娘。大売出し

1 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月25日(火)22時08分58秒
スレタイトルに意味はまったくありません。
2 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時09分40秒
『愛する人への贈り物』
3 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時10分20秒
 真希の視線の先には、ひとみが亜衣と戯れている姿があった。
「よっすぃ〜って、あいぼんとほんとに仲良しなんだ」
 その場を立ち去ろうとして、真希はあることに気づいた。
「あ、そっか。明日って……」
4 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時11分48秒
 世間一般では、2月14日はバレンタイン・デーとの共通認識があり、真希もこの点については異論なかった。
 好きな人にものを上げるというのは、その行為そのものが目的であり、目的が手段化した好例である。その場合、差し出される対象は相手の趣向とは無関係となり、差し出す主体がいかに満足するかが焦点となる。だからドロドロのう○こみたいなチョコ、芳香剤のにおいのするチョコが堂々と作り出されるのだ。

 では、主体となる真希にいかなる要素が影響を及ぼしたのか。
 まず、真希が妙齢の女の子だったことだ。女性は古来より甘いお菓子を好み、これは数千年たっても不変の真理だろう。相手が何党であろうとおかまいなく、大量のチョコが飛びかうのはそのためだ。これを耐えがたく思った酒飲みが、チョコレートボンボンなる非合理な発明をもたらしたのだ。真希は何の疑いもなく、素材にショ糖と乳糖から成るこげ茶色の固体を選んだ。
 もちろん、この場合、受け手は一応女性に属するひとみなのだから、甘いお菓子をプレゼントすることは非理ではない。真希は相手の嗜好もしっかりわきまえていたと言える。
5 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時12分33秒
 それから、真希の、自分は料理好きであるという認識が作用した影響は大きい。この場合、料理のうまい下手は考察の対象とはならない。人間の行動を律するものは技術や能力ではなく、意志である。でなければ、「梨華が歌手である」という命題を証明することはきわめて困難な作業となる。こうして真希は、既製品ではなく手作りを志向することになった。

 真希には一途なところがあり、ひとたび目標を見すえると、そこに向かって一直線に邁進する気質を持っていた。日限は一日しかなかったのだが、その日のうちに必要な材料と道具、場所を確保していた。
 あとは単純な作業だけだった。ところが、チョコレートを流し込む型を作ろうとしたところで真希は止まってしまった。
6 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時13分38秒
「そんな面倒くせーことなんかやめて、さっさと寝ちまえよ。ただの自己満足なんだろ? 愛だのなんだの、そんなものありはしないんだ。やめろ。やめてしまえ……」
 ひとみにそっくりな悪魔の声が、真希の心をとらえようとすると、梨華にそっくりな天使が挑んできた。
「やめてはいけません。人間は愛こそがすべてなのよ。愛しい人にプレゼントするのは、この世で最も崇高で、美しいものだから、やめてはいけません……」

 ミキサーがうんうんうなる音に、真希は我を戻した。天使と悪魔の対決は、つねに天使が勝つものだ。なぜなら、勝利するものが天使と呼ばれるからだ。真希をめぐるこの一大決戦も、天使の圧勝に終わった。悪魔はみじめに退散するよりない。悪魔のたわごとをいかにはらいのけるか、そこに人間の真価が問われるのだ。
 困難と呼ばれる壁を乗り越えることこそが、人間を成長させる一番の糧となる。何らかの犠牲をはらいつつもステップアップできれば、その人は真の人間として生きることができたと、初めて言うことができるだろう。
 真希は、型となる石膏を箱に流し始めた。白くどろどろとした液体が、少しずつ箱の中を満たしていった。
7 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時14分28秒
「よっすぃ〜、ハイ」
 翌日。真希はうつむきつつも、考えていた言葉を投げると、それを置いて足早に立ち去った。真希は現代人の多くが忘れてしまった、いじらしさとか、つつましさをそなえていた。本人としてはさりげなく渡したかったのだろうが、ものが大きすぎたのでそのような感じをひとみに与えた可能性は低い。
 真希が置いていった巨大な箱を、ひとみは苦心して開けた。プレゼントを受け取った人間の、最大かつ唯一の楽しみがこの時間だ。中味が何かあれこれ想像する楽しみと、開けてからがっかりする落胆の度合いは正比例する。
8 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時15分05秒
「でか……」
 人の形をした、まるで泥人形のようなチョコの塊が現れた。これを作るのにどれほど苦労したのだろうと、ひとみは真希の気持ちを思いやることを忘れなかった。
 ひとみは、頭頂部と思わしき箇所についている丸い、団子のような部分に手を伸ばした。乾いた音がして、それが取れた。一口かじると、砂糖の甘味が口の中に広がった。
「ごっちん、砂糖入れすぎ……」
 さて、一人で食べるにはあまりにも大きすぎる、そうだ、辻や加護、後輩たちといっしょに食べようと、ひとみは部屋を出て行った。その人形の顔が苦悶に満ちており、その胴体が縄のようなもので縛られているのだとひとみが気づいたのは、そう遠い話ではなかった。
9 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時15分37秒
終わり
10 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時16分22秒
このような感じで進めていきたいと考えてます。
11 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)22時16分56秒
皆様、よろしくお願いいたします。
12 名前:亜衣? 投稿日:2003年03月25日(火)22時25分54秒
亜依だろ、亜依
13 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)23時41分25秒
あー素で間違えました。
14 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時01分03秒
よし、今度はミスがないはず
15 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時01分34秒
『待っている』

「本気でやって来るって思ってるのかい?」
「新入りは楽天的だな」
 どうやら私のことを噂しているようだが、陰口くらいで私の信念は揺らいだりしない。全ては運命が支配しているのであり、私たちはそれに抗うことはできないのだ。
16 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時02分31秒
ーーーーーーーーーーー

 私はこの地よりずっと西の方に生まれた。黒い闇に覆われた穴倉から外に引っぱり出されたとき、私の目にまっさきに飛び込んできたのは白く輝くものだった。太陽は私の体温を容赦なく上昇させた。
 私には残酷な生が宿命づけられていた。
「どうだい、出来は?」
「混じり物が多いな。不景気だし、良い値はつかないよ」
 私が生地にいられたのは、わずかニ、三年のことだった。右も左もわからぬまま、私は巨大な船に乗せられた。航海を楽しむ余裕などなかった。どこに連れて行かされるのか、皆目見当がつかなかった。
17 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時03分24秒
 目的地に着くなり、私は狭い倉庫に閉じ込められた。波の音が始終聞こえていたから、港の近くだったのだと思う。そして次に引っぱり出されると、今度はごでごでとして太いパイプを通らされた。パイプから出たときは、何だか生まれ変わった気分になった。成長とはこのことを言うのだろう。
 そしてすぐに私は別のところに連れて行かれた。そこで私は再び生まれ変わることになった。それまでの私は一定の形というものを持っていなかったのだが、今度は体が固まっていた。その上、布(これは私と同じ種族らしい)と棒(これは違う種族だ)とむりやりいっしょにさせられていた。
 自動的に動く道の上に乗せられた。ときどき体を持ち上げられ、じろじろと生気のない眼で見られたりもした。
「不良が目立つな」
「ちょっと歩留が悪いですね。マシンを調整しましょう」
18 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時04分12秒
 私は、姿形がまったく変わらない仲間たちとともに、袋に入れられ、箱に押し込められた。トラックに積まれてから、私は仲間の一人に声をかけた。
「ずいぶん変わったな」
「変わらないやつなんかいないよ」
 その後、私は各地をたらい回しにされ、最終的にはとある家にやっかいになることになった。持ち主となった少女は、私のことをいたく気に入ってくれた。私が、と言うより、私にくっついているピンク色の布地が、だが。
「雨なんか大嫌いだよ」
と、相棒たちは言う。布地はいつも冷たい雨にさらされ、棒のほうはいつ錆びるかひやひやしてるのだから当然だろう。
 しかし、私は同意できなかった。なぜなら、雨の日になると、少女が私をぎゅっと握りしめてくれるからだ。その柔らかな手のひらを、私は直に感じることができた。ことに私が初めてこの家に来たときなど、少女は私を抱きしめて離さず、早く雨が降らないかと祈っていたものだった。
 
19 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時04分47秒
 そんなささやかな幸せを、長い間味わうことはできなかった。少女が私のことを少々乱暴に扱い、布地が破けてしまったからだ。すぐに代わりの仲間がやってきて、私はお払い箱になった。
 水曜日の朝だったと思う。私と同じような境遇にあった者たちとともに、汚い車に放り込まれた。離れ離れになるまで、私たちは自分の体験談をかわした。
 幾日も経た後、私は大きな釜の中にいた。釜の外から火を焚いているようだ。私の体は形を失い、泡を立てた。あの少女のぬくもりを、肌触りを永遠に失ったのだ。
 感傷にひたる間もなく、私の体はプレスされた。いつの間にか形を持っていた。
「こんなもんですかね。クレームつきませんか?」
「リサイクル品だから、こんなもんだろ」
20 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時05分21秒
 またしても遠くに運ばれ、別種の仲間とともにすることになった。その仲間が、私の体の中にどんどん入っていく。ぴったり500ccだった。
「どこの生まれだい? 俺は信州だ」
「カフジだ」
 私は新しい相棒といっしょに、常温に保たれたケースに入れられた。私たちは一列に並ばされ、先頭の者が抜けると、一歩前に進まなければならない。やがて一番前になる時が来た。
 運命というものが確かにあるのだ。このとき私は確信した。たくさんの仲間の中から、彼女が私を選んで手に取ったのだ。忘れていたあの感触がよみがえった。
「梨華ちゃん、何買ったの?」
「ミネラルウォーターだよ。よっすぃ〜は買わないの?」
「家に帰れば水道水があるじゃん」
「おいしいのに」
21 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時05分56秒
 歓喜の洪水が私を襲った。彼女は、その柔らかな唇を私に押しつけてきたのだ。ごくごくと喉が動き、相棒がどんどん減っていった。が、その時の私には、相棒のことなどどうでもよくなっていた。
 信州生まれの相棒の姿がすっかりなくなってしまうと、彼女は大きく息を吐いた。私は網状の籠に投げ込まれた。ほんのわずかな時間だったが、それでも私は余韻にひたっていた。彼女の体内に入っていった相棒のことをうらやみ始めた頃には、彼女とその友達の姿は見えなくなっていた。
 
22 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時06分27秒
 一度目は何でもない。二度目は偶然ともいえる。しかし三度目となるとどうだろう。神の見えざる手が私たちを邂逅させているとしか考えられなかった。
 私は再び煮えたぎる釜の中に投げ込まれた。いや、自ら身を投じたと言ってもよい。生まれ変われば、再び彼女に出会えるのだから。
 今度は、大きな輪っかに姿が変わっていた。今度は店先に並べられることはなかった。十一の仲間たちとともに、銀色に輝く建物に運ばれていった。私たちの詰まった箱はすぐに開かれた。十二人の少女たちが群がってきた。そして、やはりその中に彼女がいた。
23 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時07分09秒
 鮮やかな色彩を身にまとった彼女は、ためらうことなく私をつかんだ。それが運命なのだ。
「キダム選手権〜」
「今回はモーニング娘。のみなさんがフラフープに挑戦します」
 私のありとあらゆる部分が、彼女の腰に軌道を描いた。私は彼女から一度も離れまいと力を尽くした。永遠の時が流れた。気がつくと、私は彼女の足元に転がっていた。
 
24 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時07分42秒
ーーーーーーーーーー

 その後、私は再び生まれ変わった。
 今度も彼女とひとときを過ごせるのは間違いない。これは確信である。私は今、彼女の自宅にいる。何度も転生をくりかえし、その度に私たちは……。
 しかも、今度は壊れやすいものや、一回きりのものではない。何年もこの姿でいられる。さらに、私に接する彼女の体は、あの柔らかそうな……。
「いい気なもんだ」
「俺、生まれてこのかた、入ってきたのを見たことないよ」
25 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時08分55秒
 さっきから、トイレットペーパーと手すりがうるさい。かわいそうに、彼らには運命というものが理解できないのだ。
 ここに来てから、まだ一度も会っていないのは確かだ。しかしその時は必ず来る。それまで、私はいつまでも待ち続けよう。彼女がこのわずが数平米の密室に入ってくるのを、待っている。
 
 
           (副題「便座の恋の物語」)
26 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時09分45秒
終わり
27 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時10分18秒
『待っている』が題名です。
28 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月27日(木)23時10分54秒
またミスりました。
29 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)21時21分28秒
『思い出のアルバム』
30 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)21時22分48秒
 月も出ていない深い夜のこと。
 どうせカーテンを閉じているのだから、月の有無など真希にとってはどうでもよかった。
 壁のスイッチを切る。
 これで灯りは机上の電気スタンドだけになった。
 わずかな光をあてにしながら、真希は本棚のガラス戸を引いた。
 一番下の段にあった、一冊のアルバムを手にした。
 胸に抱いて椅子に腰をおろす。

 厚手の表紙をめくると、なつみの顔が真希の瞳に映った。
 ページのまん中にぽつんとL判の写真が貼りつけてある。
 ゆっくりとページをめくる。
 今度は圭織の写真があった。
 真里、圭、梨華、ひとみ、……。
 最後のページには、写真はなかった。
31 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)21時23分41秒
 何とはなしに、真希はふうとため息をついた。
「もう少しだけ、みんなと一緒にいたかったなー」
 そんな独白には、何の意味などない。
 ただ真希の唇からもれただけだ。

