あの日々を思い出して
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月19日(土)22時48分22秒
- 五期メンバー中心のアンリアルモノ書きます。
- 2 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月19日(土)22時50分29秒
- きっともうみんな逃げてしまったのだろう。
所詮彼女たちも人の子だ。
ただ私の運が悪かったんだ。
たぶん・・・
私は赤い屋根の家を見ながら
その目を閉じた。
- 3 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月19日(土)23時16分44秒
- 私は一つの扉を開いた。
このドアはなんて軽いのだろう、と思いながら。
- 4 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月19日(土)23時24分55秒
- 「紺野あさ美さんですね。飯田です。
今回、あなたのカウンセリングを担当させていただきます。」
「よろしくおねがいします。」
飯田さんは、私のカルテを持ち出してきた。
「錆び付いた南京錠が頭の中にある。そして、その鍵のかかった扉からは
妙なリズムで叩く音が聞こえる。」
「それだけ聞くとふざけているように聞こえるかもしれません。
でも、他に例えようがないんです。」
「いえ、このような特異な感覚に襲われる人が、
最近ではかなり増加しています。」
- 5 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月19日(土)23時30分09秒
- 「ただし紺野さん、このような人には、
無事に生活を続けられる人が多くないのです。」
「でも、この感覚に襲われてから、
ひどい頭痛に襲われる日が何日も何日も続いているんです。」
飯田さんは、ため息をついて一言、
分かりましたと言った。
- 6 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月19日(土)23時33分45秒
- 一日、一日が簡単に過ぎていった。
それは、まるで、私の今までの人生のようだ。
小、中、高、大学を卒業し、いつのまにか、
普通の会社に勤めていた、私そのもののようだ。
記憶のあるところは。
- 7 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月19日(土)23時40分31秒
- 私には記憶が消えている時間帯がある。
高校二年生の夏ごろからだ。
そこだけは、幼児期のように、ぼやっとしたものだけしか思い出せない。
それは、最初に書かされた質問にも書いた。
「やはり、その頃の記憶が原因ではないかと思われます。
それ以外の紺野さんの生活からは、
あなたのその特異な感覚になるほどの大きなショックは見受けられません。
なにか、その頃の記憶は取り戻すヒントはないでしょうか。」
- 8 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月19日(土)23時43分36秒
- 「ヒント、というと?」
「本当はその頃あなたが使っていたものなどが一番いいのですが。
もしもなければ、その前後のものです。」
「はい、探してみます。」
こうして私は数日振りに自分の家に帰ってきた。
本当に、ヒントになるものは見つかるのだろうか。
- 9 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月20日(日)01時10分10秒
- 私の家の中にはおそらくない。
昔のものはみな、実家においてあるはずだから。
というわけで、私は、生まれ育った家へ向かった。
長期休暇をもらったのは初めてかもしれない。
数日後には飯田さんも家に来た。
飯田さんと私は、同じ北海道出身だったのだ。
- 10 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月20日(日)01時13分07秒
- 題名が気に入らないので変えます。
- 11 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月20日(日)01時25分02秒
- (9の続きから)
記憶のない頃の前後のものはいくつも見つかる。
特に、再び記憶が現れてからの何年間かのものはいくつも見つかる。
「紺野さんは、記憶をわざと消したのではないでしょうか。」
「かも知れませんね、その頃のものだけさっぱり見つからないですし。」
私は、自分のものらしいものを
全て物置から引っ張り出して、一つ一つ確認していた。
そして、もう残り少ない箱の一つを出してみた。
その下には
文字が彫られ、そこに、誇りがたまっていた。
「これは・・・」
「これはたぶん私です。たぶん、木でできたものの中に、
私が落書き風に彫ったものが見つかると思いますよ。」
「それにヒントがあるかも。」
「でも、親に見つかるような場所に文字なんて刻まなかったと思います。
物に傷をつけることが私の父は大嫌いだったんです。」
- 12 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月20日(日)01時30分33秒
- 「そうかあ・・・。何か自分だけのもので、
木でできてるものってないかしら。」
「うーん・・・あんまり」
私はすぐ気持ちを入れ替えて箱の中身を確認していた。
結果は同じだった。
そのとき、何かを考えていた飯田さんが突然私に切りだした。
「私、小学生のとき、
机の裏に好きな人の名前彫ったことがあるの。
小さくだけどね。
もしかしたら紺野さんの机にも何か彫ってあるんじゃない?」
- 13 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月20日(日)01時35分04秒
- 飯田さんの助言を元に、私は父と母に机のありかを聞いてみた。
妹が自分の子のためにもっていったそうだ。
早速妹に連絡をとってみる。
受話器を片手に、私は、机に何か彫ったような気がしてきた。
妹に電話がつながる。
- 14 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月20日(日)01時47分23秒
- やはり。
引き出しをはずした裏側に、文字が刻まれているそうだ。
「やねうらのおくにつみをふうじた」
そう読めるそうだ。
まだピンとこない。
屋根裏など、二度ほどしか行ってないと思う。
何があるか怖かったので、飯田さんについてきてもらった。
おくとかいてあったが、奥に行くに連れて、
私は何かとんでもないことをしでかしたのではないだろうか。
一体なんで記憶を消したのだろうかと、不安でいっぱいになってきた。
飯田さんが先に発見した。
ノートの塊。
- 15 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月20日(日)02時08分46秒
- 「私は一本の木なんだ。
探せばいくらでも同じ種類のある木なんだ。」
その言葉を聞いたのはいつ以来だろう。
全てが帰って来た。
飯田さんは私を冷静に見た。
私は、うわの空だった。
- 16 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月20日(日)02時12分39秒
- 「飯田さん、できれば明日、あなたの病室に言って話をしたいのですが。」
飯田さんは理由を聞かずに了承した。
この人を訪ねてみて本当に良かった。
あの三人をふと思い出した。
- 17 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月20日(日)02時15分09秒
- 「飯田さんを信用しています。」
ノートの塊を渡し、1ページ目から読んでもらった。
そして私は消えていた記憶の内容を話し始めた。
そう、あの時私はこんなことを考え、そしてこんな体験をした。
- 18 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月25日(金)23時30分08秒
- 飯田には、その紺野の顔が、妙に幼く見えた。
きっと、精神が高校二年生に戻ったのだろう。
二度と返ると思われなかった記憶が、あふれ出んばかりに。
- 19 名前:ヨ〜ド〜ケッティ 投稿日:2003年04月26日(土)23時57分43秒
- 朝起きて、いつもの時間に電車に乗り、学校につく。
授業を受け、部活をやって、帰って寝る。
また起きて・・・。
私は、そんな「一本の木」だ。
この木に何枚かの葉っぱをつけたものが私の生活だ。
一年間高校に行けば、明日の私が手に取るように見えてくる。
最近時間が経つのが早く感じるようになったのは
気がつけばこんなことばかり考えているからだろうか。
- 20 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月26日(土)23時58分20秒
- だからといって、何をすればいいのかは、まったく分からない。
私のクラスを見回しても、その答えどころか、ヒントも見つかりそうにない。
このままでは普通に卒業し、「気がつけば」を繰り返し繰り返し、死んでしまいそうだ。
- 21 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月26日(土)23時58分42秒
- うすうす感じているのは、私は人一倍、自分を輝かせてみたい。
そんな欲望が人の何倍もある。
そのくせ、目立って何かをやることが、大の苦手だ。
度胸がないのに、夢ばかりが膨らんでゆく。
- 22 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月26日(土)23時59分15秒
- きっかけが欲しい。
誰でもいい。私の眠った無謀な夢に気付いて欲しい。
またクラスを端から確認するように見る。
誰も彼も、みんな、すでに決まった道を、
誰かが通った後の道を、
歩もうとしていた。
- 23 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月26日(土)23時59分48秒
- 私が一日の中で一番考え込む時間が、
この帰りの電車の中だ。
行きは満員電車だから、そしてこれから始まる一日があるから、
どうしても余裕がない。
陸上部で、体がくたくたになったとき、
妙に頭がさえていろいろな考えが渦巻く。
- 24 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年04月27日(日)00時00分19秒
- 「考え」は細かく見れば毎日変わってゆく。
考え込む姿はいつだって変わらないのに。
今日もまた、いつもと変わらない姿で、
毎日変わってゆく自分の考えを、
いろいろな形にさらに変えてゆく
つもりだった。
- 25 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)20時58分37秒
- いつもは何も映らない私の目に、
予想外のあるものが飛び込んできた。
向かいに座った一人の少女の視線。
私と同じくらいの年。
その目は相変わらず私を見ている。
- 26 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)20時59分11秒
- その視線が、
私には理解ができなかった。
彼女は私の目を見ているのに、
お腹の奥のほうをえぐられているような、
それなのに、ちっとも不快には感じない。
座席も吊り革も、焦点がずれてぼやけている。
- 27 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時00分08秒
- 目から何かが抜けていった。
われに返ったその瞬間、私はそう感じた。
彼女は、
彼女は、スーッと電車を降り、
人ごみの中へ消えてしまった。
おいしいものをお腹いっぱい食べたかのような、
満足そうな顔が妙に印象に残っている。
不思議な時間だった。
- 28 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時00分35秒
- 私が乗ってから、
まだ一駅ぶんしか経っていなかった。
これほどの時間がこんなに長く感じたのは初めてだ。
ショックが強かったせいか、鳥肌が立った。
一体、何だったのだろう・・・
気がついたときには、もう目的地に着いていた。
- 29 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時01分36秒
- あの目に、何をされたのか分からないが、
どうも気が気でならない。
あの目、に秘密を握られていて、監視し続けないと
誰かに勝手にばらされてしまうような気がする。
そして、あの少女の満足そうな顔を思い浮かべる・・・
気になっているのは、あの目で、彼女の顔立ちではない。
実は、そう思うのも自信がなくなっている。
とにかく私は、あの日以来あの目とあの顔を思い出してはうわの空になってしまい、
授業、部活も気がつけば終わっていたという日が続いていた。
- 30 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時02分05秒
- あれから一ヶ月ぐらい経った。
できるだけあの時間にあの車両に乗るようにしているのに、
なかなか会うことができない。
日本って広いんだなあ。
でも、あんな変わった少女はなかなか会えないだろうなあ。
そんなことを思いながら、私は家の階段を上がり、
自分の部屋に入った。
部屋の電気をつけたそのときだった。
- 31 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時02分42秒
- 「パーパパーパ パーパーパー・・・・・・」
突然、車だかバイクだかのクラクションに似た音が鳴り響いた。
驚いて、窓の外を見る。
あれ・・・。
彼女だ。あのときの。彼女だ。
そして他に二人の少女がいた。
音源は彼女たちだった。
その音は規則的に響いていた。
- 32 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時21分23秒
- 三人は相変わらず私を見ている。
そんな中、私のお父さんがしびれを切らして家の外へ飛び出した。
その瞬間、 音はぴたりとやんだ。
私は隣の空き地にいる彼女たちを相変わらず見ていた。
家を出たお父さんは空き地を通り越していった。
さらに遠くのバイクの青年たちを、
暴走族か何かと勘違いしたのだろうか。
まさか、空き地にいる手ぶらの少女三人が犯人とは思わないだろう。
彼女たちは隠れることもなく、暗い空き地に立っていた。
- 33 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時22分12秒
- 私がちょっと
ほんのちょっと部屋を離れた隙に、
彼女たちは空き地から姿を消していた。
私の耳には、あの音が相変わらず耳に残っていた。
そして
彼女と、もう一回会えるような気がして、
胸がドキドキしていた。
- 34 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時22分43秒
- ただあの音がどうしても気になる。
何かの曲なのかなと思った。
けれども、あんなに不規則に、
しかも音符の種類が二つしかない曲なんてあるだろうか。
すると何かのメッセージ?
