wing

1 名前:pitom 投稿日:2003年01月24日(金)00時03分37秒
初めて書かさせていただきます。
ご意見・ご感想などもらえると、ホント嬉しいです!

ちなみに、大好きないしよしメインで♪
2 名前:pitom 投稿日:2003年01月24日(金)00時07分18秒
「・・・ごめんね、訳もわからないまま殺されるなんて」
しかも、いきなり現れた正体不明の私に

「あ・・・・ゆ、許してくれ・・・・」
地下駐車場の一角で
額に銃口を突きつけられ身動きも取れず、ただブルブルと震えてる男
「金でも、いるもの・・・なんでもやるか、ら・・・だから助けてくれ!!」

「・・・・・ん、いらない。」

――― パンッ

パッと、血が飛び散ったかと思うと、
目の前のそれは人間から ―ただのモノになった。
頬に付いた血を拭いながら

「命って・・・ホント簡単に奪えるもんなんだね」



この仕事 ―依頼があれば盗みも・・殺しさえもする
始めたきっかけは、単に自分に見切りをつけたから。

5歳の時に、施設に預けられた。
捨てられたって事に気付いた時、うちの中の何かが砕け散った。
今でも鮮明に覚えてる
うちを置いて、行ってしまった親の後ろ姿。

きっと、いつか迎えにきてくれるんだ・・・遅くなってごめんね、って
そう、ずっと信じてたのに
うちの中の、
人を信じる気持ち 人を思いやる気持ち・・・人を愛する気持ちが ―消え去った 

もう誰も信じないし、好きにもならない ―――
3 名前:pitom 投稿日:2003年01月24日(金)00時11分25秒
15歳になった時に施設を飛び出した
・・・やりたい放題だった。
毎日、食を繋ぐ為に店のものを盗み、捕まった事も数え切れない
生きてる意味もない自分に嫌気がさして、こんな人生ならいっそのこと死んだ方がマシかも
思いついたまま、うちはガードレールを越え、行き交う車に飛び出してた

「あんた!ちょお、待ち!!」

・・・は?
気付いた時には、腕を引っ張られ歩道に引き戻されてた。
何、この人・・・

「あんたなぁ、何を思って飛び出したかは知らんけど・・・
 死ぬくらいやったら、うちの下で働かんか?」

それが ――中澤さんとの出会いだった。

4 名前:wing 2 投稿日:2003年01月24日(金)00時15分12秒
「黙ってついてき。」
連れていかれたそこは、何かの訓練所らしく
うちと同じくらいの年の子はもちろん、上は20代、下は小学生までもいるようだった。
それぞれが、黙々と汗を流してる。

「・・・なんですか、ここは」
訳がわからない。一体なんなんだ。

「一切の生活の面倒はみる。
 ただ、ここで働くなら深い詮索はするな。言われた通りにやればいい。
 それがイヤなら、ここまで来てもらったのに悪いが、この話しは聞かんかったことにしてくれ」
―― どうする?

「どうするって・・・いきなり言われても」
しばらく考えた。


「てか・・・何をすればいいんですか?」
まぁ、そこが1番重要だし。
「そやなぁー。ぶっちゃけ裏の仕事や。危ない目に合うかもしれん
 もしかしたら、命の保証もできひんかもな」
ハハハって、何でもない事のように軽く説明する。

つまり、いつ死んでもおかしくなってことか

5 名前:wing 2 投稿日:2003年01月24日(金)00時16分37秒
やるか、やらないか
そう思った時、どういう訳か親の顔が浮かんできた。
しかも、こんな時に限って2人とも笑顔なんだ
・・・笑顔しか浮かんでこない

無性に腹が立ってきた
今、どこで何をしてるかなんて関係ないけど
うちがこうなったのを、全部親のせいにする訳じゃないけど・・・

ついさっき、自ら命を絶とうとした訳で
生きることに執着もないし、別にいつ死んでもいいとさえも思ってる。

堕ちるとこまで ――堕ちてやる


「わかりました・・・・・やります」

                         
6 名前:pitom 投稿日:2003年01月24日(金)00時21分21秒
更新終了です。
話しは書きあがってるんで、マメに更新していきたいと思います!
7 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月24日(金)02時07分54秒
いしよしですか!?
何だか痛い話になりそうな予感が・・
次回更新、期待しております。
8 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月24日(金)09時10分05秒
目もあてられないほど幼稚な文章ですね。
9 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月24日(金)16時49分35秒
>>8 んー、、話の展開がやや早い気はする。
だけど、商業誌じゃあるまいし、娘小説。としては水準は越えてる文章力かと
初めて書かれるみたいだし頑張ってください。。偉そうでスマソ
10 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月24日(金)16時50分34秒
>>8
アンタ何様?
書き始めたばっかでそんな言い方ないと思いますが。

作者さん、がんがって!
11 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月24日(金)22時50分43秒
短文のリズムが小気味いいです。更新期待。
12 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月24日(金)23時07分58秒
なんかと似てる…
13 名前:wing 投稿日:2003年01月24日(金)23時24分31秒
それから、毎日朝から晩まで半端でない訓練を受けさせられて
そして――

そして初めて・・・人を殺した。
銃の振動からの痺れと、人の命を奪った罪悪感で、その夜は手の震えが止まらなかった。

死んでからも、ずっとうちを見てる目・・・
その目に怯え、眠りにつく度に無理やり起こされる。
震えの止まらない手を必死で握り締めて、眠れない夜を過ごしてきた。



震え続けた手・・・か
うちは、しばらく自分の手を見つめた。
あれから何人もの命を奪って罪を重ねた――

「汚れた手だ・・・」
自嘲気味に笑うと、うちは地上へと出た。
そこは薄暗くなっていて、頬にポツッと水滴があたる。
見上げると、いつのまにか雨が降り出してたようだった。
14 名前:wing 投稿日:2003年01月24日(金)23時25分48秒
「・・・いっそのこと、全部流してくれたらいいのに」
そう呟きながら、歩き始める。
視線を前に戻した時、ふと一人の女の子の姿が目に飛びこんできた。

じっと空を見上げ、手をかざしてて ――

その時、確かに見えた気がしたんだ。
彼女の背中に ・・・真っ白な翼が
真っ白で大きくて、今にも大空に飛び立ちそうな翼。


気がつけば、しばらく見つめてたようで
視線に気付いたその子が、こっちを見てきた。

あっ・・・・
妙な気まずさが流れ、ぱっと目を逸らした。
もう1回彼女の方を見ると、彼女はうちとは反対方向へと歩き出してた。

なんで、そんな行動に出たか自分でもわからない。
気がつけば、彼女の後をつけてた。
15 名前:wing 投稿日:2003年01月24日(金)23時27分03秒
気配を消して、後をつけるのは慣れたもの。
数メートル後を、近づきすぎず離れすぎず彼女の後ろ姿をじっと見て――

ついていって、うちは一体どうしたいの?
・・・わからない
わからないけど、体か勝手に動いてる。


「・・・ここ、は」
彼女が入っていったそこは、どこか懐かしくも感じる場所――
そこは、うちが育った場所と同じ雰囲気を持つ建物だった。


「あら、梨華ちゃん?あんまり勝手に出歩いちゃダメっていってるでしょ?」
さっきまで庭を掃いてたと思われる女性が、帰ってきた彼女に気がつき声をかけた。
声がした瞬間、うちは即座に身を隠す。
砂利を歩いてただろう足音が、その声に気付き一瞬止まるが数秒もしない間に
再び鳴り出した ――なんの返答もなく。
16 名前:wing 投稿日:2003年01月24日(金)23時28分18秒
梨華ちゃんって言うんだ、あの子・・・


「何かご用かしら?」
気を抜いてた間に、女性に気付かれ声をかけられた。

「あ、・・・いえ。なんとなく懐かしくって」
「懐かしい?」
首を傾げ聞いてきた。
「私も以前、施設で暮らしてまして・・・。じゃ、失礼します」
軽くお辞儀をして、その場を去ろうとしたのだが、ある事を思い出し
再び声をかけた。

「・・・あっ、あの!さっきの会話聞こえちゃったんだけど
 普通、施設ってちょっとした外出なら許可なんていりませんよね?」
少なくとも、うちがいた施設はそうだった。
17 名前:wing 投稿日:2003年01月24日(金)23時29分06秒
「あぁ、普通はね。
 あの子・・・失語症なの。小さい頃にご両親を事故で亡くされてね。
 そのショックから、話せなくなったみたい。それで、やっぱり危険な目にあってもいけないから
 外に行く時は、誰かがついていくことにしてるのよ。」

「・・・そうだったんですか」

次に言う言葉がなかなか見つからなくて ――
やっと出た言葉が

「あの・・・また来てもいいですか?」
その言葉に、ちょっと驚いてたようにも見えたが、すぐににっこり笑って
「ええ、もちろんよ。また、いつでもいらしてね」

「はい」
うちも笑顔で、そう答えた。
18 名前:pitom 投稿日:2003年01月24日(金)23時43分20秒
更新終了です
たくさんのレス、ありがとうございました!

>>7 名無し読者さん
レスありがとうございます!
甘い話しでいこうと思っているのですが、始めに重めでいけばよっすぃ〜の
変化があっておもしろいかな、と思いまして!
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

>>8 名無し読者さん
考えてる事を表現する力不足ですよね・・
これから、もっとうまく書けるように頑張りたいです!

>>9 名無し読者さん
あ、やっぱり展開進むの早すぎですか・・(^^;
以降のも書けてはいるんだけど、見返して手直ししていこうと思います!
はい、頑張りますっ!

>>10 名無し読者さん
レスありがとうございます!すごい緊張してたんですが
本当に嬉しかったです
はい、これからも頑張りますっ

>>11 名無し読者さん
ありがとうございます!
なかなか小説書くのって難しいですね・・最後まで読んでもらえるように
頑張ります!

>>12 名無し読者さん
似てますか・・(^^;いろいろ読んでたから、どこか似てる部分が
あるかもしれませんが、これからの展開ではそうゆう部分なくしつつ
頑張りたいと思います!
19 名前:wing 投稿日:2003年01月27日(月)13時46分39秒
部屋に帰ると、電気もつけずそのままベッドに倒れこんだ。

「・・・なんで」
なんでこんなにあの子の顔ばかりが思い浮かぶんだろう・・・

1度しかまともに顔を見てないって言うのに、頭の中の映像は今でも鮮明に蘇ってくる。
印象的な彼女の目や鼻・・・唇
しっかり捕まえてないと今にも消えてしまいそうな ――華奢な体

「・・・うちとは正反対」

いくら自分に問いかけても、答えは出てこない
とにかく今は、彼女と話しをしてみたかった



それからというもの、うちは時間を見つけては施設を訪れるようになってた。

「こんにちは」
「あら、いらっしゃい」
いつもの笑顔で迎えてくれる園長先生。
それが、どこか母親の持つ雰囲気に似てる気がして・・・

談笑する時間がもう一人の自分を忘れさせてくれるような、そんな安らぎがここにはあった。

20 名前:wing 投稿日:2003年01月27日(月)13時47分30秒
今日も、彼女は庭の木陰で本を読んでる。
うちがここに来る時、いつも食堂でお茶を飲みながらってパターンが多いのだけれど
ここからは、彼女のいる庭がよく見える。
園長先生と話しをしながらも、意識は彼女の方へ向いてた。

彼女はいつも一人だった
他の子供達と一緒にいる所を見たことがない

「あの・・・梨華ちゃんって子。いつも、ああやって一人で本読んでるんですか?」
思いきって聞いてみた。

「・・・そうね。他の子も声かけたりしてたみたいなんだけど、なんか回りに壁作ってるって感じなのよ・・・」
苦笑いを浮かべながら、冷めかけたコーヒーを1口飲む。

「そうなんですか・・・彼女、耳は聞こえるんですよね?」
うちの質問に、園長先生は頷く。

「あら、もうこんな時間?ごめんなさい、ちょっと行く所があるの。でも時間があるならゆっくりしていってね」
そう言い残し、園長先生は足早に出かけていった。
21 名前:wing 投稿日:2003年01月27日(月)13時48分18秒
残されたうちは、とりあえず残ってたコーヒーを飲みきる。
そして視線を庭に戻すと、そこにはもう彼女はいなかった。
「部屋に戻っちゃったかな・・・」
ポツリと呟いた時、背後から誰かが入ってきた気配を感じた。

「っ!?」
振り向くと、入り口で立ち止まってこっちを見てる彼女の姿があった。咄嗟の事で頭の中が真っ白になる。
うまく言葉を出せずにいると、食堂を出ていこうとする彼女が目に入った。

「あっ、ちょっと待って!うち、もう帰るから。」
その声に彼女は一瞬躊躇ったが、自販機で紅茶を買うと入り口に一番近い椅子に
距離は離れてるけど向かい合った状態で座った。

・・・何か話さなきゃ
「うちね、吉澤ひとみって言うんだ。ここって居心地いいよね!園長先生も優しいし」
しかし彼女は俯いたまま買ったばかりの紅茶を口にする。

22 名前:wing 投稿日:2003年01月27日(月)13時49分05秒

「・・・じゃあ、そろそろ行く、ね」
ここにいる人達でさえとけ込まないって言うのに、いきなり現れたうちとすぐに話してくれる訳がない
当然の事だ。
うちは空になった缶を捨てると、食堂を後にした。



それからも何度か話しかけたのだけれど、返事が返ってくることはなかった。
逆に施設の子供達には懐かれ、行くたびに遊ぼうとせがまれる。
今日も何人かで缶蹴りをすることになった。
うちが子供の時、みんなで遊ぶという経験が全くなかったから・・・正直すごく楽しかった
だから、何もかも忘れてこの時だけは夢中になって遊んでた。

「じゃあ、いくぞぉー!」
缶を蹴ったと同時に、四方八方へと走っていく子供達。
1番年上だったうちは当然鬼の役で、飛んでいった缶を探しに行く。

「えっと、確かこっちに飛んでったと思うんだけど・・・・」
ちょうど茂みの辺りに飛んでいったせいで、なかなか見つける事ができなかった。
その時、いつものように木陰に座ってる彼女と目が合った。
23 名前:wing 投稿日:2003年01月27日(月)13時49分47秒

「あのさ、こっちに缶飛んでこなかった?缶蹴りやってるんだけど、鬼やらされてさ」
その言葉に、ゆっくり彼女の手がある方向を指差す。

「こっち?・・・あ、あったあった。ありがとね!」
やっと見つけ、彼女に向かって礼を言う。

その時 ――彼女の手が、うちに何かを伝えてくる
「・・・手話?ごめん、うち手話わからないんだ。なんて意味だったの?」
すると、傍らに置いてたノートとペンを手に取り何かを書きこんでる。
それを覗きこむと、そこには”どういたしまして”と書かれてた。

たったそれだけ・・・その一言だけだったんだけど、うちにとっては十分過ぎるくらい嬉しいものだった。
初めて彼女が返してくれた言葉だったから・・・

間を空けて、彼女が再びペンを動かす。
書き終えた後、それをうちの方へ向けてきた。そこには

”どうして私にかまうの?”


「どうしてって聞かれても・・・」
言葉に詰まる。
それは自分自身にいつも問いかけては決して答えを導かせられなかったものだったから

24 名前:wing 投稿日:2003年01月27日(月)13時50分43秒

「ただ・・・キミと話しがしたくて」
理由なんて聞かれてもわからない。だから思った通りに答えたんだ。

じっと黙ってうちを見上げてた彼女の表情が、ふいに緩む。

―――あ・・・笑った?

初めて見せてくれた彼女の笑顔は、想像してた通りやさしいものだった
しかし彼女はすぐにその笑みを咳き払いで隠し、ペンを動かす。

”それって新手のナンパ?”

「ナンパだなんて」
予想外の問いかけに焦っていると、遠くから子供達の急かす声が聞こえてきた。

「やば・・・すっかり忘れてた!・・・あのさ、よかったら手話教えてよ。あんまり覚えるの得意じゃないんだけど
 ・・・ってこれもナンパみたく思われそうじゃん。・・・じゃ、またねっ」


一方的に話しを終えると彼女の答えを聞かないまま、うちは子供達の元へ戻った。

すぐに答えを聞けなかったのは ――自分の弱さから
もし拒絶されたら、って考えたら無意識のうちに足が動いてた・・・
25 名前:pitom 投稿日:2003年01月27日(月)13時52分20秒
更新終了です
2〜3日のペースで書ければな、と思ってます!
26 名前:7 投稿日:2003年01月30日(木)00時32分55秒
更新、お疲れ様でした。
施設の子供や石川さんとの触れ合いで、吉澤さんがどう変わって行くのか、
期待しております。
次回更新、まったりとお待ちしていますよ。
27 名前:wing 投稿日:2003年01月30日(木)23時53分26秒
その日は結局彼女に会わないまま、部屋へと戻った。
一息ついた時、ノックと同時にドアが開く。

こんな事をするのは一人しかいない
「・・・ごっちん、いつも言ってるじゃん。うちが開けるまで待ってってさ」
はぁ・・とため息をつきながら彼女 ――後藤真希 を一喝する。

「んあ?・・・あぁーごめんごめん。だって部屋にいてもつまんないんだもん。
 ボーっとしてたら、よしこの足音が聞こえたからさ」
ふにゃっと笑う彼女特有の笑顔を見たら何も言えなくなる。

28 名前:wing 投稿日:2003年01月30日(木)23時55分21秒

ごっちんは、この組織に入ってから知り合った唯一の友達
他人なんて信じない、友達なんていらないって思ってたけど、ごっちんだけは違った

中澤さんに組織に入ると答えたその日に紹介された。
背中くらいまであるさらさらのストレートヘアーに少し明るめの色が印象的だった。
「あ・・はじめまして。吉澤ひとみです」
彼女を見てたら視線が交わり、簡単に挨拶をした。
それに対して彼女は一言も発せず、軽く頭を下げただけだった。

・・・仲良く、はなれそうにないな
それが彼女の第1印象


割り当てられた部屋が隣りって事で仕事の事、組織の事について全て彼女に教わった。
けれど、その間必要なこと以外話すこともなかったし笑いながら談笑、なんて有り得なかった。

実践的な事に関しても、一緒に付いて覚えた。
初めて人を殺す瞬間を見た時、表情一つ変えないこの人に恐怖すら感じた。

29 名前:wing 投稿日:2003年01月30日(木)23時56分44秒

「こわ、く ないの・・・?」
仕事を済ませ、うちの前を歩く彼女に聞いてみた。
その問いに足を止め顔だけ振り返り少し間をあけた後、どこか寂しそうに笑うとこう答えた。

「・・・恐いよ」
やめるんなら今だよ?

今考えれば、それは彼女なりの忠告だったのかもしれない
けど、彼女の本心を見抜く事なんてできる訳もなく
バカにされた、その時のうちにはそんな風にしか伝わらなかったんだ。

30 名前:wing 投稿日:2003年01月30日(木)23時58分00秒

時間は流れ ――初めて人を殺す事となる
指令を受けた日は当然のように一睡もできなかった。
補佐してくれる彼女とも何度も打ち合わせしたけれど、自分に人を殺せる自信なんて微塵もない
でも、今更断われない
それよりここで逃げる事のほうが自分自身許せなかった

・・・くそっ やってやるよ
覚悟を決め彼女と2人、目的地へ向かう。

ターゲットはいつも同じ時間に同じコースをマラソンしてる
何日か前から後をつけ、それから1番人気のない場所を選んだ。
今回のターゲットは有名な代議士らしく、その名を使っては悪事を重ねてきたらしい。
その事で恨みを買うことも多数あり、そのうちの1人から依頼があったという訳。

先回りし、姿を現すのを息を潜めてじっと待つ。
その間もうちの心臓は治まる事を知らないかのようにどんどん早く打ち始める。

31 名前:wing 投稿日:2003年01月30日(木)23時59分18秒
・・・・来た
数分が過ぎた時、遠くから走ってくる人影を見つけた。
ずっと手に持ってた事で、じっとりと汗をかいてる事に気付き慌ててシャツで手の平を拭く。

「・・・1発勝負だからね」
銃を構えたうちに、隣りで身を隠してた彼女が囁く
コクン、と頷くと照準を合わせる。
生唾を無理やり飲み込み気持ちを落ち着かせチャンスを待つ。

い、今だっ
そう思い引き金を引こうとした・・・・けれど手が震えて狙いがうまく合わない

「・・・ちょ、何してんのよ!早く撃ちなよっ!」
なかなか撃たないうちに苛立ちを感じ急かす。

「・・・・うっ、やっぱ出来ないよっ!」
必死に撃とうとはするのだけれど恐怖には勝てず思わず出てきた涙を拭った。
その時だった

―― パンッ
耳元で、乾いた音が響いた
音のする方向へと目を向けると、彼女の手にある銃から煙りが出ていた。
遠くからは男の呻き声・・・
32 名前:wing 投稿日:2003年01月31日(金)00時00分53秒

ただ呆然と彼女を見つめてると、下唇を噛み締めた彼女がいきなりうちの胸ぐらを掴んできた。
「あんたねぇ・・・自分でこの仕事やるって決めたんでしょ!?
 いつまでもウジウジしてないで覚悟決めなよっ!・・・・どこにも人殺すのが恐くない人なんていないんだから」
そう言うとシャツから手を離し、回りを確認しながら男の元へと歩いて行く。

「ご、ごめん・・・なさ・・い」
謝るとすぐに彼女の後をついていった。
男はまだ息はあるようだ。
うちが撃てなかったせいでタイミングを逃し、腕のいい彼女でも1発で終わらせる事は出来なかった。

「・・・どうする?最後、出来る?」
こっちを見ずに問いかけてくる。

33 名前:wing 投稿日:2003年01月31日(金)00時03分11秒
自分の犯したミスは自分で片付けなきゃ・・・・
ゆっくりと、手に持った銃を男に向ける。男はそれに気付き、必死で逃げようとする。
怯えた目、命乞いをする目・・・
その目から逸らす事が出来ず、ゆっくりと息を吐いた後引き金を引いた。

弾は額を貫通し、一瞬にして男の命は消えてしまった ――


緊張の糸が切れ、うちは呆然とその場にしゃがみこんでた
その時、手を差し伸べられた。

「・・・・歩ける?」
いつもの無表情のままだったけど、そっと掴んだその手はとても温かかった

34 名前:pitom 投稿日:2003年01月31日(金)00時13分20秒
更新終了です。
新しく1人登場しました♪
今回の内容、2回目の更新の時に少し触れてた内容を
回想シーンみたく書いてみました。

>>26 7さん
レス、ありがとうございます!!
レスがなくて読んでもらってるのか不安だったんで、すごい嬉しかったです
よっすぃ〜の変化、うまく表現できるように頑張りますっ
35 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月31日(金)00時31分46秒
自分も読んでるっすよー。レスがなくてもROMは多いと思われ。
頑張ってくらさい。
36 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時07分07秒

そのまま手を繋いだまま並んで歩いた。
その間、口を開くことはなかったのだけれど、彼女の手の温もりがうちの高ぶった気持ちを少しずつ落ちつかせてくれた。



けれど部屋に戻り一人になった瞬間、先ほどの恐怖が体中を支配して震えが止まらない
銃を撃った振動、あのヒトの ――うちをじっと見る目
鮮明に思い出される記憶を消す事なんて出来ず、ただ膝を抱えてしゃがみこみ必死に震えを抑える。

ヒトヲコロシテシマッタ

彼女にも言われた。自分で決めて入ったのだろう、と
頭の中ではわかってたけれど、体は自分が考えてたよりずっと正直だった
震える手をじっと見つめながら、今更ながらに後悔の気持ちが少しずつ生まれてくる。

37 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時08分25秒

―― コンコンッ
いきなり聞こえたその音に心音が跳ね上がる。

「・・・は、はいっ」
「あ、ごとーだけど・・・」
ドアの向こう側から返事がかえってきた。
開けるとそこには、湯気のたったマグカップを手に持ってる彼女の姿。

「これ・・・少しは落ちつくだろうから」
差し出されたそれを受け取ると、そのまま彼女は部屋に戻っていった。
手にあるカップを口元に運ぶ。

・・・あったかい
ちょうどいい温度に温まってる牛乳は、芯からうちの体を温めてくれた。


気がついた時には体の震えは止まってた
親に捨てられてから初めて触れた、人の温もり ――

38 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時09分16秒

今まで外見でしか彼女を見てなかった。
いつも無表情で素っ気無くて・・・
でも本当の彼女は、感情をうまく出せない人間ってだけだったのかもしれない

うちと彼女・・・どこか似た部分を持っていたのかも
自分から壁作ってたら、相手だって近づいて来てくれる訳がない
このカップ返しに行った時ちゃんと笑顔でありがとうって言えたら、彼女も少しは歩み寄ってくれるかな


飲み干したカップを洗い水気を取る。
それを持って彼女の部屋の前に立つ。ゆっくり息を吐いて ――コンコンッ

「これ、ありがとう。すごい・・・おいしかったよ」
その言葉に彼女は少し気恥ずかしそうに頭を掻くと、笑顔で答えてくれた。

「どういたしまして」


39 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時09分59秒

・・・そっか、あれからか

いつのまにか仲良くなってたけど、きっかけはあの日だった
今では仕事以外でも、こうやってお互いの部屋を行き来しては他愛もない話をしてる。

うちにとってごっちんは ――かけがえのない親友となってた



「足音ねぇ・・・そんなのホントにわかんの?」
「わかるよ。よしこの身長で大体の歩幅がわかるでしょ?あとは足音の鳴る間隔を聞いてればね。
 まぁ、隣りの部屋のドアが開く音聞いてた方が正確かぁ」
なんでもない事のように話すけれど、実際足音を聞き分けるなんて簡単な事ではないはず・・・
そんな所に、彼女のすごさを感じる

40 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時10分41秒

紅茶を入れるため、その場を離れたうちにベッドに凭れたままの体勢で話しかけてくる。
「そーいやさ、よしこ今日なんかいい事あったでしょ」
「は?なんでよ」
紅茶パックをカップに入れながら、顔だけをごっちんの方へ向ける。

「足音がね、リズミカルに跳ねてたよ?・・・って言うのは冗談で、なんかさ表情違うんだもん、いつもと。」
手持ち無沙汰だったのか、気がつけば枕元に置いてたクッションを抱きかかえてた。

「一緒だよ。何もないよ、いつもと変わらない」
お湯を入れると、彼女の元へ持っていく。
「そっか。ごとーの気のせいかな」
うちが話さない事に関して深く詮索してこない、このちょうどいい距離が仲良くなれた理由の1つだろう


梨華ちゃんの事・・・
隠し通したい訳じゃないんだ。
自分の気持ちがはっきりした時には、ごっちんにも聞いてもらいたいから ――

41 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時11分23秒
この日、うちは黙々と射撃練習をしてた
何発も何発も、的に向かって銃を発する。


一呼吸おき再び銃を構え撃つ ――その弾は的の中心を撃ち抜いてた

「・・・・・よしっ」


ここ数日、施設に行く事に躊躇いがあった。
多少なりとも話す事ができて、少しだけ壁も壊せた気がした。
けど今日行ってまたいつもと同じ態度だったら、この前の頼みも含め答えはNOなのだろう
そしたらもう二度と施設には行けなくなる気がして・・・
そんな事を考えてたら、施設へ向かう足取りは更に重いものになってきてた

気持ちを吹っ切る為に、こうやって銃を撃ち続けた。
あとはもう・・・結果だけ

42 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時12分04秒

火薬の匂いをとる為シャワーを浴び、施設へと向かう。
着くといつものように園長先生が庭掃きをしてた。

「さっきまで子供達がまだ来ないの?って待ちわびてたんだけど、ちょうどお昼寝の時間になってね
 今、みんな寝ちゃってるのよ」
掃いてた手を止め、申し訳なさそうに言ってくる。
「そうですか。あ、中入ってもいいですか?」
子供達にも会いに来たのだけれど、本当の目的は違う所にあったから・・・

きっと彼女はまた木陰に座って本を読んでるんだろう
緊張なんてする必要ないよ、いつもみたく声かければいいだけのこと・・・


思った通り、彼女の姿はそこにあった。
子供達が眠ってる事によって辺りは静寂に包まれてた。だから普通に歩くだけでも足音がより大きく鳴る。
足音に気付き、顔を上げこちらを見る。
その表情は ――いつもと同じ堅いものだった

43 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時12分52秒

「あ・・・・こんにちは」
やっぱだめ、か・・・

そう思い、目を伏せようとした時だった。
彼女の手がゆっくり動く

「・・・な、んて意味?」

その問いに、いつものようにノートに書き始める。
見せてくれたそこには


”やっと来てくれたね”


「ごめん、ね・・・遅くなって・・・・ありがとう、梨華ちゃん」

ずっと呼びたかった名前
やっと口にすることができた・・・
目の前に座ってる彼女は、あたたかい笑顔でうちを見上げてた


44 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時14分06秒

「ねぇ、吉澤ひとみってどうやるの?」

この日は天気もよかったから、そのまま梨華ちゃんの隣りに座って早速手話を習う。
毎回返事の度にノートに書くのも大変だから、できるだけ早く手話を覚えたかった。

「うん・・・こう?よ・し・ざ・わ・・・ひってどうだっけ?・・・あぁ、こう、ね。 ひ・と・み・・・と。なるほど」
梨華ちゃんの手の動きを見様見まねでやってみる。

「じゃあ、”私の名前は吉澤ひとみです”っていうのは?・・・私の、名前、は、よしざわひとみ、です・・・かぁ
 手話も簡単なものじゃないねぇ。あ、そういや梨華ちゃんって名字なんて言うの?」
その問いに梨華ちゃんは幾分考えた後、試すように手話で返す。

「は?あれ・・・ちょっと待ってよ。うちと似たようなのが入ってた。
 2番目と4番目、うちと同じだよね?・・・え?梨華ちゃんも吉澤?」
それには首を振った。うちが必死で考えてるのを楽しそうに見てる。
元々負けず嫌いな性格だったせいもあって、必死になって考えた。

45 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時15分15秒
「んー他にあったかな・・・・あっ!石川っ!?」
思いついた答えについつい指を指してた。
その答えに梨華ちゃんはクスクスっと笑いながら頷く。

「そっか、石川梨華ちゃんかぁ。・・・いい名前だね」


それからも手話を交ぜながら会話は続いた。
その中で、学年では1つ上だけど同い年だったこともわかった。
今日1日でいろんなことを話せた。
楽しいと時間が過ぎるのもあっという間で、気がつけば辺りは薄暗くなってる。

「じゃ、そろそろ帰るよ。今日はホントありがとね・・・また、来てもいいんだよね?」
今日の、この出来事が夢でなかったと確認したくて・・・

”もちろん”

声にはだせないのだけれど、口の動きで返ってきた梨華ちゃんの言葉

「よかった・・・じゃ、またね」

46 名前:wing 投稿日:2003年02月03日(月)21時20分53秒
更新終了です〜
徐々にいしよし、仲良くなってきてて嬉しい・・(T∇T)(爆)

>>35 名無し読者さん
レスありがとうございます!
そうですね、考えれば私もROM専でした(^^;
でも、レスあるとすごい励みになりますねぇー!!
47 名前:pitom 投稿日:2003年02月03日(月)21時53分16秒
↑レス、名前に変えるの忘れてた・・・(−−;;;;
48 名前:7 投稿日:2003年02月03日(月)22時58分37秒
更新、お疲れ様でした。
手話を少しずつ覚えた吉・・石と徐々に距離が近づいて来ましたね。
後の存在もちょいと気になってますが・・
次回も期待しておりますね。
49 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年02月04日(火)00時47分37秒
なんかイイカンジですね〜
こういうゆっくりお互いの情が深まってくのツボです
これからどうなっていくのか楽しみです
50 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時46分25秒
帰る途中、ふと思いつき本屋に立ち寄る。
そこで手話についての本を買った。
次会う時までに少しでも覚えときたくて・・・びっくりさせてやるんだ、なんていたずらを思いついた子供みたい

まさか、自分にもこんな部分があったなんて思いもしなかった。
すべて梨華ちゃんに会ってから、か・・・



部屋に入ると、入り口近くのボタンが点灯してるのが目に入る。
一気に現実に引き戻される瞬間だった
そのボタンが意味する事。それは ――指令が入った
買ったばかりの本をその辺に置くと、すぐに中澤さんの元へ急いだ。

51 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時48分05秒
コンコンッ
「失礼します。遅くなりました」
一礼し、部屋の中へ入る。そこにはパソコンに向かっている中澤の姿。
こちらには目もむけず淡々と話し始めた。

「急で悪いが、明日西街の管轄下の事務所に行ってきてくれんか
 荷物が届いてるから、それをここまで持って帰ってきてもらいたいんや。簡単な仕事やろ?」
その時初めてこちらを見る。でもそれも一瞬のことで、すぐにパソコンに向きなおす。

「わかりました。じゃ、失礼します」
再び一礼し部屋を出ていこうとした時、中澤に呼びとめられる。


「あ、忘れとった・・・あんた車の運転できるか?
 その荷物な、ちょっと大きいねん。せやけど・・・タクシーもまずいしな」

なぜタクシーではだめなんだろう
うちの気持ちが読めるのか、そう考えた時中澤さんの口端が上がった

52 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時49分32秒

「その荷物なぁ、死体やねん。死臭プンプンさせながらタクシーには乗せれんやろ
 殺しの経緯はわからんけど死体の始末に困ったらしくてな、うちに依頼があったんよ」

なるほど、そうゆうことか・・・
「免許はないですけど・・・ATなら運転できます」
昔、大まかな事を教わってたから
「そおか、なら用意しとくから頼むわ。くれぐれも検問には引っかからんようにな、ははっ」


部屋に戻った後、手話の本をパラパラっと捲りながら梨華ちゃんの事を思い出した。

うちがこんな仕事やってるって知ったらどんな顔するだろう・・・

53 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時51分10秒

翌日、指示された通り事務所まで行き、布でグルグル巻きにされた死体をトランクに乗せる。

この身長なら大人の男ってとこか・・・
なんて、どうでもいいことを考える。所々に染み出た血痕が生々しい・・・

あとは帰ればいいだけ
車を運転しながら、ふぅ・・と一息吐く。
窓から入ってくる昼間の春風が心地よく、今の状況を思わず忘れるところだった。


「・・・・慣れって恐いな」
トランクに乗せてあると言っても、同じ空間に死体があるなんて普通の感覚を持った人間なら
その車に乗る事すら拒否するだろう
自嘲気味に笑った後、何気なく目がいったバックミラーを見て一気に体に緊張が走った。

54 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時52分27秒
すぐ後ろをパトカーがついてきていたのだ。

この時間だ。きっとパトロール中かなんかだろう・・・
自分に言い聞かせ、無理矢理にでも緊張を解く。
嫌な汗が、ハンドルを握る手を滑らす。

パトカーにつけられるのは気持ちのいいものではない。どこかで道を変えようか、と考えた時
その何秒か前にパトカーのウインカーが光ったのが見えた。
ウインカーの指し示す方向に曲がったのを見届けて、深く深呼吸をする。

よかった・・・早く済ませよう
アクセルを踏む足に軽く力を加え、帰路につく。

55 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時53分57秒

なんとか事無きを終え部屋に戻ると、脱力感からかベッドに腰掛けるとそのまま仰向けに寝転がった。


「あの時、車調べられる事なんてあったら1発アウトだよね・・・」

車に死体なんか積んであるなんてわかったら、即拘束されて取り調べ。
警察だってそんな甘いもんじゃない。
うちが黙ってても、車の出所とかで組織の存在もすぐ調べ上げ
余罪もすべて暴かれてしまう
そんなミスしてしまえば、刑務所を出れたとしても残った組織の人間に殺されるだろう


そんなの、全部覚悟の上での仕事だったはずなのに
指令を受けて、いつも完璧に終わらせる自信なんてない
いつ死ぬかもわからない

56 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時55分09秒
そんな仕事だってわかってたはずなのに・・・・

気付けば、心の中の自分が まだ死にたくないと、叫んでる

なんで・・・
なんで死にたくない?


そう自分に問うた時、真っ先に浮かんできた梨華ちゃんの顔

死んだらもう会えない
あの笑顔を見る事もできなくなる

彼女から ――離れたくない、ずっと傍にいたい


「そっか・・・うちは梨華ちゃんの事を好きになってたんだ」

やっと自分の気持ちに気付いた事に苦笑いをしながらも、一層梨華ちゃんへの気持ちが強まった気がした。

57 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時55分54秒

翌日も、時間を見つけ施設へと向かう。

最近天気もいいし、彼女のいる場所といったら大抵同じところ
だから施設内には寄らず、そのまま庭の隅の木陰へ足を進める。

いたいた・・・
今日も梨華ちゃんはそこに居た。
でも、いつもと違ってる部分があった。いつも座って本を読んでるのに、その手には何も持ってない。
何もせず、ただじっと頬杖をついてこっちを見てた。

見慣れないその姿に一瞬戸惑う。
と同時に、昨日やっと気付いた自分の気持ちを思い出すと、梨華ちゃんの顔を見るのが妙に照れくさかった
意識しすぎちゃって、変に思われてもいけない

普段通りにしなきゃ・・・

58 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時56分29秒

「おっす!・・・てか、今日は本読んでないんだ」
軽く手をあげ、その隣りに腰掛ける。
その言葉を聞いて、梨華ちゃんはノートを開きなにやら書き終えると、うちに見せてくる。

「へ?もうすぐ来るような気がしたからずっと見てた?なに、ずっと座ってうちが来るの待ってたの!?」
思いもよらない返事に驚きながらも、内心待っててくれた事に心が温まる。

やっと友達になれた昨日から、梨華ちゃんの表情から笑顔が消える事はなかった。
うちの話す事にも、相槌をうちながら真剣に聞いてくれる。
だから、口下手な方なのだけどその場を楽しませたくて話し続けた。

梨華ちゃんといると・・・新たな自分がどんどん生まれてくる
ごっちんとはまた違った居心地のよさ
これが ――好きって事なのかな

59 名前:wing 投稿日:2003年02月06日(木)23時57分29秒

「あっ、そうだ!・・・ちょっと見てて?」
少し得意気な顔を作って、梨華ちゃんに向かい手を動かす。
一瞬目を丸くさせながらも、うちの手をじっと見てる。

そう、この顔が見たかったんだよね

あれから一晩、本とにらめっこしながら必死に手話を覚えた
って言っても”おはよう”とか”今日もいい天気だね”とか、挨拶程度のものだったけど。

「・・・どう?」
その問いに、手をパチパチ叩きながら満面の笑みを浮かべてる。

”すごいじゃん!”

誉められた事もだけど、この笑顔を見られただけで頑張ったかいがあった。



目の前の彼女を見てたら、ついこの腕の中に抱きしめたい衝動にかられる。

けど・・・それはまだ、ダメ




60 名前:pitom 投稿日:2003年02月07日(金)00時05分09秒
更新終了です〜
梨華ちゃんの設定から、ちょっと読みにくく感じるかもしれませんが・・・

>>48 7さん
ありがとうございます!
やっと甘くなってきました(w 
( ´Д`)には、次回くらいに頑張ってもらう予定です!

>>49 ラブ梨〜さん
レス、ありがとうございますっ!
そういってもらえると、ホント励みになります!!
今回のも楽しんでもらえると嬉しい限り♪
61 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年02月07日(金)01時30分02秒
やっぱいしよしはいいですね〜
ベストカップル賞あげたいです
よっすぃ〜を救えるのは梨華ちゃんだけ…逆も然りみたいなとこがサイコー!!
62 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)17時48分48秒

”ひとみちゃんって、ここ来てる時以外は何してるの?”

梨華ちゃんの唐突な質問に言葉が詰まる。


「・・・バイトみたいなものかな。なんでもする便利屋って感じ」
遠からず近からず、な答え



まだ、彼女に全てを告白する勇気はなかった
今はこうやって彼女の隣りに居られれば、それだけで十分だったから

けどいつか言わなきゃいけない時がくるのかもしれない
それがいつなのかは、わからないけど・・・

63 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)17時49分55秒

「よしこぉ〜」
トレーニングの合間、休憩してると遠くからうちを呼ぶ声がした。
顔をそっちに向けると、手を振りながら走ってくるごっちんの姿があった。

「朝から元気だね」
「ごとーは、いつでも元気だよぉ」
あはっと笑い、うちの心を和ませてくれる。


座ったまま2人で壁に凭れ、それぞれがトレーニングしてる風景を眺める。
流れ落ちる汗を拭き、持ってたペットボトルに口付け乾いた喉を潤す。
そして、ゆっくりと話し始めた。

「ごっちんはさぁ・・・この仕事辞めたいって思った事ない?」
いきなりだったけど、ずっと聞きたかった質問。


このままでいいのかって ――
神でもない、ただの人間が容易く人の命を奪っていいものなのか
それに、明日自分が生きてるかどうかも確証を得ないこの仕事。
こうやって話してる途中にも指令がくるかもしれない
さんざん人の命奪って、自分の命は惜しいなんて、勝手過ぎる言い分なのだけれど

64 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)17時51分01秒

思ってたこと全てを、ごっちんにぶつけた。
じっと、うちが話してるのを見てたごっちんが、ゆっくりと口を開いた。

「・・・よしこ、誰か好きな子でもできた?」

「なん、で・・・」
予想もしてなかった返事に戸惑い、続く言葉が見当たらなかった。
と同時に顔が熱くなってくるのが、触らなくても伝わってくる。

「あ、やっぱりかぁ〜 ごとーの勘は鋭いんだからねっ」
そんなうちを見て、自分の問いがずばり的を得てた事を確信すると、少しからかうように
口端を上げて覗き込んでくる。

けれど、笑ってた表情を真剣なものに変え、ゆっくりと話し始めた。

65 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)17時52分58秒

「ごとーも含め、ここにいる人達ってさ、自分の人生に見限った人が多いじゃん?
 もうどうなってもいいやっ・・て。」

―― 確かに
うちだって、死のうとしたところを中澤さんに拾われてココに来た。
自分の命の保証もない、こんな危険な仕事だとわかってて・・・

ごっちんもそう。
前に聞いた事がある。物心ついた時には、既に親の存在はなく
荒れた生活を送ってるところを、うちと同じように拾われたらしい。


「そういう意識のままだったら、きっとそんな感情生まれてこないと思うんだ。
 言う事さえ聞いてれば、とりあえずの生活は送れるし・・・こんな言い方、人間として最低なんだろうけど
 人の命奪うのも ――回数こなせば慣れてくる」

最後の言葉を言った時のごっちんの表情はどこか儚くて寂しげだった

66 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)17時54分43秒

「でも今のよしこ、少なくともいつ死んでもいいって感情はなくなってるよね?
 ってゆうか・・・死にたくないって方が正しいか。
 ごとーの勝手な想像でしかないけど、やっぱそれって他に何か守りたいものができたからじゃないのかなぁ」
そう言って、ごっちんは再びうちの顔を覗きこんできた。


正直、なにも言葉が出てこなかった。

ごっちんの言った通りだ。
この仕事始めたキッカケ ――親への憎しみ、全ての事に対する諦め
当時のうちが、今の気持ち聞いたら、きっと笑うだろな・・・
そんな事を考えてたら、なんだかおかしくなって苦笑いを浮かべる。

自分の命が惜しい
たったひとりの女の子の存在が、こんなに大きいものだとは・・・

67 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)17時56分29秒

「あのさ、実はごとーにもね、自分の命かけてでも守りたいって思った人・・・いたんだよね。
 ホントに好きで、どうしようもないくらい大好きで・・・
 でもね、出会った時にはもうこの仕事しててさ。
 まだ今ほど腕もよくなくって、いつ死んでもおかしくなくて・・・・」

ポツリ、ポツリと当時を思い浮かべながら話し始めた。


「・・・結局、その人から逃げたんだ。
 自分が傷つくのはかまわない。でも、彼女を傷つける事だけはしたくなかった・・・
 だから、行き先も言わず彼女の元を去った。
 もし・・・彼女残して死んじゃったらって考えたら、それが1番だって思ったから

 でもね、どうしても忘れられなくて・・・
 半年くらい過ぎた時に1度だけ行った事があるんだ・・・いつも彼女と待ち合わせてた場所に。
 ――夢じゃないかって、何度も目を擦ったよ

 まさか、今でもそこで待っててくれてたなんて思ってもみなかったから・・・」

68 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)17時58分20秒

「それで・・・どうしたの?」
聞いてるだけで胸が苦しくなってくる。
きっと、ごっちんはうちの何十倍も苦しんだんだろう・・・


「ん・・・そのまま会わずに帰った」
ずっと俯いたまま話してたごっちんが、ふっと顔を上げうちを見る。
笑ってるんだけど必死に涙を堪えてる、そんな表情だった。



なんで、という問いに苦笑いしながら答える。

「元々痩せてたのにさ、遠目でもわかるくらいそれ以上に痩せちゃってて・・・
 来るかどうかもわかんない私の事を、ずっと待ってるなんて
 それなら・・・いっそのこと死んだって思わせるべきだったって。
 生きてるのか死んでるのかもわからない、でもいつか帰ってくるかもしれないって期待が
 更に彼女を縛りつける結果になってた・・・

 だから・・・もう二度と、彼女の前に現れちゃいけない。1秒でも早く私の事忘れるように――
 そんな風に考えちゃってね、気がついたら、その場から離れてた。
 
 ・・・けど、それは間違ってた。
 
69 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)17時59分50秒
離れる事で、忘れる事で傷を浅くさせたつもりだったんだ。
 だけど、私は1番深くて消える事のない傷を作ってしまった。彼女にも ―自分自身にも

 今ごろ気付いても遅いんだけどね
 

 ――よしこ、この仕事から逃げちゃっていいんだよ?
 その子の傍にいるのに、この仕事が負い目になってるなら辞めればいい。簡単なことだよ」


「でも・・・この仕事辞めるってことは」

「命がヤバイってことだよね。ごとーもバカじゃないし、そのくらいはわかってる。
 でもね?よしこには、その子守ってく力も自信もあるはずでしょ?
 ってゆうか、よしこにはごとーと同じ思いさせたくないんだ・・・」
そう言って、肩を軽く叩く。

ごっちんの気持ちがイタイくらいに伝わってきて、それと同時にうちの中で何かが動き始めた。

70 名前:wing 投稿日:2003年02月10日(月)18時00分47秒

「・・・わかった。ありがとね、ごっちん」
ふうっと一息吐き、頬をパチっと叩く。

立ち上がって、振り向きながら問うた。
「ごっちんは、どうすんの?・・・このままでいいの?」

ふにゃっと笑うと
「そーだなぁ・・・もしどっかで会えることがあって、まだ私のこと好きでいてくれたら
 その時は・・・二度と離れないし、離さない」


「そっか・・・じゃ、ちょっと行ってくる」

どこに、って言葉の答えは、きっとうちの顔を見たらわかるはず
ごっちんは何も言わず、笑顔で送り出してくれた。



今の気持ち、どう言い表せればいいのかなんてわからない
ホントのうちを知った時・・・あの子はどんな顔をするだろう
否定されて、もう会えなくなるかもって考えたら、正直足も竦んでくる

でも・・・これがうちだから
あの子に対する気持ちにウソはこれっぽっちもないから ――


うちはひたすらあの子のいる施設へと足を速めた。

71 名前:pitom 投稿日:2003年02月10日(月)18時10分17秒
更新終了です
( ´Д`)の過去、どっかで明らかにさせねば・・・

>>61 ラヴ梨〜さん
前回のレスで、HN間違ってましたね・・・すみません( ̄□ ̄;
ですよね!!!やっぱいしよし最高です(* ̄∇ ̄*)
ベストカップル賞、是非あげましょう(w 
「ありがとぉ〜」ヽ(^▽^(^〜^0)
 
72 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年02月11日(火)01時38分13秒
いえいえ、こちらこそまぎらわしいHNでスミマセン!気にしないでください
いやー、よっすぃ〜はイバラの道を行くんですね
梨華ちゃんは真実を受け入れてくれるのか…
この展開、期待度MAXです
73 名前:7 投稿日:2003年02月13日(木)01時24分43秒
更新、お疲れ様です。
う〜む、後藤さんにそんな過去があったとは・・
その愛する人はもしやあの人でしょうか・・

命がけで守りたい人と進む決心をした吉澤さんにはこの先、どんな運命が
待ち構えているのでしょうか。
次回更新、期待しております。
74 名前:wing 投稿日:2003年02月15日(土)01時39分49秒
ずっと走ってきた事で、多少乱れた息を整える。

「こんにちは」
「いらっしゃい。梨華ちゃんなら、庭の木陰で本読んでたわよ」

うちがここに来る目的がそこにあるのを、園長先生は気付いてるようだ。
「あ・・・ありがとうございます」
軽く頭を下げ、奥へと向かう。


教えられた通り、木陰に座ってる梨華ちゃんの姿を見つけた。
これからの事を考えると、鼓動が早くなるのが嫌ってくらいに感じる。

ゆっくりと ―彼女の方へ足を進める。

75 名前:wing 投稿日:2003年02月15日(土)01時40分35秒

足音に気付き、顔をあげた梨華ちゃん。
うちだとわかった瞬間見せてくれる笑顔 ――うちは、それを今から曇らせるかもしれない


それでも・・・伝えたいこの気持ち


「・・・梨華ちゃんに隠してた事があるんだ。うちがこれから話す事、聞いてくれるか、な?」

軽く首を傾げてたけど、すぐ笑顔に戻ると頷いた。



場所を人気のない所へと移し、気持ちを固める
うちは、ゆっくり息を吐き

「あの、ね・・・うち、この街を離れようと思ってるんだ。」
言った瞬間、梨華ちゃんの表情から笑みが消えた。

76 名前:wing 投稿日:2003年02月15日(土)01時41分11秒

「本当の事、言うね。
 うちも梨華ちゃんと同じ、施設で育った。親に捨てられて荒れた生活送って・・・
 もう自分に生きてる価値がみえなくなった時に死のうとしたんだ、生きてても仕方ないって。
 その時にある人と出会ってね・・・

 それで、今の仕事についた。


 ・・・うち、人殺しなんだ。1人じゃなくて・・・何人も殺した」
 


「・・・・・・・」
俯いたまま、顔を上げようとしない梨華ちゃん

77 名前:wing 投稿日:2003年02月15日(土)01時41分42秒

「・・・吉澤ひとみって人間を自分の中から消し去って、指令があればそれに従って・・・
 人を殺す事にも・・・抵抗なくなってた
 罪の意識さえ感じなくなってた
 いつ死んでもおかしくなかったし・・・もしかしたら、どこかでそれを願ってたのかもしれない
 
 
 けど・・・そんな時に出会った1人の女の子の存在
 
 その子といると嫌な事、全部忘れられる
 その子の笑顔を見ていられるだけで幸せな気持ちになれる
 その子が泣いてたら、その子の傍に居て涙が乾くまで抱きしめてあげたい

 初めてなんだ、誰かを守りたいって感情
 自分の中に、そんな気持ちが生まれるなんて一生ないって思ってた


 だから 気持ち伝えるのに邪魔になった、今の生活を捨てようって決めたんだ」


誰のことを言ってるのかわかったのか、梨華ちゃんはゆっくりと顔をあげ、うちを見つめる。
けど、やはりどこか怯えてるような ――
唇をぎゅっと噛みしめて、うちを見つめてる。
 
78 名前:wing 投稿日:2003年02月15日(土)01時42分30秒

「梨華ちゃん、うちは・・・」
もう1度ゆっくり息をはき、梨華ちゃんの目をみつめて



「吉澤ひとみは、あなたの事が大好きです。
 多分 ――初めて会った、あの雨の日からずっと・・・」



次の瞬間、彼女の黒い瞳からポロポロと涙が落ちてきた。

「ご、ごめんっ!嫌だよね、こんなヤツから好きだなんて言われても嬉しくなんかない、よね・・・
 でも、どうしても伝えておきたかったから・・・え?」

人に泣かれるのは、どうにも慣れてなくて・・・しかも好きな子のとなればなおさらで。
一人あたふたしてたら、涙を拭った梨華ちゃんの手がゆっくりと動いて


「・・・・嬉しい?嬉しいって言ったの!?怖くないの?だって犯罪者なんだよ、うちは・・・」

79 名前:wing 投稿日:2003年02月15日(土)01時43分06秒

そうだよ、これだけは消せない事実 ――
うちの問いには答えず、梨華ちゃんはうちの手を取ると、その手のひらに自身の人差し指で文字を綴る。
 

「うちと、居た時間・・・短い・・・・でも・・・本当の、うち・・・わかってるつもり・・・
 大切なのは・・・過去 じゃなくて・・・・今と・・・これから・・・・一緒に・・・ついていきたい」


伝え終わると、梨華ちゃんはこれ以上にないってくらいの笑顔で笑ってる。

その笑顔が、ちょっとびっくりした表情に変わったかと思うと、そっとうちの頬に触れた。
――それから親指がゆっくりと動いて



その時、初めて自分が泣いてることに気付いた

梨華ちゃんの触れてる手、
うちの頬を伝う涙 ――


「ふふっ・・・・・・あったかいや」

80 名前:wing 投稿日:2003年02月15日(土)01時43分44秒

梨華ちゃんの手に自分の手を重ね目を閉じ、その温度に浸る。

すごく居心地よくて、ずっと触れていたくて離したくなくて・・・



ゆっくり目をあけ、目の前に梨華ちゃんがいることに幸せを感じる。
ずっと触れたくても触れれなかったキミを抱きしめること、許してくれますか?


