鎖にならずに喜び損ねたかのように
石川は残念がった。
しかしながら、たった二人だけでショーなど成り立つのだろうか…。
そう思った石川は素直に疑問をぶつけた。
「二人だけでどうやってやるんですか…。」
- 330 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月27日(金)03時42分17秒
- 「それなのよ。でね…そこで…」
(もしかしたら…矢口さんもインフルエンザなのかな…。
ちょっと心配になってきたなぁ…。
ムリしてゲームなんかやってなければいいんだけど…。)
「ちょっと!!聞いてんのアンタ!!」
「えっ…あ…ごめんなさい…聞いてませんでした…。」
「ムキー!!ムカツクわねぇっ!!もう次聞き逃したら
ニャンギラスの刑だからねっ!!」
「はい…。」
結果、どうやら落ち武者には紺野がバイトに来ているらしく
音響は紺野を借りて来てやってもらうことに。
そして、怪人が石川で進行のおねーさんが保田で、
保田は途中で変身のためステージ脇にハケて、着替え
セーラージュピター(ピンクのカーテンに未返却)になって
戦うという、今までに無く無理なショーを即席でやるハメに。
※似たようなことが一度あったことも無くは無い(10話参照)
急いで今までの台本を切り貼り、修正を行って即席台本を3つ作り
ステージまでの時間に必死に覚えた。
- 331 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月28日(土)00時46分51秒
- 台本を読みながら紺野が一言。
「保田さん。」
「なによ?紺野っ。」
「ここの『ジャンプして空中で走りながら蹴る』ってよくわからいんですけど…。」
つぎはぎ台本のボロが出たところを紺野は指摘した。
「っ…ここは、助走つけてジャンプキックってことよ。」
「あの、所々文法が変なんですけど…こことか、こことか、ここも変だし…。」
「うるさいわねっ、アンタは音響なんだから、そんなところ関係ないでしょうがッ。」
「でも、石川さんが困りますよ、あっ、ここも変ですね。」
ムカッ…。
「いいのよっ!!石川っ!!私の台本よく分かるわよねっ!!」
「…え゛っ…はい…。」
(全然わかんないなんて言えないよぉ〜…。)
「ほら見なさい、付き合いが長いと分かり合えるモンなのよっ!!」
川o・-・)ノ
- 332 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月28日(土)00時47分36秒
- まぁ、こんなゴタゴタした中、ショーは大丈夫なのかと
紺野は思ったが、そんな疑問も無駄になる。
即席で貼り付けられた『セーラージュピターショー』という看板に
哀愁がこもる中、セーラームーンのテーマソングが流れ出す。
珍しく、客が2ケタくらい居ることがステージ脇から確認できた。
そのセーラームーンの曲が終わると、いよいよ彼女が現れる。
「やっほぉ〜チャーミーケメぴょんでっす……ゴルァ!!」
10名ほどいた客がすべて何かに恐れるかのように逃げ出した。
「何でアタシはこうなのよぉ〜〜〜!!!!!」
虚しくその保田の声が街中に響き渡った。
- 333 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月29日(日)02時18分06秒
- 「なんなのよっ!!まったくっ!!」
昼食の時間、ラーメン落ち武者で、店主平家に向かって
保田は午前ショーの愚痴を吐いていた。
「まぁ〜しゃーないやん。」
「何がしゃーないのよっ!!ったくどーしてアタシがおねーさんだと客が
逃げていくわけッ!?」
「あー、まぁ…圭ちゃんキッツ…あ、紺野ちゃんお代わりするかぁ〜?」
「はい。」
「ちょっとっ!!何言いかけたのよっ!?」
「んっ?い、いやあ…やっぱミニモショー見に来たお客さんやのに
セーラームーンショーはキッツイなぁ〜と思ぉてな。」
「……それも一理あるわね…。」
「やろ?」
何とか誤魔化した平家であったが、危うく口が滑りそうになって
ひやひやしたのは間違いなかった。
焦った平家が額を拭っていると保田の視線を感じた。
- 334 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月29日(日)02時19分36秒
- 「みっちゃん!!」
「ウチはムリやでっ!!ほら、普通にお客さんおるし。」
「…そうよねぇ〜、困ったわね、だれか居ないかしら。」
保田の頭の中ではミニモレンジャーの代役を探していたが
矢口、辻、加護、吉澤、後藤そしてクレープ屋の安倍、飯田までもが
病気で欠勤という状態だ。
「ねぇっ、石川……はムリね。友達少ないもんね。」
「ひっど〜い、いますよぉ〜私にだってぇ〜!」
「じゃあミニモスタッフ以外の友達いるの?」
「えっ……。」
「ふぅ…ダメね。」
ため息をついて次なるターゲットに話し掛けた。
「紺野、アンタミニモショー手伝ってくれそうな友達居ないの?」
ズルズルッ。
ゴクッゴクッ。
「ちょっと!?紺野っ、聞いてるのッ!?」
「えっ…?…完璧です。」
- 335 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月30日(月)00時02分32秒
- 「何が完璧なのよっ!!聞いてたのっ!?」
「聞いてません。」
やはりこの人は食べるのに夢中で人の話など聞いてなかったようだ。
「だからぁ〜、ミニモショー手伝ってくれそうな友達3人くらい居ないの?」
「……。」
「ちょっとっ!?」
しばらくボケッと宙を見ていた紺野が指折りに数えて
「居ます。」
お…おそっ!!
そんな3人のツッコミを全く聞かず、紺野は携帯を取り出して
どこかに電話をかけた。
「完璧です。もうすぐ来ます。」
「本当に大丈夫かしら、何て言っても紺野の友達なのよね…。」
- 336 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年06月30日(月)00時03分23秒
- 「そうですねぇ…。」
「ホンマや。」
「?…完璧です。」
ハァ…。
なぜ3人揃ってため息をついているのか、全く分からない紺野だった。
そして、昼休みも終わりに近づいた頃
事務所に現れたのは3人の松工大附の制服を着た女の子達だった。
ひとまず、男を呼ばなかったことに安堵した。
やろうとしているのはミニモレンジャーなのである、
ヤローが3人来たらどうやっても一人は表舞台に上がるわけだ。
「よく来てくれたわね。石川っ!!お茶出して。」
「えっ…私がっ…?」
「当たり前でしょっ!!早く用意しなさいよ!!」
「はい…ぐすん…。」
- 337 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月01日(火)00時09分50秒
- 渋々といった感じで、石川はお茶の用意をする。
「紺野っ、紺野っ、ちょっと紹介してよ。」
「……はい。……えっと……同じ科学研究部で同い年の愛ちゃんと、まこっちゃんと
1コ下の里沙ちゃんです。」
「タカハシアイです。よろしくおねがいシマス。」
初対面となる高橋は保田に頭を下げた。
「どーも、フロアマネージャーの保田です。どこの出身なの…?」
「フクイデス。」
「あら、そう…。」
(カッペね…まわいいわ…。)
「で、あなたは?」
- 338 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月01日(火)00時10分38秒
- 「小川麻琴です。ガボチャ好きです。得意なモノマネは…」
(そんな事きいてないわよ…。)
「まぁ、よろしくね…。」
「新垣理沙です。顔が小さいのでマメっていわれてます。」
(…何か3段オチみたいな子ね…。)
「石川梨華でぇ〜す♪ここのアイドルなのぉ〜♪よろしくねぇ〜♪」
お茶を配りながら、挨拶をする石川。
とびっきりの満面スマイルだ。
「アンタの事はいいのよっ!!このでしゃばりっ!!」
「ええっ…だってぇ〜…初めてだからぁ〜挨拶しなきゃって…ぐすん…。」
「さっ、話は聞いていると思うけど、今日から数日
ショー手伝ってもらいたいのよ。給料は日払いで渡すからね♪」
「ジキュウ650エンですよね?」
- 339 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月02日(水)00時47分51秒
- いきなり高橋から話しても居ないはずの時給の話が出て驚く保田。
「どーして知ってるの?」
「加護先輩から聞きました。」
と、新垣。
「アハハ、あ、そう。よく知ってるのねぇ〜、加護とは知り合いなの?みんな。」
聞くところによれば、加護は学校では有名人で、なおかつ
同じ部活の幽霊部員だったらしく、たまに現れて何もせず
喋って帰っていくのだという。
「へぇ〜…どんな事聞いてるのかしら…?」
その3人の口から出たものと言えば、同じく校内で有名な天才の辻と一緒に
加護が語っていたといわれるマネージャー保田の悪口だった。
「ケメコって人はどうかとオモウとかぁ〜。」
「24でキツイって言ってました。」
「素行がババアだと。」
etc…
- 340 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月02日(水)00時48分46秒
- 喋ればキリがないといった感じだが、
笑いを堪えるのに精一杯の石川は陰で必死に口を抑えていた。
が…
ベキッ!!!
