LOVE アタック!
- 1 名前:リムザ 投稿日:2003年02月15日(土)20時13分06秒
- 作者のリムザです。
初投稿になります。
いしよし中心で5期メンバーまで登場する小説を書きます。他CPあり。
なにぶん、初投稿なものですからそっと暖かく見守ってください。
小学生の駄文程度にさらっと流し読みしてください。
皆様の反応次第で、更新するかやめるかを決めようかと思います・・・
今のところの更新予定は、気分次第です。
ノリノリMAXの時は早いと思います。
- 2 名前:ごっちんの…彼? 投稿日:2003年02月15日(土)20時14分42秒
- 「おはよー。」
自宅の最寄り駅で平日の朝、待ち合わせをしている親友に声をかけた。
「んぁ?おはよー、よし子。」
申し遅れました。
ウチの名前はひとみ。
都内の私立女子高に通う高校2年生。
そして親友は同じ学年の真希。
いつも眠そうにしている通称ごっちん。
近所に住んでいて同じ学校の同級生。
クラスは違うけど通学と下校はほとんど一緒に帰っている。
改札を出て電車に乗り込む。
揺れる電車に身を任せながらごっちんに話し掛けた。
「たまには『恋ばな』しようよー。」
「え?またよし子は女の子泣かせたの?ひどいなぁ・・・」
「違うってば!ねぇねぇ、ごっちんの彼ってどんな人?」
「かっこいいよ。優しいし。細身だし・・・へへ。」
彼氏の話を聞いただけでニヤけてる。
正直羨ましい。
- 3 名前:ごっちんの…彼? 投稿日:2003年02月15日(土)20時15分36秒
- 「でさ、デートとかどうやって過ごしてるの?」
「なかなか会えないから出かけるとかしないで、彼のバイト先に遊びに行くって感じかな。」
「それでそれで?」
「彼のバイト先が飲食店だから、食事してバイト後に公園とかで話してる。」
ほんと、ホントにごっちんは幸せそうだ。
もう別世界で彼のことを考えてるよう・・・ってあれ?
「Zzzz・・・」
寝てるよ。
この幸せボケの眠り姫が!
そのまま乗り換えの駅で置いていこうとしたがさすがに可哀想なのでやめた。
学校に到着するまでウチはごっちんの質問攻めにあった。
「いつもテキトーに恋してる女がどうしたの?」
「ついに本気で好きな彼女でもできた?」
「彼氏とは何ぞや?と勉強するつもり?」
言わせておけば、この女ぁ・・・
「えーい、うるさいうるさいうるさい!
ごっちんのラブラブっぷりを聞きたかっただけだよ!」
「ホントに?」
「オー、イエス!」
ガッツポーズ付きで返事をしたらごっちんは納得したようだ。
- 4 名前:ごっちんの…彼? 投稿日:2003年02月15日(土)20時16分54秒
- 「「それじゃー、放課後!げた箱で!」」
各々の教室に入り授業を受けた。
学校で恋愛講義とかないものかね。
ウチは女子高という環境でやたらモテる。
背が高くて力持ちで動きは男・・・『ホワイトプリンスひとみ』と別名すら付けられてる。
自分では女らしくと思い、髪を伸ばせば「ロン毛」。
美白を目指せば「王子様」。
はぁ・・・・
クリスマスやバレンタインのイベント前後は、逃げるようにして学校を後にする。
付き合ってと言われたら、とりあえず付き合う。
だけど心底付き合ってると思ってたことはない。
「クールなホワイトプリンスは鑑賞するのが1番よ」と元彼女達はウチを好きなコに指導してる始末。
- 5 名前:ごっちんの…彼? 投稿日:2003年02月15日(土)20時17分35秒
- そして放課後。
かねてからウチの本命だと噂されているごっちんと下駄箱で会う。
「ごっちん遅いよぅ」
「また告白でもされたの?プリンスは?」
「ち、ちっげーよ!ずっと待ってて疲れたんだよ!」
「そんなに私と帰りたいのかプリンスは・・・ポッ」
「なに赤くなってんだよ!プリンスプリンス言うなぁ〜!!ウチはメロンじゃなぁ〜い!」
「よし子は、背だけじゃなく声もデカイなぁ・・・」
笑うな魚顔。
うだうだと攻防戦を繰り広げながら学校を後にして駅に向かう。
- 6 名前:ごっちんの…彼? 投稿日:2003年02月15日(土)20時19分57秒
- ♪ウッハ!ウッハ!ウッハ!ウッハ!ウハウハウ〜
ごっちんはの携帯が鳴った。
「あ!ラブマだから彼だ!!よし子ごめんね。」
適当にウチに謝って、ごっちんは嬉しそうに電話に出る。
それにしてもさー、その着メロボイスやめようよ・・・
女の子が集団で正拳突きしてる声みたいだよ。
「えぇとねー、よし子と学校から駅に向かってるトコだよー。
うん、そーだよー。親友のよし子だよー。
今から店?オッケー。いちーちゃんに会いに行くよぉ〜。」
・・・無意識に惚気られてもなぁ。
ごっちんと毎日登下校を一緒にしているのは近所というのが1番。
次に、親友だから。
そしてもう一つ・・・よし子に告白させない大作戦のためらしい。
ウチが告白されて面倒なことが起きないように、ごっちんが防止してくれてる。
お蔭でごっちんとウチが付き合ってると噂になったのも束の間、
ごっちんに彼ができたので噂は収束に向かった。
ごっちんの彼は市井さんと言って写真だけ見せてもらった。
相当な男前だった。
普通ではないオーラが写真からにじみ出るほどだった。
だから今朝、性格とか聞き出したけど良さそうな人だから安心した。
市井さんならウチの大事な親友を預けられるってわけだ。
- 7 名前:ごっちんの…彼? 投稿日:2003年02月15日(土)20時20分27秒
- 「あー、もうすぐ駅だから切るねぇ。ごめんねぇ。」
ごっちんが電話を切るときには改札口が見えていた。
「市井さん?ラブラブだねー、相変わらず。」
「へへへ・・・急遽、デェトが決定したよー。」
「じゃあ乗り換えしないで彼のバイト先行くんだよね?」
「んぁ?そうだよー。一緒に御飯食べるんだぁ。」
ウチの問いかけへの回答が微妙にズレているが、色ボケ女は放っておくべきだ。
[次は〜目黒〜目黒でございます。乗り換えの方は〜]
車内放送で乗り換えだと気付かされる。
幸せそうなごっちんを車内に残し、ウチは自宅へ向かった。
- 8 名前:リムザ 投稿日:2003年02月15日(土)20時27分08秒
- 本日はここまで。
第一話でございます。
全く持っていしよし出ていません・・・いちごまだけでした(^-^;
- 9 名前:七誌ゴン 投稿日:2003年02月15日(土)21時24分09秒
- いしよしもいちごまも好きなんで、がんばってください!
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月15日(土)22時08分40秒
- とてもとても期待じゃ期待!
- 11 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月15日(土)23時48分11秒
- いちごま、いしよし好きですね
五期も出るんですか?更に楽しみ(w
頑張ってください
- 12 名前:中澤家 投稿日:2003年02月16日(日)20時41分18秒
- 駅のホームで嬉しそうに手を振るごっちんに、ウチも笑顔で手を振る。
「その笑顔はウチじゃなく、市井さんに会える嬉しさからの笑顔だろ。」
なんかムカツク。
独り言を呟くが親友は電車内。聞こえまい。
電車が発車するのを見過ごして、乗り換え線へ向かう。
自宅の最寄り駅までボーっと考えてた。
「(うちもごっちんみたく、幸せな恋をしたいなぁ・・・)」
そう思って座席から電車の広告を見ていた。
「あ・・・あの?何か?」
スーツ姿でサラリーマンと思われる男性から声を掛けられる。
「はいぃ?」
「や、ずっと見られてるんで何か用かと思いまして・・・」
「違います。目がでかくても貴方の姿は映ってません。」
「・・・!」
絶句するサラリーマン。
全然好みじゃないんだよ。
女子高でモテると言っても、ウチは男もオッケーだ。
中学は共学だったので男とも付き合ったことがある。
デートもしたし初キスも男の子。
それが今の高校に入学してから男はサッパリ・・・。
- 13 名前:中澤家 投稿日:2003年02月16日(日)20時42分45秒
- 親友のごっちんが細身なのも手伝って、私服はサイズが大きな服を着ている。
どこにでもいる子みたいな格好よりも、
他の女の子が似合わなさそうな、ボーイッシュな、マニッシュな格好が好き。
ウチも中学時代はバレー部だったから、スカートよりパンツが好きなんだよね。
それに母ちゃんが
「よっさんには、男装の麗人でいてもらわんと。オカン守ってもらわんとな。」
って服を買っくる。
まぁスカートは制服で着てるし、何着は持ってるから良いんだ。
・・・って、ハッ!
危ない危ない、乗り過ごすことだった。
ウチがキツイ反応したサラリーマンは未だに固まってる。
終点まで行くのかな?
興味が無い人には冷たいウチは、改札口を通りさっさと家路を急いだ。
- 14 名前:中澤家 投稿日:2003年02月16日(日)20時43分30秒
- 駅から歩いて15分ほどにマンションがある。
ウチの一家が住んでいる一角だ。
郵便物を確認してエレベーターへ乗り込む。
・・・4階到着。
しばらく廊下を歩いて404号室の鍵とドアを開けた。
「よっさんおかえり〜!チュー!オカンなぁ寂しかったんやでー!
もぉ聞いて!もぉ聞いて!!今日な、パート先の店長がなぁー!!」
「チューはやめて下さい。鞄を部屋に置きたいので抱擁をやめてもらえませんか?」
「何や、よっさん!オカンに反抗するってか?!初キスはオカンだったのに!」
「あの、身動き取れません・・・初キスは小さい頃でしょ?鞄置いたら居間に行きます。」
「・・・つれへんなぁ。堪忍したってや。じゃあ待っとるからな。」
部屋に鞄を置いて着替え、居間へ行く。
母ちゃんを怒らしてはいけない。
食事抜きという育ち盛りの子供にとって鬼の制裁を与えてくるからだ。
- 15 名前:中澤家 投稿日:2003年02月16日(日)20時44分02秒
- 「で、母ちゃんどうしたの?」
「あんなー、オカンのパート先で嫌なことがあってん。」
母ちゃんは牛乳を入れたグラスをウチに出した。
「パート先って『シャ乱QバーベQ -鉄板焼- 』で?」
「そう。店長のつんくがなー、若い子をバイトで4人も入れるから、
もう「オバチャンには用が無い」って言いよるねん。」
「うっわ、ひっでー。母ちゃんリストラ?反抗しなよー。
若い子4人ってこれまた多いなぁ・・・とりあえず文句言ったの?」
「んなもん、言うに決まっとるやろ。「目立てへんから嫌です」言うたわ!」
「ん?目立てない?だって辞めてって言われたら目立つも何も・・・」
「違うねん。現場から引き下がれってこと。
つまりは!まとめ役として副店長になれってことや。バイトたちを仕切る役に昇格。」
シーン。
- 16 名前:中澤家 投稿日:2003年02月16日(日)20時45分03秒
- 「・・・昇給って・・給料上がるんでしょ?」
ウチは静寂を破った。
「そうや。」
「クビどころか昇進なんでしょ?」
「そうやー。」
「じゃあ喜ぶべきなんじゃないの?つんくさん優しいじゃん。」
「それじゃあかんねん。オカンな、現場で笑顔で接客したいねん。
若いイケてる客の兄ちゃんに、裕子スマイルしつつアイドルでいたいねん。看板娘でいたいねん。」
「あー、あの『悪魔の笑顔』かぁ。」
「何やて?」
ガン切ってるよ、母ちゃん。
悪魔の怒り顔がウチの目の前にある。
口から紅蓮の炎でも出すのですか?
「や、あの・・・その・・・、うっ裏方でいいと思うよ!それだけ任せられるってことだよ。
若い子増やすんでしょ?だったら男のつんくさんより母ちゃんの方がバイトに近づけるし。
ほら、母ちゃんさ責任感強いし信頼できるし。ね?そうだよ!そうに違いない!」
「そうかぁ?」
「そうです。間違いありません。」
「よっさんがそういうなら、仕切り役してみっかなぁ・・・・」
首がちぎれそうになるぐらいウチは縦に首を振った。
生活もかかってる。
自宅で激しくヘドバンしていた。
「よっしゃ!いっちょやったるか!」
そう言って母ちゃんは納得と決心をしたらしい。
- 17 名前:中澤家 投稿日:2003年02月16日(日)20時46分18秒
- 強がりな癖に寂しがり屋のうちのオカン---中澤裕子--。
若くして結婚しウチを産んだが、夫へのDV(ドメスティックバイオレンス)にて離婚。
ウチが小学校高学年の時に離婚した。
父さんは女癖が悪かった。
それにキレた母さんがビンタするわ、食器投げるわと喧嘩していた。
「あんたは、子供達のこと考えれんのか!男親にとって娘は可愛いくないんか?あぁ?」
それはそれは、夜叉のように怒ってた。
でもわかってた。ウチのことを考えて父ちゃんと喧嘩したこと。
離婚した後、母親の旧姓に戻ったが気にしていない。
「ウチの名前は吉澤から中澤へと、たった一文字変わっただけだよ。
後は何も変わらないよ。2人だったらもっと楽しい毎日になるよ!」
- 18 名前:中澤家 投稿日:2003年02月16日(日)20時47分04秒
- 母ちゃんにウチがそういった時、初めて母ちゃんは声をあげて泣いた。
夫への暴力だと訴えたが、実際の裁判所の判決は違った。
-----精神的な虐待を与えた夫に原因がある、と-------
養育費や今後の生活のに必要なお金を、母ちゃんに支払うように判決が下った。
その後、すぐに再婚したが同じような男だったのでスピード離婚。
夢を持って無鉄砲な男にどうも惹かれてしまう母ちゃんである。
但し母ちゃんは再婚相手の子供が可哀想だと言って引き取った。
血の繋がっていない妹だ…でも家族が1人増えた。
ナイスな収穫だ、母ちゃん。
養育費も2倍GETだぜぇ。
そして今のマンションへと引越し、学校も編入したのだった。
オカンは面倒見も良いし綺麗にしているので、色々な男が寄ってたみたいだけど、
前の離婚の理由が、『夫へのDVで2回も離婚』と聞くだけで誰もが離れていった。
もうオカンは再婚する気がないらしい。
万が一、するとしてもウチと妹が結婚して家を出てからだそうだ。
ホントにオカンは色々な意味で強い女だ。
- 19 名前:リムザ 投稿日:2003年02月16日(日)20時53分25秒
- 調子に乗って大量更新しました。
次回の更新予定は、翌週末かと思います。
いつになったらいしよし、他CPが出るのか・・・頑張れ自分。
誰もレスしないと思って投稿していたので嬉しかったです。次、レス行きます。
- 20 名前:リムザ 投稿日:2003年02月16日(日)20時54分45秒
- 「追伸」
ごっちんの着メロボイスはラブマシーンではなく、恋のダンスサイトでした・・・
作者本人が1番凹んでいます。
- 21 名前:リムザ 投稿日:2003年02月16日(日)21時02分04秒
- >七誌ゴン様
いしよしといちごまには
オトコマエがいるので1番書きやすいです(w
なんせファン歴が浅いので、多少間違えるかもしれませんが・・・
>名無し読者様
ありがとうございます。
期待って・・・(重圧)。こっ、応えられるよう頑張ります。
>名無し蒼様
当初は4期メンバーまでの予定でしたが、5期追加です。
5期メンもキャラが強いので、作品内でそれぞれを生かせればと思っています。
- 22 名前:ラブストーリーは突然に 投稿日:2003年02月22日(土)19時15分30秒
- 「それにしても亜依は遅いなぁ。塾帰りに道草くぅてるんかな?」
「亜依って、今日は塾だったっけ?」
時計を見るともう午後6時半になるところだ。
もう日も完全に沈んでいる。
「5時半に終わるから、いつもは6時には家に帰りよるのにな・・・」
「うーん、どうだろ。良かったらウチが塾へ迎えに行こうか?」
「えぇl?オカン、また一人で待ってるの?」
寂しそうな顔をされてもねぇ。
「母ちゃん・・・ダダこねないでよ。
亜依はウチと違って携帯持ってないから連絡取りようがないんだよ?」
「・・・わかった。それじゃ晩御飯の用意しとくから、迎えに行って。
よっさんも一応女の子なんだから携帯持って行くんやで。」
「ハイハイ。一応、ね。」
手をヒラヒラさせながら生返事をして、ウチは部屋に戻って着替えた。
近所だからいつもみたくジャージでオッケーだよな。
家の鍵と携帯だけをポケットに入れた。
部屋を出て玄関に向かいながら母ちゃんに声をかける。
「それじゃ亜依を迎えに行ってくるから!亜依が帰ってきたら携帯に電話して。」
「あいよ。よっさんも道草してきたらシバクで?」
「お腹減ってるからすぐ帰るよ。あ、玄関の鍵閉めて。行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。オトコマエー。」
- 23 名前:ラブストーリーは突然に 投稿日:2003年02月22日(土)19時17分06秒
- マンションから亜依の塾までは、結構距離があるんだよな。
なんて考えながら、少し速く歩き、塾へと向かう。
今みたいに冬だと外が暗くて危険だからと、
亜依は緑色の自転車リンリン号で10分位かけて自転車で通っている。
ウチが自転車で迎えに行かなかったのは、
ダイエットも兼ねて亜依と一緒に歩いて帰るから。
血の繋がらない妹とのコミュニケーションは大事にしたいしさ。
そうだ、ごっつぁんにメールしよ!
ウチは歩きながら携帯を取り出し、片手で開くと素早くメールを打った。
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やっほー。彼氏とラブラブ中?ウチは妹の塾へ迎えに行くとこ。
もし良かったら今度さー、一緒に市井さんのバイト先で食事しようよ。
よしこ
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送信して携帯を握り締めたまま歩く。
- 24 名前:ラブストーリーは突然に 投稿日:2003年02月22日(土)19時21分35秒
- ♪ごとーだよ。ごとー、ごとーだよ。ごとーからメールだよ。
ごっちん専用のメール着信ボイス。
すれ違った通行人が振り返るぐらい目立つ。
携帯を開いてメール確認。
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はーい。ラブラブなごとーです。よし子おつかれー。
いちーちゃんが鉄板焼奢ってくれたの。幸せ〜vvv
店に行っていいか、ちゃんと聞いておくね。それじゃ明日駅で会おうねー
ごとー
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ラブラブなのかよ、全く。
明日と最後に切り替えして終わってるから、今夜はメールするなってことですか?
いいなー、幸せそうだな。
そう思って携帯をしまうと目の前に電柱があった。
あ、危ねぇ・・・もうちょいで頭ぶつけるとこだったよ。
- 25 名前:ラブストーリーは突然に 投稿日:2003年02月22日(土)19時24分57秒
- 目印となるコンビニが角にある通りを曲がって塾があるビルが見えてくる。
その少し手前にあるハンバーガーショップ前に、亜依のリンリン号があった。
あいつぅ〜〜〜!心配して迎えにきてるのに、公衆電話から連絡ぐらいしろよ!
怒りで拳を握り締める。
ズカズカと歩くスピードを速めたら、黄色のリンリン号が。
河童の絵が描いてあるから人気がないと思ってたのに・・・
あの妹と同じ完成を持った人間が、この世にいるとは思わなかった。
リンリン号のことがあって怒りがいくらかおさまった。
ハンバーガッショップの扉を開ける。
「いらっしゃいませー」
店員に客席を指差して笑顔を送り、待ち合わせを合図する。
再び笑顔になったか、店員の表情を確認して客席に向かう。
照れた様子で笑顔になった。
フッ、ベイベー君ももう僕の虜だね。
- 26 名前:ラブストーリーは突然に 投稿日:2003年02月22日(土)19時26分07秒
- そ、それよりも妹だ。
いたいた、ミッキーマウス頭め。
ん?誰かと話してるのか?もしや彼氏か??
うーーーーん、禁煙席と喫煙席を分ける仕切りで相手の顔が見れない。
誰かといるなら開口一番で怒れないなぁ。
ウチは亜依が座ってる席に着くなり絶句した。
(うちの妹以外にミッキーマウス頭が?あと、隣の可愛い人は誰?)
内心、そう思った瞬間。
「うわー!カッコイイのれす!あいぼんのお兄ちゃんカッコイイのれす!」
「そうやろ。自慢の兄ちゃんなんやでー。」
「はじめまして!私、梨華って言います。あの、えっと、ののの姉です!」
「梨華ちゃんには勿体のうて紹介できんな。」
ドキドキと鼓動を早めるウチを無視して、会話が弾んでる。
なんだこの3人。
その前に・・・今の会話、何かがおかしい・・・・・・・・・・・・・
- 27 名前:リムザ 投稿日:2003年02月22日(土)19時28分51秒
- 今回の更新はここまでです。
他の人の作品レベルが高すぎて、文才の無さをヒシヒシと感じてます・・・
- 28 名前:オガマー 投稿日:2003年02月23日(日)08時13分08秒
- おお!やっと梨華ちゃん登場ですなー。
楽しみにしています。がんがってくらさい!!
- 29 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時07分07秒
- 「兄ちゃん、そんなデカイ図体でボーっと突っ立てないで、はよ座り」
「あぁ、うん。」
亜依に言われて席に着いた。
目の前にピンクのセーターを着た可愛い子がいる。
目が合っちゃったよ・・・恥ずかしい。
可愛いというか綺麗だな。その愛くるしい顔。
目からラブラブ光線出してる女の子をたくさん見てきたけれど、
照れるのは初めてだ・・・・
慌てて横にいるののちゃんという子を見た。
「はじめましてなのれす。あいぼんと塾で仲良くしてるののれす。」
ニッ!と笑う。あ、八重歯生えてるんだね。
妹も可愛いなぁ・・・
美人姉妹2人にちょっかい出したくなるウチの心。
- 30 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時08分33秒
- 「兄ちゃん見とれすぎや!」
クスクスと梨華ちゃんが笑う。
ハッ!その前に言わなくちゃいけないことがある。弁解せねば。
「あの、妹の亜依が兄と言ってますが、ウチは女です。
れきっとした女子高生です。名前もひとみと言います。」
「そうなのれすか?」
笑いながらあいぼんに「信じてしまったのれす」というののとは違い、
「えぇ?そうなのぉ〜?」
と梨華ちゃんは言って眉毛を八の字にした。
フォローしようと梨華ちゃんに向かって話を続ける。
「スッピンだし、背も高めだし、声も低いけど女です。男になりたわけでもないです。」
って説明しすぎるほど慌てて言った。
梨華ちゃんは首をブンブンと横に振って
「でも、ひとみちゃんって素敵な人ね。私、惚れちゃうかも・・・ってキャー!」
と、両手で自分の顔を包み、甲高い声でハシャイだ。
ののちゃんも梨華ちゃんと同じポーズでキャーと言ってる。
梨華ちゃんの発言、嬉しいけど頭に響くアニメ声だった。
・・・ちょっとだけ退いたかも。
- 31 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時09分38秒
- 「よっ、この色男。さすがやねんな。」
亜依のばかやろう。そんな言葉掛けるな、恥ずかしい。
向かい席で「学ランとか似合うれしょうね」「オフコース!」と言い合ってる姉妹をよそに、
亜依が飲んでいたオレンジジュースのカップを奪い取って飲んだ。
そして一言。
「帰りに、たっぷりと兄ちゃんと呼ばれる羽目になった事を説明してもらおうかぁ〜」
と毒づいてやった。
固まる亜依を見ていると。
♪〜(ゴジラのテーマ曲が流れる)
ヤベ!母ちゃんだ!
慌てて携帯を取り出し電話に出る。
「もしもし?」
「どうや、亜依はおったんか?」
「うん。友達と話してたみたいだよ。」
「それじゃ、さっさと帰ってきぃや。年頃の女の子が2人でブラブラしとるもんやないで!
オカンが作った料理が冷めてしまうやないか!」
「わ、わかったよ。今すぐ帰るね。亜依と歩いて帰るから30分後に着きます。」
亜依に目をやるとののちゃんと、机越しにじゃれあってる。
「それじゃ電話切るね、オカン。」
電話を切ると、笑顔の梨華ちゃんがこっちを見ていた。
- 32 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時10分24秒
- 「ん?どうかした?」
ドキドキを悟られないようにウチは声を掛ける。
「運命感じちゃったの。超ハッピーなの。」
両手を胸にあてて、顔を赤くしながらウチを見ている。
「ひとみちゃんが使ってる携帯。あたしと色違いなの。ほら!」
マニキュアやシールでデコレーションした派手なピンク色の携帯を見せてきた。
「ホ、ホントだ。でも、すごい派手というか、器用だね・・・自分でやったの?」
「うん!自分だけの携帯にしたくって!ひとみちゃんのもデコレーションしたいなー。」
「いや、いいよ。ノーマルなままで。この青色を気に入ってるし。気持ちは嬉しいけどごめんね。」
ひとみNo.1スマイルでやんわりと断った。
「そうだよね。ひとみちゃんには、クールな感じの方が似合うもんね・・・大きなお世話だよね・・・」
あれれ?また落ち込んでる?
梨華ちゃんが俯いちゃったよ。感情の起伏が激しい人だなぁ。
「ごめん!別に嫌いとかじゃなくて・・・
そ、そうだ!携帯も一緒だし、妹同士も仲良いみたいだし、よかったら番号教えてくれる?あとメアドも。」
俯いてた梨華ちゃんは、バッと顔をあげた。
笑顔だ・・・綺麗だなぁ。
「私も聞こうと思ってたの!ついでに携帯のカメラで写真撮っていい?
ひとみちゃんから着信がきた時に、解りやすいから!」
「いいよ。それじゃウチも梨華ちゃんの写真取るね。」
そう言うと梨華ちゃんはもっと嬉しそうに笑った。
- 33 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時11分00秒
- 梨華ちゃんと電話番号の交換をしてから、写真を撮り合ってると・・・
「えー、オホン」
「オホンなのれす」
「「はい?」」
声が聞こえた所を2人で見ると、妹組がこっちを見て咳払いの真似をしてる。
「新生カップル誕生もいいけどな、そろそろ帰りましょか?来週も塾の後にまた会えばいいやろ、姉ちゃん。」
「ののはハンバーガーらけじゃ、足りないのれす。
しょれに、これ以上遅くなるとお母さんに怒られるのれす。」
- 34 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時11分33秒
- 本当だ。
また母ちゃんの怒り狂う様が脳裏に浮かぶ。
「ごめん、梨華ちゃん。また来週、亜依を迎えにくるから、その時に話そう。」
「そうだね。これからもよろしくね、ひとみちゃん。メールするね。」
携帯を胸に抱えて、ウチの顔を覗き込んで梨華ちゃんは言った。
思わずニヤケ顔になるのを堪えつつ、
「あの、さっきから気になってたんだけど、 普段「よっすぃー」って学校の友達に呼ばれてるから、
ののちゃんも含めてよっすぃーって呼んでくれるかな?名前じゃ何だか恥ずかしくって。」
とウチはお願いして、握手を求めて手を差し出した。
「じゃ、よろしくね、よっすぃー。」
笑顔で梨華ちゃんが握手してくる。
小さくて細い、かわいい手。
「よっすぃー、よろしくなのれす。」
もっと小さなののちゃんの手が、さらに重なる。
「ほなな、のの」
亜依の手が重なると同時に皆が笑顔になった。
「それじゃ、また。出ようか?」
ウチがそう言って、店を出ることになった。
「バイバイなのれーす!」
「気ぃつけて帰るねんで!」
ちびっこ2人が、大きな声で別れの挨拶をして家へと向かった。
- 35 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時12分16秒
- 亜依と手を繋ぎながら歩いた。
なんで兄ちゃんと呼ばれたかは、突っ込まなかった。
大方、自分にも兄ちゃんのような姉ちゃんがいるとでも言ったのを、
ののちゃんが兄ちゃんだと勘違いして、亜依が面白がったんだろう。
亜依がウチに色々と話してくれた。
塾で最近、ののちゃんと仲良くなったこと。
いつもののちゃんは、梨華ちゃんに迎えにきてもらってること。
羨ましくて今日、ウチが迎えに来るよう仕組んだこと。
梨華ちゃんが姉ちゃんの好みだろうということ。
・・・そして、梨華ちゃんたちの家も母子家庭ということ。
- 36 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時12分50秒
- 初めて会ったのに。
すぐに打ち解けてしまった。
あんな綺麗な子、そう滅多にいない。
普通なら、苦手な『いかにも女子高生です』というタイプだったのに。
梨華ちゃんのペースにハマってても、魅せられてた。
来週会う約束もしちゃったもんなぁ。
午後9時すぎに自宅に着いた。
玄関のドアを開けるなり
「迎えに行くだけでこんなに遅くなるわけないやろ!さっさと夕飯食べな!」
母ちゃんのカミナリが、ウチと亜依を迎えた。
良かったぁ〜、食事抜きじゃなくて。
- 37 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時13分35秒
- それから亜依、母ちゃん、ウチと立て続けにお風呂に入った。
部屋に入り、明日の準備と目覚ましをセットして、携帯を見ると梨華ちゃんからメールがきてた。
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早速メールしちゃいます。もう寝ちゃったかな?
よっすぃーと初めて会ったのにキャーキャー騒いじゃってごめんね。
でもまた会ってね。今度は一緒にハンバーガー食べようよ♪
ののもよっすぃー好きだって言ってたよ☆おやすみなさーい。
梨華
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メールの文章も可愛いなぁ。
梨華ちゃんのメールは、ピンク色って感じがする。
- 38 名前:一目惚れだよ人生は 投稿日:2003年02月23日(日)16時14分11秒
- 携帯を持ったままにベッドに入る。
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起こしたらごめんね。ウチも初めてあった気がしないぐらい、話ちゃった。
あまり自分からは話さないから、梨華ちゃんが話し掛けてくれて嬉しかったよ。
1週間後を楽しみにしてるよ〜 ののちゃんにもよろしくね。おやすみ。
よっすぃ
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送信ボタンを押して携帯を閉じ、机に置いた。
あんなにも女らしい子って、珍しいよなぁーと思いながら眠りについた。
[ひとみが梨華に送ったメールは、梨華が保護したことは言うまでもない。]
- 39 名前:リムザ 投稿日:2003年02月23日(日)16時18分07秒
- 本日の更新終了です。
話の展開が遅いなぁと自覚しております。
状況説明を除けば、どんどん進むのでしょうが・・・
なるべく動作や仕草の様子を表す文章を入れた方が、想像しやすいかなと思って長くなってます。
- 40 名前:リムザ 投稿日:2003年02月23日(日)16時23分17秒
- >オガマー様
はっ!はじめまして!!
オガマー様の小説「キスがしたい」を先日読んでました。
このサイトを知ったのがつい最近なのですが、
いしよし作品でオガマー様の名前はよく見かけてるので、レスいただきビックリしてます。
駄文ですが、最後までお付き合いいただけたら…と思います。
- 41 名前:ウィンキー 投稿日:2003年02月23日(日)17時01分19秒
- ごっちんからのメール着信音に笑いました。
そら周りの人もビックリするやろ(w。
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月23日(日)20時32分12秒
- 初めまして!!今、いっきに読みました。
着信音がおもしろくて笑えました。いしよし大好きなんで
頑張ってください!!
- 43 名前:Good Morning 投稿日:2003年03月01日(土)17時36分33秒
- 翌朝、昨夜の嬉しい出来事のせいか早起きした。
軽く顔を洗って台所に出ると母ちゃんがいた。
「おはよ。」
「おぅ、おはよーさん。今日はよっさん、いつもより早起きやね。」
「学生だからね。いつも早起きじゃない?」
「亜依はまだまだ寝てるのに・・・さすが、姉ちゃんやな。」
「まーねー。」
返事をしながら母ちゃんが出した朝食を受け取る。
- 44 名前:Good Morning 投稿日:2003年03月01日(土)17時37分19秒
- 今日の献立は、ベーグル2個とブルーベリージャム、ゆで卵、牛乳だ。
いつも同じようでベーグルの種類が違う。
お蔭で母ちゃんに「手の掛からない子」と思われてる。
好きな食べ物だからなんてことないのだけど。
朝のTVを見ながら朝食を済ませ、洗面台へ向かう。
洗顔と歯磨きをし、寝癖を直したりしていると亜依と母ちゃんの関西弁が聞こえた。
- 45 名前:Good Morning 投稿日:2003年03月01日(土)17時37分49秒
- 「おはよー、母ちゃん。あれ?姉ちゃんは?まだ寝てるの?」
「アンタと違って、もうとっくに起きて朝食済ませとるわ!
急がんと、遅刻するで?遅刻したら小遣い3ヶ月停止やで?」
「あいぼんは、姉ちゃんみたいに電車通学じゃないねん。徒歩5分で学校着いてまうで?」
既にテーブルの上にある亜依の分の朝食へ、母ちゃんがミルクを追加した。
「そーやけどな、あのな、朝の1分はアッちゅう間やで?もっと余裕を持って学校行きなや。
家を出てから名札忘れた、プールの用意忘れたとかでバタバタ戻ってくるのは誰や?」
- 46 名前:Good Morning 投稿日:2003年03月01日(土)17時38分34秒
- 亜依と一緒に食事を取りながら、母ちゃんは語っていた。
「でも、あいぼんは部活やってないから朝練ないねんな。
これでも一応は受験生なんだから、朝ぐらいゆっくり寝たいわ!」
「夜も勉強もせんとさっさと寝てるやないか!
あ!部活って聞いて今、思い出したわ!
来週からオカン、町内会のママさんバレーに参加することになったから、
塾の日は適当に食事済ませといてなー。お金は2人分で1000円税込置いてくから。」
- 47 名前:Good Morning 投稿日:2003年03月01日(土)17時39分07秒
- 「税込で1000円か・・・また微妙な金額だね。」
ウチは洗面台での日課を終えて、台所にある弁当を取りに行った。
「なんやて?この1000円がどれだけ重いか、よっさんはわかってないやろ?」
「はぁ・・・・」
「亜依。アンタもよう聞いとき。」
「はい。」
「これはなぁ、オカンが鉄板焼きやで熱さにめげず、汗水鼻水垂らして必死に稼いだお金やで?
ギャンブルで勝ったお金でもない。もらったお金でもないんやで。えぇか?」
母ちゃんは右斜め45度を見上げながら訴えかけた。
「はい、わかりました。」
ウチは早く部屋に戻りたいので適当に相槌した。
「朝の1分は大事って言うたの、母ちゃんやねんか。
もう1分経ってるで。電子レンジだったら弁当の1つはチンできてんねんで。」
亜依のノリツッコミ、天性のものだとウチは内心思った。
「そ、そうやな・・・ほな、そういうことだから来週からよろしく。」
部屋に戻って着替えると、いつもより10分だけ早く家を出た。
きっとごっちんより早く着くから、待ってる間に梨華ちゃんにメールしよーっと。
- 48 名前:リムザ 投稿日:2003年03月01日(土)17時42分50秒
- 風邪ひきました・・・ですので本日はプチ更新です。
うたばんで保田の踊りを見ているよっすぃーが、胡座をかいていてビックリしました。
普通にしていれば美人なのに、全国放送なのにと思わずツッコミした(w
- 49 名前:リムザ 投稿日:2003年03月01日(土)17時46分59秒
- >ウィンキー様
白板の小説読んでます。感想ありがとうございます。
この小説内での着信音だけ個人的に遊んでいます♪
>名無し読者様
いしよしのお互いの着信音はこれから考えますが、
もちろんウケ狙いで行きます!温かい目で見守っ下さい〜
- 50 名前:それは恋 投稿日:2003年03月03日(月)21時03分01秒
- 浮き足立ったために、無意識に15分も前に駅に着いてしまった。
まだごっちん着てないな、よっしゃ!
駅に入る人たちの邪魔にならない場所へ歩き、梨華ちゃんへ早速メールを送る。
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おはよー。今は最寄の駅で友達待ってるトコ。梨華ちゃんも通学中かな?
ウチの学校さー、週明けテストあるから嫌になっちゃう・・・
だって授業中に寝れないんだもーん。なーんて、よっすぃでした。
*********************************************************************
送信っと。
そうそう、もうすぐテストなんだよなー。
中間テストだから、教科は少ないけど、苦手な数学と国語はあるわけで・・・はぁ。
携帯の画面をぼんやり見ていると、昨日の梨華ちゃんの発言を思い出した。
「運命感じちゃったの。」
「ひとみちゃんが使ってる携帯。あたしと色違いなの。ほら!」
持っていた携帯が、偶然同じ機種なんてよくある話だけど、
梨華ちゃんが嬉しそうにしてたから、何だかウチも嬉しかったなぁ。
ニヤニヤしながら携帯見てるら、通行人に怪しく見られてるだろうけど、まぁいいや。
- 51 名前:それは恋 投稿日:2003年03月03日(月)21時03分39秒
- ♪(ハッピー?ポジティブメールよ!チャーミーです!!)
あ、梨華ちゃんからメールだ。
テンション高いまま電話交換と音声録音したから気付かなかったけど、
人に聞かれると恥ずかしいかも、このハイテンションで高音の声は・・・
ウチに向けられてる冷たい目線を無視して、メールチェック。
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おはよっ!よっすぃーからおはよーメール届いて超ハッピーだよ!
私は通学中の電車の中だよ。私は乙女ノ森高校に通ってるんだ♪
今は中間試験シーズンだもんね。私も今日からテスト!頑張るぞっ(^▽^)
梨華っち
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・・・・、やっぱテンション高いや。
もしかしてテスト勉強とかして寝不足なのかなぁ。
乙女ノ森高校って、公立の共学でレベル高くて都内では有名。
でも、学校名より共学ってのが気になるな。モテるんだろうなー。
- 52 名前:それは恋 投稿日:2003年03月03日(月)21時04分12秒
- 「おっ!朝からメールとは、女子高生してるね、よし子は!」
「え?」
ごっちんの声に顔を上げる。
「おはよー、よし子。今日は早いねぇ。」
「おはよ。いつもより早起きしちゃったから、たまにはごっちんより早く着てみた。」
腰に手をあてて胸を張って[エッヘン]と自慢してやった。
ポンポンとゴッチンに肩を叩かれて、改札へ向かって2人で歩き出す。
「ははは。自慢することじゃないでしょー?
ごとーが駅までくるバスの本数が少ないから、ちょっと早く着てるだけだよー。」
「そうだけどさ。待たせてる形になるから、いつも悪いなって思うよ。」
「あはっ。気にしすぎだよー、よし子はぁ。しょんぼりしてた理由は電車内で聞くよぉ。」
ごっちんは笑って声を掛けてくれた。
- 53 名前:それは恋 投稿日:2003年03月03日(月)21時04分53秒
- 「違う違う・・・今度さ、店にごっちんと一緒に行っていいかな、ってウチ聞いたじゃん。
それに対して、市井さんがどういう反応したか気になってるんだよー。」
「あはっ、そかそか。いちーちゃんが、是非来て欲しいって言ってたよ。
なんか、ごとーの親友には、ちゃんと顔を見て挨拶したいみたい。
こういうとことか、しっかりしてるとごとーは思うんだ。年上って感じするもん。」
この発言を聞いて嬉しかった。
ごっちんは親友だと話をしてくれて、市井さんも会ってくれるからだ。
「そうだよね。普通はさ、自分の彼女の友達に挨拶しようって考えもしないよ。
偶然会った時に「こんにちは」とかって挨拶するだけだってー。市井さん、男気あるよ。」
「ははっ。オトコマエなのは顔だけじゃないもん。
じゃあ、いつ店に行ったら迷惑掛けないかをいちーちゃんと相談しておくね。」
「あ、水曜日以外でよろしく。」
ウチは梨華ちゃんとの約束を思い出し、水曜日以外でとごっちんに言った。
- 54 名前:それは恋 投稿日:2003年03月03日(月)21時05分24秒
- 「んぁ?水曜日以外?同じ帰宅部の仲間なのに、水曜日に予定あったっけ?」
ごっちん・・・す、鋭い。
「いや、あの、ってゆーか、ほら?水曜日だよ。昨日って水曜じゃん?
亜依が!塾!そう、そうなんだ。亜依が塾に通う日は、むっ迎えに行くことになったのベイベ〜」
しどろもどろになりながらも、嘘をつくことなく話をした。
「ベイベ〜でもダメ。この真希様を誤魔化せるとでも思って?」
オホホホホと言わんばかりに、口に指を揃えた手をあてている。
し、しまった・・・正直すぎる性格に自分自身嫌になる。
でも、負けないぞ。
「前から、ウチの妹は塾に行ってるよー。だって受験生でしょ?
で、昨日さ、帰りがいつも遅いから迎えに行ったら友達とハンバーガー食べてたの。
道草してるとさ、亜依だってまだ中3だから夜とか1人にしたら危ないでしょ?」
これで大丈夫だろう。
なんて納得できる回答なんだと自画自賛。
- 55 名前:それは恋 投稿日:2003年03月03日(月)21時05分54秒
- 「おかしい。」
「え?なんで?」
「まず、よし子は嘘を隠す時と嬉しいときに口数が増える。」
ごっちんは、右手の人差し指を立てて、そう言った。
「(ドキッ!)そ、そうかな。早起きしたからハイテンションなだけだよ。」
「ほらズバリ図星。目が見開いて落ちそうになってるよ。
次に、亜依ちゃんが1人でハンバーガーショップに入らないよ。
まだ中3でしょ?受験生なら尚更。家に帰れば夕食あるもん。」
ごっちんの右手が、ウチの顔を指差している・・・
喪黒腹造のように「ダァァァァァァ!」と言われてるような錯覚すら見えそうだ。
「(クッ!ごっちん恐るべし)そうかなー。1人で息抜きしたかったのかもしれないしー。」
「やっぱり嘘だよ。迎えに行ったのに、妹が1人でいた理由が言えないんだもん。」
ウチは手汗握った。
すると救いが!
- 56 名前:リムザ 投稿日:2003年03月03日(月)21時07分59秒
- 昨夜、更新できなかったので本日更新しました。
どうしても同じ学校のごっちんとよし子が多く登場してしまう・・・
- 57 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年03月06日(木)12時09分24秒
- おもしろいっす!!
裕子と亜依のやりとりとかサイコー
いしよしもこれからが楽しみですね
しかし声がでるケータイとは世はすすんでますな…(時代遅れ)
- 58 名前:チャーミーかわい〜 投稿日:2003年03月07日(金)19時29分10秒
- 初投稿です、作者さん期待してます!
- 59 名前:恋煩いさ 投稿日:2003年03月08日(土)03時15分40秒
[次は〜目黒〜目黒でございます。乗り換えの方は〜]
ナイス車内放送!車掌カッケー!
「ごっちん!乗り換え、乗り換え。早く出ないと乗車客で出られなくなっちゃうよ?」
「ホントだぁ。いつも悪いねぇ、よし子や。」
「コントやってる場合じゃないから!」
ごっちんの腕を軽く掴んでホームへ降りた。
すぐに乗り換えのホームまで、黙々と向かう。
話しても電車の発車ベルや、サラリーマンらの携帯の声などで会話が成り立たないからだ。
(・・・このまま、ごっちんが何も言わなければいいけど。)
乗り換えのホームに着いて電車に乗った。
すると待ちかねていたかのように、ごっちんが口を開いた。
「昨日、あったことを正直に話しなさい。」
ごっちんの目の奥に白い炎が・・・
これ以上誤魔化すと友情にヒビが入る・・・仕方がない。
今、嘘をついたらこの先もずっと嘘をつかなければならないから、1点を除いて正直に話をしようと決意した。
「わかった。正直に話すよ。」
「よしよし、よし子。」
ごっちんはウンウンと頷いた。
- 60 名前:恋煩いさ 投稿日:2003年03月08日(土)03時16分13秒
- 「えーっと、昨日、亜依がいつもの時間を過ぎても、
塾から帰ってこなかったから、母ちゃんに言われて迎えに言ったんだ。」
「それは本当だよね。メールくれたから信じる。それで?」
「で、塾の近くにあるハンバーガーショップに妹がいた。友達と。」
「友達って、亜依ちゃんの友達?」
「うん。亜依と同じ歳の女の子。そして、その友達の・・・」
やばーい!顔が赤くなってきた!落ち着け、落ち着け。
「友達の?」
「(ごっちん、梨華ちゃんごめん!)お兄ちゃんがいてさ・・・
会話が盛り上がってるのに、亜依とっさと帰るのも態度悪いかと思って、ちょっと話をしていたんだよね。」
「ふ〜〜〜〜ん。ほっほぅ〜。」
興味津々のごっちんの声が聞こえる。
知らない間に、自分の足をみて話していたらしい。
少しだけ顔が熱いのが自分でもわかる。
- 61 名前:恋煩いさ 投稿日:2003年03月08日(土)03時16分43秒
- 顔も赤くなるとは、よし子ぉ〜。さてはお主、ホの字だな。」
「ホの字って・・・今時、そんな言葉使わないって。別に、ちょっとカワイイなとか思っただけだしさ。」
「へぇ〜、かわいい男の子かぁ。年下?」
「わからない。そこまで話をしてないし。」
「そっかそっか。あのねー、ごとーが思うには、よし子はオトコマエだから、
男らしい人よりカワイイ感じの男の子っての?その方が合うと思うよ。
他に何か情報ないのー?名前とかさー、学校とかさー、誰に似てるとか?」
「うーん。学校は乙女ノ森高校で、誰かに似てるかどうかは・・・いないなぁ。
名字は知らないけど、り、梨・・・リク君って言うの。
果物の梨という字に漢数字の九で、梨九<リク>君って言うんだって。」
我ながらもっともらしい嘘がつけた!
国語大嫌いなのに漢字もわかりやすく教えられたし。
梨華ちゃんの名前の字が、食べ物の名前で助かったー。
- 62 名前:恋煩いさ 投稿日:2003年03月08日(土)03時17分15秒
- 頭いいー!名前もかわいいねー、梨だって。食べちゃいたくなるような♪」
「食べないから!・・・すぐ食べること考えるのやめてよ。」
「あはははっ。ムキになるってば、よし子ぉ。カワイイなぁ。」
笑いながらバカ力で、ウチの腕をバンバン叩く。
痛いすぎるよ、魚顔。全く。
「やぁ〜めぇ〜てぇ〜よ。もうっ。叩きすぎだよ!」
「んぁ?ごめんごめん。で、結論としては、梨九君のことを気になってるんだ?
これから毎週水曜日は亜依ちゃんを迎えに行くより、梨九君に会いに行くのが嬉しいとか?」
「や、それはないけど。」
「ファイナルアンサー?」
「んぁ、ファイナルアンサー。」
「・・・まぁ、そうです。はい。」
「ひっどい姉だこと、おほほほほ。」
- 63 名前:恋煩いさ 投稿日:2003年03月08日(土)03時17分48秒
- そう話しているうちに、学校近くの駅に電車は到着した。
改札を出て学校までの道のりを歩き始めると、ごっちんがまた話を出した。
「よし子さ、もしかして一目惚れ?」
「いや、そういうのじゃなくて、気になるというか、妹同士も知り合いだから親近感が生まれたというか。」
「理由は何とでもなるから。ま、今日はこの辺にしといてあげる。プリンス改めプリンセスだねー。」
あ、でも他の生徒にばれるとよし子ラヴな人が可哀想だから、秘密にしておかないと。
学校ではやっぱりプリンスのままで。毎週水曜日は、ごとーもデートだから、木曜の朝は報告し合おうね。」
「そうだね。報告するほどの内容じゃないと思うけど。」
「じゃ、よし子。続きは放課後!」
「おーーーーーぅ!」
お互いに片手を上げて教室へ入る。
- 64 名前:恋煩いさ 投稿日:2003年03月08日(土)03時18分25秒
- いつも質問攻めにするのはウチなのに、今日ばかりは沢山ごっちんに話をされたー。
梨華ちゃんのことを男の子にしちゃった・・・梨九君ってなんだかいいな(笑)
ごっちんは、ウチに彼氏ができようが、彼女ができようが
「よし子が誰と付き合おうが、よし子はよし子。誰を好きになろうが、よし子はよし子だから。」
そう言ってくれる。
だけど、女の子だと正直に言えなかったのは、
市井さんという彼氏がいるごっちんには、下手に気を使って欲しくないからね。
やっぱり男と女は違うよ。
さっき、ごっちんが「木曜の朝は報告し合おうね。」って言ってたけど、気を使ってたんだと思った。
それに片思いというかちょっと気になってる程度だから、
しばらくして梨華ちゃんと仲良くなった時に、実は女の子なんだよと言おう。
- 65 名前:恋煩いさ 投稿日:2003年03月08日(土)03時19分05秒
試験前の授業中、先生が問題に出そうなヒントを教えてるのもつゆ知らず、
ひとみは今朝の会話の続きや、昨夜の梨華との会話を思い出してニヤケていた。
- 66 名前:リムザ 投稿日:2003年03月08日(土)03時20分30秒
- >ラヴ梨〜様
亜依と中澤オカンのやりとりは、今後ともに関西弁で繰り広げられます。
関西コンビは、この先も続いて行きます!!
- 67 名前:リムザ 投稿日:2003年03月08日(土)14時18分24秒
- >チャーミーかわい〜様
レスありがとうございます。
ごっちんに男だと紹介された梨華ちゃん…本人が知ったら嫌がるでしょうねー
- 68 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月10日(月)17時59分34秒
- 面白いです。
- 69 名前:お宅訪問 投稿日:2003年03月10日(月)22時09分48秒
- 「よすぃ子ー。いちーちゃんにメールしていい?」
「いいよ。ウチもメールするし。」
「あれっ?あはっ。もしかして梨九君にメールするつもり?」
「違うよ!!亜依に洗濯物入れておけってメールするんだよっっ!!」
「ふーん。そこまでムキにならなくてもいいのにさー。」
そう言うとごっちんは、携帯でメール作成に取り組む。
ウチも亜依ではなく、梨九君にメールする。
ごめん、ごっちん。ワタクシ嘘をつきました。
************************************************************************
はぁ、もう限界。中間テストが近いのに、古典と数学Aがちんぷんかんぷん。
やばーーーーーい!来年は受験生なのに!!最低レベルの点数を取らないと
短大へのエスカレーター上れないよぉ・゚・(ノД`)・゚・。
よっすぃ
************************************************************************
送信っと。
ごっちんは1回のメールで終わらなかったのか、まだメールしてるようだ。
駅について電車に乗っても、まだごっちんのメールは断続的に続いていた。
「チャットでもしてるの?」
「んー、違うんだけど、いちーちゃんが暇みたい。」
「それでメール続いてるんだね。ウチは家に帰るから下車するね!」
「メールばかりしててごめんねぇ、よし子。」
乗り換えの駅でウチはそう言ったのに、まだごっちんは市井さんとメールしてた。
- 70 名前:お宅訪問 投稿日:2003年03月10日(月)22時10分30秒
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時は流れて土曜の朝。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
- 71 名前:お宅訪問 投稿日:2003年03月10日(月)22時13分15秒
- ****【69】の前にこの部分が入ります*************************************
「「今日もおつかれ!!」」
下駄箱でごっちんと毎度の挨拶を交わす。
「もうさー、来週のテスト、マジヤバイんだけど・・・」
「よし子はいつもヤバイって言ってるじゃーん。」
「いやー、今回ばかりは進級が掛かってるから、皆が頑張って平均点が上がりそうじゃない?」
「そういう細かい分析考えるなら、少しでも勉強しろよー。言い訳考えてるみたいだよ。」
ごっちんと時々、顔を見合わせて語る。
駅まで歩くいつもの時間。
*********************************************************************
- 72 名前:お宅訪問 投稿日:2003年03月10日(月)22時14分05秒
「今日から休みだーーーーー!」
テスト前なのに、休養を楽しむウチ。
自宅でテスト前の勉強といいつつ、手帳に梨華ちゃんとのスケジュールを書き込む。
梨華ちゃんとのスケジュールって言っても、亜依の塾の日なんだけどさ。
この先4ヶ月も水曜日は梨華ちゃんのマークである、ハートを書き込む。
こういう所が、女子高生してるよなー、なんて思いつつ。
手帳を眺めながらニヤニヤしていたら、亜依がウチの部屋をノックした。
「姉ちゃん!!ちょっとえぇかな??」
「はぁ?何の用?」
思わず手帳を閉じてドアを見た。
「ののから、姉ちゃんのことも踏まえてメールが来てん。」
「はぁ?取りあえず入っておいで。」
そう答えるや否や、亜依がウチの部屋に入ってきた。
ののちゃんからメール?もしや梨華ちゃん絡み?!
- 73 名前:お宅訪問 投稿日:2003年03月10日(月)22時14分39秒
- 「あのなー、姉ちゃん。」
「おぅ。」
ウチはなるべく通常通りに装って返答をした。
「明日な、ののが遊びに来ない?って誘って来てん。」
「ほう、それで。」
「で、亜依が「えぇよ]って返事したらよっすぃも来ない?って
ののと梨華ちゃんからメールが来てもうて、返事を聞きに来たねんて。」
「えぇっ!遊びに来ていいって?マジで?マジで?」
亜依の両肩を両手で掴んで、ガクガクと揺さぶる。
「なぁぁんやぁぁねぇぇん!」
震えた亜依の声を聞いて、ウチは手を止めた。
「そんな揺らしたら、首がすっ飛んでまうやないか!アホ姉貴!」
首を抑えながら、ヤンキーみたいに上目遣いでメンチ切ってる。
我が妹ながら迫力ありにけり。
- 74 名前:お宅訪問 投稿日:2003年03月10日(月)22時15分21秒
- 「いやー、ごめん、ごめん。あまりにビックリしちゃって。動揺しちゃったよ。」
「で、どないすんの?遊びに行くなら行くで、一緒に出かけるで?」
「はぁ・・・んー、姉ちゃんさ、来週の月曜から水曜までテストなんだよ。
だからさ、ののちゃんと梨華ちゃんに会いたくても、けじめとして遊びに行けないんだよ・・・
何よりも今日は、ごっちんの家でと試験勉強のヤマ当てする予定が入ってるから・・・ごめん。」
「なんやぁ、姉ちゃん、つれないなぁ。」
「頭だけごっちんの家に行って、身体だけののちゃんの家に行きたいけど・・・」
「アホ言うなや(笑)。梨華ちゃんに遊びに行きたかったけど勉強だからって伝言しておくわ。」
亜依はそう言い放つと、ウチの部屋から出て行った。
(折角誘ってくれたのにーー!)
申し訳ない気持ちになってしまう。
だけど、学生は試験のボーダーラインを超えないと進学できないから・・・はぁ。
- 75 名前:お宅訪問 投稿日:2003年03月10日(月)22時16分12秒
- 午後。
亜依はののちゃんの家へ。
ウチは、ごっちんの家へ自転車で向かった。
♪ピンポーン
「はい。」
「ごっちん、おはよー。よし子登場ッス!」
「じゃあ今、開けるねー。」
ガチャっとオートロックのドアが開き、ごっちんが迎えてくれる。
ウチは挨拶をして、玄関へと入っていった。
「お邪魔しまーす。」
「んぁ。相変わらず散らかってるけど・・・ごめんねぇ。」
靴を脱いで、出されたスリッパを履き、ごっちんの後をついていった。
「そんなことないよ。いつもごっちんの母さんって綺麗に掃除してると思うよ。」
「そうかな?」
「うん。そうだよ。あれ?亜弥ちゃんいないの?」
「亜弥はお母さんと一緒に買い物に行ったよ。この間のテストの結果が良かったからご褒美だってさ。」
「そっか。うちの妹と違って亜弥ちゃんは成績優秀だもんねー。」
「まぁ、努力してるからさ、亜弥は。よし子さ、ジュース持って行くから先に部屋に入っていって。」
「あいよー。」
- 76 名前:お宅訪問 投稿日:2003年03月10日(月)22時16分48秒
- 廊下の突き当たりにあるキッチンへ向かうごっちんを見つつ、手前にあるドアを開ける。
勉強用の長テーブルが出されていて、教科書やら辞書やら机の淵に積んである。
CDやMDが置かれている棚に、市井さんの笑顔を捉えた写真があった。
(ホント、いちーさんのこと好きなんだなぁ。)
思わず、顔がニンマリとしてくる。
あまり人の部屋をジロジロ見るのは好きじゃないから、
ごっちんの勉強道具が置いてあるテーブルの反対側に、ウチはコートを脱ぎ腰を下ろした。
ショルダーバッグから、勉強道具を取り出していると、
【ガチャッ】
ごっちんがトレーにビスケットとカフェオレを乗せて、部屋に入ってきた。
テーブルにトレイを置いてから、カップを目の前に置いてくれた。
「お待たせー。ジュースなかったから、カフェオレ作ってきたよ。寝ないように。」
「寝ないようにって、ごっちんがでしょ?」
「あはっ。そうかもー。」
2人でケラケラと笑いながら、ビスケットとカフェオレを味わう。
- 77 名前:リムザ 投稿日:2003年03月10日(月)22時19分24秒
- 昨日、更新できなかったので追加です。
なるべく1週間に2回をメドに更新していきたいと思ってます。
ラブラブないしよしメインのはずが、よし子の1日ばかりに・・・
よし子の毎日を書いていると梨華ちゃんなど出てこないので、
今回から日付を飛ばす手段を選びました。木曜の朝から土曜の朝まで飛ばしてます。
次回更新は土曜の予定です。
- 78 名前:リムザ 投稿日:2003年03月10日(月)22時20分30秒
- >68の名無し読者様
ありがとうございます。
今回、投稿失敗してしまいましたが・・・今後ともお付き合い下さいませ。
- 79 名前:サイレンス 投稿日:2003年03月14日(金)12時33分18秒
- 今、全部読ませていただきました。うーんおもろい
着メロと裕ちゃんのキャラには本当に笑いましたよ。
更新は土曜日って明日、めっちゃ期待してます!
- 80 名前:噂の真相 投稿日:2003年03月16日(日)00時27分48秒
- 「今日さ、勉強メインだけど・・・ついでに、ごとーの話を聞いて欲しいなぁ。」
「いいよー。勉強の合間にというか、休憩中で良ければ。」
「とか言って、ごとーの話の間に勉強になったりして。」
「うわっ!そうかも。でもさ、そんなことしたら、2人とも赤点だよー。」
「んーぁ、じゃあさ、4時頃まで必死に試験のヤマを勉強してから話をしよう!」
「そーだね。」
それから、ウチらは自分で言うのもなんだけど、結構真面目に勉強した。
ごっちんの話も気になったし、頑張って勉強して試験を終えてから梨華ちゃんに会いたいもん。
♪気合の入った〜 女同士〜やるときゃやるのさ!
こんなカンジで、数学A、古典、化学などの苦手問題を勉強した。
- 81 名前:噂の真相 投稿日:2003年03月16日(日)00時28分28秒
- 時計の短針が4時を過ぎてから、ウチはごっちんに声を掛けた。
「あーーー!勉強したってカンジィ!さー、ごっちん、そろそろ休憩にしようか?」
「そーだね。もう4時半だもんね。それじゃ、残りのビスケットでも食べつつ、ごとーの話をしようかな。」
「ウォッホン!しっかり勉強したから、語ってくれたまえ。」
腕を組んでごっちんを見ると・・・急に俯いて語りだした。
「あのさぁ・・・市井ちゃんのことで、よし子に黙ってたことがあるの。」
惚気話と思ってたから、腕組みなんかしちゃったけど、深刻な話だったんだ。
慌ててうちは、組んでいた腕をほどいた。
- 82 名前:噂の真相 投稿日:2003年03月16日(日)00時29分11秒
- 「黙ってた??市井さんのことで?」
「うん。黙ってた。いつか話すつもりだから隠してたとかじゃかったんだけど・・・」
「いいよ、いいよ。言いたくない時もあるし、タイミングだってあるだろうからさ。」
ウチはうんうんと頷きながら、続けられるであろうごっちんの言葉を待った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙が続く。
どうしよう。
下手に話し掛けたら、ごっちんの話すタイミングがなくなってしまう。
と、とりあえずビスケットでも食べるかな。
手を伸ばしてビスケットを1枚取った。
サクッと、ウチがビスケットを一口食べると同時に、ごっちんが堰を切ったかのように口を開いた。
- 83 名前:噂の真相 投稿日:2003年03月16日(日)00時29分59秒
- 「あのさ・・・よし子は勘違いしているだろうけど・・・実は、いちーちゃんは女性なの。」
「えっ?そうなの?」
ウチは驚いて、後から考えるとちょっと失礼な言い方をしてしまった。
「そう、なの。今までさ、男の子にしか恋愛感情を持たなかったけど・・・
んぁ!別によし子が彼女だろうが、彼氏だろうがいてもいいんだよ。
よし子が誰を好きになったって、よし子はよし子だから偏見とかないのね。」
一気に話すごっちんを見つつ、ウチはウンウンと首を振って相槌を打った。
- 84 名前:噂の真相 投稿日:2003年03月16日(日)00時30分52秒
「たださ、自分は男の人だけ好きになるんだと思ってた。
やっぱり今でもジャニーズとか見ると、カッコイイって思う。
ところが、いちーちゃんに会って、最初は憧れてたんだけど、どんどん好きになちゃって。
片思いしていようと思ったら、いちーちゃんが付き合おうって言ってくれて。
いちーちゃんは女の人だけど、特別っていうか、いちーちゃんのことを考えるだけですごい幸せな気分になるの。」
言い終えるとごっちんは、俯いたまま自分の指先を違う手で触っていた。
要するに、モジモジしてるといった状態だった。
「ウチが思うのはさー。」
「んぁあ??」
「好きになるってこてゃ、素敵なことだと思うんだ。」
「はぁ・・・・」
口を開けてポカンとしてるごっちんにウチは立て続けに話をした。
- 85 名前:噂の真相 投稿日:2003年03月16日(日)00時31分36秒
「実はさ、嘘を付いてたんだけど、梨九君さ・・・女の子なんだ。」
「んぁあああ?!マジっすか?」
「うん。ウチは市井さんが男性だと思ってたし、ごっちんは会ったことないから嘘を付いたの。」
「なんで、なんでさっ!嘘を付いたの?別によし子が女の子と付き合ってても、ごとーは偏見しないよ!」
市井さんが女性だと発言した後もあってか、ごっちんは珍しく感情的にウチに声を荒げた。
「あのね、ごっちんがね、市井さんの話をしてた時に男だと話をしてたでしょ。」
「うん・・・そう、だけど。女の人もokって思ってなかったし、何となく・・・本気なだけに・・・」
「ウチもそれと一緒。本当に好きになった人だからこそ、変に気にしちゃって嘘を付いた。」
「・・・・・・・そっか。」
「そうだよ。梨九君っていうけど、実は梨華ちゃんって言うんだ。
ごっちんは市井さんが好き。性別関係なくね。で、ウチは梨華ちゃんが好き。
これってさ、どっちも恋をしてるってことだし、大事なことだと思うんだ。
今となってお互いに嘘を付いてたわけだけど、どっちもどっちだから、おあいこだよ。」
- 86 名前:噂の真相 投稿日:2003年03月16日(日)00時32分21秒
- 「よすぃ子ぉーーーー!」
そう叫んでウチに抱きついてきたごっちん。
前から市井さんのことになると感情出してたけど、今日はすごかった。
おかしな話、2人ともウルウルと瞳を潤ませてしまったぐらいだ。
嘘を付いてた罪悪感から開放されたのかな?
