DOLL
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月27日(木)06時09分07秒
- ええと、久し振りに書きたくなって仕舞いました。
拙い文章ですが、頑張って書いて行きたいと思ってます。
ジャンルとしてはバトル物です。少年誌みたいな感じを目指してます。
主人公は吉澤。カップリングとしては吉飯って感じです。
アンリアルで年齢設定とかはメチャクチャなので、ちょっとおかしな事になるかも知れませんが
面白い物にしたいので、宜しくお願いします。
- 2 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時10分47秒
- 部屋へ鞄を放ると制服もそのままに、吉澤はトイショップへ向かった。
「次の試験で七十点以上を取れたら」
それが貯金を下ろして貰える条件だった。
吉澤の家では月々のお小遣いとは別に、お年玉は無条件で貯金に回される。
十二年間生きて来た中で、その貯金を下ろしたのはマウンテンバイクを買った時と、友達とテーマパークに行く時に、どうしてもお小遣いが足りなかった時だけだ。
ポケットに詰め込んだ全財産は、子どもが持ち歩くには少々高額だ。
道往く人に大袈裟に気を使いながら、吉澤は走る。
- 3 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時11分30秒
- 少子化と共に良質で低生産になったおもちゃ。
高級車のミニレプリカをサーキットで走らせ、ゲームでは等身大のキャラクターになり切り闘う。
大人向けになった所為もあるのだろう。
そんな中、今一番の人気と云えば関節駆動型人形だ。通称DOLL。
特に戦闘タイプの物は、大会が開かれる程の人気を得て居る。
- 4 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時12分27秒
- 吉澤の通う小学校でも例に漏れず、この戦闘型DOLLが流行って居り、つい先日も上級生に自慢されたのだった。
机の端にちょこんと座ったDOLLは、持ち主である中澤の指示に従い、投げられた小石を破壊して行く。
「よーしヤグチィ、この石投げたら撃ち落とせー?」
こくり、と頷くとヤグチと名付けられたDOLLは右手に持ったガンで、小石を撃ち抜く。昨日買って貰ったのだと、自分の教室で自慢するだけでは飽き足らず、中澤は下級生の教室にまで新発売のガンを見せに来たのだった。
―ビッ―
小さな閃光が一瞬。
粉々になった小石が吉澤の足元にまで広がった。
- 5 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時13分08秒
- 「おい、危ないじゃんか!」
バラバラと転がった小石を睨むと、吉澤は中澤に向かった。
きゃあきゃあと楽しげに騒ぐ連中から一歩引いて、教室の端へ非難して居る級友達は心配そうに此方を伺って居る。
「お? 何やよっすぃ、またウチに逆らうんか?」
事ある毎に威張り散らすこの上級生に、吉澤は度々反抗した。
校庭の陣地取り。人気給食の揚げパンでのいざこざ。
「危ないって云ってんのッ!」
タレ目を意地悪そうに向けた中澤に詰め寄る。
上級生と云えど、身長の高い方の吉澤は優に彼女を見下ろせる。
「毎度毎度、反抗的なやっちゃなあ〜。ま、文句なら勝負で受け付けるわ。」
ヤグチを抱き上げると、自らの胸の前でファイティングポーズを取らせた。
状況が飲み込めて居ないヤグチはキョトンと中澤を見上げる。
「勝負って・・・。」
何かあれば直ぐにDOLLを出す。吉澤が持って居ない事を知って、だ。
「あー、そうやった! よっすぃDOLL持ってないんやったね〜。」
たじろいだ吉澤に、ニヤニヤと口の端を上げて得意げに笑う。
「それじゃあ無理かー。まあしゃーないわ、今日は見逃しといたるわ〜。」
ヤグチを片腕に抱いて、中澤は教室を後にした。
- 6 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時13分39秒
- 「なっんだアレ!! ホント、むかつくなぁ〜〜!!」
吉澤が怒りを露に地団駄を踏むと、級友に宥められた。
「まあまあ、中澤さんには逆らわない方が良いよ。」
「そうだよ、何だっけ・・・理事のお家なんだから。」
子どもの割りに諦めた口調で、次々と言葉が続く。
「だからこそ、むかつくんじゃん! 誰か勝負してやりなよ!!」
中澤への怒りを今度は級友達に向ける。DOLLを持って居る子どもなんて、クラスにだって何人も居る。
「よっすぃ知らないの? 中澤さんのDOLL、すごい強いんだから。」
「そうだよ、地区大会で優勝した事もあるんだよ。」
口々に中澤の栄光を漏らす級友達。段々と我慢のならなくなって来た吉澤はついに叫んだ。
「勝負してやる!!!」
- 7 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時15分53秒
- こうして、吉澤はドールの購入の為にトイショップに向かって居るのだった。
「ドールってゆってもなあー、あんまり知らないんだよなー・・・。」
意気揚揚とショップに入ったものの、DOLLコーナーの前で悩んで仕舞った。
小さな武器や、服、色とりどりの人工毛髪、此れらは何に使うのかはっきりと判るものの、ニセンチ程のディスクや、小さなチップの様な物まである。
「どうしよう・・・。」
ポケットでパンパンに膨れた財布を握り締める。
「ね、君。」
背中をポンと叩かれて驚いた。振り向くと、ニンマリと笑顔を向けた少女が居る。
ショートカットに膝下までのパンツ。少年の様な恰好をした彼女の足には、DOLLがしがみついて居た。
- 8 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時16分40秒
- 「DOLL初心者?」
「え? ・・・あぁ、うん。」
「やっぱりー。何か悩んでるみたいだから、そんな気がしたんだ。」
少女が親しげに話し掛けて来るものだから、吉澤も初対面ながら親しげに返した。
「何かいっぱいあるんだね。ドレ買えば良いか、迷っちゃう。」
「あー、最初は迷うよね。」
色々なパーツ(主に武器やなんか)を手に取りながら、少女は応えた。
「あ、そうだ。初心者なんだったら、コッチだよ。」
少女は持って居たグローブの様なパーツを戻してから、吉澤の手を引くと歩き出した。
- 9 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時17分26秒
- 「ほらほら、こっち。」
連れられた先は、目を閉じた人形が並ぶ一角だった。
どれも裸で髪すら付いて居ない。
「うわ・・・。」
少々の気味悪さに、吉澤は身を引いた。
少女のDOLLもちょこちょこと後ろをついて来て、立ち並ぶ同志達に目をしぱしぱとさせて居た。
「あはは、怖い?」
「うん。」
「目ぇ開いてないだけマシだよ。―こっから気に入った型を選びなよ。」
選べと云われても、何を基準にして選ぶべきなのかさっぱり判らない。
- 10 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時18分23秒
- 「うーん・・・、どれが強い?」
「強いの? ボディだけだったら、そんなに大差ないよ。」
「あ、そうなんだ。」
それでも、強い物が良い。中澤のDOLLよりも強い物。
一つ一つをじっくりと見ると、体の大きさや顔、一つとして同じ物がない事に気付いた。「・・・これって、どれも違うんだね。」
「あー、一応ハンドメイドだから。つっても、途中までの加工は一緒なんだけどね。」
「ふうん?」
見て居るだけではラチが明かないので、一番背の高い物を取った。
「それにする?」
- 11 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時18分54秒
- 「うん、背ぇ高いし。」
「あ、此れ白猫堂じゃん! 結構人気あるんだよ!」
パッケージの裏を見て、少女が云った。
「それって高いの?」
吉澤は不安げに聞き返した。
「いや。値段はどれも一緒。
加工したレーベルで、人気が出たりってのがあるんだ。」
あまり詳しい事には興味がなかったので、ふうんと聞き流すと、人形をまじまじと見た。中澤のヤグチは小さめのボディだ。立ち並んだ姿を想像しただけで、有利になれそうな気がした。
- 12 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時19分30秒
- 「よっし、此れにしよう!」
「お。決めたか。じゃあ、次はチップだ。」
「チップ?」
「うん、何て云うのかな、胸のトコに入れるの。体内の小さな動きを指示する所。」
少女は自分のDOLLを抱き上げて、胸の所をコツコツと叩く。
DOLLの方はくすぐったそうに、身をよじらせた。
「心臓みたいだね。」
「そうそう、ハートチップって呼ばれてるんだけど。
人形がダメージを喰らった時に、体内で其れを逃がす為の作業を手伝うんだ。」
先程吉澤が悩んで居た場所まで再び来ると、小さなチップの様な物を指し示された。
白や青、赤、全部で六色位だろうか。
- 13 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時20分02秒
- 「たくさん、色があるね。」
「うん、色によって何処を優先的に回避するかが判るんだ。
頭、胴、腕、足―何処を優先させたい?」
人間にとって大事なのは頭だ。DOLLについては判らないが、そう大差ないだろうと吉澤は思った。
「頭、かなあ・・・。」
「じゃあ、白のチップだね。」
因みに、と少女は続け、抱き上げたままのDOLLの胸を開こうとした。
シャツのボタンに指を掛けると、DOLLの方は赤面をして腕で自らの体を抱いた。
少女を睨みつけ口をパクパクとやって居る。
小さな声だったが、吉澤の位置からでも聞き取れた。
- 14 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時20分44秒
- 「―いちーちゃんのバカァッ!!」
「ごめん、ごめんって。」
少女は腕の中のDOLLにひたすら謝ったが、機嫌を損ねた様でDOLLは顔を少女の胸に押し付けたままだった。
「と、見せてくれなかったけど、この子は赤のチップなんだ。」
「赤は、何処?」
少女のDOLLに興味を惹かれたが、顔を此方に見せようとはしない。
「右腕。攻撃タイプだから、腕をやられちゃ何にも出来ない。」
「腕は右と左があるんだ?」
「足もね。まあ、最初は大した差じゃないよ。」
- 15 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時21分26秒
- それから、服と武器、髪を揃えたが、DOLLの方は一向に機嫌を直さなかった。
顔を押し付けて居るのに疲れたのか、ぽや〜っとした顔で少女に抱かれたまま商品を眺めて居たが、少女が話し掛けるとプイと顔を背けた。
「じゃー、次はディスクだね。」
「えー、未だあんのぉ〜?」
「此れで最後だから。ってぇか、一番大切なトコだから。」
2センチ程のディスクが並べられて居る棚の前で、少女は立ち止まった。
- 16 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時22分00秒
- 「此処に並んでんのは、空っぽのディスクなのね。此れがこの子達の脳みそ。」
「脳みそ・・・色々覚えたりする所?」
「うん、そう。簡単な単語とか行動やなんかは初期データとして入ってるんだけど
そっから先の事、あたし達と生活してからの事は、ディスクで覚えて行くのね。」
「じゃあどれも一緒なんだ?」
「うん。適当に選んじゃって平気。」
「おっけ、おっけー。」
慣れて来た吉澤は、ふんふんと鼻歌交じりにディスクを選んだ。
何となく、一番光沢のある物を選んで行く。
「選んだら、こっちだから。」
吉澤を置いて少女はレジに向かった。
- 17 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時22分36秒
- レジカウンターの大きな机に選んで来た全てを並べると、愛想の良い店員がバーコードを打ち込んだ。
「ええと、お客様、初期設定をされてから行かれますか?」
「初期設定?」
吉澤が困った顔をすると、少女が横から耳打ちをしてくれた。
「全部セットしてくか? って聞いてんの。」
「ああ、ああ! はいはい、お願いします。」
「それですとお客様、髪型の方は如何なさいますか?」
店員は茶色の入った毛髪を取り上げると、首を傾げて訊ねた。
「あーっと、どうしようかな・・・。」
「付けてみてから考えれば? 自分でも切れるんだしさ。」
再度、少女が耳打ちしてくれた。
「そっか。―じゃあ、そのままでお願いします。」
「このままですと、少々長い様ですが?」
「えー・・・うーん。じゃあ、揃える程度で・・・。」
二十分程かかると云う事で、ドリンクコーナーで待つ事にした。
- 18 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時23分08秒
- パックジュースの自販機に並んで、吉澤が珈琲牛乳を選ぶと、少女はオレンジジュースを選んで、それから別の自販機に向かい、何かを買った様だった。
「それ、何?」
吉澤が訊ねると、少女は手にした物を見せてくれた。
星柄のそれはパックジュースより小さく、電池に似て居たが、少々大きい様だった。
プルタブの様な物が頭に付いて居て、少女はそれに指を掛けた。
「此れ取るでしょ、」
プシュと云う音がして、金属の様な平らな表面が出た。
「ほら、マキ。」
先刻まで少女の呼び掛けには見向きもしなかったDOLLが、ぱっと顔を上げるとそれを受け取った。
「此れで、機嫌直してよ。」
プルタブの被って居た位置にDOLLは口付ける。唇のピンク色がほんのりと濃く染まり、両手でジュースを飲む様な仕草をする。
- 19 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時23分46秒
- 「充電池なんだよ。ジュースみたいに飲むでしょ?」
DOLLが上を向いたので、少女と目があった。少女がニンマリとやると、DOLLも電池に口付けたままへら〜っと笑った。
「へぇー。面白いもんがあるんだねー。」
吉澤は関心して頷いた。
「充電器なんて持ち歩かないじゃん。だから、外では此れをあげるんだ。」
飲み終わったのかDOLLが電池から口を離すと、唇の色もゆっくりと元に戻った。
すっかり機嫌が直ったのか、DOLLは少女の膝の上で頭を撫でられて、気持ち良さそうに目を細めた。
- 20 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時24分26秒
- 「ああ、そうだ!」
吉澤が不意に大きな声を出したので、少女は驚いた様だった。
「何、突然?」
DOLLを抱き締めて聞き返す。DOLLの方も驚いた様でトロンとして居た目を見開いた。
「あ、ごめん。名前聞いてなかったと思って。」
「あー! そう云えばそうだね。何か友達みたいに話しちゃってたから、忘れてた。」
今度は少女の方が大声をあげて、腕の中のDOLLがビクッと反応した。
「ええと、市井紗耶香と云います。」
「あ、はい。吉澤ひとみです。」
座ったまま不自然にお辞儀をし合う。
「で、この子がマキ。」
市井がDOLLを紹介すると、DOLLの方もぺこりと頭を下げた。
名前が判ったので、マキに話し掛けてみると、へらへらと人懐こそうな表情を向けてこくこくと頷いた。声も出るのだが、体が小さい所為か聞き取り辛い。DOLLの方もそれを判ってか、あまり会話はして来なかった。
- 21 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時25分08秒
- そんな遣り取りをして居る間に時間は過ぎ、吉澤達はDOLLを引き取りにレジまで向かった。
「お待たせ致しました。此方が吉澤様のDOLLになります。
お帰りになりましたら、先ず充電をなさって下さい。」
窮屈にパッケージの箱に仕舞われたDOLLは、長髪に服を着て、見違える様だった。
「此れ、出しても良いのかな?」
トイショップを出ると直ぐ様、市井に聞いた。
「だいじょぶだよ、大切に持って帰れば。
今は充電がない状態だから、起こさない様にしてあげなよ。」
ガサガサと丁寧に包装を破ると、DOLLを抱き上げた。
- 22 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時25分50秒
- 「起こしたら、どうなっちゃう?」
力の入って居ないDOLLはダラリと吉澤の腕に垂れる。
小さいながら重みがあって、縫いぐるみやなんかとは違うのだ、と痛感する。
「本体の電池が傷付いて、寿命が減る。」
「わお、怖いね。」
「うん、気を付けなよ。
本体電池も買い換えられるけど、ディスクの障害を起こす事もあるから。」
「それって?」
「・・・うーん。記憶障害みたいなもん。持ち主の事、忘れちゃったりもするって。」
「―こえー! 気を付けるよ!」
包装のゴミを店先のゴミ箱に捨てると、DOLLに衝撃が行かない様に慎重に歩いた。
「じゃあ、あたしこっちだから。」
市井達と別れると、マジマジとDOLLを見詰めた。
目が覚めたらどんな顔なのだろう、と想像すると気持ちが昂ぶった。
- 23 名前:出会い 投稿日:2003年02月27日(木)06時27分31秒
- 関節駆動型人形(通称DOLL)
名前/不明
持ち主/吉澤ひとみ
ディスク1/不明
ディスク2/不明
チップ/シュガーハート(白)
ボディレーベル/白猫堂(和風のボディを作る事で有名)
武器/日本刀
戦闘経験/0
黒髪に、和服を装着。充電前の為、目覚めて居ない。
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月27日(木)06時36分31秒
- こんな感じで。早速間違いを発見して仕舞いました。申し訳ない。
吉澤のDOLLは黒に茶色が混じった毛髪です。
判り辛かったですね。気を付けます。
まったりでも、しっかり更新して行きたいと思います。
宜しければお付き合い下さい。
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月27日(木)10時39分04秒
- 面白そう。なかざーサンも小学生なんでしょうか?w
吉澤と市井は少年漫画なノリが似合うね。
- 26 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月27日(木)21時15分54秒
- こういう話好きです。
どうなって行くのか楽しみです。
がんばって下さい!