保田のメモを取っていたペンが突然折れた事で皆が黙った。
(覚えてらっしゃいよ…辻加護…。)
ひそかに辻加護が戻ってきた際に保田家奥義を
お見舞いしてやろうと心に決めた。
完全に顔は引き攣っていたが…。
「ひ、ひとまず、コレ、覚えて頂戴ね。この中の役をやってもらうけど
ショー中に多少のアドリブやオリジナル入れてもいいからね。
流れだけは覚えといてっ。」
完全に引き攣った顔をした保田は、3人に今日本来行われるはずの
台本を渡した。
「ふぅ…アタシはもう血管切れそうだから、音響やるわよ。
紺野は、やぐーちゃん役ね、んで高橋さん、アナタおねーさん役ね、
で、小川さん、あなたはノノターン役、石川っ、アンタ怪人役。で…
…………えっと…。」
「新垣です。」
「そ、そう、新垣さんね、あなたはアイボーン役ね。早速で悪いけど
後1時間で覚えてちょうだい。石川、衣装用意してあげて。」
- 341 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月02日(水)00時50分36秒
- 「はぁ〜い。じゃあ、みんな案内するね♪」
少しお姉さん気分で、石川は3人を控え室に案内していった。
「どーかしらね…出来なくても、まぁ仕方ないわね…。」
「完璧です。」
「アンタも着替えに行きなさいよっ!!」
紺野の控え室に向かう姿を見て、より一層深いため息を吐いた。
- 342 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月03日(木)22時38分55秒
- そして、開始は1時間30分押してのことだった。
「はぁ〜い、高橋ラブリーです。今日はミニモレンジャショーを
ミニ来てくれてアリガトー。」
台本通りにステージに最初に現れた高橋。
そして、客に向かって言葉を投げかける。
すると、今までに無くちらほらと返事が返ってくるではないか。
それに嫉妬を覚えたのは保田ではなく、石川だった。
(なによぉ〜…いつもは無反応のくせにぃ〜…。)
その観客との言葉のやり取りを終えると怪人ビガヂュウ(石川)が現れ
スピーカーから流れる鳴き声にあわせてアクションを取った。
「キャア〜…助ケてぇ〜ミニモレンジャァ〜。」
訛りまくり高橋であったが、着実に進行どおりにショーを進めた。
その声にあわせて登場するミニモレンジャー(即席)。
- 343 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月03日(木)22時39分42秒
- 「完璧ですっ!!」
「ホトァロゥ〜…。」
「まゆ毛ボーン!!」
そう叫びながらステージに現れる紺野、小川、新垣。
そして、自己紹介がてらに自分の名前を叫ぶ三人。
「………えっと…完璧です!!紺野です!!」
「ル〜ルルルルル〜ホタルゥ〜、まこっちゃんだぁ〜。」
「まゆ毛ビーム!おでこボーン!!お豆ちゃんだぁ〜!!」
どうやら登場人物の名前まで変えたらしい。
そして決め台詞へ…
「「「三人そろってぇ〜…」」」
「150cmミニモレンジャー!!カッカッ。」
「戦隊ミニモレンジャー!!カッカッ。」
「150以下ミニモレンジャー!!カッ…カッ。」
思わず頭を抑える保田。
ヤッパリ…と後悔が表情に浮かんだ。
- 344 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月03日(木)22時40分25秒
- その決め台詞がズレまくり、間違えまくりの3人は
ショー中にもかかわらず、笑いあっている。
「違うよー、あさ美ちゃん。戦隊ミニモレンジャーだって。」
「えっ…150cmミニモレンジャーだよー。」
「150以下ミニモレンジャーですよ、先輩。」
(どれも違うよぉ〜…しっかりしてよぉ〜。)
小さな視界から見える惨劇に肩を落とす石川。
「アレ?150cmイカセンタイミニモレンジャーじゃないかい?」
一番良く覚えていたのは、高橋だった。
発音がおかしいから、似たようなものだが。
しかしながら、ハシが転がるだけでおかしい年頃の3人は
笑いが止まらず、何に笑っているのかも分からず
ひたすら笑いあってショーが進まなかった。
- 345 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月04日(金)16時00分26秒
- その頃、保田の限界のカラータイマーがピコンピコンしていた
そしてついに、保田のカラータイマーから赤い光が消えた。
保田はため息をついて、アナウンス用マイクをONにした。
それと同時に、ステージの幕を下ろすボタンを押した。
『ただいまをもちまして本日のミニモレンジャーショーを終了します
ありがとうございました。』
「アララ、シマッチャッタよこれ。」
「……そうみたい。」
こうして今日のミニモレンジャーショーは幕を下ろした。
保田は怒り狂っているだろうと思いながら、着ぐるみを脱いで
控え室に戻る石川。
ハァ…とため息をついて控え室に入ると
保田が紺野、新垣、小川、高橋に何かを言っている。
(あ〜ヤッパリお説教かぁ〜…。)
でも、保田の表情を見てみると、怒り狂ってはいなかった。
そこで、石川は聞き耳を立ててみることにした。
「今日はしょうがなし、手伝ってもらってるんだからあまり強い事を言うのも
アレなんだけど、お金もらう以上はしっかりやろうって気持ちをもってやってね。」
- 346 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月04日(金)16時01分02秒
- 『はい…。』
「じゃあ、今日はお疲れ様。今日の日給ね。明日の分の台本がコレ。
明日もよろしくね。」
『ありがとうございました。』
そう言って、4人は去っていった。
そして、その空間に居るのは保田と石川だけとなった。
「保田さん、オトナですねぇ〜。」
保田はため息を吐いて、コーヒーを2杯用意して
片方を石川に渡した。
「ホント今日疲れちゃって、何も言う気力ないのよ。」
「そうなんですか…。」
「早く元気になって戻ってきてくれないかしらね、アイツら…
あんな奴らでも、楽しいしもっと本音で説教できるのに…。」
- 347 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月05日(土)22時27分55秒
- 「そうですね…家帰ったら矢口さんを一生懸命介抱します。」
「ん。矢口に早く良くなりなさいよって伝えてちょうだい。
あんたも伝染らないようにねっ。」
「はい。じゃ、私も帰ります。」
「ご苦労さん。」
「お疲れ様でした。」
そう言って、コーヒーをゴクッと飲み干すと、荷をまとめ帰宅の途につく。
「保田さんも寂しがり屋なんだなぁ…。」
病床に伏せている矢口の元に向かうべく
自らが跨るしげるのスピードをあげた。
「ただいまぁ〜…。」
もしかしたら寝ているかもしれないと思った石川は
そおっと自宅のドアを開いた。
そこまでしなくともいいのにそろりそろりと忍び足で部屋に入る。
そこに待っていた光景に、石川は言葉を失った。
- 348 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月05日(土)22時28分44秒