一体彼女たちは何を伝えたかったのだろう。
帰り道、頭の中では相変わらずあの不思議な音が奏でられていた。
- 35 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時25分32秒
- ひたすら学校で考えたけれど・・・
分からない!分からない!分からない!
いまだかつてこれだけ分からないことに直面したことがあっただろうか。
いや、分からないことだけじゃない。
早くこの謎を解かなければというプレッシャーが
ものすごい重さでのしかかってくるような。
「・・・ちゃん、あさ美ちゃん。」
はっ、
その声は向かいの家のおばあさんだった。
- 36 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時26分04秒
- 「こんにちは、おばあちゃん。」
するとその老婆は、とんでもないことを口にした。
「昨日の音は、一体何の暗号だったのかしらねえ。」
えっ、
どうして、
どうしてあの音が暗号だってわかったの・・・。
私はさらに謎をひとつ抱えた。
- 37 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時26分49秒
- 「『に、れ、よ、へ、ぬ、へ、な、へ』ってうちのおじいさんが何度もつぶやいてるのよ。
あの音を聞いてから。」
「にれよへぬへなへ?」
「そう。一体何のことかしらねえ。」
「おばあちゃん、何でそういう文字になるの?」
「さあ、それが私にはさっぱりわからなくてねえ。散歩に出かけてるから、
帰ってきたらまた聞きにいらっしゃい。」
- 38 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時27分28秒
- 「にれよへぬへなへ・・・かあ」
ひらがなから、カタカナ、ローマ字、文字の入れ替え、漢字に変換。
一通りやってみたけれども
まだまだ扉の鍵はどこに隠れているか分からない。
そもそもあのおとがどうして「にれよへぬへなへ」になるのかが分からない。
この暗号を聞いて、おじいちゃんを待っている時間も惜しくなって謎解きに
チャレンジしてみたものの、それから次の一歩がなかなか踏み出せない。
ここは素直におじいちゃんの帰宅を待つことにしよう。
- 39 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月03日(土)21時28分07秒
- 家で待たせてもらった。
この家は随分古くからあるのだろうか、
一つや二つの油絵の具では到底表れない色の壁に、
丈夫そうな本棚が3つ並んで、私を見下ろしていた。
本は古いものが多い。
そのとき玄関に誰かが帰ってきた。
- 40 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時13分44秒
- 私は、あの音のメッセージが誰に発せられているか確信していた。
それは、どういうわけか誰にも知られたくなくて、
「おじいちゃん、私も昨日の音を聞いたんだけど
どうして「にれよへぬへなへ」になるの?」
おじいちゃんはにっこり笑って、コタツのテーブルをはじき出した。
忘れもしない、あのクラクションと同じリズムだった。
- 41 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時14分22秒
- 「これはね、モールス信号って言うんだよ。
長い音と短い音を組み合わせた文字を使うんだ。
わしが学生だった頃、電信士になるためにこれを覚えてね。
それに当てはめたらこの文字が出てきたんだがはて、どういう意味か。
あさ美ちゃんは分かるかい?」
ゆっくりとした口調から思わぬ答えをもらった私はしばらく何も喋られなかった。
モールス信号。
話を聞く限り、昨日の奇妙な音はそれだったとしか思えない。
- 42 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時14分59秒
- これはおもしろくなってきた。
私は我に返ってから、おじいちゃんにお礼を言って、家に帰って来た。
さっそく調べてみる。
が、私の持つ情報からは、どうしてもおじいちゃんの言葉には当てはまらない。
モールス信号にはアルファベットも日本語もある。
でも「にれよへぬへなへ」を「NIREYOHENUHENAHE」に変えてみるが、音は違っている。
そもそも文字数が違っている。
逆に昨日の音を私の開いた厚い事典の表の通りに変換してみる。
日本語のほうは確かにおじいちゃんの言うとおり。
英語のほうは。
これも、「COMEHERE」→「こめへれ」でなんだか分からない。
- 43 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時15分33秒
- 気がついたときはもう夜になっていた。
昨日不思議な女の子たちが現れた時間。
しかし、今日は姿も音もない。
いや、メッセージが解けてないからできれば来て欲しくない。
- 44 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時16分02秒
- どんなヒントでもいい。
いち早くこの謎を解きたい。
というわけで、お母さんに聞いてみた。
「お母さん、この文字の意味わかる?」
『COMEHERE』とかいてあるノートの切れはしを見せる。
「あんた、もう少しまじめに英語の勉強したほうがいいんじゃないの?」
「えっ、でもこんな単語辞書になかったよ?
英語もドイツ語もフランス語も。」
するとお母さんは、その紙を二つに裂いた。
- 45 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時16分33秒
- 謎は時にあっさり解決してしまうものなのだろうか。
二つに分かれた紙を見る。
「COME」「HERE」
中学生でもわかる答えだった。
英語・・・苦手だ・・・。
しばらく恥ずかしさを噛みしめていたが、「カム、ヒア」の意味を思い出す。
- 46 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時17分09秒
- 今日はやっぱり来ないのだろうか。
ついさっきまでは、謎が解けない情けない私の前には現れないで、
なんて弱気なことを考えていたけれど、
今じゃ解けた自身と、彼女たちに呼ばれていたこととの嬉しさが交じり合って
秒針が時を刻むのが恨めしいほどに、彼女たちに会いたい。
もしも昨日の音がモールス信号とはまったく無関係だったらなんて
考えすらしなかった。
彼女たちは結局来なかった。
布団の中で、私の指は、しばらく「カムヒア、カムヒア」と
奏でていた。
- 47 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時17分47秒
- 一本の木に、数え切れない種類の果実がなっていた。
その下に、私と三人の女の子。
私は、赤い屋根の家を見ている。
そよ風が吹く。
かすかに潮の匂いがした。
風は「カムヒア、カムヒア」と歌っていた。
- 48 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月25日(日)21時18分13秒
- そんな夢から覚めた。
一昨日とも昨日とも違う朝が始まった。
- 49 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時07分51秒
- 私は、それこそ新入生のような、希望の中で学校に来た。
けれども私の希望はもはやこの校舎の中にはなかった。
この時計は、いったい朝から何回私ににらまれているだろう。
特に休み時間などは、友達が昨日のドラマの話で
盛り上がってるのをBGMに十分間時計だけを見ていた。
- 50 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時08分36秒
- しかし私には部活がある。
当然無所属の人がいる。
その人たちの背中を見て、一にも二にも早く帰りたい私は
どうしてこの部に入ってしまったのか後悔した。
実際、サボって帰ってしまう人も何人かいる。
私は、それほど親しくない人の
「ヤル気がないんならやめればいいのに。」という、
とても面と向かっては言わない愚痴を聞くことが、ある意味仕事だった。
- 51 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時09分30秒
- 今日は私が言われてるのかなあ。
一度もサボったことのない私にみんな結構驚いているだろうなあ。
そんなことを思うと思わず笑みがこぼれてしまいそうな帰り道。
まだ沈んでいない太陽を帰り道に見るのはいつ以来だろう。
初めて部活をサボってみた。
なんだか妙に気分がいい。
いつもの私なら、今ごろ愚痴を聞きながら
変わることのないような道を
ただ、ぐるぐる回っているはずだ。
- 52 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時10分06秒
- ところで、どうしてわざわざモールス信号なんて
分かりにくいメッセージを使ったんだろう。
ここまで来て、もう一つ大きな謎を向かえた。
まあこれは本人に聞けばいいか。
私は気付いていなかった。
隣りの車両にあの少女がいたのを。
- 53 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時10分29秒
- 百科事典からいただいた情報、
「モールス信号表」を見ながら勉強机に向かっていた。
今日も「カムヒア」で来るとは限らない。
外から入るあらゆる音に神経を傾けながら、
私は待っていた。
- 54 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時11分29秒
- 来たっ!
いったい彼女たちは何を考えているのだろう。
今回は拍子木のような音だ。
初夏のこの時期、
しかもあんなリズムのある「火の用心」なんてあるわけがない。
メッセージは
「Run to moon」
「月へ走れ」
- 55 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時11分59秒
- 月!?
どうすればいいの?
