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No.1――ナンバー☆ワン

1 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時10分15秒
題名通り、自分が「一番」だと思っている人のお話です。
登場人物はそんなに出てきません。

2 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時11分32秒
「はぁ……」
その日、亜弥は落ち込んでいた。
第一志望の高校の合格判定が、Dだったのだ。
前から担任にも言われていた。かなり努力しないといけないぞ――と。
……だから、分かっていた。分かっていたけど……やっぱり結果が出ると、堪えてしまう。
そんな亜弥を見かねて、隣でずっと顔色を窺っていた亜弥の友達、加護亜依が口を開く。
「ま、まあまあ亜弥ちゃんっ、判定なんか気にせんときや。これから勉強したらいいねんから」
「そうだけど……そうなんだけどぉ」
幸い実際の高校入試の日までは、まだ日数がある。
「落ち込むなんて、亜弥ちゃんらしくないでぇ」
「うん……そうだよね。でも、あいぼんに判定負けたっていうのが一番悔しいんだよぉ〜!」
「アホか、うち頭いいっちゅうねん」
えっへんとえばる友達が、なんだか憎らしい。
日頃、テストの度に点数を張り合って互角だった友達が、自分より2つ上のB判定だなんて。
3 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時12分53秒
「頭いいんなら、あたしに勉強教えてよぉ」
「チッチッ。勉強なんかせんでいいし。コツさえ覚えれば簡単簡単」
「コツ?」
「そう。試験官の人にバレんようにこっそりと前とか横の人の答案を――」
「って、それってカンニングじゃん!」
「バレへんかったら分からへーん。だから、頭がいいねん」
亜弥ちゃんとはココが違うねん、と頭を指差す亜依。
確かにバレなかったら分からないけど、前や横の人が馬鹿だったらどうするんだろう…と考える。
でも、亜依は運も良さそうなので、わざわざ問うのはやめておいた。

「やっぱりあれかな…」
「?」
「毎日、漢字や方程式見ないで、自分の顔ばっか見てたからこんなに頭悪くなっちゃったのかな…」
「………ま、まあ、それが一番の理由やろな」
「だってぇ」
きっと勉強するより、自分の顔を見てる方が楽しい。
けれど受験生がそんなことをしてはいけなかった事に、やっと気付く。
4 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時13分31秒
「っていうか、そんなに悪かったら高校のランク下げたらいーやんか」
「だぁめだよ! だって、あそこの制服が一番可愛いもん!」
わざわざ制服図鑑を買って研究した。
自分がどれを着たら、一番似合うのか。自分がどれを着たら、一番可愛く見えるのか。
研究によって出された高校が、亜弥がD判定をくらったそこなのだ。
「まさか、制服で高校決めたんじゃ…」
「えっ? それ以外何があるの?」
「……………」
亜依の友達の松浦亜弥は、少し人と変わっていて。
そんな人と友達になる自分もきっと変わっているんだ、亜依は少なからずショックを受ける。
5 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時14分05秒
亜依がどうして黙っているのか疑問符を浮かべていた亜弥だが、ある事を思い出す。
「っていうかさ、あいぼんも同じ高校じゃん」
「そうや。でも、うちは亜弥ちゃんみたいに制服で決めたんちゃうで」
「じゃあ、何で決めたの?」
「あそこにはな、新聞部があんねん。校内新聞とかむっちゃすごいねん」
「あ〜、あいぼん情報収集とか得意だもんね」
「そんで、うちが入ってもっと新聞部を大きくしたるっていう野望があんねん」
そのためなら、カンニングしてでも入ってやる、と亜依の意気込みはすごい。
カンニングの腕を磨くより勉強したらいいのに……思うが、人の事は亜弥も言えない。
お互い独特な人格だが、今まで仲良くやってきた。
これから先、高校に入っても仲良くやっていきたいね、そう話している時、亜弥の目にあるものが入った。
「ほらあいぼん」
「ん?」
「あの人が着てる制服だよ、あたし達が受かったら行ける高校」

6 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時14分38秒
「はぁ〜…めっちゃ可愛いよねぇ」
そう言う亜弥の目は女の子らしく輝いていて、手も胸の前にかざしている。
もうすぐしたら、自分もあの可愛い制服に身を包める……その前に、勉強をしないといけないんだけど。
亜依はというと制服には興味ないのか、一度目をやっただけで視線を違う方向へ変えた。
しかし制服にメロメロな亜弥はというと、まだずっと見ていて。
「……亜弥ちゃん、行こうや」
亜依に急かされても何しても、動かない。
「あ〜やちゃんっ」
「待って、もうちょっと」
今は、自分があの制服を着てる図を頭の中で妄想中。
完成するには、あともうちょっとかかる。
これでもか、という位制服を見つめていたら、熱い熱いその眼差しに気付いたのか、制服に身を包んだ人が振り返る。

「…………?」

何処からともなく感じる視線の先を探そうと、少々目つきを鋭くして辺りを見渡す、茶色の髪をショートした女の子。
その時だ。
妄想のため穴が空くほど凝視していた亜弥と目が合ったのは――。


7 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時15分11秒
「…………可愛い」


ポツリ。うっとりした様子で、亜弥が呟く。
毎度の事で、亜依はもう呆れ顔。
「…もう制服が可愛いのは分かったから、亜弥ちゃん早く帰ろうや〜」
「違う、制服じゃないよ」
「…は?」


「あの人……すっごいすっごい可愛い………はあとはあと


恋するオトメよろしく呟いた亜弥の視線の先には、亜弥の憧れの制服に身を包んだ女の子がいた。




8 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時15分42秒
一目惚れ、というやつですか。
15歳にして、初めて体験した一目惚れ。
それはなんだか胸がキュルルンとして、なんだかもうたまんない。

「…あいぼん」
「な、何?」
「あたし、死ぬ気で勉強するよ」

勉強して、絶対に受かってやる。
そして、憧れの制服で身を包み、あの人に告白する。


ただただ「制服が可愛い」というだけで決めた志望高校は、亜弥のやる気を刺激するのは少し足りなかった。
だけどそこに、恋した乙女が加わると、そのやる気は何百倍へと発展する。
動機なんか、不純でも単純でもいい。
亜弥は、わずか15歳にして運命の人を見つけてしまったのだ。
その人にもう一度会う為に、亜弥は、勉強机の傍に自分の顔を眺められる様に鏡を置いて、勉強をし始めた。

9 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時16分12秒
――そして、春。
桜の花びらが風で舞い落ちる並木道を歩いている、女子高生2人。
1人は、黒い髪を可愛らしくお団子にまとめている、小さい女の子。
もう1人は、自分と制服を手鏡で見つめ、陶酔しきっている女の子。
2人は、中学からの友達だった。
そして今日からは、中・高共通の友達にもなる。

名前は、加護亜依と松浦亜弥。

2人は無事、本命の高校に合格した。


10 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時17分19秒
憧れだった制服に身を包めるまで、亜弥はものすごい努力をした。
塾にも通わせてもらい、家庭教師も雇ってもらった。
憧れだった新聞部に入る為に、亜依はものすごい運を使った。
高校入試も、左右前後にいた頭のいい子達のおかげで、余裕で通れたのだ。
入れた理由は様々でも、同じ高校生なのは変わりない。
これから舞台は中学から高校へと移るけど、2人には一番気になることがある。

「あの人、何年何組なんだろう?」
「クラス、何組なんやろ?」
「「んっ?」」
思っていることは一緒だと思ったのに、どうやら違ったみたいだ。
2人、顔を見合わせ訊ねる。
「……あいぼん、あの日逢ったあの人が、何年何組か気にならないの?」
「人のことより、自分のことやろ?」
ましてやこの亜弥は、何より自分が一番大切だ、と前に亜依の前で宣言したくらいの子だ。
それなのに。
「自分のことも気になるけどぉ、問題はあの人だよ!」
「あの人って……あの時のやんな?」
「うんっ」
亜弥の目が、嬉しそうに輝いてくる。
冗談かと思っていたが、彼女はどうやら本気らしい。
11 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時17分53秒
「あの人、スカート穿いてたやん?」
「そりゃ、ここ女子校だし」
「そうやんな。女子校やんな。……女やで?」
「分かってるよ?」
「ちなみに、亜弥ちゃんも女やで?」
「うん。当然じゃん」
「……………」
「でもね、あたし見つけたの。なんていうのかな、自分以外に可愛い女の子って、いたんだね」
「そうやね……」
亜依も思う。
こんなに自分大好きな子は、きっと、他にはいない。

「…それで、亜弥ちゃんはどうするつもりなん?」
「そりゃもう、あたし、好きになったら一直線だから」
「で、でも亜弥ちゃん、2人は同性…」
「愛にカタチなんかない! そうでしょ?」
「いや、それはそうやけども」
その前に問題が。
だが亜弥は、まったくその事に気付いていない。

「あたし達が中3の時にここの制服着てたってことだから、当然あたし達より年上だよね」
「あ〜! で、でも、あの人高3だったらもういないじゃん! えっえっ、あ、あいぼんどうしよう!!!」
「だから、そんなこと気にするより…」



誰かこの人に、日本では同性同士の結婚は認められてない事を教えてあげて下さい。

12 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時18分26秒
それから、あわわと珍しく慌てる亜弥をクラス発表の場に連れて行く。
そこで2人は高校でも、同じクラスという事が分かった。
同じ中学出身が自分達以外いないということもあり、この事実はやっぱり嬉しかった。
まったく名前も顔も知らない子達の間に入っていくのは、いくら人見知りしない2人でもさすがにちょっと嫌だった。
いとしのあの人事以外頭になかった亜弥も、亜依という心強い仲間が同じクラスなんだということで正気に戻る。
「よかったね、あいぼん。一緒のクラスで」
「うん。ただ、出席番号とか違うから、多分席とか掃除とかも分かれると思うけど」
「あ〜。そっかぁ」
でもそれは、他の友達を作るいいチャンスでもある。
新しい高校生活、頑張って行こうと2人決意をした時――。

「あ!」
「わぁっ」
13 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時19分05秒
亜依の斜め上から、声。
あまりに大きくて唐突だった為、びくりと亜依の肩が震えてしまう。
「ど、どしたん亜弥ちゃ……」
心配して何事かと訊ねようと横を向いたら、なんと、亜弥がいない。
「え、ちょっと!」
つい今の今まで、話しこんでた相手だ。
その相手がいきなり声をあげたかと思うと、いきなり消えた。
そんな怪奇現象、あっていいハズがない。
消えた亜弥を探そうと視線をあちらこちらに動かすと――いた。
廊下の端っこに移動していて、ぼうっと立っている。
「亜弥ちゃ〜ん、いきなり1人にせんといてやぁ」
見知らぬ校舎。見知らぬ生徒達。
そこに見知った顔を見つけて、慌てて駆け寄る亜依。
亜弥はというと、駆け寄ってきた亜依に一度だけ目を向け、「あの人…」と指差す。
亜弥が指を差したその先には、あの日見た時より、少しだけ髪の伸びた“あの人”がいた。

「あいぼん…あの人だよ」
「うん、みたいやね」
「あの人、まだ、ここの学校の生徒だったんだよ!」

14 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時20分13秒
もしかしたらいないかもしれない。その事実を、取り消す事が出来た。
亜弥は、嬉しくて嬉しくてたまらない。
一目惚れだった人は、二回目に逢っても可愛かった。
というか、いつ見ても、可愛い。

「……ねぇあいぼん、あたしっておかしいのかな…」
「えっ? まあ……普通ではないかもしれんけど、…中学からの腐れ縁や、うちは……亜弥ちゃんやったら、応援するで」
「……あいぼん」
「…女同士の友情はあんのに、女同士の恋愛だって、あっていいやんか」
「だよね! そおだよね!」
自分達がもっと大人になったら、日本でも同性同士の結婚だって認められているかもしれない。
亜弥には笑顔が似合う。
自分の一言で元気をなくす亜弥を、亜依は見たくなかった。
それに、ここは女子校。
入学する前に調べたデータによると、どうやらこの学校では女同士の恋愛が存在するらしい、ということも亜依の頭には入っていたのだ。
「亜弥ちゃん可愛いから、絶対チャンスあるって!」
「そうかな…そうだよね。…でもさ、あたし、あの人のこと何も知らないんだよね…」
「大丈夫、愛しいあの人の情報なら、このあいぼん様に任せとき☆」
「あいぼーんはあとはあと
15 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時20分44秒



亜弥にとって心強い味方、あいぼん。
いとしのあの人には悪いが、2人は妙に張り切っていた。






16 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月08日(土)11時21分30秒
今日のところは一応ここまで。
17 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月08日(土)21時09分35秒
強引な松浦が好きなので、楽しみです。
18 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時00分48秒


………最近、なんかおかしい。
サラサラな茶色い髪を肩まで伸ばした藤本美貴は、首を傾げていた。



19 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時01分36秒
登校時、休憩時間、昼休み、放課後。
どこかから、視線を感じる。
だが振り向いて見ると、なぜかお団子が2つ見えるだけ。
「……おかしい」
誰かに狙われてるんだろうか。
鞭でも持って返り討ちにしてやろうか。
それにしては、攻撃する素振りも見せない。
監視というか、観察されてるみたいだ。

「みっきー、どしたの?」
「あ、まいちん」
ギロギロ後ろを振り向きながら歩いていると、前から仲のいい里田まいことまいちん。
「なーんかさぁ、最近誰かに見られてる気がするんだよねぇ」
「へぇー、みっきーモテるじゃん」
「なんでモテるとかってなんの。ここ女子校だよ」
「でも、女同士で付き合ってる子、この学校多いし」
「美貴はノーマルですぅ。でも、まいちんは好きだけどはあとはあと
「あはは」
じゃれて、ほっぺにそっと口づけてギュッと抱きしめてやる。
そしたら、どうしてか里田じゃなく後ろから「あ!」と驚いた声。
「「ん?」」
反応して2人振り向いてみると、誰もいない。

「……ほら、おかしい」
「うーん」

とにかく、考えてても分からない。
首を傾げながらも2人は、仲良く教室に戻って行った。

20 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時04分49秒
*****  *****



放課後。
解散の合図を待ってました、とばかりに言い終わると真っ先に亜依に駆け寄ってくる亜弥。
「あいぼんっ、情報たまった?」
「……ああ、うん」
亜弥のいとしのあの人について調べる期間、1ヶ月。
それが今日だったんだ。
亜弥はそれをずっと覚えていて、聞きたいのもずっと我慢して今日の放課後まで待っていた。
そして今が、1ヶ月調べた亜弥のいとしのあの人情報を発表する時だ。

「名前は、藤本美貴」
「藤本美貴ちゃん……」
――嗚呼、名前まで可愛い。
そう思うのは、恋をしてるから。
「3年A組の出席番号22番。誕生日は2月26日」
「うんうん」
「血液型はA型やって」
「A型なの?」
「うん」
「そ〜なんだぁ」
ちなみに、亜弥はB型。
AとBはあんま合わないって聞いたことがある。
それを一瞬思い出したけど、血液型なんかこの際関係ない。
21 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時05分50秒
「好きな食べ物は、焼肉と鮭とばらしい。部活はバレー部らしいんやけど、幽霊部員なんやってさ」
「幽霊部員?」
「うん、2年の半ば頃から全然来てないらしい」
「………そうなんだぁ」
亜弥の目が何かを企んだかのように光ったが、この際突っ込まないでおこう。
問題はこれからだ。
「で……肝心の同性同士の恋愛について、やねんけど」
「うん」
「……藤本さん、その気はないみたい」
美貴はノーマルですぅ、と言っているのを亜依は聞いた。
伝えるべきかどうか迷ったが、真実を伝えるのは新聞部の鉄則だ。
亜弥の笑顔を曇らせるかもしれない――そう、思ってたのに。

「それなら大丈夫、あたしがその気にさせるから!」

……松浦亜弥がこういう人だということを、忘れていた。

「そ、そんなん……出来んの…?」
「やってみなきゃ分かんないよぉ」
「…それもそうやね」
22 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時06分26秒
亜弥の前向きな姿勢にはいつもいつも勉強させられる。
けれど、もう1つ伝えなければいけない事実が。
「藤本さん、結構人見知りせん方らしくて、仲いい子多いみたいやねんやんか。
その中で藤本さんと一番仲良い、同じクラスの里田まいさんって人がおって……
あ、ちなみに、里田さんはテニス部なんやけど」
「うん、それで?」
「……じゃれて、藤本さんが里田さんのほっぺにちゅーして抱きしめてた」
「えっ………」
さすがの亜弥からも笑顔が消える。
美貴にその気がないのは予想していたみたいだが、ほっぺにちゅーは予想してなかったみたいだ。
「でででも、ほら、友達やから」
「………」
「……亜弥ちゃん」
俯く亜弥。
亜依もかける言葉が見つからなくて黙っていると、急に亜弥の顔が上がる。
「ほっぺに、だよね?」
もう一度確認。
うん、と頷く亜依。
それを確認した亜弥は、また笑顔になる。

「じゃああたしは、唇で!」
「…………」

心配したのも、まるで損だ。

23 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時07分01秒
とにかく、亜依の仕事はこれで果たした。
もう少し詳しい情報を収集するとしても、後は亜弥を後ろから応援するだけ。
これから亜弥がどういう行動に出るのか、正直楽しみだったりする。
その楽しみに答えるかのように、亜弥が言った。
「あいぼん、あたし明日先生にバレー部入るって言ってくるよ」
「えっ、バレー部?」
なんでだろう。
亜弥は中学時、3年間テニス部で結果も残してきた人。
美貴がバレー部だからバレー部に入るのだろうか。
そうだとしても、美貴は幽霊部員だということを伝えたばかりなのに。

「藤本さん、おらんで?」
「大丈夫。あたしに考えがあるから」
そう言って微笑む亜弥は、とても楽しそうだった。
24 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時07分38秒


翌日のことだ。
なんだか、バレー部に一番向いてないような子が、バレー部にやって来たのは。
体操服の袖を肩のとこまで持ち上げて、しっかりと白い二の腕を見せてやってくる。
「こんにちはぁ」
体育会系勢揃いのバレー部には、女の子らしいそんな可愛い挨拶は聞いたことなかった。

「…見学?」
3年生らしい人が、そう問う。
「いいえ、入部希望でぇす!」
女の子らしい女の子は、張り切ってそう答えた。
「1年B組松浦亜弥、バレー部に入りたいんです!」

亜弥はさっそく、行動に移っていた。

25 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時09分33秒
顧問には話をつけてあった。
しかし、主将や副主将、コーチまでには連絡はいってなかったみたいで、驚いた顔をされた。
けれど入部希望だと分かると、すぐに笑って招き入れてくれる。
「可愛いね、中学の時はどのポジションだったの?」
「あの、いえ、高校からです。中学の時はテニス部でした。だから、普通の人よりは体力には自信があります!」
「あぁ、そうなんだ〜」
可愛い子に弱いのか、亜弥の笑顔につられにこにことする主将。
そこに、なんだかちょっと怖そうなコーチらしい人がやって来る。
「初めまして、バレー部コーチの飯田圭織です。よろしく」
「松浦亜弥です、よろしくお願いしまぁす」
「亜弥っていうんだ、可愛いね」
可愛い、と言われて上機嫌な亜弥。
そこに主将が口を挟む。
「飯田さん、名前はどうします?」
「ん〜……」
「…名前、って?」
この学校のバレー部には、プレー中先輩後輩を気にすることのないように、あだ名をつけて呼ぶという方式を取ってるらしい。
そう言えばさっきからコートで「よっすぃー」やら「のの」やら、奇妙な名前が飛び交っている。
美貴の名前が激しく気になったのだが、今は聞くところじゃないと思い、留まった。
26 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時10分26秒
飯田コーチは暫く考えて、亜弥に1つの名前をくれる。
「亜弥って名前が可愛いから……あやや」
「…あやや、ですか」
なんとコメントしたらいいのか。
代わりに主将や副主将がコメントしてくれたみたいなので、助かった。
「じゃあ、もっかいみんなに名前で自己紹介〜」
みんな集合、と飯田が声をかけて集まる部員。
みんな、新入部員となる亜弥……もとい、あややを見ている。
「……初めまして、あややです」
親からもらった名前以外の自分の名前を口にする恥ずかしさを覚えながら、みんなの前で挨拶。
体育会系の部員達は、大歓迎で迎えてくれた。

しかし、あだ名をつけてもらう為に亜弥はバレー部に入ったのではない。
動機は不純。
藤本美貴とのきっかけを作るためだ。
初心者の亜弥の為にメニューを考えてくれる飯田には悪いと思いながら、ある提案をする。
27 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時11分11秒
「あの、コーチ」
「何? あやや」
「…あたしぃ、ずっと憧れてた人がいるんです」
「……?」
「だから、ワガママなんですけど、あたし、その人にバレーを教えてもらいたいんです!」
「…うーん、まあ、その方が上達も早いだろうけど。……誰? よっすぃー? アイツモテるからねぇ」
「あの、藤本美貴さんっていうんですけど」
「………ミキティ?」
「…ミキティっていうんですね」
――嗚呼、あだ名まで可愛い。
美貴だったらこの際、なんでもオーケーだ。

「でもさ〜、せっかくの申し出悪いんだけど、ミキティ、いないんだよね」
「でもでもぉ、在籍はしてるって聞きました」
「してるけど来ないから、幽霊部員なんだよ。もうすぐ引退だっていうのにさ」
飯田も何度も来るように指示したみたいなのだが、全然姿を現さない。
正直、飯田も困っていた。
だが手の施しようがなかったのだ。
そこで亜弥が、にこりと笑って提案する。

「……あたし、やりましょうか」

ミキティが、部活復帰出来るように、説得。
大丈夫、やってみなきゃ分かんない。

28 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時12分32秒
「…でも、やってみるって……あやや、ミキティと面識あるの?」
「2回ほど!」
それも、一方的に見つめた回数だ。
「あの子、結構強情で頑固だよ?」
「それだったらあたしも負けません」
「う、う〜ん……」
しかし、そんなことを新入部員に押し付けていいものか。
ましてやここはバレー部で、彼女はバレーをしようとココへ来たのに。
亜弥の本当の目的を知らない飯田は、悩む。
そんな所へ、やっと顧問がやってくる。
「おぃ〜っす、ちゃんとやってるか〜」
亜依と同じ関西弁の、バレー部顧問中澤だ。

「裕ちゃん!」
コーチと監督は仲がいいのか、監督を裕ちゃんと呼んで何やら相談しに行く飯田。
亜弥のことだろう。
話を聞いた中澤が、亜弥の元へとやって来る。
「松浦、藤本を部活復帰させてくれるんやって?」
「はいっ!」
元気よく返事して、アピールしてみる。
その元気のいい返事を聞いて、中澤は笑った。
「おもろそうやん。がんばってみてーや」
「あ、ありがとうございまぁす! 松浦、がんばります!」
これでもか、というくらい勢いつけておじぎをする。
29 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時13分15秒
「あ、でもちょい待ち」
「はい?」
「一応バレー部員になったんやから、放課後、藤本説得する前に必ず体操服来てここに顔出して挨拶してから行くこと。
それと、藤本連れ戻すのに失敗したり藤本がおらんかったりした時は、諦めて帰ってきて部活をすること」
「はい」
「よし、じゃあ今日は挨拶も済んだし行ってきていいで。その代わり、おらんかったら帰ってきて部活しいや」
「はぁい!」
そして走って後にする体育館。
そんな松浦をにこにこ見送る中澤と、不満そうに見送る飯田の2人。

「…ちょっと。あややはミキティを部活復帰させるように雇われた子じゃなくて、新入部員の子なんだよ?」
「まあまあ。それに、藤本復帰させてくれるのは有難いことやん。これで、引退試合は3年の部員全員出せるし」
「…それは、あややがミキティを連れてこれた時の話でしょ」
「まぁ、結論はその内出るって」
連れ戻せなくても連れ戻せても。
なんだか、おもしろいことが始まりそうだ。

30 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時13分55秒


そうして、おもしろいこと好きの顧問・中澤裕子のおかげで、計画を実行出来た亜弥。
正直、あんなにあっさりと許してくれると思わなかったのでびっくりしたが、都合としてはとても良い。
亜依からもらった藤本美貴の情報――3年A組の教室へ足を運ぶ。
今までは行きたくても行く理由がなかった為行けなかった教室。
だが、今日はちゃんと理由がある。
藤本美貴を、バレー部に連れ戻すという理由が。
………もちろんそれは、亜弥にとって口実という他何もない。

ドキドキする。
夢にまで見た、美貴との会話。
どんな声なんだろう。どんな顔して喋るんだろう。
間近で見たら、どれだけ可愛いんだろう。

高鳴る鼓動をあえて抑えずに、一度キュッと口を締める。
そして、教室のドアを開け、美貴の元に――――。


「………あ?」


締めた口も、元通り。
教室は、もぬけのカラだった。

31 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時14分52秒
「あ、あのっ…!」
どうしてこんなことになっているのか。
たまたまA組の教室の前を通りかかった3年生に訪ねてみる。
「え、A組の人は…」
「? 部活か、帰ったんじゃないの?」
「…………そう、ですか」
放課後バレー部顧問に話をつけ、その後部活に行って自己紹介。
それから飯田に提案してみて……よく考えてみれば、授業が終わってからとっくに1時間以上は経っているのだ。
真面目に部活に入っている子は部活に行き、帰宅部の子や部活をサボっている子は帰ってる時間だ。

「……出鼻をくじかれてしまった……」
トボトボと。
せっかく、2段飛ばしまでして上ってきた階段なのに。
だが、松浦亜弥は、これくらいじゃメゲません。
「明日こそ、必ず…!」
成功させて、みせましょう。

だが亜弥は忘れていた。明日は祝日で、学校は休みだったということを。


32 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月09日(日)13時16分05秒
今日の更新は一応ここまでです。

>>17
レスどうもありがとう。
強引な松浦目指して頑張ります。
33 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月09日(日)22時30分20秒
いいなー、前向き過ぎるあやや。可愛い!
どうやってミキティのハートをゲットするのか見物だ。
続き期待してまっせー。
34 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月09日(日)23時06分47秒
ぁゃゃが可愛い、可愛い、可愛いよー!!!! < 落ち着け。
次回更新、楽しみにしてます。
35 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時41分34秒
こんなことになるなら、部活に入るのは祝日が明けてからにしとけばよかった。
勢い込んで祝日前に入部した亜弥は、祝日も練習のバレー部の中にいた。

一生懸命練習しているみんなには悪いが、亜弥はバレーボールをする為に部活に入ったのではない。
美貴を部活復帰させるというのは口実で、美貴に近付く為にバレー部に入ったのに。
けれど、元々身体を動かすのが好きな亜弥は、昨日、今日と教えてもらっていく内に段々楽しくなってきた。
生徒達は休みで、部活動をしている子しかない学校。もちろん美貴はいない。
美貴がいない時くらい、せっかく入ったのだしバレーも頑張ろう、亜弥はそんな風に思い始めていた。
36 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時43分27秒
初心者の亜弥を教えてくれるのは、部のエースのよっすぃーこと吉澤ひとみ。
部で一番の実力者でもあり、校内で一番の人気者でもあるらしい。
「あやや、初めてにしては上手いよねぇ」
優しくてさばさばしてて、よく笑って。
モテる、というのも分かる気がする。
「吉澤さんにそう言ってもらえると嬉しいです」
「あはは。ここではよっすぃーでいいって。その代わり校舎だったらそう呼んでほしいけど」
部の中と校舎の中での先輩後輩をキッチリと分けているバレー部。
亜弥には、そういうところが好感を持てた。
今は部の中ということもあり、呼び方を変えてみる。
「じゃあ、よっすぃーにそう言ってもらえると嬉しいです」
「いやぁ、照れるなぁ」
運動部独特の熱気ですごい体育館なのに、この空間だけはなんだか甘かった。
するとそこに、奇妙なアニメ声が。
みんなから「チャーミー」なんてふざけたあだ名で呼ばれている、マネージャーの石川梨華だ。
37 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時44分51秒
「よっすぃー! そろそろスタメンの練習に戻らなきゃダメだよっ」
「あ〜、うるさいのが来た」
口ではそんな事を言っているが、顔はおもしろがっている。
部のエースのよっすぃーが初心者の亜弥を教えられる時間は、どうやらごく僅かな時間らしい。
スタメン練習に戻った吉澤と入れ違いにやってくるマネージャーチャーミー。
「えっと、あややだったよね?」
「あ、はい」
「あややは、もうすぐしたら始まる試合を、私と一緒に見学ね」
どうやら、練習試合が近いらしい。
その為に、初心者の亜弥に教える時間があまりないのだ。
だからとりあえず、先輩達のプレーを見て勉強してもらおう、というのがコーチの指示らしい。

「ごめんね、練習したいよね」
せっかく部に入ったのに練習出来ない亜弥を可哀想だと思ったのか、チャーミーが声をかける。
練習というか美貴と逢いたい、一瞬そう思ったのだが、とにかく曖昧に笑っておいた。
バレーに興味が湧いてきたのは確かだから、練習が中断されたのは少し悲しかったし。
「でも、こうして見てるだけでも勉強になりますし」
マネージャーを安心させるように笑って、そう言う。
なのに、チャーミーはなぜか落ち込んでて。
38 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時45分47秒
「………いいなぁ、あややは可愛くて」
「…え?」
「……さっき、よっすぃーと楽しそうだったし…」
「あぁ」
分かる分かる。
多分この人は、自分と同じ、恋する乙女なんだ。

「チャーミーさんはぁ、よっすぃーの事が好きなんですね」
「えっ!?! ちちち違うよ、わわ私マネージャーだもん! そっ、そんな、よっすぃーのこと特別になんか想ってないよっ!!」
「………バレバレでーす」
「……………そんなにバレバレ?」
「そこまで慌てたら、誰だって気付きますよぉ」
「そ、そっか」
恥ずかしそうに呟いて、赤くなってしまった頬を少しでも冷やそうと手を当てる。
とっても分かり易い彼女だ。
「よっすぃー、カッコいいですもんねぇ」
「えっ」
「…ややや、別に、好きとかそんなんじゃないですから」
「そ、そっかそっか」
「はい」
大丈夫、亜弥には美貴しか見えていない。
39 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時47分33秒
2人、しばらく黙って体育座りで様子を見てみると、部員達が集まって何やら試合らしいのが始まる。
練習試合に向けての実戦練習だ。
コーチのホイッスルの音で、試合が始まる。

「わあ」
体育の時間とかでやったバレーとは、けた違い。
本物の人がするバレーを間近で見た亜弥は、思わずそんな声をあげてしまう。
「うちの部はね、結構レベル高いんだよ。飯田さんがあだ名とかつけてくれたおかげで気兼ねしないのか、
先輩と後輩の間柄もいいし、楽しいよ」
「へえ〜」
「みんなねぇ、最初はよっすぃー目当てで入った子とかほとんどなんだけど、
よっすぃー通じてバレーも好きになってくれたみたいで、一生懸命頑張ってるし」
「あ、でもぉ、その気持ち分かります。あたしも、バレーそんな好きでもなかったんですけど、昨日今日とやってみてすごく楽しかったですし」
「え? じゃあ何で入ったの?」
「――あ」
しまった。
自ら墓穴を掘ってしまった。
「やっぱりま、まさかあややもよっすぃーのことを……」
「わぁ〜っ、ち、違いますってぇ」
ここで誤解なんかされたらたまらない。
40 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時48分37秒
どうしよう、どうしようと受験勉強で疲れ果てた頭をフル回転してみる。
しかし出て来るのは必死に勉強した公式や歴史人物の名前やらで、さっぱりだ。
こういう時亜依がいたら、とんでもない言い訳を思いつくのに……しかしここに、亜依はいない。

慌てふためく亜弥を見て、なぜか笑うチャーミー。
「…そっか、よっすぃーじゃないけど、別のお目当ての人があややにはいるんだね」
「うっ……」
「で、誰?」
「………い、いいじゃないですかぁ、別に」
「だぁめだよ! 私の好きな人言ったんだもん、あややも言ってよ」
「え〜っ」
「あ、でも、そういえば私分かるよ。ミキティでしょ?」
「え」
「だって、いくら憧れてるからっていったって、普通、幽霊部員の子をわざわざ戻ってきてくれるように説得にはいかないでしょ〜」
チャーミーはマネージャー。
だから当然、部員についての指示や行動はしっかりとコーチの飯田から聞いている。
41 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時51分00秒
「……でも、本当は、口実なんです、それも」
「…ん?」
「部に戻れるようになんて口実で、本当はあたし、藤本さんに近付きたくてこの部入ったんです」
「あやや…?」
「だから、真面目にやってる人にとってはすっごい迷惑な話ですよね……」
思いついたら実行に移す亜弥。
けれど、その実行も今になって後悔というか罪悪感が出て来てしまった。
亜弥の目の前には、一生懸命プレーしている部員達。
「………そんなことないよ」
――と、そこに、優しい言葉。

「さっきも言ったでしょ? よっすぃー目当てで入った子多いって。
でも、そんな子達もみんなバレーを好きになって、今は一生懸命頑張ってくれてる。
それにあやや、自分で言ったじゃない。昨日今日とやってみてすごく楽しかった、って」
「…それは、そうですけど」
42 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時52分28秒
「それに、あたしも人の事言えないんだなぁ」
「…?」
「元々、家が近くなのね私達。で、よっすぃーが小さい時からバレーするの近くで見てたりなんかして。
それで、もっとよっすぃーの近くにいたいってだけで、バレー部のマネージャーになったから。
私、運動あんまり上手じゃないから、マネージャーなんだけど」
「え…でも、チャーミーさん3年生でよっすぃーが2年生…」
「そう。だから、よっすぃーが1年生としてバレー部入った時から、私もマネージャーになったの。
ものすっごい不純な動機なんだよねぇ〜」
「……でも、不純さではあたしも負けてないと思います」
「あはは、そっか」
お互い様、とでも言おうか。
2人は顔を見合わせて笑う。
43 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時53分04秒
「…でもさ」
「はい…?」
目の前で繰り広げられるプレーを見ながら、チャーミーがぽつり。
「よっすぃーのおかげで、バレーのおもしろさを知った。マネージャーって仕事にもやりがい感じてる。
マネージャーになった動機が不純な分、一生懸命この仕事頑張りたいと思ってるんだ」
「………はい」
「だからあややも、今よりちょっとでいいからバレーを好きになってほしいなって」
「はいっ! ちょっとじゃなくって、もうかなり好きになってます!」
「あはは、本当に可愛いねぇあややは」
「ありがとうございまぁす」
お褒めのお言葉は、有難く受け取っておく。
だって否定する所なんかないわけだし。
44 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時53分41秒
「……あ、でも」
「?」
「バレー、一番好きにはなれないです」


いっくら好きになっても、一番にはなれないや。


「だって、一番は藤本美貴さんですからはあとはあと
「………あ、ああ、そうなん…だ…」


昔は、一番好きだったのは自分自身だったんだけど。
松浦亜弥、一番は藤本美貴に譲ります。



(この子が恋敵じゃなくてよかった……)
心底思う、チャーミーだった。




45 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時54分47秒


そんなこんなで次の日になって、亜弥が待ってましたの放課後になる。
6時限目が体育でよかった。
わざわざ部室へ行って着替える手間が省ける=美貴の元へ早く行ける。
なのにそんな時に限って、
「松浦さん、今日、掃除当番」
「えぇ〜?」
クラスメイトの無情な声。
「うそ、あたし?」
「うん」
「………」
「早く掃除しよう?」
「……うん」
机を運んで、床掃いて、床磨いて、黒板消して。
結局掃除が終わったのは、20分後。
46 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時55分56秒
それでもまだ、亜弥は諦めなかった。
掃除が終わるとダッシュで階段を降りて、バレー部員が活動する体育館へ急ぐ。
「こんにちはぁ!」
「おお、あやや早いじゃん」
ジャージ姿のコーチをいち早く見つけ、駆け寄る。
「えっ、これでも遅かったんですよぉ。掃除当番だったんで…」
「そうなんだ。でも、まだみんな着替えてる途中だし準備も出来てないから練習は出来ないよ?」
「えっ、いや、その…練習はしますけど…」
「?」
「…ふ、藤本さんの部活復帰のお手伝いは…」
もしかしてあの時の約束はなしだったとか。
けれどそれは、亜弥の思い過ごしだったみたいで。
「あ〜、あ〜そうだった。忘れてた。あややはミキティ説得しに行ってから練習参加するんだったよね」
「はいっ」
ただ忘れていただけだった飯田は、「じゃあ説得いっといで」と優しく見送ってくれる。
「でも、無理そうだったらすぐ諦めて、部活に専念するんだよ?」
「はいっ。でも、無理そうでも無理でも、精一杯頑張ります〜!」
47 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時56分45秒
新入部員なのに準備も手伝わないで出て行く事にはさすがにどうかと思ったが、飯田も何も言わないし、
中澤にも準備を全部済ませてから藤本の所へ行けとは言われていないので、この際あまり気にしない事にしといた。


体育館に行く為に教室から降りてきた階段を、またのぼる。
息が苦しいけど、それ以上に嬉しい気持ちが勝っていて変な感じ。
ハァハァと息を乱して、3年A組の教室の前へと立つ。
……この前来た時は、本当に静かで誰もいなかった教室。
だが、今日はまだ望みがある。
掃除で20分遅れたけれど、ドアが閉まっていて中が見えない3年A組の教室の中は、少なくとも人の気配がした。

もしかしたら美貴はもう帰っているかもしれない。
それでも、教室の中に人がいるなら、確かめなければならない。
そっとドアを開けて、顔を出してみる。
48 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時57分28秒
「ん? 誰?」
ちょうどその時、出て行こうとした人がいたのか、亜弥の目の前には女の子。
手には、ゴミ袋を持っている。
「何? 1年生?」
「え、あ、はい」
とりあえず、1年生であることには間違いない。
頷いてみるが、話はそれじゃ終わらない。
「1年生がどうしたの、3年の教室に」
「あぁ、そのですね」
――藤本美貴さんに逢いに来たんです。違う、藤本美貴さんが部活にまた出てくれるように説得に来たんだった。
だがそんなことを、この人に説明する必要もなければ意味もない。
とにかく問題なのは、美貴がいるのかいないのか、今はそれだ。
「……藤本先輩って、もう帰っちゃいましたか…?」
「…藤本先輩…このクラスに藤本っていう苗字は、美貴?」
「そうです、藤本美貴先輩です」
「美貴なら、いるよ。ほら」
クイッと女の子は自分の後ろを差して、亜弥に知らせてやる。

そこには、ほうきを持ってる割に真面目に掃除をしてないいとしのあの人――美貴がいた。
49 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時58分10秒
3年生は美貴みたいに真面目に掃除をしない人が多いのか、1年より掃除が終わるのが遅いらしい。
でもそのおかげで、今、亜弥の前には美貴がいる。

「美貴〜! なんか1年生が呼んでるよ!」
優しいクラスメイトはわざわざ美貴を呼んでくれて、ゴミを捨てに行く。
入れ代わりやって来たのは、何か不審そうな顔した美貴。
「………何?」
「………………」
距離にして、3m以内。
亜弥は今、幸せの絶頂にいた。