- 部屋中、物が散乱し、ティッシュがあちらこちらに散らばっている。
下半身を露出し倒れている矢口。
「やぐっ…。」
ここで現状証拠から物凄いインスピレーションで
石川の脳裏に仮想イメージが出来上がっていた。
――――――
静かに矢口が寝ていた部屋に招かざる客が現れ、
その客はサムターン回しでドアを開け、
忍び足で部屋の中へ侵入すると
熱い吐息を吐き、苦しむ矢口が一人。
「きゃあああ!!!」
その客に気づいた矢口は病気に侵された身体で
必死の抵抗をし、所々の物を投げつけるが
その招かざる客の強引な力で押さえ込まれてしまう。
「いやああっ!!いやあああああああっっ!!!!!!!!」
そして、姦された。
――――――
「イヤッ!!そ…んな…矢口さんっ!!ねぇっ!!矢口さんっ!!」
最悪なイメージを抱えながら抱き起こし、何度も声をかけた。
相当体が熱くなっている、呼びかける声にようやく気づいた矢口は
薄目を開けて言葉を発した。
「あ…梨華ちゃん…ごめんね…矢口…がんばったんだけどさ…。」
- 349 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月06日(日)23時09分57秒
- 「喋っちゃダメダよっ、わかってるから…わかってるから…梨華が居るから…。」
「…な、何が…?」
「痛かったでしょ…つらかったでしょ…ゴメンネ…ゴメンネ…矢口さん…。」
「何言ってんの…矢口…解熱の…座薬入れようとしたんだけどさ…
薬箱…どこかわかんなくて…散らかしちゃったよ…、それに…身体硬くて
座薬入れらんなくて…そのまま寝ちゃったみたいでさ…。ハハっ…。」
「ぐすっ…グスッ…へ…?」
「だから、座薬ちょっと…入れてよ…。」
どうやらまたしても石川の早とちりだったようである。
それにしても、こんな矢口を数日も放って仕事に
出かけるわけには行かないと思った石川は
「矢口さん、病院に行きましょッ。一回診てもらったほうがいいですよっ。」
と、提案した。
しかし、去年から今年にかけて2回入院している矢口は
病院が氏ぬほど嫌いになっていた。
そんな矢口は、力のあらん限りに首を横に振った。
「注射…やだっ…怖い…。」
「まったくっ、こんなすごい熱でわがまま言わないのっ!!」
- 350 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月06日(日)23時11分12秒
- しかし、どうすればいいのか良いのだろう。
原チャリに今の矢口を前にも後ろにも乗せるのは危険だ。
かといって、歩きで行ける距離ではない。
仕方が無く、石川は電話帳を開いてタクシー会社を探す事にした。
電話帳で最寄のタクシー会社を見つけると、自宅の電話の受話器をとった。
電話をかけようと番号を押していたとき、突然矢口が電話を切った。
「矢口さんっ!!」
「…行くなら…安いほうが良いよ…矢口…少しなら大丈夫だから…。」
頑として意志を曲げない矢口が妥協をし、
歩いて近くの病院なら行っても構わないと言い出したのだ。
これを逃すわけには行かない。
そう思った石川は矢口に厚着をさせて外に出た。
寒い風が身に染みて、矢口は辛いだろうとマフラーをより多く巻いた。
「ほらっ…。」
階段を下りたところで石川は矢口の前にしゃがみこんだ。
「いいよ…矢口…大丈夫だから…。」
「大丈夫じゃないから!!大丈夫じゃないから…いいから乗ってよ…。」
「…ごめんね…。」
矢口を背負うと、石川は大地を踏みしめるかのように
一歩一歩病院に向かっていった。
- 351 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月07日(月)23時17分31秒
- 「ごめんね…梨華ちゃん…。」
「何言ってんのッ…病人だからしょうがないでしょッ…
聞き分けの悪い病人さんなんだからッ。」
「ごめん…梨華ちゃん…愛してる…。」
「バカッ…。」
「へへっ…。」
(私も大好きなんだから…愛してるんだから…。)
歩いて20分。
小さな町医者はそこにあった。
その頃には矢口の息もハフハフ言って、とても苦しそうだった。
『インフルエンザですね、入院していってください。』
「入院…やだぁ…点滴やだぁ…。」
「わがまま言わないのっ。」
「…金…どうすんだよ…矢口保険証…期限切れちゃったよ…。」
「気にしないのッ!!病人は休むのが一番なんだからっ!!」
- 352 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月07日(月)23時18分10秒
- 結局その病院唯一の入院用ベッドを一つ占領した矢口は
4日間そこに居る事になった。
石川はトイズEEに昼間は行き、なれない相手とショーを行った。
紺野、高橋、小川、新垣はこの4日間で要領がよくステージをこなせるようになった。
夜には矢口の元へ向かい、日に日に回復していく矢口の様子が嬉しかった。
そして、面会時間を終えた後、石川は部屋へと戻って床に着く日々だった。
あわただしい日々がやっと終わる退院日。
石川が病院に矢口を迎えに行くと、
すでに帰宅の準備をした矢口が入り口で待っていた。
「おまたせー♪」
「待ってたよー梨華ちゃぁ〜ん。早くかえろーよー。」
「ちょっと待ってて、治療費払ってくるからぁ〜♪」
「うい。待ってるよ。早く戻っておいでよ、じゃないと置いてっちゃうからね。」
「はいはい♪」
元気な矢口に嬉しい石川は笑顔満面で
受付と向かった。
- 353 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月07日(月)23時19分47秒
- 「すいませーん。矢口真里の入院費いくらですかッ?」
するとすでに計算されていたのか、受付の看護婦らしき人は
値段を告げた。
『8万200円です…。』
「うそおおおおおおおおおおおおおお…………じゅ…10万円が…ふぅっ…。」
ドサッ。
何か叫び声が聞こえた矢口は病院の中に入ると
石川がプルプル震えながら倒れていた。
「梨華ちゃんッ!?大丈夫かよっ、オイッ!!」
抱き起こすと、意味不明に言葉を繰り返していた。
「じゅ…10万円が…10万円が…。」
「ハァ…?何の事…?…熱ッ。ちょっとやべーよっ、看護婦さぁ〜ん、看護婦さぁ〜ん!!」
結局今度は石川がインフルエンザで入院する事になりますた。(保険証あり)
そして、同じく保田もこの頃、自宅でうめいていたという。
- 354 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年07月07日(月)23時24分39秒
- 以上で25話終了です。
次回から更新スタイルを週1回10レス程度感覚で
やっていきたいと思います。
1週間程度、休みをいただいた後返レスして
更新したいと思います。
- 355 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月08日(火)05時17分10秒
- 黒い悪魔と黒い天使でまずワロタw
5期メンもこれからからんでより面白くなりそうなヨカーソです。
・・・もしや32話から5期主演で始まるのか?なんて淡い期待もw
残り5話!最後までついて逝かせていただきます!
