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青春アドベンチャー
- 1 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時33分31秒
- 短編で終わる話しを、いくつかポンポンと書いていきます。
テーマはこのスレッドタイトルみたく青春です。
AMラジオドラマのノリが出せればいいなと思います。
感想などあると、とても励みになります、よろしくです。
- 2 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時34分02秒
- 「いてて…」
腕にしびれを感じて、僕は起きた。
机に突っ伏したまま寝てたせいか腕がしびれてしまった。
起きたはいいが、よだれがちょっと出てて少し恥ずかしい、あわてて制服の袖でごまかすように拭く。
黒板を見ると、わりと授業は進んでいた。
6時間目、ああ、もう6時間目か…。
最近、どうも寝てばかりのような気がする、寝て、弁当食べて、寝て。
まるで学校に飼い殺されてるかのようじゃないか。
いかん、いかんなあ、実にいかん。と、また寝る。
さっき寝てた時と同じように机に突っ伏す。
夕焼けが頬に注ぐ、ああ、青春って、なんて気持ちいいものなんだ…。
「いてて…」
あれ、同じ展開? 時間がさかのぼったか?
ハッと起きると、教室は誰もいない。そういやさっき6時間目だったもんな。
腕はまたしびれてて、イライラの相乗効果、チクショ誰か起こしてくれればいいのに。
- 3 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時34分33秒
- 腕のしびれも取れぬまま、僕は部室へと走った。
部室では部員が数人、誰かアイドルかなんかの写真集をまわし見している
やる気のないテニス部の部室。僕はこの部室の空気が大好きだ、どんな大草原よりも、どんな空気清浄器の近くよりも
ここでする深呼吸のほうが美味いに決まっている。
「おう、おっせーぞ」 「おまえ寝てただろー」
一様に茶化してくる部員、まあクラスメートだが、こんなやつらは部員A,Bでいいだろう。
着替えながら「うるせーな」と適当な返事、いてて、腕がしびれてて、うまく着替えられない。
やる気のない部員A、Bは置いておいて、僕はやる気のあるテニス部員だ。
僕はセンターコートへ行くぞ! ウインブルドンにだって出てやる!
の顔で部室をサヨナラし、コートへ向かった。
コートではまたもやる気のない部員C、D、E、F、G、H… 10人くらいが僕の部室でのさっきの返事と同じくらい適当に練習している。
こりゃウインブルドンは無いな。
はあ、そもそもソフトテニス、いわゆる軟式テニスでウインブルドンなんて出れねーんだよ。
もうちょっと勉強しとくんだったな、硬式テニス部の存在を知ったのも入部後だしなあ…。
- 4 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時36分00秒
- 「そーれ」 「あーい」 「うぇーい」
やる気のない部員C、D、E、Fあたりがラリーを演じている
しかしポコーンポコーンってなんだこのラリー音は、これはテニスとは言えないな
「あーい」 「あ、今のアウト、アウト」 「えー 入ったってー」
審判もいないもんなあ。ああ、しかし、いい空気だなぁ…。
「ポコーン」
いてっ、軟式テニスのソフトなボールが頭に当たった。
けっこうなスピードで当たったけど、まったく痛くない。ホント、ソフトテニスやってて良かった。
「ごめーん! ごめんね! だいじょうぶ?」
「あ… だいじょうぶだよ」
「えっへへ、ごめん、ごめん」
- 5 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時36分41秒
- ……。
いま僕にボールを当て、僕にあやまり、僕に照れ笑いを見せ、帰っていったのは女子ソフトテニス部キャプテンの辻希美だ。
まったく、キャプテンが打ち損じなんて、しかも男子コートと女子コートは、けっこう距離あるってのに。
僕は辻希美が好きだ。
実は今のは辻希美が僕に起こしてくれた初めてのアクションだった。
初めてのアクションが「ボールを頭に当てる」だなんて、ツラすぎる…。
しかも、そのボールが当たった感触も僕の頭から消えようとしている。
ああ、なんてことだ!青春の証が消えていく!いっそケガでもしてりゃ青春はもっと長持ちしたのに!
