【―生きたい―希望を求め僕らは叫ぶ】

1 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月06日(木)22時05分01秒
ちらほら、板で書いてる者です。レス大歓迎です。
でわ。
2 名前:孤独 投稿日:2003年02月06日(木)22時08分28秒




孤独という枠から外れられずに、一人で抱え込んでもがいてた僕ら。


その悩みを持っているのは自分ひとりだけと思ってた。



けど本当はそうじゃなかった。


僕らはそれぞれ孤独だった。

けどそれに誰も気付いてはくれなかった。

僕らの心のすべてを、僕等でしかわからなかった。

みんな気付かなかった。        それが真実。


それでも生きるしかなかった。
3 名前:孤独 投稿日:2003年02月06日(木)22時15分52秒

トントントントンッ!!―――――――――――――


「愛、はやく起きなさい!」
母親が台所で朝食の準備をしながら、
さっきから愛のいる部屋に向って叫んでいる。愛は部屋から出てこない。

「愛!起きなさい!!」
母親はさっきより大きな声で叫んだ。愛はまだ出てこない。


「愛!!!」――――――――――――――――



しばらくして、ガチャッという音が聞こえた。その音を聞いて母親は
フゥッとため息をもらし、また朝食の準備をはじめた。

「…………」
愛は何も言わずに淡々と着替えて学校に行く準備をした。



――――――――――――キィー
「ちょっと!また食べていかないの?お茶くらいせめて飲みなさい」

母親が、玄関を出ようとする愛にお茶を差し出した。
「いらないよ」愛は靴ひもをキュッと結んでドアを開けてさっさと
行ってしまった。
4 名前:孤独 投稿日:2003年02月06日(木)22時17分47秒

(私は人に対して冷たいんだ)
(家族にも、冷たい)
(こんな私だから…誰もすきにならない)


愛は毎日考えている悩みを、今日も考えていた。
自分は人に対して冷たいんだと信じ、人になにも与えてやれない、
そんな自分へのもどかしさを悔しさとあきらめに変えていた。
5 名前:孤独 投稿日:2003年02月07日(金)15時21分46秒
愛は朝起きたときから気分が悪く、それは隊長が悪いんじゃなく、精神状態が
悪いということで、そんな日はなぜか、学校に行きたくなくなる。

(家から出てきたのはいいけど……学校、行きたくないな)
(…またどうせ怒られるんだろうな)
愛は自転車の鍵を取り出して、ふいに七階の自分の玄関の方を眺めた。
愛は複雑な表情をしてしばらく眺めていたが、ハッと自転車に目を戻し、
それから愛は暗い顔になってしまった。

自転車をこいで、愛は走り出した。学校とは正反対の道へ。

マンションの横の、大きな並木道を通り抜け、愛は知らない道をずんずん
走っていった。その自転車の速さは、風を切り裂いていくように見え、愛は
冬の冷たい風も平気のような、固い表情だった。

愛は知らない駅の階段の前で自転車を止めた。
そして近くのトイレにかけこむと、出てきた時は、防寒着を着用していた。
制服姿を誰かに見つかったらヤバイと思ったのだろう。
愛は、コートとマフラーと帽子を身につけていた。

(どこに行こう…)
(人、いっぱいだな)(嫌だなぁ)
6 名前:孤独 投稿日:2003年02月07日(金)15時23分07秒
隊長=体調っす。すいません。
7 名前:孤独 投稿日:2003年02月07日(金)15時29分39秒
駅前の商店街。みんなは通勤、通学、店の開店などで込み合ってる。
愛はこんな人だかりは苦手だった。知らない人に声をかけられたり、
ぶつかったり、いろいろされた経験上で、人の混雑は気分が悪くなる程、
嫌だった。

愛は人目をさけ、店と店の間の細い道を通ろうとした。
その時――――――――――――

「あ」
(子犬)愛は足元を見た。
小さな子犬が愛の足の上でチョコンと前足だけを伸ばしている。
(捨て犬かな?けどまだずいぶんキレイだし)
(……寒さで震えてる…可哀相)
愛はしゃがんで子犬をなでた。その時の愛の表情は、さっきとは
違って、ずいぶんと優しい表情だった。

(どうしよう、この子犬)
(…………………)

しばらく考え込んだ結果、愛は子犬を抱えて歩き出した。
どこに行くわけでもなくフラフラと、あてもなく歩き出した。
愛も、寂しかったのだろうか、一緒にいたかったのだろうか。

子犬への勝手な同情と、自分への孤独感を、少しでも
和らげるためなのだろうか。

愛は仲間が欲しかった。
8 名前:孤独 投稿日:2003年02月07日(金)15時35分24秒

――――――――――――――ウィーン


コンビニから出てきた愛は、買ってきたビーフジャーキーを、
子犬に差し出して、食べさせた。
子犬はよっぽどおなかが空いていたのか、勢いよくガツガツと食べ始めた。
愛は、その姿を見て少し安心した。

「おなかすいてたんだね。よかった」
愛は子犬が食べ終わるまで、しばらく眺め、
この後どうしようかと考えていた。

そしてまた、あてもなく子犬を連れて歩き出した。
「君は捨てたれたの?」
愛は胸に抱きかかえた子犬に、そっと呟いた。
「それとも、迷子?」





「震えないで、あったかくしてあげるから」


「ご主人様はどこなんだろう」

「見つかったら・・・・いいね」

「ちょっと、寂しいけど」







―――――――――トントンッ
「ねぇ」

――――――――――――――――ビクッ!!

「え?」

誰かに呼び止められ、愛は顔だけ振り向いた。
9 名前:孤独 投稿日:2003年02月07日(金)15時52分16秒

「久しぶりっ!元気だった?」

見るからに知らない、年上の女性。どこかで働いているのだろうか、
エプロン姿で、バイトの定服装のままである。
愛は、その甲高い声に思わずビクッとした。

「え……」

見ず知らずの女性に声をかけられ、しかも知り合いでもないのに
「元気だった?」などと気軽に笑顔で問い掛けられると、
愛は頭の中が一瞬混乱した。その優しい表情にドキッとしたが、
まず、顔も名前もなにもかも知らない。
愛は、冷静さを取り戻し、逆に女性に攻め寄った。

「私、あなたを知りません」
(この人、ナンパ?)
愛は異性からにでもなく、同性にもたびたび声をかけられるほどの
容姿とルックスがあった。だからすばやく察したのだろう、こいつはナンパだと。
(こんな人が、ナンパなんかするはず……)愛は少しショックだった。
そして、愛の表情は見る見るうちに、鋭く相手を責めるような顔になっていく。
「え?そんな事……」

女性はイキナリ声のトーンを落とした。さっきとは違った低い、困ったような声。
(この人、本当はナンパじゃないかも)愛は少し動揺した。

10 名前:孤独 投稿日:2003年02月07日(金)16時01分47秒

愛は帽子をとり、そして自分の顔を証明して見せた。

「あっ……!すいません!!人まちがいでした!」

頭を深々と下げて申し訳なさそうな表情をする女性。
顔を真っ赤にしながらも、何度も何度も頭を下げ続け、
その行為は愛には誠実な女性だと認識したが、今後は、もう関わりたくないと、
なぜか思った。今日は気分が悪いせいなのだろうか……。

愛の表情は重苦しかった。

「………」
愛は返事をせずに、帽子をさっきより深くかぶりなおすと、女性の前から
足早に姿を消していった。

女性は何か言っていたが、愛は耳を傾けようとしなかった。
愛はまた、固い表情に戻ってしまった。

(もう、何も関わりたくない)
(うわべだけの感情なんて、出したくない)
(信じあえる仲間が欲しい)
(けど……いない)

(いつも1人)


(誰か、分かって。仲間になって欲しい)


愛の心の中の叫びは、誰も聞こえなかった。
そうしてまた愛は、あきらめと、ふがいなさの感情を浮かばせては、
人前で押し殺していた。それが、あきらめなのかもしれない。

孤独なのかもしれない。

愛は本当はあったかいのに。
愛は気付かなかった。
11 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月07日(金)16時03分37秒

今日はここまでです。短い更新で申し訳。
感想レス大歓迎です。でわ。
12 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月07日(金)18時58分40秒
関係無いけど、スレたてすぎでは?
13 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月07日(金)22時27分15秒
>>12
自分でもなんか思った・・・。けど白板の方がすぐ終わらせるつもり。
立てすぎで申し訳(w もうこれぐらいで終わるんで…すいません。
14 名前:孤独 投稿日:2003年02月15日(土)19時32分44秒
(なんて恥ずかしいことしちゃったんだろう、私って最低)
(あの子、怒ってたよね……)
(もう、会えないのかなぁ……?)


「………あっ!子犬!」

梨華はふいに、さっきの女性が持っていた小動物を思い出した。
話しに夢中で、あまり目にとめなかったが、あとになって気付いた。

「チビコロだったかも………!」

梨華は昔飼っていた子犬のことを、その女性の子犬と重ねていた。
もしかしてあの犬かもしれない。梨華は胸がドキッとした。
後ろを振り返ってみる。

「……いない」

(やっぱり違う犬だったかも……)
(けど似てた)
(もう会えないのかなぁ)

(会いたい)

梨華は少しためらって前を向き、歩き出した。
寂しくて、もう会えない孤独を感じながら。
15 名前:孤独 投稿日:2003年02月15日(土)19時42分50秒

「はぁ……」

梨華は胸元のエプロンをにぎりしめ、さっきの自分の行動と、子犬のことについて
後悔していた。梨華はバイト先のカフェに、ため息をつきながら戻った。


「石川さん、どこまでゴミ捨てに行ってたの?遅いじゃない!ったく!」

素通りしようとする石川を店長が鋭い目線で止めた。手には食品会社との
取引の書類やらを持っている。石川がゴミ捨てをする前にもこの書類のことで
苛立っていた。そして今、さらに店長は苛立っている様子である。

「す、すいません……」深くお辞儀をする石川。

「さっさと手洗いして、仕事に戻ってちょうだい!今日はお客さんが、
結構入ってるんだからね!」

「はい……」

ツンッとあごを180度回転させると、
店長はなにかブツブツ言いながら、足早に管理室に戻っていった。

梨華は水道へ手を洗いに行った。

――――――――――――――――ガシャンッ!!

「…………あ!」
16 名前:孤独 投稿日:2003年02月15日(土)19時54分56秒

ぼーっとしていたせいか、隣りに積んであるお皿を何枚か落として
割ってしまった。梨華はすぐにしゃがんで破片を拾いはじめた。

破音を聞いた店長が、どんな騒動だという顔をして駆けつけてきた。

「い、いったい何があったの!?」

「すいません!お皿、割っちゃって……すぐに片付けします!」
梨華は申し訳なさそうに店長にお辞儀をした。
何度も何度も深々と頭を下げて。

「も…もぅ…!!!!……お、お辞儀なんか何回もいらないから!早く
ほうきとチリトリをもってらっしゃい!!さっさと片付けしてちょうだいね!!」

「あーっ!また予算を考えなくちゃいけないじゃない!もぅ!!」

店長は顔を真っ赤にさせて、ツカツカと管理室に戻った。
バァンッと、閉めたドアの音は、店長の怒りそのものを現しているようだ。

梨華はその音にビクッとした。そして店長の苛立ちを自分に感じ、
自分への苛立ちと後悔と、なんともいえないうらむやな気持ちでいっぱいだった。

(怒られてばっかりで……失敗だらけ……)
(私なんか誰からも必要とされてないんだ……)

(もう、嫌……)
17 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月15日(土)19時56分03秒
更新終了です。
18 名前:孤独 投稿日:2003年02月19日(水)10時21分36秒

――――――――――――――――バッチーンッ!!

―――――――ズザザザザッ

愛は頬をたたかれた衝撃で、壁まで体ごと飛ばされた。
ドンッと鈍い衝撃音が愛の背中全体の激痛を意味する。

「バカ!あんたまた学校に行かなかったでしょ!」
「…………………」
「お母さんは一生懸命、愛の学校の学費を稼いでるんだよ?少しぐらい
親の身になりなさい……!」
「………………」
「なんで黙ってるの!なんとか言いなさいよ!」
「………………」
「なんとか言いなさいよ!このバカ!!」

―――――――――――――――バーンッ!
「ほら!言いなさい!謝りなさい!」
「うっ……!痛っ……!」
「謝りなさい!」

母親は愛を床に押し付け、顔を手で固定している。まるでプロレスの
試合のようだ。母親は狂ったように怒り、愛は痛さを感じながらも、
疲れ果てている様子だった。

「痛い……!や、やめ……お母さん!」
「謝りなさい、愛!」
「ごめんな…さ……ぃ」
「はやく謝れ!!」
「ごめんなさい!!」






母親はスッキリとしたように、愛から離れて台所に戻っていった。
19 名前:孤独 投稿日:2003年02月19日(水)10時31分03秒

「……っつ……」

愛はゆっくりと立ち上がり、自分の部屋へと戻っていった。
しばらくすると母親は、愛に聞こえるように愛の悪口を言っていた。

愛はドアを強くしめて、ベッドに潜り込んだ。耳をふさいでも母親の声は
愛に聞こえている。愛は静かに泣いた。

一人でもいい、誰か私をわかってくれる人がいれば……


少しは楽になれるかもしれない……

だけど、いない……




「クゥーンッ」
「…子犬ちゃん……あんまり泣かないでね、バレちゃうから」
「クゥーッ」
「………よしよし、ごめんね……寒いでしょ、おいで」

愛は上半身を起こして、子犬を抱きかかえるとベッドに潜らせた。
子犬は愛のことが心配なんだろうか、愛の涙をペロペロと舐めていた。

「わっ…くすぐった…!ははっありがとう、子犬ちゃん」
「…………今日、もう一度あの商店街に行こうか?子犬ちゃん」
「ご主人様を捜そう……」




20 名前:孤独 投稿日:2003年02月19日(水)10時44分56秒


「はぁ………」
「どうしたの?石川さん、暗い顔しちゃってさー」
「あ…、澤田君」

澤田君とは、同級生で同じバイトの仲間。噂によると梨華のことを・・・

「こういう時は、気晴らしにどっか行った方がいいよ」
「う、うん…ありがと」
「一緒に……行かない?」
「へ?」
「映画のチケット。二枚分あるんだ♪今夜なんだけどさー…」
「あ……、」
「この映画石川さん前見たいって行ってたよね!」
「そうだけど……」
「じゃあ決定〜!バイト終わったら裏口で待ってるね」
「あ、あの……っ!」
「じゃーねー♪」

「はぁ………」

「7時……か、終わるのは8時半だよね……まだまだだ……」

「はぁ…………」

梨華はモップをもち、床の掃除をし始めた。
(今度店長に話そう…やめたいって)
(向いてないんだ)

(はぁ………)

21 名前:孤独 投稿日:2003年02月19日(水)10時54分04秒

――――――ガチャッ

「あ………」
「愛、どこ行くの?」

姉と玄関前で遭遇。愛は子犬がバレたくないのか、俯いて靴を履いている。

「別に……」
「ふぅーん、あんたちょっとは学校行きなよ、バカになるよ?ま、バカだけど」
「………………」
「たっだいまーお母さんー」
「………………」

――――――――――――――ガチャンッバタンッ

愛は子犬を自転車のかごの中に入れ、毛布をかぶせると、自転車をこぎ始めた。
右折、左折をする度に、髪が顔を隠してしまう。愛はそのたびに顔を振った。

「寒いかな……子犬ちゃん」
「ごめんね、もうすぐだから……」

愛は子犬を少しでも寒さから解放させてあげようと思い、自分のジャンパーを
かごにかぶせた。

「うっ……寒〜……」





愛は自転車をこぎ続けた。
22 名前:孤独 投稿日:2003年02月19日(水)11時00分33秒


――――――――――――キィーッ

「………………ふぅ」
愛はこの前おいた場所へ自転車を止めた。
そしてかごからジャンパーと毛布と子犬を取り出すと、商店街を歩き出した。

(おなか減ってるのかなぁ)
(寒そう……)
(寒い……まず、どこかあったかい場所へ)
(あ、喫茶店だ…)

――――――――――ウィーンッ

「「いらっしゃいませー」」

「座席ご案内しまーす」

「………………」

「どーぞ、こちらでーす」

「ご注文は?」
「あ、えっと……ホットミルクで」
「かしこまりましたー」

「ふぅ………」




23 名前:孤独 投稿日:2003年02月19日(水)11時06分41秒

(あれ……あの人今朝の)
(ここで働いてるんだ。そういえばあの服だったな)
(年上なんだ)(スタイルいいなぁ)
(可愛い顔してる)

「おまたせしましたーホットミルクです」
「あ…、どうも」





「子犬ちゃん、ミルクいる?けど…まだ熱いか」



「まずはココの店の人に聞いてみよっかな……」

(けど誰も知らなかったら恥ずかしいなぁ)
(ここ、動物は立ち入り禁止とか?)
(じゃあなおさらヤバイ?)

(怒られる)(やだ)

「……………」
愛はしばらく子犬の首輪を眺めていた。

キラッとピンクがかって光ってつやのあるリング型。はしっこにはローマ字
の筆記体で「り・か」と書かれてある。
(この子犬ちゃん、りかっていうの…?)
(飼い主かな)(けど変わってる首輪)

「あれ…………」
24 名前:孤独 投稿日:2003年02月19日(水)11時13分24秒

さっき見かけた店員の方に目を向けた。
同じようにピンクがかった腕輪をしている。そしてキラキラと光っている。

「うそ……」

「あの人が……?」

(確かめてみよう)
(けど違ったら……)(まぁいいや)

―――――――――ガタンッ
愛は、熱いホットミルクを置いて、子犬を抱きかかえ、毛布につつみ隠し梨華
の方へと向っていった。

「あの、すいません……」
「え?あ……!」
梨華は驚いた様子で愛を見た。
(あの子だ!)
(また会えた)(あ、子犬!)

