How to color time

1 名前:0話 How to color time 投稿日:2003年02月14日(金)23時52分15秒

雨が降っていた。
当たり前のように偉そうに降っていた。
私は泣き方も忘れてしまった。
彼女が全部奪っていったから。



2 名前:第0話 How to color time 投稿日:2003年02月14日(金)23時54分21秒
いつもの公園でいつものように笑い、いつものようにケンカして別れた。
だって明日はまたココで同じように時間を塗りつぶして行くはずだったから。
でも違った。
彼女はこなかった。
三日続けてこなかった。別に気にしてないはずだった。
学校に行けばそれなりに話せる人もいたし、ナンだったら図書館で
本でも読んで眠りにつけば時間なんて勝手に過ぎてくれたから。
そんな風にして時間をつぶしてきたのに、彼女のせいで退屈の意味を知ってしまった。
時間の塗りつぶし方を知ってしまった。

3 名前:名無し 投稿日:2003年02月14日(金)23時56分21秒
いきなりミスった。
稚文で遅文で恥文ですが長い目で見て頂けると嬉しいです。
4 名前:第一話 オレンジの後味 投稿日:2003年02月15日(土)21時02分31秒

別に運命的な出会いでもなんでもなかった。
その日は、私の中でお昼以降の授業は絶対出ないと決めた日だったので、
その誓いを破る事はできず、ご飯を食べてすぐに学校から脱出した。
それから帰り道の途中にあるめったによらない公園にその日はたまたま立ち寄った。
そこでピンク色した女の子っぽいハンカチをたまたま見つけ、たまたまそれを拾い、
たまたまそれを探しに来た彼女とであった。たまたまだらけ。
なんでだろう?不思議だ。なんであの日あの公園に立ち寄ったんだろう?んー?
でも運命でもなんでもない。そんな関係じゃないし。私はそう信じている。

5 名前:第一話 オレンジの後味 投稿日:2003年02月15日(土)21時03分25秒

彼女は息を切らせながら私に話し掛けた。

「─────この辺でハンカチを見ませんでした?」

ひどく高い声だった。とういうよりも、面白い声だった。

「えっ、どんなの?」

私はもちろんわかっていた。彼女が息を切らせてまで探しにきたものが。
でも言いたくなかった。なぜか彼女はそうさせる雰囲気を持っていた。

6 名前:第一話 オレンジの後味 投稿日:2003年02月15日(土)21時05分03秒

「あの〜ピンクの色をした、ウサギの絵が入ったハンカチ」

本当だ。私はポケットから出したハンカチを見て驚いた。
さっきは気付かなかったけどピンク色の中に、決して可愛いくは無い白いウサギの絵が入っている。
これが幼稚園児ぐらいの小さな女の子の落し物だったら何も驚かなかっただろう。
でもこれは、目の前にいるたぶん私と同い年ぐらいのこのコの落し物だから驚いた。
そう考えていると、
「あっ、それ!それが私の!」

「あっ───」

いきなり彼女は私の手からその不釣合いなハンカチを取り上げて言った。

────でも今思うと良く似合っていたかなぁ。肌は黒いけど。

「ありがとうございました!助かりました!さようなら!」
「あっ、はい…」

7 名前:第一話 オレンジの後味 投稿日:2003年02月15日(土)21時06分07秒

彼女は顔を赤くしながらその言葉だけを残し、何かに追われる様に去っていった。
赤いチェックのスカートをなびかせて。
私はあっけにとられて暫らくそこに立ち尽くしていた。そして冷静になった頭が色々考え出した。
うんうん、感謝の言葉は大切だよ。でもさぁ、でもさぁ!何か違うんじゃない?
別に御礼をしてもらいたかった訳じゃないよ。でも、でもさぁ!!

……まぁ、いいっか。
なんかよくわからなかったけど持ち主の手には無事に
ハンカチは帰ったし、うーん今日は良い事をした。
明日は私に良い事が無きゃ神様を恨んでやる。

────私はこうやっていつも明日の事を考えていた。
その日の事を思い出して考える事は少なかったと思う。

でもあの日は違った。

8 名前:第一話 オレンジの後味 投稿日:2003年02月15日(土)21時06分50秒

私は彼女の事を思い出そうとしていた。
よくわからない強烈なインパクトがまだ頭に残っていた。
こんな事はめったに無かった。
私は他人にもよく、クールだね。と言われる。
自分ではそんな事は無いと思っているけど、あまり興奮したりする事も無いのも事実。
そうさっきの彼女の様には。
顔はまぁ、カワイイほうかな。
色は黒かったし、私にはちょっと負けるけど。
あと何あのファッション。
白のパーカーに赤いチェックのスカートって。
テレビに出てるダサイアイドルじゃあるまいし。
そうそうあの声、あれはありえない。絶対あの声つくってるよ。

9 名前:第一話 オレンジの後味 投稿日:2003年02月15日(土)21時08分16秒

ふふふ

…私は笑っていた。
心の中、ではなくて声に出して文字通り笑っていた。
私一人しかいない小さな公園で。
その事に気付いて一瞬黙ったけど、なんだかそれさえも可笑しくてまた笑った。


カラスが鳴いた。
見上げた空の色は濃いオレンジ色だった。
いつの間にか時間は過ぎて行ってくれた。



10 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年02月16日(日)12時27分10秒
いしよし?
面白そう。期待してます。
がんばってください♪
11 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月17日(月)08時14分03秒
楽しみです!いしごまだったらいいなぁ〜。
12 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年02月28日(金)22時53分41秒

うーん、昨日はよく眠れなかった。
寝付きは自他ともに認める良さだと思っていたのに昨日は眠れなかった。
だから昨日布団の中ですでに決めていた。
今日は絶対何があっても授業中はバクスイするって。
ウチの学校の先生は生徒にやる気がなければ特に干渉してこない人が多いから結構助かる。
という事は少ないけれども例外はいるという事だ。

「コラー!なに眠てんねん、後藤!!」

ほら来た。その一人、ゆうちゃんこと、鬼の中澤大先生。



13 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時26分01秒
「んぁ〜」
「何が、んあー。や!いいか、ゆうちゃんだってなぁ、
小言は言いたかないねん。それをな、後藤の事を思って我慢して
一生懸命話てるのにそれが伝わらんかなぁ、ゆうちゃんほんま悲しいわ。」

ゆうちゃんは、眉の間にシワを寄せ、いつも通り嵐の様な
勢いで本人いわく言いたくも無い小言を私に話した。
こういうときの対処法を私は決して長くはないゆうちゃんとの付き合いで身につけている。

14 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時27分10秒

「中澤先生、ほらまた関西弁出ていますよ。それに自分の事をゆうちゃんと
呼んでいます。少し落ち着いてください、私以外の生徒が困っていますよ。」
「くっ、またお前はこんな時だけ冷静に対応しよってからに・・・
後で保健室に来なさい!言いたい事は他にも積もりに積もってたくさんあるのよ!」
「は〜い。わかりました。とりあえず今は授業を進めてはいかがですか?」
「わかってるわよ!今からやるの!はいっ、みなさん
ごめんなさいね。お見苦しいところお見せしちゃって。オッホホホホ。」

教室中爆笑とは言わないけどみんな笑っている。
こういう所がこの学校の先生で一番人気のある秘訣かもしれない。
とりあえず一時避難した嵐を前に私はもう一度眠りについた・・・


15 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時28分11秒


…っちん。ごっちん。起きて。もう放課後だよ。ねぇ、ごっちん!」

ちん、ちん、ちん、ちんうるさいなぁ、小学生じゃないんだから。

「んぁ〜」
私は眠たい眼をこすりながら小学生の正体を見ようと重たい体を起こした。


16 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時29分14秒

「まったく、んあーじゃないよ。」

小学生の正体はミキちゃんだった。
ミキちゃん大人びて見えて結構子供っぽいところがあるんだ〜。
声に出しては言わないけど。
ちなみに本名は藤本美樹。だったと思う。
自信は無い。
ウチのクラスでは男女問わず人気のある女の子。私も結構好き。

「もぉ〜!さっきゆうちゃんが後で来なさいって言ってたでしょうが!」

そうだっけ。
あっそうだ、保健室に来いって言ってた。
うーん、やっぱり行かないとまずいよなぁ。
また怒られるの面倒だし。
…関係ないけど、私「んあー」なんて言ってるかなぁ。
いや、言ってない、絶対言ってない。自分にそう言い聞かせてみた。

17 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時32分07秒

「ごっちん!!」
「わっ!?なんだよぉ、大きな声出して。あっ、ちんちんちんちん
言ってたんじゃなくて、ごっちんって言ってたんだ。良かった、私安心したよ。」
「なにそれ!?……もうそんな事ドウだっていいじゃん!
早く行かないとまたゆうちゃんに叱られるよ!」
「あっ、そうだった。じゃ行ってくるね。ミキちゃんアリガトー!」

そう言って、ルーズリーフとシャーペンしか入っていない
羽のみたいなカバンを担いで、私は教室から飛び出した。

18 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時32分47秒

ミキちゃんは本当に良い子。たまにキツイと感じるときもあるけどスゴイ気が利く人。
ミキちゃんは私の友達。そう友達。

私とミキちゃんは友達だよね?



19 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時33分36秒

私は時たま不安になる。
私は自分から人に話し掛けるのが苦手。
だってその人が私と話したくなかったらどっちも嫌な思いするから。
だからいつも誰かを待っている。
その待っている間も不安になる。
もう誰も話し掛けてくれないんじゃないかって。
私は臆病者。
一人でいるのは好きだからじゃなくて、一人でいなきゃ怖いだけの臆病者。


オクビョウモノ

いつも私は臆病者。



20 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時34分39秒

教室からの自己最高記録で保健室に着いた。
ゆうちゃんは大抵生徒を呼び出すとき職員室ではなくて保健室に呼び出す。
理由は保健室の方が暖かいしベッドで寝ながら説教出来るからだと言っていた。
もしベッドに寝ている生徒がいたらどうするのと聞いたら、そん時は屋上で説教すると言っていた。
もちろんさっきの理由に矛盾している。その矛盾こそがゆうちゃんの優しさだ。
誰だって他人が見ている中、説教なんかされたくない。

乱れている呼吸と制服を整えて保健室のドアを開けた。


21 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時35分59秒

「しっつれいしまぁ〜す。」
「今まで何していたのかな後藤さん?授業はとっくに終わっているはずだよね?。」

標準語だ。やばい。
私はこの中澤先生をゆうちゃんと呼ぶけれども、ゆうちゃんにはもう一つ呼び名がある。
イエローヘアーデビル。金髪鬼だ。
ソウ呼ぶ人は大概標準語で説教するゆうちゃんしか見てないはずだ。

「いやぁ〜ココに来る途中で体調が悪そうなお婆さんが
いたので病院まで付いていって上げてたんですよ〜。」
「…………」
「すいません。眠てました。」
「だよね。」
「……はい。」


22 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時37分21秒

ゆうちゃんの説教はここから永遠とも思えるほど続いた。
でも私は授業中みたいにちゃかさずに真剣に聴いた。
だってゆうちゃんが少し涙目になっていたから。
ゆうちゃんはこう見えてかなりの泣き虫だ。
しかも自分の事ではなくほとんど他人の事で涙を流す。
私にはそういう感情が無いと自分でも思う。
他人に触れようともしない人間に他人の痛みなんてわかるはずも無い。

「で、なんで昨日は眠れなかったの?」
「ん、眠れなかった理由?」

ゆうちゃんに言われて思い出した。
嘘。
ずっと頭の中に昨日の事が張り付いていた。
あの公園を。あのハンカチを。あの子を。

23 名前:第二話 泣き虫な黄鬼 投稿日:2003年03月01日(土)01時38分20秒

「まぁ、色々悩みもありますよ。思春期ですから」
「ふぅ〜ん。でも真剣に悩んでるんだったら絶対に相談してよ」
「はい、わかっております。今日はもう帰っても良いですか?」
私は敬礼みたいな格好をして言った。

「…もういいわよ。本当に反省しているのかなこの子は?」
「あは」
「あんたのその笑顔は反則ね」


反則って言われたって私が笑っているのはゆうちゃんのせいだよ。



24 名前:レス 投稿日:2003年03月01日(土)01時44分01秒
>>10 ヒトシズクさん
初レスありがとうございます。
ご期待に添えるかわかりませんが書かせて頂きます。
自分なりに頑張ります(w

>>11 名無し読者さん
楽しみにして頂いて有難う御座います。
いしごまかは自分でもわかりませんが(w
二人はどうやら出てくるようです。
25 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月01日(土)22時26分52秒
すごい面白そうです。頑張って下さい。
>イエローヘアーデビル。金髪鬼だ。
↑笑っちゃいました。
26 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時41分28秒

「んじゃぁ、しつれいしました」
「はい、気をつけて帰りなさいよ」
ゆうちゃんにお別れを言って学校を後にした。
錆びた校門をくぐる頃には夕日が少し顔を見せ空は薄いピンク色に染まっていた。


学校の帰り道は登校する時よりユーウツだ。


27 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時42分43秒

景色が逆転するからだ。
だから少し気持ち悪くなる。
逆転する理由はわかっている。
行き道はたどり着く場所があるからまだ大丈夫。
でも帰り道にそんな場所は無い。
『家』とみんなが呼んでいる場所ならある。
でもあそこには私の場所なんて無い。
登校する時は学校が面倒なんだけど、行けばそれなりに楽しめる。
数少ない知り合いのおかげで。
『家』に帰る時は面倒なんてレベルじゃない、気分が悪くなる。
学校が少し楽しいせいでさらに苦痛になる。楽しい事なんてない。
今度は逆に『知人』のせいで。

28 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時43分33秒


はぁ〜。

────溜息色した通いなれた道…
私の耳を塞ぐヘッドホンからは、ちょうど“花”が流れていた。


……。


29 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時44分46秒

下を向きながら歩いていた。
見慣れた道は前を見ずにも私を『家』へといつも運んでくれた。
でも今日は違った。
またあの場所に来てしまった。あの公園に。

ピンクの光が差し込んだ公園は昨日よりも私を誘い込んだ。
全てここで終わって欲しいとさえ思えた。
それほど公園は綺麗で私をリアルから遠ざけた。
弱々しく光を反射させる噴水。
透き通っているのに自分を主張する新緑。
昨日と何も変わらない砂場。
揺れていないブランコ。
人の居ないジャングルジム。
全てが私を歓迎してくれる。
昨日と変わっているのはハンカチとあの子が居ない事だけだった。

30 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時47分12秒

ブランコに座りゆっくりこぎ始めた。
時間の流れに沿うようにゆっくり小さく。
何もかも溶けてしまえばいいと思った。
時間に溶けたい。
無色の時間になりたい。
誰にも触れられたくない。


「だ〜れだ?」
「うわぁ!?」

天災は誰の予想も気分も考えずにやって来る。
崩れたバランスを整えるために地面に足をつける。
私は真っ暗な風景の中で声の主を探した。

31 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時50分12秒

「う〜ん、ミキちゃん?」
「だぁれ?ミキちゃんって?」
「え〜と、じゃあゆうちゃん?」
「ゆうちゃんって人も知らなぁ〜い」
「え〜と、え〜と……」

打ち止めだった。
この子はひどい。
私に友達の少なさをわざわざ教えてくれるんだもん。


「え〜、誰だか本当にわかんないの?」
「わかんないよ」
「だって昨日あったばかりだよ?」
「知ってるよ。でも名前聞いてないじゃん?」
「あれ?気付いてたの?」

忘れるわけが無い。
こんなおかしな声の人、私の周りにはいないもの。

32 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時51分43秒

「なぁ〜んだ。つまんない」
彼女は隣のブランコに座りながら言う。
「私、石川梨華。石の川に梨の華。あ、華は華麗な方ね、よろしく」
言いながら、ピンクの空に人差し指で自分の名前を書いた。

「え?あぁ、後藤真希です」
「どういう字書くの?」
「あ、え〜と、後ろの藤に真実を希望する…かなぁ?」
私も同じ様になぞった。

「後ろの藤に真実を希望するかぁ〜変な名前!」
石の川に梨の華だって意味わからないじゃん。

「じゃあ握手、よろしくね」
「よろしく…」

勢いに飲まれて自己紹介をしてしまった。
なんなんだこの子は。
憎たらしいくらいの笑顔で見つめてくる。
むかつく。


なんだか恥ずかしい。

33 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時54分29秒

「で、何のよう?」
なるべく冷たく言った。

「うわぁ〜冷たい!せっかくお礼しにきたのに〜。
 でも今日も本当に公園にいるとは思わなかった。
 あっ!友達あまりいないでしょ!私わかる!」

……くそぉ。
何か言い返してやりたいけどその通りだから何も言えない。


「え〜と、……後藤さん?でいいんだよね。年いくつですか?」

突然かしこまって彼女が言う。

「17だけど」
「ああ〜年下で良かった!制服着ているから年下か同学年かなぁ〜と思って話してたけど、
 私よりも年上だったらこんな話し方じゃあ失礼かなぁ〜って悩んじゃった!」

この人年上なんだ。
声が変だからけっこう若いと思った。
どっちにしろ馴れ馴れしい事には変わりは無いけど。

34 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時56分33秒

「年上って言ってもイッコ上だよ」
人差し指を立てて微笑みかける。
なんでもいいよ。早く帰ってくれないかな。
だいたい昨日二言、三言話しただけなのに、なんでこんなフレンドリーにできるのだろう。
彼女の座右の銘はたぶん“ポジティブ”だ。

「じゃあさ!こーしよっ、後藤さん普段なんて呼ばれてる?」
なにかに気付いたみたいに喜びながら言う。
じゃあさの意味がわからない。
今までの話の流れからこういう話にはならないと思う。

「友達に?」
「そう!」
「ごっ…ちんかな」
「ご、ちん?」
「ごっちんだよ、ごっちん」
「ごっちんかぁ〜変なの!」
「笑うなよ!じゃあそっちはなんて呼ばれてるのさ! 」
「私?私はチャーミー! よろしくね、ウフっ! 」
「あのさぁ〜気持ち悪いってよく言われない? 」
「し、失礼な! ……よくわかったわね…」