ああ、これほどソフトテニスを呪ったことはない、神よ…、なぜボールを柔らかくしたのか…。
ああ…。
- 6 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時37分15秒
- 結局、そのことが頭から離れず、離れていったのはボールが当たった頭の痛みと腕のしびれだけで、
今日の練習時間は終わった。
はあ、ため息。
部室に戻ると部員A、Bは (もうABブラザーズでいいや、こいつらは)まだ写真集を読んでいた。
「ね〜え、おいおい、やっぱビキニはたまんね〜よなぁ」 「ああ、まったくだ、ウッヒーヒッヒッヒ」
えげつない。どんなセクシーなビキニよりも、キュートな辻希美のテニスウェア姿の方が何万倍、素っ晴らしいことか。
このABブラザーズには永遠に分からないんだろうな。
はあ、ため息。
僕は部室に置いてある、誰かが持ってきた汚いベンチに座り、うとうとした。
つまり寝てしまったんだ。
- 7 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時37分46秒
- 「いてて…」
起きると、腕のしびれ復活。まったく!僕はどういう体制で寝ていたんだ!
青春ってのは、どこでも寝られるんだな、不思議なもんだ。
誰もいない。 腕のしびれしつこく、イライラの相乗効果、チクショ誰か起こしてくれればいいのに。
ん… なんだ?デジャブか。青春は環状線なんだな、きっと。
しびれをガマンし、5秒で制服に着替え、部室を出て、カギをしめ、カギをいつもの隠し場所に隠し、うんぬんかんぬん。
いざ、帰るぞ!の段で部室を出て、ふと前を見ると辻希美。
- 8 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時38分17秒
- ドキっとした、悪魔がささやく
「話しかけちゃえよ、辻希美だって人の子、すぐにいろんなことさせてくれるぜ」
天使もささやく
「いけません、みだらなことを考えてはいけません、辻希美さんは、きっと純粋な子よ」
悪魔−天使=話しかけるのはアリ。
だけど話しかけるったて… 僕は一度たりとも辻希美と話したことはないぞ。
ああ!でも、けっこう早いペースで歩いてるぞ辻希美! 僕と辻希美は帰る方向が違うから(調べ済み)
校門も別だぞ、辻希美が校門を出てしまったらそこでゲームオーバーだ、だって僕は逆方向なんだから、
校門を出てもなお、尾けていくなんて、そんな不自然なことできないぞ!
- 9 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時38分52秒
- ああ!だから、辻希美が校門を出るまでに話しかけ、かつ校門を出るまでに話しかけた話しも終わらせて、
かつ辻希美に僕の印象に残さなければいけない。全てはあの校門までだ!
ああ!お尻がムズがゆくなってきた、まあいい、もお話しちゃお、話しかけちゃお!
「あ、あのさ!」
「えー?」
これが初会話、辻希美の僕の問いかけに対するリアクションは「えー?」だった、なんてかわいいんだ。
もう心臓から口が飛び出そうだ、いや口から、なにが出るんだっけ? もういろんなものが飛び出そうだ。
そこまでは良かったが… ダメだ、話題が無い、次につなげなければ、ああ、どうしよう、ああ、お尻がかゆい。
テニス、そうだ!テニスの話題!なんかないか、なんかないか、なんかないか…
「あ、あのさ!」
「なに?」
「ウ、ウインブルドンとか出たくない…?」
- 10 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時39分23秒
- なんだ、なんだ、なんだってんだ、なぜウインブルドン!
だから、ソフトテニス部だって言ってんだろーが!
ああ!しかし時すでに遅し、万事休す、もうその言葉は発されてる、ああ、取り消しがきかない!
「ウインブルドンって…」
「う…うん」
「なーに?」
「なーに?」かぁ… なんだろうウインブルドンって、僕も細かくは知らないぞ。
なんて説明すりゃいいんだ、テニスの大会でとか…
「分かった!」
「え…え?!」
「ウインブル・ドンだぁー!」
「…え?」
「だから、ウインブル・丼でしょー?」
「あ…ああ、そうそう」
「へぇー、それっておいしいの?」
「う…うん、おいしいよ、とっても… おいしんだ」
- 11 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時39分58秒
- ウインブルドンはおいしいんだ、そうなんだ、そうだったんだ…。
ああ…ダメだ、失敗だ、ミステイクだ。
ああ!頭をかきむしりたい! 頭…?そうださっき頭に!