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)06時28分37秒
- >25
中澤さんは中学生です(笑)。どっちにせよって感じです。
ありがとうございます、コ○コ○コミックみたいな雰囲気を目指しつつ・・・です(笑)。
>26
ありがとうございます。期待に応えられる様、頑張りたいと思います。
では、勢いに任せて更新です。
- 28 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時29分45秒
- 目覚ましのアラーム音がけたたましく頭に響き、眠って居るのだと気付いた。
慌てて飛び起きると、朝陽がカーテンを透かして居た。
「―・・・朝かぁー・・・。」
寝惚け眼を擦りながら学習机に向かう。
今日の時間割を思い出しながら、教科書を鞄に放る。
―ヴウゥゥン―
控え目な低音が響いて、机の脇の影に気付いた。
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)06時30分39秒
- 「あ、そうだ。」
吉澤が其方に目をやると、昨日購入したDOLLが目覚めた所だった。
昨日は充電を待ち切れずに眠って仕舞い、DOLLを起こす事もなかったので、此れが初対面だ。
ぱちり、と思ったよりも大きく目を開け、DOLLは吉澤を認識した。
「お・・・おはよう、」
朝陽の所為か少し潤んだ様に見える瞳に見詰められ、戸惑いながらも声を掛けた。
「―おはよう。」
集中して居る所為か、吉澤の耳にもハッキリと聞き取れる声でDOLLは応えた。
恐る恐る手を伸ばすとDOLLの方も手を伸ばし、触れ合った。
「あなたが、私の持ち主?」
まじまじと吉澤を見て、DOLLが訪ねる。
「うん、うん、そう! 宜しくね!」
DOLLが目覚めた感動に語尾を震わせながら、吉澤は応えた。
「うん。宜しく。」
持ち主の落ち着かなさには動じないのか、DOLLの方は随分落ち着いた様子だ。
- 30 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)06時31分11秒
- ―ピ・・・ピピピピピ!!―
再度アラームが鳴った。
5分おきにセットされて居る目覚まし時計は、家を出る時間を知らせた。
「おっわ! 遅刻するッ!!」
慌てて鞄に教科書を突っ込むと、パジャマを脱ぎ散らかし制服に着替えた。
DOLLはその様を不思議そうに見上げて居る。
タイがちゃんと結べなかったが、直して居る時間はない。
鞄を肩に掛けると、忘れ物がないかチェックした。
「よし・・・よし、OK!」
その時になって、自分を見上げて居るDOLLに気付いた。
「おっと、学校行くよ?」
意味が判って居るのか、DOLLはこくりと頷く。
吉澤は抱き上げようとして、DOOLの足に充電プラグが差さったままである事に気付いた。
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)06時31分59秒
- 「抜くよ? 平気?」
電源に関わる事は怖いのでDOLL本人に訊ねてみたが、こくこくと頷くので、大丈夫なのだろうと安心して一気に抜いた。
プラグを抜くプッと云う小さな音と共に、DOLLは眉間に皺を寄せた。
「え?! 痛い? だいじょぶ?」
プラグの差さって居た足裏を撫でてやりながら問うと、くすぐったそうな顔をして口をパクパクとさせた。
(だいじょうぶ。)
意図的に声を出さず、唇の動きを読ませた。
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)06時32分34秒
- 「じゃ、行くよ?」
腕に抱いたDOLLに声を掛けると、ドアを開け階段を一気に駆け下り、靴も突っ掛けたまま通学路を走り出した。
背中に通学鞄、胸にDOLLを抱いて走る。少々走り辛かったが、首にしがみついて来るDOLLの腕が愛しく思えて心地良かった。
角を曲がれば校門までは一直線だ。
門には先生が立って居て、遅刻までの時間が近いのが判った。
「むー、ヤバイな。超ダッシュかますかー。」
DOLLに話し掛けると、彼女は口をパクパクとさせ、何かを訴えて居る様だった。
「ん? 何??」
さすがに走って居ると声が殆ど聞き取れない。
DOLLも諦めたのか、頭を振って何でもないと云う風の態度をとった。
「後でね。」
ごめん、と話し掛けると、DOLLは吉澤のタイに手を伸ばした。
しっかり結べて居なかったので、此処に来るまでに解けて仕舞って居た。
彼女は小さな手で器用にもタイを結びなおす。
「うわー、ありがとー。」
小さな感動を覚えて、DOLLを抱き締めると彼女の方も嬉しそうに体を震わせた。
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)06時33分05秒
- 校門を遅刻ギリギリでくぐり抜け、教室までラストスパートを掛ける。
「―セーフッ!!」
がたがたと騒音を立てて椅子を引くと、朝礼前のゆったりした時間に迎えられた。
「わあぁ、よっすぃDOLLだぁー!」
吉澤にしがみ付くDOLLを見ると、級友達が集まって来た。
鞄を足元に放る頃には、人垣が出来て居た。
「買ったんだー?!」
「着物なんだ、可愛いー!」
「すげー日本刀だー。」
和服姿のDOLLは珍しかった様で、興味津々の子ども達に囲まれると、DOLLの方は吉澤の服を握り締め、警戒して居る様だった。
- 34 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時33分39秒
- 「だいじょぶ?」
DOLLの頭を指で撫でてやり、小さな声で訪ねるとこくこくと頷きはしたが、手は服から離さなかった。
チャイムが鳴り、がやがやと皆が席に戻ると、一息吐いて、やっと服から手を離した。
「だいじょぶだよ。」
もう一度頭を撫でてやると、顔をあげ小さく頷いた。
私立である所為か、吉澤の通う学校ではDOLLの禁止はされて居なかった。
「授業中は睡眠モードにして、ロッカーに置く」、此れを守って居れば持ち込んで居ても違反にはならない。
「中等部の中澤さんが理事に云ったんでしょ? どうせ。」
皮肉っぽく、他のクラスの子が話して居るのを聞いた事があった。
彼女の祖父が、この学校の理事なのだ。そうでもなければ、あんなにも威張り散らしてなんか居られないだろう。吉澤は悔しく思い、何時か痛い目を合わせてやりたいと思って居る。
- 35 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時35分00秒
- 「君のお陰で叶いそうだけれど。」
いい加減に級友達の好奇心から逃れたくなり、吉澤は給食を食べ終えると、DOLLを抱え、一目散に屋上へ続く階段へ向かった。
屋上は危険防止の為閉鎖されて居るので、この階段には誰も来ない。
吉澤の言葉にDOLLは首を傾げると、吉澤を見上げて来た。
「あたしと一緒に、中澤さん倒そうね。」
拳を握り小さく前に出すと、DOLLもそれを真似た。その様が可愛くて吉澤は吹き出して仕舞った。
- 36 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時35分39秒
- 「よっすぃ。」
不意にDOLLが口を開いた。
「え? 何?」
小さな声だったので、聞き間違えたのかも知れない。
名前を呼ばれた気がした。
「よっすぃ。あたしの名前は?」
「へ? あ・・・あ?」
級友達が呼んで居るので認識したのだろう、ニックネームとは云え名前を呼ばれ、気恥ずかしくなった。
「あー、あー、そっか! そうだよね。君の名前を決めてなかった。」
階段にちょこんと座ったままの姿勢で、DOLLは首をこくりと動かした。
「うーんとね、決めてるんだよ。――君の名前はカオリ!」
「カオリ?」
「うん。何となくなんだけど、顔見てたら、浮かんで来たんだ。」
「良い名前―。カオリ・・・気に入った。」
DOLLはゆっくりと、名前を何度か口走らせた。
「良かった。」
吉澤はカオリを抱き上げると、抱き締めた。
「改めて。
カオリ、宜しくねー。」
- 37 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時36分14秒
- チャイムが鳴った。もう一度鳴れば、午後の授業の開始だ。
カオリを抱き上げ階段を降りようとすると、カオリに服を引かれた。
「よっすぃ、カオリね、歩いて移動出来るんだよ?」
云われてみて、吉澤は今までの移動を、DOLLを抱き上げて来た事に気付いた。
「朝もね、云おうとしたんだけれど。」
「あー、朝かー。ごめんね、ちゃんと聞いてあげられなくて。」
両手を合わせ「ゴメン!」と謝ると、カオリは手を振り、良いから、と示した。
「よっすぃこそ、重いでしょ?」
「いやいや、そんな事ないから。」
カオリを足元に降ろすと、二人で歩いて教室に向かった。
- 38 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時36分56秒
- 暖かい陽射しの伸びた机へ、六角鉛筆を転がす。
今日はこの授業を終えれば帰れる。
時々、後ろを振り向いては並んで眠るDOLLを見る。
大きな剣を背負ったDOLL、西洋人形にガンを持たせた様なDOLL、様々な級友達のDOLLの中でも、吉澤のDOLLは特別だった。
先ず顔が違うよなー、と思い、それは親バカかな、とも思った。
- 39 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時37分28秒
- 椅子をギシギシと鳴らし、傾けさせた。
鉛筆を放った手はだらだらと、宙に垂れて居る。
チャイムまで後3分・・・2分・・・1分。
黒板に向かう担任には見付からない様、机の中身を鞄に仕舞い込んだ。
早くカオリを起こしてやりたい。その気持ちでいっぱいだった。
チャイムが鳴ったと同時に席を立ち、DOLLに向かうと、チャイムが鳴り終えるより早く、カオリを起こした。
こめかみのスウィッチに指紋を認識させると、カオリはゆっくりと目を開いた。
「カオリ、帰ろ?」
- 40 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時38分04秒
- カオリがロッカーからひょいと飛び降りると同時。
バタバタと云う足音と共に、教室の扉が乱暴に開かれた。
「よっすぃ、DOLL買ったんやってなぁ?!」
- 41 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時38分39秒
- 騒がしく現れたのは中澤だった、ヤグチがその中澤にピッタリとついて現れた。
「買ったよ。勝負しようってゆったじゃん。」
気に喰わない、と云った顔でつかつかと歩み寄って来た中澤に、強気で返した。
「ほー、随分自信があるみたいやなあ。」
カオリも緊迫した顔で、二人の遣り取りを見上げて居る。
「ええ度胸や。勝負しようやないか。」
机のない教室の後ろのスペースで向かい合う。級友達の緊迫した空気に囲まれて、二人は睨み合った。
「いざ、勝負!!」
吉澤は気合を入れて、叫んだ。
- 42 名前:名前 投稿日:2003年02月28日(金)06時39分29秒
- 関節駆動型人形(通称DOLL)
名前/ヤグチ
持ち主/中澤裕子
ディスク1/不明
ディスク2/不明
チップ/ブルーハーツ(青)
ボディレーベル/ピンクレコード(軽量ボディがウリ、顔も少々幼めに作って居る様だ)
武器/カニガン02(つい先日発売されたばかり、生産数が少ない為、入手困難)
戦闘経験/24
チップの影響か、時々目が青くなる。茶髪に、バトルスーツ着用。
- 43 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)06時46分09秒
- うい、こんな感じで初バトルに突入します。
設定がごちゃごちゃしてて、判り辛かったらごめんなさい。
精進します!
- 44 名前:読者 投稿日:2003年02月28日(金)22時37分57秒
- すごい面白いです^^
DOLLの仕草とかみんなカワイイですね。
って言うか、作者さまの書き方がウマイのか…^^
他にもDOLLは出てくるのかも楽しみです。
これからも頑張って下さい〜
- 45 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月28日(金)23時07分01秒
- (○^〜^)<カヲリ、キミに決めた!
…って感じですね(笑)こういうコ○コ○とかボ○ボ○みたいなノリ
懐かしくてイイです。
- 46 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月07日(金)06時52分04秒
- >44
ありがとうございます。褒めて頂けて光栄です。
その言葉を裏切らない様、頑張りたいと思います。
>45
ポ○モンとか、デジ○モンって感じです(笑)。
少年誌って云うか、子ども向けアニメか(笑)。
では、続きに行かせて頂きます。
感想、有り難いです。マヂ頑張りまっす!
