Forward!
- 1 名前:名無しaibon 投稿日:2003年04月13日(日)17時35分56秒
例えば笑った顔とか怒った顔とか泣いた顔とか拗ねて口を尖らせた顔とか、
ちょっとワガママなところとか猫みたいに気紛れなところとか、どこか破天荒な性格とか、
全部が可愛くて愛しい、そんな存在ができるなんて想像すらしてなかったんだ、本当に。
「後藤さんって、すんごい照れ屋さんだよねぇ」
「うっさいなぁ」
「そういうとこ、好きだよ?」
「…………」
「ほらまた照れてるー」
「っさいっての!」
……………
そう、コイツに。マツウラアヤに出会う、その時までは。
――――― そしてそれは、もう少し先のお話。
- 2 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時37分18秒
後藤真希・世間的には「落ちこぼれ/不良生徒」に分類される高校2年生。
だけど、中身はこれでも意外とノーマルな女子高生。
いや、自称、だけどね。でも、
朝起きる。
顔を洗う。
歯を磨く。
朝ご飯を食べる。
制服に着替える。
電車に乗る。
学校へ着く。
友達と会う。プラスα学校生活。
………………そんなんですから、日常。
- 3 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時38分09秒
scene1 / 「ノールール・マイライフ」
- 4 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時38分40秒
成績?
……そんなの、下から数えた方が早い。聞いてくれるな野暮なことは。
何てったって、勉強するのが嫌いなのだ。自主的に机に向かったことなんて、
はっきり言って1度もない。胸張って言うこっちゃないけどさ。
ってか、学校で「お勉強」するのがアタシにとってそう意味を為すこととは思えないし、
今・この青春時代、勉強ばかりに時間を費やすのはあまりにもったいないんじゃないか?
それが、アタシの持論。頭悪いから上手く説明できないけどとにかく、
楽しくもないのに一生懸命取り組むほど、苦痛なことはないじゃん。
大体、成績の基準なんてペーパーテストの結果だけでしょ?
結局さ、記憶力がいいヤツの勝ち、みたいな。
「単純に物事を記憶する能力」なら、機械の方がよっぽど優れてるんだよ、
だったらそんなのコンピュータに任せておけばいい、こっちはこっちで人間性を育てようじゃないか!
なーんてね。日本という一国家の教育方針に嘴を挟める程アタシは優秀な人間じゃない、
そう、とてもそんな立派な人間じゃない、ただのガキんちょだ。
つまりはそうだ、勉強しない理由付け、頭悪い子供の言い訳ってことです。
- 5 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時39分12秒
趣味?
……寝ること。嘘。趣味っつーかそれって本能じゃん。
真面目に答えよう。
美味しいお蕎麦屋さん探し。
(食欲って観点で見るとこれも本能による衝動なんだろうか?)
それから映画のパンフ収集。洋楽のMD編集作業。
地味?いやいや、意外と熱中しちゃうんだよそーいうのって。
それから意外に思われることも多いけど、実は本を読むのが好きだったりする。
哲学書みたいのから詩集、SF小説ミステリー小説恋愛小説色々イロイロ多種多様。
正直に言えば、最後まで読みきれずに挫折することもまぁ多々あるんだけど、ね。
アタシの散らかった部屋、南西角を陣取る本棚には、
未だしおりが挟まったまんまの読みかけや、一度も開いてすらいない本もある。
というより、気にいった小説は常に持ち歩いていて、
処構わず暇なときに読む癖があるから、本棚に入れっ放し、なんてことがあまりないのだ。
- 6 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時39分46秒
で、どうして読書が好きかと言うと、知らない世界を体験できる楽しさというか?
記憶力勝負の所謂『詰め込み型』教育は嫌悪感さえ覚えるけど、
それでも「学ぶ」こと自体が嫌いなワケじゃない。
んー、何つーんだろ、知識が増えること。
世界観が広がってくこと、それは楽しいし面白い。
けどそれは難解な数式を覚えるだとか古文の文法を覚えるだとか、意味不明な化学記号など、
日常生活を営む上で全く必要ない(と思える)事柄を覚えることなどには発揮されないってだけ。
当然、本人のやる気如何ではまた結果は変わってくるんだろうけど。
- 7 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時40分18秒
もう1つの理由。
中学生の頃、アタシはほとんど友達がいなかった。
一応学校へ通うには通っていたけど、修学旅行や体育祭などの行事に顔を出すこともなく、
だから当時のアタシの写真は残ってない。見たいとも思わないけどさ。
そんな折、成績も悪い・素行も悪い・不良の代名詞みたいなアタシに、本を読むのを
薦めるという、実にミラクル&クレイジーな知り合いができた。
同じ学校の同じクラスに仲が良いと呼べる友達のいないアタシ、言うなれば孤立無援状態
の自分にとって、読書というたった1人でも何の支障もない行為にどっぷり浸るようになって
いった過程に、さほど説明はいらないだろう。
そして、今でもその人物とは深い親交が続いてる。
1コ上の友達、アタシとは正反対の「優等生」梨華さん。
知り合ったときは中学生。学校も違うし年も違っていた。
彼女についてはとても一言では語れそうもないが、とりあえず言及すべきはアタシの荒れてた
中学時代に終止符を打つ要因となったのが、彼女との出会いだということ。
……まぁそれはおいおい詳細を明らかにしていこうと思う。
- 8 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時40分49秒
で、運動神経?
そーだなぁ。
アタシが運動オンチだってんなら、この学校にまともに動けるヤツなんておそらく
存在しないだろうってね。あー、別に嫌味じゃなく他生徒を馬鹿にしてんでもない。
回りくど〜い言い方だけど平たく説明するなら「抜群」だ。と、自負しちゃってる。
長距離は嫌いだけど短距離走なら相当速いし、
球技も得意、バスケ・サッカー・バレー等々、ポピュラーなものならお任せ?みたいな。
つまり、基礎体力には自信があるのだ。
頭にいくはずの栄養が、代わりに体力の方に回ったんだろうとアタシを生んだ張本人の
母親がいつだか笑いながら言った、アタシもそう思う。
――― と、ここまで大きく言っといてなんだけど、実は部活には入ってない。
何でって?だってほら面倒だし。
- 9 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時41分19秒
兎にも角にもマイペースが服着て歩いているようなモンだと口の悪い友人に形容されるほど
単独行動を好むアタシ。クラブのような、忍耐と協調性が問われる集団行動が
主体の活動に馴染めるはずもなく。
付け加えるならもう1つ。何ていうかなあ、努力ってヤツがどうにも苦手だ。
それから「みんなで力をあわせてガンバロー」的な体育会系のノリが駄目で。
駆け足の足並み揃えたり。「掛け声だせ〜」って強制されたり。
土日休日問わず練習・試合・遠征・合宿。絶対ムリ!
もうマジでね、尊敬しちゃうよ真面目に部活に取り組んでる子たち。
根気ないこんな自分が興味本位でどっかのクラブに入部したとして、迷惑かけるだけ。
アタシはアタシのやりたいことをやる。我が道を行く。それでいいじゃん。
……それで済まないのが部活動。だから、アタシには向かないのだ。以上。
- 10 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時41分52秒
何、周囲の評価?
それはなぁー、微妙なとこだ、非常に。はっきり言って教師らのアタシを見る目は
正直、厳しい。そりゃもう弁解の余地もなく。
でも、みっともなく言い訳する気はサラサラないよ、これでも。
いくら頭悪いアタシだってそれくらい理解できる程度の脳みそは持ち合わせてるつもりだ。
成績は悪い、
校則は守らない、(染髪・ピアス・指輪等装飾品不可)
他校の生徒と問題を起こす。
その上年がら年中遅刻・早退。無断欠席、常習犯。
繰り返してればそりゃせんせぇ方も怒るだろ。世の中そんなに甘くない。
何故退学にならないか?『問題を起こす』とは言っても警察沙汰まで発展することがないから。
- 11 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時42分24秒
万引きとかひったくりとか、要約すると「窃盗」の類には手を出さない、恐喝みたいなダサい
真似もしない、クスリ関係にも興味はない、身体は大事。じゃぁ何すんのかってーと、
つまり「ケンカ」だ。
高校生同士の喧嘩、それもリンチとかとは違う、純粋に1対1を楽しむだけで、別の
言い方をすりゃ一種の『格闘ゲーム』ってとこだろーか。
要はストリートファイト、教室内だろうが校舎裏だろうがメインストリートだろうが裏通りだろうが、
舞台は選ばない、とにかく始まったらそこが決闘場ってね(ちょっと大袈裟かな)。
大概はその場だけで治まっちゃうような騒ぎ起こすだけだし、自分らだって怪我するのは承知で
やり合ってるだけだから、あんまり暴行・傷害事件には至るようなことはないのだ。
たまーに、ボコボコにされたヤツの親がしゃしゃり出て来て「訴えるー!」とか言い出す馬鹿もいる
けど、ほとんど仲間内でもみ消しちゃうのが現状で、“警察のお世話にはならない”
勝手に、けどいつの間にか生み出された暗黙のルール。
だからゲームなんだ、でもやっぱり教師がいい顔するはずがない。
- 12 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時43分02秒
少し前、やり過ぎて1コ上の男子生徒の肋骨骨折・鎖骨骨折・左腕脱臼やらで1ヶ月間の
強制入院させちゃったときは、さすがにお咎め食らったりした。
アタシとしては、単にソイツの防御がなっちゃいないんだよと言ってやりたいが、
苦し紛れの(と思われるだろう絶対)言い訳が通用するワケがなく、
職員室に呼び出し、生活指導のせんせぇは煙草を押し潰しながら苦い顔でまず一言。
『後藤、お前はなぁ一応女の子なんだからなぁ』
……大きなお世話だよ。
- 13 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時43分40秒
――――
こんな問題児であるアタシ、何故それが周囲の評価として『微妙』な判断に繋がるのかっつーと、
それが学校という集団の面白いところなワケ。
結局、人の価値基準ってのはホント曖昧な主観で構成されてるってことなんだな。
『後藤さんってすごいよねぇ。男子にも全然負けてないし』
『せんぱい、後藤せんぱいあのー私ファンなんです』
『どうしたらそんな風に強くなれるんですか?憧れちゃう』
……等々、
つまり、人は自分が出来ないことに憧れる傾向があるらしい。
ま、アタシは他人を尊敬したり崇めたりって感覚は理解できないんだけども、
それは置いとくとして話を続けると。
ごくごく平凡でフツーな生徒諸君の一部(しかも主に女子!)から、何故かアタシは
「憧れられ」ちゃっているらしいのだ。
- 14 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時44分11秒
文化祭とか体育祭とかイベントの時に、恥ずかしそーに頬染めた女の子衆に、
「写真一緒に撮ってください!」とか言われちゃったこともある。
それも、1度や2度ならともかくフラフラ歩いた出先毎に声掛けられたりするもんだから、
さすがに面食らったなぁ。
確かに、アタシは男相手にガチンコ勝負して叩きのめしちゃうような女子高生だし、
珍しいのは分かる。怖いモノ見たさで近付いてくるのも分かる。
“異生物”的な自覚はあるんだよ。たださ、
ファンレターなんてものを貰った日にゃどうしたらよいものか。
いや、笑い話じゃなく実際貰っちゃった過去があるからね。
『憧れてました、友達になってください!』とか、直球過ぎだって!
――― 本当にこれアタシ自身もびっくりな話なんだけどさ。
『笑い話じゃない』と言いつつも、どうしていいか分からないトキには取り合えず笑っとけ、
これ定説。んはははは。
型にはまった生活してると、傍若無人なスタイルが格好よく見えるんだってのは、
こんなアタシに普通に接してくれる数少ない“マトモな”友達、梨華さんの話。
- 15 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時45分30秒
勿論、十人十色っなんて四文字熟語に表されるように、夫々の考え方があって然りだから
アタシも彼らにどうこう言うつもりなんてない。他人には干渉しない主義だしね。
ただ、物珍しい人種もいるもんだなぁと思うだけ。
(それから下駄箱に手紙っちゅー古風な手段もやめて欲しいっす。
本気でどうしたらいいか分からないし、大抵の手紙が差出人無記名なのだ)
どっちかというと、アタシみたいな存在は煙たがられがちだということを、知ってる。
現に中学時代の自分がそうだったし。
普通に考えて、アタシみたいに不真面目な生徒に純粋な好意を持って接してくる
人間の方が珍しいじゃないか。
どうも、アタシは黙ってると「機嫌が悪い」だとか「怒ってる」とか「ガン付けてる」とか
思われがちで、それらを要約すると結局は ――― ガラが悪いと。そういうコト。
失礼極まりないったら。こっちは単に眠かったりぼーっとしてるだけなのに。
- 16 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時46分06秒
が、アタシがせんせぇ諸君に目をつけられてる理由や、一般的な生徒からやや敬遠され気味
なのは、顔かたちだとか気だるい雰囲気(とよく言われる)、というよりは、
先ほど触れた『ゲーム』に関すること。
そっちがメインだと言った方が、きっと適切だろう。
少々、アタシらの『ゲーム』は派手に映るらしい、一般生徒やせんせぇ達からするとね。
それは別の言い方するなら騒々しいと言うべきか。
まぁやってることは単なる喧嘩なのだから、騒々しいのは当たり前だし、
静かな学校生活送ってる子からすると物騒極まりないんだろう。
学校。
教室。
一応今日は朝から登校済み。そんな日は、時々こんな事態が待ち受けていたりする。
――
- 17 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時46分45秒
ガラガラと勢い良く教室の引き戸が開かれ、姿を現すと同時に濁声を張り上げる1人
の男子生徒。ちなみに顔はイマイチ。つーか眉毛濃い。
「後藤はどいつだぁコラ!!」
………ほら、呼ばれた。今月に入ってもう3人目。
これがゲームでアタシを『プレイヤー』とするなら彼は差し詰め『チャレンジャー』ってとこか。
いかにも雑魚キャラみたいな凡庸で、にしては濃い目の顔立ち。
(顔のいいヤツってのは主人公か割と上級キャラと決まってるんだ、こーいう場合)
勇敢な、アタシから見たら「無謀極まりない」挑戦者が芸の無いセリフを叫ぶ。
同時に一斉に向けられるクラス中の好奇混じりの視線。
- 18 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時47分19秒
「こいつー。1番眠たそうなヤツでーす」
「押すなバカ」
「ほらほらごっつぁん、ご指名よ♪」
「うっさいなーもー」
「頑張ってゴマちゃん!」
「ゴマちゃん言うな」
「ウチが見守ってるから、カカカカ」
腹話術師の人形がするような口先だけの不自然な笑い方。どうも癖らしい。
後ろの席の悪友、吉澤ひとみ。
通称「よっすぃー」、名付けたのは実は梨華さん。何とも間の抜けた語感、独特でその上
めちゃ微妙〜なセンスがいかにも梨華さんらしい。
- 19 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時47分53秒
何の因果かそのよっすぃー、1年生の時から変わらず同じクラス。
どういうワケか、知り合ってすぐに『ゴマちゃん』なんつーふざけたあだ名を付けられた、
当然その呼称を口にするのは名づけた当人のよっすぃーしかいない、当然。
ちなみにそのあだ名、
『何か常に眠そうな感じがゴマアザラシを連想するから』
『で、ゴトウマキを省略するとゴマキになって、んでゴマキじゃ可愛くないからゴマちゃん♪』
……だそうだ。
決まって人をおちょくる時に限り、そのあだ名はよっすぃーの口に上る。普段は「ごっつぁん」、
使い分ける必要がどこにあるんだと思うけど、まぁ不思議な脳内構造であろう彼女に
聞いてみても答えが返ってくることは期待できない。
そりゃゴマキなんて呼ばれるよかいいけどさ、「ゴマちゃん」はないだろう、「ゴマちゃん」は。
大体ゴマアザラシって。……現実とのギャップがさ…。
(後藤真希と言ったら校内有数の不良生徒なのにねぇ)
- 20 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時48分35秒
梨華さんが「優等生」でアタシの正反対の友人だとするなら、よっすぃーは間違いなく
アタシと同類の「不良系」だと断言できる。
脱色しまくって一時は銀髪に見えるくらい色が抜けてしまったんだけど、今はその髪を
ライトブラウンに染め上げている。耳には左右非対称に計9個のピアス。
勿論、アタシ同様喧嘩 ―――― もとい「ゲーム」仲間、せんせぇ方からのお目付けも厳しい。
もっとも、世渡り上手で要領の良いよっすぃーは、アタシと違って勉強は苦にならないらしく、
そう努力しているようにも見えないが成績は割と中くらいを保ってたりする。
しかし、これだけは言っとこう。勉強ができるのと頭が良い悪いってのは別の話。
なんと表現したらいいのか。とにかく、よっすぃーはアフォでバカだった。
言っておくけど、けなしてるんじゃない。あくまで客観的に事実を述べただけ。
- 21 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時49分15秒
でもってそのよっすぃー、後ろからご丁寧に身を乗り出しアタシの椅子をガタガタ
揺らして、親切にも突然の招かれざる来訪者に告げている。
ガラの悪い、ついでに頭も悪そーなソイツの視線が、アタシを捉えた。
「お前かぁ、後藤!」
「……っつーかアンタ誰よ」
机の間を縫って歩いてくるソイツと、遠巻きに眺める(よっすぃー除く)クラスメイト。
何となくゆる〜い緊張感が漂うのは、この後の展開が予測できているからだろう。
アタシの素朴な疑問は彼に届くことなく、気付けば目の前に鼻息荒い1人の男。
改めて思う。
コイツ、眉毛濃過ぎ。多分胸毛とかも(以下想像自粛)。
「てめー後藤、オンナのくせに平井の頭かち割ってくれたそうじゃねぇかぁ!」
いちいちダミ声で怒鳴らなくても、ちゃんと聞こえてるって。
てゆーか、
「平井?」
って誰?
えー、マジで誰だっけ。頭フル回転。
えーとえーとえーと………かなり真剣に考えて、ああ、思い出した。
脳裏に浮かび上がる1人の男子生徒の姿。アンド、その醜態も。
- 22 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時49分51秒
「あー、あははっは。あの平井くんのお友達ねぇ」
「何笑ってんだコラ!何がおかしいテメェ!!」
「うーん。ジャイアンみたいな顔してるくせに梨華さんに告って振られて暴れて、最終的に
アタシに正義の鉄槌を下された、あの平井くんね」
「何が正義の鉄槌だ、お前が単に暴れたいだけ ――― 」
鼻の穴を膨らませてチャレンジャーが猛抗議を開始したようだけど、とりあえず無視しといた。
「ちょっとねぇ、梨華さんの横に並ぶには全てのステータスが足りなかったよねぇ」
そーいやそんなこともあった、……気がする。
美人で人当たりのいい梨華さんが告られることなんてそれこそ日常茶飯事だから、
余程のインパクトを持ったヤツでないと記憶の片隅にしも残らないんだけど、
それでも物覚えの悪いアタシが思い出すくらいなのだから、相当印象が強かったんだろう。
(当然イイ意味じゃない、所詮は皆辿る運命は同じ→結局振られる)
言われてみれば、そんなコトもあったっけ。
- 23 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時51分03秒
「ごめんなさい」ってやんわり拒否した梨華さんに、
『何でダメなんだぁー』っていきなり叫んで、掴み掛かりそうな勢いだったから、
(護衛のつもりで一緒についてたアタシが)咄嗟に飛び蹴りしてやったんだ。
蹴り倒したその「平井君」、倒れ方が下手だったせいか机かなんかにしこたま頭を打ち付けて
しまったらしく、泡吹いて失神するわ、頭から血がだぁーだぁー出るわで
救急車を呼ぶような騒ぎにまで発展してしまったことがある。
その後、せんせぇの110番で駆け付けた警察官(少年係の部長さんと刑事一課の係長さんと
管轄交番のお巡りさんまで集結するような非常事態だった、しかもアタシはその全員と顔見知り
だった、笑えない…)らに対し、
当の平井くんはと言うと、女の子に振られて挙句、暴れて蹴り倒されて頭ぶつけて救急車で
搬送された経緯を話すにはプライドが許さなかったらしく、
『何でもないッス転んだだけス』
などと強硬に言い張り、その後アタシが傷害事件の被疑者として捜査されるには
至らなかった、一安心。
- 24 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時51分34秒
ついでに頭の傷は切り傷で済んだらしい、失神したのは脳震盪を起こしたから。
頭を怪我すると、びっくりするくらい血が出るんだよねぇ。
で、その平井君のお友達が今更何の用だと?