「この子犬、あなたの子犬ですか?」
「………あぁ、はい!」
「商店街の道の間でいたので、拾ってしまいました。ごめんなさい。
それで、飼い主を捜してたんですけど、・・・あなたの
腕輪とこの犬の首輪が共通してたから・・・もしかしたら……」

「あ、ありがとう!!」
「あ…ここじゃヤバくないですか?バイト、終わるまで外で待ってます」
「え、あ…」
「それじゃ」





25 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月19日(水)11時14分08秒

更新。age
26 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月19日(水)16時12分58秒
おっ!更新されてるっ(^○^)
あ、愛たん…痛そう…(>_<)
27 名前:孤独 投稿日:2003年02月21日(金)18時21分55秒






「あの、澤田君……っ」
一緒にフロアを掃除している隣りの澤田に声をかけた。
「ん?なに♪」
梨華は、機嫌のいい澤田を申し訳なさそうに思った。

「……あの…あのね?…今夜のことなんだけど」
「うん〜♪」
「………
   今夜は行けそうにないの、……ごめんなさい」

―――――――――――― カランカラン――ッッ


澤田の持っていたモップが倒れる。
と同時に澤田の表情はさっきとははるかに違っていた。

「ご、ごめんね……」動揺した梨華は、澤田の落としたモップを拾った。
「う、ううん……いいんだ。けどなんで?」
澤田はわざと、モップに手を伸ばし、梨華の手と接触させた。



「あ……、知り合いが、子犬を拾ってくれてね。裏口で待っててくれてるの。
澤田君……、ごめんね、今度誘ってね。」
梨華は澤田の手に少し戸惑いながら、やんわりと手を離した。
28 名前:孤独 投稿日:2003年02月21日(金)18時48分26秒

「い、いいんだ……また誘うよ……」
澤田は梨華と触れ合った手の感触をしんみりとかみ締め、その間に梨華は
申し訳なさそうに、フロアから去った。

「石川さんと…手が……」

澤田は誰もいないフロアで、1人で感動していた。









―――――――――――――ガチャッ

「ごめん、お待たせ………」梨華は裏口のドアをあけた。
「………………」
愛は何も言わず、梨華に少し微笑んだだけだった。愛はもたれていた壁から
立ち上がり、子犬を梨華に差し出した。

「拾ってくれて、ありがとうございます……」
「……………………」
愛はまた、何も言わず微笑むだけだった。


2人の吐く息が、空に吸い込まれるように、一瞬にして消えてく。

「りかって言うんですね、この犬」
「あ、それ私の名前なんです」
「えっ」
「変です……よね、自分の名前を犬の首輪に付けるなんて」
「……別に、いいと思いますよ」

「………………」

「………………」
29 名前:孤独 投稿日:2003年02月21日(金)18時54分47秒
まだ出会ったばかりの僕らに

         何も求めることはできなかった

最初っから人を信用できるわけなかった




僕らは 僕らを 

――――――――――――――探り合った

あきらめながら、それでも望みを持ちながら・・・

   希望を信じながら・・・立ち向かっている

たとえ孤独でも   生きるしかないから






 
30 名前:孤独 投稿日:2003年02月21日(金)19時08分24秒
「別にいいですから」
「そんなっ………だけど!」
「いいですって」
「お願いです……!お礼をさせてください」

「………………」

「このままじゃ悪いから……」

「………………」






2人は梨華の家に向った。

―――――――――――ガチャッ
「さ…、どうぞ……」
「………………」
「今、ご飯の準備しますね」

梨華はそのまま家に上がり、台所に向った。
愛は玄関で突っ立ったまま、梨華の行動にあっけとした。



「あの、あなた……」
「え?」
梨華はエプロンをつけて火を通そうとしている。

「……名前も何も知らないのに、信用できるかわからない人を自分の家に
入れてもいいんですか?仮に私が男だとしても、危ないことされる
かもしれないんですよ!わかってるんですか?」

「わかってますよ」
「じゃあなんでっ!」
「…………………」

「逆にあなたが私に何かするつもりなんですか?」
「違う!」
「私、帰ります!」
「違うの、待って!」
31 名前:孤独 投稿日:2003年02月21日(金)19時18分22秒
梨華は思わず愛の腕を掴んで引き止めた。

「やめてください……!!」
愛は梨華の手を離そうとしている。
「待って!違うの!!」

―――――――――――ビクッッ!!

愛はその梨華の叫びにビックリした。
そして梨華の強引な引き止め方は、何かを本当に伝えるように感じた。

「……………………」
「…………………」


「何もするつもりはないの……!」
「……………」
「……あなたも、私に何もしないわ」

「なんでそんなことが!」
「わからない!……わからない、だけどあなたを見た時、感じたの」
「……………………」
「…………………」

「この人なら、信頼できるかもって……」

「…………………」
「………………」

「本当です」
「…………………」





32 名前:孤独 投稿日:2003年02月21日(金)19時30分11秒

「名前、教えてくれますか……あなたの」
「えっ」
「………………駄目?」
「た…、高橋愛……」

「愛ちゃん、か……いいね、愛って名前」
「………………」
「愛ちゃんって、家族に愛されてるでしょ?」
「…………」

(愛されてるの?私)
(わからない)(家族なんてわからない)
(家族って何)(愛って何)
(あなたは一体何なの)
(愛されてない)(私は1人)
(誰もわかってくれないんだから)

愛は俯いてしまった。顔を隠すように、上手いぐあいに髪が愛の顔を隠す。
梨華は戸惑った。

(どうしたんだろう!)(私悪いこと言ったの?)
(家族に愛されてないの?)
(愛ちゃん……)(不思議な子)(どうしたの)
(私のせいだ!)

「ごめん……ごめんね……」

「…………………」

(この人はいい人)
(だけど信頼できない)(どうせ裏切られるんだろう、いつものパターンだ)
(だから、初めから望んじゃ駄目なんだ)
(誰も信用できない)(最後はみんな裏切るんだ)
(あなたは私を信用してくれるの……?)
(なぜ)(変な人)
33 名前:孤独 投稿日:2003年02月21日(金)19時33分49秒


僕らは出会ってしまった。


そしてお互いに孤独感をぶつけてしまった。


だけど気付かない。僕らはまだ気付かない。


本当の孤独を。     本当の愛を。



そして、僕らは、   生きる。



                孤独を隠しながら、わかってほしいのに―――
34 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月21日(金)19時34分44秒
更新UP

レスありがとうございます、そういうのが励みになるんスよね〜(涙
35 名前:トム 投稿日:2003年02月22日(土)14時28分26秒
こういう話し好きです。
ちなみに、梨華ちゃん&愛ちゃん好きなんで嬉しいです。
続きが、すごく気になる話しなので、
頑張ってくださいっ!
36 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月22日(土)15時51分17秒
>>35
レスありがとうございます!
登場人物はまだ控えてるので、お楽しみに♪

んじゃ
37 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)16時07分43秒



「へぇ、じゃあ2つ年下かぁ〜」

梨華と愛は、梨華の作ったシチューを食べている。
テレビの音も音楽も何も聞こえない、ただ2人の喋り声と、
シチューのお皿とスプーンが当たる音ぐらいだった。


愛はまだ少し、相手を警戒しているのか、口数が少ない。
さっきの後も、家に上がるのに数分ためらっていた。

梨華は逆に積極的に喋りかけている。年下と聞いて、少しホッとしたのだろうか。
しかし、表では明るく振舞っている梨華だが、心の底では暗い悲しみに包まれて
いた。梨華はいつも「私は駄目な人間」と自分に問い掛けてきたのだから。


「………………」
「……………………」





しばらくの沈黙。

シチューを食べる音。


 辺りはシンとしている。


梨華はもう少し明るい子かと思ったが、口数の少ない無口な子と思い、
何を喋っていいかわからず戸惑ってしまった。

愛はそんな沈黙でも、平然な顔をしてシチューを食べている。
きっとうるさい騒音の中でも、こうやって食べているのだろう。

「ごちそう……さま」
「あ、うん」
38 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)16時15分57秒

愛は食べ終わると、食器を台所に運ぼうとした。
梨華はそんな愛を追いかける。

「いいよ……!私、片付けるから」
「けど」
「私が無理矢理誘ったんだし……」

梨華が愛の食器を持つ。



「………………」

「………………」

愛は寂しそうな顔を、浮かべた。
そんな顔を見た梨華はハッとした。

(なんでそんな顔をするの)
(私、またいけないことした……?)

愛は梨華の思っていることとはまったく違う感情をしていた。

(優しい……)
(けど悪いな……)
(こんな私でも、優しくされてる)
(嬉しいけど、なんか悲しいよ)


「………………」

「………………」

――――――――――――――チャララ〜、チャラララララララ〜ラ♪
「あ、……」

愛はポケットから、鳴っている携帯電話を取り出した。
ディスプレイには「お母さん」と出ている。
39 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)16時26分34秒

「………………」
愛は携帯を出ようとせず、そのままディスプレイを眺めたままだった。
梨華はそんな愛の様子が変に思い、ディスプレイを見た。

(お母さん)
(愛ちゃんのお母さんからだ)

梨華はハッとして時計を見た。

(もう10時!)
(こんな時間までいさせてしまった!)
(きっと「早く帰りなさい」の電話だ)
(あぁ、ごめん愛ちゃん!)
(ごめん……)

「………………」
愛はまだ眺めている。
部屋の中には愛の着信音が流れたままだ。

そして愛はさっきよりもずいぶんと暗い顔になっていた。
――――――――――――ドキッ!!

(また暗い顔だ!)
(なんで?)(お母さん……?)
(なんで出ないの?)

「あ、愛ちゃん鳴ってるよ……」
「……………」
「出ないの……?」

―――――――――――ピッ
愛は着信拒否のボタンを押した。

「………………」
「……………………」

「愛ちゃん………?」

「…たく……ない……!」
「え?」

「帰りたくない……!」

「……………!!」




40 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)16時37分51秒
愛の目に溜まった大粒の涙が、その時流れた。
その涙のわけは、なんだったのか、梨華にはわからない。

ただ、「お母さん」「家族」とは、何かがあるらしいと、梨華は悟った。
愛はまた俯いて顔を隠した。涙を見せてしまったことに、後悔したのか…

それとも、

わざと泣き顔を見せて、誰かにわかってほしかったのか・・・



「愛ちゃん………」

梨華は目下の愛の震えている頭を撫でた。
そして梨華は愛のそんな姿を、少し可愛いと思い、また愛の涙を流した理由を
知りたかった。

「………………だけどっ、お母さん心配しないの?」
「……………………」
「帰らないと、もう遅いよ……」
「………………」
「愛ちゃん…………」
「………………」

すると、愛は急に梨華から離れて、言った。

「あんたもやっぱり同じだ!」
「…………………!」
「みんな同じだ!!」

「愛ちゃ!」
「みんなみんな同じなんだ!!」

「………………………」
「……………………」

「帰ります」

「……………」





―――――――――――――――ガチャッバタンッ
41 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)16時42分58秒

梨華に言い放った愛の顔は、鋭く冷たかった。


「うっ……!……っ………」


「ふっ……!うぇ……っ……」



「…うぅっ……!!………!!!」



ポツリと取り残されてしまった梨華は、ただ泣くしかなかった。





「…うぅ……………!!」

(私のせい!)
(私のせいだ!!)
(私も同じ人間なんだ!!)



(おいてかないでよ……)
(みんな行かないで)
(私を1人にしないで……)





42 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)16時53分59秒

愛は1人、寒い街並みを自転車で通った。
もう、人間じゃないような、死んだような目だった。

(同じだ!!)
(みんな、私の見方になんかなってくれない!)
(わかってくれない!!)
(寂しい!!)(寂しいよ!!)






自分の家に着き、自転車を置いて、エレベーターに乗ろうとした、その時。

「愛ちゃん」

思わぬ呼びかけに愛は振り返った。
そして後ろには、幼馴染みで、同じマンションの辻希美がそこにいた。
愛に向って微笑んでいる。希美はいつも微笑んでいた。

「あ、希美ちゃんっ」
「こんな夜遅くまで、何してたの?」
「ちょっと……その、用事!」
「へ〜ぇ〜」

希美はまたはにかんだ笑いをすると、愛と一緒にエレベーターに乗り込んだ。

希美は、なぜかいつも、長袖を着ている。夏も、学校では
長袖を着ている。プールに誘っても、断っているし、学校のプールの
授業も、全部欠席していた。

愛は、そこだけが不思議だった。
いつも微笑みの絶えない希美の体に、一体何があるのかと、思っていた。
だけど、本人には一切そのことを問わなかった。
43 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)17時00分35秒
そして、希美の不思議はその一つだけじゃなかった。
家が隣同士、ということで知っていたのだが、希美の家はよく
激しい物音が聞こえていた。それもいつも夜中に聞こえてくる。

何か作業でもしているのか、と思ったが、
それが愛が物心ついた時から始まっていた。

「じゃ……ばいばい」
「うん」

希美と愛は、笑顔で一緒に玄関に入った。

その後の2人の笑顔は、いつも一瞬で消えていたが・・・

2人はそんなこと、知らない。







(知ってほしくない)
(知られたくない)(隠さなきゃ)
(隠さないと………)
(痛い)(痛いけど)

(隠さなきゃ………)

希美の心も、孤独だった。
44 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)17時02分27秒


僕らはすれ違い、そのまま時が過ぎていった。


僕らは知らない、僕らの孤独を・・・まだ知らない。



まだわからない、君の心の奥なんか・・・


     みんな同じ・・・ 駄目な人間


私も駄目な人間



隠さないと・・・・・・・



              孤独で生きていくんだから
45 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月22日(土)17時03分10秒

更新UPっす!!!!!
46 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月22日(土)17時09分37秒
リアルタイムで読みました!
大河ドラマのごとく、次回の展開が
めっちゃ気になります!!
これからも頑張ってくださいね!
47 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月22日(土)20時52分19秒
>>46
ありがとうございます!レスくれると励まされて元気でますよ。(笑
今日はageすぎたんで、最後はsageにします。あんま変わらないけど(^_^;)

でわ今日はこれで、最終更新。
48 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)21時01分33秒

――――――――――――――――ガチャッ



―――――――――タタタタッ!





「愛待ちなさい!」




――――――――――――ビクッ

玄関からすぐ自分の部屋に逃げようとした、その時、愛は母親に呼び止められた。
一瞬、嫌な顔をしたが、あきらめたのか、それが慣れているのか、またいつもの
冷たい表情に戻って、母親の方をゆっくりと振り返った。


「今何時だと思ってるの」
「………………」
「………愛も、不良みたいに育っちゃったわね」
「…………………」
「お母さんの育て方が悪かったのかな……お姉ちゃんはなにも悪さしないけど、
愛はいつもお母さんを困らせるような事をするじゃない。この前だって、嘘つい
て学校を休んだし、それも一回だけじゃないわ……!」
「……………」
「お母さん、この子全然反省してないわ」
姉がリビングからこっちに向ってきた。姉も母も、愛を見下した言い方をする。

49 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)21時20分00秒
「愛、もう少し周りのことを考えて!」
「そうよ、学校に行きなさい!勉強した方が得なんだから!」
「……………」

「あんた聞いてるの?目ぇ向いて話しききな!」

「……………………」
愛は、これ以上にないような冷たい顔を2人に向けて睨みつけると、
履き捨てるように、叫んだ。

「わかってないくせに!!」





「……何をよ!」
「全然わかってないくせに!!」
「なにが?」
「お姉ちゃんはなんでいつも話しに入ってくるの!?関係ないじゃん!
入ってこないでよ!」
「入ってほしくないなら、それなりのことしなよ!」
「ほっといてよ!」

「愛!口の聞き方が生意気よ!」
「お母さんだって見下した言い方をするじゃん!」
「してないわ!」
「してる!なんで2人して言うの?いつもいつも……!」

「どうしてって、ただお母さんと同じ意見なだけ」
「なんで私の意見は聞いてもらえないの!」

「愛!」
――――――――――――――バッシーンッ!!

「………………」

母親の怒りが頂点に達したのか、愛の頬を鋭い刃物で切り裂くように、頬を
はたいた。その音はテレビをつけていても、ハッとなるような、そんな音だった。
50 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)21時23分48秒

誰もわかってもらえない


なにもわかってくれない     誰に頼んだって無駄



あなたは私の意見さえ、聞いてくれない



こんな毎日、耐えられない


        私は1人で、悩みを


抱えて死んでゆくのだろうか



                      もう死んだ方がましなの?


死ぬ前にせめて、誰かわかってほしい

            1人でもいいから・・・
51 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)21時30分24秒
愛は部屋に閉じこもって泣いた。
そして、2人から責められる孤独を、悲しんだ。

涙をふいてくれる子犬もいなくなってしまった。


信用してると言ってくれた人も、最後には愛を裏切った。


悲しみを打ち明ける前に、笑われて終わった。


愛は、たまらなく1人になるのが好きで、だけど本当は誰かにわかってほしい、
1人になるということは、愛にとっては寂しさのかたまりなのだ。


本当の自分を打ち明けようと、望んでいるけれど、
その前に笑われて、終わってしまう。だから自ら自分を出さずに
冷たい顔をしている。そんな自分にも腹が立つ。

「もう……嫌……」

52 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)21時38分51秒

――――――――――――ガシャンッ!!