それとも、自分の気持ちが真っ直だってことを気付かされたかな?
必死に試験勉強して、恋バナして・・・
何だか恥ずかしいけど、青春の1ページにふさわしい1日だった。
- 87 名前:リムザ 投稿日:2003年03月16日(日)00時35分02秒
- 本日の更新はここまでです。
よっすぃとごっちんばかりですが、よしごまではないのです(結構好きですが)。
明日続きを書きます・・・折角の週末に何してんの?という、
なっち独特の語尾上げツッコミは止めて下さい(w
- 88 名前:リムザ 投稿日:2003年03月16日(日)00時37分33秒
- >サイレンス
関西弁の掛け合いって良いですね〜
本当はもっと姐さん&あいぼんを書きたかったのですが
今回はよっすぃとごっちんの話になってしまいました・・・
誰も見てないと思いつつ投稿していましたが、反応があると嬉しいです!
- 89 名前:サイレンス 投稿日:2003年03月16日(日)16時41分10秒
- 自分的にはよしごまは恋人でなくて親友であってほしいので
いしよし、いちごま設定が一番好きです。いいですよね、こーゆー
後藤さんとよっすぃーの会話。仲良い感じが出てて。
作者さん、次の更新お待ちしてますよ!
- 90 名前:リムザ 投稿日:2003年03月17日(月)22時18分33秒
- 申し訳ないですが、諸事情により、今週末まで更新できそうもありません。
土曜日には更新したいと思ってます。
>サイレンス様
前回のレスで「様」を付け忘れてしまいました。申し訳ないです(>_<)
よっすぃーとごっちんは大親友という設定なので、
いしよし・いちごまで続いていきます♪
- 91 名前:サイレンス 投稿日:2003年03月18日(火)11時23分12秒
- >前回のレスで「様」を付け忘れてしまいました。
もちろん全然気にしてないです。ただのいしよし好きなバカなんで。
次の更新は週末ですか。待ってますね!!
- 92 名前:リムザ 投稿日:2003年03月22日(土)18時12分52秒
- ごっちんの家から帰ろうと思った矢先、ごっちんのお母さんにあった。
右下にあるホクロを上下させて、圭さんはウチに話しかけた。
「あら、よっしー。いらっしゃい。相変わらずのオトコマエね。」
「いやいや…おじゃましてます。明日からの試験勉強をごっちんとしてました。
相変わらず綺麗に掃除されている家ですよねー。」
「そう、そんなこたぁないわよ。オホホホホ。」
ウチに照れられても困るんですが、お圭さん。
苦笑いしているとごっちんが圭さんに話した。
「んぁー、あのさ。よし子は掃除してあることを褒めてるだけで、
お母さんのことを“綺麗”って褒めてるわけじゃないんだよー。」
「何っ!ちょっとアンタ!ふざけるのも大概にしなさいよ!」
「うっさい、うっさーい。ホクロが動いてて怖いよーぉ。圭のホクロが怖ーい!」
目の前で繰り広げられるコントに、ウチは笑いを堪えるのに必死だった。
- 93 名前:リムザ 投稿日:2003年03月22日(土)18時14分02秒
- 【ガチャ】
玄関先でごっちんと圭さんが、ワイワイやってると、どこかのドアが開いた。
「うるさいなぁ。なーにやってんの!・・・あー!」
亜弥ちゃんの声が聞こえたので、声がした方を見た。
ダダダダッと、間髪いれずにウチの元へ走り寄ってきてかと思うと、
「なんで亜弥がいない時に遊びに来るんですか!お姉ちゃんだけじゃなく、亜弥とも遊んで下さいよー!」
ウチの右手に両手でしがみつき、ブラブラと手を揺らしている。
だだをこねる子供のように、亜弥ちゃんはおねだりした。
かっわいーなぁ。
ホント、うちの亜依とは大違いだよ。
- 94 名前:リムザ 投稿日:2003年03月22日(土)18時14分52秒
- どう返答しようか苦笑いで誤魔化していると、ごっちんが亜弥ちゃんに話し出した。
「亜弥はさぁ、よし子と遊ぶには若すぎるからダァメ。」
「え?よっすぃと遊ぶのに年齢制限いるの?」
亜弥ちゃんはごっちんに質問した。
ウチも年齢制限があると聞いたのは、初耳だ。
「ごっちん、ウチと遊ぶのに年齢制限だなんて・・・」
「あはっ。あるんだな、これが。」
「よっすぃには解ります?」
目をパチクリしながら、亜弥ちゃんはウチを見た。
「いや、ウチにもさっぱり解らない。」
ちなみに圭さんは固まったままである。
- 95 名前:よっすぃFC 投稿日:2003年03月22日(土)18時15分30秒
- 「よし子がねー、普通に遊んでも亜弥は惚れちゃうでしょ?年下にモテるんだ。
だけど亜弥にとっては王子様でも、よし子のお姫様に亜弥はなれないんだよー。
よし子に何かされるにしても、亜弥は若すぎるからダメだってば。」
ごっちんは諭すように、亜弥ちゃんに話した。
「別に惚れないもん!好きなだけだもん!何かされてもいいもん!」
ぷぅっと頬を膨らませて、亜弥ちゃんはごっちんにたてついた。
原因が良くわからない姉妹喧嘩は良くあるものだ。
しかし、これ程までに意味不明な喧嘩って変。
ウチに何かされるって、何?
と、とりあえず落ち着かせないと・・・
「亜弥ちゃん、ごっちん?今度、うちの亜依と4人で遊ぼうよ。
それなら良いでしょ?何かするわけないんだし。圭さんはどう?」
- 96 名前:よっすぃFC 投稿日:2003年03月22日(土)18時16分11秒
- 仁王立ちしていた圭さんは、ついに口を開いた。
「いいわ。これでバカ娘2人が納得するなら。
とかく、年下じゃダメってことは、私はOKってことね。」
「ありえません。」
真顔で即答したウチに、ごっちんが笑った。
「あはっ、あはは。よし子サイコー。お母さんも変な発言しないでよ。」
「バカね、この子は。本気よ。」
「亜弥も負けないですよ!」
見開かれた4つの目と、眠そうな2つの目が目の前に並んでいる。
「あの・・・、そろそろウチ、帰ります。今度、家族ぐるみで遊びましょう。」
「ごめんねぇ、よし子。うちの家族さー、全員がよし子ファンなんだー。」
玄関にいる3人に手を振り、キラリと効果音が付きそうな笑顔で挨拶をした。
「・・・それでは、おじゃましました。」
「気をつけて帰ってねー、よし子ぉ。また明日ね!」
「いつでも遊びにおいで!」
「今度は亜弥とも遊んで下さいねー。」
- 97 名前:よっすぃFC 投稿日:2003年03月22日(土)18時16分48秒
- 自転車に跨った状態で、再度ごっちん達がいるマンションの廊下を見上げて手を振った。
さぁ、家に帰って亜依から話を聞いて、夕食を済ませたら、試験勉強再開だー!
ウチは自転車のペダルを力強く漕いだ。
- 98 名前:リムザ 投稿日:2003年03月22日(土)18時19分50秒
- 花粉症が辛い季節・・・クシャミ連発してます。
本日の更新はこれまで。続きは明日になります。
>サイレンス様
レスありがとうございます。
ごっちんの家は、全員ボケ専門の3人にしました。
次回はちょっとだけ、いしよし登場予定です〜
- 99 名前:サイレンス 投稿日:2003年03月22日(土)19時15分12秒
- よっすぃーもてもてですね。
ぜーいんボケキャラ。これはよっすぃーの
ツッコミの出番が増えるのかな?
花粉症ですか。自分には苦しみがわかりませんが
作者さんがんばってください。
レス長々すいませんです。
- 100 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時01分05秒
- 「ただいまー。」
玄関に入ると誰もいなかった。
部屋に携帯以外の荷物を置いて、キッチンから牛乳を持って居間へ行く。
牛乳を飲みながら携帯電話のチェック。
あ!梨華ちゃんからメール入ってるじゃん。
ごっちんの家では、携帯電話をマナーモードにしてて見てなかったからなぁ。
早速、内容チェック。
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グッチャー!よっすぃは勉強頑張ってるかな?亜依ちゃんが家に来てるよ☆
ののと楽しそうにゲームしたり、TV見てのんびりしてる。
私は昨日で試験終わってるけど、よっすぃはあと少し頑張って!
今度は試験がない時に、梨華の家に遊びに来てね。
水曜日楽しみにしてるよー!! 梨華
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- 101 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時02分00秒
- 梨華ちゃんって、やっぱり優しいなぁ。
亜依の様子もメールしてくれるし、励ましてくれるなんて。
嬉しくって即行メール返信した。
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亜依がお世話になりました。ののちゃんが楽しそうでちょっと羨ましい…
ウチも本当に、本当に遊びに行きたかったんだけど、ごめんね。
今日は親友の家でしっかり勉強してきた!明日から戦うよ!!
試験が終われば、すぐ水曜日。早く終わって欲しい気持ちがいつもの2倍だよー。
よっすぃ
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- 102 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時03分30秒
- 送信っと。
そうだ。ごっちんにも無事に家に着いたとメールしよう。
続けざまにメールを打った。
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無事帰宅ぅ。今日はしっかり試験勉強できてよかった。何よりもごっちんの
話も聞けたし、ウチの隠し事もなくなったのが嬉しかったよ。
1番の収穫!明日から2日間戦ったら、惚気話バトルしようぜぇ!
よしこ
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- 103 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時04分09秒
- 送信すると、すぐにメール着信があった。
♪(ハッピー?ポ)
携帯を持っていたから、着信ボイスはすぐ消えた。
梨華ちゃんからの返事だ。
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もう家に着いた?亜依ちゃんは、さっき家を出たから、もうすぐ着くと思う。
親友の家で勉強できるなんて羨ましい。私だったら、遊んでしまいそう・・・
それ以上に羨ましいのは、よっすぃの親友さんかな♪梨華とも仲良くなろうねー。
梨華
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ウォォォ!
最後の一文に思わず唸ってしまった。
仲良くって・・・ごっちんに嫉妬してるのかな?
気にならないと、こんな返事はこないだろうし。
水曜日に、ちょっとだけごっちんの話をしようっと。
- 104 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時04分43秒
- 残りの牛乳を飲んでいると、亜依が帰ってきた。
「ただいまー。」
「おかえり。どうだった?ののちゃんの家は?」
「相っ当な勢いで楽しかったで。ののと一緒にTV見たり、
梨華ちゃんや、ののの母ちゃんも混じって、四人でゲームしたしな。」
「へ、へぇぇ〜、そうなんだ。楽しかったんだ。良かった。あー、良かったねぇ。」
羨ましくて思わず、変な声を出してしまった・・・
「羨ましいのやろ、姉貴。」
「!!」
「ほーら、目が見開いとるやないか。梨華ちゃんも可愛い服着てたでー。
姉貴が来ないとわかったら、かなり寂しそうにしてたでー。こーんな顔して。」
眉をハの字にして、困ったような顔をしている亜依。
ごめん。似てる。
でも目はそんなに小っちゃくない。
- 105 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時05分24秒
- 「梨華ちゃんとメールしたから、大丈夫だよ。
それに今日はごっちんとも勉強できたのが、何より大事だったし。」
威張るように亜依に言ってやった。
「やっぱり男は恋愛より、友情を取るもんやな。」
「違うから!」
亜依と言い合っても絶対に勝てないな、とウチは思った。
「姉貴もさー、顔は良いんだから女らしくすれば、モテモテやと思うねんて?」
「余計なお世話だ。」
「へいへーい。そーいえばさ、まだ母ちゃんは帰ってこないの?」
「さぁ?ウチも今さっき帰ったところだからわからない。」
「お腹すいたー。育ち盛りの子供がいるのに、お菓子も置いてないしなぁ。」
「太らせないように母ちゃんが管理してるんだろうよ。」
ガサゴソとキッチンで食べ物を探す、亜依を見ていると携帯が鳴った。
- 106 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時06分04秒
- ♪(ごとーだよ。ごとー、ごとーだよ。ご)
ピッ!
ごっちんからのメールだ。
どれどれ・・・っと。
***********************************************************************
無事に着いたようで何よりだよー。明日からテストと戦おうね!
いちーちゃんに、今日のことメールでも報告したら、バイト先に梨華ちゃんも
連れておいで、って言ってくれたよ。あはぁー。ダブルデートだよ!
ごとー
*************************************************************************
ダブルデートって・・・まだまだ片思いなのに。
脈はあるだろうけど、でもなぁ。
梨華ちゃんにとってウチは友達になりたいだけかもしれないし。
まっ!毎週水曜日に会っていれば、相手のこともわかってくるだろうから、どうにかなるさー。
- 107 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時07分50秒
- そうこうしてると、玄関のドアがガチャガチャと音を立て、開くのが聞こえた。
「いま帰ったでー。お母様のご帰還やでー。餌もあるでー!」
母ちゃんが帰ってきた。
左手にビニール袋をぶら下げながら、サンダルを右手で脱いでいる。
「おかえりー。」
ウチが声を掛ける。
キッチンから母ちゃんの元へ、亜依がダッシュで駆け寄った。
「おぉ、おかえり!お母様!大変お疲れさまでした。
餌ですか?晩御飯ですか?あら、餌ってなんでしょうか?」
亜依は母ちゃんの左手からビニール袋を奪い取ると、袋の中を覗き込んで笑顔を見せた。
「えー、匂いやわー。」
「食べ物持ってきた時だけ敬語か、亜依は。ゲンキンな女やなー。
今日もパートだったから、晩御飯にってお好み焼き買うてきたわ。
4人前だから、亜依とよっさんは1人半ずつやで。それだけしかないねんからな。」
「「はーい。」」
- 108 名前:メール届いた Yeah 投稿日:2003年03月23日(日)20時08分48秒
- お好み焼きが冷めないうちに夕食を3人で済ませた。
もちろん母ちゃんは、缶ビール片手に食べていたのだけれど。
母ちゃんがホロ酔いになった時に
「女が2人もいるんやから、オカンが仕事のときは、洗濯物ぐらい入れといてや。
日が暮れてから取り込むと、冷え切ってしまうやないか。頼むでホンマに。」
と愚痴を言ったので、亜依と揃って「ハイ。」と返事をしていた。
確かに、持ちつ持たれつつの家族じゃないとね。
TVを見ながら母ちゃんと亜依は、団欒していたが、ウチはさっさと部屋に入って試験勉強を再開した。
こんなに勉強したことないけど・・・
ごっちんとの青春の1ページを、より美しくするために。
頑張った方が、梨華ちゃんに会った時の喜びが倍増するように。
留年なんかして、母ちゃんや亜依に迷惑掛けないように。
そんな想いを持ちながら、ウチは深夜まで勉強に励んだ。
- 109 名前:リムザ 投稿日:2003年03月23日(日)20時15分47秒
- 本日分更新しました。先週1度飛ばしてるので多めに更新してます。
娘。ファン歴が浅すぎて、ほぼ資料がないのでメンバー癖などがわかってない部分があります。
ひょっこりぐらいからしか見てないので・・・いしよしネタ不足中。。。特にいちごまは皆無。
ファンの方のページを参考にしてる次第です。
なので、違う部分があったら、読者の方にレスで教えていただけると助かります。
>サイレンス様
よっすぃーってメンバーにモテモテなんですよね?確か・・・
いつもレスありがとうございます。
初投稿なので、すごく励まされています。
- 110 名前:サイレンス 投稿日:2003年03月23日(日)22時27分09秒
- 後藤さんの着メロ何回きいてもおもろい。
そして餌って何だよ裕ちゃん。
自分も市井さんほっとんど知らんです。
4期メンバーんときに石川さん見て
娘。好きになりました。
それまで娘。嫌いだったくらいですよ。
うん。よっすぃーはメンバーにモテモテのはず。
長いレスすいません。次にも期待です。
- 111 名前:リムザ 投稿日:2003年03月29日(土)20時36分47秒
- 個人的な事情により、1ヶ月ほど更新不可です。
今後は更新が毎週末ではなくなります。すみません。
- 112 名前:リムザ 投稿日:2003年04月22日(火)23時09分55秒
- 久しぶりに戻ってまいりました。
続きを期待されていた方には申し訳ないのですが、
細かい設定などを書いていたノートをなくしてしまい・・・更新不可です<(__)>
思い出せない部分もありますので許してやって下さいませ。
せっかくスレを立てたので、いしよしの小説メインで書いていこうと思っています。
お詫びに、いしよし交換日記?ならぬ手紙を書きます。
ちょっとした記念日にお互いが手紙を書いてきた、というものです。
- 113 名前:好きなもの R>H 投稿日:2003年04月22日(火)23時12分45秒
- 好きなもの・・・暖かいもの、優しいもの
二つが揃うと貴女になる
一緒にいるだけで優しい気持ちになれる
そんな貴女は大好きなもの・・かな
あ、物って言い方は失礼だね
また、ずーんって落ち込んじゃうのかな?
でも、大好きって言ってるんだからいいよね?
私ちょっと日本語が不自由なんだから大目に見てよね
大好き・・・そんな言葉だけじゃ言い表せないほど
愛しちゃってるんだからっ
- 114 名前:好きなもの R>H 投稿日:2003年04月22日(火)23時13分22秒
こう見えてもベタ惚れなんだよ?
そこんとこ分かってる?
なーんかイマイチ信じられていない気がするんだよね・・・
いつもごっちんと自分比べてるでしょ?
ごっちんはごっちん、貴女は貴女なんだよ
ちゃんと分かってるのかな〜
そりゃ、ごっちんは何もかも完璧でカッコイイと思うよ
でも、それはごっちんがごっちんだからであって
貴女が真似しても仕方ないと思うし・・・
貴女は貴女だから私は好きなんだから。
ごっちんを親友だと言う貴女も大好きなんだから。
だから自信持ってよね?
あんまりウジウジしてるとフっちゃうからっっ
脅しはこのぐらいでいいかな?
結局なんだかんだ言っても
大好きなのは変わらないよ?
ずっとずっとね・・・
- 115 名前:好きなもの R<H 投稿日:2003年04月22日(火)23時14分32秒
- 好きなもの・・・何より先に思い浮かぶのは君の笑顔
初めて逢ったときからずっと変わらない笑顔
これからもずっと側で見ていたいと思うよ?
その笑顔が曇るようなこと全てから君を守りたい
ウチじゃ役不足かな?
時々不安になるんだよね・・・ウチなんかでいいの?って
でも、また「ウチなんか」とかいうと
君は怒るんだよね。
「『なんか』とか言ってる人を好きな私はどーなるのっ??」って
だってさ、まだ信じられないんだよ?
ウチがほんとに独り占めしていいのかって・・・
そのうちバチが当たったらどうしようとかね。
ウチって小心者なのかな?
- 116 名前:好きなもの R<H 投稿日:2003年04月22日(火)23時15分36秒
- どうしたら自信がつくんだろう
君を思う気持ちは誰にも負けてない自信があると思うんだけど・・・
それを全面に押し出せばいいのかな?
いいのかなー押し出して・・・
鬱陶しいとか言われたら
それはそれで立ち直れない気がするんだけど・・・ハハッ。
でも、自分の努力不足でどっかの誰かに君を奪われたら悔しいよな。
時々、冷たくしてるのは飽きられないようにワザとしてるんだ。
自分を磨くための時間稼ぎ。
最初は、自分じゃなくても誰かが君を幸せにしてくれて
君がずっと笑っていればいいな・・・ウチはそれを見ていられれば・・・
って思ってたけど、それじゃ嫌だって事に気が付いたんだよね
こんな風に思ったのは初めてで
どうしていいか未だによく分かってないんだよね
- 117 名前:好きなもの R<H 投稿日:2003年04月22日(火)23時16分43秒
ウチは上手に愛せているのかな?
時々心配になるウチにいつも怒るんだよね
ぷくって頬膨らませてさ
だって聞いてみたくなるんだもん
それってダメなの?
・・・これじゃ、ただのノロケか。
こんな風に思ってるって知られたら
喜んでくれるのかな・・・それともまたぷくってする?
でも実はその顔が一番大好きなんだよね
- 118 名前:リムザ 投稿日:2003年04月22日(火)23時19分28秒
- また、小説が書けたら更新します。
- 119 名前:優しさ 投稿日:2003年04月25日(金)21時23分49秒
- 「ひとみちゃーん、帰りにねぇ〜・・・・」
ガチャッと控え室のドアを開けて中にいるはずの人物に声をかけようとする。
しかし目に飛び込んできた光景に言葉が止まる。
「え・・・」
慌ててドアを閉め直して逃げるように廊下を走りだす。
何今の・・・・
無我夢中で走り、やっと一人っきりになれたTV局の屋上で
締め付けられるような胸の痛みに耐えながらピンクのワンピースの胸元を掴む。
- 120 名前:優しさ 投稿日:2003年04月25日(金)21時24分32秒
【よっすぃ〜がごっちんとキスしてた】
- 121 名前:優しさ 投稿日:2003年04月25日(金)21時25分39秒
- 18歳にもなって自分のコイビトが、自分以外の誰かとキスして居ることぐらい
大したことじゃないって思っていたはずなのに・・・今更何動揺してるんだ私・・・
それにメンバー内で冗談でキスするのは、
挨拶として日常的に繰り返されているので、今更動揺する事でもなんでもない。
事実今まで何とも思わなかった。
・・・・・・・・・なのに。
今日目の前で繰り広げられていた光景はいつものそれと違っていた。
よっすぃ〜自分からキスしてた・・・
どうして・・・?
『梨華ちゃんが悲しむようなことは絶対しないよ?』
そう言ってたのに・・・何で?
わかんないよ・・・
ワンピースをキツく握り締めた指先が、血の気を失って白くなっていく。
- 122 名前:優しさ 投稿日:2003年04月25日(金)21時26分51秒
- 「よすぃ子ぉ。元気ないね?どうしたの?」
「ん・・・最近さ、梨華ちゃんがね、何を考えてるか分からなくて」
つい最近やっと両想いになったと報告を受けた親友が、
どうやら何かに悩んでいるようだと持ち前の観察力を発揮して見破っていた。
ごっちんはテレビ番組の収録後、ふたりっきりになったのを幸いに口火を切った。
「何を考えてるか分からないって・・・さぁ。そんな、相手の考えてることが何でも分かったらツマラナイでしょ?」
肩を落としているよすぃ子の顔をじっと見遣る。
「それはそうだけど・・・ウチの気持ち伝わってるのかな〜って時々心配になる・・・
ウチのことほんとに好きなのかな・・って」
「何それー。そんなふうに相手を信じられない様なよすぃ子じゃないでしょ?
普段は度胸あるくせにさぁ、何をそんなに怖がってんの・・・」
よっすぃ〜とはプライベートでもよく遊んでいるので、梨華ちゃんへの想いを悩んでいた間も勿論ごっちんは知っている。
今回だけじゃなく歌や踊りの悩み事を聞いたことも何度もある。
加入したばかりの時は、4期以外のメンバーとの人間関係だって相談されたりした。
でも、こんなふうに相手のことを信じられなくなっている、よすぃ子は初めてだった。
- 123 名前:優しさ 投稿日:2003年04月25日(金)21時28分20秒
- 「よすぃ子・・・じゃあさ、ごとーで試してみる?梨華ちゃんへの本当の気持ち。」
わずかに聞き取れる足音の主を誰だか判断して、よすぃ子の腕を引っ張る。
「ちょっ・・・・ごっちん??」
強引に引き寄せたよすぃ子の体はバランスを失って、端から見たらよっすぃ〜がごっちんを押し倒しながらキスをしているように見える体勢をとらせる。
それと同時に扉が開く・・・
「ひとみちゃん、帰りさぁ〜・・・え・・・」
言葉を失い立ちつくす梨華ちゃんの顔を、よすぃ子の顔越しに見遣る。
その顔を見たら一目瞭然じゃないか・・・よすぃ子は何をそんなに心配してるんだか
半ば呆れながらよすぃ子を自分から引き剥がす。
「えっ??梨華ちゃん?ちょっ、ちょっと!!」
一人動揺しているよすぃ子の肩をポンポンと叩く。
「ねー?誰が、ほんとに好きじゃないって?あの顔見ても、まだ言える?フォローしに行ってあげなよー。」
「言われなくても、しに行くよっ!!」
よっすぃ〜にしては機敏な動きで控え室を後にする。
不器用な親友の背中へ秘かにエールを送りつつ、控え室にあったポカリを飲んだ。
- 124 名前:優しさ 投稿日:2003年04月25日(金)21時29分01秒
- TV局内のスタッフ数人に目撃情報を聞き、屋上まで階段を駆け上がった。
屋上を見渡すが、誰もいない。
「いないか、・・・・・・・・・・・・・・っと。」
扉を開けた反対側の場所に、梨華ちゃんは壁にもたれて立ちすくんでいた。
「梨華ちゃん・・・?」
ワンピースを握りしめたまま俯いている梨華ちゃんの名前を呼んでみるが、返事はない。
「梨華ちゃん・・・返事して?」
そう言いながら、梨華ちゃんの肩に右手を乗せ、下から顔を覗き込んだ。
「・・・・」
無言のまま顔を背けた梨華ちゃんの頬が、濡れていることに気が付きウチは慌てた。
「梨華ちゃん・・・ゴメン・・・ちゃんと説明するから。泣かないで?」
「・・・泣いてなんかないもん。」
首だけプイッと左を向きながら、そう言って頬を拭った。
「じゃあ、こっち向いてよ・・・梨華ちゃん。」
そっと頬に手を伸ばして、涙を拭おうとするとパシッと弾かれる。
「ひとみちゃん、やっぱり私よりごっちんがいいんでしょ?
だったら遠慮しなくていいから、はっきりそう言ってよっ!!」
- 125 名前:優しさ 投稿日:2003年04月25日(金)21時29分36秒
- きっと睨まれて一瞬ひるんだよっすぃ〜だが、何とか気を取り直す。
「ちがう、そんなんじゃないよ・・・ウチはただ・・・」
涙を溜めた潤んだ目がじっとよっすぃ〜を見つめる。
「ただ、何?」
「だた、最近、梨華ちゃんの気持ちが見えなくて、それをごっちんに相談してたら梨華ちゃんの気持ちを試してみようってことになって・・・」
そこまで黙って聞いていた梨華ちゃんの目が鋭くなる。
「はぁ?何よ、それ・・・私の気持ちって試さなきゃ分からないんだ?他の人とキスしている場面を見せなきゃ分からないんだ?・・・最低。」
冷たくそう言い放った梨華ちゃんは、屋上から下のフロアに降りる階段を目指してスタスタと歩き出す。
よっすぃ〜は慌ててて後を追いかける。
「ゴメン・・・ちょっと待って。だって、ごっちんが・・・」
「ひとみちゃんは結局何でもごっちんの言いなりなんだよねっ!もう、ホント最低!!」
ハッキリ言われて思わず追いかけていた足が止まる。
呆然と立ちつくすよっすぃ〜を尻目に、梨華ちゃんは振り返ることもなく足早に去っていった。
- 126 名前:リムザ 投稿日:2003年04月25日(金)21時30分45秒
- これは短編ですが、まだ続きます。
更新は明日になるかと思います。
- 127 名前:リムザ 投稿日:2003年04月25日(金)21時33分11秒
- 改行とかちゃんとできてなくて、読みづらいですね。
申し訳ないです(^-^;
- 128 名前:優しさ 投稿日:2003年04月27日(日)01時01分56秒
- 次の日、楽屋に普段より遅めに石川がやってくる。
「・・・オハヨ・・・」
小さく呟くように挨拶だけすると、
定位置に着いた石川の異変に気が付いた保田が、そっと近づいて耳打ちするように訊ねる。
「石川、何かあったの?」
「・・・・別に・・・何でもないです。ただの寝不足です。すみません。」
『保田さんはいつもさり気なく心配してくれるのに。』
そうやって誰かに心配して貰えるのは嬉しいことのハズなのに、
今日は素直に喜べずに冷たく突き放すような返事をしてしまった。
「そう。なら良いけど、キツかったら言いなさいね。」
そう言って持ち場に戻っていった保田さんに小さく頷くことしかできない。
保田さんの姿を追うように視線を移動させると、よっすぃ〜の姿が目に入ってきた。
- 129 名前:優しさ 投稿日:2003年04月27日(日)01時02分35秒
- 一瞬だけ合った視線を意図的に石川は逸らす。
今は顔も見たくない・・・というのが正直なところだった。
でもそんな子供じみた理由で、仕事に穴を開けるわけには行かない。
第一そんなことは自分でも許せないから、
なんとか身体を引きずるようにして楽屋まで来たけど、
さっきから正面でじっと私を見ているごっちんには誤魔化しが利かないようだ。
自分のトートバッグから台本を出して、台詞のチェックをしようとしたら。
「おはよぉ。梨華ちゃん・・・ちょっと来てくれる?」
「うん・・・。」
仕方なく台本を置いてごっちんに促されるまま楽屋の外に出る。
- 130 名前:優しさ 投稿日:2003年04月27日(日)01時03分25秒
- ゆっくりとした歩調で歩くごっちんの後に続き、人気のない会議室ののソファーに座る。
「梨華ちゃん・・・今日は帰ったら?」
「えっ??」
弾かれたように石川が顔を上げる。
その顔にすら、昨日あれからどんなに泣いたかが見て取れる。
そんな顔してるのに、ムリしてここに居ろとは言えない。
一人だけ別の収録に参加していると思わせればいい。
「昨夜のことはさ、ごとーが仕掛けたことだからよすぃ子を許してやってよ?」
「ごっちんが仕掛けた?え?どうして?」
それまで黙っていた石川がやっと重い口を開いた。
- 131 名前:優しさ 投稿日:2003年04月27日(日)01時04分12秒
- 「うん、よすぃ子が梨華ちゃんの気持ちが見えないって相談してきて・・・」
「私の気持ち?・・・だからって人の気持ち試して良いの?」
「そういうわけじゃないんだけど・・・」
「それはひとみちゃんと私の問題で、ごっちんには関係ないじゃない!」
「でもさ。ごとーは親友の二人には仲良くなってて欲しいと思ったんだ。」
「余計なお世話だよ・・・信じられない・・・分かった、帰る。」
そう言ってふらっと立ち上がった石川は、そのまま振り向きもせずに会議室を後にする。
- 132 名前:優しさ 投稿日:2003年04月27日(日)01時04分57秒
- 「梨華ちゃんマジギレしちゃった。ヤバかったかなぁ・・・」
自分が、諸悪の根元だと自覚はしていたものの、
二人を不幸にしようと思ってお節介を焼いたわけではなかったのに・・・
「よすぃ子になんて説明すれば良いのさ・・・」
きっと今も不安な気持ちでスタジオの中にいる吉澤を考えると、
どうして良いのか流石の後藤も分からなくなってくる。
すっかり収録どころじゃなくなってしまった。
元はと言えば自分が全て悪いのか?
「折角、ごとーが良いアイディアだと思ったのに。よすぃ子のバカー。」
と頬を膨らます彼女が、実は1番手が掛かるって事を分かっていない後藤自身なのであった。
- 133 名前:rimuza 投稿日:2003年04月27日(日)01時05分39秒
- 本日分の更新終了です。
- 134 名前:リムザ 投稿日:2003年04月29日(火)02時55分28秒
- 「ごっちん・・・梨華ちゃんまだ怒ってた?」
スタジオに戻るとよすぃ子が心配そうな顔で訊ねてくる。
「あぁ・・・ちょっと手に負えないってカンジ・・・」
「手に負えないって・・・そんなぁ〜・・・あ、梨華ちゃんは?」
「ん?あんな顔色悪いのに、収録なんてさせられないから帰らせたよ。飯田さんにも言った。」
「そっか・・・」
そこで会話を終えるとそれぞれの持ち場に戻り、練習を始める。
結局は吉澤も使いものにならなくて、マネージャーの一声で収録は早々に切り上げられた。
普段はのんびりと楽屋で辻や加護と話している吉澤だが、
今日ばかりはそそくさと身支度をして誰よりも先に楽屋を後にした。
- 135 名前:リムザ 投稿日:2003年04月29日(火)02時56分16秒
- そのまま、まっすぐ石川の一人暮らしをしているマンションに向かう。
辿り着いたマンションでは石川の姿どころか灯りもついていなかった。
「どこいったんだろう・・・」
落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせながら、携帯に電話をしてみるが繋がらない。
「はぁ・・・ホントにどうすれば良いんだか分かんないよ・・・」
人知れず呟き、部屋の扉に背中を預けてしゃがみ込む。
- 136 名前:リムザ 投稿日:2003年04月29日(火)02時57分09秒
梨華ちゃんの事を疑っていたわけじゃないのに・・・
ただ自分に自信が持てなかったんだ。
それは今でも変わらなくって・・・
梨華ちゃんが自分のことを好きだと言ってくれていたことが・・・何だか奇跡のように思えて仕方なかったんだ。
だから、梨華ちゃんの気持ちを試そうとかそんなんじゃなかったハズなのに、
梨華ちゃんの前になると上手く自分の気持ちを伝えることが出来ない。
「はぁ・・・」
もう何度目か分からないため息をついた頃、足音がきこえてきてはっとして顔を上げる。
- 137 名前:リムザ 投稿日:2003年04月29日(火)02時58分51秒
- 「・・・何やってるのそんなところで・・・」
冷たく抑揚のない声が響く。
「あ、ごめんっ。梨華ちゃんとちゃんと話がしたくて・・・待ってた。」
「誰に見られるかわからないじゃない?合鍵持ってるでしょ?入ればいいのに・・・」
イライラした口調で言いながら、石川はドアの鍵を開け中に入ろうと扉を開く。
「ほら、入ってよ・・・」
口調からもどんなに怒っているかが分かって、怖じ気づきそうになる。
普段、ここまで吉澤に怒ることはまずないからだ。
- 138 名前:リムザ 投稿日:2003年04月29日(火)02時59分28秒
- 本日分更新終了です。
- 139 名前:優しさ 投稿日:2003年04月30日(水)10時35分25秒
- 片づけられた室内に入り所在なさ気に立ちつくしていると、
冷蔵庫から取り出したペットボトルを自分に押しつけて梨華ちゃんはソファーに座る。
いつもなら、1本を2つのグラスに注ぐ石川が、それをしなかった。
「立ってないで、座りなよ。」
「うん・・・」
キャップを開けて、ペットボトルのオレンジジュースをそのまま飲み始める。
「梨華ちゃん・・・ホントゴメン。
ウチさ、梨華ちゃんの気持ちを疑ってたわけじゃなくて・・・自分に自信がなかっただけなんだよ。
なのに、梨華ちゃんを不安にさせるようなことになちゃって・・・・」
同じジュースを一口飲んだ後、静かにウチの言葉を聞いていた梨華ちゃんがゆっくりと口を開いた。
「ナニソレ・・・私、そんな自信の無いよっすぃ〜嫌いだよっ!!
私が好きになった人なんだから自信持ってよ!!そうじゃなきゃ私は一体どうすればいいの?」
「う・・・」
- 140 名前:優しさ 投稿日:2003年04月30日(水)10時36分17秒
「あのねーもっと自信持ってよ?私が好きなのはよっすぃ〜だけなのっ!!
今度私のこと試すような事したらホントにもうバイバイだからねっ!!」
「今度って・・・許してくれるの?」
情けなくもそんなふうに訊ねると、ぷくっと頬を膨らませて
「許すもなにも、そんなに簡単によっすぃ〜のこと嫌いになれないもん・・・
もぅ、よっすぃ〜のバカ・・・」
涙声でそう言って抱きつき、バシバシと胸を叩かれる。
「梨華ちゃんッ・・・・・痛いってば・・・ホントごめん?ウチ、馬鹿だよね・・・」
「もぅ・・・ホントにごっちんに乗り換えたのかと思ったんだからねっ!!」
「そんな・・・梨華ちゃんとごっちんなんて違いすぎるでしょ?
第一、そーゆー対象にごっちんは見れないから安心して?
ウチは梨華ちゃんだけで手一杯だよ。」
そうウチが呟くと、涙を溜めていたはずの目でキッと梨華ちゃんが睨んでくる。
- 141 名前:優しさ 投稿日:2003年04月30日(水)10時37分23秒
- 「手一杯って何よ??それっヒドくないっ??」
「あははは、ゴメンゴメン・・・言い方が悪かった。
じゃ、梨華ちゃんに夢中で他には目がいきません・・とでも言っておきましょうか?
それで許してくれる?ねぇ、ダメ?本当にウチが好きなのは梨華ちゃんだけなんだ。」
「・・・・・・」
「ダメ?」
「ううん。もう、仕方ないな・・・許してあげる。その代わりに今夜は私が良いって言うまで奉仕してね?」
ニッコリと微笑む梨華ちゃんに釣られ、コクリと頷いてしまった。
「って、え?」
- 142 名前:優しさ 投稿日:2003年04月30日(水)10時37分55秒
- 「ふふ・・やった♪最近全然して無かったもんね」
そのまま馬乗りの梨華ちゃんに押し倒される。
「ちょっ・・・・梨華ちゃん、ジュースッ!!」
ソファーに頭をしたたか打ち付けながら慌てて抗議する。
「ハイハイ。ジュースはこっち置いて〜♪」
器用に俺の手からジュースを奪い、テーブルに置くとシャツのボタンを外しにかかる。
「梨華ちゃん・・・ホンキなのね・・・それに、いつもと逆じゃ・・・」
「いーの、いーの!夜は長いよっ!ポジティブポジティブ!!」
半ば諦めながら覚悟を決めて、梨華ちゃんの背中に手を回した。
- 143 名前:リムザ 投稿日:2003年04月30日(水)10時39分48秒
- 「優しさ」終了です。
たった今気がつきました。
134-137は名前が入ってますが、「優しさ」の続きです。
- 144 名前:サイレンス 投稿日:2003年04月30日(水)18時35分38秒
- 更新お疲れ様でした。
前回の話のこと残念でしたが今回の作品も
楽しいです。
いらぬレスでしたら謝りますが…
続きも読ませてほしいです。
- 145 名前:LOVEチャーミー 投稿日:2003年06月17日(火)23時05分11秒
- 続き待ってますよ・・・
- 146 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時14分18秒
- 深夜、恒例のようにケイタイが鳴る。
画面を見なくても、着信音で相手は誰だか分かってしまう。
本来かかっていたら嬉しいはずの相手なのに思わず溜息が漏れる。
「・・・ハイ」
通話ボタンを押したと同時に、ものすごい騒がしい音が聞こえてくる。
「よっすぃ〜??チャーミーよ♪なんかさぁー飲み過ぎちゃった〜迎えに来てよ」
上機嫌の梨華ちゃんは当然のように言い放つ。
携帯の向こうから、聞いたことがある数種類の声が聞こえる。
『キャハハハハ!チャーミー言うなって!よっすぃ〜も今から来ればいいじゃん!』
『矢口!アンタ酔ってるでしょ?』
『圭ちゃんさー、うちの矢口に絡まんといてやー。あっ!香織がもう寝とるやないか!』
「・・・・・・」
最近ほぼ毎日だよな・・・
- 147 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時15分20秒
- ウチは明け方でも容赦なく呼び出されて、梨華ちゃんを迎えに行くための車を走らせる。
ツアーの合間に取ったばかりの免許は、まだ一度もドライブで使われていない。
少しだけ仕事も落ち着いて2人でのんびり過ごしたいと思っているのに、梨華ちゃんは毎日のように出掛けてしまう。
折角、一人暮らしも始めて18歳をスタートしたのに。
ウチとは一緒にいたくないのかな・・・
・・・ウチって一体何?
なんて考えちゃいけないって思うけど、こう毎晩だと考えずにもいられなくなる。
「よっすぃ〜?早く来てよね?待ってるからね。」
まだ迎えに行くとも言っていないのにそう言って一方的に電話を切られる。
・・・惚れた弱みと言えばそれまでなんだろうけど。
疑問に感じつつも、ノコノコ迎えに行く自分をどうかと思う。
- 148 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時15分50秒
いっそ迎えに行かなければ・・・
そしたら梨華ちゃんはどうするんだろう?
マスコミに騒がれないようタクシーで帰りたくないとは言ってたけど。
そのまま保田さんの家に泊めてもらうのかな・・・
他の誰かに送ってもらうのかな・・・
そんなこと考えたくない・・・
驚くほど梨華ちゃんに固執していることに驚く。
「はぁ〜・・・・重傷だ・・・」
情けなく呟きつつもコートと車のキーを手にして部屋を出る。
保田さんが住むマンションの地下駐車場に着いたものの、梨華ちゃんの姿はなかった。
- 149 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時16分30秒
「・・・なんだよ、早く来いって言ったクセに・・・」
愚痴りながらシートに身を沈めて目を閉じる。
部屋を訪ねようかとも思ったが、以前そのまま引っ張られて朝まで皆と騒いだ。
別に他のメンバーが嫌いではない。
ただ、免許取りたてなのに飲酒運転をしたくない。
メンバーや事務所だけでなく、家族にだって迷惑が掛かる。
それに・・・お酒ってあまり好きじゃない。
どのくらい経っただろうか、『コンコン』と窓を叩く音に気が付いて目を開ける。
窓の外には梨華ちゃんと保田さんが見える。
- 150 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時17分39秒
パワーウィンドウを下げて、保田さんにお礼を言う。
「すみません。遅くまでお邪魔していて・・・」
「アンタが謝る必要ないわよ。今日は裕ちゃんと矢口が石川誘って来てくれたの。
私が卒業前に不安にならないようにってさ、楽しかったわ。
ただ、石川から直接聞いたけど、最近かなり夜遊びしてるみたいで心配よ。」
「昨日は柴ちゃんと遊んでいたらしいんですけど・・・」
運転席に身を乗り出して、保田さんは小声で言った。
「優しすぎるのも良くないと思うわよ、私は。」
「そう・・・ですね。」
- 151 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時18分55秒
- 「二人で何、コソコソ喋ってるんですかぁ?」
「気をつけてって言っただけよ。さぁ、早く乗りなさいね。」
ドアのロックを解除すると梨華ちゃんが車に乗り込んでくる。
「んじゃ〜バイバーイ♪」
保田さんに手を振ってから、ドアを閉めてウチの方に向き直る。
「よっすぃ〜、いつもアリガト♪」
「・・・・・・」
なぜだか無邪気に微笑む梨華ちゃんの顔を
真っ直ぐ見られなくて、無言で車を走り出させる。
保田さんへ向けて、お礼のクラクションを軽く鳴らすのが精一杯だった。
- 152 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時19分46秒
- 「・・・それでね、矢口さん達がさぁ〜・・・」
酔った梨華ちゃんは普段より一際饒舌になる。
ウチが上の空で相槌を打とうが関係ないみたいだ。
「・・・・・・・・だと思わない?・・・よっすぃ〜・・・よっすぃ〜ってばっ!!!」
「なっなに??」
「さっきから全然話聞いてないでしょ??」
・・・確かに聞いてなかった。
正直言うと聞きたくなかった。
ウチ以外の誰かと梨華ちゃんがどんな風に楽しく遊んだかなんて聞きたくない。
「・・・聞いてるよ」
思わず憮然とした声で応えてしまう。
- 153 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時20分44秒
- 「ウソだよっ!!全然聞いてなかったでしょ?酷いよっ!折角人が話してるのにっ!!」
梨華ちゃんが早口でまくし立てる。
「・・・・あのさ・・・梨華ちゃんが他の人と遊んで、
どんなに楽しかったかなんて話聞いてウチが楽しいと思う?ウチってなんな訳?」
ついポロッと言ってはいけない言葉が口をついて出る。
「はぁ?ナニ・・・それ・・・くっだらないなぁ〜」
「くだらない??・・・そうか、ウチにとってはすごい重要な問題なんだけど?
梨華ちゃんはそう思ってるんだ?だったらもう話聞きたくないから降りてよ・・・」
- 154 名前:Reversal 投稿日:2003年06月21日(土)19時21分43秒
「よっすぃ〜??何言ってるの?」
「降りてって言ってるのが分からないの?!タクシー拾えばいいじゃない?」
胸に渦巻く訳の分からない憤りに自然と口調がきつくなる。
「なっ・・なんなのっ!!ワケ分かんないよっ・・・・」
「うるさい・・・降りろっ!」
今はとにかくこの空間に一緒に居たくなかった。
「・・・分かったよ・・・ごめん。」
ポツリと呟いて梨華ちゃんは車を降りた。
- 155 名前:リムザ 投稿日:2003年06月21日(土)19時41分55秒
- 久しぶりにスレを覗いたら残っていたので急いで書き上げました。
シリアスいしよしの「Reversal」です。
長編まではいきませんが、ある程度の長さになると思います。
>サイレンスさん
いつもお声を掛けていただき恐縮です。
他の方のカキコがなかったら、
削除依頼を出そうと思っていたので、こうして作品を出すきっかけとなってます。
ただ、優しさはあの状態で最後ですので、続きはありません。
これからは小説の最後に「終わり」と入れます。
>LOVEチャーミーさん
はじめまして。
優しさの続きはありません。あのまま流れた状態で終わりです。
また今回の作品にもお付き合いいただければ、と思います。
- 156 名前:2 投稿日:2003年07月07日(月)23時56分22秒
- 「もう、なんなのよ・・・」
普段余程の事が無い限り怒らないよっすぃ〜があんなに怒った理由がわからない。
なぜこんな真夜中に一人歩いて家路を急ぐのか、どんどん腹が立ってきた。
「私が、なにしたってゆーのよっ・・・っとにムカツク〜」
イライラしながら言葉を吐き捨てる。
ふと目の前を空車のタクシーが通り過ぎるが見送った。
ここからだと歩いてどのくらいかかるかわからない・・・
だってここはよっすぃ〜の家の近くだったから。
あーあ、せっかくよっすぃ〜の家に行ったら飲みなおそうと思ってたのに・・・
ふと携帯を見るとすでに電車が走り始めている時刻になっていることを知らせている。
「仕方ない、自分の家へ電車で帰ろ・・・」
そうつぶやいて目深に帽子を被り、地下鉄の階段を下っていった。
- 157 名前:2 投稿日:2003年07月07日(月)23時57分06秒
ここ数日、よっすぃ〜からの連絡が一切無い。
メールも電話も・・・
カントリー娘。の仕事があったり、お互いにラジオの収録があったりと、
仕事が一緒にならない日が続いてあれ以来、吉澤とは顔を合わせていなかった。
仕事が無くてもどちらからともなく誘い合って一緒に出かけていたのに、
その誘いも無いどころか、まるで日課のように繰り返されてきたメールすら送られてこないのだ。
「やっばいな〜・・・そんなに怒ってるのかな・・・」
さすがに落ちつかなくなってきた。
「そうだ!宅配の花屋さんのふりをして家へ行ってみよっ!」
悶々とソファーで一人思い悩んでいた梨華ちゃんは、
これぞ名案といわんばかりに頷いて立ち上がり部屋を後にする。
- 158 名前:2 投稿日:2003年07月07日(月)23時57分44秒
- お詫びの意味も含めた花束を持ち、インターフォンを鳴らして扉の前で待つ。
・・・・・・無視。そうだね、芸能人だもんね、私達。
ハイハイ!って印鑑もってすぐには出ないよね。
こういうとき、配達の人はどうするのかしら?
あ、自宅に電話するとか言うわよね。
携帯、出てくれるかな。無視されたら嫌だもんなぁ。
・・・いいや、開けちゃえ。
結局、合鍵で勝手に上がりこんだ。
さてと・・・まるで自分の家のように慣れた足取りで室内に入り、迷わず居間への扉の前に立つ。
「よっすぃ〜?居る?」
ノックをしてから声をかけると、少し間をおいて扉が開かれる。
「・・・何しにきたの?」
- 159 名前:2 投稿日:2003年07月07日(月)23時58分24秒
- いつも梨華ちゃんを見守るように微笑んでいるはずのよっすぃ〜の顔は、
感情が読み取れないほど 冷たいものだった。
「何しにって・・・あ、あのね綺麗な花束を知り合いの人からもらったからね・・・
ほらよっすぃ〜この花が好きだって言ってたでしょ?」
梨華ちゃんはそんなよっすぃ〜にひるむことなく、
自分で買った花束を見せて、笑顔を投げかける。
「・・・要らない。」
「え?」
「・・・だから、要らないって言ってるんだよ。知り合いの人に悪いでしょ?
用はそれだけ?ウチ夕べ遅くて寝てないんだ・・・じゃ。」
そう言ってパタンと鼻先でドアを閉められてしまい、呆然と立ち尽くす。
「ウソ・・・まだ怒ってる。どうしよう・・・」
ここに来てはじめて事の重大さに気がついた石川だった。
どうしよう・・・
よっすぃ〜すっごい怒ってるよ。
- 160 名前:2 投稿日:2003年07月07日(月)23時58分57秒
- そのまま帰る気にもなれなくて、仕方なく隣の寝室のベッドに座り、
膝を抱えてその上に顎を乗せたまま、DVDを勝手に再生して見始める。
字幕無しのアメリカの映画をぼんやりと眺めていると、背後で物音がした。
思わず振り返ると、丁度よっすぃ〜が寝室のドアを開けたところだった。
「・・・・・・・」
「あれっ、よっすぃ〜どっか行くの?」
すかさず梨華ちゃんが立ち上がり近づくが、よっすぃ〜はそれに構わず大股で玄関へと向かう。
「・・・・・・・」
「よっすぃ〜、ちょっと待ってよ!!」
- 161 名前:2 投稿日:2003年07月07日(月)23時59分34秒
- 背中を向けて靴を履いているよっすぃ〜の背中からは拒絶の空気が漂っている。
それ以上声を掛けられなくなった梨華ちゃんが呆然と立ちつくしていると、
わずかに横顔を見せたよっすぃ〜が呟くように小さな声を発した。
「もう、付き合えない・・・暫く放って置いて・・・」
「えっ・・・よっすぃ〜・・・何言ってるの?」
「もう、梨華ちゃんのワガママには付き合えない・・・
ワガママも梨華ちゃんの魅力の内だってずっと思ってたけど・・・ごめん、もう限界なんだ」
それだけ一方的に言うとよっすぃ〜は扉を開けて出て行ってしまった。
「うそ・・・」
- 162 名前:2 投稿日:2003年07月08日(火)00時00分04秒
- 耳にした言葉をまるで理解できなかったかのように、何度も何度も頭の中で繰り返す。
自分がワガママ言ってたのは何となく分かってた。
でも、それはよっすぃ〜限定で・・・
よっすぃ〜には素の自分を見せていたつもりだったのに・・・
取り繕って付き合うのなんて自分に合ってないって思ってたし、
よっすぃ〜だってそこが良いっていつも言ってくれてたから・・・でも調子に乗りすぎちゃったのかな。
「あは・・・・」
自分でもなんだかおかしくて乾いた笑いを漏らす。
「あーあ、愛想尽かされちゃった・・・」
体から全身から力が抜けて玄関に座り込んだ。
- 163 名前:リムザ 投稿日:2003年07月08日(火)00時01分35秒
- 反応がないようなので、スレの削除依頼を出そうかと思っています。
ただ、書き上げた分だけ投稿しました。
- 164 名前:ちょっ 投稿日:2003年07月08日(火)00時23分09秒
- ちょっとまってくださいよー。
楽しく読ませていただいてます。
読むだけで感想も書かずにスミマセン(反省)
よっすぃ〜いつまで意地張るの?
梨華ちゃんの巻き返し期待してます。
是非続きを・・・・
- 165 名前:よしフリーク 投稿日:2003年07月08日(火)00時31分50秒
- 最初の作品の続きが気になります。
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月10日(木)13時31分02秒
- 反応がないから削除とかってのはちょっと違うんじゃないかな。
まぁ、もちろん完全に読者無視ってわけにはいかないけど、
スレを立てたら最後まで使い切るってのはここのルールなわけだから。
そんなんで依頼出しても認められないと思うよ。
- 167 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月12日(土)14時41分44秒
- わがまま
- 168 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年07月13日(日)09時40分12秒
- わがままな梨華ちゃんという設定がめずらしいし、展開が自分好みなんでつづきが楽しみです
がんばってほしいな
- 169 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時23分41秒
- 「もう付き合えない・・・」
ウチがそういったとき梨華ちゃんはどんな顔をしてた?
部屋を出て車のエンジンをかけて当ても無くをひた走る。
気が付くといつか二人で行った海が見えてきた。
・・・ウチの言葉で傷つく梨華ちゃんが見たくなくて背中を向けたまま呟いた。
『梨華ちゃんが傷つくことが無いように・・・』
いつでも一番傍に居て見守っていてあげたいと思っていた。
でも段々その思いが通じてないんじゃないかと思えてきて・・・
自分は、都合のいいときにだけ居れば梨華ちゃんにとってはそれで良いんじゃないか。
それは一見必要とされているようで、実はただそれだけに過ぎない存在。
必要の無いときは居なくていい・・・むしろそのときのほうが多いんじゃないかって
段々思い始めたら報われない片想いをいつまでも続けているような気分になってきた。
梨華ちゃんの一番になりたい
梨華ちゃんにとっての唯一かけがえの無い存在になりたい
そう思ってもそれは叶わぬ夢なのかも・・・
- 170 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時24分17秒
ふと気がついたとき、梨華ちゃんへの想いに対して見返りを求めている自分が居た。
こんなに想っているのに・・・って一番考えたくないことを、最近はいつもいつも考えていた。
そのうち、梨華ちゃんしか見えない自分は
梨華ちゃんを閉じ込めて誰の目にも触れさないで永久に自分だけのモノにしたら・・・
そうしたら、自分を愛してくれるのかなってそんな事まで考えるようになっていた。
梨華ちゃんがして欲しいって言うコトなら何でも出来そうな気がした。
恋は盲目って言う言葉があるけどまさにそれだと思う。
・・・・・・こんなにハマッている自分が恐い。
- 171 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時24分59秒
- いつかホントに梨華ちゃんを、この手でどうにかしてしまいそうな恐ろしい感情が生まれる前に、梨華ちゃんから離れた方が良いんだ・・・
今が丁度良い機会なんだ・・・
危うい方向へと進んでいきそうな思考を振り切るように、首を振った時目の前に突然白い物体が現れた。
「あっ犬っ・・・・あぶないっ」
その白い犬を避けるように慌ててハンドルを切る。
それと同時にけたたましい金属の摩擦音が上がり車がスリップして、無意識のうちによっすぃ〜の体は黒いアスファルトに投げ出されていた。
- 172 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時25分38秒
- いつの間にか、室内に西日が差し始めていた。
シーンと静まり返った部屋の中で、梨華ちゃんは一人ソファーで膝を抱えて焦点の合わない視線を彷徨わせていた。
その時唐突に沈黙を破って電話のベルが鳴った。
本来の部屋の主は不在なので、とりあえずのろのろと立ち上がって梨華ちゃんは電話を取る。
「・・・もしもし」
それは、警察からの決して現実として受け止めたくない連絡だった。
「え・・・警察?・・・事故?」
よっすぃ〜が事故??
耳に飛び込んできた言葉を頭の中で反芻する。
「ハイ・・・今は誰も・・・ええ、ワカリマシタ。私が行きますので・・・」
必死に手の震えを抑えるように受話器を置く。
行かなくちゃ・・・
よっすぃ〜が待ってる。
きっと、待ってるよ・・・
半ば無意識に、テーブルの上に置いてあった財布と携帯を掴み、部屋を出た。
すぐさまタクシーを呼んで、警察から教えて貰った病院を運転手へ告げた。
- 173 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時26分25秒
- 「よっすぃ〜!!」
スライド式のドアを一気に開けてなりふり構わずその名前を呼ぶ。
ベッドには真っ白な包帯をあちこちに巻かれているよっすぃ〜の姿があった。
「よっすぃ〜!!ダイジョウブ??」
慌てて走ってきて乱れた呼吸を整えるように肩で息をしながらよっすぃ〜の顔をのぞき込む。
「・・・大したこと無いから・・・」
よっすぃ〜はそれだけ言うと、ふいっと顔を背ける。
「え・・・よっすぃ〜・・・」
「大したこと無いから帰って・・・」
いつも自分に掛けてくれていた優しいよっすぃ〜の声とは、
全く違う冷たくどこか突き放すような声に梨華ちゃんの動きが止まる。
確かについ何時間か前に自分は振られたけど、今はそんなこと関係ないと思っていたのに・・・
- 174 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時26分59秒
- 大したこと無いと言っているよっすぃ〜の体のあちこちには
チューブが繋がれ、腕にはギブスがはめられている。
「よっすぃ〜・・・腕・・・」
芸能人であるよっすぃ〜にとって腕は何より大切なモノの1つだ。
免許を取得したばかりで趣味となったドライブも、当分無理だろう。
おずおずと手を伸ばしてソレに触れようとすると、更に冷たい声が降ってきた。
「いいから、帰って・・・」
視線を合わせようとしないよっすぃ〜に、梨華ちゃんは絶望的な気分になる。
こんなにも辛そうなときに自分が必要とされていないなんて・・・
本当にこの恋が終わったことを実感した。
- 175 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時27分47秒
- 「分かった・・・ごめんね?・・・代わりにマネージャー呼ぶから・・・じゃ・・」
こみ上げてくる辛さに声がうわずり、立っているのもやっとなほど足下が震えてきた。
それをよっすぃ〜に見せたくなくて慌てて病室を出る。
病院の玄関を出て、待合室の椅子に座り携帯を取り出してマネージャーに電話を掛ける。
「もしもし・・?よっすぃ〜がね・・・事故っちゃったんだ・・・。
うん、今病院。場所は・・・マネージャーのこと呼んでるから来てあげて?」
それだけ言うと、一方的に電話を切る。
「ホントに・・・終わっちゃった・・・」
そう口に出すと、知らずに涙がこぼれてきた。
- 176 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時28分17秒
- それから毎日、梨華ちゃんはよっすぃ〜の病室を訪れた。
しかし病室に居るはずのよっすぃ〜に逢うことは出来ず、
いつもドアの外から様子をうかがったり、
医師や看護婦に怪我の経過を訊ねることしかできなかった。
あんなふうに突き放されてまでのうのうと逢いに行けるほどおめでたい性格ではなかった。
今は仕事のスケジュールを可能な限り調整したマネージャーが交代で付きっきりとなり、よっすぃ〜の看病をしていたが、ドアの向こうから聞こえてくる楽しげな声は、まさしくもう自分は必要ない存在のなのだと思い知らされているような気分だ。
もうダメだ・・・もうここには居られない。
痛切に感じながらも、気が付けば今日も病室の前に足を運んでいる自分が居る。
そして、時折聞こえてくる大好きだったよっすぃ〜の優しい声を
記憶に焼き付けるように息をひそめてたたずむ。
「・・・よっすぃ〜、梨華ちゃんの事どうするの?」
- 177 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時28分47秒
- 漏れ伝わってきたのは矢口さんの声だった。
マネージャーを追い出して、心配で本音を聞いてくれた。
「・・・もう、終わったんです。」
「終わったってなんだよっ!!
オイラは、よっすぃ〜が梨華ちゃんのこと幸せにするって言ったから
見守っていたのに?!なんだよ、それっ!!」
語気の荒い矢口さんの声とは裏腹なヤケに落ち着いた声がその後に続く。
「ウチには梨華ちゃんを幸せにすることは出来ないんですよ・・・矢口さん・・・」
- 178 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時31分43秒
- それ以上聞いていられなくて踵を返して来た道を戻ろうとしたとき、辻加護とすれ違った。
「あ、梨華ちゃん。よっすぃ〜のお見舞いに来たん?」
「よっすぃ〜は頑丈だから、あのケガで済んだのかも・・・」
屈託無く話しかけてくる加護と辻は、
よっすぃ〜と私がどうなったかをまだ知らない。
「・・・うん」
小さく頷き曖昧な笑みを浮かべて梨華ちゃんは通り過ぎる。
「あ・・梨華ちゃんや・・・」
足を止めることなく立ち去った梨華ちゃんを見送りながら
加護は腑に落ちない表情で病室に入る。
- 179 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時32分43秒
- 「よっすぃ〜、来たで〜♪♪今そこで梨華ちゃんとすれ違ったんやけど、なんや暗い顔して様子おかしかったわ〜・・・またイジメたんやろ?」
「え?梨華ちゃんが?」
矢口さんが反応するより早く、よっすぃ〜が怪訝そうに訊ねる。
追いかけるように矢口さんが答えた。
「え?・・・梨華ちゃんはずっと来てないよ?オイラはずっとここにいたし・・・ねぇ?よっすぃ〜」
「ああ、そうだよ・・・」
「そっかーなんや梨華ちゃんここまで来といてオカシイの・・・
あ、そうそう今日はな〜新発売の中華マン買ってきたで?