「梨華ちゃん・・・」

ゆっくり手を回し、抱きしめる手がかすかに震えてる事に気付かれないように・・・
壊れ物を扱うかのように触れてた手に、ギュっと力を込める。
それに答えるように、梨華ちゃんの手もゆっくりとうちの背中に回される。

「うちは梨華ちゃんの傍にいるから・・・ずっと梨華ちゃんの事、守ってくからね。
 ずっとずっと・・・大好きだからね。」


頷く梨華ちゃんの瞳からは、さっきにも増して涙が零れ落ちる。
うちは、そっとその瞳に そして、そのやわらかい唇に ――キスをした

81 名前:pitom 投稿日:2003年02月15日(土)01時57分36秒
少なめですが更新終了です〜
これからちょっと更新ペースが遅くなるかもしれません・・・m(_ _)m;;;

>>72 ラヴ梨〜さん
もうバッチリHN覚えました!いしよし小説、ほとんどレスしてますよね?
私もROM専ですが、日々いしよし探し歩いてます(爆)
あと期待に答えられたでしょうか・・・(^^:
やっぱり少し展開早かったかな、とも思いつつ

>>73 7さん
レスありがとうございます!
( ´Д`)の愛する人、このCPいしよしの次に好きなんですが
「王道ではない方」です(ヒント少なすぎっ)
(0^〜^0)の今後、書けていたんですがやっぱり直していこうと思ってるんで
更新速度落ちます・・・すみません
でも放置は絶対しないんで気長にお付き合いくださいm(_ _)m
82 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年02月16日(日)00時22分57秒
天使な梨華ちゃん最高ですね
今後の二人の生活がどうなるのか、気になりますよ〜
何年もいしよし病な私ですが、レスしてるの有名なのかな…(汗)
83 名前:syagi 投稿日:2003年02月16日(日)23時28分50秒
泣いてしまいました。本当に幸せになってほしいな(*^_^*)
84 名前:wing 投稿日:2003年02月18日(火)22時38分27秒
「・・・なんか夢みたい」
ギュっと抱きしめたまま、そう呟いた
すると顔だけをこちらに向け、笑顔で返してくる

”夢じゃないよ”

「うん・・・そだね。今のうち、すごい幸せ者だなぁ」

許されるなら、ずっとこの余韻に浸っていたい・・・
けど、行動に移すなら早い方がいいだろう
そう思い立ち、梨華ちゃんにその旨を伝える。


「梨華ちゃん・・・早速、今夜出ようと思うんだ。
 最低限の荷造りをしててくれるかな?みんなが寝静まった夜中の12時に、裏の出口で待ってる
 ・・・・誰にも気付かれないように出てきて欲しい」

コクン、と頷くと梨華ちゃんはうちの腕を解き、施設へと走っていった。

85 名前:wing 投稿日:2003年02月18日(火)22時40分21秒

「・・・さて、と」
うちも、そうのんびりはしてられない。
不信に思われないように、ちゃんと来た道を通って帰る。



施設を出てから、とりあえず部屋に戻った。
それから身支度をして・・・引き出しから封筒を取り出す。
今までの報酬は、生活費以外すべてをそこに入れておいた。
なんとなく使う気にならなかったから・・・

落ちついたら、まず仕事を探そう。
梨華ちゃんには不自由な思い、させたくないから ――


コンコンッ
ドアをノックする音に、心音が跳ねた。警戒しつつ返事をする。
「・・・はい」
「あ、よしこ?ごとーだけど」

ホッと一息つき、ドアを開け迎え入れる。
部屋に入って隅に置いてあった荷物を見つけた途端 ごっちんはうちの顔を見て二ヤっと笑う。

86 名前:wing 投稿日:2003年02月18日(火)22時42分20秒
「・・・・うまくいったんだ?」
「ん、まぁ・・・」
なんか妙に気恥ずかしくって、ポリポリと頭を掻く。

「よかったじゃーーーんっ!!!」
言うと同時に、ごっちんはうちに抱きついてきた。
「ご、ごっちん・・・くるしぃーーー・・」



「じゃ、今夜行くんだね?」

大体の経緯、そしてこれからの事を話した。
「うん。うちがいなくなった事 ―多分、明日には上にバレると思う。
 そうなったら・・・」

1番気になってること
「・・・あぁ、真っ先にごとーの所にくるだろね」

ごっちんとうちが親しくしてることくらい上はわかってる訳で、まず行き先を問い詰めにくるはず。
ヤツらは手段を選ばない
どんな手を使ってでも、知ってる事全てを吐き出させるだろう
そうなったら、謝るくらいじゃ済まない迷惑をかけてしまう
なのに自分だけ、さっさと逃げるなんて・・・

87 名前:wing 投稿日:2003年02月18日(火)22時43分06秒

「そんなこと・・・気にしなくていいよ。心配しなくても、よしこの事は絶対バラさない。
 よしこがやっと前へ向いて進もうとしてるんだもん・・・なんとしてでもここから逃がしてあげる」
 
後の事は任せて!
言いながらピースサインをして笑ってるごっちん。

「あり・・・がと、ごっちん」
申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになって、今にも涙が出そうになった。


けど、笑ってたその表情が真剣なものに変え口を開く
「その代わり、約束してもらいたい事があるんだ」

「約束?」

「うん ――絶対その子のこと守るって、幸せにするって約束して」

「・・・約束する。何があっても彼女を守りきる ――命にかけてでも」
うちの答えを聞いて、よしっ!とごっちんは背中をポンポン叩いた。

88 名前:wing 投稿日:2003年02月18日(火)22時43分48秒

「あれ?幸せにするって約束は〜?」
急にとぼけた感じで聞いてきた。そうゆうこと、言えない性格だってわかってるくせに・・・
だからなんか悔しくなって言ってやった

「・・・あぁ、それはうちが傍にいる事で既に幸せにしてあげられてるから」
フフンと、得意気な顔をわざと作る。

「うっわぁーー!言われちゃったよぉ。なんかむかつくぅー」
「ちょ、ちょっとぉ!ごっちん、くすぐるのはダメだってぇーー!!ギャハハ」



ひとしきり笑った後、どちらからともなく抱き合った。
「ごっちん・・・ホント今までありがとね。ホント ――ごっちんに会えてよかった」
「ごとーもだよ。よしこに会えて、本当によかった・・・てか、もう会えなくなる訳じゃないんだからさ」

そだね
ふふっと笑って、手を差し出す。ごっちんも、それに自分の手を合わせる。


「じゃ、・・・またね」


89 名前:wing 投稿日:2003年02月18日(火)22時44分35秒

辺りが何の物音もしなくなったのを確認した後そっと部屋を抜け、駆け足で梨華ちゃんの待つ施設へ向かう。

裏門に着き、時計を見ると23時48分を指してる。
「ちょっと早く来すぎたかな」
段になってる部分に腰かけ、しばらく時間を潰す。


梨華ちゃん、無事抜け出せたかな・・・
そんな事を考えてると、背後に人の気配を感じる。
街灯がないせいで顔までは確認できない。

さっと立ち上がり顔を確認した後、自然に頬が緩んでくるのがわかる。
「よかった、ちょっとだけ不安だったから。ホントに来てくれるのかな、って
 ・・・や、疑ってた訳じゃないって!」
焦って必死に弁解するうちを見て、クスクス笑ってる梨華ちゃん

90 名前:wing 投稿日:2003年02月18日(火)22時45分33秒
からかわれた事を悟ったうちは、照れ隠しに梨華ちゃんの手から荷物を取り
その空いた手をギュっと握って

「・・・じゃ、そろそろ行こっか」


暗い夜道 ――まるでうちらの未来みたい
不安だらけで、怖くないって言ったら嘘になる。

でも、何があっても乗り越える自信はある
どこからそんな気持ちが生まれてくるのかなんてわからないけど・・・
梨華ちゃんが隣りに居てさえくれれば ――


そんな事を考えながら、ふと横を歩く梨華ちゃんを見た。
視線に気付き、梨華ちゃんもうちを見上げるとニコっと笑ってくれる。


うん、この笑顔があれば大丈夫


91 名前:pitom 投稿日:2003年02月18日(火)22時58分08秒
更新終了です〜

>>82 ラヴ梨〜さん
私の中でも「天使=梨華ちゃん」が成立しております(* ̄∇ ̄*)
今後の生活、とりあえず甘く・・・できれば、と。
ラヴ梨〜さんと読んでるトコほとんど同じなので、よくお見かけしてます!

>>83 syagiさん
レス、ありがとうございます!
泣けましたか!?そう言ってもらえると、ホント嬉しいですっっ!!!
これからもがんがりますんでよろしくお願いします(*゚▽゚*)ノ
ほんと、この2人には幸せになってもらわなきゃ・・・(他人事(蹴))
92 名前:7 投稿日:2003年02月19日(水)11時34分51秒
更新、お疲れ様でした。
いよいよ駆け落ち(?)決行しましたか・・
お互いが大切に想いあってるのが伝わって来ますね。
二人には、♪どんな未来が訪れても〜夢は絶対叶うよ叶うから行こう♪
で進んで欲しいです。

残された後藤さんは大丈夫でしょうか。少し心配です。
後藤さんの大切な人、二人候補は浮かぶんですが・・どっちかな?
次回も楽しみにしてます。


93 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年02月20日(木)10時18分37秒
ラブなライフが続いてほすぃです
幸せよ永遠にみたいな
やっぱりいしよし描写イイな〜
同じいしよし同志がいて嬉しい限りです
94 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時14分11秒
しばらく歩いたがさすがに終電も出てしまってる訳で、今からホテルを探そうにもちょっと無理がある。
仕方なく通りかかった公園で足を止め、そこにあった簡単な造りの小屋で仮眠を取ることにした。

初夏だといっても、夜はやっぱり肌寒くて・・・
着てた上着を脱いで梨華ちゃんの膝にかけてから、後ろから抱きしめる。

「寒くない・・?」
その問いに首を横に振ると、ゆっくり体重を預けてくる。
「ん?重くないかって??」
そんなことにまで気遣うこの子が、本当に愛しくて・・・

「大丈夫だから、ゆっくり休んで。じゃ、・・・おやすみ」


その夜、久しぶりに居心地のいい夢を見た気がした


95 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時15分30秒


小屋の窓から入ってくる朝日で目が覚めた。

腕の中の梨華ちゃんはまだ眠ってる
起こすのも気が引けるから、しばらくこのまま寝かせてあげよう
後ろから覗きこむと、梨華ちゃんの寝顔に見惚れる。
時間を忘れてじっと見つめてると、眩しさで目を覚ましたようだ。


「おはよ。よく寝れた?」
目を擦りながら頷く梨華ちゃん
「そっか、よかった。じゃ、ちょっと待っててくれるかな?うち、ちょっとご飯買ってくるよ」

一緒に行くって言ったけど、公園の目の前に店があったのを思い出して待っててもらうことにした。


道路を挟んであるその店は開店して間もなかったのか、ざっと見ても品揃えはまばらだった。

一通り目を通しながら、ある事に気づく
「・・・しまった、梨華ちゃんの好きなもの聞いてないや」
今ごろ気付いた事に頭を悩ませながらも、とりあえず自分の好きなベーグルサンドと缶ジュースを2つずつ購入した

96 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時16分29秒

「はい、これ食べれるよね?」
袋からベーグルサンドを1つ取り出し、梨華ちゃんに手渡す。

「こうやって、そのままかじりつけばいいから」
初めて手にしたのか不思議そうにそれを見てる梨華ちゃんに、食べ方を見せる。
それを見て、梨華ちゃんも同じようにベーグルを1口ほおばる。

”おいしい”

「ほんと?よかったぁ。うち、これ大好きなんだ!
 梨華ちゃんの好きな食べ物聞いてなかったからさ。喜んでもらえたならよかったよ」



朝食を済ませ、駅に向かう。
始発ってこともあり、人の数はまばらだ。行き先なんて、まったく考えてなくて・・・

「どこか行きたいトコとかある?・・・昔、住んでた街??
 わかった。じゃあ、そこにしよう」

97 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時17分30秒

路面地図を見ると何回か乗り換えしなければならない街 ――
そこなら、きっと見つかる事もないだろう


電車に揺られながら、窓の外に目をやる。

今ごろバレてるだろう
ごっちん・・・大丈夫かな

裏切り・逃亡者には、すぐさま見つけられて死が待ってる ――
今、死ぬ訳にはいかない
梨華ちゃんと一緒に生きてくって決めたし、もう1度ちゃんとごっちんに謝らなきゃいけない
だから・・・
なんとしてでも逃げ切ってやる


無意識に手に力が入ってた。
その変化に気付き、梨華ちゃんが心配そうにうちの顔を覗きこんできた。
「あ・・・ごめん、痛かったね」

心の中はまだ冷えない温度で熱かったけれど、決して表に出してはいけないこの感情
追われる身であること、どうしても梨華ちゃんに言えなかった


その時アナウンスが流れ、到着間近を知らせる。
「そろそろ着くね」
話題を変えて、気分も切り替える。


98 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時19分27秒

「ふぅ〜、いい街じゃん」
長時間座りっぱなしだった体を伸ばしながら、空気の澄んだこの街に居心地の良さを早くも感じる。
うちの言葉が嬉しかったのか、隣りで梨華ちゃんも終始笑顔を絶やさないでいた。

朝出たのに、もう陽は沈みかかってて
「じゃ、暗くなる前に泊まるトコ探さなきゃね」
そう言って隣りを見ると、梨華ちゃんはよっぽど懐かしいのか、辺りをキョロキョロ見回してる。

「ふふっ、やっぱ街の風景とか変わってる?
 ・・・うん、うん。そっか、もう離れて10年になるもんね。
 じゃあさ、わかる範囲で案内してよ。その途中でホテル見つければいいし」
提案にコクコクと頷き、うちの手をとって早く!と急かす。
その姿が、ホント無邪気で ――

「ちょっ!梨華ちゃん、そんなに急がなくてもっ!」
口ではそんな事言ってても、ここまで楽しそうな梨華ちゃんを見るのは初めてで・・・
そんな彼女を見てたら、こっちまで楽しくなってくる

99 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時20分34秒

「あっ!梨華ちゃん、信号変わるよっ!!」
引っ張られっぱなしだったのを逆転し、今度はうちが引っ張り返してやる。


「・・・ッ、ハァー 苦し・・・・梨華ちゃ・・マジ、走り過ぎだってぇ・・・」
息を整えながらポケットから小銭を出し、自販機でジュースを買ってきた
「はい、梨華ちゃん。」
同じように息切らしながら、勢いよく飲んだもんだから案の定むせてる訳で

「ほら・・・大丈夫??」
背中を擦ってあげると、苦しそうな顔をしつつも笑いながら早く行こうと、懲りずに手を引っ張る。

「ったく・・・しょうがないお姫サマだなぁ」


うちらのここでの生活が ――いま始まった


100 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時26分22秒

梨華ちゃんの記憶を頼りにしばらく歩いていく。
途中 見覚えのある公園を見つけた時には、まるで子供の頃に戻ったかのような表情で遊具で遊んでる。
そんな彼女を見てると本当にこの街に来てよかった、と心からそう思えた。


その時、ふとある事に気がついた。
遊んでる梨華ちゃんの元へ歩んでいき、その事を聞いてみる

「ねぇ、小さい頃住んでた家とか、まだあるかなぁ?」
「っ!?」
うちの何気ないその問いに微かに肩が揺れたのが見えた。

「ん?梨華ちゃん どうかした?」
覗きこんで見た表情は、いつもと変わらなかった
きっと気のせいだろう、そう思ってさっきの続きを話し始める。

「これだけ変わってるし、やっぱなくなってるかなぁー 梨華ちゃん場所覚えてる?
 ・・・なんとなく?そっか、じゃあ今日はもう遅いし明日行ってみようよ」
うちの提案にコクンと頷いたのを見ると、今日泊まるホテルを探すため公園を後にする。



彼女の唇が僅かに震えてた
街灯もない、相手の顔も見兼ねるこの場所でうちがその事に気付く事はなかった ――

101 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時27分37秒

大通りに出ると、そこそこのビジネスホテルが幾つか並んでる

「じゃ、ここに決めようか」
どこがいいかなんてわからなかったから、外観でなんとなく決めた。
了解を得ると、おもむろにカバンからキャップを取り出すと前髪をかき上げ、深く被る。


梨華ちゃんの手を引きロビーに入ると、カウンターへ向かう。
「あの、部屋取りたいんですけど。ツイン1部屋空いてますか?」
元々低い声を、更に低めに変えて聞く。

「申し訳ございません、お客様。ただ今、ツインは満室となっておりまして・・・
 ダブルでよろしかったらご用意できますが、いかがなさいましょう」

「あ・・・えっとっ」
梨華ちゃんを見ると、嫌がってる様子もなくて
「じゃぁ・・・ダブルで」

「かしこまりました。では、こちらにお名前よろしいですか?
 あ、奥様のお名前もその下に・・・はい、ありがとうございます。では、こちらがキーになっておりますので」

102 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時28分52秒

先に勘定を済ませ、鍵を受け取る。
「じゃ、行こうか」
少し戸惑い気味の梨華ちゃんの手をとり、エレベーターへと向かう。


エレベーターに乗り込むと、すぐさま梨華ちゃんが聞いてくる。
「ん?・・・あぁ、夫婦って事にすればあんまり詮索されないかなと思って。だから、帽子でカモフラージュ。
 ちょうど髪もショートだったからよかったよ
 あの人も、全然わかってなかったねぇー・・・って、ごめん。勝手なことしちゃって」

怒った?と、チラっと梨華ちゃんを見ると、なんだか頬に赤みが増してきてる。
「・・・びっくりしたけど、怒ってなんかない?
 ホント?よかった。・・・けど?けど、なに?」
更に顔を赤らめながら、なかなか続きを言おうとしない。


やっと動いた、梨華ちゃんの手が意味する言葉・・・


―― 吉澤梨華って、いいね

103 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時30分06秒

その言葉に、うちの顔も一気に紅くなってくる。
なんとなく夫婦って事にしただけで、名前なんて気にも止めてなかった。
改めてそんな風に言われると、嬉しくもあり恥ずかしくもある

「うん・・・そだね」
なんだかやっぱり照れくさくって、そうとしか答えられなかった。


部屋に入ると、値段の割にはなかなか綺麗な部屋で
梨華ちゃんも気に入ったのか、荷物をその辺に置くとブラインドを開け階下を見渡してる。

「ほら、移動で疲れたでしょ?先にお風呂入りなよ。うち、お湯入れてくるから」
シャワーだけじゃ疲れも取れないだろうし

浴室に向かう途中、ハッと気付く。
「・・っと、梨華ちゃんお腹空いたよね!?買いに行ってもいいけど・・・どっか食べに行く?
 駆け落ち記念ってことで、って何言ってんだか・・・ハハ」
自分で言っといて、寒すぎる言葉に苦笑いする。

104 名前:wing 投稿日:2003年02月22日(土)23時32分04秒
けど梨華ちゃんは、大きく頷きうちに腕を絡ませてくる ――目にうっすら涙を浮かべて
そんな梨華ちゃんを見てたら、気がついたら抱きしめてた。

「明日からきっと大変だと思うけど、うち頑張るからさ・・・
 これからも・・・その、よろしくね」


じっと見上げてきてた梨華ちゃんの瞳が、ゆっくり閉じられる
それに答えるように、うちも顔を近づけてく ――

グゥーー・・・

お互い、パッと目を開ける
その音が何を意味するのかわかってる本人は、顔を更に紅くさせて俯いたまま・・・

「よしっ!ご飯食べに行こ?」
ポンっと背中を押して、食事に出掛けた。


105 名前:pitom 投稿日:2003年02月22日(土)23時43分26秒
更新終了です!

>>92 7さん
レスありがとうございます!励みになります♪
はい、とうとう駆け落ちしちゃいましたっ( ^▽^)人(^〜^0) 
♪どんな未来が訪れても〜夢は絶対叶うよ叶うから行こう♪
まさにこの歌詞通りですよね!今後も2人に頑張ってもらいます(w

ごっちんの展開をどうしようか迷ったんですが、今のいしよしが終わってから
改めてごっちんを主に書こうかな、と考えております
あ、相手はですね。一昨年の運動会で背番号「30」だった方です♪

>>93 ラヴ梨〜さん
いつもレスありがとうございますっ!
「幸せよ永遠に」・・・いい言葉っすねーーー!!(≧∇≦)ノ
これからしばらく甘甘で・・・ってひっかかる言い方ですみません(自爆)
ホント、同じいしよし好きとしてこれからもよろしこです♪
106 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時18分47秒

行き当たりばったりで入ったその店は、落ちついた雰囲気が素敵ないい店だった。
メニューを見ながら、適当に注文していく。

料理もおいしくて、梨華ちゃんも満足してるようだ。
いい具合にお腹もいっぱいになった頃に、メニューを見ながら梨華ちゃんが聞いてきた。

「これ?これはお酒の種類だよ。梨華ちゃんにはまだ早いよ」
そう言われて子供扱いされたと拗ねたかと思ったら、今度はそれを飲みたいと言い出した。

「・・・マジ?だめだよ、一応未成年なんだから。
 てゆうか梨華ちゃんお酒飲んだ事ないんでしょ?すぐ酔っちゃうって」
首を振りながら、メニューを梨華ちゃんの手から取る。

少しかわいそうになって代わりにデザートでも頼んであげようか、とメニューを見ながら
視線だけ梨華ちゃんに移すと、じっと恨めしそうにこっちを見てた。

「そんな目で見ないでよぉー・・・」


107 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時21分01秒

はぁー・・・
ため息を一つつき、近くを通った店員に声を掛け、ピーチ・フィズとジントニックを注文した。
これならアルコールも大してきつくないだろうし多分梨華ちゃんでも飲めるだろう・・・


しばらくして店員がグラスを2つ運んでくる。
梨華ちゃんの前に置かれたピンク色のカクテル ――
その透き通った色に、しばらく見入っていたようだ
そして手話で話しかけてくる。

「・・・あ、梨華ちゃんピンク好きだったんだ?じゃあ、これ選んで正解だったね。
 梨華ちゃんに似合ってるよ、その色」
うちの言葉がよほど嬉しかったのか、笑顔を絶やすことなくグラスを見つめてた。
それから、そっと手に取りゆっくり口付ける。


「どう?初めてお酒飲んだ感想は」

口に手をあて数回瞬きした後、今度はさっきよりも多めに口に含んだ。
じっくり味わった後、笑顔と同時にOKサインを出してる。

108 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時22分22秒

「そっか〜 よかったよかった。これで満足しましたかな、姫?」
なんだかんだ言っても梨華ちゃんの喜んでる顔を見るのが1番嬉しい
うちもグラスを取り、一口飲む。

その様子を見てた梨華ちゃんが、うちのグラスの中身にも興味を持ったようだ
「これ?これもお酒だよ。けど、梨華ちゃんが飲んだのに比べたら甘みが少ないんだよね
 ・・・は!?だめだよっ!これは梨華ちゃんには飲ませられないっ」

そう言ってるのに、うちが持ってるグラスを無理矢理奪い取ると、中身を匂ったり軽く揺すったりしてる。

「だめだよ・・・?」
軽く睨みながら、様子を伺う。
その視線にちょっとは怖気づいたかと思いきや、まるで水でも飲むようにゴクッと飲みこんだ。
けど、次の瞬間梨華ちゃんの表情は険しいものに変わっていき、傍に置いてあった本物の水で口の中を濯ぐ。

「・・・だから言ってるのに」
半分呆れながらも、梨華ちゃんも好奇心旺盛なんだ、と少し見当違いな事を考える。
梨華ちゃんはと言うとまだ後味が残ってるのか、うちの分の水も飲み干したのに眉間にシワを寄せてた

109 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時24分24秒

「大丈夫?ジュースかなんか頼もうか?」
けれど意地になってるのか、半分ほど残ってる自分のグラスを手放さないで首を横に振ってる。
次第に頬に赤みを帯びてきてる事に気付いたうちは、やんわりと梨華ちゃんの手からグラスを取る。
思った以上に簡単にグラスを渡した事で、酔いがまわり始めてきたのだろうと予想できた


早めに帰った方がいいかな・・・



梨華ちゃんをその場に残し、先に勘定を済ませる。
テーブルに戻った時、何気なく目に入った梨華ちゃんの ――虚ろな目、少し開きかけた口唇

110 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時25分25秒

ドクン・・・・
一瞬にして鼓動が高鳴る

人間は酔うとこんなにも表情が変わるものなのか
好きな子のだからこそなのかもしれないのだけれど、その表情からしばらく目が離せなかった


「・・・っと」
我に返り、ゆっくり梨華ちゃんの腕を引きながら店を後にした。



「・・・ほら、梨華ちゃん」
店を出てすぐそう言いながらしゃがむ。
足元をふらつかせてる彼女と歩いて帰るよりも、おぶって帰った方が時間短縮できるだろう

その声にフラフラと歩きながら、うちの背中に身を任せる。
「・・・よいしょっと」
ゆっくり立ち上がり、ホテルへの道のりを歩いた。

111 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時26分18秒

部屋に着き、そっと梨華ちゃんをベッドに寝かせる。
「大丈夫?気持ち悪くない?」
時間も経ってた事で大分酔いも覚めてきたのか、その問いにコクコクと頷いて答える。
「じゃあ、ゆっくり寝なよ。気分悪くなったら呼んでくれればいいから」
そう言いながら、その場を離れようとした時、服の裾を引っ張られた。

「ん?・・・どこにもいかないよ。ここにいるから」
枕元に腰掛け、ゆっくり梨華ちゃんの頭を撫でてあげる。
その間、じっとうちをすがるような目で見てくる・・・



うちの気持ちは随分前から高ぶっていた
なのにそんな風に見つめられたら、自分を抑えられなくなってしまう ――


112 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時27分32秒

自分の中の汚らわしい気持ちを見透かされるのが怖くて、パッと顔を背けた。
するとベッドが揺れ、梨華ちゃんが体を起こしたことが伝わってくる。

「梨華ちゃん、寝てなきゃ・・・っ!?」
そう言いながら振り向いたと同時に、唇を塞がれた。

ゆっくりと離れていく梨華ちゃんを目で追う。
体が固まったように動かない ――けれど口だけが勝手に動き、こう言ってた。

「・・・・いい、の?」


梨華ちゃんが頷いたと同時に、うちは彼女を抱きしめてた。
離れたばかりの唇を追いかけるように、夢中で唇を重ねた ――もう1mmも離れたくなくて

ゆっくりと体重をかけ、ベッドに倒れこむ


「愛してるよ・・・・・・梨華ちゃん」






113 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時28分23秒

生まれたままの姿で眠ってる2人 ――
まるで、何も知らない赤ん坊のような寝顔


「ん・・・・」
まだ完全に起き切れてない頭を無理やり覚醒させる。
そして自分の今の状態を把握した時、昨夜の出来事が夢でなかった事を改めて実感する。

もう少しこの幸せに浸っていたくて、
隣りで寄り添うように寝てる梨華ちゃんを抱きしめようと触れた瞬間、肩がビクっと揺れたのがわかった。


「・・・あ、れ?梨華ちゃん起きてる?」
顔を覗きこむと、目をギュッと瞑ってわずかに頬も紅くなってる。

「寝たふりなんて、なんでまた・・・恥ずかしくて?」
梨華ちゃんの一言一言が、うちの心を高まらせていく
クスクス笑いながら、その小さな天使を一生手離すまいと腕の中へと包み込む。


あったかいな・・・
なんで人間の体温って、こんなに落ちつけるんだろう




114 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時29分15秒

ふと、サイドテーブルに置いてある時計が目に入った。

「8時過ぎか・・・」
今日はまず部屋を探さなきゃ・・・いつまでもホテルに泊まる訳にもいかない

「梨華ちゃん、とりあえず10時にチェックアウトして部屋探しに行こうと思うんだ。
 けど、すぐには見つからないと思うから、見つかるまでこのホテルに泊まる予定でいいかな?」
頷くのを確認すると、そろそろ支度しようかと促す。


それぞれの身支度が終わり、ホテルを後にする。
外に出ると、気持ちいいくらいの快晴だった。

「じゃあ、まずご飯食べてそれから不動産屋行こっか。」

115 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時29分53秒

電柱に貼ってる広告を見て、とりあえず不動産屋を尋ねた。

「すみません、部屋探してるんですけど・・・」
その声に奥に座ってた一人の男性がチラリとこっちを見ると、少し怪訝そうな表情をしながら腰を上げた。
受付の所へ促されると、まず開口一番聞いてきた。

「君達・・・未成年じゃないの?」


やっぱり・・・
部屋を借りるのにうちらの歳じゃそう簡単に貸してくれる訳ないって覚悟はしてた
身分証明するものもないし、親がいないうちらには保証人すらいない

黙ってるうちを見て確信を得たのか、ふぅ・・っとわざと大きなため息をつく
「家出ってとこか・・・こっちとしても問題があるような人には部屋は貸せれないんだよ
 何かあってからじゃ遅いしね」

116 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時30分37秒

「うちらに親はいないんです。だから部屋貸してもらわないと住む所がなくって・・・
 ちゃんと家賃は払いますんで!だからお願いしますっ」
必死になって食いついた。

そう言われてもねぇ・・・
男は少し困った顔をしながら言葉を濁す。


「・・・やっぱり、申し訳ないけど他あたってくれる?」
そう言い残すと、男は自分の持ち場へと戻っていった。
隣りに座ってる梨華ちゃんと顔を見合わせると同時にため息をついた。

「・・・いこっか」


外に出ると、昼過ぎって事もあり次第に暑さが増してきてた
手でパタパタ扇ぎながら恨めしそうに空を見上げる。

「じっとしてても仕方ないし次の不動産屋を探そっか・・・きっとどこか貸してくれるよ」
視線を空から梨華ちゃんに変えて言ったその言葉は、自分にも言い聞かせるものだった。

117 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時31分29秒

しかし、その後も1軒尋ねたのだけれどいい返事はもらえなかった。
街の風景を見ながらの部屋探しだった為、気がつけば陽も傾き始めてる。
この時間になると当の不動産屋が閉まり始めてるだろう
今日はこの辺にして途中ご飯を食べてホテルに戻ろう、と言う事になった。

「まぁ・・・初日から見つかる訳ないっか。諦めずに明日も探しに・・・・梨華ちゃん?」
繋いでた手が引っ張られるのに気付き後ろを振り返ると、その場に立ち止まってる彼女の表情が少し堅くなってた。

「・・・どうかした?」
うちの問いかけにも答える事なく、ただじっと俯いてる
こんな事、今までになかったから余計に心配になってきた。

「黙ってちゃわかんないよ・・・ねぇ、梨華ちゃん?」
諭すようにゆっくりと声をかける。


118 名前:wing 投稿日:2003年02月27日(木)23時32分08秒

しばらくした後、ようやく梨華ちゃんが顔を上げ手を動かし始めた。

「・・・えっ?あっ、ここなんだぁ」
――梨華ちゃんの生まれた家って


適当に道を選びながら歩いていた為、まさか偶然にも家の前を通るとは思ってもみなかった。
そうだ、昨日行こうって話ししてたのに部屋探す事で頭がいっぱいですっかり忘れてた・・・



・・・けど、梨華ちゃん なんでそんなに辛そうな顔してるの?




119 名前:pitom 投稿日:2003年02月27日(木)23時35分33秒
更新終了です〜

メル欄にも書いたのですが、上手く書けない+ストック切れ+山口へ小旅行の為
次の更新は、また更に遅くなります・・・m(_ _)m
気長に待っててくれたら、ホントありがたいですっ!!
120 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月01日(土)02時06分37秒
旅行でレスできませんでしたが楽しみにしてましたよ!!
うわぉ!!
帰って見たらすでに二人はむすばれ…(幸)
しゃべれないけどかわいいアクションの梨華ちゃんサイコーですな
全然、上手いっすよ作者さん!
いつまでも待ちますんで気楽に!
121 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月05日(水)21時23分45秒
素直におもしろいです。
この先の展開が気になりまくり。
122 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時02分13秒

じっと、唇を噛み締めてその家を眺めてた
その横顔を見てると、こっちまで悲しくなってくる

うちの視線に気付き笑顔を見せてくれてるけど、それが無理に作ってる事くらい手にとるようにわかる
それと同時に無理してでもうちに心配かけたくない梨華ちゃんなりの気遣いってことも痛いくらいに伝わってくる


だから今は梨華ちゃんに合わせなきゃ
これ以上つっこむ事は彼女にとって辛い事なのだろう
ごっちんがうちに対してそうしてくれてたように、うちも梨華ちゃんに対して詮索するような事だけはしたくない

言いたくなった時には、ちゃんと聞くから・・・

・・・けど、それは


123 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時03分32秒


偽善 ――
ふと、この言葉が頭をよぎる

梨華ちゃんの過去に何があったか・・・
それを聞いた時に、うちにそれを受けとめる自信がないから単に現状から逃げようとしてるだけ?
無理に問いただし彼女を傷つけるのが嫌なのか、それとも ――自分が傷つくのが嫌なのか・・・


生まれた葛藤はみるみる膨れ上がっていく


幼すぎる自分に少し嫌気が差した
早く、彼女の全てを受けとめられる大人になりたい ――



考えてる間、何も目に入ってなくて
軽く腕を引っ張られた事で、覗き込んできてた梨華ちゃんが初めて目に映った。

124 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時04分46秒

「あっ・・・ごめん。ボーっとしてた」
そう言ううちを苦笑いしながらも、早く行こうと手を引く。
それにうちは黙って従う


結局 ――なにも聞けなかった



ホテルに戻ってからの梨華ちゃんの態度は、今までと何ら変わることなくいつも通りの明るさを見せてた

「梨華ちゃん・・・」
ベッドに腰掛け、さっき買ってきたコンビニの袋からペットボトルを取り出しながら顔だけをこっちに向ける

「その・・・今日1日歩きっぱなしだったしさ、早めに寝て明日もまた部屋探し頑張ろうか」

”うんっ”

笑顔で頷く彼女に、少し過敏になりすぎてたと反省する
梨華ちゃんはこうやって目の前にちゃんといるし、わざわざ辛い思いさせなくてもいい、よね・・・

125 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時06分27秒

「・・・梨華ちゃん」
何度も呼ばれる事に首を傾げ少し不思議がりながらも
四つん這いで、ベッドの反対側にいたうちの元へと寄ってきた。

けど、うちが何も言わないのに待ちきれなかったのか、そっと梨華ちゃんの方から首に腕を回してくる
うちもどこかでそれを期待してたのか、梨華ちゃんの行動に少しも驚くことなくゆっくりと抱きしめた。


「梨華ちゃんってぇ・・見てて飽きないし、居心地いい」
うち、もうメロメロって感じ ――

くだけた口調で言ったその言葉に、腕の中の彼女は思わず吹き出す。
「ん〜?なんで笑うのぉー」

うずめてた顔を上げ、クスクス笑いながら手を動かす。

「へ?オヤジみたい?んー・・いいもん、オヤジでも。ホントにそう思ってるし」

そして更に抱きしめる腕に力を込めた。


126 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時07分35秒

翌日も、昨日と違う区域の不動産を尋ね歩く
しかし返ってくる答えはどこも同じものだった。

「あぁーっ!もうどうなってんだよ、この世の中はぁー!!!」
暑さと、何軒も断わられ続けた苛立ちから無意識に叫んでた。
梨華ちゃんも疲れの色を隠せないでいる。

あぁー・・・マジどうしよう



「・・・ねぇ君達、部屋 ――探してるの?」

そんな弱気な事を考えてると、ふいに後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこには1人の女性が立ってた。
ショートカットで、少し明るめの茶色の髪が太陽に照らされキラキラ光ってる。
笑顔の似合うその女性は、うちらが返事に困ってるのを察し話し続ける。


127 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時08分39秒

「見た感じ、君達まだ10代でしょ?部屋借りるにも、ちょっと難しいよねぇ
 うち、1階でパン屋やってて2階はアパートにして父親が管理してたんだけどね
 去年亡くなってからずっと空き家のままなんだ

 君達がよければ部屋貸すけど?」


思いもよらない話しだった ――



128 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時09分36秒

「えっと・・・マジ、ですか?」

おいしい話ではあったけど、いきなり見ず知らずの人に持ち掛けられた話しを
すぐに信じるのも抵抗があって・・・


「あ、いきなりすぎたね!名前も言ってなかったし、これじゃ怪しい人だよねぇ
 安倍なつみ、よろしくね。さっき、君が不動産屋さんの前で叫んでたの聞こえてね
 もしかしたら、って思ってさぁ
 とりあえず部屋、見るだけ見においでよ。嫌なら断わってくれて構わないしさっ」


確かにいい話しではある。
これを断わって他が見つかる確証もないし・・・行くだけいってみよう

「・・・じゃ、部屋見せてもらえますか?」

OK!と、微笑むとうちらの前を歩き、アパートまでの道を案内してくれる。


129 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時10分44秒
「そーいや・・・まだ名前聞いてなかったね〜えっと・・・」
うちと梨華ちゃんを交互に見てきた

「すみません、吉澤ひとみって言います。それで・・・石川梨華ちゃんです。
 彼女、言葉話せなくって。あっ、でも耳は聞こえてるんで」
隣りを見ながら紹介する。

「そうなんだ〜」
そう言いながら、安倍さんの手がささっと動いて

手話だった


「安倍さん、手話できるんですか!?」
うちも梨華ちゃんも咄嗟の出来事で、目を丸くさせた。

「へへっ ちょっとだけだけどね。昔、覚える機会があったから」
うちに言いながらも手話も続けてて、それに対して梨華ちゃんも返してる。

―― よかった、いい人そうで


130 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時12分02秒

着いたそこは、思ってた以上にいい部屋だった。
「こんないい部屋貸してもらえるんですか?」
見る限り浴室・トイレも完備してるようだし、家賃の方が気になってきた。

そんなうちの表情に気付いて
「あ、家賃は・・・そだな。水道代とか、もう全部込みで3万でどう?」

「さ・・・3万ですか!??」
予想もしてなかったその値段に、耳を疑った。
「うん、3万」
そう言いながら手で3を示しているのを見ると、聞き間違いでないことは確かなようだ。

「困った時はお互い様って言うっしょ?どうせ使ってない部屋な訳だし。
 お金とか、そーゆうのは気にしなくていいよ!
 ただ家具とかほとんど置いてないから、その辺は揃えてもらわなきゃいけないんだけど」
申し訳なさそうに苦笑いしながら言ってる。

131 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時12分58秒

「や、そんなの全然構わないです!ホントありがとうございますっ!助かりましたっ」


本当にいい人に出会えてよかった
うち一人の力では、こんなに早く借りる事もできなかっただろうし・・・



「ここに決めていいかな?」
梨華ちゃんの表情を見ると、聞くまでもなかったようだ。

「じゃ、これからよろしくお願いします」
こちらこそ、と手を差し伸べられて握手した。


「あ、この近くに日用品とか揃ってる店あるから行っておいでよ。
 あと電気とかもう通ってるから、今日からでも住んでもらってOKだよ。鍵も渡しとくね」
安倍さんは簡単に話し終えると、店開けなきゃと戻っていった。


「ホントいいトコ見つかってよかったよね!じゃ、時間もあるし買いだしいこっか?」


132 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時13分33秒

「・・・よいしょっと。ちょっと買いすぎたかな」
両手いっぱいに荷物を持ち、家路へとつく。

「ふぅ、とりあえずこれだけあったら大丈夫かな・・・って梨華ちゃん?何してんの?」
隣りを見ると、買ってきたばかりの袋をなにやらゴソゴソと物色してた。
しばらくした後、お目当てのそれが見つかったのか箱から出し、うちに見せてくれる。

「あぁ、お揃いで買ったマグカップね。早速使う?」
嬉しそうに頷いてる梨華ちゃんからカップを受け取ると、キッチンへと向かう。


「紅茶でよかったよね?」
そう言いながら、カップを梨華ちゃんに渡す。

「熱いから気をつけてね。あ、それと部屋も決まったし うち明日から仕事探しにいくよ。
 いつまでも、そうのんびりはしてられないし」
お金にだって底はある訳で・・・

133 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時14分21秒

「その間、部屋の整理とかしててくれると嬉しいかな・・・へ?梨華ちゃんも働きたい?
 それは・・・いや、だめじゃないけど、やっぱ心配だしさ・・」

うちの言葉に肩を落としてる梨華ちゃんを見てると、なんとか聞き入れてあげたいけれど
―― けど、梨華ちゃんは言葉が話せない
引きうけてくれる店があるかどうか・・・BR>かといって1日中、部屋に閉じ込めておくのも酷な話だ。

・・・どうしたらいいんだろ


考えていると、外から声が聞こえてきた。
「おーい、ちょっと開けてくれるかなぁ?」
その声に急いで入り口を開ける。そこには14インチくらいのテレビを両手に抱えた安倍さんが立ってた。

134 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時15分59秒

「え?どうしたんですか、テレビなんて・・・」
「これさ、前住んでた人が置いてったんだけど、まだ使えるしと思って取っといたの。
 よかったら使わないかな、って」
テレビもやっぱ必要でしょ?

「ありがとうございますっ。じゃぁ、ありがたく使わせてもらいます」
その時、安倍さんの顔を見てある事を思いついた。

「あっ、あの!お願いがあるんですけど・・・梨華ちゃんを安倍さんの店で働かせてもらえませんか?」
咄嗟に思いついた考えだった。
いきなりのうちの申し出に、安倍さんは目をパチパチさせてた。

135 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時16分48秒

「梨華ちゃんを?んー・・・別にいんだけど、なっちの店もそんなお客さん来ることもないし
 梨華ちゃんが働いてくれた分 払えるだけの収入がね・・・」
苦笑いしながら、頭をポリポリとかいてる安倍さん。
その言葉を聞いた梨華ちゃんがすぐさま話しかけた。

「お金なんていらない?だってタダ働きさせるのも・・・え?いろいろお世話になってるし、
 少しでも・・役にたちたい?そう言ってもらえるのなら・・・手伝ってもらおうかな」
よろしくね、と手を差し出してきた安倍さん。
梨華ちゃんも働ける喜びからか、笑顔でその手を握り返してた。

そんな2人を見てて、安倍さんになら安心して任せられるって素直に思った。
よしっ、うちも頑張らなきゃ!

136 名前:wing 投稿日:2003年03月06日(木)23時17分30秒
翌日 ―

「じゃ、梨華ちゃんいってきます」
玄関先まで見送ってくれる梨華ちゃんに振り向きながら手を振り、階段をトントンっと降りていく。

「あ、安倍さん おはようございます」
ちょうど店を開けたところで、軒下に水をまいてる安倍さんが目に入った。
うちの声に気付き、顔を上げるとにっこり笑って

「おっ、よっすぃ〜おはよぉー!」
「よ・・・よっすぃ〜・・・ですか?」
「そっ!吉澤だからよっすぃ〜。ほら、頑張って仕事見つけてきなよ〜?」
うちの背中をポンポン叩きながら送り出してくれる。

「わかってますよぉー、あっ 梨華ちゃんの事、よろしくお願いします。」
もちろん!と頷く安倍さんに手を振ると

「じゃ、いってきます!」


137 名前:pitom 投稿日:2003年03月06日(木)23時29分57秒
遅くなりましたが、更新終了です〜
1人、新しく登場しました。
(0^〜^0)のピンチを救ってくれるのは、この人しかいないかな、と!

>>120 ラヴ梨〜さん
ラヴ梨〜さんも旅行でしたか(^^)
はい、いつの間にか結ばれ・・・♪
梨華ちゃんの行動、無事伝わってるようでホント安心しました
これが1番の悩みのタネでして・・(^^;
最近、国語辞典を引く事が多くなりました(蹴)

>>121 名無し読者さん
レスありがとうございますっ!m(_ _)m
おもしろいって言ってくれて、ホンキで嬉しいですっっ(≧∇≦)ノ
これからの展開、山あり谷ありで頑張っていきます(w

138 名前:wing 投稿日:2003年03月15日(土)00時43分26秒

数十分後、朝食の片付けを終わらせた梨華が安倍の店を訪れた。

店に入ると、既にパンの焼けるいい匂いが漂ってた。

「あ、梨華ちゃん おはよっ!」
梨華の姿を見て安倍はいつもの笑顔で声をかける。
その声に、少しはにかみながら頭を下げる。

「昨日はよく眠れた?・・・ん?あぁ、お客さん用にあったフトンだから気にしないで使ってよ
 すぐに全て揃えるのなんて無理だもんね〜
 けど、あれ夏用の薄いやつだからまた寒くなってきたら、その時は買わなくちゃねっ」
テレビを持ってきた後フトンがない事に気付いた安倍は、使ってないフトンを2人に貸したのだった。

139 名前:wing 投稿日:2003年03月15日(土)00時45分05秒

「じゃ、早速仕事内容説明しようかな
 梨華ちゃんにはまだパン作りは難しいから接客を中心にやってもらうね
 慣れるまで大変だと思うけど、結構楽しい仕事だから頑張って!」
そう言いながら、1つ1つ丁寧に教えてくれた。

梨華が言葉を話せない事についても、安倍の方から説明してくれたのもあって無事午前の営業を終える。
それから1時間ほど、昼食を取るのと下準備のために店を閉めることになってるようだ。

「どう?半日やってみて」
昼食を一緒に食べながら、他愛もない会話を始める
相手が手話を知ってるだけに梨華もすぐさま自分の気持ちを手話にする。

「楽しい?そっか、それならよかった!頑張ろうね、これから。
 よっすぃ〜も無事仕事見つけられたかなぁー」

今日も雲一つない晴天で、それが逆にひとみを心配させる要素となる。
その気持ちが顔に出てたのか、クスクス笑いながら話し始めた。

140 名前:wing 投稿日:2003年03月15日(土)00時46分51秒

「今の梨華ちゃん、よっすぃ〜のことが心配で心配でどうしようもないって顔してるよ?
 ・・・ふふっ、そんな事あるってぇ」
少しからかうような口調で答える。



「梨華ちゃん、今すっごい幸せでしょ?」
ふいをついたその言葉に、思わず飲んでた紅茶でむせる。

「ごめんごめん、いきなり聞いちゃって
 でも梨華ちゃん見てたらそうなんだろうな、って。よっすぃ〜見ててもだけどさ」
咳き込む梨華の背中を擦りながら話し続ける。


「なんか、お互いが必要とし合ってて・・・すごいなって思うんだ、なっちは。
 
 ・・・よかったね、梨華ちゃん。よっすぃ〜に出会えて」


―― はいっ
言葉に出せなくても、梨華の表情を見ればその答えは一目瞭然だった。


141 名前:wing 投稿日:2003年03月15日(土)00時48分17秒

昼からも客入りは結構なものだったけど、疲れは少しも感じず夢中で働いた。

気付けば日も暮れかかってて、一段落ついた所で店の片付けを始める。

「あ、梨華ちゃん!よっすぃ〜、そろそろ帰ってくる時間じゃない?
 夕飯とか作るなら早めに上がっていいよ〜
 あと、残り物だけどパンいるのあったら持ってっていいからねっ」

裏を掃除してた安倍からの声に甘えることにして、大体の掃除を済ませた後
先に終わらせてもらう事にした。


安倍のいる場所へと挨拶しに向かうと、黙々とオーブンを磨く姿があった。
その姿を見ると、今までこの店を大切にしてきたかがひしひしと伝わってくる。
この仕事を一人でこなす事がどれだけ大変か、今日1日で十分過ぎるくらいに実感した。
だからこそ役不足かもしれないけれど少しでも力になれれば、と思う梨華であった。

「あっ、お疲れ!また明日ね〜」
気配に気付き振り向きながら手を振ってくる。
梨華も同じように手を振り返すと、店を後にした。



142 名前:wing 投稿日:2003年03月15日(土)00時48分59秒


・・・仕事もそう簡単には決まらないか
ひとつ溜め息をつきながら、家路へとつく

初日と言う事もあり、ひとまずまだ店にいるだろう安倍の元を尋ねる。

「ただいま帰りましたぁー安倍さん、いますかぁ?」
入り口から顔だけを覗きこんだのだけれどそこに姿は見えず、店内まで入り少し大きめの声をかける。
同時に梨華の姿もないことで、もう部屋に戻ったのだと知る。


143 名前:wing 投稿日:2003年03月15日(土)00時49分48秒

「おかえり よっすぃ〜、どうだった?仕事見つかった?」

「さっぱりですねぇ・・・いろいろあたってはみたんですけど」
迎えてくれた安倍さんに対し、首を横に振ることで答える。

「そっかぁ。けど、まだ諦めるには早いよっ!明日からまた頑張って」
握りこぶしを作りながら応援してくれる安倍さん

「はいっ!・・・あ、梨華ちゃん もう帰りました?ちゃんとやってました?」
ずっとこの事が気にかかってて、矢継ぎ早に安倍さんに質問する。

「うん、もう1時間くらい前に帰ったよ〜
 梨華ちゃんすごい頑張ってくれてね、なっち本当助かったよぉ!
 今もおいしいご飯作って待ってるはずだから、ほらっ早く帰った帰ったぁ〜」
さっと、うちの背後に回って背中を押す。

「ぅわ?そんな押さなくても・・・んじゃ、また明日からもよろしくお願いします」
真後ろにいる安倍さんに顔だけ振り向き挨拶をすると、そのまま部屋へと急ぐ。


144 名前:wing 投稿日:2003年03月15日(土)00時50分21秒
階段を登る途中からすでにいい匂いが鼻を掠める。

その匂いにもだけど、やっと梨華ちゃんの顔が見れると思っただけでドアを開ける前から、心が弾む
たった半日別行動をとってただけなのに、早く会いたいって体中で叫んでるみたい


「ただいま 梨華ちゃん!」
勢いよくドアを開けると、キッチンに居た梨華ちゃんは少しびっくりしてたけど笑顔で出迎えてくれる。
頭で思うより先に体が動き、目の前の梨華ちゃんをギュっと抱きしめる。

「いい匂い〜何作ったの?・・・ハンバーグに、サラダ?うん、どれも大好き!
 あ、あのね梨華ちゃん、仕事見つからなかったんだぁー・・うん、そだね。明日も頑張るよっ
 じゃあ、早く食べようか?うち、お腹ペコペコだよー」

145 名前:wing 投稿日:2003年03月15日(土)00時51分07秒

既に出来あがってたのを梨華ちゃんが盛りつけ、うちがテーブルまで運んだあと向かい合って座る。


小さい頃の、消えかかってた記憶が頭に浮かんできた
目の前の幸せだけを感じて生きてたあの頃 ――

「・・・なんかさ、いいね こうゆうの。帰ったらご飯が出来てて
 目の前には梨華ちゃんがいて・・・家族ってこんな風にあったかいものだったんだよね」


なにがあっても、これだけは手放したくないな・・・




146 名前:pitom 投稿日:2003年03月15日(土)00時55分32秒
更新終了です♪

書いてて思ったのが、大体の登場人物の年齢はそのままなんですが
安倍さんだけ、少し大人で20代後半って事でよろしくお願いしますm(_ _)m;;
実年齢でパン屋1人で切り盛り、ってのも・・・と思いまして。
147 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月15日(土)01時23分45秒
ホント、よっすぃ〜が羨ましいですね
帰ったら、愛情タップリのおいしい夕食に、梨華ちゃんの笑顔が待ってるんですもんね〜
たまんないです、ハイ
148 名前:7 投稿日:2003年03月15日(土)12時05分54秒
更新、お疲れ様です。
新生活が無事スタートして、良かった良かった・・
しかしパン屋の安倍さん、似合い過ぎですw
美味しいパンを焼いてくれそうですよね。
世話焼き大家さんってカンジで非常に良いです!

このまま二人が幸せに過ごせることを願いたいのですが、今後の
「山あり谷あり」展開がどうなるのか、気になってます。
149 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時16分38秒

「どんな仕事がいいかな・・・」

翌日も朝から仕事探しに出掛けた。
店を1軒1軒あたるより早いかと、ガードレールに腰掛け立ち寄ったコンビニでもらった求人誌をパラパラっと見ていく。

経験もなければ学力に自信がある訳でもない。
しかも、この年齢・・・ 条件が悪すぎる
現に昨日もその理由で断わられ続けたのだから


「でもっ!!!」
声に出して、自分に言い聞かせる。
「弱気になってても仕方がない!今できる事をやらなきゃ・・・」


150 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時17分51秒

気持ちいいくらいに晴れ渡った青空を見上げる。
ふいに、蝉の鳴き声と共に機械音が耳に届く。
その音の方へと目を向けると、汗を流しながら働いてる人達の姿があった ――

「あ、そっか・・・あれなら」
思いついた時には体が動いてて、そこへと駆け寄っていた。


「すみません、ここで働かせてもらいたいんですけど!」
誰に聞いたらいいのかなんてわからなかったから、適当に声をかけてみた。

「・・・・は?」
うちのいきなりの言葉に唖然としてる男性。
「ここで、働かせてもらいたいんです」

「いや・・・ここはいくらなんでも無理だろ、あんたみたいな女の子に」
肩にかけてたタオルで流れ落ちる汗を拭きながら、その人は答えた。
「ここは男でもキツイ仕事だし、とてもじゃないけどできっこないよ。
 ・・・大きな声では言えないけど給料も安いしな。ハハッ」

「体力には自信あります。安くてももらえるだけでありがたいんで。だからお願いします」
頭を下げるうちに困り果てたようで、責任者と思われる人に事情を話してくれてるようだ。


151 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時18分44秒

「君か、ここで働きたいって子は。でも、なんでまたここで働きたいって思ったんだ?」
バイトなら、他にいくらだってあるだろ?


その言葉に一瞬考えた
今までお金を手に入れる手段は ――人間として最低なこと
だからこそ、簡単に稼げる仕事だけはしたくなかった
もう遅いかもしれないけど、自分の体を酷使することで少しでも罪を償えるのなら・・・


「・・・まぁ、いい。ちょうど1人辞めて人手が足りなかったとこだ
 だが女だからって甘やかしはしないから、そのつもりで働いてくれ。早速明日から働きにきてもらうけど、いいな?」
近くにいた作業員に指示を出すと、うちの肩をポンっとたたきその人は現場へと戻っていった。

「はいっ!ありがとうございます。よろしくお願いします!」


152 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時19分49秒

よかった・・・
確かに回りを見渡しても決して楽じゃない仕事だってことは充分過ぎるくらい伝わってくる。
ましてや、今から更に暑さが増してくる。
でも、梨華ちゃんのため・・・それと自分のためにも頑張らなければいけないから


簡単な説明を聞き終えると、梨華ちゃんの待つ家へと足を急がせる。
1秒でも早く、この事を話したくて ――



「ただいまぁー!」

まだ昼過ぎだし梨華ちゃんはまだ安倍さんの所で働いてるだろう
そう考え勢いよくパン屋の入り口を開ける。
するとパンを買いに来ていた数人のお客さんがびっくりした面持ちで一斉に振り向く。


153 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時21分04秒

「・・・あ」
ドアを開けた状態のまま、動きが止まってしまった。
営業中だってのに無我夢中で、周りが見えてなかった事に今更ながら気付く。

「すみません・・・大きな声出しちゃって」
数回頭を下げた後、視線をレジの方へと向けると眉間に皺を寄せながら苦笑いしてる安倍さんと
必死に笑いを堪えてる梨華ちゃんの姿があった。


客がいなくなったのを見計らって、2人に報告する。
「無事、仕事決まりました!」

うちの言葉に梨華ちゃんも安倍さんも心から喜んでくれた。
「よかったじゃんっ!!で、どんな仕事なの?」
「あ、簡単に言えば工事現場での肉体労働です。初めは交通整備とかにあてられると思うんですけど」

その言葉に、隣りにいた梨華ちゃんが聞いてきた。
「・・・ん?あぁ、正直キツイ仕事だとおもうよ。これから暑くなるしね。
 けど、うちにできることって言ったらこれくらいだしさ。それに体力には自信あるつもりだから!」


154 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時22分13秒

うちの言葉に少しは不安そうな表情は薄れてきたけど、やっぱりどこかまだ心配してるようだ。

「大丈夫!そんな顔しないでよ。」
ポンっと梨華ちゃんの頭に手をのせる。


―― ありがとう、頑張ってね
梨華ちゃんの手から伝わってくる想い

キミの為なら、なんだってするよ?