――――――――――ビクッ

その音は、隣りの壁から聞こえてきた。
愛は自分の感情も忘れて、その音に集中している。


「まただ……」

――――――――――――――――ガッシャーンッ!!

――――――――――――ドンドンッ!!

「………………」

(今日はいつも以上にうるさいなぁ)
(一体何してるんだろう)
(怖い)(希美ちゃんは大丈夫かな)
(希美ちゃん……)
(?)

「希美ちゃん……」

愛は一瞬考えたが、すぐに考えるのをやめた。

「まさか……ね」




53 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)21時46分41秒
次の日の朝・・・

――――――――――――ガチャッ
玄関を出た愛は、今日は学校に行く決意をした。

自転車にまたがって、学校に向う。
並木道を真っ直ぐ通り抜けた。

「あ、希美ちゃんっ」

道を歩きながら、登校している希美の姿を見つけた。
愛はキッと自転車を止めた。
「愛ちゃん。おはよー」
「おはよ、歩いて行ってるの?」
「うん」
希美は微笑んだ。

「自転車乗る?学校まで一緒に行こうよ」
「え、けど…」
「大丈夫だよ、誰もチクりゃしないって」
「うん〜」

希美ははにかみながら苦笑して、自転車に乗った。



「わぁー!はやーい!」
「あはははっ」

愛と希美は、坂を下った。
2人の笑顔は絶えない。家の中とは大違いの2人だった。

54 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)21時52分10秒

愛は後ろの希美を振り返った。
笑顔で笑っている。

(よかった)

と心の中の不安が吹き飛んだ。

だが、愛は希美の身体を疑った。
スカートがヒラヒラと揺れている。そのせいか、太ももがハッキリと見えた。
普通の太ももとは思えない、痣が額に食い込んでいるようだった。

愛はゾッとして、前を向きなおした。心臓がバクバクしている。
見てはいけないような気がして、愛は罪悪感を感じた。


(なに、あの痣……!)
(色が変色して…あの太もも!)
(怪我でもしたのかな)
(だけど……)



55 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)21時58分12秒


愛は授業中、希美のことをずっと考えていた。

(あの痣……)
(毎晩の騒音)
(一体何が……)
(希美ちゃん)(希美ちゃん!)
(どうしてそんなに笑っているの)
(なにを隠しているの)


「……………」

そんな風にして、一日は終わった。



愛は家に帰りたくないのか、ブラブラ自転車をこいでいた。

「はぁ………」
そしていつしかこの前の商店街に着てしまった。
また、混雑している人だかりに気分が悪くなった。

自転車で、あの人のいる喫茶店を少し見て通り過ぎようとした、その時
――――――――――――!

店と店の間で、数人の男と、1人の女性がいることに気が付いた。

(石川さんだ!)
(何あれ)(ナンパ?)
56 名前:孤独 投稿日:2003年02月22日(土)22時06分27秒
見るからに梨華は困った様子である。
そして梨華を囲んでいる男性も、チャラチャラしている集団で
いかにもナンパするために生まれてきましたという感じだ。

数人の中の1人の男性が、梨華の髪をクシュッと触って笑っている。
梨華はビクッとして震えている様子。この状況では梨華が危ない。

(このままじゃ石川さんが危ない!)
(どうにかして助けないと……!)
(けど力じゃ、叶わない……)

「くそっ……!」


愛は密かに近づき、様子を見た。

「ねぇ〜怖がらないでよ、ただ一緒に遊びたいだけなんだ」
「………………」
「遊ぼうよ〜、カラオケでも行かない?」
「…………いいです」
「ひどいな〜、も〜」
「はっ離してください……!」
「……きみ、もう分かってんだろ?あきらめなよ」
「えっ」
「この人数で抵抗したって無駄だよ〜」

涙目の梨華を、愛はじっと見つめていた。

(あいつら)(石川さんを!!)
57 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月22日(土)22時07分03秒
更新UPっス。
58 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)12時25分15秒
梨華の力ではいくら抵抗したって無駄だった。
それは梨華にもわかったし、集団の男子もわかっていた。


愛はふと、近くにある、バイクを見つけた。

―――――――――――――――!

ブウゥゥゥゥンッ!ブブブブゥゥゥンッ!!

愛は何度かハンドルを持って確かめた。
持ち主はコンビニで買い物をしているのか、鍵はつけたままだ。

(使える……かも!)

「よしっ……!」
愛は気合を入れると、バイクにまたがり、細い道の方へゆっくりと進んで行く。
スカートがヒラヒラと風に揺れている。愛はそんなことお構いなしだった。

「どけ!!!」

愛は思い切り叫んだ。集団はその声に反応して愛の方へ向く。
少し愛はためらったが、涙目の梨華をこのままにしておくわけにはいかない。

「どけ!!じゃまだ!!」
バイク音が、みんなを注目させている。

「愛ちゃん………!」
梨華がハッと愛に気付く。愛も梨華の目を見て、バイクのハンドルを握った。
59 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)12時32分09秒

「んだよテメェ〜、女のくせに〜!」
「ひかれたいの!?」
「な、なに言ってんだよ!ひいてみろよ〜ん♪」

集団は明らかにからかっている。愛はムッとし、そしてハンドルをひいた。

ブゥゥゥゥウウンッ!!!!

愛はすごいスピードで細い道を走ってくる。
途中、ゴミバコに当たっても、愛の目は真っ直ぐだった。

男子たちははしっこに、散らばっていく。
もう梨華のことなど考えている余裕はない。バイクのはやさに、命の危なさを
感じたのだろう。梨華を掴んでいた男も、梨華の腕をとっさに離した。

「石川さん!!」

愛は涙目の梨華の腕を掴み、自分の腕につかまらせた。
バイクは壁に数回あたりながらも、男たちの前から姿を消した。


「な………なんだよあれ」
「こっえ〜………」




60 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)12時38分44秒


ブゥゥゥゥウウウンッ!!!!!!

愛ははじめて運転する割りには上手かった。途中、激突しそうになったが、
腕がいいのか、当たる寸前でいつも終わっていた。

愛は腕の中で泣いている梨華を、切ない表情で見つめていた。
顔はよく見えないが、きっとそうとう怖かったのだろう。




いつのまにか、知らない土手の道に来た。

ブブブウゥッゥウンンッ・・・・キィーッ

「……………」
「…………………」

「…………………」
「………………」

2人は一言も喋ろうとしない。ただ愛は、梨華が落ち着くまで、
自分の腕の中でソッとさせとこうと思った。

一方通行の風が、夕日に向っているようだった。
土手の道路の真ん中。2人はオレンジ色の夕日に照らされている。

「……………」
「……………………」
61 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)12時50分44秒

もう何十分こうしていたのだろうか、愛が自分の服が、濡れて冷たいと気付いた
時だった。


「…………愛……ちゃん」
「……………」

梨華はようやく、落ち着きを取り戻したらしい。
愛はホッとため息を心の中でした。


「ありがと………ごめんね」
「…………」

「もう来てくれないのかと……思った」
「あ…、…………」
愛は昨日のことを思い出した。梨華にキツく言って、帰ってしまったのだ。
愛はそんな自分に少し後悔した。

「愛ちゃんは……私のこと、信用してくれてないと思うけど……」
「………」
「私は愛ちゃんを信用してるよ。」
「………………」

ズキッ


愛の心のどこかが、光によって放たれた。そんな気がした。

梨華の強い眼差し、未だに目には涙が溢れそうに、留まっている。
腕を持つ力、愛には少しも痛くなかった。

愛はただ梨華を見つめ続けた。
そして今までに感じたことのない、気持ちを抱きはじめていた。

(この人………)
(この人なら……)
62 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)13時03分03秒




2人はトボトボと元の道を歩いていた。
辺りは夕方というか、少し暗い感じである。

「愛ちゃん、そのバイクどうしたの?もう、免許持ってるの?」
「え、持ってないけど……これ……は……」
「……………」
「近くにあったヤツを、拾ってきた……」
「えぇ!!うそ!!」
「だってそうするしかなかったんだもん!……石川さんが、危なかったから」
愛は少し照れるように、俯いた。
そんな愛を梨華は新鮮に思えて、フッと笑った。

「愛ちゃん……、昨日はごめんね」
「…………ううん」
「…………私、愛ちゃんと出会えてよかった。なんか、滅多にこんな出会い
ないじゃん?………あとさ、愛ちゃん、いつも悲しい顔してるでしょ?」
「…………別に」
「しーてーるよぉ、何を悲しんでるか、わかんないんだけど、……私は……
絶対、愛ちゃんの見方だよ!だから……こんな私でよかったら、いつでも相談に
……のって……いいよ」

「………石川さん…」


「1人で悩んでないで、打ち明けてよ……………愛ちゃんのこと、知りたい」

「え………」

「気になるの……」



63 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月23日(日)13時03分54秒
更新UPっす!
64 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月23日(日)14時16分20秒
愛たんカッケ―ッ!!でもバイクは返そうね(藁
65 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)15時41分11秒

怖かった
        怖かった


打ち明けて良いのか  わからなかった



はじめての経験      出会ったばかりの人


 僕は怖かった


だけどまだ          


         君を信用できない・・・・



               今までの孤独は大きいから
66 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)15時53分21秒


梨華と愛は、喫茶店まで何も喋らなかった。
お互いがお互いを少し意識しているのだろうか、そんな空気だった。


だけど愛は覚えていた。梨華の真っ直ぐな眼差しを。人とは違うような、時が止
まっているような、そんな気がした。

そして梨華は今まで言ったことのない言葉を愛に言ったことを、恥ずかしいと
後悔していた。今までの梨華は、滅多に人前で発言しない。
だが、愛の場合は、自然と言葉が出た。



きっとそれは、真実だからだろう。


「じゃ……さよなら」

愛は自転車にまたがると、梨華に少し微笑みを見せて走り出した。
梨華は微笑んで手を振った。



「あ、愛ちゃん!!」

―――――――――――――キィッ!

「………………あのっ」
「…………………」

「………こ…今度、家に来て……!またごちそう、するから!」
「え………」
「今日のお礼、まだしてないから……!」

梨華は笑顔で叫んだ。
愛もまた、笑顔だった。

「わかった!」

愛は大きく手を振って、自転車をこぎ出した。


愛は、はじめて人に対して、嬉しさを覚えた。
67 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)16時00分32秒




自分の部屋、ベッドに倒れこんで愛は考え事をしていた。

(石川さん……)
(石川さんはいい人)
(人とは違うような気がする)
(違う気がする)

(信じれる?)


(わからない)
(まだわかんないよ……)

――――――パフッ



愛はマクラに顔を突っ込んで、ため息をすると、静かに眠りについた。





(石川さん)

(信じれる?)

(わからない)

(石川さん……)




68 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)16時11分46秒



梨華は、自分の家の前までやってきていた。そして玄関を開こうとした、その時
――――――――――ピッ
【Re:澤田君】

バイブ音に気付くと、梨華はかばんから携帯を取り出した。
ディスプレイを見ると、バイトの同僚、澤田だ。

(澤田くんだ……)

――――――――-―――ピピッピピピッ

【件名:石川さんへ】

【今週の週末、空いてる?】

「今週の週末……、土日かぁ……」

―――――――――――ピピッピッピピピピッ

【別に空いてるよ!どうしたの?】

「………………ふぅ」
梨華は携帯を握り締めると、玄関のドアをあけて中に入った。

――――――――――― ガチャッバタンッ

そしてまた携帯のバイブ音が鳴り出す。

【石川さんと2人で遊びたいな〜って思って。
よかったら、石川さん家に行きたいんだけど】

「……あたしん家!?………どうしよう、汚いし……」

【別にいいけど、汚いよ(^_^;)】

【それでもいいよ!喜んで行く(>_<)♪】

【わかった、じゃあ待ってるね〜☆】

【うん、ばいばい!】
69 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)16時13分31秒



「あ〜ぁ、約束しちゃった〜……どうしよっ家汚いし……」



「だけど、澤田くんだし……いい人だから、大丈夫だよね!きっと。」




「危ないことなんかしないよねっ・・・うん!」








70 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)16時16分33秒

僕は

      優しい人達に恵まれて育って



だから、人を疑うようなことしなかった



       だからあなたが来た時も安心だった


あんなことをするまでは・・・・・

                   怖い


         
             また私は「駄目な人間」
71 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月23日(日)16時17分08秒

一休み一休み♪
72 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月23日(日)16時38分27秒
>>64
カッケーっスか!(w この後梨華ちゃん、
結構危ないですよ〜。
73 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)16時43分25秒

時は過ぎ、日々も過ぎ去った。
梨華はいつも通り、バイトに向かい、店長や周りのみんなに怒られる毎日。
だけど、愛のことを考えると、少しは前向きになれた。

愛は、母親への愛情を、密かに望みながらも、その態度にあきらめを感じている
毎日。だが、梨華と同様、心の中の変化があったらしい。
梨華のことを思い出すと、自然と笑みがこぼれていた。


今日は土曜、愛は久しぶりに梨華の家に訪ねてみようと思った。
何をしているんだろう、元気なのかな、など、考えて。

それに子犬のことも心配だった。

「よし」

愛は玄関を出た。







74 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)16時50分06秒
今日はバイトは休み。久しぶりの土曜だけど、今日は澤田がやってくる。
一応家は綺麗に片付けた。几帳面な梨華、愛がやってきた時も綺麗だったのに、
また今日も掃除をしていた。


「……………」
(家に来るのはいいけど、一体何して遊ぶんだろう…?)

梨華は澤田の行動は理解できなかった。
普通映画の誘いや、食事の誘いなら、行く理由がわかるが、今回は自分の家。
ヒマつぶしできるモノは何もない。一体何をしに澤田は来るのだろう。

――――――――――――ピーンポーンッ

「あ、……はーい……!」

――――――――――――ガチャッ
「やぁ……」
「………、いいよ入って」
「う、うん…おじゃましま〜す……」

(これが石川さんの家かぁ……)
(スッゲー綺麗)

澤田は緊張しているのか、玄関の前で辺りを見渡していた。

「どうしたの?入らないの?」
「あ、うん…!!あははっ」
「……………」


75 名前:孤独 投稿日:2003年02月23日(日)16時57分30秒

「私ん家、なんにもないよ……?」

石川はコタツに座らせた澤田に、お茶を差し出した。

「あ、ありがと……」

―――――――――――――ゴクッゴクッ
澤田はイッキにそれを飲み干した。梨華はその行動に少し驚いた。

「……………」

「べ、別にいいんだ。俺は……」

「けど、せっかく来てくれたのに、暇じゃつまんないでしょ……」

「ううんっ!全然!楽しいよ!」

「………………」

(澤田君って変な人)

「あ、そうだ!いろいろ持ってきたんだ!」

そういうと、澤田はかばんの中から、DVDや、ゲームソフト、ワインなどを
持ち出した。

「ワ、ワイン!?ワインなんてどうするの!」
「まーまー、あと……ビールも持ってきたんだ♪」
「え………!?澤田くん、飲めるの?」
「うん、石川さんもよかったら飲む?」
「い、いいよっ!」

(やっぱり変……)
76 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月23日(日)16時58分22秒
更新UP
今日はここまで。レス待ってます。
77 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月23日(日)17時02分03秒
リアルタイムキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
久しぶりに来たら新スレ立ててたんですね、
なんかわかる感じもする内容…短編も読んでいます
続き頑張ってください

どこまで信じていいかわからなくなる時ありますよね…
78 名前:トム 投稿日:2003年02月24日(月)00時02分08秒
梨華ちゃんも、愛ちゃんも、少しずつ
変化してきましたね。
澤田君、あなたは一体・・・・。

頑張ってください(^^)
79 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月24日(月)18時42分06秒
お、おい澤田ッ!おまえはいったい何をッ…
あ、愛ちゃんが見たものは…
次回更新に期待ッ!!
80 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月25日(火)21時33分32秒

>>77
リアルタイムッすかー!!なんか、恥ずかしいですね(笑
短編もガムバッテおりまーす(w レスアリガトゴザマース!!

>>78
少し、変化してきましたね〜。けど他メンも出るんでソコ注目っすよ!(w
澤田くんには目が離せないぜぇ〜レスありがとうございます!!

>>79
期待ありがとうございます!!更新少し遅れてスイマセン!!(汗
澤田はちょいヲタ気分でやってみますた。

んでは・・
81 名前:孤独 投稿日:2003年02月25日(火)21時39分21秒




愛は珍しいそよ風に新鮮さを感じながら、自転車をこいでいた。
愛も涼しげな顔をしている。珍しい一面だ。

――――――――――――――――キィッ



商店街に自転車を止めると、愛は商店街を歩き出した。
夕方なのか、人は少ない。人だかりが嫌いな愛にとっては、幸運の事だった。





「あ、喫茶店……」
(石川さんバイトかな)
(……いないや)
(家かな……)




82 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)16時54分07秒










「澤田君、もうやめたほうがいいよ」


「石川さんも飲みなよ!はははっ」




「澤田くん……」









83 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)21時58分57秒

澤田は酒を飲み酔っ払っていた。梨華にも飲まそうと誘うが、梨華はそんな気
じゃない。澤田と一緒に酔っ払ってしまったら、後のことが心配だ。

(澤田くん、1人で帰れるのかな……)
(危なそう)

「ねぇ、澤田くん……もうやめたら?」
「えっ……だっておいしいよ?石川さんも飲もうよぉー」
「あ、あたしはいいよっ!それより、澤田くん、もうそろそろ
帰らなくていいの?ヤバくない?」
「うん、全然平気ー♪」
「……………」


(あたしは平気じゃないよぉ〜!!)