 カーテンが揺らいだ。
 ないはずの月光が部屋の中になだれ込む。
32 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)21時24分34秒
「姉ちゃん、起きろよ。仕事だろ」
 ユウキが部屋に入ったが、真希の姿は見えなかった。
 カーテンが朝の風を受け止めている。
「なんだ。もう仕事行ったのか」
 ユウキはつけっぱなしの電気スタンドのスイッチを切った。
 絨毯の上に一葉の写真を見つけた。
「姉ちゃんの写真……」
 ユウキはきょろきょろと辺りを見回した。
 椅子のアルバムを見つけて中を開く。
 最後のページが空いていたので、そこに真希の写真を貼った。
「少しは部屋片づけろっての」
 なんとなく物憂げな顔で、写真の中の真希はじっと前を見すえていた。
33 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)21時25分08秒
終わり
34 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)21時26分02秒
今度こそ多分ミスってないはず
35 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月29日(土)21時26分40秒
感想待ってます
36 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時04分03秒
『通訳のお仕事』
37 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時04分53秒
 その部屋には四人しかいませんでした。
 辻の右手に吉澤が、左手に石川が座っています。少し離れて加護が本を読んでいます。

「よっすぃ〜さあ……」
「……」
「よっすぃ〜ってばあ……」
「……」
 虫のいどころが悪いのか、吉澤は横を向いたまま返事をしません。
「何よ……それならそれでいいわよ」
 石川もぷいと顔をそむけます。
 間にはさまれた辻が、困った顔になりました。
 加護は気にするふうもなく、熱心に目を本に落としています。
38 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時06分28秒
 通訳には、同時通訳と逐次通訳があります。一見同時通訳のほうが難しく見えますが、「通訳は逐次に始まり逐次に終わる」とよく言われています。

 吉澤がもごもごと唇を動かしました。
 石川には聞こえなかったようですが、辻の耳には届きました。
 早速辻は石川のほうに顔を向けて、その言葉を伝えます。
「なに、梨華ちゃん」
 石川は唇をとがらせました。
「この間さあ、よっすぃ〜、『ぐっちゃー』って書いたボード、なんで折っちゃったわけ?」
 かなり大きな声だったのですが、吉澤はぴくりとも反応しません。
 それで辻がその言葉を吉澤に伝えました。
 また吉澤がぼそぼそとつぶやきます。
「だってつまんないだもん」
39 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時07分18秒
 その通訳が本職か素人であるかの見極めは簡単です。「……とおっしゃっています」と言っていれば、その通訳は本職ではありません。誠実な通訳には、本人になりきって答えることが必要です。 

 やがて石川の声もだんだん小さくなっていき、辻の声だけが響き渡るようになりました。
「だいたい最近よっすぃ〜冷たいよ」
「そんなことない」
「そんなことある。ゲームの時とか目も合わせてくれなかったじゃん」
「知らない。覚えてない」
「雑誌のインタビューでもごっちんとか飯田さんのことばっかりで、あたしのこと全然ふれないし」
「別にいいじゃん、そんなの」
「よくないわよ」
「……」
「……」
40 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時08分23秒
 通訳や翻訳においてもっとも頭を悩ませることは、一方の言語文化に存在し、他方の言語文化に存在しないものをどう訳するかです。「白足袋」を「white socks」と訳しては、それが日本の正装であるというニュアンスが伝わりません。しかし英語圏の清掃の一部である「white glove」と訳してしまっていいのかどうか、議論がわかれるところです。

「だいたい『ぐっちゃー』ってなに? わけわかんない」
「よっすぃ〜だってカーカー言ってるじゃない」
「それは台本」
41 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時09分33秒
 通訳と話者が利益を共通する場合(例えば、外務官僚が外務大臣の通訳を務めるなど)、話者の言外の意図を敏感に察知して意訳するなどの機敏な動きが要求されます。では、通訳が対話する両者と利益を共通する場合はどうでしょうか。この場合通訳を辞退するべきです。

「なによ」
「なんだよ」
「……」
「……」
 辻の声もだんだん小さくなっていき、とうとう聞こえなくなってしまいました。
 それでも二人の唇はしきりに動いています。
 その内容を辻は相手に伝えることができなくなったのです。
 言葉を失った辻には、できることが一つしかありませんでした。
「うわーん」
 声をあげて泣き出した辻に、二人はびっくりしてしまいました。
「泣かないで」
「なんで泣くんだよ」
 やがて、二人は自分たちのケンカが原因だと気づきました。
「もうケンカしないから、ね、よっすぃ〜?」
「うん、梨華ちゃん。だからもう泣くなって」
 顔を腕でぬぐって、ようやく辻は笑顔を見せました。
42 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時10分41秒
 通訳に必要なのは高い外国語能力と母語表現です。相互のコミュニケーションを滞りなくはかるためには、外国語より母語(日本語)の能力のほうがより重要度が高いとも言えます。

「……そうでもない場合があるんやな、と」
 加護はパタンと本を閉じました。
43 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時11分20秒
終わり
44 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時12分15秒
参考文献:犬飼さんの本
45 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月01日(火)22時13分31秒
↑通訳の方です
46 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月05日(土)02時43分06秒
こういうの凄い好きです。
辻は全てを忠実に再現しているんでしょうか?
思い出のアルバムのラストはどうなったのでしょう?
なんか色々想像しちゃいました。
……うわぁ、嫌なラストですね
47 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時41分50秒
>>46
ありがとうございます。
いろんな話に挑戦していこうと考えています。
48 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時43分27秒
『なんにも言わずに I LOVE Y 』
49 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月07日(月)21時44分28秒
 気がつくと、わたしの体がふわふわと漂うような感覚にとらわれていた。景色はなんとなく色彩が薄く、すぐに自分の立っている場所が変わり、同じ行動を何度もくりかえす。覚えがある。これは夢の中のできごとで、現実の世界じゃないとわかった。それなら、目覚しが鳴るまでこうやっていよう。
 脈絡もない物語がわたしをつつんでは離れていく。登場する人物は、顔がはっきりわかる人とぼやけてはっきりしない人が混じっていた。その中から、見覚えのある顔が浮かんだ。
「よっすぃ〜。はい、これ」
 辻は白い封筒をひらひらさせた。中を開くと紙が一枚、サインペンで乱暴な文字が踊っていた。

「 I LOVE Y 」
 
50 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時45分26秒
「アイ・ラブ・……わい?」
 辻はとぼけた顔をしている。
「アイ・ラブ・ユーの間違いじゃないの?」
「間違いじゃないよ。それで合ってるよ」
「なに、『 Y 』って?」
 返事がくる前に辻の顔が消え、場面が切り替わった。下半身は霧のようなもので見えなくなっていた。これは夢なんだから足なんかなくたって支障は何もない。
「『 YOU 』じゃなくて『Y』だから、イニシャルかな……わたしのこと?」
 そうか、辻はわたしのことが好きだったのか、と鼻の下を伸ばしていると、突然辻の顔が面前に浮かび上がってきた。横には加護の顔もあり、辻は加護の背後に顔を隠していた。
「違う、違うよ」
 辻は顔をそむけながら手を振っていた。そしてすぐに消えた。
51 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時46分16秒
「違うのか。そっか、この『 I 』ってのもイニシャルなんだ」
 イ、イ、イシカワリカ? 梨華ちゃんか。そんなこと、初めから知ってるよ。と、そこに場違いな天使が現れた。
「いけません。思い上がってはいけません。石川梨華ちゃんは、あなたのことを好いてはいませんよ」
「ウソ」
「ホントです。あなたなんかといるより、しばっちゃんたちタンポポのみんなといるほうがずっと楽しいって、言ってたわよ、言ってたわよ、言ってたわよ……」
 色黒の天使が、下半身は見えないのにヒールの音を立てながら消えていった。
52 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時47分10秒
「ふうん。ま、いっか。じゃあ、イイダカオリさんだ」
 ようし、目が覚めたらマッサージチェアの上であんなことやこんなことをしてやろうと思いを馳せていると、空から透明の液体が降ってきた。リアルに変なにおいがする。
「酒くせー」
 見ると、髪をだらりと足らした女の人が、一升瓶をかかえて浮かんでいた。
「よっすぃ〜! あたしじゃないわ。分割まであと半年なのよ。そうなったら会う機会も減っちゃうから仲良くしようと思ってるのに、変なこと考えないでよね」
「そんなこと言って、飯田さん、素直じゃないんだから」
 頭から酒をかけられた。顔を振っているうちに、飯田さんは消えていた。
53 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時48分08秒
 あと「イ」のイニシャルの人は石黒さん市井さんろなるが、石黒さんとは会ったことないし、市井さんとも疎遠だから違うだろう。まさか「ニ『イ』ガキリサ」とか。
 頭をひねっていると、安倍さんが真下から湧いて出てきた。わたしの体をすりぬけて、わたしの顔のまん前に出た。
「もう、よっすぃ〜は英語ができないんだから。しょうがないからなっちがヒントを出してあげる」
 抗議したが、わたしの言葉は安倍さんの耳に届かなかった。
「『 I 』ってどう発音する? これがヒントだよ」
 じゃあね、と安倍さんは天に昇っていった。
54 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時50分15秒
「そっか、『アイ』か。加護と高橋どっちだろ」
 加護だとしたら、またやっちゃいけないことをやっちゃおう。高橋だとしたら、初めてやっちゃいけないこをやっちゃおう。と、頭をポカリと叩かれた。
「おい、よっすぃ〜。セクハラはやめろ」
 矢口さんは夢の中でもちっちゃかった。
「もうちょっと頭使えよー。これはよっすぃ〜の夢なんだから、『 I 』がみんなの誰かだったとしたら、それは単によっすぃ〜の願望にすぎない。わかるだろ?」
 よくはわからなかったが、とりあえずうんうんとうなずいた。
「一方で、みんな自分じゃないって拒否してんじゃん。ここはよっすぃ〜の夢の中だから、これもよっすぃ〜の願望なんだ。とすると、さっきの話と矛盾するよね。だから『 I =みんなの誰か』という前提が間違ってるんだ」
55 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時50分54秒
「じゃあ、『 I 』って誰なんですか?」
 矢口さんはいらついてきたのか、両腕を胸の前で組んだ。
「なっちがヒント出したろ。『 I =アイ』だって。そして、みんなの中の誰でもない。となれば……」
「わたしですか? でもわたしのイニシャルは Y とか H ……」
「目ん玉のこと英語でアイって言うじゃん。『 I =EYE =ひとみ』のことだよ」
 わたしはポンと手を打った。
「ずいぶんまわりくどいんですね」
「夢ってのはそんなもんだよ」
 じゃあ、『 Y 』は誰なんだろう。あ、そっか。目の前にいるじゃないか。
「矢口さん、ヨシザワ実はヤグチさんのことが……」
 わたしはその小さなお尻をさわろうと手を伸ばした。
56 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時52分35秒
 
 その時、目覚し時計がささやかに鳴った。それでもわたしの眠りは破られてしまった。夢とは、ちょうどいいところで終わってしまう映画みたいなものなんだろう。
 まあ、今日現実の世界で続きを楽しめばいいや、と布団をはねのけて、軽く伸びをした。くしゃみが出た。パジャマどころか何も着てない。空の一升瓶が転がってるのが見えた。昨日お酒飲んで、そのまま寝ちゃったのかな。でもなんで服着てないんだろう。
 わたしの横に誰かがいる。見ると、それはすっぴんのうえすっ裸で眠っている保田さんだった。
 
57 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時53分10秒
終わり
58 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時53分54秒
またミスりました。
59 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月07日(月)21時54分27秒
次回こそは
60 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時33分29秒
(0^〜^)<18歳だヨ

記念に短編を書きます
61 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時34分29秒
『怪盗4の逮捕』
62 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時35分20秒
 恒例のコンサートツアーが始まったばかりのことだった。夜の部の公演を控えて、私たちやスタッフは目もくらむような忙しさに追われていた。衣装替えにメイク直し。私は歌い出しのところを間違えないように、何度も口の中でくり返した。
「登場順わかってるね。いつもと違うから気をつけてよ」
「紺野、もっと大きな声で」
「早くこれ、クリーニングしないとダメじゃない」
「よっすぃ〜いないの? どこ行ったの?」
「ねえねえ、おばちゃん」
「……また出たんだって」
 ざわめきの中、その言葉を私の耳は逃さなかった。スタッフが噂しているのは、最近世の中を騒がせている奇妙な泥棒団のことだ。貴金属や貴重な小物を専門とする窃盗犯で、知り合いの芸能人にも被害者がたくさん出ていた。ときどき、古風にも予告状を出したりすることがあり、「4」の署名が残されていたことから人々はこの泥棒を「怪盗4」と呼んで恐れおののいているのだった。
63 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時36分12秒
「あの泥棒のことですか?」
 私はそのスタッフに声をかけた。その人はしまったという表情を私に見せた。余計な心配事を私たちにかけるなと日頃言われているのだろう。でも好奇心のほうが勝った。
「そうなのよ。あの怪盗4がね」
「何が盗まれたんですか」
「手のひらの中に隠れそうなブローチ。ただのブローチじゃなくてダイヤが無数にちりばめられたやつよ。盗まれた人ってのが……」
 その人は最近売り出し中のアイドルグループの一人の名前を口にした。私も歌番組で何度か会ったことがある。
 先ほど奇妙だと言ったは、ここ最近若手芸能人ばかり狙っていることだった。芸歴の短い人でも大きな財産を持っている人は何人かいるが、大御所と呼ばれる人たちに比べれば微々たるものだ。盗まれた物も、目が飛び出るほど高価というものでも多くはなかった。
64 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時36分55秒
「Ah、……」
 私はもう一度歌詞を確認した。もうすぐ開演だから、トチらないように気をつけないといけない。それでも怪盗Hのことが気になってしまう。
「石川、緊張してるんか?」
 ポンと肩を叩かれた。見あげると中澤さんの顔が見えた。いつ始まっても大丈夫なように、準備は整っているようだ。ただ、左腕に巻かれた腕時計だけがそぐわない感じがした。
「あ、これ?」
 私がじろじろと腕時計を見やっているのに気づいたようだ。
「ダウンタウンさんの番組出させてもらったときな。ご一緒した皆さん、きんきらりんの格好はしてへんかったけど、ちょっとしたところにお金かけとったんや。アクサリーとかバッグとか。あたしも見習おう思ったんや。もちろん本番では外すけど」
 それから中澤さんの自慢話が始まった。曰く、フランスのパリでしか手に入らない物であり、世界に同じ物は四つもない物であり、文字盤に数種類の宝石が埋め込まれている物であり、……。
 さらにその値段を聞いて目を回した私を笑いながら、中澤さんは去っていった。「泥棒に盗られないよう気をつけてくださいよ」という私の声は届かなかった。
65 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時37分43秒
 騒々しさはますます激しくなっていった。熱気で部屋の温度と湿度は異様に高まった感じがした。これでは落ち着いて歌詞に集中できない。見ると、平家さんの姿が見えた。陣中見舞いということらしい。久しぶりに顔を見た。
「こんにちは、平家さん」
「こんにちは」
 気づいたみんなが順々にあいさつしていった。中澤さんも笑みを浮かべて平家さんの肩を抱いた。
「飯田さん、すみませんが、ステージにまで来てください」
「ちーっす。クリーニングするのはこちらで?」
「おい、もうすぐ始まるんだから落ち着け」
66 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時38分36秒
 なんだかみんな忙しそうに走り回っているのを見て、だんだん不安になってきた。もしかして私も何かやらなければいけないことがあるのかもしれない、そんな気になった。
 立ち上がった私は、とりあえずテーブルの上を見た。一度目の公演で使った衣装は、さっきクリーニング屋さんが持っていった。そのぽっかりと空いた空間に、「4」と書かれたカードが落ちていた。ぼんやりとそのカードを手にしたとき、中澤さんの悲鳴が聞こえた。
 
