インデックス / 過去ログ倉庫
ホステス物語
- 1 名前:なるみ 投稿日:2003年03月23日(日)11時41分21秒
- 登場人物紹介
女役
安倍なつみ、矢口真里、石川梨華、加護亜衣、紺野麻美、道重さゆみ、亀井絵里、【主役】
男役
飯田香織、後藤真希、吉澤ひとみ、辻希美、小川真琴、高橋愛、田中れいな、
亀「はぁ、もっと楽して大金得られるバイトってないかなぁ」
友A「あー絵里は一人暮らしだもんねー」
男「君君、そんな君にピッタリの仕事があるよ。時給5000円!!
どう?やって見る気、ない?」
友B「えりーそれゼッタイ風俗関係だよ。親父の酒の相手するんだよ。いいの?」
亀「うーん、けど、時給5000円でしょ?そん位ならやってもいいかなぁ」
男「ほんとかい?!じゃぁ、いまから早速店に来て面接受けて貰えるかな?」
亀「あ、はい」
そして店ー
店長「君、いくつ?名前は?」
亀「あ・・・亀井絵里、18歳です。」
店長「いつから店出れる?源氏名hじゃ、んじゃ「リン」ね、これ制服と基本的な
マニュアルね。」
亀「あ、はい、よろしくお願いします!!」
こうして、ホステス「リン」が誕生した。
つ・づ・く・
- 2 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月23日(日)14時41分30秒
- ×紺野麻美→○紺野あさ美
×小川真琴→○小川麻琴
×飯田香織→○飯田圭織
×加護亜衣→○加護亜依
- 3 名前:なるみ 投稿日:2003年03月23日(日)15時05分30秒
- ご指摘どうもありがとうございます。
以後気をつけます。
- 4 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月24日(月)16時26分47秒
- やる気はあるんでしょうか?
- 5 名前:なるみ 投稿日:2003年03月24日(月)18時27分51秒
- 間違えて、短編のところに書いてしまったので、
もうすぐ削除されると思います。
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月24日(月)19時45分50秒
- >>5
一度にまとめて投稿しなければいけないルールはないわけで
連載っぽくしてもいいと思うよ。
森で2スレ使う程長くなるなら他の場所に立てた方がよかったのかも
しれないけど、でもそれだけじゃ削除の対象にはならないと思う。
せっかく立てたんだからスレ使いきってよw
- 7 名前:なるみ 投稿日:2003年03月24日(月)23時21分34秒
- 終わりがどのくらいになるかわからないんですよね。
だから、短編に立てちゃうと、なにかと大変かな?って・・・。
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)19時02分59秒
- で?どうすんだ?
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月31日(月)01時17分26秒
- ここもか…?
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)00時26分02秒
- なるみたんの中の(ry
- 11 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)02時51分01秒
来 た。
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月04日(金)06時36分21秒
- 影武者
- 13 名前:なるみ 投稿日:2003年04月04日(金)13時40分56秒
- はぁ?!
- 14 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)13時51分22秒
- 気にせず続けて下さい
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月04日(金)21時30分24秒
- まさか・・なる(ry
- 16 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)22時15分55秒
- ここにいたのか!?
- 17 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月05日(土)11時55分34秒
- なるるみ
- 18 名前:なるみ 投稿日:2003年04月05日(土)12時31分09秒
- 意味不明。
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月05日(土)14時47分11秒
- >>17
ね。
- 20 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月05日(土)22時20分06秒
- 削除依頼だせ
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月05日(土)22時52分25秒
- 結局書かないのか!?
はっきりしろ、作者!
- 22 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月06日(日)00時58分10秒
- まさか、なるみたんはるる(ry
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月06日(日)09時16分25秒
- 中の人が同じなんだろ
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月06日(日)14時16分04秒
- あっちは終了したようだし。
ここにいたんだね、る…
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月06日(日)19時59分39秒
- なるみ意味不明。早く止めるか続けろ。放置はしないでくれ
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月06日(日)22時48分24秒
- 放置だろ。
春休みも終わるし
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)00時14分59秒
- しかしどうにかならないものか…なるみさんよ。
むしろるるさん。ここも同じことになるのか…。
誰か乗っ取って書いちゃえば?
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)00時20分32秒
- じゃあ名乗り。
なるみさんが出てこなかったら間借りします。
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月08日(火)01時23分12秒
- まだ?
- 30 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月08日(火)12時42分10秒
- もういいんじゃない?
