うぃすぱーぼいす
- 1 名前:voice0 person who hears voice. 投稿日:2003年02月17日(月)22時51分17秒
- 今日もたくさんの声が溢れていた。
- 2 名前:voice0 person who hears voice. 投稿日:2003年02月17日(月)22時52分04秒
『今日の御飯は…』
『…安いなあ…』
『なんだよ…邪魔…』
『…の…可愛い…』
頭に響いてくる様々な老若男女の言葉たち。
大きな街は学校と比べ物にならないぐらい人の数が多い。
だからその分、聞こえてくる言葉の量が半端じゃなかった。
どんな他愛のない独り言でもたくさん集まれば相当な騒音。
もう慣れたけれど、それでもうるさいことには変わりなくて。
『…すげ…あれは…』
『うわ……だよ…』
(…頭痛い…)
『…じゃん…ひど…』
あたしの心の声は簡単に掻き消される。
一人静かに頭の中で考え事をすることさえできない。
それほどまでに多く、抑えきれない情報量にもう頭の中はパンク状態。
耳を抑えたとしてもその声は途切れることがないから。
- 3 名前:voice0 person who hears voice. 投稿日:2003年02月17日(月)22時53分07秒
- 昔からあたしには不思議な特技があった。
人の心の声が読めるのだ。手品やハッタリではなくて、本当に。
物心ついた時にはもうすでにその声は聞こえていて、
それが当り前だったから、今更自分の力が変だとは特に思わない。
だからこうやって簡単に、あたしは心が読めるんだよ、と
誰かに打ち明けたことも過去に何回かある。
もちろん本気で取り合ってくれた人は今まで誰一人としていなかったけれど。
普通の人からしてみれば信じられないこの力だって、マンガや何かじゃ、
当たり前のように使われてる。
でもあたしが、そういうことができるんだよ、と訴えたとしても、
親でさえそれを鼻で笑い飛ばす。
そして心の声が聞こえてくるんだ、『何言ってるんだ』って。
いつもいつもただのジョークで言っているものだと思われているらしかった。
その声に嫌味は含まれていないし、誰の声でも苦笑をしていた。
確かにあれは紙の上でのフィクションだ。比べる方がおかしい。
でもあたしにとっては他人の心の声が聞こえる事、それが普通。当たり前なんだ。
- 4 名前:voice0 person who hears voice. 投稿日:2003年02月17日(月)22時54分06秒
- 今のところ、別にマンガみたいなこの力で困ったことはなかった。
信じていた友達が本当は自分のことを嫌っていたとか、
好きな人の気になっていた相手が自分だったとか言う事実が発覚することもない。
友好関係は良好だし、今まで好きになった人は、実はいない。
それに便利なことにあたしの能力は、自由にオンオフを切り替えることもできる。
聞きたくない声はそれでシャットダウンさせてしまえば良いんだ。
(…そうだ。もう切っちゃおう)
膨大な心の声の情報量にずきずきと痛みを訴える頭に、神経を集中させる。
切り替えは簡単だ。本当のスイッチみたいにポチッと押すだけでいい。
問題はそれをちゃんと抑え付ける力が多く必要なこと。
(ふう…)
今日は何とかうまくできそうだ。
止んだ喧騒に、ほっとしながら一歩踏み出そうとした。
『…どうすればいいのかなあ…』
その時に、ふと降って来た誰かの声。
- 5 名前:voice0 person who hears voice. 投稿日:2003年02月17日(月)22時54分58秒
- 「え?」
周りの人が不審そうな目であたしを見る。
しかしそれも一瞬のことで、またすぐに何事もなかったかのように
その人達も人並みに揉まれてどこかへ行ってしまった。
(…危ない危ない…)
何が危ないのか自分でもわからないけれど、とにかくあたしは口を閉じる。
そして口に手を当てたまま目を閉じて意識を集中させた。
『………』
(…もう聞こえないか)
ふうっと溜め息をついてから首を傾げる。
スイッチを切っても声が聞こえてくるなんて初めてだ。
- 6 名前:voice0 person who hears voice. 投稿日:2003年02月17日(月)22時56分44秒
- (あたしが抑えきれないほど強い…意識?
