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STAND BY ME

1 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)18時58分42秒
みなさんこんにちは、始めまして。
以前から書いていた小説の終わりにメドがついたので
こちらに書かせてもらおうと思います。

感想、ご意見、非難(できればしないで欲しいですが)あれば
何でもいいので書き込んでください。

それでは、スタートです。
できるだけ温かい目で見守っていただければと思います。
2 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)19時00分27秒
〜STAND BY ME〜

第一部 「脱退」

「ありがとうー、モーニング娘。でしたぁ!」

一月に決定した新メンバー三人と、既に合流が決まっていた藤本美貴の
お披露目となったモーニング娘。の春のコンサート。
アンコールも終わり、舞台ソデへと新しくなった娘。達が集まったファンへ
挨拶をしながら退場していく。

いつもと同じ、モーニング娘。のコンサート。
しかし、この後、自体は一変する。

照明が落とされかけたその時、ソデから一人の少女が舞台へと帰ってきた。

「今日は、皆さんにどうしても話しておかなければならないことがあります。」
3 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)19時01分25秒
ざわつく会場、しかし、その少女は構わず続けた。

「私、安倍なつみは今日を持ってモーニング娘。を卒業することになりました。
 今まで応援してくださった皆さん、本当にありがとうございました!」

それだけ言うと、安倍はステージから走り去ってしまった。

一瞬の静寂の後、会場は悲鳴にも近い叫び声で覆い尽くされた。
あまりにも突然すぎる安倍のモーニング娘。卒業。
これはあらかじめ決まっていたことなのか、それとも安倍の独断だったのか。
誰にもそれは分からなかった。



会場よりもパニックになっていたのは舞台裏だった。
安倍なつみの脱退、それはスタッフはおろか、他のメンバーやプロデューサーの
つんくですら知らない、つまりは安倍の独断の行動であったのだ。
4 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)19時02分05秒
突然の脱退宣言の後、舞台ソデへひけた安倍をメンバーが取り囲む。

「ちょっと、なっち!どういう事!?聞いてないよそんな事!」

初期メンバーとして、共にメンバーを引っ張ってきた飯田圭織が、
安倍の肩をゆすりながら聞く。その声は、怒りからか震えていた。

「ねぇ、嘘でしょ?何で?」

矢口真里が泣きそうな顔で安倍に尋ねる。

しかし、安倍はそんな二人や心配そうに周りを取り囲む他のメンバーを
無視するかのように一人で関係者をかき分け、控え室へと帰っていった。



控え室の空気は殺伐としていた、いつものようなライブの達成感や、
喜びに満ちあふれた空気は嘘のように、言いようのない、
疑問と憤怒にも似た空気が充満していた。
誰も声をかけられず、また安倍自身も口を開こうとしなかった。
5 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)19時03分05秒
一人で着替えを済ませ、帰ろうとした安倍に、ドアに一番近かった加護亜依が再び尋ねた。

「安倍さん、本当に・・・辞めちゃうんですか?」

その言葉に、靴を履いて立ち上がった安倍が、メンバーを背にしたままで答えた。

「ゴメン、つんくさんと、みんなには、明日説明するから。ホントに、ゴメン。」

安倍は力無く答えると走って控え室を出ていってしまった。

「辞めちゃうのかな・・・なっち。」

安倍のいなくなった控え室で矢口が力無く呟く。
メンバーが卒業し、新たに加入され、常に変化してきたモーニング娘。
でも、いくらなんでも、突然すぎるよ、そんな事言われたって・・・。

ねぇ、なっち、あの時のあの言葉は嘘だったの?
6 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)19時04分01秒
まだ分量少ないのですが、ちょっと用事ができたので
今回はここまでです。
今夜には第一部の続きを更新しようと思いますので
感想などあれば書き込んでいただけるとありがたいです。
7 名前:名無し 投稿日:2003年01月21日(火)21時05分37秒
まだ感想はないんですが
面白くなりそうなのできたいしてます
8 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時07分50秒
そうでした、この短さで感想なんて・・・(^^;
今帰ってきました。これまた短いですが第一部完結させます。

それでは、続きいきます。
9 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時08分29秒
矢口はつい二ヶ月ほど前、次の日がオフと言うこともあり、
安倍を自宅に呼んだ時のことを思い出していた。

夜中の一時か二時くらいだったろうか、ご飯を食べて、お風呂に入って
仕事で行きそびれた映画のDVDを見た後、二人でほとんど飲めないお酒のグラスを片手に、
遅くまでしゃべりこんだ夜のことを。

さっき見た映画の話や、明日はどうしようかという話をしていた時、
ふと思いついたように安倍が切り出した。

「ねぇ、やぐち」

「ん、何だよー、改まっちゃってサ」
10 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時09分28秒
「もうすぐ圭ちゃん、卒業しちゃうんだね。」

「何言ってるんだよ、今サラ。でも、やっぱ辛いよね・・・。」

しばしの沈黙、溶けたロックアイスが、カランとグラスに響いた。

「なっちね、決めたの。誰が卒業したって、新しく入ったって、娘。は娘。だから。
 なっちの大好きなモーニング娘。だから。だから、ずっとこれからも、
 なっちはモーニング娘。の安倍なつみでいようって。」

グラスを見つめる安倍の表情はいつになく真剣で、そして寂しかった。
11 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時09分59秒
「そうだね、ウチらがしっかりしていかないとダメだよね。」

”なっちの大好きなモーニング娘。だから”って、あの時言ったじゃんか。
あの言葉は嘘だったの?ねぇ、なっち、もう何が何だかわかんないよ・・・。

そして、その日、安倍なつみは忽然と姿を消した。
誰に、何を伝えることもなく・・・。

               第一部「脱退」 〜完〜
12 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時13分35秒
この後、多少改稿して第二部もすぐに更新できそうです。
最初が肝心な気がするのでこっちもできたら一気に更新します。
13 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時48分12秒
第二部「消息」

翌日、新聞やテレビではこぞって今回の突然の脱退宣言を報道していた。
新メンバー増員によるリストラ説やソロデビュー説、
メンバー同士の不仲説等がワイドショーのトップ項目で扱われていた。

そんな中、モーニング娘。のメンバー、更には元メンバーやプロデューサーの
つんくといった関係者がアップフロントエージェンシー(以下UFA)に召集された。

メンバーを乗せた移動者がUFAのビルに入ろうとしたとき、
待ち構えていた報道陣がいっせいにカメラを向け、質問を浴びせた。

「安倍さん脱退の真相はどうなんですか?答えてください!」
「メンバーの間に確執があったと言うのは本当なんでしょうか!?」

そんな質問を振り払うかのように、移動者は地下駐車場へと入っていった。
14 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時48分49秒
UFAの会議室。モーニング娘。とその関係者が大きな円形の机を囲んで座っている。
一番奥にUFAの人事担当者が、それを取り囲むようにしてモーニング娘。と
その関係者が腰を下ろしている。みな一様にうつむき、暗い表情をしていて、
中には、泣きはらして目を赤く腫れさしている者もいた。

「まだ安倍の消息は分からないのかね。」

UFAの人事担当が尋ねる、しかし、つんく帰ってくる言葉は一つだった。

「昨日から色々あたってるんですが全く分からないままです。」

「君たちも何か連絡をもらったりとかは?」

その言葉にも、皆が首を横に振るだけだった。重たい空気が張りつめていた。

「とりあえずこれは我々との明らかな契約違反だ、どうしてこんな事になったのか説明してもらおうか?」

「でも私達も全く知らない事だったんで・・・」

人事担当に対する飯田の言葉はもっともだった。むしろ一番の衝撃を受けたのは
他ならぬメンバーだったに違いない。
しかし、人事担当は最後まで言い終わらないうちに飯田の言葉を遮った。
15 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時49分33秒
しかし、人事担当は最後まで言い終わらないうちに飯田の言葉を遮った。

「知らない、じゃないだろう。未然にこういう事を防ぐのが君たちの役目じゃないか。」

凄まれて飯田は言葉を失った。安倍に対する言いようのない気持ちがこみ上げた。

今、どこで何をしているのか、どうして脱退するのか、一体安倍に何があったのか。
知りたいのはマスコミだけでなく、会議室にいる誰もが同じであった。

「とにかく、安倍を見つけることが最優先だ。君たちも連絡を受けたらすぐに知らせてくれ。
 それまでの活動はとりあえず休止するほかないだろう。
 あと、くれぐれもマスコミには何も話さないように。」
16 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時50分04秒
結局、安倍なつみからの連絡を待つと言うことで話は決着した。
当座活動の場が無いということでその日はUFAから自宅へと、数台の車に分乗して帰ることになった。

「私達、どうなっちゃうんだろう?」

石川梨華と吉澤ひとみを乗せた車中で石川が不意に呟いた。
窓の外を見ていた吉澤がそちらに目をやった。
石川はそのまま、視線を落として続けた。

「だって、こんなコトして、大丈夫なはずないもの。安倍さんだけじゃない、私達だって
 もう、前みたいにやっていけるかどうか・・・」

”大丈夫だって”と言おうとしたが、吉澤は口をつぐんだ。
マスコミに叩かれて、商品価値の無くなった私達は、捨てられる。芸能界とはそういう世界だ。
このままだと、自分たちもそうなってしまうのではないか、
と思うと気休めにもそんな事は言えなかった。
17 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時50分42秒
「とりあえず、今は待つしかないよ。」

そう言うのが精一杯だった。そして、また沈黙が続いた。
相変わらず石川はうつむき、吉澤は窓の外を眺めた。

外の景色は、全く自分と関係のない世界に見えた。
せわしく歩くサラリーマンも、制服を着てたむろしている女子高生も、
全てが異世界での出来事に見えた。

いや、そうでは無く、自分が異世界に迷い込んでいるのか。

そんな事を考えているうちに、いつの間にか自宅へと着いていた。
家の前には報道陣がちらほらと詰めかけており、何やら質問を投げかけられたようだったが
吉澤は報道陣の中を走り抜け家の中へと入っていった。
18 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時51分20秒
次の日になっても、その次の日になっても、安倍から連絡が入ることはなかった。
その間、メンバーは全員自宅待機と言うことになった。

テレビでは連日脱退の真相について、コメンテーターがある事無い事を吹聴し
安倍の脱退を報道していた。

吉澤は一日目こそテレビを見たものの、嫌気がさして、二日目からはテレビを見ることがなかった。
ぼーっとして、ふと気が付いたように携帯の画面をのぞき込んで、でも画面はいつも同じ表示で、
携帯を元の場所に戻してはまたぼーっとして、そんな日々を過ごした。

そして、安倍が姿を消してから五日後、吉澤の携帯が鳴った。

ベットに寝そべっていた吉澤はばっと飛び起き、机の上の携帯を取り上げた。
電話は、安倍からではなく、UFAの人事担当の男からであった。

「明日、朝10時にこの前の会議室に来てくれ。こちらから車は手配する。」

それだけ告げると、電話は一方的に切られた。
安倍からの連絡があったのだろうか、それとも・・・。
吉澤は電話を切った後も、言いようのない不安が胸に渦巻き
携帯の画面を見つめながらその場に立ち尽くしていた。

               第二部「消息」 〜完〜
19 名前: 投稿日:2003年01月21日(火)23時52分31秒
とりあえず第二部まで一気に更新しました。
今日の更新はここまでですが、明日は第三部が更新できそうです。
明日以降は一日一部か二日で一部くらいのペースになると思いますが
気長に付き合っていただければと思います。
20 名前:うまい棒メンタイ味(i-mode) 投稿日:2003年01月22日(水)08時14分49秒
更新が早いのは自分には出来ないっす!w 何だかこれから痛くなりそうな予感・・・ 続きに期待っす!
21 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月22日(水)14時44分44秒
何だか衝撃的な展開ですね。
安倍に一体何があったのか・・この先がとても気になります。
更新、ゆっくりでいいので期待しています。
22 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)00時28分08秒
>レスを頂いた三名の方

レスありがとうございます。
これからも皆様の応援のある限り書き続けていこうと思ってますので
期待しないで待っててください(笑)

それでは、第三部です、一気に更新します。
23 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)00時28分58秒
第三部「宣告」

UFAの会議室、前回と同じメンバーがそこにいた。みな表情は暗く、うつむいていた。

「もう一度確認するが、誰も連絡を受けたりはしていないね?」

人事担当の男が切り出した。もちろん、連絡など受けているはずもない。
男は小さくため息を一つつくと、話の本題を切り出した。

「私達も会議をして、これ以上は待てないという事になってね、今日記者会見を行うことをした。
 とりあえず、彼女の脱退については、体調不良と精神的ストレスが原因という事にしておくから、
 君たちも何か聞かれたらそう答えなさい。
 それと、君たちの処遇についてだが、一応は今までどおり、活動してもらうことになった。
 だが、安倍は今回の騒動に関して重大な契約違反を犯した。
 なのでこちらとしても契約を打ち切らざるを得ない、それは分かるね。」

男は早口でまくしたてた。メンバーはとりあえずこれからも活動が続けられると分かり、
ほっとした反面、予測していたとはいえ何の連絡も無い安部を解雇するという事実が
胸に突き刺さり、とても喜べる状況ではなかった。
24 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)00時29分33秒
「あの・・・。」

「何だね、中澤君。」

「もしもの話やけど・・・安倍の今回の行動が自分の意思によるモンやのうて
 何かの事件に巻き込まれているとか、どうしても連絡できない状況にあるとか
 そんな場合であっても今回の決定は覆らへんのやろか?
 もしそうやとしたらそらちょっと酷すぎひんか?」

中澤の意見に今までうつむいていたメンバーははっと顔を上げた。
その表情は、もしかしたら安倍が復帰できるかもしれないという期待と
安倍が何か危険な状態にあるのではないかという不安の入り混じった切ない表情だった。

「残念だがもしそうだとしてもこちらの決定を変える事は無い。
 安倍は今日付けでUFAから解雇ということになる。
 いいね、これはもう決定事項なんだよ。」
25 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)00時30分03秒
それを聞いて、もしかしたら、という表情を浮かべたメンバーに再び落胆の色が浮かんだ。
宣告を何とか受け入れようとする者や、その場に泣き伏せる者、
唇を噛みしめて涙をこらえる者など様々であったが、みな気持ちは一つであった。

