2・14 その後に

1 名前:ヨード−ケッティ 投稿日:2003年02月18日(火)23時42分23秒
「!?」

体重計は予想外の数値を彼女に見せつけた
2 名前:ヨード−ケッティ 投稿日:2003年02月18日(火)23時43分29秒
おかしい
「最近何か変わったことはあったっけ」
記憶を一つ二つとさかのぼってゆく
特に変わったことはあっただろうか
考えても考えても答えは出ない
「ん?あれは、もしかしたらあれかな」
紺野はふとあるものを見つけた
3 名前:ヨード−ケッティ 投稿日:2003年02月19日(水)22時28分40秒
最近やたらにたまったポッキーについているモー娘。のシールだ

二月十四日 バレンタインデー
メンバーで少しやり取りするぐらいだった

問題はそのあとだ

行事の後には恒例のイベント商品の処分セール
帰り道コンビニの中のワゴンはチョコレートが山積みになっている

値段もさながら紺野はその魅惑の山に惹かれてしまった
「よしこれなら毎日一箱食べてもだいぶ持つ」
ワゴンの中身がそっくりそのまま部屋に移動したのを見て紺野はそう思った

4 名前:ヨード−ケッティ 投稿日:2003年02月19日(水)22時29分25秒
ところがなかなか意志は貫き通せない

箱は見る見るうちに姿を消し
箱の中身は胃の中に

「これは捨てたらまずいよね・・・」
メンバーのシールだけが箱に変わって積まれていた

「まずい、このままじゃまずい
 せっかくお正月の分を減らしたのに」

シールを手にとって見ると
あるものが目に飛び込んできた

あせる紺野 紺野あせる

5 名前:ヨード−ケッティ 投稿日:2003年02月20日(木)23時11分09秒
頭をかきむしったり と思ったら首を振ったり・・・
異様な行動は数分続いた

いろんな人の顔を浮かべる
誰か頼りになる人はいないだろうか

そして ふとあることを思い出した
「そうだ ダイエットはあの人に聞くべさあ」

明くる日 テレビの収録が終わったあとで
紺野は一直線にあの人を探した 

見つかった

6 名前:ヨード−ケッティ 投稿日:2003年02月20日(木)23時11分54秒
「安倍さん!」

安倍は飯田とロビーにいた

「どうした?紺野」

決して悪気はなかった
紺野は真剣だった

「安部さんの奇跡のダイエット方法教えてください!」

飯田は飲んでいたお茶を少し吹きだした
安倍もその話題を振られるとは思っていなかった

しかし紺野は真剣だった

7 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月21日(金)23時56分15秒
「このままじゃあ・・・私・・・」
その顔は悲壮感に満ちていた

その顔を見て一度はどうしてくれようかと思った安倍も
 紺野の真剣さが伝わった のだろうか?

「じゃあ紺野 カオリと今から食事に行くんだけど
 紺野もくる?せっかくだからさあ」

道産子三人衆はテレビ局を後にした

頼れるであろう先輩ふたりを前にして
紺野はいずれ来る明るい未来を想像しながらうっすらと笑みを浮かべていた

8 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月21日(金)23時56分36秒
三人は焼肉屋にいた

「本当にこれでいいのだろうか」
紺野は不安に感じた

そんな紺野をよそに網の上は何度も更新が行われていた

そして安倍は先輩の優しさからか
「はい、紺野これ食べごろだよ」
紺野の皿の上も休まることはなかった

とはいえ食べることはなんともいえない幸せである

気付いたときには紺野はいつも以上の量の食料を
 胃の中に収めていた  
9 名前:NO−NO− 投稿日:2003年02月22日(土)23時06分52秒
ここは、、、

書き込んでいいのやら?

毎日更新ですかな?