矢口さんはいらんと思ったからホラこれよっすぃ〜の分♪」
加護はコンビニの袋からせっせと中華マンを取り出しよっすぃ〜に差し出す。
「・・・・ありがと・・」
「なんや・・・梨華ちゃんと同じ様な顔しとるで?傷痛むんか?」
「いや、そうじゃないけど・・・」
そう言って誤魔化すように首を振って、
窓の方へと視線を流すと窓の向こう側に見える建物に見慣れた姿が飛び込んできた。
- 180 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時33分44秒
- 「えっ?・・・梨華ちゃん?」
よっすぃ〜の声に釣られて矢口さんが振り向く。
「どうしてあんな所に・・・・えっ・・・ちょっとっ!!」
- 181 名前:3 投稿日:2003年07月27日(日)23時34分50秒
- 視界に飛び込んできたのは、
梨華ちゃんが向かい側の病棟の屋上のフェンスに手を掛けて飛び越えようとしている所だった。
「梨華ちゃん・・・・何してるんだっ!」
よっすぃ〜は体に繋がる様々な管の動きを阻まれて動きが取れない、
それを見るより早く矢口さんが部屋を飛び出していった。
「全く!どいつもこいつも身勝手なんだから!!」
- 182 名前:リムザ 投稿日:2003年07月27日(日)23時42分10秒
- 3話目更新終了です。
一気に投稿したせいでageてしまった・・・
>ちょっさん
お言葉ありがとうございました。
お蔭で一気に書き上げることができ、今後も続けようと思います。
嬉しかったです。
>よしフリークさん
以前にカキコしましたが、ネタ帳を無くしてしまい書けません。
頭の中に収まりきらなかったのと、
今回の話を考えていてメモをしていたので、市井さんネタとか出てきません。
ご了承して下さい・・・申し訳(ry
>166名無しさん
冷静なご意見ありがとうございます。
続投となりました。
>167名無しさん
ですね(w
>ラヴ梨〜さん
話が変わったのにレスありがとうございます。
個人的にワガママな石川さんと、
大人でクールだけど表現ヘタな吉澤さん風味に仕立てる予定です。
- 183 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時50分03秒
- 「よっすぃ〜・・・・」
一人になりたくて病棟の屋上へと上がってきた梨華ちゃんは柵に手を付いてそれを跨いだ。
ふと自分の手を見るとよっすぃ〜から送られたシルバーのリングが鈍い光を放っていた。
それを貰ったときの子供みたいに喜んだ自分の姿を思い出す。
「コレ・・・いつまでも持っててもしょうがないよね・・」
指から外して空に向かって投げようとするが、なぜだか手から放れていこうとしない。
「・・・・捨てられないや・・・よっすぃ〜からもらったんだもん・・・」
力無く呟いて、梨華ちゃんはその場にしゃがみ込んだ。
- 184 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時51分00秒
- 「梨華ちゃん!!そんな所で何してんだよ!?」
矢口さんは屋上へと続く扉を開け放ち大きな声を上げる。
「矢口さん・・・」
振り向いた梨華ちゃんの顔はいつもの明るさはなく痛々しい笑みに覆われていた。
「梨華ちゃん、そんなところにいたら危ないよ?こっちにおいで?」
まるで子供にでも言い聞かせるかのように優しく矢口が言葉を掛ける。
「あははは、そうだね・・・ワタシ何やってるんだろう」
そう言って取り繕った笑顔を浮かべた後梨華ちゃんは
再びフェンスを越えてこちらにもどってきた。
- 185 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時51分32秒
「何やってるの・・・オイラの寿命縮めるつもり?」
感情を失った人形のように体温の感じられない梨華ちゃんを両腕で抱きしめた矢口は、
頭をポンポンと叩き、わざと軽い口調で言いながら顔をのぞき込んだ。
それに石川が一気に話す
「・・・よっすぃ〜から聞いたでしょ?ワタシね、よっすぃ〜に嫌われちゃったの・・・
だからね、何も分からなくなっちゃえばいいのに・・・もう、全部サヨナラしたい・・・って思って・・・よっすぃ〜に冷たくされるなら、全て要らないって思ったんです。」
「馬鹿・・・そんなコトしてもなんの解決にもならないよ?
どうしてそうなったか理由は分かってるの?」
矢口の問いかけに梨華ちゃんはコクリと頷く。
- 186 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時52分45秒
- 「分かってるなら直せばいいんじゃない?」
「え?」
至極当たり前のように言い放った自分の言葉が、
理解できないでいる表情の梨華ちゃんに矢口は笑みを漏らす。
「梨華ちゃんはよっすぃ〜のこと好きなんでしょ?
だったらそのまま好きで良いんじゃない?
梨華ちゃんはドコを直せばいいのかもちゃんと分かってるんでしょ?
だったらそこを直せばいいじゃないの?それでもう一度よっすぃ〜を振り向かせてみれば?」
「そんなのムリです・・・」
うなだれて下を向いた梨華ちゃんの両頬を矢口は掌で包み込む。
「最初からムリって思ってたらダメだよ。甘ったれてんじゃねーよ!
よっすぃ〜が他の誰かと楽しそうにしてるの傍で見たくないでしょ?
だったら頑張らなきゃ。
よっすぃ〜が振り向いてくれるようにって・・・そしたらきっと大丈夫だよ。」
「そう・・・ですか?」
- 187 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時53分17秒
「そうだよ。オイラの言うことを信じなさい」
「クスッ・・矢口さんは、根拠のないところで自信家ですよね?」
やっと本当の笑みを漏らした梨華ちゃんの顔に矢口がホッとする。
「やっと笑ったね・・・・じゃ、頑張れる?
辛くなったら愚痴ぐらいいつでもオイラが聞くから。
あんなカッケー奴に愛されてるだけで、もっと自分に自信を持てよ!!」
「矢口さんありがとう・・・頑張ってみます。」
ニッコリと微笑んだ梨華ちゃんの左手にはよっすぃ〜から送られたシルバーリングが
その決心を表すかのようにしっかりと握られていた。
- 188 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時54分38秒
TV局の控え室のドアを開ける前に深呼吸をする。
よっすぃ〜はしばらく娘。を休んでいて、
脱退の噂や三流ゴシップにないこと書かれたけど、戻ってきた。
せーの・・・心の中でそう呟いた後、二人分の缶コーヒーを片手にドアを開けた。
「・・・よっすぃ〜〜コーヒーいらない?」
控え室の中にいるのはよっすぃ〜だけと分かっていた梨華ちゃんは、
何か話すきっかけが欲しくて缶コーヒーを二人分買って勇気を出して声をかけて見た。
しばらくの間の後
「・・・・いらない・・・」
たった一言だけで梨華ちゃんの計画は脆くも崩れ去った。
- 189 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時55分31秒
「あ・・・そう?・・・じゃ・・・じゃあここ置いておくから
もし飲みたくなったら遠慮なく飲んでね。何だったら持って帰ってね。」
カタンと乾いた音をたててテーブルの上に梨華ちゃんは缶コーヒーを置いた。
モチロンそれに対する返事は無い。
前はにっこり笑って『ありがとう』って言ってくれたのに・・・
けして振り向こうとしないよっすぃ〜の背中を見つめている視線が
涙でぼやけそうになるのを必死にこらえながら梨華ちゃんはきつく拳を握り締めた。
- 190 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時56分01秒
矢口さんに自分の欠点を直す努力をしてみれば?・・・といわれたものの
自分のドコが欠点なのかなんて良く分からない。
自分のすべきことが一体なんなのかさっぱり見当が付かなくて
でも、やっぱりよっすぃ〜を失いたくなくて・・・
分かっているのはただそれだけなんだ。
- 191 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時56分34秒
座ることもできなくてよっすぃ〜に背を向けたまま立ちつくしていると、
ガチャリと扉が開き、聞き慣れた心地よい声が耳に滑り込んできた。
「おはよーっす」
「あ、矢口さん・・オハヨウゴザイマス。」
イスに座っていたよっすぃ〜は
台本に手を伸ばしかけた手を止めて立ち上がり挨拶を交わしている。
「・・・あ、矢口さん・・・おはようございます!
まだ時間あるので、気分転換にちょっと散歩してきます〜」
にっこり笑っていつも通り挨拶した梨華ちゃんは、控え室を後にした。
- 192 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時57分11秒
矢口さんには頑張るって約束したのに・・・
約束破っちゃいそうだよ。
どうすればいいのかさっぱり分からない・・
さっきだって一言しか喋ってくれなかったんだよ?
よっすぃ〜って優しい人だもん、そんなこと今まで無かったのに
どんなに怒ってても話しかければちゃんと答えてくれてたもん。
ホントにもう私とは口ききたくないぐらい嫌われちゃたのかな・・・
私の顔すら見てくれなかったし。
きっと私の顔なんてホントは見たくないんだよ
そんなに嫌われてるのに、振り向かせることなんてムリだよ・・・・
- 193 名前:4 投稿日:2003年08月10日(日)02時57分53秒
一人になりたくてやってきた人気のない
休憩所のベンチで梨華ちゃんはイスに力無く座り込み視線を彷徨わせた。
どんな難しい数式を解くより、今の梨華ちゃんには困難なことに思えた。
- 194 名前:リムザ 投稿日:2003年08月10日(日)02時58分35秒
- 更新終了です。
眠いので落ちます。
- 195 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年08月11日(月)01時17分48秒
- よっすぃ〜の怒りはハンパじゃないですね〜
それに今までの所業が跳ね返ってきた梨華ちゃんのしおらしいキャラがいいですね
最初とのギャップがたまらないです
続きが早く読みたくて眠くないし(笑)
- 196 名前:5 投稿日:2003年08月12日(火)22時38分52秒
- ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
今日TV局に来たのはクリスマスイブにOAされる番組の収録だった。
よっすぃ〜のケガが全快して一ヶ月ほど経っていた。
プッチモニが歌い上げる曲は女の子らしいメッセージが込められたラブソングで、
今の梨華ちゃんにはそのフレーズの一つ一つが胸にしみこんで孤独を改めて感じさせるには十分過ぎた。
どうにか自分を保ちながら必死にプッチモニの3人を見てるが、ラストまで来たときとうとう耐えきれずに涙が溢れそうになってきた。
涙がこみ上げてくるのをやり過ごそうと、ふと自分の左前へと視線をむける。
視線の先に飛び込んできたのは伏し目がちにマイクを握り締めるよっすぃ〜の姿だった。
『よっすぃ〜・・・・・』
視線を背けようとするが何故かそれが出来なかった。
フレーズの合間に視線をあげたよっすぃ〜は真っ直ぐ前を見つめている。
- 197 名前:5 投稿日:2003年08月12日(火)22時39分38秒
- もう、決してこちらを見てくれないよっすぃ〜の顔に
絶望感を覚えた梨華ちゃんの足はガクンと力が抜けてその場に崩れるように倒れた。
「梨華ちゃん!?」
いち早く駆けつけたのは、他でもないよっすぃ〜だった。
保田や後藤だけでなく他のメンバーもただ呆然とよっすぃ〜の行動を見つめていた。
まるで大切な宝物を拾い上げるように優しく梨華ちゃんを抱き上げた後、
飯田の方によっすぃ〜は向き直った。
「飯田さん・・・・」
「いいから、控え室に運んで。医者が必要そうだったら車出すから・・・」
飯田が取りなすように語りかけると、
よっすぃ〜は静かに頷いて、そのままスタジオを後にした。
- 198 名前:5 投稿日:2003年08月12日(火)22時40分50秒
- 「・・・・梨華ちゃん」
聞き慣れた優しい声が自分の名前を呼んだような気がして瞼を開ける。
目の前に広がる白い天井に視線を彷徨わせていると再び優しい声が耳に届いた。
「石川・・・目覚めた?」
声のする方へと僅かな期待を抱きつつゆっくりと顔を向けた。
「あ・・・・飯田さん・・・」
その声の主にあからさまに落胆した表情の梨華ちゃんの額に
そっと手を伸ばした飯田はわずかに苦笑する。
「すみません・・・・番組の収録・・・・」
自分が仕事中に倒れたことを思い出して慌てて飛び起きようとするが、
飯田に優しくその動きを制されて再び体を横たえる。
- 199 名前:5 投稿日:2003年08月12日(火)22時41分29秒
- 「大丈夫だよ、そっちは何とかなったから・・・
それより梨華ちゃん、大丈夫なの? ずっとムリしてたんでしょ?」
収録用のコートを羽織ったままの飯田が心配そうに眉根を寄せて顔をのぞき込んでくる。
「頑張ってよっすぃ〜を振り向かせてみろって矢口に言われたようだけど
それが逆に梨華ちゃんの負担になってるんじゃないかって、なっちと話してたの。
そしたら案の定、こんな事に・・・・ごめんね。リーダー失格だね。」
「違います!飯田さんも矢口さんも悪くありません?他の先輩も!
あの時、矢口さんに、他の先輩にも励まして貰ってなかったら、
私、とっくによっすぃ〜のこと諦めちゃってた・・・・・・・・」
「石川・・・」
「でも・・・もう限界かも・・・」
そう呟いて自分の上に掛けられていたコートの襟を指先が白くなるほどきつく握りしめる。
- 200 名前:5 投稿日:2003年08月12日(火)22時42分11秒
- 「限界?諦めちゃうって事?」
「・・・・諦められたら、どんなにラクか・・・」
溜息混じりに呟き、ゆっくりと体を起こす。
「あのさ、石川。自分を追い詰めているのは、
案外、自分だって事、心の片隅に覚えておいて。」
そう言うと、飯田はバッグを持って病室から出て行った。
- 201 名前:リムザ 投稿日:2003年08月12日(火)22時44分54秒
- 更新しました。
次回が最終回です。
>ラヴ梨〜さん
レスありがとうございます。
寡黙で愛情表現ベタなよっすぃ〜と、
改めてよっすぃ〜の存在に気付く梨華ちゃんが、今回投稿分のテーマです。
ラスト1話まで、お付き合い願えればと思います。
- 202 名前:ラスト 投稿日:2003年08月31日(日)00時33分18秒
- 「はぁ・・・」
1人になった安堵感から人知れず溜息を漏らす。
ふとコートから、馴染みのある優しい香りが漂ってきてハッとする。
「これって・・・・」
・・・よっすぃ〜のだ・・・・
自分に掛けられていたコートがよっすぃ〜の物であることに気が付いて思わず抱きしめる。
その香りがよっすぃ〜の温もりを思い出させて胸を締め付け、
よっすぃ〜と別れてからもう何度目か分からない涙を流す。
・・・・今もこんなによっすぃ〜が好き
・・・・どうして。どうしてよっすぃ〜じゃないと駄目なの?
- 203 名前:ラスト 投稿日:2003年08月31日(日)00時34分36秒
- 改めてその想いを噛みしめて、
よっすぃ〜のコートを胸に抱き、子供のように丸まって横になり、
再び意識を手放そうとしたとき、静かに控え室のドアの開く音がした。
コツコツと小さな足音を立てて室内には行って来た人物は、
梨華ちゃんの脇で立ち止まると、慈しむような眼差しを向け
肩からずり落ちていたコートを優しく掛け直す。
「梨華ちゃん・・・・ごめん・・・」
梨華ちゃんはハッと目を覚ますとその手を掴む。
「よっすぃ〜?どーゆー事??なんで謝るの??」
掴んだ手首を離したら終わりだと無意識に思った梨華ちゃんは、
真剣な眼差しでよっすぃ〜に詰め寄る。
- 204 名前:ラスト 投稿日:2003年08月31日(日)00時37分44秒
- 「梨華ちゃん・・・もう大丈夫なの?」
質問とはまったく関係ない、
けれど前の二人に戻ったようなよっすぃ〜の口調に梨華ちゃんは目頭を熱くした。
「も・・・もうダイジョブ・・・だけど・・・よっすぃ〜っ!」
たまらなくなって、よっすぃ〜の胸元に飛び込むように梨華ちゃんは抱きついた。
黙ったままのよっすぃ〜がどんな表情をしているか、恐くなっておずおずと顔を上げる。
「梨華ちゃん・・・辛い思いさせてしまったよね?」
気遣うように首を傾げながら静かに微笑みながら、
梨華ちゃんの額にかかる髪をかき分ける。
- 205 名前:ラスト 投稿日:2003年08月31日(日)00時39分07秒
- 「こんなつもりじゃなかった・・・って言ったら言い訳じみて嫌なんだけど・・・
気が付いたら梨華ちゃんのこと好きになり過ぎていて、
いつか梨華ちゃんを自分だけのモノにしようと何かしてしまうんじゃないかって・・・
そんなことして梨華ちゃんを傷つける前に距離を置こうって思ったんだけど・・・」
とぎれとぎれに話すよっすぃ〜の表情が辛そうで、
聴いている梨華ちゃんの表情まで曇らせていく。
「なのに・・・逆にもっと辛い思いを梨華ちゃんにさせてしまったよね・・・
ウチ、最低の人間だよ。ごめんね梨華ちゃん・・・」
- 206 名前:ラスト 投稿日:2003年08月31日(日)00時51分54秒
- 「違うよ、よっすぃ〜。私がよっすぃ〜を不安にさせるような事ばかりしたから、
そんな風に考えちゃったんでしょ?私が悪いの・・・・ゴメンナサイ」
ゆっくりと、でも確実に離れていた時間梨華ちゃんが自分で出した結論を話していく。
「よっすぃ〜が私から離れていって初めてどんなに大切な存在だったか気が付いたの。
今更遅いかもしれないけど・・・
でも私にはよっすぃ〜しかいないってはっきり分かったの。」
「梨華ちゃん・・・・」
梨華ちゃんの告白を最後まで聞いたよっすぃ〜は、
梨華ちゃんの頬を伝う滴を、白く長い指で拭うと優しい笑みを浮かべる。
- 207 名前:ラスト 投稿日:2003年08月31日(日)00時53分46秒
- 「ありがとう・・・梨華ちゃん。
ウチにも梨華ちゃんしかいないよ・・・好きだよ梨華ちゃん」
よっすぃ〜の言葉に、腕の中の梨華ちゃんが
ビクッと震えてすがるようによっすぃ〜を見上げる。
「ホント?・・・もう私のことキライになっちゃったんじゃないの?
まだ好きでいてくれるの?信じていいの?」
「ああ、好きだよ。本当に、この腕の中から一瞬でも離したくないぐらい好き。」
梨華ちゃんはギュッとよっすぃ〜の背中に回した指先に力を込める。
「よっすぃ〜・・・・っ。ダイスキだよっ。もう絶対離さないでね。
私がよそ見をしないように、いっぱいアイシテね」
僅かに背伸びをして梨華ちゃんはよっすぃ〜にキスをする。
- 208 名前:ラスト 投稿日:2003年09月06日(土)12時06分09秒
- 「ああ、もちろん・・・ずっと、いっぱい梨華ちゃんのこと好きだからね、ベイベー」
「もう、よっすぃ〜ったら!」
病室のドアの外で二人のやりとりを聞いていた飯田と矢口が、
人知れずに安堵の息をもらしていることも知らずに、いつまでも甘い言葉を贈り合っていた。
あとでサンザン冷やかされることになるのは、もはや火を見るより明らかであった。
もちろん、同期の辻加護には、その日のうちに広まり、
二人の携帯へ冷やかしメールが娘。全員から入っていたのは言うまでもない。
FIN
- 209 名前:リムザ 投稿日:2003年09月06日(土)12時08分02秒
- 最後の1段落投稿忘れてました。
というわけで、この話は終了です。
- 210 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/07(火) 00:24
- 保
- 211 名前:Milky Way 投稿日:2003/10/18(土) 22:31
- シャワーを浴びて部屋に戻ると、梨華ちゃんの姿がそこにはなかった。
「あれ?梨ぃ華ぁちゃ〜ん〜?」
名前を呼びながら細く開いたベランダへと続く窓に近づくと、
ベランダにシャツを羽織っただけの梨華ちゃんの背中が見えた。
「梨華ちゃん?そんなカッコウで外出たら風邪ひいちゃうよ?」
背後から腕を回して私は梨華ちゃんを抱きしめる。
「あ、ひとみちゃん。ねね、見てよ?スッゴイ星キレイなの〜」
そう言って空を見上げる。
釣られて自分も空を見上げると都会にしては珍しく満天の星空が広がっていた。
- 212 名前:Milky Way 投稿日:2003/10/18(土) 22:32
- 「ホントだ、珍しいね。都会でこんなに星が見えるなんて。
今日天気悪かったのに、いつの間にか晴れたんだ・・・」
「ねーホントだよね。
星なんて見たの私も久しぶりなんだけど。ヤッパ、キレイだね。」
星を見上げている梨華ちゃんの瞳もスッゴイキレイだよ・・・とか普通は言うのかな〜
なんて思わず考えてしまう辺り、まだまだ照れ屋なんだろうと微妙に自己嫌悪に陥ってみたり。。。
「ひとみちゃん?ひとみちゃん?どしたのボーっとして。」
腕の中の梨華ちゃんがわずかに振り返って自分の顔をのぞき込んでくる。
「んーなんでもないよ〜」
「ウソだ〜今なんか考え事してたでしょっ?」
「してないしてない。」
思わず棒読み口調で答える。
- 213 名前:Milky Way 投稿日:2003/10/18(土) 22:33
- 「どうせまた自分の事責めてたりしてたんじゃないの〜?」
じっと見つめられて、図星を指さされる。
「あはははは」
「もうっ、わらって誤魔化さないのっ!!
何度も言うけど、私はひとみちゃんが好きだから今ここにいるんだよ?
いちいち凹まないのっ!!そんなひとみちゃんははキライだよ!!」
プニッと頬を抓られる。
「イテッ、分かったよ〜もうしませんっごめんなさい!」
「分かったなら良いよ。私が一番好きなのはひとみちゃんなんだからね?」
「ありがとう・・・私も、梨華ちゃんが好きだよ。」
- 214 名前:Milky Way 投稿日:2003/10/18(土) 22:35
- 笑いを漏らしながら少し身を屈めて、
愛らしい唇にキスをすると梨華ちゃんは体を反転させて腕を私の首に絡めてくる。
本格的なキスになる前に、わずかに梨華ちゃんの体を引き剥がす。
「ひとみちゃん?」
怪訝そうに見上げてくる梨華ちゃんをそっと再び抱き直す。
「ほら、こんな所じゃ風邪ひいちゃうでしょ?部屋に戻ろうね?」
素直にコクリと頷いた梨華ちゃんの肩を抱いて部屋に戻っていった。
- 215 名前:リムザ 投稿日:2003/10/18(土) 22:57
- 1話読みきりですが久しぶりに投稿しました。
またネタがあったら作ります。
リアルいしよし不足中です。
- 216 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/30(木) 21:49
- おぉ!甘いっすね〜!
いしよし(・∀・)イイ!!
- 217 名前:言霊 投稿日:2003/11/02(日) 23:52
- 全部こなせたのかどうかも分からないような仕事を終えて、事務所に顔だけ見せると、ようやく家に帰ることが出来る。
大分落ち着いてきた仕事のおかげで、九時頃には家に着けた。
もう少しすると地方回りで家に帰ることも出来なくなるから、今が一番過ごしやすい時間かもしれない。
鞄に入った台本やら構成表やらのおかげで、家に帰ったからといって休めるわけではないのだけれど。
何故だか精神的にひどく疲れていたから、一刻も早く一人になりたいのだ。
一人の方がきっと落ち着ける。
マネージャーに見送られながら、マンションへと入る。
エレベーターに乗り込みやっと一人になれたというのに、疲れは増したようで。
一人になったから、テンションが落ちたのかもしれない。
自分を納得させる理由を見つけて、部屋の鍵を取り出す。
一呼吸置いて、ゆっくりとドアノブを回した。
現れるのは勿論、真っ暗な空間で。
わかっているのに、わかりきったことなのに、その光景を拒絶する自分がいた。
部屋の明かり、全部付けて来るんだった。
明日からの教訓として覚えるにしても、とりあえず今日はこの部屋に入らなければならない。
心臓が音を立てて拒絶する。
こんなにも、さみしいなんて。
- 218 名前:言霊 投稿日:2003/11/02(日) 23:53
- 一人の部屋をさみしいと思うようになったんは、いつからだっけ?
ドアを閉めながら、そんなことを考える。
確かに昔は、一人が好きだったはずなのだ。
一人の空間こそが、何の負担もなく自分がありのままでいられる場所だった。
誰もいない静かな部屋が、一番落ち着けた。
だから親元を離れて上京した時も、よっすぃ〜や辻加護と離れた時でさえ平気だったのに。
あの頃はよっすぃ〜と離れていることも、苦にはならなかった。
適度な距離が、より一層私たちの関係を濃密にしていったように思える。
触れられないもどかしさが、二人を近づけた。
想いを、自覚させた。
このマンションに引っ越す頃には、さみしさを知っていた。
そう。
本当は、いつからなんかも誰のせいなんかも全部全部わかりきっていて。
でもまだ、その事実を認められるような心は持ち合わせていない。
日々の癖でチェーンを掛けようとした手を、少し止める。
何があるわけでもない。
この頃の日本は治安が大分悪くなっているから、あまり無用心なことはしたくなかった。
鍵を何個付けとっても、危ないご時世だ。
でも。
モヤモヤの自分の心を少しだけ浮上させるために。
明日になればまた、いつも通りの私に戻るから。
今日だけは、チェーンを掛けないでおく。
たったそれだけで、ほんの少し気持ちが軽くなった。
これであの人が入って来たら、それはそれで嫌なのだけど。
今は、会いたくない。
どれだけ心が望んでいたとしても。
この感情の原因になってるのが現れたら、おのずと結果が導かれてしまうから。
だから今は、会ったらダメなんだ。
- 219 名前:言霊 投稿日:2003/11/02(日) 23:57
- 玄関できちんと靴をそろえると、まず部屋中の明かりという明かりを付けて回った。
それこそ、風呂場からキッチン、トイレ、ゲストルームに至るまで。
付ける明かりがこれ以上ないことを確認すると、息をつく。
やっと落ち着きを取り戻してくると、カーテンが開け放たれたままであるのに気付く。
窓には、立ったままの自分の姿が映っていた。
何て顔をしているんだろう。
まるで、捨てられた動物のような顔だ。
- 220 名前:リムザ 投稿日:2003/11/02(日) 23:59
- >>216 名無しさん
レスありがとうございます。
お蔭で新作のネタができました。
「言霊」は、中編のボリュームになりそうです。
主人公は石川さん。
年内には終わらせたいと思ってます。
自己満足で毎週更新をしていくつもりです。
- 221 名前:言霊 投稿日:2003/11/08(土) 01:17
- 自分の顔を良いと思ったことはないけど、これはひどすぎる。
一人暮ししてるのだから、一人の部屋に帰るんは当たり前じゃない。
どこ探したって、温もりなんてあるわけないんだ。
八つ当たりをしないと気が済まなくて、足音を立てて窓の方に立つと、乱暴にカーテンを閉めた。
勢いがつきすぎて反動で戻ったカーテンの隙間から、さっきと同じ顔が見えた。
こんな自分は嫌だ。
今度こそ、カーテンをしっかりと閉めた。
- 222 名前:言霊 投稿日:2003/11/08(土) 01:18
- 持ったまんまの鞄をダイニングテーブルに放り投げる。
重い音を立ててテーブルの真ん中に落ち着くと、静寂がやけに耳を打つ。
思い知らせるかのような無音は、私の心の中をメチャクチャにしようとしてるみたい。
静かな空間が私を圧迫してくるなんて、思いも寄らなかった。
何よりも落ち着ける場所なはずなのに。
自分の感情をこんなにもコントロール出来ない自分が、本当に嫌でしょうがない。
私の身体中を勝手に駆け巡る感情は、自分では抑えることも出来ない。
だから、イライラする。
一人でいられない私自身に腹が立つ。
どうしたらいい?
- 223 名前:言霊 投稿日:2003/11/08(土) 01:19
- 今まで味わったことがない程強烈なさみしさは、留まるところを知らない。
いつだって、見ないフリをしてきたのに。
もどかしさと苛立ちと、さみしさと。
そんなものばかりが、私を急き立てる。
どれもいらない感情なのに。
- 224 名前:言霊 投稿日:2003/11/08(土) 01:23
- 唇を噛んで、気持ちを制御しようとする。
その時、動き出す音がした。
冷蔵庫のモーター音。
存在を誇示するかのようなその音に引かれて、キッチンへと足を向ける。
何か飲み物を、と思って冷蔵庫の取っ手に手を掛けた。
今日、よっすぃ〜はどうしてるんだろう・・・
考えてはいけないことが頭をよぎると、もう他のことは考えられなくなる。
- 225 名前:言霊 投稿日:2003/11/08(土) 01:23
-
大分落ち着いてきた、私達の仕事のバランス。
よっすぃ〜は仕事があんまり好きじゃないから、最低限のこと以外はあまり手を出さない。
あれだけの才能を秘めているのに勿体無いとは思うが、
よっすぃ〜なりの仕事量でないと本来の能力は発揮されないのかもしれない。
人を感動させることの出来るよっすぃ〜。
羨ましさと追いつきたい一心とで増やしていった仕事が、結果的に二人のバランスを作ってしまった。
よっすぃ〜に出来ることと私に出来ることが違うことくらいは、わかるようになってきたけど。
仕事量のひずみで出来たよっすぃ〜の時間は、よっすぃ〜の良さを効果的に引き出すようになった。
- 226 名前:言霊 投稿日:2003/11/08(土) 01:24
- 人を大切にするよっすぃ〜が、交友関係を広げていったのもプラスに働いた。
私が仕事と過ごしている時間を、よっすぃ〜は友達と過ごす時間にあてる。
どっちが良いなんてことは絶対にないけど、結局お互いのいない時間が増えることになった。
よっすぃ〜は、その一人の時間を他の友達と使って楽しそうだ。
私やって、仕事をしている時間は楽しい。
やりたくて、大好きで続けている仕事だ。
でもこんな風な時間は、反動のように私を苦しめる。
一人きりなんだと、思わせる。
- 227 名前:言霊 投稿日:2003/11/08(土) 21:20
- 今日のよっすぃ〜は、確か雑誌の撮影を終えてから友達と一緒に海へ行くと言っていた。
久しぶりに大人数で行く海の話を、この間楽しそうにしていた。
勿論、社交辞令のように私も誘ってくれたけど。
仕事があったし、あまり知らないよっすぃ〜の友人と行くのに気が引けた。
人見知りする自分をしっかりフォローしてくれるのはわかってたけど、
何よりも友達に囲まれて楽しそうに笑っているよっすぃ〜を見たくなかった。
そんなのが理由だなんて、絶対言えない。
- 228 名前:リムザ 投稿日:2003/11/08(土) 21:22
- 更新しました。
昨夜、二重カキコに引っかかってしまい、
最後の段落が投稿できなかったので更新宣言が遅れました。
- 229 名前:言霊 投稿日:2003/11/14(金) 01:12
- 子供みたいな感情論ではないか。
もう年長組なのに。
格好悪いことこの上ない。
- 230 名前:言霊 投稿日:2003/11/14(金) 01:12
- まだこの時間だと、海で遊んでいるんだろうか。
花火を大量に買い込むと笑っていたから、
盛大な花火大会でもやっているかもしれない。
毎年毎年一緒にやろうと話しては、流れてしまう花火。
一緒に二人だけでやるのは、そう難しいことじゃないけど。
伸ばし伸ばしになった花火は、もしかしたらやることはないかもしれない。
嫌なことばっかり考えてるなぁ、私。
最近では、ポジティブ思考が売りなのに。
- 231 名前:言霊 投稿日:2003/11/14(金) 01:13
- 今晩みんなで騒ぎ続けてから、明日の早朝一人で先に帰って来るらしい。
それからそのまま、仕事に入る。
明日はインタビューを受けて、打ち合わせをしに行って、
ラジオに生出演してから、原稿を書く予定のはずだ。
少し前までは、よっすぃ〜のスケジュールなんて知らなかったのに。
今では自分のスケジュールより正確に、よっすぃ〜のを把握している。
いざ自分のスケジュールは?と聞かれるとわからないくらいなのに、
よっすぃ〜の動きは一週間先まで知ってる。
会えるのは、三日後のスタジオでの収録。
それまでは、一人でこの時間を切り抜けなければならない。
三日後よっすぃ〜に会った時に、平気な顔をして笑ってられるように。
- 232 名前:言霊 投稿日:2003/11/14(金) 01:15
- 扉に掛かったままの手を引いて、冷蔵庫を開ける。
私の冷蔵庫に期待なんて微塵もしてないのだけど。
でも、これはあんまりだ。
ホテルに備え付けてある冷蔵庫の方が、ずっとマシだろう。
電源入れてるのが勿体無いくらい、ものの見事に物が入っていない。
家で食事などしないから、当然の中身といえばそれまでなのだが。
家で一人で食べるくらいなら食べない方が良いという考え方のせいだろう。
本当に何も入っていない冷蔵庫は、空っぽ過ぎてさみしい。
有意義な使われ方をしていないせいだ。
- 233 名前:言霊 投稿日:2003/11/14(金) 01:16
- すぐにでも食料を買いに、買い物に出るべきかもしれない。
唯一冷蔵されている物を発見した。
ドアポケットに入ったままのオレンジジュース。
口の開いた1000mlのパックは、よっすぃ〜が置いていったもの。
消費期限をまだ過ぎていないということはつまり、
よっすぃ〜が私の家に来たのはそう昔のことじゃないというわけだ。
なのにもう、よっすぃ〜の存在を求めてるなんて。
適度に近くにいないと、その存在を意識してしまって辛くなるのだ。
いつも同じ場所に同じ笑顔でいてくれたら、きっと。
空気と同じように自然で、当たり前にそばにいる人なだけだったのに。
手の届かない距離は、
必死で手を伸ばして捕らえようとするから、心が揺れる。
- 234 名前:言霊 投稿日:2003/11/14(金) 01:16
- 仕方なく、オレンジジュースのパックを取り出す。
とりえて好きな飲み物でもないけど、他にないからしょうがない。
パックを出してしまうと、本当に何もなくなってしまう冷蔵庫。
必然性を見出せなくなってしまう。
存在意義を失ってしまうのはさみしい。
そのさみしさが心の奥の感情と、シンクロして。
心が、揺らぐ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
- 235 名前:言霊 投稿日:2003/11/14(金) 01:17
- さみしい、と思ってしまうのは簡単で。
意味を為さない冷蔵庫。
たった一つ入っていた物がなくなるだけで、空っぽになってしまう。
まるで、私自身の心のようだ。
自分にさみしいという感情を向けるのは嫌で。
でも、逸らせない。
感情を生む心。
- 236 名前:言霊 投稿日:2003/11/14(金) 01:24
- たった一人がいないだけで、意味を為さなくなってしまう。
向かう相手は、いつでも同じだ。
今ここにいない人。
いつでも心にいる人。
辛いのは。
それを意識してしまうこと。
食器棚に視線を移して、グラスを取り出そうとする。
少ない食器はそれでも、一人でいた時よりは数を増やした。
一組ずつ買っていたのに、今では揃いの物の方が多い。
- 237 名前:リムザ 投稿日:2003/11/14(金) 01:29
- 更新しました.
- 238 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:16
- 昔より、家に人が来る回数も増えたし。
だからグラスだけは、ハーフダースある。
その中から無造作に一つを選び出した。
色違いで揃っているグラス。
その中に、橙の液体を注いだ。
キッチンにオレンジの香りが広がる。
もう一度冷蔵庫を開けて、パックをしまった。
たったこれだけで。
扉を閉めるとまた、モーターが動き出した。
こんな風に。
冷蔵庫を見つめてしまう。
- 239 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:16
- たったこれだけの物で、正常に機能してしまう冷蔵庫。
ただ一つの存在のために、動き出す。
私の心も同じなのかな。
一人だけの存在に動かされている。
変わらんのかもしれない。
私も、この冷蔵庫も。
少しだけ笑えた。
グラスを持って、ソファの方へ移動する。
ついでに、テーブルの上に放った鞄も一緒に。
今度は、ソファの前にあるテーブルへグラスを置いた。
- 240 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:17
- 手にした鞄と一緒に、ソファへ体を沈める。
ゆっくりと息を吐いた。
明るすぎる部屋は、より外の闇を強調して。
気持ちを暗くさせる。
鞄の中から、1冊の台本を取り出した。
明日の収録は多分、これだったはず。
正確に把握していないのはいつものことだけど、
さっき別れ際にマネージャーがそんなことを言っていたように思う。
- 241 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:20
- どうも最近になってから、記者会見で話す役が増えてしまって、
色んなデータを入れておかなければならない。
沢山ある情報の中で話すのは一片だけど、全部を覚えていなければ質問に答えられなくなる。
一時的な情報を教えられても結局、収録が終われば忘れるようにする。
すぐ次の情報が入るように。
人も同じ。
一回くらい話しただけじゃ、人見知りの私が知り合いになれることもない。
- 242 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:21
- よっすぃ〜みたいに、
話が合ったらすぐ携帯番号を交換するとか言うのも出来ない。
それでも昔よりは、知り合いが増えたように思う。
よっすぃ〜と二人きりで、
事務所以外の人となかなか口をきかなかった頃よりは。
お互い一人の仕事が増えて、必然的に誰かと話さなきゃならなくて。
携帯のメモリーも大分増えたし、出掛けるのも昔よりはしてる。
東京に出て来て知ってる人が誰もいなくて、
よっすぃ〜だけが私の世界の全てだった時期も確かにあった。
いつの間にか柴ちゃんという親友が出来て、
事務所の同年代の子と話せるようになって、そして沢山の人たちに出会えて。
私の世界は、確かに着実に広がってきている。
これからはもっと、よっすぃ〜の知らない私だけの友人も増えていくだろう。
今のよっすぃ〜の友人たちと同じように。
- 243 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:22
- それでも尚。
世界の根本は、よっすぃ〜だけなのだ。
こんな風に求めてしまうのはきっと、一生よっすぃ〜だけだろう。
- 244 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:23
- オレンジジュースを口に運んでから気付く。
いつもは、帰ってきたらすぐにすることなのだが。
服を全て着たままだった。
やっと気持ちの悪い閉塞感を思い出して、ソファから立ち上がる。
ベルトを外してから、スカートを脱いだ。
すぐにストンと落ちてしまうスカートは、まだサイズが大きいのかもしれない。
頑張ってダイエットしてるだけの成果は出てるかな。
- 245 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:25
- 一時全部の服が大きくなりすぎて、着ていられないことがあったけど。
あれだけハードなスケジュールをこなしてしまえば、痩せるのも当たり前だろう。
不摂生な生活を続けてるし。
何より太るのが怖い。
ストッキングも脱いで、ソファに掛けてしまう。
いつもは、こんな不精しないのに。
クローゼットへ片付けに行くのも、洗濯カゴに入れに行くのも面倒くさくて、何となくそのままにしてしまう。
カットソーも脱ごうかと思ったけど・・・・・
- 246 名前:言霊 投稿日:2003/11/18(火) 19:26
- 何だか。
いつもは気兼ねなくしていることなのに、今日はちょっと抵抗があった。
理由はわからないでもない。
簡単に脱ぐことをやめると決めて、ソファに座り直す。
- 247 名前:リムザ 投稿日:2003/11/18(火) 19:26
- 更新終了。
- 248 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/20(木) 01:39
- 石川の独白、面白いです。更新楽しみにしてます。
- 249 名前:言霊 投稿日:2003/11/24(月) 22:23
- 台本をまた、手に取って読み進める。
メインも慣れたもので、流れはすぐに把握出来た。
やっかいなのは、ゲストとのトーク。
台本通りに進めていてもトークというのは不思議なもので、
話がどうしてもずれてしまうことがある。
そうした時の予防線として、
話が広がるようにゲストのデータを知っておく必要があるのだ。
沢山ゲストが来る上に、一日の収録は一本ではない。
十人以上のゲストのデータを頭に入れてから、ステージに上がりマイクを握る。
慣れたこととは言え、緊張が消えることはない。
だからこそ、台本は大切なのに。
- 250 名前:言霊 投稿日:2003/11/24(月) 22:23
- 今苦痛なのは、他の人間のデータを内に入れることだ。
他人のことを覚えられる程の容量が、今の私にはない。
頭を占めているのは、心を埋めているのは、一人のことだけ。
そんなんが言い訳にならないのは、自分が一番わかってる。
けど、入って来ないものは入って来ないのだ。
目をつぶって深呼吸をする。
気持ちを落ち着けなければ。
- 251 名前:言霊 投稿日:2003/11/24(月) 22:25
- 素通りしていく台本の内容は、「ハローモーニング」に今一番必要なことだ。
例え私個人が、何を思っていようとも。
昔のようにゲストを呼ぶようになっているのが納得できなくとも。
明日スタジオに行って「ハローモーニング」になった時、辛いのは自分だ。
自分の取り組み方が、そのまま評価につながる仕事である。
だからこそ、この仕事が好きなのに。
少し前まではずっと、一人でやってる気になっていた仕事。
隣にいるよっすぃ〜が、空気みたいだった頃。
自覚のないままに伸ばした手は、もうずっと長いこと握られていたのに。
そっと包み込まれていた優しい空気に気付きもしないで。
- 252 名前:言霊 投稿日:2003/11/24(月) 22:25
-
一人でいるのが好きだと思っていた。
一人でいることの方が楽だった。
- 253 名前:言霊 投稿日:2003/11/24(月) 22:26
- 孤独の空間こそが、一番自分にふさわしい場所だと思っていた。
芸能界なんて、人を信じてはいけない世界だと思ってた。
よっすぃ〜が言葉にしてくれなければきっと、今も一人が好きだと信じていたはず。
伝えてくれた言葉は、一つの感情を生み温もりを指先に残してくれた。
よっすぃ〜が言った言葉。
私が信じた言葉。
気付かなかった、私の本心。
何よりも望んでいた言葉をくれたのかもしれない。
指先は、離れることがなかった。
一人で耐えなくていいって。
一人で頑張んなくていいって、言ってくれた。
- 254 名前:言霊 投稿日:2003/11/24(月) 22:27
- 怖がらなくても良い。
私が受け止めるからって。
そして、気付いてしまった。
よっすぃ〜が教えたんじゃない、気付かせてくれただけ。
私は人といるのが嫌いなんじゃない。
人に自分という個人を認めてもらえないのが、怖かったんだ。
弱い私を拒絶されるのが、怖かった。
そうして、包み込んでくれた人。
よっすぃ〜は私の存在を抱きしめる代わりに、よっすぃ〜の存在を私に委ねてくれた。
お互いがお互いの引力で、導き合えるように。
- 255 名前:言霊 投稿日:2003/11/24(月) 22:29
- 同じ強さで、手をつないでいられるように。
よっすぃ〜のそばにいたいと思った。
その想いが恋だったのかは、よくわからない。
ただ、いつまでも私の隣にいて欲しくて。
片時も離れないで欲しくて。
しかし想いが強くなっていくのに比例するように、単独の仕事が増えていった。
娘。をはじめ、同期であるよっすぃ〜や、辻ちゃん、加護ちゃんと仕事がしたかった。
私だけ、独りでメインをするの?
辻と加護は一緒なのに、よっすぃ〜は私と一緒ではないの?
・・・私はひたすら苦しかった。
- 256 名前:言霊 投稿日:2003/11/24(月) 22:30
- 好きで娘。に加入したのに。お互いに。
オーディション受けたのに。
心が引き裂かれるみたいで、呼吸の仕方を忘れたようだった。
一人になりたいと思った。
自分だけなら、余計な期待も淋しさも持たないで済む。
当たり前につないでいた指先を離そうとしたのは私だ。
そう、怖かったんだ。
依存している自分に歯止めをかけたかったんだ。
- 257 名前:リムザ 投稿日:2003/11/24(月) 22:32
- 更新終了です。
フットサルの初ゴールおめでとう。
アシストよっすぃ〜、シュートは梨華ちゃん。サイコーです。
>248 名無し読者さん
吉澤さんが語り手になることが多いので、今回は石川さんを語り手にしました。
レスありがとうございます。
最後までお付き合いいただければと、思っています。
- 258 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:15
- 振り返れば、がむしゃらにこなしてきた仕事の数。
眠る時間も食べる時間も、仕事優先にして。
プライベートの時間さえいらないと思ってた。
よっすぃ〜の引力に逆らうように。
さみしさに飲み込まれないように。
心がどんなに悲鳴を上げても、聞こえないフリをした。
不安が胸を占めていくのに、気付かなかった。
一人でいても、よっすぃ〜のことを考えてる自分。
- 259 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:15
- 独り暮らしを始める時でさえ、感じなかった不安が。
辛くて。
もう投げ出したくなった。
何もかもを。
心が押し潰されそうだった。
- 260 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:16
- よっすぃ〜のことを考えるから、一人だと思ってしまうのだ。
よっすぃ〜の存在を消すように、
メチャクチャに遊び回っていた時期もあった。
オフの時間を紛らわすように、友達と一緒に過ごす時間にあてた。
交友関係のせまい私がそうそう人を誘えるはずもなくて、
被害を被っていたのは大体が保田さんだったけど。
- 261 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:17
- それでも拭えないさみしさ。
消えない孤独感。
考えあぐねて出した結果が、仕事を更に増やすことだった。
仕事で埋めてしまうこと以外、手立てはなかった。
事務所に仕事を増やして欲しいと申し出たのは、
よっすぃ〜が仕事を減らして欲しいと言ったのと前後してのことだった。
よっすぃ〜も苦しんでいる時期だった。
- 262 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:18
- それから今に至るまで、仕事のスタンスは二人とも変わっていない。
結果は、プラスに出たと思う。
よっすぃ〜は一つ一つの仕事をしっかりとこなしていくことによって、
高い評価を得ていた。
私は色々と新しいことにチャレンジしては、
本当にオフの時間がなくなるくらいに働いていた。
よっすぃ〜のことを考える暇もないくらいに、のめり込んでいった。
仕事人間になれたのだろう。
- 263 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:19
- でも、今度は逆にそれが私を悩ませる。
別のことを気付かせる。
よっすぃ〜のことを考えなくて済むように増やした仕事も、自分を追いこむばかりで。
一人では、何も出来なくなってしまった。
一人が私を戸惑わせる。
仕事だけで動いている私は、仕事がなければ私でいられない。
個人としていることが、苦手になってしまった。
娘。であり続けることは、そう難しくないハズなのに。
- 264 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:19
- でも、それすら剥がされて素顔にさせられると、どうしたら良いのかわからなくなる。
人付き合いは、大分克服したつもりでいたのに。
きちんと向かい合って、私と付き合おうとしてくれる人が増えてきたのに。
その気持ちが嬉しくて、応えようとするのに。
まだ、出来ない。
隠し続けてきた素顔をさらすのには、もう少し時間がかかる。
今付き合ってる人たちはみんな、それまで待っててくれそうな人たちばかりで。
そのことが嬉しい。
- 265 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:20
-
いつか、よっすぃ〜だけじゃなくなるように。
世界が、よっすぃ〜だけにならないように。
- 266 名前:言霊 投稿日:2003/11/27(木) 00:20
- ヤキモチ焼きのよっすぃ〜が聞いたら、良い顔しないのだろうな。
ストレートに、あの人は独占欲を出すから。
それが心地良くないと言ったら、嘘になるだろう。
真っ直ぐな愛情は安心する。
本当は、私が一人でいるのをよっすぃ〜は好まない。
いつでも腕の中に納めておきたがる。
私が一人になって、誰かといるのが嫌なのだ。
勿論、スタッフの人でさえ。
無理なことでもそう思ってしまうから、ヤキモチなんだろう。
- 267 名前:リムザ 投稿日:2003/11/27(木) 00:21
- 更新しました。
- 268 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:33
- 今日も帰り掛けに事務所へ寄った時、食事に誘われたけど。
よっすぃ〜のヤキモチがどうのじゃなくて、断ってしまった。
今の私に、誰かと過ごせと言う方が無理なのだ。
食事になど行ったりしたら、逆に迷惑をかけてしまう。
- 269 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:33
- よっすぃ〜の心配は、すごく思い違いで。
絶対に口に出すことはないが、
一人の方がよっすぃ〜の考え方としては安心なのだ。
誰と過ごしても、こんな日はまして。
よっすぃ〜のいない日を重ねれば重ねる程。
誰といても、よっすぃ〜のことばかりになる。
楽しいなんて思えなくて、相手に申し訳ない。
よっすぃ〜がそばにいない方が、よっすぃ〜のことを考えてしまう。
こんなにもよっすぃ〜でいっぱいで。
こんなにもよっすぃ〜のことしか考えられなくて。
だから本当は、会えない日が一番安心なのだ。
- 270 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:34
-
台本のページをめくりながら、オレンジジュースを口に含む。
唇に当てたグラスを外して、初めて気付いた。
透明なグラスに淡く入った、緑のライン。
いつもは、よっすぃ〜が使っている物だ。
心臓が音を立てて、動く。
こんなことだけで、鼓動が変化するなんて。
今日は本当に、感情がおかしいのだ。
よっすぃ〜が接触した物だというだけで。
よっすぃ〜の唇が触れたんは、何日前だと思ってるの?
- 271 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:34
-
バカみたいに振れる心拍音。
今は。
今日は。
よっすぃ〜には会いたくない。
- 272 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:35
-
何よりも求めている相手だけど、求めすぎていて怖い。
こんな心理状態で会ってしまったら、
さみしさを露呈するだけのような気がして。
それは、負けになる。
私のプライドが許さない。
だから絶対に、会いたくない。
- 273 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:35
-
無理矢理音を立てて、テーブルにグラスを置いた。
さみしさよりも勝るのは、自尊心だけだ。
私が私であり続ける限り、無様な真似だけはしたくない。
どんな時でも、強くなければいけないのだ。
強引に気持ちを仕事モードに切り替える。
あらん限りの集中力で、ひたすら台本を頭にたたき込んでいった。
時計の音すら聞こえないくらいに集中する。
プロとして仕事をしている以上、公私混同はあってはならない。
心の空洞なんか無視して、いつも通りを押し通せば良いのだ。
今までにない感情の強さに、ちょっと圧倒されてしまっただけ。
- 274 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:35
-
大丈夫。
私はきちんと仕事が出来る人間だ。
よっすぃ〜が海に行っていることも、
部屋中付いた明かりも冷蔵庫のことも、
グラスの緑さえ忘れて、台本だけに意識を向ける。
大丈夫、出来る。
- 275 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:36
-
私は強い人間だら、感情の動きになんて左右されない。
ひたすら読み続けた。
そう自分に言い聞かせた。
オレンジジュースを飲むのも何も気にならなくなっている。
今日一晩を越えれば、明日には何もかもいつも通りだ。
娘。の中でいられる。
- 276 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:36
-
何も怖くない。
何も不安じゃない。
そう、何も。
- 277 名前:言霊 投稿日:2003/11/29(土) 00:37
-
台本を一通りきちんと把握して、とりあえず安心出来る。
後は本番で何があっても、なるようになる。
もう一度足りない部分がないように、見返している最中だった。
- 278 名前:リムザ 投稿日:2003/11/29(土) 00:52
- 更新しました。
ラジオドラマを聞いていたり、フットサルがあったりで
創作意欲が沸いてます。個人的にいしよし祭りです。
- 279 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:22
- 何気ない瞬間。
無意識の動き。
胸を突く程の恐怖。
これを恐怖と呼ばずに、何と言えば良い。
ふと上げた、何気ない視線。
ゆっくりと、部屋中を見渡す瞳。
- 280 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:25
-
たった、それだけ。
ただ、その刹那。
- 281 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:26
- 気付いてしまった。
わかってしまった。
普段なら、自分の感情に追いつくことなどないのに。
その視線の意味を痛い程に、理解してしまった。
この時間だけは、逸らしていられたのに。
ただ一人を。
探していた。
- 282 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:26
- いるとかいないとか、そんなことホントは関係なくて。
望んでいるか、求めているか。
大事なのは、そういう感情。
今、自分が捨ててしまいたいものだ。
もう逸らせない。
仕事すら、埋めてはくれない。
さみしい。
今の私には、それしかないんだ。
- 283 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:27
- もうさみしさから目を逸らすことも出来なくて、仕方なく台本を閉じる。
台本をテーブルの上に置く代わりに、オレンジジュースのグラスを取った。
よっすぃ〜のグラスで、よっすぃ〜の好きな飲み物を飲む。
たった、それだけのことが。
よっすぃ〜が触れた物なだけなのに。
- 284 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:28
- そんな考え方をしたら、今座ってるこのソファだって、よっすぃ〜が触れた物になってしまう。
意識し出してしまえば、至るところに目は行って。
テレビのリモコンも、カーテンもレンジも、全部。
自分が着ている、この服だって。
この家で、よっすぃ〜が触れていない所などないはずだ。
全てが、よっすぃ〜に結びついてしまう。
- 285 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:28
- どうしよう。
求める手の動きが、嫌で。
もう、一人ではいられなくて。
一人でいると、よっすぃ〜のことしか考えられない。
- 286 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:29
- 鞄に手を伸ばすと、中から携帯を取り出した。
これだって、よっすぃ〜が触れてる。
何を見ても、今はしょうがない。
だから、メモリーの中からよっすぃ〜以外の人間を探す。
よっすぃ〜のことを忘れさせてくれるような人。
真っ先に見つかるのは、やっぱり教育係の保田さんで。
どうやろ、この時間はいるのかな。
最近の保田さんのスケジュールは、はっきり言って良く知らない。
何かと忙しいみたいなことは、言ってたけど。
どうしようかな・・・
とりあえず、掛けてみることにする。
出て欲しい。
- 287 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:29
-
未だに何も考えずに誘えるのは、保田さんしかいないから。
きっと、ごっちんとかに連絡しても快く承諾してくれるのだろうけど。
こんな理由で連絡を取るなんて、ごっちんの誠意に対して失礼だ。
私を真っ直ぐに可愛いから好きだと
いってくれる保田さんの優しさを、台無しにしたくはない。
だからといってごっちんは良いのかと問われると、甚だ疑問だけれど。
- 288 名前:言霊 投稿日:2003/12/01(月) 23:29
- 4回、6回鳴っても、コールは途切れなくて。
鳴らせるだけ、鳴らしてみようと思ってた。
このコールが聞こえる間は、気を逸らせておける。
しかし無情にも、コールの音は途切れた。
聞こえてきたのは、無機質な機械から発せられる女の人の声。
- 289 名前:リムザ 投稿日:2003/12/01(月) 23:36
- 更新しました。
- 290 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/02(火) 03:11
- ドキドキします。石川さんの気持ちがはやく着地してほしい。
会ってない日のほうが…のくだりの石川さんが、可愛すぎて守りたい。
- 291 名前:言霊 投稿日:2003/12/02(火) 23:57
- 留守番電話のお姉さんだった。
頭が、痛い。
涙が溢れてしまいそうだ。
辛くて。
- 292 名前:言霊 投稿日:2003/12/02(火) 23:58
- 何で、こういう時に限って保田さんは出てくれないの?
こんなに私が、頼りにしてるのに?
この胸のさみしさを聞いてくれるかもって、期待してたのに。
寝てしまったの?私は淋しいんだよ??
いつにもなく、保田さんに対してヒステリックになってしまった。
すぐに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
機械から生まれるお姉さんの声を最後まで聞かずに、終話ボタンを押す。
悔しくて、口唇を噛んだ。
- 293 名前:言霊 投稿日:2003/12/02(火) 23:58
- 仕方がなく、メモリーをスクロールしていく。
順番に表れる色んな人の名前。
私だって。
よっすぃ〜だけじゃない。
保田さんだけでもない。
これだけ沢山の人が、連絡を取る術を残してくれてる。
待ってるからって、言ってくれる。
- 294 名前:言霊 投稿日:2003/12/02(火) 23:59
- よっすぃ〜だけが全てだった時期は、とうの昔に越した。
さみしさを埋めてくれるのは、今でもよっすぃ〜だけだけど。
こればっかりは、仕方がない。
さみしいという感情を私に与えたんは、よっすぃ〜なんだから。
でも別に、よっすぃ〜だけが全てじゃない。
小さな画面に表れる人たち。
みんな私を大事にしてくれて。
好きだと言ってくれる。
- 295 名前:言霊 投稿日:2003/12/02(火) 23:59
- 矢口さんだって。
・・・未だに収録以外では、緊張しまくるけど。
飯田さんだって、安倍さんだって。
・・・ハロモニの収録が終わって以来、会ってないけど。
そうだ。
よっすぃ〜以外にも、勿論保田さん以外だって仲の良い人はいる。
よっすぃ〜の知らない、私だけの知り合いも大分増えたのだ。
だからもう、よっすぃ〜の存在に寄りかかんなくても平気にならなければ。
さみしさが。
胸を占めないようになりたい。
- 296 名前:言霊 投稿日:2003/12/03(水) 00:00
- 人恋しいのとはわけが違う。
誰でも良いわけじゃない。
誰か、でもない。
一人しかいない。
唯一の人だけ。
・・・だから、タチが悪い。
- 297 名前:言霊 投稿日:2003/12/03(水) 00:00
- このさみしさを埋められるのは、世界中でよっすぃ〜一人しかいないから。
よっすぃ〜の存在でしか、満たされない心。
心の空洞にぴったりとはまってしまうよっすぃ〜の温もりは。
私を打ちのめす。
私にはよっすぃ〜しかいないんだって、思わされるから。
- 298 名前:言霊 投稿日:2003/12/03(水) 00:01
-
矢口さんに、私の心を満たすことは出来ない。
飯田さんに、私の世界を埋め尽くすことは出来ない。
安倍さんでも、私の空洞を埋める温もりはない。
保田さんに、大きな安心出来る心はあっても、私の全てを包み込むような手のひらはない。
ごっちんにも。
同期よりも先輩を思い浮かべている時点で、淋しい上に甘えたい気持ちが表れている。
こんなんじゃ、ダメだよ。
- 299 名前:言霊 投稿日:2003/12/03(水) 00:01
- 誰にも。
よっすぃ〜の存在を代わることは出来ない。
勿論、誰にも私みたいな空洞は持てないのだ。
よっすぃ〜がくれた、さみしさ。
生み出された、さみしさ。
だから今は、会いたくない。
求めるものを得た充実感は、私の存在を再認識させる。
- 300 名前:言霊 投稿日:2003/12/03(水) 00:02
- よっすぃ〜がいて、初めて成立する私。
こんなに嫌なことはない。
強くなりたいのに。
強くありたいのに。
よっすぃ〜の存在こそが、その私の願いを妨げる。
私の弱さを見つめさせる。
- 301 名前:リムザ 投稿日:2003/12/03(水) 00:08
- 更新しました。ようやく前半が終わりそうです。
それから今更ですが。
ハロモニにゲストを呼ぶという件は、この話を進ませるためのフィクションで入れただけです。
>290 名無し読者さん
レスありがとうございます。
ひっそりと書いてるので反応があって嬉しかったです。
こんなにも石川さんに思われる人は幸せでしょう。
- 302 名前:言霊 投稿日:2003/12/05(金) 19:26
- よっすぃ〜が与えてくれた、沢山の想いは私には重すぎて。
気付かなければ、誰にも捕われずに自由でいられたのに。
教えてくれた感情が、私を縛って。
よっすぃ〜の腕の中こそが、自分の巣なのだと教える。
自由に飛ぶことなど、始めから無理なのだ。
愛という重荷を背負って、空を飛ぶことは出来ない。
愛か、自由か。
- 303 名前:言霊 投稿日:2003/12/05(金) 19:26
- 二人でいる温もりか、一人でいる孤独か。
どちらかを選ぶことしか、選択権にはない。
そうして伸ばした指先。
わかっていたことだった。
理解していることだったから。
その指先を絡めたのだ。
後悔はしていない。
することはない、絶対に。
それだけが。
それを守ることだけが、私の強さ。
- 304 名前:言霊 投稿日:2003/12/05(金) 19:27
- 携帯を閉じて、テーブルの上に置いた。
グラスに纏わりついた水滴が、水たまりを作っている。
落ち着けない。
鞄の中から、他の台本でも出そうかと思ったけど。
どうしたって覚えられる状態じゃないのは、自分が一番良くわかっている。
・・・お風呂に入ろうかな。
- 305 名前:言霊 投稿日:2003/12/05(金) 19:27
- 頭に浮かんだことが、ひどく名案のように思えて。
体がスッキリすれば、心も少しは晴れるかもしれない。
残念ながらバスタブにお湯を張っていなかったので、今日はシャワーで我慢しよう。
今から沸かしていると、また余計なことを考えてしまうような気がしたから。
すぐに入ることが大切なのだ。
気が紛れてしまえば良い。
- 306 名前:言霊 投稿日:2003/12/05(金) 19:30
- ソファからさっと立ち上がって、掛けてあった靴下を持って浴室に向かう。
浴室も勿論、明るくて。
明るさが煩わしいと思わない内は、まだ必要なのだろう。
靴下をとりあえず、洗濯カゴに放り込む。
洗面台に置いてあるコンタクトのケースに、今付けているのを入れて。
使い捨てにした方が、楽なのかな。
どうでも良いことを考えた。
それから何のためらいもなく、着ていたカットソーと下着を脱いだ。
丁寧に洗濯カゴに入れる。
お風呂場用の換気扇を回して。
浴室のドアを開けた。
- 307 名前:言霊 投稿日:2003/12/05(金) 19:31
- これも、よっすぃ〜が触れている。
どうしても、消えてはくれないらしい。
私の家にいる限り、無理なんだろうな。
浴室のタイルが、足の裏に気持ち良い。
シャワーのヘッドを持って湯を出した。
最初冷たかったそれは、どんどん熱を持ってきて。
浴室内に湯気が充満するまで待ってから、シャワーを体に当てる。
全身を濡らして、ヘッドを上の方に掛けた。
顔に思い切り雫を受ける感覚は、気持ち良い。
- 308 名前:言霊 投稿日:2003/12/05(金) 19:31
- クレンジングを取って、顔を洗う。
泡まみれになるくらい、一生懸命洗って。
それから洗顔用石鹸で、再び洗う。
石鹸の匂いがこうだったって意識したのは、久しぶりだ。
泡を洗い流してしまうと、次は頭を丁寧に濡らしていく。
巻き髪をしたはずなのに、濡らしてしまえばいつも通りの真っ直ぐ。
本当にかかりにくい毛質をしている。
この方が良いって、よっすぃ〜は言うけど。
- 309 名前:リムザ 投稿日:2003/12/05(金) 19:32
- 更新しました
- 310 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/05(金) 23:27
- リムザ様、更新お疲れ様です!
梨華ちゃんの様子が気になって、気になって。。。毎日のぞきに来てます(^_^;)
私も290様と同じく守ってあげたくなちゃいました。
でもよっすぃ〜じゃなきゃだめなんだよね、きっと。
- 311 名前:言霊 投稿日:2003/12/06(土) 23:59
- ころころ髪型を変えているよっすぃ〜には、言われたくない。
イメチェンくらい、自分もしたい。
大概こういうことすると、ファン受けは悪いのだけど。
いっつも不評を買ってる。
黒髪のが良いとか、茶髪が良いとか。
- 312 名前:言霊 投稿日:2003/12/06(土) 23:59
- よっすぃ〜のが良くて、私の何がダメなの?