155 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時23分39秒

傍らでその様子を見てた安倍さんがコホン、と軽く咳き払いをすると言葉を続ける。
「お邪魔しちゃいけないんだろうけど、今一応営業中だしさぁ〜」

言われて思わず手を引っ込める。


「・・・なーんてね」
ニマっと笑うと壁に掛けてる時計に目をやる。

「2時過ぎかぁ・・・梨華ちゃん、今日はもう上がっていいよ!」
そう言われ戸惑い気味の梨華ちゃんに、安倍さんは言葉を付け足す。

「よっすぃ〜がこんな時間に帰ってこれるのもこれから少なくなるだろうし、2人で出かけておいでよ!」
店ならなっち一人で大丈夫だからさっ

156 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時24分56秒

「いや・・・でも」
安倍の提案にありがたく思うものの、やはりそうしょっちゅう甘える訳にもいかない。
断わりの返事をしようとした時に、安倍の言葉で遮られる。

「いいからいいから〜さっさと部屋戻って支度しておいでっ」

拒んでいてもきっとキリがないだろう
梨華ちゃんの表情からも同じ気持ちだろうと察した。
「んー・・・じゃあ、お言葉に甘えます」


店を出るとき、ふとある考えが浮かんだ。
「あ、安倍さん!今日夕飯一緒に食べませんか?
 1度ここに戻ってきますんで、いつもお世話になってるしお礼って事で・・・」

「ほんとに?じゃあ、店6時には閉めるから待ってるよぉ」


157 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時26分16秒
じゃ、また後で ――

約束を取り交わした後、うちらはすぐに支度をすると街のほうへと出掛けた
気がつけば、初めて何も気にすることなく夢中で2人の時間を楽しむ事が出来たような気がする

ショッピングを楽しみ、たまたま通りかかった道沿いのクレープ屋さんに立ち寄る。

「どれもおいしそうだねぇー!梨華ちゃんどれ食べたい?」
隣りを見ると、見本のクレープをじっと見つめ悩んでるようだった。

「・・・あ、でも夕飯食べれなくなっちゃうといけないよね」
その言葉に梨華ちゃんは眉尻を下げ、がっかりした表情を隠しきれないでいた。


でも、そう言ったものの店先まで来ておいて買うのをやめる訳にもいかない
「・・・そうだ、梨華ちゃんの食べたいの選んで、それ2人で半分こしよっか?」

158 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時26分58秒

うちの提案に、さっきの表情は瞬時に消え満面の笑みで笑いながら頷いてる
その様子に思わずシッポを振る子犬を思い浮かべてしまった。

「ふふっ じゃあ、どれがいい?」
しばらく迷った挙句、イチゴと生クリームの入ったクレープを指差す。
それを注文した後、手際よくクレープが作られる行程を2人で眺める。
出来あがったクレープを受け取り、すぐ横に置いてあるベンチに腰掛けた

「梨華ちゃん、先食べていいよ」
その言葉に遠慮がちに2、3口食べたかと思うと、それをうちの方へ差し出してきた。

「食べていいの?・・・あ、当たりじゃん、ここ。ラッキー♪」
ちょうどイチゴが出てきた1番おいしい所を頬張る。
口いっぱいに広がる甘酸っぱさをゆっくり味わいながら梨華ちゃんの方を見ると
クスクス笑いながら手を動かしてくる。

159 名前:wing 投稿日:2003年03月22日(土)22時27分52秒

「・・・ハムスターみたい?ひっでぇー」
口の中は空になったのだけれど、また少し頬を膨らませる。
そんな姿に梨華ちゃんは謝りながらもまだ口元は緩んだまま。

「もう笑いすぎっ・・・・・ん?」
笑いながら差し出してきた梨華ちゃんの手に動きを止める。
その手はゆっくりうちの唇を撫でた。
その時初めてクリームが付いたままだったことに気づき、恥ずかしさで顔が赤くなるのが嫌でも伝わってくる

「うち・・・子供みたいだね」
苦笑いをしながら、照れ隠しにクレープを持ってる方の手を引きそのままかじり付く。


「うん、おいしぃ〜」
少しオーバーなリアクションをとった事に2人して笑いながら、その後も交互にクレープを食べあった。

160 名前:pitom 投稿日:2003年03月22日(土)22時38分03秒
更新終了です〜
進むにつれてどんどんペースダウンして申し訳ないれす・・・(^^;

>>147 ラヴ梨〜さん
レスありがとうございますっ!
ですよねー!
私も書いてて「いいな、よっすぃ〜・・・」と口をあんぐり開けながら
PCに向き合ってます(爆)
梨華ちゃんが待っててくれるなら、1秒でも早く家帰りますね!
てか、家から出たくないや・・(w

>>148 7さん
レスありがとうございます〜!
はい、なんとか仕事も決まりホッと一息ついてます(w
安倍さん、適役でしたか?
候補は他に飯田さんもいいかなーって考えたんだけど、やっぱ
安倍さんの笑顔見てたらパン屋さん&大家さんの設定がしっくりきまして♪
今後の「山あり谷あり」・・・もうしばらくしてから、谷が・・・(^^;
161 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月23日(日)02時30分37秒
なんて心暖まるんだ、こんちくしょう(涙
この甘いひとときな描写はもはやどんなカップルも超越できないんじゃないか!!
たまらないっすホント
162 名前:7 投稿日:2003年03月23日(日)11時09分55秒
更新、お疲れ様でした。
優しい大家さん、そして愛する人がそばにいる生活・・
くふぁ〜、これぞいしよしですがな!
クレープを分け合うふたりに萌えさせていただきましたw
密かに安倍さんの焼いたパンも食べたいと思ってみたり・・

これから谷が待ってるんですね(泣)
吉は愛する人を守れるのか・・
あの後の後藤さんの安否もちょっと心配です。
163 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)17時49分11秒

その後、時間をみて安倍さんを迎えに行き食事へと出掛けた。
連れられて行ったその店は、安倍さんの行きつけらしく店に入るなり温かく迎え入れてくれた。
聞けばしばらく一人暮しだった事でよくこの店に食べに来てたらしい


「この店はなんでもおいしいから、好きなのドンドン注文してね」

家庭料理をメインにしているようで、とりあえず目に留まった料理をいくつか注文していく
料理を待つ間、手持ち無沙汰になった梨華ちゃんはメニューをパラパラっと捲ってた。

その様子を隣で見ててあるページで止まったことに気付き、嫌な予感を感じながらも中を伺うと
案の定アルコールの名前が並んだページだった。

164 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)17時50分24秒

「だからぁー・・・だめだって」
まだ何も言ってないのだけれど、うちは先に釘をさした
きっと予想通りの事を考えてるはずだから

「梨華ちゃん、どうしたの?何か食べたいのがあったら注文してあげるよ?」
シュンとなってる梨華ちゃんを見て安倍さんが不思議そうに聞いてくる。
その言葉に咄嗟に軽く首を振って誤魔化したのだけれど、その意図はもちろん伝わる訳がなく・・・


「・・・あのですね、梨華ちゃんこの前初めてお酒飲んだんですよ
 それでなんか興味持っちゃったみたいなんですけど、梨華ちゃんお酒弱くってぇー」
隣りを見ると、さっきまで沈んでた彼女はいつのまにか拗ねた表情へと変えていた。


あぁー・・・もう・・・
そんな表情されちゃうとダメって言えなくなるじゃん

165 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)17時51分49秒

頬杖をつき、苦笑いしながら頬をポリポリかいていると
うちの気持ちがわかったのか、安倍さんは笑いながらメニューを開き目を通してる。


「梨華ちゃん、カルアなら大丈夫っしょ!注文したげなよ、よっすぃ〜」

「あぁ、・・・そうですね」
こうなっちゃったら、きっと飲むまで機嫌直らなそうだし。
その言葉にまた表情を変え、うちの腕を掴むと“早くっ”と急かしてくる彼女に少し呆れながらも
愛しく想う気持ちが大半を占めてる自分自身に気付き、周りには気付かれないように肩を竦める。


166 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)17時53分36秒

「梨華ちゃんて・・・意外に負けず嫌いなんだね」
料理に箸をつけながら独り言のように呟いたのを聞き逃さず、身を乗り出すように相槌を打つ。

「そーなんですよぉー!やっぱ安倍さんも思いましたかぁ」
きっと梨華ちゃんがお酒に興味を持ったのも、うちがどこか大人ぶった態度で接してきた事も原因のひとつかもしれない
けど、大人=お酒って繋げてる梨華ちゃんもホントかわいいなぁ


無意識のうちにニヤ二ヤしながら梨華ちゃんを見てたうちに対して、安倍さんの一言が耳に届く

「・・・バカップル」


167 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)17時55分18秒

運ばれてきたグラスを手に取り、前回したのと同じように中身を匂った後ゆっくり口を付ける。

「今回のはどう?」
覗き込んだうちに、満足気な笑顔で頷いて答える。
一安心したうちと安倍さんは、一緒に注文してたビールで乾杯をする


「んーっ!んまいっ!!・・・・へ?だからこれはダメだってぇー!!」



今日は歩けなくなるほど酔ってる訳でもなかったけど、この位置が気に入ったのか
店を出た瞬間、うちの背中に飛びついてきた。

「ぅわっ!?もうびっくりするじゃん!・・・え、何・・・また背負うのぉー?」
抱きついて肩越しから覗きこみながら頷いてる梨華ちゃんを横目で見ながら仕方なくしゃがみ込んだ。

168 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)17時57分07秒

家までの道のりをゆっくり歩きながら帰っていると、途中何気なく見上げた星空に感嘆の声を上げる

「すごいですねぇー!手伸ばしたら届きそう」
今日は特に空気が澄んでいたのか、一層の輝きを放っていた。

「ほんと・・・この街に来てよかったです」
隣りを歩く安倍の方を向き、正直に思った事を口にする。


「この街、前に梨華ちゃんが住んでたらしいんです。
 だからなんとかこの街で暮らしたかったんですよ!部屋だって何軒か回れば見つかるだろうって簡単に考えてたけど
 実際探してみて甘かったなぁって・・・
  
 安倍さんに出会えて ――本当によかったです
 ちゃんとお礼言わなきゃって、ずっと思ってたんで」

169 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)17時59分06秒

「そんな照れるじゃん!気にしなくていいから、ね?
 なっちこそ梨華ちゃんにお店手伝ってもらって助かってるし・・・正直言うとね、寂しかったってのもあるんだ。」

月明かりに照らされた安倍さんの横顔は、笑っているんだけどどこか儚さを含んでるものだった。

「・・・寂しかった?」
「そう、なっちが小さい頃に母を病気で亡くして去年父親も・・・ね。
 それからずっと1人だったからさ」
――友達が欲しかったんだぁ


「だから、なっちこそお礼言わなきゃ!・・・仲良くしてくれてありがとね」
「うちらこそ!ね?梨華ちゃ・・・あれ?」
2人でお礼を言おうとしたのに、後ろを見るとうちに体を預けて眠ってる姿が目に映る。

「・・・ったく さっきまではしゃいでたのに、もう寝ちゃってるよぉー」
「けど・・・かわいい寝顔してるよ、梨華ちゃん。今日1日すごい楽しかったんだろうね」


「はいっ」
笑顔で答えると、もう1度夜空を見上げ今の、この幸せを感謝した。




170 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)18時00分38秒

それからというもの、うちはやみくもになって働いた。
仕事は正直きつかったけど、周りの人にもホントよくしてもらってる。


「おっ、吉澤は今日も愛妻弁当かぁ〜」
ほとんどの人がコンビニで弁当を買ってくる中、うちは毎朝梨華ちゃんが作ってくれたお弁当を食べてた。

「はいっ!うちの元気の源ですから」
「ハハハッ のろけられちまったよ。おじさんにも誰か作ってくれないかねぇ〜」
そう言いながら、コンビニ袋をブラブラさせながら歩いていった。


「ふぅ・・・それにしても暑いなぁ」
影になってるところに居るのだけれど、その熱気からは逃れられない。
首を伝う汗も、キリがないくらい流れてくる。
少しでも風を感じたくてTシャツの袖をまくった時、自分の腕を見ながら、ふと昨夜の事を思い出した ――


171 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)18時01分42秒

「・・・・好きだよ、梨華ちゃん・・・」
重なり合う2つの影、2人の唇 ――
月明かりの下、何度体を重ねたか数え切れないくらい
梨華ちゃんを抱くたびに、また愛おしさが込み上げてくる。

ふいに、組み敷かれてた梨華ちゃんのひとさし指が肩から腕にかけてツーっとなぞってきた。

「・・・ん?なに?」
梨華ちゃんの表情はどこか苦笑いしてて・・・
なぞったラインを見てみると、照らされたうちの腕はTシャツの袖に添って見事に日に焼けてくっきりと跡になってる。

「あぁー・・・これ、ね。」
あれだけ太陽の下に立ってたら嫌でも日焼けくらいはできてしまう。

「・・・せっかくの白い肌、だったのに?・・・まぁ、こればっかりは仕方ないよ。
 しばらくしたら消えてなくなるよ。そんなことより・・・続き、しよ?」

172 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)18時02分50秒
―――
――


「やっぱりいつまでもこの仕事ってのはダメだよね・・・ちゃんと一定の収入を得られるような仕事に就かないと」

この仕事の唯一の欠点は、給料が不安定なこと。
天気が悪くて作業がはかどらなかったりすると、その分の支払われる額も下がってしまう。
それじゃ、やっぱり生活も苦しいから・・・



この日も、順調に仕事も終わり帰路につく。
途中、道端の露店でアクセサリーなどを売ってるのに気付いた。

「梨華ちゃんに似合うの、なんかあるかなぁ・・」
足を止め、いいのがないか見渡す。


173 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)18時03分41秒

・・・あっ!
いくつも並べられてるネックレスの中から手に取って見つめるそれは、天使の翼をかたどったモノ ――
いつかの雨の中で見た梨華ちゃんを思い出した。

「すみません、これ同じのを2つもらえますか?・・・あ、それとこの2つも一緒に」
ラッピングなんて気の利いた事はしてくれなかったけれど、小さな袋に入れてくれたネックレスを
落とさないようにポケットの中にしまうと、おじさんにお礼を言って家へと足を進める。


「そうだ・・・今のうちにさっき買ったヤツ、入れ替えしとこうかな」
そう言いながら、買ったばかりのネックレスを出し、もう1つのネックレスのトップの部分をそれぞれに付け加える。

「梨華ちゃん喜んでくれるかな。さ、急いで帰らなきゃ・・・っ!?」



174 名前:wing 投稿日:2003年03月31日(月)18時04分33秒



えっ・・・・な、んで
自分の目に何が映っているのか、しばらくわからなかった
と言うより、信じたくなかった。それが何を意味するのか ――全てが夢だと思いたかったから

目の前を歩いてる女性の後ろ姿
忘れたくても忘れる事のできない後ろ姿・・・




「・・・・・母さん」




175 名前:pitom 投稿日:2003年03月31日(月)18時34分17秒
更新終了です〜
なんか梨華ちゃん=酒好き?のイメージかつきそうなくらいお酒ネタ使ってる・・

>>161 ラヴ梨〜さん
毎回レスありがとうです!!
泣いてもらえるくらい甘く書けて嬉しい限りっす(w
もうすぐ「谷」なんで、それまで甘さに更に輪をかけて甘くさせてみました♪
現実であんな事があっちゃー、もう妄想も歯止めかからんです(爆)
やっぱいしよしのモンすねぇーー(≧∇≦)ノ
秋から離れ離れってのが・・・もう現実逃避したいくらいっす

>>162 7さん
いつもレス、本当に感謝です!!
「これぞいしよし!」ってのを書けて、本人も大満足しております(w
話しに加えて小道具(?)も甘くしてみまして萌えてもらえてよかったです♪
安倍さんのパン・・・仕事の方が忙しそうなんで(爆)ネタとして取り入れようかな、と!
次回からの「谷」、期待を裏切るかも?しれませんが頑張りたいと思います!
ごっちんも、もうしばらくお待ちください〜
176 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年04月01日(火)01時12分31秒
緊迫した展開になって二人は幸せになれるのか!?
ってなこともありますが、何よりも月明かりのなか重なる二人というシチュエーションには負けました
かなり萌えすぎてギブアップしそうです
177 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)13時49分07秒

5歳の時、うちを置いていなくなった
もう、その存在すら自分の記憶から消してしまいたかったのに消えてくれない ――
堕落してた頃は、親を恨む事しか頭になかったから・・・
うちの中に同じ血が流れてるなんて考えると、いっそのこと体中から全ての血を抜き取りたいくらいだった


その母親が ――今、うちの目の前を歩いてる
追いかけて引っぱたいてやってもいいくらい・・・
しかし、そんな事をして一体何になる?
叩いた所で、過去は変わらないのだから・・・
それより、あの人は気付くのだろうか、成長したうちを10年も前に捨てていった我が子だと。

ねぇ、「ごめん」って少しくらいは謝ってくれる?
昔うちに向けてくれてた笑顔、また見せてくれる?
―― その腕でまた抱きしめてくれる?

ねぇ・・・母さん?


178 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)13時50分19秒

「かあさ・・・」
「おかぁさぁーーーんっ!」
ハッとして、息を飲みこむ。
ランドセルを背負った男の子が、満面の笑みで駆け寄って母さんの腕にしがみつく。
それが何を意味するのか、考えなくてもわかりきってた。


その子を見る母さんのあったかい眼差しも、その子と繋いでる手も ――もう、うちのものじゃない
うちだけの母さんじゃないんだ・・・・

こんどこそ本当に母親を失った ――
ただ呆然と立ち尽くしたまま2人の姿を見つめる事しか出来なかった


179 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)13時52分09秒

それから、どこをどう歩いたのか覚えてない
気がつけば、日も暮れて辺りは真っ暗だった

あ・・・梨華ちゃん、心配してるよね

いつもの帰る時間を大幅に過ぎ家へと着くと、階段の所に座って待ってる梨華ちゃんの姿が目に映る。
うちに気付き、立ちあがって歩み寄って来る梨華ちゃんに対して曖昧に返事しながら部屋へと向かった。
明らかにいつもと違ううちの態度を不思議に思ったのか、
冷めきった料理を温め直しながら、うちに問いかけてきた。


なにか、あったの?

「・・・あさん・・・母さんが、いた」
口に出すと、嫌でもその事を認めてしまわなきゃいけなくて・・・

――気がついた時には、うちの目から涙がこぼれ落ちてた

180 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)13時54分07秒

「母さんがいたんだ。声、かけようとしたら・・・男の子が駆け寄ってきて・・
 母さんと手、繋いで楽しそうに歩いて、た」

すごく、すごく楽しそうに幸せそうに・・・すぐ後ろにうちがいるのに気付きもせず

「行ってしまったんだ・・・・」


溢れてくる涙を止めることなんてできず、視界はもちろん頭の中もぼやけてきた
なんて言ったらいいのかわからないようで、梨華ちゃんはただグッと唇を噛みしめうちを見てた。
手だけはゆっくりと涙を拭ってくれてて・・・

「なんでだろ、ねぇ・・・母さんは、もう・・・うちの事覚えてもないのかなぁ・・・
 もうあの子が居ればそれでいいのかなぁ・・・
 再婚して幸せで・・・うちは、もう・・・いらないんだよねぇ・・・」
自虐的なうちの言葉を、ギュっと抱きしめることで止めようとしてる梨華ちゃん。

けど、今のうちには自分で自分を止めることすら出来なかった ――


181 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)13時55分56秒

「もう・・・母さんにあの頃みたく”ひとみちゃん”って呼ばれることもないんだよね
 うちは母さんに・・・・捨てられたんだから」
梨華ちゃんは最後のその言葉に、一層腕に力を込めてきた。

「・・・ねぇ、うちは梨華ちゃんが傍にいてくれればそれで十分なんだよ?
 そんな力入れて抱きしめてくれなくても、どこにもいかないから・・・だから、さ」




”ひとみ”って呼んでよ



182 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)13時57分01秒

ビクッと肩を揺らし、ゆっくりとうちを見上げてくる。
今にも泣きそうな顔をして・・・
そんな表情にさせてるのは明らかに自分なのに、訂正するどころか留まることを知らないかのように
言葉が次から次へと出てくる。

「もう母さんなんてどうでもいいから・・・梨華ちゃんがいてくれれば・・・
 梨華ちゃんにだけ呼んでもらいたいから・・・
 だから、お願いだよ・・・ひとみって呼んでよ、ねぇ?」

そっと梨華ちゃんの唇に指で触れてみる
わずかに震えてるのが、指先から鮮明に伝わってくる

「・・・震えてる。怖い?・・・そうだよね、今のうちどっかおかしくなったのかもしんない・・・
 なんかさ、自分でも訳わかんないんだ。こんな事して梨華ちゃん傷つけることくらいわかりきってるのにね、はは・・・
 なにやってんだろ、それだけショックだったって事かな・・・ホント笑えてきちゃう」

183 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)13時58分55秒

無意識のうちに梨華ちゃんの胸元に手が伸びてた
ゆっくり、ひとつずつボタンを外してく。
梨華ちゃんは、ただただ体を震わせうちを見つめてた。

3つ目のボタンを外し終え、噛みつくようにその喉元にキスをする。
何度も何度も位置を変えては、そこに赤く印を残しながら・・・



「・・・ねぇ、梨華ちゃんも呼んでくれないの?」
首筋に顔を埋めたまま、そう呟いた。
呟きながら、下から梨華ちゃんの顔を見上げる。
ぎゅっと目を閉じてる梨華ちゃん・・・・

「だめ、なの?呼んでくれないの?1回だけでいいのに・・・」


もうだめ、誰か・・・うちを止めて
もう1人の自分が、そう強く念じたのだけれど無駄だった・・・

次の瞬間、頭の回路がプツンと切れた気がした



184 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)14時00分28秒

「・・・んで、なんで呼んでくれないのっ!?ひとみって呼んでよ、ねぇ!梨華ちゃんっ!!」
叫びながら、シャツに手をかけると一気に引き裂いた。
飛び散ったボタンがコロコロと床を転がっていく。

「やっ・・・・」
自分の体重をかけ、そのまま押し倒す。
真下にある梨華ちゃんの顔を見下ろすと、瞳いっぱいに涙を浮かべ口をパクパクさせてる。


「・・・ぃ・・お・・・・・みぃ・・・・ちゃ・・・」

(ごめん、なさい・・・ひとみちゃん・・・・)
声にならないのに必死に呼んでくれてる、うちの名前。
手からも伝わってくる想い ――

ゆっくり、涙でぐちゃぐちゃになってるであろううちの頬に触れてきた。
それからもう1度必死に声を出した
「ご・・・ぇん・・ね・・・・」


185 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)14時01分35秒

瞬間、何かで頭を殴られた気がした。
なにやってるんだよ・・・梨華ちゃんが謝る事はなにもないのに
なにもないはずなのに、なんでこんなに悲しませることしかできないんだろう
自分の悲しみ・・・梨華ちゃんにぶつけてどうするんだよ
本当に最低じゃん
うちには、もう梨華ちゃんしかいないのに

梨華ちゃんを失ったら ――ひとりぼっちになっちゃうのに


「あ・・梨華ちゃ・・・ごめん、ごめんね・・・・」
体を起こし、その場にペタンと座り込んだ。
目の前の、乱れた格好で横たわってる梨華ちゃんの姿は、紛れもなく自分がやったこと ――
咄嗟にタンスから代わりの服を持ってきて梨華ちゃんに渡す。
梨華ちゃんの視線に気付きながらも、そっちを見る事が出来なかった。


「・・・ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」


186 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)14時02分15秒

勢いよく部屋を飛び出し階段を駆け下りた時、ちょうど曲がってきた安倍さんと出会い頭にぶつかった。
「きゃっ!・・・あ、よっすぃ〜?さっき上で大きな音したから気になって・・・ちょっとぉー!?」
安倍さんの言葉に返事もせず、軽く頭を下げるとその場を立ち去った。


「・・・なにさぁ、変なよっすぃ〜。梨華ちゃんいないのかなぁ」
階上を見ると、ゆっくりと部屋のドアが開いているのに気がつく。

「ったく、よっすぃ〜!ドアくらいちゃんと閉めろよぉ」
誰に言う訳でもなく、ブツブツ独り言を言いながら階段を上がりドアノブに手をかける。


ふと、部屋の中に目がいった
「・・・えっ?梨華ちゃ、ん?」

187 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)14時02分53秒

安倍が見たそこには、焦点の合わない無表情の梨華がペタンと床に座ってた。
奥の電気の付いてない部屋に居た為、目を凝らして見てようやく異変に気がつく事が出来た。

「ちょ・・・どうしたんだよっ!ねぇ、梨華ちゃんっ!!」
急いで梨華の元へと駆け寄る。
その時初めて気がついた梨華の普通じゃない様子に愕然とした。

故意に引き裂かれたと思われるシャツ、いくら暗くても目に付く胸元の無数の紅い跡、既に乾ききった涙の跡 ――


「これ・・・よっすぃ〜がやったの?」

安倍のその言葉に、今まで何の反応も示さなかった瞳が少し揺れる。
それに気付いた安倍は、抱き寄せようとゆっくり手を伸ばしたが、身を強張らせる梨華に即座に手を引き戻した。


188 名前:wing 投稿日:2003年04月07日(月)14時03分44秒

「な、んで・・・よっすぃ〜がこんな事・・・何があったの?」
あれだけお互いを想い合ってた2人に、こんな状況すぐに信じられる訳がない。
けれどそれ相応の理由があったにせよ、安倍は吉澤に対していくらかの怒りを覚えた。
明らかに同意の元での行為ではないのだから・・・

安倍の質問に答える事なく、梨華はひとみの置いていったシャツを見つめ続ける

「ちょっと、よっすぃ〜探してくるよ」
そんな様子を見るに見かねて立ちあがろうとした時に、ふいに腕を引かれた
梨華の方を見るとさっきとは全く違う、はっきりと意志を持った目で訴えかけてきた

「・・・大丈夫なの?」
その問いに、コクンと頷く。
けれど、今の状態でこのまま1人にしておく事に対して不安があったため、自分の部屋に来る様に言ったのだか
ここで帰ってくるのを待ってる、と手話で答えたのだった。


189 名前:pitom 投稿日:2003年04月07日(月)14時04分44秒
更新終了です〜
190 名前:pitom 投稿日:2003年04月07日(月)14時09分59秒
ネタバレ防止?の為、流させていただきました(^^;

>>176 ラヴ梨〜さん
これからの2人・・・ホントどうなるんでしょう(また他人事)
しかもこんな展開にしちゃってるし(w
けど、今回の更新分はストーリー考えてて真っ先に思い浮かんだトコだったんで
ホント大満足?しております!
てか、私的萌えポイント(なんじゃそりゃ)で萌えていただけて
こっちも、ホント感激でございます!(w
191 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年04月08日(火)02時03分28秒
必死で声をだそうとするけなげな梨華ちゃんに泣きました(号泣)
こんなカワイイ梨華ちゃんにひどいことしちゃダメだろ、よっすぃ〜!!っと思わず叫びそうでしたよ(笑)
こりゃ〜目が離せないっす
192 名前:7 投稿日:2003年04月16日(水)14時54分51秒
更新、お疲れ様です。
んがぁ〜、い・痛い・・
ハートをグヮシっと鷲掴みにされたような感覚でございます(泣)
どうなるですかぁ、よっすぃ〜!?
梨華ちゃんの健気さに泣けてしまいました・・
そしてチラっと登場した安倍さんの優しさがイイですね。
これからどうなるのか、まさに目が離せません。
次回に期待しておりまする。
193 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)22時45分42秒

部屋を出て、あてもなくただ街をさまよい歩く。


歩くのも嫌になり、店の壁にもたれながらその場に崩れ落ちた。

思い出すのは力任せに引き裂いたシャツ
首筋に多数残った、紅い跡
そして ――梨華ちゃんの泣き顔、掠れた声


全ての原因が・・・そう、自分
自分の愚かさを恥じ、何度も何度もコンクリートの壁に拳を叩きつける。
何度も何度も ――血が滲んできたことにも気に止めず


194 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)22時47分21秒

「・・・っう、ごめんね・・・梨華ちゃん」
今日1日で一体どれだけの涙が流れただろう
でも、どれだけの謝罪も通用しない
それだけの事をしてしまったから・・・

犯してしまった罪の大きさに、今ごろ気付くなんて ――

帰ったら、おかえりって、
また・・・いつものあの笑顔見せてくれるかな


あの部屋で ――待っててくれてる、のかな・・・



195 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)22時51分30秒



帰らなきゃ・・・もう1度ちゃんと謝らなきゃ
手放さないって決めたんだから


そう思い、ゆっくりと立ちあがった ――次の瞬間



196 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)22時54分16秒

「・・・・探したよ、吉澤」

聞き覚えのない、けれど威圧感の含まれた低い声が耳に届く
振り向いたそこには、銃を片手に立つ男の姿。
その顔に見覚えなんかある訳がない。けれど、すぐに自分の今の状況が把握できた。


・・・チッ
心の中で舌打ちする。

もう見つかったか ――
男の正体が、中澤の手下ってことはすぐにわかった
指令を果たす為、闇雲になってうちの事を探し続けたのだろう

見つけ次第殺せ、という指令を受けて・・・

197 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)22時55分46秒

うちには銃もなにもない。勝ち目はほぼ0だろう。
とことん運にも見放されたのか辺りは人気もなく、おとなしく殺されるのを待つだけ・・・か

「・・・ったく、手間かけさせやがって」
ジリジリと近づいてくる男
手をあげ逆らう意志のない事を示すが、そんなのこの男には通用しないだろう。
見つけたら即消すのが、この男の仕事なのだから・・・
背中を嫌な汗が伝っていくのがわかる。

「・・・じゃあな」
そう言って、男は銃を構える
逆の立場になるとやっぱ怖いもんだね、銃って・・・

でも、銃口から目を背けることはしなかった。訓練所で、そう体に叩き込まれたからってもあったのだけれど
最後まで諦める気持ちは、全くなかったから。



198 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)22時57分27秒

パンッ ――
何度も耳にした、乾いた音・・・


「・・・・・った」
左腹部に激痛が走り、膝から崩れ落ちた。
引き金を引く瞬間即座に交わしたのだけれど、急所は外せたものの明らかに軽い傷程度のものではなかった


199 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)22時58分47秒
―― 熱い
痛みが全身を支配していく
まるで体が1つの心臓になったかのように、ドクドクと波打ってて・・・
傷口に触れると、熱いものが流れ出てるのが嫌ってくらい感じられる。

「手間かけさせた分、すぐ死んじゃってもらうと困るんだよねぇ
 ジワジワ苦しみながら逝ってもらわないと・・・かといって時間もかけられないし、これで最後だな」
必死に目だけを見上げ、男を睨みつける。
銃口は ――頭へ真っ直ぐ向けられてた

やば・・・これで最後、なのかな



200 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時00分27秒

意識が朦朧とする中、離れた位置から声がしたのが聞こえた。

「・・・え?ちょっと、なに!??だ、誰かぁー!!!!」
たまたま通りかかったと思われる女性が、銃を構えて今にも撃とうとしてる男の姿、
地面にうつ伏せで倒れてるうちの姿を見て、すぐさま叫んだのだった。

「くそっ!運のいいヤツめっ」
女性の叫び声で数人の人が集まってきたのがわかったのか
男は人気のない方へと走っていった。



去った男の後を追いかける人、警察を呼びに行こうとしてる人・・・
誰もが今の状況にパニックを起こし、数秒の間うちから意識が離れてた


・・・・はや、く・・・梨華ちゃんの所へ戻らなきゃ・・・・


「・・・ねぇ、あの子どこ行った?」
誰に聞くでもなく独り言のように呟いたその女性の視界には、血痕だけが残り吉澤の姿は既になかった

201 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時01分44秒
1歩進むごとに傷口に痛みが走る。
足が、体がこんなに重く感じたのは始めてだ。
周りに気付かれないように、傷を隠す為上着のポケットに手を入れた時、ある感触に気付く。
それをポケットから取り出した。


「・・・背中に翼があったら、今すぐにでもキミの元へ飛んでいけるのに」

翼をかたどったネックレス ――
お願い・・・梨華ちゃんに会うまでは ―――生かせてね




202 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時08分19秒

途中 立ち止まりながらも、やっとの思いで家に辿りつく。
ゆっくり、ゆっくりと1段ずつ階段を上ってく。

残り1段の所で、目の前のドアが開いたのが見えた。

「あ・・・・梨華ちゃん」
出てきた彼女の表情は、いつもうちに向けてくれてたのと同じものだった。

よかった、居てくれて・・・
ホッとした瞬間、うちはその場に崩れ落ちた

「っ!??」
梨華ちゃんの表情が瞬時に強張ったものへと変わる
咄嗟に抱きかかえた時に、うちのシャツが真っ赤に染まってる事に気がついたようだ。

203 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時09分31秒
「ごめ、んね・・・あんな事しちゃって・・ほんとごめん」
自分の傷の事より、まず梨華ちゃんに謝っておきたくて ――
うちの言葉に、梨華ちゃんは目に涙を溜めながら首を横に振りつづけてる。

「撃たれて、このまま死ぬの、かなって・・・そう思った時、梨華ちゃんの笑顔が・・浮かんできて・・
 それと同時に、泣いてる、梨華ちゃんも・・・浮かんできた
 大事な大事な、この子を泣かせたまま死んだりなんかしたら、ホントに地獄行きだな、って・・・

 居てくれて ――
 もう1度笑顔見せてくれて・・・ありがとう」



204 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時10分42秒

はぁ・・・なんか頭がボーっとしてきた
梨華ちゃん、まだ泣いてるし・・・

そっと、梨華ちゃんの頬に触れる。
「もう・・・泣かないで?それより笑ってよ・・・梨華ちゃんの笑顔、好きなんだから」
ヒクヒクと泣きじゃくりながら、必死に笑顔を作ってくれる。

「ありがと・・・ったぁ」
抱きしめたくて、体を起こそうとしただけで激痛が走る。

あ、れ・・・・?
なんか梨華ちゃんが二重に見える・・・
やだよ、まだ・・・死にたくないよ






205 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時11分47秒


「・・・・・だ、嫌だっ!!ひとみちゃん、死んじゃやだっ!!!!!」

「・・・梨華ちゃん、声・・・・出るの?」
霞んでしか見えなくなってきた目だけど、必死に焦点を合わせ梨華ちゃんを見上げる。

「ふふっ・・・・思ってたとおり、かわいい声だね」


「ひとみちゃん・・・お願いだから私の前からいなくならないでっ!!」
――これ以上、誰も失いたくない、の

「・・・これ、以上?」
最後の言葉に、なにか引っかかるものを感じた、その時だった


206 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時12分26秒

「ちょっ、どうしたのよっ!!!・・・よっすぃ〜!?」
「あ・・・安倍さん」
階下を見下ろすと、青ざめた表情の安倍さんが掛け上がってくるのが見えた。

「安倍さん!!どうしたら・・・私、どうしたらいいのかわからなくて・・・・
 ひとみちゃ・・・死んじゃう!!!!」
安倍さんは完全にパ二くってる梨華ちゃんを尻目に、冷静にその場を理解しようとしてる。
「梨華ちゃん、声出るようになったんだ・・・よかった。待って・・・まず病院、そう救急車呼んでくるよっ!!」


病院・・・ダメ、それだけは ――
病院に行けば何で受けた傷なのか、すぐにバレてしまう
警察にも連絡がいくだろう。
そしたら組織のこともバレて、うちも捕まってしまう。

207 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時13分19秒

「梨華ちゃ・・・ダメ」
掠れるような声しか出なくなってたけど、必死に梨華ちゃんに伝える。
すぐに意味を理解したのか、コクンと頷き安倍さんを制す。

「あ、安倍さんっ!その・・・病院はダメなんです。理由は言えないんですけど・・・」
「なんでっ!?」
安倍さんは梨華ちゃんに続き、うちを見てくる。
うちも、ただ首を横に振る事しかできなかった。


「・・・なんかあるとは思ってた。赤の他人である未成年のキミ達がなんで一緒に暮らすんだろうって。
 わかった・・・何も聞かない。でも、なんとかしなきゃね
 知り合いに診療所やってるおじさんがいるから電話かけてみるよ」
そう言いながら、部屋へと戻ってく。


208 名前:wing 投稿日:2003年04月16日(水)23時14分04秒


「大丈夫・・・ひとみちゃん、大丈夫だからね!絶対に死なせないから・・・」


髪をゆっくり撫でられるその心地よさと、梨華ちゃんの腕の中の温もりに癒されて
そっと、うちは目を閉じた ――




209 名前:pitom 投稿日:2003年04月16日(水)23時15分25秒
更新終了ですーーー♪
今回もまたスレ流しを・・・
210 名前:pitom 投稿日:2003年04月16日(水)23時21分05秒
>>191 ラヴ梨〜さん
レスありがとうでっす!!!
・・・ですよねぇー「よっすぃ〜のバカぁー」って感じですよねぇ
しかも前回に引き続きイタイ更新で申し訳・・・(w
必死に声出す、ってのよくあるパターンかな、と考えながらも
泣いていただけたのなら、入れて正解だったな、と♪

211 名前:pitom 投稿日:2003年04月16日(水)23時27分26秒
>>192 7さん
いつもレスありがとですー♪
まさに「山あり谷あり」・・・な訳で(^^;
今回も、また中途半端な切り方ですみません(w
よっすぃ〜、梨華ちゃんの行方・・・ホントどうなるですかぁー!?ですよね(爆)
もう少し鷲掴み状態でお付き合いしていただければ本望です!
あ、同伴出勤・・・よかたですよね(´ρ`)
思わず吉の後ろに隠れるって、頼りにされてるのねよすぃー・・・(w

212 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時45分53秒

「ひと・・・・ひとみちゃんっ!??ねぇ、目開けてよ・・・ねえってば!ひとみちゃんっ!!」
必死に呼びかける梨華の声に気付き、安倍が走って戻ってくる。
梨華の呼びかけにも反応しない吉澤の姿を見て、一瞬最悪な事態が頭を巡る。

「よっすぃ〜!!!」
駆け寄りそっと左胸に耳を当てる。

「・・・大丈夫、気絶してるだけみたい。それより電話したら診てくれるって言うから、早く連れていこ!」



安倍は急いで部屋から毛布を持ってくると、それで吉澤を覆ってやる。
階段の下まで回してきた車の後部座席に乗せ、診療所を目指す。


213 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時48分24秒
5分くらいで着いたそこには、すでに白衣を着た男性が入り口で待っていた。

「おじさん!よろしくお願いしますっ」
「この子か・・・随分出血してるみたいだな。とにかく中へ運ぼう」
抱えて行く後を、足元をふらつかせながら追いかけていく梨華の腕を取り、大丈夫だからと励ます安倍。


治療室のドアが閉まり、辺りは一瞬静寂に包まれる



214 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時49分35秒

「梨華ちゃん・・・辛いのはわかるけど、どうしようもないの・・・
 大丈夫だよ、よっすぃ〜なら・・・信じて待ってようよ・・・ね?」
そんな梨華の気持ちが痛いくらいにわかるだけに、ただ待つ事しかできないと悟っている安倍だが
必死に梨華を落ちつかせながらも、その目にはうっすらと涙が滲んでいた。

「安倍、さん・・・だい、大丈夫です、よね?・・・ひとみちゃ・・・し、死なないです・・・よね」
泣きじゃくる梨華は、うまく喋れないながらも必死に安倍に問う。
安倍のそれに対して無理矢理笑顔を作って頷く事が、梨華を少しでも安心させる事ができた。


「・・・・大丈夫。よっすぃ〜は死なないよ」



215 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時50分59秒

数時間後、治療室から先生が出てきた。

「なんとか命には別状はないよ。運良く内蔵にも傷はなかったし、弾が貫通してたのもあってね。
 あとは意識が戻れば安心していいだろう」

「あ・・・ありがとうございますっ!!!」
深く深く頭を下げ、先ほどとは違う涙が、また梨華の頬を濡らす。
傍にいた安倍も、梨華の肩を抱き心の底からこの結果を喜んだ。


あ、そうだ・・・
何かを思い出した先生は、ポケットからある物を取り出した。
「これ、彼女の上着のポケットに入ってたんだ。あなたに渡しておいた方がいいと思ってね」


216 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時52分09秒



差し出された手には、2つのネックレス ――
受けとって見ると、同じ翼を象ったトップとそれぞれに加えられたと思われる”H”と”R”のトップ

「これ・・・きっと梨華ちゃんにあげようと思って買っておいたんだね」


「あの、ひとみちゃんは・・・?」
じっとネックレスを見つめてた梨華は、先生に許しを得て治療室に向かう。



217 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時53分49秒

まだ麻酔で眠ってるひとみの表情は穏やかで、さっきあれだけの血を流した後だとは到底思えなかった。

「ひとみちゃん・・・これ、ありがとね・・・ほら、付けてみたんだけど似合ってる?
 ・・・ひとみちゃんにも付けてあげるね。」
ゆっくり、なるべく体を動かさないようにチェーンを首の下を通して付けてやる。


「うん、ひとみちゃんも似合ってるよ・・・でも笑ってる時のひとみちゃんの方がもっと似合うかも・・・ふふっ
 だからね・・・早く目覚ましてね



 ―― すごい・・・すごく寂しいんだから」


218 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時55分16秒


ひとみの手を握る手に軽く力を加え、目を閉じたままのひとみをじっと見つめる。
その視界が次第にぼやけてくる
泣くまい、と思えば思うほど涙が溢れ出てきた。

「泣いちゃ、だめ・・・ひとみちゃんが起きた時、私が泣いてたらきっと心配する・・・」
何度も何度も零れ落ちる涙を拭うのだけれど、それはしばらく止まってくれなかった。



219 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時56分50秒



真っ暗な闇の中を、うちは1人さ迷い歩く
どっちに向かって歩けばいいのかわからない、この先になにがあるのかもわからない・・・

いったい・・・ここはどこなんだよ


その時、遠くに光りが差しているのに気付く
その光りに向かって歩いていくと、1つの影が浮かび上がる


・・・・母さん?

うちだよ、わかる?ひとみだよ
ずっと待ってたんだ、迎えに来てくれるのを・・・

やっと会えた
これからはずっと一緒に暮らせるんだよね?


・・・・・だれ?この子
母さんの、子供・・・じゃあ、うちは母さんと暮らせないの?

なんで・・・やだよ、待って
置いてかないでよっ 母さんっ!!

220 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時58分15秒

光りに吸いこまれるように、母さんと男の子の姿は一瞬にして消えてしまった
それと同時に、さっきまであった光りも消え、またうちは闇に包まれ行き場を失う ――

やだよ、こわいよ・・・誰か・・


その時、再び目の前が光り、うちは思わず目を背ける。
手をかざしながら光りの方へと目を向けると、また1つの影が浮かび上がった。


・・・・梨華ちゃ、ん
梨華ちゃんっ・・助けて・・・うちをここから出して


必死に駆け寄って行ってるのに、一向に梨華ちゃんとの距離は縮まらない
それどころかどんどん離れていっている


やだ・・梨華ちゃんまで失いたくないっ

待ってよ、梨華ちゃん・・・!


221 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)22時59分15秒

――――
―――
――


「・・・・んんっ」
「ひとみちゃん?・・・ひとみちゃんっ!!」
苦しそうに眉をひそめるひとみの頬に触れ必死に名前を呼び続ける。
廊下で待ってた安倍がその声に気付き、すぐ先生を呼びに行った。

「・・・ちゃ、ん・・・・り、かちゃん」
「なに?ひとみちゃん、私はここにいるよ?」
握りしめたひとみの手が、軽く握り返してきた事で麻酔が切れかかってきた事がわかる。


ぎゅっと瞑られてた瞳がゆっくりと開く。

222 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)23時00分32秒
「・・・・・こ、こは」
目に映ってるものは、真っ白な天井
自分が今、どこにいるのか全くわからない・・・

「ひとみちゃん・・・よかった、意識戻って」
ずっと我慢してた涙が再び溢れ出してきた。
死ぬ訳がないと信じてたけれど、ひとみが眠っている間不安で不安でどうしようもなかったから。

「また泣いて・・・ホント泣き虫だなぁ、梨華ちゃんは・・・そっか、うち・・死ななかったんだ」
まだ意識ははっきりしないもののそれでも生きてる喜びを感じ、それと同時にさっき見たものが夢だった事がわかる。

「・・・夢だったんだぁ」
「・・・夢?」
独り言のように呟いた言葉に聞き返す。

223 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)23時02分04秒


「うん・・梨華ちゃんのこと、追いかけても・・・全然追いつけな、くて・・・
 ずっと呼んでるのに・・・振り向いて、くれなくて・・・

 梨華ちゃんに、もう会えないかとおもった・・・これ・・夢じゃないよ、ね」

頷きながら必死に笑おうとしてる梨華ちゃんの表情が、意識を失う前に見たものと同じだったことに
これ以上ない安らぎを与えてくれる。


224 名前:wing 投稿日:2003年04月25日(金)23時03分10秒

まだ体中が痛むのだけれどゆっくり手を伸ばし、ゆっくり ――そっと梨華ちゃんの頬に触れる。

「よかった・・・またこうやって触れる事ができて・・・ごめんね、心配かけて・・・それと

 ひどいことしちゃって、ごめん・・本当に・・・ごめんなさい」

「そんなの・・・もういいよぉ、ひとみちゃんが生きてくれただけで十分・・・」
溢れ出す涙をそのままに、うちの手に自分の手を重ねる。



「ありがと・・・梨華ちゃん」


225 名前:pitom 投稿日:2003年04月25日(金)23時06分12秒
更新終了です〜

・・・やっとイタイの脱出できた(w
226 名前:7 投稿日:2003年04月27日(日)02時20分06秒
更新お疲れ様です。
あぁ・・やっと光が見えて来ました(泣)
梨華ちゃんが聖母のように思えました・・
何気にテキパキと物事を進める安倍さんにコッソリ注目してますw
ただのパン屋さんと思えません!
よっすぃ〜の傷を癒してあげられるのはやっぱり梨華ちゃんですね。
227 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時30分59秒

コンコンッ
「・・・入るね」
先生を連れて安倍さんが戻ってきた。

「どう、気分悪いとかないかな?」
「あ、はい・・・大丈夫です」

脈を取るため、しばらく沈黙が続く。その後先生は笑顔になると再び話し始めた。
「意識さえ戻ればもう心配ないかな。麻酔が完全に切れるまで頭がボーっとするけど
 しばらくすればそれもなくなるから。1ヶ月も安静にしてれば退院できるよ」

言い終わると先生は部屋を後にする。
「ありがとうございました!」
先生の言葉にホッと胸を撫で下ろし、見送りながら深くお礼をする梨華。

228 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時32分03秒

「よっすぃ〜本当よかったよ・・・倒れてるの見た時どうしようかって心配したんだから!」
怒り口調なのだけれど、安堵の表情を浮かべてる安倍さんに対しても感謝の気持ちでいっぱいだ。

「ほんと・・・ご迷惑おかけしました。ありがとうございました・・その、いろいろと」
状況から察しても、警察に伝わってる風でもなかったから。

「いいよ、気にしないで!ここも、身内みたいなもんだし。だから余計な事考えずに、早く傷治してよねっ」
「ありがとうございます。もう・・・このくらいの傷、すぐ治しますよ」
ニッと笑い、周囲を和ませる。


229 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時33分20秒

「・・・そうだ。あんまり自然に話してるからさぁ、違和感なかったけど、梨華ちゃん声出るようになってよかったね!」
安倍の言葉に少しはにかみながら笑ってる梨華ちゃん

「・・・・愛の力っすかね」
うちの言葉に安倍さんが覗き込んできた。
「何言って ――」
「何言ってるのよ、ひとみちゃんっ!」
顔を真っ赤にさせながら安倍さんの言葉を遮りそう言いながら勢いで立ち上がる。

「ちょ、冗談だってぇ・・・あ、れ?」
立ち上がった時に梨華ちゃんの胸元で何かが光ったとか見えた。
うちの視線に気付いた梨華ちゃんが、首にかけてるそれに触れながらもう1度椅子に座り直す。

230 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時34分38秒

「ポケットに入ってたって先生が・・・」
「うん、安物なんだけどね。よかった・・・すげぇ似合ってる」
思った事が素直に言葉となって出る。
その言葉に梨華ちゃんは照れ笑いを浮かべながら愛しそうにトップの部分を触ってる。

「ありがとね、ひとみちゃん・・・大事にするからね!ひとみちゃんのもちゃんとかけてるの気付いてた?」
「・・・ほんとに?」
まだ体がうまく動かせなくって必死に手を胸元へと運んでると、梨華ちゃんが代わりに手に取り見せてくれた。

「ほら?ひとみちゃんもすごいよく似合ってるよっ」


231 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時35分47秒

「・・・あーのーさぁー?2人仲良くお取り込み中のとこ悪いんだけどね
 よっすぃ〜もさっき目が覚めたばっかりだし、ゆっくり体休めなきゃ・・・話しはこれくらいにして、ね?」
2人でペンダントを見合わせながらクスクス笑ってると、少し呆れ顔の安倍さんがやさしく諭す。

「私もそろそろ家戻るよ。
 あと、梨華ちゃん店の事とか心配しなくていいからよっすぃ〜の傍に居てあげて・・・じゃ、よっすぃ〜お大事にね」
席を立ち部屋を出ていく安倍さんの後を梨華ちゃんが追ってく。

「今日は本当ありがとうございました!安倍さんがいなかったら私1人じゃ何も出来なかったと思うし・・・
 先生にも後でもう1度お礼しに行きますんで」
安倍さんを見送った後、後ろ手でドアを閉じ苦笑いを浮かべてる。

232 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時36分44秒

「・・・じゃあ、もうちょっと寝ようか?」
布団を正しながら、うちに微笑みかけてきた。
その表情に母親の影が重なる ――子供の頃、風邪をひいて寝てたうちを心配してずっと傍に居てくれた母親と同じ

ふいに不安な気持ちが込み上げてきた
「・・・もう、帰っちゃう?」
縋るような目で、うちってこんな弱かったっけ・・・


そんなうちの気持ちを汲んでか、梨華ちゃんはポンポンっと軽く布団を叩くと
「ずっとここにいるよ・・・だから安心して眠っていいよ」
「・・・あり、がと」


233 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時38分00秒

髪を撫でられる感触が心地よくて、ゆっくり目を閉じその幸せを体全身で感じる。
まだ麻酔がきいてるのか、すぐに意識が薄れていく

その時、唇にやわらかい感触を受ける。
「・・・ん?」
目を開けると、すぐそこに梨華ちゃんの顔があって・・・



「早く治るおまじないだよ」



234 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時39分44秒

数週間が過ぎ、うちの傷も大分よくなり生活するにも支障なくなってきた。

「ひとみちゃん、天気もいいし散歩いかない?」
入院してから毎日、うちの看病をしてくれてる梨華ちゃん。
「いいよ、近くの公園にでも行ってみようか」

念の為ということで、移動は車イス。


5分くらいで着いたそこは、ブランコとベンチがあるだけの小さな公園だった。
「ふう〜、気持ちいいねぇ」
見上げた空は、雲ひとつなく真っ青に澄み渡ってた。
その空を遮る、一羽の鳥 ――

「話した事なかったんだけどね・・・あ、変なヤツだって思わないでよ?
 あのね、初めて梨華ちゃんに会った時、梨華ちゃんの背中に翼が見えたんだ」
「・・・翼?」
言ってる意味がわからないのか、肩越しからキョトンとした表情でうちを見てる。


235 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時41分10秒


「うん、真っ白な翼・・・雨の中、空を見上げて両手を広げてさ ――すごい印象的だった。
 抜け道のない真っ暗な闇の中にいた自分を、そこから抜け出させてくれそうな・・・
 今思えば・・・その瞬間から梨華ちゃんの事、好きになってたのかもしれない」
肩に置いてた梨華ちゃんの手を取り、うちの前に引き寄せる。


ありがとう、うちの前に現れてくれて ――



「・・・あのね、私もまだ話してない事あるんだ」
「えっ、なに?」
急に真剣な表情になった事に、少しばかりとまどった。


236 名前:wing 投稿日:2003年05月02日(金)23時41分54秒


「ずっと話さなきゃって思ってたんだけど・・・
 私の両親が死んだ原因・・・事故じゃなくて ――心中だったの。」
「・・・心中?」
予想もしてなかったその言葉に、どう返していいのかわからず、ただ彼女の言葉を待った。

「私が6歳の時だから・・・もう11年かぁ」


1日中雨が降り続いた日だったかな
学校から帰ってきた私の目に映ったものは ――辺り一面真っ赤な血で染まった部屋に横たわる両親の姿だった




237 名前:pitom 投稿日:2003年05月02日(金)23時52分58秒
更新終了ですー

イタイの脱出できたのに、この展開・・・
てか展開進むの、やっぱ早いですかね(^^;

>>226 7さん
いつもレスに励まれてますっ ありがとうございます!
やっと光見えたのに・・・すみません(w
にしても、ホント安倍さんの行動力・冷静さ・・・考えたらすごいなぁー
けど、こっそり注目で止めておいてくらさいね
大注目されても、きっと何も出ませんので・・・(蹴)


238 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時49分14秒

「今でも目を閉じると、鮮明に浮かんでくるわ・・・
 お父さんのやってる会社が倒産しちゃって、膨大な借金を背負う事になったの。
 それでお父さんが出した決断は ――自分が死んで、その生命保険で済ませる事

 ・・・でもね、やっぱり夫婦ってすごいね
 お母さん、お父さんの考えてる事感づいたみたいで、自分も一緒にって・・・
 お父さんを刺して、それからお母さんも ――


 
239 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時50分20秒
私が家に着いた時、まだお母さんの意識あったの
 私、どうしていいのかわからなくてお母さん抱きしめて、必死に叫んでた・・・
 お母さん死なないで、私を置いていかないでって。


 けど・・・いっちゃった
 
 ずっとずっと叫んでたんだ
 死んだなんて信じたくなくて呼んでたらいつか目覚ましてくれるんじゃないかって・・・

 気がついたら ――声、出なくなってたんだ」


240 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時51分33秒

スッと立ちあがり、尚も話し続ける。
うちは黙って梨華ちゃんの話しに耳を傾けた。

「両親を1度に失って親戚の所へ預けられたんだけど喋れない私を重荷に感じて施設に預けた。
 施設では、例えて言うなら”心臓のついてるロボット”
 笑う事も泣く事もしなかった。
 両親の死を目の当たりにして、幼いながらにも自分の感情が砕けてしまってたのかもしれない・・・
 
 でも、唯一残ってた感情でやってきた事 ――
 雨の日にね、空に向かって手をかざしてたの・・・そうしてたら、お父さん達に触れられる気がして
 ひとみちゃんが見たっていう翼があったらお父さんの元へ飛んでいけたかな・・・


 
241 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時52分33秒
 けど、ひとみちゃんに出会えた事で自分を取り戻せた。
 生きててよかった、って・・・ひとみちゃんに笑う事を思い出させてもらった。生きてる意味を感じさせてもらった。
 
 ひとみちゃんを愛する事ができた ――
 ひとみちゃんが、私のすべて

 私の方こそ・・・・・

 ありがとう、私の前に現れてくれて ――」


「梨華ちゃん・・・」
ゆっくり立ちあがり、梨華ちゃんを抱きしめた時、ふいにある事を思い出した。


242 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時53分39秒

「・・・あ、じゃあ梨華ちゃんの家見つけた時様子がおかしかったのって・・・」
抱きしめる力を緩め顔を覗きこむと、そこには苦笑いを浮かべた表情があった

「うん・・・周りの風景も変わってて全然気付かなくて。もうとっくに取り壊されてるもんだって思ってたから・・・
 家見た瞬間、あの時の情景が蘇ってきて・・・

 ひとみちゃんに本当の事話さなきゃって・・・ずっと思ってたんだけど

 ――ごめんなさい、今まで言えなく・・・っ」


最後は涙声になってた。

243 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時54分54秒

その言葉に、うちは再び抱き寄せた。
今までどれだけ辛い過去を心の中に閉じこめてたか・・・
考えただけで心臓が締めつけられる思いだった
目の前での両親の死、悲しみを・・・たった6年しか生きてない子供に乗り越えられる訳がないから

「梨華ちゃん・・もういいから。ありがと・・・話してくれて」
 

腕の中の彼女は、10年間ずっと堪えてきたものが溢れ出るかのようにひたすら泣き続けた。
泣く事で、少しでも楽になれるのなら・・・

かける言葉が見つからない代わりに ――泣き止むまでずっと抱きしめていよう



244 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時55分49秒

どのくらい経ったか、梨華ちゃんの呼吸が落ち着いてきた事にほっと胸をなで下ろす。

「・・・大丈夫?」
ゆっくり髪を撫でながら問いかけると、顔を埋めたままコクンと小さく頷く。
「・・・そろそろ病院戻らなきゃ、ね」
「うん・・・先生心配してるかもね」

病院を出てから思ってた以上に時間が過ぎてる事に気付き、お互い苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、リハビリがてら遠回りして歩いて帰ってたら遅くなったって事にしようか?」
うちの提案に梨華ちゃんはいつも見せてくれてた笑顔で頷いた。



245 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時56分50秒

病院に戻ると、先生はもちろん見舞いに来てくれてた安倍さんも心配してくれてたようだ。
そんな2人に、次からは気をつけると約束すると病室へと向かった。

病室に戻った時、安倍さんが言いにくそうに口を開く。
「あのね、よっすぃ〜・・・今日来たのは仕事の事で話しがあって」

その表情からいい話しではない事はすぐに予想できた

「入院した次の日に職場にしばらく休ませてもらえるように頼みに行ったの。
 責任者の人も今までよっすぃ〜真面目に働いてたからって快く承諾してくれてたんだけどね・・・

 昨日電話があって次入る人が決まったらしくて・・・それで」

246 名前:wing 投稿日:2003年05月06日(火)23時57分50秒

「・・・し、仕方ないですよ!当然の事です・・・迷惑かけたし、また退院してから挨拶行かなきゃですね」
自分自身作り笑いってわかりきってても、その場は笑ってなきゃ2人に心配かけるだけだから・・

「ひとみちゃん・・・」
この事を既に安倍さんから聞いてたようで、申し訳なさそうにうちを見てくる。

「ごめんね梨華ちゃん・・・最近心配かけさせてばっかで・・・
 退院したらまたすぐに仕事見つけて頑張るから!」



もう二度とこの子を泣かせちゃいけない、ずっとうちが守っていくって決めたんだから ――





247 名前:pitom 投稿日:2003年05月07日(水)00時00分12秒
更新終了ですっ

もうそろそろ終盤・・・かな?
248 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年05月09日(金)09時33分29秒
やっと読める〜!!
しかも梨華ちゃんの声が治ってて良かった
いや、いつでもインターネットできる環境にいないもんで、ずっと読めなかったんですけど、久々に読ませていただき感動しました
幸せそうな二人が続いてほすぃです
249 名前:wing 投稿日:2003年05月13日(火)23時54分16秒

数日後、うちは退院する事ができ梨華ちゃんと2人安倍さんの待つ家へと帰った。

「安倍さん!吉澤無事帰りましたぁ」
入り口を開け安倍さんの姿を見つけるとすぐに声をかけた。
焼き立てのパンを棚に並べてた安倍さんは、うちのその声にまるで太陽のような笑顔で出迎えてくれた。

「おかえり、よっすぃ〜梨華ちゃん!」
「ただいまです!・・・あと、ほんと長い間迷惑かけてすみませんでした」
頭をさげるうちの肩に軽く手を添え、覗きこむように言葉をかける。

250 名前:wing 投稿日:2003年05月13日(火)23時57分34秒

「元気になって無事ここに帰ってきてくれたんだからさ、もうそれだけでいいよぉ
 梨華ちゃんも看病お疲れ様!今日はゆっくり部屋で休んでて?
 店が終わったら・・・そうだ!出前取ってさ、みんなでお祝いしよっか」
グッドアイディアだと言わんばかりに手のひらをポンッとたたく。

「ま、じですか・・・?ありがとうございま、す」
再び頭を下げた時、うちの目から一粒の雫が落ちた。

「やだ、よっすぃ〜泣かないでよぉー・・・ほら、いつもの笑顔見せてよっ」


優しい言葉をかけられるほど、それに比例するように涙は止まってくれなかった。



  
251 名前:wing 投稿日:2003年05月13日(火)23時58分35秒

  ◇  ◇  ◇


「・・・ふぅ」
窓枠の部分に腰掛け、夜空を見上げる。
ゆっくりと部屋の方に視線を向けると、電気は消されてるのだけれど月明かりに照らされ浮かんでる愛しい彼女の寝顔 ――

ここ数ヶ月の間に目まぐるしいほどに自分の周りで起こった出来事を振り返り、
今ここに居れる事がどれだけ幸せな事なのか改めて実感する。

と同時に、この幸せを守りきる為に、何をすべきなのか ――

ずっと頭の中を駆け巡り、なかなか眠りにつけず今となってる。


252 名前:wing 投稿日:2003年05月13日(火)23時59分35秒

昨夜は3人で久しぶりに心から楽しめた時間を過ごせた。

梨華ちゃんと安倍さん・・・
本当に2人には感謝の気持ちでいっぱいだった。


このまま、今の幸せが続けばいい
けど・・・このままじゃ ―――



再び外へと目を向けた時、ちょうど店の明かりが付いたのが見えた。
目を凝らして時計を見ると4時を示してる。
今まで気付かなかったけど、こんな早くから店の準備してたんだ・・・


253 名前:wing 投稿日:2003年05月14日(水)00時00分54秒

ゆっくりと、梨華ちゃんを起こさないようにドアを開けると下の店へと向かう。

「安倍・・さん?」
なるべく驚かさないように、様子を見ながら声をかける。
奥で作業してるのか姿は見えなかったのだけれど、まだ機械も動いてなかった事で辺りは安倍さんの足音だけが響いてた。
うちの声にその足音が止まると、ゆっくり奥から顔を出してきた。

「あれ?よっすぃ〜、どしたの、こんな時間に」
びっくりした表情で手に付いた粉を払いながら店の方へ出てきた。

254 名前:wing 投稿日:2003年05月14日(水)00時01分59秒

「いや、なんか・・・目が冴えちゃって。外見てたら電気付いたの見えたから・・・
 いつもこんな時間からやってたんですね、うち全然知らなかった」
「生地から作ってるから、やっぱこれくらいの時間からやらなきゃ間に合わないんだぁ
 こねるのは機械がやってくれるんだけど、その日の気温とか湿度とかで分量も調節しないといけないし
 ・・・あ、せっかくだからよっすぃ〜パン作ってみる?」



思わぬ提案に目を丸くさせながらも、興味のある事だっただけに二つ返事で答える。
「やりますっ!」



255 名前:wing 投稿日:2003年05月14日(水)00時02分37秒

それから、1つ1つ教わりながら徐々にパンへと形作られていく。

「じゃ、あとはオーブンで焼くだけだよ!」
さすがに安倍さんが丸めた生地に比べたら少し歪な形だったのだけれど
数十分経ってオーブンから出されたそれは、こんがりとキツネ色に色付き見てるだけで食欲をそそるものへと変わってた。

「・・・これ、食べてもいいですか?」
パンから安倍さんへと視線を移し問うと、笑顔でゆっくり頷いた。


はにかみながら、熱さを確認した後ゆっくり手に取りしばらくそれを眺める。
その時ふとある事が頭に思い浮かんだ。
「・・・あ、梨華ちゃんにも見せたいっ!」

256 名前:wing 投稿日:2003年05月14日(水)00時03分40秒

言うがままに両手でパンを持ったまま、2階の部屋へと走ってく。
部屋に入ると当然のように梨華ちゃんはまだ眠ってた。

「梨華ちゃん起きて!ねぇねぇ、これ見てよぉー!ねえってばぁ」
いきなりの事に、目を瞬かせながらゆっくり体を起こす。

「ひとみちゃん・・・?ど・・したの、そのパン」
「うちが作ったんだよ!さっき焼きあがったところなんだっ」
少し誇らしげに言いながら、そのパンを半分に分けると片方を梨華ちゃんに渡す。


そうしてる間に、ドアをノックする音と一緒に安倍さんの声が聞こえた。
「よっすぃ〜?入ってもいい?」
「あ、はい!いいですよぉー」

257 名前:wing 投稿日:2003年05月14日(水)00時04分26秒

焼きあがった残りのパンをいくつか皿に入れ持ってきてくれてた。
「梨華ちゃん寝てたよね・・・寝起きにあれだけど、よっすぃ〜が初めて作ったパン、食べてみて?」


梨華ちゃんは手に持ってたパンを小さくちぎって1口食べる
ゆっくり噛み締めた後、数回頷き開口一番に言ってくれた。

「おいしいっ!ひとみちゃん、これすっごいおいしいよっ」

その言葉につられて、うちも持ってたパンにかじりつく。
「・・・うん、いけるじゃん!」

258 名前:wing 投稿日:2003年05月14日(水)00時05分26秒

それは何も入ってない、シンプルなロールパンだったのだけれど
初めて自分で作った達成感、満足感は相当なものだった。

自分にパン作りなんて出来る訳がないって思ってた

でも ――何でもやってみないとわからないって事か・・・


ずっと頭の中にかかってた霧が一気に晴れたような、そんな清々しさが自然と笑みを作る。

今、自分のやるべき事はただ1つ



「・・・安倍さん、話しときたい事があります」

259 名前:pitom 投稿日:2003年05月14日(水)00時10分53秒
更新終了です〜♪

>>248 ラヴ梨〜さん
ラヴ梨〜さんだぁー!最近見かけなかったんで気になってたんだけど
また読んでくれて感謝でございますっ!
ネットがいつでもできないってのは、やっぱ不便ですよね・・・
はい、いつのまにか梨華ちゃんの声治ってました♪
(0^〜^)<愛の力だから!
やっぱ最後は(^∇^)ハッピー・・・(ry
260 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年05月19日(月)01時23分34秒
読んでますとも〜!!
読まずにはいられません!
そうなんです、日々オンライン生活というわけにはいかないもんなんで…
でも大好きな小説は最後まで必ずお付き合いしますから、レスが無くても私は愛読していると思っていただけると幸いです
続きが毎回楽しみですからね
いしよし描写がたまりませんよ〜
261 名前:wing 投稿日:2003年05月21日(水)23時57分56秒

急に真剣な顔つきになった事に対して不安そうに伺ってくる梨華ちゃんの肩を軽く叩くと
安倍さんの方に向き直し、いつか梨華ちゃんに打ち明けた時と同じように言葉を続ける。


「うち、この街に来る前ある組織に入ってました
 依頼があれば何でもやってました・・・それが盗みであっても ――殺しでも」

最後の言葉に、安倍さんの表情が固まる。

262 名前:wing 投稿日:2003年05月21日(水)23時59分05秒

「・・・けど、梨華ちゃんに出会って惹かれ、組織に入ってる事が負い目になって・・・それで2人で逃げてきたんです
 この前撃たれたのも相手の正体は組織の人間なんです。
 何が何でも見つけ出して消す、それが組織のルール
 今回は誰も巻き添えに合わずに済んだけど、近いうちに必ずまた来るに違いない・・・

 こんな大事な事、ずっと黙っててすみませんでした・・・
 もし出ていけって言うのなら、すぐにでも出ていきます ――それが当然ですから
 

 あと・・・梨華ちゃん、うち・・・1度組織に戻るよ
 それで、ケリつけてくる。ただで済むとは思えないけど・・・何もしないでまた襲われるのを待つのだけはいけないから」


263 名前:wing 投稿日:2003年05月22日(木)00時00分41秒

「・・・・行く、私も一緒に行く」
うちの腕を掴む手に力が入る。

「だめだよっ!梨華ちゃんまで危険な目に合わせる訳にはいかない」
「嫌・・・置いてかないで、ひとみちゃんの傍にいさせて・・・お願いだからっ」

すでに涙目になってる梨華ちゃんの手を振り解くことなんてできなくて ――
そうしてる間に、安倍さんが口を開いた。

「・・・よっすぃ〜」
呼ばれて見た安倍さんの表情はさっきと変わらず硬いものだった
覚悟はしてたけど、その表情に思わず息を飲む。

264 名前:wing 投稿日:2003年05月22日(木)00時02分02秒


「大体の事はわかった・・・
 その組織がどんなものかはわかんないけど、けじめつけなきゃいけないって・・・そうゆうことだよね?」

「・・はい、そうです」

「ん、わかった・・・じゃあ1つだけ約束して」
―― 絶対2人でここに帰ってくるって


「えっ・・それ、は・・・」
言葉が続かない
だって、思ってもみない答えが返ってきたのだから

265 名前:wing 投稿日:2003年05月22日(木)00時04分31秒

「ここに、この家に絶対帰ってきて。
 よっすぃ〜が前に何してたかなんて、関係ないよ
 少なくとも、知り合ってからのよっすぃ〜は自分の為、梨華ちゃんの為に必死だったじゃん?
 例え罪を犯してたとしても、それが決して許される事じゃなくても・・・

 私は信じたいって思うんだ ――吉澤ひとみって子を

 だから、けじめつけたらまたここで一緒に住もうよ、ね?
 