67 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時39分18秒
 夜の部が終わって、再び楽屋が喧騒に包まれた。みんなで部屋のあちこちをさらっても、中澤さんの自慢の腕時計は出てこなかった。探すのが遅すぎるが、コンサートが迫っていたのだから仕方がない。
「あらへん」
「中澤さんのバッグにしまったんじゃないんですか?」
「さっき見たけどなかった」
 私は捜索に身が入らなかった。今日も歌いだしがうまくいかなかった。明日に備えて練習しないといけない。緊張して歌詞を忘れてしまいそうだった。ノートに歌詞を書きつづければいいかも、とノートとペンを取った。
68 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時41分19秒
 私は冷たい空気と静けさを求めてふらふらと外に出た。通路の奥に人影が見えた。よっすぃ〜と平家さんだった。二人はぼそぼそと小声でささやきあっていた。しばらくして、平家さんは奥に消えた。よっすぃ〜はこっちに向かってきた。
「あ、梨華ちゃん。中澤さんの時計見つかった?」
 私は首を振った。私の頭には、なぜかよっすぃ〜こそが「怪盗4」なのではないかという思いがよぎった。
「よっすぃ〜、このノートに『H』って書いて」
 よっすぃ〜はけげんな顔をしながら、乱暴にペンを走らせた。
69 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時41分49秒
 私は冷たい空気と静けさを求めてふらふらと外に出た。通路の奥に人影が見えた。よっすぃ〜と平家さんだった。二人はぼそぼそと小声でささやきあっていた。しばらくして、平家さんは奥に消えた。よっすぃ〜はこっちに向かってきた。
「あ、梨華ちゃん。中澤さんの時計見つかった?」
 私は首を振った。私の頭には、なぜかよっすぃ〜こそが「怪盗4」なのではないかという思いがよぎった。
「よっすぃ〜、このノートに『H』って書いて」
 よっすぃ〜はけげんな顔をしながら、乱暴にペンを走らせた。
 
(0^〜^)
つ[ 4 ]と
 
70 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時43分22秒
「あ、やっぱり」
 よっすぃ〜は大雑把な性格だ。平行四辺形を定規を使わないで書く人間だった。「H」と書いたのだろうけれど、「4」にしか見えない文字が私のノートに残されていた。
「何が?」
「よっすぃ〜が怪盗4だったってこと」
 よっすぃ〜こそが神出鬼没、多くのお金持ちを震え上がらせている泥棒だったのだ。きっとスリのテクニックを駆使して、中澤さんの腕時計を盗んだに違いない。
「わたしが時計を盗んだって? それは違うよ、梨華ちゃん」
71 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時44分23秒
 よっすぃ〜はポケットに手を入れて、それを出して目の高さにまで持っていった。
「これは、中澤さんがあまりに不用心だから預かってだけだよ」
「ほら、やっぱりよっすぃ〜が怪盗4なんだ。それにカードだって残してるし」
 よっすぃ〜は肩をすくめた。
「そうなんだけど、腕時計がわたしの獲物じゃなかったんだって。後で返すよ」
「獲物が違う?」
「今日の獲物は、みんなの衣装」
 よっすぃ〜はクリーニング屋に化けて、私たちの汗まみれの衣装を持っていってしまったのだ。その手の趣味を持つ顧客がいるのだという。
72 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時45分37秒
「テーブルの上に無造作に時計が置いてあったんだ。きっと中澤さんがステージの前に外したときに平家さんが来たから、相手しようとして置いていっちゃったんだね。ほんとに不用心だよね」
「でも、よっすぃ〜が泥棒だなんて……」
 よっすぃ〜は私のつぶやきを無視した。
「でもちょっと安心した。誰の影響か知らないけど、派手なアクセサリーで着飾るなんて、わたしたちには似合わないよ。中澤さん、なくなったときそれほど慌てた様子じゃなかった。髪の毛ふり乱して探し回ってたらゲンメツするところだったよ」
「よっすぃ〜、お給料いっぱいもらってるのに……」
「お金の問題じゃない。梨華ちゃんにはわかんないよ」
 私にはわからない。確かにそうだ。私にはわからない。
73 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時46分46秒
「よっすぃ〜、やめようよ、こんなこと」
「自首しろってこと? じゃあ、そうしよっかな」
 あっさりとした返事だった。
「怪盗4がモーニング娘。を狙ってるって噂が立ってね。ファンに混じって警察官がいっぱい来てたよ。そろそろ楽屋のほうにも来るかもしれないね。手錠かけられるところ、みんなに見られたくないし……」
 よっすぃ〜は奥へ歩き始めた。私は慌てて手を伸ばした。
「冗談だよね、よっすぃ〜?」
「うん……冗談、冗談」
 よっすぃ〜は「冗談」を二回くり返した。よっすぃ〜の体が闇に消えた。楽屋に戻ると、飯田さんによっすぃ〜の所在を聞かれた。「わからない」と返事をした。
 
74 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時47分55秒
 次の日は東京のスタジオで収録があった。TV局に行くと、のほほんとしたよっすぃ〜が辻たちとじゃれあっていたので驚いた。
「よっすぃ〜、なんでいるの?」
「なんでって、ひどいよ、梨華ちゃん」
 そこに飯田さんと保田さんのささやき声が聞こえてきた。
「昨日、怪盗4が裕ちゃんの腕時計盗んだでしょ」
「うん、聞いた。でも犯人はすぐに自首したんだって」
「ホント?」
「マネージャーが言ってた。それがね……」
75 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時48分47秒
 二人の話はテレビの音量にかき消された。なんだか楽屋の外も騒がしい気がする。ブラウン管の中でリポーターが少し興奮気味にどなっていた。どうやら警察署からの中継だった。
「とうとう怪盗4が逮捕されました。なんと、元歌手の……」
 モニターいっぱいに平家さんの顔が映し出された。絶句した私はよっすぃ〜のほうを振り返った。なんとなくよっすぃ〜は微笑んでいるように見えた。
 
76 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時49分45秒
終わり
77 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時50分40秒
またまたまた
78 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)00時51分12秒
失敗しました
79 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月12日(土)13時30分30秒
失敗がマジなのかネタなのか…そんなことはどうでもいい
むしろ気になるのは彼女(Hさん)の奇妙な行動です。
あれで?だって…でも…だけどあの時たしかに…あれぇ?
まさに石川の心境です(違うかも)
私は作者さんに声を大にして言いたい、いや、聞きたい。
ねぇ、なんで?
80 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)00時57分20秒
今みつけて全部読みました
全部面白かったです、なかでも『待っている』が最高に面白かったです
これからも楽しみにさせてください
81 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時14分50秒
>>79
その当たりは次の話で

>>80
ありがとうありがとう
82 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時15分30秒
『囚われの怪盗4』
83 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時16分00秒
「おい、こっちだ。こっちにいるぞ」
「気をつけろ、武器を持ってるかもしれんぞ」
 足音がだんだん近づいてくる。私の足では逃げるのも無理だ。私はがっくりとひざをついた。そして、どうしてこんなことになったのだろうと、これまでのことを思い出した。
 
84 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時17分07秒
「怪盗4ってよっすぃ〜のことじゃなかったの? なんで平家さんが捕まってるの?」
「わたしじゃないよ。平家さんがそうだったんじゃないの?」
 よっすぃ〜はまだとぼけている。でもよっすぃ〜は確かに昨晩白状した。それで、自首するって、歩いていってしまったのに。本物の獲物、私たちの衣装を盗んだ怪盗4はよっすぃ〜なのだ。平家さんじゃないのだ。
「わかんないよ。どうして……」
「だから、梨華ちゃんにはわかんないんだって」
 なぜ私にはわからないのか、それがわからない。
「平家さんと何しゃべってたの? 平家さんを脅して、罪かぶってもらったの、もしかして?」
「脅してって、人聞きの悪い。ただささやいただけだよ」
「ささやいた?」
「『怪盗4がわたしたちの楽屋に出たみたいですよ』って」
「それだけ?」
「それだけ」
「それで、なんで平家さんが身代わりになるのよ。わかんないよ」
「だから梨華ちゃんには……」
85 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時17分51秒
 ニュースでは、平家さんは自分が怪盗4であることを素直に認めているという。ただ曖昧な供述がいくつかあるので、警察は慎重に捜査を進めているそうだ。当たり前だ。平家さんじゃない、ここにいるよっすぃ〜が泥棒なんだから。
「他には何も話さなかったの?」

──平家さん、舞台って自分で作るしかないですよね。
──自分で?
──そう、自分で。

「わかんない。わかんない」
「だからぁ……」
 平家さんはどうなるんだろう。警察の取調べがそうとう厳しいということはテレビとかで見て知っている。早く出してあげたい。
「よっすぃ〜、それで放っておくつもり?」
「だって、平家さんが望んだことなんだし」
86 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時18分29秒
「ひどい」
 私がぽろぽろと涙を流し始めると、はじめてよっすぃ〜は慌てた様子を見せた。よっすぃ〜がどんなになだめすかしても、私の涙は止まらなかった。
「しょうがないなあ。じゃあ、平家さんを助けに行こ」
「これから?」
「これから」
「どうやって?」
「それは任せて。梨華ちゃんはわたしの言うとおりにして」
 
87 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時19分17秒
 私はよっすぃ〜の言うとおりにした。よっすぃ〜の作戦はこうだ。平家さんが警察に捕まっている間に怪盗4が事件を起こせば、平家さんが無実であることがわかるだろう。もちろん警察をたばかったとして平家さんは怒られるだろうけれど。
 その夜、私はよっすぃ〜の指定した一軒家に向かった。よっすぃ〜の話したとおり、生垣の一部が壊れていて簡単に中に入れた。そしてよっすぃ〜の指示どおり、鍵のかかっていない窓から中に侵入した。よっすぃ〜からもらった図面のとおり、掛け軸の裏に隠し金庫があり、よっすぃ〜の教えてくれた数字を入力すると簡単に開いた。そして中の小さな宝石箱を上着のポケットに入れて、脱出することにした。もちろん金庫の中に「怪盗4」と乱雑に書かれたカードを置いていくのを忘れなかった。
88 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時20分06秒
──私にできるかな?
──できるよ。梨華ちゃんがやらないで、誰がやるの?
──よっすぃ〜は?
──わたしがやるのはちょっとまずいの。マークされてるかもしれなから。

「あず・ふぉ・わん・でー」
 案外泥棒なんて簡単なんだなあと、鼻歌を口ずさみながら暗い街路を足早に進んでいった。遠くに赤い光が見えた。検問をやっている。車だけじゃなくて、歩行者にも行っているみたいだ。
「何の騒ぎだろ」
「あれだよ。怪盗4が出たんだよ」
「マジ? 捕まったじゃん、そいつ」
「替え玉だったんだろ。今日予告状が警察に届いたそうだ。この近辺である物を盗むって」
「どうりで警察官が多いと思った」
89 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時20分51秒
 私は回れ右して反対の方向に向かった。ところがこちらの方面でも検問をやっているみたいだった。四方を固められてしまった。こんなことがあるなんて、よっすぃ〜には聞いていない。よっすぃ〜の携帯にかけてもつながらなかった。
「ひどいよ、よっすぃ〜」

『ホンモノの怪盗4、逮捕!』
『人気アイドルの真実の顔』
『普段は愛想のいい人だったんですけど……』
 
90 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時22分29秒
 新聞やテレビでどんなこと言われるだろう。今朝の平家さんの逮捕の報道も凄かった。平家さんの実家にTVクルーが多数おしかけ、ドアフォンを何度も叩いていた。平家さんの同級生と名乗る人間がモザイクと音声変換つきで昔のことを得意げに話していた。平家さんの歌っているところも流れた。ワイドショーは平家さん一色になった。
 私が捕まれば平家さんは助かる。でも、私が捕まってしまうんじゃ意味ない。きっと平家さん以上に大騒ぎされるにちがいない。
 どうしようかと戸惑っていると、声が聞こえてきた。警察だ。逮捕される。
 私は盗んできた宝石箱を出した。これをどこかにやってしまえば、なんとか言い逃れできるかもしれない。指紋もつけていない。慎重にフタを開くと、宝石と、折りたたんだ紙が出てきた。

