ルームメイト

1 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時19分45秒



ルームメイト
2 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時22分28秒
 インターフォンの音一つで目覚める。それはまさに奇跡だった。
 まったく自慢にならないが、私は今まですっきりと目覚めた事が記憶がない。ホントに、全く、パーフェクトに。私は起こされかけると、攻撃をしかけるらしく、高校にあがってから5個目覚ましを壊した。それまでは「ヒビが入る」レベルだったのに、高校生になってからは筋力が増したのだろうか、それともウィークポイントをピンポイントでつけるようになったのだろうか、とにかく「完全沈黙」レベルになった。自分がそんな暴力的な女とは思えない、と母と弟にいったら、彼らは私が赤いデジタルの目覚まし時計を見事なかかと落としで粉砕する様子をわざわざビデオで撮影し、私に見せた。間抜けな事に、その流れるような動きを見て、私は思わず拍手してしまったのだった。
3 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時23分00秒
 5個目の目覚ましを壊した時点で、母親は機械細工に見切りをつけ、弟を目覚まし人形として使うようになった。それから弟はたまに顔に青い痣をつくるようになった。彼はその度に「もう嫌だ、姉ちゃんを起こしていたらいつか死ぬ」と言ったが、母親はその度に「私はまだ死にたくない」と言って彼に目覚まし時計役を押し付けた。私の家では母親がピラミッドの頂点なのだ。
 4個目の痣を右目に作った日以来、弟は自分が傷つかなくてすむように、いろんな起こし方を開発した。ある朝は洗面器を顔面に落とした。次の日は金タライを顔面に落とした。ある朝は顔に水をぶちまけた。次の日はホースを口に突っ込んで水をたれ流しにした。ある朝は真横で風船を割った。次の日はパジャマの中に膨らんでいない風船を入れて、前日わざわざ買ってきたボンベを使ってバラエティよろしく割った。それでも私はすぐには目覚めなかった。いつも寝ぼけ眼だった。
4 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時23分41秒
そういうわけで、日曜日の午前11時に鳴ったインターフォンの音程度で私が起きた事は奇跡なのだ。
 ベッドから抜け出して、ベッドサイドの子機を取る。どちらですか、と言っても返事は無い。もしもーし、と言っても返事は無い。何だ悪戯か、と思って受話器を置いた。犯人は多分同じ階に住んでいる加護さんとこの亜依だ。ヤツはよく悪戯をする。いつもならやりかけのゲームのセーブデータを消すとか、楽しみにとっておいたプリンを半分だけ食べて残りをぐちゃぐちゃにかき混ぜた状態で冷蔵庫に戻すとかするのだけれど、奇跡が起きた事に免じて牛乳を拭いた雑巾を匂わすぐらいにしてやろう。何だか気分が晴れ晴れしていた。朝(といってももう昼近くだが)すっきりと目覚めるとはこんな気持ちの良い事だったのだ。
 またインターフォンが鳴った。また加護か、と思いながらも律儀に出る。
「はい、どちら様ですか?」
 今まで聞いたことの無い女性の声がした。「あの、すいません…さっきピンポンならしたんですけど、ボーっとしちゃって…」
 加護、あんたどうやら助かったみたいだよ。
5 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時25分27秒
ドアを開けるとそこには見たことも無い人が立っていた。茶色のロングヘアーの中に隠れた小さな顔を、私は少し見上げなければならなかった。私より背の高い女の人はあまり見た事は無いし、友達にはいなかった。その端正な顔立ちに見覚えは無かった。彼女はその小さな顔にある小さな口を開いて、初めましてイイダカオリです、今日からお世話になります、と言った。意味がわからなかった。兎に角、彼女には何の悪意―例えば部屋に入った瞬間私を気絶させて金目の物を物色して去るとか気絶した私に18禁の桃色なアクションを起こすとか―も感じられなかったので、困惑しながらも部屋に入れた。4月始めの風は春といってもやはり少し冷たかったし、マンションの14階となれば尚更だった。
6 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時26分34秒
 やけに大きいボストンバッグを横においてソファに座った謎の女性(飯田さん。なぜ漢字がわかったかというと、バッグに『飯田圭織』と書いてあるキーホルダーをつけていたから)はリビングをキョロキョロ眺めている。紅茶を入れながらその様子を見ていた私には、なんだか彼女が首を回す事しかプログラムされていないロボットのように見えた。
 紅茶を彼女の前に置くと、ぺこりと頭を下げた。思わずこっちも返してしまう。その事に二人で苦笑した。
「で、あなたはどこの飯田さんで、お世話になるって何ですか」
「あの、何も知らないんですか?」
 彼女は恐る恐る言った。私は頷いた。
「ホントに、全く、パーフェクトに知らない」
7 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時28分15秒
 私がそう言った時、電話が鳴った。ちょっとすいません、と断って受話器を取る。聞こえてきたのは母親の声だった。
「元気?あのね、今日からそっちに私の友達の娘さんが住むようになったから」
 それを聞いて私の頭の中のパズルは出来あがった。つまりソファに座っている彼女は母さんの友達の娘さんなわけだ。「そういう事はもっとはやく言っておいてよぉ」
「あら、あんまり驚かないのね。いい、よく聞きなさい。名前はね――」
「飯田圭織さん、でしょ。もう来てるし、ソファで紅茶を飲んでる」
「あ、そうなの。んじゃ大丈夫ね。こっちは私もユウキも元気だから。じゃ仲良くね」
「ちょ――」
 何の説明もしないで電話を切りやがった。忙しいのはわかるけど、あの態度は無いんじゃないかと思う。
8 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時29分06秒
「どうかしたんですか?」
 私がブツブツ文句を言っていたから、それが自分に向けられたものと勘違いしてしまったみたいだった。
「さっきの電話は母さんからだったんだけど、えっと、飯田さんは母さんの友達の娘さんで、ウチに泊まる事になった、って言って切っちゃった」
「それだけ?」
「それだけ」
 飯田さんが何か言おうとしたその時、再び電話が鳴った。どうせ母さんが何か言い忘れたんだろう。
9 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時29分50秒
 飯田さんが何か言おうとしたその時、再び電話が鳴った。どうせ母さんが何か言い忘れたんだろう。
「はーいごとーでーす」
「もしもし、私飯田といいますけど、今日からお宅でお世話になる圭織の母です」
 急激な緊張が体を支配した。「あ、はい、どうも、こちらこそ、お世話しますですはい」
 私の声は少し上ずっていたし、意味不明な事を言っていた。
「もしかして、ママ?」
 私は頷いて肯定した。飯田さんがすぐに電話出た。それからしばらくして、「ママが、真希ちゃんにかわれって」と受話器を渡された。
「あの、圭織の事よろしくお願いしますね」
 判りました、と素直に返事して受話器をおいた。今までの緊張をほぐすため、大きく深呼吸する。し終わった所に、飯田さんが入って来た。
10 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時30分38秒
「あの、じゃあ自己紹介しますね。ええと、私は飯田圭織です。18歳独身。東京の美大に通うために北海道から上京してきました。好きな鮭は紅鮭。嫌いな鮭はマスノスケ」
「…マスノスケって何?」
「キングサーモンの事。何か嫌じゃない?キングぶってるのって。で、この家に来ることになった経緯は――」
 別にマスノスケも好きでキングぶってるわけじゃないと思うけどなぁ。まあいいか。
11 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時31分38秒
 話をまとめると、飯田さんは試しに受けた都内の美大に見事合格。けど、いい部屋が見つからずにどうしようかと思ってるところにうちの母が割り込んだ。ウチ、部屋空いてますよ、と。問題の家に住んでいる私を抜きに話はポンポン進み、今に至るわけだ。飯田さんは私も事情を知ってるとばかり思っていたらしい。当たり前だろう。ウチの母親の適当ぶりを知らないのだ。だから、私が何も知らないと言った時、ものすごく驚いたんだそうだ。
「んっと、後藤真希。15歳の、春から高校1年生。よろしく」
 そうして私達は手を握り合った。いつのまにかお互い敬語は消えていた。
 きっと私達は仲良くなれる。そんな思いが胸の中を駆け回っていた。
12 名前:作者 投稿日:2003年03月31日(月)00時33分42秒