 それに私からも話しがあるの
 梨華ちゃんが店手伝ってくれるようになってからお客さんも増えててね
 さっきよっすぃ〜にパン作り教えてて思いついたんだけど、よっすぃ〜にその気があれば一緒に店やらない?」


266 名前:wing 投稿日:2003年05月22日(木)00時05分58秒

言われた言葉の意味をすぐに理解する事ができなくて、数回瞬きした。
やっと整理できた時には、うちの顔はぐしゃぐしゃに歪んでた。

「なん、で・・・・そん、な優しくして・・くれる、んですか・・・」

「なんでって・・・それは2人が大好きだからじゃん
 
 友達、でしょ?
 困ってる時助けてあげたいって思うもんでしょ?・・・ほら、もう泣かないのぉー」
少し乱暴に涙を拭ってくれるのも、安倍さんなりの照れ隠しなのだろう


267 名前:wing 投稿日:2003年05月22日(木)00時07分18秒

「やだなぁ・・・最近、うち・・・泣いてばっかだ・・・」
隣りを見ると、梨華ちゃんも目を真っ赤にさせて泣いてた。

「嬉し泣きならいっか・・・」
笑わす為に、冗談っぽく話しかける。
うちの思惑通り、梨華ちゃんも頷きながら笑ってくれた。
 
そんなうちらをギュッと抱きしめてくれた安倍さん
過去を知ってもここまで言ってくれた安倍さんに対して裏切ってはいけないって、
絶対ここに戻ってくるって固く決意した。


268 名前:wing 投稿日:2003年05月22日(木)00時08分21秒

それからいろいろ話し合い、結果店に迷惑かけるのも嫌だったから店が休みの3日後に組織に行くことにした。

直後、うちは封筒と便箋を買ってきてある人への手紙を書いた。
もう何ヶ月連絡取ってないんだっけ・・・
手紙には1度組織に戻るという事、その時時間があれば会いたい、と。
ちゃんと届くか、可能性はごく僅かかもしれないけど・・・

書いてすぐにポストへと向かった


ごっちんの元へ無事届きますように・・・と願いながら


269 名前:pitom 投稿日:2003年05月22日(木)00時22分32秒
更新終了です〜
ホント、風邪にはご注意を・・・とゆう一言で締めくくりを(w

>>260 ラヴ梨〜さん
もう、そのレスだけで十分です(泣)
レスも時間のある時に、1行だけでもホント嬉しい限りですんで!
終わり、近くなってきてますが最後までよろしくお願いします♪
けど・・・いしよしほとんどないだろう番外編も読んでもらえるか
ちょっと気になってたり(w
270 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時25分16秒

3日後 ――


4ヶ月前に来た経由と逆の電車に乗り、いろんな思い出があるこの街に再び戻ってきた。
組織に着くまで、そして敷地内に入ってからも、梨華ちゃんの手を離すことは1度もなかった。

建物に入り、うちに気付いた連中がざわつきながらも、何をしに来たのか感づいたようで
うちらの行く手を阻むことはしなかった。

真っ先に向かったそこは、もちろん中澤さんがいる部屋 ――
ここまで来て怖気づいた訳ではないのだけれど、正直足が竦んでしまう。
ここから無事に出てこられるのか・・・
計り知れない不安が、体中を支配する。

けど、隣りにいる梨華ちゃん、それからあの家で待っててくれてる安倍さんの為に
全て、これを機に終わらせるって決めたんだから・・・


271 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時26分50秒

一呼吸おいて、覚悟を決めた

「・・・失礼します」
ノックをして部屋に入る。緊張からなのか、恐怖からなのか・・・手が震えてるのが嫌ってくらいに感じられる。


「・・・吉澤、か。そろそろ来る思てたわ」
座ってた椅子を回転させ、こっちに向かい直す。
その表情は、以前見ていたものと変わらず笑っているのに、どこか冷たさを感じさせるものだった。


「ご無沙汰してました・・・中澤さん」

彼女と目が合うと、なぜか逸らす事ができない。
まるでヘビに睨まれたカエル状態・・・

272 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時28分02秒

「なんや、久しぶりに帰ってきた思ったら、かわいい彼女連れとるなぁ。
 まぁ・・・そんなとこにつったっとらんと、こっち来て座りや」
促されるまま、うちらはソファーへと腰掛ける。


「あの、中澤さ・・・」
「あんたんとこ送った男な、始末したわ。ったく、自分の指令もまともに果たせず帰ってくるんやもんなぁ
 ・・・・ほんま情けないわ」
うちの言葉を遮り、中澤さんがうっすらと笑みを浮かべながら告げる。
それからゆっくりテーブルに置いていたタバコを1本取り出し火をつける。
その表情がかえって、うちらに恐怖を与えた。
ずっと握ってた梨華ちゃんの手からも、その恐怖が伝わってくる。


意を決して話し始める。
「中澤さん、逃げた事許してもらえるとは思っていません。
 逃げたらどうなるかもわかってます・・・けど、この仕事だけは ――続けること、できません」

273 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時29分25秒

ふぅー・・・っと、タバコの煙を吐き出しながら
「・・・・・都合のええ事ばっか言ってるなぁ、自分。死ぬんも嫌、仕事続けるんも、嫌・・・ほんま勝手やなぁー」

そう言うと、タバコを咥えたまま席をたつ。ブラインドの前に行くと、こちらに向き直し手招きをする。
「吉澤、ちょおこっち来てみ?」
言われるがままに、中澤さんの元へ歩み寄る。


「・・・なぁ、吉澤 ――それなりの覚悟して、今日ここに来たんよな?」
うちの肩に手を置いた次の瞬間 ――左わき腹に激痛が走った

「!?? ガハッ・・・・・」
中澤さんの右膝が、ちょうど撃たれた場所にめり込んでた。
きっと、どこを撃ったか男に聞いていたのだろう
うちは痛みに堪えれずそのままその場に崩れ落ちた。

274 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時30分49秒
「ひとみちゃんっ!!!」
すぐさま梨華ちゃんが駆け寄ってきた。
「・・・ゲホッ 梨華ちゃ・・大丈夫だか、ら」
なんとかそう答えたが、痛みは半端なものではなかった。
けど、このくらいは仕方のないこと・・・
見上げたそこには、今まで見た事もないくらい冷淡な表情の中澤さんがいた

「・・・ほんまはなぁ、この場で殺してもええくらいやわ。あんたがやってる事、それくらいの事なんやで?」
「・・・・・わかってます、本当にすみません」
その体制のまま、うちは床につくくらい深く頭を下げる。


次の瞬間だった ――

「ぅあっ!!・・・・ぁ、あ・・」
下げてた頭を、痛さの原因である右手の方に向ける。
そこにはさっきまで火がついていたタバコが、うちの手の甲で少し灰色がかった煙をあげてた。
同時に嫌な匂いが鼻を掠める。
腹部と、それに加わった右手のあまりの激痛に言葉が出てこない。

275 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時32分01秒


「やだ・・・もうやめてっ!!!お願いですから!!」
半狂乱に近い状態で梨華ちゃんが叫んだ。

「梨華・・・来るなっ!」
今にも駆け寄ってきそうな彼女に気付き、即座に制す。
いつになく強い口調のその言葉に梨華ちゃんは身を固める。
その瞳からとめどなく溢れ出てる涙を少しでも止めようと必死に笑顔を見せ
それからゆっくりと中澤さんの方を向き、痛みに堪えながら話し始めた。

276 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時33分06秒

「中澤さん・・・うち、生まれて初めて・・・なんです
 
 こ、んなに・・・人を好きになれるなんて、思ってもみなかった
 中澤さんに出会う前、組織に入ってからも・・・

 ―― いつ死んでもかまわないって、ずっと・・・そう思ってたんです

 でも・・梨華ちゃんに出会って、死ぬことが恐くなった
 失いたくないんです、彼女を・・・ずっと、ずっと傍に居たいし・・・居てもらいたい
 
 だから・・・もう危険な事はしたくないんです
 今、すごい幸せなんですよ
 生きててよかったって・・・あの時中澤さんに止めてもらわなきゃ、今の自分はいなかった
 
 結果、裏切る形になった事、本当に申し訳なく思ってます・・・
 けど・・・
 
 中澤さんには・・・心から感謝してます」


277 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時34分07秒
言った言葉に一切の偽りはなかった。
不思議と体の痛みは消えていて
・・・うちは自然と笑みを浮かべてた、まっすぐ中澤さんの目を見つめて
 


「もう、ええわ・・・好きにせぇや」
そう言った時には、もう窓の外を見てたせいで中澤さんの表情までは見れなかった。
梨華ちゃんに支えられながら立ちあがり、もう1度頭を下げる。

「・・・ありがとうございました」


出ていこうとしたその時、背後から声をかけられた
「吉澤・・・今のあんた、いい目してるわ。初めて会った時とは大違いやな。」

―― よかったな・・・頑張れや


278 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時35分53秒

その言葉に力強く頷く。
それからずっと考えてた事を口にする。

「あの・・・ごっちんに会わせてもらってもいいですか?」

言わば、うちはもう部外者・・・
勝手にはごっちんの部屋に行かせてもらえないだろうから

うちの言葉に、中澤さんは苦笑いを浮かべ、こう言った。


「・・・後藤もおらんなったよ」


―― えっ・・・

ごっちんもいなくなった・・・
中澤さんの言葉に動揺を隠せないでいると、再びタバコに火をつけながら話し続けた。

279 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時37分46秒

「あんたがおらんなって1ヶ月もせんうちにな
 同じように探してるけど、まだ見つかってないんよ。どこにおるんか・・・それとももうこの世におらへんのか」

「そ、んな・・・・
 あの・・・ごっちんの部屋、見せてもらってもいいですか?」
なにか手がかりになるものがあるかもしれない
このまま会えないなんて、そんなの絶対に嫌だから

だけど、そんな期待もあっけなく打ち砕かれる

「後藤の部屋のモンは全部処分したよ、何も残ってない
 あいつと仲良うしよったお前の気持ちもわからんでもないけど・・・諦めや」



280 名前:wing 投稿日:2003年05月30日(金)22時39分08秒

建物を出て、ゆっくりと振り返る

またねって・・・そう言って別れたのが最後
二度と会えなくなる訳じゃないって言ってくれたのに、なんでいなくなっちゃったんだよ・・

ありがとねって・・・もう1度お礼言いたかったのに


じっと建物を見つめるうちの隣りで心配そうに見てる梨華ちゃんに気付き

「・・・帰ろうか」
一言そう答えると、ゆっくり歩き始めた。



「・・・ほんまにこれでよかったんか?」
窓の外をじっと見つめる少女の後姿に、中澤が声をかける。


「すみませんでした・・・無理言っちゃって
 けど、この世界から抜けたよしこの為には、もう会っちゃいけないって思うから

 あと・・・こんな顔見せらんないですよ」

ゆっくりと振り向く少女の表情は、逆光で見えなかったのだけれど
彼女の特徴とも言えるその長いストレートヘアーはキラキラと光ってた。




281 名前:pitom 投稿日:2003年05月30日(金)22時40分50秒
更新終了ですっ

・・・今年の風邪はホント長引きますね(−−;
282 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時47分39秒
  ◇   ◇   ◇


その日はもう電車がなくなってて、ホテルで1泊することにした。
組織を後にしてホテルに着くまで、2人の間には会話はなかった。
時間にすれば10分くらいだったのだけれど、その間ずっとうちの頭の中はごっちんの事でいっぱいだった。
唯一の親友だったごっちん・・・
とりあえず今は無事である事を願うしかないのか・・・


「・・・ひとみちゃん、手 出して?」

ふいに声をかけられ隣りを見ると、苦笑いを浮かべた梨華ちゃんがいた
そう言われた事で手の傷を思い出した自分自身にも心の中で苦笑いする。

ゆっくり差し出した右手を見ると、黒く焼けた痕が先ほどの出来事を思い出させる。

「・・・痛かったよね。でも・・・もう終わったんだよね?」
鞄から取り出したハンカチをそっと手に巻いてくれる。

「うん・・・もう終わった。だから・・・安心していいよ」
空いた左手でゆっくりと抱き寄せる。
あんな状況に立ち会った彼女の恐怖心は半端なものではなかっただろう
腕の中でゆっくりと息を吐いたのを感じ、ただただ申し訳なく思い抱きしめる腕に更に力を込める。


283 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時48分31秒

「・・・ごっちんはね、組織に居た頃にできた、たった1人の親友なんだ」

抱きしめたまま、ポツリポツリと話し始めた。
出会った頃の事やごっちんとの思い出、それから梨華ちゃんの事で後押ししてくれた事・・・
全てを打ち明けた。

「・・・うちが逃げた後、きっと行方を聞き出す為にひどい目にあわされたと思う

 あの時そうなる事わかってたはずなのに・・・それなら何であの時一緒に逃げなかったんだろ・・
 うちだけが逃げて・・・

 お礼とか謝りたい事とか、やっと会えると思ったのにごっちんはいなくなって、た
 いっぱい話ししたかったのに・・・」

すべてが遅すぎた
今になって後悔しても、どうしようもないのだから・・・

284 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時49分10秒
―― その時

「・・・大丈夫だよ、ひとみちゃん」
腕の中の彼女から意外な言葉が届いた。
思わず力を緩め、梨華ちゃんの顔を覗きこんだ

「・・・なにが大丈夫な、の?」

「後藤さんは生きてるよ、そんな気がする・・・
 生きていれば、きっといつか会えるよ。会いたいって願ってれば・・・きっといつか」

そう話す梨華ちゃんの表情は本当に穏やかなもので
今まで自分自身責めてた気持ちを不思議なくらいに簡単に落ち着かせてくれた


「そ、だね・・・ありがと、梨華ちゃん」



285 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時50分01秒


翌日、早々とチェックアウトを済ませ、この街を後にする。

もう2度とこの街を訪れる事はないだろう・・・
見渡せる範囲で、その景色を目に焼き付けた。

「バイバイ・・・」
誰に言う訳でもなく呟いたその言葉に、繋いでた手をくいっと引き寄せた梨華ちゃんが笑顔で言う

「早く帰ろ?私達の家に」
「・・・うん、帰ろう!」



長時間の移動を終え、安倍さんの待つ住み慣れた我が家へと足を速める。

日も暮れかかってたから夕飯は3人でどこか食べにいこうかとか、他愛もない話をしてた時
前から歩いてくる女性が目に入った瞬間思わず立ち止まってしまった。

286 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時50分37秒

けど・・・今更話す事は何もない
何事もなかったように通り過ぎようとした時、数秒でも止まったうちを不思議に思って声をかけてきた。

「・・・どうしたの?ひとみちゃん」

「・・・ひとみ?」
案の定梨華ちゃんの声が聞こえたようで、すれ違う時にうちの顔を伺ってた
でも、その視線を気にする事なく通り過ぎた。

「ね、ねぇ・・・あの人こっち見てるよ?知り合いじゃないの?」
「いいから!早く行くよ?」

「えっ・・・でも」
うちに手を引かれながらも、しきりに後ろを気にしてる梨華ちゃんが何かに気づいた。

「もしかして・・・あの人、お母さん?」
その言葉に思わず足が止まる。
うちの反応に確信を得た梨華ちゃんが、じっと顔を見てきた。


287 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時51分16秒
ふぅ・・・
ゆっくり息を吐き振り返ると、母さんに向かって叫んだ。

「・・・母さんっ!うち、今すっごい幸せだから!
 この子、梨華ちゃんとさ・・・これからずっと一緒に生きていくから!

 だから、母さんも・・・幸せになってよねっ!」

夢中で叫んだ事で、いくらばかりか乱れた呼吸を整える。
うちの言葉を聞いた母は、涙ぐみながらも何度も何度も頷いてた。


「・・・じゃあねっ!」
そう言って梨華ちゃんの手を引き歩き出した。
照れ隠しに、少しばかり強引に。

「・・・よかったね」
やっとうちの歩調に追いつき、覗きこみながら笑顔でそう言ってきた。

「・・・うん」
つられて、うちも自然と笑顔になってた。



ずっと心の奥にあったわだかまりが ――今、ようやく消えた



288 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時52分03秒

「あっ!安倍さーんっ!!」
電車に乗る前に大体の到着時間を知らせてた事で、安倍さんが店の前で待っててくれてた。
その姿を見つけると同時に、うちらは夢中で手を振った。
それに気付いた安倍さんも、いつもの笑顔で手を振り返してくれた。

「・・・おかえり。あと、お疲れ様!」
「ただいま帰りました・・・ちゃんとケリつけてきましたんで、改めて仕事の件、よろしくお願いします!」

「ちゃんと働いてくれないと、遠慮なくクビにするからね〜」
冗談交じりのその言葉に、3人が同時に声をあげて笑った。

「はいっ!頑張りますっ!!」


289 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時52分47秒

夕飯までの時間、部屋で少しばかり休息を取る事にした。

「・・・はぁ 無事帰ってこれたぁー・・・」
大の字に寝転ぶと、梨華ちゃんが心配そうに眉を下げて近寄ってきた。

「ねぇ・・・傷口大丈夫?痛くない??」
シャツを捲り、うちのお腹を擦ってる。
「うひゃっ!くすぐったいってぇー 大丈夫、もう痛くないよ。けど、抜糸する前とかだったらやばかったかも」

「そう、よかったぁ・・・もうあんな思いするのやだからね?」
見上げる彼女の表情は真剣なもので

「ごめんね、いろいろ心配かけちゃって・・・」
ぎゅっと抱き寄せた後、軽くキスをした。

「・・・なんか飲み物持ってくるね」
そう言いながらキッチンへと行く彼女を見送りながら、ふと心地よい風が窓から入ってくるのを感じた。

290 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時53分43秒

「そっか・・・もう夏も終わりかな」
窓の方へ目を向けると、窓枠に小鳥が1羽とまってるのに気づいた。
そっと体を起こすと、その小鳥がうちの方へ降りてきた。

「おっ?こいつ、人に飼われてたのかなぁ・・・おいで?」
いくら飼われてたからと言って無理だよな、なんて思いつつも手を差し出してみる。
その手に、初めは警戒してたようだったけれど畳の上をピョンピョン飛びながら、うちの手にとまった。

「うははっ 梨華ちゃーん、見てよ!こいつかわいいのっ」
キッチンにいる梨華ちゃんに話しかける。
その声に、タオルで手を拭きながら来た梨華ちゃんの足が止まった

「・・・鳥!??やだっ!ひとみちゃん、私 鳥苦手なのーーー!!!」
止まった状態から1歩も動く事ができず、じっとこちらを伺ってた。

「うそ、鳥が嫌いなんて初めて聞いたよぉーこんなにかわいいのになぁ」
仕方ないか・・・

ゆっくり立ちあがり、窓辺へと連れていく。
「じゃあね。」
そう言って、パッと飛び立たせた。
飛んでいく、その姿をずっと見つめる。





291 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時54分32秒





ずっと欲しかった翼 ――
翼があれば、どこにだって逃げられるし今の自分からも抜け出せるって思ってた

けど今は、うちには梨華ちゃんがいる

もう逃げたくないし、逃げる必要もない
その術である、翼は・・・もういらない ――


これからは、この手でキミを守ってく ――
キミの笑顔を絶やさないように、ずっとずっと傍にいて守ってく ――




愛してるよ、梨華



292 名前:wing 投稿日:2003年06月02日(月)21時55分17秒


                    ― fin ―
293 名前:pitom 投稿日:2003年06月02日(月)22時00分52秒
「wing」 最終話、更新終了ですっ

初めてここで書かせてもらったんですが、途中から最後までうまく書き終えれるか
かなり心配だったんですが、なんとか無事終われる事が出来てよかったです!
とりあえず「wingいしよし編」は終了です!
しばらくしてまた続編としてここで書かせていただきますので
よかったら次回のも読んでもらえるとありがたいですっ

294 名前:pitom 投稿日:2003年06月02日(月)22時02分32秒
スレ流しも含め

・・・あと、一言でもいいんで感想頂けたら、ホント涙して喜びますっ!!
295 名前:1444Ch 投稿日:2003年06月02日(月)22時12分45秒
お疲れ様でした。m(_ _)m
梨華ちゃんとよっすぃ〜幸せになってくれて嬉しい限りです。
続編もあるんですか!?楽しみにしております。

296 名前:LOVEチャーミー 投稿日:2003年06月02日(月)23時05分44秒
いい話でした!長い間お疲れ様でした。
297 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月02日(月)23時34分12秒
ハッピーエンドで良かったよぉ。
続編楽しみにしてます!
298 名前:わく 投稿日:2003年06月03日(火)19時23分28秒
ずっと読んでました♪
この作品大好きでしたよ☆
りかちゃんとよっすぃ〜が幸せでよかった(*^_^*)
いしよし続編希望します!!
ぜひまた続編書いてくださ〜い!!
299 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年06月04日(水)14時51分39秒
最初から完読させていただきました
ついに完結ですか(しみじみ)
もう、ここの健気な梨華ちゃんが見れないんですね(哀)
続編は、ひょっとすると本編では語られなかったごっちんのことがメインでしょうか?
気になりますね〜
甘いいしよしも、また書いてほしいですが…
楽しみにしています
300 名前:pitom 投稿日:2003年06月06日(金)21時09分48秒
レスありがとうございますっ!!!

>>295 1444Chさん
ありがとうございまっす!
喜んでもらえる結末で私も嬉しいです(w
続編もまた読んでもらえるともっと嬉しい・・・(蹴)

>>296 LOVEチャ−ミーさん
レスありがとうございますっ!!
そう言ってもらえるだけで、ホント満足ですー!
考えれば思ってた以上の更新日数になってたことにびっくりです(w

>>297 名無しさん
レスありがとうございますっ!
個人的にも甘い+ハッピーエンドが大好きなので
満足のある作品にできてほんとよかったです(^^;
301 名前:pitom 投稿日:2003年06月06日(金)21時20分49秒
>>298 わくさん
レスありがとうございます!!
大好きだった作品って言ってもらえるなんて、ホント嬉しいですー!!
やっぱこの2人には、いつでも幸せであってもらいたいものです♪
いしよし続編、始め予定になかったんだけど書いちゃいます!!(w 
激甘目指しますっ!!

>>299 ラヴ梨〜さん
いつもレス、本当にありがとうございましたっ!!
ホント励まされてましたよぉー(゚Å)ホロリ
私も完結後、始めから読み返したんだけどやっぱり前半イケてないっす(^^;
はい、とりあえずの続編は( ´Д`)メインでいく予定です
でもって、↑でも書いたようにその後のいしよしも書こうと思います!!
またそっちもお付き合いいただければありがたいでございますー♪

えっと、続編(ごっちんメイン)はまた来週以降から更新できれば、と思ってます
改めて、これからもよろしくお願いします!
302 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年06月17日(火)23時27分17秒
初めまして!!
一気に読ませていただきました。
こんないい話を有難うございます!!
303 名前:real love 投稿日:2003年06月18日(水)00時04分27秒




”愛”ってなんだろう
愛するって、愛されるって ―― 一体どんな気持ち?

誰かを大切に想ったり、何がなんでも失いたくないと思ったり・・・
それが愛と言うのなら


私に”愛”は必要ない



              ―――― ずっと そう思ってた



304 名前:real love 投稿日:2003年06月18日(水)00時06分32秒

”真希!早く食べてしまいな!”

ごめんなさい・・・おばあちゃん

”・・・真希っ!いつまで泣いてるんだい!・・・ったくあんたの母親も、とんだ厄介者を置いていったもんだよ”

ごめんなさい・・・おばあちゃん、わたし、いい子になるか、ら

―――――
―――
――


「・・・き!真希っ!」

即座に目を開く。
視界に入ったものが自分の部屋の天井である事に、先程のものが夢であったんだと、ようやく理解する。
安堵の溜め息を1つつきながら呼びかけた声の主の方へと目を移した。

「真希!今からアレ、行くんだけどさ、あんたも行かない?」
「あぁー・・・今日はいい」

あっそ
そう一言残すと、少女は部屋を後にした。

305 名前:real love 投稿日:2003年06月18日(水)00時07分40秒
アレが意味するものは、言葉に表すなら”盗み”
私達が盗みをするのは快感を得るためでも何でもなく、単に生き延びていく為の術・・・

親もいなくて、未成年である事で働く場所もなくて
そうゆう人間が集まって、うまく協力して店の物を盗むんだ。
けど連中を仲間だとか思った事は1度もないし、きっとみんなも同じ意見だろう
自分の身がやばくなったら平気で人を陥れる事もする。
心から信用できる奴なんて1人もいないんだから・・・


こんなその場しのぎの生活をし始めて、もう2年になる
それまでは・・・そう、夢で見たそのままの生活を送ってきた。

まだ物心もつきかねてる私1人を祖母の家に残し、母親は行方をくらませた。
祖母が言うには父親は私が生まれる前に亡くなったらしい
1人で育てるのを苦に思っての行動だったのか、それから今に至るまで私の前に現れる事は1度もなかった

306 名前:real love 投稿日:2003年06月18日(水)00時08分36秒

母親の顔なんて覚えてる訳もないし、母親に対してあるものは憎しみ以外何もなかった
捨てるくらいなら産まなきゃよかったんだ・・・
その為に、私は祖母の家でどれだけ辛い思いをさせられたか

今でもこうやってたまに夢に出てきては思い出させる
気に入らないからと言うだけで殴られる事も数え切れないくらいあった。

そんな生活に限界を感じて2年前 ――13歳の時に祖母の家を出た
それからは空き家に身を隠し、盗みを繰り返しながら日々を過ごしてきたんだ


何の目的もなく、ただ毎日をなんとなく過ごして
でも・・・何もしなくても時間は過ぎる

それが生きてる証拠



果たして ――私にどれくらいの生きる価値があるんだろう・・・


307 名前:real love 投稿日:2003年06月18日(水)00時09分44秒
  ◇   ◇   ◇


今日も、連中と街をさまよい歩く。
周りの大人達はきっと私達を蔑んだ目で見てるに違いない

ほら・・・あのおばさんも、こっち見ながらヒソヒソと話してる


「真希、今日どうする?」
「・・・ん、別にいいよ」

じゃ、いつもの作戦で ――
そう言いながら、彼女は店員のいる方へと歩いていく。
店員の注意が逸れてる間に、すばやく商品に手を伸ばす。

あとはさっさと店を出ていくだけ・・・
「・・・君、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

その言葉に、思わず足を止める。
だけど冷静さを保ちながら振り向くと、明らかに店員ではない雰囲気の男が立っていた。

308 名前:real love 投稿日:2003年06月18日(水)00時10分36秒
警察・・・
心の中で舌打ちしながら、辺りを見渡すとそこに居たはずの姿が既に消えてた。


はぁー・・・
わかってはいたけれど、こうやって簡単に裏切られると不思議と何も思い浮かばない
逆に無意識に笑いが出ていた事に、警官によって気付くなんてね

「・・・すみません、つい出来心で」
口元だけが笑ってる、そんな不自然な表情の私に対し、少し怪訝な表情を浮かべた警官が
私の腕を取り、店員と共に店の奥へと連れていこうとする、その時だった ――


「すみませんっ!!」
いきなりの事に、その場に居た全員がその声の方向へと一斉に顔を向けた。
そこには眉間に皺をよせた、20代半ばくらいの女性が立ってた。

309 名前:real love 投稿日:2003年06月18日(水)00時11分36秒

・・・なんだろ、この人
野次馬の中の1人みたいな、そんな第三者が考えるような事を考えながら
しばらく警官とその女性のやりとりを傍観してた


「・・・なんですか?あなたは」
「あ、彼女の姉です。・・・義理の」

その女性の言った言葉が何を意味するのかしばらく理解できなくて・・・

「・・・ちょ、ちょっと待ってよ!誰が・・・っ!?」
そう口に出せたのは、数秒経ってからだった。

けれど、その言葉の続きを最後まで言う事は出来なかった。
女性の、一瞬見せたその鋭い視線を見た瞬間、私は話す事もままならなくなってたから ――



310 名前:pitom 投稿日:2003年06月18日(水)00時23分45秒
「real love」更新開始しました!
でもって、少量ですが更新終了です(^^;;

大好きないしよしですら初挑戦だったのに、ごっちんにまで手を出してしまって
無謀としか言い様がないかも・・・(w
けど、「wing」本編では書けなかった部分とか、
やっぱそのままにしておくのも嫌だったんで、今回番外編?という形で
改めてスタートすることにしました!
また、少しでも多くの人に読んでもらえるようにがんがりたいと思います!!

・・・けど、もう行き詰まって(ry

>>302 ぷよ〜るさん
こちらこそ、はじめまして!!
一気読み、少し長めだっただけにお疲れ様でしたっm(_ _)m
けど、読んでいただいて本当に感謝感激ですっ
また、続編の方もよろしくお願いします♪
311 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年06月18日(水)06時04分42秒
「real love」更新開始お疲れ様です!!

一気読み、面白い話だったんで全然疲れませんでしたよ!!

ごっちんの話は当方も気になってたんで
続きが楽しみです♪

では、がんがってください!!
312 名前:7 投稿日:2003年06月23日(月)01時52分11秒
お久しぶりです。
長らくお邪魔していない合間に、「Wing」が完結してたんですね。
完結、お疲れ様でした。
一気に読ませていただきました。
いしよしが結ばれ、安倍さんもイイ味出していて、言うことなしの結末
でした!

ごっちんが再登場したと思ったらそのままで、あれ?と思いましたが、
ちゃんと続編があったんですね。
こちらの方も楽しみにしております。
313 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時12分33秒

とりあえず、その場は義姉だと名乗った女性によって事無きを得る事が出来た。
警官に厳重に注意され、私はその店を後にする。

「・・・もう放してよ」
店を出た時から掴まれてた腕を、強引に解きながら女性を睨みつけた。
虚勢でもなんでもいいから・・・でないと何も言えなくなる気がして

「・・・一体、誰なんですか。なんであんな嘘・・・」

「・・・まぁ、ええやん。あんたも捕まりたくなかったやろ?」

さっきと明らかに違う、聞き慣れない話し方に、いくらかの戸惑いを隠しきれずにいると
そんな私の気持ちを読んでか、今まで見せてたものとは別の穏やかな表情を見せながら話し続けた。

「あんた、お金に困っとるんやろ?あんたの頑張り次第で、今の生活の何十倍も楽な生活できるんやけどな」

―― やらへんか?



314 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時14分59秒
どんな事をやらされるのか、その時の私には全く興味がなかった
だから一言、

「・・・結構です」

「そぉか・・・まぁ、もし気持ち変わったら連絡待っとるから」
そう言いながら、電話番号を記した名刺を私に差し出してきた。
私はその手を払い、去り際に伝えた。

「私、誰かの下で働くとか命令されるとか・・・そうゆうの大嫌いなの」
 

それだけ言い残して、その場を立ち去った。
そのまま部屋へと戻ると、店で姿を消したあいつが苦笑いを浮かべてドアの前で待ってた。

「真希ごめんね〜、まさか警察がいるなんて思わなくってさぁー」

「・・・いいよ、別に」
言葉では謝ってても、心の中では何を思ってるかなんてわかんない
それに深く関わる気もないし・・・

315 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時16分02秒

一言言い残すと、私は部屋の中へ入っていった。
深く息を吐きながら上着を脱ごうとした時、習慣的にポケットの中身を出そうと手を突っ込んだ。

・・・ん?
硬い感触を感じそれを取り出すと、1枚の名刺 ――
見ると、先程差し出されたものと同じものだった。

「あの人・・・いつの間に」
入れられた事に全く気付かなかったなんて

ベッドに寝転び、その名刺を見つめる。


「中澤、裕子ねぇー・・・」
呟いた後、持ってた名刺を握りつぶすと適当に部屋の隅へと放り投げた。



その時は、ぐちゃぐちゃにした名刺をもう1度開く事になるとは思いもしなかった ――


316 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時16分54秒

  ◇   ◇   ◇

毎日、なんの変化もない日常・・・

なんとなく向かった河川敷にある階段の部分に腰掛け、ただ川の流れをじっと見る。
しばらくして耳に入ってきた話し声のする方へ目を向けると、制服姿の女の子が目に入った。
きっと学校帰りなのだろう

「・・・私も、本当ならああやって制服着て学校行ってる年なんだよね」
そうすれば友達と呼べる人間も出来ていただろう
勉強も頑張って、将来にだって未知の可能性が広がっていただろう


こんなに自分の人生に失望する事もなかったんだ・・・
全ては、そう ――母親のせい

けど・・・
いなくなった人間の事を、いつまでもウダウダ言っててもしょうがない
腰を上げ服に付いた砂を払い終え、階段を数段登った時に頭上から誰かに呼ばれた気がしてふと顔を上げた。


317 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時18分40秒

「・・・・真希」

誰かなんて、聞かなくてもすぐにわかった ――私と似た顔をもつ女性
正体がわかった途端、腹の中が煮え繰り返る思いだった

必死に感情を抑えながら、静かに問うた。
「・・・・何の用?」


女性はその言葉に、自分が誰なのか気付いてもらえた喜びを表したのだが
すぐに緩んだ口元を引き締め話し始めた。

「・・・最初に謝っておかなきゃね。あなた一人残していなくなったりして本当にごめんなさい
 
 あの時はああするしかなかったのよ・・・必死に働いてもあなたを育てていけるだけの収入がもらえなくて
 あなたの事、忘れた事なんて1度もなかったわ
 生活が安定したら迎えにいこうって・・・

 でも、行った時にはあなたの姿はなかった」

318 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時19分44秒

「・・・何年経ってると思ってんの」
その間に、私がどれだけ苦しんできたか・・・


「あんたなんかにわかるはずがないっ!!!」


気がついたら、私はその人の胸倉を掴んでた。
苦しそうな表情を浮かべながらも抵抗する事は一切しないその態度に余計に苛立ちを感じた。


「ごめ、んね・・・真希、本当に・・・ごめんなさい」
頬を伝い落ちてきた涙が、私の手に触れた。

結局、どれだけ憎んでも血の繋がった親子である事に違いはない
母親の泣く姿なんて見たくなかった

「もう・・・いいよっ」
手を離しその場を離れようとした時、背後から尋常じゃないくらいの咳き込む音が聞こえた
振り返ると、しゃがんで小さくなってる姿・・・
口元を押さえてる指の間から真っ赤な血が滴り落ちるのを目にした瞬間、咄嗟に駆け寄ってた

319 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時22分09秒
「ちょっ・・・なに、どうしたのよっ!?」
背中を擦る事しかできなくて、さっきまでの苛立ちとか全て消え去ってた。

母さんは取り出したハンカチで口元を拭い数回深呼吸をした後、まだ幾分苦しそうな声で話し出した。

「ごめんね、みっともない所見せちゃったわね・・・
 無理が祟って、去年から体壊しちゃって。病院行っても・・・もう手遅れだって。

 だから、なんとしてでも死ぬ前に真希の事、見つけ出したくて必死になって探したの・・・
 もう満足よ、成長したあなたの姿見れただけで・・・もう十分」


笑った母さんの表情は、本当に穏やかなものだった ――


「な、に言ってんの・・・いきなり人の前に現れて、それで病気?私の顔見れて満足??
 ばかな事言わないで!

 ・・・私なんか探してる暇があったんなら、さっさと病気くらい治しなよっ!!」

人が怒鳴ってる間も、母さんは笑ったまま何度も頷いてた。

320 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時23分33秒
「そうよね・・・ほんと、真希の言うとおりだわ

 手遅れって言ったの、少し違うの・・・治す為には手術が必要だって、莫大な金額の
 母さんには、もうそんなお金作る力残ってない・・・」

「・・・お金って、いくらかかるのよ」

「いいの、真希に作れるような、そんな額じゃないの・・・」

その言葉に、ムッときて思わず言ってしまった

321 名前:real love 投稿日:2003年06月25日(水)22時24分30秒

「何が何でも作ってみせるわよ!!」

―― 当てはあった。あの名刺のヒト



母親の連絡先を聞き、すぐに部屋に戻った私は、部屋の隅に転がったままの紙くずを拾い
そこに書いてある番号へ電話した。


「・・・あぁ、あんたか。いつかかかってくる思ってたで」
何回目かのコールの後に出た女性の声は、何週間か前に聞いたものと同じだった

「すぐにお金が欲しいんです。・・・なんでもしますから」
322 名前:pitom 投稿日:2003年06月25日(水)22時34分29秒
更新終了です〜
こちらも週1ペースでいけたら、と思ってます(^^;

>>311 ぷよ〜るさん
レスありがとうございますっ!!
面白い話って言ってくれた事、心から感謝ですっっ!
「real〜」の方も、前作との繋がりをうまく書けたら、と思ってます♪
・・・けど、もうしばらくメインはごっちんだけで(w
相手、いつでてくるかなぁー。。。

>>312 7さん
おひさしぶりですっ!!!またレスもらえた事、めちゃめちゃ嬉しいです!
7さんの希望通りの終わり方できてたみたいで、私もホッと一安心です(w
続編、途中で決めたんだけど書くからにはちゃんとごっちんの過去も書きたいな、と!
それで今に至っております(^^)
こちらも読んでもらえると嬉しい限りですっ

323 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年06月26日(木)18時59分30秒
更新お疲れ様です!!

ごっちん・・・凄く辛かったんですね・・・

pitom様も色々と大変な中での更新で・・・
ホントにホントにお疲れ様です。
324 名前:へっとずぴかる 投稿日:2003年07月01日(火)12時16分57秒
はじめまして〜
最近このサイトに来た新参者ですよろしくです。
「Wing」読ませてもらいました。
いままで「なちまり」好きだったんですが
「Wing」で完全いしよし派になってしまいました〜
でまた読み返しております。
ごっちんのストーリーもすごく気になります
続き期待してます〜がんばってください♪
(Wingの影響でうちのPCのデスクトップの背景が
壁紙サイトで見つけた羽根付き梨華ちゃんになっております^^;)
325 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時45分58秒

  ◇   ◇   ◇


待ち合わせ場所を決め、人気のない奥のテーブルであの人が来るのをじっと待った。
予定より10分ほど遅れてきたことに対し、苦笑いを浮かべながら近寄ってくる中澤さん

「早速やけど・・・いくらくらい欲しいんや?・・・あ、かまんか?」
席につくと同時にポケットから取り出したタバコを見せ、私が頷いたのを確認して火を付けた。

「あの・・・母が病気で、その手術費なんです。多分・・・最低でも200万くらいは」

「なんや、身内おったんか!・・・・なるほど、それで金が必要と」
しばらく考えた後、ゆっくりと話し続けた。


「あんな?簡単に説明したら、うちがやってるんは裏の仕事や
 仕事内容によって、その報酬額が決まんねん。あんたが欲しい額を手にしよう思ったら、せやな・・・

 あんた・・・人、殺せるか?」

326 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時47分26秒

いつか見た、あの時と同じ鋭い視線に思わず顎を引く。

「・・・殺し、ですか」
嫌な汗が、背中を伝う

「病気なんやったら急ぎやろ?小さい仕事してちまちま稼ぐより、ずっと早いし高額や。」
―― あとは、あんたの気持ちだけ

試されてるような、そんな意味深な笑みを浮かべて、じっとこっちを伺ってる。


確かにこの人の言ってる通りだ
すぐにでも手術しなきゃ、本当に今度こそ手遅れになるだろうから・・・

「・・・わかりました。やらせてください」

「・・・じゃあ決まりや。ここじゃなんやし、場所変えよか」


327 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時48分54秒

そう言って連れてこられた場所は、少し古びた建物だった。
中澤さんの後をついて行くと、すれ違う人すべてが立ち止まり一礼をしてる。

・・・そんなにすごい人なんだ、この人って


部屋に着き、促されるままソファーに腰掛ける。
緊張感を隠せずにいると、クリップで留めた書類を目の前のテーブルに置かれた。
その書類の1番上には、50代くらいの男性の写真があった。

「今回殺ってもらうターゲットはこいつや。
 あんたは、こいつを殺す。そしたら希望通りの金が手に入る。・・・簡単な事やろ?

 ・・・ただ、1つだけ条件がある
 この組織の事知ってしまった。1回仕事に手つけてしもたら簡単に辞めれる思わんといてほしいんよ
 いわゆる、”共犯”ってやつやからな

 逃げたり秘密ばらした時には ―― 命ない思とって?」

・・・あとは、これ

そう言って次にテーブルに置かれたモノ ――それは初めて目にする、黒く光る拳銃だった

328 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時50分55秒
拳銃を見つめたまま微動だにしない私に苦笑いしながら、それを手に取ると、いきなり私の方へ向けてきた
咄嗟の事に一瞬頭の中が真っ白になったのだが、次第に押し寄せる恐怖にただただ身動きがとれなかった。

「・・・恐いか?安心してええよ、弾は入ってないから」
含み笑いをしながら拳銃をゆっくり降ろす。
弾の入ってない拳銃だとわかっても、中澤さんの手にあるそれからしばらく恐怖を拭い去る事をできずにいた。

「まぁ、あんたみたいな方が相手にも警戒されんでええかもな
 拳銃の使い方は・・・せや、かおりにでも教えてもらうとええわ。ちょお待ってな」
そう言いながら内線で誰かに指示する。


329 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時51分46秒

かおり・・・
ちらっと出てきたこの名前に、私以外にもここで雇われてる女の人がいる事を知った。
そんな風に考えていると、1人の女の人が部屋に入ってきた。

「悪いな、急に呼び出して・・・この子に銃の撃ち方とか、仕事の事とか教えたってくれんか?

 ・・・あ、後藤?こっちが飯田圭織、もうこの組織入って2年になるかな。わからん事あったら何でも聞いたらええ」

「よろしくね。えっと・・・下の名前は?」

「あ・・・真希です。よろしくお願いします」

差し出された手を握り返す。
その穏やかな笑顔、手の温もりからは到底ここの仕事をやってるなんて思えなかった。
きっと私より年上だろう、でも中澤さんとはまた違った落ち着きを感じさせる人・・・



  
330 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時53分15秒

  ◇   ◇   ◇


「じゃあ、早速銃撃ってみる?」
部屋を出て、廊下を歩きながら飯田さんが聞いてきた。

「えっ!?」
予想外の事を聞かれた為に、思わず飯田さんの顔を凝視してしまった。

「ふふっ そんなじっと見ないでよー。裕ちゃん・・あ、さっきの中澤さんね?
 裕ちゃんから大体の事は聞いたわ。時間にゆとりがないみたいだし、覚えなきゃいけない事を先に教えるつもり」
―― それでもいいかな?