「それじゃあ私とつんくさんは記者会見場に行ってくるから、君たちも外に待機してある
 ロケバスでテレビ局のほうへ移動してくれ。」

そう言うが早いか、男は書類をまとめると足早に部屋を出て行った。
会議室にはモーニング娘。の新旧メンバーのみが残された。

誰も、立ち上がろうとしなかった。何も、言えなかった。
その時、嗚咽だけが響く会議室に、凛とした声が響いた。
26 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)00時30分44秒
「さぁ、いつまでも泣いてちゃダメ。なっちがいなくても私たちはモーニング娘。なの。
 プロなんだからしっかりとお仕事しなきゃ、ほら、みんな立って。」

そう言う飯田に促され、席を立った高橋愛は、見た。
飯田の大きな瞳から涙が一筋流れているのを。
それはモーニング娘。のリーダーとしての役目を
懸命に果たそうとしているように見えた。

そうだ、飯田さんだって辛いんだ、辛いのはみんな同じ。
ううん、きっと飯田さんが一番寂しいんだ。
私が小学生だったころから今までずっと、家族よりも近い存在で、
かけがえの無い存在だった安倍さんがいなくなって、
それなのに私たちに声をかけてくれている・・・。

私も、悲しんでいる場合じゃないかな。
27 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)00時31分37秒
「そうですね、頑張りましょう!」

あからさまに明るいその声は、どう考えても空元気だった。
でも、そんな飯田や高橋の気持ちを酌んでか、それまで机に突っ伏していた
メンバーも立ち上がり、ぎこちない笑顔でそれに答えた。

「飯田さん、いつものヤツ、やってから行きません?」

先ほどまでしゃくり上げるようにして泣いていた紺野あさ美が
涙でくしゃくしゃになった顔で無理やり笑顔を作り、
ほつれた前髪をかきあげながら、しっかりとした声で提案した。

「そうね、それじゃあみんな集まって、
 頑張っていきまっ・・・」

「っしょ〜い!!」
28 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)00時32分13秒
飯田に合わせて、メンバーだけでなく、元メンバーの中澤、保田、後藤、市井も
円陣の外で一緒に声を出した。
もうモーニング娘。でなくても、彼女たちの思うところは
メンバーと同じだということだろう。

安倍抜きで、初めての声出し、いつもと同じようで、ポッカリと空いた
一人分のスペース、それはいつも安倍がいた場所だった。

その場所に目をやり、矢口は小さく呟いた。
誰にも、気づかれないくらいの小さい声で。

なっち、いつでも帰っておいで、私たちは待ってるから。

なっちの帰ってくる場所はここしかないんだから。


               第三部「宣告」 〜完〜
29 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)00時35分18秒
ここまで更新しての自分的感想など。
実際話はもっと先まで書けているんですが、
どうもなちまり気味ですね(汗

実際安倍との絡みになると飯田か矢口、後は旧メン以外は
どうも文章がしっくり来ない感じがするので
どうしてもそうせざるを得ない感じになっています。

さて、明日はできれば第四部を更新したいと思います。
いつまでこのペースが持つか分かりませんが
これからも頑張っていこうと思います。
30 名前:21 投稿日:2003年01月23日(木)00時57分16秒
何だか涙ポロリ・・という感じです(泣)
そして飯田さん・・うぐっ!
安倍さんの居場所はひとつだけですよほ。。

自分としては、年少メンバー達の想いも気になりますね。
マザーシップ的な存在を突然失ったメンバー達の戸惑い。。
せつなくなりそうです。
31 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)16時06分14秒
>30さん

レスありがとうございます。
希望通り、新メンのお話を急遽第六部に挿入いたしましたので
また見ていただけたらと思います。

今日は第四部しか更新できそうにありませんが(苦笑)
第四部は夜ぐらいに更新する予定です。
32 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)21時55分37秒
というわけで第四部です。
他にもリクエストあれば書き込んでください。
話の筋が変わらないように書けるのなら
加筆・挿入してみようと思います。
「@@をもっと出して」みたいな感じでもいいので
気軽に書き込んでください。
気が向けば感想なんかもいただけるとありがたいです。
33 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)21時56分25秒
第四部「日常」

UFAに新旧モーニング娘。及びスタッフが招集されたその日、
記者会見が行われ、安倍なつみの正式なモーニング娘。からの脱退と
UFAとの契約解除が発表された。

記者からは質問とフラッシュの嵐が降り注いだが、
つんくとUFAサイドは足早に記者会見会場から姿を消した。

記者からの質問に一切返答しなかったこともあってか
そのニュースはすぐにワイショーやスポーツ新聞で扱われ、
またありもしない話をでっちあげておもしろおかしく報道していた。

しかし、当のモーニング娘。は、安倍脱退後もそのまま活動を続け、
話題性もあってか今までどおりに仕事をこなす日々が続いていた。
精力的に仕事をこなしていくうち、
彼女たちは自分たちなりの日常を取り戻していった。
34 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)21時56分59秒
そしてそのうち、どのメディアも安倍脱退の真相について全く触れなくなった。
そう、まるで安部なつみという少女は最初からいなかったとでも言いたげな、そんな扱いだった。

でも、どれだけの日が過ぎても、メンバーは仕事をしている時、
楽屋で待っている時、車移動をしている時、常に心のどこかに
ぽっかりと穴が開いたような間隔に襲われる時があった。
付き合いの長さ、深さはバラバラだったが、悲しみはみな平等であった。



そんなある日、いつものようにオールナイトニッポンの放送を終えた
矢口の携帯に一件の留守電が入っていた。

タクシーの後部座席で、再生ボタンを押す。
聞きなれた声が電子音に続いて流れてきた。

「あ、もしもし、矢口?市井です。」
35 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)21時57分31秒
その声は矢口と時を同じくしてモーニング娘。に加入し、
既にモーニング娘。を卒業していた市井紗耶香であった。

「さっきマネージャーさんに聞いたんだけど、矢口明日休みなんだって?
 もし良かったら会えないかな?返事待ってます。」

何だろう、とりあえず連絡しとくか。

「えーっと、いちい、いちいっと・・・。」

携帯のアドレス帳をスクロールさせていく。
しかし、その指が止まった。その画面に表示されていたのは・・・

「安倍なつみ」

ひどく懐かしい感じがした。矢口は安倍がいなくなってすぐに携帯で連絡を取ろうとしたが、
安倍は既に携帯電話を解約していたらしく、
電話の向こうからむなしい機械音が繰り返されるだけだった。
36 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)21時58分34秒
どこに行っちゃったんだよ、なっち。

いつも側にいたのに、何でも分かり合えると思ってたのに、
ずっと一緒だと思ってたのに、それなのに・・・。

唇を噛みしめ、目の奥から溢れ出てくるものをぐっとこらえた。

そうそう、紗耶香に電話するんだった。
通話ボタンを押す、コールするとすぐに市井が出た。

「あ、矢口、待ってたよ。」

「うん、で、何かあった?」
37 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)21時59分15秒
「明日さ、時間ある?あたしんちで話しようよ。」

何か重大なことがあったのかもしれない、そう思っていた矢口は
市井のあまりにも普通の誘いに肩透かしを食わされた気分だった。

「はぁ?何だよそれー、夜中の一時だぞー、わざわざ待つほどの事かぁ?」

「ま、いーらいーから、来れる?」

「うん、行けるよ、昼頃に着くようにするから。」

「分かった、じゃあまた明日。」

市井からの電話を切って、矢口はため息をついた。
38 名前: 投稿日:2003年01月23日(木)21時59分49秒
ふぅ、何があったかと思うじゃんか。
ま、最近はオフでも家でゴロゴロしてるだけだったし、たまには外に出てみるか。

どんな服着ていこっかな、あんまり目立つ服装だとバレちゃうし、
でもダサイかっこは絶対ヤダしなぁ。
あっ、この前渋谷で買ったキャミにしようかな・・・。



一方、市井はまったく別のことを考えていた。

「よし、矢口はOK、と。」

矢口からの電話が切れた後も、市井は携帯を手放さず、
また別の相手へ電話をしていた。

「あ、もしもし市井ですけど・・・。」


               第四部「日常」 〜完〜
39 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月23日(木)23時20分13秒
市井はなんか知ってるんじゃないのか!? めっちゃ続きが気になります で リクエストは 後藤高橋を多く出して欲しいなぁ
40 名前: 投稿日:2003年01月24日(金)00時26分33秒
レスどもです。いい勘してますね〜(笑)

実は既に出来上がってます、後藤と高橋。
高橋が第六部、後藤が第七部に出演予定です。
六部と七部ちょっと本編から外れて周りのメンバーに
スポットを当ててみようかと思って書いてます。

このまま一日一部更新でいければ二日後と三日後になりますかね。
毎日言ってますがいつまでこのペースで更新できるかが鍵になりそうです。
41 名前:名無し 投稿日:2003年01月24日(金)14時19分36秒
更新乙です
もし、なっちが急に脱退したら
1番ショックを受けるのは辻じゃないかと思うので
出来れば辻も出してほしい
ワガママ言ってすいません
42 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)11時12分30秒
第五部「再会」

開けて翌日、空は晴れわたり、初夏の日差しはじりじりとコンクリートに照り付けていた。

「暑いよぉ〜。」

矢口は市井の部屋に入るなり扇風機の前に座り込んだ。足をバタバタさせて、出迎えた市井を見上げる。
まるで、デパートのおもちゃ売り場でおもちゃを欲しがる子供のような目だ。

市井は、全てを察した表情で冷蔵庫へ向かうとジュースのビンを二つ持って帰ってきた。

「アンタの考える事ぐらいお見とおし〜。」

市井は持ってきたビンを矢口の目の前に持っていくが、
矢口が手を伸ばすと、すっと手の届かないほうへビンを遠ざけた。

「おい、イジワルするなよぉ。」

矢口がふくれっ面をして市井を見上げる。
市井はふっ、と笑うと矢口にジュースを渡した。
43 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)11時13分03秒
「で、何?話って。」

ジュースを一気に飲み干し、暑さも少し和らいだところで矢口は尋ねた。
ここの所あまり会ってなかっただけに、それが昨日から少し気になっていたのだ。

「うん、もうちょっと待ってて、全員そろったら話すから。」

「全員?他にも誰か呼んだの?」

矢口が尋ねたちょうどその時、ちょうど家のインターホンが鳴った。
おっ、来た来たと言って市井は入り口へ行ってドアを開けた。

「お〜、やぐちぃ、元気だった?」

声と共に現れたのはこの春モーニング娘。を卒業した保田圭であった。
44 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)11時13分36秒
「あれ〜?圭ちゃん、圭ちゃんも呼ばれたの?」

「うん、話があるって、矢口も?」

「さて、全員そろったところで本題に入りましょうか。」

落ち着いたところで市井が切り出した。
矢口も保田もいつになく真剣な表情をする市井を見つめる。

「今日来てもらったのは提案、ていうか作戦があってさ。
 なっちの事なんだけどね。」

安倍の名前が出たことで、矢口と保田に緊張が走る。市井が二人を見渡した。
45 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)11時14分33秒
「今ってさ、なっちから連絡が入るのを待ってる状態じゃん。
 でもそれってさ、"守り"の状態でしかないと思うのね、
 今になっても連絡が来ない状態じゃそれも意味ないと思うのよ。
 だから、こっちから動いて"攻め"に入ろうと思うの。」

「攻めるって?」

「矢口は今でも仕事忙しいから難しいと思うんだけどさ、
 私と圭ちゃんって実際のところ あまり仕事多くないし、オフの日も多いのよ。
 だから、こっちから情報を集めて 何とかなっちのこと見つけられないかなぁって。」

「私は確かに仕事少ないから、行動自体はできるとは思う。
 でも、マスコミでもできないことなのにそんな事できるかなぁ?」

保田が不安げに尋ねた。そしてそれはもっともな質問だった。
マスコミの情報網でさえ捉えきれなかった安倍の消息。
それを、自分たちだけの力で何とかできるものだろうか、それが心配だった。
46 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)11時15分14秒
「確かに、それは難しいと思う。でも、やるしかないよ。
 それに私たちには最大の武器がある。」

"?"という顔をしている二人に向かって市井は続けた。

「それはね、心。私たちは離れていても、心はつながってるんだよ。
 だから、信じていればきっと見つかる、きっと会える。」

「うん、そっか・・・そうだよね。」

「攻めるしかない、か。分かった。」

矢口と保田が口々に答えた。このままでは事態は解決しないことを
既に心のどこかで悟っていたのかもしれない。

「でも・・・実際どうやって情報を集めるの?」

「それなんだけど、麻美ちゃんとか家族関係に聞いてみようと思って。
 なっち前に住んでたトコとかも引き払ってるみたいだし、
 一人でなんかしようとしたら、きっとどこからか情報が出てくるはず。
 でもそれが無いって事は、きっと誰かが協力してるって事になるでしょ。
 とすると、家族って可能性が一番高い事になる。」
47 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)11時15分48秒

「ん、まぁ一理あるよね。でも、それだったらもっと早くに
 私たちに教えてくれてもいいんじゃないの?」

「はい、ストォップ!」

保田と市井の会話を矢口が遮った。

「可能性があるかないかなんて今ここで話してる場合じゃないよ。
 ゼロで無い限り諦めちゃいけないんだから、やるしかないんだから。」

「よし、そうと決まれば行動開始!」

立ち上がった市井に続いて矢口と保田も続く。三人は机の上で手を組み合わせた。

「やるべし!」

ここに三人だけの小さな作戦が始まった。


               第五部「再会」 〜完〜
48 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)11時19分33秒
スイマセン、昨日寝ちゃいました(汗
それと、若干執筆ペースが落ちています(−−;

現在第八部を修正中なんですが、
どうにも文章がうまくつながらないんですよね(汗

何か「ここはこうした方がいいんじゃない?」というような
意見もあれば書き込んでください(誹謗・中傷はやめてください)

あと、物語中での言葉遣いなんですが、話の関係上
「@@だべ」(安倍)「@@れす」(辻)といったような
言葉は使っておりません。これも意見あればお願いします。

今晩第六部を更新できればと思ってます。
49 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)22時44分56秒
第六部「不安」

「カット!さっきから何度も言ってるだろ、
 そこはもっと感情を表に出してやってくれって。」

「はい、すみません・・・。」

「じゃあ一旦ここで休憩入れまーす、三十分休憩でーす。」



都内某所、今年も24時間テレビのチャリティーパーソナリティに
選ばれたモーニング娘。はそのスペシャルドラマの撮影を行っていた。

主演は前年の演技が評価されたのか加護、
その他にも高橋と新メンバーから田中麗奈の三人が撮影を行っていた。
50 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)22時45分30秒
今日は主演の加護が別撮りでいないため、メンバーは高橋と田中の二人だけだったのだが、
先ほどから田中がNGを連発。何度やってもうまくいかない状態になって
やむなく休憩という措置が取られた。

「はい、麗奈ちゃん。」

高橋が水の入った紙コップを田中に差し出す。
田中は読んでいた台本から視線を上げ、紙コップを受け取った。

「あまり考え込まないほうがいいよ、NGとか気にすればするほど出しちゃうんだから。
 私だってNGいっぱい出すし、くよくよしてちゃダメだって。」

高橋の言葉にも田中はただうなずくだけだ。
田中は、紙コップの水に写った自分の顔を見つめた。

モーニング娘。に選ばれてそれからは毎日ダンス・ボイストレーニングの日々。
この業界でやっていくにあたっての基礎知識などを学んで、
やっとお披露目となったライブで突然の安倍の脱退。
51 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)22時46分04秒
その後も毎日が仕事、大人ばかりの中の自分。
めまぐるしく変化する環境に必死になってついてきた。
緊張と不安の連続、田中の精神はもうその負担に耐え切れなくなっていた。

ダメだ、もう私、続けていく自信が無い・・・。

突然声をあげて田中が泣きじゃくりだした。

周りのスタッフも何事かと作業の手をゆるめてそちらに目をやる。
高橋も驚いて田中を揺すぶり、話しかける。

「麗奈ちゃん?どうしたの?気分でも悪くなった?」

「高橋さん・・・私、もうダメです。できません。」

嗚咽の中、途切れ途切れにそう言うと
高橋が言うことにも耳を貸さず、なおも田中は泣き続けた。
52 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)22時46分37秒
あぁ、こんな時に安倍さんがいてくれたら・・・。
安倍さんならこんな時、何て言うんだろう?