シャンプーを手に取りながら、シャワーのコックを閉じる。
目をつぶって一気に洗ってしまう。
指先に触れる柔らかい髪の感触が、シャンプーの泡と交じる。
首筋を伝って背中を流れる頃には、泡で目が見えない。
手探りで、泡だらけの手をシャワーのコックへ持っていく。
自分の家くらい、見なくたって動けるものだ。
コックをひねって、シャワーのお湯を頭に受ける。
泡が体を流れていった。
- 313 名前:言霊 投稿日:2003/12/07(日) 00:00
-
きっちりシャンプーを落とさないとハゲるで、と言ったのは加護ちゃんだ。
生え際を特にしっかりと流して、
最後は上を向いて顔に雫を受けてからシャワーを止める。
リンスをつけて、すぐにまた洗い流した。
確か、リンスの付けすぎは良くないはず。
- 314 名前:言霊 投稿日:2003/12/07(日) 00:01
- 体全体をしっかりと濡らしてから、今度はボディーソープを取った。
タオルにボディーソープを落として、泡立てる。
このボディーソープを選んだのも、よっすぃ〜だ。
よっすぃ〜の好きな匂い。バニラ。
色白なあなたにはピッタリだね。
シャンプーも同じような匂いがするけど。
全身を隈なく洗って、汗の匂いを消す。
泡まみれになるのが、実は面白くて。
必要以上にボディーソープを使いすぎるって、怒られたこともあるくらい。
よっすぃ〜に包まれたような感覚に陥りたいから。
泡だらけになった自分を見ようと思って、鏡へ視線を向けた。
視力の悪い目と湯気のおかげで、視界良好とはいかないけど。
とりあえずは何とか、真っ白になった自分が見えた。
興味を引かれて、もう一歩鏡に足を近づける。
そして映った自分の姿。
- 315 名前:言霊 投稿日:2003/12/07(日) 00:01
-
ドキリとする。
見なければ良かったと。
後悔した。
- 316 名前:言霊 投稿日:2003/12/07(日) 00:03
- あれは、鎖骨辺りだろうか。
淡く朱の色が見える。
何で、ついたかなんて。
考えることもしたくなかった。
それは間違いなく、うっ血痕。
良く見えなくて、更に鏡へと近付いた。
自分の顔が鏡に付くくらいまで、近くへ。
- 317 名前:言霊 投稿日:2003/12/07(日) 00:04
- 吸い寄せられるようだった。
まだそんなに日にちは経っていないのだろうか。
ギリギリまで寄せた顔をしかめる。
それはきっと。
あのオレンジジュースのパックを置いていった日に。
- 318 名前:言霊 投稿日:2003/12/07(日) 00:05
- ゆっくりと、鏡へと手を伸ばした。
恐る恐るといった風に、鏡に触れる。
鏡越しに、自分の朱を辿る。
よっすぃ〜が、触れた。
この家で、恐らく一番よっすぃ〜が触れている物。
もう、触れていないところはないくらい。
指先から、体の奥まで。
全部、よっすぃ〜が知ってる。
そっと、鏡に映っている鎖骨をなぞっていく。
泡が引力に従って、落ちていった。
よっすぃ〜が、触れる。
絶えず、よっすぃ〜の指先や口唇が触れている。
私の、身体。
- 319 名前:リムザ 投稿日:2003/12/07(日) 00:08
- 思わず更新してしました。
>310 名無し読者さん
様付けなんて止めて下さい。
稚拙な文章しか書いていないので恥ずかしいです。
レスにつけるのと同等の「さん」でOKです。
・・・石川さんはよっすぃ〜じゃないとダメですが、よっすぃ〜が遊んでいる相手は誰でしょう??
- 320 名前:310 投稿日:2003/12/07(日) 01:06
- (それでは遠慮なく)リムザさん、更新お疲れ様です。
なんか私が催促してしまったのでは反省中です。
どうぞリムザさんのペースで更新なさってくださいね。
誰と海行ってるんでしょうね。きっと悪気なんてこれっぽっちも抱いてないはず。
あー、梨華ちゃん頑張ってぇ〜
- 321 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:15
- あのグラスなんて、比じゃないくらい。
そのまま指先は、鏡に映った自分の唇をなぞる。
よっすぃ〜の唇が触れた回数なんて、私のが一番多いに決まってる。
鏡から手を離す。
- 322 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:15
- そして、一歩後ろに下がった。
鏡に映る私の身体。
自分のなんて、見慣れているはずなのに。
上から下まで、知らない物みたいに見つめた。
呆然と、見つめていた。
伝い落ちてゆく白い泡。
自分の体をこんな風に見たことはなかった。
こんな、まるで。
自分の視線と出会う。
こんなの。
ただのナルシストだよ・・・
- 323 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:16
-
---------身体を見つめてるなんて。
- 324 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:17
- 目を逸らせないまま、シャワーのヘッドを手だけで探り当てる。
ちょっと乱暴に、コックをひねった。
泡を流すより先に、鏡へシャワーを向ける。
自分の体を、視線を、消した。
それから素早く、身体に纏わりつく泡を流して。
浴室中にシャワーをかけた。
そして、ガラスの中に湯気を残して。
浴室から、逃げるように出た。
本当は、一人じゃ何も出来ない。
懺悔をするように、思う。
- 325 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:17
-
一人で何かを成したことなんて、なかった。
一人で何でも出来るって程、思い上がったこともないけど。
日々の全てから仕事に至るまで、一人で出来ることなんて何もない。
今も、そう。
裸のままの私を迎えたリビング。
一人の部屋。
この空間すら、持て余して。
無機質な部屋は、ホテルの部屋を思い出させる。
昔はよっすぃ〜と一緒だった。
- 326 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:19
- 初めて会ったあの日から、よっすぃ〜と合宿して同じ場所にいて。
事務所に入ってからも、それはずっと変わらなくて。
とりわけ加入当初は、よっすぃ〜と二人部屋が当たり前だった。
一人で戸惑ってた私を、そっとフォローしてくれたのはよっすぃ〜だった。
いつもいつも。
・・・一人が良いなんて、大嘘だ。
- 327 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:20
- 一人で一体、私に何が出来る。
髪を伝う雫。
一人じゃ満足に、髪も拭けんないの?
いつも、よっすぃ〜がやってくれるから。
髪は大事にしないとね、って。
せっかくの髪だからって、ドライヤーあててくれるのもよっすぃ〜だった。
一人で暮らしてるこの部屋。
- 328 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:21
- でも、一人でいるのは1年でどれくらい?
帰って寝るだけの空間であるなら良いけど。
ここは、私の家だから。
私の空間なのに。
一人を有効的に満喫してたのは、いつまで?
うっとおしいくらいに、そばにいたのに。
そばにいるのが、当たり前だったのに。
離そうとした指先も、決して離れることはなかったのに。
- 329 名前:言霊 投稿日:2003/12/10(水) 21:22
- 何で海なんか行ってるの。
私は仕事だったんだよ。
待っててくれてもいいじゃない。
八つ当たりなのは、わかってる。
よく知ってる。
仕事を増やしてるのは、私だ。
今の私の状況を作り上げているのは・・・私だ。
- 330 名前:リムザ 投稿日:2003/12/10(水) 21:25
- 更新しました。
>310さん
レスが嬉しくて書いたのは事実ですが、文章がまとまったのも事実なので。
気にしないで下さい。
色白なのに海がやったら似合う吉澤さんです。
- 331 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/11(木) 02:58
- 更新おつかれさまです。
心つかまれる文章で、切ない感じがすごくいいです!
がんばって下さい。
- 332 名前:320 投稿日:2003/12/11(木) 21:05
- 更新お疲れ様です(*^_^*)
昨夜はPCの前で座ったまま爆睡してました。レス遅くなってすみませんm(__)m
切ない、痛い感情がよく理解できる私って。。。
よっすぃ〜、ここ読んでとっとと海から帰って来てくれーって感じです(笑)
- 333 名前:320 投稿日:2003/12/11(木) 21:07
- あれー、上3行消えてます(T_T)すみません。。。
「更新お疲れ様です。
昨夜はPCの前で座ったまま爆睡してしまいました。
レス遅くなってすみませんm(__)m」 が入ってるはずでした(^_^;)
- 334 名前:言霊 投稿日:2003/12/12(金) 00:07
- 仕事を減らしたのは、よっすぃ〜だ。
そんなの、わかってる。
テーブルの上の台本。
鞄の中の資料。
私を流れに乗せてくれるもの。
のめり込める仕事。
でも、仕事だって一人じゃない。
仕事がなくなれば、どうしたら良いのかわからなくなってしまう。
- 335 名前:言霊 投稿日:2003/12/12(金) 00:07
- 私の生きがいの仕事。
私に必要なよっすぃ〜。
どっちがなくなっても、私はちゃんと立ってられない。
どうしたって、一人じゃ生きられない。
どんなに繕ったって、どんなに虚勢を張ったって。
本質は、これなのだ。
年々気付かされる真実。
私とよっすぃ〜のスタンスが決まれば決まる程。
どうしたって。
見えてくること。
一人は、嫌だ。
私を置いていかないで。
けっして、口から零れることのない想い。
言ってはならないこと。
- 336 名前:言霊 投稿日:2003/12/12(金) 00:08
- 少し遠いところに、自分の体はあるようで。
勝手に、クローゼットの方へ足が向く。
ゆっくりと開いた扉。
風呂上がりの自分の体は、それを欲していないけど。
心が、求めるから。
膝をついて、一番下の段の引き出しを開ける。
入っているのは、よっすぃ〜の服。
いつの間にか増えていって、
今では当たり前のように引き出しを占領している。
その中から一枚、コットン地のシャツを取り出した。
- 337 名前:言霊 投稿日:2003/12/12(金) 00:08
- よっすぃ〜のお気に入りだったちょっと大きめのシャツは、
何度私が洗濯してもよっすぃ〜の匂いが消えることはない。
目の前で、たたんであったそれを広げる。
まるでスローモーションのように、黒と白のコントラストが開いていった。
よっすぃ〜の匂いがする。
思わずその服を抱きしめてしまいそうになるくらい、安堵して。
そのまま、素肌の身に纏っていく。
よっすぃ〜に抱きしめられてるような、安心感。
強く求める心が、少しだけおさまれば良い。
満たされなくても、これくらいで良い。
ボタンを掛ける気にはなれずに、羽織っただけの格好でクローゼットを閉める。
袖口も勿論止めていないから、もたつく感じがするけど。
- 338 名前:言霊 投稿日:2003/12/12(金) 00:09
- もう一度リビングへ戻って、テーブルの上の携帯を取りに行く。
明るすぎる部屋。
その眩しさに、まだ違和感は覚えない。
今夜一晩は、このままでも良いのだろう。
誰もとがめる者はない。
携帯を手の内に納めて、リビングを後にする。
もうこれ以上出来ることはないし、最低限のことはやった。
眠れないだろうことはわかっていても、
ベッドの上でゴロゴロしてるのが一番だ。
横になってるだけでも、疲れはいくらか取れるものだし。
- 339 名前:言霊 投稿日:2003/12/12(金) 00:09
- シャツの襟をちょっと気にしながら、部屋に入る。
このシャツは明日出掛ける前に洗濯しておけば、何の問題もないだろう。
よっすぃ〜にばれる心配もない。
今日だけは、借りておきたい。
限りなく、求めている相手。
その残り香が、自分を癒してくれる。
よっすぃ〜の腕の温もりを感じた。
- 340 名前:言霊 投稿日:2003/12/12(金) 00:09
- 明日の朝までには、弱気な私を消すから。
もう少しだけ。
為す術を私は持ってないから。
このままで。
夜が明けるまでは。
- 341 名前:リムザ 投稿日:2003/12/12(金) 00:17
- 更新しました。
クリスマスまでに終わらせたいなと思います。
>331名無し読者さん
レスありがとうございます。
石川さんの大人びた淋しさが伝われば良いと思います。
>332=320さん
PCの前で爆睡して読む小説じゃないですよー
疲れているのは無理しないで下さい。
石川さんの気持ちは女性ならではですよね(w
- 342 名前:332 投稿日:2003/12/13(土) 00:26
- お気遣い、ありがとうございます。確かに最近疲れてます(T_T)
目もやられちゃってるみたいで変なレスして申し訳ございませんでした。。。
しかし今回も痛かったです。好きな人の匂いってなかなかな威力ありますよねぇ。
- 343 名前:言霊 投稿日:2003/12/15(月) 00:01
- ベッドの縁に腰掛けた。
残った雫が、目の前を落ちていく。
柔らかな感触を伝えてくれる、起毛の敷布団。
そこに、上半身だけ投げ出す。
ベージュというよりも白に近い天井が、視界を埋めた。
いつもなら淡く影を作り出しているはずなのに、
明るすぎる照明が影を拒んでいる。
- 344 名前:言霊 投稿日:2003/12/15(月) 00:02
- 病院で見る天井と似ていた。
意識は冴えたままだ。
起毛の温かさに顔を埋めて、指先に絡める。
もう片方の手に握り締めたままの携帯は、一人でいられない証拠。
- 345 名前:言霊 投稿日:2003/12/15(月) 00:02
- 一人になりきれない。
便利な時代になればなる程。
人とのコミュニケーション手段が増えれば増える程。
結局は、さみしさを増やすだけじゃない。
起毛の中で、息を吐き出す。
また仰向けになって、天井を見つめた。
視線をゆっくりとずらしていって壁を見、扉の外にある部屋も見つめる。
そこに、人の気配はない。
- 346 名前:言霊 投稿日:2003/12/15(月) 00:03
- よっすぃ〜に会えるのは。
三日後。
まだ、遠い。
横になったまま、全身をベッドに乗せるように動く。
シャツが背中でしわを作っているのも直して。
握り締めたままだった携帯は、顔の横に置いた。
足元にたたんである掛布団を足で引き寄せる。
けっこうまぬけなことしてるなあ。
半裸でベッドの上でゴソゴソしてるなんて、
端から見たら相当笑えるに違いない。
今笑ってくれる人はいないけど。
- 347 名前:言霊 投稿日:2003/12/15(月) 00:03
- 布団を口元辺りまで引っ張ってきて、目を閉じる。
体は横向きで、いつも通り。
ベッドの左半分で眠るのも、いつも通り。
前髪が顔にかかるのを、かきあげもせずに。
寝れるわけがなかった。
こんなにも、無条件に反射的に求めているのだ。
待ったままの私は、三日後までよっすぃ〜には会えない。
- 348 名前:言霊 投稿日:2003/12/15(月) 00:04
- 右半分に向かって、ゆっくりと当たり前のように伸ばしてしまう腕。
求める存在が見つからなくて、握り締めた指先。
体が、人の温もりを求めてしまうから。
よっすぃ〜を求める。
何の打算も、どんな理性もない。
あるのはただ、求める心。
- 349 名前:言霊 投稿日:2003/12/15(月) 00:04
-
唇をかみしめる。
目を閉じる。
目眩がするみたいに。
頭の奥を熱が灼く。
手のひらで顔を覆った。
嫌だ。
- 350 名前:言霊 投稿日:2003/12/15(月) 00:05
- ダメ。
こんなに。
こんなに。
目頭が熱かった。
泣いてはいけなかった。
・・・よっすぃ〜。
よっすぃ〜、よっすぃ〜、よっすぃ〜・・・。
- 351 名前:リムザ 投稿日:2003/12/15(月) 00:13
- 更新しました。
石川さんにはもう少し淋しい思いをしてもらいます。
>342=332さん
好きな人の体臭は嫌ですけどフェロモン?良いですよね。
安心するというか。
これは男女関係無くわかると思います。
- 352 名前:342 投稿日:2003/12/15(月) 01:46
- 更新疲れ様です。
今日は「よっすぃ〜」の連呼に心臓が止まりそうになりました。
うぅぅ、切ないです(私も最近同じ状況あり(T_T))。
しかしまだもう少し淋しい思いするんですよね?
が、頑張って読みます!
- 353 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003/12/15(月) 12:37
- なかなかよっすぃに会えない石川さんの独白にひそかにキュンとしています
うまいですね〜
- 354 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/16(火) 02:44
- >353
作者さんがsageで更新しているのですから、
sageで書きましょう。
- 355 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/16(火) 06:43
- テストも兼ねて落ち。
- 356 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:31
- どうして。
何故と考えるよりも先に。
全てが。
私の、全部が。
よっすぃ〜を。
- 357 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:31
- 嫌だよ。
ダメ。
こんな。
私を、よっすぃ〜でいっぱいにしないで。
- 358 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:32
- 考えたくなかった。
知りたくなかった。
こんなに、よっすぃ〜が必要だなんて。
涙は零れなかった。
泣き方を忘れたように、泣けなかった。
涙と一緒に、私の中の想いも流してしまえたら良かったのに。
求める指先が捕えるのは、ずっと一人しかいない。
今までも、これからも。
よっすぃ〜。
- 359 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:33
- 私の心も体も、よっすぃ〜しかいない。
私は、よっすぃ〜しか知らない。
よっすぃ〜の存在が強すぎて、泣きたかった。
本当に、泣きそうだった。
心を占めるのは、さみしさだけ。
体が求めるのは、よっすぃ〜だけ。
どうしようもなくて、布団を頭までかぶった。
明るさなんて、もう。
役には立たなかった。
- 360 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:33
- 暗闇の中で、静かに呼吸を繰り返す。
温もりを捕えることをあきらめた指先を、自分の体に寄せた。
冷えた手を少しでも温めようと、口元に持ってくる。
布と布とが、擦れ合う音。
運ばれる手が、途中で何かにぶつかる。
かすかな音が、一つ聞こえた。
- 361 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:34
- ああ、そうだ。
さっき頭のトコに置いた、携帯電話。
指先を口元に持ってくる事はせずに、それを握り締める。
二つ折りになっているのを開くと、液晶画面の明かりが暗闇を消した。
デジタルの示した時刻は、22時34分。
まだよっすぃ〜は、海岸にいるだろうか。
花火大会は続いているかもしれない。
私のいない、よっすぃ〜の時間。
私を必要としていない時間。
- 362 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:35
- 今頃浜辺で、私じゃない色んな人に囲まれて
楽しそうに笑っている姿を想像したら、もうどうしたら良いのか。
思考回路がメチャクチャになる。
よっすぃ〜しか求めてない私が、バカみたいに思えて。
視界をさえぎる髪を乱暴によけた。
画面の人工的な明かりが消えて、また暗闇が戻る。
- 363 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:36
-
-------- アナタしかない アナタしか要らない ---------
- 364 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:36
- 体の線を曖昧にするような真っ暗な空間では、心が置き去りにされてしまう。
心だけが、他の何とも関係なく、ただ在るがままに浮かび上がってくるから。
隠しようもないよっすぃ〜への想いは、空間全部を占領する。
- 365 名前:言霊 投稿日:2003/12/17(水) 23:36
-
もう嫌。
嫌だ。嫌だよ。
耐えられない、こんな暗闇は。
携帯のボタンを押して、再び明かりを灯す。
画面をメールモードに切り替えて。
一番望んでいる人のメモリーを呼び出した。
- 366 名前:リムザ 投稿日:2003/12/17(水) 23:45
- 更新しました。
シャボン玉にある石川さんのセリフが浮かんでしまいました。
( T▽T)「私の 気持ち知ってて口説いたんでしょ?
そうよね?好きなのよね? そうギュッっとして抱きしめてよ〜!」
>352=342さん
いつもレスありがとうございます。
心臓、止めないで下さいね。
ちょっとクリスマスまでに終えられるのか自信喪失中です。
>ラヴ梨〜さん
この話も読んで下さってありがとうございます。
レスですが、ヒッソリしてたいのでsage進行でお願いします。
>354 名無し読者さん
ありがとうございました。
>355 名無し読者さん
最底までsageたかったので願ったり叶ったりです。ありがとうございます。
- 367 名前:352 投稿日:2003/12/17(水) 23:54
- 更新お疲れ様です。
代々心臓が弱い家系なのですが、今のとこ大丈夫です(笑)
うー、今日も痛ーい。でも段々この痛さが快感になりつつあるのですが...
わたし的には長く読める方がうれしいですが、リムザさんのペースでガンバです!
- 368 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:27
- 何を送ったらいいのだろう。
何も書かれていない画面が表れて、そのまま手は止まってしまった。
大分メールのやり取りを交わすようになったとはいえ、
こんな時に送る何気ない文章が思いつかなかった。
普段は、どんなことを送るっけ。
理由もなくメールを書いたことがないから、困ってしまう。
ボタンを押す指先が、定まらなくなる。
何を送ろう。
再び明かりが消える。
まずは内容を考えなければ、と暗闇の中で視線を据えた。
- 369 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:27
- 『花火楽しい?』
ダメダメ。
それじゃ。
拗ねてるように取られるかもしれない。
さみしさが、透けて現れてしまいそうだ。
- 370 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:28
- 『明日のこと考えて、程々にしといてね』
これもダメ。
口うるさいお母さんか、世話焼きの女房みたい。
- 371 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:28
- 何て打てば良い?
私のことを思い出してくれるような言葉。
よっすぃ〜の時間を、少しでも奪うための。
屈折した私の独占欲は、気持ちの共有を望んでいて。
- 372 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:29
- さみしいと。
一人思っているこの感情を、よっすぃ〜にも感じて欲しくて。
互いの存在を同じ引力で結びつけたくて。
さみしさが、私を苦しめるから。
よっすぃ〜を、求める心。
あなたが、欲しい。
- 373 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:29
- もう一度画面を明るくして、やっとボタンを押し始める。
何て打ったら良いのか、全然わかんなくて。
でも、私が打ったことだけわかればいい。
私の存在を思い出してくれればいい。
よっすぃ〜のことしか考えられないこの時間を、少しだけ正当化するために。
画面に表れた文字は。
- 374 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:29
-
『よっすぃ〜』
- 375 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:30
- たった五文字。
送ればいい。
内容なんて、思いつかない。
ただ、私の思いがあって、よっすぃ〜がいる。
それだけで充分。
私がいない、よっすぃ〜だけの時間を少しでもなくしたい。
一瞬でもいいから。
それが本心。
偽りも虚勢もない。
- 376 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:30
- ためらうことなく、送信ボタンを押した。
よっすぃ〜にも、同じように。
私と同じように、思って欲しくて。
隣にいないことをさみしいと。
こんなにも求める相手がいることを、思い出して欲しかった。
送信されたのを確認すると、意志を持って携帯を閉じる。
残るのは、真っ暗な闇。
そして、さみしさ。
- 377 名前:言霊 投稿日:2003/12/18(木) 23:30
- 改めて知るのは、よっすぃ〜の存在の大きさ。
私の全てが、よっすぃ〜に向かって行くということ。
普段なら目を逸らしてしまう事実を、隠すことは出来なかった。
感情も行動も、指先も、全部。
一人でいる時間さえ、奪われている。
たった一人の人に。
よっすぃ〜を求めてしまう。
よっすぃ〜がいないとさみしい。
そう思ってしまう自分。
離れられない、自分を。
- 378 名前:リムザ 投稿日:2003/12/18(木) 23:34
- 更新しました。とくばんの吉澤さんの笑顔最強。
>367=352さん
年内には終わらせたいなと思ってますが。
聖なる鐘が響く夜までに何とかするつもりです。
>でも段々この痛さが快感になりつつあるのですが...
もしや・・・好きですか?放置プ(ry
- 379 名前:367 投稿日:2003/12/18(木) 23:57
- 更新お疲れ様です。
年内に終わっちゃうんですね。了解ですっ。
もうこの小説の世界観にどっぷり嵌っちゃってるんですけどー
五文字の送信文、「リムザさん、うまい!」って思わず声に出してしまいました。
しかし、とくばんのよっすぃ〜カッコ良すぎ・・・
- 380 名前:雪ぐま 投稿日:2003/12/19(金) 02:54
- リムザさん、なんと綿密な心理描写。
さみしいという気持ちを覚えてしまった石川さんの姿が
切なく浮かんできて、たまらない気持ちになりました。
捕らわれの身、ですね。
- 381 名前:言霊 投稿日:2003/12/20(土) 17:54
- この言葉を、素直に口に出せたらどれだけ良いのだろう。
どれ程、よっすぃ〜を安心させられるのだろう。
よっすぃ〜でしか満たされない存在なのだと、言ってしまえばいいのに。
何もかもを剥ぎ去って、ただ真っ直ぐに。
- 382 名前:言霊 投稿日:2003/12/20(土) 17:55
- そうして、優しい腕で抱きしめてもらえば、ずっと楽なのに。
私の全てが、満たされるのに。
でも。
私には出来ない。
どんなに求めても、隣にいないことをさみしいと思っても。
言えない言葉。
大切で大切で、愛しくてしょうがない人。
指先が、冷えてゆく。
温もりは、遠い。
- 383 名前:言霊 投稿日:2003/12/20(土) 17:56
- 「・・・よっすぃ〜」
やっと零れた言葉。
愛しい名前。
泣きたい程に、求める人。
世界でただ一人、私をさみしく出来る存在。
さみしくて。
- 384 名前:言霊 投稿日:2003/12/20(土) 17:56
- 呟いた言葉が、暗闇に溶けてしまうと、後はどうしようもなかった。
止められない。
あふれる、感情。
「さみしい・・・会いたいよ・・・」
- 385 名前:言霊 投稿日:2003/12/20(土) 17:56
- 一人で過ごすことは、得意だった。
今この瞬間でさえ、そうだったと思える。
自分は、一人だったから。
一人で平気だと思っていた。
温もりを知らなかったから。
よっすぃ〜を好きにならなかったら今も、本気でそう思っていただろう。
自分は強いんだと、思い続けられたかもしれない。
感情に、鈍感でいられた。
さみしいということに、気付かなくて済んだのだから。
- 386 名前:言霊 投稿日:2003/12/20(土) 17:57
-
「・・・よっすぃ〜、よっすぃ〜、よっすぃ〜・・・」
- 387 名前:言霊 投稿日:2003/12/20(土) 17:57
- 暗闇を作り出していた布団を引っ張って、明るい空間を取り戻した。
天井を見つめる。
明るさは、意味を持たない。
よっすぃ〜じゃなければもう、癒されないのだ。
よっすぃ〜のシャツも、よっすぃ〜ではない。
仰向けのまま、手のひらで顔をおおう。
冷たい手は、さっきと同じ。
どうして。
そばにいてくれないの。
- 388 名前:言霊 投稿日:2003/12/20(土) 17:58
-
「そばにいて・・・」
届かない言葉は、私の胸に落ちていった。
- 389 名前:リムザ 投稿日:2003/12/20(土) 18:06
- 更新しました。
窓の外は雪景色です。
>379=367さん
自分だったらどうするか、を考えて名前だけメールさせてみました。
「ひとみちゃん」にしようか迷った挙句、一歩引いて「よっすぃ〜」です。
とくばんは何回見ても良いですね。
>雪ぐまさん
レスありがとうございます(T▽T)
いつも楽しみに雪ぐまさんの作品を読んでいます。
ここでの石川さんは大人でも甘えん坊です。
- 390 名前:331 投稿日:2003/12/20(土) 20:58
- 更新おつかれさまです。
石川さんの痛い程の想いがとてもきれいに
描かれていて、読むたびに自分も苦しくなってしまいます。
最後どうなるのかとても楽しみです。
- 391 名前:雪ぐま 投稿日:2003/12/21(日) 00:33
- 窓の外は雪景色ですか。なんだかうらやましいな。
大人で甘えん坊で意地っ張りな石川さん。
すごくリアルに浮かんできて、シンとした気持ちになりました。
- 392 名前:379 投稿日:2003/12/21(日) 15:56
- 昨日は本当に寒い一日でしたね。
だから「よっすぃ〜」だったんですかぁ。わたし的にはストライクです!
理由がわかってますますリムザさんファンになりました(照)
とうとう声になってしまった想い。我慢しすぎだよ〜(T_T)
今更ながらですが、今の梨華ちゃんにはほんと三日は長いだろうなって思います。
- 393 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:09
- この言葉を、素直に口に出せたらどれだけ良いのだろう。
どれ程、よっすぃ〜を安心させられるのだろう。
よっすぃ〜でしか満たされない存在なのだと、言ってしまえばいいのに。
何もかもを剥ぎ去って、ただ真っ直ぐに。
- 394 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:10
- そうして、優しい腕で抱きしめてもらえば、ずっと楽なのに。
私の全てが、満たされるのに。
でも。
私には出来ない。
どんなに求めても、隣にいないことをさみしいと思っても。
言えない言葉。
大切で大切で、愛しくてしょうがない人。
指先が、冷えてゆく。
温もりは、遠い。
- 395 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:10
- 「・・・よっすぃ〜」
やっと零れた言葉。
愛しい名前。
泣きたい程に、求める人。
世界でただ一人、私をさみしく出来る存在。
さみしくて。
呟いた言葉が、暗闇に溶けてしまうと、後はどうしようもなかった。
止められない。
あふれる、感情。
- 396 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:11
- 「さみしい・・・会いたいよ・・・」
一人で過ごすことは、得意だった。
- 397 名前:リムザ 投稿日:2003/12/22(月) 00:12
- すみません。
前回分を投稿してしまいました。
以下、更新分です・・・
- 398 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:13
- どこか遠くで、海の音がする。
よっすぃ〜のいる海だろうか?
潮の香りが、肺に満ちてゆく。
真っ暗な海は、波の音で存在を主張している。
見上げれば、無数の星。
よっすぃ〜?
触れられる距離にいるはずの存在が、見つからなくて。
困惑する。
よっすぃ〜。
暗闇に伸ばした指先を。
- 399 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:13
-
「・・・梨華ちゃん・・・・・」
ハッと目を開ける。
眠っていたのだろうか。
明るかった部屋が、やけに薄暗い。
焦点が合っていないせい?
それに。
今、私を呼んだのは。
誰?
ゆっくりと、焦点を合わせていく。
- 400 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:14
- 視界よりも先に機能し始めた嗅覚が、存在を教える。
海の匂い。
花火の硝煙の匂い。
それに、よく知った・・・。
まさか。
「よっすぃ〜?」
二回ゆっくりと瞬きをしてから、ベッドサイドに腰掛けている人を見る。
嘘でしょ。
何で、ここに。
- 401 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:14
-
「・・・梨華ちゃん」
海に行ってたんじゃないの?
思考が真っ白になる。
どうしよう。
どうして。
- 402 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:15
- 無意識に近い状態で、指先はよっすぃ〜の体重を支えている手へと伸ばされた。
勿論、当たり前のようにそれは受け止められて。
指先が、温まる。
何で、いるの。
何も言わない私に大して気を悪くした風でもなく、
よっすぃ〜独特の柔らかい話し方で私に言葉を投げかけてきた。
- 403 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:15
- 「全くさー、部屋入れてもらおうと思ったら、チェーンは開いてるし。
ただでさえ危ない世の中なんだから、もう少し自覚してよ。梨華ちゃん自体が危なっかしいんだからさー」
よっすぃ〜の声。
空っぽの心が、ゆっくりと。
満たされていく。
- 404 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:16
- 「入ったら入ったで明かりがどこの部屋もついてるし。順番に消して回ったよ。
梨華ちゃんは頑張っているだけ稼いでる人だからいいけど、電気代だってバカにならないんだよ。」
よっすぃ〜だ。
潮の香りを付けてきたよっすぃ〜。
友達と一緒だったんじゃないの?
「それにさー」
大げさな溜め息をついて、私の髪を梳いた。
優しい手。
頬に落ちた髪が、まだ冷たい。
- 405 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 00:16
- 「髪を濡らしっぱなしにしたらダメって言ったでしょ!!
そのまま寝たら髪は絡まりやすくなるし、カゼ引くかもしれないでしょ?」
誰のせいで、髪拭けなくなったと思ってるの?
全部よっすぃ〜のせいだよ?
- 406 名前:リムザ 投稿日:2003/12/22(月) 00:48
- とんでもないフライングをやらかしましたが
とりあえず・・・更新しました。ようやく巡りあえた石川さんと吉澤さん。
>390=331さん
女性的な視点で書いてます。
ようやく最愛の人に出会えた石川さん。
甘えるだけ甘えて下さい!ってカンジです。
>雪ぐまさん
雪が積もるようにシンとしたようで・・・感涙です。
雪くまさんの石川さんのがリアルでありそうで、好きです。
>392=379さん
いや〜〜、そんな。
ファンとかやめて下さいよ。恥ずかしいです(照)
好きで好きでたまらない人には、毎日会わないと辛いですよね。
- 407 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003/12/22(月) 12:32
- この前はあげてしまいすみません
勢い余ってしまいました
かなり更新楽しみでひっそり読んでいたのですが、たまにレスするとこれでして…
作者さんの描写にただただ感激しております
- 408 名前:392 投稿日:2003/12/22(月) 22:22
- 読み進むにつれて私の心にもよっすぃ〜が
じわじわと染み込んで来る感触に少々戸惑いました。
こんな感触初めてです。そして梨華ちゃんの気持ちを思うと泣けて泣けて・・・
やっぱりあのメールの威力はすごいですね。
私もあんなメール来たらすっ飛んで帰ります(笑)
〉ラブ梨〜様
きっと申し訳なく思っていらっしゃるだろうと思って
お節介かなぁとすごく迷ったのですが、落としておきました。
- 409 名前:392 投稿日:2003/12/22(月) 22:36
- ↑お名前間違ってすみません。。。
- 410 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:24
- 「ねぇ」
温かい瞳が、私を見つめる。
指先に力を込めると、同じように握り返してくれた。
もう片方の髪を梳いていた手は、私の首元に降りてくる。
- 411 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:24
- あ。
よっすぃ〜のシャツ。
ちょっと恥ずかしい状態だよね。
何て言えばいいんだろ。
口を開こうとしたのに。
優しい顔を、するから。
言葉を見失ってしまう。
シャツの襟を直して、慈しむように見つめられる。
どうしてとか何でとか、言いたいことも聞きたいことも沢山あるだろうに。
- 412 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:25
-
よっすぃ〜は、何も言わない。
あのメールの意味や、今着ているシャツのこと。
全部を包み込もうとするよっすぃ〜。
優しさがあふれる。
空洞を埋めていく。
どうして、来たとか。
友達と何をしたのかさえ。
今ここにいるだけで良いのだと言うようなよっすぃ〜の表情。
- 413 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:25
- 満たされてしまう。
さみしさが、消えてゆく。
あんなにも、求めていた人。
本当は会いたくなかったのに。
弱さを露呈してしまうから。
でも。
そんなことはどうでもいい。
よっすぃ〜がいる。
それだけで、景色は変わるから。
- 414 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:26
- アナタと出会えて良かった。
アナタに愛されて幸せ。
- 415 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:27
- 薄暗い部屋が心地良い。
淡く浮かび上がったよっすぃ〜の輪郭。
真っ直ぐに射抜く漆黒の瞳は、私だけを見つめてくれる。
よっすぃ〜。
泣きたいと思った。
よっすぃ〜の胸に、全部を預けて。
優しい笑顔はもしかしたら、待っているのかもしれない。
私が動き出すのを。
- 416 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:27
- ゆっくりと瞬きを繰り返す。
涙は、あふれそうにない。
潮の匂い。
たったあれだけのメールで、帰って来てくれた?
あんな、意味を為さない言葉が。
私の心をよっすぃ〜は、見つけてしまえたのかもしれない。
私よりも私のことをわかっているよっすぃ〜。
気付いたのかもしれない。
さみしさに。
- 417 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:28
- だから、花火途中で抜けて?
楽しかったんじゃないの?
久々だったでしょ?
たった、五文字のためだけに。
何を思って、よっすぃ〜は。
温かい指先。
ごめんね。
よっすぃ〜の時間、壊しちゃった。
- 418 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:28
- 「そんな顔、しないでよ。」
目尻に伸ばされた指先。
よっすぃ〜。
瞳を閉じた。
どうしよう。
- 419 名前:言霊 投稿日:2003/12/22(月) 23:28
-
「ねぇ、どうして欲しい?」
- 420 名前:リムザ 投稿日:2003/12/22(月) 23:32
- 更新しました。
何とかクリスマスまでに間に合いそうです。
>ラヴ梨〜さん
ALL OKです。
結果的に落ちましたので。拝読ありがとうございます。
>408=392さん
愛する人からメールがきただけで開くのに
意味深な名前だけのメールだったらソッコーで帰りますよね。
そこが男前&乙女な吉澤さんです。
ochiありがとうございました。
- 421 名前:408 投稿日:2003/12/22(月) 23:56
- 更新お疲れ様です。
いやぁ〜 リムザさんのよっすぃ〜は、本当に男前&乙女過ぎです。
今日は言葉少なに、でも確かな存在感を残すよっすぃ〜に感謝、感謝。
梨華ちゃんとともに心が温まってきました。ありがとうございます。
- 422 名前:雪ぐま 投稿日:2003/12/23(火) 01:47
- ぎゃああ! こんな恋人、最高じゃないすか!
しかも、ちょっとセクシーですよ、リムザさんのよっすぃ〜ったら。
ハァハァ、心が乱れて、思わず取り乱してしまいました……
- 423 名前:331 投稿日:2003/12/23(火) 01:50
- 連日の更新ありがとうございます
とんでかえってきたよっすぃ〜にやられました・・
石川さん思いっきり甘えちゃってくださいよぉ!
- 424 名前:言霊 投稿日:2003/12/23(火) 22:26
- 不意に低くなる声。
どうしたらいいか、教えてほしいぐらいなのに。
何も聞かなかったよ。
どうして、そんなことから。
わからない。
欲しかった相手が目の前にいるだけで。
指先を捕えてくれるだけで。
もう、いっぱいになってしまう。
- 425 名前:言霊 投稿日:2003/12/23(火) 22:26
- 頭ん中は、真っ白。
よっすぃ〜。
本当は、三日なんて待てなかった。
一瞬だって、離れて欲しくないと。
そんな、わがままなこと。
言えるわけない・・・でしょ。
- 426 名前:言霊 投稿日:2003/12/23(火) 22:27
- 視線を合わせる。
ただ見つめ続けるだけの瞳。
優しさだけで、出来てるみたいに見えた。
温もりは、目の前にある。
よっすぃ〜。
薄い照明にかたどられた輪郭を確かめたくて。
そっと伸ばした指先。
- 427 名前:言霊 投稿日:2003/12/23(火) 22:27
- もう片方の手は、まだよっすぃ〜の手の中に。
よっすぃ〜の顔に触れる直前で、その手すら取られてしまう。
包み込まれた指先。
私の全部、抱きしめるみたいに。
さみしさなんて、どこかへ消えた。
私の空洞に、ぴたりとはまった存在。
臆病ささえ、消え失せて。
- 428 名前:言霊 投稿日:2003/12/23(火) 22:28
-
・・・・・・・・・・・・・・・ありがと。
- 429 名前:言霊 投稿日:2003/12/23(火) 22:28
- 素直に、よっすぃ〜の存在に対して思った。
私の所に来てくれて。
私を見つけてくれて。
私に。
さみしさを気付かせてくれて。
ありがと。
- 430 名前:言霊 投稿日:2003/12/23(火) 22:28
- よっすぃ〜を愛することが出来て。
優しい手。
嬉しくて。
嬉しさが切な過ぎて、泣きそうになった。
こんな時にも、人は泣くんだね。
知らなかったよ。
- 431 名前:言霊 投稿日:2003/12/23(火) 22:29
- そっと。
メールに託した言葉を呟く。
それだけで、何もかもわかったみたいで。
よっすぃ〜の笑顔が、私のさみしさをなくした。
私もよっすぃ〜の笑顔に応えられるように、笑ってみる。
その瞬間のよっすぃ〜の表情。
胸がキュンとした。
本当に。
あなたには、敵わない。
〜 FIN 〜
- 432 名前:リムザ 投稿日:2003/12/23(火) 22:36
- 聖なる夜に間に合いました。
サイレンナイ・ホーリーナイ。
本日分にて完結です。
>421=408さん
美味しいところを持ってく吉澤さんです。
60'sファッションにさんま共々メロメロでした。
>雪ぐまさん
言葉は必要最低限で、温もりを石川さんに与える。
そんなカッケ〜吉澤さんでした。
新作も期待してます。
>423=331さん
本当に嬉しくて愛しい時は、
こうなるのじゃないかと思って最後の描写をしました。
この後の二人はどうなるかは、皆さんの想像にお任せします。
・・・・・次回作の構想が固まり次第、投稿していきます。
- 433 名前:421 投稿日:2003/12/24(水) 01:39
- 完結、お疲れ様でした。そして素敵な日々をありがとうございました。
中盤までは「梨華ちゃん、どうなっちゃうんだろう。よっすぃ〜早く帰って来てよー!」なんて
PCに向かって更新の度に叫んでおりました(^_^;)
もう最後なので書きますが、遠恋してた時もらった短文メールですっ飛んで行った体験者でして。。。
会えた時はほんとに言葉がいらなくなるっていうか、
顔見ただけで相手の思ってることわかっちゃうっていうか(照)
こんなにも愛してる人に会える喜びを再確認させてもらえる作品に出会えて幸せでした。
本当にありがとうございました。
まだまだリムザさんの作品読みたいです。
プレッシャーかけてるわけではありませんが、待ってます!
- 434 名前:雪ぐま 投稿日:2003/12/25(木) 21:47
- リムザさん、完結おつかれさまでした。
石川さんの部屋の中だけで、石川さんの恋心だけを掘り下げて
ひとつの物語としてここまで読ませる力量に圧倒されています。
次回作も期待しています。どうぞお身体に気をつけて
よい年末年始をお過ごしくださいませ。
- 435 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/07(水) 00:32
- ホゼソ
- 436 名前:帰還 投稿日:2004/01/14(水) 23:26
- Side R 日常
- 437 名前:帰還 投稿日:2004/01/14(水) 23:26
- いつだって、別れる時のことを考えていた。
エンジンの音だけが響く後部座席に、二人だけがいる。
車を運転しているマネージャーは何を言うでもなく、黙ったまま。
窓の外を見つめているよっすぃ〜の横顔を、そっと見つめる。
寂の支配する空間が、一番よっすぃ〜を感じられた。
あまりにもよっすぃ〜が見えすぎて、怖いくらいだ。
- 438 名前:帰還 投稿日:2004/01/14(水) 23:27
- 対向車のライトに照らし出されると
よっすぃ〜の顔に陰影を作り出して、やたら男らしく見える。
綺麗だな・・・
いつの間にか大人になっていたよっすぃ〜。
表情から実感として捉えられる変化を感じて、自分の幼い面を思い出させる。
本当はとうに気付いていただろうに、目をつぶっていた。
よっすぃ〜のそばにいるためには、自分を見つめてはいけなかった。
己のプライドの高さ故についた代償がこれだ。
大人になったよっすぃ〜と、ある意味で幼いままの自分。
- 439 名前:帰還 投稿日:2004/01/14(水) 23:27
- よっすぃ〜を守ろうとした腕も、
よっすぃ〜を見つめていようとした瞳も、
よっすぃ〜を支えようとした脚も、
よっすぃ〜を離さないでおこうとした指先も、
何もかも全て。
今はよっすぃ〜に包み込まれている。
- 440 名前:帰還 投稿日:2004/01/14(水) 23:28
- その心地良さから抜け出せずに、自分の弱さを見ないようにした。
年上だから守る!といいながら、いつだって守られていたのは自分だった。
よっすぃ〜を見つめ続けても、その表情の変化は見過ごしてきた。
でも、もう限界だった。
よっすぃ〜を真っ直ぐ見つめないでいることも、自分に虚勢を張り続けることも。
・・・・・疲れたの。
- 441 名前:帰還 投稿日:2004/01/14(水) 23:29
-
「そんなに見つめられると、私、・・・すごい恥かしいのだけど。」
信号で止まってから、よっすぃ〜がこっちを向く。
「別に、よっすぃ〜を見ていたわけじゃない・・・」
「相変わらず梨華ちゃんは照れ屋だな〜」
よっすぃ〜はいつだって、真っ直ぐに私を見ていてくれたのに。
本当の自分を誰より真剣に思ってくれたのは、よっすぃ〜だけだった。
- 442 名前:リムザ 投稿日:2004/01/14(水) 23:34
- 新作です。今回は締め切りを設けず、のんびり書いていく予定です。
>421さん
最後まで読んでいただきありがとうございました。
共感していただいて、何だか非常に嬉しく思います。
好きな人への言葉や想いは理屈では言い表せないですよね。
この作品も何か感じていただければ、と思います。
>雪ぐまさん
小説読んでいます。更新ペースが神業ですよ。
夫人の笑い声でOさんのドレス姿を思い出させていただきました。
今回の小説は石川さんだけでなく、吉澤さんでも話を進行させる予定です。
- 443 名前:433 投稿日:2004/01/16(金) 23:24
- 新作始まったんですね。おめでとうございます。
また読んでます、読んでます!
いしよしは二人存在するだけで醸し出す雰囲気が大好きです。
何かそれを楽しませてくれそうな始まりですね。
- 444 名前:雪ぐま 投稿日:2004/01/17(土) 12:15
- 新作、おめでとうございまする。
石川さん、切ないですね。
また楽しみに読ませていただきます。
- 445 名前:帰還 投稿日:2004/01/23(金) 19:29
-
02.Side R 日常
- 446 名前:帰還 投稿日:2004/01/23(金) 19:29
- 「梨華ちゃん、今日テンション低いなぁ。どうかした?。」
ドライな性格のようで鋭いのは、いつものこと。
「別に。なんにもないよ。。」
今、告げることは出来ない。
よっすぃ〜ではなく自分が耐えられないから。
「ちょっと・・・疲れただけ。。」
「・・・そう。」
その横顔は、いつも通りだった。
・・・いや、いつも通りを装っていてくれた。
- 447 名前:帰還 投稿日:2004/01/23(金) 19:29
-
よっすぃ〜はどんな時でも優しい。
誰に対しても優しい。
その中でも、私には格別優しかった。
愛していて、くれたのだと思う。
そう、くれていた。
よっすぃ〜に与えられて、満たされて。
それなのに。
自分は?
- 448 名前:帰還 投稿日:2004/01/23(金) 19:31
- よっすぃ〜のために何をしてあげられただろう。
よっすぃ〜のために何が出来ただろう。
素直になれない自分は、よっすぃ〜に『好きだ』とさえ告げていない。
よっすぃ〜の愛情をよっすぃ〜の優しさを独占してきたのに。
寄りかかったまま生きていくのには、もう耐えられなかった。
よっすぃ〜の腕の中は居心地が良かったけれど、その分自分が弱くなっていく気がした。
弱くなったら、よっすぃ〜のために何も出来なくなる。
だから。
- 449 名前:帰還 投稿日:2004/01/23(金) 19:32
- 「梨ぃ華ぁちゃ〜ん。。」
お風呂の方から、反響してくぐもったよっすぃ〜の声が聞こえてきた。
その声に、夕食を作っていた手を止める。
最近、一人暮らしを始めたよっすぃ〜のマンションに帰ると、
決まって私が夕食の仕度をしてよっすぃ〜が先にお風呂に入る。
そして、二人揃って食事をとった後、
今度はよっすぃ〜が後片付けをして、私がゆっくりと風呂に入る。
二人の一番自然な生活スタイルだ。
今日の夕食になるシチューの鍋にフタをして、火を弱める。
後はルーを加えるだけなので、よっすぃ〜が風呂を出てからでも間に合うだろう。
「梨華ちゃんっ!んーだよ、石川ぁ!」
尚もしつこく呼ぶ声に、わざとゆっくり返事をする。
- 450 名前:帰還 投稿日:2004/01/23(金) 19:33
- 「今行くから、もう少し待ってて〜〜〜〜」
一拍置いてから洗面所へと向かう。
ドアのノブに手を伸ばして、ふと後ろを振り返った。
視線を巡らせて、部屋を見渡してみる。
どこもかしこもよっすぃ〜らしさでいっぱいだった。
フローリングの床も、ソファもテーブルもベッドも照明も何もかも全て。
でも、所々確かに自分の形跡がある。
自分のマンションのあの部屋と共通する箇所があった。
そして、二人でいたという確証までも。
- 451 名前:帰還 投稿日:2004/01/23(金) 19:33
- それは、私がいた証。
それは、私がこの場所に溶け込むことを許された証。
よっすぃ〜の一番近くにいた証拠。
- 452 名前:帰還 投稿日:2004/01/23(金) 19:36
- 感傷的な自分を少しだけ笑って、ドアノブを回した。
「よっすぃ〜。どうしたの?」
浴室のドア越しに声を掛ける。
「あのね、お願いがあるのだけど・・・開けていいよ?」
言われた通りに扉を開けると、
中にこもっていた熱気が蒸気となって洗面所を満たす。
「何?お願いって。。」
どうせロクなことじゃないのはわかっているけど、
それでもきっと聞いてしまうのだろうなあと思った。
私が甘いのじゃなくて、
よっすぃ〜はあまり頼みごとをしないからつい聞いてあげたくなってしまうのだ。
「髪の毛、洗ってほしいんだ。まだ少し染みる。。」
そう言って右手をひらひらさせると、大きめのバンソーコーが手の甲を覆っていた。
- 453 名前:リムザ 投稿日:2004/01/23(金) 19:45
- 更新終了です。今からMステ見なくては。
>433=443さん
レスありがとうございます。
再度お目に掛けていただき光栄です。
今回はほぼ石吉オンリーで長編の予定です。
本当に気まぐれ更新なので時々フラっと来てやって下さい。
>雪ぐまさん
レスありがとうございまする。
リムザにとって石川さんの基本形は八の字眉で悩める乙女です。
末広がりですから(w
- 454 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:12
-
03.Side R 日常
- 455 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:13
- 雑誌の撮影中にはしゃぎすぎて、擦りむいてしまったらしい。
染みないとは言えないが、
わざわざ人に洗ってもらわなければならない程ひどい怪我でもない。
「んー。」
よっすぃ〜の言葉を聞く前から
こういう結果になるのはわかっていたので、仕方ない。
- 456 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:13
- 浴室に入るために靴下を脱ぎ、パジャマ替わりのジャージをたくし上げる。
それから袖口もしっかり折って、少しでも濡れないようにした。
よっすぃ〜はわざわざ自分の方を向いて、バス用の椅子に座って待っている。
「どうしても汗をかくからさ。洗ないと気持ち悪いんだよね。」
言い訳するように苦笑いするよっすぃ〜は、多分人の体温が恋しくなったのではないだろうか。
よっすぃ〜は何だかんだいって淋しがり屋だから、少しでも人の温もりを感じていないとすぐダメになる。
だからこそ、娘。スキンシップNO.1なの。
- 457 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:13
-
こういうことを頼むのは、周期的に訪れる淋しさを紛れさせるためだろう。
「スタジオ入るだけで熱いよね。照明とかに当たるともっと熱くなるし。夏でも冬でも一年中暑いところだもんね。」
シャワーのコックをひねってお湯を出す。
温度の確認をしてから、よっすぃ〜の頭にヘッドを向ける。
「うわっ。いきなりだなぁ。も私ょっと、こう"行くよー"とか言ってくれないと。びっくりするよー」
慌てて下を向いたよっすぃ〜が抗議する。
「嫌だったら自分で洗いなよ。私はよっすぃ〜に頼まれて仕方なくやっているだけなんだもん。」
髪を濡らしていた手を休めて、意地悪に言ってみる。
「悪かったよー。梨華ちゃん、よろしくお願いします。」
「はい、よろしい。」
二人して笑い合う。
- 458 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:14
-
一番大切な何気ない時間。
きっと思い出として残る瞬間って特別な時のものじゃなく、こんな風に過ごす普通の時間だと思う。
優しいその声は、残っていくのだろう。
「ほら、シャンプーするよ。」
どこかのモデルとお揃いにしたこのパーマは少しいじり難いけど、いつも通りの量で良いのだろうか。
細かいことはあまり考えないようにして(よっすぃ〜何も言わないし)、ゆっくりと髪全体に泡を広げていく。
意外と盛大に泡が立ってしまって、よっすぃ〜の肩や背中にそれが流れていった。
「ちょ・・・梨華ちゃん。泡立ちすぎじゃない?」
「大丈夫だって。心配ないよ。ちゃんと目つぶっといてね?」
「はーい。」
返事をすると、手で自分の顔を覆ってしまった。
- 459 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:15
- こういう仕草は真面目に可愛い。
甘えてくれているのだと思う。
少しだけ笑えた気がする。
心からの、優しさだけで出来た笑顔だ。
嬉しいと素直に思えた。
よく洗ってから、大量についた泡を絞る。
キューピーさんヘアにしようと思ったけど、髪にかかった変なパーマのせいで上手くは作れなかった。
髪が動きに逆らう。
「よっすぃ〜・・・やっぱこの髪型変えない?」
「何で?」
手の平の間から、イマイチ聞き取りづらい声が漏れた。
- 460 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:15
- 「キューピーさん、出来ないもんー。」
私にしてみれば結構真剣な問題だったのに、よっすぃ〜は下を向いたまま笑い出した。
何よ、ムカツク。
そのまま何も言わずに、よっすぃ〜の頭の上でシャワーを勢いよく出した。
いきなりの動きにビックリしたらしい。
- 461 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:16
-
どうだー、主導権はこっちにあるんだよ。
湯気のせいで視界は悪くなってきたけれど、どうにかよっすぃ〜の毛先を捕まえてシャンプーを流し出す。
大人しくシャワーを掛けているつもりでも、やはり服に飛沫がかかってしまう。
洗い終えたら着替えたいとは思うが、食事の後はすぐ私のお風呂である。
ここは我慢するしかないだろう。
シャンプーの香りが弱まってきたところで、シャワーを止めた。
- 462 名前:帰還 投稿日:2004/02/01(日) 01:16
- 心地良い沈黙が浴室内に広がる。
いつもの、私たちが作り上げた空気だ。
二人のお互いへの思いが形を成して、空間を作るから。
こんな夜でもまだ、二人の思いは形になっていた。
胸の奥が痛む。
誰よりも大切な人。
心から幸せになって欲しいと願う。
- 463 名前:リムザ 投稿日:2004/02/01(日) 01:17
- 更新しました。
- 464 名前:帰還 投稿日:2004/02/07(土) 13:50
-
04.Side R 日常
- 465 名前:帰還 投稿日:2004/02/07(土) 13:51
- よっすぃ〜の幸せのためなら、自分のエゴにも似た想いはいらない。
幸せに出来るのは私だけなんて、思い上がりを。
痛みそうなパーマを掛けた毛先にリンスを染みこませて、自分の手をすすいだ。
- 466 名前:帰還 投稿日:2004/02/07(土) 13:52
- 「ハイ、おしまい。」
「ありがと。助かった。」
「私にこんなのやらせたら、高くつくよー。」
「あっりえないしぃ〜。」
「嘘だよぉ。そんな顔しないでよ。早く出ておいで、ね?」
笑い声を残して、浴室を後にした。
私は上手く笑えていた?
いつものように、当たり前のように、よっすぃ〜が疑問を持たない振る舞いが出来ただろうか。
キッチンに戻って、シチューにルーを入れる。
- 467 名前:帰還 投稿日:2004/02/07(土) 13:53
- よっすぃ〜が幸せになる方法を自分は見つけられたのだろうか。
よっすぃ〜を不幸にさせないための方法は思いついた。
その先を見つけるのは、私の役目ではないのかもしれない。
きっとよっすぃ〜は自分で見つけるだろう。
あの黒い大きな綺麗な瞳なら、幸せの行方がわかるはずだ。
そして、自分は。
私はもう、何も要らない。
- 468 名前:帰還 投稿日:2004/02/07(土) 13:53
- 今まで沢山すぎるものをよっすぃ〜に与えられたのだから。
よっすぃ〜の愛情こそが、私の幸せの行方だった。
私の幸せは、もうすでに手の内だ。
今度は私が、アナタに与える番。
そして。
よっすぃ〜のために、何が出来るだろう。
答えはもう、出ていた。
- 469 名前:帰還 投稿日:2004/02/07(土) 13:54
- 更新終了。
- 470 名前:331 投稿日:2004/02/08(日) 01:26
- 更新お疲れ様です。
言霊につづいて今度のもすごく
なんとも言えない雰囲気ではまりますね。
つづき楽しみにしています。
- 471 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:00
- ちゅ
- 472 名前:帰還 投稿日:2004/02/14(土) 17:50
-
05.Side R 日常
- 473 名前:帰還 投稿日:2004/02/14(土) 17:51
- 何もかもいつも通りだった。
向かい合って食べる夕食も、
よっすぃ〜が後片付けをしている間に私が風呂に入るのも何もかも。
いつものようにゆっくりとお風呂に入って、
バスローブだけを羽織ってからよっすぃ〜のところへ行く。
ソファに座って雑誌をめくっていたよっすぃ〜は、
まぶしそうに目を細めて私を見つめた。
それでも大きな瞳には、いつもと変わらず私しか映っていない。
優しく腰を抱き寄せて寝室に導く腕も、
そっと触れてくる口唇も、体を探る指先も抱きしめた背中までいつも通りだった。
全てが日常の一部となっていたことに気付く。
- 474 名前:帰還 投稿日:2004/02/14(土) 17:52
- 頬を伝う雫を行為のせいにして、
しがみつくようによっすぃ〜の首に腕を回した。
よっすぃ〜は何も知らない。
熱い二つの身体が一つになる瞬間が、苦しくて切なかった。
息の整わない私の髪をゆっくりと梳いてくれる、
よっすぃ〜の手が気持ち良すぎて、出来ることならずっとこのままでいたかった。
睦言のように繰り返される他愛もない会話が耳をくすぐって、
このまま時が止まれば良いのにと本気で思う。
その願いが叶わないことは、勿論わかっていた。
これから自分でこの時を手放すのだから。
今言わなければもう言えないような気がして、閉じかけた瞳を上げる。
「なに?」
- 475 名前:帰還 投稿日:2004/02/14(土) 17:53
- 視線に気付いたよっすぃ〜が、優しく問いかけてくれる。
よっすぃ〜の優しさに負けそうになって、思わず目を逸らした。
体温に甘えそうになる。
「・・・よっすぃ〜。」
視線を合わすことは出来なかった。
顔を見たくなかった。
「別れよ。」
- 476 名前:帰還 投稿日:2004/02/14(土) 17:54
- 別れるのは抱かれた後が良かった。
身体に残るよっすぃ〜の匂いやよっすぃ〜のつけた跡が
少しでも長くさみしさを紛らわせてくれると思ったから。
少しでも長く、よっすぃ〜に抱かれていると錯覚していたいから。
「なんで?」
甘い会話の続きのように呟いた言葉を、よっすぃ〜は理解しづらかったようだ。
呆気にとられたように私を見つめる視線が痛くて、
よっすぃ〜の腕の中に納まっていた体を無理矢理起こした。
「梨華ちゃん・・・ウチのこと、嫌いになった?」
黙ったまま首を振って否定する。
- 477 名前:帰還 投稿日:2004/02/14(土) 17:55
-
よっすぃ〜が私を嫌いになることはあっても、
私がよっすぃ〜を嫌うことだけは絶対にあり得ない。
ぱさぱさと揺れる髪の間から、汗の雫が飛び散った。
「じゃあ、誰か他に好きな人でも出来た?」
また、首を振る。
「なら、なんで・・・」
よっすぃ〜にはきっとわからない。
真っ直ぐに見つめることの出来るこの瞳を持った人間にわかるはずがない。
わかる必要もない。
- 478 名前:帰還 投稿日:2004/02/14(土) 17:56
- 「私、なんかしたっけ?。」
違う。
私が。
「・・・別れよ。ね?」
よっすぃ〜に理解して欲しいとは思わない。
もう一度呟いた言葉に、よっすぃ〜が溜め息をつく。
「わかった。」
素直に私の言葉を受け入れてくれたよっすぃ〜。
ある程度、予想していた対応だった。
一度決めたことを決して曲げない私の性格を、
充分に把握してくれているからこそ、あっさりと引いてくれたのだろう。
お互いをどれだけ理解しているのか、最後の最後まで思い知らされる。
理由も言わずに、納得してくれるはずなどないのに。
ごめんだなんて、絶対に言えなかった。
- 479 名前:帰還 投稿日:2004/02/14(土) 17:56
- 今この瞬間でさえ、よっすぃ〜のことを愛しいと思う。
こんなにも人を想えることなど、もうないだろう。
大切な存在。
(よっすぃ〜、好き・・・ひとみちゃん・・・大好き・・・・・・)
『好き』という言葉の代わりに、私は別れを告げた。
- 480 名前:リムザ 投稿日:2004/02/14(土) 18:02
- 更新終了です。
>470さん
石川さんの重大な決断が今回の更新でのメインです。
バレンタインなのに・・・2人はチョコを配ったのでしょうか?
>471名無し飼育さん
ちゅ
- 481 名前:リムザ 投稿日:2004/02/14(土) 18:09
- 空板をザッと見たら「名無し飼育」という輩が
あちこちのスレを軽く荒らしてるようです。
見事にレスしちゃいましたが、以降は短レスの人にはレスしませんので。
- 482 名前:331 投稿日:2004/02/14(土) 22:12
- ああ、そうか・・・。
もう泣きます。この展開。
読みかえしてみて、石川さんの気持ちが
すごいグッときました。
- 483 名前:帰還 投稿日:2004/02/22(日) 00:19
-
06.Side H 選択
- 484 名前:帰還 投稿日:2004/02/22(日) 00:20
- あの日、梨華ちゃんは涙を見せなかった。
黙ったまま部屋を出る後ろ姿がやけにさみしくて、私は泣いた。
明け方まで泣きに泣いて、仕事など出来ないくらいにひどい顔をしていた。
マネージャーが痺れを切らして家に入ってくるまで、仕事のことなんてすっかり忘れていた。
別れの日から6日間、梨華ちゃんとの仕事は入ってなくて。
あの別れが用意されていたものだということに気付いた。
やはりあの時に何を言ってももう無駄だった。
一度決心したことを簡単には覆さない梨華ちゃん。
その潔さにも勿論惹かれていたけれど、まさかこんな結論を導き出すとは思ってもみなかった。
- 485 名前:帰還 投稿日:2004/02/22(日) 00:21
- 梨華ちゃんに別れを決意させた原因は何だったのかな。
彼女はそうそう自分のために動かない人間だ。
何が辛かった?