- 31 名前:28 投稿日:2003年04月08日(火)23時08分29秒
- スマソ、もうちょっと待ってください。
明後日にはのっけさせていただきます。
- 32 名前:28 投稿日:2003年04月11日(金)00時26分05秒
- さて、そいでは間借りしますです。
- 33 名前:葉桜の季節に君を想うということ 投稿日:2003年04月11日(金)00時27分17秒
公園には桜の木が一本、
いいえ、二本ありました。
- 34 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時28分06秒
- 第一話 クロス・ロード
1
学校が短い春休みに入った。
二週間ばかりの息抜き程度の休暇とはいえ、課題も何もなく、存分に休養できるのは非常に大きい。
遠足前の幼稚園児でもないのに、浮かれたのか、普段より早く目を覚ましてしまった私は、
親の好奇の視線を浴びながら簡単に朝食を済ませ、外に飛び出していた。
行く当ては特に無く、そこいら辺をうろついてみようか、と、その程度の心持ちだった。
春先と言うのかそれともまだ冬の尻尾の部分なのだろうか、外は案外に肌寒かった。
上着を引っ掛けず、厚手ともいえない長袖を一枚だけだと、
春の陽気よりも冬の残り香の方を強く感じる。
ご近所さんの庭先にそろそろ出番と咲き始めている桜も、風に揺られその身を縮めているようにも見えた。
早とちりをしたと後悔しているのかも知れない。
そう思うと、少しおかしかった。
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月11日(金)00時29分01秒
- 当てが無いなら当てが無いなりに足と言うのは動くものらしく、
ほとんど自分では意識せず、足に引っ張られるような形で歩みを進めた。
人とはすれ違わない。
ジョギングをしている人がいたり、犬の散歩をしている人がいたりするのではと思っていたけれど、
それには少し時間が遅いのだろう。
時折車が横を通り過ぎていくけれど、それも普段の登校時と比べれば格段に少ない。
エアーポケットのような時間なのかなぁと思った。
一時間も早ければ通勤通学のラッシュに呑まれ、
逆にあと一時間も遅ければバーゲンを目指す自転車の大群に引きずられる。
誰からも忘れ去られているかのように、都会とは思えないのどかな時間が流れ、
家を出てたかだか十数分で、私は少し幸福な気分になっていた。
- 36 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時30分20秒
- さらに数分歩くと、見慣れないものを見つけた。
公園だった。
いや、公園と呼んではいけないのかも知れない、
ブランコやらシーソーやらと言った遊具施設は何一つおいておらず、
遠目にもペンキの剥げているのがわかる青のベンチが並んで二台と、
申し訳程度に作られたらしい芝生を張った小高い丘があるだけの空間だ。
建築業者やら不動産会社やらがこぞって土地開発に躍起になっているこの辺りの地区において、
魔法の布をかけられ姿をかくまってもらっていたのかと思ってしまうほど悠然と、
その空間はそこに存在していた。
今頃が丁度時間のエアーポケットなら、この場所は空間のエアーポケットなのかもしれない。
忘れ去られた時間に、忘れ去られた場所に立っている。
それだけの事実が妙に面白く感じ、私は小走りでその空間に飛び込んだ。
- 37 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時31分41秒
- 周囲をぐるりと古びた金網で囲まれた中の一部を切り開いたところに、
ここが入り口だと示すように等間隔に黄色いポールが立っている。
よくある公園の入り口と似たようなものだけれど、この空間には名前が無いらしく、
竣工年月と共に不明だった。
足元に敷き詰められている白い砂は意外なことに柔らかく、砂利と言うよりは砂場に近い印象を受ける。
砂利より高いんだろうなぁと嫌な思考が頭を巡った。
丘にまで足を伸ばしてみると、芝生特有の刺々しい痛みが足を襲った。
履き潰したスニーカーは無残に擦り切れているせいで足裏の様子を詳細に伝えてくれる。
いい加減に買い替え時かと丘を駆け下りながら思っていると、
古ぼけた青ベンチの裏手、トイレらしきクリーム色の建物の陰に隠れるように、桜の木が一本あった。
二分咲き、良くて三分咲き程度だろうか、三月末にしては咲いているのかいないのか、
私にはよくわからなかったけれど、その桜には、私の目を惹きつけてやまない力があった。
花が二箇所に咲いていたのだ。
一箇所は普通に枝の先に、控えめに見える風に咲いていたが、
もう一箇所、枝の中腹に当たる部分に我を見ろと言わんばかりに存在していたのだ。
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時33分36秒
- まるで木の幹から直接花が咲いたかのように見えるそれに自然と興味を持ち、
私は恐る恐る桜に近づいてみた。
突然変異種なのかも知れないだとか、霊的な現象だったらどうしようだとか、
そんなことばかり考えながら近寄っていったからだろう、
実際に間近で桜を見た途端、私は膝から崩れ落ちなかったのを誉めてあげなければと思ったほどに脱力してしまった。
何の事は無い、桜の木が二本あっただけのことだった。
表に見えていた桜の木の幹の中心部分が雷でも落ちたかのごとく──もちろん雷が落ちたわけではないだろうけれど──
ぱっくりと割れ、その隙間からもう一本桜の木が顔を出していたのだ。
表の桜の木が十五メートル前後、裏の桜の木が十二、三メートルと言ったところだろうか。
蝶結びの途中かけ、と言った感じのその様相は、もちろんかなり珍しいのだろうし、
それに視覚的にも十分に美しい。
満開、いや、七分咲き程度でもそれはそれは幻想的な風景となることだろう。
- 39 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時34分07秒
- けれど私はあまりにも単純な結果に、少々裏切られたような感を抱いてしまった。
幽霊の正体見たり、ではないけれど、あまりにもつまらない。
それこそ幹から直接花が咲いていたりしたらどれほど楽しかっただろうか。