可愛い。可愛すぎる。
こんなこと、自分以外に思ったことなんかなかった。
50 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時58分45秒
「……ね、ねえ、ちょっと」
1人別の世界に旅立っている亜弥。
呼び出されといてシカトされてる美貴としては、困り者だ。
このままドアを閉めてしまおう、そう思ってドアの取っ手を掴む前に、亜弥に手を掴まれた。
「ええっ!?」
「大丈夫です、怪しい人じゃないんです」
「やっ、十分怪しいから」
冷たい美貴の突っ込みも、人の話を聞かない亜弥には通用しない。
「あたし、松浦亜弥っていうんです!」
「は、はあ…ま、松浦さん…」
「亜弥、です」
「……」
これは、松浦さんじゃなくて、亜弥と呼べという脅迫なんだろうか。
とりあえず無難なところで
「…あ、亜弥ちゃん」
と、呼び方を変えてみる。
そうしたら心底嬉しそうに亜弥は笑った。
51 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)10時59分28秒
「……で、本題は何なの?」
「………」
いきなり誰か来た、と思えば自己紹介されて半ば強制に亜弥ちゃんと呼ばされ。
あまりこの子とは関わらない方がいいと判断した美貴は、早くこの話を終わらせようとそんな事を訊ねてみる。
「……あの」
「?」
本題をやっと言ってくれる気になったのか、亜弥が頬を赤らめながら美貴を見つめて。
「…も、もう一回、『亜弥ちゃん』って言ってもらえません……?」
「………は、ハァ?」
瞳潤ませて上目遣いされておねだりされて。
不覚にも少しでも(可愛い…)と思ってしまったのがいけなかった。
「…亜弥ちゃん」
――気付くと、亜弥の言う通り実行してる美貴がいた。
52 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)11時00分02秒
…とにかく、だ。
ここで美貴が「亜弥ちゃん」と言うのを嫌がったところで、この子は帰らないだろう。
それだったら無駄に反抗せずに言う事を聞いておいた方がいい、美貴は思い直す。
そして2度目の「亜弥ちゃん」を聞いたのか亜弥はすっかり満足して、やっと待ってましたの本題に入ってくれる。
「あのですね」
「…はい」
「あたし、バレー部員なんですよ」
「…うん」
「藤本先輩も、バレー部員ですよね?」
「…まあ、そうだね」
「だからぁ、一緒に体育館行きません?」
「ハァ?」
眉毛を思いっきりつりあげて、ハァ?
なのに亜弥はにこにこ笑顔。
53 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)11時00分53秒
「冗談で言ってる?」
「真剣ですねぇ」
「マジで?」
「あたしの友達はよく、マジで?の後にマジデジマとかって言ってます」
「…………」
少し頭が痛くなってきた。
「や、だから」
「あたし、ぶっちゃけましてここだけの話、藤本先輩好きなんですよ」
「………は、はい? いや、っていうかぶっちゃけてここだけの話をされても…」
いきなりなんですかこの子は状態。
というか、話をまったく聞いてくれてないっていうのはかなりキツイ。
「藤本先輩と知り合いたくて、バレー部入ったんです」
「……でも、半分以上バレー部じゃないみたいなもんだし」
「知ってます。だから藤本先輩がもう一度バレー部員に戻れるように、あたしがその役を買って出たんです」
「………そんなことして、亜弥ちゃんに何のメリットがあるわけ?」
「藤本先輩と喋れます」
「――――」
絶句。
なんざましょう、この子は。
54 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)11時01分28秒
うーん、と唸ってみる。
しかし唸ってみたところで、対処法が見つからない。
とにかくこのドアをもう一度閉めてみよう。
…が、さっきから手を抑えられていることに気付いた。
「ダメですよぉ、部活行きましょうよ」
「ヤダよ」
「あたしはぁ、藤本先輩と行きたいです」
「だから、美貴はヤだし」
「…? 自分のこと美貴って言ってるんですか?」
「………そ、そーだよ。悪い?」
しまった。癖というものは怖い。
見知らぬ年下の前で、子供みたいな所を見せてしまった。
直そう直そうとは思っているんだけど、ずっと呼び慣れてしまった一人称は、なかなか直せない。
なのに、この子と来たら。
「…すっごい可愛い…はあとはあと
っていうか、たまりません。
誰か、溢れまくっている美貴への想い、もらってやってください。
55 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)11時02分22秒
美貴にとっては、正直意外だった。
馬鹿にされるか笑われるかと思っていたんだ。
「って、ていうかホント、何なの!? 超うざいんだけどっ」
可愛い、なんて久しぶりに言われた。
赤くなるのを気付かれたくなくって、顔を反らしながら亜弥を攻撃する。
どうせまた人の話を聞いてないだろうと思ってキツ目の言葉をわざと使ってみる。すると――。
「………そうですかぁ」
「…えっ?」
堪えてないのかと思いきや、落ち込んだ亜弥の声。
美貴は驚いて亜弥の顔を見る。
「…じゃあ、諦めます」
「……え、う、うん」

56 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)11時02分55秒
…ちょっと、言い過ぎたかも。
反省するが、あえて口には出さないことにする。
これで亜弥との奇妙な縁も切れるのだから。

なのにちょっと歯切れが悪いまま、とぼとぼと去って行く亜弥を見送る美貴。

だが、美貴は気付かなかった。
亜弥が言葉を短縮していたことに。


じゃあ、諦めます、――――今日は。


それを明日、美貴は十分思い知ることになるんだけど。



57 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月10日(月)11時05分21秒
今日の更新は一応ここまでです。
本当に読み難くてごめんなさい。

>>33
前向きすぎてごめんなさい。ここの松浦さん、ちょっとおかしいです。
ミキティゲットするため、頑張ってもらいます。

>>34
ありがとう。主役の子を可愛いと言ってもらえると、すごく嬉しいです。
なるべく毎日更新するので、どうか宜しくお願いします。
58 名前:チップ 投稿日:2003年02月10日(月)15時01分43秒
わーい☆ミキアヤじゃないですか!
面白いです、あややのキャラが特に素敵ですねぇ。
ちゃっかりカワイイと思ってるミキティーもカワイイし、
松浦さんも作者様も頑張って下さい。
59 名前:17 投稿日:2003年02月10日(月)17時59分37秒
おお、いっぱい更新されてる!。
思い通りの展開じゃないですか!!。←たぶん作者とツボ同じ。
とんがりつつも巻き込まれそうな藤本もいい!。
60 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月10日(月)19時55分20秒
抜群にオモシレーです。
ベタベタな話は嫌いなんですが松浦さんだと言う事を考慮するとなぜかすんなり受け入れられます。
これからも頑張ってください。
あと松浦さんぶっちゃけすぎ!!(w
61 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月10日(月)21時40分34秒
あかん…。藤本まじ可愛ええ。最後まで頑張って抵抗してください(w
62 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月10日(月)22時02分39秒
前向き過ぎてごめんなさいなんて、とんでもない!
おかしいぐらいが丁度いいんですw
もっともっと前向きにいきまっしょい。
これを読むとなんか明るい気持ちになるな〜。
読んでてめちゃくちゃ面白いです。
63 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月11日(火)04時57分50秒
やっべ!!おもしれいっす(w
こんな話待ってました!!
亜弥美貴最高〜♪
今PC接続出来ないから携帯で来たら嬉しかったっすよ!!
いやーいいっす!お気に入りに入れます(w
どうなってくのか楽しみぃ。
続き待ってます!
64 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時29分12秒


翌日の放課後も、また亜弥は3年A組の教室に来ていた。
まさか、と思った。
だって美貴は、諦めます、としか聞いてなかったわけなんだから。
「…あ、諦めたんじゃなかったの?」
「えっ? 昨日は、諦めたんですよぉ。いくら粘っても無理そうだったんで、あの後素直に部活に行きましたぁ」
「今日も素直に部活行けばいいのに」
「だぁめですよぉ」
「なんで」
「あたし、先生とコーチにも、藤本先輩を部活復帰させるって約束しましたもん」
「ハァ!?」
自分の知らない所で話が進んでる気がする。
その話を詳しく聞くためには、教室の前じゃ都合が悪い。
65 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時29分50秒
「ちょっとこっち来てっ」
「わっ」
亜弥の手を強引に掴んで、人通りの少ない階段付近へと亜弥を連れていく。
これじゃまるで、下級生を呼び出していびっている上級生そのものだ。
そして美貴はそんな上級生役が、……悪いが、似合っていた。

問題は、この下級生だ。
呼び出されて上級生に睨まれているというのに、赤い顔して俯いている下級生。
「……ねぇ、なんで顔赤いワケ?」
顔が火照る程距離を走ったわけでもない。
亜弥の赤い顔の理由が分からなかった美貴は、思わずそう問いただしてみる。
でも、美貴は忘れていた。
「……ふ、藤本先輩があたしの手を…はあとはあと
――そう、まだ掴んでいることを。

66 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時30分31秒
「わっ、ごごごめん」
指摘されて反射的に手を離す美貴。
つられて美貴の顔も赤くなってしまう。
「……って、なんで美貴まで赤くならないといけないのさっ!」
「…?」
むしろ、赤くなる方がおかしいんじゃないのか。
だって2人は、女同士なのに。
そう告げると、ケロッとして亜弥は言う。
「…だから、言ったじゃないですかぁ。あたし、藤本先輩のこと好きですからはあとはあと
「……………」
「あ、もしかして、こうやって告白されたの初めてなんですか? やった、あたし、藤本先輩の初めての人になれたっはあとはあと
「……あの」
「えへへー」
「………」
そんな風に笑われると、何も言えない。
強引に引っ張ってここまで来たのに、気付いたら年下の亜弥のペースに巻き込まれてる。
67 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時31分16秒
一般的に見て、確かに亜弥は可愛いと思う。
そんな可愛い亜弥は、男ではなく美貴が好きだと言う。
結構女同士の恋愛が多いこの学校に通ってもう丸2年だけど、自分が告白されてその立場になるのは、亜弥の言う通り初めてだった。

「で、でもですね、美貴は、あなたじゃなく男の人が好きなので」
頭の中がこんがらがって、年下相手に敬語を使ってしまってる年上の人。
亜弥はにこにことして、そんな美貴を見ている。
「だからあの、亜弥ちゃんの気持ちには応えられないわけで」
「…でもぉ、あたしは好きです。知ってますかぁ? あたし達、昨日初めて逢ったんじゃないんですよ」
「……は?」
「半年以上前で、ほんの一瞬目が合っただけなんで、忘れてるかもしれないし気付いてないかもしれないけど」
でも、亜弥にとってそれは、運命としか思えなかった。
かなり一方的な想いで悪いが、それを伝えたいと思ったんだ。
ただ今は、憧れの制服じゃなく、体操服で、なんだけど。
68 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時32分46秒
覚えてくれてる、なんて期待してなかった。
昨日初めて教室に来た時の「何この子?」的な視線を、亜弥はしっかり見ていたから。
「……ごめん、全然覚えてない」
「…あは、そうですよね」
…しかしやっぱり、実際面と向かって言われると堪えてしまう。
それでもそこで諦めたりなんか、絶対しない。
「でも、あたしの名前は覚えてくれてましたよね?」
「あぁ…亜弥ちゃん?」
「はいっ!」
「…まあ、昨日の今日だし」
美貴にとっては強烈なキャラクターだった為、忘れようと思っても忘れられなかったその名前。
「それにぃ、あれだけ昨日嫌がってたのに、ちゃんと今日も会ってくれたし」
「そ、それは、わざわざ教室まで来て友達から名前呼ばれちゃ、行かないわけにはいかないでしょう」
「でも、避けようと思えばいくらでも避けれますよねぇ?
呼んだらちゃんと来てくれる、そういうとこ、好きですはあとはあと
「は、ハァ?」
「あはぁ、テレてますかぁ?」
「何言ってんの!」
69 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時33分34秒
口では否定するものの、赤い顔してる美貴に何の説得力もない。
というか、こんなに堂々と自分の想いを告白出来る亜弥は恥ずかしいと思わないのだろうか?
……思わないから、出来るんだろうけど。

「別にね、いいんです。藤本先輩があたしのこと好きじゃなくても」
「えっ、いいの?」
「はい。だってこれから、男の人よりあたしを好きにさせてみせますから」
「……………」
「問題はですねぇ、部活に戻って来てくれないことなんですよ」
「…や、やっと本題に戻れたんだね」
正直、亜弥の桃色光線にはまいっていたところだ。
そんな時に話がやっと戻れて、美貴は少しほっとしていた。
70 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時34分28秒
「元はと言えば、あたしが藤本先輩と知り合いたいっていう口実の為だったじゃないですか?」
「いや、そう話を振られても」
残念ながら、美貴は知らない。
知っていたらそんな口実は却下していたところだ。
亜弥は美貴の言葉も聞いてないのか、話を続ける。
「あたしもまさかそんなの許してもらえると思わなかったんで、びっくりしてたんですけど。
でも、許してもらったわけなんですよ。だから、その期待を裏切らない為にはやっぱり戻ってきてほしいんです」
「っていうか、期待とか裏切るとかって出てるけど、勝手に約束したのはそっちじゃん。そんなの美貴知らないよ」
「でも、あたし戻ってきて藤本先輩にバレー教えてほしいです。コーチも言ってたんですよ、憧れの人に教えてもらった方が上達も早いって」
「コーチって飯田さん? 飯田さんは電波だから、言ってることも嘘だよ」
「え〜っ、でもあたし、絶対藤本先輩に教えてもらえたら、全日本狙えますよ」
「や、絶対無理だから」
真顔で本気で突っ込む美貴。
71 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時35分21秒
「冗談ですよ…」
「亜弥ちゃんの言う事は、どっかマジ入ってそうで怖い」
「マゾ、入ってそうですか?」
「マジだよ、マジっ!」
「冗談ですよ」
「もう冗談は言わないで!」
素早く鋭い突っ込みも、案外疲れるんだ。

ぜぇはぁと体育をした後並に息を切らしている美貴。
亜弥はというと、そんな美貴を幸せそうににこにこと眺めている。
「…何」
「…え。可愛いなぁって思ってはあとはあと
「………」
年下の可愛い女の子にそう言われると、なんだか複雑だ。

「と、とにかく! 何度来られても、行かないものは行かないから! それに、教室来てももう絶対ドアの前まで行かないからね!」
「え〜」
「え〜、じゃないよ! 早く部活戻りなよ!」
「………はぁ〜い」
「さようなら」
ばいばい、でも、じゃあね、でもなく、あえてその挨拶を使ってやる。
さすがに亜弥もその言葉は聞き流せなかったのか、振り向いて言う。
「明日も来ますからね」
「さようなら」
「明日も行きますからねぇ!」
「さようなら〜」
とにかく、さようなら。
さようならに徹するべきだ。
それで亜弥を二度と近寄らせなく出来る呪文なのかどうは、分からないけど。
72 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時36分11秒


翌日、そのさようなら呪文は、効果があった事が分かった。
亜弥が、来なくなったのだ。



73 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時49分09秒
今日の更新は一応ここまでです。
微妙に短いですが、許して下さい。
74 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時50分23秒
…気合入れてレス返しをしたら、文字制限で分けられました。
レスがいっぱいで嬉しいです。

>>58
そうです。ミキアヤです。
娘。seekなのにどうなのかと思ったんですが、思い切って投稿してみました。
作者も、松浦さんに引っ張られながら頑張ろうと思います。

>>59
初レスの方ですよね。またレスありがとう。
自分と同じツボということは、かなりやばめかもしれませんよ(w
今回は更新少し少なくて、ごめんなさい。

>>60
ありがとう。ありがとう。
自分の文にまったく自信がないので、そう言われると物凄く嬉しいです。
松浦さんを主役にしてよかった……。ぶっちゃけ大好き松浦さんです。
75 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月11日(火)09時51分17秒
>>61
藤本さんを可愛いと言ってくれて、どうもありがとう。
出て来てすぐそう言ってもらえると思ってなかったので、藤本さん、きっと大喜びです。

>>62
おかしいくらいが丁度いい。よかった、松浦さんよかったよ。
でも、あんまりそんな事言われると、松浦さんが調子乗っちゃいそうです。
これ以上調子に乗られると、少々きついものがありますので(w
少しでもみなさんの気分転換になれるよう、頑張って書いてます。

>>63
携帯からありがとう。
亜弥美貴最高です、はい。
お気に入りに入れてもらえる事は、すごく嬉しいです。
その内お気に入りから消去されないように、一生懸命頑張ります。
76 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月11日(火)15時36分47秒
うわっ!あやや、一体どしたのというのだ?
ミキティがミキティが呪文なんかかけるから・・・・゚・(ノД`)・゚・
いやいや〜。
二人の漫才?めちゃ面白いです。ほんと、あやや可愛いなw
77 名前:17 投稿日:2003年02月11日(火)19時06分16秒
作者さん、レスありがとうございます。そうです、最初のレスの人です。
明るい「あやみき」を探していたんですよ。元気な奴を。
二人の口調や表情が頭に浮かぶので、非常にいい感じ。
61さんと同じく、藤本の抵抗にも大期待。
存分に困ったりふくれたりして欲しいものです。
78 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)15時09分17秒
連日の大量更新お疲れ様です!
あやみき最高です。
これからも藤本さんの突っ込みに磨きがかかるくらい
松浦さんを暴走させてください(w
79 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時14分37秒


――バレー部が活動する、体育館。
みんなが実戦練習をしている横で、1人基礎練習をしている女の子。
松浦亜弥だ。
ここ数日、当初の予定とは違って、他の部員達と一緒に準備をし、練習を開始している。
そんな亜弥の基礎練習に付き添っている石川梨華ことチャーミーは、思い切って聞いてみることにした。
80 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時16分38秒
「ねえ、あやや」
「はい?」
「今日も、ミキティの所に行かないの?」
「あぁ、はい。行きませんよ」
「なんで?」
好きになったら押せ押せタイプ丸出しの亜弥にしては、意外な行動。
それとも、もうミキティは飽きてしまったのかとチャーミーは心配になってきた。
相手は違うが、同じ恋する乙女として仲良くやっていこうと思っていたのに。
「ミキティより他に、いい人見つけたの?」
「まぁさか! 藤本先輩よりいい人はいないですねぇ」
多分、絶対、一生。
美貴が運命と思っている亜弥は、そんな自信があった。
でもそうすると、最近行動を起こしていない亜弥が、チャーミーは矛盾しているように思えてくる。
眉毛をハの字にして困っている梨華を見て、亜弥がにやりと笑う。
「チャーミーさぁん、『押してもダメなら引いてみろ』、作戦ですよ」
81 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時18分02秒
頼りになる友、亜依からの教えだ。
いくら押し捲っても向こうが一歩引いてるなら、なかなか難しいこの恋。
そこで、様子見もかねて、一時的に引いてみることにする。
相手にすれば亜弥を突き放したような最後だったので、反対に気にして逢いに来るかも、というのが頭の良い亜依の思いつきだった。
美貴に逢えないのは少し考えたが、このまま突っ走ってもなかなか進展しそうにもないので、亜弥はその作戦に乗ってみたのだ。

「そうなんだ……てっきり、あややはミキティ諦めたのかと思った」
「有り得ないですねぇ」
そこはきっぱりと否定しておく。
「両想いになるまで、絶対に諦めませんよぉ。それに、部活に戻って来させるっていうのも諦めません」
言った手前、自信もあったし責任感もあった。
本当に亜弥が美貴を部活復帰させてくれるという期待をしているかどうか分からないが、監督とコーチの期待を裏切るわけにはいかない。
…もちろん、美貴が本当に嫌ならば、諦めなければならいんだけど。
それに。どうも亜弥には、美貴が心底部活に戻るのは嫌だという印象が持てなかったのだ。
だから、強引と言われても頑張ってみた。
82 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時19分03秒
「そっかぁ…押してもダメなら引いてみろ作戦か〜」
「チャーミーさんの場合は、引いて引いて引きまくってみたいなんで、逆の作戦の方が効果的だと思いまぁーす」
「えっ、無理だよ」
「ちょっとでいいんです。ちょっと、押してみたら」
「う、う〜ん……」
悩んでる梨華に優しくアドバイスをしていると、休憩にやってきたよっすぃーがこっちへ来る。
「梨華ちゃ〜ん、タオルちょうだ〜い」
小さい頃からチャーミーと一緒だったよっすぃーは、恐らくマネージャーになることによって付けられた「チャーミー」という呼び方ではない。
しかし小さい頃から一緒だった梨華がよっすぃーのことを「よっすぃー」と呼んでいる所をみると、昔からそういうあだ名をつけられていたらしい。
それを、コーチである飯田が採用したんだろうと、亜弥はくだらないことを思っていた。
が、急に、ある事を思いつく。
少しだけ、チャーミーの恋の背中を押してあげようじゃないか――と。
83 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時19分55秒
マネージャーとしてタオルをよっすぃーに渡しているチャーミーの後ろに回ってみる。
後ろにいることに気付いてないチャーミーは、無防備だ。
そのスキをついて、背中を押して、よろけたチャーミーをよっすぃーに支えてもらう、という計画。
「…よぉし」
意気込んで、バッ!と押してみる。――が。

「きゃあっ!」
「おわぁっ!?」

「あ……」
押し過ぎて、よろけるどころか2人一緒に倒れてしまった。
「し、しまった。押し過ぎた」
ようし、この際知らんぷりをしよう。
そそくさとそこから退散しようとした亜弥をいち早く見つけ、石川が甲高い声で怒鳴る。
「あ、あややっ! 今押したでしょ!?」
「ご、ごめんなさぁい!!」
でも、石川の顔が嬉しそうに見えたのは、亜弥の勘違いじゃないと思いたい。
84 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時21分16秒


けれど、段々と人の恋のお手伝いをしている余裕もなくなってくる。
亜弥が美貴の元に行かなくなって、もう一週間が経過しているのだ。
それなのに、美貴は心配してやっても来ない。
昼休み、亜弥は亜依と一緒に食堂へ行きながら、かなり落ち込んでいた。

「もうダメ。藤本さん絶対あたしのことなんか忘れてる」
「そ、そんなことないって」
「っていうか、さようならって言われたし。さようならだよっ?」
「…………」
押してもダメなら引いてみろ作戦は、どうやら失敗に終わった模様だ。
「…正直、すまんかった」
珍しく、素直に謝る亜依。
亜弥は予想してなくて面を喰らってしまう。
「押してもダメならっていうか、まだ、押して2日目やってんもんな、よう考えたら。もうちょっと押してから引いた方がよかったんや。
うちが、先走りすぎた。ほんまごめん」
「えっ…あ、あいぼん…」
「亜弥ちゃんにはほんまに悪いと思ってる!」
このまま行くと、土下座までしかねない勢いだ。
慌てて亜弥が亜依を止める。
85 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時22分07秒
「あいぼんが悪いワケじゃないよ。実際、実行したのはあたしだし……あいぼんはあたしの為を思って色々作戦考えてくれたんじゃん」
「そうやけど…」
「だから、気にしないで」
本当はまだ滅茶苦茶落ち込んでいるのだけれど、それを精一杯見せないように笑顔を作る。
だが、中学3年間ずっと一緒だった亜依は、亜弥の笑顔が偽物だとは一目瞭然。

「…どうすんの? 諦めるの…?」
脈はほぼなしのこの恋。
現に亜弥は、かなり落ち込んでいる。
「……まさか」
…が、それでもメゲないのが、松浦亜弥だ。
「引いてもダメならやっぱり、押すしかないじゃん?」
「………はは、そうやね」
彼女のポジティブ思考には、いつもいつも励まされる。
「よぉし、今日からまた3年生の教室行くぞぉ」
「よっしゃ! へへっ、うちこの一週間藤本さん調べてて、帰る時間は平均何分かとかどのルート通って帰るのか色々データ取ってん!」
「ホントに? あいぼんありがと〜はあとはあと
「でも、その前に腹ごしらえやな」
「うん。あたし、焼肉!」
「――って、食堂に焼肉あるかぁ!」
びしっと突っ込みが決まったところで、2人の間はいつもの楽しい雰囲気に変わっていた。
86 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時23分36秒
亜依が一生懸命調べてくれた時間によると、美貴はHRが終わってから教室の外へ出るのは、大体10分後らしい。
帰り支度が長いのか、中で友達とダラダラ喋っているのかは分からない。
それに、3年A組のHRは担任がお喋りな為、相当長いらしい。
亜弥のクラスのHRが終わって体操服に着替え、体育館に顔を出してから美貴の教室に行ってもギリギリ間に合うんじゃないか?、という推測を亜依はしてくれた。
友達が優しくてよかった。
友達が情報収集得意でよかった。
じゃなかったら、亜弥は1人で空回りしていたかもしれない。
亜依から仕入れた情報を頭の中に詰め込んで、新聞部室に向かう亜依と別れ、亜弥は急いでバレー部室へと走る。
そんな都合よく6時限目に体育なんかないので、最近はもっぱら部室で早着替えだ。
亜弥が来るのが早すぎる為、当然部室には誰もいない。
だが亜弥よりもコーチの飯田が来るのが早い為、部室の鍵は開けてくれている。
早着替えを済ませると亜弥は、迷いもなく体育館へ。
87 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時25分32秒
「コーチ、おはようございます!」
「おぉ〜、あややどうしたぁ、すっごい早いね」
最近は美貴の教室へ行ってなかった為、他の部員と同じ時間に合わせて体育館へやって来ていた。
「あの、あたし、今日から、また藤本先輩の部活復帰かけて、説得行きますんで!」
「あ〜、そうだったそうだった」
当初はそういう予定だったということを、飯田はすっかり忘れていた。
「すいません、また準備とか手伝えなくて…」
「いいよいいよ。気にすんな」
「じゃあ、すいませんが行ってきます!」
「ほ〜い。ミキティいなかったら戻ってきて部活するんだよ〜」
「はぁい!」
見た事もないスピードで駆けて行く亜弥を、呆然と見送る飯田。
その亜弥と入れ違いにやって来る監督の中澤。
88 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時26分22秒
「おっす」
「裕ちゃん」
やって来た中澤と一緒に、もうすでに姿がない亜弥の消えていった先を見つめてみる。
しばらく見つめて、中澤が楽しそうに言う。
「…なんや、おもろいなぁ、あの子は」
「…ね」
ああ、そういえば。気のせいかもしれないけど。と、ポツリと飯田が口を開く。
「…あの子、部活やってるよりも、部活前の説得の方が、生き生きして張り切ってない?」
「…………わはは」
本当だったらそれはどうかと思うんだけれど、2人にとってそれは可笑しくて仕方がなかった。
89 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時27分03秒
一方、その頃亜弥は、美貴の教室の前に来ていた。
前みたいにこっそりと中を覗くと、どうやら掃除をやっている模様。
美貴は…と探すが、いない。
そういえば美貴は、亜弥が掃除当番の時に掃除当番だったんだ。
と、いうことは。
教室の中にいないということは、もう、帰ってしまったのかもしれない。
すかさず携帯で時間をチェックしてみる。
亜弥が亜依と別れて教室を出てここに来るまで、11分かかってしまっていた。
「うわぁ」
やばいやばい、と動揺する。
が、ここは平常心。
すぐに、頭の中に詰め込んだ亜依からもらった情報を思い出してみる。
もらった情報の中には、美貴がいつも教室から正門までどのルートで帰るのか、しっかり頭の中にインプットしてあった。
90 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時28分05秒
ルートを1つ1つ確認しながら、駆け足で美貴を追いかける。
しかし美貴は、亜依の情報によると歩くのが早いそうで、なかなか姿が見えない。
先回りした方がよかったかな……そう思った時、美貴の後ろ姿が見えた。

「藤本センパイっ!」

思い切り叫ぶと、ギョッとした美貴の顔が分かった。
声をあげたのが亜弥だと知って、急いで走って逃げようとするが、好きなものを追いかける亜弥の速さは伊達じゃない。
普通に走ったら普通の足なのに、美貴がかかるとその足は豹をも追い越すんじゃないかと思うくらい速かった。

「な、なんで……」
この1週間姿を現さなかったのに、と続けたいのだろうが、びっくりして巧く声を出せない。
「……えへへ、あたし、諦めないって言ったじゃないですかはあとはあと
自分に向けられた問いに、満開の笑顔で応える。
「もう諦めていいよ〜」
「やぁでーす」
「勘弁してよ、頼むから。ここ1週間静かだったのに…」
「えへへー、寂しかったですか?」
「ハァ?」
思いっきり冷たい瞳で睨むが、何気にこんな瞳も好きだったりする。
…だから、美貴なら何でもいいんだってば。
91 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時28分47秒
「寂しかったって……勝手に来て、勝手に来なくなったのはそっちじゃん」
「…色々と事情があったんですよぅ」
「………ふーん。その割には昼休みとかノーテンキにお喋りしてたみたいだけど?」
「え?」
昼休み、って。
昼休みはいつも、食堂で亜依やクラスメイト達と一緒にくだらない話で盛り上がっている。
それをなぜ、美貴が知っているのか。
「……べ、別に、気になってたワケとかじゃないから!」
「…いや、まだ何も言ってませんけど…」
「いっ、いっつも食堂がぎゃあぎゃあうるさいから注意してやろうと思って見てたんだよ!」
「……はぁ」
これはきっと、自らが「気になってました」と暴露しているに違いない。
だって、他にどう取れ、と。

「……あたしが、明日も来ますからって言ったのに来なかったからですか?」
「…別に……そんなんじゃ」
「だって藤本先輩が、さようならとかって言うんだもん……もう来るなって事でしょ…?」
「うっ。そ、それは、本当に悪かったと思ってる…」
俯いて、少し泣き真似をしてみる。
すると、その効果は絶大だった。
92 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時29分59秒
やっぱり美貴は、亜弥が気になっていたらしい。
好意を持ってくれていた女の子に「さようなら」と突き放したような言葉を言ってしまったから。
そして、その女の子が次の日から来なくなったから。
来なくなる事を望んでいたはずなのに、こう、プッツリと来なくなるとさすがに心配になってくる。
気になって、どうしてるかなと思って、でも教室にはさすがに行かないながらも、食堂で一緒になった時、亜弥が気付いていない隙にこっそりと様子を窺っていたみたいで。
気にしてくれていたということは、少なくとも、少しは脈アリらしい。

完璧な悪役に徹しきれない美貴が、すっごく愛しい。
亜弥は、嬉しい嬉しいその感情を隠せずに、つい言葉に出してしまう。
93 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時30分49秒
「…可愛い。ちょっと、もう、本気で」
「う、うるさいな」
「やばい。すっごい大好きだよ。どうしよう?」
「知らないよっ! つーか、敬語どうしたのさ敬語!」
「………だって、可愛すぎるんだもん」
「意味不明」
「可愛すぎて、年上に見えない」
「ええっ! っていうか、見てよ! 年上に!」
「…………敬語使わないと、ダメですか?」
「……」
敬語じゃ、それだけで何か距離感があるように感じる。
亜弥は少しでもその距離感を縮めたかった。
失礼を承知で、思い切って聞いてみる。

美貴は一度、考えてみることにした。
別に、先輩面はするつもりはない。
けど、敬語くらいは一応年下なんだから使ってほしいとも思う。
しかし、だ。ここでまた冷たく言ってしまったら、大泣きしてしまうかもしれない。
さっきのが泣き真似だと知らない美貴には、ここで「ダメ」と言える勇気がなかった。
94 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時31分25秒
「……いいよ、もう…」
こうなりゃヤケだ。
「やったぁ!」
それを聞いて、嬉しさを全身んで表す亜弥。
脱力している美貴へと飛びつく。
「うわわっ!」
飛びついてきた亜弥を慌てて引き剥がすが、近くを通っていた生徒からはにやにやと笑いが漏れている。
なんだか誤解されている為、その誤解を解こうと亜弥に怒鳴ってみる。
「ちょっと! な、なんで抱きつくのさっ!」
「だって好きなんだもぉ〜んはあとはあと
「美貴は好きじゃな〜い!」
ノーマルだノーマルだと訴えるものの、赤いその顔では説得力が…。

「えへへー」
「笑うなっ」
チョップをしてみるも、亜弥は笑顔。
得意のガンを飛ばしてみても、笑顔。
……すると、その笑顔が段々接近してくる。
なんだ?と思って黙って見てみると、亜弥の唇が突き出ているのが見えた。
95 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時32分10秒
「――わぁああっ」
亜弥がやろうとしていることが何か分かった美貴は、咄嗟に顔をよける。
唇はなんとか阻止出来たが、よけた時にちょっぴり耳に亜弥の唇が触れてしまった。
「何すんの何をっ!」
「ジーッと見つめてるから、キスしてほしいのかなぁって」
「違うよ! 見つめてたんじゃなくて睨んでたの!」
どういう思い違いをしたらそんな見方が出来るのか美貴には分からない。
亜弥はそんな美貴を見て、とっても楽しそうだ。

「……っていうかさ」
「?」
「前よりも、パワーアップしてない?」
この、強力な押しの強さ。
倍以上になった気がする。
「うん、作戦変えたから」
引いてもダメなら、押して押して押し倒す作戦に。
「さ、さくせん?」
「うん」
にこにこ。
人の都合も何も無視するその笑顔は、どうしても憎めない。
それどころか、しばらく黙ってその顔を見ていると、つられて美貴の頬も緩んでしまった。
もちろん、その瞬間を亜弥は見逃さなかった。
96 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時32分48秒
「……あ」
「な、何」
「……笑った顔、初めて見た」
「そりゃ、亜弥ちゃんといたら笑えないよ…」
こっちは突っ込んでばかりで、笑う暇も与えてくれなかった。
「でも、今笑ったよね?」
「つられただけだよ」
「それでも、嬉しいよ。すっごい、すっごぉ〜い嬉しい」
「そ、そんなに嬉しいもん?」
「うんっ!」
「……変なの」
「よく、友達にアンタ変だよって言われる」
「やっぱり」
そう言って、また頬が緩む。
その顔を見る度、亜弥が幸せそうに笑う。

…自分の気持ちを素直に出せる亜弥が、美貴はすごく羨ましいと思った。


97 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時35分11秒
でも、いつまでも廊下で笑っているわけにもいかない。
この後美貴は、友達と約束があるのだ。

「せっかく追いかけて来てくれたのに悪いけど、部活には戻らないから」
「え〜っ」
「美貴の事はもういいから、早く部活戻りな?
せっかく入ったのに、どんどんみんなに追いつけなくなるよ」
「いーよ。みきたんに教えてもらうから」
「………ってか、みきたんってダレ」
「ん」
ん、と差した亜弥の指先には、自分。
「……みきたん?」
「あのね、ミキスケとどっちにしようか迷ったんだけど、みきたんの方が甘い雰囲気出るかなぁって」
「え。藤本先輩はドコに?」
「だって、敬語使わなくていいって…」
「………それでみきたんかい」
「…あ。嫌…?」
「……別に。それでいいよ」
「よかったぁ。…あ、みきたんって呼んでるの、あたしだけ?」
部員は、ミキティ。教室にいた美貴の友達は、美貴だった。
どうせ呼ぶなら、自分だけしか呼んでないあだ名がいい。
98 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時35分54秒
「みっきーって呼んでるのが1人だけいるけど、あとはみんな美貴とか藤本さんだね」
みっきーと呼んでいるのは、里田のことだ。
ある意味里田も、自分だけしか呼んでない美貴のあだ名。
亜弥も少々そこが気になったが、とりあえず亜弥が一生懸命考えたあだ名が他の人と被ってなかった事に一安心する。

「で、美貴に教えてもらうからいいって?」
「うん」
「だから、戻らないから教えてあげれないってば」
「じゃあ、体育館でなくてもいいんで、マンツーマンで教えてくださいはあとはあと
「………」
そっちの方が、ある意味怖い。
「マンツーマンがいやだったらぁ、みんなと一緒に…」
「だから、ヤダってば」
「なんでヤダヤダばっかなの〜」
「ヤだからだよ」
「う〜…」
頑なな姿勢を一向に崩さない美貴。
残念だが今日は諦めた方が良さそうな感じ。
あまりしつこいのもなんだし、こういうのは引き際が肝心だ。
99 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時36分48秒
「じゃあ、また明日」
「はいはい。バイバイ」
「…ん? 今日はさようならじゃないの?」
「…さようならって言ってもどうせまた来る事分かったし、意味ないからね」
「えへへー。明日は絶対来るからねぇはあとはあと
「いーよ、来なくて!」
そう言う割に、顔は嫌がっているように見えない。

なんだかんだ言って、「押してもダメなら引いてみろ」作戦は成功したみたいだ。
部活が終わったら、「ありがとう」と亜依にメールを打とう。
そんなことを思いながら、亜弥は部活をする為に再び体育館へ向かった。


100 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時37分58秒
美貴と仲良くなれて、にこにこの亜弥。
スキップとまではいかないが、スキップしそうな勢いで体育館に戻って来る。
その亜弥をいち早く見つけた中澤は、手招きして亜弥を呼ぶ。
「戻って来たん?」
「はぁい」
「1人ってことは、今日の説得は失敗か」
「まだ3回目ですからぁ。そんな簡単に上手くいくとは思ってません」
「そうかぁ。でも、なんかご機嫌やん?」
「あ、分かります?」
そりゃ、そんなに幸せそうな顔をされていると。
その内溶けていくんじゃないかと、そんな事さえ思ってしまうにやけっぷり。
「えへへー。ちょっと、進展が出来たんで」
残念ながらそれは、美貴の部活復帰の進展じゃないんだけど。
それでも中澤は、にこにこして亜弥の話を聞いてやる。
だが、いつまでもこうして談笑しているわけにもいかない。
ここは、バレー部。そして亜弥はバレー部で、バレーをしに戻ってきたのだ。
チャーミーに呼ばれて、亜弥はいつもの基礎練習へと戻って行く。
その後ろ姿は、今までで一番張り切って見えた。
101 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時39分26秒
「ほんまおもろいな、あの子は」
見ていて飽きないというか、なんつーか。
準備を手伝わない、というある意味特別扱いを受けているというのに、みんなに可愛がられているというのもおもしろい。
もちろん、可愛がられている理由は亜弥が可愛いから、とかいう理由だけじゃない。
準備を手伝えない代わりに、亜弥は終わりの片付けを一生懸命頑張っているからだ。
美貴の説得に行く為に潰れる練習時間は、居残りして補っているし。
みんな、亜弥のそういう所も評価して、可愛がっている。
「家に一匹くらい欲しいわぁ」
そしたらきっと、すごく楽しそうだ。

そんな中澤の呟きを横で聞いていた飯田は、呆れたように注意する。
「裕ちゃん、ダメだよ」
「は? 何が」
「あややに惚れるのは」
「……なんでやねーん」
102 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時40分16秒
ペットとして欲しいと言っただけやんけ、と言ってみても飯田は呆れ顔。
「その発言もどうかと思うな」
「ええやんか。それに、生徒に手は出しませーん」
……なんて言っといて、実は何人かには手をつけてしまっているんだけど。
それを知っている飯田は、釘をさしておく。
「あややは、ミキティのなんだから」
いくら鈍感な飯田でも、部活をしている時より嬉しそうに美貴の元へ行かれると、
亜弥の美貴への想いは憧れじゃなく恋なんだと気付くのも当然だ。
ただ美貴と知り合いたい為に入部されたと気付いた時はどうかと思ったけれど、
今はバレーも一生懸命してくれているので、飯田はのんびりと2人の様子を見守ることにしている。
「でも、ちょっとちゃうなぁ」
「?」
「逆ちゃう? ミキティは、あややのなんだから」
「あー、そうか」
「今はまだそうなってないかもしれんけど、絶対、近い内そうなるな」
「ミキティの部活復帰も、夢じゃないね」
「松浦に期待、ってとこか」

自分達がいくら説得してもダメで、もう無理だろう、と思われたが。
なんだか、2人は無性に楽しみになってきた。
――亜弥と一緒に、美貴が戻ってきてくれるのを。
103 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月12日(水)17時46分55秒
ふぅふぅ。今日の更新は一応ここまでです。
なんだか、今回は更新量多すぎな気がしてきました。

>>76
松浦さんは、こんなことを考えていたみたいです。
2人の漫才は、せめて、ハワイャ〜ン娘。より寒くしないように、頑張ってます。
松浦さんを可愛いと言ってもらえ、幸せです。

>>77
レスありがとうございます、いいえ、こちらこそレスありがとうございます。
ここのあやみきは、明るいと言っていいのか、アホと言っていいのか…。
松浦さんと藤本さんは大好きなので、2人の口調は少しでもリアルに近付けたらいいな、と。
藤本さんには、精一杯抵抗してもらいたいです。

