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『繋いだ気持ち』(いしよし)
- 1 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時17分02秒
- いしよしもの。よし→いしです。
展開的には「痛」→「甘」予定です。
どこまで書き込めるかわかりませんが、
きちんと完結しますので、読んでみてください。
- 2 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時18分11秒
- 『繋いだ気持ち』
伝わらない、この想い。
唇にいっぱいの切なさをこめて、重ねたそれは
苦しいほど苦く、張り裂けそうなやるせなさをともなって
重ねられていた。
抱きしめても、抱きしめても、まるで空気をつかんでいるような
気持ちになるのは、彼女の想いがここにないことの証明。
「また明日・・・ね。」
うつむきながら去っていった彼女の後姿をじっと見詰めていても、
振り返ってくれることもなく、その影はマンションのロビーに消えていった。
「いつになったら梨華ちゃんは・・・」
その後の言葉を飲み込むと、あたしは元来た道を帰って行った。
- 3 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時19分46秒
- 部屋に帰るとすぐにメールを入れた。
無事に家に着いたことの連絡は、彼女が求めてくれたものだけど、
それもどこか形式的な空気を感じてしまうのは、あたしの思い過ごし
なのだろうか。
『着きました。おやすみ。=ひとみ=』
パタンと携帯を閉じて、返信を待つ。
だけどすぐにはメールは返ってこない。
それはいつものことなのだ。待ち焦がれるあたしの気持ちを
彼女はきっと理解してはいないだろう。
雑誌を読みながら、何度も携帯を眺めていた。
梨華ちゃんからの返信を確認するまでは、次のアクションを起こすことは
できない。
- 4 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時20分30秒
- 机に置かれたそれが振動したのは、それから30分後のこと。
『今日もありがとう。おやすみなさい。=梨華=』
ほんの何文字かの短い言葉を2度、3度、繰り返し読み込んで、頭の中に留めた。
「おやすみ。梨華ちゃん。」
届くことのない言葉は、同じく、届くことのない気持ちとオーバーラップしていた。
- 5 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時21分59秒
- 「ごめんね。ちょっとトイレ行ってくる。」
バイト終わりに待ち合わせしたファミレスは、午後8時を回っていても
まだ賑わっていた。
梨華ちゃんの席の後ろを通って、レストルームへと向かう。
鏡に写し出された自分の顔をみながら、セーブできない心の動揺を
なだめすかした。
あせってはいけない。まだ彼女の心の傷は癒えていないのだから。
ポケットに忍ばせたプレゼントをぎゅっと握り締めながら
席に戻っていくと、梨華ちゃんが真剣に何かを見詰めている背中が見えた。
手にしているのは携帯。あたしは心の中で舌打ちした。
彼女が見つめているのは、心の傷を作った張本人の画像だというのを知っていたから。
わざと足音を立てて席に近づくと、携帯を閉じてカバンにしまいこんだ彼女。
「おまたせ。そろそろ出ない?」
「うん。そうだね。」
コートを手にして身支度を整えると、あたしたちはその店を後にした。
- 6 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時26分07秒
- ほんの少し賑やかなその通りを抜けて、梨華ちゃんの住む
住宅街への道を歩きながら、タイミングをみてその手を繋いだ。
「かなり冷たくなってるね。寒くない?」
繋いでいた手のひらをすべらせて、指と指とが絡むように繋ぎなおした。
「ちょっと寒いかな。でも大丈夫。」
こぼれてくる白い息が、夜の冷え込みを更に感じさせる。
「もうちょっと話したいんだけど、時間いいかな?」
「いいよ。家すぐそこだし。ひとみちゃんさえ寒くなければね。」
花壇のブロックがある場所まで移動して、そこに腰を下ろした。
時折通る車のヘッドライトの光が、ガードレール越しに
梨華ちゃんの横顔を映しだした。
「これ。今月バイト代思ったよりもらえたから、プレゼント。」
「ありがとう。あけてもいい?」
「もちろん。」
期待を胸に秘めながら包みを開くその表情を見ているだけで、あたしの心は
救われる思いがした。
物で気持ちを掴もうなんてことは考えてなどいない。
ただ、少しでも笑顔を見せてくれる可能性のあることなら、なんでもやってみたかったのだ。
梨華ちゃんの心からの笑顔を見ることはたとえ無理だとしても。
- 7 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時28分57秒
- 「あ・・・ピアス・・・」
「見たとこ、ずっと同じやつつけてたからさ。たまにはこういうのも
どうかと思って。気に入ってもらえたら嬉しいけど。」
ちょっぴり奮発して買ったプラチナのピアスは、ハート型をしていて、
梨華ちゃんにとても似合うと感じた。
「ステキね。ありがとう。」
「今つけてみる?」
その瞬間、彼女の瞳に悲しげな影がうつったのをあたしは見逃さなかった。
「また今度でもいいかな・・・」
「・・・うん。そう・・・だね。」
理由は聞かなかった。それは聞かなくてもおよそ想像できることだ。
同じピアスをつけている理由。
新しいピアスをつけない理由。
梨華ちゃんがあたしの気持ちを受け入れてくれない理由。
全ての理由は一本のラインで繋がっているのだ。
- 8 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時30分25秒
- 「プレゼントありがとね。今日はここでいいよ。」
「そこまで送っていくよ。まだ少し歩かないといけないじゃん。」
「いいの。ひとみちゃん帰るの遅くなるし。」
「なんで・・・なんであたしじゃダメなの。」
梨華ちゃんがハッとあたしを見上げた。
冷静にならないといけない。あせってはいけない。そう言い聞かせていたのに、
あまりにも苦しくて、あたしは彼女を責めてしまう一言を吐き出してしまった。
「ごめん・・・ごめんね・・・。ひとみちゃん・・・・」
走っていく足音が冷たく心に響き渡る。
瞬時に判断をくださなくてはならなかった。
追いかけていくのか、それともこのまま何事もなかったかのように見送るか。
だんだんと小さくなっていくその影を見つめながら、あたしが出した結論は。
- 9 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)16時31分04秒
- >作者
一時終了。
続きはまた今度で。
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月15日(土)19時16分58秒
- サクラサクのスレはまだ容量余ってるみたいだけどもう使わないの?
- 11 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月15日(土)20時15分28秒
- 非常にスレがもったいないから、なんとかしましょう。
たたかれちゃいますよ(w
- 12 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)20時26分11秒
- >10&11名無し読者さま
ご忠告ありがとうございます。
当方勘違いしておりまして、新スレたてちゃったんですね。
すみません。
こちらのスレの方を削除したいんですけど、
どうやってしたらいいのかわかりませんので、
よければ教えてもらえないでしょうか?
削除依頼ってどこにどうやってすればいいのでしょうか?
よろしくご指導ください。
- 13 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)20時38分57秒
- >作者
削除依頼わかりました!!!
早速依頼してみますね。
初歩的なミス、重ね重ね失礼いたしました。
- 14 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月15日(土)20時56分08秒
- >作者
さて、削除依頼を申し込みましたが、
いつ削除されるのかはわかりません。
もししばらくたってもまだこちらが残って
いるようであれば、どなたかご面倒ですけど、
削除依頼してくだされば幸いです。
度々失礼いたしました。
削除確認され次第、こちらの小説を「サクラサク。」
のスレで再開したいと思います。
初心者のミス、どうぞお許しくださいませ。
- 15 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)00時04分50秒
- >作者
連絡事項です。
えー、一応削除依頼してみたんですが、
当管理人のほうから、責任もって2スレ使い切るように
とのお達しがありまして。
それならと思い、これをいい機会とみまして、
こちらでも修行させていただこうかなと。
そう思いました。
ただどちらも同時進行というのは非常に難しいことだと
思います。だけど、せっかくのチャンス。
とりあえず、頑張ってみることにしました。
あちらの『サクラサク。』のスレは甘中心で。
こちらのレスは、甘いのもシリアスなのも、
色んなものあげていければいいかなと、
そう思っています。
このようなことになってしまって申し訳ないのですが、
スレがもったいないと思われないように
頑張っていけたらいいなと思います。
スピードは遅いかもしれませんが、
更新はしていきたないと。
どちらのスレッドも。
よければお付き合いください。
- 16 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)00時07分24秒
- あ、誤字です。
どちらも更新予定です。
おそらく週末にかけての投稿になっていくとは
思いますが、どうぞゆっくりとしたペースで
やっていきますので、応援ください。
では、これより、『繋いだ気持ち』
続けていきたいと思います。
- 17 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)00時09分22秒
「・・・はぁ・・・・はぁ・・・待ってよ・・・」
ガードレールの切れ目から回り込んで、彼女の正面へと立ちふさがった。
「もう・・・これ以上・・・苦しめないで・・・おねがい・・・」
白い息が2人分、夜の闇に立ちのぼる。
「・・・苦しい・・・苦しいほど、あの人のことがまだ好きだって・・・そう言うの?」
梨華ちゃんは視線をアスファルトに落としたまま、
肩で息をしている。
あたしには視線を合わせてくれない。
「やっぱり、ダメだった・・・あの人のこと忘れようって・・・思ってたけど・・・」
ぽたりと地面に落ちた涙が、薄くひろがっていく。
「忘れたいためにあたしと付き合ってたんだ。」
その震える肩をきつく握り締めて、冷たく言い放った。
- 18 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)00時11分15秒
- 彼女がかかえている失恋の傷。
それを埋めるかのようなあたしの存在。
本当は知っていた。
あたしという人間は、彼女の傷口がふさがるまでの、都合のいい存在だってことに。
それでもあたしは梨華ちゃんが好きだった。
消すことの出来ない傷も、あたしならいつか消してしまえると信じていたから。
だけど、現実はそう甘くはなかった。
まだかさぶたすらできていない傷口を広げるかのようなあたしの行動。
あせってはいけない。そう何度も言い聞かせていたはずなのに・・・
「ごめん・・・ひとみちゃんの優しさに・・・甘えてしまっていたの。」
わかってはいたはず。ちゃんと理解していたはず。
だけど、その言葉を聞いたとたん、心に杭を打ち込まれたように
悲しみが突き抜けた。
- 19 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)00時19分43秒
- 「好きだったのに・・・本当に・・・好き・・・だった・・の・・・に・・・」
唇がしびれるほどの寒さは、心を凍てつかせるには十分すぎるほどの冷たさで
体をこわばらせていく。
「だから、苦しかったの。ひとみちゃんの気持ちわかっていたから。
ズルイよね、私のしてること。圭さんの代わりに・・・なんて・・・」
梨華ちゃんの中にはまだ圭の存在が色濃く残されている。
もどかしく、くるおしい想いは、あたしを歪ませていった。
「忘れさせてあげるよ、あいつのことなんて。」
おさえつけるようにして奪った唇は、開かれることなく抵抗していた。
「・・・くっ・・・や・・・・・やめてっ!」
パシンという音は、痛みとともに頭の中に広がった。
- 20 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)00時23分20秒
- >作者
はいどうもありがとうございました。
今日はここで終了です。
それではまた。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月19日(水)11時41分16秒
- 新作、更新お疲れ様でした。
「サクラサク。」も大好きで読ませていただいてます。
修行僧2003さんの描くいしよし、大好きです。
こちらは何だかちょいと痛めですが・・
この先どうなるか、口をあんぐり開けて待ってますw
- 22 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)22時24分16秒
- >21名無し読者さま
ありがとうございます。
あんぐりあけた口に虫が入らないように、
どうぞお気をつけください(w
これからUP予定の話も、痛いです(笑)
今後ハッピーエンドで終わらせる自信
なくなってきました・・・・・。
でも自分自身アンハッピーは無理なので、
無理やりにでもハッピーになれるように
がんばりますので、応援よろしくお願いします。
- 23 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)22時25分55秒
- 「・・・あはは・・・・面白いじゃん。」
悲しいはずの心に、別の新たな感情が生まれてきていた。
突き放された絶望感がすっぽりと体ごと包んでしまってもいいはずなのに、
あたしは笑っていた。
「なにが・・・おかしいの・・・」
手のひらを堅く握って怯えるような眼差しでこちらを見ている。
「おかしい?うん。確かにおかしいかもしれないね。」
「・・・言いたいこと、わかんないよ・・・」
「わからない?それなら教えてあげるよ。」
ビクッと反応した手を掴んだまま、それをぶたれた左の頬にあてた。
- 24 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)22時27分57秒
- 「梨華ちゃんが、はじめてちゃんとした感情を表してくれたから。
それが例え怒りの感情でも。あたしにはすごく嬉しいことなんだよ。
それに・・・あいつの身代わりなんてことは最初から知ってたさ。悔しいけどね。」
怯えていた瞳から、また大粒の涙がこぼれおちていった。
「ご・・・めん・・・」
「いつもあたしは空気を抱きしめていたんだ。心のない人形と言ってもいい。
だけど、今の君には感情がある。振られてしまった後・・・だけどね・・・」
「私・・・私が・・・そこまでひとみちゃんのこと追い詰めていた・・・なんて・・・」
唇の端をひきつるようにあげて、あたしは静かに微笑んでみせた。
「わかんないよ。なんでそんな思いまでして私のこと好きでいてくれたの?」
「それこそわからないさ。梨華ちゃんがあいつのこと好きになったように、
あたしにも好きになる感情があったってだけのこと。」
「私がまだ圭さんのこと好きだって知っていたの?」
「あぁ。でも、いつか・・・きっといつの日にか、梨華ちゃんを振り向かせることが
できるってうぬぼれていたんだ。全くとんだピエロになってしまったけど。」
- 25 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)22時29分17秒
- 諦めにも似たため息が口の隙間からこぼれていく。
受け入れられるどころか拒絶されてしまった気持ち。
それでもあたしはまだ心のどこかで期待していた。もしかしたらって・・・
「ひとみちゃんにはきっと、ステキな人が現れるよ。」
別れ際によくある常套句。
梨華ちゃんがかけてくれた最後にして最大の優しさの言葉は、
一縷の望みをかけていたあたしを谷底まで突き落とした。
「くっ・・・ステキな人・・・ね・・・」
おかしくて涙すら出ない。
「今まで・・・ありがと。何もしてあげられなかったけど・・・」
乾いた心にまるで重さの感じられない言葉だけが通り抜けていく。
「別にいいさ。何を期待していたって訳でもないし。」
だからあたしも必要以上の言葉を重ねなかった。
- 26 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)22時30分15秒
- 「やっぱり、これ、返すね。」
開かれた包装紙の折り目が、きちんと原型を留めた形で差し出された。
「捨ててよ。どうせいらないものだし。」
そう言ってみたけど、彼女はあたしのコートのポケットにそれを詰め込んだ。
「そんなこと、できないから。」
「よほど嫌われたのかな。」
皮肉を込めて言い放った。
どこにももって行きようのない感情が、胸の中でドロドロと渦を巻く。
「嫌ってなんてないよ・・・。私が悪いだけ。全部、私の・・・せい。」
途切れ途切れにつぶやかれた言葉が固まって、
カタンカタンと地面に落ちていくような感じがした。
「それならさ、もう関わることもないだろうから、
最後に一つだけお願いしたいことがあるんだけど。」
- 27 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)22時32分19秒
- あたしの体から熱を奪っていく、彼女の冷たい瞳に見つめられながら、
それでも求めてしまう気持ちが情けないほど陳腐に思える。
そんなバカげた思いをしながらも、気持ちを押し殺してしまう前に、
もう一度だけ、梨華ちゃんに触れたいと願っていた。
「・・・わかった。言って?」
どこかしら哀れみの表情をしていたのは、こちらの未練を
感じ取ったからなのだろうか。
それでも。
「一瞬でいい。あたしのこと本気で好きになって。最後のキスが終わるまで。」
抱きしめた瞬間、震えがきたのはあたしの方だった。
梨華ちゃんがしっかりと抱きしめ返してくれるその心地よい圧迫感が、
全神経を鋭く刺激して、立っていられないほどの興奮を沸き立たせていく。
- 28 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)22時33分26秒
「・・・り・・か・・・・・」
背中を掻き揚げるようにまさぐり、頭を抱え込んで、もう二度と味わうことのない
キスの感触を全身で記憶に留めようとした。
「・・・ん・・・っ・・・・・・・・・」
彼女も精一杯それに応えるように、強く唇を求めてくれていた。
おそらく最後の一瞬は、約束通り、気持ちをこめてしてくれたのかもしれない。
不必要な熱がこれ以上作り出される前に、あたしは唇を離した。
「愛して・・・・た。愛して・・・欲しかった。」
ぎりりと歯をかみ締めた。涙は最後まで見せたくなかったから。
「ひとみ・・・ちゃん・・・」
背中に物悲しい声をうけながら、あたしは振り返ることなくその一歩を踏みしめた。
- 29 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月19日(水)22時35分15秒
- >作者
はい。今日はここまでです。
少しずつですが進んでいきますので、
どうぞご期待ください。
それでは。
- 30 名前:21 投稿日:2003年02月20日(木)00時51分46秒
- 更新、お疲れ様でした。
うぅ〜い、痛い・・痛すぎます(泣)
最後のキスがせつな過ぎます・・
この二人にハッピーな未来が来るように願ってます。
- 31 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時28分30秒
- >21さま
いつもありがとうございます。
少し長編になるかもしれないですね(笑)
これから出てくる2人の人物がキーパーソンに
なってくると思います。
では、続き、ご覧ください。
- 32 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時30分15秒
- 「これやるよ。」
ポーンと投げ上げた包みは、弧を描いてその手に落ちていく。
「なに?いいものでも入ってるの?」
「めっちゃいいもの。真里にはもったいないくらい。」
目を細めながら、真里の後ろに広がる雲を眺めていた。
「なんだろー。」
期待に目を輝かせている表情が、昨日の梨華ちゃんを思い出させる。
あたしは屋上に張り巡らされている、鉄の柵に視線を落とした。
「わぉ♪ピアスじゃん!」
片一方をつまみあげて、キラキラと輝く太陽に掲げて眺めている。
「あたしには似合わないからさ。あげる。」
「マジでー!やったね♪それにしても高そうだねこれ、どうしたの?」
首を傾けてピアスをつけながらそう聞かれた。
「プレゼントしようと思ってた子がいたんだけど、振られちゃったから。」
鉄柵に腕をかけて、伸びをしながらそう答えた。
- 33 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時31分25秒
- 「・・・そっか。よし、それならオイラがもらってやるよ!」
真里は髪をかきあげてこちらに近づいてきた。
「なんだよそれ。もらってやるって。」
昔からずっと付き合いのある友達の優しさに、胸がくすぐられる思いがした。
「どう?めっちゃ似合うんじゃない?」
「おぅ、似合う似合う。真里のためにあるようなピアスだ。」
あたしはおどけて彼女の髪をかき乱した。
「やめろよー。せっかくちゃんと髪セットしてきたのに。」
そういいながらもどこか嬉しそうな顔であたしの手を払いのけた。
「マジ似合ってるよ。」
「・・・ひとみ。その子のこと話せそう?」
急に真面目な顔をして、あたしを見上げた。
「あぁ・・・。ごめん。もうちょい時間かかりそう。そのうち話すからさ。
もうちょっと待ってくれる?」
心の傷などそう簡単に癒えるものではない。
今その話をしたとしたら、きっと泣き出してしまうのは目に見えていた。
- 34 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時32分42秒
- 「・・・うん。話したくなったらさ、聞いてあげるから。オイラを頼っていいよ。」
精一杯のばした手があたしの髪に触れた。
「いつでも頼ってるよ。昔からの友達だからね。」
何も言わずにただ頷いた彼女に、あたしは救われる思いがした。
「午後からの授業どうする?久しぶりにサボる?」
真里はちょっとにやけ気味にあたしの腕にふれた。
「そうだなぁ。でも午後は裕ちゃんの授業あるだろ?
サボるとまたうるさいし。」
「そうだよね。あの三十路、うるさいもんね。」
あたしと真里は笑って屋上をあとにした。
- 35 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時34分22秒
- 午後は、隣のクラスに移動しての生物の選択授業があった。
うちのクラスには逆に、化学を選択した生徒がやってくる。
「準備できた?遅れるとまたうるさいよ?」
真里は授業の用意を手に抱えて、あたしの机にやってきた。
「ちょい待って。よし、それじゃ行こうか。」
席を立って真里の側にたつと、彼女が腕にはめていた原色の
ヘアーゴムを指差した。
「髪くくったほうがピアス映えるよ。その方がかわいいし。」
真里はかわいいという言葉に照れていたけど、
あたしに教科書を預けると、素直に髪を結んだ。
「どう?かわいい?」
「うん。惚れそう。」
バカといいながら腕をつかんで、ひっぱっていく。
あたしも笑っていたけれど、心の中では、あるどす黒い想いをめぐらせていた。
- 36 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時35分37秒
- 教室に入ると、あたしは梨華ちゃんの席に目を移した。
うつむくようにして座っている彼女の背中が見える。
今日は・・・いや、これからもずっとこちらを振り向くことはないのだろう。
「はーい。席についてー。」
裕ちゃんこと中澤先生は、いつものように少しだるそうにして教室の扉を開けて入ってきた。
「えーっと、今日は25日だから、2をかけて10引いてみよう。
おっ、出席番号40番、矢口ーあんたついてるなぁ。ほれ。前でといで。」
裕ちゃんはいつものように訳のわからない独特の数式を用いて、
黒板に書かれた問題を解く生徒の名前を指名した。
「ぐわ。当っちゃったよ。ひとみ助けてよ。」
席をしぶしぶ立ち上がる時にそう声をかけられたけど、
あたしもさっぱりお手上げだったから、
「無理」と告げると、うなだれるように黒板の前にでていった。
「んぁー。先生わかりません。」
「なんやその情けない声は。これ先週やったやつのおさらいやで?
なんとか思い出してみー。」
真里は振り返ってこっちを見たけど、あたしは小さく×のサインを送った。
- 37 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時36分57秒
- 「先生、ヒント!」
「あほか。クイズちゃうねんから自分で考え。」
クラス中にクスクスとした笑いが沸き起こったけど、
梨華ちゃんだけは、じっとうつむいたままだった。
「しゃあないやっちゃなぁ。ほんなら次は・・・
25日に4かけて95を引いてみよう。よし、出席番号5番。石川、交代や。」
指名を受けたのは、梨華ちゃんだった。
その時のあたしの心の中は、暗い海の底のような不透明な感情に支配されていた。
いや、本当はこんな瞬間を心待ちにしていたのだ。彼女がこれから見せるであろう反応に。
「はい。」
小さな声で返事した彼女は席を立つと、特にあわてることもなく、
前へ進んでいった。
「梨華ちゃんバトンタッチ!」
真里がそう言って、チョークを彼女に手渡した。
- 38 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時38分10秒
- =カタン=
「ごっ・・・ごめんなさい・・・手が滑って・・・」
床に落ちたチョークは、乾いた音を立てて割れてしまった。
「なにやってんねん、石川はほんまとろいなぁ。」
裕ちゃんがチョークを落とした梨華ちゃんをからかうようにそう言うと、
クラスのみんなはまたクスクスと笑った。
けれどあたしだけは知っていた。
梨華ちゃんがチョークを落とした本当の理由を。
「どうした石川?あんた顔色悪いで?」
裕ちゃんが覗き込むように彼女の顔色をうかがっている。
「なんでもないです・・・。」
落ちたチョークを拾い上げると、彼女はカツカツと解答を書き出した。
- 39 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時39分41秒
- 「ふわーっ、最悪ー。最初から解けないってわかってるくせに、あの三十路女。
へぇ、梨華ちゃんさすがだね。ねぇ、ひとみ?」
席に着いた真里が話しかけてきたけれど、
あたしは梨華ちゃんのことしかみていなかった。
教壇から降りる時にあたしをどんな目でみるのだろう。
それを思うと、ゾクゾクとした震えが体を痺れさせた。
彼女がチョークを落とした理由。
そう。それは、真里がしているピアスを見てしまったから。
「ようできた。正解や。」
にっこりと笑った裕ちゃんは、もう次の問題を書き込んでいる。
そしてゆっくりと振り向いた梨華ちゃんは、
ほんの一瞬だけこちらに視線を向けると、またうつむいて席に戻っていった。
自分に渡されたプレゼントを他の人がつけているのを知った
彼女の表情は、どこか複雑にあたしには見えた。
諦めきれない思い、暗闇にとらわれて身動きのできない思いが、
あたしを否応なく包んでいた。
- 40 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時40分57秒
1週間後-----------
「ねぇ、聞いた?隣のクラスの梨華ちゃん、凝りもせず
また圭さんと付き合ってるらしいよ。」
お昼休み。
真里が仕入れてきた情報は、もうかなりのスピードで広まっていることだろう。
しかし、動揺せずに済んだのは、いつかこんなことになるのではないかと想像していたから。
学園きっての秀才で、切れ者の圭先輩。
いわゆる、全生徒の憧れの対象であるその彼女と、付き合ったり別れたりする情報は、
この学園にいる限り周知の事実となる。
梨華ちゃんも例に漏れず、破局の情報が流れた。
そう、あたしはそれで彼女に近づいた訳だけれど。
- 41 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時41分54秒
- 「そうなんだ。よくやるね。」
真里はあたしが振られた相手を知らない。
まだそのことについては話していなかったから。
もし話してしまったら、全てが過去のことになってしまうようで怖かったのだ。
あたしの想いは、やはり今でも現在形でくすぶり続けている。
「でも圭さん他の学校にも付き合ってる人いるって噂聞いたこと
あるんだけどな。やっぱもてる人ってやることが違うね。」
真里は笑っていたけど、あたしは笑えないでいた。
また同じ苦しみを味わうことになると知ってて、
梨華ちゃんは彼女の元へ帰った。
それほどまでに惹かれる何かが圭にはあるのだろうか。
そして、あたしに足りないものとは一体・・・
- 42 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月21日(金)22時43分00秒
- >作者
今日はここで終わりです。
ブラックよっすぃー書いてて辛いです・・・。
それではまた後日。
ありがとうございました。
- 43 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時09分04秒
- =石川視点=
今日もまた言えないでいた。
マンションの前まで送ってくれた彼女。
「また明日・・・ね。」
別れ際のキスの後、私は逃げるようにしてロビーに入っていった。
背中に痛いほどひとみちゃんの視線を感じながら。
部屋に帰るとベットに向かってカバンを放り投げた。
崩れ落ちるようにその場にしゃがみこむと、いつものように罪悪感が体を襲う。
「シャワー・・・浴びよう・・・」
自分の中にある嫌な自分をこのまま消し去りたい。
熱いシャワーを顔に受けながら、それでも私は冷たい涙を流していた。
- 44 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時10分33秒
- 『着きました。おやすみ。=ひとみ=』
携帯を開けると、ひとみちゃんからのメールが入っている。
かれこれ30分以上も前のメール。
私はまたため息をもらしながら、たどたどしく返信を打った。
『今日もありがとう。おやすみなさい。=梨華=』
きっと彼女は私のメールを待ってくれているはず。
それは普段から嫌と言うほど感じる彼女の想いが証明していた。
好きという感情をストレートに表してくれる彼女。
いつでも私のことだけを見てくれていて、優しさも有り余るほど注いでくれている。
だけど・・・
私が求めているのは圭さんの愛情。
たくさんの人から、数え切れない程の告白を受けている彼女。
色んな人と浮名を流しているのは、みんなが知っていること。
けれど私は知っていた。
彼女は今までただの一人も本気で愛したことがないのを。
- 45 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時11分36秒
- そう。そして悲しいことに私もその一人だった。
知的で繊細でクール。だけどどこか癒される優しさをもつ人。
誰にでも愛される魅力を兼ね備えた彼女は、
多くの信望者を集めながらも、本当はとても孤独な人だった。
私と付き合っている時ですら、他の人との噂が絶えることがなかった彼女。
それはこの学園にいる人や見たこともない他校の生徒も含めて。
しかし、ステディーな関係でいられたのは私一人。
だからずっと耐えてきた。
鍵をかけてしまっている孤独の扉を開いて、私だけを見つめてくれる時を信じていたから。
- 46 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時13分40秒
「何か楽しいことでもあった?」
圭さんはキャンバスにエッジをたてながらそう聞いてくれた。
他の美術部員はもうとっくの昔に帰宅して、今この寒々しい美術室には
私と彼女の2人しかいない。
「別にないよ。ただ圭さんが絵を描く姿に見とれてただけ。」
真剣に絵に取り組んでいる時の圭さんはすごく素敵で、
私はいつも幸せな気分になる。
「お世辞でも嬉しいね。」
2、3歩離れてそこに立つと、片目をつぶって絵の構図を確かめている。
「本当にそう思っているのに。」
「そう?」
こちらに視線をうつして笑ってくれた笑顔にキュンと胸が弾んだ。
このテリトリーにいる限り、圭さんは『他の誰か』と会うことはない。
私だけの恋人でいてくれる貴重な時間だから、余計に愛しく感じるのかもしれなかった。
- 47 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時15分28秒
- 「ねぇ、それって何の絵なの?」
座っていた机から降り立って、キャンバスの前まで近づいた。
「これ?わたしの夢・・・かな。」
そこに描かれているものはすごく抽象的なものだったから、
結局何を描いているのかは判然としなかった。
頭の中のイメージをモザイクのようにつないでいるのだという。
「もうこんな時間か・・・。梨華はそろそろ帰った方がいいよ。」
「えっ・・・でも・・・」
「今日のうちに仕上げたいの。遅くなると思うから。」
優しい言葉の中に見え隠れしている冷たい感情。
寄せ付けない何かが私を不安にさせた。
「・・・わかった。無理、しないでね。」
「ありがとう。気をつけて帰りなよ。」
また優しい瞳に戻ったのを確認すると、軽く頷いて扉を閉めた。
- 48 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時16分43秒
- 校門から出て一人、夕闇が迫る道を歩いていく。
振り返ると、校舎の4階の端には煌々と明かりのついた教室が見えた。
「せめて暖かいものでも。」
自販機でホットコーヒーの缶を買うと、もう一度校舎へと急いだ。
持っているのも大変なほどの熱い缶を一つ手に握り締めて、
もう一度彼女の顔をみることができることの嬉しさから、階段を駆け上った。
「・・・・いよ・・・・・」
その声は、圭さんのいる美術室から聞こえてきた。
そっと窓から他の誰かがいるのか確認してみたけど、
彼女の他は誰もいない様子。
だけど、私はその扉を開けることができなかった。
彼女がただならぬ雰囲気で、そのキャンバスを見つめていたから。
「・・・・・き・・・」
搾り出すような声とともに、その場にひざまずいた彼女。
- 49 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時18分11秒
- 圭さんは・・・・泣いていた。私が知らない誰かの名前を呼びながら。
「真希・・・会いたい・・・会いたい・・よ・・・・」
胸が張り裂けそうだった。
その子の名前をつぶやきながら、キャンバスの端を強く握り締めて嗚咽していたから。
「誰!」
力なく落としたコーヒー缶の音に気付いた彼女が、こちらに近づいてきた。
私はその場に立ち尽くしたまま逃げることもできないでいる。
「・・・梨華・・・帰ったんじゃ・・・・」
何も言葉が出てこない。
そこにいる圭さんはまるで見たこともないような人のように思えたから。
虚無感を漂わせた表情が、いつもの凛とした空気を剥いでいる。
「見られてしまったんだね・・・」
唇をかみ締めてそうつぶやくと、私の手をとってキャンバスの前に連れて行った。
- 50 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時20分06秒
- ギラギラとした油の絵の具が蛍光灯に反射してる。
ここに描かれているのは、真希という子なのかもしれないと感じた。
「わたしの夢ってさっき言ったけど、これ、本当は心象風景なんだ。」
ぽつりと声が漏れて、静かな教室に広がっていく。
「ずっと追いかけて、追いかけて。やっと抱きしめることができたと
思ったとたんに、シャボン玉のように消えてしまった。」
心が泣いている。彼女の寂しそうな声にそんな想いが伝わってきた。
「真希と過ごした時間、空気、光、風、全てのことが一つの塊になってできたのがそれ。」
私は大きな勘違いをしていたのかもしれない。
圭さんは誰も愛したことがないのではなく、その人だけしか愛せなかったのだ。
失ったものの大きさに耐えることができないから、彼女は他の誰も
愛せないでいたのだ。
- 51 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時21分28秒
- 「・・・真希さん、いなくなってしまったの?」
そう言った後、第三者のような気持ちで彼女を見ている自分に気がついた。
「この世界にはもう、いないよ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「明日が真希の・・・2回目の命日。」
彼女のもつ孤独の扉は開かれた。と同時にそこに私が入り込む余地などないことに
気付かされた。
「私・・・どうしたらいい?圭さんの助けに・・・なれる?」
彼女はキャンバスをしばらく見つめた後、静かに首を振った。
「ごめん・・・。まだここに真希がいるんだ。あたしの心の中に。」
もうそれだけで私がここにいる価値など無に等しいことを思い知らされた。
「諦めなきゃいけないね、私。」
「来るもの拒まず。だけど去るものは追わないよ。梨華の好きにしたらいい。」
悲しみは突然音もなく現れる。
私はまた一人で教室をあとにした。
- 52 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)00時40分17秒
- >作者
すみません、いきなり訂正ですが(w
44投稿の『彼女は今までただの一人も本気で愛したことがないのを。』
ってくだり。なかったことにしてください(笑)
これを書いちゃうと時間軸が崩れてしまうことに今気付きました・・・。
梨華ちゃんが真希の存在&圭の心の傷を知ったのは、
ひとみと付き合う前のことです。
梨華ちゃんはそれを知って圭と別れ、その後ひとみと
付き合うことになった訳です。
作者の稚拙な文章でわかりにくいかもしれませんが、
今投稿しているのは、梨華ちゃんの回想です。
これは、時間軸的にみて、まだひとみと付き合っている
時のことです。
おわかりいただけましたでしょうか?
それでは。また。
- 53 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)01時30分39秒
- >作者
さて、44の訂正版の投稿をします(w
以下、このようになりました。
『着きました。おやすみ。=ひとみ=』
携帯を開けると、ひとみちゃんからのメールが入っている。
かれこれ30分以上も前のメール。
私はまたため息をもらしながら、たどたどしく返信を打った。
『今日もありがとう。おやすみなさい。=梨華=』
きっと彼女は私のメールを待ってくれているはず。
それは普段から嫌と言うほど感じる彼女の想いが証明していた。
好きという感情をストレートに表してくれる彼女。
いつでも私のことだけを見てくれていて、優しさも有り余るほど注いでくれている。
だけど・・・
私が求めているのは今でも圭さんの愛情だけ。
それは真希さんの存在を知った後でも。
誰も本気で愛さない人なのかもしれないと、あの時の私は思っていた。
そう思わせるほど、色んな人と浮名を流していたから。
- 54 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月23日(日)01時32分43秒
- >作者
・・・と、まぁこうなるはずでした。
今後このような失敗はないように致しますでの、
これからもどうぞ読んでやってください。
それでは、本日はこれにて。
失礼致しました。
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月24日(月)00時32分17秒
- 凄くいいです!!おもわず初レスするぐらい(w
続きが楽しみにしてます。
- 56 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時47分24秒
- >55名無し読者さま
ありがとうございます。
全くもってレスがなかったので、
きっとこの痛い小説にみんな耐えられなくて
逃げていってしまったのだと思っていましたから(w
しかし、今回UPするので、ほんの少し、
明るい光が射してくるように思います。(笑)
それでは、続き投稿しますので、
逃げずに読んでやってください(笑)
お願い致します。
- 57 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時49分03秒
- まだ生々しい苦い記憶と、ひとみちゃんの苦しいほどの優しさに押しつぶされそうになりながらも、
今日もまた彼女と会う約束をしていた。
「ごめんね。ちょっとトイレ行ってくる。」
そう言って席を離れた彼女。
圭さんと別れたあと、もう誰とも付き合うつもりなんてなかったけど、
ひとみちゃんの優しさが私の心にわずかな光をもたらしてくれたから、
友達の延長線という曖昧な関係として、付き合うことになってしまった。
ひとみちゃんはすごく優しい。いつでも私のことを思ってくれている。
だけど私はどこかでいつも圭さんと比べていた。
なんてひどい女なのだろう・・・。
きっと、そんな自分に対する罰なのだろう。
私は圭さんの『身代わり』としてしか彼女をみることができない自分に、
いつしか嫌悪感を抱くようになっていた。
自分勝手で傲慢で、思いやりのない私の行為。
彼女の優しさは、結局自分自身を苦しめるだけという結果をもたらしたに過ぎなかった。
- 58 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時50分07秒
- 優しくされればされるほど、罪の意識は大きくなり、私を苦しめる。
「圭さん、私どうすればいいの?」
2人でとった携帯の画像をみつめながら、答えを模索していた。
そこへこちらにくる足音が響いてきた。
携帯を閉じると、そのまま何事もなかったようにカバンにしまい込んだ。
「おまたせ。そろそろ出ない?」
「うん。そうだね。」
ファミレスを出て私の家の方向に進んでいく2人。
静かな住宅街に近くなると、ふいに手をつかんできた彼女。
指を絡ませて握りなおしたその行為が、ぎゅっと胸を締め付ける。
これ以上優しくしないで・・・
そんな想いとは裏腹に、ひとみちゃんはもう少し私といることを望んでくれていた。
- 59 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時53分31秒
- 通り過ぎていく車のヘッドライトが、汚れた心に影を作り出していく。
「これ。今月バイト代思ったよりもらえたから、プレゼント。」
そう言って渡してくれたのは、四角い小さな箱だった。
「ありがとう。あけてもいい?」
「もちろん。」
嬉しくなかったと言えば嘘になる。
だけど、どこか演技をしているような嬉しさを見せていたことに
自分でも気がついていた。
そんな私の行為を試すかのように、箱の中から出てきたものは・・・
「あ・・・ピアス・・・」
「見たとこ、ずっと同じやつつけてたからさ。たまにはこういうのも
どうかと思って。気に入ってもらえたら嬉しいけど。」
そう。今つけているピアスは圭さんからプレゼントしてもらったもの。
別れた後でもずっと外せないでいたものだ。
「ステキね。ありがとう。」
そう言うのが限界だった。
「今つけてみる?」
期待しているひとみちゃんの視線。
- 60 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時55分02秒
- 確かにステキなピアスだった。
だけど今の私には、圭さんのピアスだけが彼女と私を繋ぐたった一つの
スーベニールのような気がして、とてもそれをつける気にはなれなかった。
「また今度でもいいかな・・・」
「・・・うん。そう・・・だね。」
明らかに彼女の声のトーンが下がっていた。
心の奥にある圭さんへの気持ちに、、ひとみちゃんは気付いたかもしれない。
「プレゼントありがとね。今日はここでいいよ。」
「そこまで送っていくよ。まだ少し歩かないといけないじゃん。」
「いいの。ひとみちゃん帰るの遅くなるし。」
「なんで・・・なんであたしじゃダメなの。」
やっぱり彼女は気付いていたのだ。
見上げた瞳が苦しげに私に注がれていた。
- 61 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時55分53秒
- 「ごめん・・・ごめんね・・・。ひとみちゃん・・・・」
罪悪感が一気に襲い掛かり、もうその場にいることすらできないくらい
私の心は追い詰められていた。
そして・・・気がつけば、逃げ出していたのだ。
「・・・はぁ・・・・はぁ・・・待ってよ・・・」
そんな私を追いかけてきた彼女。
「もう・・・これ以上・・・苦しめないで・・・おねがい・・・」
胸が痛くて息ができない。
「・・・苦しい・・・苦しいほど、あの人のことがまだ好きだって・・・そう言うの?」
ひとみちゃんは圭さんの存在を私に突きつけてきた。
身勝手な行為が生んだ重い罰を咎めるように。
- 62 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時57分00秒
- 「やっぱり、ダメだった・・・あの人のこと忘れようって・・・思ってたけど・・・」
ぽたりと地面に落ちた涙が、薄くひろがっていく。
「忘れたいためにあたしと付き合ってたんだ。」
押しつぶされそうな痛み。
だけど、このまま逃げてばかりいては、ひとみちゃんのことも
更に苦しめてしまうことになる。
「ごめん・・・ひとみちゃんの優しさに・・・甘えてしまっていたの。」
「好きだったのに・・・本当に・・・好き・・・だった・・の・・・に・・・」
わかっていた。その想いがどれほどのものかも。
「だから、苦しかったの。ひとみちゃんの気持ちわかっていたから。
ズルイよね、私のしてること。圭さんの代わりに・・・なんて・・・」
胸のうちをさらけ出して謝罪したかった。
しかしそれを遮るかのように奪われた唇。
「・・・くっ・・・や・・・・・やめてっ!」
右手が彼女の頬を激しく打ちつけていた。
本当に殴られるべきは私のほうなのに。
- 63 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時57分55秒
- 「・・・あはは・・・・面白いじゃん。」
その反応に、体が固まる。
「なにが・・・おかしいの・・・」
「おかしい?うん。確かにおかしいかもしれないね。」
「・・・言いたいこと、わかんないよ・・・」
「わからない?それなら教えてあげるよ。」
ひとみちゃんは私の右手をとって、ぶたれた方の頬にあてた。
「梨華ちゃんが、はじめてちゃんとした感情を表してくれたから。
それが例え怒りの感情でも。あたしにはすごく嬉しいことなんだよ。
それに・・・あいつの身代わりなんてことは最初から知ってたさ。悔しいけどね。」
最初から・・・・・・。
彼女は全て知っていたのだ。
私が犯した罪を。
- 64 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)21時59分01秒
- 明らかになった汚れた想い。
でも、もうこれでひとみちゃんが苦しむこともない。
いや、私がこの苦しみから逃げ出したかったのだ。
「ひとみちゃんにはきっと、ステキな人が現れるよ。」
解放してあげたかった。
解放されたかった。
この言葉の意味を彼女がどんな思いで受け取るかは想像に難くなかったけど。
ほんの数分前にもらったピアスを、別れる念押しのように差し出した私。
全て私が悪いのだ。
「それならさ、もう関わることもないだろうから、
最後に一つだけお願いしたいことがあるんだけど。」
なんて悲しい瞳をするのだろう。
そんな目で私をみないで・・・・・・・
- 65 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)22時01分07秒
- この罪が許されるのなら、私は土下座しても厭わない。
その程度で許されるものだとは思わないけど。
だけど、彼女が口にした言葉は。
「一瞬でいい。あたしのこと本気で好きになって。最後のキスが終わるまで。」
その言葉に自分の罪の大きさを嫌と言うほど思い知らされた。
こんな身勝手な私に、それでも気持ちを求めてくれているひとみちゃんの
痛いほどの心が、私を切なくさせる。
しっかりと抱きしめて、その気持ちに応えたい。
それが今の私にできる精一杯のことかもしれないから。
今この瞬間だけは、ひとみちゃんの本当の彼女になってあげたかった。
「・・・り・・か・・・・・」
激しく求め合うキス。
最後のキスは悲しく、甘く、底が見えないほど私を溺れさせていた。
- 66 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)22時02分10秒
「愛して・・・・た。愛して・・・欲しかった。」
辛い恋愛に別れをつげるその言葉の重みに、
胸が締め付けられていく。
「ひとみ・・・ちゃん・・・」
これでよかったのだ。
ひとみちゃんの真っ直ぐな心は、歪んでしまった私には
とても純粋すぎて、重かったのだから。
だけど私は、知らないうちに彼女の名前を呼んでいた。
去り行く背中を見つめながら。
- 67 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月24日(月)22時04分40秒
- >作者
はい、どうもありがとうございました。
今日はこれにて終了です。
さて、これから梨華ちゃんとよっすぃーは
どうなっていくのでしょうか!?
