オリジナルスマイル

1 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年02月26日(水)00時13分07秒
緑でも「あやみき」書いてました。
こちらでは同じ「藤本×松浦」でも、学園モノのアンリアルを書きたいと思います。
他にもちょこちょこ出ますが、主人公はこのふたりで。
アンリアルなので、設定は現実とかなり違います、ご了承ください。

例のごとく見切り発車ですが、
今回は、本当に、更新はものすごく遅いと思います。
(週イチを目指しますけども、公約はできません…)
更新のたびにageますので、レスはsageで、お願いいたします。
2 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時15分46秒
◇◇◇


彼女に出会うまで、平凡だけどそれなりに幸せな人生だった。

けれど、彼女との出会いはその平凡さを気付かせた。

彼女を知らずにいた以前の自分はなんて幸せで、
そして、なんて不幸な人間だったんだろう、と。


◇◇◇
3 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時16分37秒
散り急いでいくように、桜の花びらが、ふわり、と春の風に靡かれて舞う朝。

欠伸を噛み殺した美貴の視界に、その無邪気な笑顔と声は不意に飛び込んできた。

新入生入場を待つ講堂のそばに立っていた美貴は、
たった2つしか変わらないはずなのに、まだまだ表情に幼さを残す下級生の中に、
一際、周囲よりもよりもきゃあきゃあといった嬌声ではしゃいでいる少女を見る。

「…そこ、静かにしなよー」

クラスメートや友人からは、
無表情の自分がいかにキツイイメージなのかをさんざん聞かされているので、
出来るだけ表情をやわらげて言ってみる。

笑うとそうでもない、とも言われているが、無意味に笑顔を見せるのはどうも気が乗らない。

美貴が今この場所にいること自体クラスメートたちの少なからずの陰謀なので、
気分は滅入る一方だったのだ。
4 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時17分32秒
そろそろ3月になろうかという肌寒い2月の朝、
ちょっとしたサボり癖が出て、美貴はその日の学校を休んだ。

エスカレーター式の女子高のため、
なんの心配もなく3年生になれるはずなので、遅刻や欠席はさほど進級に響かない。

勿論、度を越せば落第も有り得るけれど、
校則もそんなには厳しくないため、3月になるとそういった同志が増える。

そうすると逆に目をつけられてしまうので、
何か目的があったワケではないけれど、
今のうちに休んでおこう、というのが理由のひとつだった。

しかし、その日に入学式での役割分担が決定すると知っていれば、
美貴だって絶対に休まなかった。
5 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時18分36秒
結局、
新入生を教室から入学式典の行われる講堂へと誘導する係に割り振られてしまったのだが、
いくら春先と言っても早朝は寒い。

更に新入生は期待と不安とでいっぱいになっているので、
そういう点も気に留めてやらなければならない。

つまり、皆が尻込みする役割を押し付けられてしまったのである。

無論、クラスメートに他意はなく、
美貴なら文句を言いながらもやり遂げてくれるといった、
好意的な信頼のほうが本来の理由として成り立つのだけれど。
6 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時19分47秒
「すいません」

美貴の注意に、ぺこり、と頭を下げた新入生。

ぱち、と何とはなしに目が合って、その瞳の威力に美貴は思わず顎を引いてしまう。

どこかで見たような感じが美貴の脳裏を過ぎったけれど、
記憶の断片にすら引っ掛からなかったので、あまり気にもせずに、
美貴は溜め息と一緒に視線を外した。
7 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時20分23秒
すう、と冷たい風が吹き、スカートを靡かせる。

寒さが苦手な美貴は、両手を擦り合わせながら指に息を吹きかけた。

吐き出した息は、まだ少し白さを残している。

入口には教職員が立っている講堂。
その扉の隙間から漏れてくる話し声で、そろそろ入学式が始まる様子が窺えた。

「…あのぅ」

講堂に意識を向けていた美貴は、
唐突に自身のすぐそばで声がしたことに驚いて慌てて振り向いた。

「は、はいっ?」

年下だと知ってるのに、思わず敬語で返してしまったくらい。
8 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時21分14秒
「………これ、よかったら」

さっき美貴が注意した少女だった。

おずおず、というより、かなり強引な雰囲気で美貴に何かを差し出す。

「…なに?」
「カイロです。あったかいですよ」

にこっ、と微笑んで、美貴の手にそのカイロを握らせた。

「先輩、なんか、すごい寒そうだったから」

笑顔とともに発せられた言葉は、少し美貴の気持ちを逆撫でた。
9 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時22分05秒
「…ありがと」

けれど、差し出された好意はむしろ嬉しかったので、
何も言い返すことはせずに素直に受け取ってみる。

確かに、今さっきまで彼女のカラダを暖めていたのだろう、
かじかむ指先にその温度は心地好かった。

「…先輩、鼻まで真っ赤ですよ?」

下級生なのに、目線がほぼ同じなのがなんとなく気に食わない。

ふふっ、と笑った少女は客観的に見てもとても可愛いかったけれど、
それ以上の興味はそのときの美貴には湧かなかった。
10 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時22分56秒
「…先輩、名前、なんて言うんですか?」

入学式を目前にして、緊張はないのだろうか。

ふと、美貴の頭にそんな疑問が浮かぶ。

呑気に先輩の名前を聞いてくるなんて、意外と大物なのかも知れない。

いや、ただ単に無神経なのか。

「藤本…、だけど?」
「下の名前は?」
「なんで?」

当然の疑問、というより、
少女の人懐っこさが美貴に戸惑いを生ませ、そんな風に切り返してしまう。

馴れ馴れしい、と言ってしまえば済むことかも知れないが、
その言葉はむしろ否定的な語感があるので違う感じがした。
11 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年02月26日(水)00時23分41秒
答えてしまうのは容易かったけれど、
少女の笑顔が妙な引っ掛かりを美貴の胸に植え付けたせいもある。

「…この学校に入って初めて喋った先輩の名前、覚えておこうと思って」

何かもっと別の理由があるような気もしたけれど、美貴を見つめる少女の笑顔が警戒を薄らげる。

少し笑顔を曇らせてしまった相手に、美貴は細く息を吐き出した。

「……美貴。藤本美貴だよ。アンタは?」
「え?」
「こっちの名前だけ聞くの、ずるいよ、アンタの名前も教えてよ」

すると少女はそれまでの微笑みを更に際立てるかのように、ますます嬉しそうに笑った。

「松浦亜弥です!」

跳ねるような勢いと嬉しそうな笑顔は、自然と美貴の口元を綻ばせた。
12 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年02月26日(水)00時25分23秒



とりあえず、ここまでです。
次回更新は早くても来週になると思いますが、よろしく、お付き合いお願いいたします。
13 名前:チップ 投稿日:2003年02月26日(水)02時22分02秒
わーいミキアヤ新作バンザーイ。
すっかりファンです。これからも食いついていきます。
頑張ってくらさい。
14 名前:名無し蒼 投稿日:2003年02月26日(水)04時58分02秒
新作キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
新スレおめでとうございます。
今度は学園ものですか〜。楽しみです!今度もついてきます〜w
末永くよろしくお願いします(笑)
15 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月02日(日)10時28分34秒
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
嬉しすぎです。待ってました…ハァハァ
これで、飼育にくる楽しみがまた増えました(w
16 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時39分03秒

◇◇◇


17 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時39分31秒
1年生にとっての4月は吸収の時期かも知れないけれど、
既に3年生ともなれば、ありふれた光景が日常として美貴の目に映る。

それでも、新年度の始まりは少なからず浮わつきだす気持ちを引き締めていく。

ありふれた日常でも、平凡な人生でも、美貴には毎日が楽しかった。

2年の時から持ち上がりのクラスで新学期早々行った席替えでは、
美貴は幸運にも窓際後方の席になれた。

窓を閉めていれば春の暖かい陽射しを受けられるその場所は、
寒さの苦手な美貴にとって格好の座席だった。

これが真夏なら最悪なのだが。
18 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時40分22秒
1時間目の授業中、教壇に立つ教師の声を頬杖をつきながらぼんやりと聞く。

新学期になってまだ間もないせいか、
授業の内容はまだ大事な核心へと向いてないので、
美貴は視線を教壇から窓の外へ向けた。

窓の外、見えるグラウンドでは新入生たちのスポーツテストが行われていた。

50メートル走だの、ハンドボール投げだの、いわゆる屋外での体力測定だ。

何の意識も持たずにそれを眺めていた美貴は、
その中に亜弥の姿を見つけて不意に口元が緩んだ。

腕に細い紺のラインが2本ある、我が校指定の長袖の白い体操着に薄いブルーのジャージ。

全員同じ服装なのに、何故か亜弥だけが美貴の視界に無防備に入ってくる。

勿論、知り合いという点がその意識を強めているだけだけれど。
19 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時41分45秒
入学式が始まる直前まで、
亜弥は美貴のそばにぴったり寄り添うように立っていた。

もともと人見知りはしないタイプの美貴だけれど、
亜弥の好意的な突然の懐き方にはさすがに困惑を隠せなかった。

それでも、うきうきとした面持ちで美貴に話し掛けてくる亜弥には自然と警戒が薄れ、
新入生入場の合図がくるまで、美貴は亜弥の話に違和感なく耳を傾けていた。

そして、入学式典を講堂の後方に座って見ていた美貴も、
新入生としてひとりずつ名前を読み上げられて返答の声を返していく中、
亜弥の声を、むしろ好意的な意味を持って、可愛らしい声だと思いながら聞くことが出来ていた。

以来、亜弥とは善意的で前向きな面識がついてしまっていて、
朝だったり下校時だったり、会うたびに、
亜弥はとびきりの笑顔で美貴のもとへと駆け寄ってくるようになった。
20 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時42分45秒
雑談へと脱線を始めてしまった教師の声を適当に聞き流しつつ、視線だけで亜弥を追う。

追いながら、美貴は昨日の亜弥の様子を思い出していた。

ちょっと拗ね気味に唇を尖らせながら、
けれど、どこかテレたように頬を染めながら話し出した亜弥を。


『…美貴、ちゃん』


ついさっきまでは苗字で呼んでいたのに、不意に名前で呼ばれて美貴も驚いた。

振り向いて、上目遣いで自分を見上げる後輩に思わず息を飲んだほど。

さっきまで笑っていたのに、瞳の奥には、どうしてか淋しい曇りが見えた。
21 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時44分13秒
何も言えず、ただ亜弥を見つめることしか出来なかった美貴に、
亜弥は困ったように小さく笑って相好を崩した。


『なーんて、馴れ馴れしかったですね』


ただ名前を呼ばれただけなのに、どうして返事が出来なかったんだろう。

馴れ馴れしいよ、なんて笑いながら言い返すことだって出来たはずなのに。
22 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時45分22秒
はしゃぎながらも清々しささえ感じられる雰囲気で測定を済ませていく亜弥の姿を追いながら、
美貴は細く息を吐き出す。

入学式の朝、言葉を交わしたあの日からずっと、
美貴の中での亜弥はむしろ正統派なイメージだった。

まっすぐで、まだ何も世間の汚い部分など知らないような、真っ白なイメージ。

無邪気で、元気で、悩みなんて何もないような。
23 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時47分15秒
そんな亜弥が見せた一瞬の翳りが、美貴に言葉を見失わせた。

まだ、本当の亜弥の姿を見せられていない気がした。

知り合ってまだ間もないのに、亜弥への興味は最初よりもどんどん膨らんでいく。

その興味が果たしてどんなベクトルを持っていくのか、そのときは深く考えないようにしていた。

考えたら、きっと自分でも困るような結論に達することが予測できたから。

そんな風に思う時点で、もう走り始めていたのかも知れないけれど。

どんな群集の中にいても、
今みたいに亜弥の姿だけを見つけられた自分を、少しらしくないとも、思いながら。
24 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時48分20秒

◇◇◇


25 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時49分33秒
「せーんぱーい」

甘えるような猫撫で声を背後に聞いて、美貴は口元を綻ばせながら振り向いた。

おそらく、美貴が振り向く前から手を振って近付いてきているであろう後輩の姿を思い描きながら。

「おはよう、亜弥ちゃん」

小さく笑いながら呼ぶと、亜弥は息を弾ませながらもにっこりと微笑んだ。

最初の頃は苗字で呼んでいたけれど、
なんだか他人行儀な感じが落ち着かなくて、
美貴はとっくに亜弥を名前のほうで呼ぶようになっていた。

それに、何故だか呼ぶだけで亜弥は嬉しそうに笑うのだ。

あんな顔を知れば、もっともっと見てみたくなるし、呼んでみたくなる。
26 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時50分10秒
「すごーい! 振り向く前からよくあたしって判りましたね!」
「あんな声、アンタしか出さないから判るよ」
「? どんな声ですか?」

耳に心地好い甘い声とでも言わせたいのだろうか、と美貴は思って、
そんなふうに思った自分に困惑しつつ、苦笑して曖昧に誤魔化す。

「なんでもない。…それより今日はなんか早くない?」
「そういう先輩こそ早いじゃないですか。朝練ですか?」
「部活はやってないって、最初に言ったじゃん。なに、亜弥ちゃん、なんか部活入ったの?」
「入ってないです。先輩がどっかに入ってるなら、そこにしようかとも思ってたんですけど」
「なーんか、動機が不純だなあ」

からかうように美貴が言うと、亜弥はほんの少しだけ唇を尖らせた。
27 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時50分40秒
「…結構、大事な動機だと思いますけどぉ」

どき、と美貴の胸が鳴る。

期待してしまうような受け答えが、無意識に出ているのかが読めなくて続ける言葉にも迷ってしまう。

「…で、何で早いの?」

気付かないフリで話題を戻すと、亜弥の眉尻がほんの少し歪んだように見えた。

「…実はですねえ、今日提出の家庭調査票ってやつ、ずっと学校に置き忘れちゃってたみたいで」
「なに、朝から書こうっての?」
「し、仕方ないじゃないですかぁ」

ぷぅ、と膨らんだ頬が愛らしくて、美貴は思わず口元を綻ばせて指で突いてみる。
28 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時51分11秒
「そういう先輩は、どーして早いんですか?」

突かれた頬を撫でながら亜弥は尋ねた。

「…別に。早起きしたら時間が余っちゃってさ、
ちょっと早めに出たら乗り継ぎとかがスムーズだっただけ」
「先輩の家って、乗り継ぎとかするくらい遠いの?」
「そんな遠くはないけど…、つか、いつまでこんなとこで喋ってんの。中に入ろうよ」

校門を少し過ぎた辺りで立ち話していたことに気付いた美貴が促すと、亜弥も嬉しそうについてきた。

「そう言えば先輩って、姉妹とか、います?」
「うん? 上にふたり、お姉ちゃんとお兄ちゃんがいるよ。亜弥ちゃんは?」
「え? えーと、…います、よ」

答えた亜弥の表情がほんの少し翳ったように見えたのは気のせいだろうか。
29 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時52分09秒
「普段はすっごい無口だけど、めっちゃ優しいお姉ちゃんがいます」

頬の色がなんだか朱を帯びたようで、姉妹のことをそんなふうに話す亜弥が美貴には不思議だった。

「仲良いんだね」
「先輩は仲良くないんですか?」
「悪くはないけど、普通だよ。
…っていうかさ、ちょっと前から気になってたんだけど、その、先輩っての、やめない?」
「え、だって」
「別に部活に入ってるワケじゃないし、なんか、慣れないんだよね。普通に美貴でいいよ」
「…え、じゃあ、美貴先輩、とか?」
「……怒るよ」

美貴を見つめる亜弥の顔が少しずつ赤くなっていく。

それを見ていた美貴も、だんだんと恥ずかしくなってきた。
30 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時52分47秒
「な、なんで赤くなんのよ」
「だって、なんか…、なんかさぁ」
「だって、なに」

ぶっきらぼうな声になってしまう美貴に構わず、亜弥はますます嬉しそうに笑う。

「なんか、特別っぽい」

ちゃんとした言葉にされて、美貴も素直に納得した。

美貴自身が少なからず亜弥を他の新入生よりは特別に思っていることは事実なので、
否定しようとは思わなかった。

「…最初から、ずっと特別じゃん」

ぽつりと呟くと、亜弥はまた笑った。
31 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時53分30秒
「じゃあ、じゃあさ、あたししか呼ばない呼び方にしてもいい?」
「…たとえば?」
「え? えーっと…、そーだなあ…。美貴ちゃんとか美貴さんとかだと普通だし…」
「そだね、クラスの子はそう呼ぶし、特別じゃないね」

そう付け加えると、ますます亜弥は唇を尖らせて唸りだした。

「みっきー、とか」
「却下、却下。ありふれてるよ、全然特別っぽくない」
「えー。…んー、じゃあ、美貴すけとか、美貴のうじは?」
「意味わかんない」

亜弥のセンスにいささか不安を感じてきた美貴が唇を尖らせたとき、
何かがひらめいたのか、亜弥の表情が明るくなる。
32 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時54分27秒
「美貴たん!」

突然言って、嬉しそうに美貴に振り返る。

「ね、ね、どう? 響きも可愛いし、いいと思わない?」

誰も気付かなかった新しい発見をした子供のように瞳を輝かせる亜弥を見て、
たかが名前の呼び方くらいで、
自分たちは何故こんなにも心を躍らせているのだろう、と美貴は思った。

けれど、美貴の目に映る亜弥は本当に、本当に嬉しそうに笑うので。

「……うん、いいんじゃない? 可愛いし、亜弥ちゃんらしい」

美貴が答えたあと、ますます嬉しそうに、とても幸せそうに。
33 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月04日(火)22時55分08秒
「美ー貴たん!」

そしてそのままの勢いで美貴の腕にしがみ着いてきた。

「うわ、…あっぶないじゃん、もー!」

よろけながらそう言いつつも、腕に絡まる亜弥から伝わる体温はちっとも不快ではなかった。

「えへへー」

無邪気に笑う可愛い年下の彼女が、美貴の中で少しずつ、
心弾むようなスピードでその存在を強めていくように。



――――― そして、その日から亜弥は美貴を『美貴たん』と呼ぶようになり、
ふたりきりでいるときは、敬語も使わなくなった。
34 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月04日(火)22時56分09秒
レス、ありがとうございます。


>>13
ファンだなんて言われると、本気で照れます。
が、めっちゃ嬉しいです。ありがとうございます。頑張ります!

>>14
seekで、アンリアルのスレをたてたのは今回で2度目なんですが、
学園モノをやるのは初めてなので、正直、ドキドキしてます(^^;)
楽しみにしていただけるよう、頑張りますので、よろしくお願いします(w

>>15
もし期待なさってたらゴメンナサイ、今回のお話は、エロはまずないです(^^;)
もともとの得意分野が切なくてイタイ系なので…。
(たまに、無性にエロが書きたくなりますが(殴))
35 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月04日(火)22時56分42秒
書き始めてから言うのもどうかと思いますが、
実際書き進めていくと、このふたり以外はほとんど出ないことに
自分自身、今頃気付きました。

このふたりがメインなのは変わらないんですけどね(^^;)
36 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月04日(火)22時57分30秒
ふと、松浦さんの1st アルバムのジャケ写を見ていて思ったこと。

裏ジャケの松浦さんが今回の松浦さんのイメージだな、などと思ってみたり。
ちなみに藤本さんは、まんま『今』のイメージかなあ。

以上、スレ流しを含めた戯れ言でした(殴)

ではまた次回。
37 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月04日(火)22時58分56秒
リアルタイムで見れた━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
氏ぬほど嬉しかったっす。たまらん。
やっぱり、あややは「美貴たん」ですよね(w
38 名前:名無し蒼 投稿日:2003年03月04日(火)23時05分28秒
リアルタイムキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
37さんと同じくリアルタイムw
待ってますた。最近はミキスケよりも美貴たん派れす(w
学園モノってちょっと構造?に苦労しますよね…
まだ金欠でアルバムを買ってはいないのですが今度見てみたいですジャケ♪
どこまでも着いてきますよ〜!
39 名前:ほげ? 投稿日:2003年03月05日(水)12時40分14秒
おおあやみきだぁ!
実はまっつーの「美貴たん」というフレーズに萌えなんだよね(ボソッ
40 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月11日(火)13時15分28秒
seaから飛んできました。
作者様のあやみきをまた読める事に幸せを感じてしまいます。
と、書くとプレッシャーになるでしょうか。。。
マターリと適当に頑張ってください。いやまじで
41 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時45分32秒


◇◇◇

42 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時46分10秒
5月のゴールデンウィークを間近に控えて、
休み中はどう過ごそうかと考えていた美貴は、ふと亜弥のことを思い出した。


最近はことあるごとに亜弥が美貴のあとにくっついてくるので、
最初は戸惑ってしまった周囲の興味津々な視線にも、さすがにもう慣れてきた。

何より、亜弥が美貴に駆け寄ってくる姿はとても無邪気で可愛くて、
駆け引きだとかそんなものを考えてしまうよりも先に、
確かに嬉しいと感じている自分に美貴も気付いていたので、
友人たちの冷やかしの声も、もう気にならないほどだったのだ。
43 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時46分50秒
特別。

その言葉が甘い呪文のようで心地好かった。

美貴だけでなく、亜弥もそう思ってくれていることが判るから、
その居心地の好さは他と比べようがない。
44 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時47分22秒
授業の合い間の休憩時間、鞄の中に入れておいたケータイで亜弥にメールを送る。


『5月の連休って、空いてる?』


送信完了の画面を眺めてから、そっと閉じる。
と、数分もしないうちに返信を知らせるようにケータイが震えた。


『ぜーんぶ空いてるよ! ヒマヒマ! 遊んで!』


思わず緩む口元を抑えながら、見えない尻尾を振っている亜弥の姿を思い浮かべた。

それからゆっくり、言葉を選ぶようにして答えのメールを打ち返す。
45 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時47分56秒
『じゃあ、一緒に買い物行こっか? プリクラ撮りに行こうよ』


送ったあとで、デートの誘いみたいだな、と思ってしまったけれど、
それならそれで、亜弥ならもっと笑ってくれそうだとも思った。

告白したワケでも、されたワケでもない。

それでも、お互いにとっての『特別』な存在であることは、
あえて言葉にしなくても判り合えている、そんな感じだった。
46 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時48分28秒
さっきは数分もしないうちに返信が来たのに、
今度は何故かなかなか返ってこない。

左手で頬杖をつき、右手にケータイを持って見つめたままでいても、
授業開始の鐘が鳴る寸前になっても、ケータイは振動を伝えては来なかった。

ひょっとして教室移動なのか、と思ったときに鐘が鳴り、
美貴は溜め息と一緒にケータイを鞄に放り込んで、何気なく窓の外を見た。

そしてそこに、グラウンドでぴょんぴょん跳ねながら、
しきりに美貴のほうに向かって両手を振っている亜弥を見つける。
47 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時49分04秒
「えっ」

思わず声に出して、美貴は慌てて窓を開けた。

と、亜弥はやっと気付いた、と言わんばかりに頬を膨らませ、
けれどすぐに笑って、頭の上で、両手で大きなマルを作って見せた。

亜弥のその行動が、さっきのメールの答えだと気付くのに時間はかからない。

けれど。
48 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時49分40秒
真っ白な体操着よりも、亜弥の笑顔が美貴には眩しく見えた。

胸が鳴った。

切ないくらいの痛みとともに、
今すぐ亜弥に駆け寄って抱きしめたいという気持ちも生まれた。

その気持ちの名前を認めてしまう勇気と怖さ。

そして、それを自分の中で育てる強さ。

そのどちらも、今までの美貴が知らなかったこと。
49 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月11日(火)21時50分19秒
まだ跳ねている亜弥の頭を体育教師が軽く小突いて戒めるまで、
美貴は半ば茫然としながら亜弥を見つめていた。

手を振ってクラスメートの集団に戻っていく亜弥につられて、美貴も慌てて振り返す。

そして、美貴のクラスの授業を担当する教師が教室に入ってきたことを確認して、ゆっくり窓を閉めた。

椅子に座って目を閉じ、高鳴る心臓を鎮めようとしても、逆に瞼には亜弥の笑顔が思い浮かぶ。

特別、という意味を判っているようで、ちゃんと理解していなかった自分に戸惑いすら覚えた。

亜弥に、恋をしている。

最初の頃に感じた、あの頃は認めたくなかった気持ちのベクトルは、確かに、亜弥へと向き始めていた。
50 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月11日(火)21時51分05秒





ちょびっとだけですが、キリがいいんで更新。
51 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月11日(火)21時51分54秒
レス、ありがとうございます。


>>37
リアルタイムで読まれてたーっ(逃)ε=ε=ε=ε=ε=┏( ;>o)┛ < 何故逃げる(w
>やっぱり、あややは「美貴たん」ですよね(w
ですよねー!
というか、展開的にはわざとらしかったかと(^^;)

>>38
>学園モノってちょっと構造?に苦労しますよね
設定に悩みますね。あと、他の登場人物の不自然でない登場の仕方とか(^^;)

>>39
>実はまっつーの「美貴たん」というフレーズに萌えなんだよね(ボソッ
でもそれはきっと正常な反応だと思います。
だって私がそうだから(殴)

>>40
プレッシャーにはなりません。
他の方は違うのかも知れませんが、私の場合、期待されてる、というのはむしろ励みになりますし、
書き手としての発奮材料としては、これ以上のモノはないと思います。
ただ、あっちのスレへの期待は、ネタがない今はプレッシャーになります(殴)
マターリと適当に(笑)、頑張りますんで、よろしくですm(_ _)m
52 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月11日(火)21時53分23秒
金板で始まった『あやみき』。
自分の好きな感じの、ポジになれないネガな藤本さんっぽくて超期待。
これからはあやみき小説も増えそうで、嬉しい限りです。


ではまた次回。
53 名前:チップ 投稿日:2003年03月11日(火)23時18分10秒
あ〜なんかこっちまで切ね〜甘酸っぺー
まるでバルサミコだよ、美貴たん、ムセて苦しいよ。
まだそんなに切なくない筈なのになぜにこんな気持ちになるのやら?
あややのせいだ、オイラにも手ぇ振ってくれ(ry
54 名前:堰。 投稿日:2003年03月12日(水)00時22分58秒
お久しぶりです。近著をさくさくと探して読んでます。
やっぱり素敵です。学園ものはウキウキします。
ドキドキしたり、泣けてきたり。
そして何より温度がわかる世界と、あなたの綴り方。
その手が愛しいです(笑)。楽しみに待ってます。
55 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月15日(土)23時30分06秒
はじめますて。リンクから、飛んできますた。
今日だけで、先生の小説を全部読みました(´д`;)ハァハァ
私も、亜弥美貴ファンなので萌えてしまいました。
只今、更新をお待ち申しています。

明日のハワイやぁ〜ん娘。をモソモソしながら見ます。あ、マナー部もか・・・(w
でも何故か普通に見ても、この2人(小説、現実も含む)は妖しい?でつね。
56 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時37分13秒


◇◇◇


57 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時37分58秒
連休初日。

亜弥との約束の時間よりもずっと早く、美貴は待ち合わせ場所の前に来ていた。

正確に言えば、朝起きた時間だって、普段よりずっと早かったぐらいだ。

自室の鏡の前でお出かけ用の服を何着も並べて、
着ては脱ぎ、着替えては脱ぎ、を繰り返し、
たまたま起きて美貴の部屋へとやってきた兄にも、
ただの友達じゃないな、などと冷やかされてしまった。

結局、どれもこれもしっくりこず、
お気に入りのジーンズと胸元からのジップアップパーカー、という、
ほとんど普段着の格好に落ち着いたのだけれど。
58 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時38分41秒
亜弥に恋をしている、と自覚しても、美貴はそれを言葉にはしなかった。

改めて確認する勇気もなかったし、
今のままの居心地の好さを手放すつもりもなかったから、という理由もある。

それに、言ったところで大きな変化があるとも、あまり思わなかった。

亜弥の自分に向けられる好意が自分と同じかどうか、
確証はなくても、自信があったせいもある。

それでも、こんな風にして学校以外の場所で会うのは初めてなせいか、
緊張は約束をしたときからずっとつきまとっているけれど。
59 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時39分12秒
ジーンズのポケットからケータイを取り出し、
約束の時間まであと15分もあることに我ながら苦笑する。

これがただの友人やクラスメートとの待ち合わせだったら、
美貴はむしろ遅刻魔なのでらしくなさが露呈してしまうけれど、
亜弥を待っている、その時間も何故だか楽しくて、
苦笑は次第に柔らかな微笑みに変わっていく。

そんな美貴を見て、口笛を吹いて振り返る輩も少なくはなかったけれど、
亜弥のことしか考えてなかった美貴が気付くことはなかった。
60 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時39分46秒
そっとケータイを開いてメールを打つ。


『もう着いちゃった。今どこ?』


それに対する返事は、頭を上げた美貴の目の前に現れる。

手を振りながら、小走りに向かってくる笑顔に美貴も振り返す。

美貴のもとまで辿り着いた亜弥は、
一度前屈みになって乱れた呼吸を整えると、勢いよく頭を上げて美貴を見た。

「み、美貴たん、早い。いつもこんな?」
「ううん、たまたま早く着いただけ」

答えながら、初めて見る亜弥の私服に美貴は胸を鳴らせていた。
61 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時40分19秒
薄いグリーンと黄色のネルシャツに膝上のデニム地のスカート。
靴は履き慣らされた感じのするスニーカーで、
爽やかで健康そうなイメージがそのまま表現されている。

「…私服も可愛いね」

するっと本音が出て、美貴は慌てて亜弥から目を逸らす。

けれど、聞き逃さなかった亜弥の表情はみるみるうちに嬉しそうな色を浮かべた。

「良かったぁ。何着ようか、昨日の夜からすっごい悩んでたんだぁ」

えへへ、と笑った口元が少し誇らしげで、美貴も自然と笑顔になる。
62 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時41分02秒
「でもね、美貴たんの私服も、すんごい可愛いよ?」
「そう? 普段着だよ?」
「ううん、すんごい可愛い。似合ってる」

真っ直ぐな感想と言葉が逆にテレくさかったけれど、美貴は素直に頷いた。

「……さて、どこ行こっか?」

ようやく呼吸も元通りになった亜弥を見て、美貴は手を差し出した。

その手を、亜弥はほんの少し頬を染めて見つめる。

「なに?」
「…手、繋ぐの?」
「え…っ。や、別に、イヤなら…」

無意識だった自分に戸惑いつつ引き戻そうとするのを一瞬早く亜弥が掴み返す。
63 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時41分36秒
「イヤなワケないじゃん!」

強引に掴み返されて伝わってきた熱が美貴のカラダと胸の奥を震わせる。

初めて知った熱というワケでもないのに、
掴み返してくる亜弥の熱は、何だか緊張にも似た何かを孕んでいるようにも思われて。

「…なんか、すっごい嬉しい」
「なんで?」
「美貴たんの特別って、すっごい実感する」

ぎゅ、と更に強く握り締めてきた手の熱が、美貴の気持ちもゆっくりと膨らませていく。

もし、ここが天下の往来でなかったら。
もし、ここが誰の目も憚る必要のない場所だったら。

きっと、その笑顔を曇らせてしまうような行動に出ていたかも知れないとさえ、思えた。
64 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時42分07秒
「…ばーか」
「なぁんでそう言うかなあ? ひどーい」

そうは言いながらも、美貴の気持ちを汲んでくれている亜弥が愛しくなる。

言葉にするには、まだもう少し、時間がかかりそうだけれど。

「…とりあえず、腹ごしらえからってのは、如何ですか?」

頬を膨らませた年下の天使に、
それに対して返ってくる笑顔を思い描きながら美貴はそんなふうに提案してみる。

そして、それを聞いた亜弥からは、想像どおりの笑顔が返ってきた。
65 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時42分56秒
少し早めの昼食を済ませて、腹ごなしという名目でゲームセンターに寄る。

そこでカラダを動かす体感ゲームを幾つかこなしたあとで、
プリクラの機械を見つけた亜弥がはしゃいだ声を上げた。

「美貴たん、美貴たん、プリクラあるよ! 撮ろう!」

ぐいぐいと、
まるで新しいおもちゃを見つけた子供が母親にねだるような仕草で美貴の腕を引っ張る。

無邪気、という表現がピッタリの亜弥が可愛くて仕方なくて、
溜め息をついて呆れた様子を見せつつも、美貴は快くその言葉を引き受ける。
66 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時43分33秒
「いっぱい撮ろうね!」
「うん」

いくつかパターンを変えて、その店にある種類のほとんどを制覇した。

「……まだ撮り足りない」

ぽつり、と呟いた亜弥の言葉を聞き逃さず、美貴はそっと亜弥の二の腕を掴んだ。

「じゃあ、別のとこ行こう」

美貴の提案に、亜弥の表情が、ぱっ、と一瞬で華やぐ。

繋いでいた手は、いつのまにか、当然のように美貴の腕に絡められていた。

そうして、ふたりの手元には、10を越すパターンのプリクラが集まった。
67 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時44分05秒
「うわ、この美貴たん、超オカシイ!」

何軒ものウィンドーショッピングも済ませる頃には、
夕方と呼べる時間をとうに過ぎていた。

喋りすぎて、はしゃぎすぎて、
喉が渇いたふたりは近くの自動販売機でオレンジジュースを買った。

そしてそのまま、撮りまくったプリクラを見比べていく。

「えー、この亜弥ちゃんも変な顔じゃん」
「こっちの美貴たんには負けるよぉ」

きゃあきゃあとはしゃぐ亜弥の嬌声は、美貴に、入学式のあの朝を思い出させた。
68 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時44分36秒
「…亜弥ちゃん、声まで可愛いなあ」
「へ?」
「あ…、いや、入学式の日さ、あたし、亜弥ちゃんに注意したじゃん、覚えてる?」
「覚えてるよぅ。みんな、あのときの美貴たん、コワイって言ってたもん」
「なにーっ」
「あはははっ」

美貴が振り上げた手を防御するように腕を構えながら亜弥が笑う。

「…目立つ声だなあって、思ったんだよ、あのとき」

手を下ろしながら美貴は呟くように告げた。

「…美貴たん?」
「楽しそうだなあってさ、思ったんだ、あのときの亜弥ちゃん見て。
可愛いなあって、あのときから思ってた」

まさか、その気持ちがこんな風に育つとは思いもしなかったけれど。
69 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時45分08秒
「…きゅ、急になに言い出すの?」

心なしか上擦った亜弥の声が美貴を我に返らせた。

「べ…、別に、意味なんて、ないけど」

自分が何を言ったのかを反芻して、途端に恥ずかしくなった美貴は、
取り繕うように言い放って亜弥に背を向けて歩き出す。

「え…、あ、ちょっと待ってよ、美貴たん」

追い縋るようについてくる亜弥の声に美貴も速めた歩調を戻し、
自分に追いついた気配にゆっくり振り向いた。

「………結構遊んだねぇ」
「え…」

美貴の言葉に亜弥は自身の腕時計に目を走らせた。
70 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時45分43秒
西の空はようやくオレンジから紺色へと染まり始めた頃だけれど、
時間的に言えばそろそろ帰宅の時間だろう。

いくら連休中とはいえ、
学生が夜遅くまで遊んでいるのは大人たちにあまりいい印象を与えない。

美貴の家族は連絡さえつけば放任してくれるけれど、
2ヶ月前までまだ中学生だった亜弥を先輩が遅くまで連れまわしている、という印象を、
亜弥の両親に植え付けたくはなかった。

「そろそろ帰ろうか」
「もう?」
「あんまり遅くなってもね」

美貴の言葉に、亜弥の肩が目に見えて下がっていくのが判る。

そんな反応は、美貴をとても喜ばせてはいるのだけれど。
71 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時46分17秒
「…亜弥ちゃん、家のひとにはなんて言って出てきたの?」
「……学校の先輩と、遊びに行くって」
「何時に帰るとか、言った?」

ふるふる、と、頭を俯き加減にしながら首を横に振る。

「じゃあ、早めに帰ったほうがいいよ。心配されるよ」

何も答えず、亜弥は俯いたままになる。

もっともっと自分といたいと思ってくれていることが伝わって、
嬉しい気持ちだけが膨らんでいく。

「家まで送ってったげる」

そんなふうに甘やかすような声で言っても、亜弥はまだ顔を上げなかった。

亜弥の急激な落ち込みの原因が美貴には嬉しくてたまらなくなる。
72 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時46分51秒
「……亜弥ちゃんのばーか」

唐突にそんな言葉を投げられたことが不本意だったのか、
亜弥は幾らか拗ねた面持ちで頭を上げて美貴を見つめた。

「これで最後じゃないじゃん」
「えっ?」
「明日も明後日も休みなんだよ? …ヒマだって言ってたよね?」
「…美貴、たん?」

状況がまだ把握できていなさそうに美貴を見つめてくる亜弥のまっすぐな目が愛しくなった。

「…だから、今日は帰ろう? ホントに家まで送ってくから」

戸惑い気味の亜弥の手を掴むと、美貴はゆっくり駅へと向かって歩き出した。
73 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時47分44秒
「…あの、美貴たん?」
「うん?」

美貴に手を引かれているせいか、
半歩うしろから恐る恐るといった感じで亜弥が声をかける。

「それってさ、明日も、明後日も、あたしと会ってくれるって…、そういう、意味?」
「…ヤなの?」

足を止めて振り返りながら聞くと、さっきよりも強く、何度も何度も首を横に振る。

「イヤじゃない、イヤなんかじゃないよ! でも、でもさ…」

会う理由を欲しがる亜弥に明確な答えを与えないのは卑怯な気がして、
美貴はゆっくり息を吸い込んだ。
74 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時48分19秒
「…あたしが、会いたいってのは、理由になんない、かな?」
「美貴た…」
「明日も、明後日も。あたしが、亜弥ちゃんに、会いたいの。…それだけじゃ、ダメ?」

美貴の言葉を聞き届けた亜弥が、大きな目をよりいっそう大きく見開く。

それから次第に表情を崩して、その大きな目に涙を浮かべた。

「…って、なんで泣くの!」
「……だって、だってさぁ」
「だって、なに?」
「…う、嬉しいんだもん………」

俯きながら発せられた言葉は、そのまま美貴にも嬉しさを伝染させる。
75 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月16日(日)22時48分55秒
「…ばか」
「…ぅー…」
「ばーか、ばーか。亜弥ちゃん、ホンットばか」

言いながら、そっと亜弥の肩を抱いた。
そしてそのまま、自身へと引き寄せて抱きしめる。

鼻先をくすぐる亜弥の髪の匂いが美貴の脳を刺激して、
愛しいと思う気持ちが上昇していく。

「……うぇーん」
「泣かないでよ、もう」

どうしていいか、判らなくなる。
このまま抱きしめていても、いいの?