声は凄く小さかったから…やっぱり念みたいな物が強かったのかな)
そんなことを思いながらさっきの声を頭にリフレインさせる。
さすがに録音機能までは完備していないけれど。
少し弱々しい小さな小さな女の子の声。
あたしと同い年ぐらいかなと、ふと思った。
囁き声ほどのその細くて小さい声が、何であたしの元に届いたのか。
その時はまったくわからなかった。
(…まあいいか。もう聞こえないんだし)
さっさと忘れようとあたしは家に続く帰り道を急ぐ。
真横を通り過ぎた頬の柔らかそうな彼女に、その時はまだ、気付かない。
- 7 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月18日(火)03時58分18秒
- なんか続きが気になります…
しかも役者はあの二人かな…?一人は不安ですが(w
続きたのしみにしてます。
でも確かに聞こえたら都会では五月蝿いでしょうね…(^-^;
- 8 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時10分54秒
学校中、眠いなぁという声の大合唱だった。
学校の授業というものはただでさえかったるいものだけれど、
それがまた午後の授業となるとめんどくささが十倍か、それ以上になる。
みんなの意識は放課後の過ごし方や、週末の休みをどうするかへ向かい、
授業を聞いている人なんか一人もいやしない。
かく言うあたしも放課後は何を食べにいこうか、
喫茶ぱんぷきんでケーキもいいなとか、
家に帰っておばあちゃんにかぼちゃの煮物を作ってもらうのもいい、なんて。
色んなこと、主に大好きなかぼちゃについて物思いに耽る。
(でっへっへ…)
無意識のうちに顔がにやけてきた。
頬を軽く手で解しながら、頭の中に入ってくる声に耳を傾ける。
いや。この場合、耳を傾けるという言葉の使い方はおかしいかな。
- 9 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時11分58秒
- 授業をまともに聞く気がないときは、こうやって暇を潰している。
他人のプライベートを覗いているのと全く同じことだから、
お世辞にも趣味がいいとは言えないけど、でも他にすることもない。
『まだあと…』
『…だしな…ょうは…』
『…の、半額セールが…』
「そうだ今日は新作ケーキが安くなるんだ!」
一斉に視線が集まる。
「…何でもないです」
情けなく椅子に座り直して、教科書を読むふりに戻る。
先生がわざと咳払いをしてから授業に戻った。
失敗した。周りの人にはこの声が聞こえないんだから、
あたしが聞こえた言葉に反応すると、周りからはただの変人に見られてしまう。
気をつけなきゃ、と気を取り直していると、また誰かの声が聞こえて来た。
『…何やって…』
『また寝惚けてんの…』
苦笑みたいなそんな声。
振り向いてみると、クラスの中でも仲が良い方の数人が、
笑いながら小さくこっちに手を振っていた。
恥ずかしくて顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
- 10 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時13分24秒
- (ハズ…)
前を向いて自分の顔を隠すように、額に手を当て俯いた。
それでも声は聞こえて来る。
だけどそのどれにも悪意のある声や言葉は無くて、
こういう時、自分のムードメーカーさがありがたかった。
そして最後に聞こえて来た声。
みんなとはワンテンポ遅かったから、余計にその声が目立つ。
『…小川さん…』
「はい?」
意外とその声が大きかったらしい。
また視線が集まり、先生のチョークを持つ手は震える。
「…な、なんでもな…」
「廊下に出てろ!!」
白い弾丸がまっすぐこっちに向かって飛んで来る。
事前に察知していたから、それは簡単に避けれた。
後ろの誰かの悲鳴が聞こえて来たけど今はそれどころじゃない。
そのままあたしは廊下に飛び出すように向かった。
『痛い…』
(…ごめんなさい)
自分の身代わりになってしまったらしいその声に思わず謝まる。