「……プっ! 」
「ふふふ」

バカみたいこの人。
でも笑ってる私もバカなのかも。


35 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時57分56秒

「じゃあ梨華ちゃんでいいよ、梨華ちゃん。ほら言ってみて」
「…り…かちゃん」
「よくできました。拍手! 」

「……バカにしてんの」
「エヘッ!ばれた? 」

くぅ〜〜!
なんだか上手くいかない。
どっかが痒い。
この人と…梨華ちゃんと話していると、私がいつもの私でいれない。
なんだか悔しい。

「そうだ! お礼しに来たんでしょ。それやって早く帰ってよ」

苛立って見た梨華ちゃんの顔はオレンジの光が肌の色に混ざって見たことも無い色で彩られていた。
36 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)20時59分15秒
奇妙な、でも綺麗な色だった。
不思議な気分でずっと彼女の笑顔を見ていた。
時間が止まった気がした。

「そうだね、1つだけなんでも願い事かなえてあげるよ」

じんわり梨華ちゃんの言葉が胸の中に入ってきた気がする。
ゆっくり動き始めた私の頭が最初に気付いた事は、

「あぁ、もう夕方か。」

空がもうオレンジの時間になっていること。
夕日は静かに空を自分の色に染めていた。


37 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)21時00分47秒

梨華ちゃんの顔を眺める。
なんであんな事を言って、なんでこんな風に笑えるの?
願いなんてかなえられるはず無い。
あなたは天使でも悪魔でも魔法使いでもないんだから。
それでも彼女の瞳は私を見つめる。

「あのね、友達になってくれる」

言葉が零れた。
自分で自分の言った言葉が怖かった。
背中がひんやりした。

こんなの私じゃないよ。
いつもの私じゃない。
オクビョウモノの私じゃない。

梨華ちゃんは一度瞬きをした。

38 名前:第3話 ピンクの魔法 投稿日:2003年04月03日(木)21時02分17秒

「うん。もちろん」


何かが外れた。
何かが笑った。
何かが軽くなった。



私はたくさん考えて言った。

「ありがとう」

彼女はすぐに答える。

「どういたしまして」


鏡が欲しい。
どんな顔をしているのか知りたいんじゃない。
どんな笑顔なのか見たいんだ。



39 名前:名無し 投稿日:2003年04月03日(木)21時05分38秒
>>25 名無し読者さん
遅文な上、乱文雑文本当にすいません。
そこに気付いてもらえて良かったです(w
気が向いたらまた読んで頂けると嬉しいです。
40 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)01時01分49秒
いしごま好きなんで嬉しいです。
引き込まれました(w
続き楽しみにしています。

それと、気づいた点で、美貴ですよ〜。
41 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月26日(土)23時34分59秒
いしごまいいですね
42 名前:名無し 投稿日:2003年04月28日(月)00時48分21秒

今日、一人友達が出来ました。
茶色のサラサラな髪に立派な鼻。
それと少し離れ眼。
でもその眼が変わっているんです。
なんだか人をバカにしたような、
なんだか人を包み込むような、
なんだかおかしな瞳です。
冷たいような暖かいような
なんだか優しい瞳です。
あなたも会えばすぐに友達になれると思います。
あなたが私に魔法をかけてくれたように、
私も彼女に魔法をかけました。
もうすぐあなたが帰ってきます。
その時は私の魔法は解けますか?


〇月×日




43 名前:間違えました。メール欄が題名です。 投稿日:2003年04月28日(月)00時54分28秒
>>40 名無し読者様
すいません。やっぱり気になってしまいますよね(w
意図的に間違えたんですが藤本さん及びファンの方すいませんでした。
続きもこんな具合ですいません。

>>41 名無し読様
読んで頂いて有難う御座います。
そして続きもこんな具合で申し訳ありません。
謝りっぱなしですいません(w
44 名前:名無し 投稿日:2003年05月23日(金)18時03分48秒
待ってます。
45 名前:第4話 白かった靴紐 投稿日:2003年05月28日(水)20時57分10秒

掛け布団はいつも通り重たかった。
いつからか朝は嫌いになっていた。たぶん物心ついた頃には嫌いになっていた。
小さい頃は単純に朝の気だるさ、鬱陶しさが嫌いだったはず。
だけど最近は別の理由に塗り替えられた。
私を布団から起こしてくれるのは、お母さんのやかましい小言でなくスズメの可愛い囁きでもない。

「だから言ってるでしょ!! お母さんのそういう所が嫌いなんだって!! 」
「待ちなさい!!まだ話しは終わってないのよ!! 」
「もういいよ!何も話すことなんて無い!! 」

朝の訪れを乱暴に教えてくれるのは荒々しい聞きなれた二人の声。
毎朝毎晩これが繰り返される。

46 名前:第4話 白かった靴紐 投稿日:2003年05月28日(水)20時58分11秒

ウチの家族は私がホントに小さい頃に父親を亡くしている。
だから私にはお父さん?父親の面影と言うのが全くといってない。
お母さんは今まで女手一つで私達姉妹を育ててくれた。
私達には何も愚痴らず、何も弱音を吐かずに育ててくれた。
そのせいなのか仕付けには人一倍うるさく感じた。
でもお母さんが夜一人で泣いているのも見た事がある。
その時、お母さんが我慢しているなら私も我慢しなくちゃと色々な物を押さえつけた気がする。

47 名前:第4話 白かった靴紐 投稿日:2003年05月28日(水)21時00分10秒

だけどお姉ちゃんは違った。
お姉ちゃんは妹の私の目から見ても異人さんだった。
全てが私と違った。
背も高い、顔も綺麗、スタイルがいい、頭もいい、運動も出来る、人当たりもいい。
何一つ欠けている物が無いように思えた。
そんな人だからいつも周りにはたくさん人がいた。
私はただそれを遠くから眺めていた。
お母さんもお姉ちゃんに対しては気のせいか、私よりも優しく見えた。
だからと言う訳じゃ無いけどお姉ちゃんは誰よりもワガママで頑固だった。
自分のすることに対して何の迷いも疑いも持った事は無いと思う。
勘違いしないで欲しい。私はお姉ちゃんが大好きだ。
お姉ちゃんは私をいつも気遣ってくれる。
私が何かしようとするといつも先に助けてくれる。
お姉ちゃんは私にとても優しい。
でもその優しさがとても辛い時もある。

48 名前:第4話 白かった靴紐 投稿日:2003年05月28日(水)21時02分03秒

「誰もお母さんの言う事なんて聞かないんだから! 」

ご飯を食べ終えた私に向けてかお母さんは言った。
私とお母さんしか居ないんだから私に向けて言っているに決まっている。
でも違う。
お母さんはお姉ちゃんが出て行った玄関に向けて言っていた。
玄関は何も答えずにお母さんの声をどっかへ蹴飛ばした。

「ごちそうさま。いってきます」
今度はお母さんが何も答えずに私の声をどっかへやった。
お母さんは一度私の方を振り向いて小さく口を動かした。

49 名前:第4話 白かった靴紐 投稿日:2003年05月28日(水)21時03分03秒

玄関に座り靴紐を結ぶために下を向いた。重力に誘われて目から涙が落ちそうな気がした。
でも出ない。
何も悲しくないし、何も痛くないし、もちろん何も嬉しくもないから。

これが私の“当たり前”だから。


50 名前:第4話 白かった靴紐 投稿日:2003年05月28日(水)21時04分05秒

私はいつも考える。というよりも思う。
なぜ二人とも我慢が出来ないの?

お姉ちゃんはこの家が嫌なら出て行けばいいんだ。
お姉ちゃんは何だって出来るんだから。
頼れる友達だってたくさんいるんだから。
行きたくないなら早く大学なんて辞めて絵の勉強をすればいい。


お母さんだって少しは妥協すればいいんだ。
お姉ちゃんのやりたい事をやらしてあげればいい。
お姉ちゃんが家から居なくなったってこの世からいなくなっちゃう訳じゃない。
大学に費やしたお金だってお姉ちゃん自分の力で返すって言ってるじゃん。


それに私だっているのに。



51 名前:第4話 白かった靴紐 投稿日:2003年05月28日(水)21時04分52秒

茶色に汚れた靴紐を結び終えて玄関のノブを握る。
私はノブを回しながらもう一度呟いた。


「いってきます」


お母さんに私の声は届いたかどうかはわからないけど、当たり前のように声は返って来なかった。

52 名前:レス 投稿日:2003年05月28日(水)21時10分09秒
>>44 名無しさん
お待たせしてすいません。
痴文なのにこのペース、お恥ずかしい限りです。
53 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月22日(日)23時34分05秒
保全
54 名前:第5話 ネイビーブルーなスキップ 投稿日:2003年06月29日(日)06時25分42秒

もしも、この世界が一人一人の人間によって創られているのなら私はどんな役目のパーツなんだろう。
私というパーツが無くなっても地球は何も変わらず回り続けるんだろうなぁ、なんて幸せな事を思わなくも無い。
無理やり私に役目を作るなら、ユーウツや退屈など、暗くて濃い青っぽい色の役目を果たしているんだと思う。
自分の役目を見つけたことに嬉しくなった私は、スキップもせずに地面をみつめながら歩いた。
地面には自分よりも大きな餌を必死に運ぶ蟻達がいた。
蟻達は何も考えなくても、自分たちの役目があるからいいなぁ。
私にも女王様がいてくれたらなー。
55 名前:第5話 ネイビーブルーなスキップ 投稿日:2003年06月29日(日)06時29分54秒

通学路の途中、女王様候補NO2のミキちゃんに会った。NO1はゆうちゃん。
「うぃ〜すっ。相変わらず眠たそうだね!」
ミキちゃんはいつもと変わらない爽やかな笑顔で私の肩を叩く。
「そうかな〜。まぁ眠いけど」
私も目を覚まして爽やかな笑顔で返す。
「あはは!ごっちんの笑顔見てるとこっちまで眠くなるよ」
どうやら爽やかな笑顔は出来てなかったみたい。

ミキちゃんはストレートな言葉を投げるから、良くも悪くも言いたい事がすぐにわかる。
面倒臭くなくて好き。
それにしてもミキちゃんは朝から元気すぎ。
『朝からこんなに爽やか人なんていないよ、おじいちゃんとかおばあちゃんぐらいだよ』
なんて直接私には言えるわけが無いから、
「ミキちゃんは朝から特別元気だね」
なんてすっぽ抜けたカーブで返した。
「そうそう、私は特別なの」
私の言葉はミキちゃんのストライクゾーンに入ったらしく、またも爽やかに笑った。

56 名前:第5話 ネイビーブルーなスキップ 投稿日:2003年06月29日(日)06時32分37秒

教室の前に着くと、ミキちゃんは大きな声で「おはよう!」と言いながらドアを開けた。
教室にいたみんなも笑顔で「ミキ、おはよう!」と返していた。
私はそれを避けながら席に向かったけど、たまに「後藤さん、おはよう」なんて言われてしまい、「あ、おはよう」なんて返していた。

自分の席に座るといつもの様に眠る準備に入った。
直接顔を机に付けて眠ると頬が痛いので、ピンク色のタオルをひいてから顔を机に落とした。



教室のみんなの声が遠ざかっていく。
ミキちゃんの笑い声も霞んでいく。

みなさん、おやすみなさい。




57 名前:第5話 ネイビーブルーなスキップ 投稿日:2003年06月29日(日)06時34分04秒




なんで?眠れない。いつもならこのタイミングで眠れるはずなのに。
もう教室のみんなの声も聞えないし私の目の前は真っ黒。
だけど頭が、脳がしきりに動きたがる。休みたがらない、眠りたがらない。

あーそうだね。わかってるよ。朝のお母さんとおねえちゃんのことでしょ?
え、違うの?
じゃー何?
わかっているくせに?
……うん、わかってるよ。いちいち言わせないでよ。

58 名前:第5話 ネイビーブルーなスキップ 投稿日:2003年06月29日(日)06時35分30秒

梨華ちゃんだ。変な声の、顎が出ている、色黒の、ピンクの梨華ちゃんだ。
彼女が頭から離れない。頭と言うよりも体の隅々から離れない。
視覚?聴覚?それとも触覚?嗅覚?味覚は違うね。
でもそれのどれかが、うんうん、それよりももっと大きくてワガママなのが、梨華ちゃんを離さない。
今日も公園にいるのかな、会えるかな。
いや絶対にいるし、また変な声で話し掛けてくるに違いない。
迷惑だなー。何話そうかなー。また憎たらしい事言うんだろうなー。



気持ち悪い。
私は何を考えてるんだろう。というより妄想してるんだろう。
だけどそれが楽しくて仕方ない。そんな自分が気持ち悪い。
なんだか胸だか心だかわからないけど、そこら辺が走り回っている気がする。
スキップとかステップを踏んでいる気がする。
うーん、これをワクワクと言うんだろうか、それともドキドキと言うのかな。
まー公園行ってから考えるか。
おいおい、公園行く事は決定事項かよ。


59 名前:第5話 ネイビーブルーなスキップ 投稿日:2003年06月29日(日)06時36分27秒


授業が終了してチャイムが鳴った。
目を開いた私がまず感じた事は、さむいツッコミを一人でやった自分に対する恥ずかしさでも、目の前で唇を引きつらせながら笑っているゆうちゃんへの恐怖でもなく、にやけて口から唾を垂らしていた自分に対する驚きだった。




60 名前:名無し 投稿日:2003年06月29日(日)06時40分28秒
>>53 名無し読者さん
( ● ´ ー ` )保全ありがとー
61 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月22日(火)02時27分01秒
ゆっくりでいいんで、頑張って下さい。
62 名前:第6話 空色のブランコ 投稿日:2003年07月29日(火)00時35分34秒

上履きが下駄箱に入ったのを確認して私はダッシュで学校を後にした。
相変わらずゆうちゃんは怒ってたし、ミキちゃんはカラオケに今日こそ連れて行ってやるってうるさかったけど、あいにく私には予約の無い予定があるのだ。
それは予定が無いって事じゃないの?って私以外の人が思っても、根拠は無いけどきっとあるのだ。うん。きっときっとあるのだ。
見慣れたコースを全速力でドリフトして私はゴールラインをダントツ一位で駆け抜けた。ただしレースの参加者は私一人。
残念違った、二位だった。でもおかしな事に嬉しかったし安心した。
私は昨日の仕返しをしてやろうと思い立ち、気付かれないように摺り足でブランコに座っている彼女の後ろへと回り込んだ。
第一次作戦は成功だ。でもこの作戦は最後が重要だ。だけど困った。なんて声をかけよう?
63 名前:第6話 空色のブランコ 投稿日:2003年07月29日(火)00時36分44秒
『こんにちは?』『だーれだ?』『わぁっ!!びっくりしたぁ?』
うーん、どれも捻りが無い。私ぐらいになると、作戦は最後まで完璧に、綺麗に終わらないと気がすまない。
「わぁっ!!」
「んわぁぁぁっ!!!」
やられた。敵は私よりも何倍もずる賢かった。正義の味方が悩んでいる時は攻撃しちゃいけないのに。
「びっくりした?」
「うん。…びっくらした」
梨華ちゃんは腰を抜かした私に手を差し伸べながら笑った。
向けられた梨華ちゃんの手に対して私が取るべき行動は只一つ。
その手を掴んで思いっきりグッと引っ張りたおすこと!
「きゃっ!?」
私と梨華ちゃんの立ち位置は逆転した。と言っても梨華ちゃんはお尻をついてるけど。
「なはは」私は勝利の笑みを浮かべた。
「やったなぁ」梨華ちゃんは悔しそうに笑った。

64 名前:第6話 空色のブランコ 投稿日:2003年07月29日(火)00時37分57秒
************

私達はお互いのスカートについた砂を払って、空色のブランコに腰をおろした。
「でもさぁ、梨華ちゃんって暇だよね」心にもあることを言った。でもからかったつもりで言ったんじゃない。純粋に気になっていた。私と一緒で友達がいないのかなーなんて。あと学校行っているのかも気になった。
「まーお互い様じゃない?」そりゃそうだと私は思った。そして暫らく経って、私は話をはぐらかされている事に気付いた。
ブランコをゆっくりと漕ぎ出したら、梨華ちゃんと友達に───友達って言葉は意外と恥ずかしいな───なった日の事を思い出した。
友達ってのは不思議だ。相手の事が気になって仕方ない。こんなの初めてかも。それってもしかして悲しい事?
聞きたい事がたくさんある。どこの高校?趣味は何?彼氏はいるの?あーそうだ、好きな食べ物も聴かなくちゃ。
そんなたくさんの選択肢の中から私が選んだ質問は
65 名前:第6話 空色のブランコ 投稿日:2003年07月29日(火)00時38分37秒
「梨華ちゃんてさぁー何者?」なんてちょっと危険な質問だった。
梨華ちゃんはやっぱりその質問に驚いたみたいで、一瞬目を大きくしたかと思ったら、下唇を突き出して空を見ながら悩んでいた。
「いやいや、いいや。ごめん、おかしな事聞いて」真剣に考えられたらこっちが恥ずかしくなった。
「私はねー。魔法掛けられたお姫様かな?」
かな?って言われても。
66 名前:第6話 空色のブランコ 投稿日:2003年07月29日(火)00時39分23秒
「なにそれ、白雪姫?もしくは眠れる森の美女?」
「うーん似ているけど違うなー。私は別に毒を盛られたわけでも呪われている訳でもないから」
「つーか、お姫様ってのがまず間違っていると思う」
梨華ちゃんはなんだとーなんて言いながら私を捕まえようとブランコを大きく漕いだ。
私は逃げる様に更に大きく漕いだ。
二つとも永久に追いつくことは無いけどね。
それでも空色のブランコは私達の笑い声と一緒に空に溶けた気がしたんだ。



67 名前:名無し 投稿日:2003年07月29日(火)00時40分31秒
>>61
有難う御座います。
68 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月25日(月)02時44分17秒
保全
69 名前:第7話 灰色メランコリー 投稿日:2003年08月29日(金)23時20分21秒

梨華ちゃんは空が茜色に染まると何かを思い出したかの様に公園を去っていく。
「あ、もう時間だ。じゃあね」とか言いながら。
私も「あ、そう。じゃあ」なんて言うんだけど。

素っ気ないよなー。本当に魔法に掛けられてるのかなー、空が黒く染められる前に帰らないと変身しちゃうとか。梨華ちゃんが変身したらきっとコウモリだろうなー。黒いし、声高いし。でも、きっと綺麗なコウモリだ。
でも綺麗なコウモリってどんなの?