「あの後平井はなぁ、平井は ――― 」
どうにも単なる『ゲーム』の挑戦とは異なる模様、だけど今後ケンカに発展するのは同じこと、
だったら。
「はいはい、アタシ長話嫌いだからもう終わりにしてくんないかなー」
「なにぃ?てめぇ…」
どうにも前口上だけでは終わりそうもないチャレンジャーもとい、自称「平井くんのお友達」
である彼に、説明するなら口より手。
というより、いかにもコッテリとした濃い顔立ちの脂ギッシュな彼の顔を殴るという行為
には抵抗があった。だってさ、テカテカ光ってんだよ?触りたくないじゃん。
となると、当然……
- 25 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時52分10秒
「ちょっとこれ見てくれる?」
「ぁあ?」
スカートの裾をつまんでゆっくり引き上げ、ちょっとだけサービス。……してみせるフリ。
これまた自信過剰に思われるかもしれないけど、脚には結構自信アリなのだ。
唐突にこーいうことすると、大抵の人間は呆気に取られるもので、一瞬戦意を削がれ、
続いて健全な男子高校生であれば、悲しいかな、男のサガ。
「………」
ぽかっと口を開けてアタシの太腿に釘付けになる「平井くんのお友達」。隙だらけ。
面白いくらいに間抜け面。
少しばかり前のめりになる彼の肩に両手を置いて、引き寄せて、でもって、
「んなっ!?」
「おやすみぃっ」
我に返ったのか裏返った声を上げるけど、はっきり言って反応遅過ぎだっての。
惚けた顔した眉毛男に膝蹴り1発。無防備な腹筋に食い込む感触。
おし。手ごたえアーリ。
- 26 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時53分14秒
「……ぐ、えっ」
潰れた蛙みたいな声をした相手が倒れ掛かってくる前に、軽く後ろにステップ踏んで
回し蹴り、どかーん。
がらがらがらっ
「ぎえっ」
まともに後ろに吹っ飛び、整然と並んだ机もろとも床に崩れ落ちる ――― 名前なんだっけ?
――― 「平井くんのお友達」の男子生徒。顔イマイチ。眉毛剃れ。
「ってえー……」
呷き声も芸がないっつーか、負けキャラにありがちで超つまらない。
『かくなる上はっ!!』
とか言って起き上がって懐刀向けて突進してきたりしたら面白いんだけどなぁ。
たまに水戸黄門とかで出てくる、往生際が悪いヤツみたいにね。
実際刃物なんて持って向かって来たら、さすがに笑ってられないけど。
そらもう即110番でしょ?馬鹿にハサミは危険です。
- 27 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時53分47秒
あらららら、机あんなに倒しちゃって、誰のか知らないけど教科書散らばっちゃってるよ。
アタシのせいじゃないからね、あれ。アタシのせいか?分かんないからまあいいや。
「まぁた蹴りでキメ?たまには拳使いなさい拳」
遠巻きな生徒諸君の中にして、唯一アタシの真後ろに陣取ったよっすぃー、椅子に
座ったまんま観戦していようだが開口一番、不満気に口を尖らす。
いつものことだけど、動じないヤツだぁねぇ。
「だって手、汚れそうじゃん」
あの脂ギッシュな顔見ただろーに、よっすぃも。
「はは、そらそーだ。にしてもいきなり膝蹴りとは野蛮だねえごっつぁん」
………アンタにだけは言われたくないよソレ。
- 28 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時54分24秒
よっすぃー曰く、「喧嘩は拳と拳のぶつかり合いだ」らしい。
どこの格闘漫画の台詞かと思うけど、実は吉澤ひとみ17歳、駆け出しのボクサーなのだ。
それも「自称」ではなく、れっきとした(しかも結構名の知れた)ボクシングジムに
通っており、しかも期待のホープと騒がれてる。
新聞にインタビュー記事が載ったこともあるくらい。もちろん、地元のだけども。
(女子のボクシングって、まだまだマイナーの域を出てないし、何よりまだよっすぃーは
正式試合は未経験だった)
そんな彼女が言っている分、大分重みがある言葉なのだ。
多分、っていうか絶対誰かの受け売りに決まってるけど。
だってよっすぃーアフォだもん。
で、「拳と拳のぶつかり合い」………けど、やっぱり殴るのは苦手だ。
蹴りの方が当然リーチ長いし、「口より先に手が出る」よっすぃーと違って、アタシは
考える前に足が出るのだ。1番好きなのは飛び蹴りだけど、滅多にやらない。
つーか、部屋の中ではねえ、ちょっと。
- 29 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時55分10秒
「ってぇ、ちくしょー」
「あ、起きた」
崩れた机の合間から、一瞬で床に沈められた挑戦者「平井くんのお(略)」が、お腹を
擦りながら顔をしかめて起き上がるのに、よっすぃーが気付く。
さっきまでゲホゲホ苦しそうに咳き込んでいたけど、どうやら気丈にもまだ憎まれ口を
叩く余裕があったらしい。
「ヤロ、後藤卑怯だぞ…」
知るかーバーカ。
「卑怯も何も喧嘩にルールなんてあるかタコ」
「な、吉澤っ!?」
無言で思いっきりあっかんべぇしてやったアタシの代わりに答えたのは、相変わらず
だるそーに椅子に腰掛けたまんまのよっすぃだった。
『喧嘩にルールなんてあるか』
そうそう、たまにはよっすぃー良いこと言う。
眉毛の濃い彼奴の目が初めて、驚きのためか丸く見開かれる。
- 30 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時55分43秒
「正々堂々勝負したいんなら、ウチが代わりにやろっかぁ?」
にんまりと意地悪っぽい笑みを口元に浮かべ、ゆらりと立ち上がるその姿は妙に迫力満点。
うわぁ、めちゃくちゃ性格悪いなコイツ。
わざとらしく、指ポキポキ鳴らしちゃったりして。リーゼント時代の不良のよーだ。
普段はアフォ全開なヤツだけど、やっぱり普通の人間とはオーラが違う。
大抵の人間はここでまず雰囲気に呑まれる。そして腰が引ける。
「何でテメェが出てくるんだよ、吉澤っ!」
ほらね、ビビッてるし。
有名人だし。
ま、女子でボクシングやってるなんてのも珍しいしな。
「何でって言ってもォ、友人のピンチは助けるでしょ普通」
「誰がピンチなんだよ」
……聞き捨てならん。どう見ても、ピンチなのは相手の方でしょ。
「ま、こんな喧嘩っ早いヤツでもウチの友達だから、一応」
「一応って何、一応って」
「それに、意外と寝顔はコドモで可愛かったりするのよこれが」
「寝顔は関係ないでしょ寝顔は」
「で、どうする?」
「無視かよ!」
- 31 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時56分17秒
楽しげに指を鳴らし続けながら(ついでに首もぐるぐる回して)問い掛けるよっすぃーに、
「覚えてろっ!!」
哀れ平井くんの(略)は多数生徒の見守る中、無様に背中を向けて逃げ出しましたとさ。
「いぇい、ウィナー♪」
何をしたわけでもないのにピースサインで胸を反らす吉澤ひとみに、何故かちらほら向けられる
クラスメイトの拍手の音。余計調子に乗るっての、んなことしたら。
一応、勝ったのアタシなんだけどなぁ。
微妙に納得いかない…。
でもこれで連勝記録は更新。もちろん、喧嘩のってコトで。当然今のも、『ゲーム』の趣旨とは
ちょいと外れてたようだけど、カウントしちゃおう。
本来なら、「やられた友人の仇討ち」目的な挑戦者よりも、
「お前に勝って名を上げてやるぜー」みたいな初挑戦組とか、
「こないだの借りを返してやるぜー」みたいな再挑戦組とか、
ともかく単純明快な理由のヤツの方が断然多いし、その方が後腐れなくていい。
- 32 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時56分51秒
せんせぇ方に目をつけられるのも納得な、
喧嘩、喧嘩、喧嘩に明け暮れるバイオレンス・マイライフ。
…いや、アタシ自身が望んでる展開じゃない、これ本当に。
やたら気性が激しく、荒れまくって手当たり次第火花散らしてた中学時代、
少しは大人になって落ち着いて、売られた喧嘩を買ってるだけの高校生活、
生来の負けず嫌いが先行して、
気が付けばいつの間にやらすっかり「喧嘩好きの問題児」の第一人者として
周囲に認知されるに至ってしまったアタシである。
これでも憲法第9条戦争放棄・平和主義支持者のアタシとしては大層不本意な問題なわけで、
全く嬉しくもない称号を与えられてしまったもんだ。
売られた喧嘩を逃げずに買ってるってだけなのにさ。『プレイヤー』として優れてる、だけ。
同じようによっすぃも優れたプレイヤーに当たるんだろうけど、ヤツの場合はボクサーという
分かり易い実力の裏づけるせいで、挑戦者が少ない。
- 33 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時57分58秒
いくら平凡な生徒で構成される学校とはいえ、そりゃ中には例外が存在するもので。
勉強嫌いで普通の進学コースから戦線離脱した体力だけが自慢のアフォ共、
女であることも手伝ってやたら有名になってしまったアタシに勝って、自分の名を上げようと
考える単細胞の連中ってのはやっぱりいるもんで、
こうして暇になれば押しかけてくるというワケ。
しかも、大抵のヤツは話にならないくらい弱っちい。……ちょっとは精進してこいよ!
ま、相手するアタシもアタシだけどさ。自分だって彼らと似たり寄ったり。
何だかんだ言って、売られた喧嘩を買って思い切り蹴り倒してやることで、
ストレス発散 ――― 鬱憤晴らし?――― になってるところは実際、あるのだから。
(それでもあくまで主張しとこう。アタシの趣味は読書!これに尽きるのだ)
- 34 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時58分31秒
だから、さっきのよーな「ジャイアン似の平井くんのお友達」の例は稀有なわけで、
友達の敵討ちにわざわざ勝てる見込みもない相手に挑んで来るなんて、
ほとほとお涙ちょーだいな展開だけど、アタシにとっちゃ関係ない。
だってアタシにとっちゃ『ゲーム』の世界だ、
弱けりゃ負ける。強けりゃ勝つ。そんだけの世界。実力主義。
老若男女、差別(区別?)なしってね。
「捨て台詞も普通…逃げ足は速い……負け犬の典型だね」
すとん、と再び椅子に腰を下ろして、呆れた口調で呟くよっすぃー。
悔しいが、非常に認めたくはないが、悠然と構える「吉澤ひとみ」は、確かにかっこいいと
言わざるを得ない……かな。梨華さんも言ってたし。
もし、アタシがよっすぃーとガチンコ勝負するとして、
ノールールの喧嘩対決なら負ける気はないけど、ボクシング対決なら多分勝てない。
のほほんとした顔&性格している割に、グローブつけると人格変わるんだよなぁ、
よっすぃって。ジェイソンの目ぇするもん、マジで。人殺しの目。
前にバカ正直にそのこと言ったらかなり本気で殴られたんで、もう言わないけど。
- 35 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時59分11秒
「保田ボクシングジムの期待を一身に背負った世界チャンプ(予定)のウチが、ただの
素人相手に本気で喧嘩吹っかけるわけないじゃんか、ねえ?」
「どーだか……」
淡々とよっすぃーが溜息を共に愚痴とも文句ともとれない言葉を吐いていたけど、
(この大嘘つきめ)アタシは知っている。
前に梨華さんとよっすぃとアタシの3人という珍しい組み合わせで、食事でもしようと夜の9時過ぎに
最寄りの駅前で待ち合わせたことがあった。
(何故それが珍しいかって、それは今後説明するとしよう)
で、その街中で。
1人時間通りに到着した梨華さんに、身分も弁えず無謀にもナンパしようとした数人の
男子高校生連中の前にタイミング良く現われたよっすぃー、
『なんだよ彼氏が一緒かよー』呼ばわりされて、
『だれが彼氏だぁ、ウチのどこが男に見えるんだヴォケ!!』キレて、
彼らが泣いて謝るまでボコボコに殴り続けたことを。
- 36 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)17時59分48秒
アタシが30分遅れで到着したとき、まだ暴れてやがったもんなー。
梨華さんも途中まで止めようとしてたらしいんだけど、聞こえてる様子もなかった
よっすぃに愛想尽かして、通行人に混じってジュース飲みながら傍観してたっけ。
『一緒のときには喧嘩しないでって言ったのに』って静かに逆ギレした梨華さんを
なだめるの、大変だった。うん、大変だった……。
ついでに、暴れまくるよっすぃー&その事態の収拾つけたのもアタシだった……
意外と苦労人なんだよなぁアタシ。
…………。
って、何を過去の回想に浸ってんだ、後藤真希。
「あ、そういえば」
「…何?」
「今のヤツ、結局誰?」
「…『平井くんの』…」
「名前も知らないし」
「………」
「………」
「………やられキャラ?」
- 37 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)18時00分34秒
要するに。これがアタシの日常な生活なわけで、
クラスメイトからやや敬遠され、生徒の一部から珍獣扱いで羨望されているのは、
先程のような出来事が日常茶飯時であるからなのだ。
ま、中学の頃と違って自分からは火種撒いたりしないし、喧嘩売られてもさっきのよーに
適当にあしらってるだけだけだから、その辺は多少大目に見てもらって欲しいけど。
『まぁたお前か後藤!問題ばっかり起こして!』
……せんせぇ方にとっちゃ同じことだそうで。
結局何が言いたいのかって言うと、
後藤真希。17歳。高校2年生。至って健康体。
特技、喧嘩。
―――― こんな感じ。
- 38 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)18時01分25秒
言っておきたいのが、今のところこれらはアタシの青春の1ページを描いた話で、
あくまでここらはこれから続く長いお話の導入部にあたるわけで、
『ゲーム』、つまり喧嘩なんかがメインのアクション小説じゃないのだ、
これでもいちおー女子高生、こんな喧嘩ばっかの野蛮な展開ばかりじゃなく、
運命的な出会いとか映画みたいな恋愛とかそう、とにかくこれは単なる「プロローグ」、
重要なのはこの先、あくまでアタシの恋バナがメイン、な話、なのだ。
いやまぁ、だって冒頭で言い切っちゃったし、
主張するけど世の中あくまで「愛と平和」、何てったって「Love&Peace」、
だから多分 ――――― まぁ、おそらく、そうなるハズ。
- 39 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)18時03分11秒
@ノハ@
( ‘ д‘)ノ<流すでー
- 40 名前:Forward! 投稿日:2003年04月13日(日)18時04分17秒
@ノハ@
( ‘ д‘)ノ<一応scene1はここまでやでー
- 41 名前:名無しaibon 投稿日:2003年04月13日(日)18時05分52秒
- 初めてしまいました…。
あまり見かけないCPの上、松浦に至ってはまだ影も形も出てない段階ではありますが、
気楽に読んでいただけると嬉しいです。
でもって次回からは更新量がもう少し減ります。初回飛ばしすぎた…(w
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)20時28分42秒
- あやごま!あやごま!
期待してます!!
- 43 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)21時29分53秒
- 乙です。
あやごまなんて珍しいし、期待しとります。
- 44 名前:名無し 投稿日:2003年04月13日(日)22時16分36秒
- 後藤さんのキャラが新鮮でいいなあ。。。
あややと出会うのが楽しみです。
- 45 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)23時19分37秒
- あやごま期待です。
あやごまってどんな展開なのかあまり作品がないので予想出来なく気になってしまいます。
作者様頑張ってください。
- 46 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時20分47秒
友達、
家族、
先輩、
後輩、
せんせぇ、
お巡りさん、
毎朝駅で会う駅員さん、
よく行くコンビニの店員さん、
朝から犬を連れて散歩するおじさん、
登校途中にすれ違う黄色い帽子の小学生軍団、
自転車ですれ違うなんだか不法滞在風の怪しげな外国人、
毎朝電車の中で顔を合わせる違う制服を着た知らない学生たち、
………
エトセトラ、エトセトラ。
- 47 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時21分21秒
scene2 / 「友達代表:×××」
- 48 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時21分54秒
…………
一介の高校生の接する人間なんてたかが知れているけど、それでも自分は割と広い
世界にいるんじゃないかと思っている。
というよりは、「その気」になればすぐにでも広い世界に出て行けると信じているんだ。
……なんてね。
狭い世界にはそれなりに楽しみもあるし喜びもあるし、
退屈だと思うのはその時点で自分の世界を狭めている、そうアタシは思ってる。
ただなぁ、なんか足んない、というか何か満たされてない感じ。
この年頃になれば誰でもこんな空虚感を持つんだろうか?たまに真面目に考える。
よっすぃーに聞いてみたけど「ウチは毎日ハッピー♪」とかのたまうし、
(やっぱりアフォに聞くべきじゃないのだ、こういう問題は)
梨華さんに聞いてみれば「どうしたの、何があったの?」とか真剣に心配されちゃって
逆に問い詰められたし。
- 49 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時22分34秒
つまり何が足りないか、自分が何を欲しているのか。
別に人に聞くまでもないよなぁ。
本当は、気付いてたことだから。
ってかさぁ、今アタシ17歳だし。17歳っつたら恋愛を中心に世界が回る年頃なわけで。
で、アタシにはいないのだー恋人なんて。喧嘩ばっかの毎日だし。
色気もへったくれもあったもんじゃない、
彼氏がどうしたこーした、好きな人があーだこーだ、そんな話にも全然縁がない。
なんかなぁ、「好きだぁ!」って思えるほど魅力的な人間に出会ってないだけかも
知れないんだけど。
17年間生きてきて、それほどいい人に出会ってないってことは、この先だって大して
期待なんて持てないってことじゃないかと思うし。
……滅茶苦茶寂しい考え方だなこれって、我ながら。
そう、『恋愛』なのだ。
アタシに足りないもの。
- 50 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時23分10秒
脳みその皺も足りない、なんて突っ込みはナシの方向として、
映画の中でもドラマの中でも、
音楽の歌詞でも小説の中でも、
無駄に「Love」が所構わず転がってる俗世界、なのにアタシには転がってこない、
『そこに愛はあるのかい』、なんて誰の台詞だったっけ?
待ってるだけじゃダメなのかも知れないけど、そんなこと言ったってさー
合コンや友達の紹介で、本当に「好きな人」なんて見つかるもん?
何かちょっと、ってかカナリ恥ずかしいこと言ってる気がするんだけど……。
- 51 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時23分55秒
ちょっと前までは、これでも彼氏持ちだったのだ。年上.・20歳・フリーター。
梨華さんの友達の紹介で知り合った、その日に「付き合おう」なんて言われて、割と好みな
顔だったし背もまぁ高めで、笑顔が可愛かったからアリかな、とか思ってオッケーしたけど。
これが思ったより滅茶苦茶ガキで、うんざりして別れた、それもちょっと前。
他には?いないよ、ソイツ1人だけ。
……過去1人だけなんだよ、少ないゆーな。
何はともあれ「恋愛」イコール「付き合う」ってコトじゃないって、そいつから学んだ。
付き合い始めたら、「彼氏彼女」の関係になったら、情が深まってもっと好きになるんじゃないかと
恋愛経験貧困なアタシは思ってたけど、見事にその算段は外れたってワケ。
(スタート地点で、気持ちがいい加減過ぎたせいかもしれないが)
- 52 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時24分37秒
まあね、見栄張りたい時期っていうのが青少年には少なくとも1度や2度はあるもので、
「付き合ったこともない」ってのは意外とコンプレックスだったりしてさぁ。
今考えれば、なんとも幼稚で恥ずかしい限りだけど。
だから今まで告られた中では最も容姿レベルの高かったソイツと、「恋人ごっこ」のような
形で付き合った、でも本当に「ごっこ」のまま終わりを迎えた、若かったアタシ。
いやいや、今も若いよ、本当に ――― たまにオッサン臭いとか言われることあるけど。(失礼な!)