とりあえず月のほうを見る。
その下には、細い路地がある。
この道を走ればいいのかな。
そーっと家を出て、その道をかけてゆく。
走ることに情熱を無くして以来、
こんなに気分よく走ったのはいつ以来だろう。
そんなことをつい思ってしまった。
- 56 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時12分23秒
- 30メートルぐらい行くと、道は少し左に傾く。
私は見逃さなかった。
右側に、赤いレーザー光線のような光が見えたのを。
左側、小さな駐車場のほうを見る。
私の家は大通りに面している。
その大通りは、私の家を一つ越えれば別世界が広がっている。
街頭の数は著しく減り、時代は少し後ろに進む。
相変わらず、小さな庭のある家が存在して、屋根は瓦だ。
当然その駐車場内も真っ暗で、
家を飛び出してまだ一分も立っていない私には何一つ見えない。
- 57 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時12分43秒
- 一つの小さな赤い光が駐車場の真ん中に一つ現れた。
それは、スーッと私のほうに進んで、足元に来て。
足を照らして、膝を照らして、私の体を昇ってくる。
レーザーサイトは私の左胸に照準を合わせた。
- 58 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時15分34秒
- 後ろから誰かに抱きつかれた。
ちなみに私は空手をやっていた。
専門外だけど、例え後ろから組まれてもそれなりの対処はできる自信があった。
それが、どうしても動けない。
恐怖とかそういうのじゃなくて、腕がうまく動かないのだ。
そろそろ目が慣れてきた。
前に女の子が二人いるのが分かった。
体の自由がきかない。
- 59 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時16分12秒
- 片腕が自由になった。
と思ったら、後ろから、懐中電灯のような光が照らされて、前の二人の顔が見えた。
一瞬・・・。
今度は私の近く、少し膨れたほっぺを照らされた。
ふと振り返ってみる。
・
・
・
・
・
・
声にならない悲鳴をあげた。
古典的な、下から光のあたった顔がヌボーっと見えた。
- 60 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時16分37秒
- いや、よく見るとなかなかかわいい顔立ちをしている。
そうじゃない。
彼女こそあの、電車の中で出会った少女だ。
その口が開く。
「さっすが、あさっぺ、私が見込んだだけはある。
よくこの暗号を解いたね。」
あさっぺ・・・?って私のことかしら。
あさ美だから。
「やっぱりセンスないよ、その呼び方。
普通にあさ美ちゃんでいいじゃん。」
といったのはさっきの二人組み。
そろそろ目が慣れてきた暗闇からこちらへ歩いてくる。
- 61 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時17分05秒
- と、ここまで話したところで、飯田さんは初めて私の話を止めた。
「それがこの三人ね。
記憶を捨てた割には随分明確に思い出せてきている。
紺野さん。
あなたの話が随分ショックの大きいものにならないかと心配しているのですが。
続きはどうしますか。」
私は微笑みながら、これから話すことをもう一度噛みしめて微笑みながら、答えた。
「話させてください。」
- 62 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年05月31日(土)17時18分43秒
- 私はこうして三人の少女とめぐり合った。
続きを喋ろうとした。
しかし少女たちの名前がどうしても思い出せない。
「飯田さん、あなたの持っているノートに彼女たちの名前、載ってませんか?」
「・・・名前は、忘れてしまったの・・・、
愛、麻琴、里沙のこと?」
私は、少し目を開いたらしい。
より深く掘った穴の中に封印していたものが大きく私の前に現れた。
フフッ・・・と笑って私は答える。
「その名前です。」
- 63 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時31分50秒
- この妙なグループは、最初は里沙と麻琴の二人だったらしい。
里沙の家はとんでもない大金持ちだそうな。
そんな里沙はとても発想が豊かだ。
そしてアイデアウーマンだ。
変な知識を駆使したりで、妙なことを考えるのが大好き。
ただしそれを実際に行動に移すことはあまりしないのだ。
- 64 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時32分15秒
- では誰がその行動をするのか。
麻琴がその役割である。
里沙がいたずらを考えて、こんなことしたらどうかなあと言うと、
後先考えずにすぐに実行してしまうのが麻琴。
そういう関係なのだ。
- 65 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時32分36秒
- もともと里沙は明るい性格ではなかった。
家柄が良過ぎたせいで奥手なのか、多数の人間に注目されることが苦手だった。
自分の意見を言おうと決心したときはもうすでに遅く、
そんな自分に腹が立つときがよくあった。
その里沙の前に突如麻琴が現れたのは中学二年のときだった。
- 66 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時33分26秒
- たまたま里沙のいる学校に、里沙のいるクラスに、
そして里沙の隣りの席に転入してきたのだ。
たまにクラス内を妙に冷たい目で見る彼女は。
その日はクラスのホームルームで、意見が出されていた。
麻琴は、何か言いたそうな里沙を見た。
教室の端だった。
麻琴は、それまで話がまとまらず騒がしかった教室の空気を止めた。
- 67 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時34分06秒
- それまで里沙が言うにいえなかったことは、
あまりにも的を射すぎていた。
反対するに反対できなかったのだ。
結局里沙が練り、麻琴の言った案は通ってしまった。
その日の帰り、里沙は初めて友達を自宅に呼んだ。
昼間は麻琴の何のためらいもなく、転校生という立場すら考えず、
クラスを静寂に導いた行動に驚いたが、
今度は、麻琴が里沙の家に驚かされた。
ごく普通のマンションだと思ったら、十三階建てのマンションの
上二階は里沙の家のものとして、一つの家にまとめられ、
その下三階は父の会社の中枢事務所。
その下の階は全て貸している、要するにマンションそのものが財産なのだ。
- 68 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時34分36秒
- しばらくあっけにとられた後、麻琴は、珍しく自分は場違いだと思った。
里沙の部屋は・・・やはりとてつもなく広かった。
これは確かに、人と接せなくなるなあ。
取りあえず、麻琴は、里沙はそういう性格なのだとわかっていた。
人口密度の恐ろしく低い中で、二人は会話を始めた。
これと言った友達がいたわけではなく、会話に飢えていた里沙は、
自宅という慣れた環境の中で、堰を切ったように自分の話を始めた。
麻琴の考えたとおりの人間だった。
- 69 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時34分59秒
- 麻琴はさらにもう一つのことに気付いた。
里沙は相当頭の切れる人間だ。
親が親で、これだけのことができる人なのだから、納得できる。
それにしても、ものすごい数のジャンルの本がこの部屋にはある。
勢いだけで里沙の意見を言ってしまったが、
よく思い出すと、なかなか思いつかないなあと。
- 70 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時35分21秒
- 里沙は里沙で、なにかものすごく頼りになる存在に出会えた気がした。
自分があの立場だったら絶対できない。
ただでさえ今あのクラスになじんでいないから。
いったいこの子はここにくる前どんなことをしていたんだろう。
里沙は大きく変わっていた。
何のためらいもなく、麻琴にきいてみた。
まことなら、何を話しかけても怖くはない気がした。
- 71 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時35分57秒
- 麻琴の家は、いわゆる貧しい家だった。
とはいえ、今日を生きるのが精一杯と言うわけでもなかった。
そんな生活が変わったのは小学校六年のとき。
父と母が突然姿を消してしまった。
かねてから金のことで何かあったそうだが、
あまりにもショックだった。
そこから起き上がる速さは人一倍だった。
- 72 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月08日(日)00時36分15秒
- 物心ついたときから一人でも行っていたコンビニ。
コンビニの割には、マニュアルがないのは主に家族で店をやっているからで、
おまけに元は酒屋だったから、妙に親交的なのだ。
十二歳の少女はその店で働かせてもらった。
賃金の代わりに渡される、期限の近い売れ残り商品のために
麻琴は一生懸命手伝った。
(働くはまずいと分かっていた)
じっとしていたら、いつか死んでしまう。
そういう思想が麻琴の中に根強く残った。
- 73 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時00分31秒
- 間もなく小学校を卒業し中学校に入学。
中学生生活も一年が過ぎたとき、一通の手紙が届いた。
歩いて一分もかからないコンビニだが、その境目には市境があった。
そのコンビニのおばちゃんを保護者としていた麻琴は
転校を余儀なくされた。
その学校が面倒なところにあり、徒歩しか交通手段のない麻琴は行くのがどうしても面倒で、
この日、転入予定日から一週間たってやっとその姿を明らかにしたのだった。
クラスメイトは謎の女にそれなりに興味を持っていた。
- 74 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時01分08秒
- しかし、その日から一夜明けて、麻琴がどういう女の子か興味のあった人間は
一人もいなくなっていた。
よく言う「生意気な転校生」のポジションに据えられた。
ただ一人、当の本人麻琴だけはそんなことは気にもとめていなかった。
鈍感なのではない。
こんなものは軽いしっぺぐらいのものだ。
平気な顔して登校してきた。
むしろ、その空気に締め付けられたのは里沙だった。
- 75 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時01分40秒
- 麻琴とはいくらでも話したいことがある。
でも話したら最後。
でもせっかく少し自分から喋ることができてきた。
まるで自分がいじめられているかのような気分になってしまい、
結局この日、里沙は早退してしまった。
いつのまにか隣りの席から消えた里沙を気にしつつ、
それでも飄々とした顔で授業を最後まで受けていた麻琴。
帰りに訪ねてみることにした。
- 76 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時02分10秒
- この家はどんなに時間が経っても自分の性に合わないだろうなと思いながら、
門の横の呼び鈴を押してみる。
ここで一つ問題が起きた。
昨日は里沙と一緒に来たから簡単に入れたものの、
一人できたのではなかなか通してくれない。
ここであきらめる麻琴だったらこの日学校にいることはできなかっただろう。
- 77 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時02分30秒
- 広い部屋にもかかわらず部屋の隅にいた里沙は、
下でお手伝いさんが何か妙な客の応対をしているのを耳にした。
「だからア、早く里沙ちゃん呼んでよ!」
「お嬢様は今日は気分が悪く、早退なされましたので日を改めて・・・」
「私は今日会いに来たの!明日も明日で会うの!」
麻琴チャン・・・?
「お通しして。大事なお客様です。」
本当に通してよかったのだろうか・・・。
いや、私は彼女の前でしか話せない。
- 78 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時03分05秒
- 麻琴は胸を張って入場してきた。
里沙は、やはり外では見せない感情のこもった顔で麻琴に打ち明けた。
「どおしよお・・・」
次第にフェードアウトしていく里沙の声に対し、
麻琴はあっさり答えた。
「じゃあ、明日どっかいこう」
明日は平日だ。
麻琴は、学校に行ってる余裕のないときもあって、平日も外へ出ないなんてことも何度もあった。
しかし、里沙にとってサボりなんてことは当然未経験だった。
- 79 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時03分26秒
- 麻琴は里沙の家に一晩内緒で泊めてもらった。
その間、里沙の話をずっときいていた。
里沙が興奮して眠れなかったらしい。
やがて、二人は明日に備えて寝ることにした。
いっこうに止まりそうもない里沙との会話を麻琴が打ち切ったのだ。
- 80 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時03分51秒
- 里沙は相変わらず眠れなかった。
麻琴チャンはもう寝ちゃったかな。
そのとき麻琴のほうから、鼻をすするような音が二回ほどした。
余裕のある環境の中で、麻琴は何かを思い出したのだろう。
今までじっくり思い返すことがなかったことを。
最初で最後の、里沙に見せたまことの弱さだった。
やがてその大きな部屋は小さな音も立てなくなった。
- 81 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時04分21秒
- 朝、先に目を覚ましたのは麻琴だった。
里沙は夜更かしがたたって、随分眠そうな顔をしている。
普段どおりの朝の生活をして、着替えて、家を出た。
ここまでは里沙のいつもの生活だ。
ここから先は未知の世界だ。
里沙は、期待と不安の入り混じった声で麻琴に話し掛ける。
「どこに行くの?」
・・・
・・・
・・・
勢いだけで飛び出した二人の小旅行は、取りあえず駅にいこうで始まった。
- 82 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時04分41秒
- しばらくどこへともなく歩いてから目標を定めたため、随分遠回りをして駅に着いた。
駅には着いたがやはり目的地のない旅は何度も立ちどまる。
そもそも二人は電車に乗ったことが二人合わせて数えるほどしかない。
切符を買うのに手間取る間にラッシュアワーは過ぎ去っていった。
里沙は路線図の中から他とは違う電車を発見してこれに乗ってどこかにいこうよと言った。
二人はとある環状線に乗り込んでいった。
終点のない、目的地のない、まるで二人のような電車に乗った。
- 83 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月15日(日)23時07分54秒
- 更新しました。
こんな具合で、毎週末、10レスずつ更新していくつもりです。
ここまで来て感想0なので、
連載にだんだん自信がなくなってきそうです。
どんな酷評でもかまいません。
呼んでいただいた方、一言でもいいので、感想を打ち込んでください。
よろしくお願いします。
- 84 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)13時24分00秒
- 読んでます。いまいち、方向性が見えてこないというのが今のところの
率直な感想です。この不透明さが作品の深さへとつながるのかどうか。
楽しみにしています。
- 85 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月20日(金)21時32分28秒
- >84さん
本当は最初から四人出てこさせるつもりだったのですが、
最後のほうを考えて、文を前半無理やり話を入れてしまったのが原因だと思います。
(冒頭の飯田先生は下書き無しで思いつきでやってしまった。)
(小川、新垣の生い立ちがだらだら長引いてしまった。)
やっと話に「島」が出てきたので、計画通り進めていきます。
以上、感想のお礼、言い訳、および予告でした。
- 86 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時21分53秒
- あまり遠出したことのない麻琴と、
電車に乗った記憶がほとんどない里沙は映りゆく景色を人一倍満喫していた。
大きなビルが並んでいたと思えば、今度は人口密度が随分低いところへ出て行く。
その景色の移り変わりがおもしろかった。
彼女達はその環状線が3周したところで、やっと降りようと決めた。
麻琴が突然言った。
「海ってどの駅にあるの?」
里沙は、ここまで見た駅の様子を思い出す。
あの駅はこんな看板があって、あの駅は・・・。