明日こそは色々訊いてやるんだ。彼女の超音波を受信する。

70 名前:第7話 灰色メランコリー 投稿日:2003年08月29日(金)23時21分49秒
汚れた手を洗うために公園の隅に置かれた蛇口をひねった。
水がジャブジャブ暴れて、弾けて、夕日に透けて、灰色の地面に降り注いだ。
砂達が待ち望んでいたかの様に必死にそれを飲み込んでいた。

素直になろーと思った。せめて梨華ちゃんの前だけでは素直になろーって。

71 名前:第7話 灰色メランコリー 投稿日:2003年08月29日(金)23時23分27秒
夜が動き出すのと同時に私の世界が急速に狭くなっていく。たくさんの道が埋められていく。私は残った一本道を足元を確かめる訳でもなく、下を向きながら歩き続けた。
夕焼けが完全に空から追い出された頃、私は家へ辿り着いた。
長くユーウツな道程だった。もちろん体よりも心の方が疲れてしまった。
「ただいまー」誰にも聞えないように呟いた。返って来る言葉が無いのに私だけが言うのは恥ずかしいから。
リビングではお母さんがTVを見ながら、雑誌を見ていた。
「おかえり」お母さんが疲れた声でそう言うから「ただいま」って私はもう一度寂しそうに呟いてみた。
「ご飯食べる?」
「うん」
「じゃあちょっと待ってて」
お母さんはこの会話の間、一度も私の目を見なかった。そして台所で包丁の音を鳴らし始めた。

お母さんは私が帰って来た事に気付いてるのかな?

72 名前:第7話 灰色メランコリー 投稿日:2003年08月29日(金)23時24分48秒
「お姉ちゃんは?」
私は焦らないように、声が裏がえらないように落ち着いてこれを訊いてみた。お母さんはきっと私に気付いてくれる。
案の定、お母さんは包丁の手を止めてこう言った。
「お姉ちゃん帰ってこないって」
「…ふーん」
そう。お姉ちゃん帰ってこないんだ。そう。
「暫らくお友達の家に泊まるって」
「…うん」
「電話がかかって来てね、そう言ってた」
「うん」
お母さんは自分からたくさん喋ってくれた。お姉ちゃんの事を。寂しそうに。本当に寂しそうに。

73 名前:第7話 灰色メランコリー 投稿日:2003年08月29日(金)23時25分24秒
お母さんが向こう側のイスについたのを見て、私は箸を取った。
「いただきます」
その言葉を、私とお母さんのちょうど真ん中辺りに向けて言ってみた。
「いただきます」
お母さんの言った言葉は私の『いただきます』には届いたかな?横着せずにもっとお母さんの近くで言えば良かった。

74 名前:第7話 灰色メランコリー 投稿日:2003年08月29日(金)23時26分14秒
この決して広くはない部屋にお母さんと二人きり。
四角いテーブルに二人きり。
お父さんもお姉ちゃんもいない、二人きり。
だけど言葉は出ないんだ。箸と口は動いてるんだけどね。
お母さんは私の直ぐ傍で、音も立てずにご飯を食べてる。
それなのに、なんでこんなに遠いんだろう。こんなに近くにいるのに遠いんだ。
私の声はお母さんに届きますか?お母さんと私の距離はどの位ですか?
私にはもうわからない。



教えてくれるのかな?
梨華ちゃんなら。



75 名前:第8話 でっかい白 投稿日:2003年08月29日(金)23時27分31秒

私は海の中にいた。深く暗い海の中に。
海藻や岩が無ければ魚すら泳いでいない海の中に。
パジャマのまま沈んでいった。上を見ながら沈んでいった。空を見つめながら沈んでいった。口から出た泡だけは空を目指していた。
海は優しく私を許してくれた。私は海に全てを任せた。底の無い海へ。深く。深く。何処までも深く。
真っ黒だ。全てが真っ黒だ。何も聞えやしない。
怖くなかった。暖かかったし、何よりも静かで私が望んでいた世界そのものだった。
目を閉じよう。
ここが私の居場所だ。
もういーのさ。もーいいんだ。
ゆっくり瞼を下ろす。空が狭まっていく。鳥が飛んでいた。

76 名前:第8話 でっかい白 投稿日:2003年08月29日(金)23時28分10秒

──いや鳥じゃない。コウモリだ。綺麗な、優しそうなコウモリだ。そーか、これが“綺麗なコウモリ”って奴だ。

私はそれを見ていたくて大きく目を開いた。



77 名前:第8話 でっかい白 投稿日:2003年08月29日(金)23時28分50秒
頭痛がした。深海の水圧のせいなのかな。いや違う。もう夢は覚めている。
ここは深海よりも静かで何も無い世界だ。
何時もはお姉ちゃんとお母さんの声が私を起こしてくれたのに今日は静かな夢に起こされた。

まだ5:00か。
カーテンから覗いた景色は夢で見た世界みたいに静かだった。

78 名前:第8話 でっかい白 投稿日:2003年08月29日(金)23時32分29秒
私は夢の続きが見たくて急いで制服に着替え、寝癖すら直さずに家を飛び出した。
あ、書置きはしたよ。お母さん今日は朝レンがあるので早く行きますって。何の部活だろうね。私がわからないんだからお母さんもわかるはずない。それでもお母さんはそれほど気にしないだろうけどね。
玄関を開けると小鳥たちが朝の会合を開いていた。「これが小鳥達の囀りかー。可愛いな」誰もいないから思った事を口にした。気持ちいい。
小鳥たちが止まっている電線の上には夢で見た世界よりもよりも遥かに綺麗な空があった。空は白かった。青なんて殆ど無いくらい白かった。雲も無いのに白いんだ。なんか気持ちいい。
これが朝かぁ。いいなー、朝好き。私は朝が好きだ。知らなかった、こんなにも朝が綺麗で気持ちのいいモノだって。今日はまだ始まったばかりだというのに色んな物を知れた。
79 名前:第8話 でっかい白 投稿日:2003年08月29日(金)23時33分12秒
歌いたいなぁ。いいかなぁ?いいよね?歌っちゃうよ。
「…ルルル…ラララ…」
鼻歌で止めとこう。誰かに聞かれたら恥ずかしい。誰もいないけどね。
走っちゃおう。スカートを気にせず走っちゃおう。もちろんゴールはあの公園。梨華ちゃんはいないだろうけど、いーんだ。そんな気分だから。
風が私の頬を撫でる。景色がどんどん流れていく。音は空みたいに真っ白で何も言わない。誰も私の邪魔はしない。夢の世界みたいにみんな消えちゃった。でも夢で見た世界は真っ黒だったけど、今ここにある世界は真っ白だ。やっぱり黒よりは白が好き。
80 名前:第8話 でっかい白 投稿日:2003年08月29日(金)23時34分11秒


叫んじゃえ!



81 名前:第8話 でっかい白 投稿日:2003年08月29日(金)23時35分00秒
誰かがそう言った。私かい?私なのかい?
言っちゃうぞい。言うからな!


「わぁぁぁぁぁーーー!」


へへ!言ってやった。誰もいないし、いたとしても今の私には誰も追いつけないだろう。
公園に飛び込んだ。風を置き去りにしてやった。今回のレースは間違いなくダントツ一位だ。
それでも公園中を見回してみた。まー念のためってやつ。
良かった、やっぱり誰もいなかった。少し寂しかったのはきっと気のせい。
何時ものブランコに座って呼吸を整えた。空色のブランコはいつでも優しく私を出迎えてくれる。梨華ちゃんはいなんだけど、とても優しい気持ちに包まれた。これが梨華ちゃんの魔法の効果なのかな?

82 名前:第8話 でっかい白 投稿日:2003年08月29日(金)23時36分08秒
朝はいい感じだ。なんかわかんないけど、朝はいい感じだ。これからは毎日5時に起きようかな。
久しぶりに自分の汗の匂いを感じた気がする。しょっぱいなー、しょっぱい。
ふと見た地面の砂の色が変わっていた。私の汗に、涙に。嬉しいのに涙が出てくる。笑ってるのに涙が出てくる。
頭がオカシクなったんだ。どっか私の回路が壊れたんだ。きっと梨華ちゃんのせいだ、ちきしょぉー。

でも、自由だ。

私は何処までだって自由なんだ。嬉しい、私は嬉しい。私は空みたいに自由。
ブランコを揺らしてやった。私の力で揺らしてやった。いつか空に届くように何よりも力強く誰よりも高く。



「わぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」



83 名前:第8,5話 Their color 投稿日:2003年08月29日(金)23時42分25秒
久しぶりに帰って来た街は何一つ変わらずに私を迎えてくれた。
まだ朝早かったせいだろうか。人、一人いない町の空を鳥達だけが自由に泳いでいた。
あの公園に通りかかった。ここは何時でも私に奇跡を見せてくれる特別な場所だ。
そう、時に信じられない物を見せてくれた。もちろん今だって。

その子は泣いていた。
その子は笑っていた。
その子は叫んでいた。
その子は美しかった。

笑えた、久しぶりに笑えた。邪魔しては失礼だから声をかみ殺して笑った。
空を飛びたいのだろうか、茶色い髪を靡かせて真っ白な空を目指してブランコを漕いでいた。
84 名前:第8,5話 Their 投稿日:2003年08月29日(金)23時43分03秒

でも無理さ。


85 名前:第8,5話 Their color 投稿日:2003年08月29日(金)23時44分51秒
魔法使いじゃないんだから飛べやしない。
そして魔法使いなんてこの世にはいやしない。
私の魔法はとけた。彼女の魔法もといてあげなくちゃ。
しばらく彼女を見ていたかったけど私には時間が無い、急がなくちゃ。

不意に彼女が彼女と重なった。
緩やかな笑顔がそっくりだった。
胸の奥の方が締め付けられた。心の位置がわかった。
急がなくちゃ。



86 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月29日(金)23時47分16秒
>>68 名無し読者さん
遅文で本当にすいません。
ありがとうございます。
87 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年09月06日(土)15時07分50秒
うわぁぁ。。。
と、読み終わって思ってしまいました。
すごいですねぇ〜・・・文章が。。。。
上手くはいえないんですが・・・いいです。うん。
では、ゆっくり頑張ってください^^
では〜
88 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:04

「ねむ…」
授業中だというのに思わず呟いてしまった。
あれから2時間近くブランコを漕ぎ続けていた。残念な事に空に届く事は出来なかったけど。それでも私は頑張った。通り過ぎる人たちの冷たい視線も気にせず頑張った。このまま続けたら明日、うんうん一週間後ぐらいには本当に空に届いちゃうかもしれない。
私にしては頑張り過ぎたくらいだ。そして今もその頑張りは継続中。
朝あんだけ頑張れば、ジアイに満ちた私は私自身に休みを与える。そう以前までの私なら。昔の私よ、残念ながら今の私は違うのだよ。
ちゃんと黒板を見て、ちゃんとそれをノートに写す、しかも先生の話まで聞いている。昔の私よ、凄くない?
つーか、みんなこんなに大変な事毎日やってるの?信じらんない。これが6時間も続くの?ありえない。

89 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:06
ミキちゃんは?

嘘!?

眼鏡までかけて授業聞いてる!誰あれ!?あんな真剣な顔したミキちゃん見たこと無い。正直裏切られた気分だ。私の中でのミキちゃんは『授業なんて聞いてられっかよー』って言いながら漫画や携帯で見ている子だったのに…。そういえばミキちゃん成績オール5だったわ。ヒキョーだ。神様は不公平だと心底思った。
でも今更気付いたけど、ウチのクラスって意外に授業中はみんな真面目だね。雑音が聞えない。素晴らしい。みんな頑張れ、私も頑張ってるからな。
今日はすこぶるゆうちゃんもゴキゲンだ。口元に隠しきれない笑みを浮べながら授業をやっている。たまにこちらを振り返っては1人頷いている。
むー。謝りたい気持ちでイッパイだ。みんながこんなに苦しい労働をこなしている間に、私って奴は寝たりサボったりしていたのか。許せんな。

90 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:08
そして、今さっきまでの私に謝りたい。


『ごめん、もう限界』


薄れて行く景色の中で、ゆうちゃんがいつもの顔に戻ってこちらに何かを言っているのが見えた。
へへ。その方がゆうちゃんらしいよ。

91 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:10


───っちん。ごっちん。起きて。もう放課後だよ。ねぇ、ごっちん!」

ちん、ちん、ちん、ちんうるさいなぁ、小学生じゃないんだから。

ん?そう言えば前もこんな事が。
じゃあ、この小学生の正体は───

92 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:12
「ミキちゃん!」
「ったく、ミキちゃんじゃないよ。嬉しそうな顔しちゃってさ」
「あは。だってさー、ミキちゃん前もおんなじこと言ってたよ」
「じゃあ、それはごっちんのせいだね。普通の子は放課後まで寝てなんかいないもん」
そうか。また放課後まで寝てしまったのか。
少し頬が痛い。あ、タオルひいて寝るの忘れてた。急激な睡魔だったから準備できなかった。
「今日は珍しく授業聞いてると思ってたら、結局はこうだもん。ゆーちゃん心底裏切られた!って嘆いてたよ」
「あはは!」
ゆーちゃんごめんよ。恨むなら私でなくて、空の白さを恨んでくれ。
でも、空が白くなかったら授業聴く気にもなれなかったから、どちらにしろ結末は同じだね。
93 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:14
「くくく……」
「何時まで笑ってんの、じゃあ行くよ!」そう言ってミキちゃんは私の腕を掴んだ。
「へっ?どこに?」当然の質問だ。
「決まってるじゃん!カラオケだよ」
まただよ。ミキちゃんは毎日毎日私の手を取り、こう言う。

「えぇぇ……」
「えぇぇ〜、じゃないよホントに!毎日誘ってるのに一回も行ってないじゃん!」
「だってさぁ〜」
「だって何さ?」
予約の無い予定があるのだ──とは言えない。さすがに。
「ほら、用事ないんじゃん!いくよ!」
「マジでぇ……」
「マジで」
なぜだ。なぜここまでして私ごときを、カラオケに連れて行きたがるのだ。
「なんでさ?なんで私そんなにカラオケに連れて行きたがるかなぁー?」
「…別にー」
なんだ?急に大人しくなったぞ。何か隠しとるな。私はこういうことに意外と鋭い──誰が意外だ!
94 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:17
「ん〜?ミキちゃん何か隠してるね?」
「な、何を!別に隠してなんかないよ!」
意外とわかりやすい性格なんだなぁ。攻められると弱いんだ。
「あ、そう。じゃあ、やっぱカラオケ行かない」
「はぁ?何それ、強迫のつもり?」
「キョウハク?うん、それそれ」
私がそう言って頷くと、ミキちゃんは悔しそうに私を見つめた。
はは、面白い。ミキちゃんのこんな顔見たの初めてだ。

ミキちゃんは1回溜息をつくと窓の外を眺めた。そして窓を見つめながら私の顔を見ないでこう言った。
「じゃあ、それ言ったらカラオケ行く?」ツッケンドンにミキちゃんは言う。
「それ?うんうん、それ言ったら行く」それってのが何のことだかわかんないけど、とりあえず聞いとこうと思った。
ミキちゃんは眉を下げ、口を尖らして鼻で一息ついた。つまり、まいったって顔をした。なんか可愛かったけど、可笑しかった。
「仕方ないなー。一回しか言わないから、ちゃんと聞いとけよ」
「あ、はい」
なんだ?急に改まって。ミキちゃんの真剣な顔は緊張する。
95 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:18
「あのね、実は美貴──」
チョット待って、この展開、放課後の教室に二人きりと言うシュチュエーション。まさか…。
ミキちゃんの顔が、窓の外からタイミング良く入ってきた夕日に照らされて良く見えなかった。
「ごっちんの──」
「ちょ、ちょっと待った!ミキちゃんマジで?マジで言うの?」
「な、なんだよ!ごっちんが言えって言ったんでしょ!」
「いやぁそうだけどさぁー、あのーなんて言うか……」
「もうダメ、ここまで来たんだから最後まで言う!」
「ま、マジで!ちょっと考えた方がいいんじゃない?ほら、若さゆえの過ちっていう奴かも!」
「いや、言う!美貴はごっちんの───」
「う、うわぁぁぁーー!!」
嫌だ!なんか聞きたくない!これは聞いちゃダメだ!