「・・・はい、お願いします」
何もかもわからない事だらけの私は、この人の言うとおりにすればいいんだ。



331 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時54分27秒

地下にあるその部屋は、的が3つしかない少し狭めの所だった。
私が回りを見渡してる間に、慣れた手つきで拳銃に弾を詰め終わった飯田さんが的に向かって構える。
それに気付き、慌てて近寄ろうとした時に制された。

「そこで見てて?あと、ちゃんと耳塞いでてね」

頷く間もなく、パンッ ――パンッ

すぐに耳を塞いだのだけれど、その音は頭に響くほどのものだった。
撃った先を見ると見事2発とも中心を貫いてた

「・・・すごい」
独り言のように呟いた言葉に少し苦笑いしながら、持ってた拳銃を私に差し出す。

「これくらい当然にならなきゃいけないの・・・この仕事に失敗は許されないから。
 じゃあ、それ持って構えて?」

その言葉に、改めて事の重大さを感じさせられる
―― そう、これは遊びじゃないんだから

332 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時56分29秒

「・・・まっすぐ腕を伸ばして、うん、そう。中心に合わせて・・・・そのまま引き金引いて」

その言葉に従い、ゆっくり引き金を引いた。―――― パンッ


拳銃から伝わる、あまりに大きい衝撃に思わず体が仰け反った。
振動で痺れた手を振りながら、的の方へと目を向ける。

「初めてにしちゃ上出来だね。」

さすがに中心に当てる事は無理だったけれど、1番外側の円に穴が開いてた。

「今日から射撃練習は欠かさないように・・・あとは空いた時間に仕事内容とか組織の事とか説明するね。」
その言葉に頷きながら再び的に向かって銃を構えてると、思い出したように飯田さんが話しかけてきた。
 
「そうだ、裕ちゃんから寮の事聞いてるかな?」

「・・・?いいえ」
何の事かわからず、首をかしげた。

「後藤さんが今どこに住んでるのかまでは聞いてないけど、組織が管理してる寮があるの。
 そっちに住んでてもらった方が仕事上いろいろ便利なんだ。だから近いうちに荷物整理しといてね!」

「はい、わかりました」

333 名前:real love 投稿日:2003年07月02日(水)21時57分46秒

「ふふっ、そんな堅苦しくしなくていいからさぁ
 ・・・あ、かおりが ”さん付け” で呼んでるせいか。じゃあ・・・」

軽く眉間に皺をよせ、しばらく腕を組んで考え込んでる飯田さんの表情が、何か閃いたようで明るいものとなった。

「ごっつぁん!!」

「・・・へ?」
普段、表情を顔に出さないってよく言われるけど、さすがにこの時ばかりは声と同じ抜けた表情になってただろう

「これからは後藤さんの事”ごっつぁん”って呼ぶよ!ごっつぁんもかおりの事、好きなように呼んでいいから!
 ここで会えたのも何かの縁だし、これからもよろしくね?」

「はい、こちらこそ・・・えっと、お願いします」


今日2回目の握手、
そして、久しぶりに心からの笑顔をしてたと思う
―― ちょっとだけ照れ笑いの含まれた笑顔。


334 名前:pitom 投稿日:2003年07月02日(水)22時12分12秒
更新終了です〜
てな訳で、1人新しく登場です!
この方か、( ´Д`)の教育係の方にするか、すごい迷ったんだけど
後々考えたら、この方かな、と♪

>>323 ぷよ〜るさん
レスありがとうございますっ!!
ごっちんにも、ちょっと辛い過去を背負わす事になっちゃいまして・・・
でも、私自身どんなCPでも最後はいい結末が1番好きなんで
それ目指してがんがります♪
あと、メル欄の独り言もちゃんと読んでてくれてるみたいで
こちらもありがとうございますっm(_ _)mご心配おかけしました!
27hのいしよしに元気もらいました(w

>>324 へっとずぴかるさん
はじめましてっ!!読んでもらって本当に感謝ですっm(_ _)m
しかも、私の小説でいしよし好きになってもらえたなんて
レス読んだ瞬間、顔が思いっきり緩んでました(w
そう言ってもらえて本気で嬉しかったです♪
しかーも、壁紙「羽根付き梨華ちゃん」ですかぁーーーー!?
これまた読んで、更に顔が緩む一方で・・・(w
てか、その壁紙どちらでお求めに??(蹴)
改めて、これからもお付き合いくださいm(_ _)m
335 名前:へっとずぴかるさん 投稿日:2003年07月05日(土)01時56分07秒
更新お疲れ様です〜
ようやく2回目読破しました。
やっぱり手話したり酔っ払ったりする
石川さんに萌えます(ぉ
Realloveではついにかおりん登場ですか〜
この二人が今後どうなっていくか楽しみです♪
次回はごっちん最初の任務が始まるのでしょうか・・
・・ドキドキ

羽根(翼)付きき梨花ちゃん壁紙は・・・
メール欄をご覧あれ〜
(勝手にサイト名書いていいのかな・・)
wingのイメージと違いますが紫の翼気に入ったので背景にしてます。

では次回更新を楽しみにしてます〜^^
うぅ・・27hはバイトでほとんど見れなかった(鬱
見たかった・・いしよし・・TT
336 名前:へっとずぴかる 投稿日:2003年07月05日(土)01時57分48秒
↑名前のさんは気にしないでTT
337 名前:real love 投稿日:2003年07月09日(水)22時00分20秒

それから毎日、過酷な特訓が続いた。
けれどその甲斐もあって、2週間目には100%に近い確率で的の中心に当てられるようになってた。

それは、私が任務を果たす日が近くなっている事を意味する。
毎日飯田さんとの打ち合わせをしながらも、まだどこかで他人事のような、そんな気持ちでいたんだ

・・・だけど、その余裕をいとも簡単に打ち砕かれる事となった


1度現場を体験しておいた方がいい、との中澤さんの指示を受け、飯田さんに連れられ初めて殺しの瞬間を目の当たりにした。

人を殺す ――目の前で人の命が一瞬にして消えてしまう
言葉では簡単に言える事・・・でも、それを行動に移すのは並大抵の覚悟で出来る事ではなかったんだ
・・・恐怖で心が押しつぶされそうになった


本当に・・・私にできるのか、な


338 名前:real love 投稿日:2003年07月09日(水)22時01分43秒

帰り道、不安だらけで一言も話そうとしない私に気を遣い、飯田さんがそっと私の手を取って話し始めた。

「・・・かおりもね、初めての仕事の時すっごい恐くて不安で、今のごっつぁんと同じ気持ちだった
 正直、やらずに逃げようとさえ思った

 ―― かおり、妹が1人いるんだ。両親はその妹が生まれてすぐ事故で死んじゃってね
 その時まだ10代だったかおりが働いてもらえる金額なんてほんの僅かで・・・
 妹の事守る為には、組織に入るしかなかった
 
 逃げようとした時に、妹の顔が浮かんできたの
 その時ね、逃げちゃいけないって・・・今逃げて、その後どうやって妹を守れる?って。

 人を殺すなんて、人間として失格だと思う・・・
 でもかおりは、守りたい人の為に罪を犯すのだから、その後の罰は喜んで受けようって

 ・・・ただ、妹が自立できるまでは、その罰待っててくださいって毎日神様にお願いしてるんだけどね」


最後の言葉は冗談っぽく、私の緊張を少しでも解きほぐすかのような軽い口調だった。


339 名前:real love 投稿日:2003年07月09日(水)22時03分08秒

「その、妹さんは・・・」

「今はかおりが借りたアパートで暮らしてる。まだ小学5年なんだけど、意外にしっかりしててね
 それでも時間の許す限り様子見に行くようにはしてるんだ。
 
 ・・・あ、写真見る?」
私が頷いたのを見て、内ポケットからパスケースを取り出した。

「こんなのずっと持ってるなんて親バカならぬ、姉バカだよねぇ。
 希美って言うの、ののって呼んでるんだ」

見せてくれたそれには、飯田さんと並んで写ってる小さな女の子 ――笑った口元から見える八重歯が印象的だった

「・・・いい写真ですね。2人ともすごい幸せそう」



340 名前:real love 投稿日:2003年07月09日(水)22時04分32秒


家族 ――
自分にはもう、家族と呼べる存在がないものだと思って生きてきた。
でも突然現れた母親

憎しみはあっても、愛情なんて微塵もなかった・・・それなのに

今、私は人を殺そうとしてる


あんなに憎んでた母親を ―――守るため、に



「・・・飯田さん、私・・・頑張ります。自分でそう決めたんだから」

「そっか。ごっつぁんが決めたんなら、かおりはそれを見守るだけだよ・・・頑張れ」

繋いでた手に少しだけ力を加え、再びゆっくりと歩き始めた。

341 名前:real love 投稿日:2003年07月09日(水)22時06分28秒

  ◇   ◇   ◇  


それから1週間後、遂にその日がやってきた。
飯田さんと綿密に打ち合わせをしたと言っても、まだ私の心から不安を消しきれないでいる

弾を込める手もわずかながらに震え、落ち着かせる為に朝から何回深呼吸をしただろう


コンコンッ ――

・・・・時間だ
ドアを開けると、いつも以上に真剣な表情の飯田さんが立ってた。

「・・・じゃあ、行こっか?」



目的地に着くまで、ずっと頭の中でシュミレーションしてた

会社から帰ってきたところを銃撃 ――
・・・大丈夫、作戦だって完璧に立てたし特訓だって人一倍やってきた。
ここまできたら、もう何も考えずにやればいい

ずっと震え続けてる手をギュッと握りしめ、ターゲットが帰ってくるのを待つ


342 名前:real love 投稿日:2003年07月09日(水)22時08分07秒

「・・・来たよ」
飯田さんのその声に一気に心音が早まる。
顔を上げそちらを見ると、車庫のシャッターがゆっくり上がっているところだった

「急いで!かおりはここで見張ってる。うまく侵入するんだよ」
頷き、足早に車庫を目指す。

人目につかず殺しを実行する為に立てられた作戦は、シャッターが自動である事を利用し
男が車を停めた直後の車庫内での密室状態で狙う。
それなら殺した後、逃げる時間も確保できるから、と飯田さんの案だった。


車庫に近づくにつれ足音を潜める。
ゆっくり裏口の扉を開け、中の様子を伺った。それと同時に拳銃も取り出す。

まだエンジンが切れてないのを確認した後、そっと中に侵入する
ドアが閉まったと同時にエンジン音が鳴り止んだ・・・

343 名前:real love 投稿日:2003年07月09日(水)22時09分24秒

じっと車の後方でタイミングを待つ。

ドアが開く音、ドアの閉まる音・・・男の足音
その音々が耳に届く度に、心臓が破裂しそうなくらいに跳ね上がる


・・・恐い、やっぱり私にはできない!
そう叫んで逃げ出したくなるくらいの恐怖感だった
その時既に体は硬直して、欠片ほどの冷静さすら失われかけていた。

それでも、徐々に近づいてくる足音・・・
今やらなきゃ、ここにいる事に気付かれた時にはもう手遅れなんだか、ら・・・


手遅れ・・・
その言葉が頭をよぎった時に、ようやくこの仕事をする目的を思い出す事ができた
これで、母さんを助ける事ができるんなら ――

344 名前:real love 投稿日:2003年07月09日(水)22時10分45秒

その時、自分でも驚くくらいに冷静になれた。
・・・そうだよ、この1発で

スッと立ち上がった事で、男に存在を気付かれた

「うわっ!?な、なんだお前っ!何してるん・・・・・・ぐはっ」


目の前の男は、白目をむきながら ――ゆっくりと倒れた
私の両手にある拳銃の銃口からは、それと同じようにゆっくりと白い煙が立ち上がる。

その数秒の間、まるで何かのドラマを見てるようだった
それが現実なんだ、と・・・改めて実感した時立つ事が出来なくなるくらい足が震え始めた。

「ぅ、あ・・・あ・・」
その場に尻餅をつき、必死で立ち去ろうとするのだけれど体は一向に言う事を聞いてくれない

いくらパニックに陥っていると言っても、男がもう息をしてない事くらい理解できる


そう、死んでしまったのだ・・・殺したのは、私



345 名前:pitom 投稿日:2003年07月09日(水)22時24分00秒
毎度ながら、少量更新終了ですー!
まだまだ( ´Д`)の相手がでてこない・・・
意外に番外編も長くなりそな予感(w

>>335.336 へっとずぴかるさん
レスありがとうございまっす!!m(_ _)m
2回も読んでくれて更にありがとうございますっ!
梨華ちゃんの萌え所は、書いてる本人も顔緩ませながら書いてましたから(w
( ´Д`)の任務、まだ途中?ですがこんな感じで・・・
あ、壁紙探しまくって無事GETしてきました♪ありがとですっm(_ _)m
あそこの壁紙、いい仕事してますねぇー!
27hいしよし、梨華○だで動画あると思われ!必見です♪
346 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)21時49分42秒

・・・おかしいな、もう戻ってきてもいいはずなのに

サイレンサー付きの銃だった事もあって、ここからじゃ遠すぎて銃声が聞き取れなかった。
やはり1人で行かせたのは無謀だったのか ――
不安と焦りが入り混じる中、後藤の身を案じる気持ちが膨れ上がり、飯田自身も車庫へと向かう事にした。


ゆっくりノブを回し、中の様子を伺う。
明かりの付いてないそこは、目が慣れるまでしばらく何も見る事ができなかった。


「・・・えっ、ごっつぁん・・・?」
やっと確認できたのは座ったまま微動だにしない後藤の後ろ姿と、その向こうに倒れてる男の姿 ――
明らかに男は死んでいる。ちゃんと任務は果たせてたんだ・・・なのになんで戻ってこなかったんだろう

近づき、後藤の顔を覗きこむ

347 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)21時50分37秒

「ごっつぁん・・・・泣いてる、の?」


人が泣く時、感情を露わにして涙を流すものだと、そう思ってた。
けれど飯田が見た後藤は、声もあげず泣きじゃくる事もなく・・・

感情を持たないロボットであるかのように思わせるくらい無表情だった ――ただ、瞳から雫が流れ落ち続けてるロボット


「・・・ごっつぁん、よく頑張ったね。恐かったんだよね・・・」
その姿に、たまらず抱きしめる。
そうすれば後藤の姿を見ないで済む・・・それくらい見るに耐えないものだったから

「あ・・・飯田さ、ん・・・・」
飯田の存在を体で感じる事が出来た瞬間
ずっと心を支配し続けていた恐怖から、やっと逃れることができたんだ

それがわかった時には、私は声をあげて泣いてた ――


348 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)21時53分31秒

飯田さんは泣き止まない私の手を引き、急いでその場を離れた。
寮に着いてからも、1人になるのが恐くて飯田さんの手を離す事ができなくて・・・

そんな時に作ってくれたホットミルク

「これ飲んだら、少しは落ち着くから」
マグカップを手に取り、ゆっくりとそれに口を付ける

体の奥から温めてくれたホットミルクは、同時に安心感をもたらせてくれるような味だった


「ありがとうございました・・・もう、大丈夫です」
飲む間もずっと隣りに居てくれた飯田さんに、まだ少しぎこちない笑顔を向けた。
私のその表情に肩の荷がおりたかのような、飯田さんがゆっくりと吐いた呼吸はそんな風に感じさせるものだった。


349 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)21時54分30秒

「・・・じゃあ、裕ちゃんに報告してくるね
 報酬の方も今日中にもらえるように言っとくから、早くお母さんの所に行くんだよ?」
ポンポンッと頭を叩きながらそう言うと、飯田さんは出ていった。



全部、母さんの為に ――
自分を正当化しようとしても、1度関わりを持ってしまった以上これからも指令はくる
これから犯してしまうだろう罪まで母親の為に、だなんてただの言い訳に過ぎないのだから ――

でも、これでよかったんだ
やった事は許されることじゃないけれど、まだ母さんの事許せた訳じゃないけれど・・・
それでも私と同じ血が流れてる
正真正銘、私の親なんだ。苦しんでる姿を見て見ぬふりなんて出来ない


―― 誰かの為に、こんなに必死になったのなんて初めて



350 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)21時55分39秒

数時間後、飯田さんの計らいで約束の金額が手渡された。
お金の入った封筒を手に、すぐに出掛けようとすると後ろから声がかかった

「ごっつぁん!雨降りそうだからさ、傘持っていきなよっ」
その声に空を見上げると、確かに薄暗くどんよりとしてる。雨が降るのも時間の問題だろう

「あぁー・・・大丈夫、傘取りに行く時間ももったいないし!じゃ、行ってきます」

そう言いながら飯田さんに軽く手を振ると、足早に母さんの家を目指した。


地図を頼りに無事見つけ出したそこには、お世辞にもきれいとは言えない借家があった。
ドアの隣りに掛けられていたポストには、少し雨で滲んではいたが 『後藤』 と書かれていた。

ここであることに確信をもつと、ドアを数回ノックした。

けれど、いくら待っても返事が返ってこない
もう1回 ――今度はさっきよりも強めにノックしたが結果は同じだった。

351 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)21時56分33秒

辺りが暗くなってきていた事で、部屋の明かりがついているのがわかる

・・・いるはずなのに


妙な胸騒ぎを覚え、ノブに手をかけるとゆっくり回した。
回しきった所で、自然にドアが開く

―― キィ・・・

「・・・いない、の?真希だけど・・・・」
部屋の中を覗きこんだ時に我が目を疑った。
辺り一面に真っ赤なペンキをひっくり返したような・・・そんな血の海の中に母さんが倒れていたから


「ちょっ、なんで・・・大丈夫っ!?ねぇっ!!!」
すぐさま倒れている母を抱え必死に呼びかける。
でも口元が真っ赤に染まっているのに対照して、母さんの顔は青白く私の呼びかけに反応すらしなかった。

352 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)21時57分50秒

―― 死
最悪な結末が頭をよぎった


「・・・だよ、やだよっ!!!また私を置いていなくなるって言うの!?
 
 だったら・・・なんでいきなり現れたりなんかしたのよっ!!
 そしたら、こんな辛い思いもしなくて済んだんだ・・・・こんな、寂しいって感情も知らずに済んだっ!!

 ねぇ・・・聞いてるの!?母さんっっ!!!」


その時、僅かだが母さんの瞼が揺れた。そして、ゆっくり目が開かれた。

「・・・ま・・・き・・?

 かあさんって・・・また呼んで、くれ・・・たんだ、ね・・・ありがとう・・・
 ・・・でも、・・もう駄目・・・みたい
 ごめん、ね・・・また、怒らせ・・・ちゃった、ね・・・ほんと、ごめんな、さい・・・」

自らの血で赤く染まった手を、必死に伸ばし私の頬に触れた。
触れたそこからも、かすかに震えてるのが伝わってくる。

353 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)21時59分28秒
「・・・謝らな、いでよ

 何も言えなくなるじゃん・・・しっかりしてよ、ねぇっ!ほら、手術代だってできたんだよ?
 これで手術したら、すぐ良くなるよ
 元気になったら一緒に暮らそうか?もう怒ってないんだから、だから・・・ね?
 

 ね、ぇ・・・・なんで、何も言ってくれないの・・・?」



腕の中の母さんは最後まで笑顔だった
笑顔のまま ―――――二度とその瞳を開く事はなかった



それから私は、どこを歩いたのか全く記憶がなかった
気がつけば来た事もない公園のベンチに座ってたんだ。

頬に涙以外の感触が当たる事に気がついたのは、それから数分が経ってからの事だった

・・・・・雨
見上げた灰色の空から落ちてくる水滴に、このまま涙も一緒に流してくれればと
徐々に強まる雨を避ける事もせず、目を閉じそのまま空を仰ぎ続けた。

354 名前:real love 投稿日:2003年07月17日(木)22時00分40秒




「・・・なに泣いてるん?」
いきなりのその声に、すぐさま目を開くと私の顔を覗き込む1人の女性の姿が目に入った。

「泣、いてなんか・・・・」
元々意地っ張りな部分があっただけに、見知らぬ人に泣き顔を見られたなんて事自体が恥ずかしく思え
気がつけば、そう答えてた。

するとその女性は傘を私の方に差しだし、まるで全てを見抜いたのか宥めるようにやさしく言った

「泣きたい時は気が済むまで泣いたらええんよ
 我慢してたら、そのうちドンドン溜まっていってパンクしてしまうよ?」
そう言いながら頭を撫でられた感触が、どこか温かくて母親を思い出させるような手 ――


「・・・あ、りがとうございます」
撫でられる手の優しさに、心から癒されているのがわかった
初対面なのにここまでの居心地の良さに、正直戸惑いを感じたのだけれど
今は、この温もりに浸っていたかった

355 名前:pitom 投稿日:2003年07月17日(木)22時05分06秒
更新終了ですーっ

やっと・・・やぁーーっと主役2人が揃った(w
けど、まだ直接的には紹介されてないけど(^^;
にしても( ´Д`)には辛い思いさせすぎっ(爆)
356 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年07月22日(火)05時07分35秒
更新お疲れ様です!!
たしかにごちーんはかなり辛い人生を
送ってますね・・・
そして、もう一人の主人公が登場しましたね!!
待ってました(w
では、次回更新も楽しみにしてます♪
357 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時02分23秒

「・・・今日は泣いてばっかだ」
やっと落ち着きを取り戻しながら、今日1日で起こった出来事を振り返る。
1日でありすぎた出来事を考えながら独り言のように呟くと、隣りに座ってた彼女がゆっくり覗き込みながら口を開ける

「なんか・・・あったん?」
区切りながら聞いてくる事に、この人の心遣いが伝わってきた
誰だって、日も暮れ街灯の灯りしかない公園で傘もささず雨に打たれ続けてる少女がいたら何かあったのかと思うのは当然の事だろう
ゆっくり聞いてきたのは、私の表情を伺いながらだったから。


「あっ・・・・

 ・・・母さんが、さっき死んだんです。病気で・・・
 私、物心つく前に捨てられたんです。その事でずっと母さんの事恨んでた
 でも母さんの顔見たら・・・そんな気持ちいつのまにか消え去ってて

 病気だって知って、何が何でも助けてあげたいって・・・でも遅かったんです ――全てが遅すぎた

 母さんに私以外身内いなかったから、近所の人に助けてもらって
 私、何もしてあげる事できなくて傍で見てることしかできなくて・・・・その場に居るのが辛くって

 そしたら ――気がついたらここにいました」



358 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時04分01秒

母さんを助ける為に人殺しまでやった。
なのに母さんは死んでしまった、また私を置いて ――


胸にポッカリ穴が開いたような・・・そんな喪失感を埋めてほしくて、

だから初めて会ったにも関わらずこの人に話したのかもしれない


彼女はずっと黙って私の話しを聞いてた
頭を撫でてる手はそのまま止めることなくそこから離れなかった

「・・・・そっか、大変やったんやな。・・・でも、な?」
言葉の続きが気になり俯いてたままだった顔をあげた

「最期を看取れただけでも、十分幸せなんちゃうかなぁ・・・
 お母さんも娘の顔見ながら死ねれたんやもん・・・嬉しかったと思うよ?

 そうゆう状況やったんなら、お母さんにしたらなかなか叶えるのも難しい願いやからな」

「・・・母さん、私の腕の中で笑ってました」

「最後の最後で、これ以上にない親孝行した思うよ、キミは」

359 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時06分02秒

最後の言葉と一緒に、私に届いた彼女の笑顔

―――― ドクン・・・


すごい、優しく笑うんだ・・・この人って



「・・・泣き止んだみたいやな?じゃあ、行こか」
言いながら先に立ち上がった彼女の言葉の意味がわからず、キョトンとした表情で見上げる


「雨でびしょ濡れやん。私んち、すぐそこだし、服乾かしていき?」
「あ、いいですっ!すぐ帰りますんで・・・・・・クシュ」

「・・・・ほら、風邪ひくよ?」

照れくささと情けなさで、自分でもわかるくらいに赤くなってる顔を手で押さえながらさっと立ち上がると
前を歩く彼女の後をついて行った。


360 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時07分19秒

5分ほど歩いて着いたその建物は、こじんまりとした喫茶店と家とが一緒になってるようだった。

「コーヒー専門でな、私1人でやってるからそんなせわしくしてるって感じではないんよ
 さっきも明日の買い出ししに行こう思って出掛けてて。それでキミを見かけたって訳・・・あ、入って?」

喫茶店の方ではなく裏口から部屋へと通された。

「あ、れ・・・?」
買い出しと言ったはずなのに、彼女の手には何も持っていなかった。


「・・・すみません、買い出しの途中だったんですよね?」
その事に気付いた次の瞬間には言葉となって出ていた。
今からじゃ当然店も閉まってるだろうし、明日必要な物を買いに行ってたのだろうから・・・

「かまんよ、私が勝手にやった事やもん。それに実を言うとなぁ
 暇やったから散歩がてらの買い出しやったんよ。だから気にせんといて、な?」

少しだけ苦笑いを浮かべてる彼女
そう言ってくれるのなら・・・と、私もその言葉に甘えることにした。

361 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時08分26秒

濡れた服を乾かす間、借りた服に着替え彼女の入れたコーヒーで温まる事にした

「あ・・・!そうだ、キミ名前なんて言うん?」
思い出したように彼女が聞いてきた。
気がつけば、お互い名前も知らない同士こうやって向かい合ってコーヒーを飲んでるのもおかしなものだ。

「真希・・・、後藤真希です。」

「私は平家みちよ、よろしくな」
空いた手を差し出してきた。すかさず私もカップから手を離し、握手を交わす。



「・・・そぉいや、後藤さんって何歳なん?」

「17ですけど・・・」
コーヒーを一口飲んだ後、そう答えた。

362 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時09分42秒



「・・・・マジ!?」
心底驚いた表情を見せる彼女に、同じ質問を返す。

「・・・・24歳。7つも違うんかぁー・・後藤さん落ち着いて見えるから20歳くらいかなぁ思てたんやけど」

落ち着いてると言われた事に素直に喜んでいいものなのか考えてたら
ブツブツ独り言を言ってた平家さんがパッと顔を上げ、もう1度問うてきた。

「誕生日何月!?」

「9月・・・23日」

「そっかぁー!!私、4月生まれやねん。って事は、実際のとこは6歳差って事やんなぁー・・そかそか」


363 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時12分00秒

1人で喜び1人で納得してる姿があまりに無邪気でかわいくて・・・・
思わず吹き出してしまった。
1度笑い出したらなかなか止められなくて、涙が浮かんでくるまで笑い続けた。

そんな私に平家さんは、少し怪訝そうな表情でじっと見つめてたんだけど
ある事に気付き、さっき見せてくれたあの時の笑顔でゆっくりと口を開く。


―――― やっと笑顔見せてくれたな


「後藤さんには笑顔が1番よぉ似合ってるわぁー」



・・・・まただ

平家さんの、この笑顔を見ちゃうとなぜか無意識のうちに心臓が早まってくのがわかる
ギュッっと心臓を締めつけられるような ――


なんなんだろう、この感覚・・・


364 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時13分14秒

これ以上平家さんの顔を見てられなくて、目を逸らした先にあった時計を見て思い出した。

「あ・・・私、もう帰らなきゃ!!」
飯田さんには母さんの所へ行くと言ったっきり何の連絡もしていなかった。
その母さんが死んだなんて・・・まさかこんな展開になってるなんて思わないだろう。

「そうやったな!ごめん、話しに夢中になってしもてたわ・・・服も乾いてる思うから取ってくるなっ」


時計の針は、もう9時を回っていた。
急いで帰れば30分くらいで寮に着くかな・・・
近所の人に任せたままになってた母さんの家には、明日早く起きてもう1度行こう
行って最後のお別れしなきゃ・・・

「はい、ちゃんと乾いてるから。雨ももう止んでるみたいやし・・・けど1人で帰れるか?なんなら途中まで送ってくけど」

365 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時13分55秒
「いえ、大丈夫です。すみませんでした、今日はいろいろと・・・本当にありがとうございました」
言いながら深く頭を下げる。

「かまんよ、そんなの全然気にせんでええし。

 あぁー・・・・その代わりな?また暇な時遊びにおいでやっ。いつでも暇してるから大歓迎よ」
屈託のないその笑顔でそんな事言われちゃうと・・・ついつい


「もう、来ませんよ?」

「!?・・・・・わかった、またな」

私の言葉に最初こそ驚いた表情を見せてたのに、すぐにまた笑ってこう返してきたんだ。



366 名前:real love 投稿日:2003年07月26日(土)22時14分50秒




もう来ないって言ってるのに、”またな”って返してくれたのは

私が笑ってたから ――


ついつい年上の彼女をからかいたくなって、そんな言い方をしたんだ
こんな子供みたいな事をしてしまうのも、相手が年上だからなのだろうか
自分自身、初めて知った意外な一面に心の中で苦笑いしながら部屋を後にする。



たった数時間で立ち直れるような・・・そんな簡単に気持ちの整理ができるような事じゃなかったはずなのに


帰り道、私の心は安らかなものである事には違いなかった



367 名前:pitom 投稿日:2003年07月26日(土)22時24分50秒
毎度ながら、微量更新終了です・・・(^^;

やっと直接的な紹介(wができたんで改めて言いますと
番外編は「みちごま」です
いしよしすら初めてだったのに、それ以上に書いてて難しいと思いました
まず(`◇´)の話し方(関西弁)あってるのか!??・・みたいな(w

>>356 ぷよ〜るさん
レスありがとうございますっっm(_ _)m
ホント、書いてる当人すらかわいそうに思ってました(^^;
なので早く( ´Д`)に救いの手を!!と思いながらやっと登場できた(`◇´)さんに
がんがってもらわなきゃ〜と!
次回更新もがんがらなきゃぁーーー・・・・(w

368 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)20時54分29秒


走って帰った事で思ったよりは早く寮に戻れた。
息を切らしながら、でも足音はたてないように部屋へと向かう。


「あ・・・飯田さん」

私に呼ばれた事で、ドアに凭れてた体を起こしこちらへと歩いてくる。
近づいた事で暗いながらも表情を確認する事ができた。

それは怒ってる風ではなく、どこかホッとしたような・・・そんな表情だった


「すみません、遅くなって・・・あの、母さんの事なんですが・・・

 駄目でした。間に合いませんでした ―――」


369 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)20時56分50秒

簡潔過ぎる言葉ではちゃんと伝わらなかったようで、少し眉をひそめながら続きを待ってた。

「死んだんです、私が行った時には・・・真っ赤な血を辺り一面に吐いてて・・・。

 でも、母さんの最期に居てあげる事できて良かったと思ってるんです。
 憎んでた気持ちも全部消えて・・・

 私を探して会いに来てくれた事、素直にありがとうって・・・そう思えるようになりました」

「そっか・・・」

それだけ言って口を閉じたんだけど、私が笑ってそう言えた事で飯田さんも安心したようだった。


「じゃあ、今日はゆっくり休みなよ、いろいろあって疲れたでしょ?」
軽く肩を叩き通り過ぎようとした時、ある事を思い出したようで振り向きながら話しかけてきた。

370 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)20時58分40秒


「・・・じゃあ、あのお金どうしたの?」

「あっ・・・
 どうすればいいのか全然わからなかったから全部隣りの家に住んでる人にお願いしたんです。
 お葬式まではしなくても、お金もいるだろうし・・・元々あのお金は母さんの為のものだったから

 だから ―――全額置いてきました」

「そう・・・明日何の予定もなかったからさ、もう1度お母さんの所行ってあげなよ」

「はい、そのつもりです。ちゃんと”ありがとう”って・・・母さんの顔見て言わなきゃいけないから」

「そだね。じゃあ、かおりもそろそろ部屋戻るよ。おやすみ」

「おやすみなさい」



371 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)20時59分34秒

部屋に入ると電気をつける事もしないままにすぐにベッドに倒れ込んだ。

しばらく天井を見上げてたのを止め目を閉じる
すると数時間前にこの腕の中にいた母さんの顔が浮かんできた

それと同時に浮かんできた ――私が殺した男の顔


ハッとなり、即座に目を開く。

「こんな形でお金作ったから、それで母さん死んじゃったのかな

 私がやった事は間違ってたのかな・・・でも」


時、既に遅し ―――
いくら反省したって後悔したって、母さんは戻ってこないし男が生き返る訳でもない

もう抜け出せない、この世界・・・
これから先の見えない日々が待ってる
だけど、手探りででも進むしかないんだ
自分で決めてこの世界に足を踏み入れたんだから ――

372 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)21時01分10秒

  ◇   ◇   ◇


翌朝、予定通りに母さんの家へと向かう
ゆっくりと部屋の中へ入ると、あの後任せっぱなしになってたのにちゃんと弔ってくれてた事に心から感謝した。

白い布をそっと取ると、そこには青白い色をした母さんの顔。
最後に見た時との全く真逆の色味に、ここには”生”がないのだと改めて実感した


「・・・母さん」
ゆっくり手を伸ばし、その冷たい頬に触れる。

「母さん、1回しか言わないからちゃんと聞いててよ?

 私・・・母さんの事恨んでた。母さんがいなくなっておばあちゃんの所では散々な目にあった
 母さんが置いていきさえしなきゃこんな生活しなくてよかったのに、って・・・

 母さんがいきなり現れて、病気だって知って
 恨んでたはずなのに・・・それなのに頭より先に体中を駆け巡ったんだ

 ―― 死んでほしくないって

 これが親子って事なのかな・・・認めたくないけど、私は母さんの娘って事。

 最後にちゃんと言わなきゃって、それで今日来たんだ・・・


 ありがとね、会いにきてくれて・・・・それから私を産んでくれて、ありがとう」



373 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)21時02分37秒
自分の気持ちを全て言い終わり、再び布を被せてあげているとドアの開く音がした。
振り返ると隣りの人だった。

「あ・・・昨日いなくなっちゃってすみませんでした。本当お世話になりました、ありがとうございます」

「気にしないで?でも、こうやって看取ってもらえて私も安心したわ

 あなたのお母さん・・・いつだったか話してくれた事があったのよ、あなたの事をね
 本当に申し訳ない事をしたって、随分思い詰めてたわ
 お母さんね、病気の事がわかってから毎日日が暮れるまでどこかに出掛けてたの。
 
 あなたをずっと探してた ――

 だからやっとあなたに会えた日のお母さんの喜び様ったら、まるで子供みたいにはしゃいでて
 これから残された時間、少しでもあの子に対する罪を償っていかなきゃって言ってたのに
 ・・・・まさか、こんな早くに」

ずっと俯いたまま話しを聞いてた私に、ふと思い出したように傍にあったタンスの引き出しの中を探し始めた。


374 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)21時04分24秒

「・・・あった。はい、これ」

そう言われ差し出された1枚の写真 ―――
そこには少しくすんだ色の、今より随分若い母さんの姿と、その腕に抱かれ眠ってる赤ちゃん

「これって・・・・」
視線を写真から女性へと向けると、にっこり笑って頷いた。

「そう・・・その赤ん坊はあなたよ。
 お母さん、唯一持ってたその写真を大事に大事に持ってたの。

 どんな風に成長してるのかしらって・・・いつも目じりを下げてね。ふふっ」

女性の頭の中には、今でも母さんのその姿が鮮明に残ってるのだろう
それが少しだけ羨ましくも感じた
私にはここ数回会った母さんしか知らないから・・・


「あの、この写真・・・もらってもいいですか?」

「もちろんよ、その方がお母さんも喜ぶわ

 あとね、この後の事なんだけど全て業者の方にお願いしてるの。
 これはお母さんにも頼まれてた事だから、あとはおばさんに任せてもらえるかしら?」
 
「あ、はい・・・本当にありがとうございます」
 
深く頭を下げお礼を言った後、私は母さんにさよならを言って家を後にした。
歩きながら手にある写真を見つめてると、なぜか平家さんの顔が浮かんできた。

375 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)21時05分38秒


「・・・あの人も、この写真の母さんみたいに優しく笑ってたよなぁ」
 


そう思った時には、あの人の店の方へと足が向かってた。

けれど1度しか通ってない、しかも昨日は日も沈んで真っ暗だった。
なんとなくの記憶を頼りに探してみたものの、そう簡単には行き着く事が出来なかった。

「・・・あれぇ、この道じゃなかったっけ」
独り言を言いながら、キョロキョロと辺りを見渡す。

道を尋ねようにも、不運な事に誰一人と歩く姿が見当たらない。


「んー・・・また今度ゆっくり探そうかな」
そう思い来た道を戻ろうとすると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

振り向くとそこには昨日見た、あの優しい笑顔の持ち主 ――

「やっぱ後藤さんやん!・・・あっ!?もしかして早速遊びにきてくれたん?」
買い物袋を両手に下げ、こちらに向かってきてる。
その姿を見て、昨日買い出しを中断させていた事を思い出した。
・・・だからあんな量になったんだ

376 名前:real love 投稿日:2003年08月04日(月)21時06分17秒

「持ちます!!」
聞かれた事に返事するより先に行動に出てた。
いきなりの私の行動に、少し焦った表情を浮かべながらも片方の袋を渡してくれた。

「ありがとな!・・・で、さっきの質問の答えは?」

「あっ、はい。さっきまで母さんのトコへ行ってて・・・それで・・・えっと」
顔が浮かんで、だから会いにきた・・・なんて到底言えなかった。
答えに悩みながら目を泳がせてると、そんな私がおもしろかったようで笑ってたかと思うと
急に何か企んだような顔をして聞いてきた。

「私に会いたくなって来たんやったら、そう言ってくれればええのに」

「!?ち、違いますよっ!!何言ってるんですかっ」
あながち全てが違ってる訳でもなかっただけに、余計に平家さんの言葉に焦る自分がいた。

「そんなムキにならんといてや、冗談やん。ほんまおもしろい子やね、後藤さんって」



やっぱり・・・私は子供だ


377 名前:pitom 投稿日:2003年08月04日(月)21時08分40秒
更新終了ですっ

週1ペース、なんとか守れるように頑張らなきゃなぁー・・・(^^;
378 名前: 投稿日:2003年08月07日(木)00時20分33秒
はじめまして。今日やっとここまで読ませてもらいました。
すっげーよかったです!wingは何回泣きそうになったか…
あと、みちごまってはじめてみるんでもうドキドキです★
pitomさん、これからも楽しみにしてます!
   
379 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時45分27秒

  ◇   ◇   ◇


ちょうど準備時間になってて店には誰もいなかった事もあり、今日は店の方に招かれた。
平家さんに入れてもらったアイスティーを飲みながら他愛もない話を始める。


「みんなからはなんて呼ばれるん?」

「真希とか・・・ごっつぁん、とか」
後者で呼んでるのは1人だけなんだけど。

「ごっつぁん?また変わった呼び方やなぁー・・・私もなんかニックネーム付けてもかまん?」

「い、いですけど・・・?」
この人は思った事がすぐに顔に出るタイプなようで
その表情からも、どこか楽しんでるようにしか見えなかった。


380 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時47分00秒

「そやなぁー・・・・ごっつぁんってのは響きがちょっとたくまし過ぎるもんなぁ。キミかわいいし・・・
 
 ・・・あっ!ごっちんってのはどう!?」

独り言のようにしばらく呟いていたかと思うと、さっきまでの難しい顔を笑顔に変えてそう言った。

「あはっ なんでもいいですよ?」

「じゃあ、ごっちんに決定っ

 ・・・そぉいやさ、ずっと気になっててんけど。その左手に持ってる写真って、お母さんの?」


カバンも何も持ってなかったから、母さんの写真をずっと手に持ってたんだ。
汗ばんだ手で持ってた事で少しだけ一部分がふやけてたんだけど・・・

381 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時49分07秒

頷くと、見せて?と手を差し出してきた。

「ごっちんはお母さん似やね。大人になったら綺麗になるよ」
私と写真を見比べながら平家さんはそう言った。


「私は・・・もう大人ですよ」


さっき、自分でも嫌になるくらい子供な部分があると自覚した
だから平家さんにそう言う事で、少しでも背伸びしたかったのかもしれない。


「そっか・・・そやね!ごっちんはもう立派な大人だよね〜」

「・・・あ、全然そう思ってないでしょ?」
そう言った平家さんの口調が、どこかおどけた印象があって・・・

「ん〜?そんな事ないよぉーそう思てるって。ごっちんはドキドキしてしまうくらいキレイやで?」

窓から入ってくる太陽の光がキラキラと平家さんの表情を一層輝かせていた。
最後の言葉と一緒に届いた、そんな彼女を見てたらまた胸が苦しくなってくる ――


382 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時49分57秒

「も、もうっ!!からかわないで下さいっ」
照れ隠しに勢いよくアイスティーを飲んだ事で、思わずむせてしまった。

「ほら、ゆっくり飲まんからやん。大丈夫か?」
出してくれたタオルで軽く口元を拭ってると、ふいにある思いが湧き上がって来た。


―― 平家さんって・・・昨日会ったばっかりなのに

「ごっちんって、前から知ってた感じがするわぁ。会って2回目なのに、ごっちんと話ししてたらな、ほんま楽しい」


同じ事を考えてた
ずっと前からこうやって話してた錯覚に陥りそうになるくらい、平家さんといると落ち着く自分がいる
その気持ちと同じ気持ちでいてくれた事に素直に喜んだ。


「私も・・・すごい楽しいです」



  
383 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時50分50秒




  ◇   ◇   ◇


それからというもの、暇さえあれば店に来てた。
忙しそうにしてるのを見たら言われる前に洗い場を片付けたり、と ――それが当たり前のようになるまで

初めて会った日から数ヶ月が経ち、季節は夏を終えようとしてる。
今では平家さんに対して敬語なんて使わなくなってた
ただ「さん付け」で呼ぶ事だけはやめれなかったのだけれど・・・。


「ごっちん、ありがとなぁーほんと助かったわ」
ある程度の手伝いを終えた後、店が落ち着くのを部屋でテレビを見ながら待ってたら背後から声がした。
振り向くと、エプロンで濡れた手を拭きながら苦笑いを浮かべてる平家さんが立ってた。

「んー?いいよ、気にしないで。だって店覗いたらほとんど席埋まってたし、平家さんの顔引きつってるし・・・ふふっ」
滅多にないその状況に、さすがの彼女も焦ったようで。

「笑わんといてやぁ、ほんまびっくりしたわ・・・なんで今日に限ってあんなに来たんやろ」


ブツブツと独り言を言う彼女を見兼ねて、冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注ぐ。

384 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時51分53秒

「はい、これ飲んで一息ついてよ」
「ん、ありがと。」
コップを受け取り、それを一気に飲み干す。

「まだいる?」
そう聞いた事に対して無言でコップを差し出す彼女。
平家さんのコップに注いだ後、自分のにも足し冷蔵庫へ戻しに行く。

戻ってきたところで、平家さんが思い出したように話し出した。

「あ・・・あと1ヶ月もしたら、ごっちん誕生日やな!」
「覚えてくれてたんだぁー・・・」

麦茶を一口飲んだ後、自信満々な表情で話す。
「当たり前やん、その日はバッチリ考えてるからな?」


恋人同士って・・・こんな感じなのかな

ちょっと前に交わしたかおりとの会話を思い出した。


385 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時52分35秒

――――――
―――――
―――

「ごっつぁんってさぁー・・・なんか変わったよね」


2人で日課になってる射撃練習をしてる合間に、急にかおりの口から意外な言葉が飛び出した。

「えっ?なに、いきなり・・・変わった、かな?」
「うん、ここ来た時とは全然違うよ?なんかねぇー柔らかくなったってゆうか・・・」

当時を思い出しながら話してるのか、銃に弾を込める手をたまに止めながら話してる。

「・・・・何があったの?」
的に向けて銃を構えてる私の方を覗きこむ様に聞いてきた。

「何って・・・別になにもないよ」


386 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時53分20秒

少しだけ心当たりがあるだけに、その動揺を誤魔化す為に引き金を引く。
でも、変な所で勘の冴えるかおりには通用しなくて・・・


「ふーん・・・かおりはてっきり好きな人でも出来たのかと思ってたんだけどな」
「好きな人なんてっ!」

私のその反応に確信を得たように、かおりはニヤニヤした表情を変えないでいる。

「・・・そんなんじゃないよ。ただ・・・」
「ただ?」

「私、今まで人を好きになった事とかないから・・・今の自分の感情がなんなのかよくわからないんだけど

 ――その人と一緒にいるとね、落ち着けるんだ」

観念して、思ってる事を素直に打ち明けた。


387 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時54分21秒

「そっかぁ・・・まぁ、ごっつぁんの気持ちはごっつぁんにしかわからないからね」

年上の余裕からなのか、軽く頭をポンっと叩いて微笑む。
その時、かおりの胸元で揺れる”それ”に気付いた。


「かおり、それどうしたの?」
私の視線で何の事を言ってるのか悟ったのか、緩んだ表情を更に緩めながら話し始めた。

「これ?妹がくれたの、ほら この前かおり誕生日だったじゃん?それで生活費とか節約して貯めたみたいで。
 多分、道端に出てた露店で買ったおもちゃなんだろうけど・・・めちゃめちゃ嬉しくてさっ」


チェーンに通したシルバーリング
それを愛しそうに見つめるかおりを見てると、こっちまで暖かい気持ちになってくる



388 名前:real love 投稿日:2003年08月13日(水)23時55分52秒




大事な人の存在 ――家族、友達・・・恋人

誕生日にはきっとこうやってその人の事を思ってプレゼントを買ったりして
ご馳走なんか作ったり、部屋を飾ったり・・・


今年の誕生日は・・・あの人と過ごしたい、な
389 名前:pitom 投稿日:2003年08月14日(木)00時07分04秒
更新終了ですーーっ!
・・・流れは思い浮かんでるのに、そこまでが書けないっ(w

>>378 京さん
はじめましてっっ!!レスありがとうございましたっm(_ _)m
読んでくださって、本当に感謝ですっ☆
みちごま、私のが初めてだなんて、ものすごく恐縮なのですが
更新超スローなのですが・・・最後まで読んでもらえると嬉しい限りですっ♪

390 名前: 投稿日:2003年08月16日(土)20時25分13秒
わーい♪進んでる〜
ぜひ最後まで読ませてください!!
391 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時11分28秒


「・・・ごっちん?」

「あ・・・えっ?」
定まってなかった焦点を合わせると、目の前に平家さんのキョトンとした表情があった。

「いや、ボーっとしてるからさ・・・あ、もしかして誕生日予定入っとった??」
少しだけ寂しそうな表情を浮かべてる彼女に、一気に現実へと引き戻される。


「ちがっ・・そうじゃなくて・・・・その、嬉しくて!私、今まで誕生日とか祝ってもらった事ないから・・・」
私の言葉に、目の前の表情が嬉しそうに微笑んだ事にホッと胸を下ろす。

「そっか、それならますます気合い入ったわ!最高の誕生日にしたるからな」
ピースサインをしながら、ニコニコ笑ってる。


「・・・平家さ・・」


抱きしめたい ―――

そんな衝動にかられた
無意識のうちに差し伸べようとしてた手を、寸前の所で止める。

本能のまま動いたら・・・きっと止められないだろうから


「・・・・楽しみにしてるね」
心の内を悟られないように、必死に笑おうとする事だけで精一杯だった。


392 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時12分14秒
それから1ヶ月、もちろん平家さんの店にも行ってたのだけれど
予想以上に多い指令に追われ、あっとゆう間にその日を迎える事になる。


誕生日当日 ――
店まで行くと言ったのに平家さんからの要望で、初めて会ったあの公園で待ち合わせする事になってた。

前の晩から落ち着かなくてほとんど眠った気がしなかった。
10時の待ち合わせだったのに、公園に着いたのは9時30分を少し回った頃・・・


「早すぎたかぁ・・・」
待ってても仕方ないし、やっぱ店まで迎えにいこうかな

そんな事を考えながら店の方に目をやると、こっちに向かって歩いてくる平家さんの姿が見えた。


「なんかな、ごっちんもう来てるような気がして。そしたら店来るんやないかって・・・やっぱはよ来てみてよかったわぁ」
「私も今、店に行こうかなって・・・」

「「・・・ぷっ」」
思わず同時に笑ってしまった。

393 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時12分51秒

「考えてる事は一緒かぁ。まぁ、入れ違いにならんでよかった・・・じゃあ、そろそろ行こっか?」

今日の予定は、まだ何も聞いてなかったから

「どこ連れてってくれるんですか〜?」
「・・・いいからいいから。今日は平家さんに任せときなさい」

「クスクス・・・こうゆうのをデートって言うんだよね」
「ん?何か言った??」

平家さんの後ろを歩きながら、そんな事を呟いた。
聞き取れない程度の声だっただけに、振り向きながら問うてきた。


「・・・な、なんでもないよっ・・・あっ!平家さん信号赤っ!!」
歩行者用の信号は既に赤に変わってて、思わず彼女の腕を掴み引き止めた。

「ぅわっ!・・・っと、ありがとね」
そう言いながら少し気恥ずかしそうに笑ってる。


394 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時13分41秒

「ちゃんと前見て歩かないとダメだって」
「せやな。ごめん、これじゃどっちが年上なんかわからんなぁ」

そうしてる間に変わった信号を見て、再び歩き始める。
その時、無意識にずっと平家さんの腕を持ってた事に気付き慌てて離した。

「今日もいい天気だよねー」
話題を逸らす事で、無性に感じた照れ臭さをかき消してしまいたくて・・・

「へっ?・・・あぁ、ほんまやね。私、雨女やねん・・・だから今日雨降ったらどうしよか思ててなぁ」

思わず飛び出した彼女の話しに、また更に嬉しさが募る。
それだけ今日のことを考えてくれてたのだとわかっただけで、心の中が踊り出しそうなくらい嬉しかったから

「平家さん、雨女なの?」
「んー・・・結構。遠足とか、運動会とか・・・まぁ、運動苦手やったからそれはよかったんやけどね

 ・・・あ、ごっちん?」

395 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時14分14秒

急に呼ばれた事で、落ち着き出してた心臓も再び高まる ――でも次の平家さんの言葉でそれがもっと早まる事となる


「えっと・・・その、よかったら・・・さっきみたいに腕持ってくたら嬉しい、かな。」
「・・・えっ?」

「・・・あ、嫌やったら手でもいいし・・・って、手も嫌か」
頬を赤らめ照れ臭そうに先を行く平家さんに、どうしようもなく愛しさを感じた。

まさか平家さんからそんな事言ってくれるなんて思ってもみなくて、
言葉を理解した瞬間、私は自分で思ってる以上に感情を表に出してたかもしれない。


「ちょ・・・待ってよ、平家さんっ!」

駆け寄ると同時に繋いだ手 ―――
少しばかり驚いた表情を見せてた彼女だけれども、きゅっと軽く力を込めて握り返してくれた



396 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時14分51秒

それから私達は買い物に行ったり喫茶店でお茶したり、と一般的にはありふれているのだろうけど
私にとっては全てが初めてで新鮮だった。
なにより隣りにいる人が、私から笑顔を絶やさせなかった。


「何も欲しい物とかなかったん?」
コーヒーを一口飲みながら聞いてきた。
何軒かお店を回ったのだけれど、買った物は1つもなかった。

「んー・・・」
言葉を濁すしかなかった。
あなたを見てた、なんて言える訳がないから ――

気に入った服を自分に合わせながら私に見せてくれる平家さん
アクセサリーが並ぶ店でも夢中になってショーケースを眺めてた平家さん・・・

どこに行っても、平家さんしか目に映らなかった
ほんと・・・自分でも呆れるくらい


私の中はいつのまにか・・・平家さんでいっぱいになってた



397 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時15分35秒

喫茶店を後にして、ゆっくり歩きながら帰路につく。
渡したいものがあるからって、そう言われて平家さんの家へと向かった。


「ちょっと持ち歩けん物やったから・・・」
そう言いながら、明かりのない店へと向かう。その後ろを私は黙って付いて行った。
真っ暗でも、大体の物の位置を把握していたから難なく歩く事が出来た。

「・・・そこで待ってて?」

言われた通り、その場に立ち止まり平家さんの声を待った。
平家さんの足音が止まった次の瞬間、店の照明が明るく店内を照らす。


「これって・・・えっ?」
明るさに慣れず目を細めたのだけれど、数秒もすれば目の前に置いてある物が何なのかは理解できた。
でも、それがなんでここにあるのかが全くわからず、平家さんの方を見る。
期待通りの反応を見れた事で、勝ち誇ったようなそんな表情で私を見てた平家さんと目が合った。

「いいやろ、それ。ごっちんへ、私からの誕生日プレゼント」

その言葉に目を瞬かせる。
「プレゼントって・・・・自転車!?」


そう、目の前にあったのはピカピカに光る真新しい自転車だったんだ。


398 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時16分26秒

「こんな高そうなの、私貰えないよっ!」
素直にありがとうって、そう簡単に受け取れるようなものじゃないから・・・思わずそう言ってしまった。

「・・・いや、ずっと何あげたらいいか悩んでてなぁ
 ごっちん、いっつもここ来る時歩いてきてるし・・・帰り遅なる事もあるやん?
 自転車があったらすぐ帰れるし、私も安心できるから・・・・そう思ってね。

 だから遠慮なんかせんでいいから貰ってくれん?」


正直、すごく嬉しかった
そこまで考えてのプレゼントだなんて、まさか思いもしなかったから・・・

嬉しさと感謝の気持ちで、涙が溢れてきた
それと同時にずっと抑えてきた気持ちも一緒に ――――


「・・・ありがと、平家さん。一生・・・大事にするね

 あの、ね?・・・誕生日だからさ、あと1つだけお願い聞いてもらってもいいかな?」

嫌と言うはずがないから ――確信犯だよね、これって
案の定、返ってきた答えはYes

「ん?ええよ、なんでも言って?」



―――― 抱きしめても いいかな?


言い終わる時には、私はその細い体を腕の中に引き寄せてた・・・・



399 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時17分48秒

「えっ?・・・あ、・・・ごっちん?」
表情は見えないけれど、戸惑いを隠せてない声
今、平家さんの顔を見ちゃったら手放しちゃいそうで・・・


「ごめんなさい・・・いきなり・・・でも、ずっとこうしたかった

 平家さんの事、ずっと抱きしめたかった・・・
 私、誰かを好きになった事・・・今まで1回もなくて。今のこの気持ちがなんなのかわからなくて・・・
 
 人を好きになるって・・・どんな感じなの?」


「どんな感じ、かぁ・・・・うまくは説明できひんのやけどな?
 今、私はごっちんに抱きしめられてすっごいドキドキしてる・・・わかる?」

その言葉に、そっと耳を胸元へと運んだ。

「・・・うん、すごい早い」


そう答えた私を、グッと腕に力を入れ顔を見れる距離まで押し離した。

「・・・ごっちんに抱きしめられて・・・すごい嬉しくて、心臓も嬉しいぃーって早まったんよ

 私が思うに・・・これが好きって事なんじゃないかなぁ
 嫌いな人に抱きしめられても嬉しくもないし、逆に嫌やろ?」

ね?って首を傾げて言う。


400 名前:real love 投稿日:2003年08月19日(火)23時19分01秒


「うん・・・・えっ?でも、それって・・・・」

「・・・そうゆう事。

 私はごっちんが好き、だからドキドキしてる・・・ごっちんは?」

思わぬ平家さんからの告白に、一瞬頭の中が真っ白になった。
でも動揺してる場合じゃない


「・・・ドキドキしてる、私も・・・・私も平家さんが・・・好き」


真っ赤になった顔を見られたくなくて、もう1度平家さんとの距離をなくす。
さっきと違うのは、平家さんの腕もちゃんと私の背中に回されてて・・・


「人を好きになるって・・・すごいあったかい気持ちなんだね」



生まれて初めて知ったこの感情
居心地のいい、落ち着けるこの時間に浸りながら・・・・
 


私達は ―――ゆっくり唇を重ねた



401 名前:pitom 投稿日:2003年08月19日(火)23時20分50秒
・・・スレ流し〜
402 名前:pitom 投稿日:2003年08月19日(火)23時22分12秒
更新終了ですっ♪

甘くなると、やっぱり書きやすい(w
しばらく・・・続くの、かな?
403 名前:pitom 投稿日:2003年08月19日(火)23時23分12秒
>>390 京さん
レスありがとうございまっす!!
じゃー、最後までよろしくです〜m(_ _)mペコリ
404 名前:pitom 投稿日:2003年08月27日(水)22時02分57秒
すみません!!!
仕事でいろいろありまして、落ち着くまで更新できそうにありません・・・
来週中には絶対更新しますんで、もうしばらく待ってていただけるとありがたいですm(_ _)m
405 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)22時53分20秒
   ◇   ◇   ◇


「ん・・・眩し・・・」

窓から入る朝日に目を細めながら、ゆっくりと上体を起こした。
辺りを見渡し、ここがどこなのか理解できたと同時に、少し離れた所から声を掛けられる。
声のする方を見ると、ソファーに腰掛けてこっちを見てる平家さんがいた。


「おはよ、ごっちん。・・・よぉ寝れた?」

「あ・・・おはよ、うございます」
彼女の顔を見た瞬間、昨夜の出来事が一気に頭の中を駆け巡り、照れ臭さでいっぱいになってしまい
口篭もりながらも、なんとか答えた。

「・・・ちょ、なんでそんな堅苦しく話すんよ」
苦笑いを浮かべながら、ソファーから腰を上げこちらへと歩いてくる。

「あ、えっと・・・な、んとなく?」

なんやそれぇー・・・
クスクス笑いながら私のいるベッドへと腰掛け、こちらをただじっと見てくる。


406 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)22時54分43秒

「・・・えっ?」
何も話さない事に焦りを感じ、無意識のうちに何かやらかしたのかと今度は私が苦笑い+眉の下がった情けない表情・・・

「・・・ぷっ!あははっ・・・ごっちん、その顔ウケるー」
フトンを叩きながら必死に笑いを堪えてる平家さんに、ちょっとだけムッときて
思わず手を伸ばして、その頬をキュッと抓った ――もちろん力加減はちゃんとして

「もう、笑いすぎだよ?」
「ごぇんって・・・ふはは」
口ではそう言っても、しばらく止みそうにないくらい彼女は笑ってた。


「・・・もうっ!」
堪らず抓ったままだった手を腰に移動させると同時に多少強引に引き寄せた。
するといきなりの事で逆らう事もできず、平家さんはストンと私の腕の中に収まった。

「な、に・・・急にびっくりするやん」

「・・・・別に、平家さんがいつまでも笑ってるから・・・」
腕の中に閉じこめたまま時間が止まればいい、平家さんを肌で感じたまま止まってくれれば・・・と
言葉とは裏腹な事を考えながら、その温もりに浸る。

407 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)22時55分23秒
「・・・もう笑ってないんやけどなぁ」
平家さんが話す度に、その振動が僅かながら胸元から伝わってくる。

「いいの・・・もう少しこのままでいたいから」


彼女の肩口に顔を埋め、彼女の体温、香り・・・彼女自身を体中で感じる。
その事で生まれた安心感が睡魔へと変わり始め、思考能力も徐々に遮られていく。



「・・・・ごっちん?」
「―――― ん・・・」
「眠いん?・・・でも、そろそろ帰らんとやばくない?」

その言葉に、ゆっくり頭を上げ時計の方向を見る。
短針が10を示してた。

「・・・ぅわっ!もうこんな時間だったの!?」
一気に夢から現実へと引き戻された瞬間だった。

408 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)22時56分46秒

「ごめん、もっとはよ言えばよかったなぁ・・・気持ちよさそうに寝てたから起こすの悪いかな、思って」
慌てて服を着てる私に、本当に申し訳なさそうに言う。

「あ、全然いいから!それより・・・昨日の自転車、表に出してくれると嬉しいかもっ」
「いつでも出れるように、ちゃんと出しとるよ」
「さすがぁー」

最後のボタンを留め終え、そのまま息つく間もなく外へ出る。



平家さんの言った通り、ちゃんと道路脇に停められてた自転車
昨日店の中で見たのと、こうやって太陽の下で見るのとではまた違った印象を受けた。

「いいね、やっぱこの自転車!」
嬉しくって、少しの間時間を忘れ辺りをグルグル走ってみる。
乗り心地も最高なものだった

「喜んでもらえたなら、私も嬉しいわ・・・って、ごっちん!前っ!!」
「へっ・・・・うわっ!?」

言われて前を見たら、すぐそこには植え込みがあって慌ててブレーキをかける。

409 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)22時57分22秒

「・・・・はは、ギリギリセーフ?」
「気をつけなあかんやんっ」


苦笑いしながら平家さんの方へ向かうと、小さなキーホルダーの付いた鍵を渡された。

「これ、自転車の鍵と・・・・あと、これも」

もう1つ渡されたのもさっきもらったのとは違う形の鍵。でもこれにはキーホルダーも何も付いてなかった
これが何の鍵なのかわからず平家さんの顔を見ると、少し照れ臭そうに口を開いた。

「渡そうか、さっきまで悩んでたんだけど・・・もしごっちんが来た時に、その・・買い出しとかでおらへん時もあるだろうし・・・」

そこまで聞いてピンときた。
「じゃあ・・・これ、平家さんの家の鍵?」
「持っててほしいかな、って」

平家さんの頬がほんのり赤く染まってるように、きっと私の顔も同じように赤くなってるだろう

「あ、ありがとう!大事にするから」
自転車の鍵と一緒にポケットにしまう。


410 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)22時57分59秒

「・・・じゃ、帰るね」
「うん、気をつけてな」

言葉を交わした後ペダルに力を込めようとした時、ある事を思い出し辺りをキョロキョロと見渡す。
誰もいない事を確認して、重心を平家さんの方へと傾けた。
その事を理解してか、彼女の方からも近寄ってきてくれて・・・

触れるだけのキスを交わしたあと、ゆっくり重心を戻した。

ずっと、ここにいれたらな・・・・
言葉にはせず、自分の中だけに留めておく。

「じゃあ、ね」


後ろ髪を引かれる思いをしながらも、家を後にした。
午前中と言っても徐々に気温も上がってきてるのか、自転車をこいでると額にも汗が滲んでくる。
でも、歩いていて汗かくのとの違いは、力いっぱいこげばそれだけ風を感じられる事 ――

もう少し、この心地よさに浸っていたかったのだけれどあっとゆう間に寮に着いてしまった。


411 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)22時58分39秒

寮に着いて、自転車をどこに置こうか悩んでたら、遠くから声がした。
どこから呼ばれたのかわかんなくて辺りを見てると、それは頭上からのもので見上げると窓から顔を出したかおりが居た。


「帰ってこないと思ったら朝帰りかよぉー」
かおりはにやけた顔をしながら見下ろしてくる。

そんな大声で・・・
気恥ずかしく思いながら、とりあえず自転車の事をまず聞いた。

「あぁー・・・だったら、そこまっすぐ行った所に小さいけど駐輪場あるから、そこに停めなよ」
「ねぇ!そこ大丈夫?」

「はっ?何が大丈夫なのさ」
私の質問の意図を掴めず、キョトンとしながら質問返しをする。

「そこ、傷つけられない?盗られない!?」
平家さんに大事にするって約束したんだもん・・・傷なんて付けられない


「えー?そんな保証は出来ないよぉー・・・あ、だったらいっその事、部屋に持っていったら?」


412 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)22時59分19秒

かおりはきっと、冗談で言ったんだろう
でも、私にはそれ以上にないアイディアだった


「そっか!かおり、ありがと!!」
お礼を言うと、早速自転車を持って階段を上がっていく。
力には自信あったし、部屋も2階だから意外と簡単に持ち上がれた。

かおりもまさか本当に2階まで運ぶと思ってなかったらしく、わざわざ自室のある3階から下りてきてその様子を見つめてた。

「・・・ふぅ。ねぇ、廊下は持ち上げなくてもいいよね?」
「あ、うん・・・土足OKなんだし大丈夫でしょ。でも、部屋の中はどうすんのさ」

「・・・・あ」

そうだ、自転車置けるほどスペースなんてなかった。
でも部屋に置く以外に安心できる場所なんて思いつかないし・・・・


413 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)23時00分42秒

「あはは!なんでそんなこだわるのかわかんないけど、じゃあちょっと新聞かなんかもらってくるから
 部屋に敷いて前輪はそこに置くようにすればいいよ」

そう言いながら、かおりは1階へと下りていった。
戻ってくるまでに鍵開けとかなきゃ、と思ってポケットから鍵を出す。

その時に一緒に掴んだ、平家さんちの鍵を自分の部屋の鍵と一緒にキーホルダーに取り付けた。
2つ並んだ鍵を目の高さまで持ってきて見てると、どうしても頬が緩んでくる。


「・・・ごっつぁん、なにニヤニヤしてんの?」
慌てて振り返ると、いつのまにか帰ってたかおりが少し怪訝な表情でこっちを伺ってた。

「な、なんでもないよっ!・・・あっ!新聞ありがとね。じゃ、あとは自分でするから」
奪い取るような形になっちゃった事すごい反省してるんだけど、とりあえずその場から逃げたかった
でも、そんな簡単に逃げれるような相手ではない事くらい、私が1番よくわかってた・・・

414 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)23時01分44秒

先を行こうとする私の腕を掴み行く手を阻む。

「・・・・・昨日の誕生日、なんかあったんでしょ?てか、何もなかったら朝帰りなんてしないかぁー」
「う゛・・・」

図星をつかれて固まった私を、そのまま腕を掴んだまま私の部屋へ行くかおり。



「・・・・・で?」
「・・・・・・・でって?」
かおりが笑ってたから、つられて私も笑顔で答える ――多少引きつってはいたけど

「もうっ!ごまかさずにさっさと言えぇー」


それから観念した私は、平家さんの事をかおりに話した。


415 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)23時02分39秒

初めて、人を好きになれた
前の一人ぼっちだった私に比べたら、今の私にはかおりという、心から信頼できる人がいる
かおりの事も大好きだけど、その好きとはまた違った感情 ――
ずっと傍にいたい、一生私の人生をかけてでも守りたいって・・・初めて思えたヒト

その気持ちを全て告白した

かおりも、隣りで私の話しにじっと耳を傾けてた。
話し終えて、少しの間続いてた沈黙をやぶったのはかおりの方だった。

「ごっつぁんさ、今・・・幸せ?」
「ん?・・・・うん」

「そっか・・・そっかぁー!!!」
眉尻の下がった、心からの笑顔を浮かべたかおりが私の頭をガシガシと撫でた後、思いっきり抱きしめた。

416 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)23時03分18秒

「その言葉聞けただけで十分嬉しいよ、かおりは。
 人を好きになるって事知らないなんて寂しすぎるもん・・・

 人間ってね?誰かを愛する為にこの世に生まれてきて、誰かに愛される事で生きてる喜びを知ると思うの。
 ごっつぁんもさ・・・・・やっとそう思える人と巡り会えたんだね。」

「うん・・・」


かおりの言葉がストレートに胸に届く。
誰かを好きになる事なんて知らないまま、私は1人で生きてくんだって・・・ずっとそう思ってたはずなのに 

こんなにも大切に思える人と出会えた事、そして出会うきっかけになった母へ改めて感謝の気持ちでいっぱいになった。
あの日、あの公園へ行かなければ・・・平家さんと会う事もなかったんだから


母さんが出会わせてくれたのかもね




  
417 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)23時04分09秒

  ◇   ◇   ◇


それからというもの、平家さんの家へ行くペースは日に日に多くなっていった。


ただ顔を見てるだけでよかった
それだけで十分満たされてたから・・・


ここは、もう1人の自分を忘れられる、唯一の場所
知り合って半年が過ぎた今でも、私がしてる仕事の事に関してはずっと言い出せずにいた。
私が人殺しだなんて知ったら二度と会ってもらえないだろうから・・・

嘘をつくことに抵抗がなかった訳ではない

でも・・・
平家さんといられる為なら、この事だけは隠し通してやる ―――



418 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)23時05分32秒

「・・・ごっちん?どしたん、そんな顔して」
店の片付けを終えた彼女が部屋に入ってきた。

「えっ?・・・なんでもないよ、今日のご飯何かなって」
「恐い顔してるから何考えてるんやろって思ったら・・・なんだ、そんな事かぁ」

ちょこん、と私の前に屈んでる彼女の鼻を軽くつまみながら言葉を続ける。
「そんな事って・・・他に何がある?」
「んー・・・あんな顔してるごっちん見たら、なんか変な事考えてしもた・・・」

変な事?