作者にも読めません・・・。
ハッピーエンド目指して頑張るのみです。
どうぞ応援ください。
- 68 名前:30 投稿日:2003年02月25日(火)00時37分12秒
- 更新、お疲れ様でした。
今度は梨華ちゃん視点ですか。これまた痛いです・・
圭ちゃんにも何だかワケありの過去がありそうですね。
しかし、痛さも甘さも表裏一体なのがいしよしというものです!
この先、どんな展開になるのでしょうか!?
次回を楽しみにしておりますよ。
- 69 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時46分23秒
- >30さま
レスつけていただき、ありがとうございます。
ほんとね、やる気がでてきましたよ!
いつもありがとうございます。
さて、今回の投稿で、梨華ちゃんの気持ちが
徐々に揺れだしていきます。
(やっとですが(笑))
今後の甘展開への布石ですので(笑)
どうぞ読んでやってください。
- 70 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時48分08秒
- お昼休みもそろそろ終わる頃、教室に隣のクラスの生徒たちが入ってきた。
選択授業のこの科目は、隣のクラスとの合同習得科目となっている。
いつもなら振り向いてひとみちゃんに笑顔を見せるけど、
昨日あんな別れ方をした後では、さすがに目を合わせることはできない。
私はうつむいたままじっと、周りの話し声だけを耳にしていた。
ほどなく中澤先生が現れると、にぎやかだった教室に静けさが訪れた。
背中に感じるひとみちゃんの気配。
私はそっと目を閉じて、余計なことは考えないように努めていた。
- 71 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時48分58秒
- どこか上の空で授業を受けていた私の耳に響いてきたクスクス笑い。
その声に反応して目の前の黒板を見ると、真里ちゃんが問題に手こずっている姿がみえた。
「しゃあないやっちゃなぁ。ほんなら次は・・・
25日に4かけて95を引いてみよう。よし、出席番号5番。石川、交代や。」
名前を呼ばれてドキリとしたけど、先週のおさらいのその問題は、
ノートを一瞥しただけで簡単に答えがわかるものだった。
しかし、問題は別のところにある。
教壇から降りる時に、ひとみちゃんと目が合うのが怖かったのだ。
私は小さな声で返事をすると、そのまま黒板へ向かった。
うつむいていれば、ひとみちゃんの視線とぶつかることもないだろう。
- 72 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時49分53秒
- 「梨華ちゃんバトンタッチ!」
真里ちゃんがそう言ってチョークを手渡してくれた。
小柄なのに元気でかわいい真里ちゃん。
しかし、その顔を見たとたん、体から血の気が引く思いがした。
=カタン=
「ごっ・・・ごめんなさい・・・手が滑って・・・」
床に落ちたチョークは、乾いた音を立てて割れてしまった。
「なにやってんねん、石川はほんまとろいなぁ。」
クスクス笑いがまた沸き起こる。
だけどそんなことはどうでもよかった。
私が目にした真里ちゃんのピアス。
それは昨日、私がひとみちゃんからもらったものだった。
- 73 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時51分16秒
- 一度つき返した所有権は、当然ひとみちゃんのもの。
誰にあげようが、捨てようが、私の権利が及ぶものではない。
でもよりによって、昨日の記憶を呼び覚ませるようなものを
見せつけられるとは・・・・。
私は、複雑な思いに襲われていた。
もしかしたら、ひとみちゃんは故意にそうしたのかもしれない。
決別の意思を表すためか、はたまた別の思惑があるのか・・・
あてつけととってしまうのはこちらの気持ちが歪んでいる証拠なのだろうか。
単に彼女はいらなくなったそれを友人にプレゼントしただけかもしれない。
あるいは真里ちゃんに対して好意をもっていたのかもしれない。
色んな思いが胸の中を駆け巡った。
- 74 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時52分38秒
- 「どうした石川?あんた顔色悪いで?」
中澤先生がそんな私の顔を覗き込んで心配していた。
「なんでもないです・・・。」
落ちたチョークを拾い上げると、私は何も考えないようにするために、
黒板にだけ意識を集中させた。
「ようできた。正解や。」
黒板の桟にチョークを置くと、ゆっくりと振り返った。
見ないでおこう。
そう思っていたのに、私は一瞬ひとみちゃんを確認するかのように見てしまった。
私の視線を待っていたと思われるその表情。
その瞬間、彼女は唇の端を少しあげてこちらをみていたのだ。
やっぱりあのピアスは私の気持ちを動揺させるための
小道具だということを、その時直感した。
そして・・・・
私はその思惑通りに動揺してしまったのだ。
自分から切り離した人がしたその行為は、
私の中に意味不明の嫉妬心の種をわずかに植えつけてしまっていた。
- 75 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時53分51秒
「圭・・・さん・・・・」
あの日、美術室で別れた2人。
そして再会したその場所も同じ場所。
「梨華・・・どうしたの?」
圭さんは他の部員に手を振って別れると、こちらに近づいてきてくれた。
「なんとなく顔みたくなって。」
「ふふ。よく来てくれたね。正直嬉しいよ。」
圭さんはそう言って柔らかく笑うと、私の髪をクシャッとなでた。
「ファミレスでも寄ってく?」
「・・・いいの?」
「なーに遠慮してるのよ。何か話したいこと、あるんでしょ?」
何も言わなくてもちゃんと私のことわかってくれている。
キューンとする懐かしい笑顔。
こんな何気ない優しさに、私はいつも惹かれていた。そう、それは今も変わらず。
- 76 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時55分17秒
「何悩んでるんだ?」
運ばれてきたジュースに手をつけながら、圭さんはそう言った。
「悩んでるように見える?」
私は両手で頬杖をつきながら彼女の所作を眺めていた。
「じゃないとわざわざわたしのとこになんて来ないでしょ?」
笑顔でいるのにどこか鋭い視線の彼女に私はたじろいだ。
「圭さんには何でもわかってしまうのね。」
「そりゃぁ伊達に彼女務めてた訳じゃないしね。」
クスリと笑ってまた一口、ジュースを飲み込んだ。
「それなら私の今の気持ち、わかってもらえるよね。」
「今の・・・気持ち?」
「まだ圭さんのこと好きなんだよ。真希さんのこと知った後でも。」
そう言ったとたん、視線を上に向けた彼女。
やはり言うべきことじゃなかったのかもしれない。
- 77 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時56分25秒
- 「そう。で、梨華はどうしたい訳?」
どうしたい・・・
決定権をこちらに委ねるその言葉。
真希さんが心の中にいることを踏まえた上で、答えを私に求めているのだ。
「もう一度、あなたと一緒に過ごしたい。」
「・・・・・・・わかった。梨華がそう思うなら。」
「本当にいいの?」
「うん。でも。」
「でも?」
「知っているかもしれないけど、わたしには他の学校にも交流を持っている女友達がいる。
梨華がきっと納得しない付き合いにある友達が。」
「知ってるよそんなこと。私と付き合ってる時にも他の子にちょっかい出してたじゃない。」
あははと笑って足を組みなおした圭さん。
ここまでどうどうとされると、返って何も思わないのかもしれない。
- 78 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)22時57分54秒
- 「ちょっかいって言うよりも、向こうが勝手にわたしの周りをうろちょろしてた
だけだけどね。」
「来るもの拒まずが信条だから?」
私もやっとジュースに手をつけた。
以前なら考えられないことだけど、圭さんが他の子といるのを想像しても
ヤキモチのような感情はなぜか現れないでいた。
「そうだね。一度きりの人生だから。わたしはわたしのやり方で生きていきたいから。」
ウンと頷いた私。
でもその瞬間、すごく刹那的にある人の顔が浮かんできた。
私が手ひどく振ってしまったあの人、私だけを好きでいてくれたあの人の顔が。
- 79 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月25日(火)23時05分08秒
- >作者
今日はここまでになります。
これからが腕のみせどころですが、
果たして上手く書くことができるのか。
梨華ちゃんのこころの動きにどうぞ
注目して読んでみてください。
では、また後日。
- 80 名前:68 投稿日:2003年02月26日(水)01時49分58秒
- う〜ん、梨華ちゃんが揺れ始めましたねぇ。
知らない間にココロに吉が入り込んで来ていたのでしょうか。
ここからどう甘い展開に進むのか、楽しみです。
次回も期待してますよほ。
- 81 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時19分58秒
- >68さま
お運びいただき誠に感謝!
本当にありがたく思っておりますよ。
さて本日もちょろっとだけUPしたいと思います。
では、読んでやってください。
- 82 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時22分04秒
- それから数日後、私と圭さんの復活の噂が校内に流れた。
嫉妬心に満ちた視線が教室でも、廊下でも、校庭でも否応なく突き刺さる。
きっとこの噂・・・いや、真実はもうひとみちゃんの知るところとなっているだろう。
朝早く学校に来て、教室も出ることなく過ごし、帰りもそのまま美術室へ直行するから、
今日まで彼女と直接顔を合わせることはなかった。
ただ彼女の姿を遠目で見かけたことは何度かあったけど。
ひとみちゃんはこの頃特に真里ちゃんと仲がいいように見える。
以前は私のクラスによく遊びにきてくれたり、放課後も
バイトがない時はよく2人でいたけど、もちろん今ではそんなこともない。
遠巻きに見る2人の表情はすごく楽しそうで、
時にじゃれあったり肩に手をかけたりと、いい雰囲気が伺えた。
- 83 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時26分33秒
- 案外簡単に私のことなんて忘れてしまったのかもしれない。
あれだけ好きだと言ってくれたのに。
「何考えてるんだろ・・・・・・・・」
その疑問はひとみちゃんに対してではなく、自分自身に対しての疑問。
どこかで私はズルイ考えを持っていた。
あれだけひどく傷つけてしまったのに、ずっと好きでいてもらいたい・・・
そんな傲慢で自分勝手な思いが心のどこかに存在していた。
「顔でも洗ってこよう・・・」
ため息混じりにぽつりとつぶやくと、廊下の端にあるトイレへと向かった。
- 84 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時27分53秒
- 「きゃははは。やめろよー。」
「だってちょー面白いんだもん。真里の頭つかむの。」
「くっそー。オイラもあとちょっと背が高かったら反撃するのに!」
「ちょっとじゃないだろ?かなり伸びなきゃあたしの頭つかむことなんてできないよ?」
「ムカツクー!」
「それってカルシウム不足だね。そうか、だからチビっこなんだ。」
瞬間的に足が止まった。
前方に仲よくこちらに向かってくる2人の姿が見えたから。
ほんの一瞬だけ目が合ったわたしたち。
そしてそこにあったのはさっきまでの楽しそうな雰囲気からは一転した無表情の瞳。
だけどすぐにひとみちゃんは真里ちゃんに視線を落とした。
私もまた、視線を廊下へと落とした。
- 85 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時34分48秒
- 「なぁ真里。今日帰りに家寄ってもいい?」
そう言ってぴったりと寄り添うように肩に手をまわした。
うつむいていても視界の端っこにその光景がひっかかる。
「いいよ。でも最近よく家くるね。さてはお菓子目当てだな?」
「違うよ。あたしは真里目当てさ。」
「なーに言ってるんだよー。あ、梨華ちゃん。おいっす!」
どうしよう・・・・・・
瞬間心の中でモヤモヤとする葛藤が沸いてきて、私は顔をあげることすらできないでいる。
なんだろう、この気持ちは・・・・・・・・・・・
「・・・うん。」
結局軽く頷いただけで、そのまま逃げるように教室に入っていった。
あの日植えつけられた種は、静かに芽吹き始めていたとも知らず。
- 86 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時38分07秒
「どうしたんだろね、梨華ちゃん。噂のこと聞かれるの嫌だったのかな?」
「さあね。さっ、うちらも早く用意しないと。裕ちゃんの授業始まっちゃうよ。」
2人のシルエットがすりガラス越しに消えていった。
- 87 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時39分46秒
=吉澤視点=
「軽く屋上で気晴らしでもしない?」
「んあ?いいけど。でも外寒いよ?」
「いいじゃん。ここ空気悪いし。行かないならあたし一人でいくけど。」
「待ってよー。オイラも付き合うよー。」
梨華ちゃんの噂のダメージは、今のあたしにはまだ直接響いてきていなかった。
ある程度わかっていた範囲内のことだったから。
けれど心にある傷にじわじわと到達するだろうことも、また容易に想像できた。
心の浸透圧は上手く調節できないのがもどかしい。
- 88 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時41分11秒
- 屋上の扉をあけると、冷たい風が一気に体を突き抜けていき、
それはまるであたしの中にある、全ての思いを浄化していくように感じられた。
「さみーっ!!!凍えるぜ!!!」
真里が肩をすくめてブルブルと震えながら叫んでいる。
「気持ちいいじゃん。暖房ばっかかかってたら体弱くなるよ。」
大きく一歩を踏み出して、端っこの柵めがけて駆け出した。
「ぐへーっ熱いねー。まるで青春ドラマみたい。」
- 89 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時42分31秒
- 耳元でごうごうと風が鳴る。
この勢いのままジャンプしたら、目の前にある柵ですら飛べそうな感覚。
一気に落ちて粉々に砕けたとしたら、この気持ちも消えてしまうのだろうか。
「おーい!どこまでいくんだー!」
はぁはぁと息をついてその声に振り返ると、真里が手を振っている姿が遠くに見えた。
「真里もきなよー!」
大声で叫んだのは、真里を呼ぶためだけではなく、
ストレス発散のいい機会だと思ったから。
「よーっし。待ってろぉー。」
二つに分けた髪がぴょこぴょこと跳ねて、とてもかわいらしく踊っている。
「・・・・はぁっはぁっ。疲れるーっ!」
文句をいいながらも、その顔はどこか楽しげに見える。
- 90 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時43分44秒
- 「ほらもうちょっと!走れっ!」
あたしは腕を広げて彼女がここにくるのを待ち受けていた。
「はぁっ・・・はぁっ、息・・・きれるよ・・・・」
大きく息を吸い込みながら、あたしの腕の中で肩を上下させている。
「気持ちいいでしょ。たまに走ると。」
「へばったよ・・・はぁーっ・・・」
胸に抱きしめた小さな体。
誰かを抱きしめるのはあの時以来。
激しく求め合った最後のキスが、フラッシュバックしていく。
「いつまで熱い抱擁しているつもりなの?」
どれくらいそうしていたのかはわからないけど、
真里の声であたしは現実に戻された。
「くふっ。ごめん。」
2人の笑い声が高い空まで届くかのように響いていく。
- 91 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時47分50秒
- しかし、その笑い声を止めるかのように、真里が大きく息を吸い込んだ。
「オイラのこと好きになったらいいのに。」
腕にしがみついたまま真里が早口で告げた。
冗談だろうか。それとも失恋したあたしを慰めるための友人としての気持ちだろうか。
それとも・・・・・・・・・・・
こちらが言葉を出す前に、真里はあたしの頬をぎゅっとつかんだ。
「なーんてね。冗談だよーん。」
「んだよ。一瞬マジで考えたじゃんか。」
あたしも真里の頬を軽くつねって互角のまま休戦状態。
「やっぱ寒いや。教室戻ろ?」
「んぁ。その前にそのつまんだ手離してくれない?」
「やだ。先にひとみが離しなよ。」
「いいよ。でも離す前に。」
あたしはべーっと舌を出して、更にもう一方の頬をつまんでから扉へと駆け出した。
- 92 名前:修行僧2003 投稿日:2003年02月26日(水)23時56分16秒
- >作者
今日はここまでです。
いつもお付き合いいただきありがとうございます。
それでは。
- 93 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月27日(木)00時57分26秒
- 毎回、更新かなり楽しみにしてます!!
気の利いた事は言えないんですが、頑張って下さい!!!
- 94 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月01日(土)11時07分02秒
- 今頃、このスレ発見(バカ)
あやうく、こんな名作を見逃すとこでしたよ
やっぱ修行僧様の小説イイッすね
泣きまくりですハイ
- 95 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時16分47秒
- >93名無し読者さま
ありがとうございます。
楽しみにしていてもらえるって言葉、
本当に嬉しかったです。
拙い小説ですが、どうぞ最後までお付き合いください。
お願い致します。
>ラヴ梨〜さま
毎回暖かいレスつけていただき、心躍る思いです。
今回のはかなり痛目ですが、そろそろ佳境に入って
いきますので、どうぞ応援ください。
最後にどれだけ甘さが出せるかが勝負所です。
- 96 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時18分34秒
- 「もー。なにも両頬つまむことないだろー。」
「ボケーッとしてる方が悪いんだよ。」
「んだと、このーっ!オイラにもつまませろ!」
笑い声が鉄筋の校舎の中に響き渡っていく。
あたしたちはまるで子供がじゃれるかのようにして階段を駆け下りていった。
真里といると自然と楽しい時間を過ごすことができる。
昔から変わることのない優しい空気。
梨華ちゃんと別れてしまった今のあたしには、
これまで以上になくてはならない存在のように思えた。
- 97 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時19分42秒
- 「んしょっと。」
「おいっ!なんでオイラの頭つかむんだ?」
「なんでって。つかみたいから。」
「理由になってないじゃん!」
ゲラゲラと笑いあいながら2階へと降り立った。
真里をからかうのはとても面白い。
「きゃははは。やめろよー。」
「だってちょー面白いんだもん。真里の頭つかむの。」
「くっそー。オイラもあとちょっと背が高かったら反撃するのに!」
「ちょっとじゃないだろ?かなり伸びなきゃあたしの頭つかむことなんてできないよ?」
「ムカツクー!」
「それってカルシウム不足だね。そうか、だからチビっこなんだ。」
楽しくふざけていたあたしたち。
だけど、次の瞬間、目の前にいるその人を見て、あたしの心はズキンと痛むことになった。
- 98 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時21分46秒
ほんの一瞬立ち止まったその人。
---梨華ちゃんはその時あたしを見ていた。
『『『また圭さんと付き合ってるらしいよ。』』』
さっき聞いたその言葉が脳裏に浮かんでくる。
どうしようもなくもどかしいこの気持ち。
できることなら圭から奪い取りたい。
だけどあたしが取った態度はまったく正反対のものだった。
さっきまでの笑顔を消して、冷たい視線を彼女にむけると、
あたしは真里に視線を落とした。
「なぁ真里。今日帰りに家寄ってもいい?」
ぴったりと寄り添うように肩に手をまわす。
「いいよ。でも最近よく家くるね。さてはお菓子目当てだな?」
「違うよ。あたしは真里目当てさ。」
「なーに言ってるんだよー。あ、梨華ちゃん。おいっす!」
梨華ちゃんは、視線を落としたまま顔をあげないでいる。
「・・・うん。」
結局軽く頷いただけで、教室に入っていった彼女。
「どうしたんだろね、梨華ちゃん。噂のこと聞かれるの嫌だったのかな?」
「さあね。さっ、うちらも早く用意しないと。裕ちゃんの授業始まっちゃうよ。」
- 99 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時23分57秒
今日の生物の授業でも、やはり梨華ちゃんがこちらを振り向くことはなかった。
「メールチェックしてるのー?」
真里が部屋の扉を開けて、ミルクティーとケーキを運んできた。
「んー?真里のバカ面でも撮ってやろうと思って用意してたんだ。」
さりげなく切り替えた画面。さりげなくついた小さな嘘。
さっきまでそこに映っていたのは、たった一枚だけ残していた『未練』。
「ひでっ!誰がバカ面なんだー!」
小さなテーブルにそれを置くと、飛びかかるようにじゃれてきた。
「あはは。やめろー。」
「どうだ。まいったか!」
身動きを封じるかのように頭を押さえつけられたけど、その軽い体重は
あたしにすれば問題のない重み。
ごろんとソファーに寝転んで、今度はこっちが頭を抱えてその体を羽交い絞めにした。
「どうだ。降参するか?」
得意げにそう言って、もがいている真里をさらに強くかかえこんだ。
「くっ、苦しいー。ギブ。」
「へへん。またまたあたしの勝ちっ!」
ふーっと息をついて離したその体。
「ひとみには勝てないね。」
ちょっぴり悔しそうにつぶやきながらも、笑った顔であたしを見つめている。
- 100 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時27分14秒
だけど、なぜか突然少しの沈黙が訪れた。
どこかためらうような雰囲気を漂わせている彼女に、こちらも押し黙ってしまう。
やがてぽつりとその至近距離にある唇から言葉が紡がれた。
「ひとみは大きくなったよね。中学入った頃まではそんなに背も変わらなかったのに。」
あたしの上に体を預けたまま、どこか懐かしむような表情をしている。
「15cmは伸びたかな。高校生になっても真里は小さなままだけどね。」
いつもの冗談にまた反撃をくらうかな?と身構えたけど、彼女はクスリと笑っただけ。
「背だけじゃないよ。ひとみはすごく・・・綺麗になった。」
いつもふざけている相手からそう言われて、どう反応したらいいのか戸惑ってしまった。
「なんだよ、なんかいつもと違うじゃん。調子狂うなぁ。」
またクスッと笑った真里。しかしその笑顔が徐々に変わっていった。
「マジで、どうしたんだ?変だよ、真里?」
何かを思いつめたような瞳。
あたしの体に緊張が走っていく。
- 101 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時29分06秒
- 「ピアスの彼女のこと・・・もう忘れなよ・・・。」
あたしを組み伏したまま見つめるその視線はひどく真剣に注がれている。
「ひとみを見てると苦しくなるよ。ふざけてんのに寂しいって気持ち伝わってくるんだもん。」
見透かされていた。何もかも。
心に鈍い痛みが広がっていく。
「・・・忘れることなんてできないんだ。情けないけど・・・ね。」
視線を外すことができないくらい、その瞳があたしを切なげに見下ろしている。
「ひとみが苦しい思いをしてるんなら、オイラにも半分わけてよ。少しは楽になれるかもしれないよ。」
「真里・・・・・・」
「その子のこと忘れなくていいから・・・オイラと付き合って。お願い。」
そこにいたのは、昔からバカやってきた幼馴染の女の子ではなく、
真剣に思いを打ち明ける、一人の女性としての姿。
「だめだよ、真里を泣かせることはできない。」
「泣いたっていいから。ひとみが好きだから・・・」
降りてくる唇。
それをよけることは、その時のあたしにはできなかった。
- 102 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時30分21秒
家に帰ると、脱力感に襲われ、そのままベッドに沈んだ。
『『『ひとみが好きだから・・・』』』
初めて知らされたその思い。
そして結果的に受け入れてしまった唇。
「何やってんだ・・・あたしは・・・・」
思えば誤解させてしまうような言動があったかもしれない。
だけどそれは友達だと信じていたからしていたことであって、
決して真里の気持ちを揺らそうだなんてことはこれっぽっちも考えていなかったこと。
しかし、今現実に動き始めた新しい関係。
- 103 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時31分37秒
- 「梨華ちゃん・・・」
真里には悪いと思いつつも、思い出すのは梨華ちゃんのことばかり。
冷たい態度を取ってしまったことが、後悔の波として気持ちをふさいでいく。
あたしは子供だ。それもひどくすれている子供。
梨華ちゃんが真里のピアスを見てどう感じるか。
真里と仲良くしている姿を見てどう感じるか。
好きな思いがあるからこそ取ってしまった冷たい態度。浅はかな言動。自虐的な行為。
全ては諦めきれない思いがさせたことだと考えるのはあまりにも無責任だけど。
振られた後も、圭と寄りを戻したと知った後も、あたしが見つめていたのは
梨華ちゃんだけだった。
あたしは何がしたかったのか。その答えは自分の中では明瞭に示されている。
- 104 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時39分06秒
- そう・・・あたしは梨華ちゃんの視線を集めたかったのだ。
あたしを意識してもらいたかった。
少しでもいい。嫉妬して欲しかったのだ。
気持ちを拒まれてしまった今でも好きで好きでたまらないから。
「バカじゃん、あたし・・・最低・・・」
涙がベッドにしみ込んでいく。
今のあたしが真里にしていることは、あの時の梨華ちゃんと同罪。
「こんなに苦しい思いをしてたんだ・・・梨華ちゃん・・・会いたい・・・よ・・・・」
- 105 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時44分44秒
- 今すぐ駆け出して、彼女の元へ飛んでいきたかった。
苦しい思いをさせてしまっていたことの謝罪をしたかった。
好きになってくれなくてもいい。愛してくれなくてもいい。
片思いのままでも好きでいられるだけでよかったのだ。
だけど、今となってはそんなこともできない。
なぜなら、真里の存在があの時のあたしそのものであるから。
- 106 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時46分11秒
=石川視点=
『今日は会えない。ごめん。=圭=』
美術室に向かう途中で入ったメール。
『わかった。またね。=梨華=』
3階まで昇っていた足を止めて、そのまま階段を駆け下りた。
「・・・・ひとみちゃん・・・だ・・・・・」
下校の流れの中、偶然に見つけた2人の姿。
「今日は真里ちゃんの家に寄るって言ってたな・・・・。」
一人ぼっちの私。それとは逆に楽しそうにしているその後姿。
- 107 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時47分23秒
『『『違うよ。あたしは真里目当てさ。』』』
そう彼女は言っていた。
きっと彼女はもう、新しい恋をしているのだ。
「ひとみちゃんが幸せならそれに越したことないじゃない。」
そのつぶやきは紛れもなく嘘だった。
私は今、確かに嫉妬していたから。
先日まで隣に感じていた優しい瞳。
だけどそれも今となっては真里ちゃんだけのもの。
「もう、帰ろう・・・」
2人とは逆の方向に体を向けて、私は歩き始めた。
- 108 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時48分38秒
- 夜中の2時を回ろうとしているのに、私は全く眠れないでいた。
「どうしちゃったの・・・私・・・なんでこんなにも悲しいの・・・」
圭さんからのメールはたった一つだけどちゃんと届いていた。
『今帰りました。今日はごめんね。=圭=』
2人の復活を望んだのは私。
他にも彼女がいるみたいだけど、それはこちらも納得しての付き合い。
2人でいる時には、以前にもまして優しくしてくれている圭さん。
だけど何かが心の中で蠢いている。
「悲しいのは圭さんが側にいてくれないから?」
抱きかかえた枕をぎゅっと強く抱きしめた。
手から離せないでいる携帯が壊れてしまいそうになるほどの力を込めて。
- 109 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時49分42秒
「違うよね・・・この悲しみはひとみちゃんのせい。」
もう自分に嘘はつけない。
あの時植え付けられた種は小さく芽吹き、しかし確実に大きく育っていたのだ。
今この瞬間でも願ってしまうのは、圭さんではなく、ひとみちゃんからのメール。
私はひとみちゃんが好きだったのだ。
「そっか。だからあんなにも嫉妬してしまったんだ。」
自分勝手だというのは自分が一番よく知っている。
だけど思い出してしまうのだ。
真里ちゃんに寄り添うようにかけたれた腕。
語りかけられた言葉。
私の中にある悲しい気持ち。
- 110 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月01日(土)23時51分15秒
- 「今頃気付くなんて。私は一体ひとみちゃんの何を見ていたんだろう。」
頭と心がバラバラになりそうな感覚。だけどしっかりと自分の気持ちを確かめてみた。
「好きになってくれたから好きになったんじゃないよね?」
胸に手を当ててゆっくりと思い起こしてみる。
そう。付き合っていたあの時からきっとどこかで私は彼女のことを好きでいたのだ。
圭さんへの気持ちが強く残っていたから気付けなかったのかもしれない。
一緒にいる時に感じていた苦しさも、痛みも、罪悪感さえも、
全てを差し引いて残ったもの。
黒く覆いかぶせられていた霧が晴れて、そこに残っていたものは、ひとみちゃんへの
切ないほどの恋情だった。
「あはは・・・おかしいね。バカだよ・・・私。」
何もかももう遅すぎる。
本当の気持ちをやっと見つけることができたのに、その人はもうここにはいない。
「泣くのは明日。全てを終わらせてから。」
胸に誓ったその思いは、私に最後の勇気を与えてくれた。
- 111 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)00時04分00秒
- >作者
今日はここまでです。
・・・うーん。上手く書けないですね。
落ち込み気味ですが、よければこれからも
応援してください。
それでは、ありがとうございました。
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月02日(日)00時50分30秒
- 毎回楽しみに読ませて頂いてます。
頑張って下さい。
- 113 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月02日(日)09時45分30秒
- みんな悲しいくらい一方通行の恋なんですね。
しかし、梨華ちゃんがついに…(嬉)
もうちょい早く自分の気持ちに気付いていれば、真里も傷付かなかったんですがね〜
絶妙なタイミング恐れ入ります!!
- 114 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時05分49秒
- >112読者さま
ありがとうございます。
そう言ってもらえると、やる気もグーンとUPします。
応援よろしくお願いいたします!
>ラヴ梨〜さま
いつもいつも励ましていただいて、
本当に感謝しております。
みんなの心、救ってあげたいですね・・・(遠い目)
おしっ!なんとかがんばりますね。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
さて、では続きをちょこっとだけUPしてみたいと
思います。是非読んでやってください。
- 115 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時07分06秒
=吉澤視点=
「おっはよー!」
昨日あった出来事---真里とのキスがまるで夢の出来事のように感じるほど、
彼女は平然と明るく笑っていた。
「ういっす。」
でもきっと真里も意識しているはずなのだ。
こんなにもめいっぱいの元気をみせてくれているのがその証拠。
「今日帰りどこか寄ってく?」
「バイトなんだ。悪い。」
ちぇーっといいながらその腕を絡めてくる。
昨日までは友達だった真里。しかし今日からはあたしの・・・・・
- 116 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時08分07秒
- 「ひとみさぁ。意識しすぎ。」
「え?」
「さっきからカチコチだよ?別にオイラも彼女の定位置狙ってる訳じゃないからさ。」
「あっ、いや、そういう訳じゃ・・・・」
「クスッ。もっと気楽にいこうよ、昨日今日の仲じゃないんだしさ。」
「・・・そうだね。よしっ。走ってくか!」
「えーっ!また走るのー!もぉ勘弁してよぉー。」
校門まで走っていく2人。
今はまだ慣れないけど、そのうち真里ともうまくやっていけるかもしれない。
梨華ちゃんへの思いはきっとこれからも消えることはないにせよ。
- 117 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時09分13秒
- 「ひとみってこんなに青春バカだっけ?」
「おい。誰が青春バカなんだ。誰が。」
「だって何かというとすぐに走るんだもん。」
「そうだよー。悪い?」
「悪い。オイラ走るの苦手。」
「それなら置いてってやろー。」
「ちょっ、待ってよ!イジワルだなー。」
やはり普段と変わらない2人のように思える。
気持ちの切り替えなんてそう簡単にいくものではない。
いつかあたしは真里だけを見つめることができるのだろうか・・・
校舎まで先についたあたしは振り返って真里がくるのを待っていた。
「・・・・はぁっ・・・はぁっ・・・ひとみのバカー!」
息を切らせてまたいつかのようにあたしの腕に飛び込んできた真里。
- 118 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時10分31秒
- 「あ。またバカって言ったな。そんなこと言うんならこれから毎日走ってやる。」
にやりと笑ってみせた。
「マジ付き合ってらんねー。ひとみなんてもう知らないもんね。ほっていこう。」
つかんでいた腕を離すと、むくれた顔で先に歩いて行ってしまった。
「冗談だって。待ってよ。」
「待ってあげないもん。」
「ったく、ガキー」
今度はこっちが追いかけるはめになってしまった。
2階の階段を昇りきったその時。
「・・・っごめんなさい。」
いつもは気をつけているのに、真里に気をとられていたから、
不用意にも廊下の曲がり角で人とぶつかってしまった。
「あ・・・」
ぶつかった相手は・・・・・・・梨華ちゃんだった。
- 119 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時11分45秒
- 一気に駆け巡る血の勢い。
会いたいと願っていた人が今あたしの目の前にいる。
別れてしまった次の日から、直接話す事はなかった2人。
毎日同じ学校にきているはずなのに、遠くに感じてしまっていたその存在。
関わらないことで、より好きになってしまっていたあたしの気持ち。
彼女が落とした携帯を拾い上げると、少し戸惑いつつもそれを手渡した。
「ごめんね・・・これ。」
「ううん。私も悪かったし。」
気まずい空気が流れていく。
きっと梨華ちゃんはもうあたしとは関わりたくないはず。
圭と復活した今となっては尚更。
それでも話したい、触れたい、・・・・・抱きしめたい。
独りよがりの気持ちは彼女にとって迷惑なだけだってことは、
あの時いやというほどわかったはずなのに。
梨華ちゃんを苦しめることはもうしてはいけないのだ。
- 120 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時12分40秒
「どうかしたの?」
先に行ってしまっていたはずの真里が引き返してきた。
「ぶつかったんだ。ごめんね梨華ちゃん。」
「ホント、平気だから。」
「大丈夫?ごめんね、ひとみが迷惑かけて。」
「いいの。それじゃ。」
どこかぎこちなく去っていった後姿に、しなくてもいい心配をしてしまいそうになる。
「ほら、行くよっ!」
真里に腕をひっぱられてあたしはその場を離れていった。
その時、梨華ちゃんがどんな決意を秘めていたのかも知らずに。
- 121 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時13分55秒
「えへへー。」
「なんだよ、その気持ち悪い笑いは。」
「じゃーん。こんなの作ってみました。」
今日はまだ比較的暖かかったから、あたしたちは屋上でお昼を食べていた。
真里が紙袋から出したそれは、どうやら食後のデザートらしい。
「へぇー。よくできてるね。」
色んな形をしたクッキーがタッパーの中に詰まっている。
「そうでしょ?上手くできたから食べてもらおうと思って。」
ひとつつまんで口に入れた。
「お。うまいじゃん。」
「本当!?」
「真里にしては上出来。」
「なんだよそれー。」
「うそうそ。ありがとね、おいしいよ。」
少し照れ気味に髪をかきあげた真里の横顔。
耳にはあのプラチナのピアスが光っている。
付き合うことになった今となっては、
真里にとってはきっと重荷になっているであろうそれ。
- 122 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時15分23秒
- 「新しいの買おうか?」
クッキーをもう一つ頬張りながら、あたしは真里の耳に触れた。
「んぁ。ピアス?いいよ無理しなくて。」
「でもやっぱり・・・」
「気になる?」
「気になるって言うより、真里が気にするんじゃないかなって思って。」
「へへっ。ありがと。」
そう言ったかと思うと、彼女はあたしの頬にキスをしてくれた。
「真里ってかわいいとこあるね。」
素直に感じた思いをそのままストレートに口にした。
「今頃気付いたの?遅すぎー。」
照れ笑いが耳に響いてくすぐったい。
「ひとみ。」
名前を呼ばれただけなのに、真里の意図するところがわかった。
あたしは体ごと横に向けると、ほのかに甘いキスをした。
- 123 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時16分35秒
- 「吉澤、もうあがっていいぞ。」
「はい。お疲れ様でした。」
バイトが終わると、約束通りに真里にメールを入れた。
『終わったよ。今から帰るね。=ひとみ=』
胸に吸い込んだ空気が肺を冷やしていく。
空にはキラキラと輝く星。
見上げたあたしを呼ぶように、受信音が鳴った。
『おつかれ!気をつけて帰りなよ。寒いから風邪ひかないように♪
あっ、ひとみは風邪ひかないか?(笑)=真里=』
クスリと笑って携帯を閉じた。
明日は真里とピアスを買いに行く約束をしていた。
少しずつではあるが、確実に動き始めた2人。
だけど、今でも心を占める梨華ちゃんの存在。
「諦めが悪いな・・・」
苦笑いをひとつ浮かべると、あたしは家とは反対の方向へと足を向けた。
- 124 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時25分56秒
- 「・・・くっ。何やってんだ、あたし。」
目の前には以前梨華ちゃんと行ったファミレスがある。
ここに来たからと言ってどうなるものでもないけど、
なぜかここに来たいと思ってしまったのだ。
この通りを抜けて少し歩くと、梨華ちゃんのマンションがある。
「悪あがきついでに散歩していくか。」
あの日別れた道をそのままゆっくりと辿っていく。
諦めたいのか諦めたくないのか、複雑な感情が胸を支配していく。
この道を進むと、もしかして会うことがあるかもしれない。
そんな淡い期待をもっていなかったと言えば嘘になる。
会ったからといって、どうすることもできないのはわかっているのに・・・・
ガードレールが街灯の光に当って白く反射している。
だんだんと苦しくなる胸を押さえながら、どこか懐かしい痛みに
涙がでてきそうになる。
「ここらが潮時なのかもしれないな・・・・・・」
梨華ちゃんのマンションは、もう目の前に迫ってきていた。
- 125 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時27分45秒
- 「あれは・・・」
マンションの植え込みに見えた2つの人影。
それは紛れもなく圭と梨華ちゃんの姿だった。
「っくしょう!」
舌打ちをしたあたしは気がつけば、梨華ちゃんの元へ駆け出していた。
彼女が泣いている姿を見てしまったから。
- 126 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月02日(日)22時38分29秒
- >作者
はい。今日はこのあたりで。
次回は梨華ちゃん視点からのスタートとなります。
それでは。ありがとうございました。
- 127 名前:80 投稿日:2003年03月02日(日)23時48分30秒
- 更新、お疲れ様でした。
微妙によしやぐと思っていたら・・やぐっつぁんがせつないです。
愛情が交錯して、なかなかうまくいかないですね。
自分の気持ちに気づいたふたり。
どう甘い方向へ進むのか、気になります。
- 128 名前:ごまだんご 投稿日:2003年03月03日(月)21時16分13秒
- 更新お疲れ様です!