と、いう感じで始めます。
言うまでも無く某ゲームの設定をパクりました。
気長にやっていきますので、気長にお付き合いしていただければ幸いです。
13 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月03日(木)21時26分01秒
期待してます。
14 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時44分58秒
「じゃあその飯田さんって人と暮らすの?」
「そうだよー」
私は途中で買ったクレープを一口かじって返事した。
隣を歩いているよっすぃはバナナ、私はイチゴクレープだ。
「どんな人?」
「昨日来たばっかだからよくわかんない。でも悪い人には見えないなぁ。キレイだし。あ、後藤より背高いんだよ」
ふーん、とよっすぃは口をもごもごさせながら呟いた。
夕焼けに照らされた顔は、驚くほど綺麗に見えた。
大げさな表現をすれば、地上に舞い降りた女神みたいだった。
こりゃモテるわけだわ。
15 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時45分53秒

よっすぃこと吉澤ひとみは中学からの親友だ。
その綺麗な顔立ちと、サバサバした男のコっぽい性格で学校中の人気を集めている。
女子校なので、宝塚的な雰囲気に惹かれるのだろうか。
残念ながら私は彼女をそういう目では見れなかった。
だから私達は親友になれたのかもしれない。
16 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時47分52秒
「でもまぁ、二人いればおばさんも安心するよね。ところで、おばさん元気なの」
そう言ってよっすぃは、クレープを包んでいた紙を丸めて少し離れたゴミ箱に向かって投げた。
紙くずは綺麗な放物線を描いてゴミ箱へと吸い込まれていった。
ナイッシュー、とよっすぃが小さくガッツポーズをした。
「元気すぎだよ」
私は最後の一口を食べながら言った。「もうエジプトにも慣れたみたい」
17 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時49分59秒
私の両親はどちらも考古学者だ。そっちの世界ではなかなか有名で、世界中を飛びまわっていた。
しかし私が生まれてからは母は専業主婦として、父は大学の非常勤講師として日本で暮らすようになった。
私が5歳の時、エジプトの遺跡発掘に狩り出された父は、そこで事故死した。
それ以来、母は女手一つで私と弟を育ててきた。