- 47 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時52分46秒
- 二体のDOLLが向かい合う。
後ろには持ち主である、吉澤、中澤が睨み合い、其の周りを子ども達が囲む。
「いざ、勝負!!」そう叫んでから、どれ位経ったのだろうか、随分と睨み合って居る気がする。
吉澤がただ睨み付けるのに対して、中澤の方は時々、余裕ありげに口端を上げ「ふん!」とばかりにやる。
三度目にそれをやられた時、吉澤はカオリに指示を出した。
「カオリ、突っ込め!!」
タタッと云う足音と共に、カオリがヤグチに向かって行く。
―ヒュ・・・ッン!!―
が、ヤグチは一瞬の間にカオリの脇側に回り込んだ。
- 48 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時53分18秒
- 「避け・・・ッ」
吉澤がカオリに言葉を掛けるより早く、ヤグチのガンが至近距離で打ち込まれた。
ビッと云う鈍い音と共に、小さな光がカオリの左腕で弾けた。
そのままヤグチは、衝撃で飛ばされたカオリに向かい、円を描く様に移動して、何発か撃ち込んだ。吉澤はその様子を、呆気に取られて見て居るしか出来なかった。
―ヒュウッ・・・ビッ・・・ヒュウッビッ・・・―
移動しては、様々な確度からガンで撃ち込む。
一方的なヤグチの攻撃に、カオリは胸を押さえ込み、ガードの姿勢しか取れない。
「・・・カオリ!!」
やっと口を開いた吉澤が声を掛けたが、カオリは背を向けたまま、刀を構えただけだった。
- 49 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時53分57秒
- ―ビッ・・・キィン!!―
カオリの刀が、ヤグチのガンから放たれる光線弾を弾いた。
間合いを詰め、振った刀でそのまま切り込む。
「よし! 反撃だ。」
―ガキィン!!・・・キン・・・キィン!!―
大振りでカオリが何度も切り込むが、ヤグチはその全てをガードで受け、対したダメージは与えられてない様だ。
教室内のの緊迫した空気の中、級友のひそひそとやる声が聞こえる。
「腕だ・・・最初の攻撃で、腕が少しやられてる・・・。」
そう云われると、刀が真っ直ぐに切り込まれて居ないのが判る。
軸となる左腕が、最初の攻撃で損傷したのかも知れない。
「カオリ・・・。」
- 50 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時54分32秒
- 吉澤の呟いた声が聞こえたかの様に、一瞬カオリの動きが早まった。
上段から構えた刀を振り、下ろし切る前に突きへと変えた。
―!!―
ヤグチは瞬時に反応して、体を後ろに仰け反らせた。
―・・・パキッ―
刀はヤグチのゴーグルにヒビを入れただけだった。
「甘いなあ、よっすぃー。」
机の上に座り、片膝に顎を乗せた余裕の恰好で、中澤が声を掛けて来た。
「何云ってんの、ゴーグル割ったよ。次は、当てるからね。」
顎を上げ、精一杯の挑戦的な表情を返してやる。
「いやいや、二度も同じ手は喰らわんから。」
- 51 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時55分07秒
- ―ビッ・・・キィィン―
ヤグチが撃ち込めば、刀で弾く。
―シュッ・・・ヒュオッ―
カオリが切り込めば、得意の高速移動で避ける。
攻防戦が続いて居た。
中澤は相変わらず余裕の態度で、欠伸なんかをして居る。
「なかなか、決まらんなぁ。」
ポツリと呟く。
「初心者相手に、手間取ってんじゃん。」
吉澤の言葉に少し「ムッ」とした様で、中澤は真面目な顔をして瞳を閉じた。
「何だよ、戦略の練り直し?」
普段なら思い付かない様な早さで、脳みそが働いて、吉澤は軽口を吐く。
「ヤグチ、碧眼や。」
瞳を閉じたままの中澤にそう指示されると、頷いたヤグチも目を閉じた。
「行くで?」
ヤグチは再度頷いた。
- 52 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時55分40秒
- 「碧眼モード、オン!!」
中澤が叫ぶと同時に、目を開く。瞳が青くなって居る。
ヤグチも同じく目を開く。やはり、瞳の色が青くなって居る。
ヤグチは欠けたゴーグルの隙間から、青い目玉をギョロつかせ、カオリを捕らえた。
そして、先程よりも早い動きで、カオリの周りをぐるぐると移動する。
―ヒュンッ!!・・・ウゥン!!―
モーターが高速で回るみたいな音がする。
カオリは完全にヤグチの動きに翻弄され、おろおろとたじろぐだけだ。
もう試合なんてどうでも良い、と思った。
碧眼となったヤグチの攻撃を考えると、ぞっとした。
何とかして、この状態を脱したい。その思いでDOLLの名を叫ぶ。
「カオリ! カオリ!!」
吉澤の声にカオリは反応するものの、どうする事も出来ず、やみくもに刀を振る。
- 53 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時56分11秒
- ―ガツンッ!!―
ヤグチは手に持ったガンで直接、カオリを攻撃し始めた。
頬を打たれたカオリの頭が、グラと揺らぐ。
「此れだけ早なってまうと、直接殴った方が早いんや。」
ニヤニヤと笑みを浮かべて、中澤が青い瞳を向ける。
―ヒュゥ・・・ガツン!!・・・ガッ! ガッ!―
高速で回り込んで、カオリの背中、腕、頬を容赦なく殴る。
カオリはもう胸を抑えて、完全にガードの体制だ。
攻撃をする意識も働かないのかも知れない。
- 54 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時56分52秒
- 相変わらず机の上に座ったままの恰好で、中澤は足をブラブラと退屈そうに揺らせた。
「あーああ、よっすぃのDOLL、ボロボロやん。」
今にも倒れ込みそうなカオリを見て、吉澤の頭には完全に血が上った。
「黙れ。」
ツカツカと中澤に歩み寄ると、ドンと両肩を突き飛ばした。
―ガシャーン!!!―
それほど強い力を掛けた訳ではなかったのだが、中澤の体はそのまま、机毎向こう側に倒れて仕舞った。
大きな音に気付いたのか、持ち主の異常に気付いたのか、ヤグチが一瞬、此方を見た。
その一瞬の隙に、胸を抑えて居たカオリが渾身の力で切り込んだ。
―シュバッッ!!―
ヤグチの額にすぅっと刀が通った。
驚いたヤグチが目を見開くと同時に、碧眼が消えた。
茶色の瞳がゴーグルから覗く。そのゴーグルも、パラパラとカオリの刀に触れて崩れて行く。
- 55 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時57分59秒
- ―ガッシャーン!―
吉澤を机に押し付ける。机が何台か派手に倒れ、教室はちょっとした混乱になった。
きゃあきゃあと級友達が、教室を駆け回る。
ヤグチとカオリは、戦闘を止め、持ち主達の喧嘩を心配そうに見上げて居る。
吉澤に馬乗りになった中澤が、拳を上げた時、放送が入った。
中澤がぴた、と止まり、吉澤も放送に耳を傾けた。下校を促すメロディと共に、放送委員の声が響く。
「裕ちゃん、先生来るって!!」
バタバタと足音がして、慌てた様子の上級生が一人、教室の扉口に駆け込んだ。
キツイ視線で見上げた吉澤を睨み返すと、彼女は「チッ」と舌打ちした。
- 56 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)06時58分35秒
- 「勝負はお預けや。」
立ち上がった中澤にちょこちょことヤグチが寄って来た。
それを抱き上げると、何時もの嫌な笑いを浮かべて「又な、初心者」、と云い中澤は去った。
吉澤がその台詞に腹を立てるより早く、カオリに足を突かれた。
心配そうに見て居る。
「大丈夫だから。」
吉澤も立ち上がると、カオリを抱き抱えた。ボディのアチコチが損傷して、欠けて居る。
- 57 名前:54と55の間です・・・(ごめんなさい、ミスりました。) 投稿日:2003年03月07日(金)07時01分13秒
- 「ヤグチィイ!!」
机の瓦礫の山から、ガバッと中澤が立ち上がった。
その声に反応してヤグチはガンを向け、反撃態勢を取った。
「行っけー!!」
カオリを指差し、中澤が叫ぶ。
―ビィッ・・・ビッビッビッ!!!!―
真正面から連続した光線弾がカオリを撃つ。
「カオリー!!!」
今度は吉澤が叫んだ。叫んで、中澤に掴み掛かった。
「何や、やるんか?」
中澤もやる気なのか、掴み掛かった吉澤の腕を掴み返す。
- 58 名前:56の後です・・・ 投稿日:2003年03月07日(金)07時02分40秒
- 「ごめん・・・、」
涙が零れそうだったが、何とか目を潤ませるだけで抑えた。
「ごめんね、カオリ。」
小さな手で、カオリが胸をトントンとやってくれた。
「今度は勝つから・・・!」
カオリはこくり、と頷くと、瞳を閉じた。
そんなカオリに堪えきれずに、吉澤は泣いた。
- 59 名前:初バトル 投稿日:2003年03月07日(金)07時03分12秒
- ◇ヤグチ 対 カオリ◇
ルール違反により、カオリの判定負け
違反ルール:持ち主同士の喧嘩(最初に手を出した方が負け)
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月07日(金)07時10分01秒
- ごめんなさい、ミスりました。。。
54→57→55→56→58の順に話しは流れます。
57が投稿出来てなかった事に、途中で気付いたんです。
読み辛くて申し訳ないです。
そして、関西弁も胡散臭くてごめんなさい。
もっと気合入れて頑張ります。
- 61 名前:名無しでつ 投稿日:2003年03月07日(金)17時47分34秒
- すごく面白いです。
カオリよ吉澤の関係も、ヤグチと中澤の関係もすごくイイです。
今後を期待して待ってます。
関西弁も全然胡散臭くないですよ(w
- 62 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月08日(土)05時59分11秒
- >61
ありがとうございます。DOLLと持ち主の関係には、気を遣って行きたいと思ってます。
関西弁大丈夫ですか? かなり不安なんですね(笑)
ではでは、カオリ治しまーす。
- 63 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時00分01秒
- DOLLの修理、メンテナンスは、地域で指定された専門店で行われる。
級友に書いて貰った地図を手掛かりに、吉澤は夕暮れの街をとぼとぼと歩いて居た。
「こっちであってるのかなぁ・・・。」
背中に鞄、腕には睡眠状態に入って仕舞ったカオリを抱く。
- 64 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時00分35秒
- 靴紐が解けて居るのが判るが、歩き辛いのもそのままに、靴を擦る様に、目的地を目指す。
繁華街を抜け、随分と歩いた。辺りは工場が立ち並び、街も外れなのだと判る。
灰色の建物が同じ様に並び、寂しい空き地が風を通す。
―ヒュウッ・・・―
強い風が吹いた。吹いた方を見やると、空き地の奥に他とは違う建物を見た。
最近建てられた物なのだろう、灰色も新しい、2階建ての建物。
工場と云うよりは、民家に近い雰囲気だ。
硝子張りの扉には「DOLL取り扱い指定店」と、書かれたステッカーが貼られて居た。
- 65 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時01分09秒
- 地図と照らし合わせて見て確認する。間違いない。
靴が脱げそうになりながらも、走り寄った。
「すいませーん。」
ガラガラと軋む扉を開くと、声を掛けた。
店内にはDOLLのパーツが並び、カウンターの奥から物音がした。
「はいはいはい。ちょっと待って下さーい。」
同年代の少女だろうか、思ったよりも若い声が返って来た。
奥を見やったが、物音がするだけで、出て来る気配がない。
店内をぐるりと見回す。DOLLのパーツが数種類と、後はプラモデルがあるだけで、
店自体は栄えて居る様子がなく、外観から想像したよりも狭い。
吉澤は少し不安になった。
「だいじょぶだよね。」
カオリを抱き締めると、軽くなったボディに更に不安を覚えた。
- 66 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時01分46秒
- 声を掛けてから、十分は経っただろうか。奥から小さな影が現れた。
「あ。」
トコトコとこちらに向かって来たのは、マキだった。
マキも気付いた様で、同じ様に口を開けると立ち止まった。
「もうちょっと待ってって、ゆってー!」
市井の声だ。思い出してみて、吉澤は気付いた。
マキは市井の声に振り向き、再度吉澤を見ると困った様な顔をした。
「あ、良いよ。待つから。」
吉澤がそう云ってやると、マキはへらっと笑い、奥に駈けて行った。
- 67 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時02分23秒
- 市井が居ると云う事は、此処は市井の家なのだろうか。
そんな事を考えて居ると、マキに連れられ、サンダルを突っ掛けた市井が来た。
「すいません。今、ちょっと取り込んでたもんで。」
店員の顔をして、頭を掻きながらへらへらと云う。
「こんにちは。」
吉澤が声を掛けると、驚いた様で「へ?」と止まり、それからマキを見下ろした。
「あれ? お客さんって、この子?」
にこにことマキが頷く。
「何だよ〜、云ってくれれば良いのに。」
マキは今度はニッと笑う。市井の驚いた様子を楽しんで居る様だ。
「ごめんねー。ゲームが丁度良いトコロでさあ・・・。」
なんて云いながら、マキの頭をガシガシと撫でてやって居る。
「で? 今日はどうしたの?」
- 68 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時02分55秒
- 吉澤が抱いて居たカオリを見ると、市井は怖い位に真面目な顔になった。
「・・・酷くやられたね。」
市井は抱かれたままのカオリの額に手を充て、前髪を避けさせた。
「キレイな顔なのに・・・。」
「はい・・・。」
吉澤もしゅんとなって、応える。
マキはカウンターが見えないのか、何とか伺おうと顔を必死に上げて居る。
「マキ、あっち行ってな。」
マキは指示されると、ふてくされる様な顔をしたが、真剣な市井に気おされた様だ。
歩き出し、何度か振り向いたが、市井が何も云わないと判ると、大人しく奥に行った。
「あんまり、アイツには見せたくないからさ。」
カオリの様子を探りながら、市井がポソリと云った。
- 69 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時03分33秒
- 腕や頭、ボディの損傷を入念にチェックしてから、今度はチップとディスクの確認をした。
「あーー!!!」
首の後ろのディスクを出し入れして、市井が叫んだ。
「え?! 何、何??!」
吉澤が驚き尋ねると、市井は渋い顔をした。
「あ・・・や、ごめん。」
「え? 何? どゆ事??」
「うん、あの・・・ディスクが一枚入ってない。」
「はあ?」
市井の声にマキも奥から顔を覗かせた。
「えーっと、うん、あのね・・・ここって二枚入れるんだあ・・・。」
ひょこりと顔を出したマキには気付かないのか、市井はカオリの項を見詰めたまま、続ける。
「こないだショップで会った時、一枚しか教えてあげなかったよね?」
「え? あー・・・うん。そうかも。」
「ディスクってね、二枚必要なのね。」