梨華は、冷蔵庫から水を取り出して澤田に差し出した。
もうこれ以上飲まれたら困る。はやく帰ってもらおう、そう梨華は思った。

―――――――――――――――コトッ

「澤田くん、ハイ水。水飲んで落ち着いて」
「あ、ありがと……、石川さんって、優しいね」
「あはは……ありがとう」

「ひっく…ひーっく」


澤田の身体が段々不安定になってきた。座っていても上半身がグラグラである。
一瞬石川に倒れそうになり、石川はビックリして、澤田を抱きうけた。

「い、石川さん……」

その時だった。







84 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)22時02分53秒


「さ、澤田君!?大丈夫……?」

梨華は澤田を抱きかかえ、俯いている澤田の顔をうかがおうとした。
だが、澤田は酔っているのか、起き上がらない。


梨華の服にしがみついたまま、



離そうとしなかった。




「石川さん………」

「……………ん?」

「………………」

「…………?」

「いいよね」

「え?」

―――――――――――― ガバッ




「きゃあ…………!!」
85 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)22時10分21秒





――――――――――― キィッ


愛は梨華の家の近くに自転車を止めると、ふと立ち止まり考え込んだ。

(お土産とか……いるかな)
(子犬のえさとかいるよね)

(石川さんの好きなモノ……)

(なんだろう)



―――――――――――――― ウィーンッ

愛はしばらく考え込んだあと、コンビニでお土産を買ってから、梨華の家に
行こうと決めた。子犬のエサも。


愛は知らなかった。その時、梨華が何をされていたか――――――。
なにも知らずに、なにも知らずに・・・。


愛は、知らなかった。
86 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)22時19分33秒


「はぁ……はぁ……!」
「や、やめ……て……!!」


澤田は梨華の両手をふさぎ、床に身体を押し付けた。澤田はその梨華の上に乗る
状態である。その力はすさまじいもので梨華の抵抗も、かゆいように感じている
ようだった。


澤田はそんな抵抗する梨華を珍しそうにじっくりと眺めながら、梨華の
全身を見つめていた。目を大きく開き、もうこれ以上望むものはない、とでも
言うように。澤田は自分の犯している行動もわからぬまま。

「可愛い……」
そう呟くと、澤田は梨華の耳元でハァッとわざと息をもらすと、ビクッとする
梨華の反応をまた、おもしろく感じ、耳をなめ回し始めた。

「や…っ!……やめて!!」
梨華の足は澤田の体重によりなにも抵抗できず、両手は澤田の手によって
ふさがれていた。梨華はその荒い呼吸にビクビク怯えながら、どうする事も
できない自分への不甲斐なさを感じていた。
87 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)22時31分22秒

(やだ!!)
(どうすればいいの!?)
(力が効かない!!)





「石川さん、……可愛いよ」
次に澤田は梨華の口元に接近してきた。梨華は必死で横を向いたり、抵抗した。
澤田はキスをしたことがなかったのか、命中せず、首元にキスをしてしまい、
それもまた梨華をゾッと思わせて、澤田はそれでもよかった。

「こんなに近くで石川さんと……こんな事ができるなんて、思ってなかった」
「………………」
「嬉しい。すごく嬉しいよ……!」
「あたしは嫌よ、澤田くん!お願い離して!」抵抗する梨華の両手を、澤田はより
いっそうきつく締め付けた。
「なぜ?君は許してくれたじゃないか……」
「いっ……!!え!?」
「家に来ていいって、行ってくれたときから、もう許してくれてるんだと
思ったよ……そうだろう?家に2人っきりで、することなんて……」
「違う!そんな目的で呼んだんじゃない!!」
「……………」
「普通に遊んだりするんだと思ってたの!だからこんな…!」
「どっちでもいい」
「…………」
「もういいんだ、僕の目的はまだ済んでない。君を僕のモノにさせたいんだ……!」




88 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)22時39分26秒


(どれがいいかな)
(あ、これいいかも)
(けどな〜……)

愛は両手に品物を持ち、悩んでいた。

手には、梨華の似合いそうなピンクの可愛いタオルと、梨華の好きそうな、
ハートのネックレスがある。あと、子犬のエサが一袋、もうそれは買う予定
である。

(けど、ピンクのタオルなんか恥ずかしくて渡せないよ)
(けどハートのネックレスも恥ずかしいな……)
(ハートより、クリスタルの方があたしは好きだけど)

(石川さんだもんね〜……)


「はぁ」

(……疲れる)

ハートのネックレスは、キラキラと光る透明なピンク色をしている。
そのネックレスは少し変わっていて、そのネックレスの中に、また
犬の首輪ようにネックレスがあるのだ。

要するにカップルにはもってこいのアクセサリー。
ネックレスを2人共つけて離さない、ようになっている。

愛はそんなこと気にせず、ただ2つあるから他の商品より安いな、と
思っただけで、選んだのである。愛は、そういう恋愛感覚はわりと鈍い。
89 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)22時43分12秒


「ま、これでいいや」

(安いしね、結構丈夫そうだし)
(まぁ、手土産だし)






――――――――――――――― ウィーンッ

愛は、悩んだ末、結局2つ買ってしまった。

(けど、恥ずかしいなぁ)
(「なんで買ってくれたの?」なんて言われたらどうしよう)
(………はぁ、疲れる)

愛は、少し頬が赤くなっていた。だが、愛はそんなこと知らない。





愛は歩いて、梨華の家に行こうとした。





お土産をもって―――。
90 名前:孤独 投稿日:2003年02月26日(水)22時46分06秒




(誰か)


(助けて……)



(お願い……)


(誰か、この痛みをわかって……)

(なぜみんな……こんなに)


(ひどいの)


(みんなみんな……)



(愛ちゃん)


(あなたはこの痛み)


(わかってくれる……?)





91 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月26日(水)22時47分59秒

更新UPしますた。
少々遅れ気味でスマソ。自分的には毎日更新する気なんで…。

澤田のキャラがイマイチだなっ…。愛タン!はやくカモーンナッ!!
そしてレスカモンナッ!!っす。(w
92 名前:>79 投稿日:2003年02月26日(水)22時58分24秒
おおっ!リアルタイム!?
つ、ついに澤田の魔の手が…
何も知らない愛ちゃんが歯がゆい…
93 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月27日(木)20時57分50秒
>>92
歯がゆいっスねぇ〜。(w 澤田はもう、梨華ちゃんに手ぇ出すな!!w

では
94 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)21時05分07秒

「やだ!!ギャアアアアアーッ!!!!」




梨華は恐怖と立ち向かおうとするが、自分の力のなさに腹を立て、自然と
涙が出てきた。澤田がこんなことをするよりも、まず自分を責めていた。

梨華は澤田のする行動に、抵抗すらできなかった。

だから叫ぶしかなかった。


涙が枯れるまで叫ぶつもりだったのだろうか。


梨華は涙を拭くことも出来ず、叫んだ。



叫んだ。


95 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)21時10分16秒




「…………」

梨華の家の窓、明かりが照らされているのがわかる。
梨華が家にいるのを確認した愛は、少しためらった。

(やっぱり、渡せないよ……)
(恥ずかしい……)

――――――――ガサッ

コンビニ袋の中を愛は、じっくりと見つめながら思った。
もう、どうせならラッピングしてもらえばよかった、と。

愛は渡すのをためらっていた時・・・

「キャアアアアーッッ!!!」

―――――――ビクッ

突然の高い悲鳴声。愛は思わず声のした方に目を向けた。
明らかに場所は梨華の家。


梨華の家。


「石川さん………!?」

愛はゾッとした。
96 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)21時13分33秒

タタタタタタッ!

「……………」

―――――――――― ピンポーンッ

「…………い、石川さん〜!?」

「………………」

―――――ピンポンピンポーンッ

「石川さん!!」

「…………」

―――――― ドンドンドンドンッ!!!

「石川さん!!あけてお願い!!石川さん!」

―――― ドンドンドンドンドンドンドンドンッ!!!!!

「石川さん!!!石川さぁ〜〜ん!!!!」


「はぁ…はぁ……はぁ……」



「くっそぉ」
97 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)21時22分20秒




「石川さん、綺麗だよ」

澤田は梨華の頬を手で撫でると、梨華をゆっくりと寝かせた。

「僕のモノだ」


夜の月明かりが、梨華の涙を照らす。梨華は、もう覚悟を決めていた。
もうあきらめるしかないのだ、力がいくらあっても叶わない。

中途半端にあけられているボタンや、淫らなスカート。
下着のヒモが肩までぶら下がっている。

頬を掠めている髪や、キラキラ光る唇。

涙でいっぱいの瞳。


無駄な力を出して、疲れきった体。

愛のインターホンを押す音さえ、聞こえていない。

(……………)
(…………)




梨華は、目を閉じた。
澤田は梨華の身体中をなでかき回すと、唇を寄せてきた。
その瞬間に、涙がどっと流れ出した。

澤田は一瞬ためらった。

その時だった。
―――――――――――― ガシャンッ!!!
98 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)21時35分05秒

――――――――――バリッ・・・バリバリッ

何かによって窓ガラスが割れた。その割れた衝撃でガラスの破片が、
バリバリ、と音を立てて崩れ散る。

梨華はビクッとして、窓の方へ身体を向けた。


「…な、なに…………!?」

――――――――――――ガラガラッ
「はぁ…はぁ……!」
割れた窓ガラスをこじ開けて、愛が入ってきた。愛は息切れをしながら、
家に入ってくる。梨華はあ然として愛を見つめた。

「あ……、愛ちゃ……!」

「はぁ、はぁ…、石川さん……!」

愛は駆け足で梨華の元へ近づいた。だが、近づけば近づくほどわかる、
梨華の悲惨な姿に愛は驚きを隠せなかった。そして、梨華の上で覆い被さっている
男の姿がなにより愛を驚かせた。

「あ…………!!」

(なにこれ)(わかんない)
(なに)(石川さんは平気?)
(涙)(泣いてる)(なんで)

(腕が赤くなってる)
(服が破れてる)
(なんで)(男がいる)(石川さんに)
(石川さんに)(なんで!)

「愛ちゃん!」
梨華は愛の方へ走ってくる。その姿は見れば見るほど悲惨だが、今は
驚いている場合ではない。こんなに必死で、涙を流して走ってくる梨華。
99 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)21時42分46秒


(石川さん……!)

愛は、梨華を抱きしめた。そして、


愛は、男をにらみつけた。


これが、愛の、はじめての人への憎しみ。



そして、人のための憎しみ。



そして、自分への憎しみ。



愛は、梨華を抱きかかえたまま、男を睨み続けた。
男ははるかに同様している。オロオロしだして、玄関へ逃げようとした。

「………………」

愛は、暴言を吐くわけでもなく、暴力を振るうわけでもなく、
ただジッと男の目を、睨み続けた。

冷酷な顔をして、愛は、ただ睨むだけだった。

それが男にはゾッとさせた。体中が震えて止まらなかった。

「あ…ああ………!」

「……………」

「消えてください」

「………………」

「消えてください。警察呼んでもいいんですか?それとも、待ってるんですか?」

「………ああああ!!!」

「…………」

「うわあああぁああああ!!」


「………………」

ダダダダダッ  ガチャッ  ・・・・パタンッ

「…………」
100 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)21時49分43秒


「……………」

愛は、男が出て行くのを見ると、愛は梨華をソファに座らせた。そして
玄関を閉めに行き、すべてのドアも、窓も、全部閉め始めた。

――――――――ガラガラガラッ ピシャンッ

「……………」
――――――――カラカラッ ガチャンッ

「…………」

そしてすべてし終わると、梨華の座っているソファの方へやってきた。

ゆっくりと、歩く愛。 その愛を見つめる梨華。

そして見つめ返す愛。



月夜が照らされて、まるでドラマのワンシーンのような光景。

愛はなにも言わずゆっくりとソファに座り込んだ。

「……………」
「………………」

あの時と同じ、2人の沈黙。

あの時と同じ、2人の顔。

愛は、その時より、ひどく冷酷だった。




101 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)22時15分23秒



「……………」
「…………………」

「…………」
「……………」

「石川さん」

ビクッ

「服……、着て」

「あ……」

梨華は慌てて服のボタンを閉めようとした、だかまだ恐怖がおさまらないのか、
震えて上手くボタンが止まらない。愛はその異変に気付いた。

だが、愛は何も言わず、梨華のボタンを変わりにつけ始めた。
梨華は、また申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「……………」
愛は、すべてを止め終えると、少し俯きはじめた。

「……………」
梨華はそのことに気付き、オロオロしだした。
だが、なにも言えなかった。

時が止まった――――。





102 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)22時24分09秒




「……………」
「…………………」

「なんで………っ!」
「……………」

「なんで……こんな事に……!」

キラッと光って落ちた涙。 梨華はその涙を、ゆっくり見つめた。

「っ……!」
愛の涙を拭う姿を、梨華は始めて見た。

そして、愛も、涙を流したのは、初めてだった。気がした。

「………………」

「バカじゃないの……、なんで家に入れたの……!!なんで!!」

「………………」

「なんでこんなことになるの!!」

「ご、めんなさ……」

「………………」

「…………」

「人なんか信用しちゃ駄目なんだ!みんなどうせ裏切るんだよ!なんでわかんない
の……!?みんなみんな!裏切ってしまう!みんな信用できないんだぁ!!!」

「……………」



103 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)22時33分50秒


「…………」

愛は俯いたまま立ち上がると、梨華を切なそうに見つめた。
梨華はオロオロしながらも、しっかりと愛を見つめる。

「…もう………、見たくないよ」
「……………」
「石川さんの、そんな顔、見たくない」
「愛ちゃん………」

愛はソッと梨華を抱きしめた。





時が、また止まる。

「………なんか、わかんないけど……」
「……………」
「抱きしめないと、石川さんがまた、悲しい顔しそうで……。今もそうだと思う
けど……、もうこれ以上見たくない。だから……よくわかんないけど、……
抱きしめてる、んだと思う」

「う、ん……」
「…あ………そうだあたし、石川さんに、お土産買ってきたんです」
「え……」

―――――――――ガサガサッ

「は、はい」
「………………」
104 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)22時42分04秒


照れくさそうに、梨華の目を見ないで渡す愛。
梨華はその貰ったモノを、じっと見た。

「タオル……と…あと子犬ちゃんのエサ」
「……………」
「えっと…、家を寄る前に、コンビニがあったんで、どうせなら……買おうかな
って思って……。それで。あ、このタオルは、…………



石川さんに似合いそうだと思ったから」


(あたしに似合いそうだと……思ったタオル)

――――――――ギュッ
愛はいつもと様子がおかしい、カミカミになりながらも、顔を真っ赤にしなが
らも、プレゼントを手渡した。

そして誇らしげに、梨華はタオルを抱きしめた。

「そ、それと……」

愛はまだ渡すモノがあるらしい。まだ顔を真っ赤にさせ、ガサガサと袋の中から
何かを取り出している様子。

そんな照れている愛の、可愛さに梨華はクスッと笑った。

「こ………これ」

「あ、ネックレス……?あれ」
(2つ付いてる)(あれ?どういう事?)



105 名前:孤独 投稿日:2003年02月27日(木)22時47分41秒

照れくさそうに愛は、そのネックレスを梨華に付けてあげた。

「あ、ありがと……、だけどもう一つはどうするの?」
「これはー…、きっと」




「こうするんだと思う」

真っ直ぐな眼差し、つぶらな瞳。

愛は、もう一つを自分の首につけた。


2つのネックレスで繋がっている2人。




今度は、梨華の方が段々顔が赤くなっている様子だった。

「こうすれば、石川さんは、離れないでしょ……」
「………それって…」
(どういう意味なの)(え?)
(告白?)(けど……)

「だって離したら、また悲しい目に合いそうだから……」
(それに安かったし)(遊びで使えそうだし)
「………」
「ねっ」

優しい微笑み、     愛の新鮮さは、無限。





「ありがとう」

梨華も愛の微笑みにつられて、微笑んだ。




2人は笑い合った――――。
106 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年02月27日(木)22時48分25秒
更新UPっす。

そしてレスカモンナッっす。
107 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月01日(土)01時33分31秒
いしたか最高です…
石川さんを信じはじめた高橋。これからに期待!!です。
108 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月01日(土)10時18分13秒
>>107
いしたかってあんまないですよね。だから作ってみました。(w
ちょっと高橋が吉澤と被るかもしれないけど、高橋は高橋なりの解釈があったり、
吉澤とは少し力が弱かったり、逆に観察力が鋭かったり、そういう風にして
違いを見せてはいるんですがどうなんでしょうか・・・。w

109 名前:孤独 投稿日:2003年03月01日(土)10時25分07秒



「……………」

玄関先で見つめ合う2人。特に梨華は、少し赤くなっている様子だ。

「じゃ、じゃあ……また来てね……、あ、夜は暗いから気をつけて」

下を俯きながらも、愛の方をチラッと見る梨華。
さっきのネックレスの愛の発言が、今梨華の心を揺らいでいる。


「……………」

愛はコートを着ると、微笑むだけだった。だがそれは、愛の返事。

「また来ます」という心の返事だった。


梨華も、大体わかっていた。





――――――――――――キィー ガチャンッ

「……………」

梨華は、玄関から出て行くのを見ると、ソファに戻り、あのネックレスを
見つめた。梨華はヒョイッと取って見ると、しばらく観察し始めた。


「…………」

(愛ちゃんって時々大胆)
(あれは告白だったの?)
(何、あれ)

(恥ずかしいよ)



110 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)10時37分41秒



愛は、自転車に乗って真っ直ぐ家に帰っていった。
辺りがやけに静かで、風が鋭く冷たい。

愛はこの風を、まるで自分の心のようだ、と思った。


「………………」

(石川さん)
(あの人なら大丈夫かもしれない)
(だけど、嫌な予感がする)

(また失敗してしまうんじゃ……)
(怖い)(怖い)

(私は人を信じれるの?)
(大丈夫なの?)

