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ビューティフルデイズ
- 1 名前:ヒョロリ 投稿日:2003年02月10日(月)00時00分06秒
- いしよしです。
初めは甘そうですが、実はそうでもありません。
というか暗いです、重いです。
更新速度は遅くなるかもしれませんが温かく見守ってください。
- 2 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時01分34秒
「好きな人が出来た」
「……はぁ?」
出会いは、突然。
恋に落ちたのも、突然。
- 3 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時02分41秒
きもちーんだよなぁ、ここ。
ごっちんも連れて来てあげればよかったかな。
購買で買った、あったかいお茶と、パンをふたつ、片手に握り締めてはしごを登る。
空気は冷たいけれど太陽の日差しは暖かく、柔らかな雰囲気を運ぶ。
屋上の、そのまた上の段へと続く鉄のはしごも、太陽の光で微かに温かくなっていた。
はしごの最後の一段に手を掛けて、瞬間視界が広がる。
明るい日差しが、あたしの目を柔らかく刺激した。
- 4 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時03分29秒
ん……?
その、明るさは一瞬で、直ぐにあたしの目の前は暗く遮断される。
無意識に顔を上げると、そこにはヒトが立っていた。
「ぅあぁっ!」
「あ、あぶない!」
突然現れたその人に驚いて、またもや無意識に、はしごを握る手を離してしまったらしい。
体が傾いて、落ちる、と身構えようとした時、あたしの手はしっかりと何か温かいモノに包まれていた。
- 5 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時04分23秒
「だから、危ないって、言ってるじゃない!」
重力に従うって下へと向かうあたしを、必死で引き止めているらしく、声は揺れていた。
ばくばくと大きく音を立てる心臓を尻目に心をどうにか落ち着かせて、もう一度はしごを握りなおす。
恐々と、漸く最後まで登り終えて、そこに寝転んだ。
「あ、りがとう、ございました…」
あんなかっこわるい姿を初対面の人に見られて、恥ずかしさでいっぱいのあたしには、
お礼を言うのにも苦しいくらいで、これが精一杯だった。
笑われるか、見下したような目で見られるか、そんなとこだろう。
どうせ馬鹿にされるなら、思い切り笑われて終わった方が気が楽だが。
- 6 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時05分16秒
「危なかったね。落ちたら、あなた、死んでたかも。ふふふ」
全く予想に反して、彼女は軽く呟いた。
馬鹿にして、でも、本当におかしそうに、でもなく。
ただ、ちょっとおもしろい掘り出し物見つけました、みたいに笑った。
「よくここには来るの?」
「あー、えっと、この前たまたま、このはしご見つけて。
ココ来たのはまだ、三回目です。あ、でも授業中来たのは初めてですけど」
「ふーん。あたしはよく来るんだ、ここ。でも、他の人にあったのは初めて。
なんか悔しいなぁ。お気に入りの場所、見つけられちゃって」
元々茶色いみたいだけど、日差しに透けて一層輝く髪を指で弄りながら、彼女は言う。
その横顔に、あたしは釘付けになった。
自分でもよく分かるくらいに。
平凡な言葉のやり取りを、ずっと覚えていたくなるくらいに。
- 7 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時06分19秒
「はは、すみません。でも、すごく気持ちいいです、この場所。
また、来ちゃってもいいですかね、あたし」
じっと見つめてるのも気恥ずかしくなって、茶化すように言ったら、小さく笑みを浮かべた。
「うん、いいんじゃないかな。誰の物って訳でもないし。
出来れば、これ以上人も増やしたくはないけどね」
視線が絡むけど、その真っ直ぐな目は、やっと治まったあたしの心臓を爆発的に飛び上がらせる。
どうしようもなくなったから、ワザとらしく遠くへ視線を投げた。
しかも皮肉な事に、親友のごっちんでさえ、連れてこなくてよかった、なんて可愛くない事を考えてしまった。
- 8 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時07分09秒
「じゃあ、また会えたりしたら、話とかしません?」
どうにかこうにか言葉をまとめて言ったのに、口に出したら気に入らなくて、自己嫌悪が襲う。
でも、特に気にした様子もなく大きく頷いてくれたから、少しは気が晴れた。
「あたし、石川梨華。二年三組。きっと、あたしの方が先輩でしょう?」
「あ、そう、ですね。あたしは、吉澤ひとみです。一年、二組です」
自分の名前を言うくらいでも妙に緊張してしまって、言葉が切れ切れになる。
きっとそれは、イシカワリカさんがあたしの顔を覗き込んだ所為。
「ヨロシク、ひとみちゃん」
笑った顔はとてつもなく可愛くて、あたしはもうどこかに吹っ飛びそうだった。
それからどうやってそこで過ごして、どうやって教室まで帰ったか、ほとんど意識下にない。
- 9 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時08分54秒
「うっわー。ちょー少女マンガー。在り来たりー」
食べられなくてそのままになっていたパンを袋から出して、かぶりつきながらごっちんは言った。
こっちは真剣に考えているのに、心から興味なさそうに言われると、盛り上がっていた気持ちも一気に下がる。
「もうちょっとさ、気の利いたことくらい言えないわけぇ?
一応さ、親友が、恋愛相談なんかしちゃってるんだからさー…」
むしゃむしゃと口を動かす事を止めないごっちんの額にでこピンをくらわすと、額を抑えて恐い顔をした。
- 10 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時10分03秒
「だってさー、そういうくっさい恋愛物語聞いてると鳥肌たつんだもん。
ほら、見てコレ。大体、よしこに迫られたら落ちない人いないんじゃない?