幼い頃買ってもらったプラモデルがパッケージで見たものよりもずいぶん貧相だった事にも似た悲哀、
久しぶりに感じたそれに大きく嘆息しながら、私は桜の下を離れた。
相変わらず行く当てはなく、けれどまだ家に帰ろうと言う気分にはなれず、
とりあえず全てを足に任せて気の向くままに歩みを進めた。
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時38分06秒
- 2
初めてのキスは先生だった。
先生、と言っても担任だとか、あるいは家庭教師の先生だとかと直接係わり合いのある人ではなく、
保健室の先生である。
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月11日(金)00時38分36秒
- 私は幸いにして健康優良児なので、高校二年に当たる昨年の冬まで、
保健室には身体検査の類でしかお世話になった事は無かった。
それがどうしたことか、体育で校庭を走っている途中、自分でも気付かないうちに倒れていたと言う。
気が付いたときには、私は保健室のベッドに横たわっているところだった。
あまり状況を飲み込めていないまま身体を起こすと、横から声がした。
「お、気ぃついたやん」
保健室の先生──中澤裕子先生はなにやら書き物をしていた手を休め、こちらに向かってきた。
頭がじんじんと痛む。
そのせいで顔をしかめると、中澤先生は表情を歪ませた。
「頭か?」
「はい」
「ちょっと見せてみ」
独特の関西訛りのある喋り方をする中澤先生だけれど、普段の口調はとても柔らかい。
怒ると怖い先生ナンバーワンと言う、
いつ誰がどうやって調べたのかよくわからないアンケートでは堂々の一位に輝いていたけれど、
私自身は中澤先生を怒らせたことはもちろん、先生が怒った現場に立ち会ったことも無く、
その凄さと言うか怖さがよくわからない。
それに怒ると怖いという事は、普段は優しい事の裏返しだ。
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時39分13秒
- 中澤先生が髪の中をまさぐる。
しばらく黙って成り行きを見守っていると、突然激痛が走った。
思わず、いっ、と声を上げてしまう。
中澤先生はその声に手を止め、しばらくその辺りを眺めているようだったけれど、
しばらくするとイタズラっぽい笑みを携えながら、私の前に顔を覗かせた。
「コブになっとるわ。
コテンテキやなぁ」
何が天敵なのかよくわからなかったのは、先生がその部分を指で弾いたからだ。
いだっ、と情けない声を上げて、ベッドの上で悶絶してしまった。
先生のけらけらと言う笑い声が腹立たしい。
「何するんですか」
「なんや、綺麗な先輩には甘えたくなって可愛い後輩は苛めたくなるって言うやろ。
あれと一緒やん」
何が一緒なのかサッパリわからない。
中澤先生は楽しそうに続ける。
- 43 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時39分42秒
- 「あ、知ってるか?
今のことわざっつうか格言か?
あれあの後に仲のいい同輩は抱きたくなる、って続くんやって」
どう考えたって嘘だ。
少なくともあの言葉は確実にことわざではない。
私が侮蔑の視線を投げかけると、中澤先生は身をすくめ、
「可愛い後輩は苛めたくなるやん」
と悪びれもせずに言った。
- 44 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時40分14秒
- 「何でもいいですけどね」
私はコブに触れないよう気をつけながら少しくしゃけた髪を直し、身体ごと中澤先生の方に向き直った。
明るい金髪と白衣の取り合わせは悪い。
というか、保健室の先生は実際に白衣を着ているものだったのか。
中澤先生は案外と言うか、見た目に違って真面目なのかもしれない。
「コブはどうにもなりませんよね?
せめて、私が倒れた原因くらい教えていただけるとありがたいんですけど」
「そんなもん貧血か過労と相場は決まっとるから心配せんでええよ」
前言撤回。
真面目さはカケラもない。
- 45 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時40分54秒
- 「それより、アンタ好きな子とかおらんの?
保健室に来る奴の八割五分は恋の相談やで」
この先生の発言に、私は間抜けにもポカンと口を開けてしまった。
自主的に保健室に来る生徒が何を話していてもいいけれど、私は授業中に担ぎこまれてきたはずだ。
わざわざ校庭に倒れてコブまで作りながら恋の話をしに来る人間がいると思っているのだろうか。
「いや、理由は何であれせっかく保健室に来たんやからな。
そういう話はぶちまけといた方がええよ、正味な話な」
まるで私の心を読んだかのように、先生はそう付け加えた。
私は悟られない程度に目を丸くしてから、改めて先生の顔を見つめた。
先程までとは打って変わって真剣な目をしている。
私と先生を取り巻く空気が一変した。
- 46 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時41分23秒
- 「好きな人なんて…」
「わかった、質問変えようか」
とりあえず何か喋らなければと口にした言葉をあっさりと遮って、
先生はコロの付いた椅子をベッド脇まで寄せてきた。
嗅ぎ慣れない香水の匂いが鼻をくすぐる。
先生は私の手を取り、少し強い口調で言った。
「…半々、くらいなんやけどな。
後藤は、人工授精でも子供が欲しい方か?」
- 47 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時41分46秒
- 言った後も相変わらず先生は私の手を握り締めている。
なるほど、確かにこれは大きな問題だし、相談する生徒がいてもおかしくない、
と言うよりむしろ相談して当たり前だ。
半々、とあらかじめ言ってくれたのは先生の優しさからだろう。
けれど、私はこの問いに関する確固たる答えを持っていた。
黙って首を振り、
「子供は要りません。
好きになった人が同性だからって、どうって事も無いですし。
偶然男の人を好きになったら別ですけどね」
私の答えに、中澤先生は軽く微笑んだ。