「唄が大好き!!!」
「うわぁぁーー…んあ?」
う、唄ですか?私でなくて?
自意識過剰な私も十二分に恥ずかしかったけど、ミキちゃんはきっと私以上に恥ずかしかったはずだ。
96 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:20
「うーん、やっぱ寒い」ミキちゃんは赤くなった頬っぺたをポンポンとパーで叩きながら、私から背を向けた。
「あー、唄…ですか」
「はい。唄です…」
私の唄。
全くガードをしていなかった場所を打たれてしまった。がら空きの心にグッって来た。
確かに私は唄う事が大好きだ。ミキちゃんがどれだけ私の唄を好きなのかわからないけど、ミキちゃんよりも私自身、私の唄を好きな自信がある。
MDから流れる音に合わせて口ずさんだりする。何よりも音楽自体が好き。
でも、それを自分以外の人に好きなんて言われるとは思ってもいなかった。しかも、ミキちゃんの口から。
意外な人物からの意外な一言に私の平常心っていう奴は、ぐちゃぐちゃに混ざっちまった。バカみたいに恥ずかしくて仕方なかった。
97 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:23
「あのー…質問いいですか?」
「どうぞ、後藤さん」
お互い、真っ赤な顔を見れやしない。なんじゃこりゃ?これじゃあ本当に愛の告白をし終わったカップルみたい。
「私の唄を好きだと、いや大好きだと──」
「そこは言い直さなくていい」
「──言う事ですが、どこで私の唄をお聞きになられたんでしょうか?」
「……マジで言ってんの?」
「え?あ、はい。マジです」
「はぁ……」
あっ!大変な事に気付いた!!しかもそれは私の今後の人生に有利に働くようなとっても大きな発見だ。
私、人に溜息つかすの得意!これからはアンケートとかの特技の欄に困らないですむ。
98 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:25
「あのさ、新学期の初めに親睦会を兼ねて、みんなでカラオケ行ったの憶えてない?」
「あー」
「あーって!いいよ、どうせ憶えてないんでしょ」
「あは」
「笑うな」
そんな事あったけなぁ。あの頃は宿題の無い春休みが終わり、また始まってしまった学校に対する純粋なる怒りの中生きていたから、周りのことに気を使っていられなかったんだ。だから憶えてないんだ。そういう事にしとこう。
「あん時までさー、正直美貴の中でごっちんってちょっと嫌いなタイプだったんだよね」
ミキちゃんはやっぱり気持ちの良い子だ。良い事なんて一つも言われてないんだけど、さらっと、意図も簡単にさらっとこういうことを言えるミキちゃんのことを私は大好きだし、憧れる。
「いつも表情変わらないし、どっか格好つけてる感じがしてさ。ごっちん、自分から私達の輪に入ろうとしないじゃん?だからさ、私はあんた達なんかと違うんだって感じがしてたんだ」
「うん」
「美貴はさ、自分で言うのもなんだけど、ごっちんとは真逆のタイプだと思うんだ。輪の中にいなければ気がすまない。つーか、中心に」
「あはは、なるへそ」
ミキちゃんも笑いながら、机に腰をかけた。私もそれに合わせてそばにあった椅子に座った。
99 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:26
「だからさ、ちょっとむかついていたと言うか……うん、きっと嫉妬してた。顔も美貴ほどじゃないけど可愛いし」
「美少女レースがあったら中々いい勝負すると思うよ」
「ふふ。で、親睦会の時もそうだった。みんな新しいクラスでビビッてて、早く新しい友達をつくろうと必死だった。美貴だってそう。でも、ごっちんだけは違った。」
「そうかなー、私だって初めてのクラスはビビるよ」
「自分から友達つくろうとしてなかったじゃん」
「まぁーねぇ」
「そういうところが癇に障ったんだよね。私は独りで大丈夫だって態度が。強がりやがって、格好つけやがってと」
「なはは」
「だからわざと私はごっちんに唄を歌うように薦めたんだ。その鉄仮面を外してやるって感じで。憶えてる?いやいい、絶対憶えてないだろうから」
「あ、それは実は憶えてるかも」
「マジで!ごっちんかなり嫌がってたもんね」
「そうそう。何しやがんだこのヤロー、とミキちゃんに対して憤怒した記憶がある」
「ははっ!やっぱり怒ってたんだ。かなり不機嫌な顔しながらマイク持ってたもんね」
「うんうん」
100 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:28
「私としてはその時点で結構満足してたんだ。鉄仮面を外してやった!って。でも、そっからが予想外だった。鉄仮面を外したごっちんの素顔は見てはいけないものだった。ごっちんの正体は魔法使いだったのです。美貴の心に魔法をかけてしまったのです。あー可愛そうな美貴ちゃん」
「…魔法」
「うん、魔法。人間が何処かに自分から隠しちゃった、本当は大切なモノを見つけ出しちゃう魔法をごっちんは持ってた。その場にいたごっちん以外のみんなが黙り込んだもん。唄を歌っている間のごっちんは凄かった。自由で激しくて大きくて綺麗で優しかった。なんて言うかキラキラしてたんだ」
「本気で照れるよ。やめてくれい」
「やだね、止めない。私はその唄のせいで、ごっちんに惚れてしまったんだから」
「惚れたのかい」
「唄にね。自惚れないように」
巧く言えないんだけど本当に嬉しい。私という人間にここまで興味を持っていてくれる人がいるのが不思議でしょうがなかった。正直、泣きそう。

「あの唄のせいで、それから私はごっちん中毒さ。ごっちんのことが気になって仕方なかった。だから毎日ごっちんに話し掛けたんだ。ごっちんの魔法を少しでもわかりたくてね。おかげで少しは魔法のトリックを、ごっちんっていう不思議生物を少しわかった気がするよ。ほんの少しだけ」
「不思議生物……ふふ、いいね」
ミキちゃんは人差し指と親指でどのくらい少しなのか教えてくれた。およそ3cm。そりゃそぉーだ。私という人間はそんな簡単なもんじゃない。
なんせ不思議生物だから。
101 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:30
「もう少しだけでいいから、この指の間を開けたいんだ。美貴の魔法をときたいんだ」
そう言ったミキちゃんの顔はとても爽やかだった。心に堪りに堪っていた不純物全てを流しきったかの様に清々しかった。その顔が夕日に照らされて、ミキちゃんの笑顔を何倍にも輝かせていた。どこかでこんな笑顔を見た。そう、これは梨華ちゃんだ。でも梨華ちゃんの笑顔は現実感が無かった。頑張っても手の届きそうにない遠い場所の笑顔だった。ミキちゃんの笑顔は違う。ここにいて、直ぐ側で笑ってくれる。私にもわかりやすく笑ってくれる。だから私も遠慮なく笑える。鏡みたいな子だ。

私も好き放題言われたけど爽快な気分だった。
今日はやっぱり特別な日だ。こんなに気持ちの良い日は初めてだ。ミキちゃんとずっと喋っていたかった。ミキちゃんの投げるボールを真正面で受け止めて、私もあれこれ考えずに素直に返す。どんなボールでもミキちゃんは捕ってくれそうだ。
こんな毎日が続くなら学校も捨てたもんじゃないと思えた。

102 名前:第9話 カーキ・ダンシング 投稿日:2003/09/13(土) 23:31
「んじゃー仕方ないなぁー。ミキちゃんがそこまで私に惚れているならカラオケに行ってあげようじゃない」
梨華ちゃん、今日は許してね。たとえ私を待っていなくても、私を許してね。今日は特別な日なんだ。トビキリの日なんだ。
「だからごっちんに惚れてるんじゃなくて、ごっちんの唄だからね、そこ間違いないように」
「ふふ、ならば私がもう一度魔法をかけてミキちゃんを私の虜にしてみせよぉー」
「もう魔法のトリックはわかりかけてるから、そう簡単にはひっかからないよ!」ミキちゃんが私の肩に手を回した。
「ふふ!」私もミキちゃんの肩に手を回す。
「あはは!」

二人きりの廊下を、肩を組んで歩いて行く。夕日に照らされた埃たちが、私達の笑いに合わせて楽しそうに踊っていた。廊下が何処までも続けばいいと思えた。
この笑いよ、止まるな。



103 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/13(土) 23:35
>>87 ヒトシズクさん
うわぁ……文章を褒めて頂ける日が来るとは思ってもいませんでした。
本当にゆっくりですいません。レス励みになりました。
ありがとうございます。
104 名前:名無し 投稿日:2003/10/13(月) 23:29
後藤さんの語り口が独特ですね。
音楽を好きな人の語り口だと思いました。
話にぴったり。
初レスなんで、ちょっと遡っちゃいますが
38レス目の最後3行、うなりました。
続き、楽しみにしてます。
105 名前:第10話 スカイブラックの下で 投稿日:2003/10/14(火) 22:59

「やっぱごっちんの唄はすんごいわ」
「いえいえ。ミキちゃんもすんごかったよ」
「『も』ってことは自分が巧いってこと自覚してんだ」
「まーねぇ」
「へっ。でもさー、ごっちんって変わったよね。最近」

106 名前:第10話 スカイブラックの下で 投稿日:2003/10/14(火) 23:00
カラオケボックスから返る最中、ミキちゃんは突然言った。空にはすでに月が浮かび始めていた。

「そうなの?何が変わったの?何時変わったの?良くなった?悪くなった?」
「な、なんだよ急に!」
ドキドキした。何が、何時、どう変わったの?もしかしたら梨華ちゃんの魔法が私を変えたのかもしれない。
「ねぇ何が変わったの?教えて!おねがい」
「いや、そんなに必死になられても」
そりゃ必死にもなるさ。もしかしたら私も魔法かけられたお姫様かもしんないんだもん。
「……なんかさーよく喋るようになったっていうか、表情のバリエーションが増えたっていうか。あ、そうそう、よく笑うようになったんじゃない?」
「あーそういえば最近良く笑ってるかも」
「だべ」

そうか、私笑うようになったわ。学校で笑う事はあんまりなかったもんな。つーか家でもないや。最近はホントどっかが壊れたとしか思えないくらいミキちゃんが言うように色んな表情をしていると思う。私の許可もなしに涙もバカスカ勝手に流れるし。
梨華ちゃんの魔法は私の中の"何か"を壊した。でもその"何か"は本当はいらないもんだったんだ。ミキちゃんとも仲良くなれたしさ、きっといらないもんだったんだ。

107 名前:第10話 スカイブラックの下で 投稿日:2003/10/14(火) 23:04
ミキちゃんは言ってた。私も魔法を持っているって。人間がどこかに自分から隠しちゃった、大切なモノを見つけ出す魔法を私は持っているって。
ってことは、いらないモノを壊す梨華ちゃんと大切なモノを見つけちゃう私とが組めば無敵じゃん。

「じゃあさ、何時頃から私って人間は変わったと思う?」
「うーん、何時ごろだろ?最近かなー」
やっぱしな。梨華ちゃんだ、梨華ちゃんのせいで私は変わってしまったのだ。許せないなー。
しょうがない、次ぎ会ったなら『ありがとー』の一つでも言ってやろう。あの可愛くて憎らしいツラに。

「あれだよね。…良い方向に変わったんだよね?」
「んだよ、しつこいなぁ。そうじゃない?良い方向じゃないのー」
面倒臭そうにミキちゃんは伸びをしながら言った。シャツからおヘソがチラリと見えた。
「へへ、そうか。良い方向に変わったんだ。へへ」
「うわぁ、また一人で笑ってる。ごっちんどっか壊れてんじゃない?」
「うん?そうそう、私はどっか壊れちゃったんだ。へへへ」
「駄目だコリャ。やっぱり不思議生物だわ」
ミキちゃんはそう言うと、今度は伸ばした手を頭の後ろで組んで私の先を歩き出した。肩に背負った黒いカバンについている可愛い猿のキーホルダーが揺れていた。

108 名前:第10話 スカイブラックの下で 投稿日:2003/10/14(火) 23:05
「ハハ!私をわかろうなんて十年早いよ」
私もそれを真似しながらミキちゃんの後を追うように歩く。スキップして歩く。肩を揺らして歩く。
「ふふ、じゃあ27になったら会いに行くよ」
「じゃあそん時まで友達ってことだね」
──あ。

口から無邪気に滑り落ちたモノはとんでもないモノだった。そいつが心臓を「ドクドク」鳴らしているのが聞こえる。
ミキちゃんが立ち止まった。
しくった。すっかりしくった。私は必ず、いつもどっかで失敗する。そんな自分がホント嫌い。
こっちからはミキちゃんの顔が見えない。ミキちゃんは茶色い後ろ髪しか見せてくれない。

109 名前:第10話 スカイブラックの下で 投稿日:2003/10/14(火) 23:06
「そんなの当たり前じゃん」

「え?」

「そんなの当たり前じゃん。友達なんだから」
危ない。心臓止まるかと思った。頬っぺたがアッチーや。

「でしょ?」
ミキちゃんは茶色い髪を綺麗に靡かせてこっちを向いた。やっぱり笑ってる。ミキちゃんは笑顔が似合うなぁ。特に頬っぺたを真っ赤にしたこの笑顔は今まで見た笑顔の中で1番可愛かった。
「だね。友達だもんね!」
やっぱりミキちゃんが笑顔だと私も笑っちゃうし、私が顔が赤いとミキちゃんも真っ赤だ。
「うわぁ恥ずい!ごっちん恥ずい!」
「なんだよぉミキちゃんが先に言ったんでしょ!」
「隣歩かないでよ、恥ずかしいから!」
そう言ってミキちゃんは走り出した。細い足は軽やかに地面を蹴った。私だって走りには自信があるんだ。
夜の街を私達は駆け抜けた。不思議なんだけど私達の周りのモノ全部がスロウに見えた。

110 名前:第10話 スカイブラックの下で 投稿日:2003/10/14(火) 23:09
―――───
――──
―─

「ミキちゃん、私思うんだ。私とミキちゃんって似てるよね」
「知ってる、ごっちん?恋人は似てない同士のほうがウマくいくんだって」
「そりゃあ残念」
「違うよ。友達同士だから似てて良かったんだよ」
「そっか。友達同士で良かった」
「ね。ホント友達で良かった」
「ホントホント」
走りつかれた私達は、川縁の土手沿いにカバンをひいて座っていた。
微かに浮ぶ星を見つめながら、こんなような事をずっとお喋りしてましたとさ。

あーそうそう。忘れてたけど言うことがあったよ。



さよならオクビョウモノ。

111 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/14(火) 23:15
>>104 名無しさん

独特なのは単純に文章力が拙いだけなのですが、
音楽が好きだというのがわかってもらえて嬉しいです。
意図的に自分の好きな歌詞をサンプリングしたり無意識的に拝借していたりします(w
今回もやらせて頂いています(w
あそこは自分の中でも、好きな部分だってのでとても嬉しかったです。
有難う御座います。
112 名前: 投稿日:2003/10/15(水) 14:43
うわぁ〜!!初めて読みました。
こんなにタイプの作品が存在していたなんて…
今まで知らなかった自分に嫌気がさします。
いしごまみき期待してます。
113 名前:第11話 蒼い空のクセに 投稿日:2003/10/19(日) 00:41

朝の日差しは今日も優しい。
昨日の夜はなんだかお母さんとも自然に話せた気がする。親子なのに可笑しな話だけど。
地面が見えない。永遠と蒼い空が何処までも続いてる。
地面を見ないでも空がナビゲートしてくれて学校に着ける気がしていた。

アスファルトに向かって勢いよく落下する日差しを全身に受け、私は私であることが嬉しくてしかたなかった。

「ちーっす」
「おーっす」
お互い、ピースサインをおでこに当てて挨拶する。
突然のミキちゃんの登場にも私はもう驚かない。
私が私である以上、ミキちゃんとは友達だしみんなとは言わないけど結構色んな人とも笑い合える気がしてる。今は。
教室に入ると何時もの様にクラスのみんなは一度それぞれの行動を止めてミキちゃんに元気に挨拶する。そして少し遅れて入ってきた私に、みんなは遠慮気味に挨拶する。そして挨拶をし終わるとみんなそれぞれの行動に戻る。
114 名前:第11話 蒼い空のクセに 投稿日:2003/10/19(日) 00:42

だから私は言ってやるんだ。


「おはよぉぉぉーーー!!」


教室にいたみんなが一斉にこちらを向いた。そりゃあ目を大きく開いて。
ミキちゃんも一瞬びっくりしていたけど、直ぐに笑顔を返しくれた。
私はみんなの視線を背中に受けながら押さえ切れない笑みと一緒に席に着いた。もちろん真っ赤な顔もご一緒に。

115 名前:第11話 蒼い空のクセに 投稿日:2003/10/19(日) 00:42
私の窓際の机は、太陽の光を静かに反射させていた。その光はほのかな暖かさを机に宿していた。
暖かさに誘われるまま目を閉じそうになった。でも顔を何度か振ってそれを否定した。
今日こそは一日中みんなと過ごすんだ。
クラスのみんなと同じ時間を過ごすんだ。

教室のドアを乱暴に開いてゆうちゃん登場。
さー、長い戦いの始まりだ。
私ガンバ。



116 名前:第11話 蒼い空のクセに 投稿日:2003/10/19(日) 00:44

――
―――
―――――
――――――

「ごっちん……よくやった。ほんまよーやった」
ギリギリの精神状態の中、私はその言葉をぼんやりと聞いていた。
ゆーちゃんの瞳が海の様に揺れていた。それはブルーのコンタクトと溢れていた涙がそう見せたのかも。
「美貴も感動してるよ。ごっちんがやり切るとは本当に思ってもいなかった」
ミキちゃんは私の肩を叩いて目を拭う振りをしていた。うんうん、なんて言いながら頷いて。
ただミキちゃんの口元は余裕で笑顔だったのは見逃せやしない。
「ほんま嬉しいわ。ゆうちゃん、後藤が学校卒業するまでに授業中起きている姿なんて見れない思てたわ」
私はそんなことよりもカラーコンタクトなんて学校で付けちゃって、色んな人に怒られないのかが気になった。ゆうちゃんが凄いのかウチの学校がスゴイのか。
117 名前:第11話 蒼い空のクセに 投稿日:2003/10/19(日) 00:46
「それはさて置き、先生賭けは私の勝ちの様なのでラーメン大盛ニンニク・半熟卵のせ麺硬めでお願いしますね」
急にミキちゃんは真剣な顔になってゆうちゃんにそう言った。まー最初から泣いてなんかないのは知ってたけどさ。
「な、なんやねん!こんな感動的な場面でそんなこと言うことなや!」
ゆうちゃんはゆうちゃんで大きな声で何かから逃げるように、私の成し遂げた奇跡を必死に褒め称えていた。