紺野はすきなんで期待
sage
10 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月22日(土)23時57分10秒
>9 NO−NO−さん
ありがとうございます 
できるだけ毎日忘れないように
更新していくつもりです

読んでいかれた方
ぜひ何でも書き込んでください
11 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月23日(日)00時01分53秒
「あっ、やっぱり食べ過ぎたかあ・・・」

体重計は昨日よりも大きな数値をいたずらに示した
でも今日は原因がつかめている
焼肉の食べすぎだ

しかもあの後デザートまでおごってもらった

ちょっと不安の紺野

「でも安部さんには安部さんのやり方があるんだ
 うん、大丈夫、大丈夫」

・・・大丈夫か?
12 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月23日(日)00時03分21秒
うって変わってこちらは安倍の家
安倍は今日の出来事がちょっとうれしかった

やっぱり私はお手本になるくらい生まれ変わったのだ

そして紺野を見る目が大きく変わりそうだ

同郷の彼女は私の妹的存在
私を実の姉のように頼ってくれた

安倍の母性本能に火がついた

火の元は 紺野あさ美

13 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月23日(日)00時04分26秒
>11 ×安部 ○安倍でしたね
失礼しました 
14 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月23日(日)20時23分02秒
「紺野、これ一緒に食べない?」
「あ、ぜひ」

「紺野、一緒にご飯食べに行こ、おごるからさ」
「いいんですか?ありがとうございます」

こんな日が何日か続いた

とはいっても先輩のおごりで目一杯食べるのもずうずうしい
でも、それで気がすむ紺野、そして紺野の胃ではない
安倍と別れた後もどこかしらでなにかを食べた

果たして安倍なつみの奇跡のダイエット法とは・・・

15 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月23日(日)23時44分30秒
安倍に弟子入りした日から1週間が過ぎた

紺野のおなかまわりは、若干ではあるが

立派になっていた

今日も安倍と食事をしてきた
しかも今日は食べ放題の店

本当にこれでいいのだろうか
紺野もやっと心配になってきた

「今日はもう食べないほうがいいよね」

鉄人紺野の連続おやつ摂取記録が
この夜 途絶えた

16 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月24日(月)22時04分34秒
紺野はショックを受けた

「あさ美ちゃん、最近、ちょっと・・・
 いやなんでもないや、ごめんね」

小川真琴だった

何が言いたいかははっきりとわかった

  ショックだ
 大ショックだ

「いたいた、紺野ぉー、今日はさあ」
「ごめんなさい、今日はちょっと用があって」

のんきに食べている場合ではない
紺野は急いで家に向かった

そして・・・

17 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月24日(月)22時22分29秒
紺野はポッキーのモー娘。シールから
 「吉澤ひとみ」のものだけを取り出した

惜しげもなくはがして貼り始めた
財布にも、冷蔵庫にも、携帯にも、etc、etc・・・

決して悪気はなかった
紺野は真剣だった

真剣で許されるのだろうか?

もしかしたら『ダイエット中』なんて紙を
 同じところに貼るよりも効果は大きいかもしれない

紺野流のやせる方法である
18 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月25日(火)22時48分01秒
それからというもの

何かを買って食べようとすれば「吉澤ひとみ」

帰って冷蔵庫を開けようとすれば「吉澤ひとみ」

紺野がちょっと気を許そうとすれば
 吉澤の笑顔が飛び込んでくる

「ダメだ!ダメだ!、私はやせるんだ!」
自分の意志を再確認する

先輩メンバーの顔を見て

19 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月25日(火)22時49分09秒
今日も紺野は安倍の誘いを断った
スケジュールの書いてある手帳にも
 「吉澤ひとみ」は微笑んでいた

最近は夢にも出てくるようになった

安倍は仕方がないので、また飯田と食事に出かけた
飯田、紺野のダイエット計画を知る唯一の第三者である
「なっち、どう?紺野のダイエット 上手くいってるみたい?」

すると意外な答えが返ってきた
「へえ、紺野ダイエットしてるの」
「ええっ?だって紺野この間なっちに相談しにきたじゃん」

「ああ、そうだっけ、すっかり忘れてた」

「・・・」

「・・・あ゛あ゛ー、しまったあー」
「ど、どうしたなっち」
「・・・食べ方題の店に連れてっちゃった・・・」
20 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月26日(水)23時09分42秒
安倍は今度こそ真剣に紺野のダイエット計画を考え出した