(石川さんは……?)




―――――――――――――キィーッ

「………………」

愛は自転車を自転車置き場に置くと、さっそうとエレベーターに乗った。

―――――――― カチッ

七階のボタンを押すと、エレベーター内に設置されているカメラをじっと
見つめた。丸くて黒い。どうやって見えているのだろうか。

「……………」
愛は壁にもたれて、梨華のことを考えていた。
梨華は一体、どんな人なのだろうか。

梨華は大丈夫なのだろうか、と。

それは愛にはまだわからなかった。




――――――――チンッ ウィーッ

「……………」
愛は、自分の自宅へと戻るため、歩き出した。




―――――――――――――!!
「あ……ああ!!」

111 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)10時43分13秒
自宅に行く一歩、前。

希美の玄関。

愛が見たのは、


傷だらけになって、


玄関にぐったりしている



あの、希美だった。



「あ………あぁ………!!!」

愛は身体が震えて上手く感情をあらわせないでいた。
そして、少し愛は落ち着きを取り戻すと、希美の身体に歩み寄った。

見れば、梨華と少し被る光景。だが、希美の方が、身体に傷を
負っているようだった。この前に見た、太もものえぐられたような傷跡も、
スカートが少しめくれているせいで、ハッキリ見えている。

「の………希美ちゃ…」
すぐにしゃがんで希美の様子をうかがう愛。希美の意識はあるようだった。

「愛……ちゃん……?」

希美はハァハァ言いながら、愛の確認をした。
112 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)10時49分11秒




「だ、大丈夫なの!?どうしたのその傷!」

愛は希美の肩を掴んで問い掛けた。

「いっ…………!」
希美はその肩を痛がっている様子。愛はすぐにパッと手を離した。

「ご、ごめん」

「ううん……」

希美は一生懸命微笑を返している。愛はその笑顔に、心が痛んだ。
「どうしたの……」

「な、なんでもないよ……ちょっと、ね。あはは」

「………」
(ちょっと、ね?)
(ちょっとでこんな体中)

(なるわけないじゃん!)

希美は片足をズルズル引きずりながらも、自分の玄関に入ろうとした。

「待って希美ちゃん!」愛は必死で、希美の腕を掴んだ。
今度は痛くないように、そっと乗せるだけのように掴んだ。
「…………」
「なに隠してるの……」
「離して、愛ちゃん」
「言ってよ!こんな傷だらけになるなんて……!何かあったんでしょ!?」
「やめてって」
「どうして!」
「離して!!」

「………………」

「ごめんね」


「…………」


―――――――――――――パ タンッ



113 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)10時54分13秒


「……………」

“ごめんね……”

「………!!」

“ごめんね………・・・・”

「…なんで…………!!」

「なんで隠そうとするの……」

「おかしいよ、そんなの!」

「…………希美ちゃん……!!」






(絶対何かある)(何かあった)
(希美ちゃんの身体の傷)
(毎晩夜中に聞こえる激しい音)

(なにかある)

(ゼッタイ)




愛は、心の中で固く、希美のことについて真相をあばいてやろうと決意した。

「……………」




114 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)11時02分47秒




「コーヒー沸いたよ」

愛は、そう、誰かに叫んだ。

「あ、ありがと」

梨華はソファから立ち上がって台所に向った。
愛は次の日の朝早く、梨華のことが心配になり家に訪ねてきたのだ。
そして希美のことに、ついて深く考えようと思った。

「…………」
「………………」

やけに静まる部屋。この2人の空気は、異様な静けさを持っている。

「石川さん、今日はバイト?」
「う、うん……澤田くんもいるの、だから……ちょっと嫌だな」
梨華は少し困ったような顔をすると、コーヒーを机に置いた。

「そう……」
愛は少し不安になった。梨華がまた悲しい顔をしたから。

「…………」
梨華は愛の素っ気ない返事に、不安を抱いた。
(心配してくれてないのかな)

そしてまたコーヒーを飲み始めた。

「「おいしい」」




115 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)11時14分57秒




愛は梨華の心配の半分、希美の心配もしていた。

だから夢中になって、少し冷たい返事になってしまう。

「………あ、ネックレス」
愛が、ふっとネックレスを見た。
「あ、うん………」
梨華の顔がボアッと赤くなった。そして早歩きで冷蔵庫に向う。

「……………」
愛はその梨華の異変に気付き、不信に思った。

「石川さん、なんで顔赤いの」台所で何かしている梨華に言った。
「え、赤いかなぁ?」梨華は動揺している。
「うん」
「あはは、愛ちゃん飲み物何がいい?」
「なんでも。それより今のなんか変だったよ」

「そ、そう?」
「うん」

「…………」

スタスタスタスタッ

「な、何愛ちゃん…」

愛が台所に、やってきた。梨華は自然とドキンッとする。

「んー…」
愛はソッと梨華のおでこに手を当てた。
(熱あるのかな)
(うーん)
(あれ、熱い)

「石川さん熱あるんじゃないの?」
「えっ……」
(なんでまたそういう事を……!!)
梨華の顔は一層赤くなった。
「あ、ホラ顔赤いよ、大丈夫?」
「え、あぁうん!大丈夫!」
(そんなに近づかないでよ!)

「石川さん?」




116 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)11時20分51秒


「…………」
「………………」
愛はソファでコーヒーを飲みながら、希美のことをずっと考えていた。
梨華はドキドキしながら愛の行動をうかがっている。

(やっぱり)
(あの傷は………やっぱりあれだ)
(……希美ちゃんを助けなきゃ)
(助けなきゃ!)

(こんなのんびりしてる場合じゃ……!)

―――――――――― ガタッ!

「……………」
愛は、コーヒーを置いて、立ち上がると、何も言わずスタスタと玄関の方へ
向っていった。

「あ、愛ちゃん?」

「帰ります。じゃ、また……」

「え、うん……ばいば」

―――――――――――― ガチャンッ!!

「……………」

(なんだか)
(愛ちゃんがもう帰ってこないみたい)
(愛ちゃん……)



117 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)11時22分55秒




僕らはまた1人


         孤独をきっかけで、君と出逢った。


そして僕らは再び


             希望をかすかに信じながら

ぶつかり合う。     そして



                        生きる



118 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月01日(土)11時23分28秒
更新UP。
119 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)17時05分13秒



「………………」
愛は、希美の自宅のインターホンを押して、希美を待った。
もはやもう希美のことしか考えられず、愛の思考回路は少しおかしくなっていた。
梨華を取り残してしまったことも、もう忘れている。

――――――――――――ガチャッ
「………………」俯いて地面を見ていた愛の顔が上がる。
「な、に……」希美が不安げに下を俯いているのがわかる。

「…私、希美ちゃんの……力になりたい………」

「……………」

愛の真剣な態度に、希美は驚きを隠せなかった。愛は学校でも、どこでも、
笑顔を見せなく、誰にでも心を閉ざしているように思えたから。なぜ、こんな
私に対して、真剣に訴えかけてくるのか、わからなかった。

幼いころは、愛はそんなんじゃなかった。幼馴染みでよく遊んだころ。
公園で一緒に遊んだころ。小さいプールに入って遊んだころ。
希美は昔の記憶を一瞬脳裏に掠めていた。

「愛ちゃん……!」

希美は、まるで愛が、昔のように微笑んでいるように思えた。
真っ直ぐな眼差しで、それでも希美を微笑む。

その姿は、どこか大人だった。



120 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)17時19分34秒

「………今までの私だったら、たとえ人が自殺しようと思ってても、止めなかっ
た。むしろその人を、応援したと思う。……それほど汚く汚れてしまってたんだ、
私の心。だけど最近、変わっているんだ。私の中で、希望が芽生えてきたんだ」

愛と希美は、2人で近くの公園にやってきていた。
よく幼いころは2人でブランコではしゃいだもんだ。だけど今はもうこんな風に
なって……、いつしか難しい言葉を交わすようになった。

「………………」

希美は黙ってブランコの支えている棒に身体を預けていた。
そしてジッと地面に目を凝らし、俯いて聞いていた。

「…………今も汚れているかもしれない。だけど……、希美ちゃんを
助けたいって思うの」

夕焼けに2人が照らされて、まるで昔に戻ったよう。

「なんでそこまで……?」

眩しい愛の眼差しを目を細めて希美が尋ねた。

「きっと……私も、孤独だから」

「………………」


「……………」
121 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)17時22分54秒
タタタタタッ

「愛ちゃん!!」

希美は、悲しそうな顔をしながら、その悲しみをすべて愛に託すように、
愛に抱きついてきた。

「希美ちゃん」
愛も、いつしか優しい表情を取り戻し、希美を抱き返した。

――――――――――ギュウッ

「……………」
「…………………」
目を閉じて愛は希美を抱いた。希美の身体周りは予想以上に小さかった。
だが愛は抱けば抱くほど心配した。希美の身体を。

今抱いている力は、希美には痛みはないのだろうか、と。


不安げに、愛は、切なげに、抱きしめた。




122 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)17時32分55秒

「あたし……ね、……お母さんに」

ゴクッ

愛は緊張して唾を飲んだ。これから希美が言うことは、多分自分が予想していた
事と、同一だと判明するからだろう。愛は希美を優しく離して、ベンチに腰掛た。

「なんだろう……こう、時々たたかれたりするの」
「う、うん」

愛は一瞬戸惑った。ハッキリ“虐待を受けている”と言わなかったからだ。
希美は虐待を受けているということをハッキリと感じ取っていなかったのだ。
要するに、まだ母親への愛を持っているのだ。まだ希望を持っているのだ。

こんなに傷だらけになっても、まだ母親への、家族への愛着を、愛されたいと
思う希望を、捨てていない希美の心の強さと切なさに、愛は哀れみを感じていた。

「でね、お母さん、時々怖いの……」

本当のことを伝えようと努力している反面、その表情は切なく微笑んでいる
希美。愛はその希美に同情を隠せなかった。

「私をぶったりするんだ……だけど、本当は優しいんだよ」

「うん………」

(なんて子なんだろう)
(虐待を受けても、母親を信じてるんだ)
(強いや、希美ちゃんは)
(私より全然)
(強い)
123 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)17時47分40秒
「強いね、希美ちゃんって」
「えっ…」
「私なんか……」
「愛ちゃん」
「ごめん」
「……ううん」

「私なんか、希美ちゃんの何の役にも立てない。希美ちゃんより
ずっと弱い人間なんだ。時々、怖くなる。本当にこのままで生きていけるん
だろうかって。人を信れなくなってしまったんだ。だから自分もみんなから
信じてもらえなくなった。だけど希美ちゃんは、こんなに、こんなに強いよ
……!希美ちゃんは!」

「……愛ちゃんは大人だよ」
「子供だよ」
「ううん、あたしより全然大人だよ。愛ちゃんは、自分のこととか、わかってる
もん。あたしなんか、人のことも自分のこともわかんないもん。だから、大人だよ」

「希美ちゃんは、痛くないの?その傷」
「痛いよ、すっごく……だけど、隠していかなきゃ、駄目なの。のの、またお
母さんに怒られる。ぶたれちゃうの。だから、誰にもこのことは言わないで…
…秘密にしてて」
「うん、だけど!」
「隠さないと、生きていけないんだよぉ……」

泣きそうな希美の表情、それがすべてを伝える言葉だった。
124 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)17時55分07秒

「の、希美ちゃん……!」

愛は思わず、愛の一回り小さな希美の身体を抱き寄せた。
もうどうなってしまってもかまわないような気がした。

どうせなら、希美が楽になるように、自分を怪我してもかまわないと思った。
そして希美の傷が消えるように、心の傷も消えるようにと願った。

希美と愛は、それぞれの孤独を抱えながらも、お互いに少しずつ支えあって
生きていこうと、思った。

「希美ちゃんも……、怖かったんだね」
「うん……!」
「私も怖かった!みんな孤独なんだよ、きっと。みんな悲しいんだよ!」
「う、うぅっ……愛ちゃあ………!」

うわ〜ん

―――――――――ギュウッ

希美は愛をより強く抱きしめた。そして、何よりわかってくれる相手が欲しかった
のだろう。

そう、誰もが孤独なのだ。

   悩みが一切ない人間なんて、この世に存在しないのだ。


存在するとしたら、それは人じゃなくてモノだろう。
 
     孤独を抱えている人間なんて、すぐ近くにいる。

そして誰もが、その孤独をわかってほしいんだ。

        すぐ傍の友達も、そう思ってるハズ。



125 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)18時02分57秒
「希美ちゃん、もっと一緒にいよう」
「えっ」
「きっと一緒にいれば、悲しみは少なくなるはずだよ」
「………」
「あっ……強制はしない。だけど、その方が希美ちゃんのためにも、私のために
もなると思うから……」
「ありがとう」


希美の笑顔は、これまで偽っていた微笑とは違う、

本当の笑顔を愛に出していた。

優しそうだった。


126 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)18時10分18秒

あの日からはや二週間。梨華はものすごく心配だった。
愛が一回も家にやってこない。やはり予感は的中していた。

澤田は梨華に会わす顔がないのか、バイトをやめていた。
梨華もその方がズッとよかった。あの苦しみをまた味わう気がして、
いたたまれない気持ちになるからだ。

だが、愛がやってこない。梨華の苦しみは大きく膨らんでいた。
そして、また自分のせいだと、自分だけを責め続けていた。


「……………」
やけにヒマな一日は、愛とのひと時を思い出し、もう返ってこないような気が
して寂しくなり、深い孤独に陥った。また、愛は自分のことが面倒になったり、
うざったく感じたのかもしれない、だからもうどうでもよくなって家に来なく
なったんだ。と勝手に思っていた。

今朝、1人で飲むコーヒーはおいしく感じられなかった。
あの日の、微笑んでいた2人の空間がきっとおいしかったのだろう。

(携帯番号、聞いとけばよかった)
(寂しいよ)

梨華は、大きなマクラをギュッと抱きしめた。


・    
127 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)18時14分16秒
そのころ、愛は希美とずっと一緒にいた。

愛の思考の中はもう、希美のことだけだった。

そして梨華のことは段々と薄れていく。

孤独をわかってくれる人にめぐり合えたから、もう梨華のことなどどうでも
いいのだろうか。愛は、なにかを忘れているような気がした。











128 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)18時22分00秒

「はい、」

「ありがとう」

うわぁっと目をキラキラと輝かせて、希美は差し出されたアイスクリームを
見つめた。愛は、そんな希美を可愛く思った。

「そんなにおいしい?」
「うんっ!」
「ふふっ」
「あ、あの八段アイス、今度食べようよー」
「えぇっ!あれ、すごく大きくない?」
「大丈夫だよーあははっ」
「はははっ」

一日中2人で遊んだ後、近くの売店でアイスを購入した。
2人は帰り道をアイスを食べながら歩いている。

「愛ちゃんってすごい人なんだね」
「え?」
「だって、みんな愛ちゃんのこと見てたよ。すれ違うたびに」
「あはは、気のせいじゃないの?それに、みんなが見てたのは
希美ちゃんの方だよ。可愛いもん」
「だははーまたまたぁー!」

照れくさそうにはにかむ希美、愛はいつしか、そんな希美の笑顔が大好きに
なっていた。その笑顔を見るたびに、なぜか自然と微笑んでいた。

「けど、愛ちゃんも可愛いよ」
「えぇ〜」
「この前ラブレター渡されてたとこ、見たもん」
「え、ほんと?」
「うん、あれって後輩の人だよね」
「まぁ……、うん」
「やっぱりすごいね、愛ちゃん」
「全然っ」
129 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)18時26分04秒

愛はほとんど、自分の過去のことを忘れかけていた。

思えば、バスケットボールをしているときに、上級生に声をかけられたことや、
街中で1人ポツンと立っていると、数人の男性から呼び止められたことも
少なくはなかった。愛のルックスは学校中が認めていた。


だが、本人はそんなに感じていなかった。むしろ、感じすぎて嫌気がさしている
ように見えた。そんな扱いは嫌だった。みんなと同じ、楽しみたいだけなのに、
特別扱いされると、愛は気分を害した。

だが、ファッションは結構気にかけているようだった。自分に似合う服、黒い
服。いつしか、黒を好む服を選ぶようになった。

黒が好き。


それはまだ、愛の心のようだった。


だが、本当は、愛は優しいのだ。 汚れていないのだ。綺麗なんだ。


みんな気付かないだけで・・・
130 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)18時33分16秒

「ばいばい」




希美と別れた後、愛は一瞬、梨華のことを思い出してハッとした。

(そうだ、石川さん)
(何週間も会ってないや)
(どうしてるんだろう)




「行ってみようかな……」

愛は、家に戻ることを極力嫌がってたせいで、家に、どうか帰らない理由を
考えていたのだ。そしたら、梨華のことを思い出した。梨華の家に行って、
様子を見てこよう。どうなっているのか、心配だ。

それに、家にまだ帰らなくて済む。


愛は、服を着替えて梨華の家に向った。

自転車で行けば30分と少し遠いが、愛にはその自転車をこいでいる
時間が少し気持ちよかった。なにもかもを忘れていられる時間のようだったから。

愛は、灰色の外人の顔をしたTシャツの上に、黒い大きい服のような
ものを羽織り、下はシャカシャカ鳴るような紺色のスカートを履いて出かけた。
そして黒いハイソックスをはくと、まるでどこかのお嬢様高の制服かと思うぐらい
可愛かった。愛は、少し恥ずかしく思った。
131 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)18時37分45秒



梨華は、愛のことばかり心配で、不眠症になるぐらいだった。
今日も頭が少しボーッとしてる。うるさいテレビも消す力もなく、
つけっぱなしのままだ。

「……嫌われちゃったのかな」

冷めたコーヒー。電気もつけないで、ソファに横たわる梨華。

あの日、愛がくれたネックレスを握っては、切ない思いを感じていた。

その思いがいつしか恋愛感情に変わっていたことを、梨華はまだ知らない。


(離さないって言ったくせに)
(愛ちゃんの……バカ)






132 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月01日(土)18時38分34秒
更新UP

また少し休んで今夜更新します。
133 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)20時49分39秒
―――――――――――ピンポーンッ
「は、はーい?」
(誰だろう)(セールスかな)

―――――――――――――タタタタタタッ

梨華はスリッパを履くと、玄関通路まで急ぎ足で向った。
レンズを覗くと、そこには、あの愛が立っていた。

(愛ちゃん!)