そして1ヶ月前、私が中学校を卒業した時に、「考古学者の血が騒ぐ」とか言ってエジプトへ行ってしまった。
男手がいたら楽と言って弟も連れていった。とんでもない母親だ。
もともと勉強が得意でない弟は、抵抗せず、素直に従った。
友達と離れるのはヤだけど、外国ってのに魅力を感じた、と本人は言っていたが、多分少し脅されたんだと思う。

そういえば、もう姉ちゃんを起こさなくてすむと思うと天国にいった気分だよ、とも言ってたっけ。
ホントの天国へ連れてってやろうかと思ったけど、2発殴る事で許した。

そういうわけで、私は1ヶ月前から一人暮しをしていた。
18 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時51分49秒
「今度ごっちんちに行くね。その飯田さんを見に」
「いつでも来てよ」
そういって私達は別れた。
何気なく振り返るとよっすぃはまだこっちを見ていた。
よっすぃの後ろには赤く染まった太陽があって、そのせいでよっすぃの顔はよく見えなかったけど、なんとなく哀しそうな顔をしているように見えた。
私は手を振って帰り道を歩き出した。
19 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時53分45秒
ドアを開けるといい香りがした。
一瞬不思議に思ったけど、昨日からルームメイトができた事を思い出した。
飯田さんがご飯を作っているみたいだ。
「おかえりー」
 リビングに入ると、エプロンをつけた飯田さんがキッチンに立っているのが見えた。
白い長袖Tシャツにジーパンというラフな格好にエプロンをつけた飯田さんは、何だかとても可愛かった。
「もうすぐご飯できるから。クリームシチューだけど、嫌いじゃないよね」
「大好きです。何か手伝いましょうか」
「あ、じゃあ深めのお皿出してくれます?まだどこに何があるかよくわかんなくて。料理する時もてんやわんやだったよ」
食器棚に近づくと料理の匂いが濃くなる。
良い匂いが鼻を通り、お腹に入り、そして私のお腹が鳴った。なかなか大きかった。
飯田さんはクスクス笑いながらシチューを混ぜている。
私は顔を真っ赤にしながら皿を二人分とってテーブルに並べた。二人分。
そう、私は久しぶりにこのテーブルで誰かと食事をするのだ。
20 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時55分49秒
「あ、おいしー」
そう言うと、私が食べるのをジーっと見ていた飯田さんはほっとした顔になり、食べ始めた。
実際、シチューはとても美味しかった。

「圭織思うんだけどね、ルームメイトじゃん、ウチら。だから敬語とか使わないようにしようよ」
ソファに座った飯田さんは皿洗いをしている私にそう言った。
作ったのが飯田さんだから私は後片付けをするのが筋だと言って皿洗いを始めると、飯田さんはそんなの悪いと言って手伝おうとした。けれど私は断った。

確かに、飯田さんはすっかりフランクな話し方になっていたけど、私はまだ少しぎこちなかった。
私ももっと普通に話したいと思うけど、何故か飯田さんを見ていると少し緊張してしまい、慣れない敬語になってしまうのだ。
「そうですよねー」
「ほらまたなんか丁寧になってる。あのね、圭織の事は圭織って呼んで。真希ちゃんはいっつも何て呼ばれてるの?」
21 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時56分51秒
真希ちゃんと呼ばれてドキっとした。
平静を装いながら私は答えた。
「えーと、ごっちんとか、ごっつぁんとか、ごまとかかなー」
「ごっちん…ごっつぁん…ごまちゃん…」
飯田さ…圭織はお母さんに「ひとつだけ好きなお菓子を買ってあげる」と言われた子供のように、真剣に呼び方を選びだした。
私が食器を全て洗い終えた時、決めた、という圭織の声がした。
「いろいろ考えた結果、フィーリングに従いごっつぁんって呼ぶね」
「オーケー。じゃあ圭織、お風呂先入ってよ」
「オーケーごっつぁん」
 オーケー。これで私達は、私と圭織は完璧なルームメイトだ。
22 名前:作者 投稿日:2003年04月07日(月)22時58分53秒
今回の交信、ここまでです。

>>13さん
ありがとうございます。
ひたすらに頑張ります。
23 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月11日(金)00時26分32秒
バイオレンス後藤一家にどきどきっす。弟君も海外に? 続き楽しみ。
24 名前:作者 投稿日:2003年05月11日(日)19時31分13秒
 私達の選択肢は少ない。中華、洋食、お好み焼き、でなければファーストフード。それくらいだ。
「今日は、オムライスって気分かな」
前髪をかきあげながらよっすぃが言う。まさに男前だった。
土曜なので学校は昼で終わり、私はお昼ご飯をどこで食べようか、という事を歩きながらよっすぃと議論していた。
私も何となくオムライスが食べたいと思っていた。さすが親友、気が合う。
お腹が空いてきたので私達は少し早足で目的地へ向かった。