亜弥の背にまわした手で、そっと、労わるように、
亜弥の涙がおさまるまで、美貴は柔らかなその髪を撫で続けた。
76 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月16日(日)22時50分05秒




んがーーーーーっ!
こんな甘々な風景、書いてるこっちがこっ恥ずかしいわぃ!!(吠)
< 多忙なため、ちょっとキレ気味。
77 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月16日(日)22時51分24秒
レス、ありがとうございます。


>>53
甘酸っぱいとか言われるとテレ臭いですね。
って、バルサミコにウケてしまいました(w
ちなみに、松浦さんは藤本さん一途なので、他の方には手は振らな(ry

>>54
きゃーーーーっっ!! ε=ε=ε=ε=ε=┏( *>▽)┛
…すいません、辛抱たまらんで走ってしまいました(殴)
私はいつも、あなたの言葉に涙を教わっています。
これからもこの『手』を愛しいと言ってもらえるよう、頑張ります!

>>55
えと、すいません、マジで『先生』って呼ぶの、やめてください(素)。
私、そんなたいそうな人間じゃないですし、
人から教わることはあっても、教えてあげられることは何もないので……(^^;)
っていうか、私の書いたやつ全部って、すげぇ…。
倉庫のも読んだのかしら?(^^;)あ、あっちはあやみきじゃないか(蹴)


あと、個人的な気持ちの問題だとも思うのですが、
『様』も、できたら、やめていただけると……。
普通に『さん』でいいです。恥ずかしいです、こそばゆいです。
ワガママですいませんです。
78 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月16日(日)22時52分42秒
前回更新より間がないのは、決して脱稿したからではなく(泣)、
3月末までは決算期のせいで少々多忙になってしまい、
更新のメドが本気で予測不可能となってしまったからです。
次はいつ、と、曖昧にも言えないので、本日の更新となりました。
放置気味になるとは思いますが、放棄は絶対にしませんので
(それは、書き手としての私のプライドが許しません)、気長にお待ちくださいませ。

ではまた。
79 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月16日(日)23時43分35秒
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
すっごい(・∀・)イイ!っすね。 甘〜くて。
これからもっと甘々になること期待してます。w
80 名前:堰。 投稿日:2003年03月17日(月)23時12分11秒
甘いー。甘い甘い。甘えるあやや、恋する美貴たん。
こう、上質の焼き菓子を口一杯につっこんで、
ほろほろ解けるのを待ってるように甘さ満載。
しかも食後にお茶でサッパリさせるのも勿体無い感じ。
でも切ないんですよね〜。>机に伏す
81 名前:ほげ? 投稿日:2003年03月19日(水)07時51分02秒
甘々なあやみきに萌え〜
82 名前:名梨 投稿日:2003年03月25日(火)16時57分02秒
緑でも読ませていただいていた者です。
作者さんのあやみきは、鼻血ものですねw
作者さんのせいで、「あみやき」とゆう看板が
「あやみき」に見えたこともありましたよ。ほんとに。
83 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月28日(金)00時17分25秒
緑版であやみきにはまりました。
頑張ってください。
84 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時29分40秒


◇◇◇


85 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時30分32秒
自宅の最寄り駅の前で、顔には出さないながらも、
美貴は内心ソワソワしながら亜弥を待っていた。


昨日、唐突に泣いてしまった亜弥の涙がおさまったあと、
お互いになんだかテレくさくて、駅までの距離は手を繋ぎながらも無言で歩いた。

いつもならば美貴が呆れてしまうほど喋り続ける亜弥も、
繋がれた手に引かれるようにして決まり悪そうに美貴のあとをついてくるので、
なんとなく、ふざけた調子で話し掛けるのもためらわれたのである。
86 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時31分19秒
駅に辿り着いて美貴が亜弥に振り向くと、目が合ってようやく、亜弥は小さく笑った。

その笑顔が、それまで見ていたものとは少し違って見えて、美貴の心音がまた跳ねる。

「…え、と…。亜弥ちゃんの家がある駅って、どこ?」
「え?」
「この駅からは反対方向なんだよね、あたしと」
「うん、そうだけど……?」
「ホントに家まで送ってあげるよ」
「えっ、い、いいよ、大丈夫、ひとりで帰れるよ?」
「……送りたいんだけど」

亜弥の頬にまた朱が差して、美貴も自分がどれほどストレートな言葉を向けたか悟る。

それでも、あともう少しだけでも、亜弥といたい気持ちは薄らぐことがないから。
87 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時32分03秒
「…ダメ?」

美貴の問いかけに何度も何度も首を横に振る亜弥は、それだけで可愛く映る。

「ダメじゃない。嬉しい。あたしだって、もっともっと美貴たんといたい…。
けど、けど…、そしたら今度は、別れ辛くなっちゃう……」

亜弥の気持ちも言葉も判るから、美貴はそっと、亜弥の手を離した。

「……じゃあ、今日はココでバイバイする?」

言うと、落ちていた亜弥の目が美貴のほうへと戻ってきて、少し、淋しそうに揺れた。

「…そう言ったの、そっちのくせに」

苦笑いしながら言って、離したばかりの手を伸ばして頭を撫でた。
88 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時32分51秒
「…今日はココでバイバイして、明日は朝から会おうか?」
「え?」
「今日、プリクラいっぱい撮っちゃったからもう金欠になっちゃったしさ、あたしの家においでよ。
なんなら泊まってってもいいし」
「えっ? え?」
「休みだから家族がいるかも知んないけど、それでもいいなら」
「えっ、えっ、でも、あの…」

突然の美貴の提案に、
戸惑いつつも見えるのは嬉しそうなワクワクした色で、自然と美貴の口元も綻ぶ。

「亜弥ちゃんの家族がいいって言ったら、お泊りセット持ってさ、来てよ、あたしの家に」

ぴし、と指先で亜弥の額を弾くと、
弾かれた場所を両手で押さえながらも、亜弥は嬉しそうに笑って大きく頷いた。
89 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時33分37秒
一緒に改札をくぐって、
線路を挟んだ向かい側に立つ亜弥と声を出すのは恥ずかしいから、
身振り手振りで会話する。

先に亜弥が乗る電車がホームへと滑り込んできて、
ドアが開くなりまっすぐ向かい側のドアへと駆けて来た亜弥が、
ガラス越しに微笑んで、
何度も何度も、電話するから、と口のカタチだけで美貴に告げてきた。

それに飽きもせず何度も何度も頷き返して、
走り出す電車を見送ったあとで、美貴が乗る電車がやってきた。
90 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時34分12秒
それが、今から16時間前のこと。

美貴が落ち着かないのは、好きな人間を自宅に招く、という事態も勿論そうだが、
今はまだ家にいる家族が、それぞれ目的は違うけれど、
午後には揃って出払ってしまうという事態を告げた亜弥がどう思うだろうか、
と考えているせいだった。

驚かせるだろうか?
それとももっと緊張させてしまうだろうか?

大学生の兄には、昨日以上に落ち着かないことを笑われ、
社会人の姉には、小さな子供じゃないんだから、と呆れられた。

それでも、笑われたり呆れられたりしたことに対する悔しさより、
緊張が先に立ってしまう自分に嘘はつけないから。
91 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時34分48秒
改札の外で、今さっきホームへと滑り込んできた電車に乗っているであろう亜弥を思う。

美貴を見つけた亜弥は、見るなりきっと手を上げて嬉しそうに駆けて来るだろう。

そう思うだけで、美貴の胸の奥もほんのりあたたかくなって、
亜弥の存在が自分にとってどれほど大きくなっているかを痛感する。

「美貴たーんっ」

ぼんやりしていた美貴の視界に不意に飛び込んできた無邪気な笑顔は、
無防備だったせいで一瞬で心臓を鷲掴みする。

思わず息を飲んでしまったけれど、
それを悟られないように平静を装って、美貴も笑顔で亜弥を出迎えた。
92 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時35分25秒




「…ごめん」

ドアを閉じるなり、ちょっと深めに溜め息をついた亜弥の背中に美貴は呟いた。

それを聞いて振り返った亜弥が、
きょとん、としたように首を傾げたのを見てから、亜弥の荷物を受け取る。

「…お兄ちゃんとか、お母さんとか、ウルサくて、ごめんね」
「そんなことないよぅ。 みんないいひとで嬉しかった!」
「でもさ…」
「ちょっと緊張してたからさ、あんなふうに言われたりするほうが嬉しいよ?」
93 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時36分48秒
起きたときからソワソワと落ち着かない様子で家中を歩き回る美貴に、
兄と母親は、どんな友達が来るのか興味津々だった。

最初はどちらもからかい半分だったのだが、
いつになく緊張する美貴にその興味は期待と好奇心に変わり、
現れた亜弥を見て、その好奇心は一瞬にして好意に取って代わった。

玄関先でチヤホヤともてなすふたりに呆れながら、
このままでいたらふたりが出かけるまで亜弥を独占されそうだと感じた美貴は、
強引に亜弥の背中を押し出すようにして自室へと向かったのである。
94 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時37分45秒
「優しそうなお母さんとお兄さんだね」
「えー、お母さんは優しいけど、お兄ちゃんなんて、ただのバカだよ?」
「あははっ、そんなふうに言えるのも、仲がいいって意味だよね」

笑った亜弥がそのまま美貴のベッドに腰掛けた。

亜弥から受け取った荷物は、どうやら美貴が言った通りに、お泊りセットらしい。

「…あんま、ジロジロ見ないでよ」

きょろきょろと、ワクワクした面持ちで部屋を見回す亜弥にそんなふうに言って戒めても、
亜弥の表情は少しも崩れなかった。

「美貴たんらしーい」

ふふっ、と喉の奥で笑って、そのまま美貴を見つめる。
95 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時38分25秒
「…泊まってくよね?」

メールで確認はしていたものの、何となく不安で聞くと、
それには亜弥もとびきりの笑顔で頷き、美貴もホッと息をついた。

「…あ、スゴイ、美貴たん、自分の部屋にDVDのデッキあるんだ?」

ベッドからゆっくり降りた亜弥が興味深そうにテレビの前に座るのを見て、
美貴の口元も自然と綻んでいく。

「お兄ちゃんのお下がりだけどね。映画とかライブとか、結構いろいろあるよ。なんか見る?」
「見る!」

振り返って笑った亜弥に、美貴も快く頷いた。
96 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時39分03秒




1本目が終わる頃に兄が、2本目の途中に両親が出かけ、
空腹を訴える虫が鳴く頃にその2本目を見終えたふたりが
何の気兼ねもなく揃って階下のキッチンへと降りると、
ダイニングテーブルにはふたり分の昼食が用意されていた。

何も告げては行かなかったけれど、母親のさりげない気遣いに、
美貴は心の中で母親に感謝の意を示すように手を合わせた。
97 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時40分03秒
弾む会話が途切れることなく食事を終えて、
再び部屋に戻って、さて、と美貴は腕を組んだ。

「…どーする? まだなんか見る?」
「うん、それもいいけど、ちょっと、お願いがある」
「なに?」
「アルバムが見たい」
「…って、写真?」

こっくり、と大きく深く頷いた亜弥の上目遣いにほんの少し息を飲む。

断れない自分を重々承知しているので、
諦めの溜め息を吐き出しながらも、美貴は本棚に並んだアルバムに手を伸ばした。

「…笑わないでよ?」

両手で受け取ろうとする亜弥に軽く唇を尖らせると、亜弥の口元は嬉しそうに綻んだ。
98 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時40分52秒
無言でページを繰っていく亜弥を見ながら、
なんとなく手持ち無沙汰になった美貴は、
少し乱れていたDVDソフトを並べ替えることにする。

ソフトの並ぶ棚はガラス扉なので、
そこに映る亜弥の姿で、アルバムを見ている彼女の反応が見えた。

並べ替えるフリをしながらぼんやりガラス越しに亜弥を見ていると、
ふと、亜弥の手元が止まった。

そしてそのまま、まるで凝視するように見つめている亜弥が気になって振り向くと、
空気の流れを感じた亜弥も頭を上げて美貴を見た。
99 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時41分26秒
「なんか面白いのあった?」
「…ううん、別に? みんな可愛いなあって」

亜弥が見ているページは、ちょうど美貴が小学校に入学した頃のもので、
今とはまるで違う自分が映っている。

「…なんか、あんまし、変わんなくない?」
「えーっ、10年くらい前と変わんないって、それってちょっと問題じゃない?」
「でもさ、だって、面影はやっぱあるもん」

亜弥が指差した写真は小学校に入学した年の夏休みの頃のもの。

家族で田舎へと里帰りしたときに写したものだ。

「……この頃から変わってないって?」

にこにこ笑いながら頷いた亜弥に、美貴は唇をほんの少し尖らせながら飛びかかった。
100 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時42分00秒
「それってさあ、褒めてんのお?」

両手で亜弥の肩を掴んでそのまま強く押すと、
それは亜弥には計算外だったのか、
何の構えもしてなかったせいでふたりして倒れ込んでしまった。

幸い、倒れた先には何もなく、勢い自体もそれほど強くはなかったので、
怪我をするようなことはなかったけれど。

まるで押し倒すようなカタチになってしまったと美貴が気付いたのは、
腕を突っ張らせている自身の下で、
戸惑い気味に見上げてくる亜弥の瞳が揺れたときだった。
101 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時42分41秒
「ご、ごめん」

慌てて言って起き上がり、背を向けてしまってから、やっと自分の心臓の音にも気付いた。

どきどきと脈打つ鼓動の響きが耳にうるさいくらいで、自制心を煽りにかかる。

「…美貴たん」

そんな美貴に気付いてか、
追うように起き上がってきた亜弥がそっと美貴の背中に触れてきた。

その指先から伝わる熱が美貴のカラダを硬直させて、身動きを封じられる。

「…なに?」

答えた声は、震えてやしなかっただろうか。

「………あたし、自惚れていいんだよね?」
102 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時43分23秒
亜弥の言葉を反芻して理解するより先に、
背中に指先だけで触れていた体温が広がったことに気付き、
手のひらで撫でられたことを知る。

「『特別』って意味を、あたしのいいように考えても、いいんだよね?」

不安気な声色が美貴の胸を締め付けた。

「………たとえば?」

それなのに、意地悪く返してしまった自分が情けなくなる。

背後で、小さく喉が鳴ったような気がして、美貴の心も震える。

「………美貴たん、誰にでも泊まりにおいでって、言うの?」
「そんなこと…っ」
103 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時44分10秒
思わず振り向いた美貴は、
弾かれるように逃げてしまった体温を追おうとした自分に苛立ちを覚え、
目の前で不安そうに瞳を潤ませている亜弥には、
そんな目をさせてしまったことに対して言葉を失ってしまった。

「……言うワケ、ないじゃん」

それとなく逃げようとした美貴に縋るように、亜弥の手が美貴の腕を掴まえる。

「それ、自惚れてもいいってことだよね? あたし、美貴たんの特別なんだよね?」

もっと明確に、もっと簡単に、美貴の気持ちが亜弥に伝わる方法はないんだろうか。

そばにいて、ただ見つめ合うだけで伝わればいいのに。

美貴のなかでの『松浦亜弥』が、どれほどの存在なのかを。
104 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時44分43秒
ぎゅっ、と、美貴の服の袖を掴む指にチカラが入ったのが判って、
そこから伝染するように亜弥の気持ちが染み渡ってくる。

美貴は、その手を包み込むようにそっと上から撫でて握り締めた。

「………ちゃんと、言葉にして、言ってみてよ」

狡さを承知で言うと、亜弥の大きな目が更に大きく見開かれた。

「……美貴たん、狡いよ」

聞こえてきた声はとても哀しげで。

「あたしの気持ち、とっくに気付いてるくせに。
…なのに、あたしがどれくらい美貴たんを好きか、言えって言うの?」
105 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時45分17秒
声色が涙混じりになったことに慌ててしまった美貴は咄嗟に亜弥を抱きしめていた。

肩先に染みるように伝わってくる体温と鼓動が、また美貴の胸を鳴らす。

「…ごめん」

すぐ近くに見えた亜弥の耳に囁くように告げた。

美貴の背に回された亜弥の手が震えている。

「……美貴たんが好きだよ」

こもった声が、愛しさに加速度をつける。

「ホントに、ホントに、好きなんだよぅ」

その言葉の持つ意味を噛み締めながら、亜弥を抱く腕にチカラを込める。
106 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年03月29日(土)21時47分01秒
「………あたしも…、好き、だよ」

囁くような小さな声になってしまったことを悔やむ美貴になど構わず、
亜弥が勢いよく頭を上げた。

そしてそのまま、目を潤ませたままで嬉しそうに微笑む。

「亜弥ちゃんだけが、あたしの特別」

聞き届けた亜弥が涙混じりに頷くのを見届けて、美貴はそっと、その目尻に唇を寄せた。
107 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月29日(土)21時48分22秒




自分で書いてて、もどかしいやら、まどろっこしいやら(殴)

………誰ですか、この続きのエロを期待してるひとは!(w
ないですよ、今回はないですからね! < まだちょっとヤケ。
108 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月29日(土)21時49分22秒
レスありがとうございます。

>>79
>これからもっと甘々になること期待してます。w
ふっふっふっ。さーて、どうなるかしら( ̄ー ̄)

>>80
虫歯になるほど甘かったかどうか自覚ナシなんですが(w
甘いと言っていただけると、嬉しくなります。
得意分野は、こっちじゃないだけにね(^^;)

>>81
こんなんでも萌えていただけると嬉しいです(^^)

>>82
>「あみやき」とゆう看板が
>「あやみき」に見えたこともありましたよ。ほんとに。
重症ですね(w
ってか、私のせいなんですかー?(w
……よし、もっと普及してやる。< やめなさい。

>>83
ありがとうございます。
緑とは全然濃さも路線も違いますけど(^^;)
頑張ります。
109 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年03月29日(土)21時50分42秒
ああ、やっと仕事のほうも落ち着いてきました。
でもストックがないです。< 泣。
けど、焦って書きたくないんで、マターリやっていきます。

放置期間が長くても、お許しくださいませ。
ではまた。
110 名前:チップ 投稿日:2003年03月29日(土)23時11分42秒
エロがなくてもこんなに萌えてる…これが家政婦マジック?
二人ともかわいくて、でもやっぱり切なさを感じずにはいられない。
なんか儚いんです、あややが。みきたん、しっかり捕まえててあげて。
111 名前:ほげ? 投稿日:2003年03月30日(日)13時12分47秒
甘く切ないメロディが聴こえてくるような感じ・・・
二人の恋はどうなるんだろう
112 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月31日(月)11時44分47秒
お泊まり&告白来ましたね〜。 ヨカター。
続きが気になる〜〜。
早く読みたい・・・けど作者様、無理せずマターリ続けてくださいな。
あの2人を幸せにしてやってくれぇぇい!!
113 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)11時45分03秒
更新乙です。
エロなしでも、微妙にモコーリ。。。
美少女終了したけど、亜弥美貴の仲がいいっちゅーのがイイ(・∀・)!!でつね。
マターリ更新期待しています。
114 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時44分31秒

◇◇◇


115 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時45分15秒
キスを甘く感じたのは初めてだった。

それはきっと、心から求めている相手とのキスだったからだろう、と感じたのも。
116 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時45分50秒
互いの気持ちを初めて言葉にしたあとで、
ふたりの間に待っていたのは言葉にならないくらいの満たされた時間。

亜弥は何度も、まるで言葉以上に自身の体温で確認するかのように、
美貴に額を押し付けては唇を寄せてきた。

美貴も、それに応えるように何度も唇を重ねた。

唇にだけでなく、額にも、頬にも、瞼にも。

指や、爪や、耳や、髪…、触れたいと思ったすべての場所にキスをした。

キスだけでカラダまで満たされたのは、初めてだった。

言葉もなく、ただ、互いの体温だけを盗み取るかのように触れていた。

夕刻になって、両親が帰宅するその瞬間まで、何度も。
117 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時46分32秒

「ミーキティ」

教室の自分の机に座って、頬杖をつきながらぼんやり窓の外を見ていた美貴に、
彼女のクラスメートでもある石川梨華が声を掛けてきた。

軽く鼻にかかったような女の子らしい声に思わず笑って振り向くと、
梨華は何故かニコニコしながら美貴を見下ろしていた。

梨華が美貴を呼んだアダ名は、梨華を含めた数人のクラスメートしか呼ばない呼び方である。

響きが可愛いので容認しているが、
亜弥に言うと、似合いすぎて逆に笑える、と言われてしまったアダ名だ。

「なに?」
「なにって、それはこっちの台詞だよぉ。
さっきからずーっとぼんやりしてさ? 誰のこと考えてたの?」
118 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時47分11秒
どきり、と美貴の胸が鳴る。

連休中のことを思い返して、今日は何度自分の唇に指で触れたか判らない。

亜弥に自分の気持ちを告げた一昨日も昨日も、キス以上のことは何もなかった。

触れたくなかったと言えば嘘になるが、
抱き合うだけで感じられる充足感に、それ以上を望む必要はなかったからだ。

「…別に?」
「うっそ。今、絶対何か思い出してたでしょー?」
「ははは」

笑って誤魔化すと、梨華は他校の男子生徒にも噂されるほど、
その愛らしい笑顔のままで人差し指の先を美貴に向けた。

「あやしーい」
「なんでさー」
「最近のミキティ、前よりずーっと表情が優しくなったって評判なんだよ?
恋してるカオだって、みんな言ってる」
119 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時47分45秒
梨華とは別のクラスメートにも同様のことは言われたので、
さすがに美貴も自身の変化を認めざるを得なくなる。

けれどそれは自分自身に対してだけで、
周囲に触れ回るようなコトではないだろう、と考えていた。

だからこそ、改めて言葉にされると戸惑うというもので。

「ミキティは気付いてなさそうだけどさ、結構、後輩にモテるんだよ?」
「? 梨華ちゃんが?」
「ちっがーうよ、ミキティが! 今、誰の話してるのよ、もう」

ぽす、と頭を撫でるように叩かれて、美貴は苦笑した。

「…初耳」
「鈍感」
「なんでさ!」

梨華と美貴の遣り取りを見ていた別のクラスメートたちが
面白そうなふたりの会話を聞きつけて近寄ってきた。
120 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時48分19秒
「ダメダメ、美貴は自分のことになるとホント鈍いもん」
「そーそー。あたしだって、こんなに美貴のことスキなのにぃー」
「冗談でもやめて」

腕を胸の前で交差してふざけた口調で告げた友人に素で断りを入れると、
周囲の空気もますます和らぐ。

「や、でもさ、最近の美貴、マジで表情が柔らかくなったよ」
「……それってさ、あのコのおかげ?」

窓に背を向けて座っていた美貴の背後を友人のひとりが指差す。

心当たりがあって、どきりと胸を鳴らせてから振り向くと、
真っ白な体操着を着た亜弥が、
グラウンドで腕組みしながら仁王立ちの格好で美貴のクラスの窓を見上げていた。
121 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時48分50秒
美貴が気付くのを待っていたのだろうか、
それともヘンな誤解でもされたのだろうか、
目が合った亜弥は唇を尖らせている。

けれど、美貴が慌てて窓を開けると、亜弥の表情は途端に明るく変わる。

両手を振って嬉しそうに笑う亜弥を
自分以外の誰にも見られたくないと思うのは、独り善がりな願望だろうか。
122 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時49分23秒
「…あのコ、可愛いよね」

美貴が気付いたことに満足したのか、
手を振りながら駆けて行く亜弥を見送った美貴の背後で梨華の声がした。

「……ミキティ、知ってる? あのコも人気あるんだよ。
隣のクラスの誰か忘れたけど、そのコも狙ってるらしいし」
「知らない。…でも、亜弥ちゃんは誰にもあげない」

美貴を囲んでいた友人たちは、その言葉に意外そうに、けれど楽しそうに嬌声をあげた。
123 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時50分05秒
「なに、美貴ってばマジでオチちゃったワケ?」
「あの1年、やるなあ」
「誰にもホンキにならない、で有名だったのにねえ」
「うっさい。…でもマジであのコになんかあったら、許さないからね」

真っ白な体操着に負けないくらい、真っ白で無垢な亜弥を汚していいのは、自分だけだ。

喉の奥で呟いて振り向いたとき、目が合った梨華が何か言いたげに眉間に皺を寄せていた。

けれど、次の瞬間にはいつもの笑顔になったことで、
美貴も梨華の様子を深く気にすることもなく、そのことはすぐに忘れてしまった。
124 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月09日(水)22時51分16秒


――――― もしこのとき、梨華の少し翳った表情の理由を聞いていれば、
あんなふうに傷つけることもなかったのかも知れないのに。


125 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月09日(水)22時52分22秒



………さーて、引っ張るわよーぅ(殴)
読者だけじゃなくて、自分自身も煽ってるわよーぅ(蹴)。< ヤケ。
126 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月09日(水)22時53分01秒
レスありがとうございます。

>>110
切ないっていってもらえると嬉しいですねえ。
前にも書きましたが、
今回の松浦さんのイメージは彼女の1stアルバムの裏ジャケなんで、
『儚い』なんて言われると、書き甲斐あります。

>>111
>二人の恋はどうなるんだろう
……えーと…。
どうなりますかねえ(^^;)

>>112
>あの2人を幸せにしてやってくれぇぇい!!
幸せにはしたいのはヤマヤマなんですけどねえ、
さてさて、どうなりますかねえ(遠い目)

>>113
現実世界のふたりの仲の良さは、見てて微笑ましいですよね。
時々、微笑ましさを吹っ飛ばして顎がハズレそうになりますが(w
127 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月09日(水)22時53分45秒

煽るだけ煽っておいて、
肩透かしな展開にならないことを自分で祈る今日この頃(殴)
エロい展開にならないことだけは明言(w

ではまた。
128 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月11日(金)21時36分53秒
私が好きな展開になってきました(駆け引き大好き)。
とっても楽しみです。
129 名前:ほげ? 投稿日:2003年04月12日(土)20時30分31秒
おお意味ありげな終わり方が気になるぅ
石川さんの翳った表情の理由とは・・・
130 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時03分27秒


◇◇◇


131 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時04分02秒
1学期の中間考査を終えた日、特定の3年生に進路相談、という名の面談があった。

そのうちのひとりだった美貴は、
事前に知らされていたとはいえ、重い足取りと空気で指導室に向かった。

試験後なのでさほど多くの時間を強要されることはなかったけれど、
自身の進路についてはまだ曖昧でしかなかった美貴は、
担任教師の助言とも忠告ともとれる発言に、少なからず動揺したのも否めない。

半年後のことなんて、美貴にはまだ、遠い未来のことでしかなかったのだ。
132 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時04分32秒
「失礼します…」

ぺこり、と、殊勝な態度で頭を下げて指導室をあとにする。

おそらく美貴が最後のひとりだったのだろう、廊下には美貴以外にひとの気配がなかった。

教師の言葉を脳裏で反芻しながら、深く深く溜め息を吐き出して廊下を歩く。

判っていることとはいえ、目の前につきつけられた現実に気分は滅入る一方だった。

今の美貴に具体的な進路なんて決められない。

夢がないワケではなかったけれど、それよりも大事な事柄が、美貴には出来てしまったのだから。
133 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時05分09秒
思い出す、という行為をしなくても自然と浮かぶ亜弥の声と姿。

想うたびに胸の奥のほうで燻るように沸き上がる熱情。
気付くたびに自己嫌悪に陥ったことは、もう数え切れない。

汚したい。
汚してみたい。
あの、真っ白な笑顔を自分の色で。

けれどもし汚してしまっても、あの笑顔は自分のものだろうか。
変わることなく、自分に向けられるだろうか。

何度も何度も脳裏を過ぎっていく浅はかでしかない感情の欲望を、美貴自身が、持て余していた。
134 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時05分44秒
自嘲気味な溜め息を吐き出しながらも3年生の靴箱のある昇降口に辿り着いたとき、
その入口で、言葉どおり、絡まれている亜弥と鉢合わせた。

入り口の柱に凭れている亜弥と、
その亜弥の目前に立って腕組みしている隣のクラスの…。

「………何やってんの?」

たとえそれが亜弥には不本意なことだったとしても、
自分以外の誰かが亜弥とふたりきりの空間を作ったのが不愉快で、
尋ねた声は、自分自身でも判るくらい、低いものになってしまった。
135 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時06分17秒
「…美貴たんっ」

その声を聞き届けて美貴に振り向いた亜弥が、
迷惑そうな顔を一瞬にして綻ばせて美貴のもとに駆け寄ってくる。

「…何、アンタ?」

駆け寄ってきた亜弥がそのまま美貴のうしろに身を隠す。

その動きを見遣ってから、美貴は目前の同級生を見た。

「…ひとのに手出ししないでくんない?」

美貴より幾らか上背はあるはずなのに、その一声でバツが悪そうに踵を返していく。

立ち去るうしろ姿に目もくれず、亜弥はゆっくり自分の背後にいる亜弥を肩越しに見遣った。
136 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時06分58秒
「…なんでいるの? 今日は面談あるから、先に帰っていいって言ったじゃん」
「…だって」

しゅん、と、俯いてしまった亜弥に構わず、美貴は上履きから通学用のローファーに履き替えた。

「ま、待って、美貴たん」

振り向きもせず歩き出す美貴を、亜弥は慌てて追いかけてきた。

「…一緒に帰りたかったの。…試験で、最近ほとんど会えなかったし、明日、学校休みだし…、
美貴たんの顔、ちょっとでも見たくて」

とくん、と、自然と美貴の胸が鳴る。

「あそこで待ってたら擦れ違いになったりしないと思ったし、すぐ気付いてもらえると思って…」

俯き加減なのだろう、喋る亜弥の声がだんだんと小さくなっていくのが、歩いていても判る。
137 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時07分36秒
「さ、さっきのひととは、あたし、別になにも…っ」
「当たり前でしょ」

吐き捨てるような口調になってしまったことに気付き、美貴は思わず口を押さえた。

「……じゃ、なんで怒ってるの」
「…怒ってないよ」
「嘘、怒ってるじゃん」
「怒ってないったら」

振り向こうとカラダを揺らしたけれど、寸前で思い留まって美貴は深く息を吐き出した。

「……いいじゃん、もう。早く帰ろう」

けれど、それに対する亜弥からの返答の声はなかった。
138 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時08分10秒
あまり気に留めず歩を進めた美貴だったけれど、近付いてこない気配にゆっくりと振り向いた。

「…亜弥ちゃん?」

立ち止まったまま俯いている亜弥に、美貴はなんとなく罪悪感に包まれた。

決して悪意があったワケではないけれど、そんな態度をとってしまった自分が情けなくもなる。

「…どうしたのさ」

距離を詰めないまま聞くと、亜弥はゆっくり顔を上げて美貴を見つめた。

訴えるような瞳に、美貴も思わず顎を引く。

「…ホントに怒ってないの?」
「………怒ってないよ」
「じゃ、なんで?」
「なにが?」
「…なんで、手繋いでくんないの?」
139 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時09分09秒
他愛のないことだ、と笑い飛ばせない自分がますます情けなく思えて、
美貴は思わず亜弥から目を背けた。

「…っ、なんで? 先に帰れって言われたのに待ってたのを怒ってるんなら謝るよ。
でも、でも、さっきのひとのことなら、ホントに何もないのに…っ」
「……亜弥ちゃん…」
「誰待ってるのって聞かれて、
でも美貴たんの名前出したらもっとなんか言ってきそうだから何も言わなかった、無視してた。
早く美貴たんが来ればいいのにって、早く来てって…、そう思いながら待ってたんだよ…。
…すごい、怖くて、イヤだったのに……」

だんだんと掠れていく亜弥の声が引き金になる。

もう数歩行けば校門なのに、美貴は踵を返して足早に亜弥に近付いた。

突然迫ってきた美貴に亜弥も困惑を隠せなかったようだけれど、
唐突に腕を掴まれたことで、困惑とはまた別の、複雑で不安気な感情が生まれたようだった。
140 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時09分49秒
「…み、美貴たん?」

亜弥の腕を引っ張るようにして歩く美貴の背中に訴える声が、美貴の抑えている感情を煽る。

人の気配のない靴箱を通り抜け、土足のままで廊下を越えて中庭へ出る。

試験を終え、誰もが気持ちを軽くして急いで帰宅しているので、
おそらく、グラウンドで部活動を行っている選手以外に学校に残っている生徒は、
今はもう亜弥と美貴ぐらいだろう。

中庭の、自転車置き場も越えて、
人通りの少ない特別棟の校舎の裏側へと出てから、美貴はそっと亜弥から手を離した。

「美貴た…」

離してすぐ、振り向きざまに亜弥の唇に噛み付くように口付けた。

突然すぎて顎を引いた亜弥の肩を掴んで、そのまま壁に押し付ける。
141 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時10分26秒
「美貴たん…っ?」

押し付けたと同時に唇を離すと、
漏れてきた亜弥の声は戸惑いよりも怯えを含んでいた。

「なん…っ」

続きの言葉を奪うようにもう一度口付ける。

欲しいのは、言葉じゃなかった。
142 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時10分57秒
深く、深く口付けていくうちに、強張っていた亜弥のカラダから次第に緊張も薄れていく。

美貴の腕を掴んでいた手も、いつのまにか首のうしろへとまわされていて、
その指が髪の中へと差し込まれてくるのも判った。

奪っているつもりで、与えられているような気分になって、美貴はゆっくり、唇を離した。

そしてそのまま、唾液で艶めく唇で亜弥の耳にも口付ける。

「………ごめん」

甘く噛んで囁くと、亜弥のカラダが小さく震えた。
143 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時11分31秒
「…美貴、たん?」
「ホントに、怒ってるワケじゃないんだよ。ただ……」
「…ただ?」
「…結構、切羽詰ってる自分が、情けなくてさ」

言ってから、そのままの勢いで亜弥を抱きしめた。

「……いないと思ってた亜弥ちゃんがいて嬉しかったんだけど、
なんか、すごい、抑え効かないんだ、最近」

亜弥に触れることで満たされる自分を隠せなくなって、もっともっと、触れたくなって。

「……イヤな思い、させちゃいそうで、さ」

呟くように告げたあと、
その言葉に隠された美貴の情熱に気付いたように、亜弥のカラダがまた小さく揺らいだ。
144 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時12分10秒
「………情けない、マジで」

亜弥に会う前の自分もこんなふうだっだろうかと思えるくらい、今の美貴はとても感情的だった。

それは、今まで無関心だったことを思えば喜ばしい変化とも言えるけれど、
自分が自分でないような、自分でさえも知らない自分が起きてくるような、
困惑と言うよりも、むしろ、不安。

「……他のひとに触らせんのもイヤだなんて、どうかしてるよね」

自嘲気味に呟いた美貴の耳元に、亜弥の甘い吐息が届いた。
145 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時12分44秒
「………じゃあ、美貴たんだけのあたしにしてよ。何してもいい。何されても怖くないよ」

美貴の背に回されている亜弥の手の熱が、
その言葉とともに、次第に上昇しているような気がした。

「好きって、そういう意味でしょ?」

思わずカラダを離して亜弥を見つめる美貴に、亜弥はやわらかく微笑む。

「…そういう意味で、あたしは美貴たんが、好きだよ?」

美貴の目には揺るぎないように見えた理性の箍は、
亜弥の微笑みひとつで壊れてしまうほど、脆い鍵で、施錠されていた。
146 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時13分20秒
グラウンドからは、耳を澄まさなくても、陸上部とソフトボール部の賑やかな掛け声が聞こえてくる。

けれど、それすらも、美貴の耳には入ってこなかった。

聞こえるのは、亜弥の吐息と、自分の心臓の音と、その自分を呼ぶ亜弥の微かな声。

どちらからとなく探し当てて滑り込んだ誰もいない教室で、
内側から鍵を掛けて、床に座って壁に凭れるようにしながらキスを交わした。

そしてそのまま、制服の裾から手を差し入れて、亜弥の素肌にも、触れた。

びく、と、少しカラダを強張らせた亜弥に躊躇して手を引き戻すと、
それを拒むように亜弥が美貴の手を掴み返す。
147 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月13日(日)22時13分55秒
「…いいの」
「亜弥ちゃ…」
「……でも、ガッカリ、しないでね?」

上目遣いで頬を染めている亜弥がたまらなく愛しくなって、
そのあとはもう、無我夢中で亜弥のカラダを抱きしめた。

今まではむしろ受け身でしかなかった自分のカラダが、亜弥に対してだけは欲求も強くなる。

美貴自身ですら戸惑うそんな動物的な欲望も、亜弥は真摯に、受け止めてくれた。

もう手放せない。
手放すつもりはない。

亜弥の体温を知った今、それ以上に美貴に安心をくれるぬくもりはないと思えた。
148 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月13日(日)22時14分58秒




中途半端な展開で申し訳。
つーか、石川さんはどこ行ったんだよ(殴)
149 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月13日(日)22時15分48秒
レスありがとうございます。

>>128
好きな展開っすか? 期待に応えられてます?(焦)

>>129
意味ありげですが、もうちょい引っ張ります(蹴)
>石川さんの翳った表情の理由とは・・・
コレについては、次回更新で明かせるかと。
150 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月13日(日)22時16分50秒
以下、作者の戯れ言兼目下の野望(笑)

みきごまが書きてぇぇぇぇ(殴)

ではまた。<逃。
151 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)23時40分24秒
ここを毎日チェックするのが自分の習慣と化してます
更新されてるとスゴ嬉しい(w

誰もいない所で…ってシチュに萌え
直接的な表現されてないのに、エロチっくな絡み最高です
でも隣のクラスメートって誰なんだ…?
152 名前:ほげ? 投稿日:2003年04月14日(月)12時23分25秒
おおおおお
区切りどころが絶妙ですなぁ うーん
>みきごまが書きてぇぇぇぇ
楽しみにしてま
153 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月14日(月)13時42分37秒
更新乙でした。(;゚∀゚)=3ハァハァさせていただいてます。
まだまだつき合わさせていただきます。本当にご苦労様でしたm(__)m
続き期待sage
154 名前:名梨 投稿日:2003年04月16日(水)12時43分13秒
(;´Д`)…ヒィヒィ
萌え疲れますた…
次回更新までに体力回復しときますので、また萌え疲れさせてください。
楽しみに待っています。
155 名前:名梨 投稿日:2003年04月16日(水)12時45分38秒
疲れすぎてageてしまいました。
逝ってきます…
156 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月25日(金)23時46分10秒
つ、続き期待sage…(;´Д`)ハァハァ
157 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月26日(土)02時55分52秒
やばいやばい!みきあやがどうしようもなく好きだ!
この抑え切れない想い、どうすればいいんですか作者さん!?
158 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時04分14秒