作者サマの書かれる切ないいしよしに、毎回胸キュンしてます(w
今楽しみにしてる小説のひとつなんで、がんばってください!!
- 129 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時04分36秒
- >80さま
いつもいつもありがとうございます。
今回のラスト(甘)は非常にドライなものとなってしまうかも
しれないんですけど、とにかくラストへむかって
がんばってますので、どうぞよろしくお願いします。
>ごまだんごさま
応援ありがとうございます。
まことに恐縮しております。
もうすぐラストとなりますので、どうぞお楽しみください。
では、今日もちょこっとだけUPします。
- 130 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時09分14秒
=石川視点=
教室にカバンを置くと、携帯を握り締めて扉をあけた。
明らかになったひとみちゃんへの想い。だからきちんと自分の気持ちに決着をつけたかった。
圭さんと別れる決意を伝えなきゃいけない。
2度とひとみちゃんの優しさに頼ることはできなくても。
固い決意を胸に秘め、校舎の出口に向かうその途中、
廊下の曲がり角から不意に出てきた人とぶつかってしまった。
「・・・っごめんなさい。」
ぶつかってきたその人はひとみちゃんだった。
「あ・・・」
どう声をかけていいのかわからなかった。
あれからまともに話したことがなかったから。
- 131 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時10分27秒
- 胸に湧き上がるドキドキは、制御できないほどに高鳴っていく。
そんな思いを知らない彼女は、少し戸惑いを見せながらも落とした携帯を拾ってくれた。
「ごめんね・・・これ。」
「ううん。私も悪かったし。」
どこかしら気まずい。
あの日の傷はきっとひとみちゃんの中でまだ消えていないだろうから。
「どうかしたの?」
私の後ろから現れたのは、真里ちゃんだった。
胸がぎゅっとつかまれる感覚。
「ぶつかったんだ。ごめんね梨華ちゃん。」
「ホント、平気だから。」
「大丈夫?ごめんね、ひとみが迷惑かけて。」
そっか・・・・・。
ひとみちゃんはもう完全に真里ちゃんの大事な人になってるんだ。
「いいの。それじゃ。」
こわばる心と体をなんとか動かして、私は階段を降りていった。
- 132 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時11分42秒
- 『大事な話があるの。今日の帰り会えない?=梨華=』
携帯をみつめながら、その返信をまった。
それはほんのわずかな時間だったかもしれないけど、
私にはとても長く感じられた。
そしてやってきたメール。
『いいよ。だけど今日部会があるから遅くなる。7時にファミレスでいい?=圭=』
了解の返信をすると、また校舎に戻っていった。
「ごめんね、おまたせ。」
圭さんはホットコーヒーを一つ頼むと、席に着いた。
「ううん。呼び出したりしてごめんね。」
切り出すタイミングに緊張してしまう。
そんな空気を読んでくれたのか、圭さんの方から話しかけてくれた。
「大事な話って?」
胸に息を吸い込んでから、切り出した。
- 133 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時13分56秒
「別れてほしいの・・・・」
何の前フリもなくそう告げた。
「やっぱりそうか。メールみた時にピンときたよ。」
そこに調度運ばれてきたコーヒーカップ。
「これ、飲んでもいいかな?」
軽く頷くと、彼女はカップに口をつけた。
「フラレちゃったか、わたしも。まぁ自業自得だね。」
そう言って柔らかく微笑んでいる。
「ごめんね。自分から復活して欲しいって言ったくせに。」
「ははは。そんなことはどうでもいいことじゃない。
梨華が気にすることなんてないよ。」
「・・・でも・・・」
「最初からわたしが悪かったんだ。梨華は何も悪くないから。」
さっぱりとしたその態度。
いつか言われた言葉を思い出す。『去るものは追わない』って。
- 134 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時15分23秒
- 「理由は言わなくてもいいよ。だいたい想像つくから。」
クスッと笑って私をみつめた。
「言わなくていいの?」
「梨華のことはわかるって言ったでしょ?元彼女の立場となっても。」
「うん。」
「梨華は気付いてなかったのかもしれないけどさ、
もう一度やり直したいって言ってくれた時には、もう他の誰かが
心の中にいたんじゃない?そんな気がしてたんだけど。」
私でさえ気付くことのなかった気持ちを彼女は感じ取っていたのだ。
ふーっと大きなため息をついた。
「当らずとも遠からずかな?」
「ううん。当ってる。やっぱり圭さんにはかなわないね・・・。」
「クスッ。そんなことはないよ。梨華がいい女だったからかな。
柄にもなく少し執着していたのかもしれない。」
「圭さん・・・・」
「わたしも梨華を見習わなきゃいけないよね。
いつまでも真希のこと引きずってちゃいけない。」
軽く目を閉じて、彼女は何かを考えていた。
- 135 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時16分39秒
- 「圭さんは圭さんらしく生きていって欲しい。私が力になってあげられたらよかったけど。」
「ふっ。ありがと。餞別にその言葉もらっていくね。」
残っていたコーヒーを飲み干すと、私たちは席をたった。
「梨華の恋、うまくいくといいね。」
送ってくれる道すがら、そんな話を切り出された。
「ありがと。でもちょっと難しいかな・・・。」
ひとみちゃんと別れたこの道に切ない思い出が甦ってくる。
追いかけてきてくれた彼女。
なのに手ひどく振ってしまった私。
- 136 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時17分58秒
- 「随分弱気じゃない。梨華ほどの女を振るやつってそうはいないと思うけどね。」
肩を抱き寄せてくれる優しさが、寂しくなっていく気持ちに暖かさを運んでくれた。
「圭さんぐらいよ。そんなこと言ってくれるの。」
「たとえ無理だとわかっていても動かなきゃ何も始まらない。
怖がってばかりいちゃ何も変わらないよ?」
きっと色んな思いを経験してきているからこそ言える言葉。
私はまた救われる思いがした。
「・・・行ってくるよ、真希の墓参り。」
「えっ・・・」
「あれから2年もたつのに、まだ一回も行ってなかったから。」
「そう・・・だったんだ・・・。」
「認めたくなかったんだよね。あいつが消えてしまったの。
『今頃遅いよ!』って文句言われるかも知れないけど。」
クスッと笑って立ち止まると、どこか涼しげな瞳で私を見ていた。
「色々ありがとね。梨華には勇気をもらった気がするよ。
ちゃんと前をみて進んでいける気持ちになれた。」
「圭さん・・・」
「だから梨華にも勇気をあげる。」
- 137 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時21分33秒
- マンションの植え込みの影で彼女は最後の抱擁をしてくれた。
「がんばれ、梨華。」
「ありがと・・・圭さん・・・・」
その優しさで深く包み込んでくれたから、圭さんを好きになれた自分を誇りに思えた。
「泣かないで梨華。」
溢れてくる涙をとめることができないのはなぜなんだろう。
身勝手な私を責めることなく許してくれた彼女。
優しくされて嬉しいはずなのに、別れはやはり切なく心を引き裂く。
「ごめんね・・・。圭さんの・・・こと・・・困らせてばかりで。」
「そんなことないよ。ほら、梨華の笑顔みせて。」
「でき・・・ないよ・・・」
「梨華、もっと強くなりなよ。」
流れる涙を手で拭きながら、何度も私は頷いていた。
そんな私の耳元に響いてきた足音。
勢いよく近づいてくるその音の方向へ目を向けると・・・
そこにいたのはひとみちゃんだった。
- 138 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時24分14秒
「あんた何やってんだっ!」
激しい剣幕で圭さんの胸倉をつかみかかる。
「ちょ・・・何、あんた。」
頭がパニックになりそうだった。
なんでここにひとみちゃんが・・・・
「なんで梨華ちゃんを泣かせてるんだ。何やってんだよ!」
一体どうなってるんだろう。まさか私の涙をみて・・・・・・
どうやら彼女はひどく誤解しているようだった。
とにかくその誤解を解かなくてはならない。
「ひとみちゃん、違うの、落ち着いて。」
「違わない。こいつはまた梨華ちゃんを。」
圭さんは何も言わないで、ただ私のことをみていた。
そして。
- 139 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時25分51秒
- 「あぁ。悪い?自分の女泣かせて何がいけないの?」
「圭さん、何言って・・・」
「くっそ・・・思い上がるな!」
ひとみちゃんはそのまま圭さんを思い切り投げつけた。
植え込みに倒れこむ彼女。
「待って、ひとみちゃん。圭さんは何も悪いことなんてしていないのよ。」
ひとみちゃんを抱きとめて、動きを抑えた。
「泣かされてたんだろ!なんでこんなやつのことかばうんだ。」
「そうじゃないの。」
「違わないよ。わたしは梨華を泣かせた。でもあんたには関係のないことでしょ?」
体をはたきながら、圭さんがゆっくりと立ち上がった。
- 140 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時27分37秒
- 「こいつ・・・」
「それとも何?あんた梨華と何か関係あるの?」
挑むような目をして、圭さんは唇の端をあげた。
「んなのかんけーねーよ。梨華ちゃんを泣かせるやつは許さない!」
「ひとみちゃん・・・」
「あんたまさか梨華のこと奪いにきたんじゃないよね?」
「あぁ。あんたのような人間に梨華ちゃんは渡せない。」
「へぇ。好きなんだ。梨華のこと。」
「好きだよ。あんたなんかが思うより。梨華ちゃんは今度こそあたしが守る。」
あまりにも突然の出来事に私はただ戸惑うばかり。
「だってさ。梨華どうするの?」
「どうするって・・・私・・・・」
「梨華ちゃん、あたしを信じて。」
強く握られた腕に強い気持ちが伝わってくる。
- 141 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時28分47秒
- 「梨華、ほらちゃんと言ってやりなよ。」
「・・・まさか・・・・圭さん・・・・・。」
圭さんがしっかりと頷いた。
「怖がっていちゃ何も始まらないよ。さぁ、梨華!」
「私・・・ひとみちゃんが・・・好き・・・・」
体が震える。
「梨華ちゃん・・・。」
「ふふっ。よかったじゃん。」
圭さんのその言葉に、ひとみちゃんが眉をひそめた。
「後は頼んだよ。梨華を泣かせないようにね。」
「待って、圭さん!」
呼びかけた私の言葉に、振り向くこともなく、彼女は歩き出していった。
- 142 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月03日(月)23時29分52秒
- >作者
はいどうも。今日はこのあたりにしたいと思います。
・・・もう一波乱あるのでしょうか?(w
うーん。どうなるのでしょう・・・。
それでは、また。ありがとうございました。
- 143 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月06日(木)01時26分21秒
- おお〜
ついに!
ついに、いしよしタイム(嬉)!!
期待しちゃいます!!
- 144 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時01分41秒
- >ラヴ梨〜さま
いしよしタイム!?(笑)
今回投稿する分では、どうでしょうか?(w
やはりおいしいところは最後に持ってくるべきかなと。
今回のお話では、いしよしないです・・・(恐縮)
次回投稿分で、ラストでしょうか???
あと1回くらい投稿するかもしれませんが、
最後はもちろんいしよしタイム、存分に味わって
いただけるかと思うので、どうぞお楽しみください。
それでは、続き、どうぞー♪
- 145 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時03分12秒
ぽつんと取り残された2人。
「圭さんは、本当に悪くないのよ。」
「まだあいつをかばうの。」
「違うの。私が泣いちゃったから・・・。圭さんは慰めてくれてたんだよ。」
「泣かすようなことされたの?」
「ううん・・・さっきね、圭さんと別れ話をして。
こっちが悪いのに。それでも彼女は私に優しくしてくれたの。
がんばれって勇気をくれたの。」
ひとみちゃんは圭さんが去っていった夜道を遠くに見つめていた。
「・・・勘違いしてたんだ。」
「うん、そう。」
- 146 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時04分14秒
- 少し落ち着きを取り戻すと、2人の密接した距離が急に恥ずかしくなってきた。
「ごめんね。」
体を離して、そう告げた。
「何で謝るの?」
「だって、私勝手だもん。今更ひとみちゃんのこと・・・」
「それならあたしも謝らなきゃいけない。
あの人のことずっと好きだってわかっていたのに、梨華ちゃんのこと
苦しめてしまっていたよね。そしてあの日別れた後も、
本当はずっと梨華ちゃんが好きだったんだ・・・。諦めきれなかった。」
ずっと思っていてくれてたんだ・・・
切なさがまた音を立てて迫ってきた。
「ごめん・・・ごめんね・・・」
ひとみちゃんはそんな私を優しく抱きしめてくれた。
「やっと・・・気持ちが伝わった。やっと本当に抱きしめることができた。」
溶けてしまいそうなほどの熱が体中に沸き起こっていく。
- 147 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時05分14秒
だけど、それと同時に訪れたある思い。
「ひとみちゃん、私、やっぱりあなたとは付き合えないかもしれない。」
「何・・・言ってるの・・・」
困惑した顔が私の心に悲しい刺をさす。
それでも・・・
その体を離すと、私は泣かないように精一杯笑顔を作った。
「真里ちゃん。彼女もひとみちゃんのこと好きだから。」
グッと唇をかみ締めたまま、言葉を失くした彼女。
「もう、誰も泣かせたくないよ。ひとみちゃんもそう思ってるはず。」
「・・・真里・・か・・・」
「タイミングが悪かったのね。もう少しはやく私が自分の気持ちに気付いていれば・・・」
重苦しい空気が体にのしかかっていくよう。
- 148 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時06分14秒
- しばらく考え込むと、彼女は眉間に深いしわを寄せて、苦しそうにつぶやいた。
「・・・・・明日。明日まであたしに時間をくれない?」
「えっ。」
「明日、真里と別れてくるから。」
すごく辛そうな瞳。
「真里ちゃんのこと、傷つけてしまう・・・私が・・・」
「梨華ちゃんのせいじゃないよ。あたしが悪いんだ。
傷つけてしまうのは覚悟の上。それでもあたしは梨華ちゃんといたいから。」
きっと、ひとみちゃんも傷ついてしまう。
私にできることは一体・・・
「必ず梨華ちゃんの元へ帰ってくるから。あたしを信じて待ってて。」
どうしようもなく泣きたくなってしまったけど、私はひとみちゃんを
信じることにした。
今はただ、それしかできないと思ったから。
- 149 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時07分04秒
=吉澤視点=
「うわぁ。どれにしよっかなぁー。」
学校もバイトも休みのこの日は、2人にとって、
初めてのちゃんとしたデートになるはずだった。
昨日の出来事がなければ・・・
「好きなの選んでいいよ。真里の気に入ったやつ買っていいから。」
ショーウインドーのガラスケースに顔がくっつきそうなほど、
ピアスを眺めている真里。
罪悪感がじわじわと迫ってきて、最後のデートの重さに気持ちがふさがるけど、
今は精一杯真里の彼女を演じていたかった。
- 150 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時08分04秒
- 「ほんとにー!?うわぁ。これだけあると迷っちゃうよね。どれにしよー。」
あたしは歯をかみ締めてその痛みに耐える。
「どれもかわいいね。」
「うーん。ねぇ、ひとみはどれがいいと思う?」
その言葉がチクリと胸を刺す。
「あれ・・・そのブルートパーズのやつがいいかな・・・」
「これ?すみませーん。これ見せてもらってもいいですか?」
笑顔で店員さんに声をかけると、ケースからそれを取り出してもらった。
「どう?似合う?」
照明のライトにキラキラと輝いていたのは、ピアスだけでなく、
真里の瞳も同じくらい輝いていた。
「うん。似合う。かわいい。」
「えへへ。それじゃ、これ買ってもらおう。いい?」
「うん。すみません。これください。」
- 151 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時09分01秒
- あたしの腕に抱きついて、包装されるのを待っている。
「ありがとね。」
「いいよ。これくらい。」
今日が最初にして最後のデートだと知ったら・・・・・・
「ん?どうかした?ボーっとして。」
「あっ。ごめん。ボーっとしてたかな?」
「うん。財布が寂しくなるよーって悲しい顔してた。」
ケラケラと楽しそうに笑う顔に、あたしも笑顔で応えた。
「真里が笑うと明るくなるね。いい顔してるよ。」
「へっへー。それだけが取り得だもん。」
小さな箱に包まれて渡されたピアスを大事そうに手にした。
「真里はやっぱりかわいいよ。」
「なーに言ってんの。行くよ?」
「はいはい。」
- 152 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時09分50秒
- 適当なところでお昼を済ませてから、デートの定番の映画を見に行ったあたしたち。
「さっきのお礼にジュース買ってくるよ。待ってて。」
「あ、悪いね。ありがと。」
「何がいい?」
「んー。コーヒーかな。ブラックで。」
「クスッ。眠くならないように?」
「うん。寝ちゃまずいもんね。」
またクスクス笑って、彼女は売店へと姿を消した。
周りをみると、カップルがほとんどを占めていて、
休日の楽しい時を過ごしている。
あたしたちも本当はそうなるはずだったのかもしれない。
少なくとも真里はそう思っているはずなのだ。
- 153 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時11分00秒
- 「ごめん・・・あたし・・・」
手にした携帯を見つめながら、あたしのことを待っていてくれている
もう一人の恋人のことを思った。
「お待たせ。はい、ひとみにはちょー濃い目のブラックね。」
「サンキュ」
席に着くと、ほどなく場内は暗転した。
「なんだかワクワクするよね。」
「うん、そうだね。」
「んー。なんか今日のひとみちょっとテンション低くない?疲れてるの?」
「そんなことないけど。・・・ほら、始まるよ?」
アクションコメディーのそれは、場内がどっと沸くくらい楽しいものだったけど、
これから背負う重責に、とても心から楽しむことなんてできないでいた。
「おかしかったよねー。なんかスーッとしたよ。」
「うん。面白かったね。」
「また一緒にこようね。」
曖昧な返事をして逃げたあたし。
ちゃんと切り出さなきゃいけないのに。
- 154 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時12分08秒
- 「まだお腹すいてないし・・・ゲーセンでもいこっか。」
「いいよ。久しぶりに対戦するか。真里と最近行ってなかったもんね。」
レーシングゲームにハイパーホッケー、シューティングゲームなんかをして競っていた。
「またオイラの勝ちー♪」
「わざと負けてやったんだよ。」
「うそつけー。おもっきし本気出してたじゃん。」
「出してないよ。」
「負けず嫌いだな、ひとみは。」
「それはお互い様。」
なんとか普通を装っていたけど、梨華ちゃんのことを考えると、
気持ちがあせってくる。
「ちょっと歩かない?」
「あれ?ひとみにしては珍しいじゃん。オイラの勝ち逃げでいいの?」
「クスッ。いいよ。真里に花を持たせてやるよ。」
腕を絡ませて店を出て行くと、あたしたちは混雑する繁華街を抜けて、
どこに行くともなく歩いていった。
日もかなり傾きかけ、辺りはもう夕闇が迫ろうとしている。
- 155 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時12分58秒
- 「ピアス、つけてみようかな。」
不意にそう言われたものだから、あたしはじっと真里を見つめてしまった。
「ん?オイラの顔になんかついてる?」
何の疑いも持たずに見つめる瞳が心を締め付ける。
「真里・・・・・その・・・・」
「あっ。あそこベンチがあるよ。ちょっと休憩しようよ。」
すぐ側の児童公園にひっぱられていくようにして、そこまで歩いていった。
「これ、取るね。」
そう言って外したプラチナのピアス。
「ごめんね。なんか悪いことしたよね、あたし。」
「別にいいよ。新しいの買ってもらったし。」
箱から嬉しそうに出した、新しいピアス。
- 156 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時14分01秒
- 「ちょっと、待ってもらえる?」
留め金を外したその動きを止めるように、そう切り出した。
「何?」
「うん・・・・あのさ。聞いて欲しいことがあるんだけど・・・」
いつもとは違うあたしの雰囲気に、さすがの真里もどこか真面目な顔でこちらを見ている。
「今日、真里に買ったピアス。すごく似合ってると思うよ。」
「あはは。ひとみが選んでくれたものじゃん。」
「うん・・・・・・・」
「やっぱおかしいよ。今日のひとみ。オイラといるの楽しくなかった?」
「そういう訳じゃなくって・・・」
「はっきりしなよ。何がいいたいの?」
- 157 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時15分15秒
- 言葉に詰まった。きっと真里を泣かせてしまうと思ったから。
「・・・ひとみ?」
「真里、ごめん!」
あたしはその目をみることができずに下を向いてしまった。
「なに?なに???何謝ってんの!?」
「あたし・・・やっぱり・・・」
「な・・に・・・・」
「真里とは付き合えない。ごめん。」
あたしは情けないことに顔をあげることができなかった。
「・・・・っ・・・・・」
「ご・・・めん・・・・」
「・・・っ、はははははは。」
真里は笑っていた。その意外な反応に顔をあげる。
「なーんだ。そんなことか。」
もう一度彼女を見たけど、真里は泣いてなどいなかった。
- 158 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時16分33秒
- 「・・・真里・・・」
「いいよ。最初からわかってたことじゃん。無理に付き合わせたのオイラだし。」
真里はそう言って、ブルートパーズのピアスをつけた。
「許して・・・くれるの?」
「許すも何も。別に大したことじゃないし。」
「・・・・・・・」
「そんなことより、どう?似合ってるでしょ?」
「うん・・・似合ってる。」
ベンチから立ち上がると、にっこりと笑顔をみせてくれた。
「やっぱオイラにはこっちの方が似合うよね。これ、もういらないや。」
手に持っていたプラチナのピアスをあたしに差し出した。
「本当の持ち主に返すべきだったんだよね。最初から。」
「でも、これは。」
「ピアスのことじゃないよ。その子に返してあげるんだ。ひとみのこと。」
- 159 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時17分42秒
- 小さく微笑むと、コクリと頷いた彼女。
「真里。あたし言ってなかったよね。このピアスの相手。」
「あぁ・・・・うん。聞いてなかった。」
「梨華ちゃんだったんだ。」
「そっか・・・。あの子かわいいもんね。でも彼女、圭さんと付き合ってるんじゃ。」
「昨日、別れた。偶然その場に居合わせてね。その時ちゃんとあたしの気持ち伝えたんだ。」
「すごい偶然だね。もしかして、偶然って訳でもなかった?」
「うん。自然に彼女のところへ足が向かってた。」
少し上に見える真里の顔をじっと見つめてそう答えた。
「本当に好きだったんだ。梨華ちゃんのこと。」
「諦めきれなかった。諦めようとは思っていたけど・・・」
「梨華ちゃんは?ひとみの気持ち受け入れてくれたの?」
「・・・うん。」
「そうなんだ。よかったじゃん。やっと気持ちが報われて。」
一歩後ずさった真里。
- 160 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時18分53秒
- 「真里には、嫌な思いさせてしまったよね。」
「何言ってんだよ。昔からの友達じゃん。」
「友達?」
「そう。昔も今も。オイラたちは友達。そうだろ?」
そういいながら彼女はまた一歩後ろに下がった。
「真里。友達でいてくれるの?こんなあたしと。」
「いてやるよ。頼りないんだもん。ひとみ。」
「ありがと。なんて言っていいか・・・」
「その代わり、これ返さないからね。友達の印としてもらっとく。」
ピアスに手をかけて笑いながら、後ろを向いてしまった。
だからあたしも立ち上がって、その肩に触れた。
- 161 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時19分58秒
「泣いてなんかないよ。勝手に涙がでてくるだけだから。ちくしょー。」
笑いながら小さく肩を揺らす背中に、あたしも泣きたくなる。
「ごめんね・・・真里のことやっぱり泣かせてしまった・・・」
「泣いてもいいって言ったじゃん。短い恋だったけど、オイラ楽しかったからさ。」
そう言うと、振り向いてあたしを力いっぱい抱きしめた。
「好きだったよ、ひとみ。」
「・・・・っ」
「梨華ちゃん、泣かせたらだめだよ。」
「・・・わかった。約束する。」
真里が体を離した。
- 162 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時20分52秒
「オイラの長かった初恋もこれで終わり。でもひとみはこれからちゃんと
気持ちを繋いでいくんだよ。オイラの分も。
誰かが誰かを好きでいるかぎり、気持ちは繋がっていくものだから。」
「真里の気持ち、ずっとここに持っているよ。忘れないから。」
「よし。明日からまたバカやろうぜ。いつものようにね。」
最後にキラッと涙が光ったけど、彼女はそれを拭うことはしなかった。
「バカな友達でごめん。」
あははと笑ってあたしの頬をつまむと、あたしたちは帰りの駅へと向かって行った。
腕を組むことはもうなかったけど。
- 163 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月06日(木)23時22分42秒
- >作者
はい。今日のところはこれにて終わりです。
さぁ、いよいよ梨華ちゃんの元へ走るよっすぃー。
甘になるのか、はたまた・・・。
いや。必ず甘です。
作者自身、甘党なもので(w
では、次回、どうぞご期待ください。
ありがとうございました。
- 164 名前:127 投稿日:2003年03月07日(金)00時09分20秒
- 更新、お疲れ様でした。
うぅ・・せつないっすねぇ・・(泣)
誰かが幸せになることって、誰かを傷つけることもあるんですね。
やぐっつぁん、イイ子です・・
次回は甘甘ですか!?
自分も甘党ですので、期待度大です。
- 165 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月07日(金)01時44分25秒
- かわいそ〜だな真里…
まったくいしよしは罪なカップルだ(笑)
では、『いしよしは永久不滅の精神でたっぷり甘さを撒き散らす』ってなカンジの更新を待ってます、作者殿!!
- 166 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)19時06分23秒
- いつ甘くなるのかハラハラしてたけど・・
よかったです。ほっと一安心。
- 167 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月08日(土)23時50分15秒
- >127さま
励ましのお言葉、ジーンと胸をうちます。
本当にいつもありがとうございます。
どうやら127さまも甘党だということで♪
それなのに、こんな痛い小説に付き合っていただいて、
感謝しております(涙)
>ラヴ梨〜さま
うぅ・・・。応援ありがとうございます。
>『いしよしは永久不滅の精神でたっぷり甘さを撒き散らす』
はい、この精神大事にしたいと思っております!
期待に答えられるか心配ですが・・・(w
>166読者さま
ご心配おかけしまして・・・。
なんとか甘の方向で書けました!(笑)
どうぞ読んでやってください。
いやぁ。みなさま本当にありがとうございます。
ここまで甘党な方が集ってくれるとは正直思って
おりませんでしたので(痛い小説だから(汗))
今回のやつ、読んでも引かないでください・・・。
爽やかな甘はあちらで書きたいと思いますので(w、
ちょっとだけ濃いかもしれませんが、
どうぞ、ついてきてもらえれば嬉しいです。
それでは、続き、どうぞ。
- 168 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月08日(土)23時52分25秒
「はぁっ、はぁっ・・・今から・・・行くから。」
「・・・うん。待ってる。」
携帯からは、梨華ちゃんの声。
苦しくなる呼吸を整えることもせずに、ひたすら彼女の元へ走っていく。
この道を真っ直ぐ抜けて、目抜き通りを突き抜けると、
彼女の住むマンションへと道が続いている。
「くそっ!なんでこんなにも遠いんだ!」
梨華ちゃんを送っていく時は短く感じていた距離も、
今はとてつもなく長い距離に感じる。
ガードレール沿いにある街灯がパラパラとつきはじめ、
夜道に明かりを照らし出す。
- 169 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月08日(土)23時53分31秒
そう。この道は、あの日梨華ちゃんに別れを告げられた道。
苦しくて、切なくて、それでも涙を飲み込んだあの道。
だけど、あの日追いかけたスピードとは比べ物にならないほど、
足取りは軽く、抑圧されていた心はその反動で一気に跳ねあがっていた。
「あと少し・・・梨華ちゃん・・・・」
胸の中でカウントを打ちながら、あたしは全速力で駆けていた。
そして、ほどなく前方に見えてきた人影。
「梨華ちゃーん!!!」
大声を上げて叫ぶと、その影もこっちに向かって駆け出してきた。
段々と近づく2人。
風がびゅーびゅーと耳に心地いい。
やがて彼女の顔をはっきりとした視界でとらえることができた。
- 170 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月08日(土)23時54分45秒
- 「ひとみちゃん!」
お互いの勢いをセーブすることなく抱き合ったものだから、
その体に2人分の衝撃がはしった。
「・・・・・っ、大丈夫?」
はぁはぁと息をつぎながらあたしはそれでも彼女の体を離さなかった。
「はぁっ・・・・う・・・うん・・・はぁっ・・・大丈夫・・・・」
梨華ちゃんの髪に顔をうずめ、深呼吸さながらそのぬくもりを精一杯吸い込んだけど、
胸の高鳴りはなかなか静まりそうにない。
そして彼女もまた、胸一杯に息をついた。
「はぁっ・・・待たせて・・・ごめん・・・ね・・・。」
「やっと・・・会えた・・・」
「梨華ちゃん・・・」
湧き上がってくるなんとも言えない気持ちが、ぎゅっと胸に迫ってきて、
抱きしめた腕に否応なく力がこもった。
「来てくれなかったらどうしようって・・・そんなことばっかり考えてた・・・。
信じていたけど、やっぱり心細くて、切なくて・・・私・・・」
不安にさせてしまっていたことに胸が少し痛んだけど、
彼女のその思いに、気持ちの押さえが効かなくなりそうになる。
それでも何度か大きく息をついて、やっとちゃんと話せる状態に落ち着いた。
- 171 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月08日(土)23時56分07秒
- 「待っててくれて嬉しいよ。あたしを信じていてくれたんだね。」
「・・・うん。ひとみちゃんが好きだから・・・」
ジーンと胸を伝うこの痺れは、今まで感じたことのない甘い切なさをもたらした。
いい香りのするその髪を掻き揚げると、あらわになった耳元に伝えた。
「ちゃんとケジメつけてきたから・・・。これからはあたしと付き合ってくれる?」
肩にうなだれた梨華ちゃんの重み。
あたしが待ち焦がれていた切ないほどの存在感がそこにあった。
「もう迷ったりしないから。ちゃんとひとみちゃんだけを好きでいさせて。」
「うん・・・きっと、必ず。約束するね。」
赤くなっている耳が寒そうにみえたから、あたしはそこにキスをした。
「・・・っ。くすぐったいよ。」
「クスッ。かわいい。」
ほんの少し頭を避けて、くすぐったそうに肩をすぼめる。
- 172 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月08日(土)23時57分34秒
- 「ねぇ。顔見せて?」
どんな表情をしているのか今すぐに確認したかったけど、
どういう訳か、彼女は顔をあげてくれなかった。
「ダメ。」
「なんで?」
「だって・・・なんか恥ずかしいもん。」
くすぐられたのはあたしの心の方だった。
そうなると、余計にこちらを向かせたくなってしまう。
「梨華ちゃんの顔、見たい。」
「やだ。」
「それなら・・・・」
あたしは首を傾けて、うつむいている彼女の唇に自分の唇を重ねた。
「・・・・っ・・・ずるい・・・よ・・・」
その言葉を遮るように、夢中でキスをした。
ずっとつかまえたかったその瞳。
抱きしめたかった想いを伝えるように、あたしはただ夢中でキスをした。
- 173 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月08日(土)23時58分29秒
- 車のヘッドライトがすれ違いざまに2人を照らし出したけど、
それでもキスを止めるとこはできなかった。
うっすらと目をあけて、彼女を覗きみる。
紅潮した頬が目に眩しく映って、梨華ちゃんがちゃんとここに
いることを証明してくれていた。
間合いを取るかのように、何度か離しそうになったその唇。
それでもあたしはついばむように何度も何度もキスを求めた。
頭がおかしくなりそうなほどの甘い感触。
「・・・わかったから。」
照れ気味にそう笑うと、やっと笑顔をみせてくれた。
「降参した?」
「うん。私の負けね。」
クスクスと笑いあうと、まるで湯気が立ち上るかのように、
白い息が2人分吹き出てきた。
- 174 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月08日(土)23時59分33秒
- 「もう一度、キスしてもいい?」
「・・・いいよ。」
熱くほてったその頬を両手に挟みこんで、じっとその顔をながめた。
「恥ずかしいから、あまりみないで。」
「だめ。ちゃんと見せてよ。かわいい梨華ちゃんの顔。」
「じゃぁひとみちゃんのことも見ちゃうよ?じっと。」
「うん。見て欲しいよ。ずっとあたしだけを見ていて欲しい。」
瞼をゆっくりと一度おろして、梨華ちゃんは返事をした。
言葉よりも確かなぬくもりを求めて、またキスをするあたし。
壊れそうになるほどその体を抱きしめて、今ようやく手にすることができた
ぬくもりを存分に味わった。
何度キスをしても、まだ物足りない。
これほど誰かを好きになるのはきっと最初で最後だと思った。
- 175 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時00分37秒
- 何度目かの長いキスを終わらせると、梨華ちゃんがあたしの手を握った。
「私、真里ちゃんの気持ち、無駄にしたりしないから。」
「言ってたよ、彼女。気持ちを繋いでいって欲しいって。
人を好きになることは楽しいことばかりじゃないけど、
誰かが誰かを好きでいるかぎり、気持ちは繋がっていくんだって。」
「うん。そうだね。」
「苦しいことがあるかもしれない。喧嘩することだってあるかもしれない。
だけど、好きな気持ちがあれば、いつでも人は繋がっていけるんだと思うよ。
誰かを幸せにしてあげられると思うんだ。あたしたちだけのことじゃなくってね。」
「圭さんも、きっとこれから本当の恋をみつけてくれるはず。
私がひとみちゃんをみつけたように。」
「色んな人を傷つけてしまったかもしれないけど、
いつか、どこかで繋がっていけるといいね。」
懐かしい痛みとなるには時間がかかるかもしれない。
それでもあたしたちは誰かを好きになる。
- 176 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時01分35秒
- 「おいで。」
梨華ちゃんの中にある痛みも傷も、思い出も、
全てあたしが包み込んであげたかった。
「あたたかいね、ひとみちゃん。」
しっかりと重なった2人の思いは、奇跡に近いものかもしれない。
「梨華ちゃん。好きだよ。」
だからあたしはちゃんと自分の気持ちを伝えた。
「私も。ひとみちゃんが、好き。」
キスはその伝達方法の一つなんだということをその時に知った。
伝えたい想いが溢れて言葉にならない分を、キスでカバーする。
だからこんなにも梨華ちゃんとキスがしたいと思うのだ。
- 177 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時03分11秒
- 「ひとみちゃん・・・」
「なに?」
「ずっと一緒にいたいよ。」
「あたしも。」
流れる髪に指を絡ませながら、その細い首に触れてみる。
冷たくなっていたあたしの指先にビクッと反応したけど、
小さく切なげなため息をもらした声を聞き逃すことはなかった。
耳の後ろからゆっくりと唇をずらして、さっきまで触れていた首筋に
その唇をあてる。
「・・・やっ・・・やだ・・・」
「綺麗だよ・・・梨華ちゃん・・・」
小刻みに震えるその体がとても愛しい。
「恥ずかしいよ・・・」
「やめないよ。気持ち、止められそうにないから。」
恥ずかしいのを必死で耐えるように、腰にまわした腕に力が込められている。
それでもあたしはもっと梨華ちゃんを知りたくて、何度もその首に沿ってキスを落とした。
「・・・キス・・・して・・・寂しいよぉ・・・」
切なげにもれてきた声に応えるように、あたしはまたその唇にキスをした。
- 178 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時04分03秒
- ゆっくりとその甘い感触を味わうように、優しく丁寧に舌を動かしていく。
全身でその全てを感じたい。
狂おしいほど熱く燃える胸の高鳴りに、体ごと溺れていく感覚。
「これ以上は・・・だめ。」
あたしを強く抱きしめていた腕の力を解放させると、あごを引いて唇を離した。
「なんで?もっと梨華ちゃんのこと知りたいのに。」
「だって・・・・」
「ん?」
「足が震えて立っていられそうにないんだもん。」
「そんなこと言われたらもっとキスしたくなるよ?」
クスッと笑って、頭をなでた。
- 179 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時05分06秒
- そのまましばらく抱きしめあったまま、幾ばくかの時間が流れた。
どちらも離せないでいたのだ。そのぬくもりを知ってしまったから。
意味もなく時折もれる笑い声。
何がおかしいって訳でもないのに、2人ともなぜか出るのは笑い声だった。
どちらかが切り出さなくてはいけない言葉を引き伸ばすかのように。
そして、梨華ちゃんが先にその言葉を口にした。
「もう帰らなきゃいけないよね・・・。」
「・・・うん。」
「これ以上遅くなったら・・・ひとみちゃんのこと、心配だもん。」
けれどもその瞳は、言っている言葉とは逆の寂しげな思いを伝えてきた。
だからあたしはまた梨華ちゃんを求めたくなってしまう。
「わかった。でも、もう一度だけ。」
背中に回した腕を思い切り絡ませて、再び甘い感触に浸った。
- 180 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時06分08秒
「・・・・・・・それじゃ、ね・・・・」
体を離すと、急激に寒さが襲ってくる。
2人分の熱は、どうやら冬の寒ささえも感じさせないほどの熱を作りだしていたようだ。
「うん。おやすみ。」
肩にかけていた手を下ろしたけど、なかなか足はすすまなかった。
「また、明日。」
「・・・・・うん。」
「梨華ちゃんがロビーに入るまでここで見てるから。先行っていいよ。」
「でも・・・・。うん、わかった。気をつけて帰ってね。」
うんと頷くと、背中を向けてロビーに向かう。
「またね。」
「おやすみ。」
振り向きざまに手を振って微笑むと、梨華ちゃんの姿は完全に消えてしまった。
- 181 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時07分10秒
- 「・・・帰るか。」
フーッとため息をつきながら、名残を惜しむように、その場を後にした。
一歩一歩踏みしめて、夜道を歩く。
今日のこの一日はあたしにとってどんな思い出として残るのだろう。
紆余曲折したこの恋。
5年後も10年後も、ずっとその先も、この記憶は決して消えることはないだろう。
いや、記憶として留めるには今はまだ早すぎる。
この体に刻み込まれたぬくもりが、まだ生々しく息づいているから。
そう。たった今別れたばかりなのに、もうこんなにも梨華ちゃんの顔がみたいと思っている。
かなり重症だ。
そんなことを考えながら、ふと後ろを振り返ると。
- 182 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時09分04秒
- 「梨華ちゃん・・・」
一度消えたはずのロビーであたしを見ている彼女の姿がそこにあった。
だからあたしは今歩いてきた道を、なんのためらいもなく駆け出した。
「あっ、そのっ・・・・ごめんね。せっかく帰ろうとしてたのに。」
あわてる姿が妙にかわいくみえる。
「なんでだろうね。今別れたばかりなのに。梨華ちゃんにもう一度会いたいって思ってたんだ。」
「私も・・・すごく苦しくて・・・。せめて姿が見えなくなるまで見てたいって思ったの。」
「いつまでたっても帰れそうにないかも。」
「ごめん・・・なさい・・・」
「違うよ。あたしが離れたくないんだ。」
頭を抱きかかえて、もう一度その体を抱きしめた。
- 183 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時10分06秒
「ずっと側にいて。ひとみちゃん、帰っちゃやだよ・・・」
「梨華ちゃん・・・離したくない・・・。」
「・・・困らせてるよね、私。ごめん、ちょっと言ってみたかっただけなの。気にしないで。」
ため息混じりに小さく笑うと、梨華ちゃんは顔をあげた。
「また明日会おう。バイトも辞める。何も買ってあげられなくなるかもしれないけど、
それでもいい?」
「ひとみちゃんと過ごせる時間が少しでも増えたらそれでいい。他には何もいらないから。」
ぎゅっと抱きしめてくれる心地いい感触が帰る気をなくさせる。
「このまま朝まで抱きしめていたい。」
「私も。本当は離れたくなんてないよ。」
もう一度軽くキスをした。
そして、しばらく見詰め合ったあと、溶けてしまいそうな深いキスを重ねた。
- 184 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時11分42秒
- 「明日がくるのが待ち遠しい。また梨華ちゃんに会えると思うとそれだけでドキドキするよ。」
額を合わせたままであたしはそう告げた。
「ズルイ、ひとみちゃん。」
「ん?ズルイ?」
「だって私が言おうと思ってたこと、先に言うんだもん。」
ちょっぴり拗ねたように、コートの袖をつかんだ。
「へへっ。かわいいな。」
「そんなことないよ。」
「かわいいって。梨華ちゃんは。だから誰にも渡したくない。」
肩をぐっと引き寄せて、強引にキスをした。息をつぐのも忘れてしまうほど、激しく。
「おやすみのキスって言い訳はちょっと無理かな?」
「うん。返って眠れなくなりそう。」
照れている顔があたしを幸せな気分に浸らせてくれる。
「それじゃ、ほんとに帰るね。おやすみ。」
「おやすみ。」
チュッと音をたててしたキスが、耳の奥に残っていた。
- 185 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月09日(日)00時14分46秒
- >作者
・・・いかがでしたでしょうか?(汗)
読んでいただいているあなたの期待に果たして応えられたのでしょうか・・・
甘すぎるとお思いの方。甘さが足りないとお思いの方。
作者これが限界かもしれません(泣き)
次回投稿分で、いよいよラストとなると思います。
それでは、ありがとうございました(逃げっ)
- 186 名前:164 投稿日:2003年03月09日(日)13時57分47秒
- 更新、お疲れ様でした。
甘甘いしよし・・これぞいしよしの真骨頂ですねw
甘さが足りないなんて・・とんでもない!