いーじゃん、狙うなら狙うで。その人に恋人いなきゃいいだけの話じゃん。
よかったねー、うん、おめでとー。――はい、おしまい」
首元を掴まれて、引き寄せられて。
早口でそう言われると、何故か反論できなくなる。
別に、あたしが悪いわけじゃないのに。
「そう、だけどさ……」
「大体、よしこの‘好きな人が出来た’って言葉、何回聞いたと思ってる?
しかも、この一年で何人彼女紹介されたと思ってる?
本気で好きなとこ、見せてくれんなら相談乗るよ〜」
馬鹿にしたように、目の前で手を振っているごっちん。
ぐうっと悔しさがこみ上げるけど、それが正しいんじゃ反論も出来ない。
仕様がないから、下を向いて縮こまってみる。
- 11 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時11分13秒
すると、すぐにふうって言う溜息が頭の上を掠めて。
「名前、なんての?」
仕方なさそうにごっちんが尋ねる。
あたしとごっちんの、お決まりのパターン。
待ってました、とばかりに、ごっちんに飛びつくみたいに言葉をぶつける。
「あんね、石川梨華って言うんだって!二年三組で、すごくかわいくて……って、ごっちん?」
眉間に皺を寄せて、渋い顔をするごっちん。
何事か、と思って、まだまだ言い足りない言葉を止めた。
- 12 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時12分02秒
「石川、梨華ってさー……」
唇を尖らせて。
石川先輩と同じくらいの明るさの髪を、しきりに撫でる。
隠し事したり、疚しい事があったりする時の、ごっちんの癖。
「なに、なに?ごっちん、石川先輩、知ってるの?」
「知ってるも何も、さぁ……」
言葉を濁すごっちんに無性に腹が立ってきて、早く言えって、恐い顔をすると、ごっちんは渋々みたいに口を開いた。
「いい噂、聞かないじゃん?よしこは知らないのかもしれないけど。
援交してるとか、一ヶ月ごとに連れてる男が違う、とか……」
「はぁ?ンな訳ないじゃん」
- 13 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時12分51秒
ごっちんの深刻そうな顔がちゃんちゃらおかしくて、あまりにも的外れで笑えた。
あの、石川先輩が。
あんな独特な空気をもってるあの人が。
援交だとか、男好きだとか、有り得ない。
「んな訳ないって、言うけどさぁ、噂あるんだもん、実際。
火のないところに煙は立たない、とか言うじゃんかぁ……」
あたしが怒ると思ったのか、ごにょごにょと小さい声で下を向きながら呟く。
珍しく、難しい言葉なんか使ったりして。
- 14 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月10日(月)00時13分34秒
「そんなの、単なる噂じゃん?あたしは実物見て、話してみて、好きになったんだもん。
絶対そんなこと有り得ないよ。そんな人じゃない」
断言してから、もう一度思い浮かべてみて、やっぱり有り得ないと確信する。
はっきりと、自信を持って言える。
「よしこが言うなら、止めないけど…。
とにかく、そういう噂があるって事は、事実なんだかんね!」
しきりにそう言うごっちんに熱い友情を感じながらも、今回ばかりはおせっかいだと思った。
とりあえず、もう一度石川先輩に会いたい。
もっと深い知り合いになりたい。
今は、そう願うだけだった。
- 15 名前:ヒョロリ 投稿日:2003年02月10日(月)00時14分05秒
- とりあえず今日はここまでです。
- 16 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年02月10日(月)01時53分48秒
- うお!!いしよし新作!!
いしよし小説読み続けて早2年な私
期待してますよ〜
梨華ちゃんの過去気になりますね
- 17 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月10日(月)14時50分38秒
- せめて冒頭に「元ネタ有り」くらい入れて…
- 18 名前:ヒョロリ 投稿日:2003年02月10日(月)19時54分44秒
- >>17 元ネタはない完全オリジナルのつもりですが…。
その話はなんというものなんでしょうか?
教えていただけるとありがたいです。
- 19 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月12日(水)14時47分35秒
誰に聞いても、答えは同じものだった。
「石川梨華?あぁ、遊んでるって噂すごい人でしょ?」
「なんか感じ悪いよね、あの人」
「先生にも手ぇ出して、処分受けた先生がいるって」
「族関係に知らない人はいないとか」
「いい噂ないじゃん、狙ってんならやめた方がいいよ?」
どーいうことだ?
- 20 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月12日(水)14時48分56秒
「だから言ったじゃん、ごとーは」
うなだれるあたしに、慰める気なんか毛頭ないらしいごっちんの能天気な声が憎たらしく響く。
「でも、そんな人には見えなかったんだよぉ…?」
「よしこが見る目なかっただけでしょ。
この学校全員の声より、自分の直感信じられる?」
「そ、れわぁ……」
返す言葉もなく、口篭ったあたしに、生意気そうな顔を向ける。
「大体、運命的な出会いして、恋に落ちて、らぶらぶなんて、甘すぎるね!
少女漫画が許しても、そんなの、ごとーが許さないぞぉ!」
- 21 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月12日(水)14時49分51秒
訳の分からない理論まで、今のあたしには深く沁み込む。
溜息を一つ吐いて、机に突っ伏した。
「結構、本気になりかけてたんだけどな……」
「あれ、珍しい。よしこから本気なんて言葉が聞けるとは思わなかった」
終始まじめに聞く気のないごっちんを相手にしていてもどうしようもない、と今更ながらに察し、席を立つ。
「あれ、授業はー?」
「サボり。今日はもうマジ勘弁」
顔も見ずに携帯だけ掴んで、がやがやと皆の声の響く教室を出た。
- 22 名前:ヒョロリ 投稿日:2003年02月12日(水)14時53分06秒
- >>16 ラヴ梨〜さん
ありがとうございます。
いしよしは初なんですが、最近好きになりました。
がんばります。
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)22時02分48秒
- 続きがかなり気になります!!