洋食屋「SALA」は小さな店だ。大通りから少し中に入った所にあるせいか、あまり知られていない。
固定の客、つまり常連ばかりが来る。
私達がそこを見つけたのは偶然だった。冒険心旺盛な私達(特によっすぃ)が、ある日街中の路地裏を探検した時に見つけたのだ。
その時以来、私達のお気に入りの店になった。
25 名前:作者 投稿日:2003年05月11日(日)19時33分57秒
ドアを開けると、良い匂いが鼻をくすぐった。ドアに付けてある鈴が、私達の到来を知らせる。
奥から「いらっしゃい」と言いながら、白いエプロンを付けたなっちが出てきた。
それを見ると、どんなに機嫌が悪い人だって一瞬にして上機嫌になってしまうのではないかと思うほどの笑顔で。

なっちこと安倍なつみはこの「SALA」の、古臭い言い方だけども看板娘だ。
常連の人達はみんな、なっちの笑顔が目的で来てると思えるくらい、その笑顔は魅力的。
よっすぃなんてこの店に来るとその日はずっとにやけっぱなしだ。
「こんちわ、安倍さん」
 よっすぃの挨拶に、こんにちわ、と律儀に返事しながらなっちは水を置いた。
「注文は?」
「んっとね、ウチは…特製オムライスセット」
「後藤も」
「ほい」
26 名前:作者 投稿日:2003年05月11日(日)19時43分50秒
まいどー、と言ってなっちは厨房へ消えていった。水を一口飲んで、何気なく店内を見まわす。
私達の他には客はいなかった。まあ普段からあまり客はいないから、そう不思議な事でもない。
ほのかに甘い香りが漂っている。リラックス効果のある香りらしい。
アロマテラピー、というものなのだろうか。私にはよくわからない。
そう広くない店内は適度に明るく、観葉植物もあってとても雰囲気がいい。
本当に、隠れた名店だ。
しばらくよっすぃと喋っていると、なっちがオムライスセットを持ってきた。
「ごゆっくりぃ」
27 名前:作者 投稿日:2003年05月11日(日)19時50分55秒
なっちが行ったあと、私達はのんびりとオムライスを食べた。
「SALA」のオムライスは、タマゴの部分が絶妙の柔らかさで、そこに特製のドミグラスソースが加わって、言葉では表現できないほどの味のハーモニーを奏でる。まさに絶妙。
「いつ食べても美味しいよね」
幸せそうな顔でよっすぃが言う。
口一杯にオムライスを頬張るその姿は、いつもリスを連想してしまう。
もともと頬に特徴のある顔立ちなので、よりいっそう目立つのだ。
いつも思う事なのに、今日、今この瞬間、よっすぃが森の中をリスのようにチョロチョロ動き回る姿が、何故だか私の笑いのツボに入ってしまった。
相槌をうちながら、実は笑いを押さえるのに必死だった。
28 名前:作者 投稿日:2003年05月11日(日)19時53分09秒
「あ、桜だ」
食べ終わった後、ミルクティーを飲みながら話していると、一枚の桜の花びらが目に止まった。
「どこから来たんだろう」
「公園の桜だよ多分。結構飛ぶんだよ、花びらって」
よっすぃが答える。しばらくぼーっとしていたと思ったら、突然「そうだ!」と叫びだした。
突然叫ぶのは彼女のくせではあるけれど、もうすこし自制できないのかと思う。
他に客がいなかったからいいものの…。
「花見しよう」
「はい?」
「お花見だよ、お花見。ウチと、ごっちんと、安倍さんと、あいぼんと―――飯田さんで」
「カオリ?」
「うん、みんなで親睦を深めようよ」
「そんな事言って、よっすぃはなっちと深めたいだけでしょ」
「う…」
29 名前:作者 投稿日:2003年05月11日(日)19時56分15秒
よっすぃはなっちに惚れている。
初めてこの店に来た時、一目惚れしたのだ。
今では普通に話せる(でも本当は常にドキドキしていると言っていた)けど、通い始めた頃はまともに話せなかった。
「ご注文は?」
「オ、あ、えと、オム、オムライスに、玉子付けてつゆだく」
「へ?」
てな具合だ。ずいぶん進歩したもんだなぁ。
よっすぃはモテるくせに、いざ自分が惚れる側になると、とたんにダメになる。
見ている方にとってはお腹がよじれるくらいに面白いんだけども。
 
そんな事を思い出しているうちに、花見の予定をよっすぃは決めていっていた。
明日の昼12時から、朝比奈運動公園で。食べ物と飲み物は各自適当に。
なっちを呼んでその旨を伝えると、「花見なんて久しぶりだよー、いっぱいお弁当作るねー」との返事。
よっすぃの顔が崩壊を起こしたのを、私は見逃さなかった。
30 名前:作者 投稿日:2003年05月11日(日)20時01分18秒
ここまで――