もう身体中からハチミツが出そうなほどに激甘でございました。
大変美味しくいただきましたw
次回がラストですか?
何だか寂しくなるような・・
期待してお待ちしてますね。
「気持ちを繋いでいく」って言葉、すごく素敵ですね。
何か胸に染みました。
- 187 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月09日(日)23時46分40秒
- 文句ナシに今まで自分が見てきたなかで最強の甘さです!!
ホント感無量のひとときでした(歓喜)
自分の一番の好みとしては「痛さを乗り越えた後の極甘」なんですが、まさにバッチリピッタシハッピーです
もう終わりなのが悲しすぎますよ…(泣)
- 188 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時15分59秒
- >164さま
大変嬉しいお言葉をかけていただきありがとうございます(涙)
>もう身体中からハチミツが出そうなほどに激甘でございました。
>大変美味しくいただきましたw
ほんとですか!?いやぁ。マジ嬉しいです!!!
>次回がラストですか?
そういう事になりました。今まで読んでいただきありがとうございました。
>何だか寂しくなるような・・
>期待してお待ちしてますね。
うぅ・・・。164さまには本当に感謝いたしております。
よければまた感想など書いてやってくださいね。
そして、『サクラサク。』のほうでまたUPするかと
思いますので、よければまた読んでやってください。
ぜひともお願いいたします。
>「気持ちを繋いでいく」って言葉、すごく素敵ですね。
>何か胸に染みました。
あぁ。なんて嬉しいお言葉でしょうか!
ちゃんと理解していただけたこと、感謝します。
- 189 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時16分29秒
- >ラヴ梨〜さま
いつもいつも、嬉しい限りです。ありがとうございます!
>文句ナシに今まで自分が見てきたなかで最強の甘さです!!
>ホント感無量のひとときでした(歓喜)
本当ですか!?信じちゃっていいですか!?
>自分の一番の好みとしては「痛さを乗り越えた後の極甘」なんですが、まさにバッチリピッタシハッピーです
>もう終わりなのが悲しすぎますよ…(泣)
あぁ。ラヴ梨〜さまにそう言っていただけて、
作者、幸せものです(大泣き)
もしよければ、また『サクラサク』スレでも
覗いてみてくれませんか?
そのうちUPすると思いますので。
よろしくお願いいたします。
- 190 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時18分49秒
- >作者
長かったような、短かったような、この小説。
上手く書けずに歯がゆい思いもしていましたが、
みなさまの暖かいご支援をいただいて、がんばってこれました。
ROMっていただいていたあなたも、感謝の気持ちでいっぱいです。
それではラスト。どうぞ読んでやってください。
- 191 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時20分29秒
- 「おはよー」
通学路では元気に響き渡る生徒たちの声。
その人波の中の一人であるあたしの耳に更に元気のいい声が伝わった。
「おっはよ!」
カバンをぶつけてにんまりと笑顔でいるその子は、
あたしの『友達』の真里だった。
「ういっす。おはよ。」
昨日の夜、梨華ちゃんと別れて帰宅した後、彼女にメールを入れた。
『梨華ちゃんと付き合うことになったよ』と。
どんな返信が返ってくるのか気がかりではあったけど、送られてきた文字は。
『ムカツクー!(笑)オイラがもっと悔しがるくらい幸せになれよ!(^-^)/~~~』
と言うものだった。
- 192 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時21分41秒
「速攻だったね。あれからすぐに梨華ちゃんに会いにいったんだ。」
耳にはあのピアスがつけられていた。友達としての印が。
「そう。速攻で。」
だから真里には本当のことを話す事にしたのだ。
「んだよー。言ってくれたらもうちょっと早く帰してやったのに。」
「んぁ。まぁね。」
ちょっぴりふざけてそう答えた。
「んだと、コノヤロー!そんな友達がいのないやつはこうしてやるー!」
真里はその小さな体であたしの背中にぶら下がってきた。
「重いー!デブー!!!」
「誰がデブなんだ!」
「真里ブー。」
「オイラがデブならひとみは何ブー?」
「あたしはスリムブー。」
「バーカ。」
ケラケラと笑いあいながら、またいつものようにふざけあう。
- 193 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時22分38秒
「クスッ。よかった。いつものひとみで。」
「ん?」
「気ぃ遣われたらヤだなって思ってたんだ。」
真里がようやく背中から降りて、そう言った。
「気なんか遣わないよ?真里のことこれでもわかってるつもりだから。」
「おう。それでこそひとみだ。」
互いに気を許せる距離にいる友達。
あたしたちはやはりこの関係がベストだったと思えた。
「ほーら。愛しい彼女が待ってるよ。」
真里の視線の先にあったのは、校門でこちらを見ていた梨華ちゃんの姿。
「ほんとだ。」
「そろそろお邪魔虫は退散しよっかな。」
「なーに言ってんだ。」
- 194 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時23分39秒
- そしてあたしたちは合流した。
「おはよ、梨華ちゃん。」
「おはよう。ひとみちゃん。」
「おはよっ!」
「おはよう。真里ちゃん。」
少しぎこちない笑顔をした梨華ちゃんに真里が近づいた。
「うまく言えないけどさ、ひとみのことよろしくね。」
「ん・・・。ありがと。がんばる。」
「んじゃオイラ先に行くから。」
「気ぃ遣うなよ。」
「バーカ。オイラのこと待ってるファンを泣かせる訳にいかないだけだよ。」
「真里ちゃん。一緒に行こうよ。」
「いいのいいの。ひとみのお守りはもうたくさんだから。」
笑って答えると、真里は手を振って駆け出していった。
- 195 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時24分46秒
- 「いいのかな・・・本当に・・・。」
「いいんだよ。あれがあいつの優しさだから。それを受けるのも友達としての義務。」
並んで歩き出した2人。
昨日の余韻は朝の爽やかな風に吹かれていってしまったかのように、
不思議と恥ずかしさはどこにもなかった。
だけど、今日は今日でまたドキドキが沸いてくる。
ただ並んで歩いているだけなのに、『恋人』として初めて
迎える朝は、すがすがしくも、甘い気分にさせた。
「帰り、どこいく?」
「んー決めてない。ひとみちゃんは?」
「あたしも。」
「学校終わるまでに一つずつ考えておくってのはどう?」
「OK。それでいいよ。」
- 196 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時26分24秒
- 横を歩きながら梨華ちゃんの優しい笑顔をみていると、
自然と手を繋ぎたくなる欲求がでてくる。
抱きしめて、キスをして、その甘い感触に浸りたいとも。
「手、繋いでみたい。」
あたしがそんなことを考えていたからだろうか。
よもや梨華ちゃんからそんなことを聞けるとは思ってもみなかった。
「あたしはいいけど。でも梨華ちゃんまだみんな圭・・・。
圭先輩と付き合ってるって思ってるんじゃないかな。それってまずくない?」
「私は誰にどう思われたって平気よ?ひとみちゃんさえ嫌じゃなかったら・・・。」
「思う訳ないじゃん。だってあたしも手を繋ぎたいって思ってたんだから。」
恥ずかし気に触れ合った指先。
そして繋いだあたたかい手の感触。
「ドキドキ・・・する。」
「あたしも。」
昨日のキスよりもドキドキが沸いてきて、変な気分。
- 197 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時27分41秒
- しかし、そんないいムードを壊すかのように突如現れた人影。
「おっはよ!なんや吉澤。石川と付き合ってるんかいな。」
「あ。中澤先生。おはようございます。」
「そうかそうか。ええなぁ。青春やなぁ〜。」
「おはようございます。先生。」
「うん。おはよっ。あんたら似合いのカップルやわ。
そうかー。よし。吉澤に彼女ができたということは・・・くふふ。矢口のこと・・・」
「ん?先生?」
「あぁ、なんでもないねん。気にせんといて。ってやばー!!!
職員会議遅れるぅ!ほな、またなー!」
裕ちゃんは台風のごとくあわただしく駆けていってしまった。
「矢口がどうのって・・・言ってたよね?」
「うん。あたしもそう聞こえた。」
「まさか中澤先生。」
「かもしれないね。」
クスッと笑い合うと、見上げた日の光に目を細めた。
- 198 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時28分43秒
- 校舎に入っていくと、まだ生徒たちがその入り口に溢れている。
「梨華ちゃん、ちょっと。」
あたしはその手を引いて、非常階段の出口の扉へと向かった。
「ひとみちゃん、教室あっち。」
「うん。でもその前に。」
外に出て扉を閉めると、あたしはもう我慢できずに彼女を抱きしめていた。
「クスクス。ひとみちゃんて面白い。」
梨華ちゃんが耐え切れないという感じで笑っている。
「えーっ。面白い?」
「うん。だって・・・。ここ学校だよ?」
笑った声が体に響いてとても心地いい振動を伝える。
「学校で抱き合っちゃいけないって誰が決めたの?」
「誰も決めてないけど。」
「じゃ、いいじゃん。」
確かに常識で考えると、その行為は普通ではなかった。
だけど、あたしが梨華ちゃんを想う気持ちは常識なんかでは
推し量れないほど、溢れてくるから。
- 199 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時29分51秒
「キスはダメだよ?」
先手を打たれてしまった。
あたしはこの流れでその唇を狙っていたから。
「本当にダメなの?」
声のトーンを少し落として、耳元で囁いた。
「ダメです。」
「ダメっていうのはOKの裏返しでしょ?」
反論にあう前に唇を重ねた。
ダメだと言っていた割りに気持ちよく迎え入れてくれる唇。
朝から何やってるんだろ?なんて疑問も頭に浮かんできたけど、
どうしようもなく梨華ちゃんが好きだから仕方ない。
たっぷりと甘い行為を楽しんだ後、制服の乱れを整えながら彼女が言った。
- 200 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時31分17秒
- 「一度したら何度でもしたくなるじゃない。」
頬を染めてプイっと横を向いてしまった。
「んじゃ何度でもすればいいさ。」
「ひとみちゃん。今何時だか知ってるの?」
「え?やばっ!!!!!」
梨華ちゃんはほーらと言った目であたしを見ていた。
「クスッ。でもありがとね。嬉しかった、ひとみちゃんとキスできて。」
非常階段を駆け上りながら梨華ちゃんがそう言った。
「キスのお礼はキスで返してもらうから。今夜。」
けたたましく階段の音が鳴る。
「うん。まかせて。とびっきりのキスしちゃうから。」
だけどその約束は破られてしまうことになった。
なぜなら、『今夜』を待たずして、この扉の影で今そのキスをしてもらったから。
『繋いだ気持ち』 =終わり=
- 201 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月10日(月)18時43分23秒
- >作者
はい。これにて終了となります。
今まで読んでいただいてありがとうございました。
やはり最後は甘で閉めたかったので、
まぁ目標は達成できたのではと(笑)
この後の2人ってのを番外編で書いてみたくなりました(笑)
いったい放課後どこへデートにいくのでしょうか?
時間が許せばちょこっとだけ書くかもしれないので、
忘れた頃に覗いてみてやってください。
それでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
=修行僧2003=
- 202 名前:186 投稿日:2003年03月10日(月)21時20分52秒
- 完結、お疲れ様でした。
いやぁ〜、最後の最後まで激甘でございましたね・・
もう水飴のようにとろけそうですw
勿論、心地良いとろけ具合です!
冒頭のいしよしの別れ話からよくここまで展開したなぁ、と感心
してます。
「サクラサク。」も大好きでしたが、こちらも本当に素敵でした。
あちらの方にもupされるんですか?楽しみにしております。
「繋いだ気持ち」番外編、是非ともお願いしたいです!
放課後デート・・ゴールは石川さんのお部屋、ということしか
思い浮かびませんw
初々しくも甘甘なふたりのその後、期待してまったりと待ってますね。
- 203 名前:チャーミー 投稿日:2003年03月10日(月)21時54分57秒
- ぐぅ〜なんといういい話だ。
番外編期待してます!
- 204 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月11日(火)08時11分03秒
- (涙をこらえて)惜しまれつつ完結おめでとうございました!!
ホント最後まで理想のいしよしを読ませていただき、とろける思いです。
『サクラサク』といい、修行僧様の描く二人にはやられっぱなしです
心から番外編、次回作を待ってますよ!!
- 205 名前:ROM読者 投稿日:2003年03月11日(火)12時52分33秒
- >190:ROMっていただいていたあなたも、感謝の気持ちでいっぱいです。
はい。ROMっていた読者です。こちらこそ素敵な作品をありがとう。
心の中は春満開です。作者様の優しさが作品を通じて伝わって来たような
気がします。
- 206 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)21時39分49秒
- >186さま
いやぁ、ここまでお付き合いいただき、作者、感激の
涙に溺れているところであります・・・(大歓喜)
>「繋いだ気持ち」番外編、是非ともお願いしたいです!
あぁ。なんと嬉しいお言葉でしょう!
あまりにも嬉しかったので、本当に調子に乗って
書いてしまいました(w
よければ〜おまけ〜読んでやってください!
>放課後デート・・ゴールは石川さんのお部屋、ということしか
>思い浮かびませんw
・・・・・・(笑)
やはり186さまは鋭くていらっしゃる!!!
作者もそれ、考えてみたんですけど、
さて、どうなることでしょうか?(wお楽しみに♪
>チャーミーさま
ありがとうございます・・・(涙)
本当に、たくさんの励ましのお言葉をかけていただいて、
幸せ者です。
よければ、激甘の〜おまけ〜
読んでやってください。お願いします。
- 207 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)21時50分37秒
- >ラヴ梨〜さま
このような拙い小説に毎回あたたかいレスをつけて
いただけたこと、本当に、本当に感謝していました。
この感謝の気持ち、伝わりましたでしょうか?
さて、激甘となってしまった〜おまけ〜
よければ読んでやってください。是非お願いいたします。
>ROM読者さま
嬉しいお言葉、ありがとうございます。
レスをつけてくださったこと、感謝いたしております。
ROM読者さまの暖かい人柄がこちらにもしっかりと伝わってきましたよ!
これからもよければ作者の小説応援してやってください。
そして、よければ番外編の〜おまけ〜も
読んでいただけると嬉しいです。
ここを訪れてくれたあたたかいみなさまへの感謝の気持ちを
込めまして、続きを書いてみました。
それでは、〜おまけ〜読んでみてください。
- 208 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)21時54分52秒
『繋いだ気持ち』〜おまけ〜【前編】
「ひとみぃ〜。随分と遅かったじゃなぁ〜い。」
1時間目の授業にぎりぎりで駆け込んで席に着いたあたしに、
真里は意味ありげな表情をしてつっついてくる。
「えーっと。そう。ほら、迷っちゃってさ。」
「そうそう、迷うよねー。教室いっぱいあるから・・・ってオイっ!」
「あはは。真里のノリツッコミ最高!」
「しょうがないやつだなぁ。ま、野暮なことは聞かないことにするよ。」
ちょっぴり呆れ気味の真里。にやにやが止まらないあたし。
非常階段の扉の向こうでたった今してもらった『とびっきりのキス』が、
あたしをどうにもにやけさせてしまうのだ。
この壁を隔てた隣の教室に梨華ちゃんはいる。
今頃彼女はどんな表情をしているのだろう。
- 209 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)22時02分39秒
- 「そんなことよりさぁ。」
真里のヒソヒソ声が、上の空だったあたしに授業が始まっていることを知らせた。
「ん?どうかした?」
「昼休み、悪いんだけど一人で食べてくれない?」
「なんで?何か用事できたの?」
「オイラにもよくわかんないんだけどさ、さっき三十路につかまって。
呼び出しくらったんだよね。」
「へぇ〜。お説教かもねぇ〜。」
頭の中には今朝の裕ちゃんの姿が浮かんできたけど、それは内緒。
「げっ!ひとみもそう思う?あぁ・・・最近成績悪かったからなぁ。特に生物は。」
そのしかめっ面に、あたしのいたずら心はくすぐられる。
「たっぷりしぼられてきなよ。いい機会に。」
「ひとみも人のこと言えないじゃん!そのうち呼び出しくらうぞ。」
「あぁ。あたしはきっと大丈夫。」
「なんでそんなに自信あるんだよー。」
「へへへ。それは内緒。」
意味ありげに笑った。
それは裕ちゃんが呼び出す『本当の意味』を知っているから。
- 210 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)22時04分32秒
- そしてやってきた昼休み。
「がんばってきなよー。」
「ひとごとだと思って!」
「ひとごとだもーん。」
真里はべーっと舌を出すと、教室を出て行った。
「さ、飯でも食うか。」
取り出した弁当をみつめながら、これが梨華ちゃんの作ってくれた
ものだったらいいなと思ってたところ。
「ひとみちゃん。」
教室の扉をあけて梨華ちゃんがあたしを呼んだ。
「あれ?どうしたの?」
思わぬ来客についつい嬉しくなって駆け出してしまう。
「どうしたのって・・・。今さっき真里ちゃんに、ひとみちゃんが呼んでるって教えてもらったんだけど?」
真里のやつ。なんだかんだと言いながらも心憎いことをしてくれる。
「あー。そうそう。そうだった。あのね、お昼一緒に食べないかなと思って。」
「うんっ。もちろんいいよ。柴ちゃんたちに話してくるからちょっと待ってて。」
「あっ、梨華ちゃん!」
「えっ?なに?」
「その。お昼食べるの、2人でって意味なんだけど・・・。」
梨華ちゃんはにっこりと微笑んだ。
「わかってるよ。」と言いながら。
- 211 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)22時06分46秒
- 「それうまそー。」
梨華ちゃんのお弁当の中をじっと覗き込みながら箸をくわえた。
「食べる?」
「えっ。いいの?」
「そんな目で見られたらねぇ。」
クスクスと手を当てておかしげに笑っている。
「んじゃ。いただきます。」
お目当てのたこさんウインナーに狙いをつけて、箸を伸ばしたけど、
その前を遮るようにして彼女が先に箸をさした。
「えへへー。食べさせてあげるねっ。」
「ほえっ!?」
「はぁい。あーんっ。」
誰も見ていないとはいえ・・・嬉しいような、恥ずかしいような。
それは正に絵に描いたようなラブラブのカップルそのもので。
それでもあたしは照れ笑いを浮かべながら、しっかりと口をあけた。
「どう?おいしい?」
「・・・・・うんっ!めちゃおいしい!」
「ふふっ。よかったぁ。」
梨華ちゃんには申し訳ないけど、本当は味なんてわかっていなかった。
あまりにも照れくさくて、ドキドキしていたから。
- 212 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)22時09分05秒
- 「これ自分で作ったの?」
マヌケなにやけ面をごまかすように、そう訊ねてみた。
「そう。・・・っていいたいとこだけど、実はママの手作り。」
「そっか。」
「でも、もしひとみちゃんが食べてくれるって言うんだったら・・・」
「ん???」
「私、がんばって作ってみようかな。」
にわかには信じ難い展開。
修正がきかなくなってしまうのでないかと思うくらい、にやけてしまう。
「マジで?」
「うん。おいしくできないかもしれないけど。」
ダメだ。完全にノックアウトをくらってしまった。
「ひとみちゃん???」
ほうけているあたしの目の前にひらひらと手がかざされた。
「・・・すっげー嬉しい。」
「よかったぁ。そう言ってもらえて。」
屋上で食べるランチはかなり寒かったけど、あたしの心はポカポカと温められていった。
- 213 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)22時10分20秒
- 「そうだ。ウインナーのお礼にこれ食べてみて?」
だし巻きたまごをつきさして、同じように彼女の口へ運んであげた。
「うわ。おいしい!」
「そうでしょ?」
「もしかしてひとみちゃんの手作り?」
「まさかー。あたし料理は苦手。うちも母親が作ってくれてるよ。」
「すごいね・・・。お料理上手な人なんだ。ひとみちゃんのママって。」
「へへっ。ありがと。結構自慢かな?かなり腕はいいと思う。」
なぜか一瞬動きがとまってしまった彼女。かと思うとシュンとしてうなだれてしまった。
「???どうしたの?」
「だって・・・。こんなおいしいお弁当毎日食べてるのに、私のお弁当なんて・・・」
どうやらいじけてしまったようだ。
だけど・・・それがまた妙にかわいい。
- 214 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)22時11分48秒
- 「梨華ちゃん。」
「なによぉ・・・」
「あたしは梨華ちゃんのが食べたいの。」
「ひとみちゃんのママみたく、上手く作れないもん。」
「そうかな?絶対うまいと思うけど。好きな子が作ってくれるお弁当って、きっと世界一だと思うから。」
「もぉ。やだー。」
言ってるこっちが照れてしまうようなセリフだったけど、どうやらそれで彼女の機嫌は直った。
「明日も・・・。できたらこれからも一緒に食べてほしいなぁ。」
モジモジとご飯をつつきながら梨華ちゃんがそうつぶやいたから、
あたしはその手を優しく握った。
「・・・嬉しいよ。そう思ってもらえて。」
「ひとみちゃん。」
「ん?」
「すぅーきっ。」
体いっぱいに広がっていく幸せな気持ちを伝えたくて、ご飯の途中だというのに、
ついついキスをしてしまった。
「好きだよ。」
胸が高鳴ってどうしようもなくもっとキスがしたくなってしまう。
- 215 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)22時14分50秒
- 膝においていたお弁当をさりげなく横に置くと、梨華ちゃんの肩に手を回して
あごのラインに手をかけた。
「かわいい唇だね。」
頬をなでながら、親指でその唇をなぞった。
そんな行為に潤んだ瞳であたしを見ている彼女。
「キスして。ひとみちゃんの唇、もっと感じたい。」
その言葉に応えるように、一度軽くキスをした。
そして今度はゆっくりと確かめるように唇を甘噛みしながら、優しくキスをした。
時折もれる吐息が甘い刺激を脳に伝える。
腰掛けていたコンクリートブロックから立ち上がると、
彼女の前に膝を立てて、その華奢な体を正面から抱きしめた。
「梨華ちゃんが言ってたこと、本当だったね。」
「ん・・・なに?」
「一度キスしたら何度でもしたくなるって。」
「ふふ。そうでしょ?」
だからあたしたちは時間が許す限り、キスをしていた。
おかげで午後の授業はお腹の虫がなりやむことはなかったけど。
- 216 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月14日(金)22時21分13秒
- >作者
・・・・あの。恥ずかしいくらい甘になってしまって(wゞ
みなさん、ついてきていただけるでしょうか?(涙)
後編はまた次回UPさせていただきたいかと思います。
少し長くなるようであれば、中篇として次回UPする予定です。
・・・はい。まだこの時点でラスト考えておりませんので(汗)
それでは、また次回。
どうぞお楽しみに〜♪
(砂糖いっぱい吐いてもらえるくらいの甘目指してみます!)
- 217 名前:202 投稿日:2003年03月15日(土)01時00分51秒
- うぉ〜、番外編、始まったのですね!
いやはや・・もうこの二人は、お菓子の国のヘンデルとグレーテル状態
ですねw
何だか屋上で覗き見してるかのような感覚に襲われました・・
今回も体内からメープルシロップ吐きまくりでございます。
大丈夫です、作者さんをロックオン♪して、しっかりと付いて
行きますのでw
ラストはまだ考えていらっしゃらないのですね。
いしよしならきっと・・(謎)
後編も楽しみにしておりますよ。
- 218 名前:名無し香辛料 投稿日:2003年03月15日(土)01時37分22秒
- 今頃読破連。
とても甘いお話、最高です。ニヤけちゃいます。
はあ〜、よっちぃが羨ましいです。マジメに(w
続きヒッソリ期待してますね。
- 219 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月15日(土)09時54分51秒
- 番外編きましたね〜!!
こちらが感謝こそすれ、感謝されるなんて光栄です(嬉)
ただの慢性いしよし病患者ですからね(笑)
昼食シーン早速、やられました!!
心よりお待ちしてます
- 220 名前:サイレンス 投稿日:2003年03月15日(土)16時53分15秒
- 最近読ませて頂いた者です。痛めがあってこその激甘ですね。
いい話です。続きも楽しみにしてます。作者さんがんばって下さい。
- 221 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時33分33秒
- >202さま
またまたお付き合いいただき、誠にありがとうございます♪
作者、この番外編でかなり壊れ気味ですが、
どうぞマターリ見守ってやってください(w
202さまはこちらもロックオン済みです♪
>名無し香辛料さま
ありがとうございます!
ニヤけていただけるのは、作者冥利につきるというものです♪
これからもどうぞ、よろしくお付き合いください。
>ラヴ梨〜さま
いつもお付き合いいただきありがとうございます!
ちなみに作者もその病気にかかっております(笑)
しかも重症です(w
よければまた読んでやってくださいね♪
>サイレンスさま
ありがとうございます。
下手なりに、いしよしへの愛情と根性だけで
がんばって書いております(汗)
これからもっと上手に書けるようにがんばりますので、
応援よろしくお願い致します。
それでは、中編となりました続き。読んでやってください。
- 222 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時36分12秒
〜おまけ〜【中編】
「で?どうだった?」
板書をしている手を止めたかと思うと、にやりとした目であたしを覗いた。
結局またチャイムが鳴るぎりぎりの時間まで彼女と一緒にいたから、
こちらの話も真里の話もまだ報告しあっていなかったのだ。
「どうって?なんの話?」
ちょっぴりもったいつけてみたかったから、わざととぼけた口調で答えてみる。
「とぼけるなよー。オイラがお膳立てしてやったんだぞ。ラブラブランチ。」
ラブラブ・・・。確かにラブラブだったなぁとまた思い出し笑いをしてしまう。
「へへっ。やっぱわかっちゃった?もうね、かなり幸せ。」
本当は話したくてうずうずしていたのを、真里は見抜いていたようだった。
「オイオイ。鼻の下のびてるよ。ったく。」
「マジかわいかったなぁー梨華ちゃん。」
「あーんっ。とかって食べさせてもらってたりして?」
「・・・なんでわかったの?」
「・・・マジかよ。」
呆れたように笑う彼女。
- 223 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時37分49秒
- 「うん、マジ。おまけにね、お弁当作ってきてくれるってさ。」
「うはー。そんなことまでしてくれるんだ。すごいね。」
「それでさ。ちょっと言いにくいんだけど、明日からその・・・
梨華ちゃんとお昼食べてもいいかな?」
さすがにちょっぴり遠慮気味に伺った。
「ん?あぁ、もちろんいいよ。ってゆーかさ、その方がこっちも都合がいいかも。」
ちらっと先生の方を窺ってから、真里はこちらに体を近づけてきた。
「どしたの?」
「ほら、さっき裕ちゃんに呼び出しくらったじゃない?」
「うん。その話も聞きたかったんだよね。どうだった?」
「それがさー、なんか知らないけど急に熱血教師に目覚めたみたいで。
これから毎日勉強教えてやるって言うんだよ。」
「あはは。気の毒に。」
「笑い事じゃないって!いい迷惑だよ、まったく。」
「ふーん。よっぽど裕ちゃんに気に入られたんだ。」
笑いをこらえながらポンポンと真里の肩をたたいた。
- 224 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時38分46秒
- 「弁当持参でこいっつーんだよ?これじゃぁ昼休みなんて言えねーよ!」
「仕方ないね。成績あがるまでの辛抱ってことだ。」
「くっそー。こうなったら意地でも成績あげてやる!」
真里はメラメラと燃えていたけど、それこそが裕ちゃんの狙いかもしれない。
好きになるきっかけなんて、案外そんな単純なところから
始まるものかもしれないから。
自分を見守ってくれている誰かの好意は、恋のきっかけとしては十分ありえること。
「ま、とにかくがんばりなよ。」
「かーっ。オイラの青春がー。」
「クスッ。案外そのうち沸いて出てくるかもしれないよ?青春ってやつが。」
「ひとごとだと思って楽しんでない?」
「そんなことないよ。真里の幸せはあたしの幸せだから。」
「よく言うぜ。オイラの幸せはどこにあるんだ?」
それは裕ちゃんが持ってきてくれるかもしれない。
そんな予感を抱きながら、不貞寝してしまった真里の寝顔を温かくみつめていた。
- 225 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時40分18秒
「がんばってこいよー!」
「おう!また明日!」
HRが終わると、すぐにカバンを手にとって教室をあとにした。
出口前の廊下でそわそわとしながら梨華ちゃんを待つ。
そして、ぞろぞろと出てくる隣のクラスの生徒の中に見つけたその姿。
「ごめーん、おまたせ。」
「ううん。さ、行こうか。」
なんとなく照れてしまうのは、昼休みにしたキスの余韻がまだ残っているから。
「どこ行くか考えた?」
人の流れに乗りながら、梨華ちゃんがあたしの顔を見上げた。
「うん。考えた。梨華ちゃんは?」
「ばっちり。」
階段にさしかかったところで、あたしはさりげなく手を繋いだ。
「クスッ。ひとみちゃんて優しいよね。」
「ん???別に普通だと思うけど?」
「
私が階段で転ぶかもって思ったんでしょ?」
「いや、あの・・・・・まぁ・・・ね。」
すっかり気持ちを読まれていたことに、気恥ずかしさがこみ上げる。
「ありがと。」
ぎゅっと握り返してくれた手の力に、その気持ちが伝わってきた。
- 226 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時41分51秒
通学路を歩きながら駅まで向かう2人。
結局デートは駅前にある、ケーキと紅茶がおいしいと有名な店に決まった。
「あぁ。何たのもうかなぁ。いつも迷っちゃうのよね。」
ケーキの話題に目を輝かせている梨華ちゃんを見ているだけで、幸せな気分になるあたし。
つまり、このデートプランは彼女の意見を取り入れたということ。
「迷うんだったら何個かたのんだらいいんじゃない?」
「えーっ。そんなことしたら太っちゃうよー。」
「別に太ってないから問題ないじゃん。どちらかというと細いくらいだし。」
「そんなことないよー。痩せてるように見えるだけ。本当は結構やばいんだから。」
これがかわいい乙女心というものなのだろうか?