そして海に近いと思う看板のある駅へ向かった。
- 87 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時22分14秒
- はしゃぐ麻琴を見て、里沙は一つ心配していた。
この勢いだと、そのまま海に入ってしまうような。
そこで、道行く人に、麻琴にばれないように道を聞いてみた。
もう大丈夫だ。
見知らぬ人に道を聞くなど、麻琴にあうまで出来なかった里沙。
まだまだちょっと怖いとは思っても、少し勇気を持つことが出来た。
里沙は麻琴を追いかけた。
- 88 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時22分40秒
- 着いた場所は、高台から海を眺められる場所だった。
里沙は、この景色を見て気分がすがすがしくならない人はいないだろうと思った。
麻琴は、海に向かって「ヤッホーッ」と叫んだ。
叫んだその先、二人の視線はそこに向けられた。
少し遠くのほうにある岬から、申し訳なさそうに出ている陸の続き。
その上をたどっていくと、家が一軒だけ建ちそうな小さな陸。
- 89 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時23分34秒
- しばらく見とれていたら、その陸はいつのまにか島になっていた。
海が岬と隔てていた。
二人は、そこへ行ってみたかったが、ちょっと危険そうだったので二人は断念した。
帰り際、二人の気持ちは一緒だった。
360度海という場所で、いろんなことを考えてみたい。
二人は疲れすぎていた。
帰りの環状線寝過ごしてしまい、
またも彼女達は2周してから電車を降りた。
- 90 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時23分55秒
- 次の日、一騒動起きた。
麻琴はちょっかいにはびくともしないが、里沙はどうしても弱い。
そんな里沙がクラスの的となってしまった。
つい最近まで、ほとんど喋ることのなかった里沙がそんなに早く変わることはなかった。
円の中で一人脅えていた。
そこにツカツカ向かっていったのが、怖いもの知らずの麻琴だった。
里沙を取り囲む人間を押しのけて一喝。
当然のように、クラス中が大騒ぎになる。
クラスのほとんどを敵にまわしているにもかかわらず、麻琴は一歩も引かない。
- 91 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時24分25秒
- 教師が教室に入ってくる。
ところが、その指導の矛先は何を勘違いしたのか、麻琴、里沙の二人に向けられた。
里沙は今にも泣き出しそうだ。
麻琴は脳の回路がものすごく熱くなってしまった。
その教師は麻琴の弁解をまったく聞かずに怒鳴り続けた。
ついに、ついに麻琴はショートが切れた。
「何で私の話を聞いてくれないの!」
椅子を蹴っ飛ばして、里沙を連れて外へ出て行ってしまった。
- 92 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時24分59秒
- 「あんなところ、二度と行くもんか!」
そう怒り続ける麻琴と、いまだにおろおろする里沙。
里沙は完全に自信を失っていた。
麻琴が相手でもほとんど喋られなくなってしまった。
どうもさっきから様子がおかしいと麻琴はやっと気付いた。
何を喋っても、緊張しているかのように答える。
私が・・・悪いのかな。
落ち込む里沙を見て、麻琴は悩んだ。
- 93 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時25分31秒
- 里沙の家に着いて、麻琴は、無数にある本の中から、何かヒントになりそうな本を探し出した。
心理学の本が目に入ったが、開いてみたところでめまいが襲った。
字が細かすぎる上、知らないカタカナの単語があふれていた。
気を取り直して次の本を探す。
里沙は、他の人と話すことは出来るのだろうか。
そんな心配をしながら。
そんな時、一冊の本が目にとまった。
「暗号読解術」
- 94 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時25分51秒
- そうか、喋ることが苦手なら、何か暗号で喋ればいいんだ。
ページをめくる。
・・・うん、大丈夫。
図解が豊富なことに安心した。
彼女達の、自主学習が始まった。
気兼ねなく里沙が生活できる唯一の空間で、二人はお互いにサインを決め始めた。
そのとき、最初に覚えたのがモールス信号だった。
- 95 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時26分19秒
- ちなみに二人は、学校へ行くことがついに無くなった。
学校で出来るなら家でも出来ると、里沙の家でひたすら勉強やら、暗号やらの日々を送った。
そして、たまに、あの島を見に行った。
いつかあの島へ上陸してみたい。
ただ、思い立ったが吉日の麻琴も、なぜか上陸しようとはしなかった。
なぜか昇ってはいけないような気がしたのだ。
許可がいるような気がして。
穏やかな波は、彼女らを招いているような気がしたのに。
- 96 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年06月22日(日)20時28分44秒
- 週末の更新しました。
- 97 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時18分10秒
- 暗号から初めて、やっと里沙は麻琴と普通に喋ることが出来るようになった。
とはいえ、やはり麻琴以外の人間とは、どうしても喋ることが出来ない。
喋りはしないけれど、人を見るときは、うつむいたりはしない。
目をじっと見て、その人の本音を追うようになった。
どうしても人を信用できないのだ。
いつしか里沙は、人の深層心理を読めるようになっていた。
- 98 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時18分42秒
- あの島へは、2週に1回は眺めに行った。
「いったい、あそこには誰の足跡があるのだろう。」
それとも、あんな危険なところには誰も行かないのかな。
じゃあ私が最初に行ってやる。
里沙は、危ないんじゃないのと反論したが、麻琴は行きたくてしょうがない。
「行こうよお。」
「やだよ。」
「行こうよお。」
「やだよ。」
- 99 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時19分16秒
- 「ねえ・・・あれ・・・。」
里沙の指の先を麻琴は見た。
海が引き潮になり、島への道が現れたときだった。
いつのまにか現れた人物がその道を伝って、そのまま島の後ろに消えた。
二人は何も言わずにボーっと眺めていた。
ぬっと頭が出てきた。
- 100 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時19分40秒
- その島の真ん中に仁王立ちして、海の広がったほうを向いて、
その人物はいきなり何かを叫んだ。
高い声。
女だ。
声は・・・聞こえる。
けれど分からない。
麻琴は里沙に何語なのか聞いてみた。
- 101 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時20分36秒
- 里沙は、親の取引の関係上、意味はあまり分からなくても、
なんとなく何語かは判別できる。
けれども、全く持って聞いたことのない言葉だ。
「分からない・・・」
「ウーン、もしかしたら宇宙人かな。」
「でもあの姿は人間だと思うよ?」
ちなみに麻琴のは冗談だ。
- 102 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時21分09秒
- 麻琴の腹は決まった。
捕まえて、この島がなんなのか聞いてみよう。
麻琴、里沙は走っていった。
島を渡る間も、その女は休み休み何かを叫んでいた。
里沙は、外国語を片っ端から思い出していた。
けれども麻琴は気付いていた。
日本語じゃないの。あれ。
- 103 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時21分41秒
- さんざん叫んだ後、肩でハアハア息をしながら、その女、
もとい髪の長い少女は遠くの海を見ていた。
麻琴はいきなり顔を岩陰から出して
「わあーっっっっっっ!!!!」
と叫び返した。
「キャハハハハ・・・あれ・・・」
さぞかしびっくりしただろうと思ったら、
驚きを通り越して、頭の中がミキサーにかけられたようになった少女が麻琴を見ていた。
- 104 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時22分05秒
- 「ねえ、なに叫んでたの?」
「はっ・・・あっ、えーと、笑わない?」
うなづく麻琴、相変わらず岩陰にいる里沙。
「あんなあ、外だと訛ってるっていわれっから、ここで全部発散してたんやよ。」
愛との出会いだった。
麻琴は、時間を忘れて愛と話し続けた。
いつのまにか里沙も加わっていた。
- 105 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時22分33秒
- 気がついたら、満潮になっていた。
島は独立していた。
里沙は大慌てだが、麻琴は興奮が止まらない。
愛は、妙に冷静だった。
「こっちやよ。」
と連れてこられたのは、さっき昇ってきた岩陰に広い世界が広がっていた。
「ここなら海水は来ないし、一晩泊まれるよ。」
愛は、ほとんどこの島の住人だった。
- 106 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時22分54秒
- この海のすぐそばに住んでいる愛は、
お気に入りの場所に、自分の物をどんどんもって来て、
気がついたら自分の縄張りにしていた。
洞穴ともいえるここは入り口はしっかり日があたり、夏は涼しく雨にも強い。
そこに、麻琴は一つ提案をした。
「私も住んでいい?」
- 107 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月02日(水)21時27分38秒
- テストの関係で更新日がずれてしまいました。
次回は急ピッチの話になって読みにくくなると思います。
ただ本線に戻すにはこうでもしないといけないので・・・
ごめんなさい!!!
ついに100まできちゃったのにいまだに駄文なのもあわせて
ごめんなさい!!!
- 108 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時50分12秒
- 島の人口は三人になった。
といっても、愛は毎日、里沙も二日か三日に一度は家に帰る。
そんな中麻琴一人だけがそこに住み続けた。
もともと住むこともままならない所にいただけに、
外と遮断されたこの空間で、久しぶりに誰の影響を受けるでもなく過ごせた。
日がな毎日本を読んだり、本を読んだり、本を読んだり。
愛が持ち込んだもの中には本もたくさんあったが、
全て読み終えてしまった。
ちょっとまた、退屈になったなあ。
- 109 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時50分31秒
- 里沙は相変わらず、話し掛けることが苦手だった。
相手を伺いつつ、いつのまにか会話に溶け込むようにしていた。
それは例え相手が麻琴でもあまり変わらなかった。
ところが、里沙は自分でもびっくりするくらい、愛とは普通に話すことが出来る。
冷静に考えてみた。
愛も、自分の言葉にコンプレックスを抱えている。
何度か愛と島の外へ出たが、愛は無理やり標準語を喋る。
それは、標準語を使う里沙にはやはりぎこちなく聞こえる。
ただ、愛はそれに関して深く悩んだりはしない。
確かに、訛ることを恐れてはいるが、積極的に話すことが出来る。
ふと、麻琴と学校を飛び出したときのことを思い出した。
二人とも強いなあ。
- 110 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時50分59秒
- 愛は、麻琴や里沙のような数奇な生活を送ってきたつもりはなかった。
一つあげるとすれば、何度も何度も引越しを繰り返し、やっと落ち着いたのがこの港町だったのだ。
訛りは、その中でも一番長く居た土地のもの。
あの年はあの町に、あの都市はあの村に、
あの月はあの都市に、数週間なんてこともあった。
いつしか愛は、人間観察、人間判別とでも言うのか、
目利きが鋭くなっていた。
麻琴や里沙をいとも簡単に受け入れたのも、目にかなったからだった。
その二人といることは想像以上に楽しかった。
破天荒、でも仁義に重い麻琴。
考えが鋭く、知識もある里沙。
今までこんな人に会ったことがあっただろうか。
- 111 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時51分41秒
- そんな生活が続いていた。
この間、三人は、誰の手を借りることなく過ごしていた。
最初は、たとえば、テレビやラジオに投稿して賞金を稼いだり、
雑誌に投稿したりという可愛げなことをしていた。
写真の投稿もした。
漫画の投稿もした。
絵画の投稿もした。
三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものだ。
麻琴はなんでも試したがって、二人も一緒に知識、技術を吸収していく。
不規則に手に入れる金がなくなってくると、目の前の海から食料を手に入れる。
そんな生活は進化の軌道に乗っていく。
- 112 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時52分06秒
- サバイバルの本など手に入れてしまったのがいけない。
水も自分で作り、火も自分で起こす麻琴が居た。
里沙も愛もだんだん同じ道を走れなくなった。
とはいっても麻琴を避けているのではない。
何でもやってしまいそうな麻琴をすごいなと思っていた。
ただし麻琴には一般常識がなくなってきた。
麻琴も愛、里沙が居なければどうなるか分からないことは認識していた。
そんな妙な三角関係は崩れない。
- 113 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時52分28秒
- それからだいぶ時間が経った。
ある夜麻琴は、自分がここに居ることの不思議を考えた。
まず里沙と出合ったのが偶然で・・・
それから色々合って電車に乗ってこの島を見つけて・・・
その島になぜか愛ちゃんが住んでて・・・
そこに居座って・・・
その前には食うや食わずの生活をしていた・・・
二人は私をいいほうに導いてくれた・・・
のかもしれない。
- 114 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時52分50秒
- 「ちょっと行ってくる。」
愛と里沙は驚いた。
人間が作った地面を麻琴は久しぶりに踏んだ。
「ど、どうしたの?」
「少女を救いに行って来る。」
「???」
麻琴は何を考えたのか。
今の生活に苦しんでいる少女がいるはずだ。
今度は私が救う番なんだ。
- 115 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時53分15秒
- 少女を救う。
をテーマに探し始めたのは。
かつて里沙と乗った、あの環状線。
乗ってくる人間の顔を確かめ、現状に満足していない人を探す。
そうこうしていると、三度や四度は簡単に回ってもとの駅に帰ってくる。
麻琴の日課は、環状線一日五周。
始めたらやり遂げるまで止まらない。
回送列車が各駅停車に乗っていた。
- 116 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時53分44秒
- 麻琴がいない中で、愛と里沙は、知っている言葉を教えあった。
各地の方言を愛が教え、
外国語を里沙が教えた。
そして、麻琴が里沙のために思いついた暗号も。
- 117 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時54分09秒
- また時間が流れた。
麻琴が笑顔で帰って来た。
今まで明後日を向いて考え事をしていた麻琴が、
元の元気な麻琴に戻ったのを見て二人は安心した。
「ついに見つけたよ。」
ひどく退屈はしてなかったものの、
麻琴ほど移り変わりの激しい生活をしていなかった二人も喜んだ。
三人はとある家の前にいった。
そしてその隣りの空き地に建ち、ある部屋を眺めた。
- 118 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時54分37秒
- 「すごい黒目なんだけどね、
ちょっと曇っていた気がした。
あの目は絶対なんか悩み事があるよ。」
麻琴が二人にあさ美の説明をしていた。
実際あさ美が現れたのは二日後だった。
かなり困惑しているあさ美に麻琴が話を切り出した。
- 119 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月11日(金)20時57分15秒
- 今週の更新しました。
次回から、あさ美一人称になります。
つまり、本線に戻ります!
