a labyrinth of love
- 1 名前:作者 投稿日:2003年03月15日(土)14時34分49秒
- これからお話を書かせて頂こうと思っています。
昔、こちらで小説を書いたことがありますが、まだまだ慣れていないので、
稚拙な文章になってしまうと思います。
このお話はかなり前に考えた物なので、まだ後藤が娘。にいます。
その辺を大きな心で許してやって読んで下さると嬉しいです。
なっち・後藤・中澤を中心に書いています。
それではこれからよろしくお願い致します。
- 2 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月15日(土)14時35分53秒
「なっち、聞いとる?」
裕ちゃんの声が、今日はうざったい。
なつみは枕に俯せになったままで、頭に降ってくる声に答えた。
「聞いてるべ。」
裕ちゃんが何を言っても、素っ気なく返すことしかできないのは、
好きな気持ちが溢れるから。
「なんか、イライラしてへん?」
そうだべさ、してるってば。
この部屋に通っている自分が、なんだか嫌になったの。
今日突然思った訳じゃない。
抱かれる度に生まれ落ちるむなしさを、だんだん処理しきれなくなってきて。
そしてそれは永遠に生まれ続ける。
このベッドの上で、それが愛にカタチを変えない限り。
「裕ちゃんはなんでこんなことしてるの?」
「こんなことってなんや?」
「ホントは男の子の方が好きだべ。」
顔を上げると、裕ちゃんは困ったような顔をして、
それからベッドの上に意味もなく座った。
「なんて言うんかな、たまには女の子もええもんかな、思てな。」
明らかに気持ちの入っていない回答。
顔も適当に誤魔化したとき特有の笑顔になっている。
「そおいうもんかなぁ?」
「いやなん?」
そうじゃないけど、気持ちを隠したままで抱かれるのは苦しい。
「別に。」
- 3 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月15日(土)14時36分33秒
- ただ、不安で。
最近、何かが変わり始めた気がして。
何かは分からない。
でも裕ちゃんの様子が、ちょっとずつおかしい。
やたら優しかったり、急にイライラし始めたり、考え込んだり。
だけど、『どうしたの?』と聞いても
『なんでもない』って言うばっかりで、答えてはくれない。
そうしてなつみはどんどん不安になっていく。
今だって、煮え切らない返事だった。
もうこんな関係は終わりにしたいと思っているのかな。
頭に次々と浮かぶのは、そんな弱気なことばかり。
裕ちゃんが眠ってしまっても、なつみは目を閉じているだけで、
ちっとも眠くはならない。
起きていれば良くない事ばかりを考え続ける。
好きで起きてるんじゃない。
眠ろうと思っても、不安が脳のドアを叩く。
ドアを開ければまた不安が襲う。
それを繰り返して朝になる。
こうして毎日毎日、朝を迎える度に、弱々しくなっているのかもしれない。
- 4 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月15日(土)14時37分50秒
- なつみは暗闇でそっと目を開けた。
裕ちゃんの寝息が耳元で行ったり来たりしている。
寝息を追って、視線をずらすと、見慣れた寝顔がある。
お互いを手近な欲望の捌け口にして、
それだけで割り切って、なつみたちは上手くやっていると思っていた。
でもそれも、壊れてしまうような気がしている。
どうしてこんな不安なのか。
裕ちゃんの様子がおかしいっていうだけじゃない。
割り切っているなんて事自体、全くの嘘だから。
なつみは初めから裕ちゃんが好きだった。
このぬくもりを失いたくないから、何でもないふりをしているだけ。
あの日、裕ちゃんが寝ぼけてキスをしてきた時、
ダメだと冷静になろうとする気持ち簡単に欲望が打ち消してしまった。
こういう事に関しては、自分はもっと理性の働く人間だと思っていたのに、
なつみは流されるふりをして、裕ちゃんに抱かれた。
あの時のことを裕ちゃんは『勢いで』と言うけれど、
じゃあなんで『勢いで』しただけのなつみとこうしてずるずる続けているんだろう。
- 5 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月15日(土)14時38分38秒
- 隣であんまり気持ちよさそうに寝てるから、
ちょっとむかついて、顔にふっと息を吹きかけてみる。
裕ちゃんは眉間に皺を寄せて、もぞもぞと動いたけれど、
またすぐに寝息を立て始めてしまった。
「…起きてよ、バァカ」
好きな人の寝顔を見ているのは嫌いじゃない。
だって、眠っているうちは、絶対に何処にも行かないから。
勢いでも、何となくでもない。
ただ、そこにいてくれる。
なつみは小さくため息を吐いた。
いつまで続くか分からない関係。
いつも、不安な幸せ。
どうせ終わってしまうなら、気持ちを伝えてみようか?
好きだって言ったら、裕ちゃんは引くだろうか?
それとも困りながらも笑ってくれるだろうか?
どっちにしても、裕ちゃんが自分のことを好きだと言ってくれなければ、
すべてが終わり。
そんな小さな可能性にかけるのは、やっぱり恐い。
自分はは臆病だろうか?
もう100回くらい自問した。
でも、自分の中に答えはない。
そして今日も不安な気持ちのまま、裕ちゃんの胸に顔を埋め、
ゆっくり目を閉じる。
空はもう、白く開け始めていた。
- 6 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月15日(土)14時39分43秒
何時に眠ったのだろう。
目を覚ました時、空はもうオレンジ色に染まっていて、
なつみは慌てて枕元の時計を掴んだ。
「ちょっと、裕ちゃん!ねぇ、もう夕方だべさっ。」
「んあ〜…」
そうして裕ちゃんは、いったい何時間眠っているんだ。
「いいやろ。どうせ今日はオフなんやし。」
仕事だったら大問題だよ、それ。
なつみは時計を置いて、裕ちゃんの方を向いたまま、ごろんと横になった。
「なんかもったいない感じ。」
「なんで?いっぱい寝たやん。」
「そうなんだけどね、今日は何もしなかったなぁ、
って思うとちょっともったいなく感じるべ。」
なつみが言うと、裕ちゃんはわざとらしく真面目な顔をして、こっちを向いた。
「なんや?なっちは私といる時間が勿体ない言うんか?」
「そ、そうじゃなくて…」
「だったら、ええやん。」
満足げに微笑むその表情につられて、なつみも笑った。
「うん。」
逆に言えば、裕ちゃんも、そう思ってくれているって事。
そう考えたら、また笑みが零れる。
今度は嬉しくて。
- 7 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月15日(土)14時41分56秒
- 「なっち、何にやにやしてんの?」
「うるさいべさ。それよか裕ちゃん寝過ぎだよ。何時間寝てるんべさ。」
なつみが眠るずーっと前から爆睡していたのに、よくこんな時間まで寝れるものだ。
「一応途中で目が覚めたんやけど、だるいわ、なっちはよだれ垂らしてるわでな。」
「え〜っ!嘘だべさ。垂らしてないっ!」
「垂らしてたって。私の肩濡れてるし。」
見ると、確かにちょっと濡れている。
「よだれかどうか分かんないべさ。汗かもしれないし。」
「分かるわ。」
そう言って、急になつみの頬に手を触れ、その親指がゆっくりと唇をなぞる。
裕ちゃんの指に息がかかってはいけないような気がして、一瞬息を止めた。
指の動きを追うように、心臓がぎゅっとなって、血液を早送りする。
裕ちゃんは、指が口の端に辿り着いた所で、
「ほら、白くなってるやん。」と無邪気に笑ったけれど、
なつみの方は胸が熱くなってしまって、さっきみたいに、言い返せなかった。
「あれ?なっちゃん拗ねちゃった?」
黙り込むなつみの顔を楽しそうに覗き込むから、ちょっとむかつく。
こういう無意識で裕ちゃんがやる事は、いつもなつみをドキドキさせる。
- 8 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月15日(土)14時44分32秒
- 「拗ねてないべさ!」
目が合うとまたドキドキしそうだから、
見えないように、裕ちゃんの肩に額をくっつける。
窓から差し込む西陽は眩しくて、ちょっとうんざりさせられるけど、
窓から差す光に馴染んで、
裕ちゃんの肌がオレンジ色に染まるのは、嫌いじゃなかった。
そしてそれを感じながら、ただぼんやりと見ていられるこの時間は、
とても幸せだと思った。
なつみが黙ってしまうと、裕ちゃんは仰向けになり、
自分の腕を持ち上げて、二の腕を擦り始めた。
そこには、黄色くくすんだ、指の跡。
擦ったって取れないよ。
二の腕のその跡は、自分といる限り、ずっと残していくんだから。
視線に気付いたのか、裕ちゃんが、今度はなつみに向かって腕を突き出した。
「なっちさ〜、見てよこれ。いつも掴むから、色変わっちゃってるやん。」
「ホント?いつ?」
本当は自覚しているけど、知らないふりで、わざとらしく答える。
「いつもやって。いくときすっごい力で掴むやろ。」
- 9 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月15日(土)14時45分04秒
- 「うそ〜、そんな力入れてないべさ。」
理由の半分は、声を堪えると、つい力が入っちゃうから。
「嘘じゃないわ。同じとこばっか掴むから、だんだん濃くなってるし。」
確かにかなり濃くなってしまっている。
やり過ぎたかな。あまり目立って、仕事に支障が出ると困るし、
ここまで残っているということは、痛みもあるかもしれない。
なつみは少し反省して、そのくすんだ辺りに手を伸ばし、触れてみた。
「…痛い?」
聞くと、裕ちゃんは優しく笑って、触れたなつみの手を握った。
「別に平気や。可愛いから許す。」
「ごめんね。」
理由の残り半分を聞いたら、きっとこんな風には笑ってくれないだろう。
『跡を残したのはわざとなの』そう言ったら。
こんなことしたって、なんの意味もない。
分かっている。
分かっていても、何もしないではいられない。
だってなつみは、本当の事を何一つ言えないから。
『好き』も『誰にも渡したくない』も『ずっとこうしていたい』も、
全部頭の中だけで繰り返す独り言。
不安。
それが、二の腕に残る指跡の正体。本当の気持ち。
歪んでしまった、愛の証。
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月15日(土)22時28分57秒
- こんにちは。なんかいいっすね。(えらそー)
なっち、切なくて可愛い。これからどーなるんでしょう?楽しみにしてます。
- 11 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月16日(日)03時36分04秒
- なちゅー・・・素直に嬉しいです(w
なちごまになっていくのか・・・ごまゆうになっていくのか
なっち→中澤→後藤→なっち・・・みたいなトライアングルなのか・・・
非常に楽しみです。(w
- 12 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月17日(月)20時18分44秒
- 面白そう〜。
- 13 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時48分29秒
「まただ…。」
他のメンバーは寝てるか騒いでいるか、
思い思いのことをやっているロケバスの中で、
呟いたなつみの声は自分の耳にしか届かなかった。
握った携帯には、ディスプレイに『ごめん』の文字。
最近、裕ちゃんの所に行こうと思ってメールしても、断られる回数が増えた。
仕事が一緒の時は断られないけど、そうじゃない時は、
ほとんどこの文字がディスプレイに浮かぶ。
気のせいなんかじゃない。
前はこんなじゃなかった。
このところ急に、だ。
不安が一気に沸き上がってくる。
やっぱりおかしい。
終わりにしたいなら、飽きたなら、それでもいい。
だからちゃんと言って欲しい。
このままじゃ、不安に飲み込まれてしまいそうだ。
- 14 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時49分04秒
- 「…大丈夫?」
その声にハッと顔を上げると、斜め前のシートに座っていたごっちんが肩越しに、
心配しているような表情でこっちを見ていた。
「なっち、なんか独り言言ってた?」
「別に。ただ、思い詰めた顔してるもんだから。」
普段は寝てばっかりいるのに、こういう時に限って見ていたりするから、タチが悪い。
いや、心配してくれてるんだから、有り難いと言うべきなのかもしれない。
「気のせい、気のせい。全然、なんでもないべ〜。」
とにかく出来るだけ明るく返す。
不自然でもわざとらしくても、そのくらいしか、今は余裕がない。
ごっちんはしばらくなつみの顔を見ていたが、「そう。」と呟くとまた前を向いて、
眠るつもりなのか、帽子を深く被り直した。
なつみは携帯に視線を戻すと、その文字をメールごと削除した。
- 15 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時50分12秒
家に帰ってきても、今頃裕ちゃんは何をしてるんだろうとか考えちゃうから、
気になって落ち着かない。
電話でもしてみようかな?
でも用事があると知っているのに、わざわざ電話をかけるのも、嫌がらせみたいで。
裕ちゃんは自分なんかより、たくさん友達がいるから、
だから忙しいんだと思うようにしていた。
だけど、そう思う事すら、空しくなり始めている。
なつみは部屋にあるドレッサーの前に座った。
それから、鏡に向かって、めいっぱいの笑顔を作る。
でも、それはめちゃめちゃ不自然で、いやになるくらい、引き攣っている。
もう一度、笑ってみる。
「ん〜、微妙…。」
やっぱりわざとらしい。
これじゃ、突然別れ話とかされても、対応出来ない。
同様が顔に出てしまう。
考えたくないけど、その可能性は拭いきれないから、
今はただ、みっともない自分を見せない為の、防御力をアップするしかない。
なつみの防御は笑顔。
何を言われても、平常心を装って、そこにいられるような笑顔。
- 16 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時51分04秒
- もう一度練習しようと思って鏡に向かったけど、
笑おうとして引き上げた口元が、震えてしまう。
目尻は下がるけれど、そこからは涙が流れた。
何でこんなことしなくちゃいけないんだろう。
何でこんなに素直になれないんだろう。
何で裕ちゃんじゃなくちゃいけないんだろう。
嘘にはもう、疲れた。
なつみが欲しいのは快楽なんかじゃない。
その手前にある、好きな人の、そのぬくもり。
失いたくない気持ちも、解放されたい気持ちも、
どっちも本物だけど、もう本当に疲れてしまったの。
鏡に映った、微細区になく自分の顔に、手を伸ばす。
自分は、答えが欲しいのかもしれない。
それがどんな答えでも、はっきりとした事実が、欲しい。
それが例え、別れでも。
- 17 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時53分58秒
ドアを開けると、こもった空気が、中から溢れてくる。
「わ〜、空気の入れ換え、し忘れたせいやわ。」
ぼやきながら靴を脱ぎ、真っ暗なリビングに駆け込むと、
裕ちゃんは真っ先に窓を開けた。
呼吸困難になりそうな気持ち悪い空気を掻き分けて、
スーッと冷たい風が床を滑ってくる。
なつみは後ろから付いて行って、追うように部屋の電気を付けた。
今は自分の家の次くらいによく知っている部屋だから、
部屋の何処に何があるかもう、大体分かる。
裕ちゃんは両手を広げてソファに沈み、冷たい風を全身に浴びている。
なつみは寒く感じて、風を浴びる気にならないから、
そのままバスルームに向かった。
「裕ちゃん。シャワー、先に使っていい?」
「ええよ。」
このところ、会いたくても断られてばかりで、
実はこの部屋に来るのも2週間ぶりだったし、
裕ちゃんから誘ってくれたのなんて、ホントに久し振りだった。
だから今日『話がある』と言われて、ここに来るのが恐かった。
コックを捻ると勢い良くお湯が飛び出す。
冷えてしまった身体に、熱いお湯が気持ちいい。
こうしてここでシャワーを浴びるのは、何回目だろう。
- 18 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時54分30秒
- ちゃんと自分用のシャンプーも、化粧水もある。
100回くらいは浴びたかな、と意味もなく考える。
シャンプーを持ってきた時『別に同じでええやん』って言われたけど、
同じ匂いをさせて仕事に行くのは、何となく抵抗があって、
今でもじぶんのしか使わない。
今はそんなに一緒の仕事なんて滅多にないけど、
周りにばれたら、やっぱり良くないだろうし。
なんて思ってる一方で、自分は別の場所に証拠を残している。
それも、裕ちゃんの身体に。
その事がばれたのだろうか?
いや、だったらメールでも電話でも平気だ。
わざわざ裕ちゃんの部屋で話すような事。きっともっと何かある。
お湯を止めると、自分のため息がバスルームに響いた。
出て行くのが恐い。
答えが欲しいと思っていたのに、いざとなると足が竦む。
でももう、行くしかない。
裕ちゃんの出した、答えを聞きに
- 19 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時55分39秒
シャワーを済ませてリビングに入ると、
シリアス顔の裕ちゃんが、さっきまで全身に冷気を浴びた面影もなく、
ソファーに浅く座り、俯きがちに待っていた。
「まぁ、座って。」
「うん。」
この雰囲気で、いい話じゃない事は、察しが付く。
こんなトーンで愛の告白なんていうのは、まずない。
「私な、なっちに話さなあかんことがあるんや。」
なつみはこっそり深呼吸をした。
覚悟は出来ている。
「…彼氏、出来たんや。」
間が抜けちゃうくらい、分かりやすくて、
なつみ個人の気持ちとしては、あまりにもあっけない答えだった。
予感は見事的中だったってわけで。
付き合い始めたのは最近だけれど、
出会ったのは1ヶ月前だと、丁寧に説明してくれた。
1ヶ月前。裕ちゃんの様子がおかしいと思い始めたのはその直後。
これで綺麗に辻褄が合う。
想像が、一番分かりやすい形で、現実になったという事。
- 20 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時56分27秒
- なつみは何度も練習した作り笑顔で『良かったじゃん』と返す。
多分、上手くできた。
すると裕ちゃんは思った通り、ホッとした表情で『ごめんな』と続けた。
謝る事なんかない。
なつみ達は付き合っていた訳じゃないし、
なつみの気持ちだって知らないんだから、
もちろん揉めるつもりはないし、2度とここへは来ないだけの話。
二股とか出来ない所も、裕ちゃんの良い所で、好きな所だから。
でもせめて今日は、今日だけは朝まで一緒にいられるかな。
最後の望みを浮かべるなつみを切り捨てるように、
裕ちゃんは話が終わると「送っていくよ」とおもむろにキーを掴んだ。
言葉は優しいけど、それは追い出そうとしてる見たいに見える。
いや、実際そういう事なんだろうな。
「いいよ、帰る時は一人で帰る。」
「そやけど、もう遅いやろ。」
そんなび追い出したい?今夜だけでもダメなの?
「あ、そうそう…」
帰りたくなくて、なつみはどうでもいい話を次々引っ張り出した。
そうしてずるずる引き延ばしていると、
裕ちゃんも諦めたのか、キーから手を放してくれた。
- 21 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時56分58秒
- けれど次の瞬間、まるで打ち合わせでもしたみたいに、インターホンが鳴った。
たわいもない話を繰り返していた2人の間に、突然変な緊張が走った。
「誰やねん、こんな時間に。」
裕ちゃんはそう言いながら立ち上がったけれど、
その表情は、出る前から相手が分かっているみたいに見える。
少しの間、裕ちゃんはドアの向こうとやりとりしていて、
最後には申し訳なさそうにこっちを振り返った。
「彼氏なんやけど…ええかな?」
何と言われても、ダメだと言う権利が、なつみにはない。
「約束してたの?」
「いや、来るなって言うといたんやけど。」
なつみは心の中で、やっぱり素直に帰れば良かったと、少し後悔した。
- 22 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時58分00秒
彼氏はいたって普通の人で、嫌な感じはしなかった。
裕ちゃんの様子がおかしいから、
他に彼氏がいるんじゃないかと思って、突然来てしまったそうだ。
多分、ここ数日の自分と同じ気持ちだったんだろう。
そう思うと、嫉妬という感情も強くは湧かなかった。
「今日も来るなって言うから、他の男でもいるんじゃないかと思って…」
「いるわけないやろ。」
裕ちゃんに合わせて、なつみも笑ってみる。
「なっち見て安心した?」
こんな事言わなくても良いのに、捨てられるのに、
何故自分は裕ちゃんを庇っているんだろう。
彼氏は頷きながら、悪戯っぽく「かのじょとなんかあったりして」と笑う。
分かって言ってるのかな?いや、そんなはずはない。
これは冗談だ。笑っていれば大丈夫。
なんてなつみが思っている間に、裕ちゃんは慌てた口調で、
衝撃的な言葉を部屋に響かせた。
「アホッ。あったら気持ち悪いやろ。」
聞き間違いと思いたかった。
- 23 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時58分43秒
- でもそれは、はっきりとなつみの耳に残っている。
『キモチワルイ』
それから後の2人の会話は、まったく聞こえなくなってしまった。
頭の中では、裕ちゃんの言葉がぐるぐると回っている。
キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイ…………………
なつみはふらふらと立ち上がった。
「なっち、帰るね。」
これ以上、ここにはいられない。
もう作り笑いも出来そうにない。
玄関に向かうなつみの後ろを、裕ちゃんが追いかけてくる。
「送っていくよ。」
それさえも痛くて、なつみは振り返りもせず、さっさと靴を履いた。
「あ、なっち。」
腕を掴まれても、顔すら見ずに振り払い、ドアを開けると小走りで飛び出した。
背中に声が聞こえてきたけれど、その声からも逃げたかった。
- 24 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)00時59分35秒
- 方向すら分からず、しばらくの間走っていたけれど、
滲んだ涙で前が見えなくなって、そこでようやく立ち止まった。
でも立ち止まった途端に、汗ではなく涙が溢れ出し、
息を止めても唇を噛んでも止まらなくて、
なつみは膝を抱え、その場に蹲ってしまった。
別れる事は、ずっと渦巻いていた不安の中で、自分なりに覚悟していた。
でも、あんなふうに言われるなんて、考えもしなかった。
『キモチワルイ』はっきりとそう言った。
例え誤魔化す為の勢いで出たとしても、全く思ってなかったら、
そんな言葉は浮かんで来ないはず。
きっと心のどこかに存在していたんだ。
なつみを抱く事が、なつみが気持ち悪いって。
交わした言葉も、抱き締めてくれた腕も、オレンジ色の夕陽さえ、
全部、全部、ニセモノだったの?
なつみの小さな幸せは、唾を吐き捨てられるように、惨めな形で死んでしまった。
気が付くと、背中に冷たいものが広がり始めていた。
- 25 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年03月19日(水)01時00分40秒
- 雨だ。
でもそれは、ドラマのように、強く叩き付けるドラマティックな雨ではなくて、
中途半端な振り方の、なんとも情けない雨だった。
情けない…今の自分にはぴったりだ。
すぐに涙と雨の区別なんてつかなくなってしまった。
本当に最悪な日。
良かった事があるとしたら、それは好きだと言わなかった事。
言っていたら、もっと気持ち悪がられただろう。
もっと傷付いていただろう。
これがせめてもの救い。
嘘も、悪い事ばかりじゃない。
そう思っても、やっぱり涙は止まらなくて、
なつみは随分長い時間、そこから動けないでいた。
- 26 名前:作者 投稿日:2003年03月19日(水)01時08分24秒
- 2度目の更新を致しました。
なんかえらい場面転換が激しくてすみません。
そして裕ちゃんが妙に悪者っぽくなってしまってますが、
そう言うわけではないので…
>10 名無し読者様
一番にレスを下さいましてありがとうございます!
私はなっちが好きで、内面はせつなく!と目標にしているので、
切ないと言って下さると嬉しいです。
>11 名無し読者様
レスありがとうございます。
カップリングはお楽しみに!ということで…。でも、結構行き違いは好きですね。
なっちゅーは最近全然見ないので、
自分で書いていてもなっちゅーいいなぁ、と思っていたりします(苦笑)
>11 名無し読者様
レスありがとうございます。
面白そうと言って下さると書く元気が出てきますね!
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月19日(水)01時17分31秒
- なっち、切ないですねぇ…
切ないのもいいけどやっぱり最後はハッピーになって欲しいですね。
ごっちんがどんな役なのかが楽しみです。
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月23日(日)20時16分32秒
- なっちは切ない感じが多いんで幸せになって欲しいですね。
裕ちゃんが微妙にイヤな奴で・・・優しいんですけどね・・・
続き楽しみです!!
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月31日(月)20時11分21秒
- なっち切ないですなー
ごっちんが助けてあげてほすぃー
- 30 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月05日(土)13時34分47秒
シャワーから戻ってきたなつみは、
濡れた髪をぐしゃぐしゃと拭きながら、ベッドに腰を下ろした。
「もう帰るのか。」
「うん。」
男は横たわったままで、少し不服そうに呟く。
なつみはいつの間にか誰とでも寝られるようになっていた。
ホテルのシャンプーの匂いも、気にならなくなる程、こんな事を繰り返している。
「分かってないなぁ。」
男はため息混じりに呟くと、ゆっくりと半身を起こし、
まだ水分の残るなつみの肌に手を伸ばす。
肩を抱かれ、唇を塞がれる。
あぁ、せっかく歯を磨いたのにと思い、喉の奥でため息を吐く。
拒むのが面倒なだけで、別にそうしたい訳じゃない。
だから、ベッドに再び引き戻そうとする腕に気付いて、力一杯押し戻した。
「今日は帰るから。」
「なんで。」
「約束してるから」
「こんな時間に?」
「なっちにだって待っててくれる人くらいいるんですっ。」
- 31 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月05日(土)13時35分36秒
- なつみはドライヤーで髪を乾かし、
手早く服を着るとベッドには寄らず、さっさとドアに向かう。
すると背中で次はいつ会えるかなんて、呑気な声が聞こえた。
「そのうちにね。」
ドアを開け部屋を出て、今度は吐き出すように小さくため息を吐く。
分かってる。
こんな事をすればする程、思い出すばっかりだって。
でももう、自分ではどうする事も出来ない。
…いや違う。
誰かが助けてくれるのを、手を差し伸べてくれるのを、
待っていたのかもしれない。
そう思ったのは、それから1時間後の事だった。
- 32 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月05日(土)13時38分13秒
初めてではないけど、あまり来た事のないこの部屋は、
思ったよりもすっきりしていて、
ちょっと覚えのある匂いがした。香水の香りだろうか。
「…そのさ、して来たの?」
ベッドに腰掛けてるなつみに、冷たいマグを渡し、
ごっちんは控えめな声で言った。
「珍しいね、ごっちんがそういうふうにさ、聞くの。」
渡されたマグを覗くと、お茶が入っている。
マグでお茶?と思ったけれど、黙って口に運ぶ。
まだ少し火照った体に、冷たいお茶は美味しい。
「ごめん。」
ごっちんは謝りながら、なつみの横に腰を下ろし、俯いた。
待ち人とは、彼女の事だった。
何時になるか分からないと突き放したのに、
来るまで起きてると答えるから、さすがにそれ以上は言えなくて、
早々に切り上げてここにやってきたのだ。
「別にいいよ。ホントの事だし。」
「なんで?前はそんなん絶対にダメ言ってたじゃん。何で?」
- 33 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月05日(土)13時39分24秒
- 何もない。あんな事があったのに、何もないの。
なつみはどう答えて良いのか思い付かなくて、
視線を落としたまま黙り込んでしまった。
自暴自棄になっている訳じゃない。ただ忘れたかった。
自分を抱いた、あの心地良い空気を、あの腕を、肌の匂いを、
そしてあの言葉を…。
あの夜の事を全部忘れてしまいたくて、
気付いたら誰にでも身体を預けるようになっていた。
それだけのこと。
でも言葉でその気持ちを説明するのは難しい。
「…別にごっちんには関係ないべさ…。」
こういう言葉はすぐに出てくるのに、大事な事は何も言えてない。
「そうかもしんないけど、後藤は見ててツライ。」
「じゃあ、何かしてくれるっていうわけ?」
ごっちんに食ってかかるのは間違っている。
でも裕ちゃんを忘れる方法があるなら、教えて欲しい。
すると少し間があってから、ごっちんはあの大きな目で真っ直ぐになつみを見て、
真面目な顔でおかしな事を言い出した。
「…いろんな奴の所に行くのも、1人とず〜っと一緒にいるのも同じ?」
「そりゃそうだけど…」
「だったらさ、後藤じゃダメかな。」
「…はぁ?どういう意味か分かって言ってるべか?」
「分かってる。」
- 34 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月05日(土)13時41分27秒
- そんなこと突然言われても、どう受け取ったらいいのか。
真顔で返事を待っているごっちんに、なつみはちょっと身を乗り出して、
確認するように問い返した。
「自分で何しようとしてるか分かってる?分かってないべさ。」
「分かってるって。」
「なっち、ごっちんが付き合った事のある男の子みたいに格好良くないよ?」
その前に女だし。
「そんなこと望んでないよ。」
答えるごっちんは、さっきの表情とは変わって、
はにかむみたいに小さく笑った。
「色々考えたんだけど、後藤が出来るのってそれくらいだし。」
どんな思考回路してるんだろう。どこからどう考えたらそうなるの。
勇気があるのか、お人好しなのか、それとも…。
「けど、何か想像つかないべさ。ごっちんとそういうの。」
正直、戸惑っていた。
自分を助けようとしてくれる気持ちは嬉しい。
嬉しいけど、メンバーとそんなことをするのは…。
裕ちゃんは好きだったからともかく、
好きでもないのに関係を持つなんて、良くない。
考え込んでいると、ごっちんの手が伸びてきて頬を包み、
なつみの顔を自分の方に向かせた。
- 35 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月05日(土)13時43分13秒
- 「してみる?」
「今?」
だから、本当に分かってるのかな?
ごっちんもごっちんだけど、良くないと分かっているのに、
自分も何故きっぱり断らないんだろう。
「試しにさ。」
「試しって…。」
顔が近づいてくるのが恥ずかしくて、なつみは笑って首を竦める。
照れ臭いのと、やっぱり良くないという気持ちがそうさせた。
ごっちんも笑ったけれど、手にはさっきより力が入って、
そのまま引き寄せられ、唇が重なった。
優しい空気で、結構強引な事をする子だ。
でもそれ以上抵抗する気は起きなくて、
口の中に入り込んできた舌に、自分のそれを絡ませた。
それは初めてとは思えないほど、自然に溶け合って心地良かった…って、
そう思っているのは自分だけなのかな。
なつみはここでもまた不安になって、ゆっくりと唇を離した。
- 36 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月05日(土)13時44分02秒
- 「…気持ち、悪くない?」
おそるおそる問いかけると、ごっちんは表情を変えないまま、
静かになつみを抱き寄せて言った。
「全然。」
当たり前のように答えるごっちんの声に、
小さなカタマリが溶けていくような気がした。
その肩に、額をコツンと当てる。
そこから伝わる温もりは優しかった。
今日はきっと、ゆっくり眠れる。
もしかしたら、明日も、明後日も。
- 37 名前:作者 投稿日:2003年04月05日(土)13時55分40秒
- 3回目の更新です。
って、めっちゃ少ないですが…。
なっちをなんかケガした感じで自分でもちょっとイタイと思ってます…。
そしてやっとごっちん登場です。良かった。
2回目の更新後「まだ出てきてない!」と焦ったんで(苦笑)
カキコ&読んで頂いてありがとうございます。
>27 名無し読者様
やっとごっちん登場です(汗)
密かに期待して下さっていたなちごま風味です…(笑)
>28 名無し読者様
ま、まだなっち切ないかも?
裕ちゃんは今のままでは私も「ちょっと…」と思ってしまいますが、
あとでフォローするので!!
>29 名無し読者様
なんとなくごっちんが助けた?てな感じになってます。
なっちを救え!みたいな感じです。
近いうちに更新します。
ていうか明日辺りまたする予定です。
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月05日(土)23時20分19秒
- なっちが切ないです、ごっちんに救われるんでしょうか?
裕ちゃん・なっち・ごっちんの3人がどう絡んでくるか楽しみです!!