あたしなら気にせず、好きなものは食べたいと思うけど。
「太ってないって。ほら。」
それを証明してあげたくて、何気なく彼女のウエストに腕をまわした。
- 227 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時42分50秒
「やだ。触っちゃだめ。」
その言葉に他意はなかったのだろうけど、甘ったるい声としぐさにクラクラと
崩れ落ちそうになってしまった。
「ごっ、ごめんね?」
あわてて腕を引っ込めると、彼女にわからないように息の乱れを整えた。
そう。かなり動揺していたのだ。
「なにもそんなに謝らなくっても。」
クスリと笑った罪のない瞳があたしを捉えている。
そんなちょっとしたニュアンスにすら愛しい気持ちが溢れてくるのを
梨華ちゃんはわかっているのだろうか。
キスをしたり、抱擁したり、そんなことは意識せずにできるのに・・・
恋とは、本当に不思議なものだ。
ただ側にいるだけで幸せな気持ちになったり、ドキドキしたり。
他の誰でもなく、梨華ちゃんにだけ感じる想い。
だからもっと彼女を喜ばせてあげたくなる。
- 228 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時44分36秒
- 「いいこと考えたよ。」
「いいこと?」
「うん。あたしの分のケーキ、梨華ちゃんの好きなのたのみなよ。
これで2種類は食べられるでしょ?」
「でもそれだと・・・」
「いいのいいの。気にしないで。」
「ありがとー。」
そう言って腕を絡ませてきた彼女。
ほんの少しだけ感じる柔らかい感触に、ゾクっと体が震えそうになってしまう。
「やっぱりひとみちゃんは優しい人ね。」
「今日は褒められっぱなしだなぁ。なんか照れちゃうよ。」
「だって本当にそう思うんだもん。」
「そうかなぁ?」
照れくさい気持ちをごまかすように、ちょっとおおげさにカバンを揺らしてみた。
「でも・・・ね。」
「でも???」
- 229 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時46分05秒
- 「・・・なんでもない。」
「なぁに?教えてよ。」
彼女が何を言おうとしているのか、本当はなんとなくわかっていたけど、
やはりその言葉を直接聞いてみたくて。
「教えてよー。ねぇ、梨華ちゃーん。」
「なんでもないってば。ほんと。」
ちょっとムキになっているのがかわいくて、曲がり角にある電柱の影で、
彼女の体を抱きとめた。
「本当のこと言ってよ。」
両腕を腰に回して、密着させながら問い詰めてみる。
「だって・・・ひとみちゃんきっと笑うと思うから。」
「笑わないって。何言っても。」
「うー・・・・」
「なぁに?」
「あのね・・・その・・・」
「うん。」
「・・・私以外の人には優しくしないで欲しいなぁ・・・なんて。」
想像していた通りの言葉に自然と頬が緩んでしまう。
こんなにも愛しいと思える気持ちは、一体どこから生まれてくるのだろう。
- 230 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時47分09秒
- 「あたしが優しくしたいと思うのは梨華ちゃんだけだよ?」
「本当に?」
「うん。梨華ちゃんだけだから。」
「えへっ。ありがと。」
どうしようもなくかわいくてたまらなくなる。
だからあたしはもっと梨華ちゃんを抱きしめて、精一杯の愛情を注ぎたくなるのだ。
気持ちを行動に移す為にちらりと横目で周りを窺うと、ほんの一瞬だけ唇を重ねた。
「ねぇ、梨華ちゃん。」
「ん?」
「梨華ちゃーん。」
「クスクスっ。なぁに?」
「なんでそんなにかわいいの?」
「もぉーからかわないでよ。」
「からかってないって。マジで惚れてるんだけど。」
「それは私もよ。」
ケーキを食べる前だというのに、既にあたしの心は甘くとろけていた。
- 231 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時49分03秒
「決まった?」
「ん・・・・・・はぁーっ・・・」
「何もそんなに悩まなくっても。」
メニューの写真を真剣に覗き込んでいる表情がおかしくて、
ちょっぴり笑ってしまった。
「よし。決めた。」
「後悔しない?」
「やーん。そんなこと言わないでー。また迷っちゃうじゃない。」
「へへ。ごめん。ちょっとからかってみたかったんだ。」
にっこりと微笑むと、ウエイトレスを呼んで注文をした。
店内にはあたしたちのような学校帰りの生徒や、子供連れの母親たちが
たくさんいたけど、みんな至極の笑顔でケーキを食べている。
そんな幸せそうな空気が辺り一面に広がっていた。
もちろんこの中で一番幸せを感じているのはあたしだろうけど。
ケーキが運ばれてくるまでの間、あたしはじーっと梨華ちゃんのことを見つめていた。
時に照れくさそうに視線を外す、彼女のしぐさすら見逃すことなく。
- 232 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時50分41秒
- 「あの・・・そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど・・・」
「だって見てたいんだもん。梨華ちゃんのこと。」
だんだんと赤く染まっていく頬。
「そっ、そうだ。お弁当のおかず、リクエストある?」
ちょっぴりあせったように話をそらす彼女。困った顔もまたかわいい。
「クス。なんでもいいよ。梨華ちゃんにまかせる。」
「えー。それも困ったなぁ・・・。」
「何が得意なの?」
「んーっ。作ったことないからわかんない。」
「梨華ちゃんが作ってくれたものならなんでもいいから。気にしないで。」
テーブルの上においてある手をとって、指で優しくなでた。
「おまたせいたしました。ザッハトルテのお客様。」
いい雰囲気だったけど、ウエイトレスの登場にあわてて手を引っ込めた。
そしてウエイトレスがホールに戻っていったのを確認すると、
あたしたちはクスクスと笑いあった。
まるでいたずらがばれた子供のような気持ちで。
- 233 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時52分14秒
それからあたしたちは、学校のことや家族のことなんかを話しながら、
ゆっくりとその時間を楽しんだ。
カロリーを気にしていた割りに、結局2つあったケーキのほとんどを彼女が食べてしまった
のには笑ってしまったけど。
「楽しかったなぁ。」
帰り道。繋いでいる手を揺らしながら、梨華ちゃんがそう言った。
「あたしも。すごく楽しかったよ。」
少し遠回りになるこの並木道を選んだのは、少しでも彼女といたいと思ったから。
「ケーキいっぱい食べちゃってごめんね?」
「ふふ。いいよ、梨華ちゃんの幸せそうな顔がみれたから。あたしはそれで満足。」
「幸せそうな顔してた?」
「うん。もうニコニコで目が輝いてたよ。」
「いじわるー。」
軽く肩をぶつけて抗議してきた彼女に、おおげさなリアクションをとってふざけてみる。
- 234 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時53分17秒
- 「そんなに強くぶつかってないじゃなーい。」
「結構痛かったよ、今の。」
「うそっ。」
「へへっ。うそです。」
そうやってふざけあいながらも、徐々に胸が痛くなっていくのを感じていた。
梨華ちゃんのマンションが並木の隙間にほどなく見えてきたから。
「明日はどこいく?」
次のデートの約束を梨華ちゃんから誘ってくれたのは嬉しかったけど、
それはもうすぐ今日のデートが終わることも示している。
「学校の帰りだとそう遠くにもいけないし、難しいよね。」
「ひとみちゃんが言ってたとこ、明日いこっか。」
「うん。それでいいなら。」
歩くスピードを少し落として進んでいく。
並木が落とす影の間隔に、歩幅を増やして確かめる。
それと同じように増えていくのは、心のため息と梨華ちゃんへの想い。
- 235 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時54分29秒
話したいことはいっぱいあるのに、どうしようもない切なさが押し迫ってきて、
あたしを無口にさせていた。
梨華ちゃんもそれに付き合うかのように、うつむいたまま何も話さない。
だけど、このまま別れてしまうのだけは避けたかったから、
進んでいた足を止めた。
「ひとみちゃん・・・・?」
「あの・・・さ・・・」
「・・・なに?」
「今すぐここで抱きしめたい・・・」
人通りが少ないとはいえ、いつ誰が通るかわからない道の真ん中で
あたしはそう告白した。
「うん・・・いいよ・・・」
消え入りそうな小さな声を確認すると、繋いでいた手を引き寄せてその体を抱きしめた。
- 236 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時55分46秒
- 「・・・はぁ・・・やっぱ落ち着くよ・・・。梨華ちゃんの体温、心地いい。」
「ひともちゃんもあたたかいよ。」
「ほっとする。梨華ちゃん抱きしめると。」
「安心してくれてるの?」
「うん。そういうこと。」
しばらく目を閉じて体一杯そのぬくもりを感じていた。
幸せで濃密な2人の時間を逃さないように。
「梨華ちゃん、今日のデート本当に楽しかった?」
「もちろん。楽しかったよ。」
「そっか。よかった。」
「ひとみちゃんは?」
「もちろん楽しかったよ。でも・・・ね・・・本当は・・・すごく寂しかった。」
「えっ・・・・」
梨華ちゃんが体がほんの少し揺れた。
「離れないで。ちゃんと抱きしめさせて。」
「うん・・・わかった。」
- 237 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)22時56分58秒
- もう一度しっかりと抱きしめ直すと、情けない心のうちを吐露した。
「2人でいられたのはすごく嬉しかったし、楽しかったんだ。
だけど、この腕の中に梨華ちゃんを感じることができなかったから・・・。」
「ひとみちゃん・・・・」
「見ているだけじゃ物足りなくなってきて。すごく寂しくて・・・
本当はお店なんかいかないで、ずっとこうやって抱きしめているだけでよかったんだ。」
「そんな風に思っていてくれてたの?嬉しい・・・」
「呆れるよね。自分がこんなに情けないやつだとは思ってなかったよ。」
「情けなくなんかないよ。ステキな愛情いっぱい感じるもの。」
「あたし・・・梨華ちゃんがいないとダメな人間になっちゃったみたい。」
「・・・うん。ずっと・・・側にいるから。寂しくなったらいつでも抱きしめて。」
「梨華ちゃん・・・」
ふーっと息を吐き出して、大きく息をついた。
その間中、梨華ちゃんは優しく背中をなでてくれていた。
それがあまりにも心地よくて、幸せ過ぎて、涙がでてきそうになる。
- 238 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)23時00分19秒
- 「不思議ね。こうやってると私まで安心してくる。」
「ほんと?」
「ほんとよ。気持ちが和らいでいくの。」
「ありがと。同じ気持ちでいてくれて。」
感謝の気持ちを伝えたかったから、抱きしめたまま頬に優しくキスをした。
好きだよ。と囁きながら。
「ねぇ、ひとみちゃん・・・一つお願いがあるんだけど・・・」
上目遣いに見る視線に心がとらわれる。
「うん、あたしで叶えられることなら。」
「もうしばらく一緒にいて?」
「クスっ。それはあたしがお願いしたいことだよ。」
「あの・・・そうじゃなくって・・・」
背中の動きはいつの間にか止まっていた。
「なに?」
「私の部屋に来て欲しいってことなんだけど・・・」
ドクンと大きく心臓が動いた。
「・・・・・・いい・・・の?」
「私も・・・ひとみちゃんがいないとダメな人間になったみたい。」
- 239 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)23時04分14秒
- >作者
・・・・呆れてませんよね?大丈夫ですよね?(汗)
小説というよりも、作者の妄想の世界になりつつあるこの番外編。
さて、次の後編が最後です。
・・・・期待しないでくださいね。(笑)
作者にも一応羞恥心というものがありますので(wゞ
どのラインまで引き上げるかわかりませんが、
たっぷり甘ということだけは保障します。
それでは今日はこの辺で。
ありがとうございました。
- 240 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月16日(日)23時06分56秒
- >作者
あ。すみません。一言連絡事項が。
202さまのアイデアちょろっと参考にさせていただきました。(汗)
どうもご協力ありがとうございます。(ぺこり)
それでは、また♪
- 241 名前:217 投稿日:2003年03月16日(日)23時42分37秒
- おぉっ、ほぼリアルタイムでしたか。うれしいです。
中編更新、お疲れ様でした。
くはぁ〜、限りなく激甘なふたり・・
身体が飴細工のように、とろけたままねじれてしまいそうです。
ケーキ屋のいしよしはきっと、半径5m以内に警報が出るほどの
ラブラブ状態だったことでしょうw
読んでいるこちらも、PCの前でクネクネしてますw
アイデアを参考にしていただけて光栄です。
ついに禁断の(?)石川さんのお部屋へ・・
もう恥じらいを捨てて、後は野となれ山となれ、でございますw
後編、楽しみにしています。
- 242 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月17日(月)01時29分12秒
- 相も変わらずこの糖度!!
やっばぃ!!
1シーンごとに悶えちゃって大変です
しかも梨華ちゃんルームでどんなことがおきるのか考えただけで眠れませんよ〜
- 243 名前:サイレンス 投稿日:2003年03月17日(月)21時29分43秒
- 甘い、ケーキより甘い。いやーいいですねーいしよしって。
改めて感じました。おー次回は梨華ちゃんの部屋ですか。
期待です。作者さん、よっすぃー、梨華ちゃんがんばれ!
- 244 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)17時53分41秒
- >217さま
毎度ご来場ありがとうございます(嬉々)
>くはぁ〜、限りなく激甘なふたり・・
>身体が飴細工のように、とろけたままねじれてしまいそうです。
嬉しい感想ありがとうございます!
>読んでいるこちらも、PCの前でクネクネしてますw
作者も嬉しさのあまりクネクネしてしまいました(笑)
>後編、楽しみにしています。
お待たせいたしました!
やっと書くことが出来ました・・・(涙)
もう、たーっぷり甘になっておりますので、是非読んでやってください♪
>ラヴ梨〜さま
ステキな感想いつもありがとうございます♪
>しかも梨華ちゃんルームでどんなことがおきるのか考えただけで眠れませんよ〜
・・・。あの。引かないでくださいね?(汗)
ぎりぎりのラインでがんばってみましたが、
さて、ラヴ梨〜さまのお口にあうものが書けたかどうか・・・
すごく不安です(涙)
でも、これで最後ですので、どうぞ読んでやってくださいませ。
- 245 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)17時57分19秒
- >サイレンスさま
励ましのお言葉、胸にしみました(涙)
本当にありがとうございます。
>期待です。作者さん、よっすぃー、梨華ちゃんがんばれ!
暖かいご声援のお陰で、やっとラストを書くことができました。
ありがとうございます♪
さて、やっとUPすることができました。この後編。
みなさまの嗜好に合うかどうかは微妙ですが・・・(w
あまーく。あまーく。書いてみました。
それではどうぞお楽しみください。
*中学生以下のよい子は読まないでくださいね?(笑)
一応、そういう事で(w
- 246 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)17時59分32秒
- 〜おまけ〜【後編】
5階でエレベーターはとまった。
「ちらかってるけど、笑わないでね。」
「クスッ。それは楽しみ。」
先に降りた梨華ちゃんの後についていくと、三つ目の扉の前で足を止めた。
呼び出しボタンに手をかける彼女。
鍵を取り出さないのを見ても、どうやら誰かが中にいるらしい。
そんな上手くいく訳ないか・・・。
ほんの少し・・・いや、正直なところかなり期待していただけに、
ちょっぴりため息をもらしてしまった。
だけど。
- 247 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時00分49秒
- 「あれ・・・おかしいな。」
もう一度ボタンを押したけど、やはり反応はないようだった。
「ごめんね。ちょっと待ってくれる?」
カバンの中の鍵を探している間、あたしは手すりにもたれて
階下に広がる景色を眺めていた。
そう。もう一度復活してきた期待感を落ち着かせるために。
=ガチャン=
開かれたドアの音が耳に届くと同時に、ドクンと鼓動が鳴った。
「どうぞ。」
ふーっと息を漏らして振り返ると、ドアの向こうにある空間に足を踏み入れる。
「おじゃまします。」
アイボリーの壁が優しい色を醸し出している。
清潔感のある雰囲気に、梨華ちゃんの母親の性格がほんの少し窺えた。
ちらっとだけあたりを見たけど、奥のリビングには誰もいない様子。
- 248 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時01分46秒
- 「ここが私の部屋なの。」
玄関を上がった右手にあるのが彼女の部屋のようだ。
「うん。入ってもいい?」
「ふふふ。どうぞ。」
ドキドキと高鳴っていく胸。そして少しの緊張。
扉の向こうに広がる世界は、あたしにどんな思い出を与えてくれるのだろう。
「うぁ・・・」
さっきまでの緊張が一気に解けていく。
それは特にちらかっていることもない部屋だったのだが・・・
そこにあったのは、瞳の色まで染まってしまうかのような、
女の子っぽいピンク色の世界。
「びっくり・・・した?」
ベッドカバーやカーテン、カーペットにいたるまで華やかに咲くピンクの色。
- 249 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時02分47秒
- 「すっごいね。一面ピンクの世界だ。」
行儀が悪いとは思いながらも、圧倒されて思わず部屋を見渡してしまった。
「えへ。好きなのピンク色。落ち着かないかもしれないけど、座ってて。」
「ありがと。」
これまたハート型をしたピンクのクッションに腰を下ろした。
「ママが書置きしてるかもしれないから見てくるね。」
カバンを置いてエアコンをつけると、リビングに消えたその姿。
「はぁーっ・・・さて、どうするか。」
一人になると、とたんに色んなことが頭の中を駆け巡っていった。
しかしどんな考えを巡らせても、たどり着く先はやはり一つの答え。
「いきなりはまずいだろうな・・・」
心の中の気持ちを吐き出して、確認するようにポツリともらした。
胸を焦がすような甘い世界。
つまりは梨華ちゃんとの戯れを思い描いていたのだ。
- 250 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時03分40秒
- きっといつかはこの時がくるとわかっていた。
それが思ったよりもはやくきてしまっただけのこと。
付き合っている2人にはごく当然のことだから。
「ちょっと待てよ。一人で先走ってないか、あたし。」
肝心の梨華ちゃんの気持ちが一番の問題ではないのか。
そもそも家に呼ぶこと自体、あたしとの認識の差があるのかもしれないし、
まして母親がいるとわかってて呼んだことを考えれば、
あたしが望むようなことは最初から考えていなかったのかもしれない。
こちらの気持ちはその方向へ向かっているけど、彼女はただ純粋に、
2人の時間を楽しみたいと思っていただけかもしれないのだ。
冷静にならなくてはいけない。
「だけど・・・。『ママ』はいないんだよね・・・。」
だからこんなにも悩んでしまうのだ。
- 251 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時04分50秒
- 「・・・梨華ちゃん遅いな・・・」
メモ書きを見に行くだけにしては時間がかかりすぎている。
まさか、何かアクシデントでもあったんじゃ・・・
「梨華ちゃーん!」
部屋から顔をだして、その名前を呼んだ。
反応は・・・ない。
あわててリビングまで行くと、その扉を開いた。
「梨華ちゃん???」
「ん?なぁに?」
心配していたあたしをよそに、彼女は振り向いてにっこりと笑った。
「よかった・・・遅いから心配したよ。」
「あっ。ごめんね?ついでだからお湯沸かしてたの。
ほら、りんごもむいたよ。見て、かわいいでしょ、うさぎのりんご。」
心配して損したとは思わなかったけど、もうちょっと反応して欲しかったのが正直なところ。
「うん。かわいいね。」
- 252 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時06分49秒
- ほっと一息ついてよくよく梨華ちゃんをみてみると、
エプロン姿だったことに気がついた。
「へぇ。なかなか似合ってるね、その姿。」
壁にもたれながら、上から下に視線を動かした。
「ありがとー。」
しかしお弁当すら作ったことがないと言ってたのに、なんでエプロンを持っているのだろう。
そんなことを考えていたら梨華ちゃんがこっちにやってきた。
「見て見て、かわいいでしょ?ほら、うしろのリボンもピンクのハート型なの。
ひとめぼれして買っちゃった。」
後ろを向いてそれを見せてくれている。
「あぁ。そういうことね。」
料理をするために買ったのではないらしいことに、少しだけ笑ってしまった。
「なんで笑ってるのよー。かわいくない?」
こっちを向いて唇をとがらせている。
「ううん。かーわいい。」
エプロンよりももっとかわいい『中身』をふわりと抱きしめると、
頬をぴったりくっつけてすりすりした。
「やだぁーくすぐったいよぉー」
「にへっ。ダーメ、くすぐったくても離さない。」
「いやーん。いじわるねっ。」
ふふふと笑っていたけれど、腰にまわしていた手にそっと力が込められた。
- 253 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時08分53秒
- 「ここにいるんだよね、ひとみちゃん。」
「んー。急にどうしたの?」
「ううん。なんか・・・夢を見ているみたいで。」
「夢?」
「幸せ過ぎて、現実感がわかないの。気がつけば私はベッドの上にいて。
実は夢の世界の出来事でした。みたいな。そんなこと考えちゃう。」
「夢じゃないよ。ちゃんとあたしはここにいる。」
「えへへ。そうだよね。ごめんね、訳わかんないこ・・・」
言葉で紡ぐよりも、よりリアルな方法を使って夢と現の境界線を示した。
「・・・・っ・・・・・」
あごの角度を変えながら、より深く、より濃厚に差し入れたあたしの一部。
柔らかくて、甘くて、あたたかい彼女の舌の感覚に、もっと先を求めてしまいそうになる。
深く、深く、もっと深く。
自慢のエプロンの肩紐も、ぐしゃぐしゃになってしまっているのではないかと
思うほど、強く求め、強く求められている熱いキス。
- 254 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時10分00秒
- 今全てを求めてしまったら、彼女はどんな反応をするのだろう。
頭の端には天使と悪魔の囁きがせめぎあっていたけど、
もちろん勝つのはいつの時でも悪魔のブラックパワー。
はぁはぁと息を継ぎながら、腰に巻かれているエプロンの紐を片手で解き放した。
彼女はあたしの首に両手をかけた状態で夢中でキスをしているから、
紐が解けてしまったのに気付かない。
なで上げるように背中に手を這わせて、髪を柔らかくつかむと、
徐々に唇を首のほうへとずらしていった。
===ピーーーーー!!!!===
そのけたたましい音に、一瞬にして体の動きが止まる。
「・・・・・・お湯、沸いたみたい。」
腕をぎゅっとつかんだままうつむき加減で彼女がつぶやいた。
照れくさいのは2人とも同じ。
「バッドタイミングだね。」
恥ずかしそうにあたしの肩を手で押すと、お湯の火を止めに行った。
- 255 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時11分22秒
- 「何にする?コーヒーがいいかな。それともお茶?なんでも言ってね。」
「そうだな・・・それじゃぁコーヒー。ブラックで。」
「はぁーい。ブラックね。」
コーヒーカップを出そうと食器棚に近づいた彼女。
「・・・ひとみちゃん、これ・・・」
ガラスの扉に映った自分の姿に今頃気付いたようだ。
ぶらーんと垂れ下がっていたエプロンの紐を手にしてちらりとこちらを見る。
「これ外したのひとみちゃん?」
「クスクス。気付いた?」
「・・・うん。でも、いつの間に。」
「それは2人がラブラブしていた間。」
一歩近づいて、その瞳を追う。
「うふふ。ラブラブ・・・ね?」
食器棚にもたれかかってこちらをみている瞳が、あたしの心に仄かな火をつける。
「うん。ラブラブしたいな、もっと。」
視線を外さないで彼女との距離を近づける。
「それは・・・・」
目をそらして向こうをむくと、食器棚の取っ手に手をかけた。
後ろを向いたまま固まっている背中を抱きしめて、しっかりと腰に手をまわす。
- 256 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時12分39秒
- 「コーヒーなんてどうでもいいよ。もっと梨華ちゃんを感じさせて。」
「ひとみちゃん・・・・・」
「こんなにも側にいて欲しいなんて、他の誰にも思ったことないよ。」
「・・・・うん・・・・・・・」
取っ手にかけられていた手の上から、あたしの手を乗せてぎゅっとつかむと、
そのまま引き寄せて指にキスをした。
「全てが愛しいよ・・・・・・」
「・・・・・ん・・・・」
「もっと知りたい、もっと触れたい。・・・もっと深く愛したい。」
ぎゅっと握り締められていた指を押し開いて、手のひらに唇をあてる。
その光景を伏し目がちに見ている彼女。
「私で・・・本当にいいの・・・」
「梨華ちゃんじゃないとダメなんだよ。わかってるんでしょ・・・」
「・・・・・・で・・も・・・・」
「じらさないで。お願い。」
「・・・・・・・ひとみちゃんが・・・・すき。だけど・・・」
戸惑っているのが見て取れたけど、気持ちを止めることなんてできないでいた。
狂おしいほど彼女を求めてしまう。
- 257 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時13分34秒
- きっと梨華ちゃんは悟ったはずだ。あたしが何を求めているかを。
だからあたしは、もう止めることの出来なくなってしまった想いを伝えた。
「あたしにあずけて欲しいんだ、梨華ちゃんの全てを。」
どんな答えが返ってくるのだろう。
じっとその手をみつめながら、沈黙に耐える。
やがて彼女が大きく一つ息をついた。
「少し、時間をちょうだい。頭の中、混乱してるみたいだから。」
「そうだね・・・うん。わかった。」
たどたどしい手つきでコーヒーを入れる彼女の後姿。
ぽつんと置かれていたうさぎのりんごは、少し変色してしまっていた。
- 258 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時14分44秒
- その後、部屋に移動したあたしたち。
小さなテーブルに置かれた飲み物とりんごには
2人ともまだ手をつけていない。
「ママ・・・帰ってくるの遅くなるって・・・」
肩にまわしている手に、その緊張した息遣いが伝わってくる。
「そうなんだ。」
「うん・・・。でも妹は帰ってくるよ。きっとママより早く。」
少し警戒されたかな?とそれを聞いて苦笑してしまった。
彼女の緊張を解き放つには、それを想像させるような話題は避けたほうがいい。
「妹さんクラブか何かしてるんだっけ?」
「うん。陸上部。」
「へぇ。運動部か。」
「そう。でも中学校の部活だからお遊びみたいなものだけどね。」
「懐かしいな。」
「あれ?ひとみちゃんも陸上やってたの?」
「ううん。あたしはバレーボール部。」
「あはは。なーんだ、違ったんだ。」
- 259 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時15分48秒
- それでも笑い声が未だ緊張感を帯びていて、こっちもなんだか意識してしまう。
「「あのっ」」
同時に出てきた声に、2人ともクスリ。
「ひとみちゃんからどうぞ。」
「ううん。梨華ちゃんから。」
かけていた手を離すと、淹れてもらったコーヒーを手にした。
「バレー部、楽しかった?」
「あぁ、部活の話?うん、楽しかったよ。青春してたな。」
「クスっ。今も青春じゃない。」
三角座りをした膝を抱えて、彼女が笑った。
「そういう梨華ちゃんは?何かしてた?」
「私?テニス部だったんだ。こんな短いスコートはいて。がんばってたなぁー。」
「そっか。運動部だったんだ。みえないね。」
「そう?これでもキャプテンだったのよ?」
「うそ。すごいじゃん。それは大したものだ。」
頭に手をかけてその髪をなでた。
- 260 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時17分23秒
- 「で?ひとみちゃんが話したかったことは?」
「んー別にたいしたことじゃないけどね。」
「なに?教えて?」
「なんでピンクが好きなのかな、なんて思って。」
2人ともクスクスと笑った。
「女の子っぽいじゃない?すごくキュートだし。気持ちが明るくなれるからかな。」
「なるほどね。」
「びっくりしたでしょ?ひとみちゃんも。」
ズキンと胸に痛みが走る。
「あ・・・・うん・・・」
「あれ?どうかした?」
梨華ちゃんは気付いていない。
今の一言が、どれだけの意味をもつのかということに。
「あたしの他に、誰かここに呼んだことあるの?」
「えっ・・・」
「今、ひとみちゃん『も』って言ったよね?」
単なる言葉のあやだったかもしれないのに。
それを聞いたとたん、圭の顔がちらついてきたのだ。
情けないけど、どうしても気になってしまう。
「・・うん。友達・・・とか。」
「その中にいるの?・・・圭先輩。」
責めるつもりはなかった。それはもう過去のことなのだから。
だけどあたしは聞かずにはいれなかったのだ。
- 261 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時18分30秒
「・・・いたよ。」
がーんと落ち込んでしまって、無意識のうちにため息がでた。
抱えた膝の上に頭をのせて、目を閉じる。
「ひとみ・・・ちゃん?」
「ん・・・・」
「・・・・・その・・・何も・・・・なかったから・・・」
その言葉に反応して頭をあげた。
「何もなかったの?本当に?」
「・・・うん。本当よ。」
「信じていいの?」
「いいよ。」
訳もわからず、ただ嬉しさのあまり、あたしは梨華ちゃんを抱きしめていた。
- 262 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時19分42秒
- 「ごめん。妬いてしまったみたい。過去のことなのにね。」
髪にキスをしながら優しく抱きしめる。
「その・・・私も気になるよ。ひとみちゃんの過去。」
「あたし?あたしは別に・・・」
そういいながらも、ふと真里の顔が頭に浮かんだ。
「ごめんね。こんな話しても、しらけちゃうだけだよね。ごめん・・・」
「真里とはそういうこと、なかったから。」
「そう・・・うん・・・。わかった。」
せっかく緊張もとれて楽しい空気になってきたところだったのに。
あたしの余計な言葉で、それを台無しにしてしまった。
押し黙ってしまった彼女が今、何を考えているのかは想像に難くない。
おそらくあたしと真里の間にあったであろう楽しい時間を、
考えているのだと思った。
それは、同じように圭との付き合いがどんなものだったのか、
こちらも想像してしまったように。
『そういうこと』は何もなかったと言った彼女。
しかし、キスくらいはしているに違いない。
あたしが言える立場じゃないのはわかっているけど。
- 263 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時20分44秒
「今日は・・・帰ったほうがいいかな・・・」
ぽつりと出てきた言葉。
本当の気持ちとしては、まだ一緒にいたかったけど、
これ以上いたら、彼女の負担になるような気がしたから。
・・・・・・違う。そうではない。それは自分自身に嘘をついた偽善だ。
あたしは梨華ちゃんの気持ちを量りたかったのだ。
引き止めてくれるのを願ってやまないのが本当の気持ち。
それは、駆け引きと呼ぶにはあまりにも大きな賭けだったけど。
お互いの気持ちが繋がった今だからこそ、出てきた独占欲。
それは過去のことにすら嫉妬してしまうほどの。
それ故、全て含めて本当に愛し合えるかどうか、
許しあえるかどうか、それを知りたかったのだ。
そして何より、彼女があたしを引き止めてくれるということは、
『そういうこと』の許しを、暗に示すことになるだろうと思ったから。
- 264 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時21分39秒
だけど梨華ちゃんは何も答えなかった。
いや、それこそが答えかもしれない。
好きだからこそ、悲しいくらいに響いてくる互いの傷。
今はまだ、全てを消化するのは難しいのかもしれなかった。
浮かれてしまって周りがちゃんと見えていなかったから、
ここで一度お互いのことを真剣に考えてみるのも悪くはないかもしれないと思った。
あまりにも急接近しすぎたきらいがあったのも否めないから。
なにより、彼女がまだそれを望んでいないのだとしたら・・・。
そう思ったから、あたしは抱きしめていた体を離して、ゆっくりと立ち上がった。
彼女はまだうつむいたままで膝を抱えている。
また明日。日にちも変われば消化不良のこの思いも幾分ましにはなるだろう。
本当に互いに必要としている存在なら、何も心配する必要はないはずだから。
- 265 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時22分29秒
- 「じゃぁ・・・帰るね。」
入り口の側に置いてあったカバンを手にした。
ドアにかけた指先が、それでも未練がましく引き止めて欲しいと願っていたけど。
大人じみた駆け引きは、やはり子供が真似るべきものではなかったのだ。
完敗の文字を胸に刻んでそのドアを開けた。
だけど。
「待って・・・帰らないで・・・・」
あたしの背中に愛しい人の声が伝わった。
直接体に響いてくるのは、梨華ちゃんの体がぴったりとあたしを抱きしめていたから。
心の底から待ち焦がれていた瞬間が訪れていた。
- 266 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時23分26秒
- 「・・・梨華ちゃん・・・・」
「ごめんね・・・私、色んなこと考え過ぎちゃって・・・」
「ううん。梨華ちゃんの気持ち、わかるから。」
「今、ひとみちゃんが見てくれているのは私なんだよね。信じて・・・いいのよね。」
「この気持ちに嘘はないよ。梨華ちゃんのことが好き。ただそれだけ。」
「・・・・うん。ちゃんとわかったよ。私も、ひとみちゃんの全てを包んであげたい。」
ドクドクと沸き立つ血が、頭にじーんと浸透してくる。
「・・・泣きたくなるよ。もう抑え切れなくなってしまう・・・」
「・・・ひとみちゃん・・・・・・・・」
「・・・っ・・・このままだと・・・あたし・・・・梨華ちゃんを・・・・」
「・・いい・・・よ・・・。」
「・・・・・!?」
「愛して欲しい。私の全てを。」
心が固まってしまって、ドアを閉めることすらできないでいる。
「・・・・いいの?本気にするよ。」
「・・・・・・・・・う・・・ん・・・」
- 267 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時24分28秒
- 振り返って彼女を抱きしめた。
もたれかかった2人分の圧力で、ドアがパタンと閉まる。
「はぁ・・・・。いい?あっち行って。」
視線の先にあるのは紛れもなく彼女が毎夜寝ているそれ。
「・・・・・ん。」
ベッドの端に梨華ちゃんを座らせると、床に膝を立てて抱きしめたままキスをした。
はやる気持ちを抑えるように、ゆっくりと口付けを楽しむ。
やがて唇を離すと、確認するかのようにその瞳をみつめた。
つややかにぬれている潤んだ瞳に吸い込まれるようにして、
あたしはその華奢な体を優しく押し倒した。
彼女の髪がベッドの上にふわりと広がって、華を描いたようなラインをみせている。
「綺麗だよ、梨華ちゃん・・・・」
下から見上げるその視線が、あたしの心を熱くしていく。
「・・・ひと・・・み・・・ちゃ・・・」
息を継ぎながら小さく声を出すその口元に視線が集中した。
- 268 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時25分53秒
- 「好きだよ・・・梨華。」
手を繋いで指を絡ませると、愛撫するように唇を落とした。
唇に、頬に、あごに。少しずつキスを降らせて彼女の反応をみる。
ゆっくりと閉じられた瞳。
震えてしまっているあたしの指先。一度かみ締めてその震えを止めた。
そして、ブレザーのボタンに手をかけて、ひとつ、またひとつ、
彼女に近づいていく。
眉間にしわが浮き出るほど、堅く閉じられているその瞳。
極度の緊張が彼女を支配しているのだろう。
ボタンを取り除くと、それを左右に開け広げた。
ブラウス越しに大きく上下する胸。その息が時折もれている。
「本当に、かわいいよ・・・」
耳元に唇を落としながら、たおやかな胸をぎゅっとつかんだ。
「・・・・んっ・・・・」
ビクンと大きく反応した体。
「・・・・こわい?」
「・・・だい・・・じょう・・・ぶ・・・・」
- 269 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時27分09秒
- その声に後押しされるように、首に顔をうずめたままで、
ブラウスのボタンを外していく。
唇もそれを追うように、鎖骨へのラインを辿っていき、
胸の谷間に到達した。
そして何度かキスを落とした後、そっと耳を当てて鼓動を聞いてみた。
横目でじっと薄いピンクのブラが上下するさまを見ながら、
耳に伝わる確かな拍動に癒される何かを感じていく。
あたしはそっとウエストに手をかけて、ゆっくりと体の線を伝っていった。
素肌に直接触れる感覚が、更に興奮を沸き立たせていく。
上へ上へとなでていくと、ワイヤーの淵で指がとまった。
背中に腕をまわしてホックを外そうと思ったけど、
予想以上に彼女があたしの体を強く抱きしめていたから、
そのままブラを胸の上に押し上げた。
「・・・・すごい・・・綺麗・・・・・」
思わずため息が出てしまうほど、その胸はとても美しいラインと形を誇っていた。
自分がもっているものとは比べようがないほどに。
「・・・はずかしい・・・よぉ・・・・」
今にも泣き出してしまうのではないかと思うくらい、
彼女は切ない声をあげた。
- 270 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時28分40秒
- 「恥ずかしがらないでいいよ。ううん。むしろ自慢してもいいくらい。」
高ぶる気持ちを解放させて手を添えると、その一番高い位置に唇をあてて軽くはさんだ。
「・・・・や・・・ぁ・・・・・・」
その瞬間、背中に回している手が思い切りあたしをつかんだ。
少し心配になって表情を窺うと・・・閉じられた瞳の端に、小さな涙の粒が光っていた。
だからあたしは耳元でこう囁いた。
「ごめんね。もう怖がらなくていいから。」
そう言ってブラを戻すと、梨華ちゃんの頭を優しく抱きかかえた。
「・・・・うっ・・・っ・・・」
彼女が流した涙が、あたしの頬にまで落ちてくる。
「本当は怖かったんだよね。無理させてごめん。」
「・・・・っ・・・うぅ・・・ひとみ・・・・ちゃ・・・」
「もうこれ以上はしないから。さ、もう泣かないで。」
「ごめんね・・・私・・・やっぱり、すごく・・・こわかった・・・」
「うん。わかってたよ。ずっと体の震えを感じていたから。」
体を離してボタンを留めてあげると、ようやく彼女の息遣いも
落ち着きを取り戻そうとしていた。
- 271 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時29分39秒
- 「私のこと・・・嫌いになった?」
もう涙を流すことはなかったけど、梨華ちゃんの瞳はまだ閉じられている。
「そんなことある訳ないでしょ。好きな気持ちは変わらないから。」
あたしはクスッと笑うと、その体を抱きしめた。
「本当に?ねぇ、本当の気持ち教えてよ。」
「本当の気持ちか・・・。うん、わかった。それじゃ言うね。」
抱きしめていた体を離し、ベッドに手をついて彼女の顔を見下ろすと、
ゆっくりとその瞳が開かれた。
とても不安そうにこちらを見ている瞳。
だからあたしは、ありったけの優しさを込めて囁いた。
「世界で一番梨華が好き。これが本当の気持ち。」
「ひとみちゃん・・・。」
「梨華が好き。」
「・・・う・・ん・・・」
「好き。大好き。梨華のことが、好きだよ。」
「ありがと・・・」
首にかけられた腕があたしを引き寄せて、優しいキスをしてくれた。
- 272 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時30分28秒
- 「このまま、もう少しだけ抱きしめていてもいい?」
「いいよ。梨華の気が済むまで、側にいるから。」
「うん。ずっと抱きしめていて。」
しばらく抱きしめあったまま目を閉じていると、
いつしか2人とも眠りの世界に落ちていた。
ガチャっと開く扉の音に、先に目を覚ましたのはあたしの方だった。
「・・・ねぇ、誰か帰ってきたみたいだけど?」
梨華ちゃんの体を揺すって、その目を覚まさせた。
「ん・・・。妹かな・・・」
目をパチパチしばたかせて、髪を手櫛で整えると、ドアの隙間から顔を出した。
そして二言、三言何か話すと、パタンとドアを閉めてこちらに戻ってきた。
- 273 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時31分37秒
- 「妹さんだった?」
「うん。そう。」
「挨拶した方がいいかな?」
「いいよ、別に。すぐにシャワー浴びるだろうし。」
「そっか。でもちょっと見てみたい気もするけど。」
「見なくていいのー。」
少しむくれたようなその頬。
「なんだよ、それ。」
クスッと笑ってその頬をつっついた。
「・・・心配なんだもん。」
「なにが?」
「『妹の方がいい』なんて思うかもしれないじゃん。」
あたしはおかしくなって、お腹を抱えて笑ってしまった。
「もぉー。何もそんなに笑うことないでしょー。」
「ごめん、ごめん。あまりにもかわいいこと言うから。」
「だって・・・」
「はいはい。わかったから。」
ぎゅっと彼女の体を抱きしめて、思い切り甘いキスをした。
- 274 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時32分43秒
- 「梨華以外の子に興味があると思う?」
おでこを合わせて間近で瞳を見つめる。
「ん・・・でも・・・」
それでもまだ唇を尖らせたまま、何か言いたげな表情。
「私よりもかわいい子なんて世の中にはいっぱいいるし。」
「いないよ。梨華が一番かわいいから。」
見る見る間に赤く染まっていく頬にキスをすると、いつもよりも
熱っぽい感触が唇に伝わった。
「・・・へへっ。ありがと。」
「あー。なんかめちゃくちゃ幸せだなー。」
はぁーっと大きく息をついてベッドに寝転んだ。
「制服、しわになっちゃうよ?」
クスクスとおかしげに笑っている。
「こんなのアイロンすりゃいいことだし。それより・・・」
あたしはその手を引いて、自分の体に重なるように引き寄せた。
- 275 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時33分40秒
- 「やだ・・・重いのに。」
「いいの。言ったよね、梨華。寂しくなったらいつでも抱きしめていいって。」
「・・・うん。寂しかったの?今。」
「うん。寂しかった。すぐ側にいるのに、梨華の体温感じられなかったから。」
甘い髪の匂いを胸に吸い込んで、じっと目を閉じる。
こうなると、もう完全に中毒症状。
そんなあたしの耳に彼女の甘い声が伝わる。
「ねぇ、気付いてた?」
「ん?」
「さっきからずーっと私のこと梨華って呼んでることに。」
無意識のまま、自然とそう呼んでいたことにその時気付かされた。
「ホントだ。でも・・・ダメかな?呼び捨てしちゃ。」
ゆっくりと開いた目に映ったのは、彼女の綺麗な瞳。
「ダメじゃないよ。嬉しかったの。そう呼んでもらえて。」
- 276 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時35分17秒
- さらりと頬にかかっている髪が、彼女の表情を隠していたから、
あたしは手を差し入れて、彼女の髪をかきあげた。
「よく見せて。梨華の顔。」
そう言ったとたん、瞳をそらしてしまった。
「イジワルだな。こっちを見てよ。」
「ひとみちゃんの方がイジワルじゃない。恥ずかしいのわかってて言ってるんでしょ。」
「あー。ひどいなぁ。そういう風に思ってたんだ。」
からかってみたくて大げさにむくれてみせた。内心はおかしくて仕方ない。
「う・・・ごめん。ごめんね?機嫌直して?」
「傷ついちゃったな。胸がチクチク泣いてるよ。」
「あぅ・・・ねぇ、どうしたら許してくれる?」
「そうだな・・・」
あたしはにやりと笑ってみせた。
「妹紹介してくれる?」
「浮気者っ!」
ポカポカと叩いてくる手を笑ってつかむと、思い切り抱きしめてキスをした。
今はまだ、こんな距離が心地いいのかもしれない。
あせらずゆっくりと進んでいけばいいのだ。
あたしたちの付き合いは、まだ始まったばかりだから。
これからもずっと側にいたいと思える、たった一人の存在に。
『繋いだ気持ち』〜おまけ〜【後編】 完
- 277 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月22日(土)18時40分48秒
- >作者
壊れ気味の作者が書いたことですので、
どうぞ何事も大目にみてやってください(汗)
さてさて、いかがでしたでしょうか?