>>78
ちょっと更新しすぎて、疲れました(w
松浦さんの暴走…止める人が今のところいないので、そのまま突っ走ってもらいます。
104 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)17時51分37秒
この面白さ……間違いない!!
今まで読んだ小説の中でここの松浦さんが一番自分の中の理想に近いです。
思わずリアルタイムで読み込んでしまった……。
105 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月12日(水)18時32分18秒
更新乙です!
今日も携帯から(w
いえ、飽きませんから!
かなりここのあやみきいいっす。なんかリアルに似てる気がします(w
実際に裏ではこうだったりして…(笑)っておもっちゃったり(w
なんか少し近づいた様子ですし、続き楽しみに待ってま〜す
106 名前:チップ 投稿日:2003年02月12日(水)18時59分53秒
あややトラップにはまりつつあるミキティかわいいですねぇ、ツボです。
何気にあややではなく、あいぼんがストーカーになってるような気がしたり
してますが・・・友情って素晴らしいなと改めて思いました。
ミキティが来ない理由はなんかあるのかなぁ?などと考えつつ、続き待ってます。
107 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)19時21分52秒
1週間の充電がきいたのか、パワーアップしたあやや(・∀・) イイ!!
もっと押して押して押しまくれ〜!w
いや、ほんと元気になれる話しです。
帰ってきて、とりあえずここに来ます。続き期待してます。
108 名前:17 投稿日:2003年02月12日(水)20時47分45秒
もう一回読むと、意外に細かいところが面白かったりするし!。
109 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)21時36分57秒
藤本が松浦の毒牙にかかりませんように(ノд`)・゚・
いや松浦も好きだけど。好きだけど。
110 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時01分45秒


休日・祝日以外は、毎日通った。
何度か、すでに帰ってしまっていて逢えなかったこともあったが、亜弥はそれでも諦めなかった。
通い続けているとA組のクラスメイトにも顔を覚えてもらったし、可愛がってもらえた。
それどころか、家に帰ろうとする美貴を亜弥が来るまで捕まえておいてくれるという協力ぶり。
そのおかげで、亜弥は美貴と接する時間が増えたし、段々亜弥の押しとペースに慣れてきた美貴の笑顔も多く見れるようになった。
…けれど、肝心の部活復帰の説得が、一向に進展しない。
111 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時02分22秒
「ねぇねぇみきたぁーん」
「何」
「部活、行こうよぅ」
中庭のベンチに腰掛けてジュースを飲んでいる美貴の腕を掴んで、甘えてみる。
美貴は一度亜弥に目をやっただけで、いつものセリフ。
「ヤだよ」
「……」
強情なのも、ここまで来たら行き過ぎだ。
亜弥が説得を再開して、もう大分経つ。
最後の大会まであともうそんなにない。
だんだん、さすがの亜弥も焦ってきた。
「ねぇねぇ、もうすぐ大会だよ。最後だよ?」
「知ってるよ」
「じゃあ…」
「だから、知ってて行かないんだってば」
しつこいなぁ、と呟く。
そう言う割に美貴も付き合ってるんだから、その言葉は矛盾していると思う。
「美貴は、大学行く為に勉強を始めてんの。だから、行く時間はないんだよ」
「…とか言って、里田さんと遊びに行ってるくせに」
「な、何で知ってんのあんた…」
「ふ〜んだ」
112 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時03分30秒
前からずっと気になっていた。
亜弥に好意を持たれているのは知っている。
けれど、亜弥はなんだか美貴の知らなくていいことまで知っているような、そんな気が。
「た、探偵とか雇ってないよね?」
「探偵はいないけど、新聞部のエースならいるよ?」
「………まさか」
身に覚えがある。
亜弥に出逢う前から感じていた、視線。
後ろから視線を感じて振り向くと、必ずそこに見えていた、お団子。
そして、気付かれそうになって去って行く後ろ姿。
「…あのチビ!?」
「チビって。ひどいよぅ、あいぼん可哀想」
「美貴よりちっちゃいからチビでいい」
「ひどいなぁ。あいぼん聞いたら『怒るでしかし!』とかって言うよ」
「……やっぱり、亜弥ちゃんの友達も変わってるんだね」
「え、そうかなぁ?」
というか、そんな怒り方されても。
113 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時04分16秒
「っていうか、もう、美貴のこと色々調べるのやめてよね」
「………はぁい。ごめんなさい…」
「……う」
悪いとは思っていたんだろう。素直に頭を下げる亜弥。
でも、そうして素直に反省されると、美貴もなんだか困ってしまう。
「べ、別にさ、勝手に調べられるのがヤなんであってね。………知りたいなら、直接聞けばいいじゃん」
「……みきたん…?」
……あぁ、何を言ってるんだろう。
自分でも最近、正直分からなくなってきていた。

114 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時05分25秒
「こ、こそこそされるより、堂々と聞かれる方がいいのっ! そういうこと!」
まるで自分自身に言い聞かせるように、そんなことを言う。
最初は戸惑いまくっていた亜弥の行動言動も、慣れてしまえばとてもストレートで可愛らしくさえ思い始めてしまっている自分がいて驚く。
それを悟られないようにはしているんだけど、亜弥が気付いているのかどうかは定かじゃない。
「みきたぁんはあとはあと
「だ、だから、抱きつくのはやめてってば」
キスしそうな勢いで抱きついてくる亜弥を、なんとか引き離す。
ぶ〜、と文句を言っていたが、別にいつものことなので亜弥もそんなに気にしない。
「でもね、みきたん」
「…何?」
「あたしばっかりみきたんを知ってるのも、どうかと思うんだ」
「…はぁ」
「だからぁ、あたしのこともみきたん知ってよ」
「……………いいよ別に」
「なぁんで。いっぱいいっぱい、知ってほしいよ。みきたんに関心持ってほしいよ」
「……」
どうしてこう、素直に心を打ち明ける事が出来るんだろう。
亜弥といると美貴は、驚かされてばかりだ。
115 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時05分57秒
それじゃあとりあえず。
好意に甘えて、前からずっと訊いてみたかったことを質問する。

「……ねぇ、どうしてそんなに、“超”がつくほど前向きなの………?」



116 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時06分34秒

**** ****

逢う度に、一歩一歩確実に2人の距離は近付いていると思う。
それはとても嬉しい事だったし、目標でもあった。
だが、もうすぐ試合が近いバレー部の中に美貴がいないと、亜弥はとても寂しくなる。

「みきたんは、やっぱりバレーを嫌いになっちゃったのかなぁ…」
あんなに、楽しいのに。
今まで気付かなかったバレーの魅力を気付かせてくれたのは、美貴だ。
昼休み、グラウンド近くのベンチで亜依にそんなことを打ち明けてみる。
だが、相談されても亜依が知っている美貴の情報は、外側だけだ。
「どうやろう……」
考えても考えても、分からない。
「でもね、嫌いだったら退部届出せばいいじゃん?」
「出すのさえもめんどくさいとか」
「……うーん、微妙」
有り得そうで有り得ない。
もっとも、2人でこんなことを話していても解決しないんだから、この話し合いこそ、意味があるのか無意味なのか微妙だ。
117 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時07分49秒
最初は自信満々だった説得も、日を追う毎に段々なくなってくる。
説得に行って、1人で体育館に帰ってくるのさえ、なんだか気まずくなっていた。
監督やコーチにしては半分諦めていたようなものだから、そんな亜弥を慰めてくれるんだけど。

「でもさ、部活に戻らんくても、説得しに来た亜弥ちゃんには絶対逢ってくれるんやろ?」
「ん? うん、最近はみきたんの同級生が捕まえてくれてるから……。前は何回か逃げられたけど」
「捕まえてるっても、本気で嫌がってたら出来へんよなぁ」
「や、ほんとね、みきたんとの恋についてはあたし、希望見えてきたのよ」
「お〜。押して押して押し倒せ作戦は効いたんか」
「みきたんって、意外と押しに弱いんだよね」
そこがまた、可愛いんだけど。
「でもさぁ……」
これだけ毎日アタックしてるのに、一向に進展しない部活復帰が一番の問題だ。

118 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時08分25秒
「諦めた方がいいのかな……」
ポツリ、と亜弥が思わず零す。
亜依は、その一言を聞き逃さなかった。
「なんや。亜弥ちゃんらしくないなぁ」
弱気な亜弥は、亜弥じゃない。
亜依の大好きな友達の亜弥は、いつでも諦めない前向きな女の子だ。
「あいぼん……」
「あきらめたら、そこで、試合終了だよ」
「………………」
――沈黙。
しばらくして亜依が、耐え切れなかったかのように亜弥に訴える。
「亜弥ちゃん、さっきの後に『安西先生…!!バスケがしたいです……』って続けてやぁ〜!」
「いや、あたしバレー部だし」
「突っ込むところはそこかいっ!」
もういい、と拗ねる亜依。
「亜弥ちゃんはバリバリの少女漫画やもんな…スポ根系のネタ持ってきても無理やったんや……」
「おーい、あいぼーん」
いじいじと拗ねてしまった亜依をつついてみるが、無視される。
小さい身体を、拗ねる事でさらに縮ませてしまった亜依を笑いながら見ていると、その亜弥の視界に誰かが入ってくる。
「あぁっ、みきたんだ!」
119 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時08分57秒
声を出すも、向こうは亜弥に気付いていない。
仲の良い里田と、グラウンドの真ん中ら辺で喋っている。
5時限目が体育なのか、2人は体操服を着ていた。

「亜弥ちゃん、行かへんの?」
「ん…ん〜……」
立ち直った亜依は、美貴を見つけても動こうとしない亜依に聞いてみる。
「だって、今は放課後じゃないし。それに、みきたん楽しそうに喋ってるし…」
「なんやぁ、ほんまえらい弱気やなぁ今日は」
「だってぇ。恋人同士でもないのに、2人喋ってるとこ間入って邪魔して嫌われたらヤダもん」
「んじゃ向こうから喋りかけてきたら?」
「もちろん行く!!!」
しかし、いつまで経っても美貴は亜弥に気付く様子がない。
里田と仲良くお喋りを続けている。
120 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時10分23秒
「あぁぁ〜……いいなぁ、里田さんは」
「いとしのあの人と喋れて?」
「うん…それに、同じクラスだしさぁ」
羨ましい。
これが嫉妬だということも、亜弥は分かっている。
「安心しぃや。里田さんは他校に彼氏おるみたいやし」
新聞部で、情報収集得意の自分がそう言うんだ、と亜弥を安心させる。
「それに、さっきも言ってたけど、藤本さんとはちょっとずついい感じなんやろ?」
「うん。なんかね、前と違ってみきたんの目が優しくなってきたのがすっごい分かるの」
「ええことやんかぁ」
「…うん。ありがとぉ、あいぼん」
落ち込んでいた亜弥の心を、あっという間に回復させる。
亜弥がこんなに前向きにポジティブに生きられるのも、亜依という友達がいてくれるからでもある。

亜弥をもっと元気付けるかのように、くだらないギャグでその場を盛りあげる亜依。
そのギャグを聞きながら視線は美貴を見ていると、そんな美貴の元にボールが転がって来ているのが見えた。
――バレーボールだ。

昼休みということで、ボールを借りてグループでバレーを楽しんでいた生徒達。
誰が飛ばしたのか、そのボールは同じくグラウンドにいた美貴の元まで転がっていく。
121 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時11分05秒
「ごっめーん、美貴取って!」
美貴と呼び捨てしていることから、美貴の知り合いで3年生ということが分かる。
美貴ばかり見ていた視線をバレーをしていたグループにも向けると、そのグループは美貴と同じ体操服を着ていた。
どうやら、同じクラスの子達らしい。
よくよく見てみると、いつも美貴を捕まえていてくれる子がいるのが見える。
しかしどちらも、ベンチに座っている亜弥には気付いていないみたいだ。

同級生に言われ、足元に転がって来たバレーボールを手に取る美貴。
亜弥は、ドキドキした。
バレーボールを手にしている美貴を、初めて見たからだ。
あれだけ頑なに拒み続けている、バレー部への復帰。
そんな美貴とバレーボールはひどくミスマッチなのに、なぜか亜弥にはカッコよく見えて仕方なかった。
そしてバレーボールは、美貴のサーブによって綺麗に空を飛ぶ――。

「ありがとー!」
「そうだ、美貴達も一緒にやろうよ!」
「綺麗な腕が赤くなったら嫌だから遠慮しとくー」
「ばーか、何言ってんの」

バレーボールを受け取った同級生とじゃれ合う美貴。
亜弥はずっと、美貴を見ていた。
122 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時11分54秒
もう一度亜弥は、考える。
美貴はどうして、バレー部に来ないのか。
嫌いなら、辞めたらいいのに。
……でも、大っ嫌いなら、あんなに丁寧にサーブしてボールを返したりしない。
部活に戻るのは「ヤだ」と言い続ける美貴だが、「バレーが嫌い」なんて言葉、聞いたこともない。
じゃなきゃ、あんなに嬉しそうに、ボールに触れたりするもんか。
美貴をじっと見ている亜弥だからこそ気付いた、美貴の気持ち。

「…ねぇあいぼん」
「んぁ?」
「みきたんは、やっぱりバレーを嫌いになってなんかないんだよ。
みきたんはきっとまだ、バレーが好きなんだ」


123 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時12分32秒
更新分、
124 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時13分03秒
隠し。
125 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月13日(木)15時23分32秒
今日の更新はここまでで。

>>104
ありがとう。
自分も、松浦さんがこんな人だったらいいなぁ、と思って書きました。…藤本さんは迷惑着極まりないでしょうが(w
リアルタイムだと、更新が遅くて読み辛かったでしょう。ごめんなさい。

>>105
今日も携帯からありがとう。
この松浦さんがリアルだとすると、藤本さん大変です。
でもやっぱり、松浦さんにはもっともっと藤本さんを押しまくってほしんですけど。
はい、頑張ります。

>>106
加護さんがストーカー(w  ですね、確かにそうです。否定はしません(w
ミキティが部活に来ない理由……実は、あるんです。

>>107
松浦さん達のおかげで、少しでも元気になる手助けを出来たみたいで、嬉しいです。
これからもどうかごひいきに…(w

>>108
ありがとう。ああ、メール欄も読んでくれてたんですね、ダブルありがとう。
小ネタを少しでも取り入れられたらいいなと頑張ってます。
それと、メール欄ももうちょっと頑張ってみようかな、と。

>>109
松浦さんの毒牙(w
藤本さんは防具をつけていたつもりなんですが…今は、少しずつ松浦さんに脱がされてしまったようです。
126 名前:名無し 投稿日:2003年02月13日(木)15時50分10秒
面白い上に更新が早い、言うことないです。
がんがってください。
127 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月13日(木)19時41分05秒
今日も更新乙です。
本当に早いうえにおもしろいです!!
メル欄やはり何か書いてるんですかぁ〜…
携帯からだと見れないんですよ…
PC復活次第見ます(w

みきてぃの理由ってなんだろ…
128 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時27分05秒


その日の放課後。
亜弥は、急いでいた。
クラスメイトが捕まえていてくれていると知っていても、亜弥は急いでいた。
そして3年の教室に着いて、またしても捕まっている美貴を渡してもらう。

「…えへへ、お待たせ、みきたん」
「亜弥ちゃんのおかげで、美貴は牢屋に入らされている気分になるよ」
「あはは」
「っていうかほんと、何度来ても行かないっつってるのに……」
「まぁまぁ」
「亜弥ちゃんにつきまとわれるようになってから、帰りがめっちゃ遅くなってるし」
「いいじゃん、暇なんだから」
「だから、受験勉強するから忙しいって言ってんの!」
「じゃあ、息抜きでいいよ」
「……は?」
「部活、行こう?」
「…だ、だから、さっきも昨日もおとといも行かないって……」
「なんで? なんで行かないの?」
行く行かないじゃ、いつまで経ってもラチがあかない。
「だから、色々忙しいんだよ、美貴は」
そんな風にごまかされても、ラチがあかない。
なので、核心をつくことにした。
129 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時28分09秒
「バレーが嫌いになったから、みきたんは部活に行かなくなったの?」
「っ………」
今までは、思うだけで口に出さなかったその言葉。
こうして口に出してみると、美貴は予想通り口を閉ざす。

嫌いだったら一言、嫌いって言えば済むこと。
だけど美貴は、それを言わない。

「…べっつに、いいじゃん。理由なんかなんでも」
「よくないよっ、聞きたいよあたし! みきたん言ったじゃん、知りたいなら直接聞けばいいって…」
「言いたくないことだってあるじゃん。っていうか別に、行く行かないに理由なんかなくたっていいじゃん。個人の自由でしょ?」
「でも、バレー部にまだみきたんはいるもん。部員じゃん」
「……………」
また黙る。
2人の間には珍しく沈黙が続いていた。
だが、このまま黙っていても話は解決しない。
130 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時29分59秒
「…ねぇみきたん」
「……」
返事はない。だけど、ちゃんと耳を傾けてくれているのは分かっていたから、話を続ける。
「あたし、みきたんがバレー嫌いって言うなら、もう明日から来ないよ。
退部届出すのがめんどくさくて出してないんなら、あたし、代わりに出してあげる」
「…………」
「…あたし、今日見たんだよ、昼休み。みきたんさ、すっごい嬉しそうにサーブしてボール渡してたじゃん」
「……いたの?」
「…うん」
バツが悪そうに、表情を変える。

「…あれは、たまたまおもしろい話しててご機嫌だったからだよ」
「でも、別にわざわざサーブで返すことないじゃん。普通に渡せばよかったのに」
「……うるさいな。どうやって返そうが、人の勝手でしょ?」
「…そうだけど…」
「じゃあいいじゃん」
「…………でもっ。みきたんホントは、バレー好きなんでしょ? バレー、したいんじゃないの?
バレーが好きなら…バレーがしたいんなら、部活、戻ろうよ?」
「っ、……もう、ほっといてよ!」
触れられたくなかったところなのか、美貴の態度が変わった。
優しくなった瞳も、見た事もない位冷たい瞳に。
131 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時31分04秒
「退部届が欲しいなら、書いてあげるよ。書くから、それ、先生に渡してよ」
「み、みきた……」
「ちょっと待ってて」
そう言って、何処かへ行く美貴。
いきなり変わってしまった美貴に亜弥は呆然と立ちつくしたまま。
しばらくして、美貴が戻ってくる。

「ほら、これでいいでしょ」
退部届の紙だ。
無理やり、亜弥の手に握らせる。
「これで、亜弥ちゃんが美貴の所に来る理由もなくなったね。だから、明日から来なくていいよ。っていうか、来ないで」
「っ…」
拒絶の言葉。
亜弥は、動けなくなる。
初めて美貴を、可愛い以外に怖いと思った。
そのまま、引き止める事も出来ず、美貴は亜弥を置いて1人で去って行ってしまった。

「……ぅー…」
独りになって、ずっと我慢していた涙が出て来る。
美貴の前では泣いたら負担になるかもしれないので、ずっと我慢してきた涙。
その涙が、美貴がいなくなってやっと解放される。
132 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時32分22秒


怖かった。
美貴の瞳が、美貴の言葉が怖かった。



133 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時33分35秒
手に握らされた、退部届。
亜弥は迷っていた。
これを、渡すべきか渡さないべきか。
泣くだけ泣いて顔を洗って、体育館に戻っても、美貴の退部届は亜弥の体操服のポケットにあった。

大会前という事もあり、実戦練習を主にする部員達。
まだまだ初心者の亜弥は、マネージャーのチャーミーと一緒にその練習風景を眺めていた。
けれど、意識はやっぱりポケットに入っている退部届の事ばかり。
「………どうしたの?」
それに気付いたチャーミーが、優しく声をかける。

「…あ、いや…」
「なんでもない、って感じじゃないよね」
「………」
チャーミーはマネージャーだ。
部員達の顔色も、しっかりと把握している。
「今日さ、説得から戻って来るの遅かったけど、ミキティと何かあったの?」
「……………」
「黙ってるってことは、あったのかぁ…」
「……」
思い出して来て、せっかく抑えた涙がまた零れそうになる。
幸いな事に、部員達はプレー中ということもあり、亜弥のそんな様子には気付いていない。
傍にいるマネージャーだけが、亜弥にそっと寄り添っていた。
134 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時36分51秒
「……もう来ないでって言われました」
聞こえただろうか。
チャーミーからの応答はない。
それでも亜弥は、また溢れ出してきたこの気持ちを、誰かに聞いてほしくて、話を続けた。
「あたし……ちょっと、もう…ダメかもしれません…えへへ……。
みきたんのこと、好きだけど、あたし…みきたんの嫌がることばっかりしてる気が、する。…もう、ダメ、です……何もかも」
あはは、とヤケになって笑えてくる。
亜弥にはもう、どうしようもなかった。
美貴に、拒絶されてしまったから。

「…でもね、分かんないことがあるんです」
美貴は、何も喋ってくれない。
亜依に調べてもらっても、知らない事だらけだ。
「どうしてみきたん、バレー部に来なくなったのか。どうしてみきたんは、行かないバレー部を辞めないのか。どうしてみきたんは……」
――亜弥に言われても、バレーが嫌い、と、言わないのか。
「あたし……好きなのに、何もみきたんのこと知らないんですよね…」
「…………」
諦めの悪すぎる亜弥も、お手上げの状態だった。
そんな時、石川が口を開く。
135 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時37分41秒
「…私は、悪いけど、その……マネージャーなんだけどそんなにミキティと仲良くなかったから、よくわからないんだ。
私は前にも言った通り、2年生でバレー部に入ったのね。よっすぃーは1年生でなんだけど。
で、私が2年で入った時、ミキティはバレー部のレギュラーだったんだよ」
「………はい」
「それはたまたまだったのかもしれないし、残念ながら私はミキティと仲良くなかったから、本当の事情は知らない」
「……?」
言い難そうに、チャーミーが顔を歪める。
亜弥はじっと、話の続きを待っていた。

「…でもね、その……去年の今頃かな、レギュラーが、ミキティから1年生のよっすぃーに代わったんだ」
「えっ……」

それを聞いて、反射的に今目の前でプレーをしているよっすぃーを見る。
よっすぃーは、下級生や同級生、そして、上級生よりも誰よりも、この中でバレーが上手かった。

136 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時38分25秒
元々、美貴はバレーボール選手としては飛びぬけて背が高いとも言えない。
そして練習も来ない日があったりと、真面目と不真面目に分けるなら、不真面目な部員だった。
そんな美貴の元に、背が高くて練習熱心で、バレーが上手い新入生が、同じポジションとしてやって来た。
残念ながらここは、実力世界。
先輩だろうが後輩だろうが、上手い人を使う。――それが、バレーボールだった。

「……それからかな。ミキティが、来なくなったの」
「………そう、なんですか」
「でも、ホントの所は分からないんだ。…何せ、飯田さんや監督にも言わないくらいなんだから」
でも、亜弥には分かる。
だって、美貴の事が好きだから。
そんな美貴が、大好きだから。

「チャーミーさん、ありがとうございます」
「?」
「おかげで、みきたんの事、知る事が出来ました」
「………そっか。役に立った? 私」
「はいっ! 今度、お返しにまた、吉澤さんめがけて背中から押してあげます」
「い、いいよそれはもうっ」
「えへへー」
137 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時39分06秒
亜弥の顔に、いつもの笑顔が戻る。
彼女の笑顔は、どこか、人を幸せにさせれるような力があった。

「…がんばれ。応援してる」

そう言うと、亜弥は大きく頷いてみせた――。


138 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月14日(金)23時44分54秒
遅くなって申し訳ない。今日の更新は一応ここまでです。

>>126
ありがとう。更新早いのだけがウリです。
手元では出来上がっているので、完成したのを皆さんの前に出せるのはもうすぐです。
がんがります。

>>127
毎度ありがとう。メル欄書いてますが、本当にしょうもないことなので…(w
…ミキティ、こういう理由じゃダメですか……?
139 名前:チップ 投稿日:2003年02月15日(土)02時16分27秒
ミキティ……あるよねぇ、そういうの…懐かしや。
頑張れあやや。心優しいミキティがまた気にしてくれてると嬉しいなぁ。
それにしても・・・怖いミキティもイイ!
140 名前:17 投稿日:2003年02月15日(土)17時48分48秒
いよいよ佳境。
他のキャラとの絡みが気になるとこだったので、
期待しつつも待ちます。
141 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月15日(土)19時18分42秒
みきてぃ…わかるよ…わかる(T▽T)
自分も運動部だったんでわかりやす…
背もそんなにないし…
文化部でも似たことありましたが(^^;
このことを知って、あややがどう行動するのかな〜

後、チャーミー!あややが応援してるんだ、がんがれ(w
142 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時02分01秒


いつもの放課後。
美貴はいつもの様に帰り支度をして、教室を出て行こうとする。
が、後ろから腕を掴まれて出て行けない。
「……ちょっと」
離してよ、と言うが、腕を掴んだままの数人のクラスメイトは、笑っているだけ。
「まだ彼女が迎えに来てないから無理だね」
「あんな可愛い子置いて帰ろうとするなんて可哀想だよ〜」
「………」
からかっているのか、それとも本気でそう思っているのか、美貴には分からない。
だが、少なくともこの人達は楽しんでいる――それだけは、分かっていた。
そして今日は、その人達の遊び相手になれる気分ではなかった。

「悪いけど、亜弥ちゃんならもう来ないから」
クラスメイトが言う、彼女・可愛い子で連想される子は、亜弥しかいない。
その亜弥とは昨日、縁を切ったのと同じような事をしたのだ。
「えっ、なんでよ」
「関係ないでしょ」
「………」
キッと睨む。
どちらかと言うとキツイ顔の美貴の睨みは、亜弥以外の人には効果絶大だった。
しっかりと掴まえていた腕も、するすると離される。
143 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時03分16秒
最初からこうして睨んでおけば、毎日毎日亜弥が来るまで教室に監禁されることもなかったのに。
最初からそうしておかなかった事を、美貴は少し後悔していた。


いつもなら、靴箱の所まで金魚のフンのようについて来る亜弥。
今日は、後ろを振り返って見ても、いない。
それを望んだのは、もちろん自分だ。
「…………」
イライラする。
昨日からずっと、虫の居所が悪い。
不機嫌なのを隠さずに歩いていると、下級生らしき子が美貴の横を怯えながら走って通って行った。
「……なんなのよ」
走って逃げなくたって、誰彼構わず攻撃したりなんかしない。
それなのに勝手に怖がって走って通り過ぎた下級生のせいで、美貴の機嫌は更に悪くなっていく。

ボスン、と乱暴に鞄を床の上に落として、靴箱の中に入ってある靴を取ろうとして手を伸ばす。
「…ん…?」
なのに、靴がない。
「…ハァ?」
理解出来なくて靴箱の中を確かめてみると、靴の代わりに一枚の紙。
「……」
昨日、亜弥に渡したはずの、退部届だった。
144 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時04分02秒
乱暴に頭を掻く。
こんな事するのは、美貴の知ってる限りで、あの子しかいない。

「亜弥ちゃん、靴、返してよ」

至極面倒くさそうに、外へと通じる出入り口で俯いている体操服の女の子に、そう告げた。

後ろに組んでる手には、美貴が愛用しているローファー。
言い逃れは出来ない。でも、言い逃れるつもりもなかった。
「…だって、こうしないとみきたん、あたしが来るより先に帰っちゃいそうだったんだもん」
亜弥の言う通りだ。
亜弥に逢わないつもりで、いつも10分程友達と喋ってから教室を出て行くのに、誰とも喋らないで出て来たんだから。
「これ返すから、靴返して」
退部届と靴の、トレード。
亜弥はいやいやと首を振る。
145 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時05分06秒

「……あのねぇ」
「だって」
「金魚のフンやめたと思ったら、今度はいじめ?」
「……」
「もう来ないでって、言ったでしょ」
言ったし、言われた。
けどそれでも、諦められない。諦めない。

「………みきたんがバレー部来なくなったのって、よっすぃーにレギュラー取られ悔しかったからなんでしょ?」
「…は?」
「ずっと分からなかったんだ。どうして、バレー部に全然行かないのに退部しなかったのか。
どうしてみきたんは最後まで、バレーが嫌いって言わなかったのか」
「………」
「みきたんはやっぱり、バレーがしたいんだよ。みきたんはやっぱり、バレーが好きなんだ」
「何、言ってんの」
「あたしは、分かるよ? みきたんの気持ち」
昨日、何故怒ったのか。
何故、急に態度が変わってしまったのか。
今なら、分かる。

美貴に一目惚れして、この学校に入学して来てから、ずぅっと美貴だけを見ていた。
頭の中は、美貴でいっぱいだ。
美貴の目も顔も髪型も、性格も心も、全部が好きだ。
146 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時06分22秒
「今まであたしさ、戻ろう、って簡単に言ってきちゃったんだ。みきたんの気持ち知らないで。
でももう、分かったから。あたし全部、好きだから」
「………意味不明なんだけど」
「負けず嫌いで、プライドが高くて、意地っ張りで、不器用で………素直じゃないみきたんも、あたしは好きだよ」
「…だから、意味不明なんだってば」
イライラした様子で、美貴は言う。
亜弥は、そんな美貴をしっかりと見つめる。
「……みきたんは、戻るきっかけを無くしてしまったんだ。でもまだバレーが好きっていう未練が残ってて、退部出来なかった」

吉澤にレギュラーを奪われた事で傷ついたプライド。
後輩にポジションを奪われた――その事実に、プライドが高い美貴は、悔しさから、練習をさぼる回数が多くなった。
だが、多くなるにつれて、練習に戻るタイミングが掴めなくて………。

「コーチとかに戻って来いって言われても、素直になれなかったんだよね?」
「っ…」
「だからずっと、このままになっちゃったんだよね?」
「…………」
147 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時07分00秒
「ホントは、バレーしたいのに。ホントは、バレー好きなのに」
「っ…、うるさいな! あんたに何が分かんのさ!!」
「だってずっと、みきたんを見てきたもんっ」
「一方的に見てただけじゃん! 何もっ……亜弥ちゃんは何も知らないクセに!!!」

レギュラーを落とされて、美貴が、どんな気持ちだったのか。
練習を真面目にしてなかった事についても、自己嫌悪しまくった。
けれど、今から練習を真面目にしても、時はもう遅くて。
ずっとサボっていて行ってなかった体育館に久しぶりに行ってみると、そこにはもう、美貴の居場所はなかった。

辞めたくなかった。バレーが好きだった。
ずっと戻りたかった。プレーしたかった。
だけど、戻って来いと話をされても、妙なプライドと意地が邪魔して、戻るきっかけもなくしてしまう。
しまいには、説得もされなくなってしまって。
…寂しかった。ずっと。

148 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時07分52秒
「………美貴なんかいらないんだよ。よっすぃーさえいたら、それでいいんだ」
「…なんで……なんでそんなこと言うの、みきたん」
「…だってそうだもん。…美貴がレギュラーだった時は勝てなかったチームに、美貴がレギュラー落ちしたら勝てるようになった。
美貴が部活行かなくなってから、バレー部の成績が上がった。そういうことだよ」
こんなもの、嫉妬以外に何もない。
それはたまたまかもしれない、時の運だったのかもしれない。
それでも美貴は、ずっとずっと悔しくて、羨ましかった。
「……でも」
「…でも、何よ…」
「でもあたしは、みきたんがいないとヤダ」
「………………」
「みきたんのプレーが見たいよ…………」
「亜弥、ちゃん……」

涙を拭おうとしない亜弥に、思わず手が伸びそうになる。
でもそれをあえて留めて、俯く。

「…無理だよ、もう、戻れないよ………」

149 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時08分30秒
時間が、日が、経ちすぎてしまった。
美貴の素直じゃない性格は、その間に悪化してしまっていた。
もう、遅い。
けれど、亜弥は言う。

「…なんで? 遅くないよ……?」
「……」
「だってまだ、退部届はそこにあるもん。みきたんはまだ、部員だもん」
「……けど」
それで行けてたら、こんなに苦労しない。
亜弥を泣かせたりすることもない。
つられて泣きそうになる美貴を安心させるかのように、亜弥は一度涙を拭って、笑った。

「……あたしが、みきたんのきっかけになるよ」



150 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時09分30秒
美貴が部活に戻る、きっかけ。
そのきっかけを掴めず、きっかけが出来ても素直になれなかった美貴のきっかけに、亜弥はなりたいと言う。
分かっている、美貴も。
亜弥が、美貴が部活に戻れる最後のきっかけであり、戻れるきっかけを作ってくれた最後のチャンスであることも。――でも。
「……何言ってんのさ…今更、ノコノコ戻れるわけないでしょ…」
「じゃああたしがみきたんの背中押してあげる」
「…無理だよ」
「無理じゃないよ」
持っていた靴を置いて、美貴の背後に回る。
そして、背中を押すのだが、なかなか上手くいかない。
151 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時10分07秒
「美貴には、戻れる資格なんかないんだ。レギュラー落とされて勝手にむかついて、勝手に来なくなった奴なんだよ?
………亜弥ちゃんはそんな美貴のこと知らないから、好きとかって言えるんだよ…」
「…確かにさ、そんなみきたんの行動はすっごく子供っぽいと思う。
レギュラー落ちたらまた頑張ればいいんだし、諦めるなんてよくないよ? けどね…………けど…」
背中を押していた手を、下ろす。

「そんな弱いみきたんを、あたしが手助けしたげたいの」

バレーが好きなら、素直になってほしい。
バレーがしたいなら、させてやりたい。

「……それでもやっぱり、あたしはみきたんの役には立てない…?」



152 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時10分40秒
美貴は、何も言わなかった。
代わりに、落ちた靴を拾って、上履きから靴へと履き替える。

「…早く部活いきなよ。美貴と違って、亜弥ちゃんが戻って来るの、みんな待ってるんだから」
「違う。違うよみきたん」
みんなだって、美貴を待ってる。
美貴が幽霊部員になる前に使っていたロッカーにはまだ、【藤本】というプレートが残っているんだから――。

「みきたんっ」
呼んでも、叫んでも、振り向かない。
美貴はそのまま、外へと出て行ってしまった。
残されたのは、亜弥と、一枚の退部届。

その退部届を胸に抱いたまま、亜弥は、美貴の後ろ姿が見えなくなるまでずっと、外を見ていた。





153 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月16日(日)11時15分44秒
今日の更新は一応ここまで。

>>139
藤本さんはプライド高そうだったので、こんな役にしてしまいました…。
でも、松浦さんには優しいはずなので、きっと、気にしてるはずです。

>>140
そうですね、もうすぐ終わりです。
他のキャラとの絡みは、ありそうでないまま終わるような予感が(略
後もう少しなので、どうかお付き合いくださいませ。

>>141
自分も運動部でした。弱小だったんでこんな事はなかったんですが(T▽T)
松浦さん、こんな行動に出てみました。
チャーミーさんにも頑張ってほしいです(w
154 名前:17 投稿日:2003年02月16日(日)23時01分27秒
ここにきてだいぶ切ない。
そういえば、売り出し当時の松浦は、PVやドラマとかでも、
シュンとした顔を見せてましたよね。得意の膨れ顔(^^)。最近は元気一辺倒ですが。
今の状態は、LOVE涙色のPVに重なる感じですよね、と妄想。
155 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月16日(日)23時43分26秒
ここの藤本さんと松浦さん、すごく可愛くて大好きです。
設定はアンリアルだけど、リアルなふたりにより近く感じられるし、
今一番好きな小説です。
この次の展開がどうなるのか、続きも楽しみにしてます、がんがってください!
156 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月17日(月)01時48分55秒
作者さんもですか〜。
なんか今回もみきてぃの気持ちわかるよぅ(T▽T)
確かに戻りにくいですよね…うん…戻りにくい。
でも好きですよね〜…
学生時代を思い出しますわ。
がんがれ、あやや…!
157 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時16分38秒
亜弥は次の日から、A組の教室に行くのをやめた。
もう、作戦じゃない。
美貴が来てくれるのを信じて、行くのをやめた。
行っても多分逢ってくれないだろうということは考えられたし、もう、言いたい事はすべて言えたから。
美貴に逢いたい気持ちはいっぱいあったけれど、ぐっと我慢した。
色んな事も考えたけど、嫌な事はすべて練習で打ち消した。

体育館にたまにやって来る、人。
人が来る度にいちいち反応して振り向いていたが、亜弥が望んでいる人は一向にやって来ない。
やって来るのはよっすぃーのファンだったり、もうすぐ大会が近いバレー部を見に来る先生達だった。

考えないようにしていても、やっぱり美貴が来ないと落ち込む。
明らかに元気のない亜弥を心配してか、亜弥と同級生の辻希美ことののがてへてへとやって来る。
「あ〜やや! 一緒にサーブ練習しよ〜」
「…あ、ののちゃん。うん、しよう」
笑うと八重歯が見えるのの。
彼女も亜弥と同じで、先輩達に可愛がられていた。
背は小さいけれど、1年生でバレー部の正セッターとして活躍している実力派でもある。
亜弥は、部活だとチャーミーやよっすぃー、そしてののと一緒にいる事が多かった。
158 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時17分23秒
ののの説明は少し説明足らずで分かり難かったけれど、それでも初心者の亜弥に嫌な顔せず教えてくれる。
よっすぃーと同じくののはレギュラーなので、あまり一緒に練習出来る時間はなかったのだけれど。
今日は試合形式の練習がなかったため、体育館の端っこで2人、仲良くサーブ練習。

「あややさぁ、すっごい上手くなったよね〜」
亜弥のサーブ練習を隣で見ていたののが、感嘆の声をあげる。
お世辞を言える程、ののはトークは上手くない。
「やっばい。のの、ポジション取られちゃうよ」
冗談めかして笑う。
「…あはは」
取るも何も、あややはセッターは無理だね、と能力を見て最初にコーチに言われたところだ。
「……でもさぁ」
「ん?」
「やっぱりさ、自分がずっと頑張ってきたポジション取られちゃったら、悔しい?」
「…あ〜、そりゃ、やっぱりそうでしょ」
中学はテニス部だった亜弥は、周りにめちゃくちゃ上手い子がいなかった為、そんな経験がない。
159 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時17分55秒
「ののちゃんは、そんな経験ある?」
「あるよぉ。小学校からずっと続けてるから、一回や二回だけじゃなくいっぱい」
外見からでは見えないけれど、内面ではすごく苦労してきたんだろう。
「でもさ、そんな事があったから、もっとがんばろーっ、うまくなろぉーっと思って、
今、こうして1年生でゆいいつレギュラーもらえてるし」
「……そうかぁ」
「途中であきらめて辞めちゃった子もいっぱいいたけどね」
実力世界の競争で疲れてしまったのかもしれない。
ののは1年生だから、途中で諦めてしまった美貴とは逢っていないから、知らない。
「……そういう人は、諦めないで一生懸命頑張ってるののちゃんからして見たら、どう思うの?」
「えっ……う〜ん」
ボールを抱いて、ちょっとの間考える。
しかし、あんまり頭を使う事が嫌いなのか、出て来るのは簡単な答え。

「やっぱり、バレーボールが好きなら、続けてほしいな」


160 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時19分00秒
――その一言で十分だ。
好きだからこそ、頑張ろうと思える。

「別にさぁ、プロ目指すまではいかないとしても、レギュラー落ちして嫌な気分のままバレー人生終わってほしくないなぁ。
だってバレーは、楽しいもん。苦しい時もあるけど、楽しいもん。だから、バレーは楽しいまま終わってほしい。
ののもいつ、どういう形でバレー辞めるかわからないけど、最後は、そういう終わり方したい」
「…そうだね。あたしも……」
みきたんに、そういう終わり方をしてもらいたい。

「ののちゃんは、強いね」
そんな考え方が出来て。
「え〜っ、ののは強くないよぉ。でも、家族とか友達とかが応援してくれてるから続けれてる感じかな。
…あ、腕相撲ならすっごい強いけどね!」
いっぺんしてみる?と腕まくりして亜弥を誘うけど、亜弥はいいよいいよと焦って首を振った。
「なんで〜。いいよぉ、よっすぃーとしてくるから」
じゃあ後でね、と亜弥に手を振って、休憩していたよっすぃーの元へ駆けて行くのの。
そこでも断わられたのか、しっしっと追い返されている。
だが、諦めずまとわりついて、結局よっすぃーはののの希望通り腕相撲をしてあげる。
161 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時19分50秒
勝負は一瞬だった。
ののの勝ち。
ののは、とっても楽しそうに笑っていた。