更新たのしみにしてます。
- 39 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時37分41秒
楽屋という場所もしばらくは辛かった。
別れて1週間くらいは、ロケで一緒になってもろくに口もきかなかった。
正確にはきけなかった。
裕ちゃんも同じだったと思う。
どんなに会いたくないと思っても、上手く笑えなくても、
仕事で顔を合わせなくちゃいけない。
だから一緒の仕事の時は、わざとギリギリに楽屋入りした事もあった。
そんなことしたら逆に目立ってしまうのに、あの時はそれすら考えられなかった。
「なっち。」
鏡の前に座っていたなつみの隣に、裕ちゃんが腰を下ろす。
今はもう大丈夫。
「終わったら、一緒に御飯食べに行かへん?」
目が合うと、そりゃ少しは胸がぎゅってなるけど放す事自体は、もう辛くない。
「あ〜、ごめんね。先約があるの。」
「…そっか。じゃぁまた今度な。」
でも嘘をついた。
ホントは約束なんかない。
今まで同じ嘘を何回使っただろう。
「うん、ごめんね。」
- 40 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時38分33秒
- 腰を上げる裕ちゃんに、
そう言って笑う事だって出来るようになったのに、嘘は続いていく。
会う事も話す事も平気だけど、2人きりになるのは、まだダメな気がして、
いつもいつも同じように断ってしまう。
いつまでこうして断り続けていられるだろうか。
きっと裕ちゃんだって、本当に用事があるなんて、信じてはいないだろう。
逃げだっていうのは、自分が一番良く分かっている。
でも2人きりで向かい合うのは、やっぱり恐かった。
あの日は結局家にも帰らず、見たこともない所まで、ふらふらと歩いていた。
頭がぐちゃぐちゃになって、それから空っぽになって、
でも身体が乾いてしまうんじゃないかってくらい、涙が流れた。
あの時の気持ちは、言葉では表せないけど、多分一生忘れない。
「ほら、スタジオ行くよ。」
圭ちゃんに声を掛けられて、ハッと我に返る。
慌てて立ち上がり、楽屋を出て行くみんなの背中を追った。
小走りで追いついたものの、
裕ちゃんの背中を見つけて、何故か歩調を縮めてしまう。
- 41 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時39分18秒
- もちろん、1度も裕ちゃんとあの話はしていない。
1度だけ、ロケで2人きりになったとき、
裕ちゃんがあの夜の話をしようとした事があった。
ちゃんと聞けば良かったんだろうけど、なつみは何故か慌てて遮ったんだ。
どうしてかは、自分でもよく分からない。
裕ちゃんの気持ちを聞くのが恐かったのかもしれない。
またあんな惨めな思いをするくらいなら、
すべて無くしたままの方が、良いように思えたのかもしれない。
なつみは斜め前にごっちんを見つけて、彼女のシャツの袖をくいくいっと引っ張る。
振り向いた彼女に「今日、行ってもいい?」と耳打ちすると、笑って頷いてくれた。
また甘えてる。
こんな自分は、きっと最低だと思う。
でも他に、この真っ暗な心を支える方法が、良い方法が見当たらない。
ごめんね。
- 42 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時41分04秒
ごっちんの腕は、なんだか不思議な温かさがあった。
気を抜くとまるっきり甘えてしまいそうで、危険。
とか思いながら、またこうして今日も、
ごっちんの匂いのする狭いベッドに潜り込んでいる。
1人で寝る分には充分なのだけれど、2人で寝るには狭いよ、絶対。
「ベッド、狭くない?寝返り打ったら落ちちゃいそう。」
離れようと思ったら落ちそうになるから、自然と身体をくっつける事になってしまう。
暑い日だったらきっとこんな風にくっついたまま話なんか出来ないと思う。
「普通のシングルなんて、こんなもんだよ。」
確かに、ベッドなんて2人で寝る予定でもない限り、シングルを買うのが普通だ。
なつみはまた、裕ちゃんを基準に考えている。
あのベッドは落ちそうになったりしなかったって…。
なつみはあの部屋を思い出さないように、急いで会話を繋げた。
「じゃぁ、買い替えとか…しないか。」
「替えるんだったらさ、なっち買ってきて。」
「え〜、やだべさ。ごっちん家だべ。ごっちんが買い替えしなきゃ。」
「後藤は不満ないから。」
- 43 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時41分58秒
- 冗談言い合っていてもしょうがないので、なつみは腕枕をリクエストしながら、
ついでにずっと気になっていた事を聞いてみた。
「ごっちんはさ〜、なんでこんな事思い付いたの?」
そういえば、裕ちゃんにもこんな事を聞いた気がする。
「こんなことって?」
「あ、エッチとかじゃなくて、なんでなっちにここまでしてくれるの?って事だべさ。」
本当はなんとなく、分かっている。
最初のキスから感じていた。
言葉も、表情も、やっぱり全然読めないけど、唇はちゃんと語ってくれた。
でもこれも、ただの自意識過剰かもしれないし、確かめたかった。
なんでも最初にハッキリしていた方が、気がラクだった。
でも彼女は、無難な回答しか口にしない。
「あんまり変な噂流れたらヤバイし。誰でもいいなら後藤でもいいのかなって。」
つまらない答え。
それともそれが本心なのかな?だったら相当なお節介。
「お節介だべさ。」
これ以上聞いても何も出てこなさそうだから、軽く茶化すと、
横から伸びてきた腕に腰を引き寄せられてしまった。
そんなにくっついていたら、またしたくなっちゃうよ、とか思っているなつみをよそに、
普通の顔で切り返してくる。
「なっちは何で?」
- 44 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時43分47秒
- それは何でこんな事をしているのかってこと?
それともなんでごっちんに身体を預けたのかってこと?
どっちも話しづらい。
質問をはぐらかしたくて、何かネタはないかと、辺りをキョロキョロ見回していると、
答えないなつみの目の前に、さっきまで腰にあったごっちんの手が翳され、
泳いでいた視線を、視界ごと塞がれた。
「なんだべさっ!」
「何処見てるの?」
目の前に翳された手を掴んで、ふと思う。
「ごっちんさ、今まで何人くらいとエッチした?」
「…はぁ?」
はぐらかすと言うよりも、ホントにちょっと興味があった。
だって、女の子は初めてだって言ってたくせに、
普通に上手いし、この指は慣れてる感じがする。
「相手につくす系のエッチしてたの?」
なつみはごっちんの長い指をぐいぐい引っ張った。
そのくらい聞いても良いよね、この指にやられっぱなしなんだから。
「あのねぇ…。」
伏し目がちに口籠もっているごっちんをよーく見ると、
電気を付けなくても分かるくらい、真っ赤になっていた。
もちろん、耳まで。
- 45 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時45分29秒
- 「あ〜、赤くなってるべさ!」
そう言いながら突っ込むと、
ごっちんはなつみが掴んでいた手を、焦りながら引っ込めた。
その顔は、珍しくあどけない感じがして、かなり可愛かった。
「後藤の事はいいの、なっちの事!」
せっかく上手く話が逸れたのに、また戻されてしまう。
「う〜ん。なっちはねぇ、それなりにしたよ。えっと、いち、にぃさん…」
指を折って数え始めると、慌ててごっちんは数えるなつみの指を握った。
「人数は良いから。」
人数ならいくらでも答えられるけど、裕ちゃんの事は話すべきか、やっぱり迷う。
なつみは曖昧に笑いながら、天井に視線を逃がした。
ごっちんに握られている指から、体温が上がってくる。
ごっちんに話したら、誰かに聞いてもらったら、この黒く霧のかかった胸も、
少しはラクになるのかな。
何故だろう。状況が変わるわけでもないのに、
なつみは急にそんな気持ちになって、天井を見上げたまま、
思い切って口を開いた。
- 46 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時46分47秒
- 「なっちね、忘れたい事があって…思い出すと辛くて、
けどどうしたら忘れられるのか分かんなくて…。」
ごっちんは何も言わない。
深く質問もしないで、ただなつみの話す事だけを、黙って聞いている。
だからなつみもそのまま続けた。
「だからね、消したかったんだべさ。匂いも声も感触も、五感が覚えてる事全部。」
あの夜の気持ちは忘れられなくても、感触は消せる気がした。
だから色んな人と肌を重ねた。
でも、まだ全然残っている。
と、その後、ごっちんがポツリと付け足した。
「けど、消えなかった。」
なつみは頷いた。
そんな事の為に、自分はここにいる。
その残っている記憶を、ごっちんで消そうとしている。
- 47 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月06日(日)20時47分22秒
- こんなくだらない事を繰り返していると知っても、
ごっちんは自分を受け入れ続けてくれるのかな?
イヤだったらそれでいい。今夜で終わりにしよう。
多分、その方が良い。ごっちんを巻き込んでいるのは、決していい事じゃないんだから。
なのにごっちんは、こっちが思いもよらない言葉を呟いた。
「消したいね、全部。」
驚いて横を向くと、真面目な顔のごっちんと目が合った。
「消していこうよ。ちょっとずつでもさ。」
誓うようにそう言うと、ゆっくりと、きつくなつみを抱き締めた。
「うん…。」
ここはあたたかい。
ごっちんとなら、消せるかもしれない。
理由なんかないけど、その時なつみは漠然とそう思った。
- 48 名前:作者 投稿日:2003年04月06日(日)20時53分44秒
- 4回目の更新終了です。
なんだか、なっちの性格が荒っぽい…というか、
心の中で思っている事が口が悪い感じでちょっぴり後悔。
>38 名無し読者様
ごっちんが救っていく感じになってるでしょうか(ちょっと不安)
ごっちんと裕ちゃんの関係がどういう感じになるかはもうしばらく先ですが、
是非是非読んで下さると嬉しいです。
次の更新は明日or明後日の予定です。
やれるうちはバンバンと更新しないと!!
- 49 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月06日(日)21時58分05秒
- 楽しみにしてますー。(^^)
- 50 名前:ろくた 投稿日:2003年04月07日(月)17時09分23秒
- 初めまして作者さま。
ごっちんのシャツの袖をくいくい引っ張るなっちが可愛くて良いですね〜。
このままごっちんがなっちの「救い」になってくれたら良いなぁと思います。
そんな訳で、これからの展開がすっごく楽しみです。
更新がんばって下さいね!
- 51 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)22時38分06秒
- おもしろい
- 52 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月10日(木)00時10分49秒
まだ冬だというのに、今日は異常に暑い。
春を通り越して夏が来てしまったみたいだ。
そしてこの暑い日に、よりによってロケなんて、ちょっとついてない。
今日の相方は矢口。
あまりの暑さに耐えきれず、ロケバスの中でぐったりしていた。
一番後ろのシートに座り、台本で風を扇ぐ。
矢口はひとつ前の席に腰を下ろしていた。
身体を沈めて座るから、そうでなくても小さいのに、沈んだら頭すら見えなくなる。
いたずらをしようと思って、矢口の座っているシートの背から覗き込むと、
彼女は振り向きもせずに突然こんな事を言った。
「なっち、またごっちんの家に行ったの?」
なつみが驚かそうとしたのに、
いきなりドキッとするような事を言われて、こっちが驚いてしまった。
「えっ、なんで。」
ぼんやりしていた脳味噌も、一気にフル回転。
「なんか、ごっちんの香水の匂いがするから。」
「ホント?!」
なつみ自身も香水を付けているから、匂いなんてしないと思ったんだけど。
でも、くんくん嗅いでみると、うっすら匂いがしないでもない。
- 53 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月10日(木)00時12分26秒
- 「なに、矢口ってば、いつからそんなに敏感になったんだべさ〜。」
「別に。最近仲良いから、そうかと思っただけだよ。」
なにか含んだようなその言い方は、ちょっとだけ不機嫌そうにも聞こえる。
全然こっちを向こうとしないし。
なつみは隣の席に移動して、下から矢口の顔を覗き込んだ。
「なになになに?やきもち妬いてるんだべか?ねぇ。」
「誰が妬くんだよ、バ〜カ!」
「またまた〜、仲間に入りたいんでしょ。」
イヤそうに顔を背けるけど、大丈夫。口が笑ってるもん。
それでもしつこく覗き込むと、勢いなのか、最初からそれを言うつもりだったのか、
矢口は意外な事を口にした。
「そんな事より、裕子と仲直りしたのかよ〜。」
「…なに、それ?」
なつみの動きが止まると、そこで矢口はようやくこっちをちらっと見た。
逆に、今見られても困る。
「べ、別にケンカとかしてないもん。仲直りとかそんなのないよ。」
会ってないしね。
- 54 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月10日(木)00時13分08秒
- 幸いにも、最近裕ちゃんと一緒の仕事はなく、
つまり裕ちゃんと2人にならなくて済む、という事だった。
でも、しばらくすればまた一緒の仕事が戻ってくる。
その時までには、もっと強くならなくちゃいけない。
逃げないで、あの夜の事も向き合って話せるくらいに。
「ふ〜ん…。ならいいけどさ。話くらい、聞いてあげなよ。」
矢口に言われると、それも出来るような、すごく簡単な気がしてくる。
実際会うと出来ない事だとしても。
…なんて、矢口には言わないけど。
「うわ、何でそんなエラソ〜なんだべさ。矢口のくせに〜。」
「なっち達がバカだから、矢口が教えてあげてんの!」
「バカってなんだべさ!矢口さっき台本の感じ読み間違えてたじゃん。」
「矢口のはアレで合ってるんです〜!」
「意味分かんない。なにそれ〜。」
矢口はいつもと変わらない。
- 55 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月10日(木)00時13分56秒
- でも何か聞いたから、こんな話をしてきたんだ。裕ちゃんから、聞いたから。
裕ちゃんはどこまで話したんだろう。
もし矢口が2人の関係の事まで聞いていたとしても、
なつみの本当の気持ちまでは知らないよね。
だって、裕ちゃんも知らないんだから。
知っていたら、矢口はどうするんだろう。
きっと、なにもしないな。して欲しくないし。
『消したいね、全部。』
ごっちんとは、妙な事になっちゃったけど、それはそれで後悔しているとかじゃなくて、
矢口には知らないままで接して欲しい。
思い感情とか、全部なしで。
だからずっと言わない。
矢口とだけは、いつもこうして楽しくいたい。
重いものは、ごっちんが一緒に背負ってくれるから。
- 56 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月10日(木)00時14分27秒
自然に目が冷めた、休日の朝。
濃いグレーの雲が敷き詰められた、空の色。
太陽の破片も見せてはくれない。
何故だろう。休みの日に限って早くに目が覚めてしまうと、損をした気分になる。
でも、寝過ぎて夕方になっても、もったいないって思ってたっけ。
ああ、また思い出している、最悪。
隣を見ると、ごっちんが口を半開きにして、気持ちよさそうに寝息を立てている。
自分を抱いている時とは別人だなぁ、と思いながら、しばし眺めた。
色々思い出してしまっても、ごっちんといると平気だった。
理由なんかないけど、前みたいに辛くて眠れないとか、そういうのはなくなった。
仕事で毎日のように一緒にいて、そんなのもうずっと前からなのに、
自分はごっちんの事をあんまり知らなかったんだな、と改めて思う。
知らなかった、というか、もともと何考えてるか分からない時が多々ある子だから、
彼女が見せない部分って結構たくさんあって、
2人でいると、時々本気でドキンとさせられる。
でもそれが嬉しかったりもした。
知るたびに嬉しいというのは、不思議な感覚だったけど、
抱かれる為に来るんじゃなくて、高まる気持ちに正直ここに来るのは楽しい。
- 57 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月10日(木)00時16分02秒
- その所為か、最近家に帰るよりも、ここで朝を迎える事の方が多くなっている。
と、矢口の言葉を思い出した。
少し伸びすぎた自分の髪を、数本摘んでくんくんと鼻をきかせている。
それからごっちんの頭に顔を近付けて、嗅いでみる。
当たり前だけど、同じ匂い。
矢口の言っていた、香水の香りではないけれど。
シャンプー、買ってきた方が良いかな。
もう1度鼻を近付けてくんくんすると、
ごっちんが小さくう〜んと唸って、開かない瞼を擦り始めた。
起こしちゃったかな。
うつ伏せになったごっちんに声を掛けようと、口を開き掛けた時だった。
窓の外で木の葉を叩くような音がして、目をやると、今度はその音が窓に落ち始めていた。
「雨、降ってきた。」
呟くと、唸っているのか返事をしているのか、ごっちんは「ん〜」と声を出した。
静かに、でも一気に雨の音が響き始める。
あの日も、こんな雨だった気がする。
その記憶を消したくて、それでここに来たって事を、なつみはいつしか忘れていた。
そう、忘れていたのに。
嫌な雨だ。
- 58 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月10日(木)00時19分33秒
- 「…雨ってあんまり好きじゃない。」
なつみの声に、ごっちんが眠そうに顔を上げる。
「なんで?」
「物悲しい感じがするの。心の中まで寒くなる気がしない?」
寒くなる事ばかり、思い出させる。
ごっちんは改めて窓の外に目をやると、その意味に気付いているのか、とても寂しそうに呟いた。
「…かもね。」
なつみ達はしばらく、何もない窓の外を見ていた。
グレーの雲から、どこか規則的に落ちてくる水の粒は、見れば見る程、哀しくさせる。
なんだか身震いすらしてしまう。
「寒い。」
なつみはもぞもぞと毛布の中に潜り込んだ。
寒かったし、もう雨の音を聞きたくなかった。
するとごっちんも同じように潜ってきて、
少し鳥肌気味のなつみの身体を抱き寄せ、ゆっくりと包んでくれた。
それだけで、もう雨の音は耳から消えていた。
- 59 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月10日(木)00時20分04秒
- ごっちんの腕は優しい。
毛布なんかよりずっと暖かくて、思わず頬を寄せる。
「あったかい。」
「ん。」
人の肌って、なんでこんなに暖かいんだろう。
だからこうして求めてしまうのかもしれない。
重なる肌から体温がゆっくり伝わる。
同じように、ココロも一緒にじわじわと暖まってくるのを、この部屋に来るたび感じていた。
だからつい甘えてしまう。
これも、永遠ではないと分かっていながら。
- 60 名前:作者 投稿日:2003年04月10日(木)00時27分46秒
- 5回目の更新です。
更新する、と言った日より遅くなってしまってすみません。
しかも大した量を更新出来ず…。
今回は本当に裕ちゃん非道い人すぎですよね…。
裕ちゃんファンの方、申し訳ないです。
あとでちゃんと挽回したいと思うので!!
カキコ&読んで頂いてありがとうございます!
感謝・感謝です。
>49 名無し読者様
楽しみにして頂いていたのに更新が遅れてすみません…。
少しでも楽しんで頂ければ、と思ってます!(切実に)
>50 ろくた様
基本的になっちファンなので、なっちは可愛く!とか思って書いています。
なっちはだんだんごっちんとの距離を縮めてますね。
私も書きながら「なっち幸せになって!」と思って書いてます(w
>51 名無し読者様
面白いなんて言って頂けると嬉しいです!
頑張る源っていうか…ありがとうございます!!
次回更新は明日します!
これは守らなければ…。
次回以降はちょっと忙しくなるので週1更新くらいになると思いますが、
読んでやって頂けると嬉しいです。
- 61 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月10日(木)00時35分53秒
- 毎回の更新、ヒジョーに楽しみにしています。
おもしろいです。最高です。
なちごま。大好きなので、
この二人の幸せココロから祈っています。
- 62 名前:ろくた 投稿日:2003年04月10日(木)19時45分45秒
- なっちのココロがごっちんによってちょっとずつ温度を取り戻していく描写が大好きです。
私もなっちファン&なちごまスキーなので、二人が今後どうなっていくのか、すごい気になりますね〜。
あと、矢口さんがどんな風に絡んでくるのか?とか、裕ちゃんの事情とか…気になる気になる(w。
ホント今後も目がはなせませんね!
更新の方は、作者さまのペースでゆっくりとやって下さいね。
まったりとお待ちしておりますので〜。
- 63 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月10日(木)23時10分40秒
- すごい面白いです。
なっちにごっちん、幸せになってくれると嬉しいです。
あと、裕ちゃんも。
- 64 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時19分02秒
- ツイているのかいないのか、裕ちゃんと一緒の仕事がまた出てきたけれど
2人きりの撮影はなくて、それをいい事に、
なつみは相変わらず2人になるのを避けていた。
けれど、なつみが避ければ避ける分だけ、事あるごとに裕ちゃんが話しかけてくる。
まぁ、みんなもいる時だから別に良いんだけど。
今も、楽屋の隅で軽くストレッチしていたら「どうした」とか言って寄って来た。
仕方がないから曖昧に答える。
「なんか腰痛いんだよね。」
ごっちんのベッドが狭くて堅いからだと、なつみは思っている。
「どっかで捻った?」
「全然。」
だってベッドの所為だもん。
じゃあ、来るなとか言われそうだけど…あ、ごっちんは言わないか。
それじゃまるで矢口みたい。
「やりすぎなんやあらへん?」
ふいに響いたその言葉に、ドキンとして裕ちゃんの顔を見た。
笑っているけれど、あまり冗談に聞こえない。
- 65 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時19分46秒
- 「相手する方も大変やな。」
何か知っている?そう聞きたくなるような口調だった。
知らないなら逆に、別れた相手に、そんなもの好きみたいな言い方をするのは非道い。
なつみは思わず、楽屋だという事を忘れて、大きな声を出してしまった。
「そんなのいないべ。裕ちゃんと一緒にしないで!」
咄嗟に出た自分の声に、それから言葉に自分で驚いた。
どうして嘘なんかついてしまうんだろう。
裕ちゃんを前にすると、嘘ばかりが増えていく。
さらに、自分で振っておいて、驚いた顔で見ている裕ちゃんに、
なつみは次のリアクションに困ってしまった。
「そ〜なん?」
ホントはいる、すぐそこに。
でも、言えなかった。
「う、うん…」
背後に気配を感じ振り向くと、少し離れた所に腰を下ろしているごっちんと目が合った。
ごっちんの目は少し哀しげで、でも何も言わずになつみから視線を外した。
別に付き合っている訳じゃないのに、身体中が後ろめたい気分でいっぱいになった。
忘れたいと思いながら、こうしてウソをついてしまうのは、
心の何処かで、まだ期待している自分がいる証拠。
その事に気付いてしまったから。
その日は最後まで、ごっちんの言葉を交わす事はなかった。
- 66 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時20分34秒
この数日、ずっとずっとごっちんの事を考えた。
あの1件からまともに言葉を交わしていない。
カメラが回っていないと、さりげなく避けられている気がして、
いつも通りに言葉を掛けづらい。
何度かメールしようと思った。
でもなんか、活字じゃ上手く謝れなくて、削除して、また書いて、削除して…その繰り返し。
今日はせっかく一緒のオフなのに。
顔を上げれば、外はめちゃめちゃ良い天気で、さっきも散歩してきたばかりだ。
けれど綺麗な空の下を歩いているのに、視線を外した時のごっちんの顔が瞼に張り付いて、
ちっとも良い気分になんてなれなかった。
そもそも「謝る」って事自体、なにか違う気がする。
でもどうしたらいいのか分からなくて、このままじゃいけない事だけは確かで、
なつみはまた携帯を握っている。
会いたい。
ちゃんと会って、顔を見て話がしたい。
なつみは思い切って、ごっちんの携帯を鳴らした。
呼び出し音が鳴る。1回、2回、3回。
…5回鳴らして出なかったら切ろう、そう思った時、音が止まった。
- 67 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時21分07秒
- 「なに?」
その声で頭が真っ白になる。
どう話したら良いんだろう。何か言わなくちゃ、何か…。
「別に、どうもしないんだけどね。」
いつもこうだ、なつみは。
「なら切るよ?」
そうじゃない、とにかく会わないと。
なつみは慌てて声のボリュームを上げた。
「待って!…えっと、今日って何か用事ある?」
「う〜ん、天気良いし、ちょっと遠くにでも行こうかなって。」
いつも家にいると思っているなつみの考えは甘かったみたいだ。
「…そう。じゃあいいや。」
いいやと呟きながら、ごっちんの声を待ってみる。
だって、電話の向こうで切ろうとする気配がしなかったから。
そして短い沈黙の後、ごっちんはぼそっと言ってくれた。
「一緒に行く?」
- 68 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時22分31秒
バスから降りて、赤くなり始めた木々を小走りで掻き分けていくと、
青く広がる芝生の中に出た。
立ち止まって、大きく息を吸い込む。
「わ〜、すっごい緑の匂いがするべさ。」
3月になって、緑が茂り始めたこの公園で、なつみはやっと青空を気持ちいいと思っていた。
見渡すと、ず〜っとず〜っと続く芝生の向こうに、小高い丘が見える。
その辺りの木は、なお一層緑を濃くしていて綺麗だった。
後ろからのんびりごっちんが歩いてくる音がする。
緑の木々と芝生、青い空とちょっとだけ浮いている雲も、
さっき散歩した時とそんなに変わらないのに、
見るものがみんな、気持ちいい。
ごっちんが誘ってくれたから?そうだとしたら、自分はホントに単純な頭をしている。
と、シャッターを切る音がして、振り向いた。
ごっちんはバスの中で綺麗な風景の写真が撮りたいの、って言っていた。
確かに春先の綺麗な風景は、写真に納めておきたくなる。
でも、なつみなんか撮ってどうするんだって思う。
カメラが邪魔で、ごっちんがどんな顔をしているか分からないけれど、
取りあえずおどけてみせる。
「目線は良いから、普通にしてて、普通に。」
「え〜、ムリだよ、そんなの。」
- 69 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時23分19秒
- 電車の中でもバスの中でも、肝心な事はなにも話さなかった。
いつもみたいに挨拶して、いつもみたいにくだらない話をして、ここまで来た。
全面的になつみが悪いのに、多分嫌な思いさせているのに、
なにも聞いてこないのは優しさだろうか。
それとも、見放されてしまったのだろうか。
「ねぇ。」
何やら遠くにカメラを向けているごっちんの横顔に、声を掛けてみる。
ごっちんはそのままの姿勢で生返事をして、
こっちを向こうとしないから、なつみは勝手に話し始めた。
「なんでさ、なんにも聞かないの?」
「なにを。」
「なにって…、裕ちゃんにウソ付いた事とかさ。」
とかって、それしかないんだけど。
ごっちんはゆっくりとカメラを下ろし、でもやっぱりこっちは向かないままで答えた。
「聞いたら、なんて答えるの?」
「えっ?」
「なっちを困らせても、別にいい事ないしね。」
返す言葉がなかった。
ただ、胸が痛くなった。
「…ありがとう。」
どんな表情をして、そんなおっきな事を言うんだろうって、すごい思ったけれど、
回り込んで顔を見たりはしなかった。
きっとなつみは今、めちゃめちゃ情けない顔をしているから、見られたくない。
- 70 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時24分09秒
- 「なっち、あっちの方行ってくる。」
適当に遠くを指さしてみる。
あっちって、何処だか分からないけれど、取りあえずこの場を離れようと思った。
「ん。」
んって、振り向かないでどっちだか分かるの?…いいけどさ。
なつみは芝生を踏みしめながら、思い付きで視界にあった小高い丘に向かった。
けれど、歩くけど歩けど、なかなか辿り着かない。
「近いと思ったのにな。」
近そうに見えて縮まらない距離に、なつみはクスッと笑った。
それって自分とごっちんみたいだ。
ごっちんは色んな顔を見せてくれたけれど、本当の気持ちは言ってくれない。
もしかしたら、全部なつみの勝手な妄想で、
ただの自意識過剰なんじゃないかって、ちょっと不安になる。
- 71 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時24分46秒
- たいていの人は、愛されている事で安心を得て、
愛されてないかもしれないと思うと不安になる。
人間は我が侭だ。愛した以上に愛して欲しい。
なつみは、ごっちんに愛されたいのだろうか。
でもあんなおっきな愛に、それ以上の愛なんて返せる自信がない。
ようやく到着した小さな丘は、腰の高さ程の木の柵で覆われていた。
なつみはその柵に肘をついて、眼下に見える丘の向こうを見渡した。
ここは思ったよりも景色が良くて、林と、その向こうに住宅も見える。
もう夕方を回っていて、空ではもう陽が傾こうとしていて、
こうして見ている間にもその景色はちょっとずつ色を付けていく。
見るでもなく空に視線を泳がせながら、ふと裕ちゃんの部屋で見た夕陽を思い出した。
あの時は、すごく、幸せだったのに。
違う。幸せだったから思い出すと辛くなるんだ。
『好き』って言えば、何か変わっていただろうか。
あんなに傷付いたと思っていたのに、まだ期待している自分がショックだった。
何処で間違ったんだろう。
どうしてこんなに未練がましいんだろう。
- 72 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時25分25秒
- 「なっち。」
ごっちんの声で、なつみはやっと我に返った。
随分長い時間ぼんやりしていたらしい。
いつの間にか、視界はすっかりオレンジ色に変わっていた。
いつか見た、あのオレンジ色。
それを振り切るように、足音に向かって出来るだけ笑顔で振り返る。
「もう陽が落ちてきた。まだ早いね。」
「ちょっと肌寒いしね。」
言いながらなつみの隣に立って、夕陽に向かってファインダーを覗く。
そんなごっちんを見ながら、なつみは考え直した。
自分が未練がましい性格だったから、こうして今、ごっちんが隣にいてくれる。
すっきり忘れていたら、今頃なつみはきっと独りだ。
ごっちんはなにも聞かないで、ただ傍にいてくれる。
それはきっと、なつみにとってとても価値のある事だから、
今は今で幸せなのかもしれない。
「綺麗だね。」
カメラを下ろして眺めているごっちんの横顔にも、夕陽は広がっていて、
手を翳すとなつみの手も夕陽に包まれていく。
「何かこうさ…包まれてる感じしない?」
「あ〜、するねぇ。」
思わず『ごっちんみたい』と言いそうになって、飲み込んだ。
こんなクサイ台詞、恥ずかしいにも程がある。
今時、少女マンガでもお目にかからないだろう。
- 73 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月11日(金)00時25分58秒
- なつみは自分の考えている事に真っ赤になりながら、平静を保つ為、話を別の方に振った。
「来月さ、コンサの後にちょっと長いオフがあるっしょ。どうするか決めた?」
5日間だけど、すごい久々の長い連休なのだ。
「なっちは?」
「まだなんにも決めてない。とか言ってると当日になっちゃうんだよね。」
そう答えると、ごっちんは夕暮れに背を向けるように柵に腰掛け、なつみに言った。
「…一緒に、どっか行こうか。」
一瞬、聞き間違いかと思った。
「ホント?」
「うん、ホント。」
そんな答え、想像もしていなかった。
一緒に、なんて。
「外出?珍しいね、今日もだけど。」
急にそんな事言うから、ほら、ドキドキしている。
頻繁に部屋に行って、仕事でも一緒にロケとか行ったりして、
2人きりで過ごすのなんて別に初めてじゃないのに、すごい早さで血が回っていく。
「たまにはね。」
ごっちんは小さく笑いながら腰を上げると、
ドキドキしているなつみの顔に向かって、再びシャッターを切った。
- 74 名前:作者 投稿日:2003年04月11日(金)00時37分03秒
- 6回目の更新です。
なんとか言った通りの更新が出来て良かった。
しかし大量じゃないという…。
昨日更新した後の反省文、間違って書いてしまいました。
軽くネタバレになっちゃってますね。
以後気を付けます。
いつもいつもカキコ&読んで下さってありがとうございます。
なんか元気が出ます!
>61 名無し読者様
毎回更新を楽しみにして頂いてるなんて!
すごい光栄です。しかも最高だなんて…もったいない(泣)
が、頑張りますね!
>62 ろくた様
仲間です!なっちファン&なちごまスキー…。
矢口は基本的に明るい感じで書いていきたいですね。
裕ちゃんはホントに今のままではヤバイので、きちんと書きたいです。
>62 名無し読者様
そうですね〜。私も3人とも幸せになって欲しいです。
この話はどうしてもハッピーエンドにしたいです!
それでは次回の更新は…日曜日あたりでしょうか。
よろしくお願い致します。
- 75 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)12時38分12秒
- いい・・・。ものっすごいいいです。
ぜひ3人とも幸せにしてあげてください!