明くる日安倍は自分の考えた計画の旨を伝えようとした



一度引き受けたのを忘れた上にがばがば食べさせて
 しまった自分に責任を感じてどうも紺野に近寄れない

一方の紺野は実は「吉澤計画」が順調に進み
 元の体重に戻りつつあった

とはいえ、無理なダイエット方法に若干のストレスを感じて
 ちょっと不機嫌そうな顔をしていた

食べ物すべてに吉澤が取りついて見えるようになってきたからだ
21 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月26日(水)23時10分22秒
タイミングをはかろうと安倍は紺野を眺め続けていた
そのとき紺野が振り向き、目が合ってしまった

「どうかしましたか?」
「イ、イやなんでもないよ」

紺野は黙ってうつむいた

安倍はもう一度タイミングをはかる
そして再び・・・

ところが今度は紺野のほうがヘンだなあという顔をして
 またうつむいた

安倍の背中に冷たいものが走った

道産娘。崩壊!?

22 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月27日(木)10時08分47秒
紺野よ、ここらで氏(デブ)の螺旋を断ち切るのじゃ!
よっすぃーも・・頼むから天才的なあの頃を思い出し(ry
23 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年02月27日(木)21時10分53秒
そして、時は3月14日を向かえた
24 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月04日(火)14時12分20秒
紺ちゃんがんがるんじゃ!
25 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月06日(木)09時27分44秒
楽しんで読ませてもらってますがひとつだけ苦言を。
句読点の打ち方を修正していただきたい。
地の文で(、。)を打たないのはなぜですか?
特に、(、)代わりのスペースは見難いです。
地の文では確実に(、。)を打ってください。
せっかくの文章が読みにくくなってしまっています。
もし、意図的な狙いであったならばすいません。
26 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年03月09日(日)23時59分19秒
>25
ご忠告ありがとうございます。
最初に打っちゃったから統一したほうがいいかなと思ったんですけど
次からは句読点入れていきます
27 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年03月13日(木)21時34分31秒
「あさ美ちゃん、バレンタインのお返し
 干し芋一緒に食べよ」
紺野も小川も待っていたホワイトデー。

もしかしたら、紺野のダイエットは、
この日のためにあったのかもしれない。

そんな紺野にさらにうれしいプレゼントが。
「あさ美ちゃん、最近やせたよね」

「そ、そう?そう見える?」
「う、うん・・・」
興奮気味に聞き返す紺野。

思えばここ二週間ほど、
せまる食欲に耐え、
「吉澤」シールを見た石川にやな顔をされ、
おいしそうにお菓子を食べまくる辻を見て、
 おもわず拳を震わしてしまった
   日々

紺野は久しぶりの至福の時をすごしていた。

その様子を物陰から見る、
 人影が・・・

28 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年03月13日(木)21時38分18秒
干し芋をほおばりながら紺野は思った。
もしかしたらこれが安倍さん流のダイエット法だったのかなあ。

わざと人にいっぱい食べさせる。

そしてその人にやる気を起こさせる。

自分からやせようとするから意志が固くなる。

素晴らしい、やっぱり安倍さんに聞いて良かった。
知らぬが仏とはまさにこのこと。
29 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年03月14日(金)20時16分59秒
自然にほころぶ紺野の笑顔を、
物陰から見ていたのは安倍なつみ。

(成功したみたい。とりあえず確認してみよう・・・)

しかしそれより先に、またある人物が紺野に近づいてゆく。

30 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年03月29日(土)20時23分55秒
「紺野、いいものあげる」
「げっ、吉澤さん・・・」
「ん、今『げっ』って言わなかった?」
『イ、イやそんなことないですよ」
「フーン、まあいいや、」