そうそう、喧嘩好きだとか男っぽい性格とか、何かと共通点の多い某よっすぃーだけど、
こと恋愛に関しては全くその価値観とか経験は異なってる。
何から何まで一緒で似てるってのは逆に怖いから、バランス的にはいいんじゃないかと
アタシは勝手に思ってるんだけどね。
で、何が違うって、
まずよっすぃーの恋愛に関するエネルギーには度肝抜かされるってとこ。
どんなにボクシングの練習で疲れてようが、
金欠でぴーぴー言ってようが、
何より誰より付き合ってる恋人を大事にする熱いヤツなのだ。(むしろ暑苦しい)
- 53 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時25分11秒
あまり恋愛に対するウェイトを置かないアタシからすると、かなり鬱陶しいタイプに振り分けら
れるけど(友達、として付き合ってるから上手くいってるんだ、多分)、
恋愛重視の人間から見たら相当、濃厚な付き合いが約束されるであろう対象。
それが、吉澤ひとみ。
それだけで明らかにアタシと彼女の価値観の違いを分かってもらえるだろう。
だってアタシ、自分の見栄の為に顔・スタイル・性格そこそこの男選んで付き合うような
人間だし。そう好きでもない男と付き合っちゃったようなヤツだし。
さすがにそーいう相手と最後までいっちゃってるような節操無いこたしないけどね。
求められたら別にいっかなーくらいにしか思ってなかったけど、実際脱ぐ、なんて場面になると
急に「やっぱ嫌だ」とか言っちゃったりして、結局何もなかった。
けっこー純情なのかもアタシ、古風に言うなら“奥ゆかしい”っての?……あー、笑える話。
- 54 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時25分44秒
あ、そうだ。ついでによっすぃーの凄いところを2つ教えよう。
1つは、言うまでもなくボクシングの腕前。この先控えてる新人戦(一応女子部門)では、
チャンピオンはほぼ間違いないらしい。追っかけの女の子の情報によると、そう。
いるんだよなー、追っかけが。生意気にも。
何故か、女の子ばかり。というより、男より女にモテる人種なのだろう。
出会ったばかりの頃は、黒髪にほっそりとした体つき、加えて“超”が付く程色白だった
“美少女然”とした面影は、今は見るべくもなく……。
( ボクシングの訓練により鍛えられたため、今のよーな“がっしりした”体つきになった
のだと、取り合えずは説明しておこう。他ならぬ親友の名誉のためには )
2つ目は、ヤツのキャパシティの広さだ。何って?もちろん恋愛に関するベクトルに
作用することに決まってるじゃん、よっすぃのことだから。
百聞は一見にしかず。
………
- 55 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時26分31秒
ぽかぽか陽気の教室、あったかい窓際を陣取ってよっすぃーとアタシは向かい合って座ってる。
時間は昼休み、けれどお弁当を広げてるのはアタシだけ、
しかもほとんど食べ終わって既に片付けを始めてるとこ。
…そろそろ来る頃かな、彼女が。
教室の黒板の上、12:50を示す時計にチラリと視線を走らせたその直後、予想通りな展開に。
「吉澤せんぱーい!お弁当作ってきましたぁ」
カラカラと引き戸を開けて、“元気いっぱいです!”とアピールしまくりな明るい声が響く。
同時に、頬杖をついて呆けてたよっすぃが弾かれたように立ち上がった。
「おーう愛ちゃん待ってたよー。いつもありがとー♪」
「えへへへ。せんぱいのためなら…」
「いきなり2人の世界つくってんなよ」
「あらぁゴマちゃんヤキモチ?飴やるから向こう行ってな」
「いらねーよ、タコ!」
「はぁーいタコタコー!!」
「やはははは、吉澤せんぱいかわいい〜」
(………………はぁ)
- 56 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時27分15秒
………やってらんねぇ。マジで見てらんないわこのバカップル。
ん?そう、カップルなんですよ、あの2人。
アフォよっすぃーと、1コ下の後輩、1年生の高橋愛。ふつーに可愛い女の子。
察しの良い人なら気付くと思うけど、これがよっすぃの凄いところパートU。
有り体に言えば、両刀ってこと。所謂バイセクシャル。(意味合ってる?)
好きになれば男も女も関係ないってきっぱり言い切った顔は、不覚にも負けたとか
思ったなぁ。そもそも人を本気で「好き」になったことのないアタシには。
そういや、いつだったかよっすぃーが鼻息荒く梨華さんに迫ってた時もあった。
勿論、愛ちゃんと付き合う前の話。
恋人がいないと節操ないんだ、ヤツは。
とーぜん、適当にあしらわれてばっかだったけど。アタシが牽制するまでもなく。
- 57 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時27分47秒
「じゃ、さっそくいただこっかな〜」
「ハイ、どうぞっ。後藤せんぱいもいかがですか?」
「だめ、必要なしっ!ごっつぁん今ダイエット中だもんねー、あげないからねー」
「ダイエットが必要なのはお前だろぉがっ!」
「んー、おいしー♪」
「………アホ面が輪をかけてアフォに…」
「誰がアフォだぁ!!」
「聞こえてんじゃん」
しかし、何が困るってさぁー、ラブラブ過ぎてむかつくんだよね。
別に妬いてる訳ではない、今度はアタシ自身の名誉にかけて、絶対に。断言するけど。
ただ、ところ構わずイチャイチャし始めると居辛いんだっちゅーの。
見てると異常なくらい苛々するし。殺気芽生えるし。
これでも友達思いだし、気を遣う性質なんだからな。
愚痴っててもしょーがないから、こういう時は梨華さんのところへ行く。
3年生の教室へ。これも日常。
――――
- 58 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時28分49秒
そうそう、以前に触れた「アタシ・梨華さん・よっすぃーの組み合わせは珍しい」論
について説明しておこう。
吉澤ひとみのアフォっぷりについては今更言及するまでもないけれど、それでも
その「彼女」である愛ちゃんはそんなヤツでも相当惚れ込んでいるらしく、
別のオンナの影には非常に敏感なのだ。
物好きにもよっすぃーに声掛けてくる馬鹿な男共はともかく、言い寄ってくるファンの
子や、猛烈なアプローチを掛けてくる女の子は後を経たない。
ま、ヤツの本性知ればその数は反数以下に減るとアタシは踏んでいるが、やっぱり
多いっちゃ多いわけで。
(納得いかないよなぁ〜……外面の良さにみんな騙されてんだから )
特例というかオンナとして認められていないのか、愛ちゃんはアタシに対しては寛容な
態度なんだけども。男同士の付き合いみたいに考えてんだろう。
間違いじゃない。
(だって疑いよーもないだろなぁ、アタシとよっすぃーじゃ。アハハ )
んで、そんな愛ちゃんが美少女の代名詞のような梨華さんを意識しない筈がなく、
『絶対2人っきりは駄目だからね!』と念を押されているワケなのだ。
- 59 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時29分45秒
実際、過去に本気で梨華さん口説いていたことのある、いわゆる前科持ちの
よっすぃに警告を発していた愛ちゃんは、正しい。…んだけどね。
つうか、アタシは梨華さんがフラフラ他人になびくなんて有り得ないと思ってるから、
愛ちゃんの心配は杞憂に過ぎないとも言えるのだな。
別にアタシが口出しするべきことじゃないのは重々承知の上だけど。
- 60 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時30分17秒
でも、それだけ本気で、強い独占欲を剥き出しにできるくらい好きな人を思う気持ち
というのは、アタシにとってはある意味尊敬に値する存在。
絶対に自分にゃ無理な話、
毎日大量にメール打ったり、
何時間もかけて長電話したり、
いかにも手間かけてそーなお弁当を昼休みの度に届けにきたり。
そういうこと、苦にならない程他人を大事に思えるって凄いよなー。
この先、アタシは人をそんな風に思えることなんてあるかなー?
それとも、皆の感覚と自分のソレは、随分ずれてんじゃないだろか?
2年生の棟へ通じる渡り廊下を歩きながら、そんなくだらないことを考えた。
何となく周りの他生徒らがアタシを避け気味に通り過ぎて行く。
おかげで歩き易いんだけどね………ホントはそんなに怖い人間じゃないのに、どうも
誤解されがちなんだよなぁ。
もっとも、それら「普通の生徒」からすれば、どうして梨華さんみたいな優等生がアタシ
のよーな不良生徒と仲が良いのか、そっちの方が疑問視されてるかもしれないけど。
- 61 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時30分51秒
「りーかーさんっ」
「あれ、ごっちん」
その梨華さんは教室の窓際、陽だまりの中で小っちゃい子供のようにジュースの
ストローを加え、1人でぼんやりと寛いでいる様子。
絵になるっつーかなんつーか。
でもその端整な顔からは想像できない甘いアニメ声。本人は至って普通の声だと
強情に言い張るけど、明らかに甲高い。
だって、アタシがヘリウムガス吸ったみたいな声だよ?
おかしいんです、やっぱり。アタシ地声低いからさ、余計にオモロイ。
ずかずか教室内に侵入し、あと数歩と近付いたところでようやく彼女はアタシの存在に
気付いたようで、おっとりとした微笑を見せる。
一瞬で、子供の顔から大人の顔へ。
でも、やっぱりアニメ声。あんまりからかうと拗ねるから黙っとく。
「ごっちんは止めてってー」
「じゃあごっつぁん」
「もうどうでもいいっす」
- 62 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時31分23秒
どうして「後藤真希」なんつー字数の多い生意気そうな名前(客観的にね)で、
「ごっちん」なんて間の抜けたあだ名をつけられたんだろう。謎だ。
梨華さん。本名石川梨華さん。と知り合ったのは………いつだっけ?相当昔のこと。
◇◇
- 63 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時32分31秒
中学生2年だか3年に上がるときだか、ともかくあの頃のアタシは今より全然荒れてて
目つきも悪くて友達もいなくて一匹狼気取ってギラギラしてた。
そんなこともあったんだよ、若かったから!
で、やっぱこわーい先輩グループに目ぇつけられて、囲まれてケンカんなって、
『ゲーム』とか今言ってるような甘っちょろいモンじゃなくて、めちゃくちゃ本気の“殴り合い”。
5,6人に囲まれてるんだからむしろリンチみたいなもんだ。
当然逃げもしないし負けはしなかったけど、結構ボロボロにされたんだよね。
そんな時、梨華さんに会った。
足を捻って痛くて動けない、身体もあっちこっちに傷作って、雨に打たれてしゃがみ込んでた
駅の前、他人の視線が途切れることはなく、不快感は増すばかり、
――― でも何もできない無力な自分。
鬱憤ばかりが募る中、
ふと、近付いて来る人影を認めて視線を向けた。
霞みがかった映像の中で、唯一色を持った花のようにその人影は景色の中で何より映えて見えた。
………ま、今考えると梨華さんの只者でないオーラに気付いてたってことだろう、きっと。
- 64 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時33分31秒
同い年くらいの、大人しそうな女の子。妙に強張った顔が、強く印象に残った。
ピンク色の花柄という、口の悪いアタシに言わせりゃ「趣味悪い!!」ってな傘を差して
挑むような、哀れむようななんとも言えない表情浮かべて。
刺すように顔に降り注いでいた冷たい雨の感覚が途切れて、アタシはその趣味の悪い
傘の柄が視界一杯に広がっているのに気付いた。
その少女が、アタシの頭の上に傘を翳していたのだ。
『んだよ、見てんじゃねーよ』
不貞腐れたコドモっぽいアタシの態度に動じる様子もなく。
『傷、大丈夫?』
『うるさい。知らない人に心配するほど落ちぶれてないっての』
『バカッ!!』
『はぁ?』
びびったよなぁ、あの時。呆気に取られたのって、多分あれが初めてだろう。
『ケンカなんかして怪我したら親がどれだけ心配すると思ってるの!!』
でもって
『バカッ!』
――― ゴン
『いでっ!?』
『バカバカバカバカ』
『いたたたた、痛い痛い痛いって!』
- 65 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時34分14秒
連打で殴られた。めっちゃひ弱な顔した、華奢な女の子に。
ハハ。もう、唖然・呆然。
思いっきし、拳骨で頭、殴られたのだ。口から血ぃ流してる怪我人を、本気で殴った。
パン、て平手で叩くんじゃないよ?思いっきりグーでだよ。
しかも、はっきり言って迫力も何もあったもんじゃない、アニメ声の少女に。
確実に十数秒は、頭の中真っ白になってたね。時間、止まってたもん。
殴られたことに怒るより先に、全てが滑稽で笑えてきた。
『…くっ、はははは。あはははっ、て、いってーいたたたたたあはははははっ』
『ちょっと何笑ってるのよ、怒ってるんだから私!』
『あはははは、いで、やめ、痛いから痛いから、ででえっ、く、ふふははは』
『笑わないでよ!』
『痛いいたたたやめてってふはははははいででっちょっとソコ切れてんだからやめ!』
……………
いつの間にか彼女は傘を手放していて、支えを失ったソレは路面に滑り落ちる。
2人してずぶ濡れになりながらアタシはしばらく笑った。とても久しぶりに頬の筋肉を
使ったな、そんな風に思いながら。
……
- 66 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時34分54秒
そんなこんなで、
衝撃だったわけです。梨華さんとの出会いは。
それまではアタシの外見とか噂とか風評で、端から近寄ってくる子なんていなかったし、
いるとしたら、因縁つけようとする自分と同類のケンカっぱやい輩ばっかだったのに。
絵に描いたような優等生なカッコして、必死な顔して、人の身の上心配したかと思えば
いきなり殴るし。
痛いのとおかしいのとで笑い転げて涙まで出てた。したら、それまで燻ってた何かが
スッて引いてく感じ? ――― 晴れてくような、爽快な気分になったのだ。
散々アタシを叩いた後、梨華さんはピンク色のハンカチを黙って差し出した。
『人を殴るのって痛いね』
当たり前のことを言って、少し寂しそうに笑っていた。
目が離せないような、美しい笑顔だと思った。
濡れて額や頬に張り付いた黒髪でさえ、彼女の繊細な魅力を際立たせてるように感じるくらい。
その時の彼女の儚い笑みは、今でもアタシの記憶から抜け落ちることはない。
- 67 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時35分29秒
そして、梨華さんの湖のような深い瞳に吸い込まれた。
一瞬で理解した。ああ、この人は ―――― そうなんだ ―――― 。
……………
『ねえ』
『なぁに?まだ傷痛い?』
『……どってことないよこんなの。てゆーかさっき殴られたトコのが痛い』
『ふふふふふ』
『笑うとこじゃないでしょ…』
『それだけのこと言えるなら大丈夫よね』
『よくここら辺いるの?』
『え?』
『また……』
『また?』
『会える……かな』
…………
………
- 68 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時36分10秒
また会えるかな、なんて今考えると赤面しちゃうよーな台詞がごく無意識に口から滑り落ちた
のは、きっとあの瞬間に悪意だとか敵意だとか、
負の感情を梨華さんが中和してくれたからだろう、アタシはそう思ってる。
“もう1度会いたい”、そんな風に思わせてくれる存在、いなかったんだその頃は。
と言うより、アタシをちゃんと「1人のただの中学生」として見てくれる人が。
で、ともかくその時から、アタシは梨華さんにだけは頭が上がらない。
梨華さんは、他人に対して差別も区別もしない人だから。
その分、恋愛対象として意識したら相当苦労するのは目に見えてるけどね。
だって、梨華さんが他人を「特別扱い」するのなんて見たことないし、実際ないと思うもん。
アタシのことだって、きっと数ある友人のうちの1人に過ぎないに違いない、
それで充分だけど、お互いにきっと。
- 69 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時36分54秒
◇
「ちょっとー、どしたの?」
「は?あ、いや別に…」
いつの間にか、かなり真剣に梨華さんを凝視してたらしい。
きょとんとした顔で、ひらひら手を振ってる梨華さんに気付き、アタシは慌てて視線を
逸らした。妙に照れ臭い。
って違う違う、アタシはよっすぃーと違ってそっちのケはないんだからな。
梨華さん、その気になったら男から金巻き上げるのなんてラクショーじゃないか?
同性であるアタシでさえ、たまにグラッとくるしなぁ。
………くれぐれも、そっちのケはない、念のため。
- 70 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時37分28秒
しかし、考えてみると梨華さんに恋人がいたのって聞いたことないや。
そう短い付き合いでもないのに、どうしてだろ。かなり謎。
見た目は普通の女子高生 ―――― 普通じゃないか、贔屓目なしにしても石川梨華は
相当可愛いし、美人だ。雑誌にスナップ写真を掲載されることが少ないのは、そのルックス
は問題ないのだけれど彼女の趣味が………
いや、本人にハッキリ言うことはあまりに残酷だが、
ピンク好き&相当な少女趣味。…もったいなさ過ぎである。まったくもって。
あの雨の日の出会い、ピンクの花柄仕様趣味悪過ぎな傘を一目見た瞬間から、
何か予感するものはあったけど。
いやいやそれとも、言い寄る馬鹿な男避けの為にカムフラージュとしてあのよーな
微妙〜な趣味を装っているとか?
………有り得ない、絶対。
(前に、誕生日プレゼントとしてピンク色のプーさんを贈ったらめちゃくちゃ喜んでた)
- 71 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時38分02秒
それでも、学校内でも郡を抜いてることは愚か、おそらくこの辺の地域の中でも頭1つ
抜きん出た存在であることは否定できない事実だ。
当然街を歩いてても声を掛けられるのはしょっちゅうだし、会話すら交わしたことのない
男に告白されることなんてのもザラにある。(例:ジャイアン似の平井くん)
ミニスカートの制服姿なんてある意味犯罪の領域。
下心丸出しで近付いて来る連中は、例外なくアタシの手で成敗してくれるけどね。
美人で優しい彼女に憧れる同性の後輩も少なくないことも知ってる。
男に困るはずないことも知ってる。むしろ、別の意味で困ってるし。
だけど、特定の恋人を作らない。周りの人間に平等に接する。それが梨華さん。
………つくづく不思議な人だ。
- 72 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時38分59秒
「またよっすぃーに追い出されたの?」
「追い出されたんじゃないもん、こっちから出てきたの〜」
「寂しーんだね、よしよしごっちんいい子だね」
「頭撫でないでよもう」
「あはははは、可愛いごっちん」
自慢じゃないけど悪名高い(と専ら評判?の)後藤真希相手に『かわいい』とか言い切っちゃう
よーなヤツは、この人くらいのものだろう。
可愛いのはアンタだろ、普通に考えて。
どっちかっつーと、アタシは『かっこいい』と言われる方が好きかな。
や、どーでもいいけどね。
「ねえ梨華さん?」
「ん?なに?」
「好きな人とかー、彼氏とかー、作らないの?」
何故だかふっと沸いた疑問に梨華さん一言、
「作らないよ?」
- 73 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時39分33秒
ちらりと動揺の欠片すら見せることなく即答。迷う様子もなく。
たまに、この人の落ち着きっぷりは本当に高校生なのかと疑念を抱くことさえある。
まぁた交わされたな、そりゃもうあっさりと。
微笑を浮かべた形のよい唇。細められた黒目がちな目。
どっからどー見ても、「石川梨華」は完璧だった、
完璧な“演技”をして見せているのか、それとも地が突出して他人を凌駕する様な
ポテンシャルを持った人なのか、それを判断できるほどアタシは眼識に富んだ人間
ではなかったのだけれど。
人の懐に踏み込むのは素早くて上手なのに、自分の隙は絶対に見せない。
ぽけっとして、無防備のように見えてその実、梨華さんには隙を見出せなかった。
いつか、この人のことが分かる時が来るんだろうか。
いつもアタシは思ってた。
――― 絶対に、梨華さんだけは本気で好きになっちゃ駄目だな、って。
(ってか、あり得ないコトだけどね。何より女同士だし)
- 74 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時40分16秒
いつもどこかを見てる。どこを見てるのかって?