- 356 名前:捨てペンギン 投稿日:2003年07月09日(水)19時08分01秒
- ずっとROMしてました。
最終回がこない事を祈ってます(無理か)
もし最終回になってしまったら、二人を幸せにしてください
- 357 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年07月14日(月)20時40分44秒
- >>355
ありがとうございます。
あと5話ですね、どうぞお楽しみください。
>>356
ありがとうございます。
最終回まであと5話ですが、二人の関係がどうなっていくか
お楽しみください。
- 358 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時41分30秒
- 意外と、安倍と飯田のエピソードというのは
ミニモレンジャースタッフは知らなかった。
なぜ二人はいつも一緒なのか。
見た目は凸凹、縦にも横にも。
「ほんでぇ、何や、圭ちゃんはこないな辺鄙なところに就職したんかいな。」
おたまを肩たたき代わりに叩きながら渋い顔した平家が
くわえていたタバコを灰皿に押しつぶして言った。
「そーゆーことよっ。まったく、もっと景気が良かった頃に生まれたかったわよ。」
嘆きのような台詞を吐いて、同時にタバコの煙も吐く保田。
いろいろここに居る理由をそれぞれ語ってきていたようだ。
「そー言えばカオリとナッチは何でここら辺に越してきたわけ?」
「ん〜、東京ってどこも都会だと思ってたからー、二人で暮らせて安くて
駅前にしたのー。そしたらここだったってわけー、ねー、なっち。」
「全然田舎だったっしょー、なっち来てがっくりしたべさー。」
「…でも、何で安倍さんたちは二人暮し始める事になったんですか…?」
- 359 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時42分11秒
- そんな彼女達の秘話を、ラーメン落ち武者にて
スタッフたちは何気ない話の展開から、聞くことになった。
それはまず、彼女達の中学時代にさかのぼる。
◇ ◇ ◇
『ファイトーファイトーファイトーファイトー』
女子中学生達のランニングの声が校庭から、校舎に聞こえるような放課後。
そんな一生懸命汗を流す女の子達と、綺麗な夕日を疎ましくベランダで眺めていた
飯田圭織(当時14歳)。
今彼女が、眺めている場所は校舎の4階のベランダで、学校全体が見渡せる場所だった。
飯田はといえば、もちろん部活中なのであるが、その学校では半端部として
名高い音楽部(吹奏・合唱・帰宅)で、それでも一応、飯田は顔を出しているのだ。
「もうすぐ夏だなぁ…。帰ろうかなぁ…。」
振り向いて教室の中を見ると、キャアキャア騒いで音楽部など名前だけだと
思わせるような女の子達が居る。
目線はそいつらを避けながら教室中央の時計に向けた。
「5時かぁ。帰ろ。」
カラカラ窓を開けて、部屋に入るとうっとうしい雑音が余計耳に入る。
それを無視して、カバンを取ると、無言で音楽室を去った。
- 360 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時42分52秒
- 「ふぅ…。もうすぐ引退だなぁ。」
何も思い出なんて、音楽部には無い。
音楽部にはただ時間をつぶしていた、それだけしかなかった。
本当は音楽が好きなのに、周りの流れに嫌気がさして
おのずと音楽と疎遠になった。
階段を下りて玄関口に向かうと静かな世界がやってくる。
帰宅者や部活動に励んでいる学生がほとんど出払った
この校舎の中に飯田の足音が響いていた。
上に3−1などと吊るされた下駄箱の1段目の
靴を取り出すと、その代わりに上履きを入れる。
靴をはいて、つま先をトントンと突いて、感覚を確かめてから
蒸し暑い夏の外へと出て行った。
カバンを後ろ手に持ちながらカツカツと靴を鳴らして歩く。
自分の目線は空や景色、地面と変えて歩いた。
(どうして夕日は赤いんだろう…)
(鳩は何故群れをなしているの…)
(この石はどこからやってきたんだろう…)
見る物すべてに、いつも疑問系な彼女の
自分の中での答えを求めない哲学は絶えなかった。
- 361 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時43分44秒
- そんな彼女の耳に不快な声が聞こえてくる。
その声は人を傷つける言葉。
飯田の嫌いな言葉。
聞きたくなくても聞こえてくる言葉。
そして、弱弱しい声。
捨てられた子犬のように寂しそうで悲しそうな弱々しい言葉。
逃げどころも無く発せられる言葉。
『いつまでそのツラ見せんだよ!!うぜーんだよ!!』
『てめぇ、学校くんなよウゼーからっ!!』
『マジ、ムカツクんだよっ!!』
「でも…なっち…。」
『なにが「なっち」何だよてめぇ、気持ちわりーんだよ!!』
『マジ気持ちワリー、自分のことナッチだってよ、バカか。』
「あっ…やめてよっ〜。」
『うぜー、コイツのカバンきったねぇキーホルダー付いてんぞ。』
『あはははは、何だよ、このボロいの。』
『すてちゃえすてちゃえ。』
「やだっ、やめてぇ〜…お願いだから…やめてよ…。」
飯田にはっきり聞こえたのはそこまで。
学校にいじめはつき物なんだと
チラッと見て、無関心顔でそのまま去った。
- 362 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時44分41秒
- 青々とした畑の横を通り過ぎながら
いじめられていた子を思い出していた。
「確か…隣のクラスの子だったな…あの子。」
一生懸命に自分のキーホルダーを取り返そうとする
彼女の姿が浮かんでくる。
「弱いからいじめられるんだよ。」
そう結論付けて、飯田は帰宅の足を進めて行った。
翌日、飯田は登校途中で彼女を見つけた。
それは登校途中で歩く姿ではなく
とうもろこし畑の中で制服を泥まみれにしながら
何かを探す姿だった。
「太郎ぉ〜、太郎ぉ〜…どこぉ…太郎ぉ…。」
犬でも居なくなったのかと思っていたが
とうもろこしの茎をどけながら、
地面ばかりを見ている安倍を見ていた。
どう見ても犬や猫を探す様子ではない事がわかった。
その時、飯田の目先のとうもろこし畑に何か光る物が映った。
なぜかそれが気になって、飯田はそれを拾い上げる。
それを見ると、木彫りの熊のキーホルダーだった。
拾い上げるとともに、光を反射していた鈴がリンと鳴った。
- 363 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時45分20秒
- よくよく見てみると、熊の足の裏には「たろう」と書かれていた。
(これを探してたのかな…。)
そう思い、そのキーホルダーを手に
彼女に話し掛けた。
「あのぉ〜。」
「はっ、はいっ!!」
いきなり呼ばれてビックリした様子の彼女は驚いた顔で振り向いた。
セミロングが良く似合っていた。
ただ、鼻につけた泥が整いきってない可愛らしさの顔にアンバランスを加えていた。
「これ、あなたの?」
「…ああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!太郎ぉ〜〜〜〜〜〜よかったぁ…。」
そのキーホルダーを渡すと、
大事そうに両手で握り締めると
力が抜けたかのようにひざから崩れた。
「だいじょうぶ?」
- 364 名前:第25話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時45分54秒
- そう訊ねるが、反応が無かった。
静かに泣いていた。