- 11 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時14分48秒
- 冷たいリノリウムの床と上履きが、キュッと心地良い音を鳴らした。
ガラガラと閉めた扉の向こうでは先生の声と、多分その被害に
あったらしい生徒を介抱するクラスメイトの声でいっぱいだ。
(あんなことぐらいで怒るから)
本当は授業中にぼーっとしていたあたしが悪いんだけれど、
思わず先生へ責任を無理やり押し付けておく。
自分の無実をとりあえず確認してから、
さっきの声は一体なんだったんだろうかと、
普段使われないあたしの頭はフル回転を始める。
あの声は、この前スイッチを切ったはずなのに聞こえて来た声と
同じ人のものだ。何だかわからないけど確信が持てる。
―――…どうすればいいのかなあ…。
あの声。たった1週間ぐらいで忘れるわけがない。
悲鳴からして多分あたしの身代わりになったのも同一人物。
だけどあんな声を聞いた覚えがない。
クラスにいる人で、
しかも席が近いらしい人で、
結構近所に住んでるかも知れない人。
そこまで絞れているのにわからない、知らないなんてことがあるんだろうか。
- 12 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時15分48秒
- (…まさか…幽霊?いやいや、今までそんなの…でもなぁ…)
あんなにたくさんの心の声が溢れ返っているんだから、
幽霊の声だって、もしかしたら混じっているのかも知れない。
でもあの声の主にはチョークが当たっているし、
クラスのみんなが介抱までしているのだ。幽霊のわけがない。
(そーだ、声を聞こう)
もしかしたらその中に声の主の名前ぐらい流れているかも知れない。
あたしは頭に響いている声に意識を傾ける。
簡単に説明するとこの力は無線とか言う物と同じ仕組みらしい。
共通のチャンネルが合って、その中では色んな声が溢れてる。
その中から1つの声を聞きたいなら意識を集中させるだけ。
つまり、独自のチャンネルに合わせると、その人の声だけが、
頭の中に響いて来るのだ。
何かの機械みたいに便利で、都合良く精密な作りをしている
自分の脳は、本当に現実離れしているなぁ、としみじみ思ってしまう。
NASA辺りにバレたら大変なんだろうな。
- 13 名前:voice1 投稿日:2003年02月20日(木)20時17分22秒
- と、そんなことを考えながら、
共通のチャンネルから1つ1つの声を丁寧に拾って行くけれど、
お目当てのその名前はまったく聞こえて来なかった。
既に授業に戻っていたらしい。
また眠い、だるいの輪唱しか聞こえなくなっている。
(まあ、いっか)
そこまで気にするほどでもないし。
注意していればそのうち誰の声だったのか分かるだろう。
同じクラスにいるんだし、もしあれなら誰かに聞けばいいわけだし。
「…ふぁ〜ぁ…」
とりあえず問題は解決。
一気に頭を使ったせいか何だか眠くなって来てしまった。
もともと頭の中が一日中うるさいわけだから、他人よりも、
頭の疲れ具合が全然違う。
多分ここで眠ったら授業が終わっても起きないだろう。
(ダメだダメだダメだダメだ…)
念仏のように心の中でつぶやきながらも、意識が、
深い闇の底へと落ちて行くのが自分でも分かった。
- 14 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時18分33秒
- 冷たい壁が頬に当たる。
少しだけ寒気がしたけどそれも一瞬のこと。
誰かの声がいろいろ混ざって、いつも変な夢を見てしまうあたしも
今日は久しぶりにぐっすり眠れるかも知れない。
声に意識を捕らわれてる暇なんて無いぐらいの疲れ。
それも昔からのことだから、あたしは気にせず眠りについた。
…いや、つこうとした。
その声が聞こえるまでは寝る気マンマンだった。
『助けて』
「うわっ!!」
頭の中がキーンとハウリングを起こしたように痛む。
何だろう。凄く大きな声が聞こえて来て思わず姿勢を正す。
「ど、どうした小川っ」
ガラッと教室のドアが開き、先生が慌てたように顔を出す。
周りを見渡すと隣の教室の先生もこっちを見ていた。
(…しまった…)
さっきの大声で、思わず悲鳴をあげてしまっていたんだ。