問い質しても返ってこないだろう答えに考えを巡らせて、もう二週間が経っている。
梨華ちゃんは収録を終え、楽屋に留まることなく次の現場へと向かった。
梨華ちゃんのいない楽屋はさみしくて、また涙が溢れそうになる。
けれど今日、確信したことがあった。
2週間前には気付けずに泣いてしまったけど、
今日までの梨華ちゃんとの現場で私はわかってしまう。
推測ではなく、肌で感じたんだ。
- 486 名前:帰還 投稿日:2004/02/22(日) 00:23
- 今日改めて、はっきりと言える。
梨華ちゃんの無意識だろう行動が、私を求めていた。
仕事中ではない楽屋や車の中では離れて口すらきこうとしなかったけど、
収録中になると一転して必要以上に触れてくる。
体が正直に私を思っているんだ。
だからこそ今、私は梨華ちゃんのいない楽屋の片隅で一人涙をこらえられる。
他メンバーともやり過ごせる。
梨華ちゃんを思い過ぎても壊れることはなくいられた。
いっそ無表情ともとれる表情で、辛い結論を告げた梨華ちゃん。
悲しい程に強靭な精神力を駆使して、私を遠ざけた。
あんな顔をした梨華ちゃんを責めることは出来なくて。
そして、あえて梨華ちゃんの結論を受け入れた。
そう、あえて受け入れたんだ。
- 487 名前:リムザ 投稿日:2004/02/22(日) 00:26
- 短いですが更新しました。
>482さん
石川さんがなぜこの選択をしたのか・・・
吉澤さんはようやく気付きだしたようです。
ずっと石川さんサイドで書いていたので今日は吉澤さんサイドで読んで下さい。
- 488 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 01:31
- 二人の心境を想像する苦しいですね
何に気づいたのか気になります
突然ですが、作品の空気がとても好きです
- 489 名前:帰還 投稿日:2004/02/27(金) 23:22
-
07.Side H 選択
- 490 名前:帰還 投稿日:2004/02/27(金) 23:23
- こっちが意地を張れば、必要以上に意地を張り通そうとする性格。
下手をすると、本体なのに楽屋まで別々にされかねない。
梨華ちゃんの隣を誰にも渡す気などなかったから、別れを選んだ。
そんな選択をした梨華ちゃんの一番近くにいるために。
辛さに耐えられなくなった時、その体を支えられるように。
梨華ちゃんの性格がもっと素直で、人に寄りかかれるのだったら良かった。
そうすれば、こんなに回りくどい方法を取らずに済んだはずだ。
でも、そんなところまで梨華ちゃんだから。
そんな梨華ちゃんを本当に愛しているから、もう少しだけ見守っていようと思う。
別れを決意させた原因が未だにわからないから、きちんと救ってやれないし。
だが、恐らく。
私のため、なんだろうね。
- 491 名前:帰還 投稿日:2004/02/27(金) 23:23
- ぼんやりと見え隠れする梨華ちゃんの真理の輪郭が、そう示している。
優しすぎて傷つきやすいのだ、あいつは。
あまりにも自身に対して鈍感すぎて、気付かないだけで。
自分よりも周りを優先する。
そして、私〜のためなら全てを投げ出すだろう。
己の幸せすら厭わないかもしれない。
ピントのずれた梨華ちゃんは、私のことをきちんとわかっていないのだ。
私のためを思うなら、梨華ちゃんの隣にいさせてくれれば良い。
それだけで、私は世界一幸せな人間になれる。
とても簡単な真理。
- 492 名前:帰還 投稿日:2004/02/27(金) 23:24
- けれど梨華ちゃんは、理解しようとしないだろう。
梨華ちゃんにいつでも纏わりついている罪悪感。
タブーを侵している私らの恋愛は、モラリストの梨華ちゃんに罪の意識を持たせる。
たまたまが重なりすぎただけで、愛情は他の恋人達と何ら変わりないのに。
けれど梨華ちゃんに、この論理は通用しないのだ。
多分これが、今回の真理に最も近いだろう。
- 493 名前:帰還 投稿日:2004/02/27(金) 23:24
-
今はまだ、待っている。
梨華ちゃんが自分で気付くまで。
黙ったまま、隣でいつでも手を差し伸べておこう。
今はそれでいい。
ただ。
梨華ちゃんの痩せ方が気になっていた。
- 494 名前:リムザ 投稿日:2004/02/27(金) 23:27
- 更新しました。
Mステ最高でした。
石川さんメインなので吉澤さんはどうしても短くなってしまいます。
気をつけよう・・・
>488名無飼育さん
レスありがとうございます。
作品の空気は駄文なのに漂っているのでしょうか?
お褒めいただきありがとうございます。
- 495 名前:331 投稿日:2004/02/28(土) 21:32
- 吉澤さんはほんと石川さんのこと愛してるんですね・・・。そして石川さんも。
リムザ樣の話すごく好きです。
静かにこう、心つかまれる感じで。って最初のレスでも
同じようなこと書いた気が・・・。
相変わらずつかまれっぱなしです。
- 496 名前:雪ぐま 投稿日:2004/03/02(火) 13:29
- よっちゃん、大人ですなあ……。
なんだかリアルにありそうなお話でドキドキしてしまいます。
最近の梨華ちゃん、笑顔に影があるような気もするし、ね……
- 497 名前:帰還 投稿日:2004/03/06(土) 10:44
-
08.Side R 未来
- 498 名前:帰還 投稿日:2004/03/06(土) 10:45
- 私たちのクリスマスソングが街中に溢れ出していた。
どこもかしこもふわふわしていて私は気後れしてしまう。
ただでさえ気分的には最悪なのに。
あの日の別れを後悔しているわけじゃない。
一ヶ月あまりが過ぎた今も、あの選択に満足している。
ただ、体が追いついてくれない。
よっすぃ〜に会えるのは週に4日。
これから年末に掛けては、もっと会える日が増えるけれど。
週4日しか会えない。
理解していたつもりだったのに、それが辛い。
- 499 名前:帰還 投稿日:2004/03/06(土) 10:46
- 1週間の内4日は何事もなかったよう、
私たちの関係なんかなかったように気を張って過ごす。
残りの3日はよっすぃ〜の存在を忘れようと平気なフリをして過ごす。
どっちが楽かと考えれば、
会えない3日間の方が楽に決まってるけど、体はどうしてもよっすぃ〜が隣にいる4日間の方が良いらしい。
おかしいな、別れたかったのは私なのに。
私1人に与えられた楽屋で、ぼんやりしてしまう。
今日は、3日間の方だ。
- 500 名前:帰還 投稿日:2004/03/06(土) 10:48
- よっすぃ〜の空気は、この部屋にない。
それだけのことが。
呼吸のリズムを狂わせる。
酸素が薄いような気までしてきた。
ゆっくりと、細く息を吐く。
目の前に広げられているのはお弁当。
さっき、なかなか食事をしようとしない私のために、
飯田さんがふたを開け熱いお茶まで入れてくれたのだ。
「石川、ちゃんと食べないとちゃんとお仕事できないよ?」
食べないといけないのは、わかっている。
わかってる。
- 501 名前:帰還 投稿日:2004/03/06(土) 10:48
- けれど、口にしたくない。
湯気を立てているお茶さえ飲みたくない。
ここのところ、飲み物すら受け付けなくなっているのだ。
体が食べ物を入れることを拒んだ。
無理矢理詰め込むと、吐いてしまう。
何だか食べ物に申し訳なくて、何日間か食べていないような気もする。
最後にきちんと食べられたのは。
考えても仕方ないことばかりが頭を占領している。
不安でしょうがないのだ、私は。
- 502 名前:帰還 投稿日:2004/03/06(土) 10:54
- よっすぃ〜が隣にいないだけで、胸が苦しい。
こんなに愛していたのかと、今更になってわかった。
けれど、あまりにもリスクが多い愛だったことも事実。
私は女でよっすぃ〜も女で、世間的には受け入れられない同性愛。
まして2人とも芸能界という特殊な世界にいて、
ファンの子に夢を与えるアイドルなんてやっていて。
許されるはずがない、認められるはずがない。
私たちはイケナイコトをしている。
- 503 名前:帰還 投稿日:2004/03/06(土) 10:55
- 確かに、2人のことを認め、見守ってくれた人たちもいたけれど。
でも、私が不安だった。
よっすぃ〜が隣にいる時から、ずっと苦しかった。
いつか。
いつかきっと、よっすぃ〜は選択する時が来る。
吉澤ひとみの未来を選ぶ時。
私は、よっすぃ〜の未来には選ばれないだろう。
- 504 名前:リムザ 投稿日:2004/03/06(土) 11:14
- 更新しました。
うたばんのクネクネしてる石川さんがツボでした(w
>495さん
振り返ってみると盛り上がりに欠ける小説ですよねぇ・・・
ひしひしと伝えてるような気がします。
まだまだ未熟者ですが、読んでいただけてると思うだけで励みになります。
>雪ぐまさん
お久しぶりです。
引き続き溺れて人魚も読んでますよー
ストレスが溜まってる娘。さん達に休みを!と思います。
石川さんの笑顔は・・・無理してる時ありますね。他の娘もそうですが。
- 505 名前:リムザ 投稿日:2004/03/06(土) 11:25
- やはりこちらに書こう・・・
>雪ぐまさん
実は2月末にパンパシフィックを利用してまして。
予約したのは1月ですが、
雪ぐまさんの「初めてのメリークリスマス」と被ってしまいドキドキしてました。
ま、あんな素敵なデートじゃなく、ナァナァですけど(w
- 506 名前:雪ぐま 投稿日:2004/03/10(水) 02:59
- 石川さんの想いがひしひしと伝わってきます。
愛ゆえの選択なのでしょうが……、切ない。
メッセージをいただき、ありがとうございます。
パンパシは雪ぐまもよく利用しておりましてw
テラスに出られるのと、あの観覧車がドカンと見えるのがなんとも。
うーむ、そうですかデートで行かれましたか……(ウラヤマシーゾォ!
- 507 名前:帰還 投稿日:2004/03/12(金) 21:18
-
09.Side R 未来
- 508 名前:帰還 投稿日:2004/03/12(金) 21:19
- だって。
だって・・・
私たちは、未来に何も遺せない。
結婚出来るわけじゃない。
子供だって、当たり前だけど出来ない。
よっすぃ〜と私の子供、考えたことがないわけじゃないけど。
一緒に話してたこともある。
私は子供好きだから、
現実味のない話を真剣に考えて、2人でベッドの中語り合ってた。
普通に男の子と付き合えば
何の問題もなくクリア出来ることを私はしてあげられない。
どっちかが男の子だったら、良かったのかもしれないけど。
私に男の子みたいな力強さはないし、
よっすぃ〜が男の子だったらなんて考えたこともない。
ああやって男らしい振る舞いはするけど、キャラ作りもあってしているだけ。
実際の内面はすごく女らしい人。
- 509 名前:帰還 投稿日:2004/03/12(金) 21:20
- 多分、よっすぃ〜があのままだったから好きになったのだと思う。
よっすぃ〜の弱さも強さも全部含めて、大好きだった。
あの、弱さを強さに変えてしまう優しさを愛していた。
幸せになって欲しい人だった。
よっすぃ〜の子供が見たかった。
よっすぃ〜なら、世界一幸せな家族を作るだろう。
私は、よっすぃ〜のために家族を作れないから。
何も残せないから。
知ってる?よっすぃ〜。
私らは、――私はアナタのために何も遺せないの。
それは、変えることの出来ない事実。
いつからか私は不安になっていた。
いつも今だけを考える私が、未来のために動けなくなっていた。
よっすぃ〜のために何かしたかった。
何が出来るのかを考えた。
- 510 名前:帰還 投稿日:2004/03/12(金) 21:21
- その結果が、今のこの状態だ。
よっすぃ〜を解放出来たことに安堵して、よっすぃ〜が隣にいないことを不安に思う。
もう体なんて言うことを聞かない。
目の前に広げられた食事。
マネージャーもそろそろ気付くだろう。
こんなにも過保護になっているのは、私の変調をおかしく思っているせいだ。
マネージャーですら気付き始めたのだ。
よっすぃ〜が気付かないわけがない。
食べなきゃ。
よっすぃ〜に気付かれてしまうよ?
独りで生きられるようにならなくてはいけない。
よっすぃ〜が私を振り返らずに、独りで進めるように。
今はとりあえず仕事がしたい。
仕事をしていれば、他のことは忘れていられるから。
よっすぃ〜のいない違和感を見過ごしていられるはずだ。
目の前の食事を無視して、背後にあるカバンから台本を取り出そうとした。
瞬間。
全てが真っ白になって、何もわからなくなってしまった。
- 511 名前:リムザ 投稿日:2004/03/12(金) 21:24
- 少量ですが更新しました。
>雪ぐまさん
梨華ちゃんのネガティブ状態爆走です。
トメっちみたいに可愛い石川さんを書きたいものの、
どうもこっちの石川さんはお姉さんキャラになってしまいます。
告白記念日にレスありがとうございました。
- 512 名前:443 投稿日:2004/03/13(土) 15:33
- お久しぶりです。やっと読みに来れました。仕事忙し過ぎです。
たくさん更新されていて一気読み!
やっとリムザさんに会えて感涙でございます(T_T)
お互いを大事に想う第一段階ってこういう愛の形になるのかなぁ。
- 513 名前:ちがう 投稿日:2004/03/14(日) 03:25
- ためし飯島
- 514 名前:extra 投稿日:2004/03/15(月) 10:54
- はじめまして。ずっと読んでいました。心理描写の上手さに感嘆してしまいます。
これからも頑張ってください!!
- 515 名前:帰還 投稿日:2004/03/20(土) 19:42
-
10.Side H 人生
- 516 名前:帰還 投稿日:2004/03/20(土) 19:48
- 梨華ちゃんが病院に運ばれたらしい。
マネージャーから連絡があり、説明する飯田さんに無理矢理聞き出した。
自分の仕事を終えてから、
という約束で、梨華ちゃんの病院へ行かせてもらえることになった。
これ以上はないというくらいの勢いで仕事を終えると、即、車を回してもらう。
窓の外に過ぎる景色が、冬の色を示していた。
常緑樹に飾られたイルミネーションが、もうすぐクリスマスだということを教えている。
発売されるのはもっと先だけど、
ふと、自分たちの新曲の歌詞を思い出した。
悩みが消えなくて
涙流したり
言葉とり違えて
誤解招いたり
娘。の顔である安倍さん最後の曲になるとつんくさんから言われた時、
自分達に同調できる部分があるなって思った。
車の中で誰にも聞こえないようにそっと口ずさむと、
同時に梨華ちゃんのことを考えた。
- 517 名前:帰還 投稿日:2004/03/20(土) 19:49
- 栄養失調と過労で倒れたという梨華ちゃんは、
点滴を受け真っ白なベッドに身を横たえていることだろう。
シーツから浮き出るような腕に、細い針を刺して。
そんな姿を想像しても、冷静でいられる自分が不思議だった。
過去何度か梨華ちゃんは病院に運ばれている。
その時はひどく取り乱して目覚めた梨華ちゃんに逆に心配させたくらいなのに。
今は驚く程冷静に、静かな眼差しのままでいられる。
その原因をきちんとわかっていた。
- 518 名前:帰還 投稿日:2004/03/20(土) 19:51
- 冬という季節のせいか、いつもより甘いラヴソング。
甘く切ない、遠距離恋愛の歌ともとれるかな?
口元が少し緩んだ。
だってさ私たち今、心の遠距離恋愛してるみたいだね。
体調を崩した梨華ちゃんが本当に心配なのに、
私と離れただけで倒れてしまうくらい辛いのだと思うと、不謹慎ながらも嬉しくなってしまう。
私が隣にいなきゃ駄目だと言ってるようなものだよ。
梨華ちゃんにとって私は空気?水?
きっとベッドに身を預ける梨華ちゃんを見たら、こんなに平静ではいられないだろうけどさ。
梨華ちゃんの無自覚の愛し方に、愛おしさを募らせてしまう。
- 519 名前:帰還 投稿日:2004/03/20(土) 19:52
-
もう何も悩まなくて良いから、戻っておいでと言いたくなった。
けれど、梨華ちゃんが出した結論だから。
梨華ちゃんが気付かないくらいの手助けをするつもりだが、
もう少しだけ遠距離恋愛を続けても良いかと思う。
あの人は人に頼るのが本当に苦手で、
私にさえ梨華ちゃん自身を預けようとしない。
梨華ちゃんの人生まで全て背負う自信が、私にはある。
まだ十代で人生なんてこれからだと周りの人は言うけれど、私には梨華ちゃん以外考えられない。
梨華ちゃん以外、あり得ない。
そうあり得ないんだ。
- 520 名前:リムザ 投稿日:2004/03/20(土) 19:57
- 少量ですが更新しました。
吉澤さんの写真集が話題を読んでいますが、まだ入手していません。
明日は本屋巡りです。
>512さん
お久しぶりです〜
忙しかったのですか、ご苦労様です。
そんな大変な状態なのに読んで頂いて感謝してます。
好きだけど別れを選ぶというのは、まぁ・・・あると思います(w
>extraさん
初めまして!レスありがとうございます。
いやはや感嘆させるほどの腕前ではありません。
まだまだ甘いなぁと思うことが書いていても思います。
宜しければ今後とも読んで下さい。
- 521 名前:帰還 投稿日:2004/03/27(土) 13:50
-
11.Side H 人生
- 522 名前:帰還 投稿日:2004/03/27(土) 13:51
- ただ隣に梨華ちゃんがいてくれるだけで、私は2人分の人生を抱えられる。
それくらいに、梨華ちゃんを愛していた。
今は少しだけ遠い梨華ちゃん。
でも、その隣を手放す気は毛頭ないし、いつでも抱きしめていてやりたい。
どんなに離れていても。
事務所御用達の病院の建物が見えて、私は歌うのをやめた。
最上階の1番奥の特別室。
面会謝絶と書かれたプレートを無視して、扉を開けた。
厳戒体勢というわけではないらしく、
部屋の真ん中に置かれた大きなベッドの横にマネージャーしかいなかった。
私の姿に気付いて、曖昧な笑顔を浮かべる。
そちらに軽く会釈をすると、ベッドの方へ視線を向けた。
- 523 名前:帰還 投稿日:2004/03/27(土) 13:52
- 想像していた通りの姿で、梨華ちゃんは横たわっている。
特別室という部屋のせいか程良く茶が調和していて、
部屋自体に不自然さは感じなかったが、
その顔色は不自然を通り越して痛々しかった。
こんなになるまで、何も言えずに。
梨華ちゃんは、辛い時に辛いと言わない。
- 524 名前:帰還 投稿日:2004/03/27(土) 13:52
- 思ったことをそのまま口にしないということは、
この世界に入って学んだ処世術だったけど、
梨華ちゃんにはマイナスに働いてしまった。
自分の体調や気分すら口に出さなくなった梨華ちゃん。
その内、言葉にしないで胸の中に秘めていることすら疲れたのか、
自分の感情に気付かなくなってしまった。
隣で梨華ちゃんの変化を見ているのが辛くて、自分の腕の中へ引き込んだ。
梨華ちゃんが自身に無頓着であるなら、私が代わりに見てやりたかった。
梨華ちゃんの分まで、梨華ちゃんを愛してやりたかった。
ふと、愛しすぎたのかもしれないと思う。
- 525 名前:帰還 投稿日:2004/03/27(土) 13:53
-
「梨華ちゃん。」
枕元まで近寄っていき、そっと名前を呼んだ。
拒むように閉じられていた瞳が、ゆっくりと開かれる。
スローモーションのような動きをじっと見ていると、梨華ちゃんが視線を合わせた。
こうして視線をつなげるのも、久しぶりのような気がする。
私を見上げる瞳には戸惑いと拒絶、そしてあからさまな安堵の色が見えた。
無意識でも、やはり私を求めている梨華ちゃんに安心する。
すぐにでも抱きしめて、愛の囁きを落としてやりたい。
けれど、それでは戻ってこないだろう。
この人はそういう女性だ。
- 526 名前:リムザ 投稿日:2004/03/27(土) 13:55
- 更新しました。
- 527 名前:わく 投稿日:2004/03/27(土) 19:53
- いつも読んでます!!
とってももどかしいというか2人の想い・・・。
早く2人に幸せが訪れるのを願うばかりです・・・。
- 528 名前:帰還 投稿日:2004/04/04(日) 01:16
-
12.Side H 人生
- 529 名前:帰還 投稿日:2004/04/04(日) 01:17
- 「何日、食べてないの?」
思ったよりもきつい口調になってしまった。
心配でどうしようもなくて、つい問い詰めそうになる。
「梨華ちゃん。」
梨華ちゃんは答えない。
瞳はまだよっすぃ〜を見上げているのに、口元は意思を持って閉じられていた。
決して答えないだろう梨華ちゃんに早々に見切りを付けて、マネージャーを見遣る。
困ったように眉を顰め、苦い顔のまま重い口を開いた。
- 530 名前:帰還 投稿日:2004/04/04(日) 01:17
- こちらも本当は言いたくないようだ。
「6日、だって。ここ2日は水分すら取ってないかな。」
梨華ちゃんの視線が外れ、気まずそうに瞳を伏せた。
私は言葉を失う。
一昨日は一緒に仕事をしたはずだ。
何故、気付けなかった。
後悔と怒りが胸を占める。
一昨日は笑っていた。
昨日もきっと、笑っていたのだろう。
- 531 名前:帰還 投稿日:2004/04/04(日) 01:18
- わかっていたはずだ、梨華ちゃんの性格など。
視界が滲むのも構わずに、梨華ちゃんの細い手首を掴んだ。
怒鳴りたかった。
何故、と憤って自分を大切にしない梨華ちゃんと
気付けなかった私に向かって思い切り怒鳴り散らしたかった。
車の中での冷静さなど、もう思い出せない。
このまま抱き寄せて口付けをして、もう離したくなかった。
誰に何を言われようが、隣に置いて守りたかった。
そんなこと、梨華ちゃんは望んでないのだろうけど。
何でこんなに、大切に出来ないのだろう。
- 532 名前:帰還 投稿日:2004/04/04(日) 01:19
- 『モーニング娘。石川梨華。』という存在は、世界中でたった1つなのに。
私の相手は、あなただけなのに。
どうして。
思い切り声を上げようとしたのに、言葉よりも先に涙があふれた。
梨華ちゃんを愛してやりたい。
ただそれだけだ。
それだけ。
- 533 名前:リムザ 投稿日:2004/04/04(日) 01:21
- 更新しました。
桜満開ですな。
>わくさん
拝読ありがとうございます。
年齢的に相手の幸せを考えられるようになった石吉です。
今後もよろしくです。
- 534 名前:帰還 投稿日:2004/04/10(土) 00:34
-
13.Side R 静寂
- 535 名前:帰還 投稿日:2004/04/10(土) 00:34
- 顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるよっすぃ〜を呆然と見つめた。
陰では意外に泣き虫だとは知ってだけど、こんな風になる必要性はないと思うの。
食べられなかったのは、私だもん。
大粒の涙を次々と零していくよっすぃ〜に、優しく言葉を掛ける。
「何でよっすぃ〜が泣くの。」
勘違いしてはいけない。
この涙をそのまま受け取るのは、間違いだ。
よっすぃ〜が泣いているのは、私だからじゃない。
"6日も食べていない人間"のために、泣いているのだ。
優しいよっすぃ〜。
優しさは罪だということが、よくわかる。
よっすぃ〜が人に愛されやすい理由も。
こんなにも人のために感情を左右出来る人間は、そういない。
- 536 名前:帰還 投稿日:2004/04/10(土) 00:35
- 自分の気持ちを犠牲にしてでも他人を気遣う人だ。
マネージャーの様子をちらりと窺うと、優しい顔でよっすぃ〜を見ていた。
芸能界慣れしてしまった、私みたいなのに付いていると余計、
よっすぃ〜のストレートさに惹かれるのだろう。
大好きなよっすぃ〜。
掴まれていた手を外して、そっと涙を拭ってあげる。
驚くかもしれないと思っていたのに、意外とあっさり瞳を閉じた。
「もう、いいから。」
まだあふれる涙に、思わず苦笑する。
本当に、優しいね。
- 537 名前:帰還 投稿日:2004/04/10(土) 00:35
- けれど。
だけど。
その優しさを私ばかりに使わないで。
私は1人で大丈夫だから、気を遣わなくても平気だよ。
そのまましばらく涙を拭い続けてたら、どうにか落ち着いてきたらしい。
面会時間を過ぎても帰ろうとしないよっすぃ〜を
マネージャーになだめてもらって、部屋から追い出すように帰らせた。
一緒に泊まるというマネージャーの申し出を断わって、
よっすぃ〜が出ていったあとすぐにマネージャーにも帰ってもらった。
部屋が怖いくらいの静寂に包まれる。
- 538 名前:帰還 投稿日:2004/04/10(土) 00:36
- あと4日間入院していて良いと言う、
事務所の驚くべき決断を帰り際、マネージャーが告げていった。
復帰した後のスケジュールを思うとげんなりするけど、
それでもこれだけの休息を与えてくれる事務所に感謝したい。
栄養失調だなどと間抜けなことをしてしまった。
これだから、自己管理がなっていないと言われてしまうのだ。
これから先自分でやっていかねばならないのだから、
もう少し何とかしなければいけない。
- 539 名前:リムザ 投稿日:2004/04/10(土) 00:37
- 更新しました。
Mステは吉澤さんのコメントが聞けて面白かったです。
- 540 名前:帰還 投稿日:2004/04/16(金) 23:09
-
14.Side R 静寂
- 541 名前:帰還 投稿日:2004/04/16(金) 23:10
- 食べないくらい平気だと思ったのに、
過労を重ねてしまったのが失敗だったようだ。
思ったよりも、舞台の稽古で疲労しているのかもしれない。
栄養剤でも買って、どうにか年末を乗り切るしかないだろう。
食事は依然としてしたくないし、
何よりこれから始まる撮影に穴を開けたくなかった。
今日はこのまま眠るとして、明日からせっかく余裕があるのだから。
台本を読み込んでおこう。
そうすれば、この5日間の遅れがいくらかましになるはずだ。
瞼が重い。
点滴に何か薬でも入っていたのだろうか。
引きずられるように、眠りへと誘われる。
瞼を閉じた瞬間、よっすぃ〜の瞳を思い出した。
- 542 名前:帰還 投稿日:2004/04/16(金) 23:10
- 優しい瞳、熱い瞳、涙で濡れた瞳。
大きな瞳。
今日見た全ての目の色が、鮮明に思い出された。
そして一気に、眠りへと引きずられる。
- 543 名前:帰還 投稿日:2004/04/16(金) 23:11
- それからの特別室で過ごした五日間、
マネージャーとつんくさん以外訪れる者はなかった。
恐らく、誰にも伝えられていないのだろう。
おかげで、最初の日に来たよっすぃ〜の瞳を忘れられないでいた。
瞼の裏にしっかりと焼き付いて離れなかった。
ずっとこんな風に、よっすぃ〜に捕えられたままで生きていくのだろう。
その隣にいるのが、例え私じゃなくなっても。
愛し続け、見つめ続けるのだろう。
まだこんなにも切ないのは、よっすぃ〜を愛しているからだ。
未練がましい人は嫌われるよ、
と自分に言い聞かせてみてもあの目が消えることはなかった。
ずっと、よっすぃ〜だけだった。
- 544 名前:帰還 投稿日:2004/04/16(金) 23:11
- 更新終了です
- 545 名前:512 投稿日:2004/04/17(土) 01:16
- 更新お疲れ様です。
>>543 最後の1行にぐっと胸が締め付けられました。
「だけ」ってなろうと思ってもなかなかなれるもんじゃないからかな。
- 546 名前:帰還 投稿日:2004/04/25(日) 16:55
-
15.Side H 引力
- 547 名前:帰還 投稿日:2004/04/25(日) 16:56
- 梨華ちゃんの退院の日となった。
仕事があるから駄目だと言われると思っていたのに、
わざわざ入っていた取材を後回しにして一緒に来ても良いと言う。
ものすごく胡散臭いものを感じたけど、
梨華ちゃんが家に帰るのを見届けたかったから素直に付いて行くことにした。
マネージャーとつんくさんがコソコソと私に気付かれないように、
話し合いをしていることも知っていたけど、あえて何も言わなかった。
私が望むのは、梨華ちゃんの隣にいることだけだから。
事務所側の商品価値としての私ら、つまり娘。のことなんてどうでもよかった。
結局梨華ちゃんの顔を見れたのは、
入院したあの日だけだから会うのは4日ぶりになる。
- 548 名前:帰還 投稿日:2004/04/25(日) 16:58
- あの日よりは、顔色が良くなっているだろうか。
涙の止まらなかった私に、色のない顔で笑いかけた梨華ちゃん。
触れた指先は、変わらずに優しかった。
そういえば梨華ちゃんは、出会った時から私への接し方が変わらない。
他の人に対するより少しだけわがままになり、柔らかく自然に笑う。
私にだけ心を開いているのだと思うと、優越感でいっぱいになった。
寄り添って眠る梨華ちゃんが愛しかった。
ずっと、変わらずに隣にいる。
- 549 名前:帰還 投稿日:2004/04/25(日) 16:59
- それは同期としての時も、恋人になってからも、変わらずに。
こんなに離れているのは、初めて。
改めて、梨華ちゃんの決意の深さを知る。
職業柄、なかなか簡単に人に心を開くことが出来ない。
まして、人見知りな性格だから。
私以外に、仕事での顔もプライベートでの表情も
ありのままで見せられる人間はいない。
誇張ではなく、梨華ちゃんが、
梨華ちゃんが絶対的な信頼をもって安心していられるのは私の隣だけなのに。
それでも梨華ちゃんは、私から離れていった。
自ら。
- 550 名前:帰還 投稿日:2004/04/25(日) 17:00
- 自分の心の置場所がなくなるのも構わずに、
それが1番良い方法だと独りで信じて。
私のためになると頑なに思い込んで、自分の感情に気付かなかった。
梨華ちゃんが自分で思うしかないのだろう。
そうしなければ戻ってこない。
私が言葉や態度で示しても、きっと梨華ちゃんはわからないだろう。
自分で戻りたいと思うまで、絶対に私のところには帰って来ない。
あの人は悲しいくらいに頑固だ。
自分で納得したこと以外は、受け入れない。
梨華ちゃんが私たち2人の引力の導きを知るまで、手は出せない。
こうして5日間ずっと考えていた。
- 551 名前:リムザ 投稿日:2004/04/25(日) 17:05
- 更新終了です。
>545さん
ずっと1人だけを何年も見ていると疲れてしまうのでは・・・?
頑固一徹ファミリーですから(w
もちろん閉鎖的な業界での【国民的アイドル】だからという前置きがあります。
世間より子供であって大人な2人を書けたら、と思ってます。
- 552 名前:帰還 投稿日:2004/05/01(土) 23:44
-
16.Side H 引力
- 553 名前:帰還 投稿日:2004/05/01(土) 23:45
- 梨華ちゃんをもう倒れさせたくはないけど、直接的な行動は嫌がるだろう。
何が出来るのか、何をしたら良いのか。
梨華ちゃんの性格を知りすぎてるのも困りもだなぁ。
梨華ちゃんが望まないこと、拒絶することが手に取るようにわかりすぎる。
でも、1人にはさせたくない。
マネージャーや梨華ちゃんの姉妹に見てもらおうかとも思ったけど、
それも嫌がるだろうし。
私には何が出来る?
もうほとんどジレンマだった。
- 554 名前:帰還 投稿日:2004/05/01(土) 23:46
- 悩みすぎて、胃薬の量も増えてきている。
こう見えてもナイーブなんだよ。
・・・けれど、今ここでヘタレになるわけにはいかない。
意地っ張りな梨華ちゃんをきちんと見守ってやらねば。
そして、その役目を本当に果たせるのは私しかいない。
ただ、どうすればいいのか方法が見つけられない。
頭の回転の鈍さに辟易する。
病院の前に着き、全員で車を降りた。
梨華ちゃん担当のマネージャーも
私たちと一緒に来たから、病室には梨華ちゃん1人のはずだ。
家族に連絡を入れることすら拒んだらしい。
本当に1人で乗り切るつもりなんだ・・・
- 555 名前:帰還 投稿日:2004/05/01(土) 23:46
- どうしたら良い?
ねぇ、どうしたら??
自問自答は続いていた。
梨華ちゃんの部屋の前に辿りつく。
マネージャーが、静かに扉を開けた。
室内に射し込む柔らかい陽射しがドアから漏れる。
マネージャーたちの後から部屋に入ると、
きちんと仕度を済ませた梨華ちゃんがベッドの端に座っていた。
足元には大きめのショルダーバッグが置いてある。
室内は入院の形跡が見当たらない程、整っていた。
梨華ちゃんが腰掛けているベッドすら、綺麗にシーツが掛かっている。
あまりにも梨華ちゃんらしくて、ふっと笑みを漏らした。
- 556 名前:帰還 投稿日:2004/05/01(土) 23:47
- 「おはようございます。すみません、迷惑かけてしまいまして。」
柔らかく甘い響きが耳をくすぐる。
何とも梨華ちゃんらしい第一声だ。
1番最後に入った私の姿を認めると、少し顔を強張らす。
私が来ることは、予想外だったのかもしれない。
まあ、その感覚は私も変わらないか。
「色々と話したいことがあるんだけど、9時から撮影があるんだよ。
とりあえず移動しながらにしたいから、ね・・・。」
マネージャーが梨華ちゃんの荷物を持ち、外に出ることを促す。
コートを羽織るだけの格好で、梨華ちゃんがゆっくりと歩き出した。
顔色は幾分良くなったものの、
その薄い体は今にも倒れそうな程儚げだ。
見ている方が苦しくなる。
- 557 名前:帰還 投稿日:2004/05/01(土) 23:48
- 外来診療が始まっていないおかげで、表の方から出ることが出来た。
入口の前に止められていたバンに乗り込む。
梨華ちゃんを先に乗せてから、普段と変わらずに私が続いた。
違和感など微塵も感じさせなかった。
車が発進すると、梨華ちゃんは気だるそうにシートへと深くもたれる。
光の入らない車内では、顔色が悪く見えた。
いつもよりも血色の悪そうな皮膚が、体調の悪さを示している。
回復には程遠いのかもしれない。
- 558 名前:帰還 投稿日:2004/05/01(土) 23:49
- 「それでさ、さっきの続きなんだけど。」
前列に座っていたマネージャーが後ろを振り返り、話を始めようとする。
「何なの。話って・・・。」
隣にいる梨華ちゃんが声を発した。
「ああ・・・うん。2人のことなんだけどね。」
梨華ちゃんの物言いに言い知れぬ圧力を感じたようで、
マネージャーが早口で言葉をつなげてきた。
2人のこと?
思い当たる節などない。
- 559 名前:帰還 投稿日:2004/05/01(土) 23:49
-
まさか脱退ということは今この段階であり得ないだろうし、
私らが付き合ってたことをマネージャーは知らないはずだ。
私たちは特に意識して、
事務所の関係者には気付かれないようにしてきたのだから。
事務所に知られたらどうなってしまうのか、何となく見えていた。
- 560 名前:リムザ 投稿日:2004/05/01(土) 23:50
- 更新しました。
5人のミニモニ。最強
- 561 名前:帰還 投稿日:2004/05/09(日) 20:45
-
17.Side H 引力
- 562 名前:帰還 投稿日:2004/05/09(日) 20:47
- だから、決してそんなことにはならないように、2人で相方を演じ続けてきた。
それ以外に2人でくくられる接点はないように思う。
悲しいけれど、それくらいに端から見れば繋がりがない。
「僕たちも色々考えたんだよ。
これだけの人数が君らを守っているわけだから、サポート出来ないわけがない。
でも、僕たちは仕事の関係だ。・・・
そんなこと抜きにしても君らは可愛いと思ってるけどね。」
あまりにも遠回しな物言いに、何を言いたいのか全く予想がつかない。
「つまり、君たちの健康管理の話。」
マネージャーの言葉を受け、私の担当マネージャーがつなげる。
- 563 名前:帰還 投稿日:2004/05/09(日) 20:47
- 「2人は仕事の相手というより、いわばもう人生のパートナーだろ?
ほとんど、プライベートとか関係ない次元に来てると思うんだ。だからね。」
一旦言葉を区切り、私たちの顔を見比べ優しく笑った。
言いたいことはわかってきたが、何をさせたいのかがよくわからない。
優しい笑顔のまま、でもはっきりとした口調で告げた。
「君たちに当分一緒に生活してもらいたいんだ。
勿論、つんくさんが下した決定事項だから、反対意見っていうのはないから。」
私も梨華ちゃんも思い切り絶句した。
梨華ちゃんに至っては、下唇を噛んで顔をゆがめている。
信じられないという思いが強いのだろう。
- 564 名前:帰還 投稿日:2004/05/09(日) 20:53
- 私はというものの、どちらかといえば嬉しい決定に違いない。
さっきまで悶々と考えていたことの答えを目の前に提示されたようなものだ。
梨華ちゃんを助けてあげられるのに1番良い方法。
心で思い悩んでいることに手を出すことは出来ないけど、
体調を保ってやることならきっと出来る。
思いも寄らない話だけど、これこそ同期であり、
辻加護とは違ったコンビでいることの強みなのだろう。
ある意味で2人しかいないという緊張感が、
お互いでお互いを支えようとする結論を生み出す。
Wとしての卒業を控えた同期2人。
そして娘。であり続ける同期2人。
私らのスタンスがあるからこその決定だと思う。
- 565 名前:帰還 投稿日:2004/05/09(日) 20:55
- 「それでね、お互いを監視してもらいたいんだ。
1人で生活してると自己管理怠るよね?ええと、梨華ちゃんは今、体重が40kg切ってるんだよ。」
梨華ちゃんのマネージャーが何やら表の書かれた紙を持っている。
恐らく、病院での検査結果だろう。
また私のマネージャーが、口を開く。
「じゃあ、梨華ちゃんは3kg増やす。それが達成出来るまでが同居期間ね。
あ、よっすぃ〜は最低でも4、5kg減らして。わかった?」
何だよ、そのどうでも良い的な皮肉な私への話し方は。
私の担当マネージャーでしょ・・・
でも、実際どうでも良いのだと思う。
この人たちも梨華ちゃんに甘い。
- 566 名前:リムザ 投稿日:2004/05/09(日) 20:55
- 更新しました。
- 567 名前:545 投稿日:2004/05/13(木) 01:43
- 更新お疲れ様です。
頼んだぞ、よっすぃ〜!って感じです。
- 568 名前:帰還 投稿日:2004/05/16(日) 19:22
-
18.Side H 引力
- 569 名前:帰還 投稿日:2004/05/16(日) 19:23
- 私だけが監督をするという形になると、
梨華ちゃんが嫌がるのをわかっているからだろう。
監督されるだけではなく、自分も監督する側になるのであれば抵抗はない。
さすが、長いこと私達を見てくれているわけじゃないよね。
けれど梨華ちゃんは、辛そうに眉を顰め顔を上げようとしない。
こういった時の切り替えは私の方が早くて、
梨華ちゃんは感情的な不器用さを引きずってしまい、
なかなか割り切ることが出来ない。
このひずみが、梨華ちゃんの中にストレスを発生させるのだと思う。
梨華ちゃんが素直に受け入れないのは予想済みなのか、
マネージャーたちは更に話を進めていった。
- 570 名前:帰還 投稿日:2004/05/16(日) 19:25
- 「入院分の荷物で、最低限の生活用具は揃ってるよね、
ちょっと家に寄ってあげる時間が取れそうもないんだ。
必要なものは買ってくれればいいから・・・ごめんなさい、石川さん。許してね。」
謝罪の言葉を聞いて、梨華ちゃんがパッと顔を上げた。
「謝ってもらうようなことなんて。私が心配させるようなコトするから・・・。」
「そんな風な顔するくらいなら早く元気になってくれよ。
お前の体じゃ、年越せないだろ。な?」
チーフマネージャーが優しく笑う。
梨華ちゃんは持っているものが優しすぎるから、
こうして優しさだけの言葉で迫られると素直になるしかなくなってしまう。
本質的にある擦れていない優しさが、事務所の決定を受け入れるという形で表れた。
「じゃあさ、必要があったら帰って良いけど。とりあえず・・・ハイ、鍵。」
「え?。」
梨華ちゃんの目の前に手を出して、マネージャーが要求する。
そこで私はようやく理解した。
- 571 名前:帰還 投稿日:2004/05/16(日) 19:26
- 共同生活を送る場所とは、私の家だった。
何か意図があるのか、単に梨華ちゃんに甘いだけなのかはわからないが、
ここまでしっかりと決めていたようである。
理解の遅い梨華ちゃんにマネージャーがゆっくり説明すると、
納得したのかしていないのかわからない表情で、自宅の鍵を預けた。
「こうすれば安心だからね。」
用意周到すぎるよ・・・
心底そう思ったけど、こんな奇妙な形でさぁ。
梨華ちゃんと同居するようになるとは思ってもみなかった。
- 572 名前:帰還 投稿日:2004/05/16(日) 19:28
- 娘。加入前に過ごした合宿とは、根本的にわけが違う。
梨華ちゃんを見ると、困ったような表情で視線を彷徨わせていた。
まあ、いいか。
身から出たサビになるか、
棚からボタモチとなるか、
どっちになるかは私に掛かってるってことかな。
思わず顔がニヤケてくる。
予期せぬ状況とはいえ、梨華ちゃんを近くに置いておけるのだから。
こいつを1人で家に帰したりしたら、絶対に食事もしないだろう。
何だかすごく物事が上手く運びそうで、私は珍しく楽観思考になっていた。
- 573 名前:リムザ 投稿日:2004/05/16(日) 19:30
- 更新終了しました
>567さん
さぁ、二人はどうなるでしょうか?
更新する量が少ないので申し訳ないですが引き続きお楽しみ下さい。
- 574 名前:帰還 投稿日:2004/05/21(金) 23:13
-
19.Side R 愛情
- 575 名前:帰還 投稿日:2004/05/21(金) 23:14
- 取材から始まり、目の回りそうなスケジュールを終えて
先に終わっていたよっすぃ〜と一緒に送ってもらう。
勿論、よっすぃ〜の家。
あの日以来ここに来ることはなかったので、随分と久しぶりになる。
やっぱり辛いかも。
マネージャーたちが本当に体のことを心配してくれるのもわかっているし、
私たちが付き合っていたことも別れたことも知らないのだから、仕方がないことだとは思う。
でも、あんまりにもひどすぎるのでは。
意を決して、この部屋を去ったというのに。
隣に座るよっすぃ〜は、何でもないようなごく普通の態度を取っていた。
- 576 名前:帰還 投稿日:2004/05/21(金) 23:14
- こうしていてくれるのは、すごくありがたい。
私たち、恋人じゃなくても相方みたいなもの。
勝手な言い分かもしれないけどメンバーとして、同期としてならずっと隣にいられると思う。
何の気負いもなく、自然体のままで。
「じゃ、お互いのことよろしく。
明日は15人での仕事ばっかりだから安心して良いよ。朝の8時に迎えにくるからね。お休み。」
年末にかけては15人でいる時間も増えるけれど、
他のハロプロメンバーともいられる時間も増えるから正直ホッとする。
マネージャーが思ってるのとは裏腹に、
私たちは娘。での仕事しかないから、
娘。以外の仲間が多いというのは本当に嬉しい。
その分、楽屋で落ち着けなくなってしまうけれど。
- 577 名前:帰還 投稿日:2004/05/21(金) 23:15
- 「ほら梨華ちゃん、もう寝ないと。もう28時だよ。」
車を降りると、よっすぃ〜が急かしてきた。
いつもと変わらない口調に安心する。
私だったらきっと、ぎこちない雰囲気を作り上げてしまうだろうから。
「うん、そうだね。」
今更マンションの説明も部屋の使い方も教えてもらう必要などないから、簡単に部屋に入っていく。
シャワーだけ浴びてすぐに寝ようと思ったら、そうはいかないようだ。
「何でよっすぃ〜の家なのかわかった・・・」
「え?」
悲惨としか言いようがない部屋の状態に、深く納得してしまった。
どうやったら、これだけ物が散乱するのだろう?
あれだけ部屋が片付けられていたのに、ここまで散らかってるの?
お互いの管理とは、こういうことなのかもしれない。
私の呟きで動きを止めたよっすぃ〜に、宣言する。
「掃除するよ。」
マネージャーが迎えに来るまで、あと4時間。
睡眠時間は取れないのが、決まった瞬間だった。
- 578 名前:帰還 投稿日:2004/05/21(金) 23:17
- 共同生活を送ると言われた時にはどうなることかと思った。
だけども意外に何の問題もなく、私たちの生活は続いていた。
当たり前と言えば当たり前なんだけどね。
今の私が少しの緊張感も持たずに一緒に暮らせるのは、
よっすぃ〜と家族くらいのものだろう。
例え別れてしまっても、私の1番の理解者はよっすぃ〜だ。
家族だって、2人暮らしというのは出来ない。
姉と2人で生活するなんて今の私にはきっと無理だろうから、
やっぱりよっすぃ〜以外あり得ない。
そう、あり得ないんだ。
事務所の理解度に、少しだけ感謝した。
- 579 名前:リムザ 投稿日:2004/05/22(土) 01:11
- 更新終了
(PCがフリーズしたので更新終了とカキコできませんでした)
- 580 名前:帰還 投稿日:2004/05/29(土) 00:11
-
20.Side R 愛情
- 581 名前:帰還 投稿日:2004/05/29(土) 00:11
- 私はドラマの稽古、よっすぃ〜はフットサルの練習とで、
一緒にいる時間というのはほとんどなかった。
たまにコンサートのレッスンが最終の時、一緒になるくらい。
そんなすれ違い方でも、
先に帰った方が食事を作ったりベッドを譲ったりという気遣いがあった。
1人暮しなんだから当然ベッドは1つしかなくて、これだけは未だに困っている。
もう1つは物置用のよっすぃ〜の部屋に布団を敷く。
でも結局はお互いがベッドを譲り合ってしまうのだ。
だから、先に寝る方がベッドという約束を作った。
にも関わらずよっすぃ〜は布団で眠ろうとするので、あまり意味がない。
よっすぃ〜は、変わらずに優しいのだ。
付き合う前からも優しかった。
- 582 名前:帰還 投稿日:2004/05/29(土) 00:12
- 私のことなんて放っておけば良いのに、
毎日と言って良い程、人の体重は聞いてくるし、
楽屋でも眠れるように私のスペースを作ってくれる。
ツアー中で2人の時は用意してくれなくても眠れるのだけど、
15人の楽屋ではそういうわけにもいかず、よっすぃ〜の隣が私専用の場所だった。
会議室のような部屋では畳もないから、
よっすぃ〜の肩が私のベッド代わりになる。
よっすぃ〜のそばは居心地が良くて・・・
他のメンバーがびっくりするくらい、賑やかな楽屋でギリギリまで眠れた。
甘え過ぎだという自覚はあるけれど、
よっすぃ〜がいないと
眠れないくらい私の体は狂っていたから、素直に任せることにしている。
その分、甘えた日の食事はよっすぃ〜に合わせたローカロリーの物を用意した。
バランスを取るように、同期としてとして不自然にならないように、
同じ分の気遣いで応えることを心掛ける。
思った以上に、難しいことだった。
- 583 名前:帰還 投稿日:2004/05/29(土) 00:13
- あまりにもよっすぃ〜が普通で自然で、
いつの間にかまた日常の一部を占めていく。
恋人じゃないのに、恋よりも深く私の心に入り込んできていた。
ともすれば慣れてしまいそうなよっすぃ〜の優しさに胸が痛む。
チクリチクリと常に胸に刺さるトゲすら、日常へと飲み込まれそうで。
よっすぃ〜を大切にしたかったはずなのに、私は自分を大切にしようとしていた。
心が痛む。
これ以上、居心地の良い場所にいてはいけないのに。
慢性化した胸の痛みを忘れないように、よっすぃ〜のそば以外では眠りを忘れるようになっていた。
- 584 名前:帰還 投稿日:2004/05/29(土) 00:13
-
21.Side R 愛情
- 585 名前:帰還 投稿日:2004/05/29(土) 00:14
- いつの間にか年も明けて(クリスマスや正月はどこへ行った?)、
私は19歳になっていた。
誕生日はハロプロのみんなで祝ったり、
保田さんから電話をもらったりで、例年よりもにぎやかになった。
中でも嬉しかったのは、
つんくさんが歌うことが得意でない私のために
カバー曲をプレゼントしてくれたことだ。
本当に私は幸せだと思う。
よっすぃ〜がいなくても、私にはこんなに沢山大切にしてくれる人が出来た。
よっすぃ〜以外、私のことを本当に分かってくれる人はいないけど、それでも私は幸せ。
よっすぃ〜の優しい視線に癒されてるとを知りながら、
あえてその視線を受け止めることはしなかった。
今も台本に目を通して、知らないフリを決め込んでいる。
卑怯だとは思うけど、こうする他よっすぃ〜の隣にいる術を知らなかった。
収録の合間に出来る半端な時間は、楽屋以外私のいられる場所もないし。
結局、よっすぃ〜のそばが1番落ち着けてしまうのも真実なのだ。
依存に近い感情なのかもしれない。
- 586 名前:帰還 投稿日:2004/05/29(土) 00:15
- 私の隣はよっすぃ〜だけだと頑なに思い込んでいる自分は、相当醜いと思う。
恋人にはなれないのに、相方としてはずっと隣にいたいなんて。
「おはようございまーす。」
ノックの音と共に、声が掛けられる。
「はい?どうぞ。」
そう答えると、スタイリストさんが顔を出した。
「あ、梨華ちゃん。ちょっと。」
ご指名で呼ばれてしまったので、立ち上がってドアの方へ行く。
「とりあえずこれ、次の分の衣装ね。よっすぃ〜の分も。
それからさっき、保田さんに頼まれたんだけどさー。」
私に衣装を手渡しながら、話を続ける。
よっすぃ〜は台本を抱えて、何の反応も示さない。
- 587 名前:帰還 投稿日:2004/05/29(土) 00:17
- 「梨華ちゃんを私んとこに連れてこーいって。」
「ふひゃは。保田さんシラフでした?。」
スタイリストさんの言い方があまりにも良く似ていたものだから、つい笑ってしまった。
「多分ね。今すぐって言ってたから、大丈夫なようだったらちょっと行ってあげて。」
「すぐ行ってみます。ありがとうございます。」
「うん、よかった。あと梨華ちゃんのパンツ、ワンサイズ下げといたから。
もちょっと太って健康体になってもらわないと、その内子供サイズになっちゃうわよ。」
「それだけはカンベンして下さいよー。」
「梨華ちゃんが太ってくれればいいだけの話なんだから。じゃあね。」
まだ手に衣装を持っているから、他の部屋も回るのだろう。
あっという間にいなくなってしまった。
渡された衣装をよっすぃ〜の所へ持っていく。
- 588 名前:リムザ 投稿日:2004/05/29(土) 00:19
- 多めに更新終了。
飯田さんと石川さんの卒業。
卒業イベントに慣れている自分に辟易してしまう。
まずは、辻ちゃん加護ちゃんの卒業。
それから飯田さんことリーダーの卒業。
そして石川さんの卒業。
タイムテーブルで見守りたいと思います。
- 589 名前:帰還 投稿日:2004/06/05(土) 01:28
-
22.Side R 愛情
- 590 名前:帰還 投稿日:2004/06/05(土) 01:29
- 「はい。」
「ありがと。保田さんとこ行ってくるんでしょ??」
薄茶色の瞳が真っ直ぐに私を見上げた。
「うん。」
「じゃ、次の分に遅れないよう、時間に気をつけてよ?。衣装も着替えないといけないしさ。」
素直に頷いて、部屋を出ようとする。
よっすぃ〜は時々こうやって、私を子供扱いすることがあった。
嫌なわけではないけれど、あまり気分の良いものでもない。
ドアを開けてから、ふと立ち止まった。
何だろ?なんか・・・
理由は見つからないのに、何かが引っかかって。
どうしたっけ?忘れものかな。
- 591 名前:帰還 投稿日:2004/06/05(土) 01:29
- 無意識の圧力のようなものを感じて、その場から動けなくなってしまった。
部屋を振り返って、原因を探ろうとする。
何がしたいのだろう、私・・・
部屋を見渡しても答えが見つからなくて、指先が自然と唇を辿った。
自分で自分の感情に振り回されている。
彷徨った視線が、よっすぃ〜を捕えた。
私の動きを追っていたらしい。
優しい瞳にぶつかる。
「よっすぃ〜・・・。」
「あったかいココアがいーなー」
「・・・・・・っ!」
よっすぃ〜の言葉に、私は息を飲む。
ダメだ、ヤバイ。
「・・・保田さんのとこ行ってくる。」
- 592 名前:帰還 投稿日:2004/06/05(土) 01:30
- 声が少し震えていたかもしれない。
よっすぃ〜が行ってらっしゃいと言ったような気がしたけど、
ひどい耳鳴りに襲われて良く聞こえなかった。
扉が閉まるのも確認せず、
私は一刻も早くよっすぃ〜のそばから離れようとする。
廊下を全速力で走って、保田さんの楽屋を探した。
早く、誰か・・・っ!
誰でも良い。
よっすぃ〜以外の人なら誰でも良いから、早く!!
- 593 名前:帰還 投稿日:2004/06/05(土) 01:30
- 「・・・っはあ。」
よっすぃ〜は何を言った?
保田さんの楽屋の前へ辿りつく。
どこまで、わかっているのだろう。
怖かった。
私はどこまで、晒しているのだろう。
荒い呼吸を繰り返している喉に触れた。
相方というのは、こんな距離なのか。
違う。
よっすぃ〜だから。
この距離に戸惑う。
少しずつ、呼吸が落ち着いてきた。
でも、苦しい。
苦しくて悲しくて、胸が痛い。
(・・・私、のど乾いてたんだっけ)
自分の体なのに、私はわからなかった。
よっすぃ〜だけがいつも気付く。
ココアがいいって、あの人は言った。
- 594 名前:帰還 投稿日:2004/06/05(土) 01:31
- どうしてこんなにも伝わってしまうんだろう。
何で、私にはよっすぃ〜だけなのか。
よっすぃ〜には甘えたくないのに。
「石川!?」
急に扉が開いて、びっくりした顔の保田さんが現れた。
「保田さん・・・。」
「石川が来ないから、迎えに行こうと思ってたんだよ・・・
全く、何て顔してるの。まぁとりあえず、入んなさい。」
苦い顔をして、私を部屋へと招き入れてくれた。
顔に出てるのは、まずいな。
保田さんに余計な心配はさせたくない。
気持ちを切り替えなくちゃ。
「石川〜、遅いよ。待ちくたびれて、帰っちゃうとこだったんだから。」
「あれぇ。中澤さんたちまでいるなんて、どうしたんすかー。何の集まり・・・。」
ハロプロの良き先輩方が、何故か集まっている。
と思ったら、輪の中心には一升瓶が置かれていた。
・・・・・・え?
- 595 名前:リムザ 投稿日:2004/06/05(土) 01:32
- 更新しました
- 596 名前:帰還 投稿日:2004/06/12(土) 00:46
-
23.Side R 愛情
- 597 名前:帰還 投稿日:2004/06/12(土) 00:51
- 「石川、せっかく大人になったんだから、乾杯しなきゃと思って。
よっすぃ〜は一応19歳だから、内緒だよ。」
「ちょっと待ってください。私、まだ19歳ですよ!」
「数え年だと20歳でしょ。年明けてるんだから。」
「でもそんな、お酒なんて飲んだことないし・・・・」
「全く・・・変に真面目なんだから。
正直に言うとさ、酒で石川の気持ちが一時的にでも晴れるなら良いかなと思っただけよ。無理にとは言わないわ。」
「そういうことだったんですか。」
後ろから私の肩に手を乗せた保田さんが、いたずらっ子の顔で教えてくれる。
でもその瞳は優しく細められていて、心配されていることがわかった。
保田さんに心配を掛けたくない気持ちと、どうしたって嬉しくなってしまう心が、私を笑顔にさせる。
その笑顔に諦めたのか、保田さんもつられて笑ってくれた。
「そんな可愛い笑顔振りまいてないで、とりあえず座って座って。」
- 598 名前:帰還 投稿日:2004/06/12(土) 00:52
-
保田さんや、ここにいる中澤さんに矢口さん、
飯田さんメンバーに可愛いと言われるのだけは、抵抗がなかった。
石川って呼ばれて甘やかしてもらえると、何だかみんなに認められてる気がする。
安心、するのかもしれない。
「でも保田さん、まだ収録1本残ってますよ?」
「大丈夫よ。これ1本しかないんだから、みんなで飲んでたら酔えないってもんよ。」
「そうそう。それに今、石川は忙しくて、私らと飯食いに行ってるヒマないでしょ。なぁ矢口?」
「スケジュール落ち着いてきたら、また改めてってことで。オイラからも祝わせてくれよ。」
「石川のこと、みんな大好きだからさ。祝ってやりたいんだ。」
みんなの言葉が嬉しくて、この空間がとても温かかった。
本当に、この人たちが大好きだ。
- 599 名前:帰還 投稿日:2004/06/12(土) 00:53
- 「よし、じゃあ飲もう。紙コップってのが味気ないけど。」
各自紙コップを手に持って、私がついで回る。
「ええなぁ。石川にお酌してもらえるなんて。矢口は最初の一杯だけやで。」
「うっさい!裕子!!」
「・・・またノロケ始まったみたいね。」
みんなの優しい言葉に、さっきまでの気持ちが薄らいでいくのがわかった。
私のために、っていうのが嬉しい。
自分の紙コップには少しだけにしようと思ったのに、目敏く保田さんに見つかってしまった。
- 600 名前:帰還 投稿日:2004/06/12(土) 00:54
- 「こらっ。主役がこんな少しでどうする。この酒はね、裕ちゃんお気に入りの1本なんだよ。
メインとなる石川じゃなかったら、飲ませてくれなかったんだから。」
「え、いいんですか。そんなお酒・・・。」
「良いって言ってんだから、石川もちゃんと飲みなさい。こんなモン1杯で仕事に影響は出ないよ。」
「はい。」
ここまで言われると、腹を括って飲むしかないようだ。
スタジオ内がお酒臭くならないのかな。
このメンバーの中に、常識人というのはいないようである。
全く、困った大人たち。
- 601 名前:帰還 投稿日:2004/06/12(土) 00:55
- 「じゃあ時間もないことだし、飲もうか。」
「そうだな。では、梨華ちゃんの成人を祝って・・・。」
「カンパーイ。」
みんなの声が外に漏れないか気になったが、もうしょうがない。
手の中にあるコップに口をつけた。
幻のお酒らしい日本酒をありがたく頂く。
喉が潤っていくのがわかった。
ホントに、喉が渇いていた。
それすら何だかおかしくて、私は1人で笑ってしまった。
みんなが私の頭を撫でて、おめでとうって言ってくれる。
こんなに素晴らしい人たちに巡り会えて、私は幸せだ。
お酒のせいだけじゃなくて、体がポワンとあったかくなる。
この仕事をやっていて、良かったと思った。
娘。に加入できて、
オーディションを受けて良かった。
辛いこともあるけれど、大切な先輩がこんなに沢山出来て。
かけがえのない空間だと思った。
胸が詰まるって、こんな感じかもしれない。
- 602 名前:リムザ 投稿日:2004/06/12(土) 00:56
- 更新しました。
- 603 名前:帰還 投稿日:2004/06/20(日) 11:25
-
24.Side R 愛情
- 604 名前:帰還 投稿日:2004/06/20(日) 11:25
- 「石川、良かったんじゃない?」
私の隣を陣取っていた保田さんが、ポツリと呟く。
笑顔で言っているのかと思ったら、予想外に真剣な表情を見せていた。
私も真面目に答えなきゃいけないような気がして。
「はい。本当にありがとうございます。」
「うん、良い顔だ。」
途端にくしゃって笑って、私の大好きな表情になる。
頭を撫でられて、胸がいっぱいになった。
「私は、あんたたちが好きだよ。」
不意に表現が複数形に変わる。
レンズを通して見える優しい瞳は、何もかもを見通しているようだった。
辛いことは何もないのにこの瞳に捕まると、弱音を吐きそうになる。
この人は、私を待っていてくれる人だ。
よっすぃ〜とは違うスタンスを保った、でも私を守ってくれる人。
保田さんに大切にされるのは、痛みを伴わない。
等身大の私をありのまま見てくれるからだろう。
包み込むように、私を好きだと言ってくれた。
よっすぃ〜とは全く違う、愛情の形。
- 605 名前:帰還 投稿日:2004/06/20(日) 11:26
- 「私はさ、実は仲悪い奴多いのよ。大嫌いな奴もいっぱいいるし。」
静かに言葉が紡がれていく。
「ここのメンバーも仲悪い奴がいるんだ。
今も仲悪いけど、でもそうやって仲悪いまま一緒に仕事してるのが心地良くなってる。」
視線の先にはしょっちゅう意見の食い違う、
けれどこの楽屋にいて自分のお酒をおいしそうに飲んでいる人の姿があった。
表情は、穏やかなままだ。
「仕事抜きで、大切な時間なんだよ。」
保田さんの紡ぐ言葉には、必ず意味がある。
この話の先には、何が用意されているのか。
- 606 名前:帰還 投稿日:2004/06/20(日) 11:27
- 「石川も吉澤も大好きでね。ま、私には石川の方が可愛いけど。」
ポンポンと頭を撫でられる。
「だから、さ。」
にぎやかになってきた狭い部屋を見渡していく。
私は保田さんをずっと見ていた。
「私が死ぬまで。」
視線を戻さないまま、保田さんが呟く。
「保田さん?」
背中を冷たいものが駆け抜けた。
- 607 名前:帰還 投稿日:2004/06/20(日) 11:27
- 急に訪れた焦燥感に戸惑って、私は自分の胸辺りの服をぎゅっとつかんだ。
保田さんの目は優しいままだし、部屋の空気もあったかいのに。
私だけが1人、別の想いに捕われている。
「私が死ぬまで、ハロモニ続けていきたいんだよ。見てるだけでも。
50年後の娘であっても。娘。は娘。なんだから。卒業したって。」
優しい視線を私に戻しながら、そう告げた。
冗談とも本気ともつかないような言葉。
「だから、1人で辛いこと背負うんじゃないよ。」
不覚にも涙があふれそうになった。
私はいつの間にか、こんなにも大切にされていたのだ。
胸を刺す痛みは変わらなかったけれど、
今もよっすぃ〜を愛しているけれど、私は幸せだった。
ありがとうございます。
その言葉だけで、救われてしまった。
楽屋に戻る時、私は躊躇わずにココアを買っていた。
- 608 名前:リムザ 投稿日:2004/06/20(日) 11:28
- 更新しました
- 609 名前:帰還 投稿日:2004/06/25(金) 21:58
-
25.Side H 宝物
- 610 名前:帰還 投稿日:2004/06/25(金) 21:58
- 梨華ちゃんが19歳の誕生日を迎えた後に、
私はフットサル関連の仕事が忙しくなった。
フットサルの練習は仕事というよりも趣味になってる。
でも、練習場でトレーニングするのではなく、
大勢のファンと沢山のフラッシュに囲まれると、仕事という感覚しか持てなかったけれど。
4月になるまでは、梨華ちゃんの方が年上になる。
学生時代は学年1コという大きな差があったが、今ではたかだか100日の差だ。
もうほとんど気にすることはなくなっていた。
梨華ちゃんは未だに気にする素振りを見せて、
それが時には苛立たしくもあったし無性に愛しくもあった。
別れを宣言されてから、どれくらい経つのだろうか。
触れられない距離がもどかしくて、梨華ちゃんのことばかり考えている。
- 611 名前:帰還 投稿日:2004/06/25(金) 21:59
- 忙しくなかったら、とっくに弱音を吐いて
梨華ちゃんを無理矢理にでも引き戻していただろう。
思わず溜め息をついた。
付き合っていた頃よりも近くに、
それも事務所公認でいられるのに、キスの1つも出来ない。
ここで梨華ちゃんが答えを見つけられなければ、
私たちの関係が続かないのもわかっていた。
2人にとって、大切な期間なのだ。
梨華ちゃんにも私にも、どんな付加要素をつけようが結局はお互いが必要なだけで。
どんなに抵抗したって、逆らえるものではない。
梨華ちゃんのあの細い体に、私の愛は過重だったろうか。
でも、私以外の誰があの人を深く愛せるというのか。
- 612 名前:帰還 投稿日:2004/06/25(金) 22:00
- どんな男にも梨華ちゃんの心の奥を覗くことは出来なかったし、
それが理由で彼女の元を去った人もいた。
梨華ちゃんを愛せるという自負だけが、私のプライドだ。
自信過剰と言われようが、構わない。
それくらいの自信で支えてやらないと、愛することなど出来なかった。
それ程に、梨華ちゃんは脆く強いから。
相反する相方でいると決めた時に、もう愛していた。
どんな仕草もどんな言葉も、一瞬一瞬が宝物になる。
今のこの状況ですら、変わらずに愛しかった。
早く帰って来て欲しい。
共同生活自体は、勿論上手くいっていた。
ただ。
溜め息をまた1つ。
- 613 名前:帰還 投稿日:2004/06/25(金) 22:01
- 私も年頃の女ということだ。
1つ屋根の下という響きにときめかないわけがない。
もう少し、純粋でいられたらいいのだけど・・・
やっぱり、そういうものに興味がある。
同世代の奴らよりも欲求が高いのではないか。
いつも冷静すぎと梨華ちゃんに笑われるくらいなのに、梨華ちゃんを見るだけで熱が煽られる。
私、ヤバイんじゃない?