美貴は、ののと比べて弱い。
だからその分、ののの倍以上に応援をしてあげればいいんだ。
足りないかもしれないし、頼りないかもしれないけれど、少しでも美貴の役に立ちたい。

人をこんなに好きになれたのも、人の為にこれほどまで何かしてあげたいと思ったのも、亜弥にとっては初めてだったんだ。


162 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時20分28秒


それでもやっぱり、終わり、というのはやって来る。
そしてその終わりは、予想以上に早そうだった。

大会の予選での抽選で、亜弥達が所属するバレー部は、前回ベスト4の超強豪チームに当たってしまったのだ。
亜依と違い、運は最強に悪かったらしい。
運の悪い事はまだ続く。
部のエースのよっすぃーが最近にして、膝を故障してしまったのだ。
出場出来ない程ひどい怪我ではないものの、実力を十分に出し切れていないのは初心者の亜弥から見てもすぐ分かった。

「とにかく、精一杯やろう。精一杯、自分達のバレーを楽しもう」
いくら相手が最強のチームでも、簡単に引き下がるわけには行かない。
勝つのがそれは一番いいが、みんなに取って一番いいのは、バレーを楽しむ事だった。
監督である中澤は、対戦相手が決まってから毎日のように部員達にそう言っていた。

163 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時22分26秒
>>162
ごめんなさい、コピペミスです。
その前に↓が入ります(汗
164 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時23分09秒


最近、放課後になるとA組の生徒は元気がない。
誰かがドアを開ける度にぴくっと反応するものの、違うという事が分かるとがっくり肩を下ろす。
A組の美貴はというと、そんなクラスメイト達には気付かない振りをして、テニス部に向かう亜弥と教室の前で別れる。
あれから、クラスメイトも美貴を止めることはしなくなった。
本気で怒った美貴が怖いから、という理由もあったけれど、一番の原因は止める必要がもうなくなったからだ。
いくらA組のクラスメイトが待っていても、亜弥は来ない。

放課後1人で廊下を歩くのも、慣れてきた。
…いや、最初は、1人だったんだ。
こないだまでは後ろに横に、亜弥がいたから。
今度はもう、振り返って確かめたりもしない。
機嫌が悪いというよりも、どこか元気がない様子で美貴は、いつもの靴箱まで到着する。

靴を確認する。…大丈夫、ちゃんとある。
靴がない事を期待していた自分がいて、嫌になる。
嫌な気分のまま乱暴に靴を取って地面に放り投げると、同時に一枚の便箋が落ちてきた。
「……?」
165 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時23分46秒
ピンク色の、便箋。
とっても女の子らしいその便箋は、美貴の脳裏にある女の子を連想させた。
可愛いハートのシールで止めてあったそこを、ゆっくり開けてみる。
中には、一枚の白い紙があった。

「――――ずっと待ってる、がんばれ」

たったそれだけ。


「……バッカじゃないの?………」


だから、もう、戻れないって言ってるのに。
最後まで諦めず、自分を応援してくれるこの手紙。


「…違う。バカは、美貴の方か…………」


呟いて、手に取ったそれを、大事そうにブレザーのポケットに入れる。

それから毎日、たったその一言が書かれた手紙が、美貴の靴箱に入れられていた。


166 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時24分24秒
それでもやっぱり、終わり、というのはやって来る。
そしてその終わりは、予想以上に早そうだった。

大会の予選での抽選で、亜弥達が所属するバレー部は、前回ベスト4の超強豪チームに当たってしまったのだ。
亜依と違い、運は最強に悪かったらしい。
運の悪い事はまだ続く。
部のエースのよっすぃーが最近にして、膝を故障してしまったのだ。
出場出来ない程ひどい怪我ではないものの、実力を十分に出し切れていないのは初心者の亜弥から見てもすぐ分かった。

「とにかく、精一杯やろう。精一杯、自分達のバレーを楽しもう」
いくら相手が最強のチームでも、簡単に引き下がるわけには行かない。
勝つのがそれは一番いいが、みんなに取って一番いいのは、バレーを楽しむ事だった。
監督である中澤は、対戦相手が決まってから毎日のように部員達にそう言っていた。
167 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時25分01秒
そして、とうとうその前日まで来る。
美貴は一向に姿を見せなかった。
美貴がいないまま、最後のミーティングへと移る。

明日の時間やスターティングメンバー、色んな事が発表される。
それをみんなしっかりとメモして、お疲れ様でしたと頭を下げる。
今日の練習は終わりだ。
みんな明日の為に片付けをして、帰って行く。
亜弥も帰ろうと腰を上げた時、監督に
「松浦、ちょっと」
と呼ばれた。

呼ばれた内容は大体分かっていた。
中澤が何か言う前に、亜弥は深く深く頭を下げる。
「…すいませんでした」
自分から志願したのに、美貴を部活に戻らせる事が出来なくて。
「いいから、頭あげぇや」
優しいその声の言う通り頭を上げると、優しい顔して笑っている中澤。
「……なんやぁ、松浦は、諦めたんか?」
美貴がここに戻ってくること。
「諦めてません」
「そやったら、頭下げんでいいやん」
「でも……」
3年最後の練習にも姿を見せてくれなかった。
168 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時25分55秒
「まだ、部活は終わってないで。引退だってしてない。まだ、試合があるやん」
「…はい」
「頭下げるのは、その試合にこんかった時にしてな」
わははと笑って亜弥の頭をめちゃくちゃ撫でてやる。
不覚にも亜弥は、泣きそうになった。
「松浦にはつらい役を押し付けてもうたなぁ。…監督はアタシやのに。……あぁ、そや。ホンマやったら、アタシが頭下げなあかんのか」
「だいじょぶです。頭下げるのは、試合に来なかった時にお願いします」
「なんやとこの〜」
生意気に真似した亜弥の頭をさっきより更にめちゃくちゃにして撫でてやる。
キャーと悲鳴をあげたものの、亜弥はちっとも嫌じゃなかった。

「じゃあ、明日、待ってるから」
「…はい!」
「お疲れさーん」
「お疲れ様です!」

分かっている。中澤が誰を待ってるのか。
諦めてない。それは亜弥だけじゃなく、中澤も同じだった。



169 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月17日(月)13時35分32秒
ここまでです。多分きっと、次でラストです。
なのに、ミスをしてしまいました…

>>154
急に雰囲気を変えてしまい、申し訳ない。
自分でもどうしてこんな風になってしまったのかと首を傾げてます(w
LOVE涙色…懐かしいですね、その頃の松浦さん、大好きでした。もちろん、今もですが。
でもやっぱり、松浦さんの顔で一番好きなのは、藤本さんと2人でいる幸せそうな顔の時、でしょうか。ヲタとしては。

>>155
どうもありがとうございます。やっぱり、可愛いと言ってもらえると嬉しいです。
リアルでも、松浦さんに頑張ってほしい感があったので、アンリアルでこんな風にしてみました。
ここの掲示板での『あやみき』は、全部チェックしてるつもりなんですが…
同じあやみき作家さんに褒めてもらい、喜びまくってます(w

>>156
運動部といっても、実はバレー部と全然関係のない部活でした(汗
そんな奴が書く話なので、どこかおかしい点が出て来るかもしれませんが、応援宜しくお願いします。
松浦さん、頑張ってもらいます。

170 名前:17 投稿日:2003年02月18日(火)00時01分10秒
クライマックスですね。ひたすら次を待ちます。
171 名前:チップ 投稿日:2003年02月18日(火)02時50分19秒
終わっちゃうのはなんか淋しいけど・・・
ミキティが素直になれることを(色んな意味で)願いつつ
ラストも楽しみにしてます。
172 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月18日(火)03時50分24秒
えぇ〜っと自分もバレー部じゃないっす(w
ですからご安心を…?!w
次がラストですか〜、終わっちゃうのは悲しいですがみきてぃが素直になることを期待しつつ…!お待ちしてます


あ〜結局まだPCなおらないです(--;)
173 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時43分02秒


試合会場まで来ても、美貴の姿はない。
亜弥は誰にも気付かれないように、こっそりと溜息をついた。

174 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時44分23秒
続々と集まる選手達。
スタメンのメンバーだけでなく、補欠の面々も各自、ウォーミングアップをしている。
その中で、チャーミーと何か会話をしているよっすぃーを発見する。
どうやら、故障した膝の話をしているようだ。
チャーミーの表情は自分が怪我しているみたいに痛そうなのに、よっすぃーはひたすら笑顔。
その笑顔がなんだか、余計に痛々しく見えた。

膝を怪我してしまって一番つらいのは、監督やコーチでもない。本人だ。
自分がみんなから便りにされていることも知っていたし、何より相手は強豪だ。
こんな所でまだ3年生とは別れたくない――。
だからこそ頑張ろう、とするんだけど、それが余計よっすぃーの膝に負担をかけてしまっていた。
マネージャーであり、小さい頃からずっと一緒にいたチャーミーは、そんなよっすぃーが心配で心配で仕方なかったのだ。
よっすぃーはそんなチャーミーを安心させる為に、笑顔を作る。
175 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時45分16秒
「だーいじょうぶだって梨華ちゃん。こんなの、ほんと、何でもないから」
「でも…」
「大丈夫! 梨華ちゃんにはまだ、マネージャー続けてもらうからね」
チャーミーも美貴と一緒で大学進学組。
いつまでもマネージャーを続けているわけにもいかない。
まだ残ってマネージャーを続けていたかったが、さすがにそれは親が許してくれなかった。

「勝つよ」

諦めないのは、誰だって一緒だ。
誰だってその気持ちは、一緒だった。

176 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時46分01秒
けれど、相手は強かった。
それでもなんとか踏ん張って踏ん張って1セットを取ったけれど、2セット目は25-18で取られてしまった。
セットが終わるにつれて、接戦になるにつれて、よっすぃーのパワーはどんどん落ちてきてしまっていた。

「……おい。お前ら、身体動かしとけ」
静かな中澤の声に、残念ながらレギュラーじゃなかった三年生達が動く。
最後の試合、少しでもみんなを出してやりたいという、中澤なりの優しさだった。
諦めたわけじゃない。
けれど、それ以上に、部員みんなが楽しんで悔いの残さないバレーを、このチームは目指していた。

次々と交代して入れ代わる部員達。
だが、やはりエースであるよっすぃーはなかなか代えられない。
よっすぃーは、誰から見てもつらそうだった。
それでも頑張って頑張って、トスが上がったボールを相手コートに叩きつけている。
177 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時47分03秒
「あとは? もう、誰もおらんか?」
3セットの終わり近く。
中澤がみんなを見渡して言うが、みんなは悔いの残ってない、清清しい顔をしている。
「でも……」
「ん?」
「ミキティが、まだです」
3年の部員が、全員頷く。
仮にも、1年半一緒に同期としてプレーしてきたんだ。
使っていたロッカーだってそのままにしてある。
みんな、忘れるはずなんてなかった。

「あたし、見てきます!」
いてもたってもいられなくて、亜弥が飛び出す。
誰も、そんな亜弥を止めなかった。

178 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時48分11秒
美貴の家も知らない。美貴が休みの時、何処で何しているかも知らない。
でもここで待っていれば、美貴に逢えると思った。
体育館の前で亜弥は、美貴が来るのをずっと待っていた。

家なんか知らなくても、美貴がずっと、部に戻りたかったのを知っているから。
休みの時何処で遊んでいるのか知らなくても、美貴がずっと、バレーが好きだったのは知っているから。

待っていれば、逢えると思った。
そしてそれは、そのとおりになる――。

初めて逢った時には幾らか長くなったサラサラな髪を揺らしながら、美貴が亜弥の目の前へ。
ここまで走って来たのか、息は大分切れている。

「…みきたん、遅い」
「…だから、走ってきたんだよ」
「それでも、遅いよ」
「………うん」

後の言葉は続かない。
今度は美貴が言う。
179 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時49分46秒
「…………おせっかいなんだよ、亜弥ちゃんは」
「…そうかな」
「わざわざ、ユニフォームも机の中に入れて、紙には場所とか時間とかも書いちゃってさ。行かないって言ってんのに」
「だってみきたん、素直じゃないから」
「……うるさいよ」

照れくさそうに笑う美貴。
そんな可愛い笑顔を亜弥は、久しぶりに見た気がした。

「…ずっと待ってた」
「うん」
「ずっとずっと、逢いたかった」
「うん」
「ずっとずっとずっと、応援してた…」
「………うん」

美貴の瞳が優しくなる。
美貴の顔が、屈託なく笑う。

「亜弥ちゃんのおかげで美貴は、ここに戻って来ることが出来た」

ずっとずっと戻りたかったところ。
ずっとずっと入りたかったところ。
勇気を出せなくて、弱かった美貴に、届けられた強い応援。

「……がんばって」

美貴に負けないくらいの笑顔で亜弥は、そっと美貴の背中を押した。

最後の応援。
それに応えるかのように、背中を押された美貴は、走って体育館の中に入って行く。
その後ろ姿を見て亜弥は、もう一度笑って、美貴の後ろについていった。

180 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時51分18秒
「今までずっと顔を出さなくて、本当にすいませんでした」
戻ってくるなり美貴は、みんなの前で監督に向かって頭を下げる。
「本当に…本当に、すいませんでした!」
「……」
だが、中澤は無言だ。
怒るのも当然のこと。それは美貴も、十分分かっている。
「……まったく。最後の最後で戻って来るなんてカッコええ登場しやがって」
「…すいません」
「ここまで走って来たんか?」
「えっ…あ、は、はい」
「じゃあ準備運動はばっちりやな。…松浦からユニフォームもらって着てるか?」
「は、はい…制服の下に…」
「じゃあ、早く制服脱げ」
「で、でも」
「早くしろ! もう、時間ないねん!!!」
「はっ、はい!」
慌てて、同級生に手伝ってもらいながら制服を脱ぐ美貴。
美貴のユニフォーム姿を、亜弥は初めて見た。
その姿はとてもとても、カッコよくって。

「…交代や」
「へっ?」
「吉澤と、交代や」
「………監督」

同じポジションの2人。
そしてよっすぃーの体力はもう、限界だった。
181 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時52分24秒
「でも、美貴…部活行かなくなってから本当にバレーやってなくて――」
「藤本」
「…はい」
「……バレー、楽しんできぃ」

美貴の言葉を遮ってまで言いたかった言葉は、チームが目指している、目標としているバレーだった。


審判に交代を告げて、ブザーが鳴る。
交代を告げられたよっすぃーはとても悔しそうだったが、交代相手の顔を見ると、とても嬉しそうに笑った。

「……後は任せます、ミキティ」
「よっすぃー…」

バチン、と2人の手が合わされる。
よっすぃーの渾身の力はすっごく痛かったけれど、美貴は、そのおかげで素直になれた。

「…がんばるよ。美貴、がんばる」

182 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時53分42秒
バレー部へ行かなくなってからというもの、まったく練習をしていなかった美貴は、さすがに他の人と比べると劣っていた。
けれど、周りのメンバーが、うまくカバーをしてくれている。
トスを上げているののだって、美貴が打ちやすいように考えて上げてくれていた。

「みきたん……」

失敗しても転んでも、笑顔の美貴。
その顔は、とても楽しそうだった。
バレーボールという競技は、とてもとても楽しかった。
美貴は、バレーが大好きだった。

段々と思い出してきたのか、それとも、のののトスが素晴らしくうまかったのか、残念ながら亜弥に分からない。
だが、美貴のスパイクが、相手コートに綺麗に落ちたのは、はっきり分かった。
――スパイクが決まった。
瞬間、美貴は今まで一番嬉しそうに笑った。

その後すぐ相手に決められて、試合は終了してしまったんだけど。

183 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時55分19秒
**** ****


「やっぱ強かったね〜」
「うん、あれはやっばいよね。それに、顔もすっごい怖いんだもん」
「きゃははは」

自分達の学校に戻って来ても、みんなのお喋りは止まらない。
予選1回戦負けだというのに、この賑やかさはなんなんだろう。
みんなの顔は、とても充実していて楽しそうだった。
亜弥ももちろん、美貴も例外じゃない。

「けどさ、ミキティが戻って来た時は感動だったね」
「そうそうそう。涙出そうだったぁ」
「…嘘つけ。今頃なんで戻って来たんだとか思ってたくせに」
「何言ってんの。誰も、そんなこと思ってないよ。全部あんたの思い込み」
「………」
「それどころか、あんたが来なくなったから、よっすぃーなんか自分のせいなんじゃないかってすっごく落ち込んでたんだからね」
「あははは……」
話題を出されたよっすぃーはひたすら苦笑い。
美貴は、苦笑いしているよっすぃーを見る。
「ずっとずっと、気にしてたんだから」
「………ごめん」
レギュラーを奪われた自分の事しか考えてなかった……美貴は、謝る。
先輩に頭を下げられたよっすぃーは、慌てて言葉を出す。
184 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時58分06秒
「い、いいんですよもう。……だって先輩は、戻って来てくれたんですから。
それより、一番謝らないといけないのは、大会前に怪我なんかしちゃった自分で…」
「あ〜もう! よっすぃーは気にしすぎなんだっつーの!!!」
人には優しく自分には厳しい部のエース。
このままいくとまた落ち込んでしまうと察した先輩達は、無理やり話題を終了させる。
「もうこの話題は終わりね! それより監督〜」
「なんや?」
「お別れ会、してくださいよ〜」

パァっと焼肉に行こうじゃないか、と3年を中心に騒ぎ出す部員達。
その騒ぎにコーチの飯田も乗ってくれて、しかも部員達の味方までしてくれる。
「よーし、じゃあみんな今までよく頑張りましたってことで、監督の裕ちゃんのオゴリで焼肉食いにいこう!!!」
「はっ!? ちょお待て! なんでアタシのオゴリッ…」
「いえ〜い!!!」
異議あり、と言葉を発しようとした中澤を無視して、更に騒ぐ部員達。
1対大勢では、中澤に勝ち目はなかった。
185 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)16時58分51秒
「……そのかわり、専門店とかじゃなくて食べ放題のとこやで…」
「やったー! 監督大好きー!」
「…都合のええ奴らや…」
財布にカードが入っていることをしっかりと確認しながら。
でも、大好きと言われて、中澤も満更ではなさそうだ。
打ち上げが焼肉ということも決まって、部員達のお喋りは更に大きくなる。

……なのに、1人盛り上がらない人。
さっきまでの楽しそうな顔をなくして、どこか寂しそう。

「……じゃあ、美貴は、これで」
みんなから一歩下がって、中澤に頭を下げる。
「試合、出してくれてありがとうございました。すっごくすっごく、楽しかったです。
1年半部活でお世話になって、約1年……ご迷惑とご心配、おかけしました。ありがとうございました」
「はぁ? ちょっとミキティ何言ってんのよ」
「そうだよ。何帰ろうとしてんの」
頭を下げてる美貴の頭を無理やり起こして、詰め寄る同級生達。
「監督〜、この子こんなこと言ってますけどぉ」
「なんや。藤本は焼肉食べに行かんのか。あんた焼肉好きやったやん」
「…でも」
試合にまで出させてもらって、その上焼肉までご馳走になるのは、とっても悪い気がする。
なのに、みんなは優しい。
186 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時00分11秒
「アタシが奢るのは、バレー部のみんなやで。あんたも、まだ、部員やろ」
「そうだよ〜、幽霊だけどね」
「幽霊でももうちょっと頻繁に現れるよ〜」
「……みんな……」

責められても仕方がない。
怒られても仕方がない。

「……みんなは、怒らないの?」
「何を?」
「ずっとずっと来なかったのに、最後の試合だけ顔を見せた美貴……」
「そうだね。すっごい都合いいよね」
「だったら…」
「でも、みんな、待ってたもん。ミキティが戻ってくるの、待ってんだよ。だから、最後でも戻って来てくれて、すっごく嬉しい」
「……………」

みんな、優しすぎる。あったかすぎる。
最後のバレーを楽しく出来たのも、このチームメイト達がいたからだ。

187 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時01分27秒
「……悪いですけど、すっごい食べますよ?」
「おう。ええねん、食べ放題やから。食べてくれな困る」
「……ありがとうございます」
「礼は、アタシより違う子に言うた方がええんちゃう? それより、みんな、そろそろ食べ放題行くぞ!」
「お〜!」

ゾロゾロと部員達を引き連れ、食べ放題の焼肉屋へ向かうバレー部一行。
予約もしてなかったのに大人数入れたのは、運がよかったのかもしれない。
食べ放題という安い店で、お腹を空かせた女の子達は次々と腹に入れていく。
その食べる量、食べ方には、監督である中澤も苦笑するしかなかった。
同じ年頃の男の子を連れて行くより、女の子を連れて行く方が高くつくのかもしれない――。
それくらい、食べた。食べまくった。

特に食べたのは、のの。
ひたすら「肉、肉」と言ってウロウロ。
引退する先輩より先に肉を食べたりと、肉に対する執着心は怖いものがある。
だが、他のみんなだって負けてはいない。
時間終了となるまで、女の子達の箸は動きっ放しだった。
188 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時03分09秒
食べ終わっても食べる前も、女の子達のテンションは静まらない。
というか、どんどん高くなっているような気がする。
「次カラオケいこー!」
「ボウリングもいこー!」
「行きたいとこ言うのはいいけど、次は自腹やぞお前ら!」
まだまだ元気いっぱいな部員達。
だけど亜弥は、先程の焼肉を食べ過ぎたせいもあり、ちょっとこれからまた付き合うのが苦しくなってきた。
「……すいませんけど、あたし、ちょっと…」
これで、3年生の部員とはもう部活で逢えなくなる。
そう思うと少し悲しくなったが、もう逢えなくなるわけじゃない。
監督やコーチにお礼を言い、引退する3年生には頭を撫でてもらって握手をし、その女の子の群れを抜けて、1人帰る。
189 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時04分19秒


「は〜ぁ……」
さっきまではみんないた道を独りで帰ると、寂しい気持ちが込み上げてくる。
「やっぱり残ればよかったかな…」
そんな事も思うけれど、そうはしなかった。
本当かどうかは知らないが、自腹は嫌だったし、付き合うと遅くなるのが分かっていたから。

だが、寂しいのはそれだけじゃない。
今は独りでも、家に帰れば家族がいる。
賑やかさでは、部員達よりも負けていない。
家に帰れば消える寂しさもあれば、家に帰っても消えない寂しさが亜弥にはあった。

美貴が、部活に戻った。
美貴が、部活を引退した。

もう、亜弥が美貴に逢える理由がない。

190 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時05分04秒
好きだから、という理由で逢ってもいいんだろうか。
美貴に聞くのが怖い。
ダメと言われたら、どうすれば。
それに、これから受験勉強を始める美貴の傍にいてもいいのかも心配だ。

「…でも、戻って来てくれたし」
バレー部に。
「楽しそうに笑ってる顔、いっぱい見れたし」
……もう、それでいいや。

――なのに。

「亜〜弥ちゃん」

そんな風に呼ばれると、期待してしまう。

191 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時05分58秒
「金魚のフンが勝手にどこ行くのさ」
いつも後ろについてきた亜弥。
それが今は逆で、美貴が亜弥の後ろに。
「……みきたん、打ち上げは…?」
「っていうか、お金ないし」
どうやら本当に自腹だったようだ。
財布に少ししか入ってなかった美貴は、こうして亜弥と一緒に歩いている。

「……っていうか」
「…?」
「亜弥ちゃん、喋んないね」
話かけるのは、いつも亜弥からだった2人。
「どーしたの?」
無邪気に聞いてくる美貴が、恨めしい。
「……別に。なんでもないよ」
「…そ、っか」
それで、話は終わる。

駅までの道が、異様に長い。
早く着きたいけれど、着いてほしくない。
着いてしまえば、こうして美貴と一緒に並んで歩くのも、最後のような気がして――。
そう思っていると、急に横から足音がしなくなった。
192 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時06分30秒
「…みきたん…?」
振り返って呼んでみる。
美貴は立ち止まっていた。
亜弥が呼んでも、返事はない。

「……みきたん、どうし――」
「ありがとう」
「…へっ…?」
「戻るきっかけくれて、チャンスくれて、応援してくれて、本当にありがとう」
「…………みきたん」
「亜弥ちゃんがいてくれたおかげで、美貴は、バレーを楽しく終わることができた」

本当に、ありがとう。
美貴は、笑った。

193 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時07分09秒
………ダメだよ。そんな顔しちゃ。
もっともっと、好きになっちゃうよ。
壊れちゃうくらい、好きになる。

美貴の役に立てたこと。
それが、何より嬉しい。
自分がしたことによって美貴が笑ってくれたことが、亜弥にとって幸せだった。

「でもさ、亜弥ちゃん」
「…ん?」
「美貴が辞めても、バレー続けんの?」
「…あぁ」
亜弥のバレー入部のきっかけは、美貴。動機は不純。
それを最初に打ち明けていた亜弥を知っている美貴は、これから亜弥がバレーを続けて行くのか疑問だった。
「続けるよ? だってあたし、バレー好きだもん」
「…そっか。ならよかった」
美貴の笑顔は犯罪だ。
その笑顔のせいで、亜弥は何度も美貴を好きになってしまう。

このまま終わるのは、嫌だ。
もっとずっと、美貴の傍にいたい。
ただ単に好きだから、という理由でも、逢いたい。
…美貴はそれを、嫌がるだろうか?

194 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時07分48秒
「ねぇみきた…」
「それにしても今日の焼肉はおいしかったねぇ。もう美貴、お腹いっぱいだよ」
「……うん、そだね」
訊ねようとしたと同時に話が変わってしまって、亜弥の気分が削がれる。
それでもそれを悟られないように、美貴に話を合わす。
「焼肉、ほんっと好きなんだよ、美貴。何よりも一番好きかも」
「…うん、知ってる」
「…っていうか、ホント、どこでそんな情報手に入れてんの…」
「あいぼんのルートは、企業秘密なんだって」
「こわいなぁ」
そう言う割に笑顔な美貴。
今日はどうやら最高に上機嫌らしい。
「……あ、でも」
ふと、思い出したように言って、美貴がにやりと笑う。
「美貴も、亜弥ちゃんの一番好きなもの知ってるよ」
「え……?」
「――自分、でしょ」
当たった、と不敵な笑みを浮かべる美貴。
「……あはは、何それ。どこの情報?」
「その、あいぼんからの情報」
「あいぼんから?」
「なんか、いつも勝手に調べてて悪かった、って謝りに来てさ。
そん時、聞いてもいないのに、お詫びですわとかって亜弥ちゃんの情報をペラペラ喋ってった」
「……あいぼん…」
そんなこと亜弥は聞いていない。
195 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時08分38秒
「………でも、その情報、ちょっと古いよ」
「え、そうなの?」
「うん」
自分が一番好きというのは、確かに当たっていた。
でもそれは、過去のこと。
「…じゃあ…今の一番は、バレー…かな?」
「ブ〜」
「んんん……じゃあじゃあ…なんだ?」
「降参?」
「うん、まいった」
「っていうか、ちゃんと考えてる〜?」
「考えてるよぉ」
あっさりとまいった宣言する美貴がなんだかむかつく。
自分に興味がないのかと悲しくもなってくる。
それでも亜弥は、美貴に知ってほしかった。
196 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時09分16秒
美貴を部活復帰させるという目標は、果たせた。
だけど、もう1つの目標はまだ、果たせていない。


――――勉強して、絶対に受かってやる。
そして、憧れの制服で身を包み、あの人に告白する。


今まではずっと、体操服で美貴と逢っていた。
が、今は、試合も終わったということで、亜弥の憧れだった制服だ。
今こそ、目標を果たそう。
憧れの制服で身を包み、あの人に――美貴に、もう一度告白する。

「あたしが一番好きなのは……みきたんだよ?」



197 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時11分08秒
散々言ってきた言葉。好き。
今日程、真面目に言った事はない。
そして今日程、その答えを求めた事もない。

「亜弥ちゃん…」
「…ダメ、かな。やっぱ、ダメかな。迷惑かな…。
これからは、好きだっていう理由でみきたんの教室に行っちゃいけない? みきたんと一緒に歩いちゃいけない…?」
「…………」
「…出来れば、もう、はっきり言ってほしいよ」
「……分かった、はっきり言う」
「…うん」

目を閉じる。
大丈夫だ。覚悟は出来てる。

「……美貴が一番好きなのは、やっぱ、焼肉」
「……そっか」
「うん」
198 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時12分36秒
…あぁ、でも、やっぱりつらいな。
閉じた目を開けてしまうと涙が零れてしまいそうで、開けれない。

「………でもね」
「っ…?」
「でもさ、なんか自分の中でどんどんどんどん好き度が上がってくるのがあるんだ。
焼肉までとは行かないけど、正直、バレーより好きかもしれない」
「…それって」
「納得行かないけど、そういうことなんだと思う」
「……目ぇ、開けてもい…?」

もう抑えられない。泣きそうだ。
うん、と優しい返事をもらった亜弥は、ゆっくりと涙で潤んだ目を開ける。
199 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時15分01秒
「っく、……ぅー…」
「わぁ、な、泣かないでよぉ」
「だって…ング………嬉しいんだもん」
「で、でも、誤解しちゃダメだよ。一番じゃないんだかんね」
「うん」
「っていうか、一番になれないかもしんないんだかんね」
「うん」
「だって、焼肉よりおいしいもんってあんの?って感じだし」
あぁ、鮭とばがあった。と候補をあげる美貴に、もう1つ追加してみる。
「…あたしだって、食べたらおいしいかもしれないよ?」
「へ」
「一度、食べてみてよ」
「え、い、いや、ちょっと……それは」
「食べてみなきゃ分かんないよぅ」
「…………」

美貴になら、すべてをあげる。
美貴になら、食べられちゃってもいい。


200 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時16分51秒
「まずは、唇からでも……」
「や、ほんといいから」
「食わず嫌いはよくないよ?」
「わわわぁっ」

逃げようとするが、がっちりと亜弥に抑えられて動けない。
美貴の力弱い抵抗も虚しく、ちゅっという短い音と一緒に2人の唇は重なった。

「……えへへ、どうだった?」
「………わかんないよ」

――それくらいじゃ。

「じゃあ、時間かけてもっと…もっともっとしてもいいの……?」
「………その代わり、不味かったらもう食べないからね、その時点で」
「だ、大丈夫、顔だけじゃなくて、味にも形にも自信はあるから! …あ、そぉだ。胸の感触だけでも味わってみる?」
「いいいいいいよっ、っていうか、そこまで食べれないから!」
「うぅ、照れてるみきたん可愛い……」
「照れてるんじゃなくって、嫌がってるんだよ!」
「みきたぁん、大好きぃ〜はあとはあと
「だ、だから、人の話聞けってば!!!」



201 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時18分09秒



――美貴の一番好きなものが、“松浦亜弥”に変わるのは、多分きっと、もうすぐ……だろう。




202 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時20分31秒
川VoV从<ラスト隠し
从‘ 。‘从<エロ隠し
川;VoV从<エロなんかないよ!
203 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時22分14秒
从‘ 。‘从<亜弥と美貴が神隠し
川;VoV从<恐ろしいこと言うのやめて
204 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月18日(火)17時28分36秒
以上でこの話は完結です。
最後まで付き合ってくれた読者様、ありがとうございました。
書くところを提供してくださった管理人様、ありがとうございました。
私を最高に萌えさせてくれました、松浦さんと藤本さん、ありがとうございました。
これからもどうか、萌えさせてください。

>>170
最後までレスしてくれて、本当にどうもありがとう。
読者様のおかげで無事完結できました。続き、どうぞ。

>>171
淋しいとか言ってもらえて、嬉しいです。
ミキティ、素直になったでしょうか? なってたらいいな…(w

>>172
バレー部ではなかったのですか、じゃあ同じですね(w
分からないなりに一生懸命書いたのですが、どこかやっぱり間違っているかと思います…。
みきてぃ、どうでしょう。どうか、ご判断お願いします。
PC、お早い復帰を願っております。
205 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月18日(火)18時47分32秒
最初はコミカルな萌え話として読んでたけど、なんだか最後は胸が熱くなったよ。
作者さんありがとう、そしてお疲れ様。
また次回作で会えると嬉しいです。
206 名前:チップ 投稿日:2003年02月18日(火)18時48分07秒
ミキティもあややも…二人共最高だよ!松竹藤さんも最高!
メル欄で泣きました、泣きましたとも。
二人共カワイイなぁ畜生!(あ、勿論あいぼんやチャーミーも………)
素晴らしいミキアヤを、どうもありがとうございました。
207 名前:17 投稿日:2003年02月18日(火)18時57分24秒
作者さん、お疲れ様でした。くすぐったい幕切れ、ですねw。

あやみきを素材にして、アンリアルで青春映画・2時間ドラマ系の内容をやってくれた
パイオニアといっていいと思います。人々よ、後に続けっっ。
慣れないレスを続けたのも、絶対に消したくない方向性だな、と感じたからです。

四期オーディション組がキャストの中心なので、作品全体の雰囲気自体も軽やかでした。
登場人物が全員いい人で、対立がないのは、賛否があるでしょうが、作者さんの意図は、
とにかくあやみきに集中したい、ということでしょうw。
二人の攻防を永遠に見てたかった私はちょっと頭がおかしいですが・・。

どうもありがとうございました。
208 名前:155 投稿日:2003年02月18日(火)22時04分12秒
完結、お疲れ様でした。

松浦さんの一途さがとても可愛く表現されていて、
更に、藤本さんの素直じゃないのに憎めない一面も何故か魅力的な、
とてもとても楽しくて面白い小説で、
本当に、毎回の更新を心弾ませながら読んでいました。

途中、松浦さんが藤本さんに拒絶されてしまった辺りでは胸が痛くなりましたが、
曖昧にせずに丁寧な書き方でお互いの気持ちも昇華させてあって、
詠み終えた今、とても爽やかな余韻に浸っています。

また、次回作などあれば、そちらでお会いできることを楽しみに待ってます。
209 名前:LVR 投稿日:2003年02月19日(水)07時45分33秒
一気に読ませていただきました。
本当に面白かった……。
天真爛漫な松浦さんの喜怒哀楽の変化が凄く可愛かったです。
上手くいくのかなと思ったら悪い方向に進んだり、
逆に上手くいかないなと思っていたら、松浦さんの持ち前の明るさで切り抜けたり、
と、ストーリーの起伏にも引き込まれました。
新作読みたいなー、とか言い残しながら(w 物陰より見守っております。
面白い話ありがとうございました。
210 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月19日(水)22時26分55秒
最終回にして、やっと本日PCが戻りました(^^;
とても良かったです、松浦さんらしさが一番あったような気がします。
スラスラと読みやすく、とても尊敬しますw
運動部とかに入っていても、経験してないと書き難い部分ありますが
全然感じませんでした。(自分は)
藤本さんもやはりここのように憎めないんでしょうね〜松浦さん。
自分もです(笑)また次回作がありましたらお会いしたいです。
とても良い作品ありがとうございました。
211 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月20日(木)23時02分04秒
たくさんのご感想、ありがとうございます。

>>205
最後まで読んでくれてありがとうございました。
自分も当初は萌えに追求しようとばかり思っていたのですが、いつのまにやら…。
それでもスラスラと最後まで書けたのは、やっぱり松浦さんのキャラのおかげだと思います。

>>206
最後まで読んでくれてありがとうございました。
メル欄…な、泣かすようなこと書いてましたか?(汗
こうして作品を書かせて頂いて、自分がやっぱり嬉しいのは読者様のレスと、
一生懸命書いた自分のキャラを「可愛い」と言ってもらえる事です。どうもありがとう。

>>207
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
17さんのレス、非常に嬉しいです。同時に、褒めすぎで恥ずかしいです(w
慣れないレスを、毎回続けてくれて、本当にありがとう。すっごく嬉しいです。
そして、17さんに言われ読み返してみると、4期オーディション組ですね……そういえば。
それに、意図、完璧に当たっててびっくりです(w
212 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月20日(木)23時04分09秒
>>208
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
泣いてもいいですか。喜んでいいですか。サインもらっていいですか(爆
幸せすぎて氏にそうです。貴方様のあやみき作品、ここに来るといつもいつも読み返してる自分です。
とにかく、読んでくれた方に、少しでも松浦さんと藤本さんを好きになって頂けたらなぁと思い、書きました。
結果、皆様から好意的な意見をいただけて、すごく嬉しいです。

>>209
最後まで読んでくれてありがとうございました。
松浦さんの喜怒哀楽は、書いててものすごく楽しかったんです。松浦さんよりもハイテンションでした。
これを書いてる時のBGMは常に桃色片想いだったので、自身の精神状態がおかしかっただけかもしれませんが(w
ストーリーの方もなんだなんだと読み返して見れば変なとこだらけですが、
楽しんでもらえたようで、安心しています。ありがとうございました。
213 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月20日(木)23時05分42秒
>>210
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
PC復活、おめでとうございます!
松浦さんのビデオを見返して、少しでもリアルに近くなるように、努力しました。
なので、そう言ってもらえると、嬉しいです。
悔やむのは、やっぱりもう少し部活の事を調べてから書けばよかったな、と。
まだまだ精進が必要です…。


次回作の事なのですが、今のところはまだ未定です。
しかし、そのうちひょっこりと姿を現すかもしれません。
その時はまた、どうかよろしくお願いします。
……次は、もっといいHNを考えよう。
214 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時50分54秒
あたし小川麻琴は、昔から普通の女の子とはちょっと違った。
そしてそれは、今も同じ。
215 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時51分29秒
「あの人、カッコいいよね」
「あのコ、可愛いよね」

女の子達がそう言う先には、男の人。男の子。
だけどあたしがそう言う先には、女の人。女の子。
……ようするにあたしは、人をいいな、と思う対象が、同性みたいなのだ。
もっとも自分ではそれが普通だから、他の子がそう言うのが信じられない。
でも相手もそれは一緒で。…というか、それは認めてくれないみたいで。
親も、友達も、法律も。
普通の女の子ではないらしいあたしは、じゃあどうすればいいのか。
認めてくれないこの感情を変えることなんて出来ない。だってあたしの中ではそれが当たり前だから。

こんな苦しみを背負っているのはあたしだけなのかな。
そう思って、図書室のパソコンで四苦八苦しながら色々探してみた。
すると、仲間はたくさんいたみたいで。
なんだか自分の居場所を見つけたみたいで、それから毎日、自分の家にパソコンがないあたしは、
インターネットをする為に図書室へ通った。
216 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時52分40秒
インターネットに毎日アクセスする為に、部活を休んだ。
インターネットに毎日アクセスしている内に、いちいちキーボードを見なくても打てるようになった。
そして、インターネットに毎日アクセスする為に図書室へ通っていたら、友達も出来た。
友達の名前は、紺野あさ美ちゃん。
なんだか見た目優等生で大人しそうだから、てっきり、難しい本でも読んでんのかな、
と敬遠しがちだったんだけど、彼女は違った。

217 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時53分46秒

―――
―――――

いつものように授業をすべて終わって図書室へ向かっていると、何冊も本を抱えたあさ美ちゃんの後ろ姿。
その頃は名前も知らなかったから、あぁいつも図書室にいる人だ、と思っていて。
適当に「こんにちは」とか言って早く図書室へ行こうと駆け足気味になったら、軽く肩がぶつかったみたいで、あさ美ちゃんは本を床に落としてしまった。
「ああっ、ご、ごめんなさい!」
慌てて拾おうとするあさ美ちゃん。
けど慌てて拾おうとかがんだら、まだ落ちずに腕の中に落ちてた本まで落ちちゃって…。
原因を作ったのはあたしだし、まさかそのまま放置ってワケにはいけなくて。
散らばった本を手に取って渡そうとしゃがんだら、――無数の漫画本。

「あれっ?」
…もしかしてこれは、違う人が借りた本が混じってたりする?
喋った事がなかったあたしのあさ美ちゃんに対する印象は、“いつも難しい本ばかり読んでる子”。
だけど床に散らばってる本は、“すべて漫画”本。
「これ、あなたが借りた本?」
落ちた本の中の1つを、手に取って尋ねてみる。
「そ、そうです…。というか、落ちたの全部…」
「えっ……っていうか、これ全部借りてんの?」
218 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時54分37秒
「だ、だって…昔のだから本屋中捜してもなくて、どうしようって思って最後の望みかけて図書室で問い合わせたら、
先生がわざわざ取り寄せてくれたみたいで、しかも30巻全部揃ってて、誰かに借りられる前に全部借りなきゃ!って思って……でも、重くて……」
…そりゃ、漫画本でも30冊もあれば重いよね。普通。
っていうか、先生もわざわざ全部で30巻ある漫画本を取り寄せたの?