そして吉澤も紺野に干し芋を渡した。
「?????」
「遠慮すんなよ、今日はホワイトデーなんだし」

そして紺野に押しつけた後、去り際に
「いやあ、モテル女はつらいなあ」

ここにも勘違いしている人物。
バレンタインに渡したわけでもないのになぜ?と
 紺野は不思議そうな顔をしていた。

その顔が徐々に青ざめていったのはその直後だった。
31 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年03月29日(土)20時24分24秒
「紺野、いいものあげる」
「げっ、吉澤さん・・・」
「ん、今『げっ』って言わなかった?」
『イ、イやそんなことないですよ」
「フーン、まあいいや、」

そして吉澤も紺野に干し芋を渡した。
「?????」
「遠慮すんなよ、今日はホワイトデーなんだし」

そして紺野に押しつけた後、去り際に
「いやあ、モテル女はつらいなあ」

ここにも勘違いしている人物。
バレンタインに渡したわけでもないのになぜ?と
 紺野は不思議そうな顔をしていた。

その顔が徐々に青ざめていったのはその直後だった。
32 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年03月29日(土)20時26分43秒
いけないっ 二重投稿してしまった
33 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年03月29日(土)20時27分18秒
大好物の干し芋、
のはずなのに・・・。

だめだ!
私には吉澤さんにしか見えない!

この日までの後遺症が突如響いた。
干し芋を持つ紺野の手がブルブル震えだす。

ドサッ

抱えていた干し芋の袋をテーブルの上に落とし、
 紺野は頭をかかえた。
「大丈夫!?あさ美ちゃん」

小川は部屋を出て誰かに助けを求めに行った。
34 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月13日(日)02時14分34秒
ガチャッ

「紺野?」
部屋に入ってきたのは安倍だった。
しかも運の悪いことに、

安倍が最後に見た紺野は、
 小川と一緒に干し芋を食べる満面の笑みの紺野だった。

当然その後の悲劇を見ていない。

「紺野、どうだった?ダイエットは成功したみたいだね」
紺野の脳裏に、あの「吉澤シール」を
 見続けた日々の記憶がよみがえる。

紺野はゆっくり安倍を見た。
その顔には、なにか、
 
殺意に似た目つきがあった・・・。
35 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月13日(日)02時15分44秒
後ずさりをする安倍。
立ち上がり、ゆっくり安倍に近づく紺野。

そのとき小川が部屋に帰ってきた。
飯田を連れて、

安倍が紺野の相談を忘れていたことを知っている。
 唯一の人物、飯田を連れて、

二人は言葉を失い、
 その場に立ち尽くした。


誰かが話す声が聞こえる。
それは果てしなく遠い場所から聞こえているようで。


四人のいる空間は静まり返っていた。


一体誰が最初に動くのだろうか?

〜〜〜FIN〜〜〜
36 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月10日(土)21時52分49秒
37 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時03分20秒
  古代中国のとある地方に、一人の女性がいた。
彼女は名を「小麻琴」という。
彼女の家、小家は大金持ちであった。
そんな彼女でも、いや、どんな大金持ちでも権力者でも、
願っても叶わないことがある。
怪我や病気で苦しむこと。
そして死ぬことである。
38 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時04分07秒
 この家には、麻琴と同じ年の侍女がいた。
彼女の名を「紺あさ美」という。(『あさ』の字は不明)
彼女は六年前にこの家に奉公した。
小家の紋章の入った中華服で、
 どんな仕事もそつなくこなすあさ美は麻琴一番のお気に入りだった。
そしてあさ美は二年後、麻琴直々の侍女になる。
今日もまた、麻琴は朝美に相談をもちかけた。
39 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時04分28秒
「ねえ、あさ美?どうして人は死ぬのかなあ。」
「さあ、そういう運命なのでしょう、この世界で生を受けたものの。」
「やだなあ、死にたくないなあ。
 ずーっと、ずーっとこうしてあさ美と過ごしていたいのになあ。」
「私もできるだけお嬢様のおそばで過ごしたく存じます。」
「ハアッ・・・」
大きな椅子にもたれかかって麻琴は一つため息をついた。
40 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時05分02秒
「お嬢様、こんな噂をご存知でしょうか。」
この日は珍しくあさ美が話を持ちかけた。
「ここから西へ約六千里ほど行くと、保圭省という小さな自治区があるそうです。」
「保圭省?聞いたこともないなあ。」
「その土地には不苦伝説というものがありまして・・・。」
「フク?なにそれ。」
「『苦しまず』という意味にございます。」
「ヘー・・・。」
麻琴は昨日の話をすっかり忘れていた。
あさ美は昨日の話を真剣に受け止め、
 麻琴が寝たのを見届けてから夜を徹して調べ上げていた。
41 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時05分32秒
「じゃあその伝説を教えて。」
「えっ?いや、私が知っているのはそこまででして・・・。」
「じゃあ調べさせよう。」
「かしこまりました。早速行かせていただきます。」
立ち去ろうとするあさ美。
「あっ、ちょっ、ちょっと待って!あさ美はここにいて!」
かくして、小家の使用人百人は、保圭省へ旅立った。
42 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時06分05秒
小家は百人の使用人を失い、手の足りない状態だった。
新しく使用人を百人雇うことになったが、
 当然初心者に何から何まで仕事をさせるのは無理だ。
当然監督がつくことになる。
六年間奉公を続けているあさ美もその一人となった。
麻琴から離れ、新入り女性たちに仕事を教える日々が続いた。