>>23さん
どうもです。弟は海外に左遷させました(w
31 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月14日(水)19時49分28秒
イイ!です。
なちよし期待してます!
32 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月15日(日)17時31分31秒
続きが激しく読みたひ
33 名前:作者 投稿日:2003年06月21日(土)00時53分47秒
「大丈夫かなぁ、カオリよっすぃに受け入れてもらえるかなぁ、ねぇごっちん大丈夫かなぁ」
家を出て、公園に行く途中。圭織は呟きながら私の隣を歩いている。その台詞言うの何回目だよ…。

昨夜、花見の件を告げると、飛びあがって喜んで「よっすぃってどんなコなんだろう楽しみだなー」なんて言っていたのに、いざ出かけるとなると急に弱気になってしまったのだ。
その声の調子がおかしかったので、私は公園に着く間ずっと、肩を小刻みに震わせながら、「だーいじょぶだぁ」などと、もはや縄文人のギャグとしか思えない言葉を吐いていた。
34 名前:作者 投稿日:2003年06月21日(土)00時55分49秒
朝比奈運動公園は、ジョギングコース、テニスコート、グラウンド、アスレチック等々が備わったなかなか大きな公園だ。
正面入り口を抜けると、桜並木になる。桜が咲く季節になると、見事な景色になる。
遠くからわざわざ身に来る人もいるくらいだ。そこはたくさんの花見客でにぎわっていた。
圭織はさっきまでの緊張はどこへ行ったのか、「凄い」と「綺麗」を連呼しながら私の後をついてくる。
35 名前:作者 投稿日:2003年06月21日(土)00時58分32秒
しばらく歩いていると、見なれた姿を見つけた。
よっすぃは一番大きな桜の下に陣取っていた。
大きなシートの上に大の字になって寝転がっている。
「場所取りご苦労様」
よっすぃは私の声に反応して体を起こしながら「正直、寂しかったっす」と言った。
「よっすぃ、この人が後藤のルームメイト、圭織だよ」
「こ、こんにちわ。飯田圭織です、はじめまして、よろしく…」
カチカチの圭織に対してよっすぃは満面の笑みを浮かべて、
「よっすぃこと吉澤ひとみです。こちらこそ、よろしくです。ごっちんから聞いたとおり美人ですねぇ」
「へ?」
私はため息をつきながら声をかけた。「よっすぃ、口説いてどうする気?」
36 名前:作者 投稿日:2003年06月21日(土)01時00分50秒
「ところでよっすぃ、なっちはまだ?」
「んー、まだ来ないねぇ」
時計を見る。12時を少し過ぎたところだった。
私達が着いたのが11時50分くらいで、それから三人で他愛のない話をしていたのだ。
学校の話や、家族の話とか、まあいろいろ。
「早く来てくれないと、よっすぃが餓死するね」
食べ物は持って来たには持って来たのけれど、スナックやチョコなどお菓子系ばかりだった。よっすぃも同じ。
なっちがお弁当を作ると言ったので、二人とも持って来なかったのだ。
「なっち?」
と、圭織が首をかしげた。ああ、そうか。圭織はなっちを知らなかった。
「あ、なっちはね、後藤らがよく行くお店の人。今日の花見にも呼んだの」
「な…っち?」
「圭織?」
37 名前:作者 投稿日:2003年06月21日(土)01時04分35秒
首を捻りながら考え込み出した圭織に、声をかけようとしたら、遠くから名前を呼ばれた。
振り返ると、並木道を小走りで駆けてくるなっちの姿が目に入った。
手には大きなバスケットを抱えている。
「ごめん、遅れたぁ」
なっちは息を切らせながら私達に謝ったが、突然キョトンとした表情になった。
見知らぬ人が自分をジーっと見つめていたら、誰だってそうなる。
圭織はひたすらなっちを見つめていた。
「あ、なっち。この人はね――」
「あー!」
突然圭織が叫んだ。一瞬よっすぃかと思って見たけど、よっすぃも突然の大声に驚いていた。
圭織は周りの視線を気にせず、こう言った。
38 名前:作者 投稿日:2003年06月21日(土)01時06分06秒

「なっち―――安倍なつみでしょ?」
驚いた。私はまだなっちのフルネームを教えていない。
なっちも驚いている。それもそうだ。
見知らぬ人に見つめられて、名前を当てられるなんて、めったにない経験だろう。
「へ?うん、そうだけど…あなたは」
「カオリだよ!ほら、小さい頃一緒に遊んだ!」
「カオリ……え!?カオ?飯田圭織?」
「そうだよ!凄い!こんなトコで会えるなんて」
いきなり抱きしめ合いだした二人を私とよっすぃはボーっと見つめるだけだった。
急展開に頭がついていかなかった。
とりあえずわかったのは、圭織となっちが知り合いだったって事だけだった。
39 名前:作者 投稿日:2003年06月21日(土)01時13分39秒
1ヶ月以上空いてしまいました。。。
すいません。なのにこの更新量…