◇◇◇


159 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時04分45秒
目のやり場に困っていた夏制服の開襟シャツに、
目も心も慣れ始めた頃に梅雨がやってくる。

それはつまり、亜弥の誕生日も近いということだ。

幸い、今年の亜弥の誕生日は日曜日で、
前々から本人とも約束はしているが、美貴は少し、困っていた。

美貴が困っているのは亜弥へのプレゼントではなく、
当日、再び自宅に亜弥を招くために、どうやって家族を追い出すか、ということ。

部屋に入ればわざわざ構われることもないのだけれど、
当日が亜弥の誕生日だと知られてしまえば、そう簡単にはいかないだろう。
160 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時05分17秒
言わなければいい、とも考えたけれど、
ケーキやプレゼントを用意すれば、イヤでも気付かれてしまう。

まして、亜弥を気に入っている兄や母親にしてみれば、
大勢で祝ってあげたい、と思われて当然だろう。

恋人がいるので、姉も兄も出掛ける可能性は高いけれど、
両親を誤魔化すのは、さすがに気持ちが咎めてしまう。

いっそのこと、家族ぐるみで祝ってやろうかとも思うけれど、
ふたりきりで亜弥の16歳の誕生日を祝いたいのも、譲れない気持ちなワケで。
161 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時05分47秒
雨の雫が貼り付いた窓から外を見ていた美貴が溜め息をついたとき、
その音に気付いたように背後から肩を叩かれた。

「溜め息つくと、幸せ逃げちゃうよお?」

振り向くと、くすくすと喉の奥で小さく笑う梨華がいた。

「梨華ちゃん」

笑って姿勢を横向きに変えると、美貴の真後ろの空いていた席に梨華も座った。

「どしたの?」
「んー?」
「溜め息の理由」
「や、別に?」

笑われそうで曖昧に返すと、梨華はまた小さく笑った。
162 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時06分26秒
今日はもう、残す授業もあと1時間。
帰りはまた、亜弥が下駄箱で待ってくれているだろう。

そう思うと口元も自然と綻んできた。

「あのコのことでしょ?」
「あははは」

更に笑って誤魔化すと、梨華は急に真面目な顔付きになって、
両肘を机について前屈みになりながら美貴の顔を覗き込んできた。

「……聞いていい?」
「ん?」
「……付き合いだして、どれくらいだっけ、あのコと」
「…ん、と…、1ヶ月半、くらいかな」

ちゃんと言葉にして、お互いの気持ちを確かめ合ってからは。
163 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時06分58秒
「キス…、は、とっくに済ましてるよね、雰囲気で判る」

返す言葉に詰まった美貴に構わず、梨華はどんどん核心へと近付こうとしていた。

「………もう、した?」

周囲には聞こえないような、そんな小さな声で聞いてきた梨華は、さっきよりも随分真剣な顔をしていた。

「…それは、なに、好奇心? それとも実践したい相手でもいるワケ?」

答えながら、自分自身でも棘のある口調だと判る。

けれど、梨華の真意が見えないぶん、警戒を解くことは出来なかった。
164 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時07分35秒
「…怒るってことは、肯定って意味だよ」
「………どういう意味よ?」
「…偏見とかじゃないよ、むしろ共感する。あたしも、そういうひと、いるから」

突然の告白に、美貴は息を飲んで目を見開いた。

「でもさ、友達だから、やっぱ傷付けたくないし、傷付いて欲しくないって、思うのね」
「…梨華ちゃん?」
「だから、ホントなら言わずにいるのがいいんだとも思う」

梨華の言わんとしていることが読めず、警戒以上に不信感が募り始め、
美貴は表情を堅くしながら梨華を見つめた。

その表情はどちらかといえば無表情で、
長く付き合いのある友人たちですら戸惑う視線の強さを持っているのに、梨華は怯まなかった。
165 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時08分20秒
「はっきり言いなよ、何が言いたいのさ?」
「…あたしも、ちゃんと確認したワケじゃないし、すごく迷った。
けど、あたしの大事なひとが嘘つくとも思えないから」
「だから何?」
「…ミキティ、あのコに、騙されてるよ」
「はあ?」

思いがけなさに、思わず美貴は鼻で笑った。

騙す?
亜弥が?
美貴を?
166 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時09分16秒
「なにそれ? くだらないこと言うんだね」
「見たひとがいるよ。あのコが別の、すっごい可愛いコと腕組んで歩いてるトコ」
「…へえ? それで?」
「その相手、隣町の高校に通う秀才だから結構有名で、すごい親しそうに見えたって。
ただの友達って雰囲気じゃなかったらしいよ」

梨華は嘘をつくような人間ではない。
くだらない興味本位なんかで信憑性の低い噂を口にすることだって皆無だ。

その梨華の口から出る、ということは、
つまり、彼女自身の中でも何らかの確信と信用があるのだ、と美貴にも判った。

けれど、俄かには信じがたいその言葉を、
真正面から受け止めて笑って流せるほど、今の美貴に余裕はない。

たとえそれが、美貴を思っての梨華からの助言だと判っていても。
167 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時09分49秒
「…ホンキじゃないかも、知れないよ?」

それは、どっちに対してだ。

美貴か、それとも隣町の高校に通う才色兼備か。

梨華の雰囲気と口調から、彼女の指す言葉が前者に向けられていることも判る。

だからと言って、梨華の言葉を信じる謂れは美貴にはない。

今の美貴には、亜弥がすべてなのだから。

「……で、梨華ちゃんはあたしにどうしろって?」
168 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時10分19秒
燻る感情が胸の奥で黒煙を呼ぶ。

目の前の整った顔つきが微妙に歪んでいくのをじっと見つめながら、
美貴は静かに乱れようとする呼吸を落ち着かせた。

「別れろってこと? 騙されてるから? 傷付くから?」
「ミキティ…?」
「あたしが亜弥ちゃんとどうなろうと、傷付こうと傷付けようと、
そんなの梨華ちゃんには関係ない。余計なお世話だよ」

美貴の言葉の勢いと、ふたりの険悪なムードに気付いたクラスメートたちから騒がしさが途絶えた。

「どんなつもりで言ったんだか知らないけど、いいコぶらないでよ!」
169 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時10分53秒
吐き捨てるように言い放ったとき、途絶えた騒がしさが別の騒がしさを呼んできた。

明らかな興味本位と心配とが入り混じる空間が居心地の悪さを連れてきて、
美貴は小さく舌打ちしてから鞄を持って席を立った。

「ちょっ…、美貴?」

誰かが美貴を呼んでも。

「どこ行くの? もうすぐ先生来るよ?」

行き先を尋ねられて引き止められても。

美貴は一度も振り返ることなく、乱暴に扉を開け、それと同じくらいの勢いで閉めたあと、
まるで何かを振り切るような強い足取りで下駄箱へと向かった。
170 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時11分23秒
漠然とした苛立ちが美貴の歩調を早める。
階段を降りるスピードはいつもよりもずっと早かった。

美貴の脳裏を支配する苛立ちの理由が梨華の言葉にある。

それは、裏を返せば美貴がそれに対して動揺し、激怒しているという意味にもなる。

つまり、少なからず不安が生まれたことを。
亜弥に対して疑惑を抱いたことを。

自分に向けられている亜弥の笑顔や感情に対して、
疑いを持ってしまった自分に苛立っていることを自覚させられたのである。
171 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時12分08秒
馬鹿げている嫉妬かも知れない。
つまらないヤキモチだと言われてしまえばそれまでだろう。

けれど、くだらないのは美貴のほうだとさえ思えるのに、
一度芽吹いた不安は急速にその成長を遂げていく。

そして、その成長を止めてくれるのは、亜弥自身しかいない。

だからと言って、こんな冷静さを欠いた状態のままで亜弥に会えば、
きっととんでもない言葉を向けてしまう気がして、会うのが怖くて、
美貴は亜弥には会わずに帰ることにした。

なのに、途中、教師だけでなく生徒とすら擦れ違わずにいたのに、
もう少しで下駄箱へと辿り着く寸前で、
美貴は、美貴が今、出来ることなら一番会いたくない相手と遭遇する。

もう、それが決められた運命かのように。
172 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時12分39秒
「あ、美貴たん」

移動教室だったのだろうか、亜弥の両腕には教科書やノート以外にも、
教材のようなプリント類がしっかり抱えられていた。

「どーしたの? 帰るの?」

ノート類を抱えたまま、
それでも美貴と擦れ違えた偶然がたまらなく嬉しいと表情に乗せた亜弥が美貴のもとへ駆け寄ってくる。

美貴の前まで来てから、クラスメートには先に行くように促した。

「…なんか、顔色悪いね? 気分悪いの? 早退?」
「ん…、そんなとこ」

亜弥からは微妙に視線を外しながら、美貴は曖昧に頷いて見せた。
173 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時13分12秒
「大丈夫?」
「……へーき、早く戻りなよ、授業遅れるよ」
「でも…」

視線を合わせない美貴に気付いたように、亜弥が心配そうに美貴の顔を覗き込んでくる。

そのとき、美貴の鼻先を亜弥の匂いが掠め、心音が跳ねた。

そして同時に、梨華の言葉が思い起こされる。

『騙されてるよ』

かっ、と、美貴の全身を電流のような熱が走った。

思うより先に亜弥の手首を掴んでいて、
気付いたときには、もうその手を引っ張るように歩き出していた。
174 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時13分57秒
「ちょっ、ちょっと、ねえ、美貴たん? どーしたの?」

美貴の背後から、困惑気味の亜弥の声が聞こえる。

「…今まで、どこの教室にいたの?」
「え? え、あの、化学し…」

最後まで言い終わる前に、美貴は足先を亜弥が告げた教室へと変えた。

そして、その教室を前にしてゆっくりと扉に手をのばす。

意外にも施錠はされておらず、
教室の中にも、さっきまで誰かがいた、という余韻はあっても、生徒も教師も残ってはいなかった。
175 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時14分39秒
静まり返る廊下に響くように始業の鐘が鳴ったけれど、
美貴はそれを振り切るように静かに扉を開けて、亜弥を引き込んでから鍵を掛けた。

それから隣に続く準備室へと向かい、そこにも誰もいないことを確認して、
その部屋に入ってから更に内側から鍵を掛ける。

「……どーしたの?」

状況が飲み込めていなさそうだった亜弥も、美貴の態度にこれからの展開に予想がついたようで、
持っていたノート類を静かに近くの椅子の上に置いた。

その音が美貴には何故か耳障りで、
振り向きざまに亜弥の唇を塞ぎ、そのまま試験管やビーカーの並ぶ机の上に亜弥を押し倒した。
176 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時15分15秒
「…ん…、んっ」

唇を塞ぎながら開襟シャツのボタンを外し、もう片方の手で亜弥の履いていた上履きを脱がせる。

シャツを両手で左右へと広げ、下着の上から唇だけでカラダの線を辿ると、
亜弥のカラダが嬉しいほど顕著に反応を返す。

「……亜弥ちゃん」

胸を滑っていた唇を耳元へ滑らせ、荒くなる吐息のままで呼ぶと更にカラダが揺れた。

亜弥の膝を掴み、スカートを腰まで捲り上げて、
顕わになった足の付け根へと手を這わせたら、亜弥の腕が美貴の背中へとまわされてきた。

「…み、…ひぁ…っ」

指先だけで下着の上からそっと擦り上げると、じわり、と、蜜の触感が伝わってくる。
177 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時15分45秒
「…亜弥ちゃん」
「あ…、あ…っ」
「…ねえ」
「…美貴、た…っ」

背中にまわる腕のチカラが増して、亜弥の呼吸も次第に早くなっていく。

それを耳元で聞きながら、美貴は切なさを伴うような小さな声で亜弥の耳元で囁いた。

「……あたしのこと、好き?」

びくんっ! と、亜弥のカラダが震え、美貴の指は、静かに、亜弥の中心を探り当てた。
178 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時16分22秒
「…ん、んっ、…す…、あ…っ、好、き…っ」
「…ホントに?」
「好きぃ…っ!」
「…あたしだけだよね? 他に誰も、いないよね?」
「いない、よ…? …なんで、そんな、…あっ!」

乱れる吐息の隙を縫って告げた亜弥の期待を裏切るように、美貴はゆっくり、指を沈めた。

「あ、あぁ…」

受け入れる亜弥のカラダが少し強張る。

漏れる吐息の艶やかさが、美貴の胸を熱くする。
179 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時17分03秒
「……もっと、好きって、言って…」

この不安はなんだろう。

この腕に抱きしめているのに、腕の中に確かにいるのに。

「亜弥ちゃん………っ」

自分だけだと、その唇で告げてくれているのに。

黒く渦巻く感情が、美貴をどんどん追い込んでいく。

何度も何度も振り払うのに、そのたびに、梨華の言葉だけが際立つように浮かんでは、消えた。
180 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年04月26日(土)23時17分40秒


『ホンキじゃないかも、知れないよ』



181 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月26日(土)23時19分08秒




………更新が遅れてしまったので2回分を一気に更新。
たぶん、今回のお話の中では、珍しいエロシー(ry
182 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月26日(土)23時19分58秒
レス、ありがとうございます。

>>151
>ここを毎日チェックするのが自分の習慣と化してます
>更新されてるとスゴ嬉しい(w
更新、滞ってしまって申し訳ないです…。
>でも隣のクラスメートって誰なんだ…?
…う、深く考えてなかった……。
うーんうーんうーん。…じゃ、里ちゃんあたりで(殴)

>>152
焦らして寸止め引っ張って、が持論で得意技なんです(蹴)

>>153
まだまだお付き合いくださいませm(_ _)m

>>154-155
あんな微妙な萌えどころに、どんなふうに疲れてしまわれたのか気になります(w

>>156
こ、こんなレスがつくのも夢のようです…(w

>>157
>この抑え切れない想い、どうすればいいんですか作者さん!?
どうすれば、と言われましても『じゃあ、その熱い思いを語って!』としか…。<ぉぃ
183 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年04月26日(土)23時20分29秒
次の更新は、またしてもちょっと間隔が空いてしまうと思います。
GW中はほとんど家にいないので、早くても再来週………。
ごめんなさい、気長にお待ちくださいませ。


ではまた。
184 名前:チップ 投稿日:2003年04月27日(日)03時07分14秒
みきたん…気持ちは痛い程わかるけど化学室ですか……(妄想に走(ry
試験管がぁ!(ryじゃなくていしかーさんを問い詰めたい今日この頃。
あややがずぅっと謎の人で儚くてヘリウム吸わせたら飛んでいってしまいそうだと
思ってたのに今回ので更に…こう不安が…グワっと…(何言ってんだ?自分
最初から読み返しつつマッタリ待ってますんで、二人を幸せにしてやってくらさい。
185 名前:ほげ? 投稿日:2003年04月27日(日)05時26分22秒
こりゃ大変だな(ボソッ)
隣町の高校に通う才色兼備か・・・

焦らされるの好きです
186 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)22時24分15秒
更新乙&有難う御座いました。
エチき、き、き、キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
本当にご苦労様でした。期待して待った気がします。
これからの展開にハァハァ(´д`;)させて頂きます。sage
187 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月29日(火)02時01分34秒
同じく焦らされるのが大好きです(w
一人で勝手に妄想を膨らませつつ(;´Д`)ハァハァしてるので問題無しです。
何回読み返しても飽きがきません。この調子なら一ヶ月くらい持ちそうです。
188 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月30日(水)22時36分30秒
このじらせれ方がどことなく快感になってる自分は
かなり末期のようです…(w

隣町の高校に通う秀才が誰だか気になるよぅ…
189 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時24分50秒




「………ごめん」

亜弥が横たわる机の端に腰を下ろし、亜弥には背を向けたままで呟くように美貴は告げた。

自身でも弱々しく感じたその声を聞いて、
亜弥がゆっくり起き上がってくるのが動く空気で読み取れた。

衣服の乱れを整える衣擦れの音が、
淫らな空気と、たとえようのない後悔とを呼び起こす。
190 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時25分21秒
「…美貴たん」

耳元のすぐそばで囁かれるように呼ばれて、美貴のカラダが揺れる。

「…こんなヒドイこと、するつもりじゃ……」

大切にしたいのは本心だった。

亜弥を好きなのも、そのすべてを自分のモノにしてしまいたいという浅はかな欲求があるのも。

けれど、感情に任せて亜弥のカラダを貪ってしまった事実は、
たとえ心の奥底に真っ白な亜弥を汚したいという願望があったとしても、
美貴のプライドが許さなかった。

「…ごめん」
「美貴たん」
191 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時25分53秒
もう一度呼ばれて、恐る恐る、美貴は顔だけで振り向いた。

すると、目が合うよりも先に、
亜弥の腕が美貴を背後から抱きしめるように伸びてくるのが見えた。

そして、その甘い匂いに包まれるように、美貴のカラダが亜弥の腕の中に閉じ込められる。

「亜弥、ちゃん?」
「…好きだよ?」
「え?」
「…何してもいいって、何されても怖くないって、言ったじゃん」

亜弥の頬が、ほんの少し朱を帯びたのが見えた。

「ヒドイことなんて何もしてないよ? あたし、美貴たんに触ってもらえるだけで、嬉しいんだ」

そんなふうに、許すのか。
192 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時26分31秒
美貴のすぐそばで微笑む亜弥を見ていると、
逆に、天使の羽を、その真っ白い羽を、汚したような気分になる。

なのに、その罪も、欲しくてたまらない願望も、心地好く思えてしまうのは、どうしてだろう。

さっきまで美貴の心の中で膨らんでいた不安や疑念、後悔でさえ。

「美貴たんのこと、好きだもん」

その言葉だけで、赦されて、癒されて、浄化されていくような。
193 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時27分33秒
「…っ、亜弥ちゃん…っ」

体勢を変え、今度は美貴が腕を伸ばして亜弥を抱きしめた。

「………ごめん!」
「あやまらなくていいよぅ」

触れ合う頬から伝わる熱が愛しくて、すり寄せながら耳元に唇を押し付ける。

「好きだよ?」

先を越されて思わず弾かれたように身を離すと、そこには悪戯っぽく笑う年下の無邪気な恋人。

「……ズルイ」
「ズルくないよ」

ふふっ、と喉の奥で笑った亜弥が美貴の頬に唇を押し付けてきた。
194 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時28分11秒
離れて、上目遣いで美貴の顔を覗き込んでくるその瞳は、少しの翳りも見えなかった。

「………あの、さ」
「ん?」

唇の触れた頬を撫でながら、美貴は視線を落とし気味に声を出す。

「…あたし、亜弥ちゃんに、隠してることが、あるんだ」

梨華の言葉が美貴の脳裏を過ぎっていく。

けれどそれを、亜弥に伝えようとは思わなかった。

「…うん」

頷く亜弥の声が、元気をなくしていく。
195 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時29分05秒
「でもね、言い訳とかじゃなくて、隠し事なんて、人間だったら、誰でもあると思うんだ」
「う、ん…」

更に亜弥の声色がトーンダウンしたことで、
美貴は慌てて顔を上げて亜弥の手をとった。

「でも、あたし、亜弥ちゃんに嘘はつかないから」

真摯に見つめる美貴を、亜弥も真っ直ぐ見つめ返す。

吸い込まれそうなほどに澄んで見えるその瞳の色は、
きっと、誰の手にかかっても、曇ったり翳ったりするようなことはないのだろう。

天使の羽を汚しても、天使自身が汚されたと思わないなら、
汚された羽は、以前よりも美しい色に輝きを増すのかも知れない。
196 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時29分42秒
「…だから、亜弥ちゃんも、あたしに嘘だけは、つかないで」

大きく目を見開いた亜弥だったけれど、
それでも次の瞬間には力強く頷いて、美貴の腕の中へと、滑り込んできた。

抱きとめた腕の中で、亜弥のカラダが小さく震える。

「…なに?」
「なんか、嬉しいなって、思って」
「なにが?」
「美貴たん、ちゃんとあたしのこと、好きでいてくれてるんだなーって」
「ば…っ、当たり前じゃん! じゃなきゃこんなこと……!」

心外で思わず大きくカラダを揺らすと、
それに乗じてカラダを起こした亜弥が嬉しそうな笑みを崩すことなく美貴に顔を近付けて来た。

「うん、判ってる。あたしには、美貴たんだけだし」
197 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月10日(土)22時30分20秒
美貴の心に芽吹いている不安に気付いているような言葉を聞き届ける前に、
亜弥の唇が美貴のそれに触れる。

亜弥の唇の熱を同じもので感じて美貴が目を伏せたとき、
遠くで鐘が鳴ったのが聞こえたけれど、
ふたりは気付かないフリでお互いの背に腕をまわすと、
その熱を時間をかけて、味わうことにした。
198 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年05月10日(土)22時31分08秒





久々なのに展開遅くて申し訳。
更に更新量も少なくて、平に平に、申し訳。
199 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年05月10日(土)22時31分44秒
レス、ありがとうございます。

>>184
石川さんを問い詰めたいのは、おそらくたくさんいらっしゃるでしょうが、
彼女の再登場は、しばらく先になりそうです(^^;)
松浦さんが儚いって表現されると、書き手冥利に尽きます、ありがとうございます。

>>185
>焦らされるの好きです
お好きですか! ならもっと… (殴)

>>186
これからの展開は、書いてる自分でも、甘いんだか暗いんだか判りません…。
ああ、どうなるんでしょうか、このふたり……。<ヒトゴトかよ!

>>187
>同じく焦らされるのが大好きです(w
あなたもですか? じゃあもっと… <いい加減にしなさい。

>>188
快感ですか…。
私、(精神的には)Mのハズなんだけどなあ、おかしいなあ。<意味が違います。
200 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年05月10日(土)22時32分48秒
隣町の秀才さんが誰なのか、結構引っ張ってしまってますが、
まだまだ、登場は先になりそうです。
んが、予想がついても、名前は出しちゃダメダメ〜。


ではまた。
201 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)12時07分58秒
ごちそうさまでした!
今回も非常においしく頂くことができました(w
みきあやには癒されますよ、ほんとに。
さて…お腹一杯になったところで大学にでも行くかな。

この次の更新までまた焦らされるのかと思うとたまりませんね(w
作者さんマターリ頑張って下さいね。
202 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)20時48分25秒
当方、いしよし好きですがあやみきもすっごく(・∀・)イイ!!
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━イ してまつ。
203 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時38分06秒


◇◇◇


204 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時39分07秒
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃーい」

亜弥の軽快な声に、家の奥から美貴の母親が駆け出してくる。

亜弥の背後で後ろ手に玄関を閉じて、美貴は無言のまま視線を亜弥に向けて先を促した。

それを横目で見た亜弥が静かに靴を脱ぐと、計ったようにその足元にスリッパが差し出される。

「あ、ありがとうござ…」

言葉が切れた亜弥の視線は足元のスリッパで止まったままだ。

思ったとおりの反応が、背後にいる美貴には微笑ましくてたまらなくなる。
205 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時39分46秒
「…えっと…」

今日は髪をふたつに分けて結んでいるので、
小さく声を出して上目遣いで美貴の母親を見た亜弥の耳が、
背後にいる美貴にもほんのり赤く染まっているのが判る。

「あのね、今日、お誕生日なんでしょう? それね、私と主人からのプレゼントなの」
「えっ!!」

亜弥の視線が再び足元に落ちる。

薄いピンク色のスリッパに、足の甲の部分には『あや』と、赤いフェルト生地でのワッペンが縫い付けてある。

スリッパ自体は既製品だが、縫い付けられた文字は明らかに人の手が加えられていると判るものだった。

驚いてはいるものの、答えた声に不快感は微塵もない。
206 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時40分52秒
「い、いいんですか?」
「勿論よ。それね、亜弥ちゃん専用なのよ。美貴がいなくても、いつでも遊びに来てね?」
「ホントに?」

目をきらきらと輝かせて母親を見上げているであろう亜弥を、
玄関に凭れたまま、腕組みしながらぼんやり見つめる。

「つまらないものでゴメンね。昨日知ったばかりだから、他に何も思い浮かばなくて」
「そんなことないです! すごく嬉しい!」
「ホント? 用事があって今日は出かけてるんだけど、主人もすごく亜弥ちゃんに会いたがってたのよ」

亜弥の言葉を聞きながら、母親の視線が非難するようにちらりと美貴に向いたけれど、
美貴は素知らぬ顔で口元を手で覆い隠した。
207 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時41分51秒
「もう亜弥ちゃん、ウチの家族みたいなものだもの」

その直後、スリッパを履きかけた亜弥の動きが、
ほんの一瞬、ためらったように鈍くなったように見えて、美貴は眉をひそめながらゆっくり上体を起こした。

けれど、その次の瞬間には軽やかな足取りで美貴より先に中へと上がった亜弥が、
くるりと美貴に振り向いていた。

「ありがとうございますっ。おじさんにも、よろしく伝えてくださいね!」

嬉しそうな笑顔に翳りも濁りもない。

美貴のよく知る、そしてこの世でもっとも愛すべき笑顔だったので、
美貴も深くは気にせず、亜弥を追うように自分のスリッパを履いた。
208 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時43分04秒
この先に待つ、美貴自身の一大決心を更に強めるように足を踏み出してリビングに向かうと、
テーブルには美貴が用意しておいたケーキが置いてあった。

「このまま持ってく?」
「うん、ジュースもちょうだい」
「え、部屋に行くの?」
「…やなの?」

知っててわざと尋ねると、亜弥の頬が心外と言いたげに膨らんだ。

「じゃなくて! …おばさんは?」

亜弥の視線を受けた母親が嬉しそうに微笑んだのを横目で見て、
身内にまで嫉妬してしまう自分に我ながら呆れ返る。

勿論それは表面には見せないで、ケーキとジュースの乗ったトレイを持ったまま、
リビングの入口へと足先を変え、亜弥が来るのを待った。
209 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時45分03秒
「一緒にお祝いしてあげたいのはヤマヤマなんだけど、このあと、おばさんのお友達が来るの。
今日が亜弥ちゃんのお誕生日だって知ってたら……」

またしても非難の声を向けられそうな雰囲気と、
亜弥の視線が自分になかなか戻らないのが腹立たしさを呼んで来た。

「…先行くよ!」

明らかな拗ね声に自己嫌悪が襲ってくる。

けれどもう引っ込みがつかなくて、美貴はさっさと階段を昇って自室に引っ込んだ。

すぐに亜弥が追いかけてくるのは判っていたけれど、
子供みたいな嫉妬や独占欲が美貴をますます落ち込ませて、素直な態度をとれなくしてしまう。

ホントはもっと、優しい笑顔で亜弥を迎えたかったのに。
210 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時46分24秒
「…美貴たん?」

そおっと、美貴の部屋の扉が軽いノックのあとで静かに開く。

けれど美貴は亜弥の顔を見ようともせず、ベッドに腰掛けていた。

「美貴たん」

不安そうな亜弥の吐息混じりの声。

たったそれだけでも美貴のカラダを熱くしてしまうことを、亜弥は知らない。

それを、今日は、伝えたかった。
211 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時47分00秒
「…怒ったの?」

ちょこん、と、ベッドに座る美貴の前に正座した亜弥が声色をひそめて美貴の顔を覗き込む。

その視線から逃げるように、美貴は唇を噛んで目を伏せる。

「…別に」
「ほんと? じゃ、あたしのこと、見て?」

膝の上に投げ出すように乗せていた手に亜弥が触れる。

それだけで、痺れたみたいにカラダが疼きだした。

「…あの、さ」

目は伏せたまま、美貴はゴクリと唾を飲み込んで切り出した。
212 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時47分40秒
「うん?」

触れられた手を伸ばして、亜弥の髪を撫でる。

手探りとか、そんな風に探さなくても、亜弥の髪にはすぐに辿り着けた。

「…今日さ、亜弥ちゃんの誕生日じゃん?」
「そうだよ。だから美貴たんといるんだよ」
「うん、判ってる。…で、さ」
「なに?」

目を閉じていても、見上げる亜弥の表情が見える。

そう思うだけで、心音は加速度を速めていく。
213 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時48分25秒
「……プレゼント、何にしようか、迷ったんだけど」
「うん、なに?」
「……服とか、鞄とか、…指輪、とか、さ」
「美貴たんが選んだものなら、そのへんに落ちてる石でも嬉しいよ?」

美貴の手を取って、そのまま自身の頬へと当てる。

もうそれはふたりきりでいるときの亜弥の癖のようで、
請われるままに、けれどそれも美貴の癖になったように、
美貴は指先で亜弥の頬の輪郭を辿った。

「……可愛いこと、言わないでよ」
「だって、ホントだし」

言いながら喉の奥で含んだように笑った亜弥に、美貴も静かに目を開けた。

そして、そこにいる無邪気な笑顔を浮かべる恋人にまた胸を鳴らす。

決意した感情が今にも溢れ出しそうだった。
214 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時49分38秒
「………すごい、ありきたりみたいだけどさ」
「うん」
「ていうか、ケチってるって思われそうなんだけどさ」
「う、ん…?」
「…その、えっと…」

喉まで出てるのに、言葉にすることが途端に気恥ずかしさを呼んで来て、
首を傾げながら続きの言葉を待っている亜弥から、美貴は思い切りカラダごと背を向けた。

「えっ、美貴たん?」

ベッドの上でカラダを小さくして背中を向けてしまった美貴に、亜弥は驚いたように身を乗り出した。

「…………」

そして、その肩を背後から掴んで振り向かせようと亜弥が横から顔を覗き込んだとき、
亜弥の耳に美貴の小さな声が届いた。
215 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時50分10秒
「……え…」

膝を抱えるようにしている美貴の頬が赤い。

いや、頬だけでなく耳まで朱に染まっていて、
亜弥は自分の聞いた言葉が聞き間違いでなかったことを悟る。

けれど、すぐには反応出来ず、そのまま動きも止まってしまった。

「……そ、れって…」
「………だから、ありふれてるって、言ったじゃん」
「違う、そういうんじゃなくて、あの…」

続きの答えに詰まると、美貴はまた亜弥から少し離れた。
216 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時50分43秒
「み、美貴たん…っ」

美貴の表情が見えないこの体勢が亜弥を不安にさせる。

思わずもう一度肩を掴んで、今度は少し強く手前に引いてみた。

すると、美貴はあっさり振り向いて、けれど、その頬はとても恥ずかしそうに朱に染められていて。

「………いらないなら、いらないって言ってよ」
「そんなワケないじゃん!」

がう! と吠えるような勢いと必死さが美貴に笑いを起こさせる。

「……なら、もらってよ」
――――― あたしを、あげるよ。

掠れそうになる声で美貴がもう一度告げると、今度は亜弥の頬が俄かに朱に染まり始めた。
217 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時51分30秒
「美貴たん……」
「………そういう、意味だよ」

亜弥の首のうしろへ腕をのばして、そのまま顔を近づけて何か発しようとした唇を塞ぐ。

触れた唇の熱が互いの脳に痺れを訴え、
指先や爪先にまでそれが伝わって身動き出来なくなる前に、
美貴は静かに、自身のカラダをベッドに横たえた。

上に見る亜弥の頬が赤くて、なのに、
その細い腕の中に閉じ込められる優越感にも似た感覚が美貴を至福へと導く。

「………初めてじゃなくて、ゴメ……」

こんなふうに恋に落ちるとは知らずにいたときの負い目が美貴の表情に翳りを落としたけれど、
それさえも欲しいと言いたげに、亜弥はそっと、美貴の唇を塞いだ。
218 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年05月31日(土)22時52分06秒
ぎこちなく肌の上を滑る亜弥の指が愛しかった。

戸惑い気味にカラダの輪郭を辿る亜弥の唇の熱が愛しかった。

不安そうに何度も何度も耳元で名前を囁かれ、そのたびに労わられていると実感した。

『愛しい』と思っただけで感じてしまった自分に驚きさえした。

服を脱ぐ前まで全身を覆っていた気恥ずかしさも、
真摯な眼差しと想いで触れてくる亜弥にあっさりと敗北を喫し、
いつのまにかすべてを委ねていた自分に、
美貴は改めて、自分自身がどれほど亜弥に溺れているかを気付かされた。

このまま、亜弥がくれる愛情という名の海で溺れ死んでもいい。

亜弥の腕の中で、昇り詰めるその瞬間、美貴は確かに、そう思った。
219 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年05月31日(土)22時53分16秒






3週間ぶりの更新です。
お待たせしたのに更新量が少なくて申し訳。
展開も、遅いうえにもどかしくて申し訳。
言い訳ばっかりで申しわ…<しつこいよ
220 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年05月31日(土)22時53分46秒
レス、ありがとうございます。

>>201
焦らす、というより、お待たせしすぎですよね、ホントにごめんなさい。

>>202
石川さんは出てても吉澤さんは全然出てないのに、
読んでいただいて、ありがとうございます。
221 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年05月31日(土)22時54分32秒
更新がこんなにも遅れてしまったのは、
飼育にお世話になってからは、ひょっとしたら初めてかも(^^;)
でも、またまたごめんなさい、しばらく更新は出来そうにありません。
自分で満足できる、納得のいく文がどうしても書けなくて、
正直、精神的にも煮詰まってるところです。

言い訳がましいですが、放棄は絶対にしません。
それはお約束しますので、気長に、次回の更新をお待ちいただければ、と思います。
身勝手な作者ですいません。

代わりになるかは判りませんが、緑のほう、こっそり更新しています。
よろしければ、覗いてやってください。

ではまた。
222 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月04日(水)03時32分05秒
焦らされた甲斐があった…。
ありがとうございます。どんどん焦らして下さい(変態
223 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月04日(水)03時33分15秒
あああすいませんageてしまいました!
焦りすぎだ自分…そんなに更新が嬉しかったのか…。
224 名前:奈々氏サソ 投稿日:2003年06月04日(水)08時50分14秒
久しぶりの更新お疲れ様でした。
家政婦さんのマジックには、はまりっぱなしで何時も楽しみに見させて頂いています。
彼方のファンは沢山居ると思いますので、案が煮詰まれば又頑張って下さい。
一読者として、本当に応援しています。
では。。。
225 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月19日(木)10時02分18秒
保全
226 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)21時29分38秒
亜弥美貴最高続編希望神降臨期待保全
227 名前:読者26才 投稿日:2003年07月04日(金)03時05分26秒
さっき見つけ 全部読みました。そしてドップリはまったヤヴァイくらい

なんか昨日コンサで松浦が歌った一曲を思い出した
ttp://ayatan.ddo.jp/up/aya/ayatan123.mp3
TWOの中の「Dairy」この小説にぴったりだと思った

ありきたりだが 作者頑張って

後感想つけてるアヤミキマジヲタ共! キショイです。
そんなオマイラが大好きだ!!
Seekにも亜弥美貴ヲタいたんだ・・・俺だけかと思ってた。。
228 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月20日(日)08時28分24秒
最高です。
それしか言えない(w
229 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時10分53秒


◇◇◇


230 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時11分58秒
1学期の期末考査を終え、あとは夏休みを待つばかりとなった7月半ば。

美貴は今学期最後の個人面談を受けた。

中間考査直後と今とでは状況は少しずつでも確かに変化していて、
美貴も自身の進路について、まだ朧げながらも、着実に前へと進み始めている。

それでも、今現在の意志を告げると、担任である教師もそれなりに納得の表情は見せた。

前回に比べ、曖昧ながらも希望がハッキリしていたせいもあるのか、
美貴は今回も予定されていた拘束時間を短縮することが出来、心身ともに軽い気持ちで進路指導室を出た。

そして、軽快な足取りで下駄箱へと向かう。
231 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時12分38秒
「亜弥ちゃん」

つまらなさそうに少し唇を尖らせ、自身の爪を見ていた亜弥が、美貴の呼びかけにパッと振り返る。

「美貴たんっ」
「ごめん、待った?」
「ううん」

ほわっ、と微笑んで、もたれていた壁から上体を起こした。

「早かったね。個人面談って、もっとかかるのかと思ってた」
「人それぞれ違うと思うよ。あたしは、だいたい決まってるしね」

靴を履き替える美貴の隣で、亜弥がきょとん、と首を傾げた。
232 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時13分37秒
「…そなの?」
「そなの」

同じ言葉を繰り返すと、真似されたことがちょっと不満だったのか、亜弥の頬が膨らむ。

「なーんか、誤魔化したー」
「誤魔化してなんかないよ」
ぴこん、と指先で亜弥の額を小突いて、それから手を差し出す。
「待たせてごめんね。帰ろ?」

すると亜弥は嬉しそうに微笑んで、小突かれた額を押さえていた手で美貴の手を握り返した。
233 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時15分30秒
「それより亜弥ちゃん、バイト決めた?」
「うん、駅前のコンビニ。家からも近いしさ、今日これから面接に行くよ」

駅までの、ふたりで歩くようになってからは短く思えるようになった道程を、いつものように手を繋いで歩く。

少し前までは周囲の視線が気になることも確かにあったけれど、
今はもう、伝わる体温がそんな気恥ずかしさも吹き飛ばしていた。

「コンビニかぁ」
「…え、ダメかなあ?」
「ううん、ダメとかじゃなくて、ちょっと、心配なだけ」
「ほぇ?」

きゅ、と握った手にちょっとチカラを込めて。

「…亜弥ちゃん目当ての客、増えたりするかも」
234 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時16分16秒
美貴は美貴なりに亜弥のことを案じてそう言ったのに、
当の本人は、目をぱちくりさせて、それから小さく吹き出した。

「やーだ、もー。まだ面接通ってもいないのにー」

その容姿で、接客業のバイト面接が通らないワケないだろう、と思ったけれど、
美貴はあえて言葉にはしないで、再び手を握り締めた。

「そういう美貴たんは、受験生なのにさー、バイトなんてしていいの?」
「いいの。土曜と日曜だけだもん。それに、お母さんのトモダチのお店だしー」
235 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時16分55秒
そもそも、ふたりがバイトを始めよう、などと思ったきっかけは、
夏休みの思い出に、ふたりだけで、旅行に行こう、という計画をたてたからだ。

そうなると、必要になってくるのが旅費。

近くでもいい、とは思っても、せっかくの夏休み、
それもふたりが出会って初めて過ごす長い長い休暇なのに、
自分たちの小遣いで行けてしまうような場所では何だかちょっと物足りない。