「もう・・・嫌いになったとか言われるかと思ったわ」

「まさかっ!」
その言葉に勢い余って、気がつけば立ち上がってた。

419 名前:real love 投稿日:2003年09月03日(水)23時06分18秒

「そんな事ある訳ないじゃん!私が平家さんの事、嫌いになるなんて・・・絶対にないから、それだけは絶対に」
見下ろす彼女の表情が、少し焦ったものになった。


「ご、ごめん・・・冗談で言ったつもりやったんやけど・・・でも、ありがと。すごい嬉しい」

「あ・・・私こそ、でもさっき言った事は本当だから、さ」
急に恥ずかしさが込み上げてきて、平家さんと同じ目線まで腰を下ろすとそっと抱き寄せた。


「ずっと・・・平家さんの傍にいさせてね?」
「当たり前やん、ずっと一緒だよ」




この言葉通り、ずっと一緒にいられるって ―――この時はそう信じてた






420 名前:pitom 投稿日:2003年09月03日(水)23時08分17秒
更新終了です〜
予定以上に遅くなったんで、いつもよりは多め?更新です(w

421 名前:つみ 投稿日:2003年09月03日(水)23時13分01秒
何か事件が起こりそうな予感・・・
422 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:22


季節は気付けば冬へと移り変わっていた


寮に住むようになってから、毎朝起きたらすぐ射撃の練習をするのが日課になってて
この日もいつものように練習を終えた後、部屋へと戻る途中の階段で上から降りてくるかおりと会った。

「ごっつぁん、おはよ!今日も寒いねぇー、射撃場も寒かったでしょぉー」
「うん、もう冬場はあそこはやばいねっ!かおりは今から指令?」
「そーなんだよぉ・・・外出たくないのにさ」

肩を落して歩く彼女を見ながら、さっきの室温を思い出す。

「かおり・・・外マジ寒いから」
「もうっ!!言わなくてもわかってるってぇー!!」

からかわれた事に少しだけ怒りながらも、かおりはいつもの笑顔を見せて私の前を通りすぎてく。

423 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:23

「あ、かおり!・・・わかってると思うけど、気をつけてね」


その言葉に、ゆっくりと振り向き笑って答える。

「ありがと。じゃあさ、帰ったらあったかいココア作ってね」
「えぇー?もう仕方ないなぁー・・・」

ラッキー

そう言ってるかおりの表情は子供のように喜んでるものだった。
元々大きな瞳をしてるのに、それがなくなるくらい細めて笑って・・・

そんなかおりの笑顔が大好きだった


でも・・・
それを見るのが最後になるなんて ――――


424 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:24


それから掃除をしたり、と慌しく時間を過ごしてた。
昼過ぎた頃、呼び出しのランプが点滅してる事に気付く。

中澤さんの元へと急ぐと、指令が入ったとの事
とりあえずの内容説明を聞いてると、電話の鳴る音が部屋に響く。

中澤さんが席をたった後、私はもらった資料をもう1度目を通してた。


周りからの音はほとんどなく、聞こえてくるのは紙をめくる音、中澤さんの声 ―――

「もしもし・・・あぁ、どうかしたんか?・・・・・・なんやて!?・・・・・・・・」

何口か話した後、しばらく沈黙が続いてる事を不信に思い、資料から視線を中澤さんへと移す。
向けた視線の先には、受話器を握ったまま微動だにしない中澤さんの姿があった。


「・・・中澤さん?どうかしたんですか?」

私の言葉に、力なく下ろした腕から持ってた受話器が音を立て床に落ちる。


「かおりが、な・・・・死んだ」



425 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:25


・・・・・なに?今・・・なんて言った?
かおりが・・・・・・・・・

「・・・・・・・・死んだ?」


頭の中が真っ白になった
中澤さんが言った意味がわからない・・・
かおりが死んだって ―――

「だって・・・さっき笑顔で別れたとこなのに・・・・あれからまだそんなに時間だって経ってないんですよ・・・?
 そのかおりが死んだなんて、ありえない・・・


 ありえないよっ!!!!!」



そんなの、絶対に信じない・・・・・


426 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:26
それから、かおりと組んでたパートナーが、もう既に冷たくなったかおりを抱え帰ってきた。
報告を受けてる様子を少し離れた所から呆然と見つめる。

その場に横たわらされたかおりは眠ってるような・・・呼んだら返事してくれるんじゃないかって思うくらい穏やかな表情


「計画は全てうまくいってたんです。
 見つかる前に急いでその場を去ろうとしたら、かおりさんが急に立ち止まって・・・落とし物したからって

 私は危ないからって止めたのに聞かなくて・・・・・

 それから、かおりさんが戻って数分もしないうちに銃声が聞こえてきて・・・・
 慌てて私も後を追ったら・・・かおりさんが倒れてて・・・っ」

きっと話しながらその時の事を思い出してるのだろう
目いっぱいに涙を溜め、必死に声にしながら話を続ける。

「多分・・相手は私の存在にも気付いてて、かおりさんを殺した後私を追ったんだと思うんです。
 だから見つからないように急いで・・・かおりさんは・・・・・・もう、その時には

 すみませんでした・・・あの時何がなんでも止めるべきでした・・・・本当にすみません」

427 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:27

言うと同時に、彼女もその場に崩れ落ちた
中澤さんはそんな彼女の体を支えるように、そっと抱き寄せる。


「・・・危険に身を晒してまで、何を落としたっていうんやっ!?」

普段、常に冷静でいて取り乱したところなんか見せた事なかった中澤さんが声を上げて問う。



かおりがそんなにまで大事にしてたもの ―――?

ある事に気付いた私は、足元をふらつかせながらもかおりの傍へと歩み寄る。
そっと、首元に手をやった


いつもしてるはずのチェーンが、そこにはなかった
じゃあ・・・ここにあったアレ、は?

視線をかおりの手元にやる
その状態で硬直してしまったのか、かおりの右手は硬く握り締められてた


428 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:28

冷たくなったその手に触れ、ゆっくり1本1本開いてく ―――


――――――――― カタン・・・

小さなリングは、かおりの手から落ちるとコロコロと転がっていった


「・・・・これ、の為?ねぇ、かおり・・・・・・」

そう聞いても、もちろんかおりは答えてくれない


「ねぇ・・・・ねぇっ!!?聞いてるんだから答えてよっ!!

 指輪なんて・・・いくら大事な指輪だからって自分の命捨ててまで守るものじゃないじゃん!

 かおりが死んだら妹は・・・ののはどうすんの!
 かおりがののの事守るって言ってたじゃんっ!ずっと守っていくって・・・・言ってたじゃん


 なのに・・・なんでよぉ・・・・・やだよ、こんな・・・さよなら、なんて・・・・・」


429 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:29



それから、どれだけの涙を流しただろう
かおりの傍で
じっと手を握ったまま・・・・


「・・・後藤?妹の事はこっちでなんとかする。
 かおりにもやれるだけの事をするつもりだから・・・・だから元気だしや?」

頭上から聞こえるその声に振り向く事はせず言葉を返す。
「・・・あの、ののは・・・妹さんはかおりがこの仕事をしてる事知ってたんですか?」
「いや・・・心配かけさせたくないからって言わずにいたみたいや」

そうですか・・・・


それ以上、お互いが口を開く事はなかった。



430 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:29


早急に手配された事もあり、かおりの亡骸は夕方には業者が引き取りに来た。

最後の別れをするべきか直前まで迷ったのだけれど、結局部屋から出れずにいた。
なんとなく・・・これ以上かおりに泣いてる所を見せられないって気持ちと、あと1つ・・・


皮肉にも、親友の死によって自分の置かれている現実を知らしめられる事になった
私がやってる仕事は、常に死と背中合わせ
そんな事、わかってるつもりだった
私だけは死なない、なんて・・・そんな買かぶってる訳ではない

この組織に入って運良く危ない目にあった事がなかっただけに、どこかこの仕事の危険性を忘れてたのかもしれない

今の私には平家さんがいて
絶対死ぬ訳にはいかない、ずっと一緒にいるって約束したんだから・・・


431 名前:real love 投稿日:2003/09/15(月) 10:30


かおりにも妹という、大切な人がいた
言ってみれば私と同じ立場だったんだ・・・
そのかおりが、妹を残して突然この世を去った

残された妹は、これから1人で生きていなくてはならない
かおりとの思い出だけを心に残し
きっと、それは想像以上に辛く苦しいものだと思う・・・

もし、私が死んだら・・・・それと同じ思いを平家さんにさせてしまうことになる


絶対に死なない、と言い切れない仕事をしてる私が、平家さんの傍にいていいものだろうか


「・・・・・かおり、私は・・」



どうしたらいいんだろう ――――




432 名前:pitom 投稿日:2003/09/15(月) 10:34
更新終了です
遅くなったうえに、こんな展開・・・
最近、飯田さん好きになってたのに(^^;

>>421 つみさん
レスありがとうございますっ!!!
はい、事件起こっちゃいましたぁー
ホント飯田さんごめんなさいって感じです(^^;
433 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:19

    ◇   ◇   ◇


「うわっ!??ごっちん、いつからおったんっ!!」
「・・・・平家さ、ん」

頭の中では、平家さんに会ったらどう接していいのかわからなくなりそうで、今日は来るつもりなかったんだけど
でも、体中が平家さんを求めてた・・・会いたい、会って抱きしめたいって


本能の赴くままここに来た訳なのだけれど、実際着いた途端なかなか扉を開けれずにいた。
やっぱりこのまま会わずに帰ろうかと、何度踵を返そうとした事だろう
そうしてる間に店の片づけを終えた平家さんがたまたま私の存在に気付いたんだ。


「ちょっ・・・寒いのに・・体だってこんな冷たくなってるやんっ!
 とりあえず部屋入り?今、あったかいもの入れるから」

腕を引かれ、言われるがまま暖房の前に腰掛けた。
芯から冷えた体がゆっくりと体温を取り戻してく
その位置からボーっと平家さんの後ろ姿を見つめてた。

434 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:20
「・・・・なに?」
紅茶の入ったマグカップを持って戻ってきた平家さんが、何も言わず自分を見てる私に対して不思議に思ったようで
首を傾げながら私にマグカップを手渡す。

「なん、でもない・・・・」
受け取ったカップにゆっくり口付ける。

「なんか・・・今日のごっちんはいつもと違うなぁ」
なんかあったん?

ゆっくりと私の前に腰掛ける
私を見るその真剣な眼差しに、いっそのこと全てを打ち明けようかとも思った。


でも・・・

「なんでもないって。なんとなく平家さんの顔見たくなったから・・・迷惑だった?」
わざと上目遣いなんかして覗きこむ。

「迷惑な訳ないやん」
彼女が笑ってそう答えてくれた事で、本心を悟られなかった事に心の中でホッと一息つく。
やっぱり彼女には本当の事、言わない方がいいに決まってる


435 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:21

「・・・平家さん、手出して?」
私の言葉にゆっくり手を差し伸べてくれる。
その手を両手で包み、彼女の温もりに浸る。


「平家さんの手ってあったかいねぇ」
「外にずっとおるからやん・・・風邪でもひいたらどうするんよ」
そう言いながら、平家さんはそっと額に触れてきた。

「そしたら・・・平家さんに看病してもらうからいいもん。」
「都合のいいことばっか言ってるなぁ」
その言葉と同時に温もりを与えてくれてた手がゆっくりと離れ、軽く額を小突かれた。

「いたっ!・・・痛いじゃん、平家さんのバカ」
俯き加減になりながら額を擦る。

それが泣いてるように見えたのか、平家さんは少しだけ焦った声になりながらも強気で答える。
「泣き真似なんかしたってバレバレやっちゅうねん!」

「・・・なんだ、もうばれちゃってるし・・・っ」


「えっ?・・・・・・ごっち、ん?」

436 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:22
私は変わらず平家さんの方を見る事はしなかった
と言うより ――顔をあげる事ができなかったんだ


だって、私の目からは次から次へと涙が落ちてきてたから・・・・・

泣くつもりなんかなかったのに
自分でもわからない・・・なんで、こんなに涙が出てくるんだろう


「・・・・なんで泣いてるんよぉ」

彼女の表情を見なくても、今どんな表情をしてるのか・・・この声を聞けばすぐにわかる
きっと彼女も泣きそうになってるだろう

・・・ほら、やっぱり

顔を上げて目の前の彼女を見た瞬間、思った通りの表情をしてた事に少しだけ笑っちゃった

「・・・・ごっちん、訳わからんよ・・・なんで笑ってるん」
「ごめん、なんか・・・おかしくって」
「はぁー?なんやの、それ・・・泣きながら笑って、変な子やなぁ」

呆れ口調で言いながらも、手は優しく頭を撫でてくれてた。


437 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:23

「・・・・好きだよ」
伏せてた目をゆっくり上げ、まっすぐに彼女を捕らえる。

好きって言葉は数え切れないくらい口にしてた
言葉にする度に平家さんへの気持ちが募っていった・・・

離したくない、離れたく、ない ――――


「私も好き」
ゆっくりと動く唇に人差し指でそっと触れる

そのまま引き寄せられるように、私達は唇を重ねた
もう一時も離れたくなくて、何度も何度もその愛しい体にキスを落とす

指先から、足の先まで・・・彼女のすべてを目に焼き付けておきたくて


「平家さん・・・ずっと、ずっと愛してるからね・・・」

438 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:24

――――――
―――



隣りで眠る彼女を起こさないように、顔だけを傾けその寝顔を見つめる

寝顔を見られるのは私だけなんだと、そう言う私を隣りで大人な表情で笑って見てた平家さん。
それなのに普段、私の方が年上なんじゃないかって思うくらい平家さんは子供っぽい所がたくさんあって・・・
この数ヶ月の間でいっぱい平家さんの事知ることができた

知れば知るほど、どんどん好きになってく
身近な存在から、かけがえのない存在へ・・・
何よりも大事だから、そんな彼女の事を傷つけたくないから・・・

・・・・・・・だから



「・・・・ごめんね、平家さん」



439 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:24

ゆっくりベットから降りる
さんざん泣いたはずなのに、平家さんを見てたらまた目頭が熱くなってきた
ぐっと唇を噛み締め、必死で我慢する



本当に・・・大好きだった



―――――――― パタン・・


「ん・・・・・ごっちん?」



温もりだけを残し、私は部屋を去った

それから ―――この部屋を訪れる事はなかった


440 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:25

    ◇   ◇   ◇


最後に会ってから、どれだけの月日が過ぎたんだろう
私の心の中にはいつも笑顔の平家さんがいる ―――

平家さんに逢いたい
平家さんを抱きしめたい・・・・

私の中は、どうにもならない欲望でいっぱいだった
平家さんは私の全てだったんだ
今になって改めてその事を痛感させられる


・・・・・遠くから見るだけなら

思つけば、行動に移すのは早かった
時間をみつけて私はすぐに平家さんの家へと足を進める。

近づくにつれて、私の心臓はどんどん早まってくる

もうすぐ・・・・この角を曲がれば店が見えてくる
店が目に映った時、ある事に気付く
店の入り口にはカーテンがかかってて、人がいる気配もなさそうだった

441 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:26
その時やっと今日が火曜日である事を思い出した。

「そっか・・・今日は定休日だ」


じゃあ・・・もしかしたら・・いや、まさか居るはずないよ・・・だってあれから何ヶ月経ってると思うんだよ

心の中で自問自答しながらも、足はあの公園へと向かってた

休みの日はいつもあの公園で待ち合わせしてたんだ
いつも、平家さんは先に来てあのベンチに座ってた・・・

今日もそこにいてくれるだろうか

期待と不安が入り混じった、なんとも言えない感情で胸の中がいっぱいになる
公園が見えてきた頃から1歩1歩踏みしめるように進んでく
ゆっくり、足音を消して ――――


442 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:27

う、そ・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・平家さん」

ここからでは後ろ姿しかわからない
でも、間違いなく、そこにあるのは逢いたくてたまらなかった・・・愛しい人の姿

ずっと待っててくれてたの?
来るかどうかなんて、なんの保証もないのに・・・

この事実に、私の視界はもう涙で歪んでくる
後ろ姿だけなんてもどかしくて、私はどこか正面から見れる位置へと移動した。


ベンチからずっと離れた植え込みの影に身を隠し、改めて平家さんを見た時・・・私はその姿に愕然とした

薄着だから余計にわかる
元々痩せてた彼女だけれど、今の彼女は・・・

443 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:27

私の記憶に残ってる平家さんとは明らかに違ってた
じっと両手を握り合わせて俯いて座ってる姿は、遠目でも痛々しく感じる

人が通る気配を感じる度に、すぐさまそっちを見ては落胆の表情を浮かべてベンチに座り直す
・・・・それの繰り返し


さっきまで平家さんが今でも待っててくれた事に嬉しい気持ちが心を占めてた
でも・・・

今はとんでもない事をしてしまったんじゃないか、と後悔の気持ちでいっぱいになった・・・

今更、姿を現す訳にはいかないのに
半年も過ぎたっていうのに平家さんは今でもこうやって待っててくれてる
私が何も言わずに消えたから・・・・

嘘でもよかったんだ
ちゃんとさよならしてたら、あんなに彼女を痩せさせる事もなかった

私の一方的な感情で、ずっと彼女を苦しめる事になった


444 名前:real love 投稿日:2003/09/28(日) 22:29
「・・・・ごめんなさい」

どれだけ謝っても、彼女には届かない
今の私に出来ることは・・・ここから立ち去る事
平家さんには1秒でも早く私の事、忘れてもらうように
これ以上、過去の思い出に縛りつけないように・・・




「・・・っく・・・・ぅ・・・」


この仕事さえしてなければ・・・・
彼女の元から去らずに済んだんだ

あの日の夜から何回、そう思っただろう

全部、自分で決めた事なのに
他になにかいい方法があったんじゃないのか・・・?
そればかりが頭の中を駆け巡ってる


―― 泣きたい時は気が済むまで泣いたらええんよ
 
ふいに過ぎる平家さんの言葉
そうだ・・・母さんが死んだ日に言ってくれたんだっけ


あの時の優しい微笑み、頭を撫でてくれた優しい手・・・
1度思い出すと次から次へと平家さんとの思い出が溢れてきて、涙は寮まで帰る間ずっと止まる事がなかった





445 名前:pitom 投稿日:2003/09/28(日) 22:34
更新終了ですー

ドンドン更新ペースが遅くなって申し訳ありません・・・
今回の展開は本編で予想できてましたが(^^;
あぁー・・・ストーリーが痛い(w
446 名前: 投稿日:2003/10/01(水) 17:05
ぅあ!!しばらく見ないうちに飯田さんが死んじゃってる!?
ごっちんも見てて胸がすっごい痛みます…(ノД`)
へーけさん…あぁ。みんな幸せにはなれないのかなぁ…
447 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:45


あれから ―――

どこにもぶつけられない苛立ちを抑える為に、いつからか再び自分の感情を隠すようになってた
そう・・・組織に入る前の私と同じように


だから、友達なんていなかったし作ろうとも思わなかった
この世界にいる以上、またかおりの時みたいな事がないとは言いきれないんだから


・・・・だから、ずっと1人でいようって そう決めたんだ


指令をこなして、あとは部屋で時間を潰す日々
それを苦痛に思う事もなかったし、当然に感じてくるのも時間の問題で


でも・・・それも、ある女の子の存在で変わる事となった。


448 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:46

ある日、中澤さんに呼ばれた私は部屋へと出向かう。

「・・・・失礼します」
一礼をしてドアの所で中澤さんの言葉を待っていると、ソファーに腰掛けた中澤さんが手招きをする。
歩み寄った時、初めて死角になった位置に座ってる彼女の存在に気付いた。


また新しく入ったのかな・・・
そんな風に考えながら彼女を見た時、向こうも私の方を見てきた。

「あ・・はじめまして。吉澤ひとみです」
真っ黒の髪、吸い込まれそうなくらい大きな瞳 ――

向こうからの挨拶に、私はただ頭を下げるだけ
端から仲良くする気なんてなかったし・・・
私のその態度に本意を悟ったのか、彼女はすぐに中澤さんの方に向き直した。


「・・・後藤?あんたを呼んだんは、もうわかってる思うけど吉澤の面倒をあんたに頼む。
 かおりに教えてもらった事をそのまま吉澤に教えたんでいいから。
 あと、あんたの隣りの部屋空いてたよな?」
「はい」
私の返事に、視線を吉澤さんへと移す。

449 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:47

「・・・とゆう訳やから、わからん事は後藤に全部聞き。
 歳も確か同じだった思うし・・・まぁ、仲良くやりや」

タバコを消しながらチラッと私の方を見てきた。
言葉にはしなかったけど、きっとこう思ったに違いない

―― 前みたく笑いや・・・って

かおりの事、中澤さんは知らないけど平家さんの事
あの日を境に変わったのは誰から見ても一目瞭然だったから・・・
口には出さない中澤さんの優しさもわかってるつもり

でも・・・もう決めた事だから

「・・・じゃ、吉澤さん行こうか」
中澤さんの視線を見ぬふりして、彼女を連れ部屋を後にする。



450 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:47

部屋を出た後も、当然のように2人の間には会話はなかった。

面倒みるだなんて私の1番苦手な事なのに・・・
でも、いつまでも黙ってる訳にはいかないし

「あぁー・・・ちゃんと名前言ってなかったよね。後藤真希、よろしくね」
「あっ、はい。よろしくお願いします・・・」
「・・・別に敬語とか使わなくていいから。タメらしいし」
「あ、・・・うん」

それから部屋に着くまで、再び沈黙が続く。
その間、ずっと考えてた私は1つの結論へと導かれた。

教える事だけ教えればいいんだよね
割りきった関係でいいんだし、そんな考える事でもなかったんだ・・・


「ここが今日から吉澤さんの部屋ね。
 組織の事とか説明するから、とりあえず私の部屋来てくれる?」
言いながら、私の部屋へと促す。

それから淡々と話しを進めた後、私もやってきたように射撃の練習へと取りかかる。
彼女の場合、急ぐ訳ではなかったのだけれど早く覚えておくに越した事はないし


451 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:48
もちろん実践の場にも連れて行った。
頭でわかってるつもりでも、その場で体験するのとでは全く違うから・・・
それは私が1番よくわかってた。

彼女に対して特別な感情がある訳ではない
でも、私がそうだったようにいつかこの仕事に就いた事を後悔するかもしれない

人を殺す場面を直に見て、自分の手を血で染める前に止まれるのなら、そっちの方がいいに決まってるから


「こわ、く ないの・・・?」
だから、仕事を終えた帰り道に怯えたような口調の彼女から聞かれた質問にこう答えたんだ


「・・・恐いよ」

私からの忠告はここまで
―――― あとは彼女が決めるコト


でも、彼女が出した結論は変わることはなかった。
それなら私はちゃんと指令をこなせるように指示するだけだ

初めて彼女に指令が入った時、どういう風に進めるか2人で作戦を立てる。
その最中も、緊張やら不安やらで落ち着けずにいる彼女を横目に打ち合わせを進めていく
あまりに冷たいんじゃないか、とかそういう気持ちもあったけれど
優しさとか情けとか、ここまで来た以上彼女の覚悟を揺るがす事は出来ないから・・・それに

ほんとはかおりがしてくれたように、彼女の不安を少しでも取り除ければいいんだろうけど


つくづく自分の不器用さに歯痒くなる


452 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:49

当日 ――

今回、遠距離から狙う作戦だっただけに、失敗すると次はないに等しい
相手に警戒なんてされたら初心者の彼女にやり遂げる事なんて無理だろう

「・・・1発勝負だからね」
念を入れる為、隣りでソワソワしてる彼女に一言声を掛ける
頷きながらも銃を構える彼女の手は震えてた。

男がどんどん近づいてくる
彼女の緊張感が私にも伝染して、辺りのざわめきも一瞬何も聞こえなくなる


あと少し・・・
私がそう思ったと同時に、彼女もそのタイミングを感じたようだ
あとは引き金を引くだけだし、彼女の銃の腕は十分わかってた
この距離なら・・・まぁ、大丈夫かな

・・・・今だ
撃つならこのタイミングしかない
でも、彼女は一向に引き金を引こうとしない・・・・いや、できないんだ


453 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:49
「・・・ちょ、何してんのよ!早く撃ちなよっ!」
思わず声を荒立ててしまった。

更に震えてる手
極度の緊張、恐怖・・・
わかるよ、私だって最初はそうだった ―――― でも


「・・・・うっ、やっぱ出来ないよっ!」

この言葉を聞いた瞬間、胸ポケットに入れておいた銃を取り出しすばやく引き金を引く。
――― パンッ

・・・くそ、あの位置じゃ死んではないか


―――― 引き受けた以上、指令は絶対なんだ・・・・


454 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:50


「あんたねぇ・・・自分でこの仕事やるって決めたんでしょ!?
 いつまでもウジウジしてないで覚悟決めなよっ!・・・・どこにも人殺すのが恐くない人なんていないんだから」
気が付けば、私は彼女の胸ぐらを掴んで叫んでた。
彼女も動揺を隠せず、目を泳がせてる。


・・・こうしてても仕方ない、今はあの男の事だけ
そう思い、とどめをさすべく周りに誰もいない事を確認して男の元へと向かった。
彼女も足元をふらつかせながら後を付いてくる。

思った通り、男は傷口を押さえながらのたうちまわっていた。
私達の存在に気付いたようで、うまく動かない体で必死に逃げようとしてる


ここで私が仕留めてもいいけど、これからの事考えたらやっぱり・・・

「・・・どうする?最後、出来る?」
455 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:51

私の言葉に、持ってた銃をゆっくり構える。
手元はやっぱり震えてたけど、表情はさっきと全然違ってた。

一呼吸おいて、引き金にかけた人差し指に力を入れる


―――― パンッ


彼女の撃った弾は完璧なくらいに額を貫通してた

とりあえず無事終わった・・・・
でも、これで彼女も本当にこの世界に足を踏み入れてしまったんだ

今はそんな事頭にないだろう彼女は、崩れ落ちるようにその場にしゃがみこんでた
人を殺してしまったんだ、冷静になれるはずがない


こんな時ってどうしてあげたらいいんだろう・・・

そんな彼女を見て、無意識に考えてた事に自分自身びっくりする。
距離を置いて接するって決めたのは自分なのに・・・

でも、彼女を見てたらいつかの私がフラッシュバックされるんだ
―――― 組織に入る前の、わたし


「・・・・歩ける?」

いつもの口調で、
彼女にそっと、手を差し伸べながら ――


456 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:53
寮に帰るまでずっと手を繋いでた

始めは彼女が少しでも落ち着けるなら、と
でも今では私の方がその手の温もりに浸ってる事に気付き、苦笑いを浮かべる。

久しぶりに感じた、人のぬくもり・・・


それぞれの部屋に戻り、私は一息つく訳でもなく冷蔵庫から牛乳を取り出すと
1人分くらいの量をお鍋に入れ火にかける。

かおりがくれたホットミルク
本当においしかったから・・・これしか今の私に出来る事なんてないし


初めてあの子に会った瞬間から、どこかで感じてたのかもしれない
彼女は私と似てたんだ
だから余計に距離を置いてた
近くにいれば気も合うだろうし、仲良くもなれただろう
その事に気付いてたから離れてた
友達になったのに失うなんて、もう絶対に嫌だったから・・・

457 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:53

でも、みんながみんなかおりみたく死んじゃう訳じゃない
頭から決めつけてた私が間違ってたのかもしれない


本当は、かおりがいなくなってからずっと ―――笑って話しができる相手が欲しかったんだ



手にマグカップを持って隣りの部屋のドアをノックする。
中から返事が聞こえてきた。

「あ、ごとーだけど・・・」
私の声に、勢いよくドアが開かれた。
やはり1人になってから再び恐怖に押し潰されそうになったのか、その顔は今にも泣きそうだった。


「これ・・・少しは落ちつくだろうから」
最低限の言葉しか言えない自分を内心情けなく思いながらも、マグカップを彼女に渡す。
でもすぐに居心地が悪くなって、渡すとそのまま部屋へ戻った。

ドアを後ろ手で閉め、そのままそこへ凭れかかる。
「・・・・はぁ、柄にもなく緊張しちゃってるし」

458 名前:real love 投稿日:2003/10/10(金) 23:54
そんな事しても、向こうはどう思ってるかわかんないのに
初対面からずっと素っ気無い態度の私にいい印象なんて持ってるはずがない
しかも、さっきは勢い余って胸倉掴んで怒鳴っちゃったし・・・

今頃、飲まずにそのまま捨ててるかもしれない・・・・

「余計な事するんじゃなかったかなぁ・・・・・」


そんな事を考えてたら、ノックする音が直接体に響いてきた。
ドアの向こうにいるのは、きっと彼女だろう
ゆっくりドアを開けると、やはりそこにはさっき渡したマグカップを持った彼女の姿 ――


「これ、ありがとう。すごい・・・おいしかったよ」
そう言って初めて見せてくれた笑顔
その笑顔を見てると妙に恥ずかしくなってきて、照れ隠しに頭を掻く

「どういたしまして」

私も笑顔でそう答える。
考えたら・・・私も彼女に笑ったとこ見せるのはじめてかも


――― やっぱり、私達は似てるみたい








459 名前:pitom 投稿日:2003/10/11(土) 00:00
更新終了です
今回は本編中にあったシーンの( ´Д`)視点で。
毎度ながら遅くなってる上に、今仕事の方が忙しく
次の更新は月末くらいになる予定です・・・
嫌にならず読んでくださってる皆様
気長に待ってていただけると嬉しいです(^^;

>>446 京さん
レス、ありがとうございますです!
はい、いつのまにかこんな展開になっちゃいまして・・・
でも私自身、結末はハッピーなのが好きなんで!(w
460 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:43

   ◇   ◇   ◇


「ごっちん!ちょ・・・・部屋行くから待ってって言ってたでしょ!?なんで先行くんだよっ」
「・・・んぁ?あぁ、ごめん忘れてた」
「はぁー!?なにそれ」
「よしこがグズグズしてるからじゃん。ごとー、もうお腹すいて限界だったんだもん
 おとなしく部屋でなんか待ってられないよ」

息を切らしながら後ろから走ってくる彼女を軽くあしらいながら歩くペースを変えずに進む。
でも、それに悪意なんて微塵もなくて彼女も私の本意を理解していた。

つまり・・・簡単に言えばじゃれあってるようなもの
あの日を境に、気付けば彼女との距離はここまで近づいてた
私達は予想以上に気が合い、暇さえあれば部屋で話しこんだり今みたいに外に食べに行く事も多々あった。


461 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:44

「ほらぁー早く行くよっ!?」
「わかった・・・わかったからせめて歩こうよぉーごっちん朝から元気ありすぎ・・・」

まだ半分閉じかかってる目を擦りながら必死に私の後をついてくる彼女の後ろに回り込み背中を押してやる。
目の前にいるよしこを見ながら、ふと思った ―――

私達は指令が入ればお互い人が変わったかのように冷酷にならざるを得ない・・・
いつだったか、偶然街でよしこを見かけたことがあった。
声をかけようとしたんだけれど、任務遂行中だったのが即座にわかるくらい彼女の持つ空気があまりに冷たく重いものだったんだ。

初めて人を殺した、あの怯えた表情をしたよしこはもうそこにはいなかった
でも、それはよしこだけじゃなくて自分にも言える事・・・


あれから、もう何人殺したのだろう
指令を受ければ躊躇わず殺す ――それがいつのまにか当たり前になってた

平家さんから離れて、私には失うものがなくなった
でも・・・よしこと出会い今こうやってふざけあったり出来る事が1番楽しいって、素直にそう思えるんだ
この時間は失いたくないって・・・・


恋愛感情とかじゃなくて・・・吉澤ひとみって人間が大好きなんだと思う


462 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:44


けど、―――最近気になる事ができた

そのよしこの様子がおかしい
前は毎日のようにこうやってご飯食べに行ってたりしてたのに、今ではめっきり回数が減った
今日だってほんと久しぶりなんだよね

部屋に行っても、いつもどこかに行ってるみたいで鍵かかってるし
でも・・・

よしこの態度見てたらピンときた

――― いつかの私と同じなんだもん


普段1人でいる時、私に負けないくらい無表情なのに、頬が緩んだり眉間に皺よせたり、の繰り返し。
気になったら余計によしこに目がいっちゃって


463 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:45

見れば見るほど、その顔は誰かに恋、してる・・・

私は気づかないふりをしててもいいのかな
人を好きになるのに、この仕事ほど重荷になることはないから

それは私が1番よくわかってるから、同じ思いをよしこにはさせたくないって強く思うんだ
本気になる前に忠告するのも友情・・・
でも・・・

ずっと胸の中に残ってた
平家さんから去る事以外、他に方法はなかったのかって

――― 平家さんと居られる為ならこの組織から逃げる事だって何だってできたんじゃないかって
464 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:46

    ◇   ◇   ◇


「・・・・今日もか。なんか、ちょっとつまんないぞぉー」
する事がなくってベッドに寝転んだまま、独り言をわざと大きな声で言う

何分か前に隣りのドアが閉じる音が聞こえた。
今日もよしこは出かけたようで・・・

まぁ、今日は私も簡単な指令入ってたからすぐに支度をして出かけなきゃいけないんだけど。



仕事を終え寮に帰ってから、一応よしこの部屋をノックしたけど返事はなかった。
「・・・・まだ帰ってない」

仕方ないから自分の部屋に戻って、また暇な時間を過ごす。
それも限界があって、暇を持て余した私はベッドに倒れ込むと窓から入る心地いい風を楽しむ。

目を閉じ薄れゆく意識の中で、かすかに響く足音が耳に届いた。

465 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:46

「・・・・・ん?よしこかな・・」
しばらくすると案の定隣りの部屋のドアの開閉する音がした。
私は即座にベッドから起きあがり部屋を出ると、さっき閉じられたばかりのドアを2回ほど軽くノックした後ノブを回す。

ノブを引き部屋の中を見たと同時に、振り返ったよしこと目が合った。

「・・・ごっちん、いつも言ってるじゃん。うちが開けるまで待ってってさ」
彼女は次第に呆れた顔つきになり、ため息をつきながら一言呟く。

「んあ?・・・あぁーごめんごめん。だって部屋にいてもつまんないんだもん。
 ボーっとしてたら、よしこの足音が聞こえたからさ」

笑いながら答えたら、つられてよしこも笑ってた。
それから部屋へと促してくれ、紅茶を入れるからとキッチンへと向かう。


466 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:47

その姿を見ながら、なんとなく軽い気持ちで問いかけた

「そーいやさ、よしこ今日なんかいい事あったでしょ」
「は?なんでよ」

返ってきた返事はいつもの、少し素っ気無い口調での一言
私を見てくるその表情もいつもと変わりなかった。

ちょっとは反応するのかと思ったのに・・・

「足音がね、リズミカルに跳ねてたよ?・・・って言うのは冗談で、なんかさ表情違うんだもん、いつもと。」
この言葉に対しても何も話してくれないのなら、無理に問いただす事はしない ―――ある種の賭けみたいなもの


「一緒だよ。何もないよ、いつもと変わらない」
紅茶の入ったマグカップを2つ手に持ち、笑いながら戻ってきたよしこを見て、少しだけ胸が苦しくなった

話してくれない、か・・・

「そっか。ごとーの気のせいかな」
内心では口に出した事とは正反対の事を考えながら、差し出されたカップを受け取ると、ゆっくりそれに口つける


今は、よしこから話してくれるのを待つしかないかな

467 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:47

でも、それはそんなに遠い日の事でもなかった。


その日もいつものようにトレーニングルームへと向かうと、少し離れた壁際に凭れて座ってるよしこの姿が見えた。
遠くからでもわかるくらい、その表情には覇気がない。

「よしこぉ〜」
そんな様子を気にかけながら、よしこの元へと駆け寄り隣りに腰掛ける。


「朝から元気だね」
「ごとーは、いつでも元気だよぉ」
この何気ない会話でよしこの表情が少し和らいだのを感じ取れた。

そのまましばらく2人の間に会話は生まれなかったのだけれど、ふいによしこが話し始めた。
話しの内容は予想してた通りのものだった

やっぱり ――よしこにも大切に想う人が現れてたんだ

468 名前:real love 投稿日:2003/11/02(日) 18:48

表情を見てると本人は気付いてないのかもしれないけど、どれだけその子の事を大切に想ってるのかが手に取るように伝わってくる。
きっと、私が平家さんを想う気持ちと同じくらい・・・


すべて話そう

そう思い、平家さんの事を含め自分の考えを全部よしこに打ち明けた。
私にはよしこの気持ちを止める権利はないし・・・もとより本気である事を知った今止める気は全くない



この仕事から逃げるなら、いくらでも力は貸してあげる



469 名前:pitom 投稿日:2003/11/02(日) 18:50
更新終了です
予定以上に遅れたのに加え、かなりの少量で・・・m(_ _)m;;
ほんと申し訳ないですっっ(平謝)
470 名前:ありさんマーク 投稿日:2003/11/04(火) 17:54
私も初めてかきました。
471 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:30

話し終えた後、よしこはゆっくりと腰を上げトレーニングルームを後にする。
その表情は何か吹っ切れたような・・・


後ろ姿を見送りながら、私はふぅっと一息吐くと辺りを見回した。
視線の先には、まさかこんな話しをしてたなんて思うはずもなく、黙々とトレーニングしてる人の姿がある。

「ここから、だよね」

誰に言う訳でもなく呟くと、手元にあったペットボトルの水を飲み干した。


今日は指令は入ってなかったし、部屋に戻った私は何をするでもなくベッドに腰掛ける
頭にあるのは、さっき出かけていったよしこの事ばかり・・・

よしこの事はもう他人事と考えられない

――― どうか・・・どうかうまくいきますように


472 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:31

しばらくして、廊下から足音が聞こえてきた

「帰ってきたかな・・・」
隣りのドアが開く音を聞き、すぐさま私も行こうとドアノブに手をかけたのだけれど
思わず回すのを躊躇した。

結果がもし悪い方向だったら ――

そんな風に考えちゃったら、すぐ行くのも気が引けてきた
どうしよう、よしこから来てくれるの待った方がいいのかな・・・

いろんな事が頭の中をグルグル回ってる間、しばらくその場で固まってしまってた

けど・・・例えそうだったとしてもその時はちゃんと励ますのが友達ってもんだし

そう思い直しドアを開けると、いつものようによしこの部屋のドアをノックした後すぐに開けようとしたけれど
それはさすがにまずいと思って、向こうから開けてくれるのを待ってた。

473 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:31

「・・・はい」
数秒後、ドアの向こうから声がした。
「あ、よしこ?ごとーだけど」

ゆっくりとドアが開かれる
よしこの表情は見る限りいつもと変わらない

でも部屋に入って今まで心の中にあった不安は一気に消え去った。
そう、部屋の隅に荷造りされたカバンがあったから

その事実に思わず顔がにやけてしまった
「・・・・うまくいったんだ?」
「ん、まぁ・・・」

「よかったじゃーーーんっ!!!」
照れながらそう答えるよしこを思いきり抱きしめた



474 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:32


そうなれば行動に移すのも早い方がいいって事で、今夜行く事になったらしい

いろいろ話してく中で、やはりよしこが気にしてるのは組織の事。
この話しを聞いてから私だって何も考えなかった訳ではない
何年もここにいて、この組織がどんな所なのかも嫌ってくらいにわかってるつもり

よしこを逃がす事が私に対してどんな事が待ち受けてるのか・・・
恐くないって言ったら嘘になるけど、でもそれ以上によしこに幸せになってもらいたいって、素直にそう思える


「そんなこと・・・気にしなくていいよ。心配しなくても、よしこの事は絶対バラさない。
 よしこがやっと前へ向いて進もうとしてるんだもん・・・なんとしてでもここから逃がしてあげる」
 
泣きそうな顔してるよしこを見てたら私も涙がでそうになった
必死に笑いながらピースなんかして誤魔化した。


「その代わり、約束してもらいたい事があるんだ」
それは ――私が出来なかった事

475 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:33

「約束?」
「うん ――絶対その子のこと守るって、幸せにするって約束して」

「・・・約束する。何があっても彼女を守りきる ――命にかけてでも」


そう言うよしこの目を見るだけで、どれだけの強い意志があるかすぐにわかった

今のよしこなら大丈夫、絶対・・・


「あれ?幸せにするって約束は〜?」
しんみりした雰囲気は苦手だし、いつもの調子に戻したくて思い出したかのように付け加えた

「・・・あぁ、それはうちが傍にいる事で既に幸せにしてあげられてるから」
私の真意がわかったのか、それとも照れ隠しなのか、そんな風に返してきた事でいつもの調子が戻ってきた


「うっわぁーー!言われちゃったよぉ。なんかむかつくぅー」
「ちょ、ちょっとぉ!ごっちん、くすぐるのはダメだってぇーー!!ギャハハ」

476 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:33

今までのように顔を合わせられなくなるのは寂しいけど・・・
絶対また会える


しっかりとお互いの手を握りしめ、いつかの再会を約束する。


「じゃ、・・・またね」



よしこの部屋を後にし、その時を静かに待った。
気を遣わせちゃいけないから部屋の電気こそ消してたのだけれど・・・

時計が23時30分を指そうとしてる時、かすかにドアが閉まる音が聞こえた。


「・・・・頑張れ」

小さく、一言だけそう呟いた。


477 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:34

    ◇   ◇   ◇



・・・ドン、ドンッ!ドンドンッ!!

けたたましくドアを叩く音 ―――

「・・・・来た、か」

昨夜から一睡もしていない
目を閉じても今日の事を考えると落ち着けなくって無意味に部屋を歩いたり・・・

ゆっくりベッドから起きあがり、ドアの方へ歩み寄る。

やっぱり、正直恐い
最悪、死も覚悟してるはずなのに・・・ノブを掴む手が震える

鍵を外すと同時に、向こうからドアを開けてきた。

「・・・吉澤来てないか?」
空気だけで圧倒されるその男に、ただ首を横に振るしか出来なかった。

「まぁ、いい・・・ちょっと来てもらうぞ」



478 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:34


連れられて行った場所は、予想してた通り中澤さんの部屋 ――
何度も入った事のある部屋、それなのに今日は今までに感じた事のないくらい張り詰めた空気が漂ってた


しばらく続く沈黙
時計の針の進む音だけが嫌味なくらいに耳に届く


――― ゴクッ
唾を飲むのと同時に中澤さんの口が開いた

「・・・・率直に聞くわ。吉澤の行き先知らんか?」
抑揚のない話し方が余計に恐怖を与える。

「・・・・・知りま、せん」
普通にしようとすればするほど肩に力が入り、少しだけ上擦った声になってしまう


「何も、か?あんたと吉澤、えらい仲良かったみたいやし・・・・なんか聞いてる事あったら教えてもらいたいんやけどなぁ」

479 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:35

相変わらずの口調に、私の緊張感は更に増していた。
けど、ここで負ける訳にはいかない・・・


「・・・・・何も、聞いてません」



そうか ――・・・

そう、小さく呟くと傍に居た男に視線を向け、何かの合図を送った。

次の瞬間 ――目の前が真っ白になった



「がはっ・・・・・・・」
あっという間の出来事で、一体何が起こったのか自分自身わからなかった
――― ただひとつ、男の拳がめり込んだ腹部の激しい痛みを除いて


480 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:35

痛みに耐えきれず、そのまま床に崩れ落ちた
うまく出来ない呼吸を、やっとの思いでゆっくり繰り返しながら、その時が来た事をようやく理解する。


「・・・・なんか知っとるやろ?言ってもらえんかったら、こっちもいろいろ困るんよ・・・
 あんたも知っての通り、組織から逃げたヤツは見つけ出して殺す ――裏切りもんやからな

 それを協力するヤツも、当然それなりの覚悟はしといてもらわんと・・・わかるか?後藤・・・」


中澤さんを見上げてた視界が遮られる
男の足が思いきり私の顔を蹴り上げた・・・・


「・・・ぐあっ・・・はぁっ・・・・」
後ろに蹴飛ばされ、起きあがる気力さえ失いかけてた
口いっぱいに広がる鉄の味だけが無理矢理現実を思い出させる

朦朧とする意識の中で、中澤さんの声だけがはっきりと耳に届く


481 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:36

「正直に話しや・・・私かて何年もここに居るあんたに対して情がない訳やない
 好きでこんな事やらしてるんやないんよ?

 けど、な・・・仕方ないねん、ここの事表ざたになったら私だけじゃない、あんたも終わりや

 ――― 言ってる事、わかるよな?」

中澤さんは私の傍でしゃがむと、諭すような口調でゆっくりと話す。


言ってる意味がわからない訳じゃない
でも・・・これだけは譲れない

「・・・っくぅ・・・・た、とえ・・知ってたとして、も・・・・絶対に言わ・・・ない」

―――― 約束、したから



482 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:37

「・・・・・・・わかった」

スッと立ち上がり、机の引き出しから何かを取り出した。
そして再び戻ってくると、それを私の方へ向け構える


それは ―――私も何度も手にしたのと同じ、拳銃


「そこまで決めてるんやったら何言っても無理、か・・・・」

冷たい瞳・・・
振りなんかじゃない、ホンキだ

思うように動けず、ただじっと向けられた銃口を見つめる


わたし、死ぬのかな・・・


そう思った瞬間、いろんな事が頭の中を駆け巡る

483 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:37

結果的に手を血で染めてしまった・・・
でも、この組織に入った事で大切に思える人に出会えた
あのまま荒れた日々を送ってたら、人生に見切りをつけてもっと早くに私はこの世からいなくなってたかもしれない

かおりと、よしこと・・・


「・・・・・・平家さん」

最後に、もう1度顔見たかったな
会って・・・ちゃんと謝りたかった

ごめんなさいって ――

それから、本当に愛してた・・・誰よりも、あなたが好きだったって


ゆっくり目を閉じる
目の前にあなたの笑顔を思い浮かべてたら、死ぬ事も恐くない・・・


484 名前:real love 投稿日:2003/11/26(水) 23:38

――― パンッ


「・・・・・チッ」
舌打をした後、足早に部屋を後にする
慌てて男も中澤さんの後を追いかけた


足音が遠くなった頃、ゆっくり手で右頬を触れた
ヒリヒリと焼けつくような痛み・・・

直接は見えないのだけれど、多分弾がかすったのだろう
でも、これって・・・助かった、の?


体中が激しい痛みに襲われながら、やっとの思いで体を起こす
誰もいなくなったこの部屋で、ずっと支配されてた緊張感から解き放たれた

「・・・・はぁ」

けれど、この安心も一瞬の事 ――
あとは、よしこにかかってる
行き先は本当に聞いてなかった為、安全を確認する事も出来ない



これからは、ここに居て何らかの情報が入るのを待つだけ・・・

485 名前:pitom 投稿日:2003/11/26(水) 23:46
更新終了です
毎回同じ事書いてますが、遅くなりました・・・m(_ _)m;;

>>470 ありさんマークさん
レスありがとうございますっ
えっと・・・「ありさんマーク」って小説を書いたって事ですかね?
小説書くのってホント思った以上に難しいんですが
お互い頑張りましょうねっ
486 名前: 投稿日:2003/11/29(土) 00:28
待ってました!!
読んでてドキドキしました。
死なないって分かってたけど、ごっちんのことめちゃめちゃ心配した。
487 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:03

    ◇   ◇   ◇


――― あれから

どれくらいの日々が過ぎたんだろう


相変わらずの、毎日
よしこがいなくなって変わった事といえば・・・また笑わなくなった事、くらいかな
別に感情を閉じ込めたとかじゃなくて、よしこに接してたように振舞える相手がいないから


まだ、よしこが見つかったって噂は耳にしない
そんなに簡単に捕まるようなヤツじゃないし、捕まってもらっても困る


「・・・・今頃どこで何してんだか」
少し赤みがかった、夕焼けの空を見上げる


この空の下のどこかにいるんだから ―――

最後に見せた、あの笑顔を思い出しながら寮へと再び歩き始めた


488 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:03

その数日後・・・・・

少しだけ高をくくってた私を、いとも簡単にどん底へと突き落とす出来事がついに起きてしまった

いつものようにトレーニングしてる私の耳に、2人の女のひそひそ声が届く。
意識がそこにいってた訳ではないのだけれど、その内容に動きが止まった

「・・・ねぇ、吉澤っていたじゃん?」
「あぁ、まだ見つかってないんでしょ?」
「それがさぁ、とうとう見つかったらしくて!その場で ―――」

銃を撃つ仕草をし掛けた女の手首を掴み、動きを無理矢理止める

「な、なによ・・・!」
「・・・・・その話、マジ?」
女は初めこそ強気で睨みつけてきたものの、次第に手首の痛みに顔を歪めだした

「ちょ、・・・もう離してよ!本当よ、なんなら中澤さんに直接聞いてみれば!」

その言葉に、掴んでた手を離し部屋を後にする。
向かった先は ――― もちろん

489 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:04

―――コンコンッ

「失礼します」
「・・・・・あ?なんや、あんたか。
 ははっ・・・その顔からして、早いなぁーもう話し回ってるんか・・・・・残念やったな、後藤

 ゲームオーバーや」

中澤さんの、その言葉に・・・その表情に
私のほんの少しだけ抱いてた希望も、粉々に打ち砕かれた。


「う、そ・・・・嘘だ、そんなの」
視界が歪む
中澤さんの、少し嫌味を含んだ笑い顔も見えなくなってきた・・・

絶望感にうなだれようとした、その時だった

「・・・・・と、言いたい所なんやけどなぁー」
ボソッと呟く、その言葉の意味がわからず再び中澤さんの方へと顔を上げる。

490 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:04

「・・・・まだ生きとるよ、吉澤は」
「・・・・・・・・えっ」
予想もしてなかった言葉の続きに、一瞬パニックを起こす

生き、て・・・・る?

「悪運が強いんか、なんなんか・・・・違うわ、命令下す人選ミスか・・ったく、情けない」
独り言のように呟く中澤さんが、未だ内容を掴めてない私を見て苦笑いを浮かべながら、もう1度口を開く

「せやから、吉澤は死んどらんよ・・・多分・・・まだ、どこかで生きてる
 撃たれたんは間違いないけどな、とどめ刺す前に逃げたみたいやわ・・・1発で済ませればいいもんを」

カチカチと、なかなか火のつかないライターにも苛立たせながらそう言った。


あ・・・・

「中澤さん・・・・お願いです

 もう、見逃してあげてくれませんか?」


その言葉に、中澤さんはゆっくりと視線をこちらに向ける

491 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:05

「もう・・・いいじゃないですか
 ・・・よしこは、絶対に組織の事なんてばらしませんから

 お願いします・・・・お願いしま、す・・・・っく・・・」

必死に堪えてた涙が、頭を下げることによって何度も床に染みを作る
部屋にしばらくの間、沈黙が続く

タバコの煙をゆっくり吐き出す音がその沈黙を破ると同時に、中澤さんが話し始めた


「・・・・後藤の気持ちもわからんでもないんやけど、な」
――― 悪いけど、決まりやから・・・例外はない


じっと床を見つめたまま、中澤さんの言葉を頭の中で繰り返す

決まりって何だよ・・・・
今まで文句1つ言わずに従ってきたヤツの事さえ信じられないんだ ―――


「・・・・・・・わかりました」

一言残し、中澤さんに背を向ける
部屋を出るまで、ずっと悔しくて下唇を噛んでた


492 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:06


くそっ ・・・・
私に出来る事なんて ―――

どこにいるのかも、何もわからない

親友が苦しんでるのに


とことん無力な自分に嫌気がさす


よしこ・・・・・
絶対、生きててよ



その日の夕方、よしこを撃った男が戻って早々殺された事を知る ――――




    
493 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:06

    ◇   ◇   ◇


あれ以来、よしこの情報は何1つ入ってこなかった

こうしてる間に、また次の手下を送ってるかもしれない
焦り、不安、苛立ち・・・・

何をしても手につかない、指令を受けてもミスが目立つようになってた


そんなある日 ――


中澤さんに呼び出される
部屋へ入ると、いつものようにパソコンに向かって座ってる姿が目に入る。

「・・・・あの」
いつまでたっても、こちらを向く気配がない事に疑問を感じ声をかけた。
それでも中澤さんは手を止めない
そんな様子に苛立ち、さっきよりも口調を強めて声をかける。

494 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:07

「あのっ!中澤さん、用件は何でしょうか」

――― パン
最後のキーを叩きつけるように打つと、机の上に置いてあった封筒を手に取り、こちらへと歩いてきた。



「本当はあんた宛てやったんやけど、悪いが読まさせてもらった

 ・・・・・・・吉澤が戻ってくるって」


「えっ・・・」
言うと同時に差し出された封筒を受け取ると、ゆっくり中の便箋を取り出し目を通す。


最後の行を読み終えた後、自然と涙が溢れてきた。

よかった・・・・無事だったんだ


495 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:08

だが、ホッとしたのも束の間 ――
中澤さんが言った一言に愕然とする

「今日明日には来るんやろなぁー・・・また探しに行く手間が省けたっちゅう事か」

「まだ・・・、まだ許してもらえないんですか?」
中澤さんの言葉は、そうゆう事を意味するんだ。


「・・・・後藤、あんたも変わったなぁ
 拾ってきた頃に比べたら、えらい変わり様やわ・・・・ここまで人の為に必死になれるなんて、な

 何が後藤をここまで変えたん?」


「・・・・・・これ、って限定はできないけど

 きっかけは ―――・・・うん、中澤さんです。
 ここに来てかおりやよしこに出会えて、人を信じる事ができた

 ――― 人を好きになる事もできた

 でも、それも全て中澤さんが声をかけてくれたから・・・・
 中澤さんに出会ってなかったら、今の自分はいないし・・・・今、生きてたかどうかもわからない

 だから、中澤さんには本当に感謝してます
 
 きっと、よしこも同じ気持ちだと思いますよ
 じゃないと何よりも危険な、ここに戻ってくる事なんて絶対にしないと思う

 どうしても許してもらいたいから・・・・だから、戻ってくるんです」

496 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:09

「・・・・・信じる、ねぇ

 私にも、人を信じる心がなかった訳ではないんよ?
 けどな・・・この仕事始めた頃は、裏切られる事の繰り返しやったわ
 
 せやから私は人を信じないって決めた ―――信じんかったら裏切られる事もないしね


 でも、歳も重ねて見極める目も多少は付いた事やし・・・今のあんた見てたら、もう1回信じてみてもええかもな」


ここに来て初めて見た・・・中澤さんの、こんな穏やかな笑い顔


「・・・え、じゃあ・・・・よしこの事、許してもらえるんですか?」

「・・・・ちゃんとケリはつけてもらうけどな?」
最後はビシッと言い放つ所は、前と変わらないんだけど・・・
でも、いい方向へ向かってる事に胸を撫で下ろす。


それと同時に、手紙に書いてあった1行を思い出した



「・・・・・あ、中澤さん。もう1つ、お願いがあるんです」


497 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:09

翌日 ―――

手紙にあった通り、よしこが戻ってきた。
部屋に居た私に同じ階の子が知らせに来たんだ
よしこは、着いて早々中澤さんの部屋に向かったらしい

「・・・・そっか」
「?行かないの?外で待ってたらいいのに」

「んー・・・・」
その言葉に曖昧に返す。


数十分後、私は廊下に出てちょうど入り口が見える位置の窓から外を見てた。

「そろそろ出てくる頃かな・・・・・あ、」
視線の先には4ヶ月前出ていった頃に比べ、少しばかり髪が伸びた親友の姿と
その隣りにしっかり並んで歩いてるロングヘアーの女の子の姿 ――


「あの子が梨華ちゃん、なのかな。・・・よかった、無事終わったんだね
 ごめんね、あんな嘘ついちゃって・・・・会いたいって言ってくれてたのに」

498 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:10
「・・・ほんまにこれでよかったんか?」
いつのまにか後ろに立ってた中澤さんが問うてきた。

「すみませんでした・・・無理言っちゃって
 けど、この世界から抜けたよしこの為には、もう会っちゃいけないって思うから

 あと・・・こんな顔見せらんないですよ」

笑いながら、そう答える
そう ――私の右頬には今でも弾丸の掠った痕が浅黒く残ってる


「そうか・・・・あんたは、行かんでええんか?」
言ってる意味が掴めず首を傾げる。

「・・・・あんたにもおるんやろ?大事に想う人が ――今でも」
ずっと心の中に、おるんやろ?