驚きと、嬉しさを入り混じれながら、梨華はすぐに玄関の鍵を開けた。

「あ、愛ちゃん……」

そして愛のずいぶんと可愛らしい、だけどどこかクールで大人っぽい
服装に、見とれてた。黒い服が、黒い髪や、黒い目をいっそう引き立てて、
純粋に生きた女の子のように、綺麗だった。

「お久しぶりです」
愛は軽く解釈すると、またかすかに微笑んだ。それだけだった。
そして、いつものようにリビングにスタスタ上がってコーヒーを沸かそうと、
カチカチとスイッチを入れている。

いつもはスカートをはいてやってこない愛の姿に、そして普通より少し短い
スカート丈に梨華はドキッとした。
そしてまだちゃんとした会話も交わしていない、梨華はそれだけで
寂しい思いになり、またすぐに愛がどこかへ行ってしまう気がした。
134 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)20時56分51秒

「……………」

梨華は隣りでコーヒーを沸かすためにカチカチスイッチを入れている、愛の
可愛さは、今まで以上に可愛かった。梨華はそれを傍で見つめた。

(愛ちゃんがいる)
(コーヒーを沸かしてる)
(また微笑んで)
(どこかへ行かないのかな)
(行ってほしくない)

(行ってほしくない)

(………………)

――――――――――――ギュッ

気が付いたら、梨華は愛を後ろから覆い被さっていた。愛もその行為に気付いて
後ろを振り向こうとするが、体制的に無理で、梨華の行動にビックリするだけ
だった。梨華がこんなことしたことがないからだ。

「い、石川さん……?」

コーヒーのお湯の具合を見ながらも、梨華のする行動に疑問を持ちながら、愛は
その場の雰囲気が、少しぎこちないと感じた。それでも梨華はギュッと愛の
身体を抱いて離れようとしない。

「危ないから、離れた方がいいですよ」
「…………」
「石川さん?」
「………………」
135 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)21時05分43秒

「は、離してくださいよ」
「やだ……」
「……だから危ないって」
「愛ちゃん、またどっか行っちゃいそうだから」
「………は?」
「離れないように、ネックレス……、くれたんじゃなかったの?」
「…………えっ」
「なんで……、家にきてくれなかった……の?」
「……………」
「ひ、1人にしない……で」
「…………」
「寂しかったんだから……」

「石川さ……ん」

愛はなぜか、その言葉の意味もよくわからないのに照れくさく思った。

「愛ちゃんっ」

「えっ」

クルッと肩を抱かれて、愛は梨華の方へ自然と向いた。
梨華はぎこちない様子で愛を見つめ、さっきまで大胆に抱きしめていた梨華とは
また違う、大胆さを、愛は感じ取っていた。

軽い力ですんなりと引き寄せられると、愛は梨華の方へストンッと倒れた。
梨華は待ち構えていたかのように、愛のつぶらな瞳を見つめている。

そして、顔を真っ赤にしながらも、愛の口元へ顔を運んだ。


髪が愛の顔を、少し見えないようにかぶさっている様子。

愛はその最中、目をずっとあけていた。というか驚きで目が見開いていたのだ。
136 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)21時10分02秒


軽く唇が重なったかと思うと、梨華はビクンッと身体を微動させ、緊張を
自分の中でいっそう張り詰めた。

優しい唇と重なり合う瞬間。

    溶けそうになるほど、心臓の音が熱く、高鳴っている。

肌と肌が触れ合っている、この空間。これは2人だけの時間だと

    梨華は、目を閉じて感じていた。

「………あ…」

愛が視線をサッとそらして、震えている様子。

なんだかよくわからないけど、多分ドキドキしてて、だけど

相手にどう現していいのかわからない、といった感じ。
137 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)21時16分21秒



「や、嫌だ……っ!」

愛は震えた手で少し強く梨華を突き放した。
梨華は驚いて、予想以上に身体が揺れ、壁にドンッとついた。

愛は震えて口元をおさえている様子。なんとも驚いている表情は、
さっきから変わらない。愛はこんなことした事がなかった。
そしてなによりも、体中が震えて、涙ぐんでいた。

急に、しかも梨華に、そして同性に。

ドラマで少し見たことはあったけど、いつもそれは異性とのキスだった。

(なんで…女同士で)
(なんで石川さんは……?)

愛の考えには、同性愛というコンセプトはいまだに入っていなかった。
というか、どういうものなのかもイマイチだったのだ。

「な…んで……!」

愛は涙が頬を流れていることに気付くと、手で懸命に拭いた。
そして興奮するように、むしろ興奮しながら、梨華に質問を繰り返した。

「なんで……こんなことを!」
(石川さん、変だ!)
(おかしい!)
138 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)21時20分57秒
愛は一歩一歩後ずさりしながら、玄関の方へ近づいている。
梨華もその行動がわかった。

「やだ……変だよ……なにこれ」
「愛ちゃん!」

「やだ、来ないで!!」

「………あいちゃ……」

突き放したように、愛は鋭い目つきで梨華にそう叫んだ。
梨華は、自分が悪いのだと、また責め始めた。

だけど、自分を責めたってどうにもならない。

「愛ちゃん!お願い行かないで!」

「…………」
ガタガタと震え、そしてペタンッと床に腰を下ろしてしまった愛。
愛はずっと梨華を悲しそうに、涙を拭きながら見つめている。
「………………」
「…………」


139 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)21時28分05秒


「愛ちゃんが…………好きなの」

「………………」

(私を)(好き)
(石川さんが?)
(なんで)

「二週間も愛ちゃんが家に来なくて、本当に寂しかったの。夜も眠れない程、
愛ちゃんのことずっとずっと心配で考えてたの……」

「それで気付いたの、私、愛ちゃんが好きなんだって」
「うそだ……」
「本当だよ!」
「だってキスは男女でするものでしょ?おかしいよ。なんでっ!」
「男女なんて、関係ない……」
「………」
「私は、愛ちゃんが好きなだけ。それだけだよ」
「……………」

梨華にそっと見つめられて、愛は急にドキドキした。

(なに、この気持ち)
(石川さんといるとドキドキする)
(なにこれ、変だよ)
(私の方がおかしいのかな……)

(胸が、熱い)

「…………」
140 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)21時34分50秒

「愛ちゃんは、私のこと……好き?」

徐々に歩み寄ってくる梨華がなんだかすごくエロチックに愛は思えた。
そしてそう思う自分にも、少し腹が立った。愛は至って真面目で、不
純粋は好まないのだ。だからずっと純粋に育ってきた。

「へっ……!?」

愛は同様して、動けない。梨華のエロチックな微笑みに奇妙な気持ちを
抱いていた。

「どう、思う?」

ズンズン近寄ってくる梨華。もう顔の近くまできている。
ふっと視線を落とすと、梨華の服の間から、下着がチラッと見えた。
そしてまた、嫌な気分になり目をそらす。

「えっ……えっと、好きだけど……なんか…よくわかんなくて……」

急にもじもじしだした愛に、梨華はフッと笑った。そして今までにない
新鮮さを、感じ、梨華はとても純粋な気持ちになれた。


「もういいよ。ごめんね」

「え」

「今のこと、全部忘れて。あたしが愛ちゃんを好きって言ったことも」

「………」

「ごめんね、無かったことにして。ごめんね、迷惑かけたね……」

「…………」
141 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)21時41分52秒

急に梨華の遠慮さに、愛は少し腹を立てたが、どうにもできなかった。
そして、その梨華の言葉に愛は落ち着きを取り戻していた。

梨華は後ろを向いて、こっちを見ようとしなかったが、何を考えているのか、
愛には大体わかった。


愛はまだ恋愛というのが、一体どういうモノなのかわからないでいた。
だから、この時梨華に恋愛対象だったかもしれないことも、愛はわからないでいた。


(なんだかいろいろ考えすぎて疲れた)
(もう何もしたくない)

愛はフッと家に帰る時間も面倒になった。だが、梨華の傍には今はいたくない。
だけど、もうこれ以上気力がないのだ。

「…………コーヒーが……」

一瞬ハッとして台所を見たが、コーヒーはカンカンと沸いていて、梨華が今丁度
止めたようだった。


(石川さん)
(なんだか気持ちが変になる)
(なんで……)

「石川さん」
「な、なに……」
「泊めてもらえませんか?私、ちょっと疲れて……」
フラフラっと左右に揺れながら、愛は梨華の元へ近づいた。
142 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月01日(土)21時44分28秒

「だ、だけど……!」

梨華は躊躇した。先ほどあんなことがあったのに、泊まるなんて言い出すなんて。
梨華は愛の思考回路がまったく読めなかった。

ドサッ

答えを返さないうちに、愛は梨華の身体へ倒れた。

「愛ちゃん!!」





(疲れた)(眠たい)
(もうなにも考えたくない)
(疲れた……)


143 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月01日(土)21時44分58秒

のぁあ〜〜〜更新終了。

144 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月02日(日)10時19分18秒

次の日の朝。


「ぅん〜……」

愛はうっすらと目を開けた。しばらくボーッと何かを考えている様子。
そしてバッと体制を起こすと、キョロキョロ辺りを見渡している。

「ど、どこだ……?あ、」

ふ、と下を見ると、ベッドにもたれて寝ている梨華の姿があった。
ベッドを愛に譲ったのだろう。なぜか梨華は昨日の服のまま寝入っていた。

(そうか、石川さんの家か)
(寝ちゃったんだ……)

「あれ、上着が……」
自分の身に纏っていた上着が見当たらない。パッと床を見ると、きれいにたた
まれてある、黒色の上着があった。

(石川さん……)

(私にベッドを譲って……)
(寒いはずなのに)

愛は、梨華の行動にフッと笑った。

その時、梨華の頭が動いた。

「うぅっ」

「おはよー、石川さん」

「あ……、おは……よ」
145 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月02日(日)10時29分43秒

梨華の頭が少しクシャッとなっている。

愛は、その頭に笑った。

「愛ちゃん、急に倒れるんだもん。ビックリしたよ」
「そうなんだ。ご、ごめん!」
「う、ううん……いいよ」

「…………」
「……………」

梨華は昨日のことを、意識しているのか、ぎこちなくその態度を見せている。
愛は梨華の思っていることが、大体わかった。

「昨日は……ごめんね」

梨華が台所に向いながら呟いた。まだ梨華の頭が少しクシュッとなっている。

「別に」
愛は、また笑った。

「忘れてね。うん」
コポコポとお茶をコップに入れている音が聞こえた。



「…………石川さんはそれでいいの?」
ベッドに座ったまま、愛が言った。
「………だって………」

「……………」

「愛ちゃんは、そう思ってなさそうだし……嫌がるのに、あんなことするなんて、
おかしいよね。ごめんね……」

「…………」

(違うよ)
(まだよくわかんないだけ)
(びっくりしたけど……)

「……………………」

それ以来、2人は喋らなかった。
146 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月02日(日)10時38分00秒
梨華は、自分のしたことにものすごい後悔をしていた。そして、もう愛の嫌がる
ようなことはやめて、愛のこともあきらめようと、心の中で決心していた。

愛は、自分のことをなんとも思ってない。
愛にとって私は友達のようなもの。
私は、どうかしてた。

こうして、
梨華の勝手な勘違いが、スタートした。


2人は朝食を食べて、のんびりとテレビを見た。愛は、泊まったことを、家族に
怒られると思った。だが、梨華は愛の携帯から直接泊まると伝えていたので、
問題はなかった。愛は、また心の中で梨華に感謝した。

「愛ちゃん、砂糖入れすぎっ」
「石川さんよりは入れてないよ」
「今10個ぐらい入れたじゃん、あたし7個だもん」
「じゃあ入れてあげる」
「わっ、やだ、愛ちゃん!あたし7個って決めてあるのに〜」
「いいじゃん、はははっ」

「「あはははっ」」



147 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月02日(日)10時46分51秒

「ねぇ、石川さんは今日もバイト?」
「今日はオフだよ」
「たしか、昨日はあったよね」
「なんで知ってるの?」
「んー……、覚えた。石川さんに聞きて」
「そっかぁ……」

「………………」
「…………………」


「じゃ、もうそろそろ帰る」
「え……、うん」

「……………」
「………………」

「………………」
「じゃあ、商店街のはずれまで送っていく」
「別にいいよ」
「……………」
「…………………そ、そんな顔しないで……」
「だって」
「じゃあ……、送ってください」
「は………い」
「…………………」
「……………」



148 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月02日(日)10時47分51秒
更新しますた。

感想待ってます。
149 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月04日(火)16時28分44秒

「…………………」
「…………………」
(何か喋ってくんないと)
(嫌な雰囲気)

愛と梨華は商店街を歩いていた。
のんびりと、ゆっくり、何も言わずに歩いていた。
愛は平気だったが、梨華は2人の沈黙に気まずく思っていた。愛は平気というか、
この人だかりにイラついて、少し無口になっていたのだ。

「………」
「…………」

梨華はしばらく俯いて歩くことにした。楽しい会話をして、見送ってあげようと
思ったのに、これじゃあ次に会う時、気まずくなってしまう。梨華は、どうする
こともできなかった。だが、愛はそんなこと平気だった。

「あれ……あっ!」

愛が思わず声をあげた。梨華もなんだろう、と思い顔をあげる。
愛がビックリした表情で一点を見ている、梨華もその視線の先を見た。

ミニスカートに、今風のギャルといった女の子が、
怪しい店にスッと入っていった。

「まっ、麻琴……」
「…………知り合い?」
「は、はい。同じクラスの……」

どうやら愛は麻琴と知り合いらしい。
愛は麻琴の入って行った店に近づいた。梨華もつられて店に近づく。

「………一時間、5千円……?」
150 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月04日(火)16時34分01秒
愛は、店の蛍光灯の看板を読み上げた。

「……お一人様、1万円。カップルでは…2万円……楽しいひと時をお過ごしに
いらしてくださいね♪……なにここ……!?」

「お友達、……どうなったの?」
「わかんない、だけど……なんで麻琴が……」
「…………」

「…………」
(麻琴がなんで)
(どうして)

「……石川さん、私ちょっと行ってくる」
「えっ!」
「麻琴が何してるのか、確かめてくる」
「そ、そんな危ないよっ!愛ちゃん」
「じゃあね」
「あ、ちょっと!じゃ、じゃあ私も行く!あぁ!待ってよ!愛ちゃんっ!」




151 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月04日(火)16時44分30秒

「2名様でよろしいでしょうかー?」

店内の男性がチラッと愛と梨華を見ながら言った。

「は、はい」
「……」

「……でわ、店内の座席へご案内しまーす」

男は愛と梨華に怪しんでいる様子。梨華はうつむいて愛の腕をギュッと掴んだ。

「はい」
「………」

店内に入ると、紫色のミラーボールがチラチラ見えて、いやらしい音楽が
流れてくる。それは嫌でも耳に入った。他のお客は、座席に座ってすごく
いやらしい行為をしていた。愛と梨華は思わず赤面して俯いてしまった。

座席に案内した男性は愛と梨華を不信そうに見ている。
愛は敏感に感じ取り苦笑いを男性に向けて梨華を押し倒した。

「きゃっ」
梨華は驚いて声をあげてしまった。愛はハッとして梨華の口を
おさえて「シーッ」とポーズをして見せた。梨華はそれでもまだ赤面している
様子。
「………」




しばらくただそうしていると、男性は奥の方へと戻っていった。
愛はフゥッとため息を漏らすとガバッと身を起こした。

梨華はボーッとしたまま、おきようとしない。どこか遠くを見ているようだった。
愛にはそれが笑えた。

(石川さん、変だなぁ)
152 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月04日(火)16時53分51秒

「石川さん、起きないの?」
「え………う、うん」

梨華はなんだか、取り乱したかのように慌てている。愛はますます変だなぁと
思って笑った。

(それより、麻琴はどこだろう)
(なんでこんなところに)

「ねぇ、君達」

「え?」

向かいの男女から声を賭けられた。愛はビクッとして目線をそっちに向ける。
梨華も一瞬冷や汗をしながら、起き上がった。

見るからに常連で、年上の男女は愛達を見てニヤニヤと笑っている。
愛は少し気分が悪くなった。こんなところも、こんな人も嫌いだ。

「超かーわーいいーねー」男性の方が女性の胸を触りながらこっちに目線を
向けてくる。女性はからかうように、パシッと男性の頭を叩いた。愛達には
その光景がある意味新鮮で、ドキドキして、嫌らしく思い、また愛は不純だ
と思った。

「なに、君ら同性愛?」

「……」
「………」

(なんて言えばいいんだろう)
(そんなんじゃない)
(麻琴を)(だけど石川さんは)

「黙っちゃってー可愛いー」
「……」
「………」

愛達はお互いを意識しているようで恥ずかしくなった。
それに加えて男性のいやらしい発言にも赤面した。
153 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月04日(火)17時00分33秒

愛は、麻琴を捜そうと目をアチコチに向けた。
だが正面の男性はまた女性にいやらしいことをしながら愛達に視線を向けてくる。
愛にはそれが不快だった。

(なんだよあいつ)

「ねーぇー、女同士って気持ちいい?」

「…………」
「…………!!」

愛には理解が不可能だった。それだけでは意味がわからない。だが梨華は
理解したのだろう、ビクッと身体を微動させると赤面しているのを隠すためか
俯いてしまった。

「なにがですか?」

愛は率直に男性に質問した。愛の純粋さとは恐ろしいものだ。

「ハァーッ!?わかんないの?」

男性はからかいながら愛に問い掛けた。

「はい」
愛はコクンと頷いた。

「マジでぇ!?じゃあ教えてあげよっかぁー」
「はい」
「あ、愛ちゃん、もうやめなよ……」
梨華は愛の腕を掴んだ。

「え」

「………」
梨華は黙るしかなかった。

(なんで?)
(石川さんって変だよ)
154 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月04日(火)17時07分39秒
だが梨華の表情を見て察したのか、もう男性に問い掛けることをやめた。
梨華が赤面しながらも、つらそうな顔をしている。

「ごめんね……石川さん」
愛は梨華の腕をギュッとしてそう言った。
「ううん……」
梨華は俯いたままだった。

「…………」
(くっそー、こんなんじゃ捜せないよ)
(場所を変えようかな……)
(だけど石川さん、こんなんだし)

「…………」
「ねぇ、なんで何もしないの?」
「え?」

また男性が声をかけてきた。愛はいい加減ウザイと思い眉間にしわを寄せた。
男性はそんな愛をお構いなしでケタケタ笑ってる。相手の女性の心は傷ついて
ないのかなぁ?と愛はフッとそんな心配までしていた。

「キスしたりぃー抱き合ったりぃーするもんでしょココって。それ以上の
こともあ・る・け・どぉ〜♪恥ずかしがってないで、しなよ」

「……」
(こいつマジでムカつく……)
(麻琴を捜すために入ったんだよ)
(バーカ!)