高橋は、自分が前に出演番組内のドラマで主役をやった時、
同様にスランプになって、自信を無くしかけたときがあった。
そんな時、自分を立ち直らせてくれたのが同じドラマに出演していた安倍なつみであった。

高橋がセットの裏で、安倍に悩みを打ち明けたとき、
安倍は優しく微笑みながら言った。

「演技って言うのはね、歌と同じだと思うの。
 私たちも歌を歌うとき、詩の内容を表現して歌うでしょ?
 それと同じで、演技って言うのも言葉を思ったとおりに表現するの。
 意識しないで、自然にやってみなよ。」

結局、安倍は自分の撮影が終わっているにもかかわらず、
高橋のシーンが撮り終えられるまでスタジオで見ていてくれたのだった。
53 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)22時47分10秒
「安倍さん、どうでしたか?」

撮影を終えた高橋が安倍のもとへ駆け寄る。
安倍は、優しく微笑んで、高橋の頭をポンポンと叩いて言った。

「大丈夫、ちゃんとできてたよ。
 こりゃもうなっちもウカウカしてらんないなー。
 これからも頑張んなよ、高橋ならきっとできるから。」

その言葉に支えられ、高橋は見事にドラマをやり通しのだった。



安倍さんはあの時、どんな思いで私を励ましたんだろう。
どんな思いで私を見つめていたんだろう。
54 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)22時47分40秒
私は、麗奈ちゃんに何て言ってあげればいいの?
どんな顔で話しかけたらいいの?

私は、人に演技の事を言えるほど演技をやっているわけなじゃい。
私は、落ち込んでいる人をあんな風に救えるほど立派な人間じゃない。
私は、安倍さんじゃない。

あんな風に、笑って、"大丈夫だよ"って、言えない・・・。

「もう、わかんないよ・・・」

高橋はポツリと呟いた。
田中は依然泣き止まず、嗚咽だけが膝にうずめた顔の方から漏れている。

どこからか聞こえる、少し早いセミの鳴き声が高橋の耳に響いていた。

               第六部「不安」 〜完〜
55 名前: 投稿日:2003年01月25日(土)22時51分35秒
どうも、レスがついてないので多少凹みながらの更新となりましたが
とりあえず"やめろ"と言われるまでは続けようと思います(苦笑

とりあえず今日で前編部分(〜11部)まで執筆完了しました。
できるだけメンバーを出していきたいのですが
まだ出てきてないメンバーもいて、アイデアが詰まってます(^^;

とりあえずこれからも苦戦しそうですが
期待せずに読んでいってください。

ご意見、ご感想、ご要望もどしどし書き込んでください
(↑結構本気で言ってたりします(笑)
56 名前:一読者 投稿日:2003年01月25日(土)23時20分02秒
ぶっちゃけ、こういうシリアス物ってレスしにくいんですよ。
場の雰囲気を壊すような気がして。
読んでいる人は沢山いると思うので凹まずにがんがってください。

>あと、物語中での言葉遣いなんですが、話の関係上
>「@@だべ」(安倍)「@@れす」(辻)といったような
>言葉は使っておりません。これも意見あればお願いします。

私は不自然には感じません。栞さんの思うように書けば良いと思います。
57 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時45分45秒
第七部「成長」

安倍を失った事から、先に不安を感じる者がいれば、
逆に、それをきっかけに成長している者もいた。

「あ、ごっちーん、久しぶりぃ。」

「梨華ちゃん達も、元気そうだね。」

スタジオ入り口のスペースですれ違う後藤とタンポポの四人。
今日は後藤は歌番組の歌収録で、今はカメリハを終了しVTRのチェック中。

タンポポはトーク番組にゲスト出演する際の打ち合わせの後で、
柴田あゆみはラジオの仕事で既にこの場を離れていた。
58 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時46分25秒

自動販売機でジュースを買って椅子に腰を下ろす五人。
最近あった出来事や、おもしろかった事などを語り合う。
表情はみな明るく、笑い声が絶えない。


後藤真希は安倍の脱退後、安倍の存在感を改めて感じた。
要所での発言、行動が大きな役割を果たしていて、
自分も何度も助けられていたと分かった。

そのせいか今までは同じ立場にいて、
どちらかというとあまり関心を示さなかった
第五期以降のメンバーと積極的に話をすることが多くなり、
かつて安倍がそうであったように、
今ではメンバーのお姉さん的存在として慕われるようになっていた。

後藤自身も、物事に対する視野が広がり社交的になり、
そのせいか仕事も増え、忙しい毎日を送っている。
59 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時46分56秒
「紺野、今度の新曲はソロ結構あるんだね、頑張りなよ。」

「あ、はい。でも昨日も里沙ちゃんに音痴って言われちゃいました。」

はにかみ笑って答える紺野。紺野モーニング娘。加入時は安倍にダンス・歌だけでなく
他の仕事から普段の行動まで安倍のアドバイスを受けることが多かった。

安倍が脱退した当初、紺野はショックを受け、泣いてばかりだった。
しかし、UFA会議室での飯田の言葉に心を揺り動かされた。
飯田さんは何て強い人なんだろう、と素直に思った。
そして、いつかは私もあんな風に強くなりたい、とも思った。

その日以降、紺野は安部にアドバイスされていたことを一つずつ、
ゆっくりとだが、確実に実践していった。
それが紺野の自信となり、また実力となっていった。
60 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時47分26秒
「でもあさ美ちゃんの歌って、時々ものすごい外れ方しません?」

新垣里沙がすぐさま反論する。
持ち前のプラス思考で安倍脱退後も前向きに仕事を続ける新垣は
同期の紺野の成長との相乗効果もあってか、人気が上昇していた。

「分かる分かる。コンサートで思いっきり声が裏返ったときもあったよね〜。
 何なら今度からあのパート私が歌おうか?」

石川はここぞとばかりに話に割り込んだ。
それほど歌唱力に定評のあるわけでは無い石川が歌に関して上に立てる人は少ない。

最近ではポジティブ思考もほとんど顔を見せることなく
むしろ逆に時によってはネガティブすぎて周りのメンバーを困らせる時があるくらいだ。
まぁ大方の場合はそれがプラスに働き、いい結果を残しているのだが。
61 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時47分58秒
「えー、でも私石川さんよりはうまくなると思いますよ。」

その言葉に紺野も黙ってはいなかった。
最近では言いたいことがすぐに言えるようになった分、
時々本気なのか嘘なのか分からない突拍子も無い発言をすることがある。

「あ、何でそういう事言うの?そんな事ないよね、ごっちん?」

石川も紺野のまさかの反撃に驚きを隠せない。
たまらず後藤に助け舟を求めた。
後藤ならきっと私の見方をしてくれるはずだ、そう思った石川だったが
その思いはもろくも次の一言で崩れ去った。

「いやぁ、どんぐりの背比べじゃないの?」

後藤の言葉に、新垣がその通り、と言わんばかりの表情でウンウン、とうなずく。。
石川と紺野も、最初は膨れていたが、やがて二人で目を見合わせてふふふと笑った。
そこには、確かな自信をつかんだ四人の姿があった。
62 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時48分29秒
「後藤さん、スタンバイお願いしまーす。」

スタジオからおそらく新人らしいADが出てきた。
タンポポやモーニング娘。の歌収録のときにも何度か見かけたことがある。

「じゃ、またね。」

「うん、ごっちんも。音外しちゃダメダメ、だからね。」

後藤は引きつった笑みを浮かべて石川のギャク(なのだろう、おそらく)に
背筋を凍らせながらスタジオへと入っていった。


               第七部「成長」 〜完〜
63 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時49分02秒
第八部「進展」

「もういい加減にしてくれませんか?
 知らないってもう何度も言ってるじゃないですか。」

テレビ局のタレントクローク、その長い廊下に声が響いている。

「ホントにどんな些細な事でもいいの、知ってたら教えてちょうだい。
 麻美ちゃんだって、なっちの事心配なんでしょう?」

言い争っているのは安倍なつみの妹で、
今年歌手でビューを果たした安倍麻美と市井であった。

それほど面識も無く、二度か三度会っただけの仲であったが
ここ一週間ほど市井が急に安倍の消息について何か知らないか、と言い寄ってきていた。
64 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時49分35秒
「前に話したとおりです、そんな脱退するなんて素振りもなかったし、
 特に何か悩んでいる様子もありませんでしたから。」

「ライブの日とか、何か言ったりしてなかった?」

「もう、いいでしょう。これ以上は何度やっても同じですから。」

麻美はそれだけ言うと市井に背を向けて歩き出した。

「あ、待って!麻美ちゃん!!」

市井は腕をつかみ、麻美を捕まえる。

キャッと小さく悲鳴を上げた麻美のカバンから鍵の付いたキーホルダーが床へ落ちた。
市井があわてて拾い上げようとした時、真新しい鍵に目がいった。
65 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時50分16秒
「あ、ゴメン。・・・麻美ちゃん、鍵変えた?」

なぜ自分もそう言ったのかは分からない。
実際麻美が持っている鍵なんて見たことも無かった。
でも、その真新しい鍵を見たとき、自然と口が動いていた。

「あ、この前から一人暮らしなんです、私。」

「そうなんだ、ゴメンね、何度もこんな聞き込みみたいな事しちゃって。
 また何かなっちから連絡入ったら連絡してくれる?」

「はい、心配なのは私たちも一緒ですから。
 それじゃあ、私打ち合わせがあるんで失礼します。」

ペコリ、と頭を下げ、パタパタと足早にクロークを後にする
麻美の後姿を市井は見送っていた。
66 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時50分47秒
「成果なし、かぁ。」

ため息混じりにそうつぶやく。
矢口、保田と集まって話をして約一週間、誰にも気づかれないように
少しずつ情報を集めていく作戦だったのだが、
メンバーが増えすぎると目立ってしまうだろう、という保田の判断で
三人のみで行動することに決めたのが仇になったのか全く成果が上がらなかった。

自分たちのしていることは意味があるのだろうか?
誰も通らない廊下の壁に背中からもたれかかり天井を見上げた。
天井は、何も知らない無垢な白い色で市井を見下ろしていた。



「で、結局みんな進展なしなのね。」

保田が矢口と市井を見渡してやれやれ、と言った表情で肩をすくめる。
67 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時51分20秒
同日深夜、仕事終わりの市井、矢口が保田の家で話し込んでいた。

「やっぱりもうちょっと人数増やした方がいいんじゃないの?
 その方が集められる情報も多いしさぁ。」

矢口が提案する。最初にこの作戦を決めたときにも言ったことだった。

「前にも言ったけど、こんな事他の誰かに気付かれたらまた色々騒がれるよ。
 そしたら、今度は自宅待機どころじゃ済まなくなるかもしれない、
 私達のワガママに、これ以上メンバーを巻き込むわけにはいかないのよ。」

保田の発言はメンバーを思ってのことだったが、
矢口はどうしても納得がいかなかった。
確かに保田の言っている事も分かる、それでも心のどこかで
保田に対して不信感が募っていることは否めなかった。
68 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時51分55秒
圭ちゃんは他のメンバーを信頼してないの?
みんな今まで一緒に頑張ってきた仲間じゃんか、
どうして私達だけでコソコソと黙って行動するの?