喜んでいるのか悲しんでいるのかは、よくわからなかった。
- 48 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時42分20秒
- ──
経緯だとかなんだとかはよく知らず、またサッパリ興味も無い。
重要なのは結果、あるいは事実で、つまりそれは現在の世界中における男女比率が1:9であるということだ。
しかもそれは世界平均であり、こと日本だけを見ると、男性は五パーセント弱であるという結果が出ている。
いつからか、街には女性が溢れ、男性の姿は日ごとに少なくなっていった。
内閣は九割九分以上を女性で構成し、
義務教育課程は学ぶ分野の増大を受け十三年、つまり最低で二年制大学卒業までと長期化した。
女尊男卑反対を訴える機関が成立したり、消防女士・航空管制女士等、職種における名称の改定を望む声もある。
もうすぐ、この高校の傍にも男子専門の幼小中高大一環の総合学校が出来るという。
過去に言われたらしい男性社会などと言う言葉は死語も死語、今の世の中、男などいなくても成立していく。
- 49 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時43分02秒
- その代表的なものが人工授精だった。
これも詳しいことは何一つ知らないけれど、いまや精子など金で買う時代だ。
科学の進歩は凄まじく、遺伝子の操作だか何だかで作り出した精子は、
九十パーセント以上の確率で女子を出産するように出来ているらしい。
生の精子の少ない現在、僅かに現存する男性は、性自体の滅亡と言う危機を恐れ、日夜励んでいると聞く。
腐っても腐りきらないほどに溢れている女をとっかえひっかえては種を植え付ける毎日。
しかし百発百中で種が植え備わるわけもなく、
また絶対数の少ない男性では破滅的に多い女性をカバーしきれるはずもない。
そこで、子供を欲しながら選ばれなかった女性や同性を愛してしまった女性は人工授精の道へ進むことになる。
相手には無機質な機械、若しくは同性の指を迎えて。
- 50 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時43分46秒
- ──
中澤先生は私の手を離すと、隣に腰掛けた。
嗅ぎ慣れない香水の匂いを殊更強く感じる。
右手で大きく髪をかきあげると、一つため息をついてから話しはじめた。
「…アタシな、昔、相手に人工授精させようとしたことがあんのよ」
その言葉に、私はそれほど驚かなかった。
そういう経験のある女性など、街を歩けばいくらでもぶつかる。
「まぁなんや、あっちの子も子供欲しがっててな。
ほんであれや、精子買ったわ。
まだあの頃はけっこうしてなぁ」
けっこうした、がよくわからず訊ねると、値段の事だと教えてくれた。
今みたいに高校生でも買えるような安価ではなかったらしい。
- 51 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時44分18秒
- 「そんでまぁ、したわなそら。
そうしたら身篭るわ、当然やな。
ほんで生まれるわ」
淡々と話す先生の視線はどこか遠くを見ていた。
私に聞かせているというよりは、自分自身に聞かせているといったような話し振りだった。
「…カワイイもんやで、子供ってな。
生まれたての赤ん坊なんか、玉みたいってよう言うけどホンマやね。
あんなカワイイ生物見た事なかったわ」
私は嬉しそうに話す先生の横顔をぼんやりと眺めていた。
白い肌はもう間もなく三十とは思えないほどに若々しくて美しい。
白いうなじは揺れる髪によってちらりちらりと姿を見せ、そのラインもはっとするほど綺麗だ。
- 52 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時44分49秒
- 「…結婚はしなかったの?」
見惚れながら、私は疑問に思ったことを口にした。
先生の言い方からはよそよそしさが感じられ、端的に言ってしまえば他人事にも聞こえる。
先生は驚いたように眼を見開き、それから小さく笑って私の頭を撫でた。
鋭いな、と呟きながら。
「せえへんかったよ。
手続きとかメンドかったし、相手の子も結婚って事は考えてへんかったみたいやしな。
それに、ウチの親は人工授精に反対しとったから。
アタシには幸か不幸かれっきとした両親がいるからな」
両親、と言う単語も耳にしなくなって久しい。
もちろん、私には母親しかいない。
- 53 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時45分35秒
- 「じゃあ、その相手の人とお子さんは今は…」
「普通に暮らしとるよ。
あの子も今年で五歳かな、早いもんや」
先生はそこまで言って、私のほうに向き直った。
「だから、子供なんかいらんとかいうのはもう少し後でもええよ。
せめて、好きな相手くらいは見つけてから言うセリフやな」
「…はい」
そうして、私の額を人差し指でピン、と弾いた。
痛くはない、ただ、恥ずかしかった。
あまりにも自分が浅はかだという事をまざまざと見せ付けられた気がする。
その気がなかったとはいえ、何もかも知り尽くしているような言い方をしてしまったことを後悔した。
- 54 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時46分23秒
- 私が俯いていると、頭の上で先生の笑い声がした。
「なんかしんみりしたなぁ。
これはアカンよ。
よし、後藤、キスしよキス」
「はぁ?」
「何変な声上げとるん?
アタシに変な声聞かせたくて辛抱たまらんの?」
「何言ってんですか!
そうじゃなくて、何でこの流れでキスとかそういう話になるんです!」
「しんみりするのはアカンて。
何?アタシじゃもう不満?」
たしかに、しんみりとしたムードは吹き飛んだ。
けれどあまりに突然の物言いに私は二の句が継げなくなる。
不満だとかそういう問題ではなく、
ついさっきまで自分の子供の話を聞かせておきながら、突然振る話題としてはあまりにも不適切だ。
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時47分20秒
- 「大体相手の人がかわいそうじゃないですか!