そんなの、知らないけど。でも梨華さんは遠い目をしてる。遠いところを見てる。
仮にめちゃくちゃ梨華さんに惚れたヤツがいて、そいつが彼女のお眼鏡に適って
(運良く)付き合うことなんかになったとしても、
梨華さんを自分の領域の中に留めておこうと思うのなら、それは想像以上に膨大な
エネルギーを消費することになるだろう。
数年来の付き合いになるけれど、未だにアタシは彼女の奥深さ計り知ることが
出来ずにいた。
というより、彼女の本質を探そうとすればするほど、ますます不透明さに気付いてしまう。
別に、自分と関りあう人間の全容をいちいち理解しなきゃいけないワケじゃないし、
まさか梨華さんの全てを知ろうだなんてオコガマシイにも程があるかな。
…………
………
違う違う。
何かこれじゃ、アタシがまるで梨華さんのこと好きみたいだが勘違いしないよーに!
- 75 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時40分54秒
あくまで、「友人」としてアタシは彼女を好きだし、信頼しているのだし。
勿論、梨華さんだって特別にアタシを意識してるってことはない、絶対にない。
「いきなり変なこと聞いて、どうしたのごっちん?」
「べっつにー」
「?まぁいいけど……これ飲む?」
「何それ」
「いちごバナナチョコミルクセーキ」
「……何それ」
「だからぁ、いちごバナナチョコミルクセーキ」
「いらないよ……ってか何つーもん飲んでるの梨華さん」
「おいしいのにー」
「………」
ただ1つ。
アタシ達の間には、ある共通した「傷痕」を抱えていて、だから普通の友人同士よりは
若干仲間意識は強かったかも、しれないが。
- 76 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)20時41分30秒
それに、出会いはいつも突然なのだ。
平凡で退屈な日々の中、いきなり一目惚れしちゃうよーな相手と出会ったり、
突然、世界が開ける瞬間というのが、青春時代には必ずあるものなのだ。
少女マンガのありがちな展開、だけどあながちアレは必ずしもフィクションではなく、
それでもって、そーいう胸躍るような突然の出会いが、アタシの「普通の日常」を
描いたこのオハナシの中でも出てくるハズ(…予定)なのだ。
あくまでこの小説のテーマはアタシの青春の1ページであって、世の中愛が溢れてんだから。
そりゃ恋愛話の欠片も出てこないのは無しでしょ、マジで。
でもまだ2人は…………出会わないのだけれど。
「そう言えばごっちんこそ、彼氏作らないの?」
「……いやー、アタシより弱いヤツはねえー、ちょっと勘弁だし…」
「じゃ、とーぶん無理だね」
「………」
「ごしゅーしょーサマ」
「………」
- 77 名前:名無しaibon 投稿日:2003年04月15日(火)20時43分35秒
- 全然話の進んでいない初回からレスをいただけるなんて思ってませんでした、ありがとうございます!
今回もまだ主役の片割れ出て来ていませんが、あくまで根っこは「あやごま」(orまつごま?)の予定
ですので、珍しもの好きな方、「あやごま派」の方、いましたらどうぞお付き合いください!
@ノハ@
( ‘ д‘) <42の名無し読者はん、ありがとです。
残念ながらプリティー加護ちゃんの出番はまだあらへんのですけど…
@ノハ@
( ‘ д‘) <43の名無し読者はん、あんがとです。
確かにどんなCPより珍しいかもですわ。頑張りまっせ!
- 78 名前:名無しaibon 投稿日:2003年04月15日(火)20時45分44秒
- @ノハ@
( ‘ д‘) <44の名無しはん、ありがとでーす。
ごっちんのキャラはクールやあらへんのです。不器用さんです。
@ノハ@
(; ‘ д‘) <45の名無し読者はん、サンクスやでー。
展開に期待してくれはってるのに、亜弥ちゃんの出番が……ほんますんまへん。
次回更新時で松浦登場予定です。
感想本当に励みになります、ありがとうございます。
よろしければ引き続きお付き合いください。
- 79 名前: 投稿日:2003年04月15日(火)22時42分58秒
- いしかーさん、本当に何を飲んでるんだろう・・・(w
登場人物がそれぞれ個性的で面白いです。
ここからどうやってあやごまな展開になるのか、楽しみだ〜。
- 80 名前:ラブごま 投稿日:2003年04月15日(火)22時57分31秒
- あやごまハケーン!!
いしよしごまの恋愛感が絡まない関係にも注目しつつ、まつーらさんの登場を楽しみに
待ってます。作者さんがんばってください!
- 81 名前:サイレンス 投稿日:2003年04月17日(木)19時15分18秒
- こんにちわ。
森でいしよしギャグ書いてるサイレンスと
いいます。
作品見せてもらいました。
あやごまですか。がんばってください。
あの…間違ってたらごめんなさい。
メール欄ご覧ください。
続きもがんがってください!!
- 82 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月20日(日)16時08分28秒
- ハロプロ版「GO」って感じでとても面白いです。
がんがってください。
- 83 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時07分24秒
例えば「fall in love」恋をするとか
例えば「make love」抱き合うとか
例えば「love song」恋の歌とか「love token」愛のしるしとか「lovesick」恋の悩みとか
馬鹿みたいに連呼してるそうさ世の中愛で溢れてんだLove&Peace!
………なんて今のアタシには最も無縁な言葉。
- 84 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時08分01秒
-
scene3 / 「現状・回想・やっぱり現状」
- 85 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時08分39秒
後藤真希・特技、喧嘩。
一応断っておく。別にアタシは喧嘩が「趣味」なのではない。
マイフェイバリット=以前に述べた通りごくごく平和的な収集癖やら読書やら……
よく勘違いされるので、一応、ね。
根っからの「ファイター気質」なよっすぃーとは違って、
元々アタシは暴力だとか好きじゃないし、ともかく運動神経が良い悪いに関係なく、
必要以上に身体を動かすのが億劫で、また好きじゃない。
揉め事も巻き込まれるのは嫌だ。面倒ごとも嫌い。
自己顕示のために、自分の「力」を誇示する為に喧嘩に明け暮れるよーな輩も
世間にはいる、そりゃぁ色々な人種がいるけれど、
基本的に、高校に入ってからというもの、自ら進んで暴力を奮ったことはない。
アタシは常に、
“売られた喧嘩を買ってる:『ゲーム』に乗った”
ってだけ。いや、本当にそんだけの理由。
- 86 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時09分16秒
例えば目的なくブラブラ街を歩いているだけでさ、鼻やら唇やらそれ痛いだろ明らかに!
って茶々入れたくなるほどピアスを付けてるよーな金髪の兄ちゃんに、
「おうおう後藤じゃねーかこないだはよくも」
皆まで言うな。
「天誅ー!」
「ぐふっ」
必殺、踵落とし1発!……もちろん私服時に限る。
「…その前に、アンタ誰だっけ?」
「誰だか分かってないのに踵落としかよ!!」
「………」
もちろん、地べたに這いつくばった負け犬なんぞの戯言は無視だ。
いきなり殴りかかられたらどう対処する?―――― ↑な感じ。
(面倒臭いんで、かなり端折った状況説明だけど)
友人である吉澤ひとみのリスペクトする某バンド風に言えば、「身に降る火の粉払っただけだ」。
いいこと言うね、その通りだ実に。
あーこれぞ“青春”。
- 87 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時10分39秒
他人と争うのを好んだりしないし、相手に怪我させて自分だって怪我するのが楽しいと
思うほどサドでもマゾでもないけど、怪我したしないってのは結局ただの「結果」に
過ぎない訳で、1対1で向かい合った瞬間から相手を傷つける・自分が傷つくってのは
お互いに了承済みのものでしょ?
だから、別に悪いことをしてるって感覚はないし(凶器使ってヤルんじゃないしさ)、
負けず嫌いな性格上、不戦敗っつーのは死んでも嫌だし、実際ぶつかって負ける
のはもっとゴメンだ。だから、何が何でも勝つ。
そんな風に、いつからか考えるよーになった。ついでに実践するようにもなった。
- 88 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時11分30秒
最初に売られた喧嘩、覚えてるのは小学生のとき。
ま、コドモだったから色々くだらない理由はあったんだろうけどさ、とにかくその頃
クラスを仕切ってた昔の言葉で言うなら「ガキ大将」…?…みたいなヤツにね、
喧嘩売られた。
真っ向勝負、20センチ以上も身長の低い女の子相手にまさか負ける訳がないと踏んで
明らかにこっちを見下してナメてかかってきたソイツに、ぐぁっと砂撒いて目潰し、
更にランドセル(in教科書ずっしり)で猛打!
最後に思いっきり脛(つまり弁慶の泣き所ってヤツね)を蹴り飛ばし、相手が半泣きに
なったの認めてダッシュでとんずら。
油断大敵って言葉があるけど、まさにそれ。とにかく相手の意表を突いたら勝ちなのだ。
…カワイイもんでしょ?小学生だったしねぇ。
- 89 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時12分06秒
が、その身も蓋もない勝ち方が不味かった。……らしい。
その後はも怒涛のよーに喧嘩売られるのなんのって。
やっぱ自分より体の小さい女の子/それもたった1人に為す術もなく負けたってのは、
いくらガキとは言え男共にとっちゃ衝撃だったんだろう。
イジメを仲裁した挙句逆恨みされて因縁つけてきた悪ガキグループをのしてやったり、
リベンジ戦仕掛けてきた例のガキ大将とやりあったり、
噂を聞いた空手を齧った勘違い少年に挑まれたり、
顔すら知らない何の関係もないよーな女の子グループに囲まれたり。
そう、女の子だよ?
実はその女の子達の中に、アタシが熨したガキ連中の1人を好きだった子がいたらしい、
あとで知ったことだけど。恋する乙女の逆恨みって怖い怖い。
- 90 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時12分40秒
やったらやられる、やり返す。
くだらない小突きあい程度のやり取りだった子供時代を駆け抜け、アタシの戦国時代は
中学進学と同時に幕を開けた。そりゃもう激しいなんてものじゃない。
『あんたが後藤真希?』
『そーだけど』
『ちょっと付き合えよそこまで』
………
そんなやり取りがあるのはまだマシな方で、問答無用で殴りかかってくるよーなヤツも多かった、
人違いだったらどうするんだよ、なんて考える程アタシも他人に気配りするような余裕なんて
なかったね。今じゃ笑い話だけど。
まぁつまり、
喧嘩の相手が格段に増えたのだ。
幾つかの小学校から生徒が集うわけだから、人数も増えればその分人間性も多岐に渡る。
強いのから弱いのまで、そりゃもう後から後から沸いて出ること出ること。
入学と同時に粋がって茶髪に染め上げた同い年の不良学生らに呼び出されたこととか、
「生意気だ」って上級生に囲まれたことなんて、
数え上げたらキリがない、これマジで。
- 91 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時13分16秒
それにはまあ、単に小学生の頃の影響だけとは言えなくて、それなりに複雑な裏事情が
―――― アタシの父親が死んだ理由ってのが、多少なりとも絡んでいる訳なのだが、
辛気臭い話になるから今は省略させてもらおう。
(それに、身内の不幸を吹聴するのって周囲の同情を買いたがってるみたいで嫌だから、
高校生になったアタシの周りで親父の死因を知ってる子はいない、梨華さん以外には)
- 92 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時13分50秒
「オンナのくせに」ってのは、相手が喧嘩売ってくるときと、負けたときの決まり文句。
地面に転がって不貞腐れた顔で吐き捨てる男らの情けなさときたら、最高に
笑える1発芸みたいなもんだ、アタシにとって。
明らかに自分を見下してるヤツに一泡吹かせるのって、気分いい。
最も、アタシだって最初から今のように喧嘩慣れしてるわけじゃないから散々怪我も
したし、笑えないようなヤバイ展開になったこともあるけどね。
それこそ、『ゲーム感覚』じゃないくらい暴れまくってた中学時代は
警察沙汰も1度や2度じゃなかった、
それこそ、警察官と知り合いになるくらい。
(アタシとは全く価値観の違う世界かと思いきや、意外とウマが合う人も中にはいて、
用事がなくても顔出したりするんだ、たまに )
母親に怒られたことなんて ―――― いや、本気で「殺される」と思うくらい物凄い
剣幕で怒鳴られた回数なんて数えてるわけじゃないけども、
2、3回に留まる話じゃないだろうな。
迷惑掛けてゴメンね母さん。いつかはちゃんと言っとこう。
- 93 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時15分17秒
そんな荒れに荒れまくっていた中学時代も3年生を迎え、それでも高校にだけは進学してくれ
とかなりマジに懇願(というかあれは強要だね、はっきり言って)してきた母親を無視する
訳にもいかず、……だって自分が生活していけるのは他でもない親の働きのおかげ
なんだから、そりゃ言うコト聞かざるを得ないでしょ?
人並みの道徳心くらいは持ち合わせているつもりだ。
で、受験勉強。
知り合ったその後から時々梨華さんにも会っていて、彼女が1つ年上ということも知って、
彼女曰く「すっごい楽しいよ!」……な高校生活、まぁアタシも体験してみたいかな、的な
思いも芽生え、少しは真面目に取り組むようになったり。
覚えたって将来何の役に立つんだと疑問に思うようなお勉強をこなし、
無理矢理母親が連れて来た家庭教師と毎日格闘しながら(もちろん暴力的なんじゃなくて)、
アタシは危ないと言われ続けてきた学校を受験し、何とか奇跡的に滑り込み合格を果たした。
土壇場の集中力ってヤツは凄い、
それからこんなアタシを高校まで押し上げた母親とその家庭教師も只者じゃないだろう、多分。
- 94 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時15分49秒
その進学先の学校、実をいうとあの梨華さんが在学してたりする。
入学式の日、一応初日ぐらいは、と気張ってしっかり制服を着込んで出席したアタシ、だけど、
中学時代の噂が尾を引いていたのか、それとも朝の寝起きが悪かったため相当機嫌の悪い
顔をしていたのか、ともかくアタシに話し掛けてくる新入生などいなくって。
そんな中、聞き覚えのあるアニメ声が頭の上から降ってきた。
『入学おめでとう!』
――― 窓からやや身を乗り出し気味に手を振っていた顔は、アタシを殴りつけた経験の
あるという、周りのビビッてる子らからすると信じられない程度胸の据わった女の子だった。
『あー梨華さーん、来たぜぇいえーい』
ピースサインを向けるアタシに小首を傾げておかしそうに口元に微笑を浮かべる。
梨華さん、それかなり罪な笑顔だよ。
『入学式、寝ちゃダメだよ?』
『すっごい微妙ー!』
『あはははは』
- 95 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時16分37秒
“あの”暴力的問題児後藤真希と対等に(むしろ上位だし)に話す超美少女を見て、
他の新入生はどんな印象を抱いたんだろう?想像すると結構面白い。
優等生然とした外見と違わず、梨華さんは学年でも常に上位の成績をキープしてる上、
責任感も強くアタシを毛嫌いしているせんせぇ諸君の信頼も厚い。
ぶっちゃけ、アタシが入れたよーな学校じゃなく、もっと偏差値が高い、言うなれば進学校に
在籍している方がいいんじゃないかと思ったりもするのだ。
1度、そのことを聞いてみたことがある。
困ったように薄く笑って梨華さんは「さぁ…」と言葉を濁してたな。
- 96 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時17分23秒
そして、その梨華さんとの再会を果たした後のアタシにごくごく軽〜い調子で話し掛けてきた
珍しいヤツがいた。
『今の誰!?めっちゃくちゃカワイイじゃーん、アンタの知り合いでしょ紹介してよ』
『はぁ?アンタこそ誰』
『よくぞ聞いてくれた!』
(ヤバイ、この人どっか切れてる人?)
馬鹿みたいな口調で、明らかに女好きな発言、でもその声もややハスキーで女の子らしい
とは云い難いものの、確かにその「女」のもので ――――
で、驚くくらいの「美少女」だった、梨華さんのどちらかというと“アイドル系”な魅力とはまた違う、
どちらかというとユニセックスな印象を抱かせる冷たい感じの色白な美少女。
その明らかに周囲とは一線を画した容姿とは正反対な、おちゃらけた言動に興味を引かれた。
ほんの少し、だけ。
あくまで“興味”であって“好意”じゃない、“好奇心”ってこと。
- 97 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時18分09秒
『ウチの名前を覚えておいて損はないよ、未来の世界チャンプ、その名も』
『………ばか?』
(何の世界チャンプなんだよ)
『吉澤ひとみだぁー!!』
(やっぱ、正真正銘のアフォだ……)
偶然でも運命的でも何でもない、入学式の日の出会い、
中学生時代には問題児同士であった2人の少女、アタシとよっすぃが知り合った瞬間だった。
ちなみによっすぃが猪木風に拳を振り上げて、梨華さんが顔を覗かせていた窓に向かって必死に
アピールしていたその時、当の梨華さんはとっくに教室を離れ式場に向かっていたらしい。
……つくづく罪つくりな人だ。
―――― そんで、今に至る。
- 98 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時18分47秒
そのよっすぃー、本格的にボクシングに取り組み始めたのは、実は高校入学直後なのだ。
つまりアタシに対して『未来の世界チャンプ』とのたまった当時、
ヤツはボクシングの欠片も齧ってないようなド素人だった、なんてネタばらし。
がしかし、それにしちゃー初対面のときの意味不明な自信はどっからくるのか、
吉澤ひとみの頓珍漢な頭の中を覗いて見たい気もするけど、
何やら物凄くヤバイものを発見してしまいそうなのでその機会を得られたとしても
ありがたく遠慮しておこうと思う。
でも何だかんだ言って、「後藤真希・吉澤ひとみ」の名前だけで一歩引いた態度を取る
クラスメイトらと過ごすのは決して居心地がいいものとは言い難いわけで、
似た者同士のよっすぃーと親交が深まるのは当然だった。
気を遣わないしヤツもアタシには当然気を遣うこともない。付かず離れず、そんな距離感。
やや短気なところを除けばごくごく付き合い易いいいヤツだった、つまりよっすぃーは。
- 99 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時19分39秒
普段のヤツの行動パターンとしては、放課後突入と同時に1年生クラスまで愛ちゃんを迎え
に行き、散歩がてらジムまで一緒に同伴出勤する。(ちょっと意味が違うか?)
よっすぃーが練習に励む間、愛ちゃんは近くの本屋またはCD・DVDレンタルショップやら
ファーストフード店でバイトに勤しんでいる。らしい。
帰りも勿論一緒。やけに彼女だけには紳士的なよっすぃ、きっちり愛ちゃんの門限までには
自宅まで送り届けるそうだ、
よって愛ちゃんの両親にもよっすぃーはとても受けが良い、
やっぱり外面いいヤツだと思う、ついでに処世術にも長けているんだろう。
無愛想だと友人はおろか家族にでさえしきりに指摘されるアタシにしてみれば、それは
見習うべき態度なのかもしれない、でも人にはタイプってもんがあるのだ。
アタシがいきなりニコニコ愛想良くなって笑顔振り撒いたと想像してみ?
………ぅわ、コワ。
- 100 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時20分49秒
「やっほーぅい」
で、そのよっすぃーだ。
どうも昼間は見かけないなーと思ってたアタシの元に、放課後になり何やら意味ありげな
妖笑を浮かべ近付いて来る人物、吉澤ひとみだ。
珍しいな?今日は愛ちゃん学校休みだったりするのかな。
頭を過ったのはそんな仮定。何を差し置いてもよっすぃーは愛ちゃん優先なのに。
こんな所でまだ油売る余裕なんてあるのかねえ。
「何、愛ちゃんのトコ行かないの」
「んー?ふふふふ」
「気色悪い笑い方するな」
「ゴマちゃーん。カラオケ行かない?」
「だからゴマちゃん言うなって。…ッていうか今日ジムは?」
「昼間行って来た。ガッコ休んでね」
悪びれた風もなく、学校を休んだことを堂々と言ってのける。
この辺りの豪快さが、普通の女子高生と違う。だからアタシも付き合い易いんだけど。
- 101 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時21分43秒
「いいのかねー、筋肉落ちるのって早いんでしょ?」
「見てないところで練習してんのが天才なの。いいからごっつぁん行くよ?」
「マジで?よっすぃとカラオケ行くの?」
(しかも2人きりで!?)