「あ・・・・・・」


499 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:11

「―――― 行ってええよ、待ってくれてるんやないん?」

「どうでしょう・・・何も言わず姿消しちゃったから。忘れられてるかもしれないし・・・ははっ」
わざと自嘲する言葉で自分を責める

「けど・・・・あんたの中では、まだ終わってないよな?
 
 銃を向けた時のあんたの顔 ――あん時、その人の事思い出してたんやろ・・・
 じゃないと死ぬかもしれんって時にあんな表情できひんしな」

確信を得た中澤さんの言葉に動揺を隠せないでいると、近寄り私の頭にポンと手をのせ話し続ける

「この仕事、もうやりたくないんなら・・・それでもかまんから、な?

 そやなぁー・・・後藤の場合は、この傷で帳消しにしたるわっ」


500 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:11

ペシぺシと軽く右頬を叩きながら言ってくれたその言葉に、思わず涙が溢れる

「・・・・・いいん、ですか?」

「あぁ、うまくいくとええな。・・・まぁ、ダメやったらいつでも戻ってくればええし、あははっ
 ・・・ほら、もう泣くなや。」
涙を拭ってくれるその手は、本当に温かかった


「ありがとうございました・・・」
深く頭を下げ、私はすぐに寮を出た ―――ずっと部屋で眠ってた自転車にまたがり、行き先はもちろん・・・



息を乱しながら着いたそこは、何1つ変わってない風景で


私はそっと店の中を覗き込む ―――その時だった

501 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:12

「・・・・・ごっちん?」
ふいにかけられた言葉に、体が固まる
声の主なんて、振り返らなくてもわかる・・・何があっても忘れる事の出来ない、愛しいあの人の声

「ねぇ・・・ごっちんやろ?こっち向いて・・・顔見せてや」
既に涙声になってる事に気付き、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる


「・・・・・忘れてなかったんだ」
「当たり前やん、なんで忘れられるんよ・・」
「・・・・・怒ってない、の?何も言わずにさよならしたのに・・・」
「私はさよならした覚えないから・・・」

「・・・っく・・・・また、抱きしめて・・・・いいです、か?平家さん・・・」
ゆっくり、ゆっくりと振り返る


「うん・・・抱きしめて?」


ずっと逢いたくて仕方なかった
           ―――やっと逢えた

502 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:13

「平家さんっ・・・・・ごめん、本当にごめんなさい・・・」
抱きしめるその体が折れてしまうんじゃないかってくらい、強く抱きしめた
彼女も同じように抱きしめてくれた。


しばらく余韻に浸りながら、ポツリポツリと話し始める

「平家さん・・・・私、まだ平家さんに言ってない事がある
 私、本当はある組織に入ってて・・・実は人殺し ―――」

「ごっちんっ!・・・・・もう、それ以上言わんでええから
 
 ――― 知ってた、から・・・そうゆう事やってるって事」

思ってもみない言葉に唖然とする。

・・・・知って、た?

「・・・・な、んで?いつから知ってた、の・・・」
「いつだったか、ごっちんの体から火薬の匂いした時に、もしかしてって・・・・」

503 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:13
「それなのに・・・好きでいてくれたの?こんな私を・・・」
涙がどんどん溢れてくる
もっと平家さんの顔見たいのに、涙がそうさせてくれない

「その事と、私がごっちん好きでいる事とは関係ないから・・・
 けど、正直辞めて欲しかったけど、な・・・毎日不安で、ごっちんが傍におってくれてる間だけは心から安心できた

 ごっちんが来てくれんようになってから、悪い方悪い方にしか考えられなくて・・・
 でも、ずっと信じてた・・・いつか絶対帰ってきてくれるって

 よかった・・・ほんと、ありがとう。帰ってきてくれて ―――ありがとう」


「仕事、辞めたから・・・だから、もう心配しなくていい、から・・・今までごめんなさい」

「もう、ええよ・・こうやってまた来てくれたんだから。だからもう泣かんといて?な?」


その細い腕に抱きしめられながら、自分の居場所をやっと見つけた気がした。







504 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:14




「・・・平家さん、また痩せちゃった?」

「ごっちんも・・・あかんやん、女の子やのに顔にまで傷作ったら」

「んー・・・これは名誉の負傷ってやつだよ」

「名誉の負傷・・?」

「そっ!ごとーの大事な友達守った、自慢の傷だよっ」

「そっか・・・・なぁ、ごっちん?もうおらんならんといてな」

「・・・うん、もう平家さんおいて、どこにも行かないから・・・ごとーね、決めてたの」

「何を?」

「もし、まだ平家さんが待っててくれてるようなら・・・もう2度と離さないって」

「絶対やな?」

「うん、絶対!なんなら指きりしてもいいよ?」

「ははっ じゃあ〜」

「「ゆびきりげんまん ウソついたら 針千本 のーます  指きったっ!」」




「大好きやで、ごっちん」

「ごとーも大好き!!!」




505 名前:real love 投稿日:2003/12/15(月) 16:15

            

              ――― Fin ―――
506 名前:pitom 投稿日:2003/12/15(月) 16:19
今回でwing番外編「real love」終了です!

本当に更新速度落ちまくりだったんですが
無事こっちの方も完結できてよかったです(^^;;
予想以上に長くなったんだけど、本編で書けなかった部分とかも
書けて、文章力はまだまだですが(w満足してますっ

今までお付き合いくれた皆様
本当にありがとうございましたっっm(_ _)m
507 名前:pitom 投稿日:2003/12/15(月) 16:23
>>486 京さん
いつもレスありがとうございましたっ!!
流れ的には本編でわかってるんですが、そう言ってもらえると
番外編書いてよかったな、と♪
最終話も予告通りハッピーエンドで!!(w


えっと、番外編も終わり前々から言ってたいしよし続編も
また更新遅くなるかもですが、この続きに書かさせてもらいたいと思ってます!
よかったら、そちらの方も読んでいただければ幸いデスっm(_ _)m
508 名前:ヤグヤグ 投稿日:2003/12/16(火) 23:41
ちょうどリアルみっちゃん復活の日に、この物語を読めてハッピー!
いしよし続編、楽しみに待ってます
509 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 14:29
よかった。ごっちんも平家さんとハッピーエンドで終われて。
番外編楽しみにしてます。
510 名前:pitom 投稿日:2003/12/24(水) 23:32
ずっと前に書いてたものなのですが
時期的にちょうどいいかなと思い、載せさせていただきます!
元ネタあり(w 歌詞のまんまです・・・(^^;
タンポポの中でも好きな曲で、聞けば聞くほどいしよしなので
小説にさせていただきましたぁー

511 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:33

ボーっとテレビを見てた。
ふと目に入ったカレンダー  ――今日の日付の欄を見ると ”H PM6時〜”

視線を時計に移すと、針は7時過ぎを示してる
「・・・ひとみちゃんバイト中かぁ」


ひとみちゃんは、バイト先で知り合った ――私の大好きなヒト
先に働いてたひとみちゃんに、いろいろ教わってくうちに仲良くなっていって。
今日みたいな、雪の降る夜に・・告白されたんだよね

――― 好きなんだ、梨華ちゃん


ひとみちゃんの事を思い出した途端、声が聞きたくなってきた。
「んー、でも・・・バイト中だし、電話なんてしたら迷惑だよね・・・」

でもっ!! やっぱ聞きたいっ!!!


512 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:33

ケータイを手に取ると、リダイヤルボタンを押す。
検索するより早いって事は、自分が1番よくわかってるから

通話ボタンを押して、耳元へ持っていく。
ひとみちゃんに電話するのなんて数え切れないくらいなのに、毎回私の心臓はどんどん高鳴ってく。

プルルル・・・プルルル・・・・

出ない
「忙しいのかなぁー・・・」
諦めて切ろうとした瞬間 ―――

『・・・梨華ちゃん?』
私は慌てて、ケータイを耳元へ戻す。

「ひとみちゃん?ごめん、忙しかったよねっ」
『んー、ちょっとバタバタしてて〜 どした?なんかあった??』

声が聞きたくなって、なんて言ったら呆れられるかな・・
そんな事を考えてると、電話の向こうからひとみちゃんを呼ぶ声。
『やばっ!ごめん、梨華ちゃん!また後で掛け直すからっ!!』
そう言って、一方的に切られた・・

513 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:34
ボー然とケータイを見つめながら、いきなりかけた私が悪い!と考えながらも
やっぱり会いたいなぁー・・なんて、更に欲が出てくる自分が嫌にもなってくる。

ベットに置いてある、ピンクのプーさん ―――ひとみちゃんからのプレゼント
それを手に取って、ギュっと抱きしめる。
プーさんのほっぺをプニプニしてみたり・・・

「はぁ・・・いつまでも、こうしてても仕方ないか〜」
ひとみちゃんのバイトが終わるのは、早くても11時過ぎ。
今日は、もう来れないよね
「お風呂でも入ろーっと」

パジャマを用意して、お風呂場へと向かう。
その時、チャイムが鳴った

ん?今ごろ、誰だろ・・・

「はーい、どちら様ですか?」
相手確認してからじゃないと鍵開けちゃダメって、ひとみちゃんから注意されてる。
特に夜だしね

514 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:35

「わ・・・わたしぃー。梨華ちゃん開けてぇーー」

・・・ひとみちゃん!??なんでっ!!
私は、すぐにドアを開ける。そこには、会いたくてしょーがなかった愛しいひとみちゃん
・・が、頭にうっすら雪を積もらせて、息を切らせて立ってた。

「な、なんか・・・気になっ・・てさぁー。」
ふぅ・・っと、一呼吸置いて話し続ける。
「一方的に電話切っちゃったし。」
「でも、バイト中なのに大丈夫なの!?」
そうだ、バイト中に抜けるなんて、あの店長が許してくれるはずがない!

「んーっと。イタ、イタタタ・・・ちょっ、お腹いたぁー・・・・」
お腹を押さえてそう言いながら、ひとみちゃんはその場にうずくまる。

「え?ちょっと、大丈夫!???」
うずくまったままのひとみちゃんに駆け寄ると、例えれば・・まさにイタズラっ子の顔
ニターって笑いながら、私の顔を見上げる。

515 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:35

「って言って、抜けてきた。だから、あんま時間ないんだけどね」
ダッシュで帰らないと、店長に殺されるぅー・・、なんて冗談交じりに言ってるけど
電話よりも、わざわざこうやって会いに来てくれたことに感動して・・・

「あ・・れ?梨華ちゃん、泣いてる?ごめん、お腹痛いなんてウソ言っ・・・・」
そう言いかけたひとみちゃんを、気がついたらギュって抱きしめてた。
「そんなんじゃなくて・・・来てくれてありがとね」

すっごい会いたかったの・・・

聞こえるか聞こえないか、の小さな声で言った言葉を、ひとみちゃんはちゃんと聞いててくれて
「ん、私も会いたかったよ」
そう言いながら、ひとみちゃんは鼻を私の首筋に擦りつける
「ひとみちゃんの鼻、すっごく冷たい。・・あっ、雪降ってるんだよね!」
バイトを抜けて来てるもんだから、着てる服も薄着だった。

516 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:36

「大丈夫・・?帰り、寒くない?コート着てく??」
「ん、だいじょーぶ。走ってきたから、体もあったまってきたし!
 てか、コートなんて着て帰ったらバレバレじゃん」
部屋の温かさで、溶けかかった頭の雪を払いながら、
そろそろ戻らなきゃ・・・と、抱きしめてた腕を緩めた。

ひとみちゃんの体温が消えてくにつれて、また寂しさが増してきた。
その気持ちが表情に出てたのか、クスッと笑いながら
私の頬に手を添えて、そっとキスしてくれた。
ひとみちゃんのその手は、ちょっと冷たかったけど心地のいい感触・・・

「・・じゃ、またね」
「うん、気をつけて。・・・バイト終わる頃に、もう1回電話しても・・いいかな?」

もちろん
言葉には出さなかったけど、笑顔で頷いてくれた。


    
517 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:36

    ◇   ◇   ◇


「・・・ひとみちゃん、昨日抜けてきたのバレなかったの??」
店長の目を見計らって、小声でひとみちゃんに話しかける。

「ん?だいじょーぶ。抜けたって言っても、15分くらいだったし〜」
― 吉澤ひとみ、梨華ちゃんのためなら台風来てても会いに行きまっす!

胸を張って、ちょっぴりクサイ台詞を言ってるひとみちゃんの頬が
そっと後ろから近づいてきた人の手によってプニーっと摘まれる。

「ほえ・・??られぇー??」
頬を摘まれた事で、うまくしゃべれないのに加えて後ろに振り向く事もできず
ジタバタしてるひとみちゃん。
でも、摘んでる張本人を私からは丸見えで、それでいて絶対逆らう事のできない人 ――

「中澤店長ぉー・・そのくらいにして・・・あげてくだ・・・さい」
始めから小さかった声は、更に小さくなっていく。
「あぁ〜?てか、おまえらなぁー、仲ええんはかまんけどバイト中までイチャつくなよ」

518 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:37

金髪にグレーのカラコンとゆう、一見水商売系?な外見のこの女性こそが、
この店の店長、中澤裕子さん。
関西弁なのが、初め恐そうってイメージだったんだけど
言葉の裏に、店長の優しさが含まれてて、この店で働けてよかったって心から思える。

「いひゃついてなんかないれすよぉー・・・」
あ・・ひとみちゃん、まだ摘まれたままだったのね
「ウチかて矢口とイチャイチャしたいっちゅうねんっ!!・・・って話しずれとるわ。
 ほい、来月のシフト表な。ちゃんと確認しといてや〜」
そう言って、紙を渡してくれた。

「「はーい」」、と返事した後、2人でシフト表を覗きこむ。
「あ・・・れ??なんだこれぇー!!梨華ちゃんと、ほとんど別じゃんっ!
 まさか・・店長の陰謀!??」
なんて、冗談で言ったのが運悪く地獄耳の店長に・・・

「吉澤ぁーー!!全部聞こえてんでぇー!お前、今日残って掃除なっ」

519 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:38

「えぇーーー!!ごめんなさぁーい・・・・それだけはぁー・・・・・・・・・」
がっくりとうな垂れるひとみちゃんの頭を撫でてあげてると
ひとみちゃんの頬が、少し紅い事に気がついた。

「ひとみちゃん、顔紅いよ?熱あるんじゃない??」
ちょっと高い位置にある頬に触れると、少しばかりあったかいのが伝わってくる。

「ん?あぁー、ちょっと喉痛いくらい。だいじょーぶだよ、梨華ちゃん」
今度はひとみちゃんが私の頭をポンポンっと撫でてくれる。


「せやからイチャつくなゆーてんやろ!!!
             ・・・・矢口ぃーなんで今日休みやねん」


520 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:38

    ◇   ◇   ◇


・・・・・おかしい。
同じ時間にシフトが入ってない時は、終わったら電話するって決めてて
昨日もバイト終わってから電話したのに出てくれないし、
朝、メール送っても返事がこない・・・・

・・・・・なんで?
こんなの付き合い出してから初めてだし・・
考えてたら、いつものネガティブ思考になって、どんどん悪い方向に考えちゃって・・
なんか私、怒らせる事しちゃったのかな・・・

えーん・・・ひとみちゃぁーーん・・・

今日は朝からバイトで、ひとみちゃんも同じ時間帯。
とにかく行かなきゃ・・・!!!


急いで支度して、いつもより早い時間に店に着く。
スタッフルームに行っても、当然誰もいなくて ―――
もう1回メール送ってみようかな、って思ってる時に入り口が開き、

521 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:39

「あ、矢口さん!おはようございます」
入ってきたのは、ひとみちゃんと同じ時期に入った先輩の矢口真里さん。
背は私より低いんだけど、すっごい明るい人で・・・中澤店長と付き合ってたりもする。
店長があーだから、当然公認の仲ってヤツ。

「あれ?石川、今日はやけに早いじゃーん!えらいぞぉー!!」
そう言いながら、私の頭を撫でてくれる ――背伸びをして

「あのー、今日ひとみちゃんシフト入ってますよね?」
「あぁ、今日はよっすぃ〜と石川がホールだろ?んで、オイラと裕ちゃんが厨房だったぞ?」
なんで?という表情を浮かべて、矢口さんは私を見てくる。

「・・・ですよねぇ。実は昨日からひとみちゃんと連絡取れなくて・・・
 電話かけてもメール送っても無反応で・・・」
改めてその事実を口に出したら、なんか泣きそうになってきた。
そうしてるうちに中澤店長も入ってきた。

「ういーっす!・・おっ!矢口ぃーーー♪今日も朝からかわええなぁ〜」
矢口さんの姿を見た瞬間、すぐさま抱きついてくる店長。
「むぐぅ・・ゆ、裕ちゃん・・・苦しいってぇー!それよか、なんか昨日からよっすぃ〜
 音信不通なんだって。裕ちゃんトコになんか連絡あった??」
「ん?吉澤ぁ?いや、なんも聞いとらんけど。
 開店時間も近いし、もっかい電話かけてみ?」


522 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:39

プルルル・・・プルルル・・・プルルル・・・プルルル・・・プル、・・・・はぃ

「・・!?ひとみちゃん?今、どこ?なにしてるの?大丈夫なのっ!?」
やっと繋がったことで質問攻めにしちゃったけど、ある事に気がついた。

「・・・・ごめ、ん。昨日・・から熱出ちゃって・・・さ・・・ゴホッ」
ケータイから聞こえるひとみちゃんの声は、すっかりかれてて
声だけで、具合が悪い事くらい容易に伝わってくる。

「熱って!??」
どうしたらいいのかわからず、オロオロしてると
ちょい貸せ!
そう言って店長がひとみちゃんと話してる。

「・・・あぁ、わかった。じゃ、安静にしときや?そしたらな」
なんや、風邪みたいやわ。
「・・・まぁ、雪の中誰かさんの為に会いにいって、しかも汗かいたまま着替えもせんと
 そのままおったら誰でも風邪ひくわなぁ・・・」
半分呆れたように、ふぅ・・っとため息をつく。

523 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:40

「・・・・バレて・・たんですか・・?」
怒られるの覚悟で、恐る恐る聞いてみた。
案の定、店長はギロっと私を睨んできた。

―― 怒られる!!
身を竦めて覚悟決めた。

「まぁまぁ〜確かにねぇ、お腹痛いって言ってたから、青い顔して帰ってくるもんだと思ってたのに
 息切らして、真っ赤な顔で汗だくになって帰ってくるんだもん。
 バレバレだよねぇ、裕ちゃん・・ってそんな睨まないのぉ」
ケラケラ笑いながら、矢口さんが間に入って店長を宥めてる。

・・・まぁ、矢口に免じて、この事はひとまず置いといて。
「あの様子じゃ、かなりきてるみたいやわ。実際、電話にも出れれんかったくらいやし」

当然、バイトにも来れない訳で。
でも、そんな事よりも ひとみちゃんの事が心配で働く気になんてなれなかった。

「・・・ねぇ、裕ちゃん。石川、よっすぃ〜の看病行かせてあげらんないかなぁ?」
その提案には、当然のように“ムリ”って答えが返ってくる。

524 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:42

「それはムリやろ!これから店開けないかんし、ホール2人抜けてどうやって対応するんや」
誰が考えたって2人ではムリだ。
「矢口、1人でホールできるしさ。お客さんいない時、仕込み手伝うし。なんとかなるっしょ〜」
矢口さんが言い出したらきかないって事は、店長自身誰よりも1番よく知ってる訳で・・・

「あぁーもう、しゃーないなぁ!ったく・・・そしたら石川、今日は休みにしたるから
 はよ吉澤んとこ行ってやれ」
はぁー・・・っと、店長は今日1番の大きなため息をつく。

でも・・・言ってみれば、ひとみちゃんの風邪の原因を作ったのは、紛れもなく私な訳で
私のワガママな電話さえなければ・・・

「ほらっ!裕ちゃんの気が変わんないうちに早く行けって〜
 それと、きっと昨日から何も食べてないと思うから途中で材料買ってきなよ」

矢口さんは トンっと、私の背中を押してくれた。
「・・・・・あと、一人暮らしやし、まともに薬もないだろうから、それも忘れんよーにな!」
その後ろで、店長が付け加えて

「・・・はいっ!すみません、行ってきます!!」
2人の優しさが、痛いくらいに感じられて思わず泣きそうになりながらも
急いで、ひとみちゃんの元へ向かった。



525 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:42

途中、スーパーに寄ってお粥の材料と、ミネラルウォーター
あと氷も必要だよね!!
店長に言われた、風邪薬ももちろん忘れずに。
とにかく、何か足りなかったらまた買いにこればいいし、急いで行かなきゃ!

バイト先から20分くらいのトコにあるひとみちゃんのマンション。
待っててね、ひとみちゃん・・・


やっと、ひとみちゃんの部屋に着いた。
――― ピンポーン

ゆーーっくり玄関が開いて、目をトロンとさせたひとみちゃん
「あ・・・・梨華ちゃんだぁー・・・・・・ゴホ、ゴホッ」
こんな玄関先で、長居してる場合じゃない!
「ひとみちゃん、とにかくベッド戻って?」
肩を貸し、ゆっくりひとみちゃんの歩調に合わせてベッドまで連れていく。

526 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:43

「・・・・・ふぅ、ごめん、ね。なんか迷惑かけちゃったみたいで」
「そんなのいいから!それより、ひとみちゃん熱計った?」
んーん、と首を横に振る。
急いで薬箱の場所を聞いて、体温計を持ってきた。

「はい、ひとみちゃん。できる??」
「体中痛くって、動かすのキツイ・・・」
「じゃ、ちょっとボタン外すね?」
梨華ちゃんのエッチぃー、なんて言ってるし・・・熱出過ぎで変になっちゃったとか?

しばらくすると、アラームが鳴る。
見ると・・・ア然としてしまった。
「ひ、ひとみちゃん!39℃近くあるじゃん!!!!なんで、こんなになるまで
 1人でいたんだよぉー!!電話くれたら、すぐ来たのにっ!」

「ごめん・・心配かけたくなくて・・・」
もう、変なとこでかっこつけたがるんだから・・・・
「とにかく、パジャマ替えよ?汗いっぱいかいてるし。」
タンスから替えのパジャマを取って、あと蒸しタオルを作って。

ゆっくりひとみちゃんの体を起こすと、途中まで外してたボタンを外していく。
恥ずかしくないって言ったら嘘になるけど、今はそんな事言ってる場合じゃない!

527 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:44

「・・・今度は熱な・・い時にも・・」
始め、なに言ってるのかわかんなかったけど、ようやく意味がわかった時
私の顔は、一瞬にして真っ赤になった。

「・・・・バカ」
それしか言えなくて、でも早く着替えさせないと、余計にひどくなっちゃう
手早く体を拭くと、新しいパジャマに着替えさせた。
ひとみちゃんを寝かすと、氷水とハンドタオルを持ってきて、それをひとみちゃんの額にあてる

「気持ちいぃー・・・・・」
「昨日から何も食べてないんだよね?お粥作るけど、食べれる?」
頬に触れると、まだ熱い。
病院連れてった方がいいのかなぁー・・。とりあえず薬飲ませて、様子見てみよ・・・
「んーあんま・・食欲ないけど、食べる」
わかった! そう言い残してキッチンへと向かった。


528 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:45

買ってきた材料でお粥を作って、すぐひとみちゃんの元へ戻った。
「じゃ、ちょっとずつでいいから食べよっか。薬も飲まないといけないしね」
枕を背もたれ代わりにして座らせ、私もベッドに腰掛ける。
「ちょっとまだ熱いかな・・・」
スプーンに取って、代わりに冷ましてあげる。
「はい、ひとみちゃん。あーん、して?」
私の言う通りに、口を開けて待ってるひとみちゃん。
おいしい?ってゆう私の問いに、もぐもぐ口を動かしながら
「・・・・・・味がわかんない」
「あ、鼻つまってるんだぁ。」

半分くらい食べて、その後薬を飲ませて
あとは、ゆっくり寝かさなきゃ!

「梨華ちゃ・・ずっと居てくれる・・?」
ちょっと意外な、その言葉にびっくりした。
いつもは私の方が甘えてばっかで
こうやって、ひとみちゃんから甘えられたことなんて、ほとんどない。
だからすっごく嬉しくて、いとおしくて ―――

「もちろん。ずっと、ここに居るから安心して寝てていいよ?」

よかった・・・
そう言った後、ゆっくり目を閉じた。



529 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:45

寝息をたてて眠ってるひとみちゃん。
時間をみて、額のタオルを替えてあげる
まだ熱があるせいか、うっすら汗も滲んできてて・・・

「・・・頑張ってね、ひとみちゃん。すぐ良くなるからね」

ホント・・・ごめんね
いっつも迷惑ばっかかけちゃって
私のワガママも、嫌な顔ひとつせずきいてくれて
ひとみちゃんに出会えて、本当によかった
これからも、ずっとずっと傍に居てね
私の ――王子様

―――
――


「・・・・・ぅん、梨・・華ちゃん?」
その声に、ハッと目を覚ました。いつのまにか眠ってたようだ。
「ひとみちゃん、少しは楽になった?」
そっと額に手を当ててみる。熱も下がってきてるみたい
「ん、だいぶ楽になったよ。」
ホントありがとね。

530 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:46

「お礼なんていいよぉ・・・元はと言えば私のせいで、ひとみちゃん風邪ひいちゃったんだから・・
 私が電話なんてしなきゃよかったんだから・・・」
私の頬に、そっと触れて
「また泣きそーな顔してぇー ウチが勝手に会いに行ったんだからさ。
 気にしなくていいよ」

もう、これ以上優しくされると、我慢できないよぉー・・・
そう思った途端に、ふっと緊張感から解放されて、私はひとみちゃんに抱きついて
―― 思いっきり泣いてしまった

「あぁーあ、もうしょうがないなぁー」
クスっと笑いながら、ひとみちゃんは私が泣き止むまで、ずっと優しく頭を撫でてくれてた。

「・・っく、ひとっ・・みちゃん・・・、好きだからね。ずっと・・・ずっと一緒に居てね?」
やっぱり甘えちゃう訳で ――

「わかってるよ。なにがあっても、うちは梨華ちゃんの傍にいるからね」
うちの ――かわいいお姫サマっ


531 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:46

「・・・ひとみちゃん、またワガママ言っても・・いい?」
懲りずにお願いしてみる。
「なぁに?梨華ちゃん。てか、上目使いでお願いされて断われる訳ないってのわかってる?」
「・・・へっ!?」
・・・知らなかった、私・・・上目使いなんてしてたんだ
それって・・嫌われる対象だったりするんだよね!?いやぁー・・・・・!!!

「・・・ゃん、梨華ちゃんってばぁー!遠くに行ってないで、それでなんだったの?」
気がつくと、顔の前で手をヒラヒラさせながら、私の顔を覗きこんでた。


「ひとみちゃん!私のこと、嫌いにならないよね!?」
思わず聞いてた。

「はっ!?話し飛びすぎて訳わかんないんですけど、石川さん。嫌いになんてなる訳ないでしょ?」
てか、さっきの会話、もう忘れちゃってる??
「だってぇー・・・上目使いする女のコって嫌われるってぇー・・・・」

「・・・誰が言ったの、そんな事」
また熱出そう・・・と呟きながら、聞いてきた。
「・・・・・雑誌のアンケート」


532 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:47

雑誌のアンケートってまた・・・
それって、よくある同性から見て嫌われるとかってやつじゃん
・・・あ、うちも女だから一応はあってるのか

「はぁー・・・・・・。だからね?それは一般論であって、梨華ちゃんが上目使いをしてようと
 うちが梨華ちゃんを嫌いになる理由にはならないでしょー。」
「だってぇー・・・・」
ネガティブ思考にスイッチが入っちゃうと、なかなか立ち直れないのも事実で・・・
ひとみちゃんの腕の中で、うー・・と唸ってると

「・・・梨華ちゃん」
頭の上から呼ばれて、顔をあげると

――― チュッ

「・・・落ちついた?うちは嫌いな子にキスなんてできないし、
 梨華ちゃん以外にキスしたいとも思わない。これで信じてもらえる?」
まるで子供をあやすように、優しい口調で言う。

533 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:48

「落ちついた・・・信じる・・・ごめんなさい・・・」
最後は最高の笑顔で

「ありがとぉーーーひとみちゃん!!大好きっ!!!」
ギュッと、ひとみちゃんを抱きしめる。
「く・・・くるしぃー・・・てか、さっき言いかけてた話しって一体なんだったのさぁ」

あっ!!、と ひとみちゃんの顔を見つめて
「あのね?キスしたいって言いたかったの」
そう言いながら、今度は私からひとみちゃんにkiss ――

唇を離したあと、うふふ、と見つめ合ってると

「・・・・あ、梨華ちゃん・・・風邪うつっちゃわないかな?」
「・・・・・・・・あ゛」


534 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:48


2日後 ―――

「吉澤ひとみ!完全復活いたしましたぁーーー!!」
元気に挨拶しながら、入ってきたひとみちゃん。

「やっと治ったかぁー、休んだ分しっかり働いてもらうで。ほい、玉ねぎみじん切りしといてな」
ボール山盛りの玉ねぎを渡す中澤店長。

「よっすぃ〜!治ってよかったねぇー!もう、雪の中会いに行くなんて無茶しちゃダメだぞぉー
 裕ちゃんも、来て早々玉ねぎ渡すなよぉーギャハハ」
ポンポン、と肩を叩きながら「ご愁傷サマ」と去っていく矢口さん。

そして
「梨華ちゃん・・・バッチリうつっちゃったみたいだね・・・」
ひとみちゃんの視線の先には

「・・・・・うん」
ボーっとした顔で縮まってる私。



「石川ぁー、もうええから帰れ!!こっちにまでうつされたらかなわんわっ」
「こーゆうのを、ミイラ取りがミイラになるってゆうんだよねぇ、裕ちゃん」









535 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:49


                   ―― End ――
536 名前:「王子様と雪の夜」 投稿日:2003/12/24(水) 23:51
終了ですー(^^;
ホント、歌詞まんまですみません(w

「wing」続編は、今年は更新無理なので
また来年から、よろしくお願いします!
537 名前:pitom 投稿日:2003/12/24(水) 23:58
>>508 ヤグヤグさん
はじめまして!レスありがとうございますっ!!m(_ _)m
ホント、偶然なんですが平家さんの朗報と小説完結が同時になって
自分自身びっくりしてます(^^;
けど、リアルの平家さんも頑張ってるようで本当に待ち遠しいですね♪

>>509 京さん
レスありがとうございますっ!
はい、2人もハッピーにしなきゃ怒られますんで・・・(誰に?(爆))
今回の短編・これからの続編もお付き合いくださいねっ♪
538 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:40

『・・・ねぇ、ひとみちゃん』
『ん〜?何?』


買い出しに出ていた私が、思わずノブを回す手を止めたのは


『ひとみちゃんばっかりずるいよぉ・・・・私もしてみたい』


彼女特有の、あの子だけに聞かせる甘い声
―――― そんな言葉が耳に入ったから


『えぇー?やめといた方がいいって、意外に難しいし疲れるんだよ?』
『教えてくれたら私にだってできるもんっ』

『んー・・・安倍さん帰ってこないかなぁ』

急に自分の名前が出た事に、思わず体が強張る
盗み聞きなんてよくないって
頭ではそう思っても、2人の会話が気になる・・・


『見つかっちゃったら怒られるかな、やっぱり・・・』
『ぅんー・・・ちょっとだけなら大丈夫か、な』

――― だ、大丈夫なの!?
つっこみそうになりながらも、じっとドアの向こうに意識を集中させる


『・・・・で、じゃ、溶ろけてきた頃にゆっくり入れてくの・・・ちょっとずつ、ね?』
『・・・・うん、こんな感じ?』
『うん、そう・・・いいよ梨華ちゃん』

――― ちょ・・・マジで!??
どうしたらいいのかわからず1人アタフタしてしまう

539 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:41

『・・・・まだぁ?』
『もうちょっと頑張って、梨華ちゃん・・・・もうちょっとだけ』

『腕疲れちゃったよぉー・・・・・』


っ!??やっぱり・・・・だめぇー!!!!

「ちょっと待ったっ!だめだよ、いくらなんでもこんなとこでそんなこ・・・・と・・・?」


「あ・・・・おかえりなさぁーい、安倍さん」


ドアを勢いよく開き、真っ先に目に映ったよっすぃーと梨華ちゃんは ―――

2人仲良く並んでカスタードクリームを作ってた



「すみません、勝手に作っちゃって・・・」
申し訳なさそうに頭を下げるよっすぃー。
「どうしてもって、私が無理にお願いしちゃったんです・・・」
よっすぃー同様、謝る梨華ちゃん。

「いやっ、もう全然気にしないでいいからっ!ほんと、ごめんねっ」
――― 変な想像しちゃって・・・


本当の所は口が裂けても言えない



540 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:43

なーんか、さっきから安倍さんの態度よそよそしいんだよねぇ・・・
うちの思いこみかなぁ

などと、1人考えながら安倍さんが買ってきた物を冷蔵庫へと移していく

「あ、れ?安倍さぁーん、バター1個で足りますかねぇ?」
「えっ?・・・あぁー!!行った店1個しかなかったから他行こうと思って忘れてたぁ・・・」

「じゃあ、うち買って来ますよ。他なんか足りない物なかったでしたっけ?」
言いながら、うちは早々に出かける用意を始める。

「ごめん・・・じゃ、お願いね!他は足りると思うから」
「了解ですっ!じゃあ、行ってきまーす。梨華ちゃん、行ってくんね」
財布片手に、もちろんレジの所に立ってる梨華ちゃんにも一声かけて


「あ、ひとみちゃん!・・・これっ」
「ん?」
「外・・・結構寒いから。風邪ひいちゃうといけないし」
いつのまに持ってきてたのか、少しだけ背伸びをしながら白色のマフラーをうちの首に巻いてくれる。


541 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:44

「これ・・・ひょっとして梨華ちゃんが編んだ?」
見覚えのなかったそれを手に取り見てると、所々に目の粗い部分が目立ってお世辞にも既製品とは言えないものだった

「・・・・うん、安倍さんに教えてもらってちょっとずつ編んでたの・・・もうっ、そんなじっくり見ないでよぉー!」
粗探しをされてると思ったのか、顔を赤らめながらマフラーをうちの手から外させた。

「いや・・・・めちゃめちゃ嬉しいんだけど・・・ありがと、梨華ちゃん。」
「うん・・・どう、いたしまして・・・けど、冬までに間に合うかギリギリだったけど間に合ってよかった」

少しはにかみながら、うちを見上げる梨華ちゃんに思わず理性が崩れかけた
手を伸ばした所にある彼女の細い腰を引き寄せ、うちの腕の中に閉じ込める。

「・・・ひとみ、ちゃん?」
「すっげぇ嬉しい!ほんと、ありがとねっ!大事にするから」
「・・・・・うんっ」

マフラーからと、腕から伝わってくる梨華ちゃんの温もりにしばらく浸ってた

542 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:44

「・・・・ゴホッ・・・えーっとぉー・・・」
控えめに訴えてくるその声に振り向くと、頭を掻きながらこちらを見てる安倍さんの姿 ――


・・・・・・あ

「い、行ってきまーすっ!」
「・・・あ、よっすぃー?」
慌てて店を飛び出したうちに、後ろから安倍さんが呼びとめる。

「よく似合ってるよっ!」

その言葉に、へへっと笑いながら
「ですよねぇー!うちもそう思いますっ」


「あははっ!よっすぃーも言ってくれるねぇー」
「・・・もう、ひとみちゃんったら」
今にも飛び跳ねそうに走ってく後ろ姿を見送りながら、2人は目を合わしたと同時に吹き出すのだった。


    
543 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:45

    ◇    ◇    ◇


目的のバターをカゴに入れ、店内の物に目移りさせながらついでに私用の物もカゴに入れる。
支払いを済ませ店を後にする頃には、日も沈みかけ辺りは薄暗くなってた。

「早く帰らなきゃ・・・」
緩みかかってたマフラーをしっかりと首に巻きつけ帰路へと急ぐ。


北風が遠慮なく体に吹きつける。
「うわっ・・・・さびぃー・・」
思わず肩を竦めて歩いてると、遠くからなにかの鳴き声が聞こえてきた気がした。

「・・・・気のせいか?」
歩く足を止め、しばらく耳を済ませてみたが何も聞こえない。
風の音が、そう聞こえただけかも

そう思い、再び歩き始めた時 ―――― クゥーン・・・

544 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:46
「やっぱなんかいる」
辺りをキョロキョロ見渡すと、道路を挟んだ向こう側にある小さな公園の入り口に無造作に置かれてる段ボール箱。

もしや、と思い近づいて段ボールを開けると、案の定そこには歩きかねるくらいの子犬が入れられてたんだ。

「・・・なんで、こんなトコに・・・・」
そっと抱き上げると寒さで体がブルブルと震えてるのが伝わってくる。

「こんなとこにずっといたら死んじゃうかもなぁー・・・でも、うちじゃ飼えないんだよ・・・」
連れて帰りたいのは山々だけど、実際部屋で動物なんて飼えない。
後ろ髪引かれる思いで、もう1度段ボールへと戻す。


「ごめんなぁ・・・・」
始め来た時と同じように閉じようとしたら、中からキュンキュンとすがるような声が響いてきた。


「・・・・・・・・・あぁーー・・・帰れないよ、これじゃぁ・・・」



545 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:46

    ◇    ◇    ◇


「・・・ひとみちゃん遅いなぁ、バター1つ買うのにどれだけかかってるんだか」

もうすぐ閉店の時間が近づいてた。
店を出てから、もう1時間は経とうとしてる。

白く曇ったドアを拭き、外を見つめる。

「よっすぃー帰ってきた?」
作業場の片付けを終えた安倍さんも心配そうに声をかけてきた。

「いや、まだなんです・・・・あっ、帰ってきた!」
遠くに見えるひとみちゃんの姿を見つけた時、やっと安堵する事ができた。

と、同時に
近づくにつれて、その姿に幾らかの違和感を覚える。

「・・・って、あれ?ひとみちゃん!?」
そうしてる間に、ひとみちゃんは店に寄らずそのまま階段を上がっていったんだ。
思わず外に出て部屋に入ろうとする姿を見ながら声を掛けると


「ちょ・・・トイレ!」

546 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:48
一言、そう残し勢いよくドアを閉めたひとみちゃん

「・・・・・なんなの、一体」
「トイレなら店にもあるのにねぇ・・・変なよっすぃー」


それもそうですよね、なんて話してた時に気がついた。

「・・・安倍さん、ちょっと様子みてきます。もしかしたらお腹痛いのかも」
「なるほど・・・それで、ね」

上を指差しながら理解してくれたようで、ひとまず私は階段を駆け上がった。


ドアを開けてすぐに、思わずギョッとした。
だって、入り口に帰ってきたまんまの格好でうずくまってるひとみちゃんがいたから・・・

「ひとみちゃん・・・?お腹、痛いの?」
様子を伺うように、ゆっくり声をかけた。
その声にやっと反応したようで、顔だけを振り向かせたひとみちゃん

その表情は苦痛に歪む・・・なんてものじゃなくて、イタズラがばれた時の焦った顔って言うの?でも、なんで・・・

「あぁー・・・梨華ちゃん」

547 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:49
けど、いつまでたっても立ちあがろうとしないひとみちゃんに疑問を抱く。
痺れを切らし、しゃがみ込んだままの彼女に尋ねる。

「・・・ねぇ、どうしたの?こんなトコずっといないで部屋入ろうよぉ」
「あ・・・そうなんだけどぉー・・・・それが、実は・・・・」

いつもにない歯切れの悪い返事に、腕を引き無理矢理立ちあがらせようとした時だった。


キャン、キャンッ!

「・・・・・・・・あ」
「・・・・・・・・えっ?」


一瞬、沈黙が続く
その沈黙を破ったのは ―――もちろん私


「ひとみちゃんっ!?この子、どうしたのぉー!!」


548 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:49

それから ―――
子犬には温めたミルクを飲ませながら、私はひとみちゃんに事情を聞く事にした。

「・・・・だから、どうしても見捨てられなくて」
「でも、ここじゃ飼えないでしょぉー・・・私達の家じゃないんだし」
まるで、子供を諭す母親のよう・・・

「そうなんだけど・・・とりあえず飼ってくれる人見つかるまでなんとかならないかなって」
ミルクを飲み終えた子犬を撫でながら、そう言ってくる。
そんな子犬と同じような目で見られても・・・・

「・・・安倍さんに聞いてみないと」
「うん・・・」


そう言った直後だった

「よっすぃー?お腹大丈夫??よく効く薬あるんだけ、ど・・・犬?」
ノックと同時に、安倍さんがドアの隙間から顔を出す。


隠す暇もなく、その日のうちに見つかる事となった。


549 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:50
それから、今日2回目の話し合いが始まった。

「確かに・・・ここペット禁止にしてたからなぁ・・・」
言い辛そうに、安倍さんの口が開く。

「・・・・そうですよね」
覚悟してたとはいえ、やっぱりその答えには落胆の色を隠せない。
「けど、飼い主見つかるまでなんとかならないでしょうか・・?」
梨華ちゃんも、今では必死に説得してくれてた。

「うーん・・・・」
しばらく沈黙が続く

「・・・・よっすぃー?」
「あ、はいっ」
いきなり呼ばれた事に、思わず声が上ずる。

「ちゃんとトイレの躾できる?」
「はい、頑張って教えますっ!」
よし、と頷く安倍さん。

「梨華ちゃん?」
「はいっ」
「梨華ちゃんは、お店が暇な時に散歩、できる?」
「も、もちろんですっ」
また同じように、頷く安倍さん。


550 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:51

「・・・まぁ、2人が協力して育ててくれれば何の文句もないんだけどさ」
「「・・・・って事、は?」」

「飼っていいよ、ここで。ずっとね」
今までの真剣な表情から、いつもの笑顔に戻りそう言ってくれた。

「マジですかっ!?ほんとにいんですかぁー!??」
疑う訳じゃないけど、どうしてももう1度確認したくて

「うん、いいよ!この子もかわいそうだもん・・・こんなにかわいいのにねぇ」
抱き上げ、ギュッと抱きしめる。

「よかったぁー・・・・よかったなぁ、お前っ」
膝歩きで歩み寄り、よしよしと撫でてやる。
そんなうちを見てた梨華ちゃんが思い出したように話し出した。

「・・・あ、ひとみちゃん!名前付けてあげなきゃ!」
「そっか、名前かぁー・・・梨華ちゃん、なんかいいのある?」


551 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/19(月) 20:53

しばらく考えこんだ後

「・・・・・ラッキー、なんてのは?」
「いいじゃん!・・・ちょっと待って?この子、オス??」
梨華ちゃんの提案に、先に確認しておかなきゃいけなかった事を思い出す。

すぐさま安倍さんがお腹の辺りを見た後、ニコニコ笑いながらピースサインをする。

「男の子だよ、この子。じゃ、ラッキーに決定?」

顔を見合わせ頷いた後、2人で同時に返事する。


「「決定っ!!」」


「ラッキー?今日からよろしくなっ!・・ってくすぐったいよぉー」
ペロペロと舐められる事に、口ではそう言っても本当に嬉しくて

家族がもう1人増えたんだ
梨華ちゃんと、うちの ――子供ってトコかな!
552 名前:pitom 投稿日:2004/01/19(月) 20:57
今年初めての更新は、梨華ちゃんBDに、と♪
(実際かなり時間があいたのですが・・・m(_ _)m)

今回の続編、多分そんなに長くならないと思いますが
読んでもらえると嬉しいです!
553 名前:7 投稿日:2004/01/20(火) 17:23
更新お疲れ様です。
え〜、ものすごく久しぶりのレスです。(ずっとレス出来ずスイマセン)
今日一気に読ませていただきました。
いしよし番外編が始まったんですね。
相変わらず安倍さんがイイ味出してますねw
次回も楽しみです。
554 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:01
   
    ◇    ◇    ◇



安倍さんが帰った後、うちらの間にしばらく会話はなかった。

穏やかな時間が2人の間を流れる
突然現れた・・・ラッキーの存在
梨華ちゃんに抱かれている事で安心感を得たのか、じっとしてるその姿を見てたら


「・・・・ほんと、赤ちゃんみたい」
「・・・・・えっ?」
起こさないように、少し控えめに話した事で聞き取れなかったのか、顔を上げて聞き返してきた。   

「もし ―――

 もしも、うちらの間に子供がいたらさ・・・きっとこんな感じだったんだろなって。
 多分、その子は梨華ちゃんじゃないと寝かしつけられないんだ
 うちが抱っこしても駄々こねて寝てくれなくって・・・うちは見てるだけ・・・ふふっ
 今みたいな感じ?」

手を付き四つん這いになりながら、梨華ちゃんに近づいてく。


555 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:01

「・・・全部、奥さん任せ?」
クスクス笑いながら、少しだけいじわるな事を言うもんだから

「・・・・・そんな事ないよ、うちが出来る事は何だってするよ?例えば・・・・・こんな事とか」
ちょっとだけ前のめりになって、ちょうど同じ高さにあった唇に、軽く触れたんだ


「もうっ・・・それはひとみちゃんがしたい事じゃない」
「じゃあーラッキーにもしちゃうっ!かわいいなぁーラッキーは」
今度は屈んで寝ているラッキーの鼻すじにキスをする

「ひとみちゃんったらぁー・・・ラッキー起きちゃうでしょ?」

けれど、梨華ちゃんの心配をよそにラッキーは軽く頭を振っただけで、また深い眠りについていった。

「・・・あ、そうだ。ちょっと待ってて・・・とりあえず今日のこいつの寝床作んなきゃ」
そう言いながら、空いてる段ボールを代用して、底にはバスタオルを持ってきて敷いてやる。
自分で作っておいてあまりに簡易的なそれに、少しばかり不安になり助けを求める。


556 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:02

「梨華ちゃーん・・これで寒くないかなぁ?」
「うん、大丈夫だと思うよ。部屋の中だし、多少の寒さは耐えれると思うんだ
 明日、またちゃんとした小屋とか他にいるもの買いにいこうよっ」

そう言ってゆっくり立ちあがると、早速出来たばかりの小屋にラッキーを寝かせる。
その事でさすがに起きたようで、しかも馴染みのないそこにしばらくソワソワと歩き回ってたようだったけど
それも始めだけで、5分もすれば丸まって再び目を閉じた。


「・・・・寝つきいいな、こいつ」
「うん・・・もっとキャンキャン鳴くのかと思った」

「・・・・あ、ちょっとショックだったりする?」
わざと下から覗きこんで、からかうように言ってやる。
多分さっきうちが言った”梨華ちゃんじゃないと〜”ってヤツ、きっとどこかで期待してたんだろう
だから、今ちょっと残念そうな言葉が出てきたに違いないっ

「そんな事ないもんっ!・・・もう、いじわるな事言わないでよぉ!」
頬を膨らまし反論してくる彼女を見たくて、わざとからかったんだけど・・・こうも見事に反応してくるとは


557 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:02

けど、その事を口に出したら更に怒りそうだったから、うちは何も言わず梨華ちゃんの背後に回る。

「・・・ひとみちゃん?」
不思議そうにこちらを振り向こうとする梨華ちゃんの顔にそっと手を添え、前に向き直させる。

「・・・じっとしてて?」
言いながら、うちは目の前にある、その華奢な肩のマッサージを始めた。
案の定、そこは結構凝ってて固くなってた。

「ひとみちゃ・・・そんな、いいよっ」
「いいから黙っててー・・・マフラーのお礼、まだだし・・・今日のところはこれで勘弁ねっ」
強すぎず、弱すぎず・・・ゆっくり肩を揉み解す。

「・・・あれ、時間かかったでしょぉー・・・肩も凝るのにさ。」
―――でも・・・ほんと嬉しかった・・・ありがとう、梨華ちゃん


「それだけ喜んでもらえたなら、私も頑張ったかいがあるよー。ほら、もうすぐクリスマスだし!
 ちょっと早めに渡しちゃったけど、私からのクリスマスプレゼント!・・・じゃ、交代ねっ」
「へっ?」

558 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:03

するりと手から離れていき、今度は梨華ちゃんが後ろに回る。
「ひとみちゃんも体、疲れてるでしょ?マッサージしてあげるっ」

うちはいいよっ・・・なんて言ってる間にうつ伏せに寝かされる。


「私あんまり力ないから、肩揉みよりこうやって体重かけて押した方が気持ちいいでしょ?」
手の平で腰や背中のポイントポイントを押していってくれる。

「んー・・・超気持ちいぃ・・・・最高ぉ・・」
「・・・ひとみちゃん、それオヤジっぽいよ」
「んえぇー・・?・・・いいよぉ、オヤジでもオッサンでもぉー・・・」
・・・っと、この状態で話してたらヨダレ出そぉ


「・・・梨華ちゃぁ・・・?」
「んー?なぁに?」
「・・・この後・・・もっと気持ちいい事、しよっかぁ?」


その言葉に、マッサージする手がピタリと止まる。

559 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:03

「・・・もうっ!ほんとにオヤジっ!!」

止まってた手が再び動いたかと思いきや、腰から両サイドにずれて脇をくすぐり始めた。

「わっ!?何っ・・・ぎゃははっ!・・・ちょっ!梨華ちゃんっ!!うひゃひゃひゃ・・・・くるしぃー」
またがられてる事で思うように抵抗も出来ず、ひたすら手足をばたつかせるだけ・・・


「もう変な事言わない?」
「言・・わない、からぁー・・・勘弁してください・・・」
そう答えた時にようやく手が止まった。

「・・・ふぅ・・あぁー・・・・もう死ぬかと、思った・・・」
肺に空気を送り込む為に思いっきり吸い込む。


「ひとみちゃんが悪いんだからね?」
「・・・だって、そう思ったんだもん。いいじゃん・・・ねっ?」
うつ伏せのままじゃ話しづらいから、なんとか体を回転させ仰向けになると
うちを見下ろしてくる梨華ちゃんの顔がほんのり赤くなってる事に気付いた。

「だから・・・・言い方、もっと他にあるじゃん・・・」

560 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:04
「他に?・・・・梨華ちゃんを抱きたい」

目の前にこんなかわいい子がいて ――おあずけもいいとこ
だから、うちは考えるのが面倒になっちゃって、思った事をそのまま口に出した。

「ひとみちゃんっ!だから表現が露骨すぎるのぉー!」
すっと手を伸ばしてきて、かわいい彼女は今度はうちの頬を両方からつねってきたんだ

「あにすんのさぁー・・・・」
―――けど、ここまでだよ?梨華ちゃん

体勢が前にきたことで、チャンスとばかりに空いてる手を背中に回して抱き寄せる。
梨華ちゃんも不意の事で逆らう事もできず、そのままおとなしくうちの腕の中におさまってくれた。


「・・・やっと捕まえたぁ」
ほんとに頑固なんだから・・・

おとなしく抱かれてるし、そろそろ息苦しくなってきた事だし・・・
次の段階へと、なんて考えてると

「・・・ひとみちゃん、ここじゃ・・・ラッキー起きちゃうから」
素直になったかと思いきや最後の悪あがきか!?