『警察官が寄ってきたら、小さく悲鳴を上げて……』
 
91 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時23分14秒
「キャッ」
「どうした、大丈夫か」
「あの、知らない人がぶつかってきて……」
「そいつはどこに?」
「あっちのほうに走っていきました」
「おい、こっちに何か転がっているぞ」
「宝石だ。ヤツめ、慌てて落としていきやがった」
「本部に連絡しろ……」
 
92 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時24分03秒
 翌朝、とあるテレビ局の楽屋に入ると、よっすぃ〜が加護たちと談笑していた。私はよっすぃ〜を誰もいない部屋にひっぱっていった。
「よっすぃ〜……」
「平家さんも釈放されたみたいだし、よかったね」
「ちっともよくない」
 私は新聞の一面を見せた。

『怪盗4、まんまと国宝級の絵画を盗む』
『陽動行為? 模造宝石は盗難失敗』

「私を利用したわね」
「別に……」
93 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時24分47秒
 よっすぃ〜の腕をつかもうとしたら、ひょいと逃げられた。
「そうそう、梨華ちゃん。平家さんはね、ほんとに自ら望んで自首したんだよ。怪盗4として」
「それ、ほんとうに理由がわからない」
「だからさ、舞台を与えられない人間は自分で作るしかないんだ。平家さんはそのチャンスを逃さなかったんだ」
 よっすぃ〜はさっさと部屋を出て行った。ドアが閉まる瞬間に見えたよっすぃ〜の顔は、なんとなく悲しそうだった。
94 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時25分22秒
終わり
95 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時25分57秒
ようやく更新できました
96 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)18時27分42秒
いやはや
97 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月28日(月)23時00分06秒
面白い。確かに有名人だ。そりゃ世間も騒ぐさ。納得納得。
98 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時15分03秒
>>97
・゚・(ノД`)・゚・。
99 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時16分03秒
『河原にて踊れる娘。たちの話』
100 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時17分00秒
 今は昔、今上の御世に、都の西の河原にて今様を謡い舞い狂う小娘共ありき。現る時明け六つの日の隠れたるにかぎり、都の者共感じて競いこれを見たり。
 衆狂いて興に乗るころ、空の雲脚あやしげになり、雷鳴りに逃げ惑う者多くあり。やがていかづちの光娘共に落ちにけり、されど娘これということもなきに舞い続けたり。さても奇妙なことなりと、都雀噂しけり。
101 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時17分37秒
(大意)今はもう昔のことだが、御上の治めていた時のこと、都の西に流れる川の河原で、今風の歌をうたい舞い踊る若い娘。たちの一団があった。現れるのは朝方六つ(午前六時)の太陽が隠れている日に限っていたが、群集はどことなくそれを感じ取って争うようにこれを見入っていた。
 群集もいっしょに踊り狂っているうちに、空の様子があやしくなってきて、やがて雷が鳴り出したので逃げ惑う人間が多数出た。そうするうちに雷が娘。たち目がけて落ちてきたが、娘。たちは気にするふうでもなく、けがをした様子もなく、何事もなかったかのように踊り続けた。たいへん不思議なことがあるものだと人々は噂しあった。
102 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時18分27秒
 滝川の武士の舎人に娘ありき、河原にて共に踊りを所望す。娘共の主これを許すも、今日はこれにて終いにて明日来るべしと。娘、ひそかに小屋の中を覗けば、いくつもの醜い鬼共が血肉を喰らいたり。
 娘驚きて寺に駆け入る。和尚、かつて平の何某という武士にて、今は世を忍びて僧となりにけり。和尚曰く、その娘共聖にありて鬼にあらず。人より出づる邪まな気を雷鳴りとして身体に受け、これを流すものなり。ただそれかぎりあれば、鬼のごとく風体になりし、いづれ成仏するものと。ゆえに娘、断じて共に踊るべからずと。
103 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時20分25秒
 滝川の武士の使用人に一人の娘がいて、娘。たちといっしょに河原で踊りたいと願い出た。娘。たちのあるじはそれを許可したが、「今日はこれでおしまいだから明日来なさい」と言った。その娘がこっそりと娘。たちのいる小屋を覗いて見ると、娘。ではなく醜い姿の鬼のようなものたちが血肉を喰らっていた。
 娘は驚いて、寺に駆け込んだ。そこの和尚は昔平何某という武士であったのだが、世をはかなんで出家していたのだった。話を聞いた和尚が言った。
「その娘。たちは徳の高い人間であって、けして鬼や妖怪ではない。人間たちから流れ出る邪気を雷という形で受け取って、これを浄化しているのだ。ただそれも体に限界があってそのような醜い鬼のような顔形になってしまい、やがて命をも失ってしまうのだ。だから、あなたは娘。といっしょに踊ってはいけない。いずれあのようになってしまうぞ」
104 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時22分42秒
 娘、たがいて曰く、それを聞き猶のこと共に踊りたしと。和尚の止めるのを聞かず、黒雲の中、道を走りたり。娘、歌いて、

 あふことのたえてしなくばなかなかに人をも身をも恨みざらまし

                            (第十一段)
105 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時23分37秒
 しかし、娘は首を振って和尚の言うことを聞かなかった。
「それを聞いて、なおさらいっしょに踊りたくなった。娘。になりたくなった」
 和尚の制止を聞かず、黒い雲の立ち込める中、娘は道を駆け出していった。そして歌うのだった。

 逢ってしまったのだから、この体がどうしても耐えられなくなるまで、いっしょに歌いたい、踊りたい。そうなる時が来ても誰も恨んだりはしない。

(歌意について、「もう二度と会えないほうがよかった、そうならばかえって今のようにあの人のつれなさを恨んだり、わが身のはかなさをつらく思ったりすることはなかったのに」とする説もある。「なかなか」は「かえって」「どうしても」の意味。「会えない日曜日は長い長い」とする説は、今では支持する者はいない)
106 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時24分15秒
終わり
107 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時24分54秒
全てが
108 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)22時25分25秒
でたらめですので
109 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月18日(日)23時00分41秒
えーと、わけがわかりません。
だけど、なんとなく面白かったような気がします。
110 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月19日(月)23時19分04秒
>>109
そんなものです
111 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時19分12秒
『リーダーの条件』
112 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時19分49秒
 いつのまにかさわやかな空気はどこかに行ってしまい、灰色の幕が天を覆っていた。雨こそはまだ降っていないものの、ゴロゴロと遠くで鳴り響く雷の音から、それも遠い先のことではないように思えた。
113 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時20分24秒
「よっすぃ〜がいない?」
「ええ、吉澤さんがいないんです」
 吉澤がふらりと姿を消すのは珍しいことではなかった。仕事が終わったあとならほうっておけばいいのだが、これから収録というなのでそういうわけにもいかない。
「ついでに紺野もいないよ」
 あの子は聞き分けのよくない子だった。吉澤と違いまだ将来がある。ここはきつく言い聞かせないと、リーダーとしての威厳も保てない。
「どうも外に出て行ったみたい……二人で」
 すると、二人は示し合わせていたのだろう。そんなに二人は親密な仲だったとは知らなかった。リーダーはメンバーの人間関係も掌握しないといけない。こんな大所帯になるとそれもままならなくなってきた。
114 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時20分59秒
 とりあえず矢口と石川を連れて外に出た。他のメンバーはあてにならない。あてにしてはならない。この二人だって、他よりマシという程度だ。
「そんなに遠くには行ってないと思いますよ。近くの公園に行ってみましょう」
「さすがに収録バックれることはしないよな」
 二人の見通しは妥当なものだが、リーダーとしては最悪の事態も頭にいれておくことが肝要だ。たとえば誘拐されたとか、駆け落ちしたとか、実は正義の味方で悪を倒しに空を飛んでいってしまったとか。
115 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時21分37秒
 誘拐ならば誘拐犯からの連絡を待たなければならない。それまでに警察に連絡すべきか、しかし犯人にばれたら二人の命は保証できない。二人の細い首にロープが巻きつけられ、すこしずつ力が加わっていき、空気を吸うことができなくなり、やがて窒息してしまうのだ。
 しかし逆探知というのを一度体験もしてみたい。わずかな時間ではうまくいかないから、なんとかして犯人に電話を切らせないように工夫をこらさないといけない。
『あ、待ってください、二人の声を、声をぜひ聞かせてください、二人はほんとに無事なんですか、実はもうこの世にはいないなんてことは、お金は用意しますから、一応高額納税者ですし、石川に負けたのがなんだか悔しいけど、あらやだ』
116 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時22分24秒
「飯田さーん、ほら、あそこに誰かいますよー」
「あれ、紺野かな」
 二人の顔の先には確かに紺野がいた。木の陰に隠れるように向こう側を覗き込んでいる。
「おーい、紺野、何や……」
 何と言うのか、目の前が白くなった。稲妻と雷鳴が同時に私たちを襲った。何かが壊れる音と、野獣の咆哮が轟いた。
117 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時23分02秒
 目がようやく慣れると、地面に突っ伏した紺野の後頭部が見えた。矢口と石川も今まで倒れていたのだろう、しかしすぐに立ち上がって紺野のもとに走り寄った。紺野のことは二人に任せておこう。リーダーはもっと俯瞰的な立場から物事にあたらなければならない。
 何が起こったのか。雷が私たちのそばに落ちた、それははっきりしている。しかしそれでは破壊音と獣の叫び声のようなものの説明がつかない。
118 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時24分03秒
 記憶をたぐりよせよう。少しずつ、ゆっくりと、じっくりと、あせらずに、逆回転させる。紺野の体がじょじょに持ち上がる。やがて紺野の右手が木の幹に触れ、視線を前に向ける。視線の先には……。
 それを私は見ていなかった。アプローチの方法が悪かったようだ。少し戻る。ピントを紺野からさらに前方に合わせる。紺野の顔がぼやけ、やがて消える。代わりにそれが姿を現した。粉々になったガラス片と、黒こげになった鉄のかたまり。黒い酸化鉄が鋭い鋼鉄の色に戻り、ガラス片が宙に浮いてつながっていく。やがて二つの大きなカプセルと、それをつなぐ鉄の管、それらを制御する鉄の箱、天にまっすぐ伸びた細長い鉄の棒。
119 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時24分42秒
「あわわわわ」
 石川の情けない声で我にかえった。今はまだいいが、いずれ石川もモーニング娘。を引っ張っていかなければならない人間だ。どんな時でも沈着冷静な態度でことに当たるということを覚えてもいい頃だ。
「ちょっと、カオリ、あれ、あれ」
 矢口まで、情けない。と、地面が揺れて体がよろめいた。雷の次は地震か。次は火事かそれともオヤジか。地震はずしん、ずしんと一定の間隔で延々と繰り返した。なかなかリズム感がある。
 そもそも東京は地震が多すぎる。北海道だってないことはないが、プレートとプレートがぶつかりあうところに近い東京は危険すぎる。やがて百年前のあの時のように壊滅的な大地震がやってくるに違いない。街は無法地帯となり、いい加減な噂に人々は疑心暗鬼になり、やがて力こそが正義となる世界が来るのだ。
120 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時25分31秒
 モーニング娘。が井戸に毒を入れたという流言のせいで、私たちは自警団に追われる身となってしまう。何人かは捕まってしまい、無慈悲にも虐殺されてしまう。何とか生き残ったメンバーも、一軒の家に追い詰められる。群衆が燃え盛るタイマツを持って取り囲んでいる。絶体絶命のピンチだ。
 そこに、救世主が現れた。
『あ、あなたは……』
121 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月22日(木)22時26分12秒
(つづく)
122 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月24日(土)00時03分11秒
(つづき)

「ちょっと、どうなってんのー」
「こりゃあ、たいへんだー」
 いったい何を二人は騒いでいると言うのだ。確かに今、不可解な出来事を私たちは目の当たりにした。しかしこういうときこそ心を落ち着かせ、冷静に対処するのが大人というものだ。
 大人といえば、二十歳を越せばお酒をおおっぴらに飲めるのであり、もちろんそんなことおかまいなしの人間はいるのであり(チラリと矢口を見る)、それはともかくとして、周知のように私はお酒のCMに出ることができた。これはひとえに私の実力とその会社の広報担当の見る目によるところが大であり……。
123 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月24日(土)00時03分47秒
「ちょっと飯田さん、何ぼやっとしてるんですか」
「これマズイよ、マジで」
 ええい、と二人の腕を振りほどいた。第一、何も見えないじゃないか。眼前に広がる緑の芝生、すべり台、紺野がつかまっていた木の幹、その下に突っ伏した紺野の体(さっきからピクリとも動かない)、いつもと変わらない世界だ。誰もが毎日目にする普遍の世界だ。
「もうダメ」
「逃げるぞ!」
 そして空を見上げれば、今日はくもりがちだから灰色の雲が……。
 白いふわふわした世界だった。
124 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月24日(土)00時04分23秒
 白いふわふわしたものというと、まっさきに綿菓子のことを思い出す。円形の容器に割り箸をつっこみ、縁にそって回していくと白い綿がどんどんくっついていく。実は体積のほとんどが空気というあれだ。食べ始めると、あっというまに口の中で解けてしまう。その儚いところが私にそっくりだ。
 それから入道雲、あれも白くてふわふわしてる。しかしあれは食べれない。それに目の前のこれは、なんかもぞもぞ動いている。ふいにそれがこっちを向いた。首が痛い。ふむ、真っ白かと思ったら、ちょっと金色も入っている。
 白と金の入り混じったものというと、アハルテケだ。中国では汗血馬と呼ばれたトゥルクメニスタン周辺で産まれる馬で、走って流れた汗が金色に(時には血の色に)輝くという。三ヶ月で四千キロを踏破した記録もある。