楽しみにしてるんで、出来ればなが〜く続けて下さい(w
- 24 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年02月13日(木)00時06分55秒
- ものすごく評判悪い梨華ちゃんの真意が気になりますね〜
更新待ちどおしいです
17みたいな勘違い野郎は気にしないで頑張ってください
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月13日(木)00時29分44秒
- 新作ですね。
面白そうな展開で、続きが楽しみです。
ミステリアスな石川さんがイイ感じですね。
- 26 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時13分44秒
「はぁぁぁ〜」
長い長い溜息を吐いて。
淡い期待を胸に結局やってきたのは、屋上のあの場所。
寝転がって、手を伸ばせばすぐにでも届きそうな空を仰ぐ。
傷心の心に染み渡る澄んだ青、冬特有のピンと張り詰めた空気。
促されるように、きゅうと引きつった痛みが胸を走った。
「もーやだ。やだ、やだやだ」
言葉にしてみると無駄に倦怠感が襲ってきて、直ぐに後悔の念を抱く。
- 27 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時14分20秒
望んだものは、結構易々と手に入れて来た方だった。
悩む事もそうなかったし、壁に直面した事もほとんどない。
だからこそこんな状態は苦しくて、悔しくて、そして切ない。
目を閉じても尚、焼きついた空の色が瞼の裏に残る。
遠いようで、ごく近くに、チャイムの音が鳴り響いた。
屋上で昼食を取っていた数名の生徒達も、校舎に戻り始める。
そんな様子をちらりと横目で見て、再び目を閉じた。
- 28 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時15分30秒
何やってるんだろう、自分。
このくらいの事で駄目になっちゃうような弱い人間じゃなかったのに。
何がそんなにあたしえおいらだたせて、駆り立てるのか。
分からなくて、やっぱり余計に腹が立ってまた後悔する。
この苛立ちを、くしゃくしゃに丸めて、千切って。
青い空の中に浮かべてしまいたい。
あの切れ切れの雲のように、流してしまいたい。
おなかの底からむしゃくしゃが沸いてきて、苦しい。
奥歯をぎゅっと噛みしめて、それに耐えた。
- 29 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時16分05秒
「なぁに変な顔してるの?」
「う、ぇ……?うわっ!」
突然振ってきた声に何処か聞き覚えを感じながらも、反射的に目を開く。
と、そこには一番会いたかった、若しくは一番会いたくなかった、石川先輩の顔。
柔らかな息遣いを感じることが出来るくらい近くに、あった。
「ん?何で涙目?」
不思議そうに顔を覗き込まれても、余計な緊張を煽るだけで逆効果なんですよ、先輩。
とは、口が裂けても言えない。言わない。
- 30 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時16分47秒
「いや、その、空が眩しくてですね……」
ごにょごにょと馬鹿みたいな言い訳。
「あはは、変なの」
笑って流してくれるような先輩で、よかったぁ…――いや、よくない。
石川先輩だからこそ、全然よくない。
「あのー、石川先輩…?」
「あ、ヤダ」
「はぃ!?」
- 31 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時17分40秒
突然の‘ヤダ’という完全なる否定に驚き、思わず突拍子もない声が出た。
尋ねようとしてた事なんて、全部吹っ飛んでしまう。
「なにが、ですかぁ?」
「あ、それもヤダな。石川先輩、っていうの、イヤ。敬語もイヤ。
もっとフツウにしてよ、カチンコチンじゃなくて」
うー、と少し唸って、空に吸い込まれるように伸びをしながら、他人事のように呟く。
やっぱり、先輩から見ても、カチンコチンだったんだ、あたし。
でも、ヤダって言われてもやっぱり敬語を使わない訳にはいかなくて、恐る恐る口を開く。
- 32 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時18分38秒
「だって、イヤも何も、先輩じゃないですか…」
「一年だけだよぉ、たった。何も変わらないじゃない、同じ学校の同じ生徒なんだから」
「まぁ…そりゃそうですけど…」
あたしといえば、元来体育会系なもので、先輩を敬うのは当たり前。
タメ口、あだ名呼びなんてもっての他!
という、頑固で古臭い考えの持ち主なのだ。
そんなあたしには、到底無理な注文。
- 33 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時19分24秒
「うーん…じゃあ、敬語はまあ許すからさ、石川先輩って言うのだけはやめよ。
梨華ちゃんにして?なんか、慣れてなくて恥ずかしくなっちゃうんだ」
暫く真剣に考え込んで、ぱっと、枯れ木に花が咲いたように明るい顔。
はにかんだその顔は、先輩なのにとても初々しいような、可愛らしいような。
反射的にこくっと頷いて、そしてそれを見て、思い出した。
「先輩……じゃなくて、り、かちゃん……?」
やっぱり照れくさい。
心臓が変な風にリズムを刻む。
でも、嬉しそうに笑った梨華ちゃんを見て、それもまたいいかなって妙に納得できた。
「あの、うーんと、その……」
- 34 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時20分38秒
聞きたいことは沢山、山のようにあった。
あの噂は何なんですか?
遊んでるって本当ですか?
やばい事やってるっていうのも本当ですか?
本当だとしたら、あたしに向けてくれている、その屈託のない笑顔は何なんですか?