- 15 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時19分26秒
- 「な、何でもないです…」
身ぶり手振りでゴキブリに驚いただけなんでー、
って、嘘を付いておいた。
先生たちが呆れたような表情で教室に戻って行くのを確認してから、
あたしはもう一度頭の方に集中する。
『助けて』
(…っ)
いきなり聞こえて来たその大きな声。
別に怒鳴ってるわけでもなさそうだ。ただ一言、つぶやいているだけ。
あたしの頭の中に響く心の声は普通の声とは当然異っていて、
音量が当人たちの意識によって左右される。
例えば凄くお腹がすいててもう死ぬぐらいの勢いだと、
すごく音量は大きくなるし、逆にどうでもいい一人言は
他の人達の声にかき消されるぐらい小さい。
だからこの彼女の声にはとても強い意識がこめられている。
心の底から、助けて欲しいって叫んでるんだ。
(…だからって…あたしがどうにかできることでもないし…)
意識がこもった大声なんて別に珍しくない。
だからいちいち1つずつ気に止めていても切りがないんだ。
- 16 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時20分16秒
- 「…ごめんなさいっ…」
小さくても、わざわざ口に出して謝ってしまったのは
本当にすまないと思っているから。
あたしはそのまま無情にもスイッチを切る。
カツカツとどこかのクラスから漏れてくるチョークの音。
騒がしい生徒たちの喧騒。それを静める先生の怒鳴り声。
窓の外には、どこへ向かうのか分からないヘリコプターが、
バリバリと音を鳴らしながらプロペラを回し飛んでいく。
やっぱり何だか変な感じだ。
普通の人にとってはこれでもうるさい方かも知れない空間が、
あたしにとってはやけに静かすぎて、逆に違和感を感じた。
誰かの声を聞いていなきゃ不安になってしまう。
(重傷だ)
そう思いながら壁に背中をくっつけ耳をすます。
いつも聞こえる心の声は、聞こえて当り前のもの。
その声が聞こえる時は特に何も感じないけれど、
聞こえなくなったら、そのありがたみがよくわかる。
空気みたいな存在と言う言葉があるけど、これは音そのもの。
なくなってしまったら、例えば、みんなの世界から音楽だけを
全部抜き取ってしまったのと多分大体同じこと。
- 17 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時25分02秒
- (…さっきの子、どうしたかな)
寂しさをまぎらわせるためにそんなことを考える。
あっちにはあたしが心の声を聞いていることや、
そのスイッチを切ってしまったことはわからない。
もしそれがバレてしまったら彼女はどう思うだろう。
勝手に一人言を聞いてしまった自分を怒るだろうか、
見捨てたといって、怒るだろうか。
どちらにしろ良い印象は持たれないんだろうな。
好きで聞いてるわけじゃない。
自然に聞こえてしまうんだから仕方ないんだ。
その声が例えばとても切羽詰まっていて、
本気で死ぬかも知れないぐらい追い詰められてて。
でもだから助けに行ったとしても、感謝はされないんだろう。
- 18 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月20日(木)20時26分45秒
- 誰もがあたしの存在を否定する。
そんなことあり得ないって鼻で笑い飛ばす。
別に慣れちゃったから、気にすることでもないんだけど。
遠くから授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。
うちのクラスはまだ先生の話が終わらないみたいで、
生徒たちのブーイングの嵐が、壁を抜けて耳元にまで届く。
今日はそれきり、助けを求めていたその声が聞こえて来ることは無かった。
- 19 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月20日(木)21時22分06秒
- あっ!更新されてる。
お待ちしてました〜!あの人だったんですね(w
あってたかもw でも内容からしてお互い…?