>>31さん
ありがとうございます。
かおごまがメインなのですが、書いていてなちよしもいっぱい出したいなと思うようになりました(w

>>32さん
ありがとうございます。
遅くてすいません…。放置する気は無いのでのんびりお付き合いください〜
40 名前:名無しくん 投稿日:2003年06月22日(日)18時58分02秒
いっきによませていただきました。
おもしろいです!どんな花見になるのか・・
更新期待してます。
41 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月09日(水)16時34分24秒
今日はじめて読みました
期待してもいいッスか?
42 名前:名無しかも〜んな! 投稿日:2003年07月23日(水)17時52分51秒
初めて見つけました
続き期待してます
43 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月09日(土)13時27分16秒
保全待ち
44 名前:作者 投稿日:2003年08月19日(火)22時54分40秒
疎外感。
私とよっすぃが感じていたものは、まさにそれだった。私達が呆然としていると、圭織となっちが二人の間柄を説明してくれた。
 
「なっちはね、ちっちゃい頃引越しばっかしてたんだ――」
 
父親の仕事の都合だった。それで小さい頃訪れた北海道で、圭織と仲良くなったのだとか。1年も経たずになっちは引っ越していった。
それでもお互いの心に深い友情は刻まれた。残念な事に、互いの連絡先を教える事を忘れていたので、連絡しようにもできなかったらしい。
…なんで忘れるかなぁ。でもまあ、この二人ならやりかねない。というか、実際にやっている。
 
そしてなっちはその後も各地を転々とし、父親が脱サラして店を始めたこの朝比奈町に定住する事になった。
一方、圭織は北海道で育ち、東京の美大に受かってこの朝比奈町に出てきたのだ。
そして二人は今さっき出会ったというわけだった。
45 名前:作者 投稿日:2003年08月19日(火)22時58分44秒
説明が終わると、ふたりはまた思い出話に花を咲かせ始めた。
私達ふたりは手持ち無沙汰だった。弁当を食べる事しかする事がなかった。
桜は綺麗だったけど、それもほとんどどうでもよかった。
「計画台無しだよ…」こつん、とよっすぃが肘で私をつついた。「なっちぃ…」
よっすぃは泣きそうな声で呟いた。それでもから揚げを箸でつまんで口に入れる。
そこがよっすぃのよっすぃたる所以だった。そしておにぎりを一齧り。「なっちぃ…」
「ごっちん何とかしてよ」
「何とかって言われても」
 圭織となっちは話に夢中で周りが目に入っていない。
二人の周りには誰も近づけないオーラがあった。
あれを破る戦闘力は、私には無かった。フリーザでも無理だろう。
残念だけど、と言おうとした時、声がした。
「ごとーさん発見ー」
「よっすぃー先輩こんにちわ」
加護亜依と辻希美。ウチの学校の中等部の生徒だ。要するに後輩。
よっすぃと辻はバレー部の先輩後輩でもある。
ちなみに加護は私と同じ階に住んでいる。悪戯好きで有名だ。
そういえば花見に誘ったら辻も連れてくるとか言ってたっけ。
46 名前:作者 投稿日:2003年08月19日(火)23時04分05秒
なっちと圭織は新たな参加者2名に気付き、話を中断した。よっすぃが小さくガッツポーズをしたのを私は見逃さなかった。
 
加護と辻に圭織を紹介し、お互い軽い挨拶を交わした。
それから圭織となっちが知り合いだった事を話した。
すると二人は目を輝かせて、
「何かカッコえーなー、そういう関係」
「うんうん、運命の二人だね」
辻の言葉に、よっすぃの肩が電気を流されたみたいにはねる。
「お似合いの二人やなー」
またはねる。
圭織となっちは「えー、そうかなー」なんて言いながらもまんざらではないような顔つきだ。どちらもほのかに頬が赤い。
それを見たよっすぃが一層暗くなったのは言うまでも無い。
47 名前:作者 投稿日:2003年08月19日(火)23時07分58秒
「かんぱーい!」
乾杯の声が響いた。もちろん、全員オレンジジュース。
この中で法的にアルコールを飲んでも良い人は一人もいない。

よっすぃはジュースを紙コップについで、みんなに配っていた。
その中のたった一人に渡したいがために。なんていうか、その辺はオンナノコだな、と思う。

「安倍さんの料理はいつ食べても美味いのれす」
辻の声になっちは嬉しそうに微笑み、「コレも自信作なんだー」と言って辻に勧める。
そして辻がますます重量級になっていくのだ。
みんなで会話をしていたので、圭織となっちが二人の世界に入る事は無かったが、よっすぃとなっちが二人で話すことも無かった。
話の中心は加護で、それにみんなが加わっていた。
そのうちによっすぃはすねてしまい、ひとりで飲み食いするようになった。