「……ねぇ、もしかして、いつも図書室来てたの、漫画読むため?」
「えっ、なんで知ってるの!?」
「……もしかして、うちの学校の図書室に漫画ばっかり置いてあるのは、あなたに甘い先生のせい……?」
「…………たぶん」
「………ぷっ」
「な、なんで笑うの〜?」
「…っはは、…いや、ごめん。こっちの勝手な勘違いだった」
「………?」
見た目優等生で大人しそうに見えても、難しい本が好きってわけじゃない。
人は見かけで判断しちゃいけません。
それが、よく分かった気がする。
219 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時55分22秒
「それより、紙袋とかないの? このままじゃまた誰かにぶつかって落としちゃうよ」
「…あ、だから今から職員室にもらいに行こうかなって」
「…もぉ、だったら本を一旦図書室で預けといてから取りに行ったらよかったのに」
「あ…」
「とにかく、もう一回図書室戻るよりか職員室のが早いし、いこ?」
「え、あ、い、いいよっ。私持つから…」
「いいよ。…重いんでしょ?」
「……うん」
「だったら半分こ。ね?」
「ありがとう……」
「いえいえ。………あ、っていうか名前は? あたし、3年1組の小川麻琴っていうんだけど」


―――――
―――


220 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時56分56秒


…っていう感じで、初めて話した2人。
それから意気投合したあたし達は、放課後図書室で毎日くだらないことを話してる。
…でも、あさ美ちゃんと話していると、インターネットをする時間がなくなる。
家にある人はいつでも出来るけど、家になく図書室にあるパソコンには、6時まで、という限定があるのだ。
だけどあさ美ちゃんと話していると、不思議とインターネットをしたいとは思わない。
部活や普通の友達の時と放課後喋っている時は、早く終わらせてインターネットをしたいと思っていたのに。
自然と冷めちゃったのかな……いつのまにか図書室は、インターネットをする為じゃなく、
クラスが違うあさ美ちゃんと話をする為の部屋になっていた。

「それでね、昨日深夜のアニメでね…」
「またアニメの話〜?」
「いや、そのアニメおもしろいんだよ。主人公の女の子が……」
真剣な顔して、設定や物語を説明してくれるあさ美ちゃん。
正直な話、アニメよりドラマの方が好きなあたしにとってはあまりおもしろくないんだけど、
アニメの話を一生懸命話してるあさ美ちゃんの顔がおもしろくて聞いている。
221 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時57分31秒
……あ、いや、別にバカにしてるってワケじゃなくて。
なんていうんだろう。
上手く説明出来なくて困っている顔とか、思い出して楽しそうに笑ってる顔とか、コロコロ動く表情。
……オモロイ。タノシイ。カワイイ。――イトオシイ。


――あたし、あさ美ちゃんのこと好きかもしれない。


…ふと、そう思った。
…でも、すぐに首を振って否定する。
みんなに認めてもらえない恋なんか、つらいだけ。
つらいなら、しない方がいい。
気付かず、こうやって無邪気に楽しんでいる今があればいい。
そう、考え直す。

222 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時58分46秒


だけどあたしは、失敗してしまった。
いつもの様にあさ美ちゃんと話そうと図書室へ向かったら、そこにあさ美ちゃんはいなくて。
そういえば委員会があるって言ってたな……思い出して、それまで漫画でも読んで暇潰そうと思っていたんだけど、
なんだかあんまり気分が乗らなくてすぐに漫画を閉じる。
けど暇なのは相変わらず変わらなくて。
それじゃああさ美ちゃんが来る間何してよう……そう思った先に、パソコンがあった。

この学校は金持ちなのか、何台か図書室にパソコンがあって。
あたしはいつも、端っこのパソコン。
誰にも見られないように、見つからないように、履歴も消して、ひっそりと。
だけど元々図書室というあまり人が来ない場所。
どちらかというと、ネットより外の世界のが楽しいという子が多いこの学校では、ここのパソコンを使う人は、限られてるみたいだ。
あさ美ちゃんと話してる時、横目でチラッとパソコンを見ても、あたしがいつも使っていたそのパソコンはいつも空いていた。
……久しぶりに触ってみようか、ちょっとだけ。
ちょっと、見るだけ。
223 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)12時59分28秒
あさ美ちゃんが来たら、ブラウザを閉じればいいだけ。
どうせ使ってないこのパソコンの履歴は、明日消せばいい。
色んな事に対する対処法を考えながら、あたしは以前のようにそのパソコンの前に座った――。


忘れているかと思ったキーボードの文字の場所も、勝手に手が動いてくれる。
忘れているかと思ったお気に入りのHPのアドレスも、毎日欠かさず行っていたということもあり、頭で知らず知らずの内に暗記していた。
そして、忘れていたネットの世界。
いつもアニメの話ばかりに耳を傾けていたあたしには、久しぶりに見た同性愛の人の想いや体験談の文字が、楽しかった。
これほど、自分と話が合うのは、ネットの世界くらい。
あたしはあさ美ちゃんが来るのも忘れ、大好きなHPの掲示板に書かれている色んな事に、今まで見てなかった分を取り返すかのように必死で見ていた。
224 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)13時00分26秒
…でも、結局それはネットの世界。
あたしはすぐに、現実に引き戻される。

「あ、まこっちゃんいた!」
「うわああ!?」

急にかけられたその声に、マウスに置いていた手に力が入り、何かをクリックしてしまう。
「……あ、パソコンやってたんだ。前いつもやってたもんね。…ところで、いつも何見てたの?」
屈託ないその笑顔で、いつの間にか画面を覗き込まれる。
そこに、最大で開かれた、窓。
クリックした何かとは、掲示板に“いい画像見つけたよー(^O^)”と書いてあり、
親切に直リンしてくれた、映画のシーンでキスしてる女の人同士の画像だった――。

225 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)13時00分59秒
人間、思った通りに動ける人って少ないと思う。
あさ美ちゃんが来たらすぐにブラウザ閉じようと思っていたあたしも、その1人。
一瞬、不覚にもその画像に興奮してしまった自分がそこにいた。
だけどすぐに閉じて見ると、そこにはいかにも怪しいHP名。
………もう、固まるしかなかった。
言い訳も、思いつきそうになかった。
どうしようもなかった。

引いちゃうかな。引いちゃうよなぁ。

何処かに冷静な自分がいて、なんだか哀しくなる。
そんなに冷静になれるんなら、いい言い訳でも思いついてくれたらいいのに…。
結局あたしは、黙って、あさ美ちゃんの反応を待つだけ。
元々反応の遅いあさ美ちゃんだけど、今回はさすがにいつもの倍以上遅い。
…それとも、驚いて声でも出なくなっちゃったんだろうか。
恐る恐る振り返って見たら、あさ美ちゃんが言った。
226 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)13時02分27秒
「まこっちゃん、百合系に興味あるの?」
「――はっ?」

百合系? なんだ? 花?

「でも、意外だったなぁ。まこっちゃん、同人好きだったなんて」
「……ど、どうじん?」
何? 同じ人ってこと? は?
「ジャンルってこの画像からすると芸能? っていうか、この人なんていう芸能人? 私あんまりそっち方面は見なくて…。
私がいつも見てる同人サイトは、やっぱりアニメとかになっちゃうんだけど」
「………」
なぜかやたら嬉しそうにはしゃぐあさ美ちゃん。
なんか、すごい仲間を見つけたような目をしてる。
227 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)13時03分08秒
「私の周り、絵とか描く子はいるんだけど同人やってる子とかほんといなくて。
でも、まこっちゃんが興味あったなんてビックリしたよ。ジャンルは違うけど、私、別に百合嫌いじゃないし」
「いや、あのっ……」
「ノーマルとかのがひどい時あるもんね。それだったら百合とかやおいとかの方がいいよね。
あっ、でもさすがに百合とかやおいは私描けないけど……」
「はあ、そうなんだ……」
「そっかぁそっかぁ。まこっちゃんいつも私がアニメの話してる時興味なさそうにしてるのは、芸能の方だったからなんだね」
「だから、その……」
何をどう、勘違いしてるのか知らないけど。

「――ゴメン。あさ美ちゃんの言ってること、まったく意味わかんないんだ」
「えっ?」
228 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)13時03分40秒
…って、意味わかんないのはあさ美ちゃんの方か。
案の定、口パクパクさせて「だってあの画像…」とか言って困ってる。

「百合とか同人とか、意味がちょっと不明だけど……多分あさ美ちゃんが思ってるのとは違うと思う。
……あたし、あの画像とか見て、楽しんでるんじゃないんだ。……興奮してるんだよ、女同士のキス画像見て」
「も、萌えてるんじゃなくて…?」
「萌える…? いや、まあ…その表現自体よく分かんないんだけど…。
ようするに、趣味で見てるんじゃないんだよ。だから、楽しんでるんじゃない。
――――あたし自身なんだよ、このHPは」
「え…このHPって……」

「レズビアンの人が集まるHPだよ」



229 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)13時04分28秒
言っちゃった……。あさ美ちゃん、レズビアンとかっていう言葉は知ってるのかな。
…でも、百合とか同人とかいう難しい言葉知ってるんなら、知ってるよね…。
「隠してたワケじゃないんだよ……でも、言う必要もないかなって…。
知っちゃったら、こうしてあさ美ちゃんと喋ること出来なくなるだろうし……ごめんね。やっぱ、嫌だよね…」
「ま、まこっちゃん…」
「…もう、来ないよ。部活にも真面目に行く。だから、あさ美ちゃんはここに来れるからね。漫画読めるからね」
「…………」
どうしたらいいのか分からない顔。
俯いて、下唇噛んで、ジッとしてる。
最後くらい、笑った顔見たかったな…あさ美ちゃん、笑ったらすっごいカワイイんだよなあ。
そのあさ美ちゃんの笑顔思い出すだけで泣けてきそうで、背を向けて出口に歩き出す。
…あ、最後のブラウザ閉じるの忘れてたや……もう、いいかぁ…。
馬鹿げてきて情けなくなってきて、笑えてくる。
半笑いのままドアに手をかけて閉じようとした時、後ろから声が聴こえた。
それは、小さい小さい声。あさ美ちゃんの、声。
230 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)13時05分12秒
「……私、嫌って言ってないじゃん。私、百合嫌いって言ってないもん。…百合じゃないけど。
まこっちゃん、勝手すぎるよ……私、まだ何も言ってないのに」
「あ、あさ美ちゃん…」
「友達じゃない、私達。どんなことがあっても、もう友達だもん。それに、そんなの別にどうってことないよ。
私だって、アニメ好きだし声優さんも好きだし同人誌即売会にも行ったことあるし毎月アニメージュとかアニメディアとか
その他諸々の雑誌購入してるし部屋にはアニメイトで買ったグッズで溢れ返ってるしそれに――!」
「い、いや、もういいから」
「でも…」
「それに、言ってもあたしゴメンだけど分からないし。……それに、あさ美ちゃんの気持ちよく分かったから」
「…………」
「……あたし、明日もここ来ていいの?」
「も、もちろん!」
「………よかった」
231 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月22日(土)13時05分44秒
よかった、とは、はたしてあさ美ちゃんがアニメオタクでよかったのか、それともあさ美ちゃんに嫌われなくてよかったのか――。
…何にせよ、あたしは明日から堂々とHPを見ることが出来、女の人、女の子について語ることが出来るのだ。
そして堂々と――


「あっ!」
「…ど、どうしたのまこっちゃん」
「………向こうの子、風でスカートめくれた時パンツ見えたはあとはあと
「…………」
「えっ、ちょ、ちょっとあさ美ちゃん歩くの速いよ! 待ってよ!」
「……エッチなまこっちゃんは嫌いじゃないって言った覚えないもん」
「そっ、そんなぁ〜」


――堂々と、エッチな発言は出来ないみたい。



232 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月22日(土)13時07分34秒
……次回作は未定といいつつ、書いてみました。
小川さん視点。
実は、これで終わりじゃなかったり……申し訳ない。
233 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月22日(土)16時18分19秒
新作キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
小紺ですか!好きですよ〜。
続きまだあるみたいで楽しみです、確かに周りに知れたら怖いだろうなぁ…
234 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時48分33秒
カタカタ。カチカチ。さっきからその音ばかり。
…決して、私が貧乏ゆすりしてるからとか、シャーペンの芯出しすぎとか、そういうことじゃない。
犯人は、私がいる位置から少し離れた机ででれ〜っとしてる、小川麻琴ちゃん。
自分の家にパソコンがないまこっちゃんが、自分の家に、自分の部屋にパソコンがある私、紺野あさ美の家に泊まりに来てるんです。
最近、私が教えてあげたチャットという存在にハマりにハマりまくっているまこっちゃん。
もちろん私の家に泊まりに来るのは、毎週土曜の深夜11時のテレホタイムに開始されるチャットをしに来てる――とはまこっちゃんは言ってない。
…でもおそらく、それが目的だろうと思う。

「…ねえまこっちゃん。寝ないの?」
時計を見ると、もう日付が変わった午前1時。
鳴り止まないカタカタカチカチは、まだ続く。
「何言ってんの! 夜はまだこれからだよ!!」
「……私は寝るよ?」
「うん、おやすみ」
布団を被った後でチラリとまこっちゃんを見たけれど、まこっちゃんの視線はずっと私のパソコン。
……私もネットでサイト回りたいのに……。
それでも、まこっちゃんがいない日は触っているんだけど。
235 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時49分21秒
元々、インターネット初心者だったまこっちゃんは、今までその人のHPの掲示板や日記を見るだけだった。
けど、いつだったか私が
「チャットとかはやらないの?」
と聞いた所、
「……チャットって何?」
って返事が返ってきて。
尋ねてしまったのは私だから、一からまこっちゃんに説明。

一通り説明が終わった後、まこっちゃんが言った。
「チャットやりたい!!!」
瞳をキラキラさせて、午後4時だというのに入室して。
……それから図書館閉館の午後6時までの2時間、ひたすら待つ。
「……まこっちゃん、チャットっていうのは基本的に、テレホタイムにするんだよ」
「………テレホタイムって何?」
「テレホタイムっていうのは、NTTのテレホーダイというサービスが適用される時間帯の23:00〜8:00の時間のこと」
「……っていうか、それを最初の説明で言ってよ」
「あ…そうだったね」
「……まあ、あさ美ちゃんの物忘れとどんくさいのは今に始まったことじゃないけど」
「まこっちゃん、ひどい…」
「わーっ、嘘だよっ!」
236 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時49分55秒
俯く私に、慌てふためくまこっちゃんの声。
私もまこっちゃんが本気で言っていると勘違いするほどバカじゃないので、すぐ顔をあげて、お返しとばかりに「い〜っ」とアッカンべー。
だけど、まこっちゃんはなぜか真剣な顔で……

「……ねぇ、あさ美ちゃん」
「えっ…な、何?」

いつもふざけたまこっちゃんが真面目になる時ほど、怖いことってない。
「い〜っ」ってしたの、もしかして本気で怒っちゃったのかな。
ち、違うよ、本気でむかついてアッカンべーしたんじゃないよ。
それを言おうと口を開けたら、先にまこっちゃんが言葉を繋ぐ。
と、同時に、申し訳なさそうに崩れる顔。

「――チャット、やらしてくんない?」


237 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時50分30秒
―――――
―――


同人が好きな私には、周りにまったくと言っていいほど仲間のいないまこっちゃんの気持ちが分かる。
百合、というジャンル自体も少ないのに、それが本当のビアンの人だと考えたら、現実で逢うのはとっても難しいことだ。
私もネットで同人の友達を見つけたので、こうして、たとえ学校の中で同人やってるのが私1人だとしてもやっていけるんだけど、まこっちゃんは今、1人なんだ。
私は知っていて友達だけど、事情を知ってる友達も、私しかいないらしい。
だけど、私はノーマルだし……。やおいや百合も、好きだけど…。

チャットをやりたい。仲間と話したい。
そんなまこっちゃんの想いに、私の首は下にさがってしまっていた。
けど、まさか。
………毎週、来るなんて。
238 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時51分20秒
毎週土曜、カタカタカチカチを気にしながらの就寝。
気を遣ってテレビもつけず静かな部屋でチャットをするまこっちゃん。
私は、そんなまこっちゃんのでれ〜っとした横顔を見ながら寝るだけ。
人がしてるのを見て私もネットに触りたくなってくる。
でも、それ以上に、パソコン見るなら私も見てくれてもいいじゃん……なんて。
――私、どうかしてる。
まこっちゃんの顔ばかり見てたら、おかしな事ばかり考える。
もう、寝よう。
もう一度布団を被り直して目を瞑った。

――――なのに。

239 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時52分05秒
「……ん、…美ちゃん」
「ぅ…?」
「あさ美ちゃんっ、あーさ美ちゃん!」
「わあっ!?」
いい気分だった時に揺すられて目を開けると、申し訳なさそうなまこっちゃんの顔のアップ。
ビックリして顔が赤くなる。心臓は、ドキドキ激しくなる。
「も、もうビックリするじゃんっ…」
「あはは、ごめん」
へらへら目の下に隈作っても平気な顔して謝るまこっちゃんとは反対に、寝起きの顔の私は布団で顔を隠して布団越しに麻琴ちゃんへの抗議。
でもまこっちゃんはあっさりと布団をどけて、私に尋ねる。
「ね、ね、オフ会って何?」
「お、オフ会?」
240 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時52分40秒
……寝起きの頭で、前触れも説明もなく出されたその単語の意味を考える。
…私が寝る前、まこっちゃんはチャットをやっていた。
見てみると、まだチャットをやっているのか、パソコンの電源が入ってる。
…じゃあ、この突然の単語「オフ会」の意味は、多分これだろう。
「OFF会っていうのは、OFFline meetingの略で、ネット上で知り合った人達と実際に逢って話をしたりとか色々かな。
Web上がオンラインだから、こういった現実の世界をオフラインっていって――」
「あ、もういい。分かった」
……まだ説明の途中だったのに…。
「そっかそっか。そういう事か。よっしゃ、ありがとう! 起こしてごめんね」
「……別にいいけど…」
目、覚めちゃったよ…。
のろのろとベッドから起き上がって、まこっちゃんの後ろから画面を覗いてみる。
結構早いペースで表示されてく会話。
ただいまの入室者は、9人。

「……そういえば、まこっちゃんは何て言うHNなの?」
「猪木」
「………アントニオ?」
「そう! よく知ってるねあさ美ちゃん」
…いや、猪木って言ったらアントニオさんしか思いつかないよ…。
っていうか、猪木っていうHNはどうなんだろう…。
241 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時53分46秒
私が疑問に思ってても、チャットでは普通に「>猪木」とかって慣れ親しまれてる。
まこっちゃんがこうして毎週チャットをし始めてもうすぐ4ヶ月。
ずっと同じところに顔を出しているとしては、常連だから呼び捨てなのも当然と言えば当然なんだけど。
他の人はどんな名前なんだろう……興味が湧いて、まこっちゃんに尋ねてみる。
「管理人さんって何て言う人?」
「えーっとねぇ、“ミニマム矢口”さん」
「あ、今喋ってる…っていうか表示された人だよね」
「そうそう。なんか色んなサイト回ったけどさ、あたしこの矢口さんのサイトが一番好きなんだよね。
で、チャット入って喋ってみたらすっごい明るいし楽しいし。ちなみにどっちかっていったらネコなんだって」
「へぇ〜」
そういえば、まこっちゃんてどっちなんだろう、聞いたことなかった。
…なんて、そんな事を思ってたら、また1人入室。これで、10人。
「おーっ、“ちゃむ”さん久しぶり!」
「…ちゃむさん?」
242 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時55分01秒
別に本当に目の前に現れたわけでもないのに、口に出して久しぶりにチャットに現れたちゃむさんという人に喜ぶまこっちゃん。
早速、[久しぶりです!!!!!!!>ちゃむさん]と!だらけの文を打っている。
…っていうか、!マーク多いよ、まこっちゃん。
まこっちゃんは、この!マークがどうやら好きらしい。

「このちゃむさんって人、最近ずっと来てなかったんだよ。それで、チャットで結構仲良かった矢口さんが落ち込んでたんだよね」
「へぇ〜」
矢口さんて…ああ、管理人さん。
見てみると、来てくれた事にすごい喜んでいるらしい矢口さんの気持ちが文字から伝わってくる。
「いつも大体10人くらいが集まるの? ここって」
「いや〜、さすがに10人はいつもじゃないけど…。今日は常連さんがなんかたまたま一気に集まったみたい。
いつもは大体、矢口さんとなっちさんとケメ子さんとジョンソンさんとあたしの5人くらいなんだよ。
で、その次に、チャーミーさんとかよっすぃーさん、あやや、とかが来るんだよ。
んで今日、ひっさしぶりにちゃむさんが来て、ほぼチャットの常連さん勢揃い」
「へぇ〜」
243 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時55分35秒
まこっちゃんの説明を聞きながら画面を見てるんだけど、10人っていう人数のせいか、早過ぎてついていけない。
だけどまこっちゃんは読み返すこともなく、みんな話についていって、ちゃっかりレスもして。

「まこっちゃん、ちょっとログ見せてよ」
「……いいけど、あさ美ちゃん読むの遅いよ。もう流れちゃってるよ」
「…みんな打つの早いんだよ」
とろいのは分かってるけど、いざ言われると恥ずかしい。
口を尖らせて小さく文句言ってみたら、まこっちゃんに「カワイイ」と言われた。
「かっ…可愛いとか、バカにしないでよ」
「してないよ〜。ただ純粋に可愛いなぁって思ったからだよ?」
「………」
カァーッと全身の血が上ってくる感覚。
ああ、どうしよう。
とんでもなく、恥ずかしい。
244 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時57分46秒
でもまこっちゃんは全然そんな事気にせず、チャットを楽しんでる。
……分かってるよ、友達としてそう言ったのは。
でも少し、嬉しかったんだよ。………ん? なんで嬉しい?
…無意識に思った事が、意識してみるととんでもない事になる。
嬉しいって……違うよね。間違えた。恥ずかしいんだ。
そうだよ、恥ずかしいだよ。この言葉の間違いは大きいよ。うん。

……と、私が1人で訂正してる間に、どんどん進んでるチャットの会話。
時間はもう午前3時半を過ぎてる頃だけど、全然止まらない話。
…話といえばそういえば、さっきまこっちゃんが言っていたオフ会ってなんだろう?
「ねえまこっちゃん」
「んー」
「さっきオフ会って聞いてたでしょ? 何かあったの?」
「あ、そうそう。さっきチャットしてたら、来週の日曜のオフ会に誘われたんだよ!
でもオフ会の意味わからなくてさ…かといって聞くのも初心者丸出しで恥ずかしかったし…」
「それで、結局どうなったの?」
「うん、聞いてみたら場所も東京だし、お金もあんま使わないトコ行こうって話だから、OKした」
245 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)00時59分25秒
「…え!? そんな、来週って急なのに!?」
「でもどうせ、来週暇だもん」
「で、でもそんな…いくらチャットで話してても危ないよ…」
「大丈夫だよ、みんないい人達ばっかだし。さっきちゃむさんも行くって言ってたから、ちょうどこの常連の10人で遊ぶんだぁ」
「…………」
いくらお気に入りのサイトで、管理人さんが親しみ易いといっても、初めてなのにまこっちゃんは何も思わないんだろうか。
そりゃ、全員女だから最悪の心配はないと思うけど…女同士だからこそ、まこっちゃんの場合は心配なわけで…。
…って、私がなんでこんな焦ってるんだろう。
……そう、友達だから。友達だから、心配なんだよ。
246 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)01時00分21秒
「それに、なんか矢口さんとなっちさんとケメ子さんとジョンソンさんは、
前のオフ会でも会ったことあるらしくって、仲いいらしいんだよ。だから、全員が全員初対面ってわけじゃないし。
全員が全員顔見知りってわけでもないから、あたしが行ってもそんなにはみったりしないかなって」
「…………」
オフ会っていうのは、ネットで知り合った仲間と話をしたりみんなで何処かへ行ったりするのが主な目的。
別に、変なことをするわけじゃない。
それにまこっちゃんは、純粋に自分と同じ仲間に逢いたいっていう気持ち。それは、よく分かる。
……だけど、私は心配で。
気付いたら、思わぬ事を口に出していた。

「……私も、オフ会に行くよ」
「…は?」



247 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)01時00分53秒
「……あさ美ちゃんそれ、何かの冗談?」
「…本気だもん」
「つっても、これはアニメヲタクの人の集まりじゃないよ?」
「……ヲタクじゃないもん。それに、知ってるもん」
「じゃあ、なんで」
「………まこっちゃん1人じゃ、なんかあった時危ないから」
……別に、チャットの人を疑ってるわけじゃない。
でも、まこっちゃんを1人で行かすのは、何か嫌だ。
「ははっ。何それ〜、じゃああさ美ちゃんが守ってくれんの?」
「うん」
「ふっふん。あんまりあたしをナメてもらっても困るよ。これでも水泳部で鍛えてたんだから」
自慢げに腕を回すまこっちゃん。
いつのまにか腕相撲を取る格好になり、まこっちゃんの「行くぞこのヤロー!」というふざけた合図で試合が始まる。
――勝負は、2秒。

「う、ウソだ……」
「……言ってなかったっけ? 私、空手やってた事もあるんだよ」
「…………言ってないし……勘弁してよ、折れちゃうとこだったよ腕ぇ」
涙目のまこっちゃんに、今度は私が自慢げに腕を回してあげた。



248 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月23日(日)01時02分57秒
今日の更新は、一応ここまで…な、はず。

>>233
早速新作ハケーンありがとう。
小紺好きでよかった。自分も好きです。
周りに知れたら怖いだろうけど…今回のは、どうやらそんな話じゃないみたいです(w
あやみきよりふざけた話になりそうです…
249 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)13時55分18秒


で、来週の日曜日=今日がやってきた。待ち合わせ時間には30分ほど早いけど、現地に到着。
まこっちゃんとは違い、完璧な部外者であり初対面の私。
ビアンの人達が集まるということで、私もビアンだという設定なんだけど、はたしてバレずに無事1日終わることが出来るかどうか…。
自分で来ると言って、管理人兼オフ会幹事で主催者の矢口さんに了解をもらっておきながら、すごく緊張していた。
だって、顔も知らないわけだし。
みんながどんな話してるかも分からないわけだから、話についていけるのかも不安だし。
まこっちゃんが心配でここに来たんだけど、その内に自分がどんどん心配になってくる。
「…あさ美ちゃん、顔が金魚になってるよ」
「……」
私の得意な金魚の物真似。
口をパクパクさせるだけなんだけど、それが結構クラスの人とかに受けて唯一の持ち芸である金魚。
…緊張してる内に、無意識に口をパクパクしていたらしい。
まこっちゃんに指摘されて、意識して口を閉じる。
250 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)13時56分06秒
「…あさ美ちゃん、今度は顔がバカみたいになってるよ」
「………これは生まれつきの顔だもん。…バカでごめんね」
「うーん、怒った顔のあさ美ちゃんも可愛いなぁ」
「…ご機嫌取るまこっちゃんは可愛くない」
「わー、ひどーい」
けらけら笑うまこっちゃん。全然、ひどいなんて思ってないじゃん。
こっちの方がそのセリフ言いたいよ。もう。
だけどそんなまこっちゃんを見てたら、怒ってた顔もいつのまにか笑顔になっちゃって……私、まこっちゃんと2人でいるといつも笑顔になってる気がする。
…なんか、まこっちゃんの笑顔を見ると、癒されて。どうでもよくなるんだ。

「…あ、ねね、待ち合わせ○○駅の噴水前だったよね」
「え、あ、うん」
プリントした、オフ会の詳細が載った紙を広げて確かめる。見たら、確かにそう書いてある。
「じゃあさ、あれかな。あの噴水」
「うーん……他に該当する所もないし、あれだろうね」
251 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)13時57分04秒
まこっちゃんが指差した噴水は、待ち合わせするのに最適と言っていい、大きく派手な噴水。
初対面の人もいるオフ会の待ち合わせには、やっぱり大きく分かり易い場所で集まるのがいいだろうし、
近くに違う噴水も見つからないので、あれで間違いないだろう。
問題は、誰が、ミニマム矢口さんでなっちさんでケメ子さんでジョンソンさんでちゃむさんでチャーミーさんでよっすぃーさんであややさんなんだろう。
………まさか、こんな大勢の人がいる前で「ミニマム矢口さーん」とかHNを叫ぶわけにはいかないし……

「ミニマム矢口さーん!」

――って。



252 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)13時58分13秒
「ま、まこっちゃん!」
周囲の人は「ミニマム?」とか「誰の事?」とか囁いてジロジロ私達を見る始末。
「だって、初めてだもん。誰がミニマム矢口さんか分かんないし……呼んだら返事してくれるかなぁって…」
「いなかったら恥さらしだよ!」
「そうだよね……ちょっと恥ずかしかった…」
「恥ずかしかったら呼ぶのやめたらよかったのに……」
隣にいた私が、一番恥ずかしい…。
コソコソと2人、注目されていた所から移動しようとすると、誰かに後ろから肩を叩かれた。

「えへへ、こんにちはぁ、初めましてぇ」
「「え、あ、は、初めまして…」」
私が金魚顔だとしたら、ちょっとキツネ顔の、同年代なのかな……女の子が、笑顔で私達に挨拶を。
私だけじゃなくまこっちゃんも戸惑っている所を見ると、どちらも知らない女の子。
…そもそも、○○駅は私達が住んでる駅と結構離れてる所にあるし、ここに知り合いはいないはず。
そして、彼女の挨拶は「こんにちは」の次に「初めまして」と言った。
じゃあ、考えられるのは……
253 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時00分07秒
「…もしかして、今日、ここでオフ会の待ち合わせしてる方ですか…?」
「はぁい。そうなんですよぉ。………えっとぉ、HNは“あやや”でーす」
「え! あ、あやや!?」
「あたしぃ、多分あなたのHN分かる気がする……“猪木”?」
「そそそう!! うわ、すごぉい!!!」
「なんかぁ、イメージした通りの人だったから」
そう言って、にこりと笑うあややさん……可愛い。
まこっちゃん…猪木をチラリと見たら、やっぱり顔をでれっとさせて照れていた。

しばらくあややさんの話を聞いて、一段落してから私もキチンと自己紹介をする。
HNはなかったので、もう普通に“紺野”で通してもらった。
「でもあれだよぉ、さっき矢口さんの名前大声で呼んだ時はおもしろかったー。
そんな、名前呼ばなくてもぉ、矢口さん、着いたらみんなの携帯に連絡しますって言ってたのに。
でもそのおかげでぇ、矢口さん来る前に猪木に逢えたけど」
「あ…そ、そうだよね、携帯教えてた」
「ほらまこっちゃん、恥さらしだよ…」
254 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時01分18秒
「あはは。でも仲いいですねぇ、2人。猪木、チャットで彼女いないって言ってたけどぉ、いるんじゃないですかぁ」
「か、彼女じゃないですよ! 友達です、友達」
「へぇ〜、あやしいなぁ」
「ぜんっぜん、あやしくないです」
………そんな思い切り否定しなくてもいいじゃない。
……私、何怒ってるんだろう。

…にしても、あややさん可愛い。
喋り方から仕草から、なんか男の人がキュンとなるようなことを知り尽くしているような…。
それでも彼女は、女の人が好きで。
そして、まこっちゃんも女の人が好きで。
まこっちゃんも、男の人みたいにあややさんを見てキュンとなったりしてるんだろうか……。
心の中がなんだか、もやもやと動く。
私、ほんとどうしたんだろう。
255 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時02分14秒
盛り上がっている2人をよそに、居心地悪くて下を向いていると、聞き覚えのある携帯の着信メロディがなる。
私のじゃない、この音は、まこっちゃんだ。
「あ、もしかしたら矢口さんかも」
そう言ったあややさんの予感が当たる。
待ち合わせ時間の10分前にまこっちゃんの携帯電話にかけて来た相手は、主催者の矢口さん。
電話で何処ら辺にいるのかとか、服装とかを教えてもらい、3人で向かう。
そして、対面。

「初めまして〜! ミニマム矢口です。ごめんね、待った?」
「あ、いやこっちが早く着すぎたんで……あ、い、猪木です」
「初めましてぇ、あややです。いつもチャットでお世話になってまーす」
「あ…あの、まこっちゃ……猪木の友達で、無理言って参加させてもらった紺野です。今日はよろしくお願いします」
「いやはは、どうもどうも。んな、堅くなんないでさ」
笑って一人一人の肩を叩きながら「よろしく〜」と挨拶をする矢口さん。
まこっちゃんに聞いていた通り、実際に会ってもすっごい楽しくて明るそうな感じ。
主催者の人がこんなに元気だと、初対面の私としては、なんか心配していたのがちょっと楽になる。
256 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時02分55秒
「あ、それとそれと、なっちとケメ子とジョンソンも紹介すんね。
実は一緒に来ててさ、今コンビニでジュースかなんか買いに行ったんだけど……」
「そ、そうですか」
「わぁー、会うの楽しみですぅ」
元々、オフ会というものに初めて来たまこっちゃん。その顔は、少し緊張している。
対するあややさんはというと、オフ会を何度か参加したことがあるのか、それとも人見知りしないのか、その顔はワクワクしている。
…なんて、こうして人の分析している私だけど、実はまこっちゃんと同じく緊張していて……。

「…ん? なぁーにぃ、さっき堅くなんないでさって言ったばっかじゃん。
だーいじょうぶ、アイツらもチャットのまんまだから、すぐに打ち解けられるよ」
きゃははと笑って和ませてくれる矢口さんだけど、チャットを一緒にしてない私は大丈夫なんだろうか。
だけどその心配も、矢口さんが和ませてくれる。
「えーと、紺野さんだっけ。紺野さん、結構みんなの好きそうなタイプだから、きっとモテモテだよ〜。
特になっちなんか大好きそうだから、なっちには要注意ね、なっち離してくんないよ〜キャハハ!」
「は、はあ……」
…なんだか、違う意味で心配になってきた……。
257 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時05分45秒
なっちさん達が戻ってくる間に、矢口さんはまだ姿を見せていないチャーミーさん、よっすぃーさん、そしてちゃむさんに連絡する。
そして、ちゃむさん以外集まったメンバー。
ちゃむさんは財布を忘れて家に取りに帰っている内に、電車に乗り遅れてしまったらしく、遅れて来ることになった。
これで6人になった噴水の前で、みんなは初対面だというのも感じさせずに仲良くて、コンビニに行って戻って来ないなっちさん達、ちゃむさんを待つ。
部外者の私にも、みんな人当たりのいい人達ばかりで笑顔で接してくれた。
そんな仲良くしている中でも、もうカップル誕生か!?と思わせるようなイチャイチャぶりを発揮しているチャーミーさんとよっすぃーさん。
2人とも初めて会うというのに、意気投合しまくっているみたい。
「おいおいなんだよ、キミら最初からデキててオイラ達に見せつけるために来たのかよ!」
…なんて、矢口さんに突っ込まれても照れながら笑っている2人。
べたべたとくっついている2人を通行人は「なんだこいつら?」と言う目で見るけれど、
ここにいる人達の目は、とても優しそうだった。
258 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時07分20秒
そうしてイチャついている2人をからかっていると、どっさりとお菓子やジュースやらを買い込んだ3人がこちらに向かってくる。
「おっ、やぁっと来た。…あ、あの端っこのショートカットでちびっこいのがなっちで、
隣の猫目の人がケメ子、んでながーい髪で背たっかいのがジョンソン」
「ジョ、ジョンソンさんカッケー……はあとはあと
さっきまでイチャイチャしていたよっすぃーさんの目が、ジョンソンさんへ。
隣にいたチャーミーさんは、不満顔。
「もうよっすぃーなんか知らないっ!」
「え、ちょ、ちょっとチャーミー…」
「キャハハ! フラれてやんのよっすぃー」
矢口さんのその突っ込みに落ち込むよっすぃーさん。私達はおかしくてつい笑ってしまう。
だけどチャーミーさんは本当に不満だったみたいで、笑っている私達とは対照的にまだ怒っている。
259 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時08分46秒
「ごめん! みんなホントお待たせ!」
「もうホント遅いよ!」
何度も会っていて気心知れているなっちさん達に矢口さんが怒り、みんなに自己紹介、と話を進める。
言う通りに、自己紹介する3人。
同じく私達も自己紹介。そうして全員が終わった後で、なっちさんが言う。
「あっれー、一人足りないよ。ちゃむさんは?」
「……あー、ちゃむさん遅れてくるってさ」
「えー、マジでぇ。……矢口、ショックなんじゃないの?」
「な、何言ってんだよ!」
「「「「「???」」」」」
ちゃむさんが遅れてくることを知ったなっちさんケメ子さんジョンソンさんは、にやけた顔で矢口さんをからかう。
そしてそのからかいに、頬を染める矢口さん。
どうしてそこで矢口さんをからかい、矢口さんが頬を染めるのか分からない初対面の私達の頭には、?マーク。
そんな私達に気付いて、ケメ子さんが説明してくれる。
「矢口ね、チャットでちゃむさんと話してる時から、ちゃむさんずっと気になってたのよ。
で、今日ちゃむさんに会えるってことで、前の日あたし達に『どうしようどうしよう〜!』って電話で言っててさ」
260 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時09分50秒
「……あたしもちゃむさん狙っちゃおうかなぁ?」
「だ、ダメだよジョンソン!!!」
顔を赤くしたままで、制す矢口さん。
……そっか、矢口さんはちゃむさんが好きなんだぁ。

「じゃ、じゃあ、矢口さんちゃむさんに告白したりとかするんですか?」
興奮気味に尋ねたまこっちゃんの質問は、矢口さん以外の全員の人に大ウケ。
「そうだよ矢口! 告白しちゃいなよ!」
「ウチらも応援しますよ〜!!!」
「はいっ、こっくはく! こっくはく!」
「う、うるさいんだよオマエら!!!」
するかよ!と真っ赤にして否定してる矢口さんだけど、その顔は満更でもなさそう。
でも矢口さん以上に、周りの人がやる気満々。
「いつもチャットでお世話になってますしね。協力します!」
「頑張ってくださぁい」
「矢口さん、ファイトぉ!」
オフ会の主催者だった矢口さんなのに、気付くと参加者のみんなが矢口さんの告白計画の主催者になっている。
大人数対1人。
矢口さんの告白計画は、いつのまにか決定していた。
261 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時10分43秒
「と、とにかく! ちゃむさんが来てからの予定をいうと、どっかマックででも食事して、んでカラオケってコースなんだけど、みんなはいいかな?」
「それで、最後は矢口さんの告白というイベントが待ってるんですよね」
「まだオイラはOKした覚えはないっ!!!」
背が小さくて顔を赤くした矢口さんは、みんなのからかいの対象に。
自分がからかう方に慣れていそうな矢口さんは、みんなからからかわれているこの状況に余計に恥ずかしくて赤くなる。
そんな様子は、誰から見ても可愛らしい。
問題は、ちゃむさんがどう思うか、なんだけど。
「とととにかく、ここでちゃむさん待って――」
と、矢口さんの言葉を遮ったのは、携帯の着信音。
「ちょっとごめん」
後ろを向いて携帯を取る矢口さん。その背中が、ビクッと大きく反応する。
「えっ! も、もう来てるんですか!? あ、え、えーとですね…オイラの特徴は……」
「おーっ、ちゃむさん到着かぁ!?」
電話中でもからかうみんな。
そんなみんなの元に、申し訳なさそうに走ってくる男のような女の人。
多分、ちゃむさんだ。
262 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時11分25秒
「いやっ…ほ、ほんとごめんなさい! みんな待たせちゃったみたいで……。
あっ、挨拶遅れました! えー、ちゃむです。初めまして。どうかよろしくお願いします」
「あ、いや、大丈夫ですよ! ねっ、みんな怒ってないよね?」
「「「「「「「怒ってませーん」」」」」」」
にやにやと笑いながら、揃って声を合わせるみんな。……しまった、私言い遅れた……。
「やっ、ホント申し訳ない。……にしても、みんな優しい人でよかったです」
言った後、にこっと笑って。
――ちょっと、ドキッてしちゃったよ。どうしよう。
…でも、まこっちゃんの笑顔の方がカッコイイ……とか思ったのは、矢口さんに怒られそうで内緒。