飯田はその彼女が気になったが
時刻を確かめれば遅刻しそうな時間だと気づき
「じゃあね。」
とだけ言ってそのまま学校に向かった。
(なんだろう…この気持ち…。)
その後日、その彼女が隣のクラスの子で「安倍」という名前だという事がわかった。
ただ、付加情報として「いじめられっ子」であるということも…。
◇ ◇ ◇
「ほぉ〜、それから仲良くなったんれすかー。」
「それがねー、そのあとにねー、ハンカチをお礼にもらっただけだったんだー。」
「あの時は良く知らない人だったし、お礼しておけば良いかなって
おもってたべさ。それに、いじめられっ子で対人恐怖症って言うのかな…あの頃。」
「へぇ〜、キレると止まらないなっちが対人恐怖症ねぇ〜。」
「なっちだってそう言うこともあるべさー!!繊細で純粋っ。うん。」
ありえなぁ〜い。
- 365 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時47分34秒
- 「いいべさ、いいべさ。それでいいっしょーーーーー!!」
「で、仲良くなったのはいつなのよ?」
「あー、それは高校だよねーなっち。」
「うんうん。」
◇ ◇ ◇
飯田と安倍の進学した高校は同じ高校だった。
特に進学校で有名だとか、不良の溜まり場の高校だとか
そう言うことが無く、中の中のような高校だった。
安倍飯田双方とも、お互いが同じ高校に進学していたのは気づいていたが
別クラスになったという事で、特に接点は無かった。
安倍は少し変った。
中学の頃はいじめられっ子という事と、部活動でテニスを一生懸命やっていた。
それだけのイメージしかなかった。
しかし、高校に入ってから髪を短くして、程よくカラーリングした外見だけでなく
新しく出来た友達と楽しそうに話している明るい女の子になっていた。
いわゆる高校デビューというヤツなんだろう。
飯田はそう思っていた。
ある日曜日の事、飯田はショッピングに札幌市街へ繰り出していた。
「いいものはあるんだけどなぁ…。」
- 366 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月14日(月)20時48分20秒
- サイズがなかった。
モデルのようなスタイルの彼女に見合うデザインはあるものの
肝心のサイズが無い事が良くあった。
そして、今日も。
そんな時、飯田は大きな声を聞いた。
『まて〜〜!!ドロボ〜〜!!』
そんな声を聞いた飯田はその声に振り向いた。
そこには高校生くらいの女の子を中年のオヤジが叫びながら追いかけて
こちらに向かってきていた。
その女の子をよく見ると、その女の子が安倍である事に気づいた。
安倍も飯田が目の前にいると認識すると、
飯田の前でいったん止まった。
「逃げるっしょ。」
そう言って安倍は飯田の手をつかんだ。
気づけば、飯田は安倍と一緒に逃げていた。
逃げる理由のない逃走に可笑しくなって途中から笑みが漏れていた。
どこかの店主らしい人物を撒いたころ、飯田たちは公園に来ていた。
息も絶え絶えで、それでも目を合わせると何故だか笑っていた。
「飯田さんだべ?」
「うん。安倍さんだよね。」
「なっちでいいべさ。」
「わかった、私もカオリって呼んでね。」
「うん。」
これが1年ぶりに交わす会話だった。
- 367 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年07月14日(月)20時51分23秒
- 26話開始いたしました。
(25話という表示はご勘弁を…汗)
今週はここまでとさせていただきます。
次週に返レス後、続きを更新したいと思います。
- 368 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月17日(木)10時35分17秒
- 意外と今まであまりふれられていなかった二人だけにw
26話期待大です!
- 369 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年07月21日(月)20時40分23秒
- >>368
そうですね、語られなかった二人の秘話を
どうぞお楽しみください。
- 370 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時48分48秒
- それから二人はいろいろなことを話した。
安倍は趣味は万引きと深夜徘徊。
理由も無く万引きしていると。
そして今日の成果は柄杓と鼻毛切り、ジュース2本。
そのジュースを飲みながら、歩く帰路で話はまた広がっていった。
いろいろ話すとお互いわかってくる。
飯田は安倍の笑顔を間近でみて「笑えるんだ。」と思った。
安倍も飯田の笑顔を間近でみて「笑えるんだ」と思った。
楽しい会話を終わらすかのように、二人の足は飯田の家の前に辿り着いていた。
別れ際に、飯田は安倍に尋ねた。
「ねぇ、なっち。何であの時手を引っ張ってカオリと逃げようとしたの?」
「えっ…一緒に逃げたら守ってくれそうな感じがしたんだ。」
「…なにそれ、アハハハ…。」
「なんだろうね、ふふふふふ。」
「じゃあ、またね。」
「うん。じゃあ。」
その一時一時が、その一言一言が青春を彩るモノ。
一時の別れを惜しむかのように何度も手を振ってその日はわかれた。
- 371 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時49分48秒
- その日の事を、その深夜、日記に記していた。
ここ最近で一番インパクトも味も濃い出来事に
日記の上をスラスラとペンが走り、踊った。
カン…。
カン…カン…カンカン。
その音に気づいたのは日記が書き終わったあとだった。
窓のガラスに何かがあたる音。
「……???」
自室のある2階窓から外をのぞくと、安倍が道路に立って手を振っていた。
「どーしたのー?」
「あそびにいこー。」
「うん。」
いつもは深夜外出などしない、けれどなぜか安倍だと外へ出てしまった。
なぜか衝動は止まらなかった。
深夜のランデブー。
聖子マートに入った。
特に何をするというわけではない。
深夜便で到着する雑誌を立ち読みして何気ない雑談を交わす。
- 372 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時50分33秒
- 「ねぇ、プレステってHのことなの?」
「えっ…どこに書いてあるべさ?」
「ここっしょ、ここ。」
「うーん…そうなんじゃないの…?」
「ふ〜〜ん。」
「そ、それより、アイスでも食べようよ。夏だし暑いっしょ?」
「だねー。買おう買おう。」
聖子マートでアイスを買って、店の前で食べて、喋る。
「ギャリギャリ君の新味はおいしい?」
「うーん。ギャリギャリしてる。」
「だからギャリギャリ君なんだよ、カオリ。」
「え、そうなの?」
「うん。そう。」
「アハハ〜カオリ知らなかったっしょー。」
「ねぇ、カオリ。ちょっとスリリングなことしてみない?」
「いいねぇ〜。やろうやろう。」
- 373 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時51分32秒
- 何をやるのかといえば、ヒッチハイクだった。
「これ、ヒッチハイクだよね?」
「そうっしょ?見てわからない?」
安倍はTシャツを脱いでブラジャー姿でヒッチハイクをしていた。
「その姿の意味は?」
「えっ…エロドライバーをとっつかまえるべさ。」
「ふ〜ん。」
「で、止まったら逃げる。面白いっしょ?」
「う〜ん…。」
「やってみたらわかるべさっ。ほら、カオリもっ。」