やっとトンネルを抜けました。
話は60からの続きになります。
- 120 名前:ロムぉ 投稿日:2003年07月14日(月)21時28分13秒
- 微妙に楽しんでたり
- 121 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月17日(木)00時38分42秒
- >ロムぉさん
ありがとうございます。
その一言が、脳の回転速度を変えてくれます。
- 122 名前:122 投稿日:2003年07月19日(土)22時21分39秒
- あさ美の活躍に期待してます。
がんばって書き上げてくだされ
- 123 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)21時57分04秒
- この人たちはいったい何者なんだろう。
現物を目の前にすると、その疑問がより膨らんだ。
少なくともこの近くで見かけることは無い。
大体この私に説明をしている少女は電車の中であって、
途中の駅で降りたはず。
なのに私に対してストーカーまがいな事をして、
その上堂々と私の前に現れた。
しかも女の子。
- 124 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)21時57分40秒
- 常識という常識からことごとく外れた彼女達の行動に、興味は覚えた。
でも、怖さもあった。
本当に島の中で生活してるの?
本当に賞金稼ぎをしてたの?
本当に自分で火をおこすの?
「本当だよ。」
そう言ったのは一つ結びの細い子だ。
- 125 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)21時58分34秒
- 少し立ってから、私は血の気が引いた。
どうして私が考えたことがわかったの?
驚いた顔で私は彼女のほうを見た。
「だって相槌の声が少し低くなったもん。」
ああ、そうなのか。
んんっ?
また彼女のほうを見る。
クスッと笑われた。
- 126 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)21時58分56秒
- 話によると彼女は愛。
そして愛に寄り添っている、ただ一人私を心配そうに見ているのが里沙だそうだ。
「何で三人は私を呼び出したの?
しかもあんな複雑な暗号で。」
考えていることを知られる前に先に質問した。
答えたのは麻琴だった。
「だってあさ美ちゃん、輝いてみたいんでしょ。」
もう驚きはしない。
たぶん麻琴は、電車の向かい側に座っただけで分かったんだ。
この話は後から聞いたけど、実は麻琴は隣りの車両から、始めてあって以来
一ヶ月くらい私の様子をうかがっていたらしい。
- 127 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)21時59分26秒
- 今度、島に来てね。
そう言って、三人は帰っていった。
帰り際、二つ結びの里沙が私に何かを言った。
音は無い。
唇だけが動いたのをかすかに覚えている。
自信はないが、あの時彼女は
「・・・・・・生まれ変わる・・・・・・」
といった気がする。
前後はいまだに分からない。
- 128 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)22時00分09秒
- 次の日、机に座っていたのをあまり覚えていない。
モールス信号の話を思い出した。
何でお爺さんが妙な解釈をしたのか。
モールス信号には日本語もあって、それに直すときっと違う解釈になると教えてくれた。
なるほど確かに、おじいちゃんは戦争の中を生きてきた人間だ。
愛が人の考えているのを予想するのも、口調や行動から判別する。
内心は最低一本の神経に現れる。
そう言っていた。
- 129 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)22時00分40秒
- 少なくとも、あの数分は私が初めて知ることばかりで驚いた。
ただ、その中に入っていくのに少し勇気が必要だった。
島へ行くのもどうしようか考えていた。
気がついたら授業は終わり、休み時間になっていた。
- 130 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)22時01分16秒
- ふと今日室内を見る。
数人のクラスメイトが顔をそむけたのを私は見逃さなかった。
大方私が部活をサボったことについて話していたんだろう。
教科書を読み続ける人たちがいる。
雑誌をみんなで囲んで見る人たちがいる。
寝ている人たちがいて、でも
昨日聞いたようなことをしそうな人は誰一人としていない。
他の誰よりも新しいことを追い求め、
人とは違うことをやってみようという人はいない。
レールから外れないように、しっかり固定している。
スピードは控えめにしている。
- 131 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)22時02分50秒
- レールをはずして、スピードをフル回転にさせると、
どんな景色が見えるのか、私は知りたくなった。
行ってみよう。
ちょっと怖いけど。
きっと何かが見つかる。
ココ、ココンコン・・・
机をつま弾く。
I will be there・・・.
- 132 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年07月20日(日)22時06分04秒
- 今週の更新しました。
そして122さん。
愛読ありがとうございます。
一足先に海に行きましたがやっぱりいいものですね。
次回の分はもう出来ていますが、早速参考にさせていただきました。
さらに予告すると・・・
・・・
・・・
あの娘。が脱ぎます・・・。
- 133 名前:名梨読者。。。 投稿日:2003年08月03日(日)00時20分35秒
- 楽しい…
終始ドキドキしっぱなしで読ませていただきました。
続き楽しみに待ってます。
- 134 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時13分18秒
- ここから先は初めて見る景色だ。
同じ環状線も、一つ駅を通り過ぎた瞬間、中まで違うものに見えてくる。
果たして私は、同じ私でありながら変わることが出来るのだろうか。
この窓から見えるもののように、同じ場所から全く別のものが現れるのだろうか。
3つ、2つ、1つ・・・。
少し強い陽射し、あと人にあまり触れたことの無い風に迎えられて、
私はこの駅に降り立った。
- 135 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時13分35秒
- あの駅と、あの駅と、そしてこの駅が一つの鉄道で結ばれているのかと不思議に思いながら、
麻琴たちに言われた通りを歩いていくと、
確かに不思議な景色に遭遇した。
一つだけ、どういうわけか分からないようなところに、島がある。
形がどういうのではなくて、何か神秘的なものを感じさせる。
しばらくボーっと眺めていた。
その間何を考えていたのだろう。
全く覚えていない。
その証拠に、島は地続きになっていた。
- 136 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時14分09秒
- そのまま、その島へと向かう。
一歩一歩を踏みしめている気はあまりない。
何か導かれている気がして、引っ張られている感じがして
あまり足取りは重くないからだ。
段を上っていくと、その島の上に出た。
さっき私が立っていた場所が見えた。
一軒の家ほどの大きさの島。
彼女達はどこにいるのだろう。
- 137 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時17分22秒
- きゃっ!!
不意に後ろから抱きつかれた。
ちょっと驚いたけれど、冷静になると
ここにいる人間は三人しかいないはずだ。
そして、こんなことするのは麻琴だけだろう。
「この上腕は何かやってたね、柔道?いや、ちがうなあ。」
「一応空手だけど・・・」
「あっ、なるほど、空手かあ。」
- 138 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時17分51秒
- 思いがけず、こんな会話から始まった後、
私は、例の空間に連れて行かれた。
こんなところにこんな空間があったのか。
上ってくる間はちっとも気付かなかった。
訳がわからなくなる。
例をあげるなら、学校にある施設、音楽室や図書室や理科室や、
そんな施設が全て合わさった部屋で、
その中心で、愛が昼寝をしていた。
- 139 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時18分27秒
- 奥は広いらしくて、行けば行くほどいろいろなものが置かれている。
ある程度まで行くと後ろで麻琴が、
「ああ、その先はあまり行かないほうがいいよ・・・。」
といわれた。
はじめて来たし、一応忠告を聞いた。
ただ、いつかは見ようと思っていた。
愛が起きて、少しびっくりしていた。
- 140 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時18分52秒
- 「じゃあ、あさ美ちゃんのその腕をちょっと貸してね。」
麻琴はなんてアクティブな女の子なんだろう。
そう思いながら、島の裏手に回ると、一艘のボートがあった。
「隣りの島まで行くから。漕ぎ方覚えて。」
向かい合わせで、私達は座った。
ちらちらと後ろを振り返っている麻琴をじっと見ていた。
聞きたいことはいくらでもあるけど何から聞けばいいか分からない。
何の変哲も無い島の近くに来た。
「その紐を引っ張ってみて。」
- 141 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時19分06秒
- 海に浮かんだ、浮きのついた紐を引っ張ると、15センチくらいの魚がついているのが分かった。
その後も、続々と魚が引っかかっていたけれど、あまり触りたくない。
「じゃあ戻ろうか。」
ボートが動いた瞬間、魚が一匹跳ねて、私の顔にかする。
パニックに陥った。
きゃあああ。
わっ、ちょっとちょっと。
ドボン!
- 142 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時20分05秒
- 落ちたのは麻琴。
呆然としていたら、
「あさ美ちゃん、漕ぐほうに行って。」
麻琴が後ろから乗る都合上、私がボートを漕ぐことになった。
ビショビショになった麻琴を乗せて、初めて漕がされたボートは、
右へ左へゆれながら、やっと島に戻ってきた。
- 143 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時23分03秒
- 安堵感から、陸に戻ってきて座ったら立てなくなった。
まだ体がゆれてる感じがする。
ボーっと海のほうを見ていたら、バケツを持った
ビショビショの麻琴が現れた。
「あっ、ごめんなさい・・・。」
「気にしないでいいよ。魚も無事だし。」
「はあ・・・・・・・・・」
・・・
・・・
!!!!!!