「ウチは好きだよーごっつぁんの歌、カカカカ」
いけしゃあしゃあと何を言うかこやつは。
よっすぃは自分が言いたいことだけベラベラ一気に喋って、何も入っていないような薄っぺらい
鞄を抱えて席を立った。
「大体、よっすぃーとカラオケ行ったことなんてないと思うんだけど」
言っておくが、アタシも年がら年中喧嘩に明け暮れているような極端な生活を送って
いるわけではなく、一応人並みの(高校生らしい)一面だって持っているけどさ…
- 102 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時22分26秒
梨華さんや、その友達らとカラオケに行くようなことはあっても、基本的にボクシング
と恋人優先のよっすぃと学校以外で遊ぶことは滅多にない。
アタシとしても、恋人優先のよっすぃーを無理に誘ってまで遊びたいとは思わないし。
それがわざわざ学校サボってジムに行き、アタシをカラオケに誘うとは?
「槍が降ってくるかも…」
有らぬことを考えて思わず呟いたアタシに、よっすぃーが眉を顰めて振り返った。
「あのなぁ。ウチはこれでも、友達思いだかんね」
「はあ?」
分かんないの?と思いっきり馬鹿にした口調で言うよっすぃーにほんの少し殺意が
芽生えたけど、
「今日、ゴマちゃん誕生日でしょ」
「…………ぁ」
瞬間、アタシの目は漫画みたいに点になっていたかもしれない、
そうこの年この日、記念すべき後藤真希17歳の誕生日、――― なのでした。
- 103 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時23分23秒
@ノハ@
( ‘ д‘)ノ <場面は変わるでー
- 104 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時24分09秒
「ヒョウが降るかも、槍が降るかも〜」
当人のアタシでさえ念頭からすっかり消え去っていた誕生日を、まさかよっすぃの口から
強制的に思い出させられる結果になるとは蟻の触覚ほども予想していなかっただけに、
先の展開が読めない上、よっすぃが何を考えているのかもさっぱり分からない。
……ちょっと不気味だ。
よっすぃーだけに。
「あー、マジで雪とか降ってくるかも。9月だけど」
「まだ言ってんの?」
「だってあのよっすぃーがだよ!?愛ちゃんも誘わずに…」
「いや誘ってある」
あ、やっぱいつものアフォだ。良かった良かった。
当然のように付け足すよっすぃーに、何故か安堵感を抱いた。
そうだよなぁ、逆に2人っきりだったら絶対違和感ありありだし。そんなのよっすぃーの
キャラじゃないし。普通に誕生日祝いの展開になり得ないし。
…だってよっすぃーだし。
アフォだし。
- 105 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時25分43秒
「何か今、妙に気に食わないこと考えなかった?」
「別に」
…うぁ。さすが(一応)将来有望株ボクサー。
今かなり本気の殺気感じたよ?怒るなってそんくらいで。
と言いつつ、コイツの右ストレートだけは食らいたくない。顔が変形する。
でもよっすぃがアフォなのは疑いようもなく事実だし、それは取り消せないね。
突然叫びだすし走り出すし歌うし踊るし、テンションやたら高いし、それに…
「まだ余計なこと考えてない?」
「別に」
だから本当に始末が悪い。アフォのくせに勘は鋭いし力有り余ってっから。
これでも一応、唯一無二のアタシの友達、貴重な存在なんだけどね、ははは。
それにしても。
昼間っからよっすぃーと肩を並べて歩くのも珍しい。どちらかというと、梨華さんに付き合って
買い物行ったり映画行ったり、時には安いファミリーレストランであくせくバイトに励んだりも
することの方が断然多いのだ、学校以外では。
傍から見ればアタシ達も、普通の女子高生2人連れにしか見えないんだろうなぁ。
- 106 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時27分00秒
(1人で歩いてると、何故か過去にやり合ったことのある誰かに遭遇したり、因縁付けられたり
することもあるんだよ。ホント、いい迷惑だ)
そんでもって、
目的とするカラオケは、中高生がよく利用することで知られている安い店で、アタシも
梨華さんやその他友人と行くことがある。雑居ビルの1・2・3階に構えるそこに着いたのは
午後3時半を回る頃だった。
「すみません、4時から高橋の名前で取ってあると思うんですけどー」
「はい。3階の317号室。パーティルームになります」
「どーもぉ」
「はぁ!?ちょっと、よっすぃー!」
どうやら行き先のカラオケでは、既に部屋を予約してあったらしく。
店員に部屋を確認した後、さっさと鼻歌交じりにエレベーターに乗り込むよっすぃを
追いかけて、危うく閉まりかかったドアの隙間に身体を滑り込ませた。
(よっすぃだったら突っかかったかもしれないとは口が裂けても言えない )
「何でたかが3人でパーティルームなんて予約するの?」
「えー?だって広い方がいいじゃん」
- 107 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時28分23秒
含み笑いで答えたよっすぃーに言い返す前に、エレベーターはすぐに3階に到着する。
振り返りもせず、とっとと出て行くよっすぃに、またもや追従するアタシ。
単純そうな顔してるくせに、こういう時はホント行動が読めない。
なんだか振り回されてる気がしてきた。
んっとに、自分勝手なヤツだしさぁ、ちゃっかり愛ちゃん呼んでるしさぁ。
「どうぞ、姫」
「…あのね」
ふざけた口調でレディファースト、そんなホストっぽい仕種が様になる正真正銘17歳女子高生
吉澤ひとみ。本当は性別偽ってんじゃないの?
……あ、嘘、ウソ。マジで嘘だから殴らないで顔だけは。
- 108 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時29分37秒
「真希ちゃ〜ん!!」
呆れ半分に指定されたパーティルームに入るなり、照明の落とされた暗い部屋の中から、
小さな黒い塊があたし目がけて突進してくるのが目に入る。
ってか、この物体は……
「誕生日おめでとぉ、真希ちゃん!」
あれ?
「何で加護?」
咄嗟に避けようかと思ったのを留まったのは、ぼふっと胸に飛び込んできたそれの
正体が、自分の見知った少女のものだと気付いたからだった。
相変わらずちっちぇーなー。
ポンポンと頭を軽く叩いてやったら、「もー」と頬を膨らませた後、嬉しそうにきゃらきゃら
笑って肩を揺すっている。こんなにも幼い高校1年生、実はよっすぃーの彼女である
愛ちゃんと同学年。クラスは違うらしーけど。
加護亜依。実は名前まで『アイ』つながりだったりするのだ。
- 109 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時30分13秒
-
パッと部屋の照明が灯されて、愛ちゃんだけが待っているのだと思ってたパーティ
ルームの中に、夫々満面の笑顔がずらりと並んでいるのに気付いた。
…やられた。子供騙しな手に……
隣りのよっすぃーなんて、満足そうにニヤニヤ笑ってこっち見てるし。
「誕生日おめでとうございます、後藤せんぱいっ!」
「おめでとー!」
「いえ〜ぃ」
「おめでとうございまーすッ」
若い女の子特有の黄色い歓声と共に一斉に鳴らされるクラッカー。
テーブルの上に早くも用意されたお菓子やらパフェやらケーキやら、それらに被害が出ない
よう、音だけのオモチャを使ったらしい。
つぅか、喰いかけじゃんかよ、全部!
(コイツらさっさと始めてやがったな……)
よくよく見れば、加護の口元に白いクリーム。多分あれだ、――― 真ん中にデンと置かれた
ショートケーキ・かなり抉れてる ――― って、普通カラオケでホールのケーキなんて出るもん?
持込禁止だろうよ本当は、なんて水を差す様な発言は控えとこう。
- 110 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時30分50秒
「ゴ〜マちゃん!」
「うわっ」
と、目の前にいきなりよっすぃーのどアップが飛び込んで、マイクを突きつけられた。
「今の感動を表現して一言どうぞ〜!」
何となく、子供の頃見ていたテレビ(なんだっけ、『どっきりTV』とかゆーヤツだっけ?ネタ仕込んで
人を驚かす番組)を漠然と思い出した。
「ったく小学生かっての」
これもある意味“ドッキリ”企画にあたるだろうなぁ。
「真希ちゃん、感想は?」
「先輩、誕生日を迎えて何か一言!」
「や、…え?」
ふざけた調子でマイクを付き出すよっすぃーに、照れ隠しの悪態1つでもついてやろーか
と身構えたけど、無邪気に笑う加護たち後輩が、思わずアタシを口篭らせた。
「ってか、えーと…」
「真希ちゃん、嬉しい?嬉しい?」
真性子供がここに1人。
アタシより加護の方が余程嬉しそうだ。うんうん、(よっすぃと違って)いい笑顔。
- 111 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時32分04秒
コイツなら許せちゃうんだよ、勝手にケーキをつまみ食いしてようがふざけ半分に抱きついて
こようがイタズラに鞄に落書きしたりとか、まぁその他もろもろ。
小生意気な弟・気の強いお姉ちゃんと兄弟には(ある意味)恵まれてるアタシだけど、
妹がいたらこんな感じなんだろなーって思うような親近感を覚える何かが、加護にはあった。
「あんなぁ、みんなでプレゼントも用意したんやで」
ちらりと横目で奥に並んで座る少女達、右から紺野あさ美・小川麻琴・新垣里沙、それから
八重歯の覗くツインテールの女の子を見渡しながら、誇らしそうに加護が言う。
それぞれ個性の強い顔立ちの彼女らは、これもやっぱり愛・亜依コンビと同学年であり
クラスは違うものの仲の良い友人同士らしい。
中でも割とリーダーシップを採る立場にあるらしい紺野(学年首位の秀才だ、アタシとは
まさに正反対な道を行くであろう少女)が、“ペコちゃんのほっぺ”を彷彿させるもちもちした
肌触りの良さそうな頬を緩ませ、
「はい、後藤先輩の喜びそうなものを詰め合わせてみました!」
ついでに「完璧です!」と付け加えるのも忘れない。
- 112 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時32分51秒
その紺野が空いた座席の上に無造作に置いてあった白い包みを持ち上げて、にこにこと
笑いながらアタシの元へと近付いて来る。
「どうぞ」
「あー、ありがと」
手渡されたそれは何か歪な形状を成している。何入ってんだコレ?
「ダメ、今開けちゃぁ〜。家に帰ってからや、もう」
その場で開けようとしたアタシを遮ったのは、加護の声だった。
「そうですよ、そういうのは家に帰ってからです」
「お楽しみですからね」
「そうそう、ラブラブです」
……いや、最後の新垣だけ意味分かんないんだけど。まあここは素直に従っときますか。
言いなりに大人しくバッグの中にプレゼントを収めると、ようやく満足そうに加護その他後輩らが
ソファに腰を落ち着けた。
- 113 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時34分11秒
こういう普通の女の子達がアタシを慕ってくる気持ちってのはよく分からないけど、
まぁ実際付き合ってみて、噂ほどに後藤真希が凶暴じゃないってことをよく知ってるからだと
思う。うん、それは純粋に嬉しいことだ。
加えて皆良い子ちゃんだし、礼儀もしっかりしてるし。
……あ、加護とあのコは違うか。
『あのコ』は誰かって?すぐに分かるよ、すぐに。
「にしてもプレゼントとはねぇー、可愛いことすんなぁ」
「何だ、ごっつぁん泣かないの?」
お約束のようによっすぃーが横槍を入れる、で
「泣くかって」
「泣けよ!」
「何でだよ!」
「ゴマちゃんたらいけず〜」
「意味分かんないしゴマちゃん言うな」
「まぁまぁまぁまぁ」
結局愛ちゃんが止めに入ると。ショート・コントだ、まるで。
- 114 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時34分55秒
こんなアタシに「憧れている」と公言する風変わりな、でも見かけや中身は本当にフツーな、
同じ高校の後輩たち。
屈託なく甘えてくるコイツらは、加護に限らずやっぱ妹みたいで可愛いものなのだ。
が、素直にそーいう感情を表すのも苦手だったりするんだけど。
それでも、似た者同士な感のあるよっすぃーには筒抜けらしく、
「いやぁー、ごっつぁんに喜んでもらえて嬉しいよ」
「誰も喜んでるなんて言ってないっちゅーの」
「顔に出てるよん」
「つっつくな!」
アフォ丸出しの相変わらず妖しい笑みを浮かべ、遠慮なく人の頬をつつくよっすぃーを強引に
引き剥がし(抱きつき魔なのだ、アフォだから)、ずらりと並んだ顔見知りの少女達を
ぐるりと見渡す。(というほど大人数じゃないけど)
見知った顔ばかりが並ぶ。
そしてごく慎まげに一番奥に座ってひらひらとアタシに手を振っているのはご存知梨華さんだ。
本人にその気はないのだろうけど、やっぱりどこにいても目立つヒトだこと。
目が合った瞬間、梨華さんの口がゆっくりと
『おめでとう』
と動いた、ありがとう。
- 115 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時35分35秒
その隣りは梨華さんの同級生で柴田あゆみ・通称柴ちゃん。
こちらも梨華さんの視線の先に気付いたようで、アタシに何故かピースサインを送ってきた、
ので一応敬礼を返しといた、意味はないけど。
柴ちゃんもノリのいー人で、よく一緒に遊んだりする仲だ。真ん中に梨華さんを挟んで、だけどね。
それでもアタシを怖がって敬遠するクラスメイトよりは余程、交友があると言えるだろう。
「じゃあじゃあ真希ちゃんここね、亜依の隣り♪」
「ハイハイ」
「何飲みたい?亜依がちゅーもんしたるで」
「じゃあ生中で」
「え?ナマチュー?」
「ごっつぁん、制服で飲むんかい」
すかさず突っ込みを入れるよっすぃ、しっかり愛ちゃんの隣りの席を確保済み。(早いって!)
「冗談だって、ウーロンでいいよ」
「らっじゃー!!」
- 116 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時36分07秒
そそくさと席を立ちフロントに注文を入れた後、加護ははしゃぎつつアタシの隣りに戻る。
伸びない身長に、幼い顔立ち。(でも胸は意外とデカイ)
愛くるしい容姿の上、実は奈良県出身のためバリバリ関西弁の不思議少女。
何よりこの加護、アタシの芳しくない評判を知った上で懐いているという、変り種なのだ。
「後藤真希」について回る噂にはロクなモノが無く、しかも微妙に事実が織り交ざって
いたりして性質が悪いのだけど、
子供じみた外見とは裏腹に、加護は大人びた口調でアタシに言った。
『噂やなくて、ちゃんと自分の目で見て判断すんねん。真希ちゃんはエエ人やもん。
ウチは好きや、真希ちゃんが』
高校入学と同時に奈良から東京に越して来たという加護、アタシの噂を耳にして
興味を持ち、――― まあ興味を持つのは大抵のコに共通することだろうけど、
加護が変わっているのはココから。
『本当に怖い人やったら、友達になれば心強いと思ってん』
へらっと笑いつつ、加護はいつだかそう漏らしていた。
――― 『東京に来て不安で、だから強い友達が欲しかったんや』
- 117 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時37分00秒
「ハイ、真希ちゃんウーロン茶きたで」
「ぁあサンキュ」
ぼやっと物思いに耽っているうちに、加護がアタシにグラスを回す。
「じゃぁのの、何か歌お?」
「んー、あいぼん決めてー」
その加護の隣りに座るのは、例の八重歯+ツインテールのこれまた高校生らしからぬ幼い
雰囲気を隠しきれない風貌の少女。でもれっきとした15歳女子高生。
辻希美、やっぱしアタシと同じ学校の1年生。
東京に来たばかりの加護に初めて声を掛けたコで、今や2人は大親友らしい。
ま、双子と見間違わんばかりに息もぴったりだし、何か見た目も似てるし。
けれど2人のクラスは別々らしい。
だからこそ、放課後にはいつもベッタリ引っ付いているのかもしれないけど。
いや〜、微笑ましいコンビだね、ホント。
- 118 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時37分35秒
加護の物怖じしない行動力がきっかけとなってアタシと彼女が知り合うに至ったワケ
だけど、辻もまた加護に負けない程「やんちゃ」なのだ。
何が凄いって、この2人、アタシにタメ口きくんだよなー。後輩のくせに。
アタシは気にしないけどね、ただ同級生でも敬語遣ってくるコがいたりするからさ。
にしても、無邪気さは最強の武器だ。
生意気なヤツはぶちのめせても、こーいうコには手ぇ出せないからなぁ。
「はぁーい亜依とのの、歌いまーす!」
「歌いまーす!」
「オーイェー♪」
そうこうするうち、加護と辻は流行りのアイドルユニットの歌を選曲し、早速歌い始めた。
キーが高い・テンポが速い、まさに今限り歌うことが許されるよーな軽い調子の歌。
ついてけないなー、こういうの。
楽しそうに笑い合う双子もどきを見てるのは面白いけど。
さっき加護が手渡してくれたウーロン茶を一口飲む。
- 119 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時39分14秒
「デュエットでもしちゃおっか愛ちゃん?」
「せんぱいと一緒なら何でもいいよぉ」
「も〜カワイイこと言ってくれちゃって」
「や〜ん」
ふと視界に入る、いちゃつくバカップル。よっすぃーと愛ちゃんが、やたら引っ付いて
囁き合ってるのが目に入った。
「……………」
見ない見ない、視界に入れちゃいかん。
ったく、今日はアタシを祝うために集ってんじゃないのかよ。何かムカツいて目を逸らす。
えーと、他に知ってる人は。
- 120 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時39分50秒
梨華さんと柴ちゃんの最も近くに座っている小川が、しきりに2人に話し掛けているのが目に入った。
そういや美人好きの小川のこと、2人の美人エキスでも吸収したいんだろう。
冗談、冗談。
でも実際、個々でもやたら目立つルックスの梨華さんと柴ちゃんだけに、2人一緒にいるとある種
近寄り難い神々しいオーラすら感じることがある、(いやマジな話)
もちろんアタシやよっすぃーは微塵も気にすることはないけど、
一般生徒からしたら話し掛けるのも少し、勇気がいるかもしれない。
その点、小川はその雰囲気に呑まれることなく逆に嬉々として接している辺り、見所のあるヤツだ。
更にその隣りに深く腰掛けた紺野は、隣りの小川をちらちら気にしながら、新垣と一緒に歌本を
開いて何やら囁き合っている。
で、それから。
「……ん?」
………誰だ、アレ?
- 121 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時40分30秒
隅っこの方で(というか愛ちゃんと引っ付いてるよっすぃーの隣りに居るため必然的に
1人取り残されてる状態)ツマラなそーに携帯を弄ってる女の子を発見。
誰?
知らない顔。が、一目を引く美少女。
どうして今の今まで気にならなかったのか不思議なくらい強いインパクトを持った子だった。
大方、ここに集ってる誰かに連れてこられた子に違いない。だってアタシが知らないってことは
そーいうコトしか考えられないもんね。
にしても………にしても、めちゃくちゃ可愛いーし、しかも足、細っ!色白っ!
その彼女、制服が違っていた。どうやら同じ学校の後輩、ではないらしい。
どこの学校だっけアレ、あの制服。
黒ブレザーにグレイのスカート。一見お嬢風、多分そんな系統の学校だろう。
ますます誰?アタシにとっては1番接する機会のない部類のガッコだ。
大方、ここに集ってる後輩たちの友達あたりなのだろうけど。
何と言っても、よっすぃーを除き至って平凡な学校生活を送っている子ばかりなんだから。
- 122 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時41分05秒
ちなみにその見知らぬ美少女、運悪くバカップルの隣りに座ってしまったばかりか、
一応このパーティの主役であるアタシとは全く見識もないワケで、
そりゃツマラナイはずだ。携帯しか相手ないよね。うむ。
……あ、そっかそっか、バカップルの隣りだから敢えて視界に入れないようにしてた訳で、
彼女らの隣りにいたんだからそりゃ気付かないはずだ、謎は全て解けた!