- 70 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時04分06秒
- 「――え?!」
眉根を寄せて聞き返した吉澤に、市井はすまなそうにした。
「一枚あれば生活には問題ないんだけれど・・・。」
市井はカオリの項をとんとんと指でやりながら、口篭る。
「戦闘はね、もう一枚の方でやるんだ・・・。」
「え・・・それって、一枚足りなかったって事・・・?」
「・・・・・・うん。ごめん。」
暫く間を置いてから頷くと、市井は心底すまなそうな顔をした。
「えっと、それって・・・入ってなかったから負けたって事?」
「・・・ごめんなさい。」
ぺこり、と市井が謝る。
- 71 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時04分41秒
- 「あのさ、取って置きのをあげるからさ! 許してくれって訳じゃないんだけどッ!!」
ガバっとその頭を上げ、今度は早口で巻くす。
「う・・・あ、うん。」
勢いに吉澤は押された。
「ソッコー、治すし!」
「え? 直ぐ治るの?」
「治る治る! サービスしちゃうよ、あたしのミスだし!」
調子に乗り出した市井が、軽快に話す。
「マジ?」
「マジマジ!!」
- 72 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時05分15秒
- 「よっしゃ!」
吉澤はガッツポーズをした。
「じゃあ、サービスで治しちゃって下さい。」
カオリを抱えると、ぐいと市井に押し付ける。
「え・・・全部サービスとは・・・、」
カオリを受け取った市井が云い切る前に、吉澤が口を開いた。
「市井さんのミスだし!」
「今日も儲けなかったら、また怒られるよ〜。」
ボヤキながら奥に向かう市井は、やっとマキに気付いた。
弱った様子の市井にクスクスと笑うマキに、「何だよー!」と市井は蹴り上げる真似をした。
マキがとたとたと逃げ去ると、それを追って市井もバタバタと奥に去った。
- 73 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時05分46秒
- 残された吉澤は、店内に設置されたソファにドカッと座ると一息吐いた。
「ふぅー・・・。」
未だカオリの体が心配だったが、奥から聞こえる市井の明るい声で少し安心した。
マキに指示を出して居るのだろう、強い声と、話し掛けて居るのだろう、優しい声。
カウンターの前には書籍を置いて居るコーナーもあって、難しそうなDOLL解説本と
DOLLを抱いた少年少女が表紙の、雑誌なんかが置いてあった。
雑誌の方を手に取ると、パラパラとそれを捲った。
「へぇー。」
地域大会の様子や、新しいパーツの情報やらが写真付きで判り易く描かれて居る。
「一冊買ってみようかな。」
店長にだろうか、兎に角怒られるのだろう市井を思ってもあった。
吉澤はそれを買う事にして、中身はあまり見ない様にして、パタと閉じた。
実の所それは、地域大会のページに、優勝者としての中澤が小さく載って居る所為でもあった。
- 74 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時06分17秒
- 初めてのバトル、中澤との喧嘩、今日の出来事を考えて居る内に、眠って仕舞った様だ。
足元にマキが来て、気付いた。
「んん?」
目をパチパチとやりながら、マキに手を伸ばすと、その手を引かれた。
奥に来いと云って居る様だ。
「んー、行くよー。」
のそのそと立ち上がると、マキについてカウンターの奥へ入った。
カウンターの奥には階段と扉が二つあって、民家の玄関の様だった。
扉の一つは正に玄関、と云った感じで、もう一つは鉄製で「LAB」とプレートが掛かって居た。
半開きだった「LAB」へマキが手招いた。
- 75 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時06分49秒
- 中では大きな台の上にカオリが横たえられて居て、ボディの損傷は見た感じにはなくなって居た。
キャスター付きの椅子でキュルキュルと移動し、市井がカオリのボディをチェックして居る。
「お、吉澤! ちょうど起こすトコだよ。」
カオリの半身を起こすと、首を前に倒し、項へとディスクを一枚入れた。
「此れが、生活をする方のヤツね。」
そう云って吉澤に来い、と指示し、カオリの体を持たせた。
自分は台を蹴ると、椅子のまま大きな机の方に移動し、抽斗からディスクを取り出した。
「んで、此れが戦闘のディスク。」
ひょいっと吉澤に投げて寄越した。
「多分、その子に合う筈だから。入れてみ。」
- 76 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時07分19秒
- 恐る恐る、カオリの項にディスクを押し込むと、小さな機会音と共にディスクは飲み込まれた。
確かに、項にはディスクが二枚入る口がある。
「これで、もう大丈夫?」
「おっけおっけー。」
市井は指で丸を作り、ニンマリと笑った。
「あー、服着せてから起こしてあげな。恥ずかしがるからさ。」
市井の膝によじ登ったマキの頭をポン、と叩く。
着物を着せてやり、額に吉澤の指を認識させる。
- 77 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時07分49秒
- ―ドクッ―
指に鼓動を聞いた気がして、カオリがゆっくりと目を開いた。
「おは・・・よう。」
吉澤が声を掛けると、カオリはにっこりと笑った。
(泣いてる。)
カオリが口をぱくぱくとさせて、自分が泣いて居るのだと気付いた。
くすり、と笑われて、吉澤はカオリを抱き締めた。
「良く泣くね。」
耳許でハッキリと、カオリの声を聞いた。
「カオリの所為だよ。」
- 78 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月08日(土)06時08分19秒
- 関節駆動型人形(通称DOLL)
名前/カオリ
持ち主/吉澤ひとみ
ディスク1/DIVE
ディスク2/茎
チップ/シュガーハート(白)
ボディレーベル/白猫堂
武器/日本刀
戦闘経験/0(ディスク未装着の為、経験がカウントされて居ない。)
黒をベースに、茶色の入った髪。他のDOLLより、目が大きめだと思われる。
- 79 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月08日(土)06時17分08秒
- と、こんな感じで。未だ続いちゃいます。
ええとディスク1が生活ディスクで、ディスク2が戦闘ディスクです。
まあ、あのお話しには余り関係ないのですが(笑)。
それからDOLLの起動に額に手をやった、と書いて仕舞いましたが、正しくはこめかみです。
訂正ばかりで、ホントにごめんなさい!!
気持ちばかりが焦って仕舞って。。。
- 80 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月09日(日)23時05分16秒
- やっぱり面白いです^^
次は再戦かな?それとも経験積みも兼ねて新展開…
どっちにしても期待です^^
焦らずに頑張って下さいm(_)m
- 81 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月11日(火)05時46分19秒
- >80
ありがとうございます。暖かいお言葉に感動であります!
書きたい事がどんどん出て来て、気持ちが焦っちゃうのですが、じっくりと頑張りたいと思います。
と、云いつつ、サクッと更新です。
無駄に焦らず、勢いはなくさず(笑)の気持ちで!
- 82 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時47分33秒
- カオリを連れてLABを出ると、カウンターで本の清算を済ます。
「ほい、ありがとねー。」
市井が手馴れた様子でレジ作業を行う。
「此処って、」
「うん?」
「市井さんの家なの?」
カオリの目覚めから一段落すると、タイミングを計った様にマキがお茶を運んで来た。
それを市井が当たり前の様に飲んだり、店番を任されて居る事から考えても、不思議ではない。
- 83 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時48分11秒
- 「えー、違うよー。何で?」
「違うんだ。だって、DOLLの修理も出来るし。」
「店番やってる内に覚えたんだって。―此処はあたしのホームだしさ。」
「ホーム?」
「そう、ホームラボ。地区大会とかで、何々ラボ代表とかあんじゃん。」
「うん?」
DOLLについて全くの初心者である吉澤は、そう云うものなのか、と頷いた。
「あるのね。そんで、その時に此処のラボ代表は、あたしとマキになるの。」
「へぇー! じゃあ、市井さんって強いんだ!」
「いやいや、それ程でもないんだけどさ。」
キラキラと憧れの瞳を向けると、市井はまんざらでもない、と云った具合に照れた。
カウンターに腰掛けたマキの方も、得意げな顔をして居る。
実際に強いのかどうかは判らないが、二度会っただけでも、DOLLについての知識や技術が
随分とあるのが判った。
- 84 名前:メンテナンス 投稿日:2003年03月11日(火)05時48分47秒
- 夕焼けがすっかり焦げて仕舞った空を見上げ、足早に帰路につく。
市井は何時でも居るらしく、「またおいで」と手を振ってくれた。
「ヤバイねえ、お母さん怒ってるよ。」
チョコチョコと、それでも凛とした姿勢でカオリが付いて来る。
歩いて居る姿を見るのは、初めてかも知れない。
「ん?」
カオリが口をパクパクとし、吉澤の靴を指差す。
「あ、靴紐、」
来る時に靴紐が解けて居た事を思い出した。
直そうと思い屈み込むと、カオリの方が背が高くなる。
何となく、カオリを見上げて居ると、カオリの手の方が先に靴紐に触れた。
「ありがと。」
灰色に汚れた紐を、真っ白な手で結びなおすと
「よっすぃはだらしないね。」
と、息を吐きながら云った。少し得意げだ。
「そうだね。」
二人して小さく笑った。
- 85 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時49分34秒
- しゃがみ込んでカオリを見上げると、まるで彼女の方が年上の様だ。
DOLLに歳があるのかなあ、とぼんやりと考えて居る吉澤を見ると、カオリは首を傾げた。
その仕草は小さな少女の様だった。
「良く判んないなー。」
吉澤は呟くと、腰を上げた。
カオリはそんな吉澤を更に不思議そうに見上げる。
「さ、帰ろ。超ダッシュだ!」
こくっと頷くと、カオリは走り出した。
「あ、待って!!」
慌てて追い掛けて、何とか追い着いた。
- 86 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時50分05秒
- 家に帰ると、玄関先で待ち構えて居た母親に叱られた。
「夕方のチャイムが鳴ったら帰って来なさいって、何回云ったら判るの?!」
何回だったけな、なんて数えながら謝る。
「ごめんなさい。」
吉澤が頭を下げると、習ってカオリも頭を下げる。
チラと吉澤がそちらを見ると、カオリも此方に気付いた。
角の生えた母親に見付からない様、口の端だけで笑って見せると、カオリも習って
口の端を上げた。
「ああ、マズイ笑っちゃいそうだ」、唇を噛み締めて、堪えながら思った。
- 87 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時50分40秒
- 「アンタ、聞いてんの?! 学校で喧嘩もしたそうじゃないの!!」
笑いたい気持ちが一瞬で鎮まった。
「え?」
「中澤さんのお宅から、お電話頂いたのよ。」
「はあ?」
噛み締めて居た唇から力が抜けて、あんぐりと口を開いて仕舞った。
「中澤さんの方から謝罪って事で、菓子折りも届いたんだから!」
今度は顔をしかめて仕舞った。
どう云う事だろう。彼女が謝罪して来た意味が判らなかった。
「どうせ、あんたがまた何かしでかしたんでしょ?」
「なっ! あっちが何かゆって来たからッ―」
「お母さんが知らないとでも思ってるのッ!!」
吉澤の言い訳は、母親の剣幕で押し切られた。
「事ある毎に、中澤さんに突っかかってるそうじゃないの。
担任の先生は、元気があって良い、なんておっしゃって下さるけど・・・」
- 88 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時51分17秒
- ああ、あの担任めか、と眼鏡顔を忌々しく思い出した。
「兎に角! 明日こっちからも謝りに伺う事にしたから!!」
「はー?!」
吉澤は大声で反応して仕舞った。カオリはその声に眉を顰めた。
「何で、あたしが謝らなきゃ不可ない訳?!」
「口答えしない!」
ぴしゃり、と云い切ると、母親は背中を向けて家に入って仕舞った。
- 89 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時51分57秒
- 夕食の間も母親はピリピリとした空気を放ち、帰って来た父親にぐちぐちと云う。
仕様がない、と云った風で、助け舟を出してくれた父親のお陰で、何とか吉澤だけで
謝罪に行く事は許されたが、釈然としない気持ちだった。
「お母さんなんか連れてったら、アイツ馬鹿にしそうだしな!」
階段を上りながら憤慨しつつ、カオリに告げた。
お腹が膨れて、気分も晴れて来ては居たが、中澤への積もった恨みは深い。
- 90 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時52分29秒
- 「絶対謝んないもんねー。」
自室の扉を閉めてから、べーと舌を出すと、カオリは笑った。
「てゆうか、リベンジでしょ。」
学校の階段で吉澤とした様に、カオリは拳を小さく前に出して首を傾げた。
少し不安そうな顔だ。放課後のバトルを思い出したのだろうか。
「―だいじょぶ? 中澤さんなんか、あたしがぶっ飛ばしてやっても良いよ?」
其れを聞いたカオリは、ゆっくりと微笑んだ。
(大丈夫だよ。)
口をパクパクとやる。
「ホントに?」
気遣って訊ねた吉澤に、カオリは両手を広げ、精一杯伸ばす。
少し考えてから、吉澤は抱き上げてみた。
カオリは、やっぱりそうして欲しかった様で、すんなりと吉澤の腕に納まった。
気持ちが通じた気がして、心地良い。
- 91 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時53分01秒
- 「よっすぃと一緒なら、大丈夫。」
耳に口を充て、はっきりと聞き取れる声で、カオリはそう応えた。
「怖くないよ。」
ポンポンと小さな手で肩を叩く。
怖かったのは自分かも知れない、と気付いた。
「そうだね。勝とうね!」
抱き締める腕に力を込めると、カオリは小さく震えた。
- 92 名前:一緒に歩こう 投稿日:2003年03月11日(火)05時53分45秒
- ◇吉澤 対 母親◇
日頃の行いにより、吉澤の負け。
主な行い:門限破り、上級生と喧嘩、口答え
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月11日(火)06時00分21秒
- 今回は短めながら、此れにて。
やっとこ吉澤とカオリの話に入った感じですね(笑)。
続きも頑張りたいと思います。
- 94 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月12日(水)13時24分43秒
- バトル物だけど、どこかほのぼのしてる感じがとても良いです。
よっすぃ〜とカオリのこれからの活躍に期待してます!