ん、ラーメン?
あ、ラメーン食べたいなー。でもそれよりも眠たいや。
「それはそれ。これはこれ。約束を果たすのが大人という者でしょう?」
「なんやねん!藤本は可愛いくないわぁーあー可愛くない。後藤を見てみい、こんなだらしない顔になるまで必死で頑張ったんやで。その頑張りを友達として一緒に祝ってあげようとする気持ちにはなれへんのかな?ゆうちゃん悲しいわ、あー悲しい」
「ごっちんオメデトー。わースゴイね。美貴も嬉しいよ。ほら祝いましたよ、じゃあラーメン屋行きましょう」
「なんちゅー高校生や!そんな───

118 名前:第11話 蒼い空のクセに 投稿日:2003/10/19(日) 00:47


眠たい。二人の声が遠くに聞こえ出した。
さらば現実。私は夢の世界へと旅立つよ。
ラーメンは起きた時にでも食わしてね。


んーまた綺麗なコウモリ見れるかなぁ。



119 名前:第11話 蒼い空のクセに 投稿日:2003/10/19(日) 00:48

──そうだ!コウモリだ!!
「な、なんや!急に立ち上がって!おかんが恋しくなったんか!」
「どうした?お漏らしでもした?」
二人がどういう風に私の事を見ているかがわかった。でもそんな事に一々つっこんでる暇は私にはないんだ。
「私、いかなくちゃ」
「は?どこに?」
ミキちゃんの質問をよそに腕時計を見る。
4:30。まだ間に合うはず。
「二人ともごめん。私もういかなくちゃ」
「だからどこに!」
「ゆーちゃん、ラーメンはまた今度お願い!」一つお辞儀。
「お、おーわかった……って何で私がおごる事決定やねん!」
120 名前:第11話 蒼い空のクセに 投稿日:2003/10/19(日) 00:48
私はスカスカのカバンを持って、勢い良く教室から飛び出した。
「だからどこに行くんだよ!!」
ミキちゃんが教室のドアから顔だけ出して叫んでた。
ギアがトップに入ってしまった私を止める事はミキちゃんの怒鳴り声でもできやしない。
ミキちゃんの顔がどんどん遠ざかっていく。
走りながらも振り向き様に一言。
「コウモリに会いに行くのっ!!」
そして私は廊下を全速前進。

ゆうちゃんもミキちゃんも眠気も足音も置き去りにして、私は今を駆けた。



121 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/19(日) 00:51
>>112 @さん

読んで頂いて有難う御座います。
正直期待を裏切るんじゃないかと恐れながら更新しています(w
自分の書いたものが結果的に@さんの好きなタイプな話と
少しでも重なれたら嬉しいです。
122 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/05(水) 10:26
続き待ってたり
123 名前:第12話 無色透明の壁な私 投稿日:2003/11/09(日) 18:00
見慣れた風景がなんだか輝いて見える。公園までの道程がいつもより短く感じる。
私は今なら言える。正直、素直にドキドキしている。夕日を背にドキドキしている。
胸の熱さや心臓の音、手と足にぶら下がってくる風に目に入りたがりそうな汗。
全部が愛しくて、全部を私だと感じれた。

公園の入口が見えてきた。
車やバイクが入って来れないように立ち塞いでいるあの柵。緑のペンキが少し剥がれちゃった、錆びが目立つあの柵。
あれを越えたら、すぐに言う。
ありがとうって大切な一言を。

124 名前:第12話 無色透明の壁な私 投稿日:2003/11/09(日) 18:02

だけど、世界ってヤツは中々我侭でいつでも私の思い通りに進んでなんてくれやしないんだ。

滑り台もブランコも噴水も砂場もジャングルジムも、いつも通りの姿で公園の中、静かに眠っていた。とくに我侭を言う事もなくおとなしく眠っていた。
そして、いつも通りの空色のブランコに腰掛けて、いつも通り足をブラブラさせている梨華ちゃん。うん、今日もいつも通りムカツク笑顔だ。
だけどやっぱりいつもとは違う。なんだかありえないくらい笑顔だ。公園中の生き物がつられて一斉に笑い出しそうなくらい笑顔。
しかも、その笑顔の持ち主はきっと梨華ちゃんじゃない。
梨華ちゃんの隣に座ってる彼女のもんだ。
彼女だけがいつもの公園とは違っていた。彼女の周りといつもの公園との間に歪んだ空気の層が見えた。それが彼女をいつもと変わらない景色から一層際出たせて見せた。でも異質な色には見えなかった。今までその景色に足りなかったピースがカチッと当てはまった感じさえした。それは決して私じゃできなかったこと。今まで足りなかったのは梨華ちゃんのあの笑顔と彼女のこの笑顔。

125 名前:第12話 無色透明の壁な私 投稿日:2003/11/09(日) 18:04
セミロングの茶色い髪に透き通るような白い肌、黄色いパーカーに青いジーンズが映えていた。単純に綺麗な子だった。
その子が放つ空気がいつもの公園の色さえだんだん変えて行く。梨華ちゃんの空気も変わって行く。色が変わって行く。
二人は弾んだ笑い声を公園全体に響かせて、絶えず笑顔を浮かべあっていた。
霧がかかってるみたいに視界がぼやけ出した。二人との距離がわからなくなってきた。
あれ?ビビってるのかな、私。
『やー梨華ちゃん久しぶり!あれ隣の人友達?紹介してよ』
うん、これだ。これだよ後藤、そう言って公園に入っていけば良いよ。

でも聞いてよ後藤、足が全然動いちゃくれないんだ。なんでだろうね?胸はさっきよりもなんだかドキドキ言ってるのに。
緑の柵がなんか何メートルも先に見えてくる。空気が急に薄くなったのか息苦しい。
おかしいよ、なんかおかしぃーんだよ。風が急に冷たくなって私にイジワルするんだよ。乾いた汗が私を冷たくするんだ。

126 名前:第12話 無色透明の壁な私 投稿日:2003/11/09(日) 18:06
だってさ、あんな梨華ちゃんの笑顔見たことないよ私。だって隣の人だって知らないよ私。
頭がぼんやりして二人の笑顔がはっきり見えた。その笑顔が二人だけのものに見えて、幸せを壊しちゃいけない気がして胸が絞めつけられた。それでも私は力を振り絞って柵に手をかける。声の出し方を探してそこで戸惑う。せめて足だけ前に動かそうとしたんだけど、そのやり方さえも忘れちゃったみたい。
違うな。錆び付いた柵以外の何かが私の前にあるんだ。公園の入り口には透明な見えない壁がある。私が勝手に創り上げた壁が。それを軽く叩いてみた。コツン──って音が間抜けに響いた。あー、結構厚そうだ。
壊せないな、今の私じゃ壊し方がわからないよ。梨華ちゃんが教えてくれるんじゃないの?なんで私じゃない人と笑ってるの?

梨華ちゃんの笑顔は滑らかに隣の彼女へ吸い込まれていった。隣の彼女も、飲み込んだ笑顔をさらに綺麗な笑顔にして梨華ちゃんに返していた。
あんた誰?楽しそうな顔しちゃって。嘘みたいに梨華ちゃんとお似合いの顔しちゃって。梨華ちゃんの何を知ってるのさ、私は何も知らないよ。
透明な壁のあっち側は暖かそうで楽しそうだった。こっちはこんなに冷たくて静かな世界なのに。風だけが私の頬を掠めるのに。
なんでかなーただ声をかければいいのに。ただ足を前に進めればいいのに。ただ笑い合えばいいのに。なんでかなー。
127 名前:第12話 無色透明の壁な私 投稿日:2003/11/09(日) 18:07

ほんとは知ってる。梨華ちゃんの全部が笑ってるから私は進めない。だから私の全部が笑えない。

私は一つ足を後ろに下げた。驚くほど簡単に足は下がってくれた。自然に体が公園から背を向いた。
梨華ちゃんと彼女の声を私の世界から無理やり切り取った。すると何にも聴こえなくなった。なんだか耳がツーンとして痛い。
誰を責めればいいんだろう。どうして声が出ないんだろう。なんで逃げることが恐くないんだろう。
今何時だろう。空の色が知りたかったけどなんだか今は上を向きたい気分なんかじゃない。
銀色の車がクラクションを鳴らしながら私の横を通り過ぎて行った。後から追いかけて来る生温かい風が私を煽る。
季節はいつだっけ?笑い声ってどんなんだっけ?道ってドコを歩けばいいんだっけ。
128 名前:第12話 無色透明の壁な私 投稿日:2003/11/09(日) 18:08

どのくらい歩いたのかはわからない。だけど誰かが呼んでる気がして後ろを向いた。
公園はとっくに見えなくなっていた。だけど私は見つけてしまったんだ。私を呼んだ者の正体を。

あー、もう帰ってきたんだ。早かったね。
おかえりオクビョーモノ。


129 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/09(日) 18:13
>>122 名無し読者さん

遅文で恥文ですいません。
焦らないと動けない性分らしいので、たまに急かせて頂くと嬉しいです。
130 名前: 投稿日:2003/11/09(日) 20:37
オクビョーモノ帰ってきちゃダメだぁ!!w
続き毎回楽しみにしてますよ
131 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/10(月) 03:58
雰囲気ある文章ですね
続き楽しみにしてます

カラオケのシーンで昨日のハロモニを思い出しました (^-^)
それはともかく負けるな後藤!そんなんさっさと追い返してしまえ!
132 名前:第13話 黒猫の夜 投稿日:2003/11/14(金) 19:27

何時布団に入ったんだろう。
気付けば狭くて四角い布団の中で、真っ暗な部屋から必死に身体を隠していた。
お腹が空いてないから、きっとご飯は食べたのだろう。
髪が少し濡れてるから、きっとお風呂には入ったのだろう。
パジャマを着てるから、きっとパンツは変えたかな。

布団の中が暖かくて、いくらでも涙は零れた。
私は私のために泣いている。
梨華ちゃんのためなんかじゃない。私のために泣いてる。
この涙は誰の物でもない。私のものだ。

133 名前:第13話 黒猫の夜 投稿日:2003/11/14(金) 19:28
何してるんだろ。
呼吸の仕方を確かめてみる。
吸って、はいて、吸って、はいて。

でも、できないよ。
できやしないよ。
梨華ちゃん何やってんの?
助けてよ。早く助けてよ。
恐いよ、狭いよ、寒いよ、淋しいよ、眠れないよ。
だっていくらふいても涙が止まんないんだもん。だってどんなに頑張って口閉じても、声が漏れてくるんだもん。だってどんなに布団の中が暖かくても身体が震えちゃうんだもん。だって、だって──。


134 名前:第13話 黒猫の夜 投稿日:2003/11/14(金) 19:30
梨華ちゃんは私のモノじゃなかった。私じゃなかった。
梨華ちゃんは梨華ちゃんだった。
ううん、あの人のモノかも。

そんな最低な私を慰めるように、窓の外からは雨音が無断で部屋に入ってくる。今夜は私のせいで夜空も一緒に泣いている。
涙が鼻の上を伝って鼻水と出会い、私の顔はぐちょぐちょで、きっとめちゃめちゃで。最低な私には丁度良いなんて思おうとした。

なんでも欲しがっちゃってさ、何様なのさ。梨華ちゃんはモノじゃないつーの。わかってたくせに。わかってたはずなのに。
梨華ちゃんの笑顔が私にとってこんなに大きな物だったなんて、バカみたい。私にはホントに何も無いことに気付いた。

ただ笑ってただけじゃん。ただ知らない人と笑ってただけじゃん。
ただ見たこともない笑顔で、遠慮なく、楽しそうに、嬉しそうに、自由に、幸せそうに、ホント幸せそうに笑ってただけじゃん。

135 名前:第13話 黒猫の夜 投稿日:2003/11/14(金) 19:30
梨華ちゃんとあの子の笑顔が頭と心に焼き付いて離れちゃくれない。何度も何度もオートリピートされる。
そのせいで頭と心が空回りし続ける。体の歯車が巧くかみ合わなくて、胸が熱くて涙が熱くて夜は寒くて身体が寒い、そんなオカシナことになっちゃってる。

何でこうなるのさ、いっつもいっつも同じ失敗をするんだ。何をやってもこう。どうせ失敗しちゃうんだ。

公園に入っていけば良かったんだ。全部壊してやれば良かったんだ。梨華ちゃんは私のモノだって言ってやれば良かったんだ。
私は最低なんだからそれくらい出来たはずなのに、出来たはずなのにさ。バカ。

136 名前:第13話 黒猫の夜 投稿日:2003/11/14(金) 19:33
不安で夜が一杯。明日、どんなに綺麗なお日様が昇っても、全てが巧く行くなんてとても思えない。梨華ちゃんの笑顔のせいで。
梨華ちゃんの笑顔のせいで何もかもが恐い。梨華ちゃんの笑顔のせいで寝る事も出来やしない。
梨華ちゃんなんて大嫌い。だから恐い、私が恐い、何もない私が恐い。何も見えないし何も聴こえないし何もわからないし何も喋れない。

静かで真っ暗な部屋。これが今の私だ。
窓の外、途方も無い闇に向かって猫が叫んでる。
弱っちい声で叫んでる。



137 名前:名無し 投稿日:2003/11/14(金) 19:39
>>130 @さん

毎回読んで頂いているなんて…本当にありがとうございます。
遅文のくせに更新量いつも少なくてすいません。

>>131 名無しさん

文章を褒めていただけるのは本当に嬉しいです。
何から何まで手探りな状態でやっているので、
ここの後藤さんと一緒でいつも不安でいっぱいです(w
少しでもハロモニなどに出ている後藤さん達に近づけたらと願いながら書いています。
138 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:12
ごとーせつないですね
作者さんの文章引き込まれますよ
139 名前:第14話 結局パープルな単純な日 投稿日:2003/11/23(日) 21:10

「頭が痛いから休む」

その一言でお母さんは全部納得してくれた。学校の出席だけにはうるさいお母さんなのに、あっさり認めてくれちゃって驚いた。私がよっぽど酷い顔してるんだと驚いた。

体中の血液とか細胞とかが、急に体重が増えちゃったんじゃないかってくらい、身体が重たくて力が入らなかった。
それでも眠れやしなかった。不安が隣にいてくれるのに眠れやしないんだ。
何回涙を吸い取ったんだろう。枕は乾いて痛そうだった。

140 名前:第14話 結局パープルな単純な日 投稿日:2003/11/23(日) 21:11
窓の外から入ってくる陽射しが憎くてカーテンを閉めた。まだ昨日の夜は続いてる
こんな日が後何日続くんだろう。毎日こうしてベッドの上で自分の弱さを責めるのかな。天井の白さに嫉妬するのかな。
そして最後はベッドに溶けちゃうんだ。飲み込まれちゃうんだ。自分を無くしちゃえばいいんだ。

そんなことをずっと考えてたら目の前の景色がゆっくり暗く、狭くなって行った。
もう夜が来たのか、それともベッドに溶け出したのか。とりあえず私はそれに全部をゆだねて目を閉じた。

141 名前:第14話 結局パープルな単純な日 投稿日:2003/11/23(日) 21:12
開こうとした瞼が重たいと感じた時、部屋の中は蜜柑色。
カーテンを透けて、だいたいの時刻がわかった。
少しは寝れたのに、未だに布団の重みに負けて身体は動けやしない。

こうしてまた夜を待つ。ベッドの中で何回でも夜を待つ。
明日もこうしよう。明後日もこうしよう。未来ずっとこうしていよう。
そうすれば何も考えずに済む。余計な事を考えずに済む。布団の重さだけを考えて死んだように生きよう。


ドアに3回響くノックの音。お母さんは私が返事をする前に部屋に入ってきた。

「ご飯食べる?」私の答え知っているお母さんは、義務的に訊いた。
「いらない」期待を裏切っては悪いからその通り答えた。
「そう」そんな簡素な言葉だけ置き去りにしてお母さんは部屋を出て行った。
どんな最悪な顔をしてるかわからないけど、そこまで心配されるような顔じゃないらしい。
そうだね、一回くらい吐いてみたら心配してくれるかもね。でもそんなにタイミング良く吐けるような特技、私持ってないしなぁ。

吐けたら楽かもね。何かも吐き出せちゃったら楽かもね。ラクかもね。

142 名前:第14話 結局パープルな単純な日 投稿日:2003/11/23(日) 21:15
ふと見たドアは開けっ放しだった。
どうでもいいか。閉まってても開いててもどうでもいいや。何も変わらないし、何も起こらない。

と、思ってたら、開けっ放しのドアからお母さんが戻ってきた。
「はい、プリント。友達が持ってきてくれたよ」


友達。
思わず上半身を起こしてお母さんからプリントを受け取った。見慣れた部屋の景色が恥ずかしく、可笑しく見えた。
そのプリントは今日の授業のプリントだった。こんな気分じゃなくても授業のことなんて興味無いから、その事に対しては特別なんとも思わなかった。
それより私の胸を疼かせているモノの正体についてお母さんに教えてもらいたかった。
けど、そこまで気の利いたことをしてくれる訳もなく、今度は何も言わずに部屋から出て行った。バタンとドアを鳴らしながら。

胸が痛むのはなぜだかわかってる。胸に鈍い槍を突き刺してくる奴の正体もホントはわかってる。
わかってるけど自分からその正体を言うのは、今の私にはちょっと簡単に出来たもんじゃなかった。隣には不安とオクビョーモノがいて恥ずかしかったし。
だけど痛み以外のモノが、私の胸をちょこっと動かしているのもわかってる。ドキドキが壁から恥ずかしそうにちょっかいを出しているのはわかってる。
でも、今更お母さんに確かめるのはちょっと。そこまでの勇気があったら、とっくに私はベッドから足を下ろしている。

143 名前:第14話 結局パープルな単純な日 投稿日:2003/11/23(日) 21:16
諦めた。そんなマイナスな決断力ならいくらでもあるんだ。だってそれが私だもん。オクビョーモノとマブダチの私だもん。
私はドキドキを無理やり押し込んだ振りして、ベッドのすぐ横の棚にプリントを仕舞おうとした。