「愛ちゃんっ!」
「?」

グイッ

「……」
「………」

「ヒュー♪やればできんじゃん、彼女。押しがいいね〜♪」

「……」
「………」
155 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月04日(火)17時15分28秒
スッと離れた唇。2人は見つめ合った。

「………」梨華はトロンッと甘い表情をしている。
「………い、石川さ……!」愛は驚いて口を手でふさいだ。エロチックな
石川さんを見て少し嫌な気持ちになった。

(何してんのこの人!)
(いきなりキスなんか……!)

「愛ちゃん、しようよ。ねぇ……」梨華が徐々に近づいてくる。
「な、に言ってんの!」愛は徐々に這いずり、後ろに下がっている。

「ん…………」
「ふぐっ………!!」

愛は梨華に押し倒されて抵抗できない。口も塞がっていて思うように声が通らな
かった。愛は混乱し、また抵抗しようと力を入れたが、梨華は構わず抱きしめて
、キスをするために目を閉じた。

「………」
「…………」

愛も次第に気持ちが変になっていったのか、抵抗すらできない感覚に陥った。
愛はボンヤリと梨華を見つめている。梨華は恥ずかしがりながらも、愛を抱きしめた。

「んっ………」
「…あ……っ…」

2人は本来の目的を忘れているようだった。

正面の男女は、物珍しそうに2人の行為にボーッと見とれていた。

そして、しばらくして赤面した。
156 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月04日(火)17時16分14秒

ageです!
157 名前:名無し蒼 投稿日:2003年03月04日(火)19時21分24秒
おぉエロキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
石高好きなんで更新楽しみにしてます
でも高橋はまだその気ないみたいだからどーなるのかなぁ〜?
158 名前:トム 投稿日:2003年03月05日(水)14時58分57秒
あれ〜〜!!
ついにっすか!
石高好きっす☆
それにしても、まこっちゃんは一体・・・。
159 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月05日(水)19時57分20秒
>>157
レスありがとうございます。(涙)ここのところ更新しても
レスが無かったんで、いつかきてほしいと願ってますた(w 高橋は鈍感+
純粋ですから。(笑)

>>158
レスありがとうございます!まこっちゃんねぇ。。。(w
いろいろ出てきますわぁ、これから(笑
160 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月05日(水)20時05分20秒

「石川さ……っ……はっ」

愛は変な気分になり、梨華の大胆さに驚きながらボーッとしていた。もう完全に
麻琴の事を忘れている。抵抗しながらも、その力は無に等しかった。
梨華は愛の自然に出るいやらしい声に、ドキドキしていた。


「……んっ…………」

愛は梨華の変な声にまた嫌な気分になり、ハッと意識を戻した。
梨華も、少し驚いているが、愛に覆い被さったままである。

「………」
「………」

そしてボァッと2人共顔が赤くなった。本来の目的を思い出した愛は、梨華に
恥ずかしそうに言った。梨華は目を逸らした。

「ま、麻琴を……捜さないと」
「…う、うん……」

愛はやんわりと梨華を離し、目を店中に凝らせた。キッと鋭く観察する愛の
姿を、梨華は少し尊敬していた。そして自分の行為に恥ずかしくなってきた。




161 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月05日(水)20時09分21秒

「んもぉっ……」


愛は背が低いのか、周りにいる客のでかさであまり奥まで見えなかった。
眉間にしわを寄せて、半分立ちながら辺りを見渡している。


(麻琴……)
(麻琴………)


愛は、麻琴をなぜこんなに必死で探しているのだろうか。愛は自分でもわからな
かった。麻琴と愛は、ただのクラスメイトなだけで、あまり会話らしい会話を
したことがなかったからだ。

だけど、麻琴と愛はお互いを意識していたのかもしれない。




162 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月05日(水)20時19分04秒
愛と麻琴の間で、こんなやりとりがあった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

愛はいつも、気分が悪い時は授業をサボり、屋上に来て1人でいた。
時にはボーッと景色を眺めたり、時には大の字になって寝たり。
愛はそんな風に過ごすのが気持ちよかった。

そしてこの日も屋上にやってきた。

―――――――キィー

愛は慣れた手つきでドアの鍵をあけ、ドアのすぐ正面にある文化祭で使った
と思われる古い看板や、ダンボール箱の山住を飛び越えて、一番景色のいい
運動場側の日当たりのいい場所へやってきた。

「………………」
口には加えたままの「コーヒー牛乳」があった。手首にはミサンガを付けている。
そして愛はコロンッと寝転ぶと、フゥッと息を吸って大きく吐いた。

まるで、大地の自然を味わっているかのような、そんな表情だった。

「……………」




163 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月05日(水)20時24分13秒

いつものように屋上でのんびり過ごしていると、ドアがギィッと開いた音がして、
愛はビクッとし、ドアの方へ身体を向けた。そしてグッと目を凝らしている。

「………」
「………」

そこには、クラスメイトの小川麻琴がいた。愛は構わず気にせず、寝転んだ。
麻琴とはあまり関わりたくないな、愛はそう思った。




「こんなところにいたんだ」

知らない声が屋上に聞こえた。愛以外にはもう麻琴しかいない。愛は寝たフリを
して、麻琴に背を向けた。そしてズズッともう残り少ない「コーヒー牛乳」を
ストローで飲み干した。

「………」
「………」


164 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月05日(水)20時31分42秒

「寝ないでよ、なにか喋ろうよ」

愛は構わず寝たフリを続けた。しばらくしたら、あきらめてくれるだろう、
愛はそう思った。だが、麻琴は喋り続けた。

「ねぇ」
「………」
「高橋さん」
「………」
「おーい?」
「………」
「もしもーし」
「………」
「ねーぇ、聞いてるんでしょ?」
「………」

愛はムクッと起き上がり、眉間にしわを寄せて麻琴を見つめた。麻琴はその表情を
見て少しビクッと怖がり、だが冷静さを取り戻した。

「そんな顔しないでよ」
「……」
「綺麗な顔してるんだからさ」
「………」

愛は麻琴がすごく嫌な人間に見えてムカムカしていた。だが、いくら怒っても
麻琴はケロッとして見せる。愛はあきらめて、話し掛けた。
165 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月05日(水)20時45分48秒
「小川さんだっけ……あんた」
「やだな、同じクラスじゃん。小川麻琴だよ」
麻琴が愛の腕をトンッと押す。

「………麻琴」

「高橋さんって、いつも授業サボッてここに来てるの?」
「まぁ………」
「ふーん、一つ発見しちゃった♪」
「………」
「………」
「それより、クラスの委員長が授業サボッていいの?」
「ははっ」
麻琴は、そう笑っただけで何も言わなかった。愛もそれ以上聞かなかった。

「高橋さんって、いろいろ噂があるけど……本当はどうなの?」
「は……?」
「人間嫌い……とか、ホステスの人にスカウトされたとか……」
「なにそれ、ははっ……」
愛は、話を逸らすかのように、俯いて笑った。

「どうなの?誰も高橋さんとこういう話しないしさ、一回聞いてみたかった
んだよね」
「それより、小川さんの噂もすごいんじゃないの?」
「?」
「委員長をやってる裏ではすごい遊び人とか、友達は全員奴隷……とかね」

愛はフッとわざと笑った。

166 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月05日(水)20時52分10秒

麻琴も同じように笑っていると思ったが、麻琴は笑っていなかった。
急に黙り込んで悲しそうな顔をした。

「……」
(悪い事言ったかな)


麻琴はハッとして、またわざと笑ってみせた。だが、愛には気付いていた。
それは本当の笑顔ではないことに。悲しそうに、笑っていたのだった。

愛は、もう一つ麻琴の噂を知っていたが、あえて麻琴には言わなかった。
「家がものすごく貧乏」だということだ。麻琴の家は見たことがないが、噂に
よればすごくガタガタで今にも壊れそう、だと。

わざと言わなかったのは、それなりの愛の優しさだったからだろう。

「……じゃあね」
「えっ」

愛はもう一つ買っておいた「コーヒー牛乳」を麻琴の前にコトンッと置いて、立ち
上がって去った。

愛は気付いていた。 誰もが本当の笑顔で微笑んでいないことを。
そんな笑顔をして笑いかける人達に、愛は気付いていた。

そんなみんなは、愛には嫌だった。



167 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月05日(水)20時53分17秒
更新UP

少なすぎで申し訳。
168 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月05日(水)22時21分02秒
おがたかキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
委員長麻琴の今後に注目ダァ―ッ!!
169 名前:名無し蒼 投稿日:2003年03月06日(木)14時15分23秒
おがたかー!
でも石高の方がもっと好き(w

そうなんですか?待ってくださったんですか(w
色々周ってたりするので読んでもレスしてなかったりするものでスイマセン(^^;
そして自分のもマータリ更新中れす♪
なんか色々出てきたのでどなるのか楽しみです、続き頑張ってください
170 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月06日(木)18時21分23秒
>>168
レスありがとうございます。委員長麻琴の裏……って感じです(w

>>169
レスありがとうございます!名無し蒼さんのスレ行ってみます!
感想いつもくれてありがとうございます。(^_^)んはは

171 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)18時28分50秒

「お客様、お時間の方10分前となりましたが、どうされますか」

さっきのジロジロ見てきた男性が、いつのまにか愛達の席に
来ていた。愛はビクッとして、視線を男性に戻す。

(もう、時間か……)
「……帰ります」

愛はフゥッとため息を漏らすと、ボンヤリと正面の男女を眺めだした。
男女の行為なんて目に入らない。ただ麻琴を見つけ出せなかった不甲斐なさを、
あきらめに変えてボンヤリとしていただけなのだ。

「………」
「………」

梨華は相変わらず自分を責めていて、ジッと俯いて黙ったままであった。
愛の行動にオドオドしながら、自分はどうすればいいのだろう、っていつも
戸惑っている。梨華は自分に自身を無くして、一瞬、愛を遠い目で見た。

(私なんて)
(愛ちゃんといる資格なんかない)
(バカだなぁ……)
(ホンット……バカだよ)

「石川さん、出よう」
「…う、うん……」




172 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)18時39分55秒
「じゃあ、送ってくれてありがとう。あと、付き合わせちゃって、ごめんなさい」

愛が少し暗い表情で笑う。そんな愛を梨華は「自分が悪いんだ」と思い、また
責めていた。

「ううんっ、あたしこそ、変な事しちゃって……ごめんね」
「あっ……」

愛は梨華の行為を思い出して顔が赤くなった。

「あ、あれは……前の男の人がうるさかったから、あぁするしかないかなって
思ったの。ごめんね、もう…やらないから」

梨華は後ろを向いてそう呟いた。その背中は、どことなく悲しい気がした。
愛はそんな梨華を切なそうに見つめた。

「………」

「そ、それじゃあ気をつけてね!」
「はい……じゃあ」
愛は軽く梨華に頭を下げた。このまま別れを告げていいのだろうか、
そんな心配が愛の頭をよぎった。

「………」
「………あ、あのっ」愛が少し弱い口調で梨華に言った。
「ばいばい」
だが同時に梨華の声とも重なって、愛の言葉はかき消された。いや、梨華には
聞こえていたのかもしれない。だからわざと声を出したのかもしれなかった。

「…………」
「…………さよなら………」

愛は、あきらめて別れを告げた。
173 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)18時44分57秒

どんどん愛の姿が小さくなっていく。梨華はボンヤリと愛を見つめていた。
商店街の一番端。自転車に乗る愛、カッコいいと思った。

「………ねぇ、私って……必要かなぁ?」
「………………」
「………………」
「愛ちゃん、私っていらない?」
「………」
「いらないよね」
「…………」
「…………」


梨華はハッと気付き、涙を拭った。

「………」

愛の自転車をこぐ姿が見えなくなるまで梨華は愛を見ていた。

梨華はゆっくりと家に、戻って行った。





「私、いらないよね」


174 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)18時48分52秒




―――――― キィッ

愛はいつものように、屋上へ行く。今日は希美のために手紙でも書いてやろうと
思い、手にはノートと筆箱。そしてコンビニの袋の中には、いつものように
「コーヒー牛乳」があった。面倒くさがりの愛、希美には優しかった。

「なんて書こう……」

(そうだ、なんなら石川さんにも書こう)
(今までのお礼みたいな……)
(きっと石川さんなら喜んでくれる)

ゴロンッと寝転んで、暖かい屋上の床に寝転がる。
シャーペンがコロコロと風によって転がっていく、愛はパシッと手で止めた。

「…………」




175 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)18時57分17秒

――――― ガチャッ

「――――?」
愛が振り向いた、先には麻琴がいた。

「…………」
「…………」
「飲む?」

愛が差し出したのはコーヒー牛乳。麻琴はフッとおかしそうに笑った。
愛は麻琴の確認を得ずにコーヒー牛乳をポイッと投げ、それに麻琴はビクッとして
少し受け取るのが焦って取れなかった。

「投げるんなら、言ってよ〜」麻琴は苦笑しながら落ちたコーヒー牛乳を取る。
「はは」愛は大空に向って笑った。

「………誰かに手紙?」
「まぁね」
「高橋さんも手紙とか書くんだ〜」
「まぁね」
「……」
「………」
176 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)19時02分00秒

麻琴の視線に愛は気が付いていたが、わざと振り向いて見せた。
麻琴はビクッとして少し焦っている感じ。

「何?」

愛は軽く呟いてみせた、そして手紙に取組む姿を見せる。

「いや……綺麗な顔だなって」

「……………」

愛はムッとしたが、表情に出さなかった。昨日のあやしい店の事も考えているの
だろう、怒る気にはなれなかった。逆に愛は麻琴を心配した。

「怒った?」
「なにが」
「ううん……」

なにもないように愛は振舞う、いつ話そうか迷っていた。だが、タイミングが
上手くつかめない。どうする事も出来なくて、愛はグッとコーヒー牛乳を飲んだ。

「ぷはっ」
「ははは」
「………」
「………」


177 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)19時05分49秒

愛は自然と麻琴の唇を見つめていた。それは、昨日の梨華の行動のせいであった。
麻琴はそんなことしらない、急に見つめられて麻琴はオドオドしだした。

「な、なに……?」
「えっ……いや」
「………」

麻琴は赤面した。

(石川さんの唇ってどんなんだっけ)
(たしかフワッて感触で……)
(変な気分にさせるんだよね)

「そんなに……ジロジロ見ないでよ」麻琴が照れながら愛に言った。
「……えっ?」
「あたしの口……、なんか……付いてる?」明らかにモジモジしている。愛は
(なんだ、変なの)と思った。
178 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)19時12分34秒
「別になんもついてないけど」
「………」
「ちょっと、キスの事考えてた」
「えぇっ!?」

麻琴は驚いた。愛の口から「キスの事考えてた」なんて聞いたことないからだ。
むしろ人間関係を拒む愛、なんでそんなこと考えるんだろうと不思議がった。

「ねぇ、口と口がくっついただけで変な気分になると思う?」

愛が麻琴の唇をジッと見ながらそう呟いた。麻琴はどんどんオロオロしだして、
赤面している。愛は構わずジッと見つめた。

「そんなの、おかしいよね」
「そう……かな。す、好きな人とだったら、変な気分にでもなるんじゃない?」
「……それって、どんな気分?」
「えぇっ!?」麻琴はさらに驚いた(高橋さんって一体……)

「麻琴……」急に愛は麻琴に近寄ってみせた。一体どんな気持ちなんだろう、と
知りたかったからだ。麻琴の心配なんかとっくに忘れて「キス」のことに没頭
している。

「な、なに!?」
「……」
179 名前:生きるための傷 投稿日:2003年03月06日(木)19時18分20秒

グッと唇を近づけて、もう当たるか、当たらないかの距離にまで来た。
麻琴はもう硬直して動けない状態。さらに顔は真っ赤であった。

(高橋さんって!!??)
(えぇ!?!?!)