「うん。」
そして、飯田も服を脱ぎ始めた。
「カオリっ。パンツまで見せる必要ないっしょ!!」
「えっ…、そっちのほうが面白くない?」
「…おもしろいかも。」
こうして、安倍と飯田は上下下着状態でヒッチハイクをはじめた。
通る車通る車、ドライバー達は驚いた顔をしていた。
- 374 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時52分17秒
- 「あははははは、見たべ?さっきの運転手の顔っ。」
「見た見た。ハァッ?って顔してたっしょー。」
「たのしぃ〜。」
脳内モルヒネでアヒャヒャヒャ状態の彼女たちの前に
とうとう止まった車があった。
黒と白というツートンカラーに赤いランプ。
そして、北海道警と言う印字に、制服を着た運転手。
「に、にげるっしょーーー!!!!」
慌てて、無我夢中で逃げた。
一般車両のエロドライバーが止まったら逃げる(通称ヒッチハイクダッシュ)なんて
生易しいものでなく、大物を引っ掛けてしまった。
やっと撒いたとき、息を切らしながら飯田は安倍に尋ねた。
「な、なっち…こ、これが…スリリングなの…?」
「い、いや…つ、通報でもされたんだべか…。」
「でも…、楽しかったよ、カオリ。」
「だ、だねぇ。なっちも久しぶりにハラハラした。」
「お昼ぶりっしょ?」
- 375 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時53分18秒
- 「かもね。アハハハハ。」
「ふふふふふ。」
「あー疲れた。おなか減ってない?」
「空いたぁ〜。」
その言葉を聞くと、安倍はニヤニヤして、どこに隠していたのか
おにぎりを5つ、ジュースを2本ほど取り出した。
「どうしたの?パチって来たの?」
「うん。朝飯前っしょ。」
「…確かに朝飯前…か。いただきまーす。」
「どうぞー。それ、聖子マート一押しのおにぎりだべさ。」
楽しそうに、天使のような笑顔を見せる安倍を見て
中学当時の彼女を思い出していた。
「なっちさぁ。」
「なに?」
「変わったよね。中学のときと。」
「…うん。なっちね。知ってるっしょ?いじめられてたの。」
「うん。」
「でね、パシリやらさてたり、万引きもやらされたりいろいろやられてたんだ。」
「うん。」
「でもね、がんばろうと思ったの。」
- 376 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時53分56秒
- 「なんで?」
「カオリがね、太郎を拾ってくれたの覚えてる?」
「太郎?」
「ほら、この熊の木彫りキーホルダー。」
「ああ、うん。」
「このキーホルダーなっちの宝物なんだ。」
「そうなんだ。」
「なっちがねすっごい、ちっちゃな時に幼稚園で仲のよかった女の子にもらったの。
その子、卒園のときに引っ越しちゃったんだけど。顔もね、もうあんまり覚えてないんだけど
その子の事、なっち大好きでね。なっち、幼稚園でもいじめられてて、守ってくれてた子だったんだ。」
「だから宝物なんだね。」
- 377 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時55分53秒
- 「うん。だから、カオリに拾ってもらって、すっごくうれしかったんだ。前の日にいじめられて、
そのキーホルダーとられちゃってね。トウキビ畑の中に投げられちゃって。
ほんと、どうにかなっちゃう位困ってたんだ。人も信用できないくらいになってて、
でも拾ってもらえた、太郎が帰ってきた。なっち、またがんばろうっておもってね。」
「そっかぁ。」
「うん…。ごめんね、こんな話するつもりじゃなかったんだけど。」
「カオリ、今のなっち好きだよ。」
「えっ…?」
「変なふうに取らないでよー、なっちの笑顔がかわいいなって思ったんだ。
でも、どうやっていじめ解決したの?」
「それはぁ〜、体育館に呼び出されたときにー、なんていうの?
なっち今までキレたことなかったんだけど、キレちゃったみたいでね。
ボッコボコにしてたの。あははっ。それから、無かったねーいじめ。
早くキレとけばよかったかなって思ってたべさー。」
「あ…あそう。」
- 378 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月21日(月)20時56分54秒
- その日を機に安倍と飯田は仲良くなっていく。
一緒に授業をフケる。ベランダでタバコを吸う。
悪影響に傍目から見えるが本人たちは楽しんでいた。
そして、時は流れて進路を決定する時期になっていた。
そんな頃、屋上でタバコを吸いながら飯田は安倍と将来について語りだした。
「ねぇ、なっち。」
「なにぃ〜?」
「進路とか決めた?」
「うん。決まってる。カオリは?」
「うん、決まってるっぽいかな。」
「いっせーのせ、で言おうか。」
「いいねぇ〜賛成。」
「じゃあ、いくよ。いっせーのっ…。」
「東京に出て歌手になってやるべさー!!」
「東京でモデルになるっしょーーー!!」
「えっ…カオリ、東京でモデルになりたいの?」
「うん、なっちは歌手になりたいの?東京で。」
「うん。」
こうして、春に二人は東京でお互いの夢をかなえるべく上京し、
二人暮しを始め、トイズEEのクレープ屋でバイトを始めた。
◇ ◇ ◇
- 379 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年07月21日(月)20時58分43秒
- 26話続きを更新いたしました。
今週はここまでとさせていただきます。
次週で26話は完結です。
返レス後、続きを更新したいと思います。
- 380 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月26日(土)02時01分29秒
- シリアスな話になると思いきや…
笑いました
- 381 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年07月28日(月)20時45分16秒
- >>380
ありがとうございます。
今日で26話が完結いたしますので続きをお楽しみ下さい。
- 382 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月28日(月)20時48分50秒
- 秘話をラーメン落ち武者で公開した二人。
素で真面目に話を聞いていた紺野は、いい大人を説得するかのように
「イケナイ事ですよ!!」
と言うがミニモスタッフたちはムシして、その話で大盛り上がりをしていた。
バイトの帰り道。
皆が散り散りになった後、原付『ぷさん』にまたがった2ケツの飯田と安倍。
「ねーなっち、あの事は話さなくってよかったの?」
「うん。それでいいんだべさ。うち等だけの秘密で。」
「そっか。」
- 383 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月28日(月)20時51分45秒
- ◇ ◇ ◇
安倍が飯田の家に遊びに行ったある日。
「子供の頃のカオリの写真が見たい」
というリクエストからアルバムを引っ張り出して来た飯田。
アルバムは小学校時代がほとんどだった。
「おお〜。この頃からカオリちょっと大人っぽかったんだね。」
「カオリはヤだったんだけどね。大人っぽく見られるの。
でね、カオリ中学入学のときにこっちに引越しでね戻ってきて。
やだったー、スカしてる風に見られちゃってさー。」
「そっかぁ、カオリもっとちっちゃな時のはないの?」
「ん〜?あるよー。これかな。」