「とりあえず、今はこのまま地道に聞き込んでいくしかないよ。
 今日も麻美ちゃんに聞いてきたんだけど、麻美ちゃんも何かあったら
 連絡してくれるって言ってたし。」

市井は場を取りなすために今日あった麻美との一件を二人に話した。
矢口は不機嫌な表情で、うつむきその話を聞いていたが最後に
市井が麻美を引き留めたときの話を聞いた瞬間顔を上げ、眉をひそめた。

どうかした?という市井の言葉に気付いて

「あ、ううん、別に何も。」

とだけ返事すると、またうつむいて何か考え込んでいるようだった。


               第八部「進展」 〜完〜
69 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)11時54分59秒
>>一読者さん

そうですか、ご忠告どうもです。
感想とかを要求するのはよくないとは分かっていても
全くレスがついてないと"お邪魔かな?"と不安になってしまって
執筆もはかどらなかったりするんで聞いちゃいました(^^;

さて、公約の一日一部更新がなぜか二部更新されていますが(笑
第九部、いよいよ辻加護の登場です(多分)
期待せず首を長くしてお待ちください。
(でもきっと今晩には更新されると思います)
70 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月26日(日)14時23分49秒
更新が早くてとてもうれしいです。
これからの展開は分かりませんが、頑張ってください。
71 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)16時49分14秒
第九部「忘却」

「どうしたん、のの?元気ないやん。」

ミニモニ。のラジオが終わり次の仕事場に移動する車中、
加護が何を話しても空返事しかしない辻希美に尋ねた。

「みんなは・・・亜依ちゃんは平気なの?
 安倍さんがいなくなって、どうしてそうやって普通にしてられるの?」

辻が小さくに呟いた。どうして今になって辻がそんな事を言いだしたのか、
加護には思い当たる一件があった。

今日のラジオに、新メンバーの道重さゆみがゲスト出演した事だ。

打ち合わせの時から道重はたどたどしく、
本番も緊張の連続でろれつが回らなかった。
72 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)16時49分46秒
すみませんでした、とただひたすら謝る道重を
辻が"大丈夫だよ"と慰めたとき加護がそうであったように、
辻も自分が初めてラジオに出た時のことを思い出したのだろう。



加護と辻が初めて新メンバーとなって出たラジオ、
それは安倍がパーソナリティーをつとめるラジオで、
加護も辻も、緊張のためかうまく話せないままで放送が終わった。

放送終了後、二人はラジオブースから出た安倍を引き留め
すみませんでした、と今日の道重のように謝ったのだった。
しかし安倍は二人を咎めず、むしろ笑顔で、

「大丈夫、加護っちも、ののもすっごい可愛かったよ。
 なっちもすごい楽しかったし、またおいでよ。」
73 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)16時50分17秒
と、安倍は二人に優しい言葉をかけてくれたのだった。
以後、ラジオだけでなく、仕事をやるときは
どんな状況であっても"楽しむ"事を念頭に置いてやってきた。



「平気なわけ・・・ないやんか。」

加護は力無く答えた。語尾が少し震えていた。
辻からは見えなかったが、加護も泣いているようだった。

「ウチかて寂しいんや、寂しいんはののだけとちゃう。
 でも飯田さんも言っとったやんか、ウチらはモーニング娘。なんや。
 いつまでも昔にこだわってたら前には進めないんや。」

今度は明らかに泣いているのが分かった。
鼻をすすり、手の甲で涙を拭っているのが見えた。
74 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)16時50分47秒
「自分たちが前に進むためなら安倍さんの事も忘れられるの?」

辻は安倍のことを"昔の事"と割り切る加護がどうしても理解できなかった。

「そういう事言うてるんとちゃう。
 じゃあののは安倍さんがそんな風にウジウジする事を望んでると思うか?
 ウチはそうは思わへん、きっと安倍さんなら"楽しめ"って言うはずや、
 せやから、ウチかて寂しいのをこらえてやってるんや。」

それからはどちらも口を開かなかった。
お互いの言っていることは痛いほど分かった。
だからこそ、もう何も言えなかった。

車を降り、地下駐車場からテレビ局へ向かう
暗い地下通路で加護は辻に囁いた。
75 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)16時51分18秒
「ゴメン、さっきは・・・言い過ぎた。
 でも、ウチも安倍さんの事は忘れてへん、それは覚えといて。」

「うん、私も、ゴメン。
 亜依ちゃんの気持ちとか、考えてなかった。」

加護はこの時、初めて辻も涙を流していることに気が付いた。
涙と鼻水で顔がくしゃくしゃになっていた。

「泣いたらアカンて、そんな顔してたら楽しめへんやんか。
 安倍さんにも言われたやんか、"楽しめ"って。」

もっていたハンカチで辻の顔を拭く。
辻もその言葉に笑顔を取り戻した。

「ありがと、もう大丈夫だから。」
76 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)16時51分51秒
そういって辻はふふふ、とほほえみかけ、
加護もへへへ、とおどけて見せた。

「ほな、いこか。」

加護の言葉に促されるようにして二人は放送局へと入っていく。
二人で寄り添いながら、仲良く。

共に思っていたことをぶちまけ合って、
お互いスッキリしたのと、考えが読みとれたせいか
また少し、二人の距離が縮まったように思えた。

「おはようございまーす!」

テレビ局に元気な二つの声が響いた。

               第九部「忘却」 〜完〜
77 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)16時54分05秒
さてさて、夜を待たずして更新してしまいました(笑
とりあえずレスがついたのでヤル気も上昇中です。

というか、もうすぐ試験なので更新ができなくなる可能性があるため
一気に完結させてしまおうかと思ってます。

なので、もう十部も今夜には更新されそうな・・・(−−;
ちなみに、第十部でサイドストーリー的な話は終わり
本編(?)に戻ります。
78 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時21分41秒
第十部「幻視」

24時間テレビスペシャルドラマの一件、田中は撮影の後半だったことと、
それほど出番が多くなかったため、何とか撮影を終えることが出来た。

しかし、その後も田中の自信喪失状態は続いていた。
ドラマ撮影時よりは多少元気を取り戻したものの、
普段から表情は暗く、精彩を欠いていた。

もちろんそれで全員出演のテレビ番組なら
その場にいるだけで乗り切ることは出来る。

だが、個々人の能力でやらなければならない歌・ダンスのレッスンでは
目に見えて田中だけ出来ていないのが浮き彫りになる。

もちろんプロである以上妥協は許されない、レッスンの度に田中に指導が入る。
そして、叱責されるたびに、また落ち込んでいった。
79 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時22分11秒
「ほら、今自分だけ出来てないの分かる?
 あなたの為に他のみんなの時間が無駄になるんだよ。」

コレオグラファーの夏まゆみからゲキが飛ぶ。
24時間テレビで初披露となるモーニング娘。の新曲の振り練習なのだが
先程から何度やっても田中のステップが遅れてしまう。
メンバーが懸命に指導するのだが、効果はあがらなかった。

田中はうずくまり、泣き出すが、夏は決して妥協しない。

「泣いたらうまくなるの?泣く元気があるなら練習しなさい。」

出来ない、と思えば思うほどに動きが悪くなる。
自分でもどうしていいか分からない感覚だった。
ただ、劣等感だけが蓄積されていった。
80 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時22分44秒
「ラチが開かないわね、一旦休憩にするわ。」

夏が仕方ない、と言った表情で声を掛けた。
めいめいが水を飲んだり汗を拭ったりしている中、
新メンバーの亀井絵里が田中に近づきタオルを声をかけた。

しかし、田中から返ってきた言葉は亀井の意に反して。

「ゴメン、一人になりたいんだ。」

という冷たいものだった。今はそっとしといてあげな、という進言もあって
練習場は田中一人だけになった。

鏡に向かって、新曲の振りをチェックする。
どうしてもターンからの次の一歩が遅れてしまう。
81 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時23分15秒
「ラチが開かないわね、一旦休憩にするわ。」

夏が仕方ない、と言った表情で声を掛けた。
めいめいが水を飲んだり汗を拭ったりしている中、
新メンバーの亀井絵里が田中に近づきタオルを声をかけた。

しかし、田中から返ってきた言葉は亀井の意に反して。

「ゴメン、一人になりたいんだ。」

という冷たいものだった。今はそっとしといてあげな、という進言もあって
練習場は田中一人だけになった。

鏡に向かって、新曲の振りをチェックする。
どうしてもターンからの次の一歩が遅れてしまう。
82 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時24分17秒
やっぱり素質ないのかなぁ・・・

しゃがみ込んで、濡らしたタオルを顔に当てる。
そうだ、前にもこんな事があったような気がする。



それは、まだ世間に自分たちが出ていない時のこと、
モーニング娘。のライブでお披露目されるに当たって
これまでに出された曲の振り付けを新メンバー三人で覚えていたときのことだった。

モーニング娘。の他のメンバーが練習場を訪れ、
自分たちに踊りを教えてくれたのだった。

「んーんとねー、ここんトコはもうちょっと動きにメリハリつけた方がいいと思うよ。」
83 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時24分49秒
田中に後ろから声をかけたのは安倍であった。
安倍は田中の横に来ると、実際に振りをやってみせてアドバイスをした。
そうして、ぎこちないながらも練習を続けていったのだった。



「ほら、どうした?動きにメリハリがないぞ?」

練習場に声が響いた。驚いて顔を上げ、顔をあげた田中は目を見開いた。
目の前の鏡に写っているのはこの場にいないはずの安倍なつみだった。

「前みたいに、自分に自信を持ってやってみな。
 麗奈ちゃんならきっとできるから。」

その言葉が言い終わるが早いか、田中は安倍の方を振り向いた。
84 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時25分31秒
が、そこには誰の姿もなく、
もう一度鏡を見てもそこには自分以外何も写っていなかった。

自分がこんなだから、きっといつまでも安倍さんを心配させてるんだろうな・・・。

田中は再び踊り出した。相変わらずステップにぎこちなさがあるものの、
表情は明るく、ここ数日見られなかった笑顔がそこにあった。

やがて、休憩を終えたメンバーが練習場に帰ってきた。

田中は、もう一度だけお願いします、とだけ言って、
先程の不思議な一連の出来事に関しては何も言わなかった。
85 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時26分11秒
そうだ、私は私。自分が一番ヘタでもいい。

でも、自分を嫌いになったらダメなんだ。

いつか、きっとみんなに追いつけると信じて________。


田中はようやく、先の見えないトンネルの向こう側が見えた気がした。


               第十部「幻視」 〜完〜
86 名前: 投稿日:2003年01月26日(日)21時30分10秒
はてさて、今日だけでどんだけ更新したのでしょうか(笑)
次回、前編最終話となります。

後編は一気に話が展開していくので主要人物意外の登場が
極端に少なくなってしまいます、悪しからず。

とりあえずこの小説が終わり次第第二弾を考えておりますので
出演希望はそちらのほうでどうぞ(苦
87 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月27日(月)20時54分06秒
全部一気に読みましたけど、面白いです。頑張ってください!
88 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時10分41秒
第十一部「驟雨」

夏が近づくに連れ、モーニング娘。のメンバーは日に日に忙しさを増していった。
スペシャルドラマの撮影、連日行われる打ち合わせ。
そして、メンバー個人が全国で一般人のチャレンジをレポートする企画。

その中の一人、矢口真里は札幌に住む下半身不随の男性の
遠泳をレポートすることになっていた。

七月某日、矢口は事前紹介VTRの撮影のため北海道を訪れていた。
当日の昼に現地入りしたものの、
新千歳空港でその男性に急な仕事が入ったとの連絡があり
夜まで空き時間となったのだった。

「とりあえず七時までにホテルに帰ってくればいいから、
 それまでどっか自由に行動してていいよ、
 ファンには気をつけて、あと連絡は取れるようにしといて。」
89 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時11分13秒
この日が平日の昼ということもあってか、
スタッフから自由行動の許しが出た。

本当はワガママを言ってでも時間開けてもらおうかと
思っていた矢口だったがこの時ばかりは偶然に感謝した。

矢口は電車を乗り継ぎ、室蘭は鷲別駅にやってきた。
幸い道中で人に気付かれることもなく、矢口は風景を楽しむ余裕さえあった。

「あー、気持ちいぃ〜。」

駅に降り立つと思わず叫んでしまった。
空港から二時間半、ずっと座りっぱなしで首と肩がかなり凝っていた。
伸びをして、爽やかな空気を吸い込んだ。
90 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時11分43秒
腕時計に目をやると、ちょうど二時を回っていくところだった。
七時に札幌のホテルに帰ることを考えるとここでの滞在時間は二時間もないだろう。
しかしそれでも矢口はどうしてもここ、鷲別で確かめたいことがあった。

駅からタクシーに乗り、住宅街へとタクシーを向かわせた。
何度か昔に通ったことがあるのだが、最後に来てから数年が経っているため
少し街並みが変わっているように思えた。

住宅街の一角でタクシーを降りると、長くなりますから、と言って料金を払い
タクシーは住宅街走り去っていった。

タクシーを降りてすぐの所に簡素な一軒家があった。表札には"安倍"の文字。
そこは安倍なつみという少女が生まれ、育った家だった。
91 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時12分15秒
少し戸惑いながらも、その家のインターホンを押した。
しばらくの後、ドアが開き、やや白髪の交じった女性が出てきた。

「はい、あっ!矢口さん・・・どうしたの?」

出てきた女性、安倍なつみの母は少し驚いた表情で矢口を出迎えた。

「こんにちはおばさん、いつからこっちに?」

矢口は市井から麻美との一件を聞いたとき、心に引っ掛かることがあった。
それは、安倍の母がすごく心配性で、娘を心配する余り
北海道から上京しているという話を聞いたことがあったからだ。
それなのに安倍がいなくなっているのにどうしてこっちに帰ってくる必要があるのか。
92 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時12分50秒
「えぇ、二ヶ月ほど前に。麻美もデビューが決まったし、
 もう大丈夫だと思ってこっちに帰ってきたのよ。
 お父さんもずっと一人だし、かわいそうかと思って。」

そう答えるが、安倍の母はどこかそわそわしているように見えた。

「心配じゃないんですか?麻美ちゃんのこと、それになっちだって・・・
 おばさんはなっちのこと心配じゃないんですか?」

思わず声がうわずる。神経が高ぶっているのだろう。

「そりゃあ心配ですよ、娘ですものね。でも、私が東京にいても
 あの子の為にしてやれることなんて何もないでしょう。」
93 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時13分24秒
矢口は苦虫を噛みつぶしたような表情になった。
おばさんはきっと何か知っている、と直感が悟っていた。
しかし、きっと今の状況では何も教えてもらえないであろう事も同時に悟っていた。

「遠かったでしょう、何もないけれどお茶でも飲んでいく?」

場を取り繕う形で安倍の母が話しかけた。
しかしその言葉にも矢口はうつむいたまま

「いえ、この後仕事がありますから。」

と、つんけんとした態度で答えるだけだった。

じゃあまたいらしてね、という安倍の母の言葉に軽く会釈し、家を離れた。
タクシーは返してしまったため、帰りの交通手段が無かった。
94 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時13分58秒
まだ時間はあるみたいだし、歩いて駅まで帰ろう。
そうだ、ちょっと散歩でもしながら帰ったらちょうどいい時間だろう。