マジに取らないで、つまんないけどギャグだから。(古いし)
にしても。
メールだか知らないけど打つの早いなぁ。
今時の女子高生って感じ?いやいやアタシだって現役だけど、何か違うもんなー。
何となく目が離せなくてじいっとその彼女を見続けていたら、不意に彼女が顔を上げた。
(げっ)
視線を逸らす間もなく、目と目が合って、固まった。
長い睫毛に縁取られた大きな瞳。
風もないのにふわりと揺れた、猫っ気気味な柔らかそうな髪。
- 123 名前: 投稿日:2003年04月25日(金)03時41分35秒
瞬間、世界の全ての音が遮断された。
「 ―――― 」
時間が止まること数秒。それとも、もっと?
( ―――― ぅぁ)
一瞬交差する視線と視線。
咄嗟に脳裏を駆け巡ったのは ―――― ヤバイ、―――― 捕まった
……何に?
……何で?
美少女。
つまんなそーな顔。
絡み合った視線、
硬直した自分の体。
答えはコイツ。記念すべき17歳の誕生日、この日アタシは出会ってしまった。松浦亜弥に。
- 124 名前:名無しaibon 投稿日:2003年04月25日(金)03時42分24秒
- ちょっと間が空いてしまいましたが更新です。
@ノハ@
( ‘ д‘) <79の名無しさん、ありがとさんです。梨華ちゃん、ちょっと変わってんねんなぁ。
あやごまな展開、待っててくれなー。
@ノハ@
( ‘ д‘) <80のラブごまさん、サンクスやで。いしよしごま、恋愛絡んのは珍しいかもしれへんなぁ、 ま、気楽に見てくれると嬉しいで。
@ノハ@
( ‘ д‘) <81のサイレンスさん、いしよし好きなんでレスめっちゃ嬉しいわ。
この話じゃいしよしな展開はあらへんけど、また読んでくれはりますよーに。
ちなみにメール欄、返事はNoになりますわ。申し訳ない…
- 125 名前:名無しaibon 投稿日:2003年04月25日(金)03時42分56秒
- @ノハ@
( ‘ д‘) <82の名無し読者さん、作者が自分でそんな感じがしてた故に、期待を裏切らない展開に
なるよう心掛けるつもりやで。テンポはよく進めていきたいです。
中途半端に更新不定期な作者ですが、また続きも流し読み程度にでも目を通していただけると
嬉しい限りです。
間が空いてしまったので2回分を一気に更新してしまいました。また空くやもしれません(w
- 126 名前:名無しaibon 投稿日:2003年04月25日(金)03時44分13秒
- @ノハ@
( ` д´)ノ<うちの出番がないやないかヴォケぇ!
- 127 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月25日(金)12時21分21秒
- あやゃキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!!
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月25日(金)22時37分39秒
- あややキタ━━━从‘ 。‘从━━━ッ!!!!!
大量更新Zです。
- 129 名前:ラブごま 投稿日:2003年04月26日(土)20時00分33秒
- ようやく出てきましたね、まつーらさんが(w
あやごまの少ない飼育の中で、純粋なあやごま作品としてとても楽しみにしてます。
いつも大量更新で嬉しいんで、がんばってくださいね。
- 130 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時40分57秒
例えばめちゃくちゃヒットなお蕎麦屋さんを見つけたときとか、
どーしても思い出せないけど気になってた曲名がふとした拍子に判明したときとか、
ダメだと思ってたテストの結果がまずまずだったときとか、
欲しいと思ってた贔屓ブランドの限定モデルの財布を偶然発見したときとか、
ドキドキ胸が高鳴ることは結構よくあることなんだけれど、
そんなの一切払拭しちゃうくらい物凄い出来事が、人生の中じゃ偶発することがある、
―――― ある日突然、恋をする。そんな時。
- 131 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時41分33秒
-
scene4 / 「単純です」
- 132 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時42分24秒
べいべー恋にノックアウ!
すべーてーがラブねっ!!(ラヴ・ねっ!)
振りつきで陽気に歌い続ける双子もどきを他所に、
何故か知らない女の子と見詰め合ったまんま動けなくなってるアタシ。
傍から見れば、睨み合いのように映ったかもしれない。
どーしてこんな展開に陥ってるのか自分でも分からない、
もともと、アタシは気の効いたアドリブなんて出来やしないし、愛想笑いも苦手だ。
相手の少女も同じタイプだったのか、目が合ったというのに視線を自分から逸らすでもなく、
微笑みかけてくるわけでもなく。
その場凌ぎに「あの」さぁ、と口を開き掛けたアタシから視線を外すことなく、少女は
しなやかな動きでソファから立ち上がった。
「え?」
焦りがそのまんま口から漏れた。
マジ?
- 133 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時43分01秒
その美少女、何を思ったかそのまま狭いスペースを縫って接近してくるじゃないか。
何、ガンつけてると思われたとか?
……いや、確かにアタシ目つき良い方じゃないけど、
同級生にでさえ怖がられたりするのも珍しいことじゃないんだけど、
違うんだよホントにそりゃ誤解ってもんで…
それにアタシ喧嘩強いよ、あんまり手加減できないんだよ因縁つけてもそっちが困るよ?
何て馬鹿なことを考えてる合間に、少女はさっきまで意気揚揚と加護が陣取っていた
アタシの隣りにトスンと腰を下ろした。
(……うっわ、マジで、細い…)
間近で見ると、思ったよりもずっと小柄な少女だった。華奢な感じは遠くからでも近くからでも
変わらないけど。自分と比べると、さらにね。
- 134 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時43分43秒
相変わらず加護と辻の双子もどきは異常なテンションで2人だけのミニライブに興じており、
こちらの動向に気付いてる様子はない。
いや、別に席変わるくらい何が問題ってワケじゃないけど、
つうか問題なのはこっちだ、アタシだ。
アタシの隣りに腰掛け、無言でアタシを見つめる彼女。まだ会話なし。どうしよう。
「え、え、」
(何?何でだよ怒ってる?つーか誰、誰!?)
ヤバイ、やばい。何がヤバイのか分かんないけどとにかくマジでヤバイ!
助けろよーよっすぃーいつまでいちゃついてんだよこらよっすぃ愛ちゃんちょっとヘルプ…
梨華さーんちょっと柴ちゃん小川紺野新垣誰でもいいよって何焦ってんだアタシ!?
理由も分からずドギマギするアタシの隣りに掛けた少女が、ぐいっと身を乗り出し
やたら顔を近付いて来る………って、え?
- 135 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時44分20秒
相手の瞳の中に映ってる自分が見えるくらいの、超接近。
ちょい、ちょい待ち!辻加護いつまで歌って ――――
「いやあの」
「ねー、呼んだ?」
「え!?」
「さっき、呼・ん・だ!?」
「いや……だからその、え?」
梨華さんのアニメ声を彷彿とさせるような、甘く女の子らしい高い声、わざわざ口で
メガホンを作って口を動かす少女、
ちょっと芝居がかってるんだけど、そんな一連の動作が逆にはまってて、
その声がカラオケの騒音にも負けずにアタシの耳に届く。
っていうか、周りがうるさいから顔近づけたのね、ああ納得。
- 136 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時44分55秒
「別に呼んだワケじゃないけど…」
「え?」
「別に、呼んだワケじゃないけど!」
負けじと、怒鳴り返す勢いで答えるアタシ。怒ってるように聞こえなかっただろうか?
自分の第一印象の悪さは折紙付き。
アンケートを取ったワケじゃないけど、後に親しくなった友人は皆口を揃えて言うのだ、
『もっと怖い人かと思ってたー』
否定はしない。つーか、無理。実際喧嘩ばっかしてたのは事実だし、今もそうだし。
大人しそうな外見とは裏腹にかなり辛辣な紺野なんて、
『後藤先輩って見かけや噂ほど不良じゃないんですね、中身は』
などと抜かしやがったこともある。
のほほ〜んとした調子で言われたから毒気抜かれたけど、もしこれがよっすぃーあたりだったら
容赦なくドロップキック食らわしてやるところだよ。
(もちろんコンマ1秒置かずしてカウンターが来るだろーけど)
- 137 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時45分58秒
超不良問題児を前に暴言を吐いた紺野の後ろで、
彼女の友人である小川はさすがに泡食って止めにかかっていた。
『あ、あ、あさ美の命知らず〜!殺されるよぉ!!』
……何気にそれも失礼な発言だと気付いていないところが、小川らしい。
けど確かに、そう思われるのもしょーがない。だってアタシ、
無愛想だし、気も短いしすぐ頭に血が上るし、口も悪いしね。
病院送りにした男子生徒・チンピラも1人や2人の話じゃない、
けど、
何となく、目の前の彼女に悪い印象を抱かせたくない。咄嗟にそんなことを思った。
- 138 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時46分31秒
彼女、名前も知らない美少女は一瞬首を傾げた後、
「何か、偶然目が合った感じ?」
「そうそう、それ!」
取り合えず相手に合わせておけってなノリで返すアタシに、少女はきょとんとした表情を
浮かべ、次の瞬間に弾けるように笑い出した。
「あはははははっ」
「え?」
素で呆気に取られた。最近の子はよー分からん。今ので何故ウケる?
でも。
めちゃくちゃ強い引力を持ったコだった。抗えない・逆らえない。
ニュートンの法則って知ってる?りんごだけじゃないぞ、どんな物体だって「落ち」ちゃうんだよ。
初めて、笑った顔を見た。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!
「すっごいタイミング良かったねぇ今。あははは」
「あー…そう、だね」
さっきからカラオケよりうるさく鳴り響いている警告音が、更に音量アップ。
落ち着け、心臓。相手は女の子だし、いやアタシも女だし、何でだよ、何でだろ?
- 139 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時47分20秒
何でだろ〜ぉ♪何でだろ〜♪
(相手は女の子なのに緊張しちゃってるのなんでだろ〜)
(めちゃくちゃ可愛いとか思ってるのは何でだろ〜)
(何でだろ〜なんでだろ〜………)
(……って違う、違うだろ自分、落ち着け落ち着け落ち着けおちけッ…あ、噛んだ)
タイミング良くというか何と言うか、加護&辻が少し前に流行ったお笑いコンビを真似て歌い出す。
頭の中で「何でだろ〜」としつこく流れ出すフレーズを隅に追いやって、
アタシは取りあえずちょっと腰を浮かせてソファに座り直した。
じんわりと汗を掻いた太腿がビニールのカバーにくっついて、ちょっと気持ち悪い。
もう1度同じように腰を浮かせて座り直し、落ち着き無い人みたいだこれじゃ。
で、その美少女はというと。
- 140 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時47分53秒
「はじめましてぇ」
片言の外人のような怪しい日本語口調で笑みを含んだ表情のまま、ゆっくりと頭を下げる。
「あ、どうも。コンチワ」
一応、つられて頭を下げてしまったり。何やってんだアタシ。
それがおかしかったのだろうか。美少女は不意に俯いて肩を震わせ始めた。
一瞬泣いてんの?とか思ったけど、抑えたように「あはははは…」と耳に届く笑い声から
彼女が笑っていることに気付く。…何で笑うそこで?
不思議なことに、自分が笑われているというのにも関らず、アタシは嫌な気分じゃなかった。
(変わった子だなぁなんか)
といって自分がごく普通の女子高生かと問われたら、Noと答えざるを得ないとしても、
確かにその美少女も「平凡」とくくるには大分語弊があると思った。
めちゃくちゃ、向こうのペースに乗せられてるし。
しつこいようだけど、超カワイーし。
- 141 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時48分47秒
何が彼女のツボにはまったのか、散々笑いこけた後、美少女の名前が「マツウラアヤ」
であることを聞いた。
「マツウラアヤ…ね」
「そ。“まつうら”は普通の松と浦ね、“あや”は亜鉛の亜に、」
―――― 何か微妙な例えだな。
「弥生時代の弥」
「ふーん」
(つまり“松浦亜弥”ね、了解了解)
続いて本人曰く、
「あだ名は、んーあやっぺとかあやちゃんとかあややとかー…かな?」
……呼べるかっての。取りあえずあだ名はスルーして。
「アタシは後藤。後藤真希」
「知ってるよ。さっきみんなして『後藤先輩』とか『真希ちゃん』て」
随分とあっさりとした回答この上ない。確かに正論だけど。
- 142 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時49分49秒
「それに、愛から聞いてたし。前から」
「“アイ”ってーと…」
この場にアイ、は2人いた。関西弁不思議少女加護亜依と、よっすぃーの彼女高橋愛ちゃん。
「高橋、愛の方」
「アフォよっすぃーの彼女の?」
「うん、その高橋愛」
横目で未だにいちゃつくバカっプルに視線を走らせながら、松浦亜弥が答えた。
女同士で『付き合ってる』ってコトにも何ら疑問を持つ様子もなく、普通に受け入れてるらしい。
よっすぃの形容詞に何も突っ込みを入れない心意気にちょっと人と違うものを感じる。
知らない子は言うんだよなぁ、『ええー、吉澤センパイかっこいいじゃないですかぁ!』
……騙されちゃダメですよ、よい子の皆さん。
- 143 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時50分20秒
にしても、この松浦亜弥は愛ちゃん繋がりでこの場にいたわけだ。
ちょっと意外。愛ちゃんてよっすぃーしか目に入ってないと思ってたけど。
そういや年齢的にもそんな感じかな。何となく見た目も似た雰囲気あるし。
学校は違うから中学の頃の同級生とか、若しくは部活を通じて知り合った……とか。
そういや愛ちゃんて何か運動してたっけ?
聞いたことないなぁ。じゃ、やっぱり中学時代の友達か。勝手にそう決めとこう。
「年は?愛ちゃんと一緒?」
「うん。こないだ誕生日来たから16歳」
「じゃー1コ下かぁ」
「あ、タメ口嫌な人?」
「まさか。上下関係全然気にしなし」
(誤解されてるけどね、現実には)
「よかったぁ。あたし、苦手なんだ。敬語とかって」
……一緒じゃん。と思った。アタシも、敬語とか嫌い。疲れるし、相手との距離感じない?
大体、一年とか二年しか生まれる早さが違わないだけで、『先輩』とか『後輩』って
歴然とした力関係ができちゃうのはどうなのよ?
- 144 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時51分02秒
「アタシも敬語は苦手かな……」
無理矢理松浦に合わせてるだけじゃない、事実、丁寧な言葉づかいは嫌いだった。
初めて家庭教師がやって来たその日、限りなく恐ろしい目で睨む母親の手前、仕方なく
『どーもよろしく』と挨拶した途端に母親に頭を叩かれたものだ。連打で。
――― 『どうもよろしくお願いします、でしょっ!!』
ちなみにそのやり取りに立ち会っていた当人の家庭教師は、目を丸くしてたっけな。
バイオレンス後藤一家。
絶対にアタシの荒っぽい気性は母親譲りだ。母さんは否定するけど。
「なんか、無理に敬語喋ってると噛みそうになるし」
「あはははは」
笑うかな、なんて思いつつ冗談っぽく言ったら案の定松浦はケタケタ陽気な笑い声を上げた。
どうやら第一印象のそれとは違って(愛想ないと思ってた)、意外と笑い上戸な性格らしいことが
掴めてきた。結構、表情豊かだし。
最初に目が合ったとき、睨まれてるみたいに思ったのが不思議なくらい。
- 145 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時51分53秒
「歌わないの?」
歌詞本に目を走らせながら、松浦がアタシに視線を向ける。
「んー、最近の歌って知らないんだよねぇ」
さっきまで胸ン中で『何でだろ〜♪』とか歌ってたヤツの台詞じゃないけど。
だって第一印象って大事でしょ。
誰に言い訳してるんだろアタシ。いやでもマジでね、最近の曲は知らないの、知らないの!
双子もどきがよく鼻歌で歌ってる曲は聞き覚えがあるってだけ。
………頭痛くなるんだよ。正直。あのガンガンうるさいバックミュージック……っての?
ビートルズとか割と好きな自分にしてみると、流行の移り変わりの激しい最近音楽は、
どうにも耳に馴染まないのだ。
これはもう個人的好みの問題だからしょーがない。
バカ騒ぎするのは嫌いじゃないし。人が歌ってるのを聞くのも嫌いじゃないけどね。
- 146 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時53分05秒
「一緒だ」
アタシのつまらない返答に、何故か松浦亜弥は嬉しそうに微笑んだ。
「あたしも知らないの、最近の歌。聞かないから、知らない」
「ふーん」
「ちょっと昔のね、っていうか昔にね、流行ってた曲は知ってるんだけど」
「あー、アタシもそんな感じかなー」
嘘。本当は、洋楽のが好きなのだ。でも何となく、松浦に合わせておくのが得策だと
判断してしまう、
調子イイ奴だなアタシ。ゲンキンつーか、ほんと。
「趣味似てるね」
そんな嘘にコロッと騙されて(嫌な言い方だけどとにかく、)松浦はまた、笑った。
「そうみたいだね」
- 147 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時54分04秒
普通の会話を装って実はめちゃくちゃ意識しまくりな自分だ、超カッコ悪ぅ。
まっずいなー、アタシ、かなりヤバイ感じ。
一緒の歌本を覗き込んでるせいで、かなり距離が近いのだ。というか、段々と松浦が距離を
縮めてきてる。本人は全然意識してないんだろうけど、こっちは大変だ。
何となく隣りに座る彼女を直視できなくて、視線をずっと下に落としたまんま。
「やっぱ知らないのばっかだー」
なんて無邪気な調子で、アタシの膝に乗せてる歌本をめくりつつ松浦が言って、
カラオケは相変わらず大音量。なのに、独り言でさえ届いてしまうくらい、密接してるワケで。
「いいよこれ、そっちに持ってって」
膝の上から松浦の方に歌本を渡そうとしたけど、「別に見ないからいーよ」なんて
押し返される始末。
………見てんじゃん、今。
小声で突っ込み入れたけど、松浦には届いていなかった、やっぱり。
- 148 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時54分55秒
結局、アタシも見てたってしょうがないからお菓子や飲み物のグラスを避けて、テーブルの上に
歌本を戻した。
ったくもー誰だよこんなに甘いものばっか注文したの。
ごちゃごちゃし過ぎだよ本当に、端っこの方皿落ちるよ?
加護と辻はペースを落とすことなく次から次へと連続で歌を入れていて、まぁ他に
歌いたそーな子もいないから問題はないだろうけど、
よくもあれだけテンションの高い歌を途切れず歌えるなぁ。
アタシはアタシで、隣りで双子もどきの歌に合わせて小っちゃくリズムを取ってる松浦が
気になってしょうがないし。
どうも、松浦は元いたよっすぃーと愛ちゃんの隣りへ戻る気はなさそうで、(気持ちはよく分かる)
腰を落ち着けたアタシの隣りを定位置と決めたようだった。
- 149 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時55分41秒
「ねえねえ後藤さん」
「ん?」
「普段はー、カラオケとか来ると何歌うの?」
「なに、聞こえない!」
「普段はぁ、何歌ってるのー!?」
ミニステージを観賞しつつ問い掛けてきた松浦、だけど少し距離を空けただけなのに
正直この中じゃ聞き取り辛くて、松浦もアタシの声が聞き取り辛そうで、2人して同じ質問
繰り返したりして、
結局めちゃくちゃ至近距離で(顔近づけて)話す羽目になる。
「どうかなぁ、特に持ち歌とかないんだよねぇ」
「えー!?」
相手が口を開くたび、かなり接近しないと聞こえない。カラオケって話するところじゃないから
しょうがないのだ、だけど苛々は募る。
- 150 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時56分29秒
んなコト考えてたら、松浦が突然、アタシに覆い被さるように身体を近づけて、
耳元に囁くように言った。
(っておい、接近し過ぎ!!)
ぎょっとするのと同時に心臓がどんっと跳ね上がるのを感じる。
「出ようよ、ココ」
唐突な申し出、だけど松浦は至って普通な顔して。
「はぁ!?だってさ」
「だって?」
「いや…」
歌い踊り続ける加護と辻。ってか、完全に2人だけのオン・ステージになっているにも
関らず、誰もクレーム入れないんだな。意外と寛容なコばかり集ってるみたいだ。
つうか他の子達、どうして普通に会話できるんだろ。
これがカラオケに来る回数とか経験の差?なんてバカなことをふと思った。
あんまりアタシ、来ないからねー。来ても聞き役が多いしさ。
梨華さんが歌うときは何故かハラハラしたり………あ、コレも本人には内緒。
- 151 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時57分10秒
「どうせあたしも後藤さんも歌わないんだし、いいじゃん2人くらいいなくなったって」
「そうは言っても」
一応、アタシ主賓って形でお呼ばれしてんだよね?