- 95 名前:hlv 投稿日:2003年03月16日(日)20時50分50秒
- すっごい面白いです。
なんかこの小説読んでると、
DOLLが欲しくなってくるんですけど・・(w
そしてなんとなーく、市井ちゃんとよっすぃが
話してるとこが好きなんですよね。
これからもがんばってくださーい。
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月21日(金)08時52分32秒
- >94
ありがとうございます。基本的にはほのぼのと、幸せであって欲しいのです。
子ども向けアニメの様に(笑
バトルは、初めてなので、もっと頑張りたいと思います。
>95
ありがとうございます! DOLL欲しいとか云って頂けて、凄い幸せです(笑
市井ちゃんは未だ未だ出て来るので、ガツガツ絡ませたいと思いまっす。
ではでは、更新しますー。
- 97 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時53分13秒
- 夕方前のどちらつかずな時間帯。活動が盛んな運動部なんかは、校庭を走り回って居る。
珍しく、今日は一度も中澤に会って居ない。
普段なら嫌でも、あの高慢そうな姿を見ると云うのに。
「中澤さん、休みなのかな?」
下校時刻になってから、つい口をついて仕舞った。
「あー、そう云えば見ないねー。」
だらだらと鞄に荷物を詰めならがら、級友が応える。
教室には、吉澤を含め数人残ってるだけだ。
「中澤さんのDOLLも修理してるんじゃん?」
他の級友がカオリの髪をいじりながら、応える。
カオリはおとなしく、高い位置で髪を結ばれて行く。
「あー! よっすぃ、気になるんだー。」
「ばっ・・・ちっがうよ!」
「ムキになったー。」
ケラケラと笑いながら指摘され、吉澤は更に膨れる。
「そっかー。なあんか、今日そわそわしてたもんね。」
級友は結び終えた髪をチェックして、カオリの頭を撫でる。
「違う! っつってんじゃんよー!!」
頭を動かして良いと云われたカオリは、級友と吉澤の遣り取りを不安げに見上げる。
- 98 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時53分55秒
- 鞄を背負った吉澤が、乱暴に立ち上がると、足をカオリに引かれた。
「・・・喧嘩?」
困った様な顔をして、聞く。
―カッキィーン―
野球部だろう、校庭から金属バットの音が響いて、静かな教室に残響が広がる。
一瞬の間を置いて、笑いが起こった。
「あはははは、違うよー。」
教室が静かだった所為だろう、カオリの声を聞いた級友が笑いながら否定する。
「よっすぃがムキになるから、からかっただけだって。」
笑い声が交差して、カオリは戸惑った態度をとった。
ムキになる吉澤が面白いのか、級友達は時々こうして、中澤の事で吉澤をからかう。
「もーいって! カオリ帰ろ。」
何も云うまいと、背中を向けた吉澤に、「ばいばーい。」と級友達が手を振る。
無視して歩く吉澤に手を引かれ、カオリは代わりに手を振り返した。
- 99 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時54分26秒
- 下駄箱に靴を放ると、大きな音がして、辺りに響いた。
一度帰り、お土産を持って、中澤の家に向かう予定だったが、面倒臭くなって
このまま向かう事にした。
歩いて二十分程だろうか、大した距離でもないこの通学路を、中澤は車で通う。
大体の位置は判って居る。幼稚園の頃に、誕生会か何かで行った事があるのだ。
門が自動で動いた事に感動した覚えがある。
其の頃から、中澤は威張り散らして居たなあ、などと思い出した。
すたすたとカンを頼りに歩く。
不意に立ち止まったカオリに手を引かれ、吉澤は振り向いた。
怪訝な顔をして、カオリは口を閉じて居る。
「どうしたの?」
カオリの声が聞き取れる位置まで、顔を近づける。
「・・・怒ってるの?」
「え、怒ってないよ。」
そう云われれば、無愛想に歩き過ぎたなと思った。
中澤の事となると、確かにムキになり過ぎるかも知れない。
カオリの事を全く考えてなかった。
「ごめん、ね?」
吉澤が謝ると、カオリは頭を振った。ツインテールの髪が揺れる。
「可愛い。」
頭を撫でてやると、カオリは頬を染めた。
今度はゆっくりと歩き始める。
- 100 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時55分05秒
- 高いコンリートの塀が続く。何十メートルか歩けば、門が見えて来た。
「でっけー・・・。」
普通、幼稚園の頃に見た記憶より、小さく感じる物なんじゃないのか
と思いつつ、相変わらず大きな鉄柵を前にして、吉澤はポカンと口を開いた。
―ピッ・・・トゥルルルルルル―
門脇に設置されたインターホンを押すと、呼び出し音が聞こえる。
―ザッ―
中のカメラと接続された様で、砂嵐が入り、インターホンに顔が出る。
『はい、どちら様ですか?』
送り迎えなどで見掛ける、中澤の付き人らしき女性だ。
「あ、あの、吉澤です。裕子さんいらっしゃいますか?」
クラスでは背の高い方だと云っても、大人の身長に合わせて作られたインターホンには、未だ足りない。
吉澤は慌てて背伸びをすると、緊張しながら応えた。
『―承って居ります。お待ちして居りました。
只今お迎えにあがりますので、少々お待ち下さい。』
「は、はい。」
ブチッと音が鳴り、接続が切れる。
- 101 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時55分39秒
- 吉澤は一息吐いた。カオリと繋いだ手に、汗が滲んで居る。
「緊張するね〜。」
脱力した吉澤に、カオリはくすりと笑い、頷いた。
―ガッガガガガガガガガガ―
大きな音を立てて、門が開いた。
吉澤とカオリは体をびくつかせ、襖開きに動く門を見詰める。
門の先に広がった広い庭、其の更に奥にある建物から、先程の女性が向かって来るのが見えた。
「お待たせ致しました。どうぞ、此方へ。」
小走りに吉澤達の元まで来ると、くるりと体を建物に向け、先を歩き出した。
建物へ続く広い道を、ゆっくりと通される。
庭は鮮やかな緑の芝が植えられ、端まで行くと木々で遮られる。
まるで、外の世界とは切り離されたかの様だ。
「広いね・・・。」
カオリに向かって小さく云うと、カオリの方も面食らった様な顔をして、歩いて居る。
石造りの白い建物は、近くで見ると彫刻が施されて居て、教科書で見た
中世ヨーロッパの貴族の家みたいだ、と思った。
- 102 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時56分09秒
- ―ギイィィィィィ・・・バタン―
大きな木製の扉をくぐると、中もまた大きな作りだった。
絨毯が敷かれ、目の前には大きな階段が構えて居る。
脇には石で作られたライオンの様な獣の置物が、上る者に噛み付くかの様に
口を大きく開いて居る。
「すっげー!!」
思わず大声で云って仕舞った吉澤の声が、反響して残る。
慌てて口を押さえた吉澤に、付き人の女性が振り向き、クスッと笑った。
恥ずかしくなって俯いた吉澤の頭上から、声が降って来た。
「よう来たなあ、よっすぃ。」
中澤だ。顔を上げると、ゆっくりと階段を降りて来る中澤の姿があった。
横にヤグチを従えて居る。
「来たよ。」
ニヤニヤと笑った中澤に負けない様、斜めに見上げて、云ってやる。
「おー、DOLL治ったんやなあ。」
カオリを見て、更に口の端を上げる。
「治したよ。つーか、今度は負けないから。」
「其の言葉、待ってたでえ。」
立ち止まると、中澤は腕を前に出し、クイッと上げた。
「上がって来ぃや。」
それだけ云うと、体を反転させ、階段を上り始めた。
ヤグチも振り返ると、中澤を追って階段を上りだす。
- 103 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時56分43秒
- 「何だよ。」
悪態を吐いて、駆け出そうとした吉澤は、付き人の存在を思い出して、
チラと盗み見た。此処は中澤の本拠地だ。下手に敵対心を表して良い事はない。
そんな吉澤の心配を他所に、付き人は穏やかな顔をして居る。
それ所か吉澤の視線に気付くと、笑いかけてさえ来た。
―昨日の中澤の謝罪と云い、判らない事だらけだ。
クイクイと服の端を引っ張られ、吉澤は我に返った。
カオリが階段を指差して居る。
中澤は階段を上り終え、二階の廊下を歩いて居る所だった。
「おっと、見失う!」
取り敢えずは中澤を追うべきだ。
慌てて駆け出した。
- 104 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時57分35秒
- ゆったりと歩く中澤に追い付いて、窓のない廊下を進む。
壁に規則的に付けられた灯りが、行く先を照らす。
扉を二つほど過ぎた。
不意に立ち止まった中澤は三つ目の扉を開いた。
天蓋付きの寝台が、悠々と部屋の真ん中に置かれた、広い部屋だ。
「ようこそ、あたしの部屋へ。」
寝台の前まで歩いて行って、クルリと振り向くと、中澤はそれだけ云った。
豪勢なカーテンが付けられた大きな窓。外にはテラスが見える。
本棚が三つ。テーブルが端に一つ。勉強用だろう、指定鞄が上に置かれて居る。
テラスに通じる窓の前に、もう一つ。此方には椅子が二つあり、食卓にもなりそうだ。
寝台脇の壁には、クローゼットの扉が一面に広がって居る。
- 105 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時58分57秒
- 「―お邪魔します。」
吉澤は気おされて、扉の前に立ち尽くしたままだ。
「まあ、ゆっくりしてってや。折角来てくれたんやし。」
寝台にぼふ、と座ると中澤は云った。
ヤグチも寝台によじ登り、中澤の隣りにチョコンと座る。
「ゆっくりって・・・どうゆうつもり?」
扉の前に立ち尽くしたまま、吉澤は挑戦的な顔を向けた。
「何がや?」
「昨日、家に電話したんでしょ?」
「あー、あれな。そんなん、よっすぃのDOLL壊してもうたから、謝ったんやん。」
「あれはただの喧嘩じゃん。今迄だって―、」
「でも壊れてなかったんやなあ・・・。」
吉澤の声を遮って、中澤が歯を食いしばった。
- 106 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)08時59分33秒
- 「何だよ、それ!」
壊れて居れば良かった、と取れる云い方にカチンと来た。
「ヤグチは傷残ったのになあ!」
中澤は忌々しそうに吉澤を睨み付け、脇に居るヤグチを抱く。
「傷・・・?」
近寄って見ると、ヤグチの額にはうっすらと、昨日の切り傷が残って居た。
一瞬の反撃で、カオリの刀がヤグチの額を切ったのだ。
「コレな、消えんかってん。
頭毎変えなあかんのやって。そんなん、嫌やろ?」
吉澤に云って居るのだろうか、ヤグチに云って居るのだろうか、中澤は俯きながら云った。
ヤグチの方は、黙って中澤を見上げて居る。
「よくもヤグチを傷付けてくれたなぁ。」
中澤はゆっくりと不気味に顔を上げる。
その様子に、吉澤はただ立ち尽くしたままだった。
- 107 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)09時00分06秒
- ヤグチを抱き立ち上がった中澤は、寝台脇のボードに手を伸ばした。
―シャッ―
何かボタンを押した様で、ボードの上がスライドし、キィボードの様な物が見える。
―ピピ・・・ピ―
―ガッ、ウイィィイ―
キィボードを打つと、今度はクローゼットの扉がスライドし、更に奥から物音がした。
低音の機会音の様だ。
- 108 名前:リターンマッチ 投稿日:2003年03月21日(金)09時00分49秒
- 「再戦、と行こうやないか?」
クローゼットに向かい、中澤が歩き出した。
普通のクローゼットの様に、服が掛けられ、靴が並び、箱が積み重なって居るのだが
その奥に、隠れる様にエレヴェエタがあった。
先程の作業は、此れを起こす為のものだったのだろう。
薄暗い中で、階を示すランプが灯って居る。
〔B2・・・・・・F2〕
地下へ直通の様だ。ボタンを押して扉を開くと、中澤は乗り込み、吉澤を待って居る。
エレヴェエタの前で、真剣な顔をしたカオリを抱くと、吉澤も乗り込んだ。
―ヒュウ、ウン・・・ウウウ―
扉が閉まり、落ちて行く感覚がする。
ランプが一つずつ、階下を示して行く。
―ウウウウウ・・・ガタン!―
エレヴェエタが止まった。
吉澤は扉を見詰め、開くのを待った。
- 109 名前:リターンマッチ/関節駆動型人形(通称DOLL) 投稿日:2003年03月21日(金)09時01分35秒
- 名前/ヤグチ
持ち主/中澤裕子
チップ/ブルーハーツ(青)
ボディレーベル/ピンクレコード(軽量ボディの為、傷を付けると簡単には修理出来ない)
武器/カニガン02(生産が間に合わなくなり、今では入手不可能)
戦闘経験/32
瞳が青くなると、移動能力が上がる。先日の戦闘で額に傷が残った。
- 110 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月21日(金)09時08分37秒
- リターンマッチと名付けたものの、再戦は次回です(笑)。
今度はミスらなかった・・・! と、思います。。。
では、次回も頑張ります。宜しくです。
- 111 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月22日(土)17時08分36秒
- 今までありそうでなかった設定を、
吉飯でいくところがひじょーにナイスです。
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月30日(日)13時47分41秒
- 楽しみにしてます。
- 113 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)09時53分16秒
- >111
設定が最初に浮かんで来たので、勢いに任せて行きたいと思います(笑)。
ありがとうございます。
>112
励みになります。ありがとうございます。
では、ひさびさに更新します。
- 114 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)09時54分57秒
- ―ヒュオォォォ…―
通気坑からの風だろう、吉澤の膝をくすぐる。
中澤の部屋から降りた地下室は、剥き出しのコンクリィトそのままの、大きな部屋だった。
真ん中の四角いスペースは、DOLLの戦闘場だ。
テレビか何かで見た事がある。フィールドと呼ばれるその場所で、DOLL達は戦うのだ。
壁に面して、機械やら装置やらが並ぶ。此処で、中澤とヤグチは日々練習して居るのだろう。
「よっすぃも早く、来ぃ。」
フィールドの外枠に、向かい合う様に設置された二つの立ち位置。
ピットと呼ばれる其処が、持ち主の場所だ。