見かねて隣に座って話しかけようとした時、私達がふつう飲んではいけないモノの匂いがした。
48 名前:作者 投稿日:2003年08月19日(火)23時13分59秒
「よ、よっすぃ。ソレって…」
「なーに、ごっちん」
「それってスクリュードライバー…だよね?」
「違いますぅ。これは“オトナのオレンジジュース”ですぅ」
「なんだオレンジジュースか…ってんなわけないだろ!ばかよっすぃ!」
急に大声を出した私にみんなが驚いて、こっちを見た。
が、その目つきがやたらとあやしい。とてもうつろなのだ。
「もしかしてよっすぃ、みんなのジュースに…?」
「はーい、入れましたー」
すでにできあがっていてへらへら笑って答えるよっすぃに手刀を一発叩きこんで、周りを見まわすと、よっすぃにスクリュードライバーを入れられたオレンジジュースを飲んで、みんなはおかしくなっていた。
49 名前:作者 投稿日:2003年08月19日(火)23時17分11秒
「よっすぃ先輩、このジュースなんだかからだが熱くなるのれす」
などと、辻がある種の男が聞いたらその辺を転がりまわりそうな事を言えば、
「最近また胸大きくなってもーてん!」
と、これまた加護が涎もののセリフを吐き(少しイヤミったらしいが)、
「カオリは空に住むミソが好き」
「なっちはトコロテンのような人生を送りたいな」
圭織となっちは気違いじみた会話をしていた。
なんだよトコロテンみたいな人生って。
酔ってハイになったみんなを止められるはずもなく、それからは地獄絵図が続いた。
 
50 名前:41 投稿日:2003年08月28日(木)10時36分51秒
なっちとカオリン面白い・・・。
そしてよっすぃ〜が可愛い。たとえお酒を飲ませても
更新乙です。
51 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月06日(土)12時42分54秒
かおごまマンセー!!
52 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月08日(月)01時38分59秒
大人のオレンジジュースマンセー(w
かおなち素晴し過ぎるよかおなち。
この小説大好きです。作者さん頑張ってください。
53 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:29
2,30分ほど前の事。私の周りで反省のオーラを出しながらみんながうなだれていた。
そのほとんどがこめかみのあたりを指で押したり揉んだりしている。

時刻は午後5時30分を少し過ぎたあたりだった。
要するに、彼女達は、4時間ほどバカ騒ぎをしていたことになる。

ひどかった。
辻と加護が、どこで覚えたのか桜の木を棒がわりにしてストリップ・ダンスをかまし始めたのを止めていると、少し離れたところでよっすぃが桜の木に登ってターザンの真似しだすし、圭織はその光景を「その構図もらったぁ!」とか叫びながら割り箸で虚空にスケッチしていた。
なっちはというと、なぜか自分が作ってきた弁当を周りの花見客に振舞っていた。
周りの人達もなぜかありがたくなっちの手料理に舌鼓を打っていた。

みんな狂っていた。
54 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:31
それがほんの一コマなのだ。
お酒って怖いなと思った。
こんなことになるんだったら私も飲んで酔っ払ってしまえばよかった。
でもそうなると、止める人がいないわけで…。想像する事をやめた。それこそサバトだ。
「ご…ごっちん」
「なぁに、アル中よっすぃ」
口調は優しく、でも目線は怖く。
これが一番効くのだ。それを聞いた正座したよっすぃの体が、ひとまわり縮んだように見えた。
「いや、何でもないです…」
非は自分にあるのがわかっているので、誰も文句一つ言わずに私の説教を聞いていた。
説教というより、愚痴だ。だいたい私は説教をするような性質じゃないし、できるくらいの人間でもない。
でもほんとうに立派な人間は説教をしないと思う。
するのは自分が立派だと思っている人間だけだ。
55 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:33
周りの人にいちいち謝っただの
桜の木を折ろうとする辻加護を止めただの
他の酔っ払いと喧嘩し始めたよっすぃが途中で飽きて、「ちょっと桜の精と語り明かしてくる」とかほざきだして全速力で消えていったので仕方なく相手をしとめた事だの
を愚痴っている中で、圭織だけが眠ったままだった。
最初は急性アル中かと思って慌てたけど、本当に単に寝ているだけだったので一安心。
と思いきや、よく考えたら圭織は私と住んでるわけで、必然的に私が連れていく事になる。
56 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:35
そんなわけで、私は圭織を背負いながら家路についている。
なんだかなぁ…。
呟きが夜の空気の中に溶けていった。規則正しい寝息が首筋にかかって少しくすぐったい。
満月が空に輝いていて、私達を照らしている。
なんだかロマンチックな設定だけど、いかんせん背負っている圭織が私には重くて、そんな気分に浸っている余裕は無い。
はっきりいってちょっとでも気を抜いたら圭織を落としそうなのだ。
もちろん息はきれているし、汗はダラダラ、圭織の腰にまわした腕は痙攣直前だ。
もう少しだ。そう言い聞かせて足を進める。そのとき、背中の圭織が少し動いた。立ち止まって声をかける。
57 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:37
「圭織?」返事は無い。もう一度声をだした。
「起きたの、圭織」
もぞもぞと動いた後で「ここ、どこ」と呟く声がした。
「私の背中だよ〜」
「へ…ごっつぁん?」
顔を真っ赤にして、「降ろして降ろして」と言う圭織を背中から降ろして、何故このような状況に至るかを詳しく説明すると、圭織は泣きそうな顔になって、合わせた両手を私のほうに突き出しながら頭をさげた。
「ホント、ごめん」
「別にいいってば。悪いのはよっすぃなんだから。ガッコで会った時にオシオキしておくよ」
そういってにやりと笑った。そう、責任はよっすぃにある。
どんなコトをしてやろうかなぁ。くくくく…。
あまりにも邪悪な顔をしていたのだろう、圭織がちょっとひいていた。