(つづく)
125 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月24日(土)19時19分52秒
今回のはおもしれーや。
126 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)20時44分47秒
>>125

(0`〜´)<前回までのはどうだったのかと(ry
127 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)20時46分39秒
(つづき)

「おい、カオリ、ぼけっとしてないで」
「逃げましょう、飯田さん」
 目の前にあるこの白いふわふわしたもの。これでは全体像がさっぱりわからない。木を見て森を見ず。近視眼に陥ることだけはリーダーとして許すべきことではない。一部の現象にとらわれず、物事の本質を見極めることが必要だ。
 上から見ればはっきりするだろう。目を閉じる。意識のみを宙に飛ばした。あそこにある小さな白い頂は富士山だろうか。それもやがて見えなくなる。空気の層をくぐり抜け、青く光る球体がだんだん小さくなり、月のものとおぼしきクレーターが私を迎え入れる。
 行き過ぎた。そこまで飛ばさなくてもいい。地上から数百メートルのところで十分だろう。いつのまにか雨が強く降っている。ずぶぬれになったそれはぶるぶると体を震わせ、水滴があたりのビルの窓を突き破った。
 四つん這いで、しっぽがあって、ときどきワンワン吼えている。もしかして、犬?
128 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)20時47分15秒
 意識を体に戻した。わたしは紺野の体を抱き起こし、頬をたたいた。紺野は目を覚ましたが、まだ混乱してるようだった。
「うまくいきました。成功したんです、成功、成功、組織を構成するタンパク質の合成に、元の細胞のコピー、それを増殖させるメカニズム、ほぼ無限に利用できる元素群、……」
「おい、紺野。お前何やらかしたんだ?」
「矢口さん、そんな乱暴しちゃだめですよ」
 しかし紺野は彼岸を渡ろうとしていた。それはおそらく本人にしたら幸せなことなんだろう。縛られることがなくなった人間こそが最強の人間だ。だが、果たしてそれを人間と呼んでいいものなんだろうか。
129 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)20時48分00秒
「複数の有機生命体を原子レベルにまで還元させ、それを再融合させる試みはこれまでもありました。ですが、先人たちは幾度となく失敗を繰り返した、それはそれぞれの器官、組織、細胞の物理的な大きさ、質量を無視したからで、大きさをあるレベルにまで揃える必要があり、……」
 よくわからない。おそらく矢口と石川も同様だろう。だが私には紺野の言わんとしていることがぼんやりとだがわかった。つまり石川が右足を切断する事故を被ったとして、そこに辻の足を継ぐような話だということだ。
 さて、この事態に紺野が深くかかわっていることは明らかだ。これをなるべく最小限の被害にとどめなければならないが、まだまだ情報が少なすぎる。そこでもう少し紺野から聞き出すことにする。
130 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)20時48分35秒
 きゅっ。
「おい、カオリ、襟首が頚動脈をしめつけてる」
「うわっ、ここまで白目になるのね……」
 自我を捨て、自己を世界と一体化すること。それが無の境地であり、そこに残ったものこそが本質である。余計な情報は外に捨てられ、手っ取り早く聞きだせる。果たして紺野は機械のように口から吐き出し始めた。
「必要な元素はC、H、O、N、これらはすべて空気中から供給することが可能であり、これらを使って、元の細胞から得られたデータを解析し、必要な組織を作りあげ、補い、ただそれには大量の電気を必要とし、……」
131 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)20時49分23秒
 手を離した。紺野の体が再び地上に舞い降りた。あれ──巨大な犬、おそらく紀州犬か、その雑種だろう──はのしのしと歩み始めていた。体高は200メートル、体重は100トンくらい? 障碍となるあらゆるものを排除しながら進んでいった。
 紀州犬、つまり日本の天然記念物だ。体中が真っ白の毛で覆われている。しかしうっすらと金色もまじっていた。何か金色の毛を持つ生き物と融合したに違いない。
「何、あれがよっすぃ〜だって?」
「犬とゆーごー?」
 正気に返った紺野が、事情を矢口たちに話したようだ。えてして人知れぬ努力というものは無に帰す場合がしばしばであり、それを嘆いていては真のリーダーとは言えない。

(つづく)
132 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月26日(月)21時31分26秒
(つづき)

 そういえば、あの顔はどことなく吉澤に似ていた。
 しかし似ているだけでは、あれが吉澤であると言うことはできない。二個の三角形が合同であるといえるためには、三辺がそれぞれ等しいか、二辺とその間の角がそれぞれ等しいか、一辺と両端の角が等しいことを示さないといけない。三つの角がそれぞれ等しいことを示しても、それは二つの三角形が相似であるというだけだ。
 それではとりあえず三辺を計ろうとして、思いとどまる。あの巨大な白い生き物は無数の三角形で構成されているので、それぞれの辺を計るには途方もない時間が必要だ。
133 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月26日(月)21時32分03秒
「東京タワーが倒れる……」
「都庁のツインタワーが一個になっちゃった……」
 それならばアプローチを変えることにする。古代ギリシアからの普遍の論理学だ。吉澤の姿が消えた。つまりA=0。白い怪物が暴れている。BC=D。吉澤は暴れん坊だ。A=D。吉澤は色白で金髪だ。A=BE。あの怪物は金色がかった白い毛をしている。C=BE。これらをまとめるとC=A、つまり吉澤は都内各所を蹂躙しまくっている怪物だ。ついでに0だ。
134 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月26日(月)21時32分36秒
「でも、紺野、ほんとにあれよっすぃ〜かよ」
「信じられない……」
 二人とも甘い。すでに証明はすんだ。たとえあれが吉澤でなかろうとも、あれは論理的にいって吉澤なのだ。
 問題はそのメカニズムだ。物理的な側面は理解できた。紺野の作った変な機械で変な吉澤と変な犬が合わさって変な化け物ができた。ここまではいい。
 問題は心的な側面だ。人は心と体を持ち、これは不可分である。健全な精神は健全な精神に宿るという。体を許しても心を許すのは別だと誰かが言っていた。つまり、私が言いたいのは、吉澤が嫌がっていたのに無理やり犬とくっついたのだったら、どこかに歪みが生じるということだ。
135 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月26日(月)21時33分09秒
「あー、でもなんとなくわかる。あの無邪気に暴れてる様子からして、あれはよっすぃ〜だ」
「わかるわかる」
 そうすると、吉澤は自ら進んで自分の体を生贄に捧げたことになる。そんなに吉澤は悩んでいたのか。人間をやめて犬畜生になることを切望していたというのか。
『カオリさんのイヌになりたいワンワンワン』

(つづく)
136 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時08分07秒
(つづき)

「戦車砲を跳ね返した」
「AIM-120もきいてない……あ、F-16がひとつふたつみっつ」
 するとだ。吉澤は望んで犬になったということだ。これは問題だ。問題である。
 世の中、一つの行為が正しいか正しくないのか、その判断基準というものがある。それは動機でも結果でも手段でもない。手続きが適正かどうか、ただそれだけだ。
 雲から水滴が地上に落ち、それが集まって川となり、それが海に注いでいき、やがて水蒸気となって再び雲に戻る。この流れるような一連の所作、この順序を守ることが世の中を支配する法則なのだ。
 吉澤が犬になりたいのなら、それを止める権利は何者にもない。ただし、吉澤はその思いに先行して、モーニング娘。であるという事実を忘れている。犬になりたいのなら、まず卒業コンサートを開き、みんなに惜しまれながら娘。を辞めることから始めないといけない。
137 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時08分43秒
「どうすりゃいいんだ」
「よっすぃ〜を何とか戻す方法はないかしら」
 毒を操る殺人者は、必ず解毒剤を持っている。そうでないと、不慮の事故に対処できないからだ。つまり、紺野こそが吉澤をどうにかする生命線ということになる。
「戻す機械はあそこにあります」
「なんだ、あるんじゃん。さっさとやろうよ」
「先ほどの原理の応用で、一つの生命体を二つに分離する装置なんですが、これもばく大な電力を必要とするんです」
138 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時09分36秒
 やはりそうか。それならば電力を用意すればよい。自衛隊はおろか在留米軍すらも役に立たないことを目前にさらされた政府ならば、よだれを垂らして電気を提供するだろう。
『もしもし、あ、総理? あたし、カオリ。戒厳令は布いた? ボヤボヤしてないでさっさとしなさい。良い前例ができたじゃない。それでね、東電に命令して、東京中の電気をこっちに回しなさい。わかった? じゃあね』
『会長? 総理から話聞いてると思うけど、そういうことだからよろしくね。ほっとけば怪獣は日本中の原発壊して回るわよ。そんなことになったら高速増殖炉なんて夢のまた夢ね。オーケイ?』
139 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時10分23秒
「あ、ご苦労様です」
「配線終わりました。それじゃあ、吉澤さんをここに連れてきてください」
「連れてくるって、どうやって」
「この装置の近くじゃないと、分子レベルまでの分解が困難になるんです。早くしないと過放電を起こしてしまいます」
 矢口もほんとうに未熟者だ。相手は犬だ、容易なこと。
『ほら、ヨッスィー、おいで、こっちこっち』
140 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時11分00秒
 ワンワンワン。
141 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時12分03秒
 地面から突き立てられた鉄の尖塔。飛び散る青い火花。先からほとばしるうねる光線。青白い光につつまれた白獣。ようようとその体は小さくしぼみ始め、ガラスでできた二つの球体に新しい生命が蘇っていく。
 ゴルゴダの丘にて死した彼が奇蹟を成し遂げたように、彼女と犬は再びそれを私たちにもたらした。やがて放電にたえられなくなった機械が爆発し、いつのまにか顔をのぞかせた陽の光を存分に浴びたガラスが粉々に砕け宙を舞った。
142 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時12分58秒
「心配かけんなよ」
「まったくよっすぃ〜ったら、何考えてるんだか」
「エヘヘ」
 つかの間の非常時は終わり、平凡な日常に戻る。ドキドキするような時間は長くは続かない。私たちにそれを耐えうる力などないからだ。だから日常の世界に戻さないといけない。それがリーダーの責務だ。
 日常に戻れば、人々は常識を取り戻す。ここにいるよっすぃ〜と紀州犬が東京を破壊しつくした怪獣だったと、誰が信じるだろうか。手もなくやられた自衛隊と米軍も、そんなことを認めるわけがない。
143 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時13分38秒
 さて、遠くでぴょんぴょん跳ねている巨大で奇怪な生き物──紀州犬に寄生していたノミの処分は、それこそ政府に任せよう。吉澤や他の娘。については私に責任があるが、それ以外のことは私の役目ではない。
 さあ、収録だ。退屈な日常に飽き飽きしている視聴者に向けて、私たちはありもしない世界を見せる時間がきたのだ。
「さ、早く戻りましょう」
「はい、飯田さん」
「オッケー、リーダー」
144 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時14分10秒
終わり
145 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時15分12秒
川 ‘〜‘)||<溢れる思い
146 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)23時16分18秒
(0^〜^)<積極果敢
147 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月06日(金)21時51分04秒
さあ、更新しよう。
それしか能がないのだから。
148 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月06日(金)21時51分37秒
『おまえたちが犯人だ』
149 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月06日(金)21時52分27秒
 息を切らしてビルに駆け込み、慌てふためきながら部屋に飛び込んだ。すでに三人の姿があり、テーブルにひじをついていた。わたしは、そ知らぬふりをしてあいている椅子にすわった。もう一つの椅子にバッグを置いた。
 ちょっと気まずい空気がただよっていた。ちょっとどころの遅刻ではなかった。だが、そんなにわたしだけが責められることなのか。
「や、みんな、元気?」
 ちょっとだけ期待していた返事はなかった。三人とも頬杖をついたままだ。そこでわたしも同じく、いや杖の数を二倍してひじをついた。
150 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月06日(金)21時53分06秒
 時間がむだに過ぎ去っていった。加護がちらちらと時計を見る。こっちのほうは見ようともしない。世間話でもと水を向けてもちっとも反応してくれない。それでは。
「ねえ、みんな、久しぶりだね」
「……うん?」
 辻がようやく応えてくれた。
「何年ぶりかなあ」
「……三年ぶりだね」
 今度は加護だ。さすが、よくわかっている。
「こうしてみんなといるとさあ、ごっちんのこと思い出すよ」
「……え」
 ようやく梨華ちゃんがわたしの顔を見てくれた。
151 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月06日(金)21時53分50秒
「まだちょっと時間あるみたいだしさあ、ごっちんの昔話でもしようよ」
 ごっちんとは後藤真希のことだ。ごっちんは、そう、三年前のあの日、わたしたちの前から消えてしまった。うん、そうだ、消えた。永遠にいなくなってしまったのだ。
「ほら、みんなも何度か使ってた楽屋で、死体になっるのが見つかったんだよね」
「……うん、頭に何かぶつけて、打ちどころが悪くて」
「……壁にかかってた時計が落ちてきたんだっけ」
「運が悪いよね……」
 わたしは三人の顔を見回した。遅刻したわたしへの怒りを忘れて、梨華ちゃんも興味を持ってくれたようだ。わたしはここで少し黙って、猛烈な勢いで自慢の頭脳を回転させた。
 ごっちんが死んだ、これはすごく悲しいことだ、しかしそれはもう三年前のことだ、悲しみを乗り越えて、気持ちの清算をしないといけない、それに、大事なこと、本当のことを明らかにしないといけない。
152 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月06日(金)21時54分38秒
「そのことなんだけど、それは事故じゃなかったと思うんだ」
「え?」
 三人は、こいつ何言ってんだろうという顔をわたしに向けた。小さく咳ばらいし、腕を組むそのわずかな時間、わたしは自説の再検討を行い、間違いがないことを確信した。そうだ、そうに違いない。
「壁から時計がおっこちてくるなんてすごい偶然だよね」
「うん」
「それで、打ちどころが悪くて死んじゃうのもなかなかないよね」
「……うん」
 その二つの確率を掛け合わせると、キヨハラとノモの打率を足した数字より小さくなった。そう、つまり、あれだ、あれに違いない。
「つまり」
「つまり」
「ごっちんが死んだのは何かの偶然ではなく、人間に何かされたんだってこと」
「……殺された?」
153 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月06日(金)21時55分14秒
つづく
154 名前:名無しM1 投稿日:2003年06月08日(日)23時23分01秒
期待して待っています
155 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)21時00分03秒
>>154
(0^〜^)<ずいぶんと投げやりだね
156 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)21時00分58秒
つづき
157 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)21時01分42秒
 記憶はそれ自体あやふやなものであり、時間がそれをさらに加速させる。事実を一つ一つ積み上げていこう。それはわたしたちの脳の中に眠っているのだ。
「でも、あの楽屋、カギがかかっていたよ」
「そうだったっけ?」
「そうだよ。ドアも窓もカギかけて閉められてたって言ってたよ」
「誰が?」
「えっと、警察の人」
「警察?」
「やだなー、よっすぃ〜。私たち、警察で事情聞かれたじゃん」
 辻に一本取られた。そう、わたしたちは、普通は知ることのできない情報を、警察という信頼できる機関から知ることができたのだった。
158 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)21時02分26秒
「合カギがあったんじゃない?」
「ビルの管理人と、ごっちんのマネージャーだけが持ってたって」
「じゃあ、そのどっちかが外からカギをかけたんだね」
「何のために? 中からいくらでも開けることができるわよ」
「カギかける理由もないよ」
 そこで、カギはごっちんが中からかけたのだと、わたしたちは結論づけた。ごっちんが何かにナーバスになっていたと考えれば、なんとなく理由はつく。ちなみに、管理人もマネージャーもアリバイは完璧なので、容疑者とはならない。
「つまり誰も中に入れないし、外に出れないんじゃ、やっぱ事故だったんだよ」
159 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)21時03分12秒
 加護がきわめて常識的な意見を出した。しかしそれでは話が終わってしまう。
「いや、中に入ることも、外に出ることもできるよ」
 三人は首をかしげた。
「ほら、確かあの部屋には通風孔があったじゃない。あそこからなら出入りできるよ」
 そして三人は黙って首を振った。
「いくら何でも無理だよ、よっすぃ〜」
「でも、ほらあれ見てよ」
 わたしの指先には、その通風孔があった。網のようなものでふさがっている。その隣には、ごっちんにぶつけられたものと同型の壁かけ時計がかかっていた。
「そう言えば、この部屋だったんだ」
「そうだったっけ」
160 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)21時03分54秒
 わたしは椅子に乗って網に手をかけた。簡単に外すことができた。
「ほら、できるよ」
 この通風孔はビルの外壁に通じていて、そこから外に抜け出すことができる。
「でもそこにくぐり抜けるのって、ちょっと厳しいね」
「うん、わたしや梨華ちゃんじゃダメそうだね。でも……」
 そこで加護がおどけてみせた。
「あたしならできそう?」
「残念だけど、加護にはできないんだ。体はなんとか通るけど、これがジャマしちゃうから」
 わたしは加護の頭についているおだんごをポンポンとたたいた。
「つまり……」
「つまり、辻ならできる。ごっちんを殺すことができたのは、いや、殺したのは辻だったんだ」
161 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)21時04分24秒
つづく
162 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)21時33分40秒
つづき
163 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)21時34分11秒
 わたしの名推理に辻は観念した、ようには見えなかった。しかしフッフッフと笑う様子はまるで犯人のそれだった。
「よっすぃ〜、辻じゃあそこに背が届かないよ」
「でも脚立か椅子でも使えば……」
「どっちも通風孔の近くにはなかったって、警察の人が」
 そしてわたしの推理を根底からくつがえす事実が明らかになった。辻にはアリバイがあったというのだ。
164 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)21時35分17秒
「あの日、こんなふうに私たち四人、そのビルに来てたよね」
「……うん、でもみんな局の中であちこちうろつき回ってた。辻の姿が見えない時も確かあったよ」
「問題はごっちんが死んじゃった時間よ。警察のお医者さんの見立てだと、午後三時から六時の間」
「ずいぶん幅があるんだね。三時間も」
「それはね、死んだかどうか判断がつかない状態の時があったんだって。脳死ってやつ? 生きてるとも死んでるとも言えない……」
「あれ、でもあたしは午後四時半から六時って聞いたけど」
 それは警察の見解だった。医者は医学の立場に立つが、警察は犯罪学の立場を是とする。午後四時頃、辻と加護、そしてわたしたちのマネージャーがごっちんの声を聞いていたのだ。
165 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)21時36分04秒
「よっすぃ〜はその場にいなかったね」
「そうだけど、その時はごっちんのマネージャーさんとお話してたから」
「確か後藤さん、夜七時からの収録だったよね」
「ずいぶん早く入ったんだね」
「……うん」
 ここで会話が止まった。これではいけない。わたしは話の方向を少し戻した。
「じゃあさ、みんなのアリバイをまとめてみようか」
 それを表にまとめてみた。
166 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)21時36分37秒