そう思ったその時、矢口の頭に冷たい水滴が落ちてきた。
最初小さかったその雨粒は、徐々に大きいものへ変わり、
一気に大きな夕立へと変わっていった。

「うっそ〜、マジかよ〜!」

矢口は再び安倍の家へと足を向けていた。
大きな荷物は空港でスタッフに預けたために手荷物しか持っていなかったので、
安倍の家で傘を借りるか、雨があがるまで上がらせてもらおうと思ったのだった。
本心の許すところではないがこの状況では文句は言えない。
95 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時14分28秒
角を曲がり、安倍の家が見えた。
散歩して遠回りして帰ろうとしたため、結局は家の周りを一周した格好になる。
こんなことなら意地張らずにお邪魔させてもらえばよかったかな。

よーし、あともう三十メートル。
ダッシュを利かせようとしたその瞬間、矢口の足が止まった。

そこでは、ここ二ヶ月間片時も忘れることの無かった安倍なつみが
傘を差して矢口が先程帰っていった方向を心配そうに見つめていた。

               第十一部「驟雨」 〜完〜
96 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)22時16分48秒
久々にレスがついたので更新です(ぉぃ
もうすぐ100レスですね、結構早かったなぁ・・・

実は後半部分が書けてないんですけど
応援ある限り絶対に完結させますのでよろしくです。
97 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月27日(月)23時16分46秒
なっちが・・・。
ドキドキの展開が面白いです。
98 名前: 投稿日:2003年01月27日(月)23時27分35秒
う〜ん、本当ならすぐにでも更新したいんですが
第十四部までしか文章チェックが済んでいないので
今日はここまでにしておきます。
大学の課題を考えるとここで一気に更新すると
次の更新まで日が開いてしまうことになるので・・・。

後編はほとんどなちまりになってしまいますが
(そして展開も恐ろしく速いですが)
この後をお楽しみにしていたください。

あぁ、これで100まであと二つ(笑)
99 名前: 投稿日:2003年01月28日(火)16時37分13秒
いやいや、またこっちの都合も考えず勝手な配置変えを(何
しかも漢字使ってるしなぁ、ひらがなかぁ・・・。

まぁ現実からは既に遠いところへ行っているので
気にせずに読んでください、ホントに。
100 名前:名無し 投稿日:2003年01月28日(火)23時22分49秒
まあ、リアル物書いてると
こういう事もありますよ
ストーリー的に面白いので、これにめげずにがんばってください
101 名前: 投稿日:2003年01月29日(水)11時58分41秒
第十二部「別離」

夕立が二人に降りしきる中、矢口は一歩ずつ、安倍に歩み寄った。
存在を確かめるように、一歩ずつ、確実に。

その存在に近づくに連れ、涙が溢れて視界がぼやけた。
そして、安倍がゆっくりとこちらを振り返り、矢口を見つけた。

驚き、何とも言えないような表情を浮かべる安倍。
その安倍の胸に、矢口は飛び込んだ。
涙で、声が出ない。ただ泣き声と雨音だけがその場を支配していた。



とりあえず、安倍はずぶ濡れだった矢口を家に招き入れ、服を着替えさせる事にした。
この季節特有の夕立は既にあがっていて、夏の日差しが窓から部屋にさしこんでいた。
シャワーを浴びて、髪を乾かしている矢口に、安倍がココアを差し出した。
102 名前: 投稿日:2003年01月29日(水)11時59分11秒
「カゼひいたらいけないから。」

差し出されたココアを受け取ると、矢口は息でそれを冷まし、口をつけた。
温かく、甘いココアが体の中にじんわりと染みこんでいった。

矢口も、安倍も、一言も言葉を交わさなかった。
そのまま時間だけが過ぎていった。

「外・・・出ようか。」

たまりかねた安倍がようやく口を開いた。
二人は家を出て、家から少し離れた高台にある神社にやってきた。
人はおらず、日差しが木立の間からキラキラとまぶしい光を放っている。

「ねぇ、どうして?」

矢口は安倍に会ってから初めて言葉を発した。
僅か一言であったが、その言葉には今までの二ヶ月間の全てが凝縮されていた。
103 名前: 投稿日:2003年01月29日(水)11時59分42秒
「家族で私達を騙して、矢口達がどれだけ心配したか分かってる?
 みんな、ずっと心配してたんだから!」

涙声で矢口が叫んだ。が、それに対する安倍の返事はつれないものだった。

「知らないわよ、そんな事。なっちには・・・関係ない。」

矢口が信じられない、と言った表情で安倍を見つめる。
安倍は、冷たい表情のまま続けた。

「なっちが娘。を辞めた理由はね、もう娘。に嫌気がさしたの。
 もう娘。なんてなくなればいい、そう思ったからあんな事したのよ。」

安倍は相変わらず冷たい目で矢口を見ていた。
矢口は、怒りと悲しみで、もう何を言っていいのか分からなかった。
104 名前: 投稿日:2003年01月29日(水)12時00分12秒
目の前の少女は本当に安倍なつみなのだろうか、とさえ思った。
かつて同じ夢を見て、同じ時を過ごした安倍は、
決して目の前にいるような少女ではなかった。

そんな矢口に追い打ちをかけるようにして、
安倍は最後通告とも思える決定的な一言を告げた。

「もう、みんなキライ。モーニング娘。も矢口も、みんな大っキライ!
 お願いだからもう帰って、なっちの事なんてほっといて!」

もう、何も言わなかった。何も言えなかった。

「ゴメン、帰るね・・・。」

矢口は溢れる涙をこらえそれだけ言うと、境内から走り去った。
水たまりに足を踏み入れ、さきほど借りた服に水がはねたが構わず走った。
105 名前: 投稿日:2003年01月29日(水)12時00分44秒
なっち・・・どうしてそんな事言うんだよ。

先程の言葉が矢口の頭でリピートする。
安倍の言った一言一言が矢口の心に深く突き刺さった。

分かった、みんながそうだったように、なっちも娘。を離れていくんだね。
でも、もうちょっと違う風にできなかったのかな?
誰にも何も言ってくれないなんて、そんなの寂しすぎるよ・・・

なっちのバカ・・・

境内の階段を急いで駆け下りる。
しかし、履き慣れていない靴が災いしたのか、
先程の夕立で濡れた階段と茂るコケに足を取られた。
106 名前: 投稿日:2003年01月29日(水)12時01分16秒
わっ、という悲鳴と共に階段を二、三段滑り落ちた。
階段で腰を打って、服がまたびしょ濡れになった。

「うわぁ、サイアク・・・。」

涙がまた溢れてきた。
でも、今日はとことんミジメになりたかった。
自分が世界で一番情けない人でありたかった。

階段を見上げると、顔をしかめる安倍が矢口の方をすっと見据えていた。


               第十二部「別離」 〜完〜
107 名前: 投稿日:2003年01月29日(水)12時02分57秒
誰かが100レスするまで待っていたワケでは・・・(^^;
いや、実際のところ待ってました(笑)

さて、後編突入でいきなりの修羅場です。
この後一体どうなるんでしょうか、どうするつもりなんでしょう、作者(−−;
108 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月29日(水)20時43分05秒
どうしてなんだー。
なっち、訳を言ってくれ!!
109 名前:30 投稿日:2003年01月30日(木)15時40分31秒
しばらくお邪魔しない間に、大量更新されてたのですね。
お疲れ様でした。
それぞれのメンバー達の想い、読んでてせつないです・・
言葉は悪いですがリアルな印象があります。
特に田中や辻・加護のくだりが・・
自分も「・・だべ」「・・れす」は使わなくていいんじゃないかと
思います。

市井の言葉から深い読みをした矢口、さすがですね。
何故安倍がこうも頑なになったのか・・
この先を楽しみにしています。
110 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時18分01秒
第十三部「告白」

階段から滑り落ちたとき、足をひねったのか右の足首がじんじんしていた。
しかし、その痛みよりも、階段から見下ろす安部の視線が痛かった。

どうしてそんな目で見つめるの?

安倍は矢口を哀れむような目で立っていた。
しかし、それは後々考えると苦悶の表情だったのだろう。

矢口はふと気が付いたように時計に目をやった。
時間は三時四十五分、すぐに札幌へ向かわないと仕事に間に合わないかもしれない。
111 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時18分41秒
服ビショビショだよ、チクショー。
でも仕方ない、大急ぎでタクシーでも拾うか。

そう思い、再び石段の上を見やった。
しかしそこに既に安部の姿はなく、木漏れ日がゆらゆらと風に揺れているだけだった。

右足をかばいながら立ち上がる。
痛みはそれほどでもなく、どうやらくじいてはいないようだ。

と、その時矢口の足元で鈴の音がチリン、と鳴った。
足元を見ると、それは前に矢口が安倍の誕生日に
プレゼントしたストラップに付いていた鈴が転がっていた。


もしや_________イヤな予感がした。
112 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時19分12秒


痛む足をかばう余裕もなく、矢口は大急ぎで後戻りしていた。
途中でもう一度すべり、膝を階段にぶつけたが気にせずに一気に石段を駆け上がった。

「なっち!!」

石段を上りきった矢口が見たもの、それは石の通路にうつぶせに倒れている安倍なつみであった。
目を閉じ、苦しそうに呼吸をしている。顔は青ざめており、血色が悪い。

「なっち、ねぇなっちってば!」

矢口の呼びかけにも薄く目を開き、わずかにうなずくだけである。
113 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時19分45秒
そうだ、救急車だ____矢口の手が携帯へのびる、しかしその手を、安倍がつかんだ。

「いいの、しばらくこのままでいさせて。」

しかしどう見ても安倍の症状はこのままでいいとは思えなかった。
やはり救急車を呼ばなければ・・・そう思ったその時、後ろから声がかかった。

「なつみ!」

その声の主は安倍の母だった。駆け寄ると、安倍の体を起こし楽な姿勢にした。
安倍はしばらくすると、荒い呼吸も静まり、少し落ち着いてきた。

「おばさん、これは・・・?」

その光景を、傍から見ているだけだった矢口はたまらず口を開いた。
114 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時20分15秒
「そうね、矢口さんには話しておかないといけないわね。
 ちょっと、手を貸してくれるかしら?
 とりあえず家に戻りましょう。話の続きはそこで、ね?」

矢口は言われるがままに安倍の肩を担いだ。


とても___とても軽かった。

どうして気が付かなかったんだろう

こんな、細い体になっているなんて今の今まで気づかなかった


三人が少しずつ、ゆっくりと石段を降りると、下には車椅子が停めてあった。
115 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時20分46秒
安倍を車椅子に乗せ、上から毛布を被せる。

それから三人でゆっくりと雨上がりの風が吹く中を家へ戻った。
風は少し土の匂いがして、心地よかった。

家に帰るまでに、楽になったのか安倍は自分で立ちがると部屋の奥へと帰っていった。
奥の部屋のソファーに座り込むと、また目を閉じた。

「なっち・・・大丈夫?」

大丈夫でないことは誰の目に見ても明らかだった。
しかし、他にどう聞いていいかも分からずそう訪ねた。
116 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時21分18秒
「何から話せばいいかしらね・・・」

と安倍の母がやや戸惑い気味に話し出したが、その言葉を安倍が遮った。

「いいよ、なっちが自分で話す。」

もうずいぶん楽になったのか、先ほどまでの状況がなければ
本当に元気なように映る。

「なっちがね、モーニング娘。を辞めた本当の理由、
 本当は娘。を嫌いになったわけじゃない。
 矢口のことも、みんなのことも大好きだから、好きだから、言えなかった。」

途切れ途切れに言葉を漏らす、目からは涙がこぼれていた。
117 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時21分57秒
「みんなに迷惑かけたくなかったから、みんなを心配させたくなかったから、
 だから言えなかった・・・。」

「分かってる、分かってるから・・・。」

矢口もいつしか涙を流していた、しばしの間、二人の間に沈黙が流れた。
そして、安倍が口を開いた。

「なっちね・・・ガンなの。もう助からないんだって。」


               第十二部「告白」 〜完〜
118 名前: 投稿日:2003年01月31日(金)00時24分13秒
いやはや、こんな展開になろうとは
作者も最初は予測してなかったような(汗

そうですねぇ、田中編と辻加護編は個人的にも
結構お気に入りの部分ですね。

壁にぶち当たることで成長した田中、
ケンカして思いのたけをぶちまけて成長した辻加護、
今後の出番はあまりないんですが期待大ですね(謎
119 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月01日(土)00時31分33秒
そんな事情があったんですね。びっくりです。
これから、みんなとなっちがどうなっていくのか楽しみです。
120 名前: 投稿日:2003年02月02日(日)09時48分22秒
えーと、しばらく更新してませんが、
今日中に完結させるため一気に執筆中です。
なので、お待ちいただいている方はもうしばらくお待ちください。
121 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月02日(日)20時58分12秒
お待ちしております。
なっちがどうなっていくのかとても心配です。
122 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時42分55秒
第十三部「病魔」

矢口は安倍の言ったことがすぐに受け入れられなかった。
その後もいろいろと安倍は病気について話した。

自分のガンが甲状腺ガン、とりわけその中の未分化性と呼ばれるもので
進行が早く、発見したときには既に手遅れであったこと。
そのため病院での治療よりも、故郷の室蘭で余生を過ごしたいという安倍の希望で
自宅ターミナルケア(病院で延命措置をせず、余生を過ごさせる方法)を受けていること。

「バカだよ・・・バカ。」

安倍が全てを言い終わると矢口は呟いた。
目には涙が溢れ、大きな瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
123 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時43分33秒
あまりにも突然すぎて、まるで自分が映画の登場人物になったように
全てがリアルじゃなかった。


だって、だってあんなに元気だったのに。

心配させたくない、その一心で一人で悩み、苦しんで


突然、安倍の母が泣き出した。
どうしてこの子だけ、と泣きじゃくりながら、床に倒れていった。

はっとしたように矢口が時計を見やる。
時計の針は四時半を既に回っていた。

いけない、七時までに戻らないと!
124 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時44分23秒
矢口がはっと立ち上がった。しかし、今のままで安倍を置いていていいのだろうか、
しかし安倍はそんな矢口の心中を察したのか、

「行ってもいいよ、仕事なんでしょ?
 なっちはもうどこにも行かないから、安心していっといで。」

と微笑みかけた。涙でくしゃくしゃの顔で、笑顔を作っていた。
その顔を見たとき、とても胸が痛くなった。

「また来るから、絶対に、また来るから!」

そう言うが早いか、矢口はカバンをひっつかむとバタバタと家を出ていった。
125 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時44分54秒


結局、札幌のホテルに着いたのは七時を少し過ぎたぐらいだったので
お咎めは無かったものの、服や髪を整えるのに時間がかかり、
その日の収録が終わり、ホテルの部屋に帰れた時は十一時を回っていた。