43 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時06分54秒
あさ美に会えず、日に日に麻琴は不機嫌になってゆく。
44 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時07分25秒
さらに、百日がたった。
あさ美も監督業を解任され、明日麻琴の元へと帰れそうであった。
その日、百人の使用人はその数をだいぶ減らし、しかも不苦伝説を手に入れ帰って来た。
保圭省に行くまではそれほど大変ではなかったが、着いてからが大変だったらしい。
「ケメ子の呪い」によって、美男美女の使用人はことごとく息絶え、
 その他のものは、伝説をやっとの思いで仕入れ、一目散に逃げ帰ってきた。
45 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時07分51秒
「イモリの干したもの、亀の甲、ナツメヤシの葉の三つを粉にし、清酒に混ぜる。
これに、炙った自分の髪の毛を入れ、一時間暗闇に置く。
これに誰かの髪の毛を二本結んでひたすと、炙った髪の毛の主が受ける苦しみは
一月の間、結んだ髪の毛の主が取って代わる。」
不苦までではないがほぼ永久的に苦しみから逃れることができる。
46 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時08分34秒
「誰にしよう・・・。」
「そうだ。あさ美に決めてもらおう。
 あさ美!あさ・・・そうか今日もいないのか。」
麻琴は悩んだ。
しかし、今まであまり悩んだことのない麻琴は
珍しく頭をフル回転させたため頭が痛くなってきた。
クラクラっとした所でふと見ると、髪の毛が二本落ちていた。
「誰のだろう、ま、いいか。
 これで試してみよう。」
頭を押さえながら、その髪の毛を結び、例の液体にひたす。
そのとたん、痛みはあっという間に引いていった。

47 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時09分00秒
次の日、いつ以来になるだろうか、あさ美が麻琴の所へ帰って来た。
嬉しさのあまり抱きつく麻琴。
しかし、あさ美は昨日からの頭痛でどうも体調が優れない。
とはいえ、あさ美も麻琴に会うことがとても嬉しかった。