それなら、お互いにバイトして、そのお金で行けばどうだろう、と、提案したのが、亜弥だったのだ。

「夏休みだと、平日でも会えるもんね。美貴たんがダメな日にあたしもシフト組んでもらえばいいよね」
「……とりあえず、面接受かってからの話だけどね」
「む、美貴たんの意地悪―」
236 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時17分29秒
繋いだ手は、その最初から、夏の暑さで汗ばんでいるのに、
離し難く感じる自分は、もう既に重症だと美貴は思う。

亜弥からは決して離そうとしない手。

伝わる体温は、下手すればひどく不快な熱を孕んでいるのに、安心さえ覚えるなんて、どうかしている。

それでも、離れ難い、離し難い、愛しい体温。

「…面接って、このまま行くの?」
「うん。一応4時ってなってるから、美貴たんのおうちで時間まで遊んでいい?」

自宅の近所ならば、美貴の家ではなく一度帰って着替えればいいのに。

その言葉は飲み込む。

言えば亜弥も納得するだろうけれど、何より美貴が亜弥といたいから。
237 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時18分19秒
「…いいよ」

小さく笑って頷いて、周囲を見渡す。

人影がないのを確かめてから、繋いだ手を引き寄せるようにしながら亜弥の頬に唇を押し付けた。

「……面接さ…、あたしも、一緒に行っていい?」

唇を離しながら耳元で囁くと、美貴の触れた頬を少し朱に染めながら亜弥は頷いた。

「勿論! …やっぱ、ひとりだと心細いし…」

えへへ、と舌を出した亜弥がまた可愛らしくて、美貴も思わず口元を綻ばせてしまう。
238 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時18分58秒
ただ繋いでいただけだった手の指をそっと動かして、
その動きに少しためらいを見せた彼女の細い指と指の間に絡ませていく。

より深く繋いでいる感覚が嬉しくて、けれども言葉には出さないまま、亜弥の目を見つめて美貴は微笑んだ。

見つめられた亜弥が幸せそうに笑ったのを見て、今度はその唇に触れたい衝動が湧き起こる。

繋いだままの手をそっと持ち上げて、亜弥の手の甲を彼女の唇に押し当てる。

美貴の行動の意図が読めずにきょとんとしている亜弥。

そんな彼女にも伝わるように、ゆっくり手を手前のほうに引き寄せて、
亜弥の唇が触れたその部分を口元に運ぶと、ぺろりと、舌先だけで舐めた。

途端、何か悟ったように、亜弥のカラダが震えた。

そして、次第に頬を赤らめていく。
239 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時19分31秒
「…美貴たん、えっち」
「………だって、したくなったんだもん」

答えながら唇も押し付けて。

「………や、だ…」
「え?」

小刻みに震える亜弥の言葉に少なからず傷付いて目を上げると、
亜弥は、顔を赤くしながらも艶やかに潤んだ瞳で美貴を見つめていた。

「………そんなとこにしないで、ちゃんとして」
「…っ」

思わず息を飲んで、美貴は注意深く周囲を見回した。

それから、ゆっくり亜弥に顔を近づけ、軽く触れるだけのキスをする。
240 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時20分21秒
「…美貴たん……」
「こ、これ以上はダメ」

そう言ってすぐに離れ、繋いでいた手も焦りながら離し、
亜弥の顔は見ないまま、先にと歩き出す。

「なんでよぅ」

拗ねた口振りで追いかけてきた亜弥が美貴の背中に抱きついてきた。

「…バカ。こんな人通りで……」
「そぉだけどさぁ」

唇を尖らせながら、美貴の右肩に顎を乗せる。
241 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年07月23日(水)00時21分01秒
「…いいから、早く帰ろう」
「ぶー」

不満の声を漏らしながらも、後ろ手に差し出された手を掴む。

仕掛けたほうが耳まで赤くなっているのは何だかちょっと滑稽で、それでも可愛くて。

亜弥は、自分の一歩前を歩く恋人の、赤くなった耳を見つめた。

「…………亜弥ちゃんのあんな顔、他の誰にも見られたくないんだよ」

無言で数歩歩いたとき、まるで自分自身にも言い聞かせるように美貴が呟く。

それを確かに聞き届けた亜弥は、答える代わりに、繋いだ手を更に強く握り返した。
242 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年07月23日(水)00時22分37秒







すんません、ホンマにすんません(滝汗)
243 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年07月23日(水)00時24分25秒
>>222-228

レス、ありがとうございます。(まとめてしまってゴメンナサイ)
そして、保全の書き込みも、ありがとうございます。
244 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年07月23日(水)00時25分31秒
前回更新時から2ヶ月も過ぎてしまってて、
自分でもビックリしています、お待たせしてすいませんでした。
それなのに更新量まで少なくて、本当にゴメンナサイ。

激遅な更新速度(と、展開)は変わりませんが(殴)、
こつこつ更新していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。
245 名前:つみ 投稿日:2003年07月23日(水)19時00分35秒
まってたよ〜!!
246 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月23日(水)20時11分30秒
さいこっす。
作者さんこれからも頑張って下さい。
247 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月23日(水)23時49分35秒
キタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━ !!!!!
もう読むのが嫌で嫌で、あっ!いやそうでなく、
読んだらいつか更新の終わりがきてしまうw
もうこの話しが一番好きなんっすよ
今夜は快眠の予感
248 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月24日(木)20時58分22秒
待っていたかいがありました。
どうか焦らずに、ゆっくりと仕上げていって下さい。
いい作品はいつまででも待てます。
続きに期待!!
249 名前:堰。 投稿日:2003年07月26日(土)22時43分04秒
家政婦さーん!(微笑)。
と、両腕を広げて走って行きたい気持ちです。
無理のないスタンスで、どうぞ思うままに進んでください。
私たちはそれを受けて、ジタジタするだけなので(笑)。
バイト…いろんな客居ますしね。コンビニも、どこもかしこも。
250 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年07月27日(日)12時35分26秒
初めて、みきあやを読んだのですが、これがまたハマってしまいまして・・・(w
私が読んだ小説の中で1番いい作品です^^
更新、楽しみにまったりとお待ちしています♪
251 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)00時06分38秒
作者様、そんなにプレッシャー感じないでください。
私ら読者は好きで待ってるだけですから。自分の納得いくものを上げてやってくだせぇ。
おこがましいようですが、気長にいつまでもまってますよ。( ´∀`)...
252 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月02日(土)00時25分06秒
いつまでも続けて欲しい…。そう願わずにはいられません。
それにしてもなんでしょう、この胸のときめきは(w
若いって素晴らしいと再確認しました。
この2人にはいつまでもこのまま、仲良くいてもらいたいものです。
253 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月08日(金)21時47分18秒
はやく続きが読みたいよ〜(泣)
254 名前:達吉 投稿日:2003年08月10日(日)16時50分22秒
一気に読ませていただきました!
メチャメチャ良いっスねぇ!
萌えまくりですww
更新待ってます!&応援してますよ^^
255 名前:信長 投稿日:2003年08月10日(日)22時29分19秒
更新お疲れさまですー
ひっそりこっそりと応援させて頂いております。

のんびりまったりとご自分のペースで歩まれて下さい。
私も生暖かく見守っておりますので………(苦笑)
256 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月11日(月)23時33分55秒

◇◇◇


257 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時36分28秒
亜弥のコンビニバイトの面接も予想通りに受かって、
夏休みを明日からに控えた終業式の日が、亜弥の初出勤日となった。

夏休みの最後の週末に旅行の計画をたてたので、
1ヶ月もあればそれなりに財布の中身にも余裕が出来るだろう。

さすがに、旅行の申し込みのために必要な前払い金のほとんどは、
一旦は親に立て替えてもらうカタチになってしまったけれど。
258 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時37分47秒
終業式を終え、いつものように駅前で別れてそれぞれの家に帰宅してから、
美貴は亜弥の様子が気になってメールしてみた。


『何時に行くの?』
『今日は初めてだから、研修も兼ねて4時出勤。もうすぐしたら行くよ(^−^)』


メールでは判らないはずの緊張感も、何故だか不思議と美貴には伝わってきた。


『何時に終わるの?』
『7時だよ。終わったら、電話するね!』
259 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時38分34秒
ケータイを閉じて、ごろりとベッドに寝転んで天井を見上げる。

亜弥のことが気になって仕方ない、なんて、
それは好きな相手を想うならごく普通の感情かも知れないけれど、
自分の場合はちょっと、恋人の立場で考えても過干渉ではないだろうかと、美貴は思う。

亜弥は可愛い。

それはおそらく、彼女を見た誰もが口を揃えて認めることだろう。

けれど同時に、それは彼女に好意を持つ人間も後を絶たないことも意味する。
260 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時39分07秒
どんなに亜弥が美貴を好いてくれていても、それを痛いくらい感じていても、
つきまとう嫌悪は拭い去れない。

亜弥を誰にも会わせたくないし、誰とも会って欲しくないとも思う。

それがどんなに独り善がりな独占欲かは承知しているから、
行動に移すことも言葉にすることも、今まではなかったけれど。

「………亜弥ちゃん」

ぽつん、と呟いて、一気に顔が熱くなった。

自分で自分が恥ずかしくなって、
美貴以外は誰もいないのに、誰も見ている人間などいないのに、
赤く染まっているであろう自身の顔を隠すように枕に顔を埋めた。
261 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時39分46秒
名前を呼んだだけで胸が切なくなるなんて、本当にどうかしていると思うけれど、
今までのように毎日会うことは難しくなるもどかしさが、
美貴をどんどん深みにはまらせていくようにも感じて苛立ちが募る。

まして、これからしばらくは、
ひょっとすると自分よりも亜弥と長く時間を過ごす人間が出来るかも知れない。

そう考えるだけで、嫌悪だけでなく不安にも似た胸騒ぎがした。

ほんの数時間前まで会っていて、その手を握り締めて、体温を感じていたというのに。
262 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時40分27秒
「…こんなのって、ヤバイよ」

自覚があるぶん、余計に歯止めが効かない。

顔を埋めた枕を抱えながら起き上がり、机の上に置いたコルクボードに目を移した。

そこに並べられている亜弥と撮った写真やプリクラの数は隙間がないくらいで、
季節はまだひとつしか越えていないのに、もうずっと一緒にいたような気にさえなる。

勿論、これからもずっと一緒にいたいと思っているし、そのつもりだけれど。
263 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時41分02秒
「………そろそろ、着いたかな」

時計を見て、また呟く。

場所は駅前だと言っていた。
家からも近いと。

まだ一度も亜弥の家には行ったことはないけれど、亜弥が利用している駅は当然知っている。

「………どうしよう」

一度考えがそこに及ぶと、何故、もうそのこと以外に気持ちが向かわなくなるのだろう。
264 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時41分41秒
迷惑にはなりたくないし、重荷にもなりたくない。

そうは思っても、止められない自分も確かに存在していて。

自分の行動は、亜弥に重く感じられたりしないだろうか。

迷惑だとか重荷だとか、
そんな言葉を発する彼女を想像すること自体が難しいし、言われない自信も少しはあるけれど、
ほんの僅かでも感じたりしないとは、さすがに言い切れない。

目を閉じて、もう一度ベッドに寝転んだ美貴は、枕を抱えながら、瞼の裏に亜弥の姿を思い描いた。
265 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時42分17秒
終われば電話すると言っていた。

だったら待っていればいい。
亜弥は嘘などついたりしない。

そう思うのに。

振り払いきれずに脳裏に残った考えが、閉じられていた美貴の目を開けさせる。

細くて長い息を吐き出してしばらく天井を見つめていた美貴は、
何かを決意したように唇を真一文字に引き結ぶと、勢いをつけてベッドから起き上がった。
266 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時43分28秒



目的の駅に降り立った美貴は、人の流れに逆らわず、
それでも注意深く辺りを見回しながら構内を歩いた。

普段は利用しない駅でも、亜弥が面接するときに同行したので、
迷うことなく駅の外へ脱出することが出来た。

外へ出て、時刻はもう夕刻でも陽射しがまだ高い状態の空を見上げ、
額に滲んだ汗を拭ってから自身の立っている周囲を見渡し、
亜弥がバイトすることになった店まで、急く気持ちを抑えながらゆっくりと歩いた。

そして、その店の近くまで来てすぐに亜弥の姿を見つけた。
267 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時44分02秒
「あっ」

嬉しさと安堵とで思わず声を漏らして、慌てて手で口を覆う。

美貴と擦れ違った小さな子供の手を引いた主婦が不審そうに美貴を見たけれど、
そんな視線になど構わず、それでも、幾らか離れて中の様子を窺い見た。

見慣れない制服を着た亜弥を確認して、自身の立っている周囲を見回し、
店から少し離れているけれど、辛うじて日陰になっているガードレールに座る。

そこからでも店内の様子はよく見えて、
亜弥が先輩らしき若い女性から熱心に指導されているのが判った。

真剣な顔付きで、女性の言葉に頷いている亜弥が見える。
268 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時44分43秒
亜弥を形容すると笑顔のイメージが強かった美貴にとって、
亜弥のそんな表情は少なからず新鮮だった。

新しい発見をしたようで、なんだか胸の奥がドキドキと高鳴りを覚えていく。

額や首筋、背中を流れる汗の雫さえ、気にならないほどに。

ちょうど、美貴達と同い年くらいの少年がレジに立ち、
いい機会だ、と言わんばかりに女性が亜弥を促す。

仕草はまだぎこちなさが見えたけれど、
それでも丁寧で適切な遣り取りがあったことは、女性の表情が柔らかくなったことで窺えた。

けれど、うまくやってる、と、そのことに対して安堵を感じた美貴の耳に、
亜弥の最初の対応客となった少年が友人と一緒に美貴の前を通り過ぎていくときの会話が届き、
途端に不快感が押し寄せてきた。
269 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時45分19秒
「今の、新しいバイトのコ、見た?」
「見てねーけど?」
「もったいねー、超〜可愛かったぜ」
「うっそ、マジ?」

亜弥の姿を見なかった少年が立ち止まって振り返る。

予測して危惧していた不安要素は、いともあっさりと、目の前にやってきた。

しかし、だからと言って彼らを咎めることは出来ない。

ただ、亜弥への興味をそれ以上は膨らませず、そこまでで留めていて欲しいと願うことしか出来ない。

「惜しいことしたなー」
「ちぇー」
「けど、可愛かったって言えば、この前、おまえのクラスのさ…」

軽く笑いながら歩き出す彼らの意識が、美貴の不安を連れ去るようにして別のほうへと向き始める。
270 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時45分50秒
さりげなさを装って彼らの後ろ姿を見送り、それから再び店内へと視線を戻す。

すると亜弥は、今度は店内の商品の陳列に借り出されたようだ。

女性の指示に答えるようにしながら、真剣な面差しで手をのばしている。

頑張ってるなー、なんて思いながらずっと亜弥を見ているのに、
どうしてか亜弥は美貴に気付かなかった。

確かに店からは少し離れているけれど、美貴がこの場所に座ってから結構時間が過ぎているのに。

見つかりたくはないけれど、
気付いてもらえない歯痒さみたいな感情が美貴の中で渦を巻き始めたとき、
亜弥ではなく、先輩のほうの女性と美貴の目が合ったような気がした。

咄嗟に視線を外して、しまった、と思う。

不自然極まりない自分の行動が、彼女に不審感を与えたような気がしたからだ。
271 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時46分21秒
おそるおそる視線を戻すと、予想通り、彼女はまだ美貴を見ていた。

戸惑い、顎を引いてしまった美貴に、彼女は何かを悟ったように隣に立つ亜弥に振り向いた。

そして、何か言葉を発してすぐに、亜弥の視線が美貴に向けられる。

美貴をその視界に捕らえた亜弥の口が、『えっ!』と、驚きに縁取られたのが判って、
美貴は、自分のしていることが唐突に恥ずかしくなった。

座っていたガードレールから降りて、気まずさから逃げるように、
亜弥のいる店に背を向けて足早に歩き出す。

「美貴たん!」

呼ばれて条件反射のように立ち止まってしまう自分のカラダを少し恨めしく思うけれど、
駆けて来る足音と近付く気配がそれを一掃する。
272 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時46分55秒
「な、なんで? どうかしたの?」

息を弾ませながら、美貴の腕をしっかり掴んで。

伝わってくる熱に美貴が肩越しに振り返ると、
店の制服を着た亜弥が困惑気味に美貴を見つめていた。

亜弥の問いに答えず視線を店に戻すと、先輩の女性が、何故か微笑んでいて。

「………ちょっと、気になって」

亜弥を見ないようにぽそぽそと口の中だけで話すように告げ、
カラダだけはゆっくり亜弥に向き直る。
273 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時47分25秒
「てゆーか、抜けてきていいの?」
「それどころじゃないよ」
「…ごめん」
「じゃなくて!」

戸惑いながらも亜弥を視界にいれると、彼女は少し頬を赤くしていた。

「…びっくりしてるけど、すっごい嬉しい」
「亜弥ちゃ…」
「でも、それより、なんでって気持ちのほうが、強い」

う、と言葉に詰まり、美貴は俯いた。

「…ごめん」
「? なんであやまるの?」
「驚かせるつもりじゃなかったんだ。…ただ、なんか、気になっちゃって」
「………心配で?」
274 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時48分00秒
一瞬間を置いて、こくりと頷いた。
頷いてから、自分の言葉を反芻して慌てて弁解する。

「しっ、信用してないワケじゃないんだよ。でもさ、なんか、ひとりでいると、いろんなコト考えちゃって、それで」

美貴の言葉を、真面目な顔付きで無言のまま聞いていた亜弥。

真っ直ぐ美貴に向けられている目は、
逆に亜弥を不快にさせたと思わせて、続ける言葉が喉の奥で消えてしまう。

「………美貴たん」

ちょっとした沈黙のあと、亜弥が静かに美貴を呼んだ。

目線を落としていた美貴が亜弥を見ると、何故だか亜弥は笑っていて。

「…?」

笑顔のまま、亜弥は美貴の手をぎゅっと握り締めた。
275 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時48分45秒
「…今、何時?」
「え? …あ、えと、5時半…」
「じゃ、あと1時間半くらいあるんだけど、待っててくれる?」
「う、うん、勿論! ココで待ってる!」
「ココはダメだよ。いくら日陰でも、暑いし」
「けど…」

亜弥を待つなら、どんな炎天下でも平気なのに。

そう続けようとして、笑顔に言葉を奪われる。

「それに、美貴たんに見られてるって思ったら、緊張しちゃって、集中できなくなって、仕事になんないよ」

それは、ひょっとしたら美貴を思っての嘘だったのかも知れないけれど、
それでも亜弥の言葉は気持ちよく美貴のもとに届いた。
276 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時49分19秒
「…判った」
「この先にレンタル屋さんがあるの。そこなら涼しいし、座れるトコもあるし、そこで待ってて?」

握り締めた手を、お互いに握り返して。

そこから伝わる気持ちは、きっとふたり、一緒だと思える。

「…うん」
「じゃ、頑張ってくるね?」

そうっと、少し名残惜しそうに離れていく体温。

「松浦さーん?」

店の入口から、亜弥を呼ぶ声がする。
277 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月11日(月)23時50分02秒
「行かなきゃ」
「うん、ごめん」
「あとでね」
「うん、あとで」

手を振りながら慌てて戻って行く亜弥の背を見送って、
先輩の女性に何やら言い訳している様子の亜弥を見届ける。

美貴に振り向いた亜弥が笑って手を振るので、
それに応えるように美貴も振り返し、そのあとで亜弥が指定した店へと向かった。
278 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月11日(月)23時50分52秒





中途半端なところで区切ってしまってごめんなさいm(_ _)m
279 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月11日(月)23時51分43秒
たくさんのレス、ありがとうございます。


>>245
お待たせしましたm(_ _)m <今回も……(^^;)

>>246
ありがとうございます。
マイペースで頑張りますm(_ _)m

>>247
一番好きとか言われちゃうとテレますね〜(^^;)
ご期待に添えられるかどうか、自分なりに頑張ります。

>>248
そんなふうに言っていただけると、本当に嬉しいです。
ありがとうございます、マイペースで頑張りますm(_ _)m

>>249
>家政婦さーん!(微笑)。
>と、両腕を広げて走って行きたい気持ちです。
じゃ、私も両腕広げてお待ちしてます(殴)
思うままに………、ええもう、突き進みますですよ。<半ばヤケ(苦笑)

>>250
あやみき(ミキアヤ)は、私の小説の他にももっともっと秀作がございます。
でも、そんなふうに言っていてただけると、嬉しいです、ありがとうございます。
280 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月11日(月)23時52分19秒
たくさんのレス、ありがとうございます。


>>251
優しいお言葉、身に染みます(°Å)
ですが、自分でプレッシャーかけとかんと、なかなか進まないのも現状で(^^;)
夏場は特に更新が止まりがちですが、気長にお待ちくださいませm(_ _)m

>>252
ときめいていただけたでしょうか、こんな砂吐く勢いの展開に(笑)
書いてる本人も、リアルのふたりがいつまでも仲良くしていて欲しいって気持ちで書いてます。
伝わるといいのですが(^^;)

>>253
すっ、すいません、お待たせしましたm(_ _)m

>>254
萌えていただけましたか、ありがとうございます。
もうしばらく、甘いふたりをお届けしたいと思ってます(w

>>255
うはぁ、自分の板にレスってもらえるの、ホンマ、夢みたいっす(w
生温い目で、見守っててやってくださいませ(w
281 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月11日(月)23時53分22秒
思うように書けなかった、というのもあるんですが、
夏場はどうしても更新が遅くなりがちです、ごめんなさい。

気を引き締めつつ、それでもマイペースに頑張ります(殴)
ではまた。
282 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月12日(火)02時27分56秒
更新されたものを読み終える度に早く続きが読みたい!
となる自分は欲張りなんでしょうか?
赤鼻さんのあやみきが魅力的すぎて憎い…
283 名前:達吉 投稿日:2003年08月12日(火)09時48分47秒
おぉ!
更新されてますねぇ〜ww
今回のもすんげぇ良いっスねww
ミキアヤ萌え〜ww
マイペースにガンバってください!!^^
284 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月13日(水)02時04分13秒
嫉妬美貴萌え
285 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月13日(水)13時06分12秒
更新お疲れ様です。
ミキたんの心配性、分かる気がします・・・(笑。
では、まったりと次回の更新楽しみにしてます♪
286 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月15日(金)12時11分51秒
藤本さん可愛いなぁ…
そして、それをしっかりと受け止められる松浦さんが素敵でつ。
287 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月26日(火)01時21分33秒
そろそろあやみき禁断症状が・・・
赤鼻さん、更新という処方箋を出してください。。。(泣)
288 名前:ほわ 投稿日:2003年08月26日(火)22時19分51秒
マターリと一気読みさせてもらいますた
(・∀・)イイ!!っす。素晴らしいっす。
自分は微エロが心地良いんで、エロ描写が微妙にあるのが嬉しいっす


完全にエロに走っても萌えるけどナーw
289 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時55分07秒



亜弥から教わった店は、コンビニから歩いて2分もないところにあった。

店名だけなら全国にも名の知れたそこは、建物自体は2階建ての、さほど大きくない店構えをしていた。

自動ドアを抜け、とりあえず目の前に見えたエスカレーターに乗って階上に上がる。

1階は書籍とCDの販売がメインになっていて、2階がレンタルショップになっていた。

エスカレーターを降り、適当に歩いては目の引くものを手にとって見たりもしたけれど、
どれもこれも、何故だか強く興味はそそられず、仕方なく階下へ降りる。

1階の書籍コーナーで暇潰しになりそうな雑誌を買って、入口近くにあるベンチに腰を下ろした。
290 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時55分39秒
ポケットに突っ込んだケータイを取り出して時間を見ると、
この店に来てからまだ30分ほどしか過ぎていなかった。

亜弥が仕事を終えるまで、少なくとも1時間はある。

それでも、不思議と疲れや怠さは感じなかった。

ケータイをポケットに戻し、買ったばかりの雑誌を開く。

その雑誌は、洋服や小物の紹介を主としているため、
それらに対する補足説明ぐらいしか文字はなく、『読む』には味気ないくらいだったけれど、
ページの隅から隅まで読んでいれば、最終ページに辿り着く頃には亜弥もバイトを終えるだろう。

亜弥が来るまで、どこまで進むか、美貴は思わず苦笑しながらページを繰った。
291 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時56分17秒



最後のページを読み終えて、頭を上げる。

ポケットのケータイを取り出して時刻を確認すると、もうすぐ7時になろうとしていた。

読み終えた雑誌を閉じて、両腕を伸ばす。

読んでる途中、何人かが美貴の隣の空いたスペースに座ったけれど、
相手が美貴を視界にも意識にもいれないのと同じように、気にはならなかった。

美貴に声を掛けてくる軽薄そうな男達もいたが、
雑誌から目を上げて軽蔑の意を込めて一瞥しただけで、彼らは美貴の視線の強さにすごすごと立ち去った。

ただ、店員の視線は痛かったけれど。
292 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時56分54秒
入口の外に目を向けて、走ってくるであろう亜弥の姿を想像する。

それだけで、自分の口元が綻ぶのが判った。

そして、思ったとおりに息を弾ませながら走ってくる亜弥を視界に捕らえ、美貴も思わず立ち上がる。

「お、お待たせ…っ」

弾む息を整えながら、額に滲む汗を拭う。

「…そんな、走って来なくても」

そう言いながらも、嬉しさは隠せなくて。

「だって、ひとりで待たせてるんだし…」
「とりあえず、座ろ?」
293 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時57分28秒
美貴が座っていた隣へと促すと、亜弥はちょっと迷ったように間を置いてから座った。

その隣に再び腰を下ろして、息を整える亜弥の横顔を見つめる。

「喉渇いてない? 何か買ってこようか?」
「うん、さっぱりしたのがいいな」
「判った」

ベンチから少し離れた、エスカレーターのそばにある紙コップの自動販売機。

その中からスポーツドリンクのものを選び、自分はオレンジジュースを買って亜弥の元に戻ると、
既に弾んだ息を整え終えた亜弥が美貴を見ていた。

「ほい」

手渡すと、両手で受け取り、こくりと一口飲んでから美貴に振り向く。

口を付けてまだ飲まなかった美貴がそれに気付いて亜弥を見ると、何だか嬉しそうに口元が綻んでいた。
294 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時57分59秒
「…なに?」
「心配だった?」

飲みかけのジュースを噴き出しそうになって、思わずむせかえる。

「…あ、亜弥ちゃん?」
「嬉しいな、それだけで来てくれるなんて」

にこにこ笑ってスポーツドリンクを飲み干す亜弥の横顔を見ながら、
自分がどれほど子供じみた行動に出ていたのかを痛感する。

「………ごめん」
「? なんで謝るの?」
「………なんとなく」
「えー? なにそれ。あたし、嬉しかったって言ってるのに」

カラになった紙コップを脇に置いて、少し俯き加減になった美貴の顔を亜弥が下から覗き込んでくる。

「…美貴たん?」
295 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時58分38秒
何だか自分のしていることが急に恥ずかしくて情けなくなってきた美貴は、
覗き込んでくる亜弥から逃げるように目を逸らした。

「…ごめん」
「……美貴たん、さっきから変だよ。なんで謝ってばっかりなの?」
「ごめん…」
「ほらまた…っ!」

怒っているワケじゃないと判っていても、なんとなく、気分は滅入っていく。

「…あたし、嬉しかったって言ってるじゃん。美貴たん、何も悪いことなんてしてないよ」
「でも…」

負担にならない?
重く感じない?

聞きたくても、怖くて聞けない。
296 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時59分13秒
「……あっ」

気まずさを孕んだ空気を断ち切るように、亜弥が短く声を漏らして立ち上がった。

それを追うように美貴が視線を上げると、亜弥は外を見ていて。

「おかーさん」

亜弥の口から出た言葉に、さすがに美貴もぎょっとなって立ち上がった。

亜弥の視線の行方を追うと、
美貴の想像とはかなり違った、人当たりの良さそうな少し年配の女性が歩いていた。

「…亜弥ちゃんの、おかーさん?」

美貴の声を聞いた亜弥の方が不自然に揺れた。

そして、振り向きもしないで頷くと、少し慌てた様子でその女性に向かっていく。
297 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)21時59分43秒
「おかーさん」

呼ばれた女性が振り向き、柔らかな笑顔を亜弥に向ける。

「あら、亜弥ちゃん。どうしたの、こんなところで? バイトは?」
「さっき終わったの。で、美貴たんが来てくれたから、ちょっと喋ってた」
「そう」

柔らかな笑顔を崩すことなく頷いて、美貴に視線を移してくる。

「こ、こんにちは、藤本美貴です」

慌てて頭を下げると、亜弥の母親もやんわりと頭を下げた。

「はじめまして、亜弥の母です」

美貴の想像していた亜弥の母親は、もっともっと違う雰囲気の女性だった。
298 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時00分18秒
元気いっぱいの亜弥と同様に、母親もきっと、明るくて朗らかな人だと、勝手に想像していた。

呼称も、『おかーさん』ではなく、『ママ』と呼んでいると思い込んでいた。

けれど、今、美貴の前に立つ女性は気品すら窺えて、なんだか面喰ってしまう。

「どこか行ってたの?」
「ちょっと、そこの果物屋さんにね」

腕に掛けられた袋を覗き込む亜弥に答えて、母親の視線が再び美貴に向けられた。

「ええと、藤本さん?」
「は、はいっ」
「もしよかったら、ウチで夕飯、食べて行かれません?」
「えっ」

唐突な誘いに答えに詰まると、横から亜弥が割り込んできた。
299 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時00分55秒
「…ダメ、美貴たん、もう帰るの」
「えー」

残念そうな声が、母親を実年齢よりも若く見えさせた。

「おかーさん、先に帰ってて? あたし、美貴たん、駅まで送ってくから」
「そう? じゃ、残念だけど」
「あの、すいません、せっかく誘っていただいたのに」

ぺこり、と頭を下げると、また柔らかな微笑みが返ってきた。

「また今度、いらしてね」
「はい、ありがとうございます」
「亜弥ちゃんも、早く帰って来てね?」
「はーい」

手を振りながら去って行く母親の後ろ姿をそのまま見送って、亜弥は美貴の手を掴まえるなり踵を返した。
300 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時01分34秒
「…駅まで、送るね」
「………う、ん」

駅までの道を何も話さないまま歩きながら、美貴は次第に息苦しさを覚えていた。

手を繋いで、お互いの体温を感じているはずなのに、なんだかふたりの距離がひどく遠くに感じられたからだ。

駅の明かりが見えてきて、無意識に歩調が遅くなる。

繋いでいた手も不意に強く握り締められて、美貴は弾かれるように亜弥を見た。

「…亜弥ちゃん?」

呼ぶと、それが合図だったように亜弥は立ち止まった。

「……どうかした?」

俯いてしまった亜弥が、唇を噛んだのが判った。
301 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時02分16秒
「……あのさ」
「うん…?」
「……前、美貴たん、あたしに隠してることあるって、言ったこと、あるよね」
「え…、あ、うん…」

いきなりだったことで、亜弥が何を言おうとしているか、その真意はよく判らなかったけれど、
自分の言った言葉は覚えていたので、合わせるように美貴は頷いた。

「………実はあたしも、まだ、美貴たんに話してないことが、ある」
「……え…」
「ちゃんと話す。ちゃんと聞いて欲しい。…だけど、今は、まだ、待って」

繋いだ手がまたチカラを増した。

「美貴たんなら、ちゃんと聞いてくれるって、判ってる。判ってるけど、もうちょっと、もうちょっとだけ、待って」
302 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時02分55秒
亜弥の抱える、美貴も知らない何か。

今知りたくないと言えば嘘になる。
亜弥もきっと、美貴の戸惑いに気付いてる。

けれど、それでも待って欲しいという亜弥の気持ちを尊重したかった。

「…もうちょっと、自分に自信持てたら、ちゃんと、話すから」

美貴も、亜弥も、お互いにまだ知らないことはある。

それでも、そばにいたい気持ちは薄らぐことはないから。

お互いを想う気持ちに、嘘はないから。

「…判った」

繋いだ手を握り返して、美貴に振り向いた亜弥の頬に唇を押し付けた。
303 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時03分30秒
「…あたしこそ、今日はごめん。
びっくりさせたかったとか、用があったとかじゃなくて、ただ、会いたくなっただけなんだ」
「…美貴たん?」
「明日から夏休みじゃん? 今までみたいに学校行けば会えるってワケにもいかなくなるし、
週末はバイトだし、そうそう会えなくなるって思ったら、気付いたら電車に乗ってたんだよね」

美貴の唇が触れた頬を撫でていた亜弥が目を大きく開いて美貴を見つめた。

「信じてないワケじゃないけど、会えない時間が増えるって思ったら、ちょっと、不安になっちゃったんだ」
「美貴た…」

繋いでいた手を離して、そっと亜弥の肩を抱き寄せた。

「…これからは、ちょっとぐらい会えなくても、慣れなきゃね」

美貴の肩に額を押し付けながら、亜弥が頷いた。
304 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時04分04秒
「……淋しいとか、不安とか、あたしだけが感じてるんじゃないもんね」
「…そうだよ。…美貴たん、あたしより年上なんだからさ、先に学校からいなくなっちゃうじゃん」
「うん、そうだよね」
「…あたしのほうが、きっと、淋しい想い、するんだから」
「うん」

抱えてる不安は、きっと、同じ。

だからこそ、判り合える。
判り合えると、信じたい。

まだ、お互いについて、知らないことが、あったとしても。
305 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時04分35秒
「送ってくれて、ありがと。ここまででいいよ」
「けど…」

名残惜しそうに亜弥から離れると、亜弥のほうが淋しそうに美貴を見つめた。

「…ダメ、亜弥ちゃん、早く帰らないと」
「そうだけど…」
「…今度、ちゃんと亜弥ちゃんちに招待してよね」
「え…? …あ、うん、勿論」
「…電話するね」
「うん」
「メールもするからさ」
「うん」

それでも別れ難い。

別に、これで一生会えなくなるワケじゃないのに。ー
306 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時05分05秒
「…じゃあね」
「……うん」

頷いた唇を、周囲に人影がないのを確認してから、そっと掠め取って。

「おやすみ」
「…お、おやすみ」

唐突だったことに亜弥の顔が赤くなったのを見届けて、美貴は満足して駅に向かった。

そして、その直後、美貴のケータイにメールが届く。


『美貴たんのえっち!』
307 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003年08月27日(水)22時05分47秒
そのメールを打っているときの亜弥の表情が思い浮かんだ美貴は、
喉の奥だけで小さく笑って、すぐに返信する。


『こんなあたし、キライかなあ?』


しかし、それに対しての返事はメールではなく、着信だった。

「…もしもし?」

少し面喰って応対に出ると、小さな機械を通して、愛しい声が、嬉しい言葉を運んできた。

「好きに決まってるでしょ!」

それだけで、ぷつりと通話は途切れてしまったけれど。

通話終了と表示されているディスプレイを見つめていた美貴は、
幸せそうに口元を綻ばせながら、ゆっくりと帰途についた。
308 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月27日(水)22時07分08秒





お待たせしました。
だんだん涼しくなってきましたし、
季節ハズレな内容にならないよう、頑張って更新したいと思います。<あくまで希望。
309 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月27日(水)22時08分33秒
>>282
>赤鼻さんのあやみきが魅力的すぎて憎い…
み、魅力的…。(←感動に打ち震えている)
ありがとうございます、そう言っていただけると、ホント、嬉しいです。
ウチの藤本さん、ただのヘタレですが(w


>>283
ありがとうございます。
マイペースに頑張ります。


>>284
嫉妬、という感情は、自分、ものすっごく素直で人間的な感情だと思ってるので、
そこに萌えていただけると、感慨深いものが…(°Å)


>>285
心配性…、そうですね。もうちょっと信用したげなさいよ!てな感じですが、
ウチの松浦さん、何気にモテモテで可愛いからなあ(w


>>286
か、可愛いですか? ヘタレですよ?(w
でも、確かに松浦さんのほうが、藤本さんよりしっかりしてる気が(w


>>287
すいません、ウチの処方箋って、こんなんしか出ないんですけど、
少しでも症状改善、されました?(^^;)


>>288
一気読み、ありがとうございますー。
微エロっすか、何気に得意だったりします。<焦らし寸止め、の別名も持ってますし(w
展開遅いですけど、既にエロスレ(笑)になってるあっちともども、よろしくなのです。
310 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月27日(水)22時09分13秒
相変わらず更新速度は遅いですが、
そろそろ、少しずつではありますが、動き始めてるので、生温い目で、見守っててやってくださいませ。
ではまた。
311 名前: 投稿日:2003年08月27日(水)22時31分56秒
くああぁぁ〜!!(悶絶)
ラストシーンに萌えすぎて、思わずレスを。
素晴らしいです。大好きです。
ちょっと話の芯らしきものも出てきましたね。
どんな風に料理されるのか、楽しみにお待ちしています。
312 名前:ほわ 投稿日:2003年08月27日(水)23時06分45秒
>既にエロスレ(笑)になってるあっちともども、よろしくなのです。
そっちも一気読みさせていただきましたよ(・∀・)

あまりseekをうろつかないため、
ここもあっちも昨日発見したばかりなのです
もちろん巡回コースに加えさせていただきましたがw

待つのは苦手ではないので気長に待たせていただきます
313 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月28日(木)01時52分43秒
あっちの更新も実は楽しみにしていたり…。もちろんこっちも楽しみですよ!
てか最後の松浦さんの表情が想像できてしまって非常に萌えました。
頬がゆるみっぱなしです。結構誰にも見られたくない顔してますね、今。
作者さんの言うとおり、生温かい目で見守らせていただきます(w
314 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月28日(木)02時18分36秒
更新嬉しいです!
たとえあややがバイトをしようが
みきたんが卒業してしまおうが
要するに二人の接点が弱くなってしまったとしても
二人の愛は永遠であって欲しいぃ!!!!!
315 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月28日(木)22時53分27秒
うわぁぁぁぁぁー!!!!(謎。
思わず読みながら顔がにやけてました(笑
あやや&ミキティまじかわいい(w
憂い憂いしいと言うか。。。
抱えている問題がやけに気になるのは秘密ということで、次回楽しみにしてます!
では〜
316 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月30日(土)00時06分12秒
処方箋キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
赤鼻さんのは処方箋というか麻薬でつね。
症状は悪化しましたw
317 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:03