次の日は朝八時にロビー集合、今日昼に取る予定だった部分を収録し、
正午の飛行機で東京へと帰らなければならない。
こちらでの収録はそれが最後で、次に来る時は本番当日である。

なっちに会いたい。久々の対面でその気持ちは更に大きくなっていた。


126 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時45分38秒
矢口は荷物をまとめるとスタッフに気づかれぬよう部屋を抜け出した。
ホテルの前でタクシーを拾い、再び室蘭へと向かった。

途中、安倍の実家に電話して今から向かうことを告げた。
さすがに驚きを隠せないようであったが、快く迎え入れてくれた。

既に深夜の二時を回っていた。
迷惑なのは分かっていた、でも矢口には時間がなかった。

安倍は部屋の奥のベッドで寝息を立てていたが、矢口が部屋に入ると
すぐに目を開け、体を起こした。
127 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時46分19秒
会えなかった時間が、満たされていくのを感じた。
たわいのない会話で、安倍の両親も一緒に、夜中語り通した。

そのうちに、安倍が少し気分が悪くなったと言ったのでベッドに寝かせた。
やはり無理をしていたのか少し苦痛にゆがんだ表情で寝息を立て始めた。
安倍の両親と矢口は今自分たちがいる寝室から隣の居間へと移動した。

「それで、悪いんですか?」

矢口が安倍の前ではどうしても聞けなかったことを聞いた。
安倍に聞いて、残された期間を想像するのがイヤだった。

「お医者さんの話だと、あと三ヶ月持つかどうかって・・・。
 昨日も、朝はものすごく体調が悪くてね、
 それでも矢口さんが来たって言ったらベッドから跳ね起きて玄関まで出ていってね。
 家の外に出たのもこっちに帰ってきてから初めてのことだったのよ。」
128 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時46分50秒
安倍の母がしみじみと話す。
矢口はその言葉を、自分に言い聞かせるようにして頷いた。

「難しいかもしれないけど、これからも何度か来てやってくれないかな?
 君が来ると、あの子が元気になるような気がしてね。
 もちろん他の人に見つからないように、と言うことになるけども。」

安倍の父も、久々に娘の元気な姿を見たせいか、矢口に懇願した。
その問にも、分かりました、とただ頷くだけだった。

そうこうしているうちに札幌に戻る時間になり、矢口はタクシーを家に呼んだ。
家を出る前、もう一度安倍の部屋へ足を踏み入れた。
安倍は、相変わらず静かな寝息を立てていたが、先程寝かせたときよりは
少し体調が良くなっているようだった。
129 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時47分29秒
矢口は安倍の手を取り、また来るから、とささやいて安倍の手をぎゅっと握った。
安倍の手が、矢口の手を握り返したような気がした。

タクシーに乗り込むと、矢口はすぐに眠りこけてしまった。
夢の中で安倍が、頑張れ、と矢口に微笑みかけていた。


               第十三部「病魔」 〜完〜
130 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時48分00秒
第十四部「葛藤」

矢口は札幌での収録はどうにか間に合わせることができ、
その日の昼の便で東京へ帰った。

ほとんど寝ていない為か、それともいろんな事がありすぎたからか、
飛行機でも、そして空港からの移動中もずっと眠りこけていた。

昼からは24時間テレビの場当たり(シーン別リハーサル)が控えており
それぞれバラバラだったモーニング娘。が久々に全員集合した。
楽屋で出番を待っているとき、矢口はずっと葛藤の中にあった。
安倍の真相、自分以外誰も知らない安倍の秘密。
話しておくべきなのか、黙っておくべきなのか。
131 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時48分36秒
もちろん自分がそうであったように、安倍の事が知りたいのはみな同じだろう。
でも、それは安倍が望んでいることではない。
今ここで言ってしまえば、今後の仕事に多大な影響を与えるだろう。

心配させたくないから

安倍の言葉が脳裏によみがえってきた。
やはり、今言うべき事ではない。矢口は決心した。



その日の夜のことだった。
あまりのハードスケジュールに家で寝ていた矢口だったが
携帯電話の音で現実へと引き戻された。
132 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時49分32秒
「はい、もしもしぃ?」

寝ぼけ眼をこすって電話に出る。
ったく、こんな時間に電話なんかしてくるなよー、と心の中で呟いた。

「寝ぼけてるんじゃない、やぐち聞いてるの?」

電話の向こう側、市井はそんな矢口の心情を
見透かしたように小さくため息をついて言った。

「何だよぉ、明日じゃダメなのかよぉ。」

眠さのためか、少し甘えたような言葉遣いになる。
しかし、市井は明日を待つなど悠長なことをしている場合では無かった。
133 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時50分04秒
「矢口、今日北海道行ってたんだよね?なっちの家・・・行ったんでしょ。」

もうバレてるのか、そういう情報だけはいっぱい仕入れるんだなぁ紗耶香も。

「うん、行ったよ。でもなっちはいなかったし、
 おばさんも何も知らないみたいだったよ。」

矢口は頭をぽりぽりとかきながら答えた。
事実は、自分の胸の内にとどめておいた方がいい、みんなの為には。

「そう・・・ゴメンね、こんな時間に電話して。」

矢口は電話ごしでも市井の声に元気がなくなっているのが分かった。
その瞬間、矢口の決心が鈍った。
134 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時50分35秒
「あ、紗耶香?」

思わず、呼び止めていた。話したい、そうすれば楽になれる。
しかしそれじゃダメなんだ、と何とか自分に言い聞かせた。

「何?どうかした?」

携帯の向こう側から聞こえた市井の声に気が付き、慌てて返事をする。

「あっ、ううん。何でもない、おやすみ。」

電話が終わった後も、矢口は妙に目が冴えてなかなか眠ることが出来なかった。
135 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時51分07秒
なっちの事、話しても、話さなくても、
誰かを傷つけ、誰かを裏切ることになる。

苦しくて、切なくて、でも誰にも相談できなくて、また涙が溢れてきた。

今まで安倍や他のメンバーと過ごした年月がフラッシュバックしてきた。

オーディションのこと、合格を告げられたときのこと、
モーニング娘。のメンバーと合流したこと、
いっぱい怒られて、涙も流して、精一杯頑張って、
そうやって、今までずっと歩んできた。
136 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時51分42秒
いつも側には、なっちがいたね・・・

そんななっちが、後三ヶ月の命しか残されていない、
それなのに、なっちに何もしてやれないままでいいのだろうか?

もし自分が他のメンバーなら何も言われないまま
なっちがいなくなってから本当の事を教えられてどんな気持ちになるだろう?

そう考えると、胸が痛くてたまらなかった。

               第十四部「葛藤」 〜完〜
137 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時52分19秒
第十五部「境遇」

七月に入り年少組が学校の夏休みに入ると、
モーニング娘。の活動は日に日に忙しさを増していった。
当然、まとまった時間が取れるはずもなく、
矢口は安倍と電話越しに話をする日々が続いていた。

安倍は矢口が会いに行ってからというものの、
体調はいいようで、気が付けば朝まで話し込むと言うこともしばしばだった。
しかしそうする間にも、矢口は他のメンバーとの間に
自ら線を引いてしまっているような気がして後ろめたさを感じていた。

でも今の矢口にとっては、近くのメンバーよりも遠くの安倍が心底大事に思えた。
会えない時間が、より強く二人を結びつけていた。
138 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時52分58秒


その日の矢口は朝からハイテンションだった。
執拗にメンバーに抱きついたり、奇声を発したりしていた。

「矢口どうしたの?何か悪いものでも食べた?」

飯田が冗談めかして言うが、そんな事もまるで聞いていない様子で、

「カオリ〜、もうチューしてやるぅ。」

と、飯田にキスを迫る。飯田は恐れをなしたか、その場を離れていった。
もちろん、意味もなくハイテンションなわけではない。

今モーニング娘。らハロープロジェクトのメンバーで全国ツアー中であり、
今日の午後の便で北海道へ向かい、翌日に昼と夜の二部公演を行う予定なのだ。
139 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時53分31秒
そう、前回の24時間テレビの事前VTR撮影の時から久々に安倍に会えるのだ。
これでテンションが高くならないはずがない。

「おぉ、まこっちゅわ〜ん。カワイイなぁ君はぁ、好きだぞぉ。」

飯田が去ったので一番近くにいた小川真琴に後ろから近づき、抱きしめる。

「ちょっ、矢口さん?やめてくださいよ、どうしたんですか?」

小川が驚き、矢口の腕をふりほどく。
そんなメンバー達の反応を楽しむかのように矢口は次々とメンバーに抱きついていった。
140 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時54分05秒


その日の午後、モーニング娘。のメンバーは各々の仕事先から北海道入りした。
札幌のホテルに着いて(飯田と同じ部屋だ)部屋でしばらく休んだ後、
矢口は身支度をすませると、ドアの方へと向かった。

「矢口?どこ行くの?」

テレビを見ていた飯田が呼び止める。
今日は当たり前の事ながら自由行動が許されていない。

「うん、ちょっと出てくる。スタッフの誰かに聞いてお許しが出たら、だけど。」

もちろんこれは嘘だ。今から室蘭へ行って来る、だなんて言ったら
止められるに決まっている、ヘタをすれば説教をくらうかもしれない。
141 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時54分39秒
今晩には明日のコンサートの打ち合わせがある。
その時間までには戻るから、と飯田に告げ、矢口はホテルを後にした。


タクシーで三時間、安倍の家に着いたとき、日は既に傾きかけていた。
安倍は自分で家のドアを開いて矢口を出迎えて、
安倍のベッドが置いてある部屋の隣にある居間に招き入れられた。

「ほーい、ジュースですよ〜。」

安倍がグラスにオレンジジュースを入れてよたよたと歩いてきた。
氷がグラスにあたってカラカラと音を立てていた。
142 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時55分13秒
元気みたいだね、と言うと、最近体調いいんだ、と安倍はうなずいた。
しかし、外に出ていないためか安倍の肌は白く、また前よりも少し痩せ細って見えた。
それは、刻一刻と安倍の命が削られていっているように見えた。

楽しい時間は早く過ぎるもので、世間話をしているとあっという間に
矢口が帰らないといけない時間になった。
きれいな夕焼けが、世界を真っ赤にに染めていた。

「じゃあそろそろ帰らないと・・・。」

矢口が残っていたジュースをすすり、立ち上がった。
先程電話したタクシーが家の外に停まっているのだろう、
低いエンジンの音が聞こえていた。
143 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時55分48秒
「じゃあ・・・またね。」

部屋の扉に手を掛けた瞬間、ソファーに座っていた安倍が立ち上がった。

「行かないで!」

矢口の腕を捕まえ、叫んだ。大粒の涙が大きな瞳からこぼれていた。
安倍が立ち上がった拍子に机の上のコップが倒れ、
溶けた氷で薄まったジュースが机にこぼれて、夕焼け空と同じ色が広がっていた。


               第十五部「境遇」 〜完〜
144 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時56分20秒
第十六部「団結」

安倍はいきなり泣き出した。まるで子供みたいに、声を上げて。
矢口は何が起こったか分からず、混乱していた。

「またっていつ?今度いつ会えるの?なっちが死んだとき?
 日に日に体力もなくなって、腕だってこんなに細くなって、
 そうやってボロボロになってなっちは死んでいくんだよ?
 死にたくない、死にたく・・・ないよ。」

顔をくしゃくしゃにする安倍。
矢口との別れが、常々感じていた死への恐怖を増幅させたようだ。
矢口は何も言えず、ただ安倍を抱きしめるだけだった。


しばらくの後、何とか安倍を落ち着かせた。
145 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時56分50秒
矢口は安倍の涙を拭くと、自分に言い聞かせるようにして言った。

「大丈夫、大丈夫だから。ね?」

「最初はね・・・首のまわりが腫れて、ちょっと痛みがあったの。
 けどツアー中だったし、痛みもそれ程でもなかったから我慢してた。
 でも、全然治らなくて、眠れなくて、病院に行ったの・・・」

鼻をすすり、安倍は今までの経緯を話し始めた。その話を、矢口は黙って聞いていた。

「会いたい、みんなに、会って、昔みたいに、笑いたい・・・。」

途切れ途切れにそれだけ言うと、安倍はまた矢口の胸で泣きだした。
146 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時57分25秒
矢口は安倍を抱きしめながら頭をポンポン、と叩いた。
ふと、自分も泣いていることに気が付いた。

「分かった、みんなで来るから、また絶対に来るから。
 絶対に死なないで、もう死ぬなんて言わないで。
 なっちがいなくなるなんてイヤだよ・・・。」


外で車のクラクションがした。タクシーの運転手が待っているのだろう。

「ゴメン、時間大丈夫?」

安倍が真っ赤になった目をこすりながら心配そうに言った。
ギリ間に合いそう、と言うと安倍の見送られながら矢口はタクシーに飛び乗った。
147 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時57分58秒
安倍はタクシーが走り去った後もずっとその方向を見送っていた。



その日の深夜、翌日のコンサートの打ち合わせの後、
矢口はメンバーをスタッフに気付かれぬよう部屋に呼び集めた。

そして、安倍が今、実家で静養していること。
残された時間がもう少ないということを告げた。

今まで、数々の苦難を乗り越えてきたモーニング娘。とはいえ、
このいきなりの宣告はあまりにも衝撃的過ぎた。
148 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時58分30秒
そのことを聞かされたとき、メンバーたちは矢口がずっとそのことを黙っていたことや、
安倍が何も告げずに一人で全ての行動を決めてしまったことなどに対する怒りの気持ちもあったが、
それよりも安倍が、矢口が悩み、苦しんでいたことを考えると胸が詰まって何も言えなかった。

それから、メンバー達は個々にまとまった時間があれば安部を見舞おうと決めた。
そしてこの夏で一番の大仕事となる24時間テレビで、一致団結して、
病床の安倍に愛と勇気を与えようと決めた。

十四人の思いが一つになった瞬間だった。



同日深夜、矢口は保田と市井に電話をした。
二人とも矢口が黙って行動していたことや、嘘をついていたことを咎めようとはしなかった。
ただ、電話の向こうでくぐもった涙声を出すだけだった。
149 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時59分02秒
矢口は自分たちはモーニング娘。の仕事でスケジュールがいっぱいだけど、
市井と保田なら仕事の暇をぬって安倍を見舞うことができると考えていた。