でも動けなかった。しばらく、ってどの位の時間かわからないけど、私は動けずにプリントの裏を見続けていた。

144 名前:第14話 結局パープルな単純な日 投稿日:2003/11/23(日) 21:16

『おーいダイジョブかー。
 最近授業中頑張りすぎちゃって限界超えてダウンしちゃったのかな。つかケータイの電源入れろ、バーカ。
 とりあえず授業のプリント送っておくよー。たぶんしないと思うけど、予習とか復讐しとくとイーかも。
 明日来たらノート見せてあげるべさ。

 By 天使のように優しくて可愛い美貴様より     感謝しろよ 』


パープルの蛍光ペンのみで、その文字達は書かれていた。パープルを使ってくる所や同じ色だけで書いて来る所が、勝手にミキちゃんらしいなぁーって思えて暖かくなった。

145 名前:第14話 結局パープルな単純な日 投稿日:2003/11/23(日) 21:17
意外と汚い字なんだなー、全然可愛くなんてないよ。でも笑えやしなかった。
だって油断してたからさ、色んなことに対してちきしょーってなったからさ、素直に泣きそうになったからさ、単純に目が熱くなったんだけどさ、泣いてばっかりいたらカッコ悪いじゃない。ダサイじゃない。

だから目を瞑ったよ。何もかも忘れようとベッドにもう一回入り込んだ。なのにお腹がグーって鳴った。今更なんだよ、ヤだよ、私はもう寝るんだ。
夜を越えて朝を待つんだ。夜を見過ごし朝を待つんだ。夜はもう終わったの。だって明日ノート見せてもらうんだから。


とりあえず明日とミキちゃんが私を待ってくれているみたいだから。
待たせたら悪いでしょ?
ね、オクビョーもん。
146 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 21:19
>>138 名無し読者さん
展開遅くてすいません。
起伏の無い話ですいません。
謝ってばかりですいません(w
147 名前:774RR 投稿日:2003/11/23(日) 22:21
あ〜更新されてる。この作品大好きです、作者様。続きが読めて嬉しかったです。
148 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/26(水) 12:51
作者さんのこの文章はすごいです
ごっちんガンバ・・・。
149 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/10(水) 01:51
まってます
150 名前:第15話 グリーンレール 投稿日:2003/12/13(土) 23:00

今朝の空は予報通りの快晴。
雲すら押しのけ太陽が空を支配する。
私は少しの眩暈を抱えながら、学校への道を歩き出した。
この眩暈の原因は不安とオクビョーモノのせいだ。
一日家から出なかっただけで外の景色が今までの世界とは全く別の物に見えて、なんだか頭がクラクラした。
一歩一歩が冒険の気分。先に待っているの物が恐い。

だけど今の私には目指す物がある。
あんなに退屈だった学校を目指す。
と言うよりも、うん。ミキちゃんを目指しちゃったりして。

151 名前:第15話 グリーンレール 投稿日:2003/12/13(土) 23:03
ほっておいたら、ふわふわと身体が飛んでいってしまいそうなくらい今日の風は暖かくて優しい。
だから緑色のガードレールを指でなぞりながら一歩一歩確かめて進む。
そして私達は出会う。

「おはよっ」

いつだって冒険だ。毎日が拙い冒険の日々。
新しく発見する楽しさもある。
なのに、発見した物はそれぞれが懐かしくて一人で胸の奥で笑ってしまう。
さすがに顔に出したらキショいから胸の奥の方でいっぱい笑う。
そして返す。

「おはよぉー」
「バカでも風邪ひくんだね」

ミキちゃんの会心の一撃はいとも簡単に私の胸を鳴らしてくれる。
はにかみながら皮肉を言うミキちゃんの笑顔が遠く懐かしく感じた。

152 名前:第15話 グリーンレール 投稿日:2003/12/13(土) 23:05

突然のフラッシュバック。
艶やかな夕日、真っ暗な空に輝く星、そして私とミキちゃん。

待ってたんだ、過去は私を。

「みたいだねー」

そして私は今に追いついた。
世界はいつもの景色に戻った。ううん、私が戻ってきたんだ。ミキちゃんが手を伸ばしくれたからやっと戻れた。

ミキちゃんと話しながら進める足の軽やかさ。
ゆっくりと確かに近づいていく学校。
そして学校にはゆうちゃんがいて、みんながいた。
いつものラクガキだらけの机に、少しほつれているカーテン。窓際の席には穏やかな陽射し。

153 名前:第15話 グリーンレール 投稿日:2003/12/13(土) 23:06
変わらないよ、全然変わってなんかいない。
椅子だって暖かい。ゆうちゃんだって、また怒る。
私だって、じゃあ変わってないさ。でも認められるんだ。

現在アンテナ、3本。まさしく私絶好調。
今なら全部受信できる。
不安で泣いた夜も、笑顔から逃げた日も、今も昔も今日も明日も。

私はやっとわかったんだ。
オクビョーモノは何時だって私の側にいる。
だけどオクビョーモノは何時だって私を見てくれていた。
なんなら見守ってくれていたんだ。
そうだよ、オクビョーモノも友達じゃん。一緒に色々見てきた中じゃん。
じゃー、もぉー私じゃん。オクビョーモノは私なんだ。
これからもイヤでも一緒にやって行かなければならない。
だったら手を繋ごう。オクビョーモノと手を繋ごう。
私はオクビョーモノだ。

154 名前:第15話 グリーンレール 投稿日:2003/12/13(土) 23:08
梨華ちゃんは私に魔法をかけた。
それは私自身を変身させちゃうような、都合の良い魔法なんかじゃなかったんだ。
私が私を見つけ出す魔法。

だけど、私はそれを何時の間にか忘れていた。ううん、心のどっかで信じていなかったのかもしれない。
それをミキちゃんが教えてくれた。結局の所どんなに迷ってもカッコつけても泣いちゃっても、私は私。
残念ながら、それ以上でもそれ以下でもない。
だからミキちゃんに全部教える。

そして梨華ちゃんに会いに行く。
恐いから会いに行くんだ。
魔法の正体を確かめに行く。

会いに行く。



155 名前:名無し 投稿日:2003/12/13(土) 23:14
>>147 774RRさん
お世辞にも誉めすぎです(w
どうかお暇な時に、御手すきの時に読んでやって下さい。

>>148 名無し読者さん
文章は下手だからこそ変に目立つだけです(w
ストーリーも文章もガキの使いですいません。

>>149 名無し読者さん
(★^◇^)お待たせして申し訳〜
156 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/04(日) 21:45
今年も楽しみにしてます
157 名前:第16話 トマトぶちまけ5秒前 投稿日:2004/01/11(日) 19:32

 放課後の教室は、まだ少しだけざわついている。
 廊下では誰かと誰かのお喋りがゆっくり柔らかに響いている。
 その声が私とミキちゃんだけの2−Aの教室にまで響いていて、それに丁寧に重ねるように私達もお喋りをする。
 正確には校庭を走り周っているサッカー部の声もここまで届いていて、それが私とミキちゃんだけの小さな演奏会のコーラスの役目を果たしていた。

158 名前:第16話 トマトぶちまけ5秒前 投稿日:2004/01/11(日) 19:33
 今日のこと、昨日までのことを少しの冗談と一緒にミキちゃんにチョビっとずつ送信した。
 だけど、それはミキちゃんがすでに知っていた私。まだ私の中に住むオクビョーモノは紹介しちゃいない。
 でも今日で変わらなきゃ。
 ミキちゃんが私に教えてくれたこと。

 私は私。
 なら友達として私のオクビョーモノを紹介しないのは、私自身を自己紹介しないのは、やっぱり何処か違う。

159 名前:第16話 トマトぶちまけ5秒前 投稿日:2004/01/11(日) 19:34
 胸の中に住むオクビョーモノに急かされて、私は少し焦っていた。
 コイツを紹介するまでに、私が吐いた言葉全てが嘘っぱちになってしまいそうで焦っていた。
 だけど時計の針は何事も無くスムーズに動いていて、正確に私を動揺させていた。
「どしたの? なんか用事でもあるの?」

 ミキちゃんは、時にムカつくというよりも恐いくらいに感が鋭い。
 私の趣味は人間観察だけど、それは人の外見をなぞって楽しむ物であって、決して中の方にまで指は入れない。
 だけどミキちゃんは簡単に、ズカズカと心の中に綺麗な細い足を踏み入れてくる。
 時に図々しく感じる時もあるけど、それがミキちゃんの真っ直ぐで良いところであり、鈍い私とバランスがとれてるところなんじゃないかなー、なんて思ったりもする。
160 名前:第16話 トマトぶちまけ5秒前 投稿日:2004/01/11(日) 19:36
「……うん別に──」
 そこで私は言葉を飲んだ。このまま『別に何でもない』なんて言ったら、永遠とこの迷路から出られやしない。
 チャンスはそー何回も廻ってこない、ってのは偉い人に言われなくてもみんな知ってる。
 だから、心の奥の方からシャイなアイツを引っ張り出した。さっきまでは紹介されたくてウズウズしてたくせに、いざとなったら中々出てきやしない。
 だけどもう甘やかすのは止めたんだ。時には厳しくしないと今後のこいつのためにならない。今までの失敗と経験を活かさなくちゃ。

「なーに?」
 ミキちゃんが私の言葉を待ちきれずに顔を覗き込んで来た。
 少し驚いた。
 でも、心が不思議なくらいに落ち着いた。
161 名前:第16話 トマトぶちまけ5秒前 投稿日:2004/01/11(日) 19:37

 大丈夫だね。

 だって今日もミキちゃんは可愛い。
 今日もミキちゃんは憎たらしい。
 今日も今日とてミキちゃんはミキちゃん。

「何笑ってんの? なんか面白いこと?」

162 名前:第16話 トマトぶちまけ5秒前 投稿日:2004/01/11(日) 19:37
 一度教室を見渡した。
 いつのまにか、ざわつきは収まり、驚くほど空気は静かに澄んでいた。
 そして何時かの様に机や床はオレンジ色に染まり、私とミキちゃん二人だけの演奏会をライトアップしていた。

 背筋をピンと張り、教室中の空気を吸い込む。
 ──私は魔法の力を信じる。──
 そして一言。

「とってもオカシナこと」



163 名前:名無し 投稿日:2004/01/11(日) 19:39
>>156 名無しさん
今年もこんな調子ですが、よろしくお願いします。
164 名前:rina 投稿日:2004/01/12(月) 17:19
初めまして!!
なんとなく、ごまみきっぽくて好きです。
続きもがんばってください!
165 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:26

 んでミキちゃんに全部話した。

 退屈な学校、ピンクのハンカチ、変な声の女の子、夕暮れの公園、お母さんとお姉ちゃん、黄色いパーカーの女の子、ゆーちゃん、ミキちゃん、そして魔法。
 一度話を止めてしまったら全てが無駄になっちゃう気がして、息を吸うのも吐くのも忘れて喋り続けた。なるべく、余計な感情の部分は除いて起きた出来事のみを正確に喋ったつもり。その間ミキちゃんは私から一度も視線をそらさずに、じっと私の口と眼の真ん中らへんを眺めていた。少し、いんやぁかなり恐かった。
 ミキちゃんは何も言わなかった。相槌も愛想笑いも、ちゃかしもしないで私の言葉を黙って受け入れていた。

166 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:27


「───ってことがあったのさ」
 言ってやった。全部隠さず言ってやったぜ。


 こんな時どんな顔したらいいんだろう。何より初めてのことで笑えばいいのか、泣けばいいのか、怒ればいいのか、喜べばいいのか全くわからなかった。でも、結局下手な笑顔を浮かべてみた。自分でもわかるくらい引きつった笑顔で。

 ミキちゃんは未だ沈黙を守っている。私の顔を確かめるようにじっくり見つめながら。

167 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:28
『もしかして、海苔とか付いてる? え! 鼻クソ!? うそ、やばい!』
 なんて言えたら私はスーパーマン。
 恐かったけど、私も目をそらさずにミキちゃんを見続けていた。
「──ふぅー」
 ミキちゃんが動いた。肩を一度大袈裟に上下させながら、口から今の今まで溜め込んでいた空気を一気に吐き出した。
 その空気は何色? 退屈色? バカにした色? シツボー色?

「飽きれた」

 そうだよね。やっぱりそうだよね。
 うん、軽蔑して下さい。私はどうしようもなく小さくてダメな人間なんです。

 でも、だけど、それが私なんです。

168 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:29
「ごめ──」「ホント飽きれた」
 謝ろうと思ったらミキちゃんは私の言葉を遮るように、さっきよりも語気を強めていった。

 あちゃー。かなり怒ってる。
 でも言わないまま、このままミキちゃんと同じ時間を過ごしていくのは絶対に嫌だった。勝手かもしれないけど私の我侭だけど、ミキちゃんには全部言っておきたかった。そこで終わってしまったら仕方ない。
 だけど私はミキちゃんが好きだから言わなければいけないんだ。

169 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:29
「ほんとごめ──うっ!?」
 今度こそ謝ろうと顔を上げた私のネクタイを物凄い勢いでミキちゃんは引っ張る。
 ミキちゃんと私の顔の距離、現在およそ3cm。
 うー……メチャクチャ怒ってる。一目見て"喜怒哀楽"で言ったら"恕"だってわかる顔。眉を八の字にして眉間に皺を寄せて口を尖らしてる。
 お母さん、正直恐いです。
「ごめんなさ──」「何で今まで言わなかったのさっ!!」
 三度目の正直とさえいかなかった。

170 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:31
「なんでそういうことを言わないのかな、この子は」
 そんなに額を近づけても答えは見えないと思います。私のおデコに答えは書いてないと思います。
「あの……あれ…」
「なにさっ!」
「怒った顔もくぁーいいね」
 せいいっぱいに可愛い顔で笑ったつもり。だけど、
「……許さない」
 ミキちゃんの顔は相変わらず険しくて、私との距離は3cmで、0.1秒でそんな答えが返ってきた。
「あ、あの、どうすればお許しくださいますか?」
 もう一度アイドルスマイルで挑戦。
「……ふぅー」
 あれ?
 ミキちゃんは飽きれてしまったのか、ネクタイから手を離し、またも大袈裟なアクションで溜息をついた
171 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:33
「仕方いないな。ちょっと色んな所が軽い後藤さんに質問」
 酷い言われようだが、「はい、なんでしょう先生!」と積極的に手を上げた。
 ミキちゃんは俯きながら教卓まで行き、腕を組みながら黒板の前を歩いていた。
「じゃあ、後藤さん。君は私のことを何だと思っているのかね?」
 ミキちゃんが急に私を指差しそんなことを言うもんだから、少しお胸がドキっとした。
「はい、そこぉー、顔を赤らめるタイミングじゃなぁーい」
 あれ、そうなんですか?
 ミキ先生の問題は難しかった。
172 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:41
「はい、あと5秒」
 ミキ先生が開いた指を折り始めた。
「4」
 カウントダウンっていうのは、わけもわからず焦ってしまう。
「3」
 つーか、言わないとどうなるの?
「2」
 うーん、なんだ? やっぱりあれなのか?
「1」
「は、はい! 先生!」
「はい、じゃあ後藤さん」
「と、友達かなー…なんちゃって」
 ぴこん、と頭を叩いて見る。
 がっくし、とミキ先生は膝を折る。それからちらっと私を見た。
 次の瞬間ミキ先生は、その膝を一気に伸ばして教壇の上にスカートを翻しながら鮮やかに飛び乗り、その上であぐらをかいた。その姿があまりに華麗で、私はアホみたいに、はーっと溜息を漏らしてしまった。
173 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:44
「ちこうよれ」
 きっとアホヅラの私にむかってミキちゃんが顎で呼ぶ。
「え? 私ですか?」
「うむ。お前だ」
 顎を撫でながらいうミキちゃん。
 ミキちゃんってこんな人だったけ? あまりに頭に来過ぎてアタマがキテしまったんだろうか。
「んなこたぁない」
「うおっ!?」
 心を読んだ!「違うわ。そんな明らかさまに心配そうな顔されえれば誰でもわかるわ」また読んだ!
「まーいい。あなたの答えはそれでいいんですか?」
「答って──ああ、はい」
「……ファ、ファイナルアンサー?」
 うわぁ! これがやりたかったのか! 顔赤くして言うくらいなら止めとけばいいのに。しかも照れくさそうにニヤリと笑っている。
「はい、D・友達でファイナルアンサー!」だけどノッかてみる。
174 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:45
 ミキちゃんはゆっくりとした動作で腕を組んで、口をヘの字に結んで私を睨みつける。
 私も負けずにヘの字にして睨む。

 しばしの沈黙。

 なにやってんだ、私達は?