ほーんのちょっぴりの痛も入れてみたんですけど、
それも甘への布石でしたのでお許しくださいませ。
はぁ・・・。やっと完結することができました(涙)
果たして皆様に喜んで頂けたのかどうか、
ちょっぴり不安でもあります。
よければ感想など書いていただけましたら、
作者かなり嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
(レスも後日必ずつけますので♪)
それではまた、お逢いしましょう。
本当に、本当にありがとうございました。
ここに訪れてくれた皆様へ、たくさんの感謝の気持ちを込めて。
=修行僧2003=
- 278 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月23日(日)02時31分32秒
- お疲れ様でした。
甘い甘いお話とてもおいしく頂きました。
痛切なさから激甘への展開が嬉しかったです。
次作楽しみにしています。
- 279 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月23日(日)03時02分53秒
- ついに、ついに!!完結してしまったー(悲
もう、修行僧様の超絶的な甘さのいしよしが見れないなんて悲しすぎますよ〜、冗談ぬきで…
しかし、ここの梨華ちゃんがマジカワイイ(惚
エプロンおよび泣きシーンに完璧やられました
よっすぃ〜より私のほうが中毒ですな
この麻薬のような(誉め言葉)、あらがえない魅力の小説に巡りあわせていただき心から感謝いたします
これからもどこまでも追跡させていただくことを此処に誓います!!
- 280 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月23日(日)03時36分01秒
- ちょっぴりの痛……このシーンが妙に納得してしまった。
ホントささいなことなのに、ズキッときますよね。
甘いのも素晴らしいですが、こういうシーンも書ける作者さんに感動しました!!
今後の番外編または次回作、勝手に大期待してます(w
お疲れ様でした!!
- 281 名前:ROM読者 投稿日:2003年03月23日(日)11時48分49秒
- 隊長!この作品の甘甘が直撃してROM読者がやられました!
衛生兵〜、衛生兵〜、インシュリンを持って来い!
・・もう手遅れです。甘甘いしよしの直撃では助かりません。
- 282 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月23日(日)18時31分09秒
- >278名無し読者さま
>甘い甘いお話とてもおいしく頂きました。
うぅ・・・。ありがとうございます(涙)
そう言っていただけただけで、作者本当にがんばってきた甲斐がありました。
>痛切なさから激甘への展開が嬉しかったです。
そう言ってもらえて嬉しいです!
よかったです。やはりこの小説は痛がベースとなっておりました
ので、ちょろっと最後に痛もいれてみたかったので(w
>次作楽しみにしています。
ありがとうございます!
これからもがんばりますので応援お願いいたします。
- 283 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月23日(日)18時31分59秒
- >ラヴ梨〜さま
あなたさまには、作者随分助けていただきました。
いつもあたたかい感想をいただけたこと、本当に感謝しています(涙)
>もう、修行僧様の超絶的な甘さのいしよしが見れないなんて悲しすぎますよ〜、冗談ぬきで…
本当ですか!?嬉しいです♪
>しかし、ここの梨華ちゃんがマジカワイイ(惚
>エプロンおよび泣きシーンに完璧やられました
えへへ。ありがとうございます♪
やっぱりね、最初って誰でも怖いと思うんですよ。たとえそれが好きな人の行為だとしても。
おまけにここのカップルまだ付き合いだして何日しかたってないし(笑)(正味2日(笑))
>この麻薬のような(誉め言葉)、あらがえない魅力の小説に巡りあわせていただき心から感謝いたします
感激!マジ嬉しいです。
>これからもどこまでも追跡させていただくことを此処に誓います!!
ほんとですよ?約束してくださいね♪
これからはまたサクラサクスレにてのUPになると思います。
今度のはいし→よしで、展開しますのでどうぞご期待ください!(と宣伝してみたり(w )
- 284 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月23日(日)18時41分54秒
- >280名無し読者さま
>ちょっぴりの痛……このシーンが妙に納得してしまった。
ありがとうございます。そう言っていただけて、感激しています。
>ホントささいなことなのに、ズキッときますよね。
そうですね。好きな人の何気ない言葉に傷ついたり、嬉しくなったり。
>甘いのも素晴らしいですが、こういうシーンも書ける作者さんに感動しました!!
マジですか!?
作者の拙い小説にそう感想を書いてくださるのは
非常に嬉しいことです!ありがとうございます。
>今後の番外編または次回作、勝手に大期待してます(w
おおいに期待していてください!(笑)
次回は「サクラサク」のスレ(こちらも作者のものです)
で新作UPしますので、よければお目通し&感想
カキコしていただけると、もう、作者かなり嬉しくって踊っちゃいます♪
>お疲れ様でした!!
・・・うぅ(涙)ありがとうございます。
自分で悪いところって目に付くんですよね。
ここをこういう風にかいたらもっと質が上がるのになって。
でも初心者ゆえ上手く書けませんでした(w
今は修行中の身ですので、これからが勝負という感じですが。
よければこれからも応援してくださいませ♪
- 285 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月23日(日)18時46分16秒
- >ROM読者さま
>隊長!この作品の甘甘が直撃してROM読者がやられました!
>衛生兵〜、衛生兵〜、インシュリンを持って来い!
>・・もう手遅れです。甘甘いしよしの直撃では助かりません。
大丈夫です。傷は浅いです。がんばってください!(^-^)
甘甘いしよしは、書いていても作者自身幸せーな気分に
なれます(w
どうぞこれからも、作者の拙い小説、応援してやってください♪
嬉しい感想ありがとうございました(嬉々)
よければサクラサクスレでも読んでやってください。お願いします。
- 286 名前:241 投稿日:2003年03月24日(月)13時25分38秒
- 完結、お疲れ様でした。
いやぁ〜、最後の最後まで血中濃度が急上昇しまくりでしたよw
痛さで胸が苦しい序盤から、激甘でクネクネしまくりの中盤〜終盤・・
まさに「一粒で二度美味しい」作品だったように思います。
最後の石の部屋での描写、すごくリアルな印象を受けました。
お互い焦って距離を縮めなくてもゆっくりでいい・・
「気持ちを繋ぐ」っていうのはそういうことなのかもしれませんね。
ただ甘いだけではない、しっかりしたいしよしワールドになっていた
と思います。
「サクラサク」でグっと引き込まれて、ここまでくっついて参りました。
また新作が読めるようなので、楽しみが増えました。
- 287 名前:修行僧2003 投稿日:2003年03月24日(月)23時05分04秒
- >241さま
>完結、お疲れ様でした。
ありがとうございます・・・(涙)
もうね、本当に感謝しています。いつもいつも
レスつけていただいて。嬉しかったんです。
>いやぁ〜、最後の最後まで血中濃度が急上昇しまくりでしたよw
ほっとしました。
痛い話にどこまでついてきていただけるのか、正直不安でしたから。
>最後の石の部屋での描写、すごくリアルな印象を受けました。
>お互い焦って距離を縮めなくてもゆっくりでいい・・
>「気持ちを繋ぐ」っていうのはそういうことなのかもしれませんね。
本当ですか!?
拙い文章でわかりにくかったかもしれませんが、
そう言っていただけただけで、感激の涙があふれてきます(涙)
>ただ甘いだけではない、しっかりしたいしよしワールドになっていた
>と思います。
うぅ。嬉しいお言葉、痛み入ります。
まさかこれほどお褒めの言葉をちょうだいできるとは思っていなかったので。
>「サクラサク」でグっと引き込まれて、ここまでくっついて参りました。
>また新作が読めるようなので、楽しみが増えました。
これからも応援よろしくお願いいたします!
本当にありがとうございました。
- 288 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時10分40秒
- 今頃ですが、あまりにも最近いしよし祭りが多かったので、
何か書いてみたいなと思っていました。
最高ですよね。あのカップル(w
ってことで、99%のフィクションと1%のノンフィクションを
混ぜまして、1本書いてみたいと思います。
その1%も作者の妄想かもしれませんが・・・(w
- 289 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時11分36秒
『祭りの真相』
「怒られるんだよね、うちら。」
「・・・たぶんね。」
収録終わりの楽屋。
メンバーはもうとっくの昔にみんな帰ってしまったけど、
うちら2人はここにいた。
あと1人のメンバーを除いて。
=コンコン=
「入るよ。」
ピリッと気持ちが引き締まる。
飯田さんはやはり想像してた通りの怖い顔で、
楽屋に入ってきた。
- 290 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時12分38秒
- 「へぇ。少しは反省してるんだ。」
一段高くなっている畳のスペースで正座をして待っていた2人。
「あの・・・すみませんでした。」
うちはまず最初にそう言おうと決めていた。
今回のことは梨華ちゃんが悪いのではない。
うちがとった軽はずみな行動が、リーダーである
飯田さんを怒らせていたから。
「よっしーは悪くないよ。私が悪いんだから。
飯田さん。ごめんなさい。」
梨華ちゃんはこれぞ正しい土下座という姿で頭を下げている。
「あんたらねー。本当にわかってんの?」
引きつり気味に向けられている視線。
はぁ。これからたっぷり2時間は帰れそうもない。
なんでうちらが飯田さんにお小言をくらっているのか。
それは、今日のTVの収録での出来事が原因だった。
- 291 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時13分24秒
- 「うっ・・・・っ・・・」
カメラを避けるように涙を拭う梨華ちゃん。
そう。梨華ちゃんはその時、泣いていたのだ。
それは本当になんでもないことだった。
彼女がゲームのミスを連発して、みんなが楽しみにしていた賞品をGET
できなかっただけのこと。
TV的にはその方が盛り上がってよかったのでは?
なんて思っていたのは、うちの能天気なところ。
だから、まさかそこまで梨華ちゃんが思いつめているなんて思っていなかったのだ。
テーブルに並べられていた消え物を食べていたうちとのの、それにあいぼん。
2人は食べ盛りだから、負けじとこちらも一緒になって
楽しく食べていたけど、なんだか端っこにいるメンバーの
空気がおかしい。
- 292 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時14分17秒
- 「ゲームなんだよ?」
そう言って梨華ちゃんの頭をなでている安倍さん。
「石川、泣くなよー。終わらないよ。」
それは圭ちゃんのセリフ。
飯田さんもなにやら心配げに彼女を見ていた。
泣いてたんだ、梨華ちゃん。
のんきなことに、うちはその時になってやっとその状況を把握したのだ。
口の中にあったものをあわてて飲み込むと、やっとそこに合流した。
そうなのだ。
その時のうちの行動が飯田さんの逆鱗に触れてしまったのだ。
- 293 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時15分13秒
- だけど、泣いてる彼女を見て、ただ『泣くな』と言葉をかけるのは簡単なこと。
ここはこのうちにしかできない方法で梨華ちゃんを慰めたかった。
他のメンバーでは決してできないやり方で。
うちが取った行動。
それは泣いている彼女を後ろから優しく抱擁することだった。
手馴れたしぐさでウエストに腕を絡ませた。
ぎゅっと抱きしめてぴったりと体を重ねる。
それはいつもとなんら変わることのない、同じポーズで。
そして耳元で囁いた。
「泣くなよ、梨華ちゃん。」
彼女はそれでもまだ涙を拭って肩を上下させていた。
- 294 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時16分10秒
ほんと、かわいいんだから。
それじゃぁってことで、頬にキスでもしてみようかなと思った。
収録はもう済んでいるし、カメラは回っているけれど、
スタッフもうちらのことはおよそ知っているから問題ない。
どうせ放送もされないだろうし。
だけど、それを止める鋭い視線がうちに突き刺さった。
「バカっ!」
飯田さんが言った一言は、冗談ではなく本気のそれで。
彼女はわかっていたのだ。
うちが次にする行動を。
そして、今飯田さんはうちらの前に仁王立ちをしているのだ。
- 295 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時17分01秒
- 「石川も石川だよ。ネガ入るのはかまわない。
だけど泣いたらこのアホよしこがすっ飛んでくるくらいわかってただろ。」
「飯田さん・・・アホって・・・」
「なんだ。どこか間違ってるか、あたしの言ってること。」
「いえ・・・、どこも・・・。」
「よっしーのことそんな風に言わないでくださいっ。」
あー。梨華ちゃん、柄にもなく反抗してるよ。
ほんと、うちのこととなると、彼女強いからね。
・・・なんてニヤケている場合じゃない。
ここは2時間の説教をどうやって短時間にもっていけるかが勝負だから。
「これからは気をつけます。ご迷惑おかけして済みませんでした。」
きっぱりすっきり潔く謝るのが正攻法。
これに勝るものはない。
だけど、今日の飯田さんはかなりしぶとかった。
- 296 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時17分47秒
- 「キスしようとしてただろ、あの時。あたしが止めてなかったら。」
あぁ・・・。やっぱり見抜かれていたんだ。
さすがリーダーだけのことはある。
「えっ。よっしーそうだったの?」
やばい。梨華ちゃん瞳輝かせてるよ・・・。
そんなことしたら余計、飯田さんを怒らせるだけなのに。
「いや、あの、別に・・・・」
一方では期待した瞳。もう一方では怒りに満ちた瞳。
そんな2人にはさまれて、たらりと冷や汗が流れ落ちる。
「とにかくっ!もっと周りのこと考えなって言ってるの!
あんたたち2人だけの世界じゃないんだからね!」
やはりお説教は軽く2時間を越えてしまった。
- 297 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時19分02秒
「はぁーっ。怒られちゃったね。」
タクシーの中でつぶやいた梨華ちゃん。
かなりキツク怒られてしょげているかな?と思っていたけど、
なんだか嬉しそうに見えるのは、気のせいではない。
「うん。ヒサブリにやっちまったぜ。」
うちと梨華ちゃんの仲はメンバーどころか回りのスタッフ、
ひいては事務所の社長まで知るところとなっている。
だからいつも釘をさされていたのだ。
『それ』っぽいのを売りにするのもアリだけど、
本物だと世間にバレてしまったら、アイドル生命も終わりだと
普段から口うるさく言われていたから。
「ずっとTVの前では我慢してたもんね、私たち。」
「そうだよー。お陰で『本当に仲悪いんじゃないの?』って
よく地元の友達にも聞かれてたくらいだから。」
4期メンバーとして加入した頃から、うちらは互いにピンときていたのだ。
それは運命という言葉が陳腐なものに思えるほどの衝撃的な出会い。
- 298 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時20分06秒
- 会うべくしてあった2人。
互いに直感で感じあった、あのトキメキ。
しばらくはそれでもベタベタしていることが微笑ましく見られていた。
だけどそれが『本物』だと知られてしまった後は、
事務所からのお達しで、お預け状態に。
しかし、私生活までは何も言われなかった。
ただTVの前だけはベタベタするなと。
だからうちらはその通りの約束を忠実に守った。
だけど、コンサートではやっぱりイチャイチャしてみたくて。
みんなに見せ付けたくて。
『TVの前』ではないから、約束は守ったことになる。
どうだ。ざまーみろ、社長!
コンサートに訪れてくれるファンの子たちは、いわゆる
『不特定多数』には入らない。
うちらのことを否定的にとらえる方が少数派なくらい、
応援してくれている。
それはうちらが付き合っていると公言しなくても、
『いしよし最高!』って叫んでる声援からも周知のことなのだ。
- 299 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時20分51秒
- 「お釣りはいいですから。」
ニヤリと含み笑いをして1万円札を運転手さんに握らせたのは、
ばっちり会話を聞かれていたから。
「毎度どうも。」
愛想笑いを浮かべたままうちらを下ろすと、
タクシーは夜の街に消えていった。
「ご飯どうする?」
「んー。あるものでいいや。梨華ちゃんも疲れただろ?」
肩に手をまわしてエレベーターホールへと向かった。
このマンションで2人は暮らしていたのだ。
いわゆる、愛の棲家ってやつ。
その夜は本当に疲れていたから、なーんにもしないで寝てしまった。
もちろんおやすみのキスくらいはしたけど。
- 300 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時21分58秒
そしてまた別の日。
この日は朝から集合がかけられた。
10時までに楽屋に入ったらいいってことだったけど、
徹夜のまま朝がきてしまったから、少し早めに収録先へと2人で向かったのだ。
徹夜で何をしていたのかは、言えないけれど。
「よっしー寝癖ついてるよ?」
タクシーの中でかいがいしく世話を焼いてくれている。
「んあ?どこ?」
「ほら、ここ。」
耳元の後ろの髪がはねているのを手でなでてくれた。
「向こうついてからセットし直すからいいよ。」
かぶっていたニット帽を少し深めにかぶりなおした。
「今日はあれのコメント撮りだったよね?」
「うん。棒読み気をつけなきゃ。」
「なにそれー。私に言ってるの?」
クスクスと笑い合う。
- 301 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時23分01秒
「はぁ、今日は気をつけようっと。」
先日怒られたことは別に気にしていないけど、
説教に時間をとられるのが嫌だったから。
「私も。今日は何があっても泣かないぞ。」
「えー。泣いてもいいけど?かわいいから。」
「ふふふ。飯田さんが聞いたらまた怒るね、きっと。」
運転手さんの見えない位置で手を繋いだ。
離れないように、しっかりと指を絡ませて。
「あれ?楽屋こっちかな?」
矢印のついている紙を頼りにそこへと向かう。
「変だね。こんなことろに楽屋ってあったっけ?」
繋いでいた手を離すと、うちはそのドアに手をかけた。
「遅いー!今何時だと思ってるんだ!」
開いたドアの向こうは教室のセット。
先生に扮しているいつものあの人がこっちを見ていた。
- 302 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時23分48秒
- ま、まずい・・・・。
TVカメラまわっている・・・。
しかし、もうその時には手遅れで。
偽先生は半開きになっていたドアを思い切り開けてしまった。
そう。ドアの影に隠れていた梨華ちゃんの姿が
ばっちりとカメラに収められてしまったのだ。
瞬間うちは飯田さんを見た。
・・・・・・・今日も早く帰れそうにない。
☆終わり☆
- 303 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月09日(水)23時25分28秒
- >作者
・・・おバカでしょ?(w
でもね、真相ってきっと当らずとも遠からずって思うんですよ。
え?妄想ですか???(笑)
でもきっとみなさんは支持してくれると思います。
これが妄想の世界だとは一概に言えないと(w
それでは、また♪
- 304 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月09日(水)23時46分06秒
- サイコーです!!
あっちも楽しみに読ませてもらってます!!
この状況をふまえて再度ビデオこれから見ます(w
- 305 名前:サイレンス 投稿日:2003年04月09日(水)23時53分46秒
- 更新お疲れ様でした。
寝る前にのぞいてみてよかった!
妄想でもなんでも支持しますよいしよし。
そして、この話って実際ありだと思ってました。
真相はどうなんでしょうかね?
自分らの思惑どうりなんでしょうか!?
- 306 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月10日(木)00時39分49秒
- もしかして別スレにフライング・レスしてました?(w
そうそう!これですよ、これ!くぅ〜〜っ、たまらん!
よっすぃ〜の後ろから恥ずかしそうに入って来た梨華ちゃん
に、目一杯妄想しちまいました。(何で赤くなってたのかナ)
- 307 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月10日(木)00時43分58秒
- 作者さん、うまいなぁ。
これが真相だったらいいな。いや、そう信じます。(w
- 308 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月12日(土)01時32分03秒
- >304名無し読者さま
ありがとうございます♪
して、ビデオ激萌えできましたか?(w
某抱きつきシーン。テープ擦り切れるまで見ているのは、
作者だけではないはずです(笑)
>サイレンスさま
お疲れ様です!感想ありがとうございました♪
>自分らの思惑どうりなんでしょうか!?
はい。その通りです(w
真実は一つだと思いませんか?そうです。あの2人は付き合ってます(笑)
・・・いいですよね。夢を見させてもらっても。
今日はよっすぃーの誕生日だし♪(w
>ROM読者さま
いつもありがとうございます♪
なんで赤くなっていたのかは、本当は仲がいい=付き合ってる
ってのがバレてしまったからです!(笑)そうですよね?ね?(w
>307名無し読者さま
正しく真相です(w あの2人はそういう仲なのです。
よっすぃーも無事今日で18になりました。
梨華ちゃんを嫁にもらうこともそう遠くないでしょう(笑)
- 309 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月12日(土)13時39分45秒
- >なんで赤くなっていたのかは、本当は仲がいい=付き合ってる
>ってのがバレてしまったからです!(笑)そうですよね?ね?(w
はい!その通りです。(キッパリ)
- 310 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)20時52分40秒
- >ROM読者さま
おぉ!やはりそうでしたか(w
作者もそう思っておりました♪
さてさて。今日は久しぶりに新作UPしたいと思います。
いわゆるスネよっすぃーですが(笑)
話が転ばないので、やはり序盤〜中盤は「痛」になって
しまいました(汗)
でも今回ももちろん甘締めです(w
では、みなさまよければ読んでやってください。
- 311 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)20時54分01秒
『83days』
=吉澤視点=
「ほら。ステキでしょ?」
くるりと回転したかと思うと、少しはにかんであたしを見ている少女。
「まぁまぁかな。」
本当は『かわいいよ』と言ってあげたいけれど。
梨華があたしに見せてくれたのは、この4月から通う高校の制服。
こちらはもう一年同じ制服を着なくてはならない。
それは彼女とあたしの間にある3ヶ月の歳の差のせい。
4月を迎えると歳は同じになるけれど、梨華は一つ上の学年にいるのだ。
- 312 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)20時55分21秒
- 「冷たいな、ひとみちゃん。もっと喜んでくれると思ったのに。」
今はちょうど春休み。
あたしは梨華の家にお邪魔して、できあがったばかりの新しい制服を
見せてもらっていたのだ。
どうしても一番に見て欲しいと言われたことだけが、へこんでいく
心に唯一響いた嬉しさ。
だけどそんな気持ちは微塵も見せない。
「どうしてあたしが喜ぶと思ったの?」
ベッドを背にしてもたれかかっているあたしの視線は、
どこかイジワルに彼女を見上げていた。
そうすることで彼女はきっと、拗ねるだろうと思ったから。
歳は梨華の方が少し上だけど、精神年齢はきっとこちらの方が上だと思う。
喜怒哀楽をストレートにぶつける彼女。
それはまだズルさを知らない子供のようにあたしの目には映っていた。
逆にあたしは梨華に対していつもクールな態度を取っている。
もちろん最低限度の感情は表すけれど。
つまり大げさに笑ってみたり、怒ってみたりといった極端な感情は決して表さないということ。
それは子供のすることだと思っているから。
- 313 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)20時56分55秒
- 「この制服に憧れているのを知ってたでしょ?
だから一緒に喜んでくれると思ったんだけどなぁ。」
つまらなそうに唇を尖らせて、ブレザーをぎゅっと掴んだ。
やはり思った通りの行動に、ほんの少しだけ嬉しくなる。
あたしの言動にいちいち反応する姿がかわいくて。
わざと梨華に冷たくしてみたくなるのは、裏腹な気持ちの表れなのだ。
「そうだったよね。うん。似合ってるよ。」
一応褒めてはみた。
けれども決して『かわいい』とは言ってあげなかった。
素直になれない理由。
それは、心のどこかで寂しさが影をさしていたからだった。
また一人置いていかれてしまう寂しさがそうさせていたのだ。
小学校にあがる時も、中学にあがる時も、いつも梨華はあたしの先をいく。
それは物理的に考えてどうしようもないことなのだけれど、
とても寂しく感じてしまうのだ。
ましてや今回は今までとは訳が違う。
電車に乗って知らない遠くの学校へと通学していくから。
冷たくしてしまうのも、本当はあたしのことを気にかけて欲しいからだけど、
こんな複雑な思いをしていることは、きっと梨華にはわからない。
- 314 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)20時57分55秒
- 「梨華ー。ちょっとおつかい頼まれてくれないー。」
リビングから聞こえてきたのはおばさんの声。
「えー。ひとみちゃん来てるのにー。」
むくれた顔をして答える梨華におかしくなる。
「いいよ、あたしのことは気にしないで。おつかい行ってきたら?」
「もう、本当にママったら・・・。ごめんね、ちょっと行ってくる。」
そう言うと、何のためらいもなく制服を脱ぎだした。
あたしはもちろん視線を逸らしている。
こういうところが梨華の子供っぽいところなのだ。
いくらこちらが幼馴染とはいえ、少しは気を遣ってほしい。
動きそうになる視線を我慢していることは、きっと梨華にはわからないだろう。
「少しだけ待っててね。すぐ帰ってくるから。」
「あぁ。昼寝でもして待ってるから。」
ウインクひとつ置き土産にドアを閉めた。
「・・・ったく。こっちの気も知らないで。」
はーっとため息をつくと、天井を仰いだ。
- 315 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)20時59分01秒
「さて、と。本当に昼寝でもするかな。」
伸びをして立ち上がると、クローゼットの桟にかけられている
真新しい制服が目にとまった。
「ふっ。かわいいじゃん。」
さっきはついぞ言ってあげられなかったセリフに我ながら苦笑する。
そして、カッターシャツの襟首にかけられている赤いタイを手にとって眺めてみた。
「梨華も高校生か・・・」
新しい環境、新しい生活。
あたしが知らないことがまた増えていく。
そこで梨華を待っているものに、否応なく嫉妬心がわきあがってくる。
当然新しい友達もできることだろうから。
それは今までとは違った新しい刺激として、また彼女を輝かせる
ことになるかもしれない。
先に中学にあがった時もそうだった。
部活での上下関係や、勉強の難しさ。
あたしの知らない世界を聞くのは、すごく楽しみでもあったけど、
いつもどこか不安で、やるせなくて・・・。
梨華を輝かせている出来事に嫉妬していたあたし。
- 316 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)20時59分54秒
そして何よりあたしを不安にさせることがある。
15の春を迎えた梨華が、大人っぽく綺麗に見えてしまったことに。
きっと制服姿を見てしまったからなのだろうけど。
パタンと倒れ込むようにベッドに沈むと、梨華の匂いが伝わってきた。
「これから1年。梨華と離れ離れか・・・・。」
あたしを苦しめるのはあたし自身。
もっとポジティブに考えられないのだろうか。
口癖のように彼女が言っているその言葉が不意に胸の中に浮かんできて、
思わず苦笑してしまった。
「大きすぎるんだよね。梨華の存在。」
梨華の香りに包まれた安心感からか、あたしはいつの間にか眠りの世界へと
引き込まれていた。
- 317 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)21時00分59秒
ふと、人の気配を感じて目を開けると、ベッドに頬杖をついて
こちらを眺めている視線とぶつかった。
「なーに見てるんだよー。」
寝顔を見られてしまった恥ずかしさが減らず口となって出てきた。
「クス。寝ている時は天使のようにかわいいのに。」
頬に熱が集まっていくのがわかったから、あたしはまたうつぶせた。
「ねぇ、いつからそこにいたの?」
顔を上げないで聞いてみた。
「5分ほど前かな。」
「起こしてくれたらよかったのに。」
「だって見ていたかったんだもん。
ひとみちゃんの寝顔もそうそう見ることってできなくなったから。
昔はよく一緒に寝ていたのにね。」
「ガキの頃の話はいいよ。」
「大人ぶっちゃって。まだ子供のくせに。」
梨華はわかっていない。
その言葉がどれほど悔しい思いをさせているのかを。
- 318 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)21時02分06秒
- 差し伸べた手があたしの髪に触れる。
まるで子供をあやすようなその行為に、またカチンときてしまった。
何が嫌といって、子供扱いされることが一番の苦痛だった。
特に梨華にそう思われることが、あたしのプライドをひどく傷つけるのだ。
「やめてよ、そういうこと。」
「なにが?」
「頭なでたりしないでって言ってるの。」
「あっ・・・ごめんね。」
手を引っ込めて不安そうにこちらを見ている顔が、視界の端に引っかかる。
悪気があってしていることではないと知っていたのに。
抑え切れないもどかしさが、冷たい言葉を吐かせてしまった。
触れられるのは正直嬉しい。
けれど、子供扱いされるのはたまらなく苦痛なのだ。
- 319 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)21時03分16秒
- 目だけを動かして、表情を見る。
本当はこんな悲しい顔を見たい訳じゃないのに・・・。
あたしは一度瞳を閉じた。
ちゃんと謝らなくてはいけない。強く言い過ぎてしまったと反省したから。
「ごめん。キツかったよね、今の言い方。」
体を起こして謝った。
「ううん。ひとみちゃんの気に障ることしてしまったのよね・・・。」
申し訳なさそうに指を組んでいる手に触れると、
謝罪の気持ちを込めて、優しい眼差しで彼女を見つめた。
こんな時ほど離れて欲しくないと思ったから。
- 320 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)21時04分14秒
「梨華。久しぶりに一緒に寝ない?」
突然のことに目を丸くしている彼女。
それでもゆっくりと表情が変化していくのがわかった。
どんどん笑顔になっていく瞳が、心に染みていく。
「うん。お昼寝、久しぶりだね。」
いつからだろう。梨華のことを意識するようになったのは。
子供の頃は、本当の姉のように感じていた。
かまってくれることがすごく嬉しくて。
けれども自我というものが芽生えつつある時期に差し掛かると、
梨華の存在が違ったように思えてきて。
あれだけ好きだったお昼寝も、お風呂もいつしか一緒にしなくなっていた。
だけど、今この時だけはそうしてもいいように感じたのだ。
ぎくしゃくしてしまった空気を変えることができるような気がして。
一度起き上がって掛け布団をめくると、『定位置』に潜り込んだ。
幼い頃の2人がかつてしていたように。
- 321 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)21時05分30秒
- 「随分ひとみちゃんも大きくなったよね。寝るには少し窮屈になってしまったかも。」
「それならもっとくっついて寝たらいいじゃん。」
「そうだけど・・・。ねぇ、苦しくない?大丈夫?」
「うん。大丈夫。梨華は平気?」
「クスクス。平気。」
狭く感じるベッドはあたしたちが成長したことを示していたけど、
もっと大きく育っていたのは梨華への気持ち。
そうなのだ。あたしは梨華が好きなのだ。
しかし悲しいかな、空回りすることの方が多いけれど。
「ふふ。まるで抱きしめ合っているみたいね。私たち。」
それは『みたい』ではなく、正しくそうであった。
狭いのを口実に梨華の体に抱きついていたから。
「おやすみ、ひとみちゃん。」
「おやすみ。」
微笑を消すことなく閉じられた瞳。
しばらくその寝顔を眺めていたけど、久しぶりに感じる2人分の暖かさに
安心したのか、いつの間にかまた夢の世界が訪れていた。
夢の中にいたのは、とても素直なあたし。
ただ純粋に梨華を好きでいるだけの。
- 322 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)21時06分30秒
- その朝は、目覚ましより先に携帯が鳴った。
『おはよー。遅刻しないでね。行ってきます。=梨華=』
「・・・んだよ。まだ7時じゃないか・・・」
いつもより20分も早く起こされたことに、少し不機嫌になった。
いや、不機嫌になったのはそのせいだけではないのだけれど。
今までは、毎日梨華と通っていた学校。
隣に住む梨華とは幼馴染で、中学までは毎日一緒に通学していたのだ。
お互いに一人っ子というせいもあってか、
2人はまるで姉妹のように育ってきた。
いつも一緒にいたのに・・・。
だけどそれも今日からは別行動。
「ぐぁーっ!今日休んでやろうかな。」
腹いせを言ってはみたものの。
ズル休みでもしようものなら、また梨華に何を言われるか
わからないから、あたしはあと20分だけ不貞寝することにした。
- 323 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)21時07分32秒
- 今日は新学年を迎えた最初の日。
中学3年になったのはいいけど、この一年は受験に追われることに
なると思うと、それだけで気が滅入っていきそうだった。
だけど、そんなことばかりも言っていられない。
あたしが目指すのは梨華と同じ高校。
これだけは絶対に譲れないのだ。
新入生の入学式でもあるこの日は、クラス発表と簡単な
連絡だけですぐに家に帰れた。
友達に遊びに行こうと誘われたけど、断って帰ってきたのはある理由から。
受験勉強するの?ってからかわれたけど、今日はそれどころではない。
梨華のことが気にかかって仕方がなかったのだ。
おそらく彼女の方も今日は早く帰ってくるだろうから。
新しく始まった高校生活がどんなものか、この耳でちゃんと聞かなくてはならない。
「おっそいなー。何やってんだ?」
もうそろそろ帰ってきてもよさそうな時間。
モヤモヤするいらだち。
さっきからじっと時計とにらめっこしているけど、
それでもなかなか梨華はきそうにない。
仕方がないから、机の上に置きっぱなしにしていた新しい教科書を
本棚に整理していると、チャイムが鳴った。
- 324 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月13日(日)21時10分23秒
- >作者
こんな感じです(w
今回は1話分だけUPしました。
視点は交互にあります。次回は梨華ちゃん視点から。
それでは今夜はこのあたりで。
よければまた読んでやってください。
あと3話分はストックありますので(w
更新もしばらくは滞りなくできると思います(笑)では。
- 325 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月14日(月)00時25分41秒
- このスレには何故か引き寄せられる魔力があるようで・・・。
梨華ちゃんサイド楽しみにしてます。
- 326 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月14日(月)00時48分28秒
- パソコンの前でこのスレ読みながらニヤついてる私っておかしいでつか?
- 327 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年04月14日(月)01時23分17秒
- よっしゃ〜!
新作だ〜い
しかもお姉さん梨華ちゃんだ〜
こりゃまた連日ドキドキでハッピ〜♪
青春ですね
- 328 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時11分56秒
- >ROM読者さま
いつもありがとうございますー♪
Jはネットで確認しただけです(w
梨華ちゃんも大きくなったねぇ・・・(しみじみ)
>326名無し読者さま
>パソコンの前でこのスレ読みながらニヤついてる私っておかしいでつか?
正常です(w
つか、もっとニヤケテいただけるように、
作者がんばります!応援よろしくお願いします♪
>ラブ梨〜さま
えへへ。ありがとうございます。
実はもう完結してますので、更新おまちください♪
もち甘ですよ、ラスト(w
で、今その後の2人を書こうとしてることです。
ストックがあるって幸せー♪(w
それではみなさま、よろしくお願いします。
続き、どうぞ。
- 329 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時14分56秒
=石川視点=
ドアをあけてくれたのはやっぱりひとみちゃんだった。
「ただいま。」
自分の家は隣だけど、ここは私にとってもう一つの家のようなもの
だから、そう言ってみた。
なによりひとみちゃんが待っててくれたことが嬉しくてそう言わせたのだ。
「おぅ。おかえり。」
まるで男の子のような口調。
それはいつものことなのだけれど。
- 330 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時18分41秒
「はぁ。疲れたー。よいしょっと。」
いつものように彼女のベットに腰掛ける。
「梨華おばさんくさいよ?」
机のイスに座っている彼女は足を組んだまま、フッと唇の端をあげて笑っている。
「だってこんなに疲れるとは思ってなかったんだもん。」
「疲れることなんてしてないだろ?入学式だけなのに。」
「電車に乗ってる時間が長いのよ。初めてラッシュっての経験したけど、
もう死ぬかと思うくらいぎゅうぎゅう押されてさぁ。大変だった。」
「それならあんな遠いとこ受けなきゃよかったのに。」
なぜだかほんの少しむくれている。
制服のこともそうだけど、ひとみちゃんはこの高校を選んだことに
対してよく思っていないのかもしれない。
その理由はわからないけど。
彼女の機嫌がこれ以上悪くならないように、話題を変えてみた。
「遅刻しないでちゃんと行けた?」
毎朝一緒に通うことができなくなった代わりに、モーニングメールを入れた私。
昨日までの春休みで気分がだらけていたのが気になっていたから。
- 331 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時20分10秒
- 「そうだ。まだ寝てたのに。メールなんて入れなくていいから。
ちゃんと自分で起きられるし。」
「だって心配だったんだもん。」
「またそうやってお姉さんぶる。もうガキじゃないって言ってるだろ。」
ひとみちゃんは何かというと、すぐこのセリフを吐く。
子供じゃない。ガキじゃないと。
でも私からみたら、彼女はまだまだ子供のような気がして。
ずっと一緒に育ってきたからかもしれないけど、ついついかまいたくなってしまうのだ。
けれど本当は、いつまでも子供のままでいて欲しいという願望が、
心のどこかにあるのかもしれなかった。
「別にお姉さんぶってる訳じゃないよ。ただ気になったから。」
「いいの、あたしのことは。ほっといてくれていいから。」
突き放された気持ちになって、寂しさが沸いてきた。
難しい年頃だっていうのはわかっているけど、
それでも私にだけは甘えて欲しかったのに。
- 332 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時21分09秒
最近特にひとみちゃんが遠くに思える。
昔から感情をぶつけることは少ない方だったけど、
近頃感じるよりクールな態度が寂しさを連れてくるのだ。
「わかったわ。もう起こしたりしないから・・・」
シュンとなって視線を落とした。
私がしてあげられることは、段々と少なくなっていくのかもしれない。
「そんなことより。」
うつむいていた視線を彼女に移した。
「なに?」
「学校どうだった?」
「うん。思ったより馴染めそう。」
笑顔で答えたのは、私のことを気にかけてくれているのがわかったから。
きっと、新しい環境に置かれた私のことを心配してくれているのだ。
クールなところもあるけれど、優しいところももちろんある訳で。
- 333 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時22分28秒
- 「よかったじゃん。」
「ありがと。友達もできそうだよ。まだ隣の子としかしゃべってないけど、
仲良くなれそうな気がするの。」
「そうなんだ。」
「その子、後藤さんっていってね。ごっちんって呼ばれているって言ってたなぁ。
すごく気さくな感じのするいい子だよ。」
「へぇ・・・」
心なしかまた彼女の表情が曇った気がした。
気のせいかもしれないけれど。
「家も思ったより近くて。ここから2つ隣りの駅に住んでるんだって。
それで話が盛り上がっちゃった。」
「そう。」
やっぱりおかしい。
明らかに不機嫌になっている。
「ねぇ・・・なんか機嫌悪くない?」
「べっつに。」
言葉とは裏腹な態度。何か気に障るようなことでも言ってしまったのだろうか?