   15    16    17     18    19
 ─────A─B─────C───D───
吉━┫  ┣━━━━━━━━━━━━━━━
石━━━┫    ┣━━━━━━━━━━━━
辻━━━━━━━━━━━━━┫ ┣━━━━
加━━━━━━┫       ┣━━━━━━━

16:00……後藤の声が聞こえた時間(A)
16:30〜18:00……死亡推定時刻(B〜C)
19:00……死体発見
━━アリバイのある時間
167 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)21時37分25秒
「あっ」
 辻が大声をあげた。
「わかった。あいぼんが犯人だ。あいぼんにはアリバイがない」
「でもどうやってさ」
「方法なんかどうにでもなるよ。でも時間だけはどうしようもないでしょ。その時間にあいぼんはいなかった。他のみんなはいた。ってことは、犯人はあいぼんじゃないとおかしいよ」
168 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)21時38分12秒
つづく
169 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)21時28分31秒
つづき
170 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)21時29分05秒
 さて、辻の告発に加護は冷静に対処した。
「方法はどうにでもなるって……そんなこと言ったらアリバイだってどうにでもなっちゃうよ」
 加護の反論はもっともだった。辻の言い分、つまりアリバイについては一理あるけど、それ以外の事実は加護が犯人ではないことを明らかにしていた。
「後藤さんの死亡推定時刻は四時半から六時、これは動かせないよ」
 辻はまだあがいていた。うん、なかなかやる。
171 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)21時30分06秒
「それはさ、四時に後藤さんの声が聞こえた、っていう証言があるからだよ。でも、その証言がホントじゃないとしたら?」
「でも、三人で聞いたんだよ」
「加護もその場にいたじゃない」
 加護は首を振った。
「確かにその場にいたよ。声も聞いたよ。でも、あれがホントに後藤さんの声だったかどうか、自信ない」
 何かを言おうとして、しかし辻は口を閉ざした。おそらく、部屋の中から声が聞こえてきた、中にいるのは後藤しかいない、ゆえにその声の主は後藤である、と三人は即断したにちがいない。
172 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)21時30分36秒
「もし、その声が後藤さんのじゃなくて、誰かの声色だとしたら、後藤さんの死亡時刻は三時までさかのぼることになるよ」
「三時にアリバイがないのは……わたし?」
 わたしは自分を指さした。もちろん、加護は首を振った。
「部屋の中で後藤さんじゃない誰かが返事をした、その人が犯人の可能性が強い、その時間にアリバイがない人、つまり……」
 加護は、真っ赤になった梨華ちゃんに人差し指をつきつけた。
173 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)21時31分24秒
 さて、この指摘に梨華ちゃんはどう対処するのか。かたずを飲んで見守っていると、やがて梨華ちゃんは席を立ち、壁に向かってぶつぶつつぶやき始めた。
「あの日って、確かごっちんが娘。を卒業した日の翌日だったよね……」
 どう返事をしようかわたしたちはとまどっていたが、梨華ちゃんはおかまいなくつぶやき続けた。どうやら彼女の世界に、わたしたちは存在しなくなってしまったようだ。
174 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)21時31分55秒
「それであたしたち、ごっちんの様子をこっそり見にきたんだけど……」
 とりとめのない彼女の話を要約するとこうだった。
 問題は動機だ。動機のある人間こそが犯人の資格を持つ。後藤を殺すほど憎んでいた人間、憎悪と愛情は表裏一体である、つまり、もっともごっちんに愛情を持っていた人間が犯人なのだと。
175 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)21時32分29秒
「可愛さあまって憎さ百倍って言うし、ごっちんが卒業するのを一番悲しんでた人がいたよね、なんで自分を置いてくんだって、ひとりぼっちにしないでって、ふだんはひょうひょうとしてそんな感情をちっとも見せないくせに、でも卒業の話を聞いてわんわん泣いて、それがいつの間にか憎しみに変わって、それで……」
 わたしは立ち上がって、梨華ちゃんの肩をつかんだ。梨華ちゃんはわたしの腕をふりほどいて、指をつきつけた。
「そうよ、ごっちんを殺したのはよっすぃ〜、あなたよ。あなたしかごっちんを殺す動機がないんだから」
 わたしはその場に立ちつくした。
176 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)21時33分06秒
つづく
177 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)22時44分45秒
それならば
178 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)22時46分11秒

       ノノノハヽ ンァー
       (*´ Д `)<読者へのちょーせんじょーだよー
       ○、  |)   手がかり?は全部出てるのだー
        (_ヽ_)

       (忠告:マジメに考えてはイケナイ)

179 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月13日(金)21時27分27秒
      _∧∧ __
    / ( ^▽^)  /\     ∧∧
  /|  ̄ ∪∪ ̄ ̄|\/  ⊂(^〜^0)
    | 拾って下さい|/      ヽuu,,)@
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    コイシカワを箱の中にいれます
180 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月13日(金)21時28分07秒

      _∧∧ _■ミ
    / ( ^▽^)  /\     ∧∧
  /|  ̄ ∪∪ ̄ ̄|\/  ⊂(^〜^0)
    | 拾って下さい|/      ヽuu,,)@
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    ある確率で放射線を出す機械をいれます
181 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月13日(金)21時28分59秒
      ______  パタン
    /   /   /| ミ     ∧∧
    |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| .|    ⊂(^〜^0)
    |拾って下さい|/       ヽuu,,)@
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    フタをします
182 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月13日(金)21時30分08秒
     クピークピークピー
      ______  
    /   /   /|       ∧∧
    |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| .|     (^〜^0)
    |拾って下さい|/       ヽuu,,)@
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    放射線が出ればコイシカワは死にます
    さて、箱の中のコイシカワは生きてるのでしょうか
    それでも死んでるのでしょうか
183 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)15時59分46秒
シュレディンガーの猫か・・・
184 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時03分30秒
つづき
185 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時04分06秒
 わたしは、わたしは。
 わたしは辻が犯人だと指摘した。辻は加護を、加護は梨華ちゃんを、そして梨華ちゃんはわたしを犯人だと言い放った。
 いつのまにか、梨華ちゃんは椅子に座っていた。そして三人はひじをついて、ぼーっと時が流れるままにしている。わたしも無言で席についた。
 ときどきちらりとあの時計を見やった。その時計の長針から、ポタポタと赤い雫がたれ落ちる。通風孔にかかっている網が外れ、音を立てて床に落ちる。声が聞こえる。偽りのごっちんの声。
186 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時04分40秒
 説明が必要だ。すべてを、この世界で起こった出来事を明らかにすることで、ようやくわたしの、わたしたちの心に平穏が訪れる。わからないままでいるなんて、そんな不愉快な事態に耐えられない。
 ここにいる四人、それぞれが単独では犯行が不可能だ。通風孔を通ることができるのは辻だけだ。アリバイがないのは加護。後藤と思しき声を出せたのは梨華ちゃん、動機はわたし。
 つまり、わたしたち四人の共犯だったのだ。午後三時頃、この部屋に入る。入ったのはわたしだ。ごっちんならわたしを部屋に入れてくれる。そして、わたしは殺した。ごっちんを、あの壁にかかっている時計で、殴り殺した。
187 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時05分26秒
 そこに梨華ちゃんたちが入ってくる。何があったのかを悟った三人は、偽装工作を図った。わたしはすぐに部屋を出て、アリバイを作る。辻と加護も部屋を出て、マネージャーをそれとなく呼ぶ。梨華ちゃんは一人部屋に残り、カギをかけた。そして辻たちに後藤の声を聞かせてやる。くぐもった声でぼそぼそ話すだけで十分だ。
 これで死亡時刻は午後四時以降にずらされる。加護は疑いを自分に向けるよう、アリバイをわざと作らない。石川は辻を招きいれ、替わりに自分は部屋を出る。辻は通風孔を通って外に出る。
 残されたのは、血まみれで倒れたごっちんと、赤く染まった時計のみ……。
188 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時06分11秒
「アハハ」
 できた。わたしたちが犯人だったのだ。忘れさられていた記憶。
 わたしがごっちんを殺し、それを自分で暴いた。
 みんなが犯人で、みんなが探偵で、それで。
189 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時06分53秒
「お待たせー。ごめんね、遅れちゃった」
 わたしたちはいっせいに立ち上がった。やっと来た。ごっちんがなかなか来ないので、ちょっとした暇つぶしのつもりが変なところにまで行ってしまった。
「遅いよ、ごっちん」
「ごめん、ごめん。じゃ、行こっか」
 わたしたちは部屋を出た。ドアを閉じるとき見えたもの、壊れてフレームがひしゃげた時計、血をどくどくと流し続ける彼女の死体。
 彼女を殺したのは、わたしだ。あなただ。