58 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:39
お風呂から上がってリビングに行くと、圭織はソファに座ってテレビを見ていた。
今日行った朝比奈運動公園の桜の特集だった。
「綺麗だったなぁ」
「ま、あそこにいた時間の半分以上は酔っ払ってたから、実際あんま見てないけどね」
皮肉まじりの私の言葉に、圭織は「うぅ」とうめいてこっちを睨む。
…ちょっと可愛い。
「そ、そういえばさぁ」話題を変えた。
これ以上拗ねられても困るからだ(拗ねさせたのは私だけど)。
「あそこって、夜桜も綺麗なんだよ」
「夜桜?」
「うん。ライトアップされてね、すんごい幻想的なんだ」
それまで死んだ魚のようだった圭織の目がキラキラ輝き出した。
まずい。これはまずい兆候だ。おそらく次に口にする言葉は…
「見に行こうよ」
やっぱり。せっかくお風呂入ったのに…。
そんな私の気持ちには全く気付かず、圭織は私を引きずるように外に飛び出した。
59 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:40
夜の桜は昼間のそれとはまた違って見える。
とても幻想的で、静かで、それから、少し淫靡だ。
うーん、なんでだろ。わからない。
なんていうのか、透明な感じのえっちさ。そういうものが漂っている。
「これはもう、反則だよね」
圭織が呟いた。
ライトが、とても効果的に桜を照らしている。
ライトアップされている夜桜はとても綺麗なのだけど、私は月明かりに照らされた桜の方が好きだ。
その事を圭織に言うと、実はカオリもそうなんだ、と少し舌を出して言った。
設計者もそうだったのか、この公園にはライトアップされない場所があった。
少し歩くけど、それでも見たいと圭織が言うので、ふたりでのんびり歩いていった。

満月の光を受けて薄く光る桜は想像以上の美しさだった。
私は、生まれて初めて「言葉を失う」という経験をすることになった。
それは隣の圭織も同じだった。

しばらくの間、私達は無言で光る桜を見つづけていた。
60 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:43
どれくらい経ったんだろう。5分?10分?
でもよく考えたらそれはどうでもいい事に気づいた。
この問題に関しては、量じゃなく、質なのだ。

私はなんとなく空を見上げながら歩き出した。
しばらく歩いて振りかえると、圭織はまだ桜を見つめていた。まるで魔法がかかったみたいに。

そのとき、一陣の風が吹いて、地面に落ちた桜の花を舞い上げた。
それが魔法を解いたのか、圭織が私を見た。
桜吹雪の中、私を見て、微笑んだ。


その笑顔を見たのがいけなかった。

61 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:44

まさか一日で二回もの「言葉を失う」という経験をするとは思わなかった。
心臓が早鐘を打ち、顔が熱くなっていく。
頭が真っ白になり、私はただ圭織を見つめる事しかできなかった。

月光の中の桜が圭織に魔法をかけたように、桜吹雪の中の圭織が、私に魔法をかけたのだ。

62 名前:作者 投稿日:2003/10/02(木) 01:54
遅くなってすいません…
それと、前回更新の時レスを入れるの忘れてました、すいません(謝ってばっかや…

>>40さん
こんな花見でした…いかがなもんでしょう(w

>>41さん
期待をされるとプレッシャーです(w
ので、のんびり付き合っていただければ幸いです

>>42さん
更新遅くて申し訳無いです。
放置する気は無いのでたまに目を通してもらえれば嬉しいです

>>43さん
保全ありがとうございますぅ

>>50(41)さん
ばかよっすぃが僕は一番好きですから(w
これからもばかよっすぃでいきますヨ

>>51さん
かおごま(・∀・)イイ!ですよねかおごま!
すいません興奮してしまいますた(w

>>52さん
ありがとございます。
かおなちはほのぼの感がとてもスキです。
63 名前:名無し娘。 投稿日:2003/10/13(月) 02:12
今日初めて読ませていただきました。
かおごまとってもいいです!!
最後の風景が目に浮かぶようでした。
桜の中の圭織はそれはそれは綺麗だったんでしょうね〜

SEEKでの楽しみがまた一つ増えました。
これからも頑張ってください!
64 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/17(金) 15:43
マターリ待ってます
いいらさん夜桜似合いますね〜
65 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/09(日) 09:09
66 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/24(月) 10:50
更新たのむ
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/27(火) 14:09
これは逝ってほしくないので保守

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