声の主も気になりますね、続き楽しみにしてます。
確かに授業中叫ぶと恥ずかしい(^^;←経験者w
- 20 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月25日(火)18時07分21秒
- 『…さん、寝て…』
『……顔も……かわい…』
『どうし……起こ…』
少しずつ白い光が見えてきた。
何だろう。その光の中に人影が写ってる。
頭の中に響いてくる心地良い声が子守唄みたいに、
あたしの意識をまた、底の方へ落ちるようゆっくり背中を押してるみたいだ。
だけどそこで負けられるもんかって。
無意味に反抗心がむくむくと膨らんで、無理やり、閉じそうな目をこじ開ける。
手で目を擦って、頭を少し振った。
「…あぇ?」
ちゃんとした言葉を発したつもりだったけれど、
それは自分のじゃないくらい寝ぼけてて間抜けな声になってる。
- 21 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月25日(火)18時07分59秒
- 何度も目を擦って周りを見回した。と言っても、
後頭部に何か当たってて上手く首を回すことはできない。
横を向くと頬に冷たい感触を感じた。リノリウムの床。床だ。
覚えてる最後の記憶は廊下。今いるここも廊下。
つまりあたしは廊下でずっと眠っていたということで。
「しまったっ!」
「きゃっ」
がばっと上半身を起こすと、顔を覗き込んでいたらしい人物が悲鳴をあげて
そのまま後ろへ尻餅をつく。
目の前で腰をさする彼女は何故かあたしの鞄を持っていた。
「ご、ごめん、大丈夫?」
「…い、いえ…」
ふるふると首を振って彼女が顔をあげる。
思わずその頬を突付いた。
「柔らかい」
「…え…」
見た目どおりその頬は柔らかかった。
ぷにぷにした感触に思わず笑顔を浮かべてしまうほど、気持ちがいい。
- 22 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月25日(火)18時08分38秒
- 「あの…」
「うん?」
にこっと笑顔で答えると彼女は何故か顔を赤らめた。
そこでやっと気づく。
この声は、あの子だ。
「その、掃除も終わってしまったので……」
「あ…そっか、うん。ありがと」
彼女は鞄を渡してくれた。
受け取りながら教室の中をさり気なく覗き込む。
カーテンを開け放った窓から、オレンジ色の夕陽が差し込む。
暗い部屋の中で茶色い机が光り輝いていて眩しかった。
もちろんその部屋の中には誰もいない。
「みんな酷いよね。あたしを置いて帰っちゃうなんて」
廊下掃除は一体どうしたのか。
隣のクラスの生徒とかからすれば、あたしは思いっきり変な人じゃないのか。
「一生懸命起こしてたんですけど…小川さん、起きないんで…」
「そっか。えーと…」
ちょうどいいきっかけだと思った。
やはり彼女は同じクラスらしい。今まで話したことがない、というか、
あんまり記憶にも残ってないぐらいの相手と今こうやって会話ができている。
- 23 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月25日(火)18時09分10秒
- スイッチを切ってもあたしの頭の中に響いてくるぐらいの、
何か強い意志を持った、彼女の心の声。
こうやって耳から頭の方へと声が伝わっていくとその良さがよくわかった。
小さくて細いその囁き声は、何だかゾクゾクさせる色っぽさを持ってそうで、
ただ単にボーっとしてるだけにも感じる。
「わ、わかりませんよね…あの、紺野、です」
「…ご、ごめん。あの、あたし記憶力ないからさー」
なんて、一応言い訳めいたことを言ってみるけど、彼女の表情は暗かった。
あたしってとことん最低だ。
「…えっと」
「………」
そして何も言えなくなって沈黙がその場を包む。
どうしようかと思案しているあたしに対して、
彼女こと紺野さんは何か考えているのかすらわからない。
スイッチは切っていたから、彼女の声が聞こえていなかった。
だけどだからといって今更スイッチを入れる気にもなれなかった。
- 24 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月25日(火)18時09分53秒
- 目の前にあの声の主が居るんだ。
わざわざ心の声まで聞くことなんてないよ。
「こ、これからあたし帰るけど…あの、紺野…さんも、一緒に帰る?」
「え…」
「あー!ええっと、その、嫌だったらもちろんいいんだけど!」
慌ててそう付け加えてみると、彼女はボーっとした顔をしながらも
勢いよく横へ頭を振ってくれる。そして彼女はぺこっと頭を下げて、
何だか他人行儀に『…お願いします』なんて言ってくれた。
「あはは、別にそんなお礼言うほどのことじゃないじゃん」
「…すみません」
「謝らなくていーって」
しょぼんと俯いてしまった彼女の姿が何だか無性に可愛く見えて、
あたしはそのまま、柔らかそうな髪の毛を撫でた。
子どもを褒めたり慰めたりする時みたいに、くしゃくしゃっ、と。
「…あ…」
「ん?ごめん、嫌だった?」
ヘアーが乱れるほど強く撫でたつもりは無かったんだけど。
そういう意味合いを込めて彼女の顔を覗き込むと、
顔を赤くしたまま、何でもないですって小さくつぶやいた。
そういうのが一番気になるのに。そう思いながらも、
彼女が早く帰りましょうって言うから、あたしは歩きだした。
- 25 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月25日(火)18時10分27秒
- 「………」
隣、というか斜め後ろに紺野さんが歩いてる。
特に話す話題も見付からないから沈黙がその場を包んでいた。
ただでさえ校舎の中には人がいない。外のグラウンドからは、
かろうじて部活か何かの活動で声を張りあげる生徒がいたみたいだけど。
「あのさー」
「は、はいっ」
何だか壁を感じた。
さっきまで知らなかったとは言え同じクラスメイトなんだし、
気楽に声をかけたつもりだったけど、彼女の反応はとても硬かった。
「…紺野さんの下の名前って、何だっけ?」
「え…あ、あさ美です」
「あさ美…そっか、あさ美ちゃんか」
できるだけ自然にそう呼んでみたけど、彼女は俯いてしまった。
やっぱりいきなり名前をちゃんづけするのはやばかっただろうか。
今まで名前も覚えなかったような奴に、呼ばれる筋合いは無いとか、
そんなことを考えていたりするんだろうか
そんなことを考えてビクビクおびえてるあたしへ
一度だけ視線を向けて、彼女はまた俯いた。
- 26 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月25日(火)18時13分35秒
- (…もしかして、照れて…る?)