え、勘違いじゃなくてそうでしょ?
そう思って周囲を見渡せば、
それぞれに2、3人ずつ固まってお喋りに興じている後輩たち&梨華さん柴ちゃんコンビ、
と、これは言うまでもなく完全に2人きりの世界を形成してるバカっプル1組。
主役のアタシを気に掛けてる様子の子はいなかった、見事に1人も…。
ま、いっか。主役っつっても名前だけだし。
「……いーよ。出よっか」
「うん」
軽い調子で答えたアタシに、松浦亜弥は満足そうにちらりと笑んで、
2つ折りの携帯を畳んで立ち上がった。
(別にいいか、いいよね?黙って抜けようが…… )
- 152 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時57分46秒
例えばこの場からアタシが何も告げずにいなくなったとして、誰かがそれを気にしたり、
この後の皆の行動に支障が出るわけじゃないだろう。
大体、何かと理由を託けてはバカ騒ぎしたい連中の集りだ、主役だなんだと言ったって、
そう重い意味を持つ訳じゃない。
楽しそうにマイクを掲げて歌い続ける辻と加護、
必要以上にくっつきあって会話するよっすぃーと愛ちゃん、
やたら嬉しそうに梨華さんに構って欲しいオーラ出まくりの小川、
その小川が気になって仕方ないオーラが出まくりの紺野、全然気にしてない風の新垣、
……それぞれ、この時間を有効に活用しているようだ。
- 153 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時58分20秒
だったら、アタシだって好きなようにしたって別に構わないじゃん?
主役が抜けようがどうしようが、今のところそれに文句を述べるべき立場にある人間は
いないだろう。って、主役なんだから好きなようにしていいんじゃないか。
そうだ、アタシの誕生日なんだ、今日ぐらい別にいっかぁ。
いやまぁ、そりゃ普段から好き勝手なことして突っ走ってることがないワケじゃないけど。
今日くらいは大目に見て欲しい。
「あれ、どっか行くのごっつぁん?」
「ちょっとトイレ」
席を立って部屋から出るとき、よっすぃーがそんな時だけ目ざとく声を掛けて来た。
一緒にいる愛ちゃんも必然的にこっちに気付いたようで、彼女は松浦に問い掛ける。
「亜弥もトイレ?」
「ちょっと電話」
2人してわざとらしー言い訳だけど、バカップルは納得したようです。
さすがバカップル。されどバカップル。
- 154 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時58分56秒
パーティルームを出てエレベーターへ乗り込むと、さっきまでの大騒音から解放されて
一気に疲労がやって来た。何でああいう場って、いるだけで疲れんだろ?
それともアタシの感覚が若くないだけか?
「何か、みんな個性的だよね、後藤さんの友達って」
3→2→1階へと降りていくパネルボタンを目で追いながら、松浦が楽しそうに言った。
「そーかな……そーかも」
「うん。面白くていいな」
「1人、真性アフォがいるけどね」
よっすぃーの顔を思い出しながら付け加えると、松浦は声を上げて笑った。
断言できる。魅力的な笑顔って、今の松浦みたいな顔だ。そんな笑顔だった。
- 155 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)20時59分31秒
「………優しい目になったね、前より」
「は?」
雑居ビルから出るとき、松浦がふと真面目な顔でアタシを見上げてぽつりと呟いて、
たまたまそれを耳にしたアタシが聞き返す前に、彼女はもう歩き出している。
(聞き間違い…じゃないよなぁ)
「じゃ、行こ」
「ちょっと、今さぁ」
「何ー?」
「………いや、別にいい、やっぱり」
- 156 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)21時00分11秒
前より……って言ったよね、今。
アタシ、会ったことあったっけ?ってか、この子昔荒れてたアタシのこと知ってんのかな。
でも、全然普通に接してくるのな。あの頃のアタシ知ってて、平気で話し掛けてくるのは
この場に集ってる顔見知り達くらいだ。
というより、梨華さんと会ってから落ち着き始めたよーなもんだし。
それとも、人違い?
の可能性のが高いかもしれない。何か、微妙に普通と違うっぽい子な感じだしなぁ。
以前会ったことあるなら、多分覚えてるはずだし。
否、絶対に覚えてるはずだ。松浦みたいな子と会って、忘れるわけないって。
- 157 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)21時00分55秒
「つうか、どこ行くわけ?」
「え、どっか行くの?」
何だソレ。
アタシの前を先行してとっとと歩いて行くくせに、振り向いて不思議そうな顔。
「ちょっと…」
頭の回りを疑問符が飛び交うアタシを他所に、松浦はニッコリ笑った。
クルクル変わる表情。無表情だと言われることの多いアタシとは正反対な。
「いいからっ」
にこにこと子供のような笑顔を浮かべたまま、松浦亜弥は小走りにアタシの元へ駆け寄ってくると、
バッグを持ってるのとは反対の手でアタシの手を取った。
柔らかくて、ちっちゃい手。細い腕、白い肌。
それが、アタシの手をしっかりと握り締める。……って、え?
「歩こーよ」
―――― おいおい、完全にそっちのペースじゃん。
上目遣い、ヤメロって。何か、何つーか、よっすぃーの理解者になってしまいそうな気が。
………“レンアイの前兆”
- 158 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)21時02分17秒
(まずい、この展開は非常にまずい‥‥)
洒落にならないフレーズが脳裏を過って、アタシには言葉もない。
というか、もう覚悟は固まっていた、実を言うと。
あの時あのカラオケルームで、松浦と目線が合ってしまったその瞬間から、きっと。
「……ねえ」
「えー?」
「あのさあ」
「何ー?」
「…何でもない」
「変なのー」
会話にもなりゃしない。大体アタシ、自分から話弾ませるの苦手なんだよ。
- 159 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)21時03分43秒
しっかりとアタシの手を握っている割に、松浦は振り返りもせず、ついでにスキップでも
始めるんじゃないかと思うくらい軽い足取りで進んで行く。
いや、軽いのは足取りじゃなく体重か?
よっすぃー、見習っとけと言いたいくらい、華奢な手足。小柄な体。
アタシも結構ガタイいいから、別の生き物みたいに思える。「女の子!」って感じ?
手の指も、関節が太いせいでどちらかというと男っぽい手、してると思うんだけど、
松浦の手は肌も整ってて指も細く、なのに柔らかかった。
…ちょっと変態ちっくかも、こんなこと考えてるのって。やばくない?
「もう風が涼しいね」
空を見上げながら、ぽつりと松浦が呟く。
―――― こういう顔もするんだ?大人っぽい表情。一瞬胸を鷲掴みにされるみたいに
心を奪われる。
- 160 名前: 投稿日:2003年05月01日(木)21時04分27秒
ぼけっとそんな表情に見とれてたら、不意に松浦は振り向いて、
「どしたの?」
不思議そうに、でも何故か幸せそうな微笑を浮かべてアタシに問う。
むしろアタシが聞きたいよ、自分に。
どうしちゃったんだ、本当に、アタシ。
「別に、何でもないけど」
やっぱり意地っ張りな自分がいて、だけど正直、めちゃくちゃ松浦亜弥にノックアウトされちゃってる
自分にも気付いてる、素直に顔に出せない青臭いヤツ、後藤真希17歳。
……の、誕生日。
根っこは相当、単純です。
- 161 名前:名無しaibon 投稿日:2003年05月01日(木)21時05分35秒
- マイナーカプにも係わらずレスをくだらる読者の方、本当にありがとうございます。
とにかくレス歓迎!ですので、遠慮なく感想いただけると嬉しいです。
@ノハ@
( ‘ д‘) <127の名無し読者さん、微妙やな。プリティーあいぼんの初登場でもあるんやで
…前回は。とにかく初出のあやちゃん、よろしくしたってな。
@ノハ@
( ‘ д‘) <128の名無し読者はん、………なんやこっちもあやゃ派かいな。
大量更新というか、一気にうpする代わりに間があくんや。堪忍やで。
- 162 名前:名無しaibon 投稿日:2003年05月01日(木)21時07分02秒
@ノハ@
( ‘ д‘) <129のラブごまはん、純粋なあやごまってあらへんやろな…。
ごまかごはメジャーやで!…………誰が何と言おうとメジャーやで!!
(この話と関係あらへんけどな)
こんな感じで、ようやくヒロイン(?)登場です。
興味を持った方、引き続き付き合ってもいいよという方、初読の方、次回もよろしくお願いします。
- 163 名前:名無しaibon 投稿日:2003年05月01日(木)21時07分39秒
@ノハ@
( ‘ д‘)ノ また次回、よろしくたのんますー
- 164 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月02日(金)08時09分58秒
- あややに翻弄されてるごっちんかわいいなぁ。
それ以上にあややが劇的にかわい過ぎるのですが…(w
- 165 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月03日(土)11時00分43秒
- 青春!って感じですね。
この後二人がどうしたのか、とても気になります。
- 166 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月05日(月)13時31分54秒
- 読ませていただきますた。
なんかこの二人新鮮でいいです。
天真爛漫?なあややにごっちんが振り回される・・・最高です。
あややとごっちん、以前何か関係があったんでしょうか。
何かの布石かな・・・続き期待です。
- 167 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月17日(土)22時48分24秒
- 続きをば…
- 168 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時26分35秒
やや茶色がかったセミロングの髪。
はっきりとした目鼻立ち、でも化粧っ気のない顔。
意志の強さを表すかのような、きゅっと引き結ばれた唇。
目が合ったその時、―――― 多分その瞬間に思い浮かんだ。
そうだ世の中“Love&Peace”
- 169 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時28分20秒
scene 5 / 「ラブ・イズ・オール」
- 170 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時29分06秒
手を繋いで(どういうワケか松浦は握った手を離さなかった、汗を掻いてきたらヤバイよね)、
雑踏の中をのんびり歩きながら松浦が唐突に口を開いた。
「ホントはね、さっきあたし、ガンつけられてると思ったんだ」
さっき?あぁカラオケの中で最初に目が瞬間のことか。
「はぁ…」
気の抜けた返事が口から滑り落ちる。ガンつけてるように見えた、って?
やっぱりね。
- 171 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時30分11秒
「写真撮ったのバレちゃったかと思って」
小さく舌を出しながら、松浦はいたずらっ子のようにクスクス笑う。
年齢以上(この場合は年齢以下、と表現した方が正しいのかな?)に幼く見える表情や仕種に、
そういえばコイツ、年下なんだった、脈絡なくアタシは思い出した。
普通にタメ口で会話してるし何となく通じ合うものがあるし、
年齢差なんて端から切り捨てたんだ。そんなことに今更気付く。
ってか、写真?
そんなん、いつ撮ってたんだよ。
アタシの怪訝な表情を察したであろう松浦が、口元にやっぱり笑みを浮かべながら、
子供が新しいオモチャを自慢するようなどこか嬉しそうな表情で、
バッグに手を突っ込んだ。
取り出しましたるは、コンビニで売ってるインスタントカメラ ―――― と思いきや、その手に
はCMでよく見掛ける新機種の携帯電話。
「これでね?さっきこっそり撮ったんだぁ」
- 172 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時30分53秒
-
アタシのより遥かに多機能と思しきねんれいいその携帯、ちなみに液晶画面も自分のより大きく、
そして色彩に富んでいて ―――― つまりめちゃくちゃ鮮明な画像を表示していた。
で、そこに映し出されているのはつまんなそーな人の横顔。
アタシだった、多分辻と加護のオンステージを眺めていたときのものだろう。
……
ちょっと沈黙。何、この憮然とした顔は。
「アタシ、こんな顔してた?」
「してたよずっと」
自分なりに、結構楽しんでるつもりだったのになぁ。
そりゃ写真は嘘つかないだろうけど、無愛想だ無表情だと友人に言われる理由が少し
解明できた気がした。こりゃ、そんな印象を持たせてもおかしくない、そんな顔。
(もうちょっと楽しそうな顔しろよ、自分)
ツッコミを入れずには直視できない。ホント、愛想ないっていうかなんていうか。
- 173 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時31分56秒
「でもね、この時の顔が」
思わず黙り込んだアタシに一瞬だけ視線を交えて、松浦は再び携帯の画面に視線を落とした。
「かっこいーって思って、そしたら、自然に撮っちゃったんだ」
「はぁ…」
(かっこいいかぁ?)
呆然として、もう1度腑抜けた声を出してしまった。
ついでに言えば、きっと表情も力の抜けた顔をしていたハズ。カッコ悪。
どうも調子が狂うんだよなぁ、この松浦亜弥ってコは。
曖昧に笑みを返しながら、アタシはぼんやりとそんなことを思っていた。
- 174 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時32分31秒
で、その後。
やることがないから二人してブラブラ街を闊歩中。
運がいいというかタイミングがいいというか、アタシにケンカ吹っかけてくるような荒っぽい
連中に出くわすこともなく、至って平和的な散歩(のよーなもの)。
目的なく歩き回るのも何だから、取りあえずアタシの行きたいところ、ってことで目指す店へと
やって来たのは午後6時を回る頃。
真っ暗とは言わないものの、やはり真夏の明るさとは比較しようもないくらい日は落ちて、
ついでに気温も降下中。
「あれ?」更に追い討ちをかけるように、到着したその店のシャッターは降りていて、
そもそも明りを落とした店からは人気さえ感じられない、張り紙もなし。
ガックリ。
「閉まってんじゃん…」
溜息と共に、愚痴っぽい口調で呟いたアタシの横で、
「ここ、なに?」
シャッターの下りた貸し店舗を見上げながら、松浦がきょとんと首を傾げる。
- 175 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時33分31秒
本当にどんな仕種をやらせても絵になるっつーか、女の子らしいっつーか、むしろ女の鏡?
アタシがやったら当然かなり不気味なこと間違いないだろうが。
「けっこうさ、美味しかったんだけどね」
「食べ物屋さん?何の?」
「蕎麦」
「は?」
ぶっきらぼうに返すと、松浦は驚いたように一瞬元から大きな目を更に大きく見開き ――――
プッと小さく吹き出した。「ええ、オソバぁ?」
何がおかしい。
- 176 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時34分08秒
-
「だって17歳を迎えたばっかの女子高生が、おソバなの?」
「いーじゃん、好きなんだから」
「そりゃそーだけどぉ、普通は美味しいパン屋さんとかじゃない?ケーキ屋さんとかぁ」
「全然知らないよ、そういうのって逆に」
“普通は”の例えをされても、アタシは和食派なんだからしょーがない。
朝食だってご飯にお味噌汁、これ定番!
勿論パンだって好きだけど、どっちを取れって言われたら……そりゃ和食、てか蕎麦なワケで。
「じゃぁ今度、あたしがおいっし〜パン屋さんに連れてったげるよ」
「今度?」
「パン嫌い?」
「そういうわけじゃ……」
- 177 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時35分36秒
これって、次に会う約束してると考えていいんだろか。深く考え過ぎ?それとも……
あまりに松浦が無邪気に言うもんだから、あれこれ邪推するのも馬鹿らしく思える。
軽い口調でのやり取り、こんなのウチらの年頃の女の子らからすると、単なる社交辞令に過ぎない
…のかな。女子高生らしい付き合いってのはどの辺で線引きするのか、それさえもよく分からない
アタシは勿論、一介の女子高生に過ぎないんだけれど、本当は。
「じゃぁ決定ね?行こうね、今度絶対」
「…はいはい」
「じゃぁ指きり!」
「……はいはい」
でも結構すぐ行動起こしそうなタイプにも見えるし、松浦って。
やたら張り切ってニコニコしてるし。
何か強引に約束させられちゃってるし。
- 178 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時36分26秒
立ち話している間にも、通り過ぎる男たちの視線が松浦を捕らえているのがよく分かる。
『かわいーじゃん』
『へぇ、男連れじゃないぜあの子?』
通り抜けざまに、今のアタシにとっては不快以外でも何でもない台詞を口にしながら。
もこいつも、ちょっと一睨み利かせてやると首を竦めて足早に通り過ぎていくけど。 今日び、貧弱な 男なんて幾らでも街に溢れてんだ。
それでも途切れることのないねっとりとした欲望まみれなヤラシー視線。
これと非常に良く似た経験をアタシは知っていた、
梨華さんと一緒にいるときの目線にそれは似ているんだ。
でも、何とな〜く落ち着かない。
慣れてるはずなのに、何でだろう?
- 179 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時37分25秒
梨華さんはどんなヤツだろうと相手にしないというある種の安心感があったけど、
どうにも松浦という少女、不安定な気がする。ちゃんと捕まえてないと、フラフラどっかに
行っちゃいそうなバランスの無さ、とでもいうか。
別にアタシのものじゃないし、彼女を縛っとく権利なんてないけど。
……あ、だから気に入らないんだろうか、そうなのか?
つまりアタシは惹かれてるってこと……になるんだろう、
あんなにも強硬に「女の子を恋愛対象として見ることなんてない!」と主張していたというのに、
実に(限りなく)呆気なく陥落。
だってこれ、もう一目惚れみたいなもんじゃん。さっき知り合ったばかりなのに?
魅力的っつーか、容姿が優れている女の知り合いなら山ほどいるのに。
梨華さんにしろよっすぃーにしろ、
さっきまでカラオケルームに集っていた知り合いのほとんどが、まぁ平均より優れた容姿だと
言える子ばかり。
- 180 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時38分04秒
ついでに言うなら、高校受験前にアタシの家庭教師やってた安倍せんせーこと「なっち」然り、
警察組織の中の唯一の知り合いである飯田圭織巡査こと「カオリ」然り、
美人だなぁとか可愛いなぁとか思うことは多々あっても、まさか気持ちが傾くなんてこと
1度だってなかったのだ、なのに!
会ったばかりの少女、松浦亜弥に、こんなにもぐらついてる自分がいる。
マズイ。非常にマズイ気がする。こんな時アタシはどうすればいい?
こいつの、この周囲を圧倒するパワーはどっから沸いてんだ。
でも、目が離せない。釘付けになるのって、こーいう感じなんだなぁ。新発見。
- 181 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時38分43秒
よっすぃーにこの密やかに芽生えた感情がばれたら、何を言われんだか。
絶対面白がってからかってくるに決まってる。
『なぁにぃ!?亜弥ちゃんが好きだってぇ!?
ならこのラブ・マスターよしこ様が“秘儀/スペシャル流し目”を特別に伝授してあげようぞ。
え?何その嫌そうな顔は。あ〜ん?梨華さんに言っちゃうぞぉーにゃははははは』
…………
滅茶苦茶に面白がった表情のよっすぃーが目に浮かぶ。ついでに茶々をいれるであろう
その態度も目に浮かぶ。
黙っておくに越したことはないな。
- 182 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時39分42秒
ごちゃごちゃ考えているその間に、気がつけば(嘘、しっかり考えて歩いていた結果だけど)
もう駅の前までやって来ていた。
「じゃー…どうしよっか」
「んー…」
人の流れを避けて薄汚れた壁に寄り掛かり、立ち話。2人並んでいるせいでお互いの顔は見えない
けど、お陰でさっきのように変に意識することもなかった、
松浦の視線はごちゃごちゃと忙しく動き回る人の波に注がれているし。
このまま帰ってもいいんだけど、アタシは何となく「バイバイ」と言い出す気にはならなくて、
隣りの松浦も言い出す気配がなくて、2人してぼーっとしてる感じ。
(そう言えば、よっすぃーたちどうしたかな?)