とにかく、これで全員揃ったということで、ぞろぞろとみんなは噴水の前を離れることにした。
263 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時12分41秒


噴水前から、マックへ。そして、近くにあった安いカラオケに。
お菓子・ジュース持込禁止という貼り紙が貼ってあるのに関わらず、バッグにパンパンに詰めたお菓子やジュース。
無事受け付けを通過して、みんなはガヤガヤとお菓子やらをテーブルに広げ始める。
ちなみに席順は、出入り口から見て左側の椅子に、手前によっすぃーさん、チャーミーさん、ケメ子さんが続く。
右側の椅子には、まこっちゃん、あややさん、なっちさん、私、ジョンソンさん。
そして、ケメ子さんとジョンソンさんに挟まれるような形の奥の椅子には、ちゃむさんと主催者である矢口さん。
……奥の椅子はもちろん、明らかにみんなの意図的。
マックではあれだけ騒いでいた矢口さんなのに、見てみると赤くなってボソボソとジョンソンさんに助けを求めている。
……ホントに好きなんだぁ。チャット恋愛っていうのもあるんだね。
ウーロン茶を口に含みながら、ボーッと考える。

カラオケの時間は、フリータイム。
みんな最初は唄わずに、隣の人とかと会話をしている。
……隣の人?
まこっちゃんの隣の人って……
264 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時13分19秒
「えー、ホントに!? 猪木中3だったんだぁ。あたしの1個下かぁ」
「え、じゃ、じゃああやや高校生!? う、うわ呼び捨てしてましたごめんなさい!!」
「あははっ、HNなんだし呼び捨てでいいよぉ」
「そ、そうですか…?」
「それにぃ、敬語でなくてもいいよぉ。……あたしも最初敬語で喋ってたけど」

……………。
仲が宜しいみたいです。どうしよう。

265 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時13分55秒
そもそも、やっぱりどこか緊張している私は、カラオケに入る時もまこっちゃんの隣に座ろうと決めていたのに。
気付いたらいつのまにか、私とまこっちゃんの間にはあややさんとなっちさん。
……そういえば、押されたんだった。引っ張られたんだった。
まこっちゃんの後ろを歩いていたのに、後ろからなっちさんに。

「紺野ちゃん、楽しい?」
「ふぇっ!?」

――そう思ったら、隣からなっちさんの声。
ビックリして、変な声を出してしまった。
きゃはははははと、なっちさんに大笑いされる。
266 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時15分03秒
「くーっ…くくっ、紺野ちゃんいい! すっごいオモシロイ!」
「…あ、ありがとうございます…」
一応褒められているようだし、お礼を言っておく。
けれど私の意識は、ひたすらなっちさんを超してあややさんとまこっちゃんの会話。
でもその会話も、なっちさんの笑い声で途切れ途切れどころかまったく聴こえない…。
「っていうかさ、紺野ちゃん何歳? あ、なっち今年21なんだけど」
「…えっ、21なんですか!?」
「なーんでそんな驚くのさ?」
「いや…見えないなぁって……。あ! も、もちろんいい意味でです!!!」
「そう? いやぁー、なっちこの前16歳に間違われたこともあってさ……」
テレテレと嬉しそうに話すなっちさん。……よかった、怒ってない。
「――って、なっちの年の話はいいんだよ。紺野ちゃんは何歳なの?」
「あ…私ですか……私、今年15です」
「中3?」
「はい」
「………大丈夫! セーフ!!!」
267 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時16分36秒
「……何がですか?」
「あ、いや…あははっ。それよりそれより、紺野ちゃんは年上年下、どっちタイプ?
なっちさ、なっち年下中3までだったら大丈夫なんだっ。紺野ちゃんはハタチ過ぎてる人とかどう?」
「えっ……」
………もしかして私、気に入られてます?
勘違いであって欲しいんだけど、少し前に矢口さんに言われた言葉もあって、否定できない。


ハタチに見えない、童顔ななっちさん。
天使みたいに可愛い笑顔は、純粋にすっごく可愛いと思う。
だけど、私は………。
どうしてかな。まこっちゃんの笑顔見た時みたいに、ドキドキしないんだ。
女の人を好きじゃないからっていうのもあると思う。
でも、まこっちゃんの笑顔見た時はドキドキするのに……。
この気持ちがいまいちよく分からないけれど、なっちさんのせっかくの好意に応える事は出来ない事だけははっきりしてる。
かといって、「年上嫌いです」っていうのもちょっと……。
268 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時17分21秒
何て返そうか思案しているうちに、なっちさんが何か思いついたように急に立ち上がってケメ子さんとジョンソンさんの方へ。
私にした質問の答えはもういいんだろうか……せっかく考えていた所だったのに。
そう思ったけど、どうやらその質問の答えは言う羽目になる。

なっちさんから何やら話を聞いた2人はおもしろそうに笑って、マイクを手に取る。
「あーあー、ただいまマイクのテスト中」
そうジョンソンさんがマイクに向かって発した言葉は、部屋中に響いて。マイクのテスト結果は満点みたい。
それを確認して、ジョンソンさんがみんなに向かって、ある質問を。

「えーっとですねぇ、まあみんなにチャットとかで聞いたことあるような質問なんだけど、
今日は初めての子もいるし、その時いなかった人もいるかもしれないんで、もう一回聞くことにします!
みなさんの好きなタイプはどんな人か、年上か年下、どっちがいいのか答えてもらいまSHOW!!!」
「もしかしたらこのオフ会で好みがバッチリ合って、カップルが生まれるかもしれないしねぇ」
にやにや、と矢口さんを見るなっちさんとジョンソンさんとケメ子さん。
269 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時18分18秒
…そっか。
私だけが答えるよりも、みんなに聞いた方が盛り上がるし、何より、矢口さんの想いに対する協力をさっきなっちさんは話していたんだ。
でも聞いて、ちゃむさんの好みが矢口さんに当てはまらなかったらどうするんだろう…。
…まあ、理想と好みは現実では違うし。……多分。
「じゃーぁ、よっすぃーからまず聞いてみよう――」
「あ、待って!」
「何だよケメ子〜」
「……どうせ聞くんならまず、彼女がいるのかどうかが先だよね」
「…あ、そっか」
バッチリ好みがあったとしても、ちゃむさんに彼女がいては話にならない。
どうやら、彼女がいるかもどんな子が好みなのかもちゃむさんとはチャットで話していなかったみたいで、
司会者と提案者の3人は矢口さんの顔色を窺ってドキドキしながらやっている。
答えによっては、矢口さんの顔は赤くなったりピンクになったり青くなったり白くなったりするかもしれない。
想像するとおかしかったけれど、――笑ってはいけない所だ、と思った。
270 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月23日(日)14時19分13秒
「じゃあ、どうしよう。1回目ぇ瞑ってもらおうか。で、なっちが合図したら該当する人は手ぇ挙げてください」
賭けに出る3人。
事情を知っている私達も、目を瞑りながら(ちゃむさん挙げませんように…)と祈る。
当事者でもない私でも緊張しているのに、当事者である矢口さんはもっと緊張しているんだろうなぁ。

「……じゃあいきます。彼女いる人、手ぇ挙げて!!!」

――そして、運命の瞬間。


「ええっ!?!」


驚いたような声が、ボックス内に響いた。


271 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月23日(日)14時20分14秒
今日の更新は一応ここまでです。
272 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月23日(日)14時50分53秒
小紺微妙な感じでいいですね。
身近な?題材(というのかなシチュエーション?)でおぉ?!と思いましたが、
次回が気になる展開です。
273 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月23日(日)20時31分34秒
大量更新してあって嬉しいっす!!w
小紺どうなるんだろう…安紺も好きだけどw
質問で何かあったようで、ひょっとしてひょっとする?w
続きお待ちしてまーす
274 名前:155 投稿日:2003年02月23日(日)22時43分38秒
テンポいいですねえ。
このCP、初めて読みましたけども、ぐいぐい引っ張られていきます。
すごく続きが気になる〜。
…ちなみに、サインなんてしたことないんで、投げキッスでお許し願…<踏。
275 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時05分27秒
彼女いたのかぁ……矢口さんのことを思うと、残念な気持ちで目を開ける。
だけど、なんかおかしい。
さっき声をあげたケメ子さんが、ちゃむさんじゃなくてジョンソンさんのところへ向いている。
なんで?、と思ってジョンソンさんを見てみると、ジョンソンさんは手を上に挙げていた。
ちゃむさんは…と気になって見てみたら、大丈夫。手は、挙がっていなかった。
でも、当初はちゃむさんの彼女の有無を調べる為にした企画なのに、司会者と提案者の2人は、ちゃむさんの事を忘れて、ジョンソンさんに詰め寄っている。
「ちょ、ちょっとジョンソン! あんたいつの間に彼女出来たのよ!?」
「そうだよっ、初耳だよなっち達!」
質問内容は、彼女いる人手を挙げて、だったはず。
そして、当然の様に手を挙げている司会者のジョンソンさん。
――って、司会者の人も参加してたんですか。
276 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時06分00秒
元々、ジョンソンさんとはオフ会などで顔見知りだった、ケメ子さんとなっちさんと矢口さん。
今までのジョンソンさんとはそんな話をしなかったのか、それとも昨日にでも出来たのか、彼女がいるという挙手に驚きの3人。
でも、ジョンソンさんすっごい綺麗だし。
モテるのも当たり前なんじゃないかなぁって。
それでも3人は、彼女がいることを黙っていたことに腹を立ててるみたいだった。

「いや、別に黙ってたワケじゃないんだけどね。だって言ったら、矢口達『犯罪だ!』とかって言いそうだし〜」
「何それ。あ、相手まさか幼稚園児とか……」
「……さすがにアウトだよ、幼稚園児は」
「じゃあ、なんなんだよ〜」
食いつく矢口さん。
ちゃむさんが手を挙げていなかったのをしっかり確認して、いつもの調子に戻ったみたい。
「っていうか、あややも彼女いるのかよ!」
「はぁいはあとはあと
彼女がいる人で該当したのは、ジョンソンさんとあややさんの2人。
そしてこれがきっかけで、お互いの彼女自慢が始まる。
277 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時06分53秒
「写真っていうかぁ、プリクラ、携帯に貼ってるんですよぉ」
「えっ、見ていい?」
「うん、いいよ」
あややスマイルでまこっちゃんに微笑んで、携帯に貼ってあるシールを見るまこっちゃん。
「なんだよ猪木〜、ウチらにも見せてよ」
「見せて見せて〜」
「えへへぇ、可愛いでしょ〜」
「ほんとだ、結構可愛い」
「むっ。結構じゃなくて、すっごく可愛いんです〜」
話題に乗り遅れないように、あたしもチャーミーさんとよっすぃーさんの間に入ってプリクラを見てみる。
あややさんが攻める人なんだろうか。プリクラに映ってるあややさんの恋人のほっぺには、あややさんの唇がくっつけられていた。
「何々? おー、ラブラブじゃないっすか」
ちゃむさんも中に入って、その内なっちさん達も中に入って、あややさんの恋人はみんなの注目の的になる。
278 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時07分56秒
「名前なんてーの?」
「みきたんです。藤本美貴。年はぁ、2つ上なんですけど」
「へえ〜」
「連れてこればよかったのに〜」
「そうだよ、猪木だって彼女同伴で――」
「だ、だからあさ美ちゃんは彼女じゃないですってえ!」
「わははは」
……そうですよ、彼女なんかじゃ、ないです。

「じゃあ次はジョンソンの彼女の写真見せろよ!」
「へーん、あたしの彼女の方が可愛いもんね〜」
あややさんに笑顔で喧嘩を売ってから、ジョンソンさんは手帳みたいなところに挟んである一枚の写真を取り出す。
「……って、ジョンソン…」
「は、犯罪じゃないの、本当に……」
「えっ、犯罪?」
何がどう犯罪なんだろう、とみんな気になって集まって。
見てみると、写っていたのは、小学生みたいな女の子。……でも、ちょっと待って。何処かで見たことあるような…。
279 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時09分50秒
「つーか、おいぃ! 小学生もやばいっしょ、ジョンソン…」
「そうだよ…ジョンソン、今年いくつなのさ…」
「ばっ、違うよ、こう見えても中学生だよ! 中3だよ!!!」
「えええ!」
見えない。嘘だ。と次々に飛び交う声。
そんな声の中で、間延びした、ちょっと不思議そうな声が。

「…あ、あのぉ〜…この人って、辻希美ちゃんじゃあ……」

「あれっ? 猪木、辻知ってんの!?」
「…え、まこっちゃん、辻希美って、あの、辻さん?」
「八段アイスが大好物な、辻希美さん…ですよね?」
「そうそう。辻すっごい好きでさー……って」
「あたし達、同じ学校で同じ学年です、辻さんと」
「じゃあこの子ほんとに中3かよ!」
「すっげえ偶然だねえ」
……辻さんって。何処かで見たことあると思ったら、同じ学校の人。
私、いつも食堂にいる辻さんしか、見たことないんだけど。
というか、まこっちゃんと同じ人だとは、気付かなかったよ。
気付いたからといって、態度を変えるわけではないけど、でもちょっと、びっくりした。
280 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時10分55秒
「知らなかったよね…まこっちゃんも」
「う、うん。知ってたら絶対あたし声かけてたし」
「ん〜、辻はほら、今は食べ物に恋してる感じだし」
まあそこがまた可愛いんだけど〜、とノロケが始まる。
どうやって知り合ったのか聞いてみたら、ジョンソンさんは辻さんの家庭教師をやっていたらしい。
付き合っている、というより、一番辻さんの近くにいる人、という感じらしいけど。
あの、食欲旺盛な辻さんを落とせたという自体、不思議だ。
きっと、私の知らない所で、ジョンソンさんのものすごい苦労があったのかもしれない。

「っていうか、ノロケ話なんかかなり聞きたくないので、無理やり話を戻します!」
「そうだね、戻そう戻そう」
「えー、もっと聞いてよ」
「そうですよぉ。聞いてくださいよぉ」
281 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時11分37秒
女っていうのは、本当に冷たい。
…でも、確かに、このまま聞いてたら朝になりそうな勢いだから、私達みんなは司会のケメ子さんとなっちさんの同意する。
「では、彼女いる人を飛ばして、彼女いない人に好みのタイプを聞いていきましょう!」
「え〜、あたしにも聞いてくださいよぉ」
彼女がいる人を思い切り飛ばした司会にケチをつけるあややさん。
仕方なくと言った感じでなっちさんが聞いてあげると、
「えへへ、あたしの好きな人のタイプはぁ、ミキたんはあとはあと
「…じゃあまず、猪木からいこっか」
その答えは無視されて、まこっちゃんへと映った。
「………冷たいですぅ〜」
気持ちは分かるけどあややさん……それは、無視されるよ…。

少しだけあややさんに同情した後、まこっちゃんの答えに耳を傾ける。
さすがにどんな人がタイプなのかとか聞く勇気がなかった私には、この質問は嬉しかった。
282 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時12分22秒
「そうですね……理想は引っ張っていってくれる人とかの方がいいんですけど……
なんか実際は好きになるタイプ、ぼ〜っとしてる子とかが多いです。ほっとけない、っていうか」
「へえ〜?」
私となっちさん以外の人は、どうしてかまこっちゃんのコメントを聞いてにやにや笑ってる。
「じゃあ、年下と年上どっちがいいの?」
「……大体同級生が多いですかねぇ。どっちかって言ったら、年上ですけど」
「同級生ねぇ……紺野は猪木と一緒だったっけ」
「え? あ、はい、そうですけど…」
「ふ〜ん」
にやにや、と。
そこでどうして私に振られたのかもわからない。
まこっちゃんはしきりに「違いますよ!」と言っている。
283 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時12分56秒
「さっき、どうして私に話を振ったんでしょう…?」
疑問に思ってなっちさんに尋ねてみた。だけど、
「まあいいじゃん。それより次なっち〜」
と言って話を交わされる。
「なっちはぁ、紺野ちゃんみたいなコがタイプ!」
「…へ? 私、ですか?」
「うんっ、すっごく可愛いはあとはあと
「………あ、ありがとうございます…」
だ、だって、他にどうやって返せば。
「ねぇねぇ、紺野ちゃんはどんなコがタイプなの?」
「えっ…えーと……えーと」
「なっちみたいなのはアウト?」
…な、なんだかものすごくアプローチされてる。
誰かに助けを求めようとチラチラ他の人の顔を見るんだけど、助けてくれるどころかみんな、この状況を楽しんでいる。
うぅ、どうしよう。
そう思ってた時、少し離れた場所からまこっちゃんの声がした。
284 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時13分27秒
「あさ美ちゃんは、同い年の女の子がいいって言ってたよね、こないだ」
「ふぇっ?」
「え〜、そうなのぉ?」

…え、言ってたっけ。
っていうか、まこっちゃんは、私が女の人を好きじゃないって知ってるはずなんだけど。
……あ、そっか。
困ってる私を、まこっちゃん助けてくれたのかな?
その好意、有り難く受け取ろう。

「そ、そうなんです、同い年の女の子が……」
「なんでぇ。年上だって絶対いいって! 年上の方が色んな事知ってるし…」
「ってなっちぃー。エロネタは未成年もいるんだし禁止だぞぉ」
きゃははと大笑いする矢口さん。
言われたなっちさんは、なんだか落ち込んでる。
285 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時13分59秒
………もしかして、私が年上じゃなく同い年がタイプって言ったから?
で、でも、ここで変な期待を持たれても私どうしたらいいのかわかんないし…。
それでもやっぱり気になって、隣で落ち込んでるなっちさんをフォローしてみる。
「べ、別になっちさんがダメって言ってるんじゃなくってですね…」
慌ててご機嫌を取る私をチラっと見て、また落ち込む。
「年取ることは出来ても、若返ることは出来ないんだよね…残念だけど」
「でもほらっ、実際、現実は理想のタイプと全然違ったりするじゃないですか」
「…じゃあ、期待持ってもいいのかな」
「………え…あの……その…」
どうしよう。どうしたらいいの。
困ってまこっちゃんに助けを求めてみたけど、まこっちゃんは淋しそうな顔しただけで、目を逸らされた。
……え、なんで?
さっきは、助けてくれたのに。
286 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時14分34秒
まこっちゃんの行動が気になってまこっちゃんばっかり見てたら、なっちさんのことを忘れていた。
慌てて向き直してみたら、なっちさんは苦笑いしてて。
「…期待持っても、紺野ちゃんは同い年で好きな女の子がいるみたいだから、無理みたいだね」
――って。
「へ? 誰のことですか?」
「……自覚がないっていうのがまた可愛いくてツボなんだよねぇ」
よしよし、と頭を撫でられる。
頭を撫でられた意味も分からない。
なんだか、まこっちゃんのことといい、分からないことだらけだ。
287 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時15分43秒
でも、そんな私にみんなは構ってくれず、話はどんどん進む。
チャーミーさんやよっすぃーさん、それにケメ子さんのタイプも聞き終わって、残りはちゃむさんと矢口さんだけ。
私は、ちょっとドキドキしていた。
でもそれ以上に、矢口さんの方がドキドキしてるんだろう。
キョロキョロと視線が彷徨っている。
そんな中、注目のちゃむさんの発言。
288 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月24日(月)14時16分13秒
「ん……なん……なんていうのかな…自分はいつまでも、なんかこういう、子供の心をずっと持っていたいんで、そういうところを、包んでくれる人がいいですね」
「なるほど。ちゃむさんは甘えん坊なのね。だったらば、年上の人とか?」
「 年とかはそんなこだわりませんね」
これは、どうなんだろう。
オフ会の段階じゃ、矢口さんのちゃんとした性格なんかも分からないけど、
少なくともちゃむさんの好みのタイプと、矢口さんは少しも被っていないこともない。
面倒見良さそうだし、引っ張ってってくれそうだし。
そして次は、その矢口さんのお答え。
「や、矢口は……好奇心旺盛な、いつまでも子供の頃の心を忘れないような純粋な人がいい……」
顔を赤くして、俯いて。
元々ちっちゃいから、そうやって俯いていたら私達を同じような年齢にも思える。
「あっ、でもそれ、自分にぴったり当てはまりますよ矢口さん! いっそ、付き合っちゃいますか」
多分冗談なんだろうけど、ちゃむさんが笑って矢口さんに言う。
言われた矢口さんは、更に俯いて、表現の仕様がないくらい、真っ赤になっていた。

289 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月24日(月)14時22分24秒
キリが悪いのですが、他にキリのいいところがなかったので…。
今日の更新は一応ここまでです。

>>272
微妙な感じです。でもちょっと雲行きやばめです。
次回、こんな展開でした。

>>273
大量更新するくらい暇なんです(w
小紺も好きだし、安紺も好きです。藤松はもっと好きです(w
ひょっとして、ひょっとしたでしょうか?

>>274
文章力がまだまだなので、せめて勢いと更新の早さでカバーしようと頑張ってます。
小紺、書いててすっごい楽しいです。
投げキッス、ください。思いっきり投げてください、しっかり受け取ります(w
290 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時19分24秒



それから3時間程唄って、カラオケ屋を出る。
いつのまにか外は暗くなっていた。
成人していた人が多かったら、このまま飲み屋に行こうか、なんて話も出ていたかもしれないけど、
私を含め未成年の人が多かったので、そろそろ解散となる。

携帯の番号を、それぞれ交換し合う。
その時、なっちさんとも携帯番号を交換し合った。
291 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時20分35秒
「今度、また連絡するよ」
「はい」
「…その時はさぁ、2人で遊ばない?」
「えっ」
怪しげに微笑むなっちさん。
……その視線に耐え切れなくて逸らすと、そこにはまこっちゃん。
「…………」
だけど、まこっちゃんは私を見るだけで、助けてくれない。
それどころか私を無視して、あややさんと番号を交換する始末。
「……ありゃりゃ。もしかしてなっちが2人の仲壊しちゃったかな?」
その様子を見てたのか、なっちさんが笑いながら言う。
「ごめんねぇ。でも、なっち、紺野ちゃんタイプだったんだも〜ん。
んじゃ、次は仲直りした猪木と3人でまた遊ぼうね!」
「…は、はい」
…仲直りも何も、喧嘩した覚えはないのに。
まこっちゃんが、勝手に何か怒っているだけなのに。
とりあえず、話を合わせておく。
292 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時21分08秒
「あっ、そうだ!」
「…?」
びっくりした。なっちさんが突然大声を出すから。
「どうしたんですか?」
「まだ、最大のイベントが残ってたんだよ!」
「………あぁ」
矢口さんの、告白だ。

少し前のカラオケでのちゃむさんの告白は、完璧に冗談だった。
真に受けて照れてしまっていたのは、矢口さん1人。
293 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時21分47秒
「矢口、矢口」
なっちさんが手招きして、チャーミーさんの電話番号を聞いていた矢口さんを呼ぶ。
「なんだよぉ」
「矢口、告白しなきゃ」
「はっ?」
「ちゃむさんに告白だよ!」
「…………あぁ…」
「ここで告白しないと、また次のオフ会とかってどんどん機会過ぎちゃうよ」
「それは、そうだけど」
オフラインの友達ではない2人は、オンラインでしかあまり会う事はない。
携帯番号を聞いたとしても、2人きりで会うのには、めちゃくちゃ親しくない限り、それなりの理由がいりそうだ。
「ほらぁ、行ってこい矢口! 早くしないと、ちゃむさん帰っちゃう」
「う、うん…」
バンッとなっちさんに背中を押され、一歩前へ出る矢口さん。
そのまま足は動いて、ちょうどまこっちゃんの電話番号を聞いていたちゃむさんの所へ。
294 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時22分27秒
「あ、あの、ちゃむさん」
「…ん?」
「と、突然ですが、お話があるんです」
「…? はい」
耳まで赤くしてる矢口さんの様子にまこっちゃんは気づいたのか、そこからゆっくりと離れる。
そして、2人の行方を見守っているみんなの元へ。
ちゃむさんと矢口さんの2人はいつのまにか、みんなの注目の的だった。

「急で…その、ほんと、びっくりさせたらごめんなさい」
「はい」
「……あの、矢口と付き合ってくれませんか!!!」

(言ったぁ〜!!!)
見守っていた全員が全員、顔を見合わせて、そんな事を思う。
でも顔を見合わせたのは一瞬で、すぐまた2人の方へ向き直す。
ちゃむさんの反応を見るためだ。
295 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時24分05秒
……ドキドキ。ドキドキ。
なんだか、こっちまでほっぺたが赤くなってきちゃうよ。
矢口さん、がんばれ。
…って、今更応援しても、もう遅いのか。
じゃあ、矢口さんに幸せが訪れますように………そう、お願いしよう。
すると、私のそのお願いが効いたのか、そうでないのか。

「……ボックスで言ったセリフは、あながち冗談じゃなかったんだけどなぁ」
「…え?」


――「あっ、でもそれ、自分にぴったり当てはまりますよ矢口さん! いっそ、付き合っちゃいますか」


「管理人さんのこと嫌いだったら、チャットなんかいきませんよ」
「……じゃ、じゃあ…」
「へへへっ…実は今日、すっごく楽しみにしてたんです。――矢口さんと会うの」
「あ、会ってガッカリとかしなかった!?」
「全然。っていうか、想像よりちっちゃくて可愛かった」
「ち、ちっちゃいは余計なんだよぉ……」

ボフッと、弱々しくお腹にパンチ。
矢口さんの顔は、ものすっごく嬉しそう。
私も、嬉しい。
パンチしてそのままちゃむさんの胸に抱きついた時を見計らって、みんなが2人を囲む。
296 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時26分13秒
「矢口おめでとう! ちゃむさんおめでとう!」
「や〜。デジカメとか持ってくりゃよかったね〜」
「矢口さんもちゃむさんもカッケーっす!!!」
「えっ、何々? みんな、知ってたの!?」
「矢口が無事ちゃむさんを落とせるように、密かに見守ってたんだよ〜」
「え〜、なんだそれぇ!」
私達が全員知ってるということを知らなかったちゃむさん。
それでもその顔は、あんまり怒っていない。

「じゃあ、矢口達はこのままデートしてから帰りなよ」
「えっ、ケメ子達はどうすんのさ」
「あたしらはあれよ。ほら、バカップルを見せ付けられたから、これから飲んだくれるから」
「あっ、ウチも行きたいです!」
「よっすぃーも?」
「よっすぃーが行くならチャーミーも行きたいですぅ」
「いいけど、君ら未成年じゃん」
「今時、未成年の子で飲んでない子なんて少ないっすよ」
「生意気言うんじゃな〜い」
ゲラゲラと笑う、成人チーム。
……実は、もう酔っているんじゃないかと思うくらい。
297 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時27分33秒
「あやや達は? 一緒に行く?」
「いや、あたしは…」
「同じく、私も」
一応、真面目な中学生なので、私とまこっちゃんは遠慮。
高校生のあややさんはどうだろう。
「…あっ、とぉ……あたしも、遠慮しときまぁす」
「そっか、あややは彼女が待ってるもんね」
「あはは…待っててくれたらいいんですけどぉ、みきたん、怒ってるんですよねぇ」
「え、なんでぇ?」
「オフ会来るの、反対だったから」
「なんだよ〜。じゃあ一緒に連れてこればよかったのにって言ったじゃん」
「……それは、そうなんですけどね」
なんだろう。
彼女さん、人見知りとかだから、一緒に連れてこなかったのかな。
「そうそう。猪木は彼女同伴なのに!」
「だっ、だから違いますって!!!」
「…ぁゃιぃ」
「気のせいです」
「……そうですよ、私、まこっちゃんの彼女なんかじゃないです」
「猪木フラれた〜!!!」
「なんでそうなるんですか!!!」
ちょっと待ってくださいよ、と怒鳴るまこっちゃんを、反対に無視してやる。
……だって私、ホントに彼女じゃないし。
まこっちゃんとは、ただの友達だもん。
…でも、ただの友達のオフ会についてくなんて、私も暇人で…過保護みたいだね。
298 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時29分13秒
しばらく、フラれたフラれたとまこっちゃんをからかっていると、なんだか、どこかで見たような人がこっちに向かってやってくる。
……あれ、どこで見たんだっけ。確か今日、どこかで見た覚えがあるんだけど。

「……亜弥ちゃん!」
「…へっ? って、みきたぁん!?」

――そうだ。あややさんの、プリクラで見た人だ。
ウワサの、みきたんさん。

「えっ、嘘嘘っ、あれ、あややの彼女!?」
「おおっ、実物も可愛いじゃん!」
オフ会メンバーのそんな声も無視して、現れたみきたんさんに駆け寄るあややさん。
あややさんの話では、みきたんさんは怒っていたはずなのに。

遠目から見るみきたんさんの顔は、なんだかやっぱり怒ってる。
でも、後ろ姿しか見えなくて分からないんだけど、たまに見えるあややさんの顔は、なんだかとっても嬉しそう。
…多分、あややさんが心配で、迎えに来たのかな。
そうだとしたら、私なんかよりみきたんさんの方が、よっぽど過保護だ。
でも、それで相手が幸せなんだったら、それでもいいと思う。
299 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時30分53秒
…まこっちゃんは、私がこうしてついて来たことは、嬉しいんだろうか。
………まさか、付いて来られたことが嫌で、私、無視されてるのかな。
だったら私、謝らないといけないかもしれない。

「ま、まこっちゃ――」
「すいませんでしたぁ!」
隣にいたまこっちゃんに聞いてみようとしたら、話し終わったあややさんが駆け寄ってくる。
弱々しい私の問い掛けは、その声に掻き消されてしまった。
300 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時32分12秒
「ねぇねぇ、彼女なんで来たの?」
「彼女も来たんだったら、これから一緒になっち達とどっか行こうよ」
「…すいませぇん、お誘いは嬉しいんですけど、なんか、まだ怒ってるみたいんで、今日はこの辺で失礼します」
「え〜、そうなの?」
「6時くらいには帰るって言ってたんですけど、過ぎちゃって、なんか、迎えに来てくれたみたいで」
「へぇ〜」
「じゃあ、すいません。今日はありがとうございました! また、遊びましょうね、メールとかも相手してくださぁい」
「おう! あややまたね! チャットにも遊びに来てよ?」
「はぁい!」
「ばいばーい」
手を振って、可愛い笑顔でみんながいる場を離れて、彼女の元へ駆け寄るあややさん。
彼女のみきたんさんは私達に向かって一度だけお辞儀して、駅の改札の中へと入って行った。
まだ切符を買ってなかったあややさんは、「みきたん早いよぉ〜」と、急いでその後を追う。
その声を聞いてか自分の意志なのか、みきたんさんは立ち止まって、渋々そうにマイペースなあややさんが来るまで待っていた。
追いついたあややさんは、みきたんさんの手をしっかり握って、階段を上ってく。

……幸せそうだなぁ。と、思った。


301 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時33分09秒
見えなくなるまであややさん達を見送ってから、残ったみんなは、それぞれの行き場へ移動する事になる。
みんなに言われて強制的にデートになったちゃむさんと矢口さん達は、この辺を散歩するみたいだ。
居酒屋組は、この近所にいい店があるというケメ子さんの後についていく。
……そして、帰る組の、私とまこっちゃん。

「ま、まこっちゃん…」
「――帰ろっか」
「…う、うん」
たったそれだけ。
他に会話はない。

…私、分かんないよ。
なんで、まこっちゃんが怒ってるのか。
私が来たのが、そんなにいけなかった?
だったら、ここに来るまでに、本気で嫌だって言ってくれればよかったのに。
そしたら私だって、行くのやめたのに。
……それもこれも、聞かなきゃ、分かんない。
302 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時33分59秒
「……まこっちゃん」
「…」
「ねぇ、まこっちゃん」
「……何?」
「なんで、そんなに怒ってるの?」
「…別に、怒ってないよ」
帰りの電車の中。
隣で座ってるまこっちゃんに聞いたけど、まこっちゃんはそんな事を言う。
「……嘘だよ。まこっちゃん、泣きそうな時と怒ってる時、口をへの字にするんだもん」
「へ、への字になんかしてないよ」
「…してるよ」
「あ〜、もうっ、うるさいなぁ!」
「…………ごめん」
「あ…やっ、その…」
…もう、ヤダ。
どうして、私が泣きそうにならなきゃダメなの?
303 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時37分04秒
「ち、違うんだよ。あさ美ちゃん、違うんだって。怒ってないよ」
「………」
今更慌てて否定しても、もう答えてやらないよ。
喋ったら、泣きそうなんだもん。
だけどまこっちゃんは私の答えも待たずに、1人で喋る。
「ほんと、ちがくて。怒ってないってば。……あたしが勝手に、その…」
「…その、何?」
「その…思っているというか…なんていうか…」
「……意味が分からない」
「……あさ美ちゃんは、ホントはなっちさんと一緒がよかったんじゃないの?って思って……」
「……はっ?」
なんでそうなるの。
思わず、聞き逃せなくて、訊ねてしまった。
304 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時37分46秒
「あさ美ちゃんが、あたし達みたいな人と違うのは、最初から知ってるよ。
でもほら、そういう人達のオフ会に来たから、話を合わせるじゃん。
…ボックスの時の、好きなタイプとか……」
「うん……でも、答え用意してなくて、困ってた」
「だから、助けたのに。……あさ美ちゃん、後でなっちさんに、違うとか言い訳してたみたいだから」
「えっ、だってそれは、なっちさんが落ち込んでたから…」
「……なっちさんに大分気に入られてたみたいじゃん。電話番号交換してる時だって、仲良さそうだったし。
………分かってるよ、あさ美ちゃんは男の人がいいってくらい。でも、あさ美ちゃんは同性愛の抵抗ない人みたいだから、
なっちさんのこと気に入って付き合ったりするのかなぁって……」

……ちょっと待って。
じゃあ、まこっちゃんはもしかして、怒ってたんじゃなくて、拗ねてたの?
…私と、なっちさんが仲良くしてたの、ヤダったの?
そうだとしたら、どうしよう。どうしたらいい?