差し出されたアルバムには、安倍には見慣れた幼稚園の名前が印字されていた。
「これ…なっちと…。」
「ん?」
- 384 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月28日(月)20時52分20秒
すべてが繋った。
- 385 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月28日(月)20時52分51秒
- 何故安倍は自分が飯田に惹かれていったのか。
どうして、飯田はいじめられていた安倍のことが気にかかっていたのか。
そこには幼い頃の安倍と飯田の二人だけの写真が何枚も貼られていた。
幼い頃から飯田と安倍は仲良しだった。
「これ…なっちだよ…。」
「うそっ!?」
その中の一枚。
泣いている安倍の頭をなでる飯田の写真。
安倍も飯田も時同じくして、ある記憶がよみがえっていた。
◆ ◆ ◆
おぼろげな記憶をたどる。
幼い頃の安倍がいじめられていたところを
幼い飯田が中に割って入って助けた。
愛嬌のある安倍を慰める。
- 386 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月28日(月)20時53分34秒
- 「なっちゃん、ないちゃダメだよ。なくともっといじめられちゃうんだから。」
「うん。ありがとう、かおりちゃん。」
幼い少女が幼い少女の頭を撫でる。
「なっちゃんのだいすきな、おうたをうたおうよ。げんきになるよ。」
「うん。」
そして、手をつないでその頃習っていた歌をいっしょに歌った。
◆ ◆ ◆
その次の写真には、二人してピースポーズをとる二人の姿があった。
二人の黄色のバッグのチャックには同じ木彫りの熊のキーホルダーがあった。
「もしかして…。」
飯田はしばらく開けてなかった押入れの中から
子供の頃大事にしていた宝箱を取り出して中を見た。
その中には、「はなこ」と幼い字で書かれた木彫りの熊のキーホルダーがあった。
再び、木彫りの熊のキーホルダー「太郎」と「花子」は出会った。
◇ ◇ ◇
- 387 名前:第26話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2003年07月28日(月)20時56分14秒
- 原付「ぷさん」に跨り信号待ちをする二人。
ぷさんのキーホルダーの2頭の熊が踊る。
「カオリー」
「何ー?ナッチー。」
「唄おうよ。」
「なにを?」
「大きな栗の木下で。」
「…うん。」
おーーきなくりのーきのしたでー。
あの頃と変らない、笑顔とキモチが二人の中にはあった。
- 388 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年07月28日(月)20時58分18秒
- 以上で26話終了です。
次週から27話を開始となりますが、
次スレに移転したいと思います。
- 389 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月29日(火)01時59分47秒
- このタイミングで・・・,。・゚・(ノД`)・゚・。
このスレもお疲れ様でしたm(_ _)m
次スレも楽しみにしています。
- 390 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時24分12秒
- 1日の客数、平均4人。そのうち、ミニモレンジャー。ショーのメンバーが3〜4人。
そんなクレープ屋がとあるデパートの屋上の一角にあった。
店員は二人いるが、一人はずっと本を読み、もう一人はあちこち歩き回っていた。
夏になれば暑さから逃れるように、同じ屋上にあるラーメン屋へ向かい、
冬もまた寒さから逃れるように、同じことをする。
小腹が減れば、クレープの材料である
いちごスライスのシロップ漬けに指を突っ込み、ヒョイと2、3摘んでは口に放り込む。
毎日そんなんで、時給はショーのスタッフと同じ。
どっちが楽か、なんて言う必要もない。
「かおりー!そろそろ片付けんべー!」
ショーの方がそろそろショボいクライマックスに入る頃、
安倍はまさにその頃にラーメン屋から出てきて、飯田に向かって大声を出した。
その手には読みかけの漫画があって、言い終わるとそれを読みながら
ゆっくりとクレープ屋に向かった。
- 391 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時24分43秒
- 「…ん?ああ、もうこんな時間か。」
「本ばっか読んでないで、片付ける時間っしょ。」
「分かってるって。てか、まだショー終わってないじゃん。」
「いいのっ!どうせ客なんて来ないべ?」
「何焦ってんのよ?」
「別に焦ってなんかないべさっ…。」
アギャー、といつものように断末魔の叫びが聞こえた。
どうやらショーは今日もしめやかに終わりを迎えたようだ。
「矢口も大変だねぇ、毎日あんなことされて。」
近くの錆びた蛇口でバケツに水を汲んで、
既に生温いそれに両手と雑巾を突っ込む。
こうも毎日のことになれば、現場を目視しなくとも
何が起こっているのか分かって当たり前。
目の前に立ち込めた、微かな水の香りは
強い西日に晒されて飛び散った、見えない水の証か。
- 392 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時26分35秒
- 「今日も暑いなぁー。北海道が羨ましいね。」
そんな他愛もない安倍の言葉に、一瞬だけ飯田の動きが止まった。
中腰だった姿勢をしゃがみ込ませて、肘を膝に突いて、
でも、結局そのまま雑巾を絞った。
下から覗き込んだ安倍の表情は影に隠れてよく見えなかったが、
口元は笑っていたかもしれない。
「なんか…」
「あっ、もうボンベほとんど空だっ。圭ちゃんに言っとかないとマズいべっ。」
タイミングが悪かったのか、むしろ合わされたのか、
さも"しょうがないなぁ"という仕草でショーの控え室の方に歩いていってしまった。
片付けと言ったって、何てことはない。
鉄板の火を消して、冷蔵庫に材料を仕舞い、シャッターを下ろすだけ。
こんな、コダワリのない味だからこそ、それ相応の売上になるのだろうが。
安倍は至って元気で、さっき疑ったのがバカらしく思えるほど。
「今日はかおりが運転だべ。」
なんてことを言ってキーを放り投げる。
「ほらっ、早く早くっ。しゅっぱーつっ。」
- 393 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時27分17秒
- 免許を持ってない飯田を促して、
『交番の横を通らなきゃ大丈夫』と
根も葉もない理由で走り出した。
思えば、北海道を飛び出したのも
ほとんど無謀な勢いからだった。
「カオリってさー、なっちのことあんまり知らないっしょ?」
「なっちのことってー…例えば?」
「オーディションで最終まで残ってることとか。」
「マージでっ!?」
いくつもの建物を横目にして、
結局交番の横を通ることとなったが、
幸い見つかることなく(というか、無免許の前に二人乗りで捕まるのだが)過ぎ去った。
まだまだ明るい空だが
昼間のギンギン光る太陽はそろそろ休憩時間で、
薄っすら黒味掛かった景色は落ち着いて見ていられる。
だが、飯田は若干興奮気味だ。
- 394 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時27分55秒
- 「そんでさ、今日合格通知が届くんだよね。」
「あー、だから急いで片付けしてたのかっ。
あー、じゃあさ!合格してたらお寿司取ろっか!