更新楽しみにしてます。
がんばってください。
- 76 名前:チップ 投稿日:2003年04月11日(金)15時43分44秒
- わ〜なちごま〜癒されます。
アタイも好きなんですよ、なっちもなちごまも。
ごまの優しさが切ないっす。裕ちゃんもガンバレーw
ハッピーエンド目指して♪頑張ってください。楽しみにしてます。
- 77 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月15日(火)00時35分27秒
その夜、まだ乱れた呼吸を整えながら、
ごっちんはベッドから起きあがり、自分の二の腕を見ている。
うっすらと赤くなっているのは、なつみのつけた指の跡。
今は意図的にやっている訳じゃない。
ごっちんに付ける必要なんかないのに、いつの間にか癖になっていたみたいだ。
「やっぱ、指の跡だ。」
ぼそっと呟くごっちんの腕に、寝転んだままで手を伸ばす。
裕ちゃんに付けたのと、同じくらいの色になっていた。
もう、そんなに身体を重ねているんだと気付く。
「ごめん。」
沢山の意味を込めての、ごめん。
ごっちんは、なぞるなつみの手を握って、静かに問い掛けた。
「なんであんなに力入れるの?」
「声、でそうになるから。」
半分だけ、本当。
「出したらいいじゃん。」
「やだよ。恥ずかしいべさ。」
握られていた手を引っ込めて、嫌な顔をしてみせる。
「なんで?後藤聞きたいよ。」
言いながら、なつみに覆い被さるように、ベッドに腕を付いた。
何をするつもりだろう。なつみは顔を背ける。
「絶対ヤだ。」
- 78 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月15日(火)00時37分01秒
- すると、ごっちんの指が首筋に降りてきた。
今したばっかりなのに、滑る指に体が熱くなる。
この指が好き。
こんな簡単に体を熱くする。
太股を探り、熱が高まっていく。でも大切な所は素通りしていく指。
焦らされるから、余計に熱くなる。
なつみは薄く目を開いて、ちょっと威嚇すべくごっちんを見上げた。
「焦らされんの、好きでしょ。」
何か言い返そうと口を開き掛けた瞬間、
足の付け根を触っていた指が身体の奥に入り込んできて、
声は吐息に変わってしまった。
いくら焦らしたって、声なんか出さないんだから。
それはどんどん奥に入ってきて、欲望の疼きを引きずり出す。
逃げたくて、でももっと欲しくて腰が浮き、
落ち着かないなつみの手はごっちんの腕を握る。
声が漏れそうで、ぎゅっと唇を噛む。
と、急に指の動きが止まった。
瞼を開くと、見下ろす顔がゆっくりと降りてきて、唇が重なる。
唇が開き、舌と共に抑えていた息が荒く零れて絡まり、
熱っぽい息に頭もぼんやりしてくる。
と、ふいに唇が離れ、
わずかに開いたままの唇の隙間に、ごっちんの指が入り込んできた。
- 79 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月15日(火)00時37分35秒
- 「んっ…」
反射的に口を閉じるが、異物感は引かない。
「口、開いて。」
そんなの、ずるい。
「や…っ。」
閉じようとすればする程、舌が指を吸い、押し出そうとすると、口元が唾液で濡れる。
「すっごいやらしい顔してるよ。」
やっぱり、今日のごっちんはおかしい。
いつもと様子が違う。
その間にもう片方の手で、なつみを激しく責め立てた。
「あぁっ…。」
だらしなく開いた口からは、自然と声が漏れる。
嫌がって首を振るけれど、噛まないようにと思ったら、口に力は入らない。
恥ずかしいのに、身体がどんどん昇っていくのを止められない。
そして、いつもより強い波が、勢い良く突き抜けた。
- 80 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月15日(火)00時38分08秒
口に入れた指を抜くと、ごっちんはなつみの口の周りを丁寧に拭いてくれた。
でも、お礼なんて言わない。
こんなコトしたごっちんが悪いんだから。
「泣いてるの、初めて見たかも。」
言いながらなつみの目元を触ろうとしたから、慌てて振り払った。
これ以上、どこか触られたらおかしくなる。
「ごっちんがやらしい事ばっかりするからだべ!」
「なに、起こってるの?それとも良すぎた?」
なつみは恥ずかしくて恥ずかしくて、
ごっちんを睨み付けてから、毛布を被って中に隠れた。
良かったなんて、死んでも言わないんだから!
「うそうそ、ごめんってば。」
なんて言い返して良いのか分からなくて、取りあえず「変態」と言っておく。
「冗談だって、冗談。」
これ以上意地を張ると、出る切っ掛けがなくなるので、
なつみはそこでもぞもぞと毛布から頭を出した。
「冗談って目じゃなかった。」
そう言って軽く睨むと、ごっちんは「ちょっと、ね」と、よく分からない言い訳をして、
毛布でくしゃくしゃになったなつみの髪を、丁寧に指で整えてくれた。
- 81 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月15日(火)00時38分50秒
- 「ねぇ、なっちさ。」
「ん?」
「いや、なんでもない。」
「言ってよ〜。」
「忘れた。」
「なにそれ〜。気になるべっ!!」
「ごめんごめん。」
ホントは、言いたい事があるんでしょ?そう言いたかった。
今日のごっちんは、やっぱりちょっとおかしい。
裕ちゃんに隠した事、本当は怒ってるの?
それとも誰かになんか言われたとか?誰か…。
ただの思い付きだったけど、証拠も確信もないけど、なんだか頭がモヤモヤする。
なつみはもう1度、自分が付けた指の跡にそっと触れた。
「誰かに、何か言われた?」
このときのモヤモヤは、近い未来への不吉な予感だったのかもしれない。
「…いや、別に。」
ごっちんは触れるなつみの手を握って、それから目を伏せた。
- 82 名前:作者 投稿日:2003年04月15日(火)00時46分28秒
- 7回目の更新です。更新日を破ってすみません…。
…ちょっと人生初のエロを書いたので
こんなんでいいのかすごい悩んでしまいました。
ちょっと苦手…てな人はごめんなさい。
下手!と思う人もすみません。
ホント、初めてなもんで。
自分的にちょっと今回の更新は…なのでsage更新でした。
カキコ&読んで下さって本当にありがとうございます。
>75 名無し読者様
ものすっごい嬉しいです!(w
3人とも幸せにしたいです…。しますとは断言出来ませんが…(弱腰)
更新の量が非常に少ないですが、読んで下さっていると思うと嬉しいです!
>76 チップ様
はじめまして。読んで下さってありがとうございます。
なっち&なちごまスキー。いいですね!
私もごっちんの優しさには自分で書いていて「優しすぎ」とも思ってしまっています(w
次の更新は…金曜日か日曜日です。
もう少しまとめて更新出来るといいんですが…
- 83 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月15日(火)12時31分56秒
- 更新お疲れさまです。
いやー、いいですね。面白いです、ホント。
後藤さんも、なんだかせつないですね。
どうなっていくのでしょうー?
なちごま、幸せになって欲しいです。ダイスキなので。
って、勝手な希望ですが..。
では、次回の更新も楽しみにしております。
頑張ってください。
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月15日(火)16時26分31秒
- 更新おつかれさまです。
かなりおもしろいです。
なっち、ごっちん・・・(泣
せつないです。いいなぁ。
この作品に出会えたことを感謝します。
作者さんがんばってください。
- 85 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時49分51秒
なつみは今日もオフで、
ごっちんがバタバタと支度する音を、枕を抱いたままぼんやりと聞いていた。
一緒に部屋を出るつもりだったけれど、昨夜あんまり眠れなかったせいか、
目は覚めていたけれど体がだるくて、起きるのを諦めてしまった。
きっとそれはごっちんも同じだと思うけれど、ごっちんは仕事だから仕方がない。
「なっち。」
「なにぃ〜?」
ドアの向こうの声に耳を澄ますと、少し照れ臭そうな声が聞こえた。
「いや、その…行ってくるから。」
「ん〜、いってらっしゃい。」
そう答えると、足音は階段を下りていき、やがてドアのロックされる音が響いた。
今のは何だったんだろう。
『行ってきます』が照れ臭かったのか、
昨日あんな事をしたのが今朝になって恥ずかしくなったのか。
だってドアも開けないし。
心配しなくてもなつみは別に、そんな悩殺ポーズとかしてないから。
っていうか、恥ずかしいコトしたの、ごっちんのほうじゃん。
思い出したらまた恥ずかしくなって、
誰もいないのに、抱いていた枕に顔をぎゅ〜って押し付けた。
今日、仕事じゃなくて良かった。
思い出し笑いなら良いけど、思い出す度に赤くなっていたら怪しい。
- 86 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時50分24秒
- 枕から顔を上げて、窓の向こうを見る。
天気は曇り。気温は涼しい。
今日はどうやって過ごそうか。
なつみは勢い良く起きあがると、大きく伸びをした。
お腹空いたし、取りあえずコンビニでも行こうかな。
なんてどうでもいい事を、ゴロゴロしながら考えていると、
ベッドの下に放っておいた携帯が、大きな音で呼び始めた。
メールの音じゃない。
仕方なく、上半身だけ毛布から這い出して、床で騒ぐそれを手に取った。
次の瞬間、なつみはすごい早さで現実に引き戻されていた。
随分長い間、表示されていなかった番号が、バックライトに浮かんでいる。
「裕ちゃん…。」
くだらないメールは来ていたりしたけれど、電話は別れてから1度も来た事なかったのに。
今までなら、出なかったと思う。
でも今日は、なつみも聞きたい事があった。
- 87 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時51分56秒
待ち合わせの場所に着くと、裕ちゃんの車は先に来ていて、
それを見たなつみは、覚悟して来たはずなのに、
一瞬足が止まりそうになる。
けれど、帰るわけにはいかないんだ。昨日のモヤモヤの答えが知りたいから。
顔を合わせていてもずっと逃げていたのに、こんな休みの日に、会わなくても済む日に、
わざわざ出向いているのが自分でも不思議なくらい、それはなつみを動かしていた。
理由なんかないけど、ごっちんがおかしかった原因がそこにある気がして、
その答えが例え勝手な妄想でも、来ないではいられなかったんだ。
なつみが助手席に乗り込むと、車は目的もなく走り出した。
でもその車内で、会話はない。
呼び出した裕ちゃんも、答えを聞き出したい自分も、
一言目が上手く出なくて、そのまま随分走った。
長い長い沈黙だった。
信号で車が止まって、ようやく裕ちゃんが口を開いた。
「最近、後藤と仲良いやない。」
「それ、矢口にも言われた。」
「そうか。」
また沈黙になりそうで、なつみは慌てて言葉を繋げた。
「今日はなに?なっちにはもう、用なんかかないんでしょ?」
裕ちゃんは答えなかった。
ただ、少し哀しそうな顔をして呟いた。
- 88 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時53分16秒
- 「ごめんな。」
「いいってば、もう。」
「いいなんて事あらへん。」
良いんだって、本当に。謝って欲しいんじゃない。
「あの時、私どうかしてたねん。非道い事言うた思ってる。
謝って済む事じゃあらへんけど、
でもな、こうやってずっと何にもなかったフリするの、辛いんよ。」
「…そんなの、なっちだって辛かった。」
だから会いたくなかった。話したくなかった。
「辛かったけど、思い出す方がもっと辛いんださぁ。」
思い出したくないだけなのに。
「ごめん。」
また裕ちゃんが謝る。もう謝らないでよ。どんどん辛くなる。
あの時の気持ちに戻ってしまう。
なつみは早く話を終わらせたくて、無理矢理元気なトーンに自分の声を引き上げた。
「もういいよ、彼女が出来たからなっちはいらなくなった。それでいいっしょ。
ホントは気持ち悪かったんだべさ?それともまだ何か気に入らない事あるの?」
「違うんやって。」
「何が違うの?」
「傷つけたのは私やし、今更何行ってもしょーがあらへん事かもしれんけど…。」
裕ちゃんは一呼吸おいてなつみの顔をじっと見ると、信じられない事を口走った。
- 89 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時55分16秒
- 「なっちのこと、好きなんや。」
その言葉の意味が分かるのに、数秒必要だった。
「いつからか分からんのやけど、なっちの事、好きになってたんや。」
「…冗談だべさ。」
「冗談なんかで言うわけないやろ。」
意味が分からない。そんなの、悪い冗談にしか聞こえない。
「だって、彼氏は?」
「別れた。」
「別れたから、またやりたくなっただけっしょ?」
「そうやない!」
裕ちゃんの顔が、ホントに真剣だったから、それ以上は遮れなかった。
「あの時は、なっちは私の事好きなんやないかって、ちょっと調子に乗っててな、
別れる時もなんか言いづらくて、結局あんな酷い終わり方になちゃって。
だからずっと謝りたくて、謝ろう謝ろうしてるうちに、
なんかこう…好きになってたって言うんか、気付いたって言うんか、
上手く言えへんのやけど…。」
そんなの、分からない。
今更なんて答えてって言うの。
- 90 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時55分55秒
- 「…もう遅いよ。」
「やっぱり、怒ってんのやな。」
「怒ってないけど、もう遅いから。」
ようやく、少しずつだけれど、幸せを見つけられそうなのに、
それを全部捨てて、振り出しに戻るなんて出来ない。
戻りたく、ない。
なつみの中に、またあの夜の雨が降り始める。
「後藤に乗り換えたからなん?」
「なに、その言い方!」
「違うんか?」
「ごっちんはそんなんじゃない!裕ちゃんと一緒にしないで!」
「じゃあ、後藤の腕の跡はなんなんよ。なっち以外に誰が付けんねん。」
「やっぱり、裕ちゃんだったんだべか…。」
「え?」
「ごっちんに腕の事でなんか言ったっしょ?」
「ああ。」
「もう、ごっちんにそういう事言わないで。」
「…好きなんか?」
分からない。
でも、一緒にいると幸せだって思える。
もしニセモノでも、無条件で包んでくれる。
「ごっちん、気持ち悪くないって…」
きっぱり言ってくれた。
「全然気持ち悪くないって、そう言ってくれたんだべ。」
それだけじゃないけど、でもごっちんがそう言ってくれた時から、
あの日から、やっと安心して眠れるようになったの。
- 91 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時56分28秒
なつみは返事をしないまま途中で車を降りた。
いつの間にか辺りは真っ暗で、不透明な濃いグレーが、暗い空に広がり始めていた。
また雨が降りそうだ。
真っ直ぐ帰る気にもなれなくて、かと言って特に行く場所がある訳じゃなかったから、
ただブラブラと歩いていく。
勢いで降りてしまったから、正直、現在地もよく分からないけど、それさえもどうでも良かった。
時計を見ると、もう9時を回っている。
ごっちんはまだ仕事だろうな。
会いたかった。
ごっちんの顔を見たら、この胸の痛む渦も、消える気がした。
裕ちゃんは、どうして今頃になって、あんな事言うんだろう。
やっぱり悪い夢か、でなきゃ、からかわれてるとしか思えない。
今更喜んで、「なっちも好きだった」なんて言えないよ。
何故?本当に好きなら、今更だっていいんじゃない?
好きな人が好きと言ってくれた、それで十分じゃないの?
嬉しくないわけがない。
でも喜べない。
そんなに許せないの?
…違う。
- 92 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時58分24秒
- 本当は分かっている。
素直に喜べないのも、苦しいのも、その理由は裕ちゃんじゃなくて、ごっちんにあるって。
通りかかった公園は、当たり前だけどもう人気もなく、
外灯に照らされたベンチの辺りだけが、ぼんやりと光に浮かび上がっている。
なんとなく足が向き、なつみは手前にあったブランコに腰を下ろした。
もし裕ちゃんの所に戻るとしたら、ごっちんとは終わりにしなくちゃいけない。
今朝までのあの時間を、思い出にしなくちゃいけない。
そう思うと、苦しくなる。
だから裕ちゃんにも、何も答えられなかった。
答えられない事が、答えなのかもしれない。
でもそれじゃ、全部が曖昧になってしまう。
自分はどうしたいのかさえ、分からないままに。
多分なつみはまだ、裕ちゃんが好きなんだと思う。
だから、こんなに思い出が痛んでも、断る事が出来なかった。
でもごっちんに傍にいて欲しいのも本当の気持ちで、
今自分が安心して眠れる場所は、あそこしかなくて、
裕ちゃんにもきっと代わりは出来ない。
ゆらゆらとブランコを揺らしていると、手の甲に、冷たいものが落ちた。
- 93 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時59分01秒
- 顔を上げると、頬にも次々と落ちてくる、雨の粒。
「振って来ちゃった…。」
なのになつみは立ち上がる気にもなれなくて、落ちてくる雨が、
服に身体に吸い込まれていくのを、ぼんやりと感じていた。
すごく冷たい。
雨が気持ちいいと思える季節にはまだ遠い。
雨は嫌い。
でも、ごっちんが暖めてくれたあの時から、少しだけ嫌いじゃなくなった気がする。
なつみは携帯を取り出して、ごっちんの番号を表示した。
液晶にも雨が落ちて、あっという間に画面は滲んでしまう。
発信ボタンを押すと、深呼吸を…する間もなく、ごっちんが出た。
「なっち?」
「わぁ〜、すっごい早かったべさ、今。」
「今メール打ってたから。」
「あっ、ごめん、邪魔だったべか?」
「ううん、どうせなっち宛だったし。」
「なになに?何か用だった?」
「別に用って訳でもないんだけど。」
声を聞いただけで、少しだけどテンションが上がってきた。
やっぱりごっちんは自分にとって特別な人になっている。
- 94 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)19時59分35秒
- 「ごめんね、今日勝手に帰っちゃって。」
「別に良いよ。後藤もね、今帰ってきた所なんだ。」
「うん…。」
涙が込み上げてきて、次の言葉が出ない。
別に哀しい事があったわけでも、この電話で感動するような台詞を言われたわけでもないのに。
「どうしたの?そんでわざわざ電話くれたの?」
「うん…。」
違う。それだけならメールで済む事だ。
電話したのは、声が聞きたかったから。
でも言葉にしたら、ホントに泣いてしまいそうだった。
「なんかあった?」
このままじゃ心配してくれって言っているみたいだ、
「ううん、それだけだべさ。じゃあね!」
なっちは出来るだけお腹に力を入れて、震えないように言って切ろうとした。
「ちょ…ちょっと、なっち!」
「なに?」
「もしかして今、外?」
「なんで?」
「声、震えてるよ。何処?迎えに行くから。」
- 95 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時03分48秒
場所がどこだかもよく分からなかったなつみの、たどたどしい説明を頼りに、
ごっちんは公園までやって来てくれた。
あまりにびしょ濡れのなつみを見て、相当慌ててたけれど、
なつみはと言えば、ごっちんがここまで来てくれた事が嬉しくて、
掴んでくれた手が温かくて、また泣きそうになるのを必死で堪えていた。
それから、雨がまた少し、嫌いじゃなくなった。
「なっち、紅茶でいい?」
「うん。」
シャワーから出てくると、ごっちんがお湯を沸かしていた。
「あ。」
「なに?」
不自然に「あ」なんて言うから、何かと思ってキッチンへ行くと、
すっかりそこの見えている紅茶の缶を手に持ってなつみに見せた。
「もうなくなるよ、葉っぱ。」
「葉っぱって…。茶葉とか言い方あるのに〜。」
「いいじゃん、通じたら。」
そう言って薄く笑う横顔。この顔が、なつみは結構好きだった。
正面から大きな目で見られると、こっちが照れ臭くなっちゃうし、このくらいが丁度いい。
- 96 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時05分24秒
- 「ミルク、こんくらい?」
それをもう、こうして見られなくなるとしたら?
「うん、そんなもんだべさ。」
裕ちゃんを選ぶというのは、そういう事だ。
「なっちの好みも分かってきたね。」
「なっちの好み、細かいからさ。」
でもごっちんちのこの空気を、なつみは失いたくない。
今、確信している。
「悪かったべさ〜!」
これが愛なのかどうかはまだ分からない。でもこの空気を、
ごっちんを失いたくない気持ちだけははっきりと分かる。
これは単なるなつみの我が侭。
でも、唯一自分の中にある答え。
カップを持って2人で部屋に戻ると、突然空が光り、雷が鳴り響いた。
「今の、すっごい近くなかった?」
なつみがカーテンを開けて、2度目の雷を待っていると、
後ろから来たごっちんにカーテンを閉じられてしまった。
「なんだべか〜?」
「窓のとこは寒いから。」
「子供じゃないべさ。」
反論するなつみに背を向けて窓から離れると、
ごっちんはゆっくりとベッドの上に腰を下ろした。
- 97 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時05分59秒
- 「子供みたいにずぶ濡れになってたのは誰だっけ?」
それはそうだけど。
年下のくせに、いつも自分よりもっともらしい事を言う。
だからなつみは逆に、子供みたいにブス〜ッと膨れてみせた。
「分かったよ〜だ。」
あんなに濡れて、風邪でも引いたら仕事に差し障る。
そんなの当たり前なのに、今日はホント、それすらも考えられなくなってた。
そのくらい、ショックだった。
今日はもう、思い出したくない。
出来るだけ違う事を考えよう。
なつみはごっちんの隣にくっついて座った。
「そうだ、何処行くべか?」
「何処って?」
「来月のオフだべさ。ごっちん、何処か行こうって言ってたでしょ。」
「あ〜、それね。」
もうホント、分かってるのか分かってないのか、何考えてるか分からないし。
「なっちは?行きたいトコないの?」
「そうだな〜、海外とか行っちゃうべか?」
「慌ただしいでしょ。」
「じゃ、温泉とか。」
「年寄りくさ〜い。」
「んじゃ〜、ごっちんも何か考えてよ。」
どこか行くって言うと、海外とか温泉しか浮かばないんだから、
なつみもボキャブラリーが少ないとは思うけど。
- 98 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時06分54秒
- 「ぶらっと電車で旅してみる?取りあえず行ける所まで行ってみる、とかさ。」
「ごっちん、そういうの好きそう。ぶらっと、とか、なんとなく、とか。」
「そうかなぁ?」
何考えてるか分からない上に、行動パターンもイマイチ読めない。
「放浪とか好きそう。冒険だ〜!みたいな。」
「あ〜、好きかも。」
「じゃあダメ。」
「なんで?」
「放浪したら、なっちの事とか放ってどっか行っちゃいそうだべさ。」
まるで子供みたいだと自分で思いながら、でもウソでも何でもない。
今のなつみは、情けないけど、ごっちんがいないと不安で、どうして良いか分からないから。
「行かないって。」
「そぉかなぁ。」
と、テーブルに置いておいた、なつみの携帯が鳴った。
- 99 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時07分29秒
- メールを知らせる音。
嫌な予感がしたけど、見ないのも不自然な気がするから、さりげなく携帯を手に取る。
やっぱり、裕ちゃんからだった。
『今日は突然でホンマ悪かった。また、ちゃんと話しよう。』
しばらく考えたけど、なんて返事をしたらいいのかさっぱり浮かばなくて、そのまま携帯を閉じた。
顔を上げると、ごっちんが心配そうに見つけている。
「ん、なんでもない。で、何処行くべか?」
なつみは聞かれてもいないのに、そう言って笑ってみせた。
さっきは逃げてしまったけれど、裕ちゃんの言葉もきっとウソなんかじゃない。
だとしたら、もうここへは来れなくなる。
そしたらまた、あの部屋に通う事になるんだろう。
なつみはそこから先を考えたくなくて、夢中でしゃべった。
黙った途端に思い出してしまいそうで、とにかくひたすら喋り続けた。
- 100 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時08分39秒
ごっちんが何度目かの寝返りを打った。
ごっちんも、眠れないのだろうか。
「眠れない?」
話しかけると、全く眠っていない、はっきりとした声が返ってきた。
「なんだろ、寝付けない。」
「なっちも。」
ここで何か話しても、暗くなりそうだし…と考えたなつみは明暗を思い付いて、
ごっちんに向かってニッと笑いかけた。
「子守唄、歌ってあげるべさ。」
するとごっちんは本気で嫌そうに眉間にシワを寄せた。
「子供じゃないんだから。」
「いいっしょや?」
まだニッと笑っているなつみを見て、
ごっちんは何を思ったのか、突然おかしな事を言い出した。
「じゃあ、ちゅーして。」
「はぁっ?」
最近、ごっちんは変わった気がする。
「なっちからしてくれた事ないじゃん。」
「そうだっけ?」
「そうそう。」
前は、こんな事言うような子じゃなかった気がするんだけど。
それはただのメンバーと、それ以上になった場合の違いなんだろうか…それ以上?
それ以上ってなんだろう。
- 101 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時09分17秒
- 「ふ〜ん、おやすみ。」
試しに寝たふりをしてみると、そこに思った通りのツッコミが入る。
「ねぇっ!」
なつみはゆっくり目を開いて、信じないけど一応聞いてみた。
「したら眠れるんべか?」
「多分。」
「ウソだべさ〜。絶対寝ないっしょ。」
「寝る寝る。」
やっぱり変わった。寝る寝るとかって言い方、矢口っぽいもん。
そういうの、嫌いじゃないけど。
「…イヤ?」
なつみが黙っていると、なんだか寂しそうに呟くから、
なつみもそれ以上どうして良いのか、困ってしまった。
「イヤじゃないけど…。」
仕方がないから、本の一瞬だけキスをして、というかちょっと唇をくっつけただけなんだけど、
急いで背を向けて毛布に包まった。
だって、真っ赤になっているのが自分でも分かるから。
恥ずかしいからさっさと背を向けたのに、後ろから近づいてくる気配がする。
首筋に息がかかって、それから濡れた唇が這う。
そんなことされたら、余計赤くなるからやめて。
そう思ってひたすら無視していたら、今度はそのまま抱き寄せられた。
- 102 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時10分30秒
- 「なんだべさ〜、寝るんじゃなかったの?」
「布団取られたら寒いんだよねぇ。」
言いながら腰に手が回ってくる。
慣れているはずなのに、今日はなんだか恥ずかしい。
「じゃぁ、返すべさ!」
包まっていた毛布を捲ろうとしたら、今度は身体ごとくっついてきて、
背中に、足に、ごっちんの体温が一気に広がった。
「この方が暖かいじゃん。」
だから今日は恥ずかしいんだってば。
「ふざけないでよ〜。」
言いながらも抵抗しないのは、ホントは嬉しいから。
背中に広がる声、温もりの色をした愛情。
なつみがずっと探していたもの。
一番欲しくて、でもずっと得られなかったもの。
「可愛いねぇ、なっちは。」
「なっ…!なに言ってるべか?」
耳元に響いた言葉に、なつみは思いっきり動揺してしまった。
- 103 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月18日(金)20時11分01秒
- 「ばっかじゃないべか?」
そう言っても、ごっちんは楽しそうに「かもね。」と笑うだけ。
探していたもの。欲しかったもの。それが今自分を包んでいる。
なつみは今、ものすごく幸せで、しかもその幸せを全身で感じていた。
でも認めたら、大切な何かが消えてしまいそうで、素直に頷く事が出来ない。
だから代わりに、自分を包むその手の甲を、両手で包み返すように握った。
「…バ〜カ。」
離れるのが恐くて、だからぎゅうっと握りしめた。
- 104 名前:作者 投稿日:2003年04月18日(金)20時20分53秒
- 8回目の更新です。なんだかんだで100超えました!
ありがとうございます。
そして更新速度が遅くなる、とかいいつつ、
それなりに更新している自分が暇人みたいです(爆)
そろそろ大量更新したいです…。
今日の更新はいつもよりは多く更新出来たはずなのですが…どうでしょうか…。
いつもいつもカキコ&読んで頂いてありがとうございます。
>83 名無し読者様
ありがとうございます!頑張ります。
幸せになって欲しい、などと言って下さったのに
裕ちゃんが出てきてまた…って感じですね。
すみません…。
>84 名無し読者様
ありがとうございます!
しかもこの作品に出会えて良かっただなんて…勿体ないお言葉です。
少しでも期待に添えられるように頑張りたいです。
次回更新は…水曜日あたりを予定しています。
もしかしたらもう少し遅くなってしまうかもしれません…。
- 105 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月18日(金)21時23分02秒
- ごっちんとなっちがいい感じになってきて良かったです!!
ただ、裕ちゃんまた・・・(苦笑
更新が毎回楽しみでしかたないです、頑張ってください。
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月18日(金)21時39分14秒
- なちごまはやっぱり見てていいですね。大好きです。
これからも頑張って下さいね!!!!
- 107 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月18日(金)22時38分28秒
- このお話が好きで、大スキで。
更新を発見する度に、画面を見てニンマリ..。
自分、ヤバイです。はまってます。
次回も楽しみにしています。
なちごま大好き!
- 108 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月18日(金)22時55分19秒
- めっちゃおもろい
なちごまって最高やね
- 109 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時41分11秒
告白されてから、前よりもっと裕ちゃんに会うのが恐くなった。
少し前までの、淡い期待をしていたなつみは何処に行ったんだろう。
あの時の自分なら、きっとまだ喜べたのに。
でもこの短い期間で何かが変わって、なつみは失ったものを取り戻すよりも、
今ここにあるものを失いたくない。
自分でも気付かないうちに、そう思うようになっていた。
だから恐かった。
裕ちゃんに会って、またあんな風に言われたら、自分はどうなるのか。それが分からないから。
ハッキリと断ってごっちんを選んでも、素直に受け入れてごっちんと別れても、きっと辛い。
それが分かっているから、恐かった。
また傷付くのが恐かった。
「なっち、今日は?」
仕事が終わる度に、裕ちゃんは声を掛けてくる。
「ごめん、今日もダメなんだ。」
その度に、こうして断っている。
以前と同じ。また逆戻りだ。
そしてまた今日も、ごっちんのところに逃げ込んでしまった。
こういうのはフェアじゃない。
分かっているけど、ここしか、ごっちんしか、
この不安定な気持ちを救ってくれる場所を、なつみは知らない。
クッションを抱いたまま、ベッドにごろんと横たわる。
- 110 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時41分52秒
- 視界にあるのは、見慣れた部屋の見慣れた風景。
これを見なくなる日が来るなんて、やっぱり考えたくない。
「どうしたの?」
寝転ぶなつみの頭の横に、ごっちんが腰を下ろして、軽く顔を覗き込んできた。
「別に。」
ただ、恐いだけ。
なつみはクッションを抱いていた片手を伸ばし、ごっちんの膝を掴んだ。
「なに?」
「膝枕して〜。」
特に拒まないから、ごっちんの膝にちょこんと頭を乗せる。
肉が少ないから、枕にはちょっと骨っぽいけど、悪くない。
ごっちんはいつもそうだ。
大抵の事ではイヤって言わない。
仕事の時とかは結構言うのに、2人の時に何か拒まれた記憶はほとんどない。
ふと思う。
ごっちんが好きだって言ってくれたら、裕ちゃんの事なんか忘れろって言ってくれたら…。
そしたらなつみは、答えを出せるかもしれない。
ごっちんが自分の事を好きだという確信は、心の真ん中にいつもあった。
もちろん、言葉にも顔にも出さないけれど、温もりは色んな事を教えてくれる。
それが今は、こうしてごっちんを目の前にすると、
そんな自信はどこかに消えて、口ではどんなに強気な事を言っても、
いちいち反応を伺うようになってしまっている。
- 111 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時42分54秒
- なつみは起き上がって、呟いた。
「ごっちん…。」
なに?って問い掛ける顔。
ねぇ、なっちのこと好き?
…やっぱり無理だ。そんなこと、死んでも言えない。
何も言えないでいたら、ごっちんは自分の膝に乗っていたなつみの手を、そっと握ってくれた。
大きな瞳はちょっと寂しそうに、まるで全部分かっているみたいに、なつみを見ていた。
見つめるだけで、なにも聞かない瞳。
どうしてそんなに優しいんだろう。
でもその優しさは、もどかしくて、苦しい。
抱き締めてくれるのに、抱き寄せてくれない腕。
近づいているようで、縮まらない距離。
これは永遠に、このままなの?
どれだけ待ったら、好きだって言ってくれる?