しかし、今二人は秋に出すアルバムのレコーディング中で、
今はその作業から抜け出すことができないため、
安倍を見舞えるのはそのレコーディングが終わってからだと告げた。

二人も、仕事の成果を出すことで、安倍を元気付けたいと語った。



翌日の朝、ホテルの部屋から出てくるメンバー達は、
みな一様に目を赤く泣き腫らしていたが、表情は明るかった。
自分で思い、悩み考えた結果がそれぞれあったようだ。
150 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)03時59分40秒
コンサート会場、いつものように開始前に全員で円陣を組む。
今までは開けられていた安倍のスペースがこの日初めてメンバーで埋まった。

「よーし、それじゃあ今日も最高のステージにしましょう、
 いくよー、がんばっていきまっ・・・」

「しょーい!!」

飯田の掛け声のもと、いつものように声出しが行われた。

「なっちにも届いたかな?」

飯田が舞台袖へ移動するときにポツリと言った。

「届いてるよ、きっと。」

矢口は飯田に微笑みかけて、答えた。


               第十六部「団結」 〜完〜
151 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時00分10秒
第十七部「勇気」

あっという間にその日はやってきた。
今日からいよいよこの夏の大一番、24時間テレビの放送である。
本番三十分前、衣装に着替えたメンバーたちがいる控え室に
携帯電話の着信音が鳴り響いた。

「なっち?元気?やぐちは元気だよ、人の心配なんてしてる場合じゃないでしょ。」

矢口の声にメンバー全員が反応する。
みな自分の作業をやめ、矢口の周りに集まってきた。

「ん、そうだよ。今日はなっちにウチらの元気を届けるから。
 え?オッケー、ちょっと待ってね。」
152 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時00分43秒
矢口は話をやめると右手の人差し指を口に当て、静かにするように促すと
携帯電話を耳から離してメンバーのほうへ向けた。

「みんな、頑張ってね!なっちも室蘭から応援してるよ!!」

小さいけれど、安倍の声はメンバー全員の耳に届いた。
元気を与えるはずが、本番前に元気をもらう形になってしまった。

「うん、みんな聞こえたってサ。それじゃあそろそろ本番だから切るね。」

そう言うと矢口はボタンを押し、電話を切った。
メンバー達は顔を見合わせて微笑んでいた。
153 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時01分14秒
「すいませーん、そろそろスタンバイお願いしまーす。」

控え室の外からADの声がした。
14人の少女たちは、いつものように声出しをし、控え室を出た。
それぞれがいつも以上に気合が入っていたことをスタッフたちは知る由も無かった。


今年の24時間テレビ、テーマは"身近な愛を感じよう"。
内容はパーソナリティーが全国に散って、いろいろなチャレンジを現地から応援するというもの。

モーニング娘。のメンバーも今晩は武道館でステージをこなした後、
全国へ移動して北は矢口の北海道から南は辻と加護の沖縄まで
様々なチャレンジを応援する予定である。
154 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時02分01秒
生放送は順調に進み、モーニング娘。のライブ、スペシャルドラマと
観客と一体となったステージを展開していった。

そして、その日の出演は終了し、わずかな休息に入った。
この後様々な移動手段で全国へとメンバーは散っていく。
東京での笑顔の再会を誓い合って、メンバーは移動車へと乗り込んだ。



あくる日の北海道は強い風が吹いていた。
矢口がチャレンジを応援するのは事前にもVTRを作成した下半身不随の男性の遠泳。
予定では午前に函館をスタートし、函館湾を横断するはずであったが、
海はもとより湾内も波が高いためスタートが見送られることになった。
155 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時02分33秒
結局、昼過ぎになってようやく波が落ち着きスタートできたものの、
船で付き添って応援していたため、無事ゴールできたときには既に夕方になっており
放送時間内に武道館に戻ることが困難と判断された。

そのため、矢口や他にも悪天候の影響を受けたメンバーは現地に残って
番組終了を迎えるよう指示が出た。

そして番組終了、予期せぬハプニングもあったものの、番組は大成功を収め、
メンバー達もライブやミュージカルが終わったときと同じような
高揚感と達成感で胸がいっぱいだった。



放送終了後、現地ではスタッフ達による軽い打ち上げのようなものが行われていた。
156 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時03分05秒
モーニング娘。のメンバーは毎年24時間テレビの翌日は完全オフとなっている。
今年ももちろんそれは同じだ、矢口はマネージャーに確認を取るとタクシーに飛び乗った。

もちろん、安倍に会うためだ。
本来なら来月のモーニング娘。のコンサートまで会う予定は無かったのだが
遠泳のスタートが遅れたために東京に帰れなかった事が嬉しい誤算を生んだ。

そうだ、どうせならイキナリ行ってなっちをビックリさせてやろう。
連絡を取ろうと開いた携帯電話を再び閉じた。
きっと驚いて、その後笑顔で話しかけるんだ。"いきなり来たらビックリするべさー"って。
157 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時03分36秒
矢口は安倍と会ったときの事を想像して一人でくすくす笑った。
タクシーの運転手にどうかしましたか?と聞かれて慌てて、何もないです、と我に返った。

矢口は窓の外に視線を移した。
東京と比べて格段に空気が澄んでいるせいか、満天の星空が視界いっぱいに広がっていた。
その星空を見ていたら、矢口の脳裏にある光景が蘇ってきた。

モーニング娘。の"ふるさと"のプロモーションビデオの撮影に美瑛に行った時のことだ。
あの時も広い平原の真ん中で、星空のドームの美しさに感動したものだった。

そんな事を思い返していると、スーっと矢口の眼前を、白い一筋の光が通った。

「あっ、流れ星!」
158 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時04分13秒
思わず叫んだ。タクシーの運転手がお客さんも運がいいですよ、と笑っていた。
矢口はまぶたを閉じてもなお一層強く光を放つ流れ星に願いを込めた。

どうか、なっちが一日でも長く生きれますように。

タクシーが車の通らないまっすぐな道を進んでいった。
テールランプが流れ星のように尾を引いていた。

どこまでも、まっすぐに。

               第十七部「勇気」 〜完〜
159 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時04分45秒
第十八部「流星」

「お客さん、ここからどう行けばいいんですか?」

運転手のその声に矢口は目を覚ました。
どうやら仕事の疲れがどっと押し寄せたのかいつの間にか眠りこけてしまったらしい。
起こされたのはタクシーに乗り込んだときに室蘭駅まで、と言ったためだ。

「えーと、とりあえず鷲別のほうまでお願いします。」

そう言うとまたぼーっと外の景色を眺めだした。
先ほどまでと違い街のイルミネーションがキラキラと都会の美しさを感じさせた。

程なくして、安倍の家の近くまでタクシーはやってきた。
160 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時05分20秒
車で近づくと来たってバレちゃうな・・・

そう考えて、安倍の家の少し手前でタクシーを降りると忍び足で安倍の家に近づいた。
安倍の家の前に一台の車が停まっており、そこから家を覗き込んだ。
中の様子までは伺えなかったが中には人がいるらしく、電気がついていた。

よーし、なっちどんな顔するかな。

いたずらに誰かがひっかかるのを待つようなワクワクした気持ちで矢口は呼び鈴を押した。
しばらくの後、安倍の母がドアを開いた。

「矢口さん・・・。」

それだけ言うと安倍の母はドアに支えられるようにして泣き崩れた。
中から白衣を着た看護婦が出てきて安倍の母を起こしている。
161 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時05分51秒
まさか・・・そう思うが早いか矢口は弾かれたように安倍の家へ駆け込んだ。
居間の横、病気になってから安倍が寝起きしていたベッドのある奥の部屋に入る。

その瞬間、矢口は自分の力が全身から抜けていくのを感じた。
持っていた携帯がフローリングの床の上で跳ねた。

そこで見た光景、それは安倍なつみの「死」そのものであった。
ベッドの上で横たわり、顔に布がかけられている。
側には医者と看護婦が付き添っており、道具を片付けている最中らしかった。
162 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時06分23秒


嘘だ・・・昨日だってあんなに元気に電話してきたじゃんか。

そうだ、これはきっと嘘なんだ。

やぐちが泣き崩れたらきっとなっちは顔の上の布を取って笑うんだ

"やーい、やぐち引っかかったぁ"って

ねぇ、早く起きてよ、やぐちそんな嘘に騙されないんだから

変な冗談はやめて、目を開けて、お願いだから・・・


いつの間にか、矢口は安倍の体をゆすっていた。
"なっち起きてよ、ねぇ起きて"と叫びながら。
そんな矢口の願いも届かず、安倍はただ静かに眠っていた。
163 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時06分55秒
その振動で、安倍の顔の上にかかっていた布がはらりと落ちた。
その顔は苦しんだ様子もなく、とても安らかで、
そう、まるで天使のようにうっすらと笑みを浮かべていた。

「今日の午後に急に体調が悪くなってね・・・
 それからついさっきに、眠るようにして・・・」

安倍の父が最期の状況を説明した。
しかしその言葉も耳に入らない、ただ涙だけがとめどなく溢れてきた。

安倍の声が、笑顔が、脳裏によぎる。
でももうあの声も、あの笑顔も、戻ってこない。
164 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時07分29秒
あと三ヶ月は大丈夫だって言ったじゃんか
ついこの前誕生日おめでとうって電話したときも
"次はなっちがおめでとう言う番だね"って言ったじゃんか
流れ星にもお願いしたのに、神様のバカ・・・

もし願い事が一つだけ叶うなら、なっちがいたあの頃に戻りたい・・・

しばらく泣き伏せた後、矢口は家の外に出た。満天の星空だった。

来る時にラジオのニュースで言っていたペルセウス座流星群だろうか、流星の雨が降っていた。
その流星が、心に突き刺さるようで、痛かった。
安倍が、空からさよならを言っているようで、痛かった。
165 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時07分59秒


安倍の訃報はその日の内にメンバー内へ伝わり、
今まで一切の情報を知らなかったUFA側やつんくにも伝えられた。

開けて翌日、安倍の自宅で通夜、さらに次の日に葬式が執り行われた。
マスコミ関係者へは葬式が終わり、一段落してから報告するとUFAの会議で決まったようだ。

外部への情報漏えいを避け、ほとんどの関係者にも知らされることが無かったため
通夜、葬式共にごくごく近しい人だけで行われた。


そしてモーニング娘。のメンバーをはじめ、関係者は安倍なつみという少女に永遠の別れを告げた。
安倍は22歳になったばかりの若さで、天国へと旅立っていった。


綺麗に晴れわたった青空も、窓から差し込む夏の暑い日差しも、
小鳥のさえずりも、丸くなっている近所の猫も、みんないつも通りだった。

ただ、そこに一人の少女がいない。

そんな夏の一日だった。

               第十八部「流星」
166 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時08分29秒
第十九部「軌跡」

安倍が亡くなって数日後、UFAから正式に記者会見が行われ、
安倍の死と、脱退の真相が明らかになった。

新聞やテレビなどの各メディアも安倍の死を大きく伝えたが、
前回の脱退騒動の時のように、その話題を折り曲げて伝えることは無かった。

そして、モーニング娘。も休むことなく毎日仕事の日々を送っていた。
メンバーも安倍の死を機に、それぞれ思うことがあったらしく、
そろぞれ一回り成長して仕事に励んでいた。


その日も矢口は深夜までスタジオで秋に出される予定の
自分のユニットの新曲のレコーディングを行っていた。
167 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時09分07秒
スタジオからタクシーで自宅へと帰る。自宅へ戻り、家のポストを開ける。
家に来た郵便物をポストから取るのは小さいころから自分の役目と決まっている。

郵便物を取り出し中身を確認する。
携帯電話の請求書や企業のダイレクトメールなどおおよそ自分に関係の無いものばかりだった。
そういえば先月携帯いっぱい使ったなぁ、などと考えながら
パラパラと封筒をめくっていると、淡いピンクの小さい封筒が落ちた。

誰だろう?疑問に思って封筒の裏を見返して目を見開いた。

そこには差出人の名前は無かったが、封筒の表に矢口真里様、
と書かれた特徴のある小さい丸字は、間違えるはずもない、安部なつみの字だった。
168 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時10分13秒
矢口は部屋に入ると、荷物をソファーに投げ出して封筒を破いた。
机の電気をつけ、封筒を開ける。中には、封筒と揃いの便箋が入っていた。
それともう一枚、安倍の母から矢口宛にメモが挟まれていた。

そのメモによると、この手紙は安倍のベッドのマットレスの下から出てきたもので、
安倍が生前に矢口に残したものだという。

矢口はそれを、一文字ずつ、ゆっくりと読んでいった。
169 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時10分44秒
〜矢口真里様〜

この手紙が届くとき、私はもうこの世にはいないでしょう。
あなたと一緒に仕事をして、笑ったり、喜んだり、
時には悲しんだりすることも、もう、できません。

もっと生きたかった。あなたと一緒に、ずっと歩いていきたかった。
でも、ごめんね。なっちちょっと疲れたみたい。

あなたはきっと、この手紙を読みながら、きっと涙を流しているんでしょう。
でも、私が言うのもなんだけれども、どうか泣かないで。

私は、ガンに侵されて、ちょっと先に、
みんなよりほんのちょっと先に、こっちの世界にさよならをします。

でも、このさよならは決して永遠の別れじゃありません。
きっとまた会えるから、いつかまた会えるから。
その時にはお茶でも飲みながら笑ってまた話しようね。

                       安倍なつみ
170 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時11分15秒
手紙を読み終えたとき、溢れる涙がこらえきれずこぼれた。
一雫、頬を伝った涙が手紙へと落ちた。

夜の帳が下りて、部屋の中は闇に包まれていた。
その中で、机の上の電気だけがぼうっと明るい光を放っていた。

暗い部屋から窓の外を見上げた。
自宅の上空は都市の空気に汚されて星はあまり見えなかったけれど、
一つだけ、その中でも煌々と光を放つ明るい星があった。

そうだよね、泣いてたらなっちも悲しくなっちゃうよね。
でも今日だけは、お願いだから泣かせてね、いいでしょ?
171 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時11分45秒
ねぇ、なっち?