◇◇◇


318 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:04
亜弥との初めての旅行は、今までの美貴の人生においてとてつもなく楽しい数日間となった。

美貴の家に何度か泊まりに来ていたことがあったので、
24時間ずっとそばにいる、というのは既に体験していたけれど、
場所や過ごす空間が違うだけで、あんなにも新鮮に亜弥を感じることになるとは思いもしなかった。

幸せ、と、そんな言葉だけで語り終えてしまうには物足りないくらい満ち足りた時間を過ごした美貴は、
それと同じくらい、亜弥への気持ちも、美貴が思う以上に強く、大きく育っていることに気付かされた。

手放せる余裕なんて、美貴の心の中にはもう存在しない。

亜弥の存在自体が、今の美貴を動かしていると言っても間違いないとさえ思えた。

そんな風に感じる自分をひどく恐ろしく思いながらも、
亜弥への気持ちは堰を知らない激流のように毎日溢れ出していた。

なのに、美貴自身でさえ時折持て余すその感情を、亜弥は笑顔で受け止めるのだ。
319 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:05
「みーきたん?」

ひらひら、と顔の前で手を振られて、ハッと我に返る。

少し心配そうに美貴を見つめていた亜弥の目に、
美貴の意識が向いたことで少しずつ安心が戻ってくる。

「…ごめん、ちょっとぼんやりしてた」
「疲れてるの?」

完全には戻りきってない安心と微妙に残されている心配からか、亜弥の声は少し小さかった。

「もしそうなら、あたし、帰ったほうがいい?」

ホントはイヤだけど、と、声には出さないながらも口元はそう語っていて、美貴の口元が綻ぶ。
320 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:06
夏休み最後の日。

バイトも終わり、旅行も終わって、自分たちの財布の中はまだ少し潤っているのに、
外へは出かけず、結局は美貴の家で過ごしているふたり。

明日からはまた毎日学校で会えるのに、
長かったようで短かった夏が、なんだか違う切ない雰囲気を呼んできたようで。

「帰らないでよ」

呟くように告げて、自分の顔の前で振られた亜弥の手を捕まえて引き寄せる。

不安定な格好で美貴の様子を窺っていた亜弥のカラダは、よろけながらも、美貴の腕の中におさまった。

さほど体格差はないので、抱きしめる、というより、
うまく『抱き合える』態勢になれるのが、満足感をまた強める。
321 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:07
美貴の肩に頭を預け、亜弥がゆっくり、まどろむように目を閉じる。

「…明日から、また、毎日会えるんだよね」

静かに、謳うような響きで亜弥が声を漏らす。

「うん、そだね」
「……けど、そろそろ、受験で忙しくなるよね」
「…うん」

美貴の脳裏に、漠然としながらも、それでも幾らかカタチを示している進路が浮かんだ。

クラスで常に上位、学年でもトップクラスの成績を誇る美貴は、当然進学を希望している。

教師達も、美貴の進路については目に見えての心配をしていない。

ただ、美貴の志望大学には難色を示していた。
322 名前:赤@瑞希 投稿日:2003/09/15(月) 07:08
「……美貴たん、進路は、どうするの?」

今まで、あからさまに亜弥がそれを尋ねてきたことはなかった。

おそらく、亜弥自身も美貴の成績が優秀だと知っているのだろう、
だから敢えて聞かないようにしていたのかも知れない。

「初めて聞いたね、それ」
「…そう、だっけ?」

美貴の背中にまわる亜弥の手のチカラがほんの少し増した気がした。

「……美貴たん、頭いいもんね。やっぱ、国立大?」
「…まあね」
「そっかぁ。…そしたら、県外だよね。どこ行くの? W大とか、N大?」
「ハズレ」

あっさり答えて、亜弥を抱く腕にチカラをこ込め、その髪に唇を押し付ける。
323 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:09
「…え、じゃ、H大とか、K大とか…」
「全然違うねぇ」
「……ひょっとして、もっと遠いトコなの…?」

髪の匂いを思い切り吸い込んで、声に覇気を失くしていく亜弥をゆっくり自分から引き離す。

真正面から見た亜弥の目は、声に比例してひどく淋しげに揺れていて、
美貴の胸の奥が愛しさを伴って切なく鳴った。

「……どこ、行くの?」
「どこにも行かないよ?」

堪え切れずに目尻に涙を浮かべた亜弥の、その雫を唇で拭って。

「…え?」
「あたし、もう亜弥ちゃんから、離れられないんだ。だから、そんな遠くになんか、行かない」

こめかみにも唇を寄せて頬へと滑り、身じろいだ亜弥の耳に、そっと息を吹きかける。
324 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:10
「地元の、大学にした。高校より、ちょっと遠いってだけで、今とあんまり変わらないよ」
「そ…っ!」

亜弥の唇が何かをカタチどる前に塞ぐ。

軽く触れて、息を飲んだ亜弥をもう一度見ると、困ったような顔をして、美貴を見つめていた。

「……地元の大学って、R大?」
「うん」
「あそこは、美貴たんのレベルよりずっと低いじゃん」
「うん、進路指導の先生にもそう言われた。でも、もう決めたから」
「………まさか、あたしの、ために?」
「そうだよ。亜弥ちゃんと一緒にいる時間、少しでも多くしたくて」

さすがに本当の理由は進路指導の教師には告げなかったけれど。
325 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:11
「遠くに行くと思った?」

こくん、と、目線を落としたまま亜弥は頷いた。

「………美貴たんは、それでいいの?」
「いいよ。……それとも、亜弥ちゃんには、迷惑?」
「ちっ、違うよっ、そうじゃない、そんなんじゃないよ…っ」

頭を上げて美貴をその目に捕らえた亜弥が必死になって首を振った。

両手で、しっかりと美貴の腕を掴んで、それからまた、静かに俯いたけれど。

「亜弥ちゃん?」

今にも泣き出しそうな雰囲気に、美貴が焦りながらその肩を揺らすと、
唐突に上体を起こした亜弥が美貴に抱きついてきた。
326 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:12
「嬉しいよ、すごく、すごく嬉しい。
美貴たんが卒業しちゃったら、会う機会が減るんだって思ってたから、すごく嬉しいよ。でも、でも…」

そこで言葉を切って息を吸った亜弥に、そのカラダを抱き返しながら美貴も小さく息を飲んだ。

「あたしなんかのせいで美貴たんの将来が歪んじゃうのかと思うと……っ」

抱きつく亜弥の腕のチカラが少しずつ強まっていく。

亜弥の中の葛藤は、亜弥自身にはツライことかも知れないけれど、
おそらく美貴には嬉しいと感じることばかりだろう。

愛しい存在が語るすべては、愛すべきものでしかないのだから。

もし、亜弥の言うように、亜弥のせいで美貴の未来が歪むというのなら、
ただ綺麗なだけで何の変哲もない将来なんてどんな意味もない、と美貴は思った。

亜弥を知らずにいた過去の自分が、どれほど平凡な世界で生きて幸せだったのかを思い知らされるだけだ。
327 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:12
「…歪んだりしないよ」

亜弥のいない未来なんて、もう考えられないのだ。

「あたしには、亜弥ちゃんと過ごす時間のほうが大事なの」

その言葉を聞き届けた亜弥がゆっくりと美貴からカラダを離す。

美貴を見下ろす態勢だった亜弥の目が、思っていた通りに赤く充血していて、美貴の胸をまた鳴らせる。

「もし亜弥ちゃんが迷惑だって言っても、もう進路を変えるつもりはないよ」
「美貴たん…」
「嬉しいって思ってくれたら、それでいいんだよ。亜弥ちゃんは何も気にすることない。
確かに亜弥ちゃんのために地元を希望したけど、あたしは、あたしの意志でそう決めたの。
大学なんて、あたしにはただの通り道でしかないんだよ」
328 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/09/15(月) 07:13
亜弥の目にまた涙が浮かんで、
けれどその涙の意味するものが判るから、美貴はそっと微笑んで見せた。

「嬉しくない?」

ふるふる、と首を左右に振って、亜弥は美貴の服をぎゅっ、と強く握り締めた。

「だったら、そう言って?」
「嬉しい」

目尻から零れた涙を拭いもせず、亜弥は笑って告げた。

そしてそのまま、美貴に強く強くしがみつく。

「嬉しい、すごく嬉しいよ、美貴たん。…ありがとう」
「…もう、離さないって、決めたからね」

鼻先をくすぐる亜弥の髪の匂いにうっとりしながら、美貴も亜弥のカラダを強く強く、抱き返した。
329 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003/09/15(月) 07:14





こんな時間に更新。

うー、思うように進まない…。・゚・(ノд`)・゚・。
もうちょっと、もうちょっとで、
この話で一番書きたかったシーンに辿り着くのにぃ。<自分で首締めるのも得意技(殴)
330 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003/09/15(月) 07:16
レス、ありがとうございます。


>>311
えへ(/∇\*)
そうですね、そろそろ、ホントにそろそろ、動き出してます。
料理ですかー、大層な味付けじゃないですけど、お口に合いますように…。


>>312
>待つのは苦手ではないので気長に待たせていただきます
すいません、そんな言葉に甘えてしまうダメダメな作者をお許しくださいm(_ _)m


>>313
どんな顔して読まれてるのか、ひっじょぉーーに、気になるのですが(w
生温く…、よろしくお願いしますm(_ _)m


>>314
お待たせしちゃってすいませんm(_ _)m
ホント、このふたり、いつまでも仲良くしてて欲しいなあ…。<他人事かよ!


>>315
萌えていただいてありがとうございます(w
このふたりで甘いのを書き慣れてないので、そんなふうに言っていただけると、ホント、嬉しいです。


>>316
>赤鼻さんのは処方箋というか麻薬でつね。
>症状は悪化しましたw
Σ( ̄□ ̄;)
ど、どど、どうしよう。誰かーっ、誰かいませんかーっ。
ここに重症患者さんがいらっしゃいますーっっ!(殴)
331 名前:赤鼻の家政婦@瑞希 投稿日:2003/09/15(月) 07:16
たぶん、旅行編を期待してた方はいらっしゃると思うんですが、
話の筋に全然関係ない話になってしまうので、時間軸を大幅に進めてしまいました。
すいません。
気持ち的に余裕があったら、完結したら、番外編で書けたらなあ、とは思ってるんですが(^^;)<たぶん無理。

ではまた。
332 名前:ほわ 投稿日:2003/09/15(月) 14:33
>さほど体格差はないので、抱きしめる、というより、
>うまく『抱き合える』態勢になれる

ここにぐっときた(*´д`)
いや、待ったかいがあるってものですよ
素晴しい出来栄えです
旅行編は確かに期待してましたが、話の完結にむかうならそれはそれでありです
・・・終わっちゃうのも寂しいけどナー ⊃д`)

では次の更新を待たせていただきます
333 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/16(火) 00:32
旅行編、正直読みたかったですけど…更新分を最後まで読んだら
そんな考えはどこかにふっとんでいきました。
結局甘い二人が見れればそれで満足みたいです、自分(w
334 名前:雨男。 投稿日:2003/09/16(火) 04:35
作者様、更新お疲れ様です。いつも楽しく読ませて頂いています。
あやみきとは無関係ですが、みきたんの
「大学はただの通り道でしかない」
という言葉に今回はハッとさせられました。確かにそうですね。
みきたん、ありがとう。
では、これからも頑張ってください。



335 名前:んあ 投稿日:2003/09/20(土) 12:13
そろそろいしかーさんに期待
336 名前:ヒトシズク 投稿日:2003/09/25(木) 16:38
毎回楽しいお話をどうもありがとうございます(マテ
あぁ・・・みきたん。マジでいい奴やん!と思わず突っ込みを(ry
次回を楽しみにしてます♪
では〜
337 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/04(土) 10:27
今全部読んできました。マジサイコ―ッス。
素晴らしすぎます。アヤミキファンとしてはたまりません。
sea of loveも読ませていただきました。
家政婦さんの才能はすごすぎます。
続き期待してます。
338 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/04(土) 11:10
>>337
最近こういう人多いなぁ…
レスはsageって書いてあるでしょ。
わからないなら案内板とFAQを読んでから利用すべし。
339 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:35
新学期になってから迎える2度目の日曜日、その日は珍しく、美貴と亜弥は別行動だった。


「再来週の日曜、模擬試験だってさ。急に言うんだもん、焦っちゃうよ」

始業式が終わったあとの帰り道、
いつものように昇降口で待っていた亜弥に膨れっ面で美貴が告げると、亜弥も少し残念そうに眉尻を下げた。

「せっかく亜弥ちゃんと映画観に行こうと思って、お兄ちゃんに前売り券買ってきてもらったのにさぁ」
「…でも、こればっかりは仕方ないよ」

歩きながらそう答える亜弥の肩も心なしか下がってるように見えた。
340 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:36
「強制だから、不参加ってワケにもいかないんだ、ごめんね?」
「ううん、気にしないで。美貴たん、受験生だもん」
「けどさ…」
「それに、あたしもさ、その次の日曜、ちょっと用があったから、その日に変えてもらえるよう言ってみるよ」
「あ、そなの?」
「うん、だから美貴たんも、試験、頑張ってきてよ」

ふわりと微笑まれて、美貴の胸がいつものように高鳴る。

それを自分でも隠すように、人通りの少なくなった道で、美貴はそっと亜弥の手を掴んだ。

「……聞いてもいい?」
「うん?」
「用事って?」
341 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:37
神妙な顔付きで、しかも上目遣いで切り出してきた美貴に亜弥も最初は目をぱちくりさせたけれど、
美貴の頬が次第に朱を帯びてきたことで、微笑ましさに似た、愛しさを含んだ笑いが込み上げてきた。

「…美貴たん、ヤキモチ妬いてる?」
「ば…っ、そ、そーゆーんじゃ…っ」

反論しようとする美貴を諭すように、繋いだ手に、誘うようにきゅっ、と、チカラを込めて。

「お姉ちゃんの誕生日、もうすぐなんだ。夏のバイト代がまだ少しあるから、どこか出掛けようって言ってて」
「……そ、なの?」
「うん」

笑いながら頷く亜弥の瞳に嘘は見えない。

そもそも、亜弥が美貴に嘘をついたことなど今まで一度だってなかった。
342 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:37
「そっか。そういえば、亜弥ちゃん、お姉さんがいたんだっけ」
「うん。今度、ちゃんと紹介するね」
「えー、なんか、怖いなあ」
「なんで?」
「…付き合ってるってこと、知ってるの?」
「知ってるよ。名前も教えた」

けろり、と答えられて拍子抜けする。

「お、驚かなかったの?」
「…そりゃ、少しは。けど、よかったね、って言ってくれたし。たぶん、あたし達の一番の味方になってくれると思う」

微笑む亜弥が美貴の胸をまた鳴らす。

この笑顔を守りたい。
いつまでも、いつまでも自分のものであって欲しい。

美貴の想いは、美貴自身が驚くほど、強くなっているような気がした。
343 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:38

「…ミキティ?」

模擬試験を終えた帰り道、
亜弥との会話を思い出しながらぼんやり歩いていた美貴を、うしろから聞き慣れた声が呼んだ。

ゆっくり振り向いて、そこにクラスメートの姿を見つけて、美貴は苦笑する。

「なに?」
「…ぼんやり歩いてると、危ないよ」

少し遠慮がちに言った梨華の言葉で、
美貴は自分のすぐ目の前にガードレールがあることに気付き、ますます苦笑した。

夏前のあの一件以来、梨華との間は少しぎこちなさがあって、普通の会話ですら、妙な緊張を孕んでいる。

「……あの、ミキティ、このあと、まっすぐ帰る? 用事とか、あるのかな?」
「え? …いや、特にはないけど」
344 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:39
今日は、亜弥も姉と出掛けているし、邪魔をすると申し訳ないから、夜まで連絡はとらないつもりだった。

それに、もし早く切り上がったとしたら、亜弥のほうから美貴に連絡してくるだろう。

「じゃ、何か食べて帰らない?」

突然の誘いに、美貴もさすがに困惑の表情を浮かべた。

「…あっ、いや、あの、へ、ヘンな意味じゃなくてね」

焦ったように胸の前でしきりに手を振ってみせる梨華の慌てたような仕草が、逆に裏のない事を伝えてくる。

それが美貴の警戒心を解いた。

「…うん、いいよ、何食べる?」

思わず綻びそうになる口元を抑えながら言うと、梨華もホッとしたように微笑んだ。
345 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:39

テーブルについて、注文を済ませてから運ばれてきた水に口をつけたとき、
美貴の前に座った梨華が頬杖をついて笑った。

「…なに?」
「あ、ごめん」
「なによ?」

コップを置くと、梨華も頬杖を解いた。

「……ごめんね」
「だから、なにが」

少し語気を強めると、梨華の表情から笑いが薄くなった。

「ずっと、謝らなきゃって、思ってたんだ」

そう言われて、美貴も梨華が何を言おうとしているかに気付いた。

けれどそれを表情に見せるのも蒸し返すのもイヤで、美貴は視線を窓の外に向けて頬杖をつく。
346 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:40
「なんのこと?」
「…うん、判らないって言うなら、それでもいい。でも、ちゃんと謝りたくて」

気付かないフリを決め込んだ美貴に構わず梨華も続けた。

「ごめんね」
「…何のことか判んない。梨華ちゃん、あたしに謝らなきゃいけないようなこと、したっけ?」
「したの」
「へえ? 気付かなかった。言わなきゃ判んなかったのに、謝り損だね」
「…そうでもないよ」

顔は外に向けたまま目だけを梨華に戻すと、梨華は嬉しそうに笑っていた。

「…やっぱりミキティ、優しくなった。あのコの、おかげだね」

梨華の差す相手が容易に判って、美貴はまた視線を外すようにして窓の外を見た。

梨華も、それ以上は突っ込んではこなくて、二人して無言のまま、注文した料理が運ばれてくるのを待った。
347 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:40
「……そういえば」

沈黙に耐え切れず、美貴は頬杖のまま、唐突に切り出した。

「梨華ちゃんは、大学、決めた?」
「うん。…ちょっと厳しいって言われたけど」
「…あ、そうなんだ?」
「うん。あたし、あんまり頭良くないし」
「何言ってんの」

梨華の成績が自分とさほど差がないことは知っている。

だからこそ、梨華の成績でも厳しい進学先は気になった。

「どこ志望?」
「S大」
「…って、ほ、北海道の!?」
「うん」
348 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:40
梨華が頷いたとき、ウェイターが料理を運んできた。

「おいしそー。食べよっ」
「あ…、うん」

フォークを持って嬉しそうに食べ始める梨華を見ながら、美貴の脳裏には疑問が浮かぶ。

「…あのさ」
「んー?」
「梨華ちゃんの、付き合ってるひとは、それ、知ってるの?」

美貴の唐突の質問に、梨華も最初は首を傾げたけれど。

「S大志望のこと? うん、知ってるよ。なんで?」
「反対とか、されなかったの?」
「…あー、したねー。ケンカになっちゃったなー。でもコレは、やっぱ譲れないから」

一口含んで飲み込んでから、梨華はフォークを置いた。
349 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:41
「あたし、将来は医者になりたいの。
こっちにも勿論医学部はたくさんあるけど、あたしが尊敬してるお医者さんがS大で講師しててね、
その人に直接教わりたくて、だからS大にしたの」

おとなしくて、どちらかといえば守られるようなタイプの梨華の、
どこか強さも感じられる決意に、美貴は自身の心が震えたのを感じた。

「……将来のこととか、考えてるんだね」
「だって、夢だから」

瞳を輝かせて頷いた梨華がなんだか眩しくて、美貴は苦笑しながら目を伏せた。
350 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:41
「でも、ミキティだって、夢はあるでしょ? 前、言ってたじゃん、小学校の先生になりたいって」
「うん。…でも、大学はR大にした」
「え…?」
「……理由は、判るよね?」

目を伏せたまま告げると、テーブルの上に置かれていた梨華の手が美貴の視界から消えた。

そのすぐあとに皿を滑る金属の音がして、フォークを持ったのだと判る。

「…うん」

小さく頷いた梨華の声が、美貴を少し恥ずかしくさせる。

「……バカみたいって、思う?」
「思わないよ。なんで?」
「だってさ…」

思わず言葉を飲み込んでしまった美貴に、梨華は持ったばかりのフォークをまた置いた。
351 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:42
「…ミキティが決めた道でしょ? それをミキティ自身が後悔しないって言い切るなら、
あたしは、それをバカみたいなことだって思わないよ」

梨華は、美貴が思う以上に、本当は意志の強い、心の強い人間なのかも知れない。

「だからもし、ミキティが自分の選んだ道を恥ずかしく思うって言うなら、
あたしはミキティのこと応援しないし、軽蔑する」
「梨華ちゃん…」
「だって、大学なんて、ホントにただの通り道でしかない人だっているもん。
それが近道になるか、遠回りになるか、今はまだ決める必要ないし、判らないことだとも思うし」

美貴が亜弥に告げた言葉が、そのときは確かに美貴自身の口から出た本心が、
少なからず迷いが出た美貴に、別の誰かの言葉で戻ってくるとは思いもしなかった。
352 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:42
「…ミキティの望む将来は、そこにあるんでしょ?」

亜弥といること。
亜弥のそばに、いつもいること。

それが、今の美貴が望む未来。

「…うん」
「だったらいいじゃない、そのままで」
「うん…、そだね。…ありがと」
「…っていうか、食べよ? 冷めちゃうよ」

そう言った梨華の言葉が照れ隠しだと気付いた美貴は、
頬を僅かに染めてフォークを持ち直した梨華を見ながら、笑って頷いた。
353 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:43

軽く食べるだけのつもりがデザートまで食べて、
そろそろ時間も夕刻に近付いた頃になってようやく、梨華と美貴は店を出た。

「…なんか、食べ過ぎたカンジ」
「あたしもぉ。もー、おなかいっぱい…」

ふたりして腹を押さえながら顔を見合わせ、一瞬の間を置いてから吹き出す。

そのとき、梨華のケータイが不意に鳴った。

「…ちょっとごめん」

手で美貴に軽く断りを入れて応対に出た梨華の様子で、相手がどうやら梨華の『恋人』であるらしいことが判る。

「…うん、今から帰るよ。…うん…、なんで? いいよ、来なくて。友達もいるし」

チラリと美貴に目をやって、申し訳なさそうに左手で謝る。
354 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:43
「…どこって、もうすぐ駅だけど…、って…。……もう!」

いきなり周囲を見回して唐突に怒った梨華に美貴もぎょっとしたけれど、
梨華が視線を向けた先から駆け寄ってくるひとつの影に、
梨華の電話の相手がそばまできていたのだと悟った。

「迎えにきた」
「嘘ばっか。駅で待ち伏せしてたんでしょ」

ケータイを持ったままの手で相手の胸元を軽く押して。

「違うよ。メール来ないから、心配してたんだって。夕方までには帰るって言ってたじゃん」

押してきた梨華の手首をあっさり捕まえて。

その様子は、知らない人間でも容易く判ってしまうくらい、『恋人』の雰囲気を醸し出していた。
355 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:43
「…あのーぅ」
「あっ、ごめん」

美貴の声で振り向いた梨華の頬が僅かに紅潮している。

「…言ってたコ?」

美貴が聞くと、梨華はその相手と一度顔を見合わせて、それから小さく頷いた。

「そう。…吉澤、ひとみちゃん。あたしたちの、1コ下」
「はじめまして、藤本センパイ」

爽やかに名乗られたうえに右手を差し出されて、美貴は少し面食らいながら握手を交わす。

「…ひょっとして、同じ学校?」
「そうです」

にっこり微笑む後輩は、梨華や美貴より幾らか上背がある。

顔付きも端正で、梨華とはまた違った雰囲気の美少女だった。
356 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:44
「梨華ちゃんがいつもお世話になってます」

ぺこり、と頭を下げたひとみの頭を、梨華は勢いよくはたいた。

「ヘンな言い方しないでよ!」

まるで熟年夫婦の痴話喧嘩のようで、
最初は、普段クラスで見せているものとは違う梨華の様子に戸惑った美貴も、
ひとみといるときに見せている梨華のほうが親しみを感じて、思わず笑ってしまっていた。

「…っ、ひとみちゃんのばかっ、ミキティに笑われちゃったじゃないっ」
「あたしのせいかよぉ」
「そうよっ」
「ま、まあまあ」

笑いを堪えながら梨華の肩を叩いて宥めると、
少しバツが悪そうに美貴に目を向けた梨華が、美貴の背後に何かを見つけたように大きく目を見開いた。
357 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:44
「? どしたの?」

梨華の様子が不自然で、その視線を追うように美貴がうしろへ振り返ろうとしたとき、
その倍以上の勢いで美貴の両頬を手で挟んだ梨華がそれを制した。

「…り、梨華ちゃん?」
「ご、ごめん」
「なに? どしたの?」
「なんでもないっ、なんでもないっ」
「…なんでもないって顔してないけど」

顔を固定する梨華の不自然さが不審で、美貴はそのままもう一度振り向こうとするけれど、
またしても梨華の手がそれを阻んだ。

「…なに? なんなの?」
「あっ、いや、あのっ、えと…、あ、そう! 晩ゴハン食べよう!」
「はあ? 今おなかいっぱい食べたばっかじゃん、もう入んないよ」
「あ…、そ、そうだね、無理だね、あはは」
「………うしろに、何かあんの?」
「なっ、ないっ。何もないよ!」
358 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:45
慌てて否定する梨華は、逆に美貴の言葉を肯定する。

すると、美貴に代わって梨華の視線を追ったひとみが短く言葉を漏らした。

美貴の目に映る梨華の表情がギクリとして、美貴はますます眉根を寄せる。

「…あれ、松浦じゃないっすか…?」

ひとみの口から出た名前に、自分の顔を固定していた梨華の手をあっさり振り解いた美貴は、
そのままの勢いで後ろに振り向いた。

日曜日だけれど、もうそろそろ夕飯時になろうとしているせいか、駅へと向かう人の波は結構まばらだ。

美貴や梨華のように制服姿の人間も少ない。

色とりどりの服を着た人間が立ち止まることなく歩いている中、
美貴は、その姿をいとも簡単に見つけ出すことが出来た。
359 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:45
確かに、ひとみの言うとおり、亜弥がいた。

最近は美貴が言っていたせいか、伸びた後ろ髪を結わえることも少なくなって、
肩にかかる髪が少し大人びて見せている。

どんな人混みにいても、あっさりと見つけ出してしまえる自分にも驚いたし、
会えないと思っていた相手に会えたことが喜びを生んだけれど。

「…亜弥ちゃ…」

持ち上げかけた手と、音になりかけた名前が不自然な場所で凍る。

亜弥は、ひとりではなかった。

亜弥の隣には、髪の長い、少女がいた。
360 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:45
「……ばかっ」

梨華に胸を叩かれているひとみの姿が視界に入る。

けれど、意識はそこに向かなかった。

「…あれは、亜弥ちゃんのお姉ちゃんだよ。
だって今日、亜弥ちゃん、お姉ちゃんと出かけるって言ってたし」

まるで自分自身にも言い聞かせるように口走って、持ち上げた手を下ろす。

声が掛けられないのは、どうしてだ。

「…え、でもあれ、松浦と腕組んで歩いてるの、松浦って苗字じゃな…、って、イテェ!」

ひとみの言葉に、梨華は今度はひとみの足を蹴った。

声は掛けられないのに、目が逸らせないのは、どうしてだ。
361 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:46
あの笑顔は。
あの、相手を信頼しきったような、あの笑顔は。

美貴たちに見られていることなどまるで気付いてない様子で、
亜弥に腕を組まれていた少女が亜弥の頭を軽く叩いた。

叩かれた亜弥は拗ねたように唇を尖らせ、叩かれた場所を両手で抑える。

すると、少女に何か言われたのか、
亜弥の表情がみるみるうちに嬉しそうな色に変わって、そして再び少女の腕へとしがみついた。

「……なんだって…?」

あの笑顔を知っている。
自分だけのものだと思っていたから。

あの仕草を知っている。
自分だけのものだと思っていたから。
362 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:46
美貴の低く唸るような声がひとみに耳に届き、思わずひとみの肩が怯えを含んで揺れた。

美貴の視線になど気付かないまま、
亜弥と、そしてその亜弥に腕を組まれた少女が駅の中へと消えていく。

「……亜弥ちゃんと一緒にいたコ、名前なんて言うのさ」
「え…」

美貴の雰囲気に怯んで息を飲んだひとみに、
亜弥の姿をそれ以上は追えなくなった美貴が振り向いてその胸倉を掴んだ。

「…言いなよ、あれ、誰だよ」
「せ、センパ…」
「誰だよっ!」
「…っ、ミキティ!」
363 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/05(日) 19:46
ぎり、と布の裂けるような音がして、慌てて梨華が仲裁に入る。

制されて、幾らか正気になった美貴が手を離してひとみに背を向けた。

自分のしたことに戸惑いながら、
それでも込み上げてくる何かを抑えきれずにいる美貴の背に向かって、ひとみではなく、梨華が、答えた。

「…後藤、だよ。後藤真希。前に、ひとみちゃんが見たのも、あのコだよ」



――――― 信じていた世界が、築き始めていた未来が壊れる音を、聞いた気がした。
364 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/05(日) 19:47
……はあ。
やっと終わりが見えてきた。
や、これからが自分にとっての正念場なのだけど。
365 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/05(日) 19:48
レス、ありがとうございます。


>>332
自分の中では、このふたりの体格差のなさも萌えどころだったりします(w
>旅行編は確かに期待してましたが
うう、ごめんなさいごめんなさい。

>>333
>旅行編、正直読みたかったですけど
あう、ごめんなさいごめんなさい。
>結局甘い二人が見れればそれで満足みたいです
か、重ね重ね、ごめんなさいごめんなさい。

>>334
自分にとっては、ホントにただの通り道でしかなかったので。
でも、大事なことでもありますよ。私の意見に振り回されてはいけません(w

>>335
えへ。やっと出せました。
数えてみたら、5ヶ月ぶり…。
すいませんすいません。・゚・(ノд`)・゚・。

>>336
こ、今回は楽しくなかったと思われ。
すいませんすいません。・゚・(ノд`)・゚・。

>>337
えと。感想はとてつもなく嬉しいのですが、レスもものすごく光栄なのですが。
ageんな、ゴルァ! レスはsageで頼むよ、もー。
………ああっ、偉そうな書き方して、すいませんすいません。<ぺこぺこ。

>>338
ありがとうございます。
仕様が変わっちゃったせいですかね、夏厨もそろそろ落ち着く頃だと思うのですが(^^;)



更新がすこぶる遅いのは自覚してます。
ですから、更新のたびに目立つようにageることにしています。
楽しみに待ってくださってる方々に大変申し訳なく思いますので、
本当に、レスはsageで、お願いいたします。<自分でも上がってるとびっくりしますんで…
366 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/05(日) 19:49
さて。
ついに出ました。<誰が、とは言わない。
今回に限り、ネタバレは一切禁止させてください。
名前出しちゃ、ダメダメ〜。

ではまた。
367 名前:チップ 投稿日:2003/10/05(日) 20:55
先を読むのが怖くて怖くて泣きそうでした。
続き、震えながら待たせていただきます。頑張ってください。
368 名前:名無しあやみき 投稿日:2003/10/05(日) 21:03
アワワワワ・・・
はじめまして。この先どうなってしまうのでしょうか?・・・
あやみきが崩壊してしまうのでしょうか・・・アワワワワワ
369 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 21:06
更新キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
実は、石川さんの事勝手に勘違いしてますた…(w
なんか今回の更新で石川さんすごく好きになったかも…

続きを楽しみにマターリ待ってます。
370 名前:ほわ 投稿日:2003/10/05(日) 21:26
なんだか暗雲が立ち込めてきましたね・・・
(ってこう書くとごっちんに失礼な気もしますがw)
ここにきてなんでごっちんが出てきたのかわからないです
ミキティ的に進路も決まり、これからってところだってのに・・・
もう頭の中でテツ&トモが踊りまくってます

では次回の更新もお待ちしております
371 名前:通りがかり 投稿日:2003/10/05(日) 22:00
372 名前:通りがかり 投稿日:2003/10/05(日) 22:01
373 名前:通りがかり 投稿日:2003/10/05(日) 22:01
バレ嫌だってさ。
わかってる?
374 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 22:28
>>371
マジでありがとう…助かったよ…

375 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 22:35
>>370
バカ発見
なんでネタバレするかな‥‥
376 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 23:13
うわー、どうしよう。ドキドキします…。
石川さんと藤本さんの友情も好きです。良いですね。
次の更新わくわくしながら待ってます!

>>375
いちいちそんな事書くのはやめた方がいいと思いますよ。
377 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 23:50
あの人が登場しましたか…
この後あやみきはどーなるんでしょうか、続きが恐いw
>>376
書きたくなる気持ちも分かるけどね。
楽しみにしてたのにネタバレされると一気に萎えるし・・・・・・
378 名前:名無しですが。。。 投稿日:2003/10/05(日) 23:50
逆から読むと…w あほ。
379 名前:通りすがりの名無し 投稿日:2003/10/05(日) 23:59
ちゃんとネタバレするなと書いてるのに
そっこうバラしてる>>370がアホだと……
380 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/06(月) 00:03
作者です。
えーと、レス数、あんまり増やしたくないんで、
ネタバレに関しての意見は、ここらで打ち止めしちゃってください。
でも、感想なら大歓迎(w

わがままですんません。
381 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/06(月) 00:06
気持ちはほんとにわかるが(泣
スレが汚れるんでこの辺にしとこうぜ…。

美貴さんなんか若さを感じて好感持てますな。
こういう焦らされ方好きです。
マターリ待ってます。
382 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/06(月) 11:31
なんてこったい、(略)だとは…
383 名前:名無しさん@棒 投稿日:2003/10/06(月) 17:12
今回のは私のための設定ですか?(笑)
ちょっとだけニヤニヤしながら読んじゃいました。
続き、楽しみにしています。みきたんがんばれ。
384 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/07(火) 12:09
面白すぎる...
やばいです。最高ですよもう本当に。
ここへ来てついに試練?がきました。
先を読むのが怖いです。でも読みたい...
ほんとに期待してます。
385 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/13(月) 00:45
うわわわわー!!
ここでこの展開ですか!?
早く続きが見たいけど、痛い展開になるのは辛いし・・・
でも見たい・・・w
この小説にはまってることを再認識しました。
386 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/16(木) 23:51
続きキボン……気になるよう(泣)
387 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/17(金) 01:33
おとなしく待ってよう。妄想を膨らませながら。
終わりは近いんだから。(泣)
388 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:25
どうやって帰り着いたか、あまり覚えていない。

梨華とひとみが一緒にいた気もするけれど、それもはっきりしない。

ただ、頭の中では同じ言葉だけが繰り返されていた。


『騙されてるよ』


いつだったか、梨華が美貴に言った言葉だ。


『ゴトウマキ』


その名前も、ずっと頭の隅にこびりついている。
389 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:26
知らない名前だった。
亜弥の口からも一度として聞いたことはない。

なのに、どうしてそんな相手と亜弥は一緒にいたのだろう。

それも腕を組んで。
しかも美貴にしか見せたことのないような笑顔も見せて。

込み上げてくる吐き気と怒りに、
美貴は思わずそばにあったクッションを引っ掴んで勢いよく壁に投げつけた。

重みのないそれはたいした音を起てなかったけれど、
美貴の中に生まれたどす黒い塊はますます大きくなっていく。

「……っきしょ…」

呟くように唸って、美貴は頭を抱えた。
390 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:26
らしくない、と誰もが思う自分の姿が、自分でも気に入らない。

聞けばいいじゃないか。
今すぐ電話して、今日、見かけたよ、と。

聞けばいいじゃないか。
仲良さそうに見えたけど、誰なの? と。

どうしてそれが出来ない?

「………夢なら、早く覚めてよ」

現実だと判っているからこそ出る言葉に美貴の息も詰まる。
391 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:26
紛れもない現実。

美貴の前以外で、これ以上ないというくらい安心した顔で笑って見せた亜弥も。
その亜弥に優しい目で微笑み返した少女も。

そしてそのふたりにしか判らない空気が存在する、ということも。

確かめるのが怖いなんて、らしくないと本気で思うのに。

静かな、けれど重苦しくて窒息さえしそうな空気が充満する部屋に、不意に何かの震える音。

びくり、と美貴が肩を震わせて振り返ると、鞄の中からそれは聞こえた。

試験だったことでバイブモードにしていたケータイの振動だと気付くのに時間はかからない。

そして相手が、亜弥であるということも。
392 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:27
焦りながらケータイを取り出して開くと、思ったとおり、亜弥からで。


『試験、お疲れさま〜。どうだった? メールくれないから心配だよ〜』


邪気のない、背徳感さえ感じられないいつもどおりの軽快な内容に、
逆に美貴は身動きがとれなくなる。

返信しようと思うのに、メールの本文を打つ段階になって指先が震えだす。

どう切り出せばいい?
メールすら返せなかった自分の状況をどう説明すればいい?

考えがまとまらない。
うまく脳に伝達しない。

指先が思うように動いてくれない。
393 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:28
ケータイを一度置いて、美貴は自身の両手を握り締めた。

なんだかひどく体温を失っている気がする。

頭を抱え、ゆっくりと邪念を払うように目を閉じた。

それから数秒後、目を開けてケータイに手を伸ばし、
ディスプレイにリダイアルを表示させると、その一番上にある番号を押した。

耳元に響くコール音に震えそうになりながらも、美貴は息を飲む。

ワンコールで途切れたことに、美貴もたいして驚きはしなかったけれど。

「美貴たん?」

迷いもなく聞こえた亜弥の声には心臓が跳ね上がった。
394 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:28
「…うん」
「試験どうだった? できた?」
「…うん、まあまあ、かな」
「そっかー。メールくれないから、なんでかなーとか思って、心配してたんだよ?」

あのコと一緒にいながら?