でも、言葉が上手くまとまらなくて、というかこんな事聞いていい事なのか、って柄にもなく悩んじゃって、一つも尋ねる言葉は出てこなかった。
「やっぱ、なんでもないです」
「んー?変な人だね、ひとみちゃん」
口を結んで、覗き込んで、にっと笑って、あたしの名前を呼んで。
全部が、あたしを麻痺させる事、絶対に梨華ちゃんは気付いていない。
- 35 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月15日(土)01時21分39秒
「梨華ちゃんも、きっと、変だと思います」
尋ねたい内容を仄めかす事を言おうと思ったのに、考えに考え抜いてもこれくらいしか言えなかった。
「そんな事ないよーだ」
そう言って笑う梨華ちゃんを見たら、ぱっともやもやが晴れて、何か全てどうでもよくなった。
かわいくて、かわいくて。
好きで好きで。
気になって気になって。
たまんない。
噂は、嘘だ。
あたしが、あたしに誓える。
自分の中で全部納得して、これでいいんだって結論が導き出された。
明日、ごっちんに言おう。
やっぱあたしは、真剣に恋しちゃいましたって。
……見てろよ、こんにゃろー。
- 36 名前:ヒョロリ 投稿日:2003年02月15日(土)01時26分15秒
- >>23 名無し読者さん
ありがとうございます。
なが〜く続くかは分からないですけど、完結目指してがんばります。
>>24 ラヴ梨〜さん
ありがとうございます。
17さん、勘違いなんですかね?
いろんな本やマンガを読んでるので、影響が出ちゃってるのかもしれないです。
勘違いだった事を折りつつ取りあえず更新します。
>>25 名無し読者さん
ありがとうございます。
石川さんを上手く動かしていけるといいなと思ってます。
- 37 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年02月16日(日)00時10分00秒
- いしよしシーン良いっすね〜
まさにこのプロセスがたまらないです、ハイ
- 38 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月19日(水)00時32分08秒
「本気、なんだ?」
「うん。命懸け」
放課後、久しぶりに珍しく二人で、教室に残ったあたしとごっちん。
まじめな顔して、夕日の差し込む窓際で向かい合う。
- 39 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月19日(水)00時32分41秒
あれから梨華ちゃんと、くだらない事ばかり二時間も話し込んでしまって。
気付いた頃はもうHRも終わる時間だった。
仕方なく今日はお開きという事にして、また会う約束をして教室に戻った。
ら、ごっちんがあたしを待ち構えていた。
ごっちんがなんだかんだ文句を言っているのも聞かずにニヤニヤしてたあたしを見て、ごっちんは異変に気付いたのだろう。
「気持ち悪いよ、よしこ」と失礼極まりない言葉を発して、でもそれで話したい気持ちに火がついてしまった。
どうせ明日熱く語る予定だったし、と調子のいい解釈をして、今に至る。
- 40 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月19日(水)00時33分11秒
「絶対、みんなが言うような人じゃないって、梨華ちゃんは」
「梨華ちゃん、ねえ…なんかぁ、うーん……」
何が言いたいのか、分かる。
疑いの眼を向けて、でもそれはあたしを心配してくれているからだって事も、分かる。
「でも、本当にいい人なんだ。悪い事してそうな感じでもないし。
可愛らしくて、なんかほわぁってしてて、清楚、な感じで」
言って、清楚って言葉がすごく似合うなと思った。
うん、綺麗にはまる、梨華ちゃんに。
- 41 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月19日(水)00時33分42秒
「よしこが、本気なら文句は言わないけどさ。
よしこのそんな真面目な顔、初めて見る感じだし」
軽い溜息。
そして、硬かった空気をほぐすように、ふにゃっと笑った。
あたしも、つられて顔が緩む。
「狙うんだったら真剣に落とせよぉ?」
「もっちろん、そのつもり」
横目でごっちんを見てにやっと笑うと、生意気、と言って頬を抓られる。
いてっと、怒るフリをして、でも顔は笑っていた。
セピア色だった教室が、色を塗られたようにほんわかした。
- 42 名前:ヒョロリ 投稿日:2003年02月19日(水)00時35分08秒
- >>37 ラヴ梨〜さん
ありがとうございます。
そう言ってもらえるとうれしいです。
短いですがココまでです。
- 43 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月22日(土)16時17分37秒
すっかり定番となった放課後のおしゃべり。
日も長くなり始める、二月の終わり。
風はまだ冷たいけれど、お日様が出ている間は結構ぽかぽかしているし、
持って来た毛布に浸りで包まっていれば、温かい気持ちでいっぱいになり、寒さもそんなに気にならない。
一応バレー部に入ってはいるものの、それはそれはやる気のない部活で、週二、三回が当たり前。
だから、部活がないときはいつもここに来ていた。
梨華ちゃんはまあ、あたしが来ていない時も来ているみたいだけれど。
- 44 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月22日(土)16時18分21秒
「ひとみちゃんて不思議よね」
「はい?何でですかぁ?」
「何でって言われたら分からないけど」
「いや、こっちからすれば梨華ちゃんの方がよっぽど……」
「むぅ。そんな事ないもん」
こんな感じの繰り返し。
過激な噂と反して、ぽわっとしている梨華ちゃんは時々、訳の分からない事を言う。
でもそれが、また心地よい。
あたしは梨華ちゃんを好きで、でも梨華ちゃんの気持ちは分からなくて。
あたしが望む‘結論’が出ないのはどこか苦しいけど、
くだらない話で盛り上がって、笑い合えるあたし達を、嫌いだとも無様だとも思わなかった。
- 45 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月22日(土)16時18分56秒
「ねぇ、梨華ちゃんは好きな人とか、いないの?」
最近は梨華ちゃんと呼ぶのにも慣れ、敬語もだんだん取れ始めた。
梨華ちゃんは屡それを嬉しそうに笑う。
でも、今日のこの質問は心臓が壊れそうなくらい緊張して、考えに考えた結果漸く聞けたことだった。
「うー、いないよ、今は、一応」
曖昧に言葉を濁しながら、それでも出た言葉は否定。
はっきり否定されるのは結構辛いものがあるけど、いるよ、とか、付き合ってるよ、とか言われたらきっと立ち直れない。
だからまぁこれでいいかと思う。
とりあえず今のうちは。
- 46 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月22日(土)16時19分34秒
「ひとみちゃんは?」
「へ?」
思いがけない、質問。
「いないの、好きな人?」
どうしよう。
いるって言って意思表示でもして見せた方がいいのだろうか。
いないって言って駆け引きでも打った方がいいのだろうか。
さして頭のよくないあたしは、これ以上考えても墓穴を掘るだけのような気がした。
「います、よ?」
あなたです。
と言う事は、やっぱりまだ出来なかった。
- 47 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月22日(土)16時20分15秒