「ねえねえ!さっき練習中にさ、誰かの頭にボール当てたでしょ?!」
「えー? 当てたかな… あー そうだ当てたー!」
「あれあれさ!僕だよ僕!」
「あー!そうなんだあ! ごめんね!ケガしてない?」
「あは… だいじょうぶだよ、してないよ」
「そっかー!よかったよかった!」
……ダメだ、尽き果てた、枯れ果てた。なにがって、話題が。
ダメだ、次はなにを言えばいいんだ、ダメだ、ダメだ、ああ、校門は目の前だ、お尻がかゆくて、ああ、ダメだ。
ああ、どうすればいいんだ、ああ、ああ…!
- 12 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時40分32秒
- 「ああー あのさ!」
「なに?」
「あ…あのさ」
「……?」
「か…かわいいね、キミ…」
「えー?なにいってんのー? もおやだー!」
「いて!」
辻希美はテニスのスイングをするかのように、僕の腕をバシっと思い切り叩き、照れ笑いをしながら校門を出ていった。
ああ…、いっちゃったな…。
しかし、かわいいね、は無かったなあ…、でも印象には残った、かなあ…。
ああ、恥ずかしい!なにがかわいいねだよ、チクショー!
- 13 名前:aiueo 投稿日:2003年03月26日(水)06時41分09秒
- だけど腕の痛み、この痛みだけは本物だぞ、これが青春の証だ!
と、辻希美に腕を叩かれた箇所をさすってみると、まだ腕のしびれが残っていた。
なんだこれ?! 部室で寝てた時のしびれがまだ残ってるのかぁ?!
なんだよ!しびれが邪魔して、これじゃ痛みが鮮明に残らないじゃないか!
チクショー!僕の青春の証があ!
腕がしびれてやがる、そうだ、僕は辻希美にしびれているんだ。
チクショー!好きだ!好きなんだよ辻希美!
ぜったい、ぜったい一緒にウインブル・丼を食べてやるんだ!
それが僕の青春だ!辻希美好きだ!
<第一話 おしまい>
- 14 名前:名無し 投稿日:2003年03月26日(水)18時51分22秒
- おもしろーい。
がんっばって下さい。
久しぶりに読みやすい男×娘。を読みました。
- 15 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)04時57分17秒
- 「だけど先生の髪の色って本当キレイだよねえ」
放課後、ここに来るのが俺の日課のようになっていた
「あー…、ありがと、でも、いっつもそればっかね」
そりゃそうだ、俺は毎日ここに来て中澤先生の髪ばかり見てるんだから。
- 16 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)04時57分59秒
- 「ねえねえ、前から聞きたかったんだけど、先生は何で髪を染めてるの?」
「染めてるっていうか、色を抜いてるんだけどね」
「ああ、そっかそっかブリーチしてんだ、ブリーチ剤とか、なに使ってるの?」
「そおねえ」
先生は組んだ足をゆらゆら動かし、
「昔はオキシドールとか使ってたけどね」
薬棚を指差し、小さくつぶやいた。
「オキシドール?」
「オキシドールって、もちろん消毒なんかに使うものなんだけど―――」
- 17 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)04時59分19秒
- 「先生、持ってきましたー」
言葉を割るように梨華が入ってきた。
「なに、アンタ? またこんなところで油売ってたの?」
「うるさいなー、いいじゃねーかよ、オマエこそ何しにきたんだよ」
「アンタには関係ないでしょ」
小憎たらしげに、俺を突き放した梨華は、中澤先生になにやら紙を渡した。
「なになに?なんの紙、それ?テスト?」
紙を取ろうと、手を伸ばすと、梨華は俺の手をバシっと叩き
「ちょっと!アンタには関係ないでしょー!」
と、また憎らしく俺を突き放した。
紙に、なにかのアンケート?のようなことが書かれているのが一瞬見えた。
「なんだよ、見せてくれたっていいじゃねえかー」
「ハイハイ、私の前でイチャイチャしないの」
イチャイチャ。別にイチャイチャしたおぼえは無い、独り身が長い中澤先生の目にはそう映ったのかもしれないけど。
- 18 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時00分02秒
- 「な、なんでこんなヤツと!」
梨華が声を震わす、そんなに強く言わなくたって、俺だって同じ気持ちだ。
「いいから、子供はもう帰りなさい、大人にはまだ仕事があるんです」
先生は俺と梨華の背中をグイグイと押して、保健室から俺達を追い出した。
「なーんだつまんねーの」