言ってはいけない言葉が出そうになって、美貴は唇を噛む。

「…美貴たん?」

返事を返さないことを不思議に思ったのか、
それとも美貴の雰囲気が小さな機械を通していても伝わったのか、
美貴の名前を呼んだ亜弥の声は不安そうだった。
395 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:28
「…亜弥ちゃん、今、家?」
「うん、部屋にいるよ」
「………出て、来れる?」
「え?」
「…会いたい。今すぐ。亜弥ちゃんに会いたい」

時計を見ながら、美貴は言った。

時間的に言っても外出するにはあまり感心できる時間ではない。

「…美貴たん、家じゃないの?」
「今から出るよ」

言いながら、財布だけを持って部屋を出た。

まだ制服のままだったけれど、着替えてる余裕は美貴にはなかった。
396 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:29
「30分くらいで亜弥ちゃんとこの駅に着くと思うから、待っててよ」
「…美貴たん、何か、あったの?」

困ったような亜弥の声が美貴の胸に響く。

「無理?」
「…大丈夫だと、思うけど」
「じゃ、待ってて」

返事も聞かずに通話を切る。

電話でも何を喋りだすか判らないのに、
いざ本人に会えばもっととんでもないことを言い出してしまいそうなのに、
それでも、会いたいという気持ちだけは膨らんでいた。

家族に適当な言い訳をして家を出た美貴は、
自分がひどく緊張していることに気付きながら、
そしてこのあとに待っている事態に少なからず嫌悪と恐怖を覚えながら、
亜弥のことだけを考えて走った。
397 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:29

亜弥が待っている駅に降り立って、美貴は一度深い深呼吸をした。

冷静になろう。

普通に聞けばいい。

あれは誰なのか。
亜弥にとってのどんな存在なのか。

そして、どうして今までそのことを話してくれなかったのか。

自分自身で落ち着かせるように、何度も何度も口の中で聞きたいことだけを繰り返した。

そうして、ゆっくりと息を吸い込んでから改札を抜けると、
そこに立っていた亜弥が困ったように美貴を見て言った。
398 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:30
「…どうして制服なの?」
「あー…、…さっき、帰ったばっかで…、そのまま出てきたから」

嘘はないのに、どうして、何に、自分は緊張しているんだろう。

まだ夏の暑さの余韻もあるけれど、
太陽の沈んだ夜は少しずつ冷えてきていて、汗が伝うことなんてもう少ないのに、
背中を滑る、得体の知れない不快さはなんだろう。

「………とりあえず、どっか座ろっか」

駅を出て周囲を見回すと、バスのロータリーがあるそこには幾つかベンチが並んでいて、
休日のせいか、今の時間はもうほとんどの利用者が帰宅した様子を窺わせていた。
399 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:30
「あっちが空いてるね」

亜弥の顔も見ないで先に歩き出すと、足音にも困惑を含ませて亜弥がついてくる。

「…美貴たん」

呼ばれると同時にベンチに腰を降ろし、美貴はゆっくり息を吐き出した。

心臓が早鐘を打っている。

ただ聞くだけだ。
あれは、誰なのか、と。

それだけなのに、どうしてこんなに緊張してるんだろう。

上体を少し屈め、小刻みに震えだす手を隠すようにしてぎゅっと握り締めて膝に肘を置くと、
それは自然と口元を覆い隠してくれた。
400 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:30
「どうかしたの?」

不安そうな亜弥の声。

亜弥も何かを感じ取っているのだろうか。

美貴の隣に座って、戸惑い気味に顔を覗き込んできた表情がとても心配気だった。

「……試験、うまくいかなかった?」
「…ううん」
「家で、なんか、ヤなことでもあった?」
「ないよ」
「じゃ、あたし、何かした?」

思わず返事に詰まってしまった美貴は、そこで自身の失態に気付いた。

自分の行動が逆に亜弥を困らせたこと。
亜弥にいらない不安を抱かせたこと。

そして、自分の浅はかさ。
401 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:31
「……やっぱり、あたし?」

違う、と即座に言い切れない自分に腹が立ち、
気付かない亜弥にも苛立ちを覚えた美貴は、亜弥から視線を外してベンチから立ち上がった。

「…亜弥ちゃん、今日、何してたんだっけ?」
「え…? 何って…、…お姉ちゃんと…、買い物に…」

答えた言葉の中に含みを感じたのは、背中で聞いているせいだろうか。
それとも、美貴の中にある疑惑のせいだろうか。

「…他には? どっか行った?」
「どこにも行ってないよ」
「お姉ちゃん以外の人とは会ってない?」
「…美貴たん以外で?」

お互いに、言葉に詰まった。
402 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:31
亜弥はきっと、言いたい気持ちを明確にしない美貴に怯えてる。
そして美貴は、何も伝えてこない亜弥の言葉に苛立ってる。

糸が、張り詰めている。

ふとしたことで今にも切れそうな細い糸に、最初に触れたのは、亜弥だった。

「……なんか、美貴たん、オカシイよ? 言いたいことあったら、ちゃんと言って欲しい」

そして、その細い糸を、切りたくないと願っているのに断ち切ろうとしているのは。

「………じゃ、言う」
403 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:31
落ち着いてられない。
冷静になんかなれやしない。

込み上げてくる負の感情は、勢いとともに吐き出される。

そしてその勢いは、目には見えないくせに、ひどく鋭くて、痛い刃物でしかない。

それに気付くことが出来ていれば、誰も傷付けることもない、誰も傷付くことはない。

けれど。
気付かないからこそ真っ直ぐで、正直で、正当な感情なのかも知れない。

「………後藤真希って、誰?」

美貴の声が静かに響いたとき、張り詰めていた細い糸は容易く切れて、空気が凍った。
404 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:32
「どうして…、真希ちゃんのこと知って…」

背中越しに聞いた驚いたような亜弥の言葉は、美貴には決定打だったかも知れない。

亜弥の言葉を信じたくて、姉だと言った相手の苗字が違う理由を、いろいろ考えた。

でもそのどれも現実味が薄くて、
そしてそのどれも自分に都合のいいことで、考えはまとまらなかった。

「………真希ちゃん、ね」

姉妹の呼称が名前なのは、あまり珍しくはないだろう。

美貴自身も、姉や兄を名前で呼ぶことは何度もある。

けれど、ふとしたきっかけで自然と出るほどではない。

亜弥の呼び方は、それほど自然だった。
405 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:32
「…あたし、今日、亜弥ちゃんがその『真希ちゃん』と一緒に歩いてるトコ見たよ」

ゆっくり振り向いてベンチに座ったままの亜弥を見下ろすと、
亜弥はその可愛らしい表情に驚きと怯えを顕著に乗せて美貴を見上げていた。

「…亜弥ちゃん、今日、お姉ちゃんと出かけたんじゃなかったっけ?」
「ま、待って…、美貴たん、あたし…」
「嘘だったの?」
「違うっ」
「でも、そのコのこと、お姉ちゃんって、言わなかったよね、今」

美貴の指摘に亜弥が視線を落とす。

その肩がひどく震えていた。

怯えているのか。
それとも、嘘をついた自分にどう言い訳しようと考えているのだろうか。
406 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:32
「…あたし、前に言ったことあるよね?」

びくり、と亜弥の肩が揺れたのは、美貴が言おうとしていることに気付いたからだろうか。

「嘘だけは、つかないで、って」

聞いた亜弥が落とした視線を上げて美貴を見つめる。

怯えが見えるそれさえも美貴の胸を鳴らす。

「…ねえ、どこまでがホントで、どこまでが嘘? あたしのこと、好きって言ったのも、嘘なの?」
「嘘じゃないよ! 美貴たん、あたしの話を聞い…っ」

縋るように伸ばされてきた亜弥の腕。

けれど美貴は、無意識にそれを払いのけていた。

「…無理。聞いても、言い訳にしか聞こえない」
「美貴た……」
407 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:33
信じていた世界は、音を起てて壊れた。
築き始めていた未来は、音を起てて崩れた。

「……あたし、亜弥ちゃんのこと、信じられなくなっちゃった」

伸ばした手を振り払われたままの亜弥の表情が凍ったのを、美貴は気付かなかった。

「……続けてく自信も、今はないよ」
「……そ、れって…」
「もう、こんなふうに、会うの、やめよう」

亜弥に背を向けて、深く息を吸い込んだままの勢いで美貴は告げた。

「…嘘つきの亜弥ちゃんは嫌い」
「……っ」
「…たった1回って思う? でもね、その1回が、あたしは許せない」
408 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:33
信じていた。
美貴には、亜弥がすべてだった。
だからこそ、許せない。

騙した亜弥も。
騙されても騙されたままではいられない自分も。

「美貴たん…っ」
「…嫌いだよ、亜弥ちゃんなんか」

そう言いながらも亜弥の顔を見ることが出来ないのは、
顔を見たら許してしまう自分にも気付いていたからだ。

目を閉じて、ゆっくりと息を吸い込み、美貴はもう一度告げた。

さっきよりも力強く。
さっきよりも、吐き捨てるように。

「嫌い…、大っ嫌いだ。亜弥ちゃんなんか、いらない…っ」
409 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:33
嘘をつかれたのに。
裏切りを受けたのに。

どうしてこんなに罪悪感が美貴を包むのだろう。

それはきっと、今、亜弥が傷付いていると判るから。
涙を浮かべて美貴の背中を見つめていることが判るから。

美貴の背後で、亜弥が引き攣ったように息を飲んだのが判る。

「…わ、かっ…た」

小さな、小さな声が、聞こえた。

その声はひどく頼りなさげだったけれど涙を含んではいなくて、
美貴は眉をひそめながらゆっくりと振り向いた。

そして、いつのまにかベンチから立ち上がっていた亜弥が、
その表情に笑顔を浮かべていたことに愕然とする。
410 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:33
「き…、嫌いって言われたら、しょうがない、よね…」

服の胸元をぎゅっと握り締めながら。

「あたしは…、すごい、今でも…、すごい、美貴たんが好きだけど。
それ、ホントに嘘なんかじゃないけど…」

話す言葉も途切れ途切れなのに。

「……美貴たんは、あたしなんか、いらないんだもんね……」

目にも涙が浮かんでいるのに。

「………今まで、ありがと」

涙混じりに、怯えながら、声を震わせながら、亜弥は、笑って言った。

美貴が今まで見てきた中で、一番、哀しい笑顔だった。
411 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:34
「………っ」

ずっと見ていたら抱きしめてしまいそうになって、美貴は振り切るように亜弥を残して駆け出した。

つまらない意地など捨てて許せばよかっただろうか。
抱きしめればよかっただろうか。

けれど、美貴にはそんな余裕はなかった。

亜弥が自分以外の誰かにも心を許していたことが許せなかった。
そして、それを受け止めるほどの自信がない自分も許せなかった。

亜弥は傷付いた。
美貴も傷付いた。

たった一度が、許せないくらいに。
412 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/19(日) 18:34
飛び乗ったと同時に電車が発車する。

駆け込み乗車を注意する車内放送が入ったけれど、
美貴は気にも留めずそのまましゃがみ込んだ。

乱れる呼吸に合わせるように込み上げてくるのは、
鬱陶しいくらいの吐き気と、今まで味わったこともないほどの後悔。

気を抜けば溢れ出しそうな涙を堪えながらも、
美貴の脳裏には、最後に見た亜弥の笑顔が鮮やかに灼きつけられていた。
413 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/19(日) 18:35




ちゅ、中途半端な更新で申し訳ありません。
あうー、あうー。
思うように進まないよーぅ。<またか!
414 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/19(日) 18:35
>>367-379
>>381-387
レス、ありがとうございます。励みになります、ホントです。
でも、ネタバレ禁止して、ちょっと反省。

レス返し、まとめてしまってごめんなさい。
今回は、さすがにひとりひとりにお返しすると、収拾つかなくなりそうなんで。
415 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/19(日) 18:36
えーと。
終わりは見えてきましたが、それは書いてる立場からのもので、実際にはまだ少し続きます(汗
それでも、私としては、ここからが書き手としての正念場と思ってます(いや、マジで)
あちこちに振っては置いてきた伏線をうまく昇華しきれますように。
それから、レスはsageで、とお願いしてますが、ochiレスも出来れば勘弁してください。
勝手なこと言ってごめんなさい、
でも、ochiレスされると、そこまで徹底してるつもりのない自分には逆に困るので。

重ね重ね、身勝手な作者で申し訳ありません。
ではまた。
416 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/19(日) 19:55
更新お疲れ様です。レスするのは初めてですがいつも見てました。
読み終えた後、心の中がぎゅうっとしました。
なんというか、すごいです。
これからも応援してます。頑張って下さい。
417 名前:つみ 投稿日:2003/10/19(日) 20:56
涙がとまんね〜!!
418 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/19(日) 21:26
ちょっと泣きそうになりました。
こんなのってないよ〜(泣)
こんな気持ちが次回更新まで続くのは耐えられません!
なんで至急更新お願いしますw
419 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/19(日) 22:15
>>418
禿同。
どうかこんな自分を助けて下さい。(w
420 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 00:48
泣きました。映像が浮かびました。
白けさせる無駄な叙述もないから入り込めました。。
作者様の作品なら、いつまでも待まってます。
421 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 00:57
展開がよめなくなってきました。
422 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 11:27
泣きそうです。切ないです。助けて下さい・・・
423 名前:読者26歳 投稿日:2003/10/20(月) 16:09
松浦ミュージカル思い出した・・・。


424 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 21:13
痛い、胸が痛い・・・
なんだよ、どっちもあっさりと
いや、わかってるんだけども・・・ぐぐぐもどかしいというか、はぁ〜
二人とも信じてるよ
あー胸が痛い
425 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/21(火) 00:49
うわ…その場面を想像しながら読むと結構こたえますね。
てか、過去の体験を思い出してしまいました…。
…ちょっとこれはきついですね。
426 名前:たか 投稿日:2003/10/21(火) 22:29
悲しい...けど面白い。こうなると前に亜弥が言ってたあの言葉(美貴も言ってたが)
が気になりますね。とてつもなく切ないんだけど続きみたいです。
427 名前:いの 投稿日:2003/10/22(水) 00:25
イタイ…
登場人物の気持ちにこんなに感情移入できたのは初めてです。
どんな結末が待っているのか期待してます。
428 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:45


◇◇◇


429 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:45
亜弥と別れてから3日。

美貴の心の歪みや傷みに何も気付いてないかのように、
時間はその速度を変えることなく進んでいく。

「…本気か?」
「はい。やっぱり、自分の能力に適した大学のほうがいいって、思ったんで」

担任教師の驚きとも喜びともとれる反応にも、美貴は無表情で返す。

「いや、まあ、おまえがそれでいいなら、俺も反対はしないし、学校側としても喜ばしいんだが」

頭を軽く抱えるようにして言葉を濁し、教師はチラリと美貴を見遣った。
430 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:45
「しかし、急にどうしたんだ? あれほど地元にこだわってたじゃないか」
「…いいんです、もう」

美貴の雰囲気から、
それ以上の追及をしても無駄だと悟った教師は深く溜め息をつき、椅子の背凭れに重心を変えた。

「…そうか、判った。じゃあ、そういうことで話を進めるからな。もう変更は効かないぞ」
「はい、すいませんでした」

解放の言葉に、美貴もゆっくり椅子から立ち上がる。

「…失礼します」

ぺこりと頭を下げて進路指導室を出た。
431 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:46
放課後のクラブ活動に精を出している生徒たちの声を遠くに聴きながら廊下を歩く。

亜弥のいない日々は、きっと無機質で、何も手につかなくなって、
生きていても無意味になるだろう、と美貴はどこかで思っていた。

確かに日々の生活は精彩を欠いたし、無機質じみた空気は美貴の周りに常に付き纏っている。

なのに、生きているのも面倒に感じるようなことはなかった。

寝て、起きて、食事して、登校して、授業を受けて、帰宅して。

何の張り合いなどなくても時間は過ぎていき、
美貴は美貴で、その時間の流れに遅れることなく乗って漂っている。

ゆらゆらと揺られているだけの、怠惰で無意味なだけの時間。
432 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:46
亜弥に別れを告げた翌日、
教室に入るなり目が合った梨華はひどく心配そうに美貴を見つめたけれど、
美貴は、梨華だけでなくすべての人間を拒むように感情を遮断した。

最初は不機嫌なだけだと解釈していたクラスメートたちも、
放課後になってさっさと帰宅の途についた美貴に只事ではない何かを悟り、
その翌日になっても美貴が周囲からの干渉を拒むように何も喋らなかったことで、
亜弥と何かあったのかも知れないと予測した。

だからと言ってそれを問い詰めたり出来る人間はおらず、
状況を知る梨華も何も言わず、何も出来ず、ただ美貴の動向を見守ることしか出来なかった。
433 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:46
そして、更にその翌日になっても、美貴は誰とも会話をしなかった。

他人との接触が億劫で、移動教室もひとりで行動した。

特別教室棟に向かうクラスメートたちが教室からいなくなるまで、
ぼんやりと自身の机で頬杖をつきながら窓の外のグラウンドを眺めていると、
体操着に着替えた生徒たちがグラウンドに出てくるのが見えて、
その中に、一目でわかる人物を見つけて思わず美貴は頬杖を解いた。

いつもはさっさと教室を移っていたせいで気付かなかったけれど、
この時間、体育の授業だったようだ。

数人のクラスメートたちとグラウンドに向かう、亜弥の背中が、見えた。
434 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:47
頼りなさげ歩いていると感じるのは、美貴の自惚れだろうか、ただの願望だろうか。

たった2日見なかっただけの姿がひどく美貴の胸を鳴らした。

裏切りを受けても、それでも、亜弥を想っていた時間は、
美貴にはたとえようもないくらい幸せな時間だったから。

身動き出来ずにただ亜弥の背中を見つめた。

振り返るだろうか。

いつものように、こうして見つめていれば、美貴の想いに呼ばれるみたいに、気付いて振り向くだろうか。

らしくなく緊張している自分に戸惑いながらも、美貴は息を潜めて亜弥の背中を見つめた。
435 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:47
振り向かなくていい、と思った。
振り向けばいい、と思った。

どれくらい見つめていたか判らない。

時間にすればほんの数秒だっただろう。

それでも長く、永く見つめていた気がした。

そして、美貴の心の声が聞こえたように、亜弥の足取りがピタリと止まって、
まるで、確認するように、ゆっくりと振り向いた。
436 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:47
その瞬間、美貴と亜弥の間だけで、時間は止まった。

振り返って欲しいと思った。
振り返らないで欲しいと思った。

もうずっと、このまま、時間なんて止まったままでいいとさえ、感じたのに。

振り向いた亜弥は、そこにはいないと思っていたのか、
美貴の姿を見つけてひどく驚いたように大きく目を見開いた。

前なら。
目が合えば、必ず亜弥は美貴に向けてとびきり嬉しそうな笑顔を向けてくれた。

見た人間の誰もが、幸せなんだろうと思わせられるような、そんなあたたかな笑顔だった。

けれど、今は。
437 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:48
凍りついて身動き出来ない美貴とは対照的に、亜弥の表情がほんの少しだけ曇ったように見えた。

しかしその次の瞬間には、まるで振り切るように美貴に背を向けて、
亜弥と並んでいたクラスメートと歩き出していた。

困惑を隠し切れずに拍子抜けしてしまった美貴の目は、それでも亜弥から離せなかった。

亜弥の背中が淋しそうに見えたのは、やはり美貴の願望だったのか。

見つめていた美貴の目に、
隣を歩くクラスメートに向かって笑顔を向けた亜弥が映って、また、世界が凍る。

笑っている。
楽しそうに、当然のように。
438 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:48
仲良さげにグラウンドに向かっていく光景は、何の変哲もない、ありふれた光景だ。

どこに間違いがある?

何を期待している?

美貴は、自身の中で渦巻く灰色の塊が込み上げてくるような錯覚に、思わず吐き気を起こした。

左手で口元を抑えながら、
机の上にある、移動教室で必要な教科書やノートを、右手一本で乱暴に床へと払い落とす。

「……っきしょう!」

行動に比例した乱暴な言葉が吐き出される。
439 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:48
美貴は笑えないのに。

笑うつもりもないのに。

どうして亜弥は笑う? 笑える?

別れてからまだ3日だ。

時間に換算したって70時間も過ぎてない。

それなのに、どうして何事もなかったみたいに、あんなふうに笑うんだ、笑えるんだ。

その程度だったとでもいうのか。

3日やそこらで洗い流してしまえるような、そんな浅い感情でそばにいたとでもいうのか。

………美貴がいなくても、真希が、いると?
440 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:48
すう、と血の気が引く。

引いたと同時に、逆流したのが判った。

「………はっ、…バッカみたい」

吐き出した言葉は静かなものだった。

けれど、腹の奥で煮え滾る感情は沸点を超えていた。

その勢いにまかせて足元に転がる教科書やペンケースを蹴り飛ばすと、
口の開いていたペンケースの中身が、
まるで、美貴の心象風景をそのまま表すかのように乱れて散らばっていく。

「………バッカみたい」

もう一度、同じ言葉を呟いた。

沸点を超えた感情は、それ以上を知らないかのように、ゆっくりと、美貴に冷静さを呼んできた。
441 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:49
「……バカじゃん、あたし」

口元を押さえた手で顔を覆う。

自分だけだった。
自分だけが夢中になっていた。

溺れていることに気付かず、そのことに酔って、自己満足に幸せを感じていただけだなんて。

亜弥の『世界』に『美貴』はもう必要ない。

だったらもう、美貴の『世界』にも、『亜弥』は、いらない。

散らばった筆記具を拾い集めながら、生まれた冷静な感情が美貴の行動を決定付ける。

過ごした亜弥との時間は後悔しない。
けれど、これからの自分の時間には、亜弥を存在させない。

最後に教科書を拾い上げ、美貴は静かに、教室を出た。
442 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:49

進路の最終決定を決めた美貴が昇降口へ向かう廊下を歩いていると、
なにやらその付近が妙な騒がしさを持っていた。

数人の生徒たちがかたまって、不思議そうに、けれどどこか面白そうに、
一言で言ってしまえば好奇心丸出しの様子で話し込んでいる。

それらはあまり不自然な光景ではない。

授業を終えたはいいけれど、
部活動を行っていない生徒たちにとっての放課後とは、得てして特別な時間だったりする。

部活はやっていない。
だからといって帰ってしまうにはまだ時間は早い。

そんな生徒たちが自分たちだけに通用する有効な時間を活用している、ただそれだけのことだ。
443 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:49
それだけなら美貴も気に留めずに靴を履き替えて帰宅の途に着いただろう。

しかし、その輪はひとつではなく幾つかの群れになっていて、
彼女たちの口から漏れ聞こえる言葉はあまり楽しそうでないのにもかかわらず、
一様に、似た感想を述べ合っていた。

「なんで?」
「誰に?」
「いつから?」

脇を擦り抜けた美貴の耳に届く、途切れ途切れの単語の波でようやく理解出来た言葉の種類。

それでもそこにそれ以上の意識が向かないのは興味がないからだ。
444 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:50
美貴の気にかかる出来事や事柄なんて、今はずいぶんと限られている。

おそらくもう、美貴が望まない限り、美貴自身の心の琴線に無防備に触れてくる存在なんてない。

触れて欲しい人間なんて存在しない。

まるで自分自身に言い聞かせているようだと気付いても、気付かないフリをする。

何も知らない、気付かないフリで日々をやり過ごせばいい。

どうせ、この先なんて、どんなことが起きても美貴には無意味なのだから。

そんなことをぼんやりと考えながらその輪を横目で見遣り、
まだまだ尽きそうにない会話に半ば呆れた息を吐き出してから靴を履き替え、その場を離れた。
445 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:50
昇降口から正門までは幾らか距離がある。

正門が見える場所まで来て、美貴はようやく、その騒がしさの理由を知った。

門柱に寄りかかるようにしながらもカラダは校舎に正面向きで、
帰りの途についている生徒たちをひとりひとり眺めている、明らかに部外者と判る存在。

それが歳相応の男子生徒ならあまり珍しい光景ではない。

けれど、長くて綺麗なストレートの髪が、
この空間に馴染んでいるようで馴染んでいない、異質さを漂わせていた。

見たことのある制服だった。
けれども他校生であることは容易く判る。

だからこそ余計に周囲の好奇の目があからさまなのに、
当の本人は我関せずといった面持ちで誰かを探している。

相手をその目に映した瞬間、美貴の足が凍り付いた。
446 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/10/31(金) 18:50
それと同時に相手も美貴に気付いたようで、幾らか距離はあるのに、
確信したようにゆっくりと凭れていた門柱からカラダを起こす。

制服のブレザーの上着ポケットに突っ込んでいた両手を静かに取り出し、無駄のない動きで腕組みする。

腹立たしいほど、自然で淀みのない動作だった。

僅かに小首を傾げながら、美貴の次の動向を窺っている。

鎮まったはずの血液の逆流する音がまた聞こえた気がした。

挑むように、そのくせどこか美貴を見下したように見つめてくるその目が美貴の神経を逆撫でていく。

美貴を包む空気が、ぴん、と張り詰めた。

美貴を見つめていたのは、美貴がどれほど記憶から拭い去りたくても出来なかった人間。

忘れたくても忘れられない、後藤真希、その本人だった。
447 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/31(金) 18:51





ものすっごく引っ張った展開ですいません、ごめんなさい。
他にいい切りどころが見つからなかったんです…。・゚・(ノд`)・゚・。
448 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/31(金) 18:51
>>416->>427
たくさんのレス、ありがとうございます。
ホントに励みになります。

まとめてしまって申し訳ありませんが、
終盤にさしかかってきましたし、自分自身からネタバレしてしまいそうなので、
今回から個々のレス返しを控えさせていただきます。
身勝手ですいません。
449 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/10/31(金) 18:52
次回更新までまた少し間が空くかも知れませんが、
マターリ、お待ちください。<ぺこり。

ではまた。
450 名前:つみ 投稿日:2003/10/31(金) 19:37
次回は修羅場?でしょうかねえ・・・
藤本さんが切ないです・・・
451 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/31(金) 23:18
マターリと…待てるかな(汗
限界まで頑張ってみます。
452 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/01(土) 00:53
うぅ…
がんばる…がんばるけれど…。
心臓が痛くて死にそうです。(泣
453 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/01(土) 04:30
いよいよ直接対決!ですね。
うああ。どんな展開になるのだろうか…。

マターリドキドキお待ちしております。
454 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/04(火) 15:45
この話を読んでいて、ELLISのこの曲を思い出しました。
ttp://www.utamap.com/show.php?surl=3/37636&title=%C0%E9%A4%CE%CC%EB%A4%C8%B0%EC%A4%C4%A4%CE%C4%AB&artist=ELLIS

このお話もこの曲も大好きです。
家政婦さんがんばれー
455 名前:たか 投稿日:2003/11/04(火) 16:50
面白いですね。美貴の複雑な感情の描写がうまいっす。
そして亜弥が何を思っているのかを明かさず読者に色々な感情を
芽生えさせてくれるその技、やられました。この作品はすばらしいっす。
456 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:30
一度だけ、深く、息を吸い込んだ。

そして、一歩一歩、踏みしめるように、自身の中の動揺を悟られないように歩いた。

真希がいつからそこにいたのかは判らない。
なんの用で、どんなつもりでやってきたかも判らない。

けれど彼女が待っていたのは亜弥ではなく自分なのだということだけは、はっきりと判った。

そして自分は、何をしようとしているんだろう。

亜弥が選んだ相手に。

自分以外にも、亜弥が真実の意味で心を許していた人間に。
457 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:31
「…藤本美貴って、アンタだよね」

真希との距離が2メートルほどになったとき、
確認するような口調ではなく、問いただすような声色で真希は言った。

美貴の意識を故意に逆撫でているように感じて、むしろ冷静になる。

「そうだけど」

立ち止まって簡潔に答えると、腕組みしたまま、真希は美貴を見る視線の強さを変えた。

しかし、まるで値踏みでもするかのような露骨な視線に美貴の不快感が徐々に煮えていく。

「…なによ?」

居心地の悪さに思わず返すと、絡んでいた真希の視線の糸がぷつりと切れた。

腕組みを解き、ふっ、と軽く息を吐いて美貴の目を見る。

しかしその目は、ただ『見た』だけではなかった。
458 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:31
「…つまんなさそうなオンナ。…がっかりだね」

真希の言葉と態度は、目に見えての侮辱だった。

周囲には、ふたりのやりとりを遠巻きでも興味津々で見守っている生徒たちが何人もいた。

そんな中での侮辱に、美貴の嫌悪と不快感、
そしてプライドを傷つけられたことに対する怒りが一気に沸点に達した。

「…どういう意味だよ!」
「どうって、言葉通り」

おどけた様子で肩を竦めた真希がますます美貴を逆上させる。

気付いたときには、持っていた鞄を投げ捨てて真希の胸倉を掴んでいた。
459 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:32
「…殴られたいの」

締め上げているのに、ほんの少し眉根を寄せただけで、真希は冷めた目で美貴を見下ろした。

「………人間、隠してた真実を暴かれたら逆上するよね。それって結局、その真実を認めたことになるんだ」
「…どういう、意味だよ」
「判ってるくせに」

鼻で笑われてますます腹が立った。

「っざけんな!」
「それはこっちの台詞だね。アンタがつまんない人間だってことがホントにがっかりだ。あのコの10年、返せ」
「はあ!?」

真希の発した言葉が意味不明で、美貴も思わず抜けた声が出た。
460 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:32
「何それ。10年?」
「そうだよ。10年。返せよ。…あのコ、笑うんだよ? 笑ってるんだ。
アンタが何言ったか知んないけどさ、あんなにアンタの話しかしなかったのに、この前から全然話さなくなった。
そのかわり、笑うんだ。泣かずに笑ってるんだ」
「………アンタの言ってる意味、本気で判んないんだけど」

真希の胸倉を掴んでいた手を突き飛ばすように離す。

「………笑ってるんなら、いいじゃんか。アンタがいて、あたしなんかもういらないってことじゃん。
あたしと別れても笑えるぐらい平気なんだろ」

美貴が吐き捨てた言葉に、真希が大きく目を見開き、そして大きく溜め息をついた。

「…アンタ、あのコの何見てたの?」
「え?」
「…ホントにつまんない人間じゃん、どこがいいんだ、アンタなんかの」
「…っ、さっきから何ずっと判んないこと言ってんのさ!」
461 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:33
見えない言葉の網が美貴を苛つかせる。

真希と亜弥にしか判らないことが見え隠れして、苛立ちにも拍車がかかる。

「……ホントに気付いてないの? 本気で…、あのコが笑うのは平気だからだとでも思ってんの?」
「違うって言うのかよ!」
「違うに決まってんでしょ!」

反論した美貴の勢いよりも倍以上の勢いで真希が突っぱねる。

「…あのコは…、亜弥はね、…嬉しいときに泣いて、悲しいときや淋しいときは笑うんだ。そういうコだよ!」

ぱしん、と、何かが美貴の心を打った気がした。
462 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:33
昂ぶっていた感情が一気に冷えていく感じがして、美貴は自身の両腕を掴んだ。

真希の言葉を反芻しているうちに、感情だけでなく、体温まで下がっていく気分だった。

嬉しいときに、泣いて。
悲しいときは、笑う。

意識しなくても美貴の脳裏に刻まれている笑顔以外の亜弥が、少しずつ、少しずつ…。

笑ってる亜弥の印象が強すぎて記憶は薄れ掛けていたけれど、
それでも確かに思い出せる亜弥の涙。

別れを告げたあの夜に見た、今にも泣き出しそうな、口元。

「………思い当たること、あるんじゃないの?」

真希の声が美貴の耳に馴染むように滑り込んできて、
美貴に、一度は封じ込んだはずの記憶を鮮明に蘇らせる。
463 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:33

『…う、嬉しいんだもん……』
『嬉しい、すごく、嬉しいよ』


そう告げたときの亜弥は、泣いてはいなかったか?
美貴が亜弥に初めて自身の気持ちを言葉にしてみせたときも、涙を見せてはいなかったか?


『………今まで、ありがと』


涙混じりに震えながら笑ってみせたのも、
美貴から目を逸らして笑った亜弥のあの笑顔も、本当は『悲しい』のサインだったというのか。

美貴が傷付いているのを知って、自分だって絶対傷付いているのに、
それでも笑顔を見せるのは、どうして?
464 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:34
「………あのコの10年、甘く見ないであげてよ」

込み上げてくる感情の波に思わず口元を押さえたとき、真希はまた同じ言葉を言った。

その言葉の意味だけが判らず、口元を押さえたまま真希を見ると、困惑気味に美貴を見下ろしていた。

美貴が何も言わずただ真希を見上げると、半ば呆れたよう溜め息を吐き出す。

「もしかして、それも、知らないの?」
「…10年…ってなに? あたし、亜弥ちゃんから、何も聞いてない。亜弥ちゃんのこと、何も知らないよ……」

知っているのは、亜弥を抱きしめたときに見せる嬉しそうな笑顔と、体温。

無邪気なくせに一途で、まっすぐで、何の汚れも悩みもないような。

目に見えるものと、美貴が亜弥と接してきた時間で知り得たことだけ。
465 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:34
「………それほど、アンタを失くすのが怖かったってことだよ…」

真希の沈痛な声が届く。

その声音ではなく、発した言葉が美貴の琴線に触れた。

もう、誰もその糸に触れることはないと思っていたのに。

「……ねえ、アンタ、亜弥ちゃんの何? 恋人じゃないの?」
「違うよ。あたしはあのコの姉。戸籍上は他人だし、血の繋がりもほとんどないけどね」

では、亜弥は嘘なんかついてなかったことになる。

「…あたしにも判るように説明してよ。10年って、なに?
なんで血の繋がりもないのに、亜弥ちゃんと姉妹なのさ?」
466 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/06(木) 21:34
動揺を隠せない美貴に代わって、美貴が地面に叩きつけた鞄を拾い上げる。

それを美貴に差し出しながら真希は言った。

「…ここじゃ、ちょっとギャラリーが多すぎる。もっと落ち着けるところに行こう」

美貴が鞄を受け取ったのを確かめて、真希が先に踵を返す。

慌てながらもそれを追おうとして、美貴は一度立ち止まってくるりと振り向いた。

「…ついてくんなよ」

興味津々で美貴たちのやりとりを傍観していた群れに一瞥をくれて言い放ち、
美貴は真希のあとを追いかけた。
467 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/11/06(木) 21:35






少ないですが、キリがいいので更新しますた。
前回更新時は、少し間が空くかも、と言いましたが、嘘つきました、すいませんでつ。
468 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/11/06(木) 21:37
>>450->>455
レスありがとうございます。

読んでくださってる方々の期待に添えられる展開になってるかは自分では判らないんですけども、
自分で納得の出来る話には(今のところ)なってますんで、
気合い入れて、最後まで頑張りたいと思います。<まだちょっと先は長いんですが(^^;)


えーと、ここで訂正を。

>>434 2行目
× 2日
○ 3日

です、すいませんでした。
細かく書けば誤字脱字もあるんですが、そのへんは目を瞑っていただけたら、と思います。
469 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/11/06(木) 21:38

次回の更新時期こそ間が空くかも知れませんが、気長に待っていただけると幸いです。<ぺこぺこ。

ではまた。
470 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/06(木) 22:10
えーーーー!!
なるべく早めでお願いします。。。
気になって寝れないでつ。。。
471 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/06(木) 22:28
10年って…
もしやあれが伏線!!Σ( ̄□ ̄|||)
だったらすげーなぁ。

とにもかくにも続きに期待。
俺も気になって寝れないよぅ。
472 名前:奈々氏 投稿日:2003/11/06(木) 22:39
作者さん、続きが気になってしょうがないですぅ・・・
オリジナルスマイルを見たいにゃぁ〜!