…なんでだか分からないけど、すっごくすっごく、嬉しい自分がいるよ。
305 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時39分06秒
「…付き合ったりなんか、しないよ」
「……ホ、ホントに?」
「…うん。それに私、まこっちゃんの言う通り、もし付き合うとしたら、同年代の人の方がいい」
「で、でも、理想と現実じゃ違うってあさ美ちゃんも…」
「うん、違うね」
ホント、全然違うよ。
私の好きなタイプ、レオ様みたいな人だったのに。
………現実じゃ、こんな、ヘタレ系。

……なんで、こんなにまこっちゃんが気になるのか。
なんで、こんなオフ会までついて来ちゃったのか。
私、分かっちゃったよ。
分からなくてよかったのに………分かっちゃったら、まこっちゃんのこと、好きで好きで、仕方ない。
おかしいな。おかしいな。
女同士っていう不思議な世界にいて、私の感覚が麻痺しちゃったのかな。
…でもきっと、現実は、おかしいことばかりなんだ。


306 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時39分51秒
「…まこっちゃんこそ、あややさんと帰りたかったんじゃないの?」
「はあっ?」
「だって、隣同士だったし、仲良かったじゃない」
「だってあやや、彼女いるじゃんか」
「でも、まこっちゃんのタイプの年上だよ。しかも、引っ張っていってくれそうだし」
「……まあそうだけどさ。言った通り、理想と現実は、違うの!」
「ぼ〜っとしてるような子…だっけ?」
「……うん」
「…ふぅん? でも、私達の学校の女の子は、ハキハキした子多いよね」
「……じゃああともう1つ。鈍感、っていう項目も、追加しとこう」
「まこっちゃん、好きなタイプ、なんか多いよぉ〜」
「だってそうなんだから仕方ないじゃん!」
「うぁ、逆ギレ」
「あさ美ちゃん相手は疲れる」
「ひどいよ〜」
頭に来て腕を捻ったら、イテテテと大げさに痛がるまこっちゃん。
…めちゃくちゃ軽くやったのに。
弱いなぁ、と思いつつ、そんなとこ可愛いなぁ、と器用に思う自分。
307 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時40分45秒
そこへ、私達が降りる駅が近付いて、まこっちゃんが立ち上がる。

「…んじゃ、降りますか」
「うん」

手を取って。手を繋いで。
私とまこっちゃんは、駅を降りる。


…自分の気持ちに気付いてしまった今の私のこの状況は、あややさんに負けない位幸せだ、と思う。


まこっちゃんはどうだろう。
そう思って横を向くと、綺麗なお姉さんに見とれていたまこっちゃん。

「…………」

とりあえず、ちょうどいいところにあったまこっちゃんの顎を私の頭で攻撃して、手を引っ張ってそのお姉さんから離れさせる事にした。


308 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時42分34秒
∬´▽`∬<ラスト隠し
川o・-・)<完璧です!
309 名前:理想と現実 投稿日:2003年02月25日(火)10時43分25秒
∬´▽`∬<話の内容…
川o・-・)<最悪です!
∬T▽T∬<……
310 名前:松竹藤 投稿日:2003年02月25日(火)10時49分53秒
無事、このスレッドに収められることが出来、ホッとしております。
手元にある理想と現実のお話は、一応ここまでになっております。
ごめんなさい。中途半端って怒らないで…(涙
頭の中ではちょっとした続きやら2人の今後やらあややとみきたんさんの番外編とかはあるのですが…。
皆様にお見せ出来るのは、いつになるのかわかりません。
ただ、現在暇なので、すぐにお見せ出来る日が来るかもしれません。
皆様にまた会いたいなと思いつつ、もし会えるのならば次は新スレでお会いしましょう。
読んでくれて、ありがとうございました。
311 名前:155@赤鼻の家政婦 投稿日:2003年02月25日(火)19時30分16秒
いいなあ。
なんか、思わせぶりなラストで、逆にすごくイイ感じ。
最後までぐいぐい、楽しく読めましたし、読みながらニヤついてしまいました。<危険。
ホントに、作者さんの書かれるキャラはみんな可愛いです。
見習わなくては(^^;)
番外編が禿しく気になりますが、とりあえず、完結、お疲れ様ですた。
新スレのほうも、楽しみにお待ちしております。

あ、あと、投げキッスの件ですが、
先ほど剛速球並の熱〜いのを送らせて頂きましたので、よろしければお受け取りください(w
ちなみに、返却不可です(w
312 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月25日(火)20時38分18秒
更新お疲れ様ですー。
いやぁ、よかったです、みきあやもあってww
オイラも頑張りますー!凄く文が上手くて見習わないと(^^;
番外編もいつかをマータリお待ちしてます。
何気に自分はあのあと暫くたってからのあややとみきてぃみたく考えてました(w
新スレ楽しみにしてます。
313 名前:17 投稿日:2003年02月26日(水)19時34分09秒
今回は、設定が面白かったです。
同性愛のオフ会というのは、無限の可能性?を感じますよね。
駆け引きもドラマ性も如何様にも。自然に同人的ストーリーを展開できますし。
小紺はイメージがピュアなので、ラブコメ向きかも。やはりパイオニアか。
明るめの先輩たちと一緒に出ることによって、リズムを出したのもいいですね。
大人しめの中心人物たちが、濃いキャラだらけwの周囲に振り回されて、
ちょっと進展、ってのはある意味、王道。

あやみきしかレスしないと思われたら恥ずかしい自分がここにいるw。
314 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月24日(月)18時29分54秒
No.1、理想と現実ともに面白かったです。
次の作品も見つけ次第読んでみようかと。

…そういえばオフ会に来てた人って10人ですよね。。。
猪木、ミニマム矢口、なっち、ケメ子、ジョンソン、チャーミー、
よっすぃー、あやや、ちゃむ、そして猪木と部外者の紺野…
あれ?もう1人の参加者はどこに…
315 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)14時45分11秒
しまった…
猪木2回書いてるし(汗
316 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月26日(土)17時56分06秒
保全
317 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月14日(水)11時34分26秒
保全
318 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月02日(月)11時05分38秒
保全
319 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)01時38分29秒
両方一気読みしてしまいました。
面白すぎです〜。
特に、理想と現実は、続きも読んでみたかったり・・・。
320 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月25日(水)14時06分36秒
レス返しが大変遅れて申し訳ありませんでした。
こんなグダグダ話読んでくださり、そしてレスをしてくれた皆様、保存をしてくださった皆様に感謝です。
321 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月25日(水)14時09分06秒
>>311
ラストは思わせぶりどころかものすご中途半端になってしまいました。
自覚はたっぷりあるのに直せない無力さ…。もう少しなんとかしたいです。
投げキッス、しっかりと受け取りました。ありがとうございました。

>>312
レスありがとうございます。返すのが遅くなってすいませんでした。
どんな話を書いてもみきあやを入れたいのはもう病気としか思えません(w

>>313
ずっとずっと書きたかった設定だったので、この際、と思い切って好きなとおり書かせていただきました。
自分なりに色んな遊びが出来て、ナンバーワン同様とても楽しく書くことが出来ました。
小紺も好きなのですが、やっぱり小紺だけじゃ寂しいので、みんなに助けてもらいながら。
最終的にはあやみきが全部持ってったようになってしまいましたが(w
あやみきじゃなかったですけど、レス、ありがとうございました(w
322 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月25日(水)14時09分40秒
>>314
感想どうもありがとうございました。
………そして、間違い指摘本当にありがとうございました・゚・(ノД`)・゚・
頭がおかしいんです。本当に10人だと思ってました。
ご指摘いただいたときも、絶対10人だと疑わず、数え直してみたら……。
もう1人の参加者。それは、陰からハァハァしてた私だと思ってください…。

>>316-318
保存どうもありがとう。

>>319
両方とも一気読みありがとうございます。さぞかしお疲れに…。
理想と現実の方は、………ご、ごめんなさい。
私の力不足でした…。
でもでも、書きたいネタはまだもう少しはあるので、もっと腕を磨いてから挑戦したいと思います。
323 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月25日(水)14時10分14秒
さて。
スレもまだ少し余ってますので、こっそり、懲りずにあやみき話を載せようかなとか思ってます。
自分で話を考えたつもりなのですが、もしかしたら、どこかの漫画等でネタが被っているかもしれません。
それだけありがちだということです…。
これまでと同じく、全然おもしろくないですが、見つけていただいた方の暇つぶしになれるように頑張ります。
そんなに長くはありませんので。


では。
324 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時11分45秒


「ねぇ、亜弥ちゃん。ねぇってばぁ」
「…しつこいです」
「自分だって前はしつこかったくせに!!」
「……うるさいですねぇ」

両耳を両手の人差し指で押さえてガードしたら、無理やりその手を降ろされる。
なんすんだ、と幾分背の高い相手を上目遣いで睨んだけれど、その顔は怒ってる。

「なんなんだよ一体! 好きって……吉澤先輩が大好きなんですぅ(はぁと)ってコクってきたのは、そっちじゃないか!」
「はぁ」
「断わっても断わってもつきまとってきてさ、しつこいって言ってもついてくるし………。
それなのに、なんだよ! ウチが好きになった途端、振るなんて!!!」
「だって」

初めから、そのつもりだったんだもん。
だから別に、何の問題もない。

「いつまでも振られた相手を追いかけるなんて、女々しいですよぉ? 素直に諦めましょうよぉ」
「やだ! 諦めない!!」
「…………しょうがないですね」
「…?」
325 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時12分23秒
すぅっと一息吸い込んで。
とどめの、一発。



「ごめんなさぁい。吉澤先輩、もう、用済みなんです☆」
「ガ━━━━━━(゚Д゚)━━━━━━ン !!!!!」
「それじゃ」

最後にとびっきりの笑顔とウィンクをプレゼント。
こんな可愛い笑顔をしばらく独り絞め出来てたんだから、感謝くらいしてほしいものだ。
亜弥と呼ばれた少女……松浦亜弥は、すっきりした顔で屋上を後にした。




326 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時13分30秒


327 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時14分18秒
「…これで、3年の吉澤ひとみさんは消えた、っと…」
「わぁ、松浦さんすごいですねぇ。落とすの難しいと思ってたのに、1週間で落としちゃうんだもん」
「ま、当然だね」
放課後の、かぼちゃ愛好会部室。
そこには、賢そうな少女と口を開けてでへへと笑ってる少女と、先ほどの少女の3名が。
「やぁっぱさぁ、あたし最強!…みたいな?」
「…ですね」
「ですね」
「ですねですねですね」
どこかで聞いたようなフレーズ。
最初にですねと言った人は、なにやら言わされてる感がしないでもない。
しかし、ですねと一番多く言った少女、松浦亜弥はご機嫌の為特には気にしていないようだ。

かぼちゃ愛好会のメンバーは、部長の紺野あさ美と副部長の小川麻琴。
しかし部長と副部長がいるからといって、普通の部員はいない不思議な愛好会。
じゃあなぜ、部員じゃない松浦亜弥が、こんなところにいるのか。
328 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時15分00秒
元々、亜弥とあさ美と麻琴は、この学園の2年生と1年生という先輩後輩の関係。
その関係は、亜弥達が中学の時から続いている。
愛好会と言っても特に活動をしてない2人を、亜弥が利用して、勝手に麻琴を自分の左腕、あさ美を右腕として働いてもらうことにしたのだ。
「でも松浦さん」
「ん?」
珍しくあさ美が発言。
「次、誰落とすんですか?」
「え〜、誰にしようかなぁ。誰がいる?」
にこにことあさ美のパソコンのデータを覗き込む。
もう、一通りは落としたのばかりだ。
329 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時15分38秒
学校の人気者を、次から落として振ってく小悪魔ぁゃゃ。
そんなことを言われたのは、何人目の相手を落とした時だったか。

自分が一番可愛い。
そして可愛いと思われてるのも、知っていた。
じゃあ、その可愛さ、利用せずにはおくべきか。

中学一年の時、当時高校三年生だった飯田圭織に目をつけた。
長い髪、高い身長、綺麗な顔立ち。
高等部だけでなく、中等部でも人気者だった。
そんな圭織に、気に入られるように高等部の校舎に通った。
ぁゃゃなんてあだ名もつけてもらった。
可愛い子好きで懐かれると弱い圭織は、すぐに亜弥に夢中になった。

……しかし。
一度、自分のモノになると、不思議と興味がなくなってくる。
自分の可愛さに段々相手が落とされてく過程に快感を感じていた亜弥は、付き合っても全然楽しくない。
それどころか、他に人気のある人に、興味が出て来る始末。
しかし二股はあまり好きじゃない。
そこで、二股じゃなくさせるために、圭織をあっさり振ったのだ。
それから、ぁゃゃの伝説は始まった。
330 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時16分54秒
普通の可愛い子を落とすより、みんなから人気のある、綺麗な、可愛い、カッチョ前な女の子。
そんな人気者の子が、可愛い自分によって落とされるのだ。
こんな快感、素晴らしい。
じゃあもっと範囲を広げて、男にもアタックすればいいのにとあさ美や麻琴に言われたが、却下した。
所詮は女。
男が本気になって、襲われて子供でも出来てしまったら、非常に嫌だ。
あくまで自分優勢でいたいのだ。
なので、女限定。
人より上腕筋には自信があるし、可愛さはもっと自信がある。

「でも、最近は松浦さんのそういう噂、広まってきてますからねぇ」
「…だから落としにくいって?」
「はぁ…」
「それでも、吉澤先輩は落ちたじゃん。あれだけ最初は嫌がってたのに」
「そうですけど…」
「馬鹿だねぇ、紺ちゃんは。……あたし、誰だと思ってんの?」
「ぁゃゃこと松浦亜弥さん!」
「まこっちゃんは偉いねぇ」
ナデナデ。
撫でてやると、犬みたいに幸せそうな顔。
さっきの先輩には冷たかった亜弥だけど、麻琴達には優しいらしい。
331 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時18分29秒
「で」
「「で、って?」」
「次。人気ある子は?」
「あ、そうでしたね」
といっても………ほとんどの子には、ハートが。
ハートは、亜弥が相手を落とした時につけるマーク。
「え〜。もういないのぉ?」
「松浦さん、落とすの早過ぎなんですよ」
「それだけあたしが可愛いってことじゃん!」
「………」
あさ美は、どうコメントしていいのか分からない。
長年一緒にいるだけあって、亜弥がただ可愛いだけじゃないことは、重々承知だ。
「こりゃ、他の高校まで範囲を広げるしかないのかなぁ……」
「あ、でも」
「ん? どしたぁ、まこっちゃん」
「誰かが言ってたんですけど……藤本美貴先輩って知ってます?」
「??? 誰? 2年にはそんな名前の子、いないよ?」
「…3年?」
「そぉそぉ。3年の藤本先輩」
「なんか、校長先生の立派な椅子に無断で座っちゃって、反省文書かないで過ごしたら留年になった人だよね?」
「そうそう、さすが頭いいいだけあってよく知ってるねぇ、あさ美ちゃんは」
「…何その理由」
っていうか、そんなことで留年になるのか。
校長が大層なお金を使って買った椅子に無断で座ってふんぞり返ってた罪は大きいらしい。
332 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月25日(水)14時19分03秒
「その人、人気者なの?」
「人気者っていうか、その一件で有名になって………今じゃ、なんか濃いファンがいるらしいです」
「……へぇ」
にやり。
亜弥の口元が、小さく上がる。
ターゲット発見。

「……藤本先輩に狙い定めたんですか」
「とりあえずはね」
だって他にいい人もいないわけだし。
暇をつぶせそうなら、何も問題はない。
また、亜弥の伝説が1つ増えるだけ。


「…じゃ、早速明日から行動開始しますかぁ」


あぁ………楽しみ。



333 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月25日(水)14時20分12秒
松浦さんのキャラごめんなさい。
そして誕生日おめでとう。
334 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)17時11分29秒
あー相変わらずの最高ぶり。
なんでこんな最高のシュチュエーションを考え付くのだろう。
少女漫画でも中々無い面白さ。
そしてハロプロでなければならない必然性も感じるこの作品をこれからも応援させてください
335 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時09分02秒


何日で落ちるかな。
どういう戦法で、攻めようか。
とにもかくにも、まずは、告白から。




336 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時10分05秒


337 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時10分35秒
朝早くにまず登校。
そしてそのまま鞄を前で両手で持って、校門で立ち止まる。
待ち伏せ、だ。

亜弥のお決まりの告白スタイル。
亜弥が校門に立ってにやにやしてたら、次のターゲットが決まったということ。
次々と学校中の人気者を落としていく亜弥の次のターゲットが誰かと、登校してきた生徒は気になるらしく、亜弥の周りを取り囲んでる。
注目してくれれば、してくれるだけで嬉しい。
それだけ目立つわけだし。
目立つの大好き松浦亜弥。
時には、興味津々なギャラリーに愛想を振り撒きながら、あさ美に教えてもらった美貴の顔を探す。

藤本美貴の印象としては、まぁまぁ、可愛い顔。
身長が同じな割には、長い手足。
だが、目つきは悪い。
ここ最近人気が出て来たらしいので、亜弥もノーチェックだったのだ。
もしかしたらどこかで逢っているのかもしれないけど、美貴ときちんと面と向かって逢うのは初めて。
338 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時11分13秒
「はぁやく来い来い、藤本美貴ぃ」
もうすぐ、朝のHRが始まるチャイムが鳴っちゃうよ。
なのにまったく姿を現さない。
体調でも壊して今日はお休みだったのかと残念に思っていると、向こうの方からのろのろと歩いてくる彼女がいた。

「っていうか、おそっ!」
しかも、もう遅刻寸前なんだから、慌てればいいのに。
美貴はというと慌てるどころかコンビニで買ったパンを頬張りながらトテトテとやってくる。
「……何この人……」
あまりに今までの相手とは違う為びっくりしてると、ゆっくり亜弥の前を通過する美貴。
「…ん?」
ちょっと待って。ちょっと待てよ?
そんなあっさりと通過してくれるのはいいけれど、そしたらばじゃあ、なんで自分はここにいるんだ。
そう。
いとも簡単に通り過ぎた、あなたを待っていたというのに。
339 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時11分45秒
「ちょちょちょちょちょぉっと待ってください!!!」
「んぅっ?」
「藤本美貴さんですよね!?」
「はぁ、そーだけど」
もぐもぐ。
喋りながら動く口の中。
…このやろう。
あたしが見つめてるってのに、食べるの止めんかい。
―――なんてことは、口に出さず。
ぁゃゃスマイル全開で告白。

340 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時12分20秒

「あたし、松浦亜弥っていうんですけどぉ。…藤本美貴さんのこと、好きになっちゃいました!!
……だからぁ、藤本さんもあたしのこと、好きになってくれますかぁ?」

ウルウル涙目。キラキラ上目遣い。
いきなり待ち伏せして告白するという非常識に、初めは良い印象を持たれないけど、このときだけは別だ。
亜弥にこう告白されたみんなが一瞬、言葉に詰まる。
頬だって、赤くなる。
じゃあ、新ターゲットの美貴はどうだろう。

「…っ」
「………ニヤリ」
明らかに今、言葉に詰まった。
ほら、ほっぺただって赤くなってる。
…これは、落ちるのも結構早いかもしれない。
でもそれはそれで手応えがないなと考えていると、目の前からングングという苦しそうな声。
「ど、どうしたんですか」
「んぅっ…ぐ、……っ。はぁ!……あ゛ー、パンが喉に詰まった。死ぬかと思った」
「――って」
声じゃなくって、詰まったのはパンかよ!!!
顔赤くなったのは、詰まって苦しかったからかよ!!!
思わずおっきな声で突っ込みそうになって前のめりになって倒れそうになってしまう。
…このままじゃ、ダメだ。
341 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時13分30秒
ペースが乱されてる。なんとなく。
いや、なんとなくじゃなく、確実に。
「……あ、あのですね」
「ん?……って、あ。松浦亜弥だぁ」
「い、今気付いたんですかっ?」
さっき自己紹介したのに…。
「有名人」
「あぁ〜、可愛いって?」
「いや。小悪魔って」
「可愛い小悪魔ですよねぇ」
自分で言うも、なんだか寂しい。
だって自分で言わないと、最近は言われなくなってしまったから。
ちょっと、人気者の人を落としまくって、敵を多く作りすぎたせいかしら。
でもこの病気は、治りそうにない。
そしてまた、ぁゃゃの餌食になりそうな人が、目の前に。

「…あたしのこと知ってるんだったら、分かるでしょ? 今、あなたの目の前にいる理由」
「やっぱりね、いつか来ると思ってた。だってほら、美貴、人気者だし?」
「は?…は、はぁ」
「なんかさぁ、ある意味嬉しいよねぇ。人気者しか落とさないぁゃゃにコクられんのって。
だってぁゃゃに告白された人って、=人気者って認識だもんね」
「そうですね」
でも、何日か後には、その人はその小悪魔にこっぴどく振られるんだけど。
342 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時14分13秒
「知ってるよ。絶対にコクった人を、好きにならすんだよね。んで、振る、と」
「はぁい」
「みんなそれを分かってんのに、好きになるんだもんねぇ。きっと、すごいんだね」
「すごいですよあたし」
自分で言いまくってやる。
だって、自信があるから。
ほらほら、美貴だって、満更じゃない。

「……じゃあ、美貴も亜弥ちゃん、好きにならせてみてよ」
「…? ん? え、ふ、普通、勘弁してよ、とかじゃないですか?」
少なくともこれまでのケースでは、そうだった。
亜弥の行動パターンをすべて知った上で、そういうなんて。

普通だったらば、ここで思い切り嫌がって逃げる相手を亜弥が追いかけて追いかけて最後には落とすという形。
なのに今回は。
なんだか、相手がいやに協力的。
「だってなんか、おもろそうじゃない?」
美貴の好きな言葉、“楽しむ”。
何事にも楽しく取り組む姿勢は、涙が出る程素晴らしいことだ。
「ま、まぁ……別にいいんですけど」
調子、狂うな、なんか。
でもとにかく、相手の許可をしっかりもらった事だし。
343 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月26日(木)10時14分48秒
好きに、ならせればいいのだ。
そして、振る。

その時、今目の前で笑ってる彼女は、どんな顔して自分にすがりつくんだろう。
にやにやと妄想してたら、その彼女から、どうでもよさそうな一言が。

「チャイム鳴り終わってるけど、教室、行かなくていいの?」
「……………」



…本当にどうでもいいけど、遅刻だ。





344 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月26日(木)10時17分02秒
短いけどここまで。

>>334
早速見つけてくれてどうもありがとうございます。
本当に馬鹿な松浦さんです。
そしてアホな藤本さんです。
なんとも言えない2人が主役ですが、どうぞお付き合いしてくだされば嬉しいです。
345 名前:334 投稿日:2003年06月26日(木)22時59分20秒
流石だ!!期待の2個上を行く展開!!

藤本さんも松浦さんに負けずに天上天下唯我独尊な所が最高です!
続きが楽しみすぎる。
346 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)08時58分45秒


上目遣い。涙目。意識的に胸に腕をグリグリ。終始べったり。
どうだ、藤本美貴。
………なのに、どうしたことか。
彼女の顔色は、ちっとも変わらない。



347 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)08時59分19秒



348 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時00分14秒
「……おかしい。ぜぇったいに、おかしい」
「独り言ですか?」
「違うよ! 紺ちゃん達に言ってんの!!」
まったくもう。
プリプリ頬を膨らませたら、ぶしゅっと麻琴に空気を抜かれる。
「……まこっちゃん」
「ひっ…! ご、ごめんなさい!!」
生憎、松浦亜弥は怒っているのだ。

「あたしの予想では、そろそろ反応を見せてもいい頃なのに!!!」
「…松浦さんの顔と性格がタイプじゃないんじゃないですか…?」
「紺ちゃん何か言った?」
にこにこ笑顔。
この笑顔が一番怖い。
「あたしに、不可能なんてないわけよ、実際!」
「でもてこずってるのは確かで…」
「まだ1週間も経ってないでしょ!」
「…そうなんですけどね」
もうこれ以上は何も言うまい。
被害を増やされたくないあさ美は、大人しく黙ることにする。
「あー、ちょっとぉ、黙らないでよぉ。寂しいじゃんかぁ」
「………」
黙らせる事にさせたのは、誰だ。
349 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時01分19秒
どうもやっぱり、ペースが乱されてる。
亜弥の攻撃を、のらりくらりとあやつは上手く交わしやがるのだ。
照れ隠しなのかなと疑ったが、全然そんな様子もない。
彼女は言った。
「好きにならせてみてよ」と。
じゃあ、好きになる気はあるんだろうか?
そもそも、振られるのが分かってるのに好きにならせてみてよって言う自体、おかしい。

「ダメだわ……みきたんの気持ちがわからない…」
いつもなら相手がどう思っているのか、すぐわかるのに。
「っていうか、みきたんってなんですかぁ?」
「…ん? 藤本美貴のあたしなりの呼び方だよ、呼び方。落とす為にはまず、呼び方も甘く変えないとぉ」
「また変なあだ名つけますねぇ」
「えー、可愛いじゃん!」
せんぱぁい、ふじもとさぁん、美貴ちゃぁん、みきたぁん。
何通りか実際に話しかけるようにして口に出してみて、最終的に決まった呼び方。
必ず名前の間に小さい“ぁ”を入れるのは忘れない。
350 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時01分56秒
「………でも」
「何よ紺ちゃん。黙るんじゃなかったの?」
「そうですけど……藤本さんには別の呼び方が――っと」
言いかけた所で、昼休み終了のチャイムが。
「では、今日のところはこれで」
優等生な紺野あさ美はパソコンの電源を切っていそいそと教室にと戻ってく。
後を追うようにして麻琴も。
残された松浦亜弥。

「むぅ。……独りで置いてかないでよぉ!」

351 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時02分27秒



352 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時03分03秒
長い授業も終わって、時間は放課後に。
コクってからの恒例行事、人気者の相手と一緒に下校する為、亜弥は美貴の教室の前に来ていた。
3年の教室に足を運ぶと、みんな亜弥がなぜ来たのか用が分かっている為ひそひそと亜弥を見て話始める。
「……」
なんなの、なによ。
従姉のぶりっこのお姉さんの口癖が、移りそうだ。
移らないように口を押さえながら美貴のいる教室を覗くと、ものすごい態度の悪い生徒が1人。
――美貴だ。
このクラスはまだ挨拶が終わってないのか、先生の話を、椅子を前後に揺らしながら聞いている。
「何やってんの、あの人は…」
ほら、そんな態度だから先生に睨まれてる。
しかし謝るどころか、先生相手にガンを飛ばす始末。
…もっとも普段の目自体、目つきが悪いからなんとも言えないんだけど。
353 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時04分09秒
美貴に睨み返され怖くなって何も言えなくなった先生は、また話に戻る。
美貴はというと、相変わらず後ろの席の人の存在を無視しながら、前後にユサユサ。
そんなことばっか、してるから。
もたれながら後ろに椅子をも一度傾けた時、ズッドーンと見事に転んでしまった。
「いってぇ!!!」
滑った椅子に乗ってた美貴は、そのまま後ろに。
その際に後ろの机に後頭部を強打。
今、美貴は罰が当たっている。

「……ばかじゃないの?……」
こっそり見ながら、亜弥がポツリ。
でもなんか、口元が微妙に緩む。
………なんかちょっと、馬鹿で、可愛いかも。――なんて。
しかし先ほど睨まれた先生は思いっきり派手に倒れた生徒の美貴を無視して話を終わらせた。
起立、礼をしてみんなを解放させる。
その中で、未だに痛みから解放されてない約一名。
354 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時04分49秒
「く、っそ…せんせ、今、美貴無視した! 生徒心配しろよ!!」
「うるさい! お前は頭打ってちょっと性格改善した方がいいんだ!!」
「ひどい! 言葉の暴力ぅ!!!」
「それだけ喋れるんだから大丈夫だろーが!!」
ギャアギャアとムキになる2人。
他の生徒は近付きにくいのか、2人を避けて教室のお掃除。
そんな2人の元へ、とことこと近付いてく亜弥。

「みきたぁん、大丈夫ぅ?」
「ぬっ……こら松浦! 3年の教室に勝手に入ってくるな!」
「なんでですかぁ。だって、あたしの好きな人がこんなに苦しんでるんですよぉ? 心配で駆け寄ってくるのが普通でしょ?」
よしよし、もう大丈夫だからねぇ。
腫れた後頭部をナデナデしてあげる。
「す、好きな人!? 今度のターゲットはこいつなのか!?」
…先生にまで噂は広がっているらしい。
亜弥も有名になったものだ。
355 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時05分28秒
「やめとけ! こいつは特殊だぞ!」
「特殊ってなんだよぉ!」
「頭がおかしいってことだ!!!!」
「先生が生徒にそこまで罵倒していいのかよ!!」
「うるさい!」
「……っ、もう怒った! 先生がいくら言おうと、美貴は人気者だからね! だから亜弥ちゃんにコクられたんだよ!!」
「ふん! 晒し者の間違いじゃないのか!?」
「…馬鹿は相手に出来ないな。ほら、亜弥ちゃんいこ!!!」
「えっ? う、うん…」
ぐいぐい引っ張られる手。
リードしてくれるなんてあぁ素敵。…じゃなくって。

あくまで、自分優勢なんですけど。
この状況、なんですか一体。
明らかに美貴に引っ張られて美貴ペースになっている。

356 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時06分06秒
「ちょ、ちょっと…あの、みきたん」
「ったくもう! やんなるよあのセンコー! あいつは校長派だからな…ブツブツ」
「はぁ、そ、そうなんだ…」
「ほんとむかつく。おかげで授業料一年余計に払わせやがって……あぁ、くそぉ」
「……」
それは、あなたが悪いのでは。
口に出すとせっかく協力的な美貴を敵に回してしまいそうなので、言えない。言わない。

亜弥の言葉に耳も貸してくれずそのまま結局、校門のとこまで来ることになる。
しかし来たところで彼女の口から、とんでもない一言が。
「じゃ、ここで」
「へっ!? なんで!?」
「だって美貴、寄るとこあるから」
じゃあね、なんてここまで引っ張っておいて、あっさりと。
…そうはさせるものか。
「待ってよ! 一緒に帰ろうよぅ」
「無理」
「なんで! あたしのこと好きになるようにしてほしいんじゃなかったの!?
一緒に帰って、あたしの良さをもっと知ってよぉ」
「……んー、そうだけどぉ。…別に、急がなくてもいいじゃん。
それより美貴、別の用の方を急いでるから………じゃあね!!」
「あ、ちょっと! みきたん!?」

びゅーっと亜弥から逃げるように。
亜弥より優先するものが、あるというのか。
357 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月27日(金)09時06分44秒


……先生。
確かに、特殊です。
みきたんこと、藤本美貴。


「……あたしは、早くあんたを落としたいんだってば」


しかし、一筋縄ではいかないようだ。

358 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月27日(金)09時09分44秒
ここまででつ。

>>345
またレスありがとう。
sageで自ら進行しているものの誰にも見つけられなかったらどうしようとビクビクしてたのでとても安心しております。
天上天下唯我独尊。
もう少し周りのことも考えてもらいたい2人です(w
359 名前:334 投稿日:2003年06月27日(金)21時05分06秒
むー一々仕草、動作、セリフに萌えどころがある……。凄すぎる作者さん。
自分が松浦さんに言い寄られたら2秒でオチます。確実に。
先生にまで噂が広がっている松浦さんは、自分もかなり特殊だと言う事に気付いているんでしょうか?(w
そして藤本が実年齢だったのに笑った。
360 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時36分17秒
「ね〜えってば、ね〜え?」
「ん?」
「昨日はどこ行ってたのぉ?」
「昨日? あぁ、放課後か」
「うん」
美貴に置いてかれてから1日後のお昼休み。
今日はかぼちゃ同好会部室には行かないで、美貴との距離を縮める為に活動中。
自分をほっぽり出してまで行った美貴に腹が立っているのだ。
なので、すっきりする為にも、どうしても聞いておかないと。
「もしかして、誰かが危篤だったとか? そしたらしょうがないよねぇ」
それだったら亜弥を置いて帰った事も納得出来る。
「違うよ?」
なのにそれを、あっさりと却下する美貴。
361 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時37分10秒
「!!…じゃあなんなのさ? ねぇ、ね〜えっ」
パンをもぐもぐ食ってる美貴の周りをうろうろ。
その際、ボタンを胸元近くまで空けて首に手をかけて回るのは忘れない。
大抵のやつは、亜弥の意外と豊満なその胸に視線が釘付けになるのだ。
…ほら、美貴だって――。

「って、あぁ!! このチョコパンっ、チョコパンって名前のくせにチョコがちょっとしか入ってない!!!」
「…………」

――美貴の視線は、パンに釘付け。


362 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時37分59秒
……しょうがない。
イライラして怒ってる美貴を、和ませてあげよう。
「…チョコだから、チョコっと……なぁんちゃって」
「ぜんっぜん、笑えない」
「っ…この」
人のダジャレをあっさりと、よくもまぁ。
和ませてやろうと思ったのに、無言で否定されるなんて。
「何よ何よみきたんはぁ! あたしよりチョコの中身の方が気になるの!?」
「だって! チョコパンなのにチョコほとんど入ってないんだよ!?」
「どうでもいいよそんなこと! あたしの中身の方を気になってよ、ほら!!」
大サービスだよ、もう!
シャツを大きく引っ張ってブラごと見せてやる。
なのに、こいつと来たら。
「亜弥ちゃんの中身って……骨と血と静動脈と、心臓と………ごめん、人体や生物には興味ないんだ…」
「その中身じゃないッ!!!」
「……意味わかんない」
「あたしのセリフですぅ!!」
363 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時38分37秒
ちくしょう。ああちくしょう。
どうしてこんなに息を切らせないといけないんだろう。
今頃、違う相手だったら、相手があまりに思い通りの反応を見せてくれて、ほくそ笑んでるところだろうに。
「いや、そりゃあ…立派で硬い骨と、綺麗な血とか流れてると思うよ?
だけど、みきたんに見てもらいたいのはその中身じゃなくてぇ……」
…ほらほら。
胸見せても、どきどきしないんですか。
まあ女同士だからドキドキしないんだと言われればそうだけど、そんな性別も乗り越える程の松浦マジックをいつもかけているというのに。
効いちゃいねぇ。
ちょっとくらい効けよ、このやろう。

「もういい! チョコパンとか中身の話はもういい! あたしが聞きたいのは、昨日どこへ行ってたかってこと!!」
「まいちゃんちだよ」
「………まいちゃん?」
「ん。幼馴染の里田まいちゃん」
「…………それって、女の子……だよね」
「当たり前だよ」
「………」
じゃあ、なんですか。
女の子に負けたってこと?
男なら、まだ許す。
だけど、同じ女の子に……。

女の子人類の中で一番可愛い、この、松浦亜弥が。
他の、女なんかに。
364 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時39分08秒
「な、なんであたしじゃなくその人のところに……。あ、あぁっ、その人が危篤だったんだね!?」
「……なんでそうやって人を殺そうとするの。違うよ、メールで遊ぼうって呼ばれたんだよ」
「なんであたしより他の子優先するの!」
「えぇ!?」
「みきたんっ、あたしのこと好きになりたいんでしょ!?」
「なりたいっていうか……」
「なりたくないの!?」
「いやっ、な、なりたいです」
「だったら、これからはあたしを最優先にしてよねっ」
「……もしかして、妬いてる?」
「はあ!? このあたしが!?……ハッ…ふざけないでよみきたん」
「いやいや」
やきもちなんて、馬鹿馬鹿しい。
妬くのなんか、好きじゃない。
妬かれるのは、大好きだけど。
なのに、このあたしが、そんなこと。
有り得ないから笑ってやったら、美貴も楽しそうに声をあげて笑う。
365 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時40分19秒
「あははっ…あー、楽しい」
「楽しい?」
どこが…。
どっちかというと、亜弥的には不愉快だ。
自分ではなく他の女を優先され、やきもち妬いてるとか、意味のわからないことを言われて。
「いやぁ、おもろいよ、亜弥ちゃん」
「…みきたんはよく分からないよ」
「そうかなぁ?…まーそうかもね」
「否定するのか肯定するのかどっちかにしてよっ」
「ま、どっちでもいいじゃん」
「……」
冷めてる、ということだけは分かった。
366 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時40分51秒
「でもマジで。美貴さ、楽しいこと大好きなんだけど、楽しいよすっごく。亜弥ちゃんといると」
「……そう、なのかな」
振り回されてばかり、なんだけど。
亜弥のペースが狂わされてばかり、なんだけど。
話、ちっとも聞いてくれないばかり、なんだけど。
「きっとさぁ、今まで亜弥ちゃんが落としてきた人達も、そやって好きになってっちゃったんだね」
「……うーん」
確かに楽しませることは大事だ。
だけど亜弥は主に、自分にドキドキとときめかせることを一番心がけてきた。
なのに美貴には、なかなかその作戦が上手くいかない。
「あーやべぇ。美貴ちょっと亜弥ちゃん好きになりかけてるかもぉ」
「……ふはっ……嘘つき」
そんなヘラヘラ顔で言われたって、全然信用がない。
なのに、つい笑ってしまった。
367 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時41分29秒
「!!…じゃあなんなのさ? ねぇ、ね〜えっ」
パンをもぐもぐ食ってる美貴の周りをうろうろ。
「…っと、そろそろ美貴いかなきゃ」
「えぇ?」
だってまだチャイム鳴ってない。
思わず制服を掴んだら、優しく振り解かれる。
「ごめん、ご飯食べ終わったら呼ばれてるんだ、じゃあね」
「はぁっ? ちょ、ちょっと待ってよ! あたし最優先にしてって、言ったじゃん!」
「………よく思い出してみてよ、亜弥ちゃん。美貴、頷いてないんだけど?」
「……………ぁ」
た、確かに。
妬いてる?とごまかされたのだ、思い出してみたら。
「ずるいっ! あたしといると楽しいって言ったじゃんか! じゃあ一緒にいようよぉ!!」
「ほんとごめん! だって先に約束してたからさぁ。またね」
「あぁっ…!」

また、逃げられた。
逃げ足と、突っ込みだけは早い奴。

「……ちょっと」

368 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月28日(土)09時42分06秒



独りにしないでよ。
他の女の子のところ、行かないでよ。


……だって。
なんか、むかつくじゃん。



369 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月28日(土)09時47分22秒
ここまでです。

>>359
こんな奴いねぇよと思いながら書いてましたので、セリフやら萌えどころがあると言われればもう幸せすぎます。
松浦さんに言い寄られたら2秒で落ちるということですが、落ちた途端振られちゃいます(w
でも私は一秒で落ちるかもしれません……。
藤本さんには2秒、1秒といわずばっちり松浦さんを堪能してほしいものです。
それと、自分が一番可愛いというのはもちろん知っていますが、松浦さん、自分が特殊ということはあまり気付いてないみたいです(w
370 名前:334 投稿日:2003年06月28日(土)22時15分00秒
んぎゃぁぁ〜〜!!徐々に変わっていく最後のレスが心を打ちます!
そして、さり気なく入れている小ネタと言うか歌詞などにもムフフとしてしまいます!
続き期待!
371 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)09時52分34秒
「……ってわけなんだよ!! ひっどい話じゃない!?」
「…は、はぁ、そうですね」
「う、うん、ひどいよねぇ…」

お昼ご飯も食べ終わり、5時限目と6時限目の休み時間。
亜弥は休み時間の度に、1つ上の階のあさ美と麻琴のクラスに来ていた。
話の内容は、みきたんに対する怒り。
その怒りは何時間経っても収まらず、朝、登校した2人を掴まえて文句を言ってから、毎時間の休み時間にやってきては文句を言っている。
今日だけで同じことを、朝、休憩時間1、休憩時間2、休憩時間3、昼休み、今、の6回目だ。
さすがに聞いてる方の顔も引きつってくる。

性格と、人気者を落としては振るというとんでもない癖が災いして、あまり友達がいない亜弥。
もっぱら話を聞いてもらうのは、この2人。
長い付き合いだけれど、さすがに6回も同じことを言うのは勘弁してもらいたい。
372 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)09時53分18秒
「あの…松浦さん」
「何よっ」
「…この話ぃ、もう、6回目ですよ…?」
「ば、ばかっ、まこっちゃん…!」
思ってても、口に出しちゃいけないのは今までの経験で十分学習出来てたはずなのに!
あさ美より馬鹿な麻琴は、ついに耐え切れずそんなことを怒り心頭の亜弥に伝えてしまう。
「……ふぅん、そぉ。まこっちゃんは、あたしの話を聞くのが苦痛なわけだ?
この、あたしの話を聞くのが苦痛なわけだ? この、このっ、可愛いあたしの声を聴くのが苦痛なわけだっっ!?」
「ひぃっ!! そ、そんなこと言ってませんよぉっ」
「言ったね。今、確かに言ったね。あたしの心に届いたもん!!!」
「テレパシーなんか使えませんよぉ!!」
「…ハンッ」
やってられない、とばかりに吐き捨てるようにそんなこと。
これは、やばい。
ここまで怒ってる亜弥を見たのは、正直初めてだ。

373 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)09時55分07秒
部外者を装っていたあさ美も、あまりに麻琴が可哀想になってきて、フォローを入れる。
「ま、まあまあ松浦さん……」
「むぅ〜っ」
「何も、そこまで怒ることないじゃないですか、いつもの優しくて可愛い松浦さんらしくない……」
「ハッ!……そ、そうだよね、いつも優しくて可愛いあたしらしくないよね、…まこっちゃん、ごめん…」
「え? い、いや、いいですよほ!!」
…さすがはあさ美ちゃん。
亜弥がどうやったら自分を取り戻すのか、ちゃんと分かってる。
あまりにもそれは自惚れで自分勝手な取り戻し方だけども。
元の亜弥に戻ってくれれば、2人は何も言うまい。
「どうかしてた…っていうか、どうかしてるね、あたし…。あんなアホ人間にこんなにまで頭に来るなんて…」
374 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)09時55分55秒
「そうっ! もうねっ、ほんとアホなの!! 椅子から倒れるわ、担任のヅラ取って大目玉くらわされるわ、
自分がしたドアのところに黒板消し挟んだのを担任が来る前に忘れて自分がひっかかっちゃうわ、とにかく、アホなの!!!」
「………」
「………」
「あたしが放課後とか、休み時間こっそり教室行くたんびに、絶対先生に怒られてるし! その理由がまたおかしいんだぁ」
さっきまでの怒りはどこへやら。
美貴がどれほどのアホ人間なのか、今度は語り始める。
「……なんか、さっきと違って…松浦さん、楽しそうだね」
「うん……」
その変わり身の早さと、表情の豊かさにびっくりだ。

これまでの亜弥も、落とす相手のことについてあさ美と麻琴に笑いながら語っていた。
しかしどの話も、それは亜弥に対する相手の態度についてだ。
なのに美貴の話ときたら、亜弥に対する態度の話なんてなく、亜弥が見て来た美貴のアホ話。
それも、すごく楽しそうに。
時々、思い出してしまったのか、吹き出しまでしている。
375 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)09時57分12秒
「……松浦さんって、藤本先輩、落とそうとしてるんですよね?」
「? そぉだよ、当たり前じゃん! 紺ちゃん今頃何言ってんの?」
「そうなんですけど……なんか松浦さん落とすのが楽しみじゃなくて、別の意味で楽しそうだから」
「……別の意味?」
「藤本先輩見てるのが、楽しくておもしろくてたまらない、みたいな」
「は…ハッ……そりゃ、アホな人を見るのは楽しいじゃんかぁ。紺ちゃんだって、まこっちゃん見るの楽しいでしょ?」
「ええ!?」
そんなところで名前を出されても嬉しくない。
「まぁ、楽しいですけどね」
「あ、あさ美ちゃん……」
……そして、同意されるともっと嬉しくない。
悲しんでるアホな麻琴を無視して、2人の女の口は止まらない。
376 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)09時58分16秒
「今まで松浦さん、相手の人の性格とか何してるかとか全然興味なかったから……不思議だなって。
興味あるのは顔とスタイルだけだったじゃないですか」
「い、今だってそうだよ」
「えー、でもさっき、こっそり休み時間に教室見に行くって……」
「だ、だからそれはみきたんを落とすためにっ」
「じゃあなんでこっそりなんですか。堂々と行けばいいのに……。こっそり見て、休み時間の藤本先輩を見て笑ってるんじゃないですか?」
「くっ……」
どうしてそう言い当てられるんだ。
そうだ、そうだよ。
毎回先生に怒られてる美貴の態度を見て笑ってるんだ。
あぁ暇人、と思いながらこっそり実は見てるんだ。
でも亜弥が気付いてないだけで、他の奴には松浦が藤本を覗き見してるってバレバレなんだけど。
377 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時00分01秒
「きょ…今日はよく喋るよね、紺ちゃん」
「松浦さんはよくどもりますよね、今日は」
「っ……! と、とにかくっ、今日の放課後は部室行くからねっ、ちゃんと待っててよ!!」
「はいはい」
「くっそぉ……ブツブツ」
言い負かされた、年下に。
いらいらしながら教室に戻って行く亜弥。
あさ美はそんな亜弥を笑顔で見送り。