いきなり麻琴が着ている服をみんな脱ぎだしたのには
目の玉が飛び出しそうになった。
- 144 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時27分30秒
- 2週間ぶりの更新になります。
ちょっと遅くなってしまいました。
スランプがちょっとあったこと。
勉強などで忙しいこと。(現役高校生なので)
あともう一つの理由として、HPを開設しました。
http://yordorhinny.hp.infoseek.co.jp/yor-dor-hinny.htmlです。
過去の作品と日記中心にしますので、よろしかったら
そちらもごらんください。
- 145 名前:「そして私は島を見た」 投稿日:2003年08月03日(日)01時29分59秒
- >名梨読者。。。さん
応援ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
頑張って、ドキドキさせます。
- 146 名前:88 投稿日:2003年08月11日(月)15時31分49秒
- 今日一気読みさせて頂きました。
一人一人のキャラ設定が良いですね。
そして飯田との会話からストーリーが進んでいくと言う手法も面白いと思いました。
過去と現在がどうの様に繋がっていくのかとても楽しみです。
これからも頑張って下さい。
- 147 名前:「黄金の薬指」 投稿日:2003年08月12日(火)02時11分13秒
- >88さん
ありがとうございます。
飯田との会話は話の都合上、連載直前に無理やり挿入したものですが。
頑張って完結させます。
- 148 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月15日(金)01時14分29秒
- 文章が長くなってきたので、第?章と言う形で分けていくことにしました。
これからは、名前のところに章の題名をつけていきます。
ちなみに現在は 第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 です。
これ以前は、HPのほうで分けてあります。
次の更新は、今週末を予定しています。
- 149 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時49分06秒
- 私がどういう顔をしていたのかは分からない。
たぶんあっけに取られていたはず。
目はたぶん見開いて、口がぽっかり開いてたとか、そんな感じだったと思う。
とにかく記憶が無い。
「ちょっとお・・・じろじろ見ないでよ、あさ美ちゃんのエッチィ」
といわれて、抜けていたものが帰って来た。
赤い染料を持って・・・。
「ち、違うよ!」
このときの顔は覚えている。
この上ないほど真っ赤に染まっていた。
- 150 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時49分33秒
- なんとも言いがたいひとときが過ぎて、
いつのまにか麻琴は着替え終わっていて、
さっきの魚をさばいていた。
「せっかくだから、裁き方教えてあげるね。」
私は、ただただ、魚が、魚ではなくやがて立派な芸術作品となる一本の木材のような感覚で
その光景を眺めていた。
出来上がったものは、お店で見る形とは違う。
たぶん我流なんだろう。
「はい。」
ナイフを手渡された。
とたんに、木材は魚へと姿を変えていった。
- 151 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時50分11秒
- ナイフを渡したとき、麻琴は少し私から離れた。
たぶん、魚にびっくりしていたこと。
あと、そのせいで海に落ちたことが脳裏に焼きついていたからだ。
ところで
どうすればいいの、この魚。
おどおどしていたら麻琴に落ち着いてといわれた。
深呼吸をして、尾びれから、スーッと見ていく。
目が合った。
ダメだ。
残りの木材を裁く麻琴を、結局遠くから見ていた。
- 152 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時50分42秒
- 三人で食べ始めた。
というのは随分昔の話のような気がする。
二人はもう食べ終わって、次の作業に入っていた。
私は黙々と食べていたけれど、愛は、さっきの釣り針に
餌をつけている。
麻琴はさっき裁いた魚の残りを、
練り餌にしているらしい。
なんだか複雑な気分で、一人食事を続けていた。
一つだけ種類の違うりんごのような気分だった。
- 153 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時51分15秒
- 食べ終わったのとどっちが早かっただろうか。
里沙が来た。
三人に出会った日、唯一会話をしなかったのは彼女だった。
そのせいか話しかけづらさがあった。
不思議なことが今目の前で起きている。
誰一人として、里沙に話し掛けたりしない。
波の音がする。
里沙は三人に微笑むだけだった。
- 154 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時51分45秒
- 愛と麻琴を交互に見ていると、麻琴が何かを始めた。
里沙を見る。
指を動かして、手を動かして。
麻琴を見る。
手を動かして、指を動かして。
そして麻琴が自分の手を胸の前で振ったところで、暗号交換は終わった。
謎というレンズを通して、麻琴がまた外に行くのを見送った。
- 155 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時52分17秒
- 「愛ちゃん、今の暗号なんだったの?」
「あっ、あれ?手話やよ、手話。」
「手話?」
「うん、たとえばあ、手をこうやったらありがとうって意味とか。」
手を切るまねをする愛。
「さっきはあ、里沙ちゃんが、いつもの店が相変わらず安いけれど
値切ってくれそうな店を見つけた。って言ったんよ。」
「それで麻琴ちゃんが実際に行ったわけね。」
- 156 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時53分05秒
- 「あさ美ちゃん、手話覚えたら。」
そう言われて、私は初めて里沙と会話をした。
ただし、里沙の発言は、通訳を通していた。
けれども、その内容は決して形式ばったものじゃなくて、
普通の女の子が話しそうな内容だった。
あと、三人の出会いも教えてくれた。
- 157 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月16日(土)23時53分35秒
- 麻琴は、里沙の頭脳をうまく生かした行動をする。
二人がうまく支えあっているのを垣間見た気がする。
その間をうまく取り持ち続けているのは愛なんだ。
そういえば、なんだか愛には、上手く言いたいことを言える感じがする。
里沙の心の支えになり、
またあるときは、麻琴に里沙の言葉を上手く解釈したり。
誰か一人が欠けただけで、なんだか機能しなくなりそうだなあ。
三人のバランスは、なんだかやじろべえのようだ。
- 158 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月16日(土)23時54分01秒
- 誰か一人が欠けただけで、なんだか機能しなくなりそうだなあ。
誰かが一人増えたら・・・
このときはこんなことは考えてなかった・・・
- 159 名前:第5章 「学問は我々人間に仕える従者に過ぎない」 投稿日:2003年08月17日(日)00時00分00秒
- 更新しました。
前回以前は題名が無く、今回から付け始めたので読みにくいと思いますが、
やはり章ごとにまとめてあるほうがいいと考えたのと、
僕自身題名があるほうが書きやすいので、誰になにを言われたわけでなく付けています。
ご了承ください。
- 160 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月17日(日)00時18分27秒
-
- 161 名前:122 投稿日:2003年08月17日(日)00時27分02秒
- 僕も工房です。話の展開が深くてとてもおもしろいです。
次回投稿まってます
- 162 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月20日(水)01時12分33秒
- >122さん
感想ありがとうございます。
次回の投稿は、今週、もしくは来週末を予定しています。
題名が、何の文かわかりましたか?
- 163 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時40分28秒
- さっきから、頬にオレンジの光があたっている。
今は何時なんだろう、もう帰らなきゃいけないかな。
「ねえ、今何時?」
「う〜ん、五時か六時かな」
「時計は?」
「ないよ」
ちょっとびっくりした。
里沙が何か手を動かした。
「う〜ん、そこまで麻琴ちゃんが考えるかな
私とか里沙ちゃんならともかく
あさ美ちゃん、
里沙ちゃんはなんか、時間という概念は無視して生活したいから。
って言ってるよ。」
- 164 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時41分30秒
- 自分のいた生活の、縛られていたことにずっと不満をもっていたが、
こんなにおおざっぱなのもちょっと困る。
そうか、携帯。
六時を回っていた。
もう帰らなきゃ。
そういえば麻琴に最後に会いたかったけれど、
結局帰ってこなかった。
島から、もといた世界に戻る道は、10cmくらい水の中にあった。
裸足で歩いて帰る途中、日は沈んだ。
- 165 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時41分52秒
- 家について、今日一日を振り返ってみた。
彼女達の生活はなんなのだろう。
何を求めているのだろう。
どうして自分は今日あの場所に行ったのか。
普通では考えられない生活。
確かに充実はしているかもしれない。
じゃあ、三人は将来どうするんだろう。
- 166 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時42分34秒
- そのとき、学校の友達から一通のメールが来た。
「進路の学校どこに決めた。
あれ、将来の職業とかのかかなきゃいけないからうざくない。」
将来かあ。
職業とかも真剣に考えているのか。
安全な、安全な道を歩いていくなら、今までの生活なんだよな。
いまさらながら、学校というもののガイド能力を知った。
指示に従えばそれなりにまともな道を歩いて行ける。
「どっちがいいのかなあ・・・」
その夜は両極端な生活を比べていた。
- 167 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時43分14秒
- 結局次にあの場所へ行ったのは1週間後だった。
今月のお小遣いが出るまではお金を出したくなかったのだ。
今日いたのは愛だけ。
ただし愛や里沙と違って、麻琴はここに通っているわけではない。
今日もやっぱり、外で何かしているそうだ。
愛に、お久しぶりといわれたので、その理由を話した。
「なんや、早く言うてくれればよかったんに」
そう言って、奥へ行ったかと思うと、
里沙ちゃんに言っておくからといって、いくらかのお札をくれた。
- 168 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時44分38秒
- 丸い目をさらに丸くする私。
だって、こんな簡単にお金を渡すなんて。
こんなもの、受け取れない。
「これで定期券買うたらええんよ。」
「で、でも、こんなことされても・・・」
「あっ、これ?これはいわば軍資金、軍資金を貯めこんでどうすんのさ。
大丈夫、里沙ちゃんの財政能力は半端じゃないよ。」
このお金をどのように手に入れたかを思い出したのはその日も終わりが近いころ。
賞金稼ぎとかは漫画の世界だけだと思ってた。
- 169 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時45分08秒
- 頻繁にとは言わないけれど、その好意を譲り受け、
私はその後数日おきに通うようになっていた。
腕力を変われて、麻琴と行動することは多かった。
愛も里沙も細いタイプのせいか、特に太っているわけでもない私なのに重宝された。
でも、日焼けクリームとかを塗っていると麻琴はなんだか不機嫌そうだった。
早くしてよという感じで。
でも、すごく人懐っこい女の子だった。
信用した相手には特に。
- 170 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時46分14秒
- 天衣無縫とも言うべきなのか。
愛は、「私も里沙も麻琴のそこに惹かれたんだと思う。」
と言っていた。
彼女が人を惹きつけられたのは天性のものなのかなって思った。
でも、私はどうもワンクッション置かないとつらかった。
だからこそ愛の存在は非常に大きかった。
分からないことがあれば彼女に聞くのが手っ取り早い。
麻琴は意外と分からないことが多い。
里沙に聞くには、愛を通さなければ会話にならなかった。
ただし、里沙の言うことに、理解できないことは無いのだった。
- 171 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時46分55秒
- 4人がそろう日はそんなに無かった。
この日は久しぶりに4人がそろった。
というよりも、麻琴が集めたのだった。
大事な連絡があるらしい。
この連絡も、また暗号だった。
木の板に、意味の分からないひらがなが並んでいた。
不自然な感じだったので一応頭の片隅に入れておいてよかった。
その板は、違う文字のものが他に4枚あったのだ。
とそこまではわかったけれど答えはわからない。
愛を頼ってみた。
- 172 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時47分52秒
- 4人がそろう日はそんなに無かった。
この日は久しぶりに4人がそろった。
というよりも、麻琴が集めたのだった。
大事な連絡があるらしい。
この連絡も、また暗号だった。
木の板に、意味の分からないひらがなが並んでいた。
不自然な感じだったので一応頭の片隅に入れておいてよかった。
その板は、違う文字のものが他に4枚あったのだ。
とそこまではわかったけれど答えはわからない。
愛を頼ってみた。
- 173 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時48分17秒
- 「一瞬だけやよ。」
そう言って愛は4枚の板を並べた。
1 がれだういうのうい
2 あんいごんびすかっ
3 るらじうしぜいんし
4 。くな。ゅんよごゅ
「いっしゅうかんごのすいようびぜんいんしゅうごう。
だいじなれんらくがある。」
「一週間後の水曜日全員集合。
大事な連絡がある。」
- 174 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月23日(土)20時50分50秒
- 今週も更新することが出来ました。
話が思いがけず上手くまとまらず、自分でも、いまいちだなあとか思ってます。
でも読んでくださる方、感想を下さる方もいるので、
最悪でも完結させます。
もうしばらくお付き合いください。
- 175 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)01時56分58秒
- 三人とも、もうきていた。
私は申し訳なさそうにその中に入っていく。
四人で小一時間くらい待ったところで、来客は来た。
荒々しい男だった。
「おい、その代表者とやらは来たんだろうな。」
礼儀、作法のかけらもないタイプの大男は麻琴に大声で言う。
声が奥へとこだまする。
「代表者はこの娘だよ、ほら、ちゃんといるだろ。」
- 176 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)01時58分35秒
- 三人は、私を置いて外へ出て行こうとしている。
どうして・・・
頭の中が真っ白になってゆくのが分かる。
「おい、何とかいわねえか!」
「きゃっ・・・」
腕を掴まれてグイッと引っ張られる。
私にはわかっている。
さっきから泣いていて何もいえないことを。
そして私の視界にはその大男しか見えなくなった。
- 177 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)01時59分14秒
- 「た、助けてえ、誰か助けて!」
「里沙っ、大丈夫だよ、頑張れ!」
外でこんな声が聞こえた。
男は私をつかんだままだったけれど、
「くそっ、なにがあったんだ・・・」
ドン!