「残念!」
 ミキちゃんはそう言うと、私の代わりに悔しそうな顔をしながら机から飛び降りた。そして私の肩を掴み、こう言った。

175 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:46
「私達は友達なんかじゃないよ!」
しょ、しょんな
「だって、友達ってなにさ!」
友達…。私とミキちゃんじゃないの?
「違うよ!」
違うんだ。……違うんだ
「だって、友達ってのは言いたい時に言いたいこと言い合って、好きなときに電話かけあって、悩みがあったら打ち明けて、そしてそれを真剣に考え合うもんじゃないの、ねぇーごっちん!」
……そうかも
「でしょ? じゃあ私達はなにさ!」
……ご、ごめんなさい
「なにさ、今更ごめんなさいって! そんなの知らないよ!」
……ごめんなさい
「ごめんなさいっていう関係なんだね!」
ごめんなさい
「あーわかったよ! これから私達はごめんなさいだ!」

176 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:47


「ごめんなさいって何度も謝ってるじゃん!! なのにミキちゃんが聞こうとしなかったんじゃん! 私だって何度も悪いと思って真剣に言おうと思ったのにさ! なのに勝手に一人でミキちゃんが喋り続けてさ! それなのにミキちゃんばっかり私のこと責めてさ! 前々から言おうと思ってたんだけどミキちゃん自己中でワガママなところがあるよ! 直さないとそのウチ友達みんなに嫌われちゃうからねっ!!!」



177 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:48
 私の肩がゆっくり上下している。ゆっくりミキちゃんは笑ってる。

「じゃー直すよ」ってミキちゃんは言う。
「じゃー許してよ」って私が言う。
「ごめんね!」って続けて私は言う。
「許す!」ってミキちゃんが叫んだ。
「ありがとー!」って私は笑う。
「バカヤロー!」ってミキちゃんは、なぜか窓を開けて夕日に叫ぶ。
「バカヤロー!」って私も後に続く。

178 名前:第17話 どちらかと言えばイエロー 投稿日:2004/01/16(金) 23:49

 サッカー部がこっちを見上げていた。みんな口と目を開いていた。スポーツマンの諸君、そっちの空気はおいしいかい? こっちの空気はなんだかわけわからん。

 けど、なんか、うん、なんか良い感じだよ。



 夕日がオレンジよりも黄色に近い日だった。

179 名前:名無し 投稿日:2004/01/16(金) 23:51
>>164 rinaさん
はじめまして。
なんとなく後藤さんと藤本さんは出ているようです。
続きもなんとか頑張りたいです。
ありがとうございます。
180 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/18(日) 05:37
お?友達に・・・なれたのかな・・・?
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 21:42
あぁなんだこのすがすがしい気分は…
182 名前:第18話 進め! 近づけ! 銀の星 投稿日:2004/02/13(金) 22:11

 ちょっと立ち止まる。夕日は先ほどよりも赤に近づいていた。
 風は少し冷たくなって、私の耳をさらってゆく。耳の感覚がどんどんなくなる。だから周りの音が直接頭の中に入ってきてるみたいで、すんごい楽しかった。すれ違う人の声がストレートに届いた。良いこと悪いこと、そのどちらでもない声がにぎやかに伝わってくる。人は不器用だけど、だから面白い。私はここ何日間の出来事で、そんなことを思っていた。優しい笑顔もあれば、恨みのこもった涙もあるんだろう。人が同じ形で生きてゆくなんてありえない。私だって変わってゆくし、きっと色々な出会いで変わったし、明日の今頃は、もうこんなことは思っていないのかもしれない。だから面白いんだ。だから恐いんだ。だけど、出会うんだ。誰も人生の答なんて教えてくれやしない。だからこそ出会って創ってゆくんだ。うん、間違いかもしれないけど、まっすぐ伝えよう。
 伝えるために足を進める。

183 名前:第18話 進め! 近づけ! 銀の星 投稿日:2004/02/13(金) 22:12
胸はドキドキ。足はグングン。どこまでだって加速する。
そりゃあ、恐いさ。会ったら何を話すのとか全く決めてないもの。だけど、止まんない。全速前進、ピッて指を伸ばして大きく振る。ほっぺ膨らまして進んでゆく。行かなきゃね、いい加減。
ほら、そこに寝転がっている猫も見てるよ。自転車乗って坂道登ってるあの子だって私を見てる。みんなが私を見てる。みんなが私を応援している。

心地よし。
路傍に転がる石にもピースサインだ、このやろーって感じです。
184 名前:第18話 進め! 近づけ! 銀の星 投稿日:2004/02/13(金) 22:13
 そんなわけで公園に向かっている途中です。
「私もついていってあげようか」ミキちゃんはそう言ったけど、幼稚園児でもおつかいができるこのご時世、私一人だってやればできるところを見せてあげたかった。
 公園への道は、いつもと同じようでなんか違う感じがしたけど、いつもと同じように歩いていたらいつもと同じ公園に着けたので、やっぱりいつもと同じなのだろう。なんか変な感じ。

185 名前:第18話 進め! 近づけ! 銀の星 投稿日:2004/02/13(金) 22:14
 公園に着いたはいいけど、公園の中を見るのが恐い。だから足元のSTAN SMITH COMFORTをずっと見ていた。ところどころ茶色く少し汚れている。公園の地面も土で埋め尽くされて茶色だ。目の前にある茶色い公園は、私が今立っているコンクリートの灰色と綺麗に分かれていて、どこからが公園なのか、はっきりとわかる。
 また迷う。足を入れて顔を上げて、全部なくってたらどうしよう。あの滑り台もブランコも噴水も砂場もジャングルジムも消えていたらどうしよう。
 公園の方から少し目をそらす。影が弱々しく私の横へと伸びていた。公園の入口とは平行線に伸びていた。影が何処まで伸び続けるのか知りたくて、足をそっと、そっちへ向けたくなった。そしたら突然ミキちゃんの声が頭に響きやがったので、私は目をつむってオクビョーモノとよく話し合った。じっくりゆっくり話し合う。いつもは影と公園の関係のように平行線のまま話は終わっていた。しかぁーし、今回は違うのだ。ミキちゃんの声が胸や頭のどっかで響いていて、私はそれを目印に一歩一歩オクビョーモノに近付きながら話し合った。そしたらわかってくれた。だから公園に入っていた。
186 名前:第18話 進め! 近づけ! 銀の星 投稿日:2004/02/13(金) 22:17
 今、私が立っている足元は茶色。公園だ。
 鼻から息を吐く。口から息を吸う。少し土っぽくて空気が重い。
 一気に顔を上げる。周りを見渡す。全部いつも通りだ。公園の中の何もかもが自分の立ち居地を忘れずにそこに立っていた。
 久しぶり、私は少し笑って胸の中で呟く。
 おかえり、そうは言ってくれやしないけど、公園はいつも通りの顔で迎えてくれた。

 空色のブランコに座る。お尻が少しひんやりした。懐かしくて暖かくなった。
 空を見上げる。空は青くも赤くもなく、あえて言えば黒くなりつつあった。
 月が早くも私を見つめている。何も言わずに動きもせずに、こっちをずっと見つめている。なんかムカってきた。
 ブランコをこぎ始める。誰も後ろから押してはくれやしない。だから、地面を蹴って勢いをつける。
 それでも月には届きそうにはない。だからブランコに立ってこいでみる。ギコ、ギコって音が、ギィーコ、ギィーコに変わり始める。

 ずっとずっとこいでやる。風が冷たくてもこいでやる。
 星までが私を覗きにやってきた。負けてたまるか、こいでやる。
187 名前:第18話 進め! 近づけ! 銀の星 投稿日:2004/02/13(金) 22:17
 ちきしょー遠いぜ。奴らはまったくもって遠い。
 梨華ちゃん一体どこにいるの。遠いぜ、ちきしょー。

188 名前:名無し 投稿日:2004/02/13(金) 22:21
>>180 名無しさん
なれてればいいなー、と他人事のように思います。感想ありがとうございます。

>>181 名無飼育さん
何処までもクセの強い拙い文章に、歩みの遅いお話ですが、そう言って頂けると嬉しいです。
189 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/01(月) 02:45
むう。どうなるのだろう
気になります
190 名前:774RR 投稿日:2004/03/05(金) 21:07
相変わらず期待しつつ保全
191 名前:rina 投稿日:2004/03/31(水) 18:41
保全します!期待してますね!!
192 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/23(金) 01:23
期待sage
193 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/19(水) 20:29
待ち
194 名前:第18.5話 Encounter and separation 投稿日:2004/05/23(日) 19:59

彼女を傷つけたのは私だ。騙していたのも私だ。
全て私が悪い。私が彼女と出会ってしまったことが罪だ。
だから、私のしたことは間違ってはいない。
この世に魔法なんて存在しない。それが真実だ。

彼女から魔法を解いてあげたのは間違いじゃない。
彼女を傷つけてしまったのも間違いじゃない。
彼女の涙だって何時かは乾く。そして渇いた頃には私を忘れる。それが正解だ。
何も間違ったことなんてしてない。
だからお願いだ。
195 名前:第18.5話 Encounter 投稿日:2004/05/23(日) 20:00
誰か私を裁いておくれ。
誰か私を苦しめてくれ。
誰か私を傷つけて。
誰か私を──。
196 名前:第18.5話 Encounter 投稿日:2004/05/23(日) 20:01

彼女のことを考えると、いつでもあのコの顔を思い出す。
公園で泣いて、叫んで、笑っていたあのコ。
そうだ、彼女が私を消してくれればいい。
こうして、またも公園でブランコを漕いでいるんだから。

197 名前:第19話 限りなく笑顔に近いホワイト 投稿日:2004/05/23(日) 20:06

いつまで経っても空には届きそうにはないので、すわってぼぉーと空を眺めていた。
空自身が近づいてくるような、そんなサプライズな出来事が私に内緒で用意されてる可能性を、ほんの少しだけ信じながら待っていた。
それは梨華ちゃんが、あの時のように「だ〜れだ?」と声をかけてくれる可能性と同じ確率だった。
だけど、そんなドッキリは用意されているわけもなく、お尻が冷えてきたので、ちらほら見え始めた星たちにバイバイ告げようと思った。
そんな時だった。
頭が一瞬ぐらん、と揺れた。
地面が斜めになった。
夜空が近付いた。
そして、彼女はそんな私の目の前に立った。
「こんばんは」
セミロングの茶色い髪が夜空に溶け合った。
透き通るような白い肌が黒い夜空のバックにチラチラ点滅して目が痛かった。
ダッフルコートのポッケに手を入れて、彼女は私に笑ってる。
198 名前:第19話 限りなく笑顔に近いホワイト 投稿日:2004/05/23(日) 20:07
「…こんばんは」あの子だった。
「隣、いいですか」
「どうぞ」
力いっぱい鎖を掴む。一生懸命、彼女を見ない。
胃がぐるぐる、ぐるぐる。
喉仏まで、熱い何かが溢れてきた。ついでに、とんでもないことを彼女に言ってしまいそうだった。

「寒くないですか」
「寒いです」
「星、あんまり出てませんね」
「ですね」
「明日晴れますかね」
「……さぁ…です」

199 名前:第19話 限りなく笑顔に近いホワイト 投稿日:2004/05/23(日) 20:08
ギィーギィーギィー。
ゆるく錆びた鉄の音が鳴いている。ブランコだけが静かにおしゃべり。
嫌な奴。私って嫌な奴。言葉が出てこない。言わなきゃいけないこと、言った方がいいこと、梨華ちゃんのこと、たくさんあるのに出てこない。
「あの…」
気付いたら彼女のブランコは鳴き止んでた。急に落ちたトーンで彼女は訊いた。
「なんですか?」
「ブランコ──」
「はい?」
「ブランコ、好きですか?」
「はぁい?」
「ここのブランコいいですよね。なんか。…なんかいいですよね」

……変態?
綺麗な顔してるけど、変な人だ。そう言えば梨華ちゃんも変な子だった。
「すいません、変なこと言っちゃって」彼女は笑って頭をかいた。
あー、ずるいな。こういう笑顔の人はずるいんだ。きっと、笑ったら全部許されちゃう人だ。
そんな感じだもん。空気を自分の色に一瞬にして塗り替えちゃう人だ。

200 名前:第19話 限りなく笑顔に近いホワイト 投稿日:2004/05/23(日) 20:08

「…好きですよ」
「へっ?」
「ここのブランコ、私も好きです」
そう言ってから、彼女の顔を見た。
近くで見たら、改めて綺麗だった。綺麗な大きな瞳で私を見ていた。
ちょっと、びっくりしてた顔だったけど、すぐにまた顔を崩して、
「良かったー。きっと好きだと思ったんだ」
って、ぐちゃぐちゃな顔で微笑んだ。
負けてたまるかって、私も笑ってやった。笑っちゃった。

201 名前:名無し 投稿日:2004/05/23(日) 20:21
>>189 名無しさん
>>190 774RRさん
>>191 rinaさん
>>192 名無しさん
>>193 名無飼育さん

本当に申し訳ないです。私的な事情からこんなにも更新期間が開いてしまいました。
しかも、情けないことに、この1年か2年、定期的な更新を約束できません。
そんな状態で皆様に保全をして頂くのも申し訳ないです。
自分自身、この話が好きなので必ずや完結させたいと思っています。
しかし落ちてしまったら、そこまでの奴だと見切りをつけてやって下さい。本当にすみません。
落ちてしまった時は、完結した状態で皆様の前に現れます。と、落ちる事を前提に話してすみません。
いつも本当にありがとうございます。
202 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/24(月) 01:15
このお話好きです。
だから、
待ってますよ。
203 名前:名無しさん 投稿日:2004/05/26(水) 15:43
同じく好きなので待ってます
204 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/07/06(火) 15:38
更新待ってます。
205 名前:rina 投稿日:2004/10/16(土) 09:17
更新お待ちしてます!
206 名前:第20話 色の無い世界 投稿日:2004/11/23(火) 21:52

彼女の名前は、吉澤ひとみさん、だと教えてもらった。
私の名前は、後藤真希さん、だと教えてあげた。
二人は同い年だった。しかも彼女は外国帰りなんだって。
私なんて、飛行機も乗ったことない。それどころか、この町から3駅以上、遠くに行ったことなんてない。
びっくりした。ほんと、びっくりした。
だって、こんなにも短い間にこんなにもたくさんのこと話し合えるんだもん。
最初は絶対友達になれないと思ったけど、すんごい話しやすい人だった。
だって、ごっちん、よっすぃーって呼び合う仲にまでなっちゃったんだよ。
ほんと、よっすぃーは変な人だ。
207 名前:第20話 色の無い世界 投稿日:2004/11/23(火) 21:53

「あはは! よっすぃーそれはオオゲサだよぉー」
「そんなことないって、マジなんだって! 恋愛大臣はいるんだって!」
そんなわけのわからないことばっかり言う人だ。
楽しい。面白い。今、幸せ。

だけど、いけないんだ。甘えてばっかりじゃいけないんだって、私は知ってる。
身体の中の、どっか奥の方で誰かがノックする。
『トントン、トントン。そろそろいいですか?』
返事に迷ったけど、言わなきゃ進めないって知ってたから。今は知ってるから。
208 名前:第20話 色の無い世界 投稿日:2004/11/23(火) 21:54

「よっすぃー。あのさ……」
「ん。なに?」
「変なこと訊いてもいいかな?」
「おぅ。なになに」

でも困ったなー。なんて訊こうかな。
梨華ちゃんって知ってる? おかしいよね、この質問。
なんで突然梨華ちゃん出てくるんだって話だもんね。
私は梨華ちゃんと友達だし、たぶんよっすぃーも梨華ちゃんと友達だけど、私と梨華ちゃんが友達だってことはよっすぃー知らないし、梨華ちゃんとよっすぃーが友達だってことは私は知ってるけどよっすぃーは知らないだろうし、ん? わけわかんなくなっちゃった。
でも、きっと私とよっすぃーも友達だから大丈夫。友達。大丈夫、だよね。
209 名前:第20話 色の無い世界 投稿日:2004/11/23(火) 21:55

そんな風に迷ってたら、とんでもないところから爆弾を落とされた。もちろん、よっすぃーに。

「あ、その質問の前に言っておきたいことがあるんだ。私、悪魔なんだ」

どうしよう。よっすぃー悪魔なんだって。人間じゃないじゃん。悪魔って確か悪い奴だよね。どうしよう。

210 名前:第20話 色の無い世界 投稿日:2004/11/23(火) 21:57
「ははは! その顔!! 期待通りのリアクションするなぁーごっちん」
なんだ? ウソ? 悪魔じゃないの? 良かったー少し頭のおかしい人だ。人だったんだ。
「ごめんね、なんかごっちん難しい顔して悩んでたからさ。気にしないでよ、なんでもドンドン、ズバッと訊いてよ」
ほんと良い笑顔する。梨華ちゃんともミキちゃんとも全然違った笑顔。
笑顔って人の数だけあるんだな。面白い。

……だけど、なんだろう。なぜだかよっすぃーの笑顔は少し切なくさせる。

「ほら、私は悪魔だからどんな嫌な質問も、難しい質問しても大丈夫だよ」

全ての痛みや苦しみや迷いを包み込むような、全てを許すような笑顔。だけど、自分の痛みは絶対に見せてくれそうにない。全部奥の方に隠しちゃって教えてくれそうにない笑顔。やっぱりずるい笑顔だ。

「じゃあ、訊くよ」
「OK牧場! どんどん来い!」

私がその笑顔やっつけてやる。
211 名前:第20話 色の無い世界 投稿日:2004/11/23(火) 21:57

「梨華ちゃんは──」
「ん?」
「梨華ちゃんは、どこに行ったの?」

よっすぃーの笑顔が壊れた。笑顔の仮面が外れて、まっさらな表情を見せた。一瞬だけど、よっすぃーの奥の方が全部見えた気がした。だけど、直ぐにまたあの笑顔を被ってこう言った。


「魔法のない世界だよ」


212 名前:名無し 投稿日:2004/11/23(火) 22:06
言い訳と反省を。

は、半年……。本当にすいませんでした。
中々時間を割くことが出来ずに、書けずにいたらずるずるとこんなにも更新が開いてしまいました。
しかし、この話は本当に好きなので絶対に完結はさせる気でいます。今の段階でも情けないことに定期的な更新が出来る余裕はありませんが、半年の間、書きもせずにスレが残っていたので、絶対落とさないで完結したいという決心が固まりました。本当に遅い歩みで申し訳ありませんが、もし呆れずにいてくるのならば、もう暫くお付き合い頂けたら幸いです。そしてレス本当にありがとうございます。そしてお待たせして申し訳ありませんでした。

>>202 名無飼育さん
お待たせしてすいません。そして更新料少なくてすみません。

>>203 名無しさん
ありがとうございます。まだ待って頂けていたなら本当に嬉しいです、すいません。

>>204 名のナイ読者さん
お待たせして、本当にすみませんでした。

>>205 rinaさん
お待ち頂きありがとうございます。レスを付けて頂くと本当に力になります。
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 22:46
うわーおかえりなさい!
マターリ待ちますんで作者さんのペースで完結まで(・∀・)bガンガッテw
214 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 22:51
更新キテター!お疲れ様です。
やっぱりこの作品の雰囲気いいですね。
ゆっくりじっくり完結待ってます。
215 名前:名無しさん 投稿日:2004/11/25(木) 03:38
おかえりなさい!当然まだ待ってましたよ

結局どこにいるのかな?もう1人は絡んできたりするのかな?
いろいろ楽しみです。まったり待ってますので頑張ってください
216 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 17:57