本当に、今日のあさ美はよく喋る。
そして、よく亜弥につっかかる。
いつもは被害を蒙られないようにどっちかというと物静かなのに。
「…あさ美ちゃん、一体どうしたのさ」
「んー?」
「松浦さん」
「あぁ…。…いつも、言いたい放題言われてるから、仕返しにね」
「そ、そう」
「松浦さんって、からかうとおもしろいよね」
「そ、そうなのかな」
いつもはからかわれてばかりの麻琴には、何がなんだか分からなかった。

378 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時00分49秒



379 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時02分00秒
放課後。
約束通り部室へとやってきた亜弥は、今日で7回目のトーク。
何度聞いてもらってもむかつく、んだそうだ。
あさ美なんかはあんまり聞き過ぎて、言葉を暗記してしまったほど。
「でも、失礼な話ですよねぇ。松浦さんより他の女の子を優先するなんて」
「でしょ! そうでしょ! やっぱりまこっちゃんは話分かるぅ」
先ほどの反省からか、今度は亜弥をひたすら持ち上げることにした麻琴。
その作戦は非常に賢く、優秀だ。

「今日は? 今日はまた一緒に帰らないんですか?」
ネットをしながらあさ美が言う。
「…知らないよ。放課後は『友達とバレーしてから帰るから亜弥ちゃんバイバイ』とかって」
「フラれちゃいましたね、松浦さん」
「はあ!? 誰がフラれたって!?!?!」
「まままま松浦さん落ち着いて!!」
こんな狭い部室の中で暴れられたりでもしたら大変だ。
麻琴は慌てて亜弥の身体を押さえる。
380 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時02分58秒
「松浦さんが藤本先輩をターゲットに決めてから、もう3週間。過去最長です。
学校中でも、ぁゃゃ初めての失敗か?とそろそろ噂が流れてます」
「ふ、ふん……そんな噂、すぐなくして振ってみせるもん」
「そうですよぉ。なんせ松浦さんに不可能はないんですもんね!」
ヨイショヨイショ。
亜弥を押さえて持ち上げてと麻琴は大変だ。
「そろそろ、松浦マジックが効いてくる頃だもん…」
「男と女の関係でもあるじゃないですか。いくら親しくても、女の人にとってその男の人はいい人で終わっちゃう……みたいな」
「…何が言いたいの」
「松浦さんは藤本先輩の、楽しい人で終わっちゃう……みたいな」
「終わらせないっ!!! 楽しい人を大好きな人で終わらせてみせる!!」
「松浦さんっ、がんばれ!」
「うん、まこっちゃん! 頑張るよあたし!!」
高らかに拳をあげて宣言してみたものの。

……なかなか、先が見えない。

381 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時03分34秒
「好意的だとは思うのよ。用事がなければ来てくれるし帰ってくれるし。
なのに、あたし一番じゃないのがむかつく。他の女のとこなんかより、あたしといる方が絶対楽しいのに!」
美貴は楽しいのが大好きだと言った。
じゃあ、盛大に楽しませてあげよう。
そして好きになってくれたらいいのに、何しろ、亜弥だけのものにはなかなかなってくれない。
「こんな、可愛い女の子がアタックしてるっていうのにさ…」
「うーん」
腕組んで、麻琴がぽつり。
「もしかして、他に好きな人がいるとか?」
「…はぁ? だったら好きにならせてみてなんて言わないでしょ、何言ってんの」
「そ、そうですよね…」
その発言も思いっきり怪訝な顔で一掃される。
「…好きな人なんか、いるわけないじゃん」
「は、はぁ…」
「ほんと、まこっちゃんってばか! ばかばか」
「ひ、ひどい松浦さん……三連発」
「……あーもぉ!」
なんか、いらいらする。

「…ほらっ、帰るよ!」
「えぇ? もうですかぁ?」
「今ネット繋いだとこだったのに…」
「いいからぁ」
親分には逆らえません。
2人の子分は渋々立ち上がり部室を後にする。
382 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時04分43秒

右にあさ美。左に麻琴を引き連れて廊下を歩いていると、なんだか最近よく聞く怒鳴り声。
……あの声は…そう、美貴の担任だ。

「お、お、…お前はまたとんでもないことしでかしやがって!!」
「だから謝ってるじゃないですかぁ」
「誠意が篭もってないだろ、どうみても!!!」

近付いて見ると、やっぱり担任。
その担任の目の前には、天敵の美貴までも。
そんな2人の足元には、ガラスの破片。
窓を見てみると、ぱっかり割れてるガラス。
問題児が、また問題を起こしたようだ。
原因は多分、美貴の手に持たれているバレーボール。
「藤本先輩だ…」
「あ、ほんとだぁ」
「しっ」
亜弥の口に人差し指が立てられ、口元が緩む。
383 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時05分16秒
「いいか! このガラスはなぁ、高いんだぞ!!」
「高いのにすぐ割れたのか……」
「馬鹿力だからだろーが、お前が!!!!」
「うー」
「……はぁ……弁償しろよ」
「えええ!? なんでっ、普通、『もういい、帰ってよし』じゃないの!?」
「誰がそんな甘い言葉をお前に言うんだ!!」
「ひっどぉ! 学費を一年分多く払わせといて、その上高いガラス代まで払わせんの!?」
「いいか…どっちみち、校長に留年言い渡されなくても、お前は単位足りなくて留年してたんだよっ。
だから学費が一年分多いのは俺達だけのせいじゃない!!」
「……先生は学年主任だもんね、生徒の単位いじるのくらい簡単だもんね…」
「アホかっ!!! お前の実力不足だ、実力不足!!!」
「そうやってすぐ美貴のせいにする!!」
「お前のせいじゃなきゃ、その頭の脳味噌は誰の責任なんだ!」
「ちゃんと教えてくれなかった先生のせいじゃないの!?」
「俺の責任かよ!?」

「ぷ〜っ!!!」
ふはははと陰から笑い始める亜弥。
あさ美と麻琴が不思議そうに見ても、視線は美貴の態度に釘付け。
384 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時06分48秒
「はぁはぁ……と、とにかく…ここ、掃除しとけよ!!」
「はぁい」
「弁償はさすがに可哀想だから…もういいけど」
「知らなかった……先生にそんな良心があったなんて」
「っ、お前……ほんとに弁償させるぞ!!」
「えへ。ごめんなさぁい」
「…………」
ブリっと首を傾けて両目ウィンク。
自信満々なそれも、担任にはまったく効かなかったみたいで、呆れながら戻ってく。
独りその場に残された美貴。
足元には先生達が小さくて運びきれなかったガラスの破片と、ちりとりとほうき。
「…ちくしょー。なんで美貴だけが怒られなくっちゃいけないんだよぅ」
確かに飛ばしてぶつけて割ったのは、美貴だけど。
ちょっとくらい、一緒に遊んでた子達も来て、謝ってくれたらいいのに。
美貴に任せたら大丈夫だろうと帰ってしまったのだ。
「ちょっと美貴が年上だからって……ブツブツ」
不満たらたらの美貴は、それでもちりとりとほうきを持って床を掃く。
下を見ながら一生懸命掃いてると、床には2年生の上履きの色。
「あ、そこガラスの破片あるから危ない………って」
「みきたぁん。やっほー☆」
今まで覗いていた、亜弥だ。
385 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時08分19秒
「優しいあたしが、手伝ったげる!!」
「マジでぇ? ありがとー」
「助手もいるよぉ」
「ん?」
亜弥の後ろから2人組。
上履きの色は1年生。
残念ながら面識はない。
「紺野です」
「あ、お、小川です」
「あ、どうもぉ。藤本です、よろしくぅ」
ヘラっと笑顔。

「いやぁ、嬉しいなぁ」
「ポイントアップ?」
「アップアップ。もう今亜弥ちゃん好き度かなりキテるね」
「…………ほんとかな」
「マジだよぉ」
にへら、と微笑むと、つられちゃう笑顔。
さっきまで先生と話してた時の事を思うと、このギャップが楽しくてたまらない。
386 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時08分50秒
「また派手に言い争ってたね」
「んぁー、見てたのか」
「うん」
手伝ったげると言ったくせに、手伝いは助手に任せ美貴の周りをうろつく亜弥。
その美貴だって、助手さんたちに任せっきりで亜弥とトーク。
「うっさいんだけど、あいつ。ま、今回は美貴がもちろん悪かったから謝ったんだけど、なんか誠意がないとかいうしさぁ。
お前はもっと生徒は信用しろってんだって感じ」
「あはは」
「ま、おもろいからいいんだけどね」
「……ほんと、おもしろいこと大好きだね、みきたん」
「あー、好きだね。亜弥ちゃんも好き!!!」
「…ぇ?」

――ドッキン。

387 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時09分24秒
ぇ、嘘、嘘。
いつのまに楽しい人から、好きな人に代わってたの?
これって、告白じゃないですか。

「…マ、マジ?」
「うん!」

やっと。やっと。
好きになってくれたよ、この人。
松浦マジックの効力、やっと効いたよ。

388 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時10分07秒
あぁ、そしたらば。
………どうすれば、いいんだっけ。
え、なんで。
なんか何も、考えられない。
鼓動が、早い。

そうだ。そうだよ。
振るんだ。振らなきゃ。振っちゃうんだ。
そう……振らないと。


389 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時10分48秒
「……ん? どしたの亜弥ちゃん」
「え、いや……せ、せっかく好きになってくれたのは嬉しいけど…あたし…」
「あぁ。やっぱりもっとちゃんと好きにならないとダメ? おもろいって理由の好きじゃあ亜弥ちゃんに振られないか」
「――は?」
「いや…おもしろいこと大好きだね、って言ったから、おもろい亜弥ちゃんも好きって言ったんだけど…」
「な、…何それ」
「好きは好きなんだけどなぁ」
「…………」
「亜弥ちゃん見ると胸がドキドキするってか、和むんだよねぇ、楽しくて。笑いすぎて死にそうになる時あるけど」
「…………」
「…あ、亜弥ちゃん?」



…何それ。何ですか、それ。
じゃあ、みきたんの「好き」を聞いて勘違いしてなぜか胸がドッキンキュルルンしてしまったあたしは馬鹿なんですか。
っていうか、なんでそんなこと聞いてドキドキしなきゃいけないの。
目の前のアホは、和んでいるというのに。



390 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月29日(日)10時11分26秒
「…いい? 言っとくけどみきたん」
「…ん、んん?」
「あたしには、落とせなかった女なんて、いないの」
「はぁ…」
「だから、みきたんだって例外じゃないの!!」
「う、うん」
「絶対…絶対、楽しい人から好きな人に変わらせてみせるんだから!!!!!」
「ちょ、ちょっと亜弥ちゃん!?」
美貴の止める声も聞かず、走って去ってく亜弥。
なんなんだ、一体。

「……ねぇ、君たちの先輩、どうしたの」
あまりに訳が分からなくて、後輩2人に聞いてみる。
「いや、さぁ…」
「………馬鹿が、大馬鹿になっただけですよ」
「「…………」」

ごめん。
余計、分からない。

麻琴と一緒に首を傾げる美貴であった。



391 名前:ダメ経営者 投稿日:2003年06月29日(日)10時13分37秒
ここまでです。
27時間テレビはまだ続く。

>>370
小ネタは好きです。松浦さんも好きです。藤本さんはもっともっと好き(ry
ごほんごほん。
すいません、取り乱しました。
松浦さんの心境の変化を徐々に表せたらなと思います。
392 名前:ほわ 投稿日:2003年06月29日(日)13時47分04秒
禿しく続きキボンヌ・・・
美貴様かっこよすぎますよ
393 名前:334 投稿日:2003年06月29日(日)19時20分52秒
何気に先生と藤本さんは仲が良いですよね。
紺野さんは松浦さん以上にこのゲームを楽しんでいる……。
そして久しぶりに繰り広げられたキリバン合戦!!2次元だけでなく3次元でも楽しみです。
394 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時42分01秒
むかつく。すっごくむかつく。
朝からどっかのCMみたいに、すっごくおはようなんか言ってられない。
すっごく、むかつく。

何が、一緒にいたら和むだ。
あたしをなんだと、松浦亜弥を誰だと思ってやがるんだ。
超可愛くて、超プリティーで、超最高で。
そんな相手から迫られてるのに、和む、だなんて。
よくもまぁ、リラックスなんかしてくれる。

見られてドキドキ。
触れられてドキドキ。
ドキドキしすぎて死んじゃいそうなら嬉しいのに、笑いすぎて死にそうだって。
笑わせてくれるわ。
……やっぱり笑えない。
395 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時42分46秒
「もうっ、なんであたしがあのアホのことでこんなイライラしなきゃいけないのっ」
朝から機嫌よく出かけたいのに、思い出すとそれはまあ。
どうすれば、落ちる?
どうすれば、好きになってくれる?
「むむむ……」
アホで特殊な藤本美貴には、今までの戦法がまったく通じない。
あぁ、くっそぉ。
いらつくむかつく腹が立つ。

機嫌が悪いのを隠せずに思いっきり憮然とした顔で歩いてると、後ろから声。
「…あの、松浦さん」
「………は?」
ギロリ。
「ひぃっ!」
「……あ」
しまった。
相手はクラスメイト。
「ど、どうしたの?」
慌てて顔を作って笑顔を見せたが、もう遅かった。
ああいう顔は、あさ美と麻琴の前でしか見せてはいけなかったのを忘れていた。
「あ、お、おはようって言おうとしただけなんだけど……そ、それじゃあねっ!!」
「…はぁ……」
…自ら、友達を無くしてしまっていってる気がする。
「…別に、いいもん」
まだ自分には、あさ美や麻琴がいるだけ幸せ。
396 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時43分26秒
しかし、人気者を落として振るという有名人には、嫉妬やアンチもつきもので。
亜弥の後ろから、「ちょっと待ちなさいよ」と謎の声。
「………あぁ」
声のした方を見やると、ご存知またクラスメイト。
名前は、高橋愛と言ったか。
残念ながら名前なんて呼ばないので覚えているところで意味ないんだけど。
なのに愛ときたら、これでもかというくらい、亜弥の名前を口に出す。
「松浦さんっ、ちょっと待ちなさいよ!」
「やだよ。忙しいのに」
「忙しい? 全然落ちない藤本美貴の後をおっかけることにぃ?」
「………」
眉が吊りあがる。
「確かに今は落ちてないけど、これから、落ちる予定なの」
「へー、あっそぉ。天下の小悪魔ぁゃゃがてこずってるって学校中で噂だから、真相はどうなのかなって思っててさぁ」
「残念。近々また『ぁゃゃがまた落として振った〜』って噂が回ってくるだろうから楽しみにしてて、吉澤先輩の時みたいにぃ」
「っく…!」
397 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時44分44秒
人気者を落としていくだけあって、問題がある。
一番の問題は、その人気者を好きな、ファンの存在だ。
そしてこの高橋愛は、美貴を落とす前に振った3年の吉澤先輩のファンらしかったのだ。
それからというもの、ことごとく亜弥に当たってくるのだ。
「あのさぁ、何度も言ってるけど、あたしがこんな性格だって知ってて好きになったのは、吉澤先輩の方なんだよ?
それなのにあたしに文句言われても筋違いだっていうのに」
「違う! あんたが何か吉澤先輩に催眠術かけたんだ!!」
「…催眠術なんか使えてたら、とっくにあのアホ落としてるよっ!!!」
あぁっ、もう、また思い出した!
またむかついてくる。
「そもそもっ、そんなに吉澤先輩が好きなら、自分も落とせばいいじゃんか!」
「お、落とせてたらこんな文句言いたくないよ、馬鹿っ!」
「まぁね。あたし可愛いからねぇ。吉澤先輩もあなたじゃなくてあたし選んだんだろうねぇ」
「……ほんっと、むかつく」
「…あら奇遇だね。あたしも今むかついてんの」
「げぇ。同じなんて最悪ぅ」
「こっちのセリフですぅ」
398 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時45分45秒
「………このっ」
「………何よ?」
口喧嘩でも敵わない。
可愛さでも敵わないと認めてしまった愛は、こうなったら他の人に頼ることにする。

「あんたなんかねぇ……藤本美貴のファンにこてんぱんにやられちゃえばいいんだっ!!!」
「……はぁ?」
「ふんっ!」
「…………」

…まったく。
朝から意味の分からない人がいて、困る。
肩を一度竦めてから、亜弥はまた歩き出した。


399 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時46分25秒



400 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時48分12秒
「みきたんの…ファン……ねぇ」
昼休み、屋上でそんな考え事。

「ファン………ま、人気者らしいから、もちろんいるよね」
でも、この松浦亜弥にこてんぱんにやられちゃえ、なんて。
この上腕筋を見て、愛は言ったんだろうか。
そんじょそこらの女には体力では負けないように、鍛えているというのに。

ファンにこてんぱんにやられるより、まずは藤本美貴をこてんぱんに惚れさせないと。
そのための作戦会議を独りで屋上で考えてたら、いつのまにか目の前に、影。
401 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時49分02秒
「……あんた、松浦亜弥だよね」
「だよね」
「だよね」
「……はぁ、そうですけど?」
上を向くと、仁王立ちした3人の女性徒。
残念ながら好みでもないし、見た事もない。
「…なんですかぁ? 今、取り込み中なんですけど」
「まぁ、いいから」
「ちょっと、立ちなさいよ」
「ほら、早く早く」
「………」
上履きの色を見たところ、上級生っぽいし。
ここは、大人しく言う事を聞いておこう。

「…あたし達、誰か分かる?」
「3年生…でしょ?」
「3年生は3年生だけどっ、ただの3年生じゃないわよ!!」
「…?」
「美貴様の…藤本美貴様のファンよっ!!!」
「み………美貴…様ぁ?」

ええと。
ここは何の世界でしょう。
神様美貴様仏様。
みきたんが、神や仏と同類になったみたいだ。
402 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時50分03秒
「最近、美貴様についてる虫、松浦亜弥!」
「美貴様が迷惑がってるの分からないの!?」
「しつこいのはあたし達だけで十分なのよ!」
「いや、あの」
あまりにも分からなくて、亜弥さえも縮こまり。
元々そんなに大きくはないのだけど、何だか怒ってる3人に囲まれて珍しく困ってしまう。
「馴れ馴れしく『みきたぁん』なんて呼んじゃって!」
「ややや…美貴様よりマシでしょ?」
「みっ、美貴様は美貴様よ! 美貴様以外の呼び方なんて呼べないわ!!」
「………はぁ、そうですか」
少し前に、あさ美が言ってた。
藤本美貴には、別の呼び方がある、と。
……そうか、このことだったのね。
そして麻琴が言ってた。
濃いファンがいるらしい、と。
多分…というか絶対、目の前にいる3人だろう。

「あたし達三人…合わせて!」
「「「まめおシスターズ!!!」」」

いや。っていうか。
…まだ、誰も聞いてない。
403 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時51分50秒
「……えと、じゃあ」
逃げるが勝ち。
っていうか、逃げないと、ちょっとやばい。
「って、ちょっと待ちなさいよぉ!!!」
「逃がさないわよ!!」
「やっと独りになる瞬間捕らえたんだから!」
3人いるとそれだけ亜弥を包囲出来るのは簡単で。
1人が亜弥の前へ立ちふさがり、もう2人は亜弥の左右を。
そして亜弥の後ろは屋上の柵。
「なんなんですかぁ……ええと………さめお?シスターズさん」
「「「まめおよっ、まめお!!!」」」
「どっちも同じようなもんじゃないですかぁ…」
「同じじゃない! まめおは、美貴様が学校に住み着いてた豆柴の犬に名付けた名前なのよ!!」
「あれ? あの犬ってまめおって名前だったんですかぁ? あたし、ぁゃゃって名付けたんですけど…」
「あんたのあだ名じゃん!!!」
「だってぇ、可愛かったからぁ」
「くっ、ほ、ほんと、生意気ねっ」
「そうねっ、そうだね」
404 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時52分52秒
「とにかく、美貴様から離れなさいよ! 害なのよ、害っ」
「なんでですか。やぁですよ」
せっかくターゲットに決めたのに。
ここで諦めたら、自分の負けになっちゃうじゃないか。
そんなことになったら、それこそ愛にボロクソに言われてしまう。

ファンの方々には悪いけれど。
亜弥だって、諦めるわけにはいかないんだ。
そう伝えたら、顔を真っ赤にして怒ってみせる。
「そもそもですねぇ、みきたんがあたしに好きにならせてみてって言ったんですよ?
みきたんの協力は得ている、というわけなのでぇ、あなた方に離れろと言われても…」
「う、嘘よ…美貴様がそんなこと言うはずないわ…」
「美貴様は私達の美貴様なのよ!!!」
「………」
それはちょっと、いただけない。
「…みきたんはぁゃゃのもの(になる予定)ですよ?」
「「「キーーッ!!!」」」
「………こ、怖い」
顔が引きつってくる。
こういう対応は、慣れてない。
さすが、アホで特殊な美貴のファン。
ファンまで特殊だ。
405 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時53分39秒
「こ、こうなったら、お仕置きしなきゃね」
「そ、そうだね…お仕置きされる方がいいんだけど……」
「美貴様直伝のお仕置き!!」
「お、お仕置きって…」
うわぁ。
なんだか燃えてるよ、この人達。

ガシッと、亜弥の自慢の上腕筋を1人で片手、2人で両腕掴まれる。
「……え?」
あ、しまった。
3人だったら、こういうことも出来るんだった。
鍛えぬかれた上腕筋も、掴まれてしまったら何も意味がなくなってしまう。
「………」
汗ダラダラ。
こんなことなら、格闘技を習っておくんだった。
あぁ、亜弥の馬鹿。
今頃気付くなんて。

「ちょ、ちょっと……シスターズさん…?」
「「「何よ」」」
「と、年下いじめはやめましょうよぉ」
「「「………」」」
「全員で無視しないでくださいよぉっ」
「まずは、その自慢の顔からお仕置きした方がよさそうね…」
「きゃー」
どこから持ち出してきたんだ、鞭。
ハァハァと鼻息荒いのが横から前から。

松浦亜弥、絶体絶命のピンチ。
誰か、助けて!
406 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時55分17秒
ギュッと目を瞑った、その時だ。



「顔はやめな。ボディーボディー」



いづぞやの○原じゅん子のセリフをパクったかのような、声。

「……なんて。ボディーもやめな。やるなら自分にしときなよ」
「「「み、美貴様ぁ!!!!」」」
「み…みきたぁん!?」
「…自分ら、何やってんの。っていうか、美貴直伝って、美貴がいつあんたらにお仕置きしたよ?」
「みみみみきたぁんっ!!」
「わわっ…だ、大丈夫? 亜弥ちゃん」
美貴が登場して恍惚な表情を浮かべる3人の隙を見て、やってきた美貴の後ろに。
本当に怖くて、来てくれた事に安心して後ろから抱きしめたら、締めすぎて痛い痛いと言われた。
……こういう時に鍛えた上腕筋を発揮するなんて、皮肉なものだ。
「うぅ…ご、ごめん」
「…いいよ」
「っ…」
頭、ポムポム。
その手は、優しかった。
407 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時56分00秒
亜弥の頭を撫でた後、キッと3人を睨む。
すると、怯えるどころかもっと嬉しそうにハァーンなんて悲鳴が。
「ちょ…ちょっと、あんたら……」
「美貴様ぁ…私達が悪うございました!! ど、どうかお仕置きを!!」
「お願いします!」
「私も!!!」
「………と、とりあえず亜弥ちゃんに謝んなよ…」
「「「松浦さんっ、すいませんでした!!!」」」
さっきまでの態度とは打って変わって、思いっきり地面に土下座。
人間、崇拝する相手が現れた事によってこうも変われるものなのか。
「あ、謝りました…み、美貴様…お仕置きをハァハァ…」
「…や、やっぱやめた。…あ、亜弥ちゃん、いこう」
「ハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!」
「放置プレイですかっ、放置プレイですか美貴様!!」
「……っていうか、きもい」
「「「(;´Д`)ハァハァ」」」

逃げよう。逃げた方が、きっといい。
亜弥を連れて、美貴はその3人を屋上に放置することにした。

408 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時56分31秒


409 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時57分44秒
亜弥の手を引いてやってきたのは、体育館裏。
手を引いて逃げてる内にチャイム鳴ってしまったそこには、他の生徒はいない。

「ハァハァ……つ、ついてきてないよね?」
キョロキョロと見渡すと、いない。
今頃きっと、放置プレイを楽しんでるところなんだろう。
「はぁ…でもよかった。亜弥ちゃんに何もなくて。昼の授業サボろうと思って屋上行ったのがよかったかな」
「…………」
「亜弥ちゃん…?」
「…なんでもないっ」
「あ…」
いつまでも引いて掴んでた手は、亜弥によって振り解かれる。
410 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時58分34秒
「みきたん…みきたんのせいじゃんっ、絡まれたの!
みきたんの変なファンのせいでっ……怖かったんだからね!!!」
「ぅ………ご、ごめん…」
「なんであたしがあんな目に遭わないといけないのさ!!!!」
「それは………」
「みきたんなんか……みきたんなんかっ、次のターゲットにするんじゃなかった!!!」
「………ごめん」
「っ……いい!!」
「……ぁ」

伸ばされた手を払うと、寂しそうな顔。
そんな顔、するな。
もっと、むかつくから。
411 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)14時59分42秒
なんで。どーして。
あたしが。この、松浦亜弥が。
ああやって、絡まれて。


悪いのは、全部、藤本美貴のせいなのに。


なのにどうして、こんなにむかついてむかついて、嬉しいんだろう。

412 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)15時00分22秒
助けてくれたタイミングとか。
撫でてくれた手とか。
引っ張ってった強引さとか。
払われて寂しそうな顔とか。

どうして。
こんな気持ちにならないと、いけないんだ。
なんだ、この気持ち。
無性にむかついて、ドキドキする。

「……もぉいい! みきたんなんか…みきたんなんかっ、もう、落とさない!!!」


413 名前:Magic of love 投稿日:2003年06月30日(月)15時00分59秒



落とすつもりの相手が、反対に落とされるなんて――。

そんなの絶対、認めたくなかったんだ。




414 名前:松竹藤 投稿日:2003年06月30日(月)15時08分32秒
色んな意味でごめんなさい。
明日には終われるかな、と。

見直してて訂正。
>>367の最初の2行は飛ばしてください。コピペミスです。

>>392
続き載せてみました。
アホじゃなく美貴様かっこよすぎと言ってもらえて嬉しいです(w
ほわ様にはいつも萌えさせていただいております。レスありがとうございます。

>>393
先生はなんだかんだ言って藤本さんのことが好きと思われます。
そして紺野さんも楽しんでます(w
キリ番get、こんな感じになりました。
あと……吉澤さん、教えてくれてありがとう・゚・(ノД`)・゚・
教えてもらわなかったらまったく気付いてなかったです…。うえーん。
415 名前:334 投稿日:2003年06月30日(月)20時01分23秒
ちゃんとリアル通りの年齢設定とかが嬉しい。
だからシスターズはそう考えると後(ry
そして遂に言っちまいましたね……。
こんなの続きまで待てないよ!!萌え殺しだ!!!
416 名前:ほわ 投稿日:2003年07月02日(水)02時54分54秒
ハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!
美貴様ーw

このあとどうなってしまうのだろう・・・?
417 名前:17 投稿日:2003年07月02日(水)19時13分15秒
発見して喜び、ペースが速かったので、
終わるのを待っていたら、
「ハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!」
「放置プレイですかっ、放置プレイですか美貴様!!」

もはや華麗に達した設定の妙。
今回は話のスピード感もいい!。
松浦がこんまこの生意気な先輩って位置づけもさりげに、好き。大抵年下だもんね。
この話での藤本は、数ある小説の中でいちばん素敵な役柄かも。
418 名前:17 投稿日:2003年07月02日(水)19時14分14秒
ごめーーーーん。
sageだったーーーーー。
419 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時21分47秒
「ねぇねぇねぇ、知ってる?」
「なになに?」
「あのぁゃゃが、ターゲット諦めたんだって!」
「え〜っ!? うっそぉ」
「それが、マジらしいのよ」

噂大好き女子高生徒。
その生徒達の最近のニュースは、我が高の超有名人、松浦亜弥。
人気者をターゲットに決めて、自らアタックして落として振るという、なんとまぁ憎い奴。
しかもそれが全部成功してるんだからすごい。
なのにどうしたことなのか。
そんな自信満々の松浦亜弥が、せっかく決めた人気者の次ターゲットを諦めたというのだ。
女の子達は、噂せずにはいられない。

「なんでも、藤本美貴が『お前なんかタイプじゃねぇ!』ってぁゃゃを振ったとか」
「うっわぁ。ザマーだよね。自分の事可愛い可愛い言いまくってたくせに」
「ぁゃゃはザマーだけど、相手すごいよねぇ。あのぁゃゃを諦めさせたんだから」
「うんうん。あたしファンになっちゃうかも!」
「でもダメダメ。そんな奴ら多いから。あたしも見に行ったんだけどさぁ、
もう回りにはなんでか『美貴様ぁ』とかっていうファンがいっぱい」
「美貴様か……美貴様……」

いつのまにか話は、ぁゃゃから美貴様へ。
女の子達の噂話は変わるのが早い。
420 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時22分57秒
そんな移り変わりの早い話を、たまたま傍に居た為聞いていた麻琴。
呑気に本なんか読んでたあさ美を廊下に連れ出して、その噂話の真偽をもう一度確認する。
「ねぇ、ほんとに松浦さん、諦めたのかな」
「さぁ…」
「さ、さぁって! あさ美ちゃんっ、松浦さんの事心配じゃないの!?」
「だって、松浦さん言ってくれないじゃない」
「……まぁ、そうなんだけどさ」
そうなんだ。
本当の所はどうなのか訊ねても、亜弥は何も答えない。
ただただ、可愛いその顔を仏頂面にするだけ。
「あの松浦さんがだよ? あの松浦さんが、喋んないんだもん。おかしいよ」
お喋り大好きで、美貴の愚痴となると7回も聞かされる事になった2人。
普段の亜弥が喋れば喋る程、喋らない時が心配でたまらない。

他の生徒達は、ただただ、噂をするだけ。
だけど、ずっと付き合ってきた麻琴は違う。
お馬鹿で自分勝手で我侭な亜弥と、もう何年以上も付き合ってきたんだ。
たとえ他の生徒からどう亜弥が思われてようと、麻琴は亜弥が好きだった。
その亜弥が、みんなにざまーみろと言われてたら、気分が悪い。
421 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時23分42秒
「ひどいよっ、藤本さん…。自分から好きにならせてって言ったくせに!」
「……まこっちゃん」
「だってそーじゃん!! 確かにそりゃ、松浦さんの性格はおかしいけど……でも、楽しいって言ったのに!」
「うん」
「あさ美ちゃんだってそうだよ! なんでそうやって、無関心なのさ!
松浦さんに映画奢ってもらった時だってあったでしょ!? その恩忘れたの!?!」
「……いやっ…」
あの、でも。
奢ってもらったって言っても、それは、人からもらったタダ券をいかにも自分が金出して買ったかのように見せた巧妙な芝居だし。
……あぁそうか。
麻琴は鈍感だったから気付いていないのだ。
でも、そのタダ券をくれて一緒に見に行けた事は嬉しかったし、別に無関心なんかでもない。
422 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時24分19秒
「松浦さんは、馬鹿だから」
「…だから、意味わかんないよ」
「馬鹿だからきっと、多分…どうすればいいのか分かんないんだよ」
「………?」
「馬鹿だから、頭良い私頼ればいいのに。松浦さん言ってくれないんだもん……」
「あさ美ちゃん…」
あさ美だって無関心じゃない。
気になるんだ、やっぱり。
なのに亜弥が何も言ってくれないから。
今までずっと、付き合ってきたのに。
「……ほら、松浦さん、素直じゃないから」
「あぁ、うん。そうだね」
そういうとこ可愛いと思ってしまうから、きっと、亜弥と一緒にいるんだろうと思う。

「…しょうがないですねぇ、松浦さんは」
「うん」
「年上なくせに、馬鹿で、子供なんだから」
「あさ美ちゃん言い過ぎだよ〜」
「………じゃ、いきますか」
「…うんっ!」

423 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時24分52秒



424 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時25分29秒
あさ美と麻琴の1年のクラスでも知ってるその噂。
当事者の内の1人がいる3年のクラスでも、当然その噂は回ってきていた。

「美貴さん美貴さんっ、ほんとなんですか? あの噂」
「……」
「あのぁゃゃを振ったって、超かっこいい!!」
年下のクラスメイト達が周りではしゃぐ。
懐いてくれるのは嬉しいけど、残念ながら今はそんな気分じゃないのだ。
「……知らないよ」
「えー。知らないって。振った本人なのにぃ?」
「そんな覚えなんか、ない」
「えぇ!? 違うのぉ?」
「でも、最近ぁゃゃ来ないよねー」
「ねー。いっつも放課後になったらうざいくらい美貴さんの周りにいるのに」
「………」

何もした覚えはないのに、いきなり突然来なくなった。
……いや、実はあの時、美貴が覚えてないだけで、亜弥に何かしたのかもしれない。
でもその原因が分からない美貴には、さっぱりだ。
425 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時26分33秒
好きさせてみせる、って。
楽しい人から好きな人に変えてみせるっていったくせに。
来なくなったって、どういうことだよ。

「でもでも、いいじゃないですか。もうぁゃゃにつきまとわれなくてー」
「そうですよぉ。あたしら、もし美貴さんがぁゃゃのこと好きになったらどうしようって言ってたんですからぁ」
「なんで?」
「え?」
「好きになったら、ダメなの?」
「え、いやぁ……だって、ほら、知ってるでしょ? ぁゃゃを好きになって告白したら、すぐ振られるって。
自分から先に告白してつきまとったくせに、相手がぁゃゃを好きになった途端…」
「知ってるよ」
おもしろそうだから、だから、OKしたんだ。
…………なのに。
「いいから、バレーしにいきましょうよ! 今度は、ガラスが近くにないとこで」
「……うん」
「よっしゃー、いこいこ」



いつもは楽しいバレーの時間。
でも最近。
………どうしてか、楽しくない。
426 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時29分20秒



427 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時30分33秒
「さぁ、松浦さん。今日こそ白状してもらいますよ!」
2年の教室で亜弥をげっちゅした2人は、いつもの場所の部室に亜弥を連行。
抵抗も口も開かずついてきた亜弥は、まだいつもの亜弥じゃない。

「諦めたとか、嘘なんでしょ? 松浦さん、確かに熱し易くて冷め易いけど、やり始めたらちゃんと終わりまできっちりする人じゃないですか」
「………」
「…言ってくれたって、いいじゃないですか」
「ま、まこっちゃん…」
口をへの字にして、涙を耐える麻琴の姿。
なんだかんだで可愛がってきた麻琴のそんな姿を目の前で、しかも自分のせいでやられると、つらい。
涙を堪えてる為口を開けない麻琴の代わりに、今まで黙っていたあさ美が口を開く。
「……言っときますけどね」
「…?」
「私達は今まで、松浦さんの聞きたくない話まで聞いてきたわけですよ」
「なっ…」
「だから、私達が聞きたい話、聞かせてくれるのが恩ってもんじゃないですか?」
「う………」
「誰が人気あるとか、お菓子の買出しは私達に頼りっ放し任せっ放しなくせに………こういう時も、頼ったら、いいんだ」
「…こ、紺ちゃん…」
428 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時32分18秒
広く浅くの友達なんかより。
狭く深くの友達の方が、ずっと。
年齢なんか、関係ない。
亜弥は、良い友達を持てた事に、涙が出そうだった。

「…………あたし、あたし」
「「……」」
ボソリと、やっと口を開いた亜弥の邪魔はしない。
ただただ黙って、言葉に耳を傾ける。
「…むかつくんだ、あいつ。みきたん。ペース狂わされるし、話も交わされるし、あたしのこと好きにならないし。
そんなアホのファンにまで絡まれて、怖い目に遭うしさ」
「ええ!? ほっ、ほんとなんですか松浦さんっ!!!」
「……う、うん、まぁ」
「!!! そ、そいつらっ、ぶっ殺してやる!!」
429 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時33分42秒
大好きな亜弥に、なんてことを。
亜弥の優しい後輩は、へたれなのにそんなことを言ってくれる。
「…でもね、いいんだ。………みきたんが、助けてくれたから」
「へぇ」
「あ、そ、そうなんですか……」
「…ありがと。その気持ちだけで嬉しいよ」
「ぁ、そ、そうですか?」
久しぶりに微笑んでくれたその笑顔。
まだ少し元気がなかったけれど、やっぱりとても可愛かった。

「でもね、でもねっ……結局は、みきたんが原因で絡まれたのにっ。あたしっ………」
ときめいちゃった。キュンときちゃった。惚れちゃった。
「むかつくんだよっ、こんな、自分の気持ち……!」
「……何言ってんですか。全然、藤本さんが原因じゃないでしょう?」
「っ、なんで!」
「松浦さんが藤本さんに近付いたりするから、ファンの人が怒って松浦さんにちょっかい出したんでしょ?
だったら藤本さんが悪いわけじゃない。本当に悪いのは、ファンの人でしょ」
「そうだけど……そうなんだけど。あ、あたしはぁ、認めたくないの!!」
430 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時34分39秒
「…なんで、そんなに否定するんですか」
「だって……だって、あたしが落として振るはずだったのに!!」
なかなか相手は手強くって。
ときめかせてドキドキさせるどころか、ドキドキさせられちゃって。
楽しい事が大好きな美貴を見てると、自分まで楽しくなった。

「…でもぉ」
「……何」
疑問ありありと、麻琴の口から。
「好きなら、なんで諦めなきゃだめなんですかね? なおさら、アタックしたらいいのに」
「……………あ、あたしは、好きにならせておいて振る、松浦亜弥なんだよ」
「そんなイメージ、変えたらいいじゃないですか。今からだって遅くないでしょ?」
「も、もぉいいんだよっ!! ほっといてよ!!!……あぁ、もぉっ、言うんじゃなかった、やっぱり!!」
聞いてくれてあり難いのに、口から出るのはこんな事。
もちろんそんな亜弥の性格は麻琴も分かっているから、傷つくのはほんの少しだけで済むんだけど。
ほっといて、と言われた以上、へたれの麻琴はそれ以上何も言えない。
431 名前:松竹藤 投稿日:2003年07月02日(水)22時43分44秒
と、話の途中なのですが、スレッド引越し警報が出てる、ということもあってお引越しをします。
全部載せれるかなと思ったのですが、途中で切れるのも情けない話なので…。
書き込みができる内に引越し先を。
最終話なのにすいません。
新スレの方も、きちんと埋めたいと思いますので、ここまで読んで頂けた方、どうかお付き合いよろしくお願いします。
432 名前:松竹藤 投稿日:2003年07月02日(水)22時55分19秒
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/silver/1057153695/
新スレです。
途中からは恥ずかしすぎるので、一番下に。

>>415
シスターズは……うーん、どうでしょう(w
明日にまでは終われるかな、と言っておいてあさってになって申し訳ないです。
出来ない約束はするな……ですね。

>>416
ハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!
このあとは、新スレの方へ。わざわざ移動させてしまって申し訳ないです…。

>>417
スピード勝負ということで、勢いで書いてみて勢いで載せてみました。
見つけてくれて嬉しいです。
松浦さんのキャラも藤本さんのキャラも変ですが、愛してくださるとなお嬉しいです。

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