48 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時09分24秒
天井で、何かが光った・・・
49 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時09分51秒
間一髪、あさ美の気付くのが早かった。
すばやく麻琴とともに刃を避け、すぐさま構えた。
50 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時10分12秒
奉公初日、この家に入った泥棒を得意の空手で捕まえたその日が
麻琴とあさ美の初対面の日だった。
麻琴はあさ美の強さを良く知っている。
あっという間に犯人を追い詰めた。
麻琴は部屋の隅の大きなつぼの陰からその様子を見ていた。
51 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時10分35秒
その時あさ美の膝が崩れた。
犯人はこのときとばかりに逃げ出した。
52 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時11分02秒
麻琴があさ美の元へ駆け寄る。
すごい熱・・・。
あさ美は、半分気を失った状態で犯人を追い詰めていた。
あさ美を抱きかかえる麻琴。
その髪の毛には妙な感触が。
53 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時11分30秒
苦しみ、
苦しみ、
そして明くる日、
満月が山際に消える頃
あさ美は死んだ。
54 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時11分59秒
その顔は、苦しみきった、最後の笑顔。
観音様のようだったという。
55 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時12分31秒
麻琴は、その手に髪の毛の感触を残しながら、
しかし、あさ美が死んだことが何一つ苦ではなかった。

56 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時12分57秒
あさ美がいなくなって、早何日。
侍女はいくらでもいる。
不自由はない。
そんなある日、麻琴は、ふと月を見上げた。
満月に近い大きな月が目に飛び込んできた。
57 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時13分27秒
いつのまにか右手に何かを持っている。
結ばれた二本の髪の毛・・・。
58 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時13分49秒
「そういえば、あの部屋に入ってた人間、私とあさ美のほかにいたっけ。」
何かあれば、あさ美が連絡を届けにきていた。
父も母もこの部屋に入ったことはない。
もう一度手のひらを見る。
もしかして、あの髪の毛は・・・
59 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時14分16秒
月がてっぺんに昇る。
60 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時14分40秒
小家の屋敷から、声にならない叫びをあげ、麻琴がどこかへ走ってゆく。
不苦伝説を試した日からちょうど一月が経った瞬間だった。

61 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時15分52秒
中国の人里はなれた山奥に、二千年以上生きた老婆がいるという話を聞いた。
その老婆は満月の夜ごとに、苦しみからのうめき声をあげるらしい。
62 名前:「不死の方法」 投稿日:2003年05月11日(日)00時16分20秒
その老婆は、あさ美に死の苦しみを譲り、そのあさ美の美しい死に顔を見、
自分は死ぬことを許されずに二千年間、後悔に苦しみ続ける麻琴なのか。
もしもそうならば、不苦伝説は麻琴に永遠の苦を与えたことになる。
     
63 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時15分17秒
世界的ピアニスト、小川麻琴。

この日は彼女の結婚が決まってから最初の、日本でのコンサートだった。
雪にもかかわらず、多くのファンがホールを埋めた。
人々の注目は、彼女の神のような指使いはもちろん、
初めて披露する指輪にもあった。
64 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月09日(土)03時15分59秒
広いホールである。
左端から登場した彼女の指は、
遠くからはなかなか分からない。

前列の数名がきづくのがやっとだった。

彼女が左手の中指に指輪をしていることを。

65 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時16分27秒
記者会見で、彼女は、相変わらず中指に指輪をはめていた。
「何か理由があるのですか。」

「・・・、私にとって、薬指は、命に等しいのです。
 できるだけ痛めたくないので。」

とっさの嘘であったが、記者達はみな、「世界の小川」の言葉になるほどと納得していた。

66 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時16分48秒
ピアニストにとって薬指が命ならば、残りの全ての指も命である。

そして、指がピアニストにとって命ならば、
 
 彼女は一度死んでいる。

67 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時17分19秒
あさ美はいつも遠くで見ているだけだった。

麻琴は、その名は高校の校内にしか響いていなかったが、
彼女の指の動き、そして彼女の容姿にあこがれる生徒が、
いつも昼休みに音楽室で練習をする麻琴を取り囲んでいた。

あさ美も、一度でいいから、麻琴に近づきたかった。
けれども、その人気に圧倒され、生徒の輪にも近づくことが出来ない。
隅のほうで、ちらちらと見える麻琴の姿、そして人を惹きつけるピアノの音を楽しむことで、
満足だと思い込んでいた。

68 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時17分50秒
麻琴が音楽室を出ると、残りの二、三分の休み時間、ピアノは用無しになる。
無人の音楽室で、ピアノの前に立つあさ美。
ピアノは弾けない。