ゴン!
「痛・・・」
大男は声のしたほうに歩いていった。
胸倉をつかまれていたのを無理やり突き飛ばされて、私は頭を打った。
- 178 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)01時59分41秒
- そんなことより、私は今何があったのか全く状況がつかめず、
ただただ泣いているだけだった。
怖かったこと。
そして何より、麻琴に裏切られたこと。
混乱がだんだん怒りに変わってゆく。
三人は、三人は外で何をしているの・・・
まだ震えている足を何とか動かして、その様子を見にいった。
- 179 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)02時00分12秒
- 里沙が誤って海に落ちたらしい。
そこで足を取られて、おぼれそうになったように見える。
麻琴も愛も必死になって引っ張っている。
その後ろに、ニヤニヤしながらタバコを吸う男。
改めてその男の非情さを知る。
里沙も泣いている。
やっと這い上がることが出来た。
大男はやっと立ち上がった。
- 180 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)02時00分42秒
- 「ほら見ろ、海をなめてるとそういう目に遭うんだ。
海のルールも分かってねえからだ。
分かったら早く返すものを返してここから出て行きやがれ!」
二人は軽く無視をした。
そのとき、初めて聞く声がした。
「裾がなんか変・・・なんか入ってるみたい・・・」
何か違和感を感じた。
なぜなら、それが初めて聞く里沙の声だったから。
- 181 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)02時01分11秒
- 里沙がズボンの裾から出したもの。
それは手のひらよりも少し小さな星。
ヒトデ。
「下にね、いっぱいいて・・・怖かった・・・」
消え入りそうな声で里沙が喋る。
男の顔が少しこわばったのがわかった。
タイミングよく、そのポケットから携帯の着信音がした。
「おう・・・なんだ・・・なんだって!?・・・そうか・・・」
ピッ
- 182 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)02時01分34秒
- 「おーい、なんか言ったらどうなんだあ?」
「ごめんなさいっちゅう言葉忘れたんかあ?」
「今度はヒトデと喧嘩でもしてろお」
「あばよ、海の男」
「「キャッハッハッハッハ」」
悔しさにあふれる男の背中に言いたいだけ言って大笑いする愛と麻琴。
そして、小さな声で
「里沙の嘘泣き、最高やわ〜。」
「真にせまってたね。」
岩肌にしがみついている私は、その三人の様子をしばらくみているだけだった。
- 183 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年08月30日(土)02時01分59秒
- 「じゃあ、ウニパーティーとでもいきますか?」
三人はひたすら喜んだ後、また穴に戻ってきた。
怒りとかは、疑問にかき消されていた。
ドッキリ企画にはめられたような気分で、
取りあえず困ったときの愛に聞いてみた。
答えは返ってこない。
代わりに返って来たのは笑い声。
転げまわって笑う愛、よっぽど面白かったみたい。
そしたら、奥から麻琴が、箱に山盛りになったウニを私のいる前にデーんと置いた。
- 184 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年08月30日(土)02時05分58秒
- 今週の更新しました。
新作を眠らせているので、これをいち早く終わらせたい。
本当は、この後にも色々考えていたけれど
カットすることにして、ゴールを近づけます。
できれば来月中には完結させたい。
そのせいで、更新が不定期になるかもしれません。
とにかく、頑張ります。
- 185 名前:第6章 名誉ってなんだ? 言葉だ 投稿日:2003年09月06日(土)01時11分16秒
- 相変わらず訳がわからない。
大体このウニって、さっき言っていた、あのウニじゃないの?
「ねえ、これってさっきのウニ?」
「あったりまえじゃん。」
「えっ、じゃあ、もしかして、勝手に?」
「シーっ、だめ、聞こえたらどうするの?」
声をひそめてもう一度詳しく聞いた。
- 186 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時11分57秒
- 麻琴は本当にあの男のウニを盗んできたらしい。
ただ、現場を見られたのではなく、
ウニが消えたことに気付いた男が、ここに麻琴たちが住んでいる事を知って、
前に麻琴にからんだらしい。
それで、違うと言う証拠を作るために、今日ここへ呼んだそうな。
まてよ。
でも、他の二人は事情を知っていたみたいだ。
- 187 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時12分18秒
- 「でも、本当にこれで大丈夫なんか?」
愛が麻琴に聞く。
確かに、ヒトデがウニの天敵だからと言って一回で済むとは思えない。
麻琴は即答した。
「大丈夫だよ。
だってあいつ、他の漁師にものすごい嫌われてるし。
このウニも、解禁前に捕まえて、自分のところでこっそり養殖してたんだよ。
訴えようが無いさ。
他のところに無いウニが自分のところだけこんなにあったら
ばれるに決まってるし。
相手が私たちだったから脅せば何とかなると思ったんでしょ。」
- 188 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時13分33秒
- 「そっか、そやね。
麻琴はえらい。」
えらいかなあ・・・
それよりも・・・
「でも、麻琴はその現場を見たんでしょ。
だったら、盗ったりしないで、誰かに教えちゃえばよかったじゃん。
何かお礼とかあるんじゃないの?
ねえ、愛ちゃん。」
これにも麻琴は即答。
そして、愛も答えはわかっていた。
- 189 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時13分55秒
- 「別にそんなことしたって、嬉しくなんか無いよ。
そりゃお礼の言葉の一つくらい出るかもしれないし、
ちょっと地元の新聞にのるかもしれないけどさ。
でも、そんなもの価値無いじゃん。」
「そうやよ、お礼なんてただの言葉やよ。
だったらこうして食べちゃったほうがいいよ。」
どうも、私とは考え方が違うみたいだ。
結局納得は出来なかった。
さっきのことをもう一度考えてみる。
- 190 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時14分19秒
- よくよく考えると、私はすっかりだまされている。
どうして、よりにもよって私が男に突き飛ばされて、
涙を流さなきゃいけなかったの?
そう考えると、とてもじゃないけど、ウニなんか食べていられない。
確かに、ばれてしまえば大変だ。
警察沙汰は避けられない。
でも、私に何も言わないなんてあんまりだ。
しかも、あやまりも何もしない。
- 191 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時15分05秒
- しばらくして、麻琴が里沙と一緒に出て行ったあと、
わたしは愛に愚痴をこぼした。
「何で私には何も教えてくれなかったの。
本当に怖かったんだから。」
「でもなあ、もし知っとったら、あの男に
ばれたかも知れんよ。
あさ美ちゃんに何も言わんかったから上手く
里沙ちゃんが溺れたフリを出来たわけだし。
しょうがないよ。」
しょうがなくないよ・・・
- 192 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時15分29秒
- 最初は、彼女達の生活や、考え方にあこがれていた。
その中で、ありきたりになりかけている私に
大革命を起こすつもりだった。
そういえばそうだったなあ。
私はたまらず、あの空間から抜け出した。
そして家に帰ってきて、
今までのことを振り返っていた。
- 193 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時15分55秒
- でも、もう少ししたら、私は変われるのかもしれない。
家からあの駐車場を見る。
ここで出会ったんだ。
携帯が機械音を鳴らす。
メールがきたみたい。
携帯に触れようとしたとき、
これが、彼女達の生活と真反対にある気がした。
火だって自分で起こすのだし。
- 194 名前:第6章 名誉ってなんだ?ことばだ 投稿日:2003年09月06日(土)01時16分27秒
- またメールのやり取りを始める。
携帯が、私の体の一部に思えるくらい、
あっという間に指は一つ一つ文章を作ってゆく。
体の一部。
私の体。
今、身の周りにあるものが無くなったら、私は暮らすことができない。
あれもこれも体の一部のように扱っている。
愛なんかは、あの空間に住み続ける事は出来るのか。
出来るんだろうなあ、きっとそう答えるよ・・・。
私には無理だ。
- 195 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003年09月06日(土)01時18分23秒
- 更新しました。
ここで第6章は終わりです。
あくまで予定ですが、次の1章とエピローグで終わりになると思います。
どうやら完結のめどが立ってきたので、
ラストスパート頑張らせていただきます。
- 196 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/11(木) 00:54
- 愛が自分に必要不可欠なとき。
そんなときにこういうことは起こるものだ。
愛が、どこか遠くへ行ってしまうらしい。
あの日以来、2回目の全員集合だ。
そこで、愛がこう告白した。
二人はあっけにとられていた。
- 197 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/11(木) 00:54
- 「ねえ、私、後何日かでいなくなるけど、
この島だけは、残しておきたいんやよ。
三人に、これだけお願い!」
「何いってんの。あったり前じゃん。
愛ちゃんとであった記念の場所だよ。
絶対誰にも邪魔させないから。」
やっぱりと言うか、麻琴はこう答えた。
里沙も大きくうなづいた。
「私も、ここを守るよ。」
- 198 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/11(木) 00:55
- 自分で嘘をついたのが分かった。
橋渡し役だった愛がいなくなって、
私が簡単に過ごせる場所じゃない。
もしかしたら愛は、私の喋り方で分かったかもしれないけれど。
4人で一緒にいられる日も、残り少ないそうなのだ。
愛がいなくなることは残念で他ならなかった。
でも、
未練はそんなに感じなかった。
- 199 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/11(木) 00:56
- 愛は、そのあとすぐに帰ってしまった。
「ねえ、あさ美ちゃん、私、はっきり言って自信ないんだ。
ずっとここにいる自信。」
意外な言葉だった。
この3人の中で、一番ここにいると思われた麻琴が、
こんなことを思っていたなんて。
「もしかしたら、ここを捨てることになるかもしれないけれど
あさ美ちゃん、どう思う。」
「私は・・・」
- 200 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:47
- 「私は・・・私もしょうがないと思う。」
これだけでよかったのに・・・
次の私の発言は、私を
どん底の後悔へと導くものとなってしまった。
「だいたい、私はここで出会ったわけじゃないし。
ここに来るのも大変だし。
また愛ちゃんが来たときにここにくればいいよ。」
- 201 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:47
- 麻琴は私に背を向けて、
静かに喋りだした。
「・・・あさ美ちゃん、今の質問はね、
あさ美ちゃんの本音が聞きたかったんだよ。
・・・
やっぱり、そうだったんだ・・・。」
ゾクッ!