「あ、もしかして付き合ってる人とかいる?」
「っ!そんなの、いないよ!」
必死に否定するあたしが馬鹿みたいに、梨華ちゃんはやんわり笑う。
「だって、モテるんでしょ?結構、噂聞くよ?」
「噂、って……」
あなたに対する噂よりは少ない自信あります、絶対。
目の前で笑う梨華ちゃんに、そんなこといえる筈もなく。
それでも、自分の噂がいっぱい流れてるなんて、人の口から聞くのも随分嫌なものだ。
やっぱり、単純に聞いたりしなくてよかった。
- 48 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月22日(土)16時20分58秒
「告白されたらすぐ付き合うとか、いろんな子泣かしてるとか。
相当の遊び人、みたいな感じに聞こえたなぁ」
嫌味はちっともこもっていない。
なのに、いや、だからこそ、余計に胸のささくれた繊細な部分を撫で回されている気がする。
間違ってはいないから、文句も出ない。
唇を尖らせて、ごめんなさい、と呟いた。
「あたしに謝らないでよー。泣かせた子に謝らないと、でしょ」
ね、と笑って、梨華ちゃんは話を切るように空を見上げる。
あたしもそれにつられて目線を上にやった。
ここ最近晴れ続きの空に、白い飛行機雲が一本、真っ直ぐに走っていた。
- 49 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月22日(土)16時21分38秒
「でも妬けちゃうな」
突然の呟きに、梨華ちゃんの方を見るけど、目はしっかり閉じられている。
何を感じているのかはちっともわからない。
「ひとみちゃんモテるって。なんか悔しかったなぁ、あたし。
よく聞いたら学園のアイドルみたいな感じらしいじゃない。
こっちは気が気じゃないよ、ほんとにもう」
- 50 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年02月22日(土)16時22分44秒
傍から見ればまるで恋人にヤキモチを妬いてる女の子みたいな言葉に、
胸は打ちぬかれて、脳味噌はふにゃけて、暫く使い物になりそうになかった。
「そんな、ねぇ。うん、あはは」
訳の分からない濁った言葉ばかり並べてみたら余計に恥ずかしい。
真っ赤に染まってくる」顔を隠そうと、俯いてみる。
「なぁにぃ、変なひとみちゃん。いつも変だけど」
珍しい梨華ちゃんの冗談(本気なのかもしれないけど)にも、上手く答えられない。
でも、心は躍っていた。
退屈でくだらないと思っていたこの学校を、抱きしめたいくらい好きになった。
- 51 名前:25 投稿日:2003年02月22日(土)21時43分05秒
- 更新、お疲れ様でした。
ほのぼのとして来た二人ですが、石川さんは吉澤さんのことをどう
思ってるんでしょうか・・
何故石川さんの良くない噂が流れているのかも気になります。
- 52 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月24日(月)00時43分34秒
- 気の利いたレス出来ないんですが、毎回更新楽しみにしてます。
- 53 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月03日(月)02時21分34秒
「おっすー!来たよー……て、あれ?」
いつもの通りはしごを登り切る前に声を上げるが、よくよく見ると、そこには燦々と輝く太陽と、高い場所特有の空気の匂いしか感じられなかった。
期待していた温もりは、ない。
なんだか少し恥ずかしくなって、行き場のなくなった気持ちと声を誤魔化すように、頭を掻いた。
「今日は来てない、かぁ」
一人で呟いてはしごを登りきり、そこに腰掛ける。
いつも居るのが当然の梨華ちゃんが来ていないとなると、都合なんてお構いなしに首を突っ込みたくなってしまう。
こーいうの悪い癖だ、あたしの。
溜息をついて心を宥める。
意外にも、あっさり気持ちは穏やかになっていった。
- 54 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月03日(月)02時22分38秒
「じゃ、帰るかなぁ」
別に。
梨華ちゃんがいなくたって、お気に入りのこの場所でゆっくりして行けばいいじゃないか。
と思うけれど、それは薄っぺらい感情だけで。
本来の‘目的’が満たされない場所にいつまでもいたって仕方ない、というのが本音だ。
それはすぐ行動に現れ、やけに冷たく感じるはしごに手を掛け、その場を去ろうとした、その時。
携帯が、ポケットの中で揺れた。
そこに映し出され点滅するのは、つい二十分ほど前に別れた「ごっちん」の名前だった。
気まぐれに電話をしてくるのはいつもの事、不思議に思うことなく電話を取る。
- 55 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月03日(月)02時24分30秒
「もしもーし?」
『あ、よしこ?あたし、ごとー』
「ん。で、なぁに?帰ったんじゃないの?」
街のざわめきが、受話器越しに響く。
紛れて聞き取りにくいごっちんの声にだけ、耳を傾ける。
『帰ってる、とこなんだけど、ちょっとさ…』
「ちょっと、何?」
言葉を濁すごっちんに、望んでいた事が満たされていないあたしの心は不安定で、妙に苛立つ。
赤く染まり始めた太陽を見つめた。
『よしこ、今どこ?誰かと一緒?』
- 56 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月03日(月)02時25分04秒
この、あたしの周りの静けさから誰も居ない事なんか察してるはずなのに、ごっちんは言った。
「んん、一人。屋上だけど、梨華ちゃん来てなくて、今から帰るとこ」
『そ、か。やっぱり』
「やっぱり?何、それ」
何か知ってる。
なのにハッキリした言葉はまだ、出ない。
分からない事だらけで嫌になる。
- 57 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月03日(月)02時26分10秒
『よしこ。よしこって、今、恋してるよね?』
伺うような声。
突然、風がびゅうと吹いて、必要以上に寒さを感じる。
だから余計に、口調が荒立ってしまう。
「何、言ってんの?当たり前じゃん」
『そうだよね、ゴメン、変なこと聞いて。マジごめんね』
謝る声は聞こえても、風がひゅうひゅう寒くて、早くココから立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
「あー、話それだけ?あたし、今から帰るからさ」
『あ、そっか。じゃあ、切る。また明日ね』
それだけ聞いて話が終わったことを確認して、返事もせずに通話を切る。
校舎に駆け込むように入ると、風が遮られる事でかなり温かく感じた。
- 58 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月03日(月)02時27分25秒
ごっちんは明らかに何かを隠していて、それが梨華ちゃんの事だと言うのは間違いない。
だから、敢えて何も聞かない。
ごっちんの事だ、どうせ明日になれば洗い浚い話してくれるのだろう。
隠し事の出来ない、素直なごっちんだから。
だから取りあえず、今は何も考えようとしなかった。
明日になれば否応なしに引き出される事なんだから。
昇降口を出て校庭を歩くと、寒さは益々増していて、心にまで冷たい風を吹かした。
- 59 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月06日(木)11時23分51秒
- うぅ…
まさか、これから暗く重く(汗)
嫌な予感がしますな〜
あ〜気になる!!