気長に待ちますので、期待しながらお待ちします。
473 名前:つみ 投稿日:2003/11/06(木) 23:14
この後の展開が気になる終わり方ですね・・・

気長にまってるよ〜
474 名前:いの 投稿日:2003/11/06(木) 23:16
え!?10年?
さっぱり先が読めませんです。
気になる…
475 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/07(金) 16:55
なるほど…次の更新は10年後と言う事ですね

ババァになっても待ち続けるッス
476 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/07(金) 17:18
>>475
なんでやねん!!(w
そうか…そうするとあれが鍵なのかなぁ。
期待は高まるばかりですな。

俺は松浦さんと違うので、そんな10年とか無理です。(w
早めの更新待ってます〜
477 名前:たか 投稿日:2003/11/12(水) 18:05
ふーむ。十年...。見当もつきませんが面白いです作者さん。期待してます。
美貴のゆれる感情の描写がなんともいえません。サイコーです。
478 名前:読者26歳 投稿日:2003/11/12(水) 23:43
悲しいのに笑う そんな笑顔のイメージとして思い浮かんだのが↓

http://ime.nu/f13.aaacafe.ne.jp/~sannin/phpup/img/get-up-rapper206.jpg
何か、笑ってるようだけど何処か寂しげ・・・
479 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:22

駅に向かうまでにあるこじんまりとした喫茶店に入り、
出来るだけ奥の席を選んで向かい合わせに座る。

オーダーをとりにきた店員に適当に注文して、
美貴はテーブルから身を乗り出すようにして、腕組みして背凭れに重心を預ける真希の言葉を待った。

「……何から話せばいい?」
「何って…」
「とりあえず、戸籍上では違っててもあたしが亜弥の姉なのはホント」
「でも苗字が違うじゃんか。アンタ、後藤でしょ」
「一応、法律上では亜弥にはウチとは別にちゃんとした家族があるんだ。
そっちの苗字ってこと。…でも、今はいないから」

嘘をついてるようには見えなかったし、今更嘘をつく必要がないことも判るから、
美貴は真希の口から出る言葉はどれも信用することにした。
480 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:22
「でも、じゃあなんで亜弥ちゃんは『後藤』を名乗らないのさ」
「それは亜弥が、『松浦』の姓を名乗ることを選んだからだよ。だから戸籍上は他人ってワケ。
でも、小さい頃にウチに引き取られてきて、それからずっと一緒に暮らしてるから、姉妹同然って意味」

肩を竦め、なんでもないことのように真希は言った。

真希の言葉を反芻すれば、深く考え直さなくても、
そんなに呑気な環境でも、安易な状況でもないことぐらい判る。

「……選ぶ、って?」

思っていたよりも複雑そうな家庭環境に美貴も思わず声のトーンが落ちた。
481 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:22
「亜弥が14になったとき、どっちを名乗るか、その選択肢が出来たんだって。
ウチの養子として『後藤』を名乗るか、実の親の姓を名乗るか。
悩んでたみたいだけど、結局、『松浦亜弥』で生きることにしたんだ。
……もしそのとき『後藤』になってたら、アンタも誤解しなかったんだろうけどね」

チラリと向けられた視線に居心地が悪くなって、美貴は真希から微妙に視線を外した。

「一緒に…、暮らしてるって…、いつから?」
「10年前から」

10年、という言葉に美貴は眉をひそめたけれど、
真希からはあえてその話題を後回しにする様子が窺えた。

説明するには、簡単ではない、ということだろう。
482 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:23
「……亜弥ちゃんの家族が今はいないって、どういうこと?」
「あたしと亜弥は、正確に言えば従姉妹なの。あたしの母親と亜弥の母親が姉妹で」
「なんで引き取られてきたの…? 亜弥ちゃんのご両親、死んじゃった、の?」
「ううん。……たぶん、どっちも生きてる」
「たぶんって、なに」

ちょうどそのとき注文したドリンクが運ばれてきて、会話が途切れた。

「……あたしも、詳しくは知らない。小さいときに聞いただけだから、ホントかどうかも判んないけど、
亜弥の父親って、どうしようもない男だったらしくてさ、
酒癖も女癖も悪くて、亜弥の母親ともしょっちゅう喧嘩してたらしいんだよね」

ドリンクを一口含んでから、真希はそこまで一気に言った。
483 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:23
「…で、亜弥が4つのときに離婚して、いわゆるシングルマザーになったんだけどさ、
亜弥の母親って亜弥を18歳で産んだからすごい若くて、
だからってワケじゃないだろうけど、それほど人間も出来てなくて、虐待とかも…、してたみたい」
「そん……」
「亜弥は違うって…、言ってたけどさ。でも、初めて亜弥に会ったとき、カラダとかに痣あったの覚えてるし」

美貴は、次第に自分の中にどうしようもない腹立たしさを覚えていた。

そんな過去を感じさせない亜弥がどうしようもなく腹立たしくもあったし、どうしようもなく愛しくもあった。

「……それでも、亜弥には母親しかいなかったし、
母親だってちゃんと亜弥のこと可愛がってた。……可愛がってたはずなんだ」

そこで言葉を切って、何かを思い出したように唇を噛んだ真希に、美貴も思わず息を飲んだ。
484 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:24
「それなのに、あいつ…、亜弥の母親は…、
新しい男が出来て、亜弥が邪魔になって、亜弥のこと、施設の前に置き去りにしたんだ……」
「置き去り、って…」
「……夏でよかったって、今でも言われてる。
薄いシャツ1枚で、夜になるまでずっとひとりで、施設の前でうずくまってたって」

その姿を想像して、美貴の背中がすうっと冷たくなった。

まだ5つやそこらの小さな子供が、いったいどんな気持ちで、たったひとりで、母親を待っていたんだろう。

「…施設の園長さんが亜弥に気付いて、持たされてた鞄とか服とか調べたら、
鞄の中に、『お願いします』って手紙が入ってたって。
すぐ調べられて、ウチに連絡きた。ウチのお母さんの連絡先も、書いてたみたいでさ…」
「…な、んだよ、それ…、そんな、そんなのってさぁ…!」
「…まだ怒るの早い」
「なに…?」
「………あとで亜弥から聞いたんだけど、亜弥の母親、亜弥に向かって、
『オマエなんか、いらない子供なんだ』って言って、置き去りにしたんだって」

その瞬間、美貴の目の前は、真っ暗になった。
485 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:24
「ねえ、信じられる?」

同意を求める真希の声がなんだか遠くに聞こえた。

「仮にも自分のおなか痛めて産んだ子供に対してさ、『いらない』なんて、普通言えないよ」

遠くに聞きながら、自らの記憶を反芻する。

あのとき、美貴はなんと言った?

いらない、と、言わなかったか?

嘘ではなかったけれど、それでもそうだと疑ってしまった、あの夜。

たった一度の嘘が許せずに自分が亜弥に向けて吐き捨てた言葉は、その一言ではなかったか?
486 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:24
知らずに、肩が震えだした。


『……美貴たんは、あたしなんか、いらないんだもんね………』


感情に任せてしまったとはいえ、それは、その言葉だけは、
亜弥には言ってはいけない言葉だったのではないのか。

「…ぅ……」

吐き気が込み上げてきて、思わず美貴は口を覆った。

体温も、急激に下がっていく気がして、額には熱から生じたのではない汗が滲む。

「…ちょ、大丈夫…?」

美貴の様子に気付いた真希が顔を覗き込んできたけれど、美貴はそれを拒むように視線を落として俯いた。
487 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:25
「…へー、き。……それで?」

これは、自分が亜弥を信じなかった罪の痛みだ。

亜弥はおそらく、もっと傷付いた。

美貴以上に、傷付いたはずだった。

今なら判る。

亜弥が『家族』という言葉を聞くたびに、どこか淋しそうに眉を歪ませていた理由も。
自分の『家族』を、とてもとても大事そうに伝えようとしたその言葉の重みも。

亜弥にとっては、それらがどれほど希薄で、けれどとても愛すべきものであるかが。
488 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:25
「…あ、うん。……で、そのあと、亜弥はウチに引き取られることになったんだけど」

ならば、真希の家庭で、亜弥は愛されて育ったのだろう。

今の亜弥が、親に見捨てられるという過去を背負いながらあんなふうに笑えるのだとしたら、
それはきっと、真希や、真希の家族にそれ以上の愛情を注がれたからに違いない。

だったら、亜弥が何故、真希に対してあんなにも信頼しきった表情を見せるのかにも納得が出来た。

自分の出る幕ではない、ということも。

「……亜弥ちゃん、愛されてるじゃん」

口走ってから、自虐的な言葉になったと美貴は思った。

美貴以上に、大切に、真摯に亜弥に接している人間がいるのなら、
自分にそれを咎める権利なんてない。

たとえ亜弥をどれほど好きでいても、その深い愛情には勝てないような気がした。
489 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:25
「………でも、亜弥は、ウチに引き取られる前から、今のままの亜弥だったよ?」

呟くように言って、真希が少し身を乗り出すようにしてテーブルに頬杖をついた。

真希の言葉の意味を把握しかねて美貴が視線を上げると、
真希は、少し、不服そうな顔をしていて。

「……あたしらが施設に亜弥を引き取りに行ったのは、亜弥が見つかってから1週間もあとだった。
園長先生の話を聞いたお母さんの話だけど、亜弥が施設にいた1週間、それでも最初はずっと泣いてたんだって。
親に捨てられたんだから当たり前のことだけどさ。でも、あたしらが迎えに行く頃には、泣かなくなってたって。
実際、会ったときの亜弥は笑ってた。……よく、覚えてる」

思い出をなぞるように目を伏せた真希の口元が和らいで、美貴の胸がほんの少し鳴る。

さっきまでの冷たいイメージが一掃されて、
先日、亜弥といるときに見せていた柔らかさがその表情には浮かんでいた。
490 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:26
「……なんでだと思う?」

首を傾げた美貴に逆に問い返してきて、美貴は咄嗟に顎を引いて首を振った。

「……なんで?」
「…あのコの10年の、始まりじゃん。思い出してよ」

苦笑する真希に戸惑っていると、真希は頬杖を解いて再び背凭れに上体の重心を預けた。

「……アンタさ、北海道に親戚いるでしょ」
「? うん…、って、なんで知ってるの」
「10年前の夏休み、その親戚の家に行ったよね?」
「10年前っていうか、ちっさかった頃は毎年………」

幼かった頃の記憶を辿り返して、美貴はひとつの点に行き着いた。
491 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:26
「……まさか…っ」

忘れていた。
今の今まで、まるで、記憶の扉に封印の鍵を掛けていたみたいに。

短く叫んで立ち上がった美貴に、真希は口の端を僅かに綻ばせながら、
それでも口惜しさも顕著に示しながら、言った。

「……その『まさか』。…気付くの遅いよ、『ミキちゃん』」

真希の、少し呆れたような声が、聞こえた。
492 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:26
笑いを浮かべている真希を見下ろしながらも、
美貴の脳裏には浮かんでは消えていく幼い顔があった。

「亜弥がウチに来てすぐ、いつもいつも笑ってて、泣いたりもしないから、なんでって聞いたことある。
そしたらあのコ、なんて言ったと思う?」

真希の口調は、美貴にその答えの言葉を強要しているわけではなく、
それをより強烈に思い出せと訴えていた。

「『淋しいけど、泣いてるより笑ってるほうが楽しくなれるって、教えてもらったから』、だってさ。
……身に覚えは? ないって言ったら、ホントに返してもらうよ、あのコの10年」

どうして、忘れることが出来たんだろう。
どうして、あの日、入学式の日に感じた、どこかで会ったような感覚をそこで押し留めてしまったんだろう。
493 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:27
「…ある。あるよ。…だって、だってそれ、あたしがあのコに…、『アヤちゃん』に言った言葉だもん…」

今まで忘れていた、ということが嘘のように鮮やかに蘇ってくる記憶。

美貴の脳裏に浮かんでくるアヤは、ひどく幼くて、泣き腫らした目をしている。

泣いているアヤがひどく痛々しくて、
幼いながらも、なんとか彼女を元気付けたくて、美貴自身がアヤに笑って欲しくて言った言葉。

その言葉が、美貴の全身を包み込もうとしていた。

「……亜弥の笑顔は、いつだって『ミキちゃん』に向けられてる。亜弥には『ミキちゃん』がすべてだったからね。
あのコが『ミキちゃん』から教わった幸せになるための呪文は、10年間、ずっとあのコには宝物なんだ」

膝がチカラを失い、引き落とされるように美貴は再び腰を降ろす。
494 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:27
「……ホント、に?」
「…10年、甘く見ないでって、言ったでしょ?」

では、亜弥が見せる笑顔のすべては、
愛されて育ったように思われる溢れんばかりのあたたかな空気は、すべて…?

「……『ミキちゃん』がいなきゃ、今の亜弥はいないんだよ」

すべて、美貴の ――――。

「…あたしは、アンタと亜弥がそのときどんな話をして、どんな約束をしたのかまでは知らない。
亜弥も言わなかったしね。けど、亜弥が泣くのも笑うのも、全部全部、
アンタのせいで、アンタのためだけだってことは、それで判ったでしょう?」
495 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:27
『美貴たん』


脳裏で、亜弥が、呼んでいる。


『美ー貴たん』


亜弥が、笑っている。


『美貴たんになら、何されても嬉しいよ?』


真摯な眼差しで、見つめている。


『………今まで、ありがと』


涙を堪えた悲しい笑顔で、別れを、告げて。
496 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:28
「………亜弥、ちゃ……っ」

その笑顔の裏に、美貴が計り知ることの出来ないような、どれほどの想いを抱えていたのか。

込み上げてくるのは、自身の弱さと浅はかさ。

たった一度が許せないくらい強く想っていたと言い聞かせ、
亜弥を思いやることすら出来ず、自分のことだけを正当化した愚かさ。

そして、言葉に言い表すことも出来ないほどの、後悔。

「………アンタがいないなら、亜弥は、ずっと笑ったままだよ。
きっともう泣かない。ホントの意味で泣くこともないと思う」

後悔の念に自身を見失いそうになっていた美貴の耳に、真希の諭すような声が届く。

「あたしたち家族でもどうにも出来ない。アンタだけだ。アンタだけが、あのコを動かすんだ」
「………っ、でも」
497 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:28
許されても、いいのだろうか。

たとえ知らなかったとはいえ、亜弥を傷つけてしまった自分は、
それでも亜弥に想われるほどの価値があるのだろうか。

「…正直言うと、メチャクチャ癪だけどね。でも亜弥を泣かせることが出来るの、アンタだけだから」

ゆっくりと、真希が息を吐き出した。

「…あたしから話せることって、これぐらいかな。…あとは、アンタ次第だけど…、でも、アンタしかいない」

いつのまにか氷が溶けて薄くなってしまったドリンクが、グラスの中でその量を増やしている。

それにはもう目もくれないで、真希は立ち上がった。

「…亜弥のこと、ちゃんと泣かせてよ」

去り際に美貴の肩を軽く叩いて、真希は一度も振り返らずに店を出て行った。
498 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:29



自宅に帰り着くなり、美貴はアルバムを開いた。

初めて亜弥をこの部屋に招き入れたとき、亜弥に見せたアルバムだ。

ゆっくりと開いて、思い当たるページで手を止める。

亜弥が見ていた、幼い頃の美貴の写真。

面影があって、この頃から変わっていないと亜弥は言った。

おそらく亜弥は、入学式のあの朝から、自分たちが10年前に出会っていたことに気付いていたのだろう。

不意に名前で呼んでみせたときの何か言いたげな表情の意味も、今なら理解出来る。
499 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:29
ではどうして、亜弥は、それを美貴に確認しなかったのだろう。

覚えてなかったことは美貴も反省するが、
それでも、話してくれれば真希との関係を誤解することもなかったのに。


『まだ、話してないことが、ある』


俯きながらそう告げた亜弥が不意に思い起こされる。


『もうちょっとだけ、待って』
『もうちょっと、自分に自信が持てたら、ちゃんと、話すから』
500 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:29
亜弥が言った『自信』。

それを聞いたとき、美貴から愛されている自信だと美貴は解釈したけれど、
あれはきっと、自分自身の存在価値に対する『自信』なのだろう。

親に見捨てられてしまった過去とは、そんな簡単に解決出来て、割り切れるものではない。

まして、自惚れるワケではないけれど、真希の言葉をそのまま借りて言うなら、
今の亜弥にとっては『ミキ』が世界のすべてなのだ。

その世界に、もしも再び見放されてしまったら、次はもう、どんな世界も見つけられない。

どんな自分になっても『自信』なんて持てない。

………そして、『美貴』は、その世界を拒絶してしまった。
501 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/11/20(木) 22:30
ぞくり、と、気持ちの悪い冷気が美貴の背筋を滑った。

それを振り払って、アルバムに貼り付けられている一枚の写真をゆっくりとはがし、
そのまま制服の胸ポケットにいれる。


『亜弥のこと、ちゃんと泣かせてよ』


真希の最後の言葉が美貴の脳裏で何度も何度も繰り返されている。

それを胸に刻むようにして、美貴は、そっと目を伏せて亜弥を想った。
502 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/11/20(木) 22:30






ちょっと中途半端ですが、週末の三連休は家にいませんので、
ちと早めに更新しますた。
503 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/11/20(木) 22:31

レス、ありがとうございます。

>>470-478
10年のタネ明かしは、こうなりました。
伏線のほとんどを今回更新で一応は昇華。
細かく突っ込まれなきゃならないところは多々あると思うんですが、
そこは大目に見てやってください。<ぺこ。
504 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/11/20(木) 22:31
次回更新は、ふたりの本当の出会い編になります。
なるべく早いうちに更新したいと思ってますが、今は少々たてこんでまして、
ちょっとそれどころじゃありません…(泣)
気長にお待ちくださいませ。

ではまた。
505 名前:つみ 投稿日:2003/11/20(木) 22:41
・・・・・・・
そんなことがありましたか・・・
すごく自分の気持ちが悲しくなります。
最後のごとーさんの言葉が心に響きました。
506 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/20(木) 23:33
めちゃくちゃ考えさせられます。とても深い作品だと、改めて実感させられました。
507 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/20(木) 23:46
…切ない、というより許せないです。そんな親ありえないよなぁ。
自分にとって当たり前にある幸せを大事にしたいと思いました。
この二人も幸せになって欲しいなぁ。
作者さん忙しそうですね。ゆっくりでいいので頑張って下さい。
508 名前:チップ 投稿日:2003/11/21(金) 04:39
改めて最初から読み返すと、色々な方向から気持ちが見えて
すごく胸が苦しくなりました。いい意味で。
大人しく続きお待ちしております。
509 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/21(金) 16:50
初めてあやみき小説で泣きました。
藤本さんの愛で松浦さんを救ってあげてください。
510 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/21(金) 17:38
待ってました作者さん蟻が問う
最初の方の絡みで「なんかあるんだな」とは思っていましたが
こーゆー展開とは……作者さんはもぅ…あれですね。神ですね。
511 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/21(金) 22:23
チョピーリ期待はずれでした。。。べたべた
512 名前:マイキ− 投稿日:2003/11/22(土) 13:32
作者さん、初めまして。
今日初めてコノ小説読ませてもらいました。
今まで読んでた亜弥美貴小説の中で、この作品が1番(・∀・)イイ!!と思いました。
美貴タン早く亜弥ちゃんを救ってあげてぇー!!(爆)

こぅぃぅ小説を読んで、初めて大感動しました。
続きも大期待してます!!
513 名前:たか 投稿日:2003/11/26(水) 17:51
素晴らしすぎる...........。赤鼻の家政婦さんの文章すべてが別格ですよ..
なんてすごい作品なんだ..美貴さんの自己嫌悪とか気持ちとか見てると
とても胸が締め付けられるような思いになります。こんなの耐えられないですよ..
僕だったら。文章の書き方ひとつでこんなに登場人物の立場にたったり気持ちの重さが
伝わってくるなんて。なんて上手いんだ..上手すぎますよ。(大大尊敬)
赤鼻の家政婦さんの文章はなんか光っているというか見るものをとても引き付けて
くれるオーラがありますよ..本当に...
最初の頃この小説を読んでるときはただ幸せな二人の良い物語だなぁ
という気持ちで読んでたんですけど、そんな次元じゃないですね。この作品は。。
楽しむだけじゃなくとても自分にとっても考えさせられたりします。赤鼻の家政婦さんの
作品はいつも。まさか松浦さんの見る人を幸せにするようなあの輝く笑顔までが伏線だったなんて
本当に赤鼻の家政婦さんにはやられました。天才の域を越えてますよ。
涙が出るほど感激しました。本当に素晴らしいです!!!!
藤本さんとてもつらいと思います。でも藤本さん頑張ってほしいです。
だって二人はこれからはじまっていくんだと僕は思うからです。
こんなすごい作品..読ませて頂いて本当にありがとうございます。
こんなに素晴らしい作品を読ませて頂いているだけでもありがたいのに、せかすなんて
絶対しません。読ませていただく立場の人間ですから、こちらは。
ほんとにありがとうございました。長く感想を書いてしまって、すみませんでした。
514 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/27(木) 21:56
……すごい長文だな。半端ない。
感想は常識的な長さの文章にまとめて書くべきですよ。
個人的に更新をせかしてるようにしか思えない…。
515 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/28(金) 01:00
>514
同意
516 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/28(金) 04:30
>513
作品に対する情熱は伝わったぞ。

お疲れ。
517 名前:たか 投稿日:2003/11/28(金) 17:46
すッすみません!!以後気をつけます!!
518 名前:kaito 投稿日:2003/11/28(金) 21:22
すいません。オレもこんな良い話しの小説を書きたいと思ってるのですが・・・
どこで書けば良いのかいまいちよくわからないんです↓
普通の掲示板?に書き始めれば良いんですか?すいません。
誰か教えてください
519 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 00:51
>>518
上の方にあるご利用の前にってやつ読んで下さい。
小説書きたいのはいいけど、こういうとこでそういう質問はやめときましょう。
520 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 16:53
そんな過去があったのか・・・。
続きが読みたい
521 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 17:13
とりあえずageないでくれ。。。
スレ汚しごめんなさい。
522 名前:名無し 投稿日:2003/11/29(土) 23:17
すごいですね!小説家の才能ありです!
523 名前:通りかかり 投稿日:2003/11/29(土) 23:19
こんな「あやみき」待ってました。嬉しいです。
524 名前:ななし迷路 投稿日:2003/11/30(日) 13:24
あやみき最高だ…!!


者さんの
更新待ってます
525 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/09(火) 00:36
お待ちしてます。
526 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:28



◇◇◇
527 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:28
そこは、美貴にとって秘密の隠れ家だった。

隠れ家、といっても大層な場所ではなく、少し古ぼけた鉄橋の下に出来ている、小さな小さな空洞。

大人がふたりも入れば息苦しいくらいの、狭い空間。

けれど、親も知らない秘密の場所。

親に連れられてやってきた親戚の家は大人ばかりで面白味に欠け、
更には姉や兄とも喧嘩して居づらくなって飛び出したときに見つけた場所だった。

『明日には帰るからね』

そう言われて、次に来るのは来年の夏だと思うと、なんだか無性にその隠れ家から離れ難くなって、
話が済むなり、時刻はそろそろ夕飯時になりそうだというのに、美貴はその場所に向かった。
528 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:29
物心ついた頃には里帰りは恒例化していたし、田舎もそれなりに楽しかったけれど、
美貴と同じ歳ぐらいのコもおらず、小学校にあがってからは、
普段は滅多に会えない祖父母に会えるという、ただそれだけの楽しみしかなかった。

だからその空洞を見つけたとき、すぐに自分だけの秘密の場所に決めて、
家での居心地が悪くなったりしたときだけではなく、
誰にも見せたくないようなものを発見したときなども、迷わずその隠れ家に持ち込んでいた。

両親も、突然いなくなっても夕飯時には必ず戻ってくる末っ子を強くは咎めなかったので、
その隠れ家は、文字通りに、美貴だけの秘密の場所だったのだ。

けれど、その日、美貴がその場所に向かうと、既に先客がいた。

空洞の奥で、誰にも見つからないように小さく、小さく蹲って。
529 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:29
最初に見たとき、さすがに美貴も驚いて逃げようとしたけれど、中から聞こえるすすり泣く声に足が止まった。

その声はとても悲しくて、まだたった6つだった美貴の心もギュッと締め付けるような、そんな淋しい、声色だった。

そろそろと覗き込んで、中にいる先客が自分よりもずっと小さな女のコだったことに美貴も警戒心を解き、
美貴の存在に気付いていない彼女に向かって、あまり大きくない声で声を掛けた。

「…どうしたの?」

すると少女はひどく驚いたようにカラダを揺らして頭を上げ、涙で濡れた目で、美貴を見つめてきた。

「なんで泣いてるの?」

美貴の問いかけに、少女は焦ったように両手で目元を擦った。
530 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:29
「…な、泣いて、ないもん…」
「泣いてるじゃん」

言いながら、美貴も中へと足を踏み入れ、隅に座っていた少女のそばに腰を降ろす。

「……えーと、アメ、食べる?」

尋ねながらポケットを探って小さな飴玉を取り出して差し出すと、少女は少し困ったように美貴を見つめた。

「イチゴ味、キライ?」

ふるふる、と首を振った少女が差し出された飴をその小さな手で受け取る。

けれど、その目から零れる涙は止まることを知らないようで。
531 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:30
「なんで泣いてるの?」

もう一度美貴が聞くと、飴を受け取った手がびくりと震えた。

そしてまた、顔を覆い隠すようにして小さく蹲ってしまう。

「…どうしたの? なんで?」

何の反応も見せずにただ泣き続ける少女を見ているだけで、美貴の胸もどんどん痛くなってくる。

「誰かにイジめられたんだったら言いなよ? 美貴、ケンカ強いから、そんなヤツやっつけてあげる。
お兄ちゃんもお姉ちゃんもいるし、仕返ししてきてあげるよ!」

それでも、少女はただ、泣き続けるばかりで。

「…ねえ、泣かないで? なんか、美貴まで、悲しくなるよ」

軽く握り締められた拳で顔を隠す少女の頭をそっとそっと撫でてやる。
532 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:30
「…泣かないで…」

声を殺して泣かれることに慣れていない美貴が、
半ば必死になって少女の肩を撫でたり声を掛けながら髪を撫でたりしているうちに、
泣く、ということ自体に少し疲れたのか、震えていた少女の肩が大きく揺らいで、
それと同時に大きく息が吐き出された。

ゆっくりと頭を上げて美貴を見上げたその目はまだ涙で濡れていて、
けれど、その大きな瞳は、美貴の心を、とても強く響かせた。

「泣いちゃダメだよ」

美貴が言うと、少女は、く、と息を飲んで唇を噛んだ。

「…あのね、美貴、悲しいこととかあったら、いっつも、次は楽しいことがあるって、考えるようにしてるんだ」
533 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:30
美貴の言葉に、最初は困ったように首を傾げた少女。

その少女の瞼に乗っている雫を無造作に親指で拭ってやると、少女は少し驚いたように顎を引いた。

「笑ったらいいんだよ。笑ってると、楽しいこと、あるよ」
「………悲しく、ても? 泣いたら、ダメ、なの?」

美貴の言葉が難しかったのか、少女はまた首を傾げる。

「ううん。泣いてもいいんだよ。でも、ずっとずっと泣いてちゃダメなんだって。楽しいこと、逃げてっちゃうんだって。
美貴のお母さんもおばあちゃんも言ってる。
泣くだけ泣いたら、あとは楽しいこと考えなさいって。泣いてるより、笑ってるほうが楽しいことあるよって」

身振り手振りで説明すると、
始めはまだ理解出来てないように困り顔で美貴を見つめていた少女も次第に判ってきたのか、
目尻にはまだ涙を滲ませながらも、その口元を、小さく、綻ばせた。
534 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:31
たとえ僅かだったとしても、笑った少女に美貴は親近感が湧いた。

少なからず心を許してくれたような気分になって、なんだか嬉しくもなった。

三人姉弟の末っ子なうえ、従姉妹の中でも一番年下だった美貴にとって、
自分より小さい人間はとても新鮮な対象だった。

美貴の渡した飴玉の包み紙を、
その小さな手で開こうとしたのを制して自分で開けてやったほど、年上という立場が誇らしくさえ思えた。

「……おいし?」

こく、と頷いて、また口元を和らげた少女に嬉しさが増す。

「よかった、美貴もこのアメ、大好きなんだ」

答えながら自身も包み紙を開いて口の中に放り込む。
535 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:31
「…ね、名前、なんていうの?」
「………アヤ…」
「アヤちゃんか! 美貴は…って、言わなくてもさっきから言ってたね」

アメを噛み砕いて喋りやすくなってから、膝を抱えて座っていたアヤの前に回り込む。

「……ここね、美貴の秘密の隠れ家」
「えっ」

唐突な美貴の言葉にアヤのカラダが揺れる。

「あ、じゃ、あたし…」
「うん、でも、いいや。アヤちゃんも特別ね。ここ、美貴とアヤちゃんの秘密の隠れ家にしよう」

言うと、アヤが急速にわくわくした表情を浮かべた。

「あ、あたしも?」
「うん!」
「いいの?」
「いいよ、特別ね!」
「…うんっ」
536 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:31
『秘密』という言葉は、コドモにはとても魅力的な単語だ。

それは美貴がこの場所を誰にも言わなかったことからも判るし、
美貴の言葉に瞳を輝かせたアヤの反応からも判る。

「…あ…、でも、美貴、明日からはもうここには来ないんだった…」
「……え…」
「美貴、今、夏休みで、おばあちゃんちに帰ってきてただけだから。明日はもう、東京に帰らなくちゃ…」

途端、アヤの表情が曇りだす。

「…あっ、で、でも、アヤちゃんはここに来てもいいよ?
アヤちゃんと美貴の秘密の場所だから。来年、また来るし」

また泣き出されてしまいそうで、それだけは見たくなくて、焦りながら両手をぶんぶん振りながら宥めるけれど。
537 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:31
「絶対絶対、また来るよ。来年、絶対来るから」
「………ぅん……」

答えるアヤの声はどんどん沈んでいって。

「…な、泣いちゃダメ!」

思わず少し大きな声で叫んでしまった。

美貴の声に驚いたように目を見開いたアヤが、そのまままっすぐ美貴を見つめる。

「…泣いちゃ、ダメ。…ね? 笑って?」
「………ぅん…」

笑えと言われても、そう簡単には笑えない。

判っていても、美貴はアヤにそう言って頭を撫でた。

「泣いたら、楽しいこと、逃げてくよ。だから、楽しいこと、考えよう?」
「……うん…」
538 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:32
それでも俯き加減に視線を落とすから、何度も何度も、その頭を撫でてやった。

「……美貴、アヤちゃんのこと、困らせてる? イヤなこと、言ってる?」

それは違う、と言いたげに勢いよく頭を上げたアヤが首を振る。

「ホント?」
「うん」
「よかった」

ホッとして美貴が肩を撫で下ろすと、アヤも小さく微笑む。

「…なんだ、笑ったほうが全然可愛いじゃん」

美貴の何気ない一言にアヤの頬が染まって、それがまた美貴の内心をくすぐる。

「もっともっと笑えばいいんだよ。そしたらもっともっと、楽しいことあるよ」

そう言った美貴の服の裾を、アヤが縋るように握り締めてきた。
539 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:32
「? アヤちゃん?」
「………き、キライに、ならない?」
「え?」
「あ、あたしのこと、キライになったりしない?」
「うん、ならないよ?」

それでも、握り締める手のチカラが弱まることはなくて。

「…ママとか、…パパとか……、先生とか、おじさんとか、おばさんとか…、みんな、みんな……」

「うん。アヤちゃんが笑ってたら、絶対、スキになってくれるよ?」

初めて会った美貴が、こんなにも、アヤのことを可愛いと思うのだから。
540 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:33
答えを聞いても、それでも最初は不安そうに美貴を見つめていたけれど、
美貴がアヤの頭を撫で続けていると、
強張っていたアヤの表情から緊張が次第に薄れていくのが判った。

「ね?」
「…うん」

泣き笑いのようにも見える笑顔でアヤが頷いたとき、少し離れた場所から美貴を呼ぶ声がした。

「あ、お母さんだ」

いつもならもう帰宅していてもおかしくない時間なのに、
まだ戻らない娘を探しに来たのだろう、呼ぶ声が少し不安気だった。

すると、その反対側からも、アヤを呼ぶ声が聞こえてきた。
541 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:33
「…アヤちゃんも、呼ばれてるね」
「……うん…」

また少し曇ったアヤの顔をひょい、と下から覗き込んで、
伏せがちになっている瞼を見ながら頬を突付くと、弾かれたようにアヤが美貴を見る。

「笑ってってば」
「…美貴、ちゃ……」
「ん?」
「……美貴ちゃん…」
「うん」

微笑んで、アヤの頭をまた撫でてやる。

「来年、また来るからね?」
「…うん」
「忘れないでね? 泣いてばっかじゃ、ダメだよ?」
「うん」
「約束」
542 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:33
小指を突き出すと、戸惑いながらアヤもその小さな手から小指だけを立てた。

言葉にはしないで、ぎゅ、っと小指を絡めてすぐ、美貴が先に立ち上がる。

「行こっか」

お互いが呼ばれている方向はまるで逆だから、一緒に出て行くことは出来ない。

ここは、美貴とアヤの、ふたりだけの秘密の場所だから。

「じゃあ、また来年ね」
「……うん…」

また哀しそうに眉尻を下げてしまったアヤに、後ろ髪は引かれるけれど。

「…来年、会うとき、もしアヤちゃんが泣いてたら、キライになるよ?」
「…え…」
「だから、笑ってバイバイしよ?」

もう一度、最後にアヤの頭を撫でて。
543 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:33
「バイバイ、アヤちゃん、またね?」
「…うん、またね、美貴ちゃん…っ」

答えたアヤが笑っていたことにホッとして、満足気に美貴は踵を返して、
自分を探している母親のもとへと走った。

母親の姿が見える寸前で振り向くと、アヤはまだ立ち尽くしながら自分のほうを見ていて、
それはなんだか嬉しかったけれど、
もう顔は見えないのに、また泣いてたら、と思うと淋しくて、美貴は大きく両手を振った。

目に見える小さな影は、
それに気付いたように、応えるようにぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振り返してくれた。
544 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:34
美貴を迎えに来ていた母親に、そのあと少し怒られてしまったけれど、
美貴は誰といたのか、どこにいたのかを伝えたりはしなかった。

本当は幾つで、どこに住んでいて、本当の名前も判らないアヤのことは、美貴の、美貴だけの秘密だった。

あの日、あの場所で会ったことも、話したことも、すべて。

誰に話したって構わなかった。
そんな約束をしたワケじゃなかった。

けれど、何故だかそれはアヤを泣かせて悲しませてしまうように思えて、美貴は、誰にも言わなかった。
545 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/16(火) 00:34
アヤとの『秘密』は、そうして1年、誰にも知られることなく美貴の胸の奥にしまわれていたけれど、
翌年の里帰りに美貴が秘密の隠れ家を訪れたとき、その場所は既に鉄橋の補修工事で撤去されていて、
コドモだけではなく、大人でさえも立ち入り禁止区域に指定されていた。

中に入れなくて、外でアヤを待ってみた。

次の日も、その次の日も。

それでもアヤは現れなくて、最初は約束を忘れられたのだと思って哀しくて、腹も立ったけれど、
その近所にアヤらしいコドモがいないことを知ったとき、美貴も、それ以上にアヤに関心を持たなくなった。

あの日の約束は忘れなかった。

忘れるつもりはなかったけれど、それでも、時間の経過は徐々に美貴の脳裏にある幼い頃の記憶を封印し始め、
そして、いつしか、その名前も、美貴の思考からは、忘れ去られてしまっていた。

あの日、『松浦亜弥』に出会ったあの朝、あの瞬間、その記憶の扉は確かに内側から、ノックされていたのに ―――――。
546 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/16(火) 00:35







ふー。
あと数回で終われそうです。
あとは…、ふじもっさんにかかってますね。
頑張ってほしいものです。<なんで他人事なの…
547 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/16(火) 00:35
>>505-517
>>520-525

たくさんのレス、本当にありがとうございます。

展開とか過去とかっていうと、大袈裟な前フリをした気もします。
ベタな展開、と言われても、それはそれで、私の筆力の甘さ、ということで、仕方のないことですね。
日々精進、ですが、私は自分の信じたように書きますんで(w
今まで書いてきたモノは、たとえ駄文でも、私には愛すべき子供(作品)ですし。

…って、何で今、締めの言葉書いてるのよ、私…。
まだまだコレからでしょー!<と、自分に叱咤してみる。
548 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/16(火) 00:36
次回は、できれば年内に、と思ってますが、お約束はできません(殴)
ごめんなさい。

ちなみに、あっちもこっそり更新してみました(w
…って、ココで言ったらこっそりじゃない罠。

それでは、また。
549 名前:つみ 投稿日:2003/12/16(火) 01:47
過去編おつかれさまです。
昔から藤本さんは優しいですね〜
なんか泣けて来ちゃいました。
次回もまってます!
550 名前:んあ 投稿日:2003/12/16(火) 01:54
今回も良かったですね、毎回楽しみにしてるんですが、
あっちもこっそり更新って、あっちってどこですか?
探しても見つかりません・・・すいません教えてください。
551 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/16(火) 23:13
a href="http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/green/1039711515/">
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/green/1039711515/</a>
552 名前:たか 投稿日:2003/12/20(土) 22:28
幼いけど優しい美貴さんのとても可愛い姿が目に浮かんでくるようでした。
儚い約束・・記憶の扉をノック。とっても好きです。亜弥さんをあやしている時の
美貴さんの言葉。ジーンときました。心に染みました・・・・。
二人の過去にこんなことがあったとは・・・忘れていたからこそであった時の特別な感情。
忘れていても亜弥さんを想ったから運命みたいなのがあったのでしょうか。
この物語の藤本さんがとっても好きです。次回の藤本さんをものすごく期待してます!!
553 名前:たか 投稿日:2003/12/20(土) 22:31
んあさん。緑板のsea of love ですよ〜いい作品です。
554 名前:んあ 投稿日:2003/12/24(水) 00:00
THANK YOU!
555 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:41




登校してすぐ、美貴は鞄を持ったまま、自分の教室ではなく、1年生の校舎へと足を向けた。

3年生が1年生の校舎まで足を運ぶだけでもかなり目立つが、
昨日の今日なだけに、美貴はある意味、話題の渦中的存在で、
美貴の姿を見かけた生徒たちは一様にザワめいて、その行方を息を飲んで見守った。

それでも、そんなことを気にも留めず、美貴は目的の教室へとまっすぐ進む。

そして、きっともう教室にいるであろう相手のことを思った。
556 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:41
別れるまでは、登校時間が同じになるように、いつも駅で亜弥が待っていた。

けれど別れてからの今日までの5日間、
美貴は駅だけでなく、登下校のときにも、一度も亜弥を見かけなかった。

それはおそらく、亜弥自身が美貴に会わないように、登校時間をずらしていたからだろう。

朝は早く来て、帰りもきっと、授業が終われば一目散に帰っているに違いない。

でなければ、昨日、正門で真希が美貴を待ち伏せ出来るワケがないからだ。
557 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:42
廊下の真中を迷いも見せずにまっすぐ歩く美貴を、1年生たちは一様に遠巻きにして見ている。

その行く先も気付かれているだろうけれど、美貴は気にしなかった。

目的の教室の前まで来て、クラス表示の札を見上げて美貴は鞄を脇に抱え、勢いよく引き戸のドアを開けた。

勢いが良すぎて、開いた途端、
その音は教室中に響き渡って、クラス全員の注目を浴びることになってしまったけれど。

「…亜弥ちゃん」

驚きの表情を向けて美貴を見ている生徒の中で、
誰よりも驚愕の表情を浮かべていた亜弥を見つけて、美貴は静かにその名を呼んだ。

きっと、何度呼んでも呼び足りない名前だと感じながら。
558 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:42
「話があるんだけど」

怯えが見えるその表情と、身動き出来ずに強張っているカラダ。

「…聞こえなかった?」

美貴の低い声が室内に響く。

顔色を少し青くしながらそろそろと立ち上がった亜弥が、
ゆっくりと、けれど美貴とは視線を合わせないようにしながら、美貴のほうへと歩み寄ってきた。
559 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:42
「……なんです、か?」

震える声が美貴の胸を締め付ける。

自分が、今、亜弥を無駄に追い込んでいることも、判った。

「…大事な、話だよ。ここじゃ話せない。……誰にも、聞かれたくない話」

言って、亜弥が頭を上げるより先にその手を掴んだ。

「行くよ」
「え…っ、でもあの、授業が」

ほんの少しだけ抵抗されて、美貴も進めようとした足を止めた。

それから教室の中を見て、ゆっくり亜弥へと視線を戻す。
560 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:43
「…授業と、あたしと、どっちが大事?」

答えを知っていて聞く狡さは承知で、美貴は言った。

美貴を見た亜弥の目が、美貴の言葉の意味を把握して大きく見開かれる。

「どっち?」

短くても、確かに言葉に重みを乗せて再び聞くと、亜弥は唸るように喉を少し鳴らせてから俯いた。

「………美貴たん…」
「じゃ、問題ないね。…行こ」

まだ戸惑いを孕んでいる亜弥の手を引くように握り締めて、美貴は、歩き出した。
561 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:43

お互い制服を着ていたので、無闇に校外に出るともっと目立ってしまうと考えた美貴は、
亜弥の手を引きながら出来るだけ教師の目には触れない廊下を選んで、特別教室のある別館に向かった。