まだ多分お給料残ってたしっ。
ってかまだ貰って1週間しか経ってないか、ははっ!」
「でさ…これ落ちたら、北海道帰ろうと思うんだ。」
「そうだと思った。」
興奮気味だった。
でも本当は、そんなのは装っているだけで
奥底まで見透かしていた。
伊達に何年も一緒にいるわけではなく、
ちょっとした雰囲気だけで読み取れる。
「北海道がどうこう言ってたしさ。
だいたい、突然そういうこと言うときってさ、変なこと考えてるよね。」
静かで、耳を澄ませばあぶり出しのように聞こえてくる虫の音。
気にしなければ聞こえないそれは、安倍と飯田の関係のような感じ。
下町を抜けて、もうちょっと閑静な住宅街に入ると、
原付の速度を落としてチンタラ走った。
- 395 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時28分32秒
- 「もう歌手は諦めたわけ?」
「別に…そんなんじゃないけどっ…」
「んー……」
二人乗りで速度を落とせば、
バランス取るのが難しくて、結局四足歩行の奇妙な物体になった。
いつも自由奔放な安倍が、普段ならばこんなこと言い出すはずもなく、
帰りたければいつの間にか姿を消しているだろう。
ということは、ちょっと止めて欲しいはずで、
そんなことは分かった上でちょっと虐めてみようかな、とも思う飯田。
「別に、帰りたきゃ帰ればいいよ。」
長い長い100mを終え、アパートが見えてきた。
郵便受けを覗くとやっぱり、一通の封筒が入っているけど、
飯田はそれを見ただけで手に取らず、部屋に向かった。
- 396 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時29分13秒
- 特別に励ましあっているわけでもなく、
優しい言葉を吐くわけでもない。
でもずっと一緒に居て、何でも知ってるような気がして、何でも知られているような気がして。
そんなスタンスだから、こんなときに掛ける言葉なんて一つも持ってない。
「なっちがどこで何しようが、あたしは関係ないし。」
リビングは、ない。
食事のときはいつもどっちかの部屋で食べるし、
安倍がテレビを見るときには飯田は絵を描く。
良く言えば上手く噛みあっているのかもしれないけど、
悪く言えばすれ違いの性格。
安倍の部屋の、大きく陣取った二人掛けソファにどっかりと腰を下ろす。
見えてないようで視界に入る彼女は、
さっき見た封筒を手に持って飯田に背を向けた。
もちろん床に直座りで。
ちょっと丸っこい背中、何か昔を思い出した。
- 397 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時29分49秒
- バイトは見つけても、敷金と礼金が用意できなくて、
狭いワンルームに二人で暮らしていた。
有り金かき集めて、それでも足りない分は持っていた物を売って、
飛行機代しか工面できなかった頃。
ずっと『なっちさぁ、絶対歌手になるから』って言っていた頃。
『へー、頑張ってー。』
『あー、そういう言い方するんですかっ。
後でサインくれとか言ってもあげないべさっ。』
『なっちこそ、あたしがモデルになってもサインあげないから。』
『カオリは無理っしょーっ。』
薄すぎるカーテンを突き抜けて当たる低い夕日が
安倍の背中と横顔を映していた。
赤と黒で描かれた彼女の顔からは、
本当に嬉しそうな、楽しそうな気持ちが溢れていた。
- 398 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時30分49秒
- 想像は容易い。
中に入っていた紙を静かに封筒に収め直し、
ゴロンと寝転がった。
何も言わなくても、それを見れば明らかだ。
一頻り、安倍の動きがなくなるのを見たあと、
ゆっくりとソファから立ち上がり、この部屋を出た。
すっかり惰性に陥っていたから気づかなかった
すごく後ろ向きな自分達が醜い姿で何を言い合おうと、
そんなの、虫の鳴き声にすら及ばない。
安倍の背中は紫色の鏡で、そこには自分も映っていたようだ。
- 399 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時31分23秒
- 『お寿司だべっ!!おいしそーっ!!ほらっ、ルイベが食べてくれって言って…』
『言ってないから。』
『なんでーっ!?だって今日、初めてのお給料日っしょっ!?』
『そんなこと言ったってさー…引越し資金溜めないと。』
微かに甘いサーモンの握り、
色の鮮やかさも、北海道の物とは比べようがないが、
でも、美味しかった。
もしかしたら全部後付けの理由なのかもしれないけど、
あの頃の出来事を思い出せば、全てが今の自分との対比に思えてしまう。
- 400 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時32分08秒
- 飯田が携帯を握ってから30分ほどすると、
インターホンが鳴った。
安倍はそんな、ただの音を聞き過ごして
ずっと座り続けていた床からようやく腰を上げただけだったが、
すぐに飯田が部屋に入ってきた。
せっかく自分のソファに浸かろうと思ったのに、
でも取られる前に急いで座るほどの気力は残っていない。
「ん…?何で……?」
「祝勝会、の前祝。」
大皿は久しく見ていなかった。
というよりも、こっちに出てきてからは初めてかもしれない。
「前祝って……」
中身は、大量に並んだサーモンの握りと、その他風変わり無い握りの各種。
で、やっぱり飯田が先にソファを陣取り、小さなテーブルにそれを乗せた。
「前祝だよっ。いつまで一緒に居られるか分かんないから。
未来のあたし達が、今ののあたし達を忘れないように、ね。」
- 401 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時32分50秒
- 「意味がよく……分かんないべさ……」
適当な方向を向いている皿、
そいつをグルッと回すとあら不思議。
半月状のサーモンが、きっちりと安倍側に揃った。
「何かさぁ、スタート失敗しちゃったから、もう一回仕切りなおしってことで。
別にさ、負けから始まってもいいんだけど、何となくで負け続けるのって嫌でしょ?」
「だから……なっちは北海道に帰るから…」
「帰ってもいいよ。ただ、勝ってからね。
どうせいつまでも一緒に居られるわけじゃないんだし。
あたしがモデルになったらなっちとは別のとこに住むし。」
「……」
「何よ、言いたいことあったら言えば?」
- 402 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時33分34秒
- 「…かおりより、なっちが先っしょっ。」
作戦成功。
ちょっとだけ笑みを湛えた安倍の顔、
救われたのは飯田の方だったのかもしれない。
「なんでよ、なっちなんか落ちまくりじゃんっ。」
「落ちまくりじゃないべさっ!!今回はたまたまだべっ!」
寿司は冷めないからありがたい。
いつまでもそんな他愛もない言い争いを続けさせてくれるけど、
生ものだからお早めに。
気の利かない冷蔵庫には麦茶しかなかったけど、
ワサビとしょうゆとでっかい夢で味付けは充分だった。
「今を原点にさ、いつでも忘れないように。」
「その過程もね。」
「「かんぱーいっ!!」」
おわ……
らない。
- 403 名前:第-7話だっぴょ〜んの巻。 投稿日:2003年07月29日(火)05時34分11秒
- 「やっぱお寿司は温かいお茶のほうがいいべなぁ…」
「お湯沸かすの面倒。」
「かおりロボ!口から熱湯プリーズ!!」
「ガガガ…ジュンビチュウデス……」
おわり。
- 404 名前:ほのぼのエース ◆MiniMO26 投稿日:2003年08月04日(月)16時07分35秒
- >>389
ありがとうございます。まさにこのタイミングでスレ移動です。
27話は長いため、移転をする事になりました。
次のスレのURLは
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/blue/1059980641/
です。残り4話をお楽しみください。
- 405 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月05日(火)23時49分40秒
- おち
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