- 60 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時11分53秒
「よしこ、ちょい時間ある?」
二時間目の終わりに、漸く教室に姿を見せたごっちんは、おはようも言わずに、そう口にした。
「ずいぶんな挨拶だねぇ」
「よしこ」
茶化しても無意味だった。
ごっちんの、貫くような鋭い目は変わらない。
- 61 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時12分38秒
「わぁったよ。どーすんの?サボリ?」
「ん。部室棟、だいじかな?」
「うん、鍵あるし」
言ってから、ポケットの中に手を入れて弄り、鍵の感触を確かめた。
「遅刻報告、いいの?」
「いいよ。どうせ、いつもの事じゃん」
ごっちんは飄々と言い、背を向けて先を歩き出した。
口数が少ないのも、不機嫌そうな様も、朝が弱いごっちんのごく普通な振る舞いだった。
だから、唯一ついつもと違う、あたしとごっちんの間に流れる不穏な空気は、この際適当に知らん振りしておこうと思った。
- 62 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時13分22秒
「で、何よ」
部室棟の一番隅の、どこの部も使用していない一部屋。
薄暗いその中に、あたし達は座った。
「ごめんね昨日。変なとこで電話切ってさ。何か、怒ってたっぽかったから」
「あぁ、こっちもごめん。梨華ちゃんいなくて、あんまり寒くて、ちょっと気ぃ立ってた」
無意識かどうか微妙だけれど、‘梨華ちゃん’の部分が少し力んで、連動してごっちんの頬もひくっと動く。
「よしこ……」
「昨日の電話、なんだった?内容、今聞くよ。昨日聞けなかったから」
上手く笑えた。
でもあまり普通すぎてかえってワザとらしい気がしてならない。
目の下の筋肉が少し引きつった。
- 63 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時14分42秒
「梨華ちゃんのことでしょ?」
あまり重くしたくない内容で、だから故意に軽々しく口にする。
それなのにごっちんはやけにまじめな顔をして、場違いで笑えた。
‘あたしが’場違いなのか、それとも‘ごっちんが’かは、分からない。
「矢口先輩…知ってる?」
「はぁ?馬鹿にしてんのぉ?」
「…だよね、ごめん」
矢口先輩、というと、あたしとごっちん共通の知り合いの、三年の先輩で。
ちっちゃくてかわいくて、校則を完全無視した明るい髪(あたし達も相当なものだが)、
それに負けないくらいの明るい性格とよく響く笑い声が特徴的で、実質この学校の頭、みたいなものだった。
たまたま入学してすぐに二人で、いい意味で目をつけられてから、何かと仲良くしている。
- 64 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時15分33秒
その矢口先輩を、今更、知っているか、と。
言うのだから、馬鹿にされてるのか、とも思ってしまう。
「やぐっつぁんと昨日、街ふらついてたんだ」
「ふーん。矢口先輩、受験生の癖に呑気だねぇ」
「学校終わってすぐ、いろんな話して」
「へー。んでぇ?」
ごっちんがわざと芯を先延ばししているのが分かって、でもあたしも同じ様なテンポで答える。
「それで、疲れたから喫茶店入って話してたの。ほら、あの駅前のあるじゃん」
無駄に説明を加えて、珍しく口数が多い。
あぁ、と頷いて分かったフリをし、続きを促す。
- 65 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時16分12秒
「そしたら、そこにいたんだよねぇ」
「はぁ?誰が?」
進む速度は遅いものの、確実にあたしが予想していた話の内容に近づいて来ている。
あたしも、考えていた通りの顔を返しているはずだ。
そしてまた、次の言葉もほぼ予想はついていた。
「梨華ちゃん。……石川」
ほぉら、と嘲笑う。
- 66 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時16分57秒
「そっか。で、どうしたのさ。
梨華ちゃんにだって都合あるんだから、そこにいたって別におかしくないんじゃん?」
大きく背伸びして息を吐く。
次に軽く息を吸って、鉄の臭いが鼻を通った。
こんなにも他人事のように構えようとしている自分が、実は一番答えに怯えている。
「でも、知らない男の人と一緒だった。
多分、この先の男子校の、すごいチャラ男っぽい、人……」
負い目を感じてか、濁された言葉は、胃の辺りに溜まって不快感を齎す。