「おまえたちが犯人だ」
 
190 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時07分41秒
終わり
191 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時11分18秒
     クピークピークピー 
      ______  
    /   /   /|       ∧∧
    |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| .|     (^〜^0)
    |拾って下さい|/       ヽuu,,)@
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    凾w × 凾ox = E/ν
192 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)21時12分03秒
     クピ…… 
      ______  
    /   /   /|       ∧∧
    |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| .|    煤i^〜^0)
    |拾って下さい|/       ヽuu,,)@
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
193 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時37分11秒
>>183
      ネコジャナイデスヨー
      _∧∧ __
    / ( ^▽^)  /\   
  /|  ̄ ∪∪ ̄ ̄|\/  
    | 拾って下さい|/  
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
194 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時38分09秒
『リョウジョク』
195 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時38分40秒
 目を覚ますと、私はふわふわしたベッドの上にいました。
 あたりを見回しましたが、初めて見る部屋でした。
 何をどうしたらいいのかわからず、そのままぼーっと枕に頭を乗せていました。
196 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時39分22秒
 やがて、カチャリという音がして、一人の女の子が入ってきました。
 いや、最初は女の子ではなく、男の子とばかり思っていました。
 ジャージをだらしなく着ていたので。
「あ、起きてる」
197 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時40分38秒
 彼女は、私のそばに酔ってきます。
 私は体を起こし、逃げようとしました。
 彼女こそが、私をここに監禁した張本人だと思ったからです。
「こらこら、逃げても無駄だよ」
 あっさりと私は捕まってしまい、元の場所に戻されてしまいました。
198 名前:ミスった 投稿日:2003年06月20日(金)22時41分54秒
「やっぱ黒いなあ」
 失礼なことを言います。
 そんなの生まれつきだからしょうがないことなのに。
「よーし、こら、梨華ちゃん、大人しくしろ」
199 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時42分46秒
 彼女は私の両わきに腕を入れ、そのまま持ち上げました。
 手をバタバタさせて抵抗してみましたが、私は非力でした。
「どれどれ、よーく見せてごらん」
200 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時43分37秒
 そうでした。
 私は一糸もまとわぬ姿でした。
 彼女は私の全てをしげしげと眺め、そして──。
 彼女は、私の、私の、ボクのあれを──。
201 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時44分09秒
 ボクは彼女にリョウジョクされてしまったのです。
 もうおムコに行けません。
 
 
202 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時44分43秒
「よっすぃ〜、何やってるの」
「ほら」
「あら、かわいい子猫。名前はなんて言うの?」
「黒いから『梨華ちゃん』。オスだけど」
「ひどいよ、よっすぃ〜」
203 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時45分31秒
終わり
204 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時46分28秒
( 0^〜^)
205 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)22時46分58秒
( ^▽^)
206 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)23時15分38秒
タイトルにドキドキしたけれど、途中でオチが予想できてなんだか。
さらにそのネタがどこかで読んだような気がするのがさらに。
 
でも、まぁいつもの作者さんの感じが出てました。
207 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時45分44秒
>>206
(0`〜´)<なにー、そのネタどこにソース(ry
208 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時46分25秒
『それではお友達を』
209 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時47分10秒
 タモリ 島田珠代さんのご紹介です……。初登場だね、モーニング娘。の石川梨華ちゃんと吉澤ひとみちゃんです。

(音楽とともに二人が登場、観客の拍手)

 石川  こんにちはー。
 吉澤  どうもー。
 タモリ  いっぱい花がきてるねー。五木ひろしに堀内孝雄、中澤裕子に、これは保田だね(笑い)。
 石川  なんで笑うんですかー(笑い)。
210 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時48分12秒
 タモリ  むちゃくちゃ忙しい?
 石川  そうですね。ミュージカルとかシャッフル・ユニットありますし。
 吉澤  オフは月に一度くらいしかないですね。
 タモリ  オフの日ってどんなことするの? みんなで集まって遊んだりしない?
 吉澤  メンバーとですか?
 タモリ  そう、モーニング娘。のメンバーと。
 石川  オフの日がなかなかいっしょにならないんですけどー、この間みんなで花火やったんですよ。
 タモリ  へー、花火。みんなで?
 吉澤  みんなでやりました。吉澤と、梨華ちゃんと、飯田さんと……。
 タモリ  飯田圭織。
 石川  まりっぺ……矢口さんと、あと辻加護。
 タモリ  なっちは?
 石川  安倍さんはー、ソロ活動でレコーディングしてたんですよー。でも電話して、中澤さんと保田さんも呼んだんですよー。
211 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時49分06秒
 吉澤  梨華ちゃんが花火やろうって、みんなに電話かけまくったんですよ。それで加護が都内某所でやろうって話になって。
 タモリ  都内某所?
 石川  ええ、都内某所で(笑い)。
 タモリ  他のメンバーは?
 吉澤  中学生は、夜だったんで、呼びませんでした。
 タモリ  どんな花火やったの?
 石川  いっぱいやりましたよー。あの、シューッって火が吹き出すのとか、ロケット花火とか、パラシュートが落ちてくるのとか……。
 吉澤  ネズミ花火とか線香花火とか(笑い)。
 タモリ  線香花火いいねえ(笑い)。あの最後にポトッと火の玉が落ちるところがね、はかなげで。
212 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時49分41秒
 石川  あのですね、ネズミ花火で思い出したんですけど、辻と加護がやっぱりって言うか、イタズラしてきたんですよ。
 タモリ  辻加護だもんなー。どんなイタズラ?
 石川  矢口さんとですね、小さい打ち上げ花火あるじゃないですか、あれに火をつけようとした時にですね、後ろからいきなりシュルシュルって飛んできたんですよ。
 吉澤  あー、あったね。
 タモリ  まあ二人らしいっちゃ、らしいね。
213 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時50分12秒
 石川  それでですね、もっとびっくりしたことがあったんですよー。
 タモリ  どんな?
 石川  みんなで花火やってたらですね、いきなりドカンって音がしたんですよ。
 吉澤  そうそう。
 タモリ  爆弾が爆発した?
 石川  違いますよー(笑い)。近くの公園でですね、花火大会があったみたいなんですよ。それで……。
 タモリ  あー、本格的な花火やってたんだ。
 石川  そうなんですよー。おっきな音がして、きれいな花火が連続して上がってきて、それでみんな見とれちゃったんですよー。
 タモリ  最近の打ち上げ花火は派手だからね。
 石川  そういうのがポンポンポンポン上がってきて。
 タモリ  ポンポンポンポン(笑い)。
 石川  石川がコンビニで買ってきた花火がかすんじゃったんですよ(笑い)。
 吉澤  最後のが凄くって、何十発も連続したんですよ。
 タモリ  何十発。
 石川  それぐらいありましたよ。バチバチって音が止まらなくて、耳が聞こえなくなったみたいになりました。
 タモリ  そりゃあ、かすんじゃうよなー、コンビニで売ってるのじゃ。  
214 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時50分43秒
 石川  それで、花火大会が終わってから、石川たちもしょんぼりと花火の続きやったんです。
 吉澤  しょんぼりしてたの梨華ちゃんだけだったよ(笑い)。
 石川  そうそう、加護がですね、ウロウロし始めたんですよ。
 タモリ なんかイタズラしようとした?
 石川  そうじゃなくて、探し物してたんですよ。その指輪……。
 吉澤  指輪落としちゃったみたいで。
 タモリ  へー、指輪。加護も指輪する年齢になったんだ。
 吉澤  もう高校一年生ですから。
 タモリ  高一(笑い)。
 石川  で、みんなで探したんですけど、暗くて……。
 タモリ  見つかんなかったんだ。
 吉澤  ええ。
215 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時51分18秒
 石川  それで、なんかもう泣きそうになっちゃって。
 吉澤  ……うん。
 タモリ  そうかー、加護がなー。
 石川  でもこの前、加護に指輪買ってあげたんですよ。前のと同じような銀色で、文字が彫ってあるやつ。
 タモリ  へえ、買ってあげた。優しいところあるんだ。
 石川  そうですよー(笑い)。
 吉澤  で、残った花火をみんなに配って。
 石川  最後までやりとげました!
 タモリ  よくがんばった。
 吉澤  最後はみんなでロケット花火並べて、いっせいに飛ばしたんですよ。
 石川  あたし、線香花火しか残ってなくて、寂しかったです(笑い)。
 タモリ  あはは。ではいったんCMいきまーす。

(CM)カラフルな衣装を身にまとった少女が数人(全て同一人物)、画面の中からピストルを撃つ振りをする。化粧品の宣伝。「新発Ban!」
 
216 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時52分00秒
 タモリ それでは……。
 吉澤  あー!
 石川  ど、どうしたの、よっすぃ〜?
 吉澤  あの指輪。
 タモリ  指輪がどうした。
 吉澤  加護がなくした指輪、吉澤のとおそろいだったんですよ。その指輪、みんなと花火やった日に買ったんですよ。
 石川  ホント?
 吉澤  ホント。だから、梨華ちゃん、銀色ってのはともかく文字が彫ってあるってこと、どうしてわかったの?
 石川  え……。
 タモリ  あの……。
 吉澤  多分だけど、加護は梨華ちゃんにイタズラ、ほら、ネズミ花火あったじゃん、あのとき落としちゃったんだと思うんだ。
217 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時52分37秒
 タモリ  ちょっと……。
 吉澤  わたしたちの花火、梨華ちゃんがはりきってたんだけどしょぼくなっちゃったのは、花火大会のせいで、その近くでやろうって言い出したのが加護で、だから加護がイジワルしたんだって、梨華ちゃん、思ったんだ。
 石川  ……そんなこと、思ってない。
 吉澤  それで仕返ししたんだ。加護の指輪を拾って、ロケット花火の先にくっつけて、どこかに飛ばしちゃったんだ。そうでしょ?
 石川  ……そんなこと、みんなの前でできると思う?
 タモリ  そろそろ……。
 吉澤  できたよ。最後の打ち上げ花火のとき、何十発も花火が上がって、そのときロケット花火飛ばせば、音なんか聞こえないし、みんな空を見上げてるし。
218 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時53分17秒
 石川  あたし知らない! 指輪なんか知らない!
 吉澤  だってそうとしか思えない!
 石川  だいいち、なんでこんな……。
 吉澤  それは、梨華ちゃんが誘わないから……。
 タモリ  あー、CM、CM。

(CM)どうやら特性トランクが抽選で当たるらしい(ただし発送をもって代えさせていただきます)紅茶のCM。
 
219 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時53分48秒
(石川、吉澤が座っていた席に、ウサギとクマのヌイグルミが置いてある)

 タモリ  えー、ん、時間が来たのでお友達を。

(タモリ、ヌイグルミにマイクを向け、すぐに戻す。アナウンサーから受話器を受け取る)
 