結局今日も、てい良く追い出されたな、ああ、もっと長く先生の髪を見ていたかった。
さあ、じゃ帰ろうかなと、背伸びをし、下駄箱へと歩き始めた俺と共に、梨華も下駄箱へと歩き始めた。
- 19 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時00分39秒
- 梨華といっしょに帰るのは、よく考えてみりゃ久しぶりだ。
帰り道、俺は中澤先生の髪の毛の色を、また思い出していた。
「だけど、ホンットにさ中澤先生の髪の色、キレイだと思わねえ?」
「…うん、キレイだよね」
少し変な間を空け、忘れていた言葉を見つけ出したかのように梨華が、そう言った。
「…でもさアンタ、いつもそればっかりじゃん」
「そりゃ、そうだよー、だってそのことばっか考えてんだもん、俺」
こう話している間にも、またあの髪の色のことへの想いが、寄せては返す波のように俺の心に再来した。
「あれはさ、なんつーかミルクティーみたいな色というかさ、キレイだよなあ」
「バッカじゃないの」
ミルクティーという単語に対し、含み笑いの梨華。
「なんかさ、先生、髪の色抜くのに、オキシドールっての使ってるんだって」
「オキシドール?なにそれ?」
「なんか本当は消毒?かなんかに使うやつなんだってさ」
「…ふーん」
梨華は少しだけ視線を前に戻した。
- 20 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時01分12秒
- 「だけどさ、それに比べオマエの髪の色、なんかさ、いかにも茶髪って感じだよな」
「ちょっと、なによそれ」
「なーんか梨華の髪はさ、中澤先生と比べて、汚いというか、ひと昔前の茶髪って感じで…」
「うるさいな!ほっといてよ!誰もアンタなんかに見てもらおうとやってるわけじゃないわよ!」
梨華は突然怒ったように怒鳴り…、怒っていたのだろうけど、その勢いのまま早歩きで俺の遥か前方へ行ってしまった。
「…なんだよ」
- 21 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時01分45秒
- 梨華と俺は、気が付けば小さい頃からいっしょにいる。いわゆる幼なじみで。
だけど、ケンカをしたなんて数えるほど、ケンカをするほど仲が良い、だからそんなに仲は良くないと、そう思っている。
だから、さっきみたいに突然、怒鳴るなんて、そんなことは今までには無かったことだ。
寝耳に水のようなことをされると、人間はただそこに立ち尽くしてしまうものだったんだ…。
俺は梨華に怒鳴られた場所で呆然としばらく、そのまま立っていた。
- 22 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時02分46秒
- あれから、梨華とは特に何もないいまま、幾日かが過ぎた。
俺は相変わらず中澤先生の髪の色のことを考えていた。
そんなんだから、勉強にも身が入らず、今日も補習とか宿題とかの話しで職員室に呼び出されていた。
職員室にて歴史の教師にあれこれ言われる。まったく、俺は地球や日本の歴史には興味がないんだ。
今、中澤先生の髪の毛の色がキレイなら、それでいい…。
と、そこまで思ったところで、職員室に梨華がいるのが見えた。
なにか怒られているようだ、怒っているのは…、担任の教師だろうか?
俺は歴史の話しを半分に聞き流しつつ、梨華がどうして怒られているのかが気になっていた。
なにか「かみ」という言葉だけが時々聞こえてくる。かみ…?
- 23 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時04分01秒
- 歴史の教師からのあれこれが終わり、俺は宿題のプリントを手に持ち、廊下で梨華を待った。
ガラっと引き戸が開き、梨華が職員室から出てきた。
「あ…」
「よう、オマエが職員室に来るなんてめずらしいんじゃないか?なんか怒られてただろ?」
「…別にいいじゃん」
梨華はバツが悪いのをごまかすように、自分の髪を2、3度撫でた。
かみ…、そうか「かみ」って「髪」のことか、こないだの頭髪検査にでも引っかかったんだろうか。
「用が無いならもう行くけど…」
梨華の髪をよく見ると、どこか、前に会ったときよりも、色がかなり赤みがかっているような気がする。
それよりなにより、明らかに髪があちこちにはねていて、パサパサな髪になっている。
思っている間に梨華は、俺をさえぎり、廊下を歩き出していた。
梨華の髪を見ているうちに、俺は中澤先生の髪が気になってきていた。
中澤先生も梨華のようにパサパサの髪になってはいないだろうか?