ごとーみたいな無関係の人間捕まえてキスしようなんていって…」
「無関係やないよ、アタシは惚れたね。
後藤カワイイもんなぁ」
「先生!」
明らかに私で遊んでいる。
さっきまで私の前にいた真面目な女性はどこへ消えたのか。
今いるのは、大人気ないただの奇人だ。
「いやいや、冗談抜きに後藤はカワイイで。
それに相手って言ったって、あの子はもう他の人間の子供も産んでるし…」
先生はさらりと凄い事を言ってのけた。
もちろん二つ目のセンテンスのことである。
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時47分47秒
- 「…どーいう事です?」
「そのまんまよ。
アタシ以外の相手とも子作りしたんや」
「そんな、どうして?」
中澤先生も相当に非常識だけれど、相手の人も負けていない。
何人もの間で子供を掛け持つなんて非人道もいいところだ。
私が勝手に怒っていると、先生がベッドから腰を上げながら言った。
「さぁ、他人のことはようわからんわ。
まぁ子供はカワイイし、ええんちゃう?」
寂しい響きを含んではいなかった。
本当に自分とは関係ない人のことを話すような口ぶりからは、陰鬱な空気は感じ取れなかった。
先生は一体、相手の人の事をどう思っているのだろう。
その人との間に生まれたお子さんの事も。
- 57 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時48分14秒
- 「そんなんいいからはよキスしようや。
な?後藤もまさか初めてではないやろ?」
いつの間にかキスをねだる中澤先生の口調は、母親に甘える子供のそれに似てきていた。
ただ純粋に、心から私のキスを望んでいるような物言い。
私の中にあった不快感や呆然とした思いはいつの間にか霧散し、
椅子に座って目を瞑り唇を突き出している先生をいとおしく見れるようにすらなっていた。
「…とりあえずまだ未経験者なんだよねぇ」
一歩間違えればただの間抜けである先生にそう声をかけたが、一向に目を開ける気配がない。
それはつまりそういうことである。
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時48分43秒
- 「…わかったよもう」
それほど嫌な相手じゃなくて良かったという言葉は飲み込んだ。
さして知りもしない相手に初めてのキスを捧げることにも抵抗はなかった。
あったのは緊張感くらいのものだ。
じれったいほどにゆっくりと、私は顔を近づけていった。
三度香水の匂いが鼻につく。
それを切り裂くように突っ切って、先生の顔の前で一度立ち止まった。
気持ちを落ち着けるのと、先生の顔を見つめなおすのと、目的は二つだったはずなのに、
顔を見ただけで全然気持ちは落ち着いていないまま、私の顔は再進行を始めた。
言葉に出来ない、と言う感覚を初めて味わった。
言葉に出来るのは、唇は本当に柔らかいものだと思ったことくらいだろうか。
心臓の高鳴りが経験した事もないほど高く響き、手が震えていた。
目は自然と閉じていた。
憶えているのはそこまでで、次に気付いたときには唇は離れ、先生の笑顔が目の前にあった。
何故だか、泣きそうになった。
- 59 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時52分41秒
- 作者注:これはあくまでよくあるカプ話です。
娘。さんが出てくる意義もさしてありません。
ストックが心細いので更新はマターリ。
スレ主さんスレの提供ありがとう。
レス下さる方がいたらsageでお願いします。
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)19時37分08秒
- 死にスレでお宝発見。
レアCPな、ゆうごま期待しております。
- 61 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時01分44秒
- 3
足の向くまま気の向くままやってきた先は、あろう事か卒業した中学校だった。
私が昔出入りしていた裏門とは違う、正門の方から来たとはいえ、
近くに来るまで全く気が付かなかったとは情けない。
この辺りの地域では有数だとか教えられたテニスコートを背に、
私は学校に入ったものだろうかどうすべきだろうかと悩んでいた。
中学も春休みに入っているらしく、人気はない。
部活動を行っている気配もない。
駐車区画も目を疑うほどに空きが目立ち、自分がいたころの学校とは重ならないのではないかとすら思えた。
この分なら、無断で立ち入っても文句を言われることはないだろう。
そもそもからして、絶対条件である卒業生と言う部分はクリアしているのだから問題はない、と思う。
せっかく来たんだし、と都合一分ほど迷った挙句、私は約二年ぶりに中学に足を踏み入れた。
- 62 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時03分51秒
- 入ってみると、身体が軽くなったように感じた。
がらんどうのグラウンドも、妙に寒々しい駐車場も、傍から見ていれば不自然極まりなかったものが、
突然に懐かしい、見覚えのあるものに見えてくるから不思議だ。
頭の上では、先程から吹き始めた風に桜が揺れている。
卒業式の数日前、クラスの皆とともに隣に建つ総合体育館の屋上で全体写真を取ったことを思い出した。
普段近づくことのない場所で取ろう、と言い合ったことを憶えている。
あの頃には桜はまだ咲いていなかったはずだ。
とすると、私はこの学校のこの場所に咲く桜を見るのは初めてなのかもしれない。
桜は桜、と一概に言い切る気分にはなれなかった。
私が目にしたその花は、普通の桜とどこか違うように感じたから。
いつまでたっても行く当てのない私は、とりあえず職員室でも覗いてみようかと、
鼻歌なんぞを交えながら上機嫌に歩いていた。
風が柔らかいのが、私の機嫌を上向きにさせた理由の一つに違いない。
花の香りが混ぜ込まれた風を感じていると、やはり冬は終わったと思わせられる。
親しかった先生がいればいいな、と、歩調まで軽やかになっていた。