「え?」
ブランコの揺れが止まった。私の呼吸も少し止まった。
よっすぃーの言葉が聞こえなかった。耳には届いても脳までは届かなかった感じ。

「魔法のない世界。わかるかな?」

今度は一瞬にして私の脳まで到達して、凄い速さで脳の中を跳ね回った。

その言葉が一回脳をバウンドするごとに色々な光景が浮かんできた。

217 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 17:58

『そうだね、1つだけなんでも願い事かなえてあげるよ』

梨華ちゃんがその言葉通り、お願いを叶えてくれた日、私は魔法の存在を知った。

『───美貴の心に魔法をかけてしまったのです。あー可愛そうな美貴ちゃん』

ミキちゃんと友達になった日、私の中にも魔法があることを知った。

──私は魔法の力を信じる。──

あの時から、私は魔法を信じ続けている。

「正常な世界。魔法なんて存在しない世界」
私の思考が止まるのを見計らって、よっすぃーが言葉を続ける。
誰に言うでもなく、空に向かって、ぼそっとこぼす。
218 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 17:59

私のそばには、気づけば魔法があって、私を悩まして、立ち上がらせて、動かし続けてきた。
そしてその存在を教えてくれたのが、梨華ちゃんだ。
魔法をかけてくれたのも梨華ちゃんだし、魔法の存在を教えてくれたのも梨華ちゃんだ。
その梨華ちゃんが魔法のない世界に行ってしまった。もしくは消えてしまった。

「なに言ってるの? よっすぃー……」
「梨華ちゃんは魔法がないって真実を知ったんだ。だから──」
「そんなわけないじゃんっ!───あ……ごめん…」

心臓が、どくんどくん言っている。額に汗をかいてるのがわかる。
たくさんの言葉が脳から飛び出したがっているのに、口の中で絡まりあって出てこない。

「ご、ごめんね。でも、でも変なこと言ってるかもしれないけど魔法はあるよ」
よっすぃーの目を見据えていった。彼女の目はガラス球みたいに鈍く光を弾いていた。
一度、目を瞑り微笑むとよっすぃーはこう言った。

「やっぱりそうなんだ。ごっちんも魔法があるなんて思ってるんだ」

219 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 18:00
何も可笑しくなんてないのに。何も可笑しくなんてないのによっすぃーは冷たく笑う。
夜の冷たさと一緒に笑う。月の光を浴びて笑う。世界が真っ暗に閉ざされそうだ。私の心臓が熱い。脳が沸く。

「梨華ちゃんもさぁそんなこと言ってたんだよ。ははは」
「よっすぃー、あるんだよ。本当に魔法はあるの」
「ははは、そんなに真剣な顔で言わないでよ。ちょっと怖いよ」
目が、よっすぃーの目が開いているのに閉ざされている。生きてない目をしている。全てに絶望して失望して何も見ようとしない目だ。全てを諦めた深い闇の目だ。私の目にそれが入って、体の神経全部に伝わって、心まで届いて、恐怖とそれを振り払おうとする怒りが同時に生まれてこう言った。

「あるよ! 魔法はあるもん!」
止められない。心から口までの距離が一気に縮まった。もう言葉を止められない。
220 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 18:01

「じゃあ訊くけどさ、魔法ってなに?」
「そんなの簡単だよ! 魔法は───」

魔法は、ほら、あれだよ、私知ってるよ、魔法は──ほら、出てこい、何してんだ、魔法は───。

「魔法なんてないんだよ、ごっちん」
よっすぃーの目が私を見つめる。じろじろと私の中の方を覗き込んでる。
「梨華ちゃんはそれを知っただけ」
よっすぃーの口がパクパク動いてる。声がそれに遅れてやってくる。
「ただそれだけのことだよ」
見ないで、そんな目で、見ないで。
喋らないで、そんな顔で、笑わないで。
221 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 18:02


「魔法なんてないんだよ、ごっちん」


魔法が無い。
よっすぃーがもう一度同じ言葉を繰り返した。表情の無い顔で繰り返した。
よっすぃーの声は薄くて軽くて、じっくりと私の体を蝕んでいった。
まほうがない。
そんな言葉が頭の中で、ぐるぐるぐるぐる周っている。私はそれを飲み込まないように必死で他のことを考えようとしていた。考えようとしたら、お腹の下のほうで奇妙な気配を感じた。今までに感じたことのない、鈍い感情。鈍くて重たくて黒いモノ。
マホウガナイ
許せない。もし、よっすぃーが梨華ちゃんを傷つけたなら絶対に許せない。魔法はある。絶対にあるんだ。
222 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 18:02

「よっすぃーは嘘つきだ」
「そうだよ、私は嘘つきだよ。だって言ったでしょ、悪魔だって」

よっすぃーはブランコから立ち上がり、私に向かってゆっくり微笑んだ。顔の動き、一つひとつがウソみたいに滑らかで美しかった。怖かった。なんでこんな状況でこんな仮面のように整った笑顔ができるのか理解できなくて怖かった。よっすぃーの中身がわからない。私は、体を廻る自分の血の熱さだけを感じていた。よっすぃーに同じ血が流れているとは思えなかった。

「…梨華ちゃんになにしたの」
「謝ったんだ。梨華ちゃんに本当のことを言って謝っただけだよ」

こんなに顔近づけても、よっすぃーは私の目から視線を逸らさなかった。だけど、それは私の目を見ているんじゃなくて、もっと奥の遠いところを見つめているのだと気付いた。そして自分の目から涙がこぼれてるのに気付いた。
223 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 18:03

「じゃあなんでそんなことしたの…」
「なんで? 間違ったことを教えてしまったから。だから本当のことを教えてあげた、これ何かおかしいかな?」
「……おかしいよ」
「なにが?」

何がおかしい? 「ねぇ、なにがおかしいの?」 ……あれがおかしい。でもそれは違う気がして、世界が回ってブランコが何時の間にか揺れて、「おかしいことなんてないよ」空は真っ黒で、私はよっすぃーの前にいて、「狂ったほどマトモな世界だよ」 掌を潰して、息を吐いて、吸って、よっすぃーがずっと笑って「その手をどうするの?」って訊いて、わからなくて、わからなくて、答えも出てこなくて、私は───。

224 名前:第21話 真っ黒い最終バス 投稿日:2004/12/05(日) 18:10
>>213 名無飼育さん
ありがとうございます。お待たせして申し訳ありませんでした。
必ず完結させます。本当に歩みは遅くて申し訳ありませんが、完結させます。

>>214 名無飼育さん
レスありがとうございます。
雰囲気だけの話ですが、楽しんで頂けているのであれば本当に嬉しいです。
お待たせして本当に申し訳ないです。

>>215 名無しさん
お待ち頂きありがとうございます。そしてすいませんでした。
自分でも先の事は良くわかりませんが(!?)、なんとか自分の気持ちが形に出来たら嬉しいです。
待たせっ放しの話ですが、その分何らかの形でお返しできたら嬉しいです。
225 名前:214 投稿日:2004/12/05(日) 23:56
更新お疲れ様です。
雰囲気だけなんてとんでもない!
上手く言えませんが…いろんな意味で、キレイだなぁと思うんですよね。
作者さんの納得のいく作品をまったり待ってます。
226 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/11(金) 16:11
全読みさせて頂きました。かなり真っ黒な話ですがかなりずごい作品だと思います。 現実離れの話かとも思ってましたがかなりのリアル。更新まったりと待ってます
227 名前:第22話 まっしろ in myハー 投稿日:2005/02/18(金) 18:27

ベッドから起きて、洗面台にいって顔を洗う。ついでに歯を磨いて、リビングに向かう。そこには朝食が置いてあって、お母さんがこっちを見ずにTVを見てる。ご飯を食べ終えた私は、もう一度歯を磨く。朝に歯を二回みがくのは面倒だから一回にしようと思ってるのに、体が習慣付けられていて勝手に歯ブラシを握ってしまう。そして玄関にある鏡の前に立って、髪と制服を整えて、ほんの少しのメイクアップ。そして私は靴をはいて、「いってきます」と家を出る。

228 名前:第22話 まっしろ in myハート 投稿日:2005/02/18(金) 18:28

学校への自転車通学は禁止されていて、毎日歩きながら学校に向かう。平坦な道、坂道、ジグザグに砂利道。色々な道を越えながら15分ばかりで学校に着く。下駄箱を開けてもラブレターは入ってなくて、私は上履きをはいて教室に向かう。3階まで階段で上るのが最近は辛くなってきて、お年頃なんだなぁと思ったりする。3階についてたら直ぐに廊下を右に曲がれば、そこが私の、私たちの教室。

229 名前:まっしろ in myハート 投稿日:2005/02/18(金) 18:29

ドアを開ければ、みんなの「おはよう」の声。でも、私の顔見てみんなの声が詰まる。
窓際の席に着いて、カバンを机の横にかけると、ミキちゃんが飛んでくる。

「おいっす! ……って…え?」

ミキちゃんが私の顔を見て、目を大きくさせてる。

「…ど、どした?」

なにが?って訊こうと思ったけど、なんだか巧く声が出なくて飲み込んだ。
ミキちゃんがしばらく私の顔を見つめた後、何も言わずに私の顔を両腕とちっちゃな胸で抱きしめた。
いきなりなにすんだ。驚いたけどやっぱり声が出なかった。
230 名前:まっしろ in myハート 投稿日:2005/02/18(金) 18:30

「大丈夫だよ。ごっちん大丈夫だよ」

大丈夫だよ、重たい。大丈夫だよ、熱い。大丈夫だよ、廻る。私の頭を廻る。そして喉を通って長い旅の果てに心に辿り着く。

「顔隠してるから、思いっきり泣いていいよ」

心が爆発した。涙腺が倒壊した。全部が溢れた。心と涙と何かが飛び出た。溜め込められていた全てがすごい勢いで流れた。

「うあぁぁぁーーーーーーーー───」

まっしろ。



231 名前:第23話 紅色HELP 投稿日:2005/02/18(金) 18:34

「ほら。ハンカチ」

ありがとう、言いたいんだけどやっぱり声が出なくて、息を吸うだけでイッパイイッパイだった。

「なんか飲む?」

いらない、言いたいんだけど顔を振るだけで精一杯で、涙と鼻水は流れて、水分はどんどんなくなってゆく。

ミキちゃんに手を引かれて、屋上につれて来られた。その間も涙は全く止まらなくて、溺れてる感じがしてうまく、歩くことも出来なかった。ミキちゃんに寄りかかって歩いてた。廊下を歩いてる最中周りの人が何か言ってるのはわかってたけど、それよりも呼吸をするのに精一杯で、何も無い海の真ん中じゃ誰かに向かってハローなんて言える力なんてありやしなかった。屋上に着いたら崩れ落ちた。言葉も心も涙も崩れて落ちた。何も無い。
232 名前:第23話 紅色HELP 投稿日:2005/02/18(金) 18:36

「誰もいないから。ここでゆっくり呼吸しな」

ミキちゃんが私の背中を撫でながら、声をかけてくれる。空っぽの私には優しすぎて、体がポキって折れてしまいそうだった。

「ほら、すってー……はいてぇー」

色々考えようとしたんだけど、今はミキちゃんの声に全部ゆだねた。
「すってー」
すってー。
「はいてー」
はいてー。
「また、すってー」
すってー。
「はいてー」
はいてー。
「どう? 落ち着いてきた」
ゆっくり呼吸したら、だんだん呼吸の仕方を思い出してきた。涙も少しずつ緩くなってきた。唾を一回、飲み込んだ。あ、空だ。フェンスだ。屋上だ。
233 名前:第23話 紅色HELP 投稿日:2005/02/18(金) 18:38

「しゃべれる?」
「…うん」
声が出た。
「……しゃべれる?」
ミキちゃんがもう一度『しゃべれる』と訊いた。でもさっきとは喋り方も声のトーンも全然違ってた。そして私はその問いが何処に向けられているのかは気付いていた。つまり、何があったの?とミキちゃんは訊いているんだ。だけど、また声を出すと涙が出ちゃいそうで首を横に振った。

「そっか……まぁいいや。寝るか」
ミキちゃんはそう言って、肩肘付いて地面に横になった。
「…服、よごれちゃうよ?」
私がそう言うと、ううんって首を振ってアクビした。
「いーじゃんたまには。そんなことよりこちらにいらっしゃい」
ミキちゃんが自分の横の地面をポンポン叩いた。
「制服よごれちゃうからイヤだ」
ヤダって言ったのにミキちゃんは私の腕を掴んで強引に引っ張った。
地面にお尻がついた。ちょっとひんやりした。
234 名前:第23話 紅色HELP 投稿日:2005/02/18(金) 18:40
「あのねぇー。言っとくけど美貴がマキちゃんに付き合ってあげてんの」
私の不機嫌な顔を見てミキちゃんはそう言った。マキちゃんなんてバカにしながら。
それでも何も言わない私に、溜息を一回ついてから言葉をつなげた。
「ビックリしたよ。普通の顔して涙流してるんだもん」
普通の顔して涙?
「あーその顔。やっぱり気付いてなかったんだ。ごっちん、私に会う前から泣いてたよ」
ん? ということは朝からずっと泣いてたってこと? あれ? 朝、鏡の前に立ったときは泣いてたっけ? ダメだ。覚えてないや。もしかしたら泣いていたかもしれない。そういうば昨日からの記憶が断片的にしかない。どうやって眠ったっけな。どうやって家に帰ったっけな。どうやって───。
「おいおいごっちん! なんて顔してんの! ちょっと落ち着いてよ!」
ミキちゃんが私の背中を撫でて、私は“ここ”に戻ってきた。うぁー温かいなぁ。ミキちゃんの手、温かいや。それに気付いたたら、急に目が痛くなって喉が渇いて鼻がヒリヒリしてきた。
「ごっちん大丈夫だから。ほら、手を繋いでるよ。美貴はここにいるからさ、眼を閉じてごらん。大丈夫だから横になってごらん」
ミキちゃんの手が暖かくて、眼を開けてるのが辛くて、息を吸うのに疲れて、私はミキちゃんの肩に寄りかかった。そしたら意識がだんだん薄れていった。眠れることの喜びをかみ締めながら。
235 名前:第23話 紅色HELP 投稿日:2005/02/18(金) 18:41

眼を開けると空は赤く染まっていた。眼の痛みも取れていた。体を起して横向いたらミキちゃんが座ってた。「これ飲みな」と、ポカリくれた。タブは起してあったからそのまま一気に喉に流し込んだ。冷たくてサラっとしていて気持ちがいい。美味しくて美味しくて、缶から口を離すことなく全部飲んじゃった。

「おいしい」
私がそう言うとミキちゃんは嬉しそうに笑う。
「とっておきだかんね」
なにが?って返そうと思ったけども何だか『とっておき』に美味しかった気がしたから、黙ってうなずいた。
「いま何時?」
「午後4時」
「ゆうちゃん怒ってた?」
「しらない。美貴もここで寝てた」
ウソでもなんでも良かった。ミキちゃんが優しかったから。

「ミキちゃん、私ってさバカなんだよ」
「知ってるね」
「…バカじゃないよ」
「どっちだよ」
「バカじゃないけど、何だか全部うまくいかないんだよ」
「ううん、ごっちんはバカなんだよ」
「バカじゃないってば!」
「バカのくせに全部一人でやろうとするから、うまくいかないんだよ」

ミキちゃんはいつだって正しいことしか言わない。
236 名前:第23話 紅色HELP 投稿日:2005/02/18(金) 18:42

「じゃあどうすればいいの?」
「その答えが出せないから、ごっちんはバカなの」

どうすればいいんだろう。それがわかれば全部うまくいくのかな。
考える、考えると昨日のことまで考えてしまって泣きそうになる。
それでも考える。私はバカじゃないもん。諦めたりしない。
全部諦めて、孤独の振りして、全部見ない振りするのは終わったんだ。
ミキちゃんが教えてくれたんだ。友達が私にいるんだ。
そうさ、私は一人なんかじゃない。

「…あのさ…ミキちゃん」
「なに?」

あと何回同じこと繰り返すんだろう。あと何回泣くんだろう。
手が、胸が、瞳が震えて涙が零れそうになる。
あと何回一人で傷つくんだろう。あと何回一人で失敗するんだろう。
脳が、心が、喉が震えて声を絞り出す。
237 名前:第23話 紅色HELP 投稿日:2005/02/18(金) 18:43

「ミキちゃん助けて」
やっと言えた。

「ちょっとだけ賢くなったね」
ミキちゃんが私のほっぺをつねった。


238 名前:名無し 投稿日:2005/02/18(金) 18:52
>>225 214さん
ありがとうございます。
すいません、心から嬉しいのですが言葉を知らなくてありがとうございますしか返せません。
この感謝の気持ちを少しでも、この話で返せることが出来たら嬉しいです。

>>226 通りすがりの者さん
最初からお読み頂き、ありがとうございます。
真っ黒でウジウジした話の上に永遠と同じような内容で申し訳ありません。
気が向いた時にでも、またお読み頂けたら嬉しいです。
239 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/19(土) 01:21
更新お疲れ様です。
あったかいですね。ミキティいい奴だな。ごっちん頑張れ。
これからもずっと楽しみにしてます。
240 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/21(月) 02:12
すごくいいです。次も楽しみにしています。
241 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 16:28
ミキティいい人だ・・。 ごっちんを思いやる気持ち、あったかいのが伝わります。 更新待ってます。
242 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/15(火) 07:35
いつまでも待ってますよー。
243 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/07(木) 15:29
待ってます
244 名前:Liar 投稿日:2005/04/08(金) 18:53
大好きです。いしごま。とても期待してます。
245 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/28(土) 17:43
今日初めて読んで引き込まれました。
ごっちんと美貴ちゃんの関係が
ものすごく好きです。
なんかうまく言えないけど美貴ちゃんのあたたかさが
すばらしいです。
続き楽しみにしてるので無理をせずに頑張ってください。

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