その一度だけ、顔をあげた瞬間に赤くなっている頬が見えた。
恥ずかしがり屋なのかもしれない。さっき感じた壁と言うのは、
人見知りとかそういう類から出ていたんじゃないだろうか。
じゃあ別にあさ美ちゃんと呼ばれることに抵抗は無いのか確かめてみると、
彼女は俯いたままだけど、確かに一度だけ頷いてくれた。
よかった。嫌われてるわけじゃなさそうだ。
本気で安堵している間に、いつの間にか階段すら降り終わり、
玄関までやって来てしまっていた。
靴を履き変えながら彼女の靴箱をふと盗み見る。
あたしの名前は小川麻琴。彼女の名前は紺野あさ美。
うちのクラスはカ行で始まる名字の人がバカみたいに多く、
その上小川も3、4人集まっているような状況なので、
あさ美ちゃんの靴箱なんて全然遠く、隣の隣の列だった。
これじゃあたしがあさ美ちゃんのことを知らなくても仕方ない。
言い訳めいたことを言うつもりは無いけど、今まで出席番号順で
席は決められていたし、最初あさ美ちゃんと話す機会なんて、
あるはずもなかったわけで。
- 27 名前:voice1 LOUD-VOICE. 投稿日:2003年02月25日(火)18時14分21秒
- クラス替え、つまり学年が1つあがり、
ついに中3となったあたしたちは一度も近くの席にならず、
今という夏休み前を向かえてしまっている、と言うことなんだ。
一応あたしは色んな人と話すように心がけてはいた。
よく話す人が自分と気があっているのかと言うとそうではないし、
もしかしたら全然喋らないような相手が、自分に合うのかも知れない。
そう思ってできるだけ色んな人と話して、喋って、
気の合う相手を探していたんだ。
なのに紺野さんだけ話かけた記憶がないなんて。
(…見た目で判断してたのかな)
確かにこの鈍そうな雰囲気はあたしと合わない気はする。
だけど、こうやって言葉を交わしてみて分かった、
彼女は何だか今までの人間とは人味違うらしい。
「…あの、私、こっちなんで…」
「あ、そっか。うん。バイバイ」
校門の前で手を振って別れを告げる。
あたしなんかに向かってぺこりと丁寧に頭を下げた後、
背中を向けて去っていくあさ美ちゃん。
(…友達に、なれないかな)
いつの間にか心の中で、そんな思いが芽生えていた。
- 28 名前:名無し蒼 投稿日:2003年03月05日(水)22時32分03秒
- おっ!?更新されてたんですね〜^^
読んでると…紺野の方は知ってるんですかね?
どうなってくるのか楽しみです。
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月16日(日)00時59分04秒
- 待ってます
- 30 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月22日(土)21時37分24秒
- まだかな〜?
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月09日(水)14時41分07秒
- 続き楽しみにしてます
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月23日(水)16時59分41秒
- 保全
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月14日(水)11時13分58秒
- 保全
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月02日(月)10時51分59秒
- 保全
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月21日(月)10時55分35秒
- 続き待ってるよ
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)15時37分54秒
- 保全
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2003/12/03(水) 10:33
- 保全
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/26(月) 14:29
- 保全
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