中澤は早くもピットに立つと、吉澤を呼ぶ。
足元にはヤグチが構え、直ぐにでもフィールドに出れる態勢だ。
腕から降りたカオリは、横に立ち、吉澤が向かうのを待って居る。
「カオリ、行こう。」
吉澤がピット・インすると、カオリもフィールドに向かい態勢を整えた。
- 115 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)09時55分29秒
- 〔READY…〕
フィールドの上に文字が浮かび、ピット・インした二体のDOLLの情報が映し出される。
体力ゲージを、先に減らされた方が負けだ。
〔GO!!〕
―ガツンッ!!―
フィールドの指示と共にピットを蹴り、先にフィールドの上空へと飛び出したヤグチは、
真っ直ぐカオリに向かい飛びかかった。
身構えたカオリが、腕を交差させ防御体制に入ると、ヤグチはその腕を蹴り
後方へと飛んだ。
そのままガンを構え、無防備なカオリの腹に向かい、一発打ち込んだ。
ガンは真っ直ぐカオリに命中し、態勢を崩したカオリは膝をついて着地した。
ヤグチも降り立つと、そのままニ発目を打ち込んだが、カオリはそれを避けた。
「よっし、そうだ、だいじょぶ・・・、」
吉澤はカオリにも届かないだろう声で、だが呟く。
ガンに注意しつつ、接近戦に持ち込む。
ガンに刀で立ち向かって行くなら、この手しかない。
昨晩眠る前に、作戦会議などと名付けて話し合ったのだ。
単純だが、どう戦うべきかを考えて居る今日の方が、自信が違う。
何より、昨日は満足な状態ではなかったのだ。
カオリが力を出し切ったら、どれ位なのだろう。そう思うと、吉澤はゾクゾクした。
- 116 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)09時56分37秒
- ――ヒュイィィィ!!―
尾を引いた光線が二体の間を通り抜ける。
ガンの攻撃をカオリが刀で受け流したのだ。刀は威力に押され、そのまま後ろに流れた。
その流れた力に逆らう様、カオリは刀を握り締め、反対に大きく振りかぶった。
―ッィン!―
鋭い音が木霊して、刀がガンに当たる。
咄嗟に庇ったヤグチの手から、ガンが零れた。
隙を逃さないカオリの刀が振り下ろされるより早く、ヤグチはガンを拾いに走り出す。
―シュッ―
カオリは其れを許さない。
ヤグチの進行方向に刀を伸ばすと、切りつけた。
―ガツッ―
確実にボディに当たった音がして、ヤグチはよろめいた。
手はガンに届かない。
「ヤグチィー!! ガンはもうええ!!」
中澤が叫んで、ヤグチはばっと立ち上がる。
大きく一歩退くと、中澤を一瞬見、強い目で何かを訴えた。
「判っとる。」
中澤は頷くと、瞳を閉じた。
碧眼が来る。吉澤は威力を思い起こした。
- 117 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)09時57分07秒
- 「突っ込め、カオリ!!」
目を開かれたら危険だ。吉澤は慌てて叫ぶ。
カオリも判って居た様で、体が既にヤグチに向かって居た。
カオリの移動を確認する事なく、ヤグチは目を瞑って居る。
「行っけー!!」
吉澤の声と重なる様に、タタタッと走り込んだカオリは、上段からヤグチを叩いた。
―ガッ…―ピィー!―
衝撃音を掻き消すように、電子音が鳴った。
フィールド上ではヤグチの体力ゲージが赤く点滅して居る。
- 118 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)09時57分42秒
- 〔KAORI WIN!!〕
突っ込み過ぎたカオリは、握って居た柄が拳毎ヤグチの頭に当たり、
前に倒れたヤグチの背中に刀身が乗る、と云う強引な結末で勝った。
「いぃよっしゃあ!!」
拳を握って、吉澤は飛んだ。
ピットのフィールド側のゲートが開き、吉澤はそのままフィールドに転がり落ちて仕舞ったが
そんな事は気にせず、立ち上がるとカオリに駆け寄った。
「勝ったよ! 勝ったよ、うちら!!」
刀を片手にポカンとして居るカオリを抱き締める。
「カオリ、勝ったよ!」
興奮して同じ言葉を繰り返す吉澤を他所に、カオリは倒れたヤグチに目を向けた。
「あ…、」
- 119 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)09時58分13秒
- 吉澤もヤグチを見る。倒れたまま動かない背中に、刀の衝撃が一閃残って居る。
「だいじょ…ぶ?」
「触るなッ!」
手を伸ばそうとした吉澤に怒鳴り、中澤もピットから降りて来た。
早足でヤグチに向かう其の態度に、吉澤は気圧されて仕舞う。
カオリを抱いた手に、自然と力が入る。
中澤はヤグチの前でゆっくりとした歩調に変えると、静かにしゃがみ込んだ。
「―ヤグチ。」
小さくて聞き取り難かったが、優しい声だった。
ぴく、とヤグチの指が動いて、それから腕がフィールドを掻く。
「ええって、無理すんなや。」
うつ伏せたままのヤグチに腕を伸ばすと、中澤はゆっくり抱き上げた。
睡眠状態に入ったのだろう、ヤグチは瞼を上げる事なく、中澤の腕に収まる。
「え…っと、その…、」
バトルゲームとは云え、ボロボロになって仕舞ったDOLLを前に、
吉澤は罪悪感に駆られた。
「………。」
中澤は立ち尽くし、ヤグチを見詰めて居る。
「ごめん!」
吉澤も立ち上がると、がばっと頭を下げ、謝った。
- 120 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)09時58分44秒
- 「何で謝んのや。」
中澤が口を突き出す。
「何でって…その、ヤグチを…」
「あんなぁ。此れ、バトルなん。倒したモン勝ち!」
「うん、でもっ」
「でもやないっ! お前なんかに謝られたら気持ち悪いわっ!!」
段々と、吉澤の良く知る中澤に戻って来た。
この屋敷で会った時から、少し様子が違って居たし、ヤグチに近寄った時の気迫は
少し恐ろしい位だった。
「あたしに勝っといて、ごめんなさいで済むと思うなよ。」
何時もの、吉澤の癪に触る、挑発的な目線だ。
「いいか? 次は勝たせへんからな!」
ビシっと指を突き出すと、そう続けた。
「そっちこそ。次は勝ってみなよ?」
吉澤も負けじと、言い返す。
「はん! 上等や!!」
- 121 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)09時59分48秒
- くすくすとした笑い声に気付いた。
何時の間に降りて来たのだろうか、先程の付き人らしき女性が、エレヴェエタからやって来る。
ティーワゴンを押し、この場所には似合わない風だ。
「お疲れ様です。お茶でも如何ですか?」
湯気の立ったポッドを上げてみせ、此方に伺って来る。
中澤はフィールドから上がると、黙ってカップを受け取った。
「あら! 裕子様、今日は負けたんですか?」
中澤の腕で眠るヤグチを見ると、彼女は大袈裟に驚いて見せた。
「珍しいですねえ…。あ、じゃあ、昨日の傷も?」
ガチャッと乱暴な音を立てて、中澤はカップをワゴンに置いた。
そんな事には気付かないのか、彼女の方は次々と言葉を続ける。
中澤はわなわなと肩を震わせる。
- 122 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)10時00分20秒
- 「ああ、吉澤様もお茶をどうぞ。」
「あ、はあ…。」
今にもキレそうな中澤の顔色を伺いながら、吉澤もフィールドを出る。
「吉澤様はお強いんですねえ。」
こぽこぽと紅茶を注ぎながら、にこにこと話す。
「い、いえ。」
恐縮しながら、差し出されたカップを受け取る。
カオリは携帯用の充電池を手渡された。
「和服に刀なんて、恰好良いDOLLですねえ!」
これまた大袈裟な態度を取って、今度はカオリを誉める。
「いやいやいや…、」
乗せられて気分が良くなった吉澤は、中澤を忘れ満面の笑みをして仕舞った。
- 123 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)10時00分54秒
- ピクと中澤の眉が動いたと思うと、足を伸ばし吉澤の脹脛を蹴った。
「ッた!」
吉澤は中澤を睨んだが、中澤は素知らぬ顔をする。
お付きの女性は見て居なかったのか、不思議そうに笑っただけだ。
「お菓子もあるんですよ、」なんて云って、ワゴンの中を覗き出して居る。
頭に来た吉澤は、女性の見てない内に中澤を小突いてやった。
「ッ!!!」
鳩尾に入ったのか、中澤は声にならない声を上げ、苦しそうな表情をする。
吉澤が「ニィ〜。」と歯を出してやると、相当頭にきたのだろう。
- 124 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)10時01分31秒
- ―ばしゃっ―
カップの中身を吉澤の顔面に投げかけた。
「はぁっ?!」
頭からポタポタと紅茶を垂らし、吉澤は大声を出した。
次の瞬間には吉澤はカップを振り上げ、中澤は其れを阻止するかの様に掴みかかって居た。
- 125 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)10時02分03秒
- 「裕ちゃん!!」
様子に気付いた女性が止めた時には、既に二人とも頭から紅茶を被って居た。
「裕…ちゃん…?」
紅茶を被ったまま、吉澤は女性の言葉を繰り返した。
この、付き人の女性は「裕子様」と呼んで居る筈だ。
中澤の同級生でさえ「裕ちゃん」等と慣れ慣れしくは呼ばない。
「何したん?!」
女性が鋭い剣幕で中澤に問い、更に吉澤は驚いた。
校則さえも我が物顔で改変させる中澤が、怒られて居る。
「な…あたしが、悪いんちゃうわ! よっすぃが、」
「え! 何ゆってンの?! 最初に蹴ったの、中澤さんじゃん!!」
驚いてばかりは居られない、女性の鋭い剣幕が此方に向けられそうになった。
「どう云う事ッ?」
「ちゃ、ちゃうねんて…、」
弁解の仕様がない中澤は女性に詰め寄られて、後ろに退いて行く。
- 126 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)10時02分34秒
- 「みっちゃんのあほー!!」
叫んで中澤は走り出して仕舞った。
「あ…、」
吉澤はポカンと口を開けて見て居るしかなかった。
エレヴェエタが静かに上って行く音だけが響いた。
- 127 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)10時03分04秒
- 「裕ちゃん、あんなんでしょう? 今日だって、折角お友達が来てくれたのに…、」
平家と名乗った女性は、お菓子を勧めると椅子を引いて来て吉澤を座らせた。
「昔はあんな子じゃなかったんよ?」
空になったカップに紅茶を注いでは、次から次へと中澤の話だ。
何時の間にか、召し使い口調ではない。屋敷の中では、何時もこうなのだろうか。
「小さい頃は、みっちゃん、みっちゃんって慕ってねえ、」
話は尽きない。忙しい家族に構って貰えず寂しい思いをして居たらしい事、
幼稚園に行きたくないと泣きついたらしい事、境遇の所為で我儘に育って仕舞ったらしい事、
DOLLのヤグチには心を開いて居るらしい事。
「最近では、ヤグチ以外には裕ちゃんって呼ばせないし…、」
話半分の吉澤は、カオリが充電池を飲む様に見蕩れて居た。
マキの様に、電池を唇に充てると、ほんのりと赤く染まって行くのだ。
- 128 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)10時03分35秒
- 「でも! 吉澤様みたいな方が、お友達になって下さって!」
不意に両手を掴むと、平家はぶんぶんと腕を振った。
吉澤は突然の事に驚く。カオリも乾電池から口を離し、此方を見上げて居る。
唇の赤が少し引いた。
「本当に嬉しいです!! 此れからも仲良くして下さいね。」
涙目で訴えかけて来る。何をどう見たら友達に見えたのだろう、と吉澤は聞きたかったが、
それは云わないでおく方が正解だと思った。
「はあ…。」
取り敢えずは、力のない返事を返す。
それでも平家は感動した様子で、うんうんと頷いて涙を拭って居る。
「じゃあ…この辺で、」
飲みきったカップを置くと、カオリの手を引き立ち上がる。
次の紅茶が継ぎ足されて仕舞う前に、此処を出なくては。わんこ蕎麦の様だな、と思う。
家まで送ってくれると云う申し出は断って、門まで送って貰う事にした。
- 129 名前:ライバル 投稿日:2003年04月13日(日)10時04分09秒
- 「暗いので、お気を付けて下さいね。」
門を出ると外はもう街灯が明るい時間帯だった。
「あ…あの!」
「はい?」
友達ではないんですと云い掛けて、其れは少し違う気がする。
「えーっと、よっすぃで良いです。」
「よっすぃ?」
「はい、中澤さんにもそう呼ばれてますし。」
「ああ、はい。じゃあ、よっすぃお気を付けて。」
「あー、後!」
「はい?」
「中澤さんとは、ライバルです!」
友達ではしっくり来ないが、ライバルと云う表現はぴったりだ。
平家は不思議そうにしたが、直ぐに笑顔を浮かべると頷いた。
「ホントは、中澤さんなんかメじゃないけどね。」
中澤の屋敷を随分と離れてから、吉澤はカオリにだけ云った。
手を繋いだカオリも、ニコリと笑うと力強く頷いた。
- 130 名前:ライバル/◇ヤグチ 対 カオリ◇ 投稿日:2003年04月13日(日)10時05分03秒
- カオリの上段斬りが決まり、ヤグチの負け
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月13日(日)10時13分21秒
- と、ゆう感じで。お話は続きます。
間が開いて仕舞ったのですが、読んでくれる方が居れば幸いです。
- 132 名前:北都の雪 投稿日:2003年04月23日(水)22時53分48秒
- おもしろいっす。
ちゃんと読んでるから頑張ってください。
こんなんでスイマセン。
感想書くのは苦手なので許してください。
- 133 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時39分01秒
- 「よっし、勝ちィ〜!」
ビィーと云う音が鳴って、吉澤は拳を振り上げた。
教室では今日もDOLLのバトルが行われて居る。
携帯用の判定機を使って、何処でもバトルが展開出来るのだ。
「よっすぃ強いよー。」
「すごーい!!」
あちこちから賞賛の声を浴びて、吉澤は照れ笑い。
今日もカオリと吉澤は順調に勝ちを得た。
「っと、今日は此処まで〜。」
壁掛け時計を見て、随分と長い間バトルを続けて居た事に気付く。
「もっかいだけ!」
と腕を引く友達に、手を振って、教室を出た。
- 134 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時39分49秒
- 陽が大分のびて来て居て、皆なかなか帰る気が起きない。
木々は緑を濃くし、空も青さを増した。
カオリと出会った頃は長袖だった制服も、今は半袖だ。