- 24 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時05分01秒
- その足で保健室に向かい、中に入ると中澤先生がふぅー、と鼻でため息をし、
「あなた、石川さんに何を言ったの?」
と聞いてきた。
「俺?なにも言ってないけど…」
「石川さんね、髪の毛の色がずいぶん明るくなったの、もちろん頭髪検査で注意されたんだけど」
ああ、やっぱりそうだったのか
「私が見たときにはね、彼女の髪、そうとう痛んでいたわ、私がどうしてこんなに痛むまで髪をいじったの?って聞くとね」
中澤先生はメガネを外し、俺に向かい姿勢を正した。
「彼女、オキシドールを使って髪の毛の色を抜いたって、そう言うの」
オキシドール…。この間、梨華が俺に怒鳴った時のことが頭をよぎる。
「アナタ、彼女に変な入れ知恵したでしょ、私がオキシドールを使って髪を脱色してたのなんて、昔のことよ」
先生の顔はとても真剣だった。
「その話しが、こないだは途中で終わっちゃったのは悪かったけど、オキシドールなんか使ったら髪も痛むし、ロクなことがないんだから」
…そうだったのか、俺はてっきり今でも中澤先生はオキシドールを使ってるもんだとばかり思っていた。
- 25 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時05分54秒
- 「実はね…、こないだ、女子生徒にアンケートをとったの、まあどんな生活を送ってるかとか、悩みはないかとか、そういう内容なんだけど」
この間、梨華が中澤先生に渡してた紙はそれだったのか…。
「石川さん、髪のことでちょっと悩んでたみたいね、キレイな色になりたいとか…そんなことが書いてあったわ」
中澤先生は俺の表情の変化を見逃さずに言葉を続けた。
「もし、アナタが石川さんになにか軽はずみなことを言ってたとしたら、きちんと彼女に謝りなさいよ」
その言葉を聞き、俺はものすごく恥ずかしい気持ちに包まれていた。
梨華と今すぐ話しがしたい、なぜだろう、そういうふうに思った。
それから、また幾日、俺は梨華に会えずじまいでいた。
- 26 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時07分11秒
- そんな、ある日曜日、コンビニで本を立ち読みしている梨華を見かけた。
俺は自転車でコンビニの前を通りすぎただけだったし、中にいる梨華の姿は、はっきりと見えなかったが、
梨華の髪が黒くなっていた、ように見えた。
ますます、気まずさだけが僕の頭でふくれ上がる。家につき、夜になり、僕は布団にもぐりこんだ。
日曜日の夜はたいてい嫌な気分だが、こんなにも嫌な気分の日曜の夜は初めてだった。
- 27 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時08分07秒
- 月曜日、そういう時にかぎって、廊下でばったり梨華に会う。
「…あ」
梨華は、また俺を押しのけ廊下を歩き出そうとした。
「待って」
「…なによ」
「……髪、黒くしたんだな」
「そうよ…、だからなによ」
いつものような、そっけない梨華。いつものような、そっけない言葉。
それを聞いて、なぜだかわからないが、涙がたくさん出てきた。
「ちょ、ちょっと、なに泣いてんのよアンタ」
わからない、わからないけど、梨華の両腕をギュっと握りしめ、うつむき、泣いた。
俺は梨華の顔を見ることができなくなり、そのまま廊下で泣き崩れた。
頭に、なにかのぬくもりを感じた。
うつむき泣いてた俺を、梨華はそっと撫でてくれた。
俺の黒い髪の頭を、梨華はずっとずっと撫でつづけてくれた。
<第2話 おしまい>
- 28 名前:aiueo2 投稿日:2003年03月27日(木)05時12分10秒
- >>14
すごく嬉しいです、ありがとうございます。
読みやすいって言っていただけるのは本当、嬉しいですね。
これからもベタベタなノリを目指して頑張ります。
- 29 名前:名無し 投稿日:2003年03月27日(木)23時16分46秒
- これは1話完結の話なんですかね?
どっちにしても辻しか出てこないと思っていたので他の人が出てきて嬉しかったです。
そして前回とは形の違った甘酸っぱさが目にしみました。
もうドツボにはまっています。これからも頑張ってください。
- 30 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時24分42秒
- ――――――――――――――――
第三話
――――――――――――――――
- 31 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時25分33秒
- オス! 自分は極東高校2年8組 粉川 巧と申す者であります。
自分のモットーは、青春を謳歌することででありまして。
青春を謳歌するために自分は柔道に命を捧げております!