言ってくれたら、そしたら何かが変わる。多分、絶対。
- 112 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時43分28秒
- なつみの手を包むごっちんの長い指に、ぎゅっと力が入った。
それが何を訴えているのか、分かるような気がしたけれど、確信が持てなくて、その瞳に問い掛ける。
寂しそうな視線は、やっぱりなにも答えない。
きっと、言葉にしても同じなんだろう。
だけど、どうしても答えが欲しい。
多分もう、自分にはあまり悩んでいる時間がない。
なつみはゆっくりと顔を近付けて、その唇に、祈る気持ちで口づけをした。
- 113 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時44分01秒
その翌朝、なつみは仕事に行きたくなくて、毛布にくるまったまま、子供みたいにゴネていた。
休むつもりなんかなかったけど、でも行きたくなかった。
「なっち、時間。」
「分かってるべさ…。」
こんな事をしたのは、初めてかもしれない。
裕ちゃんにフラれた時だって、そりゃ気は重かったけど、普通に起きて、普通に仕事に行っていた。
「ごっちん〜。」
「なに?」
「ごっちんも一緒に行こうよ。」
離れたくなかった。なんて、ホント子供みたいだ。
「なんで?後藤も別の仕事あるし。」
本気で答える?普通。
なつみは勢い良く起き上がって、真面目に答えているごっちんに、真面目な顔で言ってやった。
「ばか〜。冗談に決まってるべさ。」
- 114 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時44分37秒
来たくなかった理由は簡単で、朝から裕ちゃんと一緒だから。
途中から他のメンバーと合流するけど、朝のロケが2人きりってだけで、十分きつい。
カメラが回ってると普通に言葉を交わすけど、どうしても目を合わせる事が出来なくて、
不自然じゃなかったか、終わってから心配になった。
周りはごまかせても、きっと裕ちゃんは気付いている。
局に向かうロケバスの中で、なつみは一番後ろを陣取って、いきなり寝の体制に入った。
でも裕ちゃんは、それさえもお見通しだったのか、目を閉じている自分の隣に戸惑いもなく座った。
なつみが驚いて目を開けると、ちょっと笑って、その後静かに言った。
「帰り、車で送るから、少し話そう。」
その雰囲気にのまれて、思わず頷いてしまった。
だけど、ちゃんと話せるのかな?
自分の中にも明確な答えがないのに。
- 115 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時45分55秒
何をどう話して良いのか全然分からないままで、なつみは助手席に座っていた。
まるで本題を避けるように、くだらない話ばかりをして、どのくらい走っただろう。
ふと、車が自宅に向かっていない事に気付いた。
でも、気付かないふりをして、なつみは喋り続けた。
送っていくなんて、そんなの口実だと、最初から分かっていた。
今日は逃げられないって事も、ちゃんと分かっている。
分からないのは、自分の気持ちだけ。
やがて車は人気のない空き地でエンジンを止めた。
でも降りるつもりはないみたいで、裕ちゃんはそのままシートに凭れる。
突然心とする車内。
沈黙に不安を覚えて、なつみは別に寒くもないのに言ってみる。
「切っちゃったら寒いべさ。」
すると裕ちゃんは軽く体を起こして、こっちに向かって腕を伸ばしてきた。
「いいやろ、私が暖めてあげるから。」
伸びて来る指が、頬に触れるより一瞬早く、なつみは首を竦めた。
「ダメだって。」
「なんで。」
分からない。でも違う。何かが違う。
なつみが黙っているからか、裕ちゃんはなにも言わない。
- 116 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時46分28秒
- 何も出来ずただ見つめ合う時間は、抱き締められるより苦しくて、唇を重ねるよりも欲望を掻き立てる。
触れて欲しいと思った。
でも、後悔しそうで、間違っている気がして、恐い。
裕ちゃんといると、なつみは怖がってばかりいる。
「…ってきりな、なっちも私の事好きなんや思うてたんやけど。」
とても哀しげな声で、裕ちゃんが呟いた。
見つめられて動けなくなる。
そう、大好きで大好きで、壊れてしまいそうだった。
「分かんなくなっちゃってたんや。不安なんや。」
なんて言ったら分かってもらえるんだろう。
再び伸びてくる手を、今度は拒めなかった。
少し堅い裕ちゃんの手のひらが、両方からなつみの冷えた頬を包む。
「私は、なっちが好きだよ。」
痛かった。
ずっと欲しかった言葉なのに、こんなにも痛い。
どうしたら、この悪夢は覚めるんだろう。
もう少し早かったら、覚めないでと祈ってただろう夢の続き。
- 117 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時47分57秒
- 「裕ちゃんっていつもそうだべさ。」
「え?」
「なっちがどんな想いでいたか分かる?
裕ちゃんの事を忘れようって必死になって、でも忘れらんなくて、
どんだけ苦しかったか分かるべか?」
もっと早く、逃げないで、裕ちゃんの話を聞けば良かったんだよね。
でも、そんな余裕なかった。
「だから、後藤に逃げたん?」
「違う。」
ごっちんは溺れそうだったなつみに、手を差し伸べてくれた。
自分でぐちゃぐちゃに潰してしまった心を、
それが裕ちゃんでいっぱいだって分かっても、ごっちんはおっきな愛で救ってくれた。
「やっぱり、好きなん?」
「分からないよ…。」
好きだとは言ってくれないけど、昨日触れた唇も、答えてはくれなかったけど、それでも暖かかった。
頬を包んでいた裕ちゃんの手が、ゆっくりと離れる。
「私の事は?」
初めて見るような、とても不安げな表情。
娘。にいた頃だって、どんなに大変でもこんな表情は見た事がなかった。
- 118 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時48分29秒
- ごっちんとは逆に、その表情は分かり過ぎて困ってしまう。
「そんな聞き方、ズルイべさ…。」
「ずるくてもいいわ、ホントはどうなん?私の事、どう思ってんねん?」
あんなに好きだった人を、そんなに簡単に忘れられるわけがない。
だけどごっちんといると思い出さないでいられた。
痛みなんか忘れていた。
なのに、ごっちんと作ってきた小さな幸せが、今、自分の言葉によって崩されようとしている。
- 119 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時49分00秒
- 「好きに、決まってるっしょ…。」
言葉にしてしまうとそれはとても重くて、昨日までのすべてを、一瞬で否定してしまう。
すべてが音を立てて壊れていく。
なつみは両手で顔を覆うようにして、シートに沈み込んでしまった。
答えを、出してしまった。
自分の口で、自分の言葉で選んでしまった。
選びたくなんてなかったのに。
「なっち…。」
顔を覆ったなつみの指が、静かに剥がされていく。
剥がされていくとその向こうには、身を乗り出してなつみの顔を覗き込む、裕ちゃんがいた。
「私が、悪いんや。」
そう、裕ちゃんが悪い、全部悪い。
そう言いたいのに、なつみは首を横に振っている。
「ごめんな…。」
謝る声が近付いて、なつみの唇に重なった。
- 120 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時49分36秒
- あんなに他の人としたのに、忘れようとしてたのに、こうして一瞬触れただけで、すべてが蘇る。
なつみは覆い被さってくる裕ちゃんの背中に手を回し、抱き付いた。
こうしていると、今までのすべてが、無駄な抵抗だった気さえしてくる。
裕ちゃんの息、裕ちゃんの腕、裕ちゃんの背中、触れるすべてがリアルだった。
唇が離れた時、なつみは泣いていた。
裕ちゃんを責めるつもりじゃなかった。けれど、勝手に出てきた。
困った裕ちゃんの顔が、滲んで見える。
「ごめんな。」
また言ってる。
なつみは少し可笑しくなって、少し笑った。
「もう、謝らないで。」
涙の意味は、自分でも分からない、でも、なつみはまだこの人を愛している、そう思った。
- 121 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時50分10秒
ずっと裕ちゃんだけを想っていた。
忘れようとしても忘れられなくて、恋しくて恋しくて、どんなに苦しんでも、嫌いになんてなれなかった。
そして今、その裕ちゃんが好きだと言ってくれている。
幸せな筈だった。
嬉しい筈だった。
なのに、そう言う感情が素直に沸き上がって来ない。
ちゃんと付き合おうって言ってくれたのに、なつみは未だに返事を引き延ばしている。
自分の口でも、はっきり「好きだ」と言ったのに、何故か心に通ってこない。
ただ、その事実だけが、淡々と脳に刻まれている。
全部、この胸のカタマリにつっかえているんだ。
ごっちんと過ごしてきた時間が、答える事を、想いを塞ぎ止めている。
だからってなつみはここに来て、ごっちんの所に来て、何を話そうというのだろう。
裕ちゃんに言ったのと同じ言葉を、ここで言おうというのか?
ベッドの上に座ったきり、言葉の出ないなつみを、不思議がるでもなく、突っ込むでもなく、
ごっちんは黙って向かいに座って携帯をいじっている。
いつもにも増して口数の少ないごっちんは、きっと何か知っている。
知っているなら、知らないふりなんかしないで、なつみを責めてよ。
- 122 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時50分41秒
- 「ねぇ、携帯、ちょっとくらい後で良いでしょ。なんか話して。」
そう言うとごっちんは携帯を閉じて、こっちを見た。
「なんかって、なに?」
「知ってる事…。なんか、知ってるっしょ。」
一瞬だけ、顔色が変わった気がした。
表情の変わらないごっちんにしては、かなり分かりやすいレベルで反応を示した。
明らかに話すのを躊躇っている、落ち着かない沈黙。
「言って。ごっちんが、イヤじゃなかったら…。」
急かすように言うと、ごっちんはようやく口を開いた。
「昼間、裕ちゃんに聞かれた。あんたたち、どうなってるんだって。」
「なんて言ったの?」
「ちゃんと言ったよ。なんでもないって。」
なんでもない?
なつみは裕ちゃんがそんな風に話してたって事より、ごっちんの答えの方が何倍もショックだった。
好きな人の言葉を素直に喜べないくらい、答えを塞ぎ止めてしまうくらい大切なこの空間が、
なんでもないって?
「ここんとこ、なっちの様子がおかしいとは思ってたんだよね。」
「隠してるつもりじゃなかったんだべさ…。」
- 123 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時51分14秒
- どうしたらいいのか、分からなかった。
裕ちゃんは好きだけど、けどもう少し、ごっちんと一緒にいたかった。
そして、このときようやく気付いたんだ。
なつみはごっちんに引き止めて欲しいんだ、って。
だけどごっちんはそんな事言わないって事も分かってる。
「良かったじゃん。」
ほら。
「好きだったんでしょ。」
引き止めてもらおうなんて、考えるだけ無駄なんだ。
ごっちんは全部知っていて、それでも始まった関係だから。
いつの間にか始まりの事なんて、なつみは忘れていたけれど。
「ごっちんは、それでいいの?」
なんて自意識過剰な聞き方。だけど上手く言えないの。
「こんな終わり方で…。」
良くないのは、なつみの方。
「なっちの決める事だよ。」
ごっちんはそう言って、目を逸らした。
やっぱり、言ってくれないんだね。
『行かないで。』も『好き。』も、何も。
- 124 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時51分51秒
- 「ごっちんって、なにも言わないっしょや。」
「なにが?」
「なんでも。あんまり言葉にしないべさ。」
自分勝手で我が侭で、ごっちんを振り回していなくなるんだよ?
なつみすごい最低じゃない?何も言ってくれないんだったら、代わりに責めて。
その方が優しくされるよりずっと楽だ。
「あぁ…。でも言わなきゃいけない事はちゃんと言ってるつもりだけど。」
もう、終わりなんだね。
もう来ない人間を、責める必要はないって事でしょ?
「…そう。」
逸らされたままのごっちんの横顔を、じっと見つめる。
もう1度見たかった。薄く笑う横顔。
一番好きだった、ごっちんの表情。
それだけじゃない。あの声も、指も、温もりも、2度とは包んでくれない。
思い出すと切なくて、なつみは声に出して呟いていた。
「もう、抱いてくれないんだね。」
ようやくこっちを向いてくれたけど、ごっちんはすごく驚いた顔をしていた。
そんな顔しなくてもいいじゃん。
「ごめん、ウソウソ。冗談だべさ。」
大袈裟に笑って見せたけど、ごっちんの表情は戸惑ったままだった。
結局、ごっちんの事を振り回してばかりだった。最後まで。
- 125 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年04月28日(月)00時52分23秒
- なつみはソファから腰を上げ、出来るだけ普通に言った。
「帰るね。」
でもそれは『もう来ない』と同じ言葉。
「ん…。」
ごっちんはそこから動かないままで、軽く頷いた。
ありがとうも、ごめんねも、口にしたらぎこちなくなる気がして、言わない事にしたけど、
ホントは言いたい事が、キリがない程溢れている。
聞きたい言葉もたくさんある。
それは永遠に言えないまま、忘れてしまうのかな。
「お休み。」
ごっちんに背を向け、玄関に向かう。
「お休み。」
背中から聞こえる声。それに押し出されるように、ドアを開けて部屋を出る。
背中で閉まるドアの音が、いつもより大きく感じて、思わず振り返る。
閉じられたドア。
これが開くのを見る事は、2度とない。
きっともう、ここへはこない。
- 126 名前:作者 投稿日:2003年04月28日(月)00時59分20秒
- 9回目の更新です。
更新すると言った水曜日を大幅に過ぎてしまいました。
今週は少し忙しくて…(言い訳)
そして裕ちゃんとよりを戻してしまったなっち。
なんか、なっちに自主性がないような感じがして、
自分の書き方を少し反省中。
カキコ&読んで下さってありがとうございます!
>105 名無し読者様
すみません。裕ちゃんがまた、がなんかどんどん進んでしまって…。
裕ちゃんもねぇ。
期待を裏切ってしまってスミマセン(苦笑)
>106 名無しさん様
なちごま良いですよね〜。
私はなちごまから入って訳じゃないのですが(爆)
今はなちごまに夢中です。
>107 名無し読者様
毎回更新を楽しみにして頂けて光栄です。
大スキだなんて!
私なんかにありあまるお言葉ですが、頑張りたいです。
>108 名無し読者様
なちごま最高!!
面白いなんて言って頂けると本当に嬉しいですね。
次の更新は…来週の日曜日?か月曜日です。
今度こそきちんと更新を!
- 127 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月28日(月)02時32分48秒
- なっちゅーって、せつないけど・・・ほんのり甘いビター風味って感じが似合いますよね。
- 128 名前:チップ 投稿日:2003年04月28日(月)10時56分29秒
- ごっちん・・・朝っぱらから泣いちまいました。
ドーデモイイ話おいらも全然表に出さない方なんで、やっぱ損なんかなぁと思いました。
なっちが一番人間ぽくてここのなっち好きれす。
なんか視界がハッキリしてないのに行く方向を決めて迷子になった時の事を思い出します…。
続きもマターリ待ってますんで頑張ってください。
- 129 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月28日(月)11時11分20秒
- うっ、後藤さん。せつない...。
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月28日(月)22時12分02秒
- ごっちん切ないですね。自分的にはごっちんにがんばって欲しいところ。
・・・でも確かに、言葉にしないと伝わらない事ってあるよね。
- 131 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月01日(木)14時05分47秒
- 素晴らしい。泣いてしまいました。
- 132 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月05日(月)23時58分23秒
- 更新は?
- 133 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月07日(水)02時44分32秒
- ・゚・・゚・・(ノД`)・゚・・゚・ 続き…
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月07日(水)13時31分14秒
- まあ、まったり待ちましょうや。
- 135 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時12分30秒
久し振りに訪れた裕ちゃんの部屋は、たった2ヶ月来なかっただけなのに、
部屋の空気も、ソファの感触も、ベッドの高さも、ひどく懐かしい感じがした。
懐かしい。それは過去に使う言葉。
自分の現在は、多分まだごっちんの所にある。
早く取り戻さなくてはと、なつみは自分から裕ちゃんをベッドに誘った。
だけど変わらないハズのその行為さえ、少しずつ違って感じている自分がいる。
だって抱き締めてくれるこの腕を、2ヶ月前はしっかりしてるなんて思わなかった。
すべてを比べている。
指の長さを、汗の匂いを、身体にかかる重みを。
「このベッド、広いよね。」
ごっちんのベッドはいつも落ちそうで、いつもくっついて眠っていた。
「え?ベッドの幅?」
「…あ、ううん、なんでもないべさ。」
また、比べている。
なつみは自分の思考回路がイヤになって、ベッドから降りた。
- 136 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時13分15秒
- 「シャワー浴びてくるね。」
裕ちゃんだって、絶対おかしいと思っている。
どうしたらいい?
裕ちゃんといた時間の方が長かったし、ずっとずっと望んでいた事なのに、
すべての基準がごっちんしなっている。
バスルームのドアを開けて中に入ると、見慣れた配置そのままに、
なつみ用のシャンプーとリンスが行儀良く並んでいた。
まさかあるなんて思わなかったから、びっくりして手に取る。
嬉しいような、哀しいような、変な気分だった。
そういえば、ごっちんの所にはシャンプーも化粧水も置いてなかったっけ。
あんなに通っていたのに、どうして買わなかったんだろう。
まるでこんな日が来る事を、分かっていたみたいだ。
「どうした?」
振り向くと裕ちゃんがいた。
「シャンプー、捨てなかったの?」
「石鹸は腐らへんやろ。」
言いながら中に入ってきて、横に並んだ。
だからって、置いたままにしないだろう。
なつみの気持ちに気付いていたなら余計に、
思い出すものは目の前になるだけで重いハズだ。
- 137 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時13分58秒
- 「もう来ないかもしんなかったのに?」
「そしたら私が使うわ。」
多分ウソ。
でもなんかちょっと嬉しかった。
「ありがと。」
と、人がせっかく良い気分でいるのに、
この人はどさくさに紛れて、腰なんかに手を回してくるから、思いっ切りひっ叩いてやった。
「いった〜。叩かなくてもいいやろ〜!」
「っていうか、何杯って来てるんべさ?」
「ええやろ〜。仲良くしよ。」
「いや〜だ〜。」
なつみは身体全部で、裕ちゃんを押し出して急いでドアを閉めた。
ドアの向こうでブーブー言っている声を聞いたら、なんだか勝手に笑いが込み上げてきた。
大丈夫、きっとやり直せる。
なつみの現在がごっちんにあっても、未来を裕ちゃんと作れば良いんだ。
少しくらい、時間がかかっても。
- 138 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時14分33秒
今日は朝から調子が良い。
目覚めもバッチリ、肌もツヤツヤで良い気分。
そして矢口の機嫌だけど、さっさと着替えを終えた矢口は、鼻歌なんか歌っちゃって、かなり機嫌が良い。
梨華ちゃんもごっちんとおしゃべりが止まらないみたいで元気が良い。
実は天気なんかより、これが一番重要。
だって、楽屋が静かだったら、なつみは本番までの間、どうしたらいいか分からなくなる。
気まずいとか、そんなんじゃない。
ごっちんとは以前とまるで変わらないし、もともと現場ではいっぱい話す方じゃないから、
なつみさえ普通にしていられれば、問題ない。
目の前に手をパタパタ振られて、なつみはハッと顔を上げた。
「なっち、大丈夫?」
そう、ごっちんはこうして普通に接してくる。
「え、あ〜、ボーッとしてた。」
でもなつみはきっと何処か不自然だ。
自然にしようとすればする程、わざとらしくなってしまう。
今だって、着替えてる途中だったのに、ボーッとてたりして、すでにおかしい。
「今、完全に動き止まってたよ。」
「だいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶ。」
- 139 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時15分08秒
- じゃない、全然。
駄目なのだ。なんか喋ってないと、動いてないと、ぼんやりと見てしまう。
ごっちんの指。長くて綺麗な指。触れて欲しくて体が熱くなる。
ごっちんの腕。もうなつみのつけた跡はどこにもない。
綺麗に消えてしまったその腕に、触れたくて手を伸ばしそうになる。
だから見ないようにと、必要以上に動き回るなつみは、
なにも知らない周りからは「最近元気だね〜」なんて言われてる。
ごっちんはどう思ってるんだろう。
裕ちゃんと上手くいってるから元気なんだとか、そんなふうに思っていたらイヤだ。
他の人と付き合ってるくせに、こんな事を思うのは、おかしいんだけど。
第一、いちばん事情を知っているのは、誰でもない、ごっちんなのに。
ごっちんがふらっと楽屋を出て行くと、ゴキゲンな矢口がこっちにやって来た。
「なに凹んでんの?」
急にそんな事言うから、リアクションが間に合わなくて、真顔で「なんで」と返してしまった。
「カラ元気全開だからさ。」
「あ、カラ元気なんかじゃないべさっ。」
「なっち、分かりやすいからな〜。」
- 140 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時15分45秒
- バレバレだ。
特に根拠もなく、なんとな〜くメンバーの事が分かっちゃうのが矢口のイヤな所。
でも、良い所で、ちょっと嬉しい所でもある。
そういえば、裕ちゃんの事、報告してなかった。
「そうだ、なっち、裕ちゃんと仲直りしたんだ。」
「あっそ。」
矢口は、興味なさそうにそっけない返事をすると、手近にあった雑誌を捲り始めた。
「あっそって〜!こないだ矢口言ってたっしょや〜!」
心配してくれてたんじゃないの?
「なっち、ケンカなんかしてないって言ってたじゃん。」
「ケンカはしてないの。でも仲直りはしたべさ。」
「なにそれ〜。よく分からない。」
「矢口、頭悪いからね〜。難しいかな?」
「なっちに言われたくないよ!バ〜カ」
スタッフが呼びに来て、なつみと矢口は冗談半分の口喧嘩を続けたまま、楽屋を出た。
いつ戻ってきたのか、ふと見るとごっちんが前を歩いている。
この前、裕ちゃんと未来を作ればいいって、そう思ったばっかりなのに、
なつみの気持ちは目の前を歩く背中に向かっていた。
見ているだけで切なくなるのは、それが、ごっちんの中で唯一見慣れないパーツだから。
- 141 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時16分15秒
- ごっちんはいつも自分の方を向いていてくれた。
背中を向けられた事なんて、ほとんどなかった。
背を向けたのはなつみの方。そう、最後の最後まで。
与えられ過ぎて満たされ過ぎて、判断力が鈍ったのかもしれない。
なつみは間違えてしまったのかもしれない。
ごっちんの背中を見ていたら、そんな気持ちになってきた。
「なっち、聞いてるの?」
ほら、またボーッとしてた。
矢口の話してるのに、頭がいっちゃうんだから重症だ。
「聞いてる聞いてる。なっちが可愛いっ事っしょ?」
「ぜんっぜん違うんだけど!人の話聞こうよ〜。」
ほら、機嫌が良いと助かる。
怒ったりしても、黙り込んだりしないから、取りあえずこうして会話は続く。
険悪な雰囲気は全然なくて和気あいあいに見えて、娘。の雰囲気も盛り上がる。
そしてなつみはみんなに元気だって思われる。
今日もきっと、ロケ終了までこの繰り返し。
今日は矢口に感謝。そしてごめん。
どうやらなつみは迷子みたいだ。
- 142 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時16分57秒
迷子でも、帰る場所はある。
間違った場所かもしれないけど、今はここしかないから、帰ってくる。
ソファに寝転びながら、なつみはぼんやりとごっちんの背中を思い出していた。
「裕ちゃん。」
「ん?」
キッチンでお茶を入れてくれている裕ちゃんの背中。
逆にこの背中を見ても、切なくならない。
だって、いつも背中ばかり見ていたから。
「なっちのこと、好き?」
永遠に振り返ってはくれないと、思っていた背中。
それが今はほら、振り返って自分を見ている。
「なに、どうしたん?」
「別に。ちょっと言ってみたくなっただけ。」
そう言ってるのに、裕ちゃんは手を拭きながらリビングにやってくる。
「なぁに〜。来なくていいべさ〜。」
「なっちこそどうしたん?可愛い事言っちゃって。」
- 143 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時17分29秒
- 横になっているなつみの脇にしゃがみ込んで、ニヤニヤと顔を覗き込むから、ちょっとむかつく。
「うるさいべさ。良いからお茶ちょうだい。」
「答え、聞かなくてええの?」
「いいよ。いらない。」
ごっちんに言いたくて、でも結局言えなかった言葉。
だけど裕ちゃんはそんな事知らない。
知らないから、優しい目でなつみを見る。
「好きや。」
ごっちんに答えて欲しかった言葉。
優しく降りてくる唇が、胸の奥を切なくさせる。
背中を向けられるよりもキスの方が切ないなんて、おかしな話。
おかしいけど、笑えない話で。
もう何一つ戻す事が出来ない、手遅れの、始まり。
- 144 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時18分06秒
また雨が降っている。
自分の部屋で休日を過ごすのは、本当に久し振りだった。
窓の外は寒いのか、ガラスがうっすらと白く曇っている。
結局、なつみは裕ちゃんを選んだカタチになったけれど、この選択で正しかったのか?
雨を見ながら思い出すのは、たくさん泣いたあの夜と、
ずぶ濡れの自分を迎えに来てくれたごっちんのこと。
いつかの同じような雨の午後、寒いと言った自分を包んでくれた温もり。
あんなに傍にいたのに、あんなに笑いあって、あんなにキスをして、
永遠にそうしていられると思ってたのに。
自分で壊した。
その事実は時を刻むごとに重みを増してくる。
『誰かに傍にいて欲しい』と思うのは、こういう時なんだと、感じる時間が増えていく。
そしてそれは、裕ちゃんじゃない。
何故?そんなことはとっくに分かっている。
分かっているけど、もう遅いんだ。
これ以上、傷付けたくないし、傷付きたくない。
- 145 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時19分00秒
- ひとつの想いを忘れる為に、なつみはいつの間にか、数え切れない程の思い出と、
もうひとつの忘れられない思い出を作ってしまっていた。
すごく、幸せだった。
恋しくて凍えそうな記憶。
なつみはゾクッとして、自分の身体を抱き締めた。
雨は嫌い。
心を寒い所に連れて行く。
彼女がこの手を強引に引いてくれるんじゃないか。
そんな淡い希望すら、この身体を冷やすだけだ。
あの温もりは、もう戻らない。
なつみは布団の中に潜り込んだ。
第1部 安倍なつみ 〜完〜
- 146 名前:第1部 安倍なつみ 投稿日:2003年05月09日(金)00時34分50秒
- お久しぶりです。
ゴールデンウィーク中に更新をする、と言っていたのに遅くなってしまって。
用事が入ってしまって書けないでいました…。
こんな中途半端な所で第1部完?と思われるかもしれませんがスミマセン。
第2部もすぐに始められますので、半端な所で放棄…てな訳ではないです。
カキコ&読んで頂いてありがとうございます!
>127 名無し読者さま
確かになっちゅーってビター風味ですね。
ですが、私はあんまりなっちゅーは読み込んでないので、
他の方の書かれるなっちゅーと違っていたりする所もあるかもしれませんが…。
>128 チップさま
こんななっちで良いですか?そう言って頂けると安心します。
あんまり表に出さないのは…損かどうかは分かりませんが、
大切な事は出来ればきちんと伝えたいですね。
私の場合、いつも言い過ぎて本当に伝えたい事がきちんと伝わらなかったり…
難しいですね。
- 147 名前:作者 投稿日:2003年05月09日(金)00時36分17秒
- >129 名無し読者様
そうですよね、ごっちん切ない。
これからも話は続いていくのでごっちんはどうなっていくのか…
>130 名無し読者様
ごっちんには頑張って欲しいですね、ホント。
というか、頑張ってもらわないと話が進まないというか…(苦笑)
雰囲気じゃなくてやっぱり言葉にするっていうのは大切だと思いますね。
>131 名無し読者様
泣いてしまわれましたか?
わ〜、感動して頂けるなんて本当に嬉しいです!!
書く以上、それなりに良い作品を目指していますが、
素晴らしい、と言って頂けると嬉しいです。ありがとうございます!
>132〜134
更新遅れてスミマセン〜。
もっとちゃんとコンスタントに書けるようにならないといけませんね…。
反省です。
更新は週1でやっていきたいと思います。
きちんとした日にちが言えないのは申し訳ないです…。
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月09日(金)01時07分19秒
- 更新お疲れさまでした。
せつないですね。 ホントに。
小説だと、わかっていながら、
胸がキューンとなります。
それにしても、後藤さんの気持ちの動きがすごーく気になる、ような。
- 149 名前:ろくた 投稿日:2003年05月09日(金)01時07分52秒
- 更新&第1部完結お疲れ様でした〜。
毎回毎回どきどきしながら読まさせて頂いております。
何かもう、ひたすらなっちが切ないですね…。
誰かと一緒にいても『ひとりぼっち』な感じで。
迷子になったなっちのココロを救ってくれるのは誰なんでしょうか…。
ごっちんがんばれー!!
…と、なちごまスキーな自分としてはそう思いますが(w。
これはもう第2部も目がはなせませんね。
作者さま、これからもがんばってください!!