いやいや、待て。
私がヤバイのではなくて。
梨華ちゃんがヤバイんだ。
そうだ、間違いない。
誰だって梨華ちゃんと生活してみればわかる。
こんな風に、健康体以上になる。
溜め息をもう1つ。
今はマズイでしょ?
けど、若さって本当に怖いな・・・
- 614 名前:リムザ 投稿日:2004/06/25(金) 22:02
- 更新しました
- 615 名前:帰還 投稿日:2004/07/04(日) 16:24
-
26.Side H 宝物
- 616 名前:帰還 投稿日:2004/07/04(日) 16:25
- マンションに着いて自分の部屋を見上げると、
明かりが付いているということが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
深夜という時間帯のせいで、
他の部屋にはほとんど明かりが灯っていないから、余計そう思うのかもしれない。
今日も待っててくれてるんだ。
あの人って舞台を抱えているのだから、ヒマなわけじゃない。
明日も早いはずだ。
それでも起きていられる時間までは、待っていてくれる。
「梨華ちゃん、今日何時までだった?」
車を降りながら尋ねてみる。
「う〜ん、確か24時までには終わってたはずですよ。」
「そっか、ありがと。じゃあ、おつかれさまでした。」
「おやすみー。」
- 617 名前:帰還 投稿日:2004/07/04(日) 16:25
- 車が去っていくのを見届けることはせず、マンションに入っていく。
24時に終わったのであれば、
お風呂に入って、ご飯を作ってソファでウトウトしている頃だろう。
とりあえず一緒に食べて、梨華ちゃんを寝かせてあげないと。
先に寝てしまえば良いのにとは思うけれど、
私がいれば食事をするのだというのであれば、待っていてくれた方が良い。
梨華ちゃんの場合、睡眠に対する欲求は比較的まともにあるのに、
食への欲求というものがほとんどない。
どちらを優先させたいかといえば、勿論食欲の方で。
だから、この状態もあまり良くはないが仕方ないのだ。
「ただいまー。」
部屋に入って暖かいというのも嬉しい。
電気が付いていて部屋も暖かくて、その上良い匂いまでする。
人がいる空間は、やはり暖かい。
それが愛する人なら、尚更。
「・・・おかえり。」
間を開けて、奥の方から声が返ってくる。
寝ていたのだろう。
声が少し掠れている。
梨華ちゃんはいつからか、"おかえり"と言うようになった。
- 618 名前:帰還 投稿日:2004/07/04(日) 16:26
- この生活を始めた頃は他人行儀な態度を取り、
"おじゃまします"とか律儀な言い方をしていたのに。
未だに"よっすぃ〜の家へ行く"という言い方をして、
"帰る"とは言ってくれないけれどこれは嬉しい変化。
他人の家にいるという感覚は、少なからず緊張感を作るものだから。
ソファに座って目を擦っている梨華ちゃんを見つけると、自然に表情が緩んだ。
テーブルには湯気の立った料理が用意されている。
時間を見計らって準備していたのだろう。
なんか、新婚さんみたい。
「ご飯、待っててくれた?」
「うん。どうせそんなに時間変わらないから。」
柔らかく言う梨華ちゃんは、視線を微妙にずらして目を合わそうとしない。
こうして同じ空間にいるだけでも最初の頃に比べれば大進歩なのだが、
逃げ出したい衝動にも駆られるのだろう。
見ていてよくわかる。
共同生活を始めた頃は、
私を避けるかのように毛布にくるまって寝ていたくらい。
私といる時は、感情を抑えるようにしていた。
- 619 名前:帰還 投稿日:2004/07/04(日) 16:27
- けれど、いつからだったろう。
私の態度に感化されるように、梨華ちゃんが普通になっていった。
単純に、体が限界を訴えたのかもしれない。
感情も何も関係ないところで、ただ無意識に私を求めたのだろうか。
冷蔵庫からおかずを取り出す梨華ちゃんを見つめた。
早く気付くといいな。
心と体があんまりにもアンバランスだから、きっと時間はかかるだろうけど。
でも、赤い糸なんて言葉を簡単に信じてしまう程に私たちはつながっている。
それに早く、気付いて。
「美味しいかどうかわからないけど。」
テーブルの向かい側に座った梨華ちゃんが、視線を逸らしながら呟く。
「おいしそうだよ?じゃあ、いただきます。」
湯気の立った料理に手を付けていく私を、梨華ちゃんはじっと見つめていた。
自分も箸を出しながら、私の様子をうかがっているようだ。
ご飯を口に頬張ってから上目遣いに梨華ちゃんを見ると、
やはりふっと視線を逸らした。
こればっかりは、どうしようもない。
「おいしいよ。」
視線のことなんか気にせずに普通に言ってやると、嬉しそうにはにかんだ。
その感じがあまりにも可愛くて。
早く戻って来て欲しいと思った。
- 620 名前:帰還 投稿日:2004/07/04(日) 16:28
- 口元に笑みを残したまま料理に手を伸ばす梨華ちゃんの顔を見つめた。
時期的には体が最も辛いはずなのに、
頬には朱がさしているし唇の色も良かった。
まずまずの健康状態ではないだろうか。
頬のラインも少し、ふっくらしてきたし。
この状態だけで、全てを物語っているのに。
そばにいることの大切さを教えていた。
梨華ちゃんは、答えを見つけられるだろうか。
大切な大切な事実。
そしてあまりにも単純な真実を。
私が梨華ちゃんを愛し、梨華ちゃんが私を愛していること。
2人が一緒にいるのに充分すぎる理由ではないか。
一緒に生活出来るのもあとちょっと。
それまでに見つけて欲しい。
梨華ちゃんのためにも、私のためにも。
たった1つの幸せの方法を。
- 621 名前:リムザ 投稿日:2004/07/04(日) 16:28
- 更新しました
- 622 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/11(日) 19:44
- 更新お疲れ様です。
この小説の雰囲気が大好きです。
これからも、ひっそりと読ませて頂きますね。
- 623 名前:帰還 投稿日:2004/07/17(土) 22:24
-
27.Side R 相方
- 624 名前:帰還 投稿日:2004/07/17(土) 22:25
- 私たちの関係は、出会った頃から特別だった。
1度だって友人になれたことはない。
同期というか"相方"という存在を定義付けられて、一緒にいた。
辻加護をセットとして見られたから、残る2人は正反対の相方として。
事務所に入った時から同期の中でも2人だけで過ごしてきて、
どんな人間にも代われない場所によっすぃ〜はいる。
今もその気持ちは変わらなかった。
好きだと思う前から当たり前のように隣にいて、
自然と指先が絡まってしまったというだけ。
恋に変わっていった感情すら、当たり前のように受け止めて。
お互いの存在が特別だったから、
普通なら感じるはずの不自然さに気付けなかったのだ。
相方を好きになることがどれだけのリスクを背負うのかわかりもせずに。
本当に自然に惹かれてしまった。
- 625 名前:帰還 投稿日:2004/07/17(土) 22:25
- 若気の至りというには慎重過ぎて、
子供の恋愛ごっこというには知りすぎていた。
どんな言い訳もしたくない程、純粋で大切な想いだったのだ。
けれど、いつしか気付いてしまった。
私たちの進む道は、決して1つにはならないのだと。
同じレールの上を歩いているつもりでも、
同じ選択をしているわけじゃなかった。
平行線に進んできた道が、いつか離れてしまうのだろう。
その前に。
悲し過ぎる現実を突き付けられる前に、
私たちの思いを汚す前に終わらせてしまいたかった。
いつか訪れる、その時を待つくらいならいっそ。
一緒にいればいる程、際限なく好きになってしまう感情を押さえつけた。
見つめれば見つめる程深くなっていく想いが怖かった。
私はもう、一生よっすぃ〜のそばを離れることは出来ない。
- 626 名前:帰還 投稿日:2004/07/17(土) 22:26
- よっすぃ〜が同期、そして相方でなければ、私は私じゃなくなってしまう。
でも、よっすぃ〜が私の恋人であり続けるという確信はほとんどなかった。
よっすぃ〜の恋の仕方を近くで見ていれば、ある程度のクセというのはわかる。
熱しやすく冷めやすい性格のよっすぃ〜が、
プライベートではあまりにも合わない私と1生付き合っていくわけがなかった。
確かな約束の出来ない関係でもあるし。
最後まで、私はよっすぃ〜を信じられない。
よっすぃ〜の愛情を同情だと思い、優しさを憐れみと疑った。
いつまでも消えない猜疑心にもううんざりだったのだ。
だから、よっすぃ〜が悪いんじゃない。
物置用の部屋の扉を開けると、案の定よっすぃ〜がそこで眠っていた。
ごちゃごちゃした床に無理矢理布団を敷いて、横になっている。
先に帰ってるのだから、ベッドで寝たらいいのに。
いつも思うけれど、あまりよっすぃ〜には言わない。
せっかく良い距離を保っているのに、
今更離れたり近づいたりはしたくなかった。
曖昧な笑顔しか出来なくても、泣くよりはマシだ。
優しさが遠回しになって、視線すら合わせられなくて。
眠っているよっすぃ〜の顔を見ようと、枕元にしゃがみ込んだ。
穏やかな表情をして、規則正しい寝息を立てている。
妙にホッとした。
- 627 名前:帰還 投稿日:2004/07/17(土) 22:27
- よっすぃ〜を見ていたいのに、
いざその薄茶色の瞳を合わせようとすると怖くて出来ない。
弱い私を救われそうな気がして、視線を合わせることをやめた。
これからもずっと相方を続けていくのなら、
普通に接していかなくてはならないのに。
今はまだ、怖い。
よっすぃ〜の寝顔を優しい気持ちで見つめた。
長い睫が白い頬に影を落としていて、安心する。
真っ直ぐな瞳は、私を射抜かない。
真実だけを教える正しい視線は、欲しくなかった。
自分が馬鹿みたいなことをしているのは知っている。
私たちの関係は、感情だけで相手を遠ざけられるようなものではなかった。
2人の感情よりも先に、定義付けられてしまう。
- 628 名前:帰還 投稿日:2004/07/17(土) 22:27
- 一緒にいたいと思う前に、仕事があった。
選択する前に一緒にいることを義務とされたから、
私たちの想いは複雑にこじれてしまうのだ。
お互いを想う前に、周りが望む。
いつしかあやふやになってしまった。
よっすぃ〜といたいとだけ願うのに、
その思いすら周りが望んでいたのではないかと思う。
私が選んだことだと言えなくなってしまった。
こんなことまでが、不安の原因となって。
他に方法は思いつかなかった。
眠っていたよっすぃ〜が、不意に身じろぐ。
「・・・梨華ちゃん。」
ゆっくりと瞳が開かれるのを私は見つめていた。
少し掠れた声が、すっと染み込んでいく。
視線を合わせたくないのに、身動き1つ取れない。
捕われたのだと気付く前に、絡んでいた。
- 629 名前:リムザ 投稿日:2004/07/17(土) 22:29
- 更新しました
>>622名無飼育さん
レスありがとうございます。
かなり自己満足の小説になってますが(w
時間は掛かれど必ず完成させるので最後までお付き合いいただければ光栄です。
- 630 名前:帰還 投稿日:2004/07/24(土) 00:22
-
28.Side R 相方
- 631 名前:帰還 投稿日:2004/07/24(土) 00:23
- 強く正しい瞳。
いつもいつも私を惑わせた色。
「おかえり。」
優しく微笑みかけるよっすぃ〜に
言い知れぬ罪悪感を感じて、拒むように目を逸らした。
確かに眠っていたはずなのに。
目覚める兆候を見逃した自分に舌打ちをした。
規則正しい呼吸の音は、確かに熟睡を示していたはずだ。
「どうしたの?」
話を振られて、私は改めて自分の体勢が言い訳し辛いものだと気付く。
「・・・あ、えと。」
- 632 名前:帰還 投稿日:2004/07/24(土) 00:23
- 起きるだなんて思いもしなかったから、どんな言葉も浮かんではこなかった。
何か話題を、と考えるよりも先に何故か口が動く。
「あ、明日の、御飯買ってきたの。朝早いかもしれないけど、ちゃんと食べていって。
メモ残そうと思ってたけど、明日よっすぃ〜気付かんかもしれないって思って。
メモ、書くのも面倒だしね。あー、勢いでマシンガントークしてごめんね。」
言い訳をするように言葉を並べる。
普段言語能力の乏しい私がこんなにしゃべるのは珍しいのか、
よっすぃ〜は黙って聞いていた。
しゃべり終えて1つ息を吐くと、よっすぃ〜が嬉しそうに笑う。
「うん、あんがと。梨華ちゃんも早く寝るんだよ?」
よっすぃ〜の言葉で体が軽くなったような気がして、私は立ち上がる。
そんなに会話をしたわけじゃないのに、変に疲れてしまった。
相方なのだから、これくらい平気に出来なければいけないでしょ?
しかし、思うのと実際とでは天と地程の差がある。
「起こしてしまって悪かったね。私ももう寝るね。」
「おやすみ。」
- 633 名前:帰還 投稿日:2004/07/24(土) 00:24
- 私の動きを促してくれるようなよっすぃ〜の言葉に素直に頷き、部屋を出た。
普通にしようと思えば思う程、私たちの関係が普通じゃなかったことに気付く。
"相方"という関係がひどく半端な距離にあるものだと知った。
よっすぃ〜はいつも、私がそばに寄ると目を覚ます。
気配を肌が感じ取って、
自然に起きてしまうのだと言っていたことを思い出した。
あの時は、気にも止めず聞き流していたけれど。
離れて見なければ、気付けずにいたかもしれない。
近すぎてわからないことだらけだった。
無意識の感覚さえ、私に向いてたんだ。
どうしてこんな大切なこと、知らんでいたんでしょ?
いつもいつも優しく守ってくれたよっすぃ〜。
私、やっぱりこの距離がいいな・・・
相方でいれば、当たり前過ぎて見えなかったことがやっと見えてくる。
何年も変わらずに私を大切にしてくれた。
そんなよっすぃ〜を手放せない。
ねぇ、ズルイかな私。
よっすぃ〜のそばにずっといたい。
"恋人"としてじゃなくていいから、"相方"としてだけよっすぃ〜の隣にいたい。
よっすぃ〜の"相方"は一生私だけ、って。
ねぇ、私ってばズルイでしょ?。
キッチンの方へゆっくり視線を変えた。
本当は、明日の朝食なんて買ってきてない。
無意識に喋っていた。
朝食を用意してないことなんて忘れてたのに。
無意識の感覚は、あんまり変わらないかもしれない。
- 634 名前:帰還 投稿日:2004/07/24(土) 00:44
- もう1度、脱いだコートを羽織る。
よっすぃ〜はちゃんと寝たよね?
物置部屋の扉を見つめた。
こんな状態を気付かれたら、行かなくていいって言われるだろうから。
夜の外出は控えろ!なんて、子供に諭すみたいに真剣に話して。
少し笑みが零れた。
私らの関係って、本当に何なんだろう?ね。
どうしたらちゃんと"相方"を演じられるの?
ポケットにお財布を突っ込んで、部屋を出る。
静かにドアを閉めると、外の風に身を晒した。
冬の夜はいい加減冷えるな。
頬に手を当てて、冷気を紛らわそうとする。
コンビニ行けば、大丈夫だよね?
フルーツとヨーグルトでも買って、あとは温められる物も見てこよう。
相方としての管理の範囲だと思う。
"よっすぃ〜の相方"は、私以外いないのだ。
こんな時は不謹慎ながらも、この仕事をだっていて良かったと思う。
- 635 名前:帰還 投稿日:2004/07/24(土) 00:45
- だって、娘。は私とよっすぃ〜のきっかけじゃない?!
それは、私たちが決めたことではなくて。
私たちは、1度も望んでいない。
よっすぃ〜の"相方"という私のポジション。
この業界にいる限り、絶対に変わらないだろう。
ズルイことなんて、百も承知だ。
"相方"という場所は、自分で作ったものじゃない。
周りの人間が仕事という枠を持って、決めた位置。
だから私は、よっすぃ〜の"相方"でいられる。
優しいよっすぃ〜がこの仕事をやめることは出来ないんじゃないかと思う。
私の相方をやめたいと望めないだろう。
私、ズルイね。
"相方"としてなら、一生隣にいられるでしょ??
だけどよっすぃ〜よりも先に卒業してしまいたい。
私たちが選んだ"恋人"という距離さえ捨ててしまえば。
不確かな想いを信じようとするよりは良かった。
よっすぃ〜を離さなければ、私はいい。
よっすぃ〜の幸せだけを望んだのも本当だけど。
心の底にいつでもあるズルイ気持ち。
独占欲で縛るのは嫌で、仕事という形でよっすぃ〜を引き止めた。
ねぇ、よっすぃ〜。
あなたには幸せになって欲しい。
でも。
私を隣に置いていて。
いつも、どこでも隣で笑っていて。
自分の汚さに唇を噛んで、冬の痛みに目をつぶった。
- 636 名前:リムザ 投稿日:2004/07/24(土) 00:45
- 更新しました
- 637 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/24(土) 10:55
- 更新お疲れ様です。
う〜ん・・・深いですね。
- 638 名前:帰還 投稿日:2004/08/01(日) 21:10
-
29.Side H 欲望
- 639 名前:帰還 投稿日:2004/08/01(日) 21:11
- 梨華ちゃんは私と共同生活を続けている内に、
ますます表情を繕うのが上手くなっている。
楽屋でも家でも笑顔を絶やさないし、
辛いスケジュールにも顔をしかめることはなくなった。
梨華ちゃんは私に対して、
感情を上手にコントロール出来るようになったのだと思っているのだろうが、それは違う。
感情を無視しているだけなのだ。
仕事を始めた頃の梨華ちゃんを思い出す。
大人の汚い部分ばかりを見せられ、
これ以上傷つけないという程可哀相な時期があった。
あの人は、普通に優しいだけの少女だったのに、
あの容姿や艶が故に周りが梨華ちゃん自身を見ようとしない。
美しい姿を優先して、美しい中身をないがしろにされた。
その辛さは私にわかってやることは出来なかったけど、隣にいてひどく痛々しくて。
段々と防御壁を身に付け、自分を必死に守ろうとする姿があまりにも不器用で。
- 640 名前:帰還 投稿日:2004/08/01(日) 21:12
- けれど、その儚さが美しくもあった。
私が見惚れている内に梨華ちゃんのバリアは完璧に張り巡らされて、
私ですら容易には入れなかった。
今のような絶対的な信頼を得るまでに、どれだけ苦労したか。
どれだけ梨華ちゃんが苦しんだか。
それをまた、梨華ちゃんは繰り返そうとしている。
傷ついた心を見ないために、今度は自分自身にまでバリアを張って。
梨華ちゃんの本心が、奥へ奥へと隠れてしまう。
人間、ずっと笑ってられるわけないでしょ?
自分の感情を無視して、痛みにさえ鈍感になってしまったら。
梨華ちゃんは、自分が傷ついているのをわかっているだろうか。
人の痛みにばかり気がいって、きっと気付いていない。
いつか本当に壊れてしまう。
梨華ちゃんの笑顔を見る度に思った。
好きな人には笑っていて欲しいけど、そんなの本物の笑顔じゃないでしょ?
私は、あなたを幸せにしたい。
・・・・・・・・・・・それも私の隣で。
だからもう無理して笑わないで欲しい。
梨華ちゃんは、私の隣でだけ笑っていればいいよ。
笑う度に本心を隠していくことに、気付いてはいないだろうけど。
本当に幸せな笑顔は、私だけに向ければいい。
もう、無理したらダメ。
- 641 名前:帰還 投稿日:2004/08/01(日) 21:13
- 梨華ちゃんと食事をして、それぞれの寝室に入った。
勿論、私は物置用の部屋。
こんな所に梨華ちゃんを寝かせたくはない。
昔から周りの人間に
梨華ちゃんには甘すぎると言われているが、私にしてみれば当たり前のこと。
あの人は自分から貧乏くじを引くようなタイプだから、
私がその分フォローしてやるしかない。
それは、私たちがどんな関係にいても変わらないことだ。
どんな関係で定義付けられていても構わない。
私と梨華ちゃんの間にだけ存在する信頼が全てだから。
他のことはどうでも良い。
ただ、この部屋はどう考えても眠りには適さなかった。
ソファで寝た方が、まだマシかもしれない。
めずらしく眠れなくて、何度目になるかわからない寝返りを打つ。
いつもなら場所なんて関係ないのだけど。
スタジオの隅でだって眠れる人間である。
おかしいおかしいと思いながら、すでに1時間が経っていた。
- 642 名前:帰還 投稿日:2004/08/01(日) 21:14
- あーやばい。
明日も早いのに。
どうしたものかと考えあぐねていると、かすかな物音が聞こえてきた。
「・・・・・・ん?」
まさか、梨華ちゃんも起きている?
寝付きの良い梨華ちゃんが眠れないなんて。
私が寝れないのは、もしかして梨華ちゃんが起きているから?
そんな馬鹿みたいなことを考えながら体を起こす。
布団から出るとさすがに寒くて、手近にあったフリースを羽織った。
様子でも見てた方がいいよな。
放っておくべきか迷ったけど、とりあえず顔でも見ようと思いドアを開ける。
音がするのはキッチンの方らしい。
声を発する前にその姿を見つけようと、薄暗いキッチンに視線をだった。
コンロの所にだけ点いている明かりが、人の影を淡く作り出している。
実物とあまり大差ないだろう、
細く浮かび上がった闇を辿っていったところにその姿を捉えた。
俯き加減の後ろ姿。
「・・・・・・(っく)。」
思わず喉が音を立てた。
- 643 名前:帰還 投稿日:2004/08/01(日) 21:17
- 更新しました。
辻ちゃん、加護ちゃん、卒業おめでとう。
光あれ。
>637 名無飼育さん
レスありがとうございます。
心理描写がうまくできず稚拙な文章となってないかと心配してます。
- 644 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/02(月) 22:15
- 胸騒ぎですね。
良いのか悪いのか・・・あの続きが気になります。
作者様イヤイヤ全然いいですよ!
変に話し言葉文ばかりの「」だらけよりもここのような心理的な文書の方が
読んでいて想像力をかきたたせられてもの凄く引き込まれます。
がんばってください!
これからも続き楽しみにしています。
- 645 名前:帰還 投稿日:2004/08/07(土) 00:16
-
30.Side H 欲望
- 646 名前:帰還 投稿日:2004/08/07(土) 00:17
- 幻想的な雰囲気まで醸し出す程の背中。
体中を熱が駆け巡るのがわかる。
拳を作って、必死に体の反応を押さえようとした。
ちょっと、マジでヤバいよ、これ。
見慣れているはずだった。
こんな程度でおかしくなるくらい、強烈な姿ではないのに。
高まる欲をねじ伏せるため、荒い息を1つ吐いた。
抱きたい衝動をごまかし、声を掛ける。
「梨華ちゃん。」
声には熱を感じさせなかった。
びくりと肩を揺らし、梨華ちゃんが振り返る。
淡く光る上半身には、何も纏っていない。
綺麗な肌、しなやかなライン。
- 647 名前:帰還 投稿日:2004/08/07(土) 00:17
- 本人に意志はなくとも、この姿態だけで男を誘惑出来る。
身体がはっきりと変化を見せ始めた。
自分でコントロール出来るような熱ではない。
綺麗な身体。
私が何年も大切に愛してきた身体だ。
もうその肌に、私が愛した跡は残っていなかったけれど。
言葉を続けない私に困った表情を見せる。
ふわりと顎のラインで揺れる柔らかい耳元の髪。
濃いまつげに縁取られた瞳がゆっくりと瞬く。
梨華ちゃんのアンバランスさをまともに教える瞳は、濡れているように思えた。
誘っているのかと思ってしまうふっくらとした魅惑的な口唇が開く。
「眠れなくてスープ作ってたとこ、なの。
インスタントだけど・・・よっすぃ〜も飲む?。」
わずかに首を傾けて、その視線が上がる。
私は問いかけられた言葉に答えることが出来なかった。
身体の中心に集まってくる熱を逃そうと必死になっている。
こんな誘惑に満ちたものを見せられて、どうすればいい。
美しい身体とは裏腹に、表情はいつもと変わらずあどけない。
- 648 名前:帰還 投稿日:2004/08/07(土) 00:17
- 裏切りにも取れる程のアンバランスさが、
今の私には余計熱を煽ることとなってしまった。
不思議そうに首を傾げながら、乾いた唇を赤い舌がなぞっていく。
言葉を探しているようにも見えて。
艶を帯びた半開きの口唇が、ゆっくりと動いた。
「よっすぃ〜?どうしたの・・・。」
その言葉は、最後まで発されることなく消えた。
戸惑いがちに合わせた視線に何を見たのか、
いたたまれなくなったように俯いてしまう。
その頬がわずかに朱に染まった。
私、そんなにヤバイ目ぇしてるのか。
梨華ちゃんの変化が、私の表情を教えていた。
マズイな・・・
今までどうにか保ってきたのだから、こんなとこで終わりにしたない。
このままでは、共同生活が危うくなってしまう。
せっかく梨華ちゃんが納得する距離で保っていたのに。
欲望に濡れているだろう瞳を1度伏せてから、そっと梨華ちゃんを見る。
自分の体を抱きしめるように緩く回された腕が、震えているようだった。
- 649 名前:帰還 投稿日:2004/08/07(土) 00:18
- 私がしたことなのに可哀相に思えてしょうがなくなり、自分の着ているフリースを脱ぐ。
それは梨華ちゃんを寒さから守るための行為か、私から守るためになのか。
それとも、この生活を死守したいがためか。
メチャクチャに抱いてしまいたいと願う欲求を抑えつけて、
梨華ちゃんの肩にフリースを掛けた。
反射的に顔が上がる。
「カゼ、引くでしょ?」
声に、含ませた響きはなかっただろうか。
素直にそのフリースへ腕を通す。
再び梨華ちゃんから絡ませた視線を外し、私は部屋へ戻ろうとした。
これ以上、ここにいたら本気で困ってしまう。
梨華ちゃんの声すら刺激になりそうだったので、
言葉を発そうとした動きを無視して背を向けた。
おやすみと口の中でだけ呟き、部屋へ入る。
- 650 名前:帰還 投稿日:2004/08/07(土) 00:19
- 布団に座り込んで、大きく息を吐いた。
今だ反応を見せたままの身体は、収まりそうにない。
身体が、熱い。
自分で処理しきれないほどのヤバさだ。
優しく待っていてやりたいのに。
梨華ちゃんを抱ける前は、彼女に対する欲望を他の人にぶつけていたが、今それは出来ない。
梨華ちゃんを待つことだけが唯一私にしてやれること。
あの人の居場所を確保していたいから。
握り締めた拳を床に打ち付けた。
確かな痛みが返ってくる。
少しでも身体の熱を逃がしたかった。
頭をかきむしって、乱暴に布団を被る。
[ヤりたい、キスしたい、愛したい]
頭の中はそんな単語で支配されて、どうしようもない。
もう持たないよ、梨華ちゃん。
心よりも身体を優先させたくなる欲望。
そんなことを本当にしたら、梨華ちゃんを傷つけるだけなのは知っていた。
舌打ちをして、無理矢理目をつぶる。
今夜は眠れそうになかった。
- 651 名前:リムザ 投稿日:2004/08/07(土) 00:22
- 更新しました
>644 名無飼育さん
レスと感想ありがとうございます。
励みになります。
これからしばらく会話形式も出てきますが、お付き合い下さい。
- 652 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/07(土) 12:26
- 更新お疲れ様です。
毎回すごいです!
よっすぃーの心の内に秘める欲望がすごいですね
でも何だかそれも分かるような気がします。
そろそろよっすぃー壊れそうですね。
出きるのなら綺麗に壊れさせてあげてほしいです。
- 653 名前:桜流 投稿日:2004/08/07(土) 12:28
- こんにちは、初めてレスさせていただきます。
よっすぃーの中に熱いものがこみ上げてきている様子がものすごくリアルに伝わってきました。
切なさともどかしさがたまらないです。
これからどうなるのか、心待ちにしております。
- 654 名前:帰還 投稿日:2004/08/15(日) 23:37
-
31.Side R 指先
- 655 名前:帰還 投稿日:2004/08/15(日) 23:38
- よっすぃ〜が入っていった扉を見つめたまま、私はしばらく動けなかった。
"おやすみ"と視線を合わせずに呟いたよっすぃ〜。
そんなことは、今までになかった。
すごく悲しい気持ちになってしまい、
よっすぃ〜が着せてくれたフリースのすそを握り締める。
濡れた瞳を思い出した。
視線を合わせられなかったのは自分なのに、
いつの間にか知らない色を見せていたよっすぃ〜が、
誰なのかわからなくなりそうだった。
思春期の色気、とでも言うのだろうか。
時折見せていた瞳の奥の大人っぽさが、より濃く表れたような。
知らない色に、胸が高鳴ってしまった。
まだこんなにも恋焦がれているのかと思うと、自分が怖くなる。
"恋人"としての存在を望んでいるのが嫌だった。
ゆるやかに、留まったままの視線を外してコンロへと向き直る。
気付かぬ私に沸騰していたようだ。
慌てて食器棚からマグカップを探す。
一瞬迷ったが、
あの瞳に動揺している自分を知りたくなくて、カップを2つ取り出した。
インスタントの粉末を入れた上から、熱湯を注ぐ。
スプーンでゆっくりとかき混ぜながら、大丈夫と心の中で繰り返した。
- 656 名前:帰還 投稿日:2004/08/15(日) 23:38
- よっすぃ〜の瞳をどうしようもない程、意識してしまう私。
いつかこの想いが、恋じゃなくなる時は来るのだろうか。
ちゃんとよっすぃ〜の隣にいられると思ったのに。
こんなことですら、動揺してしまう。
意識して口の端を上げた。
何事もなかったかのように笑うためだ。
自分のカップをとりあえず寝室に持っていき、サイドテーブルに置いた。
まさかこぼしたりはしないだろうから、ここで飲んでも平気だろう。
少し躊躇ったけど、部屋に閉じこもっている方が落ち着くだろうし。
安全な場所に置いてから、
もう1度キッチンへ戻りよっすぃ〜のマグカップを持つ。
こぼさないように気を付けつつ、扉の前に立った。
さっきのよっすぃ〜の背中を思い出す。
時々私は、よっすぃ〜が遠いと感じることがあった。
その感覚にひどく近かったんだと思う。
- 657 名前:帰還 投稿日:2004/08/15(日) 23:39
- 大人びた背中、掠れた呟き、何もかもが遠くてよっすぃ〜がわからなかった。
理解出来ない理由を私のわかる範囲まで寄せるために、
手の中にあるマグカップを渡そうとしている。
相変わらず自己中。
それはよっすぃ〜に対する甘えでもあった。
よっすぃ〜なら、という思いが強いのだ、私は。
深く息を吸い込んで、部屋をノックした。
何も反応がないので眠ったのかと思ったけど、確認しようと声を掛ける。
「よっすぃ〜?入ってもいい?スープ作っ・・・」
「入るなっ!!」
思いがけず強い声が返ってきて、体が震えるのがわかる。
同時に、手にしていたマグカップがするりと落ちてしまった。
- 658 名前:帰還 投稿日:2004/08/15(日) 23:39
- スローモーションのように落ちていくそれを見つめている途中で
トーンを落としたよっすぃ〜の声が聞こえる。
「・・・今ドアのところに、雑誌があるから。」
言い訳をする声にかぶさるように、カップの割れる音が響いた。
「・・・・・・っ。」
よっすぃ〜に怒鳴られた声とカップの割れる大きな音にびっくりしてしまい、
両手を胸の辺りで握り締めたまま動けなくなってしまった。
中に入っていたスープが、ゆっくりと床に広がっていく。
耳の奥がキーンと鳴って、完全に思考回路が停止してしまった。
やらなければならないことがあるはずなのに、
何をしたら良いのかもうわからない。
どうしよう。
「大丈夫!?」
動けないままでいた私の目の前にあるドアが、勢い良く開いた。
心配そうな表情で出てきたよっすぃ〜に、縋るような視線を向ける。
「・・・まず、床を拭こう。」
ぼんやりした私を見てそう言うと、急いで洗面所の方へ行った。
身動きが取れないままの私は、
ゆっくりと視線をよっすぃ〜が出てきた部屋の内へと向ける。
(なんだ・・・雑誌なんかないのに)
言い訳めいた声を思い出して、苦笑した。
少しの嘘くらい平気。
何でもない嘘の積み重ねが、いつしか私とよっすぃ〜の間に壁を作るのだろう。
だからこんなの、何てことはない。
そう、何てことはないんだ。
- 659 名前:リムザ 投稿日:2004/08/15(日) 23:43
- 更新しました。
>>652 名無飼育さん
レスありがとうございます。
よっすぃ〜の壊れ具合を感じ取った石川さん。
今後どうなるのでしょうか・・・
>>653 桜流さん
初レスありがとうございます。
落ち着いた二人の生活に不協和音が生じました。
子供のようで大人になっていく二人を表現できればと思ってます。
- 660 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/16(月) 03:38
- 更新お疲れ様です。
あぁ〜梨華ちゃんが・・・
よっすぃ〜も・・・
何かこう二人の名前を書いた紙が
ビリビリと真中から破れて行ってるようなそんな感じがします。
- 661 名前:帰還 投稿日:2004/08/20(金) 22:02
-
32.Side R 指先
- 662 名前:帰還 投稿日:2004/08/20(金) 22:02
- 「ちょっと、梨華ちゃんどいて。破片とか危ないでしょ?」
後ろから声を掛けてくるよっすぃ〜を視線だけで追った。
「梨華ちゃんの足まで濡れてまうから、ちょっとどいてよ、ね?」
優しい言葉に従って、2歩後ろに下がると破片を拾おうとかがむ。
よっすぃ〜は雑巾で、広がってしまった液体を拭いていた。
拭きやすいようにと、小さい物から順に手の平へ乗せていく。
これ、よっすぃ〜のお気に入りだったのに。
「よっすぃ〜、ごめん。割っちゃって・・・」
「そんなのいいって。いつかは割れるもんだし。
でも、気をつけてよ。手に乗せてなんかすると、切ってしまうから。」
「うん。平気。」
気遣うように言葉を発するよっすぃ〜に安心して、
残った破片を拾い上げていく。
そんなに大した量ではなかったのか、
よっすぃ〜の手際が良かったのか、意外と早く床に散らばった物は片付いた。
よっすぃ〜は雑巾を手早く片付けると、
私の手の平に乗った破片を入れるビニール袋をキッチンへ取りに行く。
その後ろに続いて、私もキッチンへ向かった。
- 663 名前:帰還 投稿日:2004/08/20(金) 22:03
- 「ありがとう。」
「何言ってんの。」
ビニール袋を広げながらそう返すと、柔らかく微笑んでくれた。
「はい、気を付けて入れるんだよ?」
手の下に袋を開いてくれたので、そこにそっと破片を落としていく。
最後まで何事もなく片付けを終えられたと思った次の瞬間、指先に鋭い痛みが走った。
「っつう・・・」
言葉にならない呟きが零れるのと同時に、指先から赤い雫が袋の中へと落ちていく。
「どこ切った!!」
私よりも数段慌てたような仕草で
よっすぃ〜は手に持っていた袋を落とすと、私の手首を掴んだ。
止めど無く溢れる血液が落ちる前に、よっすぃ〜の手の平がそれを受け止める。
大丈夫だと言おうとした瞬間、
身体に電流が走ったかのように震えが駆け巡った。
自分の手の平に零れ落ちた血液を舐め取ると、
躊躇うことなく切った指先を口に含んだのだ。
あまりのことに、声を発することも身じろぐことすら出来なかった。
- 664 名前:帰還 投稿日:2004/08/20(金) 22:03
- 伏せたままの瞳は合わせられることはなかったけれど、
さっきと同じような知らない色をしているのだろう。
重力に従って指先を伝っていく赤のラインを
なぞるように舐め上げていく熱い舌に、快感よりもまず気持ちの悪さを感じた。
その感覚は、よっすぃ〜に対してのものではない。
こんな関係に戻っても尚、感じてしまう自分の身体に、だ。
最低だ、私・・・
直線に出来た傷口に舌を這わせる感じは、明らかに不自然なのに。
愛撫をされているような感覚に陥る。
耐え切れないというように、口唇から吐息が漏れた。
それを自分の耳に入れると、ぞくりとするような不快感が生まれる。
「・・・もっ、平気だから。」
やっとのことで拒否の言葉を発した。
けれどもそんなことは聞こえていないかのように、
よっすぃ〜の動きは止まらない。
血の跡なんてどこにもないのに、掴んだ手の強さが弱まることはなかった。
「ちょっ、よっすぃ〜。大丈夫だってば!!」
- 665 名前:帰還 投稿日:2004/08/20(金) 22:04
- よっすぃ〜の髪に指を絡ませて、ゆるく引っ張る。
嫌だ、気持ち悪い。
真剣なものへと変貌しつつある愛撫が嫌でしょうがなかった。
よっすぃ〜の口唇から逃れるため、握り締めるように指先を閉じ込めていく。
そこでやっと、よっすぃ〜の唇が離れた。
ゆっくりと伏せられていた瞳が上がる。
舌なめずりをするように舌を這わせる濡れた口唇を見つけて、
視線が絡むよりも先に顔を背けた。
「こんな傷、何でもないし。もう平気。
ありがとう、片付け手伝ってくれて・・・もう、寝るからっ。」
痛い程の視線を感じたけれど、再び顔を上げることは出来なかった。
逃げるようにして、いや実際逃げたのだろう、そのまま部屋へと入った。
よっすぃ〜が追って入ってきそうな気がして、
ドアを背にしたまま座り込んでしまう。
心臓が爆発しそうだった。
今、私たちは何をやっていた?
"同期や相方"でなかったのは勿論だが、あれは"恋人"でもない。
もっと生々しい、言葉を為さない関係だった。
どうしようもなく求める者と、どうしようもなく感じる者。
それだけだった。
- 666 名前:帰還 投稿日:2004/08/20(金) 22:04
- よっすぃ〜が部屋へ入った音を確認すると、やっと扉から離れる。
ベッドサイドに腰掛けると、冷めてしまったスープを口に含んだ。
味覚すら感覚を失ってしまったらしい。
自分の中にある感覚という感覚は指先に集まって、よっすぃ〜にだけ向いていた。
よっすぃ〜が触れた指先を見つめた。
呼吸の音がやけに大きく響く。
聴覚すらもよっすぃ〜に向いていて、
無音のはずなのに繰り返し繰り返しよっすぃ〜の声が聞こえていた。
どうして、と心の中で何度も呟く。
動けずにいた指先を少し持ち上げて、
ベッドの隣に納まっているミニコンポへと手を伸ばした。
何が入っているのかは知らないけれど、無音の状態よりは良い。
少しでも、鋭敏すぎる感覚を和らげられれば。
スローテンポなメロディーが流れ始める。
音楽の趣味を共有したことはなかったから、当然知らない曲だった。
胸に染み込むような、優しいメロディー。
英語ではないどこか他の国の言葉が、ひどく心地良かった。
よっすぃ〜が好きそう。
- 667 名前:帰還 投稿日:2004/08/20(金) 22:04
- 未だに落ち着かない心臓の音。
流れてくる知らないメロディー。
よっすぃ〜の、音。
掴まれた手首に、そっと唇を触れさせた。
はっきりと感触が残っている。
指先に触れることは出来なかった。
思い出してしまう。
きつく目をつぶり、唇を噛んだ。
よっすぃ〜の熱、よっすぃ〜の吐息、濡れた瞳。
もう戻れない、そう思った。
流れる音楽に体を委ねて、よっすぃ〜の匂いがする上着を脱ぐ。
肩からフリースを落とした時に、指先が震えていることに気付いた。
- 668 名前:リムザ 投稿日:2004/08/20(金) 22:07
- 更新しました
>>660名無飼育さん
破いているのは一人か、違う一人か。
それとも二人なのか、第三者なのか。
二人とも禁断症状が出てるように、精神面で表してみました。
いつもレスありがとうございます。
- 669 名前:660名無し 投稿日:2004/08/21(土) 19:15
- 更新お疲れ様です。
あぁ〜痛い痛い痛い!
すごく心が痛い!そんな感じです。
二人ともとうとう歯車が合わさって動き出しちゃいましたか?
動き出したら止まれない・・・ですかね?
これからどう動くのか楽しみです。
- 670 名前:帰還 投稿日:2004/08/22(日) 00:52
-
33.Side H 衝動
- 671 名前:帰還 投稿日:2004/08/22(日) 00:53
- せっかく上手くいっていたのに。
昨日の夜から、胸の中を渦巻いている後悔だった。
理性も論理も忘れて、ただ自分の本能に流されたのは私だったけれど。
梨華ちゃんの怯えた瞳が蘇る。
必死に私との距離を保とうとしていた梨華ちゃんの臆病さを晒したのは私だ。
しかし、止めど無く溢れる後悔の念のもとでは確かに、
梨華ちゃんの姿に欲情した自分がが満足していた。
この、狡さ。
梨華ちゃんは誰よりもまず私を優先してくれたのに、
私は自分の欲求を最優先にしてしまった。
あと少し優しく待っていれば真実に気付いてくれただろうに、私がその真実を遠くした。
最低だ、私・・・
別れを告げられたあの日から、
それよりもずっと前
――梨華ちゃんが純粋に私を必要としてくれていた時から変わらない想い。
私の気持ちは出会った瞬間から暗い感情を抱えていた。
梨華ちゃんを欲しいとだけ願う性的な望み。
梨華ちゃんが私を思う感情とは、全く違う醜い欲望。
私の腕の中に閉じ込めていた時ですら、ひた隠しにしてきたのに。
梨華ちゃんに怖い思いはさせたくない。
- 672 名前:帰還 投稿日:2004/08/22(日) 00:53
- 長い間かけて築き上げてきた、
絶対的な信頼を壊したくなかったからこそ、耐えてきたのに。
本当は、家の中に閉じ込めて誰にも見せたくないくらい。
梨華ちゃんの瞳が映すのも、
梨華ちゃんの甘い声が呼ぶのも私だけにしたいくらい。
恋人という束縛では、満足など出来なかった。
なのに。
梨華ちゃんの別れの言葉は、精神的な面ではそんなに堪えなかった。
私と梨華ちゃんの永遠を信じていたから。
けれど、身体はとっくに限界を越えていた。
醜く暗い欲望が溢れ出して。
梨華ちゃんを徹底的に傷つけた。
1人きりの楽屋で、大きく溜め息をつく。
雑誌の撮影で用意される楽屋は、いつも1つなのに。
梨華ちゃんがマネージャーに体調不良を訴え、1人になりたいと頼んだらしい。
娘。の中心になってる梨華ちゃんの頼みは、事務所を納得させた。
これ以上、休まれては困るのだろう。
おかげで、マネージャーたちの荷物まで私の部屋に置かれている。
- 673 名前:帰還 投稿日:2004/08/22(日) 00:54
- いつもなら無理矢理にでも部屋を訪ねるところだが、今日は行けない。
体調不良の元凶である私が、どの面下げて会いに行けというのだ。
朝から一言たりとも口をきいていなかった。
ギリギリまで寝室にこもり、
マネージャーの車が来る時刻になると、私を置いて部屋を飛び出した。
車に乗ってからも眠ったフリを続けて、私との会話を拒む。
これは、別れた当初よりひどいかもしれない。
今更ながらにことの重大さに気付いた。
何度目になるかわからない溜め息が零れると、扉が無遠慮に開かれる。
「スタジオ準備出来たって。」
「・・・・・・わかった。」
普段はあまりない無愛想さでマネージャーに言葉を返す。
この場合、言葉を発せただけでも立派なのだが。
そんな態度の悪さを気にも止めず、
マネージャーは隣の部屋にいる梨華ちゃんに声を掛けていた。
さり気なく覗くと、部屋の中は真っ暗で。
やばいかもしれないと思った。
- 674 名前:帰還 投稿日:2004/08/22(日) 00:54
- ほぼ同時にスタジオ入りすると、良く知ったカメラマンが声を掛けてくる。
「おはよう。今日もよろしく頼むね。」
どうしてもテンションが上がらないので、
返事などはしたくなかったけど、
こういう場合梨華ちゃんが声を返すことは少なく、私が会話を繋げるしかない。
「よろしくお願いします。」
今の自分に出来る最上級の愛想で答える。
人の内面までもを映し出すカメラマンに通用したかどうかはわからないが。
「じゃ、さっそく始めようか。」
私の半歩後ろに立っていた梨華ちゃんが
ゆっくりと顔を上げたのを気配で感じ取った。
メイクで顔色はごまかせるものの、表情までは繕えない。
果たして、無事に笑顔を作れるのだろうか。
セットの中に2人で立つ。
いつも通りの、肌が触れ合う距離で並ばされた。
音がスタジオ内に響き渡ると、私は自然に笑顔を作っている。
こういう時の切り替えは梨華ちゃんも下手なはずではないのに、
隣にある表情は不自然さを通り越して痛々しかった。
笑えてない。
- 675 名前:リムザ 投稿日:2004/08/22(日) 00:57
- 座間に行ってきて触発されたので更新しました。
>>669名無しさん
この痛みが悲劇をもたらすのか、喜劇をもたらすのか謎です。
コンサの興奮のせいか、稚拙文章になってしまいました。
唐突更新でしたが自習からはいつも通りマターリ更新します。
- 676 名前:名無し 投稿日:2004/08/22(日) 20:14
- 更新お疲れさまです。
あぁ〜暗い暗い暗い・・
この暗〜い重〜い空気・・・経験があるのでよく分かります。
- 677 名前:帰還 投稿日:2004/08/29(日) 22:53
-
34.Side H 衝動
- 678 名前:帰還 投稿日:2004/08/29(日) 22:54
- 一生懸命なのはわかりすぎる程わかるのだが、
カメラマンまでが溜め息をついてシだったを切るのをやめた。
「石川ちゃ〜ん、どうしたの。全然笑えてないねえ。」
「・・・すみません。」
罪悪感で表情を曇らせて、俯いてしまう。
カメラマンが困った表情をして、私の方へ視線を送る。
そんなの言われてもねぇ。
こんな顔させてんの、私だし。
言っても仕方ないことを胸の内だけで呟く。
もう1度小さく溜め息をついて、梨華ちゃんの方へ向き直った。
「梨華ちゃん。」
途端に怯えたように揺れる肩。
「仕事でしょ?」
残酷だけれど、1番正しい言葉を囁く。
感情論などよりも、ずっと梨華ちゃんには理解しやすいはずだ。
予想通り、躊躇いながらも真っ直ぐに視線を合わせてきた。
- 679 名前:帰還 投稿日:2004/08/29(日) 22:55
- いつもならここで軽く抱きしめると、あっという間に力が抜けるのだけど。
無意識に伸ばした腕を梨華ちゃんの指先が止めた。
微かに震える指先。
気づかれないようにと
きつく手首を反対の手で掴んでいるせいか、肌にはすでに色がない。
その指に細く乾いた傷があるのを見て、
私は視線を梨華ちゃんの瞳に合わせた。
守ってやりたい気持ちと壊してしまいたい衝動が、いつでも変わらずに胸の中にある。
梨華ちゃんを傷つけたいわけではないのに。
すっと目を細める。
自制心を持っていなければ、
本当に梨華ちゃんは戻ってこなくなるかもしれない。
何よりも怖いのは、私の隣から消えることだ。
もう、手遅れなのかもしれないけど。
「あのさ、しっかりしよ?ね?」
指先には視線を落とさずに視線を絡めて言った。
梨華ちゃんは微かに頷くと、謝罪の言葉を口にする。
「ごめん・・・なさい。」
- 680 名前:帰還 投稿日:2004/08/29(日) 22:56
- それはカメラマンやスタッフに向かってではなく、私だけに向けられた言葉。
その意味するところが何となく見えてしまって
言葉を重ねようとしたけれど、逸らされた視線が私を拒んでいたから。
全身で私を拒否している。
(優しさだけでいられたらいいのに・・・)
思ってしまった時点で、不可能だと肯定しているにすぎなかった。
私へ発せられた言葉の意味は、仕事を終えてからわかった。
2人の現場があまりにも離れていたために、
別々に送ってもらうことになったのだが、
先に帰ったという梨華ちゃんの姿は、部屋になかった。
一瞬梨華ちゃんのマネージャーへの電話も考えたけど、やめておいた。
どうにもならないことに気付いたからだ。
梨華ちゃん・・・
その日から、梨華ちゃんが私の部屋に帰ってくることはなかった。
- 681 名前:リムザ 投稿日:2004/08/29(日) 23:05
- ほんの僅かで申し訳ないですが更新しました。
>>676 名無しさん
好きな気持ちを抑えてでも一生の片思いを選んだ石川さん。
ネガティブというより、とことん落ちてます。
しばらく話の展開のため更新量に変動が出てしまいますがお付き合い下さいませ。
- 682 名前:名無し 投稿日:2004/08/30(月) 21:40
- 更新お疲れ様でした。
おーい!梨華ちゃん・・・
どこ行っちゃんたんだよぉ〜。・゚・(つД`)・゚・。
そんな事したら余計によっすぃ〜が壊れちゃいそうで・・・心配。
- 683 名前:帰還 投稿日:2004/09/03(金) 22:12
- どこにも誰にも頼ることは出来なかった。
勿論、よっすぃ〜の部屋には帰れない。
思い出すのは生々しい感触ばかり。
私だけが変わってしまったのかもしれない。
私だけ、醜くなってしまった。
よっすぃ〜の隣で笑っていられるように、綺麗になりたかったのに。
今隣にいることは耐えられない。
自分だけでなく、よっすぃ〜までも汚してしまうような気がして。
真っ直ぐで綺麗な感情を持ったよっすぃ〜。
離れれば離れる程、よっすぃ〜の存在が大きくなる。
よっすぃ〜に触れたいと心が叫んだ。
どんな関係でも構わないから、ただそばにいたいと願う。
そんなこと、駄目に決まってるのに。
恋人という居場所を捨てた相方として、
ずっと笑おうと決めたから隣にいることをやめなかった。
なのに。
もう、そばにさえいられない。
その事実に意識が遠のきそうな不安を覚える。
1人でいる孤独に打ちのめされそうだ。
遠くしたのは、確かに自分の醜い想いだけれど。
- 684 名前:帰還 投稿日:2004/09/03(金) 22:13
- よっすぃ〜・・・
よっすぃ〜がいなきゃ、生きることも出来ない。
1人では新しい道を探すことすら思いつかず、結局ここにいる。
慣れた愛車のシート。
ここが今の私の寝場所だ。
家の鍵は預けてしまったけど、車の鍵は別にしておいて本当に良かったと思う。
人を頼ることだけはしたくない。
けれど、シートで寝るという生活には限度があるのだろう。
疲れが取れない。
体のあちこちで危険信号が点滅していた。
また倒れたら、問題になってしまう。
仕事に穴を開けるわけにはいかない。
頑張れと体に声を掛けて、車のドアを開ける。
精神力はまだ追いついているから、あとは体力だけ。
これから歩いてよっすぃ〜のマンションまで行かなくてはならない。
誰にもここで寝泊りをしていると、悟られるわけにはいかないから仕方ない。
自分を守るためだったら、どんなことだってしてみせる。
- 685 名前:帰還 投稿日:2004/09/03(金) 22:14
- 固まった体を伸ばしながら、朝焼けの空を眺めた。
季節を感じることが出来て、少しだけ気持ちが軽くなる。
今日は朝から一緒の仕事が入っていた。
どうだって不自然ではないように、2人で事務所の車に乗り込むかが問題。
よっすぃ〜の視線を避けつつ、マネージャーにはばれないように。
自分のどこにこれだけの演技力があったのかと思えるくらい、自然体を装っていた。
仕事以上に気を張っている自分がおかしい。
深呼吸をして立ち止まる。
家に戻らせようとするよっすぃ〜の話は、さり気なくかわしていた。
マネージャーには、まだ言ってない。
よっすぃ〜からすぐに伝わって、
強制的に戻されるかもしれないと危惧していたのに。
あくまでも2人の問題だと考えてくれているからだろう。
2人の・・・
相方として?
同期として?
娘。として?
それとも・・・何?
- 686 名前:リムザ 投稿日:2004/09/03(金) 22:16
- 更新しました。
>>682 名無しさん
塞ぎ込んだ石川さん。
愕然とする吉澤さん。
二人ともかなり精神的にキテます。
- 687 名前:ケロポン 投稿日:2004/09/03(金) 22:32
- 更新乙です。
キてますねぇ…
頑張り過ぎるなよぉ…
- 688 名前:名無し 投稿日:2004/09/05(日) 01:59
- えぇ〜い!梨華ちゃん!
ウジウジ考えててもしょうがない!
思い切ってよっすぃ〜の胸に飛び込んじゃえ!w
きっとよっすぃ〜は抱きとめてくれ・・・る?かな?w
- 689 名前:帰還 投稿日:2004/09/10(金) 22:20
-
36.Side R 予感
- 690 名前:帰還 投稿日:2004/09/10(金) 22:22
- 考えを突き詰めていくのは怖くて、
それでもいつかはきちんと答えを出さなければ前に進めないことも知っていた。
恋人という関係を捨て、
一生よっすぃ〜のそばにいると決めたはずだけど。
何かが違う。
ただ、それだけを感じていた。
いつかよっすぃ〜の瞳に追い詰められて、
本音だけで想いだけで選ばなければならないような。
あってはならないことを想像しては、
悲観的というにはあまりにも身勝手な考えを出してしまいそうだった。
このままの関係ではいられない、そんな予感だけが胸を占める。
私はどうしたい、どうしてほしい・・・
答えは、見つけたくなかった。
少なくとも自分では。
- 691 名前:帰還 投稿日:2004/09/10(金) 22:28
- 疲労も心労も一緒になって、鉛のような疲れだけが襲ってくる。
よっすぃ〜との仕事を終えて楽屋で落ち着くことはせず、次の現場へと向かった。
あの人と離れてしまえば、あとは仕事をこなすだけだ。
共演者と笑顔で収録を済ませることは苦しい。
誰も本心なんて求めていないから、笑っていられるのだろう。
1人の楽屋で、ぼんやりと考えた。
今日はこれでおしまい。
マネージャーに言って、帰りはタクシーを呼んでもらうことにしたし。
大丈夫、と口の中だけで呟く。
遠のきそうな意識を保たせるために。
少し動けば視界は歪むし、声を出せば頭が痛む。
体調不良どころではすまされない体で、楽屋から出た。
すれ違う人間にうんざりしながらも、笑顔で挨拶を交わす。
早く、帰りたかった。
人が途切れてしまうと意識も途切れがちになるのか、足がもつれて壁に手をついてしまった。
「やばい・・・」
私の場合、自覚症状が出た段階で大抵アウト。
胸を押さえて、視界を保とうとする。
もう少しだから。
タクシーに乗り込みさえすれば、大丈夫。
向こうから足音が聞こえてきて、無理矢理体を起こす。
帰りたい。
「あれ、梨華ちゃん?」
「どうしたの?」
聞き慣れたメンバーの声が届く。
あいぼん、のの・・・
- 692 名前:帰還 投稿日:2004/09/10(金) 22:30
- ゆっくりと顔を上げると、ののと歩いてくるのがわかる。
「おつかれさま。」
完璧とは言えないまでも、きちんと姿勢を正して挨拶をした。
足に力を入れて。
お腹から声を出して。
「おつかれ。梨華ちゃん、もう終わりなん?」
「うん。」
「あのな、これからののと食事に行くんやけど、一緒に行かん?」
「ののも母ちゃんと御飯食べたいなーーー」
食事に行ける状態ではないのは自分で良くわかっているし、
何よりこういう誘われ方は最も苦手とするパターンだった。
あいぼん、ののは私とよっすぃ〜みたいなもので。
私だけ誘われるのはよっすぃ〜に悪い。
表情を崩さないまま答える。
「ごめんね。これから約束があって。
せっかく誘ってもらったのに悪いど、また今度。」
- 693 名前:帰還 投稿日:2004/09/10(金) 22:31
- 自分の中にどれだけの精神力が残っているのか、
驚くほどに平然と断わりの言葉を並べていた。
体は悲鳴を上げている。
「そっか、残念やな。じゃあ、またなー」
「今度は父ちゃんと4人で行こうね、絶対だよ!!」
「もちろん!おつかれさまでした。」
にぎやかな二人を見送ると、こらえきれず体が崩れてしまった。
しゃがみ込んで、どうにか体勢を立て直そうとする。
ここでマネージャーに会うわけにはいかない。
もうすぐで共同生活を終わりにしようという話が出ているのだ。
私がこんな状態だなどと知れたら、よっすぃ〜のそばから解放してもらえない。
どうにか、ごまかし続けたかった。
壁についた手に力を込めて、立ち上がる。
歪んだ視界をそのままに、タクシーが待っている通用口へ向かった。
大丈夫。
タクシーに体を滑り込ませると、
すでに行き先は告げられていたのかゆっくりと発進した。
浅い呼吸を繰り返す。
- 694 名前:帰還 投稿日:2004/09/10(金) 22:31
-
まだ。
まだ、ごまかせるでしょ?
- 695 名前:帰還 投稿日:2004/09/10(金) 22:32
- 広いシートに体を埋めながら、切れそうになる意識をつなぐ。
ごまかせるはず。
体のことも、よっすぃ〜のことも。
そして、私の本心すら。
言ってはならない真実を上手く隠し続けなければ、私はよっすぃ〜のそばにいられない。
対向車のライトに目を灼かれ、頭の芯が痺れた。
使い物にならない手は、温度など忘れたように冷え切っている。
噛み締めた唇から、小さく零れ落ちた。
「帰りたい・・・な」
掠れた呟きは、タクシーのエンジン音に飲み込まれる。
帰りたい、帰りたい・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・どこに?
- 696 名前:リムザ 投稿日:2004/09/10(金) 22:34
- 更新しました。
>>ケロポンさん
レスありがとうございます。
キてますね・・・自覚してないだけで狂い始めてます。
>>688 名無しさん
飛び込むか、自粛するか、他を探すか、自滅するか。
石川さんの限界が近づいてます。
- 697 名前:名無し 投稿日:2004/09/11(土) 13:05
- うううっ・・・
梨華ちゃん・・・せつないよぉ〜
もうこれ以上がんばるなよぉ〜
お願いだよ。
- 698 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/12(日) 18:55
- グッときます!がんばってください!!