561 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:05

「えぇー?大丈夫だ、よ・・・・あ、そだね!移動しよっか、移動ねっ」
押しきろうかと思ったけど、彼女の微妙に怒りかけてる顔を見たら素直に従うしかなかった。


梨華ちゃんがゆっくりと上体を起こすのをじっと目で追う。

追いながら、手を差し伸べてみた
それを見て、またさっきと同じ目にあうと思ったのか、笑顔でかわされる。

しょうがないから、うちも上体を起こす
その頃には梨華ちゃんは立ちあがってて ―――

もう1回・・・
その状態で、今度は両手を梨華ちゃんに向けて差し出す


「・・・子供みたい」
なんて、ちょっと呆れるように呟きながらも結局は手を握って引っ張ってくれる
それにはうちも素直に立ちあがった。

562 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/01/25(日) 00:05

「・・・・ベッドまで連れてってあげる」
少しだけ低い位置にある耳元に近づきそう囁くと
握られたままだった彼女の手を、自分の首元に持っていき後ろで繋がせる。

この体制になったらいつもしてる――― あれ

うちが腰辺りに手を回したのと同時に、梨華ちゃんが足で挟む形で飛びついてくる。


「・・・じゃ、行きましょうか?姫」


恥ずかしそうに頷く彼女に、再び体中が火で覆われたかのように熱くなってく



子供には秘密っ
      ―――パパとママは、これからの長い長い夜を過ごしてきます



563 名前:pitom 投稿日:2004/01/25(日) 00:10
更新終了です〜♪

・・・って、本編とキャラが変わってきた気がするんですが(特に吉)
不評だったらどうしよう(w
でも、今の方が気に入ってたりっ

>>553 7さん
7さんだぁー!おひさしぶりですーっ!!!
またこうやってレスもらえてホント嬉しく思ってます!
安倍さん、いい味でてますか?(w
番外編、こんな感じで始まりましたが、またお付き合い下さいっm(_ _)m
564 名前:なち 投稿日:2004/03/07(日) 23:08
甘々ないしよし〜かぁわぁ〜ぃぃ♪
次回も期待してまーす( ○^〜^)人(^▽^ )
565 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:48

薄暗い部屋の中、
心地のいい疲労感を味わいながら、腕の中にすっぽりとおさまって眠ってる彼女の顔を見つめてた。

「・・・ほんと、かわいいなぁ」

なんて、独り言を言いながら、自分もそろそろ寝ようかと目を閉じた時だった
少し離れた所からゴソゴソと動く気配・・・

「・・・ん?」
梨華ちゃんを起こさないように、首だけ捻って段ボールの方を見る。
すると、段ボールは横に倒れ、中にはラッキーの姿はなかった。

「あれ・・・ラッキー?」
小声での呼びかけに、テーブルの影からぴょこっと顔を出した。
「・・・なんだ、そんなトコにいたのかよぉー・・・ダメじゃん、ちゃんと小屋の中いないと」

すぐに段ボールの中に戻してやりたかったのだけれど、今のうちの状態が状態なだけに身動きが取れない


どうしたものかと、しばらくラッキーの様子を見てたのが失敗だった・・・


566 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:49

「あぁーーー!!」
「・・・なに、ひとみちゃん・・・いきなりそんな大きな声出してぇ・・・」
完全に起き切れてない梨華ちゃんは、枕元の時計を見ると一瞬声を失った。

「・・・・・まだ4時だよ?ひとみちゃん・・・」

「違うの!ラッキーがおしっこしちゃったっ」
「・・・・えっ!?」
その言葉に、さすがの梨華ちゃんも目が覚めたようで飛び起きた。


「ティッシュ、ティッシュ!」
「あ、はいっ」
何枚か手に取り、ギュッとその部分を押さえつける。

「・・・・なんとかシミにならずに済んだかな」
「とりあえず雑巾取ってくるねっ」

当の本人・・・もといラッキーは、その間もシッポを振りながらじゃれついてくる


「・・・トイレ覚えさせるの、頑張るよ」
誰に言うでもなく、ラッキーの顔を見ながら強くそう思った


567 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:49

「あぁー・・そりゃ朝から大変だったねぇ」
クスクス笑いながらパンを置く棚を1段1段丁寧に拭いていく安倍さん

「そうなんですよー。ひとみちゃんがたまたま起きてたからよかったんだけど・・・ふあぁ」
「・・・で、寝不足ね」
控えめにしたつもりの欠伸を見られ、思わず口を覆いながら苦笑い。

「トイレもね、覚えちゃえば後は楽なんだけどね。犬も思ってる以上に賢いし」
「安倍さん、犬飼ってた事あるんですか?」

「うん、昔ね。ラッキーと同じように捨てられてるの、見ぬふり出来なくてー」

「そうだったんですかぁー・・・」
ほんとに、ラッキーもだけどなんでみんな動物を平気で捨てられるんだろう
動物にだって私達人間と同じ、命の重さがあるのに・・・

「あ、今日は夕方早めにあがっていいからね。ラッキーの小屋とか買いに行かなきゃいけないでしょぉー?」
安倍さんは、きれいに拭いた棚の上に焼きあがったばかりのパンを種類別に並べていきながら話しを続ける。

568 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:50

「えっ・・・いいんですか?」
その事に関しては正直こっちからお願いしようと思ってた所だったから、安倍さんからの言葉は素直に嬉しかった。

「うん、もちろん!」
「ありがとうございますっ!ひとみちゃんにも伝えなきゃ」

「何をぉ?」
パン生地を練る機械の音で今までの私達の会話が聞こえていなかったようで
作業場からひょこっと顔を出し会話に加わってきたひとみちゃんに、さっきの安倍さんの言葉を伝える。

「えぇーマジっすか!?ありがとうございますっ!ラッキーも喜ぶだろなぁー」
無邪気に笑うひとみちゃんを見てて、ふと昨夜の会話を思い出す


――― ほんと、子供を溺愛するパパみたいだよ?ひとみちゃんっ

569 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:51

    ◇    ◇    ◇


夕方。
事情を知ってるのかと思っちゃうくらい、今まで忙しかった客足がパッタリと途絶えた


「じゃ、今のうちに行っといで?片付けも私やっとくからさ」
「いや、それはさすがに申し訳ないし・・・片付けはやらせてくださいっ」

半ば強引に押しきり、ある程度の片付けを終わらせる。

「ありがと!もうちょっと開けとくから、ここまででいいよ。・・・ほら、もうこんな時間っ
 早く行かないと店閉まっちゃうよ!」

「あ、はい!じゃあ、行ってきます。梨華ちゃん、財布持ってきてたっけ?」
「うん、お昼ご飯食べに上がった時に」

手にあるそれを確認して、私達は近くのショッピングセンターへと急いだ。


570 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:51
目的の階へ着くと、とりあえず小屋を探す。
ラッキーは多分雑種なんだろうけど、成犬になった時どこまでの大きさになるかわからない

「んー・・・やっぱちょっと大きめの方がいいよねぇ?」
「そう、だね・・・あっ!ひとみちゃん、あれよくない?あれだったらそこそこ大きさもあるし」
梨華ちゃんが指差したそれは、サークル状になってるヤツだった。

「あぁーあれなら底があるからトイレも一緒に入れといても床が汚れる事ないしね!よし、あれにしよ」

まだ組み立てられてない、同じ物をカートに乗せ次へと向かう。

それから、犬用のトイレとか首輪とか缶詰のドッグフードとか・・・とりあえず今すぐ必要な物を次々とカゴに入れていった


「・・・こんな感じかな?結構見てると欲しい物あるんだよねぇー」
「うん、でもこれ持って帰らなきゃいけないし・・・このくらいにしないと持ちきれないよ?」

「あ・・・・そうだったね」
――― 自転車もついでに買ってく?

なんて冗談なのか本気なのか
「ダメダメ!そんなに衝動買いしちゃー。じゃ、支払いしにいこ?」

571 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:52

「はーい。・・・・あ、そうだ!梨華ちゃん、すぐ戻るからちょっと待ってて?」
いろいろ入ったカートを押してたのを立ち止まり、そう言うとひとみちゃんは私とカートを残したまま行ってしまった。

行き違いになってもいけないから、言われた通り私はすぐ傍にあったベンチに腰掛けてひとみちゃんの帰りを待つ。
10分もしないうちに、走ってきたのか少しだけ呼吸をきらして戻ってきた。


「おま、たせ・・・これ!躾の本っ・・・いるでしょ、やっぱ」
そう言って、見せる手元には薄い紙袋。

「あっ・・・ひとみちゃん、えらーい!そうだよね。私達、犬に関してほとんど知識ないもんね」
「でしょぉー?思い出してよかった。じゃ、レジ行こっか」
「うんっ」


それから会計を済ませ、店を後にする。

まぁ、家までそんな遠くないし・・・
そう思いながら、小屋を片手に買い物袋をもう片方に持ち、歩いて帰ろうとした時だった。

572 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:52
どこからか鳴ったクラクションの音に、なんとなく視線をそちらに向けるとそこには安倍さんが車の中から手を振ってた。

「あれ!?安倍さんだ」
急いで車の方へと向かうと、安倍さんはわざわざ降りてきてトランクを開けてくれた。

「やっぱり大荷物だねぇー迎えに来て正解だったよ」
そう言いながらテキパキと荷物を受け取りトランクへのせていく

「小屋も買うって言ってたからさ、帰り大変じゃないかなって」


ほんと、安倍さんって気がきく人だ


「吉澤、もう安倍さんに頭あがらないっすよ!」



    
573 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:53

    ◇    ◇    ◇



安倍さんのおかげで、予定より随分早く家に帰ることが出来た。
それでも一刻も早くラッキーに会いたくて、急いで階段を駆け上がる。

「ラッキー?お利口さんにしてたかぁー??」
持ってた小屋と買い物袋を傍らに置くと、段ボールの中を覗きこむ。

うちの声に反応して、中ではキュンキュンと鳴きながら必死によじ登ろうとしてる姿があった

「ほら、おいで?・・・そっかぁー寂しかったのかぁー・・・ごめんなぁ」
その小さな体をキュッと抱きしめ、数時間ぶりの再会を喜んでると

「・・・ひとみちゃん、とりあえず荷物片付けてからにしよ?」
少々呆れ混じりの声が耳に届いた。


574 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:53
それから、小屋を組み立てて、中に入れてみる。
始めのうちは落ち着きなく歩き回ってたけれど、昨日と同じくしばらくすると敷いていたタオルの上に寝転んでた。

「よかった、気に入ってくれたみたいだね」
「うん!ラッキーもおとなしくしてくれてるみたいだし、今のうちに晩御飯作るね」
ホッとしたのも束の間、梨華ちゃんはそう言ってキッチンへと行ってしまった。

手持ち無沙汰になったうちは、買っておいた躾の本に目を通す。
まずは、1日も早くトイレを覚えささなきゃ・・・


うつ伏せに寝転がり本を読んでると、さっきまでおとなしくしてたラッキーが小屋の柵をかじり始めた。
「ん?ラッキー、外出たいの?・・・じゃ、ご飯出来るまで遊ぼっか」

入り口を開けると、飛び跳ねるくらいの勢いで出てきた。
買い物袋からボールを取り出して転がしてやると、必死に追いかけて噛みついてはなかなか離そうとしない

そんなボールの取り合いをしてるうちに、いい匂いがこっちまで届いてきた。

575 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:54

「ひとみちゃーん、もうすぐ出来るからテーブル片付けといてねー」
その声に、ラッキーを小屋に戻し、自分も手を洗いに洗面所へと向かう。
それからリモコンやらを棚に置き、フキンを取りにキッチンへ行く。

「なんか手伝おうか?」
覗きこむと、どうやら今日の晩ご飯はオムライスのようだ。

「じゃ、お皿出しといてくれる?」
「これくらいの大きさでいい?」
適当な大きさのお皿を手に取り、梨華ちゃんに確認する。

「んー・・・あ、その隣りの!それ2枚と、あとお茶出してくれると嬉しい」
「オッケー!」

言われた通り、皿を並べると冷蔵庫からペットボトルとグラス2個を持ってテーブルへと運ぶ。


2つのグラスにお茶を注ぎ終えると、また匂いにつられてキッチンへと足が向かう

576 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:55

「あぁー・・・お腹ペコペコ!今日のもおいしそーだね」
ふんわりと上にのせられた卵が、更に食欲をそそる。

「そう?ありがと!よし、でーきた。はい、ひとみちゃんの分」
そう言って梨華ちゃんが差し出したお皿を受け取ると、もう片方の皿にも手を伸ばす。
「梨華ちゃんのも持ってってあげるよ」
レストランのウエイターのように、うちは軽やかに両手にお皿をのせテーブルへと運んでく


「「いただきまーす」」
いつものように向かい合って座り、いつもより少し遅めの夕食をとる。

「うん、おいしっ!梨華ちゃん、ますます料理の腕あげたんじゃない?」
味加減もちょうどよくて、手を休める事なくスプーンを口へと運ぶ。
「ほんとに?そう言ってもらえると作りがいあるよっ。もっとレパートリー増やせるように頑張るね」

にこにこ笑う梨華ちゃんを見てたら、くさい事思い浮かんじゃった


その笑顔も、おいしくさせる立派な調味料だよっ



577 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:55

夕飯を済ませ、梨華ちゃんが後片付けをしてる間に、うちはお風呂にお湯を入れる

お湯が入るまでの間、しばらくまったりモード。
壁に凭れてテレビを見てると、片付けの終えた梨華ちゃんも隣りに座ってうちに凭れかかってくる。

「今日もお疲れ様」
「ひとみちゃんも、お疲れ様でした」
「はいっ」

今更ながら、やっぱ・・・こうゆうのっていいなって思う
どんなに大変でも、梨華ちゃんの存在だけで癒される

「・・・・すごいね、梨華ちゃんって」
「え?何が??」
無意識のうちに、口に出してたみたい
意味がわからずキョトンとしてる梨華ちゃんを見てたら、改めて言うのが妙に照れくさくて

「なんでもないよぉ〜」
不意をついて抱きついた。

「きゃっ!?もうびっくりさせないでよぉー。ふふっ」


――― でも
2人の間に流れる甘い空気を遮ったのは、お湯が溜まったのを知らせるタイマーだった


578 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/21(日) 18:56

「・・・いいトコだったのにぃ」
鳴り続けるタイマーは無視する事ができても、お湯が出しっぱなしになってる事はほっとけない
渋々立ち上がり、お風呂場へと行くと湯加減をみる。

「ん、ちょうどいいかな。梨華ちゃーん、お風呂さぁ、一緒に・・・」
言いながら部屋へと戻ると、さっき読みかけて置いてた躾の本を真剣に読んでる梨華ちゃんの姿があった。

「ひとみちゃん、先入って?私、もうちょっとこれ読みたいから・・・」
「ん・・・わかった。じゃー入ってくる」
「あ!着替え、さっき用意しといたから・・・はいっ」
「ん、ありがと・・・」

着替えを渡すと、またすぐに本を読み始める。

「・・・さっきまでいい雰囲気だったのになぁ」
ボソッと呟くその言葉にも反応しないくらい見入ってる梨華ちゃんを見てると、おとなしく諦めるしかない


「じゃ、入ってきまーす」

小さくため息をつきながら、うちは浴室へと向かった

579 名前:pitom 投稿日:2004/03/21(日) 19:01
更新終了です
・・・気付けば2ヶ月も放置したままになり本当に申し訳ないですm(_ _)m;;
まだ読んでくれる人がいればいいなぁーと思いつつ
残りの更新、頑張りたいと思いますっ

>>564 なちさん
レスありがとうございますっ!
今回の続編、より甘く!よりかわいく!!だったんで
そう言ってもらえると、ほんと嬉しいです♪
これからもよろしくですm(_ _)m
580 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:13

元々、お風呂は長く入ってられない方なんだけど
今日は早く出ても、まだ梨華ちゃんは本を読んでる可能性大だし・・・

「・・・たまには長風呂もいいかなぁ」
なんて、独り言を呟きながら、肩まで浸かり体を温める。


ボーっと天井を見上げ、ここ何年の出来事を思い出す

いろんな事があった
でも・・・1つだけ、まだ自分の中で解決してない事がある

「――― ごっちん」

絶対に、どこかで生きてるはずなんだ
だから、もう1度会いたい

・・・けど
手掛かり1つない、この状況でどうやって捜せばいいのかわからず今に至ってるのも事実
今更ながら自分の無力さを思い知らされる


581 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:14

前にごっちんが話してくれた、あの人と一緒に逃げたのだろうか

あの時、うちに勧めてくれたように・・・


次の休みに中澤さんの所へ行こう
もしかしたら何か知ってるかもしれない


「・・・・・・・・・・・・・・そうだ」

違うよ、無力なんじゃなくて・・・・単に動かなかっただけだ

そっか・・・情報がなかったら、休みの度にそこら中を捜せばいいだけの事
歩くための足も、聞くための口も耳もあるじゃん


小さな小さな光りが、希望という光りへと大きく膨らんでく ―――


582 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:15

考えこんでたら、いつのまにかズルズルと沈んでってた体を引き上げ、バシャっと顔にお湯をかける

「おっしゃぁー!!!」
「きゃっ!?」

「・・・え?梨華ちゃん?」
振り返ると、すりガラス越しに梨華ちゃんの姿があるのを確認した。

手を伸ばしドアを開ける。
「どしたの?梨華ちゃん」

「だって、バスタオル渡すの忘れてたから持ってきたら、いきなりひとみちゃんが叫ぶからぁー」
頭だけ覗かして、どこかいじけた様に呟く。

「あぁーごめんごめん。あ、バスタオル貸して?もう出るから・・・・・っと」
勢いよく立った瞬間、目の前が真っ暗になって ―――

カクンと膝が折れ、その場にしゃがみこむ。

「ひとみちゃんっ!??」
「・・・・・あちゃー・・・のぼせちゃった、みたい」
慌てて入ってきた梨華ちゃんの手を握り、苦笑いを浮かべながら目を瞑る。


583 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:16
まぁ、しばらくじっとしてたら治まるか・・・

「大丈夫!?ここに居ちゃ体冷えるからっ!」

そう思ってる矢先に、体をバスタオルで包まれ梨華ちゃんに支えられ、そのまま部屋へと戻る。

「体拭くね・・・」
お互い、裸なんて見慣れてるはずなのに微妙に照れてる梨華ちゃんがこんな時でもかわいく思う・・・

「ごめんねぇー・・・もう大分よくなったからさ」
「いいからっ!パジャマ、自分で着れる?」
「ん・・・着れる」

まだ少しダルさの残る体を動かし、なんとかパジャマを着終える。


「じゃあ・・・はい、ここ寝転んでいいよ?」
そう言われて見ると、梨華ちゃんが壁に凭れてベッドの上に足を伸ばして座ってた。
手が太ももの辺りをポンポンと叩いてる。

584 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:17

「え・・・いいの?」
言ってる意味を理解し、ここまで至れり尽くせりだと申し訳なくなっちゃう・・・

「いいから、早く」
笑いながら手招きされるから、素直にそこに寝させてもらった。
いつのまにか冷水に浸したタオルを持ってきてて、それをおでこにそっとのせてくれる。

「ひゃぁー・・・・気持ちいー・・・」
「ふふっ。珍しく長風呂なんかしてるからぁ」
ゆっくり頭を撫でながら、優しい口調で話してくる。

「ん・・・ちょっと考え事してたら長くなっちゃった」
「考え事?」

「うん、ごっちんの事・・・このまま会えないのなんてマジやだし・・・
 梨華ちゃん1人に留守番させるの申し訳ないんだけどさ、しばらく休みはごっちん捜しに行こうと思って」
―――いい、かな?

言い終わって初めて塞がれてた視界を、タオルをずらす事でひらいた。
―― 梨華ちゃんを見る
思ってた通りの表情がそこにはあった。


585 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:18
「いいに決まってるじゃない。」
いつもの笑顔で答えてくれた事に、心からホッと一息つく事が出来た。

・・・・・ただ、ね?

笑ってはいるが、眉尻を下げた―― 少し寂しそうな顔
そんな表情で付け加えられたその言葉が妙に重く届いた


「ただ・・・・なに?」
なんで、そんな顔してるの?
あれだけ危険な目にあったあの組織 ――
もしも、そこにいたごっちんとも、もう関わってほしくないって言われたら・・・


「ただ・・・・・・私も一緒についてってもいい?」

どんな言葉が返ってくるのか、正直怖かった
だけど、返った言葉は予想してたのとは全く違うもの

「えっ・・・・あっ、いいけど・・・居場所も全然わかんないし、思ってる以上に大変だよ?」
少し拍子抜けしたけど、そう答えてくれた事は素直に嬉しい

「大丈夫!ほら、2人で捜した方が早く見つかるかもしれないしっ!
 最近運動してないから、何かしなきゃって思ってたとこだし。
 
 だって・・・ひとみちゃんだけに大変な思いさせられないよ。ひとみちゃんの役に立ちたいの」


586 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:20

梨華ちゃんの言葉を聞いた途端、うちは情けない気持ちでいっぱいになった。
ごっちんの事は、前に全て話してた ―――大事な親友だって

そんな彼女と関わってほしくない、なんて・・・・・・梨華ちゃんが言うはずないじゃん

ほんとバカだ



「ごめん・・・・ありがとぉ・・・・・」
泣き顔を見られるのが恥ずかしくって、額にあるタオルで顔を隠す。
「なんで謝るの?・・・ってゆうか・・・・泣いて、るの?ひとみちゃん?」
「・・・もう、泣いてる訳ないじゃん!変な事言わないでよ、全くー」


それが照れ隠しだってバレてると思う
泣いてるのも、もうバレバレ・・・
けど、彼女はそれ以上何も聞かず、ただずっと止めることなく頭を撫でてくれてる

こんなに優しく撫でてくれる彼女を1回でも疑った自分が情けない

溢れ出る涙は、なかなか止まってくれない
うちは、しばらく顔からタオルを外せなかった ―――
587 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:21

    ◇    ◇    ◇



予定通り、次の休みに中澤さんを訪れる。
今回だけは1人で

電車の出る間際まで、梨華ちゃんは一緒に行くと言ってきかなかったんだけど
やっぱり、あそこに連れてくのは抵抗があった。


「すぐ帰ってくるから。今回は危険な事なんてないから、ラッキーと待ってて?」
「うん・・・わかった。ご飯作って待ってるね」

「ありがと!うんとおいしいのよろしくねっ」
よしよし、と梨華ちゃんの頭を撫でると、電車へと乗り込んだ。


「んじゃ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」



ちょっとした事でもいい
何でもいいから、手掛かりをつかまないと・・・・

今回は休みが1日しかない事もあって特急を使ったからお昼前には着く事が出来た。
電車を降り、足早に組織へと向かう。


588 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:22
「ずっとここに住んでたのに、もう居心地悪いや・・・」
廊下を歩きながら、懐かしむ事もなくまっすぐ目的の部屋へ


コンコンッ ―――

「・・・・もう来る事ない思てたけど?」
相変わらず素っ気無い態度だな、この人は・・・

「そのつもりだったんですけど、どうしても中澤さんに聞きたい事があって・・・」
その言葉に首を傾げながら、ソファーへと促してくれる。

「・・・で?聞きたい事ってなんや?」
「なんでもいいんです、ごっちんの事、教えてくれませんか?生きてるのか・・・」
――― もう、この世にいないの、か


中澤さんは咥えたタバコを一息吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

ちょっとした事でも焦らされてる気分になる
何も話そうとしない目の前の人が口を開くのを、ただひたすら待った。

2回目の煙りを吐き出した後、ようやく話し始めた。


589 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:22

「とりあえず聞きたいんは、生きてるか死んでるかってとこやね?」
その言葉に、小さく頷く

「・・・・・生きとるよ」
多分、ね

「えっ、多分って・・・・生きてるんですよね!?」
歯切れの悪い返事に、ますます苛立ちが募る。


「だから、多分。あの日、あんたが来た日に言った言葉 ――あれは、嘘
 あの時、まだ後藤はここに居た」
淡々と話す事で、一瞬理解に苦しむ。

「え・・・ごっちんが、まだ居た?じゃあ、居なくなったなんて、なんでそんな嘘を・・・・」
「後藤自身からの頼みやったからね、私はそれに従っただけ」


ごっちんの気持ちがわからなかった
なんで・・・居たならどうして会ってくれなかったんだよ


590 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:23

「・・・じゃ、今は・・・今はもうここには居ないんですか?」
ここで情報がもらえなかったら、本当に頼る所がないんだ
縋る思いで問う。

「おらん ――あんたと一緒、守りたい人がおるからって出ていったわ。
 裏の世界を抜けて、ちゃんと前向いて進もうとしてるあんたに触発されたんちゃうかな」


「あ・・・・・・・」

そうだったんだ ―――


「中澤さん・・・それ、違います」
ゆっくりと、口を開く


「・・・ごっちんが、うちの背中押してくれたんです
 今の自分があるのも、ごっちんのおかげなんです ―――でも、よかった

 ごっちんもあの人との人生選んだんですね」

591 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:23
「なるほど、ね。けど出ていってからの事は、申し訳ないけど全くわからん
 姿見たって奴もおらんし、な」
まぁ、死んだって話しも聞いてないけどな?

ニヤッと笑い、そう話す中澤さんのその言葉を聞けただけで、ここに来た甲斐がある。


「わかりました・・・いろいろありがとうございました!」
スッと立ち上がり、深く頭を下げる。

「役に立てたかはわからんけど?」
「十分です」
そう答えると同時に、初めて自然に笑い合う事が出来た気がする。


「そういや、あんた今何してるん?」
既に短くなったタバコをもみ消し、新しいのを箱から取り出す。

「ある人の好意でパン屋手伝ってます」
「パン・・・!?ゲホッ・・・」
うちの答えが、あまりに意外だったのか軽くむせた事により、苦しそうな表情を見せる。

「はい、パンです・・・おかしいですか?」
苦しそうな表情から徐々に笑いを堪えてるものになってくのを見たら、そう聞かずにはいられない。


592 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:24
「いや、おかしくはないけど・・・なぁ?あんたがパン屋、ねぇ・・・ははっ」
「おかしいんじゃないですかぁー!」
「ごめんごめん・・ふははっ。人間変わるもんなんやね」
「・・・・そんな涙流すまで笑わなくても」

この頃には、全然普通に話せてる自分にびっくりした。



「じゃ・・・今日中に帰らなきゃいけないんで、そろそろ行きます」
「あぁ、気ぃつけてな。・・・後藤、見つかるとええな」

「はい。もし・・・ごっちんがここに来る事があったら伝言、お願いできますか?」

その言葉に、ただ黙ってメモ帳とペンを手渡してくれた。
そこに今の住所、電話番号を書く

「・・・・・ずっとここに居ますんで」
1枚を破り取り、言葉と一緒に渡した。


593 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:24
    ◇    ◇    ◇



――― それから
真っ直ぐ駅に向かい、着いてすぐ家へと電話をした。

『もしもしっ』
ずっと電話の前で待ってたのだろうか
2コール目が鳴る手前で、梨華ちゃんの声が受話器越しに届く。

「あ、ひとみだけど今から電車乗って帰るから」
『・・・後藤さんの事、何かわかった?』
「うん、その事についてはまた帰ってゆっくり話すよ。15分後に特急出るからさ、7時前には着くかな」
『わかった。・・・あっ、ひとみちゃん?』
「ん?なに?」
『・・・ううん、何でもない!じゃ、気をつけてねっ』
「ん、じゃあね」


受話器を置き、キップ売り場へと向かう。
電車が着くまで少し時間があったけど、する事もないしホームに出ると、そこにあったベンチに腰掛ける。

直接的な情報は得られなかったけれど、目標はできた
この空の下のどこかに居る事は間違いない

「・・・・・絶対見つけてやるからね」

果てしなく続く、この青空に ―――そう誓った



594 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:25
長時間の移動を終え、ようやくシートから腰を上げる。
改札を抜け、1秒でも早く帰らなきゃと言う思いから自然と駆け足になる

「うわ・・・真っ暗だよぉ」
駆け足と言うよりダッシュになる手前で、後ろから呼び止められた
そう、絶対に聞き間違えないあの子の声 ―――

「ひとみちゃんっ!」
「えっ?・・・梨華ちゃん??」
振り返ると、ラッキーを腕に抱えた梨華ちゃんの姿があった

「なんで!?寒いのに、迎えにきてくれたの?」
「うん、びっくりさせようと思って・・・・来ちゃった」
なるほど、あの時の電話で言いかけたのは、こうゆう事だったんだ

「迎えにきてくれたのは嬉しいけど、こんな暗くなってんのに危ないじゃんー」
「大丈夫だよぉ、ラッキーも居たし・・・ねぇ?ラッキー」
「ラッキーっていったって、子犬に何もできないでしょぉー・・・何かあったらどうすんのさぁ」

595 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:25

うちって天邪鬼・・・
嬉しいのに、さっきから口から出るのは小言ばっかじゃん
せっかく来てくれたのに、こんなんじゃダメだよな・・・

ほら・・・案の定、ちょっと俯いちゃってるよ


「あぁー・・・えっとぉー」
上手く言葉が見つからない
咄嗟にでた行動は、片手でラッキーを抱き上げ、もう片方は梨華ちゃんの手を握り締める。

「ごめん、ありがとうね?・・・いや、まさか来てるなんて思ってもみなくて・・・すごい嬉しいのにお礼も言わずに」
「ううん・・ひとみちゃんの言う通りだし。私の方こそごめんなさい・・・」


やばい・・・スイッチ入っちゃったかな・・・
声のトーンが落ちちゃったままだ
んー・・・何かいい方法ないのかよぉー・・・!?

596 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:26

「・・・・あ?今日の晩ご飯、何?うち、もうお腹減っちゃって電車の中で何か食べようかって思ったんだけど
 梨華ちゃんの作ったあったかいご飯の方が断然おいしいから我慢したんだよ?えらくない??」
わざとテンション上げて、繋いだ手を大きく振る。

「今日はね、寒いからお鍋にしようと思って。支度してるから、帰ったらすぐ作るからね」
「鍋?マジ嬉しいっ!・・・って、おあずけしてたのは誉めてくれないの?」

「おあずけって、ラッキーじゃないんだからぁー」
「誉めてくれないのぉー?躾で1番大事なのは誉めてやることなんだよ?なぁ、ラッキー?」
顔を近づけると、顎をペロペロ舐めてきた。


「・・・もう。・・・・・ひとみちゃん、えらかったねぇー!よしよしっ・・・・これでいい?」
空いた手で頭を数回撫でてくれる。
照れながらも、表情もさっきから比べると明るくなってきてた。
よし・・・もう一押しっ!


597 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/03/31(水) 00:27

「うん!我慢したかいあったよぉー!じゃ、うちなりの感情表現ね」
言い終わると同時に、右下にある梨華ちゃんの左頬をぺロっと舐める。

「きゃっ!?何、ひとみちゃんっ」
「んー?ラッキーの真似だよっ!ふふっ」




この時には、いつも通りの笑顔に戻ってた

この手は使える ――――と、思ったのは内緒だけどね





598 名前:pitom 投稿日:2004/03/31(水) 00:30
更新終了です〜

今日は「よっすぃー!最高っ!!」これだけですっ(それだけかよっ)
599 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/12(月) 22:45

家に着くとすぐ、梨華ちゃんが手早く鍋の用意をしてくれた。
うちも、卓上コンロを用意したり取り皿を出したり、とお互い忙しく動く。

帰ってから30分が過ぎようとした頃、ようやく落ち着いて鍋を挟み座る事が出来た。


グツグツと湧きあがる様子を見て、そろそろ食べ頃だと思い適当に取り分ける。
「はい、梨華ちゃん。」
「ありがとっ。」

「じゃ、いただきますっ!あ・・・そうだ、今日の事話さなきゃね。
 
 梨華ちゃんが言った通りだったよ。――― ごっちん、どこかで生きてる
 居場所まではわからなかったけど、もし戻ってきた時の事考えて中澤さんにここの住所を渡してきた。
  
 あとは会えるって信じて捜すだけ、だね」


600 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/12(月) 22:46

大体の事を話し終え、うちは少しだけ冷めかかった料理を頬張る。

「ほんとに?よかったぁー・・・じゃ、次の休みから頑張ろうねっ!」
まるで自分事のように心底安心した表情を浮かべる梨華ちゃん

「うん、ありがと。けど、もし何か用事できた時は、そっち優先していいからね?」
「ん、わかってる。」
「・・・でも、肝心のごっちんの写真がないんだよねぇ・・・何を頼りに捜せばいいのやら」
「後藤さんの行きそうな場所とかわからないの?」

「ごっちんにもね、大事に思ってる人がいたんだ。多分その人の所へ行ったんだと思うんだけど・・・」
うちが組織に入った時にはそんな素振り全然見せなかったし、場所なんてさっぱりわかんないし


「考えるより、まず行動、でしょ?」
いいアイディアが浮かばず、んー・・・と唸ってるうちを見兼ねて手に持ったままだった空いた取り皿を受け取り
熱々の具を入れながらそう言ってくれた。

601 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/12(月) 22:47

「ん・・・そうだったね。
 そういや梨華ちゃんは今日うちが居ない間、何してたの?」
冷めた頃合をみて、豆腐を頬張る。

「えっとね、掃除して洗濯してぇー・・・あ、ラッキーの躾してたよっ」
「ひふぇ?」
「もうっ!ひとみちゃん、口の中空にして話して」

一口で食べた豆腐が、まだ中が熱くってハフハフしながらの返事だったから、まともに話せなくて怒られちゃった

「ん・・・・・ごめん、躾?」
「うん!お手とか、お座りとか。本読んで、ちょっとずつ覚えさせようかなって」
「で、今日の成果は?」
「・・・・・全然だめ」
梨華ちゃんまでシュンとうな垂れた子犬みたいだよー

602 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/12(月) 22:47

「まぁ、1日じゃ無理だよ。トイレの方はどうだった?」
「あっ!トイレはね、なるべく注意してて。したそうにしてたらシートの上に連れていってたんだ。
 これ守ってたらすぐ覚えるって!」
「そっか。朝晩はうち散歩連れてくから、その習慣もついてくれるといいね」
「すぐ覚えるよ、ラッキー賢いもんっ」


うちらの期待に果たして気づいてるのか・・・
当の本人は小屋の中でキョトンとした表情でこっちを見てる。
 


603 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/12(月) 22:48

食事も済ませ、先にお風呂に入らせてもらった。

お風呂から出た時、片付けを済ませた梨華ちゃんが懲りずラッキーにお手を教えてる最中だった。

「お手とかさぁ、まだちょっと早いんじゃない?もうちょっと大きくなってから教えればいいじゃん」
濡れた髪をゴシゴシと拭きながら声かける。

「小さいうちの方が覚えるんだって!・・・ほら、ラッキー?お手、こうやるんだよ?
 
 ・・・・ラッキー、お手っ」

足元に手を持っていき、ラッキーの目を見ながら必死に教えてる。
けれど、当然だけどそうすぐには従ってくれない。

604 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/12(月) 22:48

「やっぱまだ無理なのかなぁー?」
「んー・・・・」
綿棒で耳を掃除しながらの返事だったから、相槌打つだけのものになった

「ねぇー、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよぉー・・・・はぁ、すっきりしたぁ。次は左耳ぃー」


「んもぅー・・・・・ホントに聞いてるのか聞いてないんだか」
――――― あっ!?

ブツブツと独り言を言ってたかと思いきや、何かを閃いたようでうちの前まで四つん這いでやってきた。


「ねぇ、ひとみちゃん・・・・・」
「んぁ?なにぃー・・・」


「・・・・・・・・お手っ!」
「・・・ワン」

605 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/12(月) 22:49
目の前に差し出された手に、思わずポフっと手をのせてしまった
しかも鳴き声付きだよ・・・・


「何させんのさぁー・・・・・」
「ホントにしてくれると思わなくて・・・・やだぁー」
ひとみちゃん、かわいいー


条件反射って恐ろしい
ついついやってしまった自分が情けない


けど
目の前の、無邪気に笑いながら頭を撫でてくる彼女を見てると、

・・・・・・ま、いっか
なんて思いながら、つられて笑う自分もいるんだけど(笑)



    
606 名前:pitom 投稿日:2004/04/12(月) 22:53
かなりの少量更新なのでsageでいかさせていただきました
次回、最終話の予定ですm(_ _)m

あと、この場をお借りして
よっすぃー19歳おめでとぉーーーーー!!

607 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:23
    ◇    ◇    ◇   



それから仕事とごっちん捜しの日々が続く

覚悟してた通り、ごっちんを見つける事も手掛かりをつかむ事も出来ないでいた。
季節は、もう初夏を迎えてた ―――


「・・・・はぁ、今日も何の情報もなく終わっちゃったかぁ」
ったく、あいつはどこに居るんだか・・・

歩き疲れた足をダランと伸ばし、扇風機の前を占領する。


「もうちょっと頑張ろ?はい、これ飲んで待ってて。すぐご飯作るから」
「あ、うちも手伝うよ!梨華ちゃんも1日歩き回って疲れたでしょ」
渡された麦茶を一気に飲み干し、梨華ちゃんの後を追ってキッチンへ向かう。

「ごちそう様でした」
「どういたしまして」
グラスを流し場に置き、何を手伝おうかと思いながら肩越しに覗きこむと
梨華ちゃんはキュウリやらハムやらをせっせと細切りにしてた。

608 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:24

「・・・手抜きでごめんね?」
「なんで?何作ってるの?」
「えっと・・・そうめん。でも、それだけじゃいけないから上に具のせようかなと思って」

あぁー、それでこの材料ね

「全然手、抜いてないじゃんー。じゃあ、うちは・・・そうめん茹でるね」
大きめの鍋を取り出し、お湯を沸かす。
沸騰するまでの時間、もう1つのコンロ台にフライパンを取り出し薄焼き卵を作る。


ここに来た頃は料理なんてほとんど出来なかったのに、人間やればできるもんだ

「あ、それ終わったらこっちも切っといて」
焼きあがった卵を細切りにするのは梨華ちゃんに任せて、うちは沸騰したお湯の中にそうめんを入れる
時間を見て、茹であがったそうめんをざるに出す。
冷水で冷ますと、透明のガラスの器に分け、しばらくの間冷蔵庫でもっと冷やす。

609 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:24

「キュウリと卵とハムと・・・・具、これだけでもいい?」
「十分!麺冷えるまで、先に汗流しちゃおうよ?もう体中ベタベタ・・・」
こうやってご飯を作ってるだけでも、じんわりと額に汗が滲んできてた。

「そうだね、ひとみちゃん先どうぞ?」
「じゃあーお言葉に甘えて・・・」
「あ、着替えとか後で持ってくからっ」

「サンキュー!」
その言葉に、タンスに向かおうとしてた足を浴室へと改める。


シャワーを浴びるだけにして、10分もしないうちに出た。
その後、梨華ちゃんがシャワーを浴びてる間すっかり大きくなったラッキーとしばしじゃれあう。

あれからトイレも覚えた ―――梨華ちゃんが頑張ったお手もおかわりも、お座りも

「ラッキー・・・ごめんなぁ。最近休み全然遊んであげてないもんなぁ・・・いつもお留守番させて、さ」
休みは安倍さんが遊んでくれてる時もあるけど、大体はゲージの中で過ごさせてる。

610 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:25

そうしてる間に、梨華ちゃんもシャワーを終え戻ってきた。

「お待たせ!ひとみちゃん、もう冷えてると思うからご飯にしよ?」
「はーい」

ラッキーをゲージに戻し、手を洗ってからキッチンへと向かう。
そうめんの入った器を手に取り、テーブルへと運ぶ途中に頬に当てた

「んー・・・気持ちいー・・」
よく冷えたそれは、一気に体から熱を取ってくれる気がした



いつものように、テーブルを挟んで向かい合って座る。

陽も沈んだ事でようやく扇風機だけでも過ごしやすい気温になった
冷たいそうめんで、更に涼しさを感じられた。

611 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:25

「夏はやっぱそうめんに限るねぇー・・・っと、そうだ。ねぇ、梨華ちゃん?」
うちの言葉に、うんうんと頷きながら食べてた梨華ちゃんが顔をあげる。

「ここんとこ、ずっとごっちん捜しで休み潰れてるじゃん?ラッキーもつまんないだろうしさ
 次の休みはラッキーも連れてどこか散歩にでも行こうか」
たまには家族サービスもしなきゃね

「でも、・・・いいの?」
「ん、ずっと梨華ちゃんにも付き合わせてるし。せっかくの休みなのに歩き回って体休められてないし」

出来る事はうちも手伝ってるけど、家事も頑張ってくれてる
いつもありがとう、って意味も含めてゆっくりさせてあげたいから・・・

「わかった!じゃあ、今度の日曜はお弁当作って近くの公園行きたいな」
「あ、それいいねぇ!1週間後が楽しみだ」
「晴れるといいねっ」



    
612 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:26
    ◇    ◇    ◇



1週間後、期待に答えてくれたようで空は雲1つない快晴だった

「わぉ・・・今日も暑くなりそうだ」
窓から空を見上げながら呟く


何分か前に、物音で目が覚めた
隣りに寝てるはずの梨華ちゃんの姿がない

「あ、れ・・・梨華ちゃん?」
辺りを見渡すとパジャマの上にエプロンを身に付け、早くもキッチンでお弁当作りに奮闘してる後ろ姿 ――

「起こしてくれれば手伝うのにー」
その声に、おはようって笑顔で振り返る

「ひとみちゃん、空見て!いい天気だよぉー
 起きてね、外見たらすっごく嬉しくなっちゃって。なんかまた寝るのもったいなくて、早く出掛けたいし!」
弾んだ声に促され、カーテンを開け外を見上げる。


「わぉ・・・今日も暑くなりそうだ」

で、今に至るという訳



613 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:26

それからすぐ着替えて、梨華ちゃんの隣りに並んで弁当作りの手伝いをする。
昨日張り切っていろいろ材料買い込んでただけあって、既にたくさんのおかずが出来あがってた。

うちは昨日安倍さんに教えてもらって作ったベーグルに生ハムとクリームチーズを挟んで
1つ1つをホイルで包む。

「これさぁー、マジうまなのよっ!何もつけないのもおいしいけど、なんか挟むのもイケるんだっ」
1人で力説してる姿に、背中で笑ってる梨華ちゃん

「ひとみちゃん、ほんとベーグル好きだよね!」
「ん、毎日ベーグルでもいいくらい・・・あ、けど最近フランスパンも上昇中なんだよねぇー」

こうやっていろんな種類のパンを作ってたら、今までは気にせず食べてたものなのに
微妙に違うパンの味に、どんどん虜になっていく自分がいるのも事実。
この仕事に出会えて本当によかったな、って


614 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:27
9時になる頃には、お弁当も出来上がって後は梨華ちゃんの着替え待ち。

「ねぇ、何着ていこう!?」
「えぇー?行くの公園だよ?楽な格好でいいよぉ」
既に準備の終えたうちは、またまたラッキーとじゃれあい中。
今日は特別だよ、なんて言いながらラッキーの首元に青色のバンダナを巻いてやった

「だって、久しぶりのお出かけなんだもん!」

そうだけど、そうなんだけどぉー・・・・まぁ、仕方ないか。ほんと久しぶりだもんね


梨華ちゃんも納得のいく服装に決まって、さっきから終始ニコニコ顔
「さて、と・・・準備も出来たし、そろそろ行こうかっ」
「うんっ♪」
615 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:27
予想以上に多く作り過ぎたお弁当と水筒の入ったカバンを肩に掛け、部屋を出る。
階段を降りると、店先を掃除してる安倍さんの姿があった。

「あ、安倍さん!おはようございます」
「おはよー!今日は楽しんできてねぇー」
「はい!安倍さんも来れたらよかったんですけど・・・」

「そう言ってもらえて嬉しいんだけど、どうしてもはずせない用あってね」
また今度誘ってよ!

「もちろんです!・・・あ、安倍さんもう朝食べました?」
「ううん、まだだけど」

その返事にカバンの中からさっき作ったばかりのベーグルサンドを取り出す。

616 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:28

「これ、昨日のベーグルなんですけど、お裾分けっす!」
「ありがと!後で食べるよっ!じゃ、気をつけてね、ラッキーもいっぱい遊んでもらうんだぞぉー」

すっかり安倍さんにも懐いてるラッキーは飛びつきながら、嬉しいって感情をめいっぱい表す。


「じゃ、行ってきまーす」

安倍さんに見送られながら、目的地に向けてまるで遠足に行く小学生のように足取り軽く歩いてく。
その1時間後、思いもよらない訪問者が来るとも知らずに ―――


「・・・・あの」

昼過ぎからの用事まで普段出来ない所の掃除を頑張ってた安倍さんに背後から声をかけられた。

「はい?」
窓を拭いてた手を止め振り返ると、そこにはスラッとした細身の女性と、比べると少しだけ背の低いショートボブの女の子の姿


617 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:29
「あの・・・ここに吉澤ひとみさんが働いてるって」
遠慮がちに、そう聞く彼女にピンときた

「・・・・・・あっ!あなたごっちん!?」
「・・・え?あ、・・・はい」
いきなり名前ではなくニックネームで呼ばれた事に、戸惑いを隠せず返事をする。

「やっぱり?よかったぁー!!よっすぃー、ずっとあなたの事捜してたんだよぉ」
そんな事にも気にせずマイペースに話しを続ける。
そんな態度も、安倍さんならではの愛嬌があるからなのか、少しも嫌な感じを受けない



「えっと・・・それで、よしこ・・・吉澤さんは」



618 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:29

「んー・・・・・・さいこー!」
新緑の葉が生い茂る木の下の、芝生の上に持ってきたシートを敷き、そこに寝転がる。
葉の間から差し込む光の眩しさに目を細めた

「梨華ちゃんも寝転んだらいいのにぃー」
「私はいいよ」

「なんでぇーこんなに気持ちいいのに・・・」
こうやって目を閉じてたら、再び夢の世界へと誘われそう・・・
こんなゆったりとした時間を過ごすのもいいな

しばらく2人の間に会話はなくて
たまに吹く心地いい風が揺らす、葉の擦れる音だけが耳に届くだけ




―――――――――
――――――――――――――――― よしこ・・・・



619 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:30

「・・・・・・・え、・・・・・・・・ごっちん?」

上体を起こし、キョロキョロと辺りを見る。
でも声の持ち主であるごっちんの姿はもちろん、誰の姿もなかった

「・・・・聞き間違い、か」
そう思い直し、再び寝転んだ時だった


「ふふっ・・・・・よーしこっ!」


聞き間違いなんかじゃないっ!!
ガバッと身を起こし立ちあがる
視線の先には ―――



「・・・・・・・・・・ごっちん?マジ、で?」

「おっす!・・・・・・久しぶり、だね」
顔の横で手をかざし、ニカッて特有の笑い顔で

ごっちんが立ってた


620 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:30

「・・・・・ったく、久しぶりじゃないよ・・どれだけ捜したと思ってんだよぉー!」
そう叫んだ次の瞬間には、足が勝手に動きごっちんの元へ駆け寄ってた。
ごっちんも同様に。

距離がなくなり、いつかしたように、強くお互いの体を抱きしめた
 

「・・・・・・・・よかった、もう会えないかと思ったんだから」
「ん、ごめんね・・・ほんと・・・ごめんなさい」

「もういいよ、こうやって会いにきてくれたんだから」
腕の力を緩め離れた事で、視界にごっちん以外の姿が映ったのに気づく


「・・・・あっ、あの人が言ってた、人?」
聞きながら視線をそちらに向けると、頭を下げられたので思わずうちも頭を下げる。

621 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:31

「うん、そう。・・・・平家さん!そんなトコいないでこっち来てよ。紹介するから」
ごっちんの言葉に、少しだけ照れくさそうに歩み寄ってくる。

「あ、よしこの方も紹介してよーあんなかわいい子だなんて聞いてないよ?」
ニヤニヤしながら肘でつっつくごっちんを軽くあしらいながら、ラッキーを抱いたままこちらを見てた梨華ちゃんに手招きする。



「えっと、こちらが石川梨華ちゃん。と、ラッキー」
「はじめまして、後藤さんの事はひとみちゃんからいろいろ聞いてて」
「あ!後藤さんなんて、そんな堅苦しいのやめよ?ごっちんって呼んでくれたらいいから
 こっちは梨華ちゃん、って呼んでもいい?」
「うん!よろしくね、ごっちん」

「よろしく!で、・・・平家、みちよさん。
 6歳上なんだ、だからずっと平家さんって呼んでてぇ」
「ちょ、ごっちん!?こんな時に歳言わんでも・・・」
紹介された女性は、ごっちんのいきなりの言葉に焦りながらも、よろしく、と手を差し伸べてきた。

「吉澤ひとみって言います。よろしくです」
うちに次いで梨華ちゃんとも握手を交わす。

622 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:31
「それにしても来るなら電話でもしてくれればよかったのに、中澤さんに住所と一緒に番号も教えてたでしょ?」
立ち話もなんだから、と、シートに腰掛け募る話しに花を咲かせる。

「びっくりさせようと思ってね。けど・・・ごとーの方がびっくりさせられたんだけどさ」
――― まさかよしこがパン屋やってるなんてね


「あぁー・・・それ中澤さんにも言われたし!そんなびっくりする事かなぁー
 なら、ちょっとこれ食べてみてよ、うちが作ったベーグル!」
カバンから取り出そうとした時に、閃いたように梨華ちゃんが提案する。

「じゃ、お弁当みんなで食べようよ!多めに作っちゃってたから2人だと絶対余るって思ってたんだ」
「あ、それいいアイディア。時間、まだ大丈夫なんだよね?」
カバンからお弁当箱やら水筒やらを取り出す。

623 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:32

「時間は全然大丈夫だけど、・・・いいの?せっかくの2人の休日なのに」
「いいに決まってんじゃん、ねぇ?梨華ちゃん」
「もちろん!大勢で食べた方がおいしいし」

「じゃ、遠慮なくいただきますっ!・・・って、これ?よしこが作ったパン」
ホイルに包まれたベーグルに手を伸ばし、早速口に運ぶ。


「・・・・どうよ?」
何も言わず、2口目かじりついたごっちんに、多少なりと不安な気持ちも込み上げてくる。

「・・・・・・・・・悔しいけど、んまい」
「悔しいってなんだよぉー!素直に始めっからおいしいって言えぇー!」

2人のコントじみたやりとりに、梨華ちゃんも平家さんも笑いが絶えないようだ。


624 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:32

「こっちのおかずは梨華ちゃんが作ったの?・・・ん、この卵焼きマジおいしいよっ!」
「ほんとに?」
「ほんと、ほんと!平家さんも食べてみてよぉー」
そう言いながら、ご丁寧に平家さんにも分けてあげてる。


「・・・どれどれ」
そう言いながら弁当箱を覗きこむと、既にそこのスペースは空っぽになってた。

「あぁーーーー!!?もうないじゃん!1つくらい残しといてよっ!」
「いいじゃーん、よしこは梨華ちゃんの手料理、毎日食べれるんだから」
悪びれた様子もなく、次のおかずへと箸を伸ばしてるごっちん

「そうだけどー・・・・」
今食べたかったんだもん、梨華ちゃんの卵焼き・・・

「ごめんな?えっと・・・これ半分、食べる?」
申し訳なさそうに、平家さんが半分に割って食べた、その残りを差し出してくれた。

「あっ!平家さん、いいですから!ひとみちゃん、帰ったらまた作ってあげるから」
「・・・うん、絶対だからね」

625 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:33

「よしこって・・・・会わないうちに随分変わったよね」
口にあったものを飲みこみ、妙にしみじみとそう言う。

「・・・どこが」
余計な事を言われるんじゃないかって、ヒヤヒヤしながら聞き返す。

「どこがって・・・・そんなの言えないけどぉーあはっ」


隙あり!って言いながら、ごっちんはうちの取り皿からヒョイっと唐揚げを取ったんだ!


「あぁーーーーー!??最後に食べようと思ってた唐揚げぇー!!」


「・・・ひとみちゃん、それもまた作ってあげるからぁ」



626 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:33

あんなにいっぱいあったおかずも、見事なくらいきれいに完食された。

「あぁー・・・お腹いっぱーい!」
「こら、ごっちん。食べてすぐ横になったら牛になるよ?」

「ひとみちゃんも」

なんだかんだ言いながらもうちとごっちん、やっぱ気が合うのかな
寝転ぶのも同時

「「はーい」」

返事も、同時。



    
627 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:34

    ◇    ◇    ◇ 



ごっちん達は、今日の最終で帰るらしい
それまでまだ時間があったから、近所を簡単に案内してあげる事にした。


梨華ちゃんの生まれた街で、今となってはうちも大のお気に入りのこの街 ――― だから・・・

「いい所だね、この街・・・」
ふと呟いたごっちんの言葉に、素直に喜べた


名所なんて呼べる場所はないんだけれど、この街の持つ温もりが大好きなんだ



「・・・・・あ、教会」
たまたま通りかかった、その小さな教会の前で足を止める。
こんな所に教会なんてあったんだ
なぜか入り口が開放されてて、真っ赤に伸びるカーペットの向こうにはステンドガラスを通す事で
いろんな色の光りが差し込んでるように見えた。

628 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:34

「・・・・ねぇ、よしこ耳貸して?」
ぼんやりと見てたうちの腕を引き、そっとある事を耳打ちしてきた。


「・・・あっ、それいいっ!じゃ、善は急げって事で早速・・・・
 ねぇ、梨華ちゃんに平家さん。悪いんだけど、ちょっとここで待っててもらえるかな?」
言いながらも、既にうちらは走り出してた。


「えっ?ちょっ・・・・行っちゃった。すみません、よくわかんないけど待ってましょうか・・・」
「そやね、あの2人の事やから何か企んでの事だろうけどな」
「・・・・ですね」

お互い苦笑いを浮かべながら、ちょうど段になってる所に腰をかけた



20分くらいが過ぎようとした頃、ようやく遠くから走ってくる2人の姿が見えた

「やっと帰ってきたな・・・って、なんか後ろに持ってない?」
「ほんとだ、なんだろ」


629 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:35

「お、またせ・・・・っ・・・疲れたぁー!」
「もう・・・よしこ、体力落ち・・たんじゃ、ない?」
「ごっちんだって・・・息、切らしてんじゃん・・・」

言いながらも相変わらず右手は後ろに回したまま。

「ねぇ、どこ行ってたの?」
そんなうちらに堪らず梨華ちゃんが問い掛ける。


「・・・それはね・・・・・・」
目で合図を送ると、ごっちんもそれに気づきコクンと頷く。


「「はいっ!」」

同時に、それぞれの相手の前に差し出したものは


「きれい・・・え、でも・・・・なんで」

――― 小さいけれど、満開に咲いた花でいっぱいのブーケ


630 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:35

「ごっちんの案なんだけどさ、ここでそれぞれの結婚式・・・やらない?」
ちょっとだけ照れくさくって、空いた手で頭をポリポリかく

「結婚式・・・?今、から?」
信じられないといった顔つきで、さっきから何度も瞬きしてる。

「平家さんも・・・いいでしょ?」
まるでおねだりしてる子供のように、許しを乞う。

「えっと・・・・でも勝手に入ってもいいもんなんか、な」
この中で少しだけ大人な平家さんは、やはり冷静になって返事に渋る。


「多分大丈夫ですよ。入り口開けてるって事は、いつでも礼拝していってくださいって事じゃないかな!」
「そーだよ!よしこの言う通りだよっ!だから・・・ね?」
うちの言葉に便乗して必死に頼むごっちんに最後は折れ、平家さんも承諾してくれた。




631 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:36
ラッキーを柵に繋いでおいて
先にごっちんと平家さんの結婚式から ―――

うちらは先に中に入ると、今から入ってくるだろう2人を拍手をしながら迎えた。
ごっちんの、どこか緊張してる表情を見てるとこっちにまで移った気がした


「えっと・・・では、今から後藤真希、平家みちよの結婚式を始めます。

 ・・・・・・よくわかんないから、なんとなくで進めてもいい?」

場の雰囲気をぶち壊すような、そんなうちの言葉にごっちんは軽く睨みながらも、いいよ、と諦め表情で頷いてくれた。



632 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:36

「改め・・・・後藤真希、あなたは平家みちよを生涯守る事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「・・・平家みちよ、あなたは生涯後藤真希の傍に居る事を誓いますか?」

「はい、誓います」


「これで、今日から2人が夫婦である事、うちらが証明します。おめでとう!ごっちん、平家さん」

さっきより強く、うちらは拍手をしながら心から2人を祝福した。
平家さんの目から涙が一筋こぼれ落ちた。




633 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:37

「・・・はい、梨華ちゃん。これ持って」
次はうちらの番
ブーケを渡すと、梨華ちゃんが空いた方の手をそっと腕に絡めてきた。

「まだ、ね・・・信じられないの・・・まさか結婚式なんて出来ると思ってなかったから・・・」
「急だったからこんな安上がりのになっちゃったけどね」

「・・・十分だよ」
そう言いながらうちを見上げる梨華ちゃんの瞳は既に潤んでた。

「まだ泣いちゃだめだよ・・・・・じゃ、行くよ」


ゆっくり、1歩1歩を踏みしめながら進んでく
両サイドの椅子にはもちろん誰もいないのだけれど、でも心は十分に満ち足りてた。

端から見たら単なるお遊びに見えるかもしれない
単なる自己満足だと言われればそれまでだ・・・・

でも、1つの形として節目として、今日こうやって結婚式を挙げられる事に感謝する



634 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:37

「では、これから吉澤ひとみ、石川梨華の結婚式を始めます。

 吉澤ひとみ・・・あなたは健やかなる時も病める時も石川梨華を妻とし、生涯愛する事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「石川梨華・・・あなたは健やかなる時も病める時も、吉澤ひとみを夫とし、生涯愛する事を誓いますか?」

「・・・・・はい、誓います」
言い終わると同時に、涙が溢れ出てた。


「・・・・では、2人。誓いのキスを・・・」


・・・・・・・・・・はっ!?
思わずごっちんの方を見ると、ニヤけた顔でこっちを見てた。

そうゆうの苦手だって知ってるくせに・・・だからごっちんの時も敢えてしなかったのにさぁ・・・

635 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:38
ゆっくり、梨華ちゃんの方に向き直す。
梨華ちゃんも明らかに照れた様子で、こちらを向く。

そっと涙を拭った後、肩に手をのせ重ねるだけのキスをした ――――



「ヒュ〜♪おめでとっ!!よしこ、梨華ちゃんっ!」
飛び跳ねながら拍手で祝ってくれる親友は、この時とばかりに隣りの彼女の腕を引くと
間髪入れずにキスをした。


「・・・・見せてくれるねぇ」
「当たり前だよ、吉澤さん」
ピースをしながら、言い放った。



636 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:38

「うあぁーーーーーーー!みんな最高だぁーーーー!!!」

無性に叫びたくなって、腹の底から叫んだ。
勢いづいて隣りにいる梨華ちゃんの体を思いきり抱きしめる。

「・・・改めてこれからもよろしくです」
「ん・・・こちらこそよろしくね」



――― ワンッ!ワンワンッ!

ここにもいるぞ!と、自己主張なのか、今まで静かだったラッキーがこちらに向かって吠えてくる。

「あっ!忘れてた訳じゃないからぁー!」
思わず駆け寄り、繋いでおいた綱を外し抱き上げる。


「ごっちん、さっきの誓いの言葉、ちょっと訂正してもいいかな?」
「ん?いいけど」





637 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:39





「私、吉澤ひとみは  
       梨華ちゃんとラッキー・・・2人と1匹とで幸せな家庭を作る事を誓います」







638 名前:『2人と・・・1匹と』 投稿日:2004/04/22(木) 23:40



                   ―― fin ――



639 名前:pitom 投稿日:2004/04/22(木) 23:40
とりあえず流し・・・
640 名前:pitom 投稿日:2004/04/22(木) 23:48
と、ゆう訳で本編から考えると1年以上にもわたって書いてた事に
自分自身びっくりなのですが、無事完結できて本当によかったです!

相変わらずな駄文に加え、更新速度もドンドン落ち
もし、こんな小説ですが感想なんかがありましたら一言でもレス頂けると
すごく嬉しく思いますっ!

残り、まだあるので短編など書かせてもらえれば、と思ってます♪


641 名前:わく 投稿日:2004/04/23(金) 00:43
更新おつかれさまでした!!
ずっと前から読んでました。
幸せな2人の姿・・・・最高ですw
これからもラブラブないしよしを期待しています☆
642 名前:1444CH 投稿日:2004/04/24(土) 00:53
完結おめでとうございます。
いしよしの関係がとてもかわいらしいですね。
ごっちんと平家さんも幸せになれてよかったです。
更新お疲れ様でした。m(__)m
643 名前:レオナ 投稿日:2004/05/22(土) 21:04
完結お疲れ様です。
レスかなり遅くなりましたが、毎回読ませていただきました。
更新のほうは、ゆっくりでもずっと待ってます。
短編も楽しみにしてますね。次回も、がんばってください。

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