- 63 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時04分30秒
- しかし、職員室に外から通じる扉にはでかでかと、
『只今立ち入り禁止』
と大きく書かれた紙が貼ってあった。
テスト期間中などに貼られていたものと同じだ。
まさかテストを作っているわけではないだろうけれど、春休みだというのにわざわざ張り紙をするのだから、
大事な何かを扱っているのだろう。
手書きと言ういたって原始的なものながら、この類の紙は抜群の効力を発揮する。
仕方なく私は背を向け、職員室から遠ざかった。
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時04分58秒
- また行く当てがなくなってしまった。
私は貼り紙を見つけてからもしばらく、グラウンド裾の職員室の見える場所に陣取っていたのだけれど、
一向に人の出入りがある様子はない。
結局退屈になってしまい、私は使い慣れた裏門の方から校外へと出てきていた。
家とは反対側の方へ、のんびりと歩いていた。
見慣れないものばかりが出迎えてくれる。
廃墟と化したガソリンスタンドの残骸に、意味はよくわからないけれどとりあえず積んでおきました、
と言った感じに高く積まれたドラム缶の山。
家々は冗談のように密集していて、狭苦しくないのだろうかなどと言うことを思う。
流れる水溜りとでも表現した方が適切と思われる細々とした水流に架かる橋を渡り、
一面の黄色の中に点々と黒ずみが目立つ菜の花畑を通り過ぎた。
畑の中に風に揺れる人影を見つけたけれど、
菜の花畑にも案山子を立てておくものなのだろうか、よくわからない。
- 65 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時06分08秒
- 興味深く辺りを見回しながら歩いていると、開けた大きな道路に出た。
見覚えがあるな、と二、三度辺りを見回してみると、何のことはない、家の前の道である。
街の中を大きくぐるりと一周してきたらしい。
ここから二十分も歩けば家に着くな、
そう思い、今更ながら何時になっただろうと腕時計に目を落とし仰天した。
時計は十一時少し前を指している。
さしづめ三時間と十五分ばかり、ふらふらしていたという事になる。
あちゃあ、と私は舌打ちした。
特に理由があるわけではないのに、時間を無駄にした気分になった。
これではダメだ、帰ろう、と、
特にやりたい事があるわけでないにも拘らず、強迫観念にも似た思いに急き立てられ家路につこうとした瞬間、
「おう、ごっつぁんじゃん」
- 66 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時06分31秒
- 声をかけられた。
振り返ってみると、十メートルばかり向こうから金色の髪を乗せた自転車がこちらに向かってくるのが見えた。
自転車と同化してしまっているようにも見える小さな体躯を目いっぱいに動かして、
その金髪は私の目の前で急ブレーキをかけて見せた。
「危ないじゃんかよぉ、やぐっつぁん」
「へへへ」
窘められたやぐっつぁん──矢口真里は、全く悪意のない笑みで応えた。
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時07分20秒
- 「何してんのさこんなとこで」
それは共通した疑問だったらしく、一瞬早く口にした私にオウム返しでやぐっつぁんも訊いてきた。
隣で自転車を手押ししているやぐっつぁんは冗談抜きで姿が見えない。
何とかその愛嬌のある瞳を確認できる程度だ。
「ごとーは、意味もなく歩いてたかな」
「何だそりゃ、オイラは本屋に行ってきたんだよ」
そういって、自転車の籠に放り込んであるバッグを指差した。
籠に放り込まれたハンドバッグ、と言う構図はありそうでない気がする。
「何の本買ったの?」
「えー、それは言えなーい、乙女の恥じらいー」
やぐっつぁんはハンドルを握りながら器用に腰をくねらせ奇妙な声を出した。
カワイイ声であることはあるけれど、気色は悪い。
と言うか顔に声が合っていない。
- 68 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時08分01秒
- 「なんだよそれー」
「キャハハハ、まぁ内緒ってことにしといてよ」
「ふうん」
「大体、ごっつぁんの意味もなく歩いてただって怪しいもんだよ」
軽い反撃らしきものに転じてきた。
けれど私はすぐに切り返す。
「なんでさ、意味があったら自転車に乗ってるよ」
「…なるほど」
えらくあっさりと引き下がった。
普段は異常なほどにしつこいやぐっつぁんにしては珍しい。
そこで、私は初めてやぐっつぁんに対して違和感を抱くことになった。
- 69 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時08分34秒
- 「どしたのやぐっつぁん、体調でも悪いの?」
「…なんで?」
「だって、元気ないみたいだし…」
しつこくないからとは言いづらい。
「大体が…」
「ん?」
やぐっつぁんと本屋なんて火星人と地底王国みたいなもんだよ、と言おうとしたが、
何とか思いとどまった。
どうにも失礼な言い草ばかりが浮かんでくる。
「なんかね、ちょっと変かなぁって」
「そう?オイラは元気だよ。
強いて言うなら遊び疲れたくらいかな。
友達のところにも行ってたから」
やぐっつぁんはそういうと自転車にまたがり、笑顔を見せた。
あからさまに無理をしていた。
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時09分19秒
- *
頭上で乾いた音が鳴り、店内の視線が私に集約された気がして、知らず知らずに頬に熱が溜まった。
自意識過剰にも程がある、とどれだけしたかわからない反省をしながら、
寄って来たウェイトレスさんに導かれるまま席に向かう。
微力の暖房が設置されているらしく、コートの袖口がうっすらと汗ばむのがわかった。
案内されたのは窓際の席だった。
メニューをおき、丁寧な言葉と礼を残してキッチンに引っ込んでいくウェイトレスさんの背中をぼんやりと追いながら、
店内を少し詳しく見渡してみた。
客の入りは七分強と言ったところで、妥当だと思う。