- 699 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/12(日) 20:31
- リムザさま
更新お疲れ様です
スパイラルのように落ちていく展開が凄く好きです
これからも静かにROMらせて頂きます
- 700 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/13(月) 15:43
- ( ^▽^)<700ですホイッ♪
- 701 名前:ナナ 投稿日:2004/09/18(土) 01:15
-
37.Side H 感触
- 702 名前:帰還 投稿日:2004/09/18(土) 01:16
- 私は今までにない恐怖感を抱いていた。
梨華ちゃんが私から遠く離れてしまう恐怖。
この世で1番怖いことは梨華ちゃんが死ぬことではなく、
梨華ちゃんが私の隣からいなくなってしまうことだ。
今の私にこれ以上の恐怖はない。
あの時、私だけに向けられた謝罪の言葉を思い出す。
揺れる瞳や震える指先、そして感じた衝動と。
溢れ出す欲望を押さえることは出来なかった。
取り返しのつかないことをしたのだろう。
明かりのついていない部屋を見上げて、深く溜め息をつく。
「じゃあ、梨華ちゃんもう帰ってると思うからよろしく。おつかれ。」
「おつかれさまです。」
今だ気付いていないマネージャーに平静を装って言葉を返した。
速やかに去っていく車を視界のすみで見送りながら、息を吐き出す。
白く流れていく吐息が、はっきりと寂しさを感じさせて。
私の目の届かない所へ行ってしまった梨華ちゃん。
思いつく限りの知り合いには、
連絡をして探りを入れたのだが、梨華ちゃんから連絡がないどころか、ここしばらくは姿すら見ていないと言う。
仕事が大変だからとその度に言い訳をして、電話を切った。
どこにいるの、梨華ちゃん。
- 703 名前:帰還 投稿日:2004/09/18(土) 01:16
- 舞台で拘束されているから
終わりに合わせてマンションの前で待ち伏せをしようと思っても、
自分の仕事があってなかなか時間が合わない。
フットサルの練習に、CDデータの取材。
マネージャーが気付いていないということは、
家の前までは確かに送ってもらっているはずなのに。
電気を付けたまま待っていても帰って来ないから
電気を消してみたりと色々なことはしてみるのだが、帰ってくる気配は一切ない。
もう、限界だ。
マンションの前で止まったままの足をとりあえず逆方向に変えてみる。
この近くにホテルはあっただろうか。
今の梨華ちゃんの状態で寝場所を確保しないのは、どう考えても無理がある。
人の家に上がり込んでいないのなら、
近くにあるホテルくらいしか思いつかない。
けれど、梨華ちゃんは自分でホテルに泊まれるのだろうか。
ホテルに泊まった回数は多くとも、予約などはしたことがないはずだ。
全て事務所が手配してくれる。
子供じゃあるまいしそれくらいのことは出来るだろうと思っても、あの梨華ちゃんなのだ。
「無理でしょ?ねぇ・・・」
私だって、きちんとはホテルの泊まり方わからないもん。
さて、一体どうしたものか。
歩きながらゆっくりと考える。
立ち止まれば恐怖心ばかりが表れてしまうのをよく知っていた。
私もあなたも、ただお互いが好きなだけでしょ?
他のことはどうでもいいじゃない。
立場とか性別とかリスクとか、そんなもの全部。
必要なのは気持ちだけ。。
私が梨華ちゃんを愛してる、たったそれだけが真実で。
冷えた唇を舐める。
- 704 名前:帰還 投稿日:2004/09/18(土) 01:17
- 気付いているのだろうか。
私達を動かせるのはもう、お互いしかいないのだということを。
それだけで充分なはずなのに。
マネージャーに鍵は預けたままだから、
自分のマンションに帰っているということはないだろうけれど。
延々と続く街灯に導かれるように、
梨華ちゃんのマンションへと通じる道へと足を向けた。
せっかく近くまで来たんだし、何か手掛かりがあるかもしれないし。
ドラマの録りで疲れてるのに。
疲労を訴える体を無視して、梨華ちゃんのことだけを考える。
大丈夫。
梨華ちゃんはもう大丈夫から、後は連れ戻すだけだ。
マネージャーに言わないのは、そういう意味もある。
仕事の人間を介入させたら、梨華ちゃんはメンバーを保とうとするだろうから。
平気な顔をして笑うに決まっているから。
だから。
今度は絶対に離さない。
待つことなんてどうでも良い。
これから先のことすらどうでも良い。
今の梨華ちゃんを救いたい。
今の梨華ちゃんに愛を教えたい。
もう、離したくない。
望むことは1つ。
私の隣にいて欲しい。
静かな住宅街に、私の靴音だけが木霊する。
大丈夫。
まだ怖いけど、もう離しはしないから。
- 705 名前:リムザ 投稿日:2004/09/18(土) 01:26
- 更新しました il||li _| ̄|○ il||li
>>697 名無しさん
石川さんの逃亡は続きます。
>>698 名無飼育さん
レスありがとうごさいます。
但し・・・次回来られたときはageないで下さい。
ヒソーリ更新したいのが作者の本音です。
>>699 名無飼育さん
レス&ochiありがとうごさいます。助かりました。
ROMしていただけるだけで幸せ者です。
よろしくお願いいたします。
>>700 名無飼育さん
ゲッツおめでとうございます。
- 706 名前:名無し 投稿日:2004/09/18(土) 14:44
- 更新お疲れ様です。
待っとりました!
あぁ〜もう!
二人とも歯痒いのぉ〜〜〜!!!
早く梨華ちゃんを!・・・梨華ちゃんを救ってあげて・・・。
お願い・・・orz
- 707 名前:帰還 投稿日:2004/09/25(土) 22:11
-
38.Side H 感触
- 708 名前:帰還 投稿日:2004/09/25(土) 22:11
- 私は今までにない恐怖感を抱いていた。
梨華ちゃんが私から遠く離れてしまう恐怖。
この世で1番怖いことは梨華ちゃんが死ぬことではなく、
梨華ちゃんが私の隣からいなくなってしまうことだ。
今の私にこれ以上の恐怖はない。
あの時、私だけに向けられた謝罪の言葉を思い出す。
揺れる瞳や震える指先、そして感じた衝動と。
溢れ出す欲望を押さえることは出来なかった。
取り返しのつかないことをしたのだろう。
明かりのついていない部屋を見上げて、深く溜め息をつく。
「じゃあ、梨華ちゃんもう帰ってると思うからよろしく。おつかれ。」
「おつかれさまです。」
今だ気付いていないマネージャーに平静を装って言葉を返した。
速やかに去っていく車を視界のすみで見送りながら、息を吐き出す。
白く流れていく吐息が、はっきりと寂しさを感じさせて。
私の目の届かない所へ行ってしまった梨華ちゃん。
思いつく限りの知り合いには、
連絡をして探りを入れたのだが、梨華ちゃんから連絡がないどころか、ここしばらくは姿すら見ていないと言う。
仕事が大変だからとその度に言い訳をして、電話を切った。
どこにいるの、梨華ちゃん。
- 709 名前:帰還 投稿日:2004/09/25(土) 22:12
- 舞台で拘束されているから
終わりに合わせてマンションの前で待ち伏せをしようと思っても、
自分の仕事があってなかなか時間が合わない。
フットサルの練習に、CDデータの取材。
マネージャーが気付いていないということは、
家の前までは確かに送ってもらっているはずなのに。
電気を付けたまま待っていても帰って来ないから
電気を消してみたりと色々なことはしてみるのだが、帰ってくる気配は一切ない。
もう、限界だ。
マンションの前で止まったままの足をとりあえず逆方向に変えてみる。
この近くにホテルはあっただろうか。
今の梨華ちゃんの状態で寝場所を確保しないのは、どう考えても無理がある。
人の家に上がり込んでいないのなら、
近くにあるホテルくらいしか思いつかない。
けれど、梨華ちゃんは自分でホテルに泊まれるのだろうか。
ホテルに泊まった回数は多くとも、予約などはしたことがないはずだ。
全て事務所が手配してくれる。
子供じゃあるまいしそれくらいのことは出来るだろうと思っても、あの梨華ちゃんなのだ。
「無理でしょ?ねぇ・・・」
- 710 名前:帰還 投稿日:2004/09/25(土) 22:12
- 私だって、きちんとはホテルの泊まり方わからないもん。
さて、一体どうしたものか。
歩きながらゆっくりと考える。
立ち止まれば恐怖心ばかりが表れてしまうのをよく知っていた。
私もあなたも、ただお互いが好きなだけでしょ?
他のことはどうでもいいじゃない。
立場とか性別とかリスクとか、そんなもの全部。
必要なのは気持ちだけ。。
私が梨華ちゃんを愛してる、たったそれだけが真実で。
冷えた唇を舐める。
気付いているのだろうか。
私達を動かせるのはもう、お互いしかいないのだということを。
それだけで充分なはずなのに。
マネージャーに鍵は預けたままだから、
自分のマンションに帰っているということはないだろうけれど。
延々と続く街灯に導かれるように、
梨華ちゃんのマンションへと通じる道へと足を向けた。
せっかく近くまで来たんだし、何か手掛かりがあるかもしれないし。
ドラマの録りで疲れてるのに。
疲労を訴える体を無視して、梨華ちゃんのことだけを考える。
- 711 名前:帰還 投稿日:2004/09/25(土) 22:13
- 大丈夫。
梨華ちゃんはもう大丈夫から、後は連れ戻すだけだ。
マネージャーに言わないのは、そういう意味もある。
仕事の人間を介入させたら、梨華ちゃんはメンバーを保とうとするだろうから。
平気な顔をして笑うに決まっているから。
だから。
今度は絶対に離さない。
待つことなんてどうでも良い。
これから先のことすらどうでも良い。
今の梨華ちゃんを救いたい。
今の梨華ちゃんに愛を教えたい。
もう、離したくない。
望むことは1つ。
私の隣にいて欲しい。
静かな住宅街に、私の靴音だけが木霊する。
大丈夫。
まだ怖いけど、もう離したりはしないから。
- 712 名前:リムザ 投稿日:2004/09/25(土) 22:15
- 更新しました。
>>706 名無しさん
レスありがとうございます。
梨華ちゃんに幸せは訪れるのでしょうか?
安堵を与えるべきでしょうか?
作者としても迷っている次第です。
- 713 名前:名無し 投稿日:2004/09/26(日) 04:13
- 作者様!質問です!
前回更新の37.Side H 感触と今回更新の38.Side H 感触
同じに見えるのですが・・・・
それと梨華ちゃんには是非幸せを・・・お願い・・・
- 714 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/26(日) 12:46
- 私の目から見ても同じに見えます・・・
- 715 名前:帰還 投稿日:2004/09/26(日) 13:18
-
38.Side H 感触
- 716 名前:帰還 投稿日:2004/09/26(日) 13:18
- ゆっくりと足を止め、自分のマンションの時と同じように上を見上げた。
帰ってないねぇ。
当たり前なことを思って、エントランスへと入っていく。
梨華ちゃんの部屋の郵便受けを覗いても何もなかった。
あの人の行動パターンは結構把握しているはずなんだけど。
最初の別れの言葉が今まで予想もしないことだったから、その後を読めないのかもしれない。
オートロックだから、部屋の前まで行くことも出来ない。
多分梨華ちゃんも、鍵を預けてから1度も来ていないだろうけど。
仕方ない。
今日は戻るか。
明日は梨華ちゃんの舞台を見に行く予定だし。
その時に捕まえれば良い。
はぐらかすことなんてさせない。
2人して、限界とっくに越えてるから。
- 717 名前:帰還 投稿日:2004/09/26(日) 13:19
- 暗い歩道に戻って帰り路へと方向を定めた。
帰ったら本読みをしなければいけないし。
ここ数ヶ月でますます仕事が嫌いになっていた。
梨華ちゃんのことだけで頭の容量はいっぱいで、セリフを覚える余裕なんてない。
「・・・はあ。」
思わず零れた溜め息が、後ろへと流れていく。
それを視界の端で追いながら、不意に立ち止まる。
「え・・・まさか。」
覚えた感触は、予感でしかない。
今までのデータの中にそんなものはない。
けれど。
私たちが繋がっていると思えるのはこんな時。
流れる白い吐息、暗い街灯、梨華ちゃんのマンション、そしてその先に
エントランスの脇にあるゆるいスロープをダッシュで降りていく。
梨華ちゃんの部屋へ行く時には、必ずと言って良い程使う場所。
地下駐車場。
梨華ちゃんが1人でも平気で、決して人には迷惑をかけない場所。
確かマネージャに鍵を預ける時、車のキーは別にしていたはずだ。
- 718 名前:帰還 投稿日:2004/09/26(日) 13:19
- アイドリングの音が聞こえる。
梨華ちゃん。
車の近くまで来ると、そっと車内を覗き込む。
後部座席には。
「・・・いた。」
猫のように丸くなって、
眠るというよりは気を失っているというような表情で梨華ちゃんはそこにいた。
やっと見つけられた。
青白い顔には生気がなく、呼吸も浅く苦しそうだった。
疲労困憊と言ってしまうにはあまりにもひどい姿に、胸がしめつけられる。
「梨華ちゃん・・・」
毎晩私のマンションの前で降ろしてもらってから、ここまで歩いてきていた。
そして、迎えに来る頃にはきちんと戻っていて。
涙が零れた。
どうしてもっと早く連れ戻さなかったのか。
梨華ちゃんの感情も私たちの未来も無視して、無理矢理にでも。
こんな姿を見せられては、後悔の念しか沸いてこない。
もう、離さないから。
- 719 名前:帰還 投稿日:2004/09/26(日) 13:20
- ロックを掛けてあるのが当たり前のはずなのに、
あっけなくドアは開いてしまった。
そんなものにすら気が回らない程、どうしようもなくなって。
静かに梨華ちゃんの頬に触れる。
全く微動だにしない。
止まらない涙が、シートへと零れ落ちていった。
冷たすぎる肌は、梨華ちゃんの現状をありありと伝えていて。
そっと片足をシートに着いて、梨華ちゃんに被さるように乗り込んだ。
頬に触れていた指先を柔らかな髪へと忍び込ませる。
こんな風になっても尚、自分の感情をねじ伏せる梨華ちゃん。
離れる辛さを恋と言わずして、何と表現すれば良いのだ。
これは、恋でしょ?
梨華ちゃんの額へと口付けを落とす。
順に瞼から頬、耳へと。
沢山のキスを降らせても、口唇には触れなかった。
ここは、起きてから。
梨華ちゃんにきちんと自覚させてからだ。
体は連れ戻したから、後は心だけ。
それまではもう少しの我慢。
- 720 名前:帰還 投稿日:2004/09/26(日) 13:20
- 最後に親指で口唇を撫でてから離れた。
頬を伝う涙を拭いて、車のキーを探し出す。
助手席に置いてあったカバンから探し当てて、梨華ちゃんの体を抱き上げた。
「軽すぎ・・・」
私も一応は女の子だから駄目かもしれない、
持てないかもしれないと思ったのに、これでは普通の女の子よりもずっとずっと軽すぎる。
35kgぐらいかも。
抵抗を見せない梨華ちゃんは眠ったままで。
タクシーを呼ぼうかとも思ったけど、この分では家まで運べそうだ。
遅い時間とは言え念のため、梨華ちゃんに深く帽子を被せる。
運転席に回ってロックをすると、わずかに梨華ちゃんが身じろいた。
「・・・ん。」
「梨華ちゃん?」
起きたわけではなかったようで私の胸へと顔をすり寄せてくると、ぎゅっと服を掴まれた。
体はこんなにも正直なのに。
少しだけ微笑んで、梨華ちゃんを抱え直すと静かに囁いた。
「もう、離さないから。石川梨華。」
理由や理屈なんていう付加要素は必要ない。
今の梨華ちゃんを捕まえておきたかった。
- 721 名前:リムザ 投稿日:2004/09/26(日) 13:23
- 本気で間違えてました...&
更新しました。
>>713 名無しさん
>>714 名無飼育さん
ご指摘ありがとうございます。
すみません。。゛(ノ><)ノ
- 722 名前:名無し 投稿日:2004/09/26(日) 13:59
- 更新お疲れ様です。
あまりお気落としのないように。
お〜お〜お〜お〜お〜っ!!
キタ━━━━━(´Д(○≡(・∀・)≡○)Д`)━━━━━!!!
よっちゃんやっと見つけた・・・。・゚・(つД`)・゚・。
- 723 名前:帰還 投稿日:2004/10/02(土) 00:01
-
39.Side R 臆病
- 724 名前:帰還 投稿日:2004/10/02(土) 00:01
- 何が辛くて何が苦しいのか、もうわからなくなっていた。
悲しいのではないと思う。
涙を零すことはなかったし、よっすぃ〜がいなくなったわけでもないのだから。
よっすぃ〜さえいてくれれば、私は辛くない。
いつか可愛い女の子と結婚して
子煩悩な父親になった時にも、笑顔で喜べると思う。
よっすぃ〜が幸せなら私も幸せだし。
ただ。
偽ることのない思いなのに、まだ心が貪欲に望んでいる。
よっすぃ〜の1番でいたいって考えてしまう。
もう"その時"は迫っていて、逃れることなど出来ないのに。
選ばなければならないのだ。
みんなに望まれているよっすぃ〜と、私の隣にいるよっすぃ〜を。
だから、選んだ。
たったそれだけのこと。
私のためだけに存在するには、可能性が大きすぎる。
よっすぃ〜の枷にだけはなりたくなかった。
私がいくら頑張っても辿り着けないところに、よっすぃ〜の魅力はあるから。
それは、努力して得られるものではない。
- 725 名前:帰還 投稿日:2004/10/02(土) 00:02
- 人を魅せる才能、人をあったかくさせる笑顔、人を惹き付ける優しさ。
私には出来ないことばかりだ。
元々、人付き合い苦手だし。
よっすぃ〜は人見知りをしても、ゆっくりと仲良くなっていける。
その余裕を与えることが出来るのだ。
よっすぃ〜の良いとこなんて、沢山沢山知ってる。
それを全部潰してしまいそうな気がして。
よっすぃ〜の良いところは、ほとんど私のために使われてる。
さり気なくフォローしてくれる現場、安心させてくれる笑顔、守ってくれる優しい腕。
私は甘えてばかり。
- 726 名前:帰還 投稿日:2004/10/02(土) 00:02
- よっすぃ〜の愛情だということもわかってるけど。
もう、良いのでは?
そう思った。
よっすぃ〜に甘えたままでいたくなかった。
甘やかされて優しくされて。
私は不器用やし、よっすぃ〜のために何もしてあげられない。
その愛情にすら応えられているのかわからなかった。
よっすぃ〜の"相方&同期"っていうだけで、もう十分独占しているのに。
私には多すぎる愛情。
いい加減、よっすぃ〜がよっすぃ〜のために生きていけるようにしたかった。
大切すぎて胸が痛くなる程、好きな人。
愛してた。
今だって、変わらずに愛してる。
- 727 名前:帰還 投稿日:2004/10/02(土) 00:03
- 1度も言葉に出したことはなかったけれど。
よっすぃ〜が幸せになれる道を選びたかった。
私だけじゃなく、世界中の人によっすぃ〜の良さを見せてあげたい。
未来を一緒に歩むことは出来ないから。
私は追いつけない。
こんな、辛いだけの恋を続けなくったってよっすぃ〜にはもっと良い出会いがある。
きっと運命の人を見つけられる。
だから、よっすぃ〜のための未来に私は必要ない。
辛くて苦しくて、動くことすら出来ないけど。
よっすぃ〜のために頑張るから。
よっすぃ〜の"相方&支え"であるために、強くなりたい。
痛みを乗り越えて、真正面から本当のよっすぃ〜だけを見つめられるように。
今はまだ臆病すぎて、言えないけれど。
よっすぃ〜の幸せは私が選ぶ。
1人で眠る夜が辛くなくなる時に。
触れられた肌が熱を持たなくなる時に。
私たちの関係が"相方"にだけなった時に。
必ず言うから。
- 728 名前:帰還 投稿日:2004/10/02(土) 00:04
- そして、真実は胸の底へ。
もどかしい予感は闇の中へ。
全て隠してしまおう。
殻に閉じ込めよう。
- 729 名前:リムザ 投稿日:2004/10/02(土) 00:05
- 更新しました。
>>722 名無しさん
王子が姫を見つけました。
石川さんの想いとは裏腹に吉澤さんは腹を括ったようです。
- 730 名前:名無し 投稿日:2004/10/02(土) 02:57
- 更新お疲れ様です。
。・゚・(つД`)・゚・。梨華ちゃ〜ん貝になっちゃダメだぉ〜よ!
がんばるんだぞ!よっしぃ〜!!
- 731 名前:ROM専 投稿日:2004/10/04(月) 06:45
- 更新お疲れ様です。
ROM専ですがいつも読ませて頂いています。
ネタばれになるので具体的に書きませんが
724の5、6行目にどうしても分からない処が有り悩んでしまいました。
完結後でも結構ですので解説して頂けると幸いです。
- 732 名前:リムザ 投稿日:2004/10/05(火) 20:43
- 724の5、6行目訂正です。
×「いつか可愛い女の子と結婚して子煩悩な父親になった時にも、笑顔で喜べると思う。」
↓
○「いつか素敵な人と結婚してママになった時にも、笑顔で喜べると思う。」
- 733 名前:帰還 投稿日:2004/10/05(火) 20:54
-
40.Side H 真実
- 734 名前:帰還 投稿日:2004/10/05(火) 20:55
- 梨華ちゃんをやっと自分の部屋に運べて、ひどく安心した。
玄関で靴を脱ぎ、暗い部屋へと入っていく。
そういえば、梨華ちゃんの靴を置いてきてしまった。
抱えた体に目をやってふと思ったけど、どうでもいいことではある。
未だ服を掴んだままの梨華ちゃんは、
色の白い顔に微笑を浮かべて深い眠りについているようだった。
- 735 名前:帰還 投稿日:2004/10/05(火) 20:55
- 両手がふさがっているので肘を上手く使って寝室の扉を開け、ベッドの上へ梨華ちゃんを降ろす。
優しい想いだけが湧いてきて、その細い体をそっと撫でた。
ほんの少し前まで良くなりつつあった体調は、
いなくなっていたこの1週間程でまた一段とひどくなっている。
こんなに頑張る必要がどこにある。
傷つき過ぎて、自分のことすらわからなくなって。
私はそばにいるでしょ?
ねえ?
いつだってどんな時だって、遠く離れた場所にいたとしても。
もう無理して自分を殺してはだめだよ。
梨華ちゃんは弱気にならなくていいのだよ?
梨華ちゃんは梨華ちゃんらしく強気でいたら。
私を愛してるって言ってくれるだけで。
「・・・・・・そういえば。」
ものすごく恐ろしい事実に気付いてしまった。
梨華ちゃんの全てが物語っていたから、
1度も気にしたことなどなかったのだが。
・・・私、目を見て好きって言われたことがない。
私が聞いて頷くことがあるくらいで、
いつもいつも上手くはぐらかされていたのだ。
- 736 名前:帰還 投稿日:2004/10/05(火) 20:56
- 不安になるとかそういう感情ではなくて。
やっぱ聞きたいでしょ?
今の2人の距離がどうかなんてことは一切関係なく、こういう想いは溢れてくる。
限りなく込み上げる欲は、梨華ちゃんじきゃ意味がない。
梨華ちゃんだから、欲が出る。
全部欲しい。
それは悪いことではないでしょ?
愛でしかないでしょ??
同じことを何度も何度も思う。
梨華ちゃんしか愛せないと強く強く。
発展性のない思いを少しだけ自慢に思って、梨華ちゃんに布団を掛けようと動いた。
「んん?」
だが何かの力に阻まれて、上手く動けない。
答えは簡単、というか目の前。
「少しくらい離れても平気でしょ??」
梨華ちゃんの指が強く捕えていて、なかなか離してくれそうにない。
これだけの想いを隠そうとする梨華ちゃんに、心底感服した。
「梨華ちゃん、あのね?ここにいるから。」
- 737 名前:帰還 投稿日:2004/10/05(火) 20:56
- 眠っている梨華ちゃんに優しく声を掛けて、指先を解こうと指を絡める。
壊れ物を扱うように、細心の注意を払って。
1本1本ゆっくりと開いていくと、わずかに指先が揺れた。
不思議に思って動きを止めれば、意志を持ってその不器用そうな指が私の手を握りしめる。
泣きそうな気分になりながら顔を上げる。
すると、うっすらと梨華ちゃんの瞳が開かれた。
夢の中を彷徨っている濡れた瞳は、恐らく状況を把握していないのだろう。
焦点が全く定まらない。
握りしめる指だけが、現実にある。
あとは全部、夢の中の出来事。
「・・・とみちゃ・・・」
甘く細い声は掠れていて、ほとんど意味を為さない。
けれどこんなにも切ないのは、知っているからだ。
梨華ちゃんの本当を。
けして脆くない、だけど硝子のように繊細な心。
簡単に傷つくのに、その傷を恐れない純粋さ。
私しか知らない、隠された素顔だ。
「梨華ちゃん?」
現実に引き戻さない程度の声で、そっと囁く。
今はもう少し、眠らせてやりたい。
- 738 名前:帰還 投稿日:2004/10/05(火) 20:57
- 「あ・・・、よっすぃ〜、・・・よっ・・・すぃ〜。」
そんなに不安定な声で呼ばないで。
悲しくなり過ぎる。
掴まれたままの指先をそっと握り返すと、苦し気に眉をひそめて呟いた。
「私が、選ぶから・・・」
意味を捉えそこねて、梨華ちゃんの方へ体を傾ける。
「・・・きっと、選んでやる。」
うわ言のように何度も繰り返した。
何が言いたい。
「ぜったい、間違え、ない、よ・・・」
目尻を赤くし、虚空を見つめながら尚も繰り返す。
まるで自分に言い聞かせるように。
「・・・選ぶから、私が。だから・・・」
手を握る梨華ちゃんの指先が力の入れ過ぎで白く変色していた。
多分、まともな意識はない。
前にも何度かあったのだが、翌日聞いてみても全く知らないと言うのだ。
だからこれは、寝言に近い。
そして、真実に1番近い。
- 739 名前:帰還 投稿日:2004/10/05(火) 20:57
- 「よっすぃ〜のこと、私が選ぶ・・・ちゃんと。」
私の何を選ぶと言うのだ。
何を考えている、梨華ちゃん。
「私が、みらい。幸せにする・・・頑張る、から。」
ゆっくりと瞬きが繰り返された。
私の幸せなんて。
「・・・よっすぃ〜の、みらいは私が、選ぶの。」
違うよ、梨華ちゃん。
「今度は、間違えないから・・・」
違う。
私が望むのは、あなただけ。
- 740 名前:リムザ 投稿日:2004/10/05(火) 21:01
- 2回も失敗したお詫びにと思い更新しました。
なんで性別が逆転しまっていたのか自分でもわかりません・・・
>>730 名無しさん
いつもレスありがとうございます。
急遽更新しました。週末の定期更新もあります。
>>731 ROM専さん
凡ミスすみません。
思い切り間違えてました。ご指摘ありがとうございました。
- 741 名前:名無し 投稿日:2004/10/06(水) 02:55
- 急遽更新お疲れ様です。
やっぱり眠った姫を起こすには、王子のキスだと決まってますね(w
梨華ちゃんもよっすぃ〜も、もっと自分に素直になろうYO!
よっすぃ〜がんばれ!梨華ちゃんがんばれ!
- 742 名前:帰還 投稿日:2004/10/08(金) 23:45
-
41.Side H 真実
- 743 名前:帰還 投稿日:2004/10/08(金) 23:46
- 握りしめていた指先から力が抜け、あっけなくベッドに落ちた。
薄く開けられた瞳もゆっくりと閉じていった。
情けなくもまた涙が滲んで、視界を歪ませていく。
優しすぎる梨華ちゃん。
あなたは何もわかっていない。
未来なんて幸せなんて、どうでもいいよ。
私は、幸せになりたいわけじゃない。
幸せになるために梨華ちゃんを選んだんではない。
間違えたって、幸せになれなくたって良いじゃないか。
私は梨華ちゃんを愛しているから、一緒にいたい。
そこには、目的も打算も余計な理由もないから。
だからお互いを想っていられるんでしょ?
あなただけ選ぼうとしている未来に、その選択肢は含まれていないんだろう。
未来は2人で作っていくものでしょ??
好きな相手と2人きりだったら、間違えたって怖くはない。
私は2人で選びたい。
つないだ指先だけが真実なら、あとはどうでもいい。
梨華ちゃんと一緒にいられるのなら、不幸さえ甘美な雰囲気をまとわせる。
だから。
- 744 名前:帰還 投稿日:2004/10/08(金) 23:46
- 浅い呼吸を繰り返す体に今度こそ布団を掛けた。
もう、離さないから。
決して曲げられない誓いを立てて、寝室から出る。
これは、一筋縄ではいかなそうだ。
梨華ちゃんの心を連れ戻すためには、1日や2日では済まないらしい。
頑固、だからなぁ。
「はあ・・・」
軽いため息を漏らすが、その思考が
既に楽観的になっていることに気付いて思わず口元を覆った。
どれだけ時間がかかったって、結果は見えているのだ。
あとは、辛抱強く説得するだけ。
何年か前の自分を思い出した。
愛し過ぎておかしくなりそうだった心を梨華ちゃんにさらした日。
梨華ちゃんの想いが痛いくらいに見えていた時。
何度言っても受け入れられず、
受け入れてからでさえ自分の想いを隠そうとして。
思えば、あの時から愛の囁きと言うやつを
恥ずかしげもなく言えるようになったのかもしれない。
歌うように零れ落ちる言葉が、早く届けば良いのにと思う。
明日の仕事を思い出しながら、冷蔵庫を開けた。
何か栄養になるモノを。
- 745 名前:帰還 投稿日:2004/10/08(金) 23:46
- マネージャーが気にして材料を買っていてくれるので、どうにか作れそうだった。
どうせ食べてないんだろうから、やっぱりおかゆかな。
卵と梅干しを発見して、朝食は決まりだった。
明日は私の方が入り時間が早い。
ちょっと考えてから、梨華ちゃんのマネージャーに電話をした。
「吉澤?どうした。」
夜も遅いというのに、まだ仕事をしていたのだろう。
声はいつも通りだった。
「あ、すみません。こんな遅くに。明日のことなんですけど・・・」
「梨華ちゃんがどうかしたか。」
心配そうな声音を滲ませて問いかけてくる。
「どうしたって程のことでもないんですけど。モーニングコール、30分早くしてもらえません?」
「30分、早くする?吉澤、っと、よっすぃ〜がそう言うんなら構わないけど珍しいな。
明日はよっすぃ〜、電話入れられないの?」
「え?」
「いつもはよっすぃ〜がしてくれてるでしょ。だから、私の電話いらないって言うのよ。
マネージャーの立場がない感じだけど、ホント感謝してる。最近のあの人は起こすの大変だから。」
「ああ、そうなんですよね。寝起きの悪さは天下一品ですよ。
明日はちょっとヒマが取れそうもないんで、お願いします。」
「うん、了解。じゃあ。」
「おやすみなさい。」
- 746 名前:帰還 投稿日:2004/10/08(金) 23:47
- 普段通りに電話を切って、それから台所へと足を進めた。
梨華ちゃんは平気な顔をして笑い続けたのだろう。
よっすぃ〜がいるからって、安心したように。
1度寝たらなかなか起きることの出来ない梨華ちゃんが、
モーニングコールもなしに起きれるわけがない。
意識を保たせたままの浅い睡眠。
あの車の中でさえ、気を張りながらすごしていたのか。
堪えきれない胸の痛みに、唇を噛み締めることで耐えた。
私が梨華ちゃんを守る。
梨華ちゃんの分まで大切にしてやる。
その儚い強さを守るから。
だから、もう。
帰っておいで。
- 747 名前:リムザ 投稿日:2004/10/08(金) 23:48
- 更新しました。
>>741 名無しさん
王子は自分がジョーカーだと思い知らされたようです。
ただ、想いとは裏腹に何が起こるかわかりません。
まだまだ最終的な構想は練ってないものですから。
- 748 名前:名無し 投稿日:2004/10/09(土) 00:41
- 更新お疲れ様です。
おおぉ〜〜〜!!王子がんばれ!
ここはそっと二人を見守る事にします。
- 749 名前:帰還 投稿日:2004/10/24(日) 01:12
-
42.Side R 浄化
- 750 名前:帰還 投稿日:2004/10/24(日) 01:12
- 優しい空気と心地よい雰囲気が、安らかな眠りへと誘う。
こんなに深く眠ったのは久しぶり。
頭のどこかで、自分の眠りを意識しながら思う。
手足の開放感はここしばらく味わったことのないもので、
寝返りをうってその気持ちよさを実感した。
私、眠ってるんだ。
張り詰めていた糸がゆるんだように、思考が穏やかになっている。
肌に触れる布の感触が気持ち良かった。
このままずっと、こうしていたい。
気持ち良すぎて安心し過ぎて、
自分の体の境界線がわからなくなってしまったようだ。
ふわふわの思考が溶け出して、真っ白い光へと飲み込まれる。
なんて気持ち良いのだろう。
少し前まではあんなに苦しかったのに。
今は穏やかさだけ。
優しさに包まれてるみたい。
自分が真っ白になったような感覚を覚える。
なんて、幸せ。
- 751 名前:帰還 投稿日:2004/10/24(日) 01:13
- どこか遠くで音が鳴っていた。
何だっけ、この音。
いつも聞いてる気がするのだけど・・・
この空間を手放したくなくて聞こえない振りをしようと思うのに、
意識のどこかでこの音に応えなければと義務感にかられていた。
手を伸ばして、音源に触れる。
そうしてやっと、音の正体が携帯の電子音だということに気付いた。
手探りで通話ボタンを押す。
まだこの白い空間から離れたくなくて、目は閉じたまま。
「もしもし、梨華ちゃん?おはよう。」
「・・・・・・」
声が出ないけど、マネージャーからの電話だと言うことだけは理解出来て。
マネージャーも私の寝起きが悪いことくらい知ってる。
「おーい、梨華ちゃん。石川さん。時間だから起きて。」
「・・・なんじ、ですか?」
「起きる時間なんだって。」
時間を確認しただけなのに、はぐらかすように大きな声で遮られた。
今日は確か、8時に迎えが来るはずだった。
じゃあ、7時半くらいか。
早くしないと、よっすぃ〜のマンションまで間に合わない。
- 752 名前:帰還 投稿日:2004/10/24(日) 01:14
- 「わかった。起きる。起きます。」
「ちゃんと体起こして。あなた、2度寝する気でしょう。」
「しませんって。ちゃんといつも起きてるでしょ?」
笑いながら返すと、不思議なことに気付いた。
さっきから不思議に思ってたのはこのせいだ。
「何でモーニングコールなんですか?いつも結構ですって言ってますよ?」
「よっすぃ〜が今日は出来ないって言うから。
たまにはマネージャーらしいことやらせなさい。」
「あ・・・すみません。」
「何謝ってるの。ちょっともう、支度して。8時になったら下に来るんだよ。」
「うん。じゃあ、後で。お願いします。」
「ああ。」
通話が終わる。
"よっすぃ〜"の言葉に慌てて反応してしまい、もう起き上がっていた。
モーニングコールを頼んだのはよっすぃ〜。
当たり前だ、他にこんなことする人いないもん。
- 753 名前:帰還 投稿日:2004/10/24(日) 01:15
- そこまできてやっと、今の状況を知る。
ベッドの上にパジャマを着て座っている私。
間違いない。
ここは、よっすぃ〜の部屋だ。
慣れたよっすぃ〜の匂い、明るい陽射しと。
昨日のことを思い出しても、確かに車の中で寝たと言う記憶しかない。
いつもと変わらずによっすぃ〜のマンションで降ろしてもらって、それからどうにか歩いて辿り着いた。
よっすぃ〜が。
連れてきてくれたのだ。
チェックのパジャマに包まれている私の体は、
自分でもびっくりするくらい楽になっていて。
本当によっすぃ〜が必要なのだと思う。
よっすぃ〜のそばにいたいと願ってしまう。
それはきっと、相方として。
優しいよっすぃ〜の空気を感じながら、ベッドを降りた。
枕元に置いてあった鞄を持って、リビングへと通じる扉を開ける。
リビングにも同じように明るい陽射しが入っていて白く輝いていた。
よっすぃ〜だ。
何となくそう思う。
真っ白で穏やかで優しくて。
この部屋はよっすぃ〜そのものなのだ。
- 754 名前:帰還 投稿日:2004/10/24(日) 01:16
- だからこんなにも安心出来る。
必要なのは、何も難しいことではない。
こうして全身で受け止める大切な存在。
あるがままの2人を求めれば良い。
大切なことにやっと出会えた気がする。
優しすぎる空間が心地良い。
部屋を見回すと、木目調のテーブルに目がいった。
何か置いてある?
8時に下、と口の中で呟いてからテーブルのそばへ行く。
紙・・・、よっすぃ〜の字?
そっか、今日よっすぃ〜の方が早いもんな。
今さらながらに思う。
テーブルに置かれた紙を手に取れば、メモ帳に見慣れたよっすぃ〜の字。
少し乱れているから、急いで書いたのかもしれない。
こんなマメなことしなくてもいいのに。
文にしなくてもわかるってば。
そんなことを思うのは自分が照れているからだとわかってはいたけど、
もう少し悪態をついてよっすぃ〜の文字を辿っていった。
優しくて温かい言葉たち。
- 755 名前:リムザ 投稿日:2004/10/24(日) 01:17
- 更新しました。
>>748 名無しさん
暖かく見守ってて下さい。
- 756 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/24(日) 03:04
- 更新お疲れ様です。
部屋の風景が頭の中に広がり
とても穏やかな気持ちになりました。
これからも楽しみに待たせて頂きます。
- 757 名前:名無し 投稿日:2004/10/24(日) 19:53
- 更新お疲れ様です。
よぉ〜〜〜し!ここまでくれば後少しだ!
ファイト!梨華ちゃん!!
そしてよっすぃ〜もう一息がんばれ!
では引き続き見守る事にしますw
- 758 名前:帰還 投稿日:2004/10/29(金) 21:05
-
43.Side R 浄化
- 759 名前:帰還 投稿日:2004/10/29(金) 21:06
- 『Dear梨華ちゃん
おかえりなさい。
コンロの上にお粥の鍋が乗っています。
温めて食べて下さい。
それから。
少しくらい遠回りしても私たちは私たちらしく進んでいけば良いのではないでしょうか。
私はいつまでも、ずっと梨華ちゃんは梨華ちゃんらしくいてほしい。
今日、エコモニの収録を見に行きます。
終わったら一緒に帰って、一緒にごはんを食べよう。
Fromよっすぃ〜』
- 760 名前:帰還 投稿日:2004/10/29(金) 21:07
- 私の中で複雑に絡み合っていた沢山のものが、綺麗にほどけたような。
喉につかえていた塊がすっと消えたような。
そんな気分だった。
よっすぃ〜に結局は救われて。
答えを導き出してしまったけれど。
書き置きをテーブルの上に丁寧に置いて、
コンロにかかったままの小さな鍋のふたを開ける。
料理なんて、私もそうだけど得意なわけないのに。
卵の黄色が良く映えたお粥は、私にとって多分1番のごちそう。
こんなに贅沢な、愛情のこもった料理はない。
満たされるって、こんな感じなのだ。
きちんと梅干まで小皿に出されていて、何だか笑ってしまった。
あのよっすぃ〜が?
梅干を小皿に乗せてるって?
ちょっと前までの辛かった自分が嘘のようだ。
ただ。
食べてる時間ないでしょ?ねぇ。
モーニングコールから、もう15分は経っている。
メイクはやめたとしても、着替えて顔を洗ったら時間ではないだろうか。
今更ながらに、時計を見ていなかったことを思い出す。
さっき鞄の中に放り込んだ携帯を取り出して、
デジタルで表示された時刻を見る。
- 761 名前:帰還 投稿日:2004/10/29(金) 21:14
- 「・・・7時13分か。」
お粥を食べている時間は充分にあった。
考えてみれば、
お粥を作ったのも、マネージャーにモーニングコールをさせたのも、
よっすぃ〜なわけだから当たり前のことかもしれない。
満ち足りた睡眠時間と、与えられた食事の時間。
全てはよっすぃ〜にしか出来ない。
もう1度コンロの前に立って、今度は火をつける。
だめだなぁ。
わかっていたことだけど、気付いていたことだけど。
よっすぃ〜の言葉や行動全部が優しくて。
あまりにも大人びていて。
私はよっすぃ〜に大切にされているんだと、実感してしまう。
よっすぃ〜の隣にいても良いのだと、許されているような気がして。
- 762 名前:帰還 投稿日:2004/10/29(金) 21:15
- そう。
私たちの間に、苦しさとか悲しさとか切なさとか。
そんなものは必要なくて。
焦がれて焦がれて苦しかった私の中の恋心が、すっと流れていくような気がした。
真っ白いよっすぃ〜の空気に包まれて、
醜い独占欲にも似た思いが浄化されていく。
あの別れの日からずっと抱えていた思いが溶けていった。
ああ、もう。
私はよっすぃ〜の隣にいられるだけでいいんだ。
よっすぃ〜さえいてくれれば、他には何も必要ない。
きちんと間違えずに選べたのだ。
- 763 名前:帰還 投稿日:2004/10/29(金) 21:15
-
私、よっすぃ〜のために強くなりたい。
よっすぃ〜を守れるように、
私がよっすぃ〜の幸せを奪わないように。
よっすぃ〜の恋人に、仕事としての相方に、相応しい人間になりたい。
大切にされるだけの価値を持つ人間に。
心からそう思った。
- 764 名前:リムザ 投稿日:2004/10/29(金) 21:21
- 更新しました。
>>756名無飼育さん
レスありがとうございます。
ふわふわよっすぃ〜のイメージを表現したのですが
この状態の石川さんだからこそ、癒されたのかもしれません。
>>757 名無しさん
更新が遅く量も少ないのに長い目で見守ってくださりありがとうございます。
これからも宜しくお付き合いください。
- 765 名前:名無し 投稿日:2004/10/29(金) 22:13
- 更新お疲れ様です。
・゚・(ノД`)・゚・ううっ・・・梨華ちゃん・・・
ようそこまでなってくれたよ。
ずっと見守ってきたかいがあったよ。
・゚・(つД`)・゚・。
- 766 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/30(土) 01:58
- 更新お疲れ様です。
一筋の光が徐々に広がりを見せていく様な感覚に陥りました。
これからの展開を楽しみに待たせて頂きます。
- 767 名前:帰還 投稿日:2004/11/05(金) 21:06
-
44.Side H 距離
- 768 名前:帰還 投稿日:2004/11/05(金) 21:07
- 前の仕事が押してしまい、
エコモニでのリハーサル場所に着いたのはギリギリだった。
せっかく楽屋に寄っていこうと思ったのに。
梨華ちゃんの顔を見たかった。
カメラの前で見せる表情ではなくて、
楽屋にいる時のごく当たり前に緊張した梨華ちゃんに会っておきたかったのだが。
悔やんでも、今日こんなに遅くなったのは自分のせいだから何も言えない。
1日中NGの出し通しで、他の人たちにもずいぶん迷惑を掛けてしまった。
昨日は結局眠っている梨華ちゃんを見つめ続けてしまい、
台本を覚えるどころではなかった。
頭のどこかで仕事をしなければと言っているのに、
目の前にいる愛しい人を眺めていたら、あっという間に時間になっていたのだ。
やっと戻ってきた梨華ちゃん。
何も言わずに必死で生きている梨華ちゃんを見守っているのは、もう辛いから。
これからが勝負。
一刻も早く、この腕の中に閉じ込めてしまおう。
二度と辛い思いをさせないために、苦しい思いを抱えさせないように。
瞳を閉じて決意を固めていると、エコモニだけに向けた開演のベルが鳴った。
- 769 名前:帰還 投稿日:2004/11/05(金) 21:08
- 舞台に立つ梨華ちゃんは幸せそうで楽しそうで、本当にこの世界が好きなんだと思う。
そしてその表情が、私を見つけるとさらに溶けた。
ふわふわとした可愛い笑顔。
子供のように無垢な表情は、子猫を思い出させる。
・・・かーわいい。
何1つ苦労など知らないように見えるその笑顔の裏には、確かに全く違う表情が存在しているのだけど。
でも、私を見つめる瞳もまた真実なのだ。
嬉しそうに細められる黒目がちな瞳は、どんな言葉よりも正直だった。
カーテンコールも終わり、ようやくいつもの梨華ちゃんを見ることが出来る。
まだ、私の存在を拒絶するだろうか。
沢山の人が行き交う廊下を歩みながら考える。
私の服を離さなかった指先が残っていれば良いのに。
まっすぐな想いがほんの少しでも。
「おつかれ〜」
梨華ちゃんの楽屋をノックと共に開ける。
梨華ちゃんの声を待たなかったのは、きっと怖かったからだろう。
まだまだ憶病者であることには変わりない。
「・・・よっすぃ〜。」
広い楽屋のすみで椅子に座っていた梨華ちゃんが、心細気な声を出した。
その瞳が揺れているのを見て、自然と笑みが零れる。
いつもの梨華ちゃんだ。
私が心から守りたいと思う素顔。
- 770 名前:帰還 投稿日:2004/11/05(金) 21:09
- 「梨華ちゃん、可愛かったよ。」
「ホント?」
安心したように口元を綻ばせるから、嬉しくなって梨華ちゃんの近くへ行く。
拒絶の言葉も表情もどこにもなかった。
「今日は来てくれてありがとう。」
「ん?」
照れたように呟くから、思わず覗き込んでしまう。
「・・・そんな見ないでよー。恥ずかしいでしょ?」
「何で今更照れるかな。私たち何年、娘。やってると思ってんの?」
いつも通りの雰囲気を作ろうとおどけてみせるのに、梨華ちゃんは俯いてしまう。
「あのね。」
言いにくそうに頬を朱に染めるその表情が幼くて、胸が痛んだ。
「朝の・・・おいしかった。すごく。」
完全に顔を背けて、本当に照れくさそうに言った。
「お粥があんなに難しいとは思わなかったよ。ちゃんと全部食べれた?」
「うん。」
言葉少なに恥じらう梨華ちゃんが何よりも愛しくて、どうしようもなく切なくなった。
- 771 名前:帰還 投稿日:2004/11/05(金) 21:09
-
「夕飯は何食べたい?」
「えと・・・帰りがけにどっか寄ってく?それとも・・・買って帰る?」
「んー。あったかいモン食べたいけど、寄るのはメンドーだねぇ。」
「じゃあ、マネージャーにコンビニでも寄ってもらおうか。」
「コンビニだと栄養偏るでしょ?大体、味気ないし。」
「それなら、出前でも取る?」
当たり前のように話せているのが不思議だった。
いつもしている会話みたいに、夕飯のことを考えている。
一緒に食事をしたのは、もうずいぶんと前のことに感じられるのに。
「そーだねぇ、たまにはそうゆうのもいいかも。」
柔らかい表情で見上げてくる梨華ちゃんにそう答えると、マネージャーが入ってきた。
「そろそろ帰る支度でも・・・何の話してたの?」
「今日の夕飯の相談。」
嬉しそうに笑った梨華ちゃんを見て、マネージャーも笑顔を浮かべる。
結局みんな梨華ちゃんの笑顔で安心するんだ。
- 772 名前:帰還 投稿日:2004/11/05(金) 21:11
- 「もういつでも帰れるから、あとは梨華ちゃんの支度だけだよ。」
「あ・・・うん。」
メイクこそ落してはいるものの
未だに衣装を着たままの梨華ちゃんが、慌てて着替え始める。
「じゃあ私、ちょっと先輩方に挨拶してきます。」
「そうしてくれると助かる。」
梨華ちゃんに1度視線を移してから、楽屋を後にした。
挨拶と言っても日頃会わないエライ人たちに
顔を見せるだけのことだから、大した時間はかからない。
さすがに食事の誘いを断るのは至難の技だったけど、
梨華ちゃんの名前を出すことによってどうにかかわすことが出来た。
スタッフは、言うまでもなく梨華ちゃんに甘い。
今の梨華ちゃんには特に。
「梨華ちゃん、支度出来た?」
梨華ちゃんの楽屋に戻るとマネージャーの姿はすでになく、梨華ちゃんが1人座っていた。
「あれ。マネージャーは?」
「なんか、ご飯の話しをしたら食堂で作ってもらうって言ってたから。お願いしちゃった。」
「さすがマネージャーだねぇ。色々考えてくれてるんだ。」
- 773 名前:リムザ 投稿日:2004/11/05(金) 21:16
- 更新しました。
>>名無飼育さん
レスありがとうございます。
いつから書き始めたか遡ってみると、もう半年以上かいてると気づきました。
もう少し更新を早くしたいと思ってます。
本日の更新は甘々な世界にしてみました。
>>名無しさん
いつもレスありがとうございます。
小説の二人も長く付き合っていただいて喜んでいると思います。
もう少しペースを上げられるよう頑張ります。
- 774 名前:名無し 投稿日:2004/11/06(土) 13:23
- 更新お疲れ様です。
いやぁ〜ずっと見守ってきたかいがありました。
いい方向に話が進んでいますが、梨華ちゃんのその言動が、嘘偽りでなく
本気の真実である事を願うばかりです。
- 775 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/13(土) 21:46
- 更新お疲れ様です。
今回は雪解けの春を思わせる様な展開でしたね。
ゆったりした流れが、この雰囲気を醸し出していると思い
いつも拝見させて頂いています。
リムザさんはリムザさんのペースで、これからも更新して下さい。
- 776 名前:帰還 投稿日:2004/11/13(土) 23:28
-
45.Side H 距離
- 777 名前:帰還 投稿日:2004/11/13(土) 23:29
- 多分梨華ちゃんが珍しく食事の話をしたものだから
嬉しくなって栄養になるものを、と考えたのだろう。
沢山買ってくるんだろうね。
梨華ちゃんの周りにいる人間の行動パターンは
大抵決まっているので簡単に予想がつく。
梨華ちゃんの為になることをしてくれるから。
「あーお待たせ。買ってきたから帰ろうよ。はい、よっすぃ〜。」
思った通り両手に沢山のタッパが入った袋を2つ下げて、片方をよっすぃ〜に渡した。
おいしそうな匂いが立ち上ってくる。
「これ、買いすぎでしょ?・・・」
「やっぱり?でもどうしても嬉しくて。ついあれもこれもってなっちゃうんだよ。」
あっけらかんと言うマネージャーは、さすがに梨華ちゃんマネ歴が長いわけではない。
きっと食堂に無理を言ったのだろう。
テイクアウトが出来るなんて書いてなかったはずだ。
「梨華ちゃん。行くよ?」
「ん。」
- 778 名前:帰還 投稿日:2004/11/13(土) 23:30
- 私とマネージャーを、交互に眺めていた梨華ちゃんが慌てて立ち上がる。
車へと向かう足取りが、無意識に遅くなるのに気付いて並ぶように歩いた。
拒絶、ではないのだろうけど。
気後れとか罪悪感とか
変なところで胸を痛めているだろう梨華ちゃんの隣を、以前と少しも変わらない距離で歩く。
久しぶりの見慣れた横顔にほっとした。
大丈夫、大丈夫。
声には出さずに、梨華ちゃんと私を励ました。
私の部屋に戻ると言うことは、苦しみを共有すると言うこと。
愛しさを、2人の距離に置き換えるために。
「よっすぃ〜、荷物。」
当たり前のように先に車へ乗り込んだ梨華ちゃんが、私の方へと手を伸ばしてきた。
その手に下げていたビニール袋を渡して自分も乗る。
「ありがとう。」
梨華ちゃんの隣に座って囁くと、
はにかんだように視線を揺らしてそっと頷いた。
「冷めない私に帰ろうな。って、どっか寄りたいとことかは?」
「何もないから、まっすぐ帰って?」
梨華ちゃんがマネージャーへと促した。
ゆっくりと発進した車内では、久しぶりに穏やかな空気が流れてる。
マネージャーも梨華ちゃんの表情の柔らかさが嬉しいようで、
バックミラー越しに優しい視線を向けてきた。
同じように私も梨華ちゃんを見つめる。
まだ細い顎のラインは、ここ最近の体調管理の悪さを示していた。
- 779 名前:帰還 投稿日:2004/11/13(土) 23:31
- ・・・この程度で済んだと、安堵すべきなのか。
窓へと視線を向けてぼんやりしている姿は、小さい頃から変わらない。
私の存在を確認しつつも、滅多に視線が絡むことはなかった。
わざわざ視覚で認識するまでもなく、肌で感じ取っていたから。
私たちの関係が特別であると言うのは、こんなところにだって表れる。
互いを必要だと言っているのだ。
外に向けられた瞳は現実感を持たなくて、今も夢の中を彷徨っているよう。
一生懸命私から離れようとしたのに、
体だけが勝手に戻ろうとしているから戸惑っているのだ。
よっすぃ〜を求めている自分から視線を背けようと、
自己防衛本能が働いているのかもしれない。
頑張っても頑張っても心はあるがままのところに、
自分の居心地が良い場所へ帰っていこうとするから。
強がりもここまでくると、抱きしめるしかなくなって。
全てを包み込んでやりたい。
- 780 名前:帰還 投稿日:2004/11/13(土) 23:31
- じっと梨華ちゃんを見つめ続けていると、不意に膝に置いていた手が滑り落ちた。
意志を持ってシートに落ちた指先が、昨夜のそれと重なる。
真実に一番近い・・・
視線は変わらずに外へ向けられたままだし、
どんな表情も浮かべてはいないのだけれど。
躊躇うように恥じらうように、指先が閉じたり開いたりする。
ホントに、こいつは。
こんなに可愛い仕草をされては、本当に愛するしかない。
伸ばされた指先にそっと触れてみる。
ひんやりとした小指から順に、包み込むように。
外されたままの瞳が困ったように伏せられて、濃い睫毛が影を落した。
ゆっくりと指と指の間に侵入していき、手を絡める。
梨華ちゃんがもうどこへも行かないようにと。
確かに握り返した感触があって、私は思わず笑みを深くした。
こいつの頑固さは充分に知っているけど、こんなにも可愛い面が沢山ある。
冷えた指先が私の体温で溶けていくのを感じて、本当に安心した。
もう、大丈夫だから。
必ず守る。
梨華ちゃんにならって窓の外へ視線を移しながら思った。
- 781 名前:帰還 投稿日:2004/11/13(土) 23:32
- 久しぶりに二人一緒にマンションへと入る。
車の中でつないだ手は離れることなく絡められていた。
半歩後ろを歩く梨華ちゃんが出会った頃を思い出させて、強く引き寄せそうになる。
その衝動をどうにか抑えて、梨華ちゃんを部屋へと促した。
「お腹、空いた・・・」
手を引かれたままの梨華ちゃんが、玄関でぽつりと呟いた。
靴を脱ぐ動作の中に言葉が流されそうになって、慌てて梨華ちゃんの腕を掴む。
「今、今さ、何て言った?」
「・・・え・・・」
言葉を理解出来ないまま合わされた瞳は、あまりにも無防備で。
一瞬動きが止まる。
梨華ちゃんから空腹を訴えることは、滅多にない。
いつもいつも先回りをして食べさせてやらないと、食事になど辿り着かないのに。
私と同じように梨華ちゃんの食事へと気を配るマネージャーに、今の言葉を聞かせてやりたかった。
あの人、すっごく喜ぶよ、絶対。
二人の手に下げられた袋の中には、梨華ちゃんの言葉を満たす物が入っているのだから。
うわーどうしよ、マジ嬉しい。
本当に嬉しい。
見つめたまま動かない私を黙って見つめ返している梨華ちゃん。
この食欲が、私と一緒にいるために出てきたものだと思いたい。
相変わらず、自己中かもしれないけど。
「ごはん、しよ?ね?」
- 782 名前:リムザ 投稿日:2004/11/13(土) 23:40
- 更新しました。
>>名無し
ラブラブ仕立てにしてみました。
梨華ちゃんの回復が一時的になるかどうか・・・
>>名無飼育さん
慌てて作っても内容が軽くなってしまったのでお言葉に甘えました。
今後ともお付き合いお願いします。
- 783 名前:名無し 投稿日:2004/11/14(日) 02:45
- 更新お疲れ様です。
うっわ!今回のは凄くいい感じですね!
今までの流れが嘘のようにサラサラと流れていっちゃってますね。
このままずっと続くといいなぁ〜
やっぱこの二人はこうでなくっちゃ・・・ですよw
- 784 名前:帰還 投稿日:2004/11/21(日) 19:29
-
46.Side H 距離
- 785 名前:帰還 投稿日:2004/11/21(日) 19:31
- 手をつないだまま見つめあったまま、
あどけなく言う梨華ちゃんが可愛くて二度と離せないと思った。
何もかもを超えて、愛している。
「せ、せっかくマネージャーが大量に買ってきてくれたんだし。
少しでもあったかいうちに食べようよ。その方が絶対に美味しいよ。」
ビニール袋の中身は、どう考えても二人分ではない。
四〜五人前くらいあるんじゃない?
やっぱりあとで、マネージャーに連絡しよっと。
私のこの喜びを共有出来るのは、梨華ちゃんの心配をしてたマネージャー以外にあり得ない。
柔らかく笑って、私の体温で温かくなった指先を離し、リビングへと向かう。
朝、私が作っていったお粥の鍋は綺麗に洗い上げられており、
テーブルの上に残した書き置きはなくなっていた。
歩きながらそっとゴミ箱の中を確認しても、それらしき紙は見つからない。
きちんと想いは届いたのだと安心した。
選ぶのは、二人だからね。
- 786 名前:帰還 投稿日:2004/11/21(日) 19:31
- テーブルの上に料理を広げている梨華ちゃんは、どことなく浮かれている。
ポーカーフェイスの梨華ちゃんが、表情に出るようじゃもうダメでしょ。
「おいしそうな匂い〜。」
「だね。でも、選び方メチャクチャだよ。統一性が全然ない。」
おかしそうに言う梨華ちゃんが、ふたを開ける時に指先についたソースを舐めた。
本人に自覚などがあるはずはないのだが、そんなふとした仕草に煽られてしまう。
ダメなのはわかってんねんけど。
でも、可愛いものは可愛いし、色っぽいものは色っぽいのだ。
- 787 名前:帰還 投稿日:2004/11/21(日) 19:32
- 何年見ていても飽きない梨華ちゃんは、次々と新しい一面を見せてきて。
これ以上はないと言う程好きなのに、
またそんな姿を見せられるともっともっと好きだと思ってしまう。
きっとこれから先も変わらずに、私は梨華ちゃんにのめり込んでいくのだろう。
貪欲に、梨華ちゃんの全てを知りたいと願う。
そんな人生も悪くない。
梨華ちゃん中心に世界が回り出したのはもう随分と前だから、さして抵抗はなかった。
こんなにもたった一人の人間を愛し続けている自分を誇りに思いたい。
「梨華ちゃん、そんなに食べて平気?」
テーブルの上にわずかに湯気の立つ料理を広げてから、
梨華ちゃんは信じられないくらいの勢いで食べている。
勿論、梨華ちゃんにしてはの勢いだけど。
食べてくれるのは、本当に嬉しい。
食事をしている梨華ちゃんを見ているのも大好きだ。
小さい口にいっぱい食べ物を頬張って、私の方を見る。
「ほいしーほ。ふぉっし〜ほはへへひ?はひ、はへる。」
理解不可能な言葉を発してから、私の方へタッパの1つを差し出した。
それをありがたく受け取って、素直に口に運ぶ。
私の動きを見守っていた梨華ちゃんが嬉しそうに笑って、わずかに首を傾げた。
たまらない愛しさが溢れだして、私の胸を占める。
この人は、私のそばにいなくちゃダメだ。
- 788 名前:帰還 投稿日:2004/11/21(日) 19:32
- 口を動かしながら満ち足りた表情をする梨華ちゃんへと、手を伸ばした。
人指し指だけを頬に触れさせて、そっとなでてやる。
褐色の肌は微かに温かく、照れているようにも思えた。
触れられる感触が気持ち良いのか、ゆっくりと瞬きを繰り返して。
そっと包み込むように、手のひらで触れる。
「好きだよ。」
それは自然に零れ落ちた。
私と梨華ちゃんの間に当たり前のようにある感情だから。
何のためらいもなく、言葉は溢れる。
「愛してる。」
梨華ちゃんの表情が強ばっていく様をじっと見つめた。
寄せられた眉は、悲しみを表しているようにさえ見えて。
意地っ張りなのも頑固なのも知っていた。
私の言葉1つで、1度決めたことを覆すことがないことも。
全部、知っている。
でもね、離さない。
梨華ちゃん以外、あり得ない。
- 789 名前:帰還 投稿日:2004/11/21(日) 19:33
- 「私と恋しよ?」
まるで遊びに誘うように自然で、とても愛の言葉だとは思えない響きだった。
けれど、今まで囁いたどんな言葉よりもダイレクトに梨華ちゃんの心へ届く。
恋なのだと教えてしまう。
頬に触れたままの手を梨華ちゃんが優しく外した。
戸惑うような仕草はなくて、まっすぐと私を見つめてくる。
大人しく伸ばした手を引っ込めると、優しく梨華ちゃんが笑った。
儚くて、今にも消えそうな笑顔だった。
だけど、瞳は強い。
「私、よっすぃ〜のちゃんとした相方になりたいの。
今までとは違う意味での相方。相方は卒業しても絶対に離れないから。」
きっぱりと梨華ちゃんが言った。
何の曇りもない、まっすぐな言葉だった。
澄んだ響きが鼓膜の中に残る。
「よっすぃ〜の隣でよっすぃ〜を守れるような人間になりたい。
同期だけじゃなくて“よっすぃ〜の相方”だって自信を持って言えるようになりたいの。」
「梨華ちゃ・・・」
「私ね、一生よっすぃ〜といたい。よっすぃ〜に大切にされてたい。
だから・・・私はよっすぃ〜の恋人なんて望んでないの。」
複雑な発言とはいえ普通に聞けば愛の告白に違いないのに、それは相方への想いだと言う。
選んだのだと、何の疑いもなく思っているのか。
梨華ちゃんの愛情は凪いだ海のように穏やかで、冬の空のように澄み渡っていて。
- 790 名前:帰還 投稿日:2004/11/21(日) 19:33
- ねぇ、相方って何?
恋人とどう違う?