それだけに、この二色だけの鍵盤を自由に操る麻琴を単純に、
そして心からすごいと思っていた。

69 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時18分21秒
人差し指を、真ん中にある白い板に押し付けようとする。
そのとき、目の前に譜面が一枚残っていることに気がついた。
まるで外国語でも書いてあるかのようなその紙を手に取ろうとする。

70 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時18分52秒
廊下を小走りする音がした。

直感と言うしかない。
あさ美は自らの姿を、部屋の角にあるオルガンの裏に隠した。

71 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時19分33秒
やはり、麻琴が譜面を取りに来たのだ。
ピアノに触ることすらほとんどないあさ美は、
神聖なものに勝手に触ろうとした自分をおそらく麻琴は嫌うだろうと考えた。
怒るだろうと考えた。

彼女は特別な存在のような気がしてならない。

なんて自分は悲観的なんだろう。
一筋の涙がこぼれたとき、麻琴もこの部屋を出て行った。
今度は、隠れずその場にいれば、話すことぐらいできたのに、と後悔していた。

72 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時20分21秒
相変わらずあさ美は麻琴を眺めていた。
噂が噂を呼んでいるせいか、ギャラリーは自然と多くなっていった。
あさ美と麻琴の壁は日に日に厚さを増してゆく。
話す機会など、二度とないと思った。

73 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時20分54秒
ある日、あさ美がデパートの本屋にいると、そのフロアに麻琴が入ってきた。
楽譜集を探しているらしい。

これは、きっと、チャンスだ。
これを逃してしまったら、もう話す機会なんて無い。

一歩一歩確認するように、あさ美は足を進めるが、

買う本を決めた麻琴はすぐにレジのほうへ向かってしまった。

目の前を通り過ぎる麻琴を見て、
だが、ついにあさ美は声がでなかった。

74 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時21分34秒
ボーっとレジのほうを見ていると、女神はあさ美に微笑んだ。

たまたま、麻琴が落とした小銭を拾う時、あさ美に気付いたのだ。

さらに、奇跡は起きていた。
目立たぬようにと部屋の隅にいたあさ美は、逆に気付かれる存在。
麻琴は当然のようにあさ美の事を知っていた。

微笑みながら、あさ美に話し掛ける麻琴。
憧れの麻琴を前に、ほとんど固まっているあさ美。
何を聞いても、答えに詰まってしまう。
今まで、むやみに自分の周りを取り巻いていた人間とは違う、
麻琴は、そんなあさ美に、苛立つどころか気に入ってしまった。

75 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時22分18秒
二人はそのまま楽器関係のフロアに向かった。

あさ美の緊張も少し解けてきた。
とは言っても、先ほどの状態から笑みが加わっただけだけれども。

正面に展示してあるエレクトーンの横を通り、
二人は、一つのグランドピアノの前に立った。

76 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時22分49秒
「いつか、世界一のピアニストになりたいんだ。」
井の中の蛙になりたくない。
そんな考えから、いくら校内でちやほやされても決して口にしなかった夢を、
麻琴は初めて語った。

あまりのスケールの大きさに、
きょとんとしているあさ美を見て思わず吹き出してしまう。
「まあ、そこまでの道は果てしなく遠いけれどね。
 ただ、いつまでもピアノを弾いていたいんだ。」

少し遠くを見ている麻琴を見て、
あさ美は今度は微笑んだ。
77 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時23分11秒
それは突然やってきた。
78 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時23分36秒
『うわっ!』
突然、二人は尻もちをついた。
いや、違う、周りが、周りが全て揺れている・・・。
一生に一度味わうか否かの大きな地震だ。

麻琴はあさ美にしがみついた。
周りからは悲鳴が聞こえる。
あさ美は何とか冷静さを保っていた。
周りの音は轟音と言うべきだった。

立つことは無理である。

79 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時23分59秒
そのとき、

何かは覚えていない。

何か大きなものが、麻琴めがけて倒れてきた。

あさ美は慌てて麻琴を抱きしめたまま飛びのこうとした。

間一髪、あさ美の長い髪をかすり、轟音を消しそうな派手な音を立てた。

「うっ・・・」

あさ美の耳にうめき声が聞こえた。

80 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時24分23秒
揺れはおさまった。
釣り看板はまだ大きく揺れている。
いろいろな場所から、泣き声がする。