なっちの姿は見えないし、声も聞こえないけど

心はいつまでも、離れることなく一緒だよ

なっちの存在は、矢口の中で、あの星のように光を失うことなく

きっといつまでも、いつまでも、光り輝いているから

だから、ずっと見守っていてね


暗い部屋の中で、手紙を抱きしめて泣いた。
机の上の写真立て、安倍と矢口が微笑んでいる写真に
夜空が反射して、明るい星が光っていた。


               第十九部「軌跡」 〜完〜

STAND BY ME
    written by 栞  〜完〜
172 名前: 投稿日:2003年02月04日(火)04時14分53秒
いやいや、相当遅くなってしまいましたがようやく更新、
そして完結へとこぎつけることができました。

当初、二十五部構成で、もうちょっと他のメンバーも出てくるように
書いていたのですが、納得がいかなくなって削りまして、
後半はとことんなちまりにしってしまいました(汗

とりあえず完結できたのはひとえに
読者の皆様からのご意見やご感想があったからだと思います。

完結に際して、次回作を書く際の参考にしたいので
お手数ではありますが気づいたことなどあれば書いていただければと思います。
それでは次回作でまたお会いしましょう。
(といいつつ後日あとがきで出てくるんですけどね)
173 名前:109 投稿日:2003年02月06日(木)15時48分11秒
完結、お疲れ様でした。
後半、十三部あたりからはひたすら食い入るように読み耽りました。
安倍と矢口との心の触れ合い・・
最後はなちまりで良かったなぁって自分は思います。
こういうギリギリの状況になった時、矢口は周りの支えになれる存在だと
思いますから・・
悲しいお話でしたが、是非後日談と言うか、特に年少メンバーの葛藤と成長の
軌跡みたいなものを読んでみたいなとちょっと感じました。
次回作も期待しております。
174 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月06日(木)20時46分03秒
完結おめでとうございます。
後半の、展開の速さにびっくりしながら読みました。
なっちと矢口とのやりとりに、正直感動しました。
また、次回作も楽しみにお待ちしております。
175 名前: 投稿日:2003年02月07日(金)00時11分35秒
>>173さん

更新中幾度にもわたるレスありがとうございました。
おかげさまで本編は終了させることができました。
後日、それぞれのエピローグを更新しようかな、と思っておりますので
あまり期待しないで待っていてください(^^;

>>174さん

>展開の速さにびっくりしながら読みました。

そうですね、自分でも驚くべき速さで展開しました(汗
実際後半で本編に関係の無い部分を結構削ってしまったので
あの展開の速さになってしまってしまいました。
次回作、並びにエピローグもよろしくお願いします。
176 名前: 投稿日:2003年02月10日(月)14時19分17秒
見てない人には関係ないのですが、ただいまエピローグ執筆中です。
おそらく更新は今晩か明日になると思います。
メンバーそれぞれのその後が少しずつですが出てきますので
もしよければ更新時にでも読んでみてください。
177 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月10日(月)22時31分39秒
エピローグがあるんですか。
みんながどうなったか興味があるので、楽しみにまってます。
178 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時26分50秒
STAND BY ME それぞれのエピローグ

じりじりと日差しが照りつけ、大きな入道雲が向こうの空を覆っている。
あちらこちらで聞こえるセミの鳴き声は遅い夏の到来を教えていた。
その日の北海道は30℃を超す記録的な猛暑となっていた。

「うひゃ〜、あっつーい!東京と変わんないじゃん!」

矢口真里が被っていた麦わら帽子を上げながら言った。
安倍の一連の出来事で最も影響を受けた彼女は、
安倍の死後もモーニング娘。を引っ張り続けメンバーの心のよりどころとなっていた。
この秋に正式にモーニング娘。を卒業し、ソロ活動を行うことが決まっており、
昔から変わらない元気のよさで活躍が期待されている。
179 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時27分23秒
「カオリも北海道でこんな暑いの初めてかもしんない。
 こら、辻、加護!あんまりウロチョロしないの。」

隣で飯田圭織がうちわをパタパタさせながら言った。
安倍の死にショックを受けた飯田は一時情緒不安定になり、活動が危ぶまれたが
メンバーの励ましもあり現在ではリーダーとして見事にまとめ役をこなしている。
またどんな事があってもモーニング娘。に所属する、と発言。
これからもメンバーの良きリーダーはリーダーであり続ける。
180 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時27分53秒
注意された辻と加護は相変わらずふざけあいながらこちらへと戻ってくる。
二人のやんちゃぶりは昔から一向に変わらない、というのが周囲の見解だが、
実はメンバー内で一番思い悩んだのはこの二人かもしれない。
しかし安倍の"楽しめ"の一言を忠実に守り続け、どんな時も明るく振舞っている。
そのことを知っているのは今は二人だけであり、そしてずっと二人だけであろう。

「あー、もう荷物重い〜、よっすぃ〜持ってぇ。」
181 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時28分27秒
石川梨華がボストンバッグを両手で持ってよたよたと歩いてくる。
いつもにも増した猫なで声に吉澤ひとみは一瞬そちらに目をやったが
あえて聞こえないフリをしてすたすたとロケバスへと向かっていった。
吉澤はメンバー内で唯一と言ってもいいぐらい新しい活動が無かった。
ユニットなど前からあった活動は行うものの、
常に変化し続けるモーニング娘。においてその存在は異色だった。
その状況を吉澤は安倍に重ね合わせていた。
"みんなが帰ってくるところ"それがモーニング娘。
出て行く人がいるならおかえり、って言う役になろう、そう思っていた。
182 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時28分57秒
「ちょっとよっすぃ〜、もう冷たいんだから!」

吉澤に無視された石川はそう言うと軽々と荷物を持つとロケバスへと歩いていった。
安倍に憧れてモーニング娘。に加入した石川。
加入してからずっと安倍が目標であり、いつかは追いつきたいと思っていた。
しかしもう目標としていた安倍はいない、それならば自分が他人から目標とされるような人物になろう。
安倍を超えたい、それは永遠に叶わぬ夢かもしれない。しかし夢は思い続けることに意味があるんだ。
そう心に決めて活動を続けてきた。現在ではソロでラジオのレギュラーを持つなど幅の広い活動を見せる。
もちろんお嬢様キャラは今年も健在である。
183 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時29分28秒
「石川さんってアレで疲れないんですかね?」

後ろを歩いていた小川真琴が藤本美貴に話しかけた。小川は得意(?)のモノマネに磨きがかかり、
今では加護と並びモーニング娘。屈指のモノマネキャラとして茶の間を沸かせている。

「さぁ、本人がノッてるんだからそのままにしといてあげれば?」

藤本は加入直後はメンバーとなじめず、孤独な日々を送っていたが、
元メンバーの後藤真希が率先してメンバー達と交流をはかってくれたおかげで
今ではすっかりモーニング娘。のメンバーとして活動している。
ソロ活動も順調にこなし、来週には新曲をリリースする予定である。
184 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時30分02秒
その後ろから続々と空港に降り立つモーニング娘。のメンバー。
今日は安倍なつみの死からちょうど一年、故郷室蘭で一回忌の法要が行われるのだ。

もちろんプライベートでこんな大人数の移動、しかも休みで来れるわけが無い、
あるドキュメント番組が安倍の死から一回忌までを番組にしたいというオファーがあった。
メンバーの中にはそっとしといてやりたいと前向きでないメンバーも多かったのだが、
事務所の意向と、そうでもしないと一回忌の法要ができないという仕事の過密さに結局番組制作を了承した。
185 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時30分33秒
そして今はソロで活動する中澤裕子や市井紗耶香の姿も見える。
中澤はマルチタレントとして活動の幅を広げ、歌にドラマにバラエティーに忙しい日々を送っている。
市井は歌手として活動は少ないものの、同じくモーニング娘。を卒業した保田と共に、
全国の小さなライブハウスを回っている。
安倍の死期に作られていたアルバムはレクイエムとして一回忌の今日発売される。

メンバー達はロケバスに乗り込み、安部の故郷室蘭を目指す。

「ねぇ、室蘭ってどこにあるんだっけ?」

車中で亀井絵里が道重さゆみに尋ねた。

「えーとねー、んーとねー、わかんない。」

道重はしばらく考えた様子であったが結局分からない様子だ。
186 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時31分05秒
見かねた紺野あさ美が後ろの席から窓に指で地図を書いてここだよ、と教えている。

以外にも新メンバーと一番早く馴染んだのは紺野であった。
自分から率先して後輩を指導し、話をする事ですぐに打ち解けていった。
亀井と道重も、そんな紺野に全幅の信頼を置いているようだった。
紺野の指導の裏に、かつて紺野をよく指導していた安部の姿を見ているのかもしれない。



「ひゃー、気持ちいいねぇ。ねぇごっちん?」
187 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時31分40秒
安倍の実家から車で三十分、車が停まると窓を開け保田圭が言った。
しかし呼ばれた後藤真希はロケバスの座席で眠りこけていた。
後藤のソロ展開は上場の評判で、その後もシングルやアルバムを発売し、
秋には初のソロコンサートが予定されている。

起きろ〜、という保田の呼びかけに後藤がビクッ、と体を震わせて反応した。

「・・・今圭ちゃんにキスされる夢見てさぁ、死ぬかと思った・・・」

「ちょっと何で死ぬのよ!」

保田が怒って後藤を小突く。こんな事はお互いがモーニング娘。だった頃からの慣れっこだ。
そのやり取りを隣の座席で見ていた紺野と新垣里沙が顔を見合わせて笑った。
二人はタンポポとして親交を深め、はきはきした新垣と、
おっとりとしながらもたまに話の核心を突く紺野の掛け合いが人気を博し、
この夏に発売されたシングルも売れ行きは好調である。
188 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時32分12秒
車を停めた場所から歩いて数分、安倍の故郷である室蘭が見渡せる高台に安倍の墓がある。
メンバーたちが墓に向かうと既に福田明日香と石黒彩が待っていた。

「遅いよ、みんなー。もう待ちくたびれたよ。」

メンバーに気づいた福田が腕をぶんぶん振り回して言った。
石黒も福田の側で去年生まれた娘を抱いて微笑んでいた。

そこでメンバー達はしばし再会を懐かしんだ。
墓にお参りをした後、高橋愛と田中麗奈はメンバーたちの輪の中から外れると、
墓から少し離れた草むらに腰を下ろした。
189 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時32分44秒
「高橋さん、覚えてます?去年の夏、
 私ドラマでNGばっかり出して、めちゃくちゃになりましたよね。」

「そんなこともあったね、私あの時全然麗奈ちゃんの事励ませなくて、
 安倍さんがいれば安倍さんに相談するのになぁってずっと思ってたんだ。」

「私、あの後でダンスレッスン中に一人になったときあったじゃないですか、
 信じてもらえないと思いますけど、あの時安倍さんが励ましてくれたんですよ。」

そういうと田中は草の上にごろんと寝転がった。
大きな入道雲が風に流されて視界の中を右から左へと流れていった。

「うん、何となくだけど分かる気がするよ。
 まだまだ教えてもらいたい事、相談したい事、いっぱいあったのになぁ・・・」

そう言うと高橋も田中の横に寝転がった。草のにおいが心地よかった。
190 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時33分14秒
「相談したらいいじゃん。」

二人の視界の上のほうに影ができた。かがんだ矢口が二人を見下ろしていた。

「相談したらいいじゃん、なっちの笑顔があれば、もう答えなんて必要ないでしょ。」

そう、答えなんていらない。
今日の日差しのように、眩しすぎるくらいの安倍の笑顔があれば。
三人はそうして流れる雲をずっと見続けていた。

「おーい、やぐちぃ。そろそろ帰ってきなさいよー。」

向こうで飯田が呼んでいる声がした。
矢口は立ち上がろうと体を起こそうとしたが、高橋、道重と矢口の肩を支えに立ち上がったため
矢口は立とうとするたびに地面に転がされた。小さな体がコロコロと草むらに跳ねた。
そんな矢口の事を笑い飛ばしながら二人は飯田のほうへと戻っていった。
191 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時33分44秒
「もう、覚えてろよー!」

矢口が怒りながら立ち上がり、再び空を見上げた。
眩しい日差し、流れ行く雲、セミの鳴き声、それは夏が来れば毎年変わらず訪れるだろう。


なっち・・・これからいくつもの夏が来て、過ぎ去って行ったとしても、

なっちと過ごしたあの夏の記憶は決して色褪せないで、矢口の胸に息づいてる。

それだけは変わらない真実。だからなっちも、矢口の事ずっと見守っていて。

今日のように眩しい夏のお日さまのように・・・。


八月の爽やかな風が吹き抜ける。
何も知らないセミが今日もせわしく鳴いている。



STAND BY ME それぞれのエピローグ 〜完〜
192 名前: 投稿日:2003年02月12日(水)00時36分52秒
あまり自分の中で満足のいくできではないんですが、
ちょっと二作目の製作に本格的に取り組みたいので
ここいらでエピローグです。

二作目の執筆も少しずつですが進んでおりますので
開始したらまたこちらに書き込ませていただきますので
またそちらも良かったら見てください。
193 名前:173 投稿日:2003年02月13日(木)17時46分46秒
それぞれのエピローグ、完結お疲れ様でした。
安倍の遺したものは、後になってからもずっとそれぞれの心の中で、
「種子」として生き続けるのでしょうね。
それがやがて芽を出して、温かく育まれて行く・・それが「遺志」と
呼べるのかもしれませんね。
心模様を丁寧に描いておられたと思います。
次回作、ひっそりとお待ちしておりますね。
194 名前:一読者 投稿日:2003年02月17日(月)00時31分31秒
完結ならびにエピローグ執筆お疲れ様でした。

ええと、ちょっと気になったので。
「一回忌」という言葉はありません。
亡くなってから1年後に営む法要は「一周忌」と呼ばれます。
その次の年の法要はなぜか「二周忌」ではなく「三回忌」と
呼ばれます。
亡くなったその時が1回目、「一周忌」が2回目、そして「三回忌」
ということらしいのですが、それではなぜ「二回忌」ではないのか
私は不勉強でよく知りません。
「一周忌」で検索エンジンを引けばいろいろなページがヒットする
と思います。
195 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月16日(水)00時32分37秒
とりあえず今日初見で最後まで読ませていただきました。
ちょっと描写が濃すぎる場面もあったんですが
まずまずまとまっていておもしろかったと思います。

これからも期待しているので頑張ってください。

>>194 一読者さん
一応一回忌という言葉も存在します。
ただ一周忌という方が一般的ではありますが。
文法表現上の間違いではないと思いますよ。

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