- 32 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時26分03秒
- 「オホッ!オホッ!」
これはゴリラの鳴き声ではありません、自分のノドにゴハンをつまらせて、むせた音でございまして。
こういう時はお茶をすするのが効果的であります。
そうです、今日も朝練終えて、教室で早弁をしているところであります。
やはり、1時間目の始まる前の日の丸弁当というものはウマイものでありまして。
飯、梅干、お茶、この3つをバランス良く、三点食いする。これが肝要であります。
まさに三すくみと申しますか、やはり柔道の世界もバランスが大事なんでございまして。
と、とにかく何をするにしても柔道抜きでは考えられないのであります!
- 33 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時26分33秒
- お茶をすすり、プハァーと深い息をします。水の中で息止めしてた気持ちでございます。
プハァー、という声が大きかったせいか教室中の生徒がこちらをにらみます。
少し大胆が過ぎたんであったのでしょうか。
しかし、自分の早弁はクラスメートの公認の事実なのでございまして、
これぞ男子校の特権と申しましょうか、柔道に命を捧げる自分にとって、ものすごく恵まれた環境なのであります。
ですが、さきほどのプハァーの声にはクラスメートも怪訝そうであります。
親しき仲にも礼儀でありますね、オス!
- 34 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時28分00秒
- 「…というわけで今日から、みんなのクラスメートになる転校生を紹介するぞー」
おっと、早弁している間にあさのホームルームが始まったようであります。
担任の教師がなにやら、アナウンスをしております。
朝のホームルームが始まれば自分の中のエンジンも、いよいよ回転してくる気持ちになるものです。
「おーい、入ってこい」
「…ちぃーす」
「こちら、今日からこのクラスの仲間になる…」
「ちぃーす、吉澤ひとみ、よろしく」
- 35 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時30分09秒
- 晴天の霹靂でございます…いや、逆です、霹靂から晴天ででございますか…
とにかく、なぜ男子校に女生徒がいるのでございましょうか……。
と、と、とにかく不思議な光景でありまして…。
先ほども言いましたが曇り空に光が差し込んで来たような、
自分が小学生の頃に図工の教科書か何かで見た「ヴィーナスの誕生」の絵がまさに、目の前にありまして…。
しかし、もっと不思議なのは、なぜ女生徒が学ランを着ているのか、という疑問点もございますが…。
「じゃあー、そうだな、吉澤には粉川の隣にでもとりあえず座ってもらおう」
担任の教師が、あそこと席を指差します。ヴィ、ヴィーナスが自分の隣の席に来ます…。
「俺、吉澤、よろしく」
こ、これは自分への自己紹介ではなく自分のはす向かいの席にいる生徒への挨拶でございまして、
と、と、ということはこちらにも挨拶をするのでありましょうか…。
- 36 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時31分10秒
- 「ども、俺、吉澤、よろしく」
…来ました、挨拶でございます。
な、な、なんと答えればよいのか、先ほど飯をノドにつまらせたみたいに、言葉が出て来ないのであります。
「あ、あ…」
あ、あ…、であります。
「自分は…、その…、粉川という者であります」
自分がそう言うと、視線を黒板に戻してしまったようで、
なぜ、なぜ、自分はこんなにも緊張しているのでしょうか…、何に、何に対して緊張してるのでありましょうか…。
心の中で考える言葉もシドロモドロになってしまいまして…。
考えているうちに1時間目が始まったようですが、自分は、自分は…
- 37 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時32分22秒
- 「おい、オマエなんで、ずっとこっち見てんだよ」
ええ!? 自分は…。 黒板を見るとかなりチョークで書いた文字で埋まっているようでして、
いつの間に授業はこんなにも進んだのでありましょうか。
「い、いや…,自分は」
「それに、顔中にゴハンつぶついてんぞ、早弁してんのか? それに弁当箱落としてるぞ」
ここで我に返りました、自分はヴィーナスの誕生の瞬間に弁当箱を床に落としてしまい、
弁当箱を持っているつもりの姿勢のまま硬直していたようであります。
これはサスガにおかしな光景でありまして。
- 38 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時33分45秒
- 「あ、あ、いや、なんでも!」
急いで、弁当箱を拾う自分、この姿はなんとも無様であります。