麻琴はあさ美に抱きついた。
「い、いたっ」
と麻琴が言葉にした直後、

「ゆ、指が、指、が・・・」

消え入るような声を最後に、麻琴は気を失った。
あさ美は麻琴の左手を見る。あの倒れてきたものに挟まれ、
薬指は青くなっていた。
81 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時24分45秒
あさ美は麻琴を抱え、近くの、叔父のいる病院に行った。

「・・・」
あさ美は絶句した。
麻琴の指は、切断するしかないと言うのだ。

もう、あの演奏を聞くことが出来ない。
思えば、麻琴も、そのショックで気を失ったのだ。

「いつか、世界一のピアニストになりたいんだ。」

この言葉が
 
 頭に響く。
82 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時25分13秒
「叔父さん。
 私の、私の薬指を、使えませんか!?」

あさ美の叔父は、いまだかつて、こんな大きなあさ美の声は聞いたことが無かった。

「私の指を、使ってください。」

もちろんすぐには承諾されなかった。
が、あさ美の意志は変わらなかった。

最後にあさ美の叔父は聞いた。
「本当にいいんだね。」

コクンとうなずき、あさ美は目を閉じた。

最初で最後のあさ美の勇気だった。
83 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時25分53秒
一週間ほどたって、麻琴は目を覚ました。
その左手には、他の指より少し白い薬指が、
窓からの光のせいで輝いていた。

その日以来、麻琴は、あの薬指の提供者に出会うことはなかった。
学校も知らぬ間にやめてしまっていた。

彼女は幻のような存在だった。
いや、幻だったのか?
あの出来事も、あの人の存在も・・・

そう考えるたびに、麻琴は自分の左手を見た。

幻じゃないんだな。
84 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時26分35秒
唯一、自分の夢を知っている彼女のために、
麻琴は猛烈に練習した。
リハビリに始まり、
時間があれば、机をも鍵盤にした。

大成するまでに時間がかかったが、
ついにピアニストといえば「小川麻琴」と言われるまでになった。

神の左手、黄金の指。
85 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時27分02秒
この薬指は私じゃない。

この指に私の指輪をすることは、彼女に対して失礼だ。

この話は婚約者にもしていない。
説得するのは大変だった。

本当の理由を知っているのは、おそらくこの世に私を除いて二人だけだろう。

86 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時27分39秒
彼女はいったいどこにいるのか。

これは麻琴の生涯の謎だった。
礼を尽くしても尽くし切れない。

私を生き返らせてくれた彼女。
いつものコンサートのようにそんなことを考えながら、
観客席に向かってお辞儀をした。

最後の挨拶を前に、舞台の脇に麻琴は退いた。
87 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月09日(土)03時28分28秒
全ての観衆が挨拶を待つ中、
ただ一人、挨拶を聞かずにコンサートホールを出た女性がいた・・・

まだ、外は雪がしんしんと降っている・・・

手袋をはずす・・・
じっと両手を見て・・・
白い息を吹きかける・・・

そして彼女は雪の中に消えていった・・・
88 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)01時14分44秒
ちょっと泣きそうでした。
89 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月10日(日)03時44分05秒
>88さん
感想ありがとうございます。
ネタバレほどではありませんが、HPにこの作品について少し書いてあります。
そちらもぜひご覧ください。
90 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月29日(金)01時10分44秒
更新予定が無いので完結という形にさせていただきました。
レスを下さった方々、本当にありがとうございました。
91 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)21時24分29秒
 
92 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月03日(水)16時49分54秒
93 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年09月03日(水)21時00分48秒
もう終了届を出したので、ほかの作者さんや読者さんにも迷惑がかかるでしょうから
ageないでください。

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