- 334 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時23分20秒
- 「ひとみちゃん。」
ベッドから降り立つと、彼女の側へ近づいた。
「んあ?」
「思うんだけど、私なんか悪いことしたかなぁ・・・」
「別に。」
「またそんなこと言う。」
腕を組んで斜に見ている視線があるものを連想させた。
それはまるで拗ねている子供がするような態度だと。
もしかしたら、本当に拗ねているのかもしれない。
理由はわからないけれど、そんな気がしたから、
手を伸ばして彼女の髪に触れようとした。
しかし、それを止める言葉が心の中に浮かんできた。
『『『頭なでたりしないでって言ってるの。』』』
- 335 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時25分12秒
どうしたらいいのだろう。
ひとみちゃんとどうやって接したらいいのか、どんどんわからなくなっていく。
一度出した手が、空をつかんでゆっくりと落ちていった。
「なにやってんの?」
その視線は下ろした手を見つめていた。
「ん・・・」
「なに?」
「・・・なんかね・・・わかんなくって・・・」
「何が?」
「ひとみちゃんのこと。よくわかんないよ・・・」
ため息がこぼれ落ちた。
「いいよ。わかんなくて。」
「なんでそんなこと言うの?」
「きっと梨華にはわかんないだろうから。」
切なかった。
全てを拒絶されてしまったような寂しさに。
「・・・っ・・・っく・・・・」
「はぁーっ・・・・泣くなよ。」
- 336 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時26分27秒
- 手を引き寄せられて、ウエストに腕が絡んだ。
「・・・だって・・・」
キューンと切なくなる気持ちが胸の奥に広がる。
うまく言葉では言い表すことのできない感情。
「梨華はいつもの梨華でいてくれたらそれでいいから。」
なんだか答えになっていない気がするけど。
「どういう・・・こと・・・?」
「だからぁ・・・。あぁーめんどくせー!」
倒した頭がポスンとお腹によっかかった。
「面倒くさがらないでちゃんと話して?」
「・・・から。いつも・・・・いてくれたらいいから。」
「ん?なに?いつもどうって???」
「んぁ。もういいっ。」
腕を離して立ち上がると、ベットの方へ行ってしまった。
ひとみちゃんのことをわかってあげられそうなヒントが見え隠れしていたから、
追いかけるようにして彼女の隣に座った。
- 337 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時27分30秒
- 「何が言いたかったの?よくわかんなかった。もう一度言って?」
「言わない。」
「怒んないでよ。本当にわかんなかったんだから。」
「怒ってなんてない。」
「うそ。じゃぁなんで私の目をみてくれないの?」
ひとみちゃんは明らかに視線を逸らせていた。
不機嫌な思いをさせてしまったのはきっと私のせいだろうけど。
黙ったままでいることに不安を感じたけど、
それでも私は何もすることができない。
また少し、ひとみちゃんを遠くに感じてしまった。
小さなため息を心の中で一つつく。
懐古趣味はないけれど、あの頃は本当によかったと思えてくる。
幼い頃の記憶。
その頃はひとみちゃんも素直でかわいくて。
いつも私の後をついて歩いてくるのが愛しくて。本当の妹のようにかわいがっていた。
だけど今は?
わからない、ひとみちゃんの気持ちが・・・。
- 338 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時28分39秒
「いつまでも・・・あの頃のままだったらよかったのにね。」
何気なくもらしてしまった一言。
「あの頃の・・・まま?」
うつむいた姿勢でつぶやいた彼女。
「そしたらいつまでもひとみちゃんは私のこと慕ってくれてたと思うから。」
「いつまでもガキのままごとしてた方がよかったって言うの?」
「そうじゃないよ。ただ私は・・・」
「あたしは早く大人になりたい。いつまでも子供のままなんて冗談じゃない!」
珍しく声を荒げたかと思うと、次の瞬間、私はひとみちゃんに
押し倒されていた。
「あたしのことガキだと思ってるだろ。」
威圧的に見下ろす視線。
怖いほどの緊張が体に走り抜けていった。
押さえつけられた両腕がジンジンと痛みを増していく。
- 339 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時29分55秒
- 「・・・何・・・どう・・したの・・・」
「梨華はいつでもあたしを子供扱いしてるんだ。
けれどそうじゃないってこと、今から教えてやる。」
痛く突き刺さる目が真剣で、私は動くことができない。
何がどうなっているのだろう。
その間にも段々と近づいてくる、距離。
これは・・・。
そしてようやくわかったのだ。
キスをするつもりなのだということに。
「ぃや・・・。やめて!」
抵抗してみたけど、上から押さえつけられる圧力に
逃れられることができない。
そして。
抵抗し続ける私に、唇が押し付けられた。
「・・・こんなの・・・ひどいよ・・・」
腕から圧力がなくなっていく。
それと同時に、私は部屋を飛び出していった。
もう何も考えられなかった。
ただとても悲しい気持ちだけが、胸の奥に広がっていた。
- 340 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時31分09秒
=吉澤視点=
「はぁ・・・。なにやってんだ・・・。」
自己嫌悪に陥っても後の祭り。
飛び出していった扉を見つめながらつぶやいた。
唇に残ったのは、想像していたものとは全く違った苦い感触。
「嫌われたんだろうな・・・きっと。」
無理やりに奪ってしまった唇。
いつまでも子供扱いされたくないというあせりがあったのは否めない。
もう子供じゃないってことをわかってもらいたかった。
けれど本当は、優しく甘く、梨華を感じたかっただけなのだ。
梨華に触れたい。ちゃんとあたしを見て欲しいと。
幼馴染の関係は、きっとどこまでいっても断ち切ることはできない。
行動を起こさない限り、いつまでたっても次のステップへは進めないのだ。
- 341 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時32分24秒
- でも梨華は・・・。
きっと混乱していたのだろう。
ずっと一緒に育ってきたあたしがした行為に。
苦しそうに抵抗する顔が頭の中にリピートされていく。
「嫌がっていたのに。最低じゃん、あたし。」
今になって冷静に考えてみても、全くもってこっちの独りよがりな
思いであったことに気付かされた。
梨華は幼馴染の関係をずっと望んでいたに違いないのだ。
あの頃のままがよかったと。
こっちの思いはどんどん膨らんでいくにも関わらず・・・。
けれど梨華はもう幼馴染ですらいてくれないかもしれない。
自分がした浅はかな行為が、取り返しのつかないものだと
気付くには、あまりにも遅すぎた。
「謝りにいくか・・・。だけどどんな顔で会ったらいいんだ・・・。」
いくら梨華だって今回のことは許してくれないかもしれない。
そう思うと、怖くて足を踏み出すことができないでいた。
「・・・・っく。なにやってんだよ・・・なにを・・・」
バカな自分が許せない。梨華のことがただ好きなだけなのに。
結局何も動けないまま、その日は過ぎていってしまった。
- 342 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時33分22秒
あれから一週間、梨華と会うことはなかった。
メールすら出すこともなく、まして向こうから届く訳もなかった。
つまりは絶縁状態。
これだけ長い間梨華と会えないことはかつてなかった。
梨華の存在が、どれほどのものだったかを改めて知らされる。
今彼女はどんな気持ちでいるのか。元気でやっているのか。
気になることがいっぱいで。
それでもほぼ定時にドアが開く音が聞こえてきていたから、
学校だけはちゃんと行ってることはわかったけれど。
「そろそろちゃんとした方がいいな。」
覚悟は決まった。
もし嫌われてこれから二度と口をきいてもらえなかったとしても、
今のままくすぶり続けているよりはマシ。
時計を見ると、もうすぐ梨華が帰ってくる時間が迫ってきていた。
「・・・ふっ。ダメなら仕方ないじゃないか。」
精一杯の強がりを言ってみてカラ元気を出すと、あたしは重いドアを開いた。
- 343 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時34分15秒
手すりから身を乗り出して、マンションの下を通る人影を眺めていた。
梨華が帰ってくるのを確認していたのだ。
そしてほどなく道路の向こうにその姿をとらえることができた。
久しぶりに見る姿に、緊張が増していく。
制服姿も結局あの日以来見ていなかったこともあり、
どこか知らない人のように見えて、寂しさを感じた。
「あ・・・。テニスラケットもっている・・・。」
きっと部活にでも入ったのだろう。
この1週間で、あたしの知らない梨華がいることに胸が痛んだけれど、
それも自業自得なのだ。
「あと少し。・・・もうすぐエレベーターから降りてくる。」
頭の中で距離をはかると、カウント通りにその姿が現れた。
- 344 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時36分04秒
=石川視点=
「ひとみ・・・ちゃん・・・・」
エレベーターを降りて廊下にでると、彼女がいた。
じっとこちらを見ている視線。もしかしたら私を待っていたのかもしれない。
だけど、私はひとみちゃんと会うのが怖かった。
あんなことがあってから、私はずっと苦しんでいたから。
ひとみちゃんがしたことに。
ずっとあれから考えていたのだ。
なんで彼女がキスをしたのかということを。
だけどいくら考えても、悲しい結論しか導き出せなかった。
それは、ただ単に子供扱いされたくなかっただけという答えしか
思い浮かばなかったから。
それは私のことが好きだからという理由ではなく。
- 345 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時36分54秒
- こわばりそうな体。それでも一歩づつ歩みを進める。
緊張と苦しさで逃げ出したくなったけど、きっとひとみちゃんはそうさせてはくれない。
「梨華。」
やはり彼女は私を待っていたのだ。
手すりにもたげていた体を起こして私の名前を呼んだ。
「ひとみちゃん・・・。」
クールな表情は変わらず、私を捉えていた。
まるであの日、そしてこの1週間が、何事もなかったかのような冷めた瞳で。
「ちょっといいかな。」
「・・・うん。」
「そっちに行ってもいい?カバンもあることだし。」
「あ・・・そうね。うん。」
扉を開けて私の部屋に彼女を入れた。
- 346 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時37分55秒
ベッドの上で2人は座っていた。
どちらも話しかけ辛い空気が辺りを占めている。
けれどひとみちゃんが言いたいことはおよそわかっていた。
先日のあのことを謝りにきたのだ。
無理やりキスをしたことを。
「テニス部、入ったんだ。」
彼女の視線は机の上に置かれているラケットケースを見つめていた。
何気ない話題を持ち出したのは、きっとこの緊張を解きほぐすため。
「うん、そう。」
なのに私はまだ異常に緊張していた。
それは彼女がするであろう謝罪に、心から許すことができる自信がなかったから。
それほどまでに私は深く傷ついていたのだ。
気持ちがないのに重ねてきた口付けに。
- 347 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時39分33秒
- 「楽しい?」
「楽しいよ。」
言葉が続かない。沈黙だけが長く私たちを支配する。
けれど、大きく息をついたひとみちゃんがそれを破った。
「・・・ごめん。こないだの・・・こと。」
「・・・・・・・。」
「許して欲しいんだ。あたしがしたこと。」
今度は私がため息をついてしまった。
謝罪をしたということは、すなわち悪いことをしたと認めたことになる。
それはとても悲しい事実。
謝るくらいなら最初からキスなんてしないで欲しかった・・・。
私は一体どうしたらいいのだろう。
ひとみちゃんとの仲を取り戻すには、何もなかったように
受け入れるのが正解かもしれない。
悲しい傷を押し込めて、お姉さんの仮面をかぶればいいだけのこと。
- 348 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時40分45秒
- ここでうんと頷けば、きっとまた以前のように戻れるのかもしれない。
けれど、戻ったからと言って、私たちの関係が前以上にうまくいくか
どうかは疑わしかった。
それでなくても私はひとみちゃんの気持ちをつかめないでいたから。
手放したくはなかった。だけど、どうしていいのかわからない。
また苦しい思いをするのは目に見えているのだ。
それは私がひとみちゃんのことを好きだから。
幼馴染ではなく、一人の女の子として。
黙ったまま唇を噛んでいた。色んな思いが交錯して私を苦しめていたから。
「やっぱり・・・許してくれないよね・・・わかっていたことだけど・・・」
ひとみちゃんが苦しげにそうもらした。
膝の上に置かれていた手がぎゅっと堅く握り締められている。
「嫌われたんだ。・・・自業自得か・・・」
私はただその白い手の甲を見つめていた。
小刻みに揺れていたその手はゆっくりと太ももを伝って、
両手を組んだまま静止している。
- 349 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時41分54秒
もうそろそろ答えを出さなくてはならない。
それは許すか許さないかということではなく、私自身の気持ちに。
ひとみちゃんを好きでいるこの気持ちに。
「ひとみちゃんはわかってないよ。」
私はそう答えた。
「わかってないって・・・なにが?」
「キスの意味。」
「そうかも・・・しれないね。」
「傷ついたんだよ、私。すごく。」
「・・・あぁ。そうだよ・・・ね・・・。ごめん。」
ぎゅっと握っている手が更に強く握り締められていた。
- 350 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時42分51秒
- 「子供じゃないってこと示したくてキスするなんて。
そんなの間違ってるよ・・・。」
「あ・・・。うん。そうだよね。確かにそうなんだけど・・・」
「好きな気持ちがないのに、そんなことしないで欲しかった。」
「・・・違うよ。それは。」
「違わない。ひとみちゃんは私のこと好きじゃないんでしょ。」
「梨華・・・」
「いつもクールにしていたじゃない。私に冷たくしてたのはそういうことでしょ。」
「それは・・・・」
「それでも私は・・・。私は、ひとみちゃんのことが好きだった。
ずっと好きだったんだよ。だから悲しかった・・・」
瞬間、抱きしめられていた。
ひとみちゃんがもらした、静かな泣き声とともに。
- 351 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月14日(月)20時45分41秒
- >作者
今日は以上です(w
え?いいところで終わらせるなって?
だってね、よく考えたら、次の回でストック切れなんですよ(涙)
ってことで、次回でラストです(はやっ!)
もちろん甘ですよ。ご期待に答えまして(笑)
それではみなさま、次回の甘ご期待ください♪
ありがとうございました。
- 352 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月15日(火)00時53分35秒
- クライマックス寸前でCM突入状態。あ、またいけない妄想が一人歩きを
始めてしまう。ラストの甘さに耐えられるように心の準備をしておきます。
- 353 名前:サイレンス 投稿日:2003年04月15日(火)10時23分48秒
- 更新お疲れ様でした。
やっぱりいしよしは両思いでないといけませんよ。
やっぱり甘さがほしくなったらここに来るのが
1番ですね作者様。
今回のもなんか甘いラストということで
ケーキーより甘いストーリーを待ってます。
私的なんですがいしよし大好きなんですが最近
後藤さんも好きになっちゃって(ボソ
続きも待ってますね。いしよしがんばっていきましょう!!
- 354 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時29分05秒
- >ROM読者さま
して、どんな妄想されていたのですか?(w
今回のはね、続編の方がおもっきし甘です。
きっと引いてしまうくらい(笑)またお付き合いください♪
>サイレンスさま
いつもありがとうございます。お疲れ様です♪
今回もめちゃ甘になりますが、ひとつよろしくお願いします(w
>後藤さんも好きになっちゃって(ボソ
梨華ちゃんが聞いたら「浮気もの〜っ!」
ってぽかすか殴られますよ?(w
一緒にいしよし最強ワールドを書いていこうじゃないですか!(笑)
ということで、ラストUPします。
どうぞ最後までお付き合いください。
- 355 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時30分32秒
=吉澤視点=
不覚にも涙を流してしまったのは、梨華があたしを好きでいてくれたから。
抱きしめてしまったのは、梨華が愛しかったから。
「あたしってほんとにバカだよね・・・。」
涙をかみしめながらポツリとつぶやいた。
「ひとみ・・・ちゃん?」
「自分のことばかり考えていた。」
「・・・・・・・・・・・。」
「子供扱いされたくない、早く大人になりたいって・・・そんなことばかり。」
「ごめんね・・・苦しんでいたのね。なのに私ったら・・・」
「ううん。あたしが悪い。バカだよ、ほんと。
ガキ扱いされたくないって思うこと自体、ガキの考えることだったって。
今になって気付いたよ。」
「誰でも思うことじゃない?特にひとみちゃんの年頃の子は。
だから、もう・・・いいよ。」
- 356 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時32分04秒
- 抱きしめていたはずなのに、いつのまにか抱きしめられていた。
だけど、それはとても心地よい感触。
懐かしさを呼び覚ますような。
「自分のことばっかりで、梨華の気持ちに気付かないなんて、情けねぇ。」
「そんなに自分を責めないで。ね?」
柔らかな胸の感触が、頬にあたってボーっとなっていく。
抱きしめられるのが、こんなに心地いいものだったとは。
いや、記憶を呼び覚ませ。
本当は知っていたじゃないか。
いつもこうやって抱きしめていてくれたのは梨華だったことを。
「ねぇ、梨華・・・今言ってくれたこと嘘じゃないよね。」
「・・・うん。もちろん。」
「はぁ・・・っ。マジかよ・・・」
安堵のため息がこぼれ落ちる。
「・・・やっぱり私じゃ・・・ダメ・・・かな。」
「んな訳ないじゃん。」
「え・・・?」
「あたしが好きでもない子とキスしたりするとでも思ってたの?」
「だって・・・あれは・・・」
「キスしたいって思ったんだ。梨華に。」
体温が一気に上昇していくのがわかった。
梨華がまわしている腕に力が込められていくのを感じたから。
- 357 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時33分35秒
- 「だったらなんでいつも冷たくしたの?すごく不安だった。
嫌われているのかなって・・・。」
「それは・・・つまり・・・好きな子にはそうしたいと思うものじゃない。普通。」
「おかしいよ、それ。普通好きな子には優しくしたいと思うんじゃないの?」
「んぁ・・・そうなんだけど・・・さ。」
「やっぱりひとみちゃんて・・・」
梨華が言おうとして止めた言葉を、あたしが変わりに言ってみた。
「子供みたい?」
「・・・うん。そう。」
「だってまだまだ子供だもん、あたし。」
「あ、開き直ってる。」
ふわりとした笑い声が2人を包んでいく。
「背伸びするのはやめるよ。どう頑張っても縮まらないんだもん。」
「なに?一体なにが?」
「あたしと梨華の歳の差。83日間の。」
梨華のクスクス笑いが肩に響く。
「そんなことまで。ひとみちゃんておかしい。」
「笑うなよ。こっちとしては真剣な悩みだったんだから。」
「背伸びなんかしなくてもいいじゃない。私よりも大きく成長したんだから。」
「それは背のことでしょ。あたしが言ってるのは・・・」
「わかってる、わかってるよ。」
- 358 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時34分36秒
- まわしていた手があたしの髪に触れた。
「いいのよね、ひとみちゃんに触れても。」
「うん。今なら素直に受け止められるから。」
「よかった・・・。またひとみちゃんを抱きしめてあげられるのね。」
「またお姉さんぶるつもり?」
「だって年上なんだもん。83日も。」
クスリと笑ったあたしたち。
楽しくて、嬉しくて、胸がときめく。
優しい梨華の声に。
「ねぇ、もう一度見せてもらってもいい?」
「なにを?」
「梨華の制服姿。」
「何言ってるのよ。もう見てるじゃない。」
おかしそうに背中をポンとたたかれた。
「いいから。ちゃんと見てみたいんだ。ほら、はやく。」
あたしの戯言に少し照れながら、モジモジしつつも
あの日と同じようにくるりと一回転して見せてくれた。
- 359 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時35分26秒
- 「どう?ステキでしょ?」
はにかみながらあたしを見ている。
「うんステキだね。・・・かわいいよ。」
あの日言ってあげられなかった言葉を伝えたくて。
「嬉しいな。ひとみちゃんにそう言ってもらえると。」
頬を照らしながらつぶやいた。
「でも遠いよね、梨華の学校。」
「んー。そうだけど・・・・・・・あ。」
きっと今の梨華ならあたしの気持ちはわかるはず。
「もしかしてあの学校気に入らなかったのは・・・」
「・・・気付いた?」
「うん。わかっちゃった。」
カーペットの上にぺたんと座り込むと、あたしの手をとった。
- 360 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時36分50秒
- 「やだひとみちゃん。そんなことならこの学校選んでなかったのに。」
「だってこれ着たいってさんざん言ってたじゃん。」
「そうだけど・・・でも・・・」
「でも?なに?」
「遠くに行って欲しくないんだったら、言ってくれればよかったのに・・・」
やっぱり梨華はわかってくれたのだ。
あたしの気持ちを。
「行くなってダダこねて?それこそガキのすることじゃん。」
「だって子供なんでしょ?まだ。」
「そうだった。あたしは子供だったんだ。」
クスクスと笑って梨華の手を握り返した。
「素直に言ってくれたらよかったのに。」
「素直に言っていいの?」
「うん。甘えて欲しいもの。」
「それじゃ・・・」
グイと手を引いて抱き寄せた。
- 361 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時38分00秒
- 「友達と仲良くするのもいいけど、なるべくはやく帰ってきなよ。」
梨華の頭が縦に揺れた。
「ごっちんのこと、妬いてくれてたのね。」
「そうだよ。やっとわかってくれた?」
「うん、わかるよ。ひとみちゃんのこと。今なら手に取るように。」
「じゃぁ、わかるよね。あたしが今何を考えているか。」
抱きしめていた体を離して梨華の瞳を見つめた。
「わかんない。」
「うそつけ。顔が笑ってるじゃん。」
「クスッ。なら、私の考えてることわかる?」
「うん、わかるよ。」
「えー。うそっぽい。」
「ホントさ。梨華の考えてることはあたしと同じはずだから。」
互いに首を傾けて、ゆっくりと距離を縮めていく。
重ねたそれは、あたしが想像していた通りの甘さだった。
- 362 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時38分52秒
- 「嘘じゃなかっただろ?」
「そうね。すごいよ、ひとみちゃん。」
「ならご褒美の印に。」
わざとらしく唇をつきだしてみた。
「なにそれ?変な顔。」
「ひどいなー。」
「それでもかわいいからキスしちゃお。」
再び重なった唇。
優しく伝わるその感触が、たまらなく愛しく感じられた。
だからもう二度と大人ぶったりしない。
このままのあたしを好きでいてくれているのがわかったから。
例え2人の間に埋められない83日という歳の差があったとしても。
□□□83days□□□ 終わり
- 363 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月15日(火)20時41分02秒
- >作者
はい。完結です(w
喜んでいただけたのでしょうか?(汗)
本編はこれにて終了なのですが、前も書いたように、
続編を書いております。
もちろん激甘で(w
次回からは、またこの続きをUPしますので、
激甘がお好きな方は、ぜひ目を通してみてくださいね。
それでは、ありがとうございました。
=修行僧2003=
- 364 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月15日(火)22時13分19秒
- 激甘大好物であります。
更新も早くて読み応え十分です。
次回お待ちしています。
- 365 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月15日(火)23時54分43秒
- ひとまず完結乙でした。いいっす!読んでいて、あっちこっち痒く
なってくるような甘さが・・・続編は更に凄そうなので、心臓発作
起こさないようにニトログリセリンでも注射しとくか・・・
- 366 名前:サイレンス 投稿日:2003年04月16日(水)14時25分04秒
- 完結お疲れです。
甘い、いいお話感動です。なるほど83日か。
やっぱいしよしはこうでなくちゃいけませんよ。
両思い、相思相愛。さいこ〜です。
>梨華ちゃんが聞いたら「浮気もの〜っ!」
ってぽかすか殴られますよ?(w
うわ〜怖いやら、ちょっと殴られたいやら(w
>一緒にいしよし最強ワールドを書いていこうじゃないですか!(笑)
よっしゃ〜がんがっていきましょう(w
続きももちろん楽しみにしてますよ。
激甘、いしよし、さいこ〜(アホですんません(涙
- 367 名前:286 投稿日:2003年04月16日(水)16時42分07秒
- 暫くお邪魔していない間に2作も更新されてるとは・・
お疲れ様でした。
「祭りの真相」、タイトルだけで思わずニヤけましたw
そうですか、真相はこういうことだったのですか、なるほど。
道理で朝帰りをフライデーされたカップルのようだった訳だw
修行僧2003さんのいつものいしよしからはまた一味も二味も
違ったリアルいしよしワールドでしたが、非常に良かったです!
「83days」は「繋いだ気持ち」的な痛め〜甘め展開で、これまた
ツボでした。いつもながら思いますが、タイトルのセンスが素晴ら
しいですよね。
好きな人に追いつくために早く大人になりたい吉のもどかしさ、
好きな人の子供の頃の面影を今でも重ねる石の戸惑いといった
ものが見事に現れてました。さすがです。
で、これまた続編があるのですか!?
激しく期待せずにはおれません。
砂糖弾を被弾してもOKなように、バケツをどっさり用意して
お待ちしておりますw
- 368 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時32分49秒
- >364名無し読者さま
>激甘大好物であります。
うわ。よかったです。大丈夫だとは思いますが引かないでくださいね?(w
>更新も早くて読み応え十分です。
作者のしてはがんばって更新しています(笑)
>次回お待ちしています。
いつもありがとうございます♪
その言葉だけで作者のやる気がぐーんとUPします。
どうぞ応援お願いしたします♪
>サイレンスさま
>うわ〜怖いやら、ちょっと殴られたいやら(w
あはは。では梨華ちゃんに伝えておきますね?(w
>激甘、いしよし、さいこ〜(アホですんません(涙
いやいや。一緒にバカやりましょうよー♪
してサイレンスさまって関西の方ですか???
もしそうなら今週の土曜にあるヲタ集会出られるのですか?
なんて。ちょっと聞いてみたかったもので(w
>286さま
うわーいっ♪来てくれたんですね♪(嬉々)
実は呆れられたかな?と心配しておりました(wゞ
いつも丁寧な感想ありがとうございます!!!
非常に嬉しく思っておりますよ♪
みなさまの暖かい声援があってこそ作者頑張れますので、
どうぞ呆れずについてきてやってくださいませ♪
それでは続き、よろしくお願いします。
- 369 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時40分01秒
- >ROM読者さま
・・・すみません。カキコする順番間違えました・・・(涙)
どうぞお気を悪くなさらないでくださいね?ね?
代わりに作者がニトロ打ってさしあげますので(笑)
それも16ゲージくらいのふとーい注射針で(w
もちろん作者無免許ですが、なにか?(w
今回の激甘、果たして喜んでいただけるのかどうか・・・(汗)
くどいっ!って思わないでくださいね?(笑)
それでは、どうぞよろしくお願いします♪
- 370 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時41分41秒
『83days』続編
=吉澤視点=
『おはよー。今日もいい天気だよ。行ってきます、ねぼすけさん。 =梨華=』
「あはは。ねぼすけさんて。」
いつものように7:00きっかりにメールが届いた。
あたしはというと、もちろんまだベッドでこのメールを見ている。
梨華との仲はとてもうまくいっていた。
あの日お互いの気持ちを知った時から、新たな関係が始まったけれど、
いまでも世話好きなのは変わらない。
「ふぃー。そろそろ起きるか。」
今までは結構ぎりぎりまで寝ていたけど、毎朝新聞を読むことを
約束させられていたから、この時間に起きることにしたのだ。
新聞の記事から試験のことがでることがあるからってことで、
梨華に無理やり約束させられてしまったのだ。
受験生はつらい。
朝食を手早く済ませると、制服に着替えるために部屋に戻った。
もうそろそろ携帯も鳴るはずだから。
- 371 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時43分11秒
- 「おはよー。ちゃんと起きた?」
「おはよ。起きてるよ、ご飯もちゃんと食べました。」
時刻は7:30。
この時間になると、梨華は毎朝携帯をかけてくるようになっていた。
最初はちゃんと起きているかの抜き打ちチェックだったけど、
今では定番のモーニングコール。
この時間はちょうど電車の乗り換えで携帯が使えるらしく、
こうやってかけてきてくれるのだ。
時間にすると1分くらいのことだけど、
朝から梨華の声が聞けることがなにより嬉しい。
「昨日はちゃんと勉強したの?」
「うー。寝ちゃった。」
「またぁ?」
クスクスと笑う声が耳元に伝わる。
「だってさぁ、面白いテレビやってたんだもん。」
「昨日と同じ言い訳してる。受験生なんだよひとみちゃん。」
「まだ1年もあるじゃん。」
「あまい!そんなこと言ってたらうちの学校受からないよ?」
「・・・・・。」
それを言われると正直辛い。
- 372 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時44分14秒
- 梨華の学校は、制服がかわいい割りに、レベルはかわいくないのだ。
あぁ。面白くない。
やり込められた悔しさは、梨華をからかうことで発散することにした。
「ねぇ、梨華ー。」
「なに?」
「好きだよ。」
顔を見なくても、その表情は想像できる。
あたしはひそかにそれを思い浮かべて笑っていた。
「朝から何言ってるのよ。」
「なんだよー冷たいなぁ。あたしのこと好きじゃないの?」
周りに人がいるのを知っていて、からかってみる。
答えられないでいるのがたまらなく面白いから。
「えっと。私もひとみちゃんと同様です。」
「なんだよそれー。ちゃんと言って欲しいな。好きだって。」
「もぅ。ひとのことからかってるでしょ。」
「あれ?そんな風に思うんだ。へぇー。」
「・・・わかったわよ。でも今は言わない。」
「いつなら言ってくれるの?」
電車の騒音が携帯越しに聞こえてきた。
- 373 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時45分05秒
- 「ごめんね。もう乗るから。」
「ちぇっ。いいとこだったのに。」
「拗ねないの。そうだ。ちゃんと聞いててね?」
「んぁ?」
=ちゅっ=
「じゃぁね、切るよ。」
あわただしく切られてしまった携帯。
だけど、心がぽかぽかと温かくなるのは、
梨華がしてくれた携帯越しのキスのおかげ。
これでやる気もでてきた気がする。
リビングに行くと、父親が出勤前に読んでいた新聞を手にとって、
同じポーズで読んでみた。
- 374 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時46分26秒
「お帰り。」
梨華の部屋で帰りをまっていたあたしは、勉強道具を持ち込んで
待機していた。
「ただいま。遅くなっちゃってごめんね。」
部活でクタクタに疲れて帰ってきているのに、
梨華はあたしの勉強をみるといってきかなかった。
本人よりも必死になっているのがどこかおかしい。
「いいよ。マンガ読んで待ってたし。」
「なにっ!そんな時間があったらちょっとは予習しなさい。」
「クス。うそ。本当はちゃんと予習してたんだ。」
数学の教科書を手にしてニンマリ笑ってみた。
「あっ。偉いじゃない。ひとみちゃんもやっとやる気になってくれたのね。」
「偉いでしょ。はい、それじゃご褒美のキス。」
「えー?勉強は自分のためでしょ?」
「いいじゃん、理由はなんだって。梨華とキスしたいんだから。」
手を引いて座らせた。
「ダーメ。できません。」
「なんだよ。もったいぶらなくてもいいじゃん。」
「だって・・・まだシャワー浴びてないんだもん。」
- 375 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時47分24秒
- 「えっ・・・・」
瞬間激しい妄想が沸き立った。
「ちっ、違うよ、誤解しないで。部活で汗臭いから・・・。」
「クス。何を誤解するの?」
顔を赤らめているのが本当にかわいく見える。
だからあたしは思い切り梨華を抱きしめた。
「かーわいい。」
「もぅ。汗臭いって言ってるのに。」
「シャワーなんていいよ。」
「でも・・・・」
「気にしなくても、梨華はいつもいい香りがするよ。」
ぺろっと唇をなめてしめらせると、乾燥している彼女の唇に重ねた。
よりぴったりとくっつけるために。
- 376 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時49分09秒
「こほん。それでは勉強しましょうか。」
「えー。もう?もっとキスしようよー。」
「ひとみちゃんここに何しにきてるのかわかってるの?」
「梨華とラブラブするためでしょ?」
「ちがーうっ!」
あたしの冗談にいちいち反応する姿が面白い。
怒った顔もすごくかわいいのだ。
「わかったよ。勉強すりゃいいんでしょ。勉強すれば。」
「あら。意外と聞き分けがいいのね。」
「あれ?本当はもっとダダこねて欲しかった?」
にやりとすると、梨華が頬を軽くつまんだ。
「ダダこねなくていいから、脳みそをもっとこねてください。」
もう一度だけ軽く唇を合わせると、今度は本当に勉強タイムに突入した。
- 377 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時51分19秒
- 「はぁ。もうギブアップ・・・」
「そうね、ちょっと早いけど、もうご飯の時間だから今日はここまでにしましょう。」
大きく伸びをしてカーペットの上に寝転んだ。
「ごめんね、疲れただろ?」
「ううん。平気よ。ひとみちゃんこそ疲れたでしょ。」
「うん。疲れた。」
2人とも笑ってしまった。
「ひとみちゃん、寝るんだったら。」
梨華を仰ぎ見ると、膝をポンポンとたたいているのが見えた。
「してくれるの?膝枕。」
「うんっ。おいで、ひとみちゃん。」
ニヤケ顔丸出しで仔犬のようにじゃれつくと、梨華の膝に頭をのせた。
「はぁ、嬉しいな。こんなことしてもらえるなんて。」
「うふ。それはよかったわ。」
頭をなでてくれる感覚がとても心地いい。
微妙に伝わる体温があたしを更に心地よくさせるのだ。
「梨華の膝枕いいね。」
「気持ちいい?」
「うん。最高!」
「えへへ。嬉しいなー。」
「あたし専用だよ?わかってる?」
「ひとみちゃん専用?」
「うん。他のヤツには絶対触れさせない。」
「きゃはっ。かわいい、ひとみちゃんたら。」
梨華は照れたようににんまりと笑っていた。
- 378 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時52分27秒
- 「約束だからね。この膝枕はあたしだけのもの。」
「膝枕だけなの?」
「へへ。梨華の全てはあたしのものだよ。」
「独占されちゃった。」
頬に手が当てられたから、そっと目を閉じた。
愛しい気持ちに胸が満たされていく。
「・・・そうだ。まだ言ってくれてなかったよね。」
頭をのせている太ももの上に手をかけてそっとなでてみる。
「朝のあれ?」
「うん。今日は一度も聞いてない。」
「改めて言うのって照れちゃうんだもん。」
「聞かせてよ。ちゃんと。」
「・・・わかった。」
梨華の髪があたしの頬に降りてくる。
そして耳につけられた唇から、甘い言葉が囁かれた。
「好き。ひとみちゃん。」
- 379 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時53分33秒
- とろけていきそうになるのは、あまりにも幸せ過ぎるから。
「にへっ。もう一回。」
「えー。また?」
「いいじゃん、何度聞いても嬉しいんだから。」
「クスクスっ。かわいい。」
「ねぇ、はやく。」
「はぁい。大好きよ。ひとみちゃん。」
「あたしも。梨華が好き。」
2人っきりなのをいいことに、めいっぱい甘えてみる。
友達には決して見せられないその姿。
「あぁ。どこか2人でデートしたいなぁ。」
「ダメよ。受験生なんだから。遊んでないで勉強しなくちゃ。」
ゆっくりと頭をなでてくれる手の優しい動きに、
またとろけそうになっていく。
「はぁーっ。たまには息抜きしたいよ。」
「うーん・・・仕方ないか。ここのとこ頑張ってたし。」
「えっ?いいの?」
あたしは思わず飛び起きてしまった。
- 380 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時54分42秒
- 「ふふふ。一日くらいならいいでしょ。」
「やった!梨華だーいすきっ!」
抱きしめて頬にキスをした。
「やだ、ひとみちゃんたら。」
嬉しそうに細められた梨華の瞳が、優しげに笑っていた。
「えーっと。どこか行きたいとこある?」
「見たい映画もないし、遊園地は人が多くて疲れるし・・・」
「あはは。年寄りくせー。」
「もぉ、そんなに変わらないでしょ。」
両頬を手ではさまれてしまった。
「一学年の差は大きいと思うけど?」
「・・・いいわよ。どうせ私はおばさんなのよね。」
「クスッ。拗ねた?」
「拗ねてなんかいません。」
「そんなに怒るとしわが増えるよ?」
「デート中止にしちゃおっかなー。」
「・・・ごめんなさい。」
シュンとしてしまったあたしに対して、梨華はどこか楽しそう。
- 381 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時56分14秒
- 「かわいいね、ひとみちゃんて。」
「うん。よく言われる。」
「えーっ。誰に?」
「梨華に。」
2人ともおかしくて笑いが止まらなかった。
「そうだ。いい場所思いついた。」
「どこ?」
「人がいなくて、かつ楽しめるところ。」
「そんなとこある?」
「うん。一つだけあるんだな、これが。」
「教えてよ、どこなの?」
「へっへー。それは当日までのお楽しみ。」
梨華はまだそれがどこか聞きたそうにしていたけど、
唇を重ねてとめてみた。
先に知ってしまったら、楽しみが半減してしまうと思ったから。
そんなあたしにむくれたように抵抗していた彼女。
けれどそれもつかの間のことだった。
梨華が急におとなしくなったのは・・・。
互いの耳を赤くさせるほど、唇をついばむ音だけが響いていたから。
- 382 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月16日(水)20時58分29秒
- >作者
・・・バカってゆうなー!(w
いいんです。バカで。一緒にバカやってくれる人、募集中♪(笑)
やばいほどバカな甘さになってしまって申し訳ないです(汗)
でもこれからもっと甘になりますので、
覚悟のある方だけついてきてください(笑)
それでは今日はこのあたりで。
みなさま胸焼け止め買っておいてくださいね♪(w
- 383 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月16日(水)22時30分22秒
- バカですが呼びましたか?ただ甘いだけでなく、2人の言葉遊びが
可愛くていいですね。頭の中でβエンドルフィンやらドーパミンや
らが出まくってます。さて、デートは一体どこへ行くのでしょう
- 384 名前:サイレンス 投稿日:2003年04月16日(水)23時02分58秒
- 甘い、甘いですよ。今日食べたケーキより。
作者様って本当にいい作品書かれる方だ。
>してサイレンスさまって関西の方ですか???
う〜ん自分は関西じゃないんですよ。
札幌なんですね。友達に飯田さんと
付き合ってたって人がいるんですが(嘘かも
>一緒にバカやってくれる人、募集中♪(笑)
作者様、もう仲間がいますよ、ここに(w
更新お疲れ様でした。次回の更新も待ってます。
- 385 名前:367 投稿日:2003年04月16日(水)23時04分57秒
- 更新、お疲れ様です。
ハイ先生、バカその2です!