「キ、キミは吉澤クンとか、言いましたか!?」
床に散った飯はとりつくしまもないくらいになってまして、それをかき集める姿は、まるで甲子園の土を泣きながら集める、球児とでもいいましょうか。
「キ、キミは、いや、変なことを聞きますが、あの、女子でありますか…」
「…は?」
「あ! いや、あの、女子ではありませんか…?」
「俺が? …オマエなめてんのか?」
「いえ、いえ!そんな!」
どうやら、吉澤クンを怒らせてしまったようで…。
声は静かでなんですが、顔を見ると相当に怒っているように見受けられます…。
怒った顔も女子そのものなのですが…。
吉澤クンは、また視線を黒板に戻してしまいました。
- 39 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時35分11秒
- 自分も、その姿勢のまま再び硬直し、時間は雲のように流れ、部活の時間になってしまいました。
練習前のストレッチ体操、体がいつになく重く、体長不良でございます。
授業中はいつも寝ると決めており、今日は結局一睡も出来ずじまいでして…。
「ちぃーす」
「ああ!」
なぜでしょうか…、なぜ吉澤クンがここに…。
「紹介しよう、今日、我が極東高校に転校し、そして柔道部に入部することになった吉澤ひとみ君だ」
「ちぃーっす」
よ、吉澤クンが柔道部に…
じゅ、柔道部にヴィーナスの誕生であります…。
- 40 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時36分28秒
- 柔道着姿の吉澤クンは…、黒帯をしているであります。うぅーむ、なかなかのやり手であります。
そして、練習は進み、寝技の練習になり、そこで、そこで…
「お、なんだ、俺の隣の弁当ヤローか」
よ、吉澤クンが自分のお相手を…、することになってしまいました。
「粉… 粉川であります」
「なんだ、オマエも黒帯か、ま、頼むぜ」
吉澤クンと背中合わせになり、畳の上に座ると、
吉澤クンの上気している肌の感触がこちらにも伝わってくるようであります…。
- 41 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時37分29秒
- 「始め!」
合図と共にお互い寝技に持ちこもうとするのですが、なにせ力が入らないもので…、
「なんだ? 寝技を返す練習がしたいのか?」
い、いえ…そういうわけでは、と思っている間に、吉澤クン横四方固めがグイグイと自分をしめつけてきます。
じ、自分はあらゆる相手と寝技の攻防というものを演じてきましたが…、こんなにも柔肌の人物は初めてであります…。
吉澤クンはホントに男子なのでありましょうか…。
「ほら、ほら、どうした返してみろよ」
吉澤クンの腕が自分の襟元と股ぐらにガッチリと食い込んでおります…
特に股ぐらに、もぐりこんだ腕が危険であります。
- 42 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時38分53秒
- 「ほら、ほら、もう返せねえだろ」
吉澤クンの息が僕にかかってきます。
なんと、かぐわしき息のニオイなのでしょうか…、それに吉澤クンの髪の香り…、なんて良いニオイなのでしょうか…。
このニオイはどうすれば出せるのでしょうか…、吉澤クンは本当に…、男子なのでしょうか…。
「さあ、返してみろよ」
吉澤クンの胸がたまに自分に当たるのですが…、この感触は確実に男子のソレと同じものだと思うのですが…、しかし、しかし……。
「うおおぉぉぉー!」
不純にも思える自分の考えを悔いるように自分は吉澤クンの横四方を力任せに返し…、
とは言っても体重差はかなりあるのですが…。
- 43 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時39分48秒
- 「おっと、さすが黒帯、なかなかやるじゃねえか」
畳にヒザをつきながら、再び寝技へ持ち込もうとする吉澤クン、組み合い胸を見ると…、しっかりと筋肉がついております。
間違い無い、吉澤クンは男子だ。自分は確信しました。ただ、限りなく柔らかい肌ではありますが。
「ええいや!ウオッホ!」
自分は体重の軽い吉沢クンを力任せに畳に倒し、寝技へ持ち込もうと試みました。
しかし、畳に横になっている吉澤クンを見ると、まるで自分がなにかいけないことをしようとしているみたいでありまして…。
イカン、自分は何を考えているのでありましょうか。
「ウゥーホッ!」
自分は、そのやましい心を振り払おうと吉澤クンに縦四方固めをかけたのであります。
- 44 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時41分13秒
- しかし、縦四方固めとは、ある意味実に危険な技でありまして…。
「クソッ! 重てぇヤローだな!」