- 150 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月09日(金)10時33分11秒
- 更新ありがとうございます。今回もよかったです。
第2部楽しみにしています。
- 151 名前:チップ 投稿日:2003年05月09日(金)16時23分03秒
- 第1部完結お疲れ様です。
ごっちん!切な過ぎるよ!うぅ…。
なんかすごい引き込まれてます。第2部もついてきますんで
頑張ってください。
- 152 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月09日(金)21時51分42秒
- 第一部お疲れ様でした。
なっち・裕ちゃん・ごっちん・・・三人とも切ない。
三人とも幸せになってくれると嬉しいです、頑張ってください。
- 153 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)13時58分31秒
- 今一番楽しませてもらっている作品です。
次回楽しみにしています。
- 154 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時05分23秒
a labyrinth of love
第2部 後藤真希
なっちと会わなくなって、1週間になる。
たった1週間。
もう1週間。
彼女はどう感じているのだろう。
好きな人の傍で過ごす時間は、きっとあっという間だ。
私がそうだった。
なっちのいた2ヶ月は本当に短くて、振り返ると愛しさがぎゅうぎゅうに詰まっている。
だから、気持ちが分かるから、引き止める事が出来なかった。
なっちが迷っているのは何となく分かったけど、
裕ちゃんの不安も知ってしまった私に出来るのは、見送る事だけだった。
- 155 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時05分58秒
「なっちとはどうなってんの?」
「どうって…。」
帰り際に後藤を引き止めた裕ちゃんは、いつもより低いトーンで言った。
「誤魔化さなくてええよ。指の跡付いてたやろ、後藤の腕。」
「あれは…。」
「そのことはええんや。そうじゃなくてな。」
裕ちゃんはこっちが答える暇も与えず、立て続けに言葉を発する。
そこで後藤は初めて知った。
なっちが裕ちゃんに告白された事を。
そしてその想いに応えた事を。
後藤と付き合っている訳じゃないとか言いながら、全然はっきりしないなっちに不安を覚えている、と裕ちゃんは言った。
心の余裕がないのか、いつもより言葉も強く、早口だった。
だからって、後藤は何も答えられない。
自分でも解らない程曖昧な2人の関係を、どう答えろと言うのだろう。
「なっちから聞いた方が良いんじゃないの?」
「聞いても言ってくれへんから後藤に聞いてるんだよ。
私だってこういうのイヤ何やけど、このまんまじゃ、どうしたらええのか分からないから。」
ああ、だから…。
だからあんなに不自然で、あんなに明るかったんだ。
- 156 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時06分31秒
- 「…何でもない。」
もう少し、一緒にいたかったけど。
「え?」
「後藤達、そんなんじゃないし、なっちは別に後藤の事何とも思ってないから。」
そう、何も変わってなんかいない。
全部が始まる前に戻るだけ。
祈るように見つめる瞳は、あのキスは、さよならのキスだったんだね。
「じゃぁ、ええの?なんも問題ないんやな?」
公演で見た、宙を浮く、なっちのせつない瞳。
あの先にいるのは、この人。
「あるわけないじゃん。なっちが好きなのは裕ちゃんでしょ?」
ずっと分かっていたけど、初めて声に出した。
「ホンマ、そう思う?」
「うん。」
言葉にしたら、なんだか熱くて、いろんなものが溢れそうだった。
それから、自分の中にもこんなに熱いものがあったんだなぁなんて、ぼんやりと思った。
- 157 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時08分36秒
「やだなぁ、また雨降ってきたよ。」
圭ちゃんの声で、ハッと我に返った。
スタッフに渡された透明のビニール傘を差す。
午後からのロケはすっきりしない空模様で、雨も降ったり止んだりを繰り返している。
傘の中から見上げると、真っ直ぐに落ちてくる水滴は、
透明なビニールに当たって散る度に、とても痛そうだった。
ブランコに座っていたなっちを、あの日ずぶ濡れにしたのも、こんな痛そうな雨だった。
なっちは妙にはしゃいでいて、休みに何処に行くかなんて言ったけれど、
今思えばあの時はもう、それが実現されない事を、なっちは分かっていたのかもしれない。
「雨降ると、急に寒いな〜。」
肩を竦める圭ちゃん。
その声も雨音の向こうに聞こえる。
なっちが嫌いだと言った、雨。
思い出すのはベッドの中で抱き締めた、その温もり。
「雨って、哀しいと思う?」
隣で欠伸をする圭ちゃんに聞いてみる。
「ああ、そうかもね。寒いだけで物悲しい気分になったりするし。」
「…そんな事、言ってた様な気がする。」
「誰が?」
「や、なんでもない。」
- 158 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時09分07秒
- 圭ちゃんはにやっと笑って、後藤の脇腹を突っついた。
「やだなぁ、ごっちんってばオトナ♪」
「そんなんじゃないよ。」
笑って誤魔化そうとしたけれど、頭ではやっぱり、なっちの事を考えている。
もう、なっちを温めるのは後藤じゃないのに。
「もう、終わった事だし。」
なっちを想うだけで、こんなにも自分のペースが乱れるなんて、思ってもいなかった。
「最初から、なんでもなかったのかも。」
「なんでそう思うの?」
「さぁ…なんとなく。」
そう答えると、圭ちゃんはいたって普通の表情でこう返してきた。
「伝えてないでしょ。」
「…何を?」
「後藤がそんだけ大切に思ってる事をさ。」
- 159 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時09分43秒
- 伝えたかった。
だけど後藤は、なっちを救いたかった。
「言って、困らせたくないし。」
伝えてしまったら、なっちは自分の想いと後藤の想いの狭間で苦しむ事になる。
「後藤はさ、感情表現が足りないんだよ。」
「そうかなぁ…。」
弱くなってきた雨を見上げながら、圭ちゃんは何かを思い出しているみたいに、ゆっくりと呟いた。
「世の中ってさ、見なきゃ伝わんない事とか、言葉で言わなきゃ伝わらない事とか、結構多いんだよ?」
その言葉は静かに耳に抜け、胸に落ちてきた。
見ると、圭ちゃんは後藤の方を向いて優しく微笑んでいた。
後藤は答える代わりに笑い返して、もう1度なっちの事を思い浮かべる。
なっちは、どう思っていたんだろう。
変わる事を、望んでいたのだろうか。
- 160 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時10分32秒
裕ちゃんを見上げるなっちは、とても幸せそうに、後藤の目には映った。
当たり前だ。
あんなに自分で自分を傷付けて、それでも忘れられないくらい好きだった相手が、
今は自分の事を愛してくれている。
幸せじゃない方がおかしい。
今日もなっちはすごく元気で、楽屋入りしてからずっと喋りまくっている。
毎日のように見る、なっちの笑顔。
それは後藤を安心させたけれど、もう会えなくなってしまった事を確認させられる。
会ってるのに会えない。
届く所にいるのに、手を伸ばせない。
「ごっちん、ごっちん。」
やけに声が近いと思って振り向くと、いつの間にかなっちが隣に腰掛けていて、ちょっと驚く。
「何ぼ〜っとしてんだべさ。」
なっちは分かりやすい。
「いつも。」
「そっかなぁ。」
話し掛けてくるけれど、なんだか不自然だし、ぎこちない。
「何、なっちどうしたの?」
「うん。前に左、公園で撮ってた写真て、現像した?」
自然に接しようと、すればする程裏目に出るパターンだ。
- 161 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時11分03秒
- 「あ…、まだフィルムのまま。」
「なぁんだ〜。早く見せてね。」
「うん、そのうち。」
むしろ話さない方が自然だと思うけれど。
「そのうちっていつだべか〜。すぐしてね。」
そう言いながらなっちは腰を上げて、今度はやぐっつあんの所に駆け寄って行った。
週末からツアーも始まるのに、どうしたらいいんだろう。
首都圏ならまだしも地方になんか行ったら逃げようがないし、メンバーまで不自然な雰囲気になったら困る。
後藤の態度がいけないのか。
いや、一人でうとうとしてるのはいつも通りだ。
そしてなっちの不自然さは、自分にはどうしようもできない。
なっちだって一所懸命考えているんだろうし、下手に何か言ったら、
なっちの事だ、事態はますますややこしくなるだろう。
そういうところも可愛いと思わせてしまうのが、なっちのすごい所。
又は後藤の病んでいる所。
こうして見ているだけになっても、それは変わらない。
- 162 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時11分34秒
- 『もう、抱いてくれないんだね。』
あの時なっちの口から、そんな言葉が出るとは思いもしなかった。
そして今戻る事が出来るのなら、そう呟いたなっちを抱き締めて、行くなと言ってしまうかもしれない。
何故なっちはあんな事を言ったのか。
許されるのなら今だって、なっちを抱きたい、肌に触れたい、すぐにでも。
でも結局、なっちの望むものが何だったのか後藤は分かってあげられなくて、見送るだけだった。
後藤は大切なサインを見逃してしまったのだろうか?
だとしたら、そんな未熟な自分では、なっちを守れない。
だからこれで良かったんだ。
引き止めなくて良かったんだ。
- 163 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時12分26秒
ぼんやりしていたからか、後藤はみんなに後れを取ってしまった。
1人慌てて楽屋を出て、スタジオに向かう。
閉じかけたエレベーターに駆け込むと、中にはぽつんとなっちがいた。
一瞬目が合ったけれど、ドアが閉じると同時になっちは壁に凭れ、目を伏せた。
「遅いっしょや。」
後藤は隅にいるなっちから少し離れて、後ろに立った。
「うん。」
会話はそれだけだった。
さっきあんなに話していたのに、2人きりになった途端、黙ってしまう。
別に無理して話す必要はないけれど、さっきまであんなに喋っていた人に突然黙られたら、
変な空気が漂ってしまうのは避けられない。
高層ビルでもないのに、たった数階がとても遠い。
「ごっちんは普通だべさ。」
「え?」
「おっきいのかな、やっぱり。」
「なにが?」
「気持ちっていうか、人間としてっていうか、上手く言えないんだけど…。」
「おっきくないよ。」
「おっきいよ。なっち、ごっちんみたいに出来ないべさ。」
「そんなことないよ。」
「あるって。なっちダメだもん、全然…。」
- 164 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月14日(水)19時12分56秒
- そこでエレベーターが止まってしまった。
何がダメなのだろうか?何かあったのだろうか?
それを聞く隙もなく、なっちはドアが開くなり、逃げるように先に行ってしまった。
なっちの背中を追うようにスタジオに入ると、
なっちはもういつもの表情で、やぐっつあんに話し掛けていた。
ああどうして…。
どうして無理して笑うの。
あなたがそうやって強がるから、後藤は心配で目が離せなくなるんだよ。
そんななっちをあしらいながらやぐっつあんが振り返り、目が合った。
少し、心配そうに後藤を見る。
言葉はなくても、きっと何か感じているんだ。
ごめん、いつも。
自分を気に掛けてくれる人がいると思うだけで、ちょっと落ち着く気がする。
もう少し、見守っていて。
これはきっと病みたいなものだから。
ありがとうの意味を込めて、少し笑顔を作ると、やぐっつあんも軽く微笑み返してくれた。
この病が治る為には、どのくらいの時間が必要なのだろうか。
それ以前に、治る見込みはあるのだろうか。
- 165 名前:作者 投稿日:2003年05月14日(水)19時25分50秒
第2部を始めました。
第2部はごっちん視点で。
ごっちん視点は書いた事はあるものの、
そんなちゃんと書いた事はないんで少しおかしくなってしまうかも…。
気をつけます。
レス&読んで下さって感謝です。
>148 名無し読者様
というわけで後藤視点です。
これからはごっちんの気持ちをが〜っと書く…予定(w
>149 ろくた様
確かになっちは「切なく」を目標に書いていました。
好きな子程いじめたくなる、というやつかもしれませんが…。
誰かと一緒にいてもひとり、っていうのはイヤですね〜。(書いてるヤツが言うな、ですが)
>150 名無し読者様
わわっ、なんか「今回も」の「も」に妙に喜んでしまっています。
これからも楽しんでいって下されば良いのですが。
- 166 名前:作者 投稿日:2003年05月14日(水)19時27分34秒
>151 チップ様
引き込まれて下さってありがとうございます。
第2部も是非読んで下さると嬉しいです。
>152 名無し読者様
なっち・ごっちん・裕ちゃんの3にんのぐるぐる(?)を書きたいと思っていたので、
3人とも切ない、と言って下さると嬉しいです。
て、まだ裕ちゃんのフォローが完全に出来てないのが辛いですが…。
>153 名無し読者様
一番ですか!どうしよう。
そんなに楽しんで頂けているなんて嬉しいような恐縮な様な…。
頑張りたいと思います!!
今回最後の方で矢口とごっちんがちょっと気になる、な感じになってしまったかも。
もっと普通に書ければ良かったのですが、失敗ですね…。
- 167 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月14日(水)20時33分57秒
- 第二部始まったんですね。
後藤さん視点、いいですね。
なっちに対するどうしようもないくらいの強い想いが凄く伝わってきて..。
今更ながら作者さんの文章の巧さに脱帽です。
これからも頑張ってください。
更新、楽しみに待ってます。
追記:矢口さん、確かに気になる。
- 168 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月19日(月)15時05分59秒
- 泣ける…。
更新も早いし、楽しみにしています。
- 169 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月19日(月)17時07分19秒
- >「遅いっしょや。」
なっちかわいい・・・せつない・・・。
続きが楽しみでしょうがない作品です。
- 170 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時12分07秒
もし神様がいるなら、後藤は嫌われてしまったのかもしれない。
1日中、裕ちゃんと一緒のロケだなんて。
後藤の気持ちみたいに、空はスッキリしない嫌いなグレー。
気温もかなり低いみたいで、衣装だけでは風邪を引きそうだ。
スタッフの人が貸してくれた上着を羽織って、空中に出て行ってしまう、自分のため息を聞いていた。
こういう、中途半端な空き時間が一番憂鬱だ。
ロケバスの中に戻っても良いけれど、裕ちゃんがいるし、話さない作戦として寝る程の時間はない。
こんなことを考えているのは、自分らしくない。
普段は話さなくたって平気なくせに、最低だ。
「お〜いっ、後藤!」
耳元で声がして、慌てて飛び退くと、後ろで裕ちゃんが笑っていた。
「びっくりした〜。」
「いっくら呼んでも気付かへんから、寝てんのかと思ったで。」
「こんな目ぇ開いて寝ないよ。立ってるんだし。」
「後藤ならあるかと思って。」
- 171 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時12分41秒
- 朝からそう。
裕ちゃんは何処も変わらない、みんなに接する時と同じ。
裕ちゃんは後藤の言った事を信じてくれている…いや、信じようとしてくれているみたいだった。
後藤も、なっちも、お互い「なんとも思ってない」と。
それじゃ余計に痛い。
信じてくれている人に、ずっとウソをついているなんて。
裕ちゃんの目を真っ直ぐに見られないのは、きっとそのせいだ。
「裕ちゃんさ。」
「ん?」
「後藤といるの、辛くない?」
「…あんたといるのは辛くないよ。」
おかしな言い回しだった。
後藤といるのは?じゃあなっちといるのが辛いの?
そんなわけないよね。でもそう聞こえる言い方だった。
気になったけれど、裕ちゃんが話さないのに、それ以上突っ込む権利は自分にはない。
裕ちゃんは後藤の肩を叩き、空気を変えたかったのか、大きく笑った。
- 172 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時13分16秒
- 「ボ〜ッとしてるのかと思ったら、そんな事、気にしてたん?」
「ん。ごめん。」
「いいんやけどね。後藤は?大丈夫?」
「後藤は、もう全然。」
また、ウソを重ねる。
辛いのは自分で、朝から憂鬱だったくせに。
たったひとつのウソを通す為に、後藤はこれから先、どのくらい裕ちゃんを騙していくんだろう。
『なんとも思ってない』それが真実になるまでか。
ごめん。
今はまだ、ウソを真実には出来ない。
- 173 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時14分41秒
帰って来ると、ひんやり冷たい空気が部屋を包んでいた。
外とは違う、独特の冷気にひとりであることを感じる。
温かいものでも飲もうかとキッチンに立って、ふと紅茶の缶が目に止まった。
手に取り蓋を開けると、少しだけ残った茶葉が乾いた音を立てる。
『なっちの好みも分かってきたね。』
とっておいても、きっともうなっちが飲む事はないだろう。
でも捨てるのはなんだか躊躇われて、後藤はお湯を沸かし、
残っていた茶葉で、自分の為に紅茶を入れた。
そういえば、なっちに煎れる事はあっても、飲むのは初めてだ。
『感情表現が足りないんだよ。』
愛してる、ずっと傍にいて、そう言ったら、なっちはいてくれたのだろうか?
カップに注ぐと、優しいアールグレイの香りがキッチンに漂う。
ミルクは入れなかった。
それを持って自分の部屋にに移動し、クッションの上に座った。
なっちがよく寝転がっていた場所。
熱い紅茶を一口啜ると、体が温まる。体だけが温まって、胸の奥の寒さを際立たせる。
- 174 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時15分40秒
- 一番思い出は詰まっているのは、スタジオでも楽屋でもなく、この部屋なんだ。
立っていても座っていてもなっちの姿が浮かんで、寂しさばかりが増えていく。
寂しさは、なっちへの想いに拍車を掛ける。
と、ドアをノックする音が聞こえる。
「姉ちゃん。電話。」
「誰?」
「安倍さん。」
後藤は自分の想いを読まれたみたいで、戸惑いながら電話を受け取った。
こんな夜中に、自宅に電話を掛けてくるなんてどうしたんだろう。
会ってもぎこちないのに、何故電話なんか…。
けれど電話の向こうからは、こっちの気持ちなんてまるで関係ない、元気な声が飛び出してきた。
「久々だべさ〜。」
「う、うん…。」
「なんかね、家に帰ってなっちの鞄の中見たら、ごっちんの携帯入ってたんだべさ。」
ごめんね〜、と自分が悪いわけでもないだろうに謝るなっちは昔のなっちみたいだった。
「良かったのに、明日でも。電源きってるし。仕事んときに渡してくれれば。」
なっちが律儀にすぐに電話してくれた事が、嬉しくて、苦しい。
「取りあえず、それだけだから。」
- 175 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時16分13秒
- 「あっ、なっち!」
なっちが切ろうとするのを、後藤は慌てて止めた。
「なに?」
別に話す事なんかない。
あったとしても、それこそ明日で良いだろう。
でももう少し、声を聞いていたかった。
「紅茶…。」
人間というのは、話す事がないと、目に入ったものを何でも口にする。
「紅茶?」
「うん、なっちが買ってきたヤツ。」
「あ〜、もうあんまり残ってなかったっしょや。捨てちゃってもいいよ。」
おそらくなっちも、深く考えた答えじゃなかったと思う。
だから後藤達は、一緒に黙り込んでしまった。
捨ててもいい。それは、もうここに来る事はないという、もうひとつの意味を持った言葉。
目の前に置かれたカップに目がいく。
分かっていた事じゃん。
だからこうして、紅茶を煎れたんじゃないか。
「…そう思ったんだけど、なんかもったいないから今飲んでた。」
後藤が言うと、なっちはホッとしたみたいで、いつものように返してきた。
- 176 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時16分48秒
- 「勝手に人の飲まないでよね〜。」
「どうせ捨てても良いんでしょ?」
「だって、なっちが言う前に飲んでたっしょ?」
「ごめん、ごめん。」
「でも、美味しいべさ?」
「…う〜ん、コーヒーのが好き、かな。」
「なんだべさ〜、勝手に飲んでおいて!美味しくないなら飲まなくて良いのに。」
それから後藤達は、長い間、延々とくだらない話をした。
こんなに長く、こんなに普通に言葉を交わしたのは、とても久し振りだった。
明日からはきっともう、自然に話せるだろう。
そう思うとまた嬉しくなる。
嬉しいと思っているうちは、きっと忘れられない。分かっている。
でも今はまだ、なっちを想っていたい。
アールグレイの香りがする度、愛しさに苦しみながら。
- 177 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時17分25秒
翌日、裕ちゃんが突然家にやって来た。
後藤が『連絡くらいしてよ』って言ったら『携帯、持ってなかったくせに。』と笑って、後藤の携帯を渡してくれた。
それはそうだ、と思い後藤も笑ったけれど、裕ちゃんが後藤の携帯を持っている事が気になった。
昨日、あれからなっちと裕ちゃんは会ったのかな?
恋人だし、後藤が口出しする権利なんてないけれど、少しだけ哀しかった。
それに、こんな風に急に訪ねてくるなんて、きっとなにかがあるに違いない。
後藤は途切れない程度に会話しながらも、気持ちはそわそわと落ち着かなかった。
でも裕ちゃんは、いつまで経っても全然『そういう話題』を切り出さなくて、
こんな事になってしまう前と同じように、面白い事を言って、後藤を笑わせてくれた。
作ったりしてるんじゃなくて、すごく普通で、心地良い笑い。
なっちの事があって、裕ちゃんとも気まずくなるだろうと覚悟していた後藤に、
2人の関係は少しも変わらないんだって、今日はそれを伝えに来てくれたんだと、ようやく分かった。
昨日の、後藤のぎこちなさに気付いて、来てくれたんだと。
- 178 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時18分04秒
なっち、おっきいのは後藤じゃなくて、裕ちゃんだ。
後藤の心は大きくなんかない。
余裕がないのを、ただ隠しているだけ。カモフラージュだ。
なっちを失った時、後藤は剥き出しの裕ちゃんを羨ましいと思った。
好きな人の為にカッコ悪い自分をさらせるのは、すごい。
自分には、そんなこと出来ない。
後藤の想いは、裕ちゃんに及ばないのか?
そんなことはない。なっちへの想いだけは、絶対に負けない。
負けているのは、後藤という、人間の弱さだ。
- 179 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時18分44秒
裕ちゃんが帰った後、後藤はふと思い出して、本棚の奥から少し大きめの箱を取り出した。
中に入っているのは、今までプリントしたたくさんの写真。
もちろん、なっちと行った公園で撮ったものもある。
後藤は丘の上で最後に撮った、なっちの写真を撮りだした。
そう、フィルムのままだというのはウソ。
現像して、これは渡せないと思ったから、なっちの分は焼き増しして貰わなかった。
だってこの写真には、撮った時の気持ちが写っている。
『そんなの他人が見ても分からないでしょ。』と昔は自分も思ったけれど、
これを見たら、そんな事は言えなくなってしまった。
きっと他の人も分かるだろう。
ここに写っているのは後藤の、一番大切な人だと。
写真を見つめるだけで、夕陽の熱までも、肌に蘇る気がする。
『なんでさ、なんにも聞かないの?』
聞きたくなかったと言えば、ウソになる。
でも、深い意味なんかない。
- 180 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時20分18秒
- 大切な人を困らせようなんて思う程、後藤はもう子供じゃなかった。それだけだ。
電話をもらった時の後藤は、正直言えば、少し傷付いていた。
自分の存在を、あんなにハッキリ否定されたら、誰だってそうだろう。
なのになっちが電話をくれただけで、それだけで、すべてが許せてしまっていた。
あの時は眩しくて、どんな顔をしているのか、ハッキリ見えなかったけれど、
写真の中のなっちは、優しい暖色に包まれて、はにかむように笑っていた。
自分に向かって、こんなふうに笑ってくれることは、もうないかもしれない。
一緒にどこか行こうと、約束したあの日。
果たせなかった約束を、なっちは覚えているだろうか。
裕ちゃんの腕の中で、忘れてしまっただろうか。
- 181 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年05月28日(水)15時20分52秒
- なっちが幸せになれるならそれでいいと、後藤は本気でそう思っていた。
なのに、日を追うごとに胸の痛みは強くなる。なっちを思う時間が増えていく。
裕ちゃんが来てくれて嬉しいと思う反面、また少し、なっちを遠ざけられた気がしてる。
腕の跡を裕ちゃんに問われた瞬間から、あの時、なっちが部屋を出て行くあの時まで、
時間ならたくさんあったのに、後藤は何もしなかったし、聞かなかった。
それが今になって、どうして引き止めなかったんだと、もう1人の自分が問いかける。
今更自問したって、答えは変えられないのに。
- 182 名前:作者 投稿日:2003年05月28日(水)15時31分03秒
- こんにちは。久々更新です。
すみません、体調を崩してしまった…。
雨の中、外にいたのがいけないんですが…、仕方がなくて。
やっぱり風邪はいいものではないですね(当然だが
皆様も風邪にはご注意下さい。
レス&愛読ありがとうございます!
>167 名無し読者様
いつもありがとうございます。
文章が上手いとか言われるとすごい恥ずかしいです。
いや、こんな小説をアップしてる時点で羞恥心はないはずだ。
なっち好きな私としては後藤視点で書くと
どうやっても「なっち好きやねん」な内容になりがち。
反省です。
>168 名無し読者様
泣けますか〜。
ありがとうございます。
こんな内容でも泣いて下さるなんて本当に有り難い限りです。
しかし更新の方は遅くなってしまって本当にスミマセン…。
>169 名無し読者様
なっち可愛いですよね〜。
って、この小説のなっちは可愛く描けているかは疑問ですが、
一応頑張ってみてはいます。
ですから、可愛いなんて言って頂けると嬉しいです!
きっと!きっと今週中…土曜日or日曜日に更新をしたいと思います。
もししてなかったら月曜日…(弱気発言)
- 183 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月29日(木)09時51分22秒
- 更新ありがとうございます。
また、朝から泣いてしまった。
ごっちん・・・。
- 184 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月31日(土)12時10分37秒
- 更新、待ってました。
大人な中澤さんもいいですね。
これからも、楽しみにしてます。頑張ってください。
後藤さんの想いが届くことを祈りつつ..。
- 185 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時11分53秒
ツアーが始まって地方を回っていると、自然とホテルに泊まる回数も増える。
その度になっちは、何かにつけて後藤の部屋にやって来た。
特別用があるわけでもなく、相談がある雰囲気でもなく、
他愛もない話をしては夜中に自分の部屋に戻って行く。
どういうつもりなのか分からない。
こんな事をされたら、また期待してしまう。
「見て見て〜、これ美味しそうっしょ。一緒に食べようっ。」
今夜もまた、なっちがやってきた。
「どうしたの?」
「貰ったんだべさ。」
お菓子の箱を持って、ニコニコと入ってくる。
「辻とか加護ちゃんは?」
食べ物といえば…と思い、名前を挙げてみる。
「ノックしても返事がないから寝てるみたいだべさ。」
唇を尖らせながら、ベッドに勢い良く腰を下ろす。
後藤も傍に腰掛けながら、少しなっちをからかってみる。
- 186 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時12分30秒
- 「じゃぁ、今度から後藤も寝てるって事にしよ。」
「やめてよ〜。無視はイヤ。寂しいべさ。」
真剣な顔で言うから、可笑しくて笑ってしまった。
大丈夫、出来るわけがない。
「なっちは寂しがり屋だもんね。」
後藤は戸惑いながらも、そのノックする音を、心の何処かで待っている。
「寂しいと死んじゃうんだから、優しくしてね。」
「…偉そう。」
「なっちのが歳上だべさ〜。いいっしょ。」
楽しそうに笑う、なっちを見ながら思う。
「なっち。」
「ん?」
なっちがいないと、苦しくて死んでしまいそうになる。
そんな風に言えたら、どんなにラクだろうと。
「何か飲む?」
- 187 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時13分01秒
そして、何ひとつ状況は変わらないまま、地方公演最終日となった。
こうしてなっちが部屋を訪れるのも、今日が最後だ。
このツアーが、東京でのコンサートが終わったら、1週間のオフになる。
しばらく、会えなくなる。
会ってても苦しいけれど、会えない時間を思うと、もっと苦しい。
そんなオーラが、無意識に出ていたのかもしれない。
いつもより少し静かなトーンで、なっちがポツリと言った。
「前にさ、一緒に何処か行こうって言ったっしょ。」
憶えててくれたんだ。それだけで顔が綻ぶ。
「…憶えてたんだ。」
「そりゃ憶えてるべさ。」
あの時は、行けると思っていた。
でも、傍にいる事すらままならない後藤達は、もう、何処にも行けない。
だから…
「裕ちゃんと行ってき」
なっちはじっと後藤の目を見て、それから、ため息をつくようなトーンで呟いた。
「そう、だよね…。」
寂しげに俯くなっちは、やっぱり少し様子が違う気がする。
- 188 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時13分35秒
- 「裕ちゃんと、なんかあったの?」
「…何でさ急に。」
図星なのか、不機嫌そうな返事。
「いや、何かあったから、こんなに後藤の所来てるのかな、と思って。」
「何もないべさ。」
「そっか、ごめん。」
謝ってみたけれど、機嫌は簡単には直らないようで、気まずい沈黙が2人の間に漂う。
ついこの前まで目にしていた幸せそうななっちは、そこにはいなかった。
ただ寂しそうに俯いたまま、じっと押し黙っている。
そんな姿を見たら、もう自分には関係ないと分かっていても、やっぱり心配になる。
でもなんて声を掛けたらいいか、適当な言葉が思い付かないまま、
さらに時間が経過し、とうとうなっちが立ち上がった。
「部屋、戻るね。」
引き止めた方が良いの?
「うん。」
なっちはいつもこうして、1人で抱え込む。
それを一緒に抱えてあげる事は、もう出来ない。
ドアに向かう背中を見ていたら、ふと圭ちゃんの言葉が頭を過ぎった。
『言葉で言わなきゃ伝わらない事とか、結構多いんだよ?』
- 189 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時14分43秒
- なっちがドアノブに触れた次の瞬間、後藤は出て行こうとするその背中に、思わず駆け寄った。
なっちが振り返るよりも早く、後ろから抱き締める。
驚いたのか、その身体はピクンと跳ねた。
「ごっちん…?」
久し振りに抱き締めたその身体は、少し、細くなった気がする。
「朝までいたらいいじゃん。」
「なっち、そんなつもりじゃ…。」
否定しつつも、後藤の腕を振り解こうとはしない。
戸惑うなっちに、愛しさが一気に込み上げる。
「じゃあなんで、こんな風に後藤の部屋に来てたの?」
「…分からない。」
呟く声は、叱られた子供みたいに大人しかったけれど、
そっと首筋にくちづけると、身体がぴっくっと反応し、急に大きな声で抵抗した。
「ちょっ…ダメだべさっ!」
言いながら、腰にある後藤の手をぎゅっと掴む。
- 190 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時15分13秒
- それは拒んでいるの?求めているの?
さらに深く唇を当てると、なっちは少し震えて、もう1度抵抗の言葉を発した。
「ダメだってば。」
「分かってる。」
そんなこと、する前から分かっている。
「分かってるけど…止めらんないの。」
なっちは答える代わりに、腕の中で静かに身を捩り、後藤の方へ向き直った。
そして、どちらからともなく唇を合わせると、2人はそのままそこに、崩れ落ちた。
- 191 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時15分44秒
ようやくベッドに落ち着いた頃には、もう日付も変わっていた。
けど、そんな事はどうでも良かった。
明日の仕事なんて、考えてなかった。
指の先までいっぱいに、今この腕にある幸せで、満たされていたから。
呼吸が響く程すぐ隣で、なっちはふあふあと欠伸をしている。
こうしていると、時間が戻ったような錯覚に陥る。
だけどすぐに引き戻される。
ひとつだけ、現実を見つけてしまったから。
後藤はそっと、なっちの身体に指を滑らせた。
指が辿り着いたのは、さっき見つけてしまった、キスの跡。
それは骨盤の下にくっきりと色を付けていた。
なっちが他の誰かのものだと、改めて確認させられるそれが、
どうしても目の奥に焼き付いて離れない。
後藤の動きに気付いてか、なっちは急いで自分の手を伸ばしそこを手で隠した。
けれど逆に、その僅かな行動が、後藤の嫉妬心を煽る。
後藤は布団を剥ぎ取り、なっちの手を退けると、その跡に自分も同じように唇を当てた。
少し強く吸うと、なっちが腰をひねる。
- 192 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時16分14秒
- 「跡付いちゃう。」
もうついている。
でもそれを付けたのは後藤じゃない。
その色付いた皮膚の上から、今度は静かに歯を立てた。
ゆっくり甘噛みすると、薄く歯形が残る。
あなたを奪い取る事が出来ない後藤の、ささやかな抵抗。
見ると、なっちはただ不安そうに瞳を揺らしている。
裕ちゃんにバレるのが恐い?
「ごめん。」
その瞳に近付いて、目蓋にそっとくちづける。
なっちは悲しそうに目を伏せた。
「…謝るなら、しないで。」
こんなことをして、好きな人を困らせて、これじゃまるで子供だ。
だけど、自制が効かないんだ。
これまでの後藤は、こうなるのが分かっていて、それが恐くて、大人ぶっていた。
今は、そんな気がする。
- 193 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時16分49秒
- 「なっち。」
「何?」
伏せられた目蓋が、少しだけこっちを向いてくれた。
「後藤ね、ずっとウソついてたの。」
「ウソ?」
「本当はあの時、行って欲しくなかった。好きだったのに、偽善者ぶって。」
ようやく言葉になった、素直な気持ち。
けれどなっちは驚くどころか、さっきまでの表情がウソみたいに、ニコッと笑ってこう言った。
「やっと言ったべさ。」
「え?」
「待ってたのにさ、全然言ってくれないんだもん。」
「待ったって…。」
なっちはそれには答えず、はぐらかすように笑うと、
後藤の二の腕を両手で掴み、指先でふにふにと摘んだ。
「いつの間にか、しっかりしてるし。」
「ひ弱な腕じゃ、なっちは捕まえられないからね。」
「…今日はどうしたんだべさ?何でそんな事言うの。」
どうしてだろう。
自分でも驚くくらい、次々と言葉が出てくる。
たとえ良くない結果を招いても、本当の気持ちを、あなたに伝えたい。
だってこれが、最後のチャンスかもしれない。
- 194 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時17分21秒
- 後藤が最後のチャンスなら、なっちの『待ってた』は何だろう?
「ねぇ、『待ってた』ってどういう事?」
改めて聞くと、なっちは真っ直ぐに後藤を見て、真面目な顔でこう言ったんだ。
「なっち、ごっちんの事好きだよ。」
突然の言葉にリアクションすら取れず、固まってしまった。
思いもしなかった展開に、頭がついていかない。
今、好きって言った?
そんなこっちの動揺はお構いなしで、なっちは話を続けている。
「自分でも良く分かんないうちに、好きになってた。」
「…本気にするよ?」
「ホントだべさ。」
それは、可能性があるって事?
「じゃぁ…」
「でもっ!」
言いかけた後藤の言葉を、なっちは強い口調で遮った。
「でも、ダメなんだべさ。どうしようもないんだって。」
「何がダメなの?」
そう問うと、数秒前とはまるで違う険しい表情で、なっちは再び口を開いた。
- 195 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時17分56秒
- 「ごっちんは、いっぱい傷付いたっしょ。それで、
もっと傷付けるって知ってたのに、なっちは裕ちゃん所行ったんだよ?