どこまでもお供させていただきますです、ハイ。
いやはや、またしてもクネクネし過ぎて、もう身体がボロボロですw
砂糖弾を浴び過ぎて、バ、バケツがてんこ盛りになって溢れ返りそう
です・・
気持ちが結び付いた途端に激甘になるのが、さすがいしよしですね。
次回もとことん甘い、メープルシロップ1年分のいしよしワールドを
期待してます。
- 386 名前:ナナシ 投稿日:2003年04月16日(水)23時17分37秒
- バカ二号です。やっぱいしよしはこうでないと!いいっすね〜!!
続き楽しみにしてます!
- 387 名前:シフォン 投稿日:2003年04月16日(水)23時55分02秒
- 今までずっとROMってましたが、作者様のいしよしの甘さは、本当に素晴らしいですね!!
読んでいるウチまで照れてしまいます(苦笑)
>一緒にバカやってくれる人、募集中♪(笑)
超甘々いしよしが読めるなら、バカになります(笑)
次回の更新も楽しみにしていますので、無理なさらず頑張って下さい!
- 388 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時08分16秒
- >ROM読者さま
あら?ROMさまもおバカ同盟員だったのですか?(w
ようこそ、我がおバカワールドへ!(笑)
石免許、うまいです(笑)思わずポムと手を打ってしまいました(w
いつも暖かいレスつけてくださってありがとうございます♪
>サイレンスさま
あらら。サイレンスさままで(w
なんだか作者、めっちゃ嬉しいです!!!
どんどんおバカ同盟広がるといいですね♪うふふっ。
>367さま
やだー、367さまも?(笑)
嬉しくって、また作者おバカに磨きがかかりそうです(w
実は今回のは、バカ甘ではないんですけど(笑)、
次回分は、きっと必ず甘です(w。ご期待ください♪
- 389 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時15分27秒
- >ナナシさま
おバカ同盟メンバーにご参加いただき、誠に感謝(w
いしよしは、べったり甘が最高ですよね!(笑)
といいつつ、何気に痛も書いていますけど(汗)
よければこれからも同盟員として、盛り上げていってくださいね。
お願いいたします♪
>シフォンさま
うわー。ROMっててくれた方が、参加していただけるのは、
本当に嬉しいです♪どうもありがとうございます♪♪♪
シフォンさまにもっと照れていただけるように、
作者頑張りますので、また応援してくださいね♪
よろしくお願いいたします。
さてさて、まさかこんなにもおバカ同盟の方がいらっしゃるとは(w
作者、喜びの涙にむせっております(涙)
本当に暖かいみなさまのお陰で作者頑張ってこれました。
・・・あ。まだ終わってないですよ?(w
それでは、石視点、お楽しみください。
そして、消化不良の方は、次回をお楽しみに(笑)
- 390 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時18分14秒
=石川視点=
「・・・なんでここなの?」
電車に乗っている時からおかしいなとは思っていた。
だけど本当にこんな所にくるなんて。
「いいアイデアでしょ。我ながら頭いいっ!」
2人で来た場所は、デートスポットとはまるでかけ離れた場所。
それどころか私は毎日ここに来てるのだ。
「まさか休みの日まで学校に来ることになるなんて。」
「一度見てみたかったんだよね。梨華の学校。」
ひとみちゃんは手を繋いだまま、嬉しそうに校舎を眺めていた。
「まぁいいけどね。」
苦笑気味にひとみちゃんを見上げる。
- 391 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時20分21秒
- 「それで、これからどこ行くの?」
「へ?何言ってんの?学校に入るんだよ?」
「えーっ!?だって閉まってるじゃない。」
「だからいいんだよ。言っただろ。人がいなくて楽しめるところだって。」
「確かに人はいないけど・・・楽しめる???」
「うん。だって貸切だよ、2人だけの。」
意味ありげに笑う彼女。
「それはそうなんだけど・・・。」
「それじゃ、入ろうか。」
「え?入るって、どこから?扉は全部閉まってるのよ?」
「んなの乗り越えたらいいじゃん。」
「はい!?本気で言ってるの?」
「本気だよ。そのために来たんだから。」
ひとみちゃんは軽くウインクをすると、裏の通用門を目指して歩き始めた。
「よし。誰もいないな・・・。」
辺りを確認すると、手早く私の腰に腕を回した。
「ちょ、ちょっと、何、一体。」
「何って、抱えるから門の上に登りなよ。」
「えーっ。できないよ、そんなこと。」
- 392 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時21分35秒
- 「大丈夫だって。ちゃんと押し上げてあげるから。」
「もぅー。なんでこんなこと・・・」
「文句言わないの。ほら、いくよ。」
「そんなこと言って。スカートの中みちゃだめだよ。」
「ばっ、ばかっ。見ないよ。」
文句を言う代わりにちょっぴりからかってみた私。
ひとみちゃんは思惑通りに頬を染めていた。
「はぁーっ。足がジンジンする・・・。で、ひとみちゃんはどうやってくるの?」
柵越しに彼女を見つめた。
「ちょっとそこどいてて。すぐいくから。」
2、3歩後ずさったかと思うと、ジャンプ一番柵に手をかけて、
いとも簡単に乗り越えてしまった。
「すごーいっ!アクションスターみたいっ。」
あまりにもかっこよすぎて思わず目を輝かせてしまった私。
「へへへ。それはどうも。」
照れ気味に頭をかくと、また私の手をとって、校舎に向かった。
- 393 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時22分58秒
- 「綺麗なとこだね。」
桜の下を通りながら、校舎の入り口へと歩いていた私たち。
もちろん桜はもう見頃をとっくに過ぎていて、
名残のように落ちている花びらが地面にところどころあっただけ。
最初はしぶしぶついてきた私だったけど、ひとみちゃんが嬉しそうにしているのを見て、
そんな気持ちももうどこかへ消えてしまっていた。
「来年はきっと一緒に見ようね。桜の花。」
「うん。2人で花見としゃれこもう。」
「それはいい考えだわ。」
クスクスと笑いながら、校舎の中に入っていった。
「へぇー。結構広いね。」
「そうでしょ。3階まであるのよ、教室。」
誰もいない学校は、いつも見ているものとはまるで違った場所のように思える。
隣にひとみちゃんがいるのもなんだか変な感じがした。
「梨華の教室ってどこなの?」
「私のはそこ。」
今いる場所から一番遠くにある教室目指して進んでいく。
- 394 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時23分48秒
- 「ようこそ、1年3組へ。」
扉を開けると、締め切っていた空気が鼻をついた。
「うわっ女くせーっ。」
「あはは。だって女子校なんだもん。」
「女子校か。いい響きだね。」
にやりと笑った顔。
反対にムカムカするのはこちらの顔。
「・・・まさか。女の子に囲まれて嬉しいなんて思ってないでしょうねー。」
「ん?なんでわかったの?」
「もーっ!浮気したら許さないわよ!」
ポカポカと肩を叩いて抗議した。
ひとみちゃんほどのルックスとかっこよさを兼ね備えていたら、
本当にモテそうな気がしたから。
現にアイドル並みの人気をもつ子は確かにいるのだ。
ひとみちゃんに比べれば、天と地ほどの差はあるけれど。
- 395 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時25分01秒
- 「浮気なんてしないよ。・・・たぶん。」
「たぶん?なによ、それ。」
「だって先のことなんてわかんないもん。梨華よりもかわいい子がいるかもしれないし。」
「・・・え・・・・・。」
ニヤけている表情からも、きっとそれは冗談のつもりだったんだろうけど、
私は本気で悲しくなってしまった。
「おいおい。本気にするなよ。」
拗ねてしまって情けない顔になっていたのを見て、
あわててひとみちゃんが弁解した。
「・・・いいんだもん・・・私なんてどうせ年上のおばさんだし。
離れていたら、クラスのかわいい子に目がいくのも仕方ないことだもんね。」
「んな。今言ったことは冗談だってー。」
「冗談じゃなくなるかもしれないよ。そんなのわかんないじゃない。」
「ったく。拗ねるなよ。」
「拗ねたくもなるわよ。」
「はぁーっ・・・。わかってないな、梨華は。」
「なによぉ。」
「あたしは女の子が好きなんじゃないんだよ。
好きになったのがたまたま梨華だっただけで。それはわかってて欲しいな。」
- 396 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時26分10秒
- 言われて初めて気がついた。
今まではそんなこと考えてもみなかったから。
だけどそう言われると、なんとなく納得もできる。
自分のことに置き換えてみても、確かに女の子が好きという訳ではなく、
気付けばひとみちゃんが好きになっていただけのことだったから。
「よかった。少しホッとしたかも。」
「ふぃー。バカな冗談なんて言うんじゃなかったな。ごめんね心配かけて。」
「ううん。私も。やっぱりひとみちゃんが好きだって確認できたから、それでいい。」
「へへー。ありがと。梨華はやっぱいい女だな。」
「そうかしら?そんなことないと思うけど。」
「あたしが惚れた女だよ?宇宙で一番に決まってるじゃない。」
頭を抱えて抱きしめられた。
優しくて、深いひとみちゃんの抱擁。
けれど、私はまだどこか不安でいた。
好きな気持ちと、切ない気持ちがないまぜになって渦をつくる。
それどころか、どんどんと大きくなるのは切ない気持ちの方だった。
冗談だってちゃんと言ってくれたのに。
- 397 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時27分35秒
「・・・まだ疑ってるだろ。」
瞬間ドキっと心臓が音を立てた。
なんでわかってしまったんだろう。
「梨華はわかりやす過ぎるんだよね。嬉しければ楽しそうにするし、
悲しければ目に見えて落ち込む。ほんと、純粋なんだから。」
「だって、ひとみちゃんが悪いんだよ。心配させるようなこと言うんだもん。」
「そうだけどさ・・・。それならどうしたら許してくれる訳?」
「そんなのわかんないよ・・・」
肩に頭をもたげながらそっとつぶやいた。
私だけを好きでいてもらいたい。
他の人なんて見て欲しくない。
心配することなんてヒトカケラもないほど、私を見つめて欲しい。
どうしたらひとみちゃんを独占できるんだろう・・・。
そんなことを考えていた時だった。
「抱いてやろうか。今すぐ、ここで。」
- 398 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時29分04秒
耳を疑った。今・・・何を・・・
「・・・な、なに言ってるの。悪い冗談はよしてよ。」
確かにそういう繋がりをもてば、今よりも互いに深く結ばれるのかもしれない。
だけど、それはもっと大人の人がするようなことだと思っていた。
はるか遠くにはないけれど、まだまだ近くには感じられない。
私たちにはまだ早すぎる。
「今度は冗談なんかじゃないよ。あたしは梨華としたいんだ。」
急に怖くなってきた。
ひとみちゃんが言っていることは、きっと本当の気持ちだということがビシビシと
伝わってきたから。
「あたしだけのものにしたい。」
思うように頭も体も動かないまま、壁に押し付けられてしまった。
「ひとみ・・・ちゃん・・・」
「一生梨華だけを愛していくから・・・」
激しい口付けに、どこまでも落ちていきそうになる。
頭の中が混乱して、まるで自分が自分でないような感覚が襲い掛かる。
このまま身を委ねてしまってもいいのだろうか・・・。
この激しい流れに任せてしまって。
- 399 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時30分18秒
だけど、私はやっぱりそれを望んではいなかった。
いつかはする時がくるかもしれないけど、
今はまだ、その時ではないと感じたから。
服の上から胸をつかんでいる手に、自分の手を置いて動きを止めさせた。
「今はやめて。」
「梨華・・・」
「ひとみちゃん、お願い。」
彼女はしばらく私を見ていたけど、やがて優しい瞳で頷いてくれた。
「きっとそう言うと思ってた。」
「・・・どうして?」
「流されたくなかったんだろ、この場の空気に。」
自分でも感覚的にしかわからなかった気持ちを、
見事に彼女は言い当ててくれていた。
そうなのだ。
好きな気持ちを縛り付ける為だけに、体を重ねるパフォーマンスは必要ないのだ。
互いの気持ちはもう確認できている。
だからその場の勢いで、一生一度の大切なものをなくしたくはなかった。
もったいつけている訳ではなく、それがひとみちゃんだから
最高の思い出として残せる時を刻みたかったのだ。
あせらず、ゆっくりと幸せな時間をかみしめることができるように。
もちろん、ひとみちゃん以外の誰ともするつもりはないのだから。
- 400 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時31分25秒
- 「よくわかってるのね、私のこと。」
手をとって見つめてみる。
「あぁ。わかるさ。梨華のことしか見てないからね。」
「ひとみちゃんの気持ち、ちゃんとここに届いたよ。ありがとう。」
「これで許してくれる?」
「うん。大切に思ってくれていること、忘れないね。」
キスをして確認する。
それは停滞ではなく、前進するための英断だったということを。
「だけど・・・さぁ。」
至近距離で見つめたまま彼女がそっとつぶやいた。
「なに?」
「したいんだよね、本当は。梨華を抱きたくて仕方ない。」
「あ・・・。」
「だけど、今はきっとまだその時じゃないんだろうね。
こんなのは独りよがりでするもんじゃないし。」
「ふふふ。大人なのね。」
「だからさ、今は求めないから。合格したらさせてくれない?」
にやっと笑った顔をしているけれど、目は真剣に私を見ていた。
それは私に不必要な緊張をさせないため。
ひとみちゃんて、いつからこんなに大人になったんだろう・・・。
- 401 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時32分36秒
「・・・わかったわ。合格したら・・・ね。」
「マジ!?うわっ、めっちゃやる気出てきたんだけど。」
こんな笑顔を見ていると、さっき感じた大人の雰囲気は
錯覚だったのかな?と思えてくるけど。
「ただし。」
「・・・なんだよ。注文つけるきかよ。」
「そうよ。注文くらいつけるわよ。」
「で?姫のご注文はなに?」
「合格するのはこの高校であること。」
「そんなの当たり前じゃん。梨華のいないとこ行ったって意味ないし。」
「それと・・・」
「それと?」
「また一緒に学校行こうね。」
ぎゅーっと抱きしめられてキスをした。
- 402 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時33分59秒
- 「うん、うん。死ぬ気で勉強して梨華をGETするっ!」
「GETって・・・」
思わず苦笑してしまった。
「嬉しいな。また一緒に学校行けるんだ。」
「そうよ、朝早いから遅刻しないで起きられるかしら?」
「起きるよ。ってゆーかモーニングメール入れてくれるんだよね?」
「クスっ。もちろん。」
「よし、これで問題は解決だな。」
優しい瞳のままで、クシャっと私の頭をなでた。
「その前に合格しなきゃ話にならないわよ?」
「絶対してみせる!合格して、梨華と・・・」
頬に手をかけて私を見つめる瞳。
「私と?」
ひとみちゃんが何を言おうとしているのかがわかるから、
ほんの少しだけ小悪魔的な瞳で見つめ返す。
「最高の夜を迎える。」
そして私は最高の笑顔で頷いたのだった。
- 403 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月18日(金)21時39分27秒
- >作者
あれ?おかしいな・・・おバカ甘じゃないですよね?(w
しかーし。侮ってはいけません。
今書いてるのは、またおバカになりそうだからです(笑)
次回の吉視点はきっとおバカになることでしょう。
まだ書いてないので確約はできませんが(w
まぁ、このスレは基本的に作者が書きたいことを書こうと
いう主旨ですので、色々書けたらいいなと思っております。
といっても、もうすぐ500スレオーバーしそうですけど(汗)
一度だけ、テスト的にね、ストーリーのない、ただ甘いだけの
おバカな話、書いてみたかったんですよ(笑)
この話が終わると、そういうの1本UPするかもしれません。
それでもついてきてくれますか、同士諸君!(笑)
それでは、今日はこの辺で。ありがとうございました♪
- 404 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月18日(金)22時51分16秒
- 甘い、甘い、甘いですね〜
今日買ったメイプルシロップのようですw
でも、好きです。
やめられませんw
- 405 名前:チップ 投稿日:2003年04月18日(金)23時01分15秒
- ついていくとも!
いつでも用意は万全です、どこまでも導いてやってくらさい。
- 406 名前:シフォン 投稿日:2003年04月18日(金)23時48分40秒
- ドキドキとニヤニヤが止まりませんっ!!(笑)
作者様の超激甘に、何が何でもついて行きますよぉ♪
次回の更新も楽しみに待っています☆
- 407 名前:385 投稿日:2003年04月19日(土)00時36分59秒
- 更新、お疲れ様です。
おバカ同盟が広がって行く〜(嬉)
今回のお話、甘いながらも奥の深さを感じました。
>好きな気持ちを縛り付ける為だけに、体を重ねるパフォーマンスは
必要ないのだ。
>それは停滞ではなく、前進するための英断だったということを。
このフレーズが染みました。
気持ちが通じ合ってるのだから、焦らなくてもいい・・
修行僧2003さんは毎回激甘・バカ同盟wながらも、そのあたりが
しっかり書かれているので、よりグっと引き込まれるんですよね。
と、たまにはマジレスしてみるw
ただ甘いだけのおバカな話も大好きです。
作者さんの好きなように書き進めて下さいませ。
とことん付いて行きます。
- 408 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月19日(土)07時18分54秒
- 人生って素晴らしー♪
この2人の恋吹雪は、さよならしそうもありませんね。わくわくドキドキ
しながら読んでます。
- 409 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時02分24秒
- >404名無し読者さま
おぉ!メイプルシロップと互角ですか!!!
嬉しいです(照れ)
今回は果たしてどうでしょう。
一度くらいはメイプルシロップに勝ってみたい(w
>チップさま
お久しぶりじゃないですか!うわぁ。嬉しいなぁ〜♪
どこまでもついてきてやってください。
ぜひお願いいたします。いやいや、マジで。
>シフォンさま
えへへ。嬉しいお言葉ありがとうございます♪
もう張り切って書いていますので、どこまでも
ついてきてもらえたら本当に嬉しいです。よろしくお願いします♪
>385さま
マジレスに、かなり照れてしまいました(wゞ
でもね、すっごく嬉しいです。感謝♪
調子にのって、本当に書きたいこと書いても引かないでくださいね?(笑)
>ROM読者さま
そうですよ!この2人は永遠です!
いや、リアルいしよしもマジで最近そう思うんですよね。
どうぞこれからも応援ください♪♪♪
- 410 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時04分49秒
=吉澤視点=
梨華の机に座って教室を見渡してみる。
いつも見ているであろうこの光景を。
あたしの知らないことをまた一つ埋めるために。
「こんな格好で寝てるの?」
机にぺたっと体を伏せてからかってみた。
それはちっぽけな嫉妬心を悟られないようにするため。
「寝ないわよー。誰かさんと一緒にしないで欲しいわ。」
クスクスと笑いながら、彼女はあたしの髪に触れた。
「そっか。梨華は居眠りなんてしないか。」
「ふふっ。ひとみちゃんはしてるんだ。」
髪をなでている手をとってじっと見つめてみる。
- 411 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時06分07秒
「ねぇ・・・梨華・・・」
「なぁに?」
「ここのこと、もっと教えてよ。」
「ん?学校のこと?」
「うん。友達のこととか、部活のこと。」
「いいけど・・・。」
そう言いながらも梨華はためらいがちにあたしを見ていた。
だからあたしは一言だけ告げたのだ。
「もう妬いたりしないから。」
あの日、妬いて冷たくしてしまったことを思い出していたのだろう。
聞かなくてもその表情を見るだけでわかってしまう。
だけど、今の状況はあの時とは訳が違う。
あたしを好きでいてくれているのがこんなにも伝わってくるから。
「わかったわ。」
頷いたのを確認すると、つかんでいた手を引き寄せて、
あたしの膝に座らせた。
- 412 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時07分17秒
- 「あ。梨華って結構重い。」
「もぅ。怒るわよ。」
そんな何気ない冗談に、クスッと笑って瞳を見つめあう。
ウエストにまわした手をもっとしっかりと組みなおして、
話を促すために梨華をもう一度見つめた。
「今一番仲良くしてるのは、ごっちんかな。他に美貴ちゃんと亜弥ちゃんって
子もいるの。いつも4人で一緒にいるのよ。」
「友達いっぱいできたんだね。」
「うん。みんないい子だよ。気が合うのかな。」
「そっか。よかったじゃん。」
「クスっ。そう言えばごっちんもよく居眠りしてるなぁ。
誰かさんみたいに。」
「あはは。そっか。そういや隣だったよね、席。」
「よく覚えてたのね。そう、隣の席なの。」
梨華はちらっとだけ振り返ってその机を見た。
「他の2人は?」
「美貴ちゃんはすごくしっかりしててね。亜弥ちゃんはちょっとぼーっとした
とこあるけど。あの2人は昔からの知り合いみたい。
いつも漫才みたいな会話してるのね。それがすごく楽しい。」
- 413 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時08分36秒
- 「うん。それで?」
「ごっちんと2人でそれ聞いて笑ったり。ほんと、バカみたいに騒いで。」
「そうなんだ。それは楽しそうだね。」
できるだけ優しい微笑を浮かべて梨華を見つめた。
あの時の二の舞だけは避けたいと考えていたから。
ほら。やればできるじゃないか。
うまくコントロールさえすれば、この胸の微かな痛みも包み込むことができる。
「部活の方は?」
「うーん、それがね。まだコートにはたてないの。一年は筋トレと球拾いばっかり。
だけど楽しいよ。ごっちんが一緒にやらないかって誘ってくれたのよ。」
「ふーん。経験者なの?彼女。」
「ううん。そうじゃないみたい。」
髪に差し入れられた手が、柔らかくあたしの頭をつかんでいた。
「なんでごっちんは梨華のことを誘ったんだろ。」
「別に特別な意味なんてないと思うけど。
敢えて言えば、2人の思惑がピッタリと合ったからかな。」
「ん?どういう意味?」
「ごっちん、テニス部に好きな先輩がいるのよ。
わざわざこの学校に来たのもその先輩追いかけてきたからなんだって。」
- 414 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時10分00秒
- それを聞いて、正直ホッとした。
梨華から『ごっちん』という固有名詞が出る度に、
また妬いてしまいそうになっていたから。
うまくコントロールしているつもりでいたけど、
それは結局、痛みの核心に触れないようにしていただけのこと。
そして、もしかしたらそのごっちんが梨華を好きでいるかもしれないという
疑念が晴れたことも、あたしを楽にさせていた。
「まるであたしたちみたいだね。」
「あーほんとだ。言われてみるとそうかも。」
柔らかく微笑む彼女。
これで少しは安心したけど、梨華の思惑とやらをまだ聞いていない。
「それで。梨華がその誘いにのったのはなぜ?」
「それは・・・ほら。あの時私たちあんなことがあったじゃない。
それですごく落ち込んでて。ごっちんにだけ話したの。
そしたら彼女、それなら部活にでも入ってストレス解消したらって言ってくれて。」
あたしはあの時の自分を思い出していた。
無理やりキスをしてしまったあの時の自分を。
鈍い痛みに圧迫されて、胸がぎゅっと締め付けられていく・・・。
- 415 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時11分07秒
だけどその時、唇に暖かいものが触れた。
それは古傷を癒してくれるような、優しい梨華の口付けだった。
「ひとみちゃん・・・もう昔のことよ?」
きっとふさいでいく気持ちに気付いてくれたのだ。
透明なガラスを覗き込むように、いともたやすく見透かして
あたしの心を救ってくれる。
こういう優しさにこそ、惹かれてしまうのだ。
それは彼女があたしよりもほんの少し年上だからできると
いうことではなく、梨華がもつ本来の優しさだから。
「梨華・・・」
だからもっと彼女のことを知りたくなる。
あたしが知らないことも全て。
つまりは独占したいのだ。
ここをデートに選んだのも、あたしが知らない梨華を少しでも
知ることができるかもしれないと思ったから。
まだまだ梨華が足りないと。
- 416 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時13分02秒
- そして、求めてやまないその人は、とても優しい光を放って見つめてくれていた。
「ねぇ、こう考えてみるのはどうかな。あの日があったから、今の私たちがいるんだって。
全ては一つの流れの中にあったことなのよ。きっと。」
「梨華・・・。」
「そんな風に感じない?」
「・・・・梨華はやっぱりすごいね。」
「・・・私が?どうして?」
「ちゃんとあたしの気持ちわかってくれてるから。
言葉に出さないのに、全て理解してもらってるみたいで。」
「だって、それは。ひとみちゃんが好きだから。」
「はぁ・・・。まいったな、全く。」
「クスっ。何でまいるのよ。」
「梨華にはかなわないなって思ってね。」
「あら。そうなの?」
「そうさ。あたしなんてちっぽけに思えてくるよ。」
「もぉー。拗ねないでよぉ。」
「あはは。拗ねてなんてないよ。嬉しいんだ。理解してもらえて。」
- 417 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時14分14秒
- 「そっか。ねぇ、それならひとみちゃんは?私のこと理解してくれてるの?」
「まぁね。自信はないけど、一応。」
「そう。よかった。なんだかそれ聞いて安心したわ。」
梨華はそう言うと、もう苦い過去の話はこれで終わりと言わんばかりに、
つかんでいたあたしの髪をふわりと持ち上げた。
「サラサラで綺麗な髪ね。うらやましいくらい。」
「何言ってんだよ。梨華の方が綺麗な髪じゃん。」
「うふふ。」
「ほら、こんなにもしなやかで。」
組んでいた手をほどいて、背中にかかっている髪に触れた。
「ひとみちゃんももっと伸ばしてみる?きっと今よりもっと美少女になれるよ。」
「あたしはいいや。洗うの面倒くさいし。」
「もったいないな。こんなに美人なのに。」
「ぐへー。おだてすぎ。」
「本当にそう思ってるのよ?」
「もういいから。あたしは梨華の髪に触れてる方が好き。」
柔らかく手に包み込んだ髪にキスをした。
- 418 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時15分24秒
「それならもっと触って欲しいな。ひとみちゃんが褒めてくれた髪に。」
艶っぽく注がれている視線に、ゾクッと胸が躍る。
「あぁ。いつでも触れていてやるよ。満足するまで。」
甘い髪の香りを吸い込んで、かきあげると、
あらわになった首筋に一つ、キスを落とした。
「うふふ。くすぐったい。」
「逃げるなよ。梨華を感じたいんだから。」
「はぁい。」
「へぇ、素直じゃん。もっと抵抗すると思ったのに。」
耳に吐息を吹きかけるように、甘く言葉を落とした。
「抵抗したらもっとするんでしょ。」
「よくわかってるね。あたしのこと。」
「だって・・・胸の中ひとみちゃんでいっぱいなんだもん・・・」
甘い声が体全体に溶け込んでいく。
このままでいたら、2人の体の境界線なんてなくなってしまうのでは
ないかと思えるくらい、心地よく漂うゆらめき。
- 419 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時16分28秒
「梨華を独占するよ。逃げ出す余地は与えない。」
「・・・うん。」
「この髪も、この唇も。全てあたしのものにするから。」
「ひとみ・・ちゃ・・・」
「覚悟しなよ。」
「・・・はい。」
見つめ合う瞳に熱い想いをたぎらせたまま、
あたしたちはただ互いを見ているだけだった。
狂おしいほど求めたくなる唇に、ブレーキをかけているのは、
ちょっとした大人の遊び。
2人ともどこまで我慢できるかを楽しんでいたのだ。
それは今の2人がやっと手にすることができた、
確かな想いの裏打ちとして。
高鳴る鼓動を感じながら、息のもれる音に耳を澄ます。
誰もいないこの場所だから過ごすことのできる、贅沢な時間。
まばたきする瞬間さえ独占できる2人の距離。
- 420 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時17分59秒
たっぷりとその時間と空気を楽しむと、やがてぽちゃんと一滴の雫が波紋をたてた。
溢れてしまった想いをそっと静かに手に汲み上げて、
指の隙間からこぼれ落とすと、どちらからともなく想いを重ねた。
相手の存在を知ることができるのは、わずかな体温の差だけ。
しかし、それすらも同化してしまうほど、あたしたちの唇は
許されることを知らない罪人のように、交わっていた。
きっといつまでたっても満たされることはないだろう。
尽きることのない梨華への気持ちは、これからもっと
生まれてくるはずだから。
「ひとみちゃんの負けね。」
今の今まで溶け合っていた唇から、言葉がもれる。
「いや、梨華の負けだ。」
にやりと口角をあげてあたしは答える。
「ひとみちゃんの方が先にキスしたじゃない。」
「ウソつくなよ。梨華の方がはやかったぜ。」
本当は2人とも知っていた。
どちらも同時に求めてしまっていたことを。
- 421 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時19分11秒
「クスクス。すぐ意地になるのね。」
「そっちだって。」
「そんなことないもん。」
「そうかー?梨華って負けず嫌いなとこあるぞ。」
「なら、もう一度勝負してみる?」
「あはは、ほらね。よし、それならもう一勝負するか。どうせまたあたしの勝ちだろうけど。」
「うふふ。負けないわよ。」
そして、もう一度勝負をすることになったけど、今度はすぐに決着がついた。
「・・・っ・・・ふっ・・・」
おかしげに笑う彼女の唇を捕まえるのは、かなり大変で。
そう。あたしは勝負をあっさりと放棄して、梨華の唇を早々奪っていたのだ。
だけど、彼女はその唇を離すと、恥ずかしげにこう言ったのだった。
「私の負けね。」と。
- 422 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月19日(土)18時22分36秒
- >作者
・・・どうでしょう?(w
みなさまの期待に応えられたでしょうか?(笑)
いやはや。ちょっぴり甘すぎたかな?と思いましたが、
激甘&おバカ甘を宣言したからには、これくらい
書かないといけないかなと(笑)
・・・どうか見捨てないでくださいね?(wゞ
やはりハッピーエンド&甘が大好きなもので(笑)
それでは次回、よければまた読んでやってください。
ありがとうございました。
- 423 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)19時38分16秒
- 今回も甘くて凄くよかったです。
読んでてなんか顔がにやける…(w)次回も期待してますね
- 424 名前:407 投稿日:2003年04月19日(土)21時28分14秒
- 更新、お疲れ様です。
ぐはっ、作者さんの放った砂糖弾が胸に命中いたしました!
全身からあっという間にメープルシロップが流れ出ておりますw
文中のいしよしの会話だけでここまでクネクネ出来ることが
(^▽^)>ハッピ〜!
な今日この頃です。
次回もホットケーキの上のシロップのようにとろけさせて
いただきますw
しかし、石川さんのクラスメイトはゴージャスですねぇ!
ごまっとうが友達の石川さんがちょこっと羨ましいですw
- 425 名前:サイレンス 投稿日:2003年04月19日(土)23時16分10秒
- 更新お疲れ様です。
う〜ん、梨華ちゃんとよっすぃさいこ〜です。
本当にいいですよ、いしよし。
どんな次回がまってるのか
う〜ん楽しみだ!!
- 426 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月20日(日)00時06分21秒
- これぞ今まで求め続けていた、ひたすらいちゃいちゃ攻撃!
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
- 427 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月20日(日)14時59分45秒
- >423名無し読者さま
にへへ。ありがとうございます!
喜んでいただけたようで、嬉しかったです♪
>407さま
作者も(^▽^)>ハッピ〜! です(w
あぁ。いしよし。最高です。
これからもどうぞ、メイプルシロップ吐きまくってくださいね♪
>サイレンスさま
おつかれさまです♪いつも励ましのお言葉、感謝しております。
いしよし、いいっすよねー♪幸せです♪
>ROM読者さま
あはは。それはヨカタです(w
もうね、みなさまに喜んでいただけることが
作者の喜びですので、これからもおバカ甘書くでしょうけど、
そうぞ、ついてきてやってくださいね!
さて、実は更新ではないのですが。一言いってみたくて(w
エンタ&特にハロモニ最高!
いや、マジいしよし見せ付けられると、作者お手上げですね(wゞ
しかし、ラブラブしすぎ!君たち!
小説より甘いなんて、作者書く気なくすじゃないのよー(笑)
- 428 名前:ROM読者 投稿日:2003年04月20日(日)21時45分04秒
- ハロモニ、やられましたねェ。
あのじゃれ合い方って、ほとんど・・・
・・・・おっ、俺にゃー言えねェ。
- 429 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月20日(日)22時34分55秒
- >ROM読者さま
>・・・・おっ、俺にゃー言えねェ。
ズバリ、恋人同士のじゃれあいですか?(w
いいっすよね〜。世界は2人だけのものって感じで(笑)
さて、どうやらそろそろこのスレも容量いっぱいになりつつあります。
で、思ったんですが、「サクラサク。」スレにこのまま移行しよう
かなと思っております。
ということで、向こうもなんでもアリなスレになってしまうのですが(w
またあちらの方もいっぱいになるようでしたら、
その時は新規スレ立てたいと思います。
一応こちらになりますのでよろしくお願いします↓
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/moon/1044900091/
また最後に近くなったらお知らせしますね。
それでは続き、どうぞ!
- 430 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月20日(日)22時37分24秒
=石川視点=
そして迎えた試験当日の朝。
「ねぇ、本当についていかなくて大丈夫?」
辺りはまだ薄暗く、立ちのぼる白い息だけが寒々しく口からもれていく。
「あはは。小学生じゃあるまいし。保護者がついてくる試験なんて聞いたことないよ。」
「だって・・・心配なんだもん。」
「大丈夫だって。梨華は何も心配しないで待っててくれたらいいから。」
笑顔で私の髪をなでてくれた彼女。
応援するつもりだったのに、逆に励まされている私って・・・。
「忘れ物はない?受験票持った?お弁当は?あと、お財布でしょ・・・」
「クスクス。大丈夫。ちゃんと全部持ってるから。」
「あぁ。私の方が緊張してきたかも。」
「おいおい・・・しょうがないな。」
苦笑いを浮かべながら、ちらりと腕時計を見た。
「もう時間だよね・・・。」
「うん。そろそろ行くとするか。」
エレベーターのところまで一緒に向かう。
- 431 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月20日(日)22時38分32秒
- 下へのボタンを押してエレベーターがくるのを待つ間、
私はずっとコートの袖をつかんでいた。
「うまくいくといいね。」
「大丈夫だろ。あれだけ勉強したんだし。」
「私の教え方でよかったのかしら・・・」
「なーに言ってんだよ。」
階下からあがってきたエレベーターの扉が開く。
「それじゃ・・・」
「あっ!待って!」
上着のポケットに入れておいたお守りを、もう少しで渡しそびれるところだった。
「お守り?」
「うん。私もここので受かったから。もっていって。」
「サンキュ。」
「頑張ってね、ひとみちゃん。」
「おぅ。じゃ、行ってきます、先生。」
「いってらっしゃい。」
ほんの一瞬触れるだけのキスを交わすと、エレベーターの扉が閉まった。
すぐに廊下へ駆け戻ると、ロビーから出てきた彼女がこちらを見上げて
にっこりと微笑んでいる姿が見えた。
私は両手を思い切りふって、彼女が曲がり角を渡りきるまで見送っていた。
- 432 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月20日(日)22時40分51秒
- 部屋に戻って、ベッドにもぐり込んだけど、気持ちが高ぶって
寝ることさえできずにいた。
今日はもちろん学校は休みだけれど、どこも出かける予定を入れないで、
ただひたすら彼女の帰りを待つことにしていた。
「あぁ・・・本当に大丈夫なのかなぁ・・・」
今更じたばたしても始まらないのはわかっているけど、
どうにも心配になってしまう。
しばらくゴロゴロと寝返りをうちながら、それでもようやく眠りに入りそうになった頃、
携帯が震えた。
「寝てた?」
クスクスと笑う彼女の声。
「ううん。寝そうになってたところ。」
嬉しくてすっかり眠気も飛んでいってしまう。
「今乗り換えの電車待ってるんだ。」
「うん。」
「まだこれから1時間近くも乗らなきゃいけないんだよね。」
「そうね。」
「・・・おい、梨華。」
ひとみちゃんが苦笑気味に私の名前を呼んだ。
「なに?」
「あたしより緊張してどうするんだよ。」
「・・・だって。」
「大丈夫だから。ちゃんと合格するからさ。」
- 433 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月20日(日)22時42分02秒
- 「・・・うん。」
励ましの言葉をかけてあげたいのに、もうすぐ電車がくるのがわかっているから、
余計にあせって言葉がでないでいたのだ。
「梨華、一言だけ聞かせてくれないかな?」
「えっ・・・何を?」
「勇気が出る言葉。」
勇気が出る言葉・・・?
限られた時間の中で、ありったけ頭を回転させたけど、
やっぱり言ってあげたい言葉はこれしか浮かばなかった。
「好きよ、ひとみちゃん。」
「やっぱりね、言ってくれると思ってたよ。今日は勘が冴えてるな。よしっ。」
電車の騒音が後ろに聞こえる。
「頑張ってね、応援してるから。」
「あぁ。・・・・好きだよ、梨華。」
周りに人がいるのに・・・。
情けないことに、勇気をもらったのは私の方だった。
- 434 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月20日(日)22時43分08秒
4:30分を少しまわった頃。
待ちわびていた人の姿をようやく捉えることができた。
私はもうこれ以上待つことができなくて、エレベーターすら使わずに、
階段を駆け下りて彼女の元へと走っていった。
「はぁっ・・・お帰りなさい。」
駆けつけた私を見て優しく緩む瞳。
「ただいま。」
「どうだった?ちゃんとできた?」
「うーん。どうだろ。それよかさ、疲れたから話は帰ってからでいいかな?」
「あっ・・・そうね。ごめんね。」
ひとみちゃんはまた優しく微笑むと、一緒にマンションへと戻っていった。
「ぐはーっ。疲れたー!」
ベッドに大の字に寝転んだ彼女。
一度カバンを置きに家に帰ってから、また私の部屋へと来てくれていた。
- 435 名前:修行僧2003 投稿日:2003年04月20日(日)22時44分07秒
「お疲れ様。大変だったね。」
ベッドに腰掛けて、寝ているひとみちゃんを見つめる。
「はぁっ。やっと終わったよ。」
「・・・それで、手ごたえはどう?」
「うー。正直なとこ五分五分かな。受かれば儲けって感じかも。」
「・・・そっか。でもよく頑張ったね。偉いよ。」
ひとみちゃんの頭に手をおいて、優しくなでてあげた。
「とりあえず、これで全て終わった。あとは結果が届くのを待つだけだな。」
「1週間後よね?」
「うん。運命の瞬間。」
イタズラっぽく注がれている視線が私を見ている。
本当は不安で仕方ないはずなのに・・・。
私はねぎらいの意味を込めて、ひとみちゃんの頬にそっと触れてみた。
ゆっくりと手を滑らせて、ひとみちゃんだけを見つめる。
守ってあげたくなるその瞳を。
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