自分は吉澤クンに対し、縦で乗ると、さすがの吉澤クンも、自分の体重は返せないようでありまして。
「クソッ!」
畳に自分の身をこすりつけるように、寝技を振りほどこうとする吉澤クン、
吉澤クンが身をよじればよじるほど、やましい心がまたよみがえってまいります。
「クソ!もういい、どけよ! もう60秒たったろ!」
自分は…、自分は……、吉澤クン、自分は…。
「ウホォ! うわあーーー!!」
頭の中をグチャグチャに落書きされたような気持ちになりまして、思わず武道場の外へ飛び出してしまいました…。
その足で水飲み場で頭を冷やすことにしました…。じゅっと蒸気が上がるほどであります。
- 45 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時42分30秒
- 武道場に戻ると、誰もおらず、本日の練習は終わっているようでありました。
きょ、今日という日はなんだったのでありましょうか…。
自分も、もう帰ろうと、着替えるために更衣室へと入ったのですが。
「なんでしょうか、このニオイ…」
またも、いいニオイが、クサイはずの更衣室に充満しております。
「もしや…」
幽霊部員のもので使われていなかったロッカーをガバっと開けてみると、そこには吉澤クンの柔道着らしいものが入っておりまして。
自分は…、好きな女の子のリコーダーをしゃぶる輩というのが大嫌いでありまして、なんというか。
なんと女々しい行為なんだと思っていたのであります。
- 46 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時43分07秒
- もう過去形であります…、自分は吉澤クンの柔道着を手に取り、ニオイを嗅ぎ狂いました…。
大変お恥ずかしい話しではありますが…、大変良いニオイでもありまして…。
自分はホントに情けない動物であります、これが若気の至りというものでありましょうか…。
その日の帰り道に買い食いしたベーグルサンドの味がなんともマズくて…。
自分はなんということをしてしまったのでしょうか…、これから自分は一生重い十字架を背負って生きていくことになるのでしょうか……。
- 47 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時44分36秒
- あくる日、自分は退部届を提出しました。
自分は、もう清い心で柔道に打ち込むことができなくなってしまいました…。
吉澤クン…自分は最後まで男子でありたい…、吉澤クンも男子でありますよね…。
「なぜ、やめるんだ」
顧問教師の声も、ただ、空を回るだけであります。
職員室から教室へ向かう足が、とてもとても重く感じられました…。
- 48 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時45分28秒
- 教室へと戻ると、吉沢クンが午前の休み時間にも関わらず、
ベーグルを食べておりました。
あの、息の良いニオイはベーグルからなるものでありましたか…。
自分もよく食しているのに、なぜでしょうか。
吉澤クンと目が合う、「おう」と声をかけられ、
「オマエも食うか?」と吉澤クンは食べかけのベーグルを差し出してきました。
- 49 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時46分15秒
- 吉澤クンの歯形がクッキリついたベーグルを一口食べると…、とても甘い味が口の中に広がるようでした…。
つい、そのベーグルを一気に、ほおばってしまいました。
「あー!テメーなにしてんだよー!」
吉澤クン、怒ってください。吉澤クン、怒ってください。
自分はどうしようもない動物なのであります。
<第三話・一部完>
- 50 名前:aiueo3 投稿日:2003年03月31日(月)03時49分12秒
- >>29
感想、ありがとうございます!
そうです、色んな人を出していこうと思っております。
一話完結の時もあれば、そうでもない時もありまして…。あいまいでゴメンナサイ。
- 51 名前:名無し 投稿日:2003年03月31日(月)17時42分29秒
- 爆笑!!
AMラジオドラマのノリが出ていると思います。
聞いたこと無いけど(w
- 52 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月06日(日)22時24分39秒
- 確かに男×娘なのに読みやすい。なんか作者さんのヲタ心が伝わってくるようで
親近感を持ってしまいます。しかし吉澤w これは何に分類されるのか?
ホモか?いやしかし・・・(混乱 おもろかったっす。
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月08日(日)20時30分02秒
- 続きを期待して・・・保全。
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