吉澤は其の半袖を肩まで捲くって、何時もの様にLABに向かった。
- 135 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時40分19秒
- 先週だったろうか、吉澤は部屋で何をするでもなく、ごろごろと過ごして居た。
外は晴れて居て、子どものはしゃぐ声なんかが聞こえる。
読み飽きた漫画誌を、ポイと放ると、転がって居た雑誌が手に当たった。
初めてLABに行った時に購入した、DOLLの雑誌。
パラパラと捲っただけで、ロクに見てなかった事を思い出す。
太陽が部屋中に広がって居て、暖かい。腕を伸ばすと、大きく欠伸をした。
寝転がったまま、重い手つきでページを捲る。
- 136 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時40分51秒
- 「ほー・・・。」
先月発売になったパーツの特集。
「あのカニガンて限定色なんだー。」
ヤグチの使うガンは、性能が高く人気も高い。
限定色を出すと、中澤の様な者がここぞとばかりに買うのだろう。
ヤグチのガンは限定のクリアブルーだった。
「げっ! すっげ高いじゃん!!」
ぶちぶちと云って居ると、勉強机に腰掛けて居たカオリが降りて来た。
充電コォドが刺さったままなので、起用にも片足で着地する。
「見て、此れ。ヤグチのガンだよ。馬鹿高いの!」
吉澤が指差すと、カオリは覗き込む。
「あー、カッケー! ルパンタイプもあるんだ!」
銃にも色々なタイプが出て居る。光線銃、火縄銃…性能と云うより、見た目の問題の様だが。
頬杖をついた吉澤の顔の横に、カオリは正座する。
- 137 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時41分24秒
- 高いだけで手が出せないパーツのページを過ぎると、今度は改造パーツのページになった。
「此れ、カオリの刀と一緒だねー。」
定番として安くで購入出来る物を、自己流にカスタムする手順が載ってる。
「今度やってみよっか?」
錘を付けてみたり、軽量化したり、柄を持ち易くしたり。
色々な方法が混じって難しそうだったが、カオリの目が輝いて居たので、聞いてみた。
案の定、カオリは嬉しそうに頷いた。
- 138 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時41分59秒
- 「おうおう、中澤さんだー。」
各地域の大会での優勝者の写真が、コメントと共に小さく載って居る。
中澤とは二度目のバトル以来、時々バトルをする関係になった。
中等部の授業が早く終わった日には、中澤が教室の外で待って居るのだ。
「どうせ暇やろ?」
なんて云いながら、連れ出す。
ふかふかの車の座席は嫌いじゃない。其れから、裕ちゃんと呼ばれる中澤も。
- 139 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時42分36秒
- 「おわ?!」
優勝者のコメントを流し読みして居ると、聞き覚えのある名前があった。
〔今回は特に調子が良かったです。―市井紗耶香〕
写真を見ると、確かに吉澤の知る市井が、満面の笑みでマキを抱いて写って居る。
カオリを見ると、こくこくと頷いて居る。
隣りの地区で優勝を果たして居たのは、市井だった。
コメントの下には〔3期続いての連続優勝〕なんてのも書かれて居る。
「何だよー! やっぱ強いんじゃーん!!」
何度か、市井本人に強いのかどうか尋ねた事があったが、其の度に曖昧に誤魔化されたのだった。
「隠す事ないのにね。」
うんうん、とカオリも頷く。
「今度、特訓して貰おうよ。」
がばっと寝返ると、カオリを抱き上げて吉澤は云った。
太陽を背中に浴びて、髪をキラキラさせながら、カオリは苦笑した様だった。
- 140 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時43分11秒
- それから、吉澤は三日と空けずにLABに通って居る。
何時も暇そうな店内で、市井が眠そうに過ごして居るのだ。
「いらっしゃいま…あー、よお。」
扉の音で顔を上げるが、吉澤だと判ると、再度頭をカウンターに乗せる。
「いちーさんっ! 特訓しましょ!」
吉澤は犬の様にカウンターに飛びつくと、下から眠そうな顔に向かって云う。
何度も続くと、時間帯で判るのか、顔さえあげなくなった。
「ねえねえ、市井さんってばぁ〜。」
体を揺すって、無理矢理起こす。そうしてLABに引き摺り込む。
- 141 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時43分44秒
- LABにある機械のスウィッチを起こして貰うと、先ずはカオリの状態を見る。
ピットだけが備えてあり、其処にカオリが入ると、損傷状態などが一目で判るのだ。
其の後はシミュレーションを使う。
カオリはそのままピットで、吉澤はヘッドモニタに向かって、仮想の相手とバトルする。
勿論カオリにダメージはなく、予想されるダメージ数が出て、勝敗が決まる。
- 142 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時44分23秒
- 市井も吉澤も携帯の判定機を持って居ないので、LABを出てバトルする事は出来ない。
時々、市井とバトルもするが、その際はピットからシート―カオリが治された大きな台を、
こう呼ぶらしい―へ太いコードを何本か接続して、何とか対戦出来る様にする。
この作業は面倒で、市井に全く歯が立たない吉澤は、滅多に対戦して貰えなかった。
- 143 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時44分58秒
- 市井の戦い方は鮮やかだった。
吉澤が級友達とするバトルなんかとは全然違う物で、迷いなくマキに指示を与え、
マキも指示を待って居るのでなく、市井の指示を追って居るのだ。
速さが違う。
市井は自分が戦って居るかの様に、腕を回し、足を蹴り上げ、声を出す。
「うおー!」だとか、「でりゃぁっ!」だとか、指示には聞こえない様な物でも
マキには伝わって居るのか、市井に近い動きを見せる。
- 144 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時45分29秒
- 汗だくでブイサインを見せ付けると、市井は「にっか」と笑う。
悔しいが、其の姿には憧れても居た。
何時かそんな風に勝ちたいと、笑いたいと、吉澤は思って居た。
- 145 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時46分06秒
- 「今日こそは勝つぞー。」
意気込んでガラガラガラと軋む扉を押し開ける。
中を伺うと相変わらず綺麗な店内は、品物が少ない。
「ちわ〜っす。」
控え目に声を掛けると、奥でカタンと物音がした。
「居るみたいだね。」
カオリに声を掛けると、カウンターへ向かう。
丁度良くマキが現れて、へらっと笑った。
「市井さんは?」
吉澤が屈んで尋ねると、マキは聞こえたのかぽや〜っとした表情をしたが
暫くすると頷いて、手を引いて奥に連れてくれた。
- 146 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時46分36秒
- LABの扉をマキに促され開くと、大きな机に向かう後姿があった。
市井だろうか。どうやら白衣を着て居る様で、何時もと様子が違う。
マキがとたとたと、彼女に向かうと、椅子がキュウと云って回った。
「あ。」
振り向いたのは市井ではなく、知らない女性だった。
高校生位だろうか、市井と同じ黒髪だが、此方は長い。頼りなさげな瞳を、眼鏡の奥で光らせて居る。
「こんにちは。」
先に口を開いたのは彼女だった。
ちょっと上擦った様な声。
「あ、どうも。」
吉澤がへこりと頭を下げると、カオリも習って頭を下げた。
「吉澤さん、ですか?」
白衣の彼女はキィと音を立て、椅子から立ち上がると、手を差し出した。
「此のラボの責任者、紺野です。」
眼鏡がキラと光り、続いて胸のネームプレートも光った。
「―どうも。」
先程と同じ言葉を繰り返して、吉澤は握手を交わした。
柔らかくて冷たい手だ。
- 147 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時47分36秒
- 「あの、市井さんは?」
市井が居ない事は初めてだった。あんまり来るものだから、逃げられたのだろうか。
「あ、市井さんは、今日はお休みだそうです。」
眼鏡を掛け直して、頼りない声色で返す。
此処の責任者と云う事は、市井の云う店長なのだろうか。
何だか想像して居た姿と違うし、若過ぎる様にも見える。
「お休み、ですか…。」
「ええっと! 市井さんに代わりをする様、云われてまして!」
吉澤の落胆が目に見えた様で、紺野は慌ててそう告げた。
「代わり?」
「はい。店番と、吉澤さんの特訓です。」
そう云われて、吉澤は怪訝な態度を取って仕舞ったのだろう。
紺野は更に慌てて付け加えた。
「こう見えても、DOLL博士の資格も、あるんですよっ。」
「えー! マヂでぇー!!」
- 148 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時48分20秒
- DOLL博士と云えば、テレビや雑誌なんかで髭面のおっさんがやってるのを良く見る。
「まあ、私は異例ですけれど。テレビに出てる人達なんかも、異例なんですよ。」
意外にも彼女は大学生だった。少し幼く見えるのかも知れない。
しかし、大学生で博士をやれるものなんだなあ、と関心した。
「元々は戦う側、つまり市井さんや吉澤さんと同じ持ち主、だったんですけれど
自分のDOLLを改造したりして行く内に、開発側に回りたくなっちゃいまして…。」
うっとりとして遠くを見やる。
何を思い出して居るのだろう。吉澤には、想像がつかなかった。
「ゴトウさんは、私が作ったんですよ。」
マキを抱き抱えると、嬉しそうに彼女は云う。
「ゴトウさん?」
「あっ、この子の事です。タイプ510で、ゴ・ト・オ。」
聞き返した吉澤に、嬉しそうに告げる。
「それで、ゴトオさんですか。」
「マキって云うのは、市井さんがつけたんです。」
「市井さんが…。」
変な人なんだなとマキを抱き締め、恍惚とした表情を浮かべる紺野を見て思う。
光の所為でやけに光る眼鏡も、彼女にとても似合って居る。
- 149 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時49分22秒
- ―ガチャン!―
玄関だろう。扉の音がしてマキがぴく、と反応した。
「あ、帰って来たんでしょうか。」
紺野はマキを抱いたまま玄関に向かった。吉澤とカオリも其れに続いてLABを出た。
「ただいまー。」
だるそうにヒールを脱いで居るのは、またも知らない女性だった。
吉澤を確認すると眉間に皺を寄せ、指差した。そのまま顔で紺野に問う。
「あ、吉澤さんです。市井さんのお友達の。」
紺野の腕に抱かれたマキが、嬉しそうに女性に手を伸ばす。
「あ、紗耶香の友達? ―おー、マキただいまー。」
興味のなさそうな顔をして、彼女はマキの頭を撫でた。
「今日は早かったんですね。」
紺野はマキを降ろしながら、彼女に話し掛けた。
「暑かったし、直帰して来た。」
降ろされたマキは、カオリに向かって耳打ちをして居る。
二人で楽しそうだ。
吉澤は突っ立って、残された感じを受けた。
- 150 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時50分00秒
- くいくい、とカオリに腕を引かれる。
口に手を充てて、喋りたい様だ。
「ん、何?」
しゃがみ込むと、カオリの口に耳を充てる。
「此処の店長さんなんだって。」
ふんふんと頷く。
どうやら市井の親戚らしく、此の家は彼女の物で、市井が転がり込んで来たらしかった。
「名前は…、」
「圭ちゃん!」
カオリが云うより早く、マキが横から口を挟んだ。
大きな声に吉澤は一瞬驚いたが、マキはにこにことして居る。
「圭ちゃん、」
「何よ?」
吉澤が繰り返すと、圭が此方を向いた。
「えあッ、何でもないデス…。」
ちょっと凄みのある顔で返されて、吉澤は萎縮した。
「そんで、紗耶香は?」
紺野にではなく、吉澤に聞いて来た。
「え? いや、知らないです。」
妙にかしこまって応えて仕舞う。
「あ、店番は私が代わりに…、」
「アイツめ、逃げたな。」
紺野が応えるのは聞かず、圭はまた眉をひそめた。
- 151 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時53分01秒
- 「吉澤、ホントに知らないの?」
「や、知らないッスよぉ〜。」
「マキは?」
マキは首をぶんぶんと振る。
「紺野は、…知らないわよね。」
諦めた様に溜め息を吐いた。
「まあ、良いや。あたしお風呂入るから。吉澤、店番しといて。」
「なんで!」
「どうせ、紗耶香待ってんでしょ?」
「えー、だからって、」
「グチグチ云わない! ほらっ、行きなって。」
半ば強引に背中を押され、吉澤はカウンターに着く。
- 152 名前:LAB 投稿日:2003年04月25日(金)04時53分35秒
- 「いや、マジ意味判んないんですけど。」
さすがに吉澤も怒り気味で聞く。
「紺野じゃ店番にならないから、」
諦めの顔をしてポンと吉澤の肩を叩く。
「それとも、紺野に用があったの?」
紺野はマキを連れてLABに戻って行った。
にこにこと眼鏡を光らせ、マキに「今日は腕をいじりますからね〜。」なんて云いながら。
更にはキュイイと云う音や、変な電子音が鳴って来て、中を覗く勇気が出ない。
其の内、マキの叫び声が聞こえて来るんじゃないか、と少し不安な位だ。
「イエ。」
カオリに何かされたら、たまらない。
膝に乗ったカオリを強く抱くと、圭に頭を撫でられた。
「良い子だね。」
最初の印象からだろうか、優しい手つきだったが、吉澤は首を動かす事もなく、
おとなしくしく声だけで応えた。
「イエ。」
ふんふんと鼻歌交じりに消えて行った圭を見送ると、店内にはLABからの音が響くだけ。
「市井さん、未だかな。」
吉澤はカオリに呟いた。
不安そうな吉澤に、カオリは苦笑した。
- 153 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月25日(金)04時55分47秒
- と、まあこんな感じで更新です。
落ち着きのない文章ですみません。色々考えちゃうと、なかなか難しいですね。
楽しくて良いのですが(笑)。
うい、もっと、頑張ります。
- 154 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月25日(金)04時57分03秒
- >132
あう、すんません。あんがとございます。
頑張ります。マヂ頑張ります。励みになります!