言葉が変わろうとも、お互いがお互いを一番に思っていることには変わりない。
また、ややこしい思考回路にしちゃって、この人は。
自分のこと本当にわかってないよ。
「よっすぃ〜には、世界一幸せになってほしいの。そのためだったら私、何でも出来る気がする。」
「幸せになんてなれなくていい。」
思った以上にトーンの落ちた声が、梨華ちゃんの肩を揺らす。
梨華ちゃんが恋人ではないんだったら、世界一の幸せなんていらない。
まっすぐな瞳が、悲しく彷徨った。
あなた、マジで不器用だよ。
自分の感情の名前も知らないのか。
「梨華ちゃんがいなきゃ、私には幸せも不幸も一緒だよ。」
ごく当たり前のことを口にする。
私は、梨華ちゃんのことなんて一番に考えない。
いつだって、二人のことしか頭にないのだから。
「どうして・・・そんなこと言うの?」
泣きそうな位顔を歪めて梨華ちゃんが言う。
それは、私の台詞だ。
すんなりと戻ってくるなど少しも思っていなかったけれど、ここまで不器用だとは知らなかった。
でも、大丈夫。
- 791 名前:帰還 投稿日:2004/11/21(日) 19:35
- 「好きだよ、梨華ちゃん。」
もう一度、噛みしめるように呟いた。
元より、長期戦は覚悟の上だ。
今更どんなに遠回りをしたって構わない。
梨華ちゃんが隣にいて、私がここにいる。
当たり前のスタイルさえ崩さなければ、平気だから。
自分の心すら掴み切れない梨華ちゃん。
発する言葉を見つけられず、唇を噛んでいる。
本当に本当に不器用で。
けれど。
誠実なひたむきさだけが、いつでも変わらずにあるから。
大丈夫。
私が教えてあげる。
梨華ちゃんの心を。
二人の愛を。
私の幸せを。
頑なになる前に引くのがコツなんだ。
深追いは決してしない。
これ以上、真実を遠くしたくないから。
サイコロステーキを梨華ちゃんの口へと運んで、愛し方を知らない梨華ちゃんを甘やかした。
- 792 名前:リムザ 投稿日:2004/11/21(日) 19:39
- キリの良いところまで上げたかったので多めに更新しました。
>>787の訳
「ほいしーほ。ふぉっし〜ほはへへひ?はひ、はへる。」
↓
「おいしーよ。よっすぃ〜も食べたい?はい、あげる。」
>>783名無しさん
レスありがとうございます。
ここぞという所でよっすぃ〜をカッコ良く仕上げてみたり。
書いてるだけで甘いなぁと思うほど甘いムード満載にしてみました。
- 793 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 21:00
- 『私と恋しよ。』
ヤられました。言葉が出ない…。
- 794 名前:名無し 投稿日:2004/11/21(日) 23:22
- 更新お疲れ様です。
よっちゃんカッケーよ!直球勝負だね!
でも梨華ちゃんは変化球で返してくるか・・・
よっちゃんがんばれ!応援してるぞ!
- 795 名前:帰還 投稿日:2004/11/27(土) 21:11
-
47.Side R 悲劇
- 796 名前:帰還 投稿日:2004/11/27(土) 21:12
- 何度も囁かれる愛の言葉は、もう意味を為さなかった。
為してはならなかった。
飽くことなく1日中優しい笑顔で言われては、揺れるものがあるのだけれど。
でも、そんなことよりも大切にしたい人だった。
もう少しだけ、よっすぃ〜の甘く低い声を聞き続けたい。
きっと、いつかそう遠くない未来にこの言葉も聞けなくなるのだろうから。
よっすぃ〜は私ではない誰かに、今度はきちんと届く相手に送るのだろう。
それまでは。
答える術のない愛を囁いていてほしい。
いつか、が来るまで。
- 797 名前:帰還 投稿日:2004/11/27(土) 21:15
- 瞳を閉じて、鼓膜が記憶しているよっすぃ〜の声を思い出す。
まだ一人しかいない楽屋は、空気が薄すぎるから。
安心出来ないのだと、知っていた。
よっすぃ〜は今、NHKドラマのロケ先から戻っている途中だと言う。
季節外れの寒気団がきていて
どうやら天候が良くないらしく、手間取っているようだった。
よっすぃ〜が戻ってくれば、これから雑誌の撮影だ。
早く来ないかな。
よっすぃ〜の言葉を何度も思い出す。
すでに挨拶の1部になってしまったのではないかと言う程、隣にいるだけで囁かれた。
まっすぐ瞳を合わせて、私の肌や髪に触れながら。
相方の距離なのか、恋人の距離なのか・・・
わからなくなる程近くで、なんの躊躇もない。
元々何でも言葉にしてくれる人だったけど、
振り返ってみてもこんなにもストレートなのは初めてだった。
私のことを連れ戻そうとしているのがわかる。
でも。
それじゃ、ダメなの。
不安はいつまでたっても消えない。
今私を連れ戻しても、いつかどこかへ行ってしまいそうで。
よっすぃ〜がどこにも行かないだろうことくらいわかってるのに。
愛を囁くよっすぃ〜の唇が、別れの言葉を作り出すことはないだろうに。
でも、過去の幸せを思って過ごせば私は良い。
よっすぃ〜の姿が視界の内にあれば、それで充分。
隣にいられたら、私は満たされる。
よっすぃ〜の近くに私のスペースが確保されてれば良い。
よっすぃ〜がそこに在る、それだけでもう・・・
- 798 名前:帰還 投稿日:2004/11/27(土) 21:15
- 財布の中から折り畳まれた紙を取り出した。
小さく折られた宝物を畳の上に広げる。
よっすぃ〜のいない空間を何度この書き置きでごまかしたか。
どこへも行かないでと、何度思ったことか。
ゆっくりと一語一語を確かめるように読み返す。
暗記するくらい読んでるけど。
文章に人柄って表れるものなのな。
優しくて温かい、包み込むような思いを感じた。
よっすぃ〜は、私にとって世界一優しい人。
家族よりも誰よりも一番に優しい。
触れる手が優しさで出来てるんではないかと思わせる程。
その体温は、よっすぃ〜の暖かさそのままで。
そばにいてほしい。
よっすぃ〜の一番じくて良いから、ただそばに。
私はもう、よっすぃ〜がいなければ生きられないから。
この仕事をしている限り、
同期として相方を続ける限り、別れはあり得ない。
ずっと、よっすぃ〜の隣にいられる。
相方という特別な距離で、一生あなたを守り続けるよ。
だからよっすぃ〜は遠回りなんてしないで、まっすぐ自分の道を進んで。
私は私たちしく、ずっとよっすぃ〜のそばにいる。
どんな痛みも伴わない、優しい距離に私はいよう。
よっすぃ〜の文字を大切になぞっていった。
- 799 名前:リムザ 投稿日:2004/11/27(土) 21:19
- 更新しました。
短いのですがシナリオ上、今日はこれまでです。
>>名無飼育さん
『私と恋しよ。』
私も書いててドキドキしました。
よっすぃ〜に間近で言われたらクラクラしますね。
>>名無しさん
ここぞとばかりに男前度がupしてる吉澤さん。
幸せすぎて委ね始めた石川さん。
今後どうなるか・・・
- 800 名前:名無し 投稿日:2004/11/28(日) 12:51
- 更新お疲れ様です。
り・・・り・・・梨華ちゃん!!
またどっか行っちゃうのかい?
梨華ちゃんクネクネ曲がりすぎだよ!ww
- 801 名前:帰還 投稿日:2004/12/04(土) 21:40
-
48.Side R 悲劇
- 802 名前:帰還 投稿日:2004/12/04(土) 21:41
- そうして。
「梨華ちゃん!!」
悲劇は急に訪れるのだ。
慌てた様子でマネージャーが入ってきた。
「どうかしました?」
どこかで嫌な予感がしている。
マネージャーの表情から、何かがあったのは一目瞭然。
私は無意識に、畳の上に置かれた紙の折り目をなぞっていた。
何で私、震えてる?
指先がかじかんだように動かない。
言葉を発せずにいるマネージャーを見つめた。
表情は苦しそうで、私はその先の言葉を聞きたくなかった。
「よっすぃ〜が・・・。吉澤さんが・・・・。」
嫌だ、聞きたくない。
子供のように手のひらを耳に当てようとした私の手首をマネージャーが掴んだ。
見上げた瞳は、よっすぃ〜と同じ優しい色。
深く息を吐き出して、マネージャーはしっかりと言った。
「よっすぃ〜が、事故にあった。」
私の中で何かが弾けたような気がした。
何・・・よっすぃ〜が、事故・・・?
- 803 名前:帰還 投稿日:2004/12/04(土) 21:41
- 頭の中は真っ白になってしまい、
何かを言っているマネージャーの声さえ届かない。
よっすぃ〜が、どうしたって・・・?
何を言ってるの。
おかしいじゃない。
これから一緒に撮影だってあるのに。
終わったらまた別れて、そんで今日は家帰ったら鍋するって決めたの。
昨日よっすぃ〜が材料買ってきてくれたから、
夜中に二人だけで鍋パーティーにしようって話して決まってるの。
- 804 名前:帰還 投稿日:2004/12/04(土) 21:42
- ドラマで疲れてるよっすぃ〜を
少しでも休ませてあげられたら良いのにと思った。
熱めの風呂にとっておきの入浴剤でも入れて。
ちゃんと今度こそは、"お帰り"って言おうと思ってた。
その言葉を口にするのは気が引けて、恥ずかしくて。
言ってしまったら、よっすぃ〜の家が私たちの家になってしまいそうだった。
全ての制約を超えて、ここにいても良いんだよと。
よっすぃ〜のいるところが私の帰る場所なんだと許されそうで。
怖かったから。
でも、言ってしまおうと思ってた。
これ以上、逃げたくはない。
まっすぐに言ってくれるよっすぃ〜に、きちんと応えたかった。
"ただいま"ってよっすぃ〜が言って、"お帰り"って私が言う。
その関係を恋人の距離にしたかった。
後戻りはしたくなくて。
そして明日は、中澤さん、安倍さん、保田さんたちと一緒。
私たちの大切な大切な場所。
二人が一番、自分たちらしく振る舞える所。
そこで目いっぱい甘やかしてもらって、また二人だけで頑張る。
今までも、これからもずっと二人で。
それが、何で?
よっすぃ〜が事故にあったなんて。
嘘だよ、そんなの。
私の隣からよっすぃ〜がいなくなるなんて、冗談キツイ。
笑って、そんなことはないと言ってしまいたかった。
いつもみたく、マネージャーに言い放って。
そうすれば、元通りでしょ??
よっすぃ〜、来るよね??
目の前で話し続けるマネージャーを笑い飛ばそうとした。
なのに。
何で?
私、こんなこと1度もなかった。
あの別れの日でさえ、溢れることはなかったのに。
- 805 名前:帰還 投稿日:2004/12/04(土) 21:42
- よっすぃ〜・・・
あっという間に視界を歪めた液体は、止める術もなく頬を伝っていった。
どうしよう、私。
こんなんじゃ、認めてるのと一緒。
よっすぃ〜がここにいないなんて。
あってはならないことだった。
私は、よっすぃ〜の相方として隣にいられれば良い。
そうすれば、私はちゃんと生き続けられる。
よっすぃ〜がいれば、充分だった。
顎から落ちた雫が、よっすぃ〜の書き置きを滲ませる。
そばにいられれば、生きていけると思った。
ずっと愛していようと思った。
心臓が、痛い。
よっすぃ〜がいなくなるなんて、考えたこともなかった。
いつだって、その笑顔はそばに在るものだと。
だから、相方で良かった。
隣にいられれば、私は満たされて。
例え、優しく激しく合わされる口唇がなくなろうとも。
私を素直にする熱い手がなくとも。
重なる肌がなくとも。
よっすぃ〜が在ることを実感出来た。
でもすでに、それは遠い。
・・・私、生きていけない。
止めどなく溢れる涙が、事実を胸の中に落とす。
不安だった。
どうしたら良いのか、わからない。
よっすぃ〜がいなくなる。
その絶望感でいっぱいで。
マネージャーに腕を引かれて立たされても、なすがままだった。
引っ張るように楽屋から連れ出されても、涙を拭うことさえ出来ずにいた。
けれど、手の内にはよっすぃ〜の書き置きだけをしっかりと握りしめて。
それだけが、私の生命を繋いでいた。
- 806 名前:リムザ 投稿日:2004/12/04(土) 21:45
- 更新しました。
小説とは関係ありませんが
安倍なつみさんが来年1月に素敵な笑顔を見せてくれると待ってます。
>>名無しさん
曲がるより得体の知れない何かに曲げられる?
どう展開するのか今しばらくお待ちください。
次回より更新量を多くしていきたいと思ってます。
- 807 名前:名無し 投稿日:2004/12/05(日) 13:12
- 更新お疲れ様です。
うぉうぉうぉ〜〜〜〜〜!!
なんなんだぁ〜!?
どうなっちゃったんだ?
よっちゃぁ〜〜〜〜ん!!!!!!
- 808 名前:帰還 投稿日:2004/12/10(金) 21:36
-
49.Side H 不足
- 809 名前:帰還 投稿日:2004/12/10(金) 21:37
- 夢を見た。
梨華ちゃんが私の隣で幸せそうに笑っている夢。
何の迷いもなく、恋人として私の隣にいる梨華ちゃんだった。
今はまだ夢の中の光景でしかないけど、もうすぐ必ず現実のものとする。
あの梨華ちゃんが、私の隣以外どこで安心できるのか。
捨てられた猫のように臆病で、簡単には人を信じない。
そのくせ、無防備に花が綻ぶような笑顔を振りまいて。
それが嫌で無愛想になってしまった私。
ねぇ?私たち、どれだけ苦労したと思ってる。
お互いへの愛情が飽和点に達しても頑なに拒み続けていたのに。
梨華ちゃんが素直なのは、表情だけ。ね?
嬉しそうに溶ける瞳や幸せそうに笑う口許だけが雄弁で。
そんな素直ではない梨華ちゃんが好きだった。
一生をこの人に捧げても構わないと本気で思う。
苦しいことも楽しいことも二人で迎えられたら良い。
最期に見つめるのが梨華ちゃんだったらと。
繋いだ手はずっと離さない。
- 810 名前:帰還 投稿日:2004/12/10(金) 21:37
- 梨華ちゃんは、全然私のことをわかってなくて。
私がどれだけ梨華ちゃんに救われたか、支えられたかまるで気付かない。
当たり前のように差し出される優しさが、私をここまで歩かせたのだ。
数多くのメンバーが繰り返し入っては卒業していく中で。
ずっと、私たち二人だけだったはず。
傷を舐め合うように、お互いを庇うように生きてきた。
今更引き返せない距離まで来てしまったのだ。
普通の距離なんて知らない。
もっともっと梨華ちゃんを近くに引き寄せたくて。
その一心で私は進んできた。
梨華ちゃんを私だけで、満たしてやりたい。
"相方"では埋まらない空洞を私が包み込んでやる。
相方だろうが恋人だろうがどうでもいい。
ねぇ梨華ちゃん、もう帰っておいでよ。
埋まらない空洞を抱えてるのは、私だって同じだ。
離れた距離を悲しいと思ってるのは、私の方。
梨華ちゃんを守るために強く強くなりたいと思うけれど。
でもまだ辛いんだ。
淋しくて淋しくてしょうがない。
私、そろそろ梨華ちゃん不足でおかしくなるよ。
互いがいないと駄目なのは、梨華ちゃんも私も変わらない。
隣にいてほしいと願うのは、誰よりも私だ。
早く帰ってきてほしい。
梨華ちゃんは何も心配しなくて良いから。
これ以上悩まなくても平気だから。
- 811 名前:帰還 投稿日:2004/12/10(金) 21:37
- 梨華ちゃんは、私の自慢の"相方"で"恋人"なんだよ。
私に後ろめたさとか遠慮とかしなくていいよ。
もう、いいから。
何も、何も心配しないで。
自分のことは悩まないくせに、私のことばかり気にして。
私は梨華ちゃんがいいんだ。
普通の恋愛はきっとそこら辺に転がっているのだろうけど、梨華ちゃん以外愛せないから。
梨華ちゃんが女の子だったらとか、考えたこともないし。
ありのままの梨華ちゃんに、私は恋したんだ。
他の何も見えなくなるくらい、盲目的に。
周りの視線も自分らの立場も考えてる余裕なんてなかった。
ただ、強く見える表情の裏に隠された表情を見てしまったから。
守ってやらなければ、壊れてしまいそうだった。
そんな梨華ちゃんを愛した。
すぐ拗ねるし、生意気でわがままだし、意地っ張りで人の言うことなんか聞かないし。
梨華ちゃんのどうしようもないところばかり知っている。
私の前だけで、それが余計ひどくなることさえ。
そんなところまで可愛いと思えるくらい、愛しているのだ。
この可愛い人と一緒に歩いていきたいと願ったのだから。
私は、あなた以外考えられない。
繋いだ指先は、もう絶対離してやらない。
本当は、綺麗ごとばっかりではないこともわかっている。
一緒にいれば、辛いことも沢山訪れるだろう。
傷つくことだってあるだろう。
でも、私はあなたと夢を見たい。
- 812 名前:帰還 投稿日:2004/12/10(金) 21:38
- 一人だったら叶えられずに打ちのめされてしまいそうなことだって、二人ならきっとやれる。
二人でいる幸福に比べれば、辛いことなんて簡単に吹き飛ばしてみせる。
娘。は沢山いるけど、だからこそ一緒にいられた。
同期だからこそ同じスタートラインに立てた。
それは、これから先もきっと変わらない。
お互いの運命は、お互いが握ってる。
梨華ちゃんの隣にいるのは私だけだと、傲慢に思い続けたい。
だから。
ねぇ、梨華ちゃん。
私の隣にいてよ。
頭の上から聞き慣れたトーンの声が聞こえてくる。
でもそれは、あまり聞いたことのない種類の声だった。
私、どうしてるんだっけ。
思い出そうとして、ゆっくりと瞼を持ち上げていった。
青白い蛍光灯が静かに光っている。
鼻をつく消毒薬の匂いから、今病院にいることがわかった。
ベッドに寝かされているらしいと言うことは、私が患者なわけで。
ああ、確かさっき車スリップして。
順に記憶を辿っていくが、体からはこれと言った強烈な痛みの訴えはなかった。
私、平気じゃない?
けっこうなスピードで突っ込んだような気もしたけど、とりあえずは大丈夫なようで一安心。
状況把握をしてから、やっと顔を上げる。
枕元で、梨華ちゃんが泣いていた。
泣き方すら知らないのか、微かな嗚咽を漏らすだけで表情すら変えられていない。
- 813 名前:帰還 投稿日:2004/12/10(金) 21:38
- 捨てられた犬のような、感情を無意識に抑えてるかのような。
ただ、瞳から透明な雫が零れているだけだった。
梨華ちゃんの泣き顔なんて、何年ぶりだろう。
こんな風にまともに泣いているのは、加入以来かもしれない。
見えていないだろう視線をまっすぐに向けて、身動き1つしなかった。
子供よりタチが悪いと思うのは、こんな時だ。
素直になる術を持っていないから、感情を表現出来ない。
泣くというのはどういう時か、理解していないのだ。
あまりにも不器用な梨華ちゃんが痛々しくて、代わりに泣いてやりたいくらい。
布団の中にしまわれた自分の手を取り出して、梨華ちゃんの頬に触れた。
一体どれだけの時間泣いていたのか。
乾いた指先が触れた皮膚は、涙を吸い込んだかのように湿っていた。
止まらない涙は後から後から溢れて、梨華ちゃんの頬を濡らす。
涙を拭うというより、少しでも梨華ちゃんを落ち着かせたくてその雫を掬った。
隣に立つマネージャーが、心配そうに見つめている。
泣いている梨華ちゃんを上手くなだめられるような知識は、持ち合わせていないのだろう。
濡れた瞳の奥を覗き込む。
- 814 名前:帰還 投稿日:2004/12/10(金) 21:39
-
「何、泣いてんの。」
呆れた感じにも聞こえる言葉は
きちんと梨華ちゃんの聴覚を刺激したらしく、また涙が滑っていく。
瞬きをする度に一層濡れる長い睫毛が綺麗だった。
滑らかな肌を伝う雫を幾度も拭ってやる。
梨華ちゃんは、私を見つめたまま動かない。
感情が追いつけずに、動けないのだ。
私のために、梨華ちゃんは泣いていた。
きっと、マネージャーの言葉なんて半分も届いていないだろう。
「全然、大丈夫だよ。」
- 815 名前:帰還 投稿日:2004/12/10(金) 21:39
- 何となく全身に痛みが走るようになってきたものの、命に支障はない。
病院に運ばれた段階で、これからのスケジュールを言われたくらいだし。
梨華ちゃんの時は休みがもらえて、
私はそのまま仕事なんて不公平な気もするけど。
梨華ちゃんを安心させようと囁くのに、結局は更に涙を溢れさせるだけだった。
涙など、見せないでほしいのに。
いつも笑顔のままで。
けれど、真っ赤になった目や歪ませた口元が可愛らしくもある。
どんな表情でも愛しいのだとこんな状況でも思った。
「梨華ちゃん。」
いつもと変わらずに、頬を包み込むように手のひらをあてた。
幾筋もついてしまった涙の跡を辿っていく。
すると、濡れた睫毛がゆっくりと伏せられ影を落としていった。
下ろされた瞼により、また涙が伝ったけれど。
そっと梨華ちゃんが唇を動かしたので、動きかけた手を押しとどめた。
止み方を知らない雨のように、流れる涙。
心の奥にたまっていた感情が溢れ出したみたいだ。
鬱屈した想いがまっすぐな言葉に変わった瞬間。
「・・・怖かった。怖かったの。」
その言葉が、梨華ちゃんの全てなのだと知っていた。
- 816 名前:リムザ 投稿日:2004/12/10(金) 21:40
- 更新しました。
>>名無しさん
すぐに大丈夫だと判明されました。
この部分はあまり引っ張りたくなかったので。
引き続きお楽しみ下さい。
- 817 名前:名無し 投稿日:2004/12/11(土) 22:42
- 更新お疲れ様です。
よかったぁ〜(;-_-)=3 ホッ
では引き続き _・)こそぉ〜〜〜っと見守りたいと思います。
- 818 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:04
-
50.Side R 意味
- 819 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:05
- 触れた温もりが、よっすぃ〜だと教えてくれた。
辿る指先の温かさを実感として捉えて。
ああ、よっすぃ〜はここにいる。
どこにも行ってない。
ちゃんと。
ちゃんと生きてる。
安堵のため息が零れた。
優しい手のひら。
そっと瞳を開く。
ぼやけた視界の向こうに、よっすぃ〜がいた。
見慣れすぎた、安心する穏やかな表情をして。
涙は止まらない。
正常な感覚は当分戻ってきそうになかった。
こんなにも。
よっすぃ〜が必要だなんて。
不安で不安でどうしようもなかった。
自分がどうだって生きているのかわからなくなりそうで。
どこにいるのかさえわからなくなった。
吐息と共に同じ言葉が零れる。
「怖かった。怖かったの。」
瞬きをすると、また涙が頬を滑っていく。
泣きたくなんてないのに。
よっすぃ〜の前では強くありたい。
この人を守りたいのに。
喉が不様に音を立てた。
唇を噛んでも耐えられず、触れる手のひらに縋るように手を重ねた。
マネージャーが出ていくのを背中で感じていたけれど。
視線をよっすぃ〜から離すことが出来なかった。
- 820 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:05
-
優しい瞳、穏やかな呼吸音。
全てが。
心に響く。
よっすぃ〜がここにいる。
- 821 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:06
-
深く呼吸を繰り返して、その事実を噛みしめた。
少しずつ実感が湧いてくる。
ゆっくりと。
身体中に染み渡るように、よっすぃ〜の存在が。
よっすぃ〜は生きていた。
ここに、いる。
私の手の届くところに。
- 822 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:06
- 移動中の車の中でマネージャーは、
よっすぃ〜のマネージャーと連絡を取っていた。
後部座席で震えている私を気遣いながら、情報を至る所から入れている。
状況が掴めるに従って、
私が駆け付けるような事態ではないことがわかったけど。
すでにその段階で人の話を耳に入れる余裕など残っていなかった。
どこか、ずっと遠い場所から声が聞こえてくるだけで。
よっすぃ〜の眠る顔を見てやっと、マネージャーの話が理解出来てきたのだ。
ロケの帰りがけにスリップして、脇の道に突っ込んだらしい。
こっそり免許を取得したよっすぃ〜は、
事務所には内緒にして自分の運転で現場に向かうことがあった。
飯田さんに何度も注意されていたけど。
そして起こった事故。
幸いそこは畑だったようで、
降り積もった雪がクッションの働きをして大事には至らなかった。
本当に大したことなかったんだよ、とよっすぃ〜のマネージャーが言い聞かせるように言って。
同乗していたマネージャーにまで余計な気を遣わせているんだな、とぼんやり思った。
でも、涙腺は壊れっぱなしだし、よっすぃ〜は目の前で動かないし。
脳震盪を起こして、今は眠ってるだけだと聞かされても。
疲れが重なっただけで、何の危険もないんだよって教えてくれたけど。
泣き止まない私に必死で言っているマネージャーには悪いと思っても、全然止まらなかった。
起きないよっすぃ〜に触れることは出来ずに、手の中にある宝物をそっと胸に寄せて。
それを抱え込むように下を向くと、目尻から膝の上へと涙が零れ落ちた。
- 823 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:07
- 空中を落下する液体は
どうしてこんなにも綺麗に丸くなるんだろうなんて考えて。
床に染み込む涙さえ遠い感覚でしかなかった。
少しだけ広げた書き置きにも涙が滲んでいく。
どうしたら泣き止めるのかわからなかった。
よっすぃ〜のことを思って。
それは、決してよっすぃ〜のためのよっすぃ〜ではなく。
私に必要なよっすぃ〜を想って泣いているのだ。
私が生きるために、水よりも空気よりも大切なもの。
自分の生を実感出来る人。
車から降りて人前に顔を晒しているのに、泣いているなんてあり得ないことだった。
外を歩いている時に泣いたことなんて、1度もなかった。
涙の跡に風が触れてくる感触を知るはずもなくて。
そんな自分が不思議だった。
こんなにも必要だなんて思わなかった。
泣くことは負けだと信じてきたから、
涙腺が壊れるまでこんな姿は見せまいと思っていたのに。
勝つとか負けるとかの次元とは全く違うところで溢れていた。
恐怖だった。
病室に辿り着き、医師にまで心配されて"大丈夫だから"と念を押されたけど。
マネージャーたちが一生懸命諭しているのも知っていたけど。
白いベッドに眠ったままのよっすぃ〜を見たら、たまらなく不安になって。
一番あってはいけないことを考えてしまった。
今まで考えてもみなかったことを現実として突きつけられたよう。
手の中にある紙が存在を主張するように音を立てたら。
あとはどうしようもなかった。
- 824 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:08
- よっすぃ〜の隣にいられれば良いと、
それだけで満足だと納得したのは少し前のこと。
一番近くでよっすぃ〜の幸せを見守っていられたら、それこそが自分の幸せだと思った。
よっすぃ〜の幸せを願う自分はきっと、笑顔に違いない。
よっすぃ〜がいる、たったそれだけで満たされるはずだった。
強くなれると思った。
よっすぃ〜のための幸せをひたすら望んだのに。
考えたこともなかった。
よっすぃ〜がいなくなることなんて。
当たり前すぎて思いつかなかったくらい。
世界の前提であるように、定められた約束のように、
私が生きている限りよっすぃ〜はここにいるものだとばかり思っていた。
それ程に、絶対的な存在だったから。
よっすぃ〜のいない世界なんて、想像したこともない。
私の隣には、必ずよっすぃ〜だけがいて。
決して誰にも替われない場所だったから。
それは、木々に日の光が必要なことと同じで必然だった。
いつでもよっすぃ〜はいなければならなかった。
私がこの世に在る限り、よっすぃ〜は隣にいるものだとばかり信じて。
子供のように思い込んでいた。
よっすぃ〜は私の存在を支える全てだから。
何よりもまず必要だった。
ここにいなければならない人。
私がここにいるために、私が私でいられるように。
- 825 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:08
- 梨華ちゃんは梨華ちゃんらしくって言ってくれたよね?
手の中にある宝物は、全部暗記していた。
私がそうあるためには、よっすぃ〜が必要なんだよ?
いつでも、片時も離れることなく一緒にいたいというのが本音だった。
例え離れた場所にいたとしても、その体温はそばにいてほしくて。
よっすぃ〜の感覚を追っていた、いつもいつも。
よっすぃ〜がいない世界なんて、意味はなくて。
どうしようもないことを思っていることくらいわかってる。
今更ながらに痛感する、よっすぃ〜の存在と引力。
- 826 名前:帰還 投稿日:2004/12/18(土) 16:09
- 私は、選んだはずでしょ?
吉澤ひとみの未来を、一番望まれる姿へと。
沢山の人にその素晴らしさを見せるために。
私一人のために台無しにしてほしくなかった才能。
よっすぃ〜の存在ごと大切にしたかったものだ。
私に縛られてはならないと決意したのに。
受け入れるべき事実だったはず。
なのに。
涙は止まらない。
頭の奥がグラグラする。
私は何がしたいのだろう。
何を一番に考えなければならないのか。
本当はわかっているはずなのに、見えなくなっていた。
溢れる涙に侵されて、胸の奥に隠された真実が表れてしまう。
もどかしい予感が、次第に形を成していって。
穏やかなよっすぃ〜の瞳に捕まった。
この人がいなくなったら、私はどうなってしまうのだろう。
抱え切れない程の不安。
わからなくなっていた。
よっすぃ〜のために何が出来るか。
わかることといったら、よっすぃ〜がいなくなるかもしれないということで感じたどうしようもない不安。
この世の終わりのような喪失感だけ。
本人の意志とはまるで関係なく
――もしかしたら涙の方がわかっているのかもしれなかった。
涙はまだ溢れ続けている。
閉じられた瞳がもう開かないのではと思うと、恐怖感が込み上げてきた。
今こうして触れている手のひらが、どれだけ安心か。
こんなにもよっすぃ〜を求めていたなんて知らなかった。
自分の世界がよっすぃ〜だけで成り立っているのだと、改めて気付く。
この人なしでは生きていけない。
本気でそう思った。
よっすぃ〜は私より先に死んだらダメなの。
ずっと生きていてほしい。
よっすぃ〜が死ぬなんてことがあったら、きっと後を追うみたいに死ぬだろう。
一人でなんて、生きられるはずがない。
誰よりも私を愛してくれた人。
私の全て。
涙を止めたいのに、よっすぃ〜の指が触れる度また込み上げてきて。
自分の体ではないみたいだった。
この存在だけを失いたくなくて。
本当は。
どうして泣いているのかさえ、気付かないでいた。
- 827 名前:リムザ 投稿日:2004/12/18(土) 16:12
- 更新しました。
>>名無しさん
できる限りこのスレだけで
ヒッソリと物語を終わらせたいなと思ってます。
そのため、前回から更新量を増やしていますが、
文字が多くて読み辛くありませんか?
- 828 名前:名無し 投稿日:2004/12/18(土) 21:04
- 更新お疲れ様です。
ウルウル・゚・(ノД`)・゚・今感動してます。
全然大丈夫ですよ。
自分は文字が多いほうがより世界に入っていける方なので・・・。
では、またひっそりと_・)見守らせていただきます。
- 829 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:29
-
51.Side H 自信
- 830 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:30
- 泣き続ける梨華ちゃんの表情は、悲しくなる程無自覚だった。
自分のことを何もわかっていないのだろう。
痛いくらいの鈍感さは
梨華ちゃん自身を傷つけているというのに気付きもしないで。
いつものように人のことばかり考えていた。
私のことだけを守ろうとしているんだ。
そして、私の未来までもを選ぼうとして。
本当は気付いてしまった。
梨華ちゃんの心の底にしまわれた真実を。
梨華ちゃんが何よりも恐れていることを。
あまりにも臆病すぎて、本気で守り続けたいと願う程に。
視線をゆっくりと落としていくと、
梨華ちゃんの手に何か紙が握りしめられている。
涙で滲んだそれが何であるのかすぐにわかってしまい、余計悲しくなった。
怖かった。
濡れた瞳で一生懸命私の姿を確かめてくる梨華ちゃんが、子供のようで。
安心させてやりたいと願う。
梨華ちゃんの不安が切ない程に見えて、私の方が苦しくなった。
不器用すぎる梨華ちゃんを、早く抱きしめてやりたい。
梨華ちゃんの未来まで全部まとめて。
私のことばかり考えている梨華ちゃんは、当たり前の真実を遠くする。
何故こんなにも自分を大切にしないのか。
目尻が赤くなって触れられると痛むのかもしれない。
指先が涙を拭う度に、そっと目を細めた。
梨華ちゃんには、私が必要でしょ?
あなたに一番必要なものが何かなんて、わかりすぎてる。
なのに。
梨華ちゃんはそれを認めない。
- 831 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:31
- 私のためにならないからって、呆気なく手放そうとして。
梨華ちゃんが壊れてまうよ?
今だって、1歩手前ではないの?
何でそんな簡単な事実を受け入れないのか。
痛みに強い心は、自分に無頓着になっていた。
必要なものすら欲しいと言えずに。
どうして選べないのだろう。
どうして。
こんなにも優しいのだろう。
私の方が胸を傷めるくらいに。
「梨華ちゃん。」
名前を呼ぶと肩が揺れた。
私の存在を聴覚から確認したようで、また少し表情が和らぐ。
そんな変化にすら、きっと気付いていないのだろう。
梨華ちゃんの頬に触れたまま、ゆっくりと起き上がる。
慌てたように梨華ちゃんが肩を押さえた。
「ダメだよ、よっすぃ〜。体がおかしくなったらどうするの。」
涙声で訴える梨華ちゃんの目は怯えていて、また涙が1粒滑り落ちた。
この目は当分直らないんだろう、なんて考えながらも強引に体を起こす。
これから私が少しでも何かある度に、この目の色を見るのだろう。
心配されるのは基本的に心地良いと思うから、嫌ではないけれど。
こんなに自分をさらけ出す梨華ちゃんを見せられたら、どうしようもなくなるではないか。
愛しすぎて、おかしくなる。
頬に当てたままの手をそっと滑らせた。
指先で梨華ちゃんの輪郭を確かめる。
- 832 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:31
- 「梨華ちゃん。」
噛みしめるように呼んだ。
この愛しい名をこれからもずっと呼び続けるために。
告げてしまおうと思った。
そして、選んでしまおうと。
梨華ちゃんが願った未来とは、全く逆なのだろうけど。
私が出来る最良の選択だと思う。
良いか悪いかなんて、本人だけが決められることなのだから。
梨華ちゃんさえいれば、他は構わない。
「・・・よ・・・よっすぃ〜。」
惑うように発される声は、私の一番古い記憶にある梨華ちゃんの姿と重なる。
儚くて臆病で、ただ綺麗な梨華ちゃん。
今しかないのだと思う。
弱さを露呈している梨華ちゃんに付け込むわけではないけど、今なら。
普段よりも自分の心のままにあるような気がした。
いつもよりストレートに感情が表れているように思う。
今なら、選べそうな予感があった。
梨華ちゃんが私のためを思って描いた未来ではなく、二人のためにしかならない未来が見えそうで。
躊躇わないかといえば嘘になる。
正直、止まりそうになるくらい。
けれど、この瞬間しかなかった。
未来を選ぶために。
- 833 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:32
- 心配そうに見つめてくる梨華ちゃんの手を、頬に触れていない方の手で包み込む。
1歩進むためにも、この手なしじゃあり得なかった。
私はこの人がいなかったら、ここにはいないだろう。
予感を確信に変えるために、手の力を強くする。
握りしめた書き置きが、微かに音を立てた。
私が残したこの紙ごと、梨華ちゃんの存在まで包んで。
濡れた頬とは対照的な乾いた唇が、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「よっすぃ〜・・・いなくならないで。」
吐息と共に発された言葉は、梨華ちゃんの心の奥から発されたもので。
いつもなら厚いヴェールに覆われて見えない繊細な心を、今は自分で守れていないから。
本音だけが口をつく。
「梨華ちゃんがいるのに、いなくなれるわけないでしょ?」
本当の梨華ちゃんは、弱くて。
勿論、それだけではないことも知ってる。
私を包み込んでくれたあたたかさは、梨華ちゃんの強さに違いない。
- 834 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:33
- ちゃんと梨華ちゃんは、私を守ってくれた。
だからこそ、絶対に手放したくないのだ。
勝手だと言われても構わない。
優しく、梨華ちゃんの手の中にある紙を奪い取った。
もう、私がいるからいいでしょ?
「私は、あなたを愛してるんだよ?一人になんてしたくない。」
滲んだ文字が、視界のすみに映り込んだ。
私の代わりに持っていたのだろう。
私はあなただから好き。
それは相方として、仕事のパートナーとしてだけではない。
『石川梨華』という人間を、心の底から想っている。
あなたを世界一幸せにしてやるなんて言えないけど、
世界で一番『石川梨華』を愛しているのは私だと、自信を持って言える。
これだけは、あなたけどどう足掻いても覆せない事実だ。
- 835 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:35
- 紙を離した手は抵抗もなく、逆に躊躇いながらも指先が私の手に触れた。
出会った時から変わらない、幼いままの甘えたがり。
縋るような仕草に、私は背中を押された。
「私さ、ずっと梨華ちゃんは梨華ちゃんのまんまでいてほしいんだ。」
「・・・ん。」
ゆっくりとした動作で頷くと、細い髪が揺れた。
これは間違いなく、私の本心で。
どこにいても何をしていても、
私の隣にいる梨華ちゃんはありのままでいてほしかった。
顔に触れていた手で、柔らかく頬を撫でる。
溶けていく表情が、私の中で切なさを増した。
「梨華ちゃんが梨華ちゃんらしくいられる場所をさ、ずっと考えてて。」
ずっと、答えは出ていたけれど。
私たち、友達から始められたら良かったのに。
そうすればこんなに沢山のことに縛られなくて済んだはずだ。
もっとまっすぐにお互いを見つめられた。
けれど、こうして今仕事をしていなければ出会うことすら出来なかったのだから。
悩み苦しんできた過程の中で、得たものも多かった。
二人だけで生きてこなければ、この想いすら生まれなかったのかもしれない。
悔やむわけではない、感謝だって出来ない。
ただ、ここに梨華ちゃんがいるためには仕事が必要だったということ。
娘。が必要だったのだろう。
だから。
だけど・・・
見つめ返す瞳はあどけない。
今しかなかった。
- 836 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:36
- 「でも梨華ちゃんの場所を選ぶためには、1つ問題があるんだ。」
「・・・・・・なに?」
「私のことしか考えない梨華ちゃんの思考回路。」
優しく笑ってみせる。
「え・・・え?」
要領を得られずに目を泳がせている梨華ちゃんの反応が、
可愛くておかしくて、思わず頭をくしゃくしゃに撫でた。
私が選ぼうとしていることは、
この優しい人にはちょっと残酷なのかもしれない。
また、傷つけてしまうのだろう。
でも、梨華ちゃんが梨華ちゃんらしくいられるように。
私たちが一緒に歩くために。
「梨華ちゃんが優しくて臆病なこと、私は知ってるよ。」
"臆病"という言葉に敏感に反応して、眉がひそめられる。
ここまで来てもまだ、強がりはおさまらないようだ。
「それと、仕事が大好きなことも。」
弾かれたように顔を上げる梨華ちゃんは、痛い程に優しくて。
自分で選べなかった未来、そうして見つけた私の姿。
あなたの場所が仕事なわけないよ。
傲慢に思う。
そして、私の一番大切なものも仕事ではない。
- 837 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:36
- あなたさ、優先順位を間違えすぎ。
人のことばっかりに神経使いすぎ。
「あなたは、"いつか"を考えてしまったんでしょ?私のことだけ思うて。」
帰ってきた日の夜の言葉。
決して聞こえることのない、夢の中の本心。
心から人のためだけに動ける梨華ちゃんを、自慢に思えた。
私の恋人はこんなに綺麗なんですって、言いふらしたい程。
「考えて考えて・・・・・・、だから選んだんでしょ?」
"いつか"は必ずくるだろう。
それはきっと、私たちが成長するための通過点に違いない。
梨華ちゃんをまっすぐに見つめた。
包んだ手と頬の形を確かめるように、ゆっくりと辿る。
本当は私だって、怖くなかったわけではない。
こんな選択を押し付けて良いのかさえ。
でも。
私が選ぶしかなかった。
私しか、二人をつなぎ止めておけない。
梨華ちゃんの口唇からため息が零れた。
諦めにも似ている。
- 838 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:37
- 「いつか、仕事かプライベートか選ばなくはていけない時が来る。」
一度言葉を切った。
怖かった。
けれど、言うしかないことも知っていた。
「娘。か石川梨華を選ばなくはていけない時が必ず・・・
だから、離れたんでしょ?梨華ちゃんはその時が怖かったんでしょ?」
選択の時に立たされて、私が"梨華ちゃん"を選ぶことを恐れたのだ。
泣きたくなる程の優しさ。
自分が私を立ち止まらせているんではないかと思って。
自分の想いが、よっすぃ〜の選択を妨げているんではないかなんて、勝手に。
だから、"いつか"が来る前に一人になろうと決めたのだ。
- 839 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:38
- 仕事に追い立てられる毎日の中で、日に日に募っていく不安。
私の可能性ばかり信じて、自分を信じられなかったのだ。
あなたはわかってない。
梨華ちゃんがいたから、私はここまで来れたのに。
隣で笑う可愛い人がいなかったら、とっくにこんな世界やめてる。
見つめる梨華ちゃんの瞳が揺れていた。
いつまでも自分に自信が持てなくて、臆病な人。
"私を選んで"と言えない、可愛い恋人。
「ねぇ、私があなたのこと何回好きだー、って言ったら、信じてくれる?
どれだけ大きな声で叫んで、どれだけ見せたらちゃんと選んでくれるの?」
少しキツイ言い方になった気がする。
でも、止まらない。
1歩先にある真実を捕まえるために、今選ぶのだ。
唇を噛みしめて耐える梨華ちゃんは弱くて、誰よりも綺麗だと思った。
私の一生は、この人のためにある。
愛しすぎておかしくなるくらい。
石川梨華以外にはあり得ないと、心が叫ぶから。
私たちを取り巻く全ては、どうでもいい。
- 840 名前:帰還 投稿日:2004/12/23(木) 12:40
- 苦手な仕事を大好きだと言ってしまえる梨華ちゃんの強さは大切だったけれど。
あなたのその強さのお蔭で仕事を続けてこられたのだけど。
私はもう、あなたしかない。
一生をかけて愛せる人なんて、そうそう見つけられるもんではないよ?
だから、私は言う。
他のものにはいくらだって代わりは居て。
それは、娘。だって変わらない。
だけど。
私の梨華ちゃんに代われる人はいないのだ。
いつだっていつまでも、私の胸を熱くするのは梨華ちゃん一人。
もう長いこと想い続けて。
そして、恋に落ちた日も今も変わらずに梨華ちゃんはここにいる。
たったそれだけの事実で、もう充分ではないか。
わかりきったことでしょ?
ここに。
あなたの場所はある。
次の言葉に耐えるべく必死に待っている梨華ちゃんの手をしっかりと握りしめた。
・・・私たち、ホントにこの仕事向いてないなぁ。
「私は、いつか選ばなくはていけない時が来たら・・・」
梨華ちゃんの想いをまっすぐに否定する。
「必ず、"石川梨華"を選ぶ。」
梨華ちゃんの瞳が、予想通り大きく見開かれた。
- 841 名前:リムザ 投稿日:2004/12/23(木) 12:43
- 更新しました。
>>名無しさん
今回の小説ではひたすらよっすぃ〜の男前さを出してます。
それの最大出力が今回の更新部分でした。
こんな台詞をあの綺麗な顔で言われたらノックアウトです(w
- 842 名前:名無し 投稿日:2004/12/23(木) 18:38
- 更新お疲れ様です。
ウッ!!・゚・(ノД`)・゚・感動です!
またしてもやられました。
それにしてもよっちゃんカッケー!!
ゾクゾクしてしまいましたよ!!
- 843 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:47
-
52.Side R 永遠
- 844 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:48
-
決して望んではいけない言葉だった。
けれど、一番欲しい言葉でもあった。
私は、ズルイ。
よっすぃ〜の未来だけを考えようって選択したのは私なのに。
- 845 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:48
- 心が潤っていくのをはっきりと感じて、おさまりかけていた涙がまた零れた。
こんなんじゃ、私が望んでいるようにしか見えない。
よっすぃ〜がここにいるだけで良いと思ったのは、本当なのに。
例え仕事としてでしかなくても、隣にいたかったから。
"相方"を望んだのは、私なのに。
ダメだよ、よっすぃ〜。
「そしたら、芸能人なんかやめて二人でどっか行こう。
誰も私たちを知らないところで、いっぱいデートしよう。」
それは出来ないと思うのに、嗚咽が零れて言葉にならなかった。
- 846 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:49
- ダメ、よっすぃ〜。
もう戻れなくなってまうよ。
あなたの未来、台無しにしたない。
まだ、間に合うから。
頬に置かれていた手のひらが、優しく後頭部に触れた。
抱き込むような仕草に甘えてしまいそうだ。
「周りの人には沢山沢山迷惑かけるだろうけど。私には、梨華ちゃんの方が大切だから。」
甘く胸を焦がす言葉。
それは、相方への言葉ではない。
愛する人に向けた、最上の告白だった。
- 847 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:50
- どうして。
歪んだ視界に映るよっすぃ〜は、眩しい程に笑顔で。
私が一番好きな表情だった。
戻れなくなるよ?
あなたの人生、私なんかにメチャクチャにされてもいいの?
聞こえない言葉はきちんとよっすぃ〜に届いたようで、小さい子供にするように髪をかき回された。
肌に馴染んだ感触が心地良くて。
足りない、と思った。
私は、ズルイ。
「ね、だからもう泣かないで。
梨華ちゃんさえ良いって言ってくれたら、絶対どこにも行かない。もう離さないから。」
- 848 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:51
- 頭ごと抱きしめられて、涙がよっすぃ〜の胸を濡らした。
口に涙が入ってきてしょっぱいと今更ながらに感じる。
規則正しい心臓の音が届いて、愛しいと思った。
それは、理屈抜きで表れてくる思い。
こんなにも人を好きになったことなんてない。
「梨華ちゃんがいないと、私、ダメになる。そばにいてよ。」
急に子供のような声音で言われて、不覚にも情が湧いてしまった。
思わず笑ってしまってから、よっすぃ〜の作戦だと気付いたけれど。
笑いがおさまらなくて涙も止まらないから、意識はそちらへと向いた。
泣きながら笑うなんて、どんな顔になってるんだろう?
よっすぃ〜の胸に埋めたままの顔をそっと持ち上げられて、視線が重なった。
途端に優しく崩れるよっすぃ〜の表情。
「石川ぁー、今の顔ブサイクすぎ。
泣いてないで笑いなー。その方がずっとずっと梨華ちゃんは可愛いよ。」
「ん。」
素直に頷いて涙を押し込めようとするのに、体が言うことを聞かない。
泣き出した時からすでに、自分で自分のことをコントロール出来なくなっていたことを思い出した。
涙腺なんて普段滅多に使わないところだから、扱い方がわからない。
果たして、壊れているのは涙腺なのか心なのか。
わかるはずもないけれど。
- 849 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:52
- 「あーもういい、もういい。好きなだけ泣いて。
梨華ちゃんはあまり泣かないから、たまにこうやって沢山泣いた方が体のためだね。」
ぽんぽんと優しく頭を叩かれて、胸の中があたたかくなってしまう。
ダメだってば、よっすぃ〜。
優しくしないで。
よっすぃ〜はここにいなくても良いのに。
私のことなんか放っといて、あなたはまっすぐに進んで。
その後ろ姿を私は見つめ続けるから。
思うのに繕おうとするのに、優しい指先がそれを許さない。
「梨華ちゃんが思い切り泣くのなんて久しぶりだねぇ。
オーディションの合宿所で何回か私の胸貸した記憶はあるけど、あれ以来ご無沙汰だし。
ご無沙汰どころか普段は辻加護が泣き止むために使われていた胸だしさ。
これからはちゃんと、私の居る前で泣いて。
私のために泣いてくれるのはすっげー嬉しいけど、梨華ちゃんのこんな顔、誰にも見せたくない。」
- 850 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:54
- 優しく甘く囁かれるよっすぃ〜の言葉は、簡単に私の心を溶かしていって。
素直にする。
いつかの予感が蘇った。
よっすぃ〜のその、優しい強さに本音だけで向かわされるのだ。
よっすぃ〜。
まだ、足りないよ。
安心出来るまでには、まだ足らない。
私、本当は。
「ねぇ、梨華ちゃん。好きだよ。」
目頭を熱くさせるような思いは、よっすぃ〜だけにしか出来なかった。
流される。
そう思っても引き返そうとしても、抗えないことは確かにあるのかもしれない。
残っている強がりが、まだ戦ってる。
けれど、そんなことよりももっとよっすぃ〜を求めていた。
この人だけを貪欲に求めてしまう私は、汚いのかもしれない。
ひどい人間なのかもしれない。
でも、よっすぃ〜になら。
抱えているどんな思いをさらけ出しても構わないと思った。
この人なら、全て受け止めてくれる。
よっすぃ〜。
お願い、ここにいて。
いつも優しいキスをして。
- 851 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:54
- 「私さ、不安なんだ。梨華ちゃんがいないとダメになる。だから・・・」
「好き。」
言ってはいけない。
もう戻れなくなるとわかっているのに。
溢れ出したものは止まらない。
ごめんなさい。
「好き。」
よっすぃ〜が固まってる。
微かに、触れている手が揺れた。
もう後戻り出来ないことを知っていた。
私の一言一言が、よっすぃ〜を縛り付けていく。
ごめん、ごめんなさい、よっすぃ〜。
私はやっぱり、どうしてもあなたじゃなくてはダメなの。
あなたと恋してたい。
永遠の恋を続けていたい。
「好き・・・好きなの。」
- 852 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:55
- 昂った感情が、また涙を溢れさせる。
私、きっと、ずっと、よっすぃ〜に言いたかったんだ。
よっすぃ〜から愛の言葉をもらう度に溜まっていった愛情が、やっと解放されて。
生まれて初めて、よっすぃ〜に言えた。
一生口にすることのない言葉だと思っていたのに。
ごめんなさい。
何度謝罪の言葉を口にしても足りないけど。
もう、どうなってもよかった。
「よっすぃ〜が、好き。」
はっきりと口にする。
見えない視界をより正確に合わせた。
そこには、いつもと変わらないよっすぃ〜の姿。
許されているのだと思った。
私の存在を何よりも望んでくれるのは、この人しかない。
ありがとう。
「私のそばにいて。」
よっすぃ〜を縛りつける最後の一言を吐き出した。
- 853 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:58
- けれど、あまりにも嬉しそうによっすぃ〜が笑うから。
私も捕まった。
何も出来ないけど、ずっとそばにいるよ。
ずっと永遠に、好きでいるから。
あなただからこそ、好きなの。
「相方や恋人じゃ、足りないな。」
確かめるようにそっと呟く。
どうしても足りなかったのだ。
合わされる唇や熱い指先、交わる肌が欲しかった。
その体温で、よっすぃ〜の存在を確かめたい。
よっすぃ〜の腕が再び私を抱き寄せた。
愛してる。
- 854 名前:帰還 投稿日:2004/12/24(金) 22:58
- よっすぃ〜の存在を独り占めしたかった。
いけないことだとわかっていても、止められなくて。
そしてよっすぃ〜は、私のこの醜い気持ちまで全部包み込んでしまうのだろう。
大丈夫だって、嬉しいよって言ってくれるのだ。
いつの間によっすぃ〜はこんなに強くなってしまったのだろう。
こんなにはっきりと答えを出せるようになって。
私のがお姉さんなのにね。
心地良い痛みが胸を刺す。
よっすぃ〜の言葉は、私の心をまっすぐに射抜いてしまうのだ。
ただまっすぐに愛を教える。
私は、よっすぃ〜に捕まった。
もう逃げなくても良い。
胸に頭を押し付けて、よっすぃ〜の匂いを嗅いだ。
ふわふわした匂い。
少しだけ混ざる消毒薬の匂いと。
安心する。
私の場所は、此処しかない。
- 855 名前:リムザ 投稿日:2004/12/24(金) 23:01
- 更新しました。
>>名無しさん
男前よっすぃ〜に対し甘えをさらけ出すと決心した梨華ちゃんです。
いつもレスしていただき、ありがとうございます。
読者がいるとわかるだけで励みになっています。
良いクリスマスを過ごして下さい。
- 856 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/25(土) 01:03
- いつも読むばかりであまりレスをしなくてすみません。
固唾を呑んで見守っておりました。ようやくホッと息を吐けた思いです。
- 857 名前:名無し 投稿日:2004/12/25(土) 02:00
- 更新お疲れ様です。
・゚・(ノД`)・゚・ウルウル
やっと・・・やっとここまで来たね。
もうね、何も言えませんよ。。。
見守ってきたかいがありました。
いいプレゼント貰ったって感じです。
作者様もよいクリスマスを!
- 858 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:39
-
53.Side H 帰る場所
- 859 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:40
- 子供のように泣いている梨華ちゃんを引き寄せる。
ベッドサイドに座らせて、力一杯に抱きしめた。
どこへも行かないで。
やっと戻ってきてくれたのだと、深い安堵感でいっぱいになった。
ここにいて。
「私、よっすぃ〜が好き。」
幾度も繰り返される告白は、今まで1度も聞いたことがなくて。
いつまでも聞いていたいと思った。
頬に張り付いてしまった濡れた髪を、そっとかきあげてやる。
沈黙を保って、ただひたすらに梨華ちゃんの声を聞いていた。
時々上げるしゃくり声さえ愛おしい。
抱えるように梨華ちゃんを抱きしめたまま動かないでいると、マネージャーがそっと顔を覗かせた。
どうやらもう、時間がないらしい。
腕を上げて右手にはめた時計を示していた。
静かに頷くと、またマネージャーは部屋を出ていく。
ずっとこうしていたいのだけどな。
- 860 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:41
- 梨華ちゃんの柔らかな髪に口付けて、少しだけ瞳を伏せた。
事故にあったにも関わらず、このまま雑誌の撮影を強行する事務所の判断には全く呆れるけど。
しょうがない、か。
私たち一応、アイドルだもん。
よく形容される言葉で自分達の背負っているものを軽くしようとする。
まだ、"いつか"は遠いのだ。
それまでは、娘。でいなければならない。
私たちはもう少し、走り続ける必要がある。
瞳を正面に据えて、梨華ちゃんに伝える。
「私は、あなただから一番好きなんだよ。」
「ん。」
胸に顔を押し付けたまま言うものだから、声がくぐもってしまう。
胸から伝わる確かな振動に幸せを覚えた。
また少し、力を込めて抱きしめ直す。
「あなただけ、一生愛し続けるよ。誓うから。」
照れたような笑い声が聞こえて、思わず上を向かせてしまった。
顎に手を添えたまま、濡れた瞳を見つめる。
この瞳が、ずっと私を狂わせてきた。
「私はさ、梨華ちゃんがどこにいても梨華ちゃんのことしか考えてないよ?」
- 861 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:41
- 真っ赤な瞳が逸れて、恥じらいを見せる。
少女のような反応に戸惑いながらも、こんなとこがツボなんでしょ?と自分に対して冷静に思った。
こんな風に出会った時から今まで、色んな梨華ちゃんに恋をして。
それでも足りないくらい、まだ気持ちが膨れ上がる。
いつまでも恋しい。
「私はずっと、梨華ちゃんに狂わされっぱなしなんだよね。」
梨華ちゃんの眉が、悲しくひそめられる。
「どうしようもないでしょ?」
何を言うことも出来ず、予想通り意味を捉えそこねた梨華ちゃんが見つめてくる。
わざと誤解されるように言った節はあるのだが。
「・・・ごめん。」
「そういう意味じゃないよ。」
私の人生を狂わされたとか間違えたとか言ってるわけではない。
梨華ちゃんが罪悪感を持つ必要なんてどこにもないのだ。
ただ私が勝手に、15歳から梨華ちゃんを愛してきただけで。
狂わされるのが本望だなどと言ったら、この人は怒るだろうか。
「そんな顔すんなってば。」
眉間に指を当てて、表情を和らげようとする。
困ったように微笑むから、たまらなく切なくなった。
- 862 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:42
- 「私が言いたいのはさ、たとえ梨華ちゃんが私のこと好きでも嫌いでも、
相方でいようと恋人でいようと変わらずに愛してるってこと。
どこに居たって・・・私の傍に梨華ちゃんがいる限り狂ってしまうよ。」
目を細めて梨華ちゃんを見つめる。
愛しい人は、腕の中にいた。
「だから、離れてるよりはずっとこうしていられる方がいい。
こっちの方が、梨華ちゃんがいる方が、ずっと、ずっと幸せなんだよ。」
私の言葉に梨華ちゃんが苦く笑う。
悩んでも迷っても、結局ここしかないのだ。
梨華ちゃんが隣にいてくれれば幸せだと言うのは、本音だった。
「もう離れないって、約束して。」
甘く囁けば、戸惑った瞳が私を映す。
「・・・する。」
辛うじて動いた唇が、わずかな音を伝えた。
まだ、不安なのだろうか。
「私は、梨華ちゃんがいれば幸せだよ。」
「・・・うん。」
わかっているだろうに素直に頷けないのは、まだ私のことを考えているせい。
全く、愛しすぎて涙が出る。
- 863 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:43
- 「梨華ちゃん。私はあなたがいなかったら、幸せになんかなれないんだよ?」
「・・・っく。」
「離れたら、生きていられない。」
ゆっくりとした動作で、梨華ちゃんの指先が私の唇に触れた。
これ以上言うのを止めようとしているのか、確かめたいのかわからなくて。
でも、まっすぐに見上げる梨華ちゃんの瞳は、もう迷っていなかったから。
これ以上は、必要ないのだと悟った。
「今日帰ったらちゃんと、鍋しよう。」
「・・・憶えて、たの?」
心底不思議そうに問うものだから、つい吹き出してしまう。
「あのさ、当たり前なこと言うなって。頭打っておかしくなったわけじゃないから。」
「・・・そぉ。」
確かめるように辿る指先の感触がくすぐったくて、思わずその手を取る。
冷えた指が確かに私の手に絡められたから、笑みを深くした。
私を狂わせる美しい人。
この手にその優しさに何度救われたかわからない。
私の場所もこの人だけなのだと知った。
幸せ。
幸せだ。
誰よりも、世界一幸せだと思った。
- 864 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:44
- 緩く絡めた手を引っ張って、梨華ちゃんが意味ありげに見つめてきた。
まだ揺れる瞳の色を宿して。
切なく一瞬だけひそめられた眉は、気付かないことにした。
これから先、幸せだけではないことも知ってる。
もっとずっと辛いことが待っているのかもしれない。
けれど、梨華ちゃんが隣にいること以上の幸せはないから。
細い肩を抱き寄せると、梨華ちゃんが優しく笑った。
「ん?」
視線の意味を問う。
躊躇うように口唇に手を当てると、表情を隠すために俯いた。
素直になれないのは、梨華ちゃんの性格だ。
いつまでも変わらないのだろう。
前髪に隠された額を探して、口付けを落とした。
優しく甘く落としたそれは、確実に梨華ちゃんを溶かして。
スローモーションのようにゆっくりと、顔が上がる。
はにかんだように首を傾げる様は、愛しいとしか言えなかった。
今度は赤く染まった目尻にキスをして、梨華ちゃんを促す。
結ばれた赤い唇が、ゆっくり開いていった。
「よっすぃ〜、ただいま。」
その言葉が本当に意味するところを、ちゃんと理解しているつもりだ。
梨華ちゃんらしい愛情の形。
「おかえり、梨華ちゃん。」
願いを込めて囁いた。
- 865 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:44
- ずっと変わらないことがある。
一生消えない不安も残る。
だから、言うのだ。
私たちは二人だということを確かめるために。
お互いが必要であるという事実を忘れないための言葉。
触れられなかった口唇に、やっとキスを落とす。
甘く拙いそれは、私たちのファーストキスを思い出させた。
ものすごく緊張した。
キスなんて数え切れない程しているのに、忘れられないのだ。
あの時と同じ、気持ちをまっすぐに伝える口付け。
触れるだけの幼いキス。
けれど、また涙が一粒零れたから充分だった。
梨華ちゃんに届いたから、それで良い。
そっと離れると、潤んだ瞳に惑わされた。
何て幸せそうな笑顔。
愛しいと思った。
- 866 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:45
-
私たちの選択は間違っているのかもしれない。
本当はもっと、安全で正しい道が用意されてるのだろう。
だけど、そこに意味はないから。
後悔さえなければ、ここに梨華ちゃんさえいれば構わなかった。
二人手を絡めて進んでいけるのなら、たったそれだけで幸せになれる。
それだけで私は、もう。
- 867 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:45
-
梨華ちゃんがいて、私がいる。
その存在こそが、お互いを生かしていくのだ。
愛情だけが未来をつなぐのだろう。
梨華ちゃん、私幸せだよ。
一生を決めてしまうような歳ではないのだろうけど。
赤い糸が本当にあるのだというのなら。
- 868 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:46
-
神様。
私たちをずっと一緒にいさせて下さい。
- 869 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:46
- 他に願うことは思いつかなかった。
梨華ちゃんだけを離してはならないのだと、心に決めて。
いつまでも帰る場所は、お互いの腕の中だけ。
梨華ちゃんさえ笑っていてくれれば、私は充分。
貪欲に傲慢に愛し続けるだろう。
いつか。
"いつか"という時が訪れたら、しっかりと手をつないで走り抜けよう。
- 870 名前:帰還 投稿日:2004/12/31(金) 16:47
- その時は、どうか。
手を離さないで。
大切なものは、そんなに多くない。
梨華ちゃん以上の存在なんて見つかるわけないし。
だから。
いつまでも隣にいて。
他に何も要らないから、お願い。
私を愛し続けてほしい。
そして。
あなたで良かったと、言わせて下さい。
〜FIN〜
- 871 名前:リムザ 投稿日:2004/12/31(金) 16:53
- 完結しました。
本日の更新分が最終話です。
最後だけですがageさせていただきました。
皆様、良いお年を。
>>名無飼育さん
ありがちな話であり、ミスも多く、
稚拙な文章でしたが、読んでいただき有難うございました。
>>名無しさん
少ない更新で1年近くも続けましたが、本日で終了です。
挫折しかけたこともありましたが、レスが心の支えとなり完結できました。
お付き合いありがとうございました。
- 872 名前:名無し 投稿日:2004/12/31(金) 18:55
- 更新&完結本当にお疲れ様でした。
もうね・・・感動・゚・(ノД`)・゚・感動・・・また感動です。
二人ともに「お帰り」って言ってあげたい。
作者さまも良いお年を。
そしてこっそりと次作を期待しつつ・・・ww
- 873 名前:ケロポン 投稿日:2004/12/31(金) 22:18
- 終わってしまいましたか…いやお疲れ様です。そしてありがとうございます。
ものすごくストーリーの中に入り込んで読んでいました。
これからは幸せであって欲しいですね。
- 874 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/08(土) 22:28
- 完結、お疲れ様でした。
リムザ様の更新されるペースのお陰で
一つ一つの表現が、心にじっくり染みていく感覚を味わう事が出来ました。
「幸せ」って、考えるものじゃなくて感じるものなんでしょーね。
私は、この小説を読み終えて「幸せ」を感じておりますw
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