「うーん……」

愛はヒョイッと距離を離すと、手紙を書くのに戻った。麻琴の心臓はバクバクしっ
ぱなしである。「はぁ、はぁ、はぁ、」と息をかすめていた。

「………」
「………」

「どうしたの?のどかわいたんならソレ飲みなよ」
愛は構わず麻琴に言った。鈍感というか、なんなのだろうか。

「あ、そうだ……」
「ん?」
「昨日、見たよ。麻琴を」
「……………ど、こで」
「忘れた」
「そ、そう」
「………」

愛は嫌な気分になり、麻琴を残して出て行った。

(聞けない)
(聞けないよ……)


180 名前:邪険ヴォーイ 投稿日:2003年03月06日(木)19時18分55秒
更新UPっす!

181 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月07日(金)00時50分46秒
すごい、思い立ったら即行動なのにそっけない高橋さん!可愛い、新しい!
影がありそうなのにオロオロしちゃう麻琴さんも可愛すぎる…。
楽しみにしてます!
182 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)14時00分11秒
ん〜、謎めくまこたんいいっすね〜(藁
は、早く続きを…(゚o゚)
183 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月31日(月)01時06分12秒
ココの石×高いいっすねぇ〜!
作者さんのペースでいいんで、
更新期待してます!
184 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月22日(火)17時04分31秒
保全
185 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月02日(金)14時26分54秒
保全
186 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月07日(水)23時03分12秒

ゴクッ・・・

愛は緊張しながら息を呑む。

あの後の放課後、愛は麻琴の帰り道をついていった。
麻琴に気付かれないように、近すぎず、遠すぎずの範囲でついて行く。

(…はたから見たら、ストーカーだよね)

愛はそんな自分に少し笑った。そしてまたコーヒー牛乳をゴクリと飲む。






麻琴は駅の角をさしかかると、姿を消した。
愛はハッとして小走りになり、後を付ける。

角を曲がると、麻琴はあの店に入って行った。




愛は呆然と立ち尽くし、コーヒー牛乳をポイッとゴミ箱の中に捨てて、
潔く店の中に入って行った。

(麻琴……)






キィー

「いらっしゃいませ」

187 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月07日(水)23時11分57秒
愛想の悪い店員は俯きながらこっちを見ずに、そう言った。

愛はそんなことなんか気にしなかった。
カーテンの中にはいる麻琴を見逃さなかった。

ツカツカと愛もカーテンの中に忍び込む。

(真実を突き止めなきゃ……)

そんな時、携帯から着信音があった。

「…っんだよ、こんな時に」

ガサガサとポケットの中に手を突っ込んで携帯を取り出す。
中から表示された名前は「石川さん」という文字だった。

【私、は誰かから必要とされてる人間なのかな…】

(…………?)

愛はメールの内容に戸惑った。こんな梨華のメールは初めてだった。
少しその場に立ち止まっていたが、麻琴の姿が消えそうになったので
あわてて携帯の電源を切ってポケットにしまいこんだ。

(…後で電話しよう)

そう心の中で呟きながら、麻琴の入ったドアをあける。

その時、愛は電源を切ったことに、後悔することになる。




188 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月07日(水)23時19分27秒

ガタンッ!

ガチャッ!

「麻琴!」

麻琴は数人の、この店の人と思われる女性と喋っていた。
後ろから呼び止められ、麻琴はスッと振り返る。

「え……高橋さ……!?」

目をまんまるとして、今の状況にあ然とする。

「こんなところで何してんのッ!」

「…………」

我に返ったかのように、麻琴はしゅんとしだした。
そして戸惑うように俯いたまま、何も喋ろうとしない。

愛はそんな態度、気に食わなかった。


「ねぇ、麻琴ッ!なにしてんのよ、こんなところで!!」

「…………」

「ちょっとあんただれよー」

麻琴と喋っていた女性の1人が、愛に問い掛ける。
少し迷惑そうな、どこか不快を感じさせるような発言。

「…………麻琴!」

愛はその問いかけを無視し、麻琴に詰め寄った。

麻琴はさっきよりもっと、酷く困った顔をしていて、どこか悲しそうだった。

「ちょっと人の話聞きなさいよぉ!あんた誰って聞いてんのー!」

女性が愛のむなぐらを掴む、愛はビクともせずその女性を睨んだ。


ただ睨んだ。




189 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月07日(水)23時24分08秒

「なにガンたれてんだよ!」

もう1人の女性が愛に詰め寄った。

愛は2人に挟まれながら、その間から見える俯いた麻琴の後姿を、見つめた。

「…………麻琴、ここで働いてんの?」
「……………」

コクリ


深く麻琴は頭を立てに振った。

「……………ッ!」





愛はとてつもなく嫌な気持ちになった。

今までの麻琴と、今の麻琴を重ねて息が苦しくなった。

愛よりはるかに大きい女性二人の影は、愛と重なり合い、それは悲しかった。

あんな麻琴の後姿を、今まで見たことがなくて、

なんとなく、変な気分になった。

「……………」

愛は、ハァハァと息を漏らしている。

女性二人は、今にも愛に暴力を振るいそうな勢い。
190 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月07日(水)23時32分07秒

「なんでこんなところで働いてんだよッ!!麻琴ッ!」
「……………」
「麻琴ぉぉぉおッッ!!」
「……………」
「頭おかしーんじゃねーの!?こんなとこで、働いて何してんだよッ!」
「……………」

麻琴は何も喋らなかった。

返事は返ってこなかったが、あの悲しそうな後姿と、振るえる肩を見て、

愛は少し落ち着きを取り戻した。

「………さっきから、あんたなんなんだよッ!」
「小川ちゃんのこと、よく知りもしないでえらそーな事言えるね!」
「そーだよ、小川ちゃんは親のために頑張って働いてんだよッ!」
「お前になにがわかんだよ!」

「だからってこんなところで働かなくてもいいだろッ!!」

「こんなとこってなんだよッッ!!テメー、殴られたいのかッ!?」

「……………」
「……さっきからその睨んだ目つき、何さまのつもりだよ」
「一発殴らないとね」
「……………」

「も、もういいよ!」

「…………」

「やめて、2人共……ごめん」

「……………」
191 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月07日(水)23時47分27秒
「ごめん、今日休むね、店長さんに言っといて」
「小川ちゃん」
「ごめん」
「……うん」





パタン

こんな重苦しい部屋。愛は逃げ出したかった。

「ここで本当に働いてんだ」
「うん」
「なんで」
麻琴は応えるのに数秒かかった。
その感情の動きも愛は読み取れていた。そして返事を待った。

「お金が必要なの。私の家すごく貧乏だから」
「…」
「お母さんは病弱で、昔からずっとベットにいたきり。お父さんはいつ帰ってくるか
わかんないし、いつも給料は使い果たしてしまう。お父さんとお母さんの仲は最悪よ…」
「…」
「…最悪よ。だから私がお母さんの代わりに働くの」
「…」
「お金がないと生きていけない。本当は学校を退学しようかどうか、迷ってた」
「…」

「麻琴、我慢しないでいいよ」
「…へ?」







「泣きたいんでしょ」


「………………」


 泣きたいんでしょ


麻琴の心の中で、何度も繰り返された言葉。
愛の儚い笑顔と共に……

「あぁ…ぁ……ッ!!」

麻琴は愛に抱き崩れた。

愛は何も言わず、麻琴の肩を抱き寄せた。
192 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月08日(木)22時38分25秒




次の日の朝になっても、愛からのメールの返事は来なかった。
電話をしても繋がらず、梨華ははるか大きな何かをを、失った……。


「………………」

無気力な精神と無気力な身体。

梨華はただ床にボーッと座りこみ、焦点も定まらないまま…

なにも考えず、なにも考えられず、絶望と悲しみに朽ちていた。





「……………愛ちゃん…」



193 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月08日(木)22時55分54秒

キィー、ガチャッ

「……」
「……」
「またさぼり?」
「自分だって」

フッと2人は笑い合う。

もう慣れ合いのような、言葉を掛け合う2人。

ストンッと麻琴は愛の隣りに腰を下ろすと、愛をジッと見つめた。

今日もゴクッとコーヒー牛乳を飲む愛。

(綺麗だな……)

「………あ〜寒っ」
「…うん〜……」

(こんな人に、昨日…助けられたっていうか……
 気付いてくれたんだね…)

「………」
「……そういえばさ」
「ん?」

「携帯番号交換してないよね」
「…あー。そだっけ」

相変わらず素っ気ない愛。麻琴はもういちいち気にしていなかった。
これも愛の性格。愛のすべて。愛の一部。

「教えてよ」
「……あー」
「……」
「いいよ、ちょっと待って…」

そういうと愛はコーヒー牛乳をコトッと床に置き、ポケットから携帯をまさぐった。

「あ!」
「…ん?」

「電源切ったまんまだった」

194 名前:本当の姿 投稿日:2003年05月08日(木)23時01分38秒

「やっば……」
(あれから石川さんに返事返してないや……)


ピピピピピッピピッ

「…………」
愛はすばやく携帯を開くと石川、と表示させた。

プルルルルルッ プルルルルルッ・・・

「…………」

プルルルルルッ プルルルルルッ プルルル…・・・

「くそっ!」

電話が繋がらない。
愛は電源を切った事に後悔した。

(嫌な予感がする……)
(石川さん)
(逢いたい)

(君に逢いたい……)


ギュッ・・・

愛は携帯をギュッと握り締めると、何か固く誓ったような表情を見せた。
麻琴はその表情をただジッと見つめ、それが少し寂しかった。

(高橋さんには、大切な人がいるんだね)
(それはあたしじゃないの……?)
(…………)

「誰にかけたの?」
「ん、別に……」
「……」
「あ、そういえば番号…」
「あぁ、ありがと……」





色あせることなく、この2人の屋上の思い出は、いつまでも輝いていた。




195 名前:くり 投稿日:2003年05月29日(木)15時44分28秒
いしたか大好きなんです!更新まってます!
196 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月09日(土)12時07分59秒
保全
197 名前:君に逢いたい 投稿日:2003年08月13日(水)12時56分13秒

プルルルルッ プルルルルッ

ガチャッ

「あっ!石川さん…?」
「………」
「もしもし?」
「………」
「返事ぐらいしてよ」
「……愛ちゃ…ん……」
「石川さん、今どこにいるの?」
「家にいるよ」
「じゃあ今から行くよ?」
「……うん」

プーップーップーップーッ

愛は最近の梨華は少しおかしいと思っていた。さっきの電話の口調もそうだし、
絶対何かあった!と確信した。

そして走って石川の家に向った。

ガチャ

「…おじゃまします」
「………」

「………石川さん?」
「………」
ずっとソファにすわってこっちを見ようとしない梨華。愛はためらった。

「なんでこっち向いてくんないの。見てよ」
「…………」

「石川さん」

「…なんで愛ちゃん、あの時電源切ってたの」
「えっ…あ、あの時はいろいろあって…」
「……あたしずっと待ってたのに」
「……っ、ごめん」
「返事ぐらいしてくれたっていいじゃない」
「………ごめん」
198 名前:君に逢いたい 投稿日:2003年08月13日(水)13時09分22秒


「あたしのこと嫌いになったんでしょ」
「そんな!」
「けど愛ちゃんは優しいからいやいや会いにきてくれたんだ」
「違うっ、そんなんじゃない!」
「けど逢いに来たらまたすぐどこかへ行ってしまうんでしょ」
「………」
「それでまたあたしのことなんか忘れて消えてしまうんだ」
「なんでそんなこと言うの!」
「だって現実に……そうじゃない!」

そう言い放った時、石川が振り向いた。
キッときつい目つき。視線。だけど無理矢理強がっている様子。

「ごめん…石川さん」
「あたしずっと1人で……」
「ごめん」
「寂しくって…ひっく……1人で…ひっ…ひっく」
「ごめんって…泣かないでよ」
「寝れなくって……寂しくって…!!」
「ごめん!」
「うううっ……うぐっ…!」

愛は梨華を抱きしめた。

「こんなに人を思うのは初めてだよ。あたし、どうかしてるって思ってた。だけど
これはどうかしてるんじゃなくて、恋してるんだ。今やっとわかった気がする」

愛は優しく梨華の髪を撫でながら言った。
199 名前:君に逢いたい 投稿日:2003年08月13日(水)13時18分08秒

「他の誰かじゃなくて、あたし、石川さんに恋してる。石川さんだけに…」

「今だから素直に言えるんだ、もうこの先口にできないかもしれない。
だけど石川さんといると素直になれる。石川さんは、自分のことを少し
責めすぎだよ。なにもあたしは石川さんのことどうでもいいなんて思っ
たこと一回もない。もう少し自分に自信持ってもいいんじゃない、あた
しも前までそうだったけど…あたしの前だけでいいから、素直になって
ほしい。わがまま、なんでも聞いてあげるからさ……」

「愛ちゃ……ん……」

涙目の梨華が愛の顔をゆっくり見上げる。そして少し動揺している様子。
それは愛からもわかる。だけどそんな梨華が、たまらなくスキだった。

「ねぇ、夢じゃない?」
「え?」
「これ夢じゃないよね……」

フッと笑う愛、そして梨華の頬を少し優しくつねってみる。

「どう?」
「いたっ……」 
「でしょ」また微笑む愛。梨華はたまらなく嬉しかった。

「いたいねぇ…いたいよぉ…いたいよぉ!」

梨華は涙が止まらなかった。そしてそんな顔を見られたくないのか、愛をグイッと
抱きしめた。その力はとても強いとか言い切れなかったが、愛はわかっていた。
200 名前:君に逢いたい 投稿日:2003年08月13日(水)13時28分24秒




「石川さん……」

しばらく抱き合っていた身体を起こして、梨華の目を真っ直ぐ見た愛。
梨華はものすごくドキッとして、言葉がでない。

愛はスッと顔を梨華の顔にくっつけた。

「んっ」

梨華は少し緊張しているのか身震いしている。そしてゾクゾクする感覚を味わっていた。
愛は感情が抑えきれずそのまま口を動かす。そのテクニックと吐息が梨華を刺激する。

「あっ……」
「んぐっ…」

愛の舌は梨華の舌を攻める。言うことの聞かない愛の口は、梨華を離さなかった。
絡み合う舌と舌、繋がる口、そして息。すべてがいやらしかった。
愛は構わずキスを続ける。しだいに愛の手は梨華をギュッと抱きしめていた。
梨華も愛を強く抱きしめる。

「あっ…んん」
「愛……ちゃ…・・・あっああ……」

「やっ、愛ちゃ……そこ…は……はっんっ!」
「ん……」

201 名前:君に逢いたい 投稿日:2003年08月13日(水)13時41分11秒
愛の手は梨華のおなかを優しく滑らせる。それにゾクッとした梨華。
続けてブラの奥へ進もうとする愛。これには拒否信号が出た梨華。

「や、やだ愛ちゃ…それ…は…だめ……あっ」

梨華は抵抗するが、なぜか力が弱い。愛は構わずブラの上をすーっとまさぐる。
そして梨華をくすぐらせる。
愛の手は止まらず次第に次に進もうとする。ブラのホックを片手でスッと外し、
肌をなぞるように前へ戻る。梨華はたびたびゾクゾクしながら、キュッと目を
つむって愛を抱きしめた。

軽く持ち上げるように手にとる愛。そしてゆっくりと回すように動かす手。

「あっ……んん…!!!」

とても優しく掴んだモノは、もうすでに硬直させていた。それを現してくるか
のように愛は親指と中指で掴み、回す。そしてギュッと優しく揉みだした。

「石川さ……ん…」
「愛ちゃ…えろ…いよ…んん!」
「だってぇ……しょうがないじゃん……」
「あっ…あっあっあっああ」
リズムに合わして声が出てしまう梨華。愛はおもしろくなって、リズムをすごく
早めた。そして梨華の顔をうかがう。
「あああっ!あっ!!」

202 名前:君に逢いたい 投稿日:2003年08月13日(水)13時45分00秒

「………っつ」
「……はぁ、はぁ、はぁ」
「石川さん…」
「愛ちゃん…」
「あたし、これ以上どうすればいいか…」
「……」
「できないや……はぁ、はぁ」
「愛ちゃん・・・」
「だってこんなこと、やったことないんだ」
「うそ!」
「え?ほんとだよ」
「うそだ!!」
「ほんとだって、なんでそんなウソが必要なのさ」
「だって……明らかに…」

(うますぎだよ)

「ん?」
「ううん、なんでもない!!」

「とにかくさ、もうこんなことできないから、しないね!」
「え?!」
「恥ずかしいからさ…。それに女同士だと変な感じするし」
「好きならいいんじゃないの?」
「なんか、駄目なんだ。それに好き合ってるからってこんなことするわけじゃないし」

「……」

(あんなことまでしといて…!)

梨華は少しムカっとしたが、いえないのでなんともできなかった。
203 名前:くり 投稿日:2003年08月13日(水)13時58分18秒
更新まってました!
次の更新も楽しみにまってます!
204 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/13(月) 14:20
ほぜむ
205 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 20:05
hozen

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