それで今度はやっぱりごっちんが好きですなんて、裕ちゃん傷付けて、そんな勝手な話ないべさ。」
嬉しいのか哀しいのか、複雑な感情が身体中を巡っていて、なっちに掛ける言葉が見つからなかった。
どうしてもっと早く、素直になれなかったんだろう。
そうしたら、後藤はなっちを失わずに済んだのに。
大事な人にこんな悲しい顔をさせないで済んだはずなのに。
「けど、ごっちんとのこと、後悔とかしてないの。」
後藤の所為だ。
「すっごい、幸せだったから。」
やっぱり後藤は、何処かでサインを見逃していたんだ。
「ごめん…。」
幸せはそこにあったのに。
- 196 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時22分04秒
- 「ごっちん?」
「後藤達、このまま終わりなのかな。」
「終わらないと辛いっしょ。何処にも戻れないんだべさ。選択肢、ないの。」
「後藤は、離れたくない。」
「だって、ごっちん言うの遅いんだもん。」
なっちは、寂しくなるくらい、明るく笑う。
でも、そのあと後藤の肩に埋めた頬は、少し震えていた。
「だから、ホントはこんな事しちゃいけないんだよね…。」
呟く声は、濡れていた。
- 197 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時22分34秒
- ごめん。後藤が気が付かなかったから。
あなたを苦しめていたなんて、思いもしなかった。
もう1度、ぎゅっと抱き締める。
何度もなっちを抱き締めたけれど、こんなに哀しいと感じたのは、初めてだった。
今までだって、人を好きになった事はある。愛おしいと思った事も。
でも、こんなに誰かを欲しいと思ったのは、初めてだった。
欲しい。何もかも。なっちをつくるそのすべてが欲しい。
例え、どんな気傷付いても。
初めて本気で、そう思った。
- 198 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月02日(月)20時23分11秒
朝起きると、なっちはいなかった。
半分だけ余ってしまったシーツ。
寂しさを埋めるように、ありったけのシーツを手繰りよせて抱き締める。
まだ温かい。
薄く残った温もりからは、微かになっちの匂いがした。
それを腕の中に集め、顔を埋めると、急に胸が苦しくなる。
分かっていた。
抱きながら、なっちがすぐに自分の腕から消えてしまうと知っていた。
それを、自分には止められない事も。
すべてが遅すぎたんだ。
悔やんでも、時間は戻らない。
なっちは、帰って来ない。
なっちの言う通り、何処にも戻れないんだ。
- 199 名前:作者 投稿日:2003年06月02日(月)20時32分21秒
- 弱気発言通り、月曜日の更新になりました(苦笑)
今回の更新分はかなり動きがあった感じです。
しかしこの小説のなっちは思いやりがあるんやら、我が侭で無神経なんだか…。
微妙な所ですね。
いつもカキコ&読んで下さってありがとうございます。
>183 名無し読者様
また泣いて下さったんですか…。
ありがとうございます、というよりだんだん申し訳なくなってきます。
ハッピーにしなければなりませんよね(笑)
>184 名無しさん様
更新の方、待っていて下さりましてありがとうございます。
ごっちんの気持ちは届いたものの…という今回ですが、
ホント届いたものの…っていう感じですみません。
次回更新は…日曜日にしようと思っています。
きちんと大量アップを夢見る作者でした。
- 200 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月02日(月)21時30分43秒
- なっちは裕ちゃんの勝手に傷つけられたんだから
ごっちんも頑張ってなっちをモノにしちゃえ!と応援してみたり。
- 201 名前:ろくた 投稿日:2003年06月03日(火)04時14分47秒
- 更新お疲れ様です!
…ぐあー。ごっちん、ついに…!!と言う感じでどきどきしました。
ああでも、やっぱり切ないですね…。
ままならない二人の想いが、すごくもどかしくて哀しくて。
簡単に割り切れたら楽なんですが…でも、この不器用な二人がとても好きです。
ホント第二部は、ごっちんのなっちへの深く熱い想いが溢れてて、読んでて自分の胸まで熱くなります。
三人がどうなるのか…気になって気になって…!
これからもお身体に気を付けて頑張って下さいね!
>好きな子程いじめたくなる、というやつかもしれませんが…。
激しく同意です(w。なっちは困った顔が良いかと。(おいおい)
- 202 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月03日(火)14時16分06秒
- 更新お疲れさまです。
このお話、ホントに好きなんですよねー。
ゴトーさんの一途な想いに胸がジーーーン..。
次回も楽しみにしてます。
作者さんありがとう!
- 203 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月07日(土)00時01分34秒
- 204 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月07日(土)03時12分23秒
- 更新お疲れ様です。
なっちに対してやっと気持ちをはっきりとしたごっちん。
ごっちん、なっちを幸せにしてあげてください。
お願いしますよー。
- 205 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月07日(土)03時15分48秒
- なんで落とされてるんだろ?
ココ最近で一番好きなお話っす。ものすごい楽しみ。
なーんかみんなせつない。。。
でも、それぞれの「らしさ」が出てる気がします。
作者さんのペースで書きつづけてくださいな。マターリ待ってます。
- 206 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月07日(土)23時32分49秒
肌が汗ばむ暑さに目が覚めた。
薄く開いた目に、エアコンが映る。
そろそろ付けても良い時期だろう。
でも、リモコンのあるサイドテーブルまで手を伸ばすのが、躊躇われる。
布団から手を伸ばすのがめんどくさい。
どうせ今日はオフなんだし、もう少し眠っていよう。
そこに『寝かせるもんか!』とでも言うように、携帯の着信音が鳴り響いた。
エアコンを付けるのも嫌なのに、電話なんか出るわけがない。
しばらくして音が止んだ…と思ったのも束の間、静かな部屋に再び、やかましく響く呼び出し音。
「しつこい…。」
後藤は渋々布団から腕だけ出すと、サイドテーブルに手を伸ばした。
携帯を取るついでに、エアコンのスイッチも入れる。
腕を戻し、布団の中で液晶を開く。
思った通り、裕ちゃんの名前が表示されているディスプレイ。
出ようか出まいか暫く見ていたが、
出るまで何度でもかかってきそうだから、出る事にした。
- 207 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月07日(土)23時33分22秒
- 「もしもし。」
「今どこ?」
いつもとは何だか違う、緊迫した声。
「今?家だけど…。」
「なっちは?」
なっち?
「ここにはいないけど…。」
「隠さんでもええよ。」
「隠してないって。何かあったの?」
後藤は訳が分からなくて、聞き返した。
「…ホントにいないん?」
「残念だけど。」
すると、裕ちゃんは急に大人しくなって、いつものトーンで呟いた。
「じゃぁ、あの子何処に行ったんやろ…。」
オフに入ってから、突然なっちと連絡が取れなくなったのだという。
特に変わった様子もなかったし、理由が分からないから、余計に不安らしい。
裕ちゃんが分からないのに、後藤に分かる訳がないのだけれど。
- 208 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月07日(土)23時34分01秒
- 「電話はした?」
「着信拒否なんよ。メールしても返事ないし。」
どういうことなんだろう。
なっちは旅行に行くと言っていた。
なのに、一緒に行くであろう裕ちゃんと、連絡を断っている。
「旅行、裕ちゃんと行くんだと思ってた。」
「私は、急に連絡が取れなくなったから、後藤と行ったのかと思ってたんよ。」
「後藤となっちはもう…。」
「なっちは後藤の事、忘れてへんよ。」
その言葉にドキンとする。
『なっち、ごっちんの事好きだよ。』
そのことが、関係あるのだろうか?
でも後藤にも連絡はない。
あの夜以来、2人で会うどころか、メールすら打っていない。
後藤が黙っていると、裕ちゃんは更に続けた。
「ついでやから、ホントの事、おしえてくれへん?」
「ホントの事?」
「後藤のホントの気持ち。なっちの事、好きなんやろ?」
- 209 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月07日(土)23時34分38秒
- こんな日が来るような予感はしていた。
でも、回答までは用意していなかった。
なんと答えればいい?
色んな嘘や言い訳が脳裏を過ぎったけれど、後藤の答えは、これしかなかった。
「…好きだよ。」
もう、嘘はいい。
「そっか…。そんな気はしてたんよ。」
静かに呟く裕ちゃん。
後藤は驚いて、布団から這い出した。
その答えも、全く予想していなかったから。
「…怒んないの?」
「なんで怒るん。」
だって後藤は、裕ちゃんを騙していたんだ。
「前に聞かれた時、後藤『何でもない』って、嘘言った。」
「そう言うしかなかったんやろ?」
声を聞いただけで、力なく笑う裕ちゃんの顔が、見えるようだった。
- 210 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月07日(土)23時35分17秒
- 「後藤らしいわ。」
もっと怒鳴ったり、怒ったりすると思っていた。
最初に後藤を問いつめた、あの時の裕ちゃんなら、多分そうしてたんじゃないだろうか?
なのに電話の向こうの裕ちゃんは、後藤の言葉を普通に受け入れてくれた。
…もしかしたら、とっくに気付いていたのかもしれない。
それから裕ちゃんは、いつものように明るく言った。
「聞いてスッキリしたわ。ちゅーことで、これからライバルやな。」
「ライバルって。」
その言い回しが可笑しくて、後藤も少し笑った。
初めからこんなふうに言い合えたら、なっちにあんな顔をさせずに済んだかもしれない。
後藤はやっぱり、全然未熟だ。
「しっかし、なっち何処行ったんよ〜。」
声は明るかったが、それは深い痛みを知った人だけが持つ、深い明るさ。
後藤の耳には、そんな風に聞こえてきた。
- 211 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月07日(土)23時35分55秒
なんだか眠れない。
なっちは、なぜ連絡を絶っているのか。
何処にいるのか。
携帯を手に取って、なっちのアドレスを表示する。
けれど、居場所が分かった所で、何を伝えようというのか。
また抱くつもり?違う、そうじゃない。
そう気付いて、携帯を置いた。
そんなことをしたら、またなっちを苦しめる。
これ以上苦しめたくないのに、この腕は、まだなっちを欲している。
抱き締めてあげる事しか出来なかった後藤は、もうそれすら、出来なくなってしまった。
抱き締めればその分だけなっちを苦しめると、知ってしまったから。
窓の外に目をやると、いつもの深い色とは違う、
薄明るいグレーの空に赤紫の滲んだ色が広がっていた。
雨の夜に、時々見る色。
きっと目覚めた時には、まだ降っているに違いない。
いつになったら、このジメジメした空気から解放されるのだろうか。
- 212 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月07日(土)23時36分30秒
- まるで、自分の事を言っているようで、嫌になる。
『選択肢、ないの。』
なっちの言葉が頭をぐるぐるする。
どれだけ愛したら、想いは枯れるのだろう。
早く枯れて、この手の平で粉々になればいい。
そうすれば、もう誰も苦しまない。
そうしたら、ほんの少しだけ、なっちも幸せに近付けるかもしれない。
微かに水を弾く音が、外から聞こえ始めた。
雨の降る寒さに、後藤は身体を縮めるようにして、布団の中に潜り込む。
もちろん、そこには誰もいない。
ただゆっくり目を閉じて、両手で耳を塞いだ。
1人で聞く雨音は、とても、煩かったから。
- 213 名前:作者 投稿日:2003年06月07日(土)23時39分07秒
- こんばんは。
明日更新!と書きましたが1日早く更新。
落とされまくってしまったので…(泣)
上げて下さった方々、ありがとうございます。
また改めて明日更新します。
その時に皆様へのレスも致しますのでお待ち下さいませ。
- 214 名前:チップ 投稿日:2003年06月08日(日)01時42分17秒
- おぉ…なっちはいずこへ…。
最近このお話読む度切なくて泣いてたんですけど
今回は中澤さんのいさぎよさとゆーか大人なトコとゆーかに
胸がジーンときました。これからも頑張ってください。
- 215 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月08日(日)02時01分54秒
- なんで落とされたのかわかりませんねぇ。
私は毎回楽しみにしております。
作者さんのペースで頑張って下さい。
最後まで、楽しみにしております。
- 216 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月09日(月)00時13分48秒
翌日、後藤はあの公園に来た。
なっちと見た景色を、もう一度見たくて。
人が聞いたら、未練がましいと言うかもしれない。
でもなっちとの時間は、忘れるにはあまりにも大きすぎて、切なすぎる。
裕ちゃんはライバルだと言ったけれど、
例え今何処にいようとも、なっちは裕ちゃんの元へ帰るだろう。
あの朝と同じように。
自分の事を好きだと言いながら、それでもなっちは、裕ちゃんの所に戻って行く。
後藤はそれを知っている。
だから、ちゃんと見送る準備を、心の整理をしなくちゃけいない。
前よりもずっと複雑な状況で。
あの時と同じ場所なのに、景色は変わっている。
葉を付けた木々でさえ、あの日とは違う、濃い緑色で景色を包んでいる。
昨夜の雨の所為か、風が湿気を含みながら身体をひと回りして、高く上っていく。
その先に、あの丘が見えた。
- 217 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月09日(月)00時14分24秒
- 後藤はジーンズのポケットに手を突っ込み、1枚の写真を取り出した。
丘の上で、撮った写真。
なっちが笑っていた、この人同じ夕陽が、もうすぐこの公園を包む。
なっちは今、何処にいるのだろう。
想いが通じていたことは、素直に嬉しかった。
だけど知ってしまった自分は、何処まで我慢出来るのか、自信がなかった。
自分の理性が途切れたら、今度は自分やなっちだけじゃなく、裕ちゃんも傷付ける。
だから想い出に変えていこうと思って、まず最初にここに来た。
ゆっくり変えていく。
ひとつひとつ、箱に仕舞っていくみたいに、確かめながら、時間をかけて。
それなら、出来そうな気がする。
- 218 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月09日(月)00時14分55秒
- 後藤は写真をポケットに戻し、丘に向かってゆっくりと踏み出した。
と、別のポケットで携帯が鳴った。
取り出すと、1通のメール。
『ごっちん発見っ!』
一瞬、意味が分からなかった。
「…発見?」
まさかと思いながら、半信半疑で辺りをぐるっと見回した。
すると、丘に程近いベンチで、小さな影が立ち上がったのが見える。
それを見た瞬間、後藤は携帯を握ったまま走り出していた。
その先で楽しそうに手を振っているのは、紛れもなくなっちだった。
- 219 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月09日(月)00時15分26秒
「すっごい運命じゃない?こんな所で偶然会うなんてっ。」
なっちは少し興奮気味に、はしゃいでいる。
運命?だとしたら、相当意地の悪い運命だ。
後藤はなっちを想い出にしようと決めて、ここに来たのに。
日没が近いのか、辺りが少し影を伸ばし始めている。
少し冷たい風に肩を丸めながら、2人でベンチに腰を下ろし、後藤はまず最初の質問をした。
「旅行は?」
裕ちゃんにも後藤にも、行くと言っていた旅行。
そういえば、具体的な事は何ひとつ聞いていなかったと、今頃気付いたりしてる。
「ああ、それね、嘘だべさ。」
「嘘?」
なちは少し笑って、それから考えるような顔をして、その後思い掛けない事を呟いた。
「2人とも、行こうって言ってくれなかった。」
「…言ったら良かったの?」
問い返すと、なっちは小さく首を振る。
- 220 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月09日(月)00時16分04秒
- 「ただ、なっちが信用されてないって事が、よく分かったべさ。」
「どういう事?」
「ごっちんは約束したのに、裕ちゃんと行けって言ったっしょ?
裕ちゃんは、なっちがどっか行っちゃうと思ってる。
『私とどこか行こうか?』とかも言ってくれない。付き合ってるのにね…。」
その寂しそうな横顔になんと言ってあげたらいいのか、後藤にはさっぱり分からなくて、重い沈黙が流れ出す。
こういう肝心なときに、いつも言葉が詰まってしまう。
結局、再びなっちが口を開くまで、何にも言ってあげられなかった。
「裕ちゃん、何も言わないべさ。」
なっちはそう言って微笑む。
表情は寂しさを含んだままで。
「なんか様子おかしくて。多分、なんか気付いてる。でも、言わないべさ。裕ちゃんらしくないの。」
だから後藤の気持ちを聞いた時も、あんなに冷静だったのかもしれない。
「そんなの、裕ちゃんじゃないみたいっしょ?ごっちんみたい。」
「後藤?」
「ごっちんは言わないっしょや。何知ってても、何考えてても、聞かなきゃ言わないべさ。」
「けど、この前はちゃんと言ったじゃん。」
「極端なの〜!」
後藤の頭をぺしっと叩きながら、ようやく笑ってくれた。
- 221 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月09日(月)00時16分38秒
- その笑顔に、決意が揺らぐ。
なっちが欲しい。
後藤の中の欲望がゆっくりと疼きだす。
こんなふうに2人きりで会えるのは、多分最後だ。
最後のチャンス。
どうする?このまま無理にでも連れて帰ってしまおうか?
思わずなっちに伸びそうになる両手、だが断ち切るようにジーンズのポケットに突っ込んだ。
駄目だ。
駄目だと分かっていたから、ここに来たんじゃないか。
この笑顔が戻るなら何だって出来ると思ってた、
あの頃の気持ちに戻るまでには、やっぱり時間が必要みたいだ。
後藤はまだ…いや、前よりももっと、なっちを愛している。
そんな後藤の様子を察したのか、なっちが顔を覗き込んできた。
「ごっちん?」
ポケットに突っ込んだ手に力を入れる。
その手には、あの写真が触れていた。
- 222 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月09日(月)00時17分12秒
- 少し悩んだけれど、後藤はそれを出して、なっちに渡した。
「あっ、前のやつだべさ!」
「うん。」
「他のやつは?」
「今日は持ってない。会うなんて思わなかったし。」
失言、と思ったけれど、なっちは『じゃあ何でこれは持ってるの?』とは言わなかった。
ただじっと写真を見つめながら、すごく静かな口調で話し始めた。
「…この前、あの朝ね、裕ちゃんに会ったんだべさ。」
「うん。」
「それでね、裕ちゃんといようって、決めたんだ。」
「うん。」
そうだね、なっちはきっとそうすると思っていた。
「もう遅かったんだべさ。全部、遅かったの。なっちが気付くのも、ごっちんが言うのも。」
なっちは写真から目を離すと、真っ直ぐに後藤の目を見て、それから力強く言った。
- 223 名前:第2部 後藤真希 投稿日:2003年06月09日(月)00時18分09秒
- 「けど、ごっちんを好きって気持ち、なかった事になんて、したくないから。」
「なっち…。」
「だから、憶えててとは言わないけど、せめて、なかった事にはしないでよ…。」
ありがとう。もう、それで十分だよ。
その言葉だけを握りしめて、後藤は身を退こう。
「…しないよ。出来るわけないでしょ。」
ゆっくりと息を吐く。
普通に呼吸をしたら、涙でも出そうなくらい、胸が熱かった。
貴方を忘れられない哀しみも、その言葉で幸せに変えよう。
「裕ちゃんが、心配してるよ。」
「うん、メールがいっぱい来てるべさ。」
笑いながら大きく伸びをして、なっちは跳ねるようにベンチから立ち上がった。
そして振り返ると、両手で持った写真を後藤に向ける。
「今日、会えて良かった。」
そう言って微笑んだなっちの背中には、写真と同じ、優しいオレンジ色が広がっていた。
第2部 後藤真希 〜完〜
- 224 名前:作者 投稿日:2003年06月09日(月)00時19分35秒
更新致しました。ってすごい短いのですが。
一応これにて第2部は終了です。短いですが…。
しかも第1部終了時より中途半端な感じでしょうか。
やはり「堂々巡り」だけで1部を作るのには無理があったかも。
ですが、何となく終わり方が決まってきたかな。
(今まで決まってなかったのかよ、てな感じでスイマセン)
>>200 名無しさん様
う〜ん、確かに裕ちゃんはなっちを傷付けましたからね。
ごっちんも強引になっちをものにしちゃえ〜!と思うものの、
それが出来ないのが優しい後藤さんだったり…。難しいですね。
>>201 ろくた様
本当、恋愛って何度しても上手くなる事ってないです(私のみかも…w)
そういう上手くいかない感じを出したいですね。
他人から見ればまどろっこしいだけっていう…。
ごっちんのなっちへの溢れる想いに
私のなっちへの「大好きだ!」という気持ちも混ぜていたり(w
>>202 名無しさん様
この小説を好きって言って下さるのは本当に嬉しい限りです。
しかもありがとうだなんて!
こちらの方こそ読んで下さってありがとう!ですよ。
是非、楽しんで下さい〜。
- 225 名前:作者 投稿日:2003年06月09日(月)00時22分03秒
- >>204 名無しさん様
なっちもごっちんも裕ちゃんも、
3人とも自分の素の気持ちを明らかにして。
それがどうなっていくのか…う〜ん、私の方もなんとも言えない…(w
>>205 名無し読者様
楽しみにして下さってありがとうございます!
3人とも切なくて3人とも迷ったり、
そう言う感じだと思って頂けるのは嬉しい限りです。
>>214 チップ様
いつもいつも読んで下さって本当に感謝です。
今まではかなりなちごまズームアップ!という感じだったので、
裕ちゃんも丁寧に描いていきたいですね。
>>215 名無しさん様
毎回ありがとうございます!
これからも頑張っていきたいと思いますので
こちらこそ最後までよろしくお願いします!
次回更新は来週の日曜日あたりを予定しています。
よろしくお願い致します。
- 226 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)13時34分27秒
- お疲れ様です!
新展開、相変わらず目が離せない・・・。
第三部、期待して待ってます!
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月13日(金)07時35分37秒
- 更新早くて嬉しいです。
ごっちん、もう諦めてしまうのだろうか・・・。
第三部は、裕ちゃんの視点でしょうか。
- 228 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月15日(日)01時30分17秒
- 終わり方が決まってきた?
なんだかこのままいくと。。。
なちヲタだけど、ここのごまはどうしても応援したくなります。
夕焼けのなっちの写真見てみたくなっちゃいました。
ホント作者さんは人をせつなくさせるのがうまい。楽しみに待ってます。
- 229 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)19時19分56秒
- 最後、どうなるのでしょうか...。
みんな幸せになって欲しいけど、難しいのかなー?
第三部も楽しみにしてます。
- 230 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月17日(火)00時33分52秒
a labyrinth of love
第3部 中澤裕子
朝の光が薄くカーテンから漏れて、ベッドに線を描く。
起きるには少し早いし、寝ると起きれない気がするから、自分の腕の中に視線を落とした。
そこにはスースーと寝息を立てる、なっちの寝顔がある。
前は大して気にしていなかったこの何でもない朝の空気が、今はとても幸せだ。
だから愛しい気持ちが膨らむたびに、傷付けてしまった事を、激しく後悔する。
- 231 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月17日(火)00時34分24秒
「失ってから気付く事」そんなの自分にはないと思っていた。
私はいつだって熟慮して行動してきたし、失敗する事はあっても、間違ったと思う事なんてないはずだと。
でもそれは、ただの思い込みだった。
後藤の腕に見覚えのある跡を見付けて、私はようやくその事に気付いた。
どうしてあの時なっちを選ばなかったのか、そして何より、何故あんな酷い事を言ってしまったのか。
『気持ち悪いやろ。』
本気で気持ち悪いなんて、思ったわけじゃない。
今思えばあの時既に、私はなっちの事が好きだったのかもしれない。
それを認めたくない自分が、焦ってあんな言葉を吐いてしまったんだ。
…なんて今頃言ってみても、言い訳でしかない。
なっちがもぞもぞと肩をずらして寝返りを打つ。
じっと見ていると、やがて手の甲で目蓋を擦り始めた。
「起きた?」
「ん〜…おきた…。」
「目が開いてないよ。」
「裕ちゃんよりはおっきいべさ。」
「なんや〜。起きていきなりそんなんなん?」
「ホントの事だべさ。」
そう言って、なっちはケラケラと笑った。
「酷いやん。」
- 232 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月17日(火)00時34分55秒
- 些細な事でも、なっちはホントに楽しそうに笑って、私を和ませてくれる。
なっちが笑うと、クタクタに疲れた時でも笑顔くらいなら作る事が出来る。
みんなが子犬みたいだというのが、良く分かる。
でも私は、そんな子犬に、傷付けた負い目を感じていた。
罪悪感。その所為か、聞きたい軒聞けない事が2つある。
ひとつは後藤への気持ち。
『全然気持ち悪くないって、そう言ってくれたんだべ。』
そう呟いた時のなっちは、今にも泣きそうで、でもすごく優しい顔をしていた。
ショックだった。
なっちがそんなにも、あの言葉を引きずっているとは思っていなかったし、
それを癒す事が出来たのは、自分ではなく後藤だった。
この事実は、2人の関係に気付いた時よりも、何十倍も衝撃を受けた。
私が思っていた以上に、あの言葉は深く深く、なっちの胸をえぐっている。
でも過去は戻らない。
1度口にした言葉は消えない。
出来る事は、それを薄くすること。
傷になった過去を、これから少しずつ塗り潰す。
苦しめた分、傷付けた分、幸せにする。愛していく。
もう2度と、間違えたりしないように。
- 233 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月17日(火)00時35分29秒
「最近、ゴキゲンだよね〜。」
メイクをしながら、圭坊が鏡越しにこっちを見て笑う。
「そう?」
私も鏡の中の彼女に向かって答えた。
「うん、なんか顔に締まりがないから。」
「それ、褒めてないやん。」
「褒めてないもん。」
「ひどっ。」
と言いながら、鏡に写った私の顔は笑っている。
だってしょうがない。幸せなんだから。
1度なくしたものを取り戻すのは、最初から手にしているよりも、ずっと重く、大切に思える。
時間も想いも、あの子のすべてが。
騒がしい背中を振り向くと、だるそうに椅子に座っている矢口の隣で、なっちが一生懸命話をしている。
かなり一方的に。
矢口ももうちょっと構ってやっても良いのに。
私は見かねて声を掛けた。
「なっち。」
「あ、裕ちゃん!」
切り替えの早いなっちは、すぐに立ち上がって私の方に跳ねて来る。
単純な私は、それだけでもう頬が緩んでしまうんだから、圭坊にも言われるわけだ。
- 234 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月17日(火)00時36分03秒
- 「今日、御飯でも食べに行こか?」
「あ〜っ、今日は約束しちゃったんだべさ。」
ちょっと前なら、こう言われただけで凹んでいた。
でも今は、同じ言葉でも気にならない。避けられてるんじゃないと、分かっているから。
と、なっちが私の肩を掴み、背伸びをしながら耳元で囁いた。
「その後、裕ちゃん家行ってもいい?」
「え、ええで。」
答えると、なっちはニッと笑って、再び矢口の所に戻って行った。
締まらない顔でその後ろ姿を眺める。
こういう些細な事がいちいち愛しい。
なんて浸っている私の視界に、もうひとつの視線が重なっている事に気が付いた。
その先には矢口となっちしかいない。
とすれば、なっちだろう。
『後藤となっちは、なんでもないから。』
もちろんあの言葉を鵜呑みにはしていない。
あんなに跡が残る程抱いておいて、何でもないわけがない。
だけど信じようと思っている。
これからそうなると。
- 235 名前:作者 投稿日:2003年06月17日(火)00時44分09秒
- 第3部更新です。
が、今までで一番更新が少なくて本当に申し訳ない限りです。
遅れたくせに、5レスって。
と、皆さんも呆れていらっしゃる事間違いなしですね…。
>>226 名無しさん様
3部、始めました!
2部で新展開、といった感じだったのですが、
中澤編という事で時間軸は逆戻り…。
>>227 名無し読者様
予想して下さった通りの中澤編です。
というより今までの流れで中澤編以外はあり得ませんね(苦笑)
>>228 名無し読者様
仰って下さった小説で合っています。
娘。処女作なんで穴が一杯で申し訳ない限りです…。
私も少しなっちの夕焼け写真、見たいですね〜。
頭の中ではこんな感じかな、というのはあるんですが(苦笑)
>>229 名無しさん様
ううっ、最後までお楽しみ下さい〜。
私も3人ともが幸せになれるような、
そんなエンディングになるように頑張りたいと思っています。
こんな少ない更新なんで、次回更新は水曜日に。
10レスくらいは更新しないと…ですね。
- 236 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月17日(火)17時59分42秒
- ああ、裕ちゃん・・・(v
せつない・・・。
これからどうなるのか続き、楽しみに待ってます!
- 237 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)00時30分59秒
- 楽しみに待ってます。
- 238 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月24日(火)16時45分01秒
- 楽しみにまってるよ
- 239 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時43分05秒
今日はやたらと寒い。
ずっと野外ロケだというのに、少しも気温の上がる気配はなく、
私は短い空き時間も、風を避けるようにロケバスの中に逃げ込んでいた。
ふと窓の外を見ると、外にいるスタッフと、ぼんやりと空を見上げる後藤が見えた。
背中を丸めながら、上着の前を絞めている。
後藤は本当にいつも、何考えているか分からない所がある。
寒いなら中に来ればいいのに。
なっちの事があるから、私とは居づらいのかもしれない。
私だって、気にしてないと言ったら嘘になるけど、その所為で後藤と溝が出来てしまうのは嫌だ。
暫く見ていたが、後藤は何処に移動するでもなく、ボーッと立っている。
「行くかな。」
1人呟くと、私は重い腰を上げ、バスを降りた。
「寒っ!」
一歩外に出ると思ったより寒くて、
私はすぐに中に入れるように、降りた所で動かないまま呼んでみた。
「後藤。」
しかし全く聞こえていない様子で、空に向かって息を吐いている。
…結構暗いな、あの子。
- 240 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時43分35秒
- 「ごっちん!」
それでも全く反応がないから、仕方がなく足を踏み出した。
せっかくだから驚かそうと思って、そ〜っとそ〜っと足音がしないように近付いていく。
けれど、真後ろまで来ているのに、まだ気付かない。
大丈夫か?この子。
「お〜い、後藤っ。」
耳元で呼ぶと、本気で驚いたのか、慌ててその場を飛び退くから、驚かした私も思わず笑ってしまった。
「びっくりしたっ!」
「いっくら呼んでも気付かへんから、寝てんのかと思ったで。」
「こんな目ぇ開いて寝ないよ。立ってるんだし。」
「後藤ならあるかと思って。」
一瞬笑ってくれたけれど、すぐに目を逸らされてしまった。
自業自得とはいえ、ちょっと堪える。
後藤とは、ずっと良い関係だと思っていたし、これからもそうありたい…というのは、勝手な話だろうか。
「裕ちゃんさ。」
後藤がまた空を見上げながら、口を開いた。
「後藤といるの、辛くない?」
- 241 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時44分11秒
- 難しい質問だった。
今こうしていることは、全然辛いとは感じない。
辛い事があるとしたら、以前とは違う、自分の知らないなっちを感じる瞬間。
それを作ったのは多分後藤で、私はなっちの中に残っている、その存在に気付く方が辛い。
そして私には、それを咎める事も喜ぶ事も出来ない。
「…あんたといるのは辛くないよ。」
なんだか2人して暗い空気になりそうだったから、私は後藤の肩を大きく叩き、慌てて笑って見せた。
「ボ〜ッとしてるのかと思ったら、そんな事、気にしてたん?」
気にしているのは、私も同じ。
「ん。ごめん。」
「いいんやけどね。後藤は?大丈夫?」
「後藤は、もう全然。」
本当に?じゃあどうして目を合わせない?
後藤らしくない、すぐに分かる嘘。
辛いのは、私よりも、あんたかもしれないな。
- 242 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時44分46秒
このままじゃ、今まで作ってきた関係が危なくなる。
考えに考えた私は、偶然にもなっちが間違えて持って帰ってきた後藤の携帯を持って行く事にした。
乗り気じゃないなっちの手からその携帯をひったくると、後藤の家を訪ねた。
突然行ったせいか、後藤はかない戸惑っていた。
でも、編に構えられるよりも、自然に話が出来たと思う。
もちろん、なっちの話はしなかった。
ずるいかもしれないけど、私はどっちも失いたくはない。
できるだけ、以前のような空気を取り戻したかった。
だから今はまだ、なっちの話題を避ける必要があった。
いつか、笑って聞いてもらえる時期が来るまでは。
- 243 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時45分54秒
それはなっちに対しても同じだった。
私の誕生日にと買ってきてくれたケーキを自ら頬張りながら、
こうしてリビングでぼんやりとテレビを見ている、その様子にホッとする。
でもこの空間に後藤の名前を出したら、きっと空気は変わってしまうだろう。
だから今は、何も聞かない。聞きたくない。
そんな私の考えなど全く知らないなっちは、目の前で無邪気に笑っている。
「このときの裕ちゃんの顔すごいべさ、ちょっとアイドルじゃない感じっしょ!」
テレビの前にペタンと座り込み、それは楽しそうに画面を指差す。
いつもの事だけれど、ズバズバと失礼な事を言う。
昔から一緒の私相手だから、言えるのだろうけれど。
でも、少しはオブラートに包んで欲しい。
「うっさいわ。仕事用やっちゅ〜に。」
と言いながら、画面の中にいるなっちの表情がいつもと違う事に気付いた。
「え〜っ、絶対素だべ、この顔は。」
気になって、その視線の先が映るのを、待つ。
「アホ、私は演技派やで。」
「え〜、そんなの、見た事ないべさ。」
「あるったらあるんやって。そういうなっちやってこの顔…」
- 244 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時46分28秒
- 言いかけたまま、その先の言葉は、頭から飛んでしまった。
「言いかけてやめないでよ〜。」
後藤がいた。
「…この収録、いつだっけ?」
切ない視線の先にいたのは、後藤だった。
「収録?先月の半ばあたりじゃない?」
じゃあなっちはもう私の所にいた。
後藤とは終わっているはずだ。
「なになに?どうしたの?」
興味津々に聞いてくるから、私は回らない頭で、変わりの言い訳をひねり出さなくてはいけなくなった。
「あ、いや…ほら、私まだ若いからさ。」
「あははっ、誕生日来て年取ったからね〜。でも、おめでとう。」
かなり無理矢理な振りだったけれど、なっちは素直に笑ってくれた。
逆に素直すぎて違う心配をしてしまうくらい。
その後の会話は、かなり適当だったと思う。
動揺を隠すので必死だったから、憶えていない。
楽しそうに何かを話しているなっちの声も、耳を通り過ぎるだけ。
テレビの中のなっち。
あんな顔を見たのは久し振りで、出来れば見たくなかった。
あんな画面の隅に映っている顔に、どうして気付いてしまったんだろう。
- 245 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時47分02秒
- 『ごっちん、気持ち悪くないって…、全然気持ち悪くないって、そう言ってくれたんだべ。』
あの時と、同じ目をしていた。
もう、疑う余地はない。
そこにあるのは愛だと、確信した。
こうこれ以上は見たくない。見せたくない。
私は何も言わずに近付いて、その場になっちを押し倒した。
「ちょっ…何だべさ!テレビ見てんのに。」
こういう時私は、抱く事でしか不安を拭えない。
他に方法を知らない。
「やだってばっ。」
何かを言えば良いんだろうけど、何も言葉が出てこない。
だから無言のまま、ジーンズを下ろして、シャツを捲り上げた。
そこまでされて諦めたのか、なっちも大人しくなった。
背中にそっと手を回し、私のキスに堪える。
触れるだけで熱くなっていく肌は、以前とちっとも変わっていない。
- 246 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時47分32秒
- でもなっちは変わった。
「あ…っ…。」
悶える度に甘い声が漏れる。
それは、たまらなく私の欲望を駆り立てたけれど、でも違う。
私の知っているなっちは、声が出そうになると、いつも決まってぎゅっと唇を閉じて、それからこの腕を掴むんだ。
跡が残るくらい、強く。
文句を言いながらも、自分の腕に残る跡を見る度、愛しいと思った。
だけど今腕を掴んでる手に、そんな力はない。
これがもう一つの、聞きたくて聞けないこと。
たった数ヶ月で、こんなふうに変わるものだろうか?