時間が遅くないせいか、派手に騒ぎ立てている人はいない。
これも時間のせいか、家族連れは皆無と言ってよく、ほとんどがアベックだった。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時10分15秒
- コートを脱ぎ、気持ち袖口をまくって、視線を店内からメニュー表へと落とした。
お腹はすいていないから、自然とドリンクに目が向く。
コーヒーは苦いから苦手だ。
紅茶にしようかと思ってメニューを見てみたけれど、アップルティーの文字は見つからなかった。
しからばミルクティーか、とメニューを閉じようとした瞬間、
チョコレートドリンク、の文字が目に飛び込んできた。
少し心が揺れる。
あの甘さは病み付きになる。
「御用の際は…」のボタンに向けて指を這わせながら、
とろりとした口どけと苦すぎず甘すぎずの風味に思いを馳せた。
「ご注文はよろしかったですか?」
「ええと、ミルクティーをアイスで」
「かしこまりました」
店員さんが去っていく。
私はその背中を追いながら思った。
ホットドリンクなんか、汗をかきながら飲むものじゃない。
所詮、私はその程度の人間だ。
- 72 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時10分50秒
- *
しばらく話をしてやぐっつぁんと別れた後、私の足は久方ぶりに明確な意図を持って動き出した。
そのまま真っ直ぐ家へと帰る。
「あら、おかえり」
玄関先ではお母さんが何でか水撒きをしていた。
「…何やってんの?」
「これ?庭に水撒いてたんだけど終わっちゃってねぇ、暇だったから…」
つまりは春だからと言うことらしい。
目を合わせたら何をされるかわからない。
そそくさと隣を通り抜け、逃げ込むように部屋に戻った。
- 73 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時11分23秒
- 起きっ放しの脱ぎっ放しの状態で保存されている部屋は、
我ながらどこが女の部屋かと呆れるほどに煩雑としている。
見た事はないけれど男の部屋よりも酷いかもしれない。
そうは思っても、それが部屋掃除の原動力になるわけでないところが、
ずぼらだの何だのと揶揄される原因なのだろう。
自己分析もほどほどに、やはり足元の雑多の海には目もくれないまま、私はベッドに仰向けになった。
やぐっつぁんの事を考えるためだった。
- 74 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時12分03秒
- 別れ際に、やぐっつぁんの放った言葉が気にかかっていた。
「ねぇごっつぁん。
あらかじめさ、記憶できてる道順ってあるじゃん?
目を瞑ってもたどり着けるとか言う奴」
「ああ、あるねぇ」
「…それでも、道を間違えちゃったとしてさ。
暗かった、なんてのは言い訳にならないよね」
「そりゃそうでしょ」
「でも例えば、オイラがその道順を記憶してる事を知らなかったら、
暗かったから道に迷った、って、そんなに不自然でもないよね」
「んぁ…そうだねぇ」
「…そうだよね」
朦朧としていて掴み所のない文だった。
改めて反芻してみても、とても真意を汲み取れそうにない。
けれど、言葉にした何かが、やぐっつぁんは異常な状態にしている事だけは察しが付き、
私は一つ息を吐き出した。
- 75 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時12分48秒
- やぐっつぁんは悩んでいる。
空元気は私に気を使わせないよう配慮したつもりだったのかもしれないけれど、逆効果だ。
明らかに違う様子を見せ付けられてもへらへらと笑っていられるほどに鈍感であるつもりはない。
私は身体を起こし、机の上に視線を飛ばした。
勉強をしている気配もない机には、お飾り程度の照明とペン立て、それと写真立てが三台置いてある。
長座体前屈の形で腕を伸ばし、そのうちの一台を手に取った。
縁が一番黒ずんでいる。
それだけ手に取った証拠なのだろう。
写真立ての中の写真には、二人の人間が写っている。
若き日のやぐっつぁんと、そして私だ。
作り物でない満面の笑みを浮かべるやぐっつぁんと、どこか密やかな笑みの私。
対照的なコントラストで写真に納まっている二人の頃は、
数秒と要することなく、細部まで鮮明に記憶を呼び起こす事が出来る。
二人の足元に流れている川の水の冷たさ、どんよりと落ちてきそうだった雲、
全てがまるで昨日のことのように甦ってきた。
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時13分14秒
- 私は感慨にふけりながら写真立てを置き、机の引き出しの手をかけた。
一応恰好ばかりの鍵は付いているものの使った事はなく、主人以外の誰でもが物を持ち出し可能なそこに、
一枚の紙を捜した。
ノイズのかかった記憶を懸命に手繰り寄せ、ここぞと思う場所を探る。
手前に整列させてあったゲームセンター専用のコインが崩れ、派手な音を控えめに立てた。
しばらく漁ってそれでも見つからず、
業を煮やして引き出しの中身をベッドにぶちまけたところでようやく目当ての紙が見つかった。
引き出しの奥の奥に潜り込んでいたその紙は鉛筆の芯により酷く煤けており、
見るも無残な外観をしていた。
中身にも若干の心配がある。
はやる気持ちを抑えつつ、破ってしまわないように冷静に紙を開くと、
確かに自分の手で書いた記憶のある稚拙な絵が顔を覗かせた。
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時13分36秒
- そこには、三本の道が書かれていた。
左右両方向と上に向かって伸びているその道の中心に当たる部分には、
「わ」を丸で囲んだものが汚らしく書いてある。
それぞれの道には雪上の足跡の如く、鉛筆で引いたらしい薄い線が何本と残っていた。
往復したり、片道一方通行だったり、矢印がなくただの棒線であるものもある。
そして紙の右上端には、歪んだ字で「十字路──クロス・ロード」と書き込んであった。
その下に小さく、「三択」とも。
- 78 名前:幕間 投稿日:2003年04月19日(土)00時14分17秒