 タモリ  もしもーし、こんちはー。
(電話の声)  もしもしー、タモリさん? ゴトーマキでーす……。 
 
220 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時54分23秒
終わり
221 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時54分59秒
(0^〜^)
222 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月25日(水)21時55分33秒
( ^▽^)
223 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月12日(土)18時48分42秒
深いですね。感動しました。とってつけたようなタイトルだなぁ。と思っていたらこれほどピッタリとはまるタイトルはありませんね。すっげー笑いました。もう最高っす。でもなんでだろう、涙が止まりません……。
224 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月13日(日)00時33分53秒
( ^▽^)<わーいレスがついたー ありがとー
225 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時46分22秒
『語りえぬ事件』
226 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時46分57秒
 まず、状況を説明しなければならない。そう、説明だ。誰がいて、何が起こったのか。すべてを述べることは不可能だ。壁についたシミや蛍光灯の色を話したって、誰も興味を持ってくれないだろう。
 だから、ごく簡潔に、最小限と思われる部分だけをまとめてみる。もし、重要な何かが抜けていたとしても、それはわたしの責任ではない。すべてを語ることはできない。語ることのできないものを語ってはならない。
227 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時47分45秒
 わたしが楽屋に戻ると、普段はやかましいくらいなのに、なんだか静まりかえっていた。いや、もっと正確に述べよう。何人かは小声でささやきあっていた。
「何があったんですか?」
「あ、よっすぃ〜」
 飯田さんが指をさした。なるほど、とわたしはうなずいた。なるべく詳しく。そう、まず、みんなのバッグがひっくり返っていた。チャックが開いていて、中味は全部床に散乱していた。いくつかの腕時計は、ガラスが割れ、針が曲がっていた。化粧品は中身がこぼれ、窓にもかかっていた。机の上には弁当箱があったはずだが、これもやはりひっくり返されている。辻が今にも泣き出しそうだ。
228 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時48分23秒
 それから、ちょっと深刻なのは、わたしたちの私服がボロボロに切り刻まれていたことだ。梨華ちゃんが涼しそうになった服をうらめしそうに手にかけていた。わたしのはいうと、無事だった。甚平とジャージは私服と思われなかったのかもしれない。
 やがてみんなは騒ぎ出した。マネージャーも何事かと飛び込んできた。これこれこういうことですと飯田さんが説明した。その説明は十分だったのかどうか、わたしにはわからない。
 このあとどうなったのか。何もなかった。事務所とテレビ局が簡単な話し合いをして、それで終りになったようだ。それでいいのか、いいわけがない。
229 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時49分06秒
 ということで、モーニング娘。という一団が事件を調査するこになった。することにした。
「あの、すみません」
「なんですか?」
「あの、昨日、ここの通路にいらしたんですよね」
「そうですよ」
「あの、わたしたちモーニング娘。なんですけれど、変な人通りませんでした?」
「変な人?」
「変な人っていうか、あの、怪しい人っていうか」
「見るからに怪しい人ってのは見なかったけど」
「あの、わたしたちの関係者じゃない人とか」
「関係者? うーん、あなたたちに関わりのない人は見なかったと思うよ」
 などと、調べて回ったのだが、それをいちいちこうやって語ることに、どんな意味があるんだろうか。そんな枝葉末節にこだわってどうするのだ。結果がわかってるんだったら、それだけ語ればいいじゃないか。
230 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時49分41秒
 ならば結果だけを語ろう。結果がほしいのだ。結果がすべてだ。そういう世界にいるんじゃないか。
231 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時50分17秒
・楽屋は鍵がかかっていなかった
・通路に関係者以外の人間は通らなかった
・すると犯人は関係者である(推論)
・犯行時間に、玄関の受付を通った人物はいなかった
・つまり犯人は、受付を通らなかった
・その時間、わたしたちはロケで外に出ていた
232 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時51分04秒
「はいはーい」
「なんですか、新垣さん」
「憎むべき犯人の侵入経路がわかりましたー」
 それはいったいどこだということで、みんなでぞろぞろついていった。玄関に入らず、ビルの壁面にそって歩く。
「きっとここです。ここから入ったんです」
 それは小さな窓だった。中は男子トイレだ。
「ここからならすぐ楽屋に行けます。絶対ここですって」
 わたしたちは新垣説を検討した。ここからなら確かに侵入可能だ。これについては反対意見がなかった。そして次の検討事項、警備員の証言だ。これと矛盾しては説は成り立たない。
233 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時51分49秒
「ほら、あたしたちの関係者以外見なかったって言ってたじゃん。こんな窓通れるちっこいのっていたっけ?」
「キッズの誰か?」
 矢口さんは、キッズは皆この局にはいなかったと証言した。
「じゃあ、ムリじゃん、誰もここを通らなかった、そうとしか考えられない」
「なにムキになってるんです、矢口さん?」
「ほんとに通れないかな?」
 辻が窓枠に手をかけて潜り抜けようとした。顔は通っても肩のところでわずかにひっかかって無理だった。
234 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時52分32秒
「でも、これ矢口さんなら通れるよー」
 仮説は実験で証明されなければならない。真っ青になった矢口さんを、数人がかりで持ち上げた。暴れる矢口さんを無理矢理押し込むと、彼女は向こう側にストンと落ちた。
「やったー」
「じゃあ、矢口さんだー」
 犯人はトイレの窓を通った。矢口さんはわたしたちの関係者である。よって矢口さんが犯人である。仮説は実験によって可能であると判断された。他の説であるという証明はされていない。よって仮説は真実である。
235 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時53分10秒
「みんな、お疲れさまー」
「不思議ないことはなにもないんだよねー」
 わたしたちは矢口さんを非難することはしなかった。謎の解明がわたしたちの目的であって、犯人に応報することがそうではない。謎はすっきりと解けた。それでいいじゃないか。今回の事件は事務所とテレビ局が話をつけたのだから、それについてどうこう言える立場ではない。そうモーニング娘。は結論づけた。
 向こう側で矢口さんのうなり声が聞こえてきた。尻を打ったらしい。
236 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時53分55秒
 さて、結論は出たが、それはモーニング娘。の結論であり、わたしのそれではない。わたしはモーニング娘。という団体に所属しているが、その前に一個の人間でもある。わたしの結論は違った。しかし証明不可能なので、あとは本人に聞くしかない。
 その機会はすぐにやってきた。大阪のコンサートのことである。その子は客席にいた。わたしたちのことを、どう言ったらいいのだろう、その、目つきがあれだった。ホセ・メンドーサに対する矢吹ジョーのあれだった。
237 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時54分30秒
 コンサート終了後、さっそくその子を追いかけた。その子は、自分がやったとあっさり白状した。わたしの仮説は正しかった。どんなに荒唐無稽だろうが、正しいものは正しいのだ。
「身長いくつだっけ?」
「145センチ」
「なら、あのトイレの窓通れるね」
「そうだよ。通ったよ」
238 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時55分07秒
 では、次に問題となるのが動機となるのだが、これはなんとなく想像がついた。いわゆる嫉妬のようなもの。わたしたちはモーニング娘。で、彼女はモーニング娘。になれなかった。それで十分だ。
「あたしは一位だったのよ。いちばん多く、たくさん、いっぱい、票をもらったのよ。それなのに、それなのに」
「そうだね。あなたは誰よりもいっぱいいっぱいいーっぱい票をもらったよ」
「じゃあどうして、あたしは」
「そりゃあ、たぶん」
「たぶん?」
239 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時56分09秒
 しまだあゆみ と しばたあゆみ は名前が似すぎてるからじゃないだろうか、との言葉を飲み込んだ。これは反証不可能だ。語ることができないことは、あえて語ってはいけない。
 わたしは彼女を放って立ち去った。
240 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時56分43秒
終り
241 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時57分13秒
...
242 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)00時57分45秒
...
243 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)18時20分26秒
( ´×`)(よっすぃーのオルターナティヴをみたれす。
       それにしてもひきょうなはなしれすね。
       いつかぱくるれす)
244 名前:某コテハン 投稿日:2003年08月16日(土)18時43分07秒
じゃあ从 `,_っ´)はどうなるんだ・・・
245 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月24日(日)13時46分21秒
>>243
(0^〜^)<おるたーなてぃぶ ってなに?

>>244
ホンモノのほうはハロプロじゃないしー
246 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月24日(日)13時47分36秒
『待っている』チャンドラー
『通訳のお仕事』鳥飼玖美子
『なんにも言わずに I LOVE Y 』ジークムント
『怪盗4の逮捕』『囚われの怪盗4』強盗紳士リュパン
『河原にて踊れる娘。たちの話』今昔物語
『リーダーの条件』蝿男の恐怖
『おまえたちが犯人だ』E.A.ポー
『それではお友達を』曾我佳城
247 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:28
『鏡よ鏡』
248 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:28
「鏡よ鏡、この世界で一番かわいいのは誰?」
「はい、それは女王様です」
249 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:29
 鏡には平面鏡、凸面鏡、凹面鏡があります。通常わたしたちが鏡と呼んでいるものは平面鏡のことです。凸面鏡は車のサイドミラー、凹面鏡は発火に使われます。
250 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:29
「鏡よ鏡、この世界で一番かわいいのは誰?」
「はい、それは道重さゆみ姫です」
251 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:30
 鏡の材質には青銅、ガラス、鉄などがあります。鉄鏡を作るには、鉄を火で焼き、叩いて炭素を追い出した鍛鉄を使用します。
252 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:30
『道重さゆみ姫がお城を追放されていたことが、当紙の調べで判明した。公式発表はされていないが、女王陛下の命令によるという事情通の話があるが、当の陛下はこれを否定している。なお、さゆみ姫の消息は不明。(瓦版)』
253 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:30
 サンドペーパー(#240)を取り出し、ざらざらした面を上にして置きます。そのサンドペーパーに水を少しかけます。鏡になる金属の面を下にしてサンドペーパーの上に乗せます。サンドペーパーが動かないように手で押さえながら、金属をこするように動かします。これを200回繰り返します。90度回転させ、また200回こすります。この作業を、サンドペーパーごとに繰り返します。使うサンドペーパーは#400、#600、#800、#1000、#1200、#1500です。最後にバフ盤で研磨仕上げをします。
254 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:31
「で、どういう理由で追い出されたの?」
「それは、さゆがこの世界で一番かわいいからです」
「えー、えりのほうがかわいいよ」
「……じゃあ確かめよう」
255 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:31
 鏡に映った虚像は左右対称(に見える)ですが、上下対象ではありません。どうしてこのように見えるのかについて、移動方法仮説(ピアース)、対称仮説(ピアース)、言語習慣説(ガードナー)、対面スキーマ説(ネイヴォン)、回転仮説(グレゴリー)、光学仮説(ヘイグ)など諸説あります。
256 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:32
「ほら、見て見て、女王様だよ」
「ほんとだ、こんな奥深い森の中に、何しに来たんだろう」
「決まってるじゃないか、さゆみ姫を殺しに来たんだよ」
「三十路がいい年して何やってんだろうね」
「ほら、毒リンゴを食わせようとしてる」
「あ、あれ? さゆみ姫の後ろの二人は?」
「えりとれいなだよ」
「おや、三人で女王を倒しちゃった。若さの勝利だね」
「毒リンゴを口に押し込んでる。あーあ」
257 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:32
 万華鏡は1816年イギリスで発明されました。のぞき穴、本体、オブジェクトで構成されます。本体が2ミラーか3ミラーかで見え方が変化します。4ミラーや台形のものもあります。鏡餅は、餅の形が銅鏡に似ていることからその名がつきました。古来より鏡には神が宿ると言われ、神と対話するために鏡開きが行われます。
258 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:32
「これがその鏡だね」
「ねえねえ、鏡さん、この世界で一番かわいいのはさゆだよね?」
「あたしだよね、えりが一番かわいいよね」
「……れいなは?」
259 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:33
 愛は本来他人に向かうべきものであり、自分自身に愛が向くのは異常で病的な状態であると先生はおっしゃいました。でも、別の先生は、いくら人間が大人になっても愛は自分に向けられるともおっしゃっています。自分に向けられる愛は、ナルシズムでは足りません。他人に自分を愛してもらいたいと思う傾向は誰にでもあるのです。だから人はそれを他人にアピールします。「もっと自分を愛して」「あの人より私のほうがかわいいでしょう」と。
260 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:33
「親方、注文きましたー」
「おう、どんなタイプのだ」
「えー、お城に納めたのと同じのを14個です」
「しょうがねえなあ、ま、商売だからしょうがねえか……」
261 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 16:34
おわり
262 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:56
『ラスト・ミステリー』
263 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:57
 私、中澤裕子は、その日滋賀県の守山市にいました。
 モーニング娘。が、さくら組とおとめ組に分かれて初めてのコンサートが今日あったのです。ここ守山市民ホールでは、おとめ組の面々が集まっていました。
 ほんとうは、なっちや矢口のいる岐阜のほうに行きたかったのですが、おとめ組のことで気にかかることがあったのです。
264 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:57
 私は午後三時ぎりぎりにホールに入りました。ステージの袖に入れてもらい、そこからみんなの様子をうかがいました。みんな、立派に歌とダンスを披露しています。
「これなら、来る必要はなかったかも……」
 気にかかるというのは、大阪と東京で開かれたスポーツフェスティバルでのことでした。ここでも二チームに分かれて競技を争ったのですが、さくら組とおとめ組に分かれていたわけではありません。
265 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:57
 ただ、おとめ組のメンバーがただならぬ空気をかもし出しているように、私には思えました。騎馬戦をめぐって石川と藤本が執拗に抗議を繰り返しました。そのときは、私とかおりで二人をなだめることができたのですが。
 大阪では辻がケガをしてしまったこともあり、私たちのブルーハローが惨敗を喫したことで、チームの雰囲気は最悪でした。東京では勝利したのですが、先ほどの騎馬戦のごたごたで、水をさされる結果となってしまいました。
266 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:57
 それも杞憂に終わりそうです。コンサートも無事に終り、私は時間を置いてから、控え室に向かいました。ほんの少しだけ顔を見せるつもりでしたから。
 部屋をそっと開くと、中には誰もいませんでした。もうみんなはホールを出て行ってしまったのかもしれません。
「ちょっと来るのが遅かったのかな……」
267 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:58
 ところが、様子がちょっと変でした。長テーブルは列を乱していて、椅子もいくつかは床に倒れていました。奥を見ると、かおりの大きなバッグの口が開いていて、中の物が飛び出していました。
 何事があったのかと、二、三歩踏み出すと、うつぶせになって倒れている女性が目に入ってきました。抱き起こすと、それはかおりでした。頭から血を流しています。慌てて心臓に耳をあてましたが、鼓動は聞こえてきませんでした。
268 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:58
 ホールの人を呼ぼうと立ち上がったところ、かおりの右手に何かが握られていました。やっとのことでかおりの指からその紙を取りました。その本は、かおりの愛読書のページだったようです。近くにその本が開いたまま、落ちていました。
「この本に何が……」
 私は読書などという趣味はたしなんではいませんでしたが、文字くらいは読むことが出来ます。破かれていたのは、最後のページでした。
 私はその紙を握りしめながら、ホールの玄関へと向かう薄暗い通路を歩きました。いろいろな思いが交錯しました。もう少し早く来ていれば、誰がかおりをこんな目に合わせたのか、……。
269 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:58
 ふと、私は立ち止まり、紙を広げました。もしかしたら、この紙に犯人の名前を示すものがあるのかもしれない、かおりはそれを誰かに伝えたかったかもしれない、そんな気がしたからです。
 そして、私はようやくそれが何かわかりました。すべてはこのページに、美しい活字で記してあったのです。それは……。
270 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:58
〜 FIN 〜
271 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:59
川VvV从<まーた
272 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:59
( ^▽^)<パクリ
273 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 20:59
( ´D`)<なのれす
274 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/27(木) 10:05
東野圭吾?
275 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 23:59
アントニー・バークリー
276 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/30(日) 18:33
バウチャーだったか
277 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/10(火) 23:21
このスレもおしまい
278 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/12(金) 20:07
( ´ Д `)<もったいないポ

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