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月19日(月)22時08分07秒
- 登場人物が増えてきて、これから先がとても楽しみです。
ゆっくりお待ちしていますので、頑張って下さい。
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月20日(火)07時33分20秒
- 久方ぶりで、申し訳ないです。
レス、有り難いです。何とか形になったので、更新致します。
- 157 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時34分10秒
- 額から流れる汗が、頬を冷たく伝った。
汗より暑い体温。
「うあっちィー!」
軍手をした腕で額を拭う。
「ホラホラ吉澤、次はこっちの箱。」
圭に指し示され、ノロノロと足を引き摺り移動。
青空の真ん中には真っ白に光った太陽。
大きな雲がゆったり流れ、地上には微かな風が吹いた。
硝子越しの店内から、カオリとマキが覗き込む。
その後ろでは、団扇片手に市井がニマニマ笑って居る。
冷房の効いた店内を忌々しく思い、重い箱を抱えなおした。
今日は二週に一度の納品の日。
星印のプラモデルなんかが運び込まれる。
売れ行きの良くない圭の店では、納品された大半が、裏の倉庫へと運び込まれるのだ。
「じゃんけんで負けた方が手伝いね。」
運の良い市井はチョキを出し、見事吉澤に仕事を押し付けた。
「あれ? 紗耶香に頼んだんだけど?」
「ジャンケンに負けたんです。」
パーを出し情けなく笑う吉澤に、圭は苦笑。
「あんたさぁ、良い様に利用されてんじゃないの?」
- 158 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時35分18秒
- 実際、紗耶香の仕事である店番を、何度か任されて居たし、
「特訓してあげるから」の一声で、メモ片手に随分遠くまで買い物に行かされたりもした。
其の度に抗議をしたものの、此のLABの一員に紛れ込めた気がして、
心の何処かで喜んで居る自分が居るのも判って居る。
しかし暑い。頭に直撃した陽射しは、脳みそを駄目にして居るに違いない。
そんな事を考えながら、体だけで作業を行って居たので、注意力が散って居た。
倉庫の中から出て来た影と、正面からぶつかって仕舞った。
商品第一、そう心がけて作業して居た吉澤は、ダンボール箱をお腹に喰らい、仰向けに倒れた。
「ごめんなさい!! ―大丈夫ですかっ?!」
冷たい倉庫から、ぬらりと姿を現したのは紺野だった。
工具箱の様な物を抱えて、何時もの白衣姿だ。
「うー…、だいじょぶ。」
差し出された冷たい手を借りて、立ち上がる。
商品第一の心は忘れず、ダンボール箱は大切に地面に置いて。
「赤いペンチ、見ませんでした?」
土埃を払う吉澤に、紺野が聞く。
「ペンチ?」
「はい、大きいヤツです。」
両手で枝切りバサミを使う様な仕草をする。
- 159 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時36分30秒
- 倉庫と云っても、軽自動車一台分程の小さな物置。
ダンボール箱が積まれて居るだけで、後は箒やら古い傘やら。目新しい物はなかった。
紺野の仕草を見る限り、見落とす様な大きさでもない。
「なかったぁ―と、思う。うん。」
「そうですか。」
ガックリ、と肩を落とし去って行く紺野に、吉澤は何に使うのか聞きそびれた。
- 160 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時37分00秒
- その後の指示を簡単に出した圭も、店内に戻って仕舞った。
工場ばかりのこの辺りは、溶接作業の機械音が遠くに聞こえるだけ。
店の周りに広がった砂地は、じりじりと陽炎を作り、視界をぼやけさせる。
「んー!」
最後の箱を降ろすと、涼しい倉庫で目一杯伸びをした。
座り込み、外を見やると土に陽射しが反射して、目をチカチカとさせる。
店の裏口は普通の民家だ。玄関の扉が少し開いて、カオリが顔を覗かせた。
眩しそうな顔をして目を細めると、手で陽を避け辺りを見渡す。
「カオリー。」
吉澤の声に気付き、はたと動きを止める。
位置を確認すると、スタスタッと小走りに駆け寄って来た。
「どしたの?」
軍手の手の甲で頬を拭う。掌側は、灰色に汚れて仕舞って居る。
首を横に振ったカオリは、何でもないと伝えた。
「何だよ。」
カオリは別に、とでも云いたげに顔を逸らすと、倉庫を見回す。
一緒になって吉澤も顔を回す。
首の後ろで冷えた汗が、気持ち悪かった。
- 161 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時37分36秒
- 「シャワー浴びたい。」
「水でも良いや。」
「いや、寧ろ水が良い。」
続けざまに独り言。声に反応したカオリが此方を向いた。聞き返したげな顔。
「ねえ。そう云えば、カオリ達は暑くないの?」
(暑い。)
唇でそうは告げるが、顔は至って涼しく見える。
「汗かかないんだ。」
うん、と頷く。それでも暑いのは一緒なのか、と何だか不思議に思って仕舞う。
カオリの体にぺたぺたと触れて見ると、確かに熱い。
バトルの後で、ヒートアップしたボディみたいだ。
「水、浴びよっか?」
- 162 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時38分06秒
- 雨の日の足元を、びちゃびちゃ撥ねる雨水。
其れを平気な顔で被り、慌てさせた事もあったが、耐水面はしっかりして居るらしい。
「知らなかったんだ?」
仲良く浴槽に浸かり、膝に立ったカオリに云われ、何だか赤面した。
「何でそんなに偉そうなのさ。」
知らなかった事、と云うより、裸で、其れも立ち上がった姿のカオリに。
「知らない事ばっかりなんだもん。」
「だって、DOLLなんてやると思わなかったんだもん。」
言葉尻返し。
「ふうん。」
ちゃぷ、と首まで沈んで吉澤の膝に腰を下ろす。
白がかった浴室に音が反響。しばし、沈黙。
「でも、面白いね。」
落ちた前髪を手で上げ、云う。
「そう?」
「うん。もっと勝ちたいよ。」
カオリは笑顔で頷いた。
- 163 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時38分51秒
- ばしゃばしゃと手元から飛び出す水を見て、そんな事を思い出した。
ホースから降り注ぐ水は、カオリの頬を、体を濡らして居る。
ふらついた目線がカオリと合った。
カオリは微笑むと、両手に水を溜め、吉澤に向かって掛けて来た。
不意をくらって目に入った水に、目をしぱしぱとさせると、可笑しそうに転げる。
「こっの〜!」
ホースを指で絞って、ピンポイントでカオリを狙う。
水の勢いにカオリは少し吹っ飛んだが、負けずにホースを奪おうと向かって来る。
攻防戦。
ホースの口はあちらこちらを向き、二人はびしょ濡れになった。
- 164 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時39分29秒
- 「何してんの?」
圭の醒めた声で、水遊びは終わった。
「濡れたまま上がんないでよ。」
と、タオルを放られると店の正面口から入れられた。
渇くまでは家に上がらせて貰えない様だ。
「何してんのさ。」
市井が可笑しそうに現れる。
寝癖のついた頭を見ると、昼寝でもして居たのだろう。
「ちっがうよ! ゴロゴロしてただけだって!」
ねえ、と腕に抱いたマキと頷き合って居る。
「どっちでも変わんないよっ。」
吉澤はぶるっと体を震え上がらせる。
ガンガンに効いたクーラーが、逆に体を冷やすのだ。
「着替え貸してあげよっか?」
「あ、でも圭ちゃんに、濡れたまま上がるなって…。」
「良いよ、いーよ。ばれなきゃ平気。」
にっと笑うと、市井は自分の部屋へと招き入れてくれた。
- 165 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時40分58秒
- 寝台と、勉強机と、箪笥。本棚にはDOLL誌やコミック誌が並んで居る。
それほど大きな部屋ではない。
窓に掛かったカーテンが陽に褪せて、白っぽくなって居る。
服が挟まり閉まりきって居ない箪笥を引き出すと、市井は其処に頭を突っ込んだ。
シャツとパンツを引っ張り出すと、吉澤に投げて寄越した。
「其れ着て良いよ。」
マキと協力して引き出しを押し込めると、今度はカオリに向いた。
「マキの服で良い?」
こくりとカオリが頷くのを確認すると、今度は別の引き出しに手を掛けた。
なかなか引き出せない様で、歯を食いしばって居る。
手伝おうかとも思ったが、マキが手を貸したので放って置く事にした。
「市井さんの学校って、制服ないの?」
寝台の脇に潰れたランドセルが転がって居るのが見える。
「ないよ。公立だもん。」
だから服が溢れちゃうんだよね、なんて云いながら引き出しと格闘。
「吉澤はあそこでしょ。えぇっと…裕ちゃんが居る所!」
音も立てずに引き出しが抜けた。
市井とマキはその拍子に、後ろに転げた。
- 166 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時42分04秒
- 「中澤さん、知ってんの?」
“裕ちゃん”を“中澤さん”に変換するのに時間が掛かったが、繋がった。
「知ってるも何も、大会出てんじゃん。」
イテテと腰をさすりながら、引き出しを戻す。
マキが引き出しに乗り、服を選び始めた。カオリが横から、覗き込む。
「あー、そっかぁー。」
中澤は地域大会で勝利し、雑誌に載る位の力はあるのだ。
「友達なの?」
「何でよ。」
「“裕ちゃん”って呼んでるから。違うの?」
市井は首を左右に振る。
「いっつも大声で、裕ちゃ〜ん! って応援してる人が居んから。」
「あー。」
大声で叫ぶ平家の姿が浮かぶ。其れから、其れを苦々しく睨む中澤の姿も。
「今度も出るでしょ。」
床に転がったチラシを拾うと、市井は其れをピンと弾いた。
「大会あんの?」
吉澤は市井から其れを奪うと、熱心に読んだ。
- 167 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時42分51秒
- 「サマーフェス20…予選、関東地域……、」
「吉澤は出ないの?」
「えッ、市井さんは出るの?」
「勿論。」
にやり、と笑い壁に掛かったカレンダーを指差す。
予選の日程が書き込まれて居る。
「来週からじゃん!」
「そおだよ。夏休みと共に…だよ!」
「えー、出たい出たい!」
吉澤は手を振り、興奮する。チラシがピラピラと安い音を立てる。
「いや、出れば良いじゃん。」
片手で突っ込みの仕草をして、市井が応える。
「こーゆーのって、ラボ代表とかじゃないと出れないんでしょ?」
「あ! あーあー、そっかそうか。」
何処の所属でもない吉澤は口を窄める。
「ああ、うん。判った、判った。ウチの代表って事にしたいんだ。」
「したいってゆーか…。」
「そおだよねえ、吉澤はウチの代表みたいなモンだもんねえ。」
こき使われて居るのだ、それ位の見返りは当然だろう。
「―大丈夫?」
それでも、控え目に聞いて見る。
「だいじょぶ。ラボ代表は3人までだから。」
「ぃいよっしゃ〜!」
吉澤の雄たけびに、市井は苦笑い、DOLL達はビクリ、と反応した。
- 168 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時44分13秒
- サラサラとペンが紙を走る。
昼間を過ぎた頃合だと云うのに、窓のないLABは薄暗い。
「ちょっと、すみません。」
紺野がカオリの腕を上げさせる。
シートに立たされたカオリは、先程から体中をチェックされて居る。
終始敬語で話し掛け、パーツの品番を確認する。
そうして「へえぇ…」だとかを、時折発するのだ。
パーツの組み合わせがおかしいのかな、なんて吉澤は不安になる。
予選への申し込みは、LAB毎にシートを提出。
既にマキと市井のエントリーは済んで居り、慌てて吉澤達のエントリーを準備中。
- 169 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時44分45秒
- 「終わった〜?」
扉から顔だけを覗かせ、市井が尋ねた。
紺野は気付かないのか熱心にカオリをチェックし続けて居る。
「やぁ、未だ…。」
言葉を濁した吉澤を察したのか、ニカァと笑う。
「気にしなくて良いよー。DOLLの事になると、しつこいから。」
「しつこいんだ。」
苦笑した吉澤に、手招き。手を口に充て、耳を貸せのポーズ。
「特にマキには、しっつこいんだぜ〜。」
マキの名前に反応したのか、紺野が此方を向いた。
蛍光灯に反射した眼鏡が、ギラリと光る。
「おっと、見付かった! じゃあね!!」
市井が慌てて頭を引っ込めると、大きな音を立てて扉は閉ざされた。
- 170 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時45分22秒
- 「あれ? 市井さん居ませんでした?」
気付かれなかったんだ、と吉澤が胸を撫で下ろした。
「居なかった、と思う。うん…、」
語尾が濁ったが、紺野はそんな事にはお構いなしで、カオリに向き直った。
カオリは腕を上げたままの恰好に疲れた様だ。
手首を振って、和らげて居る。
「未だ、掛かる?」
困った顔をして、アピィル。
「そうですねえ…ちょっと待って下さい。」
書き込んで居たメモを斜め読み、接続中のモニタをさらりとスクロール。
「後は、データから調べられるので…、」
云い終わるより早く、カオリがひょいと飛び降りた。
一直線に吉澤の胸に飛び込む。
「お疲れ。」
頭を撫でてやると、安堵の息を漏らした。
二人して苦笑。
「んじゃあ、お願いしまっす。」
片手を上げると、そそくさとLABを後にした。
- 171 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時46分02秒
- 「あはははは、疲れた顔してんなー。」
店に戻るとカウンター前のソファで、市井がドカリと、マキがゴロリと寛いで居た。
市井がカオリの頭を撫でる。
その様子をマキが上目遣いで伺う。
「何、マキも?」
目を細め、うんうんと頷いたマキも同様に市井は撫でてやる。
「紺野さんって、変な人だね。」
「でっしょ?」
身を乗り出して市井は食いつく。
「先刻もおっきなペンチ探してたし。」
「ペンチィ?」
「うん、おっきいみたい。」
紺野がした様に、枝切りバサミの仕草。
「大きいね、そりゃ。」
「大きいよ。」
「何に使うんだろうね。」
「いや、知らないよ。」
「知らないか。」
「…知りたくないね。」
「―そうだね。」
暫く沈黙が流れた。
頭に市井の手を乗せたまま、マキはウトウトと夢心地。
カオリもぼうっと壁を見詰めて居る。
- 172 名前:エントリー 投稿日:2003年05月20日(火)07時46分37秒
- 「まあ、何はともあれ、予選だ!」
市井が拳を上へと突き出す。
「うんっ。楽しみ。」
吉澤は頷く。
「負けないぜ?」
「こっちこそ、負けないよ?」
夕陽が街を染める頃。
吉澤はカオリを連れて、上機嫌で帰路についた。
- 173 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月20日(火)07時50分10秒
- そんな感じで、夏に向かう感じで。
- 174 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月20日(火)07時53分23秒
- >>155
ありがとうございますー。励みになりますー。
手元で燻って居た今回の更新に火が点きました(笑)。
書き始めて仕舞えば楽しいので、さくさくやってきたいと思いまっす。
- 175 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)22時50分25秒
- 保全します。
- 176 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)21時27分52秒
- あああ、随分更新してませんでした。すみません、ありがとうございます。
なかなか書き出せて居ないものの、放置はしませんので、気長に待って頂けると助かります。
- 177 名前:紅屋 投稿日:2003年06月28日(土)21時06分23秒
- はじめまして。黄板で書いてる者です。
なんか自分もはまってた頃を思い出しました〜。
ちょこちょこ出る紺野さんが気になりますw
大変でしょうががんばってくださいませ。
- 178 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月02日(水)02時58分47秒
- >177
ありがとうございますー。はまってた頃ですか。
紺野さん、ちょっと好きなんです(笑)。きっと此れからもちょこちょこ出て来ます。うし。
早速、紅屋さんの作品も読ませて頂きました。面白いですね〜! 更新頑張って下さい。楽しみにしてます!
- 179 名前:紅屋 投稿日:2003年07月05日(土)13時21分40秒
- >>178
来てくださってありがとうございました。ペコリ
嬉しすぎて一言お礼をいいに来てしまったわけでw
私もここの更新楽しみにしてます!
- 180 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月16日(水)06時55分00秒
- 放置気味ですが、完結させますので今暫くお待ち下さい。
申し訳ない。
- 181 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月14日(木)12時00分09秒
- のんびり待ってるよ〜♪
- 182 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)03時29分16秒
- ふんとに申し訳ない。もう少し掛かります。自宅でネットを出来る様にします故。
- 183 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/12(日) 22:52
- hozen
- 184 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/07(日) 03:44
- がんばってください
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/26(月) 14:34
- がんばってください
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/18(水) 00:34
- 待ってるよ〜
Converted by dat2html.pl 0.1