まだ登校時間だったせいで、
教室へと向かっている生徒の波を逆流する美貴と亜弥の姿は少し目立ってしまったけれど、
周囲の目を気にしながらも、亜弥は美貴から繋がれた手を外そうとはしなかった。
562 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:43
3階建て校舎の階段を、屋上に向かって昇っていく。

昇りながら、自分の歩くスピードが少し速かったことに気付いて、美貴は慌てて足を止めた。

「…ごめん、歩くの速かったね」
「へ…、平気…、です」

振り向いた美貴の目には、まだ戸惑っている亜弥の定まらない視線が映る。

美貴を真正面から捉えることが出来ないでいる亜弥の視線の行方は微妙に逸らされて、美貴の胸元に向けられていた。

敬語で返答する亜弥に少し切なくなったけれど、繋いだ手は美貴も離さないまま、再びゆっくりと階段を昇った。
563 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:44
屋上に通じる扉は、案の定、立ち入り禁止の札が立て掛けられていて、南京錠までかかっていた。

「…やっぱ開いてないか」

以前、この場所で喫煙者が見つかったので、それ以来、立ち入り禁止になっていたことは知っていたのだけれど。

仕方なく階段の最上段に腰を降ろし、亜弥にも隣に座るよう促した。

一瞬ためらってから、美貴との間にもうひとり座れそうなくらいの間隔を空けて亜弥も座る。

「…ちょっと声が響くかな」

人通りのない静かな空間は、僅かな物音も本来の音以上に響かせてしまうけれど、
亜弥とふたりきりで話せるなら、場所なんてどこでもよかった。
564 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:44
ちらりと亜弥を見ると、目線は落としたまま、小さくなって膝を抱えている。

その姿は、遠い思い出の中の『アヤ』をそのまま投影して、美貴の胸も自然と締め付けられる。

怯えさせて、戸惑わせて、困らせて。

本当は、笑って欲しいのだけど。


『亜弥のこと、ちゃんと泣かせてよ』


昨夜から何度も何度も浮かんでは消えていく真希の声が美貴の脳裏で響く。

泣かせたいワケじゃない。
泣き顔を見たいワケでもない。

だけど、亜弥と向き合うには、泣かせなくてはならない。
565 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:44
「………あの」

俯いたままの亜弥の横顔を無意識に眺めていた美貴に不意に亜弥が切り出す。

美貴には目すら向けず、視線は階段の下のほうへ向けたまま。

「…大事な、話って…なんですか」
「…あ、うん……。3つくらい、あるんだけどさ」

ふたりの間にある、物理的な距離と心理的な距離。

物理的な距離は美貴が身を寄せれば済むことだけれど、目には見えない距離が美貴の行動を制限する。
566 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:44
「…えと、まず」
「…はい……」
「…あたし、志望大学、変えたから」

伏せられていた亜弥の視線が弾かれたように持ち上がって、ようやくその瞳に美貴の姿を映す。

それを見つけて、美貴は口元を和らげた。

亜弥の目にちゃんと自分が映ったことが、少しだけ安心を呼んだ。

「…変えた、って…?」
「前にさ、地元のR大にするって言ってたでしょ? …でも、変えたの。地元じゃなくて、関西のほう」

もともと、その大学は、美貴が亜弥と知り合う前から志望していたところだった。
567 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:45
「…そう…、ですか…」
「うん」

美貴を見つめていた亜弥の視線がまたゆっくりと落ちていく。

美貴が更に亜弥との距離を広めたのだと、亜弥は解釈してしまったのだろう。

けれど美貴は逆に、亜弥がまだ、美貴を諦めていないように感じ取った。

だから今、無意識に綻んでしまった自分の口元を、俯いてしまった亜弥に見られなかったことに少しだけホッとする。

「…あたし、小学校の先生になるの、夢だったからさ」
「……あ、ありふれたことしか、言えないですけど…、頑張って、ください……」
「うん、ありがと」

俯いたまま、美貴のほうへは、振り返らないまま。
568 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/26(金) 18:45
「…で、ふたつめ」

びくり、と亜弥の肩が小さく震えて揺れる。

そんな亜弥からは怯えと不安と戸惑いしか伝わってこない。

けれど、美貴の次の言葉で亜弥が更に怯えたように振り向くことは、判りきっていた。

右手でそっと、自身の制服の胸ポケットにしまいこんだ写真を服の上から撫でて、
意を決するように、美貴は大きく息を吸い込んだ。

「………昨日、『真希ちゃん』に、会った」

志望大学の変更を告げたさっきよりも、今まで美貴が見てきたどれよりも驚いた顔で、亜弥は振り向いた。
569 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/26(金) 18:46




なんかもう、いい切りどころが見つからなくて、
こんな中途半端なところで切ってしまって、本当にごめんなさい。
引っ張りすぎだけど、このまま一気にラストまで突っ走る勢いはありませんでした…。<ヘタレ
570 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/26(金) 18:46
>>549
>>550
>>552

レスありがとうございます。

過去編といっても、ちょっとありきたりだったですかね(^^;)
小さい松浦さんを、小さい藤本さんの目で可愛く表現するのが課題だったんですが、
まだまだでした…(泣)
571 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/26(金) 18:47
さて、次回更新で、いよいよ……。
年内更新、完結に間に合いますように。

では。
572 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/26(金) 22:29
おっとっと、ここで切りますか。焦らすなぁ作者さんw
いよいよ……っすか。楽しみなような寂しいような…。
でも続き待ってます。
573 名前:つみ 投稿日:2003/12/27(土) 00:11
こんなところで・・・
年内を楽しみに待ってます!
574 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:18
「う…そ…」
「嘘じゃないよ。帰りに、正門のとこで待ち伏せされててさ」

亜弥が息を飲んだのが判る。

彼女を包む空気も震えたのが美貴にも伝わってきたとき、
まるで何かに追い立てられるかのように亜弥は立ち上がった。

「…待ちなよ、まだ話は終わってないよ」

逃げるように階段を降りようとした亜弥の手首を咄嗟に掴まえて強く握り締め、幾らか声色を低くして美貴は言った。

「…離し…」
「なんで逃げるの。まだ話は終わってないよ?」
「に、逃げてなんか…」
「なら、座りな。…話が終わるまで、逃がさないからね」
「…っ!」
575 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:18
切なそうに眉を歪めた亜弥が美貴から目を逸らして、ゆっくりと、元の場所へと腰を降ろす。

亜弥の腕を掴んでいた美貴は、必然と亜弥との距離を詰めることになり、
肩が触れ合うほどになってから亜弥の手を離した。

「……あたし、『真希ちゃん』に、つまんないオンナって言われたんだよね」
「…………ごめんなさい」
「うん、すごいムカついたんだけど、それ、亜弥ちゃんに謝られると余計ムカつくから」
「…っ、…ごめん、なさい…」

美貴の言葉は亜弥を少なからず突き放したようで、美貴から少し離れて、亜弥は膝を抱えた。

「……で、『真希ちゃん』から、全部、聞いたんだけど」

小さくなった亜弥を見ながら言うと、その頼りなさげな肩が大きく震えたのが判った。

「………亜弥ちゃん、なんでそんな、あたしに怯えるの」

美貴の言葉に答えないまま、膝を抱えた亜弥はますます身を小さくさせていく。
576 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:18
「…亜弥ちゃん?」

亜弥が怯える理由を知っていて、それでも美貴は強い口調で詰め寄った。

「……だっ…て…」
「うん?」
「……だって美貴たん…、もう、あたしのこと…」
「うん、いらないって、言ったね」

亜弥を拒絶した言葉だった。

そしてそれは同時に、『松浦亜弥』を、否定する言葉だった。

「……だったら、もう……」
「じゃあ亜弥ちゃんも、あたしのこと、もういらないんだ?」
「そんなこと…っ!」

俯かせていた頭を勢いよく上げて反論した亜弥の顔に、美貴はそっと手を伸ばして触れた。

言葉にせずただ微笑んだだけの美貴に、亜弥が弾かれたようにカラダを揺らしてまた息を飲む。
577 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:19
「……真希ちゃん、から、全部…、聞いたんでしょぉ…?」

亜弥の頬を撫でる美貴の手を上から包み込むように掴まえた亜弥の表情が崩れる。

「うん」
「……だったら、だったらもう…」

美貴を遠ざけようとしている言葉とは裏腹な、縋ってくる体温に美貴の胸の奥が揺さぶられる。

「じゃあここで、やっぱり亜弥ちゃんなんかいらないって言えば、いいの?」
「……だって、…同情じゃんか…」
「あたしは、同情で約束なんかしない」

亜弥の喉が引き攣ったように鳴って、崩れだした表情の中で、その大きな瞳に涙が浮かんだ。
578 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:19
「……ていうかさ、ホントなら、あたしが亜弥ちゃんに怒られる立場なんじゃないの?」

亜弥の目尻から零れ落ちそうな雫を頬を撫でた手で拭い取りながら言うと、
掴んだ美貴の手は離さないままで、亜弥は俯いた。

「大事な約束、あたしのほうが忘れてたじゃん。亜弥ちゃんはすぐにあたしに気付いてくれたのに、あたしは全然気付かなくてさ」
「……み……」
「亜弥ちゃんは、結構いっぱい、気付いてーって、信号出してくれてた。約束も守ってくれてた。でも、あたしは忘れてた」
「………美貴た…」

掴まれていた手をやんわりと取り戻し、その手でそのまま亜弥の両手を取ると、
美貴の態度と伝わる体温をどう解釈したのか、涙で濡れた目で、亜弥がゆっくりと美貴を見上げてくる。
579 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:19
「…あたしって、そんな薄情な人間だよ? ひとに言われて、やっと思い出すようなヤツだよ?」

目が合ってすぐに美貴が言うと、視線は逸らさないまま、亜弥は首を振った。

「言葉も足りない自信ある。意地悪な自覚もある。目つきだって悪いし、自分勝手だし」

同じように、もう一度。

「亜弥ちゃんがどんなにしんどい想いしてきたか全然考えもしないで、勝手に誤解して」

きゅ、と唇を噛んで、美貴の言葉を待つ姿がいじらしかった。

「自分のことだけしか考えないで、亜弥ちゃんのこと、いっぱい傷つけたよ。…それでも?」

こくりと、一度だけ大きく頷いて、亜弥は目を伏せた。

その目尻から、一粒の涙が零れ落ちる。
580 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:20
「………何されても、どんなこと言われても、あたしは美貴たんが…」

その続きの言葉が亜弥の口から紡がれる前に、美貴はそっとその唇を指で押し返すようにして塞いだ。

不意に触れてきた感触に亜弥が驚いたように目を見開き、その目に戸惑いを浮かべて美貴を見つめてくる。

「…言っちゃダメ」
「…美貴、たん…?」
「亜弥ちゃんは、もうその続きの言葉は言わなくていいよ。それから先は、これからはあたしが言う言葉だから」

言葉の意味をまだ把握しかねている亜弥に、美貴の口元が綻んでいく。

亜弥の唇を押した指で鼻先を軽く押して、顎を引いた亜弥の手をもう一度握り締める。

「…ごめんね?」

精一杯の気持ちを込めて、美貴は告げた。
581 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:20
聞き届けた亜弥のカラダが震えたのは見て判ったし、繋いだ手からも驚くほどに伝わってきた。

「いっぱい傷付けた。いっぱいイヤな想いさせた。いっぱい淋しい想いさせた。……ごめんなさい」

頭を下げたせいで亜弥の表情は判らなかったけれど、判らなくてもいいと美貴は思った。

「本当に、ごめんなさい」

更に深く頭を下げたとき、美貴の頭上で空気が動いたのが判った。

「…や…、やだ…、…やめてよ…、なんで…? なんでそんなこと、言う、のぉ…?」

泣き声に近い声が聞こえて、予想はついていたけれど、美貴は苦笑しながら静かに頭を上げる。

「……こ、こんなの、ホントにサヨナラみたいで…、ヤダよぉ…」

伏せられているのに、その目尻からはぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちていく。

それは、哀しいときに笑う亜弥の、本心からの涙だった。
582 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:20
「…亜弥ちゃん」

精一杯の誠意と想いを込めて、呼んだ。

涙で濡れている長い睫が僅かに震えて、それはひどく切なげに美貴の心に響いてきた。

「亜弥ちゃん、目、開けて?」

涙を拭おうと美貴に掴まれたままの手を目元に運ぶのを制し、美貴はそっとその目尻に顔を近づけながら囁いた。

「……ちゃんと、亜弥ちゃんの目を見て、言わせて?」

く、と息を飲んだ亜弥から、何かを決意した雰囲気が伝わってくる。

まだ湿っている睫が揺れて、静かに、赤く充血している目が開かれて、その瞳に美貴の姿が映る。
583 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:21
「好きだよ」

自分の姿を確認するなり、美貴は告げた。

「…え……」
「亜弥ちゃんのことが好きだよ。大好き」

それまでとは明らかに違う雰囲気と感情を孕んで、また亜弥が息を飲む。

その亜弥に向かって、美貴はもう一度告げた。

美貴の中にある、溢れ出しそうな亜弥への想いをすべてその言葉に託して。

「亜弥ちゃんのことが、好きです」

聞き間違いだとは思わせない強さで言い切ったあと、確かに聞き届けた亜弥の表情がまた崩れだした。

「……美貴、た…」
「返事はいらないからね」
584 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:21
何かを言われる前に笑いながら言って、美貴は、今にも涙が零れてきそうな亜弥の目尻に手を伸ばす。

「亜弥ちゃんは何も答えなくていいよ。これからはあたしが言うから」

大きく見開かれていく亜弥の目を見て、美貴の口元は知らずに綻んでいく。

「あたしが、言う言葉だから」

返す言葉が見つからず、亜弥は目を伏せて俯いた。

けれどそれが決して美貴の言葉を拒絶しての行動ではないと判るから、美貴はそっと亜弥の手を離した。

手が自由になって、その手で顔を覆いだした亜弥を美貴はそっと抱きしめる。
585 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:22
「好きだよ、亜弥ちゃん」
「……ぅん…」
「好き」
「うん……」

美貴の腕の中で、それだけを声にして何度も何度も頷く。

「好きだよ」

亜弥の顔を覆っていた腕が美貴の背中へとまわされる。

溢れてくる涙は止まることを知らないように次々と亜弥の目から零れてはその頬に筋を作っていくけれど、
その涙は、美貴には自慢出来る涙だから。
586 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:22
「…10年間の亜弥ちゃんの気持ちに追いつけるかどうか判んない。判んないけど、頑張るから」
「…うん」
「ちゃんと、応えてみせるから」
「…っ、美貴たん……っ」

たった数日、感じなかっただけの体温をひどく懐かしく、
けれどとても愛しく感じながら、美貴も想いを込めて亜弥を抱き返した。

「……あ…、あたしが…、どんな人間でも、いい?」

しゃくりあげながら、不安をぶつけてくる亜弥が愛しかった。

「いいよ。亜弥ちゃんがいい」
「……ホントは、ママにもいらないコだって、言われた人間でも?」
「誰が何て言っても、あたしには亜弥ちゃんが必要」

背中にまわった手にチカラが入ったのが判った。
587 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:22
「亜弥ちゃんのお母さんやお父さんや、真希ちゃんとか、
亜弥ちゃんのトモダチとかより、ずっとずっと、あたしが亜弥ちゃんのこと、必要だもん」
「美貴た……」
「…亜弥ちゃんは、あたしと会うために、生まれてきたんだよ」

亜弥の髪に顔を埋め、口付けを落としながら美貴は囁いた。

「…美貴たん…っ」

縋るように、けれどそこに確かに愛情を乗せて抱きついてくる亜弥を強く強く抱きしめながら、美貴はもう一度言った。

「好きだよ、亜弥ちゃん」

そのとき、カサ、と、美貴の胸元にしまわれていた古い写真が音を起てたけれど、その音にふたりが気付くことはなかった。
588 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:23




笑ってよ。

今は泣いてもいいから。

泣くだけ泣いたら、次は楽しいことを、考えよう?

笑おうよ。

今はその涙を止めなくていいから。

キミが笑ってくれるなら、どんなことでもしてあげる。

そばにいよう。
手を繋ごう。

だからずっとずっと、ふたりで、笑っていよう。



589 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:23






590 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:23




◇◇◇


591 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:24

「…で、3つ目って?」

講義を終えて、慌しく教室を出て行くクラスメートたちを横目で見遣っていると、
隣から興味津々でそう尋ねられて、帰り支度をしていた美貴は思わず苦笑する。

「なんだ、ちゃんと聞いてたんだ?」

笑いながら返すと、尋ねてきた美貴の友人、柴田あゆみは不満そうに唇を尖らせる。

春から神戸の大学に通いだした美貴にとって初めて出来た友人は、
外見はひどく美少女なのに喋ると意外と大雑把な性格をしていて、
だからといってイヤミもなく、人当たりの良さが彼女の周囲をいつも賑やかにしている、楽しい人間だった。

浪人しているので美貴よりはひとつ年上だが卑屈でなく、居心地の良さは梨華と似ていて、
それが美貴の警戒を解いた要因かも知れない。
592 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:24
「あたり前じゃん! そういう楽しそうな話はちゃんと聞いてるよ」
「楽しそうって…、柴ちゃん、半分寝てたじゃん」
「授業は聞いてない」
「…なんじゃそりゃ」

荷物を持ち、揃って教室を出る。

季節はもうとっくに夏になっていて、窓からは強い陽射しが差し込んでいた。

冷暖房完備の教室内を出れば廊下はひどく蒸し暑く、美貴やあゆみの額にも汗が滲み出す。

「ねーねー、それで3つ目って何さ?」

授業中、つまらなさげにしていたあゆみにせがまれて、
美貴は去年、実際に自分の身に起きたことを適当に話して聞かせていた。

相手が自分と同じ性別であることにあゆみが何も言わなかったのは、あゆみにも同性の恋人がいるからで、
仲良くなったその日のうちに打ち明けられていた美貴も、それを承知しているから話したのだけれど。
593 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:24
「…柴ちゃん、食いつきすぎ」
「だって、美貴ちゃんにそういう人がいたなんて知らなかったんだもん!」
「…言ってないもん」
「ずるいっ、ひどいっ、トモダチなのにっ」

美貴の隣できゃんきゃん吠えるあゆみに笑いながら、美貴も想いを巡らせる。

思い浮かぶ顔に口元が和らいでいく。

「……3つ目はさ、誰かに言うことじゃないんだよ」
「へ?」
「それは、あたしがあのコにだけ言えばいいことで、あのコだけが判ればいいことだから」

微笑んだ美貴があゆみの目にはひどく艶やかに映り、思わず息を飲む。
594 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:25
「………美貴ちゃん」
「ん?」
「…そのコとは、どうなったの?」

今まで話さずにいたことをどう解釈したのか、あゆみの声色が神妙になる。

それが判って美貴も曖昧に笑った。

「…さあ?」

答えて足を進める。

そんな美貴をあゆみは何も聞かずに追いかけた。
595 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:25
「…ねえ、美貴ちゃん、今日さ…」

無言のまま並んで歩くことに何となく居心地の悪さを感じたのか、あゆみがぽつりと切り出した。

その声を耳に届けながら、ふと、廊下の窓の外に目を向けた美貴の目に、思いがけない光景が入ってきた。

思わず足が止まる。

咄嗟に幻かと美貴は考えたけれど、見間違えたりしない自信はありすぎるほどあって、
けれど予想しなかった光景にすぐには思考がまとまらない。

頭の中ではぐるぐると疑問符が飛び交っている。

「…? どしたの?」

あゆみの不審そうな声で、やっと我に返った。

ハッとして、美貴の目に確かに映っている光景が幻でないことを願いながら、
美貴は鞄の中に入れたはずのケータイを探った。
596 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:25
「…柴ちゃん、今日、何月何日だっけ?」

曜日の感覚はあったはずなのだけれど。

手に触れた小さな金属を引っ張りだしたとき、その光景の中で、ゆっくりと小さく動く影。

心臓が跳ねた。

「え? えと、21日。7月21日だよ?」

戸惑い気味のあゆみの声が美貴の耳に届いて、けれどそのまま何の意味も持たせずに抜けていく。

「…高校、って、もう夏休みだよね?」
「? うん、たぶん」

確認してから折畳式のケータイを開いてリダイヤルする。

昨夜も繋がっていた、その、番号を。
597 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:26
ケータイを耳に押し当て、そっと窓を撫でながら、自身の視界にある影の動きを見つめる。

思ったとおり、小さく肩を揺らせてポケットを探るから、さっきとは違う意味で胸が弾んだ。

コール音はすぐに切れて、美貴の耳の奥に心地好く響いてくる声がした。

「もしもし?」

美貴からの電話は予想外だったのか、昨夜聞いた声とはなんだか違う雰囲気が漂っている。

「…いつ来たの?」
「え…?」

唐突にそれだけ聞いた美貴に、小さな機械を通して戸惑いが伝わってくる。

美貴の目に映る光景の中でも、上体を起こして周囲を見回す少女がいて、自然と口元も綻んだ。
598 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:26
「サボりじゃないよね?」
「…あ、…え? あの…?」

困ったように、幾らか不安そうにきょろきょろ周囲を見回して、
美貴の問いかけに答えられずにいる姿が美貴の胸を和ませ、高鳴らせる。

「……すぐ行くから、そこ動いたらダメだよ」
「…うんっ!」

途端に嬉しそうに頷いた姿と、耳に届けられた声。

美貴も口元の緩みを隠さないまま、通話を切ってあゆみに振り向いた。

「ごめん、柴ちゃん、急用出来たから、先に帰るね」
「へ? …あ、うん、判った…」
「バイバイ、また明日」

半ば茫然としていたあゆみが答えるより早く、美貴は駆け出していた。
599 名前:オリジナルスマイル 投稿日:2003/12/28(日) 07:27
弾む呼吸と、胸の高鳴りと、込み上げてくる愛しさと。

薄らぐことのない気持ちが躊躇なく美貴を走らせる。

美貴たちより先に教室を出たはずのクラスメートの横を駆け抜けて、
正門の前で少し大きめのバッグを抱えている少女に向かって更に加速をつける。

「亜弥ちゃん!」

美貴に呼ばれた亜弥が弾かれたように振り向き、嬉しそうに、幸せそうに、笑う。

鮮やかに。
眩しいほどに。

夏の向日葵のように笑って美貴に手を振った亜弥の姿。

それは。

美貴が、美貴自身が望んで求め、傷つけて手放し、それでもなお欲した、ただひとつの。



――――― 美貴だけの、オリジナル。








・・・・・・・・・・・・・・・・・end
600 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/28(日) 07:28





長らくのお付き合い、本当にありがとうございました。
以上をもって、『オリジナルスマイル』は終了です。

ちょこっとだけ、ネタバレ、というか。
『3つ目』に、関しては、読者の皆様の解釈にお任せしようと思っております。
勿論、作者である私が思い描いている『3つ目』は存在しますが、
それは、私の内面だけに秘めておきたいと思います。
<そこ! ホントは考えてないんじゃないの? って指差さないっ(笑)
601 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/28(日) 07:28
思えば、藤本さんの誕生日に始めたこの連載は、見切り発車もいいところでした。
自らを煽りすぎて、自分の文に自信がなくなり、2ヶ月も放置したり。<私の中では痛恨。
改めて、自身を見つめ返すいい機会にもなったのですが……。

あまり多くを語ると愚痴っぽくなってしまうので、やめようと思います。

ですが、読者の皆様からいただいたたくさんのレスは、
本当に、本当に本当に、励みになりました。
ありがとうございました。

とりあえず、私自身が生きているうちに書き終えられたことが、自分の中では、ホッとしました。
や、死ぬワケじゃないですが、最近、ちょっと体調を崩し気味なので(^^;)<不摂生だから(殴)
602 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/28(日) 07:29
えと、終わってすぐ次! ってふうには、今は少し考えたくないので、
しばらく、お休みをいただきたく……、ゴホゴホ

ゆっくり養生して(年寄りクサイって言うな! ホントに年寄りなんだからっ)、
また皆様にお会いできるよう、ちょっとだけ、充電の意味も込めて、潜ってきます。

とはいえ、作者はウソツキなので(自慢気に言うな!)、
また気まぐれに更新するかも知れませぬ。
そのときは、優しくしてね…(/∇\*)(殴)


それでは、また。
慌しいくせに人恋しい季節、背中からハグされることを密かに望む、作者でした(笑)
603 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003/12/28(日) 07:30
連載終了、記念age
604 名前:つみ 投稿日:2003/12/28(日) 10:20
ありがとうございました。
あやみきの巨頭ともいわれるこの物語も遂にフィニッシュですね〜
ここのあやみきはわたくしのよき栄養になりました!
ラストも泣けました!
作者さんのきまぐれをいつまででも待ってます!
605 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/28(日) 10:38
すごいすごいすご〜い!!!
更新終了本当に本当にお疲れ様です!!
最後、二人がこうなることを密かに望んでいた自分・・・。
いや〜、叶ってくれて嬉しい限りです!
前々から結構みきあやにハマっていたのですが、これを読んでま〜すますスキになりました。
ありがとう!
いつかまた次回の更新も・・・みきあやならいいなぁ・・・。
それでは、期待を胸に秘めてその日がまたやって来ることを願っています!
赤鼻の家政婦さん!よいお年を!!
606 名前:名無しだお 投稿日:2003/12/28(日) 10:46
脱稿お疲れ様でした
よいお年を
607 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/28(日) 14:06
感動しました
素晴らしい作品をありがとうございました!
608 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/28(日) 15:20
すごいいい気持ちで新年迎えられそうです!!
ちょっと早いお年玉気分。
本当に素晴らしい作品をありがとうございました!!
609 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/29(月) 00:35
長期連載お疲れ様でした。
素敵なお話をどうもありがとうです!!
オリジナルスマイルのあやみきの今後もどうか幸せでありますように!!
610 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/29(月) 01:18
この作品が生きがいでした。ありがとう書いてくれて
軽いつづきなんかを、気長に今までの読み返して待ってます。

お疲れ様
611 名前:たか 投稿日:2003/12/29(月) 10:54
今までで一番の作品かも知れません。感動で涙が出てきました・・
美貴さん正直になって相手に本音を告げたとこはマジで感動したしうれしかったです。
ハッピーエンドでほんと良かったです。読んでいてほんとに気分が晴れて頑張ろう
という気持ちになれるほんとに素敵な小説でした。最後の場面とか今までのことを
乗り越えた二人だからこその幸せいっぱいな感じでよかったです。再会の仕方もいいし、
終り方もいいし、ほんとに良かったです。三つ目は僕なりの答えを出して胸に閉しまって
おきたいと思います。本当に今までありがとうございます。
612 名前:ちいさな夏羊 投稿日:2003/12/30(火) 15:41
・・・・・・・すばらしいね。
来年も二人には幸せな年をすごしてほしいね。
613 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/30(火) 21:25
お疲れ様でした。
胸にぐっとくるような作品をどうも有難うございます。
次回作も期待しておりますので、焦らずゆっくり作者さんのペースで頑張って下さい!
良いお年を。
614 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/31(水) 01:37
完結お疲れ様でした。
爽やかな終わり方でよかったです
いつもタイトルとの関連性に驚かされます。
二人に幸あれ!
あと、余談かもしれませんが柴っちゃんの恋人は村さんがいいなぁ(ボソッ

それでは、よいお年を〜。
615 名前:マイキ− 投稿日:2004/01/02(金) 14:08
お疲れ様でした。
二人が爽やかに幸せ(?)になってくれてヨカタでつ。
今までアリガトウゴザイました!!
616 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2004/02/03(火) 18:39
>>604-615

たくさんのレス、ありがとうございました。
まとめてしまってごめんなさい。


ネタバレ、というか、ポリシーをひとつ。
このお話における柴田くんの恋人は、村田さん以外は認めておりません(殴)。
あしからず。
617 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2004/02/03(火) 18:41
さて。番外編でつ。

内容は、みきあやではございません。
甘くもございません、むしろ、アイタタタ…、て感じです。
本編と平行して書いてて、でもずっと放置してて、載せるかどうかもちょっと迷ったんですが、
せっかく書いたものを陽の目も見ずにお蔵入りさせるのって、結構淋しいんですよね。

ので、顰蹙罵倒覚悟で、れっつらごー!(殴)
618 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:42



――――― この気持ちに名前なんか付けたりしない。




619 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:42
「それでね…」

リビングで本を読みながら、前に座っている妹の話に耳を傾ける。

それはあたしの日課。
というより、それがないと、あたしが落ち着かない。

いつのまにか、妹の声はあたし自身を癒す声になっていた。

彼女の口から出る話題は時にどうでもいいようなものだったり、とてつもなく大変な事態だったり、
聞いてるこっちが恥ずかしくなるような出来事だったり、本当にいろいろだ。

会わずにいるたった数時間の間に、
いったいどれほどの出来事が彼女に起こっているのかと思えるくらいの多彩な話題にふと心配になることもあるけれど、
話して聞かせてくれている彼女は本当に楽しそうに、嬉しそうに喋っているから、
そんな感情を持つことが失礼な気分にもなる。
620 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:42
戸籍上は違うけれど、もう10年も姉妹として暮らしてきたひとつ年下の妹。

彼女は初めてウチにやってきたときから、次々と話題を見つけてはあたしに話し掛けてきた。

それを鬱陶しい、と思ったことは一度もなかった。

ただ、どうしてそんなに沈黙を嫌うのか、それだけが気掛かりだった。

それはきっと、ヘンにあたしの表情に出てしまったんだろう。

ウチに来てすぐのころ、今みたいに、まるで機関銃のように喋っている彼女の声が不意にピタリと止まった。

あたしは彼女の隣で、買ってもらったばかりのお菓子の本を眺めながら彼女の話を聞いていて、
突然止んだ声にすぐに頭を上げた。
621 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:43
「…どしたの?」

首を傾げながら聞くと、彼女は少し泣きそうな顔になって、でもすぐに笑って見せた。

「ごめんね。真希ちゃん、本読んでるのに、隣であたしが喋ってたら、うるさいよね」

驚きだった。

そんなこと、考えもしなかった。

「うるさくないよ」

すぐに反論したあたしに、それでも気まずそうに笑って彼女はあたしのそばを離れてしまった。

静かに自分の部屋に戻っていく彼女の後ろ姿はひどく頼りなく見えて、
あたしは持っていた本を抱えながらすぐに彼女のあとを追った。
622 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:43
閉じられたドアをノックもしないで開けて中に入ると、
彼女はベッドの上で膝を抱えていて、突然開いたドアに驚いたように目を丸くした。

「ま、真希ちゃん?」
「…ここでお話してくれるの?」
「え?」

彼女の座る横に腰を降ろして、持ってきた本をさっきと同じように開く。

「真希ちゃん…?」
「? 続きは?」
「え?」
「さっきの続き。ケンタローくんが転んで、それから?」

話の先を促したあたしに、彼女はまた大きく目を見開いた。
623 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:43
「…聞いて、たの?」
「当たり前じゃん、ずっと聞いてるよ。だから早く続き話して」
「で、でも、真希ちゃん、本読んでるし」
「うん。でも聞いてる」
「…うるさくない?」
「うん」

彼女の表情に喜びが見えて、あたしの胸の奥も暖かくなっていくのを感じた。

「…あたし、真希ちゃんの邪魔してると思ってた」
「なんで? 姉妹は仲良くしなきゃいけないんだよ。亜弥はあたしの妹になったんだから、邪魔になんかならないよ」
「………いもうと…」
「そうだよ。だから、ずっとずっと一緒にいるんだよ」
624 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:43
あたしはあたしで、何かに必死だったのかも知れない。

亜弥との繋がりはまだ細くて、
それは目に見えないものだからこそ余計に不確かで、確固とした証拠が欲しかったのかも知れない。

「うん…っ」

頷いた亜弥が、また話し出す。

そしてそれは、ずっとずっと、変わらないまま、あたしと亜弥とを繋いでいくのだと、思っていた。
625 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:44





日課、と呼ぶにはあまりにも慣れていた日常は、呆気なく崩れようとしていた。

亜弥の高校入学と同時に、幼い頃からずっと、亜弥の声と言葉で聞き続けてきた名前が話題の大半になった。

それを淋しい、と感じたりするようなことはなかったけれど、悔しく思う自分は隠せなかった。

藤本美貴。

その名前と存在が、
亜弥にとってどれほど重くて、大切で、かけがえのないものであるかを知っているだけに、
悔しいと思う気持ちは顕著だった。
626 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:44
日課は、今日も繰り返されている。

明日も、明後日も、そのまた次の日も。

おそらくこれからずっと、亜弥の口からその名前が出ない日は来ないだろう。

もうその頃には、どうして亜弥が沈黙を嫌ったのか、その見当もついていた。

幼い頃、不仲の両親を取り持とうとしての、亜弥なりの必死の懇願だったのだ。

喋ることで両親の間を行き来して、沈黙になればまた喋って。

無意識に染み付いた習慣が亜弥に沈黙を嫌わせ、つまらないことでさえも喋らせていたのだと。
627 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:45
お役御免、なんて言葉は滑稽だと思ったけれど、
それでも、亜弥にはもう、あたしなんかいらないんじゃないかという気もした。

引き際は潔さが肝心、なんて、どこの恋愛小説だ、なんて考えながら自嘲気味な笑いが零れる。

そう決意した矢先に、亜弥の口から、藤本美貴の名前が出なくなった。

あれほど頻繁に出ていた名前が出なくなったことに気付かないような馬鹿じゃない。

問いただしても、亜弥は曖昧に笑って見せるだけで、何も答えようとはしなかった。

埒があかなくて、亜弥には内緒で藤本美貴に会いに行った。
628 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:45
向かい合って、すぐに敗北感に包まれた。

あたし以上に亜弥を想っている雰囲気は痛いくらいで、
けれど悔し紛れに吐き捨てた言葉はもっと情けなくて、亜弥に申し訳なくさえ感じた。


『ずっとずっと、一緒にいるんだよ』


子供の頃に亜弥に言って聞かせた言葉に捕らわれているのはむしろあたしのほうで、
手放す怖さに怯えているのもあたしだけ。

ずっとずっと、あたしのそばで、あたしにだけ話し掛けていればいいとさえ思った自分の傲慢さには笑うしかなかった。
629 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:46
この気持ちに名前になんかつけられない。

つけたくない。

名前をつけてしまえば、それはそれ以外のものでなくなってしまう。

そんなんじゃない、そんなありふれたものなんかじゃない。

だったら、一生、この気持ちに名前はつけないでいよう。

ずっとずっと、この気持ちを亜弥に向けたまま、亜弥には気付かせないまま、
あたし以外の誰にも知らせないまま、あたしの胸の奥だけで、密かに育てていこう。
630 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:47
いつもと変わりない日常が戻ってくる。

その日にあったことを話して聞かせる亜弥の声は楽しげで、あたしは亜弥の前に座ってその話に耳を傾ける。

取り留めのない話題。
くだらない、つまらない、だけど、亜弥が話す、というだけで楽しくなる話。

あたしと亜弥との繋がりは、これ以上細くなることも太くなることもない。

「真希ちゃん、大好き」

時々、笑顔とともに発せられる邪心のない亜弥の愛情。


――――― だけどあたしは、この気持ちに、名前はつけない。
631 名前:名前のない気持ち 投稿日:2004/02/03(火) 18:47




・……………end

632 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2004/02/03(火) 18:48

ゴメンネ ゴッチン 。・゚・(ノд`)・゚・。
633 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2004/02/03(火) 18:49
書き逃げ。


634 名前:つみ 投稿日:2004/02/03(火) 21:29
番外編おつかれさまでした・・・
なんていうかこれはすごいですね。
痛いと言うか切ないと言うか・・
こんなストーリーもあったとは驚かされました。
ありがとうございました!
635 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/05(木) 18:46
ごちーん・゚・(ノД`)・゚・。
そんな裏側があったとは…
悲しいわけじゃないし、不幸なわけじゃないのに
なぜか切なく泣けてきますね…
ごちーん・゚・(ノД`)・゚・。
636 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 21:51
>>「…亜弥ちゃんは、あたしと会うために、生まれてきたんだよ」
何度読み返してもここで泣いちゃいます。今更ですがもう一度言わせてください。
赤鼻さん、素晴らしい作品をありがとうございました。心から感謝です。
637 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 21:54
あと、新作はいつでも受け入れOKです!!
もちろんあやみき限定ですけどw

なんか偉そうだな俺。逝ってきます。。。
638 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/07(水) 15:19
自分もそろそろ偉大な作者様のみきあやが読みたくなってきた今日この頃。。
639 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/19(月) 21:08
自分も読みたいです!!
640 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/24(土) 11:26
結局書くのは作者さんなんだから、自分のこれ!と限定された希望論とか
あんまり書かない方がいいのでは
641 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/24(土) 15:06
絶対に書いてと言っている訳ではないので、そこまで気にしないでください。
ただ、一読者の希望というだけなので、作者さん側としては意見を聞く事ができて
逆にいいんではないでしょうか?
642 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/24(土) 15:43
んー…書き方にもよると思うけどさ…
とりあえず緑とか短いけれどもみきあや書いて下さってるんだし、
もう少し落ち着いて待ったら?
長遍って凄いエネルギー使うしさ。
てかもうちょっとよく飼育探してごらんよ。
643 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/27(火) 18:43
まぁ、とにかくこの素晴らしい作品の後にこういうこと書くのは極力控えようよ。
作者さんだって気が向いて、話が思い浮かべばいつかまた書いてくれると思いますよ。
それまで気長に待っていましょう。
644 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/05/01(土) 20:05
作者さま
はじめまして。
今日、はじめて知って、面白くて一気に読んでしまいました。
完結、お疲れ様までした。次回作も期待して待ってます!
PS:娘。小説の保存もさせていただいているのですが、もしよろしければ保存させてください。
   よろしくお願いします。できればですので…。
   当方のHPは[http://kuni0416.hp.infoseek.co.jp/text/index.html]です。
645 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/05/03(月) 21:16
作者さま
申し訳ありません。余計な文字まで入ってリンクが切れていました。
当方のHPは[ http://kuni0416.hp.infoseek.co.jp/text/index.html ]です。
よろしくお願いいたします。
646 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/04(日) 10:48
朝これ見つけて一気に且つ時間をかけて読みました。
なんかもう、素晴らしい、としか言えんですよ。
良すぎ。好き。作者さん好きw
よしごまラブだったんですけどあやみきにハマって抜け出せなくなった罠。
さて。
作者さんの他の作品読んできますわ。

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