あの、漁師が押しかけてきたことを忘れてしまうくらい、
いま、私は体を恐怖で包まれている。
足の神経がおかしい反応をしている感じで。
- 202 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:48
- 記憶に残っているのは、里沙が寂しそうな顔をしてこっちをみていたこと。
ここに、私の居場所はなくなった。
とりあえず、そう感じてこの空間から飛び出た。
丁度満潮の時間。
私は、膝より少し低い海面を切って
走っていた。
夕焼けも、何か私を追い詰めているような圧迫感があった。
- 203 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:48
- バシャン!
岸までもう少しのところで、私は転んだ。
そのまま、這うように岸まで行った。
立ち上がれない。
うっ、うっ・・・
うづくまったまま、私は泣きだした。
涙が次から次へと出てゆく。
砂の上に、一つ二つ大粒の真珠が落ちていく。
私は何に対して泣いているの?
恐怖、裏切り、孤独感・・・
- 204 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:48
- いろいろなものが交じり合って、要するに混乱していて。
このまま私は、一生泣き続けるのではないかと思った。
誰もいない砂浜で、
日が沈んでも私はまだ泣いていた。
私の前に誰かが立っている。
涙でぼろぼろの顔のまま、私は彼女を見た。
「あ、い、ちゃん・・・」
私が裏切った相手だ。
- 205 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:49
- 嗚咽交じりで、一部始終彼女に打ち明けた。
「あさ美ちゃん、あさ美ちゃんって
すごく人間らしいんね。
そういうのって大事やよ。」
「・・・。」
「麻琴もあさ美ちゃんのことを憎んでなんかいないよ。
私たちはいつまでも仲間やよ。」
「・・・。」
「私、残りの時間、あの島で過ごすことにしたんだ。」
- 206 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:49
- 私をなぐさめ、彼女は島のほうへ行ってしまった。
また誰もいなくなった砂浜をとぼとぼ歩いて、
私は家に帰った。
少し、気分が落ち着いた。
でも、これも愛のおかげだと考えると、
やっぱり、彼女がいなくなったらって想像してしまう。
それに、麻琴や里沙にあわせる顔もない。
あと2日。
2日以内に、愛にお礼が言いたい。
- 207 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:49
- 昨日は、やっぱり行く気になれなかった。
あの島を考えると、やっぱり行くのが怖かった。
だから、今日行くのも、相当勇気が必要だった。
とにかくなんていえばいいのか、
そればっかり考えていた。
駅で下車し、
道を進み、
島が遠くに見える高台に来た。
島は小さく見える。
2、3メートル先の下は、あの海につながっている。
- 208 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:50
- 私は島のほうまで行った。
それが、だんだんいやな気分にさせた。
近づけば近づくほど、島が大きく、おぞましいものへと変わっていくから。
一昨日、私が泣いていた場所まで行く。
島は、あの日より大きくなっている。
そんなはずは無いのだろうけれど
とにかく私にはそう見える。
そう思うと、
もう私の足は前へは行かない。
- 209 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:50
- 少し強い風が吹いた。
そのとき、あの髪型は里沙だ。
里沙の頭がちらりと見えた。
やっぱり・・・
三人は、ここに集まっている。
私がいない間、何を話していたのだろう。
愛は、やっぱりここからいなくなってしまうのか。
さっきから吹いている風は、海を少し白くしていた。
- 210 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:50
- 結局、あの場所には行けなかった。
もう一度高台までやってきて、1つため息をつく。
さっきまで、視界を埋め尽くすようにも思われたあの島が、やはり小さく見える。
遠くには赤い屋根の家が見えた。
大して違わない大きさのものに、人が住んでいる。
ただし、そのギャップは果てしなく大きい。
高台はさらに強い風が吹いている。
髪が顔にかかるのを振り払いながら、もうしばらくここにいようと思った。
勇気が出るまで待っていよう。
いつでるのかは分からないけれど。
- 211 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:50
- 行くべきか、
それとも行かないべきか。
まだ悩んでいた。
けれども、本能的に体は島へと進んでいた。
とにかく最後に愛にお礼が言いたい。
いや、会うだけでもいい。
あと、麻琴と里沙にあやまらなければ。
足元の石は、
もう、島へ続くものだ。
- 212 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:51
- 自分の膝くらいまでの波を突っ切ってわたろうとしたとき、
妙な声が聞こえた。
三人とは全く別の、男の声。
遠くから聞こえる、かすかな声。
結局二回目の挑戦も白紙になりそうだ。
いや、これは、あの男の声がしたからだ。
そう自分に言い訳をしながら、私は再びこの場所を後にした。
その男がいるほうに向かう。
- 213 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:51
- 「よ、呼びましたか?」
「あんた、何やってんだ?
波見てみろよ、このあとすんごい波が来んぞ。
あんたみたいな若い女なんか、生きちゃ帰れないぞ。」
危なかった・・・。
たしかに、風は異常なくらい強く吹いている。
天気はそれほど悪くない。
ただ、それが不気味だった。
「下手するとここまで水来っかわかんねえから、もっと遠く行け。」
ここは、海岸と道の境目。
ここまで水が来るのか・・・。
- 214 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:54
- はっ!
島は!
あの島には!
「あの島なんか飲み込まれちまうだろうな・・・」
男の声がかすかに、いつまでも頭に響いた。
- 215 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:54
- 夢中で島のほうへ駆け出そうとした。
とにかく里沙の頭は見えた。
ということは、三人ともあの中にいる可能性が高い。
一刻も早く知らせないと!
- 216 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:54
- 駆け出そうとした。
そう、駆け出そうとしただけだった。
その男は私の腕をつかんで、連れ戻した。
前に、麻琴が私の腕を見て、すぐに何かやっていたと見極めたっけ。
その空手をやっていた腕も、男の腕力では非力だった。
男は何か私に言っているらしい。
怒っているようだ。
後ろからきた別の男に連れて行かれた。
もう波の音も、風の声も何も聞こえない。
何も分からない・・・。
- 217 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:54
- 最初に勇気を出していたら・・・。
あの島に行っていたら、みんな助かったかもしれない・・・
彼女達は、私が来るのを信じていたのかもしれない・・・
私があの島に行き、そのあと外にでたかもしれない・・・
そう、ちょっとでも近づけば、愛達は私のほうにきたかもしれない・・・
そのあと、あの男の声が聞こえて・・・
「助かったあ。危なかったあ。」そんな言葉を交わして・・・
最後に謝って・・・
残ったのは、波が来ないかもしれないという希望だけ。
- 218 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:55
- 希望はついえた。
遠くのほうに、見慣れないものがその姿を変えてゆくとき。
開き直った自分がいた。
そして、彼女達のきずなを、言い訳のために軽視して、
その目を、少しだけそらした・・・
- 219 名前:第7章 ああ、私の勘があたってしまった 投稿日:2003/09/17(水) 23:55
- きっともうみんな逃げてしまったのだろう。
所詮彼女たちも人の子だ。
ただ私の運が悪かったんだ。
たぶん・・・
私は赤い屋根の家を見ながら
その目を閉じた。
- 220 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003/09/17(水) 23:56
- 7章完結です。
あとはエピローグだけになりました。
次回が最終章です。
- 221 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:39
-
「それから、私が彼女たちに会うことはなくなりました。」
「ということは、その愛、麻琴、里沙という人たちは
亡くなってしまったと。
でも、やはり死んだとは限らないでしょう」
「いえ、それは無いでしょう。
もし生きているのなら、私を探し出しているはずです。
彼女らの行動力からして。」
- 222 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:40
- 「そうですか。」
飯田さんは、カウンセリングということを忘れているように、
私の話を最後まで聞き終えた。
その顔が何を言いたいかわかった。
「他にこんなショックを受けたことはない・・・でしょうね。」
「記憶を消してしまうほどのものはないでしょう。」
- 223 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:40
- 頭の中にあった堅く閉ざされた鉄の扉。
その鍵は、記憶だった。
中にあったものは宝箱ではなく、
罪に耐え切れなくなった人間のための毒薬だった。
- 224 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:41
- 「ありがとうございました。私の最後の謎が解けました。」
「やはり最後ですか?」
「ええ。私がどうしてあなたに相談をしに来たと思いますか。
実際カウンセリングの第一人者といえば平家教授なのに。」
飯田さんも本当は分かっている。
「どうしてでしょう?」
「あなたは知る人ぞ知るカウンセリングの天才だと聞いていたのです。
そして実際あなたの過去を調べてみました。なるほど、確かに
あなたは独自の方法でカウンセリングをしている。
平家教授よりはるかに進んだ、あなたにしかできない方法で。」
「そして紺野さんは、自分の開かずの扉が単なるものではないと
最初から薄々気付いていた。」
- 225 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:41
- 「さすがですね。だからすべてを話してからにしようと思ったのです。
ありがとうございました。
・・・
彼女たちの輝いた姿。
なんだか飯田さんそっくりです。
セオリーから逸しているその姿が。
・・・
人はいったいどうすれば輝けるのか。
今になって分かった気がします。
・・・
今ごろになって・・・。」
最後にもう一度飯田さんにお礼を言って、私は部屋を後にした。
- 226 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:41
- 私はあの島の見える高台に着いた。
花束を四人分抱えて。
そう、私に何も連絡がないとは思えない。
もし生きていたのなら。
私は、結局変わることができなかった。
裏切った。
失った。
そして、過去を捨て、記憶を捨て、何もなかったかのように生きてきた。
- 227 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:42
- 結局あれ以来学んだことはほとんどなかった気がする。
一つあげるとすれば、記憶は忘れることができる。
たぶんこれだ。
- 228 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:42
- 崖の下で、波は手招きをするように
白くはね上がり、そして青く引いてゆく。
その上を走る風は、私を呼ぶ声のようだ。
こんな日に限って、空はやけに澄んでいる。
遠くのほうに赤い屋根の一軒の家がある。
さようなら・・・。
私は、自分で、高台から自分の体を突き飛ばした。
海へと近づいてゆく。
- 229 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:42
- ・・・
・・・
- 230 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:42
- ・・・
- 231 名前:エピローグ 時は、それぞれの人によって、それぞれの速さで歩む 投稿日:2003/09/20(土) 01:43
- 彼女達は、まずなんて言ってくるだろう。
もしも記憶が全てなくなっていたら、
そしたら、モールス信号でも教えてもらおう・・・
- 232 名前:ヨードーケッティ 投稿日:2003/09/20(土) 01:47
- 完結です。
初めてこんなに長いのを書いたので、
所々めちゃくちゃになっています。
自分でも、この話しつまらないなあとか思っていましたが、
前にも書きましたが、まずは完結させなければ、申し訳ないと思い
やっと終わらせることが出来ました。
さらに詳しいあとがきは、HPに乗せようと思っています。
最後に、皆様ありがとうございました。
- 233 名前: 投稿日:2003/09/27(土) 23:34
-
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