分かるのは、後藤とこうして抱き合っていたんだろう、ってことだ。
抱く度に生まれる嫉妬。
でも嫉妬を拭う為にまた抱いている。
どれだけ抱いたら、この行為は純粋な愛情になるのだろう。
- 247 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時48分12秒
ドアを開けた途端、なっちの声が玄関に響く。
「おじゃましま〜す。」
「ん。御飯作ってる最中なんや。」
「やっぱり!」
そう言って嬉しそうに私の後ろについて、キッチンに入って来る。
「何が?」
「御飯食べようって誘われたんだけど、裕ちゃんが作ってくれてると思って行かなかったんだべさ。」
子供みたいに真っ直ぐな笑顔が、張り切って答える。
そんな事言われたら、毎日張り切って作っちゃいそうだ。
「嬉しいわ。」
私ってやっぱり乗せられやすい性格なのかもしれない。
最近、なっちは帰りが遅い。
ツアー中なのは分かっている。
でも、後藤がずっと一緒なんだと思うと、やっぱり胸の辺りがモヤモヤして落ち着かない。
泊まりで帰ってこない日なんて尚更だ。
でもとりあえず、自分の作ったものを美味しそうにパクパク食べる様を、
テーブルの向かい側で見ているのは、なかなか良い気分だから、今日は良しとする。
って、いつも同じ思考の繰り返しだ。
- 248 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時48分50秒
- 「ごちそうさま〜っ。」
なっちは満足げに立ち上がり、食べ終わった食器をシンクに運ぶ。
準備は手伝わないくせに、こういうことはちゃんとするから可愛い。
「なっち。」
私も立ち上がり、隣に並ぶ。
「コンサ、いつまでだっけ。」
「来月だよ。なんで?」
「いや、寂しいな〜思ってな。」
「え?」
ちょっと笑いそうな表情で私を見上げる。
子憎たらしいと思いながら、それでも腕を伸ばし、抱き寄せた。
ぎゅっと力を込めると、なっちが冷めた声で聞いてくる。
「なに?」
「ツアー行ったりしてると、あんまり会えなくなるやろ。」
不安だった。
こうして帰ってくる日は良い。
問題は帰らない日。
地方の夜、ホテルで後藤の部屋に行ったりしないか、逆に来ないか、そんな事ばかり。
寂しいというのも嘘じゃない。けれど心配の方が圧倒的に私の心を支配している。
「あんまり変わらないっしょや。地方だって日にち飛び飛びだし。
今日だって帰ってきたし、裕ちゃん大袈裟だべさ。」
「そっか。大袈裟なんやな〜。」
「うん。」
- 249 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時49分20秒
- 信じたい。信じたいけど。
あんな顔を見てしまったら、それが後藤に向かっていると分かってしまったら、
不安を拭うのはそんなに簡単な事じゃない。]
この子の中で、私に対する気持ちは10%じゃない。
色んなものを全部自分の中に押し込んで、私との関係はそれで成り立っている。
そんなにしてまで、何故私を選んだのか?やっぱり分からない。
手放しで喜べない。
「なぁ、なっちさぁ…。」
これでええんか?
そう続けようとした私の気持ちを読んだのか、なっちは何も言わずに唇を重ねて来た。
なっちが自分からこんな事をするなんて、余計に不安になるじゃない。
まるであの表情と同じ、何かを押し隠そうとする必死な匂いがして、哀しくなった。
もう、戻れないのか。私も、なっちも、多分後藤も。
腕を緩めて顔を合わせると、痛いくらい明るく笑うなっちの表情。苦しくなる。
それでけは変わらないんやね。
- 250 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時49分55秒
- 私はなっちに負けないように、精一杯明るく言った。
「1日でも東京にいたら、家じゃなくてうちに帰って来てな。御飯作って待っとるから。」
1分でも多く、自分の傍に置きたい。
「分かった。」
「嘘はつかないようにな。私、しつこいんやから。」
きっとしつこいくらい、あんたを好きでいると思うから。
「なんだべさ、今さら。裕ちゃんがしつこいのはみんな知ってるっしょ。」
「何言うとんねん!」
ヘッドロックをかけると、なっちは子供みたいに足をバタバタさせてはしゃいでくれた。
- 251 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年06月27日(金)00時50分33秒
恋をすると、強くなる人間と、弱くなる人間がいる。
私は多分校舎だ。
今がどんな状況で、どう思われていようと、あんたに隣にいて欲しい。
変わらない笑顔で、好きだと言ってくれるなら。
- 252 名前:作者 投稿日:2003年06月27日(金)00時57分08秒
- 本当に久々の更新で申し訳ありません。
そろそろ更新スピードを気にしなければならない…という感じですね。
女々しい裕ちゃんに違和感大だと思いますが、勘弁してやって下さい…。
カキコ&愛読ありがとうございます!!
>>236 名無しさん様
裕ちゃん、切なくなると良いです。
というよりなちとごっちんのが断然人気なんで、
なんとか裕ちゃんを嫌われない程度には書かないと…(自業自得かと…ですね)
>>237 名無しさん様
楽しみに待って頂いたのに本当に更新が遅くて申し訳ありません。
そろそろ本気で週1更新をしていきたいと思っています。
>>238 名無しさん様
楽しみに待って頂いている、というのは本当に嬉しいです。
というよりやる気が出ます!
…ので頑張っていきたいと思います。
次回更新は来週の水曜日〜金曜日の間くらいにはしたいと思っています。
- 253 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月30日(月)15時48分44秒
- 更新お疲れさまです。
自分の弱さやずるさを知ってる分、大人な中澤さんが一番切ないかも、ですね。
頑張って、裕ちゃん。
といいつつ私はなちごま派なわけですが..。
今後の展開、ますます楽しみにしています。
- 254 名前:jinro 投稿日:2003年07月06日(日)22時35分31秒
- せつないなあ…。
なんとか三人とも幸せにしてあげてください。
- 255 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月10日(木)16時16分31秒
- 本当に大好きなお話です。
続き、お待ちしております。
・・・私もなちごま派ですが(w
- 256 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月14日(月)22時37分53秒
- すごく面白いです、続きお待ちしてます。
三人がどうなるのか、続きが気になります。
自分はなっちゅー派でして、しかし…なちごま派多いな〜(苦笑
- 257 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時11分31秒
番組のロケで地方に来ていた私に、思い掛けない朗報が入った。
ホテルが娘。のメンバーと同じだというのだ。
じっとしていられなかった私は、ホテルに着くと、部屋に荷物を放り込むより早く、
スタッフからなっちの部屋の番号を聞き出し、その足で向かった。
教えてもらった部屋を探して廊下を歩いていると、少し先に偶然なっちらしき背中を見付けた。
すぐに声を掛けようかと思ったけれど、どうせなら驚かしてみようと考えて、
そのまま人影が部屋に入るまで、じっと待った。
ドアが閉じるのを確認して、早足でその部屋の前に立つ。
久々に会えるのが嬉しくて、ドアをノックしようと手を上げて…止めた。
そのドアにある番号は、さっき聞いたなっちの部屋の番号ではなかったから。
「あれ…?ここに入ったと思ったんやけどな…。」
改めて教えられた部屋を探し直すと、もう2つ先の部屋だった。
試しにドアを叩いたけれど、返事はない。
何度か繰り返したけれど、やっぱりいないみたいだ。
「…まさか…。」
イヤな予感がした。
- 258 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時12分06秒
- 私は動揺する気持ちをどうして良いか分からなくて、
でもなっちが入っていった部屋をノックする勇気がなくて、
その間にある部屋のドアを叩いた。
返事がない。
今度はもっと強く叩いた。
すると少しだるそうな声が返ってきて、ようやくドアが開いた。
「よぅ!」
出てきたのは矢口だった。
という事は、あそこの部屋はなっちと仲の良い矢口ではない。
「…裕ちゃん、何やってんの?」
挨拶する私に矢口は少し驚いて、それから渋々部屋に入れてくれた。
ふあふあ欠伸をしながら『なっちのとこ行った?』と聞かれて、
私はさっき見た光景と、恐くて行く事が出来ないと話した。
矢口は裕ちゃんのカンは冴えてるねぇ、と笑った。
なっちの入っていった部屋はやはり、後藤の部屋だった。
これまでにもこんな事があったのか聞くと、いともあっさりと『あるんじゃないの?』と答えた。
「昨日も矢口んトコ来たけど、眠くてシカトしちゃったし。」
なっちが寂しがり屋で、他のメンバーの部屋に行ったりするのは、もちろん知っている。
でも、私のもう、目の届かない所でされると不安で…。
- 259 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時12分47秒
- 「矢口〜、面倒臭がらずにもっとなっちの事かまってやってぇな。」
「なんで?」
「なっちは矢口んことが好きやから。」
「知ってるよ。」
「知ってるって…あんたなぁ。」
言い切ったよ、この子。
ある意味私が嫉妬すべきなのは、こっちかもしれない…。
ずびずびとお茶を飲みながら、矢口は逆に質問してきた。
「そうじゃなくて、何で急にそんな事言い出すの、って聞いてるんだけど。」
「別に、なんでもあらへんけど…。」
本当はある。ありありだ。
「もっとなっちの事信じてあげたら?」
「信じてるよ。」
「信じてないじゃん。矢口んトコいりゃ安心だからそんな事言ってんでしょ。」
「それはやな…。」
図星だから返す言葉がない。
- 260 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時13分28秒
- 「なっち、色んな事下手くそだけど、だから、嘘とか付けないと思うよ。」
嘘ついてるなんて思ってない。
でも本当の気持ちではない気がする。
「だいたい好きじゃなかったら、さっさと別れるタイプじゃない?」
「恐い事言うんやないで!」
「だって、なっち融通きかないし。」
「確かにそうやけど…。」
だから余計に分からない。あの子の考えている事が。
多分メンバーの中でも、ずっと一緒にいた分、分かりやすい性格なはずなのに、
どうしてこういう肝心な事だけが表に出ないんだろう。
『出ない』んじゃなく『出せない』んだとしたら…?
そこにはきっと、私の知りたくない答えがあるんだ。
- 261 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時13分58秒
部屋に戻っても、全然寝付けなかった。
浅い眠りに誘われてウトウトしては、すぐに目が覚める。
一度だけなっちの部屋に行ったが、やっぱりいなかった。
まだ後藤といるんだと思ったら、凍るような感覚が身体を走って、
慌てて自分の部屋に戻って来てしまった。
何度も後藤の部屋に行こうと思った。
でも怖かった。
何度も電話しようと思った。
でも勇気がなかった。
少しずつ、カーテンの隙間から漏れる陽の光が強くなってきた。
朝だ。
なっちは、まだ寝ているだろうか。
1人で?それとも2人で…?
私はぎゅっと目を閉じた。
このままなっちの顔を見ないで帰るのだろうか?
『会いたい』というよりは『会わなきゃ』と思った。
このまま帰ったら、きっともっと良くない事を考えてしまう。
行こう。
もう1度だけ。
- 262 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時14分31秒
大きく息を吸い、静かになっちの部屋をノックする。
これで返事がなかったら、後藤の部屋のドアを叩こう。そう決めて。
数秒で中から物音がして、ホッと息を吐く。
「裕ちゃんっ?」
中から驚いた声がして、ドアが開いた。
「なんで居るべさっ?」
なっちは矢口なんかよりもずっと驚いてくれた。
やっぱりこういうリアクションじゃないと、来た甲斐がない。
「ちょっとロケでこっちに来たんよ。入ってもええか?」
「うん。」
バスローブを着たなっちは、まだ濡れた髪を拭きながら、バスルームに戻って行く。
「ちょっと時間が早いから、寝てるかと思ったわ。」
ホントは、朝まで後藤と居るんじゃないかと思っていた。
そうじゃなくて良かった。
「シャワー浴びてたの。って寝てると思ったら来なくてもいいべさ〜。」
ドライヤーに髪を当てながら笑うなっちは、いつもと何も変わらない。
なのに私は疑っている。
シャワーは夜の証拠を消す為なんじゃないかって。
信じたい。でもダメなんだ。
- 263 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時15分12秒
- 私はもう世間話をする余裕すらなくて、後ろから唐突になっちを抱き締めた。
持っていたドライヤーが、大きな音を立てて床に落ちる。
「落ちちゃったっしょ!なんなの、どうしたんべさ?」
「私さ、なっちの事、ホント好きなんよ。」
「急にどうしたの〜。」
なっちは照れ臭いのか笑っていたけれど、私は笑えなかった。
このままこの温もりを失ってしまうのか?
そんな事、耐えられない。
「…絶対、離さないから。」
切羽詰まった空気を感じたのか、腕の中から笑い声が消えた。
顔を上げると、鏡に不安げななっちの顔が映っている。
「ええか?」
鏡の中に向かって確かめるように問うと、なっちは俯いて、でも大きくはないその手で、
抱き締める私の腕をぎゅっと握った。
- 264 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時16分29秒
- 「…うん。」
頼むから、その手を放さないで欲しい。
今度離れたら、もう戻らない気がするから。
「東京戻ったらな、私んトコで一緒に暮らそうや。」
「…裕ちゃん家で?」
「そう、イヤ?」
そう言うと、なっちは首を横に振り、小さな声で答えた。
「分かった。」
これは酷い束縛だ。
汚い手段だと思う。
でももう、1日でも離れているのが恐い。
自信がない。
- 265 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時21分54秒
「裕ちゃん、お腹空いた〜。」
テレビの前でクッションを抱えながら、なっちがゴロゴロと転がって言う。
「何か食べに行く?」
そう提案すると、ぴたっと動きが止まって、私の方に不満そうな顔を向けた。
「え〜、面倒くさいべさ。お昼に外で食べたっしょ。何か作ってぇ〜。」
「そっちのが面倒や。」
そう返すと、『なっちは楽だもん。』と言って笑う。
憎たらしいな〜と思いながら、結局キッチンへ向かうんだけど。
家で一緒に暮らすようになったばかりだけれど、毎日少しずつ増える、なっちの荷物。
私はそれを見る事で、以前よりも安心感を膨らませていた。
「そうだなっち、明日行くからな。」
またゴロゴロし始めたなっちに、キッチンから声を掛ける。
「何処に?」
「コンサートだって。」
私は少し浮き足立っていた。コンサが見られるからではない。
「ホント?頑張らなくっちゃなぁ。」
コンサートが終われば、ずっと一緒にいられる。
少なくとも5日間は、なっちと後藤も顔を合わせない。
あのホテルでの1件以来、私の後藤に対する不安は、完全に本格化していた。
なっちがこの部屋を一歩出ると、もう心配でしょうがなくて。
- 266 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時23分12秒
- 「裕ちゃん。」
さっきまでゴロゴロしていたなっちが、いつの間にかキッチンに来ていた。
「ん?どうしたん?」
「コンサが終わったら、そのまま実家帰っても良い?」
「え…。」
私の浅はかな考えを見透かされたような心境だった。
「久し振りにゆっくりね。メロンにも会いたいし。」
そんな風に言われたら、止めたくても、私には止める理由がない。
「5日間、ずっと?」
「う〜ん、その後、どっか行くかもしれないけど。」
「どっかって?」
「分かんないけど、旅行とか。」
行くなら一緒に行こう。傍にいて欲しい。
そう言いたかったのに、私はらしくもない言葉を飲み込んだ。
「…そっか。」
私はどうしてしまったんだろう。
ホテルでなっちの部屋に行った時だってそうだ。
言いたい事があるのに、こんな風に飲み込むなんて、私らしくない。
完全に、自分のペースを失っている。
でもいい。なっちを失わなくて済むなら、それでもいい。
- 267 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時24分01秒
1人の夜は長くて、やたら寒い気がする。
なっちが実家に戻って2日。
もう会いたくて、メールを打っていた。
だけどいくら待っても返信がなくて、次第に不安が込み上げてくる。
いくらなんでも、1日に1度も携帯を手にしない日なんてないだろう。
けれど結局、夜になっても返事はなかった。
電話をしても留守電になってしまう。
喧嘩したわけでもないのに何故?
ただ実家に帰っただけなら、連絡はあるはず。
本当に旅行に出たのか?だとしたら、なっちが1人で行くとは思えない。
まさか後藤と一緒なのだろうか?
私は言い様のない不安に駆られて、どうして良いか分からず、別の番号に発信していた。
「あ、矢口?私やけど。」
「何?」
咄嗟にかけたのは、矢口だった。
事の次第を説明すると、呆れたようなため息が聞こえた。
- 268 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時25分15秒
- 「で、矢口にどうしろって?」
「やからさ、矢口が電話すれば絶対出ると思うんだけど。」
「イヤだよ。なんでそんな事しなくちゃいけないの?」
「心配なんよ。」
「なっちが連絡取りたがってないんだから、矢口が言ったって効果ないって。」
矢口は続ける。
「この前もそうだけどさ、矢口に言っても状況は変わらないと思うよ?」
「じゃぁ、どうすればええねん。」
「知らないよ。矢口に聞くなよ〜。」
一方的に通話を切られ、ツーツーという無情な音が耳に刺さる。
あと電話を掛けるべき相手は1人しかいない。
でも、それは躊躇われた。
今はまだ、あの子を信じていたいから。
もし電話をして、そこになっちが居たら、私は何をするか分からない。
お願いだから、その前に戻ってきて欲しい。
- 269 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時26分34秒
あれから何度もメールを打った。
けれど朝が来ても、返信はない。
ついに耐えきれなくなった私は、無心で後藤の番号を検索した。
疑ってるんじゃない、そうじゃないと、自分に言い聞かせながら。
表示された番号を確認して、ごくんと唾を飲む。
もし、もしなっちがいたら?
…そんなこと考えていたら電話なんて出来ない。
私は思い切って発信ボタンを押した。
呼び出し音が鳴り始める。自分でかけたのに、心臓がバクバクいっている。
けれど、焦らしているのか寝ているのか、一向に本人が出ないまま、留守電に切り替わってしまった。
だけど諦めきれなくて、再び発信ボタンを押す。
しばらくして、また留守電になるかと思った頃、ようやく聞き慣れた声が聞こえた。
「もしもし。」
普通なら『私だけど』とか『寝てた?』とか何か言うべきなのに、
それすら頭から飛んでしまって、いきなり居場所を聞いていた。
- 270 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時27分51秒
- 「今何処?」
「今?家だけど…。」
「なっちは?」
すると少し不審そうな声で『ここにはいない』と返って来た。
「隠さんでもええよ。」
「隠してないって。何かあったの?」
拍子抜けした私は、間抜けの声で聞き返した。
「…ホントにいないん?」
「残念だけど。」
「じゃあ、あの子何処に行ったんやろ…。」
もう、思い当たる所はない。
さっきまでとはまた別の、言い様のない不安が身体中を駆け巡る。
じゃあどうして…。
私はさっきまで疑っていた後藤に向かって、事の経緯を話始めていた。
いったい何処にいるんだ?何故連絡を絶つ必要があるんだろう。
訳が分からなくなっている私に、後藤がぽつりと呟く。
「旅行、裕ちゃんと行くんだと思ってた。」
「私は、急に連絡が取れなくなったから、後藤と行ったのかと思ってたんよ。」
思わず出てしまった本音。
それを聞いた後藤から、消えそうな声が漏れる。
- 271 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時28分33秒
- 「後藤となっちはもう…。」
「なっちは後藤の事、忘れてへんよ。」
後藤は何も答えない。
あんたを試しているんじゃない。これは確信だ。
自分が抱いているのに、あんたが抱いているんじゃないかと錯覚する時がある。
なっちの心の中には今も、どのくらいかは分からないけど、あんたがいる。
「ついでやから、ホントの事、おしえてくれへん?」
「ホントの事?」
「後藤のホントの気持ち。なっちの事、好きなんやろ?」
思い切って、ストレートに聞いてみた。
「…好きだよ。」
予想通りだった。
「そっか…。そんな気はしてたんよ。」
「…怒んないの?」
逆に後藤は驚いたように聞き返してきた。
「なんで怒るん。」
「前に聞かれた時、後藤『何でもない』って、嘘言った。」
「そう言うしかなかったんやろ?後藤らしいわ。」
あの時の私は、かなり切羽詰まって後藤を問いつめていた気がするし、
そんな状況で本当の事なんか言えないだろう。
なっちなら、あの子なら言ったかもしれないけど。
- 272 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時30分12秒
- それから私は、いつものように明るく言った。
「聞いてスッキリしたわ。ちゅーことで、これからライバルやな。」
それは嘘じゃない。
隠しあって探り合ってモヤモヤするのは好きじゃないから、この方がずっと良い。
「ライバルって。」
後藤はそこでやっと笑ってくれた。
できればあんたとライバルなんて、なりたくなかったけれど、
もしこれがあんたじゃなかったら、私はもっと酷い事を言って、イヤな奴になっているかもしれない。
あんただから、嘘でも笑ってこんな事が言えるんだ。
苦しんでいるのが分かるから。
なっち、あんたも1人で苦しんでいるんだろう?
「しっかし、なっち何処行ったんよ〜。」
私はそう言いながら、もしかしたら返って来ないかもしれないと、
心の何処かでぼんやりと思っていた。
- 273 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時31分18秒
「ひどい顔…。」
目を覚まそうとバスルームに入って、うっかり鏡を見たのが失敗だった。
ここ数日の不健康でだらだらした生活が、完全に顔に出ている。
最悪だ。
取りあえず顔を洗おう。
けれど洗顔フォームを取ろうとして、私はまた余計な物を見てしまった。
なっちの洗顔フォームと、きちんと並んだシャンプーのボトル。
戻って、来るんだろうか。
それとも今度こそ本当に、捨てなくちゃいけないのだろうか。
「なっち…。」
私は一滴もお湯を出さないまま、バスルームを出た。
そして回らない頭を起こす為にコーヒーを入れ、テレビを付けた。
陽はすっかり昇り…いや、もう下り始めている時間だ。
だってどのチャンネルも、すっかり主婦向けの番組になっている。
- 274 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時32分39秒
- ソファにずるっと寄り掛かり、大きな欠伸をするが、スッキリしない。
昨日も連絡がなかった。
仕事だったら気も紛れるのに。どうしてこんな時に限ってオフなんだろう。
「仕事だったら、なっちにも会ってるかな…。」
寝不足と考え過ぎで、頭が回らない。
なっちは、後藤の気持ちを知っているのだろうか。
そしてどんな想いを抱いているのだろうか。
果たして此処に、帰って来るのだろうか…。
私はまたウトウトと、浅い眠りに引きずられ、目を閉じた。
こんな状態で、どうせやることなんてないのだから。
- 275 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時33分39秒
「冷房付けたままで寝てて、風邪引くっしょ。」
「…かってるわ。」
言い返してから、ハット意識が目覚める。光が眩しい。
電気が点いている?
意識を追うように重い目蓋をこじ開けると、ぼんやりした視界に、なっちがニコニコと立っていた。
「ただいま。」
咄嗟に言葉が浮かばず、普通に『お帰り』と言ってしまった。
いつの間にかソファで眠り込んでしまったみたいだ。
窓の外は真っ暗で、完全に夜。
なっちが呆れたように『真っ暗だからいないと思った』なんて呑気に言う。
まったく、誰の所為でこんな事になってると思ってるんだ。
「何やそれ、写真?」
ふと、手に持っているのに気付いて聞いてみたけれど、『ん、なんでもないべさ。』とポケットに隠されてしまった。
気になってけれど、今はそんな事に気を取られている場合じゃない。
私は取りあえず起き上がって、なっちを隣に座らせた。
「なんやねん、あんた。めっちゃメールしたのにずっと無視したやろ。」
「ちょっと1人になりたくてね。」
屈託のない表情は、嘘を付いているようには見えなかった。
- 276 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時34分45秒
- それに、私はもうこの子を許している。
帰って来ただけで、許せてしまっている。
「裕ちゃん。ごめんね…。」
「なんも言わんでええから。」
「でもなっち、また裕ちゃんにイヤな思いさせたっしょや?」
「ええわ、そんなん。」
あんたの気持ちを考えたら、こんなことくらい我慢出来る。
その小さな身体で、どれだけの想いを溜め込んで、此処に戻ってきたのだろう。
「なっちこそ、何で戻って来たん。」
まだ、苦しんでいくつもりなのだろうか。
「…好きなんやろ?後藤のこと。」
なっちは黙って俯いた。
「なっち。」
答えを急かすと、聞き取りづらい程に小さな声で呟いた。
「…いいの。」
「え?」
「なっち、裕ちゃんといるって、約束したべさ。」
「約束とかじゃなくてなぁ…。」
「裕ちゃんが言ったっしょ?あの朝『絶対離さない』って。」
「けど後藤だって…。」
言いかけた言葉を遮るように、なっちが私の首に抱き付いて来た。
- 277 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月17日(木)18時35分41秒
- 「ごっちんといると苦しいの…。苦しくて…泣きたくなるの…。」
その声は、すでに泣いているみたいに、くぐもっていた。
素直というのは、時に残酷だ。
私はもう堪らなくなって、小さく震えるその身体を、力一杯抱き締めた。
なあ、なっち。それを『愛してる』っていうんだよ…。
「…だから1人にしないでよ。ず〜っと…傍にいてよ…。」
涙が出て来た。
ず〜っと。
永遠よりリアルで、でも限りなく輪郭のない言葉。
「ああ、ず〜っとおるよ。私がしつこいんは知ってるやろ?」
そう返すと、なっちは涙声で、少しだけ笑った。
「裕ちゃんは、誰かが傍にいないとダメな人だからね。」
「うっさいわ。なっちやってそうやろ。」
きっとこれから先も、憎んだり、苦しんだり、私たちはたくさん傷付け合う。
でもそれは、2人でいる一瞬一瞬を信じたいからだ。
例えあんたが心の奥に誰を隠していたとしても。
頑張るよ。これからいつまでか分からないけれど、
でもず〜っとなっちと居る為に、ボロボロになっても、
その笑顔は嘘じゃないと、信じられるように。
それが、あんたと重ねていける、唯一の愛のカタチなら。
- 278 名前:作者 投稿日:2003年07月17日(木)18時44分43秒
- 本当に久々の更新ですみません。
の変わりに私の中では多めの更新です。
これでやっと第2部に時間が追いつきました。
こっからですよね、ホント。
しっかしまるで年齢が矢口>裕ちゃんみたいになってしまった。はぁ。
いつもカキコ&読んで下さって感謝です。
>253 名無しさん様
一応年齢的には裕ちゃんが1番上ですしね。
しかしやぐのが大人っぽくなってるのは気のせいではなく…(反省)
>254 jinro様
ホント、3人とも幸せになってくれると嬉しいです。
そういう風にはしたいと思ってるんですが…なるんだろうか…(弱気)
>255 名無しさん様
待たせてしまってすみません。
その分楽しんで下さっていると…期待しておきますです、ハイ。
>256 名無しさん様
続き…というよりやっと時間が戻ったのでこれからが続きですよね…はは。
確かになちごま派、多い。
わたしはなっちゅーもなちごまも好きですが(や、なちまりもな…爆)
ちょくっとちょこ更新を目指します。
ちょくちょくと少しずつ…ならできるかも?
- 279 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月18日(金)23時41分54秒
- 今までなちごまを応援してきたけど、
今回の更新でなっちゅーも応援したいと思いました。
あいかわらず切ないですね。
- 280 名前:チップ 投稿日:2003年07月19日(土)00時21分39秒
- もうなんて言えばいいのか、間違ってるとも言えないし…。
自業自得なトコもあるとはいえ中沢さん切ないなぁ。
どうか幸せに、続きも楽しみに待ってます。
- 281 名前:jinro 投稿日:2003年07月21日(月)02時23分08秒
- 裕ちゃん…せつないよ、裕ちゃん…。
でもオイラは(●´ー`)人(´ Д ` )マンセー。
- 282 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月28日(月)00時56分32秒
今日はなっちが読何処か行きたいって言うから、
行き先も決めずに車を出して、取りあえず走り始めた。
天気は良好。
暑いけど良い風が吹いていて、文句ないドライブ日和だ。
窓を開けると気持ち良くて、なっちは暑いと言ってジャケットを脱ぎ、後部座席に置いた。
助手席に座るなっちの髪が、動く度にキラキラと反射する。
それが視界の隅に入るだけで、小さな幸せが胸に宿る。
なっちが帰ってきたら、聞こうと思っていた事が山程あったのに、結局私は全然聞いていなかった。
半分は聞く事があり過ぎて忘れた。
あと半分は、どうでも良くなった。
隣でなっちが楽しそうにはしゃいでいる。
それで十分だった。
- 283 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月28日(月)00時57分05秒
数時間走り続け、車は海に出た。
決めていた訳じゃなく、なんとなく着いてしまったのだけれど、
なっちが喜んでいるから降りる事にして、駐車場所を探す。
と言っても、適当に停めただけだけれど。
車を降りるなり、なっちは砂浜に飛び出して、早く早くと私を急かす。
夕方だからか砂浜にはほとんど人影がなく、波も穏やかでサーファーの姿もない。
そこで1人、子供みたいにはしゃぎ回るなっちの姿は、とても滑稽で、だから愛しい。
海も砂浜もなっちも、全部独り占めしているみたいで、私はちょっとわくわくしていた。
ひとしきり走り回って疲れた私は、乾いた砂の上に足を伸ばして座った。
温かい太陽と、冷たい海風のバランスが、なんとも気持ちいい。
1人でつまらなくなったのか、なっちもこっちに向かって歩いて来た。
「疲れた〜。」
言いながら私の背中にべた〜っと凭れ掛かり、方から前に両手をぶらりと垂らしてくる。
「重いわ。」
いくら小さくても、全体重かけられたら重いって。
「そう。」
「『そう』じゃなくてさ…。」
肩越しに振り返ろうとした瞬間、頬に温かいものを感じた。
- 284 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月28日(月)00時58分18秒
- 「なっ…なんやねんっ!」
急にそんな事をするから焦って向き直ると、なっちはきょとんとして言った。
「チュ〜だべさ。」
「そんなの分かってるわっ。」
なんでそんな可愛い事するんだ。しかも唐突に!