そんな気持ちに気付いて、いつの間にかこんなにも梨華ちゃんを好きになっていた事に驚き、呆れた。
「へー。梨華ちゃん、好きな人はいないって言ってたけどねぇ」
気休めに零しても、気は軽くなる所か益々滅入っていく。
余計自分を惨めに感じる。
- 67 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時17分32秒
自分で言うのもなんだけど、本気の恋に破れるっていうのを今だかつて経験した事がないあたしには、
こんな情けない自分を見るのも初めてな訳で、それが惨めでたまらなかった。
「それで、やぐっつぁんすごい興味津々なっちゃって。あ、よしこの事は話してないんだけど。
ただなんか…喫茶店出るみたいな感じだったから、その…後つけてみよう、ってことになって…」
「はぁ?つけるって、梨華ちゃんの事を?」
「うん……」
人の色恋沙汰に目がない矢口先輩なら、やりかねない事だ。
とは言ってもあまりに酷すぎるとは思う。
けれど、続きを聞きたがってる自分もいた。
- 68 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時17分58秒
「で?また何か見ちゃったの?」
あたしが溜息を漏らしたのに気付いてか、ごっちんは様子を伺うように口を開いた。
「とにかくいろんな人と会ってた。
うちらは途中で帰ってきたんだけど、見てただけでも、四人」
「四人?」
「ん。他高生二人、社会人ぽい人一人、それと…オヤジ、一人」
「オヤジって!援交ってこと!?」
- 69 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時18分33秒
とんでもない言葉が出るのは予想してたにしろ、それでもあまりにびっくりして、
低く抑えていた感情が飛び出してしまった。
ごっちんも驚いて、少し眼を丸くする。
「そこで帰ってきたから、ソレはどうだか知らないけど……」
「そ、か……」
会話が、ぷっつりと刃物で切ったように途絶えて、嫌な沈黙が残る。
発すべき言葉を選んでみるけど、どれも不正解な感じがして、口には出さなかった。
- 70 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時19分36秒
「こんなこと、今言っちゃ悪いのかもしれないけど。
でも…やっぱ、梨華ちゃんの事はあきらめたほうがいいんじゃない、かな」
絞り出したようなごっちんの言葉は、傷つくのを恐れているあたしの心を的確に刺激する。
心配されている自分が惨めで、逃げ出したくなる。
涙が滲みそうだったけど、恋に破れて涙を流す女にはなりたくなかったから歯をくいしばった。
「て言うかさ、最低だよね、ごっちん達」
どうしようもなくなった感情の矛先は、汚い怒りとなってごっちんへと向かう。
「あとつけるとか、そーいうの最悪じゃん?
人の事とか、全然考えてないよね、その行動」
考えるべき‘人’が誰なのかは、深く追求したくもなかった。
- 71 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時20分25秒
ごっちんは俯き、小さく、けど、と言う。
それすらあたしの怒りを掻き立てた。
「けど、何?あたしの為だって言うの?梨華ちゃんの後つけたのとかも」
「ちが、そうじゃない!でも」
「あたし、そんな話聞きたくなかった。有難迷惑、最低。みんな最低」
こめかみがズキズキ痛んで堪らない。
でも目を閉じられなかった。
目を閉じたら負けのような気がしていた。
「よしこ、ごめん。ほんとごめん…」
懇願するような声で謝られて、気付く。
ごっちんは、何も悪くない。
けれどあたしの行き場を無くした気持ちは、留まる所を知らない。
これは確かな八つ当たりで、自分が一番最低だってことにいつからか気付いていたけど、
これ以上自分を嫌いになりたくなかった。
- 72 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月08日(土)01時21分00秒
「も、いい」
小さく溜息と一緒に言葉を流して、重く冷たい鉄の扉を体全体で外に押した。
「よ、しこ……」
「ごめん、一人にして」
自分だけは、決して吐かないと思っていたその言葉を口にしてみて、案外悪くないと思った。
強さも弱さも感じ取れないこの言葉が、今の自分に一番よく似合う気がして。
ばたんと、あたしとごっちんの世界が遮断されて初めて、涙が頬を伝った。
- 73 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月08日(土)01時36分44秒
- ショッキング!!
いったい梨華ちゃんは何を〜!?