- ( ´D`)テヘテヘ
- 79 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時14分52秒
- 第二話 寝ていてください
1
財布を覗き込んでみると、銀色のギザギザが見当たらなかった。
どうやら百円玉も五十円玉も切れているらしい。
嫌な予感がして、十円玉を数えてみると、思った通りピタリと十一枚しかない。
「ふぅ…」
思わず物憂げな吐息を吐き出していた。
「どうしたんれすか?」
辻ちゃんが後ろから財布を覗き込むようにしながら訊いてくる。
私は自然とその財布を隠すように身体を捻りながら答えた。
「…お金が足りない」
「そーなんれすか…」
辻ちゃんの目に見える落胆振りに、ただただ私は小さくなるよりなかった。
- 80 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時15分47秒
- ──
私がこの病院に入院してもう二ヶ月になる。
それはつまり、退屈な日々が始まって二ヶ月と言うことだ。
退屈な日の始まり、つまり、急遽入院の決まった日のことは、忘れようにも忘れられない。
その日、私は休日にしては珍しく早起きをしていた。
友達と朝早くから約束していた事があったからだ。
六時過ぎに布団から抜け出し、顔を洗おうと洗面台に向かっている間に最初の異変は起きた。
歩きなれている階段から足を踏み外したのだった。
まるで自分のものでなくなってしまったかのように力の抜けた左足は宙を彷徨い、
右足一本で支えきれなくなった身体はバランスを崩し崩れ落ちた。
残り段数が少なかったのが幸いしたものの、
漫画のようにしりもちをつきながら一段ずつ階段を落ちていったせいで、尻と腰をしたたかに痛めた。
目を覚ました親の驚いた顔が、未だに網膜に焼き付いている。
- 81 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時16分50秒
- 次の異変は食事中に起きた。
先刻打ちつけたばかりの腰をさすりながら、左手で椀だけをつかみ味噌汁を飲んでいる時だった。
突然、本当に突然としか言いようがないほど急に、私の中を不快感が駆け巡った。
けれど不快感、と言うのは後付けでしかなく、実際あの時私の身体の中を巡った物が何だったのかは分からない。
その時には考える暇すらなかったからだ。
気が付いたらむせ返り、味噌汁をテーブル上に派手にぶちまけ、嘔吐していた。
寄せては返す波打ち際の波のように、私の中で汚物が行き来している感覚を今でも覚えている。
二度、三度と嘔吐を繰り返し、胃を逆さまにして無理矢理搾り出したような汚れた黄色の液体を吐き出した時には、
頭の後ろをガツンと殴られたような衝撃があった。
そして最後の異変は、そのすぐ直後にやってきた。
口の中を洗い、テーブルに布巾をかけている親の背中を見ている時だった。
突然世界が揺れだし、おやと思う頃には揺れは闇へと変わっていた。
私はその時のことを何も覚えていない。
いや、正確には何も知らないというべきなんだろうか。
私の知らないところで、勝手に身体の中が暴走を始めていたのだから。
- 82 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時17分35秒
- 次に気が付いたときには、もう病室にいた。
個室だった。
狭くはない部屋に、頭元には花瓶に花が挿してある。
他にはテレビがあるだけの、殺風景ここに極まれりと言った感じの部屋だ。
人影もなく、私はしばらく現状を理解できないまま、ブラインドの下りた窓を見つめていた。
どれくらいブラインドを眺めていただろう。
しばらくしたら、背中の方から控えめなノックの音がした。
「はい?」
「あ、起きた?入るね」
聞き覚えのない声がして、それからすぐにドアが開いた。
僅かに開いた隙間から、ぴょこりと言った感じで女の人が顔を覗かせた。
名前は知らないけれどよく見る帽子から、看護婦さんだと言うことはすぐにわかった。
- 83 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時18分03秒
- 「具合はどう?」
看護婦さんは後ろ手で扉を閉めると、ぽてぽてと言った感じでこちらに歩いてきた。
小さい人だ。
私とあまり身長は変わらないかもしれない。
それに、ビックリするほど幼い顔立ちをしている。
そのせいか、私は身構えることなく接する事が出来た。
「今は、特に問題はないです。
あ、後頭部がちょっと痛いですけど…」
「ああ、ガツンといったみたいだからね。
フローリングは痛いよねぇ、なっちもさぁ、よく転ぶんだよ。
痛いよねぇあれ」
看護婦さんは「なっち」と言う一人称を使った。
気味が悪いほどによく似合っている。
その一人称とあわせて、たかだか二言三言の会話で、優しくてかわいい看護婦さん、と言うイメージが浮かんだ。
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時18分34秒
- 「気分が悪いとかはない?お腹が痛いとか」
「それは、大丈夫です」
「そっか、それならいいね」
看護婦さんは手にしたカルテになにやら書き込んだ。
そこでようやく、私は訊かなければならないことを思い出した。
「あの」
「ん?」
「私、何で病院にいるんですか?」
「何でって?」
「あの、自分がどうなったのかよくわからないんですけど…」
看護婦さんは顔をしかめ、しばらく視線を合わせたままお互いの動きを止めていた。
静止が数秒続き、言ってる事の意味は通じているのだろうかと不安になりかけた頃ようやく、
「倒れたんだよね」
そう、ポツリと呟いた。
- 85 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月19日(土)00時22分05秒
- 一週間あけてるのに20レス程度…。
ドンガメで申し訳ない。
>>60
ええと、ごまゆうじゃない気がします…。
( ;´D`)ゴメンラシャイゴメンラシャイ
ごまゆうじゃないと思いますが、引き続き読んで頂けますと幸いです。
Converted by dat2html.pl 1.0