「う〜ん、じゃ甘えてるの。ダメ?」
だからそういう可愛い聞き方をしないでよ。
私は本当にこういうのに弱い。
どう答えて良いか分からなくて、抱き締める。
「うわっ、なっち冷たいっ!」
「だって風が冷たいんだもん。」
なっちはキャミソールにフレアスカート。
そりゃそうだ、こんな薄着じゃ寒いに決まっている。
「上着持ってくるから、ちょっと待っててな。」
砂浜になっちを置いて、私は急いで車に戻った。
後部座席に放ってあるなっちのジャケットを手に取る…と、
何かがピラピラとシートに落ちていく。
「なんや?」
- 285 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月28日(月)00時58分51秒
- それは写真だった。
「これ…。」
昨日なっちが持っていたやつかな。
写っていたのはなっち。
優しい写真だった。夕陽に包まれて、幸せそうに笑っている。
嫉妬を覚える写真だった。
勘だけど確信がある。撮ったのは、なっちにとって特別な人間。
誰だ?考えるまでもない。後藤だ。
こんなにも、溢れ出しそうな愛情で印画紙を埋め尽くせるのは、あの子しか思い当たらない。
そしてなっちは、その想いを大切に持って歩いている。
私といる今も。
「どうして…。」
私は少しずつだけれど、安心していた。
以前持っていた不安も、すっかり和らいでいた。
なのに…。
「裕ちゃ〜ん!」
ハッとして顔を上げると、なっちがこっちに向かって歩いて来ていた。
「何やってるんだべさ〜。」
私はその写真を、無意識にズボンのポケットに突っ込んでいた。
「悪いな、今行くわ!」
- 286 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月28日(月)00時59分25秒
仕事が始まった。
初日から珍しく私と娘。と一緒のロケで、みんなのテンションが高い。もちろん私も。
楽屋でも、みんなはオフに何をしていたかって話で盛り上がっていた。
しかし後藤は端の方に座り、相変わらず眠そうにしている。
私は隣に座り、話し掛けた。
「後藤、何してたん?」
「ん〜、どっか行こうと思ってたんだけどぉ。」
言おうとして、何か引っ掛かったのか、ふいに目を逸らす。
「だけど?」
「家でゆっくりしてた。」
その割には、声のトーンが低くなっている。
なんとなく察しはついた。
家で過ごしていたのは本当だろう、ただ…。
「ホンマはなっちと、約束してたん?」
どうしてそんな事を聞いたのか、自分でも解らない。
ただ少し、そんな気がした。
- 287 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月28日(月)00時59分57秒
- 後藤は驚いた顔で私を見て、それから静かに続けた。
「まだ心配してんの?なっちは裕ちゃんとこに帰ったじゃん。」
後藤は引き止めなかった。そうやろう、きっと。
「…何であんたはそうやってカッコつけん?」
止めたら、なっちは帰らなかったかもしれないのに。
「カッコなんてつけてないって。」
あんたが何もしないのは、諦めたからじゃない。
なっちを苦しめたくないからだ。
そのくらい、鈍感な私でも分かる。
苦しめるって分かっていても退けない私は、相当格好悪い。
視界の隅で矢口と無邪気にじゃれあっているなっちが見える。
後藤は喋り掛けもせず、こんな視点でなっちを見ているのだろうか。
- 288 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年07月28日(月)01時00分41秒
- これが後藤の愛し方だとしたら…
「辛くないんか?」
「なっちが辛そうにしてるのを見るよりは…まし、かな。」
「本気で言ってる?」
「ん〜…、今のはちょっとカッコつけた。」
照れ臭そうに笑う後藤が、何だかとても愛おしく思えて、ぎゅっと肩を抱いた。
もちろん恋とか愛とは違う類の感情だけど、この子を好きだと改めて思ったから。
「なに?」
「後藤、めっちゃ可愛ええな。」
「なに〜、それ。」
なっちの好きな相手が、あんたで良かった。
- 289 名前:作者 投稿日:2003年07月28日(月)01時08分15秒
- 本当に少しですが更新です。
今回は裕ちゃんの内面が出過ぎて本当に「スランプ!」てな感じでした。
裕ちゃんとごっちんの間が本当にスッキリ出来てるぞ、
というのが分かればなぁ、程度で…(苦笑)
>279 名無し読者様
そういって頂けると本望です!
なっちゅーのがより押し、と言うわけではなく、
「どっちだ!どっちだよ」という感じにしたかったので…。
>280 チップ様
裕ちゃん、少しは見直して頂けたでしょうか。
本当に前半は裕ちゃんに悪いように書いてしまったので、
少しでも裕ちゃんをよいしょしないと(笑)
>281 jinro様
裕ちゃん、私も書いていて「か、可哀相」とか思いました。
最後までなっちゅーかなちごまか〜!みたいな感じで
読んで頂けると嬉しいです。
なんとなく話が架橋に入りそうです。
8月には終わらせたいなぁ、という程度には思ってます。
- 290 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)01時21分53秒
- 続きが早く読みたいような、終わってしまうのが寂しいような..。
作者さんのお話、本当に大好きです。
- 291 名前:jinro 投稿日:2003年07月28日(月)11時01分54秒
- 終わってしまうのは寂しいですが…。
三人とも幸せになれるといいな…。
- 292 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)17時43分04秒
- 裕ちゃんとごっちんの関係がいい感じですね。
なっちはどう結論出すんでしょうか・・・
三人が幸せになってくれるといいんですが
- 293 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時39分26秒
まったりとした午後、ふいになっちの携帯が鳴った。
どうやら相手は矢口のようだ。
珍しいな〜こんな時間に、なんて思っているうちに話はさっさと終わり、
なっちが物凄い形相で私の方に向かって来ていた。
「な、なんやねん。」
「裕ちゃん、車出して。」
「は?」
「病院に行くんだべさ。」
それは後藤が事故になったとの連絡だった。
突然セットが倒れて来て、下敷きになり、今念のために検査をしているそうだ。
ちなみに矢口は一瞬早く逃げたらしい。なんとなく想像がつく。
「行くって…、詳しい事まだ分からんのやろ。」
「そんなん待ってないっしょっ!」
「やけど…。」
なんとかなだめようとしたが、頑固ななっちは全く譲らず、終いには1人で立ち上がった。
「もういいっ、1人で行く!」
「なっち、待ちぃな!」
仕方なく私も後を追い、結局2人で病院に向かった。
- 294 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時41分37秒
- 助手席に座っているなっちは、いつもより大人しく、心配し過ぎのオーラが漂っている。
後藤だから?それがもし矢口でも、同じ反応をするのだろうか?
私だって心配だけれど、話を聞く限りだと、
状態も分からない段階でこんなに焦っては話が大事になるだけだと思っている。
病院に着いて、ロビーを抜け、取りあえず付き添っているはずの矢口とマネージャーを探す。
廊下をうろうろ歩いていると、少し先の診察室から、見慣れた人影が出て来た。
「後藤…?」
私が呟いたのと同時くらいに、後藤もこっちに気付いて、立ち止まった。
頭にぐるぐると包帯が巻かれている以外は、大きな怪我はなさそうで、ホッと胸を撫で下ろす。
「どうしたの?2人して。」
その声を聞いた途端、さっきまで一言も喋らなかったなっちが、突然走り出した。
予想しない動きに、私は止める事も一緒に走る事も出来なかった。
なっちはそのまま勢い良く後藤の首に抱きつくと、今度は人目も憚らず、えぐえぐと泣き出す。
「なんでピンピンしてるんだべさっ、すっごい心配したんだからぁ…。」
後藤は静かに微笑んで、泣いているなっちの背中を、子供でもあやすように優しく叩く。
- 295 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時42分11秒
- 「ホント、どうしようかと思ったんだから…。」
「ごめんごめん。」
午後の優しい光が、ロビーから廊下へと広がっていく。
その光を避けるように、なっちが顔をずらした…
そう、あまりに自然に後藤の肩に顔を埋めるから、私も自然に見つめてしまった。
引き剥がしたいのに、足が出ない。
「良かった…。」
呟くなっちの頭を、後藤の手の平が抱き寄せるように、大きく包む。
「ん、ありがと。」
声の聞こえる距離、たった数メートルが、とても遠く見える。
沸き上がるのは嫉妬じゃなかった。
言葉ではなんと言えばいいのか分からないけれど、とても切なくて、居心地が悪かった。
どうしたら良いのか分からないまま、ぼーっと立ち尽くしていると、すぐ傍で聞き慣れた声がした。
- 296 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時42分47秒
- 「やっぱ来たんだ。」
横を見ると、いつの間にか矢口が立っている。
「でも、一緒に来るとはね。」
「なっちがすぐ行くってきかないからや。」
「ふ〜ん。」
「なんやねん。」
「別に。」
今度は矢口も一緒に、抱き合う2人を見つめる。
私たちが動けないのは、あの子達が離れようとしないから。
「だいたい何で私より先になっちに電話したんや。」
「履歴が残ってたから。つ〜か、そんなんどっちでもいいじゃん。」
「良くないわ!あの子は…」
「『今でも後藤が好きだから』?」
矢口は真面目な顔をして、あっさりと言ってのけた。
「矢口…。」
「何年あの子といると思ってんの。そんなのずっと分かってたよ。」
そうだ。
なっちのことはあんたが一番分かってるかもね。
私はどんなに一緒にいても…いや、いればいる程冷静でいられなくなってしまうから、
見えるものも見えなくなる。
- 297 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時43分18秒
- 「私、どうすればええねん。」
そう呟くと矢口は笑って、2人の方を顎で指した。
「とりあえず、声掛けたら?」
それでも足の重い私は、矢口に引かれるようにして、やっと2人の傍まで足を進めた。
すると、ようやく私の存在を思い出したのか、後藤が慌ててなだめながら、なっちの身体を自分から引き剥がす。
なっちも私たちを見ると、赤くなった目元を慌てて手の甲で拭った。
「なに泣いてんの〜。」
矢口が小突くと、なっちはいつもの口調で返す。
「うるさいべさっ。矢口が真剣な声で電話して来たからっしょ!」
「人が怪我して、笑いながら電話する奴なんかいないでしょ。」
「そんな極端な話してないってば!」
いつもの事だけれど、場所が場所なので後藤は苦笑しながら止めに入る。
「2人とも、ここ病院だよぉ。」
2人が黙った所で、私はやっと後藤に直接声を掛ける事が出来た。
- 298 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時43分57秒
- 「検査終わったん?」
とは言っても、当たり障りのない言葉しか出ない。
「ごめんね。たいした事ないんだけど。」
「その包帯は?」
「ちょっとたんこぶ作っちゃっただけ。」
「ぼ〜っとしてるからなぁ。」
私の返しに、本人より早くなっちが食いついてくる。
「少しは直ったんじゃない?」
「いや、打ったからってぼ〜っとしてるのは直らないでしょ。」
と矢口が続く。
「みんな、心配して来てくれたんじゃないの?」
笑いながらも、私は無意識になっちから目を逸らしていた。
好きなはずのその笑顔を、今は見るのが辛いから。
2人の心は今でも繋がっているんだ。
強く、静かに。
- 299 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時44分38秒
部屋に帰って来てからも、私は真っ直ぐになっちの顔を見られなくて、
どうでもいいテレビを付けて、目線だけをひたすら画面に注いでいた。
なっちはいつものように何か話をしながら、私の隣に座る。
つい数時間前にあんなふうに後藤と会って、どうして今そんな風に普通でいられるんだろう。
1人になったらあの子の事を思い出したりするんだろうか?
「裕ちゃん?」
ハッとして横を向くと、心配そうに見つめる瞳があった。
「ん?何か言った?」
「ううん。すごい恐い顔をしてたからさ。」
そう、私はイライラしている。モヤモヤしている。
嫉妬なのか哀しみなのか分からない。
ただ互いを想いながらも必死で離れようとしている2人に、胸が潰れそうだった。
なっちが裏切ったわけでも、後藤が邪魔してるんでもない。
誰でもない、私が2人を引き裂いている。
- 300 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時45分12秒
- 私が退けば、なっちは幸せになれるのだろうか。
でも後藤みたいに格好良くなんて退けない。
1度失った想いを、再び失えと…?
「なっちさ、なんで私なん?」
「は?」
唐突な質問に、なっちは首を傾げる。
「なんで私を選んだんや?」
聞き直すと、顔色は急変した。
「…どうしてそんなこと聞くんだべさ。」
「知りたいねん。考えたんだけど、全然分らないんや。」
「そんなの、好きだからに決まってるっしょ。」
「じゃあ後藤は?好きだったのに、なんで選ばなかったんや。」
なっちは1度も『後藤を好きだ』と言った事はない。
これは賭だった。
別に好きじゃない、そう言って欲しかった。
「それは…」
でもなっちは口籠もってしまった。
長い、重い沈黙。
それは後藤への想いを確かめるのに、十分すぎる時間だった。
- 301 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時45分55秒
- 「…裕ちゃん、まだ疑ってるの?」
「そうじゃあらへんて。」
疑うのは終わり。
今、終わった。良く分かったから。
「じゃあ何で聞くの?信じてくれてると思ったのに。」
「信じてるよ。」
黙っていればこれからもきっと、なっちは私から離れないでいてくれるだろう。
「嘘だべさ。」
「嘘やあらへん。ただ…。」
「ただ?」
「自信がないんよ。」
原因はあんたじゃない、私にある。
「今のなっちがさ、後藤といるより幸せだって…言える自信がないんや。」
自分で言って泣けてきた。
「裕ちゃん…。」
私は両手で頭を抱えてしまった。
- 302 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月02日(土)14時46分51秒
- 情けないけど、泣き出すなっちを愛おしげに包む手に、写真いっぱいに写し出された温かさに、
後藤の愛情のすべてに、脅えている。
顔を上げられないまま声を殺していると、温かい手がゆっくりと触れ、私の髪を撫でた。
ただ静かに、何度も、何度も。
余計に涙が溢れ出して、止められなくなってしまった。
私の望み通り、隣になっちがいる。
後藤も私からこの子を奪おうなんて思ってない。
なのに笑顔でいられない。幸せと同じ分だけ不安が育っていく。
どうしたらいい?
どうしたらいい?
どうしたらいい?
こんなに愛している。
こんなに辛い。
そして私は、それに立ち向かえる程、強くない。
- 303 名前:作者 投稿日:2003年08月02日(土)14時57分57秒
- 更新です。
少しだけですが…(w
そして300レス突破!!
面白くもないこんな駄文が続いているのも皆様のおかげです!
感謝・感謝…。
いつもカキコ&読んで下さってありがとうございます。
>290 名無しさん
大好き…だなんて言って下さって…本当に書く元気が出て来ます!
是非、残りも楽しんで下さると嬉しいです。
>291 jinro様
う〜…私的には3人とも幸せになれるようには書いているのですが…
どうなんだろうか…。
最終回後、卵投げつけないで下さい…(w
>292 名無しさん
裕ちゃんとごっちん、良い感じに見えますか!ありがとうございます〜。
裕ちゃんとごっちんは元リーダーとかいろいろありますが、
出来るだけフラットな関係に…と思っていたので。
あと僅かとなりますがみなさんよろしくお願いします!!
- 304 名前:名無し読者。 投稿日:2003年08月02日(土)17時10分13秒
- もう、このお話に何回泣かされた事か。
素敵なお話をありがとうございます。
- 305 名前:チップ 投稿日:2003年08月02日(土)18時27分42秒
- 早くなんとかなって欲しい思いと終わって欲しくない思いが戦ってます。
あぁ、泣ける。頑張ってください。
- 306 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月02日(土)20時05分15秒
- なちごまにならなくてもいい。ごっちんが幸せであれば…
- 307 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月02日(土)22時14分25秒
- ハマッテます。。。どうなっていくのかな?
- 308 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月10日(日)12時57分34秒
- なっち誕生日おめでとー
- 309 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)16時45分08秒
長い時間スタジオに入っていると、時間の経過がおかしくなる。
何度目かの待ち時間に、楽屋でお菓子を摘んでいると、
なっちがやって来て『私も食べる〜。』と言いながら、お菓子を漁り始めた。
あんたそれ、辻や加護の事注意出来ないで、などと思いながら見つめる。
案の定、甘い物をいくつか手に取り、隣に座る。
「そんなんばっか食べてたら、また吹き出物できるやろ。」
「これは寝不足のせい。疲れてる時はやっぱ甘い物っしょ!」
もっともらしい反論をしながら、ぱくぱくと食べ始める。
一緒に住み始めて、なっちが時折不眠気味になっている事は気付いていた。
だからって、私には何も出来ないから、気付かないふりをしている。
それでも睡眠が足りているのか、元気なふりをしているのか、私には分からないから。
「裕ちゃん知ってた?今年、なっちの誕生日、仕事入ってないんだよ。」
「私は入ってる。後藤とロケがあるんや。」
「うそ〜。」
「午前中だけやけどな。」
「なんだぁ、じゃあ夜さ、ケーキ買うべさ、ケーキ。」
たかがケーキの話だけで、こんなに目をキラキラさせているなっちを見ると、
誕生日という行事が、すごく楽しいものに思えてくる。
- 310 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)16時45分40秒
- 「ケーキも良いけど、連れて行きたいとこがあるんや。」
あんたの為にも、今年は楽しいクリスマスにしなきゃね。
「だから服まとめとくんやで。」
「旅行?そんな時間ないっしょ。」
「まだいえへんて。」
「教えて〜。」
「駄目。とにかく荷物だけまとめておくんやで。」
「やだぁ〜、聞きたい、聞きたい!」
「だ〜め、言うとるやろ〜。」
「ケチ。」
「楽しみはとっといた方がいい、って事や。」
なっちはまだ不服そうだったけれど、諦めたのかそれ以上は聞かなかった。
代わりに、テーブルの上へ両腕を思いっ切り伸ばして、だるそうに言った。
「久々に眠くなって来ちゃった。」
なっちは愚痴りながら、ごしごしと目を擦っている。
「奥でちょっと寝れば?」
「ここで?」
- 311 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)16時46分26秒
- 2人の視線は同時に奥の長椅子に向かう。
そこには、上着を被って眠る後藤がいた。
スースーという寝息が聞こえてくる。
「後藤は寝てるやろ。」
「あの子はいつでもどこでも寝てるっしょ。」
「…確かに。」
「なっち、ごっちんじゃないもん。いつ帰れるのかなぁ、28時ってなんだべさぁ。」
言いながら横で壁の進行表を見る。
8月になり、仕事はレギュラーの他、夏の特番が多々入って忙しくなっていた。
でもおかげで私は随分助かっていた。
たとえ1日が48時間になろうとも、仕事をしていれば、何も考えないで済む。
せめて10日までは、平穏な気持ちで過ごしたかった。
- 312 名前:作者 投稿日:2003年08月10日(日)16時56分00秒
- こんにちは。
本当に少しですが更新です。
夜に、最後の更新をしたいと思っています。
いや、それにしてもなっち、22歳おめでと〜。
>304 名無し読者。様
いえいえ、こちらこそ読んで頂けてありがとうございます。
みなさんのレスが書こうという気持ちの糧になってるんで。
>305 チップ様
今日で終わります…。スミマセン。
しかし気に入って頂けて嬉しい限りです。
>306 名無しさん
う〜、今夜の更新で終わりですが…
どうなんだろう。幸せになるかどうか…、楽しみにしといて下さい(w
>307 名無し読者様
ハマるなんて…ありがとうございます。
作者冥利に尽きる…。
>308 名無し読者様
ホント、なっち誕生日おめでとー。
そんな日に最終回でスミマセン。
それではまた今夜、です。
- 313 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)18時43分34秒
- えっ今夜が最終回なんですか?
結末は早く知りたいけど、
作者さんの文章と作者さんが書くなちごまが好きなので、
終わってしまうのはとても寂しい..。
フクザツです。
ちょっと気が早いですが、次回作にも期待しちゃったりして。
- 314 名前:: 名無し読者 投稿日:2003年08月10日(日)20時47分51秒
- とうとう最終回かぁ。なっちのBDってのも意味深ですね。
ずっと楽しみに読んでました。みんな幸せになるといいなぁ。
先走りすぎだけど、番外編とかはなし??最後の方とかなっち視点が観てみたい。。
- 315 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)23時40分14秒
「早くしぃな!荷物持ったな?」
急かす私の声を聞きながら、なっちは窓の外をじ〜っと見ている。
「うん…。」
「ほら、行くで。」
先に靴を履いていると、ようやくなっちがてくてく玄関に向かって来た。
「雨、降っちゃうのかなぁ。」
旅行用のバッグを抱えるように持って、悲しそうに聞いてくる。
「確かに雨降りそうやけど、天気予報聞いてへんからなぁ。」
「やだなぁ。晴れて欲しいんだけど…。花火見れないよ。」
甘えられたって、さすがに天気をコントロールする事なんて出来ないって。
「…だって…。」
- 316 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)23時40分52秒
- 「うん?」
「…だって、いつも雨だったから…。」
「花火大会が?」
「違う。裕ちゃんの事、好きになってからの記憶ってね、なんかいつも雨で、
思い出すとすっごい切ない気持ちになるんだべさ。」
「それって…。」
「だから、雨はもういいべさ。」
勝手に言うだけ言って、靴を履いて先にさっさと出て行ってしまった。
私も慌てて後を追うように部屋を出る。
カタチだけの、空っぽの旅行鞄を持って。
- 317 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)23時41分30秒
なっちのワガママは天をも動かすのか、走り出して5分もしないうちに、
空に花が咲き始めた。
「裕ちゃん、花火!花火だべさっ!」
「晴れて良かったな。」
「ホント!綺麗だよぉ〜!」
花火1つでこんなにはしゃげるなっちは、本当に可愛い。
信号待ちになって窓から外を見てみる。
綺麗だと思う。とても、綺麗だと…。
「嬉しい?」
「うん!」
「じゃあ花火は、切なくなんないんか?」
「もちろんだべ。今はすごく楽しいから、今花火見たら、花火見る度に楽しかった事、思い出すっしょ。」
「そっか…、そうやな。」
向かっている先には、切なさと楽しさのどっちが待っているんだろう。
それは私には分からない。
- 318 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)23時42分07秒
そう遠くない目的地まではあっという間で、花火が近付いてくるうちに着いてしまった。
私がサイドブレーキを引いて『到着』と言うと、なっちの表情がいきなり険しくなった。
「ここ…。」
「これが私からの誕生日プレゼント。かなり大奮発したんやから、素直に喜んでや。」
そう。目の前にあるのは後藤の家。
もう帰ってるはずだ、今日、訪ねると言っておいたから。
「裕ちゃん、なんで?」
言葉じゃどう説明して良いのか分からない。
ただもうずっと前から、こうしようと決めていた。
「ホンマなぁ、もう疲れたんよ、私。」
「なんだべ、それ…。」
正直に話したら、きっとなっちは後藤の所に行かないだろうから。
「あんたとおるとさ、悩んでばっかりやろ。もう、お終いにしたいんよ。」
「うそ。」
「嘘じゃあらへん。」
でも本当でもない。
悩んでばかりだったけれど、終わりにしたいなんて思ったことは1度もない。
- 319 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)23時42分38秒
- 「やだっ!なんでそんな事言うんだべさっ!」
「これ以上悩んだらハゲちゃうわ。一応アイドルなんやから、ハゲはまずいやろ。」
「真面目に答えてよ!」
「いいから、行けや。」
「だって約束したじゃん!傍にいてくれるって、約束したっしょ!」
「…なっちが好きなんは、私やあらへんからや。」
後藤の所に行かないのは、多分あの子がハッキリ言わないから。
私といるのは、ず〜っと離さないと、約束したから。
「約束はな、本当に好きな人とするもんやで。」
寂しくなるのが恐いから、だからなっちは約束を守ろうとしている。
だったら約束すべきなのは、後藤だ。私じゃない。
「裕ちゃん…。」
「分かったら降りな。」
なっちはしばらく悩んでいたが、やがてのろのろとドアを開け、荷物を手に車を降りた。
ドアを閉める音が、1人になった車内に低く沈む。
- 320 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)23時43分22秒
- 外を見ると、なっちは2・3歩進んだ所で立ち止まってしまい、こっちを振り返っている。
なんでそんなに哀しそうな顔をするんだ。決意が鈍ってしまう。
無駄にしないでよ、私の一大決心を。
周りを気にし過ぎるのが、なっちの良くない所だ。
「私は、そんななっちが好きなんやけどな。」
手で追い払うしぐさをして見せたが、こっちを向いたまま動こうとしない。
このままじゃ、車に戻ってきてしまいそうで、私はアクセルを踏んだ。
門から中に入っていくまで見届けたかったけれど、仕方がない。
バックミラーに映るなっちがどんどん小さくなっていく。
ほら、早く行かんかい。後藤が待っている。
素直なのがなっちの良いところやろ。
自分に素直になるんや。
それがあんたを笑顔にする。
私の一番好きな、あの無邪気な笑顔に。
- 321 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)23時43分54秒
- とうとうなっちの姿が見えなくなった。
でも私の足は、アクセルを緩められない。
止まったら、涙が出てしまいそうだから。
花火は少しずつ勢力を増して、夜の空に咲く。
浴衣を着た人々が、ぞろぞろと花火の方に歩いていく。
ようやく赤信号で止まったときには、豪華な連続花火が打ち上がっていた。
良かったな、なっち。あんたの誕生日を祝っているかのような花火だよ。
これから後藤と、楽しい花火の記憶を作ればいい。
私は、後ろに置いたカラの旅行鞄を開けた。
あの日偶然見付けてしまった写真。
それが1枚だけ、入っている。
何度か返そうと思ったけど、できなかった。
手にとって見つめると、ため息が出る。
なっちのこんな笑顔を見たのは、ずっと前…そしてもう見られないから、
この小さな盗みくらい、見逃して欲しい。
- 322 名前:第3部 中澤裕子 投稿日:2003年08月10日(日)23時45分17秒
- 信号が青になり、私は写真を助手席に置いて、再びアクセルを踏む。
「私は花火見るのが辛くなりそうや。」
でも、雨よりは圧倒的に少ない。夏に数回、あるだけだ。
そのくらいなら、耐えられるだろう。
『誰かが傍にいないとダメな人だから』
あんたはそう言ってくれた。
その通りかもしれない。
私はきっと後悔する。
もうすでに後悔しそうになっている。
明日も明後日も…もしかしたら1年先も、後悔してるかもしれない。
けれどそれでもいい。
だって私は、誰よりもなっちを愛しているから。
あんたが言ったように『ず〜っと』………。
a labyrinth of love 〜完〜
- 323 名前:作者 投稿日:2003年08月10日(日)23時51分14秒
- a labyrinth of love終わりです。
もともとは3人とも苦しみながら迷路を歩いていくようなエンディングにするつもりでした。
が、書いていくうちに「明るくせなイカン」と思い、こうなった次第です。
私がハッピーエンド書くとチープでイマイチなんですが…。
納得して下さる方、物足りないと思われる方、
いろいろと意見があると思いますが、
これが私の考えた、いちばん3人が優しくなれるエンディングです。
それでは、皆様、今まで本当にありがとうございました。
PS.番外編、考えていなかったので書くかどうかはちょっと分かりません。
書くとしても少し時間が空いてしまうと思われます…、スミマセン。
&新作、考えていないわけではないですが、多分中編みたいな長さになる気が…
- 324 名前:ろくた 投稿日:2003年08月11日(月)02時21分01秒
- 完結お疲れ様でした!
『幸福』のカタチって、ひとそれぞれなんだなぁと痛感させられました。
もっと傲慢でも良いのに…。
でも、優しくって不器用な…そんな三人が大好きです。
約半年間、ほぼリアルタイムで追っていた作品が終わってしまうのは本当に寂しいです。
でも、良い作品に出会えたなぁ…とココロからそう思います。
作者さん、こちらこそ今まで本当にありがとうございました!!
番外編…完結後のなっちとか気になったり。
…終わったばかりなのに済みません(汗!
次回作も期待してますので、これからも頑張って下さいね!
- 325 名前:jinro 投稿日:2003年08月11日(月)14時04分09秒
- お疲れ様でした。
感動をありがとう。
- 326 名前:名無し 投稿日:2003年08月12日(火)01時19分08秒
- 完結お疲れ様です。
ずっと、一番楽しみにしてました。
この切なさがたまらなかったです。
自分的には、ごっつあん大好きなんで、
ごとー視点も見てみたかったり…
終わってすぐに、あつかましくてすいません・・・。
あんま気にしないでください。
本当にお疲れ様、そしてありがとうございました。
- 327 名前:ミニマム矢口。 投稿日:2003年08月13日(水)06時31分29秒
- 完結お疲れ様です。文章がトッテモ読みやすく。
3人の視点が1話ごとに変わり、お互いを想うあまりの…(涙)
素直に感情移入できました。(感動)
矢口さんのソッケナイ言葉の裏側に深い友情を感じ(泣)
- 328 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月23日(土)22時21分32秒
- 素晴らしい作品をありがとうございました。
次回作も期待してます。
- 329 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/13(土) 10:24
- 保全
- 330 名前:後日談 なつのおわりの 投稿日:2003/09/25(木) 00:40
-
どう言えばいいんだろう。
言葉が足りなくて、足りないどころの話じゃなくて…。
この感覚は、言葉なんかじゃ表現出来ない。
「約束、したからね。」
赤くて綺麗な唇が、静かに笑う。
「絶対だからね。」
約束を、したんだ。
通り抜けていく風を見送りながら。
今にも消えてなくなる、この季節の夜に。
- 331 名前:後日談 なつのおわりの 投稿日:2003/09/25(木) 00:41
-
季節の移り変わりは必ずやってくる。
でもこの季節はどうしてこんな気分になるんだろう。
それとも今年だからかな?
過ぎていってしまう事は当たり前なのに、
毎年毎年同じような感覚を運んでくる。
そして。
今年も夏が終わる。
- 332 名前:後日談 なつのおわりの 投稿日:2003/09/25(木) 00:41
-
「お疲れ様でした!」
その言葉に周りも口々に「お疲れー!」と言いながら機材の片付けを始めた。
仕事が順調に運んだ事もあって、一気に和やかな雰囲気になったスタジオは、
あちらこちらで笑い声や話し声が響いていた。
何やら深刻そうな面持ちで話をしているスタッフも数名いたが、それはもう、明日の話らしい。
分単位で刻まれているスケジュールも今日はこれでお終いで、
明日もほとんどのメンバーが午後入りだ。
その事もあいまって、皆それぞれに仲の良いスタッフやメンバー達と談笑している。
そんな中、後藤もまたスタッフ数人に囲まれ、他愛もない話をしている。
ふと気付くと、すぐ近くになっちを見付ける。
なっちもまた、スタッフと楽しそうに話をしている。
めれどその笑顔はどこか哀愁を帯びていて、後藤は引っ掛かる何かを感じ、
隙を見てはなっちに視線を向ける。
いつもと変わらないなっちの笑い声。
後藤はそれに疑問符を浮かべながらも、スタッフの話に耳を傾けていた。
やがてなっちが「お疲れ様でした。」と輪を抜け出して、スタジオから引き上げていった。
それを確認した後藤も、怪しまれないように注意を払って、
「それじゃ、そろそろ。」とにぎやかなスタジオを後に、なっちを追った。
- 333 名前:作者 投稿日:2003/09/25(木) 00:48
- こんばんは。
本当に少量更新ですが、お久しぶりです。
「a labyrinth of love 」の後日談です。
後日談と言ってもたいそうな物ではなく、短編になりますが、
上げていこうと思っています。
取りあえず、ということで明日、もう少しアップ予定。
>>324〜328
皆様、本編の感想、本当に有り難うございます。
「書いて良かったな〜。」と本当に思いました。
&329 名無し読者様、保全ありがとうございました。
- 334 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/25(木) 08:07
- 後日談、楽しみにしてました。
なっちは幸せになれるのでしょうか...。
- 335 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/27(土) 23:54
- めちゃくちゃ嬉しいです。
後日談、とっても楽しみです。
なっちが幸せになってくれることを願っております。
- 336 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/30(木) 04:11
- ほ
- 337 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/13(木) 18:55
- ( ´ Д `)<保全
- 338 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/22(月) 18:03
- 保全
- 339 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/30(金) 08:56
- hozen
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