気になる…気になる
それに、ごっちんかわいそう
- 74 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月22日(土)17時44分17秒
- いしよしよりもよしごまの友情の方が気になってしまう自分は
石ヲタ…のはず(吐血)
- 75 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時02分50秒
部室棟を出ても、授業中で教室に戻る訳にもいかず、 後者の置くの自動販売機で温かい紅茶を一つ手にした。
向かう場所を考えても、やっぱりあたしには屋上しか考えられない。
風が冷たく、比較的今日は寒い日だった。
外に出ないで、日に当たっていようと思い、一段一段階段を上がっていく。
それでも足に感覚が殆どなくて、無意識にただ足を動かす行為を繰り返していた。
目の前の物も焦点が合わず全てが歪んで見え、何度も躓き、転びそうになる。
五回目に躓いて、ついに階段に手をついてしまった。
と同時に、溜まっていた涙が溢れ出す。
- 76 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時03分35秒
「い、たぁ……」
呟いてみて、涙の理由が痛さなんかではない事を、嫌になるくらい感じた。
それでも、涙を零す事が出来れば、理由なんか何でもよかった。
薄暗い階段に屈み込んで、啜り泣く自分が、滑稽に見えてならない。
「っく、う、……」
女々しい、自分。
そんな自分はいないと思っていた。
今まで見たこともないくらい不恰好で、不思議だ。
それでも、涙を止める事が出来ない。
壊れそうなほど、自分でも不思議なほど、梨華ちゃんを好きで好きでたまらない。
「ひ、く…りか、ちゃ……」
「……ひとみちゃん?どうしたの?」
- 77 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時04分36秒
数段上から聞こえた、聞きなれたその声。
「り、かちゃん…?」
語尾が、驚きと嗚咽の為に掠れて、余計に弱々しいものとなって口を出た。
「どうして泣いてるの?あたしの名前、呼んでた?」
ストレートに突き刺さる疑問の言葉が、余計頭を混乱させる。
ぼうっと、考えが頭を駆け巡っているうちに、いつの間にか至近距離に梨華ちゃんの顔があった。
そんな状況に気付き、耐えられなくて、嫌味なくらい目を大きく逸らした。
- 78 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時05分15秒
「ねぇ…ひとみちゃん?」
流れ落ちる涙を、梨華ちゃんの温かい指が拭っていく。
優しさが痛い。
優しすぎて、ソレが人の涙に対する‘慣れ’のように感じ、疑ってしまうくらい、あたしは強欲で、弱いのに。
唾を飲み込んだらコメカミに真っ直ぐ痛みが走って、顔を顰めた。
「ひとみちゃん?」
心配そうな声色であたしの顔を覗き込む梨華ちゃんの顔は、歪んでいて的確に捉えられない。
- 79 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時05分56秒
悔しい。
悔しい悔しい悔しい。
梨華ちゃんをこんなにも好きなのに、梨華ちゃんが分からない。
伝わらないあたしの思いが一体どこへ行くのか分からなくて、だからこそ伝えたくて。
何を考え、誰を思い、誰に心を開くのか。
教えて、梨華ちゃん。
「好き……」
「え…?」
「好きだよぉ、梨華ちゃん……」
溢れた思いが、口を割って。
それでも後悔なんかしない。
好きな気持ちに、嘘はつけないし、つきたくもなかった。
- 80 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時06分42秒
「え、なに、ひとみちゃん、どうしたの…?」
まるであたしの話を無視して、さっきと変わらず平素に顔を覗き込む。
梨華ちゃんに、まだ、これでも伝わらない思いが、悔しい。
「あたしは、梨華ちゃんが、好きなの。本当だよ、嘘の気持ちなんかじゃない。
好きで好きで、もう、どうしようもないよ……」
伝わらない苛立ちが、悔しさが、悲しみが入り乱れて、複雑な感情が止め処なく溢れる。
胸の奥がきゅうっとなる。
「あたしを?……ひとみちゃんが?」
驚きか、目を丸くして、そして直ぐに伏せた。
その反応を見て、返事なんて丸分かりで、くすんだ痛みが、心の中の自嘲を生んだ。
- 81 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時07分13秒
「ごめん、今の忘れていい」
「……どういうこと?」
「返事、分かるから。もう、いい」
無理に涙を拭ったら、目の下が擦れてひどく沁みた。
早く此処から立ち去りたくてならない。
自分が恥ずかしくて、苦しくなった。
- 82 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時08分10秒
「そんなの、違うよ」
震える足に鞭打って立ち上がろうとすると、腕を掴まれた。
意外と冷たいその感触に、一瞬、体がびくりと跳ねる。
「あたしは何も、伝えてないよ、気持ち。
ひとみちゃんが話すだけ話して、終わりなの?そんなの、違うでしょ?」
「それは、そうだけど、でも……」
期待を持たせるような言い方をして、それで裏切られるのが恐いから、鵜呑みにしたがる自分が悔しい。
逸る気持ちを、どうにか一番最悪なパターンのところへ持っていってから、口を開く。
「なら、教えて。梨華ちゃんの気持ち、教えて」
目を薄く瞑って、息を整える。
涙で乱れた鼓動は、早くリズムを刻んでいる。
その体を伝わる音に、気を集中していたら、不思議と涙が軽くなっていった。
- 83 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時08分56秒
「あたしも、好き」
空間を、確実に今、言葉が割った。
弾かれたように、目を見開く。
「好き。ひとみちゃんの事が。ひとみちゃんみたいな人、好きにならないはずないのに」
「好き、て、その、好き…?」
悪い方へと、自らで進めていた気持ちが、Uターンして、鼓動は益々早さを増す。
いつの間にか、涙が姿を消していた。
「うん。ひとみちゃんと同じ、‘好き’だと思うよ?あたしと付き合って下さい、ひとみちゃん」
- 84 名前:ビューティフルデイズ 投稿日:2003年03月30日(日)02時09分39秒
急に恥ずかしさが込み上げて、言いたい事が沢山あるのに、何も言えない。
ただ、こくこくと首を振って、それでも一番伝えたい事は伝わっていると思いたい。
「これからも、ヨロシクね。ひとみちゃん。何か、変だけど」
穏やかに笑った梨華ちゃんが、すごく愛しい。
この綺麗な笑顔を独占できる自分を、信じられなかった。
でもきっと、全てが上手くいく。
これから楽しい事が、いっぱい待ってる。
あたしは、ただ、単純にそう信じていた。
- 85 名前:ヒョロリ 投稿日:2003年03月30日(日)02時16分26秒
- >>51 25さん
遅くなってすみません。
理由は追々、明かしていくつもりです。
しばしお待ち下さい。
>>52 名無し読者さん
ありがとうございます。
その言葉が、嬉しいです。
>>59、73 ラヴ梨〜さん
ありがとうございます。
ごとうさんには、かわいそうな役回りばかりさせてしまいます。
作者の中ではそんなイメージがついてしまってるもので…。
>>74 名無し読者さん
それでもきっと、石ヲタだと、自信をもってください(w
遅くなってしまってすみませんでした。
- 86 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003年04月08日(火)17時17分41秒
- なんか屋上ってゆう秘密な場所がイイ!
コソーリした感じが好きなんで続き楽しみです。
更新待ってますよぉ〜
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