唐突に、というか久しぶりにカラオケに残してきた友人達のことを思い出した。
なんて言うか、我ながら笑っちゃうくらい松浦のことばかり考えてて、
加護とか梨華さんとか何してるんだろう、とか微塵も思い出さなかった。
- 183 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時40分29秒
ちょっと反省。
そういや、松浦と会うきっかけになったのって、アタシの誕生日祝いのためだったっけ。
鞄に入れたままの紺野曰く「完璧です!」なプレゼントが、急に重みを増したように感じた。
お礼、ちゃんと言っとかなきゃだな。うん。
「ねえ後藤さん」
「ん?」
しばらくぶりに口を開いた松浦に、自分でも驚くような優しい声が出た。
単純、単純。
「彼氏は?」
「はぁ!?」
今度はびっくりするくらい素っ頓狂な声が出た、つーか裏返っちゃったよもう。
もし今、コーヒーとか飲んでたとしたら、漫画みたいにぶーって吹き出してただろってくらい。
- 184 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時42分48秒
「何いきなり」
「いるの?」
「……気にしてんの?」
「え」
嫌に真剣な表情で松浦が聞いてくるから、急にアタシの中にいたずら心がむくむくと膨れ上がって、
逆に問い掛けたら案の定返事に窮して口を噤んでる。
やばい、かなり面白いし可愛い。
大きな目を何度か瞬かせた後、松浦はふいっと目を逸らし、「別にぃ」と小さく言って、
所在無さ気にきょろきょろと周囲に視線を走らせた。
あ、なんか照れてやんの。
そう思ったら、何かもっとからかってやりたくなった。性格悪いなアタシって、よっすぃーに劣らず。
「そっちはいるの?」
「え?」
松浦の方に顎をしゃくって示すと、明るい声であからさまに嬉々とした表情に変わる。
……何で喜ぶの、そこで。
- 185 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時43分29秒
アタシの問い掛けに、含み笑いを浮かべて松浦は寄り掛かっていた壁を後ろ足に軽く蹴って、
軽やかな動きでアタシの目の前へくるりと回りこむ。
一連の動作が風みたいに自然で、素早い。
「気になるんだ?あたしのコト」
上目遣いで覗き込んだ松浦の瞳の中に、惚け気味のアタシの顔が映った。
うわ、だせぇ顔。
っていうか、めちゃくちゃ気になるよ、悪いか。
そう思っても正直に伝えられない乙女心よ。いや、アタシの場合はオトコゴコロに近いかも。
素直に「松なんでもな浦のことが気になる」なんて言えないアタシ、むしろ逆走しちゃってる捻くれ者、
期待に満ちた視線が自分を捕らえているのを意識しちゃってついつい
「さぁどーでしょう」
とか言っちゃったりして。
そしたら、松浦の顔が河豚(いや可愛いから褒め言葉のつもりなんだけど)みたいにプクっと膨れた。
「何でよ気にしてよ!」
「なんだソレ」
訳分からな過ぎて、思わず吹き出した。苦笑に近い、けど。
- 186 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時44分06秒
「あは、あははっ」
そしたら、松浦もみるみる頬が緩み、同じく吹き出した。しゅーっと風船の空気が抜けてくみたいに。
ケラケラと、鈴を鳴らすみたいにアタシの心に響く声で笑い出した。
「意味分かんないよ松浦」
「後藤さんも意味分かんなーい」
2人で目を合わせたら、余計おかしくなって、顔を見合わせる度に笑っちゃって、それからしばらく
アタシと松浦は笑ってた、めちゃくちゃ幸せな時間だと思った、
……こっそりと。
――――
- 187 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時45分00秒
頻り笑い転げた(実際は転げたりしてないけど、何てったって駅のホームだ)後、
目尻の涙を細い人差し指で拭って松浦が言った。
「昔は、いたよ」
「何が?」
それが唐突だったから、アタシは咄嗟に何のことやら思い出せなくて、間抜けな質問を返した
直後に思い出した、そうだ『彼氏』の話だったんだっけ。
ってことは、え、「いた」ってつまり、………
急にテンションが一気に下がる感覚、はっきり言えば「面白くない」。
そりゃぁ松浦みたいに人目を引くわ、実は笑い上戸だわ、
どっか流動的で捕まえるのが困難そうな女の子って男がそもそも放っておかないだろーけど。
でもやっぱり何か、ムカツクなぁ。変だアタシ。
- 188 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
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- 189 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
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- 190 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時49分48秒
「昔ってどのくらい昔?」
努めて冷静な声が出るように、平気なフリして聞いてみた。
松浦も、普通に平気な顔してた。ま、過去形だし、昔の話だし ――――
「1ヶ月前に別れた」
「っおい!」
昔かよ!
思わずポーカーフェイスを崩して、ツッコミを入れてしまった。
アタシってお笑いやるとしたら突っ込みの方なんだなぁ、改めて思うけど。
よっすぃーや梨華さんに、時々「ごっちんは天然だねー」とか言われることもあるけど、
何故に天然なのか自分じゃ分からない。いや、分かってたら天然とは言えないか。
松ちゃんより浜ちゃん派なのは、実は突っ込み体質な自分のキャラを、
深層心理の奥で分かっているからかも。
ツッコミついでにおでこを軽く叩いてやると、ぺちっといい音がした。
松浦は「いたぁい」とか非難めいた声を上げてたけど。
- 191 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時50分43秒
「何よぉー昨日はもう昔だもん。1ヶ月前なんか超昔だもん」
アタシが叩いたおでこを抑えて恨みがましい目。ってかそんな時でも上目遣い。
身長が違うから必然的に松浦がアタシを見上げる格好になるのはしょうがないんだけどね、
そうやって見られると何でも許しそうになっちゃう自分が怖い…。
「全然最近じゃん1ヶ月前って」
「でも付き合ったのだって1ヶ月間くらいだけだよ!?それだけだよ、短いでしょ?
もうあたしの記憶から消しちゃえるくらい短いんだよぉ」
「何必死になってんの」
「だって後藤さんがそーいうこと言うからー」
パタパタと手を振ってあれやこれやと言い訳する松浦が、子供っぽくて。
「最初にそーゆう話振ったのは、そっち」
「…意地悪だね、後藤さんて」
「よく言われるよ」
「いーじーわーるーごとぉーまきぃー!」
「叫ぶな街中でっ!」
- 192 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時51分15秒
自然と顔が緩んでいくのが分かる。今日1日で、どれくらい笑っただろう。
松浦亜弥を見てるだけで、視界に入ってるだけで、すごく気分が大らかになって柔らかくなってて。
アタシが笑ってる理由を勘違いしたのか、
「今すっごいあたしのこと子供扱いしてるでしょ、後藤さん」とか言い出して勝手に拗ねてるし。
そんで、ふと思い出したように
「そっちはどーなの?」
「何が」
「彼氏。いたの、いないの?」
蒸し返すし。
- 193 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時51分48秒
隠してもしょうがないから白状しとくか。って隠しとくような付き合いしてた訳でもない。
「松浦と同じ」
「……同じ?」
「だから、昔はまぁ……いた。過去形だよ言っとくけど」
「ふぅん」
自分から聞いてきたくせに、素っ気無い態度だな。それとも照れ隠しだろうか。
つまらなそうに口を結んで床に視線を落としながら、付け加えるように松浦が言った。
「じゃあ、じゃあね、彼女は?」
「…はい?」
「付き合ってる“彼女”とかいるの?吉澤さんと愛みたいに」
「あー」
何故かさっきまでとは打って変わって張り詰めた瞳で見据えてくる松浦に、何となく冗談は
つけなくて、というかその真剣な態度に気圧された。
「………いない」
「ホントに?」
「本当に」
「女の子同士の恋愛とかって変に思う?」
「…思わない」
「今ちょっと間があった」
やけに絡むなぁ。すっごい真剣です!って言わんばかりの顔してるし。
- 194 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時52分20秒
もしかしたら。
ちょっと自分の都合が良いように考えた。もしかしたら、松浦もアタシと同じ気持ちだったり?
一呼吸を置いて、きっぱり言い切った。少し、心もち胸を反らし気味に。
「ぜんっぜん、そーいうの気にしない!100%気にしない!!」
予想が確信に変わった、とまでは言えないとしても、
松浦とアタシの思いが一緒である確率は大幅アップした、何故なら
「えへへへ、あたしもッ」
とはにかんだ風に言った松浦の表情が、パッと花が咲いたみたいに明るかったから。
勘違いでも欲目でもなく、本当にそう見えたんだ。
だからアタシは、驚くくらいあっさりと、生まれてこれまでの価値観が一気に覆されることに
何の疑問もなく、それを不思議にさえ思わなかった。
そう、恋なんて突然落ちるものなんだ。それこそ、価値観が180度変わってしまうくらいにね。
- 195 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
- ∬´◇`∬<ダメダモン…
- 196 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時54分39秒
- 度々すんません。同じページ何回も投稿してます;
>>188と>>195が間違いですね。フォローも間違えてどうすんだ…(w
- 197 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時55分18秒
よっすぃー、今のアタシならキミの言ったことが理解できるよ。
確かに好きになってしまえば男も女も関係ないってこと。
傍から見ると単なるタラシにしか見えなかったよっすぃーのあくまで自分に正直な心意気、
実際はとんでもなく芯の通った男らしい姿勢だと気付かされる。
さすが、(一応)わが親友。
- 198 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時56分19秒
「後藤さん、ケータイ見せて?」
そろそろ別れ際、って時に唐突に松浦が言った。
「は?……あ、ああ」
バッグの中を漁り ――― 思い出してアタシは制服の上着のポケットを弄る、あった。
ストラップすら付けてないそれを松浦に手渡すと、彼女は顔をしかめた。
「古いねえ」
「話せりゃいいの、携帯なんて」
「メールできるの?これ」
「今バカにしたでしょかなり」
「かなりじゃないよ、ちょっとだけだよ」
正直過ぎる松浦に、思わず苦笑。面白いヤツ。
「はっきり言い過ぎ。ってか何やってんの?」
「んー?えへへ」
アタシの問い掛けに顔を上げることすらなく、松浦は手渡した携帯を何やら操作中。
あれこれ構うのも何だから放っておいたら、すぐに彼女が言った、
「じゃこれあたしのアドレスだから連絡してね」
「え?ちょっとちょっと」
- 199 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時56分50秒
ちゃちゃっと手慣れた様子でアタシの携帯電話をいじっていた松浦が(ちなみに持ち主のアタシ
にはあんなに手早く扱うことなんて出来ない、情けないことに)、すいっと腕を伸ばして目の前に
ソレをかざす。間近に見ると、随分傷が目立つなぁ。
新しいのに変えようかなーでもあんまり機械強くないしなーでも古いとか言われたしなー
「ご・と・う・さんっ」
「あ、あーゴメン」
ぼけっと自分の携帯に気を取られていたせいで、放置されてた松浦はやや膨れっ面。
呆け気味なアタシに半ば押し付けるように携帯を突き返し、
「じゃー帰る」
……あちゃー。怒っちゃったかな?
「送るよ」
「いーよ」
「いいってどっち」
「いらないってコト!」
「………何怒ってんの?」
「怒ってないもん、バイバイ!」
- 200 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時57分25秒
明らかに怒ってるとしか思えない棘のある口調でそう言って身を翻し、
松浦は一歩二歩進んだあたりで思い出したように突如、振り返った。
「メール!」
もしかして笑顔で手を振っちゃったりラブコメみたいなお別れになるのかなーなんて思いきや、
松浦は未だ機嫌を損ねたまんまの表情で、気分をほけっと立ち尽くしているアタシの手の中、
つまり先ほど彼女が何やら扱っていた携帯を指差した。
「ちゃんと送ってくれないと怒っちゃうからね!」
“怒っちゃうからね”、ときたもんだ。
(だからもう怒ってんじゃ…)
何かしらの反応を示す前に、もう松浦の背中は遠ざかり始めていた。
あれは短距離でもやってたかな?ナイスフォーム。おぉ速い速い。あれ、切符買わないの?
定期持ってんのか、へぇ。それも新発見。
……じゃない、行っちゃったよ怒ったまんま。
こういう場合って何かフォローした方がいいのかな?
- 201 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時57分59秒
サラリーマンやOLの帰宅ラッシュという時間のせいもあって、人込みでごった返す改札口、
あっという間にもう松浦の姿は見えなくなっていた。
手元に視線を落とす。
(メール、ねぇ)
あんまりやらないんだよなぁ、
携帯持っててもほとんど使わないし無料通話料金余っちゃうくらいだし。
にしてもあくまでマイペース、意地悪な言い方するなら「自分勝手」な美少女、だけど不思議に
憎めないし、むしろどんどん惹かれてる自分がいた。
変なヤツ。松浦亜弥、――― か。
怖くないのかな、アタシのこと。
そう言えば今日、一言も喧嘩強いとか昔は(今も?)かなりの不良だったとか、そんな会話は
一切出なかった気がする。
好きな音楽とか映画とか、よく行くパン屋の話とか……なんて平和的な話題だろう。
珍しい、しかも今まで気付かなかったってことが殊更凄いじゃないか。
色んな雑念が頭の中から吹っ飛ぶくらい、充実した時間を松浦と過ごしていたんだと
いうことを改めて実感する。
……すっげ、青春。
- 202 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時58分39秒
取り合えずはメールのアドレス教えてもらったし、滑り出しとしちゃまぁまぁ…でしょう。
願わくば不器用なアタシのために、電話番号も教えてくれれば良かったんだけど。
ワガママ言うこともないか、いざとなったら愛ちゃんに聞こう。
出会って数時間、早くも松浦亜弥とこれからの付き合いについて考えを巡らせながら
アタシは弾む足取りで帰路についた。
「………」
無意識にスキップを踏みそうになり、慌てて止まる。
見知った顔がいないか、さり気なく周囲を見渡す。いない、良かった。
それからアタシは、放っておくと緩みそうになる頬を時々ぴしゃぴしゃ叩きながら
暗くなり始めた街道を家に向かって歩き出す。
うん、でもなーんか最高、めっちゃハッピーな気分だわ。あははは。
あ、また顔ニヤケてるかも。
(…………)
「あれ?」
- 203 名前: 投稿日:2003年05月18日(日)23時59分17秒
そう言えばなんか忘れたよーな気がするんだよなぁ。
なんだっけ、何忘れたんだっけ?あれ、何か違和感あるんだよ。何でだ…
「あっ!」
あー、思い出した!っていうか馬鹿!マジで馬鹿、大馬鹿後藤!!
鞄の中に手を突っ込み、さっき受け取ったプレゼントを除け、財布を除け、お菓子、
カメラ、違う手帳、違う目覚まし時計、違う……あ、「あった」、見つけた。
入学と同時に使い始めた茶色の皮製定期入れ。所有者であるアタシ、物持ちが悪いせいで
かなり状態としては芳しくないけれどとにかく使用可、な自分の定期券。
「アタシも電車だったじゃん…」
最悪。後藤真希、浮かれ過ぎ。
- 204 名前: 投稿日:2003年05月19日(月)00時01分08秒
おまけ。
可愛い後輩たちの「完璧な」プレゼントの中身と言うと、
何故かピスタチオやら柿の種やらサキイカやらビール券やら。
さらに袋の底からはライターやら剃刀やら銘柄の違う煙草が数種類。吸わないっつーの。
極めつけはこれだ。ヨーヨー。銀色で星の入っているアレ。
ちなみに一昔前に流行ったスーパーヨーヨーではない。加えて言うなら、さらにもっともっと
昔に流行ったもので、アタシだってリアルタイムじゃ知らないし、姉が小さい頃遊んでたような
朧げな記憶が存在するだけなわけで、
何故こんなものを知っているのか、っつーかどこで売ってんだこんなもん。
―――― あいつら、アタシをどーゆー目で見てんだ、一体。
- 205 名前:名無しaibon 投稿日:2003年05月19日(月)00時02分13秒
- まず最初に。
回線が混んでいたのか、変な部分を多重投稿してしまったことをお詫びします。何やってんだか…
それと更新が遅いことに言い訳はできませんが、取り合えず待っていてくださる方にはごめんなさい;
気紛れ作者ですみません。完結まではお付き合いいただけると嬉しいです。
@ノハ@
( ‘ д‘) <164の名無し読者はん、ありがとです。ごっちんは可愛い女の子に弱いんやろな。
もちろん筆頭があいぼん様であるのは言うまでもないわ。
@ノハ@
( ‘ д‘) <165の名無し読者はん、一応青春群像劇ぽいノリで読んで欲しいみたいや、作者。
2人がどうしてたかって、こないなことしてたみたいやで。ウチを放っといてな。
- 206 名前:名無しaibon 投稿日:2003年05月19日(月)00時03分03秒
- @ノハ@
( ‘ д‘) <166の名無し読者はん、新鮮な組み合わせというお言葉は単純に嬉しいわ。
これがいしよしとかよしごまとかやと、本当に何の特徴のない小説になってしまうやろなぁ。
@ノハ@
( ; ‘ д‘) <167の名無し読者はん、続きをば!更新してみたけど遅れて申し訳。
- 207 名前:名無しaibon 投稿日:2003年05月19日(月)00時03分39秒
@ノハ@
( ; ´ д`) <大した内容でもない割に更新遅くてホンマすんません。(以下次回へ続く)
- 208 名前:Silence 投稿日:2003年05月20日(火)23時20分16秒
- 更新お疲れ様でした。
以前レスさせていただいたサイレンスというものです。
一度レスしておきながら、しばらく顔出さなかった無礼
をお許しください。また読ませていただきました。
また、続きも読ませてください!!
- 209 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月27日(火)12時07分35秒
- このじれったいごっちんがイイ!
強いごっちんの唯一の弱点はあややでしたか。
これからの二人の展開に期待します。
>おまけ
ごまっとうでスケバン刑事・・・見たい気がするw
- 210 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月30日(金)16時02分04秒
- 続き大期待!!!
- 211 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月05日(木)16時40分17秒
- 更新待ってます。。
- 212 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)22時55分43秒
- ho
- 213 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)10時14分12秒
- 作者さん…いっちゃん楽しみにしてるやつなんです。
続き待ってます。
- 214 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月09日(水)14時46分38秒
- 作者さーん
- 215 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月13日(日)21時00分01秒
- わぁお
- 216 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月17日(木)19時35分43秒
- うわ!めちゃくちゃおもしれー
今後のごっつぁんとあややの関係が気になるな
つーかすげぇ続きが読みたい
更新待ってるっす
- 217 名前:名無しaibon 投稿日:2003年07月19日(土)23時53分19秒
- 長いこと放置していて、待っているとレスしてくださった方&感想をくださった方には
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。正直、もうスレ落ちたんじゃないかと思ってましたし…
実生活の中でちょいと浮き沈みありまして、ネット自体ほとんど出来なかったという
言い訳がましい事情はこの際さておき、(見苦しいですね)
この先、また更新させていただこうと厚かましいながら思っています。
@ノハ@
(; ´ д`) <駄目な作者でホンマすんまへん…
- 218 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月20日(日)23時56分30秒
- >>217
御無事で良かったです。
私生活で何があったのか分からないけ元気出して!
気長に待ってるので無理せずがんがってください。
- 219 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月21日(月)17時30分18秒
- はい待ってます。
- 220 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月22日(火)15時32分19秒
- 待っててよかった…
続けてくれる事がわかっただけでうれしいです。
作者さんのペースで頑張って下さい!!
- 221 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月14日(木)09時57分25秒
- 保
- 222 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月22日(金)14時52分49秒
- 保全
- 223 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/22(月) 02:18
- ほ
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 21:33
- ぜ
- 225 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/03(月) 23:57
- ん
- 226 名前:モテごまlove 投稿日:2003/11/21(金) 12:11
- あやごま発見!!
あまり、あやごまって無いから
貴重なんですよ!
続き期待してます。
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/22(土) 22:48
- お願いだからageないで…
マターリ待ちます
- 228 名前:226ですが 投稿日:2003/12/02(火) 16:44
- すいません。ageてしまいました
- 229 名前:rina 投稿日:2003/12/13(土) 13:19
- あやごまですか!!
いいっすね!!!期待してお待ちしてます☆
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/10(土) 08:35
- あやごますごい好きなんで、
続ききたいしてます!
早くもどってきてー!!
- 231 名前:pj 投稿日:2004/02/02(月) 21:46
- めっちゃ面白いじゃないですか!!
めっちゃ先が気になるじゃないですか!!
作者さんは更新してくれると言っているので、信じて待ちますよ。
でもなるべく早く戻ってきてほしいです。
あやごまバンザイ!です。
- 232 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/26(木) 08:31
- ho
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